BLEACHの世界に最強になって転生 番外編 (アニメ大好き)
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プロローグ 新死刃(エスパーダ)選抜

遂に始まりました。
前に番外編で書くといいましたが、あまりにも話が多くなりそうで、色んな世界に行くので新しく作りました。

今回はタイトル通りオリ主の従属官から死刃を決めます。アンケートにご協力してくださった方々ありがとうございました。
メンバーは私が知っている作品から選びました。「コイツが入っているのはおかしい」と言うのはなしでお願いします。

それではどうぞ。

※新たに作ったものから書き直しました。何度も何度もごめんなさい。
※「エスパーダ」の字を変更しました。アイディアをくれた肘神様ありがとうございます。



デストロイヤーが藍染を倒し、基封印し「BLEACH」の世界を旅立って約一週間近くが経過した頃の出来事。

 

ある一つの大広間。ここに大勢のデストロイヤーの従属官が集められている。その広間の奥には大きな祭壇があり、最上級幹部と上級幹部が左右半々に別れ立っている。

そしてその祭壇の中央に彼等が主人デストロイヤーが現れ、その後ろには側近である友子と胡蝶がいた。

 

「皆さんお忙しい中集まっていただき誠にありがとうございます。実は皆さんに大事なお知らせが2つあります」

 

「まず1つ目ーーーーチルッチさん私の共に来てください」

 

そう言われてチルッチは何も言わず静かに前に出る。

 

「最上級幹部と上級幹部の皆さんは知っていると思いますが、この度チルッチさんはーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー私の新たな側近となる事になりました」

 

あの時…BLEACHの世界を離れる時私達はあの世界に置いて本来は存在しないイレギュラーな存在。だからあの世界の住人であるチルッチさんは連れて行けないと思い置いて行こうした。

そして旅って直ぐになんと彼女がこの船の中に現れた。友子さんと胡蝶さんの2人が手を貸して私に内緒でこの船に乗り込ませていたのだ。私は直ぐにチルッチさんをを降ろそうとしたが彼女はそれを拒んだ。そう、彼女はイレギュラーである私と共に行く事を決めた。

 

その理由は私の従属官って事もあるが何よりーーーー

 

 

 

『何より…私がアンタと……ッ一緒に行きたいのよ!!』

 

 

 

ーーーー顔を真っ赤にしながら大きな声で言った嬉しかった。そしてその言葉はつまり私と共に行く覚悟があるという事。

 

「この事に異を唱える者はいますか?」

 

その場に静寂が訪れる。

 

「居ないようですね。チルッチさんこれより貴方は正式に私の側近となりました」

 

「おめでとう。これで私達と同じ土俵になったわね」

 

「フン、コイツが私達と並ぶとは…。精々デストロイヤー様と私達の足を引っ張るなよ」

 

「それはこっちのセリフよ。アンタ達なんかあっという間に追い越して上げるんだから」

 

この3人のやり取りを見ていつも通り(?)に戻ったみたいでなんだか嬉しいです。

 

「そしてもう1つが皆さんお待ちかねーーーーーーーー幹部クラス達である貴方達の中から死刃(エスパーダ)を発表します」

 

そう私は嘗て自分が藍染に仕えていた時に勤めていた死刃を幹部クラスの従属官から選ぶ事にした。何故そんな事をするかと言うと…

 

 

 

 

…ただの趣味である。

 

因みに【エスパーダ】の字が死刃にしたのは『敵に死を運び、主君に忠誠を誓う刃』と言う意味で付けました。

 

 

「ではまず1人目…【ゼルドリス】さん。階級は〇〇、司る死の形は【服従】」

 

最初に呼ばれた赤い服を着た左目の上に黒い太陽のような模様がある背の低い美少年は無言で前に出る。彼はある世界で世界を滅ぼそうとして恐れられた一族…魔神族の一人。魔神族は私がいた世界の虚と同じように魂を喰らう事によって自らの【魔力】、私で言うところの【霊圧】を回復させる事が出来る。

その無表情で髪と同じ漆黒の瞳から慈悲を一切感じさせない程の威圧を感じさせる。

 

 

「続いて2人目…【ガラン】さん。階級は〇〇、司る死の形は【真実】」

 

『カッハッハッハッ、ワシが選ばれたか。当然の事とは言え、実に愉快じゃわい』

 

2番目に呼ばれたのは大鎌を持った2メートル近くの長身の者が大笑いをしながらガシャ、ガシャと音を立てながら前に出る。その姿は身体全身を赤い鎧を纏い胸の部分には紫色の真珠、吊り上がった鋭い目から覗かれる緑色の瞳、頭部には耳、顎には髭を表しているような鋭い突起がある。

彼はゼルドリスさんと同じ魔神族であるが、その姿はどちらかと言うと悪魔と言った方が正しいかもしれない。

 

彼の司る死の形で「【真実】が死?」っと思っているかもしれませんがあり得ない事ではありません。「知らぬが仏」ーー知らない方が幸せな事もありますし、時折真相を知って死に追いやられる事もありますから【真実】が死の形になるのは強ち間違ってはいない。そもそも彼は小細工が好きではないので相応しい死の形だと思いました。

 

 

「3人目…【ルーチェモン】さん。階級は〇〇、司る死の形は【傲慢】」

 

3番目に呼ばれたのはガランさんは違い最初に呼ばれたゼルドリスさんと同じ人の姿をして貴族のような黒と白の服を着ている金髪の成年。彼は「自分が選ばれるのは当然だ」と言うように髪をかきあげ澄ました顔で前に出る。

一見普通の人間の変わりないとあ思うが、右側の背中に天使の羽、左側には悪魔の羽に酷似したものがそれぞれ6枚ずつ生えており、頭部にも左右にそれぞれ1枚ずつ生えている(但し天使の羽の1枚は黒く染まっている)。

まるで天使と悪魔の両方を合わせたような姿だけあり、天使のような慈悲深さを持っているが同時に悪魔のような残虐さも持ち合わせている。その残虐さから元いた世界では7人の魔王の1人として君臨していた。

 

 

「4人目…【ピエモン】さん。階級は〇〇、司る死の形は【虚偽】」

 

4番目に呼ばれたのは顔の右半分が黒、左半分が白の仮面を付けて、黄色いブーツを履き背中に四本の剣を背負った赤服のピエロのような者が不気味に笑いながら前に出る。

彼は3番目に呼ばれたルーチェモンさんと同じ種族であり、前に所属していたグループのリーダー格でもあった。更には世界を作り変えしまい支配してしまう程の力を持ち合わせている。

 

 

「5人目…【サンダールJr.】さん。階級は〇〇、司る死の形は【復讐】」

 

5番目に呼ばれたのは最終決戦の時に現世に連れて行った【サンダール】に酷似した者が前に出る。この者こそ【サンダール】の実の息子である。

実力は父と引けを取らない程の実力の持ち主、そして何より父親とは違い仲間を大切にする性格であるためその評価は父親である【サンダール】より買われていた。

 

 

「6人目…【デモゴルゴン】さん。階級は〇〇、司る死の形は【支配】」

 

「フン」

 

6番目に呼ばれたのはガランさんのように長身だがガタイが良く全身が青く、上半身が裸で下半身には紫色のズボンを履き、鳥のような形の足をした大柄な者が笑い前に出る。

右肩には羊の左肩には牛の顔の骨と思わしき物が装着されており鋭い前歯が4本生えている。

その外見から見て分かるように彼は何でも力で解決しようとして先に手が出てしまう、「力こそが全て」と思っているいる所なんかガランさんと似ている。

 

 

「7人目…【テリーX】さん。階級は〇〇、司る死の形は【憎悪】」

 

7番目に呼ばれたのは全身が白と黒の縞模様口がニヤッと笑って歯を丸出しにしている人型でスレンダーな者。その両手には電極が取り付けられており両耳と両肩にも同じものが付いている。

彼は戦闘能力も高いが相手の弱味に漬け込み冷静さを無くさせるのも売りである。つまり肉体と精神の両方を攻撃する事が得意。

 

 

「8人目…【クローズ】さん。階級は〇〇、司る死の形は【絶望】」

 

8番目に呼ばれたのは目付きの悪くエルフのように尖った耳と髪がツンツンっと立っている男が前に出る。ロングスカート並の長さのズボン、尖った耳にはピアスが左右3つずつ付いており、ベルトには紅い南京錠が付いている。

一言で言えばヤンキーだ。見た目通り残虐な性格をしているが、冷静沈着であり忠誠心はかなり高い。

 

 

「9人目…【ニワ】さん。階級は〇〇、司る死の形は【破壊】」

 

9番目に呼ばれたのは、2番目に呼ばれたサンダールJr.と同じで決戦時に連れてきた五毒拳とほぼ同じ姿をしている者が前に出る。違いはスカーフを巻いていないのと額に付いている動物が【鰐】である事。

彼は臨獣拳使いの中ではトップクラス。その強さは私だけではなく最上級幹部の面々も認めてる。

 

 

「10人目…【サーガイン】さん。階級は〇〇、司る死の形は【誇り(プライド)】」

 

10番目に呼ばれたのは2人目のガランさんのように全身を鎧で纏っている鎧武者がガシャ、ガシャと音を立てながら前に出る。

両肩の先から出ている二本の刀の鞘を見て分かるように彼は二刀流である。そして彼は決して卑怯な手を使わず正々堂々の勝負を好み仲間想いで忠誠心も強いーーーー正に誇り高い戦士である。

しかし戦闘が強いだけでなくメカ造りの天才でもある。因みにこの船の製作にも彼の技術が生かされている。

 

 

「そして最後11人目…【メラスキュラ】さん。階級は〇〇、司る死の形は【信仰】」

 

最後に呼ばれたのは身体の周りに黒い霧のようなものが蜷局を巻き付かせてるよに纏っている薄いピンクの髪の小柄な女性。

「何故こんな奴が」と思っている者もいるかもしれませんが彼女もゼルドリスさんとガランさんと同じ魔神族の一人。一般的な男性より戦闘能力はズバ抜けている。

そして時折見せる彼女の不気味な笑いは背筋が凍りついてしまう程、それもあって誰も口出しをしないのでしょう。

 

 

「以上の11名が死刃です。何か意を唱えたい者がいればこの場で挙手していただけますか?」

 

その言葉に誰も挙手する者はいない。今選抜された者達は幹部クラスの中でもズバ抜けたパワーや頭脳を持っています。特に上位の数字を持つ3名は【上級幹部候補】だった者達。だから誰も意を唱える者はいなかった。

 

「宜しい。最上級幹部を始め上級幹部、死刃には幹部クラスの者達から自身の従属官とする事を許可します」

 

私が所属していた十一刃も数字持ちの破面を従属官としていました。なので私の死刃にも従属官を与えることにしたのです。しかし死刃に部下が与えられるのにその上の立場である上級、最上級幹部には与えないのは不公平と言うもの。だから死刃以上の階級の者達には従属官を与える事にした。

 

「そして貴方達全員に私からのプレゼントかあります」

 

私は掌に紫色のエネルギーの塊を作り出す。その光は粒子となって階級に関係なくチルッチさん以外の従属官全員の身体にへと入り込む。

 

「今私は貴方達全員に破面の力を与えました。それは主な攻撃技である【虚閃】と【虚弾】、瞬間移動の【響転】、強靭な硬さの皮膚【鋼皮】、相手の位置を探る【探査回路(ペスキス)】です。そして私の側近の3人を始め【最上級幹部】【上級幹部】【死刃】の皆さんには【黒虚閃】と【王虚の閃光】の使用を許可します」

 

【虚閃】を始め破面の主な技は全員が使用出来るが、元々【黒虚閃】と【王虚の閃光】は十一刃だけが使用する事を許された強力な技。だから側近同様死刃以上の肩書きを持つ者達にのみ許可させました。

 

「これにより今回は終わります。皆さん好きにして構いませんよ。トレーニングするもよし、休息を取るもよし、そしてーーーーーー世界を侵略するもよしです。それでは解散!」

 

私の掛け声でその場にいた者達は全員解散した。今選ばれた死刃や上級、最上級幹部の方々は従属官を選んだ後それぞれ行く世界を決め侵略するでしょう。

 

しかし彼等ばかり働かせる訳にはいかないですね。

 

「側近の皆さん。私は先ず何処の世界に行くか決めているのですが、私と共に来ていただいても宜しいでしょうか?」

 

「私は構いませんよ」

 

「私もです。デストロイヤー様の行くところ何処へでだって私は行きます」

 

「私は何処か見て回りたいけど、アンタが言うじゃしょうがないわね。着いて行ってあげるわ」

 

友子さんと胡蝶さんは即OKしてくれましたが、チルッチさんは軽い不服を言いながらもOKしてくれた。本当にチルッチさんは素直じゃないんですから。でもそこが彼女らしいと言うか何というか…。

 

「ありがとうございます。しかし貴方達も自分達の従属官を選びたいと思うので、それが終わってからにしましょう」

 

「いいのですか!?では早速選びに行ってきます」

 

「もう、あの子はせっかちね。デストロイヤー様私も行って参りますので失礼いたします」

 

胡蝶さんは直ぐ様自分の従属官を選びに行き、それを追いかけるように友子さんも自身の従属官を選びに行った。

 

「あっ!待ちなさいよ!アタシも「あっ、チルッチさん待ってください」何も一体!?」

 

「貴方には正式に私の従属官兼任側近となった事で私からプレゼントがあります」

 

「プレゼント?」

 

「そうです。出て来てください」

 

私が声を上げると私達の近くに2つの人影が舞い降りる。1人は両手に無数の爪をぶら下げツインテールのような大きな髪、胸には2枚の大きな羽を生やした女性が付いており、もう1人は左肩には角の生えた馬の顔、右肩にはその馬の下半身とも言える尻尾を付けたナイトのような雰囲気を漂わせている。

 

「何よ、コイツら?」

 

「この2人が私からプレゼント。貴方の従属官ですよ。お二人共自己紹介を」

 

「初めましてチルッチお嬢様。私は幻獣ピクシー拳の【ヒソ】と申します」

 

「お初にお目に掛かります。私は幻獣ユニコーン拳の【ハク】と申します。以後お見知り置きを」

 

この2人はコウさんと同じ幻獣拳使い。しかしコウのように野心家でない、寧ろ主人には絶対的忠誠心を持っている。

 

「私達はチルッチお嬢様の忠実なる従属官」

 

「ご要望があれば私達が直ぐに対処致しますので何なりとお申し付けください」

 

「ヘェ〜。アタシの忠実なる従属官ねェ〜。じゃあ早速だけど紅茶を出してくれよ」

 

「はい、直ちに」

 

ヒソさんが颯爽と動き何処からともなくティーカップとティーポットを用意し静かに紅茶を入れる。

 

「どうぞ、チルッチお嬢様」

 

あまりの行動の速さに命令したチルッチさん本人も若干驚いていますが出されたカップを取り飲む。

 

「!!美味しい。結構いい腕してるじゃない」

 

「ありがとうございます、チルッチお嬢様」

 

「じゃあもう1人のアンタ肩を揉んでちょうだい」

 

「畏まりました」

 

ハクさんはチルッチさんの後ろにへと移動し肩揉みを始める。その手先が良いのかチルッチさんは気持ち良さそうな顔をしている。

 

「ん〜。アンタも中々良いわ。アンタ達アタシの従属官にピッタリよ」

 

「何と勿体無き御言葉。このハク、チルッチお嬢様の為に精を尽くしていきます」

 

「私もです、チルッチお嬢様。今後ともよろしくお願いします」

 

どうやらチルッチさんは2人を気に入ってくれたみたいで打ち解けたみたいですね、良かったです。では後は友子さんと胡蝶さんが戻って来るまで待つとしますか。それにしてもあの2人がそれぞれ誰を従属官を選ぶのかある意味楽しみですね。

 




もう一つのアンケートで「死刃の階級は後々明かされる方がいい」と言われましたので、死刃の階級につきましては話が進むにつれて明かされると言うことにしました。選ばれた死刃の誰がどの階級になのかワクワクしながらお待ちください。(呼ばれた順とは限らない)

それではまた次回。

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キャラ紹介
死刃編


プロローグで選抜された死刃達の紹介です。
以前アンケートで「話の中で明かされていく方がいい」との事だったので死刃の階級と詳細はそれぞれが判明してからに随時更新していきます。

※設定は後々付け足してたり変更したりします。
※原作「七つの大罪」の十戒メンバーに於いては呪いではなく、言い渡された死の形によって備わった能力と言う設定となっております。なので自身や味方には発動しません。他のメンバーも然り。


 BLEACHの世界を旅立った後にデストロイヤーが自分が所属していた死刃に用いて幹部クラスの従属官から選抜した最強の戦士達。

 0〜10までの階級を与えられ、皆身体の一部に与えられた数字を記している(肌を露出している者は見えないように消している)

 

 

第1死刃(プリメーラ・エスパーダ)

【ゼルドリス】

司る死の形:【服従】

 

登場作品:「七つの大罪 戒めの復活」

 

 現死刃メンバーの纏め役にしてリーダー的存在。常に冷静で物事に対処する程の柔軟さと的確さを兼ね備えており、クローズ同様デストロイヤーからの指令を受けることが多い。

 与えられた死の形により授かった能力によって、自分に対して背を向けて逃亡した者の思考を支配し配下にすることが出来る。結果従属官の数は、死刃の中でも最多となっている。

 さらに裏切りや命令違反を犯した者にはデストロイヤーからの命令があれば容赦なく処刑する。その残虐な姿から【デストロイヤー軍の処刑人】とも呼ばれ一部から恐れられている。

 

 因みに身長が低いことを気にしており、そのことを指摘されるとと無言の威圧を掛けてくる。

 

 左前腕の甲に「1」の数字が刻まれている。

 

 

制圧した世界

・この素晴らしい世界に祝福を

 

 

 

第3死刃(トレス・エスパーダ)

【ピエモン】

司る死の形:虚偽

 

登場作品:「デジモンアドベンチャー」

 

 背中に4本のソードを背負ったピエロの格好をしたデジモン。紳士的で丁寧語を使うが、相手をおちょくるのが好きな性格。主に予想出来ないトリッキーな戦術を主体としており、攻撃方法も遠距離、近距離療法に優れ多彩。

 しかし何を考えいるのか分からないことが多く、死刃内でも彼のことを好ましく思っていない者は多い。

 

 右頭部に「3」の数字が刻まれている(普段は見えないようにしている)。

 

 

必殺技

【トランプソード】

得意技

【トイワンダネス】

【エンディングスペル】

 

制圧した世界

・クロスアンジュ天使と竜の輪舞

 

 

 

第4死刃(クアトロ・エスパーダ)

【クローズ】

司る死の形:絶望

 

登場作品:「GO!プリセスプリキュア」

 

 昭和時代のヤンキーような見た目をしているが、冷静沈着で落ち着いた口調で会話する。主人であるデストロイヤーに対しての忠誠心は高く「デストロイヤー様の命令が第一」と考えているため、死刃の中ではデストロイヤーから直々に命令を受けることが多い。

 冷酷冷徹で残虐な性格で、相手の心の弱みや触れられたくない過去をほじくり返して心を乱させることが得意。さらに絶望した相手を「ゼツボーグ」と言う怪物にへと変えることも出来る。

 普段は丸腰だが、エネルギー体の剣を創生することが可能。

 

 服で隠れている右上腹部に「4」の数字が刻まれている。

 

 

制圧した世界

・インフィニット・ストラトス

 

 

 

第5死刃(クイント・エスパーダ)

【ガラン】

司る死の形:真実

 

登場作品:「七つの大罪 戒めの復活」

 

 傲慢不遜な性格でよく対峙する相手を『カッカッカッ』と言う笑い方で見下す全身甲冑を着込んだような細身な長身の老人。だが見た目の割に動きは素早く怪力の持ち主。実力は申し分ないが、傲慢な性格が災いしてよく深傷を負うのが傷。

 直線的な戦いを好み、攻撃方法も所持している長槍を使ったシンプルな攻撃が多い。本人曰く「小細工なやり方は好きではない」とのこと。大鎌の扇風部分に虚閃を纏わせ振るうことで広範囲攻撃も可能。

 与えられた死の形により授かった能力で、嘘をついた者若しくは偽りの行動をした者を石化させる能力を手に入れた。

 

 因みに上級幹部のシチジューローとは酒飲み友達で、暇な時はよく一緒に酒を飲んでいる。

 

 胸部にある宝玉に「5」の数字が刻まれている(普段は見えないようにしている)。

 

 

制圧した世界

・戦闘員派遣します。

 

 

 

第6死刃(セスタ・エスパーダ)

【ニワ】

司る死の形:【破壊】

 

登場作品:「獣拳戦隊ゲキレンジャー」

 

 

 赤い中国服を着用し、頭部に鰐の像が付いた仮面顔。獣人化すると前は鰐が大口を開けたような容姿になり、背中や手足は鱗で覆われる。そして両腕にはそれぞれ1匹分の鰐型の手甲を装着し下駄を履いているのが特徴。

 攻撃と防御どちらにも優れており、獣人化状態の鋼皮の硬さは死刃トップ。さらに鰐がベースになっているだけあって水中戦も得意としている。

 

 死刃の1人であるサーガインとは「同じ武人としての志がある」とのことで1番中がいい。互いに時間がある時は、手合わせしていることがある。

 

 獣人時の胸部に「6」の数字が刻まれている(普段は見えないようにしている)。

 

 

侵略を行った世界

・dog days

 

 

 

第7死刃(セプティマ・エスパーダ)

【テリーX】

司る死の形:憎悪

 

登場作品:「特捜戦隊デカレンジャー」

 

 全身白と黒の縦ボーダー柄の模様に、両腕に電極を装着した宇宙人。残虐な性格で相手を倒すことに一切の躊躇いを持たない。

胸には乾電池を入れる箱が2つ付いておりそこに空きの乾電池を差し込み能力者を原料に「プラズマX」と言う強力な乾電池を創り出すことが出来る。

 しかも空気中のあらゆる物質と取り込みそれを電気エネルギーにへと変換し電撃を放つ事が出来る。しかも空気中からなので決してエネルギーが尽きることがない。

 

 左頬に「7」の数字が刻まれている(普段は見えないようにしている)。

 

 

制圧した世界

・絶対可憐チルドレン

 

 

 

第8死刃(オクターバ・エスパーダ)

【メラスキュラ】

司る死の形:信仰

 

登場作品:「七つの大罪 戒めの復活」

 

 全身に蛇のトグロを象った靄を身体に巻いており、相手の苦しむ顔、恐怖に染まった顔が好きなおかっぱ頭の魔神。【暗澹の繭】と言う技を使って相手を閉じ込め、そのまま魂を喰らう。

 更に靄を取り込むことによって、人型の少女の姿から大人びたナーガの姿にパワーアップすることが出来る(本作オリジナル設定)。以前は全身蛇化になってしまい、本人曰く『可愛くない』と言う理由で嫌っていたが、デストロイヤー軍に入ってからの特訓によって下半身のみでも可能となった。そして魔神族特有の魂食いは人一倍パワーアップし、唯一魔力のみならず傷も回復出来るようになった。

 与えられた死の形により授かった能力で、目の前の出来事に疑いを持った者の目を焼き切ることが出来る。

 

 因みに趣味の一環として酒が好きでよく飲んでいるが、すぐ酔いが回る上に酒癖が悪い。

 

 左脇下に「8」の数字が刻まれている。

 

 

侵略を行った世界

・戦姫絶唱シンフォギア

 

 

 

 

第9死刃(ヌベーノ・エスパーダ)

【サーガイン】

司る死の形:誇り(プライド)

 

登場作品:「忍風戦隊ハリケンジャー」

 

 身体全身を黒い甲冑で覆われている鎧武者。

 剣の腕前は死刃トップクラスであり、剣士として強い誇りを持っている。

 科学技術面に置いても優れており、従属官は自身が作り上げた傀儡が中心。因みにデストロイヤー軍の母船やアジトの設計、開発も彼を中心に行われた。

 だがこの等身大の身体は、実は自身が作り上げた傀儡。本体は蟻のような小さい生物。顔の部分がコックピットになっておりそこに設置されている椅子に座って動かしている。

 

 因みに死刃の1人であるニワに対しては「同じ武人の誇り(プライド)を持っている者」で仲が良いが、同じく死刃の1人であるサンダールJr.に対しては「実力は認めているが、サンダール(奴の父親)のように裏切るかもしれない」と警戒している。

 

 本体の胴体に「9」の数字が刻まれている。

 

 

侵略を行った世界

・セキレイ

 

 

 

第10死刃(ディエス・エスパーダ)

【デモゴルゴン】

司る死の形:【支配】

 

登場作品:「真女神転生デビルチルドレン」

 

 全身筋肉質で尻尾が生えたデビル。種族【ボス】、属性【月】。死刃の中では、1番人間離れした姿をしている。

 口より先に手が出るタイプで、何でも力で解決しようとする。その心意気は「力こそ全て」である。

 自分の従属官達に自身の力を分け与えている。その証として彼の従属官達には、身体のそれぞれの部位に紋章が刻まれている。しかし力を分け与えられた影響か、荒々しくなる傾向がある。

 

 左胸部に「10」の数字が刻まれている(普段は見えないようにしている)。

 

 

侵略を行った世界

・ハンドレッド

 

 

 

 

階級不明

 

 

【ルーチェモン・フォールダンモード】

司る死の形:【傲慢】

 

登場作品:「デジモンフロンティア」

 

 聖と魔の相反する力を持ち、自らを「最強の魔王」と称するデジモン。自ら最強を名乗っているだけあってその実力は確かなものであり、圧倒的な力で全てを凌駕する。天使のような慈悲深く紳士的な性格であるが、同時に悪魔のような残酷な性格も用いている。

 さらに自分が侵略を行った世界から、その世界での強者や見込みがある者は積極的に勧誘していき、結果ゼルドリスに次いで従属官の数が多い。

 左眼には破面の仮面紋(エスティグマ)に似た模様が入っている。

 

 

 

必殺技

【パラダイスロスト】

【デット・オア・アライブ】

 

 

制圧した世界

・異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術

 

 

 

【サンダールJr.】

司る死の形:【復讐】

 

登場作品:「海賊戦隊ゴーカイジャー」

 

 前作に登場した【サンダール】の実の息子。しかし父親であるサンダールとは違って仲間意識があり、主人であるデストロイヤーからは信頼されている。実力も父親に引けを取らない程。しかし同じ死刃であるサーガインからは父親の件もあって警戒されている。

 死の形によって授かった能力で、対峙する相手に「復讐したい」と思う者の能力を使うことが出来る(但し復讐したいと言う気持ちを持つ「死者」の力のみ使用可能)。

 武器は大剣赫悪彗星刀(シャークすいせいとう)、技は【鮫手裏剣】や【自在縄】、【縄頭蓋(ジョーズガイ)】とサンダールとほぼ同じ。

 

 

 

制圧した世界

・無能なナナ

 

 

 

 



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本編
1話 超能力世界壊滅 前編


どうもアニメ大好きです。
色々ご迷惑をお掛けしましたので連続投稿します。
いよいよ異世界侵略が始まります。

今回誰が出てくるのかはタイトルを見れば察しがつくと思います。
前の話で新たに死刃に選ばれた者の一人です。



時は21世紀。この世界には特別な力を持った人間…エスパーと言う超能力者がいる。その能力は念動能力(サイコキネシス)透視能力(クレヤボヤンス)洗脳能力(ヒュプノ)等色々ある。

能力にはそれぞれレベルがあり一番低いレベル1を始め2、3、4と上がって行き最高レベルの7までが存在する。レベル1だと超能力に敏感な人が気付くかどうかの程度だが、レベルが上がるにつれてその力は強大になっていき最高のレベル7になるとありとあらゆる物を破壊出来る力がある。

そして時が経つに連れてエスパーの数は次第に増えていき彼等は軍事、外交、経済などありとあらゆる分野で活躍していき、国際競争の鍵を握るようになっていった。

しかしその中には力に溺れ私利私欲の為に力を使い悪用しようとする輩も現れ出した。

 

そんな者達を止める為に【内務省特務機関超能力支援研究局】通称【B.A.B.E.L(バベル)】が設立されエスパーによる犯罪は勿論の事、予知された事件や災害、事故の阻止等様々なところで活躍している。そしてそこに所属するエスパー達を「特務エスパー」と呼ぶ。

 

 

しかしそんな世界が今……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー滅びの道を辿ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ。へへ、ここまで逃けきりゃあ大丈夫だろ」

 

暗い夜道に一人男が息を切らしていた。彼は超能力者で先程銀行から金を盗み、犯罪を犯したので警察やそこに来た特務エスパーから逃げていた最中だったのである。

 

「ウッヒョォ!たんまりと金が手に入ったぜ。これで暫くは遊んで暮らせるな、へへへ」

 

男は持っていたバックを開けるとその中には大量の札束が入っていた。それは彼がさっき盗み出した現金であった。このまま逃げきれば暫くは贅沢三昧が出来ると思い心から喜んだ。

 

しかし…それは喜びで一瞬で終わるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい……お前…超能力者(エスパー)だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ?何だお前!?ウア、アァァァーー!!」

 

男は突然声を掛けられ後ろを振り抜くとそこには青年と同じくらいの背丈だが人間とは思えない異形の姿をした者がいた。そしてその異形者は腕に付いている二本の突起から男に電撃を浴びせる。電撃を食らった男はまるで電撃に食べられているかのように姿が消えていき突起にへ吸い込まれた。すると異形者の胸部分にあるケースに埋め込まれていた電球が黄色く光り出し蓋が閉じられる。

 

「フフフ、高性能乾電池の完成だ。しかしこの世界は能力者がウジャウジャ居やがる。俺にとっては最高の狩場だぜ」

 

人型の異形者は歓喜に震えながら静か去る。その場には男が盗んだ金が入ったバックだけが残された。

 

その後追いかけていた警察と特務エスパーが札束が入ったバックを見つけ「まだこの辺りにいるかもしれない」と思い辺り一帯を探したが結局見つけることが出来ず痕跡も分からなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その翌日、場所は変わり大都会に立つ巨大なガラス張りで覆われた塔のようなビル「B.A.B.E.L」の一室……

 

「失礼します」

 

その部屋に入ってきたのは3人組の女の子と1人の青年男性。

 

この3人の女の子達こそ日本にたった3人しかいないレベル7のエスパー【ザ・チルドレン】である。

 

「局長。皆本光一とザ・チルドレン只今到着しました」

 

先ず男がザ・チルドレンの主任【皆本光一】である。彼は能力者ではないがIQ200と言う天才的な頭脳の持ち主。家事、洗濯などなんでも熟す正にスーパーエリートである。

 

「あぁ折角の日曜で休みだってのにィィ〜。こんな早くに仕事が入るなんて〜」

 

この紅い髪の女の子がザ・チルドレンのリーダー的存在【明石薫】。やんちゃで喧嘩っ早く短期な性格。しかし人一倍正義感が強く一般的な男子よりも男気がある。しかしオヤジ趣味があって風呂とかでも同僚の胸を揉んだりするなどセクハラをしてしまう残念なところがある。

能力は念動能力(サイコキネシス)。念力でありとあらゆる物や人を持ち上げたりする事が出来るが、力の制御が出来ず壊してしまう事もしばしばある…。

 

「あぁーも、うっさい。少し静かにせェや!」

 

次に眼鏡を掛けたロングヘアの女の子が【野上葵】。成績優秀で真面目であるがそれはあくまでこの3人の中ではの話。実家が京都であるが為よく関西弁で話し、薫のボケとかにもよくツッコミを入れる(成績がいいのは事実)。

能力は瞬間移動能力(テレポーテーション)。指を狐(?)の形にして人や物、そして自分自身をも別の場所にへと移動させることが出来る。

 

「そうよ、薫ちゃん。落ち着いて」

 

3人目の白髪の女の子が【三宮紫穂】。いつも可愛くニコニコしているがそれとは裏腹に腹黒く澄ました顔しながら毒舌を吐いたりする。時折見せる残酷な行いから薫と葵から「恐ろしい子」と言われる事も。

能力は接触感応能力(サイコメトリー)。その手で人や物に触れる事によって過去の記憶や現在の情報を読み取る事ができ、武器を持てばその使い方を完璧に使いこなす事が出来る。その為いつも愛用の銃やスタンガンなどの子供にはかなり危ない武器を所持している。

 

この問題児ばかりのチームに皆本光一は毎回手を焼いている。しかしそれでも数ヶ月も続けられているのだから凄いものだ。

 

「おはよう、朝早くにすまないねェ」

 

このゴリラ…んん失礼。この貫禄がある顔の男はこのB.A.B.E.Lの局長【桐壺帝三】、そしてその隣にいる黒髪の女性は秘書官の【柏木朧】である。

 

「それで僕等が呼ばれた理由は?」

 

「うん。昨晩銀行強盗を犯したエスパーを追跡している際、人気のない路地裏で大量の札束が入ったバックが発見された」

 

「状況から見て犯人の所持していたと思われます」

 

彼等の右側にモニターが現れ説明にもあったバックが映し出される。

 

「調べたところ盗まれた札束全てそのまま入っていたらしい」

 

「!?全てそのままバックに入ったままだったという事ですか!?」

 

「でもそれって犯人が慌てて落としていっただけなんじゃねェの?」

 

「確かにそれも言えてるけど、札束の一つや二つは持っていくやろ?そのまま全部置いて行くなんて有り得へんと思うで」

 

「そして此処からが肝心な事です。なんでもそのバックを発見する前その付近で稲光が目撃されたそうです」

 

「稲光!?またですか!」

 

その事に皆本光一が驚く。実は物資が落ちていた場所付近で稲光が目撃されたのは今回が初めてでは無い。約一週間前くらいからエスパーが関係していた事件の後にその犯罪者が所持して武器や持ち物がその場に置き去りになっている状態が多発している。

 

しかしこれにはある共通点がある。それは消えた人物達が皆エスパーであった事。つまり…

 

「この騒ぎを起こしている者の標的はエスパーである事に絞られます」

 

「だから君達も気をつけてくれ。何てったて君達は我が国の宝。もし君達に何かあったら私は…私はァァーーー!!」

 

実はこの人幼い事もあって3人に対して過保護になっているのだ。しかも抱き着いたりしてくるのでそれには3人も困っている。しかし3人はそれを良い事に何でもかんでもやりたい放題……正直この3人が我儘な問題児になったのはこの人のせいでは無いかと思えてくる。

 

「なぁにどんな奴が来ようとアタシ等がチャチャっとやっつけてやる」

 

「本当アンタのその自信は何処から来るんや?」

 

「でも葵ちゃん、そこが薫ちゃんの良いところよ」

 

チルドレンの3人は緊張感を感じない雑談をしているが、皆本光一は一人嫌な予感がして腑に落ちなかった。

 

(約一週間でここまで沢山のエスパーを襲撃したにも関わらず争った痕跡も一切ない。一体どんな奴なんだ…)

 

 

 

 

彼等が会議している間に未来を予知する事が出来るイルカの脳が知らないところで本来(原作通り)の未来とは違う光景を予知していた。

 

 

そしてそれが現実になるとは誰も知らない。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ある一つ研究室のような部屋そこには数人の男と昨晩エスパーを襲った異形者がいた。

 

「素晴らしい。また沢山のエスパーを狩って来てくれたのか」

 

そこに異形者に話しかけるのはこの世界の住人である【普通の人々】である。

彼等は超能力者の排斥を目的とする反エスパー団体。「エスパーは人類文明を滅ぼす破壊者」とエスパーを意味嫌い追放しようとしている。しかも一般人をも巻きこんでの大規模事故を誘発する事もある過激な組織である。

 

「あぁ、これでまたプラズマXが何本か作れたぜ」

 

「これでエスパーを今日までに30人も駆除してくれた。君がここに来てまだ一週間しかし経っていないと言うのに素晴らしい過ぎる」

 

この異形者が彼等と接触したのは約一週間前の事。それは突然であった。

彼等はエスパーを何とかして追い出そうと作戦を練っていた時であった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ドカーーン

 

 

 

『な、なんだ!?どうした!?』

 

『何者かが侵入して来た模様です!』

 

『まさか【P.A.N.D.O.R.Aか】!?』

 

 

 

ドカーーン

 

 

 

『よぉ。初めましてと言うべきか?人間共』

 

『な、何者だ貴様!唯の人間ではないな、エスパーか!?』

 

『あぁ?俺をあんな能力者共と一緒にすんじゃねェ』

 

『エスパーではないのか!?じゃあお前の目的は何だ!』

 

『なぁに、お前達には協力してやろうと思ってな』

 

『協力だと?』

 

『お前等はエスパーを全てこの世界から排除したいんだろ?だったらその役目俺がやってやるぜ。フフフ』

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして彼はその言葉通り夜な夜な街に出てエスパーを次々と狩っているのである。最初は彼等(普通の人々)も信用していなかったが、この3日程で10人ものエスパーを狩った事であの言葉に偽りはないと思い彼を仲間として受け入れたのだ。

 

「それで早速で悪いんだが今度のターゲットはこいつだ」

 

男は機械の端末を操作するとモニターが出現し一人の女が映し出される。

 

「コイツは?」

 

「この女はB.A.B.E.Lの特務エスパーの一人だ」

 

「B.A.B.E.Lって確かお前達が厄介がっている組織の一つだったな。聞けばそこのエスパーは皆レベルが高いって話じゃねェか。これは手応えがありそうだ」

 

異形者はB.A.B.E.Lのエスパーと戦えると聞いて嬉しそうに答える。彼が今まで狩ってきた連中はレベルが低い若しくはレベルがあっても能力を活かしきれていない…つまり雑魚連中であった。直ぐ殺られてしまうので碌に戦闘が出来ない事が少し不満だった。

しかし今回はB.A.B.E.Lに所属するエスパーを相手に出来ると聞いて胸が高ぶっていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふぅ。これで任務完了ですね」

 

「よくやったぞ。流石【私】のナオミだ」

 

「煩セェ!一々【私】のとか言うじゃねェ!このエロオヤジがァァ!!」

 

「ノォォ!!来た来た!!」

 

ある場所で一人の女性が近づいてきたおじさんに能力を発動し地面にめり込ませるくらいに押し潰すそうとしている。

 

彼女の名は【梅技ナオミ】。彼女もチルドレンと同じB.A.B.E.Lの特務エスパー。レベル6の念動能力者(サイコキノ)。コードネームは「ワイルド・キャット」。

 

普段はニコニコして素直で明るく優しい頼りになるお姉さんのような女性なのだが主任である【谷崎一郎】が近づいたり触れたりすると性格が豹変し口が悪くなり能力で地面や壁にへと押し潰す(最近二重人格気味になってきているとか…)。

しかし遣られている主任本人はそれが快感に感じているので一向に治らないのだ。

因みに今ノの状況に至っているのは、彼女は任務で暴れていたエスパーを止めに出動し、たった今制圧し解決した直後、何時ものように谷崎がナオミに詰め寄り能力を食らい喜びを味わうと言う何とも言えない状況なのだ。

 

「(全く。これが無ければいい人なのに…)」

 

しかし小さい頃から自分を育ててくれた上に、学校にも通わせてくれる程自分の事をしっかり考えくれているのでいるので、その事について内心感謝している。

 

「さてと、じゃあ後の事は頼みます」

 

能力を止めると何時もナオミに戻り警官に捕まえた犯罪者の身柄を預けた。これで事件解決で終了と思った瞬間、突如何処からか電撃が放たれる。ナオミは咄嗟に能力を使って防ぎ電撃を左右に分散させた。

 

「ほぉ、今のを防ぐとはとは。結構やるじゃねェか。流石特務エスパーっと言ったところか。今まで狩ってきた奴らとは大違いだぜ」

 

声がした方に向けると全身が白と黒の身体、ニヤッと笑っているように歯を剥き出しにしている人とは思えない存在ーーーーー先程「普通の人々」と話していた異形者がゆっくりと歩いて来る。

 

「貴方は何者ですか!」

 

「ハッ!知りたければ力づくで効き出すんだなァ。だかこれだけは教えといてやる。ハァー!!」

 

異形者は両手の突起物から電撃を放つと捕まっていた犯罪者に命中する。彼は悲鳴を上げると忽ち身体が消え、突起物にへ吸い込まれてしまう。同時に明るくて分かりにくいが胸の電球が黄色に点灯する。その光景を見てナオミは昨日局長から言われた事を思い出した。

 

「今のは……もしかしてここ最近エスパーが失踪していた事件は貴方の仕業!?」

 

「その通りだ!そして今度はお前がこうなる番だ、あ?」

 

ナオミと異形者が話し合っている間に警官達が異形者に銃口を向けながら周りを取り囲んでいた。

 

「無駄な抵抗は辞めて大人しく投降しなさい!」

 

「あぁ?能力者でもない奴が一々出しゃばるんじゃねェ!」

 

異形者は両手を上空にへと向けると突起物の先端から雷が上空にへと放たれる。それを察したナオミが大声で叫ぶ。

 

「ッ!危ない、逃げてください!」

 

「えっ!?」

 

「もう遅い!」

 

しかし時既に遅し。その雷は落雷となって警官一同に降り注いだ。数百万ボルトの電撃を食らった警官達は全員一撃で絶命してしまった。

 

「何て酷い事を…貴方の狙いは私のはずでしょ?この人達はエスパーじゃないから関係なかったのに!」

 

「ハッ、だからなんだ?コイツらは俺の邪魔しようとしたから消したまでの事だ」

 

邪魔だから消した……その考えはまるでゴミ掃除をするかのような考えにナオミは我慢出来なかった。

 

「貴方は人の命をなんだと思っているんですか!そんな貴方を私は許せません!今ここで貴方を止めます!」

 

「フン、だったらやってみろ。止められるんだったらァ」

 

「言われなくても!【サイキック・スタン・サブジェクション】!!」

 

ナオミは能力で両手から電撃を放つ。

 

「下らん。食らえェ!!」

 

異形者も突起物から電撃を放つ。互いの電撃がぶつかり合い爆発が起こる。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その頃バベル本部では、残っていた犯人の遺留品のバックから何か手掛かりがあるかもしれないと皆本の発案でチルドレンの一人、紫穂に調べさせてもらっていた。

 

「どうだ、紫穂。何か分かるか?」

 

「もうちょっと待って…これは!」

 

紫穂が今見ているのは丁度バックが発見された付近に犯人がやってきたところだった。警官から逃げきり盗んだ札束を見て和んでいた時に、突如声をかけられ電撃を食らったところだった。

 

「どうした紫穂?」

 

「何か分かったんか?」

 

「エェ。このバックの持ち主…突如何者かに襲われたんだわ」

 

「やっぱりか…それでどんな奴だった」

 

「それが…人じゃないの…」

 

「人じゃない?どう言う事やそれ?」

 

「全身黒と白の姿をしていてニヤッと口が笑っていて歯が剥き出しになっていたわ」

 

「何だそれ?仮装とかそんなじゃないのか?」

 

「いえ、そうは思えなかったわ。まるでそう、宇宙人みたいな」

 

『宇宙人!?』

 

「いやいや、それはないって」

 

「幾ら何でも宇宙人なんてホンマに存在するとは思えへんしな」

 

 

ドドド バン!

 

 

「おい皆本大変だ!」

 

走る音が聞こえ扉が開かれると皆本の親友である【賢木修二】が入って来た。

 

「賢木」

 

「何や賢木先生いきなり入って来て」

 

「また美人のネェちゃんでもいたんじゃねェの?」

 

「全くこの人の女好きには困ったものよね。将来あんな大人にはなりたくないわ」

 

「お前らいい加減にしろ!!たくホンット可愛くげのねェ」

 

「アハハハ(苦笑)。それで賢木、一体どうしたんだ?」

 

「おぉ、そうだった!大変だ皆本、谷崎主任が大怪我して運ばれて来たんだよ!」

 

「何だって!?」

 

「谷崎のオッチャンが!」

 

その話を聞いて四人とも急いで病室にへと向かった。中に入るとそこには局長と柏木秘書、そして頭に包帯を巻いてベットで横になっている谷崎がいた。

 

「おぉ君達か」

 

「局長、谷崎さんの容体は?」

 

「うん、酷い怪我だが何とか命に別状はない」

 

「そうですか、良かった」

 

「う…う〜ん」

 

2人の話し声で気を失っていた谷崎の意識が戻った。

 

「谷崎さん!?大丈夫ですか?しっかりしてください!」

 

「う〜ん…此処は?」

 

「B.A.B.E.L本部ですよ。君は酷い怪我でここまで運ばれて来たんだよ」

 

「しかし無事で良かったです」

 

谷崎の無事で確認できたことに喜んだがそんな時葵がある事に気づいた。

 

「ところで谷崎はん、ナオミはんは?一緒に居らんようやけど、どないしたんや?」

 

「そ、そうだ。わ…私のナオミが…」

 

「ナオミちゃんがどうしたんですか!?」

 

「任務が終わった後いきなり変な奴が現れて襲いかかってきたんだ」

 

「それでナオミちゃんは?」

 

「そいつが何処かにへと連れ去ってしまった…ウォォー私のナオミがァァー!!」

 

谷崎はナオミが攫われた事に発狂してしまう。この人のあの子への愛は相当なものだ。

まぁこの人の思考は兎も角大切な仲間が連れ去られたのたら助けに行くべきだが手掛かりが無いため動く事が出来ない。そんな時谷崎のズボンのポケットから小さいボールのような物が転げ落ちた。

 

「何だ?」

 

それを見た皆本が拾おうとするとそれが浮かび上がり頭部の部分から映像が映し出された。

 

『よぉ、聞こえているか?人間共』

 

「な、何だこいつ。変な格好だな」

 

「コスプレか。それにしても凝っとるなァ〜」

 

「!!この人…」

 

「!?どうした紫穂!?」

 

「この人よ。さっき犯人の遺留品から私が見た人物は!」

 

「何!?それじゃあ今までの失踪事件は全てこいつの仕業という事か!?」

 

「こ、こいつだ!こいつが私のナオミを攫った張本人だ!」

 

その言葉に一同は驚愕した。ナオミを攫った異形者は今日までにあった30人以上のエスパー失踪事件の犯人と言う事だ。そして映像は変わり縄で縛られて気を失っているボロボロのナオミの姿が映し出される。

 

『テメェの仲間であるこの女は預かった。返して欲しければこの場所まで来い!』

 

モニターが移り変わり何処かの廃棄工場の絵が映し出される。

 

『楽しみに待ってるぜ。まぁ貴様等雑魚共が何人で掛かって来ようがこの俺様に敵うわけないがな。ハハハハハハ!』

 

モニターが消えるとボールは小さく「ボン」と爆発した。

 

「ナオミはんが…皆本はん、ナオミはんを助けに行かせへんと!」

 

「その通りだぜ皆本!それにアイツアタシ達を馬鹿にしやがって!絶テェ許さねェェ!!」

 

「薫ちゃんそっちが本音ね。でも2人の言う通りよ皆本さん。急いでナオミさんの元へ行かないと」

 

「…わかった。局長、出動の許可を!」

 

「よし、ザ・チルドレン出動!」

 

『了解!』

 

チーム【ザ・チルドレン】は部屋を出ナオミが囚われている場所にはと急行するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナオミィィ!私が今、助けに行くからなァァー!!」

 

 

 

この男は相変わらずブレない。




という事で記念すべき一番目は絶対可憐チルドレンの世界です。
一度に沢山のキャラを入れるのは難しいですね。

次回までのスペックが切れましたので時間が掛かると思います。気長にお待ちいただけると幸いです。

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2話 超能力世界壊滅 後編

皆さま…待たせたな、新作完成したぜ。(大○さん風)
今回はタイトル通り前回の続きです。
今回なんと一万文字を超えてしまいました。またこれじゃあ長いかなと思ったのですが、さらに分かると短くなってしまうので一つに纏めた結果一万文字を超えました。
注意…戦闘シーンが曖昧かもしれません。そこはご賞味ください。
そして今回お約束とも言えるある事が破られます。


前回までのあらすじ
エスパーが次々と失踪する事件が立て続いている中、その被害がB.A.B.E.Lの特務エスパー梅枝ナオミにも及んだ。
攫われたナオミを救うためザ・チルドレンが出動する。



一本の煙突にボロボロになった周りの壁、全ての窓が割れおまけに鉄臭い、街から遠く離れた場所に誰がどう見ても分かる廃工場。その中に2つの人影があった。

 

「クゥ…」

 

「へへへ、言い様だな」

 

異形者に敗れ囚われたナオミは紐で身体で縛られ身動きが取れず地面に横たわっていた。それを異形者は見下すように笑う。

 

「特務エスパーとは言え所詮人間。この俺に勝とうだなんて無理なんだよ」

 

異形者は両手の突起をナオミに向ける。先程自身が捕まえた犯人が消されたのを思い出し今度は自分が成る番だと思い恐怖した。

 

「心配するな。お前はまだ生かしといてやる。お前の仲間のエスパーがここで俺に敗れる瞬間を拝ませてやるぜ、ハハハハハ!」

 

この後助けに来るであろうエスパー達の最期の見届け人として、そいつの後に始末すると言う。

 

 

ドーーン

 

 

突然爆発が起き壁が破壊される。

 

「…来たか…」

 

その破壊された壁から日の光に照らされ4人の人影が現れる。

 

「ナオミちゃん無事かい!?」

 

「ナオミちゃん、白馬の王子様が今助けに来たぜ!」

 

「いや、アンタは女やから王子様やないやろ!」

 

「でも女の子にモテる薫ちゃんは王子様でもあってるかもね」

 

「皆本さん!?それに薫ちゃんに葵ちゃん、紫穂ちゃんも!?」

 

囚われのお姫様、基ナオミを救うために最強エスパーチーム【ザ・チルドレン】只今参上!

 

「青い服の3人の女に眼鏡の男…成る程。テメェ等が【ザ・チルドレン】か。しかし最高レベルの7だからどんな奴か期待したんだな……まさかこんな餓鬼共だとわなァ」

 

「何だと!?アタシ達が餓鬼って言うのか!?」

 

「その通りだ。俺から言わせればテメェ等なんざ、まだまだケツの青い只の餓鬼だぜ!」

 

「何やトォ!」

 

「随分好き放題言ってくれるわね…」

 

「あぁ〜アタマに来た!おい皆本!さっさとリミッター解禁してくれよ!」

 

「お、おい薫あんな挑発にn『皆本(はん)(さん)、早く(よぉ)』…ハァ〜…分かった、分かった」

 

3人の押しに負け皆本は上着のポケットから赤い携帯電話の様な機械を取り出す。

 

「特務エスパー【ザ・チルドレン】ーー解禁!!」

 

機械の真ん中部分が開くとモニターが現れ解禁の文字が浮かび上がる。

 

 

「可憐な少女を傷つける悪者よ!」

 

 

「これ以上のアコギは許さへんで!」

 

 

「私達が成敗するわ!」

 

 

『絶対!可憐!チルd「ビリリリィ、ドーーン」ウワァ(キャァー)!』

 

 

テレビとかでお約束の決め台詞の途中で突然爆発が起こり中断された。その原因は言わずとも分かると思うが長ったらしくて痺れを切らした異形者が攻撃してきたのだ。

 

「イテテ…おいコラ!決め台詞をしている時に攻撃する奴があるか!?」

 

「ハン、俺はお前達とヒーローごっこをしたくて呼んだわけじゃねェ。そんなくだらねェ事をやって待ってやる奴は飛んだマヌケだなwww」

 

餓鬼扱いされた上に自分達の大事な決め台詞をヒーローごっこと子供の遊び扱いされたので3人とも怒りがピーク近かった。

 

「ッ〜〜も〜絶対許さねェ!サイキックー【押し潰し】!」

 

特に気の短い短気な性格の薫はキレて能力で異形者に重力をかけ動きを封じ込めた。だが怒りで力を制御出来ていないのか、異形者の足元がめり込んで小さなクレーターが出来ていた。

 

「おい薫幾ら何でもやり過ぎだぞ!」

 

「何言ってんだよ皆本!アタシ達を馬鹿にしただけじゃなくお決まりの決めポーズも邪魔されたんだぞ!これくらいは必要だろ?」

 

その言葉に他の2人も「うんうん」と頷く。余程決めポーズを邪魔されたのが許せなかったのだろう。皆本は「何だそれ?」と言わんばかりに額に手を当てる。

 

「へへへ…流石最高レベルの7…今までの奴らとは違うな。…だがなァ……フン!!」

 

異形者は身体に力を込めると、薫のサイコキネシスを一瞬にして振り払い脱出してしまった。

 

「なっ!?」

 

「嘘やろ!?薫の能力を力だけで振り払いおった」

 

「信じられない…」

 

「どうした、まさかこれで終わりじゃねェだろう?」

 

「あったりまえだ!サイキックゥーー【ガラクタ投げ】!」

 

薫は能力で今度は周りにあった大量の古びた機械基ガラクタを浮かせると一斉に飛んでいく。対する異形者は両手を前に突き出し突起から電撃を放つ。互いの攻撃がぶつかると煙が舞い上がり互いの姿が見えなくなる。

 

「葵!」

 

「分かっとる!」

 

皆本に指示され葵はテレポートで捕まっているナオミの近くにまで移動する。ナオミに触れようとした瞬間に誰かに腕を掴まれた。掴んでいる腕の方へ顔を向けると先程の異形者がこちらに身体を向けて掴んでいた。

 

「おっと、そうはいかないぜ」

 

今の一瞬で自分が移動したのに気付いた…信じられなかった。瞬間移動能力者(テレポーター)はエスパーの中で最も進化した人類。移動する、させる場所を把握出来るのは移動させた本人だけ。同じ瞬間移動能力者でも把握は先ず出来ない。それなのに異形者はまるで見えていたかのように自分の居場所を把握し腕を掴んだ。それが信じられなかった。

 

「テメェから先ず乾電池にしてやる」

 

もう片方の腕の突起の先端を向けると電撃が走る。殺られると思い目を瞑った。

 

「葵ちゃん!」

 

紫穂は拳銃を構え発砲する。異形者は電撃を放とうとしていた腕で銃弾を払う。しかしその一瞬葵を掴んでいた腕の力が弱まり、その隙に葵は払い除けナオミを連れて皆本達の近くにテレポートする。

 

「助かったわ。あんがと紫穂」

 

「ありがとう紫穂ちゃん」

 

「気を付けて。あの人きっとレベル7くらいの力があるわ」

 

薫のサイコキネシスを振り払った上に葵のテレーポートした場所まで把握していた。エスパーで言うところの最高レベル7はあってもおかしくないと紫穂は推測する。

 

「そこの白髪の女いい感じてるぜ。だがなァ、この俺をお前達と同じ土俵で見られているのが気に入らねェ。ここでお前ら全員始末してやるぜ!」

 

異形者は再び両手の突起から電撃を放つ。チルドレンの3人は攻撃を素早く回避し別々の方向から仕掛ける。皆本は縛られていたナオミに近づき縄を解いた。

 

「ありがとうございます皆本さん。私と薫ちゃん達の援護に向かいます」

 

「いやナオミちゃん、君はここで退避していてくれ」

 

「でも…」

 

「君は先の奴との戦闘で深傷を負った状態だ。戦闘に参加させる訳にはいかない。それにアイツらがそう簡単にやられる筈がない」

 

皆本は顔を上げると戦っている3人の姿を信頼の眼差しで見つめる。ナオミはその彼の真っ直ぐな目と思いにこれ以上何も言わなかった。無事に3人が勝利することを祈る事にした。

 

 

 

異形者は薫のサイコキネシスに押さえつけられ動けなくなっている状態だった。

しかし先程と同じように力を込め振り払うと紫穂が拳銃で銃弾を連射する。くだらない攻撃とばかりに両手の突起物で次々と銃弾を払い除ける。

その隙に葵がテレーポートで周りのガラクタを異形者の頭上にへと移動させそのまま押し潰した。

 

「おっしゃ!どうだ!」

 

「ウチらを舐めてかかると痛い目見るで!」

 

「今度は足に銃弾を撃ち込んであげようかしら」

 

チルドレンの3人はペシャンコにしてやったりと言わんばかりに大いに喜んだ(紫穂に関してはちょっと危ない感じになっているが)。

 

しかし一向に応答がない事に不審を感じた皆本は紫穂に指示を出す。

 

「紫穂。今奴がどうなっているか調べてくれないか?」

 

「え?分かったわ」

 

いきなりの事で戸惑いながらも地面に手を付き能力で瓦礫の下の状態を調べる。すると驚くべき事が判明した。

 

「嘘!?」

 

「どうした紫穂!」

 

「…アイツあの瓦礫の下に居ないわ!」

 

そう…瓦礫の下敷きになったと思った異形者がその下に居ないのだ。その事を聞き薫と葵も信じられない顔をしていた。最初は何かの間違いかと思ったが彼女は最高レベルの7。そんな初歩的な間違いをする筈がない故その考えは無くなった。

 

「居ないって…じゃあどこに行ったんだよ!?」

 

「それは「ここにいるぜ」!ガッ!!」

 

紫穂は薫の質問に答えてようとした時、背後から声がし振り向いた瞬間に誰かの手が自身の首根っこを掴み持ち上げた。その人物こそ瓦礫の下から忽然と消えた異形者であった。

 

紫穂は心を読み取ろうと掴んでいる手に触れるが出来なかった。レベル7のサイコメトラーでも高レベルエスパーになると心に隙を突かないと読み取れない。薫や葵を翻弄出来る事からエスパーに例えるならレベル7クラスの実力はあると推測させる。だから彼女でも読み取る事が出来ないのだ。

 

「このまま捻り潰してやろうか?」

 

手にさらに力を込める。紫穂は息が出来なくて苦しく顔を歪ませる。

 

「紫穂をさなさんかーい!」

 

葵は紫穂を助けようとテレポートで移動する。だがやはり異形者には移動する場所が分かっていたのか紫穂を左側にへと投げ飛ばす。するとその先に葵が現れ投げ飛ばされた紫穂にぶつかりそのまま2人とも地面にに叩きつけられる。

異形者はさらに追い討ちを掛けるように電撃を2人に向けて放った。

 

『アァーー!!』

 

2人の悲鳴が建物の中に響き渡る。

 

「葵!紫穂!テメェよくもォォ!【サイキックゥゥーーメガトンパーンチ】!!」

 

薫のサイコキネシスの力を込めた拳が炸裂しようとしていた時突然異形者が消えたのだ。パンチは空振りに終わり薫は「おっとっと」の状態になり踏み止まる。

周りをキョロキョロして探すと突然後ろに現れた。もう一度メガトンパンチをお見舞いようとするがまたしても消え空振りとなる。しかも今度は勢いを殺しきれず瓦礫の山にへと突っ込んでしまう。

 

瓦礫の山から顔を出すとそこから少し離れた場所に異形者が現れる。

 

「あれはテレポート!?アンタ、ウチと同じテレポーターなんか!?」

 

「これは【響転】って言うだ。まぁお前達に分かりやすく言うなら瞬間移動だが、お前達のようなチンケな能力と一緒にするな!」

 

異形者は再び響転を使って薫の前に移動し瓦礫から引きずり出すと地面にへと叩きつけると足で頭を踏みつける。薫の苦痛の叫びが建物全体に響き渡る。

 

「アァァァー!!」

 

「薫ゥ!」

 

皆本は薫を助けようと銃を構える。しかし何処からともなく現れた人物、いやオレンジのと黒の身体に顔にはサボテンのように複数の棘、両手に花鋭い爪を生やした人ならざる者に溝ウチを殴られその場で伏せると手を後ろに回せられ顔を地面にへと抑えつけられる。

異形者はそれを見届けると踏み付けている足に更に力を込める。

 

「ケッ!レベル7と言えどやっぱ餓鬼か。所詮この程度、期待外れだぜ!」

 

思っていたより手応えがなく期待外れでイラついていたのか足を振り上げると思いっきり蹴り飛ばした。

 

「さて、先ずはお前から乾電池にしてやる」

 

異形者は薫に突起物を前に出し狙いを定める。

エスパーが乾電池にされるーーその瞬間を目撃していたナオミは後輩のピンチに身体を起こして近寄ろうとするが皆本を襲った奴と同じ姿をした奴が現れ行く手を阻まれてしまう。

異形者は「よく見ていろ」と言わんばかりに一瞬ナオミに顔を向けたると再び薫の方に向き直る。

 

 

「消えろ」

 

 

突起物から稲妻が走る。もうダメだーーと思ったその時、突然壁が破壊されポニンテールの白髪の女性が現れた。

 

「助けに来たわよ!皆無事?」

 

「蕾管理官!」

 

「バァちゃん!」

 

皆本と薫はこの女性の登場に歓喜の声を上げる。この人は蕾不二子。B.A.B.E.Lの管理官にして現B.A.B.E.Lはここまで発足させた張本人。男なら誰でも目移りしてしまう程のスタイルの持ち主だからその見た目とは裏腹に実年齢は80歳を超えている。

 

「何だ貴様?」

 

「答える必要はないわ。だって名乗るだけ時間の無駄だもの」

 

「フフフ、それもそうだな」

 

蕾管理官は完全に見下した態度を取るが異形者は軽く受け流す。今は彼にとって獲物(エスパー)が自分から来てくれた事に喜んでいたからそんな事どうでもいい事であり、時間の無駄だと言う意見には同感だと思っていたからだ。

 

「じゃあとっとと消えろよ!」

 

異形者は早々に両腕の突起物から電撃を発する。蕾管理官は高く飛び上がって回避し蹴りを入れようとする。異形者は腕でその蹴りを受け止め払い除ける。優雅に着地した蕾管理官は右腕を前へ突き出しサイコキネシスで異形者を押さえつける。

 

「へッ、こんなもの直ぐに振り払って……何ッ!?」

 

異形者は先程と同じように無理矢理振り払うとするも薫よりも強力なサイコキネシスな故振り払う事が出来なかった。

 

「どう?動けるかしら?確かにアンタは強いのは認めるわ。でもねアタシ達エスパーをあまり嘗めないでよ」

 

「くっ…フン。確かにお前はそこの餓鬼共ともは違うみたいだな。だがなァ、嘗めてるのはそっちだ!」

 

少し雰囲気が変わると異形者は更に力を込めサイコキネシスを振り払った。その光景にB.A.B.E.Lの面々は驚きを隠せなかった。

そして響転を使ってその場から消えると蕾管理官の後ろへ現れ突起物を振り上げて斬りつけようとする。蕾管理官はサイコキネシスを使っての盾で防ぐが、相手の力押しに次第に後退していき思いっきり振り払われ吹き飛ばされ地面に激突する。

 

顔を上げると再びサイコキネシスで動きを封じようと掌を異形者へと向けるがそれより早く響転で姿を消すと目の前に現れゼロ距離で電撃を浴びせる。蕾管理官の悲鳴が建物内に響き渡る。攻撃をやめると電撃から解放された蕾管理官はその場に崩れ落ちた。

 

「管理官!」

 

「婆ちゃん大丈夫か!?」

 

「ハァ…ハァ…エェ…何とか…ね…」

 

大丈夫と言うがその言葉とは裏腹にかなりの重傷を負ってしまったようだ。

 

「ケッ!ちょっと本気を出しただけでこの様とはな。やっぱ能力とは言え所詮は人間か。…もういい、お前ら全員乾電池にしてやるぜ」

 

異形者はもうこれ以上戦っても何もないと悟りトドメを刺すことにした。

 

蕾管理官に突起物を向けるとその先端に電撃のエネルギーを貯める。

 

「じゃあな…」

 

電撃が放たれるその瞬間後ろから強い衝撃波が放たれる。咄嗟の事で対処出来ず異形者は吹き飛ばされ瓦礫にへ埋もれた。

 

衝撃波が飛んできた方へ振り向くと黒い学生服を着た白髪の青年が浮いていた。

 

「…おやおや不二子さん。そんな奴にやられるなんて腕が落ちたんじゃないかな?」

 

「兵部京介!?」

 

「兵部さん!?」

 

『俺も居るぜ!」

 

「モモタロウも!?」

 

「…兵部…一体何しに来た…」

 

「おいおい、折角助けてあげたのにその言い草はないだろ?僕はただクイーンを助けに来たんだよ。あんな奴にクイーンを殺される訳にいかないんでね。それに不二子さん、僕が今助けなかったら貴方はアイツに殺られていたよ。お礼は言われても文句を言われる筋合いはないと思うけど」

 

正論とは言われ蕾管理官は青年を睨みつける。そんな話の最中に「ガラガラ」と物音が響くと瓦礫の中から異形者が起き上がってきた。

 

「たく、次から次へと…何だテメェは?」

 

「僕かい?僕は兵部京介だよ」

 

兵部京介ーー彼はB.A.B.E.Lと相対する組織「P.A.N.D.R.A(パンドラ)」とエスパー犯罪組織のリーダーである。見た目は高校くらいに見えるが実年齢は80歳のお爺さんである。

 

「兵部京介?…あぁ確かP.A.N.D.R.Aとか言う犯罪組織のボスだって聞いたな。だがそれなら何故犯罪組織のボスであるお前が敵である筈のコイツ等を助けるんだ?」

 

兵部京介が収めるP.A.N.D.R.Aは犯罪組織、片やチルドレンが所属する

B.A.B.E.Lは特務機関、謂わば警察と犯人グループで敵対している。

それなのにそのボスが助けに入った。何かしらのメリットがある訳でもないのに何故助けのか疑問に思ったが、しかし彼にとってそんな事はどうでも良かった。折角もう少しでトドメをさせそうだったのにこれで2回も邪魔された事にイラついていたからだ。

 

「別に助けた訳じゃない。僕はただクイーン(明石薫)を守っただけさ」

 

「…そうかよ」

 

「そういう君は何者だい?」

 

「ん?あぁ、そう言えばコイツ等にもまだ名乗ってなかったなァ。いいだろう、教えといてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はテリーX、ダイナモ星人【テリーX】だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異形者の名が遂に明らかとなった。B.A B.E.Lのメンバーは「星人」と名乗った時に宇宙人だった事に驚いていた。

 

「じゃあ自己紹介も終わったからよ……とっとと消えろ!」

 

異形者改めテリーXは蕾管理官の時と同じように雷を放ち攻撃する。だが兵部はテレポートで回避し後ろへ回り込むと掌を背中に当てサイコキネシスで吹き飛ばす。

吹き飛ばされたテリーXは地面を数回転び起き上がると兵介に向かって突起物を振り回し攻撃する。だが蕾管理官は余裕で回避しもう一度サイコキネシスを使ってテリーXを吹き飛ばし壁にへと激突させた。

 

「イテテテ…少しはやるようだな」

 

テリーXは起き上がるとすぐ様響転を使って兵部の後ろに回り込むとさっきのお返しとばかりに突起物で切りつけようとする。だが兵部はそれより早くテレーポートを使って回避。そして別方向こら力を加えようとするがテリーXは響転使って回避。

 

その後片や攻撃を繰り出し片や回避すると言う状態が繰り返された。

 

 

 

その光景にB.A.B.E.Lの面々特に兵部の強さを知っている蕾不二子と何度も直に能力に掛かった事がある皆本光一は互角に渡り合っているテリーXの強さに驚愕していた。

 

「嘘だろ…兵部相手にあそこまでやるなんて」

 

『当然だ。テリーXは死刃のお一人なのだからな』

 

驚きの声を上げると自分を抑えつけている奴から気になる言葉が発せられた。

 

「死刃?なんだそれは?」

 

『フン、お前達に教えてやるとでも「別に構わん」ッ!?テリーX様!?しかし…』

 

「それを教えたところでコイツらにはどする事も出来ん。それか何か?教えたからってコイツらに俺がやられるとでも思っているのか?」

 

『め、滅相もございません!』

 

「だったら教えてやれ」

 

『ハッ!テリーX様のお許しが出たから教えてやる。死刃と言うのは我が軍の幹部達の中から選ばれし10以下の数字を与えられた最強の存在』

 

「最強…じゃあアイツもその中の一人と言うわけか…」

 

『その通りだ』

 

自身を抑えつけいるのとは別のイーガロイドーーーナオミの相手をしていたイーガロイドが口走った。皆本は目をそっちに向けるとイーガロイドがナオミの首を締め、持ち上げている光景が入って来た。

 

「ナオミちゃん!」

 

「わ…私は…大丈夫…です」

 

『フン、その威勢がどこまで続くか見ものだな』

 

「アンタ達こそ私達の相手をしていていいの?アンタ達の大事な主人が兵部に倒されるかもしれないのよ」

 

蕾管理官は挑発して少しでもイーガロイド達を動揺させようとした。だがーーー

 

 

 

 

 

 

『『フハハハハハハ!』』

 

 

 

 

 

 

 

ーー帰ってきたのは笑い声だった。

 

「何がおかしいのよ」

 

『俺達の主人がテリーX様が負けるだと?だったらアレを見ても言えるのか?』

 

イーガロイドが向けた視線の先には、何と全身至る所から出血し全身血だらけになり頭を掴まれている兵部の姿だった。

 

「クハァッ」

 

「確かにお前は強いぜ。闘いのセンスも悪くねェ。だが俺はエスパーを狩る存在。獲物(エスパー)ハンター()に勝てるわけねェんだよ!」

 

テリーXは手を離し土手っ腹に蹴りをお見舞いさせ吹き飛ばす。兵部はそのまま壁に激突し小さなクレーターが出来上がる。そして重力によって床に転がり落ちる。

 

「兵部さん!テメェェ!!【サイキック・ドロップキィィック】!」

 

薫は兵部を助けようとサイコキネシスの力を加えたキックを放つ。だがテリーXはそれを片手で受け止めた。

 

「無駄だと……言っているだろ!」

 

テリーXは薫の足を持ったまま何度も何度も地面にへと叩きつける。

 

『薫を離せェ!!』

 

そんな時戦闘から離れていた桃太郎が薫を助けるために飛び出し身体を広げ両脇から光線を発射する。

 

「…煩せェ下等種が」

 

テリーXはもう片方の掌を向けると今までの電撃とは違い黄色いエネルギーが丸く凝縮されていく。

 

「虚閃」

 

その言葉とともに勢いよく発射されら桃太郎が放った光線は一瞬にして飲み込れ桃太郎本人も声を上げる暇もなくその閃光に飲み込まれ消滅した。

 

「桃太郎!!」

 

「煩セェぞ!」

 

テリーXは最後に思いっきり叩きつけると勢いよく蹴り飛ばす。

 

「それじゃあそろそろ仕上げといくか…」

 

両腕の突起物を向け「へへへ」と不気味に笑い上げ最後にーーーー

 

「消えろ」

 

ーーーーと言うと電撃が放つ。もうダメだと思い薫は目を瞑る。だがいつまで待っても攻撃が来ないので目を開けると、なんと兵部京介が自身の身体を盾にして守っていた。

 

「兵部さん…なんで…」

 

「僕は…クイーン…何があっても君を守る…そう決めたからね」

 

薫を庇い電撃を食らった兵部は身体が次第に消滅していき吸収される。その直後テリーXの胸のケースに入っている乾電池が神々しく輝いていた。

 

「兵部さん!」

 

「まさかアイツが…」

 

チルドレンに匹敵する実力を持ち自分達を何度も追い詰めた兵部京介が倒された事に驚愕した。特に薫は悲しんだ。敵対していたとは言え自分達に優しくしてくれアドバイスも与えてくれた彼が、自分の目の前で消されたのだから。

 

犯罪組織ーーP.A.N.D.O.R.Aのボス兵部京介は今この場所で絶命した。

 

「悲しむ言葉ねェぞ。お前達もアイツと同じようになるんだだからなァ」

 

テリーXは皆が驚愕している中一人ニヤニヤと笑いながら言い放つ。

 

「…巫山戯るなよこの野郎。皆本に葵や紫穂、ナオミちゃんやバァちゃん達皆んなを傷付けただけじゃなく兵部さんまで…アタシはアンタを…絶対許さない!【サイキック・鎌鼬】!!」

 

無数の風の釜が放たれたテリーXは身体を切り刻まれる。血は流れていないものの複数の切り傷が出来ていた。

テリーXはまだこんな力を持っていた事に驚きと自分の身体に傷を付けた事に対しての怒りが込み上げてくる。

 

「…小娘…お前まだこんな力を隠し持っていたのか。だがなよくも俺の身体に傷を付けたな…その代償は払ってもらうぜ…覚悟しろよ」

 

テリーXは右腕を前に出し拳を作るとその拳に赤いエネルギーが収縮されていき、次の瞬間そのエネルギーが発射され高速で薫にへと迫る。咄嗟の反応で薫はバリアで防ぐ。

 

「ほう、俺の【虚弾】を防ぐとはやるな。だが今まで持つかな?」

 

テリーXは尚も連続で虚弾を数弾放つ。あまりの数な上に体力も消耗していた事もあり、バリアに罅が入り始めそしてーー

 

 

バリン

 

 

 

ーーバリアが砕け散り無数の虚弾の嵐が薫を襲う。

 

「アァァーーー!!」

 

「薫ゥ!!」

 

『薫(ちゃん)!!』

 

B.A.B.E.Lの面々の叫びが建物全体に響き渡る。無数の虚弾を食らった薫は力なくそのまま地面にへと落ちる。

 

「へッ、もういい加減ウザくなってきたし、そろそろ終わりにするとするか」

 

テリーXは薫に突起の先端を向けると電撃を溜め始める。薫は起き上がろうとするが身体が言うことを聞かず動けないでいた。

そんな時蕾管理官が何とか身体を起こしサイコキネシスで動きを止めようとテレポートで後ろに回り込んだ瞬間、テリーXが振り返り電撃を蕾管理官に浴びせる。

 

「アアァァーー!!」

 

彼女の絶叫が響き渡りそして兵部京介と同じように吸収されプラズマXにへとされてしまった。

 

「バアちゃァーん!!」

 

「そんな…管理官まで…」

 

「よし、今度こそ邪魔な奴らは消えた。それじゃあそろそろ終わりにするか。そうだ折角だ、俺の階級を教えてやる」

 

テリーXは左手を左頬に近づけるとそこから数字が浮かび上がってきた。そして書かれていた数字は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて自己紹介してやる。俺は第【7】の数字を与えられた死刃───《第7死刃(セプティマ・エスパーダ)》、【テリーX】!そして…さよならだ」

 

 

 

 

 

 

その後稲光と共に複数の女性の悲鳴が響き渡った後建物は大爆発を起こした。

 

 

─────────────────────────────

 

 

「いやァ素晴らしい。あのザ・チルドレンだけでなくP.A.N.D.O.R.Aのリーダーである兵部京介まで倒してしまうなんて思わなかったよ」

 

普通の人々は テリーXからの報告に歓喜していた。今回の対象だけでなくB.A.B.E.Lの最強チーム「ザ・チルドレン」に管理官である蕾不二子、そしてP.A.N.D.O.R.Aのリーダーである兵部京介まで倒した。これによりエスパーを排除するという自分達の目的に近づいたのだから。

 

「これで我々の目的に一歩近づいたと言う訳だ」

 

「だがここからが本番だ。世界中にはまだまだ多くのエスパーがいる。この勢いで日本以外のエスパー達も消し去る。我々の悲願に向けていくぞ!」

 

『オォォ!!』

 

「それには君にも協力してもらう。もし厳しいと言うのなら勿論我々も全力でサポートしよう」

 

「…あぁその事で一つあるんだがよぉ、いいか」

 

「あぁ何でも言ってくれ。君には大変よく働いしてもらったからな。我々に出来る事なら何でもしよう」

 

「そうか。だったら…」

 

テリーXは右腕を上げるとその突起から電撃を放ち近くにいた普通の人を絶命させた。

 

「な、何をする!?」

 

「何をするだと?決まっているだろ。お前達はもう用済みになったから消えてもらうんだよ」

 

「な、何んだと!?話が違うぞ!君に協力すれば我々には危害を加えないんじゃなかったのか!?約束を破るのか!?」

 

「ハァ?何言ってやがる?俺は『エスパーを排除する事に協力してやる』と言ったが『お前達の味方になる』とは一言も言ってねェぞ」

 

その言葉にあの時の会話が横切る。確かにあの時「協力する」と言ったが「味方になる」とは言っていなかった。つまりこれは裏切り行為にはならない。

 

この時彼は悟った。ーーーーーーーこの男(テリーX)を自分達の目的の達成の為に利用していたと思っていた。しかし実際は逆…利用されていたのは自分達だった事にーーーーー

 

周りにいた同士達は彼の従属官であるイーガロイド達に次々に絶命されていきその場に残ったのは自分しかいなかった。

 

「あぁ……頼む…助けて…くれ…」

 

「ハッ、俺を利用とした奴が何ほざいてやがる。まぁ【プラズマX】は大量に作れたからな、苦しまずに殺してやるぜ」

 

掌を彼の目のまで開きエネルギーを凝縮されていき放たれるは黄色い閃光ーー

 

 

「虚閃」

 

 

ーーーーこの閃光に男は飲み込まれ同時に普通の人々の隠れ家は大爆発を起こし炎にへ包まれた。

 

 

 

普通の人々の隠れ家を破壊し尽くした後、テリーXはB.A.B.E.Lの本部を襲撃しエスパーは乾電池にそれ以外の人間は自身と従属官達の手によって始末された。他の街にや県にいるエスパーは従属官達にその場所へ向かわせ自分の元へ連れて来させる。こうしてB.A.B.E.Lを始め日本にいるエスパーは次から次へと乾電池にされていった。

 

 

因みにエスパーでない普通の人間(ノーマル)達は、自分達に抵抗しない者のみ生かす事にした。しかしそれは優しさではなく自分の()()()を減らさない為であった。

 

【ザ・チルドレン】の明石薫や野上葵、三宮紫穂の3人は全員両親が普通の人間(ノーマル)だったにも関わらず最高レベルの「7」の力を持って生まれた。両親にエスパーの遺伝子がなくてもその子供が突然変異でエスパーになる事は珍しくない事をテリーXは普通の人々の隠れ家にあった資料から知った。

 

ハンターとして獲物がいなくなるのは狩りの楽しみがなくなるという事。

 

つまり生かされた普通の人間(ノーマル)達は自分の獲物であるエスパー達を生ます為の家畜にしたと言うわけである。

 

 

軈て日本にいたエスパーを全て狩り尽くすと自身の従属官と共に海外へと進出し、その国のエスパー達も次々に乾電池にしていき自分に刃向かう者達は始末し、それ以外の人間はエスパーを生ます為に生かした。

 

 

こうしてこの世界は死刃の一人────テリーXが支配する狩場の世界となった。

 

 

 




チルドレンが決めポーズをする所に邪魔を入れてみました。
よくよく思うのですがヒーローやヒロインが決め台詞を言ってからのポーズを取るまでの間に攻撃すればいいのにどうして待っているのでしょうかねェ〜。やっぱりそれがお約束なのでしょうか。

と言うわけでこれでテリーXの出番は一旦終了です。階級のある従属官達はなるべく全員出したいので一つの話で区切るつもりです。

次回は誰が出てどの世界に行くのか楽しみにしていてください。

あと悩んでいる事が一つあります。皆様のご協力お願い出来ますか?内容は活動報告をご覧ください。

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3話 最強の魔王 降臨 前編

お待たせしました。
今回2人目の死刃による侵略です。

タイトルから誰が出るかは想像がつくと思いますが、どの世界を侵略すると思うか分かりますか?
その答えはすぐに明らかになる。

ヒントは丁度一年前くらいになるアニメ作品です。

それではどうぞ。



何の変哲もなかった引きこもりのゲーマーがひょんな事からエフル族の【シェラ・L・グリーンウッド】とヒョウ族の【レム・ガレウ】に異世界に召喚されてしまう。しかもその姿は自身が愛用していたキャラクター【魔王ディアヴロ】の姿だった。

 

自身に付くはずだった首輪がシェラとレムに付いてしまいそれを解除する方法を探し出すと約束する。

 

しかしこの世界に来てから教会の信者の一人に襲われたので力の差を見せつけたり、シェラを連れ戻しに来たエルフの軍勢を追い返したり、魔王軍の幹部と戦ったりと色々あった。

 

そんな最中、レムの身体の中にいた魔王【クレブスクルム】は復活してしまう。しかし長い間眠りについていた為その姿は人間の少女であった上に記憶を失っており魔王としての面影はなかった。魔王である事を隠す為に【クレム】と言う偽名を使うことした。

 

ところが魔王崇拝者であった女騎士【アリシア・クリステラ】の策略によってクレムは暴走し街を破壊しようとした。しかしシェラとクレムの呼びかけによって暴走は収まり事態は終結した。

 

その後ディアヴロはアリシアの頼みで魔王軍の幹部【エデルガルド】を治療し自らの死をもって此度の罪を償おうとするアリシアを説得して和解させる事に成功する。

 

その後フラついたディアブロを介抱しようと女性達がなんと裸で攻め寄って来た為ディアブロの断末魔のような叫びが夜の街に響いた。

 

 

 

しかしこれが自分達にとって最後の楽しい時間になろうとは思ってもいなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「己ェ…エデルガルドめェ…」

 

長い2つの鼻(?)を持つ魔族【オウロウ】がエデルガルドと言う魔族の失態及び逃亡に怒りを露わにしていた。

 

「二度も失敗した上にあのヒューマンの小娘を連れて逃げるとは…」

 

エデルガルドはある人間の女…アリシアと協力して魔王クレブスクルムを復活させる事に成功したかに思えたが、思わぬ事態により魔王の復活は失敗しオウロウか率いてきた魔族の大軍勢は無駄足に終わってしまった。その罪を償わせようとした際に一緒にいた人間の女と元に逃げたのだ。

 

「絶対に許さん!エデルガルド貴様には必ず制裁を加えてやる」

 

オウロウは拳を握りしめエデルガルドに裏切りの代償として制裁を与える事を誓った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならその制裁とやらは私がしてやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如上空から声が聞こえた。オウロウはその声が聞こえてきた方を向くと月の光に照らされる6つの人影があった。

その内の1人ーーー黒と白の服を着た金髪のが地表に降り立つと、後の5人もその者の後ろにへと降り立った。

 

「何だ貴様?」

 

「何、貴様が今言ったその制裁とやらを私達が代わりに引き受けて挙げようと言っているのだ」

 

「フン、貴様のようなヒューマンの助けなど必要ない。それにヒューマンの分際で我々魔族にそのような口を叩くとは身の程を思い知るがいい!」

 

オウロウが背後の魔族達に命令を下さそうした直後、男が右腕を振るうと物凄い衝撃波が彼の横を通り過ぎて行った。それと同時に複数の悲鳴が響き渡った。

後ろを振り返るとオウロウーー彼から見て左後方にいた魔族の軍勢が消し去られそこから数メートルは地面が抉れていた。

 

「なっ!?」

 

「…これでも私が人間だとでも思うか?因みに今のは私の力の半分も出していないぞ」

 

男は白と黒が混じったオーラを纏うように表面にへと出す。そのオーラにオウロウ含め残りの魔王軍は驚愕していた。

 

「なっ!?この感覚は魔王様と同じ!?貴様…一体何者だ!」

 

「私も魔王だ。と言ってもお前達のこの世界とは違う世界の魔王だがね」

 

その言葉にオウロウは驚愕した。何故なら以前【魔王クレブスクルム】が復活しお迎えに上がった時、その隣にいた男も魔王と名乗った。しかも【異世界の魔王】っと。そして今目の前にいる男もその魔王と同じ異世界の魔王と言っているのだから。

 

「だが私は慈悲深いからな。許してやってもいいぞ?」

 

「な、何だと!?貴様、我々魔族を馬鹿にしているのか!」

 

「そういう貴様こそ魔王である私を馬鹿にしているのか?何ならここで私と戦ってもいいのだぞ?そうなった場合お前達がどうなる分からない訳ではないだろう?」

 

その質問にオウロウは言葉を飲む。半数の魔王軍の兵士達を消したあの力が半分以下ーーつまり全力を出された場合間違いなくここにいる魔族達は自身も含めて消滅させられる。終いにはこの世界にいる全ての魔族が壊滅させられるだろう。

 

「そう身構えるな。先程も言ったが私は慈悲深い。今の発言も許してやってもいい」

 

「ほ、本当か?」

 

「勿論だ。だが()()許してやるとは言っていない。その分の代償としてこちらの条件を呑んでもらおうじゃないか」

 

「…何が望みだ」

 

「何簡単な事だ。それはーーー」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

夜が明け朝日が昇った次の日ーーーーアリシアは新たな人生の目標を見つける為旅立つ事にした。そして今目の前にいるデュアブロ達に別れを言うところであった。

 

「それでは…アリシア・クリステラ…行って参ります」

 

「お元気で」

 

その言葉の後にレムが手を前に差し出す。その行動にアリシアは驚きつつも自分も彼等の仲間である事を理解し笑顔を浮かべる。手を差し出そうとした瞬間…

 

 

 

 

 

 

バリィィン

 

 

 

 

 

 

 

…街中に何かが割れるような音が響き渡った。

 

「何だ?」

 

「何が起こったの?」

 

「皆さん大変です!」

 

ディアブロ達が困惑していると慌てて走ってくる一人の女性ーーー魔術師協会の長である女性【セレスティーヌ・ポードレール】が2人と護衛と一緒に近づいて来た。

 

「どうしたんですか、セレスティーヌさん」

 

「街を守っていた魔族除けの結界が何者かに破壊されてしまいました!」

 

その言葉に皆驚愕した。

 

この街には魔族除けの結界が張られていたから魔族に襲われる事はなかった(物に擬態しての侵入は防げなかったが)。その結界破壊されたと言う事はつまり…

 

 

 

「セレスティーヌ様大変です!大量の魔族が街に攻め込んで来ました!」

 

 

 

…案の定大量の魔族が襲撃して来た。

 

大量の魔族の軍勢は街の建物を至れり尽くせり破壊し始め、人々は恐怖し悲鳴を上げながら逃げ惑う。

ディアブロは異世界の住人とは言え元は人間。こんな悲惨な光景を黙ってみているわけがない。

 

「我は侵入してきた魔族共を片付ける。シェラとネムは街の者達を安全な場所にへと誘導しろ!」

 

「うん」

 

「分かりました」

 

「ディアブロ様、私もお手伝いさせてください!」

 

「分かった。アリシアは我と一緒に魔族の撃退を頼む」

 

「はい!」

 

「私は結界の修復を急ぎます!」

 

「頼むぞ。ではアリシア行くぞ!」

 

ディアブロとアリシアは暴れ回る魔族の軍勢の中にへと飛び込んだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

結界が破壊される少し前ーー

 

昨晩オウロウと接触した金髪の男ーー〇〇はディアブロ達がいる街【ファルトラ】の入り口にへと着地し羽根を収納する。

 

「この街にお前の言っていた魔王と裏切り者がいるのか?」

 

「はい。しかしこの街には我々魔族除けの結界が張られておりまして入るには少々困難かと…」

 

この街に張られている魔族除けの結界は強力な為オウロウのような上位魔族でも破る事は困難(透明なのでその事を教えている)。

昨晩クレブスクルムが街中で暴れ結界が少し弱まっているかもしれないがそれでも簡単に破ることは出来ないだろう。

 

 

 

ーー普通の魔族ならーー

 

 

 

「…結界?」

 

〇〇は街の入り口に目を向けると透明な結界が見えているかのように睨みつける。暫くそのまま睨みつけていると「フン」と鼻で笑い左手を前に出し結界に触れる。

 

すると掌から黒い霧のようなものを流し込み結界を侵食していく。軈てその触れていた部分から皹が入り始め、その皹はたちどころに広がっていき鏡が割れるような音を立て砕け散った。

その光景にオウロウ含める魔族の軍勢は驚きを隠せなかった。

 

「まさか魔族除けの結界を意図も簡単に破壊するとは…」

 

「当たり前だ、あのようなもモノ〇〇様の手にかかれば赤子の手を捻るようなものだ」

 

オウロウの驚きに〇〇本人ではなくその後ろに控えている背の小さい小柄な男が自信満々に答える。

 

「さて、では始めるとするか。お前達5人は魔族共を連れそれぞれ散り散りになり、この街の至る所を破壊するのだ」

 

『畏まりました〇〇様!』

 

「オウロウ、お前は私と来い。お前が対峙したその魔王と会いたい。この中でその姿を知っているのはお前だけだから」

 

「はい」

 

「よし…では行け!」

 

『ハッ!!』

 

〇〇の命令を受け〇〇と一緒に現れた5人はその場にいたオウロウを除く魔族達を連れそれぞれ散会しオウロウと〇〇はゆっくりと街に足を踏み入れ中に入って行った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「【エクスプロージョン】!」

 

『ギャアァー!』

 

「ハッ!」

 

「ウワァー!」

 

侵入してきた魔族の軍勢を迎え撃つ為ディアブロは魔術でアリシアは剣術で魔族を次々と倒し街の人々を助けていた。

 

「ふん。口程にもない連中だな。アリシア貴様の方はどうだ?」

 

「ディアブロ様、私の方も問題ありません」

 

「そうか。…此処らの魔族共は粗方片付いたな。シェラ達と合流するとするか」

 

「はい」

 

周りの魔族をある程度倒したので程度ディアブロ達はレム達と合流しようと移動しようとした時…

 

 

 

「見つけたぞ!異世界の魔王よ!」

 

 

 

…彼等の前にオウロウが現れる。

 

「オウロウ様!?どうしてこちらに!?」

 

「ん?エデルガルドと共にいたヒューマンの小娘か。本来なら裏切り者のエデルガルドと共に始末したいところだが、今は貴様と構っている暇はない。用があるのは……お前だ異世界の魔王!」

 

「…我にだと?一体なの用だ?まさか我を倒しに来たとでも言うのか?」

 

「本当ならそうしたい所だが、貴様に会いたいと言う方が来ているのでな」

 

「我に会いたいだと?フン、どこぞの馬の骨かも知らない奴と会っているほど我は暇でないのだ!」

 

 

 

「なら、その相手が貴様と同じ魔王ならどうだ?」

 

 

 

オウロウの後ろから2人の会話に入り込み、ゆっくりと足を進ませる第三者。オウロウはその者に向き直りまるで敬うかのように跪く。

 

「あいつがお前の言って魔王か?」

 

「ハイ、その通りでございます」

 

オウロウの答えに〇〇はディアブロに視線を向けると奇妙な薄ら笑いを浮かべる。それはまるでーー実に楽しめそうなオモチャだーーと言いたげに。

 

「さて、先ずは自己紹介からいこうか」

 

 

 

「我が名は【ルーチェモン】!傲慢の魔王にして世界最強の魔王【ルーチェモン】様だ!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ディアブロは今目の前にいる人物に困惑していた。

 

「(なんだコイツ。コイツから発せられるオーラは!?クレブと同等、いやそれ以上だ。今まで色んな奴を見てきたけど、ここまで化け物じみた奴は見たことがないぞ)ルーチェモン?【傲慢の魔王】と言うことは貴様も魔王なのか?」

 

「あぁ、そうだ。だが只の魔王じゃない。全世界に於いて最強の魔王だ!」

 

「フン、驚いた。まさか貴様も我と同じ魔王とはな。しかし世界最強とは大きくでたな。世界最強の魔王はこのディアブロなのだ!貴様のようなキザっているだけの奴が最強の魔王とはーー片腹痛いわ!」

 

ディアブロは内心戸惑いがあるが何時もの魔王モードで強気の言葉を発する。

 

「貴様!ルーチェモン様に向かってなんと言う事を!」

 

オウロウはディアブロのルーチェモンに対する無礼な発言に怒りの発言をする。しかしディアブロは今のオウロウの台詞の中に気になる部分をみつけた。

 

「待て、貴様今奴のことを【様】付けしたな?まさかそいつの部下になったとでも言うのか?」

 

「その通りだ。我々は昨晩ルーチェモン様と出会いその絶対的な力を目視した。我々は命を失いかけたがある事を条件に許しを得た。それはーー」

 

 

 

 

ーーーーお前達が私の従属官、謂わゆる部下になると言うのなら許してやるぞーーーーー

 

 

 

「最初は勿論悩んだ。しかし傘下に降った暁には、この世界を我々魔族のものにする事を約束してくださったのだ。だから我々は傘下に入ったのだ!」

 

内容を聞くと半強引的な気もするが、実はあの時ルーチェモンによって消し飛ばされた魔族はそのルーチェモンの力によって蘇り、その感謝の意も込めて従属官になったのだ。

 

「オウロウ様!それではクレブスクルム様を見限るのですか!?」

 

「フン、あんな不完全な魔王様などエデルガルドの奴が復活に失敗した時から見限るっとる。それにワシはこの方に仕えると決めたからのォ」

 

オウロウのその言葉にはなんの迷いもなかった。完全にクレブスクムを見限りルーチェモンに着いて行くと言う。

 

「話は終わったか?そろそろ私はこの魔王と証明したいのだよーーーーーどちらが真の最強の魔王かをね」

 

「それは我も同意見だ。まぁ、貴様のような後からノコノコと現れた()()の魔王など我の敵ではないがな」

 

ディアブロは何時もの魔王スタイルでルーチェモンを愚弄し余裕の態度を見せる。オウロウは「偽りの魔王」と言われた瞬間、今にでも「その身体を引き裂いてやる」と言わんばかりに殺気を放ち前に出ようとするがそれをルーチェモンが手を上に上げ静止させる。

 

「お喋りはここまでにするとしよう。私は忙しいからな。これ以上貴様と呑気に話をしている暇はないのだよ」

 

「なら一瞬してにカタをつけてやろうーー貴様の敗北でな!」

 

互いに睨み合い静寂が訪れる。その場にいた者は魔王2人を除いて何時間にも感じられた。

 

「【ダーク・バレッド】!」

 

最初に動いたのはディアブロだった。杖の先端から無数の黒い塊が高速で放たれる。

 

そのままルーチェモンに直撃すると思われたが、何と当たる寸前に黒い塊はまるで煙のように消えてしまった。ダメージどころか無傷である。幾ら魔王とは言えど擦り傷ぐらいは負わせると思っていた為驚愕した。

 

「驚く事はないだろう?それともこの程度の攻撃が私に効くとでも思っていたのか?」

 

「…フン、そんな事は分かっている。ただ貴様の実力を確かめただけだ。【ライトニング・バレット】!」

 

再び杖の先端に魔法陣が展開され紫色の雷がルーチェモンに直撃し煙が舞い上がる。しかし煙が晴れると涼しい顔をした無傷のルーチェモンが立っていた。オウロウでさえダメージを与えた技だが一切ダメージを受けていない。

 

「どうした?これで終わりか?」

 

「まだだ【フリーズゾーン】!」

 

杖の先から魔法陣が出現し青い球体と二つの円陣がルーチェモンを包み込み一瞬にして氷に閉じ込めた。

 

「ルーチェモン様!」

 

氷に閉じ込められたルーチェモンの姿にオウロウは声を荒げる。だがその心配も束の間。氷がギシギシと音を立て始めると一瞬にして砕け散りルーチェモンが涼しい表情で出てくる。

 

「フン、この程度の氷で私を凍りつかせると思っているのか?だとしたら心外にも程がある」

 

ルーチェモンは右手に見えない何かを握るとお返しと言わんばかりにそれを投げ飛ばす。ディアブロは見えない何かによって吹き飛ばされ後退する。

 

「お前がさっき言った言葉をそのまま返してやろう。この程度で魔王を名乗るなどーーー片腹痛いな!」

 

「クッ、ならこれならどうだ!【フレア・バースト】!」

 

ルーチェモンの周りに3つの光る球体が囲うように現れそれぞれが結びつくようにエネルギーを発生させると1つずつ順番に爆発を起こす。

 

爆炎が上がる中ディアブロはこれで少しはダメージを負った筈っと思っている。そうであってほしいと願っている。

しかし願いは直ぐに砕け散る。突然炎の中心から物凄い風圧が発し炎を吹き飛ばすと白いオーラを纏ったルーチェモンが姿を現わす。

 

「ふ〜ん、今の攻撃は先程のに比べれば良かったぞ。」

 

「ッ!?(そんな!これだけの攻撃を受けて殆どダメージを受けていないだと!?マジでバケモンかよコイツ!?)」

 

「終わりのようなら、今度は私の攻撃に移らせてもらうとしよう。食らうがいいーー【パラダイス・ロスト】!!」

 

ディアブロの前まで高速で移動すると超高速の拳を連打で打ち込む。

 

「ウワァァーーーー!!」

 

今まで発した事のない苦痛の痛みの悲鳴をあげる。

 

暫くして攻撃が止み怯むディアブロ。しかしそれで終わる筈もない。ルーチェモンはその隙に片足でディアブロの身体を蹴り上げる。

その後収納していた羽根を出し羽ばたかせ上空を舞うディアブロと同じ高さまで上昇する。そして身体を逆さまにし、両足でディアブロの両脇を左手で両脚を固定。最後に前髪を書き上げるポーズをして重力沿って急降下を開始。これがルーチェモンの必殺技の一つーーーー【パラダイス・ロスト】。

 

身動きが取れないディアブロはそのまま真っ逆さまに落下していき地面に大きく打ち付けられた。地面は大きな地響きを立て大地が揺れ地割れが起きる。その中心に逆さまになったままのディアブロの足を抱えるルーチェモンの姿があった。

 

「ディアブロ様!」

 

アリシアはディアブロに近づこうとしたが、一瞬にしてルーチェモンが目の前に現れディアブロにした事と同じように高速の拳を連打で何発も打ち込まれる。

 

「ーーーーーーーー!!」

 

言葉にならない悲鳴を発しその隙に上空にへと蹴り上げられ同じ高さまで上昇し逆さまにされ、両脇、両脚を固定され落下し地面に叩きつけられ、同じように地面が揺れ大きく揺れた。アリシアを離すと倒れているディアブロに目を向ける。

 

「やれやれ、この程度で伸びてしまうとは同じ魔王として恥ずかしい。寧ろそれしかいいようがない」

 

地面に倒れるディアブロを冷めた目で完全に見下した口調で言う。

ディアブロは身体を起こし立ち上がる。そして傷口から発せられる緑色の光ーー己の魔力で身体の傷が癒す。

 

「ほぉ、これは驚いた。魔力で傷を癒す事が出来るのか。しかしそれもいつまで持つかだな」

 

「クッ(確かに傷が治るとは言え、奴の言う通り魔力がいつまで持つか。一気に大技で決めるか?しかし、それもかなりの魔力ポイントを消費してしまう。どうすれば…)」

 

ここで大技を放ち一気に勝負を決める手もある。しかし大技はその分自身の魔力ポイントを大きく消費してしまう。かと言ってこのまま戦っても無駄にポイントを消費してしまう。何とかしてこの場の打開作を考えていると……

 

 

 

「ルーチェモン様只今戻りました」

 

 

 

…上空から声が聞こえると5つの人影がルーチェモンの後ろに降りる。その5人の内3人は何かを抱えていた。その抱えていたものを見てディアブロとアリシアは驚愕した。何故ならそれはーーー

 

 

 

 

 

「…シェラ……レム……」

 

 

「……エデルガルドさん…」

 

 

 

 

 

…避難活動をしている筈のシェラとレム、そして魔族であるが自分達と一緒に歩む事を決めたエデルガルドーー彼女達がボロボロにされた姿であったからだ。

 




この作品を見た時「絶対ルーチェモンと戦わせたい」と思いました。

だって「事実」最強の魔王に「ヘタレで偽りな」自称魔王を懲らしめてもらいたかったんですもの。
ディアブロファンの皆さんすみません。

次回はディアブロ達が戦闘している間にシェラやレム達に何が起こっていたのか、その話を投稿予定です。
ルーチェモンの従属官の正体もそこで判明します。
ヒントは2人は魔王つながり、残る3人は中の人つながりです(メタイよ!)

