偽アクアの旅路 (詠むひと)
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設定覚え書き

忘れっぽいので設定とかをまとめてます。

ネタバレは多少。

追記
誤字報告をして下さった方が居たけど、この覚え書きを挿入したせいでズレてしまった。
大変申し訳ありません。再度誤字報告をしてもらえると助かります。


マイム

 

主人公。生前は男。学生。家族旅行の帰りに事故に合い両親と姉弟を喪った。自身は一命をとりとめるも後遺症で身体が不自由に。寝たきりに近い生活を送り、親戚に引き取られるが放置に近く煙たがられていた。遺産が有るので、さっさと死ねば良いのにと言う陰口を聞き心にも深い傷を負った。

 

何らかの理由により死亡。死後の世界でアクアに会いその輝きに憧れ、アクアの写し身をもらい受け異世界に行った。尊さの布教と言うが具体性は無い。日々の生活のすべてが楽しく幸せでアクアへの感謝でいっぱい。

 

アクアのミスにより、本名と幾つかの思い出を消失、辺境送り。

 

ステータスはアクアの劣化版と言いつつ、実際はアクアよりは知力と幸運が上昇しその他ステータスも扱い安い数値に落ち、安定性のあるステータス。

 

職業はモンク、上級職。脳筋職だが魔法も扱える武僧、アクシズ教僧兵とも言える。どっかで見たような技が多いが支援と回復もこなせる優秀な万能職。

 

知力が低いせいで色々危なっかしい。アクシズ教に入信したが、特に何も変わらない。元々考えるよりも勘で動くタイプ。

 

アクアの衣装を簡素化したような旅装。白い革にミスリルで補強された長手袋と膝と脛に補強が着いた青いニーハイブーツを着用。

アクアよりも筋肉質だが女性らしいラインは有り、うっすらと腹筋の筋が浮かぶ程度。体脂肪は20%前半。

マグナからはナイフとポーチ着きベルトを貰い、みんなとお揃いだと無邪気に喜んでいる。

 

マグナ

 

灼熱の風のリーダー。ハイウィザード。40代で元魔法戦士。ガタイが良く渋い声。20年以上冒険者をしている。両親はアクシズ教徒。アクシズ教が嫌い。

炎系魔法が得意。ヒートウェイブと言う敵を蒸し焼きにする魔法とヒートウィップがお気に入り。高速移動時の足ことウインドウォーカーを多用する。

タクト状の杖を使い、予備の装備でタクトやショートソード、斧、ナイフ等を多数持ち歩く。後衛が戦うようじゃダメだ、とか良いながら前に出てくる人。

 

ミア

 

狩人、17歳。茶髪で肩くらいまでの髪。弓を主としてショートソードかナイフ目潰し、予備の矢じり、毒餌を持ち歩く。お姉さん気質でマイムに甘い。

アクシズ教徒だが原始派を名乗り節度を踏まえ生活している。普段は信仰に対しての主張はしない。水への渇望に神への愛を見ている。

主流派を享楽派と呼び、嫌っている。水の村出身。

 

 

リナ

 

剣士、17歳。黒髪黒目で肩に掛かる程度だが普段は後ろで縛っている。村に伝わる薪割り鉈みたいな剣を使う。冒険者2年目。無難で安全牌な戦い方を好む。いつもミアとコンビを組んでいる。

 

 

ドム

 

飲んだくれプリースト。腕は良いが飲んだくれでミアからウザがられている。マグナとは20年来の付き合い。デンマーク語で馬鹿の意味。

 

シグ

 

ミア曰く馬鹿剣士その1。突撃馬鹿。話を聞かず空回りする。上手く操縦できればそれなりに強い。

 

灼熱の風

 

剣士三人、ハイウィザード一人、プリースト二人、シーフ二人、狩人三人で構成の大所帯。普段は三人程度で個別に予定が合う者同士でパーティーを組んでいる。討伐以外なら自由行動。初心者の指導も行っている。

 

マイク

 

二十代半ばのスポーツマン風爽やか系剣士。パーティーの募集をしている。面倒見の良いイケメン。

 

アステール

 

ギルド出身所の受付、18歳くらい。領都ギルドから出張中で辺境アクシズ教徒との付き合いは無く、アクシズ教徒=クズの認識。ヘブライ語で星の意味。

 

リムタス

 

辺境アクシズ教徒こと原始アクシズ教の司祭。レベル42のアークプリースト。辺境有数の戦力。

50年程前の派閥争いに敗れ、アルカンレティアから派閥ごと辺境に追いやられた。

享楽を求めるばかりの主流派を間違っているとし、純粋な感謝と信仰を主軸とする原始アクシズ教を信仰している。

辺境に移り住んでからは開拓とアクシズ教の布教に邁進し、成果を出している。

腹痛防止に役立つとされる聖水とポーションを売り出し、利益を上げている。

ロリコン爺。幼妻を娶り、看取られるのが夢。

子と孫が居る。

リトアニア語で真面目な、真剣な、の意味。

 

水の村

 

住民の殆どがアクシズ教徒、自称、真なるアクシズ教の聖地。我慢大会を試練と称し繰り広げる活気のある村。

自称、真摯なる祈りを捧げる原始派。だがやはり思考が斜め上なのはアクシズ教徒なので仕方ない。

立地的には辺境だが、大きな河川に沿って出来た集落の為、水不足に困る事は無い。

河川の周辺にはモンスターもそこそこ多い。脅威となり得る敵性の亜人は入植後に絶滅するまで狩り尽くされた。

 

辺境

 

開拓村が点在する乾燥地帯。雨が少なく井戸の水位が落ち込み、そろそろ限界を迎えそう。

雨乞いの儀式を行おうとしたり、紅魔族アークウィザードにより雨を降らそうとしている。

精霊の力関係のバランスが崩れているのをなんとかしないと詰む。

たぶん女神アクアが降臨したら大喝采で迎え入れる。

魔王軍の脅威からは縁遠い。魔王の事どころではないのでどうでもいい。

餌が無い為、大型のモンスターは滅多に見掛けない。奪う物も無いし、水も無いので盗賊も居ないしゴブリンやコボルト等の敵性の亜人も生息出来ない。



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偽アクア爆誕


何となくYouTubeでマイムマイムの正しい踊り方の動画をみていたら、女性の青い衣装がアクアの髪みたいだなと思った所からの思いつきです。



全てはアクア様が尊いからとしか言えない。

 

