東方古物想 (紲空現)
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第一章 僻地から見る幻想郷 001今日も日課の無縁塚

2019/1/2
段落処理を失敗していたのを修正しました。


「何か落ちてないかな……ときどき霖之助は見かけるけど、今日はいないか。後で久しぶりに店に寄ろうかな。何か面白いものがあるといいし」

 

 そう呟きながら、少女が無縁塚を歩いている。背はそんなに高くなく、体に対して少し大き過ぎる、手元に黄色のフリルがついた濃い青色の服に、同じく黄色のスカートを着用していて、無縁塚の光景とは少しズレた感じを受ける。そして、右手とカチューシャ、さらに右足から伸びた管の先には半目になった黄色い第三の目が付いていた。加えてその中の瞳は動く度にピントを合わせる為なのかキュイキュイと音をたてている。髪の毛は腰までストレートに伸ばして金色に輝いていたが、所々銀色が混ざって不思議な色合いになっている。

 そしてどうやら、何か気になるものが見つかったらしいこの少女、サトリ妖怪の古明地こがねは呟く。

 

「おお?今日はなんだろう」

 

 目の前には黒い円盤が落ちていた。真ん中には小さな穴が空いており、同心円状に幾筋もの溝がはしっている。

 

「うーん、よく分からないな……取り敢えず見て(・・)みよう」

 

 少女はその金の双眸で見極めるのを早々に諦め、第三の目でソレを見つめた。

 

「…………ふむふむ。長い間愛されてきたんだね。今度は私が、大事にしてあげる。確か家にぷれーやー?だっけかがあるからね」

 

 少女は目に涙を浮かべながら、大事そうに円盤を両手で抱える。そのまま再思の道から魔法の森へと入り、無縁塚からほど近いところにある自宅へと戻っていった。

 ただいま〜と一人で声を出し、中へと入っていく。そのまま倉庫部屋へと進み、テーブルの上に拾ったナニカを安置する。そのまま倉庫の別の場所からレコードプレーヤーを取り出し、工房へと向かった。

 

「さてと、名前がしっかりとは思い出せないけど、確認していこうか」

 

 そのままサードアイでぷれーやーを見つめる。

 

 暖かい雰囲気のなか、多くの人の明るい笑い声が聞こえてくる。自分からも音がでて、平和な時間が流れていた。しかし、いつ頃からか音を奏でることは少なくなり、自分も隅の方へと移動していく。埃を被って、錆びた身体はやがて動かなくなった。冷たい、冷たい空気の中、自分の存在は忘れ去られて…………

 

 

「……ぷはっ!危ない、持って行かれかけた。彼岸花とか鈴蘭はいつも見るけど、流石に川は超えたくないからなあ。ものの記憶は今に至るまでずっと続くから、上手く止めないと精神的に立ち直れなくなったりするからなあ。勿論、身体の方も。毎度毎度やってはいるけど、調節を誤れば一巻の終わりだしなあ」

 

 だから気をつけないといけない。でも、ものの記憶を読んで、心を読んで共感するのはやめない。ものの一生を知って、その上で出会ったものは大切にしてあげたい。役目を半ばで終えて捨てられたモノたち、彼らのことを忘れずに私が拾い上げるのだ。

 

 右手に道具を持って、義肢となっている左手で抑える。そのまま丁寧に解体をして、動かない原因を探る。全てのパーツの関係を覚えつつ、バラバラにしていく。最初の頃は戻すのに手間取っていたが、今なら失敗することはほとんどない。それも、やらかすのは複雑なものに限られる。今回は一度直したものの修理だからさして難しい訳でもない。

 ……ああ、このネジが錆びている。『再生する程度の能力』を使って錆を戻す。完全に理解している場合は別だが、最初から全体に掛けるのは、何処が悪いか分からないので非常に疲れてしまうから、このように一度バラしていく。

 

『再生する程度の能力』というのは、文字通り再生することが出来る。『再生』は、まずは壊れたりしたモノを元の状態に戻すことが出来る。私の場合はものの過去の記憶を、サードアイを介して『再生』して元の状態を理解し、その状態に近づくように『再生』している。だから、時間を巻き戻しているのに近い効果が得られていると思う。そちらのほうも出来るけど、こっちの方が楽だ。まあとはいえ、無機物か自分の身体位しか利用出来ないのだが。

 もう一つとしては、さっきもしたようにものの記憶を『再生』することだ。深さは変えられるが、任意で始めたり切ったりするのは少し難しい。よく後の方まで読み過ぎて精神的にダメージを受けることがある。寂しさとかは最もである。姉二人に会いたいなぁ……

 残りは細々とした感じで、何もなしに音楽を『再生』したりとか、自分のでも相手のでも動作を『再生』する位である。

 

 数時間後。修理がやっと終わった。動かないことを確認して、何回かサードアイで見ながら分解を進め、不可逆的にダメになっている所は代用したり再生したりして、作業は進んだ。

 

「今回はまあまあの早さかな。後は上手く行けばいいんだけど……」

 

 そうして倉庫へ円盤を取りに行った。さっきと変わらない様子でテーブルに乗っているのを見て、安心する。そのまま、落とさないよう両手で大事に持って工房へと戻る。

 ぷれーやーに円盤を乗せてみる。そのまま円盤を回そうとした所で、来客を告げるベルが鳴った。

 少しムスッとしながら来客を出迎える。

 

「何でしょう」

「どうしても使い方が分からないものがあってね。見て欲しいんだ」

 

 来客は、森の中でも人里近いところで道具店を営む霖之助だ。わざわざこんな所までやって来るとは、余程気になるものがあるらしい。

 

「分かった、すぐ行く。対価は?」

「変わらないな。表にある商品(・・)を一つ無料でどうだ」

「商品じゃなくて、表にあるもの(・・・・)を一つで」

「はいはい……上手くいかんな」

「空飛ぶ巫女さんよりはきっちりしてるつもり」

「まあ、あっちはあっちで中々だがな」

 

 残念だが、円盤はお預けである。中身が気になるけど、後で落ち着いて使った方が雰囲気があって良い。名前を聞くのはタイミングが無かったから、また今度。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 香霖堂に着いた。相変わらずの古びた外観である。中からは音がしないので、本日は泥棒が入らなかったか、もう入った後かのどちらかか。その辺は大事なものが無くなっていなければどうでも良いので、そのままついて行く。

 ギイッと扉が開く音が埃っぽい店内に響く。

 ……足元には足の形に埃が消えている場所が点在していた。

 

「やられたか……間違いなくあいつだな」

「だね。何が消えた?」

 

 霖之助は周りを一周見渡して、頭を抱えた。

 

「見て欲しかったものが消えてる……」

「じゃあ、対価を」

「お前も大概だな……良いよ、見てくれ」

 

 ものが消えているなら仕方ない。貰うものは貰っておこう。後で本人の自宅に行って問いただしておこうか。ものを見たらそれだと分かるし。

 

ものを貰って帰路につく。両手の中には先程と似たような円盤。店の片隅にあったのを見かけて、貰ってしまった。縁があったのだと思うことにする。

 魔法の森をゆっくりと歩いていく。夕暮れ時の空はほとんど見えず、まるで夜の如き暗さになっている。背の高い木々、沢山生えているキノコと苔、落ち葉の間から生える雑草。キノコの胞子が視界を遮り、森の瘴気は迷い込んだ人間を閉じ込めるかのように立ち込めている。空を飛ばないのは、こんな所では飛ぶのが危ないというのもあるが、単に歩きたいだけだったりする。時間はあるのだし、夜になっても基本は恐れるコトなど無いのだから、それならば周りの風景を少しでも楽しんだ方がいい。空から眺めるのも良いものだが、歩くと速度が遅い分風景だけでなく音や匂い、風も楽しむことが出来る。

 

 再び自宅に戻る。倉庫のテーブルの上にある円盤、その隣に取り敢えず置いた。今日はもう遅い。明日の夕方にでも使ってみると丁度良い気がする。

 

 屋根へと登る。手には古い酒。年季の入ったお猪口と徳利、それらと共に木々の隙間から覗くすっかり暗くなった空を眺める。

 

「今日は上弦の月か。そういえば、あの時も同じだったか。この酒もその頃に造られたものらしいな。ああ、懐かしいな……」

 

 ぽつり、ぽつりと呟きつつ、無音の闇の中であの日のことを思い出す。あの楽しかった日々のことを、そしてあの日の出来事を。

 

 今宵の月見酒は、長くなりそうだ。



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002アリスとティータイム

 自分のベッドの中で目が覚めた。どうやら過去を思い出している内に寝ていたらしい。ごくありきたりな話だろうけど、それでも私にとっては大事な記憶だ。失くしたくもあり、失くしたくもなし。だからなのか、うろおぼえになっている。いつか、思い出さねばならない時が来るだろうか。その時は、きっと思い出すに違いない。今は、記憶に蓋をしたままにしておこう。無理やり再生したいとは、思わない。

 