いつになるか分かりませんが、気長にお待ちいただけると幸いです。


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4話 最強の魔王 降臨 中編

どうもアニメ大好きです。
段々暑くなってきたと思ったら今週はずっと雨…洗濯物が溜まってしまうのが悩みです!

さて今回の話は前回最後に現れた5人がディアブロとルーチェモン達と会話していた時に何をなっていたのか話です。
今回の話で第2話は終わらせる予定でしたがそうなるとかなり長くなるので前中後編と3つに分ける事にしました。

注意ーーー今回原作キャラが退場します。
それでも大丈夫という方は見ていってください。
それではどうぞ。



魔王首謀者であったアリシアと和解したディアブロ達だったが、その翌日突然街を守る結界が破壊され魔族の軍勢が攻め込んで来た。

ルーチェモンと戦闘で負傷を負ってしまったディアブロ。その間に降り立つ5つの人影。そしてその手に抱えられていたのは、ボロボロにされ意識を失いかけているシェラ、レム、エデルガルドであった。

 

 

「ルーチェモン様、ご命令通りこの街の制圧の殆どが完了しました」

 

「よくやったぞ【サウザー】。流石我が従属官のリーダーの事はあるな」

 

「ルーチェモン様からそのようなお言葉を頂けるとは…このサウザー感動の極みです!」

 

サウザーと呼ばれた紫のタイツを着用し、青い顔をした背の低い小柄な体型の男はボスであるルーチェモンにお褒めの言葉を貰ったのがあまりにも嬉しかったのか、右腕を曲げ前屈みで敬意を払った。

 

「…ところで〇〇、〇〇、お前達が持っているそれは何だ?」

 

ルーチェモンはサウザーの後方にいる2人が抱えているボロボロのシェラ達に眼をやり質問する。

 

「ハッ!コイツらは我々の仕事を邪魔しようとしたので軽く()()()やりました」

 

 

 

それはルーチェモンがディアブロと会う少し前にまで遡る。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「みんな早くこっち!」

 

「急いで!魔族が来ます!」

 

レェラとレムはディアブロと別れた後街の人達を避難させるために安全な場所にへと誘導させていた。

その間に教会所属の魔術師達が魔族を足止めしてくれたお陰で避難は順調に進んでいた。

 

「ここら辺の人達の避難は終わりましたので次の場所へ行きましょう」

 

「うん!1人でも多く助けないとね」

 

「はい!」

 

『ウワァァーーー!!』

 

そんな2人の会話の最中、避難した市民の反対方向ーーー魔術師達が魔族を足止めしている方から爆発が起こり魔術師達は全員吹き飛ばされ壁や建物にぶつかる。

 

「フン、これがこの世界の魔法か。大したことないなぁ」

 

「あぁ」

 

爆発で舞い上がった煙の中に2つの影が現れる。足音を立てながらゆっくりと進んでくる2つの影。そして煙から出てその姿が露わとなる。

 

一人は全身紫色で口は鳥の嘴、腹部には上下に鋭い牙が生えた口があり、そして下半身が角の生えた赤目の双頭生物になっている者。

 

もう一人は最初の者とは違い全身をマントで覆い隠して人の形をしているが、頭と思われる部分がアルファベットの「M」の形をしている。

 

「何者ですか貴方達!?」

 

「俺は【アゼル】。そしてこっちは【ベリアル】。俺達はルーチェモン様の従属官よ」

 

腕組みをしている紫色の肌をした【アゼル】と言う者が自身と隣にいる【ベリアル】の紹介をする。

 

「その姿にこの魔力…この騒動は貴方達の仕業ですか!?」

 

「まぁ似たようなものだ」

 

「正確には俺達の主人がこの街を襲撃する命令を出したのだ」

 

「どうしてこんな酷い事するの!」

 

「それが我等が主人の命令だからだ」

 

「それともう一つーーーーーーーーーーエデルガルドと言う魔族の裏切り者の小娘を見つけ出し我等が主人の前に連れてくる事だ」

 

最後のアゼルの説明に2人は目を見開いた。何故なら彼等の目的が自分達の友人となった【エデルガルド】を連れて行く事だからだ。

 

「ん?その反応…お前達その小娘の事を知っているな?何処にいる?」

 

「…それを私達が素直に聞くと思いますか?」

 

「そうだよ。例え知っていたとしても貴方達なんかに絶対に教えないよ!」

 

「そうか。だったら力付くで吐かせるまでだ」

 

アゼルは両手を前に出し2人にへと向ける。

 

「【マハジオ】!!」

 

そして両手から電撃をシェラとレムに放ったーーーーーしかし攻撃は2人を通り過ぎてしまう。唖然としている2人だが…

 

 

 

 

 

 

ドカーーーン

 

 

 

 

 

 

…突如後方から爆発音が聞こえ振り向くと、辺り一面炎に包まれ避難移動させた人達の多くが倒れていた。その光景にシェラは口を抑え、レムはあまりの事に目が離せないでいた。

 

「そんな…」

 

「酷い…酷過ぎるよ」

 

「フフフ、どうだ?お前達も奴らのようになりたくなければ素直に魔族の小娘(エデルガルド)の事を教えた方が身の為だぞ」

 

「…さっきも言った筈です。素直に教える気はないと。それにこんな酷い事が出来る貴方達には絶対に!!」

 

「そうだよ!例え自分が殺されるかもしれないけど、貴方達みたいな人の言う事なんか絶対に聞かない!!」

 

「フン、素直に言っていれば痛い目に合わずに済んだのにな。構わねェ、ベリアル殺っちまえ」

 

アゼルの言葉にベリアルは素早く2人の前に移動し、マントの中から赤く豪腕な腕を振り上げレムに向かって振り下ろした。

反射的に目を瞑るレム。しかしいつまで経っても痛みが来ないので目を開けると、ベリアルと2人の間に背の低い少女が現れ拳で拳を受け止め、力を込めて払い除けた。

 

「なんだ小娘?邪魔をする気か?」

 

「この2人…を傷付ける…のは…許さない…」

 

『エデルガルドさん(ちゃん)!』

 

この少女こそ2人が探していた魔族ーーーーエデルガルドである。

 

「エデルガルド?成る程。貴様がオウロウの言っていた魔族の裏切り者か。態々自分から来るとはな。お陰で探す手間が省けたなぁ」

 

「2人…には…手出し…させない…」

 

エデルガルドは勢いよく駆け出すとベリアル目掛けて槍を振るう。ベリアルはマント越しに腕を使って片腕で槍を受け止める。

払いのけられると槍を振り回したり高速の突きを連続で繰り出す。魔族一の槍使いとも言われていただけの事あって物凄い槍さばきの応酬である。

 

しかし相手が悪かった。

 

相手の懐に突き刺そうと距離を詰めた時、マントの中から筋肉質の赤い腕が現れ槍の棍棒部分を掴んだ。

 

「な…!?」

 

「成る程…確かに普通の魔族に比べれば貴様は強い。だが…」

 

持っていた槍を引っ張られそれに釣られてエデルガルドも引っ張られる。そしてその土手っ腹にベリアルの重い拳が炸裂し吹き飛び宙を舞い身体が地面に叩きつけられる。

 

「…この俺が相手では貴様など雑魚同然だ!【マハラギ】!」

 

M字の顔の中心(口と思われる)部分から炎が放たれる。身体を起き上がらせ咄嗟に躱す。その後も連続で炎を放ち全て躱していく。

 

『エデルガルドさん(ちゃん)!』

 

2人は助けようと駆け寄ろうとするが…

 

「おっと、ベリアルの邪魔はさせねェ。退屈なら俺と遊んでもらうぞ」

 

…アゼルが前に立ち塞がる。

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

「どうした?もうこれで終わりか?」

 

エデルガルドはベリアルの猛攻を受け息が上がっていた。対してベリアルは済ました顔(?)をしていた。

 

「なら…これを…使う!」

 

槍を頭上に持ち上げると、その周りに紫色の粒子が集まり強大な魔力が槍に集中していく。

自身の体力を引き換えに相手にダメージを与える大技。

 

 

「【サクリファイス……チャージ】!」

 

 

力を集中させながら高く飛び上がると渾身の力を込め槍を振り下ろす。ベリアルの身体に当たると同時にそこを中心に衝撃波による風圧が発生し砂埃が舞い上がる。

体力を削る大技を使った事により先程より息が上がり額には汗が流れていた。しかしこれ技をモロに食らったのだから少しは答えたはず…そう思っていた。しかし…

 

 

「ーーーーーこの程度か?」

 

 

…現実はそう甘くはなかった。

 

風圧により舞い上がった砂埃が晴れてくると槍はベリアルの肩で止まっていた。

ベリアルは槍の棍棒部分を掴むと力押しで槍をへし折ってしまう。自慢の槍が簡単に折られた事にショックを受け唖然とするエデルガルド。しかしその間に待ってくれるほど相手は優しくない。

 

「【ギロチン・ブレード】!」

 

ベリアルが腕を振るうと赤いカッターの閃光が放たれ呆然としていたエデルガルドに直撃し後方へ吹き飛ばす。地面に数回身体を打ち転がると身体は全身血ダラけでボロボロになっていた。

 

ベリアルはエデルガルドに近づくと首根っこを掴んで持ち上げる。

 

「グッ…」

 

「このまま締め上げてやる」

 

ベリアルは掴んでいる腕に更に力を入れ絞め殺そうとするが…

 

「待てベリアル」

 

…それをアゼルが静止させた。彼の足元にはボロボロの姿のシェラとレムが倒れている。

 

「その魔族の小娘は殺すな。ルーチェモン様からの命令だからな」

 

その言葉にベリアルも主人であるルーチェモンの言っていた事を思い出しエデルガルドの首を絞めている手の力を緩めると、土手っ腹に拳を打ち込み気絶させた。

 

「さてと」

 

アゼルは足元に倒れているシェラとレムを下半身にある2つの闘牛顔の口でそれぞれ加える。

 

「コイツらにはまだ使い道があるからな。よし、ルーチェモン様の元へ向かうぞベリアル」

 

「ウム」

 

アゼルは2人を加えたまま上空にへと浮かび上る。ベリアルも気絶したエデルガルドを脇に抱え上げると浮かび上がり、共に主人であるルーチェモンがいる場所にへと飛び去った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

場所は変わりここでは主に大勢の剣士達が魔族との戦闘を行っていた。その中でも1人の剣士と大勢の鎧を着た兵士達が魔族の次々と交戦していた。

 

髭を生やした貫禄のある男はファルトラ市の領主である【チェスター・レイ・ガルフォード】。ある事件の時にディアブロと一度対峙し傷を付けた程の実力者である。

 

「…やれやれ、昨夜魔王による被害が出た直後に魔族の襲撃とは。やってくれるじゃないか」

 

ガルフォードは兵士達もそれ続いて魔族達と交戦していく。だが突如ガルフォードは何かを感じ上をを見上げると…

 

 

 

 

ヒュュュュュュュュュュ

 

 

 

 

…上空から光の球が飛んできており咄嗟に後方へと回避した直後地面に直撃した。彼がいた場所は先程の光の球によって地面が削られ爆煙が上がっていた。

 

「チッ、外したか。今のを避けるとはやるじゃねェか」

 

「ケケケ、まぁ人間としての話だがなぁ」

 

突如上空から声が聞こえて上を見るとそこには二つの人影があり、ゆっくりと降りて来て着地する。

 

一人目目は深緑の肌をし、ロングの黒髪に筋肉質のガタイがいい厳つい男。

 

二人目は一番背が高く細長く全身茶色の身体に、蛙のような大きくギョロッとした眼。

 

そして2人ともプロテクター似た服を装着し、左眼には小型の機械を付けていた。

 

「なんだ貴様等?見たところ魔族ではなさそうだが」

 

「俺は【ネイズ】、こっちは【ドーレ】だ。確かに俺達は魔族(コイツ等)とは違う。だがやる事は同じだ」

 

「俺達のボスであるルーチェモン様のご命令だからな」

 

ドーレとネイズは左眼の機械のボタンを押して操作する。「pipipi」と独特の機械音が響き渡る。

 

「ほぉ、戦闘力1,075か。人間しちゃ大した中々だぜ」

 

「でも俺達にとっちゃ大した戦闘力じゃないぜ。それに後ろの奴らも500にも満たねェ奴ばかりだ。これじゃあ遊び相手にもならないぜ、ケケケ」

 

ガルフォードの戦闘力(あくまで人間としてのレベル)に関心したが、大した事ない、遊び相手にならないと罵られ彼の額に青筋を立てていた。

 

「…私を遊び相手とは言ってくれるじゃないか。だが甘く見ていると痛い目を見るぞ」

 

「ハッ、それりゃあこっちのセリフだぜ」

 

「俺達をさっきの魔族共(雑魚共)と一緒にするなよ」

 

会話が終わり最初にガルフォードがネイズに突撃に剣を突く。ネイズはそれを片手で受け止める。

 

「ケケケ、中々のスピードじゃねェか」

 

「言っただろう。私を甘くみるなと!」

 

力を込め手を払い除けさせると連続で剣を突く。ネイズはニヤニヤと笑いながらガルフォードに劣らないスピードで回避していく。

 

「チッ、ネイズの奴に取られたか」

 

しかしその様子をドーレはイライラしながら見ていた。一番強い奴を取られた事によって兵士達の相手をしなくてはならくなったからである。

幾ら数が多くても一人一人の戦闘力はガルフォードの半分にも満たない奴が殆ど。楽しむに楽しめないからである。

 

「まぁ仕方ねェ。ルーチェモン様の命令だがらな。コイツらの相手で我慢するか」

 

「幾ら貴様が強かろうとこれだけの数を貴様1人に相手に出来ると思うか?行くぞ!」

 

『オォォォォーーー!!』

 

一人の掛け声の合図に兵士達は一斉にドーレにへと向かっていく。そして一人の兵士が剣を振り上げ勢いよく振り下ろす。しかしドーレはそれを涼しい顔で受け止めた。しかもそれは剣を掴んでいる()()()()()、腕を前に出して直接()()受け止めていたのだ。

 

「な、何!?」

 

「どうした?こんなモンで俺を斬ろうってか?」

 

唖然とする兵士に残っていた左腕を突き出し何と身体を打ち抜いた。身体を貫かれた兵士は暫く痙攣した後力なく脱力する。

 

この瞬間この兵士は命を散らしたのである。

 

ドーレは動かなくなった兵士を腕から引き抜くと頭を掴み投げ捨てた。

 

「オラどうした?もっと来いよ」

 

さらに挑発するように指を「クイ、クイ」っと内側に折り曲げる。

 

「怯むな!行けェ!!」

 

先程と同じ兵士が声を上げるとまた一斉に動き出し今度は数人で一変に剣を振るった。

ドーレは顔の前で腕をクロスさせ防御体勢になる。剣はそのまま振り下ろされるが、当たった瞬間歯が欠けてしまい、中には折れたのもあった。

 

「剣が!?」

 

「バ、バカな…」

 

「…へへへ」

 

ドーレは腕をクロスさせたまま一気に力を解放し振り広げるとその衝撃波で周りの兵士を吹き飛ばした。

倒れている一人の兵士の近くに駆け寄ると足で思いっきり踏みつけた。そして何度も何度も踏み付けその度に兵士の悲鳴が上がる。

 

『ウォォォーー!!』

 

そんな時別の兵士達が突撃してくる。ドーレは踏み付けていた兵士を持ち上げると突っ込んでくる兵士達に向かって投げつけた。

 

投げつけられた兵士は先頭にいた兵士にぶつかる。その所為で進撃していた兵士達は止まってしまう。その隙にドーレはエネルギー弾を放ち投げつけた兵士諸共近くにいた兵士達を消しとばした。

 

多くの人を殺したにも関わらずヘラヘラと笑っているドーレに兵士達は恐怖を抱き始めた。しかしそれでも街の人を守る為兵士の群れは進撃を辞めなかった。

 

「ケッ、雑魚ばかりでいい加減ウザくなってきたな。一気に片付けるとするか」

 

イラつき始めたドーレは右の掌を前に向けるとそこに赤色のエネルギーの球が凝縮されていく。

 

「テメェら全員消し飛びやがれ!【虚閃】!!」

 

特大のエネルギー波ーー【虚閃】を放ち残っていた兵士達を一斉に消し飛ばした。そのエネルギーの余波は周りにも及び街の一部の地形を変えてしまった。

 

「ヘッ!大した事なかったな」

 

 

 

 

 

 

一方ガルフォードとネイズのバトルでは、ガルフォードの剣さばきに対しネイズは素早い動きで回避していく。

 

「中々のスピードじゃねェか。流石戦闘力1,000越えの事だけはあるぜ」

 

「…随分と余裕だな。しかし避けてばかりでは勝ち目はないぞ」

「それもそうだな。だったら…」

 

ネイズは身体を大きく晒し回避するとガルフォードの剣を持っている腕を掴んだ。

 

「な、何!?」

 

「…遊びは辞めて反撃と行くか」

 

ネイズは腕を掴んだまま膝で溝内を蹴り飛ばした。ガルフォードは強烈な蹴りに激痛が走るがそれでも剣だけは握り続けている。

 

「ガッ!?」

 

「おい、まだお楽しみはこれからだぜ」

 

今度は拳で顔面を殴りつけた。それを何回も何回も何回も。片腕を掴まれている為逃げることを出来ない。

 

「さっき言っただろ?()()()()()()かなりの戦闘力だと。俺の戦闘力はテメェの何十倍も上なんだぜ」

 

掴んでいた腕を離すとガルフォードの頬を思いっきり殴りつけ吹き飛ばし壁に激突させた。

 

「ハァ、ハァ…」

 

「これで分かっただろう。例えテメェが人間の中では最強であったとしても俺にとっちゃ雑魚同然なんだよ!もういい加減諦めて俺達に降伏したらどうだ?ケケケケケ!」

 

ネイズは額から血を流しボロボロのガルフォードを嘲笑う。

 

「…降伏か……フン、笑えん冗談だな」

 

「あぁ?」

 

「…確かにお前の言う通り力の差は歴然かもしれんな。だが私は決して降伏などせん!」

 

ボロボロの身体を起き上がらせると再びネイズに向かって走り出す。それを見た本人(ネイズ)は右手を向けると掌から光弾を発射させる。

しかしガルフォードは避ける気配がなくそのまま突き進み光弾が命中し爆発が起こる。ネイズは己の勝利が確信したと思いニヤリと笑う。すると突然爆煙の中に迫り来る物影が飛び出した。ガルフォードである。

光弾が命中する際剣を突き付け前もって爆発させ衝撃を柔らげたのである。そして相手が油断した隙を見逃さず爆煙を利用して飛び出し剣を突き出した。

突然の事で反応が遅れ己の目の前まで剣が迫っていた。

 

 

この距離なら身体を逸らす事も出来ない。貰ったっと思った。しかし…

 

 

 

 

 

ヒュン

 

 

 

 

 

…剣が当たる直前ネイズの首が胴体へと引っ込んだ。

 

そのままネイズの身体はガルフォードの下に回り込むと蹴り飛ばし上空へと打ち上げる。「ポン」と引っ込めた顔を押し出すとガルフォードを追いかけるように飛び上がる。

 

そして同じ高さになり追いつくと両腕を身体に思いっきり押し付ける。ガルフォードの身体は【く】の字に曲がり重力により地面にへと激突し砂埃が上がる。ネイズは落下地の近くにゆっくりと着地する。

 

ーーーこれで奴も生きていないだろうーーー今度こそ自身の勝利を確信した時、埃の中に起き上がる影が…

 

「…ハァ…ハァ…」

 

「オイオイ、まだやろうってか?もういい加減諦めたらどうだ?」

 

「ハァ…ハァ……さっきも言ったはずだ。私は決して降伏などしないと」

 

…身体がボロボロで全身血だらけになりながらもガルフォードは立ち上がった。それが街を守るためなのか、それとも手も足もなく敗北するのは己のプライドが許さないのかは定かではない。

 

「…そうかい。だが俺はお前との戦いも飽きてきたぜ」

 

するとネイズは両手に電流を溜める。

 

ガルフォードはボロボロの身体を動かし剣を突きつけようするが、体力が落ちた身体では先程のスピードより劣っているためジャンプで回避される。

 

後方へ回り込んだネイズは両手を前に突き出し溜めていた電撃を一気に放つ。

 

「食らェー!」

 

「ウワァーー!!」

 

電撃が直撃し超高圧の電流が身体全身に走る。なんとか脱出しようと身体を動かそうとするが指一本動かせずにいた。

 

「さぁ後何秒保つかな?」

 

その数秒後ガルフォードは全身黒焦げになり絶命した。

 

「3秒か。まぁ人間にしちゃ持った方だな」

 

「ネイズ、終わったようだな」

 

「あぁ、ドーレの方もな」

 

すると左眼に付けている機会から突如通信が入る。

 

『ドーレ、ネイズ聞こえるか?』

 

「何だ?」

 

『雑魚共の始末は終わったか?』

 

「あぁ、丁度今終わったところだぜ」

 

『そうか。もうこの街に大きな戦闘力の反応はない。ルーチェモン様のところへ向かい合流するぞ』

 

「分かった」

 

「了解だぜ、隊長」

 

通信を切ると絶命したガルフォードにはもう目もくれず2人はその場を飛び去った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

少し遡り、ドーレとネイズと同じプロテクターを着用し左眼に小型の機械を付けている背が低く小柄で全身青肌の優男ーーー彼は左眼に付けている機械【スカウター】である人物を探して単独行動をしていた。

 

「確かオウロウの言っていた情報によるとこの街の結界を張っていた女がいるはずだが「ピピ」…ん?強い戦闘が1つ、その近くに更に2つの戦闘力。街外れの方に移動しているな。確かめてみる価値はあるか」

 

強い戦闘力を発見すると、その場所へと加速しその人物の前に降り立つ。それはディアブロと別れ結界の修復へと向かっていた【セレスティーヌ】であった。

 

「な、何ですか貴方は!?」

 

「我が名は【サウザー】。ルーチェモン様にお仕えする忠実な従属官だ。お前のその見た目と持っている杖、貴様がセレスティーヌと言う奴か?」

 

「…そうですが何か?」

 

探していた本人を見つけたサウザーはニヤリと笑う。

 

「やはりそうか。悪いがお前はここで始末させてもらう。破壊した結界を修復されてはこちらとて色々と面倒なのでな」

 

足を踏み出しゆっくりとセレスティーヌに近づくサウザー。すると彼女の護衛である2人の魔術師が前に出る。

 

「何だ貴様等?そこを退け」

 

「セレスティーヌ様には指一本触れさせん」

 

「どうしてもと言うのなら、我々が相手だ!」

 

主である彼女を守る為に立ち向かう勇姿は立派である。

 

しかし相手が悪過ぎた。

 

サウザーはそんな2人の行動を涼しい顔で「フッ」と鼻で笑う。

 

「…愚かな。貴様等など遊び相手にもならん」

 

「な、何!?」

 

右手にエネルギーを集中させ剣を形成させると、3人の前から消えた瞬間物凄い風圧がセレスティーヌ達の間を発生するするとーーーーーーーー護衛の1人の首が宙を舞っていた。首から上がなくなった身体はそのまま地面にへと倒れる。

 

何が起こったのか訳が分からなかった2人の後ろには先程まで真正面にいたサウザーが不敵な笑いを浮かべていた。彼は3人には視覚出来ないスピードで、すれ違いの際護衛の1人の首を斬り落としたのだ。

 

「ッ!?こ、この!!」

 

「ダメ!!」

 

残る護衛の魔術師は魔法陣を展開し詠唱と唱えようとするのをセレスティーヌが止めようとするが遅かった。

 

魔術を使用するよりも早くサウザーは掌にエネルギーを貯め護衛にへと放つ。そのエネルギー弾は展開していた魔法陣ごと魔術師を影も形も残す事なく吹き飛ばした。

 

「フン、だから言っただろ?貴様等など遊び相手にならないと。さて…」

 

護衛の魔導師を片付けると本命であるセレスティーヌにへと目を向ける。察した彼女は持っていた杖を構え魔法陣を展開しようとするが一瞬にして目の前まで移動し杖を掴んでいた。

 

「女…貴様がいると色々と厄介だから。ここで消えてもらうぞ」

 

腕に力を込め杖をへし折ってしまう。そして顔の前に掌を向け、その先からエネルギー弾をそのまま放ち顔を吹き飛ばした。

頭がなくなった身体はそのまま地面にへと倒れる。サウザーは横たわる身体に再び掌を向けるとエネルギー弾を放ち身体も吹き飛ばし綺麗さっぱり消してしまった。

 

「…これで魔族共の障害となる結界を修復される事はなくなった」

 

スカウターのボタンを操作しドーレ達に連絡を入れる。

 

「ドーレ、ネイズ聞こえるか?」

 

『何だ?』

 

「雑魚共の始末は終わったか?」

 

『あぁ、丁度今終わったところだぜ』

 

「そうか。こちらも用は済んだ。もうこの街に大きな戦闘力の反応はない。ルーチェモン様のところへ向かい合流するぞ」

 

『分かった』

 

『了解だぜ、隊長』

 

通信を切るとスカウターで主人であるルーチェモンのいる場所へと向かった。

 




最初の2人は知っている人いるかな?その当時ゲームとかで人気の作品だった話だけどもう20年前だから知ってる人は少ないかな…。

ガルフォードの戦闘力はあくまで予想です。本来はもっと高いかもしれませんが、人間では1,000でも高い方だと思います。

ディアブロの「魔術反射」劇中では真正面だけでしたが、あれって全方向からでも効果あるんでしょうか?

そんなこんなで「異世界魔王編」は次回で終わり予定です。
最後までお付き合い頂けたら幸いです。

でもまだこの作品は終わらないから安心してね。

感想等あればどうぞ。


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5話 最強の魔王 降臨 後編

どうもアニメ大好きです。
最近昼間は暑いのに夜は涼しいって現象が続いていて体調を崩しそうです。

皆さんも体調管理には気をつけましょう。

今回はルーチェモン編最後になります。
死闘の果て結末はどうなるのか、最後まで見ていただけると幸いです。



ディアブロがルーチェモンと戦闘を行う少し前に、(ルーチェモン)の従属官である5人はそれぞれの場所で邪魔する者や障害となる者を片付けた後主人であるルーチェモンの元に合流し現状報告に至る。

 

「このエルフと獣人の小娘共はそこの魔王と面識があるみたいだったので、折角ですから見せしめにしてやろうと思いまして…」

 

「ほぉ、この魔王と……それはいい。どうせ死ぬのなら主人の前で終わりを迎えたいだろうしな。そしてオウロウよ、ベリアルが抱えている小娘が…」

 

「はい、裏切り者ーーエデルガルドでございます!」

 

ベリアルが脇に抱えているボロボロの娘こそ、魔族の裏切り者であるエデルガルドである事がオウロウの口から告げされた。

 

「そうか。では早速だが、奴を起こさせるとしよう」

 

「ハッ!」

 

ベリアルは抱えていたエデルガルドを離し地面に落とす。そしてオウロウはエデルガルドに近づくと頭を鷲掴みにし持ち上げる。

 

「起きろ、エデルガルドよ」

 

「…?ッ!?オウロウ…様…」

 

「貴様、魔族でありながらヒューマンの小娘を逃がす手助けをした上に、あろう事かあの異世界の魔王に助けられ、終いには我々の邪魔をするとはなァ」

 

オウロウはエデルガルドを睨み付けるようにガンを飛ばし罵る。

 

「本来なら私が直接始末したが、ワシの新たな主人がお前を始末したいみたいだからな」

 

オウロウはエデルガルドを鷲掴みにしながら顔の正面をルーチェモンの方へと向ける。

 

「やぁ、魔族の娘よ。私はルーチェモン。そこのディアブロとか言う者と同じ異世界の魔王だ」

 

「ディアブロ…と同じ……異世界の……魔王…!」

 

「フン…そうだ。取り敢えずは初めましてっとでも言っておこう」

 

ルーチェモンから発せられるオーラにエデルガルドは目が離せないでいた。

 

「そこのオウロウから聞いた話では貴様はそこに倒れている人間を逃したとか。やれやれ、魔族でありながら人間を助けるとは…最早貴様は魔族の裏切り者同然。そんな奴を生かしておく訳にはいかないのだよ」

 

凡ゆる種族を凌駕する魔族が、況してや人間を助けるなど言語道断。魔族の面汚しと言っても過言ではない。魔族からすればそんな奴を生かしておく理由なんてないのだ。

 

「しかし私は慈悲深い。もしここで私に忠誠を誓いのなら助けてやってもいいぞ」

 

「助ける」という言葉にオウロウは大きく反応した。最初に会った時に「始末してやる」という約束も兼ねて配下に降ったと言うのに話が違うからだ。

反論しようとしたがいつの間にか後ろに回り込んでいたサウザーにエネルギーで作った剣を向けられる。

 

「ルーチェモン様の邪魔をするのならーー私が今ここで貴様を始末するぞ」

 

威圧感のこもった眼差しで睨み付ける。その眼差しを見た瞬間まるで金縛りに掛かったように動けなくなる。その上今下手に動けば命の保証はないから尚更だ。

 

「…サウザーよ」

 

「ハッ!」

 

「私のために動いてくれるのは嬉しい事だ。だが今ここでソイツ(オウロウ)の首を刎ねればその返り血が私に付いてしまう。だから剣を収めろ」

 

「ッ!!ハッ、畏まりました」

 

その言葉にサウザーは直ぐに剣を仕舞う。威圧感から解放され膝をつくオウロウを無視してルーチェモンの近くに付く。

 

「さて、少し話が逸れてしまったがそろそろ答えを聞こうか。私に忠誠を違うか?」

 

ルーチェモンは再びエデルガルドに忠誠を誓うかを質問する。

 

「…それは…ない…。…私はディアブロ…に助けら…れた。…それに…私が崇拝する…のは…クレブ様…だ。…だから…お前なん…かに…絶対…忠誠…しない…」

 

しかしエデルガルドは「絶対に屈しない」と真っ直ぐな目でルーチェモンを見ながら言いきった。その目には一切の迷いはなかった。

 

「…やはりそうか。やれやれ、生きるチャンスを与えてやったと言うのに…愚かな娘だ」

 

折角のチャンスを捨てた事に置き呆れ返る。

 

「では最初の予定通りーーーー貴様を始末するとしよう」

 

「その言葉を待ってました」かのようにオウロウは手を離すとその瞬間、今度はルーチェモンが顔面を掴みそのまま頭から地面に押し潰した。めり込んだ地面から持ち上げると自分の目を合わせるように近づける。

 

「私は例え子供であっても女性であっても容赦はしない。それに貴様は裏切り者。だから貴様にはたっぷりと苦しんでから葬ってやろう」

 

ルーチェモンの目はまるでゴミを見るかのような蔑んだ目をしていた。彼の眼差しには最早エデルガルドは魔族どころか生命としても認識されていないのかもしれない。

 

そして今度は近くにあった建物の壁にへと叩きつけた。

 

「止めろ!!」

 

ディアブロはエデルガルドを助けようと走り出すがサウザー、ドーレ、ネイズが彼の前に現れ行く手を塞ぐ。

 

「チッ、そこを退け!」

 

「そうはいかんねェな」

 

「貴様如きにルーチェモン様の邪魔はさせないぜ!」

 

「ドーレ、ネイズ、コイツも一応魔王と名乗っているからにはそれなりの実力があるだろう。数で優っているとはいえ油断するな。コイツに俺達の力を見せてやるぞ!ーーーー我ら【ルーチェモン機甲戦隊】!!」

 

『オォ!!』

 

 

バッ!バッ!ババッ!

 

 

3人はそれぞれ戦闘開始のポーズ【スペシャルファイティングポーズ】を取り突撃を開始する。

 

「貴様らに構っている暇などない、退け!【ライトニング・バレット】!」

 

杖の先端から魔法陣が展開され白い閃光を発射。3人は散会して回避、それぞれの方向から突っ込み戦闘が開始された。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ガッ!!」

 

「おやおや、この程度でくたばってもらうのは困る。本当の苦しみはここからなのだからな」

 

ルーチェモンの圧倒的な力と容赦のない行いに恐怖し目が離せないでいた。まるで思考が吸い込まれるように。

 

「おい、起きろ」

 

そんな中アゼルはまだ意識を失っていたシェラとレムを無理矢理起こさせた。

 

「…ン…こ、ここは?」

 

「あれ?アタシ?…ここ何処?」

 

「騒ぐな!小娘共」

 

目が覚めた2人の上にはアゼルが流さないように足で身体を押し付けてしている。突然の事で状況が飲み込めず戸惑う2人だが、爆発音が聞こえたのでそっちへ目を向けるとその視界に入ってきたのはルーチェモンによってボロボロにされているエデルガルドの姿であった。

 

「エデルガルドちゃん!」

 

「…あの人は一体…」

 

「あそこに居られる方こそ我等が主人ルーチェモン様だ。今からあの裏切り者を始末するところだ」

 

「だが下手な真似をすればお前達の命はない」

 

レムはベリアルに真っ赤な炎で作られた剣を首に当てられシェラはアゼルに強く踏みつけられる。

その最中エデルガルドは地面や壁に何度も顔を打ち付けられ、最早声すら出す事さえもままならない状況である。

 

「なんで…貴方はこんな事をするの?どうして沢山の人を悲しませる事が出来る!?どうして命を奪うなんて酷い事を平気で出来るの!?」

 

シェラは命を躊躇いもなく簡単に奪う彼等の行いにアゼルを見上げてながら叫ぶ。

 

「何故だと?簡単な事だ。それがルーチェモン様の命令だからだ」

 

「えっ!?」

 

「俺達にとってルーチェモン様は主人であり神に等しい存在だ。俺達はルーチェモン様の命令で動き、望まれる事は何でもする。それだけだ」

 

【主人の命令だから殺す】

 

そんな理不尽な行いに2人は怒りに震え、ボロボロになるエデルガルドの姿を見て2人は「辞めて」と叫ぶ。だがルーチェモンは2人の顔を見るや否や不気味な笑いを浮かべると、掴んでいた腕を離し連続で高速の拳を打ち込み片足で上空へと蹴り上げエデルガルドに追い付くと、逆さまにして両足で左右の脇を固定する。そして最後に前髪を搔き上げるポーズをして重力で地面に向かって真っ直ぐ落ちるーーーー必殺技【パラダイス・ロスト】を繰り出した。

 

地面に叩きつけた瞬間地面が大きく揺れる。叩きつけられたエデルガルドは最早虫の息であった。意識を保っているのも限界に近い。

 

シェラはその姿を見る事が出来ずに顔を伏せていた。しかしレムの目はまだ諦めていなかった。ーーーディアブロなら何とかしてくれる、絶対助けてくれるーーーーその可能性が、希望があったからだ。しかし…

 

「それとお前達の信頼する魔王に助けを求めたところで無駄だ。何故なら…」

 

 

 

 

ドーーン

 

 

 

 

「…奴は俺達と同じルーチェモン様の従属官であるアイツらと殺りあっているからな。こっちにまで手は回らない」

 

別の方向から爆音が聞こえ振り向くと機甲戦隊の3人と対峙しているディアブロの姿があった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「オラオラオラオラオラ!」

 

「ヒヤッハハハハハハハハ!」

 

「クッ」

 

ネイズとドーレの連続攻撃に回避するので精一杯のディアブロ。

 

「テェイィヤ!」

 

上空からサウザーの両手に形成されたエネルギーの剣が振り下ろされ頬を掠る。だが黙ってやられる訳はなく杖の先端に魔法陣を展開させ攻撃を放つ。

一番近くにいたサウザーは腕をクロスさせ防御する。服や鎧多少の焦げ跡は着いたがダメージは少なくまだまだ余裕ある顔をしている。

 

ディアブロも魔力治療のお陰で大きな外傷はなくダメージも少ない。しかし3人のコンビネーションに苦戦する。

 

「ディアブロ様!」

 

「黙れ!ヒューマンの小娘が!」

 

アリシアはオウロウに取り抑えられ地面に顔を押し付けられる。彼女の苦痛の声を聞きそっちの方へ視線を移したその時、隙を付いてネイズが光弾を放った。

 

「食らえ!!」

 

しかしディアブロが左掌を向けると、彼の指輪が光り魔法陣が現れ光弾を受け止める。そしてそのままネイズに向かって跳ね返される。

 

「な、何!?」

 

咄嗟に首を引っ込め直撃を免れる。そのまま光弾は近くの建物に命中した。彼がしている指輪は凡ゆる魔術を跳ね返す事が出来る【魔術反射】のスキルを擁しているのだ。

少ししてネイズは「ポン」と音を立てるかように首を出し元に戻す。

 

「ビックリさせやがって!何だ今のは!?」

 

「…どうやら奴の持っている杖は攻撃を跳ね返す力があるようだ。下手に攻撃すれば自滅しかねない」

 

「ヘッ!そんなら嬲り殺しすりゃあいい話だァ!!」

 

元々近距離が得意なドーレはそのままディアブロに突っ込んでいく。

 

ディアブロは僅かに後ろに下がると杖の先端を地面に軽く触れさせる。すると触れた部分に白い魔法陣が出現。しかしそんな事御構い無しのドーレは警戒する事なくそのまま突っ込む。そしてそのまま殴り掛かるがディアブロは地面を強く蹴り後退する。

拳が空振りその反動でドーレが魔法陣の上に足が付いた瞬間…

 

 

 

ドーーン

 

 

 

…大爆発が起きた。爆煙の中から身体に擦り傷が付いたドーレが飛び出す。

 

「畜生ォォ!何だ、今のは!?」

 

「恐らく攻撃魔法を地面に忍ばせ、踏んだ瞬間に爆発する。謂わば魔法で作り上げた地雷と言ったところか」

 

「その通りだ。地面に忍ばせその上を通ると爆発する魔術【スーパーマイン】!貴様等が如何に強かろうとこれで迂闊に近づく事は出来ないだろう」

 

杖の先端を地面に付けると魔法陣が複数現れ生き物のように動き回り散らばった。

迂闊に動けば爆発に巻き込まれる。その上至る所に散らばっているのでドミノ倒しのように連続で爆発する地雷地帯となった。

 

「成る程。確かにこれでは下手に近づく事は出来んな。だが…」

 

サウザーは宙へ浮き上がる。それに続いてドーレとネイズも同じ高さまで浮き上がり3人とも掌を向けると……

 

 

 

「ーーーーこれならどうだ!ーーーー」

 

 

 

…3人はそれぞれの掌から光弾を地面に向けて一斉に放ち地面を削り飛ばした。仕掛けられた魔法は地面ごと吹き飛ばされてしまった。

 

その隙に3人は一斉にディアブロに向かって突撃する。そして3人の拳が直撃したその時、4人の間に爆発が起こり無数のエネルギー弾が機甲戦隊を襲い吹き飛ばす。

 

「フン、油断したな。貴様等のような単細胞なら【スーパーマイン】を消した飛ばした直後、我に向かってくる事は分かっていたぞ(何とか【ライトニングバレット】が決まってよかった。でもまさか【スーパーマイン】が全部吹き飛ばされるなんて思ってもみなかった)」

 

「ッ、チクショオォ…」

 

「やってくれたなァ…」

 

「待てドーレ、ネイズ……まさかまだそんな力を隠していたとはな…流石魔王を名乗っているだけの事はあるな」

 

「当然だ。何故ならこのディアブロこそが真の魔王なのだからな!!」

 

「…そうか。だが貴様と違いあの小娘はもう限界のようだがな」

 

サウザーが目線を横に向けたので同じ方は目線を向ける。虫の息のエデルガルドだった。その光景を見て直ぐに助けようと足を進めるも再び3人に邪魔させる。

 

「おっと、そうはいかねェな」

 

「まだ俺達とやっている途中だろ?それを投げ出すなよなァ」

 

「どうしても行きたいのなら俺達3人を倒してからにするんだな」

 

そして再びディアブロと機甲戦隊の戦闘が開始されようとした時であった。

 

 

「チョォォト、待ったァァァ!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ディアブロが機甲戦隊と戦闘の最中ルーチェモンは一切の猶予もなくエデルガルドを叩きのめし首根っこを強く掴んでいた。

 

「そろそろ貴様も限界に近いな。…これが最後のチャンスとしよう。私の配下に加わる気になったかな?」

 

「…何度も言う…絶対に…ない…」

 

「…やれやれ。最後のチャンスさえも無駄にするとは。ならせめてもの慈悲として最後は一瞬で終わりにするとしよう」

 

ルーチェモンの掌に白いエネルギーが凝縮されていく。エデルガルドは今まで感じた事もない途方も無い力を感じていた。そして自分の最後となる瞬間も…。

 

 

ーーー攻めて…みんな(ディアブロ達)に…恩を…返した…かった…ーーー

 

 

アリシアによって助けられ、ディアブロに命を救われ、シェラ、レムに許され友になってくれた。

 

皆に多くの恩がありながらそれを返す事なく終わってしまう事の悔しさと己の死に対する恐怖で目から涙が流れ出してしまう。ルーチェモンはその涙が目に入るが、だからと言って一度決めた事を取り消し見逃す程彼は甘くはない。

 

「…さよならだ」

 

エネルギー弾が放たれようとしていたその時、ロングヘアーの白髪の小さな少女が現れる。しかしその少女は人間にはないものがあった。ーーーー頭に2本の角が生えていたのだ。

 

「おや、まだ人間が残っていたのか。しかしこのオーラ……貴様ただの小娘ではないな。何者だ?」

 

「ク…クレブ…様…」

 

エデルガルドは今出せる精一杯の声量でその者の名前を呼んだ。その名前にルーチェモンが反応した。

 

「クレブ?成る程、貴様が魔王クレブスクムか?しかし随分と見窄らしいな」

 

「…何なのだ、お前は?」

 

「おっと、これは失礼。先ずは挨拶が先だったな。私は魔王ルーチェモン。貴様と同じ魔王だ。取り敢えず「よろしく」と言っておこうか」

 

しかしクレブはルーチェモンの挨拶に返事をしなかった。いやそんな気持ちを持っていないと言った方が正しいのかもしれない。

クレブは目線を横へ移すととボロボロになっているエデルガルドを凝視する。

 

「お前がそいつをそんなにしたのか?」

 

「…そうだが、それがどうかしたのかね?」

 

「…何故そいつをそんなにしたのだ…」

 

「愚問だな。この魔族は裏切り者だ。だからその裏切り者を処刑するためにやっただけの事だ」

 

「……さない」

 

「ん?何か言ったかね?」

 

「…許さない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アァァァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が怪しく光り黒いオーラが立ち登ると上空に8角形の円陣が現れ周りにその衝撃波が襲う。その威力に周りの殆どの者達は手で顔を覆う。戦っていたディアブロ達もその手を止める。しかしただ1人ルーチェモンだけは「この時を待っていた」と言うかのように口元をニヤリとした。

 

軈て光が治るとそこには先程の少女の姿から一変し全身が鎧に覆われた身長も50mはあると思われるほど巨大になっていた。その4つの目は禍々しい光を発せながらルーチェモンを睨みつけている。

 

 

『グォォォォーー!! 』

 

 

「ホォ、それが貴様の魔王の…いや、真の姿かと言ったところか。凄まじい力を感じる」

 

魔王として覚醒したクレブの…クレブスクムの姿に、やっと自分の相手に相応しいのが出できたと思い歓喜する。

 

「しかし…」

 

『グォォォォーー!!』

 

「…どうやら殆ど理性は残っていないようだ…」

 

クレブスクムが頭を抱え苦しんでいる姿を見て力の制御が出来ていない所為で理性が殆どない事に気付く。

元々子供の姿だったからか暴走して力のコントロールが出来ていないのだろう。それ故に期待して損した気分になり落胆した。

 

「グォォォーー!」

 

苦しみながらもクレブスクムは残っていた僅かな理性でその巨大な手で殴りかかる。

ルーチェモンは羽根を広げて空中は回避。拳がぶつかった地面にはマグマが燃え上がっていた。

 

「ほぉ、流石魔王だけあってパワーは相当なものだ。…だが()()()()だ…」

 

確かにパワーは凄い。しかし動きが単調な上にデカイだけあってスピードが遅い。故に避ける事は容易い。

如何に力が強大でも当たらなければ所詮意味がない。

 

その後もクレブスクムは巨大な拳を振るうがルーチェモンは余裕で回避し、その度に彼女の拳が建物を破壊していき辺りは瓦礫の山と化していた。

 

『グォォォォーー!!』

 

クレブスクムが高らかに叫ぶと口の辺りから黒い煙のようなものが溢れ出し、口から黒い炎が放たれルーチェモンを飲み込んだ。

 

その光景にディアブロ達は「やった」と思い、彼の従属官達は主人がやられたのではないかと目を見開いた。

 

しかし射線に沿って何かが炎の中を移動してクレブスクムに近づいていく。そして彼女の目の前で炎の中から飛び出したのは……

 

 

「フン!」

 

 

…ルーチェモンであった。しかもほぼ無傷に近い状態で。そしてクレブスクムは足で蹴り飛ばされ地面に叩きつけられる。それを見たディアブロ達は「信じられない」と言わんばかりに目を見開き、その逆に従属官達は主人の無事に歓喜を上げていた。

 

「今のは少し効いたぞ。まぁ、そこのディアブロとか言った魔王の技に比べればだがね」

 

クレブスクムの魔力のパワーはディアブロと以上と言っても過言ではない。しかしそれでもルーチェモンには大したダメージを与える事は出来なかった。

 

「どうやらこれ以上戦っても目新しい事はなさそうだな。では終わりにするとしよう」

 

ルーチェモンの右手には白い球体が、左手には黒い球体が出現する。

 

「愚かな魔王よーーーーその身の程を思い知るがいい」

 

先ず白い球体をクレブスクムに向かって投げ飛ばすと、白い球体が膨張しクレブを閉じ込め身動きを封じる。そしてもう一つの黒い球体を投げ飛ばすと、白い球体と一体化し魔法陣が展開される。

 

 

「【デット・オア・アライブ】」

 

 

これぞルーチェモン最大の必殺技ーーーーー相手を魔法陣の中に閉じ込め半分の確率で大ダメージを、もう半分の確率で消滅させる。名前の通り【生きるか死ぬか】を与える技ーーそれが【デット・オワ・アライブ】。

 

 

『グアァァァァァァーー!!』

 

 

クレブスクムの苦しむ叫び声が響き渡る。魔法陣が消えるとボロボロになり少女の姿に戻ったクレブスクムが倒れ伏せた。

 

「ほぉ、当たりを引くとは……貴様も運がいい。しかし次はそうはいかない」

 

ルーチェモンはそれぞれの掌に光と闇のエネルギー弾を構える。そして2つの弾を投げようとした時横から魔弾が飛んできて両方の弾を破壊した。魔弾が飛んできた方へ顔を向けるとそこには杖を向けているディアブロがいた。

 

「貴様、我が機甲戦隊が相手をしていたのではないのか?」

 

「フン、あの3人ならエミールが相手をしている」

 

機甲戦隊とのニラウンド目が始まろうとしていた時現れたのが協会一の剣士と

言われている【エミール・ビュシェエルべルジェール】であった。何故ここにいるのかと聞いたら「女の子がピンチの所には早速駆け付ける」とよく分からない事を言うのであった。

そこでディアブロは機甲戦隊の相手をアミールに任せる事にした。シェラ達を助ける為と言ったらアッサリOKしてくれた。

 

「貴様にクレブは殺せん。勿論エデルガルドもだ。あの2人が受けた痛みーーそれを今貴様に味合わせてやる!」

 

「…フフフ、いいだろう。順番は変わってしまうが、先ずは私の邪魔をしてくれた貴様から始末してやるとしよう」

 

ルーチェモンは最初に使った目に見えないエネルギー波を放投げ飛ばす。その仕草を覚えていたディアブロは回避すると杖の先端を地面に触れる。

 

「また先と同じ罠か。私に同じ手が通じるとでも思うか!」

 

今度は左手から闇のエネルギー波を放つ。しかしこれはチャンスと思いディアブロは左手を前に出し指輪の力で攻撃を反射させる。その事を知らなかったルーチェモンは驚き上空へ回避する。その隙に再び先端を地面に触れさせ移動し何回か色んな場所に先端を地面に触れさせていく。

 

この時ルーチェモンはお怒り気味であった。「傲慢の魔王」だけあって思い通りにいかない上に、さっきから邪魔が入り予想外の事ばかり起こっているのが許せないでいた。

 

「さっきからこの私の邪魔ばかりしおって……いい加減しろォ!!」

 

先程までの丁寧口調から一変し乱暴な口調になり、一気に急降下しディアブロに迫る。

彼が数回目の同じ行動し終えた時ルーチェモンが直ぐに近くまで来ており反応する事が出来ず、モロに拳を打ち込まれ吹き飛ばされ建物に激突する。

 

それをルーチェモンは羽を羽ばたかせ上空から見下ろす。そして一回深呼吸して落ち着かせ何時もと同じように澄ました表示になる。

 

「ふ〜ん。いい加減君達と遊ぶのも飽きてきた。しかしこれで分かっただろう?所詮偽りの魔王で貴様にはこの「傲慢の魔王」にして最強の魔王である私には勝てないのだよ」

 

「さて、そろそろ私の完全なる世界を作るあげるために新たにこの世界を一度破壊するとしよう。お前達も一度死ぬ事にはなるが心配はいらない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の作り上げる世界(来世)で永遠の幸せを与えてやる。だから安心して死んでくれたまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フッ」

 

「?何が可笑しい?」

 

「……貴様の作り上げる完全なるだと?笑わせるな…ルーチェモンよ、確かに貴様は強い。今まで我が出会って来た者の中ではトップだったかもしれないな。貴様なら世界の支配者に慣れるのも容易い事であろう。しかし完全なる世界なのどこにも存在しない!故に貴様が作り上げる世界など、この真の魔王である我からすればタダの幻想に過ぎん!それに我がただ逃げ回っていただけとでも思うか」

 

すると突然ルーチェモンを中心に地面から無数の光が登り白魔法陣が展開される。

 

「こ、これは!?」

 

「これこそ我の最大魔術!あまりにも威力が桁違い過ぎるから動けないシェラ達を巻き込む訳にはいかなかったからな。だがら少し離れた場所まで移動する必要があったのだ。それに貴様は自身を【傲慢の魔王】と言った。傲慢の者は自分の思い通りにいかなくなるとキレやすいからな。だから今の貴様を誘い込むのは楽だったぞ」

 

「まさか……そのまで計算して…」

 

「これで終わりだ」

 

 

 

「食らえ!【アポカリプス・アビス】!!

 

 

 

 

魔法陣の中に土、水、風、炎…4つの属性の竜巻が四方から発生し吹き荒れルーチェモンがいる中心にへと向かっていた。

 

「クッ、こんな物!」

 

ルーチェモンは光のエネルギー弾を炎の竜巻に向かって放つが掻き消され消滅する。

 

「何!?うわっ!」

 

次第に竜巻は大きく膨れ上がりルーチェモンの姿は見えなくなり包んである魔法陣から飛び出しそうな勢い。そして4つのエネルギーが膨張していき一斉に大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

「ギィヤァァァーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

ルーチェモンの断末魔のような叫びを上げながら爆発の中にへと消えていった。

 

「ルーチェモン様が…」

 

「まさか…」

 

「ルーチェモン様がやられた…」

 

「そんな…」

 

「…そ……そんな筈がない!最強の魔王にして、我らの主人であるルーチェモン様があんな偽りの魔王如きにやられるなどある筈がないィィ!!」

 

従属官達は主人のルーチェモンがやられたと思い信じられないっと思考が停止した。中には発狂している者もいる。

 

「(今がチャンスだ!)ハッ!」

 

「何!?ウワァ!!」

 

ディアブロは従属官達が呆気に取られている間に魔弾をオウロウに放ち吹き飛ばす。そしてアリシアを助け出すと今度はアゼルに魔弾を放ち直撃する。

 

「どわァ!ッ何だ!?」

 

それによってシェラとレムを抑えていた足がたじろいだ事により、2人を救出しアリシアの元へ運ぶ。

 

「3人とも大丈夫か!?」

 

「う、うん」

 

「何とか…」

 

「私もです。それよりエデルガルド様とクレブ様は「その子達ならここだぜ」ッ!」

 

声がした方へ顔向けるとボロボロで額から血を流しているが、笑顔を浮かべエデルガルドとクレブを抱えているエミールがいた。

 

「エミール無事だったんだね」

 

「女の子がピンチなのに俺が黙って見てる訳にはいかないからね」

 

「それよりディアブロ様、早くエデルガルド様とクレブ様の治療を」

 

「あぁ、分かっている」

 

ディアブロは万が一の為に残しておいたポーションを2本取り出し2人に飲ませようとした。しかし……

 

 

 

 

 

 

 

グチャッグチャッ

 

 

プシャープシャー

 

 

 

 

 

…一瞬後ろから何か飛んできて横を通ったと思ったらクレブとエデルガルドの首から上がなくなっており赤い液体が噴水のように噴き出していた。その光景にシェラは口を押さえ発狂、アリシアとレムはその場に力無く座り込んでしまった。エミールは何が起きたのか理解が出来ず佇み、ディアブロは呆然としてしまった。その直後……

 

 

 

 

 

 

 

 

「先ずは2人だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……突如5人の後ろから声が聞こえ振り向くと煙の中に何か動く1つの影が……煙が次第に晴れていき姿を確認するとーーーーーーーーー顔や服がボロボロとなり額と口から赤い液体が流れているルーチェモンが右腕を向けている姿があった。そして右腕からバチバチと赤い電流(?)が走っていた。

 

「…今の技は効いたぞ。この私に血を流させるとは……」

 

次の瞬間隣にいたエミールの方から「プシャー」と何かが噴き出す音がしたので目を向けると、クレブ達のように首から上がなくそこから赤い液体が噴き出していた。

 

ただ純粋に見えなかった。攻撃の速度が速すぎて視界で捉える事が出来なかったのだ。

 

「この私に…最強の魔王であるこのルーチェモンに血を流させるとは…ーーーーーーーー貴様らタダで済むと思うな!今すぐ貴様ら全員始末してやる、この虫ケラ共ォォ!!」

 

 

最強の魔王である自分がこんな偽りの魔王如きに傷を付けられた挙句、血を流された事に完全にキレたルーチェモンは怒り狂い再び乱暴口調になっていた。

 

最強と言うなの称号に傷を付けられたた上、自分の完全なる世界が幻想であると馬鹿にされたのだ。その怒りは計り知れない。しかし…

 

 

「許さんだと……それはこちらの台詞だァァァ!!

 

 

…ディアブロから赤いオーラが立ち上り周囲にその風圧が巻き起こる。

 

「貴様が我を許さんと言うのなら勝手にしろ。我も貴様を許さん!クレブ、エデルガルドに続いてエミール、さらには大勢の罪のない多くの者まで殺した。その罪貴様の命で償わせてやる!」

 

2人のオーラが凄まじいエネルギーとなって衝突し合い地形を削り上げ変化させていく。

 

プライドを傷つけられたルーチェモンは今すぐにでも消し飛ばしてやりたいところだが、ディアブローー彼がしている指輪は凡ゆる魔法攻撃を倍の威力にして跳ね返す事が出来る。現にルーチェモンの技も跳ね返している。故に下手に強力な技を使えば逆に自滅しかねない。

 

「……貴様のしている指輪は厄介だ。私の力さえも跳ね返すその力は。だがーー」

 

 

 

グシャ

 

 

 

変な音がしたと同時に左腕に違和感を感じたディアブロは恐る恐る目をやると……

 

 

 

 

 

 

 

……左腕が根元から先が無くなっており血が噴き出していた。

 

 

「グァァァーー!!」

 

 

『ディアブロ(様)!』

 

 

「ーーその腕ごと消し去ってしまえば使えまい」

 

ルーチェモンが手にしているのは何とディアブロの左腕であった。そしてその片腕を投げ捨てると光のエネルギー弾を放ち消し飛ばしてしまった。

 

シェラとレムは出血を止めるためにディアブロに近寄りアリシアは3人が逃げる時間を稼ごうと前へ出てルーチェモンに向かって剣を振り上げる。

 

だがルーチェモンは何と指で受け止めそのままへし折られてしまう。そしてへし折った部分を投げ飛ばしアリシアの右肩に刺さりその反動でディアブロ達の近くに倒れた。

 

「お前は偽りの魔王でありながらこの私に血を流させた真償ってもらおう。しかしこの私が()()()()()()()()()()()とは言えダメージを与えた事は評価に値する。だからこの技でお前達を消し去ってやろう!」

 

その言葉にディアブロは戦慄した。ーーーあれ程の力でもまだ全力じゃない…だとしたらどう足掻いても勝てないーーーーこの時彼は目の前にいる存在に恐怖し後悔したが最早遅い。

 

ルーチェモンは左右の悪魔と天使の羽を羽ばたかせ上空で静止すると、右手を前に突き出すとモノクロのエネルギーの塊を溜める。それを見て従属官達は一斉にその場から離脱する。そしてそのエネルギーが次第に電流を纏ったかのように「バチバチ」と音を立てながら凝縮されていく。

 

ーーーーーーーーこれぞ自分が所属する軍の中でもかなりの実力者である死刃以上の者のみが使う事が出来る技の一つ。自分の血を混ぜる事によって空間をも歪ませる事が出来る最強の虚閃ーーーーーーーーーー

 

 

 

「食らうがいい!【王虚の閃光(グランレイ・セロ)】!」

 

 

 

 

ルーチェモンの掌から今までとは比べものにならないエネルギー弾が放たれた。ディアブロは杖の先端に魔法陣を展開させ魔力弾を放つが一瞬で飲み込まれ王虚の閃光は地面に衝突する。

その衝撃は町全体を包み込んだ。そして光が晴れるとそこにはディアブロ、シェラ、レム、アリシアの姿、そして町も綺麗さっぱり無くなり巨大なクレーターが出来上がっていた。

 

「…ふ〜ん、どうやら終わったようだな」

 

『ルーチェモン様!』

 

ルーチェモンの近くに彼の従属官が集まり皆お祝いの言葉を捧げ始める。

 

「流石ルーチェモン様、お見事でした」

 

「しかしあの魔王も愚かな奴だったな」

 

「あぁ、ルーチェモン様に敵うわけないのに戦いを挑むなんてよォ」

 

「当たり前だ。ルーチェモン様は最強の魔王だぞ」

 

「あのような奴に敗北するはずがない」

 

「…フン、当然だ。だがしかし中々楽しめたな、私がここまで力を出すとは…ん?」

 

「如何かされました?」

 

ルーチェモンはクレーターの中に降りとそこには小さな穴が開いていた。

目を光らせ次元の穴を拡げるとそこに手を突っ込み探ると何かを掴み上げ引き摺り出す。すると中から全身がボロボロで身に纏っていたであろう装甲が穴だらけになっている恐竜ーーーリザードマンらしき者が呻き声を上げながら出てきた。

 

「ハァ……ハァ……こ、此処は…?」

 

「ん!?貴様【グレゴール】か!?」

 

「ッ!?ま、まさかオウロウ様ですか!?」

 

そのボロボロのリザードマンは嘗てアリシアの策略によって剣に擬態しこの街に侵入した魔族【グレゴール】だった。

 

彼は魔術師であると共に戦闘面においても優れていた為街に侵入し正体を現してすぐに、レムが呼び出した使い魔を倒し街の人々に重傷をも追わせた。だがレムのピンチに駆けつけたディアブロには歯が立たず最終的に暗黒空間に幽閉されてしまっていた。

 

しかし先程の王虚の閃光によって空間が不安定になり僅かな隙間が開き、そこにルーチェモンが力を加えた事により空間が開いたのだ。

 

「その見た目にこの禍々しい力……貴様も魔族か?」

 

「ん?何だ?ヒューマンごとが俺に質問するか?片腹痛「そこまでにしておけ」ッ!?」

 

「貴様のような虫ケラがルーチェモン様にそのような口を聞くなど万死に値する」

 

何も知らないグレゴールはルーチェモンの見た目から人間と思い大口を叩くがそれをサウザーがエネルギーで形成した剣を首に当て騙される。

 

「サウザー、私のために動いてくれるのは嬉しいがまだ話の途中だ。剣を収めろ」

 

「ハッ!」

 

サウザーは命令により剣を収める。解放されたグレゴールは糸が切れた人形のように崩れ落ち両手を地面に付ける。

 

「口を慎めグレゴール!このお方こそ我等の新たな主人にして、お前を亜空間から助け出してくださったお方ーーーーーー魔王ルーチェモン様だ!」

 

「ま、魔王だと!?」

 

「そう、私は傲慢の魔王にして全世界最強の魔王ルーチェモンだ!」

 

ルーチェモンは白いオーラを出す。グレゴールはそのオーラを当てられ冷や汗を流す。

 

「こ、このオーラ…まさか本当に……ッ!!こ、これはとんだご無礼を!魔王様とは知らず先程のような態度を取ってしまい申し訳ありませんでした!!」

 

ルーチェモンが魔王だと悟ると慌てて跪き先程の無礼な態度を謝罪する。

 

「ほぉ、どうやら貴様は少しは礼儀を弁えているようだな。いいだろう。私の部下になると言うのなら許してやってもいいぞ」

 

「…か、畏まりました。このグレゴール今後は貴方様の為に精を尽くします」

 

ルーチェモンの発せられるオーラを当てられた事により恐怖と生きたいと言う感情が混ざり合い、グレゴールはその問いを承諾するしかなかった(しかし後にルーチェモンの強さを尊敬する事になる)。

 

 

そしてこの世界にいる他の魔王の元を訪れる。その理由は「この世界を支配する魔王は私一人で十分」との事。しかし己の傘下に降ると言うのなら生かしてやってもいいとの事だが案の定断られ決闘を申し込まれる。

結果は全て傷一つ付けられる事なくルーチェモンの勝利となり、その際傘下に降るかを再び質問するが同じく拒否されたのでその場で始末した。その場にいた魔族達は主人の仇を打とうと攻撃した者達は一瞬にして消されてしまった。恐怖でその場から動けなかった者達はルーチェモンがまた「私に傘下に降るか?」と聞いてきたのでその提案に乗った。

 

こうして魔族を引き入れ戦力をドンドン強化していったルーチェモンは今や巨大な軍となり自分に逆らおうとする者、従おうとしない者は次々と始末していった。彼の支配する領土は着々と広がっていき人間を始め、エルフ、妖精など多くの種族から恐れられる存在となった。

 

 

そしてこの世界は魔族の天下となり魔王ルーチェモンが支配する世界となった。




ルーチェモンの階級が明かされなった事に疑問を持った皆様……「いつ全員の階級を教えると言った?」なんて。

今後投稿されるのある話でちゃんと明かされるので心配しないでください。それまでルーチェモンの階級は何番なのか予想してお待ちください。また後何人か同じように階級が明かされない予定なのでそこはご賞味ください。

次回は誰が出来るのか楽しみにしていください。
感想などあればお願いします。
それではまだ次回まで!さらばじゃ!!


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6話 このくだらない世界に終焉を

皆様お久しぶりです。
今年もいよいよ残り後2時間くらいになってきました。
今年は私にとっても初めてな事が多かったので、大変な年でした。だからと言う事ではありませんが投稿が遅れてしまいました。
主な理由はポケモンをやっていたからです、すみません(土下座)


今回の世界はタイトルで勘付いている人もいると思います。今年映画にもなったあの作品です。時期はアニメ第1期の最終回終盤からです。そして今回登場する死刃はある意味この世界感にあっていると思います。

※注意
この作品は原作のメインキャラの扱いが酷いので、それが嫌だっと言う方はUターンをオススメします。
それでもいいと言う方はどうぞ。ご観覧ください。



黒い暗黒の雲に覆われ一筋の光もない闇の世界。その中に聳え立つ一つの城。それがこの世界の冒険者達が打倒を試みる魔王の城である。しかしその魔王の城の中では今思いも寄らぬ事が起こっていた。

 

『ギャァー!!』

 

「…こんなものか…この世界の魔王の力は……歯ごたえが無さ過ぎて呆れる」

 

「エェ、この程度の力しか無いとは…〇〇様は愚かこの私にすら遠く及びません」

 

そこにはこの世界の住人なら信じられない、いや信じたくない光景があった。なんと魔王が子供くらいの背丈の人間と思わしき少年に一方的にボコボコにされ床に倒れていたのだから。

 

「そ、そんな魔王様が…」

 

「魔王様が、あんな子供なんかに…」

 

周りにいた魔族達は主人であり己の種族のトップでもある魔王が人間と酷似した、しかも子供に手も足も出ず敗北した事にショックを受けていた。しかも王を助けようと動いた者達もまた、少年と同じく人間に酷似した姿の長い髭を生やした中年の男に一瞬で切り刻まれてしまった。

 

「…次はどいつが相手だ?何なら全員で纏めて掛かってきても構わない」

 

 

『ウ、ウワァァーーーー!!』

 

 

魔王を難なく倒した少年の力と恐ろしさに恐怖した配下の魔族達は一斉に逃げ出す。だが次の瞬間、突如皆足を止め少年に向き直る。しかしその目は光を失い全く生気を感じられなかった。

 

「お前達は誰の僕だか分かるな?」

 

「はい。我々は今より〇〇様の忠実な僕。何なりとご命令を」

 

何と逃げようとしていた魔族達は先程とは一変して襲撃してきた者に対して「様」付けをし敬うように跪く。それを見て年配の男はこうなる事が分かっていたかのようにニヤリと笑い、少年の方は静かに見据えていた。

 

「ではこれよりこの世界をこの俺、そして〇〇族の拠点とする為に行動を開始する!準備を急げ!」

 

 

 

今この瞬間、この世界は魔王を超える存在によって終焉を辿り始めるのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

アクセルの街。この街は魔王の城から最も遠く離れた場所に点在しているため、周囲に出現するモンスターのレベルも低く、治安も良いため活気付いている。強いて言うならこの世界で一番安全で優雅な街とも言える。

 

しかしそんな街でも優雅とは程遠い存在もいる。

 

その街の冒険者ギルドに話し合いをしている4人の男女が警察官のような服を着た女性にに呼び出されていた。

 

「佐藤和真…お前には国家転覆罪の容疑が掛けられている」

 

「ハァッ!?」

 

「佐藤和真」通称カズマーー彼は間抜K…不幸にも事故によって死んでしまいにある女神によってこの世界にへと転生したのである。

 

「え?何?報償金貰えないの?」

 

このやたらと偉そうで踏ん反り返っている水色の髪の女が「アクア」。カズマをこの世界に転生させた女神本人である。

 

何故その女神がこの世界にいるのかと言うとーーーーーーカズマはこの世界に来る前に転生特典を貰える事になったのだが、その特典にアクアを指名されてしまい共にこの世界に来る事になってしまったのだ。

見た目は超絶美少女で可愛いが、中身は我儘で自己中心的でちょっとでも嫌な事があると突っかかり「神」としての威厳も無くなる程酷い(カズマを転生させる時もポテチを食べ胡座をかきながら椅子に座っていた)。カズマ曰く「駄女神」である。

さらにはそのアクアを御神体とする宗教「アクシズ教」というタチの悪い奇人や変人の宗教が現れ人様に迷惑をかける始末。その為一部からは「女神の皮を被った邪神」とまで言われている。

 

「あ、あの私はちょっと用事があるので「行かせねェよ!」ッ!?」

 

こっちのカズマに止められた眼帯をつけ杖を持っている魔法使いは「めぐみん」。魔術を使う一族の中でもトップクラスの紅魔族の少女。人類最強の攻撃魔法【爆裂魔法】を使う事が出来る天才なのだが、使えるのはこの魔法のみ。スキルを上げようとしても「爆裂魔法以外は使わない」と全て技の威力を上げる為に使ってしまう。

しかもその魔法は1日に1度しか使用出来ず、使用後は魔力と体力を全て消費してしまう為仰向けに倒れ自分ではその場から動けなくなってしまう始末。

 

「流石にこれはなぁ…」

 

そしてこの黄色い髪の背の高い女性は「ダグネス」。

 

一応騎士ではあるが剣の立ち振る舞いが雑であり唯振り回しているだけで攻撃が全く当てられない。

さらに本人は身体に受ける苦痛や口汚く罵られる事に喜び(しかもそれを自ら望んでいる)を得ている。つまりは超が付くほどの「M」である。

しかし常に身体を鍛えているため体力はかなり有り身体も丈夫である(もっとも身体を鍛えているのは自分に苦痛を与えたいからとの事)。

 

そして当のカズマも大したスキルは持っていない。故にこのパーティーは実質役に立たない連中の集まりである。

 

それでも彼等はアクセルの冒険者達と協力して最悪の兵器「デストロイヤー」を殲滅し大量の報償金を貰うはずだったが、その「デストロイヤー」を殲滅する際テレポートさせた場所がある大統主の屋敷だったらしくそのまま吹き飛ばしてしまったらしい。その所為で罪に問われてしまったのである。勿論報償金なんて貰えずアクアはカズマの首根っこを掴み振り回す。

 

 

 

ーーーーーーーそうだった…思い通りにいなかいのがこの世界だよーーーーーーー

 

 

あまりのショックで虚ろ目になり絶望していたその時、突如1人の騎士が大慌てで扉開け息を切らせながら入って来た。そして警察官らしき女性にへと近づき耳打ちする。

 

「何だ?今私達は取り込みt……ッ!?何だと!?」

 

尋問の途中で話に割り込むなと叱るが、耳打ちでの話した内容に驚愕の表情を浮かべる。その表情に周りにいる冒険者やギルドの係りの人達も騒めきだす。勿論それはカズマのパーティも例外ではない。

 

「エ?何々?カズマ何が起きたのよ」

 

「俺が知るかよ!」

 

「しかしあの表情から察するにかなり深刻な事かもしれないぞ」

 

「もしかしてこの間の「デストロイヤー」の様みたいな関係では!?」

 

「あ、あの〜何かあったんですか?」

 

受付の女性がオドオドしながらも質問するがその返答はあまりにも衝撃的な事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔王軍がこの街に向かっているとの情報が入った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……エッ?

 

「あの〜すみません。聞き違いかもしれないのでもう一度お願い出来ますか?何が近づいていると…?」

 

「だから魔王軍の軍勢が今このアクセルに向かって進行している!しかもかなり近くまで来ているそうだ!」

 

それから暫く静寂が流れる。そして……

 

 

 

 

 

『エェェェェーーーーーー!!』

 

 

 

 

 

…全員の絶叫とも言える叫び声が建物全体に響いた。

 

 

「魔王軍ってなんだよそれ!?しかも軍勢!?」

 

「この間デュラハンの騎士が攻めてきたばかりだぞ、どうなってんだ!?」

 

「もしかしてソイツの仇を討ちって事じゃないのか?」

 

周りの冒険者達は魔王軍が街に向かっているとの情報に慌てふためく。そしてこの問題児パーティも例外ではない。

 

「おいおいおい、デストロイヤーを討伐したばかりだったのに魔王軍の軍勢なんて……巫山戯るのも大概にしろォォ!!」

 

「ちょっと魔王軍なんて冗談じゃないわよ!てか普通こっち側から攻め込むのが決まりでしょ!何で向こうから来るのよ、可笑しいでしょ!!」

 

「おっと私の魔眼が次なる使命を伝えている…申し訳ありませんが私はここで失礼しま(ガシ)「お前1人だけ逃がすか」…は、離してくださいカズマ!私には次の使命がァ!!」

 

「魔王軍、しかも軍勢…デュラハン(この間の奴)の様なのが沢山いるのか!ソイツらに一斉に相手にされたらーーーー私は一体どんな事になってしまうのだろうか、アァァ…」

 

カズマとアクアは魔王軍がアクセルに向かっている事に絶叫し、めぐみんは下手な言い訳をして逃げ出そうとして所をカズマに首根っこを掴まれてる。ダグネスに関してはいつもの様にスイッチが入り騒いでいた。

 

「ほ、本当に魔王軍がこの街に向かっているのですか!?」

 

「あぁ、しかも情報では更に巨大な魔物らしき存在複数確認されているとの事だ」

 

「冗談じゃねェ、こんな所居られるか!」

 

恐怖した冒険者達は1人、また1人と慌ててその場から逃げ出した。軈てあれだけ騒いでいた店内は一変し静寂が訪れ残っているのはカズマ一行と査察官(?)の女性とその部下、そして受付の女性達のみとなった。

 

「さ〜てと、じゃあ俺達とそろそろお暇するとしま「待て!」グヘ!!」

 

この場から去ろうとするカズマを査察官(?)の女性が、先程カズマがめぐみんにしたように首根っこを掴み止める。

 

「今からお前達に依頼を与える」

 

「い、依頼!?」

 

「最早嫌な予感しかしないんだが…」

 

 

 

「お前達にはこれより進行してくる魔王軍の討伐をしてもらいたい」

 

 

 

「………」

 

 

そして再び静寂が訪れる。

 

 

「…いやいやいや、無理でしょ、無理に決まってるでしょ!魔王軍の討伐!?貴方本気で言ってますか!?こんな戦闘力も一般人程度の俺に酒ばかり飲んだっくれてる駄女神、一発撃ったら動けなくなる魔術師、そして攻撃が当たらないクレセルダーのパーティですよ?そんな連中が況してや魔王軍の討伐なんて出来るわけないでしょ!!」

 

カズマは無茶振りなクエストに絶叫しながら訴える。…てか自身も含めてここまで自分のパーティメンバーを瀆せるとはある意味感心する。

 

「そうよ!だいたい女神の私が魔族と戦うなんてあり得なんだからね!それにデストロイヤー騒動(あんなこと)があって直ぐにこんなクエスト無茶振りもいいところよ!!」

 

「私もですよ。それにどうして私達なんですか!?そういうのはもっと凄腕の冒険者に依頼してください!」

 

「私は受けるぞ。大勢の魔族共にどんな目に合わされるのか…考えただけでゾクゾクしてくる…」

 

アクアとめぐみんは真っ向から拒否するが、ダグネスはその依頼を受けいれる。理由としては例の如くだが…。

 

「兎に角俺達はそんな依頼絶ッッッ対に受けませんからね!」

 

ややキレ気味に拒否し、カズマ一行は足音を立てながら建物から出ようとする。

 

「…もしこの依頼を達成したら、今回の容疑の件無かったことにしてもらうよう頼んでやってもいいぞ」

 

その言葉にカズマ一行の足が止まる。

 

「更にはそれなりの報酬を出そうと思っていたのだが仕方ない。なら別の冒険者に頼んで『ちょっと待った!』…何だ?」

 

「よく考えたら困っている人をホッとくのは冒険者として良くないよな。その依頼お受けしましょう」

 

「本当は物凄く忙しいんだけど、でもどうしてもと言うのなら仕方ないわね。特別にこの崇高なる女神アクア様が相手になってあげるわ!」

 

「し、心配ありません。魔王軍の軍勢であろうとこの私の爆裂魔法で瞬殺してあげますよ(ガタガタ)」

 

先程とは態度が一変し依頼を受ける事を承諾したカズマとアクア。めぐみんも強気に威張り散らしているが、その足は膝から下がガタガタと震えている。

 

「よォォし、魔王軍を倒して報酬をガッポリ貰うぞ!!」

 

『オォォーー!!』

 

しかし受けた理由があまりにも私情を挟み過ぎているにも関わらず隠す素振りもないので、依頼した査察官(?)の女性本人も呆れる。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

カズマ一行は魔族討伐の依頼を受けたのだが、後に自分達が仕出かした事の重大さに気付く。

 

 

ーー新たな借金が有耶無耶になるかもしれない喜びと報酬という言葉に目が絡んでしまっていたためにとんでもない依頼を受けてしまったーーと。

 

 

「どうするのよ!魔族の軍勢を相手にするなんて無理に決まってるでしょ!カズマ、どうしてそんな依頼受けちゃったのよ!この馬鹿!!」

 

「お前だって何だかんだ言っておきながら、報酬に目が眩んだじゃねェか、駄女神!」

 

「お、お二人共落ち着いてください」

 

「そうだぞ。言い争っても何も解決しないぞ」

 

依頼の件で喧嘩を始めるカズマとアクアをめぐみんとダグネスが止めに入る。軈てこの喧嘩がバカバカしくなってきたカズマが折れると大きな溜息が出る。

 

「ハァ〜、とんでもない依頼を引き受けちまったもんだ〜」

 

しかし最早後の祭り。戻ったとしても断るのは不可能、と言うか取り消してくれるわけがない。

 

そんなこんなで門を潜りトボトボと数歩歩いた時、突如空が黒雲に覆われていくのが目に入る。

そして前方から何かが現れ此方に向かって来るのが見える。目を凝らして良く見てみると…

 

 

 

ドシン、ドシン

 

 

ガシャ、ガシャ

 

 

 

バサッ、バサッ

 

 

 

…魔族の軍勢が足音を立てながらアクセルの街に向かって進んでいた。

更にその後方には頭部に二本の角を生やした太った巨大な赤い魔物、さらに太陽に酷似した仮面顔で赤い魔物と同じくらいの大きさの灰色の魔物、そして他の2種とは違い人並みの大きさの青い鳥顔の魔物が複数羽を羽ばたかせ飛んで来ている。

 

「おいおいおい、まさかあれが魔族の軍勢か!?」

 

「嘘でしょ、嘘でしょ、嘘でしょ!?もう直ぐそこまで来てるじゃない!これじゃ隠れる暇もないじゃない!!」

 

「あ、あんな数流石に相手に出来ませんよ!」

 

「あぁ、あんなに沢山…。あれだけの数で一斉に責められたらと思うとォ…」

 

相変わらずの一名を除き3人は目の前にまで迫っている魔族の軍勢に驚愕し、アクアはあまりの急展開に取り乱し始めてしまう。

その場で呆然と立ち尽くしていたカズマは意を決して声に出す。

 

 

「よし、こうなったら─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────戦略的撤退だァァァ!!

 

 

…と、体をUターンさせ大慌てで街の方へと走り出す。しかもアクアまで同じように走り出していた。

 

 

『て、逃げるんですか(のか)!?』

 

 

「当たり前でしょ!あんなのとマトモに戦って勝てると思うの!?絶対に無理に決まってるじゃない!!」

 

アクア(コイツ)と意見が合うのは癪だがその通りだ。こんなマトモな戦闘も出来ない俺達が勝てるわけがねェ!ここは一旦街に戻って他の冒険者達にも協力してもらわねェと!!」

 

何とも情けないと言っているが、全て正論なので2人は複雑を顔を浮かべる。カズマは門の所まで着き潜ろうとした瞬間…

 

 

 

 

 

 

ドカーーン

 

 

 

 

 

 

 

…目の前で何故の爆発が起こり後方へ数回でんぐり返しする。

2人は慌てて近寄り目が回っているカズマ達を起こさせる。

 

「カズマ、アクア大丈夫か?」

 

「な、なんとか…」

 

「もう何なのよォ、今のォ!?てか何でイキナリ爆発が起こるのよォ!?」

 

「み、皆さんあれを!」

 

めぐみんに指摘され上空を見上げるとそこには羽根を生やした背の低い黒髪の少年と、長い髭を生やした赤髪の中年の男が上空で静止していた。

 

この2人こそ魔王城を制圧した2人である。

 

4人の視線に気付くと両者ゆっくり降り着地すると背中の黒い羽根を消す。すると同時に後方にいた魔族の軍勢も進行を停止する。

 

「何よアンタ達!?アッ!さてはさっきの爆発ってアンタ達の仕業ね!イキナリ失礼じゃない!怪我したらどうするのよ!慰謝料払いなさいよ!!」

 

案の定アクアは騒ぎ出し難癖を付けてくる。しかし2人は耳を傾けず黙ってアクアを凝視していた。

 

「…感じるか?」

 

「はい僅かですが、あの女から感じられる忌々しい気配…間違いありません」

 

「やはりそうか。青い髪の女」

 

「な、何よ?」

 

「貴様……女神族か?」

 

その言葉に4人は驚愕した。この2人はアクアが女神であると一瞬にして見抜いたのだから。

 

「質問に答えろ。貴様は女神族か?」

 

「…よく分かったわね。そうよ、私は女神よ。でもねただの女神じゃないわ。全てにおいて至高にして神聖なる女神アクア様よ」

 

アクアは胸を張って全身全霊で己をアピールする。彼女の本性を知っている3人特にカズマからすればただ痛々しい光景にしか見えていないようで憐れみな眼差しを向けている。

 

「女神アクア…この世界にはそんな女神がいるのか」

 

「でもアンタ達一目見ただけで私を女神って分かるなんていい目してるじゃない。だっかっら〜特別にアンタ達の名前を聞いてあげてもいいわよ」

 

今ので調子付いたアクアは益々上から目線な態度を取る。調子に乗り過ぎて痛い目に合うということを学んだらどうだろうか?

 

「き、貴様この方に対して何という無礼な口を「寄せ」…し、しかし…」

 

「折角だ。この世界の女神族にも俺達の存在を知らしめるのも悪くないだろう」

 

 

 

 

 

 

 

「俺の名は【ゼルドリス】。魔神族の王となる者だ」

 

「私は【キューザック】。ゼルドリス様の忠実なる従属官」

 

 

 

 

背の低い少年と中年の男性…いやゼルドリスとキューザックの自己紹介が終わると2人の身体から黒いオーラが溢れ出す。その途方も無い力に冷や汗を流すアクアだが持ち前の強気で隠し余裕っぷりを見せる。

 

「で、その魔()族が何をしにきたのよ?ハッ!さては魔王と手を組んで私達を倒しに来たのね。でもそうはいかないわよ。何故なら私の部下達がアンタ達をケッチョンケッチョンにしちゃうんだから」

 

「おい待て…誰が部下だ誰が。つーかお前が『至高で神聖』だと?冗談は顔だけにしてくれ」

 

「ハァ!何言ってるのよ。この私、アクア様の美貌と可憐さと慈悲深さ全てにおいて至高じゃない」

 

「…遂に頭がイカれたか、この駄女神」

 

「何ですってェェ〜!もういっぺん言ってみなさいよ!」

 

カズマとアクアがしょうもない喧嘩を始めた事にパーティの2人は「またか」と言わんばかりに溜め息を吐く。

魔神族の2人も女神とは到底思えないアクアの態度の酷さに幻滅し、ゼルドリスは興味なさげに目を瞑るが、しばらくして口を開いた。

 

「ところでお前、さっき手を組んだとか言ったがどう言う意味だそれは?」

 

イキナリ質問をされたことで2人は喧嘩を止める。

 

「そんなの決まってるじゃない。アンタ達が魔王と手を組んで攻め込んできたんでしょ?そうでもしなきゃ魔王の軍勢がアンタ達と一緒にいるなんてことありえないもの」

 

アクアはこれまた自信たっぷりに説明する。彼女のこの自信さは何処から出てくるのか?

 

「あんな雑魚とゼルドリス様がか!?そこの人間の男が言うように笑えん冗談を言うものだなこの世界の女神族は」

 

「ハァ!?どう言う意味よそれ!?」

 

「後ろにいる魔族と言う奴らはもはや魔王の部下ではない。今ゼルドリス様の忠実な僕になっているのだ。そうだな、お前達」

 

キューザックは後方にいる魔族の軍勢にへと声を掛ける。

 

「その通りです」

 

「我々は偉大なるゼルドリス様の忠実な僕」

 

「我々はゼルドリス様にお仕えします」

 

魔族一同はそれに答え次々とゼルドリスに対する忠誠心ある言葉が出てくる。その状況だけでも驚愕することなのに、さらに彼らに信じられないことを聞かされる。

 

 

「それにその魔王とか言うのはゼルドリス様が既に始末しておられる」

 

 

その言葉を聞いた時4人の思考が停止した。何とこの世界の魔王は倒されているとのことであった。

 

「おい…嘘だろ…お前が…魔王を倒したってのか…」

 

「あぁ、しかし口程にもなかった。あの程度で魔族の王を名乗っていたとは片腹痛い」

 

「全くですな。ゼルドリス様には手も足も出ずヤラれてしまいましたからね」

 

まるで赤子を相手にしたような言い草。自分達の目標であった魔王討伐は目の前にいる子供によって足を踏み入れることなく潰えてしまった事実を知るカズマ一行。

 

そして当の本人のカズマは……顔を伏せながら身体が震えていた。しかし怖いから震えているのではない。その理由は……

 

 

 

ふ…巫山戯るなァァァ!!

 

 

 

「何勝手なことしてくれてんじゃァ!俺は魔王を倒すためにこの世界にこの駄女神に転生してもらったってのに、軽々と魔王を倒しただと!?巫山戯るなァ!!それじゃあ転生した意味がないじゃねェか!!」

 

 

…そう自分の役目であった魔王討伐を先に越されてしまったことに怒っていたのだ。しかし魔王を倒した相手に喧嘩を売るとは怖いもの知らずかこの男は。

 

「全くよ!私だって魔王討伐のお金を貯めるために色々頑張ってきたのに何勝手に魔王倒してくれちゃってゆのよォォ!!」

 

続くようにアクアも同じように噛み付く。しかしアクアよ…お前お金を貯めるようなことしてたか?賞金が手に入ったら即酒に使ったりして無駄遣いしていたよね?