 

 

 僕の死因とか生前の生い立ちとか正直誰も興味なんて無いだろうし。

 

 

 

 大切な事はただひとつ。

 

 

 アクア様尊い、マジ尊い。天使いや、女神様尊い。

 

 

 何が言いたいのかって?アクア様は尊いんだよ。

 

 

 あの日、僕は死んでしまった。それは悲しい事だ。親不孝者だとも思うけど、でもそれは重要じゃない。

 

 僕の人生で、いや死後か。まあいい、あんなにも美しく可憐な女性を見た事等無い。青髪など2次元かコスプレだけだし、実際に居たらキモいだろって思ってた。

 

 

 アクア様を目にするまでは。

 

 

 一目惚れ、いやそんなものじゃ無い。表現出来る語彙が無い。尊い。尊いんだ。

 

 

 

 ああ、尊い。なんて言えば良いんだ。僕は死んでるのに絶頂だったよ。

 

 

 アクア様はこう仰った。

 

 「異世界に転生するなら、何でも一つだけ持っていって良いわ。伝説の武器でも超能力でもどっかのキャラの設定でも。そのカタログから選びなさい。カタログに無くてもある程度融通は利くわ。」

 

 

 あ、これ。アレじゃん。チートで異世界転生の奴じゃんって。テンプレの奴じゃんって。

 

 アクア様のあまりの尊さに僕の頭は単純になってしまった。でも、コレはチャンスだ。ボッチ気質な僕が生まれ変わるチャンスだって。年齢イコールだし、コミュ障だし。このままで異世界行っても、きっと僕はボッチのままで死ぬんだって確信してる。

 

 

 僕はカタログを捲った、まるで何かに急かされる様に焦りながら。でも、僕の頭には他の事が浮かんでた。

 

「アクア様は行く先の世界でも女神様なのですか?」上手く言葉が纏まらない。こんな美少女女神様の前で落ち着いて居られるほどコミュ力が高く無いんだよ。

 

 

「ん?ああ、そうよ。私こそがアクシズ教団の祭神にして、水を司る女神アクアその人よ。あっちへ行っても大恩ある私を崇め、アクシズ教団に入信しなさいよ。」

 

 良かった、僕の拙い言葉でも通じて。行く先の世界で祭られてるのか。尊いし当然か。

 

 

「決めました。」

 

 カタログに載ってるのはなんかしっくり来ない。カタログ外でもある程度融通利くって言ってたし、大丈夫だよね。

 

「アクア様の姿になり、布教の旅に出たいです。」アクア様マジ尊い。尊い女神様を布教するとか当然でしょ。

 

 

 今考えると、この時の僕は頭イッテたな。

 

「は?何言ってんのあんた?」

 

 

「アクア様は尊いのです。そのお姿、お声、全てが尊いのです。僕の人生とか全部どうでも良くなる位に。ならばそのお姿で善行を積み布教の旅に出たいのです。」その時の僕の中ではなんの疑念も無く当然だと思ってた。ああ、いや。今も尊さの布教はすべきだと思ってるよ。

 

 

「あんたは、私の姿になって私の素晴らしさを布教して回りたいって事なのね…」

 

 アクア様は腕組みをして考え込んでいる。

 

「良いわ。あんた、わかってるわね。私の尊さを理解してるとはボッチのクセに見所が有るわね。」

 

 ドヤ顔するアクア様尊い。

 

「よし、じゃあ私の姿をコピーと能力は「能力は劣化コピーでお願いします。アクア様の尊さは僕にはきっと耐えられません。」じゃあ適当に劣化コピっとくわね。うんうん、たまには見所のある奴も居るもんね。」

 

 

 ああ、尊さが限界を超える。腕組みして強調される柔らかそうな胸、ドヤ顔可愛い。ああ、尊い。尊い尊い…死んで良かったわぁ。僕の人生はきっとこの尊さを見る為だったのかも知れない。

 

 

 アクア様は僕に魔法陣の上に立っているように指示をした。

 

「行ってらっしゃい○○。勇者候補として魔王を倒した暁には神々からの贈り物を授けます。あ、布教忘れないでね。他の勇者候補も居るしあんたはガンガン布教してエリスの信者を奪ってきなさい。エリスって言うのは後輩の貧乳でパッドで上げ底してる上げ底エリスよ。エリスの胸はパッド入りって覚えておきなさい。」

 

 

 貧乳美少女も悪いとは言わないけど、僕はCカップ以上しか胸と認め無い派なんだ。パッド女神エリスか、よし覚えた。

 

 この時にアクア様が言っていた、僕の名前がどうしても思い出せない。僕はなんて名前だっけ。

 

 

「あと、神々の贈り物ってのは世界を救った偉業を讃えてたとえどんな願い事でも一つだけ叶えてあげるわ。」

 

 現状すでに僕の願い事は叶ったも同然なんだよね。

 

「さあ、勇者よ。数多の勇者候補の中より、あなたが魔王を倒す事を祈っています。さあ、旅立ちなさい。」

 

 

 旅立ちの言葉を言うアクア様は美しく、清らかで僕の語彙じゃ言い表せない。女神様のイメージのままだった。魔方陣が光り輝き景色が白くなっていく中で、僕はアクア様の姿をその目に焼き付けていた。

 

 

 アクア様、僕の人生は無味乾燥で誰からも必要とされなかったんです。でも、あなたと出会えて僕は僕の人生に意味を見いだせたんです。

 

 ありがとうございます、アクア様。全身全霊を持ってあなたに報います。全ては、アクア様の尊さを布教する為に…。

 




はぁ、アクア様尊いわ。

アクア様と主人公の尊いの感情は勿論別物です。


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偽アクア大地に立つ

 さて、ここはどこなのか。

 

 

 空気は乾燥気味で、足元には草が疎らに生えている荒れ地だ。

 

 

 遠くの方に建物が見える、なんとなくだけど村っぽさがある。

 

 

 そこまで考えて、自分の今の姿を確認する。

 

 

 手足は細く、でも柔らかな女性らしい曲線を帯びている。脚は太ももまでの青いニーハイブーツに包まれ、その上は白いハイサイを履いているのが見て取れる。アクア様の衣装から装飾を取り除き簡素にしつつ膝とスネに青く染色した革で補強がされている。

 