 寝ぼけた頭で、布団から這い出す。そのまま支度をして外へ出る。今日はのんびりと森でも歩こうか。誰か知り合いに会えれば良いし。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 昼間だというのに、相変わらず森の中は暗い。じめついた木々の間にキノコを見つけては、採っていく。お、また毒キノコ。凄く真っ赤で、まるで燃えているかのような形状。とりあえず義肢である、金属製の左手で採って厳重に封をしておく。たぶん、まともに触るだけでも不味そうな奴だ。一回、白黒の魔法使いが素手で触って手がただれたとも噂に聞くし。そのまま近くの水……は無かったので、河童謹製の冷蔵収納箱を私が改造して容量を増やしたものから水を右手で取り出し左手に掛けた。しかし、冷たいかどうかはあんまりよく分からない。触れてる感じはあるのだが。

 そうこうして、のんびりと歩いていると、偶然霖之助に遭遇した。どうやらあちらは無縁塚の方に向かっているところらしい。

 

「やあ、君か。一昨日はすまなかったね」

 

(一昨日?ん?まあ合わせようか。最近多いなあ……)

 

「いえいえ。貰うものは貰えたし、それでいいよ」

「そうかい。ああ、まだ例のものは見つかってないから、また今度見つかったら……多分取り返せないから、連絡だけいれるよ」

「分かった。そしたら、家の方に行ってちょっとオハナシしてくる」

「おう……お手柔らかにな?」

 

 何を言っているのだろうか。さして変なことはしてないはずだ。ちょっと笑顔で歩み寄って、部屋から出ようとしたら扉が開かない状態を再生して、箒に乗ったら墜落した時を再生して、真正面からニッコリと見つめるだけだ。勿論、逃がす予定は無い。まあ、本気で抵抗されたら逃げられてしまうのだけれど。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 のんびりと数時間。森をさまよっていたら、上海人形を見つけた。

 

「シャンハ-イ」

 

 こっちに向かって手を振ってきたので、そちらに寄っていく。そのまま上海について行って、アリスの家まで辿り着いた。

 相変わらずこじんまりとした家だが、森の木々を抜けた光が差す場所に家を構えているために他の場所より明るく、暗い印象は無い。が、基本一人で暮らしているので、本人の印象は少し暗めかもしれない。まあ、私もあまり人のことは言えないが。基本無表情だし。

 そんなこんなで、アリスの家の中で紅茶を囲む。詳しくは分からないが、落ち着く香りが辺りに漂う。

 

「今日は、どんな用事で出歩いていたのかしら?」

「ただの散策かな。酒を飲みすぎて、かつ寝不足になった後だし、特に用事も無かったから」

「そうなの。まあ、ゆっくりとして行きなさい。私も暇だし」

「そう。それではお言葉に甘えまして」

 

 それから、ポツポツと、あまり高い頻度では無いものの会話が挟まり、ゆったりとした時間が流れる。窓からは光が差し込んで明るくなった森が見える。静かで、けれど暖かい時間が流れた。

 

「それで、最近はどうしているのかしら?」

 

 アリスが聞いてくる。あまり頻繁に会っているとは言えないこの親しい友人の質問に、近況の話をさらりとする。

 

「のんびりと機械修理とか散歩とかかな?無縁塚で落ち物拾いしたりとか」

「そうなの。あ、そうそう、無縁塚にいっても大丈夫なの?あの辺は、あまりいい噂を聞かないから」

「意外と大丈夫かな。別に取って食うような奴がいる訳でもないしね。幻想郷が隔離されてからすぐは居たけど、今となっては見かけないし。外部から来るのはたまに道具が漂着するぐらいで、誰かが来たりはしないかな」

「あら、そうなの?平和になってきたのね。また、人形さんが落ちてたら教えてね」

 

 意外と驚いたような表情でこちらを見てきた。確かに、変な輩は減ったように思う。時々迷い込んだ人間が襲われているのを見かけるけど。とりあえず、目の前に来た時は助けるようにしているが、後は放置だ。

 

「うん、いいよ。ところでそっちは?」

「こちらも似たようなものよ。ゆったりと過ごして、人形を作って操ったり、研究したりね。あとは、たまに人里で人形劇をしているわ」

「人形劇か。気になるね。しかし、人里に行っても大丈夫?」

「ええ、まあ。あそこの里の代表格というかなんと言うか、慧音という人にも許可を貰えたのよ。それで、それから定期的に行っているわ」

 

 そう言って微笑みながら話してくる。前よりも少し明るくなったように見受けられ、やはり人間は凄いと思った。とはいえ、私が人里に行くと、主に容姿で騒ぎにしかならない気がするので難しいが。

 

「それはいいね。で、ちょっとお願いしてもいいかな?」

「何かしら?都会派の私に言ってごらんなさい」

「それはね__」

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 窓の外を、金色と、最近少し銀色が混じってきている髪をした友人が歩いていく。別れは寂しいが、今はその寂しさよりも衝撃が強かった。

 

「まさかあんなお願いをしてくるとはね……私の夢にはいい影響があるかもしれないけど……流石に……ねえ。でも、友人の頼みで、しないと不味いから……するしかないのかしらね」

 

 はぁー、とため息をひとつつく。そして、今日の友人が見せた笑顔を思い出す。

 

「あんなふうに笑えるなんてね……いつみても、少し羨ましいかもしれないわね」

 

 姉たちの話をしてくれた時の友人の笑顔。その時は、明るい笑顔を浮かべていた。すぐに、寂しさと暗さの混じる笑顔になってしまったけれど……

 そういえば、詳しく過去の話を聞いたことは無かった。さっきも博麗大結界が出来た頃にはあそこに住んでいたような口振りだったし。まあ、こちらも出来る直前ごろに来たから、同じ時期かもしれないけれども。いつか、話を聞く機会は来るのかな。でも無理に聞くものでもないし。私が願えるのは、無事に再び姉たちと友人が会えることだけだろう。

 

 窓の外は明るいが、家の中は少し暗くなった気がしなくもない。そしてそれは、きっと友人が家を去ったからだろう。

 はぁ、ともう一度ため息をついた。



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003神社の蔵にある宝

 日は変わってしまいましたが、連続投稿は本日までです。
 次からはストックが切れているのでかなり間が開きます。すみません。


 アリスと別れて、ふらふらと、いつの間にか博麗神社まできていた。そして目の前の高い石段をみて少し元気を無くす。とはいえ、飛んでいけばいいやと思い出してそのまま階段に沿って飛んでいく。

 

「あんた、今日は何の用よ」

 

 上まであがると、縁側で座っていた巫女さんがこっちに来た。縁側には箒と、お湯が入った湯呑みが置いてある。どうやら休憩中だったようだ。

 

「とくには無いけど、いつの間にか散歩してたらここに着いてた」

「……はぁ。あんたねえ……」

「ところで、昼ごはんは食べたの?」

 

 ここの巫女は食糧事情が悪い。今は昼を越えたぐらい……腕時計で確認すると、1時を回ったぐらいだ。こちらもまだなので、一応聞いてみる。

 

「いや、食べてないわ。さっきもお茶を飲んで休憩してただけだし。煎餅は切れるし、散々よ」

 

 どうやらさっきの湯呑みの中身はお茶だったらしい……。薄すぎてお湯と見間違えたらしい。今見てもやはりほぼ透明で、どう頑張ってもお湯である。

 とりあえず、昼ごはんを一緒に食べないか聞いてみようか。

 

「え?良いの?あ、でも前の秋のときみたいなのは無しよ。あの後大変だったんだから。それとあの泥の塊みたいなやつも」

 

 ちょうど今と同じような秋の頃合いに、相変わらずお腹を空かせていた巫女さんが居たので、彼岸花製の粉を丸めて塩を練りこんだだけの非常食を渡して一緒に食べたことがあった。そのときは毒抜きに失敗していて、厠に急行__私は特に問題なかった__した記憶がある。

 

 

「あの時はすみません……でも、泥の塊(アレ)は食べられたよ?」

「いや、アレは食べ物じゃない。いくら私でも食べない」

「ある程度変なものを食べてる自覚はあるんですね……」

「……」

 

 話題となっている、泥の塊とか言われたものだが、あれは単に周辺の土と花と水から河童謹製の道具を改造したものを使って栄養分を吸い上げ、そのまま固めた食糧だ。口に含むと湿り気と共に軽い粘り気があり、土の香りと共にエグ味と苦味、そして中に入れた塩の辛さがするだけである。うーん、もしかすると食べ物では無かったのかもしれない。けれど、気持ち悪さと吐き気の代わりにお腹は膨れたから、問題は無いはず。

 

「いや、問題あるから」

「相変わらずどうやって心を読んでいるかのごとく反応出来るの?」

「途中から声に出てたから」

「……」

 

 サトリ妖怪が逆に心を読まれているというか、丸見えになっていると考えて、頭をひねる。果たしてこれは一体どうなんだろうか。

 

「まあとりあえず、お昼ご飯かな?」

「そうね。早く頼むわよ」

「はいはい」

 