 

「もぉ、アタッマにきたァ!こうなったらアンタ達を倒してその鬱憤張らさせてもらうからね!!」

 

「そうだな。魔王を倒したコイツ等を倒せば魔王を倒したことになるからな」

 

その考えは違う気がするが魔王討伐をこんな子供に先に越された怒りで2人は冷静な判断が出来ないでいた。それに巻き込まれるダグネス、めぐみん(2人)は哀れである。

 

「…いいだろう。俺もこの世界の女神族の実力を知りたいと思っていたところだ。キューザックお前は手出しするな、いいな」

 

「はい。畏まりました、ゼルドリス様」

 

キューザックは頭を下げると姿を消すと一瞬で魔族の軍勢の前に移動する。

 

「…この世界の人族と女神族よ。お前達の力見せてもらおう」

 

「へっ、その平然とした顔がいつまで続くかかな?」

 

「そうよ、ボコボコにされて許しを請おても絶対許してあげないんだから。でもぉ、私は心広〜い女神だから私の為に働いてくれるのなら考えなくもないけどグハッ!?」

 

自分の勝利に一切の揺る無しのカズマとアクアが淡々と言葉を並べていたら突如アクアが吹き飛んだ。すぐ横にいたカズマさえ一瞬何が起こったか分からずにいた。

恐る恐る目線だけをアクアから自身の横へ向けると、アクアが立っていた場所に拳を前に突き出しているゼルドリスがいた。

 

「(えっ、ちょっと待て。コイツさっきまであっちに居たよね。一瞬で此処まで来たの!?可笑しいでしょ!しかもアクアを一発で吹き飛ばしやがった。仮にもアイツは女神だよ。なのに一発で吹き飛ばした。どういう身体能力してるんだよコイツ!?)」

 

あまりの出来事に冷や汗が止まらない。そして目が合うとそのまま慌てて後退する。その間に吹き飛ばされたりアクアが起き上がる。その顔は怒りに満ちていた。

 

「ちょっとアンタ、私が喋っているのに手出すってどういうことよ!人の話は最後まで聞きなさいって親から教わらなかったの!?」

 

「…くだらん。貴様のつまらん会話に付き合う気はないんだ。」

 

「ムカッ 。もう完全に頭にきた!絶対許さない!【ターン・アンデット】!」

 

アクアが掌から光のエネルギー波を放つ。しかしゼルドリスは動く気配を見せずそのままエネルギー波を食らった。

 

「どう?この私の魔法は凡ゆる不浄なる者を浄化することが出来るの。これで貴方もお終いね。アーハッハッハッハッハ!!」

 

アクアは完全に勝ち誇ったように嘲笑う。確かに一般的な魔族であったら女神である彼女の浄化魔法を食らったここで勝負はついていただろう。しかし彼女が相手にしているは「魔神族」魔族の王さえも超える存在である。

 

「…フッ。───ハッ!!」

 

ゼルドリスは口元をニヤつかせ鼻で笑うと力を込め、気迫だけでエネルギー波を消し去った。

 

「う、嘘でしょ!?女神の私の魔法を吹き飛ばすだなんて!?」

 

「貴様の実力を知るために受けてみたが、随分と緩いな。俺の知っている女神族の連中と比べると全く歯応えがないな」

 

崇高(?)なる女神の自分に向かってあまりに屈辱的な言葉に怒りが込み上げてくる。

 

「だったらこれはどう。女神の怒りと悲しみを込めた一撃『ゴットブロー』!」

 

女神なのに怒りって言葉が出てくるのはおかしいと思うが今は置いといて、その怒りと悲しみのエネルギーを拳に纏い渾身の一撃を打ち込もうとする。

しかしゼルドリスは顔一つ変えずなんと片手でその拳を受け止めた。

 

「…この程度なら魔力どころか剣を使うまでもない」

 

信じられない、信じたくなかった。元々戦闘においてはそこまで高くないアクアだが、それでも聖なる力を持つ女神の拳を魔の者がしかも片手で受け止めるなんて考えたくもなかった。

 

「貴様のような軟弱な奴が女神族とはな…もう貴様に用はない。消e「【クリエイト・ウォーター】」ッ!?」

 

トドメを刺そうとした瞬間カズマの声が聞こえ、少量の水がゼルドリスに掛かる。

 

「何の真似だ?こんな技で俺を止められると思っているのか?」

 

しかし彼が放ったのは、ただ水を生み出すだけの初級魔法。ただの水が通用するばすも無くゼルドリスの怒りを買っただけに過ぎないがカズマの狙いは別にある。

 

「まだまだ、【クリエイト・ウォーター】!」

 

再び同じ魔法を使いゼルドリスに水を掛ける。その行動を何回か繰り返し、ダメージは無いものの流石に鬱陶しくなってきたようでアクアを離し標的をカズマにへと変え歩き出す。その隙にダグネスがアクアを抱え離れる。

 

標的を自分に向かせその間にアクアを救出する、それを確認すると水の放出を止める。

 

「そして【フリーズ】!」

 

そして別の魔法を唱えるとゼルドリスに掛かった水が一気に凍りだす。

これは水を凍らせる初級魔法。

さっきから【クリエイト・ウォーター】を繰り返し使っていたのは理由はこれの為。一回の使用につき出せる水は少量、しかしそれを繰り返せば桶数杯分の量に等しくなる。それを凍らせたしまえば動きを封じることができる。

 

「今だめぐみん、やれ!」

 

「輝きを秘めしこの力 不可視を我が元へと導き 混沌より接触せんとす 今 爆裂魔法が誘う」

 

 

 

 

 

 

 

『【エクスプロージョン】!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドカーーーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詠唱を唱え終えると杖の先端から業火の炎ーーーーーーめぐみんが得意とする爆裂魔法が勢いよく放たれゼルドリスに直撃する。そして周囲一帯を炎と爆音、衝撃波が襲う。

 

 

この一連の流れは全てカズマの作戦であった。先ず標的を自分に向けさせその間にダグネスごアクアを救出させ、【クリエイト・ウォーター】で全身がずぶ濡れになったところに【フリーズ】で一気に凍結させる。そして動きが止まったところにめぐみんが爆裂魔法を叩き込む。

ニートでバカなカズマにしては良く出来た作戦である。

 

 

衝撃波が止み目を開けると、爆裂魔法が直撃した場所は小さなクレーターが出来ていた。

 

「よぉし、よくやっためぐみん!」

 

「まぁ私に掛かればこんなの朝飯前ですよ」

 

めぐみんの技が珍しく上手く決まり喜び褒めるカズマ、そしてその事を胸を張るめぐみん。しかし地面に這いつくばっているような体勢なので格好がついていなかった…。哀れ。

 

「でもこれであの生意気な子供は仕留めたも同然。後はあそこに集団を何とかすれば…「ガシャ、ガシャ」ッ!?」

 

しかし喜びも束の間、爆煙の中から「ガシャ、ガシャ」と物音が聞こえ始めると動く影が見える。その物影のシルエットがハッキリと見え始めると中からゼルドリスが現れる。その顔と服には汚れが付いていた。

 

「なかなかの魔力だった。下級魔神なら今ので終わっていただろう。俺の動きを封じそこを強力な魔法を叩き込む作戦もなかなかだ。だが相手が悪かったな。それにその様子だともう先程の魔法は使えまい」

 

先程の爆裂魔法の威力には感心するが、それ以前にめぐみんの現状を見てかなりの魔力を消耗したことを察する。

 

「やはり俺はお前達を過信しすぎていたようだ。人族だけなら未だしも女神族さえもここまで落ちぶれているとはな…」

 

最強の爆裂魔法さえ無効化されてしまい

 

「最後に言っておくぞ。お前達は俺達の種族を『魔の人』だと思っているようだがそれは間違いだ。俺達は『人』ではなく『神』と書いて魔神族と言う。つまり俺達は魔の神、全ての魔の種族の頂点に君臨する神だ」

 

ゼルドリスから発せられる黒いオーラが形を作り出しその背後に巨大な巨人の姿として現れる。

 

「いやァーーー!!こんなところで死ぬなんて絶対イヤ!こんなクエストもう放棄するゥ!!」

 

あまりの恐怖心で遂にアクアはその場から逃げてしまった。しかもーーーーー敵に背を向けながらーーー。

 

逃げ出して数十歩程歩いた時、突然アクアの足が止まる。体を振り向かせると戻ってくるように足を進める。その光景に一瞬戸惑ったがそれでも女神としての責務を果たしたいんだっとカズマ達は思った。

 

しかしアクアはカズマ達の近くに来ても足を止めずそのまま進み素通りしてしまった。そしてゼルドリスの前までやってくると跪きこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は今からゼルドリス様の忠実な僕です。何なりとご命令を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背を向けて逃げたことによりゼルドリスの力に抱えってしまい僕とかしてしまった。その光景をカズマ達は唖然とし黙って見ていることしか出来なかった。

 

「ではこの俺、ゼルドリスがお前に仕事を言い渡す。ーーーーーーあそこにいる奴らを片付けろ」

 

「はい」

 

振り返り殺意のこもった眼差しでカズマ達に近づいていく。

 

 

 

「お、おいアクア冗談だろ?これもアイツの隙を作るための演技なんだろ?」

 

「そうだぞアクア。それに私達は苦楽を共にして仲間ではないか」

 

「そ、そうですよ、私達は仲間なんですから痛いことしませんよね?」

 

3人は必死にアクアを説得しようと呼びかける。確かに彼女のせいで酷い目にあったこともあったし辛いこともあった。それでも同じ釜の飯を食った仲である

 

 

「私は魔神族の王となるゼルドリス様の忠実な僕。もうお前達の仲間ではない」

 

 

しかし返答の言葉にはそんな思いなど一ミリも感じられない。今目の前にいるのは自分達が知っているアクアではない、思考を支配されゼルドリスの忠実な部下となった敵である。

 

 

「そうか。なら……思う存分今までの鬱憤を晒させてもらうぞォォ!!」

 

カズマはアクアが敵になったことでショックを受けたかと思いきや、彼女の酒癖の悪さや日頃のストレスが溜まっていき丁度いいストレス発散のために、アクアの頭に「グリグリ攻撃」をお見舞いする。

 

「毎度毎度大酒飲みやがって、その所為で俺がどれだけ大変な目にあったか分かっているのか!」

 

「イタタタタタタ!!」

 

「辞めろカズマ、アクアは操られているだけなのだぞ」

 

「そうですよカズマさん。それに今そんなこと言っても聞こえていないと思いますよ」

 

「何言ってやがる。コイツの所為で俺達がどんだけ大変な目にあってきたと思ったんだ!それに聞いていないんだったら、今ここでコイツに仕返しする絶好のチャンスだろうが!!」

 

ダクネスとめぐみんが止めようとするが、カズマは更に拳に力を込めアクアを悶えさせる。

 

その光景にゼルドリスは溜息を吐く。思考を支配したとしても能力や知力、力はそのまま、特にパワーが上がるわけではない。

だから期待はしていなかったがこれは酷い…酷過ぎる。まさか女神族ともあろうものが人族に力負けするなんて思いもよらなかった。

 

「もういい、見るに耐えん」

 

ゼルドリスは翼を出し飛び上がると、右腕を前に出すと掌に赤いエネルギーを溜めていく。そして放たれるは破壊をもたらす閃光ーー

 

 

「虚閃」

 

 

ーーーーーー自分達のやり取りで気付かなかったカズマ一行は成すすべなくそのまま閃光に飲み込まれ巨大な爆音と砂煙が上がる。カズマ一行がいた場所には彼等の影も形もなく巨大なクレーターが出来上がっていた。

ゼルドリスはクレーター前に着地すると、その隣に待機していたキューザックが近寄る。

 

「流石ですゼルドリス様」

 

「お世辞は辞めろキューザック。あんな奴ら俺達どころか、後ろにいる魔族(連中)の敵でもないだろう。まぁ邪魔者もいなくなったことだ、本題に取り掛かるとする」

 

「ハッ!お前達ゼルドリス様の命令だ!今からこの街を我等の物とする。いいな!」

 

『ハッ!!』

 

 

 

その後ゼルドリス率いる魔族の軍勢によってアクセルの街を蹂躙、なんとか冒険者達が食い止めようと立ち向かうが、全く太刀打ち出来ず命を落とす者もいればその場から逃げ出そうとする者もいた。もっとも逃げ出した者は片っ端からゼルドリスに思考を支配され配下に降った。

 

その後落としたアクセルを拠点に、拡大したゼルドリス率いる群勢はありと凡ゆる街や王国を襲撃し歯向かう者は実力の差を見せつけ捩伏せ、逃げ出そうとする者は瞬く間に配下にされていった。

 




今回は1話、2話とは違い前後編でなく一纏めにしました。
カズマ達があまり戦っているところを見た事がないからイメージが湧かなくて申し訳ありません。
ゼルドリスの階級もまだ明かされる時ではない。その時が来るまで待て。ーーー決して階級が決まっていない訳ではない。

メトロイドの方も投稿したので宜しければそちらもご観覧ください。
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本年も私の作品をご観覧してくださり誠にありがとうございます。来年もまたよろしくお願いします。


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7話 誇り高き武人 前編

お久しぶりです、アニメ大好きです。
7月も終わりに近づいてきたのに再びコロナの脅威が日本全国に!
皆様もコロナ、そして今後の熱中症等に気を付けてください。

今回は肘神さまさんが好きと言っていたキャラの登場です。
そして世界は数年前に原作が完結し、アニメ第三期が未だに来ないあの作品です。
それではどうぞ。



首都東京…その中でも1番の都市新東帝都。

この街では今、超巨大企業【M・B・I】の社長御中広人(みなか ひろと)による鶺鴒計画が行われている。それは108羽のセキレイと言われる者達の中から一羽だけが葦牙と言われる運命の相手と共に生き残りをかけたサバイバルゲームである。

 

その帝都内の東西南北の内3つのエリアを縄張りとしている南の葦牙、東の葦牙、西の葦牙という最強とも言える3名の葦牙、そして【M・B・I】の狗と言われているが、最強クラスのセキレイによって構成されている執行部隊【懲罰部隊】がいる。

 

そして今全てのセキレイが羽化(葦牙とキスする事で可能)した事により鶺鴒計画はさらなるステージに入った。

 

しかしその瞬間この世界もまたある者の不穏な影が忍び寄っていた。

 

 

 

 

 

 

 

ある夜の【M・B・I】の本社。

 

「これがセキレイとか言う奴らのリストか」

 

そのある一室に一つの人影が一台のコンピュータを操作していた。

 

その男(?)はM・B・Iの本社に侵入しデータベースにアクセスし登録されているセキレイと葦牙のリストのリストを開く。そして脇から一枚のCDを取り出し機会にへと挿入する。さらに端末を操作に画面上に「データを保存しています」と表示され緑色のバーが空白の部分を埋めていく。

そしてバーが完全に伸びきり画面上から消えるとCDを取り出しケースにしまう。

 

「よし、このデータがあれば…」

 

「誰だ!?」

 

後ろから光に照らされ振り向くと見回りの警備員がライトを翳し立ち塞がっていた。

 

「お前ここで何をしている!」

 

「フン、貴様に言うことは何もない」

 

その男(?)は警備員の目の前から消えると、(警備員)の腹部に衝撃が走り蹲る。痛みに耐えながら上を見上げるとさっきの男(?)が見下ろしていた。何が起こったのか分からないまま警備員は意識を失ってしまう。

 

「心配するな、無抵抗者に命までは取らん。それに今から引き上げようとしていたところだ」

 

男(?)はその場を後にする。そして部屋には倒れた警備員と光で暗闇を照らしている電源が付いたままの一台のPCのみとなった。

 

 

 

 

 

そしてそれから数日が過ぎたある日の夜。

 

 

一本の刀を持った1人のセキレイが帝都のとある場所で戦っていた。その近くには葦牙と思われる人物が彼女の戦いを見守っていた。しかし戦況は良くないようであった。

 

「ハァ、ハァ、何なんだコイツ」

 

彼女の身体には身体中に傷跡が付いており、息も荒く消耗していた。片や相手の方は汗一つかいておらず一切の疲れを見せない。

 

「どうしたこんな程度か?調べた所貴様等セキレイは戦う存在、言わば戦士だ。中には戦闘タイプではない奴もいるようだが、その戦闘系の奴でもこの程度とは。正直期待外れにも程があるな」

 

「こォんのォ〜.…嘗めんじゃねェ!!」

 

侮辱された彼女は刀をややがむしゃらに振り回した。対峙者は持っていた剣で防ぎながら受け流していた。互いの武器がぶつかり合い力比べに持ち込むが、体力の消耗もあってセキレイの方が押し切られ始める。彼女は一旦態勢を立て直そうと後退し距離をとる。だが…

 

「これ以上やっていても時間の無駄だ」

 

対峙者が彼女の目の前から消えたと思うと後ろに立っており持っていた剣をゆっくりと収めた。すると彼女の身体に斜めに斬られた後が現れそこから大量の血が吹き出し彼女の周りを赤く染め上げ彼女はその場に倒れる。そして首筋の後ろにあった鶺鴒紋(セキレイが羽化した証)が消えた。

彼女の葦牙の男性が近寄り必死に名前を叫ぶが閉じた目蓋が開くことはなかった。鶺鴒紋の消失────それはそのセキレイが機能停止した証拠である。その現実に男性は彼女の名前を叫びながら抱き抱え泣きじゃくっていた。

 

対峙者はそれを見届けると声をかけるも何をするでもなく、静かにその場から立ち去っていた。

 

 

 

そしてその日同時に複数の場所でセキレイが何者かに襲われ機能停止した。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

帝都の北エリアにある木造アパート【出雲荘】。そこに住んでいる冴えない顔の男性【佐橋皆人】。新東大学を受験しているが2浪してしまっているちょっと悲しいと言うか可哀想な男。そしてこの男もまた葦牙の1人。

 

「ふぅ〜、今日も平和だな」

 

彼は今再受験に向けて勉強していたところで、一段落したので一息入れようと思った時…

 

「皆人さ〜ん!」

 

…突如部屋の扉が開かれ1人の女性が入ってきて詰め寄る。

 

「む、結ちゃん!?どうしたの?」

 

「皆人さん、今日はお天気がいいですから一緒にお散歩に行きましょう」

 

この元気一杯の女性が【結】セキレイNo.88、佐橋皆人が2度目の桜が散った(2浪が決定)日に出会い、彼が一番最初に羽化させたセキレイでもある。

天然な子で尚且つ戦闘好きで最初の頃は相手がセキレイだと知ると御構い無しに戦闘を開始したりしていた。しかしここ(出雲荘)の大家さんのお陰で今では少し慎みを覚えて見境なく戦う事はなくなった。

さらに見かけによらずかなりの大食いであり、10人前をアッサリ平らげてしまうほど。攻撃系統は拳系。

 

「これ結、本妻の我を差し置いて皆人の側に近寄るでない!」

 

この高飛車な女性が【月海】セキレイNo.09、皆人が4番目に羽化させたセキレイ。シングルナンバーの1人で戦闘力は一般のセキレイと比べても高い方である。

しかもプライドも高く、羽化前は葦牙の事が嫌いで目の前に現れた皆人を頑なに否定し殺そうとまでした。しかし羽化した今では自ら正妻を名乗り程彼にゾッコンであり、共に最強のセキレイを目指している。能力は水を操る力である。

 

「お兄ちゃん、くーも一緒に行くの〜!」

 

こっちの小さい子供は【草野】セキレイNo.108、皆人が2番目に羽化させたセキレイ。みんなからは「くーちゃん」と呼ばれている。主な能力は植物の成長させ自由自在に操る力。

しかしまだ子供なためか感情が高ぶると暴走させてしまうのが難点。

この子も皆人が好きで「お兄ちゃん」と呼んでいる。

 

「あらあら、あの子達本当に元気ね」

 

四人の様子を屋根の上で見ながら酒を汲んでいる女性は【風花】セキレイNo.03、皆人が5番目に羽化させたセキレイ。

元々はある人物に恋をしていたが振られてしまったため、自分の探しの旅に出ていきたがいつの間には地酒巡りをしており酒好きになってしまったのだと言う。

因みに皆人に惚れたのはその元彼に似ていたからだと言う。能力は風を操る力。

 

視線を皆人達から酒が入った器に向けるとと風が吹き水面を靡かせる。

 

「なんか不穏な風…嫌な感じ」

 

しかしその吹いた風に嫌な雰囲気を感じっていた。そしてその予感は的中するのであった。

 

 

 

 

 

 

所変わって出雲荘のとある一室。しかしそこが部屋と言えるかは謎である。何故ならその部屋は窓一つ無く複数のコンピュータ、そして入り口は壁でカモフラージュされているため、正に秘密の部屋と言うべきか。その部屋に今二人の人影があった。

 

「松、イキナリ呼び出してどうしたんだい?」

 

今話しかけた人が【焔】No.06、皆人が6番目に羽化させたセキレイ。普段は「篝」と言う偽名を使っている。元々身体の調整が不安定で性別が不安定であった上に、力が暴走して身を滅ぼしそうになった。しかしそれを皆人が助け彼のセキレイになった事により、身体の調整が落ち着き暴走も止まった。因みに身体が落ち着いたことにより女性の身体になったが癖で一人称は「僕」である。能力は炎。

 

そしてもう一人の眼鏡をかけた怪しさ全開の女性が【松】セキレイNo.02、皆人が3番目に羽化させたセキレイ。セキレイの中でも一、二を争う程の頭脳の持ち主でコンピュータのハッキングもお茶の子さいさい。しかし戦闘に関しては皆無。今は訳あって【M・B・I】から追われる身となっており出雲荘に隠れて暮らしている。そして篝曰く【エロ魔神】でもある。

 

「篝たん、先ずはこれを見てほしいですよ」

 

松がコンソールを操作すると、一つの画面にある画像が映し出される。それは機能停止したセキレイのデータであった。

M・B・Iはセキレイや葦牙、そして機能停止したセキレイの情報も全て管理し保存しているのだ。しかしその機能停止したセキレイのデータには大きく『勝者不明』の文字があった。

 

「…松、これは…」

 

「見ての通りですよ。『勝者不明』このセキレイが倒された時には誰もいなかったんです」

 

セキレイにと戦いのルールがある。相手のセキレイを倒した勝者はM・B・Iが回収に来るまでその場にある。それが倒した者への責めてもの礼儀とのこと。しかしこの『勝者不明』と言うことは倒されたセキレイの近くには誰もいなかった。つまり倒された後そのまま放置されていたということ。

 

「まさか彼女が…」

 

篝が言う彼女とは『比礼のセキレイ』である。白い布を靡かせ東の葦牙「氷峨泉(ひが いずみ)」の命によって標的のセキレイを次々に襲っていた。そう…()()

実はその正体は出雲荘で暮らしていたセキレイであるNo.10【鈿女】。彼女の葦牙である女性が病院で長期入院しているのを利用されて氷峨の命令を受けている。このことを知っているのは風花、松くらいである。しかしその彼女はこの前氷峨のセキレイ達から結達を守るために機能停止した。だからそんなはずなのにっと篝は動揺する。

 

「いえ、それはないと思うです。次にこれを見てほしいですよ」

 

しかし松はその可能性を否定し、端末を操作すると更に機能停止したセキレイの情報を映し出す。そしてそのセキレイ達にも『勝者不明』の文字が。

 

「このセキレイ達はほぼ同時刻に別々の場所で機能停止した。いくら何でも比礼のセキレイ1人では不可能ら、つまり襲撃犯は複数の可能性があるです」

 

「でもそれだったら東の葦牙のセキレイ達と言う可能性も…」

 

「…松もそれは考えたです。でもこれを見てくださいです」

 

さらに端末を操作すると今度は機能停止したセキレイのその直後の映像が映し出される。その身体には刃物のような物で斬られた切り傷や腐食痕、そして火傷の後があった。

 

「このセキレイが負わされたのは火傷、つまり炎の攻撃を受けたですよ」

 

その理屈に間違いはないのだが、疑問に思うところはそこではない。炎の能力を使うセキレイは篝、基焔だけである。しかし火傷の後、つまりこのセキレイはセキレイ同士の戦闘で機能停止したとは考え難いのだ。

 

「それに先日のニュースのこと覚えているですか?」

 

約一週間程前セキレイゲーム参加者全員を騒がせるほどの大事件が起こった。その内容が…

 

 

 

 

 

『昨夜M・B・Iの本社に何者かが侵入した模様です。一室の前に一人の警備員が気を失って倒れておりましたが、命に別状はないとのことです』

 

 

 

 

 

 

現在もその犯人は捕まっておらずM・B・Iが懸命に探している。

…ここで思い出してほしい。M・B・Iにはセキレイや葦牙のデータを保存してある。そしてこのニュースが報道された時期と多数のセキレイの機能停止した時期が近い。つまり…

 

「あのニュースで言っていたM・B・lの本社に侵入した奴がこの事態を引き起こしていると言うこと…」

 

「…その可能性が極めて高いです」

 

その日の夜に何者かが侵入してセキレイと葦牙の登録データが盗み、そこから得た情報でセキレイ達を次々襲っていると言うのであればこの事態にも納得がいく。そんなことを考えていた時…

 

 

 

 

 

ドカーーーン

 

 

 

 

 

…とあるモニターの方から爆発音が聞こえそっちの方へ視線を向ける。それは散歩に出かけた皆人達の様子を監視していたモニターであった。

 

「ッ!?」

 

「これは!?」

 

そして2人が眼にしたのは皆人達がある存在に襲われている光景であった。

 

 

 

────────────────────────────────────

 

 

少し前に遡り散歩に出かけた皆人御一行。右には結が、左には月海が腕を絡め寄り添い、草野のことくーちゃんは皆人の足にしがみ付いており──────ある意味男の夢を実現していた。

 

「これ結!あまり皆人に抱きつくでない!」

 

「でも、月海さんも皆人さんに抱きついていますよ」

 

「我は皆人の本妻じゃ。故に妻が夫に寄り添うのは当然のことじゃ」

 

「結も妻ですから皆人さんと寄り添います」

 

「ウゥ〜、くーも妻だもォ。だからくーもお兄ちゃんと一緒だもォ」

 

「これお主ら!エーイ、いい加減皆人から離れんか!!」

 

「ちょ、ちょっとみんな落ち着いて(汗)」

 

皆人の本妻(自称)の月海は、結の行動が気に入らず口を出すが、天然である結の方が一枚上手のようでさらに皆人に寄り添い、それに釣られてくーちゃんまでも詰め寄り益々ヒートアップする。色んな意味で大変な男である。

 

「ッ皆人!」

 

「皆人さん、危ない!」

 

「えっ!?」

 

しかし突如何か気配を感じ結と月海は、皆人を抱え後退する(くーちゃんは皆人の足にしがみ付いているのでそのまま釣られて後退しています)。すると次の瞬間…

 

 

 

 

 

ドカーーーン

 

 

 

 

 

 

…上空から何か降り注ぎ大爆発を起こした。そしてその場所の地面からは煙が上がり小さなクレーターが出来上がっていた。

 

 

 

「ほぉ、今のを躱すとは中々やるなァ」

 

 

 

煙の向こうから声が聞こえ視線を向けると、複数の影が足音を立てながら近づいてくる。しかし現れたのはセキレイでも葦牙でもない、いやそれどころか人とは言えない姿であった。全身甲冑に身を包んでいる黒い鎧武者、そしてその背後には複数の人ならざる存在が控えていた。

 

「何者じゃお主ら、セキレイではないな」

 

「フン、俺達を貴様等のような存在と一緒にするな。だが今までの奴らとは違い少しは骨がありそうだな」

 

その鎧武者は先程の攻撃で、結と月海が並のセキレイより強いと言うのを見抜いた。事実出雲荘の大家さんに毎朝鍛えられていることもあって実力は少しずつ上がってきている。恐らくセキレイ中では戦闘力は高い方でないかと思う。すると月海が皆人達3人の前に出る。

 

「結、ここは我がやる。汝は下がっておれ!」

 

「あっ!月海さんズルイです。結も戦いたいです」

 

「何を言っておる!これはセキレイ同士の戦いではない。奴らは何者かも分からぬ故、現状では実力も分からぬ。もし奴らが卑劣な輩なら皆人を巻き込んでくるやもしれぬ」

 

皆人のセキレイになる前までは、日々戦闘に身を投じてきたと言っても過言ではない。故にこの男(?)から強者のオーラを感じ取り皆人に危害を加えないようにしようと前に出た。

そして相手はセキレイではない為、「戦いは1対1」と言うセキレイ同士の戦いのルールが通用するとも限らない。それにセキレイの中には不意打ちして倒そうとした輩もいた。だから結に皆人とくーちゃんを守るように勧めた。しかし…

 

「それに戦いは1対1じゃ!じゃからお主は皆人を守ってやれ」

 

…どうやら戦いは1対1と言うのは自分の中では守りたいらしい。

 

「ほぉ、貴様のその戦いおける誇り(プライド)……気に入った!それに煎じて貴様の相手は俺1人でする!お前達絶対に手を出すな」

 

『ハッ!』

 

鎧武者の言葉に後ろに控えていた者達が答えその場で待機する。そして男(?)も一歩前に踏み出し月海と対峙する形で向き合う。

 

「お主、妾の戦い方に賛同してくるとは…以外じゃの」

 

「今言っただろう。俺はお貴様戦いにおける誇り(プライド)が気に入ったったと。それに俺自体卑怯な手を使うのは好ましくないからな」

 

「お主の戦いにおける誇り…妾も気に入ったぞ。なら我も全力を持って戦うこととしよう」

 

月海も鎧武者はお互いの戦いにおけるやり方に気に入り、歓喜を震わせ全身全霊で戦うと宣言した。

 

「セキレイN「No.09の【月海】だろ、知っているぞ」なっ!?汝、何故妾の名を知っている!」

 

「何簡単なことだ。確かM・B・Iとか言ったか?そこのデータからお前達セキレイの情報を調べたからだ」

 

この時月海は先日偶然食事の時に放送されていたニュースの内容────『M・B・I本社に侵入者が出た』────を思い出した。

 

「まぁ、俺が貴様を戦う相手に選んだのは、()()()関係しているがな」

 

「?…まぁ良い。我の前に立ち塞がる者は全て敵、セキレイであろうとなかろうと関係ない。全力で相手をするまでじゃ!!」

 

「ほぉ、貴様の戦いに対する想い…やはり俺達は気が合うようだ。貴様が俺と同じ武人であればいいライバルになっていたかもしれん」

 

「我もじゃ。ここまで息が合う者がいたとは思わなかったぞ」

 

鎧武者は月海の戦いへの想いが自分と似ていることから、互いに最高の戦いが出来ると歓喜した。しかしそれがターゲットである存在であることに「惜しい」さを感じている。それは月海も同じ感情らしい。

 

「では早速戦いを始めたいところじゃが、その前に────汝、名を名乗ってもらおう。知っていたとは言え我は名を名乗ったのじゃ。汝も名乗るのが通りと言うものであろう」

 

「…それもそうだな。では名を名乗っておくとしよう。俺は【サーガイン】。俺が所属する軍では俺のことを『誇り高き武人』と呼ばれている」

 

名を名乗り終えると鎧武者───サーガインは両肩に収納されていた二本刀「巌流剣(がんりゅうけん)」を抜き構える。

 

「シングルナンバーの実力、見せてもらうぞ」

 

「では……参る!」

 

サーガインは構えたまま走り出し、月海は手先から水を放出─────互いの誇りを掛けた戦いが始まった。

 

 

 

─────────────────────────────────────

 

 

そして皆人達3人は、月海の戦いを少し離れた場所から見守る。

 

「お兄ちゃん、つーちゃん大丈夫だも?」

 

「大丈夫だよくーちゃん。月海は強いから負けないよ」

 

「いいな月海さん。私も戦いたかったです」

 

「む、結ちゃん…」

 

草野が心配するのを皆人が安心させようとしている中、結は彼女も戦いが好きなため月海が1人で戦いを挑んだのを羨ましいがっていた(前に月海が戦闘を開始した時後ろで目をキラキラさせていたことがある)。そんな時…

 

 

「おい、小娘暇なら俺達が相手してやるぞ」

 

 

…声がした方へ顔を向けると鎧武者───サーガインの後ろに控えていた数人が立ち塞がっていた。

 

「君達はさっきの人の。結ちゃん相手にしてちゃ「本当ですか!?」ッちょッ結ちゃん!?」

 

得体のしれない相手からの誘いを皆人は結に断るように言おうとしたが、当の結は目をキラキラさせ期待の眼差しをしていた。

 

「サーガイン様があのセキレイの小娘とお一人で相手をされることになったから、俺達も暇になっちまったからな。それにお前を戦いたかったみたいだし丁度いいだろう」

 

「ハァァ〜(キラキラ)ならお願いします!!」

 

結は丁寧にお辞儀をして感謝の言葉を述べる。

 

「へへへ、なら俺が相手をしてやるルー」

 

「あ、おい待て!ズルイぞ!」

 

「早い者勝ちだルー」

 

前にで出来たのは、両手にはボクシンググローブのような巨大な拳、胸には6つの絵が書かれたルーレットを付けた全身が機械で出来たカンガルーである。

 

 

「セキレイNo.88結、拳系です!」

 

混沌(カオス)No.64(セセンタ イ クアトロ)【カンガルーレット】だルー!」

 

 

お互い自己紹介を終えると両者走り出し拳と拳をぶつけ合う。

 




と言うことで今回の十一刃はサーガインです。
因みに「混沌」は以前アンケートを行なって肘神さまさんからアイディアから頂きました。ありがとうございます。
何故サーガインが月海を指名したのかは次回明らかなります。それまでサーガインの階級が何なのか予想しながら待っていてください。

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8話 誇り高き武人 後編

どうもアニメ大好きです。
今回は早く出来ました。

今回から「エスパーダ」の字が「死刃」になります。少し前から思ってたのですが「十一刃」ってなんか変な感じがしたのでどうにかしたいと思っていたのです。
アイディアをくださった肘神さんありがとうございます。
ようやく少し涼しくなり快適になってきましたが、未だにコロナの脅威は晴れません。皆様もお身体には充分注意してください。

それではどうぞ。


 セキレイNo.09月海は突如として現れた鎧武者サーガインと互角の戦いを繰り広げていた。

 まず月海が得意技である【水祝】で先制攻撃を仕掛けるが、サーガインはその場でじっと構えて巌流剣で真っ二つに切り裂いた。まさかの出来事に唖然としている月海に容赦なく突っ込んでくるサーガインは剣を振り上げる。刀が振り下ろされる瞬間に月海は右手に水を剣状に纏わせ受け止める。これぞ大家の美哉との修行で習得した技【水劍(みずのつるぎ)】。

 

 しかしパワーはサーガインの方が上のようで次第に月海が押され始め膝が地面に着く。月海は残っていた左手から水を放出、サーガインは水の勢いにより後退するが、踏ん張り払い退ける。

 

「ハァ、ハァ…お主中々やりおるのぉ」

 

「フン、当然だ。剣術に於いて俺の実力はトップクラスだ。貴様等セキレイにも剣を使う奴はいたが大した実力はなかった」

 

 事実サーガインが相手した剣使いのセキレイは手も足もでなかった。恐らく剣術で互角に戦えるのは現懲罰部隊筆頭のNo.04【鴉羽(からすば)】くらいであろう。

つまり月海は懲罰部隊筆頭を相手にしているようなもの。マトモに遣り合えば勝ち目はないが、しかし彼女には勝算があった。

 

「確かに汝の実力は確かじゃ。しかし、汝は我には勝てぬ!」

 

「何!?」

 

「先程から汝の攻撃方を見させてもらったが、汝はその二本の剣を使っての接近戦による攻撃が主流。しかし我は遠距離を得意とする。故にこの勝負は我の方に部がある!違うか!」

 

 月海は自信満々に説明しサーガインを指差す。確かにその説明は絶対とは言い切れないが間違っではない。

例を上げるなら剣士が弓使———直接戦って勝てるか?と言ったところだろうか。

 懲罰部隊筆頭を相手にしているのと同じことだが自身も日々大家(浅野美哉)に鍛えられている。故に隙を作れば勝機はあると踏んでいる。

 

「…確かに俺は武人、刀を使っての攻撃が主だ。だが、誰が刀しか使えんと言った?」

 

 サーガインは持っていた巌流剣を上空へと投げ飛ばすと両手の指を月海に向ける。するとその指先から無数の銃弾と思われるものが飛び出してきた。

 

 月海は腕を前に出し攻撃を防ごうとするがら複数のの銃弾は月海の足や頬を掠った。残りの銃弾は地面に命中にその爆発で煙が舞い視界が奪われる。このままでは先手を取られると思い後退し煙から出るが、直後自分に覆いかぶさる一つの影が。振り向くと投げ飛ばした刀を両手で持ち振りかざしているサーガインの姿があった。

 月海は咄嗟に両手で防ごうとするがサーガインの腕力に重力による重みが加わりその衝撃で吹き飛ばされる。だがなんとか体勢を立て直し踏み止まる。

 

「どうした、この程度でくたばるのか?情報によるとシングルナンバーはセキレイの中でもかなりの強者だと聞いていたが、これでは今までの連中と同じではないか。飛んだ拍子抜けだ」

 

「…ハァ、ハァ。何を言っておるのじゃ」

 

「ン?」

 

「我は葦牙と…皆人と共にセキレイ計画を制覇し最強のセキレイとなるのじゃ。この程度のことでくたばりはせぬ!!」

 

 月海は傷を負い息を荒げながらも、その目に映る闘士の炎は消えていなかった。

 

「貴様のその意気込み…やはり良い。いいだろう、貴様の攻撃全身全霊で受けてやる!来い!!」

 

 この掛け声と共に再び月海の水とサーガインの刀がぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 そしてセキレイNo.88結もサーガインの従属官(部下)であるカンガルーレットと激しい戦闘を繰り広げていた。

 

「ハァァー!」

 

「ルゥー!」

 

 お互いの拳による攻撃なため、その拳がぶつかり合ってかなりの衝撃波が2人の周囲に広がる。

 

「貴方物凄く強いですね。ワクワクします」

 

「へへへ、小娘俺様の力がこんなものだと思ったら大間違いだ〜ルー!」

 

 胸の前で腕をクロスさせ広げると胸のルーレットが高速で点滅しながら周りだし、次第に「ピコ、ピコ」と減速すると一箇所に止まる。止まったマスには倒れた建物の絵が描かれていた。

 

「地シィィンー!!」

 

 いきなり地面に拳を叩き込む。その振動で激しい揺れが起こり、結びを含めその近くにいた皆人や草野まで足元立っているのがやっとである。

 さらに連続で拳を叩き込み振動はドンドン大きくなっていき、遂には結の身体はその振動によって上空へと放り出されお尻を軽く打った。打ったお尻を摩っていると…

 

「痛ってて…」

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

 …後ろから皆人の草野の声が聞こえ振り向くと、苦痛の表情して横たわって皆人の近くで草野が心配して寄り添っていた。

 先程の振動で2人も上空へと放り出され皆人は草野を守るために、自らの身体を盾にして背中から地面に強打してしまったようだ。

 

「皆人さん大丈夫ですか!?」

 

「うん、平気。少し背中を打っただけだよ」

 

 結は心配しながら急いで掛けより安否を聞くと、皆人はいつものように笑顔で返してくれる。大事に至らなかったので結と草野は一先ず安心した。

 

 結は立ち上がりカンガルーレットへ振り返るとその顔はさっきまでと違い怒りに満ちていた。

 

「皆人さんやくーちゃんまで危ない目に合わせて、私怒っちゃいました!貴方を絶対に許しません!」

 

「フン、だったらやってみろルー」

 

 そして両者ともに駆け出しカンガルーレットは拳を前にへと突き出す。しかしその拳が当たる瞬間、結は身体をズラし脇に入り込み彼の胸に全力の力を込めた一撃を食らわせる。

 

「ハァァア!!」

 

「ルゥーー!!」

 

 その強力な一撃に吹き飛ばされ地面を転がる。ダメージを受けながらも身体を起き上がらせると、カンガルーレットの胸のルーレットが再び高速で回り始める。そして止まったマスには燃える家の絵が描かれていた。

すると右腕をブンブンと振り回し始め…

 

「火ァァーー事ィィーー!」

 

 …その言葉と共に右腕を勢いよく前に突き出すと拳から炎が放たれる。結は腕でカードすると爆炎が舞い上がる。

 皆人は「結ちゃん!」と叫ぶが爆炎の中から服がボロボロになっているがほぼ無傷の結が姿を見せる。

 

「な、何!?」

 

「結ちゃん大丈夫?」

 

「はい!結は大丈夫です!でも凄い威力ですね。ビックリしました」

 

「二〜、ならもう一発お見舞いしてやるルー」

 

 結の平然としている態度にイラついたのか、もう一度食らわせようと攻撃体勢に入ろうとした時、突如両腕に植物の蔦が巻き付いてきた。

 

「な、なんだルー!?」

 

 さらには両脚、身体にまで蔦は絡みついてきて身動きが取れなくなる。この能力に見覚えがある結は皆人の方へ振り返ると、草野が自身の能力で植物を急成長させていた。

 

「くーちゃん!?」

 

「くーも妻だも。だからくーも、むーちゃんのお手伝いするんだも!それに、むーちゃんが怪我したらお兄ちゃんも悲しむも」

 

 まだまだ幼い草野でもみんなの役に立ちたい、助けたいと言う思いは結達に負けないくらい大きい。そして何より皆人が悲しむ姿を見たくないし、自分(草野)大切な人()を失いたくないのである。

 

「…分かりました。ありがとうございます、くーちゃん」

 

 結は草野にお礼を言う。しかし本音を言えば1人で戦いたいが、草野の言葉を聞いて皆人を悲しませないためにこの一撃で終わらせるために力を貯める。一方のカンガルーレットは何とか振り解こうとするが強く巻き付かれているため時間が掛かって動けずにいた。

 

 その隙に結は駆けだす。その彼女の後方に熊の幻影が見える。

 

「熊ァァッ拳!!」

 

 力を込めた結の拳が当たろうとしたその瞬間…

 

 

 

 

 

 

ブチ、ブチ

 

 

 

 

 

 

…何かがカンガルーレットを縛っていた蔦を撃ち抜き拘束が取れる。しかしそのまま拳が撃ち込まれ後方へと飛び地面を転がる。少しヨロヨロになりながらも立ち上がると、胸のルーレットが回り出し今度は爆弾の絵が描かれたマスに止まる。

 

「バックダァァン!!」←(爆弾)

 

 その言葉の直後結のいた場所がいきなり爆発し吹き飛ばされる。うつ伏せになりながらも顔を上げると、カンガルーレットの前にスリングショットを持った小さな子供くらいの大きさの人ならざす者が現れる。

 

『フフ〜ン。ダメだよ、1人相手に複数で協力して戦うなんてさぁ』

 

 まるでマスクをしているかの様な篭った声が響き渡るが、後ろにいるカンガルーレットが不機嫌な様子で怒鳴り付ける。

 

「オイ!お前、余計なことをするなルー」

 

『何言ってるの?それにさっき助けなかったら君危なかったよ』

 

 その言葉にカンガルーレットは押し黙る。事実あのまま攻撃を食らっていたら、両手、両脚を蔦によって拘束されているため後方に飛ばされる勢いで拘束部分が千切れていたかもしれないのだ。そうなってしまえばい例え生きていても戦闘不能になってしまう(再生が出来なければ)。

 

『それに君にもしものことがあったらサーガイン様が悲しむからね』

 

「…礼は言わないルー」

 

 子供(?)は会話が終わると結の方へ向き直る。

 

『一応自己紹介しておくね。僕は混沌(カオス)No.70(センテタ)、【MA-5】。よろしくね』

 

 その見た目通り子供のように気楽と言うか気の抜けた話し方。しかしあの一瞬で複数の蔦を撃ち抜くほどの早技。警戒しない方が無理と言うもの。流石の結にも緊張が走る。

 

「貴方も戦うですか?」

 

『いんや、僕は戦わないよ。だってこれは元々は()(カンガルーレット)の戦いでしょ。だったら僕が間に入る訳にはいかないよ。だから───僕はそっちの(草野)の相手をすることによるよ』

 

 彼は草野を指名し戦うと宣言する。勿論そんなことを皆人や結が許すはずもない。

 

「そんなのダメだ。くーちゃんが戦うなんて」

 

「そうです。くーちゃんは関係ないはずです」

 

 草野はまだ幼く感情が高ぶると力を制御出来ないこともある。故に戦闘なんて出来るはずもない。しかしそんなこと彼(MA-3)には関係ないこと。

 

『でもさっきその子言ってたよね。「自分も戦う」って。でも戦いは1対1だってさっき向こうの女の人(月海)がそう言ってたからね。だから僕が相手するの。それにセキレイなら一度戦闘に参加したなら途中で抜けるのはダメでしょ?』

 

 確かに殆どのセキレイは1対1の戦いを好む者が多い。月海のその人であり、結もどちらかと言えばそっちである。しかし草野は戦いについて右も左も分からない素人。しかも命の保証が出来ないなら。結は急いで草野の元へ行こうとするが、後ろにいたカンガルーレットが一瞬にして目の前に現れ行く手を阻む。

 

「退いてください!今は貴方の相手をして場合じゃないんです!早くくーちゃんを助けないと」

 

「そうはいかないルー。お前は俺と戦ってる最中だルー。だったらこっちに集中しろルー!」

 

 右腕を振り上げ勢いよく振り下ろす。結は後方へと回避するが、拳を撃ち込まれた箇所は地面に減り込み大穴が開いていた。どうしても草野の元に行かせようとしない彼の行為に、戦い好きな結だが今回ばかりは唇を噛み締める。

 

 

 そんな事を他所にMA-3は少しずつ草野に近づいて行く。自分に近寄ってくる彼(?)に草野は恐怖で震え動けないでいると皆人が2人の間に入る。

 

『何、君?僕はそっちの子に用があるだけど。退いてくれない』

 

「ダメだ!君の言う通りくーちゃんは確かにセキレイだ。けどそれ以上に俺の大切な家族なんだ。だからこれ以上危ない目に合わせたくないんだ!!」

 

『君…煩いね』

 

 MA-3はスリングショットのゴムを引っ張ると照準を皆人に向けて離す。反射的に目を瞑って覚悟するが、一向に痛みが来ない。ゆっくりと目を開くと、無数の太い蔦が目の前にあった。

実は玉が放たれた瞬間、草野は自身の能力で近くの植物を急成長させ、葦牙である皆人を守ったのだ。

 

「く、くーちゃんありがとう」

 

「…」

 

「くーちゃん?」

 

 草野は顔を伏せていたが、暫くして顔を上げると意を決した表情で皆人の目を見て言う。

 

「お兄ちゃん、くーも戦うも!」

 

 それは草野を知る彼にとっては信じられない言葉であった。喧嘩が嫌いでいつも泣きそうになる草野が自分から戦うと宣言したのだ。

 

「ッそんなダメだよ」

 

「くーもセキレイだも。だから大丈夫だも!」

 

「で、でも…」

 

「それに…くーもお兄ちゃんを守りたいも!」

 

 草野は満面の笑顔で言う。いつも結や皆人達に守られているが、本来はセキレイである彼女が葦牙である皆人を守る立場である。それが実現出来た事による喜びで『葦牙である皆人を守りたい』と言う感情がより強くなったようである。

 

 皆人は止めようとするが、草野はそのままMA-3の方へと歩いて行き数メートル離れた地点で止まりお互いを見つめる。

 

『そこのお兄さんとの話は終わったの?』

 

「コクン(頷く)」

 

『それじゃ、始めようか』

 

 その言葉と共に草野が蔦で先手を打つ。MA-3は得意の俊敏な動きで回避後ろにへと回り込みスリングショットで無数の弾を連射、草野は蔦で守りつつ皆人を巻き込まないように戦いを続ける。

 

 

 

 

 

 

皆人は結達の戦いを少し離れた見ていた。

 

月海はサーガインの剣術に、結はカンガルーレットとの拳の撃ち合いに、草野はMA-3の素早い行動力に翻弄されいつの間にか防戦一方となっていた。

 

 彼は苦戦する3人の姿を見てある事を思い出していた。それは結が機能停止になった時の瞬間である。

 

 実は数ヵ月前、結は懲罰部隊の1人「紅翼」と戦い機能停止させられたことがあった。しかしその後何故かは分からないが結は機能再開し紅翼ともう1人の懲罰部隊「灰羽」を撃退した。彼女はそのことを覚えていないが、結が生きていたことによる喜びが大きかった故その事にはあまり気にしてはいなかった。

 

 しかも今回は得体の知れない連中が相手。あの時の、大切な人を失う恐怖が脳内に蘇る。

 

「佐橋」

 

 そこへ全身を黒い服を纏い、口も黒いマスクを付けた篝、基焔と風花が到着して皆人に駆け寄る。

 

「篝さん、風花さん来てくれたんですね」

 

「当然よ。だってェ、愛する皆人君の危機ですもの♪」

 

「それより佐橋、君は無事か?」

 

「俺は大丈夫です。でも結ちゃん達が…」

 

 皆人の向いた方へ視線を向けると、そこには戦闘で息が上がっている3人の姿だった。しかも相手の方は皆殆ど疲れている様子はない、見るからに戦況は明らかに不利である。

 

「…分かった。結君達の方は僕達が何とかする。佐橋、君はこの場を動くな」

 

「で、でも篝さん…」

 

「大丈夫よ、皆人君。私達があんな連中チョチョイのチョイってやっつけてあげる♪それにライバルがいなくなると張り合いなくてつまらないしね」

 

「風花さん…」

 

 まだ納得が出来ない皆人に焔が目線を同じ高さまで顔を下ろし近づく。

 

「佐橋、君が僕達を心配してくれるのは嬉しい。でもだからこそ僕達を信じてほしんだ」

 

「篝さん」

 

「お願いだよ葦牙(マスター)

 

「…分かりました。でも必ずみんなと一緒に戻ってきてくださいね」

 

「…了解、行くぞ風花」

 

「エェ」

 

 風花と焔は2人の援護に向かおうとしたその時…

 

 

 

『待て』

 

 

 

 …2人の前に2つの影が現れ行く手を阻んだ。1人は2本角に右腕にドリルを装着し、もう1人は頭部に鶏冠があり、両者鋭い赤い眼、背中に赤いマントを付けていた。そして何よりその2人の姿は背丈は高いがMA-3に酷似していた。

 

『お前達セキレイの戦い方は1対1なんだろう。だったら邪魔をするな』

 

『だがそれでも通りたければ俺達を倒してからにしろ』

 

「どうやら簡単には通してくれそうにないようだね」

 

「そうみたいね」

 

 焔と風花は新手の2人と戦闘は避けられないことを確信しセキレイでの自己紹介を始める。

 

 

「セキレイNo.03、風花」

 

「セキレイNo.06、焔」

 

 

混沌(カオス)No.69(セセンタ イ ヌエべ)、【MA-3】』

 

『同じく混沌(カオス)No.72(セテンタ イ ドス)、【MA-9】』

 

 

 焔は鶏冠が付いてるMA-9と、風花は右手にドリルを装着したMA-3とそれぞれ距離をとり対峙する事になった。

 

 

 

 

 

 先ず風花の方は、得意の風を使い突風でMA-3を舞上げ身動きを封じようとする。しかし上空で体勢を立て直し、ドリルを回転させながら自身も回転して突風の中を高速で突き進む。迫りくる敵に対し風花は特に焦る素振りもなく飛んで回避。MA-3はそのまま地面にへと直撃し大穴を開ける。その中から高速で飛び出し空中で静止する。風花はそのまま追撃を掛ける。

 

 

「花旋風!」

 

 その掌からもの凄い威力の竜巻が大量の花弁を舞い上げながら放つ。しかしMA-3は「フン」と鼻(?)で笑うと右腕のドリルが分離し飛ぶ。ドリルはそのまま竜巻の中心部付近まで行くと逆方向に回転し始める。すると竜巻の威力は次第に弱まっていき遂には消滅してしまった。

 

『竜巻は逆方向の回転が加わることで無力化出来る。風使いなら分かりだろう』

 

 ドリルは再び右腕に装着されると同時に、MA-3はドリルを回転させながら一気に距離を詰める。風花は余裕の笑いを浮かべながら右腕に風を纏わせながら振るいドリルを受け止める。これぞ風を刃にして繰り出す技「風ノ太刀」。

 

『ほぉ、お前遠距離攻撃だと思っていたが接近戦も出来るのか』

 

「乙女の嗜みってやつよ。それに恋する乙女に不可能はないのよ」

 

 跳ね除け互いに一旦距離を取る。

 

『フン、思ったよりやるな女。少しは楽しめそうだ』

 

「そう、それは良かったわね。でも私にそんな口を聞いていいのは【No.01】とゲームマスター、そして私の葦牙君だけよ」

 

 MA-3の上からの態度にムッとしたようで少し目を吊り上げ強気の口調になる。突風が荒れる中2人の戦いは次第にエスカレートしていった。

 

 

 

 

 一方焔はMA-9の匠の素早さに翻弄されていた。何処から来るか分からない相手の行動に戦いの経験が多い焔は焦らずその場でジッとしている。すると後方から紫色のブーメランが飛んでくる。それを察知した焔は飛び上がり回避するが、その直後別の方向から赤い光の弾が飛んでくるのが見え咄嗟に炎の弾を放ち相殺する。

 

 地面に着地すると先程飛んできたブーメランがMA-9の頭部にへと装着される。先程の鶏冠と思っていたのはブーメランであったようだ。

 

 ブーメランを掴みそのまま振り上げ斬り付けようとすると、多量の炎が出現し焔を包み込む。それはまるで炎の壁が焔を守っているかのよう。MA-9はあまりの熱量に後方へと回避しブーメランを頭部に装着する。視界が晴れると焔は掌に溜めた炎を放つ。するとMA-9も掌にエレルギーの塊を溜め放つ。互いの技が激突し爆煙が上がる。

 

『やるな、流石【シングルナンバー】の中でもトップクラスと言ったところか』

 

 

 【シングルナンバー】────────その名の通り数字が一桁だけのセキレイの事。その戦闘力は他の2桁以降のセキレイよりも上、故に殆どのセキレイからは警戒されている。その中でも焔はトップクラス、しかも羽化前では最強とまで言われていた強者である。

 

 

『ところでお前達のその【No.】はどう言う意味だ?強さか?それとも生まれた順か?』

 

 MA-9は自分達と同じように数字を持つセキレイの番号について興味があるようで質問をする。

 

「…僕も詳しくは知らない。けど、少なくとも強さの順ではないのは確かだよ」

 

 彼等、彼女等は発見された時、1体は成体で、8体が胎児で、残りの99体は受精卵の状態であった。その上位9体が調整を受けシングルナンバーとして生を受けた。実際、現懲罰部隊の3人の内2人の数字は3桁である。

【No.】の意味が『強さ』を表しているのなら、その2人が懲罰部隊に選抜される訳はない。それにNo.02の松は優れた頭脳を持っている代わりに戦闘力は皆無。故に強さの順とは考えにくい。

 

「ところで僕からも君に一つ質問したい。君達も僕達のように【No.】があるみたいだね。君はさっき自分を【セテンタ イ ドス】って言った。それはスペイン語で【72】って意味だ。なら数字の意味は一体なんなんだい?」

 

『…お前達と似たようなものだ。俺達のこの数字は俺が所属している軍、そこに入った順番を意味している──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────だがそれは11()()の連中の話だかな』

 

「ッ!?どう言う意味だ」

 

『冥途の土産に教えてやる。俺達は先ず軍に入った順に11以降の番号が与えられる。そして幹部クラスの中から特に優れた戦闘力を持つ奴らが選ばれ強い者順に10以下の番号が与えられる。そしてその方々は【死刃(エスパーダ)】と呼ばれ自らの身体にその与えられた数字を刻み、俺達11以降の連中を支配する権限が与えられるのだ。だがハッキリ言ってやる。その死刃と俺達の力の差は────────別次元の領域だ』

 

 その言葉に焔は驚愕した。今目の前にいる者とは別次元の領域の強さ。しかもそれが10人*1もいるのだから。

 

「君達を支配する権利を持つと言うことはつまりッ…」

 

『そうだ、今ここにその【死刃】の1人来ている。彼方に居られるサーガイン様がそうだ』

 

 

 

 

 その言葉はその場にいた全員に聞こえていた。勿論サーガインと月海にもしっかりと。

 

「フン、奴め要らんことをペラペラと」

 

「お主が、【死刃】の1人じゃと」

 

 月海は戦っていたサーガインがその最強の1人だと知ったことに対する驚きがあったが、その分喜びもあった。最強を目指す者としてその一角と戦っていたのだから、これ程の喜びはないだろう。

 

「その通りだ。俺が…」

 

 

 

 

カチャ、カチャ

 

 

 

 

『死刃の1人だ!』

 

 

 

 

 しかし彼女は目の前の光景に驚きを隠せなかった。何故ならサーガインの頭部が突如開き、中から蟻のような小さな生物が無数のコードに繋がれた椅子に座っている。そしてその腹の胴体に【9】の刻印が記されていた。

 

 信じられないかもしれないがこの蟻のような小さな生物こそサーガインの本体である。等身大の身体は自身が作り上げた傀儡(クグツ)───ロボットなのである。

 

 そしてまた「カチャ、カチャ」と音を立てながら元に戻る。

 

 

 

「改めて名乗っておこう。俺は第【9】の数字を持つ死刃───《第9死刃(ヌベーノ・エスパーダ)》、【サーガイン】!同じ9の数字を持つ者同士、決着を着けるぞ!」

 

 

 

 サーガインは自己紹介を終わらせると再び刀を構え戦闘を開始しようとした時突然動きを止めた。

 

「何だ?俺は今戦闘の真っ最中だぞ……何!?巫山戯るな!俺は今戦闘中だと……デストロイヤー様が!?…分かった」

 

 何やら誰かと話していたようで会話が終わるとサーガインは持っていた刀を両肩に納めた。その行動に月海は戸惑う。

 

「お主、何故刀を納める」

 

「俺達の主人である方からの命令で戻るように言われた。だから惜しいが戦いはここまでだ」

 

「巫山戯でない!戦闘の最中に逃げるなど我は認めぬ!【水龍】!」

 

 折角の戦いを中断することを決して納得しない彼女は咄嗟に水で龍を作り上げ放った。

 しかしその直後、突如上空に裂け目が現れそこから光が漏れ出すとサーガインを包み込む。水龍はその光の壁に阻まれ消滅する。さらに戦っていた従属官や待機していた従属官達全員同じように光に包まれる。

 

「チッ、ここまでかルー」

 

『あぁ、折角盛り上がってきたところだったのに。残念』

 

『だが命令とあれば仕方ない』

 

『俺達はその命令に従うまでだ』

 

 中には戦闘の途中で切り辞めることになり不服な者もいるが、上からの命令と言うことで納得しそのまま吸い込まれるように登っていく。

 

「小娘、貴様との戦い実に良かったぞ。ここまで心躍る戦いは久々だった。だが貴様は自分の力を過信しているところがある。そこを修正すれば貴様はもっと上に行けるだろう。次に会う時までに強くなっていることを願っているぞ」

 

 その言葉を最後にサーガインと従属官達は裂け目に吸い込まれると、穴は塞がり消滅した。

 

 

 

 

 

 戦いが終わったことを見計らうと皆人は結達に近寄る。皆が無事で良かったと笑顔を浮かべるが、彼女達は表情は決して明るいものではなかった。未知なる敵相手に結と月海の衣服はボロボロで身体を無数の怪我があった。途中参加の草野、風花、焔はそこまで外傷はないがもしあのまま戦い続けたらどうなっていたことか。

 今回は上からの命令で撤退したとは言え、ほぼ情けを掛けられたようなもの。それはプライドが高い月海に取っては屈辱でしかないだろう。皆人が慰めようと声をかけようとした時、月海はいきなり顔を上げ鋭い眼で空を見上げ叫ぶ。

 

 

 

「サーガインとやら、今回はお主に勝ちを譲ってやる!じゃが次に会った時は我が勝つ!それまで首を洗って待っておるがいい!!ナーハッハッハッハッハッハ」

 

 

 

 高々に気が狂ったかのように笑い叫ぶ。その光景を見て皆人は「良かった!何時もの月海だ」と安心する。

 

 この戦いを機に結達はセキレイ計画に終止符を打つため、そしていつか再び現れるかもしれない未知なる敵に備えて自分達を鍛え直すのであった。

 

*1
だと思っている




サーガインの階級は9でした。月海と戦わせたのは同じ数字を持っていたからです。

最後の方で気付いたと思いますが今回は侵略はしたけど制圧はしてないので侵略しないのっと思った方々多いと思います。
「セキレイ」は私がお気に入りの作品の上に最後がハッピーエンドで終わったので、それを壊したくなくその結果こうなりました。
因みにセキレイの番号の意味は原作でも明らかになっていないので作者の予想です。

最後にサーガインが呼び戻された理由は後に投稿予定の番外編で明かされます。番外編は全ての死刃の話が終わった後に投降予定です。そちらもお楽しみに。
ここで次の話のアンケートを取ります。ご協力ください。

感想などありましたらどうぞ。


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9話 絶望の使者 前編

どうもアニメ大好きです。
またコロナが日本全国に拡大しています。皆様も手洗いうがいで対策しましょう!

前回のアンケートの結果、今回はインフィニット・ストラトスの世界に決定しました。協力してくださった方々感謝致します。
今回登場死刃はタイトルで分かると思いますが、原作では死んだと思われたキャラが最強クラスの幹部になって復活したアイツです。

それではどうぞ。



 皆さん、一般的な世界に於いては男尊女卑の世界が多いと思います。しかしある世界はその逆──────つまり女尊男卑になっているのです。その原因がある天才、いや天災が作り出したモノによって。

 

 

 

 今この世界を騒がせているのがとある天災博士は作り出した飛行パワードスーツ【インフィニット・ストラトス】通常【IS】を公開した。だがこれを作り上げた博士は、当時まだ15歳にも満たない未成年であったため「子供の遊び」として片付けられた。

 

 しかしそのIS公開から1ヶ月後とんでもないことが起きた。世界各国の軍事施設が何者かにハッキングされ計2,000発以上のもミサイルが一斉に日本に向けられ放たれた。

 世界中が混乱する中現れたのが銀色のISを纏った女性だった。そのISは次々とミサイルを撃墜していき、遂に全てのミサイルを撃墜することに成功、そして夕日と共に姿を消した。

 

 

 この事件が後に『白騎士事件』と称される。

 

 

 何はともあれこの事件をきっかけにISは世界中にその凄さが知れ渡り各国にISが導入されることになった、せざる終えなかった。────────何故ならISに通常兵器は効かない。ISを倒せるのはISだけなのだから。

 

 だがそのISはある欠点があった。何故か()()()()()扱えなかったのだ。よって世界各国は女性を優遇する様になり狂っていった。

 

 それから数年、女尊男卑に染まった女性達はISを扱えるのをいいことに買い物代を近くにいた見ず知らずの男性に払う様迫ったり、無実の男性に罪を着せたり、酷い時には男性だからと言って赤ん坊まで殺してしまう始末。時が進むに連れて世界の理はドンドン腐敗していった。

 

 だがそんな狂った世界は今までの常識など通用しない存在によって滅びの道を進むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 【女性権利団体】

 それは女尊男卑に染まりに染まり女尊を保つために男をこの世から全て抹殺しようと企んでいる集団。世間一般では特に目立つ行為はしてこなかったが、その裏では男を連れ去っては奴隷にしたりストレス発散用のサンドバックにしたりと大人子供関係なく殺していたある意味犯罪集団である。

 

 しかしそのアジトは今炎に包まれ燃え盛っていた。その中にはISを纏ったリーダーであった女性と黒髪の男が向き合いながら立ち尽くしていた。

 

 「何なのよコイツ…何で銃も剣も効かないのよ…」

 

 リーダーは今目の前の光景に恐怖していた。何故ならその女性の周りにはISを纏った部下と思われる数人の女性が無残にも倒れていた。しかもその全員のISは所々破損し破壊されていた。

 現在では最強兵器であるISが武器も持たない丸腰の男、しかもたった1人に蹂躙されたことが信じられなかった。

 

 「当たり前だ。そんなIS(ガラクタ)の玩具で俺を倒せると思っているのが大間違いだ」

 

 「ガラクタ!?ISがガラクタですって!!」

 

 「そうだ。あんな女にしか扱うことが出来ない欠陥品をガラクタと言わないでなんて言うだ?この間滅ぼした組織の連中もそうだったが、そんなガラクタの力に縋って粋がってるとなぁ。この世界の女はどいつもコイツも傑作モノだ」

 

 ISを欠陥品、ガラクタ等と罵られた挙句見ず知らずの男に見下された態度を取られリーダーの女性は怒りに震えていた。

 ────ISは神が私達女に与えてくれた神聖なるモノ。そして私達はそのISを使えることが出来切る、つまり神に選ばれた人間なのよ。なのにそのISを汚し私達女を見下すなんて────

 

 「…だ、すな…」

 

 「?」

 

 「… 男の分際で…私達女を見下すなァァ!!」ドドドドドドドドド

 

 ISを馬鹿にされたことに加え自分自身も見下されたことに完全に逆ギレし我を忘れ銃を撃ちまくる。

 

 「死ね、死ねェェ!」

 

 女性の怒りに満ちた叫び声が燃え盛る建物の中に響き渡る。だが男はニヤリっと笑うと目にも止まらぬ速さで銃弾を躱しながら間合いを詰める。女性は興奮していた所為で周りが見えておらず気づいた時にはニヤついた男の顔が真正面にあった。

 

 「ヒィッ!」

 

 「消えろ」

 

 男は掌に溜めた黒紫のエネルギーを女の胸に当て放った。リーダーの女性は断末魔を上げる間もなく装着していたIS諸共消し飛ばされ、同時にアジトも吹き飛んだ。

 

 今この時をもって女性権利団体と言う存在はこの世から消滅した。

 

 「あんなIS(ガラクタ)が使えるくらいで粋がるなんてな……やっぱりこの世界は腐ってやがる。まぁそのお陰で俺にとっちゃ最高の世界だがな。さて、そろそろ本命と行くか」

 

 男は掌にある一つの学園が映し出されたホログラムが出現する。

 

 「楽しみだ。粋がっている連中が恐怖に染まりながら絶望に堕ちていく姿が」

 

 男の吊り上がった目と口が夜を照らす月光に照らされ、凶悪さがより醸し出される。この世界の終焉は着々と進んでいるのであった。

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

 

 IS学園

 

此処ではISに関する授業をメインとして操縦者の育成を行う、アラスカ条約に基づき日本の小さな小島に設置された特殊国立高等学校。さらには食堂や大浴場等、凡ゆる設備が設けられている全寮制。

 

 そしてその食堂で今1人の男子と6人の女子が一つのテーブルを挿みながら食事をしていた。

 

 

 「やっぱ学食の料理は旨いな」

 

 織班一夏───1年1組のクラス代表にしてこの学園唯一の男性生徒。彼は男であるが何故かISを扱えることが出来た故にこの学園に入学させられた。その顔立ちの良さから女子生徒達の注目の的になっているが自身はそれに全く気付いていない、超が付くほど鈍感である。使用ISは【白式(ひゃくしき)】。

 

 

 「一夏放課後はISの特訓だ。今日も私がきっちり稽古を付けてやる」

 

 少し男気がある黒髪ポニンテールの女性が篠ノ之箒───織班一夏のファースト幼馴染。実家が剣道道場であり、自身も小さい頃から剣道を嗜んでいた為全国大会で優勝する程の実力を持つ。昔男子に揶揄われていたところを一夏に助けてもらいそれ以降彼に好意を持つようになる。そしてISの生みの親である篠ノ之束の実の妹。ISの開発者篠ノ之束の実の妹である。

使用ISは【赤椿(あかつばき)

 

 

 「篠ノ之さん抜け駆けはいけませんわ。一夏さんには、『私が』手取り足取り教えて差し上げますわ」

 

 このロングヘアーの金髪お嬢様がセリシア・オルコット───イギリスの代表候補生。当初は女尊男卑に染まっており男である一夏を見下していたが、彼との決闘を機に彼の強さに興味を持ち、それ以降は好意を抱き積極的にアプローチする。因みに料理の腕はかなり壊滅的。

使用ISは【ブルー・ティアーズ】

 

 

 「そう言うアンタも抜け駆けしてんじゃないわよ!」

 

 勢いよく割り込んできたツインテールが凰鈴音───1年2組のクラス代表にして中国の代表候補生にして織班一夏のセカンド幼馴染。転校して来た当時「鈴音」と言う名前から男子に虐められていたところを一夏に助けられそれ以降彼に好意を抱く。少々喧嘩早く短気なところが傷である。

使用ISは【甲龍(シェンロン)

 

 

 「まぁまぁ3人とも落ち着いて」

 

 セシリアと同じく金髪で短髪の子がシャルロット・デュノア───フランスの代表候補生。入学当初は【シャルル・デュノア】と名乗っており()として入学した。その理由はデュノア社の社長である父親が一夏のISの情報を盗んでくるようにとスパイとして送り込んだ。男として接すれば近づくチャンスがあると思ってとのこと。

 そのことが一夏にバレてしまうが、それでも同じ境遇である一夏はシャルロットを咎めず受け入れてくれた。そのことをきっかけに一夏に好意を持ち、女であることを明かし改めて再入学した。

使用ISは【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】

 

 

 「全くお前達は、嫁が迷惑しているのに気付かんのか」

 

 背の低くく左目に眼帯をしている銀髪がラウラ・ボーデヴィッヒ───ドイツの代表候補生にして黒兎部隊の隊長。入学当初は一夏を教官───織班千冬の汚点として敵対していたが、トーナメント戦で自身のISに積まれていたVTシステムが発動し取り込まれたところを一夏に助けられ、それ以降は皆と同じように彼に好意を抱くようになった。

 だが元々一般常識が乏しかった故に間違った知識を副隊長に教え込まれているとのこと。

使用ISは【シュヴァルツェア・レーゲン】

 

 

 「…ラウラだって人のこと、言えないと思う」

 

 眼鏡を掛けた大人しめの子は更識簪───4組の代表にして日本の代表候補生、アニメや特撮が大好きなオタク女子。一夏とはある関係でラウラと同様に彼のことを気嫌いし遠ざけていたが、それでも自身に協力してくれた彼に心を開き、ある事件がきっかけで5人同様好意を抱くようになる。

 使用ISは【打鉄弐式(うちがねにしき)

 

 

 「まぁまぁ、だったら皆一緒に訓練しようぜ。その方が効率がいいと思うし」

 

 一夏は皆の意見をまとめて(?)笑顔で答えるが、相変わらず的外れの意見を出し6人は溜息を吐く。だが当の本人には何故皆溜息を吐いたのか分からず頭に「?」を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 そして時は進み放課後。先程のメンバー7人が第3アリーナに集結する。

 

 「よし、じゃあ早速始めるとするか」

 

全員ISを展開し準備満タン。特訓を開始しようとした時、突然ISからアラームが響く。そしてモニターに【警戒】の文字が映し出される。すると上空から謎のエネルギー弾が向かってくるのが目に入る。そのエネルギー弾はアリーナのバリアを破壊しフィールドに命中。その場所は地面が削れ小さなクレーターが出来ていた。

 

 「一体何が?」

 

 「!?皆あれ見て!」

 

 シャルロットが何かを見つけ上空に指を指した。全員指した方を見上げると、ロングスカート並の長い丈を吐き、針山のようにトゲトゲのヤンキーのようなヘアースタイルをした黒髪の男が浮遊してた。そして何より丸腰、つまりISも何も身に付けていない。

 ISも無しに浮遊しているのが信じられない面々。男はそんなことを気にする様子もなくゆっくりと降下し着地する。

 

 「小僧、お前が織斑一夏か?」

 

 「お、俺のことを知ってるのか!?」

 

 「あまり前だ。お前は男で唯一ISを動かすことが出来る存在。逆に知らない方がおかしいだろ。(まぁ知っているのはそのことだじゃがな)ん?」

 

 アリーナの扉が開き、数人のISを纏った女性教師が男の周囲を囲み銃口を向ける。

 

 『そこの不審者、この場は完全に包囲した!大人しく投降しないさい!』

 

 しかし男は一切の焦りを見せず逆に呆れていた。

 

 「投降しろだと?冗談は休み休み言え」

 

 『貴様こそ状況が分かっているのか?それともこれだけの人数を相手に1人で太刀打ち出来るととでも言うのか?」

 

 

 「…その通りだ」

 

 

 次の瞬間男は忽然と姿を消した。戸惑う教師達であったが1人の教師の呻き声が聞こえ視線を向けると、なんと消えた男の右腕が後ろから突き刺し胸を貫通させていた。

 

 ISには絶対防御のバリアが展開されており肉体に直接ダメージを与えることはないのだが、この男は生身でバリアを超え搭乗者の身体を貫いた。その光景にその場にいた誰もが驚きを隠せなかった。

 

 しかし一早く我に帰った一人の教師が銃を発砲し連射する。男は腕を引き抜き片手で教師の肩を掴み前に出し盾にする。銃弾はそのままその教員に命中し、苦痛の叫びを上げる。最早虫の息である。

 反対側から刀を持った教師が迫って来るが、男は盾にした教師を迫り来る教師にへと投げ飛ばした。咄嗟のことでぶつかってしまい転倒下敷きにされてしまう。

 

 その隙に後方にいる教師が銃を連射させ煙が舞い上がる。一夏は生身の相手にやり過ぎだと思っているが、最初に発砲した時点で今更である。静寂が訪れる中煙の中にツンツン頭の人影を確認し再度発砲しようとするが、次の瞬間自分の隣に赤い液体のようなものが飛び散るのが見えた。恐る恐る視線を向けると、銃を持っていたはずの自分の右腕が無くなっているのに気付く。先程の赤い液体は自身のものであったこと発覚した。

 

 

「ああァァァァーーー!!」

 

 

 そして激しい痛みが襲い苦痛の叫びを上げながら左手で出血部分を押さ蹲る。男はその教師の目の前まで移動し頭を掴むと力を込める。そして頭部はトマトのように握り潰され周りには赤い液体が飛び散る。司令塔を失った身体はそのまま力なく倒れ二度と起き上がることはなかった。

 

 「こうなれば一斉に掛かるぞ!」

 

 バラバラに戦っては餌食になると思いリーダーと思われる女性が指示を出し四方から一斉に突撃し刀を振り下ろし砂煙が舞い上がる。

 その場にいた全員が仕留めたと思った。だが煙が晴れるとそこに男の姿は無かった。

 

 「い、居ない!」

 

 「何処へ行った!?」

 

 姿を消した男を探す教師達であったが辺り一面見渡しても見つからない。すると太陽が何かに遮られ影が出来る。気になった一人の教師が見上げるとそこには男が右手を突き出し掌に紫色の光を溜めていた。

 

 「ッ上だ!」

 

 気付いた教師が慌てて教えるがもう既に男の方は準備が完了していた。

 

 

 

 「もう遅い────────【虚閃】」

 

 

 

 そして掌から太い黒紫色の閃光が放たれ教師一同を包み込んだ。あたりの衝撃に一夏達は近づくことが出来ず両手で顔を伏せていた。軈て閃光が止み目を開けると、そこには最初の攻撃で出来たのより大きなクレーターが出来ていた。そして教師達の姿は影も形も残っていなかった。

 

 

 一夏達は目の前の光景に恐怖していた。ISを装着していた教師が生身の人間(?)相手に殆ど抵抗する暇もなく全員絶命された。

 

 

 ───自分達が戦って勝てるのか?いや無理だ。逃げなきゃ、でなきゃ殺される───

 

 

 しかし人の死を目の前で直視してしまった彼等は恐怖で足が竦み動けなかった。その間に男はクレーターの前に着地し7人を睨み付け言い放つ。

 

 

 「次はテメェ等がこうなる番だ」

 

 

 その鋭い眼差しと歯を出し笑うその姿はまるで悪魔そのものだった。

 最早逃げる選択肢はない。そう思った皆は覚悟を決め散会しそれぞれ攻撃を開始する。

 

 

 先ず簪が無数のミサイルで攻撃を仕掛ける。男は飛び上がり回避するが、ミサイルは男の後を追いかけ追跡する。それでも尚振り切ろうとする男に、鈴が両肩に付いている【龍砲】から衝撃砲を、セリシアが4つのピットを飛ばし、シャルロットが重機関銃で、ラウラが肩についてる大型のレールカノンで、箒が斬撃を飛ばし追い討ちを掛ける。

 

 男は6人の攻撃を回避しながら、迫り来るミサイルをエネルギーの塊───【虚弾】で撃墜する。しかし、しつこく追い掛けてくるミサイルがいい加減鬱陶しくなってきた時、主砲を向けている鈴の姿が目に入るとニヤリっと笑い鈴目掛けて加速する。

 

 迫り来る男に鈴は衝撃砲で迎え撃とうとするが相手の方が速過ぎて間に合わない。ヤられると思い反射的に目を瞑ったが、何と男は鈴をそのまま素通りしてしまう。「えっ?」と一瞬戸惑うがそんな考えは直ぐに消え去った。何故ならミサイルが自身に向かってきているからだ。

 

 鈴は全て撃ち落とそうと溜まった衝撃砲で迎え撃つが、あまりの多いさに相殺しきれず数発のミサイルが直撃する。

 

 「鈴さん!」

 

 「何処を見てやがる」

 

心配するセシリアの背後から声が聞こえて振り向いた瞬間男に首根っこを掴まれる。振り解こうと掴まれてる手を掴み力を入れるが全く振り解けない。ピットで攻撃しようにも下手をすれば自分に当たってしまう危険性がある為使えない。苦しみながらも右腕にショートブレード【インターセプター】を出し斬り付けようとするが、残っていたもう片方の手で腕を掴まれ同じように強く握られる。掴まれた痛みと呼吸困難により【インターセプター】を手放してしまい重力によって落下し量子分解して消滅、そしてセシリアを投げ飛ばす。

投げ飛ばされた方向にはダメージを負った鈴がおりそのまま2人は衝突する。そして背後に現れた男に腕を掴まれ地面に投げ飛ばされ叩きつけられた。

 

さらに男はその場から消えると簪の目の前に現れ、彼女を蹴り飛ばし右手に紅いエネルギーの塊を作り出し放つ。エネルギー弾が命中した簪は爆煙に包まれ、そのまま地面にへと落下した。

 

「鈴!セシリア!簪!」

 

「来るぞ、シャルロット!」

 

ラウラに指摘されたシャルロットが前を見ると男が自分達に向かって来ていた。シャルロットは銃口を向け連射するが、まるで擦り抜けているように当たらず土手っ腹に思い一撃を食ってしまう。痛みに悶え隙が生まれたことにより男はシャルロットの顔をアイアンクローの如く掴み急降下、そのまま近くの壁に背中から打ち付けた。

 

「シャルロット!!クッッ!」

 

ラウラは複数のワイヤーを発射し男を縛り上げ拘束する。しかし男は力を入れると無理矢理ワイヤーを引きちぎり狙いをラウラに定め突撃する。しかしラウラは「こっちに来い」と言わんばかりに動かずにいた。

 

彼女のISには【アクティブ・イナーシャル・キャンセラー】通称【AIC】がある。これは自身の決めた対象の動きを停止させることが出来る1対1ならチート級のシステムである。

そのまま向かってくる男に【AIC】で動きを封じようと言う作戦。幾ら早く動けようが動きを封じてしまえば自分達にも勝機はあると踏んだ。

 

そして次第に互いの距離は詰め5mくらいになったところで手を翳そうとした時、突如男の姿が忽然と消えてしまった。同時に背中に激痛が走り振り向くと、男が簪に使用した紅エネルギーの塊を手に纏っている姿が目に入った。そして腕を突き出し再びエネルギー弾を発射する。 

 

ラウラは空かさず【AIC】を使って攻撃を停止させる。だが男はその攻撃をなんと連射させ無数のエネルギー弾がラウラに向かう。意識を集中させ迫り来るエネルギー弾を全て停止させる。だがその所為で視界が停止させたエネルギー弾だらけになり相手の姿が確認出来ないでいた。

 

男はラウラの真横に現れ彼女の腹に強烈な拳を打ち込む。ラウラと【AIC】には腕の長さ分の僅かな隙間がある、そこに目を付け自身を確認出来なくなった時を狙った。

 

痛みにより【AIC】を解いてしまったことにより今まで停止させていたエネルギー弾が雨のように自身にへと降り注ぐ。ラウラは苦痛の叫びを上げながらフィールドに落下した。

 

「…たわいもねェな。残るテメェらもさっさと片付けるとするか」

 

男は残っている一夏と箒の2人に狙いを定める。

 

「…一夏私が奴の気を逸らす。そこをお前の刀で一撃を入れろ」

 

「…分かった。頼むぜ、箒」

 

「あぁ、任せろ」

 

「…作戦会議でもやってんのか?だったら今度は俺から行かせてもらうぜ」

 

男は例のエネルギーの塊を4発発射させ先制攻撃を仕掛ける。一夏達の方は箒が左手の刀【空裂】を振るい斬撃を飛ばして迎え撃つ。互いの技がぶつかり合い爆発が起き爆煙が舞い上がる。その間に箒は右手の刀【雨月】を突き出しレーザーを放出させる。レーザーは煙を貫通、その場所が晴れ進路上にいた男の姿が露わとなる。

男は迫り来るレーザーを手で弾き払う。その間に箒は加速し距離を詰め2本の刀を同時に振り下ろす。しかし男は両手でそれぞれの刀の刃の部分を受け止めた。

 

「なっ!刀を素手で!?」

 

「ハッ、この程度の剣で俺を倒せると思っているのかよ。甘いな」

 

「だがこれで貴様も両手が使えない。今だ、一夏!」

 

 

  「ウォォォォーー!!」

 

 

2人のやり取りで待機していた一夏が後方から加速し繰り出すは、自身のSE(シールドエネルギー)を攻撃力に変化させる諸刃の剣にして最大の技【零落白夜】で男の背中に振り下ろした。だが──

 

 

ガギン

 

 

「何!?」

 

 

──その刃は男を斬り付けるどころか皮膚に食い込みさえしなかった。さらに力を込めるがビクともしない。

 

 「バカが。そんな物で俺の鋼皮(イエロー)を傷付けられると思うなよ」

 

男は身体から紫色のオーラを放出される。それは次第に強くなっていき、遂には衝撃波となり2人は吹き飛ばされ壁に激突した。それでも尚放出を辞めずそのアリーナ内の壁やフィールドを圧力で押し潰される。

 

男は地面に着地すると倒れていたラウラに近づくと髪を引っ張り無理矢理起き上がらせる。

 

 「おい餓鬼、テメェは確かセシリアと鈴(アイツら)の事を前に『種馬を取り合う雌』って言ってたな?」

 

 それはまだラウラはこの学園に来た時のこと。セシリアと鈴がバトルを行おうとしていたところに割り込み2人に戦いを申し込もうとした時、挑発の意味を込めて言った言葉である。

 

 「…そ、それがどうした?」

 

 「おい、まだ気付かねェのか?今のテメェはソイツ等と同じその『種馬を取り合う雌』に成り下がっている事によォ!」

 

 

ラウラは入学当初は尊敬して憧れであった織斑千冬の汚点として一夏を敵視して下手すれば殺しかねない程の敵意を向けていた。しかしトーナメント戦の時思わぬアクシデントでラウラは一夏に助けてもらい、その翌日にはクラス全員の前で一夏にキスし、更には自身の嫁*1にするとまで宣言する始末。一般的に見れば凄い掌返しである。

 

 

 「元々は織斑一夏(あの小僧)を消すために来たんだろ?それがアイツに好意抱く餓鬼共の仲間入りをするなんてなぁ。嘗てのお前が今のお前を見たらどう思うだろうな?」

 

そして男はラウラにとっては禁句の言葉を口にした。

 

 

「まぁ仕方ねェか。なにせ()()()()()の不良品だからなァ」

 

 

その瞬間彼女の奥底に眠る思い出したくもない記憶が呼び起こされた。

 

ラウラは戦うために産み出された戦士であった。幼い頃から軍隊に所属し幾多の戦いに於ける訓練でかなりの成績を残しエリートにへとなった。だがISの出現により適合性向上のためナノマシンへの移植手術が施された。しかし彼女の肉体はそれに適応することが出来ず、手術前のような成績を残すことが出来かった結果「出来損ない」の烙印を押されてしまった。己の存在意義に悩んでいた時に、織斑千冬と出会い彼女の指導の元再びトップにへと返り咲いた。それ故織斑千冬を心から尊敬している。

 

  しかし一度植え付けられた記憶は決して消えることはない。どんなに封じ込めているつもりでもちょっとしたキッカケで呼び起こされてしまう。

 

 

『やれやれ。君には期待していたのだが、残念だ』

 

『まさか基準値を大きく下回る結果とは。エリートが聞いて呆れるな』

 

『全く、この出来損ないが』

 

 

 

「あぁ…あぁ…アァァァァァァー!!」

 

 

あの時軍の上司達から言われた言葉がトラウマとなり発狂してしまった。普段のラウラを知っている者達からは信じられない姿であった。

 

「煩セェぞ」

 

一番近くで発狂を聞かされた男はいい加減ウザくなり腹に拳を打ち込み無理矢理騙される。

 

「どうやら壊れちまったようだ。こんな不良品は居ても邪魔なだけだ、処分するか」

 

「や、辞めろ…」

 

一夏はラウラを助けようと重い身体を這ってでも前進していく。

 

「ほぉ、流石やるじゃねェか。だがウゼェだんよ」

 

男は弱いくせに出しゃばろうとする一夏に苛立ち、圧力を掛け地面に這い蹲らせ身動きを取れなくさせる。

 

「そこで大人しくしていろ」

 

男は掌に紫色のエネルギーの塊────【虚閃】が凝縮される。ラウラの視界に入る球体が入ると、先程の教師達が消された瞬間を思い出し恐怖した。軍人とは言え死への恐怖を克服出来はしない。

 

「心配するな。テメェのその壊れた頭諸共吹き飛ばしてやる。そして絶望しながら死ね」

 

掌が自分の腹部に向けられ虚閃が放たれようとしていた。もうダメだっと思い目を閉じたその時、アリーナ全体に霧が発生。男は予想外のことに動揺していると後ろから気配を感じ後方に虚閃を放つ。しかしその人影は水になって崩れ落ちた。

 

「何!?」

 

「ざ〜んねん。それは偽者よ♪」

 

今度は後ろから声が聞こえ振り向いた瞬間ランスが突きつけられる。当たりはしなかったが反射的にラウラを離してしまった。

その間にもう一つの人影がラウラを抱えるとその場から離れ、槍を突きつけてきた人物も距離を取る。霧が晴れて視界が確認できるようになるとそこには─────

 

「ちょ〜とおいたが過ぎるんじゃないかしら、侵入者さん?」

 

「これ以上私の生徒達を傷付けさせん」

 

──────学園最強を誇る生徒会長の更識楯無と、初代ブリュンヒルデの称号を持つ織斑千冬が立っていた。

 

 

*1
間違った知識




今回はここまでです。

因みにラウラの回想部分はオリジナルです。

感想などあればお願いします。


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10話 絶望の使者 後編

どうもアニメ大好きです。

先日あるユーザーの方がご家庭の事情で作品を観覧するのとが出来なくなったと言うメッセージを受け取りました。その方は私の作品を楽しみにしてくださった上に色々とアイディアを頂いていたので凄く悲しいです。
しかしロックされた訳ではないみたいなのでいつか必ず戻って来てくることを信じて待っています。

今回は後半戦。一夏達の前に突如現れた謎の男、大勢の教員を蹴散らし、専用機持ちも歯が立たずボコボコにされトドメを刺されそうになった時、織斑千冬と更識楯無が駆け付けました。果たしてこの戦いの結末はどうなるのか?ご覧ください。

前回の本編中に名前は出されなかったのに後書きで名前書いてしました、すみません。



突如IS学園を襲った謎の男。取り抑えるため出撃した教師達だが呆気なく全滅され、1年の専用機持ち達もピンチに陥る。しかしそこに織斑千冬と更識楯無が駆け付けた。

 

 

「きょう…かん…」

 

「ボーデヴィッヒ。気が付いたか?」

 

「わ、私は別に…クッ!」

 

「無理をするな。後は私と更識に任せろ」

 

千冬はラウラを地面にゆっくりと下ろして寝かし付け、向かい合う男を睨み付ける。

 

「ハッ、まさかブリュンヒルデ様直々におでましったァご苦労なことだな」

 

「…貴様は何者だ?何故この学園を襲った?」

 

「それを素直に答えると思っているんのかよ?」

 

「確かにな。だが貴様が何者であったとしても倒す相手には変わりない」

 

「それに一夏君や簪ちゃん達に大怪我をさせただけじゃなくて、挙句にはラウラちゃんを殺そうするなんて。これはちょ〜っとしたお仕置き程度じゃ済まないわよ♪」

 

楯無は表面上はいつもと同じおちょくっている素振りを見せるが内心は今すぐにでも目の前の男を串刺しにしたいくらい怒っている。何故なら彼女はかなりのシスコンである。いつも妹のことを「可愛い簪ちゃん」と言っている程、そんな彼女が怒らない訳はない。

 

「ヘェ〜、2人で俺と殺ろうってか?イイぜ、この学園最強の生徒会長様と世界最強のブリュンヒルデ様の実力見せてくれよ」

 

「…遅れを取るなよ、更識」

 

「言われなくても」

 

先ず千冬が先陣を切り走り出す。腰に刺していた複数の刀の内2本を抜き取り振るう。男は対抗するようにエネルギーで作り出した剣を手に取り交戦する。千冬の俊敏な機動力と立ち振るいで攻め、男はそれを身体をズラしながら1本の剣で防ぎと一進一退の攻防戦を繰り広げる。

千冬は持っていた1本の剣を投げ飛ばす。男が払い除けたその一瞬に距離を詰め別の刀を手に取り同時に振り下ろし、男はそれを剣で防いだ。

 

「ヘェ〜、やるな。流石ブリュンヒルデ様、その称号は伊達じゃないな」

 

「…まだそんなこと言う暇があるとは。予想以上の強者のようだな。だが相手は私だけでないことを忘れるなよ」

 

すると右側から楯無がランス【蒼流旋】の先端に収束させた水の塊を作り上げ3発発射。しかし男は残っていた左手を使って虚弾を放ち相殺させる。そして腕に力を込め千冬を払い除けると、楯無との一気に距離を詰め斬りかかるが楯無は槍を前に出すと水が渦巻きバリアを作り上げ防ぎ後退させる。

 

「ヘェ〜、お前も少しはやるな。学園最強も伊達じゃないか。そこに転がっている奴等とは大違いだ」

 

「それはどうも。でも貴方なんかに言われても嬉しくないわ」

 

彼女のIS【ミステリアス・レイディ】には【アクア・クリスタル】と言うパーツが搭載されており、ナノマシンによって水を自由自在に操ることが可能。先程のバリアや水人形もこの力である。

楯無は再び水を操り周りに霧を発生させる。霧は次第に濃くなっていき遂に視界が見えなくなる。男は先程この技を見たため取り乱さず周りを確認しながらその場でジッとしている。

 

楯無は気配を消しながら背後へ移動しそこから槍を突きつけるが、当たる直前男は躱し槍を掴んで受け止め剣を首にへと突き付ける。

 

「馬鹿が。同じ手が2度も通用すると思ってんのかよ?」

 

「フフフ、確かにそうね。でも貴方こそ織斑先生が言った忘れてない?相手は()()()じゃないって」

 

楯無の後方頭上から千冬が飛び出し、柄から伸びるワイヤーを男の首にへと巻き付け引っ張る。

 

「…目の前の敵ばかりに目が行くと隙が出来る」

 

「クッ…カァァッ…」

 

男は巻き付いたワイヤーを解こうとするが深く食い込んでしまっており解けない。上手く呼吸が出来ず悶え苦しみ剣を落としてしまう。

 

「今だ更識!」

 

「了解!」

 

男は身動きが取れない、このチャンスを逃す手はない。【蒼流旋】に水を纏わせ鋭い槍にへと変化し、そのまま男目掛けて突撃しトドメを刺しにかかる。しかし────

 

 

 

「…なんてな」

 

 

 

──── 男の口がニヤた瞬間、ワイヤーに手を掛けると簡単に引き千切ってしまった。そして首に巻き付いたワイヤーを解くと楯無の腕にへと巻き付かせた。

そしてワイヤーを引っ張り楯無のバランスを崩させ転倒させる。さらに巻き付いたままのワイヤーを引っ張り上げ楯無を地面にへと叩きつけた。そしてハンマー投げのようにブンブン振り回して持っていたワイヤーを離し壁にへと激突させた。

 

「まさかあの程度で俺がくたばるとでも思ってたのか?だとしたら屈辱だぜ。人間如きの常識に囚われてるのんでよォ!」

 

男は剣を拾い上げ千冬に迫る。千冬は持っていた刀を投げ飛ばすが全て弾かれてしまう。新たな刀を引き抜くが、男は剣を振るい上空へと払い除け千冬の首を鷲掴む。舞う刀はそのまま重力に伴い刃が地面に突き刺さる。

 

「お返しだ」

 

男の腕から電流が流れてそのまま千冬の身体にへと伝わりダメージを与え悲鳴が上がる。電流の放出を止めると千冬は身体をグタッと垂れてしまう。

 

「おいもう終わりか?最強の称号を持つ奴がこの程度かよ。まぁ無理ねェか。確か【亡国機業】とか言ったか?あんなカスのような連中にさえ苦戦するような連中を育ててるんだからな」

 

【亡国機業】それは50年以上IS世界の裏で暗躍してきた謎の組織。そして第二回モンドグロッソの時、織斑一夏を誘拐した組織でもある。

 

「【亡国機業】を知っているのか?」

 

「あぁ。と言ってもあんな雑魚組織、俺がとっくに壊滅させてやったがな」

 

壊滅させた────その言葉に全員が驚愕した。自分達があれだけ苦戦した亡国機業を目の前にいる男がたった1人で壊滅させたと言う事実に。

 

「この世界の連中の実力を確かめるためのに手頃だったからな。だが骨のあった奴はたった3人だけ、後の連中は雑魚同然だったぜ」

 

その3人とは前に【白式】のデータを盗もうとして学園に侵入してきた【オータム】、京都で専用機持ちと死闘を繰り広げた【スコール】、そして織斑千冬に瓜二つの顔を持つ【マドカ】と言う女性である。

 

「しかしアイツらの顔はいつ思い出しても笑えるぜ」

 

それは【女性権利団体】を壊滅させる数日前のことである。

 

 

 

──────────────────────────

 

 

燃え盛る業火の中、幾つもの死体が無残に転がっていた。そしてその中に佇む4つの影。

 

「な、何だコイツ。何でISが効かないんだ」

 

「このサイレント・ゼフィルスまで歯が立たないなんて…」

 

「一体なんなの…彼は…」

 

オータムはご自慢の武器が効かないことに苛立ち、Mことマドカとスコールは生身の相手にISが通用しないことに驚愕していた。

 

「この世界を裏で支配してきたって言う割にはテメェ等含めて大したことない連中だな。まぁ、あんな餓鬼共にヤラれてるんだ。当然と言えば当然か」

 

「あぁ!?テメェ、この俺を馬鹿にしてんのか!!」

 

「本当のことだろうが。織斑千冬(ブリュンヒルデ)なら兎も角、あんな餓鬼共にボロボロにされてるんだ。この組織の実力が知れるってもんだ」

 

「こォォンの野郎ォォ!黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがってェ!!」

 

クローズに子供相手に負ける弱者と馬鹿にされ、短気なオータムはその挑発に乗ってしまい右腕に装着されている大砲で撃ちまくる。対するクローズも虚弾を連発し全て撃ち落とす。煙の中マドカが飛び出しスパイラル状の槍を構え、クローズもエネルギーで作り出した剣を出現させぶつかり合う。

2人の力比べに入ると思いきや、横からスコールが飛び出し尻尾でクローズの身体を払い除け先端部分を腕に突き刺した。その衝撃で剣はクローズの手を離れ地面にへと落ちる。「どうだ」とばかりに笑うスコール、だがクローズは力づくで尻尾を引き抜きそのままブンブン振り回す。軈て遠心力によって尻尾が千切れスコールは壁に衝突した。

 

「こんな小手先程度の攻撃で俺を仕留められるとでも思ってんのかよ」

 

「調子付いてんじゃねェぞ!!」

 

オータムが腕の大砲から光弾を連続で発射させるが、千切れた尻尾を鞭のように振り回し払い除ける。ある程度払い除けると先端側を伸ばすとオータムを縛り上げる。そしてそのままブンブン振り回し何度も地面に叩きつけ放り投げた。

クローズはオータムに近づくと右手を平行に持ち上げると、落ちていた剣が消失すると彼の右手に再構成され収まる。

 

「消えろ」

 

剣を振り下ろそうとした時、後方から複数の黄色い糸ならしき物が腕に巻きつく。振り返るとスコールが装着しているIS右肩から伸びていた。

 

「オータムを殺らせないはしないわ」

 

オータムから引き剥がそうと力一杯引っ張ろうとするが、その前にクローズは剣で斬り裂き振り解く。そして【響転(ソニード)】で移動し斬り付けようする。しかしその瞬間黄色い球体がスコールを包み込み攻撃を防ぎ弾き飛ばす。

 

「ほぉ、肩のやつは唯の飾りじゃなかったんだな」

 

「そうよ。こうやって高速で振動させるさせることによって防御としても使えるの。これで貴方が私を傷付けることは出来なくなったわ。さぁ、ヤラれたお礼をたっぷりとお返しさせてもらうわよ」

 

生半可な攻撃ではこのシールドは突破することは出来ない。故に自分達の勝利に揺るぎないと思っていた。しかし彼女達は気付いていなかった。今相手にしているのは自分達の常識など通用しない存在だと。

 

 

「さっきも言っただろう。その程度の小細工で俺を仕留められると思ってるのかよ」

 

 

クローズは左手の人差し指を向けるとその先端に小さな虚閃を作り出し発射する。しかし虚閃は小さく細いが為か速度も虚弾並みにあり、糸の僅かな隙間を潜り抜け左肩を破壊する。その衝撃でシールドが消滅、スコールが怯んだ隙に【響転】で移動し彼女の頭を斬り飛ばす。司令塔を失った身体を上空へ蹴り飛ばすと【虚弾】を放ち、その身体は四散し周りに大量のケチャップが飛び散る。そして足元へ転がった顔も無情にも踏み潰しケチャップが飛びった。

 

「スコォールゥーー!テメェェェ、よくもォォ!!」

 

最愛の存在を目の前で殺された自暴自棄になりオータムは後方から大砲で撃ちまくる。しかし砲弾はクローズに当たることなく、まるで見えないバリアでも貼っているかのように全て弾かれる。軈てクローズが振り返り鋭い瞳に睨まれるとオータムは後退りした。その瞳から今で体感したことがないくらいの恐怖を感じた。

 

「心配するな。そんなに嘆かなくてもすぐに会わせてやる─────あの世でな」

 

  その言葉の意味に恐怖を覚えたオータムは無我夢中で大砲を撃ち続ける。しかし恐怖に駆られ思考が乱れた彼女が正確に的を狙える訳もなく、砲弾はクローズの周りに被弾する。

その間にクローズは【響転】を使わず脚力で一気に距離を詰め彼女の後方で止まる。オータムは自分の身体に何の変化もみられないので「驚かせやがって」と心中で笑いながら振り返りもう一度大砲を構えたがその瞬間視界に左右にズレがあることに気付く。何が起こったのか理解出来ままオータムの身体は真っ二つに裂け崩れ落ちる。

 

「これで残るのはテメェ1人だ」

 

「スコール、オータム…クソッ!」

 

追い詰められたマドカは槍を構えピンク色の螺旋状の光線を発射。流石の奴もコレを食らえば深傷を負わせることが出来る筈っと内心思ってた。しかし────

 

 

シャキン

 

 

ドゴォォォォォ      ドゴォォォォォ

 

 

────光線はクローズの刃で一刀両断されてしまった。こんな簡単に突破されたことに呆気に取られていた。

 

「バ、バカな…」

 

「(ニヤリ)」

 

「(ゾク)」

 

「中々良い技持ってるじゃねェか。俺もお返しにコイツをくれてやるよ」

 

左掌を開けるとそこに紫色のエネルギーが凝縮されていき放たれるは殲滅の閃光。

 

 

 

虚閃

 

 

ドギュュュューーン

 

 

 

虚閃は一瞬にしてIS諸共マドカを飲み込んだ。放出を止め舞が上がった煙が晴れ確認すると、路線上にいたマドカの姿は影も形もなかった。

 

「フフフフフ…フハハハハハハハハ、ハーハハハハハハハハ!!」

 

燃え盛る炎がクローズの悪魔のような顔を照らし、その笑い声が夜空にへと響き渡る。こうして世界を裏で支配してきた亡国機業はその名の通り闇にへと葬られた。

 

 

─────────────────────────────────

 

 

 

そのスコール、オータム、マドカ(3人)は専用機持ちでかなりの実力者だった、おそらく組織内の幹部だった連中だろう。

しかしその3人を含めIS業界を裏で支配してきた組織は壊滅したことを知った。たった1人の男に自身の実力を確認するための腕試しとして。

 

「最後に俺の名を教えてといてやるぜ」

 

 

 

「俺は【クローズ】。デストロイヤー軍所属の死刃の1人、【クローズ】だ」

 

 

 

男────クローズは名を明かし千冬を蹴り飛ばす。千冬は地面に身体を打ち付けながら転がり横たわる。

 

「最強と言っても所詮人間、これがテメェの限界ってだ。だがテメェは俺相手に頑張った方だ。あの世で胸を張っていいぜ」

 

クローズは掌を向け虚閃を放とうとするが、目の前に白い藻やが現れると一瞬の内に辺り一面霧で覆われ視界を遮る。

 

「…またこんな霧で俺の注意を引こうってか。何度も同じ手を使うと芸がねェんじゃねェか?生徒会長さんよォ」

 

「…貴方に一つ質問したいことがあるだけどいいかしら」

 

「あぁ?」

 

「貴方の所属していると言うデストロイヤー軍って?それに貴方は自身を死刃と言った。「エスパーダ」はスペイン語で「剣」や「刃」って意味があるけど、どう言う意味なの?」

 

「…そうだな。冥土の土産に教えてやる。デストロイヤー軍とは俺達の偉大なる主人であるデストロイヤー様によって作られた軍だ。そしてそのデストロイヤー軍の幹部の中から優れた戦闘力、つまり最も強い連中が選ばれ強い順に1()0()()()の数字が与えられる。それが死刃だ」

 

「…成る程、貴方もその最強格の1人ってことね。なら一夏君達が簡単にヤられちゃったのも分かるかも」

 

「話は終わりだ。いい加減このくだらねェ能力を消せ」

 

「フフフ」

 

「…何がおかしい?」

 

「私はさっき言った話よね。水は全て私の意のままに操れるって。──────それは大気中の水分も同じよ」

 

その言葉にハッと気付くがもう遅い。周りには霧が充満して身体には大量の水分が付着している。楯無が指を「パチンッ」と鳴らすとクローズの身体の所々が爆発し爆煙に飲み込まれる。

  ミストリアス・レイディのナノマシンによってクローズに付着していた水分のみを気化させ【水蒸気爆発】を起こしたのだ。

 

腕で顔を覆いながら煙の中から飛び出したクローズだが、その身体や服には焦げた跡がついていた。

 

「チッ、人間風情が。味な真似してくれるじゃねェか」

 

「だからさっき織斑先生が言ったじゃない。目の前のことばかりに気を取られちゃダメって♪そして今も」

 

霧が晴れるとクローズの周りには彼を取り囲むように地面に剣が突き刺さっていた。

 

「何だ、これは…」

 

「戦闘に於いて力も大切だ。だがそれよりもっと大事なのは……頭だ」

 

千冬は残っていた刀の1本を地面にへと突き刺し直ぐその場を離れ言い放つ。

 

 

「木っ端微塵」

 

 

その瞬間刺さってた剣が一斉に青く発光し大爆発を起こす。爆煙の中からクローズの剣が宙を舞い地面に突き刺さると消失した。同時に一夏達は重圧から解放され動けるようになる。

この事からクローズを倒したと察し全員の緊張が取れ、鈴とセシリア、簪は蓄積した疲労によって息を整え、シャルロットは重症のラウラの元へ駆け寄り、1番被害が少ない一夏と箒は千冬と楯無の安否の確認する。

 

「千冬姉大丈夫か?」

 

「…それは私のセリフだ。お前達の方こそ酷くヤラれたじゃないか。それに私が簡単にヤラれる程柔じゃない」

 

「そうか。なら良かった」

 

「ちょっと一夏く〜ん。私の心配はしてくれないの〜?」

 

「た、楯無さん!?そんなに寄りかかられると。俺まだ身体中が痛くて…」

 

「それならお姉さんが優しく介抱してあげよ〜か」

 

「そ、それは…」

 

「楯無さん!一夏は疲れているんですから離れてください」

 

一夏にくっ付く楯無を引っぺがそうとする箒。さっきまでの緊迫感が嘘のようになくなり、千冬はヤレヤレと呆れる。

だが次の瞬間彼女の目に煙の中に一つの影が映った。軈て煙が晴れると鋭い目で睨み付けるクローズの姿が。よく見ると服はあちこち破れボロボロになっており、顔や腕も所々汚れが目立っていた。

 

「…まさかここまでやるとは。……確かに俺は人間だからってお前達を見誤っていたかもしれねェ。そこは謝罪する。だが相手が悪かったな」

 

あれだけの爆発をモロに食ったにも関わらず大したダメージも受けていないクローズの桁違いの頑丈さに唇を噛みしてる。

 

「服だけでなく俺の身体にもダメージを与えたことを誇っていいぞ。なんせこの世界に来てここまでダメージを食らったのは初めてだからな。だがそれも終いだ」

 

クローズは掌を向けるとエネルギーを溜め虚閃を放った。しかしその色は先程とは違い黒が混じった紫色、これぞ死刃以上の者達のみが使うことを許された一つの虚閃───【黒虚閃】である。

透かさず楯無が前に出てバリアを展開し千冬達を守る。しかし黒虚閃は虚閃よりも威力が格段に上、ミステリアス・レイディで創り出したバリアでも防ぎきることが出来ず吹き飛ばされる。

 

全員直撃は避けたため辛うじて無事だったが、黒虚閃のダメージを1番食らった楯無は、もはや動くことさえままならない状況である。

 

『楯無さん(更識)!?』

 

「何処を見てやがる?」

 

振り向いた瞬間、クローズが千冬の真横に現れ、互いの視線が合うと蹴りつけようとする。反射的に刀を盾にする千冬、しかしクローズの蹴りに刀は折れてしまい強烈な蹴りが横っ腹に命中し、千冬を蹴り飛ばし壁に衝突する。

 

『千冬姉(千冬さん)!?」

 

一夏と箒は急いで千冬の元へと駆け付けようとしたが突如後ろから頭を抑え付けられその場に背を向けで倒せる。

 

「クローズ様の邪魔はさせない」

 

「させない」

 

顔をズラして視線を向けると一夏にはウサギ耳が付いた銀の仮面を、箒にはクマ耳が付いた金の仮面を被った2人の小柄の少女が抑え付けていた。そして両者の胸には南京錠のアクセサリーが付いていた。

 

「【ストップ】、【フリーズ】、ソイツ等を抑え付けておけ。大したことはないが自由にしておくと色々と面倒だ」

 

『了解』

 

クローズは一夏と箒を自身の従属官である【ストップ】と【フリーズ】に任せ倒せれている千冬にへと近づき、痛みに悶えているところに足で踏み付け追い討ちをかける。

 

「武器も全て失ってもはや万策尽きたってとこか、ブリュンヒルデ様。いや、()()()様よ」

 

その瞬間場の空気が変わった。何故なら誰もが知っている人物の名が挙げられたからだ。

 

「な、何故貴様がそれを知ってる!?」

 

「さぁ、何故だろうな。だがそれだけじゃねェ。その事件の犯人が『篠ノ之束』だってことも知ってるんだよ!」

 

その解答に千冬は答えてしまい、この瞬間織斑千冬が白騎士であることが本人により肯定された。更に何と白騎士事件の犯人はあろうことかISの産みの親である篠ノ之束であると驚愕の真実が告げられた。

 

「千冬姉が…白騎士。それに束さんが犯人って…」

 

「何だ小僧、近くにいて気付いてなかったのか?白騎士の方は兎も角ハッキングの方はだいたい検討付くだろう?そもそも各国同時にハッキングすることが出来る奴なんてこの世界には1人しかいねェだろうが!」

 

確かに世界各国のシステムを同時にハッキング出来る程の天才はこの世界にはたった1人───篠ノ之束を除いて他にいない。

 

「姉さんが…白騎士事件を起こした…犯人…」

 

「…そう言えばテメェはその女の妹だったな。てことはテメェは世界最大の犯罪者の妹って訳だ」

 

もしこの事が世間に公開されたら間違いなく、世界的大犯罪者の妹と称され世界中から批判を受ける。

 

だがその中で誰よりも困惑している者がいた。ラウラ・ボーデヴィッヒっである。

 

「教官が白騎士…それでは…」

 

「そうだ銀髪の小娘。テメェの尊敬する教官様は、テメェを落ちぶれにさせた原因のISを広めた奴の1人だ。そして今度はソイツに指導され軍のトップに返り咲いた。皮肉もんだな。落ちぶれさせた張本人に指導され、剰え尊敬しちまうなんてよぉ」

 

ラウラは信じられなかった、信じたくなかった。出来損ないからトップにへと戻らせ絶望の淵から救い上げてくれた織斑千冬が、自分をその出来損ないにさせた白騎士であるなど。

 

「そん…な……じゃあ…私を見ていたことも…全部…嘘だったのですか……騙してたのですか…」

 

「ッ……」

 

しかし千冬はその問いに答えない、答えられない。ISを世界に広め、世界を腐敗させることになったのも、ラウラを落ちこぼれにさせたのも、その原因の1人が自分なのだから。

 

「そう言うことになるなァ。お前に見ていた視線も、トップに返り咲かせたのも全て偽り────────幻だったんだよ」

 

 

 

「あぁ…あぁ………アァァァァアァァァァァ!!」

 

その瞬間ラウラはさっきよりも大きな声で絶叫した。心の支えであり崇拝していた織斑千冬に対する思いが全て嘘だったと言うことにラウラの心は砕け散った。

 

「ボーデビッヒ…」

 

「どうやら完全に壊れやがった。まぁ俺にはそんなことどうでもいいがな、ハハハ!」

 

「ラウラ、クソッ!?いい加減…退けェ!!」

 

「ウ、ウワッ!?」

 

一夏は抑え付けていたストップを振り払い【イグニッション・ブースト】で発動させ加速し【零落白夜】を発動させる。

 

「ウォォォォー!!」

 

そして今持てる全力の力で斬り付けようとするが、クローズは再びエネルギーの剣を創り出し振り向かずに零落白夜を受け止める。

 

「…小僧、テメェの鈍な刀じゃ俺の身体に傷一つ付けることは出来ねェ。それをさっき実感したのを忘れたのか?」

 

「そんなの関係ねェ。俺はみんなを守るって決めたんだ!お前を倒して、その軍の連中も全員倒す!」

 

その言葉に嘘偽りはなかった。男である自分がみんなを、大切な存在を在りとあらゆる脅威から守ると心に誓ったのだ。その言葉に好意を持つ女性達は顔を赤くしていた。

 

「ホォ、俺にさえ苦戦する奴がデストロイヤー様を倒す?笑える冗談だ」

 

零落白夜を払い除け向き直ると服をズラし隠れていた部分を露わにする。その右上腹部には数字が刻まれていた。その数字は────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「4…だって…」

 

 

「そうだ。俺は第【4】の数字を持つ死刃────《第4死刃(クアトロ・エスパーダ)》、【クローズ】だ」

 

これ程の強さを見せながらも4番、つまりクローズより強い死刃がまだ3人()()いると言うこと。その真実に一夏達は恐怖と絶望を感じた。 さらに彼の口から思いも寄らぬ言葉が飛び出す。

 

「それにみんなを守る?よく言うぜ───────人工生命体がよォ」

 

 

──────人工生命体──────

 

 

その言葉に一夏の顔に動揺が走る。

 

「何だそれ…人工生命体って…」

 

「何だ知らねェのか?いや、知るわけねェか。そのことを知っているのはこの世界では数人だろうしな。なんなら教えてやる。テメェとブリュンヒルデ様がどう言う存在なのかをな」

 

 

  嘗て遺伝子操作によって人工的に【最高の人間】を造ろうとした計画があった。それが【織斑計画】またの名を【プロジェクト・モザイカ】。そして1000番目の試験体にして初の成功体で産まれたのが織斑千冬だ。弟である一夏はその第2の成功体にして千冬のデータからより効率よく「生産」するために造られた存在。

 

 

「じゃああのマドカって人が織斑先生に似ていたのは…」

 

「テメェの思っている通りだ。あの女はブリュンヒルデ様のクローンにしてスペア、つまり計画時に造られた失敗作って訳だ」

 

今の話を聞くと織斑一夏は織斑千冬の弟であると同時に、亡国機業のマドカも千冬の妹と言うことになり実質3人は家族と言うことになる。

 

 

「だがこの話にはまだ続きがあるんだぜ」

 

 

しかしその研究はある日突然打ち切られることになった───────篠ノ之束と言う存在によって。天然素材、つまり純粋な経緯で産まれた存在によって計画は凍結され破棄されてしまう。

だがこの計画の一部の技術がドイツに渡り遺伝子強化体計画、つまりラウラなどの人間が産まれるキッカケの計画が執行されたのだ。

 

 

「つまりだ、そこのラウラ(不良品)とテメェは遠い親戚、若しくは腹違いの兄妹にあたるんだよ」

 

何と一夏とラウラは直接な血縁はないが、一般的にみると親族に当たる存在であった。

 

「テメェ等姉弟は親に捨てられたんじゃねェ。始めから親なんて存在は、はなっからいなかったんだよ」

 

織斑一夏は絶望した。自分は人の子ではなかった。織斑計画と言うのに造られた人工人間。親なんて最初からいなかった。目のハイライトは失われ膝をつき、持っていた雪片は消失した。

だが同時に納得がいった。男なのに唯一ISを動かすことが出来たのも、そして常識を超えた回復力や身体能力も自分は造られた存在だったからだと。

 

「遂に絶望したか。テメェは此処で全員終わりだ。だが心配するな、殺しはしない。死んだ方がまだマシと思える程の絶望を味合わせてやる。ストップ、フリーズやれ」

 

『ハイ』

 

 

「ストップ」「フリーズ」

 

『ユア・ドリーム』

 

 

 

その掛け声と共にIS学園の全職員、生徒は忽然と姿を消し行方不明に。そしてIS学園は世界から消え去った

 

 

──────────────────────────────────

 

 

その後クローズ達は束の秘密ラボの場所を突き止め出向くと、手始めに助手のクロエを殺害し研究所を破壊しまくった。

それにキレた束がゴーレム(無人機IS)を大量に出し襲い掛かるが、彼等の背後から南京錠に酷似した顔を持つ一つ目の怪物、そして二つ目の怪物が複数現れゴーレムと対峙、結果5分も経たない内にゴーレムは全機スクラップにされた。

 

「そんな何で束さんのゴーレムがこんな簡単に…」

 

「ハッ、テメェの造ったヤツなんざ俺達からすればガラクタに過ぎねェんだよ」

 

IS(ガラクタ)が我々を倒すなんて無理だ」

 

「無理なんだ」

 

『ゼツボーグ!!』

 

束は自分が造ったISが訳も分からない奴等なんかに一方的に破壊されたことが信じられずにいた。

 

「それにテメェがこのIS(ガラクタ)を造ったのは世界を滅ぼすためなんだろ?」

 

「なっ!?巫山戯るな!!束さんのISは世界を滅ぼすものなんかじゃない。束さんの未来の夢が篭った「なら何で何もしなかったんだ?」ハァ?」

 

「テメェの夢なんかどうでもいい。だが女しか使えないとか言う欠点を改善せずにこのままのさばらせてたじゃねェか」

 

ISは元は宇宙へ行くために造ったものだった。しかし白騎士事件が発端でISはいつの間にか兵器として認識されるようになった。そして女性にしか扱えないと言う欠点も一切改善されないまま数年が過ぎてしまっている。結果ISは軍に使用したり犯罪組織にまで行き渡っている。それどころか産みの親である本人はIS学園を襲撃したゴーレムと言う無人機まで造り上げ破壊活動を起こした。これを兵器と言わずして何と呼ぼう。

 

「ところでよ、俺の後ろにいる連中でお前の見覚えのある奴等がいるだろう」

 

クローズは後方にいる無数の怪物達の内2体を指差す。1体は竹刀を所持し頭部には白いリボンを付けている。もう1体はロングの黒髪で黒スーツを着用していた。

 

「この2体の怪物…もしかして…」

 

「そうだ。この2体はお前の大好きな妹、そして友人だ」

 

クローズは自身の能力でIS学園に残っていた生徒や教師達は()()()()()()()()この怪物────【ゼツボーグ】に変えてしまったのだ。

可愛い妹が悍しい怪物にされた、その事実に束はブチ切れその服装からは想像もつかない身体能力でクローズの首に蹴りを入れる。しかしモロに食らったにも関わらず何事もなかったのようにケロっとしていた。そして束の足を掴むと関節を弱方向にへと折り曲げた。

 

「ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ーーー!!」

 

折れ曲がった足を掴み悶え苦しむ。

 

「こ、殺してやる…絶対に殺してやるゥ」

 

責めてもの抵抗とばかりに何時もニコニコ顔が一変し、物凄い険悪な顔でクローズを睨み付ける。

 

「まぁ、確かにお前は天才だ。間違いなく後世に語り継がれるだろうな。だがそれは『偉大な偉人』としてではなく、世界を蝕んだ『大犯罪者』としてだかな!」

 

束は各国のミサイルをハッキングし白騎士事件を起こした張本人、世間にバレれば間違いなく犯罪者としてのレッテルを貼られるだろう。まぁそれを同情する者はいないと思うが。そしてクローズは掌を向け虚閃を溜める。

 

「じゃあな。哀れな犯罪者」

 

放たれた虚閃は束を飲み込み同時にラボは大爆発を起こした。この世界を腐らせた元凶は葬られた。

 

 

それから数ヶ月が経ち ISが栄え文明が発達していった世界はクローズ率いるゼツボーグ軍団が支配する絶望の世界にへとなった。逃げようとした者は片っ端からゼツボーグに変えられ生き地獄を味わい、戦おうとした者は殺されていった。

だがこの世界はISの登場により男卑女尊が過激になり腐敗していった。例えクローズ達が現れなくてもこの世界は後に人類自らの手で滅んでいたのかもしれない。だからこの世界が滅んだのは他から見れば自業自得である。

 

遅かれ早かれいずれこの世界は滅んだ、その滅び方が形を変えた、ただそれだけのことである。

 




と、いうことでクローズは4番でした。そして何気に初の上位階級判明者。

彼のことを知っている方の中には「えっコイツ4番なの!?低くない?」と思う方もいるかと思いますが、私の中では4番です!
と、いうのもクローズは原作本編で何回か形態を変えていたと言うものあり4番にしました。
この話を作る前の裏話ですが、最初クローズは「パピネスチャージプリキュア」の世界に出そうと思ったのですが、ちょっと設定がゴチャゴチャになってしまったので、丁度迷っていたISの世界に出すことに変更したのです。

次回はアンケートの候補になったシンフォギアの世界での話を作ります。誰が登場するかは心待ちにしていてください。
感想等お待ちしています。

そしてちょっと早いですが、皆様良いお年を!