 手の甲から二の腕までを包み込む手袋じゃなくて、何て言うのか知らないけど長手袋みたいなアレは甲の青い装飾は無く銀色のプレートで甲と指を保護してあり革の手袋か籠手のようになっている。二の腕側の金の装飾は無く折り返してあるだけだ。白いしなやかな革で出来た籠手のような長手袋と言った所か。

なんか、バイク用の手袋でこういう甲の有ったよね。

 

 

 スカートは水色と紺色で金の縁取りは無く、丈も僅かに長く絶妙なギリギリで太ももがチラリしない。動けば太ももが見えるかもしれない柔肌をガードしつつも男の視線を誘ってしまうだろう。アクア様は尊いだけで無く、わかってる方だと確信した。流石だ、アクア様。

 

 

 アクア様が羽織っている羽衣は無いが、その代わりに水色から紺色へのグラデーションが美しいローブを纏っている。あ、フード付きだ。膝辺りまでを覆い、前を閉められるようだ。

 

 

 腰回りは筋肉の上に薄めに皮下脂肪が付き。うっすら腹筋のラインが出る程度には引き締まりつつも、柔らかさを感じられる。体脂肪は20%前半と見た。

 

 

 胸は引き締まった身体に対し、どっしりと主張している。EかFか、だがブラ無しでも重力に逆らえるとは流石女神。この身が劣化コピーでも劣化しない有能さだ。

 

 

 髪は南の海みたいな青だ。まさに水を司る女神らしさを体現している。手櫛ですいても引っ掛かりも無い、見事だ。アクア様と違ってポニーテールになってるな。

 

 

 全体的に確認した所、アクア様の衣装を簡素にし旅装として使えるように変更した感じだ。体型もアクア様より控え目でありつつも引き締まっている。ある程度動けるように筋肉をやや増量した感じかな。声は僅かに低いか落ち着いてる、かな。気のせいレベルで。

 

 

 素晴らしい調整です、アクア様。性癖ドンピシャです。流石女神様だ。完璧だ。尊い。お姿だけで無く、気配りまで完璧とはなんて有能な女神様なんだ。

 

 

(本当はお付きの天使が気を遣って体型や装備等を調整しましたが、全ては上司の手柄に…)

 

 

「さて、現状確認はしたし。村らしき所へ行ってみようかな。」

 

 目算でだいたい2kmくらいかな。そういえば、目も良くなってるな。前は眼鏡が無いと部屋の中ですらうっすらぼんやりしてたのに、事故の前よりもくっきりしてるや。くっきりした視界、懐かしいなぁ。

 

 

 歩けど歩けど、周囲は荒れ地。

 

 村らしい場所の周辺は荒れ地と渇いた畑が広がっている。作物らしき物も萎れているようだ。

 

 暫く雨が降ってないのかな、干ばつって程じゃないし。歩く度に足元は砂埃が舞っている。

 

「もうちょっとだ。」

 

 ゆっくり歩いているとはいえ、元の身体はベッドから起き上がるのがやっとだったのに対しこの身体は普通に歩く事が出来ている。その普通こそが難しく、感動を覚えるほどだった。

 

 重ね重ね、心の中で女神アクアに礼を言う。

 

「(アクア様ありがとうございます。こうして自分の足で歩くのも僕には出来ない事でした。自分の身体が動くって良い事ですね。僕のままじゃ、歩けていたか怪しいところでした。第二の人生をお与えくださってありがとうございます。)」

 

 

 失ったものを取り戻す事は困難で、そもそも取り戻す事も絶望的だった。あのままの自分では手に入らなかったモノを手にし、喜びを噛み締める。

 

「第一村人はっけーん。かな…。」

 

 見知らぬ人に挨拶をする。

 

 それだけでもコミュ障には大きな難題だ。挨拶は大事だと教われど、その第一歩を踏み出すのが億劫で仕方ない。

 

 されど、この身はアクア様の写し身。不様を晒せばアクア様の顔に泥を塗るも同義と自分に言い聞かせる。

 

 

「こんにちは」

 

 意を決して挨拶をした。コレだけで心臓はバクバクだ。

 

「やあ、お嬢さん。こんにちは。こんな開拓村に何かご用かい?」

 

 村人Aこと、30歳位の男性は言う。

 

 ご用と聞かれても、実は何も考えていなかった。とりあえず何か言わないと、と思い。そうだ、冒険者だ。と思い付く。

 

「えーっと、あの。ですね。冒険者になろうと思ってるんですが、どこへ行けば良いか分かりますか?」

 

 

「ああ、冒険者志望かい。じゃあ、丁度良いな。実は冒険者ギルドの出張所が開設になったばかりなんだよ。」

 

 そう村人は言い、指で差し示す。

 

「あの建物に行ってごらん。アレがギルドの出張所さ。開拓村で登録すれば登録料も掛からんし、みんな作るだけ作ったのさ。かく言う俺も、ほらこの通り。」

 

 そう言い、カードを見せてくれた。カードが有れば街へ行く時も門の手続きが簡単になるのだと言う。

 

 

「そうなんですか。ありがとうございました。」

 

 礼を言い、会釈しその場を後にした。

 

 

「おお、じゃあなお嬢さん。」

 

 村人Aは手を振り歩いて行った。

 

 村の中はあまり人気が無い、昼間だし働きに出ているのだろうか。

 

 建物の前に立つ。扉は閉まっているが中からは幾人もの声が聞こえる。

 

 深呼吸を一回、二回、三回…行かなきゃ始まらない。

 

 と、その前に名前を考えなければいけない。

 

 実は自分の名前が思い出せなくなっている。記憶を探ってもそれらしい名前が出てこない。昔飼ってた猫の名前は思い出せるのに…と凹む。

 

「えーっと、アクア様のアクアはイタリア語だったかな。なんか無いかな…」

 

 思案するも、

 

「ウォーター、アックア、ヴァッサー、ワータラ…えーっと。」

 

 不意に脳内でマイムマイムが再生された。

 

 マイムマイムマイムマイム、マイムベッサッソン?