 相変わらず、一度使えるとなったら人使いが荒い。まあ、その辺の感じも込みで、いい印象の人だ。良い人、とは言えないかもしれないけれど。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 神社から、珍しく美味しい匂いが漂ってくる。神社の調理場には、一人の少女が料理をしていた。

 

「さてと、この箱から彼岸花製デンプンを出して、さっき採ったキノコを出してと。これは毒、これも毒、それも毒、あ、いけるのあった」

 

 ……微妙に危険な香りがする料理である。あたらなければ美味しいとは思うが、果たしてどうなるのか。

 

 

 

 

 料理が出来たらしい。最近はついぞ嗅いだことの無かった、美味しそうな匂いがする。お腹が減ってきた。いや、元から減っていたのに気付いていなかったらしい。彼女は時々変なものを作るが、総じて美味しいのでお願いをしている。時々出てくる胡散臭い妖怪に至っては料理を作らないどころか食糧すら足元を見て交渉してきて面倒なことこの上ない。私が欲しいのは茶と煎餅と酒と米と(賽銭。生活費)であって、そこまで魚が欲しいわけでも無いのに。

 ……遅い。さっさと持ってこい。こっちはお腹が減っているのよ。

 

「出来たよ」

「遅かったわね」

「まあ、作るのが微妙に大変で。調味料も殆ど無いし」

「無くて悪かったわね。欲しいなら賽銭を入れてよ」

「後でお参りしておくから、その時に入れるよ」

「嬉しいわね。まあ、無理はしなくて良いのよ?」

「どうも。で、そろそろ食べます?」

 

 普通に良い妖怪で色々困る。他の奴らはもっと自分勝手だったりするし……

 そして、料理が出てくる。丸いボール状のやや黄色っぽい何かが出てきた。後はキノコの炒め物と焼き芋か。ボールだけよく分からないのでとりあえず聞いてみようかしら。変なものだと困るし。

 

「この黄色っぽいボールは何?」

「ああ、これはたこ焼きだね。中に入ってるのはキノコだけど。外でも良く食べられているみたいだけどね。何とか作ってみた」

「ふーん、そうなの。毒じゃないわよね?」

「キノコは全部気をつけたよ。だから多分大丈夫かな」

「……このたこ焼きに使った粉は?」

「……彼岸花製」

「…………大丈夫よね?」

 

 怪しい。にっこりと笑って、相手を見つめる。その相手は、冷や汗を流しつつ、返事を返してきた。

 

「……大丈夫だよ」

「何よその間は」

「前回の反省を全部活かせているか思い出してた」

「……へえ。ならいいかしら。また毒だったら許さないわよ」

「うん」

 

 そうやって笑って返してきた。まあ、今回はいいだろう。お腹も減ったし。普段より早く準備がされて、実食となった。

 もぐもぐ。まあ美味しい。すごく美味しいとは言えないけれども……。間違いなく里のご飯の方が美味しいだろうか。無論、普段から比べると素晴らしい料理だ。

 

「そこそこいけるわね」

「それはどうも」

 

 相変わらず素っ気なく聞こえる返事だが、少しだけ微笑んでいる。私の言葉で素直に嬉しそうにしてくれるのを見ると、こちらも少しだけ嬉しくなる。

 そのまま、のんびりといつも通りの調子で素早くたこ焼きとキノコ炒めを食べた。相手の分?食べない方が悪いのよ。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 美味しそうに食べてくれるのを見ると嬉しくなる。たとえ、自分の分がどんどんと減っていったとしても。そのまま食べ終わって、そのまま帰ろうと神社から出る。その時、ふと神社の横に蔵が見えた。今まであった覚えは無いんだけどなあ……とりあえず、ついてきていた霊夢に聞いてみる。

 

「ん?あんな蔵、あった?」

「……見えるの?」

「見えるよ?」

 

 何か見えたら不味いものだったのだろうか。確かに、結界が張られている様子。記憶を見るに、数年前には張っていたらしい。

 

「結界を張っておいたはずなんだけどね」

「うーん、慣れて、見えるようになった?」

「それは問題ね。というか、あんたみたいのがこれから増える予感がするのよ。今はここに来る妖怪はあんまり居ないけど、増えたらどうしようかしら。問答無用で退治する?」

 

 なかなかに物騒な話である。まあ、最近は平和で、そんな戦いというか一方的な虐殺は全く起きていないから、一つのイベントみたいなものになりかねない気もする。

 

「それはやめて欲しいかな。私が逃げるのが大変だし」

「自分の心配しかしないのね」

「それが妖怪だから。身内は心配するけど。まあとりあえず、あの蔵には何が入っているの?」

 

 自分で変な方向に話を持っていきかけたので話を逸らす。ついでに気になる蔵に話を誘導してみる。

 

「ああ、ええと〜、なんだっけか」

「ええ……」

「ま、まあ、中に入って見てみる?」

「あ、ありがとう」

 

 そうこうして、蔵の中に入らさせてもらえた。なかなか開けていないからか、凄く埃っぽい。

 

「ごほっごほっ……これ、酷い」

「げほごほっ……そうね……げほっ」

「とりあえず……ごほっ……中を見るね」

「ええ……早くしてよね……げほっげほっ」

 

 あまり埃をたてないようにして、そろそろと中に入る。

 色んなものがそこにはあった。古い御札や竹箒、ここに有って良いのかは分からないが、注連縄や陰陽玉。多数のガラクタとカビた本。目で見る限り、長い間放置されているが、今の状態で安心しているものも多いようなので、手をつけることなく奥へと進んでいく。そして、最後の最後、最奥地でめぼしいものは見つかった。

 

「……これは?」

「……なんだったかしら?」

 

 隅の方にあったのは、緑色の髪をしたメイドの服を来た少女?だった。何故こんな所にある(いる?)のだろう。記憶を読んでみる……

 

 ……どうやら先代の巫女が遺跡()探索の果てに貰ったものだったらしい。元々は違うところで働いていた所を、手際が悪い為か先代の巫女に譲られた様子。また働きたいようだが、全身ボロボロでまともに動けないだろう。

 

「……という感じかな?」

「なるほどね。相変わらず、ものに対しては便利ね」

「ええ、まあ、そうなりましたから」

「そう……まあいいわ。それで、どうするの?」

「持って帰っても良い?」

「良いわよ。こんなのあったところで使わないだろうし、使えないだろうし。それならしまい込むよりは譲った方が良いでしょ?」

 

 それはそうだ。目的のもの、いや、少女は見つかって、しかも連れて帰っていいことになった。有難い。今日はもう家に帰って、とりあえず忘れかけている黒い円盤をぷれーやーに掛けようか。放っておくのも悪いし。こちらはどうせ河童との協力案件だし。

 微かに少女が笑ったような気がした。早く直してあげるからね。



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004何が足りない

長期間更新が滞っていてすみません。
今後も低速になるかと思いますがよろしくお願いします。
明日は短めですが投稿出来そうです。


 部屋の中にある、黒い円盤が置かれた台に繋がった真空管アンプから音楽が流れてくる。『CHINA BOY』という曲だ。ベニーグッドマンという人がメインの、カーネギーホールという所で行われたジャズコンサートで演奏されたものらしい。そして店で流した時は皆揃って耳を傾け、終わるとどこからともなく拍手が起こったそうな。ドラムとピアノの中、合いの手の声と共に素晴らしい技量で演奏を披露するメインメロディー__これはクラリネットだろうか__が流れてくる。

 

「んー、やっぱりいいね、音楽は」

 

 どんどんヒートアップする音楽を聴いて、ふと、いつかはれこーどだけでなく、この音楽も幻想になってしまうのかと考えたが、そんなことは無いと自分に言い聞かせる。

 ……一曲が終わる。さて、作業の時間だ。止めるのも面倒なので、掛けたまま昨日連れて帰ってきた少女がいる工房に向かう。

 

「これは酷いなあ」

 

 全身ボロボロ、埃まみれで風化した服の生地。そして、荷物が落ちてきたからか右腕の肘が壊れて動かなくなっている。うーん、確か、近くに大型陰陽玉(石製)が転がっていたからなあ……

 大体の検分が終了したので、肘の修理を試みてみる。

 

「再生。……うーん?動かないなあ。完全に把握してやった筈なのに。とりあえず見た目は直ったから、分解してみるかな。流石にあの状態だと先に分解するのは無理だったし」

 

 首をひねってから分解を始める。構造は本人がしっかり知っていたので、滞りなく進む……はずだった。

 色々オーパーツじみた構造をしていて分かりにくいのだが、身体のうち腕と関節を繋ぐパーツが無くなっている。これではものが無ければ動けないだろう。

 

「困ったな……やっぱり河童案件だったかな。この辺が足りないから、発注する為に図面でも引くか……服は、まずは中身が出来ないことにはどうにも出来ないし、下手に触ると崩れそうだからこのままかな……ごめんね」

 

 そう声を掛けて、寝かせておく。そして部屋の隅にある製図机に向かう。

 まずは荷物の点検だ。紙に、硬い鉛筆と消しゴム。長い直定規に三角定規のセット、T定規、字消し板、テンプレート、三角スケールにスプリングコンパス、20cm以上の円が描けるコンパス、紙上の鉛筆粉や消しカスを掃くブラシなどなど、大量に確認していく。