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11話 死者を従えし者 前編

どうもアニメ大好きです。

最近「鬼滅の刃」にハマっています。BLEACHの十刃もそうですが鬼滅の刃の十二鬼月も順位があるのがいいですよね。
敵の組織に序列があるのに魅力を感じるのは自分だけかな?
鬼滅の刃も第2期が今年中に放送されることが決定したし、上弦の声優さんが誰になるのか楽しみです。

今回はアンケートにあったもう一つの候補「戦姫絶唱シンフォギア」での世界です。時期としては第3期の終わりで4期が始まる少し前、3.5位の話です。後今回話が盛っていったら随分長くなってしまったので前中後と3編に分けることにしました。




 とある世界の真夜中。

 

 都市から少し離れた場所にある小さな森。そこにロングヘアのおかっぱ頭の少女が暗闇の中に1人ポツンと木々の中に佇んでいた。

 

 「ここなら邪魔が入らなそうね。【d # g m t w j m、 g  j  h # a p t】」

 

 少女が何かを唱えて始めると上空に巨大な魔法陣が出現、その中から無数の人魂が現れる。

 

 「これがこの世界で未練ある者達の魂ね。しかしこの世界の人間達は随分と未練ある者が多いようね」

 

 無数の人魂が至る所にへと飛び散らばっていく中、その内の一つを手に取ると人とは思えない長い舌を出し絡めとり丸呑みに捕食する。その時の彼女の顔は歓喜に震え、幸せいっぱいの表情になっていた。

 

「やっぱり新鮮な魂は最高ね。ん?」

 

少女が至福の時を味わっていると、ある2つの人魂に気付き近く。

 

 「これは?…ヘェ〜、中々面白そうな魂があるじゃない」

 

 人魂から何かを読み取ると少女は自身の力注ぎ込む。するとその人魂は次第に形を作っていき軈て2人の女性にへと姿が変わった。彼女達が目を開くとイキナリ辺りを見回す。

 

 「こ、ここは!?あれ?私生きてるの?」

 

 「…アタシはあの時死んだはず…何でここに…」

 

 「お目覚めかしら?」

 

 2人は自分達が何故ここにいるのか分からず混乱している中、少女の声で我に返り声の方へ視線を向ける。

 

 「何だテメェ、アタシ達に何か用でもあるのか!」

 

 「あらァ、随分な物言いね?私が貴方達を蘇らせてあげたんだから、もう少し感謝してもらいものね」

 

 「貴方が私達を生き返らせてくれたの?」

 

 「エェ、そうよ。でもタダでとは言う訳じゃないわ。その報酬として私の言うことを聞いてほしいのよ。フフフフフ」

 

 少女は人とは思えないほどのニヤニヤ顔をしながら不気味な笑い声が夜の闇にへと誘う。

 

 

────────────────────────────────────

 

 

 そしてその翌日。

 

私立リディアン音楽院、その名の通り主に音楽教育を中心とした小中高一貫校。大勢の生徒が登校中、1人の茶髪の少女が白髪の少女に抱きつく。

 

 

 「クリスちゃ〜ん、おッはよー!」

 

この元気のいい茶髪の少女は【立花響(たちばな ひびき)】。明るく前向きでムードメーカー的存在である。しかしその反面後先考えずに行動するのが偶に傷である。

 嘗てあるイベント会場でノイズに襲われた際に重傷を負い生死を彷徨ったが奇跡的に一命を取り止めた。

 ある日ノイズに襲われていた女の子を助け守ろうとしたとき、胸の中に「歌」が思い浮かびあの事件で宿った力が目覚めノイズを倒すことに成功。それ以降はS.O.N.Gの一員となりノイズ含め凡ゆる災害から人々を守っている。

 

 

「ちょッおい、抱き付くな!鬱陶しい!」

 

 そして抱きつかれた白髪の少女が【雪音(ゆきね)クリス】。

 当初は響と敵対していたが今では頼れる仲間となり響の一つ上の学年に通っている。しかしそれでも性格の上、一々突っかかってくる響のことを鬱陶しいと感じている。

 

 

「まぁまぁ、クリスちゃん。そこが響のいいところなんだから」

 

「てか、お前も私の方が先輩なんだからいい加減「ちゃん」付けは止めろって言ってるだろう!」

 

こっちの黒髪の少女は【小日向未来(こひなた みく)】。立花響の大親友。しかしある日を境に響が自分に何か隠し事をしているのに感づき不信感を抱き始めた時、クリスとの戦闘に巻き込まれてしまいそこでシンフォギアに存在を知ることになる。

秘密を抱え込んでいた響と無力な自分自身に対する怒りから距離を置くよになったが、クリスと出会い相談したことにより思いが吹っ切れ響と和解することになる。それ以降は響達に協力するようになる。

 

 

「あらら、響先輩ま〜たクリス先輩に怒られてるデース」

 

「でも誰にでも仲良くしようとするところが響さんのいいところでもあるよ、切ちゃん」

 

語尾に「デース」っと付けている短髪で金髪の子が【暁切歌(あかつき きりか)】、黒髪でポニンテールの子が【月読調(つくよみ しらべ)】。2人とも嘗てはクリス同様に響達の敵であったが、今では良き同僚である。2人はいつも一緒に行動している事が多い。と言うのも切歌の暴走を調が抑えるといったところ。ある意味響と未来に似たコンビである。

 

 

何処にでもいる女子高生の会話の中4人*1の小型の通信機(?)にサイレンが鳴り響く。4人は顔を合わせ頷くと急いでとある場所にへと向かう。それを1人だけ残った未来は心配した眼差しで見つめていた。

 

 

 

 

太平洋の大海原、その海域に浮かぶ巨大な戦艦。そこに一機のヘリが近づくと上部のハッチが開きヘリは降下、そしてハッチは閉まり格納される。そのヘリから響、クリス、切歌、調の4人が降り、格納庫から出るとある一室に向かって走り出す。軈て目的の場所の扉前まで来て中に入ると、凡ゆる一面コンピュータだらけで中央には巨大なモニターが映し出されている。それから少し後に作業員に扮した服装をした2人の女性が到着する。

 

「翼、マリアの両名、只今到着しました」

 

漢気を感じる青髪のサイドポニンテールの女性【風鳴翼(かざなり つばさ)】。歌手として活躍し、その美声は世界中に知れ渡っており彼女のコンサートチケットは飛ぶように売れる。

昔はある人物と【ツヴァイウィング】と言うボーカルユニットを結成していたがあることがキッカケで現在は1人で活動している。

 

そしてもう一人、ピンクの髪のツインテールの女性【マリア・カデンツァヴナ・イブ】。嘗ては切歌と調と行動し響達と敵対していたが今では心強い仲間。

さらに翼同様素晴らしい歌声と歌唱力を持っており、デビューして僅か2ヶ月で全米ヒットチャートの頂点に登り詰めた。最近では翼とコラボライブを開催している。

 

 

「全員揃ったな」

 

全員の前に腕組みをしているゴリラっ…ンン、失礼。このガタイのいい男こそS.O.N.Gの司令官である【風鳴弦十郎(かざなり げんじゅうろう)】。翼の叔父であり、響に戦い方を教えた師匠である。その桁外れの身体能力で生身でありながらもその実力は装者達も引けを取らない。(だからある意味ゴリラと言うのもあっているのかも…)

そしてもう1人椅子に座って端末を操作している子供が【エルフナイン】。彼女はある存在によってコピーとして造られたホムンクルスであるが、今では各種解析やギアのメンテナンスを受け持ち響達のサポートをしている。

 

「それでおっさん、今回は何だ?」

 

「あぁ、だが話す前にこれを観てほしい。エルフナイン君頼む」

 

「はい」

 

エルフナインが端末を操作して正面に大きなモニターが映し出され一つの街の風景が映った。しかしまだ昼間だと言うのに黒雲に覆われまるで夜のように暗い。そしてその街を茶色や青などの微生物の姿をした存在【ノイズ】が大量発生し襲撃している映像だった。

 

「ノイズ!?」

 

「やっぱり今回もノイズか?」

 

「そうです。でもこのノイズ、ちょっと可笑しいんです」

 

「可笑しいって何がデース?」

 

「これを観てください」

 

モニターが変わると1体のノイズが1人の女性に多い被さるように抱き付いた。女性は「いや、いや!」と叫び声を上げながら身体が炭化し灰となり死亡してしまう。そしてそのノイズは次の獲物を見探しに活動を再開する。

 

「何このノイズ!何で消滅しないの!?」

 

この思いもよらない光景に装者達は驚愕した。

 

ノイズは本来人間に触れると自身も炭化し消滅してしまう。しかし今回現れたノイズは人に触れても炭化しないで次々と人々を襲っている。

 

「解析したところこのノイズの細胞組織が今までとは違うことが分かりました」

 

「まさかアルカノイズのような新種だと言うのか!?」

 

「その可能性は高いと思います」

 

アルカノイズ───ある組織がノイズの遺伝子を改造しシンフォギアを分解させる力を持ったノイズである。今回現れたのはそれとは違う個体のようだが、人に触れても炭化しないとは初めてのケース。今持っているデータだけでは足りないのだ。

 

「ですので、もう少しデータがほしいんです」

 

「でもここでジーとしてたらドンドン被害が大きくなる一方デース」

 

「私も切ちゃんと同じ。これ以上多くの犠牲を出したくない」

 

仲良し2人組はこのまま街の人達がノイズに殺されるのを観たくないと出撃の許可を求める。

 

「私も2人と同じ気持ちです。沢山の人達が死んでいくのを黙って観ているだけなんて耐えられません!お願いです、行かせてください!」

 

「私も立花達の意見に賛同です、出撃の許可を!」

 

お節介焼きの響は2人の意見に賛同すると、それに釣られて翼も同じように出撃許可を求める。

エルフナインは迷っていた。今回現れたノイズは人に触れても炭化することなく活動を続けることが出来る。もしかしたらシンフォギアが通用しない可能性もある。ノイズは未だに未知の部分が多い。もしあのノイズ達がアルカノイズのようにシンフォギアを分解出来るような力を持っていたらと思うと。ある程度データを会得してから許可を出したいと言うのが本音である。しかし彼女達の気持ちを無駄にしたくないと思う自分もいる故、どう答えていいのか悩んでいた。

 

「…正直言うと俺もエルフナイン君と同じ意見だ。あのノイズが以前のアルカノイズのように改造された新種だとすると、またギアが分解される恐れもある」

 

「…そんな師匠「だが」ッ」

 

「響君や翼達の言う通り、これ以上一般市民を危険な目に遭われる訳にはいかん。全員直ちに現場に向かってくれ!」

 

弦十郎は「市民を守りたい」と言う響達の意見を尊重する返答に装者の表情は明るくなるが、エルフナインは目を見開き困惑な表情をしていた。

 

「そんな司令!?無茶です!ここはやっぱりもう少し様子を見てからの方がいいかと思います!」

 

「エルフナイン君、君の言いたいことも理解出来し響君達のことを思って言ってのことも分かっている」

 

「だったら「しかし」」

 

「市民を災害から守るのも我々の大事な役割だ。それに君も彼女達と同じ立場なら同じことを言っていたんじゃないか?」

 

「司令…分かりました。僕も出来る限り皆さんをサポートします」

 

「ありがとう。だがみんな呉々も無茶をするな」

 

『ハイ!』

 

「エルフナイン君、君はあのノイズの情報を出来るだけ多く集めてくれ」

 

「ハイ!」

 

「総員、出撃!」

 

『了解!!』

 

6人は号令と共に司令室を後にし格納庫に向かい待機してた一機のヘリにへと搭乗、現場に急行するのであった。

 

 

 

───────────────────────────────

 

 

 

「キャーーー!!」

 

「助けてくれ!!」

 

「死にたくない!死にたくない!!」

 

 

現場に到着すると大量のノイズが街中の人々を襲っていた。状況を確認すると全員ヘリから飛び降り首にぶら下げていたクリスタルを手に取る。

 

 

『Balwisyall Nescell gungnir tron』

 

『Imyuteus amenohabakiri tron』

 

『Killiter Ichaival tron』

 

『Seilien coffin airget-lamh tron』

 

『Various shul shagana tron』

 

『Zeios igalima raizen tron』

 

 

6人がそれぞれの聖詠を唱えるとクリスタルが光だし…

 

響は両腕にカートリッジが装着されたオレンジのギア【ガングニール】

 

翼は日本刀を所持したスタイリッシュな青のギア【天羽々斬】

 

クリスは大量の銃器を装着した赤のギア【イチイバル】

 

マリアは所々ガングニールに酷似した白銀のギア【アガートラーム】

 

調は両肩のパーツが浮遊しているのが特徴のピンクのギア【シュルシャガナ】

 

切歌は巨大な大鎌を所持した緑のギア【イガリマ】

 

…それぞれのギアが装着される。

 

響が即拳を繰り出しノイズにへと攻撃する。攻撃を受けたノイズは身体を貫かれ炭化し消滅、全員それを確認しシンフォギアが通用することが分かり他のメンバーも戦闘を開始。翼は刀でマリアは短剣で斬り裂き、クリスは銃火器や矢を撃ち込み、切歌は大釜を振るい、調は紐がついているヨーヨー型の丸ノコを飛ばし次々とノイズを撃破していく。

 

「ウワァー!!」

 

そんな時悲鳴が聞こえ振り向くと、逃げ遅れた一人の男性がノイズから逃げていた。すぐさま響が走り出し男性を襲っていたノイズを倒し安否を確認する。

 

「大丈夫ですか?怪我はありませんか?」

 

「あ、あぁ。お陰で助かったぜ」

 

「此処は危険です。早く安全なところへッ誰!?」

 

突如ビル影から気配の感じギアを構える。するとビル影から1人の女性が現れた。しかしその服はボロボロで身体もあちこち傷だらけであった。逃げている途中で怪我をしたのかと思っていると後ろにいる男性が動揺し始める。それはまるで信じられないモノを観ているかのように。

 

「カ、カホ…なのか…」

 

「ショウジさんお久しぶり。元気にしてた?」

 

「カホ……いや、違う。お前はカホじゃない、カホなはずがない!一体誰だ!」

 

「酷いわショウジさん、私はカホよ。貴方を愛して、そして貴方が愛していたカホ本人よ」

 

「そんなはずない!だってお前はあの時死んだんだ!だからここにいるはずが『ビリビリ、バン!』ッグァァァァーー!」

 

 何と突如男性の目に黒い電流らしきものが流れたと思ったら眼球が爆発、男性はあまりの痛みに悶え苦しむ。

 

「大丈夫ですか!?しっかりしてください!貴方この人に何したですか!」

 

「私は何もしてないわ。その人が私のことを疑ったからそうなったらの。やっぱりショウジさんの私への愛は偽りだったのね」

 

「それはどう言う…」

 

 

『ウワァァァーー!!』

 

『アァァァァーー!!』

 

 

響がカホと言う女性の言葉に疑問を抱いた時、周りから大勢の人達の断末魔のような悲鳴が聞こえる。声のした方へ顔を向けると全員ショウジと言う男性と同じように両目を押さえて苦しんでいた。そしてその人達の近くには同じように服がボロボロで身体中傷だらけの人や、中にはゾンビのように顔色が良くない人もいた。

 

「何なんだコイツら一体?」

 

「分からんが人々にに危害を加えるなら対処するまでだ」

 

翼は防人としての責務を全うしようと近くにいたゾンビのような人物を斬り裂く。胴体を斬り裂かれた人物は絶命する。続くようにクリスも銃撃や矢を使い同じような人物に対処していく。

攻撃を受けた者達は動かなくなると肉体が消滅し人魂が現れた思ったら何処かにへと飛んでいってしまう。

 

人魂の向かう先に何があるのか気になったが、今は住民の安否を優先し湧いてくるノイズは倒していく。

 

そんな時マリアは後方から殺気を感じ反射的に剣を構えるとフードを被った何者かが短剣で斬りかかってきた。しかしその短剣は色は黒だが自分の物とよく似ている。

 

『マリア(さん)!』

 

「大丈夫、コイツはアタシに任せて。貴方達は市民の避難を優先して」

 

シンフォギアの武器はそれぞれ個々のもの、だから同じ武器が存在することはない。ソックリ品はあるかもしれないがここまで瓜二つと言ってもいい物が存在するのか?

色々と思考が巡るが今は考えるを後にし目の前の敵に集中することにする。互いの武器がぶつかり合い火花が散り、両者後退し距離を取る。

 

「貴方は何者?それにこのノイズとさっきのゾンビ達は貴方の仕業?」

 

「…」

 

しかしフードの人物は答える気配は全くなく、ただ黙って立ち尽くしていた。

 

「答える気はなさそうね。だった貴方が何者なのか力づくでも吐いてもらうわ!」

 

先程の殺気からして自分を殺しにかかってきていると思い手加減なしで相手をすることにし、左腕の竜手部分に収納されていた短剣を引き抜き複数の短剣が飛び出し上空で停止、一斉にフードの人物目掛けて飛び交う。

対するフードの人物は脇から黒い剣を取り出し、蛇腹状にしてシナヤカに振り回し全ての短剣を撃ち落とされる。

 

「やるわね。だったら」

 

再び無数の短剣を出現させ同じようにフードの人物に向けて飛び交わさせるが、向こうも同じように蛇腹剣で振り払う。しかしその最中マリアは持っていた短剣をロングソードにへと変形させフードの人物が短剣を相殺するのに集中しているところを一気に距離を詰め勢いよく振り下ろす。

「もらった」と思った瞬間、無数の黒い短剣が2人の間に出現し攻撃を防いだ。それはまるでフードの人物を守るかのように。そしてその短剣の刃が自分の方へ向き変えると一斉に目掛けて雨のように降り注いぎ吹き飛ばされる。

 

だが咄嗟にロングソードを盾にしたことで多少の傷を受けたがダメージを抑えた。しかしマリアにはさっきから気になる点があった。

 

「(アイツの攻撃方、私のギアの似ているような)」

 

さっきから自分のギアと似たような武器や攻撃をする相手に戸惑うマリアだが、突如フードの人物が話しかけてきた。しかしそれは自身にとって衝撃的な言葉だった。

 

 

 

「フフフ、やっぱり強いですね、()()()()()()は。私のギアをそこまで使いこなせるなんて」

 

 

 

 

聞き覚えのある声に自分のことを「姉さん」と呼ぶ、まさかと思っていると謎の人物はフードを剥ぐ。その顔は嘗て事故で亡くなった実の妹【セレナ】であった。しかも黒いアガートラームを装着していた。

 

「久しぶりね、マリア姉さん」

 

 「セレナ…本物なの…」

 

 「勿論ですよ。可愛いものには目がなくて素直になれないけど、とても心優しいマリア姉さん」

 

若干揶揄い気味だが丁寧な口調でことを知っている。目の前にいるセレナは間違いなく本物だと疑う余地もなく二度と会えないと思っていた大切な妹に一歩また一歩と近づていく。だが────

 

 

「だからマリア姉さん……死んでくれる?」

 

 

「…エ?」

 

 

──突如雰囲気が一変するとセレナは腕を上げると自身の周りに無数の短剣を出現する。そして腕を振り下ろすとその短剣は一斉にマリアにへと襲い掛かる。最愛の妹に「死んで」言われたが故思考が遅れそのまま短剣の餌食になる、と思ったがいち早く事態に気付いた翼が彼女の前に飛び出し素早い剣術で全て短剣を振り払った。そして振り返り告げる。

 

「惑わされるなマリア!死者が生き返るはずなどない。それにセレナ(アイツ)はお前を本気で殺そうとしていた。もしセレナ(アイツ)が本当の妹なら姉であるお前を殺そうとする訳がない!そんな偽者の言葉に惑わされるな!」

 

翼はマリアに「目の前にいるのは偽物だ」と言い正気に戻させようとする。自分も似たような境遇を辿った者として今の彼女の気持ちは分かる。だが今は目の前のことに集中する、自分達は防人なのだから。しかしその思考を破る出来事が起こる。

 

 

 

 

「それは違うぜ翼。そこにいる嬢ちゃんは偽者のなんかじゃない」

 

 

 

別の女性の声が聞こえた。だが響と翼はその声に聴き覚えがあった。まさかと思って声のした方へ振り向くとセレナと同じようにギアを纏っている長身の女性がいた。

 

「久しぶりだな、翼」

 

しかし響と翼の2人はそれとは違う意味で目の前にいた人物に驚きを隠せなかった。何故ならそこにいたのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…奏」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…翼にとっては嘗て共に歌いノイズと戦かった最愛の友人、響にとっては自身の命を助けてもらい大勢の人を助ける力をくれた人物─────天羽奏(あもうかなで)であった。

 

*1
響、クリス、切歌、調




何故亡者達が蘇ったのか?これが分かれば登場死刃が誰かが分かると思います。

感想あればお願いします。お気に入り登録も方もお願いします。


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12話 死者を従えし者 中編

どうもアニメ大好きです。

前回投稿した時に全く感想やお気に入りがなかったので落ち込んでしまいましたが、まだ前編なので大丈夫と気持ちを切り替えて中編をやり遂げました。
今回の話では今話題になっているあのアニメ作品にちょっとだけ登場したキャラが従属官として登場します。そして今回登場の死刃の階級も明かされます。

それではどうぞ。


突如現れた新種と思われるノイズとの戦闘中謎の人物が現れマリアと交戦。しかし戦いの最中その人物がフードを取るとその顔は自身の妹のセレナと酷似していた。

最愛の妹が生きていたことに喜びを覚えたが、次の瞬間「死んで」と口ずさみ自身を本気で殺そうとする。それを翼が防ぎ呆気に囚われてるマリアに「目の前のセレナは偽物だ」と呼びかける。

しかしそんな彼女の前にも戦死した嘗ての友である天羽奏が黒いガングニールを纏い現れたのであった。

 

 

 

「奏…どうして…だって貴方は「待て翼!」エッ?」

 

「絶対にアタシを偽者だなんて考えるな!そう思った瞬間にお前は「余計なことを言わないで頂戴」ッ!」

 

 自分達の頭上から声が聞こえ、その声を聞いた奏は身体がビクッと震えるとまるで金縛りにあったように硬直してしまう。見上げるとオカッパ頭の少女が蜷局を巻いた黒い靄に包まれながら浮遊していた。

 

「余計なことを言ういけない子達にはちょっとお仕置きをしなくちゃ」

 

少女は指をパチンっと鳴らすと奏の身体に黒い電流が流れ出し苦しみだす。

 

「奏!!」

 

「奏さん!!」

 

「全く、誰のお陰で生き返ったと思ってるの?自分達の身の程を弁えなさい」

 

少女は浮遊しながらまるで塵を見るかのように奏を見下していた。

 

「アァ…クッ」

 

「奏!!貴様、今すぐ辞めろ!!」

 

「あら?私は恩を仇で返すような礼儀知らずな子に躾をしているだけよ。躾直すのってイケないことなのかしら?」

 

「躾?躾だと?巫山戯るな!それじゃあまるで奴隷じゃないか!奏はお前の奴隷なんかじゃない!」

 

「ハァ…バカには何を言っても無駄のようね。…一応自己紹介はしておくわ。私はメラスキュラ。デストロイヤー軍所属の魔神族で死刃(エスパーダ)の1人。よろしくね、人間のお嬢ちゃん達」

 

少女────メラスキュラは笑顔で自己紹介をする。だがその目は笑っておらず、瞳からはとてつもない悪意を感じた。

 

「でも変ね。セレナ(そこの子)と違って親友と出会ったのに、何故殺そうとしないのかしら?」

 

  その言葉に奏とセレナ意外の装者達はメラスキュラに視線を向ける。まるでセレナがマリアを殺そうとした理由を知っているかのような口振りに。

 

「どう言う事だ?」

 

「私の【怨反魂の法(おんはんごんのほう)】は死者の未練を増幅させ、その負の感情を糧として蘇らせる術なの。今暴れてる人間やあのノイズ(生物達)も含めて、奏とセレナ(その子達)も何かしらの怒りによって今この世に存在しているのよ。そして蘇った亡者達は自身の怒りの元を取り除こうとするの」

 

「…じゃあセレナが私を殺そうとしたのは…」

 

「その通り。セレナ(その子)にとっての怒りの元はマリア(アンタ)だったと言うことよ。だから(その子)も同じで友人である(アンタ)に怒りを抱えているのだと思っていたんだけど何故かしら?」

 

 セレナが姉マリアを殺そうとしたのは、彼女に対して何らかの怒りがあると言う驚きの真実が明かされた。

 実の姉に何らかの【怒り】がある、だからこそ奏も親友であった翼に何かしらの【怒り】を抱えているものだとばかり思っていた。しかし対面してもセレナのように襲い掛かかる素振りさえ見せないからメラスキュラは不思議でしょうがなかった。すると奏はその疑問について苦しみながらも口元を釣り上げ「ハハハ」と笑い出した。

 

「…何が可笑しいのかしら?」

 

「翼を殺そうとしない?そんなの当たり前だ。アタシが怒っているのは()()だからさ」

 

「…どう言うことかしら?」

 

「アタシはあの日、そこの立花響(嬢ちゃん)を殺し掛けたんだ。そして絶唱を歌って翼にも涙を流させちまった。アタシはそんな弱い自分に、翼に涙を流させた自分に腹が立った。つまりアタシが怒りを抱えているのは────アタシ自身だ!」

 

 奏は自身が死んだあの日、会場にいた多くの人を救えなかったこと、立花響を危険な目に合わせ殺しかけたこと、親友である翼に涙を流させたこと、死んでも尚、後悔し続けていた。故に彼女の【怒り】の源は弱い自分自身であった。

 

「…弱い自分に対する怒りね。面白いわね貴方。このまま消してしまおうと思ったけど辞めるわ。代わりにその大切な友人を殺してあげる!」

 

メラスキュラは纏わりついていた靄の上の部分を拳の形に変化させ奏諸共翼に殴り掛かる。翼は動けない奏を抱きかかえ自身の身体を盾にする。すると間一髪響が間に入り迫り来る拳に自身の拳を打ち込み弾き返す。

 

「翼さんと奏さんには指一本触れさせない!」

 

「心配しなくてもいいのよ。貴方も一緒に殺してあげるから」

 

「そのままにお前がアタシ等にヤラれちまうかもな」

 

響の後方からクリスが飛び上がり数本の矢を放つ。しかし靄がまるで蛇のように巻き付き全ての絡め取ってしまった。矢はそのまま投げ捨てられ消滅してしまう。

 

「こんな玩具なんかで私を倒せるなんて思ってるのかしら?」

 

「クッ…」

 

思っていたより厄介そうな相手を前にして2人は苦しい顔になる。

 

 

─────────────────────────

 

 

「…セレナ…私に何か怒りがあるのは…本当なの…」

 

「エェ、マリア姉さん。私が死んだあの日姉さんは私の為に泣いてくれた、悲しんでくれました」

 

その日から数週間経っても自分の死に泣いてくれた。悲しませてしまったことへの罪悪感もあったけど、自分がそれだけ大切な存在だったと思うと嬉しかった。

 

「姉さんが私のことを思ってくれていた、それだけで私は全てが報われる感じがしました。でも立花響、風鳴翼、雪音クリス(あの3人)と出会ってからマリア姉さんは変わってしまった」

 

マリアが調、切歌と共にS.O.N.Gに所属して響達と会話をするようになってからマリアは少しずつ明るくなっていった。でもそれは彼女に心を許せる仲間が増えたと言うこと。それはとても喜ばしいことだと心から喜んだ。()()()()()…。

 

「マリア姉さんは彼女達と触れ合う内に、段々私のことを思わなくなっていった。仲の良い同僚が出来たら私のことは綺麗さっぱり忘れてしまった。そして気づいたの。マリア姉さんは本当は私のことを何とも思っていなかったんだと…」

 

「だから私は姉さんを許さない…私の気持ちを弄んだ姉さんを…ゼッタイニユルサナイ…」

 

セレナは怒りの感情に支配され完全に平常心を失っていた。

 

「待ってセレナ!私は貴方のことを忘れたことなんて一度もないわ!それは全部メラスキュラ(アイツ)が見せた幻よ!だから辞m「煩い!」ッ!」

 

「姉さんには分からないのよ、このアタシの気持ちなんて!」

 

しかしセレナはマリアの言葉に耳も傾けず、無数の短剣を出現させ一斉に放つ。マリアは身体能力で全て回避する。

 

『マリア!』

 

切歌と調は援護にしようと駆け寄ろうとするが、マリアは掌を2人にへと向け静止させる。

 

「切歌、調、私は大丈夫よ。貴方は響、クリス(2人)の援護をお願い!」

 

「でも…」

 

「お願い!ここは私一人にやらせてほしいの!」

 

「…分かった。行こう切ちゃん」

 

「エッ!?でも調…」

 

「心配要らないよ切歌ちゃん。だってマリアだもん」

 

「…そうデスね、マリアデスもん。絶対大丈夫に決まっているのデス」

 

「うん。マリア私先に行ってるから」

 

「早く終わらせて手伝いに来るのデス!」

 

「分かったわ。貴方達も無茶しないでね」

 

切歌と調はマリアを信じ、3人の元へと向かう。

 

「姉さん、私よりあの子達の方を心配するなんて…」

 

そのやりとりを見ていたセレナは面白くなったようでさらに怒りが込み上げていた。

 

「セレナ、貴方をそこまで追い詰めてしまったのが私なら、私自身が貴方を止めなきゃいけない責任がある!」

 

短剣を仕舞い、収納していた長身のブレードを取り出しセレナにへと向ける。対するセレナも黒いブレードを構える。

 

「行くわよ、セレナ!」

 

「マリア姉さん、覚悟!」

 

二人同時に駆け出し互いの武器がぶつかり合った。

 

 

──────────────────────────────

 

 

「ウフフフ、どうしたのかしら?さっきまで威勢はどうしたの?」

 

一方此方では戦闘中の響、クリスの2人はメラスキュラに翻弄されていた。響の拳は、拳状に変化した靄と力比べで吹き飛ばされ、クリスの銃弾や矢は、メラスキュラ(本体)に届く前に全て弾かれてしまいダメージを与えることが出来ていなかった。

 

「あれだけ粋がっていたのにこの程度なの?」

 

「クソ、舐めやがって…」

 

「響先輩ィ、クリス先輩ィ〜!」

 

そこへ切歌と調が合流する。

 

「援護に来たデース!」

 

「加勢します」

 

「2人とも…ありがとう」

 

「よォし、こっから本番だ!」

 

2人が加勢に入ったことにより4対1、人数の差で圧倒的に優位に立ったことで勢いづく装者達。しかし突如上空から小さな人影が飛び出しメラスキュラの近くに降り立つ。

 

それは紅い和風の着物を着、草鞋を履いた背の低い少女。しかし顔はアルビノの如く色白で、結膜は血のように真っ赤、そして極め付けは額の左右に生えている小さな2本の角。そして口周りには紅い液体がベットリと付着していた。

 

 

「あら【零余子(むかご)】。もう食事はいいの?」

 

「は、はいメラスキュラ様。もうお腹一杯です」

 

「そう。でも貴方はもっともっと強くなれるはずだから、沢山食べて強くなりなさい。食べ物ならそこに幾らでも転がっているんだから」

 

メラスキュラは零余子と呼んだ少女の頬を素手でなぞる。触れられた本人は「ビクッビク」と震えだす。怯えるその表情にメラスキュラはうっとりとしていた。

 

「何だソイツは」

 

「この子は零余子、私の従属官よ」

 

「従属官?」

 

「私達死刃は支配権としてNo.11以下の数字を持つ者達の中から自身の直属の部下を選ぶ事が出来るの、それが従属官よ。1人しか選ばない死刃もいるし、逆に沢山選ぶ死刃もいるの。ただ私の場合は復活させた連中も入るから一応ノイズ(アイツ等)もそうなんだけど、正式な従属官は零余子(この子)だけよ。まぁでも私の支配下にあるのは違わないけど。そしてこの子は鬼なのよ」

 

「お、鬼!?」

 

「鬼って、あの物語に出てくるあの鬼デスか!?」

 

「まさか実在していたの!?」

 

「マジかよ!」

 

日本の昔話「桃太郎」や「一寸法師」とかに出てくることで有名である【鬼】が実際していたことに驚く4人。だがメラスキュラの口から、さらに驚愕なことが伝えられる。

 

「そう。そしてこの子は人間を喰らうのよ」

 

何と彼女は人を喰らうとのこと。ノイズとは方向性が違うが人間にとっては危険な存在であると言うことだ。そして先程2人の会話の中で気になる部分があった。『食事は終わったの』────食事、つまり何かを食べていた、そして零余子(目の前にいる鬼)は人を喰らう鬼、ここまでの考察で彼女の口元にベットリ付いている紅い液体の正体が予想される。あれは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間の血であると言うこと

 

 

 

「じゃあ零余子、食後の運動がてらあそこの切歌、調(おチビちゃん2人)の相手をして頂戴」

 

「わ、分かりました、メラスキュラ様!」

 

ビクビク震えながらも主人の命により口元の液体を拭き取りると、調と切歌の方へ向き直る。

 

「メラスキュラ様の命令でアンタ達チビ共の相手をしてあげる」

 

「チビって、何言ってるデスか!?貴方も私達とそんな大差はないのデス!」

 

「寧ろ、貴方の方が幼く見える」

 

「煩い!私はこう見えても30年以上生きているのよ!」

 

「幼い」と馬鹿にされたことで頭にきた零余子は、地面を蹴るとその見た目から信じられない速度で2人にへと突撃する。鬼なだけあって身体能力も並外れている。

 

2人は飛び上がり後方へ回避すると、切歌は大鎌を振るい斬撃を、調は装備していたヨーヨーを投げ飛ばす。迫り来る攻撃に取り乱す落ち着いた様子で零余子はある言葉を発した。

 

「血鬼術【部位倍化──腕】!」

 

すると突如両腕が、2メートルくらいにまで巨大化し、斬撃は力任せで振り払い、ヨーヨーは片手で受け止める。そしてもう片方の腕で紐を力任せで引っ張り振り回し始める。

このヨーヨーは調のギアと繋がっているので、遠心力によって調も同様に振り回される。次第に回転力は上がっていき、零余子は手を離す。反動で調もそのままヨーヨー同様吹き飛び近くの建物へと激突する。

 

「こぉんのぉぉ!」

 

切歌は鎌を振り上げ斬りかかるが、真剣白刃取りで受け止めてられ調と同じ方向へ投げ飛ばされる。

 

 

 

その光景を見ていたメラスキュラは微笑み、響とクリスは自慢の後輩達が苦戦している姿に驚く。

 

「…アイツ、見た目の割に強ェぞ」

 

「それはそうよ。死刃である私の従属官だもの。強いに決まっているじゃない」

 

「てかそもそもさっきから言ってる【死刃】って何なんだ?」

 

「…そう言えばまだ言ってなかったわね。良いわ、教えてあげる。死刃っていうのは私達の主人であるデストロイヤー様によって選ばれた最強の存在。そして強い順に番号が与えられるの」

 

「…じゃあ、貴方もその内の1人ってこと?」

 

「その通りよ。因みに…」

 

メラスキュラは左腕を上げるとその脇の下に数字が刻まれていた。その数字は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…私は第【8】の数字を持つ死刃───《第8死刃(オクターバ・エスパーダ)》、【メラスキュラ】。改めてよろしくね、人間のお嬢ちゃん達」

 

 

 

─────────────────────────────────────

 

 

 一方マリアとセレナの戦いは激しい攻防戦が行われ、ややマリアの方が追い詰められていた。

 

 

「マリア姉さん、随分息が上がってますよ。少し平和ボケして体力が落ちてるじゃないですか?何にしてもマリア姉さんに私が止めることは出来ませんよ」

 

「ハァ、ハァ。そうかもしれないわね。だけど貴方じゃ私を倒すことは出来ない」

 

「…それはどう言う意味ですか?」

 

「セレナ貴方───私を倒すことに躊躇っているでしょ?」

 

 その言葉にセレナの動きが止まる。

 

「今までの行動を見ていて分かったの。攻撃が私に当たる直前、貴方無意識に力をセーブしている。つまり私を倒すことに躊躇いがあるってこと」

 

「そ、そんなはずない!絶対にありません!」

 

「いいえ、貴方は迷っている。私を倒すことに。私に分かる。だって貴方は世界の何処を探してもいない、たった1人の私の大切な妹だもの」

 

「そんなこと……アルワケナァァイ!!」

 

 逆上したセレナは短剣を握りしめ、マリアに一目散に突っ込む。対するマリアもブレードを握りしめ構える。2人の間が数メートルになった時、突如マリアは構えを解き両手を広げ無抵抗の姿勢にへとなる。その状況にセレナは一瞬目を見開くが、すぐに立ち直り止まることなくマリアの首目掛けて短剣を振りかざし────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────マリアの首の一歩手前で止まった。

 

「セレナ…貴方やっぱり」

 

「分かっていたんです。姉さんが私を忘れることなんて絶対にないって。でもメラスキュラ(あの人)の言う通り、私は心の奥で私がいないのに楽しそうに笑うマリア姉さんが憎かった。殺したいと思いました。だけどやっぱり、私には出来ない。マリア姉さんを殺すことなんて、私に出来るはずありません。だってマリア姉さんは世界に1人しかいない…私のお姉ちゃんなんですから」

 

 顔を伏せ自身の奥底にあった本当の気持ちを暴露する。そしてその瞳からは涙が溢れ出し、一滴、また一滴と地面に落ちていく。

そんな泣きじゃくる彼女をマリアは両腕で優しく包み込んだ。

 

「セレナ。貴方が私の知る優しい子のままで良かった」

 

「マリア姉さんッ……ゴメンなさい、ゴメンなさい、マリア姉さん!」

 

 泣きながら謝り続けるセレナをマリアは優しく抱きしめる。あの事件の日以降2度と触れ合うことはないと思っていたが、今こうして十数年ぶりに2人は触れ合うことが出来た。例えそれが悪意によってのことであったとしても、今の2人には感謝の気持ちで一杯である。

 

「セレナ、どんなことが起きようとも私は貴方のことを忘れないわ。だから貴方もこれからも私のこと忘れないでね」

 

「はい。勿論です、マリア姉さん…ありがとう」

 

 最後に御礼を言うと透けるように消えていき消滅し、残った人魂も次第に小さくなっていき消滅した。彼女のこの世に対する未練は無くなったと言うことだ。

マリアは妹の想いを無駄にしないために、仲間達の元へと向かうのであった。

 

 

──────────────────────────────────

 

 調と切歌、零余子の戦いでは巨大化した腕を力任せで振り回す零余子に対し、調と切歌はお互い連携の取れたプレイで腕や身体を斬りつける。しかし斬られた箇所が瞬く間に修復され元に戻る。

 

 これこそが鬼の能力の一つ再生力。幾ら身体を斬り刻まれても、バラバラにされようとも()()()()を切断されない限り何度でも復活し続ける。

 次第に2人(調、切歌)はスタミナが切れ始め息が上がっていく。

 

「疲れた?でもアタシの力はまだこんなものじゃないわ」

 

今度は近くにあった少し大きめの瓦礫を掴む。

 

「血鬼術【物質肥大化】!」

 

 すると掴んでいた瓦礫が巨大化していき、バス一台に相当する程の大きさにまでなり勢いよく投げ付け砂煙が舞い上がる。

 

 視界が晴れると2人がいた場所は瓦礫の山と化した。数秒時間が流れるが出てくる気配がない、あのまま押し潰されてしまったのか?そう思っていると背後から1つの人影が。

 振り向くと調の姿があり、その右脚の先には小さな丸ノコが付いていた。するとその丸ノコが巨大化し回転しながら自身にへと急降下してきた。零余子は巨大な腕を使って真剣白刃取りで受け止め、回転を止めようと力を込める。だが忘れていないだろうか?自分が戦っているのは2()()である。

 

「切ちゃん、今だよ!」

 

「OKデース!!」

 

 調の合図と共に彼女の後方から姿を現した切歌は大鎌を手裏剣のように回転させながら投げ飛ばし、零余子の左腕の根元から先を斬り落とした。同時に拘束から解放かれた丸ノコはそのまま零余子の身体を真っ二つに斬り裂いた。

 零余子は口から血を吐きそのまま地面に倒れ伏せた。身体はなんとか再生しようとするが、ダメージが大きい所為か先程よりも治りが遅くなっていた。

 

「やっぱり。幾ら再生が出来ても、これだけの怪我なら治るには少し時間がかかるはず」

 

「流石調デス」

 

 そして2人は自身の武器を零余子にへと向ける。

 

「これで終わり」

 

「観念するデス」

 

「ク、クソッ…」

 

 もうダメだっと思った瞬間、突如街の中心部、響達がいた場所近くに巨大な黒いドーム状の球体が出現する。

 

「あれは一体…」

 

「何デースか!?」

 

 彼女達の視線が自分から逸れた隙に、全ての意識を再生力にへと回し身体を修復させる。2人が視線を戻した時には、身体が縫い合わさり脚のみ再生が完了し、超人的な脚力で飛び上がり逃げて去った。

 

「あっ!コォーラ、逃げる!戻ってくるのデース」

 

「切ちゃん、後にしよ。それよりも響さん達が心配だよ。行こう」

 

「ぬぅ〜…分かったデス!」

 

 敵前逃亡したことに地べたを踏む切歌だが、調の説得で納得がいかないながらも承諾しドームの方へと向かう。

 

 

──────────────────────────────────

 

 少し時間は遡りドーム状の球体が出現する少し前、メラスキュラと対峙してた響とクリスは彼女の靄に四肢が巻き付かれ身動きが取れない状態であった。

 

「フフフ。いくら足掻いたところで所詮は人間、私に勝てるなんて思っているのが大きな間違いなのよ」

 

「クソッ!」

 

「それにしてもここまで運動したのは久しぶりだから少しお腹が減ってきたわ。どうせ殺されるなら私のお腹の足しになって死んでもらうかしら。【暗澹の繭(あんたんのまゆ)】!」

 

 メラスキュラが両手を合わせると背後から黒い霧、いや闇とも言えるべき物が飛び出し瞬く間に3人を覆い尽くす。そして周りは光なんてない、一面真っ暗闇の世界となった。

 

「何だ、此処は?」

 

『此処は私の能力で創り出した闇の中。この中からは誰も出られないし、入ることも出来ない。つまり貴方達を助ける者はいないわ』

 

「クッ、何とかして脱出しないとッ」

 

『足掻いても無駄よ、大人しく私の餌となりなさい』

 

 2人の背中に手が触れらると突如苦しみだし、それぞれの口から人魂が飛び出しメラスキュラの前にまで移動する。

 

「じゃあ頂こうかしら」

 

 不気味に笑うと人間とは思えない程の長い舌を出し、2つの人魂に伸びる。舌が絡みつこうとした時、空間が斬り裂かれ光が差し込む。

 自身の技が斬られたことに驚くメラスキュラが光の射した方に視線を向けると、繭を斬り裂く風鳴翼の姿があった。

 




と言うわけで「鬼滅の刃」のパワハラ会議に登場した下弦の鬼の1人【零余子】を登場させました。※十二鬼月ではないので眼球に数字はありません。

零余子の血鬼術はオリジナルです。
設定で下弦の鬼の名前の由来は能力からきているとのことで、調べてみたら零余子と言うのは「わき芽が肥大化したもの」とのことだったのでそれに因んだ能力にしました。

そしてメラスキュラは8番です。原作でもメラスキュラは「魔力」は高いけど、【武力】が低いので純粋な力関係ではこの階級が妥当だと思いまして8にしました。
次回は後編、どのような結末になるのか楽しみにしていてください。

感想などあればどうぞ。


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13話 死者を従えし者 後編

どうもアニメ大好きです。

今回からタイトルの話数を変更しました。
後編は展開をどうするか試行錯誤して何回も書き直しを行ったので遅くなってしまいました。

最後まで楽しんでくれたら幸いです。それではどうぞ。


【暗澹の繭】は3人を飲み込んだ後も膨張を続けていき、直径10m程の球体となった。

 

「立花!雪音!」

 

 閉じ込められた2人の名前を叫ぶ翼、しかし全く反応がない。どうやら音は完全に遮断されているようだ。

 

「…翼、アタシのことはいいから嬢ちゃん達の助けに行け」

 

「そんなッ!?こんな状態の奏を置いていくことなんて「バカ野郎!」ッ!?」

 

「翼、お前は防人なんだろ!一般人を守ることが確かにお前の役目だ。だが同様に仲間も守らなきゃならないだろ!アタシのことを思ってくれるのは嬉しいが、今のお前にはアタシ以外にも仲間がいるだろが!」

 

 その言葉に翼は「ハッ」とする。昔は2人だけでノイズと戦い市民を守ってきた。そしてあの事件で奏を失い1人で復讐の中戦い続けた。だが今は違う。立花響、雪音クリス、マリア・カデンツァヴナ・イヴ、月読調、暁切歌…当時敵対し剣を交えた者が殆どだが、今では心から信頼する仲間。支え合える存在がいる。

 

「…確かに奏の言う通りね。仲間を救うことが出来ず何が防人だ。お陰で目が覚めた。ありがとう、奏」

 

「やっといつもの翼に戻ったな。じゃあ早く行ってやれ。嬢ちゃん達が待ってるぞ」

 

「エェ」

 

 奏にお礼を言うと日本刀を握りしめ闇の繭の元へと走り出す。

 

「(立花、雪音、待ってろ。今行く!)」

 

 ある程度近づくと地面を蹴り上空に飛び上がると日本刀を巨大なブレードに変化させ、勢いよく振り下ろし蒼い光の閃光斬【蒼ノ一閃】が放たれる。蒼い閃光斬は球体に当たると吸い込まれるように消滅してしまった。それでも諦めずもう一度【蒼ノ一閃】を放つが、やはり吸い込まれ消滅してしまう。

 

「あの球体はエネルギーを吸収出来ると言うのか。だったら…」

 

 日本刀を投擲させると巨大な刃へと変化し、それをライ◯ー◯ックの如くの蹴りを入れ急降下させる大技【天ノ逆鱗】が繰り出される。遠距離攻撃が通用しないなら物理攻撃で応戦しようと言う魂胆だ。

 

 その勢いのまま球体に直撃し轟音が響き渡る。それはまるで隕石が飛来と思わせる衝撃である。しかし球体には傷一つ付かない。悔しさに唇を噛み締めるが、彼女の心はまだ諦めてはいなかった。

 

 

「私は2人を…仲間を絶対助け出す。私の()は…こんなことくらいで止まりはしない!」

 

 

 その想いにギアが応えるかのように出力が上がりブーストが掛かる。

 すると一部に亀裂が入り穴が開いた。そのまま穴へと飛び込むと人魂に舌を伸ばしているメラスキュラの姿を確認、すかさず二本の短剣を投げるが身体をズラし回避されてしまう。

 予想外の出来事に唖然とするが、すかざす反撃しようとするメラスキュラ。しかし身体が全く動かない、動かせなかった。まるで何かに押さえ込まれているみたい。顔を動かせ視線を後ろへ向けると、先程投げつけた短剣が自身の影に刺さっていた。

 

 

 これが翼の技の一つ【影縫い】。自身の武器を相手の影に刺すことによって動きを封じることが出来る技。

 

 

 本来なら闇に覆われたこの空間では影など出来ないのが、迂闊にも翼が破った部分から光が差し込んでしまったため影が出来てしまった。

 

 メラスキュラが動揺した一瞬の隙をつき彼女の刃は身体を斬り裂き、喰らおうとしていた2つの人魂を抱き抱え響達を拘束していた靄を斬り裂く。

 同時に取り囲んでいた繭も消滅し、抱えていた人魂はそれぞれ開きっぱなしになっている響、クリスの口に入り込む。すると2人の瞳に光が戻る。

 

「あれ?どうなってるの?」

 

「確かアイツに喰われそうになって…」

 

「立花、雪音無事か!?」

 

『翼さん(先輩)!』

 

 意識を取り戻した2人は翼に気付き近づく。

 

「翼さんが助けてくれたんですね。ありがとうございます」

 

「礼を言われる筋合いはない。仲間を守るのも防人としての使命だ」

 

「だったらもっと早く助けてほしかったな」

 

 スッカリ緊張が取れたようで雑談をする3人。しかし此処はまだ戦場、そんな和やかな雰囲気もすぐに消える。

 息を上げながら斬られた箇所を押さえ、痛みに耐えるメラスキュラ。その表情はさっきまでの済まし顔から一変し、酷く歪ませ憎悪に満ちていた。

 

「…私に傷を付けるなんて…風鳴翼(貴方)、絶対に許せさないわ!」

 

突如地響きが聞こえると、翼のから靄が飛び出し、彼女の身体に巻き付き拘束され自由が奪い先端部分は首を絞めていた。

 

「翼さん!」

 

「先輩!」

 

 急いで助けようとすると2人だったが、突如身体に力が入らなくなり座り込んでしまった。

 

「ち、力が入んねェ…」

 

「どうして…」

 

「何で力が入らないか?簡単よ。私の繭の中には瘴気が溜まっているのよ。でも微弱だから吸っても命に関わることはないから安心しなさい。けど、暫くの間は真面に動けなくなっちゃうの。だからそこで大人しく見てなさい。この娘が殺されるさまを!」

 

 地面に伏せた2人から翼に視線を向け靄の締め具合を強くする。それは骨を折ってしまいそうな勢いであった。

 

  「貴方私の【暗澹の繭】の破っただけでなく、挙句には私の身体に傷を付けるだなんて意外にやるじゃない。流石私の力に掛からなかっただけのことはあるわ」

 

「ど、どう言うことだ…」

 

「私達死刃にはそれぞれが司る死の形があるの。それはその死刃にとっての死相にして存在理由、そして時には能力にも繋がるの。因みに私の死の形は【信仰】。私の近くで少しでも疑いを持ってしまえば立ちどころに目を焼かれてしまうの。貴方達も見たでしょ、疑いを持った者達が目を焼かれる瞬間を」

 

 確かにノイズのと戦闘中現れた亡者達に疑いを持った者が、突如両目を抑えお悶え苦しんだ。あれは両目を焼かれたのだと確信する。

 

「でも貴方は天音奏(あの娘)のことを疑わなかった。それだけ貴方達の信頼が強いのかが分かった。だから貴方は最後まで残しておこうと思ったんだけど私に傷を付けたことで気が変わった。私の受けたこの痛み、貴方の命をもって償ってもらおうじゃない」

 

 メラスキュラは掌を向けるとそこに薄紫色のエネルギーの塊が凝縮されていく。

 

「消えなさい」

 

 放たれようとした時、一つの影がメラスキュラの頬を殴り付けた。その拍子に翼を握っていた靄を離してしまい、球体も消滅し不発に終わる。その正体は天羽奏であった。大切な友人を守るため根性と言っても過言でないほどの気力でメラスキュラの支配に打ち勝った。

 

「大丈夫か、翼」

 

「コホッ、コホッ…奏、ありがとう」

 

「気にするな、お互い様だろ」

 

「…全く、次から次へと…ウザいのよォ!」

 

 元々傷を負うのが嫌いなメラスキュラは斬られた痛みに続き、今の殴られた痛みによって怒りのボルージがMAX、靄で奏の四肢を捕まえ封じる。

 

「貴方、折角蘇らせてあげたと言うのに。やっぱり立場が分かっていない様ね」

 

「ハッ!お前が勝手にアタシを蘇らせただけだろう。それにアタシはお前みたいな屑に力を貸すくらいなら、死んだ方がマシさ!」

 

 奏の挑発的に態度にメラスキュラの額には青筋が浮かぶ。

 

「そう……それじゃあ望み通りにしてあげる!」

 

 完全にキレたメラスキュラは掌にドロドロの液体を出現させすると奏にへと投げ付け腹部にへと命中する。すると液体が触れた部分から腐食しだし全身にへ侵食していく。

 

「奏ッ!!」

 

 この光景に翼は身体を起こし掛けようとするが、奏が「来るな!」と叫び反射的に脚を止める。そして自身にへと振り向き笑顔で告げる。

 

「翼、お前の歌は希望だ!だからこれからも歌い続けろ!大勢の人達に希望を届け続けろォォ!!」

 

 その言葉を最後に腐食は彼女の身体全体に広がり、その肉体は朽ち果て灰となり魂の証である人魂のみが残った。

 

「イヤァァァーーー、奏ェェェーーー!!」

 

 最愛の親友が再び消滅する瞬間を見せられ絶叫する翼。メラスキュラは素手で奏の人魂を掴む。

 

「…もう輪廻転生も出来ないように、喰らってあげる」

 

 大口を開け喰らおうとした時、手首に何かが巻き付く。引っ張られ口元から離れると誰かに奪い取られた。

 

「この魂は翼の大切な人、この以上貴方の良いようにさせはしない!」

 

『マリア(さん)!』

 

「私達もいるデスよ!」

 

 別の声が上の方から聞こえ振り向くと、ビルの屋上に調と切歌の姿もあった。2人は屋上から響達の共へと飛び降り、マリアは抱えていた奏の魂を離す。魂はそのまま天にへと昇って行った。

 同時に響とクリスも動けるまでに回復し立ち上がる。

 

「な、何故調、切歌(貴方達)が!?零余子はどうしたの!」

 

「あの鬼だったら私達に怖気付いて逃げちゃったデスよ」

 

「私達を嘗めないでほしい」

 

「クッ…。でもマリア(貴方)が此処に来たと言うことは 自分の妹を殺したってことよね。どんだけ大切って言っても人間の想いなんてこの程度なのよ」

 

「…貴方何か思い違いをしているようね」

 

「?」

 

「セレナは…あの子は自身の本当の気持ちに気付いてたのよ。だけど貴方はセレナの心の隙間に漬け込み、私達姉妹の絆を断ち切ろう押した。私は貴方を許さない、セレナ、そして翼の友人、天羽奏のためにも…貴方をここで倒す!」

 

「マリア…」

 

 翼は奏の死を見て戦意喪失仕掛けていたが、マリアの言葉を聞き「辛かったのは自分だけでなかった」こと、そして奏から「大勢の人に希望を与えろ」と言う想いを託されたことを思い出し立ち上がった。

 メラスキュラは肉体以上に精神的苦痛を与えても関わらず全く絶望しない彼女達の存在が不快で仕方がない。だから手加減なしで潰すことにした。

 

「…いいわ、なら私も本気で行かせてもらうじゃない!」

 

 メラスキュラが口を大きく開けると、身体に塒を巻きしていた靄が入り込み飲み込まれていく。靄が全て飲まれ「ゴックン」と喉を鳴らすとメラスキュラの身体が光だし周りに強い衝撃波が襲い、装者達全員腕で顔を覆う。軈て煙が晴れ姿を現すと、上半身は少し背が伸び大人びているが腕や背中、顔の頬には鱗のようなものが、さらに下半身は蛇の尻尾になっており、目の眼中は獲物を狙う鋭い縦長、口からは長い舌を出しチロチロさせていた。それはまるで神話に出てくる怪物【ナーガ】を連想させる。

 

「フフフ、どうこの姿。前の方が可愛かったけど、それ以上に美しいでしょ、この姿♪」

 

 メラスキュラは変身し大人びた自身の姿を余程見てもらいのか見せびらかす。が…

 

 

「ハッ、それがテメェの正体か。その方が化け物地味でお似合いだぜ」

 

「下半身が蛇みたいになってて気持ち悪いのデス!」

 

「なんて悍ましい姿…」

 

 

…普通に考えれば「美しい」とは思えない。装者達の口からは「気持ち悪い」や「化け物」等の単語が次々と出でくる。

 

「…フン、人間の主観で理解出来るなんて思ってないわ。でも女性に対してその言葉…礼儀がなってないわね」

 

 メラスキュラは下半身の尻尾を持ち上げ装者達に叩き付ける。全員その場から回避し散会、真正面から切歌が大鎌を振り上げ、後方からは響が拳を打ち込む体勢を取っている。

 

 しかしそんなことは想定済み、切歌の大鎌は指の爪を伸ばし受け止め、響には尻尾を腕に巻き付け地面に叩き付ける。

 

「こんな鈍の武器で私を斬ろうっての?嘗めないでほしいわね」

 

 もう片方の腕で切歌の顔を鷲掴みアイアンクローで頭を締め、尻尾は上下運動させ響の身体を何度も何度も叩きつけた後、180℃振り回し握りしめていた切歌と衝突し2人はそのまま投げ捨てられる。

 

「フフフ、アタシが肉弾戦が出来ないと思った?だとしたらどんだ大間違い。肉弾戦は嫌いなだけで苦手じゃないのよ」

 

「食らいやがれ!」

 

 上空で待機していたクリスと調、それぞれ数発のミサイルと無数の丸ノコを発射させる。

 

「【蛇毒散腐(デッドリーポイズン)】!」

 

 メラスキュラは口から紫色の液体を吐き出しそれがミサイルと丸ノコに掛かると、溶けだしミサイルは地面に落ち爆発、丸ノコはも遠心力を失い地面に落下。さらに爆発で飛び散った液体が瓦礫に触れると、その箇所が同じように瞬く間に溶けてしまった。

 

「【蛇毒散腐(デッドリーポイズン)】は毒性を持った私の胃液と消化液が合わさったもの。触れたら勿論、近づいただけで溶かすことが出来るのよ」

 

『ハァァァーー!!』

 

 上空から翼とマリアがそれぞれの刀を振り下ろすが、メラスキュラは2人の手首を掴み動きを封じ、【蛇毒散腐(デッドリーポイズン)】を吐き2人の武器を腐敗させる。咄嗟に手放し武器は離してからたった数秒でドロドロに溶けてしまった。そして呆気に取られている2人に尻尾を叩きつけ振り払う。

 

「翼さん、マリアさん、大丈夫ですか?」

 

「あぁ、この程度問題ない。立花の方こそ無事か?」

 

「はい、全然大丈夫です」

 

「でもどうするデスか?あの人には私達の攻撃が全く通用しないデスよ」

 

「このままじゃ全滅しちゃう」

 

「ハッ、弱音吐いてんじゃねェ。アタシ達がやらなきゃ誰がやるってんだ。諦めた口言ってんじゃねェぞ」

 

「…そう、私達は諦めるわけにはいかない!」

 

 マリアは新たなブレードを生成すると単体で突っ込む。だがメラスキュラは撓やかな動きで翻弄し、尻尾で腕を叩きブレードが手から離れた瞬間首に尻尾を巻き付かれ強く締め付けられる。

 

「死に損ない風情がウロチョロと。とっとくたばりなさい」

 

 締め付け具合をさらに強くさせこのまま締め殺そうとする。だがマリアの心の闘志は消えていなかった。

 

「私は…こんなことで…諦めたりしない!」

 

 左腕の竜手から収納短剣を取り出しメラスキュラの腹部に押し当てる。そして先端から一筋のレーザーが身体を貫く。腹部を貫かれ血を吐くメラスキュラ、さらに痛みで締め付け具合が緩くなったことでマリアは脱出、脚で胸部を蹴り飛ばし距離を取る。

 

「皆んな、今よ!」

 

 その声に応えクリスは特大の銃火器を2台取り出し連弾させ怯ませる。その隙に調は無数の丸ノコを放出、そして全ての丸ノコが合わさり巨大化。切歌は鎌の刃が3枚に割れ、それぞれの刃から斬撃を飛ばす。

 

 メラスキュラは尻尾を使って上空へと飛び上がり2人の攻撃を回避するが、飛び上がった先には響と翼が待ち構えていた。

 

 翼の背後に無数の刃が出現し雨のように降り注ぐ。メラスキュラはもう一度【蛇毒散腐(デッドリーポイズン)】を吐き溶解させ残った刃は尻尾で薙ぎ払う。だがその後方から響が目の前に現れ、右腕のカートリッジを引き拳を打ち出すと黄色い閃光が放たれ腹部に命中、メラスキュラは反動と重力によってそのまま地面にへと落下。だが尚も立ち上がり口から流れる血を拭き取る。

 

「私の美しい姿に傷を付けるなんて…絶対に許さない!アンタ達諸共、この世界の人間纏めて葬ってくれるわ!」

 

 その身体からドス黒いオーラが立ち登る。彼女の怒りと憎しみに加え、全ての未練ある亡者達の怨念が乗り移ったかのようだ。

 

「確かに人間は他の人が自分が持ってないものを持っていたりするといいなって思うことがある、羨ましいって思うことがあるよ。でもだからってそれで他人を傷付けていいことにはならないよ。私達は人の心に漬け込んで他人を傷付ける人なんかに…」

 

 

 

 

 

 

『絶対に負けない!』

 

 

 

 

 6人の想いが1つとなりギアが光り輝き変化する。背中にはそれぞれのギアに模した色の羽根が生えてとてつもない光のオーラを纏っていた。これぞ己の限界を超えたシンフォギアの最終形態、限定解除(エクスドライブモード)

 

「これは!?この感覚女神族の魔力に似ている!しかも四大天使に匹敵する程の力!何なの、この忌々しい光は!?」

 

「これは皆んなで紡いだ絆、世界中の人達が紡いでくれた絆の力だ!」

 

 今の彼女達は天の使いと言うにも等しい程に光り輝いている。

 

「絆…そんな物私が打ち砕いてあげる!」

 

 メラスキュラが指をパチンッと鳴らすと背中に漆黒の羽根を生やした二本角の生えた赤いデブ、顔が太陽の形をしたグレーのガリガリ、腕を生やした青い鳥等、まさに悪魔と言うに相応しい姿をしたノイズとは違う怪物が多数現れる。

 

「コイツらは私と同じ魔神よ。まぁ私に比べたら強さは大したことないけど、これだけの数を相手に出来るかしら?貴方達、行きなさい!」

 

 メラスキュラの号令で無数の魔神は一斉に装者達に襲い掛かると同時に装者達も戦闘を開始する。

 

 響は右腕に装着された巨大な光り輝く槍で上空の魔神を貫き、クリスの巨大化した銃の中心部が開くと紅い閃光を放ち次々と魔神を撃ち落とす。

 

 調は両手、両脚、ベッドギアが分離、合体してロボットにへと展開され司令塔の頭部にへと乗り込み、切歌の鎌が3枚に増え鋭利の爪となり回転させながら、それぞれ魔神の群れにへと突っ込み斬り裂いていく。

 

 翼は両脚のブレードを巨大化させ二本の刀と共に周囲の魔神を斬り刻み、マリアは蛇腹剣を振るい複数の魔神を斬くと同時に、刃が複数に分裂しそれぞれの先端からレーザーが照射させ撃ち落としていく。

 

 

 リミッターを解除されたギアの力は凄まじく、ほんの数分で召喚された魔神の群れは全て倒された。

 

「そんな。いくら雑魚とは言え魔神族よ。それにあれだけの数がいたのに、たった6匹の人間に全滅させらるなんて…こんなこと、あるわけないわ!」

 

 メラスキュラは両手の爪を伸ばし再び尻尾を使って飛び上がり突撃する。6人はその場を動かず皆で手を取り合うと、目の前にバリアが展開される。メラスキュラはそのバリアに阻まれ弾き飛ばさ地面に落下する。

 

「これで決める!」

 

 マリアの胸元から取り出された剣が宙へと浮かび上がり粒子と化し6人に降り注ぐ。

 

 すると響とマリアのギアが身体から剥がれ一度分裂し、響の【ガングニール】は黄金の右手の、対するマリアの【アガートラーム】は銀色のガレット状に形成された。そして6人を包み込むように2人のギアは組み合わせエネルギーを纏い回転しながら突撃を開始する。

 

 光り輝き合わさる巨大な2つ拳が自身にへと迫る。【蛇毒散腐(デッドリーポイズン)】を吐き腐食させようとするも、拳に当たる前に蒸発して消滅する。

 

「!?だったらこれよ【虚閃】!」

 

 両手を合わせ薄紫の閃光【虚閃】を発射、黄金の拳とぶつかり合いとてつもない衝撃波が周囲を包み込む。両者の大技がぶつかる中、次第に拳が虚閃を押し返し始める。その状況にはメラスキュラを驚きを隠せなかった。

 

「どうして!?たった6匹如きの人間の力に、私が押されるなんてッ!?」

 

「6人じゃない」

 

「!?」

 

「この拳はアタシ達6人、そして世界中の人達の想いの力!1人じゃダメでも皆んなとなら乗り越えられる!貴方1人で世界中の人達の想いが集まったこの拳を────────止められる訳ないんだァァーー!!」

 

 遂に虚閃は押し返されメラスキュラは手と尻尾を使って拳を受け止めようとするが、圧倒的な大きさと質量で耐えきれず拳と地面の間に挟まれ押し潰される。

 

「アアァァァァァァァーーー!!」

 

 

 

ドカーーーン

 

 

 

 絶叫の断末魔が響き渡り大爆発を起こし大きなクレーターが出来上がった。

 

 全てが終わるとガングニールとアガートラームが解除され、翼、クリス、調、切歌は響とマリアを支えながらゆっくりと地面に降り立ち他の4人もギアが解除される。

 

「やったな、立花」

 

「流石響先輩デスね」

 

「いや〜、そんなことないよ〜」

 

「この野郎、あんま調子に乗んじゃねェぞ」

 

 煽てられ調子づく響にクリスがツッコミを入れると言ういつものバカ騒ぎの会話が流れる。これにて一件落着…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…とはならなかった。

 

「ちょっと待って、何か可笑しい!」

 

 翼が何か違和感に気付き周りを見渡す。よく見るとメラスキュラによって復活したとされる亡者達やノイズが消えていなかった。メラスキュラを倒したのならその力によって復活した者は全員消滅するばす。しかしノイズ含め亡者達は未だに健在、一向に消える気配がなかった。

 

「何で消えないの」

 

「倒したのにどうして…」

 

「まさか!?」

 

 嫌な予感がし後方に視線を向けると、クレーターから元の姿に戻ったメラスキュラが息を切らしながら浮遊し這い上がってきていた。取り込んだ靄も戻っていたが、服はボロボロ、肌も所々焼け爛れ、意識を保っているのがやっとの状態に近かった。

 

「ハァ…ハァ…クソ…クソ…クソォ…」

 

「メ、メラスキュラ様…大丈夫ですか?」

 

 そこに身体を完全回復させた零余子は震えながらもメラスキュラの安否の確認ため近づく。そして所々に残っていたノイズ達が集結し2人を守るように前に出る。

 

「…まさかあの攻撃を受けて生きているとは」

 

「なんてタフさなの…」

 

 装者全員の力が集まった大技を食らったにも関わらず生きていた、その見た目からは想像も付かないそのタフさに驚愕する。

 

「ハァ、ハァ…あたり…前でしょ…私は…死刃だよ。…確かに…階級は…8(オクターバ)で…低い方…だけど、…それでも死刃に…名を連なる者…そんな私を…私をォ…私をォォ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私を嘗めるんじゃないわよ、小娘どもォォォ!!

 

 

 逆上したメラスキュラは纏っていた靄で近くにいた複数のノイズを巻き取ると、そのノイズ達の身体が一瞬にして消滅し人魂のみの状態となる。その魂の一つに長い舌を伸ばし絡め取ると一気に丸呑みにした。その光景に装者達は驚愕し、零余子に関しては「ヒッ!」と声を上げってしまっていた。

 しかしそれでも気にせず次々と魂を喰らっていく。すると身体の傷がミルミル消えていき、最後の一つを喰らった頃には傷は全快し無傷の状態となっていた。

 

「あ…あぁ…」

 

 零余子は一瞬にして大量の魂を食らった光景に「もしかしたら自分も同じように食べられるのではないか」と恐怖して身体の震えが止まらなかった。

 

「あら?何を怯えてるの零余子。心配しなくても貴方はノイズ(コイツ等)みたいにはしないわ。だって私の可愛い従属官ですもの」

 

「は、はい。ありがとうございます…」

 

「その怯えた姿───本当に可愛いわ♪」

 

 メラスキュラは怯えている零余子の頭を胸に寄せ抱きしめ溺愛する。そんな自分達にへと視線を向ける装者達に気付くとそのままの体制で視線を合わせる。

 

「?何を驚いているのかしら?私達魔神族は生物の魂を喰らえば魔力が回復するの。でも私はその力がさらに進化して、魔力だけでなく傷をも回復することが出来るようになったの。だからノイズ(アイツ等)は私にとって従属官であると同時に回復薬でもあるよ」

 

「自分の仲間を食べるだなんて…」

 

「化け物が…」

 

「失礼ね。仮にも私は女よ、女に向かって『化け物』なんて失礼にも程があるわ。それに零余子(この子)は私が直々に選んだの。だからノイズ(アイツら)みたいに食べたりしないわ。そんなことより貴方達、よくも私にここまでの屈辱を味合わせてくれたわね。今の力が弱った貴方達を殺すのは簡単だけど、それじゃ私の気が済まないわ。だからたっぷりと苦しめてから───────殺してあげる」

 

 口が吊り上がり今まで以上の殺気を肌で感じる。力を使い果たしギアを纏うことが出来ない自分達に対しメラスキュラは全回復してしまい形勢逆転。もうダメかと思ったその時、いきなりメラスキュラの動きが止まる。

 

「何よ急に?私は今イラついてるの。つまらないことだったら……デストロイヤー様が!?…分かったわ、すぐに迎えを頂戴」

 

 誰かとの話が終わると発せられてた殺気が治る。

 

「貴方達の相手はここまでよ」

 

『ッ!?』

 

「何だと!?」

 

「ハァ!?何言ってやがるんだテメェ!」

 

「私達の主君からの命令で今すぐ戻ってくるように言われたの。だから帰らなきゃいけなくなったの。本当は私にこれ程の屈辱を与えた貴方達を殺したいけど、主君であるデストロイヤー様の命令じゃ仕方ないもの」

 

「逃げる気か!」

 

「逃げる?見逃してもらうの間違いじゃないかしら?」

 

 ギアを纏えない今の自分達が真面に戦えるはずがない。このまま戦いを続ければ間違いなく自分達が全滅する。反論したいがメラスキュラの言い分が正論であるが故に黙り込んでしまう。

 

「これ以上貴方達と話しても時間の無駄だし、ここで失礼させてもらうわ」

 

 上空に亀裂が入りその中から黄色い光が溢れ出すとメラスキュラと零余子を包み込み、柱に当たった攻撃は全て弾き返され消滅してしまう。そして2人は光に釣られて登っていく。

 

「貴方達の顔は覚えたわ。だから貴方達も忘れないでね私のことを。次に会った時こそ貴方達全員、私の手で殺してあげるから覚悟してなさい、人間の小娘共!」

 

 そう言い残すと彼女等は裂け目の中に吸い込まれ、同時に裂け目も閉じ消滅。そしてその場に残っていた亡者達は一斉に消滅した。

 

 

 今回の戦いで肉体は勿論精神的ダメージも大きかっただろう。特に風鳴翼とマリア、翼に至っては再び親友の死を目の前で見てしまったのだから尚更かもしれない。

 だが彼女は一人じゃない。天羽奏(親友)が言ったように今の彼女には手を取ってくれる、支えてくれる仲間がいる。いつ何処にいてもそのことを忘れない限り彼女が誤った道に進むことはないだろう。

 

 

 

 だが彼女達のこの戦いは更なる敵との、世界を命運を賭ける大きな戦いの余興に過ぎなかったのかもしれない。

 




メラスキュラの変身については本人曰く「可愛くないから嫌だ」と言っていたので、最近よく見るナーガっぽくしました。
身体の回復の件については、原作ではメラスキュラ含め魔神族は魂を喰らえば【魔力】を回復させることは出来ても、【身体の傷】は回復しないと言う欠点があると思います。原作でメラスキュラは全身が火傷を負った時、グロキシニアの神器の力で完治していましたから。
そこでメラスキュラは特にその能力がパワーアップし、魔力回復と同時に傷の回復が出来るようにしています。

デストロイヤーからメラスキュラに伝達された内容は、以前登場したサーガインと同じ内容です。

次回は誰がどの世界に行くのか楽しみにしていてください。
感想などあればどうぞ。
それではまた次回。


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14話 闇からの復讐者 前編

どうもアニメ大好きです。
遂にオンピックが開催されました。無観客で寂しいと思いますが、画面越しでも選手の方々に熱い声援を送りましょう!

今回は昨年放送された胸糞悪くなったアニメです。第一話、明るく面白いアニメかなっと思っていたら、最後の最後であんな「どっ天返し」な展開になるなんて…。録画していたので全話観れましたが、その時丁度リアルの方でも精神的にヤバかったので、結局観終わったのが今年の3、4月くらいでした。
それで試行錯誤して時間が掛かってしまいました。
そして今回の話は主にその原作キャラの1人にスポットライトが当たってます。

それではどうぞ。


暗く冷たい海の中、1人の少年が仰向けで海面を見つめながら沈んでいく。

 

 

 

──────何で僕がこんな目に合わなきゃならないんだ──────

 

 

 

この世界にはある時特殊な能力を持った人物が生まれた。それ以降何かしらの能力を持った人間が生まれ、その者達を能力者と呼び、特殊能力を持った少年少女達が、とある孤島で「人類の敵」と呼ばれる存在と戦うための訓練に明け暮れていた。

 

しかしこの少年は能力を使わないため周りから【無能】と呼ばれ、虐げられ続け助けてくれる存在は誰1人とていなかった。

そんなある日転校してきたある1人の少女に目を奪われそうになる。その少女は無能な自分に対しても優しく接してくれていつしか心惹かれていった。

そして少女が転校してきた翌日、彼女が危険な目にあっていたところ自身の能力を使い窮地を救った。巻き込まれそうになって者達からも「ありがとう」と感謝の言葉を挙げられた。

 

そしてその日の夕方海辺の崖に行き、感謝の想いそしてこれから「人類の敵」と呼ばれる存在と戦うことの覚悟を告げ頑張ろうと誓い手を取り合った。

だがその少女はその手を掴んだまま自身を崖から突き落とされた。反射的に近くのロープを掴みブラ飾り上状態の中、彼女の助けを求めた。しかし彼女の目はまるでゴミを見るように蔑んだ。

 

そして彼女は語り出した。実は自分は無能力者で能力を抹殺するためにある組織から送り込まれたと言うこと。今まで自分に付き纏っていたのは能力を知るためであったこと、自分を崖から突き落とすことだけ考えていたこと。そして彼女は最後にこう告げた。

 

 

「人類のために死んでください」

 

 

そして少年はロープから手が離れてしまい、重力によって海に落ち沈んでいった。この時理解した…彼女のあの笑顔は全て()だった、自分は良いように利用されていたのだと。

 

 

───────何で僕ばかりこんな目に遭わなきゃいけないんだ…僕が何したって言うだ────────

 

 

彼は家庭でも「家で一番の無能」と蔑まれ、愛されていなかった。必死に頑張ったのに認めてくれない。何も悪いことしていないのに蔑まれなきゃいけない。どうして自分ばかりこんな待遇を受けなきゃならないのか。だがその問いに応えてくれる者は誰もいない。

 

 

────────こんな形で終わるのか…僕の人生って…いったい…何だったんだ────────

 

 

もう全てがどうでもよくなり死を覚悟し目を閉じた。しかしその時だった。

 

『このまま終わるのか?』

 

突如自身の頭の中に聞き覚えのない声が響き目を開いた。

 

 

───────誰だ!?何処にいるだ!?───────

 

 

『そんなことはどうでもいい。それより貴様はこれで満足か?他者から能力()がないと蔑まれ、父親には道具のように扱われる。挙げ句には柊ナナ(あんな女)に良いように利用され殺される。貴様はそれで満足なのか?』

 

謎の声に言われ今日まで自分がされてきたことが蘇ってくる。持っていた本を燃やされ、無能だとバカにされ、終いには死んでくださいって崖から突き落とれた。

その記憶が走馬灯のように蘇ると、今まで感じたことのない、激しい怒りの感情が湧いてきた。

 

 

────────そんな訳ないだろう…僕は何も悪いことしてないのに…散々バカにされて、道具扱いされて、挙げ句の果てには殺される…こんなんで満足する訳ないだろう!────────

 

 

先程までの弱々しい表情から一変し、拳を握り締め出血しそうな程に歯を噛み締める。そして彼の瞳は今までに見たことない程の激しい怒りと憎悪に染まっていた。

 

 

─────────復讐したい。僕をコケにしたアイツ等に!そして僕を殺そうとした柊ナナ(あの女)に!────────

 

 

『その復讐心…気に入った。いいだろう。なら私が、お前に復讐するための力を与えてやる』

 

 

その言葉を最後に少年は意識を手放した。その時目に入ったのは、一本の刀を背負った鮫顔の人物であった。

 

 

─────────────────────────────

 

 

あれから数日が経った孤島では次々に不可解な事件が起きていた。何と生徒が1人、1人と忽然と姿を消し始め中には殺害された者もいた。そしてこの日の朝も1人の生徒が殺害されていた。騒ぎだす生徒達だが、彼等とは別の意味で困惑している者がいた。柊ナナだ。

 

彼女はいつもニコニコして元気で明るいどこにでもいる少女である。しかしそれは仮の姿、彼女は委員会と呼ばれる場所から能力者達を抹殺するために送り込まれた刺客。そして1人の少年を始め、数日間で数人の生徒を殺害していった張本人である。

では何故そんな彼女が困惑しているのか?

 

それは彼女は能力がない上に女性であるためか、戦闘技術もそれ程高いものではない。だから主な殺害方法は毒針を使った毒殺である。しかし今回の殺害方法は喉元を斬り裂かれ背中にも刃物で刺された後があった。今までの彼女の殺害方法とは違う、つまり今回の殺害は彼女の仕業ではないからである。

 

「(石井リュウジを殺したのは私ではない。だとすると私の他に刺客が。それとも…)」

 

その日の夜彼女は1人考えていた。抹殺対象が減るのは大いに構わない。だが自分のことを怪しんでいる人物が約1名いる。下手に行動しようとすれば自分の立場が危うくなるから、取り敢えず今は深く追求しないことにした。

 

 

 

そして時が過ぎ2日後の夜、大規模な爆発音が響き、島全体が揺れるほどの振動が起きた。学生寮にいた生徒達は窓を開けて確認すると森林から煙が上がっていた。ナナは制服に着替えて急いで現場にへと向かう。

 

「(委員会が何かしたのか?いや、それにしては目立ち過ぎる。一体何なんだ?)」

 

自身を此処に派遣した組織の仕業と考えた。しかし報告もなしにそんなことを実行するメリットが考えられないからその考えは消える。ではあの爆発は何なのか?兎に角その場に行けば何かわかるかもしれない、ひたすらに走り続けた。

 

そして煙が上がった思われる森に到着。しかし火災が発生した訳ではなく、特にこれと言って変わったところは見られなかった。爆発音に気付いた1人の教師と生徒達が次々とやって来た。

 

「皆さん、どうして此処に?」

 

「ナナしゃんが寮から出て行くのが見えたので、もしかしたら人類の敵と出くわすかもしれませんから心配で付いて来ちゃいました。でも私だけじゃ不安なのでキョウヤしゃんに頼んで付いて来てもらったんです!」

 

「あぁ、犬飼に頼まれて追おとしたところでコイツ等に会って訳を話したら、全員行くって言い出してな」

 

「あったりメェだろ!リーダーが行くってのに、俺様が行かねェ訳にはいかねェだろう!」

 

「そうそう。僕達は人類の敵と共に戦う仲間なんだから」

 

「皆さん…ありがとうございます(チッ、余計なことを)」

 

ナナはいつもの笑顔で感謝の言葉を伝える。しかし予想外の出来事に何が起こったのか詳しく調べたかった本人は内心「余計なことをしやがって」っと罵倒する。

 

「おい、鶴見川はどうした?一緒にいたんじゃないのか?」

 

「あぁ?何でも腹の調子が悪いから先に行っててくれってよ。本当アイツはメンタル弱いだよなぁ」

 

精神面の低さに情けないと愚痴るモグオ。その強気な態度に「相変わらずだな」と殆どの者が呆れだす。その時…

 

 

「フフフ」

 

『ッ!?』

 

 

…突如夜の闇の中から怪しげな笑い声が聞こえた。

 

「この島には大勢の能力者いると聞いたのでどれ程の者達かと思ったが、まさかこんな子供ばかりとはな」

 

「誰だ!?何処にいやがる!出てこい!」

 

さらに「ガサ、ガサ」と物音がすると、奥から1人の人物が姿を現した。しかしそれは人と呼べる姿でなかった。黒と白が特徴の着物を纏い、頭部が鮫、さらに巨大な大刀を背負った長身の怪人であった。

 

「何だテメェ!?人類の敵か!?」

 

「そうだな、まず名乗るのが礼儀だな。私はデストロイヤー軍にして死刃の1人、【サンダールJr.】。そしてもう一つの問いだが、その答えで間違はいないだろう」

 

「何!?さては今までクラスの連中がいなくなったのも、リュウジの奴を殺したのもテメェの仕業か!」

 

「それは違う。そのリュウジと言う奴を含め、お前達の仲間を殺したは私ではない。私は先程この島に来たばかりだ」

 

怪人────サンダールJr.は腕組みをしながら淡々と質問に答える。

 

「それよりもお前達に合わせたい奴がいる」

 

「俺達に合わせたい人物?」

 

「お前達のことをよく知り、お前達もよく知る者だ」

 

「私達もよく知っている人?」

 

自分達がよく知る人物、その言葉に皆頭に「?」が浮かぶ。こんな怪人が合わせたい人物なんて皆目検討も付かない。

 

「直ぐにわかる。出て来い…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中島ナナオ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『!?』

 

 

 

 

 

後方の暗闇から現れたのは1人の少年であった。それは数日前に行方不明になった「中島ナナオ」であった。髪が伸び服装は変わっているが、間違いなく中島ナナオ本人で間違いなかった。しかしその表情は以前のような優しさは無く、逆に狂気を感じさせていた。

 

「ここに来るのも久しぶりだなぁ〜。やっぱりシャバの空気は美味しい」

 

「な、中島ッ!?お前なのか!?」

 

「うん。久しぶりだね、皆んな」

 

「なんか随分と雰囲気変わったな」

 

「まぁ、そりゃあ半年も経ってるだから。あっ、でも()()だと数日しか経ってないんだっけ。あれ?どうしたの柊さん、そんな驚いた顔しちゃって。僕の顔に何かついてるの?」

 

全員がナナの方へ視線を向けると、彼女は目を見開き身体を震わせていた。それはまるであり得ないものを見ているかのように。

 

「ど、どうしたんですか、ナナしゃん?」

 

「おい、どうしたんだよリーダー。それに震えて」

 

皆んなナナのことを心配しているが、彼女にはその声は届いていない。今はその声を聞き取る余裕がないのだ。

 

「ど、どうしてお前が…だってお前は「崖から突き落としたはずだって?」ッ!?」

 

「そうだよ。確かに僕はナナさん()に突き落とされて死を覚悟したよ。でも運命は僕を救ってくれた。そして帰ってきたんだよ、復讐するためにね」

 

口調は今までと同じように丁寧口調で話しているが、彼が発する言葉の一つ一つに憎悪と言えるような殺気を感じる。その最中キョウヤがあることに気付き口を開く。

 

「ちょっと待て中島。お前今、柊が崖から突き落としたって言ったか?」

 

『!?』

 

「うん、言ったよ。僕はあの日の夕方、崖から突き落とされたんだよ。他でもない、そこにいる柊ナナさんにね」

 

中島は指でナナを指し鋭い眼差しで睨み付ける。

 

「そして彼女は言ったんだ。『お前達能力者こそが、人類の敵だ』ってね」

 

「じゃあ渋沢が行方不明になったり、葉多平や羽生が死んだのも…」

 

「多分全部ナナさんがやったんだと思うよ。僕のことも崖から突き落として死ぬのかどうか()()しか考えていなかったみたいだし。でも凄いねナナさん。僕に崖から突き落としてもう5人近くも能力者を殺してるんだね」

 

中島はナナの秘密を次々と暴露していく。自分のしてきたこと、企みが明るみにされ口を噛み締め睨み付けるナナに対し、中島は「ざまあみろ」と言わんばかりの皮肉めいた目で見下す。そんな時胸倉を掴まれた同時に頬を殴られ転倒する。殴ったのはモグオだった。

 

「巫山戯るテメェ!俺達が人類の敵だと?巫山戯るのも大概にしろよ!俺達はこの島で隠しされて、したくもねェ訓練を受けさせれてんだぞ!それなのに俺達を殺すだと?テメェの方が余程人類の敵だ!!」

 

「…黙れ

 

「あぁ?」

 

「黙れと言ったんだ、この屑ども!!」

 

ナナはいつもの皮を被っている笑顔ではなく、裏の顔へとなりナナオに負けず劣らずの狂気の篭った眼差しを向けていた。

 

「お前達能力者は自分達が特別だとばかり思いその力を私利私欲のことだけにしか使ってない!お前達は存在してはいけないんだよ!────この化け物どもが!!

 

彼女の内に秘めていた本音、さらに「化け物」と言う言葉を突きつけられてショックを受ける者、放心する者も居れば、当然激怒する者もいた。

 

「テメェェ!!言わせておけばァァ、いい気になりやがってェ!!」

 

侮辱の言葉を浴びせられ完全にキレたモグオは腕を振り上げ殴りかかろうとする。だがその腕を掴んで静止させる者がいた。

 

「待て飯島」

 

「離せ小野寺!この女は渋沢や葉多平を殺しただけじゃなく、俺達まで殺すつもりだったんだぞ。今ここで殺しとかねェと俺達が殺られるんだぞ!」

 

「確かにな。だが(コイツ)にはまだ聞きたいことがある」

 

キョウヤはモグオから手を離すと、座っているナナの前に移動し見下ろす。

 

「柊、石井を殺したのもお前か?」

 

『?』

 

「ハァ〜?何言ってんだよお前。ナナオがさっき言ってたじゃねェか。今まで居なくなって連中は全員コイツが殺したって。石井の件もコイツに決まってるだろ」

 

「確かにな。だが、それにしてはおかしな点がある」

 

「おかしな点…ですか?」

 

「中島を始め今まで行方不明になった奴や殺害された殆どの連中*1が柊によって殺されたのはわかった。だが殺害された奴等の死因は毒による「毒殺」だろ」

 

『ッ!?』

 

ナナが殺害した生徒の殆どは自身の所有物である毒針や毒液を使っての毒殺。故に生徒達には肌色が悪くなる以外に外傷は見られなかった。しかし今回の石井リュウジの場合は違かった。

 

「石井は刃物のような物で喉元を刺されて殺害された。明らかに今までのケースとは殺害方法が違う。…柊、石井を殺したのは本当にお前か?」

 

「…石井リュウジを殺したのは私ではない。私ならあんな大袈裟に殺した後を残すような真似はしないからな」

 

ナナから否定の出た言葉が出た。確かに今まで誰にもバレず隠密に行動してきた彼女の行動にしては大胆的過ぎる。しかし今の彼女の言葉を信じる者が何人いるだろうか?

 

「ハッ!殺人鬼の言うことなんて信じられるかよ!!」

 

「確かに。今までの君の言葉だったら信じてあげられたかもしれないけど、今の君の言葉は全く信じられないな」

 

その意見に大勢の生徒が賛同。「今すぐコイツを殺せ」、「でないと俺達が殺させる」と言う言葉まで飛び出す始末。

 

「わ、私はキョウヤしゃんの言う通りリュウジしゃんを殺害したのはナナしゃんじゃないと思います。それに今の言葉、ナナしゃんが嘘言ってるとは思えないんです」

 

「そんなの俺達を騙すための嘘に決まってるだろ。もう俺は騙されてねェぞ。今ここで俺が正義の鉄拳で制裁してやる!」

 

モグオはお構いなしに能力で燃やそうと能力を発動させる。だが火玉が当たる直前、綺麗に消滅した。一体何が起こったのだろうか?