 

 

「たしかヘブライ語の井戸掘りの歌で、ああそうだ。マイムは水だ。マイムで良いか、響き的に。救いの井戸から水を汲むとか言う意味の歌詞だったはず。」

 

 自身にとって、アクア(水)は救いだ。乾燥した大地に湧き出る救いの水。これ以上なくうってつけだと感じた。

 

 

「今日から僕は、いや。私はマイムだ。誰かの救いの水となる水の使者にして、尊き女神アクア様の信奉者だ。」

 

 私はマイム、マイム、マイム、マイムベッサッソン。じゃない。マイムだ。あぶない。

 

 

「設定はどうしよう。冒険者志望でアクシズ教に入信予定でえーっと、まあその時に考えよう。」

 

 考えが纏まらず立ち竦んでいたが考えるのを放棄し、やっと動き出したマイム。

 

 

 扉をくぐると…

 

 

 酒場が併設されており、まだ昼間だからか昼食を取っているグループが居るようだ。

 

 だが、マイムが一歩踏み出し足を踏み入れると誰もが口をつぐみ。マイムを見ていた。

 

「(えっ、何コレ怖い。何で見られてるの、ヤダ、何かしたの?何もしてないよね?)」

 

 

 内心、半泣きのマイム。無言でじっと見られると言うのは大きなストレスになる。

 

「(とりあえずカウンターに行かないと)」

 

 

「あのっ、すみません。冒険者になりたいのですが。」

 

 

 受付に立っているのは18歳位の女性で、彼女はマイムが話し掛けると我に返った。

 

「ようこそ、冒険者ギルド開拓地区出張所へ。」

 

 

 受付の女性の説明によると、通常は登録料1000エリスが掛かるところ開拓地区では登録料は掛からないそうだ。

開拓支援でもあり、ある程度の規模の街になるまでは登録料は掛からないらしい。その分、施設等も無く食堂兼酒場と受付だけであり。訓練場や資料室も無く、何もサービスを受けられない代わりに登録料も取らないという説明だった。

 

 

 受付の説明は続く。

 

 冒険者の概要と職業の説明をされ、カードの説明を受けた。

 

 ざっくり言うと、生物を殺すと経験値(魂)を吸収してレベルアップ、レベルアップするとステータスが上がるし、スキルポイントを得る。人によってはスキルポイントをはじめからたくさん持っている人もいる、と。ゲームかよと。

 

 

「こちらの書類に身長、体重、身体的特徴を記入してください。」

 

 カードへの情報記載の為情報を埋めていく。身長は160cmで体重はわからない、特徴は青髪で目の色はわからないと言うと。

 

 

「目の色は水色ですね。体重はこちらに体重計がありますからこちらで計ってください。」

 

 

 カウンター内に案内され、体重計で測った数値的を記入し提出した。

 

 

「では、こちらのカードに触れてください。あなたのステータスが分かりますので、なれる職業が表示されます。その中から職業を選んでください。」

 

 

 そう言われ、カウンター上に置いてあるカードに触れると…

 

 

「はい、マイムさん。ありがとうございます。ええと、筋力、敏捷性、生命力が非常に高いですね。魔力も平均を大幅に越えています。器用度は普通で知力は普通をやや下回っています。幸運は平均を下回っていますが全体的には非常に優秀なステータスです。これなら高い知力が必要な魔法使い職以外は大抵の職業になれますよ。」

 

 受付のお姉さんは興奮気味に捲し立てた。

 

 

「(知力が低いかぁ、昔から物知りだけど馬鹿だよね。って言われてたんだよね…知識は有るけど適切な使い方が出来ないって言うか…)」

 

 表示された職業は、と。

 

「表示される職業は自動的に各系統で上位の物が表示されるようになっています。」

 

戦士系

・ソードマスター、クルセイダー、ダークナイト、バーサーカー

 

プリースト系

・アークプリースト

 

武道家系

・モンク、グラップラー

 

盗賊系

・バンディット

 

等々

 

 

「戦士系のは武器が無いと弱体化とかってあるんですか?」

 

 

「弱体化はしませんが、武器を使ったスキルが主体ですので。武器無しでは効果は無いでしょうね。他の職業も説明しておきますね。」

 

 アークプリーストは回復、支援、各種退魔及び浄化系魔法を数多く習得出来ると共に物理系の伸びもよく、前衛もこなせる万能職であると。

 

 モンク、グラップラーは共に物理特化の職業で共に物理系の伸びが非常に高く、素手または籠手を装備するだけで岩をも容易く砕く拳を放ち、極めて高い俊敏性による連撃により敵を打ち砕く職業であると。

 

モンクとグラップラーの違いはモンクは一部のアークプリーストの魔法を習得出来、打撃と支援を両立出来るバランスの良さが在り、グラップラーは魔法が習得出来ない変わりにモンクを上回るステータスの伸びによる圧倒的な火力を叩き出せる職業であると。

 

 

「(悩むなぁ。アクア様の尊さを伝える伝道師としてはアークプリーストなんだろうけど、モンクとかグラップラーとかも良いな…拳一つで悪を砕く。みたいな。)」

 

 

「では、えーっと…。モンクにします。」

 

 悩み抜いた末に答えを出した。考えるのは得意では無いしステータスもどっちかと言うと脳筋ステータスだし?

 

 

「はい、モンク…っと。冒険者ギルドへようこそマイム様、冒険者ギルドスタッフ一同今後の活躍を期待しています。」

 

 そう言い、カードを手渡してきた。

 

「スキルの種類や習得など、わからない点があれば何でも聞いて下さいね。」

 

 と、笑顔で続けた。有望な初心者には手厚い優遇でもしているのだろうか。

 

 

 受付のお姉さんはアステールと名乗った。アステールさんに案内され受付横の商談スペースのような場所に移動しスキル習得の説明をして貰った。

 

 

 カードに表示されるスキルの中からスキルポイントを消費して習得していく方式で、スキルを長押しすると説明文が表示されるようだ。スキル表示は縦スクロールしていき表示が変わっていく。

 

 ざっと見ると、魔法は初級魔法と何故か水系統魔法だけは級に関わらず攻撃と支援その他魔法が揃っており、回復魔法と浄化退魔と続き。

 格闘系スキルが続き、アクティブスキルパッシブスキルが続いて表示されていた。

 

 

 アステールさんによると、珍しい事ではあるけれど神々や精霊の加護が強いと本来は習得出来ない魔法やスキルも習得が出来るそうだ。

 

 

 幾つかのスキルが習得済みになっていた。

 

・浄化

体表面に触れる液体(毒物含む)を真水に変える。任意でONOFF不可

 

・心眼

本来見えない物も見る事が出来る。悪意や障気等を可視化したり出来る。

 