 よし、あった。いける。紙と製図板をセットして、カリカリガリガリと必要な部品を書き込んでいき、全てにmm単位の詳細をつけ、必要な精度や質量、摩擦係数、硬さなども書き込んでいく。多分普通はこんなに要らないと思うものの、この人が覚えていて、かつこの精度が必要そうなので書き込んでいく。

 

 時間が過ぎていき、紙にはどんどんと精緻な図面が書き込まれていく。

 

 ……面倒だなぁ。全ての道具をどけて、紙だけ固定する。そのままフリーハンドで、さっきまでの動きを組み合わせて再生して書き込んでいく。鉛筆も崩れては元に戻り、欲しい形に変わる。判を押したように均一な字で書き込みをする。とんでもない速度で図面は描き上がっていく。さあ、仕上げかな。

 

 数時間後、描き終わった。目の前には大量のパーツの図。止まったれこーどに真っ暗な外。完全にひと仕事を終えて、一息つく。

 

「やっと終わった……」

 

 そして荷物をまとめて外に出る準備をする。表立って河童の元に行くのは厳しいので、天狗の警戒の目も緩む深夜に向かう。唯一仲の良いにとりの家へ、プレゼントしてくれた光学迷彩を起動して向かった。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 闇を駆け抜けて、家の前に着いた。ポケットから、振ると相方に振動が伝わる双子ベルを取り出して、一振りする。こちらの音はそのまま向こうに向かうので、一切音はしない。

 しばらくして、そっとドアが開いた。ただし、こちらも向こうも姿は見えない。中に入ってから、光学迷彩を解除して合図を出す。扉がひとりでに閉まって、にとりが姿を現した。

 

「久しぶりだねえ。今日はどうしたんだい?」

「ちょっと修理の為に必要なものがあって」

「なるほど、珍しいねえ。普段は自力でなんとかするじゃないか」

「まあね。今回は元がボロボロ過ぎてパーツが残ってなかったのと、それが結構面倒なパーツだったから」

「そうかい。普通のものなら妖力で再生したり、このベルみたいに能力を付けたり出来るもんなあ」

 

 そう言って笑いながらさっきのベルを指してくる。

 

「まあそれは、双子のベルを見つけて、そう在れるように再生したから」

「まあね。でも凄いと思うよ?……うーん、そうすると、やっぱり再生の使い勝手はいいんじゃないのかい?」

「いやいや。私かモノ位しか使えないし、モノの意志に反することは基本しないから」

「そういやそうだったねぇ……まあ、私は嫌いじゃないよ、それ」

「どうも。ありがとう」

「まあそれじゃ、今日の依頼はなんだい?あ、防音はこの前より強化したから叫んでも大丈夫だよ」

 

 どんどんとにとりの家が要塞化している気がする……どうなんだろうか。まあ、悪いことでは無いと言える。前回は、中で大型機械を倒したせいで大音量が響き渡り、心配した他の河童が何人も入ってきて見つかるかと思った。光学迷彩に感謝だ。

 さっき描き終わった図面を丁寧に広げて渡す。

 

「お!どれどれ……」

「……」

「…………うーーーん、エグいね、これ」

「……まあ」

「どんなレベルで作られたんだい?これ。そもそも何のパーツだい?」

「ああ、ええと」

 説明をする。蔵で見つけた少女の修理だと。肘関節のパーツが減って困っているのだと。そして、見て分かる通りオーバーテクノロジーっぽいことを。

 

「なるほどねえ……5日。5日欲しい」

「ありがとう」

「いいってことさ。あ、そうそう、左腕の調子はどうだい?」

 

 そう、この左腕の義肢を作ったのはにとりだ。これには感謝してもしきれない。恩人である。

 

「問題ないよ。あの時治して以来、自己修復で特に問題は感じていないかな。でもまあ、今度精密検査をお願いしたいけど」

「りょーかい。まあ、前やった時も全然問題無かったけど」

 

 不思議な話ではあると思う。だけど、これが実際問題が無かった。一度外して数日間預けてみたものの、それでも問題は一切発見されなかった。むしろ外したこちらが謎の倦怠感に襲われたぐらいである。

 

「それじゃあ、また後日。何とかやってみるよ」

 

 そう言って、にとりの姿が見えなくなった。私も迷彩を使って姿を消す。帰りは勝手口からこっそりと外に出て、家へと走った。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 数日後。再びにとりの家へと走る。ベルを鳴らして来客を伝えると、ひとりでにドアが開いた。室内に入って、にとりが口を開いた。

 

「やあ。頼んだものは出来たよ。いや〜、実に大変だったねぇ。あんな超精密なものとか作ったこと無かったから、偶然出来るまで何十回もやったよ。でもまあ、楽しかったし。構わないよ」

「ありがとう。本当にいつも、感謝かな」

「いいのいいの。楽しんでやってるわけだし」

「どうも。じゃあ、持って帰ってやってみるよ」

「おう!ああ、また今度どうなったか教えて欲しいなぁ。間が空いた方が疑われないし、また後で、だねぇ」

「分かった。ではまた後で」

 

 そしてコソコソと窓から出ていく。家に戻ると、即座に少女の元へ向かう。足りなかったパーツを全て正しい場所に収め、再生する。よし、これで動けるだろう。起動してみよう。

 

 

 

……

………

…………

 

 

 

……動かない。どうしてだろう?彼女の声も聞いてみるが、しかし分からない。どうしても動けないようだ。

 一体何が足りないのだろうか。悩みは深まり、そして夜は明けて行った。



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005目覚めの朝

ちょっと短めになってしまいました。


 パーツを組み込んだのに動かない。どうしてだろうかと悩むうちに、深夜の凍ったような時間は溶け始め、来るべき朝に向けて無音のうちに動き始めた。

 もともと妖怪のこの身は、例え全く寝なくても問題は存在しない。人間とは構造が全く違うから寝なくて発狂するというようなことも起こらないし、動きが鈍ったりすることも無い。無視できる程度の軽い眠気は覚えつつ、未だ目を覚まさない彼女の記憶を読み続けて原因を探る。

 

 

……

…………

………………

 

 

「……ふむ。……ふむ。そこは合ってる。ここも治ってる。動力源の核の炉は治した。うーん、どうしてだろう……」

 

 やはり、足りていない。空は白んできて、時間の流れを無常にも伝えてくる。自分はどうして時間を気にしているのだろうか。焦ることは無いはず。時間はいくらだってあるのだし、朝までにしなければならないことも無いのに。

 

「どうして……どうして……上手くいかない。何故……何故……なんで……」

 

 どんどんと急いていく気持ち。焦って焦って、そして気づく。自分は誰かを永久に失うのが怖いのだと。自分の力が及ばないことを恐れているのだと。今までに拾ったものもそう。目の前の少女もそう。誰かに忘れ去られてしまった物たちへの共感。もう二度と会えないかもしれない私の姉たち。自分のエゴがぐるぐる回って、だったら成してやると心に決める。もう無くさない。失わない。全部全部、自分が見つけたものは拾い上げてやる。

 

 一つ息を深く吸って、全て吐ききる。落ち着いた。憑きものが落ちたように、心は凪いで安定する。原因を捉えてしまえば、あとは対処するだけだ。

 そしてゆっくりと考える。自分の能力について、そして自分にできることを。ふいと、誰かが言っていたことを思い出す。あれは確かフラリと現れた小柄な鬼だったか。

 

「能力はねえ〜、捉えようなのさ。その人の個性だから、使いようによっちゃあ~色んなことができる。私だって、初めは上手くいかなかったさ。霧になれるかと思って試してみたらバラバラに吹き飛びかけたりねえ。まあ、大丈夫だったんだけどさ。あはは」

 

 そう言っていたっけか。うーん。自分の能力について考えを深める。再生、再生……再生って何だ?私は何を望んでいた?

 あの時、私は生き延びたいと思っていた。死の淵に瀕して、姉二人ともう会えないのかと思ったその時、私は生き汚くも続きの生を求めた。再び姉二人と会うために……いやいや、それは目的だ。私がその時、その目的のために望んでいたのは何だったか?