 

「飯島君は本当に短気だな。そんなじゃあ、いつか損しちゃうよ」

 

そう。拳が当たる直前、中島が自身の能力で無効にしたのだ。しかしそれよりもその場にいた者達は中島がモグオに口出ししたことに驚いていた。あのビクビクしていたナナオが、モグオ相手にそんなことをするなんて想像もしていなかったからだ。

 

「中島!?テメェ何やってんだ!」

 

「何って?」

 

「俺がこの人殺しを制裁してやろうとしたのに、何に邪魔してんだって言ってるんだよ!お前だってコイツに殺された掛けたんだろうが!」

 

「あぁ。簡単だよ、今彼女に死なれちゃ困るからさ」

 

  その言葉に「?」が浮かぶ。自分を殺そうとした奴なのに、死なれるとは困るとはどう言うことなのだろうか?すると中島からとんでもない言葉が出てくきた。

 

「僕が此処に来たのは、彼女に復讐するためなんだよ。だから僕以外の人に殺されちゃうと非常に困るんだよ。だからさ、モグオ君────僕の獲物を横取りしないでくれるかな…」

 

そして中島の雰囲気が一般し、その瞳からとてつもない威圧感を発した。いつもなら突っかかるモグオも、そのプレッシャーに当てられ押し黙ってしまう。

これが本当にあのオドオドしていた中島ナナオなのか。彼を知る人物達からしたらまるで別人である。

 

「それにキョウヤ君や犬飼さんが言った通り彼女は嘘言っていない。石井君を殺したはナナさんじゃないよ。隠密にことを進める人が、あんな大それたやり方する訳ないだろうし。あっ、先に言っておくけど別に彼女を庇っている訳じゃないよ。僕は彼女に殺されかけたし、第一庇っても僕には何の得もないしね」

 

確かに今ここでナナを庇っても中島にはメリットが何一つない。何より自分を含めここに居る全員殺そうとしている人物の始末を邪魔をした、寧ろデメリットの方が多い。

 

「じ、じゃあ、一体誰が石井しゃんを?」

 

「それは…コイツだ!」

 

サンダールJr.は右手から複数の光の紐が飛び出し何も無いはずの後方の茂みにへと伸びる。すると人の声が聞こえると紐に巻き付かれた何かが茂みから引き摺り出される。それは刃物を持ったガス状の姿を男性、しかしその顔に生徒達全員、見覚えがあった。

 

 

「つ、鶴見川!?お前何で此処にいるだ?」

 

 

それはさっき「腹痛で遅れる」とモグオが言っていた鶴見川レンタロウであった。

 

「ど、どうして鶴見川しゃんが?」

 

「それにその手に持っている物…まさか!?」

 

「貴様の予想通りだ。その石井とか言う小僧を殺したのはコイツだ」

 

衝撃の事実。石井リュウジを殺したのは、あろうことか仲が良かったはずの人物であった。

実は彼は可愛い物やキレイな物、さらに善人を汚したりするのが大好きな外道。初めは犬や、猫等の野生動物を殺していたが、それがエスカレートしていき、遂にあの晩【石井リュウジ】殺害に至った。

 

『クソが!てか何でお前俺に触れることが出来るんだ!?俺の意思がなけりゃ触れられないってのに!?』

 

彼の能力は【幽体離脱】。身体から意識のみを分離させることが出来る。さらに物を擦り抜けることは勿論、物に触れることも可能、正にチート級の能力。それなのに自分の意思で触れた訳ではないのに、光の紐が身体に巻き付いていることに混乱していた。

 

「教えてやろう。私は霊体であっても触れることが出来るのだ。勿論武器も然り。貴様にこの意味がわかるか?」

 

自分の意思とは関係なく身体に触れることが出来る、攻撃も当然。つまり…

 

「例え貴様が霊体であっても、私は貴様を始末することが可能と言うことだ」

 

レンタロウは自分の状況に怒りを感じていた。霊体の自分ならどんな攻撃であっても擦り抜けることが出来る、だからどんな奴が来ても無敵だと思っていた。しかし今目の前にいるサンダールJr.(怪人)は霊体の自分を殺すことが出来る。殺す側の自分が、殺される側になるなんて屈辱この上ない。

 

「だがこのまま始末するのはつまらん」

 

しかしサンダールJr.はレンタロウをゆっくり地面に降ろすと、巻き付いていた紐を解き解放した。

 

「せめてもの情けだ。その刃物で私に傷を負わすことが出来れば見逃してやる。何処からでも掛かってくるがいい」

 

情け?見逃してやる?明らかに格下に対して言うセリフ。コイツは何処まで自分を馬鹿にすれば気が済むのか。レンタロウは怒りではらわたが煮えくり返りそうであった。

 

「ならお望み通りにしてやるよ、化け物」

 

────俺を馬鹿にしたこと、後悔させてやる────

 

そう思いながらレンタロウはサンダールJr.に向かって走り出す。しかし当の本人は腕を組みながら突っ立っており全く動く気配がない。不審に思いつつも諦めた、若しくは内心ビビりの小心者と思い、迷うことなくそのまま刃を身体を突き刺した……ように見えていた。しかし実際は身体に当たっているが刺さっておらず、身体の表面で止まっていた。

 

思いがけない状況に目を見開くレンタロウ。さらに腕に力を入れるがビクともしない。ならばと両手で柄を持ち力を込めるが「バキン」と刃の方が折れてしまったのだ。

 

「貴様の実力はこの程度か?」

 

折れた刃物を投げ捨て、だがそれなら簡単に受け止めてられてしまう。振り払おうとしてもビクともせず、逆に腕を引かれ腹に拳を打ち込まれ吹き飛ばされる。すると腕から伸びた光の紐に巻き付かれると、地面や近くにある木々に何度も叩き付けられる。

 

霊体であるはずなのに、何故木々を通過出来ないのかっと思う所だが、痛みでそんなこと考える余裕はなかった。

 

最後に勢いよく地面に叩き付けられると、拘束から解放される。顔を上げた時には既にサンダールJr.が目の前におり自身を見下ろしていた。

 

「どうした、終わりか?」

 

  レンタロウの表情は先程までの笑いを浮かべた狂気顔から一変し、恐怖顔に染まっていた。今の彼には自分を見下ろすサンダールJr.が途方もない怪物に見えていた。そして首根っこを掴まれ無理あり立たされる。

 

「い、いやだ…助けてくれ…」

 

「これ以上何もないなら、終わりにするとしよう」

 

サンダールJr.は閉まっていた扇子を取り出すと、首根っこを離し閉じたまま縦一直線に振り下ろした。

しかし何も起こらないので虚仮威しと思った次の瞬間、視界が真っ二つになる。何が起こったのか全く理解出来なかったが次第に状況を理解していき、身体(霊体)が真っ二つにされていることに気付く。

後ろにいる生徒達が視界に入ると「助けて」とばかりに手を伸ばすが、彼の本性を知ったことで誰も手を差し伸べるものはなく、結果最後は1人虚しく消滅したのであった。

 

「邪魔者は始末した。思う存分貴様の目的を果たすがいい」

 

「何から何までありがとうございます」

 

サンダールJr.は扇子を仕舞い中島から離れ後方の茂みへと移動し、再び腕を組みその場に立ち尽くす。

 

「それじゃあ始めようか。僕を馬鹿にしてきた──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君達への

 

 

復讐、をね

 

 

 

*1
風間シンジは既に亡くなっていたので除外




ネットで中島ナナオは生存しており、更に闇堕ちしたとのことだったので、原作と経緯は違いますが同じ闇堕ちなので問題ないでしょう。

そして残念ながはサンダールJr.の戦闘はこれでお終いです。
次回は中島ナナオの復讐劇になるのでサンダールJr.は戦闘には参加しません。元々彼の復讐のために力を与えたので…。
その変わり中島ナナオがチート級に無双します。

ここでアンケートを締め切らせていただきます。ご協力してくださった皆様方ありがとうございます。

感想などあればお願いします。次回も楽しみにしていてください。


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15話 闇からの復讐者 後編

どうもアニメ大好きです。
更新が遅れてすみませんでした。実は7月末に蓄膿症に似た症状があったので病院に行ったらコロナかもしれないと言われ、8月中旬にCT検査を行いました。そしてその結果が出たので聞いたら「蓄膿症の時に出来る影がないからコロナかもしれない」と言われ絶望しました。
その2日後別の病院でPCR検査を行い、結果は陰性でした。

しかし約半月は不安がいっぱいで、まともに寝られずストレスだけが溜まっていき、ズルズルここまできてしました。申し訳ありません。
でも完全ではないですが復活しましたので安心してください。

今回はサンダールJr.編の続きですが、前回書いた通りサンダールJr.の戦闘は少ないです。ご唱和ください。
そしてアンケートにご協力してくださった方々ありがとうございます。

それではどうぞ。


「それじゃあ始めようか。僕を馬鹿にしてきた──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()への

 

 

復讐、をね

 

 

 

ナナオが視線を向けると、突然1人の生徒が目を見開き鼻から血を出しながら悶え苦しみだす。

 

「うわぁぁーー!!」

 

『!?』

 

「辞めろ!辞めてくれェェーーー!!」

 

断末魔に等しい絶叫をあげた後、その場に倒れて動かなくなる。さらに1人、また1人と同じような現象が起き、ナナ、キョウヤ、ミチル、モグオの4人を除き教師を含めた生徒全員が倒れ伏せた。

 

「な、何だ!?」

 

「おい、どうした!?しっかりしろ!」

 

「…ダメだ、皆死んでる」

 

「そ、そんな…」

 

「一体、何が!?」

 

「僕の能力さ」

 

4人はナナオから発せられた衝撃の言葉に驚愕する。

 

「僕の能力は能力を使えなくさせることだった。でもそれが進化して僕が念じればどんな物でも活動を停止させることが出来るようになったんだ」

 

「…つまりお前は自分の能力で俺達を以外の連中の生命活動を停止させた、と言うことか?」

 

「そう言うこと」

 

何と恐ろしい能力。相手の能力を消し去る力が、思考や生命活動でさえ無効化させてしまう能力にへと進化していた。これには皆驚きを隠せないが、一つ疑問が浮かぶ。

 

「なら何故私を殺さなかった?そんな凄い力なら何故私は見逃した!?何故他の生徒達を殺したんだ!?」

 

中島の目的は自分を殺そうとした柊ナナヘの復讐。では何故その彼女は生かし周りにいた関係のない大勢の生徒達を手に掛けたのか、そこが理解出来なかった。しかし彼の口からとんでもない言葉が飛び出す。

 

 

 

「簡単だよ。僕の復讐対象はナナさん、君だけじゃないからだよ」

 

 

 

「何!?」

 

「ど、どう言うことですか?」

 

「簡単だよ。クラスの殆どが僕の復讐対象だからさ。関係ない?違うね。散々僕のこと冷めた目で見ていたし、中には見て見ぬふりをしている人だっていたんだ。充分同罪だよ」

 

クラス全員そうだった、と言えば違うだろう。しかし今のナナオからすれば全員自分を見捨てたとしか思えない。だから報復を受けるのは当然だと。

 

「じゃあ何故俺達は残した?クラス全員がお前の復讐の相手なら、何故俺達5人は残した?」

 

「それも簡単なことだよ。先ずキョウヤ君、君はナナさんと一緒に転校してきたばかりで君には何の恨みもないから。流石の僕も恨みもない人を悪戯に殺す程野蛮じゃないよ」

 

実際キョウヤとナナオが話したことは一度もない。全くの無関係と言うわけではないが、あの時の自分の現状を知らなかったのは事実。だから彼だけは復讐対象から外されているとのこと。

 

「次に郡君。君はこのクラスの中でも上位の実力者だ。その君を倒せば僕の方が上だと言うことが証明出来る。そうすればもう僕を馬鹿にする奴はいなくなるんだよ」

 

セイヤの能力は「炎」を使うモグオとは正反対の「氷」。クラスの中でもトップの実力を持っている。しかしそんな彼をナナオは自分が目立つ為の素材、つまりただの踏み台にしか思っていない。流石のセイヤも、今の発言は不快だったようで鋭い目付きで睨み付ける。

 

「そして飯島君とナナさんに関しては、簡単に殺しちゃったらつまらないからだよ」

 

「つまらない?」

 

「そう。飯島君は僕のことを能力が使えないって散々バカにしてきた。郡君と犬飼さんは知ってるでしょ?」

 

その言葉にミチルは黙り、セイヤは「そうだったね」と相変わらずの澄まし顔で答える。

 

「ナナさんは僕を崖から突き落とした張本人だ。あの優しい言葉で僕の心を弄び殺そうとした。だから2人は簡単に死なれちゃ僕の気が済まないからね。僕の気が済むまで痛ぶって殺してやるのさ!」

 

先程までの憎まれ口調から一変、溜まっていた鬱憤を暴露し発狂。この圧力には強気なモグオもたじろいでしまう。

 

「じ、じゃあ何で私は見逃してくれたんですか?私はセイヤしゃんやモグオしゃんと違って力なんてないですし、私もクラスの皆しゃんと一緒じゃないんですか?」

 

ミチル(彼女)もナナオがモグオに虐められていた時、助けなかったクラスメイトの1人。気の弱い彼女では声を掛けられなかったのだろうが助けなかったのは事実。だったら他の生徒達と同じように復讐対象のはず。なのに何故自分は見逃されたのか?…それは彼女の想像を絶する内容であった。

 

「…犬飼さん、君の能力は傷を治癒する力だよね」

 

その言葉に「エッ?」と声を上げる。確かに自分の力は治癒系の能力、しかしそれが一体どうしたのだろうか?

 

  「さっきも言ったけど、僕はナナさん達を痛めつけたいんだよ。でも今の僕が本気を出したらどうなるかな?飯島君は兎も角、無能力者のナナさんは直ぐに終わっちゃうかもしれない。それだとつまらないし、僕の気も晴れない。そこで君の能力が必要なのさ。君の治癒の力で負傷したナナさんを治せばまた同じことが出来る、何度でも痛めつけれる!だから君には僕の気が済むまで2人が負傷した時の回復を頼みたいのさ」

 

何と復讐相手を何度も叩きのめしたいから、その都度傷を回復させてほしいとのこと。

 

ボロボロにされては治され、またボロボロにされては治されの繰り返し、生き地獄と言えるその仕打ちはミチルにとってはあまりにも恐ろしい仕打ちだ。

 

「な、何でそんな酷いことを考えるんですか!?そんなのナナしゃん達が可哀想です!」

 

「酷い?じゃあ聞くけどナナさんが僕にしたことはどうなの?飯島君が僕にしてきたことは?人を虐めるのは酷いことじゃないの?人を殺そうとするのは酷いことじゃないの?どうなの?」

 

ナナオの正論と圧力にミチルは反論出来ず黙ってしまう。

 

「ナナさんは僕を殺そうとしたんだよ。その後も少なくても5人くらい殺してる。飯島君は僕の本を目の前で燃やした。2人は良くて僕はダメなの?それとも友達や今も一緒に暮らしてるクラスメイトだから庇いたいだけなのかな?まぁどちらにしても、君に断る権利はないんだけどね。僕を見捨てたことについては君も同罪なんだから」

 

  先程も言ったが、虐められていたナナオを助けなかったのは事実。そんな彼女が反論する資格はない。

 

「話すことも終わったし…復讐の続きを始めよう」

 

ナナオは右腕を上げると倒れていた生徒達が一斉に立ち上がった。だがよく見るとその肌は青白く焦点も定まっておらず、言葉も一切喋らないで突っ立っている。

 

「み、皆しゃん!?一体どうしたんですか!?」

 

「な、何だこりゃ!?一体どうなってんだよ!」

 

死んだ筈の生徒達が、突然起き上がったことにパニックになる一同。しかし皆この現象に見覚えがあった。そしてナナが気付く。

 

 

 

「これはまさか、佐々木ユウカの【死体操作(ネクロマンシー)】!?」

 

 

 

嘗てのクラスメイト「佐々木ユウカ」の能力【死体操作(ネクロマンシー)】が発動している状態と酷似していたのだ。と言うことはその佐々木ユウカがこの近くにいると言うことになる。

 

だがそんなはずは断じてありえない。

 

何故なら彼女は既に柊ナナによって殺害された生徒の1人。だからこの場にいるはずがない。しかし今この場にいる者達の中で、こんなことが出来る能力者はいない。後ろにいるサンダールJr.(怪人)の力なのか?疑問に思っているとある人物が口を開く。

 

「驚いた?彼等はね、今僕が動かしてるんだよ」

 

何とナナオがこの死体を動かしていると自白した。だが同時に疑問が浮かぶ。

 

彼の能力は「凡ゆるものを無効化させる能力」、幾ら無効化出来ると言っても既に思考が停止している死体に命令を受信させることは出来ないはず。では何故?

 

「ナナさん、僕は君に怨みがある者達の力を使うことも出来るようになったんですよ。そして僕は佐々木さんの力で彼等を操るっているのさ」

 

ナナオがソックリどころか、佐々木ユウカの能力そのものを使用していると驚く5人。しかしナナだけは腑に落ちないことがある。それはこの能力には欠点についてである。

 

  佐々木ユウカの【死体操作(ネクロマンシー)】は発動条件として、その人物が生前に触れていた物、つまり遺品が必要。現に彼女も操っていた人物の遺品を持っていた。もし佐々木ユウカの能力そのもの(ナナオの言ったことが本当)なら、死体を操るためにはその人物の遺品が必要のはず。

 

だがナナオは「この島に来るのも久しぶり」っと言っていた。つまりその場所に来たのはついさっきのこと。そんな短時間で数十人分の私物を持ち出すのは不可能のはず。どうやって操作しているのか?

 

「…僕がどうやって死体を操っているのか不思議そうな顔してるねナナさん」

 

「ッ!?」

 

「簡単な仕組みだよ。僕の力は凡ゆるものを無効化するって言ったの覚えてるよね?」

 

「あぁ、それがなんだってんだよ?」

 

「ッまさか!?」

 

「流石ナナさん、頭の回転が早くて助かるよ。僕は自分の能力で、佐々木さんの能力の欠点()()を無効化したんだよ」

 

元々ナナオの能力は「能力を無効化する」と言うものだった。なら能力の一部だけを無効化出来てもおかしくないが、半月もしないで能力をここまで上手く使いこなしているナナオの才能に皆驚く。

 

「ところで気付かないナナさん?僕は『君に恨みがある者の力を使うことが出来る』って言ったことに」

 

突如ナナオの身体から溢れたオーラが、彼の頭上で数人の人影が映し出される。暗くてよく分からないが、恐らくナナオと同じ柊ナナに恨みを持っている者達であろう。彼等の彼女を見つめるその眼からは、激しい怒りのオーラを感じた。

 

ナナさん()に復讐したいと思っているのは僕だけじゃない。つまり僕はまだ使える能力があるってことだよ」

 

彼の背後に浮かんでいる人影で確認出来るのは5つ、その内の一つは佐々木ユウカだと思われる。だが少なくても後4つの能力が使えると言うこと。しかも自分の能力で、他の能力もデメリット無しで放題。正にチートである。

 

「あっそうだ郡君。君の能力は人を凍らせることは出来なかったんだよね。だからその欠点はなくしてあげるよ」

 

その言葉にセイヤは反射的にナナオの方へと振り向き目を合わせてしまった。

 

「はい、これで君の能力の欠点は消えた」

 

「信じられないな。君と目を合わせただけで能力が改竄(そんなこと)が出来たなんて」

 

「だったら試しに誰か凍らせてみたら?」

 

信じ難いが、物は試しとばかりにセイヤは近くにいた一体のゾンビに触れ意識を集中させる。するとゾンビの身体は忽ち凍りつき、あっという間に氷のオブジェとなった。

 

「ほらね、僕の言った通り君は生物も凍らせることが出来るようなった。おめでとう」

 

「…理解出来ないな。何で態々自分が不利になることをした?」

 

生物も氷漬けに出来るようになったと言うことは、自分も今のゾンビと同じように氷のオブジェにされてしまうと言うこと。自分で自分の首を絞めたことに他ならない。

 

「エッ?だってそうしなきゃ意味がないでしょ」

 

「意味がない?」

 

「いくら強い能力でも相手を倒せないんじゃ意味がない。それに、それだと実力で勝ったとは言えないからね」

 

教えられていた人類の敵がどのような存在かは不明だが生物であると思われていた。そうなるとセイヤの能力で太刀打ち出来ると言うと不可能に近い。その欠点がなくなったことは喜ばしいことだが、セイヤとしては自分で解決したかったみたいで複雑な顔をしていた。

 

「ところで小野寺君、君さっきから少し煩いよ」

 

ナナオが視界から消えるとキョウヤの後ろに現れ、首元に噛み付いた。痛みに堪え振り払おうとする前にナナオは自分から離し後退する。痛みはあるが能力ですぐ治ると思った時、突然身体に力が入らなくなりその場に倒れ伏せてしまう。

 

「君の能力は【不死】。だから君を殺すことは無理だ。でもあくまで死なない()()で、全ての能力が効かないわけじゃないみたいだね」

 

ナナオの頭上に色黒の金髪ギャルが現れる。それは数日前に行方不明になった「羽生(はぶ)キララ」であった。実はユウカを殺害したその日の朝にナナによって毒殺されてしまっていたのだ。

彼女の能力は【唾液を毒に変化させることが出来る】能力で、その力を使い噛み付いた時に神経を麻痺させる毒を撃ち込んだのだ。

正直、不死に通じるか賭けであったが読みが外れなくて内心安心していた。

 

「小野寺君そこで大人しくしててね。大丈夫、すぐ終わるからさ」

 

ナナオは倒れているキョウヤには何もせず4人の方へと向き直る。

 

「さぁ、始めようか」

 

その言葉を合図にゾンビ達は一斉に襲いかかってくる。それをセイヤが凍らせ身動きを取れなくさせたり、モグオが炎で焼却したりと一気に片付けた。呆気なく終わったことに拍子抜けしいると、ナナは画面を掴まれ持ち上げアイアンクローをお見舞いさせる。痛みに悶え苦しむナナを他所にモグオはチャンスだと思った。

 

 

 

───柊ナナ(あの女)を野放しにしていたら自分が殺される。だから中島(アイツ)と共に!───

 

 

 

柊ナナ(あの女)を始末する絶対のチャンスだと

 

 

 

モグオは掌をナナオに向けナナごと燃やし尽くそうとするが、一瞬ナナオが消えたと思ったら自分の前まで移動しナナを掴んでいる方とは逆の手でモグオの手首を掴む。振り払おうとするが物凄い力で掴まれているためビクともしない。逆に掴んでいる手に込める力が強くなっていき、そして…

 

 

 

 

 

ゴギ

 

 

 

 

 

…嫌な音が響いた。

 

 

「う、ウワァァァァァーー!!」

 

 

あまりの痛みに叫び声を上げる中、追い討ちをかけるように顔面を蹴り上げる。腕と顔から来る痛みに悶え苦しむモグオのそんな姿をナナオはニヤニヤと笑いながら見ていた。

 

自分を散々見下してふんぞり返っていた飯島モグオ(自称・炎の貴公子)を見下している、この感覚は最高だった。

 

 

そしてナナの頭を掴んでいる手の力を入れる。抵抗しようとするが彼女の力では不可能、勿論それは彼女自身分かっている。だからポケットとの方へ手を動かす。毒針が入っているケースを取るために。

 

しかしナナオは見逃さない。

 

彼はナナの土手っ腹に重い拳を1発打ち込む。そして更に1発、もう1発と数回繰り返す。殴られる度にナナの悲痛な悲鳴が発せられ、口から血が飛び出る。

 

「カハッ!」

 

「フフフ」

 

 

ミチルはナナを助けたいが、足がすくんで動けずその光景を黙って見ていることしか出来なかった。

 

 

20発近くで飽きたのかポイっと投げ捨てる。解放されたナナは口から血を流しながら腹を押さえてその場で蹲っている。ナナオは動けないナナに近づくと足で顔を踏みつける。

 

「さぁ犬飼さん、早くナナさんを治して。でないと死んじゃうかもしれないから」

 

ナナオはミチルにナナを早く治してあげてと言う。確かに彼女の力を使えばこの程度の傷すぐ完治するだろう。

 

 

しかし彼女の能力には一つ大きなリスクがある。

 

 

彼女の治癒能力は自分の生命力を糧にする、謂わば諸刃の剣。傷が大きければ大きいほど莫大な生命力を使う。つまりこれ程の傷を治療すればかなりの生命力を使う、下手をすると命を落としかねない。しかし今の彼にはそんなこと関係ない。己の復讐を達成出来ればいいのだから。

 

「…どうして」

 

「?」

 

「ここまでする必要ないじゃないですか!?これ以上やったらナナしゃんが死んじゃいます!」

 

ミチルは涙を流しながら必死に訴える。彼女(柊ナナ)は虐められていた自分を助けてくれた上に友達になってくれた。例え向こうがどう思っていようとその事実は変わらない、だからこれ以上彼女を傷付くところは見たくない。それに彼にまだ人として心があるのならこの呼び掛けで少しでも考えが変わるかもしれない。しかし…

 

 

 

「それがどうしたの?」

 

 

「エッ?」

 

 

 

 

…そんな彼女の必死の想いも、今のナナオには全く響かなかった。

 

「ナナさんは僕達能力者を殺すためにここまで生きて頑張ってきたんだ。だから僕も、頑張ってきたんだよ。ナナさんに復讐するこの時ために!」

 

あの日以来ナナオはサンダールJr.の辛い特訓を耐えてきた。全ては自分の心を弄んだ、柊ナナへの、そして自分を散々見下した奴らにへと復讐のため、彼女を自らの手で始末するために。

 

「それに言ったんだ。『能力者は人類の敵』だって。だから本当に人類の敵になることにしたんだよ。だから人類であるナナさんは僕の敵、だから殺すんだよ!」

 

ナナオの途方もない圧力にミチルは怯え、その場に座り込んでしまう。

 

「何やってるの?そんなところに座っちゃって。…あっ!もしかしてビビって立てなくなっちゃった?だったら…」

 

ナナオはミチルに近づくと髪の毛を掴んで無理やり起き上がらせ、顔をナナの身体にへと押し付ける。

 

「これなら出来るでしょ。さぁ、早く治してあげて」

 

ナナオは()()()()でミチルの顔をグリグリと押し付ける。突如足に違和感を感じ視線を向けると、なんと自分の足首付近まで凍っていた。

 

「レディをそんな風に扱うのは良くないな」

 

相変わらずの澄まし顔なセイヤ。ナナオの力で欠点がなくなった己の能力をたった数分で物にしてしている。

 

「やっぱり郡君の能力は凄いな。人も簡単に凍らせちゃうんだから。でも…」

 

 

 

ピキ    ピキピキ    パリン

 

 

 

氷に亀裂が入ると粉々に砕け散る。

 

「…この程度じゃ僕は止められないよ」

 

「だろうね。でも君の意識をこっちに向けることは出来る」

 

「食らいやがれェ!!」

 

後方の方で声がしたので振り向くと目の前に巨大な火の玉があり、そのまま大爆発を起こし周囲一帯を物凄い熱量と爆風が襲う。

 

風圧が収まり顔を上げると、セイヤの向かい側に左腕を伸ばし、息を切らせているモグオが立っていた。

 

「ハァ…ハァ…どうだ、ざまあみやがれ!」

 

「相変わらず野蛮だな。でもそんな君が僕に協力してくれるなんて…明日は雪が降るんじゃないかな?」

 

「煩セェ!俺はただ中島の奴が調子に乗るから懲らしめてやっただけだ!お前に協力したつもりはねェ」

 

モグオは足音をドガドカ立てながらセイヤに近づき口喧嘩を始める。相変わらずのやりとりにキョウヤとナナは呆れ、ミチルは苦笑。ナナを治療とした時、燃え上がる炎の中から物音が聞こえた。

 

まさかと思って振り向くと炎の中から人影が見え出てくる。そこには全くの不傷のナナオが立ち尽くしていた。不意打ちとは言えモグオは最大の力で放った。少しは強くなったとしても、あれだけの火力を真面に食らえば一溜りもないはず。なのに無傷であったことに2人は驚愕、モグオに関しては自分の最大の力が通じなかったショックと同時に恐怖を覚えた。

 

「今のは中々効いたよ。油断していたからとは言っても痛みを感じさせたんだから。……そう痛かったんだよ」

 

ナナオの身体から今まで以上の殺気を感じる。

 

「飯島君、君は本当に僕を怒られるのが好きなんだね。だったらお望み通り、先ずは君からヤってあげようか?」

 

「チッ、おい郡!手貸せ!」

 

「君に指示されたくはないけど、今はそうするしかなさそうだね」

 

現状を確認しセイヤは渋々ながらもモグオに手を貸すことにした。ナナオが動き出すと先ずセイヤが地面に氷を貼り、モグオは残っている左手で炎の塊を連射させる。しかしナナオは平然な顔で次から次へと2人の攻撃を回避していく。

 

 

しかも何処に飛んで来るかが分かっているかのように技が放たれる前に行動している。

 

 

イラつき出したモグオは、再び特大の炎の塊を作り出し、向かってくるナナオにへ投げ飛ばし爆発が起きる。「やったか?」と思う2人だが、突如セイヤの悲痛の声が聞こえた。

 

「痛ッ!?」

 

振り向くとナナオがセイヤの首元に噛み付いた。モグオは急いで捕まえようと手を伸ばすが、その前にナナオはセイヤから離れ距離をとる。

セイヤは噛まれたところを押さえ痛みに耐える。キョウヤと同じように麻痺の毒を打ち込まれたと思われたが、何と噛まれた場所から肌の色が紫色に変化、いや侵食されていくように広がっていく。

 

「郡君、君の能力の欠点を無くしたのは他でもない僕だよ。それはつまり能力を変化させたんだよ。で、君の能力を変化させたのなら、他の能力も変化させることが出来るんだよ」

 

セイヤは息もままならいい状態になり、眼球も今にも飛び出しそうなくらい見開いて苦しみだす。呻き声を上げながら悶え苦しみ、軈て地面に仰向け倒れそのまま動かなくなった。

 

「こんな簡単に死んじゃうなんて脆いな。でも郡君のこんな表情、レアだなぁ」

 

セイヤの尸を勝ち誇った顔で見下し、モグオの方へと向き直る。

 

「じゃあ飯田君、君の番だね」

 

ナナオの絶対零度並みの瞳に冷汗が流れるが、それでも逃げずに踏み止まる。

「中島なんかに俺が怯えている」そのことを受け入れたくなかった。そして何より逃げるなんてプライドが許さなかった。

 

「中島、テメェいい加減にしろよ。少し強くなったからって調子に乗んじゃねェ。どんなに強くなろうが俺がテメェに負けるわけがねェんだからよォォ!!」

 

モグオは左腕を頭上に向けると、その掌に今までにない巨大な火球を作り上げる。それはまるで小型の太陽のよう。その巨大さと熱量にナナ達は驚くが、ナナオは涼しい顔で黙ってみていた。

 

 

「くたばりやがれェェェ!!」

 

 

ナナオは片腕を振り上げ、ピンっと真っ直ぐ伸ばし勢いよく振り下ろした。すると火球は真っ二つに裂け、ナナオを擦り抜け後方で爆発を起こす。何と手刀で火球を斬り裂いたのだ。あまりの光景に全員呆気に取られる。

 

「何?そんな顔して。あっ、もしかして今が効かなかったことに驚いてるの?だとしたらもう一つ悪いお知らせがあるよ。僕は全然本気を出してない、今のも含めてね」

 

それは彼らにとって本当に悪い知らせだった。

本気じゃない、つまり手加減していたと言う。それなのに生徒の大半を全滅させられ、クラスの中でもトップクラスの実力者である飯島モグオと郡セイヤ(2人)でさえ歯が立たなかった。その事実に4人は驚愕、特にモグオに関してはショックがデカかった。

 

自分は全力だったにも関わらず簡単にあしらわれ、剰え手を抜かれていたことへの悔しさ、そしてまだ余力があると言う恐怖のあまり身体が硬直し涙が流れる。

彼のプライドはもうズタズタであった。

 

「あれ?飯島君泣いてるの?泣いちゃってるの?……本当ならもっと痛ぶってからにしようと思っていたけど、君のそんな一面を見られたから充分かな」

 

 

「だからさぁ……もう消えていいよ」

 

 

ナナオは手刀を横にスライドさせた。モグオの頭部が胴体から離れ地面に落ちる。そして首元から赤い液体が噴水のように吹き出し、司令塔を失った胴体はそのまま崩れる。

 

「キャァァァーー!!」

 

その光景を見たミチルは悲鳴を上げる。

 

ナナオは転げ落ちたモグオの顔の足元まで行くと力任せに踏みつけ潰す。身体の方はゾンビ化したセイヤが凍らせ、他のゾンビ生徒達に踏み付けられ粉々にされた。

 

「あぁ…あぁ…」

 

「犬飼さん」

 

「ッ」

 

「座ってないで早くナナさんを治療して。君もこんな風になりたくないんなら」

 

  ナナオは血溜まりとなった自身の足元を指差し命令する。

ミチルは震えながらもナナの近くに寄るが治療を開始しなかった。しかしそれは治療したくないからではなく、治療するべきか否か迷ってのこと。

 

今彼女はナナを助けたい気持ちと、ナナを傷ついてほしくない、と言う気持ちがぶつかり合っていた。

 

 

───ナナしゃんを死なせたくない。でも治したら、またナナオしゃんに酷い目に遭わされてしまう。でもナナしゃんには死んでほしくない───

 

 

考えに考え抜き、ミチルは意を決してナナに近づき身体に触れると、その部分が黄金に光りだし輝きを増していく。

 

「や、辞めろ。私のことなんかほっとけ!中島ナナオ(アイツ)の言うことなんて聞く必要なんかない!それに、そんなことをしたらお前がッ」

 

ナナは治療を辞めるように必死に説得しようとするがミチルは一向に辞める気配がない。

 

「ナナしゃん、私はナナシャンに死んでほしくありません!ナナしゃんは私を助けてくれた。だから今度は私がナナしゃんを助けるんだ!」

 

「辞めろ、辞めろォォォォォ!!」

 

ナナの悲痛の叫び声が島全体に広がる。軈て光が収まるとナナの傷は完治した。しかしミチルはその横で安らかな表情をし、目を閉じたまま横たわっていた。

 

ナナは無言のままミチルの身体を揺らすが全く反応がない。さらに胸に耳を当て調べるが心臓の鼓動は感じられなかった。この時彼女は察した────

 

 

 

 

 

 

犬飼ミチルの死を

 

 

 

 

 

 

ナナはミチルの亡骸に寄り添い、小さな声で「やだ」と連呼しながら身体を震わせていた。

 

「犬飼さん、もしかしてもう死んじゃったの?たった一回だけの治療で死んじゃうなんて……これじゃあ折角生かした意味がないじゃないか」

 

ナナオはミチルの死に動じることない上、役立たずと罵る。その言葉に反応したナナは、鋭い目でナナオを睨み付けた。その瞳からはキラキラ光るものが流れていた。

 

「あれ?もしかしてナナさん泣いてるの?意外だなぁ。君が能力者を殺すために来た君が、そこまで能力者であるミチルさん(彼女)に入れ込んでいたなんて」

 

「…そんなんじゃない。だが、犬飼ミチル(コイツ)には借りがあった。その借りを返さないままだと気分が悪い。それに、このままオメオメと逃げたら犬飼ミチル(コイツ)が浮かばれないしな」

 

自分は犬飼ミチルを言いくるめて利用していた、それはまごうことなき事実。だが彼女はそんな自分を心の底から友達だと思い、最後まで自分を信じてくれた。だからその想いに応えたい、応えなければならない。

 

「…ナナさんにも相手を想う心ってのがあったんだ。以外だなぁ〜。それで、能力もないナナさんがどうやって僕を倒すのかな?」

 

「…こうするんだよ!」

 

なんとナナは横たわっていたミチルの亡骸の腕を掴むと、精一杯の力でナナオに投げ付けた。予想外の行動にナナオはミチルの亡骸を反射的に受け止めてしまう。

その僅かな隙にナナは全力疾走でナナオの懐へと飛び込む。

 

ナナは小ケースから一本の針を取り出す。彼女が何をするのか分かったナナオだが、ミチルの亡骸を持ち抱えているため両腕が使えない。それに今行動しても間に合わない。そしてナナオの脇に針を刺した。

 

抱えていたミチルの亡骸はナナオの腕から滑り落ちる。数秒の静寂後、ナナオが声を発する。

 

「…やっぱりナナさんは凄いな。能力がないのにモグオ君以上に僕を欺くことが上手いんだから」

 

「強がりをほざくな。針はお前の身体を捉えた。すぐに毒が回って今度こそお前は死ぬ」

 

如何に強くなっていても毒に対する耐性はないはず。勝ち誇った顔で笑いを浮かべるナナ。しかしその笑いが最後の笑いだった。

 

「…じゃあこれを見てもそう言えるかな?」

 

ナナオは服をズラすと、身体全体にプロテクターが装着されており針はプロテクターに当たっているだけで皮膚には刺さっていなかった。

 

「僕は葉多平君の能力で、未来を予測することが出来るんだよ。さらに渋沢君の能力を組み合わせて使えば、未来を見ることも可能になる。現に僕は見てきたからね、この夜の出来事全てを」

 

と言うことは今までのやり取りも全部見て確かめてきた、だから自分がどうやって反撃するのか全て知っていた。

 

 

自分達はナナオの掌の上で踊らされていたに過ぎなかった。

 

 

絶望に浸っているナナの右手首に、手刀を撃ち込まれ針を地面に落としてしまう。痛みに怯んだ隙にナナオに頭を鷲掴みにされる。

 

「最後に言い残すことはある?」

 

汚物を見る目で静かに口を開き言葉を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…くたばれ、このクソ野郎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう…じゃあ、さようなら」

 

ナナオは右手に力を込め、ナナの頭部をトマトのように握り潰した。周りには赤い液体が飛び散り、身体は力を失い脱力する。

ナナオはナナの身体を投げ捨て、取り出したハンカチで手に付いた液体を拭き取り地面に伏せているキョウヤに顔を向ける。

 

「お待たせ。最後は君だ、小野寺君」

 

ニコニコスマイルで近づくナナオ。少し痺れが取れ始めたキョウヤは鋭い眼差しで睨み付ける。

 

「大丈夫だよ小野寺君。さっきも言ったけど君は殺さないから安心して。でも証人を残すのは面倒だからねェ」

 

今の会話でナナオが何を言っているのを察する。コイツは自分を消そうとしている。しかしそんなことは絶対に不可能。

 

「何を企んでいるかは分からないが、さっきの口振りから察するにお前は俺の能力は知ってる。だったら俺を殺せないのも知っている筈だ」

 

「確かに君を殺すことは無理だ。でもさっきので確信したよ。あくまで死なない()()で、全ての攻撃が通用しないわけじゃないってことにね。だから殺すことは出来なくても倒すことは出来る」

 

「どう言うことだ?」

 

「つまりこう言うこと」

 

ナナオが指をパチンっと鳴らすと、キョウヤを中心に円陣が出現、彼の身体全身を取り囲むように展開されていた。

 

「殺すことは出来なくでも…封印することは出来る。本当は消滅させることも出来なくはないんだけど、君には特に恨みはないからね。だから封じ込ることにしたんだ。大丈夫、眠るのと同じようなものだから怖くないよ」

 

キョウヤは何かと身体を起き上がらさせようとした瞬間、陣から鎖が飛び出し彼の身体に巻き付き縛りあげ足元が沈み始める。

 

 

「じゃあお休み─────永遠に」

 

 

そしてキョウヤは声を上げる間をもなく引き摺り込まれ、同時に陣も消失した。

 

 

「それじゃあ最後の仕上げと行こうか」

 

ナナオは地面を蹴ると、島全体が見渡せる高さにまで上昇し静止する。

そして掌にエネルギーを凝縮させ、島にへと一筋の閃光───【虚閃】を放つ。閃光はそのまま地面を貫通、すると島に亀裂が入り始め遂に───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドッカァァァァン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────島は大爆発を起こし、ゾンビ諸共吹き飛び完全消滅した。

 

「終わったか?」

 

いつの間に後方にいたサンダールJr.は腕を組みながら質問する。

 

「うん。でもまだ()()()()()復讐が終わっただけ。だから次の復讐相手の元へと行こうか」

 

ナナオは応えるとある場所にへと向かう。サンダールJr.もその後を着いて行くのであった。

 

 

 

 

 

場所は変わりビルが並ぶ都会。その一つの大きなビルの中は悲惨なものとなっていた。多くの社員と思われる者や防護服を来た人達が全員ピクリッともしないでその場で倒れている。

 

「き、貴様、一体何のつもりだ!?」

 

「何のつもりってヤダなぁ、復讐しに来たに決まってるじゃん。父さん」

 

 

強面の男性────中島ナナオの父親は、突如己の息子が自身の会社にテロ行為を行ったことに対し怒り、警備員を仕向けるがあっという間に全滅され、社内を進みにつれ鉢合わせした者、逃げ出す者を男女関係なく殺していった。

 

その光景を見ていた父親は息子がここに来る前に逃げ出そうと扉に手を掛けようとした時に扉が開らかれ、息子(ナナオ)とサンダールJr.が現れ口を開こうとしたら息子(ナナオ)に胸倉を掴まれ床にへと投げ飛ばされ今に至る。

 

 

「き、貴様ッ実の父である私にこんなことをしてタダで済むと思っているのか!?」

 

「父?僕を散々「恥さらし」とか言って見下しておいて、今更父親ズラしないでよ」

 

父親の前に移動すると足で父親の顔を蹴り飛ばす。あまりの激痛で顔を抑えその場で悶え苦しむ。

ナナオはサッカーボールの様に父親の身体を蹴り飛ばし壁に激突させる。両手両足の骨が変な方へ曲がっており、最早動くことさえ出来ない父親に近づくと、その頭を鷲掴みにし自分の目と合わせる。

 

「最後に言い残すことはある?」

 

「クゥ…」

 

「無いみたいだね。じゃあ…」

 

掴んでいる方の掌に赤いエネルギーが凝縮されていく。父親は恐怖しているが、その光から目が離せなかった。

 

「安心して。一応父親としての情けで、一発で終わらせてあげるね」

 

「まっ」

 

父親の静止も聞かず【虚閃】が放たれ建物ごと貫いた。閃光が止むと父親がいた場所は大きな穴が開きボロボロと崩れる壁のみだった。

 

「終わったか?」

 

「うん…これで僕の復讐は終わったよ」

 

「そうか。では今度は此方の番だな」

 

実は彼等が初めて出会った時に交わした約束─────力を与えた変わりに全てが終わった時には此方の要求を飲んでもらうっとのこと。しかし…

 

「そう言えばそう言う約束だったね。でもそんなこと聞くと思う?」

 

なんとナナオはサンダールJr.の方へ視線を合わせ能力を発動させたのだ。

自分に更なる力、そして憎っくき連中に復讐の機会を与えてくれたことには感謝している。

 

たが、それはそれ、これはこれ。

 

柊ナナに騙されて以来、自分は誰一人信用しないことを誓った。しかも本来自分の持っている力だけでなく、他の能力者の力まで使うことが出来るようになった。最早無敵とも言える力を持った、誰かの言うことを聞く必要もない。そう思う内に『自分がこの世界の頂点に君臨する』と言う野望を抱くようになった。だから復讐をやり遂げたナナオはもう用済みとなったサンダールJr.を始末しようと実行に移した。

 

しかしそのサンダールJr.に全く変化はなく平然と立ち尽くしたまま。何も起こらない様子にナナオは戸惑う。

 

「貴様、私に自身の力が通じないことに驚いているな」

 

「ッ!?」

 

「我が君主の加護のお力によって、私を含め軍に所属している者達には洗脳系の力は効かんのだ」

 

ナナオの進化した能力は「凡ゆるものを無効化する」能力。そして相手の生命活動を停止させると言うことは、相手の思考を支配すると言うこと。つまり洗脳系に近い能力と言うことになる。

 

「故に貴様の力も私には効かん、残念だったな」

 

「クッ、それだったら!」

 

自身の能力が効かないことを理解したナナオは【死体操作(ネクロマンサー)】を発動させ、転がっている父親、更には部屋の近くにあった死体がゾンビとなり入って来るとサンダールJr.を取り囲む。

 

「皆、ヤっちゃえ!!」

 

ナナオの命令でゾンビ達は一斉に襲い掛かったその時、突如サンダールJr.の周りに炎が吹き出してゾンビ達は一瞬して焼却されてしまった。何が起こったのか戸惑うナナオにサンダールJr.が答える。

 

「貴様の『復讐者に対しての能力使用』の力は私が与えた物だ。故に私も使えるのだら貴様に復讐したいと思う者の力を!」

 

サンダールJr.の頭上に複数の人影が現れる。それはあの島で自分に殺された生徒達であった。そしてその中には『自称・炎の貴公子』飯島モグオの姿もあった。

 

「貴様はいつか裏切ると予測していた。ここ数日の貴様の目は()と同じ目をしていた。裏切ることを躊躇わない、野心家の目をな」

 

サンダールJr.が足を降り出すと、反対にナナオが後退していく。

 

「我が軍は約束を破る者は容赦しない。貴様にはここで消えてもらおう」

 

「く、来るな!来るなぁぁ!」

 

ナナオは掌を向けエネルギーを凝縮。それに対してサンダールJr.も同じように掌を向けエネルギーを凝縮していく。

 

 

『虚閃!』

 

 

互いの虚閃が同時に放たれぶつかり合う。しかしそれは一瞬だけ。ナナオの方の虚閃はあっという間に押し戻され、本人諸共サンダールJr.の虚閃に飲み込まれた。

 

虚閃が止むとナナオが立っていた場所の後方の壁に、先程空いた穴よりも大きな穴が出来上がっていた。

 

 

「貴様如きに刀を使うまでもない」

 

 

やることを終え部屋を後したサンダールJr.は廊下の死骸には目も暮れずビルから出ると、扇子を後方にへと振るい斬撃を飛ばした。

 

 

 

ドゴォォォォォン

 

 

ビルは轟音を上げ砕け散り瓦礫の山と化した。しかしサンダールJr.はそんなこと一切気にせず去るのであった。

 

 

 

 

 

そしてこの世界は「真の人類の敵」とも言える【サンダールJr.】たった1人の手によって支配される世界にへとなったのだった。

 




ご観覧ありがとうございました。
そしてこの場を借りてもう一度言わせてください。
アンケートにご協力してくださった皆様ありがとうございました。
前回よりも接戦で、その差は僅か2票‼️
どちらになってもおかしくない状況でした。

サンダールJr.の階級は例の如く番外編で明かされます。

面白ければお気に入り登録、そして感想等あればお願いします。


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16話 地獄の道化師による大宴会 前編

どうもアニメ大好きです。

今年も残りあと僅かとなりました。コロナの自粛によって昨年もそうですが、何かあっと言う間に一年が過ぎてしまった感があります。
早い訳では無いのですが、ポケモンゲームをやり込むのでまた更新が遅れると思い早め(?)に書きました。暫くまた更新が遅れると思いますがご賞味ください。

今回の世界は別名「汚いプリキュア」と言われているあの作品です。あのパワハラ上司そっくりの性格のアイツも登場します。

それではどうぞ。


とある世界。そこでは【マナ】と呼ばれる人類が進化の果てに手に入れた魔法のようなものが存在してした。その力によって食糧危機が改善され戦争が消え、人々は平和な日々を送っていた。

 

しかしその一方で【ノーマ】と呼ばれる、突然変異によって【マナ】を扱うことが出来ず無効化してしまう存在がいる。それ故に周りから「化け物」と呼ばれて蔑まれ、社会から隔離されると言う非人道的な扱いを受けていた。

そしてノーマ達は異世界から現れる【ドラゴン】と生死を賭けた戦いを繰り広げている。…このことは世間には知られていない。

 

 

しかしこの世界は、一部の存在しか知らない真実がある。そして今その真実がある存在によって暴かれ、同様に滅びの運命が訪れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

アンジュ…本当の名は『アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ』彼女は元々ミスルギ王国の第一皇女で、王族だけあって大勢の人々から慕われていた。しかし彼女の成人の儀の日、実兄である【ジュリオ・斑鳩・ミスルギ】によってノーマであることが明かされ「アルゼナル」と言うノーマが収監させる施設に送りま込まれた。

 

最初は「自分はノーマではない」と否定し続け、誰とも打ち解けなかった。しかしあることがキッカケで現実を受け入れ少しずつではあるが心を許せる存在が出来るようになっていった。

更に、侍女の【モモカ】がアルゼナルにやって来て面倒なことになったがアンジュがモモカを買ったことで収まった(監察官の【エマ・ブロンソン】は『ノーマが人を買うなんて』とブツブツ言っていた)。

 

 

それから数日が経った頃、突如実妹からの助けを求めるメッセージを受けた彼女は何とかモモカと共にアルゼナルを脱出し、ミスルギ王国にへと帰還することに成功した。

しかしそこで待っていたのは家族との感動の再会などではなかった。

 

実はあの助けを求めるメッセージは自分を誘き出す為の嘘であったと言うことも発覚。

更にはこの国の王にして実の父であった【ジュライ・飛鳥・ミスルギ】は処刑されていたことを知る。

実妹の【シルヴィア】から鞭で何度も叩かれ、周りの人々から「化け物」「早く殺せ」などバッシングを浴びせられ、元部活仲間からも同様の言葉が飛び交う。

 

母を目の前で殺され、父が処刑され、信じていた妹やチームのメンバーから迫害の言葉を浴びせられる。彼女の心は絶望、いや【人間】と言う存在に対する醜さで一杯だった。

 

そして彼女が縄を首に巻き付け吊るされそうになったその時…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ、面白い。実に面白いですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…突如その場で誰かの声が聞こえ全員動きを止める。声のした方へ顔を向けると、そこには背中に4本の剣を背負い、赤い服を着たピエロが上空におり、ゆっくりの死刑台に着地する。

 

「貴様、一体何者だ!いきなり現れて、名を名乗れ!」

 

「これは失敬。確かに名前を名乗るのは常識ですね。私は【ピエモン】、デストロイヤー軍の幹部にして【死刃】の1人です」

 

ピエモンと名乗ったピエロはお辞儀をする。

 

「貴方方の会話、先程から全て聞かせてもらいましたけど、本当に面白いですね。大勢の民衆の前で悪しき存在であるノーマを処刑する。実に面白い」

 

「ほ、ほぉ。貴様、ノーマの処刑が面白いとは。よく分かっているじゃないか」

 

ジュリオは得体の知れない相手に戸惑っているが、ノーマの処刑が「面白い」と言うピエモンの思考に歓喜を感じた。しかし、

 

「エェ、本当に面白いですよ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方方の滑稽な茶番劇がね

 

 

 

…思いがけない言葉が飛び交ったことでその場の空気が凍りつく。

 

「き、貴様…今何といった?茶番だと?」

 

「エェ、そうですよ。私から見れば今貴方方のやっていることは茶番でしかないのです。 貴方方が使う力【マナ】と言いましたか?それが使えないだけでここまでするとは…茶番と言わずして何と言いましょう」

 

ノーマと言う化け物を自分達の手で始末すると言うことは、彼等にとっては栄誉ある行動に等しいだろう。しかしそれを茶番劇などと侮辱され、アンジュ以外のこの場にいる者達は腑が煮えくりかえそうである。

そして終いにはとんでもないことを言い出した。

 

「私から見れば貴方達もその【ノーマ】と対して変わりませんよ」

 

「なっ何だと!?き、貴様、我々をノーマと一緒にする気か!!」

 

「する気も何も、見た目は全く同じではありませんか。違いは『マナが使えない』それだけではありませんか。私からすればそれ以外は何の変わりもない【愚かな生物】ですよ」

 

公衆の場にいた人々はその発言に腹を立てた。【マナを使える】選ばれた存在である自分達が、【マナが使えない】化け物であるノーマと一緒にされるなんて癪に触る。しかも【愚かな生物】とまで言われ怒りは爆発した。

 

「テメェ、巫山戯るなぁぁ!!」

 

「私達がそのアンジュ(化け物)と一緒ですって!!巫山戯るんじゃないわよォ!!」

 

「そうだ、そうだ!!」

 

民衆の壮大なバッシングを浴びせられるが、全く気にしていないようで顔色一つ変えなかった。

 

「き、貴様この国の王である私に向かって…許さん!」

 

ジュリオがパチンッと指を鳴らすと、音勢の兵士が台へと登りピエモンの周りを取り囲む。

 

「お前達、この不届き者を始末しろ!」

 

ジュリオの命令で兵士達が一斉に飛び掛かる。大勢の兵士を前にすれば、これで終わるだろう…普通なら。だが、彼は普通じゃない。

 

「【トイワンダネス】!」

 

腕を下から振り上げると、台が抉られ見えない衝撃波が襲い、彼等を吹き飛ばす。さらにその衝撃は後ろにいたジュリオとシルヴィアにまで襲い掛かり、シルヴィアに至っては車椅子がバランスを崩してしまい転倒してしまう。

 

「シルヴィア!貴様、私たちにこんなことをしてタダで済むと思うな!」

 

「おやおや、今のはそちらから仕掛けてきたではありませんか。私は正当防衛をしたまでですよ」

 

確かに先に攻撃し出したのは兵士達。ピエモンの行動は正当防衛に当たる。しかし今のミスルギ王国の民衆にそんなことを考えられる程の冷静さはないだろう。

 

「それにして【マナ】と言うのが使える、それだけでそんなに偉いことなのですか?」

 

「当然だろ!【マナ】は神が私達人類に与えてくださった物だ!だからそれを使える我々は選ばれた存在なのだぞ」

 

「成る程成る程。しかし、言うならそれは『力を持つ者が偉い』と言うこと。即ち私は貴方達より上の存在と言うことになりますね。私は貴方達を遥かに凌ぐ力があるのですから」

 

その言葉にジュリオは押し黙る。さっきの衝撃波は兵士を全員一変に吹き飛ばす程の威力があった。しかも見るからに余裕綽々の様子、つまりまだまだ余力がある、下手をすれば自分達の方が始末されかねない。

目の前に汚らわしいアンジュ(ノーマ)が視界に入るのは癪だが、大人しくするしかなかった。しかし…

 

 

 

 

 

 

「しかし、本当に愚かですね。この()()の地球に住まう者達は」

 

 

 

 

 

 

…そんな考えも吹っ飛ぶ程の衝撃的な言葉が告げられた。

 

「偽りの地球!?どう言うことだ?」

 

「そのままの意味です。この世界はある存在に造られた世界なのですよ。その証拠に、あれをご覧なさい」

 

ピエモンはミスルギ王国の中心部にあり最高機密区画である【暁ノ御柱】を指差す。すると、突然根元部分が大爆発を起こし倒壊する。

突然の出来事に騒つく民衆を他所に、倒壊した柱の瓦礫の中から、紫色の球体が浮かび上がってきた。目を凝らして確認すると、何と球体の中に巨大なドラゴンが閉じ込められていた。

 

「あれは【アウラ】と言う此処とは別の地球の生物です。この地球を創った者はあのドラゴンのエネルギーを糧にして【マナ】と言う物を作った。つまりあのドラゴンこそが【マナ】の源なのです」

 

ピエモンは何処からともなく一本のナイフを取り出すと投げ付け、そのまま球体に刺した。

すると球体はゴワゴワと震え出す。その震えは次第に大きくなっていき、遂に弾け飛んだ。解放されたアウラは目を開くと、翼を広げ雄叫びを上げる。その光景に民衆は目を奪われる。

 

「さぁ、此処で皆さんに問題です。アウラが解放されました。それが何を意味しているか分かりますか?」

 

ピエモンの言葉に殆どの人達の頭に「?」が浮かぶ。その中でジュリオは彼が言った言葉を思い出しあることに気付く。

 

あのアウラと言うドラゴンはマナの源──供給源。それが解放された、と言うことはつまり、マナの供給源が絶たれたと言うこと。それが意味するもの、即ち…

 

「今この時をもって貴方達は、自分達が散々化け物と罵ってきたノーマと同じ存在となったのです」

 

…ミスルギ王国の民衆は勿論、世界中の人々はマナを使えなくなった。民衆達はその言葉が信じられずマナの光を出そうとするが出ず、同様にマナの力も使うことが出来ない。その現実に民衆はショックを隠せない。中には「これは夢だ、夢に決まってる」等現実逃避をする者もいた。

 

「これで皆さんはノーマと同じ存在になったことが分かりましたね。では皆さんにはノーマと同じ仕事をしてもらいましょう」

 

ピエモンが指をパチンっと鳴らすと、上空から多数の黒い小さな影が飛んで来るのが見えた。軈て街の光で姿が確認出来るようになる。それは大口を開け、2対計4つの背中に小さな羽を生やした小悪魔型のデジモン【イビルモン】であった。

 

「皆さんにはこのイビルモン達と戦ってもらいます。ノーマがドラゴンと呼ばれる存在と戦っていたのと同じように。では、スタート!」

 

その号令を合図に無数のイビルモンが民衆に一斉に襲いかかる。マナの力を失った人々は、為す術がないので逃げることしか出来なかった。

 

その間に複数のイビルモンが逃げ遅れた1人の纏わりつき、その人間の断末魔にも似た叫び声が上がる。1人、また1人とその声の数は増えていく。正に数の暴力。

しかし考えてみれば彼等も、寄ってたかってアンジュ1人に罪を全て押し付けようとしたので自業自得とも言える。因果応報とはこのことかもしれない。

 

その様子を楽しんで見ているピエモンにアンジュが声を掛ける。

 

「ねェ」

 

「はい、何でしょう?」

 

「何で私を助けてくれたの?」

 

人間扱いされないノーマであり全くの無関係である自分を、何故助けてくれたのか不思議でしょうがなかった。

 

「簡単ですよ。ただ単に私が気に入ったからですよ。貴方のその憎しみの心が」

 

「私の…憎しみの心?」

 

「貴方はさっき彼等のことを心の中でと罵っていましたよね。【家畜】や【豚共】等と」

 

彼女はノーマとしてアルゼナルにへと送られた時からここ数ヶ月、命を掛けてドラゴンからこの世界を救ってあげたと言うのに、それが「化け物」と罵られ、物を投げされると言う仕打ち。

その時のアンジュは「こんな連中を守っていたのか」と【怒り】や【憎しみ】そして【哀れみ】を感じた。首を吊るされそうになった時『全員地獄に落ちろ』と言うと思っていた程に。その時の感情を気に入ったと言う。

 

ピエモンはアンジュに手を差し伸べる。

 

「私と共に来なさい。そうすれば貴方に屈辱を味合わせた者達を見返せる力を与えてあげましょう」

 

一般的に見ればこれは悪魔の囁きだろうが、アンジュにはその姿はとても魅力的に思えた。死刑にされそうだった自分を助け、自分を虐げた豚共に仕返しをし、何より自分の気持ちを理解してくれそうな仕草。今の彼女にピエモンが『白馬の王子様』に見えていた。アンジュは右手を伸ばし、その手を掴もうとした。その時…

 

 

 

 

「それは困る。彼女は私の妻になるのだから」

 

 

 

 

突如後方から別の声が聞こえ反射的に腕を引いた。振り返ると、そこには貴族服を着た金髪のロングヘアの男性が現れる。

 

「一応初めましてと言っておこう、異世界の住人。私はエンブリヲ、君が言っていた通り私がこの地球を創った者だ」

 

「これはこれは。創造者直々にお出ましとは、どう言う了見ですか?」

 

「簡単なことだ。此処は私が創り上げた世界、異物である君に好き勝手されるのは好ましくない。故に君には此処で退場してもらおうと「グシャ」」

 

会話中、変な音がしたと思ったらエンブリヲの頭部が消失していた。頭部を失った身体は膝から崩れ落ちその場に倒れ込む。何が起こったのか分からないアンジュはピエモンへと視線を向ける。

 

「私を排除する前に、自分が排除されることを考えていなかったのですか?」

 

彼の手首から先の部分が「ピリピリ」と小さな稲妻が走っていたのが見えた。全く状況が掴めないが、彼が何かやったのだけは理解出来た。

残酷な光景だがアンジュの顔色に変化はなかった。と言うのも、常にドラゴンと命を掛けた戦いをしている上に、何回か目の前で死んでいくのを観ているから今の彼女からしたら見慣れた光景なのかもしれない。

 

「話の途中で攻撃を仕掛けてくるとは、礼儀がなっていないのではないか」

 

だが突如死んだはずのエンブリヲの声が聞こえたと思えば、その後方から無傷の彼が立っていた。さらにその背後からもう1人のエンブリヲが現れる。アンジュは理解出来ず振り返ると、そこにあったはずのエンブリヲの死体が綺麗に消えていた。

 

「理解出来るかい?何故私が生きているのか君に理解出来るかい?」

 

「私は全てを超越した存在、君如きでは私を倒すことは不可能のだ」

 

完全に自身の方が格上である発言し挑発するエンブリヲ。しかしピエモンは顔色一つ変えない。

 

「ほぉ、復活する上に増殖とは興味深い。ではそれがどこまで出来るのか試してみましょう。【トランプソード】!」

 

塚に収めていた4本の剣を取り出し1人のエンブリヲにへと投げ飛ばす。そのエンブリヲは表情変えることなく対処しようと掌を出すが、目の前にまで来た剣が4本とも忽然と姿を消した。予想外の状況に戸惑い周りを見渡す。

その時突如背中に激痛が走り腹部に視線を向けると、消えた1本の剣が背中から自身を串刺しにしていた。さらに残っていた3本の剣が現れ、自身の足、胸、そして頭部に刺さりその場に倒れる。

 

刺さった剣はエンブリヲの身体から離れると、もう1人のエンブリヲにへと向かう。

 

先程と同じに剣はエンブリヲの前で消え、彼の死角から飛び出す。しかしエンブリヲは何処からか出現させたレイピアで飛んで来る剣を簡単に遇らえ弾き飛ばす。

 

「どんな手品でもタネさえ分かれば幾らでも対処出来る。そんな小細工が私に何度も通用すると思わないことだ」

 

「…勿論、そんなことは承知の上です」

 

その言葉に違和感を感じたエンブリヲが上に視線を向けると、弾かれた剣が上空で静止していた。ピエモンは人差し指の先にエネルギーが凝縮され、黄色の一閃が放たれる。

 

 

 

 

虚閃(セロ)

 

 

 

 

閃光は1本の剣に当たると、その先端から放出され別の剣の方にへと軌道を変える。それが1本、また1本とジグザグに進み、3本目の剣の先端から放たれた閃光はエンブリヲの頭上を通り過ぎ最後の1本に当たり、その先端から閃光が放たれたエンブリヲの上半身を吹き飛ばした。閃光が止み、役目を終えた剣はピエモンの共にへと戻りそれぞれの塚にへと収まる。

 

だがその直後無傷のエンブリヲが数人取り囲むように現れる。

 

「何をしようと無駄だ」

 

「君では私を倒すことは出来ないことが分かっただろう」

 

「幾ら攻撃したところで私を倒すことは出来ない」

 

「諦めることをオススメする」

 

「大しくアンジュを置いて、この世界から消えたまえ」

 

いくら倒してもその度に、また別のエンブリヲが現れる。同じことの繰り返し。このままではいずれ限界が来てしまう。

 

「…確かにこのまま戦っても埒が明きませんね」

 

「そうだろ。分かったらアンジュを置いてk「ですから、今すぐそちらに行って差し上げましょう」ッ何?」

 

ピエモンは背負っいた剣の一本を取り出すと、自身の指を斬りつける。そしてその指の先にエネルギーを凝縮させる。しかし先程とは違い「ビリビリ」と音を立てながら黄色エネルギーが凝縮されていく。

 

 

それは死刃以上の者達のみが使うことを許された最強の虚閃────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王虚の閃光(グランレイ・セロ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程の虚閃とは比べ物にならない程の威力の閃光が上空へと放たれる。あまりの轟音と暴風にアンジュは耳を抑え目を閉じてしまう。暴風が収まり目を開けると、何と夜空に大きな穴がポッカリ開いていた。

 

  「貴様、一体何をした!?」

 

「見ての通り、空間に穴を開けさせてもらいました。これで()()()()()で貴方を消すことが出来るでしょう」

 

「(まさかコイツ、気付いているのか!?)そうはさせるか!」

 

ピエモンの狙いに気付いたエンブリヲは攻撃を仕掛けようと時、上空から巨大な2つ影が飛来する。

 

 

それは4枚の羽根を生やし、血のように赤い4つの眼を持つ巨大な竜型のデジモン【デビドラモン】であった。

 

 

1体のデビドラモンはその巨大な腕と尻尾を振るい数人のエンブリヲを払い除け、もう1体はピエモンにへと掌を差し伸べる。

ピエモンは掌に乗っかると今度は自分がアンジュに手を差し伸べた。

 

「お嬢さん、貴方も一緒に行きますか?」

 

「行くって、何処へ?」

 

「この世界を創りだし、あのエンブリヲ(愚か者)に引導を渡しにです」

 

引導を渡す───その口振りから察するにエンブリヲを倒す術があると言うことだ。俄かに信じがたいが嘘をついているようにも思えない。どうするべきかと考えるアンジュに、ピエモンが更なる言葉を掛けた。

 

 

「それに貴方は見たくありませんか?貴方に屈辱を与えるキッカケとなった、神気取りのエンブリヲ(愚か者)の末路をその眼で」

 

 

あの言葉にアンジュは今日までの出来事が、目の前に映し出されるように蘇る。

 

成人の儀の時にノーマであることを知らされた上に母を目の前で殺され、収監されたアルゼナルでも嫌がさせを受け、ドラゴンと言う存在と命を賭けた戦闘を強制的に強いられ、やっとの思いで脱走して故郷に帰って来ても「化け物」等と迫害され散々な目にあってきた。私がこんな目に合うことになったのも全ては【マナ】と言うのを重視させ、ノーマを迫害するように仕向けた、エンブリヲ(クソ野郎)の所為だ。

そう思ったアンジュは自然に怒りが湧き上がり決意する。

 

「…分かったわ。こんな腐った世界を創ったていうエンブリヲ(クソ野郎)に引導を渡してやろうじゃない!」

 

答えを出したアンジュはピエモンの手を取り飛び乗る。腕を持ち上げデビドラモンは翼を広げ飛び出そうとした時…

 

 

 

「待ってください」

 

 

 

…突如縄で手首と身体を巻き上げられている女性が声を掛け呼び止める。それはアンジュの侍女【モモカ】である。

 

「モモカッ!?」

 

「お願いです!私も、私も一緒に連れて行ってください!」

 

「…確かに貴方はアンジュ(彼女)のためにアルゼナル(あの場所)にまで1人で向かった、その部分も観ていましたよ。しかし貴方は【マナ】が使えていた。本心では貴方もマナが使えないアンジュ(彼女)のことを化け物だと思っていたのではないのですか?」

 

「そんなことありません!例え【マナ】が使えなかったとしてもアンジュリーゼ様はアンジュリーゼ様です!私はどんなことがあってもアンジュリーゼ様のために尽くします!」

 

「モモカ…」

 

自分がノーマだと知っても、モモカは何時でも自分のことを1番に想い、どんなことがあっても自分の味方だった。こんな危険な目にあっても自分の側に居ようとしてくれる、そんな彼女の想いがアンジュは嬉しかった。

ピエモンは掌から飛び降りモモカの目前にへと着地する。

 

「では、貴方は彼女のために【死ね】と言われれば死ぬのですか?」

 

「勿論です」

 

身体を震わせながらも、何の迷いもなく質問に即答するモモカ。その言葉には偽りは感じなかった。ピエモンはモモカに近づくと一本の剣を手に取り振り上げる。

 

殺されると思い、モモカは目を瞑る。

 

アンジュが止めようとした時には、振り上げられていた剣は振われ一刀両断された────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────彼女を縛っていた縄が

 

 

 

「いいでしょう。貴方のアンジュ(彼女)に対する想いに偽りはないようです。貴方も一緒に連れて行ってあげましょう」

 

「ッ!ありがとうございます!」

 

ピエモンは剣を仕舞うとアンジュにした時と同じようにモモカに手を差し伸べる。モモカはその手を取ると、ピエモンの身体が浮き上がり、それに釣られてモモカも浮き上がりデビドラモンの掌にへと着地する。

 

「では、出陣です!」

 

ピエモンのその言葉に反応するかのようにデビドラモンは翼を羽ばたかせ飛びあがろうとした時、シルヴィアが身体を引き摺り近付いてきて助けてを求める。

 

「ま、待って。お姉様、私も一緒に…」

 

だが言い終わる前にアンジュはいつの間にか拾っていたナイフを投げ飛ばす。ナイフはシルヴィアの頬を掠め、その部分から痛みと赤い液体が流れ出す。

 

「ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!」

 

「汚い声を上げるじゃないわよ醜い豚が。それに今更妹ズラするとは良いご身分ね。でも私は貴方には感謝しているわ。人間と言う醜い豚共の本性を教えてくれたことに。だからそのお礼に私からはその程度で勘弁してあげる。後は他の豚共一緒にあの怪物達に殺されないように頑張ってね」

 

頬の痛みと姉の良い顔への恐怖、そして見捨てられたことに絶望するシルヴィア。だが元々自分自身アンジュに対して鞭で引っ叩き、身体中を痣だらけにしておいて助けを求めるなど図々しい。寧ろ頬の傷(これ)くらいで済んで良かったと思うべきだろう。

 

そんな彼女を他所にデビドラモンは3人を連れて次元の穴にへと飛び込んだ。

 




原作ではジュリオが頬に傷を付けられるのですが、今作ではシルヴィアがそのポジションになりました。
アンジュを思いっきり罵り処刑しようとするシーンを当時観ていた私は気分が悪くなりました。マナが使えないからってそこまでするかって思う程に。かと言ってアンジュ自身も「ノーマは人ではない」と言っていたので因果応報だったのかもしれませんが。

そしてタスクが出て来なかったことに疑問を持つ方がいると思いますが、ちゃんと理由があるので安心してください。決して忘れていたわけではありません。

しかしこの作品が汚いプリキュアと言われるようになったのは、出演していた声優の多くがプリキュアに出ていたと言うのもあると思いますが、一番の理由はイベントで水◯さんと桑◯さんがプリキュアネタをやったことだと思います(でも後のプリキュアに出演していた人が出ているので、つい最近のことかもしれませんが…)。

それにエンブリヲがあの「400億超えた映画作品」に登場するパワハラ上司に似ているとよく聞きますが、正確にはクロスアンジュの方が先なので逆なんですよね。でも中の人繋がりで、そのパワハラ上司の方が印象強いのでそう思われても仕方ないでしょうけど…。

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17話 地獄の道化師による大宴会 後編

明けましておめでとうございますございます、どうもアニメ大好きです。
今年一発目の投稿はBLEACHの番外編です。千年血戦編のアニメが今年の10月に放送が決定したので、今年はBLEACHブームになるかもしれませんね。

今回はクロスアンジュの世界の後編です。まず最初に前回の後書きに書いたミスルギ王国での騒動の時のタスクの状況、そして時空の裂け目に突入したピエモンとエンブリヲの戦闘がメインの回です。
果たして最後がどんな結末を迎えるのか?予想したが楽しんでくれたら幸いです。

それではどうぞ。


ミスルギ王国でアンジュの刑が執行されそうになっていた頃、1人の青年【タスク】がアンジュを助けようとエアバイクを飛ばしミスルギ王国へと向かっていた。しかしその途中現れた存在によって行手を阻まれていた。

それは左手の指が鋭く、身体に鎖を巻き、黒いボンテージのような服を纏った吊り目の女性。それはピエモンの従属官の1人【レディーデビモン】であった。

 

『そんなに急いで何処へに行くのかしら、坊や』

 

「悪いけど構っている暇はないんだ。そこを退いてもらえるかい」

 

『アラ、つれないわね。でもここを通す訳にはいかないの。どうしても通りたいのなら、私を倒してからにしなさい!』

 

左腕を1本槍【ダークネススピア】に変換させ襲いかかって来た。タスクは咄嗟に躱し直ぐにバランスを整える。

 

「僕は君と争っている暇はなんだ!早くそこを退いてくれ!」

 

『坊やにその気がなくても、こっちにはあるのよ』

 

レディーデビモンは聞く耳持たずスピアを突き付け襲い掛かる。

タスクは上手いこと操縦して回避し続ける。しかしこのまま避けてばかりいては埒があかない。一旦距離を取ると、眼を色を変え戦闘態勢をとる。

 

『やっと本気になったようね』

 

「一応ね。でも本当に構っている暇がないから、直ぐに終わらせる!」

 

タスクはバイクの先端部分に付いているバルカン砲を連射して攻撃を開始する。レディーデビモンは素早い動きで右往左往して回避し翻弄。それでも攻撃を続けていると、何とレディーデビモンはその銃弾の中を突き進み始め、スピアでバルカンを突き刺し破壊した。

それならと持っていた手裏剣を近距離で投げ飛ばすが腕で振り払われる。そしてバイクを蹴り飛ばし離れる。

 

『直ぐ終わらせるんじゃなかったの?そんなお遊び程度の攻撃じゃ、アタシには擦りもしないわ』

 

「クッ(もう真面な武器は残っていない。次の一撃で決めるしかない!)」

 

タスクは今出せる最大の力でレビューデビモンを倒そうとエンジンの出力を上げ始める。

対するレビューデビモンは彼のしようとしていることを察したのか、笑みを浮かべスピアを構えた。

 

────このままタスク(坊や)を消してしまうのは簡単だが、折角だからタスク(坊や)の全力を見てから消してあげようと───

 

と言う彼女なりの優しさ(?)であった。

 

そしてバイクの出力が最大値に達そうとしたその時、突如巨大な鳴き声が空全体に響き2人は動きを止めた。

 

「何だ、今のは!?」

 

『…どうやらあの方の計画の第一段階が終わったようね』

 

「あの方?誰のことだ!それに計画って一体!?」

 

『坊やが知る必要はないわ。もうちょっと遊びたかったけど、ココらで終わりにしましょう。【ダークネスウェーブ】!!』

 

レディーデビモンから無数の蝙蝠の群れが放たれ、バイクごと自身に群がり視界を覆うり振り払うとするが、蝙蝠は余計に群がってくる。しかしそれでも彼は諦めない、諦めるわけにはいかなった。

 

「僕は…アンジュを助けるんだ。だからお前達何かに構っている暇はないんだァ!!」

 

アンジュを助ける…その想いを強くさせハンドルを握りしてエンジンの出力を全開し、バイクを回転させる。次第に回転力は増していき高速へとの発展、群がっていた蝙蝠達は遠心力によって吹き飛ばし払い除けることに成功する。

回転を止め顔を上げる。しかしいつの間にかレディーデビモンの姿はなく、気配も消えていた。

 

「一体何処へ?今はそんなことより、早くアンジュを助けに行かないと」

 

急いでミスルギ王国にへと向かったが、そこは【イビルモン】の集団によって惨状となっていた。それでも必死にアンジュを探したが見つけ出すことは出来なかった。

 

 

 

─────────────────────────────────

 

 

 

そんなことを他所に、ピエモン、アンジュ、モモカはデビドラモンに乗って光のトンネルを進んでいた。周りのキラキラした光景にアンジュとモモカは目を奪われる。

 

穴に入ってから数十秒後、空間の先に一筋の光が見えデビドラモンはその光に向かって加速する。

 

次第に光が強くなっていき、アンジュとモモカは眩しさで腕を前に出し目を瞑る。光が収まり眼を開けると、そこには無数の星々が輝いておりまるで宇宙のようだった。その空間内に1つだけ大きな屋敷が建って浮かんでいる島があった。

デビドラモンはその島に着陸し、腕を下ろしてピエモン達も3人も島にへと上陸させる。

 

「どうやらここがエンブリヲ()の本拠地みたいですね」

 

すると屋敷の入り口の扉が開き1人の男性、エンブリヲが現れる。

 

「まさかここまで来るとは…正直驚いた。取り敢えずは『ようこそ』と言っておくとしよう。──ようこそ、私の世界へ」

 

相変わらずの余裕綽々の態度で出迎える。

 

「しかしこの空間は隔離されて私以外は入ることが不可能なのだが、どうやって入ってこれたんだ?」

 

本来この場所に来るには()()()が必要なのだが、それを無くしてこの空間に入って来たことにエンブリヲは興味があった。

 

「簡単なことです。先程私が使用したあの技は、空間をも捻じ曲げてしまう程の威力を持っているのです」

 

「…成る程。それで無理矢理時空を歪め、隙間を作ったと言うことか。…正にイレギュラーだがこそ成せることだな。しかしここまで来ることが出来た君達に褒美として、昔話をしてあげよう」

 

エンブリヲは自身の過去を語り出した。嘗て自分はオリジナルのアルゼナルの研究員だった。新たな世界を求め、有人次元観測機ラグナメイルを開発し別世界へと進出を図った。しかし最初に創り上げたラグナメイル【ヒステリカ】に機乗の最中、突如発生した局地的インフレーションによってシステムが暴走、オリジナルのアルゼナルと共に次元の狭間にへと飛ばされてしまったのだ。

しかしそこは『時の流れが停止した世界』であったため無限の時間を手に入れ、事実不老不死となった。その後ラグナメイルを使って別世界への干渉、そして自身の理想の妻探しを開始した。

 

「それから1,000年、遂に見つけたのだ。私に相応しい強くて賢い理想の妻、それがアンジュ、君だ!さぁアンジュ、私の愛を受け入れてくれ。そして共に理想の世界を創りあげよう」

 

そう言いながらアンジュにへと手を差し伸べる。しかし当のアンジュは、エンブリヲの変にキザっているセリフや、自分を派手に強調するナルシスト感に鳥肌が立っていた。

 

「冗談じゃないわ!アンタみたいなナルシスト男の女になるなんて気持ち悪いし、生理的に無理!!」

 

エンブリヲのキモさに悪寒が走ったアンジュは、身体を隠すように彼を否定する。モモカはそんなアンジュを守るように彼女を抱きしめる。

 

「アンジュ、ピエモン(そのイレギュラー)に誑かされてしまったのか。仕方ない」

 

指をパチンっと鳴らすと、エンブリヲの後ろに突如パラメイルに似た機体【ラグナメイル】が現れる。更にそのラグナメイル【ヒステリカ】が手を翳すと、3体のラグナメイルが彼等を取り囲むように現れる。

 

「あまり手荒なことはしなくないが、君の目を救うためだ。少し我慢していてくれ、アンジュ」

 

その言葉を合図にエンブリヲは姿を消すと、一瞬でピエモンの前にへと移動し剣を交え、ラグナメイル達も一斉にデビドラモンにへと襲い掛かる。

 

「私のアンジュを誑かした貴様は許さん。苦痛を与え無惨に殺してやる」

 

「誑かすとは人聞きの悪い。私はタダ一緒に来るか、提案しただけです。そして彼女は自らの意思でここに来たのです」

 

互いの剣が弾かれてはぶつかり合う、その度に火花が散る。

 

「何故アンジュを誑かした。他に女は幾らでもいる筈だ」

 

「私も彼女のことが気に入りましてね。彼女の世界に対する憎しみと怒り、実に魅力的でした。それに『他に女はいる』と言いましたが、貴方がそれを言えるセリフですかね?」

 

「…私は多くの女性を見せてきたが、私に相応しい存在はいなかった。そして1,000年の時が経ち、漸く私に相応しい理想の女性を現れたのだ!それを突如現れたイレギュラーに奪われてたまるものか!!」

 

「…成る程。つまり貴方にとってアンジュ(彼女)は妻と言う名のアクセサリーと言う訳ですか。そんな貴方にどうこう言われる筋合いはありませんよ!」

 

ピエモンは空いていた手を振り上げると袖から1本の短剣が飛び出しエンブリヲの肩に刺さる。その痛みに動作が鈍りその隙にピエモンは勢いよく剣を振り下ろした時、 突如エンブリヲの姿が消えた。突然の出来事に流石のピエモンも目を見開き驚いていた。すると後方から「パン、パン」と叩く音が聞こえ振り向くと、少し離れたエンブリヲが刺さっていた短剣を持って手を叩いて立っていた。

あの距離を一瞬で移動した、つまり瞬間移動を使うことが出来ると言うこと。これにはアンジュとモモカも驚きを隠せなかった。

 

「この私に傷を負わせるとは…思っていたよりやるようだ。しかし調律者である私に傷を付けることは万死に値する。アンジュのことと一緒に償ってもらおう」

 

そう言い持っていた短剣を足共に落とし踏み付けた。しかしそんなエンブリヲに、1つだけ今までと違う点があった。

 

「おや、どうしたのですか?肩の傷がそのままですよ。不死の貴方ならそのような傷、直ぐ回復出来るでしょう。何故回復しないのですか?」

 

そう、刺された箇所から血が流れていたのだ。不死の肉体なら直ぐ回復するのが当たり前。しかし傷は一向に治る気配がない。その問いにエンブリヲは答えず、罰の悪そうな表情を浮かべる。

 

「分かっているますよ。回復しないのではなく()()()()と言うことは。詳しくは知りませんが、貴方はこの空間内では不死の力を使うことが出来ない。だからこの空間内で倒されば終わりだと言うこともね」

 

全て図星である。今ここにいるエンブリヲは本体。外の(アンジュのいた)世界に現れたエンブリヲは痛覚を共有した分身のような存在であった。それがエンブリヲの不死のカラクリ。

しかしこの空間内ではそれが出来ない。だからこの空間内で本体と()()()()()()()を倒せばエンブリヲは本当の死を迎えるのだ。

 

「…確かに私はこの空間内では不死の力は使えない。だがそれが見抜いたところで私に勝ったつもりか?」

 

エンブリヲは再び姿を消し後方へ移動する。

 

「不死の力が使えないからと言って全ての力が使えない訳ではない。貴様に私を捉えることが出来るか?」

 

その後何度も瞬間移動を使用し、出たり消えたりを繰り返し翻弄する。しかしピエモンは全く動じていなかった。

 

「…確かに瞬間移動が出来ると言うのは正直驚きました。しかしこの程度私からすればどうてことありませんよ」

 

エンブリヲはその発言を「強がり」と思っていた。何故なら全く動かずその場で立ち尽くしたまま、だから目で追えていないものだと思っており強がりを言っているだけにしか聞こえなかった。

そして隙を付きピエモンの後ろに回り込み剣を振る。「取った」と思った瞬間ピエモンの姿が消える、と同時に背中に激痛が走る。視線を向けると姿を消したピエモンが剣を振るっていた。

 

「言ったでしょ、大したことないと」

 

歯を噛み締め剣を振るうが再び姿を消し、少し離れた後方にへと現れる。

 

「瞬間移動が使えるのが貴方だけだと思ったら大間違いです。因みに言っておきますが、この技を使える者は我が軍には沢山いますよ」

 

フフフっと余裕の笑みを浮かべるピエモン。

「沢山使える者がいる」遠回しで「お前の専売特許じゃない」と侮辱され、エンブリヲは不老不死になって1,000年の間で初めて屈辱を味合わった。

 

一気に攻めようと剣を構えた時、横から自分を覆い尽くす影が現れる。見上げると、ヒステリカが両翼に溜めたエネルギーを放った瞬間が目を入った。

 

 

────────────────────────────

 

 

少し遡りピエモンとエンブリヲが剣を交えていた頃、上空でもう1つの戦いが勃発していた。

デビドラモンはその巨大な腕を振って応戦するが、複数のラグナメイルは身軽な動きで回避し銃弾を連射。ダメージはないようだがウザいと思ったか苛立っているように見える。

 

4つの赤い目が光ると、その先にいた1機のラグナメイルの動きが止まる。デビドラモンはその隙に近づき、その巨大な爪で相手を斬る必殺技【クリムゾンネイル】を繰り出し斬り裂く。そのラグナメイルはたった一振りでバラバラにされ大爆発を起こした。

 

残った3機のラグナメイル達は一旦その場から離れる。先程ラグナメイルが4つの目に睨まれた時に、動けなくなったのを察し出来るだけ目に入らない様に距離を取ることにした。

しかしデビドラモンは4枚の翼を広げると一気のラグナメイルを標的にした。その巨大からは想像も付かない程の速度で、一気に距離を詰め捕まえ一思いに握り潰した。

 

残ったラグナメイルの内1機が両翼を広げると、その中心にエネルギーが凝縮され竜巻状の光線【収斂時空砲(ディスコード・フェイザー)】を放つ。

しかしデビドラモンの目がギラリっと光り口を開けると、口先に紅いエネルギーが凝縮され【虚閃】が放たれ互いの技がぶつかり合う。ピエモンのよりも太い【虚閃】は、【収斂時空砲(ディスコード・フェイザー)】を押し返し、そのままラグナメイルごと飲み込み消滅させた。

 

これで残った機体はヒステリカのみとなる。だが…

 

 

『ドラゴンと同じ獣ふぜいが。私の世界に入り込むことが如何に愚かなことか、その身を持って思い知るがいい』

 

 

…何とヒステリカが機械音が混じったエンブリヲの声で喋った。そしてラグナメイル同様、両翼を広げ【収斂時空砲(ディスコード・フェイザー)】を放つ。

デビドラモンは再び口を開け【虚閃】を放ち互いの技がぶつかる。しかしヒステリカの【収斂時空砲(ディスコード・フェイザー)】は先程のラグナメイルの威力を上回っており、逆に【虚閃】の方が押し返されてしまう。デビドラモンは攻撃を食らい吹き飛ばされて島の外壁にへと打ち付けられ、身体が壁にめり込み気を失う。

 

『どれだけ巨大であろうとも所詮は獣。この私に牙を向けることなど許されないのだ』

 

ヒステリカは気を失ったデビドラモンを汚物を見るような目で見下す。何故ロボットであるラグナメイルが言葉を発することが出来るのか?

 

 

その答え─────このヒステリカは次元跳躍によってエンブリヲの精神と融合した存在、謂わばエンブリヲのもう1つ肉体にして、もう1人のエンブリヲでもある。

 

 

デビドラモンを蹴散らしたヒステリカは自身の本体であるエンブリヲが苦戦している姿が目に入った。「なんて様だ」と呆れるが、それでも殺される訳にはいかないのでエネルギーを溜めながら移動し、上空まで来たところで【収斂時空砲(ディスコード・フェイザー)】を放ったのだ。

 

ピエモンは空いている手でバリアを張り直撃を回避するが、威力を殺すことが出来ず吹き飛ばされ、地面に倒れ動かなくなる。ヒステリカは地面にへと着地し、エンブリヲもその横に立ち倒れているピエモンを見据える。

 

「私にここまで深傷を負わせたのは1,000年の間で貴様が初めてだ。褒めてやるぞ、ピエモン(イレギュラー)。だがそれもここまでだ」

 

『神であり調律者である私に歯向かったことが如何に愚かで浅はかだったか、その身を持って思い知るがいい』

 

ヒステリカは右腕のブレードを振り上げトドメを刺そうとする。しかし、その行動…『直接的に手を下す』と言う判断は間違いであった。

 

 

「【エンディングスペル】!」

 

ピエモンの口がニヤケた瞬間、倒れたままの状態で両手を合わせ指鉄砲を作ると、指先から衝撃波が放たれヒステリカのブレードを破壊する。反射的にヒステリカは後方に数歩下がり、エンブリヲも予想外の攻撃に隙が生まれる。

 

その間に起き上がったピエモンは、両手を前に突き出し衝撃波でエンブリヲを吹き飛ばす。そしてハンカチ程度の大きさの白い布を1枚取り出し後方にいるヒステリカにへと投げる。

布はヒラヒラと宙を舞うとその大きさは次第に大きくなっていき、ヒステリカの身体に覆い被さり包み込む。何とか抜け出そうとバタバタと踠くが振り払えない。

 

バチバチと紫色の電撃が走ると、ヒステリカが消失し布が崩れ落ちる。ピエモンは布に近付き取り上げると、そこにはヒステリカの姿はどこにもなかった。

 

「き、貴様。ヒステリカを何処へやった!?」

 

「何処って居るじゃない此処に、ほら」

 

ピエモンが右掌を開くと、そこには人形となったヒステリカが収められていた。

 

「あのロボットがこの空間を維持しているのも知っていました。破壊してしまうとこの空間が崩壊してしまうのも。…隔離され世界を監視することが出来る空間、実に素晴らしい。消えてしまうのは勿体ない、是非とも私の物にしたい。だから人形として私のコレクションにすることにしたんですよ」

 

ヒステリカこそ、この空間を操っている存在、謂わば核との言える。もしヒステリカが倒されてしまったらこの空間は崩壊してしまう。それを防ぐために敢えて人形にして無力化した上で生かされた。

 

だがどちらにしてもエンブリヲには非常に不味い状況であった。

 

ヒステリカはエンブリヲのもう1つの肉体、つまり本体のエンブリヲとヒステリカを同時に倒されなければ『エンブリヲ』と言う存在は滅びはしない。だから最悪の場合本体が倒されてもヒステリカが無事ならまだ何とかなると思っていた。そもそもヒステリカが負けるなど思っていなかった。

しかしそのヒステリカが人形にされてしまっている今、残った本体が倒されれば無事でいられる保証はないのだから。

 

「心配せずとも貴方も殺しはしませんよ。貴方もこのヒステリカ(ロボット)と同じように人形にして生かしてあげますよ」

 

『生かす』から安心しろっと言うが、人形にされれば動くことも出来なければ意識もない。それは【死】と殆ど変わりない。いや【死】以上に恐ろしいモノかもしれない。

 

エンブリヲは【屈辱】同様に1,000年間で味わったことがない【恐怖】と言う感情が湧き上がってくる。

 

「そもそも()()()で苦戦するような奴が世界を支配するなど不可能ですよ」

 

「と、どう言うことだ!?」

 

アンジュのいた地球(向こうの世界)で私はある軍に所属していると言いましたよね。私はその中の組織の1つ【死刃】の1人なのです」

 

【死刃】と言う聞いたことがない単語に「?」を浮かべるエンブリヲ。それでもピエモンはお構いなしに淡々と説明をする。

 

「【死刃】とは我が主人によって選抜された、最強の幹部格によって構成された組織の名称です。その証として強い者順に10以下の数字を身体に刻むことが出来るのです。因みに私は…」

 

ピエモンは右の頭部に手を翳すと数字が浮き上がる。そこに刻まれていた数字は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…第【3】の数字を持つ死刃─────《第3死刃(トレス・エスパーダ)》、【ピエモン】と申します。改めてお見知り置きを」

 

ピエモン(コイツ)でさえ3番、つまり【死刃】と言う集団には、彼より強い奴がまだ2人()()居ることになる。それに彼はさっき『死刃は組織の1つ』と言っていた。つまり【死刃】に似た組織がまだあると言うことになる。その事実にエンブリヲは【恐怖】を通り越して【絶望】した。

 

「ではお話はここまでにして、そろそろ舞台の幕を閉めるとしましょう」

 

「ま、待て貴様。私を排除すると言うのがどう言うことか分かっているのか!?調律者で私を失えば世界の秩序は乱れ混乱にへと陥るのだぞ!」

 

「それならご心配なく。これから貴方が創り上げた世界は私が管理しますので、貴方が消えたところで何も変わりはしません」

 

最早何を言っても聞く耳持たない、着々と自分の最後の瞬間が近づく。

 

 

自分はどこで間違ったのだろう?

ヒステリカを作ったところか?

人間としての概念を捨てたところか?

新たな人類【ホムンクルス】を創り出したところか?

【マナ】と言うモノを創ったところか?

その【マナ】が使えない存在の【ノーマ】を迫害するようにしたところか?

 

 

いや違う。全てはこのピエモン(イレギュラー)が現れたことで狂いだした。ピエモン(イレギュラー)さえ現れなければ全て上手くいき、アンジュと共に理想の世界を築けたはず。

しかしそれをピエモン(イレギュラー)が全て台無しにした。今まで自分が積み上げてきた全てを失った。悔しくて悔しくて堪らなかった。

 

だがその時エンブリヲはあることに気付く。今の自分の状況が、過去に相手の気持ちを踏み躙ってきた自分と同じであることに。

これぞ正に因果応報。そして自分がその立場になって相手がどんな気持ちだったのか漸く理解するとは、哀れである。

 

「確かに、貴方はこの世界では神に等しい存在、しかし所詮は元人間。世界を支配出来ると思うこと自体大きな間違いだったのです。心配せずとも、後は私()に任せてお休みなさい────永遠に」

 

ピエモンの投げた布に包まれ一面が真っ白になったが、直様視界が真っ黒にへと変わり、そこでエンブリヲの意識は途絶えた。

 

 

───────────────────────────

 

 

 

ミスルギ王国

 

そこはマナの光によって人々が幸せに暮らす活気に溢れた街であった。しかし今では空はドス黒い雲に覆われ、街には以前のような活気は微塵もなく別の街ではないかと目を疑いたくなる程変わり果ててしまった。そしてその街の王宮であった建物の中では…

 

 

 

「遅い。一体どれだけ時間掛かってるの」

 

「…申し訳ありません」

 

「こんな簡単なことも出来ないなんてアンタ達、ホントに無能な豚だわ」

 

「ご、ゴメンなさい…」

 

…首を垂れながら拳を震わせている短髪の金髪の青年【ジュリオ】と、その隣で同じように首を垂れているガタガタと震える頬に傷があるツインテールの少女【シルヴィア】が椅子に座る実の兄妹であった──────アンジュに罵られていた。

シルヴィアはアンジュ()に見捨てられ顔に傷を負わされたあの日以来、恐怖でアンジュ()の顔を真面に見ることが出来ず、声を聞くだけで身体が怯えるようになってしまっていた。ジュリオに関しては、今まで受けたことがない屈辱を味合わされ、血が滲み出るほど歯を噛み締めていた。

 

「分かったら早くしない、この鈍間(のろま)な豚共が!!」

 

「は、はい…」

 

「…失礼します」

 

2人は顔を合わせないようにして大人しくその場を後にする。その情けない2人の後ろ姿をアンジュは蔑んで鼻で笑う。

 

「お待たせしました、アンジュリーゼ様」

 

「ありがとうモモカ。本当に貴方は自分の役目を果たしてるわ。あの無能な豚共とは大違いよ」

 

アンジュの侍女であったモモカは、あの出来事以降もアンジュの身の回りのお世話を今まで通りに熟している。そして今彼女が入れてくれた紅茶の香りで癒されながら、アンジュはティータイムを楽しむ。すると2人の目の前にモニターが出現にピエモンが映し出される。

 

『準備の方は如何ですか?』

 

「エェ、もう直ぐ終わるわ」

 

エンブリヲと言う『自称』神を失ったこの世界はミスルギ王国であったこの地を中心に、アンジュによって支配された世界にへと生まれ変わった。そして恩人であるピエモンと共にある計画の準備をしていた。

 

『ではそろそろ始めるとしましょう。もう一つの地球を我々の物にする計画を』

 

 

 

 

あの騒動の後、本当のアルゼナルに残っていた資料から【ドラゴン】と言う存在が何なのかを知った。

 

 

その昔エンブリヲは、アンジュ達とは別の地球(本来の地球)で新たなエネルギーを生み出した。しかしそれが原因で世界大戦、文明崩壊、地球汚染等の悪影響を与えてしまった。

現状を悟ったエンブリヲは地球を捨て差別のない理想の地球、アンジュ達の世界を創り出し、あらゆる者が思考で操作できる高度な情報化テクノロジーを生み出した。それが【マナ】。そしてそれを扱うことが出来る新人類【ホムンクルス】を創造した。

 

 

だが前の世界の住人達は、自分達の世界が滅びることに黙っていようとは思わなかった。そして彼らはある方法によって世界を復興させようとした。それが【ドラゴン化】であった。

 

つまりドラゴンの正体、それはアウラ(あの巨大なドラゴン)を取り戻すために来た別世界の人間達。それを知った時はショックを受けた。

エンブリヲと言う『自称』神の創り出した仕組みによって迫害され、別の地球の住人とは言え、自分達が今までやってきたことは人殺しと変わらない。知らなかったとは言え許されることではない。

しかしショックを受けたのはその一瞬だけであった。考えてみれば向こうの世界の住人も多くのノーマを殺してきた。なら互いにやっていることは変わりない。そもそもアイツらがアウラ(そのドラゴン)を奪われたのが原因で自分が死にそうな目にあったのだ。全てはアイツらの所為だ!