・雨乞い

雨雲を呼ぶ。雨が降るかはその場の者達の運次第。

 

・水中呼吸

水の中でも呼吸出来る。

 

・ハードナックル

モンクの基本スキル。拳の硬さを上げ、殴っても手を痛めないようにする。

 

・力をためる

モンクの基本スキル。力を溜め物理攻撃力を上昇させる。

 

・叫ぶ

雄叫びを上げ、自身のステータスを僅かに上昇させる。敵を呼ぶ効果がある。敵を怯ませる効果がある。

 

 

 

 水関係と心眼はきっとアクア様が由来だろう、流石水を司る尊い女神様だ。あとはたぶんモンクのスキルだな。

 

 

「こんなにもスキルが習得済みなのはすごいですよ。しかもどれも有力なスキルばかりですし。一体あなたは何者なんですか?」

 

 言ったあと、失言でした忘れてくださいと言われた。冒険者の過去は詮索してはならない物らしい。

 

 

「気を取り直して、スキルの習得に移りましょうか。」

 

 スキルの用途等も交えて説明しながら相談に乗ってくれるそうだ。

 

「マイムさんのスキルポイントは結構多い方ですので、戦闘用と支援用両方をバランス良く習得していくのも有りですね。」

 

 相談しながら幾つかのスキルと魔法を習得する事にした。残りは必要に応じて取っていけば良いとアドバイスを受けた。

 

 とりあえず習得したのは以下の通り。

 

・連続拳

高い俊敏性に物を言わせ、目にも留まらぬ速さで連続で拳を繰り出し攻撃する。足元がお留守になりがちなので注意が必要らしい。

 

・波動拳

モンクとグラップラーの固有スキル。手のひらに闘気と魔力を集め凝縮し撃ち出す、片手でも両手でも使える。遠距離攻撃に乏しいモンク系にとっては有用なスキル。使用者の力量によって威力と射程が増減し、熟練者は属性を付与しファイヤー波動拳なるものも使用出来るらしい。

 

 ロマンの塊過ぎて困る。

 

・石頭

頭突きと頭部の防御力を大きく向上させる。

 

・物理攻撃力上昇

物理攻撃力を上昇させる。熟練度により効果が上昇する。

 

・物理防御力上昇

物理防御力を上昇させる。以下同文。

 

・気功

傷と体力と魔力を僅かに回復させる。使用するのに体力が必要だが魔力も回復させるので貴重なスキル。他人に掛けるのは熟練度が高く無いと出来ない。モンク固有スキル。

 

・ヒール

回復魔法、傷を癒すが体力は回復出来ない。

 

・ターンアンデッド

亡霊、亡者を成仏させる。生物には無害。魔法や魔法の付与された武器を持っていないなら、亡霊に対する唯一の攻撃手段となる。

 

・ブレッシング

幸運を上昇させる。上昇値は対象の幸運値依存。元が低いと上昇値も低い。

 

・クリエイト・ウォーター

真水を召喚する。飲み水に出来る他応急処置に使える。乾燥地帯では必須魔法。

 

・ウインドブレス

そよ風から強風まで加減出来るが殺傷力は無い。野営のお供、焚き火での火力調整に使われる。

 

・ティンダー

着火魔法、火打ち石を持ち歩くよりはマシ。野営のお供。

 

 

 相談のうえ、以上を習得した。

 

 

「マイムさんはステータスは優秀ですが、やはり経験は無いようですし始めは臨時でも良いのでパーティーを組むのを強く勧めます。」

 

 

 確かに私は野宿の仕方は勿論、この世界の常識も戦い方も知らないし世間知らずもいいところだ。

 

 

「宜しければこちらで募集中のパーティーの選別をしましょうか?」

 

 

 提案を飲もうと思うが、どうしてそこまでしてくれるのか聞いた。

 

 

「まず、第一に開拓支援があります。開拓地区では冒険者の数が乏しい割に仕事が多く、またモンスターの脅威があっても対応出来る人員が不足しているのです。ですので初心者、特に有望な人物にはギルドからの支援を厚くし開拓地への定着または貢献出来る人材を育てていく目的があるのです。」

 

「こちらにも益がある事ですから気にせず頼って下さいね。第二には知っての通り魔王軍の脅威に対しての備えです。この地方は魔王軍の脅威からは遠いですが、備えは必要です。強力な冒険者は人類にとって必要ですからね。」

 

 

「納得しました。ではパーティーの件はお願いします。」

 

 何も知らないので選びようも無いし、ギルドにお任せしよう。

 

 

「分かりました。募集中のパーティーの書類をお持ちしますので、暫くお待ちください。」

 

 アステールさんはそう言い、席を離れた。

 

 

 手持ちぶたさでぼんやりしていると。声を掛けられた。

 

 

「ギルドへようこそ初心者の嬢ちゃん。俺はマイクって言うんだ、うちのパーティーも募集中でね。アステールが持ってくる書類にもたぶん入ってるだろうけど、うちはこの近辺でモンスターや害獣の討伐を中心にしてるんだ。パーティーじゃなくたって、初心者からの相談には乗ってるからよろしくな。」

 

 そう声を掛けて来たのは20代半ば位の日に焼けた短髪の青年。筋肉質で鎧を身に付けて剣を腰に付けている。剣士だろうか。私なら見知らぬ人に声を掛けるなんて出来ない。

 

 

「あ、はい。私はマイムです。ついさっきモンクになりました。パーティーの方はアステールさんにお任せしているのでなんとも言えませんが、わからない事ばかりですのでそのうち相談させていただくかも知れません。」

 

 私は愛想笑いを浮かべそう言った。とりあえず女の子が笑顔を浮かべながらそう言えば何とかなるだろう的に。

 

 

「おう、そん時は相談に乗るぜ。じゃあなマイム。」

 

 手を振り離れ、仲間と思われる人達の居る席へと戻っていった。

 

 

 なんと言うか、爽やか系なスポーツマン風って言うか。気さくな人だったな。

 

 他にも何人かギルド内には居るけど遠巻きに見てくるだけだった。開拓地だし余所者が珍しいって事なんかな。

 

 3分かそこら経つと、アステールさんが戻ってきた。

 

 

「お待たせしました。こちらが現在募集中のパーティーです。」

 

 一件目は先程のマイクさんのパーティーで前衛と後衛を募集しており、初心者歓迎と書かれていた。

 