 

 そんなふうに思考を巡らせて、あることに気づく。そうか。そういうことなのか。そうすれば、良かったのか。

 

 

『再生』

 

 

 そう、私の能力は『再生する程度の能力』。再生とは、時間的な再生/逆再生もあるけど、本質は違う所にある。それは、再び生まれさせる力。もう一度、生きることを許す力。一度私に力を与えてくれたこの力で、この機械の少女に再び生を与えた。

 

 少女に力が吸い込まれていく。かつてないほどの能力の行使で、身体が、精神が、悲鳴をあげていく。能力行使の代償として吸い取られる妖力。軋む身体を無視し、歪んだ視界の端で少女が目を開けたのを確認して、そのまま意識を手放した。

 窓からは、まるで少女の再誕を祝うかのように、一日の循環を告げる朝日が差し込み少女の周りを照らしていた。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 私は、る〜こと。もう、記憶は曖昧だけど長い間眠っていたような気がします。そんな曖昧な時間のなか、どこからともなく見られているような気がしてきたんです。感覚的なものだったのですがなんとなく意志を伝えられそうだったので、混濁とした意識の中聞かれたことを思い浮かべて、微かに会話のような感じのことをしたような気がします。そこで分かったのが、どうやら私の身体を直そうとしてくれていることですね。正直なところ、もう必要としてくれる人がいなかったので、凄く嬉しいです!でも、なんだか上手くいっていないようですね……

 あれ、なんだか不思議な力が入り込んできました……これは一体…………ん?願い?……それは……

 

 そこで、私は目が覚めました。ちょうど朝だったのでしょうか、ちょっとまぶしいです。うっとうしく感じつつも採光量を加減して見えるようにしつつ、ゆっくりと身体を起こしました。部屋のほこりが舞って、差し込む朝日に映ります。

 

「わあ……久しぶりの目覚めですね。……うん、身体の動きも炉の動きも良好です。ところで、誰が直してくれたんでしょうか」

 

 そう思いつつ辺りを見回すと、不思議な人?いや、妖怪?が倒れていました。長い金髪に微かに銀が混じった奇妙な髪に、義肢と思われる、つや消しの金色をした左腕と左脚、妙なコードとその先にある大きな球体。およそ人とは思えない異質な格好をしたヒトが倒れていました。もしかして、私を直してくれたのはこの人なんですかね?

 そこまで考えた時、頭がやっと回ってきました。

 

「そうです!倒れてるなら介抱しないとです!目覚めてすぐですが、メイドとしての仕事をしましょうか」

 

 そう自分で声を出してやることを確認して、それから彼女を丁寧に持ち上げてさっきまで私が寝ていた場所に寝かせました。普通に気を失っているだけのようですが、少し熱があるようなので適当な厚手の布を湿らせ、畳んで頭に乗せまして。それから適当に貴重なお米を拝借して洗って処理をしたあと、釜に入れて多めに水を張りました。古びた新聞と種火、薪を入れ、火吹き竹でゆっくりと火を(おこ)して、管理を続けていきます。沸騰したら、甘みが増すように塩と酒を少量入れて、弱火でゆるく煮込んで……

 

 陽が徐々に昇り部屋に差す光も強くなってきたころ、やっとお粥が炊けました。ご主人様は見た限りかなり弱っていたので、まずは重湯を持って行きました。ご主人様、早く元気になって、元気になった私を見て欲しいです。今は呆然と上半身を起こして、焦点の合わない瞳のまま重湯を召し上がっているだけですから……



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006ゆるやかな魔の森の瘴気

更新が遅くなってすみません。
次回も遅れるかもです。申し訳ありません。


006ゆるやかな魔の森の風

 

 

 私が目覚めて、ご主人様が倒れてから一週間。ご主人様は徐々に元気を取り戻してきました。それまで、お粥を作ったり部屋の掃除を埃が立たないようにしたりと忙しい毎日でしたが、人のために仕事が出来るというのは私にとって望外の願いだったので、非常に嬉しかったです。

 

「る~こと、ありがとう」

「いえ。ご主人様の為ですから♪」

「そう。でもまあ、君が元気になって良かった。正直に言うと、治せないかもしれないと思っていたんだ」

「えっ?そうなんですか?」

 

 話を聞いたところ、どうやらこの幻想郷、と言いますか外の世界でもかなりのオーバーテクノロジーな私を直すのには部品の精度が足りなくて、河童という幻想郷の技術者集団に無理を言って作ってもらったらしいです。そこまでしてどうして助けたかったのか聞いてみましたが、はぐらかされてしまいました。なんでも、ただのエゴだかららしいのですが、それ以上は教えてもらえませんでした。でも、それでも良いと思っています。自分を直してくれたのはこの人で、私が仕えるご主人様もこの方です。感謝しかありません。

 

「まあ、そんなところかな。そろそろ、元気に動けるようになると良いんだけど。やっぱり無理しすぎて、力の根源である妖力不足で存在自体があやふやになってたみたいだし。幻想郷じゃなかったら消滅していたと思う」

「そうなんですか……でも、無事だったから良かったじゃないですか」

 

 ご主人様、やっぱり危険な状態だったんですね……でも今生きていられるなら良かったのではないかと、にっこり笑いかけます。それを見たご主人様も、ほんのり笑って下さいました。

 

「そうだね。やっぱり、感謝かな。巡り巡ってこんな所まで来てくれてね」

「いえいえ。こちらも仕事を得られましたし、なにより良いご主人様に出会えましたから」

「それなら良かった。ああそう、数日後には完全に元気になると思うから、散歩に出かけようと思う」

「そうなんですか!お供しても宜しいでしょうか」

「いいよ。こんな所まで賊は来ないと思うし、下級妖怪は家に入ることすら出来ないと思うから。まあ、入った所で地下倉庫や工房には行けないけど」

 

 そういってご主人様は許可してくれました。でも、どうして入れないんでしょう?私はすんなり通ることが出来たのですが……

 

「ああ、それは、この家自体が特殊なんだ。もともと私が建材として使うことを認めてくれた素材達だったから、『再生』の能力を使って侵入者防止が出来るように生まれ変わらせたんだ」

「そうなんですね!ですが、ご主人様の能力、そういう使い方が出来るんですね」

 

 不思議に思ったことを聞いてみます。元々ものを直したりとか音楽を再生したりとか、そういうことには使っているのを昨日とかに見かけたのですが、そういうことも出来るとは驚きです。

 

「まあね。これは君を治した時に理解したんだけど、私の能力は再び生を与える力。そのときに、その対象が望んでいる姿へと生まれ変わらせることが出来るみたい。もしかすると、何か出来るようになってるかも」

「そうなんですね……何が出来るんでしょうかね?」

「それは分からないけど、多分時が来たら分かるんじゃないかな」

 

 確かに、そういうものなんでしょう。でも、私の願いは良いご主人様の下でメイドとしての仕事を頂く事なので、どうなっているんでしょう?そんなことを思いながら、その日もゆっくりと過ぎて行きました。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 数日後。やっと完全回復したので、のんびり散歩に行こうと思う。いつもと違うのはる~ことがいること。今までは基本一人で散歩していたけど、今日はヒトがいる。昔はあって、最近は無かったこと。少し姉たちを思い出して寂しくなるけど、楽しみだなあ。

 

「さてる~こと、行こうか」

「はい!」

 

 短くやりとりをして森へと適当に歩く。話すのはかなり苦手で短く切っちゃうけど、る~こと相手には少しでも親しみやすさのある発言がしたい。だって、今の唯一の身内だから。自分が大切にしたいと思っているものにはその気持ちを伝えないと、いつか後悔するときがくる。そのときがもし来たときに、気持ちが全く伝えられなかったとはならないようにしたい。

 そんなことを思っていたら、瘴気渦巻く森の中の方まで歩いてきていた。光のあまり差さないこの森は、逆にその鬱蒼とした中に各種キノコの胞子がまき散らされ、一部差し込む白色の筋に照らされて不思議な色合いを呈していた。

 

「ああ……今日も不思議な森だなあ」

「そうですね。と、いつもこれなんですか!?なんだか身体に悪そうですね」

「実際、人間がここまで入ってくるのは無理だと思う。妖怪でも体調や精神に悪影響を及ぼしかねないほど、ここの空気自体は悪いみたい」

 

 そう。ここの空気は、成分だけ見ると酷いことになっている。魔法薬品の材料となるキノコの胞子は猛毒から幻覚作用まで様々あって、実際昔には空気に酔って酷い目にあったことがある危険な森っぽいなあ。

 

「大丈夫なんですか?」

「まあね。そもそも妖怪な上に半分機械化してるせいでそういうのには耐性がついているみたいだから」

 

 そう言って、自分の身体を見る。つや消しの金色をした左腕と左脚は、あのとき(・・・・)切り落とされてから義肢となっているし、この第三の目も突き刺されて義眼になっている。それでも、能力は発動するのだからこの身体は不思議だ。義肢も肉体部分と同じように妖怪としての自動治癒が働くのか、ゆっくり直っているみたいだし。

 まあそのことは置いておいて、さくさくと森を抜けていく。時折聞こえる水の音。一体どこから流れてきているのか不思議だけど、特に気にしないことにする。他にも、見るからに毒々しい色をした毛虫や立ち並ぶ人面樹、おかしな植物を基底とする混沌とした生態系を眺めて、楽しむ。

 

「やっぱりいつ見ても面白い。外に出歩けなかったからずっと家に居たけど、こういう光景が広がっているから幻想郷散策は止められない」

「景色を見るのが好きなんですね。私は幻想郷について詳しくないですけど、世界のいろんな姿が見られるのは楽しいです♪」

「それは良かった。でもまあ、今日はこの辺かな。また一緒に散歩しない?まあ、人間の里への買い出しもお願いするかもしれないからその予行演習みたいなものになるかな」

「良いですよ!あ、でも、私が人里に行っても大丈夫なんですか?」

「うん。大丈夫だよ。私も偶に忍んで行くけど、見られても大丈夫だったかな。流石に義肢は差し出さないように気をつけたけど」

 