 

軈て彼女の怒りの矛先は、旧地球の民にへと向いた。

 

そんなアンジュの怒りの感情を読み取ったピエモンはある提案を持ち出す。

 

 

『貴方が人と言う概念を捨てるのであれば、私が貴方に力を与えてあげましょう』

 

 

「人という概念を捨てる」ということは、人間と言う存在を辞め、新たなる存在に生まれ変わると言うこと。しかしそれはあのエンブリヲ(変態男)が人間を辞めた成り行きと似ているので癪だった。

だがそれ以上に自分があんな醜い人間()共と同じ存在でいると言うことの方が我慢ならなかった。

それに自分も散々『ノーマは人ではない』と言ってきた。

 

だったら彼女の心は既に決まっていた。

 

『良いわ。貴方の誘い受けてやろうじゃないの』

 

誘いを承諾したアンジュにピエモンは、彼女に近づくと掌に赤く光る球体を出現させる。

 

『これは私の力の一部です。貴方にこれを授けましょう』

 

そしてその球体を彼女の胸に押し込んだ。するとアンジュは突如悶え苦しみ床を転げ回る。アンジュのその姿に駆け寄ろうとするモモカをピエモンは手を出し「心配いりません」と静止させる。

軈てアンジュは大人しくなり荒い息を落ち着かせていく。

 

『どうですか気分は?』

 

『…最高の気分よ』

 

身体を起き上がらせたアンジュが顔を上げると、瞳の色が紅色からオレンジに変色し憎悪に満ちていた。

今この時を持ってノーマであったアンジュ、及びミスルギ王国の皇女でもあったアンジュリーゼは死んだ…今この時をもって彼女は人類を超越した新たな存在にへと生まれ変わったのであった。

 

 

元の世界に戻ってきたアンジュは、最初にその世界のアルゼナルにへと向かい、そこにいたパラメイルのパイロット達、司令官であった【ジル】を圧倒的な力の差を見せつけ蹴散らしたった数分で制圧。

その後ミスルギ王国に戻ると、そこで暴れていた【イビルモン】達をピエモンが大人しくさせたところで、自分が処刑されそうになっていた台の上に立ち語りだす。

 

 

『この世界を創り出した神はピエモン(この男)によって死んだわ。だからこれからこの私がこの世界を管理する。全員この私に従いなさい!』

 

 

勿論国民達はそんなこと大反対「【ノーマ】の癖に偉そうに」「化け物が調子に乗るな!」等ブーイングの嵐。

 

するとアンジュは右手の人差し指を1人の人間に向ける。次の瞬間、指先から一筋の光が放たれその人間の脳天を貫いた。その人間は膝から崩れ落ち倒れる。その光景に悲鳴が上がり、街の人達も騒めき出す。

 

『次は誰が、そこの豚みたいになりたいかしら?』

 

アンジュは顔をニヤつかせながら質問する。するとさっきまで雑音のように響いていた彼女に対するバッシングは嘘のようにピタリと止んだ。この時ミスルギ王国と言う国は消えたのであった。

 

その後元国民とアルゼナルにいた者を奴隷とし、元ミスルギ王国の場所を拠点として、自分に屈辱与えるきっかけとなった旧地球への侵攻を開始するのであった。

 

「待っていなさい、ドラゴン共。アンタ達は全員私が殺してやるから」

 

モモカが入れた紅茶を飲みながらモニターに映る旧地球に憎悪を燃やす。

その彼女が座る椅子の後ろの棚に置かれたケースには、貴族服を着た金髪の男性、パラメイルに似た黒いロボットの人形が飾られていた。

 




アンジュさん完全に闇堕ちです。原作であれだけの仕打ちや絶望を受けたのに、よく自分自身を保てたなっとそのメンタルの強さには本当に感心します。
因みにタスクは、アンジュの演説の後何とか彼女を説得しようとしました。しかし今のアンジュにはタスクの言葉は全く届かずピエモンから貰った力によってボロボロにされてしまいます。それでもアンジュの目を覚まさせようと裏で交錯していると言う感じです。

11月に発売したポケモンゲームをやり込んで遅れましたが、何とか根性で書き終え元旦までに投稿できました。
私の作品を見てくださっている方々、本当にありがとうございます。
感想などあればお願いします。

そして今年もよろしくお願いします。


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18話 悪の組織 VS 悪の組織

どうもアニメ大好きです。

今回はちょうど1年前に放送された「この〇〇」の作者の作品です。
時間軸としてはアニメ10話のと11話の間くらいとなっています。

私は今回登場させた作品を初めて見た時、なんか「この〇〇」に似ているなっと思いました。でもまさか作者が同じだったとは驚きましたが、似ていると思ったことにも納得しました。

それでは本編をどうぞ。


とある世界。

 

 よくファンタジーで知られる魔族。その頂点に君臨するのが魔王。そして軍勢が今ある遺跡に拠点を置いていた。

 

 この遺跡には強力な古代兵器があるとのことで、それを手に入れようと魔王軍四天王の2人が様々な罠やロボットを蹴散らして進むが未だに到達出来ていない。そして遺跡調査を開始して数日が経った夜の出来事。

 

 

『ナンじゃ、ナンじゃ。魔族の精鋭部隊と聞いてどれ程のモノかと思っとたが、口程にもない。もっとマシな奴は居らんのか?』

 

 

 休息をとっていたところを、突如(口調からして)老人と思われる怪人が襲撃してきたので急遽戦闘態勢に入った。しかしその老人が持っていた大鎌を一振りしただけで精鋭部隊の半数近くが壊滅、挑んでいく兵士達は次々と斬り刻まれていき、たった数分でその場にいた軍勢は数十にまで減らされた。しかも残っている者達も全員負傷しており、真面に戦える者はいない。特に青い尻尾を生やした少年、魔王軍四天王の1人である【水のラッセル】が一番酷く、身体中ボロボロで倒れ伏せていた。

 

「く、クソ…。こんな訳の分からない奴に手も足も出ないなんて…」

 

『で、次は誰が相手をしてくれるんじゃ?』

 

 吊り上がった目の部分から緑色の瞳がギロリと此方を睨み付ける。魔族達はその威圧感に、まるで金縛りにあったかのように動かなくなってしまう。すると褐色肌の女性、ラッセルと同じ魔王軍四天王の1人【炎のハイネ】が前に出て声を掛ける。

 

「アンタ、中々強いじゃないか。アタシ達四天王2人相手にしてもピンピンしてるだなんて。どうだい、アンタさえ良ければアタシが魔王様に頼んで、新しい魔王軍四天王にしてもらえるよう話し合ってみるよ」

 

『ホォ…』

 

「(なんとかコイツを足止めしてラッセル達を逃がさないと)」

 

 同僚や部下を守るため思考を回転させ、この場を乗り切ろうとする。しかし、突如ハイネの身体に異変が起きた。なんと足元から石化し始めたのだ。

 

「な、何だ!?これは!?」

 

 魔法で何とかしようとするが石化の進行は早く、たった数秒で身体全身が石と化してしまった。

 

「ハイネ!」

 

『フン。ワシを欺こうなど、愚かな小娘よォ』

 

 そして怪人は大鎌を振るい、石化したハイネの身体を一瞬にしてバラバラに砕いてしまった。

 

「ハイネェェーー!!」

 

 その残酷な光景にラッセルの悲痛の叫び声がその場に響き渡る。

 

『小僧よりは楽しめると思ったんじゃがなァ。魔王軍の四天王とやらも大したことないのォ』

 

「お前よくもハイネを…絶対許さないぞ」

 

 激昂したラッセルは両腕を上げ、自身の上空に巨大な水の球体を出現させる。

 

『ほぉ、まだそんな力を残していたとはァ。流石戦う為に産まれた小僧じゃわい』

 

 怪人は自分よりも遥かにデカい水の塊を見ても余裕綽々のご様子である。しかしラッセルは止まらない、止めるつもりもない。今自分が出せる最大限の力を叩き込む。例え相討ちになったとしても構わない、ハイネの仇、そして同胞の為にも一矢報いたい気持ちで一杯であった。

 

「くたばれ、虫ケラ!」

 

 ラッセルが球体を投げ付けようとした時、突然ガランが視界から消える。そしていつの間にか自分の前に鎌を振り下ろしている状態で現れる。しかし、特に何もするわけではなくその場でジッとしているのでそのまま振り下ろそうとした時、突如球体が破裂し四散した。

 何が起きたのか分からないラッセルであったが、次第に自身の視界の上下がズレていることに気付く。しかしその時にはもう既に身体は真っ二つに裂けていた。さらに目に見えない程のスピードで身体を斬り刻まれ、ラッセルであった無数の肉片がその場に崩れ落ち、踏みつけられミンチと化した。

 

『さて、次にハイネとラッセル(此奴ら)と同じようになりたいのは誰じゃ?』

 

 言葉を掛けるも誰1人と前に出る者はいなかった。それも仕方ない。魔王軍四天王の2人が、こうもアッサリヤられてしまったのだ。無理もない。

 立ち尽くす魔族達に怪人はガシャ、ガシャと音を立てながら1人の魔族の元に歩み寄り顔を近づける。

 

『お前さんに聞きたいことがある。素直に答えろ、ハイネとラッセル(彼奴ら)のようになりたくなければのォ』

 

 言い寄られた魔族は引きちぎれそうな勢いで何度も首を縦に振る。そして怪人の吊り上がった目の中から見える緑色の眼差しが、その魔族を見つめながら不気味に輝いていた。

 

 

 

─────────────────────────────

 

 

 

 時刻は朝となり、砂漠の中に立ち一つの国、グレイス王国。その町中を歩く男女組がいた。

 

 

「何で、俺が物資の調達の手伝いなんかしなきゃならないんだよ」

 

 背中に大きな風呂敷を背負っている男性は【戦闘員六号】。とある悪の組織に所属している下っ端戦闘員、そして変態にしてトラブルメーカー。一言で言えばクズのような存在(悪の組織所属なので、その方がいいのかもしれない)。

 しかしその組織の中では古参メンバーであり、かなりの実力を持っているため()()としては信頼が厚い。故に幹部達にタメ口で話すことにも一目置かれている。しかし卑屈で捻くれた性格、自身の都合の悪いことはすぐ忘れる上、いい加減な行動が災いし、未だに出世出来ず下っ端のまま。

 

 確かに戦士としては信頼は厚いが、人としての信頼は低いかも…。

 

 

「口を動かす暇があるなら、身体を動かせ六号。身体の頑丈さだけが取り柄なんだからな」

 

 こちらの金髪の幼女は【キサラギ=アリス】。六号のパートナー兼お目付役として共に組織から派遣されたアンドロイド。見た目は子供だが、大人びた口調で話し頭の回転も早い。頼れる参謀的存在。

 しかし口が悪くかなりの毒舌で、いつも六号に対して毒を吐いており、上司に対しても臆することなく同様に接触する。しかも味方さえドン引きする程の悪行を平然とやってしまうため、六号でさえも引いてしまう程性格は悪い。まぁどっこい、どっこいだろう。

 

 

「元はと言えば六号、貴様が問題を起こすからこんなことになっているんだろうが!文句を言いたいのは私の方だ!」

 

 青い髪の女性は【スノウ】。グレイス王国近衛騎士団の()隊長。

 元々スラム出身の孤児であったが努力を重ねて隊長と言う地位にまで上り詰めた。王や国家への忠誠心は高く信頼も厚い。

 しかし眩しかった環境からの反動か、金や名誉に高い執着を持ち、出世のためなら何でもする欲に忠実な性格残念な女性。

 だが六号の所為で一度『騎士団隊長の座』を剥奪されてしまう。しかし色々あり再び『隊長』に返り咲くも、その六号所為で再び『隊長』の剥奪されてしまった哀れ人物でもある。

 

 

「まぁまぁ、スノウさん落ち着いてください」

 

 こっちの少女は【ロゼ】。とある人物に造られた戦闘用人造キメラ。そのため戦闘力が高く、肉弾戦でなら本気の六号と互角に戦える程の強さを持ち、食べた魔物の力をコピーする能力を持っている。だがその能力の所為か食欲旺盛で、空腹状態になれば味方さえも食べかねない。

 しかし虫系は苦手らしく見るだけで叫んでしまう。

 

 

「ファ〜、何でもいいから早く終わらせませんか?眠くてたまりません」

 

 そして最後に車椅子に座って欠伸をした赤髪で裸足の女性は【グリム】。不死と災いの邪神を崇める『ゼナリス教』の大司教。誰からも恐れるような呪い、死者を蘇られる程の強力な力を持っている。しかも自身も不死であるため例え殺されても死体と供物を与えれば、たった一晩で復活することが出来る。

 しかし彼女の呪いの力は強力だが、その成功確率は8割。残る2割は失敗して自分に跳ね返ると言うしっぺ返しを食らう。彼女が常に裸足なのも『靴が履けなくなる』と言う呪いが自身に跳ね返ってきたからである。因みに無理矢理履かせようとすると自爆してしまうとのこと。

 さらに言うなら婚期を逃しており、幸せそうなカップルを見ると、直ぐに呪いを掛けようとするため、六号やスノウとは違う意味で性格駄目な司教である。

 

 

 と、まぁこのように一癖も二癖もある面倒臭い……個性豊かな人材が揃っているチームである。

 

 

 現在魔王軍が古代遺跡に眠っている兵器を手に入れようとしていると情報が入り、六号とアリスはその阻止を皇女から命じされる。彼等はその対策為、必要な物資を集めている最中であった。

 

「何で一々調達なんてする必要なんだよ?」

 

「…本当にバカだなお前は。この間のこともう忘れたのか?」

 

 実は少し前、とある王国と友好関係を築こうとこの5人を派遣したのだが、またしてもそこで六号がヤラかし宣戦布告をされてしまう。そして六号はその責任として、砂漠の王と呼ばれる魔物から『水の実』と言う物を取ってくるように言われたのだが、結果は失敗。

 しかもマトモな物資が無かった為数日も飲まず食わず、しかも厚い砂漠の中を徒歩で帰ると言う最悪の事態に陥った。その結果、空腹で我慢の限界となったロゼに食われそうになった。その経験を踏まえて今回は出発前に、物資調達をしていると言うわけだ。

 

 因みに古代兵器入手の阻止は、任務を達成出来なかった責任である。

 

「そうだけどよ、別にいいじゃねェか。魔王軍をパパーと片付けてきちまえば必要ないだろうことだろ?」

 

「…そうやってお前が言ったことが上手くいったことがあったか?」

 

「酷ッ!?」

 

「貴様等、無駄口を叩いてないで早く物資を揃えて出発するぞ!でないと私の給料がァァ!フレイムザンパーのローンがァァ!」

 

「隊長!お肉、お肉があります!!」

 

「ぐぅ〜、ぐぅ〜…zz」

 

 いつものように馬鹿な言い争いをする普段と変わらない日常であったが、それは突如終わりを迎える。

 

 

 突如上空から何か勢いよく飛来し、轟音と共に砂煙が舞い上がり、地震にも等しい振動が辺り一帯を襲う。町の人達は「何だ?」「何が起きたんだ!?」と騒めきだす。すると砂煙の中に動く人影が見える。

 

『ここが彼奴らが言っていた町か。何ともチンケな町じゃのォ』

 

 軈て煙が晴れ視界が見えるようになってくると、そこには一本の大鎌を所持し、胸に宝玉が埋め込まれている全身鎧を着込んだ長身の怪人が吊り上がった目で辺りを見渡していた。

 

「き、貴様、一体何者だ!」

 

『儂か。儂の名は【ガラン】。デストロイヤー軍の幹部の魔神にして死刃の1人じゃ」

 

 スノウの問いに【ガラン】と名乗った怪人の姿を見た町の人達は騒ぎ始めその場から逃げ出す。ガランはその騒ぎ声が癇に障るのか不快に感じていた。

 

『煩い蝿どもが、鬱陶しいのォ』

 

 するとガランは持っていた鎌を振り上げると一気に振り下ろす。すると台風にも劣らない程の突風、いや衝撃波が辺り一帯を襲う。さらに大量の石が飛び散り、顔を覆い隠し目が開けられなかった。その中の大きめの石がグリムの顔に直撃、その衝撃で目を覚ます。

 数秒後風が収まり目を開けると、何とその周辺にあった建物は一つ残らず無く真っ平らな更地となっていた。しかも自分達以外の人の気配は感じらない。今の衝撃波で全員吹き飛ばされてしまったか、それとも衝撃に耐えられずに…。

 

『フゥ〜、漸くこれで静かになったワイ』

 

 5人が唖然としている中、ガランは不快の原因を取り除いたのでスッキリしていた。そしてその5人に視線を向けると緑色の眼差しが5人を、いや六号とアリスを見ていた。

 

『黒服の小僧と金髪の小娘…お主らが魔族共(彼奴ら)が言っていた2人組か』

 

「おい、あんまりジロジロ見るな爺さん。まぁ私が美少女だから見惚れるのも仕方がないことかもしれないがな」

 

 喋り方や『儂』と言う一人称から考えて出た言葉であろうが、初対面の相手に対して失礼ではないか?まぁアリスにそれを言ったところで無意味だろうが…。

 

『自ら美少女と名乗るとは、傲岸不遜な小娘、いや傀儡と言うべきかのォ』

 

 その言葉に六号、そしてアリス自身も驚いた。彼女は確かに六号が所属する組織によって造られたアンドロイド。だがパッと見人間の少女と変わりないので、初対面で気付くことは先ずないだろう。

 

「な、何でアリス(コイツ)がアンドロイドだって分かるんだよ!?」

 

『知っておるぞ。お主らがこことは別の世界から来た者共であり、そしてこの世界を侵略する為に来たと言うことものォ』

 

 六号とアリスが所属する【秘密結社キサラギ】は、地球侵略を目的として生まれた組織。そして現在地球征服がほぼ完了しているので、新たな侵略地として惑星開拓を目論んでいた。彼等がこの惑星に派遣されたのは侵略(それ)が理由である。

 

 その言葉にロゼとグリムは驚く。なにせ自分達のチームの隊長が、この世界を侵略しに来てたなんて想像もしていない。因みにスノウはそのことを知っていたので驚きはしないが顔を曇らせる。

 

『そのお前さん達が何故この世界の人間共と仲良くしておるんじゃ?』

 

「別に仲良くしているわけじゃない。だが、ある程度信頼を勝ち取っていた方が後々楽になるからやっているだけのことだ」

 

『何ともまぁ面倒なことよ。そんなまどろっこしい事をせんでも、お主らも()()()()の組織なら、ある程度の勢力で攻め込めば簡単じゃろ』

 

 確かに【キサラギ】には最高幹部を始め、幹部や怪人とかおりかなり勢力である。それが一気に攻め込めば制圧するのは容易なことだろう。

 

「ところがそうもいかないだよ。ウチは悪の組織とは言えど会社みたいなだから、ホイホイと人材を派遣することは出来ん」

 

 秘密結社とは言うが、実際は一般的な会社と似たシステム。皆色んな場所に出向いていることが多いため、派遣出来る人数は少ない。現に六号の共に派遣されたのは「トラ男」と言う怪人1人だけである。

 

『フン、まぁよい。どの道お主らはここで死ぬのじゃからなァ』

 

「…お前達、アイツが言ったことで私達が何者なのか気になると思うが、今はアイツを倒すことが先決だ。力を貸せ」

 

「…確かに今はどうこう言っていられる場合じゃなさそうだな」

 

「はい!」

 

「なんだか分かりませんが、私の顔に石を当てたこと後悔させてあげますわ」

 

 女性メンバーはやる気満々のようであった。しかし肝心の六号のはと言うと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、いやだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ハッ(エッ)!!??」」」」

 

 

 …予想外の答えに全員緊張感のない声が出てしまう。

 

「いやいや、よく考えてみろ。たった一振りで半径数キロを更地に変えちまう程の力を持った化け物だぞ。そんな奴に戦闘員の俺が勝てると思うか?ないだろう、絶対に!魔王軍なんかよりコイツの方がめちゃくちゃヤバい奴だ!俺は絶対に戦わないからな!!」

 

「…じゃあ、このままキサラギ本社に帰るか?そうなった場合間違いなく制裁部隊に折檻されるぞ」

 

「うっ!?そ、それは…」

 

「自分達より強い悪の組織がいたので帰って来ました」なんて報告をすれば、間違いなく袋叩きの刑にされる。いやそれ以上の拷問をされるかもしれない。それを考えただけでも六号は青ざめる。

 

「それに数々のヒーローを倒してきたお前が、怪人1人相手に逃げ帰ったなんてことになったら、組織内でのお前の株は間違いなく落ちるな」

 

「うぅ…分かった、分かったよ!やればいいんだろ、やれば!!」

 

 アリスの説得で六号も渋々承諾した。

 

『漸くやる気になったか。聞いていた以上に不快にさせる小僧じゃの』

 

 そう愚痴を溢しながらもガランも武器を構える。

 

『お主は前に「悪の組織は2つも要らん」と言っておったなそうじゃな。その意見には賛成じゃ。世界を支配するのに2つも組織は要らん。じゃからお前さん達には消えてもらうとするかのォ』

 

「ハッ、笑わせんな!消えるのはテメェの方だ!!」

 

 先手必勝と六号は持っていた小型の銃で鉛玉を撃ち込むが、ガランは鎌を回転させ全て弾く。

 

『効かんのォ小僧』

 

「なら私が相手だ!」

 

 次に仕掛けたのはスノウ、腰に掛けていた鞘から刀を抜き取り互いの武器が交わいぶつかり合う。しかし戦況はガランの方が優勢であった。

 何故ならスノウは両手で塚を持っているのに対し、ガランは片手のみで対処している。しかもかなりの余裕がある。そしてガランは鼻で笑うと力を込め、スノウを跳ね除けたことを透かさず強烈な蹴りを食らわせ蹴り飛ばす。

 

 そして六号の方に視線を向けると、彼の視界から消える。消えたっと辺りを右往左往見渡す六号が、次の瞬間突然自分の目の前に現れ大鎌を連続で撃ち込む。

 

 

 

惨散斬(ざんばらざん)!』

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

 

 

 

 使っている鎌は1本のはずなのに、その高速捌きによって鎌が無数に見えてしまい、まるで鎌の雨が降り注いでいるようであった。

 

 幾ら六号が改造された強化人間とは言えベースは人間。長時間の攻撃を耐えられるようには出来ていない。六号は悲鳴を上げ、複数の箇所から出血する。1箇所1箇所の傷は浅いが、数が多いためかなりのダメージを食らった模様。

 

「隊長!」

 

 ロゼは六号とスノウのピンチに駆け出し、大口を開け例の如く齧り付こうと襲い掛かる。しかしガランがロゼの方を視線を向けると途方もない威圧感を発する。その威圧感に当てられたことでキメラの、いや生物としての本能が刺激され動けなくなってしまう。

その間にガランは彼女の横腹に鎌を叩き込み吹き飛ばす。

 

 地面に数回打ちつけられ、少し離れたところで倒れてしまう。なんとか起き上がろうとするが身体に力が入らない。逆に力を入れて血を嘔吐してしまった。今のを無防備で受けたことで、軽く見積もっても鎌が当たった右の腕は折れ、他にも数本逝っていると思われる。

 

『どうした?儂はまだ本気を出しとらんと言うに。もっと楽しませてもらわんと困るわい。ん?』

 

 突如ガランの動きが止まる。彼の少し離れた位置にいたグリムが、1体の人形をガランにへと翳し【金縛り】の呪いを掛け動きを封じ込めたのである。

 

「どうですか、私の呪いは?いくら貴方が強いからと言っても動きを封じてしまえばどうと言うことはありませんよ」

 

 グリムは自信満々に言うが、当のガランは目線をギランっと彼女に向ける。

 

『…小娘、儂はお主のような姑息なマネをする奴が1番嫌いなんじゃァ!』

 

 ガランは全身に力を込め、なんと気力だけで無理矢理呪いを解除してしまう。

 

「なッ!?偉大なるゼナリス様の教祖である私の呪いを最も簡単に!?」

 

『儂ら魔神族に人間の如きに崇められる神の力など及ぶ訳なかろうゥ』

 

 彼女の呪いは魔王軍四天王でも通じる程強力。しかし今回は相手が悪かったと言うべきか。魔の神に人間が使う呪いなど屁でもないだろう。

ガランがグリムの視界から消えた次の瞬間、グリムは車椅子ごと縦一線に真っ二つに斬られていた。その後方には鎌を振り下ろしているガランの姿が。

 

 

伐裟利(ばっさり)

 

 

 今の一瞬で目では認識出来ない程の速度で、後方にへと移動したのである。斬られた車椅子はバランスを失い内側にへと傾き、グリムの身体諸共崩れる。

 

『なんじゃ、もう終わりか?何とも脆い若造共よのォ「ヒューーン」ん?』

 

 後方から気配を感じ振り返った瞬間、自身に何かが命中し爆発と共に爆炎に包まれる。その方角の先にはアリスがロケットランチャーを構えていた。戦闘は不向きとは言え、武器が使えるので戦えない訳ではない。

 

「どうだ?」

 

 倒せずともマトモに食らったので多少のダメージは入ったと思う。煙が晴れると無傷のガランがアリスを睨み付けなら立っていた。

 

『傀儡の分際でこの儂に発砲するとは、実に不愉快じゃ』

 

 少しでもダメージが入ればいいと思ってやった行動は、ただガランの怒りを買ただけにすぎなかった。

先程と同じように一瞬姿が消えると、アリスの目の前に現れる。そして…

 

 

 

ズバーーン

 

 

 

 …大鎌でアリスの胴体は横一線に斬られ、上半身と下半身が真っ二つにされその場に崩れ落ちる。

 

「アリス!」

 

 ガランはアリスの頭を鷲掴み目線まで持ち上げ眺める。

 

『これが儂等とは違う悪の組織の実力かァ?だとしたら実につまらんのォ。期待外れじゃわいィ』

 

 が、直ぐに興味がなくなったようで鼻で笑うと投げ捨てる。

 

「アリスゥゥ!!」

 

 六号は血相を変えてアリスにへと近寄り呼びかける。アンドロイドだから血こそ流れないが、

 

「アリス、無事か?返事しろよ、おい!?」

 

「…煩い…あんま近くで騒ぐな、アホ」

 

「安心しろ。急いでキサラギ社に帰って、リリス様に治してもらうよう頼むからな」

 

 上半身のみの状態だがなんとか意識はあることにホッとした。しかし幾らロボットとは言えかなりやばい状態。そもそもアリスは戦闘用に造られた訳じゃない。このまま放っておくと本当に危ないので気が気ではなかった。

 

『そんな傀儡如きを哀れむとは、なんとも愚かで滑稽な奴よォ。カッカッカッカッカッ!!』

 

 ガランはスクラップ状態に近いアリスを心配する六号をバカにする。その言葉に六号の中でキレた。しかしそれは()()()()()()()()()()

 

『どうやらこれ以上戦っても無駄のようじゃ。最後はこの技で葬ってやるとしよう』

 

 ガランは口を大きく開ける。すると口前に赤い色のエネルギーが集まり凝縮されていく。その魔力の質量にアリスは驚愕する。

 

「流石にあれはマズイ。食らえばお前でも一溜りもないぞ。私を置いて逃げろ六号」

 

 アリスは足手纏いとなった自分を置いて逃げろと言う。しかし六号はこう答える。

 

 

 

「…逃げろだァ?ハッ、何言ってんだよ。お前は俺の相棒だろ?俺はな、相棒は絶対見捨てたりしないんだよ!」

 

 

 

 背負っていた風呂敷に手を掛け抜き取ると、その手には通常よりも一回り大きいチェーンソーが握られていた。

それは先日魔王軍四天王の1人であった【地のガダルカンド】を倒した武器『バッドソードタイプR』である。

 

『何じゃそれは?』

 

「テメェみたいな奴ををブった斬るのに最適な武器だよ!制限解除!!」

 

【戦闘服の安全装置を解除します。宜しいですか?】

 

 安全装置解除───それは六号の切り札。1分間だけゴーレムをも持ち上げられる程のパワーを発揮する。しかしその後3分間のクールダウンに入り、全く動けなくなってしまう。謂わば諸刃の剣である。

 

「だが1分あればテメェをぶった斬るのに十分だ!」

 

 六号の戦闘服にラインが水色に光りだす。カウントダウンが始まる。そして…

 

 

【安全装置解除します】

 

 

 …1分間だけ最大限の力を発揮出来るようになった。

 

「最後に俺の名を教えてやる。【キサラギ社】所属、戦闘員六号!テメェを倒す男の名だ!!」

 

『武器が変わった程度で、人間如きがこの儂に勝つことは出来んわいィ。くたばるがいィィ!────【虚閃】!!

 

 圧縮されたエネルギーが解き放たれ、太い紅き閃光【虚閃】が放たれる。

 

「それはコイツの性能を見てから言えよな!」

 

 安全装置が解除され全力を出せるようになった六号は、迫り来る【虚閃】に臆することなく突っ込んでいく。そしてバッドソードでなんと【虚閃】を斬り裂いたのである。

 

『何ィ!?』

 

 予想外の事態にガランも驚きを隠せない。六号はそのまま虚閃を裂きながら前進していく。

そして【虚閃】を完全に斬り裂き、そのままガランの右腕を豆腐のように簡単に斬り落とした。

 

『な!?』

 

「まだだ!アリスの受けた痛みはこんなもんじゃないぜ!!」

 

 六号はさらにバッドソードを振り回し、ガランの身体はどんどん切断されていく。

 

 

 そう、六号がキレた理由は自分をバカにしたことではない────相棒であるアリスを侮辱したこと。安全装置解除+その怒りエネルギーも合わさり本来自分が出せる以上の力を発揮していた。今は六号は人生で初、自身の限界を超えていた。

 

 

 身体全身を斬り刻まれたガランはその場に崩れ落ちる。同時に1分が経ち、クルーダウンに入ったことにより六号はそのまま硬直する。

 

「ふぅ〜」

 

「やったな六号」

 

「よくやった六号。今回ばかりは褒めてやる」

 

「流石私達の隊長です」

 

 スノウが上半身のみのアリスを背負い、ロゼもなんとか身体を起こし近寄る。骨が数本逝っていたと言うのにもう動けるようになっているとは、流石戦闘用キメラと言うべきか。

 

「ま、この俺に掛かればこんなもんだ」

 

「お前は直ぐ調子に乗るな」

 

「まぁまぁ、いいじゃないですか。今回の隊長大活躍だった訳ですし」

 

「それにグリムも後で復活させてやらないとな」

 

 

 相変わらずのバカ騒ぎをしながらも勝利の歓びの声を上げる一同。これで全て終わり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …な訳はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウ"ゥ…グゥ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とバラバラにされたはずのガランから呻き声が聞こえ、彼の身体の切断面から黒い液体のような物が溢れ出す。その液体はそれぞれの切断面に結び付いていく。

 

『今の攻撃は中々じゃった。中級魔神くらいであれば今ので勝負が付いとったじゃろ。じゃが相手が悪かったのォ。最高位の魔神にして死刃であるこの儂が、この程度では殺されわせんわァ!』

 

 そしてガランの身体はピッタリと繋がり元通りになる。頑丈な上に再生能力持ち、反則級のチートである。

 

「おいおい、あれだけバラバラにしたのに元通りってそんなのありかよ!?」

 

『カッカッカッ、当然じゃ!儂は死刃なんじゃからのォ』

 

「…そもそも、さっきから言っているその死刃ってのはなんだ?」

 

『そうじゃな…そこの小僧を嘗めておった詫びとして教えてやろう。儂等の組織は、入った順に【11】からの番号が与えられる。そして幹部クラス者達の中から最も強い戦士を選び、強い順に【10】以下の数字が与えられる。その者達を【死刃】と呼ぶのじゃ。死刃は【11】より後の数字の幹部の中から、それぞれ自身の【従属官】と言う直属の部下を選ぶことを許される。そして自身の身体の一部に、その与えられた数字を刻む。そしてこの儂も、その死刃の1人と言うことじゃ』

 

 今の話を聞くと死刃は【10】以下の数字を与えられた者で構成された集団。つまり推測からして1()0()()はおり、そしてガランと同格な存在が後9()()近くいることになる。とんでもない事実に4人に絶望が襲う。しかしそれで終わりではなかった。

 

 

『冥土の土産じゃ、儂の階級を教えといてやろう』

 

 ガランは胸部の宝石に手を翳すと数字が浮き上がってくる。そこに刻まれていた数字は────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『儂は第【5】の数字を与えられた死刃────《第5死刃(クイント・エスパーダ)》、【ガラン】!この儂の偉大さに恐怖するがイイ!カァーカッカッカッカッカッ』

 

 

 自分達に圧倒的な力を見せつけたガランでさえ、死刃内での実力は中間。つまりコイツよりも強いのがまだ4人()()いる。その事実に絶望に染まる。

 

「いや〜そうだったんですね。それは強い訳ですなァ」

 

 突然スノウが口を開いたと思えば、ガランを褒め称え始めた。アリスを担いでいた手を離し、両手を前に合わせ身体を寄り添わせる。

 

「実は私貴方のこといいと思っていたんですよ。その纏っている鎧と言い、武器と言い素晴らしいです」

 

『ホォ』

 

「…なんかアイツ急に媚売り出したぞ」

 

「…今の内に好感持たせようって魂胆だろう。アイツの考えそうなことは」

 

「スノウさん…」

 

 スノウが敵に媚を売り始めたことに六号はドン引きし、手を離したその弾みで地面に叩きつけられたアリスも彼女の意地汚さに呆れ、ロゼは唖然としていた。てか六号は人のこと言えるのか?

 

「(何とでも言え。私にはローンの支払いがある、だからまだ死ぬ訳にはいかんのだ。それにコイツの鎧なんかかなりの上物の筈。だとすればここで媚を売っておけば…)」

 

 こっちもこっちでしょうもない、どっこいどっこいだ。しかし疾しいことを心で囁いていた時彼女の身体に異変が起きた。なんと自身の足元から石となっていたのだ。

 

『…お主…嘘を付いたな』

 

ガランはその鋭い眼差しでスノウを睨み付ける。

 

「な、何だこれは!?お前の魔法か!?」

 

『カッカッ!スマン、先程の話で一つ言い忘れてたことがあったワイ。儂等死刃には全員、司る【死の形】があるんじゃ』

 

「死の…形?」

 

『それは死刃それぞれの存在理由にして死相、さらに個々の能力にも現れるのじゃ。そして儂が司る死の形は【真実】!儂の前で嘘を言えば、何人たりとも石化するのじゃ!!』

 

 スノウ(彼女)はガランを褒め称えていたが、その心の中ではそんなこと一切思っていなかった。それによってこの力が発動したのだ。

ガランが話している最中も石化はドンドン進行し胸元まで到達、そしてあっという間に全身が石化してしまった。

 

『これでもう余計な邪魔は入らん。今度こそお前さん等を葬ってやろう』

 

 再び大口を開けると、今度は持っていた鎌の扇風部分を近づけ虚閃をを溜める。するとその部分に虚閃が纏われ、そのまま勢いよく振るう。そうしたことで先程ように一本線でなく広範囲に放たれ、石化したスノウはそのまま呑み込まれる。さらにその射線上にいた3人含め町の住人、建物も呑み込まれ消滅した。

 

『…最後は随分呆気ないな。儂の()()()()()を魅せるまだまだなかったワイ。まぁ良い、これで余計な邪魔者は消えた訳じゃからな』

 

 味気ない幕切れに少々不安があるが、結果として最大の邪魔者を排除出来たのだから良しとした。

 

 

 そしてこの日、グレイス王国は1人の魔の神───ガランによって一夜にして滅びた。

 

 さらに魔王及び六号とアリス(彼等)の本拠地にいた怪人【トラ男】もガランに倒され、この星は魔神ガランによって支配された。

この日以来六号とアリスからの報告が途絶えたことに不信を持った【キサラギ】の大幹部達が新たな幹部を送るがそれはまた別の話。

 

 

 【キラサギ】と【デストロイヤー軍】───この2つの組織が激突するのも、そう遠くはないかもしれない。

 




ガランは5番の死刃でした。

原作にある強さの基準である闘級、その闘級で言うならガランは十戒最弱。しかし闘級は武力、気力、魔力の合計数値。純粋な力であればメラスキュラやグロキシニアよりも上です(この2人は魔力は高い分武力が1000以下)。
私の死刃の序列は勿論能力もありますが、純粋な力で順になっています。
そしてガランの虚閃は口前から出すことにしました。原作十刃ではヤミーとノイトラ、ネリエルそうでしたから(ノイトラは正確には舌ベラの先だけど)。

それとスノウがガランに媚を売ろうとしたところは、ガランの能力を発動させるのに最適なのが彼女しかいなかったからです。六号は欲望に忠実だし、アリスはアンドロイドで生物ではないので通用するか不明だし、ロゼは素直で嘘付く子には見えませんし、グリムは途中退場してしまったので、残っているのがスノウしかいなかったのです(土下座)。
でも彼女の性格からすると、かなりのピンチになったら敵であろうとも媚び売りそうだと思ったんです。原作でもトラ男からも刀を貰った時にも媚び売ってましたし…。

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19話 獣の古武人

どうもアニメ大好きです。

今回の世界はかなりマイナーな作品かと思われます。知っている方はいらっしゃるでしょうか?
ヒントはリリカルな作品に、ある意味関係がある作品です。

そして今回の作品は創るのもそうでしたが、もう一つ大変なことがありました。それは今回登場させる死刃をどこの世界に入れ込ませるか迷っていました。
今までの死刃達は色々な条件を踏まえて「違和感がない」と思っていた作品に登場させていたので、残っている2人の死刃の世界が全然決まらず、全然筆が進まなかったのです。
しかし何とか自分的に合いそうな世界を見つけ出し作り上げることが出来ました。最後まで楽しんでいただければ幸いです。

それではどうぞ。


とある森の中

 

 そこでは最近赤い眼をし全身黒い靄に覆われた生物達が大量発生し、周りの生物を襲っていた。だがその実態は、とある魔物が周りの生物を取り込み自身の一部にしてエネルギーを得ている。そして取り込まれた生物が更に別の生物を取り込んで、ドンドン魔物の数を増やしていくと言う仕組み。現状足を踏み入れれば、取り込まれ魔物の一部になってしまうのが()()だろう。

 

 しかし今その森の中では普通ではあり得ない光景があった。

 

「歯応えが無さすぎだ。所詮デカいだけのただのムシケラか」

 

 お面のような顔をした怪人の足元には胸に穴の空いた巨大な生物が無惨な姿で伏せており、更にその近くには無数の小さな生物が気を失って倒れていた。

 

 怪人はこの世界に来た直後、大きな気配を感じ向かった先には地面に埋もれた巨大な蟻を見つけた。準備運動だかてら、この世界の実力がどうなのか知るために挑んだ。しかし結果は、ほんの少し本気を出しただけであっという間に終わってしまった。思っていたより期待外れ過ぎてガッカリしていた。

 

 そんな時少し離れた場所から此方側に向かってくる複数の気配を感じた。

 

「…何やら向こうから気配を感じるな。その内強者。少しは楽しませてくれそうだ」

 

 そう言って怪人はその方角を見つめるのであった。

 

 

 

 

─────────────────────────────

 

 

 

 

 

異世界フロニャルド

 

 

 この世界では【ビスコッティ王国】、【ガレット獅子団領国】、そして【パスディヤージュ】の3カ国がよく戦を行っている。その「戦」には2つの定義がある。

 

 先ず1つは『戦興業』。戦闘行為をスポーツ化した、謂わゆる自由参加の運動会のようなもの。だから死者を出すこともなければ怪我人も出ない健全な戦である。

 

 そしてもう1つは『魔物討伐の戦』。これはその名前の通り魔物の討伐を目的とした戦。主に野生動物に準ずるモノが多いが、中には大型や大規模な軍勢の場合があり、その時は国家の勢力を上げて挑むことになる。こちらは前者とは違い下手すれば命の危険が伴うのである。

 

 

 

 

 

そして今回の戦は……後者である。

 

 

 

 

 今ビスコッティ、ガレット獅子団、パスディヤージュ、3カ国の戦略が竜の森に現れた魔物を討伐するために向かっていた。

 

 

 とあることがきっかけで出会った竜の森の巫女【シャル】。彼女から竜の森に起こっている事態を知り連合軍を結成。ビスコッティの皇女【ミルヒオーレ】、ガレット獅子団の王【レオンミシェリ】、パスディヤージュの領主【クーベル】を筆頭に3カ国はそれぞれ、泉、火山、森の神竜の警護に当たる。

 そして勇者一向は巫女のシャルと共に上空から魔物の本体の探索に向かうのであった。

 

 

「すまない。竜の森を護るのは、本来なら私の役目なのにお前達に迷惑を掛けてしまって」

 

「気にしないで。僕達勇者の役目は皆んなを笑顔をすること。勿論シャル、君のこともね」

 

 飛行機に乗り頭にハチマキをしている少年が【シンク・イズミ】。ビスコッティ共和国の領主【ミルヒオーレ】によって召喚された勇者。前向きで誰にでも気軽に声を掛けてくれる明るい性格、さらに運動神経が良く高所からのジャンプも難なくこなす程。少々抜けているところもあるが、期待に応えたいと言う意志と責任感が強く、決めるところは決めてくれると言う頼りになる少年である。

 

「そうそう。それに困った時はお互い様だよ」

 

 同じ飛行機に乗っている少女が【ナナミ・タカツキ】。ガレット獅子団領国に召喚された勇者。シンクに負けず劣らずの運動能力の持ち主で、ノリが良く誰とでも仲良くなれる才能がある。そしてシンクに棒術を教えたのも彼女。故にシンクにとって彼女は師匠にして良きライバル的存在である。

 

「だからシャルちゃんも、そんなに自分を責めないで」

 

 そしてシャルと共に魔女が使う箒で飛んでいる少女が【レベッカ・アンダーソン】。パスディヤージに所属する勇者にしてシンクの幼馴染。

 始めこの世界に来た時はシンクと共にビスコッティ王国に召喚され、シンクやミルヒオーレから諸々事情を聞く。

 しかし2人のような運動能力は持っていないため、始めは戦への参加は乗り気ではなかった。そこにパスティヤージの領主である【クーベル】が現れ連れ去られてしまうが、そこで彼女の話を聞き自身と似たような境遇であることを知り共感する。そして話に応じ正式にパスティヤージの勇者となった。

 

 

 己の不甲斐無さの所為で大勢の者を巻き込んでしまったことに謝罪するシャルを3人は気にすることなく、寧ろ慰めや気遣いの言葉を掛けてくれた。3人の優しさに感謝し、共に探索を続ける。しかしその最中レベッカがあることに気付き始める。

 

「…ねェ、皆んな」

 

「どうしたの、ベッキー?」

 

「私、さっきからちょっと気になっていたんだけど」

 

「気になるって何が?」

 

「昨日の時と比べて、なんだか静かな気がするの」

 

「そう言れてみれば!?」

 

「確かに妙だね」

 

 魔物に取り込まれた生物は、別の生物を襲う。だから生物達はそれを本能で察し逃げ惑っているはずなのに、そのような声が聞こえない。静か過ぎるのだ。

 そんな時突如4人の元にミルヒオーレ、レオン、クーベルの3人から連絡が入る。

 

『シンク!』

 

「姫様!それにレオ閣下やクーベルも。どうしたんですか?」

 

『それがなんか変なのじゃ』

 

『さっきから魔物の姿が一匹も見当たらん』

 

「エッ!?」

 

「それ本当!?」

 

『レオ様のところもですか!?私のところもなんですよ!』

 

『ウチのところもじゃ!?これは一体どう言うことじゃ!?』

 

 3人率いる軍がそれぞれの警護場に到着したのいい。しかし道中魔物が襲って来るどころか、一匹も遭遇していないとのこと。しかも3箇所同じときた。これは明らかに可笑しい、別の意味で異常だ。

 

「皆んな、見てあれ!」

 

 そんな時森の一部に大きなクレーターを発見する。しかしその周りにはこの森の原生生物と思われる小さな生物達が傷付いた状態で倒れており、しかもその中心には昆虫に似た巨大な生物が倒れている。そしてその巨大生物の頭部には中国系の赤い服を着用し、頭部の額に鰐の像が付けた人物が頭部の部分に座っていた。

 4人は一先ずその巨大生物の前に着地する。すると頭部に座っていた人物も飛び降り自分達の前に着地する。

 

「貴様等だかな、この強い気配の正体は」

 

「貴方は一体?」

 

「我が名は、臨獣クロコダイル拳使いの【ニワ】!デストロイヤー軍幹部にして死刃の1人」

 

 ニワと名乗る怪人。デストロイヤー軍と言うのが何なのか気になるところだが、それ以上に後ろで()()()()()()存在の方が気になっていた。

 

「ところで君の後ろにいる魔物は…」

 

「魔物?あぁ、コイツのことか?強い気配を感じたから試しがてら挑んだのだが呆気ないものだった。見た目通りただデカいだけのムシケラであった」

 

 実はこの倒れている魔物こそ、竜の森を騒がせ今回の討伐対象であった魔物『竜喰い』なのである。

 

 自分達がこの魔物のことを知ったのは昨夜。討伐を宣言してからまだ1日も経っていない。しかも辺りを見渡すが他に誰もいない。今の会話と照らし合わせると1人で魔物を討伐した可能性が高い。この短時間で、それも1人で討伐してしまったことに驚く。

 本来なら今回のように強大な魔物は国家を上げて討伐に当たると言うのに、たった1人でその災害級の魔物を討伐するなんて考えられない。

 

「正直ガッカリした。だが全くの無駄足ではなかったようだ」

 

「エッ?」

 

「それってどう言う…?」

 

「簡単なこと。────貴様等の方が、この竜喰い(ムシケラ)より楽しめそうと言うことだ!」

 

 この言葉に4人に緊張が走る。彼等はニワに目を付けられてしまった。

 

「先ずは挨拶代わりだ、リンギ【万降石(ばんこうせき)】!!」

 

 両腕を地面に撃ち付けると、無数の岩の破片が飛び散り回りにいた者達に雨のように降り注ぐ。シンクとナナミは持っていた棒を振り回し後ろにレベッカとシャルを守る。

 

「この程度は防ぐか。そうでなければつまらん」

 

 自身の技を難なく防いだことに感心する。それと同時に後ろに転がっている竜喰い(デカブツ)よりは楽しめるだろうと喜びもあった。

 

『シンク!?大丈夫ですか?』

 

「う、うん。何とか…」

 

『儂等も直ぐにそちらに向かう。待っておれ』

 

 通信がそのままだったことで今の状況見ていたミルヒ達3人は、それぞれの軍にシンク達のいる場所へ向かうように指示を出そうとする。

 

「そうはさせん!」

 

 しかしそれをニワが許すはずもない。指をパチンっと鳴らすと、モニター越しに鼻元から上が覆われ茶色い服を着た無数のキョンシー【リンシー】が何処からともなく現れる。

 

『な、なんじゃ此奴等は!?』

 

「お前達、そいつ等の相手をしてやれ!」

 

 ニワの合図でリンシーズはピョンピョン跳ねながら、それぞれの場所で一斉に襲い掛かる。そして同時に3人との通信も切れてしまう。

 

「姫様!!」

 

「クー様!」

 

「レア閣下!?シンク、どうしよう」

 

「兎に角、早く姫様達の元へ行こう」

 

 4人は3カ国の救出のため飛び上がろうとするど、再び無数の破片が降り注ぎ4人の行く手を阻んだ。

 

「何処へ行く?お前達の相手は俺だ」

 

 折角自分を楽しませることが出来そうな相手が来て誰も邪魔が入らないようにしたと言うのに、移動されては困る。だから逃がさないようにニワが邪魔をする。

 

「…やるしかないみたいだね」

 

 どうしても逃してくれそうにないのを悟り、シンクは飛行ボードを消し戦う覚悟を決める。他の3人も同様に覚悟を決め、シンク、ナナミ、シャルは武器を構える。

 

「漸くやる気になったか、なら此方も本気で行くとしよう。リンギ【獣人邪身変】!!ハッ!」

 

 ポーズを取り両腕を広げると、頭部のワニの目が怪しく光り、頭と両腕が胴体に吸い込まれ膨れ上がり破裂し、先程とは全く異なる姿で現れる。

 

 上半身がワニの頭部となり、胸部分にまで大きく開いた口のその中心には鋭い牙を生やした顔。身体全身が鱗に覆われ、脚には下駄を履き、両腕にはワニをモチーフにした手甲が付いていた。

 

 

 まるで獣そのものであった。

 

 

「臨獣クロコダイル拳の【ニワ】!我が主人の命によりこの世界を制圧を開始する!!」

 

 ニワが駆け出しとレベッカはシャルを乗せ上空へ、シンクとナナミは同じように駆け出し棍棒を振り下ろす。だが両腕で跳ね除けられ鋭い爪で斬り付けられる。更にシンクの首を掴むと腹に2発食らわせ、追撃のアッパーで吹き飛ばす。

 

 すると後方から飛んできた一本のブーメランを弾き飛ばす。それを水流ジェットで水上スキーの如く高速で移動していたナナミが掴むと、棍棒へと形を変えそのまま勢いに任せて振り下ろすが、受け止められ逆に肩を掴まれてしまう。

 

 

「リンギ【泥州胴折り(ですどおり)】」

 

 

 そして扇風機のプロペラのように高速で横回転、放り投げられ近くにあった木にぶつかる。

 

 その間に上空で待機していたレベッカは後ろに回り込み、シャルは背負っていた筒から矢を一本取り出し狙いを定めて放った。レベッカも腰に掛けていたケースからカードを数枚取り出し投げ付けると、空中で拡散し光のレーザーとなる。だが頑丈な鎧によって矢は弾かれ、レーザーも全て受け止められダメージゼロ。しかもその所為で気付かれてしまう。

 

 

「【泥州胴折り(ですどおり)(つう)】!」

 

 

 地面を蹴り飛び上がると先程の回転をしながら上空にいる2人に突っ込む。直後はしなかったが通り過ぎる時の風圧でバランスを崩してしまい2人は墜落。地面スレスレで体勢を立て直し着地、同時にニワも着地する。

 

「ベッキー、シャル、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「問題ない」

 

「それにもコイツ、強い」

 

「魔物を1人で倒したと言うのは、嘘じゃないみたいだね」

 

「我が臨獣クロコダイル拳は、強力・無双の拳!その程度の攻撃で破れはせん!!」

 

 勇者として強い力を持っていようとも、全く危険のない運動会のような戦、それもたった数回しかしていない3人。対して命を掛け死闘を繰り広げたこともあるニワでは、戦いにおける覚悟が全く違う。その差が今の状況を生み出しているのだろう。

 

 するとレベッカが3人に近づき話しかける。

 

「皆、私に作戦があるの」

 

 3人はレベッカの話に耳を傾ける。

 

「…よし、その手で行こう」

 

 4人はレベッカの作戦に賛同し、ニワの方へ視線を向ける。

 

「何をする気かは知らんが、無駄なことよ」

 

「じゃあ3人共、行くよ!」

 

「「「うん(OK)(分かった)」」」

 

 シンクの合図でレベッカが上空へ飛び上がると、ケースからカードを数枚取り出し投げる。しかしカードはニワではなく地面に刺さる。すると着弾したカードが一斉に爆発し大量の爆煙が辺り一面を覆いつくす。

 深い煙で視覚が封じられたので、感覚を研ぎ澄ませるニワ。前方上空から数本の矢が飛んでくるのが確認出来振り払う。

 

「バカめ、自ら居場所を教えるとは。貴様も我が【泥州胴折り(ですどおり)】の餌食にしてくれる」

 

 と身体を構えた瞬間、今度は後方から矢が飛んできた。さらに右往左往からドンドン矢が飛んでくるではないか。

 実はあの爆発の最中シャルが箒に飛び乗り、移動しながら連射していたのだ。しかし全てニワの頑丈な鎧に阻まれ弾かれてしまい決定打になっていない。

 

「無駄だ。何度やってもこんな柔な攻撃、俺には効かん!」

 

「確かにお前の言う通り()()のは無理だろう。だが───注意を引くことは出来る」

 

 足に違和感を感じ視線を向けると、何と両足が凍りついていた。それだけじゃない、周囲の地面も同じように凍りついていたのだ。

 更には煙が晴れてくると、シンクとナナミが正面に紋章を展開していた。先程の行動はこの2人から注意を晒すためであった。

 

「ナナミ、準備はいい?」

 

「いつでもいいよ!」

 

 

豪熱炎陣掌(ごうねつえんじんしょう)!】

 

 

海王水陣掌(かいおうすいじんしょう)!】

 

 

 

 

合体!【豪熱海王相陣掌(ごうねつかいおうそうじんしょう)!!】

 

 

 

 シンクの炎の紋章砲とナナミの水の紋章砲が同時に放たれ、身動きが取れないニワはその攻撃を受けるしかなかった。2つの紋章砲が命中し轟音と爆風、さらに熱気が辺りを包み込む。

 ニワが立っていた場所から煙が立ち上り静寂が訪れる。シンクとナナミは「倒したか」と様子を伺う。レベッカとシャルも同様に上空から伺う。

 

 次第に煙が晴れると、そこには腕で顔をガードしているニワの姿があった。身体は所々傷はあるが浅く、殆どダメージを受けていなかった。勇者2人の攻撃をモロに食らったのにピンピンしている、その事実に驚愕する。

 

「そんな!?真面に食らったはずなのに!?」

 

「なんて頑丈な身体なの!?」

 

「今の攻撃は中々だった。その礼にこれを呉れてやる」

 

 ニワは右掌を向けると、そこに赤い球体型のエネルギーが作り出され凝縮されていく。そのエネルギー量に4人は驚愕する。

 

 

 

虚閃

 

 

 

 凝縮されたエネルギーが一筋の閃光となって放たれる。射線状にいたシンクとナナミは反射的にそれぞれ左右にへと回避する。

 上空にいるレベッカ達に至っては、あまりの風圧で目が開けられないでいた。

 軈て攻撃が止みさっきまでは自分達がいた場所に目を向けると、地面が抉れその直線上にあったであろう木々は数キロ先まで跡形もなく消し飛んでいた。

 これは自分達の紋章砲、2人同時に放ってもここまではならないだろう。

 

「どうだ?だが俺の力はまだまだこんなもんじゃない」

 

「…一つ聞いてもいいかな?」

 

「何だ?」

 

「君はさっきこの世界を制圧するって言ったよね。それはつまりこの世界の人達を全員倒すってこと?」

 

「…それ以外何がある?」

 

「ッ!?どうしてそんなことをするんだ!?」

 

「何故だと?決まっている。それが我が主人の望みであり、俺達死刃の使命だからだ」

 

「望みって…」

 

「そもそも、さっきからアンタの言っている死刃って何?」

 

「…貴様等を始末する前に教えてやる。俺がいる軍には、幹部の中から選ばれた最強の集団、それが【死刃】だ。死刃達は称号として、それぞれ身体の部位に数字を刻む。そして俺は…」

 

 

 

 ニワは胸元に手を翳すと黒い数字が浮き上がってくる。そこに刻まれていた数字は───────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…第【6】の数字を与えられた死刃────《第6死刃(セスタ・エスパーダ)》、【ニワ】。貴様等の命、貰い受ける!」

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 一方、3カ国連合の方は国の騎士達がそれぞれの場所で多数のリンシーとの戦いを繰り広げていた。その足元には倒れたリンシーと沢山の猫玉が転がっていた。その猫玉は倒された騎士達である。

 

 リンシー1人1人の実力は、恐らく一般騎士1人と同じくらいの強さだろう。だが戦いの経験があるとは言え、安全な戦いばかりの騎士達。対して常に命のやり取りをしてきたと言っても過言ではないリンシーズ。その差によって次第に騎士達が押され始め、倒され猫玉になってしまう者が続出、今立っているのは国が代表とする名高い騎士達のみである。

 

「コイツ等、倒しても倒して出てきやがる」

 

「これじゃキリがありません」

 

 一人一人の力は大したことないかもしれない。しかしそれが複数で来られれば太刀打ち出来ない。まさに多勢に無勢である。

 

「このままでは此方の体力が尽きてしまう」

 

 名高い武将達でも長時間ぶっ通しで戦い続けているため、流石に息が上がってきていた。

 一般の騎士の中にはもう諦めかけている者まで出始めていた。しかしそんな絶望的な状況下でも諦めていない者がいた。ビスコッティの姫、ミルヒオーレである。

 

「諦めてはいけません。勇者様達が絶対何とかしてくれます。だから私達も諦めずに戦いましょう!」

 

 国のトップにそこまで言われては、へこたれている訳にはいかない。騎士達の目に再び闘志の火が灯り立ち上がり、リンシーズに挑んでいく。

 

 

 そんな中、忍者のような格好をした狐耳の女性【ユキカゼ】が森の中を走っていた。

 

「早くこれをシンク達に届けなければ。皆、待っていてほしいでござる」

 

 すると彼女の胸元から一つの結晶体が光出し飛び出す。それは独りでに浮かび上がり何処かにへと飛んで行く。

 

 

─────────────────────────

 

 

 

「貴様等はよく頑張った、あそこに転がっている魔物(デカブツ)に比べればな。もう諦めかけて降伏しろ」

 

 自分達の最大級の攻撃も通用しない相手にどうやって勝てばいいのか分からず、女性3人は諦めモードに近かった。

 しかしこの絶望に近い状況でもミルヒオーレ同様諦めていない者がいた。

 

「まだだ、まだ終わっていない」

 

 この中で1番勇者としての経験が長いシンク、彼の瞳から闘志はまだ消えていなかった。

 

「…これだけの力の差を見せつけられてそんなことをほざくとは。諦めない悪い小僧だ。それとも、それは勇者としての責務ってやつか?」

 

「確かにそれもある。だけど皆んなを守りたいと思うのは勇者としてじゃなく、僕自身【シンク・イズミ】の意志だ!だから負ける訳にはいかないんだ!」

 

「…その意気や良し、流石勇者と言うべきか。だが貴様等にはもう何も出来まい」

 

「それでも僕は諦めない!フロニャルドの皆んなを守るために!!」

 

 その時上空から一つの光が彼の前に降りたった。それはユキカゼの元から飛び出しオレンジ色の結晶であった。

 

「【英雄結晶】…」

 

 シンクは結晶に手を差し伸べ発言する。

 

 

【英雄結晶】発動!!

 

 

 その瞬間結晶から炎が溢れシンクの身体を炎が包み込む。そして中から一回り大きく成長したシンクが現れる。

 

「何!?パワーアップしたのか!?」

 

「ヒーロータイムだ!」

 

 持っていた棍棒が形を変え、巨大な柄にへとなりその先に炎の刃を形成させる。

 

「【炎王剣】!」

 

 炎の刃を一思いに振ると、物凄い威力の炎が放たれ、ニワを包み込み吹き飛ばした。シンクは飛行機を出しニワが飛んでいった方へ向かう。

 

 

「皆の衆ゥーーー!!」

 

 

 丁度そこにユキカゼが到着する。

 

「ユッキー!何でここに!?」

 

「お二人にこれを渡しに来たのでござる」

 

 胸元からシンクのとは形が異なる2つの結晶を取り出し、レベッカには紫色の結晶、ナナミには緑色の結晶を差し出す。

 

「【魔神結晶】…ありがとう、ユッキー」

 

「こっちのは、アタシに?」

 

「左様。シンク達の物とは少し違うのでござるが、アデル様が準備してくれていたのでござる。アデル様曰く、【精霊結晶】」

 

「【精霊結晶】…」

 

「シンクのも持って来たんでござるが、道中独りでに飛び去ってしまって…。恐らく主人のピンチに駆けつけたかったのでござろう。さぁ、お二人も早く」

 

 ユキカゼに諭され2人はそれぞれの結晶を手に取り、シンク同様詠唱を唱える。

 

 

 

「【魔神結晶】…」

 

 

「【精霊結晶】…」

 

 

『発動!』

 

 

 レベッカは腕に付いていたバンドの中部分が開き、腰に付けていたリボンとだけが消失。ツインテールは解けて髪が伸び、身体が光に包まれ弾けると、シンク同様一回り背丈が伸び成長した姿に。

 ナナミの方は大量の水が溢れ身体を包み込む。覆った水が弾けると2人同様一回り背丈が伸びたナナミが姿を現れ、水の球体が手先から滑るようになぞり袖部分、更に腰マントを構成させ変身が完了とする。

 

「これが…アタシ」

 

「レオ様の炎と雷と共に歩める、水と氷の力でござる」

 

「よぉし、行くよベッキー」

 

「うん」

 

 変身が完了した2人は颯爽とシンクの後を追あのであった。

 

 

──────────────────────────

 

 

 吹き飛ばされたニワは地面に落ちると身体を起こし、追ってきたシンクに視線を向ける。

 

「今までの中では一番の攻撃…小僧、少しはやれるようになったようだな」

 

 ダメージを受けたことになる怒りより、漸く真面な戦いが出来る相手が現れたことによる喜びの方が勝っていた。

 

「言ったろ、まだ終わりじゃないって」

 

「確かにその通りのようだ。だが貴様1人では何も出来まい」

 

「1人じゃない!」

 

「私達もいるよ!」

 

 そこへ上空からレベッカとナナミが来た。

 

「ベッキー!それに…ナナミ!?その姿、もしかして君も!?」

 

「そうだよ。【精霊結晶】で私もパワーアップしたんだ♪」

 

 ナナミはシンク達と同じ土俵に立てたことへの嬉しさでVサインを作る。勿論そのことにはシンクも心から喜んでいた。

 

「フン、貴様等が如何にパワーアップしたところで、無駄だ!この俺を倒すことは出来ん!!」

 

「そんなことはない!」

 

「貴方の言う通り、私達一人一人の力は君に及ばないかもしれない」

 

「でもアタシ達は信じてくれる友がいる、支えてくれる仲間がいる」

 

「僕達の最大の武器、それは信じ合う絆!この力で君を倒す!」

 

 3人の勇者VSニワ、第二回戦が幕を開けた。

 

 

 先ず先陣を切ったのはレベッカ。腰のケースからカードを取り出し投げると、光のレーザーとなる。先程と同じ攻撃にニワは鼻で笑い同じように自慢の鎧で受けてやろうとした。しかしそれは間違いだった。

 

 レーザーが当たると身体が押されて吹き飛ばされそうになるが、足を力を入れ踏み留まるがよろける。ダメージを受けたのだ。

 攻撃方法は殆ど変わっていないが、さっきと違い重みがあった。それも自身の鎧でも分かる程に。

 

「ハァーー!」

 

 するとそこに追い討ちを掛かるように、水上ジェットスキーで正面近くにまで来たナナミが、持っていた槍に水を纏わせ突き付ける。ニワは両腕を前に出し受け止めてようとするが、威力を殺すことが出来ず次第に押され始め吹き飛ばされる。

 

「バ、バカな」

 

 レベッカ(もう1人の小娘)の時と同様自慢の鎧で受け止めきることが出来なかった。それはつまり、勇者達(アイツ等)全員自身よりも強くなっていると言うことでは?

 いやそんなことあり得ない、ある筈がない。パワーアップしたとは言え死刃の称号を持つ自分が、たかが人間のガキ3人に追い込まれる等あってはならないのだ。

 

「まだまだ行くよ!」

 

 勢いを取り戻したナナミは止まらず水上ジェットで急接近。ニワは近くにあった木を引っこ抜き投げ付ける。ナナミはそのまま木を斬り裂いた先には【泥州胴折り(ですどおり)(つう)】 を繰り出すニワの姿が。

 だが攻撃が当たる直前、シンクが猛スピードでナナミを抱え通り過ぎ不発となる。

 

「ナナミ、あんまり無茶はしないでよ」

 

「シンク…ありがとう」

 

 シンクはナナミをゆっくり降ろす。着地したニワは上空にいるシンク達を睨み付ける。

 

「己ェ、ならこれならどうだ!」

 

 ニワは掌をシンク達にへと向け虚閃を放つ。それに気付いたシンクは両腕で【紅炎剣】を発動させる。

 

「ダブル紅炎剣!」

 

 2つの炎の刃と虚閃がぶつかり合う。どうやら威力は虚閃の方が上のようで、次第に押され始め少しずつ後退されていく。そんな時後ろからナナミが棍棒を紅炎剣に携える。

 

「ナナミ!?」

 

「シンク、アタシの力も貸すよ。なんてたってシンクとアタシの力が合わされば、無敵なんだから♪」

 

「ナナミ、ありがとう。ウォォーーー!!」

 

 2人の炎と水の力が合わさり、一回り太くなった炎水の刃の方が虚閃を押し返し始め、遥か上空にへと吹き飛ばした。

 

「何!?」

 

「これでトドメだ!」

 

 シンクは飛行機から飛び降り、2つの柄同士を合わせツインランサー状にさせる。火力が上がった剣から放たれるは最大の技…

 

 

 

必殺技【炎王牙(えんおうが)】!

 

 

 

「ハァァーー!」

 

 

 …そのまま一気に振り下ろされた炎の刃でニワを一刀両断した。

 

 

 

 

 

「ギィヤァァァーーーー!」

 

 

 

 

ドカァァーーーーン

 

 

 

 

 

 ニワの身体からバチバチと電気が走り、絶叫しながら大爆発を起こし炎に包まれる。

 

 少し離れたところに着地するシンク、その近くにナナミとレベッカも降り、それぞれ変身を解除させ元に戻る。

 

「フゥ〜、やったね2人共」

 

「うん、どうなることかと思ったけど勝てて良かったね」

 

「やっぱアタシ達が力を合わせれば敵なしだね」

 

 ナイスなコンビネーションで強大な敵を倒したことへの喜びに浸る3人。何はともあれ竜の森を苦しめていた魔物も無事討伐した(?)ことだし、これにて一件落着…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …とはならなかった。

 

 

 

 

 

 

 カン、カン、カン

 

 

 

 

 …燃え上がる炎の中から下駄の音が響く。そして煙の中からニワがフラフラになりながらも立っていた。あれだけの攻撃を受けたのにまだ立っていられる、そのタフさに度肝を抜かれる。

 

「ハァ、ハァ…まさか…俺が…死刃であるこの俺が…こんな小童如きに…深傷を負わされると…何と言う失態…」

 

 死刃である自分がパワーアップしたとは言え、たった3人の子供相手に深傷を負わされたこと、そして彼等を甘く見ていた自分自身に腹が立った。

 

「ハァァ…だが、それもここまでだ。…俺も…本気でヤることにする…覚悟するがいい」

 

 殺気に当てられるも3人は臆することなく結晶を取り身構える。そんな時突如ニワの動きが止まる。

 

「ハァ、ハァ、何だ?俺は今、任務執行だぞ。…煩い、それより用件は何だ?…デストロイヤー様が!?…分かった、直ぐ戻ろう」

 

 誰かとの話を終え戦闘再開すると思い構える3人だが、返ってきたのは意外な答えだった。

 

「…貴様等の相手はここまでだ」

 

 何と戦闘中断を言い渡したのだ。先程まで放っていた殺気も消えており訳が分からず戸惑う3人。

 

「エッ!?それってつまり…」

 

「戦いは終わってこと?」

 

「どうしていきなり?」

 

「我が主人から名で戻って来るように言われたのだ。故にこれにて失礼する」

 

 すると突如上空に複数の亀裂が入り、口のように大きく開く。その中から一筋の光が降り注ぎ、ニワとリンシーズを包み込む。そしてその光に吸い込まれるように上空にへと浮かび上がる。

 

「勘違いするなよ!今回は俺の負けだが、俺は必ず戻って来る。その時こそ貴様等の最後だと思え!その時まで首を洗って待っているがいい!!」

 

 その言葉を最後にニワ達は裂け目の中にへと消えると、入り口は閉じ消滅する。

こうしてフロニャルドは再び3人の勇者によって救われた。だがニワは「必ず戻って来る」と言っていた。いつの日か、またこの世界に現れるかもしれない。

 

 

 それでも今は勝利したこと、皆んな無事だったことに喜ぶのであった。

 

 




ニワがボロボロにされて撤退していきました。死刃がボコボコにされてそのままというのは何気に今回が初めてです。でもニワをそうさせたのにはちゃんと理由があります。でもそれが明かされるのは随分先になってしまいますが(汗)。

後裏話として今回の話、制作当初は違う展開にする予定でした。
知っている方ならご存知かと思いますが、本文に書いてあった通り「dog days」と言う作品には2種類の戦があります。そして最初は戦興業の最中ニワが現れ戦いになる的な展開でした。
でも失礼ながらニワの実力で勇者3人含め、各国の名高い武将達を1人で相手にするのは無理、大量のリンシーズがいるとは言えほぼ不可能です。

そんな時3カ国で魔物討伐をした話があったことを思い出し急遽展開を変更したのです。その時には3カ国別々の場所で戦い、勇者達とも離れていましたから。

そして、これで登場していない死刃も遂に後1人となりました。登場させる作品も決定しています。しかしついこの間決まったばかりなので、全く構成が出来ていない状態です。なのでまた遅れると思います。今年中には完成させるのでお待ちください。

感想等あればお願いします。


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20話 世界最強のデビル

どうも皆様アニメ大好きです。

漸く最後の死刃の話が完成しました。メンバー全員を出せた、ここまで来るのに長い道のりでした。書いている途中で「こっちの方がいいかも」と思い何度も展開を書き換えたりして大変でした。でもその分書き上げた時には大きな達成感がありました。

今回の登場作品はまたマニヤックな作品かと思います。6年前にアニメ化したけど、第二期どころか放送終了してから1年後には最新の情報もないので新作がないと思われるのが残念です。
しかし資料集めのため、もう一度その作品を観たらまた興味を持ちました。よくありますよね、昔見た作品をもう一度見るとかなりハマってしまうと言うケース。それもあって遅れてしまいました、申し訳ありません。

長話(?)はこのまでにして、本編へどうぞ。


とある世界の小さな島

 

 そこで今複数の巨大な影があった。

 

 全身黒く鋭い刃を模した両腕、その両腕の先と目と顔、胸の部分にある複数の黄色い発光体、まるでとあるヒーローに登場した最強と名高い存在に似た10m近くある巨大な怪物が複数いたと思われる。何故過去形なのかと言うと、殆どは頭部と思われるところが破壊され動かなくなっていたからだ。

 そして残っていた2体も最早虫の息に近い状態。そしてその巨大生物を見下ろす、彼等よりも小さな影が複数あった。

 

『つまらん。頑丈さ以外は大したことがない奴等だ』

 

「所詮は見た目通りただデカいだけの生物でだったか」

 

「このままトドメを刺してやる「待て」ッ!〇〇様!!」

 

 彼等の後ろに別の怪物が現れると、彼等は慌てて頭を下げ跪く。怪物は彼等の間を通りまだ辛うじて生きている2体の巨大生物に手を翳すと掌から電撃が放たれる。電撃を食らった巨大生物達は気絶したのか項垂れ動かなくなる。暫くして顔を上げた怪物達は、怪人の前まで移動すると自身達を苦しめた怪物達同様頭を下げ跪いた。

 

「今この時をもって貴様等は儂の僕となった。よって儂の世界支配に手を貸すのだ。お前達もだ。この世界の連中にお前達の力を知らしめろ!そしてこの世界を、力尽くで征服するのだァ!!」

 

 

『オォォーーーー!!』

 

 

 怪物の声に応えるようにその場にいた全員が雄叫びを上げ、夜空にへと響くのであった。

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 海に浮かぶ人工的に作られた島とも言える船【海上学園都市リトルガーデン】。そこは人類を襲う存在【サベージ】に対抗するための拠点にして【武芸者(スレイヤー)】育成施設である。

 

 

 【サベージ】───それはある日突然、隕石と共に飛来した謎の地球外生命体。彼等は何のために地球に飛来したのか、そして目的は何なのかが分からない、未だに謎多き存在である。

 

 

 そして人類は【サベージ】に対抗するため、隕石の欠片から発見された『ヴァリアブルストーン』と呼ばれる赤い鉱石を原料に武装兵器【ハンドレッド】を生み出し、その【ハンドレッド】を用い【サベージ】と戦う存在を【武芸者(スレイヤー)】と呼ぶ。

 【ハンドレッド】は触れることによって様々な形に変化する。故に人によって武器の形状が違う。しかし特定の人間しか反応しない上、その殆どが学生を始めとした子供達。故に【学生都市リトルガーデン】を創設したのだ。

 

 そして今年この学生に入学した生徒の中でも、かなりの注目を浴びている生徒が約2名いた。

 

 

「ふぅ〜、もう少しエナジーを上手く使いこなせるようにならないとな」

 

 この男性は【如月ハヤト】。入試の時ハンドレッドの反応数値が歴代トップと言う成績で入学。さらに入学して半年もしない内に、サベージを2回も撃退すると言う功績を残した期待の武芸者(スレイヤー)。そして彼は自主トレーニングを終え訓練所から出てきたところであった。

 

 

「お疲れ様、ハヤト。でも前よりも使い方が良くなっていたよ。だから自信持って」

 

「ありがとうエミリア。そう言ってもらえるだけでも嬉しいよ」

 

 今ハルトと共に訓練所から出て会話をしているのが【エミリア・ハーミット】と言う女性。しかもとある国の第三王女である。入学当時はとある理由で男装し【エミール・クロフォード】と名乗っていた。そしてハルトに引けを取らない程の実力者である。

 

 

「ハ〜ヤ〜ト♪」

 

「うわっ!サ、サクラ!?」

 

 今背中からハヤトに抱きついたピンク髪のツインテール少女は【霧島サクラ】。圧倒的な人気を誇る世界的歌姫。とある島でハルトがサベージを倒したことで彼を自身のボディカードに指名。その最中、幼い頃に出会った少年であることを知り好意を抱きリトルガーデンに入学、それ以降アプローチをしている。

 

「ちょっと!あんまりハヤトにくっ付かないでよ!」

 

「良いじゃないこれくらい♪」

 

「良くない!」

 

「おい、2人共落ち着いて…」

 

 そんな3人のやり取りの中、さらに別の3人の女性が近づいてくる。

 

「貴方達!一体何をしているんですか!」

 

 2人に注意を掛けたロールツインテールの金髪の女性は【クレア・ハーヴェイ】。リトルガーデンの館長にして、学生達を束ねる生徒会長。今まで多くのサベージとの抗戦で高い実績を残しており、その強さから『絶対無敗の女王』と言う名の異名を持つ学園最強の女王(クイーン)。そしてリトルガーデンを設立したワルスラーン社のお嬢様でもある。

 

 

「如月ハヤト、女性2人に抱きついてハ、ハシタナイとは思いませんの!」

 

「いや、抱きついているのは俺じゃなくて、エミリアとサクラの方なんですけど…」

 

「もう〜。いっつも良いところで来るんだから。もしかして会長、僕とハヤトがイチャついてのが悔しいの〜?」

 

「なッ!ななな、何を言っているんですの!!」

 

「無礼だぞ、エミリア・ハーミット!」

 

 こちらの緑髪で褐色肌の女性は【リディ・スタインバーグ】。クレアと同じ生徒会所属で副会長の1人。貧しい家庭に生まれ、生活の為に軍に入隊することを目標にしていた。そんな時クレアと出会いその実力を買われ、彼女の右腕的存在となる。その為クレアのことを大いに尊敬している。

 

「そうです。クレア様に限ってそのようなことある筈がありません」

 

 そしてもう1人の眼鏡を掛けた女性は【エリカ・キャンドル】。彼女もまた生徒会所属にして副会長の1人。嘗てサベージに襲われていた所を、クレアに助けられたことをキッカケに彼女に憧れ崇拝している。

 

 

 この生徒会3人、そしてハヤトとエミリアを含めた5人は、生徒会直属の選抜部隊────【セレクションズ】のメンバーである。

 

 

「兎に角、2人とも今すぐ如月ハヤトから離れなさい!」

 

「いいじゃない別に。減るもんじゃないんだから」

 

「そうだよ。もしかして会長、自分がこう言うこと出来ないからって僻んでるの?」

 

「な、何をバカなことを言って!」

 

「ちょ、2人共落ち着けって。会長も落ち着いてください」

 

 

 最早お約束と言ってもいい展開になっていたその時…

 

 

 

 

 

 

 

バリン

 

 

 

 

ドカーーン

 

 

 

『!?』

 

 

 

…リトルガーデンのバリアを突き破り何かが上空から飛来、その衝撃で轟音と共に艦船が大きく揺れる。

 

「な、何だ!?」

 

「何が起きたの?」

 

「今の揺れは一体…」

 

 

 

 

ヴー、ヴー

 

 

 

『緊急事態が発生しました!付近の皆様は速やかに避難してください!』

 

 

 突然の事態に戸惑っていると、いきなり警報が鳴り響き、更にはアナウンスが発令する始末。すると彼等の共に一本の通信が入る。

 

『皆!』

 

「博士、一体何があったのですか?」

 

『それについてだが、一旦こっちに来てくれ。詳しくはそこで話す』

 

「…分かりましたわ。リディ、エリカ行きますわよ。如月ハヤトとエミリア・ハーミットもいいですわね」

 

『はい、クレア様』

 

「了解です、会長」

 

「分かった」

 

 クレアの指示で5人はその場を後にしようとする。その時ハルトが残ったサクラのことに気付き、振り返ると彼女の元へ戻る。

 

「サクラ、お前は安全なところへ避難するんだ」

 

「だったら〜、私もハヤトと一緒に行こうかな」

 

「エッ!?だけどサクラはセレクションズじゃあ…」

 

「じゃあ、ハヤトはこの騒ぎの中1人で行けって言うの?」

 

「そ、そう言う訳じゃ…」

 

「それに、少なくてもハヤトと一緒の方が安全だと思うけど♪」

 

 確かに現状況では、下手に動けば騒ぎに巻き込まれる危険性も。今はハヤト()と一緒にいた方が最も安全だと言える。

 

「…分かった。絶対離れるなよ」

 

「うん♪」

 

 ハヤトはサクラを連れながら皆の元へ向かうのであった。

 

 

 

───────────────────────────

 

 

 呼ばれた彼女達がとある部屋の前に辿り着くと扉が開き中に入る。そこには大勢の人がコンピュータを操作しており、その中心にあるデカいモニターが市街地を映し出されていた。

 

「シャーロット博士、一体何があったのですか!」

 

「サベージの襲撃か!?」

 

「いや、違うが。しかしそれに似たモノであると言っていいだろう」

 

「どう言うこと?」

 

「これを見てください」

 

 1人のオペレーターがキーボードを操作してモニターに映し出されたのは、上半身裸で筋肉質、全身青黒い肌、鋭く釣り上がった黄色い瞳、鋭く尖った4本の牙、右肩に羊左肩に牛の顔を模したプロテクターらしきモノを付け、尾骶骨付近から伸びた太い尻尾を生やしたサベージとは全く違う怪物が都市を破壊しまくっている映像であった。

 

「何、コイツ!?」

 

「あれもサベージなの?」

 

「分かりません。でもエネルギー反応もこれまでのサベージとは全く異なっています。もしかしたら新種のサベージ、若しくは暴走した【ヴァリアント】かもしれまん」

 

 【ヴァリアント】とは何らかの理由、若しくは戦闘中に受けた傷口からサベージの体液が体内に入ってしまった武芸者(スレイヤー)のことである。その者達は従来の武芸者よりも強力な力を発揮することが出来るできる。しかし取り合えた体液が活性化してしまうと性格が好戦的になり、自制が利かなくなってしまうのだ。

 

 

 因みにハヤトとエミリア、そしてこの間学園を襲撃した者逹もその【ヴァリアント】である。

 

「うわ〜、何この部屋!秘密基地って感じでスッゴイ!」

 

「サクラ!?何で君がここに!?」

 

「何でって、ハヤトに連れて来てもらったのよ♪」

 

「如月ハヤト、何故セレクションズでない一般生徒の彼女をここに連れて来たのですか!」

 

「し、しかし会長。あのままサクラを1人にする訳にもいかなかったですし、それに此処なら他と比べれば安全ですし」

 

 その考えに一理あったので何も言えなくなってしまう。エミリアはハヤトの腕に抱き付き笑顔を浮かべるサクラに、悔しいっと言わんばかりに顔を赤くし頬を膨らませる。クレアも面白くないようで少し険しい顔になっていた。

 

「まぁまぁ君達、今はこっちをどうにかするのが優先だろ」

 

 シャーロット博士の指摘で冷静さを取り戻し気持ちを元に戻す。

 

「確かに今はリトルガーデンを死守することが最優先です。例え敵がサベージであろうとなかろうと、これ以上の破壊行為を見過ごす訳にはいきません。セレクションズ出動です!!」

 

『了解!!』

 

 クレアの言葉でセレクションズ5名は部屋を出るのであった。

 

 

───────────────────────────

 

 

 リトルガーデン都市部

 

 

 普段なら人々の活気に溢れているのだが今は違う。建物が破壊され、至る所に残骸が散らばり、街は炎に包まれて人々は逃げ惑っていた。すると1箇所で爆発が起きる。

 

「何なんだコイツ…」

 

「私達の攻撃が全然効かないなんて」

 

 そこでは【フリッツ・グランツ】と言う男性と【レイティア・サンテミリオン】と言う女性、2人の武芸者が1人の怪人に圧倒されていた。何かが落下した時その近くにいた2人は、現場に向かうと舞い上がる煙の中から大柄の怪人の姿があった。そして怪人はイキナリ都市を破壊し始めた。

 2人はハンドレッドを展開し止めようとしたが全く歯が立たず逆に返り討ちに合い現在の状況に至る。

 

「貴様等の力はそんなものか?つまらん。このままトドメを刺してくれる!」

 

「待て!」

 

 そこにヴァリアントスーツを纏い、ハンドレッドを装着したハヤト達が到着する。

 

「ハヤト!それに会長達も!」

 

「2人とも無事か!」

 

「よくここまで持ち堪えてくれました。後は私達に任せない」

 

「エッ!?しかし…」

 

「私達も【セレクションズ】の一員なんです。一緒に戦わせてください」

 

「…気持ちは分かりますが、貴方達は今の戦闘でエナジーが切れかけているでしょ」

 

「今お前達がいても足手まといになるだけだ」

 

「そうです。貴方達も早く避難しなさい」

 

 悔しいが生徒会メンバーの言う通り。怪人との戦闘でかなりのダメージを食らった2人はエナジーが限界に近い。それに彼等は【セレクションズ】に入って他のメンバーと比べると日が浅く経験が少ない。今の自分達は間違いなく彼等の足を引っ張るだけのお荷物になるだけだろう。

 

「…分かりました、後を頼みます。レティ、行くぞ」

 

「フリッツ、でも…」

 

「副会長の言う通り、今俺達が居ても邪魔になるだけだ。それともお前は会長達の足を引っ張りたいのか?」

 

「…分かった」

 

 フリッツの説得でレイティアも渋々ながら納得しこの場を離れた。

 

「何だ貴様等は?」

 

「私はこの学園の生徒会長【クレア・ハーヴェイ】です。そう言う貴方は何者ですか!」

 

「ワシか?ワシは【デモゴルゴン】。世界最強の【デビル】じゃ!!」

 

 【デモゴルゴン】と名乗った怪人は、いきなり口から火を吐き攻撃してきた。ハヤトが皆の前に出てエナジーを集中させNバリアを展開し防ぐ。

 

「…それで防いだつもりか?食らえ【アギラオ】!

 

 同じように口から炎を吐き出す。だが先程よりも威力が強くバリアは次第に押され始めてくる。

 

「皆んな、俺が防いでいる間に」

 

「分かりましたわ。リディ、エリカ、行きますわよ!」

 

『はい、クレア様!』

 

 彼が防いでくれている間に、副会長2人が左右に別れ、エリカがエナジーで鎖を形成させ縛り上げ動きを封じる。その隙にリディが槍を突き出し攻撃を仕掛ける。

 しかしデモゴルゴンは鼻で笑うと、何と力付くで鎖を引きちぎってしまい、迫り来る槍を片手で受け止めてしまった。振り払おうと力を入れるリディだがビクともしない。

 

「くだらん」

 

 逆にデモゴルゴンが腕に力を入れたら、掴んでいた刀身が「バキンッ」と折れてしまった。そして空いていたもう片方の腕で殴り掛かる。咄嗟に盾で防ぐがあまりの威力に耐え切れず吹き飛ばされてしまい、身体は地面に打ち付けられる。

 

「リディ!大丈夫!?」

 

「あぁ、問題ない」

 

「この程度か、貴様等の力は?飛んだ期待外れだな」

 

「それはどうでしょうか?」

 

 クレアの声に反応した時には、自身の周りを6つの砲台が取り囲んでいた。そして一斉に砲撃が放たれ爆発を起こす。『絶対無敗の女王』と言う名の異名を持つ彼女の攻撃を、この距離で食らっては流石にタダじゃ済まない筈。誰もがそう思った。

 しかし爆煙が晴れると、そこには炎に包まれている無傷のデモゴルゴンの姿があった。

 

「今のは良かった。後少しバリアを貼るのが遅ければ手傷くらいは負っていただろう」

 

「そんな!?気高き戦姫(アリステリオン)の砲撃を防ぎきったと言うの!?」

 

「バカな!?クレア様の攻撃をあの距離で食らって無傷だなんて!?」

 

「あり得ません!?」

 

 自慢の攻撃が防がれたに驚くクレア。2人の副会長も崇拝する彼女の攻撃が全く通じていないことにショックを受ける。

 

「次はワシの番だ、【ガイアバスター】!!

 

 拳を勢いよく地面に打ち込むと、無数の岩の破片が浮かび上がる。そしてその破片が一斉に降り注ぎ襲い掛かる。

 

 クレアは6つの砲台を使って次々と破片を撃ち落としていく。茂志全てを相殺することは出来ず、一つの大きな破片が動けないリディにへ迫る。するとエリカが急いで駆け付け前に出て、Nバリアを展開して防ぐ。

 

「どうしたどうした、守るだけで精一杯か?」

 

「君こそ、相手は会長達だけじゃないってこと忘れてない?」

 

 死角に入っていたエミリアが後方から剣を振り下ろそうとした時、彼女の足に尻尾が巻き付き身体を地面に打ち付けた。それを1回、2回、3回と何度も繰り返す。

 

「止めろォーー!」

 

 そこへエミリアを助けようとハヤトが突っ込み剣を振り下ろした。しかしその剣はデモゴルゴンの剛腕に受け止められてしまい、もう片方の手で頭を掴まれる。

 

「そんなモノで、ワシの【鋼皮】に傷を付けられると思ったか?」

 

 そのまま頭から地面に打ち付けられ、エミリアと共にクレア達のいる方へと投げ付けられる。

 

「2人とも大丈夫か?」

 

「…はい」

 

「何とかね…」

 

「貴様等、ワシの力がこんなモノだと思ったら大間違いだ」

 

 デモゴルゴンの右拳に赤いエネルギーが纏わりつく。そして右腕を勢いよく突き出すと、纏ってたエネルギー【虚弾】が高速で放たれる。クレアとエリカはNバリアを展開して攻撃を防ぐ。

 

「防いだか。だが、いつまで耐えられるか?」

 

 今度は両拳に虚弾を纏わせ交互に突き出す。それを連続で何度も何度も突き出し連射する。2人は尚攻撃を耐え続けるが、早い速度で放たれたことで威力も上がっているであろう攻撃を受け続けエナジーを消耗していき、次第にバリアに罅が入り出し亀裂が大きくなっていく。

 そしてデモゴルゴンは両腕を同時に突き出し虚弾が2つ放たれると、遂にバリアは砕け散る。さらに追撃で放たれた2つの虚弾がそれぞれに命中し、3人の元へと吹き飛ばされる。

 

「どうだ、これがワシの力だ!貴様等が幾ら束になったところで、『最強のデビル』にして【死刃】であるワシに勝てるわけがないのだ、ブハハハハ!!」

 

 5人の倒れる姿を見て高笑いをする。するとクレアが立ち上がり皆を守るように前に出る。

 

「まだまだですわ。皆をこれ以上傷付けさせませんわ!」

 

 残っている砲台を向けて威嚇する。しかし彼女の守る姿勢がデモゴルゴンに取っては不快で仕方なかった。

 

「…小娘、何故後ろの奴らを庇う?ソイツ等にそこまでする程の価値があるとでも言うのか?この場所にいる人間共に対してもそうだ。弱い連中を守ったところで、お前に何の得もないだろうに?」

 

「…そんなの関係ありません。彼女達は私の大切な存在です。それを守るのに価値とか得とか関係ありませんわ!それに私はこの学園の生徒会長。生徒達を守る役目があります!【ノブレス・オブリージュ】────力ある者は、力無き者のためにその力を振るう、それこそ私の理念なのですから!!」

 

 良いところのお嬢様ではあるが、決してそこに驕ることなく強い責任感を持ち『力ある者は、力無きも者を守るべし』と言う【ノブレス・オブリージュ】────それがクレア・ハーヴェイ(彼女)が持つ信念である。力ある発言をした彼女の姿を副会長2人は勿論、ハルトとエミリアも素直にカッコいいと思った。しかし…

 

 

「力無き者のために力を振るうだと?笑わせるな小娘が!この世は力が全てだ!強者は弱者を好きなように出来る。力ある者こそ、全てを支配する権利があるのだ!」

 

 

 …“力は己の私利私欲のために使う”と言う考え方のデモゴルゴンには、”他人のために力を使う”と言うクレアの考え方は理解し難いことであった。

 

 

「このまま貴様等を始末することは容易いが、それでは面白くない。…出でよ、我が従属官共!!」

 

 両腕を広げ叫ぶと、後方に複数の黒い渦が出現。そこからなんと2体のサベージが現れたのだ。しかもそれだけではない。

 サベージの他に両腕に鋭い爪を生やした巨大な赤い蜥蜴、背中に小さな羽根を生やした緑色のライオン。他にも頭部、両肩、両下腿部に黒いプロテクターを纏った赤い恐竜、頭部に巨大な角を生やし、背中にも無数のトゲを生やした四つ目のバッファローが現れる。

 

 全員見た目は全然違うが一つ共通していることがある。それは、それぞれ身体の部位に同じ紋様が記されていること。

 

『お呼びでしょうか、デモゴルゴン様』

 

「この街を徹底的に破壊し尽くせ!コイツ等に己の無力さを思い知らせてやるのだ!」

 

『「「「ハッ!」」」』

 

 命令を受けた4人の怪人と2体のサベージは、それぞれ別々の方向へと進み出す。それを阻止しようとクレアは砲台を向けるが、飛んできた虚弾によって破損してしまう。

 

「貴様等の相手はワシだ。どうしてもアイツ等を止めたいなならワシを倒してからにしろ、ブハハハハ!」

 

 高笑いし行手を阻むデモゴルゴン。このままリトルガーデンが破壊されるのを見ているしかないのか。

 思考が絶望に染まろうとしていたその時、1体のサベージの頭が突如爆発を起こす。それにより頭部が破損し弱点であるコアが剥き出しとなる。そこに1つの影が現れ大剣のような武器でコアを突き刺し破壊。コアを失ったサベージはそのまま機能停止し崩れ落ちた。

 

「な、何!?」

 

「何が起きた!?」

 

 突然の出来事に慌てる怪物達。すると倒れたサベージの近くに3つの人影が降りる。それは先日この学園を襲撃したヴァリアント達【クロヴァン・オルフレッド】、【ネサット・オルフレッド】、【ナクリー・オルフレッド】であった。

 

「貴方達、何でここに!?」

 

「なんで?そんなの決まってるじゃん。アンタ達を助けに来たのよ」

 

「如月ハルト、私は貴方に救ってくれた。その恩を返したい」

 

「そう言うこった。それに借りを返せないままくたばられたんじゃ、こっちも気分悪いんでな」

 

 リトルガーデン襲撃時にネサットが暴走してしまった時、それを止め助けたのがハルトであった。大切な家族を救ってくれたハルトは彼等にとっては恩人、その恩人のピンチに黙っている程、薄情者ではない。

 

『チッ、だがたった3匹増えたところで何が出来る』

 

「3人だけじゃないですよ!」

 

 女性の声が聞こえたと思ったら、上空から鎖が付いた鉄球が飛んできて残っていたサベージの頭部を破壊しコアが露わになる。身体がグラ付きバランスが崩れたところに1つの人影が飛び出し、そのまま鉄球でコアを押し潰され呆気なく戦闘不能にされ崩れ落ちる。

 

 そしてその人影は地上に降り立つと、エミリアに視線を向ける。すると突撃する勢いで距離を詰め迫り、エリミアに顔を抑えられる。

 

「エミリア姫様ァァーー、ご無事ですかァァ!!」

 

「クラウディア!?何でここに!?」

 

「貴方様のためならこの【クラウディア・ローエッティ】何処へでも参上いたしますゥ!」

 

 彼女はエミリアの幼馴染であり友人であるが、エミリアのことを過剰なまでに崇拝し友人以上の感情を持っている。

 まるで眼鏡をかけた誰かさんみたい…。

 

「バカな。サベージ(アイツ等)をほぼ一撃で倒すとは…」

 

「それも一体は一匹の人間に倒されただと!?」

 

 生徒会メンバーを始め、多くの修羅場を潜り抜けた武芸者(スレイヤー)なら2、3mくらいの大きさのサベージなら簡単に倒せる。しかし10m近くの大きさ奴なら話は別。幾ら凄腕の武芸者(スレイヤー)でも簡単に対処するのは不可能に近い。しかしその10mクラスを、呆気なく倒されてしまうと言う予想外の事態に怪物達は慌てる。

 

「くだらんことで一々騒ぐな!サベージ共(奴等)は気まぐれで僕にしたようなもんだからな。倒されたところで変わせん。それにたかが人間共が数人増えたところで大したことなどない」

 

 だが主人のデモゴルゴンはただ気まぐれで、自身の部下にしたから倒されても特に気にしていなかった。それに実際、目の前の武芸者(スレイヤー)と手合わせしてサベージでは相手にならないと悟っていたのかもしれない。

 

「だが次から次へと、ワシの邪魔をしたからには生かしてはおけん…お前達あの人間共を始末しろ!」

 

『「「「ハッ!」」」』

 

「…クラウディア、僕に力を貸してくれるよね?」

 

「勿論です!エミリア様のためなら、このクラウディア何でもいたします!!」

 

「それじゃあ向こうの怪物の相手はお願いね」

 

「はい!…エッ?あの〜エミリア様は…」

 

「僕はハヤトと会長達でこっちを相手にしなきゃいけないから、宜しくね♪」

 

「そんな、エリミア様ァァ!私もエミリア様と一緒に「クラウディア、言うこと聞いてくれたら何でも一つお願いを聞いてあげても良いよ」分かりました!行ってきまァァーーす!!」

 

 そう言ってクラウディアは走って行った。

 

 

「エミリア…あんなこと言った良かったのか?」

 

「…クラウディアを説得するのに思い浮かんだのがあれしかなかったんだ。ハァ、でもどうしよう」

 

 非常事態なったとはいえ、あんなことを言ってしまったことに、憂鬱になりながらも戦いを再開するのであった。

 

 

──────────────────────────

 

 

『餓鬼共、お前達の相手は俺達だ。しかしあのサベージ(デカブツ)共を一撃で倒すとはやるな。だがサベージ(デカブツ)共を倒したくらいで調子に乗るなよ』

 

「俺達をサベージ(アイツ等)と同じだと思ったら大間違いだ」

 

 挑発的に発言する怪物達。しかし…

 

「エミリア姫様のお願いなので仕方なく手を貸してや・るです。有り難く思うのです」

 

「何上からモノ言ってるの。調子に乗らないでよ」

 

「お前こそ俺達の足を引っ張るんじゃねェぞ。チビ」

 

「誰がチビですって!?もう一度言ってみやがれです!」

 

…喧嘩していて全く聞いていなかった。

 

『お前等、俺達を無視してんじゃねェ!』

 

 無視されたことで逆上した彼等は炎や光線を放つ。それによって4人は散開し二手に分かれてしまう。

 

 

 

 クロヴァンとガネットの前に立ち塞がったのは巨大な蜥蜴と、羽の生えたライオンであった。

 

『お前達相手はお前等か。我が名は【クロークルワッハ】!デモゴルゴン様直属の従属官の1人だ!』

 

「俺は【マンチィコア】!同じくデモゴルゴン様の従属官だ!」

 

 巨大な蜥蜴は【クロークルワッハ】、羽根の生えたライオンは【マンティコア】と名乗る。

 

「伝説の獣と同じ名前…」

 

「コイツは倒し甲斐がありそうだな。だがそのデカい身体で俺達の動きに付いて来れるか?」

 

『この餓鬼共…その減らず口、今すぐ叩けなくしてやる!【マハラギ】!』

 

 馬鹿にされたことで逆上し、口から高熱の火炎を吐く。3人は回避し、クロヴァンが先陣を切り突撃、振り上げた大剣を勢いよく振り下ろす。クロークルワッハは鋭い爪を盾にして受け止め払い除ける。さらに腕を振るうと爪から三本の斬撃が飛び交う。咄嗟に剣で受け止め払い除けると、斬撃はそのまま地面を抉り傷跡が出来る。

 

「ヘ、中々やるじゃねェか。確かにサベージよりは手応えあるかもな」

 

『調子に乗るな!【ファイヤー・ブレス】!』

 

 再び口から炎を吐き応戦する。2人の激闘の最中、ガネットはクロークルワッハの意識がクロヴァン1人に集中している間に、視界に入らない位置から攻撃を仕掛けようとする。攻撃を仕掛けようとする。しかし彼女の背後から一つの影が現れる。

 

「【マハジオ】!」

 

 マンティコアは口から放たれた電撃がガネッサに命中し、ダメージを受け倒れてしまう。

 

「相手はこっちにもいるってこと忘れてるんじゃねェよ」

 

 自身を睨み付けるガネッサを上空から見下すマンティコア。この2人の戦いはまだまだ始まったばかり。

 

 

 

 一方クラウディアとナクリーと対峙するのは、鎧を着た恐竜と、杖を持った四つ目のバッファローであった。

 

「俺達の相手はこんなちんちくりんの小娘共か。期待外れだな」

 

ナクリー(黒い方)は兎も角、クラウディア(白髪)の方は大したことなさそうだ」

 

「誰が大したことなさそうですか!?そう言う貴方達は何者ですか!」

 

「俺はデモゴルゴン様の従属官、邪悪竜【リンドム】!」

 

「同じく邪悪竜【ナーガ】!デモゴルゴン様の邪魔をする連中は、ここで消えてもらう!」

 

「それはこっちのセリフです。お前達なんかさっさと倒して、エリミア様にご褒美をもらうのです」

 

 先手必勝と言わんばかりに鉄球を投げ飛ばす。しかしリンドムが自身の長い尻尾を振るい弾き飛ばす。その隙にナーガが杖の先端から火炎弾を放つ。

 ナクリーが両手にチャクラムを持ち相殺し、そのまま投げ飛ばす。ナーガは杖で払い飛ばしチャクラムはナクリーの手元に戻る。

 

「何やってんの。いきなり突っ込む奴がいる?」

 

「煩いです、ちょっと油断しただけなのです。それに助けてなんて頼んでないのですよ!」

 

「あぁ〜もういい!私は私だけでやる!」

 

 元々敵であったから互いに反発し合い、ナクリーはチャクラムを持ったままナーガに詰め寄る。対するナーガも杖を振るい互いの武器がぶつかり合い力比べとなる。

 

「あの女、見た目の割にやるじゃねェか」

 

「よそ見してる場合じゃないですよ!」

 

 2人の戦いを見ていたリンドムの元へ鉄球が付いている腕を振りかぶっているクラウディアの姿があった。遠距離では尻尾で無効化されてしまうとふみ、接近戦で勝負と鉄球を打ち込むが、両腕で抱え込まれ受け止められしまう。その間にリンドムは尻尾を伸ばし縛り上げ持ち上げる。

 

「食らえ!」

 

 そして尻尾を通じて電撃を流し込み、クラウディアが苦痛の叫びを上げる。電撃を止めるとそのままクラウディアを投げ飛ばす。しかも不運なことにその進路上にはナクリーがおり、2人はそのままぶつかり共に倒れてしまう。

 

「痛ッ!ちょっと、邪魔しないでよ!」

 

「こっちだってしたくてしてる訳じゃないんですよ!」

 

 息が全然合っていない2人は、不可抗力にも関わらず互いに相手を責め歪み合ってしまう。

 

「煩い奴等だ…これでも食らえ!!」

 

 一々揉める2人の姿が鬱陶しくなっていき、リンドムは胸部のクリスタルから光線を、ナーガは口から炎を吐き出す。2体の攻撃がクラウディアとナクリーの周りで発生した爆発に巻き込まれ、2人は地面に倒れる。

 

「グッハハハハハハ!やはり俺達の敵ではないな!」

 

「お前達人間共は、そうやって地べたに這いつくばっているのがお似合いだ!」

 

 2人のヤられた姿を見て笑う2体の邪悪竜。しかし2人はゆっくりと身体を起こす。

 

「…舐めんじゃないわよ。…私は何度も何度も、地べたに這いつくばるような、思いをしてきたのよ。これくらいでくたばりはしないわ」

 

「こっちだって、エミリア様からのご褒美が待っているのです。お前達なんかにヤられてる場合じゃないんですよ」

 

 互いに負けられない意地(一名不純な動機ではある)がありボロボロの身体を起き上がらせ立ち上がる。その2人の姿を鬱陶しいながらも、楽しみがいがあると思う邪悪竜達であった。

 

 

──────────────────────────

 

 

「あの3人とクラウディア・ローエッティをを相手にあそこまでの戦いをするなんて…」

 

「当然じゃ、死刃のワシが直々に選んだ従属官じゃからな」

 

「さっきも言っていたけど、その【死刃】って何なの?」

 

「…いいだろう、冥土の土産に教えてやる。ワシ等の組織は所属した順に【11】以降の番号が与えられる。その中から選ばれた最強の存在、それが【死刃】だ!死刃はそれぞれの身体に与えられた数字を記し、【11】以下の幹部から直属の部下を選ぶことが出来る。その部下を【従属官】と呼ぶ。そして…」

 

 

 デモゴルゴンが左胸部に手を翳すと、そこに数字が浮かび上がってくる。そこに刻まれていた数字は───────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ワシは第10の数字を持つ死刃─────《第10死刃(ディエス・エスパーダ)》、【デモゴルゴン】だァァ!」

 

 …あれだけの力を見せつけたデモゴルゴンでさえ、その死刃と言う集団の中では最弱。なのにこの強さなら他の死刃達の強さは想像以上。それにその彼より強い連中がまだ9人()()いる、その事実に5人は驚愕する。

 

「遊びはここまでだ、そろそろくたばるがいい!」

 

 大口を開けトドメを刺そうとする。しかしその直後動きを止めた。

 

 

「何のようだ。ワシは今…何ッ!?…だがワシは取り込んどるのだ、後にしろ。…黙れ!ワシにはワシのやり方や考え方があるのだ!」

 

 

 誰かと会話しているようだが、意見が噛み合わずイザコザが起きていた。そんな時シャーロット博士から通信が入る。

 

『皆んな無事かい?』

 

「博士!?はい、何とか」

 

『そうか、それは良かった。でも戦況は宜しくないみたいだね』

 

「エェ。あの怪物には私達の攻撃が一切効いてません。それに向こうの3人やクラウディア・ローエッティの方も芳しくない状況。このままでは全員やられてしまいますわ」

 

『…今の状況を打破出来る方法が一つだけある』

 

「何だそれは?」

 

『覚えてあるだろう、先日の湖でのサベージのと戦闘を。あの時と同じことをするんだ』

 

「エッ!?それってつまり…」

 

『そう。如月ハヤトのヴァリアントの力をクレア・ハーヴェイに与える。つまり2人がキスをすることだ』

 

『ッ!?』

 

『なッ!?』

 

「エェェェーーーー!!!」

 

 あまりの解答に全員驚愕。特にクレアは顔を真っ赤にし、エミリアは絶叫してしまう。

 

「ダメダメ、絶対にダメ!これ以上ハヤトが僕以外にキスをするなんて!!」

 

「そうだぞ、シャーロット!貴様何を言っているんだ!」

 

「クレア様の唇を、また捧げるなんてそ、そんなこと…」

 

『君達の気持ちも分からなくはない。でも、どうやらそう言ってもいられなくなってしまったようだよ』

 

 批判する3人だがシャーロット博士に指摘され顔を上げると、誰かと会話していたはずのデモゴルゴンが此方を見ていた。今の3人の会話に反応してしまったようだ。

 

「…分かった、それでいい。だが、今目の前にいる目障りな連中を倒してからだ!いいな!」

 