 二件目は、ルナスと言う女性プリーストがリーダーのパーティーで前衛募集で経験は問わないとある。村内の雑事や周辺の見回りを主体にしているようだ。

 

 三件目は、マグナと言う男性ウィザードが募集主となっている。こちらは臨時パーティーで討伐クエストを受ける時等に結成するだけで普段は自由行動だそうだ。剣士三人とウィザード一人、プリースト二人、シーフ二人、狩人三人で構成されていて個人毎に予定が合う者でパーティーを組むようだ。通常は三人組等に別れてクエストを受けているそうだ。

 

 

 アステールさんによると。マグナさんは開拓地でも古参で経験豊富で初心者の育成もしていて、何人もの冒険者を一人前にしたそうだ。アステールさんとしてはオススメだそうだ。

 

 

「じゃあ、マグナさんのパーティーにしようと思います。」

 

 そう伝えると、もうじきマグナさんが戻って来るだろうからギルドで待っていると良いよと言われた。ついでに色々聞いておこう。

 

 

「所で、この辺りにアクシズ教の教会は在りますか?」

 

 こう聞くと、ビクッとした。何でだろう?

 

「アクシズ教に何か用なの?悪い事は言わないからアレには関わってはダメよ。アクシズ教徒は色々と個性的と言うか灰汁が強すぎだし、ろくな事にはならないわよ。」

 

 捲し立てるように言われた。ヤバい人達なのかな?でも、私には使命がある。

 

 

「そうなんですか。でも、私はどうしても行かないといけないんです。」

 

「私は死に瀕しこのままでは死に至る所でしたが女神アクア様のお力により救われ、この地へと導かれました。私にはアクア様の尊さを布教する義務があるのです。」

 

 そう熱弁すると引かれた。

 

 

「まだ入信して無いなら間に合うわ。若いんだから早まってはダメよ。悩み事があったら私が聞いてあげるから、あの人達に関わってはいけないわ。だから冷静になって、お願いよ。」

 

 そこまで言われるとは。でも写し身を戴いた私としては引く事は出来ない。

 

「私を救って戴いた恩義を返さなくていけないのです。私に魂を救って戴いた恩を仇で返せと言うのですか?」

 

 自然と涙が出た。泣きながら私は続ける。

 

「私は、私は。誰にも必要とされず、私を引き取った親戚からも早く死ねば良いのにと影口を言われていたのです。身体の自由はきかず動く事も出来なかったのです。アクア様がそんな私を救ってくださったのです。自由に動く身体と力を与え新天地へと送って戴いたのです。閉ざされた人生を開いて下さった大恩があるのです。だから私はアクシズ教に入信し、布教しなければならないんです。」

 

 そこまで言うとアステールさんは黙りこくり、何かを悩んでいるようだった。

 

 

「あなたの言葉からだけじゃアレを信用は出来ない。」

 

「でも、私の前の泣いている女の子は信用しても良いって私は思うわ。」

 

「はぁ、気は乗らないんだけど…よく聞いて。あなたの気持ちはわかったわ、でもアクシズ教徒の大半はろくでなしなの。あなたがアクシズ教の教会に行くときは私も同伴するわ。あなた一人じゃきっと丸め込まれて大変な目にあってしまうわ。ギルドの者として同行すれば彼らでも強硬手段は取れないはずよ。だから行くときは必ず教えて、絶対に絶対に一人で行ってはいけないわ。」

 

 

 そう言われ、約束だと押しきられてしまった。まだ納得は行かないけど今はやめておこう。

 

 

 お互い無言で時間が過ぎて行く。

 

「それで、今日の宿は決まっているの?」

 

 重たい空気を切り換えるようにアステールさんが切り出した。

 

 

「いえ、ここには着いたばかりで何も決まってません。」

 

 実際、この世界に来てまだ2時間程度だと思う。

 

 

「だったら今日はギルドの仮眠所で寝ると良いわ。時折、宿の決まってない初心者やスタッフが寝泊まりしてるのよ。今日は私が宿直だしこの周辺地理とかも説明してあげられるけど、どう?」

 

 

 渡りに舟だったのでお願いする事にした。

 

 

 そうしているとギルドの入り口が開き、40代位の男性と10代半ばの少女二人が入ってきた。

 

 

 アステールさんが彼らの方を見ると声を掛けた。

 

「マグナさん、用が終わった後で良いのでこちらに来ていただけますか。」

 

 言われた男性は片手を上げ了承したようだった。

 

 

「今のがマグナさんよ。もうちょっと待っててね。」

 

 

 ウィザードと言う事だったけど、日に焼けたガタイの良いおじさんと言う感じだった。真面目そうな雰囲気が出来る大人って雰囲気だった。

 同行していた二人は剣士と狩人と言った所か。2人は16か17歳位に見えた。

 

 受付が終わると三人はこちらに来た。

 

「何か用があるのかい?」

 

 マグナさんが言った。

 

「ええ、こちらのマイムさんは今日冒険者に登録したばかりでパーティーが決まって無いんですよ。マグナさんのパーティーへ入れていただけませんか?」

 

 

「ギルドが世話するって事はそうか、わかった。どちらにせよ初心者を導くのは私の務めだ。構わないよ。」

 

 マグナさんはそう言い、近くから椅子を持ってきて腰掛けた。

 

「では改めて自己紹介するよ。私が灼熱の風のリーダーのマグナでハイウィザードをしている。こっちの二人は剣士のリナと狩人のミアだ。」

 

 紹介された二人は会釈してきたので、私も会釈仕返した。

 

 

「私はマイムです。今日冒険者に登録したばかりでわからない事ばかりです。職業はモンクです。」

 

 モンクだと言うと三人は少し驚いたようだ。

 

 

「これは有望な新人のようだな。今までに戦闘の経験はあるかい?」

 

 

「いえ、ありません。」

 

 

「そうか。ではまず自分が何を出来るかの把握もまだだね。日没まではまだ時間もある。これから村の外で確認に行くとしよう。二人はどうする?」

 

 マグナさんとこれから村の外でスキルと動きの確認に行く事になった。二人もどうやら一緒に行くようだ。

 

 

 道すがら、習得したスキルと魔法の事を話すと雨乞いとモンクのスキルを見たいと言われた。プリースト系は知っているので今回はいいと。

 