 意外な話、人間の里ではバレにくい。しっかりと偽装すれば見破れそうになられる機会は少ないし、露見したとしても妖怪全体としての畏れが増えるだけだから黙認されているんだよね。中にはそのまま堂々と買い物に行くヒトも居るらしいけど……

 

「そうなんですね!では、私も問題無くいけそうですね。見た目は普通の人ですし、特に能力を持っている訳では無いんです。唯一怪しいのは背中の放射性標識ですね」

「まあそれなら、描いていない服にすれば解決しそう。まあ、そもそもそこまでしなくても何のマークか分からないだろうから、多分大丈夫」

 

 そういう見方では、る~ことはかなり適任だと思う。私の家族の中では、今まででヒトに一番近い姿をしているからきっと里になじみやすいと思う。声も明るいし。

 不思議な森を抜けながら、ぽつぽつとそんな会話をしたり休憩中にキノコをちょっと採ったりして、今日の散歩は終了。一日のんびり散歩で潰すのはやっぱり楽しい。今日は同行者も居るし。再び自宅の前へと行き着いたとき、ふとそんな事を思った。ずっと、こういう緩慢とした空気が続けば良いなあと思う。



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007おつかいおかいもの

お久しぶりです……書き方、これで大丈夫か心配です。
それではいつも通り短めですが、お楽しみ頂けたら幸いです。


 今日は一人でお買い物の日です。ご主人様は工房で拾い物の治療をするのだとか。物の修理の腕前は一流で、特に小物に関しては河童の技術力をも上回るという噂を耳にしているので、本当に凄い方なんだなあと思っています。

 さて、今日のおつかいはなんでしたっけ。手元のメモを見返します。

 

「……ええと、適当な野菜と、あればぶつ切り肉を少々。砂糖があれば優先的に購入して、塩が不足してきたからそれも……ですか」

 

 今回は食料の購入ですね。妖怪にしては珍しく人間と変わらないものを食べているので、里での買い物が必要になります。場所が場所なのでまともな作物が育たたず、結果ある程度を里に頼る形になっています。特に、調味料系は作るのが難しいですし。

 

 人間の里は、今日も人々が活気を持って動いている。織り上げた反物や鋳物の鍋、食事処に新鮮な野菜まで雑多な店が立ち並んでおり、何人もの人が店を出入りしている。そして、そんな中を通り抜ける緑髪のメイド服の少女はそれなりに目立っていたが、特に気にする様子もなく店主に話しかけていた。

 

「すみませーん。今日はどんな野菜がありますか?」

「……おお!いつもの妙な格好をした嬢ちゃんかい。いやー、今日は繁盛しとるでい。今の時期だから秋の恵みを存分に受けて、ようさん実っとるからの。好きに見てってくれや」

「はーい!」

「して、今日は一人なんけ?」

「あ、はい!今日はご主人様は忙しいので」

「おお、そうかいそうかい。んじゃあ、みてっとくれや」

「はい!」

 

 そうして何軒もまわって、食べる用と漬物用の野菜と、あと備蓄のために大量の塩を購入しました。砂糖系が見当たらなかったのは残念ですが、まあ、貴重ですし……

 そうやって町の中を歩いていると、いつもの貸本屋さんに会いました。何故かぎょっとしてこちらを見ているのですが、何かありましたでしょうか……

 

「あ、あの〜荷物、大丈夫ですか?」

「?大丈夫ですよ」

「ええ……重くないんですか?」

 

 うーん、どうなんでしょう?左手には野菜が3kgと塩5kgほど、右の方には塩10kg、左脇に野菜とお肉が計2kgと、頭の上に塩10kgの合計30kgぐらいです……

 

「そこまで重くないですよ?」

 

 と言いながら、その場で軽く跳ねるる〜こと。ずしんずしんと言いながら地面が凹んでいき、貸本屋を営む小鈴の目は死んでいった。

 

「ええ……うーん……量、合ってるのかな……ま、まあ、本でも見ていきますか?」

「いえ、今日は流石に荷物が多いので、またの機会に……」

「それは残念です……そういえば、結局、何処から来ているんですか?」

 

 そう、いつもの二人組の片割れなのだけれど、何処から来ているのかがさっぱり分からない。町の人でもなさそうだし、さて……いや、行ける範囲なら本の配送とかも出来るし、これも商売の為。徐々に販路を拡大しないと。

 

「ええと、何処でしょう?森の奥の方からですね……」

「ええっ!?森なんですか!?……それだと流石に無理だなあ」

「ん、どうしたんです?」

「(あれ、小声だったのに聞こえてる……)ああ、気になる本があったら配達するサービスをしているんです。なので、家の場所を聞けたらなあと」

「うーん、今度、ご主人様に話をしておきますね。もし良ければ来てください」

「ありがとうございます!でも、普通の人は森に入ると瘴気に耐えられないんですよね。あそこは空気が澱んでいますし、妖怪も出るんです」

 

 そう、魔法の森は近づけない場所筆頭の一つで、山と同じく危険地帯。曰く、とって食われる妖怪がごろごろ居るとか、曰く、入ると数時間で肺を患うとか、怖い噂の耐えない場所で。でも偶に、人形のように美しい女性が居たとか、倉庫のような店があるとか、銀髪の女の童が居たとか、泥棒が住んでいるとかの面白い噂もあるので、一定数好んでいる人もいるみたいなのがなんとも……

 

「そうですか……まあ、私は大丈夫なので。では、また来ますので、その時は本をお願いします」

「あ、はーい!その時はよろしくお願いします!」

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 そうして、重荷を持ったまま森を抜けて、なんとか家に辿り着きました。道中で妖怪に襲われることもなく平和だったので良かったです。まあ、襲われても撃退するんですけどね。

 

「ただいまです」

「おかえり。どうだっ……ありゃ」

 

 何故か頭に手をやるご主人様。何かやらかしたのでしょうか……

 

「どうされました?」

「いや……その塩の量は……」

「?大体、20kgとちょっとあります」

「うーん、使いきれるかな。湿りそう」

「まあ、盛り塩すればいいと思いますよ」

 

 そう言うと、また頭が痛そうな顔をしました。風邪でも引いているのでしょうか?

 

「いや、ここ、妖怪の家だから。いっぱい置いたら伝承次第で動けなくなるよ」

「あっ、それは失礼しました。とりあえず、地下倉庫に置いておきますね」

 

 それは忘れていました。噂は変形するので、気をつけないとですね……また一つ、勉強できました。

 

「うん、お願い」

「はい!」

 

 食糧庫にどかどかと塩が運び込まれていく。地下は毎日拡張が進められているため、限界にはまだまだ遠い。木張りの冷えた部屋には、沢山の野菜や肉が保存されていた。なお、じゃがいもなどは別の場所に保管してあるようである。

 拡張に拡張を重ね、まるで迷路のように発展した地下倉庫群。その何処かから、槌を振るう音が響き続けていた。




小鈴ちゃん、口調はこれで良かったのか……?
鈴奈庵、買わないとな……


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008昼酒・夜酒・深酒

 今日も、る〜ことが里に行っている。少し心配はしていたものの、さして問題なく行って帰って来ているので、少し家が寂しくなる程度のことだ。その程度のことなのだが、やはり寂しい。今までは日常となっていたので気づかなかったが、一人でいるというのは応えるものがあるらしい。気を紛らわすため、昼だけども酒盛りをすることにした。

 地下倉庫群の酒蔵から、適当な酒を10本ほど見繕って取り出す。だけど、高級なのは出さない。それはもっと大事な時のために取っておく。そしてそのまま地上の座卓へと持っていったが、瓶が多すぎて置ききれないので、一本以外を座卓の下へ置きつつ一部は氷水にガラガラと浸ける。一般的には貴重な氷だが、それなりの規模がある地下倉庫には氷作りと冷凍保存専用の極寒部屋を作ってある。倉庫は拾い物の冷蔵庫を参考にして作ったので熱が移動し、隣の部屋は逆に高温となってしまっているけど、それは使いよう。そんな形で酒盛りの準備を整え、一息。

 瓶を開ける音が、静かな部屋に響いた。

 

「昼間から酒とは、まあ珍しいこともしてみるものかな。さて、ああ、ツマミを忘れていた。その辺にないかな」

 

 その辺を見るも、干したイトウぐらいしかない。沢山捕れすぎて食べきれそうになかったので、開いてから吊しておいたのだ。日当たりのマシな東側の軒先から何枚か回収して、テーブルに置いた。

 徳利にとくとくと注ぎ、お猪口に注いでからクイッと一杯。

 

「……ああ、美味しい。昼に飲むのも良いね」

 

 そして、干物を頂く。味が染み出てきて、これまた美味しい。

 

「うーん、合わせると本当に美味しい。しかし、この辺は珍しくなってきた魚が取れるものだね。なんでだろう」

 