 武芸者達が何か企んでいると察したのか、このまま歪みあっていても埒が明かないと思ったのか、無理矢理であるが納得し会話を終わらせた。

 

『この作戦を強制はしないが、このまま戦っても勝てる確率は極めて低い。さぁ、どうする?』

 

「うぅ…分かった、分かったよ!それでいいよォ!」

 

『そっちの2人も良いかな?』

 

「…納得はしていない。していないがリトルガーデンを守るためだ。今回は目を瞑ってやる」

 

「私もです。…あぁ…またしてもクレア様の唇が…」

 

 3人とも現状を乗り切ること、そしてリトルガーデンと生徒達を守ることを理解し強引だが納得してくれた。約1名かなり精神的にきているようだが…。

 

『承諾してくれたようで何よりだ。しかしもう時間はない。3人共、少しの間アイツを惹きつけてくれないか?』

 

「OK」

 

「分かった」

 

「了解です」

 

 シャーロット博士の指示により3人はデモゴルゴンの気を引くために突撃する。残されたハヤトとクレアは…

 

「か、会長、良いんですか?またこんなこと」

 

「今は緊急事態です。つべこべ言わず早くしない、如月ハヤト。私もその…恥ずかしいのですから…」

 

 ここまで言われたら男の自分が引くわけにはいかない。

 ハヤトはゆっくりとクレアの顔に近づけ唇に触れる。ほんの僅かな時間でも2人にとって永遠の時のように感じた。

 

 両者の唇を通じてハヤトの中にあるヴァリアントの力がクレアにへと流れて込む。その間にデモゴルゴンと対峙していた3人は窮地に陥る。

 

「うわっ!」

 

「グァっ!」

 

「ハァ…ハァ…!」

 

「鬱陶しい蠅共が。そんなに死に急ぎたいのなら望み通りにしてやろう」

 

 大口を開けると、口先に赤いエネルギーが凝縮されていく。本能で分かる。あれば今までの攻撃とは全く違う、当たれば命の保証はない。しかし最早3人には動ける程の余力はなかった。もうダメかだと思われたその時…

 

 

バシュ、バシュ

 

 

 …小さな無数の浮遊物体から放たれたレーザーによって妨害され、凝縮されていたエネルギーが消失する。

 レーザーが飛んできた方に視線を向けるとクレアが立っていた。

 

 

「これ以上その3人には手出しさせませんわ!」

 

 

 ハンドレッドが全身装甲となっているが、変わったのはそれだけじゃない。彼女の瞳から先程以上の覇気を感じる。

 

「どうやら少し変わったようだが、それでワシの【虚閃】をどうにか出来ると思っているのか!」

 

「先程とは────違いますわよ!」

 

 デモゴルゴンは先程のように大口を開け、口先にエネルギーを凝縮していく。対するクレアはエナジーで大型の大砲を作り出し待ち構えエネルギーをチャージしていく。そして両者の攻撃が同時に放たれ、2つの閃光がぶつかり合う。その威力は互いに引けを取らない、互角であった。

 

「何だと!?」

 

 自身の虚閃と互角の威力の砲撃を繰り出したことに驚く。先程の砲撃よりも威力が上がっている。

 それもその筈。ハヤトとキスをしてヴァリアントウィルスを取り込んだことで、一時的にヴァリアントの力を使えるようになり能力が向上したのだ。

 

 さらにクレアの後方から全身武装となったハヤトが飛び出し剣を振るう。デモゴルゴンは先程と同じように自慢の剛腕で受け止める。だがハヤトもまたヴァリアントの力を発揮している状態、そしてエミリアを始めクレア、サクラ、副会長達、そしてリトルガーデンの皆を守りたいと言う気持ちが力となり、刃が僅かに皮膚にへと食い込んだ。

 

「何ッ!?ワシの鋼皮に傷を付けただと!?」

 

 自慢の鋼皮に傷を付けられたことに動揺し、虚閃の威力が弱まった。クレアはその隙を逃さなかった。威力を最大に上げ一気に虚閃を押され返す。そして砲撃がデモゴルゴンの顔面に直撃し、そのまま後ろに倒れひっくり返り隙が生まれる。

 

 今なら無防備、倒すには今しかない。そう思いハヤトは再び飛び出し倒れているデモゴルゴンにへと突撃し剣を振り上げる。

 

 討ち取ったと思った瞬間、突如上空に亀裂が入る。口のように開くと、そこから黄色い光が溢れ出しデモゴルゴンを包み込む。勢いで振り下ろした剣はその光に阻まれ弾き飛ばされる。

 更には従属官達の頭上にも同様の亀裂が現れ、そこから出た光に包まれる。

 

「クッ、時間切れか」

 

 愚痴を溢しながら起き上がると、そのまま吸い上げられ空に登っていく。

 

「餓鬼共。貴様等に受けたこの痛みと屈辱、絶対忘れんぞ。次にあった時には、この借り必ず返す!覚えておるがいい!!」

 

 その言葉を最後にデモゴルゴンと従属官達は裂け目の中に消え、入り口も閉じ消滅する。

 

 こうしてボロボロになりながらもリトルガーデンを守り抜け危機を脱し一件落着した─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────かに思えた。

 

 

 

 

「さぁエミリア様、お約束通り私のお願いを聞いてくださいィィ!!」

 

「ちょ、ちょ。クラウディア近い、近いって……もう緊急時だったとは言え、どうしてあんなこと言っちゃったのかな…」

 

 …その夜、とある一室で別の修羅場が行われるのであった。

 

 




はい、デモゴルゴンは10番でした。
前回のニワもそうでしたが、デモゴルゴンをどの作品に登場させるかホンットォォォォォに迷いました。中々似合うと言うか能力に適した世界が思い付かず、最近のアニメでもいいのが見つからなかったので大変でした(私の知っている範囲ですが)。

そしてハンドレッド、ISに似ていて結構面白かったので第2期くるかなっと思っていましたが、何の情報もない上原作も完結しているのでもう見込みは薄いが残念です。だから小説に限定特典として付いていたドラマcdを通販で買いました。早く聴きたくてワクワクしています。

何はともあれ、これで漸く死刃全員登場させることが出来ました。
だからと言ってこの作品が終わるわけではありません。次回は前々から言っていた番外編になります。その番外編で、まだ階級が明かされていない3名の死刃の階級も明らかに。

最後に今この作品のことについて前々から悩んでいることがありまして、死刃が全員出し終えたこれを機に皆様に質問したいと思っております。詳しくは私の活動報告をご覧ください。


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番外編
1話 悪魔と天使と堕天使の世界


皆様お久しぶりです。

来週辺り色々とリアルが忙しくなりそうなので、頑張って早めに完成したので投稿します。
今回は死刃が一通り全員出たので予告通り番外編を投稿していきます。
その記念すべき1回目はタイトルで分かると思いますが、あの「オッパイ」好きの主人公がいる世界です。一応原作前からのスタートになります。

そして今更かもしれませんが、この作品のオリ主の名前の意味が明らかになります。


 この世界には神話でよく知られる悪魔、天使、そして堕天使の3種族が人間にバレないように存在している。

 

 そして三大勢力が冥界で大戦争を起こしていた時、突如現れた赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)【ア・ドライグ・ゴッホ】と白い龍(バニシング・ドラゴン)【アルビオン・グウィバー】の2匹が暴れながら戦場に乱入してきた。

 

 2匹の争いによって戦争どころではなくなった3種族は何とかして2匹を止めようとするが『たかがカラスや蝙蝠共が俺達の戦いの邪魔をするな!!』と逆に怒りを買ってしまい凌駕されてしまう。圧倒的な力の前に天使も堕天使も、そして悪魔も多くの同胞が犠牲となってしまった。

 

 その中で将来魔王の1人となる赤髪の悪魔サーゼクス・グレモリー、後に天使長となる大天使ミカエル、現堕天使総督のアザゼルが生き残っている者達に「諦めるな」と言い聞かせるが戦況は苦しい一方であった。

 

「クソ、このままじゃ俺達全滅しちまうぞ!なんかいい案はないのか!?」

 

「こうなればあの2体を神器に封印するしかない」

 

「しかし主人が致命傷を負ってしまった今我々の力だけでは…」

 

「クソ…ここまでか」

 

 3人が諦めかけたその時、突如上空に何かが出現した。それはまるで空が口が開いているような光景であった。その中から途方もない魔力を感じ3種族だけでなくて2匹の龍も目が離せないでいた。

 そして「トン、トン」と足音が聞こえてくると中から1人の男と3人の女性が現れた。

 

「あら、何よ。外に出たらイキナリ火の海って…戦いでも始めてんの?」

 

「…確かに戦いは戦いのようだが、ただの戦いじゃななさそうだぞ」

 

「そうね。見る限り大方あの大きな2匹のドラゴンの戦闘でこうなったんじゃないかしら」

 

「いや、それだけではありませんよ。他にもあの2匹より小さいですが複数の霊圧を感じます。ーーー丁度いいですね。私はあの2匹のドラゴンを相手をしますので貴方達は生き残っている者達の安全をお願いしますよ」

 

『ハイ!』

 

 3人の女性は返事をした後出入り口【黒腔】から出ると生き残っている者達の保護に向かった。そして残った男性は黒腔から出ると2匹のドラゴンにへと足を進め近くまでやって来る。

 

『何だ貴様。たかが人間が俺達の戦いに水を差そうと言うのか?邪魔だ今すぐ消えろ』

 

「【邪魔】ね。それは貴方達の方ですよ。私達はここに観光に来たというのに貴方達の所為で辺り一面火の海じゃないですか。これでは折角の観光が台無しですね(本当は違うんですけどね)」

 

『フン、人間の分際で随分な口を聞くではないか。どうやらお前今自分の状況が分かっていないようだ。【赤いの】』

 

『フン。【白いの】貴様と共闘など不本意だが仕方ない。俺達を馬鹿にしたコイツに俺達の力を見せてやるとするか』

 

「ほぉ、それは楽しみですね。ではその力とやら見せていただきましょう」

 

 その男は2匹の龍の前で平常心を保ちながら両手を広げ戦闘態勢に入る。しかし2匹の龍は気付いていなかった。男の口元がニヤリと不気味に笑っていた事に。

 

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

 上空に突如として現れた謎の空間から現れた1人の男と3人の女性。何やら会話をしているようで女性達の「ハイ」と言う返事が聞こえ空間から飛び降りサーゼクス達生き残っているメンバーの元に降り立つ。

 

「初めましてこの世界の皆さん。私は狭霧友子。あの方の従属官の1人よ」

 

「貴様らに私の名を教えるのは癪だが特別に教えてやる。私は良田胡蝶。コイツ(狭霧友子)と同じあの方の従属官だ」

 

「アタシはチルッチ・サンダーウイッチ。私もこの2人と同じでアイツの従属官よ」

 

 約1名不本意ながらも3人はそれぞれ自己紹介を簡単に済ませる。

しかしその中の1人堕天使のアザゼルが3人の抜群のプロポーションに見惚れ鼻の下を伸ばしていた。その視線に気付いている胡蝶とチルッチはまるで汚物を見るような目で蔑み、友子に関してはいつもの様にニコやかに笑っているがその笑顔には何やら重い空気を感じアザゼルはすぐ様3人から視線を晒した。

 

「そ、それで君達は何者だ?あの辺な空間から出てきたみたいだけど…」

 

「私達?私と胡蝶は人間で、彼処にいらっしゃる私達の主人とチルッチは【破面】よ。」

 

 【破面】という聞き慣れない単語が出てきたので反応すると思ったが、彼等にとって信じられない単語が出できたのでそっちの方に反応した。

 

「に、人間だと!?お前達は人間なのか!?だとしたらなんでこの冥界にいるんだよ!?」

 

「何だ俗物、私達が人間ではいけないのか?それに私達が何処にいようと勝手だろう」

 

「ぞ、俗物だと!?」

 

「そうだ。私達を見てその薄汚い鼻を伸ばしている貴様など俗物かそれ以下だ」

 

「テメェ言わせておけば!」

 

「落ち着いてくださいアザゼル。しかし人間がここに居ては危険です。早く避難を…」

 

「それなら心配は要らないわ。私達はこの程度くたばる程ヤワじゃないもの」

 

「それにアタシ達はアイツからアンタ達に被害が及ばないよう守るように言われているの。だからアンタ達はここで大人しくしてればいいのよ」

 

 しかしその言葉を素直に受け取る状況ではないが故アザゼルが3人に食いつく。

 

「何言ってやがる!お前らの主人がやられちまうかもしれねェんだぞ!早く助けに行かねェと!」

 

 しかし3人はその言葉に「フフフ」と鼻で笑う。

 

「それなら心配要らないわ。だってあの方は──────この世で最も強い方だもの」

 

 

 その場にいた者達は己の見ているものが信じられないと言いたげに目を見開いていた。何故なら2匹の龍が男にボコボコにされていた光景が入ってきたからだ。

 

 

──────────────────────────────────────

 

 2匹のドラゴンは不本意ながらも目の前に現れた一人の男を倒そうと襲いかかる。しかし結果はどうだ。

 ドラゴン達はボロボロになり地べたに這い蹲り、男は上空でその光景を涼しい顔をしながら見下ろしている。

 

『バ、バカな。たかが人間如きが何故こんな力を!?』

 

『それに俺達の力が効いていない!?どういう事だ!?』

 

 ドラゴン達は両者とも今の自分達の状態が信じられず声を荒げていた。赤い方のドラゴンは力を倍加させる事ができ、白い方のドラゴンはその逆で力を半減させる事が出来る力をそれぞれ持っている。

 戦闘が開始された時点で赤い龍は自身の力で自分の力を倍にしブレスを吐き、白い龍も同時に自身の力によって男の力を半減させてたが、男は片手を前に出すと迫り来るブレスを一振りで払い除け、お返しとばかりに右手の指先から無数の光の閃光を放ち赤い方のドラゴンの腕、脚、腹などを貫いた。

 

 悶え苦しむ赤いドラゴンを余所に白いドラゴンは「奴が赤いのに気を取られている隙に」と尻尾で払い除けようとする。しかし男は尻尾が当たる直前残っていた片腕で軽々と受け止め力を込め持ち上げる。白いドラゴンの身体がそのまま引っ張られ彼の巨体が持ち上げられる。そして勢い良く振り下ろされ赤いドラゴンに激突する。

 

 そしてさっきの光の閃光を今度は白いドラゴンごと赤いドラゴンに向けて両手の指から連続に放たれ彼等の身体を貫く。しばらくして攻撃が止み耐え抜いたドラゴン達はその身体を起こし、今の状況に至る。

 

「この状況が信じられませんか?そんなに悩まなくても答えは簡単ですよ。貴方達の力より私の力の方が圧倒的に上という事ですよ」

 

 男が言っている事は正論である。しかし認められない。認めるわけにはならいかない。自分達は最強の種族であるドラゴン、増して最高位の二天龍とされ多くの種族から同じ他のドラゴンからも恐れられてきた最強の存在。

 そんな自分達が突然現れた人間と思わしき存在に負けているなどドラゴンとしての、二天龍としてのプライドが許せなかった。

 

『巫山戯るな!俺は二天龍の一角【ア・ドライグ・ゴッホ】だぞ!貴様のような()()なぞに弱いはずがない!』

 

『そうだ!貴様のような下等な()()などに最強の種族であるドラゴンである俺が負ける訳がない!!』

 

「………さっきから貴方達…私の事を【人間、人間】と言ってますが、随分と失礼なトカゲ共ですね」

 

 男は少し雰囲気が変わりつつ、服に手を掛けるとボタンを一つずつ取っていき胸元を開く。その胸元を見て二天龍は驚愕した。そこには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は人間じゃないんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……胸元に穴が空いていたのだから。

 

 

『…成る程。貴様が人間ではないのは分かった。しかしそれがどうした?それで俺達を臆するとでも思ったか?甘いな』

 

『白いのの言う通りだ。例え貴様が人間でなかろうと俺達に勝てると思うな。それに貴様は今俺達をトカゲ呼ばわりしたな。その事を後悔させてやる!』

 

 2匹は羽を羽ばたかせ飛び上がり目を光らせると大口を開けそこにエネルギーが集中されていく。

 

『この俺達の最大の攻撃だ!避けられるものなら避けてみろ!!』

 

『だが例え避けたとしてもこの地を吹き飛ばす程の威力がある。躱したところでどの道貴様は終わりだ!』

 

『覚悟しろ!そこの薄汚い種族諸共吹き飛ばしてやる!!』

 

 その言葉に三大勢力の者達は絶望した。逃げたとしてもこの地が吹っ飛んでしまえば何処へ逃げても同じ事。もうどう足掻いても助からない。その絶望感が身体を蝕み、中には泣き出してしまう者もいた。しかしドラゴンと対峙している男とその仲間の3人だけは平然とした表情で落ち着いていた。

 

「ほぉ、これは凄い。ではこちらもそれそうなの技を使わせてもらいましょう」

 

男は人差し指を突き出すと先端に黄緑色のエネルギーが集中し凝縮させていく。

 

 

『 『食らえ!そして消え失せろ!!』』

 

 

 

ドゴォォォォーーーーー

 

 

 

虚閃(セロ)

 

 

 

ビュゥゥーーーン

 

 

 

 2匹のドラゴンの口からそれぞれのブレスが放たれると同時に彼の手に作られた破壊のエネルギーの塊──────【虚閃】も勢い良く放たれる。両者の技がぶつかり合い物凄い轟音を発しその余波が周りの木々を吹き飛ばす。

 

『ホォ、俺達の攻撃と渡り合うとは大したものだ。だがいつまで持つかな?』

 

『白いの言う通りだ。貴様の力が今の俺達の力と渡り合う程なら、この俺の能力で力を倍加させれば貴様の力を大きく上回ると言う事になる。今度貴様は終わりだ!』

 

「……確かにこのままでは拉致が飽きませんね。ならもう少し威力を()()()としましょう」

 

 男が少し力を込めると光の閃光────【虚閃】が太くなり勢いが増した。それによってドラゴン達のブレスが次第に押され始める。

 

『な、何!?馬鹿な俺達が押されているだと!?赤いのお前の力でもっとパワーを倍加させろ!』

 

『分かっている、さっきからやっている!白いの貴様こそもっと力を入れろ!』

 

 攻撃が押されているのはお互いに「お前の所為だ」と言い争いを始める。元々敵対関係である2匹が目の前にいる相手を倒す為力を合わせて戦うなど難しい。当然といえば当然の状況である。そんな言い争いをしている中【虚閃】は2匹のブレスを押し返し続け目の前にまで迫り、そして2匹を飲み込んだ。

 

 

『『ギャアァーーーーー!!』』

 

 

 

ドカーーーーン

 

 

 

 

 2匹は絶叫を上げながら大爆発を起こした。爆煙が晴れると2匹は何とか生きていたが身体のあちこちから煙が上がり全身ボロボロ、蓄積したダメージにより落下し地面が大きく揺れる。まだ息はあるようだが最早戦闘は不可能、動く事もままならない状態であった。

 

「どうですか、これが貴方達が馬鹿にした私の実力です。確かに貴方達はこの世界でならトップクラスの強者それは認めます。しかし世界にはまだまだ沢山の強者がいるのです。その事が分かって良かったですね」

 

『ク、クソ…』

 

『まさか、二天龍の俺達が…』

 

「そうだ、最後に名を名乗っておきましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の名はデストロイヤー、【デストロイヤー・レイ】。『全てを破壊し、無に返す存在』です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男─────デストロイヤー・レイは人差し指を立てるとその先にエネルギーの塊を溜めていく。それはドンドン大きくなっていき。それを見たサーゼクスは自身の持つ「破滅の魔力」と同等、若しくはそれ以上の力を感じた。下手をすればこの冥界が滅びる──────それ程のエネルギーを感じたのだ。

 

「それではさような…おや?」

 

 【虚閃】を放とうとした瞬間、2匹のドラゴンの頭上に魔王陣が現れ彼等を包み込むと2匹の影が段々小さくなっていき最後には甲冑のような物に変化した。

 

 この世界の『聖書の神』が自らの命と引き換えに二天龍を神器と言う物に封印したのだ。

 

 デストロイヤーはトドメをさせられなかった事に不満があるのか、顔歪めたが直ぐに表情を戻して友子達3人の近くにはと着地する。

 

「ありがとう。君のおかげで助かったよ」

 

 すると3人の近くにいた赤髪のロングヘアーの男性────この世界の未来の魔王の1人となる【サーゼクス・ルシファー】さんが代表で御礼を言ってきた。

 

「別に御礼なんていいですよ。あのトカゲ共が私達の観光の邪魔をしたので排除しただけで、貴方達の為にやった事じゃないので」

 

「挨拶が遅れたね。私はサーゼクス、悪魔だ」

 

「俺はアザゼル、堕天使の総監だ」

 

「私はミカエル、天使です」

 

「これはどうもご丁寧に。私はデストロイヤー・レイと申します。以後お見知り置きを」

 

 4人がそれぞれ自己紹介を終えた所でサーゼクスが質問する。

 

「一つ聞きたいんだが、君達は一体ここに何をしに来たんだい?」

 

「あの2匹のドラゴンにも言いましたが私達はここに観光しに来たんですよ(本当は違うんですがこういう建前の方がまだ怪しまれないでしょう)」

 

「観光だぁ?こんなところに一体何を観るって言うだ?」

 

「それはプライベートなのでご遠慮いただきたいですね。それに私達がどこへ言うことそれは自由でしょ?」

 

「まぁ、そりゃあそうだな」

 

「では私達と戦うつもりはないのですね?」

 

「エェ勿論です。そもそも貴方達と敵対する理由がありませんからね」

 

 その言葉に3人は安易した。それはそうだ。あの二天龍をまるで赤子のように倒してしまう程の存在なんてとてもじゃないにしても手に負える自信がないからだ。しかし────────

 

 

 

「…でもそれは貴方方が私を含める我が従属官基家族達に危害を加えなければの話ですがね」

 

 

 

 ───────先程の穏やかな雰囲気とは一変し、途方も無い殺気立つオーラが吊り上がった眼差しから放たれる。その場にいた従属官の3人以外の者達はそのオーラを浴びせられ金縛りに掛かったように動けなくなり額から汗が流れ出る。

 

「も、もし…危害を加えてしまった場合は?」

 

「簡単ですよ。その時は連帯責任として───────────その一族全員を皆殺しにします、こんな風に」

 

 人差し指の先に虚閃を溜め目に入った山へ向け放ったが…

 

 

 

 

バァァァァーーー

 

 

 

 

 

 

…その大きさから予想も付かない程の威力があり一瞬にして山を消し飛ばした。その光景を彼はスッキリした顔で眺めていた。先程トドメを刺すところを邪魔されやや気が立っていたのが解消されたからである。

 

 

 一方その光景を見た3種族は恐怖し、同時に理解した。

 

───────この人が言っている事はハッタリでも脅しでもない……本気だ────────

 

二天龍を手玉に取った相手に3種族全ての上級クラスの者達が一斉に相手をしても食いついていけるか分からない。いや無理だろう。この人を敵に回せば言葉通りその種族は滅ぼされる。それを内なる本能が語っている…そんな気がした。

 

 

「さて、ここに居ても楽に観るところもなさそうですし今回はここでお暇しましょう」

 

 デストロイヤーは出入り口である黒腔を出現させる。

 

「では皆さん帰りましょう」

 

『ハイ(分かったわ)!』

 

 4人は黒腔の中にへと入っていく。次第に3種族の視界から姿が見えなくなっていくと黒腔は閉じていき消失した。

 

 三大勢力の戦争は二天龍の戦いに乱入したデストロイヤー・レイと言う者によって終息した。多くの同胞と聖書の神の犠牲を払って…。

 

 大きな痛手を食らった三大勢力は戦争せず平和に暮らしていくと決め、そしてあの男─────デストロイヤー・レイやその仲間に決して手を出してはならないとそれぞれ誓いを立てた。

 

 

 しかしそれから数百年後、三大勢力の一角が1人の同族の行いによって自分達の種族が滅ぼされる危機に陥る事になるとは予想もしなかった…。

 




オリ主の名前の意味の理由は「デストロイヤー(破壊者)・レイ(0)」個人的にはカッコいいと思っています。

番外編最初の作品は「ハイスクールD×D」でした。
次回は原作が開始しているところの話です。ここまで来るとデストロイヤーが死刃を収集した理由が分かる方もおられるのではないでしょうか?次回も楽しみにして頂けると嬉しいです。
感想などあればお願いします。

※前回の後書きに書いた活動報告での相談、答えてくださった方が2名しかいかなかったのでもう一度アンケートを取ります。


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2話 魔王の妹の結婚の雑談にお邪魔

どうもアニメ大好きです。

先ず前回行ったアンケートの結果で『変えなくてもいい』の方が多かったので、この作品の原作カテゴリは「BLEACH」のままで継続させていくことにします。ご協力してくださりありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。

今回は前回の話からかなり時代を飛んで、原作が始まっているところからの世界になります。どの辺りのヒントを言うと、アニメで言うなら第1期の中間を超えた辺りです。

そして今回が今年最後の投稿になります。3年ぶりの規制のない年末年始、皆様はどのように過ごされますか?私は実家に帰りリフレッシュしてこようと思います。

さて、話はここまでにして本編の方をどうぞ。


 二天龍を倒し一時帰還したデストロイヤーは共にいた側近の3人に今後の予定を話す。

 

「私はこれより約数百年後のあの世界に行こうと思います」

 

「数百年後?一、二年とかじゃないの?」

 

「エェ、あの世界はあれから数百年後にして色々と物語が動き出しますからね。それにあの赤い髪の男…サーゼクスさんはその数百年後には四大魔王の1人になっていますので、そのお祝いの挨拶もと兼ねておこうと思いまして」

 

 HSDDの原作開始時でサーゼクスは四大魔王の一角「ルシファー」の名を与えられた。それの祝いについては半分正解であるが残りの半分にはある目的がある。

 

「それでは友子さんと胡蝶さん、貴方達2人は私と一緒に来てください」

 

 友子と胡蝶の2人は一緒について行ける事に喜んだが、1人だけ呼ばれなかったチルッチが詰め寄る。

 

「ちょっと待って!アタシは!?」

 

「チルッチさん。申し訳ありませんが貴方は此処で待機していてください」

 

 1人だけ留守番をさせられる事になった。だが気の強い彼女が勿論それで納得するはずが無い。

 

「アタシだって2人ほどじゃないけど、修行して強くなったんだから!それともアタシじゃ不安な訳!」

 

「…チルッチさん貴方の気持ちは分かります。でもこの間のように遊びに行くのではありません。それに今回はちょっと面倒なことになりそうな気がするので我慢してください」

 

 デストロイヤーは何とかチルッチの機嫌を治そうと説得する。それでもやっぱり納得がいかないのか頬を膨れさせソッポを向いている。しかし何閃いたようでいい笑顔をして近寄ってきた。そう、()()()()で。

 

「分かった。今回は我慢してあげる。でもその代わり、今度私の言うこと一つ聞いてことでいいわよね」

 

「えっ!?嫌ですから私達は遊びに行く訳じゃ…」

 

「いいわよね」

 

「しかしですね…」

 

「いいわよね」

 

「だから…その…」

 

「い・い・わ・よ・ね」

 

「…分かりました。OKしましょう」

 

「ヤッリー!じゃあ約束だからね。楽しみにしてるから♪」

 

 完全にご機嫌になったチルッチはスキップしてその場を後にする。デストロイヤーは「本当にも」と苦笑ながら黒腔を出現させ、友子と胡蝶を連れて中に入り約100年後のHSDDの世界へ向かった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

冥界のグレモリー邸。

 あの三大勢力の戦争から数百年の時間が流れこのサーゼクス・グレモリーは四大魔王の1人となり、サーゼクス・ルシファーとなった。

 

 彼が書類を整理していた時目の前の空間がまるで口を開けるように開かれる。何事かと一瞬戸惑ったがしかしその光景には見覚えがあった。そして中から数人の足音が聞こえ段々近づいてくる。そしてその足音の主が姿を現した時彼の頭に衝撃が走った。そして全てを思い出した。

 

 

 あの戦争の時【二天龍】との戦いに巻き込まれて滅ぼされそうになったその時、突如不思議な空間から現れ二天龍をまるで赤子のように遇らい蹴散らし、去り際には我々に恐怖を植え付けた存在──────

 

 

「どうもお久しぶりですね」

 

「あ、貴方は…デストロイヤー!?」

 

 

──────デストロイヤー・レイがその時一緒にいた2人の従属官を連れて彼の前に現れた。

 

「ほぉ、久々に会ったこの私を呼び捨てにするとは、貴方も随分と偉くなったものですねェ…」

 

「ッ!!デ、デストロイヤー…様、お久しぶりです」

 

 デストロイヤーの少し不機嫌な声を聞き慌てて「様」付いし丁寧口調にしてご機嫌を取ろうとする。

 

「態々僕に直接訪ねて来るとは、どのようなご用件でしょうか?」

 

「いえ、貴方が魔王の1人になったと聞いてそのお祝いの言葉を言いにきたんですよ」

 

 あの戦争から数百年後、サーゼクスは【ルシファー】の名を持つ四大魔王となり悪魔達の中心の1人となった。何故その知っているのか疑問に思うところだが、今の彼にはそんなことを考える程の余裕はなかった。

 

「そう言えば貴方結婚していると聞いたのですが、奥さんはいらっしゃらないのですか?」

 

「エッ?あぁ!!グ、グレイフィアは今ある要件で僕の妹の所へ行っています」

 

「ほぉ、貴方に妹がいたのですか……何ならその妹さんの顔も拝見しておきましょう」

 

「エッ!?ちょ、ちょっとお待ちを…!!」

 

 サーゼクスは慌てて止めようとするがデストロイヤーはそんな事聞く耳持たず一緒にいた2人と共に黒腔に入っていった。

 

 その場に残されたサーゼクスは顔色が悪くなり額に青筋が掛かり頭を抱える。

 

 妹のリアス・グレモリーは今婚約者である悪魔の男性と会談をしているのだが、彼女は魔王の妹と言う事もあり上から目線で傲慢な所がある。しかもその相手の男性も同じく自信過剰な男。

 しかも2人ともデストロイヤーの事を殆ど知らない。そんな2人が『人間』そっくりな姿であるデストロイヤーに失礼な態度を取って怒らせてしまうかもしれない。もしそうなってしまった場合下手をすれば…

 

 

───────僕達悪魔は滅ぼされるかもしれない、いや絶対滅ぼされる────────

 

 

「兎に角グレイフィアに連絡をしなくては…」

 

 

 サーゼクスはグレイフィアにデストロイヤーが向かっていることを知らせるため連絡を入れる。後はグレイフィアに妹のリアス・グレモリーとその婚約者である男性を見張ってもらい、後は余計なことをしてデストロイヤーの機嫌を損ねないよう願うしかなかった。

 

──────────────────────────────────

 

 

 場所は変わり学園旧校舎の一室「オカルト研究部」今ここでイザコザが起こっていた。サーゼクスの実の妹であるリアス・グレモリー、そしてもう片方のソファーに座っている金髪ホストの男は「ライザー・フェニックス」。リアス・グレモリーの婚約者だと言う。

 だがリアスはその結婚を固く拒んでいた。好きでもない相手と結婚はしたくないっと。しかしそれでライザーが引き下がる訳もなく、終いにはリアスの眷属を全て焼き付きしてでも冥界に連れて帰ると言い出した。

 それを止めたのが銀髪のメイド。彼女こそサーゼクスの女王にして妻である「グレイフィア」。彼女の説得を受けライザーも此処は素直に従った。

 ピリピリした部屋の空気が落ち着いた矢先、グレイフィアの元に主人であるサーゼクスから連絡が入った。

 

「サーゼクス?いきなりどうしたのですか?今此方も取り込み中……何ですって!?」

 

 グレイフィアが今までにないくらいの声量で声を上げる。その行動に周りの者達も揉め事を止めグレイフィアの方へ視線を向ける。しかし彼女はそんな視線を気にせず会話を続ける。

 

「あ、あの人がここに!分かりました、私が出来るだけ粗相のないように対処します」

 

 通信を終えたグレイフィアは顔色が青くなり明らかに動揺している。その様子にリアスが声を掛けようとした時、突如部室の空間の一箇所に亀裂が入り、まるで生き物が口を開けるように開く。すると中から足音と共にデストロイヤー、そして従属官である友子と胡蝶が現れる。

 

「ここがオカルト研究部の部室ですか。随分と暗いくて眼が悪くなりそうな部屋ですね」

 

「あら、本当ですね。こんなところにいたら夜行性になっちゃうかもしれません」

 

「全く、悪趣味にも程があると言うものですよね」

 

 その3人のいきなりの登場に驚愕する面々だが、その上リアスの兵士である「兵藤一誠」は友子と胡蝶の魅力(特に胸)に魅了され鼻の下を伸ばしていた。そんな中女性2人に目が入ったライザーが声を掛ける。

 

「おい貴様、何者かは知らないが随分といい女を連れているじゃないか。普段ならただじゃおかないが、その2人の女を俺に寄越すんだったら今のことは見逃してやるぞ」

 

「おやおや、いきなり何を言い出すのかと思えば友子さんと胡蝶さんを寄越せとは…。それに初対面の相手に随分大きな態度を取るとは、悪魔はこの数年の間に随分礼儀がなっていない種族なったようですね。それに彼女達は私の大切な家族です。手放すなんてことするわけがないじゃないですか」

 

「ほぉ、人間の癖に俺に口応えする上に我等悪魔を馬鹿にするとは…貴様、余程死にた「ライバー様お辞めください!」ッ!?」

 

「申し訳ありませんデストロイヤー様。ライザー様の無礼な発言、私からお詫び申します」

 

 グレイフィアは両手を地面につき頭を下げた、つまり土下座である。その光景にリアスやその眷属達、そしてライザーでさえも驚愕する。何故なら魔王の女王にして「最強の女王」とも言われている存在が、魔王以外の者に対して土下座までして許しを請いているのだから。

 

「おや?貴方何処かで見たことある顔だと思ったら、あの戦いの中にいた1人の女性ですね。その後サーゼクスさんとご結婚されたそうですね。おめでとうございます」

 

「あ、有難いお言葉です」

 

「それより頭を上げなさい。それではちゃんとお話が出来ないでしょう」

 

「しかし…」

 

「心配しなくても私は怒ってないですよ。()()()()()()()()ね」

 

 実際彼は悪口を言われた上に友子と胡蝶を引き抜こうとしてイラッとしたが、手は出していないので()()数百年前に言った行動を起こすまでには至らない。

 

「ところで折角来たので少しここでお邪魔させてもらっても構いませんか?」

 

「勿論です。では直ぐに椅子を用意「その必要はありませんよ」ッし、しかし…」

 

「胡蝶さん」

 

「はい、【咲夜】」

 

 デストロイヤーに呼ばれた胡蝶がある人物の名前を呼ぶと先程彼等が出てきたのとは別の黒腔が開く。そして中から背丈の高い銀髪のメイドが現れる。そして何とその顔はグレイフィアに瓜二つだった。

 

「お呼びでしょうか、胡蝶様」

 

「うむ、此処には私達の座る場所がなくてな。だから()()()()()()今から1秒で座るモノを用意しろ」

 

「はい、畏まりました」

 

 その言葉に悪魔の面々は「ハ?」と呆気に取られていた。何故なら1秒なんて幾ら何でも無茶振り過ぎるからだ。

 だがその女性が指を「パチン」と鳴らしたと思えばいつの間にかデストロイヤー達の後ろにリアス達が座っているのよりも豪華で大きなソファーが置かれていた。

 

 彼女は言われた通り1秒でそのソファーを用意して見せた。

 

 そしてデストロイヤー達は何事もなかったのようにソファーにへと腰掛ける。

 

「素晴らしい働きです。流石「あの〜」何でしょうか?」

 

「デストロイヤー様、そちらの方は?」

 

 グレイフィアは少しビクビクしながらも質問をする。

 

「此方は【十六夜咲夜】さん。我が軍のメイド長にして胡蝶さん直属の従属官です」

 

 咲夜と言うグレイフィアにソックリな女性は紹介されると礼儀正しくお辞儀して挨拶する。

 

 

 

─────────────────────────────────────

 

 

 

 皆さんどうも、デストロイヤーです。私の視点になるのは久しぶりですね。(←メタイぞby作者)

 

 私達は咲夜さんに用意していただいたソファーに寄りかかりながらリアス・グレモリーさんの結婚の会談を見物させてもらいました。そして話し合いの結果今から10日後のレーティングゲームとやらで決着をつける事になりました。ライザーさんの方は人数と自身の能力、さらにはかなりの実績から絶対的な自信があったようで余裕をかまし自身の眷属を全員呼び出しました。

 

 しかし15人全員女性ってどうなのでしょう。しかもその光景にハーレムを作るのが夢な兵藤一誠さんはマジ泣きしてますし。リアスさんがライザーさんにその事を教えると見せびらかすように眷属の1人と接吻をかます始末。

 

 その光景にイッセーさん以外のオカルト研究部の方々は恥ずかしがったり汚物を見るような目で見る者もいます。そして案の定イッセーさんは喧嘩越しになり棍棒を持った中華娘さんに一発で吹き飛ばされダウンしてしまいました。

 

 あの片方のドラゴンさんを所持しているにも関わらず弱過ぎますね。まぁ、彼が小さな女の子相手だからと言うことで油断していたのもありますが、これはあまりにも酷いです。これではあのドラゴンさんが浮かばれないでしょう。しかし…

 

「…ライザー(貴方)、いつまでそうやっているのですか?ハシタナイですよ」

 

「何だと?貴様、今なんと言った」

 

「おや?聞こえなかったですか?ハシタナイって言ったんですよ。だってそうでしょう。こんな人前で堂々と接吻をするだなんてハシタナイ以外になんと言いましょうか?」

 

「エェ、幾ら何でもこんな公衆の面前でそんな事をするのはちょっと…」

 

「全くです。こんな恥じらいの奴が英雄気取りとは…世も末と言うものです」

 

 友子さんと胡蝶さんも私と同じ意見、特に胡蝶さんはオカルト研究部の方々の反応を通り越してハンカチで口元を押さえていますね。同じ空気を吸うのも嫌なのでしょう。実際私もこんな人と同じ部屋にいるってこと事態虫唾が走ります。

 

 

 

「貴方が何をしようと勝手ですが、英雄を語るなら時と場所を考えてから行動した方がいいですよ」

 

 

 

 本当恥じらいと言うものがないのですかね、この悪魔さんには。見ている此方は恥ずかしいを通り越して呆れてしまいますよ。私の言葉にライザーさんは顔を真っ赤にしてらお怒りのご様子で。

 

「き、貴様等ァ…人間の分際でこの俺に対するその無礼の言葉…許さん!ミラ、デストロイヤー(ソイツ)もあの小僧と同じ目に合わせてやれ!」

 

「お辞めください、ライザー様!」

 

 グレイフィアさんが止めようとしましたがもう遅いですよ。ミラと言われた少女は完全に私を殺す勢いで来てますから。しかし私にその棍棒が届くことはありません。何故なら…咲夜さんがいるのですから。

 咲夜さんは私達の目の前まで移動して小さなナイフで棍棒を受け止めた。武器の大きさは明らかにナイフの方が劣っていますが咲夜さんの戦闘力と技術に掛かれば容易いことでしょう。そして相手の棍棒を足で蹴り上げ無防備となった瞬間に持っていたナイフをミラと言う女の子の左肩へと投げ飛ばし壁に貼り付ける。

 

 さらに足に装着しているホルスターから無数のナイフを取り出しミラさんにへと投げ付け、四肢を貼り付けに動きを封じた。流石咲夜さん、ナイフ投げは我が軍1ですね。

 

「ミラ!?貴様よくもォ」

 

「よくも?可笑しなことを言いますね。先に手を出したのはそちらですよ。これは正当防衛ではありませんかね」

 

 私の正論(と多分言える発言)に逆ギレして私達を攻撃するようにしたのは其方ですから、我々が責められるのは間違いでしょう。

 

「ライザー様お辞めください。これ以上騒ぎを大きするなら私が無理矢理にでも止めますよ」

 

 グレイフィアさんから魔力が放出されライザーさんを威嚇する。しかしかなりの魔力ですね。これから【最強の女王】と言う異名も伊達ではないでしょう。ライザーさんもグレイフィアさんを敵に回りたくわないようで大人しく引き下がりました。

 

「デストロイヤー様、ライザー様の数々のご無礼申し訳ありません」

 

「別に構いませんよ。寧ろ感謝しています。悪魔とは誰であっても格下と決めつけ見下す種族と言うことが分かりましたからね」

 

 私が言えることではないと思いますが、少なくともいきなりそんな無礼な態度は取らないようにしているつもりです。グレイフィアさんは今の発言で私が怒っていることを察したようで、額から冷や汗が流れいますね。そんな緊張しなくても、()()大丈夫ですよ。

 

「しかし気が削がれてしまいましたね。今回はこれでお暇するとしましょう」

 

 グレイフィアさんは私の「お暇する(帰る)」と言う言葉に安易したように肩を下ろした。かなり私のご機嫌を損ねないように気を張っていたのでしょう。でも安易するのはまだ早いと思いますよ。

 

「ところで先程言っていたそのレーティングゲームと言うの、私達も観戦したいのですがよろしいでしょうか?」

 

 私のその言葉にグレイフィアさんは安易したの束の間に再び緊張が走る。

 

「いえ、しかしこれはお嬢様とライザー様のゲームですのでそれはちょっと…」

 

「何故ですか?私は別に参加したいと言ってません。観戦するだけでしたらいいでしょう?それとも私達がその場に居てはいけない理由でもあるのですか?」

 

「そ、それは「おい貴様いい加減にしろ」ッ!?」

 

 私とグレイフィアさんが交渉しているとライザーさんが割り入ってきた。本当に空気が読めない人、いえ悪魔ですね。

 

「さっきから黙って聞いていれば、グレイフィア様に向かってなんだその態度は。それに俺達悪魔のことを馬鹿にしたような発見したことも許せん。今俺がここで消し炭にしてやる」

 

「…私は今彼女と話をしているのですよ。その話に割り込んでくるとは。何処の世界に於いても貴族と言うのは、英才教育はしても人としての常識は教育しないのですかね?」

 

「貴様…もう我慢なら「ライザー様お辞めください!!」ッな!?」

 

「ハァ、ハァ、…いい加減にしてください。私はこの方と話をしているのです、貴方のその傲慢な態度で話をややこしくしないでください。ハァ…ハァ…」

 

 グレイフィアさんはライザーさんに注意しながら荒い呼吸を整える。それにしてもさっきまで冷静であったグレイフィアさんが彼処まで荒れるとはなかり必死なんですね。周りの皆さんも彼女の焦りっぷりに驚いていますし。

 

「…デストロイヤー様、お恥ずかしいところをお見せしてしまい失礼しました。先程の件については私からサーゼクス様にお話しておきます」

 

「そうですか、よろしくお願いします。それでは皆さん10日後またお会いしましょう」

 

 私達はソファーから立ち上がって指を鳴らし黒腔を開け基地にへ帰還する。さて10日後が楽しみですね。フフフフフ。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 黒腔が閉じデストロイヤー達が帰ったことを確認するとグレイフィアはフラ付き倒れそうになったところをリアスが受け止める。緊張感から解放され一気に疲れが出たのだ。オカ研メンバーが彼女を心配する中、1人イラついていた者がいた。お察しの通りライザー・フェニックスである。

 

 

「(アイツこの俺を、純血悪魔であるこの俺様をコケにしやがってェ。絶対に許さん!確か10日後アイツまた来ると言っていたな、あの2人も連れて。だったら……クッハハハハ!!これなら奴に最大の屈辱を味合わせることが出来るぞ。10日後見ていろ。俺達悪魔をコケにしたことをな、ハハハハハハ!!)」

 

 

 

 

 だが彼は後に後悔するのことになる。その行動が己の、いや悪魔を破滅へと導く誤った選択であったと言うことを。

 




皆様、もうお分かりになられたでしょう?デストロイヤーが死刃に招集を掛けた理由が。

詳しい内容は次回になりますが、そのことで皆様に皆様に1つお伝えてしなくてはならないことがあります。




実は私の働いていた場所が、コロナ含めた不景気の煽りを喰らって来年の1月に閉店することになってしまいました。なので新しい働き口を探さなくてはならないので、作品の投稿がまた遅れると思います。そこの所ご了承お願いします。(辞める訳ではないのでご安心を)

最後に今年もありがとうございました、来年もまたよろしくお願いします。皆様良いお年を❗️


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3話 ゲームの観戦 怒れるデストロイヤー

どうもアニメ大好きです。

前回の後書きでお話した働き口の件ですが、何とか新しい働き先が見つかりそこで働き始め約1ヶ月半近く。少しずつ仕事にも慣れていき心に余裕が出来始めたので、コツコツ書いていた話を今日投稿することが出来ました。応援して下った皆様ありがとうございます。

今回は一気に飛び、原作主人公組とライザーのゲーム回です。しかしデストロイヤーは観戦しているだけでゲームには参加していません。そしてここで死刃達の招集理由も明らかになります(勘の良い皆様なら前回の最後で予想されていると思われますが…)

それでは本編をどうぞ。



 私、デストロイヤーは今非常に不愉快な気持ちで一杯です。今この場所を破壊し尽くしたい程に。どうしてこうなっているのはそれは少し前に遡ります。

 

 

 

 私は基地に戻った後、ある準備をするために少しその場を離れましたが直ぐに戻り、サーゼクスさんに会いに行った時と同じ経緯でゲームが行われる10日後のあの世界に2人を連れて出発しました。黒腔を抜けるとサーゼクスさんとグレイフィアさんが立っていたのです。まるで私が自分達の所に来るのが分かっていたみたいに。まぁ座標をサーゼクスさんがいる所にセットしていたので彼の前に来るのは当然なのですがね。

 

「デストロイヤー様、ようこそお越しくださいました」

 

 サーゼクスさんは前回の件で耐性があるようで平静にその場で跪き、その女王であるグレイフィアさんも彼の後ろで同じように跪いた。

 

「エェ、しかし堅っ苦しい挨拶話は無しにして早くゲームを始めましょう」

 

「分かりました」

 

 2人は立ち上がると私達を観戦ルームにへと案内する。途中グレイフィアさんとは別れました。彼女は今回の試合の審判ですからね、色々と忙しいのでしょう。軈てサーゼクスさんは一つの扉の前に立ち開けると、そこには一脚の椅子に、大きなソファーが一台置かれていた。サーゼクスさんはソファーの方に近づき奥の方まで進むと、私達の方へ振り返り左腕をソファーにへと差し出す。

 

「此方にお座りください」

 

 私はお言葉に甘えてゆっくりとソファーにへと腰を掛けた。それに続いて友子さんと胡蝶さんもソファーに座った。

 

 サーゼクスさんは私達の後ろを通り残った椅子にへと腰を掛けるグレイフィアさんの放送が入る。

 

『それでは只今より、リアス・グレモリー様とライザー・フェニックス様とのレーティングゲームを開始致します』

 

 いよいよゲーム開始ですか。リアスさん達が本来の歴史(原作)通りになるのか、それとも私達が介入したことで少し強くなっているのか?でもあの会談の後リアスさんは眷属さん達を引き連れ、山奥の別荘に篭りトレーニングをしていたので、10日前に比べると全員言い目になった気がしますね。

 しかし戦力になると言える者がリアスさん含め6人中5人しかいない。シスターの女性は回復要員と言うことで戦闘に関することはほぼ関わってこなかったですからね。

 

 イッセーさんと子猫さんがライザーさんの4人の眷属と鉢合わせすると体育館にへと誘い込み戦闘を開始。結果だけ言うとイッセーさんが3人に触れ【|赤龍帝の龍手《ブーステッド・ギア】を掲げると触れられた3人の衣服が吹き飛ぶように破れた。あれがイッセーさんの新技「洋服崩壊(ドレスブレイク)」か。

 でももう少しどうにかならないのですかね、あの技。敵の隙を作るにはいいかもしれませんけど、衣服全て剥いでしまうのはいただけない。同じ女性であるが故友子さんも胡蝶さんもあまりいい気分はしないで、特に胡蝶さんに関しては汚物を見る目をしていますよ。

 

 その後建物から2人が出ると副部長の姫島朱乃さんの攻撃で建物ごと4人を吹き飛ばしリタイアさせることに成功。しかしライザーさんの女王(確か「ユーベルーナ」って名前でしたっけ)の不意打ちを受け子猫さんがリタイアさせられしまう。

 

 その後ユーベルーナさんと朱乃さんとの戦闘になり朱乃さんの優勢に見えたが、ユーベルーナさんが胸元から小瓶を取り出し中身を飲み込むと、傷が完治し魔力も全回復され逆転負けしてしまいリタイア。

 

 活躍していた木場さんもヤラれてしまい遂に3人だけになってしまう。その後仲間の仇を打とうと突っ込むイッセーさんですが、ライザーさんの実力は自分達の想像を超えていたようでイッセーさんはボコボコに殴り倒されトドメを刺そうとした時、リアスさんがイッセーさんを助けるために投了することを宣言、これによりライザーさんの勝利に終わった。

 

『リアス・グレモリー様の投了を確認。このゲーム、ライザー・フェニックス様の勝利です』

 

「!?」

 

 グレイフィアさんの放送が入ると、友子さんと胡蝶さんの足元に魔法陣が出現し2人を飲み込み様に沈めると消滅した。

 

「(い、今の魔法陣の紋章は…もしや!)「サーゼクスさん」ッ!?」

 

「……今のは一体何でしょうか?」

 

……私は今にでもはち切れそうな怒りを何とか抑えてサーゼクスさんに質問する。

 

「今のは、その…何と言いますか…」

 

 するとサーゼクスさんは冷や汗を掻きながら何やら言いにくそうに歯切れの悪い言い方をする。しかし貴方が答えずとも既に見当は付いていますよ。

 

「…大方ライザー・フェニックスさんに加担している者の仕業でしょう?」

 

 私の身体から怒りの篭った霊圧が放出されその場を支配した。

 

 

 

※そして冒頭部分に戻る

 

 

 

 私は不快なこの気持ちを何とか抑え付け身体を起こし黒腔を開ける。

 

「あのデストロイヤー様どちらへ?」

 

「何処へ行くかですって?決まっているでしょ。戻るんですよ、私の城に───────やらなければならないことが出来たので」

 

 そう、私は準備しなくてはならないことが出来てしまいました。だからその作業に取り掛かるため早く帰らなくてはならない。

 

「待ってください!今回の件はライザー君の行動に気を付けなかった我々の不手際です。ですから今すぐに私がライザー君の元へ行って説得しますので暫しお時間をください」

 

 私の言っていることに気付いたサーゼクスさんは慌てて跪き許しを乞うてきました。私の霊圧に当てられているのに動くことが出来るとは流石魔王と言ったところですかね。しかし今はそんなことはどうでもいい。

 

 

 

 

お黙りなさい

 

 

 

 

 私はさらに霊圧の濃度を上げてサーゼクスさんを無理矢理黙らせる。さっきよりも濃度が上がった霊圧に当てられサーゼクスさんは見えない力に押し潰されるように両手、両膝を付く。

 

「私の大切な家族が誘拐されたですよ。それなのに説得するから暫く待っていてほしい?随分悠長なこと言ってくれますね」

 

「し、しかし今回は我々の不手際ですから、デストロイヤー様がお手を下させる訳には…」

 

「では自分が同じ立場になった時に同じことを言われたらどうなのですか?大切な妹のリアスさんが誘拐されたのに落ち着けと言われて貴方は落ち着けるのですか?」

 

「そ、それは…」

 

 サーゼクスさんは苦しみながらも私の言葉に答えるが最後の言葉には黙ってしまう。妹を溺愛している程の兄バカです。そんな状況に陥ればグレモリー家の全勢力を結集させてでも助けにいくででしょう。まぁ今はコイツの意見なんかどうでもいい。それにこれ以上話しも時間の無駄だろう。私は霊圧を下げ通常状態に戻す。解放されたサーゼクスさんは荒い呼吸を吐きながら息を整える。

 

「兎に角ライザー・フェニックス(あの鳥野郎)は私の家族を誘拐したことに変わりありません。ですから私はこれからやる事があるので失礼します」

 

 実は私はあの会談の後、もしものことを考えてある計画を練っていました。でもそれを実行するかはライザー・フェニックス(鳥野郎)の行動次第でしたがね。しかしあのライザー・フェニックス(鳥野郎)は私の予想した通り友子さんと胡蝶さんを拐っていった、それも私の目の前で堂々と。これはもう完全に私に対する宣戦布告と言ってもいいでしょう。だから計画していた作戦を実行することにしましょう。私は黒腔を開け息を整えているサーゼクスさんに向かって言った。

 

「それでは結婚パーティーの時を楽しみにしていてくださいね。ホーホッホッホッホッホォー!!後は頼みますよ

 

 そして私は黒腔を閉じ1人暗い道を通って基地に戻る。待っていろよ、愚かなライザー・フェニックス(鳥野郎)。私の大切な従属官(家族)に手を出したこと、その身をもって後悔させてやるからなァ!ハハハハハハハハ!!

 

 

 

─────────────────────────────────────

 

 

 

 デストロイヤーが去り緊張が取れたサーゼクスは何とか身体を起こし椅子に座り掛けると頭を抱え込む。

 

「ライザー君…君はなんてとんでも無いことをしてくれたんだ…」

 

 今回の件についてはライザー・フェニックスに目を付けていなかった己の失態である。そもそもデストロイヤーがライザーと鉢合わせすると思った時に気付けばよかった。女好きのライザーのだ、友子と胡蝶(あの2人)のことを絶対気にいるに決まってる。そうしたらどんな手を使ってでも手に入れようとするだろうっと。

 

 

────何故ライザー君にちゃんと言い聞かせなかったのだろう───

 

───何故デストロイヤー(あの人)が来る前に念入りに部屋チェックしなかったのだろう───

 

 全ては自分の甘い考えが起こしたこと、後の祭りである。

 

「我々は…悪魔の未来は…どうなってしまうんだ」

 

 

 そんなサーゼクスを他所に部屋に波打つように揺れる不気味な影が。そしてその影は姿を消すと気配そのものが消失した。

 

 

 

 

────────────────────────────────────

 

 

 一方デストロイヤー様が黒腔を抜け基地に戻ると複数のロボットらしき者達が出迎えていた。

 

「お帰りなさいませ、デストロイヤー様!」

 

 その中の一人両肩に長身のミサイルを装着し右眼にレンズを付けている【アイアンハイド】が敬礼をしながら出迎える。

 

「アイアンハイドさんお願いがあります。今すぐ我が軍の全勢力に急いで此処に戻ってくる様に連絡してください。任務の途中でも構わないので」

 

「エッ、全勢力にですか!?一体何をするおつもりで?それに友子と胡蝶の2人は一体?」

 

「……」

 

「ッ!りょ、了解しましたデストロイヤー様!直ちに全軍に通達します!!」

 

「…ありがとうございます。それと少しの間私はトレーニングルームに篭りますので誰も立ち寄れないようにしておいてください」

 

 いきなり全勢力を呼び戻せと言う命令に戸惑うアイアンハイドだが、デストロイヤーの無言の圧力に戸惑いながらも主人の命令を聞き入れる。そしてデストロイヤーは一人トレーニングルームにへと入り固く閉じた。

 

「ウホホホー、デストロイヤー様一体どうしたんだ?」

 

「ヨ〜ロレイ〜ヒ〜、かなりご機嫌斜めだったなぁ〜」

 

「キッヒヒヒヒ、大方あの2人が居ないことでイラついてるんだろうな。キッヒヒヒヒ!」

 

「お前達無駄口を叩いてないで早くしろ、デストロイヤー様の命令だぞ」

 

「その通りよ」

 

 アイアンハイドと同じロボット達が雑談をしているとチルッチが話の間に入ってくる。

 

「何だよ、チルッチいきなり。それに何でお前がここに居るだ?」

 

「アタシは別にやることがあんのよ。そんなことより早くした方がいいんじゃない?さもないとデストロイヤー(アイツ)に怒られるわよ。アイツ以外にも時間厳守だから」

 

 いきなり現れたチルッチに命令されたことに納得がいかない面々だが、今デストロイヤーは気が立っている故に時間には厳しい人。少しでも遅れたならどうなるか想像も出来ない。

だからここは不本意だが彼女の言うこと素直に従いその場を後にする。

 

 彼等がその場から居なくなると、他に誰もいないか確認しデストロイヤーが入った部屋の戸に手を掛ける。扉を開けその隙間から中を確認すると、その隙間からでもわかるくらい中は荒れまくっていた。凡ゆる機器は破壊尽くされ壁には無数の抉られた跡が。そしてその中心には息を切らしながら荒い呼吸をしているデストロイヤーが立っていた。

 

 チルッチはその光景に戦慄した。いつもは部下に優しく怒った顔をあまり見せない彼が、まるで飢えた獣の如く部屋を荒らしまくった。従属官になる前でもここまでの豹変振りは見たことがなかった。故に初めてデストロイヤーに恐怖を感じた。

 

「チルッチさん…どうしたんですか?」

 

 突然呼ばれたチルッチはビクッとした拍子に扉を開けてしまう。デストロイヤーはいつもと同じ調子で話しているが、常に一緒にいた自分にはわかる─────今コイツは痩せ我慢をしている。あの2人が拐われて悲しんでいるんだ。

 

 数多くいる従属官だがデストロイヤーにとってあの2人程共に過ごした者はいない。そんな2人が自分の目の前で拐われたと言うのに落ち着いているのは、最初から何とも思っていなかったか、我慢をしているかのどちらかであるが、デストロイヤーの性格からして前者は考えにくい故後者だと推測させる。

 

 勿論チルッチも同じ気持ちである。初めて会った時は揶揄われたこともあって言い争ったこともある。だがいつの間にはあの2人は自分にとっても掛け替えの無い存在になっていた。だから2人が拐われて悲しいが、彼女は意を決して口を開く。

 

「何なのよ、この部屋の有様は!あの2人が拐われてイライラしているのはわかるけどここまでする必要ないんじゃない?部屋や備品に八つ当たりなんかしてんじゃないわよ!」

 

 いつもと同じ強めの口調で話すが内心は怯えていた。しかし自分の特別な存在である主人がこんなウジウジしている姿を見たくない。彼女はトン、トンと足音を立てながら近づく。

 

「それに拐われたんだったら助け出せばいいだけの話じゃない。今その計画をしてるんでしょ。だったらこんなところでグレてないで早くしなさいよ!でもまぁ、あの2人がいなくなって悲しいのも分かるわ。だから今は──────アタシがアンタを支えてあげるから」

 

 彼女は後ろから抱き着き両腕でデストロイヤーを優しく抱きしめる。それが感謝の気持ちだったのか唯の慰めだったのかほ定かではない。しかしその直後自分の仕出かした行動に段々恥ずかしくなり顔が真っ赤になる。腕を離そうとした時、デストロイヤーの手が触れ阻止した。

 

「…もう少しこうしていてください」

 

 まるで幼い子供が母親におねだりするような甘えたお願い。それはチルッチにとって初めて見る弱々しい姿であった。「ハァ」と溜息を付くが仕方がないと言わんばかりに、無言で背中に寄りかかり腕で強く抱きしめた。

 

 

 それから1分近く経った。

 

 

「心配をお掛けましたねチルッチさん。もう大丈夫です。しかし貴方も友子さんと胡蝶さんが居なくなって寂しかったんですね」

 

「か、勘違いすんじゃないわよ。アンタがあんな腑抜けた状態じゃアタシも格好が付かないからよ。それにあの2人がいないと張り合う相手がいなくて詰まんからよ。寂しいなんて思ってないんだからね」

 

 デストロイヤーから離れたチルッチは頬を赤くしながら膨らませソッポを向く。ツンデレかな?そんな2人のやり取りの最中通信が入る。

 

『デストロイヤー様、アイアンハイドです。只今死刃全員に帰還連絡を入れました!しかし全員戻るまで少し時間が掛かるかと思われる』

 

「そうですか。では先ず今ここに居る者達にだけでも今回の件を言っておきましょう。アイアンハイドさん今すぐこの城に居る者達全員にフロアに集まるよう連絡を入れてください。死刃の皆さんには後で私から言っておきますので」

 

『ハッ!』

 

 通信を切り部屋から出て行くデストロイヤーとチルッチ。するとチルッチがいきなり腕を絡めてきた。

 

「つ、着くまでの間こうさせなさいよ。偶にはいいでしょ?」

 

いつも友子と胡蝶が3人だけの時にしてくるのを見てその2人がいないから自分もやってみたくなったのだろう。素直になれない彼女に呆れるがさっきのお礼に好きなようにさせるのであった。

 

 

─────────────────────────────────────

 

 

 

 ある一つの大部屋。ここはデストロイヤーの玉座の間。そこに今最上級幹部、上級幹部と言う強者達に加え、幹部クラスの者達が勢揃いしていた。そして先程のロボット達もその中に入っていた。

 

「ウホホホー、何が始まるんだ?」

 

「馬鹿かお前は!デストロイヤー様が我等を集結させたからには何か大きなことに決まっているだろ!全く、こんな奴が俺の生まれ変わりだと思うと情けなくて涙が出てくる」

 

 アイアンハイドはゴリラのようにドラミングをするガタイの良いロボット【アイアントレット】の無知さに嘆いていた。

 

「キッヒヒヒヒ、アイアンハイドの奴随分嘆いてるな〜」

 

「ヨ〜ロレイヒ〜、それに引き換え俺達は性格が丸っ切り一緒だから意見が合うよな〜」

 

 一方背中にプロペラが付いている黒いロボット【サンドストーム】、口に酸素ボンベらしきモノを装着しているロボット【スノーストーム】の性格が似てると言うか同じ両者はアイアンハイド達のやり取りを楽んみながら見物していた。

 

「お前ら、そろそろデストロイヤー様が来られる。静かにしろ」

 

「ショック、ショック」

 

 その中紫色でスマートなロボット【ショックフリート】が騒いでいる4人に注意し、2メートルはあるであろう巨大なロボット【ショックウェーブ】もそれに賛同するように片言で返事(?)をする。

 

 その直後扉が開く音が聞こえ騒いでいた者達も全員静まり返る。そこには彼等の主人であるデストロイヤー、側近の1人であるチルッチが姿を現す。2人はそのまま足を進め玉座のある高台に登り、デストロイヤーは中心にチルッチはその後方に立つ。

 

「皆さん、お忙しいところ集まっていただきありがとうございます。今回皆さんに集まってもらったのは他でもありません。私の側近の2人友子さんと胡蝶さんが拐われました。私が前にその一族を助けたにも関わらず恩を仇で返したのです。これは完全に我々に対する宣戦布告と言うことでしょう」

 

 この言葉の後デストロイヤーが何を言いたいのか殆どの者が察した。

 

「ですのでこれより我々はその一族の領地に嬲り込み彼等を───────滅ぼします!!良いですね!」

 

 

『ハッ!!』

 

 

 あれ程静まり返っていた場所が一気に騒ぎ立てる。中には「待っていました」と言わんばかりに興奮している者までおり、まるでお祭り騒ぎである。

 

 そして始まる。今までにないくらいの大戦争が。

 




はい、と言う訳であの馬鹿鳥がヤラかしました。
今回のヤラかしが原因で自分達、悪魔の終幕のカウントダウンがスタート。サーゼクス達はさらに頭を悩ませ、胃薬を所望しているでしょう。

まぁ、その原因を作った張本人はそんなこと知る由もなく結婚式の準備を進めていることでしょうが…。


次回はデストロイヤーが式場へ乱入します。

感想などあればお願いします。


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4話 結婚式にカチコミ、死刃集結

どうもアニメ大好きです。

今回のGW本来仕事がある日に1日だけ休みを貰いましたので投稿します。
本来は昨日投稿しようとしたのですが、10年間使い続けたテレビが寿命を迎えてしまいまして買い替えてきました。設置や設定諸々しなくてはいけなかったので遅れてしまいました、申し訳ありません。

今回はタイトル通りの話となっております。
前半部分はデストロイヤーが結婚式へのカチコミ、後半が死刃全員集合です。
後覚えているかは分かりませんが、前回デストロイヤーがアジトに戻る際、指示を出し部屋に残っていた存在も明らかに…。

※一部内容を付け加えました。

それではどうぞ。


冥界のとある豪邸

 

 そこでは今大勢の人、いや悪魔達が集まりパーティーが開かれていた。会場にいる者達は皆料理を食べたり、雑談をしたりと楽しんでいる。

 しかしそんな中約1名頭を抱えている人物がいた。現魔王の1人であるサーゼクス・ルシファーである。

 

 

───あの人は間違いなく今日此処に来る。一体どうすれば…────

 

 

 この後訪れるだろう厄災に悩まされていた。そんな彼を他所にライザー・フェニックス(鳥ヤロウ)が炎を舞い上げながら、盛大に登場し挨拶を始める。

 

「それではご紹介致しましょう!我が妃リアス!そして友子と胡蝶です!」

 

 ウェディングドレスを纏ったリアス、友子、胡蝶の3人が現れる、と同時に会場の扉が開き一つの人影が入ってくる。

 

「部長の──リアス・グレモリー様の処女は俺のモn「ドカーーン」ウワァー!!」

 

 しかしその直後、彼の後方で爆発が起き吹き飛ばされる。

 

 舞い上がる煙の中から人影が現れる。しかも一つではない。その後ろからゾロゾロと沢山の人影が現れた。

 

 

───────────────────────────

 

 

 屋敷の門の前では2人の門番が会話していた。

 

「さっきの奴、通して良かったのかよ?」

 

「でもサーゼクス様からの招待状があったし、仕方ないだろう」

 

「それはそうそうだが…ン?」

 

「どうした?」

 

「何だ、あれ…」

 

 1人が指を指しそれに釣られて視線を向けると、彼等の目の前に横一本線の亀裂が入りそれが口のような出入り口【黒腔】が開いた。しかしその大きさは後ろの建物が丸々入りそうな大きさであった。そしてその中から1人の男性【デストロイヤー・レイ】が姿を現す。さらにそれに続いてロボットや怪人、メイド服を着た者達がゾロゾロ出てきた。

 

「何者だ、止まれ!」

 

「邪魔ですよ貴方達。そこを通してください」

 

「だったら招待状を見せろ!」

 

「招待状?残念ながら持っていません」

 

「だったらお前達を倒すわけにはいかない!」

 

「そうですか。じゃあ─────────死になさい、カス共」

 

 デストロイヤーは掌を向けると【虚閃】を放ち、あっという間に2人を跡形もなく消し飛ばし、そのまま入り口の扉を消し飛ばす。

 

 

「随分と豪華なパーティをしていますね、悪魔の皆さん」

 

 デストロイヤーが挨拶を交わすと警備の悪魔達が取り囲み槍を構える。一斉に掛かるも、周りにいたロボット達が両腕や背中から砲撃し鎮圧される。すると1人の悪魔が何かしようとしたが、それよりも早く1人のメイドが回り込み首元にナイフを当てる。

 

「大人しくしてください。さもないと貴方の命の保証は出来ません」

 

 その見た目と細い身体からは全く想像も出来ない力と殺気に当てられ動けなくなる。

 

「な、何者だ貴様等は!?」

 

「これは失礼しました。確かにまだ名乗っていませんでしたね。私はデストロイヤー、デストロイヤー・レイ。そちらにいる友子さんと胡蝶さんの主人とでも言いましょうか」

 

 先程の演説でライザーは『2人は自身の妃』と発言した。しかし会場に押し入って来たデストロイヤーは『2人は自分の主人』と言っている。どうも会話が成り立たない、「どう言うことだ」と周りが騒つく。しかしデストロイヤーはそんな周りを気にすることなく、友子と胡蝶(2人)に声を掛ける。

 

「お二人共もう充分です。戻ってきていいですよ」

 

「ハッ、何を言って「ん〜やっと戻れるわね、疲れちゃった」「全くだ、それにこんな俗物の側にいるだけ虫酸が走る」なっ!?」

 

 さっきまで黙っていた友子と胡蝶はデストロイヤーに呼ばれると、背筋を伸ばして身体をほぐし彼の方へと歩み寄る。

 

「デストロイヤー様、待ちくたびれちゃいました」

 

「もう少しであんな奴に穢されるところでしたよ」

 

「それはすみませんでした。しかしお二人共無事で何よりです」

 

 友子と胡蝶がデストロイヤーにへと寄り添って楽しく会話している。その光景にライザーは唖然としていた。

 

「おや?どうしたんですかそんな動揺して?2人が私の所に戻ってくるのが、そんなに可笑しいことですか?」

 

 その問いかけにライザーは答えない。いや答えられないと言った方が正確かもしれない。その証拠に言いにくそうな難しい顔をしている。

 

 そして友子から衝撃の言葉が発せられる。

 

 

 

「それはそうよね。だって私達に────────薬を盛ったのだから」

 

 

 

 思いがけない言葉に会場は再び騒つく。当の本人のライザーは身体が一瞬ビクッと跳ね、額から冷や汗が流れる。

 

「ほぉ、薬を盛った……それはどう言うことなのでしょうか?」

 

「デストロイヤー様聞いてください!ライザー・フェニックス(あの金髪クソ鳥)、私達を喋らせないようにするため薬を飲ませたんです!しかも抵抗出来ないように手足を拘束して!」

 

「そうね。しかも『これでこの2人は俺の物だ。リアスと一緒に可愛がってやる』なんて、まるで私達を物扱いな言い草までして」

 

「あの時のアイツの顔、思い出すだけでも悍ましい」

 

 思い掛けない単語が2人の口から次々と出てくる。2人とその時のことは思い出したくもないようて、特に胡蝶に関しては「悍ましい、穢らわしい」と吐き気を申すほど。話が進んでいく内に、ライザー・フェニックス(馬鹿)の顔色は段々青褪めていく。

 

「で、デタラメだ!友子と胡蝶(ソイツ等)が俺を陥れようと適当なことを言っている!」

 

 しかしあくまでもシラを切る。リアス・グレモリーだけでなく、最高の上玉が2人も手に入り結婚まで後一歩と言う所まで漕ぎ着けた。しかしその2人は正気だった上に、自分達にしてきた行いをペラペラと喋りだす始末。

 今この場には高貴な悪魔もいる。もし今回のことが知れ渡ったら、今まで積み上げてきた自身の地位や名誉が地に落ちる可能性がある。それはどうしても避けたいのだ。

 

「あら?私達が嘘を言っていると言うのかしら?」

 

「そうだ!俺が、高貴たるフェニックス家のこの俺がそんな非道なことをするはずない!第一証拠はあるのか?証拠もないのに俺を悪者扱いするのは辞めて「証拠ならありますよ」何ッ!?」

 

「出て来てください」

 

 すると扉の方から一つの人影が現れる。ライザー・フェニックス(馬鹿)はその人物を見た瞬間目を見開いた。何故なら2人を連れ去った魔法陣を使用したライザー家に仕える悪魔だったのだから。

 だがその悪魔は身体がダランとしている上に足が地面に付いていない。まるで人形が糸で吊り上げられているかのように。

 

 次の瞬間、その悪魔の後方に波打つように歪むと、片手で頭部を鷲掴みにしている1体のロボットが姿を現した。

 

「【ナイトスクリーム】さんご苦労様、お手数掛けましたね」

 

「いいえ、デストロイヤー様の為ためならばこれくらい当然のことです」

 

 【ナイト・スクリーム】と呼ばれたロボットは挨拶をすると、掴んでいた悪魔をライザーの前にへと投げ飛ばした。

 

「あの戦いが終わった瞬間、友子と胡蝶(2人)を攫ってくる様ライザー・フェニックス(その男)に命令されたとのことです。そうだったな?」

 

「は、はい…その…通りです…」

 

 実は試合観戦の時から透明になっており、デストロイヤーと共にその場にいたのだ。そして本拠地に戻る時、彼に頼んでライザーの跡を付けさせていた。そしてあの時魔法陣を展開させた者を見つけ出し、()()()()の末吐かせこの会場まで連れて来た。

 

 この場にはフェニックス家の現当主であるライザー・フェニックス(馬鹿)の父親もいるので、この悪魔が自身の家に仕えている者なのは知っている。何よりこの悪魔自身が「はい、そうです」と自白している。ここまで来ては隠し通すのは不可能だろう。

 

「さて、今のでライザー・フェニックス(そこの馬鹿)が私の大切な家族を誘拐し、剰え薬を盛ったことが証明されました。サーゼクスさん…私が以前あの時の最後に言った言葉…覚えてますよね?」

 

「そ、それは…」

 

「私の大切な家族に手を出したら────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その種族を滅ぼすって

 

 

 

 その瞬間、その場にいた悪魔全員に重度の圧力が伸し掛かり動けなくなってしまう。殆どの者は膝や手を床に付き耐えるが、中には耐えきれず全身が床にめり込みそうになって、今にも押し潰されそうにされている者もいた。

 デストロイヤーは表情こそ笑っているが、その瞳の奥から激しい怒りの感情が渦巻いていた。その場にいた悪魔達は誰もが消されると思った。しかし突如のしかかっていた重みがなくなった。

 

「しかし唯滅ぼすのでは面白くありません。ですので、ここは悪魔(貴方達)のやり方で手を打つとしましょう」

 

「我々のやり方と、言いますと?」

 

「簡単ですよ。貴方の妹さんがやっていた試合────【レーティングゲーム】って言いましたか?それをやりましょう。私が選抜した者達と戦い、もしそれでライザーさんが勝てば今回のことは全て水に流すことにしましょう」

 

 まさかの展開である。レーティングゲームを行いそれでライザー・フェニックス(馬鹿)が勝てば今回のことは無かったことにしてくれると言う。それは悪魔側からすれば思ってもいない提案である。

 

「ですが逆に私達が勝てば、その時はどうなるのか─────分かってますよね?」

 

 デストロイヤーから再び発せられた殺気により全員金縛りに掛けられたように動かなく、いや動けなくなってしまう。

 

 もしライザー・フェニックス(馬鹿)が負けた場合悪魔(自分達)はどうなるか、それをこのたった数分で嫌という程理解した。

 だがこのゲームで勝てば今回のことはお咎め無しになる、それなら受けるしかない。しかし敗北した時のリスクが高い過ぎる為、答えを出すことが出来ない。

 

「フ、いいだろう。そのゲーム受けてやる!」

 

 しかしライザー・フェニックス(馬鹿)はそんな者達の心境も知らず易々と承諾してしまった。まぁ、そもそも彼等にはこの提案を承諾せざるを得ないので、どの道選択肢は一つしかないのだが。

 

「宜しい。では今から1時間後にゲーム開始とします。大まかなルールは此方が決めますので、それまで互いに作戦会議をいきましょう。しかし貴方達の場合は念仏を唱えておくことをお勧めしますがね。ホーホッホッホッホッホ」

 

 デストロイヤーはそれだけ言い残すと黒腔を開き、自分達の本拠地にへと帰還する。

 

 

 

 

───────────────────────────────

 

 

デストロイヤー軍本拠地

 

 

 明かりがない暗い暗いとある一室。その部屋の扉が開かれると、数人の人影がゾロゾロと入っていく。

 

「俺達を緊急召集するとは一体なんだ?」

 

「さぁ。『急いで戻ってくる』以外に内容は聞かされてないから知らないわ」

 

「しかし我々全員を緊急収集したのです。何かしらの重要なことなのは間違い無いでしょう」

 

『カッカッカ、もしそれなら楽しみじゃわい』

 

「お前達、間もなくデストロイヤー様がお見えになる。静かにしろ」

 

 幅が太く長いUの字型のテーブルを囲んで用意されている高い背凭れの12の椅子。左右5つと後方部にある1つの計11の椅子に1人、また1人と着いて行く。

 

 

 

 今ここに──────死刃が全員集結した。

 

 

 

 すると扉の奥の方から複数の足跡が聞こえ、彼等の主君であるデストロイヤー・レイとその直属の従属官達が入室する。

 

「お待たせしました、死刃の皆さん」

 

 死刃達は全員デストロイヤーの方へ顔を向ける。デストロイヤーはそのまま彼等の元へと歩み寄り残っていた一席に座る。

 

「先ずはいきなり皆さんを呼び戻すことをしてしまったことを謝罪します。申し訳ありません。今回貴方達を呼び戻したのは、ある人物達と戦ってもらいたいからです。アイアンハイドさん、映像をお願いします」

 

「ハッ!」

 

 アイアンハイドが端末を操作すると、テービルの中心に巨大なモニターが出現し、複数の人物達が映し出される。それはライザー・フェニックス(あの馬鹿)とその15人の眷属の姿である。

 

「貴方達が戦ってもらうのは、この【私を怒らせたお馬鹿(ライザー・フェニックス)】さん、そしてその眷属の方々です」

 

 ライザー・フェニックス(馬鹿)を始め次に女王のユーベルーナ等を次々と眷属1人ずつ見せていく。すると突然ニワが質問をしてきた。

 

「…デストロイヤー様。まさか我々にこんな連中を相手にしろと仰るのですか?」

 

「…その通りです」

 

『なんじゃ。儂等全員を相手にさせると言うから、どのような連中かと思ぉてみれば、殆ど小娘共ではないか!』

 

「これは正直期待外れね」

 

「全くだ。こんな小娘共相手に儂等を呼び戻すとは…」

 

 ニワの質問に【YES】と答えるデストロイヤー。その答えにガラン、メラスキュラ、デモゴルゴンはライザー以外が全員女性であることに不満の声を上げる。

 

「確かに貴方達の意見も分かります。しかし、あまり侮ってはいけません。彼等は今回行うのゲームの公式戦では、今のところ負け無しだそうです」

 

 負け無し、つまり彼等はそれなりの実力を持っていると言うこと。それなら死刃(我々)全員で相手にするのも申し分ないかもしれないと思い興味を示した者も居れば、全く興味がないと思う者もいた。

 

「デストロイヤー様、失礼を承知の上でお聞きします」

 

「何ですか、クローズさん」

 

「今回我々を呼び戻したのは、こんな連中の相手をさせるため()()だったのですか?」

 

 その質問に死刃全員の視線がデストロイヤーに向く。確かにたかが16人程度を相手にするのに死刃、それも全員を召集するのにしては大袈裟過ぎる。他に何か理由があるのか、それとも死刃(我々)の実力を見くびっているのかと疑ってしまう…。

 

「これは失礼しました。確かにそこの所を説明していませんでした。貴方達を呼び戻したのは単にこんな連中の相手をしてもらうためではありません」

 

 デストロイヤーはこれまでの経緯を説明する。自分の側近の内2人が、ライザー・フェニックス(この馬鹿)に誘拐され、剰え強制的に結婚しようとしたこと。それによって自分の怒りを買った悪魔を種族ごと滅ぼすために全勢力に帰還するよう命令したを出したこと。

 だが単に滅ぼすのではつまらないので、悪魔(彼等)の勝負の決め方────レーティングゲームを行うことにしたと言うことを。

 

「ですので、貴方方にこの連中を相手をしてもらうのは、謂わば悪魔を滅ぼす前の余興のようなものなのですが、それではダメでしょうか?クローズさん」

 

「いいえ。私こそ言葉が過ぎました、申し訳ありません」

 

「いえいえ、構いません。他の死刃の皆さんも納得していただけたでしょうか?」

 

 正直自分達の戦いが余興扱いにされるのは癪だが、主人であるデストロイヤーの怒りを買った悪魔共に、自分達の愚かさと死刃(我々)の実力と知らしめるのに良い機会だと思い納得した。

 

「…そう言うことならいいだろう。しかしこんな連中相手のために死刃(我々)を収集するとは…」

 

「貴様、デストロイヤー様の意見にまだ不安があるのか。それにコイツ等を侮るなと仰っていただろう」

 

「私は別にそう言う意味で言ったのではない。それとも、こんな連中に臆したとでも言うのか?」

 

「何ッ!?」

 

「止めろ、お前達。デストロイヤー様の前だぞ」

 

 歪み合いを始めたルーチェモンとサーガインに対して、ゼルドリスが口を挟んでその場を収める。

 

「ありがとうございます、ゼルドリスさん。さて皆さん、相手は16人、全員それ相応の実力者かと思います。皆さんの実力なら警戒する必要はないと思いますが、決して油断はしないように」

 

『ハッ!!』

 

「それではこれより各自の配置場所を言います。皆さんはこの場で相手が来るのを待っていてください。その変わり対峙した相手への対応は貴方達の()()にして構いませんので。さぁ────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しい宴会の始まりです

 

 

 

 




と言うわけで友子と胡蝶の奪還を完了し、悪魔の連中へゲームの申し込みをしました。
前回で分かっていた方は多かったと思いますが、死刃が招集された理由は悪魔への宣戦布告のためだったのです。次回からは暫くはライザーチームと死刃によるレイティングゲーム回となります。最初は誰が登場するのか楽しみにしていてください。
感想等あればよろしくお願いします。



因みに会議中の席位置のイメージはこんな感じです。



        デストロイヤー

  ルーチェモン       ゼルドリス
                 
   サーガイン       クローズ
           テ      
  メラスキュラ   |   テリーX
           ブ
      ニワ   ル   ピエモン 

     ガラン       サンダールJr.

        デモゴルゴン


                 


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5話 レーティングゲーム その1

どうもアニメ大好きです。

今年も半年が過ぎました。まだ先月の終わり頃から30℃超えの日が続いて堪りません。皆様も体調管理、熱中症や脱水症状にお気を付けてください。

今回からあの馬鹿とその眷属vs死刃によりレーティングゲームがスタートします。今だに戦闘シーンを書くのが難しく、しかもキャラ資料が少ないと考えるのに苦労し時間が掛かってしまいました。楽しんでいただければ幸いです。

それではどうぞ。


 ライザー・フェニックス(馬鹿)のしでかした失態によりデストロイヤー・レイの怒りを買い、悪魔の存続を掛けたゲームをすることとなった。そしてその宣言から約束の1時間後となる。

 

 会場には再び黒腔が開き中からデストロイヤーが現れる。その背後には側近の3人と先程のロボットとメイドの咲夜、さらには白と黒が特徴の露出が少ない服装をした複数のメイドに、左肩にユニコーンの顔を生やしたプロテクターを装着した怪人、胸に蝶を模した飾りを付けたツインテールの怪人と初めて見る面々までいた。

 

「お待たせしましたね。それではルールを説明します」

 

 デストロイヤーからゲームの内容が語られる。

 

 ルールは至ってシンプル。ライザー・フェニックスとその眷属、デストロイヤーが選抜した《死刃》と言われる【10以下】の数字を与えられた最強の幹部達とのバトル。ステージは先程のゲームで使用したのと同じ。ステージの数カ所に大広間があり、そこに自身が選抜したメンバーがそれぞれ配置されている。一度出会ったら必ず戦闘すること。

 時間制限なし、投降(リザルト)禁止、どちらが勝利条件を満たすまでおわらないゲーム。しかしその勝利条件なのだが…

 

 

 

 

 

 

デストロイヤー側は…

 

 

相手全員を倒すこと

 

 

 

 

 

 

ライザー側は…

 

 

死刃の半数を倒すこと

 

 

 

 

 

…普通に考えて条件に差があり過ぎる。

 

「…随分と勝利条件に差があると思うのですが、本当にそれで宜しいのですか?」

 

「エェ、勿論。寧ろこれくらいの()()()がなくては面白くないでしょ?」

 

 完全に見下している発言。その言葉にプライドの高い貴族達が黙っている訳がない。

 

「ハ、ハンデだと!?巫山戯るな!!我々悪魔が、人間如きに遅れを取ると言うのか!」

 

「人間如きが悪魔(我々)を見下すとはいい度胸だ!」

 

「貴様の部下が相手にするライザー・フェニックスは、かなりの実力者だ!あっという間に決着が付く。勿論お前の敗北としたのな!」

 

「もし貴様の仲間が命を落としたとしても、それは不慮の事故だと思うんだな!」

 

「貴様のその選択が間違っていたと、後悔するがいい!」

 

 貴族悪魔は完全に見下されたことに腹を立て次々と文句をいい、終いには()()()()とまで言ってしまう。その様子にサーゼクスは冷や汗が流れ恐る恐るデストロイヤーの顔を覗くと…

 

 

 

「フフフ、「後悔するがいい」ですか。…では此方からも一言────私の死刃達を嘗めないでください」

 

 

 

…顔は笑顔を浮かべているが、目は笑っていなかった。寧ろその瞳の奥からは激しい怒りが感じ取れた。

 

『それではこれよりライザー・フェニックス様とデストロイヤー・レイ様によるゲームを開始いたします』

 

 アナウンスが流れ運命を掛けたゲームが始まる。

 

 

─────────────────────────────────

 

 木々が茂る森の中、その中を移動する4つの影があった。1つは棍棒を所持しチャイナ服を着た少女、2つはチャイナ服を着た4人の少女、そして残り2つは体操服を着た双子の少女が森の中を移動していた。

 

「相手は一体何処ですか?」

 

「転移したら木だらけでな上に、こっちから探さなきゃいけないなんて…」

 

「文句を言わない!敵はいつ出てくるか分からないんだから、気を引き締めなさい」

 

「分かったです」

 

「は〜いです」

 

「しかしあんな条件を出すなんて…私達も嘗められたものね」

 

「ッ!あれ見て」

 

 一点に灯りが見え進むと広い間に出た。しかし誰もおらず気配も感じない、故に警戒を怠らない。すると突如声が聞こえた。

 

「…どうやら来たようね」

 

『その様じゃな。待ちくたびれたワイ』

 

 林の奥から「ガシャ、ガシャ」と音立てながら一本の大鎌を持った全身赤い鎧を着込んだ長身の怪人と、黒い靄が蟠を巻いたように纏われた1人の少女が現れる。

 

「あら?随分と小さな子達が来たものね」

 

『何じゃ!来たと思えば、こんなちんちくりんのガキ共か?もう少し真面な奴が来てほしかったワイ』

 

 自分達の所に来たのが4人中3人が子供だったことに、怪人は気分を落とす。少女の方は少し興味がありそうだが、両者共ナメくさった口調であった。

 

「小さいからって嘗めないで」

 

「そうです!」

 

「人を見た目で判断するなって教わらなかったんですか!」

 

「貴方達、敵の挑発に簡単に乗るんじゃないわよ」

 

 2人の嘗めた発言に反応した3人を中華娘が注意し落ち着かせる。

 

「ライザー様の《戦車(ルーク)》、【雪蘭(シュエラン)】だ」

 

「ライザー様の《兵士(ポーン)》、【ミラ】」

 

「同じく《兵士(ポーン)》の【イル】です」

 

「《兵士(ポーン)》の【ネル】です」

 

「あら、態々自己紹介をするだなんて律儀ね」

 

『それがお主らのやり方なら此方も名乗っおくとするかノォ』

 

 そう言うと少女は左腕を上げ脇下に刻まれている【8】の数字を、怪人は胸の宝石に手を翳し、そこに浮き出た【5】の数字をそれぞれ見せる。

 

「私は第【8】の数字を持つ死刃───《第8死刃(オクターバ・エスパーダ)》、【メラスキュラ】よ。宜しくねお嬢ちゃん達」

 

『ワシは第【5】の死刃────《第5死刃(クイント・エスパーダ)》、【ガラン】!儂のところに来るとは、自分達の運の無さを恨め。カーカッカッカッカッ!!』

 

 

───────────────────────────────

 

 

「ほぉ、あの2人が死刃と言う者か」

 

「あの全身甲冑の奴は兎も角、あんなひ弱そうな小娘が最強軍団の一員とは」

 

「貴様等の組織は余程人材不足の様だなwww」

 

 貴族達はメラスキュラの容姿だけで、完全に下に見て馬鹿にしている様な物言い。

 だが彼等は直ぐに思い知ることになる。自分達のその判断が間違いであったことを。

 

 

──────────────────────────────

 

 

『メラスキュラよ、あの棍棒を持った小娘とヒラヒラな小娘はワシが貰うぞ。良いな?』

 

「どうぞ、好きにすれば」

 

 ガランの姿が一瞬として消えたかか思うと、4人の後方に現れ雪蘭とミラの腕を掴み、自慢の脚力で飛び上がり何処へ向かった。

 

「全く、ガランは相変わらずね。まぁいいわ。それじゃお嬢ちゃん達は私と遊びましょう」

 

 突然の事態にイルとネルを他所にメラスキュラは不穏な笑みを浮かべる。しかし2人は相手するがメラスキュラだけで少し安易の表情になる。彼女は死刃と言うメンバーの中では下から3番目、そしてこっちは2人、自分達が圧倒的に有利な状況で負けはないと思ったからだ。

 

「あら?その顔、もしかして低い方の私が相手で安心した?確かに私は死刃の中では下から数えた方が早い、それに肉弾戦も好きじゃないし。でもね、それでも貴方達より実力は上よ」

 

 しかし当の本人は余裕綽々の表情を浮かべ見下した態度を取る。

 

「嘗めないでください!」

 

「貴方みたいな人、直ぐバラバラにしてあげます!」

 

『解体します!!』

 

 双子は持っていたチェーンソーを起動させ、メラスキュラを斬り刻もうとする。チェーンソーが振り下ろされそうになった時…

 

 

 

ガシ

 

 

 

「「エッ!?」」

 

「…こんな程度かしら?」

 

 …彼女の身体に纏わりついていた靄が2つの腕を形成し、それぞれがチェーンソーを受け止めた。力を入れるが全く振り払えず、その隙に小さな腕が2つ形成され2人の腹を殴り飛ばした。

 

「くはッ!!」

 

「あっッ!!」

 

 その衝撃で武器を離してしまって宙へ舞い上がり、重力によって身体が地面に打ち付けされる。

 

「どうしたの?私をバラバラにするんじゃなかったのかしら?」

 

 今ので完全に自身より下だと確信し、見下すメラスキュラ。2人は痛みに耐えながら身体を起こして立ち上がる。

 

「まだまだです!」

 

「私達の力、こんなもんじゃないです!」

 

「…そう来なくちゃ。まだ始まったばかりなんだから、もっともっと私を楽しませて頂戴」

 

 持っていたチェーンソーを2人の元へ投げ飛ばすと、靄の腕が鋭い切っ尖の様に変形する。イルとネルは直ぐ様チェーンソーを拾い上げ起動させ斬り合いとなる。互いの攻撃がぶつかる度に「カキン、カキン」と音が鳴り火花が飛び散る。

 しかし必死に攻防するイルとメルに対し、メラスキュラは余裕ぶりな表情で欠伸までしていた。しかも彼女はその場から一歩も動いていない。

 

「何でそんな余裕なんですか!?」

 

「肉弾戦は好きじゃないって言ってたのに、嘘だったのですか!?」

 

「いいえ、嘘じゃないわ。でもね私は肉弾戦が『好きじゃない』だけで『苦手』なんて言ってないわ。それに言ったじゃない、『貴方達より実力は上よ』って」

 

 2つの刃を合体させ巨大な刃となり、2人のチェーンソーの刃部分を斬り付けた。斬られた刃は野菜のように簡単に真っ二つに切断されてしまった。

 

「そ、そんな…」

 

「わ、私達の武器が…」

 

「フフフ。驚いているところなんだけど、私の実力はまだまだこんなものじゃないから」

 

 イルとネルは恐怖し、後悔した。2人がかりで対峙しているのに傷一つどころかその場から殆ど動かすことも出来ない。8番だからと聞いて軽んじたのは事実、しかしここまで実力差があるとは思わなかった。しかもメラスキュラはまだ本気を出していないとならば尚更。

 

「どうしたの?もっと抵抗してちょうだい」

 

 ジリジリと近づいてくるメラスキュラに2人は尻餅を付いてその場に座り込んでしまう。彼女との実力差、さらには唯一の武器を失い2人は戦意喪失していた。

 

「もう向かってくる気力もないみたいな。それじゃあ、終わりにしましょう」

 

 彼女の身体に纏わりついていた靄が離れ上空へ飛び上がると、頭上で広がりその場にいた3人を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

暗澹の繭

 

 

 

 

 

 

 

 一面暗闇に覆われ視界を奪われる。2人は光もない真っ暗な空間を見渡すことした出来なかった。

 

「ど、何処にいるです!」

 

「隠れてないで、出てくるです!」

 

 苦痛とも言えるような叫び声を上がるも、こんな真っ暗闇の空間では音など直ぐ消え静寂が訪れる。そんな不気味な空間内で、今の2人は意識を保っているのがやっとであった。

 

「なら、お望み通りにしてあげるわ」

 

 突然後ろから声が聞こえ振り向くが誰もいない。2人は右往左往するが見つけられない。すると背後から2本の手が迫る。

 

「チェックメイトよ」

 

 背後にいたメラスキュラの掌が2人の背中に触れると、急に苦しみだしそれぞれの口から1つの人魂が飛び出す。

 

「フフフ、それじゃイタダキます♪」

 

 それを人間とは思えない程の長い舌を伸ばし絡めたり、そのまま纏めて呑み込む。すると2人の瞳からは正気がなくなり、身体は糸が切れた様にその場に崩れ落ちる。

 

「ご馳走様。悪魔だけあって普通の人間よりは美味しかったわね。さて身体の方(残り)はどうしようかしら?このまま処分するのは勿体ないし…そうだ、零余子のお土産にしましょう♪フフフフ」

 

 メラスキュラは残った2人の身体(余り物)を自身の従属官の零余子へのお土産に決め、その零余子がどんな顔をするのか楽しみで顔のニヤニヤが止まらなくなっていた。

 

『ライザー・フェニックス様の【兵士】2名リタイア……エッ!?帰還されない!?』

 

 

───────────────────────────

 

 倒されたライザー・フェニックス(バカ)の眷属2人が帰還されないことに周りが騒つく。

 本来非公式戦のレイティングゲームは戦闘不可能な状態やダメージを受けた時、強制的に帰還されることになっている。故に死亡するケースは少ない。しかしメラスキュラによって2人は戦闘不可能な状況に陥った、それなのに帰還されないと言う事態に騒然となる。

 

「ど、どう言うことだ!?」

 

「何故帰還されないのだ!?」

 

「システムの故障か!?」

 

 会場が騒めく中、たった1人だけ笑っている者がいた。

 

「フフフ、故障なんかではありませんよ」

 

「「「?」」」

 

「『帰還されない?』当然でしょ。だってこのゲームは──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────どちらかが死ぬまで終わることがない【デスゲーム】…命を掛けたゲームなのですから」

 

「「「ッ!?」」」

 

 その言葉に会場にいた悪魔達は思考が停止する程の衝撃を受けた。

 

「命を掛けたゲームだと!?」

 

「巫山戯るな!そんなのはもうゲームではない!唯の殺戮だ!!」

 

「我々の神聖なるゲームに対する冒涜だぞ!」

 

 貴族悪魔達は次々に抗議し出す。主人に対する罵倒にデストロイヤー軍の者達動こうとするが、デストロイヤーが手を前に出し静止させる。

 

「悪魔の皆さん抗議するのは勝手ですが、先程私は『ルールは此方が決める』と言って反論しなかったじゃありませんか。つまり私がどんなルールを出そうが文句はなかったってことじゃないのでしょう。それにさっき誰かが言いましたよね。『もし命を落としたとしても、それは不慮の事故だったと思え』と。つまり彼女達が命を落としたのはそう言うことになるでしょ?」

 

 その言葉に騒いでいた悪魔達は押し黙る。

 確かにゲームをすることを決めた時「ルールは此方が決める」と言った時、悪魔側の反論はなかった。デストロイヤーからプレッシャーに当てられ考える余裕がなかったのだ。どちらにしろ、その発案に反論はしなかった。故にデストロイヤーがどんなルールを設けようが悪魔側が否定することは出来ない。それに誰かが言った言葉はデストロイヤー(相手)側にも適応される。つまり言ったことが自分達に返ってきただけ、因果応報と言うヤツだ。

 

「でもゲームは始まったばかりなんですから、そちらが逆転する可能性もあります。今はゲームを楽しみましょう」

 

 どちらかが勝つまで続けるデスゲーム。敗北=死。ちゃんと確認もせず恐ろしいゲームを受けてしまった。しかも見た目子供だかと侮っていた相手に逆にあしらわれる始末。

 

 悪魔達は最初の余裕とは一変、どうかライザー・フェニックスの勝利を願うのであったが…

 

 

 

 

『ラ、ライザー・フェニックス様の【戦車】1名、【兵士】1名…リタイア』

 

 

 

 

…その矢先に『ライザー・フェニックス(馬鹿)の眷属がさらに2名倒された』とアナウンスが流れた。

 

 

──────────────────────────

 

 

 少し時間は遡る…

 

『あそこでいいじゃろォ』

 

 …雪蘭とミラを連れ飛び上がったガランは、少し離れた森林に向かって急降下。持っていた大鎌を振るい砂煙が舞い上がり、その中へ突っ込んだ。

 

 地面に着地するも砂埃で視界が悪く、さらに呼吸もままならない。するとガランは2人を地面にへと放り投げ、もう一度鎌を振るい砂煙を一瞬にして吹き飛ばした。

 視界が良くなり目を開けると、周りにあったであろう木々は吹き飛び更地となっていた。しかも自分達が今いるのは巨大なクレーターの真ん中であった。さっきの一撃でこんな物を作ってしまった、その力に驚愕する。

 

『これで準備は整ったワイ。さぁ小娘共、精々儂を楽しませておくれ』

 

「さっきも言ったけど、私達を嘗めないで」

 

「その余裕がいつまで続くか試してあげる」

 

 だが2人は臆することなく突撃、雪蘭は拳に炎を纏わせ殴りミラは棍棒を突き攻撃するが、頑丈な鎧に阻まれて弾かれビクともしない。

 

「硬い…」

 

「何て頑丈な鎧なの」

 

『何じゃ?お主らの力はその程度か?』

 

「まだまだこれからよ!」

 

 雪蘭は足にも炎を纏わせ殴る、蹴るを連続で繰り出す。【戦車】の駒の特性により攻撃力が上昇しているにも関わらず、頑丈な鎧の所為で攻撃されたガランにはダメージが全く無い。それどころか攻撃した雪蘭の拳や足は「ジンジン」と痺れと痛みが入る。が攻撃の手を辞めない、少しでもダメージを与えおくためにも。ミラも続き、棍棒で殴り続ける。

 

『…くだらん攻撃じゃ』

 

 2人の攻撃に飽きてきたガランは鎌のでミラの棍棒を弾き飛ばすと、間髪彼女の腹部に強烈な蹴りを打ち込み吹き飛ばす。

 さらにそのまま身体を180℃回転させ雪蘭に鎌を振るう。咄嗟に受けの体勢を取る雪蘭であったが、威力を殺す事が出来ず吹き飛ばされ数回地面に身体を打ちつけた。直ぐ様起き上がろうとするが右腕に痛みが生じた。今の攻撃で腕が片腕が負傷、下手すれば骨が折れたかもしれない。【戦車】には防御力も上げる特性もあるが、悪魔を超える魔神の前では無意味に等しい。