 私自身がどの程度動けるかという事とモンクはこの辺りには居ない為知っておきたいそうだ。

 

 

 暫く歩き、村の境界の柵から300mほど離れた所まで来た。大きめの岩が幾つか転がっており、それらを目標にしてスキルを使うように言われた。

 

 

 不思議な事だけれど、スキルを習得すると自然に使い方がわかるようになっていた。まずは、正面の岩に対して連続拳を使う。

 

 

 岩との距離が3mほど所に立った。軽く構えを取り、右足に力を入れ踏み込んだ。

 

 一瞬で距離は無くなり目の前の岩に右拳を打ち込む。まるで抵抗無く拳がめり込み、戻しながら左拳を打ち込む。それを瞬きする間に合計20発打ち込んだ。

 

 身の丈よりも大きな岩は、私の腰のやや下を残してバラバラに吹き飛んだ。自身が行ったとは言え、信じられないほどの威力と速さだった。

 

 

 マグナさん達は何も言わない。無言とかやめて欲しい。何か言ってよ…。

 

 

「これは、想像以上だな。その岩は硬度が高くなかなか割れないのだが…。」

 

 そう言い、こちらに来て割れた岩と言うか石を手に取り確かめる。

 

「では次はあの石に対して波動拳というのを使ってみて欲しい。

 

 30mほど離れた所にある岩を指し示された。マグナさんは二人の方に戻っていった。

 

 

 岩に対し正対し、意識を集中する。

 

 両手を目の前で合わせ、手のひらの間に闘気を集めるイメージをした。手のひらが熱を持って来たように感じると、手のひらを合わせたままで右腰の辺りに持っていき、更に力を溜めた。

 

 手のひらの間から光が漏れ始め、強い熱を感じた。両手を閉じたままで前に持っていき、押し出すように解放した。

 

 

 波動拳のイメージ通りのポーズで撃ち出した。ハンドボール程度の大きさの光の塊は真っ直ぐに飛んで行き、何か固い物がぶつかるような大きな音が鳴り、岩に突き刺さり貫通していった。貫通した周囲はひび割れ反対側は大きく割れたようで岩が飛び散っていった。

 

 

 撃ち出すと、身体から力が抜けていきどっと汗が出て立ちくらみがした。思わず膝を着いてしまった。

 

 

 マグナさんが駆け寄って来た。

 

「大丈夫か、どうした。」

 

 立ちくらみがした事を話すと座って休憩するようにと言われた。二人もこちらに来た。どうやら心配させてしまったようだ。

 

 

「大丈夫?顔色が真っ青よ。今日が初めてだから力加減とかわからないよね?今は深呼吸して、呼吸を落ち着けて。」

 

 狩人のミアさんが私の肩を支えながらゆっくりと座らせてくれた。

 

 

「呼吸が落ち着いたら少しずつでいいから水を飲んで。今は安静にね。」

 

 リナさんが水筒を取り出して言った。

 

 

 優しい人達だなって思った。

 

 

「すまない、無理をさせてしまったようだ。」

 

 マグナさんが謝るが、これはどちら事言うと私の落ち度だ。

 

 

「マグナ、さんが、謝る必要は無いです。私が初めてで、力み過ぎた、だけ、だと思います。」

 

 途切れ途切れでそう口にする。

 

 

「とりあえず休憩にしよう。」

 

 マグナさん達も座り車座になった。

 

 

「今の貧血に似た症状は魔力欠乏だろう。暫く安静にしていればよくなるから大丈夫だ。」

 

 

 魔力欠乏と聞いて思い出す。気功スキルが魔力を回復させるはずだと。

 

「たしか、気功スキルが魔力を回復させる効果があります。もうちょっと、落ち着いたら使ってみます。」

 

 

「そうか。だが決して無理はするなよ。」

 

 分かりました、と頷く。

 

 三人が話している間に深呼吸して呼吸を落ち着けた。まだフラフラするが視界は回復した。気功スキルを試してみよう。

 

 静かに呼吸をしながら目を閉じると、おへその辺りに力を感じた。感じた力を回すようにしながら増幅していく。手を組み、力が両手を経由して円を画くイメージをした。暖かさが両腕を通してへその上で円を画き、次第に呼吸が楽になり冷や汗も止まった。徐々に全身が暖まっていく。

 

 1分ほど経っただろうか。万全の体調に戻ったと感じ、目を開いた。

 

 三人は心配そうにこちらを見ていた。

 

「顔色が良くなったね。今のが気功スキル?」

 

 ミアさんが心配しつつ聞いてきた。

 

 

「そうです。体調は良くなったと思います。」

 

「そう、でも無理はしないでね。気分が悪くなったらすぐに言ってね。」

 

 リナさんが水筒を手渡しながら言ってきた。渡された水筒から水を一口含みゆっくり飲み込んだ。

 

 

「もう少し休憩して、今度は雨乞いスキルを見たいのだがいけそうかい?」

 

 マグナさんにそう問われた。言外に無理はするなと言っているのだろう。

 

 

「大丈夫だと思います。今度は力み過ぎないように落ち着いてやってみます。」

 

 

「雨乞いかー。何て言うか渡りに舟って言うか。この辺りってさ、もともと乾燥地帯なんだけど特に今年は雨が少なくて畑は勿論井戸の水位も下がっててね。領都の魔術士ギルドから雨を降らせる魔法を使えるアークウィザードに来て貰うように要請するって話が出てるんだよね。」

 

 ミアさんはそう言った。

 

「私の故郷もこの近所の村でさ、雨が降らないから山にも餌が足りなくてモンスターが人里に下りて来る事が増えててさ。開拓地だけで無くこの辺一帯で問題になってるんだよね。」

 

 

「最近は水利権での揉め事の仲裁の依頼も増えて来ている。早急に解決しなくてはならないがなかなか領主様は動いてくれないのが現状だな。」

 

 マグナさんも悩ましげに言った。

 

 

「あまり期待はしないで下さいよ。スキルの説明によると。その場の人間の運次第らしいですし。私の運は平均を下回っていますから。ブレッシングと併用しても低いですよ。」

 

 運次第ではどうにもならない。ついて無さには昔から定評がある。どうにも、ここぞと言う時のクジ運が無い。

 

 

「じゃあ大丈夫かもね。だって私は幸運値が高いし。」

 

 ウィンクしながらリナさんが言った。運が良いのか、良いなぁ。

 