 イトウは、外の世界ではかなり珍しくなってきた魚で、あんまり捕れないらしい。なんでも、成長が遅いけど大きくなるとかなんとか。沢山とったら居なくなるのは、それはそうだとしか言えない。詳しいことはあんまり興味がなかったし、ここに来てからはあんまり聞かないので分からない。

 そんなことは置いておいて、一滴も零さないようにしながらまたドポドポと盃に注いでいく。機械化してから更に酒への耐性が上がった気がするので、多少呑んだところで影響はない。勢いに任せて、日光とそよ風を感じつつ大量に飲んでいく。

 

「……あれ。イトウが無くなった。うーん、新しいのを探すのも面倒だし。まあいいか。そのまま呑もう。美味しいし」

 

 ツマミが消えたので、そのままただ酒だけを呷っていく。いつの間にか、一本目が空っぽになっていた。

 

「ううー、『再生』……流石に酒は戻らないか」

 

 何回もやった事のある作業をした後、酒瓶を別の桶に入れて、氷水の桶から酒を引っこ抜く。皿に入れるのもなんだか面倒になってきたので、左手の金属部分で栓を力ずくで開けたあと、そのまま瓶に口をつけた。んー、美味しい。

 広くはない部屋の中に、どんどんと酒の香りが充満していく。そのままその香りは家の一階部分に染み渡り、空き瓶はまた一本と増えていった。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 ご主人様からのおつかいで、里から酒を買ってきました。今は、森の中をなんとか突き進んでいます。時々妖怪も出てきますが、その時は空いている足で蹴散らしながら、頑張って家まで戻ってきました。

 ちょっと遅くなってしまったのですが、大丈夫でしょうか……呼び鈴をチリリンと鳴らして、ご主人様を待ちます。

 

「ご主人様、ただ今戻りましたー!」

「んー?まっててねー」

 

 ご主人様、今日は珍しく既に酔っているようです。普段は夜からしかお酒を飲まないのですけど、どうしたんでしょう?

 そう考えている間に、家のドアがひとりでに開いて、迎え入れてくれました。中を見ると、何本もの空瓶が転がる中、ご主人様が酒瓶を抱き抱えながら緩く笑っていました。

 

「る〜こと、無事で良かった……」

「はい!今日も無事に買ってこられました!とりあえず、お酒は蔵に入れておきますね」

「うんー、お願いー」

 

 完全に出来上がっているのか、ご主人様の語尾がのびのびになっています。口元もだらしなく笑っていて、かなり呑んだようです。

 酒瓶を蔵に入れた後、代わりに二本ほど取り出して持っていきます。そして空き瓶を回収して洗った後、また違う倉庫へ持っていきました。

 戻ると、ご主人様がまた話しかけてきました。

 

「る〜こと、一緒に飲まないー?」

「いえ、私はものが食べられないので……すみません」

「いやいやー、そう言わないでー、試してみたらー?」

「いえ……申し訳ありません」

「残念。また興味があったらー。じゃあー、屋根上で熱燗呑んでるから、よかったらー」

「はい!」

 

 そう。いくら人のようだとはいえ、ロボには違いありません。食べ物を食べると発声器官が傷んでしまいます。少し残念に思いながらも、地下倉庫群の管理と掃除をするため、地下へと向かいました。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 屋根の上に陣取って、台所で温めた熱湯で熱燗を作っていく。流石に上へ火種を持ち込む訳にはいかないので、ちょっとだけ寂しい。

 秋晴れの下、月光に照らされながら風を浴びて熱燗を頂く。冷えた身体に熱が回って、ほうと息を吐いた。

 

「……美味しい」

 

 多くは呟かず、のんびりと酒を飲み重ねていく。既に8本は消費してしまったが、まだまだ飲めそうな気がする。

 ぐらぐらする頭で空を見上げると、上弦の月を超えたぐらい、十日夜の月が見えた。毎日姿や大きさを変える月は、見ていて飽きない。それから再びお猪口を口に運んで、また風に身を任せる。酔いは醒めたり回ったりを繰り返して、身体と一緒に船を漕いでいた。

 

 

……

…………

………………

 

 

 徳利からお酒が無くなった。取りに戻ろうとフラフラしながら家に入るが、もう外に出られそうにはない。ドアは押しても開かないし、お酒は増えたり減ったりしている。世界もグルグルしているけど、今日はあんまり気にせず呑んでいたい。る〜ことは、今は地下の掃除をしているだろう。早くはないから、多分深夜までかかるに違いない。

 ……家の中だから大丈夫だと知ってはいるものの、やっぱり、少し怖い。る〜ことが無事に帰ってこないかと考えると、やっぱり不安になる。大事にしているものが、人が消えるのは、やっぱりもう嫌だ。だから私は、不安を紛らわせつつる〜ことの帰りを待つ。

 酒の回った思考はまとまりなく止まらない。普段は繋がらない発想と認識から、酒はどんどんと加速していった。すぐ近くの汎用倉庫からもなんとか酒を取り出して、更に呑んでいく。思考がグルグル回って、なんだかよく分からなくなってきた。

 ……疲れた。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 やっと地下三階の掃除が終わったので、ご主人様の下に戻ります。カツカツと石製の階段を登って、居間の隣の部屋へと来ました。でも、部屋から音は聞こえてきません。少し心配になりながらも、そろりと戸をあけました。

 中では、ご主人様が飲み干した酒瓶を抱えながら倒れていました。辺りには残量がまちまちな酒瓶が並んでいて、大量の空き瓶が散乱していました。ざっと見て、20本はありそうです。ご主人様の酒の強さから見ても明らかに飲みすぎです。そして、何故か不思議なことに、ご主人様の髪の毛は綺麗な「銀色」になっていました。元々は綺麗な「金色」に「銀色」が混じっていたのですが、今は銀一色です。毎回とても疑問に思いつつも、まずは処置をすることにしました。

 ご主人様から抱えている酒瓶を回収して、横向きにします。それから飲みかけの酒はとりあえず並べて、空き瓶は踏むと危ないので全て集めて洗ってから倉庫に入れます。その後は使われた徳利とお猪口も丁寧に洗って乾かします。

 一通り仕事が終わったのでご主人様の様子を見に行きました。特に変化は無いのですが、その寝姿を見ていると少し不安になってきます。まるで、精巧な人形が倒れているかのような、そんな錯覚を抱いてしまうのです。

 

「……まあ、明後日になれば元に戻るはずです。それまで、しっかりと介抱をしないとです」

 

 声に出してそう決意を固めて、じっとご主人様の様子を見続けます。空は徐々に白んできたので、ご主人様から離れて、朝ごはんとして卵を溶かした粥を作っていきます。これで元気になると良いのですけど……




なお、筆者は酒を飲んだことがないので、描写が怪しいです。


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009布石を打つ 壱

戦闘シーンを書いていたら増量しました。
原作に入る前に一悶着あるようです。


 深夜。山でコソコソと動く人影があった。俗に妖怪の山と呼ばれる、天狗が支配している山である。

 

「……」

 

 赤褐色のフードを被り、無言で足音を殺し木の間を縫っていく人影が一つ。フードの隙間からは金色の髪が覗いており、しかしその輪郭は不思議とぼやけて上手く掴めない。そして山へと溶けるように、その姿は更に曖昧になっていった。

 山の上の方では、建物から微かに灯りが零れており、中から怒号も聞こえてくる。夜更けまで天狗が活動していることはままあるが、あくまでも哨戒の白狼天狗が動いているか宴会をしているかであるため、珍しい動きである。

 それを尻目にそのまま人影は山を登り、周りを見渡している。標高とともに緊張感も高まっているのか、しきりに辺りを警戒しながら歩き続けている。加えて、なにかを探しているのだろう、その足を止めることは無かった。そして遂にお目当てのものを見つけたらしい。地面に伏せて身を隠し、息を殺した。

 辺りが騒がしくなる。どうやら天狗達が演習をしているようだ。夜の闇の中、高速で動き包囲するような動きを見せる白狼天狗。巧みな位置取りで隙と隙間を埋める烏天狗。全体を把握し即座に身振りや声で、真偽を織り交ぜつつ指揮を執る大天狗。なかなか大きな作戦を立案しているらしい。

 

 人影はじっと微動だにせず、ただ見つめていた。

 

 時間は流れ、演習が終わった。人影は再び移動を始め、ひとつの倉庫へと辿り着いた。鍵のかかっていなかった戸を微かに開けてそっと手を差し込み、直ぐに戻した。そして何かに満足したのか、また静かに山を降りていく。天狗達は気づいていない。不穏な侵入者は警戒していたものの、深夜まで徹底することは出来なかったのだ。

 

 夜は明け、再び日が昇る。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

「る〜こと。今帰ったよ」

「おかえりなさい、ご主人様!」

 

 危険な外出を終えて、なんとか家に帰ってこれた。黎明の空はほんのり白んできていて、何とか間に合ったことを教えてくれる。

 そこへ、る〜ことが少し心配したような雰囲気で声をかけてきた。忠誠心など以外の感情も徐々に出てきているようで、少し嬉しくなる。

 