 

『何じゃ、もう終わりなのか?もっと儂を楽しませて貰わんと困るゾ』

 

 2人は痛みに耐えながら何とか立ち上がる。彼女達の目にはまだ闘志は消えていなかった。何故なら2人を含めた眷属達はこの試合が決まったところに、心に決めたことがあるから。

 

 

───何としても悪魔(我々)の未来を守る。そしてライザー・フェニックス様(我等が主人)の為に勝利を捧げる───っと。

 

 

 しかしそんな2人をどん底に叩き落とすような1通のアナウンスが流れた。

 

『ライザー・フェニックス様の兵士(ポーン)2名リタイア……エッ!?帰還されない!?』

 

『…メラスキュラの奴もう終わらせたのか。もう少し遊んだっても良かったにノォ』

 

 ガランはメラスキュラが早急に残っていた2人を倒したことに不満を呟く。だが雪蘭とミラにはそんな言葉など耳に入っていなかった。何故なら今のアナウンスの最後の言葉が気になっていたから。

 

「ど、どう言うこと!?帰還されないって!?システムの故障!?それとも不具合!?」

 

「そんなこと私に聞いたって分からないわよ!!」

 

 『帰還されない』その思わぬ単語に戸惑っていた。普通なら帰還されないなんてまず考えられない。況してや先日行ったと思われるフィールドでなら尚更。だがそれは─────()()()()()()()()()での話。

 

『何じゃ、お主等知らんのか。このゲームは儂等とお主等、どちらかが死ぬまで終わることのないデスゲームじゃ!敗北は即ち【死】じゃ!』

 

 そう、今回のゲームのルールは悪魔側が決めたものじゃない。故に自分達の常識など通用しない部分が含まれていても不思議はないのだ。

 

『さぁ、話はここまでにしてゲームの続きを楽しもおゾ!』

 

 この瞬間2人は今まで感じたことのない恐怖に駆られた。

 

 たった一撃で最初見た広場と同じくらいの大きさのクレーターを作ってしまう程の怪物、さらに負ければ【死】と言う現状に本能が「逃げたい、逃げ出したい」と訴え掛けてくるような衝動に駆られる。

 だが例え相手が如何に強かろうと引くことは出来ない、許されない。自分達(悪魔)の未来を賭けた戦いに『逃亡』の文字はないのだ。

 

「こうなったらトコトンやってやろうじゃない。ミラ覚悟を決めなさい」

 

「言われなくても」

 

 2人は意を決し再びガランにへと挑む。雪蘭は拳に炎を纏い殴り、ミラも雪蘭とは反対側を棍棒で何度も突きまくる。

 

 雪蘭は痛みに顔を歪めながらも殴り続ける。骨が逝ったかもしれない右腕は下手すれば使い物にならなくなるかもしれない。さらに彼女の拳から血が飛び散る。手先の方の神経は麻痺して痛みがない、だがそれでも止まることはなかった。

 ミラもそんな彼女に遅れを取らないように懸命に攻撃するも「ガン、ガン」と音が鳴るだけでやはりダメージは全くないようだ。

 

『下手な小細工をせず真正面から挑んで来たのはイイ。じゃいい加減鬱陶しくなってきたワイ』

 

 ガランの緑色の瞳が不気味に輝くと、持っていた大鎌を勢いよく振り回し始めた。

 

 

 

 

紊粗断(ぶんざらだん)

 

 

 

 

 自身の周囲を高速で振り回し、近くにいた雪蘭を斬りつけ吹き飛ばす。ミラは身体の方は無事だったが、棍棒は半分近くが斬られてしまう。自慢の武器が半壊されたことで呆気に取られる彼女にガランは狙いを定め、その巨体から想像も付かない程のスピードで目の前まで移動した。そして鎌の後方の槍部分を突き出し、彼女の身体を突き刺し串刺しにしてしまう。

 

「クハッ!」

 

『終わりじゃ小娘。恨むなら儂等の主人の怒りを買った、ライザー・フェニックス(お主のバカな主人)を恨め。その所為でお前さんはここで死ぬのじゃからノォ』

 

「ミラッ!」

 

 雪蘭は身体を起き上がらせ駆け出すと、ガランは鎌を逆さまに持ち替え振るうと、刺さっていたミラは遠心力で抜け、そのまま雪蘭の方へと吹き飛ぶ。雪蘭は反射的にミラを受け止めると、ガランは自身の背後に鎌を振り下ろした状態で背を向けて立っていた。そして同時に彼女達の身体は横たわっていた壁諸共真っ二つに裂けた。

 

 

 

 

伐裟利(ばっさり)

 

 

 

 

 裂かれた2人の身体はその場で崩れ落ちる。ガランは2人の身体を高速で鎌を振るい、さらに細かく刻んでいく。攻撃を止めるとそこにあったのは、雪蘭とミラだったと思われる無数の肉片であった。

 

 

 

『ラ、ライザー・フェニックス様の【戦車】1名、【兵士】1名…リタイア』

 

 

 

『悪魔とは言えやはりこの程度か。これなら前始末した連中の方がまだ楽しめたワイ。しかし儂相手にここまで粘ったことは褒めてやる。あの世で胸を張って良いぞ、カーカッカッカッ!』

 

 苦痛にも似た弱々しいアナウンスが、ガランの高笑いに掻き消されクレーター内で彼の笑いが響き渡るのであった。

 




今回はここまでです。

暫く「ライザー眷属vs死刃」回が続きます。
展開としては今回のように死刃1人で眷属数人を相手にするような感じで、一回の話につき死刃は2人出そうと思っています。
誰が登場するかはその時までの楽しみにしていてください。

感想などあればお願いします。


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6話 レーティングゲーム その2

どうもアニメ大好きです。

皆さんお盆はどう過ごされましたか?私は久しぶりにお盆に帰省して実家でゆっくりしました。お盆直前に台風が発生してどうなるのかと思いましたが、なんとか計画通りゆっくり(?)過ごす事ができました。
まだまだ猛暑が続いています。皆さんも体調管理に気を付けてください。

今回は死刃から自分の中では似た者同士の2人が登場します。

それではどうぞ。


 レーティングゲームが開始して王のライザー・フェニックス(馬鹿)と女王を除いた眷属達はそれぞれ林の中を進んでいた。

 その中の2人組、顔半分を仮面で覆った女性───戦車の【イザベラ】が、頭部に鉢巻を着用し鎧を纏った女性───騎士の【カーラマイン】に話しかける。

 

「カーラマイン、今回の相手はどう思った?」

 

「…私には騎士としての感覚で分かる。今まで戦っていた者達とは明らかに違う」

 

「私も同じ意見だ、生半可な相手ではない。だが我々はライザー様のために戦うまでだ」

 

「そうだな…ッ!?」

 

「どうした?」

 

「…誰かいる」

 

 気配を感じ取ったカーラマインが一旦立ち止まる。すると茂みの中から赤い中華服を着込んだ怪人と、鎧武者が現れる。

 

「まさか俺達の気配を感じ取るとは…」

 

「少しは歯応えがありそうだ」

 

「…お前達が私達の相手か」

 

「確かにこれまで相手とは違うようだが、相手にとって不足なし。私はライザー様の騎士(ナイト)、【カーラマイン】だ!」

 

「私はライザー様の戦車(ルーク)、【イザベラ】」

 

 2人はそれぞれ自己紹介する。怪人の方は腕組みをしながら、どちらを相手にするか見比べていたが、鎧武者の方はカーラマインを凝視していた。

 

「ニワ、あの『騎士』の娘は俺が相手をする。貴様は仮面を付けた娘を頼みたい」

 

「…分かった。我が友の頼みなら断るわけにはいかん」

 

「感謝する。『騎士』の小娘、貴様は俺が相手をしてやる。着いて来い」

 

 鎧武者は飛び上がり奥の方へと立ち退く。

 

「…すまない、イザベラ。こっちは頼む」

 

「あっ!おい待て、カーラマイン!」

 

 カーラマインはイザベラの静止も聞かず、鎧武者の後を追い掛ける。一般的に考えれば分断する為の罠かもしれない、だが不思議とカーラマインは鎧武者からそのような感じはなく、寧ろ自分と似たようなものを感じた。

 

 そのまま後を追うと、少し広めの場所に出た。

 

「まさか本当に付いて来てくれるとは。あの道中何かあるとは思わなかったのか?」

 

「普通に考えばそれが妥当だろう。だが私は感じたのだ。さっきのお前の言葉には偽りがないと。それにもしお前が卑怯な輩なら、最初闇撃ちしていただろうしな」

 

「成る程な」

 

「それより自ら1人になるとは…それ程までに自信があるのか?」

 

「それもある。だが貴様を一目を見た瞬間感じたぞ、貴様の騎士としての誇り(プライド)を!」

 

 死刃にそれぞれが司る死の形がある。それはその死刃の死相にして存在理由でもある。そしてこの鎧武者の司る死の形は【誇り(プライド)】。故に正々堂々、真剣勝負を好む彼女の騎士としての誇り(プライド)を感じ取ったのだろう。

 

「俺にも武人としての誇り(プライド)がある。故に1対1の戦いを望んだのだ」

 

「…成程。確かに私とお前は似た者同士かもしれん。お前みたいな馬鹿正直な奴、私は大好きだ!」

 

 敵であるが馬が合うことに喜びを感じるカーラマイン。もしこんな状況でなければ、じっくりと剣を交えたいところであるが、そう言う訳にもいかない。

 

「ところで、そろそろお前の名を聞かせて貰えないだろうか?」

 

「そうだった、まだ名乗っていなかったな。俺は第【9】の死刃────《第9死刃(ヌベーノ・エスパーダ)》…」

 

 

 

 

カチャ、カチャ

 

 

 

『サーガインだ!』

 

 

 顔の部分が開くと、そこには蟻みたいな小さな生物が無数のコードに繋がれた椅子に座っている。そしてその動体には【9】の数字が刻まれていた。

 

「…それがお前の正体か。しかしお前のような小さな奴が最強格の1人とは…」

 

 

 

カチャ、カチャ

 

 

 

「嘗めるな。確かにこの身体は俺が作り上げた傀儡(クグツ)だが、貴様の手足同然のように動かせる。俺は純粋に実力を買われ、死刃に選ばれたのだ。それに騎士なら相手の見た目だけで判断するな!」

 

 本体は小さくても死刃に名を連ねる存在。それに最初に出会った時に唯ならぬ雰囲気を感じた、相当の実力を兼ね備えているに違いない。分かっていたはずなのに、それを一瞬とは言え見た目だけで判断してしまった。カーラマインはそんな自分に不甲斐無さを感じる。

 

「…確かにそうだな。見た目で判断するなど愚の骨頂、謝罪する。では此方も改めて名乗らせてもらう。ライザー・フェニックス様の騎士【カーラマイン】!いざ尋常に勝負!」

 

 カーラマインは腰から剣を引き抜くと、その刀身が炎を纏い真正面から突っ込む。サーガインも両肩に納めてあった2本の刀を引き抜き受け止め弾き返す。

 互いに素早いスピードで剣捌きがぶつかり合う度に火花が飛び散る。その速度は常人には捕えることは出来ない程である。

 

「素晴らしい。まさかここまで心躍る戦いが出来るとは!」

 

「俺もだ。貴様のような誇り(プライド)を持った奴と出会うことが出来るとはな!」

 

 戦いに関する拘りが似ているためか、剣を交える内に意気投合していき歓喜に振るえる2人。しかしその最中一つのアナウンスが流れる。

 

 

 

『ライザー・フェニックス様の兵士2名、リタイア…エッ?帰還されない!?』

 

 

 

 それは自分達の仲間が倒されたと言う朗報だった。しかしその中の「帰還されない」と言う単語が引っ掛かった。

 

「帰還されないだと!?どう言うことだ?」

 

「当然だ。これはそう言うゲームなんだからな」

 

「何ッ?」

 

「これは完全なるデスゲーム、負けた方には死が与えられる。勿論死刃(俺達)も例外ではない。つまり今俺と貴様は、どちらが生き残るかを賭けた戦いをしている最中だ!」

 

 負ければ死ぬ、それはつまり自分の剣が目の前の相手の命を刈り取ることになると言うことだ。そして同時にサーガインに対する疑念が浮かんだ。

 

「…お前は先程、武人としての誇りがあると言ったな?何故命を奪うこのゲームに参加した?」

 

「知れたこと。それが我が主人、デストロイヤー様のご命令だからだ」

 

「何だと!?主人の命令なら、命を奪うことにも躊躇いはないのか!?」

 

「当然だ!そもそもデストロイヤー軍は凡ゆる世界を我が物にするために創設された軍。敵の命を奪うことに躊躇いなどあるはずがない」

 

 レーティングゲームはその名の通りゲーム、人間で言うところのスポーツ、運動会と似たようなもの。だから最低負傷者は出てしまえも、死者は出ることはない。

 しかしデストロイヤー軍は違う。多くの者達は命を賭けた死闘を潜り抜けてきた。故に戦いにおける覚悟が違う、天と地程の差があるに等しい。

 

 

『ラ、ライザー・フェニックス様の戦車1名、兵士1名…リタイア』

 

 

 さらにそこへ、また2人の仲間がヤラれたとのアナウンスが流れる。だがその声は平静を装っているが何処となく曇っているような感じだった。

 

 自分はこれまで多くの敵を戦っており、倒すのに躊躇いはなかった。

 だがそれは安全なゲームであったから。今行われているゲームは命の保証はない。もしこのゲームが本当に命を奪うまで戦うゲームだとしたら、自分の手が血に染まってしまうことになる。自分の誇りある騎士の手を汚したくない、そのことからカーラマインの中に迷いが生まれてしまった。

 

「来ないのなら、こっちから行かせてもらうぞ!」

 

 そんな彼女を他所にサーガインは後方へ飛び、後ろにあった木な幹を足場にして着地する。さらにその幹を蹴り飛び出すと、また別の幹に着地する。その行動を何回も繰り返していき、次第に速度が上がっていく。

 呆気に取られていたカーラマインが気付いた時には、目で補足するのが難しい程にまでなっていた。速度が上昇する特徴の駒を持つ【騎士】の彼女でさえだ。

 

「食らえ、奥義【回転斬り】!」

 

 サーガインは彼女の後方にあった幹を最後に回転しながら飛び込んでいく。カーラマインは騎士の感もあり反応した彼女は反射的に剣を翳し防ぐ。だが一本の剣と二本の刀では回転の威力を合わさり次第に押されていき、カーラマインの剣の刀身に罅が入り遂に真っ二つに折れてしまう。

 サーガインの勢いは止まらずそのままカーラマインにへと突っ込み身体中を斬り刻んでいく。しかし何とか急所を避けたことで耐えたカーラマインであったが、思ったより負傷が大きくその場で膝をついてしまう。華麗に着地したサーガインはカーラマインへと向き直ると、彼女を見る視線は何処となく不機嫌なご様子であった。

 

「…貴様、今手加減をしたな」

 

「ッ!?な、何を言っている。私は手加減など…」

 

「貴様はこのゲームが命を賭けた戦いと知って動揺した。故に貴様は無意識に俺を斬ることを躊躇ったのだ」

 

「ッ!?」

 

 確かにこれが命を賭けたゲームと知り心に迷いが生じた。そのことから無意識に力をセーブしてしまい全力を出さなかった、いや出せなかった。

 

「騎士は本来主人の障害となる存在を、敵を殲滅するものだ。それに例え命を奪うとしても全力で戦うのが剣士としての最大の礼儀、それは騎士もまた同じではないのか!」

 

「ッ!?」

 

「それなのに敵の命を奪うことに躊躇い手を抜いた…貴様のその甘い考えは俺に対する、いや全ての騎士に対する冒涜だと思わんのか!!」

 

「…確かにお前の言う通りだ。…これが私とお前の戦いにおける、覚悟の違いか…」

 

「そう言うことだ。だが貴様の気高き誇り(プライド)、俺は気に入った。それにお前程の騎士をこのまま始末するには惜しい。そこで提案だが、貴様デストロイヤー軍に入る気はないか?」

 

「何ッ!?」

 

「貴様にその気があるなら、俺がデストロイヤー様に交渉してやる。そうなれば貴様は今よりもっと強くなることも可能だ。どうだ、悪くない話だろう?」

 

 予想もしなかった、正かの勧誘を受けるとは。このまま戦っても自分に勝ち目がないのは目に見えている。なら少しでも生き残れる術があるなら乗るべきだろう。

 命が助かる上に強くなる事も出来る、普通に考えれば悪くない提案だろう。しかし彼女の心は決まっていた。

 

「…それは素晴らしい提案だが、私はライザー様の騎士。その程度で心は揺らぎはしない。この命尽きるまでライザー様のために戦う!」

 

 彼女はボロボロながらも立ち上がりサーガインを凝視する。その瞳の奥には一切の偽りはなかった。この瞬間彼女の中に生まれた迷いは消え去ったのだ。

 

「そうか…それなら仕方ない。だが己が死ぬとしても主人に仕えようする貴様の騎士として誇り(プライド)、益々気に入ったぞ。その誇り(プライド)に敬意を称し、俺の最大の技で方を付けるとしよう」

 

 サーガインの身体から紫色のオーラのようなモノが溢れると、そのオーラに吸い寄せられるかのように大気が彼の周りに渦巻く。そして満月を描くように両腕を下から上にへと回転させる。

 

「…最後まで私に敬意を払ってくれるとは…なら私もその想いに応えなければならないな」

 

 サーガインの敬意に感謝するカーラマインも後ろ越しに収納していた短剣を手に持ち炎を纏わせる。そして今持てる力を最後の一滴まで出し切る覚悟で最大限まで高めていく。纏われた炎は先程までの使用していた剣は勿論、先のゲーム、リアス・グレモリーの【騎士】と戦った時の比ではない程に輝き熱気を纏っていた。

 

 両者の途方もないエネルギーは周りの木々を吹き飛ばす、一種の小さな台風と化していた。

 

 先にカーラマインが動きサーガインの懐に飛び込む。それと同時にサーガインも上段に構え振り下ろす。

 

 

 

 

暗黒究極奥義

 

 

 

 

 

巌流(がんりゅう)斬り

 

 

 

 

 両者の剣がぶつかり合いその一端が衝撃波で大気が震え、辺りが光に包まれる。

 

 数秒後光が収まると互いに背を向き合う状態となっていた。静寂が流れサーガインが2本の刀を両肩の鞘に納めた瞬間、カーラマインの身体中から大量の血が吹き出し力なくその場に崩れ落ちる。

 

「カーラマイン。もし次に貴様と会う時があれば、その時は敵ではなく良き好敵手(ライバル)として刀を交えたいものだ」

 

 最早何を言っても彼女には聞こえていない。しかし彼女の顔は何処となく満足げな表情をしていた。

 

 

 

『ライザー・フェニックス様の【騎士】1名…リタイア』

 

 

 

 

 

─────────────────────────────

 

 

 カーラマインが去った後、残されたイザベラは残った怪人と

 

「全くカーマインの奴、相変わらずの戦闘馬鹿め…」

 

「お前はあの小娘の後を追わなくて良いのか?」

 

「心配ない、カーラマインならそう簡単に負けはしない。そう言う貴様こそアイツを1人させて良かったのか?カーラマインは馬鹿正直だが、剣の腕は相当のものだぞ」

 

「それこそ心配不要だ。刀同士でならサーガインが負けることはない。アイツも刀を持たせれば死刃の中では3本の指に入る程の手練れだ」

 

 カーラマインの変わらぬ行動に呆れ愚痴を言うイザベルだが、長い時間を共に過ごしいる仲間、故に彼女の実力も知っている。だから1人で行かせても大丈夫と信頼している。

 だがそれはニワも同じこと。サーガインとは良く拳と剣を交えている、良き友にして好敵手的存在。そして同じ死刃である彼が負ける道理はないと信頼している。

 

 しかしイザベルは今回のゲームが気になることがあった。このフィールドに転移された時、見た目は先のゲームと同じ使用だが何か違う気がした。相手が同じ悪魔ではないってこともあるかもしれないが、それ以上に今までのレーティングゲームとは違う何か違和感を感じた。

 

「まぁ、それより今は貴様自身の心配をしたらどうだ?」

 

「…余計なお世話だ」

 

 色々気になるが、今は目の前のいる怪人(相手)に集中するべきだと考えるのは後にすることにした。

 

「今回は最初から本気で行かせてもらおう。リンギ、【獣人邪神変】!」

 

 頭部の鰐の像の目が光り両腕を広げると、両腕と頭部が身体に吸い込まれ膨れ上がり破裂。そこから鰐を模した姿にへと変貌、その胸部には【6】の数字が刻まれていた。

 

「俺は第【6】の死刃─────《第6死刃(セスタ・エスパーダ)》、【ニワ】!我が主人の命により、貴様を倒す!」

 

「その言葉ソックリそのまま返す!ライザー様の為、お前を倒す!!」

 

 イザベルは真正面から突っ込み、棒立ちのままのニワの胸部に拳を打ち込んだ。【戦車】の特性も合わさった一撃、確かな手応えもあり決まったと思った。しかしニワは平然としていた。

 

「どうした?こんなものか?」

 

「ッ!?まだまだ!」

 

 さらに拳を打ち込むが、獣人化したその皮膚の硬度は高く全く応えていない。

 

「俺の鎧は堅牢無比。この程度では傷一つ付けることは出来ん」

 

 獣人化したニワの硬さは死刃トップ。【戦車】の力が増大したとしても、その強靭な鎧には傷どころかダメージすら与えることは出来ない。ならばと足も使うが両腕の鰐型の手甲に塞がれ、逆に鋭い爪で引っ掛れ爪痕が残る。痛みで怯んだ隙に肩を掴まれる。

 

「受けてみよ、リンギ【泥州胴折り(ですどおり)】!」

 

 扇風機のプロペラのように高速で横回転、放り投げられ地面に打ちつけられる。【戦車】の特徴の一つで防御力も上がっている為致命傷は避け、直ぐに起き上がるがニワは反撃の隙を与えない。

 

「【泥州胴折り(ですどおり)(つう)】!」

 

 今度は回転しながら突撃し、すれ違いにその身体を斬り刻む。

 

「ッまだまだ」

 

 イザベルは直ぐ反撃に移り拳を突き出し飛び掛かるが、手甲で防がれ弾き返されてしまう。

 

「食らえ、リンギ【万降石(ばんこうせき)】!」

 

 両腕を地面に打ち付けると、無数の岩の破片が飛び散り降り注ぎ怯んでしまう。その隙にニワは飛び掛かり両腕を突き出し、イザベルの胸部へ叩き付け吹き飛ばす。

 

「クッ、強い」

 

「当然だ。死刃ならこれくらいは当たり前、寧ろ貴様が弱過ぎるのだ」

 

 ニワは腕を回し身体を剥がす。今まで多くの悪魔と戦ってきた、しかし攻撃が全く通じないと言う相手と戦ったことは少ない。かと言ってただヤラれる訳にもいかない、痛みに耐えながら彼女は立ち上がる。

 

 するとそこへ一本のアナウンスが流れる。

 

 

『ライザー・フェニックス様の兵士2名、リタイア…エッ?帰還されない!?』

 

 

 何と仲間の敗北を知らせるものであった。それにも驚いたが、それ以上に「帰還されない」と言う部分が気になった。

 

「帰還されていないだと!?どう言うことだ!?」

 

「何だ、女知らないのか?これは命を賭けたゲーム、負ければ死ぬ」

 

 その言葉に衝撃を受けた。さっきから感じていた違和感はこれだった。今までのゲームとは違い、負ければリタイアではなく死を迎える。不死であるライザー・フェニックス(主人)は兎も角、自身を含めた眷属達には命の保証はない。

 

 負けられない理由がまた一つ増えた。

 

 だが悪い知らせはこれで終わりではなかった。

 

 

『ラ、ライザー・フェニックス様の戦車1名、兵士1名…リタイア』

 

 

 自分達の仲間がさらに2人敗れた朗報が流れる。その内の1人は自分と同じ戦車だ。恐らくその2人も先の2人同様、帰還出来ずヤラれてしまったのだろう。今のアナウンスの声が見るに堪えないと言わんばかりだったので察しが付く。

 

「またお前の仲間がヤラれたようだ。誰がヤッたは知らないが、他の死刃も俺に引けを取らない程の強さがある。そして今の戦闘で分かった───貴様は俺には勝てん。悪いことは言わん、潔く負けを認めろ。そうすれば苦しまずに終わらせてやる」

 

 確かに自分の実力ではニワ(目の前の相手)に勝ち目はないだろう。だがそれで諦めていい理由にはならない。

 

「…確かに私がお前に勝つのは不可能に近いかもしれない。だったら責めて相打ちにしてやろうじゃないか!」

 

 負けを認めようがなかろうがどちらにしても助からない、それなら最後まで足掻くことを選択したイザベル。【戦車】の駒の特徴も合わさった身体能力で高速の拳を繰り出す。彼女は自壊するのも覚悟の上だろう。

 しかしニワはその強靭な肉体をひけらかすかのように、胴体や背中を使って受け続ける。その態度に流石にイラついたのか、身体を掴み土手っ腹に蹴りを打ち込む。手応えはあるものの、攻撃を受けたニワはケロッとしている。ニワはお返しに鋭い爪で身体を斬り付け、アッパーで吹き飛ばす。

 

「…クッ」

 

「無駄だ。言っただろ、貴様では俺には勝てんっと。現に貴様の緩い攻撃では、俺の身体に傷一つ付けられんのだ」

 

 身体中に傷を負いボロボロのイザベルに対し余裕綽々のニワ。ここまで実力の差が明白にされた自分に不甲斐無さを感じる。

 

 しかも追い打ちを掛けるように、新たな悪い情報が入る。

 

 

『ライザー・フェニックス様の【騎士】1名…リタイア』

 

 

 また仲間が敗れたとの朗報が。それも今度は【騎士】。その敗れた騎士は恐らく、さっきまで自分といたカーラマインの可能性が高い。

 彼女は「超」が着くほどの戦闘馬鹿だが、その実力は確かなもの。サーガイン(さっきの死刃)の強さがどれ程だったかは知らないが、そんな彼女が敗れたと言うのが信じられなかった。

 

「サーガインの奴も終わらせたようだな。なら俺も終わらせるか」

 

 サーガインが勝利したことに浸っている隙に、目の前まで来ていたイザベルの拳を手甲で受け止める。そして彼女の肩を掴み【泥州胴折り(ですどおり)】を繰り出し、上空にへと放り投げる。ニワの顔と思われる部分の先端に赤い球体が凝縮されていく。

 

 

 

 

虚閃

 

 

 

 

 蓄積し放たれた球体型のエネルギー────【虚閃】は一本の閃光となり、激しい轟音と共にイザベルをあっという間に飲み込んだ。

 閃光が止むとそこにイザベラの姿はなく、彼女の着けていたと思われる仮面が地面に落ちた。

 

「悪魔とは言え所詮こんなもの、大したことなかったな」

 

 

『ライザー・フェニックス様の【戦車】1名…リタイア』

 

 

 再びアナウンスが流れるが、その声には苦痛とも言えるような感情が篭っていた。




個人的にカーラマインとサーガインが対決したら、こうなるんじゃないかなぁっと思います。関係ないと思いますが、名前も似ているし。
ただこの2人の戦いの後にニワとイザベラの戦いが薄っぺらくなってしまったかもしれん。でもそれぞれの原作でもこの2人は遠距離攻撃や武器はなかったので、イザベラの攻撃はニワの頑丈な鱗には効かないと思います。


ここで皆様にお知らせがあります。
実は私自身の今後のことを考えて、精神的に参ることが多くなっているのです。その所為で創作意欲が低下している状態なのです。だから更新が遅れると思います。

なるべく早く投稿しますので、それまで待っていただけると幸いです。
感想等あればどうぞ。それではまた次回。


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7話 レーティングゲーム その3

どうもアニメ大好きです。

リアルで色々悩みごとが多くストレス大です。でもなんとか時間を見つけコツコツ作成し今日投稿することが出来ます。
本当はもう少し早く投稿したかったのですが、昨夜「進撃の巨人」の完結編後編を見て寝不足だったため頭が回らなかったのです。すみません。
アニメ開始から10年と言う長い時を得て遂に完結。私も10年も歳を取りました。10年…長いようであっという間ですね。

今回も前回同様「レーティングゲーム」の続きです。
快進撃が止まらない死刃、そして今回もその快進撃は止まりません!

それではどうぞ。


 ゲームが開始して数刻が過ぎた頃、会場では観戦していた家族達が荒れに荒れていた。その原因は先のカーラマインとサーガインの戦いについてだ。

 

「何故ライザー・フェニックスの騎士を殺した!」

 

「そうだ!あれ程のダメージを受けては戦闘継続は不可能だった!」

 

「あそこまでする必要はなかった筈だ!」

 

「貴様のところの教育はなっていないんじゃないのか!」

 

 先の戦闘でサーガインはカーラマインの息の根を止めた。自身が勧誘しようとしたにも関わらず。そのあまりにも残酷な仕打ちに貴族達は抗議を言い出す。

 さらにその矛先は主人であるデストロイヤーにへ向けられる。言いたい放題の貴族達に従属官達は武器や銃口を構えるが、それをデストロイヤーが腕を彼等の前に出し静止させる。

 

「…貴方達、さっきから私に非があるみたい言い方をしていますが、思い違いをしていますよ」

 

「何だと!?」

 

「あれはカーラマインさん(彼女)が望んだこと。サーガインはカーラマインさん(彼女)の意思を尊重しただけです」

 

 確かにサーガインは勧誘してところを見ると、命まで取るつもりはなかったかもしれない。だがそれを拒み、騎士として散る選択をしたのは他でもないカーラマイン(彼女)だ。つまりこの結末はカーラマイン(彼女)自身が望んだ結果とも言える。それでデストロイヤーを攻めるのは筋違いと言うものだ。

 

「それよりまだゲームは続いています。口論するより今はゲームの方に集中しましょう」

 

 そう言うデストロイヤーは再びモニターにへと視線を向ける。まだ何か言いたげだったが、サーゼクスが先のデストロイヤー同様腕を前に出し、さらに首を横に振った。魔王が大人しくしているのだから自分達もそうせざるを得ない。何も言えなくなった貴族達は顔を顰めながらも観戦に戻るのであった。

 

 

───────────────────────────

 

 

 その頃ステージの森林の隅でカーニバルダンサーのような格好をした【シャリヤー】、露出の多いメイド服を着た【マリオン】、【ビュレント】ライザー・フェニックスの兵士3人が揉めていた。

 

「ちょっと、どう言うことよ!?帰還されないって!」

 

「そんなこと私が知るわけないでしょ!」

 

 3人は森を探索中アナウンスを聞いた。自分達の仲間がドンドン倒されていく上に、帰還されていないと言うことに。本来なら死者が出ないよう戦闘不能な状況に陥った場合強制的に転移されることになっているが、それがない。つまり命の保証がないと言うことに繋がる。

 

「と言うか私達の方はもう半分近くも倒れたのに、相手はまだ誰1人倒せてないじゃない!」

 

「もし負けたら私達も同じように…」

 

 もし自分達も負ければ敗れた者達と同じような運命を辿るかもしれない。そんな恐怖が身体を蝕む。

 

「アンタ、『私達ならどんな奴が来ても楽勝』なんて言っておいて、どこが楽勝よ!?無責任にも程があるわ!」

 

「ハァ!?何よ!アンタだって『精々楽しませて貰おうじゃない』って言ってたでしょ!私だけに責任擦りつけないでよ!!」

 

「ちょっと2人共、今は歪みあっている場合じゃないでしょ!」

 

 責任を押し付け合い出すシュリヤーとビュレントに対しマリオンが止めに入る。すると突然上空から雷が降り注ぎ砂埃が舞い上がる。

 

「へへへ、いつまで経っても来ねェからこっちから出向いてやったぜ小娘共」

 

 砂埃の中から声が聞こえ1つの人影が現れる。そこには全身白黒の縦ボーダー、両肩や腕等身体の数カ所に電極が付いており、口元がニヤッとした顔をしている怪人が立っていた。

 

「今のは貴方の仕業?」

 

「そうだ。しかしこんな状況で喧嘩するとは随分余裕だな。それとも恐怖で頭が可笑しくなったか?」

 

「バカにしないで!私達を嘗めると痛い目見るわよ!私は、ライザー・フェニックス様の兵士【シュリヤー】」

 

「同じく兵士の【マリオン】」

 

「同じく兵士の【ビュレント】」

 

「へェ〜、自己紹介するとは随分律儀だな。なら俺も名乗ってやるか」

 

 怪人は左頬に手を翳すと、そこに【7】の数字が浮き上がってくる。

 

「俺は第【7】の死刃、《第7死刃(セプティマ・エスパーダ)》【テリーX】!精々俺を楽しませてくれよな、小娘共!」

 

 怪人──テリーXも同じように自身の階級を明かした上で自己紹介する。そんな中、3人は彼の階級を聞いた途端少し安易な表情になった。

 

「そっちこそ1人で来るだなんて随分余裕ね」

 

「たった1人で、私達3人で勝てると思ってるの?」

 

「何だったらハンデを与えて挙げてもいいわよ」

 

 7番なら3人掛かりで戦えば勝てると思い完全に上から目線になっていた。さっきまでオドオドしていた態度は何処へやら…。しかしテリーXは3人の言葉等一切耳にしなかった。

 

「ハッ?何言ってやがるが小娘共。ハンデだァ?それならもうこっちがやってるだろ。俺1人で相手にするって言うな」

 

「ッ!?上等じゃない…」

 

「その言葉後悔させてあげる!」

 

「途中で『やっぱり3人掛かりは卑怯』とか言わせないわよ!」

 

 挑発のつもりが逆に煽り返され3人はマンマと挑発に乗ってしまう。

 3人はそれぞれの掌に魔法陣を展開し同時に魔法を放つが、テリーXは素早い動きで飛び上がり回避しそのまま電撃を放つ。3人は咄嗟のことで避けられずモロに攻撃を受け吹き飛ばされる。

 

「オラオラどうしたァ?もうギブアップか?」

 

「クッ…あまり調子に乗らないで」

 

 1番に起き上がったビュレントが服装からは予想出来ない軽い身のこなしで【戦車】よりパワーは劣るが格闘戦に持ち込む。しかしテリーXも同様に素早い身のこなしで回避、そこに電極を首根っこに押さえ付けると、そこから電撃を0距離で浴びせる。電流を止めるとシュリヤー達の元へと投げ捨てる。

 

 次にシュリヤーが飛び掛かりそのまま取っ組み合いとなりテリーXの動きを封じる。その隙に後方からマリオンが掌に魔法陣を展開させ攻撃しようとするが、テリーXは身体を晒しシュリヤーと位置を入れ替える。しかし今更止めることが出来ず、そのまま攻撃はシュリヤーに直撃してしまう。

 力が弱まったシュリヤーをテリーXは払い除け、電極で斬りつけ2人の共へ吹き飛ばす。

 

「お前ら何処狙ってんだァ?」

 

 さらに両腕を上へ上げると電極から電撃が放出され、それが雷となり3人にへと降り注ぎダメージを与える。

 

「おいおい、まさかもう終わりか?だとしたらとんだ口だけ野郎共だな」

 

「ッまだまだここからよ。行くわよ2人とも!」

 

「エェ!」

 

「言われなくても!」

 

 1人1人では太刀打ち出来ないので3人で3方向から一誠に挑み掛かる。しかしテリーXは3人の攻撃をその身体能力を活かして避ける。マリオンを斬り付け吹き飛ばし、シャリヤーとビュレントの首元に電極を押し付けそのまま電撃を流し込み、離すと電極を突き付け吹き飛ばす。

 倒れた2人に近づこうとすると、左方から光球体が飛んで来たので電極で斬り裂く。飛んできた方を見るとマリオンが掌に魔法陣を展開させていた。

 

「エェェイ、鬱陶しいィ!」

 

 テリーXの姿が忽然と消えたと思った瞬間、自分の真正面におり首根っこを掴んでいた。そのままシュリヤー達がいる方へと投げ飛ばし電撃を放つ。3人は地面に倒れ伏せた。

 

「どうだ?これが俺とお前等の差だ」

 

 3人掛かりで戦っても歯が立たない。これが死刃に選ばれた者の実力。しかもテリーXはその集団の7番、下から数えた方が早い。しかしその実力は3人の予想を遥かに上回っていた。

 例え倒せたとしても彼より強い死刃がまだ5人以上いる、目の前にいる相手にさえ苦戦を強いられていると言うのに…どうやって勝てと言うのか?

 

 

 

自分達の勝利する未来が全く見えない。

 

 

 今の3人は最初の時以上に怯え、震える子犬のようであった。

 

「お前等、今仲間の元へと送ってやるぜ」

 

 テリーXは両腕を向けると先程とは違い緑色の電撃が放たれ3人を電撃のドームへ閉じ込める。悶え苦しむ3人、そのまま感電させるかと思われたが、何と電撃が逆流するように突起の先端に吸い込まれていく。

 軈て3人の身体は粒子分解され消滅、そして両胸に埋め込まれていた数本の電球が光輝く。

 

「フフフ、『プラズマX』の完成だ。能力者(エスパー)には劣るが中々いい出来だぜ」

 

 テリーXは自身の作った高性能乾電池『プラズマX』の出来に上機嫌となる。そして例の如くアナウンスが流れる。

 

 

『ライザー・フェニックス様の兵士3名…リタイア』

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

 また別の箇所では獣耳を生やしたセーラー服姿の青髪の【ニィ】と赤髪の【リィ】兵士2人が森の中を走っていた。

 

「聞いたニャ。今度は兵士(ポーン)3人がヤられたみたいニャ」

 

「つまり私達以外の兵士(ポーン)は全滅ってことニャ」

 

 2人もまた放送で「帰還されていない」と言う単語を聞いてから余裕がなくなり、さらにドンドン仲間達が倒されていることもあり焦り出していた。そこでまだ生き残っている仲間と力を合わせて戦おうと考え、合流するためにひたすら走り続けていた。

 

「こっちはもう半数以上がリタイアになったニャ。これはマズイニャ、マズイニャ!」

 

「言われなくても分かってるニャ!でも私達2人だけじゃ無理ニャ。早く残っている仲間と合流を…」

 

 アタフタしている2人の共に、突如上空から何かが目の前に飛来し砂埃が舞い上がる。

 

「な、何ニャ!?」

 

「何が起こったニャ!?」

 

「全く。いつまで待っても来んから、儂の方から出向いてやったぞ小娘共」

 

 砂埃の中から声と共に大柄なシルエットが見える。

 全身青肌で、尻尾を生やした2mはあろう筋肉質な怪物。その姿は自分よりも悪魔らしい見た目をしていた。

 

「だ、誰ニャ!?」

 

「ワシか?ワシは…」

 

 怪物は左胸に手を翳すと、そこに【10】の数字が浮き上がってきた。

 

「…《第10死刃(ディエス・エスパーダ)》【デモゴルゴン】。世界最強のデビル【デモゴルゴン】だ!」

 

 怪物───デモゴルゴンは高らかに言い張る。最初は見た目にビビっていた2人であったが、階級を聞いた途端互いに顔を見合わせ口元がニヤ付いていた。

 

 ゲームが始まる前にルールは一通り聞いていた、勿論死刃のことも。

 死刃とは【10】以下の数字を与えられた幹部達のリーダー格。そして今目の前にいるデモゴルゴンは10番、つまり今回の敵の中では最弱。それなら自分達でも倒せると見込んだ。

 

「ライザー様の兵士(ポーン)【リィ】ニャ!」

 

「同じく兵士(ポーン)の【ニィ】ニャ!1人で来るだなんて、おバカなのかニャ」

 

「その通りニャ。お前なんかケチョンケチョンにしてやるニャ!」

 

「…言うではないか小娘共。なら貴様等の力試させてもらうぞ。【ガイアバスター】!

 

 拳を地面に打ち込むと、無数の岩の破片が浮かび上がる。それが雨のように一斉に2人にへと降り注ぐ。

 

 2人は身軽な動きで岩の雨を回避し、左右から拳を連打で打ち込む。しかし全く応えていない。ちゃんと手応えはあるし、防御する素振りもなく直に拳を打ち込まれているにも関わらずだ。

 

「全然効いてないニャ!?」

 

「身体に鉄でも入ってるのかニャ!?」

 

「どうした、これで終わりか?ならこっちの番だ。【アギラオ】!

 

 デモゴルゴンは大口を開けるとそこから炎を吐き出した。2人は野生の感と言うべきものか、「ニャニャニャ!」と声を荒げながらも回避する。

 

「口から火を出すだなんて聞いてないニャ!」

 

「そうか、それはスマなかったな。さぁ次はどうするんだ、小娘」

 

「貰ったニャ!」

 

 いつの間に背後を取ったリィが飛び掛かるが、突如デモゴルゴンの尻尾が伸びると彼女の足に巻き付く。動きを封じられ逆さ吊りにされてしまう。

 

「ニャニャ!リィを離すニャ!」

 

 その光景を見たニィは無我夢中で飛び出す。

 

「離してほしければ離してやる。しっかり受け取れ!」

 

 尻尾を振り回すと巻き付いていたリィの足を離し、ニィ目掛けて吹き飛ぶ。遠心力が加わったことで猛スピードで迫るリィに、ニィは避けられずぶつかり共に吹き飛ばされ転ける。

 

「小娘共が。食らえ!【マハラギ】!!

 

 再び大口を開け炎を吐き出し追い討ちを掛け、2人は炎にへ呑まれてしまう。それ以降も炎を吐き続け、一瞬にして辺り一面火の海と化した。

 

「…姿を現さんと言うことは、今ので消し炭になったか。フン、他愛もない小娘共め」

 

 暫くしても何の反応もなかったことで、今の炎で焼かれてしまったと思い自身の勝利を確信したその時であった。

 

「それはどうかニャ」

 

「これからが本番だニャ!」

 

 その炎の中から飛び出した2人は、周りの木々を使いデモゴルゴンの周りを動き回り撹乱する。

 デモゴルゴンは他の死刃と比べて図体がデカい分、その見た目通り動きが緩慢。パワー勝負なら負けることはないが、スピード勝負だとその動きに着いていくことが出来ず部が悪い?軈て2人を視界から外れてしまい見失ってしまう。

 

「何処だ!隠れてないで出てこい!!」

 

『此処だニャ!』

 

 上から声が聞こえ見上げると、リィとニィはそれぞれ二方向から旋風のように身体を回転させ、そのまま同時に脳天に踵落としを喰らわせる。

 強靭な肉体を持っていても流石に脳天は応えたのか、蹴られた箇所を抑え「オォォォ…」と低い呻き声を上げ蹲る。これにより隙が生まれたことで好気と思った2人は、このまま一気に決めると左右から同時に仕掛ける。

 

 だがその判断は誤りだった。

 

 デモゴルゴンが突如蹲っていた身体を起き上がらせると、自身の周りに炎のバリアを展開させた。その衝撃波により2人は吹き飛ばされる。

 

 

 確かにデモゴルゴンは見た目通り死刃の中では動きは1番緩慢。しかしその防御及び耐久力に優れており、タフさでは死刃随一。故に脳天に直撃を受けても、彼女達の攻撃では大したダメージにはなかった。

 

 

「やってくれたな小娘共。このワシに、世界最強のデビル【デモゴルゴン】に痛みを与えて…タダで済まさん!」

 

 だが女2人相手に不意を突かれ、痛みを受けたことに変わりはない。それが屈辱だったようでかなりご立腹のご様子。

 

 先ず倒れているニィに近付くと、頭を鷲掴み強く握る。痛みでニィは悲痛な声を上げるがそれで終わりでない。それから数秒後そのまま地面にへと叩き付けた。叩き付けられた箇所は轟音と共に亀裂が入り、顔は地面にめり込んでいた。リィの方は尻尾を伸ばして死なないギリギリの力で締め持ち上げ、ニィと同じように地面にへと叩き付ける。

 

 一度2人を持ち上げると再び地面に叩き付け何度かその行動を繰り返す。

 

 リィは尻尾を解こうと腕に力を入れるが真面に息が出来ないことに加え、全身に痛みが生じることで力が入らず、その皮膚の数カ所から赤い液体が流れて出していた。

 ニィに関してはリィより打ち付けられた回数は少ないが、頭基顔から地面に打ち付けられたことで。元の原型は留めていない程ボロボロにされていた。その目からは水が溢れ、鼻からも透明は液体が流れ、表情はぐしゃぐしゃになっており言葉を発する気力もなかった。

 

 デモゴルゴン(目の前の敵)は死刃の中では最弱、見た目は厳ついが所詮見掛け倒し、2人掛かりなら楽勝だと思っていた。しかし現実は非常、楽勝どころか身も心もボロボロにされた。

 

 ニィは深く後悔し思った。──さっきまで余裕ぶっていた自分達を殴ってやりたい──と。

 

 

 デモゴルゴンはニィの顔を持ち上げると自身の顔に近づけ、泣きべそをかいているその顔を暫く眺める。さらに尻尾に巻き付かれているリィに視線を向けると鼻で笑った。

 

「貴様等のような貧弱な小娘共部下にする気もない。もう視界に入るのも不愉快だ。さっさと消えろ!」

 

 完全に興味をなくし2人を同じ場所へ投げ飛ばすと、大口を開け口先に赤いエネルギーが球体の形で蓄積されていく。

 

 

 

 

 

虚閃(セロ)

 

 

 

 

 

 

 放たれた球体のエネルギー───【虚閃】は一筋の閃光となり2人は声を上げる暇もなく一瞬にして呑み込まれる。

 

 閃光が収まるとそこには一直線に伸びる削れた地面があるだけで、2人の姿は何処にもなかった。

 

 

「ヴゥアーハッハッハッハッハッハァ!!貴様等がこのワシに勝つこと等無駄だったのだ!ヴゥアッハッハッハッハッハッハァァ!!」

 

 

『ライザー・フェニックス様の兵士2名…リタイア』

 

 

 アナウンスが流れるにも関わらず、デモゴルゴンが高らかに笑い続けるのであった。

 




前回より戦闘描写が薄かったと思うかもしれません。しかし最初の3人と言い、ケモ耳の双子と言い、資料が少なかったので、私の雑頭ではこれが限界でした(特に3人組の方は戦闘描写すらなかったし)。

最近リアルでトラブルが多く体調には少し影響が出てしまっていますが、今年中に後1回か、2回は投稿したいと思っています。
それまで皆さん心待ちにしていただけると幸いです。

感想等あれば、どうぞ。


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8話 レーティングゲーム その4

明けましておめでとうございます、アニメ大好きです。今年初の投稿です。

私は昨年色々と大変な年でした。1月の中旬に働いていた職場が一度閉店しリニューアルオープンしましたが、系列会社が変わったことで方針や体制が変わり慣れるのに時間が掛かりました。
さらには12月の上旬、今までこの作品の下書き含め使っていたノートアプリの無料プランの制限が大幅に縮小されてしまい荒れました。中旬にはいぼ痔の治療を行いまして…。
兎に角今年はメンタルとお金をかなり消費したと思います。
なので今年は健康とメンタルをコントロールしていきたいと思います。

今回で眷属との戦いは最後になります。ライザー・フェニックス(焼き鳥野郎)を除いて後3人。果たして登場する死刃は誰か。

それでは、どうぞ。



 ステージのとある広場。そこには3人の女性がいた。

 

「一体何なんですの、今回の相手は!?」

 

「落ち着いてください、レイヴェル様」

 

「そうです。一旦落ち着きましょう」

 

「これが落ち着いていられると思ってますの!!」

 

 大剣を背負った女性と十二単を着用した和風の女性が、ドレスを着た【レイヴェル】と言う荒れている女性を鎮めようとする。だが火に油を注いでしまったようで荒々しさは益々ヒートアップしてしまった。

 

 先の放送から察するに自身の仲間の《兵士》と《戦車》は全滅。《騎士》も1人倒され残っているのは《王》と《女性》、そしてここにいる自分達を含めて5人だけ。最初の戦力の3分の1にまで減ってしまった。しかも相手の戦力は未だに無傷。この戦力差は絶望的、落ち着けと言うのが無理な話である。

 

「このままではマズイですわ。私の家は疎か悪魔の未来が…」

 

 先のパーティで乱入したデストロイヤーが言った『負けたら悪魔を滅ぼす』と言う言葉。最初は自分達を翻弄するための脅しだと思っていた。だが眷属達が次々と倒されていき、しかもその全員転移されず命を落としている。ここで漸くあの言葉は脅しでも冗談でもないことを理解した。今の状況が進めば間違いなく自分達、否悪魔に未来(明日)はない。どうすれば良いのかと悩んでいると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや、自分達の現状に随分と追い詰められているようですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …追い討ちを掛けるように不気味な声が聞こえてくる。大剣を背負っていた女性は剣を手に取り構え、和風の女性もレイヴェルを守るように辺りを警戒する。

 

「何処にいる!姿を見せろ!」

 

 剣を構えた女性が声を張り叫ぶと、突如上空から無数のトランプが降り注ぎ花吹雪のように舞う。するとそのトランプは一箇所にへと集まりだし竜巻の如く回転する。そしてトランプが一斉に弾け飛ぶと、そこには背中に4本の剣を背負ったピエロが立っていた。

 

「フフフ、言われた通り出てきて差し上げましたよ」

 

「貴様、何だ今のは!?巫山戯ているのか!?」

 

「巫山戯ているとは侵害。これは私なりの挨拶ですよ」

 

「戯言を…私はライザー様の《騎士(ナイト)》、【シーリス】!」

 

「ライザー様の《僧侶(ビショップ)》、【美南風(みはえ)】」

 

「これはどうもご丁寧に。では此方も名乗っておくとしましょう」

 

 ピエロは右頭部に手を翳すと、そこから【3】の数字が浮き上がってきた。

 

「私は第【3】の死刃───《第3死刃(トレス・エスパーダ)》、【ピエモン】と申します。お見知り置きを」

 

 ピエモンと名乗ったピエロは紳士のような振る舞いで自己紹介をする。

 

「生憎、貴様なんかと宜しくする気はない!」

 

 シーリスは背負っていた剣を引き抜き走り出す。しかしピエモンは顔色一つ変えずその場から動かないでいた。その余裕な態度にイラッとするが、今はその気持ちを押し殺し剣を振り上げ勢いよく振り下ろす。だが当たる直前ピエモンは軽く飛び上がり回避。

 

「つれない方ですね。【トランプソード】!

 

 背負っていた4本の剣を投げ飛ばす。シーリスは持っていた大剣で弾き返すが、剣は意志を持っているかのように変幻自在に飛び回り襲い掛かる。右往左往から一斉に襲い掛かり腕や足に傷が付けられていく。

 

「まだまだいきますよ、【トイワンダネス】!

 

 逆さず腕を下から上へ振るうと地面を抉る程の衝撃波が襲い来る。リーシスは持っている大剣を地面に刺し踏ん張る。攻撃が止んだ瞬間シーリスは走り出し突撃する。

 だが突如彼女の足元の地面から玉乗りのボールが飛び出し、そのまま曲芸の如く玉乗りを披露することに。しかしバランスが上手く取れず、たった数秒で転げ落ちてしまう。

 

「シーリス!」

 

「貴方には此方をご堪能してもらいましょう!」

 

 すると今度は美南風の足元から 一本の板が飛び出し端と端が合わさり《回し車》にへとなる。それが動き始めると美南風も自然に足を動かし始める。次第に回るスピードは速くなっていき、着ている服装もあり、足がもたれ転んでしまう。そしてそのまま遠心力によって彼女自身も回りだしてしまう。

 

「フハッハッハッハッハッハッハッ、アハッハッハッハッハッハッハッハッハwww」

 

 その滑稽な光景にピエモンは大爆笑。完全に遊ばれている、と言うより彼には初めから真面目に戦う気配が感じられなかった。

 

「貴様、この戦いを何だと思っている!もっと真面目に戦え!!」

 

 そんな遊び半分なピエモンにシーリスは怒り心頭。命を賭けた戦いにこんな巫山戯たことをされて黙っている程お人好しでない。ピエモンは飛び回っていた剣をそれぞれの鞘にへと仕舞い口を開く。

 

「…貴方、何か勘違いしているじゃありませんか?」

 

「何ッ!?」

 

「私達は主君であるデストロイヤー様からの命を受けこのゲームに参加しているだけに過ぎません。言うならば私にとってこのゲームは文字通りゲーム、遊びみたいな物なのですよ」

 

 淡々と恐ろしいことを言うが、そこに『悪意』が全く感じられなかった。何故なら今言ったようにピエモンからすれば、この戦いは単なる《遊び》同然。遊ぶのに悪意と言うモノがあるだろうか?答えは否。遊びに悪意も善意もないのだから。

 ピエモンの冷酷さ言うより、何を考えているのか全く掴めない不気味な雰囲気にたじろぐ。

 

「コイツ…イカれている」

 

「ところで先程から気になっていたのですが、彼方にいる方は何故戦わないのでしょうか?」

 

 自分達がいるのは戦場、戦いの場。それなのに戦闘が開始されてから援護もせず、ただ傍観しているだけのレイヴェルに疑問を持ち質問するピエモン。

 

「彼の方は戦わん。《僧侶》として参加はしているが観戦のみだ。彼の方の名は【レイヴェル・フェニックス】」

 

「フェニックス…成程、貴方方の主人の親族の方ですか。しかし観戦()()とはどう言うことでしょうか?」

 

 『観戦だけ』その答えに益々疑問を持つ。戦闘が不向きで戦えないとしても、仲間のサポートやリアス・グレモリーの眷属にいた《僧侶》のように回復をさせる手もある。だがそれもない。なら何故ここにいるのか訳が分からない。

 

「それはライザー様が…」

 

 聞けば「妹萌え」とかで羨ましがる奴がいるから、そんな連中への当てつけとして形だけ眷属にしているとのこと。つまり彼女が(馬鹿)の眷属になったのは、その(馬鹿)のくだらない、馬鹿らしい理由であった。

 

「…成程、理由は分かりました。しかし戦えもしないで此処に居られると目障りですね!」

 

 何処からともなく掌サイズの白い布を取り出した。それを投げるとヒラヒラと舞いながらその大きさは大きくなっていき、人1人を覆える程の大きさになりレイヴェルに覆い被さった。

 

「な、何ですの!?これは!?」

 

 抜け出そうと踠くが振り払えない。するとバチバチと紫の電流が走り布が崩れ落ちる。まるでレイヴェルが溶けてしまったように。

 ピエモンが近づき布を引っ剥がすとそこにレイヴェルの姿は何処にもなかった。

 

「レイヴェル様!?貴様、レイヴェル様を何処へやった!」

 

「何処っているじゃないか此処に。ほら」

 

 問われた質問にピエモンは冷静に答え右掌を見せる。そこにはレイヴェルそっくりの人形があった。

 

「レイヴェル様の人形?まさか!?」

 

「そう、このまま居られても目障りなだけなので人形になっていただきました。それに彼女があの男のご兄妹と言うことは、同じ力を持っている。つまり『死なない』と言うこと。それ永遠に痛め付けることも可能ですが、それでは女性に対して失礼と言うもの。だから人形にして生かすことにしてあげたのです。もっとも今の彼女に意識はありませんがね」

 

 シーリスは戦慄した。彼女は最初このゲームのルールを聞いた時、自分達の負けは絶対にあり得ないと思っていた。何故ならデストロイヤー(相手)側の勝利条件が『自分達を全員倒すこと』だからだ。

 

 彼女の主人であるライザーと妹のレイヴェルはフェニックスの血を宿す者、故にどれだけ攻撃されようが倒すことは疎か傷一つ付けることは出来ない。だからデストロイヤー(相手)側の勝利条件『敵を全員倒す』は達成することは不可能。例え自分達が倒されたとしても、このゲームを勝利するのは悪魔(我々)だと思っていた。それは他の眷属達も同じだっただろう。

 

 しかしそのレイヴェルは人形にされ実質戦闘不能。このままではデストロイヤー(相手)側が勝利条件を達成してしまう。ピエモンを倒せば元に戻るかもしれないが、自分の実力では勝つことは難しい。あの巫山戯た素振りから感じて全力を出してはいないだろうから。

 

「勝利する方法は一つではない。こんな風に倒すことは出来ないとしても、封じ込めることは可能なのです」

 

 

 

『ライザー・フェニックス様の《僧侶》1名…リタイア』

 

 

 

 今のやり取りを一部始終観ていたグレイフィアは、レイヴェルが試合継続不可能と悟りリタイア報告を流した。そしてピエモンは人形となったレイヴェルを腰に付けた。

 

「さぁ、お喋りは此処までにしてゲームの続きをするとしましょう」

 

 コイツ(ピエモン)のさっきの技は、恐らく強さの大小関係なく無力化させてしまう。そうなってしまえば不死だろうが何だろうが関係ない。

 

 

────コイツ(ピエモン)をライザー様の元へ行かせる訳には行かない。コイツ(ピエモン)だけは刺し違えても此処で倒す。それに私が倒れたとしてもライザー様なら、それにユーベルーナもいる。ユーベルーナ()に頼るのは癪だが実力は確かだ。必ず勝ってくれる────

 

 

 悪魔の未来を《主人()》と《女王》に託し意を決して剣を構え直すと、彼女とピエモンの間に何かが降ってきた。それは胴体が真っ二つに切断された女性であった。その女性を見た瞬間彼女は言葉を失った。何故ならそれは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ライザー・フェニックス様の《女王》…リタイア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…未来を託した《女王》だったのだから。

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 少し時を戻そう。ピエモンとシーリス達の戦闘が始まって間もない頃、少し離れた上空に1人の女性が待機していた。

 

「フフフ、いい具合に意識が向こうに向いているわね」

 

 ライザー・フェニックス(馬鹿)の眷属にして最強の眷属、女王の【ユーベルーナ】が杖の先端に魔力を溜め始める。

 

「最悪ピエモン(あそこに居る奴)だけでも始末しておくことにしましょう」

 

 眷属が次々と倒され、残っている戦力も数えるだけ。だったら責めて1人だけでも倒しておこうと考えたのだが、蓄積され大きな火球となった魔力の塊は下手すれば味方ごと巻き添えにしかねない。しかも『帰還されない』と言うことは命の保証は出来ない。だが…

 

 

「悪いわねシーリス、美南風。でも貴方達の犠牲は無駄にしないから安心しなさい」

 

 

 …彼女はそんなことお構い無しに火球を放とうとした瞬間、一筋の小さな閃光が火球を貫き消滅させた。

 

「な、何が起こったの!?」

 

「不意打ちとは随分な姑息な手を使うな、《女王》さんよ」

 

 後方から男性と思わしき声が聞こえ振り返ると、髪が逆立ち耳がエルフのように尖ったヤンキーぽい青年が浮遊していた。

 

「貴方、いつの間に!?それに何で私が《女王》だっと知って…」

 

「相手の情報を知っているのがお前達だけだと思うな。このゲームが始まる前にお前達の情報を調べさせてもらったんだよ」

 

 何で自分が《女王》なのかと驚くユーベルーナ。しかしゲーム開始の1時間前、自分達は《死刃(相手)》のある程度の情報を得ていた。だったら相手が自分達のことを知っていても不思議でないっと納得した。

 

「そう。なら改めて名乗っておこうじゃない。私はライザー・フェニックス様の《女王》【ユーベルーナ】よ」

 

「俺は死刃の1人、【クローズ】。我が主人、デストロイヤー様の命によりテメェを始末する。だがその前に…」

 

 指をパチンっと鳴らすと、頭上に紫色の膜が展開され広がっていき自身のユーベルーナを包み込み巨大な球体になる。

 

「こ、これは!?」

 

「この結界はあらゆる攻撃を通さん。外側からも内側からもだ。出たければ俺を倒す以外方法はないぜ」

 

 ユーベルーナは勝つためなら味方を傷付けることにも躊躇いがない。ピンチにならば盾に使われる可能性もある。外部から遮断させたことで加勢させないのも含め、姑息な手も封じ込めたのである。

 

「しかし、仲間を犠牲にしてまで敵を殲滅しようとするとは…」

 

「あら?何か言いたげね。でも私達の作戦に貴方が口出しすることなんてないじゃないかしら?」

 

 ユーベルーナは先の自分の行動に罪悪感どころか、自分が悪いと思ってさえいなかった。

 そもそも彼女は仲間意識は低い方。ライザー・フェニックス(馬鹿)の最強の眷属として1番気に入られていると言うこともあり、他の眷属達を下に見ている傾向がある(レイヴェル(馬鹿の妹)は別として)。それに今回は悪魔の命運を賭けた戦い、だから多少の犠牲はやむを得ないと考えた。まぁそうでなくとも勝つためには手段を選ばないと思うが…。

 

「確かに俺がテメェの作戦に首を突っ込む気はねェ。だが今のテメェの行動は俺達の主君《デストロイヤー様》が嫌う行動なんだよ」

 

 デストロイヤーにとって、自分の軍の者達のことを大切な存在────家族も同然。現に友子と胡蝶の2人が攫われたことで全勢力を持って悪魔と全面戦争を行おうとしていたのだから。

 クローズは《死刃》の中では残忍な性格をしているが、従属官を始め仲間に対する意識はちゃんと持ち合わせている。

 

「あらあら。仲間を犠牲にするのが嫌いだなんて…アンタの主君って随分甘ちゃんなのねェ。まぁ、貴方や友子と胡蝶(あの2人)みたいな()()何かを部下にしているようじゃ、あの男の底が知れるわ」

 

 ユーベルーナは、デストロイヤー(主人)の思考まで皮肉目がしく愚弄してくる。『ペットは飼い主に似る』と言うが、まさにその通りである。

 

「そう言えば貴方はさっき私を始末するって言っていたけど、それは無理ね。何故なら貴方は此処で、私に消されるんだから!」

 

 自身の前に魔法陣を展開し、自身と同じくらいの大きさの火球を発射。放たれた火球はクローズにへと命中し爆発が起こる。

 

「フフ、跡形もなく吹き飛んだかしら…エッ!?」

 

 自慢の攻撃をマトモに受けたことで倒したと思うユーベルーナであった。しかし爆煙の中から人影が見えると無傷のクローズが姿を現す。

 

 手を抜いたつもりはない。それにクローズ(相手)は完全に無防備だった。防護壁を張ったような素振りもなかった。それなのに自身の攻撃を受け無傷であることが信じられなかった。

 

「どうした?俺を消し飛ばすんじゃなかったのか?」

 

「クッ…人間が!調子に乗るな!!」

 

 見下された態度を取られたことで激怒し、杖の先端に魔法陣を展開させると、今度は火球を3発連射させる。クローズは右手を前に出すと、迫り来る火球をなんと素手で跳ね返してしまった。それも3発全て。

 

「なッ!?」

 

「おいおい、《女王》ともあろう者の攻撃がこの程度な訳ないよなぁ?」

 

 あり得ない状況であった。今まで戦ってきた対戦相手の中には、自信と互角に戦える程の実力も勿論いた。最近では自分を追い込んだリアス・グレモリーの《女王》だろう。だが自身の攻撃を素手で弾き返した者は1人もいなかった。

 しかも()()()》なんかに簡単にあしらわれたことが信じられない、信じたくなかった。

 

「今度はこっちから行かせてもらうぞ」

 

 クローズは右掌を向けると、そこから黒紫色のエネルギー弾は発射。先の状況に唖然としてたユーベルーナは、咄嗟に反応し魔法陣の防壁を展開し攻撃を防ぐ。

 

 それを確認したクローズはエネルギー弾を連射、ユーベルーナも防護壁をそのまま維持し続ける。移動範囲が制限される結界内では、下手に動き回るより防御する方が正しいだろう。

 だがクローズのエネルギー弾は1発1発の威力が自身の魔力弾と同程度、下手すればそれ以上の威力を有している。しかも時間ロスもなく正確に撃ち続けているため動くことが出来なかった。防護壁を維持するのも魔力を消費するため、今の状況が続ければ魔力切れになってしまう。

 

 どうすればっと考えていると突如攻撃が止んだのだ。「どうした」と疑問に思った瞬間、腹部に強烈な痛みが生じる。

 

 何故ならいつの間にか目の前にクローズがおり、彼の拳がユーベルーナの腹部に打ち込まれていた。身体がコの字に曲がり、ユーベルーナは吹き飛ばされ結界に直撃し口から赤い液体を吐き出す。

 

「どうだ。少しは自分の愚かさを知ったか、《女王》さんよぉ?さっきテメェがデストロイヤー様に言った侮辱について今ここで謝罪しろ。そうすれば苦しまず終わらせてやってもいいぜ」

 

「…フフ」

 

「?」

 

「…フフフフ、《人間》にしては面白い冗談を言うじゃない。私が謝罪?あんな甘ちゃんな奴に?あり得ないわね。確かに貴方が強いのは認めるわ。でもそのデストロイヤー(貴方の主人)はゲームに参加しないで、高みの見物をしている。つまりデストロイヤー(貴方の主人)は部下の強さに甘えるだけの甘ちゃんってことじゃないの?そんな奴に謝罪なんて馬鹿も休み休み言いなさいよね」

 

 こんな状態であってもまだ憎まれ口が吐けるとは、ある意味大したものである。

 

「それに貴方を倒せば、この勝負は勝ったも同然なんだから」

 

「?何故そう思う?」

 

「簡単よ。あの魔力量の魔力弾、私でも捉えることが出来ないスピード、そして私をここまで追い詰める強さ、貴方がこの集団のトップに間違いないわ!」

 

 あの少しの戦闘から分析し、堂々と言い切るユーベルーナ。

 

 もし自分の推測が正しければ、ここでクローズを倒す、最悪相打ちになったとしても、残りは彼よりも階級が低い死刃のみ。つまりトップを倒せば、自分より強く、フェニックスのライザー()なら、残りの死刃達を全員倒すことが出来るから。まぁそれはクローズ()が《トップなら》だが…。

 

「それに、私にはこれがあるの!」

 

 何処からか小さな瓶を取り出すと、その中に入っている液体を飲み干す。すると負っていた傷が消え、魔力も完全回復してしてしまった。

 

 《フェニックスの涙》。服用すればどんな傷をも癒し、体力も完全回復してしまう某漫画に出てくる回復アイテム同様の力を持った物。

 

「…完全回復したか」

 

「そう、この《フェニックスの涙》を使えば私は何回でも回復出来る。これで仕切り直しになったわね」

 

 回復したことで少し眉を顰めたクローズに、してやったりな表情を浮かべるユーベルーナ。今回のゲームのルールに『回復アイテムの持ち込みは禁止』なんてない、故に持ち込んだからと言って『卑怯だ』何だと言えない。だから自分が不利なったことで内心焦っていると思ったのだ。

 

 さっきの戦闘であれだけの威力の光弾を連射したのだから、相手もそれなりに体力を消耗しているはず。なら完全回復した今の自分なら勝ち目はある。そう思っていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それがどうした?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ?」

 

「治ったから何だ?回復したから何だ?それで俺に勝った気でいるとは予想以上におめでたい頭してるな、《女王》さんよぉ」

 

 …しかしクローズの反応は予想に反し全く動揺していなかった。それどころか回復しても関係ない、興味がないと言わんばかりの無関心であった。

 

「それに俺が死刃のトップ?ハッ、だったらお前は飛んだおめでたい頭をしてるな!」

 

 クローズは右裾を捲ると右腹部に数字が刻まれているのが見えた。だがそれを見てユーベルーナは唖然とした。何故なら、そこに刻まれていた数字は自身の予想していた数字と違かったのだから。

 

 

 

 

「嘘…」

 

 

「嘘じゃねェ。俺は《第4死刃(クアトロ・エスパーダ)》、【クローズ】。俺がデストロイヤー様から与えられた数字は《4番》だ」

 

 

 

 

 衝撃的な事実にユーベルーナは言葉を失う。ライザー・フェニックス(主君)の次に強い自分を互角以上の実力を有しているからして死刃のトップだと思っていた。しかし実際は地上にいるピエモン()より階級は下。

 

 クローズ(コイツ)の実力で4番なら、彼より上位の死刃はどれだけ強いのか知りたい。

 

「それと、さっきから俺のことを『人間』って言ってるがなぁ…」

 

 クローズは片腕を上げると手の部分が一瞬光ると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グシャ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エッ?」

 

 

 …左側を何かが通り過ぎると同時に変な、嫌な音が聞こえた。ゆっくりと視線を自身の左腕にへと目を向ける。そこには本来ある筈の自分の左腕が無くなっており…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

根元から赤い液体を噴出していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ーーー!!」

 

 

 自分の現状を理解し始めると痛みに耐えられず叫びを上げながら、赤い液体が噴出する左腕があった根元部分を残っている右腕で押さえる。

 

「…俺を『人間』なんかと一緒にすんじゃねェ」

 

 クローズが明らかに「私は不機嫌です」と分かるほどの表情を浮かべると、結界がブルブルと震え始める。それはまるで結界が怯えているみたいに。

 クローズは怒っていた。自身を《人間》と勘違いしていたこともそうだが、ユーベルーナはデストロイヤー(主人)のことを『甘ちゃん』『底が知れる』など散々好き勝手言って侮辱した。それ等色々な鬱憤が積もりに積もり我慢の限界であった。

 

 クローズが足を一歩前に出すと、ユーベルーナは残っている右腕と両足で後退りしようとする。その姿はなんとも滑稽でさっきまでの威勢は面影もなかった。

 

「く、来るな!!来るなバケモノォォォォ!!!」

 

 だが壁際だったためこれ以上下がることは出来ず、恐怖に駆られた彼女は杖を向け火球を連射する。

 だが冷静さが掛けているためか、攻撃は的外れな所ばかり飛び交い、正確に放たれた火球もクローズに払い除けられてしまう。そして自身の目の前まで来ると、ヤケクソになったように杖を振って追い払おうとする。が、頭身部分を片手で掴まれると手刀で真っ二つに折ってしまう。そしてもう片方の手で髪を掴まれ、彼の目線と同じ高さまで無理矢理顔を持ち上げる。

 

「お願い…許して…」

 

「…許してだぁ?巫山戯んな。テメェはデストロイヤー様を一度ならず二度も侮辱した。俺個人としても許せねェんだよ!」

 

「いや…死にたくない……助けて…助けてください…」

 

 さっきまで威勢が嘘のように弱々しくなっており、顔は涙でグシャグシャ、もはや別人である。

 しかし戦意喪失したからと言って手を向くほど彼は甘くない。右手に自身の力の一部を一本の剣にへと具現化させ握り、ゆっくりと振り上げる。

 

「恨むならデストロイヤー様の怒りを買った、テメェのバカな主人を恨むんだな」

 

 そして剣を勢いよく振り下ろしユーベルーナの胴体を真っ二つに斬り裂いた。

 

 

「我が主人────デストロイヤー様の怒りを買った時点でテメェ等は終わっているんだよ」

 

 

 掴んでいた髪を離すと同時に結界を解除し、ユーベルーナの亡骸は重力に沿ってそのままピエモン達がいる広場にへと落下した。

 

 

『ライザー・フェニックス様の《女王》…リタイア』

 

 

─────────────────────────

 

 

 そして現在。ユーベルーナの亡骸がフィールドに落下してすぐ、クローズはピエモンの近くにへと降りる。

 

「いつまで遊んでいやがる。さっさと終わらせろ」

 

「相変わらず貴方はせっかちですね。貴方もあの《女王》と、もう少し楽しんでも良かったのではないですか?」

 

「テメェこそ無駄に遊び過ぎなんだよ!それともこれ以上デストロイヤー様を待たせる気か?」

 

 互いの意見が噛み合わないため歪み合いをしだすが、デストロイヤーの名前を出された途端、ピエモンの顔付きが変わる。

 

「やれやれ、もう少し遊んであげたかったのですが…仕方ありませんね」

 

 ピエモンはパチンっと指を鳴らすと、未だに動いていた回し車が消え美南風が解放される。長時間回り続けていた彼女は、フラフラしていた。

 

「名残惜しいですが、そろそろフィナーレといきましょう。【エンディングスナイプ】!

 

 両手を合わせ銃の形にすると、人差し指から透明な衝撃波が高速で放たれ、まだ足元がおぼつかない美南風の腹部に風穴が開いた。

 

「エッ…一体何…が」

 

 頭が回っていなかった彼女は、何が起こったのか分からないまま膝を突き仰向けに倒れ絶命した。

 

「美南風!?」

 

「余所見してる場合ですか?」

 

 後方からピエモンの声が聞こえ反射的に振り向いた瞬間、白い布が覆い被さる。そしてレイヴェルの時と同じように電流が走るとその場で崩れ落ちる。そして布を引っ剥がすとシーリスの姿は無い。代わりにピエモンの右掌にはシーリスそっくりの人形が握られていた。

 

 

 

『ライザー・フェニックス様の《騎士》1名、《僧侶》1名…リタイア』

 

 

 

「はい、終わりましたよ。これでいいでしょ」

 

「…テメェ、何でトドメを刺さなかった?」

 

「?」

 

「そのレイヴェル・フェニックス(腰に付けてる女)は、ライザー・フェニックス()と同じ不死だからいい。だがシーリス(そいつ)は別だ。不死でもないシーリス(そいつ)は始末することが可能だ、なのに何故トドメを刺さなかった!」

 

「彼女はただ傍観していただけのレイヴェル(この女)とは違い、無謀ながらも私に挑んだ。だからその意気を評価し人形にして生かすことにしたのです。それにデストロイヤー様は『始末』ではなく、『好きにしていい』と言っていました。だから私の好きにしたまでですよ」

 

 ピエモンは人形となったシーリスをレイヴェル同様腰に付ける。

 

「ケッ、まぁいい。これで残るはあのライザー・フェニックス(馬鹿)だけだ。俺達を、デストロイヤー軍を敵に回したこと後悔させてやる」

 

 遂にライザー・フェニックス(馬鹿)の眷属達は全滅した。いよいよ悪魔滅亡へのカウントダウンが刻一刻と迫っていた。

 

 




これで眷属は全員ヤラれました。次回はいよいよあの焼き鳥野郎に鉄槌、いや制裁を下します。
戦闘を行なっていない死刃はまだ階級が明らかになっていない3名、果たして誰が最強なのか皆さん予想して待っていてください。
感想等あればお願いします。

今年もよろしくお願いします。


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9話 レーティングゲーム その5

どうもアニメ大好きです。

皆様ご存知でしょうか、ドラゴンボールの原作である鳥山明先生、ちびまる子ちゃんのまるちゃん役のTARAKOさんがお亡くなりになりました。昨日と今日と立て続けに歴史を作った方が旅立たれてしまいショックです。
何より私は鳥山明先生のキャラクターである『F』様に憧れ崇拝しています(現在進行形で)。この作品の主人公であり、私の分身でもあるデストロイヤーの性格もその『F』様を意識しています。もう崇拝する『F』様の新たなご活躍が見れなくなるかもしれないと思うと悲しいです。
鳥山明先生『F』様と言う偉大な悪役を生み出してくれてありがとう!そして数々の面白い漫画を描いてくださりありがとう!(号泣)


ズズズ…今回はいよいよあの焼き鳥野郎に天誅を下します。そして階級が明かされていない死刃の内1人の階級が明らかになります。
前回の死刃は誰かの予想アンケートでゼルドリスとルーチェモンが良い感じで競い、最終的にゼルドリスが最多となりました。果たして皆様の予想は当たっているのか!?

それではどうぞ。


結婚式会場

 

 レーティングゲームの途中結果に観覧していた悪魔達は唖然としていた。それもその筈。ライザー・フェニックス(馬鹿)のチームが《王》の除いて全滅してしまったのだから。

 

「バ、馬鹿な…」

 

「あのライザー・フェニックスの眷属が全滅…だと」

 

「《女王》まであんなアッサリと…」

 

「あり得ない…」

 

 ライザー・フェニックス(馬鹿)の眷属達は決して弱くない。勿論個々の強さに差はあれども弱くはない。しかし結果は《王》であるライザー以外全滅、同じ不死の力を持つレイヴェルは人形にされ実質試合継続不可能な状況となり、《女王》であったユーベルーナは【フェニックスの涙】を使用後呆気なく敗北。

 勿論《王》のライザー(馬鹿)は不死のため、1人で戦うにしてもまだ勝機はある。しかし《第3死刃(ピエモン)》にはレイヴェルを人形に変えた技がある。もしその技を使われたら不死だろうが関係ない。

 

 悪魔達は、もやは自分達に未来はないのかと絶望に陥り諦めムードだった。

 

「フフフ、これで残るはあのライザー・フェニックス(お馬鹿)さんだけですね。このまま総攻撃を掛けるのもありですが、それでは面白くないですね」

 

 一方のデストロイヤーは勝利目前と言える状況だと言うに、何やら不満がある様子でこの後の展開をどうするか悩んでいた。少し考えると何かを閃いたようで近くにいた傭兵の悪魔に声を掛ける。

 

「そこの貴方」

 

「は、はい!」

 

「今すぐグレイフィアさんを此処へ連れてきてください」

 

 指名された悪魔は急いでグレイフィアのいる放送ルームにへと向かう。

 

「さぁ、最後に相応しいショーを飾ってくださいよ」

 

 

────────────────────────────

 

とある一室

 

 今回の騒動の原因であるライザー・フェニックス(馬鹿)は1人拠点で頭を抱えていた。その理由は聞かずとも知れたこと。

 

「まさかレイヴェルにレユーベルーナまで…俺以外の眷属が全滅だと」

 

 自身の15人の眷属が全滅してしまったのだ。と言うのも眷属が倒されることは当たり前。先のゲームでも眷属の9割程倒された、そう珍しくもない。戦闘には参加しないものの同じ不死の力を持つ自身妹───レイヴェルがヤラれることはなかった。故に全滅されることなど今までなかった。

 

 だがどうやったか知らないがそのレイヴェルはリタイアとなった。つまり今回の相手の中には《不死》を無効化する能力か技を持っている者がいることになる。しかも今回のゲームはリタイアしても『転移されない』と言う現象まで起きている。下手すれば自分もタダでは済まないかもしれない。

 

 しかしこのままおめおめと引き下がる訳にいかない。何よりそんな惨めな行い自分のプライドが許さない。

 

「こうなったらアイツらに思い知らせてやる。この俺の、不死のフェニックスの真の力を!そして後悔させてやる!この俺を本気にさせたことを」

 

 身体から部屋を焼き尽くさんとする程の大量の炎を放出させ部屋を出て行こうとしたその時であった。

 

 

キュイィィーー

 

 

「こ、これは!?」

 

 足元に突如魔法陣が出現、考える暇もなくそのまま何処かにへと転移させられてしまった。

 

 

─────────────────────────

 

 

 転移が完了し辺りを見渡すライザー(馬鹿)。そこは建物も木々もない殺風景な場所。突如気配を感じ振り向くと、視線の先には眷属を倒した《死刃》達が集結していた。

 

「何だこれは!?一体どうなっている!?」

 

 あまりの急展開に困惑しているとアナウンスが流れる。しかしその声はグレイフィアではなく…

 

 

 

 

『ライザーさん、死刃の皆さん、聞こえていますか?』

 

 

 

 

 

 

 …デストロイヤーであった。

 

 

「な、なんで貴様が!?グレイフィア様はどうした!?」

 

『いえ、グレイフィアさんとは少しお話をしまして、私の声をゲーム会場(そちら)に流せるようにしてもらいました。それはさておき、私から一つ提案があります』

 

「提案だと?」

 

『残った貴方1人を《死刃》全員が相手にすれば直ぐにでも型がつくでしょう。しかしそれだと面白くありません。なので特別ルールを発令しようと思います』

 

「特別ルール?」

 

『エェ。その特別ルールで貴方が条件を達成すれば、貴方の勝ちとしましょう』

 

 自分達が優勢なのに『特別ルールを設け、それに勝てたら自分達の負け』、単純に考えて何か裏があると思うのが妥当である。しかし今のライザー(馬鹿)には冷静に考えるだけの余裕はなかった。

 

「…一体、どんなルールだ」

 

『ルールは簡単、先ず私が呼ぶ《死刃》の内1人を選んでいただいて戦ってもらいます。その方が《死刃》のトップで貴方が倒すことが出来れば、貴方と勝ちとしましょう。しかし勝ったとしてもその方がトップでなければ、残る《死刃》からまた1人選んで戦ってもらいます。それでよろしいでしょうか?』

 

 今の話を簡単に纏めると『《死刃》で1番強い奴と戦い、勝利すれば許そう』と言うことだ。普通に考えれば無理難題に近いが、これはチャンスかもしれない。

 

 死刃のトップだとしても1人だけなら、不死の自分なら勝利する可能性はある。しかも相手を選ぶ権利はこっちにある。それなら例え【ピエモン】が選ばれたとしても自分が指名しなければいいだけのこと。だったらこの条件呑まない理由はない。

 

「いいだろう。その条件で受けてやる」

 

『分かりました。【ゼルドリス】さん、【ルーチェモン】さん、【サンダールJr.】さん、前へ出て来てください』

 

 呼ばれて出てきたのは、メラスキュラと戦ったイルとネルより背丈が低い黒髪少年、頭部の左右に天使と悪魔の羽根を生やした青年、そして2人とは裏腹に鮫に被りつかれているような頭部をした怪人、以上の3名である。

 

『この3名の誰かが《死刃》のトップです。さぁ、誰か1人選びなさい』

 

 ライザー(馬鹿)は呼ばれた3人に目を向けると、思考が支配されたみたいに身体が硬直してしまう。まるで本能が『あれは危険だ!絶対に戦うな!』と言っているかのようである。だがこのまま何もしなければ滅びるだけ。

 

 

 

 

ライザー(馬鹿)が選んだのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならお前だ、小僧」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…【ゼルドリス】であった。

 

 

 

『分かりました。ではゼルドリスさん、お願いしますよ』

 

「…はい」

 

 選ばれたゼルドリスは前に出る。睨みを効かせるライザー(馬鹿)に対し、ゼルドリスは顔色一つ変えず腕を組み立っていた。まるで自分など眼中にないと言わんばかりの態度にイラつくが、下手なことする訳にはいかないので怒りを抑えた。

 

 

 

『それでは…スタートです!』

 

 

 

 デストロイヤーの開始の合図と共に、ライザー(馬鹿)は先手必勝と言わんばかりに巨大な火球をゼルドリスにへと放った。しかしゼルドリスは涼しげな顔で一歩たりとも動こうとしなかった。そして炎はゼルドリスに命中し爆炎が広がる。

 

「…ハ…ハハハハハ!なんだ、トップだと思ってどれだけ凄い奴かと思ったが見た目通りガキだったか。俺の炎の力に怯えて動くことも出来ずに焼かれるとは!フハハハハ!!で、どうだクソガキ。俺の、フェニックスの炎は!例え《死刃(コイツら)》のトップだろうと俺の敵じゃッ何!?」

 

 呆気なく終わったと思い高笑いするライザー(馬鹿)であった。しかし突如炎の中央部分が裂け無傷のゼルドリスが姿を現し、更には炎を気迫だけで吹き飛ばす。

 

「この程度か?こんな程度で俺達を倒す等とほざいていたとは…呆れたな」

 

「ッ!?嘗めるな!!」

 

 逆上したライザー(馬鹿)は火球を連続で放つ。しかしその全てがゼルドリスに当たる前に消滅してしまい届かない。まるで目に見えないバリアでもあるかのように。

 

「これでどうだ!」

 

 一発目よりも巨大な火球を作り投げ飛ばす。それでもゼルドリスは顔色一つ変えず、片腕を前に出すと受け止めてしまう。そしてそのまま火球を握り潰し消滅させてしまった。

 

「バ、馬鹿な…。何故だ、何故俺の炎が効かない!?」

 

 自分の自慢の不死鳥(フェニックス)の炎があんな子供に、しかも片手だけで受け止められたことが信じられず発狂してしまう。

 

「何故?簡単なことだ。俺の方がお前より強いと言うことだ」

 

 ゼルドリスの言う通り、単純に考えれば分かりきっていること。だがそれを受け入れるわけにはいけない。純血にして高貴なる不死鳥(フェニックス)の自分が、あんな小学生並みの子供より劣っていると言うことなど。

 

「今度はこっちから行くぞ」

 

 ゼルドリスは腰に掛けている鞘から剣を抜くと、その場から消える。次の瞬間ライザー(馬鹿)は自身の腹部から背中に掛けて痛みを感じ口から赤い液体を嘔吐した。何故ならゼルドリスが腹に剣を突き刺し貫通させていた。

 

 剣が引き抜かれると、ライザー(馬鹿)は刺された部分を押さえ、ゼルドリスは刀身に付着した赤い液体を払い落とす。

 だがその直後傷口から炎が吹き出すと、たちどころに傷口が塞がり、何事もなかったように元に戻った。

 

「…それが不死鳥の力か」

 

「そうだ!どうだこの力、素晴らしいだろ?幾ら攻撃しようが再生する!!お前が俺を倒すことなど『シャキン』…エッ?」

 

 ライザー(馬鹿)が不死の力を淡々と話している最中、ゼルドリスが自身の真横を通り過ぎていくのが見えた。その瞬間左腕の感覚がないことに気付き視線を向けると、自身の左腕が地面に落ちているのが目に入る。

 

「ア"ァ"ァ"ーーー!!俺の腕がァァーーー!!」

 

 ライザー(馬鹿)は激痛で左腕を押さえ悲痛な声を上げ、怒りの形相でゼルドリスを睨みつける。その数秒後、切断面から先程のように炎が吹き出し新たな腕が形成させた。

 

「貴様ァ…この俺をここまで侮辱して…もう許さん!!」

 

 激怒したライザー(馬鹿)は炎の羽根を出し飛行、上空で静止する。

 

「どうだ、貴様のような()()の小僧にこんな事が出来るか?出来るならここまで来るんだな」

 

 ライザー(馬鹿)は文字通りゼルドリスを見下し煽りを掛けつつ、どうやって腕の借りを返そうか考える。しかし…

 

 

「…そうか。なら行ってやろうじゃないか」

 

 

 …その問いにゼルドリスは答えると背中から黒紫色の羽根が生え飛び上がり、ライザー(馬鹿)と同じ高さ位置で静止する。

 

「なっ!貴様も飛べるのか!?」

 

「当たり前だ、そもそも俺は人間じゃない。《魔神族》と言う『魔の神』の一族だ」

 

 ゼルドリスの身体から紫色の魔力が溢れ出す。だがそれは悪魔とも、天使とも、堕天使とも違う。今まで感じたことがない、下級悪魔であれば押し潰されてしまう程の禍々しい魔力であった。

 

「『魔の神』だと…貴様は神だとでも言うのか!?」

 

「『当たらずもの遠からず』っと言っておこう。だが一つだけ確かなのは────お前達より上位の存在と言うことだ」

 

 『当たらずも遠からず』────その言葉が真であるなら神そのモノではない。しかし少なくとも神に匹敵する種族であると言うことになる。そしてゼルドリスは剣先をライザー(馬鹿)に向ける。

 

「見せてやる。この俺…魔神族の王の力を」

 

 剣を構え魔力がゼルドリスの身体全身に纏われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

得と味わえ

 

凶星雲(オミノス・ネビュラ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 剣を後方に振り上げた瞬間、凄まじい吸引力が発生しライザー(馬鹿)は引き寄せられていく。

 

「クッ、こんなモノ所詮こけ脅しだ!」

 

 ライザー(馬鹿)はその吸引力を利用しゼルドリスとの距離を一気に詰める。どう言う訳か今のゼルドリスは上空で停止しており動く気配もない。今なら完全に無防備、仕留められると。

 そして残りが数メートルとなったところであった。突如身体に衝撃が走り後方へと吹き飛ばされた。何が起こったのか確認すると、身体のあちこちに切り傷があった。

 

 あの一瞬でこれだけの傷を付けたと言うのか。だがゼルドリスはあの体勢から動いていない、剣を振った素振りもなかった。何が起こったのか理解出来なかった。

 予想外の攻撃、だが不死鳥(フェニックス)の力で傷は直ぐ再生するため特に問題はない。

 

 しかしその最中、なんと再びゼルドリスに引き寄せられる。さらに同じように斬り刻まれる。そして身体が再生する。また同じように引き寄せられ、斬られ、再生する。その状況が何回も何回も繰り返され、10回目に入ったところで方向が変化し地面に叩き落とされ砂埃が舞う。

 

 身体を再生させつつ起き上がろうとした時、魔力を解除したゼルドリスが高速で距離を詰め、その剣でライザー(馬鹿)の左側の胸に突き立て心の臓を貫いた。ライザー(馬鹿)は口から赤い液体を吐き出す。

 剣を引き抜くとそこから大量の赤い液体が吹き出す。心の臓をヤラれたことで決着が付いたと思われたが、ライザー(馬鹿)の口がニヤリと笑い身体から大量の炎が溢れ出し、反射的にゼルドリスは後退する。

 そして例の如く刺された部分から炎が吹き出し傷口を塞ぎ、ライザー(馬鹿)は何事もなかったかのように起き上がる。

 

「心臓を貫いたにも関わらず死なないとは…流石不死鳥と言ったところか」

 

「これでいい加減分かっただろ!例え貴様が身体を斬ろうが頚を斬ろうが、俺は何度でも復活する!無駄な足掻きなんだよ!!ハハハハハハハ!!」

 

 心の臓を貫こうが死なない。例え身体を真っ二つにされようが、頸を斬られようが絶対に死ぬことはない。例え『神』の名が付く種族であったとしても不死鳥には無意味、それが証明された。

 

 しかしそれでも尚ゼルドリスは顔色一つ変えなかった。まるで興味がないと言わんばかりに。

 

「一つ聞く。何故あの3人の中で俺を選んだ?」

 

「ハッ、知れたこと。他の2人よりも前にお前を呼んでいた。大抵部下を呼ぶ時は強い者順と相場が決まっているだ。それにその禍々しいながらも魔王に匹敵する程の強大な魔力、お前がトップに間違いない!」

 

 後半は兎も角前半はなんとも阿呆らしいと言うか、当てずっぽ過ぎる。一般的に見ても『馬鹿かコイツ』と言いたくなるような理由である。

 

「…そうか」

 

 そう呟いたゼルドリスは左の手袋を外し前腕の甲を見せると、そこには数字が刻まれていた。その数字は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…改めて名乗っておく。俺は《第1死刃(プリメーラ・エスパーダ)》、【ゼルドリス】。与えられた数字は1だ」

 

 

 ライザー(馬鹿)はニヤつくと高笑いし始める。

 

「…ハハ…ハハハハハ…ハーハッハッハッハッハッハッ!やはり俺の思った通りだ!貴様が死刃(この集団)のトップ!つまり貴様を倒せば俺の勝ちだ!ハーハッハッハ「何を言ってる」ッハー…ハ?」

 

「俺は死刃のトップじゃない」

 

 その言葉に思考が停止した。あまりにも予想外過ぎる言葉が出たことに思考が付いて行けていなかった。

 

「な、何を言っている!?【1】の数字を持つお前が最強だろ!それに【1】より小さい数字など有りはしない!」

 

「…よく見ろ、俺の後ろを」

 

 ゼルドリスの後ろにいるのは先程の2人を含めた死刃達。それは分かりきっている。一体何が言いたいのか分からないでいた。

 

「俺の後ろには何人いる?」

 

「何人って1、2、3……10人じゃないか。そんなこと聞いて何だと言う…ッ!?」

 

 

 ここで漸くあることに気付く。

 

 

 ゼルドリスの後ろには10人がいる。そう彼と同じ存在である《死刃》が……1()0()()いるのだ。

 

「漸く気づいたか。確かに俺は【1(プリメーラ)】の数字を与えられたとは言ったが、誰も『死刃トップ』とは言っていない。それにいつ誰が《死刃》の階級は1〜10だとと言った?」

 

「何ッ!?」

 

「《死刃》の階級は1〜10、況してや10人でもない。《死刃》は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0〜10の11人だ

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────────

 

 予想だにしなかった宣言に観戦していた会場の悪魔達も次々デストロイヤーに抗議し始める。

 

「こ、これは一体どう言うことだ!?」

 

アイツ等(死刃)は10人じゃなかったのか!?」

 

「我々を騙したのか!?」

 

 しかしデストロイヤーはこの展開を予想していたのか、取り乱す様子もなく口元をニヤつかせていた。

 

「おや?騙すだなんて人聞きの悪いことを言いますね。私は嘘は言っていませんよ」

 

「何ッ!?」

 

「私は『《死刃》が10人』だなんて言った覚えはありませんよ」

 

 言われてみれば確かに『《死刃》は【10以下】の数字を与えた最強の幹部達』と言っていたが『【1〜10】の数字を与えた最強の【10人】』とは言っていなかった。

 【10】以下と聞いて勝手に【1〜10】の数字を持った最強の10人と錯覚していた。

 

 

 

だがここでもう一つ重大な事実に気付く。

 

 

 1番のゼルドリスは《死刃》の中では2番目、つまり彼よりも強い《死刃》が後1人いると言うことになる。仮にライザー(馬鹿)がゼルドリスを倒すことが出来たとしても、1番はあのゼルドリス以上の実力者。2番手の彼に全く手も足も出ないと言うのにどうやって勝てと言うのか。

 

 

 もやはライザー(馬鹿)に勝機はない、その事実に悪魔達は絶望するしかなかった。

 

 

──────────────────────────────

 

 

「それにお前気付いているか?自分が追い込まれていることを」

 

「何ッ!?」

 

「確かにお前は不死で死ぬことはない、身体も再生し元に戻っている。だがそれは見た目だけ。()()()()は回復出来ないようだな」

 

 その答えにライザー(馬鹿)は身体が一瞬ビクッと跳ね、さらに額から冷や汗が流れる。ゼルドリスは見逃さなかった。身体の再生が最初の方と比べて少し遅くなっていることに。

 先の戦闘でライザー(馬鹿)は負傷した時痛みを感じていたのを見ると痛覚はある。再生するには体力と精神力を使う。ダメージを受ければその分再生力に力を使う為体力は勿論、精神力も消費していく。そして消費量が多くなれば軈て再生力にも影響が及ぶ。現に再生が遅くなってきている。

すると上空にモニターが出現しデストロイヤーの姿が映し出される。

 

『貴方達の戦いを楽しく観戦させてもらいましたか、もうこれ以上観戦しても面白いモノは無さそうですね。ゼルドリスさん、終わらせなさい』

 

「ハッ!」

 

「ま、待って!分かっているのか!?これは、この婚約は悪魔の未来が掛かっているんだ!それを関係ないお前達なんかが壊していいものじゃないんだ!!」

 

 ライザー(馬鹿)は悪足掻きとも言えるような説得を試みる。それを見たデストロイヤーやその従属官、さらには同族である悪魔達でさえ呆れてしまう程の醜態である。

 

『ホォ、そうなのですか。それはとても重大なことですね』

 

 だがデストロイヤー本人から共感してもらってるような言葉が出てきた。これはもしかしたら助かる可能性が…。

 

 

「そ、そうだろう。だから貴様のような奴がこんな事をしていい『しかしその心配は要りませんよ』エッ!?」

 

『何故なら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…悪魔は今日限りで滅びるんですからね。だから【悪魔の未来】なんて、そんな《くだらないこと》なんてもう考える必要はないんですよ。それに貴方は友子さんと胡蝶さん(2人)を誘拐した時点で『関係ない』なんてことはないでしょ』

 

 

 …ある訳なかった。もやは何を言っても聞き入れてくれないだろう。そもそも許す気はなかったと思うが…。

 ゼルドリスが片腕を持ち上げた次の瞬間、彼の手から何かが放たれライザー(馬鹿)の左足の膝から下を吹き飛ばした。

 

 

「アァァァァァァーーーー!!」

 

 

 ライザー(馬鹿)の汚い叫び声が響き左足を押さえ、バランスを崩しその場に倒せる。不死鳥の力によって再生はしつつあるが、体力と精神力をごっそり削られているが為かなり鈍くなっている。

 

 

 【不死】とは誰もが羨む最強の能力かもしれない。しかし自分より強い存在と対峙すればボコボコに、謂わば『生きたサンドバッグ』にされる。死にたくても死ねない…生き地獄を味わうことになる。今のライザー(馬鹿)のように…

 

 

 ゼルドリスは動けないライザー(馬鹿)にゆっくりと足を進める。

 

「ッ!ゆ、許してくれ…頼む」

 

「俺にそんなことを言っても無意味だ。全ては我が主人───デストロイヤー様が決めたことだ。そしてお前はこのゲームの内容を聞いた上で自ら承諾した。なら今のお前の状況も受け入れろ」

 

 ライザー(馬鹿)は後悔した。何故あの時あんなこと(誘拐なんか)したのかと。

 

 最初は自分を散々侮辱したデストロイヤーへのちょっとした仕返しに過ぎなかった。しかしそれが悪魔全体を巻き込む程の大型にまで発展させてしまった。

 

 その結果眷属を失い、妹を失い、未来も失った。

 

 全てはあの時自身の取った行動によって引き起こされた。もう助かる手段は残されていないに等しい。

 

 

「い、嫌だ!誰か、誰か助けてくれ!!」

 

 【不死】とは言え生物の本能は残っているため恐怖に支配されたライザー(馬鹿)は、両腕と残った片足を使って這いつくばりながら逃げようとする。その姿は高貴なる不死鳥や上級悪魔としての貫禄等なく哀れの一言に尽きた。

 

「…散々粋がっていた割にこの為体とは…見るに耐えんな」

 

 ゼルドリスは飛び上がり掌をライザー(馬鹿)にへと向け、黒紫色のエネルギーが凝縮されていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虚閃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放たれたエネルギーは一筋の閃光となりライザー(馬鹿)にへと降り注ぎ飲み込む。その轟音と衝撃によって周りの木々が吹き飛ばされそうになる程激しく揺れる。

 

 

 閃光が止むと巨大なクレーターが出来上がってその中心には背を向けで気絶しているライザー(馬鹿)の姿があった。

 

「…悪魔とは言え所詮この程度か」

 

 

 

『…ラ、ライザー・フェニックス様、戦闘不能を確認……勝者はデストロイヤー様です』

 

 

 

 

 

 

 

 こうして悪魔の命運を賭けたゲームは《デストロイヤー側》の勝利となった。それは即ち─────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪魔が滅びることが決定した瞬間であった

 

 




と言うことで階級が明かされたのはゼルドリス、そしてその階級は【1】でした。

ゼルドリスがトップだと思っていた方が多いと思います。実際私もこの作品の初期段階ではゼルドリスをトップにしようと思っていましたので。しかしメンバーを探している内に(自分的に)ゼルドリスより強いキャラを見つけてしまったので2番目となりました。
ゼルドリスが2番目と言うことは、誰が死刃最強かお分かりかと思います。しかし次回以降残る2人の階級と明らかとなるのでお待ちいただけると幸いです。
感想などあればお願いします。

最後に鳥山明先生、TARAKOさん、今までお疲れ様でした。ごゆっくりお休みください。




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