「ところで、どちらに行かれていたんですか?」

 

 まあ、隠す事はできない。アレ(・・)を見てしまったからには、対策をしなければならない。

 

「ああ……えっと、妖怪の山へこっそり偵察にね。最近怪しい動きをしていると恩人に聞いたものだから」

「そうだったんですか……無事でよかったです!でも、心配しました。先に言ってくれても良かったのではないでしょうか」

 

 珍しく、る〜ことが気持ちを表してくる。そうとう心配させてしまったらしい。

 

「そうだね。ごめん。でも、私がいない間に天狗たちがもし、もし来た時に、なんとも言えないと思って」

「それは……そうですね……」

 

 非常に悪いことをしたと思う。もし見つかっていたら、計画の前に袋叩きにされてあえなく生を失うところだった。まあ、一度死んだ程度であれば能力の超過使用でなんとかならないこともないと思うが、恐らくとても大切なものを失ってしまう気がする。保険はあるが、リスクのある行動だった。

 さて、必要な情報は得た。決行の日時まではまだ分からないがそう簡単に漏らすはずはなく、調べるにはリスクが高すぎるので諦めた。ただ、あの天狗たちの練度を見るに、猶予は1週間と言ったところだろうか。ならば、しっかり動向を見つつ早急に準備をするしかない。そう考えて、る〜ことに声を掛ける。

 

「る〜こと、この時計が12時になったら起こして欲しい。それからお昼ごはんをたべて、そのあとは少し戦い方を教えようと思う」

「急ですね……ああ、山の問題ですね。分かりました!それでは、おやすみなさいご主人様」

「おやすみ、る〜こと」

 

 それなりに寝てはいたものの、徹夜だったのであんまり体調は宜しくない。全く問題ないといえば問題ないが、戦闘訓練を疲れたままの状態でやると、うっかり加減を間違えてしまうかもしれない。安全を取るのが大切だ。また、昨晩の偵察がバレていて、今日にも襲いかかってくるかもしれない。可能な限り体調を整えることは必要だった。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 12時になったので、ご主人様を起こします。そしてそのまま私が作った昼ごはんをご主人様と頂いて少し落ち着いたところで、家を出て森を少し歩きました。ご主人様は手ぶらのようですが、なにを教えてくださるのでしょうか……

 そう考えている間に、家の近くのやや開けた場所へと出ました。ご主人様はあまりものを持っていないようなのですが、一体どうするのでしょう?

 考えを巡らせていると、ご主人様がこちらに向き直って、にこやかに話を始めました。

 

「る〜こと、今日は戦いに備えた練習をしようと思う。今朝も言ったけど、天狗の動きが怪しいから、その対策としてる〜ことにも戦う力をつけてもらった方がいいと思うんだ」

「そうですね。私はあまり戦えないですし、それを知るのは大切です」

 

 とはいえ、昔は一応モップを使って自衛は出来たので、使うならそれが良いのですが……

 

「うん。そこで、る〜ことには武器を渡そうと思う。多分その方がいいと思って」

 

 そう言ってご主人様は、腰に提げた大きめの信玄袋から、そのサイズに合わない大きさの金属製モップを取り出しました。

 どうして分かったのでしょうか……

 

「る〜ことは、この武器ならまだ扱えるかなと思って。前に修理のため過去を再生していた時にモップを使っているのを見たから、いいんじゃないかと思って作っておいたんだ」

「ご主人様……ありがとうございます!」

 

 どうやら、そのサードアイで見ていたらしく、すっかりお見通しでした。ご主人様、こういうサプライズをするんですね……嬉しいです!

 

「さてそれでは、早速やろうか。まあ、教え方はよく分からないから適当に打ち合ってやる感じかな。私の装備と動きは山の白狼天狗を参考にしてやってみるから、一応の仮想白狼天狗ということで」

 

 そう言うと、少しにやりとしながら、その信玄袋から更に刃を潰した剣と盾を取り出してきました。これもまた、いつの間に用意したのでしょうか……

 

「では、いくよ」

 

 そのようにゆるく話をした途端、空気が一変した気がしました。こちらを警戒しつつも突撃できるように、やや前傾姿勢で足を前後に軽く開き、盾を前にして構えるご主人様。サードアイは服の中に隠していて、かつ軽装なので引っかかるものも少なそうです。私も、自身の身長に近い長さのモップを、糸のついた先端を相手に向け真っ直ぐに構え、腰を落として半身にしました。

 今回の私は生存と防衛が主体なので、下手に動いて隙を作るよりは、後の先を取って守れるようにしていきます。

 

 __一拍。初動の準備動作を省いて、突然ノーモーションでご主人様が飛びかかってきました。

 

「……!」

 

 それに対応するように、両手でモップを保持したまま突き出し、すぐに戻します。槍の突きは高威力かつ射程が長いので、上手く使えばかなり強いです。今はモップなのでダメージはそう大きくないですが、本番の時は薬品でも染み込ませようと思います。

 その突きを、盾で受け流すのではなく私から見て左に跳んで回避したご主人様。そのまま横から接近して顔に突きを入れようとしてきたので、左に回転しつつ後ろへ飛んで、モップで足払いを掛けました。

 しかし、こちらに顔を向けたままご主人様は一回転。最小の隙で宙を飛び回避した直後、私の石突での一撃をバックステップで回避しました。

 

「なかなかやるね」

「いえ、まだまだです。そちらも、動きがとても速いですね。対応するのがギリギリです」

「まあ、白狼天狗の速さを真似しているからね。戦い方も、リスクを避けつつ一撃で致命傷が与えられるように振舞っているし」

 

 少し離れたためそのような会話をしつつも、相手の動きを互いに伺います。ときに、白狼天狗の再生ではなく真似をするということは、今回は能力なしの素の力で。つまり最低でも一般白狼天狗の速度までは出すことができるということなので、ご主人様、実はもっと強いのではないでしょうか。

 そのような要らないことを考えている隙に、いつの間にか目前にご主人様が迫っていました。

 

「わわっ!?」

 

 とりあえずお腹を横殴りにしようとして、またバックステップで回避されました。直感で動いているようで、反応がとても早いです。そしてここも真似ているのか無言のままこちらを睨んできています。

 そして、もう一度正面から突撃してきました。同じように一突きすると、なんと上に跳んで突撃してきました。

 

「えっ!?でも!」

「……チッ」

 

 そのままご主人様の方に(・・・・・・・)突撃して即座に反転。そのまま着地狩りで足を薙いだものの、胴薙ぎを警戒していた盾を下に移動させて無理矢理受け流され、ご主人様はまたくるりと一回転して着地。更に石突で追撃しましたが、また後ろに下がられました。

 しかし、これでは終わりません。更にモップを持つ前の手、つまり左手の中でモップを滑らせて射程を伸ばし、繰り突きをします。先程よりも伸びるモップは、後ろに下がるご主人様のお腹を軽く刺し、加えて威圧感を与えました。

 

「なかなかやるね。でも、次の攻撃は多分対応できないと思うよ」

「そうですかね……頑張ります!」

 

 少しよろけながらもそう話すご主人様。嫌な予感がしましたが、できる最善を尽くすと決めました。そして、目付きが変わるご主人様。なんだか、力強いと同時に少し辛そうな……

 その瞬間、再び真っ直ぐ突撃してきました。再三同じ動きをしてきているので、こちらも同じく真っ直ぐ突きを繰り出します。するとなんと、身体を少し左側にズラしながら屈めて、盾でモップを横に弾いて来ました。

 

「くううっ!」

 

 そのまま右手の剣で首を取ろうとしてくるご主人様。負けじと弾かれたモップを引き戻しつつ、左足を軸にして斜め後ろに飛ぼうとして__

 

「きゃあっ!」

「はあああああっ!」

 

 突撃の勢いのまま、右足で私の軸足を刈り取ってきたご主人様。バランスを崩して倒れたところに飛びかかってきて、首に剣が振り下ろされて、ギュッと目を閉じてしまって……

 

「これで終わり」

 

 そう声をかけられ、おそるおそる目を開くと、ご主人様が剣を寸止めした体制のままほんのり笑いかけてきていました。

 

「うっ!……はぁ。良かったです……」

「いやあ、なかなか強かったよ。疲労があるだろうに身体の動きも一切鈍らないし。ああ、だから、そう涙目にならなくても」

 

 安心してしまったからか、緊張の糸がほどけてへたりこんでしまいました。あと、視界が少しぼやけるような……?不思議ですね……

 

「……まあ、とりあえず今ぐらい動けたらなんとかなると思うよ。ただ、最後の時みたいに、相手か身内に追い詰められた白狼天狗はかなり捨て身の積極的な攻撃を繰り出してくるから、その変化に注意すればもっと上手く相手に出来ると思うよ。そして、本番は確実に複数人で来るから、その辺の立ち回りも考えないとね」

「……はい!」

 

 丁寧に教えて下さったご主人様。この後も少し動きを確認したあと、また何回か打ち合いをしました。

 なんとか、ご主人様の足を引っ張らないように頑張ります!



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