「じゃあとりあえずブレッシングしときますね。」

 

 

 魔法媒体は持って無いので、右手を掲げ集中し唱える。

 

「ブレッシング!」

 

 なんとなくふんわりした感触があった。

 

 

 リナさんが冒険者カードを取り出して見ている。

 

「おーーっ。スッゴい上がってるよ。これ!こんなに上がったの初めてだよ。マイムってもしかして魔力も高いの?」

 

「はい、魔力は平均を大幅に超えてると言われました。」

 

「はーー、そうなんだ。ウィザードとかにはなろうと思わなかったの?」

 

 

 痛い所を突かれた。私の知力が低いのを告白しなければならないのか。

 

「それは…知力は高く無いので魔法使い系の職業は無理だと言われたんです…。」

 

 

「あー…そっか、ごめん。」

 

 そこで申し訳なさそうにされると更に来る物がある。

 

 

「レベルアップしてステータスが上がれば知力も上がるから気にしなくても大丈夫さ。」

 

 マグナさんは慰めるように言うけど、モンクは脳筋職なので上がるのかなぁ…。

 

 気のせいか三人の目が優しい…。

 

 

「じゃあ、そろそろ雨乞いスキルを使いますね。」

 

 そう言って私はゆっくり立ち上がり少し歩いて三人から距離を取った。

 

 

 

 目を閉じ、耳を澄ませ意識を拡げる。周囲の風を感じ、光を感じ、水の気配を探る。

 

 遠く離れた空の上、風に舞い散る雲を感じその雲に同化するかのように意識を繋ぐ。意識を二つに分け片方は雲から地上を見下ろし、ここまで来るように導く。

 

 吹き荒ぶ風は雲を吹き散らそうとし、照り付ける太陽は雲を消し飛ばそうとする。

 

 大きな抵抗を感じつつも雲は近付く。地上を見下ろし、身体が真下に在るのを感じ、身体からは雨雲が真上に在るのを感じる。

 

 二つに別れた意識を繋ぎ、地上へと降り注がんとする。

 

 身体から魔力が天に昇っていくのを感じ、雨雲に届いたのを知覚した。

 

 雨雲と身体からの魔力が手を繋ぐような感覚と共に、雨が降り始めた。

 

 初めは小雨だったが徐々に強くなってきた。

 

 

「雨が強くなってきたから中断してギルドに戻るぞ。」

 

 マグナさんがそう言いその場から動こうとしたが、私は動けなかった。両手を天に掲げたまま、身体が動かない。声も出せない。

 

 

 「マイム、行くぞ。中断だ。」

 

 そう言われたけど、動けないものは動けない。

 

 

「もしかして、動けないのか?」

 

 声も出せないがなんとか頷いた。

 

 

「参ったなぁ。仕方ない、マイムが動けるようになるまで私も待機しておく。」

 

 なんだか、すごく申し訳ない。

 

 

「じゃあ私も残るよ。」「私も」

 

 二人も残るようだ。

 

 

「雨乞い、成功したな。おめでとう。」

 

「動けないのは辛いが、これが有れば水不足の解決の糸口になるやもしれんな。」

 

 

 確かにそうだろう。成功率がどの程度なのかはわからないけど、雨が降る可能性があるなら飛び付く人は居るだろう。

 

 

「これなら来週の雨乞いの儀式に出ても良いかもね。」

 

「来週、この辺りの村に伝わる雨乞いの儀式を行おうと言う事になったんだ。もう何十年もやってないしそもそも効果が有るのかもわからないけど、やるだけやろうと言う話だったんだ。」

 

 

 そんなのが有るのか…私にそれをやらせようと言う事だろうか。

 

 

「ギルドとこの辺りの村で雨乞いの儀式の巫女を募集しててな、この二人も参加する事になってたんだ。出来ればマイムも参加してくれないか?」

 

 マグナさんが頭を下げてお願いしてきた。私は動けないので返事のしようが無い。

 

 

「すまない、返事は動けるようになってからでいい。」

 

 

 リナとミアの二人は装備を外して雨で身体の埃を洗い流しているようだ。

 

 

 

 

 

 15分ほど雨は続き、唐突に止んだ。頭上の雲は影も形も無くなっている。まるで全てが地上に降り注いだかのように。

 

 

 やっと動けるようになり、両手を下ろした。肩回しをしながら振り返ると三人は衣服を搾っている所だった。

 

 

「上げっぱなしだった両手は大丈夫か?」

 

 マグナさんが心配して聞いてきた。

 

「特に問題は無いです。まさか動けなくなるとは思って無かったので、雨の中でお待たせしてすみません。」

 

「なあに、装備の埃を洗い流すのに丁度良かったさ。最近は鎧を水で拭く事さえ難しかったからね。」

 

「じゃあ、一度ギルドに戻ろうか。今後の相談等を酒場でしよう。それにマイムの歓迎会もね。」

 

 

 私なんかを歓迎してくれると言うのか。すごく嬉しい。今自分でも笑顔になっているのが分かる、愛想笑いではなく自然に笑えているだろう。

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

 

 

 こうして、私達はギルドへ戻る事にした。

 

 

 

 




本物の女神アクアの能力を劣化コピーしたものであるけれど、能力の上下幅をカットして中間部分だけ抜き取った形。

服装と体型の変更は部下の天使によるもの。女神アクアそのままと言うのは如何なものか、と言う事で幾つか変更された。

生前の知力は普通くらいだったがアクアと相殺して下方修正された。

名前を忘れたのと、スタート地点の件はアクアのミス。


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震えるスティック

思えば遠くに来たもんだ、と思う時はどんな時だろう。

私は地平線に道が消えるのを見た時だった。

体感するまで、以外と実感しない物だと思う。



 

ギルドに戻りながら辺りの様子を見ていると、村人達は桶やたらいの様な物を家の外に並べていた。

 

 井戸の水位が下がり水が貴重となっているのは聞いていたが、目で見るまでは私はあまり実感していなかった。

 

 日本で生まれ育てば、水に困ると言う事を経験する事はあまり無いだろう。

 

 災害に合えば断水したりも有るだろうけど、「僕」はそういった事も無く水で不自由した事は無かった。そういうのはテレビで見るどこか遠い国の話と言う感覚があった。

 

 

 今、「私」が居るのはそういう国である。

 

 

 どこか現実感が無く夢の続きの様に感じていた。両の足で踏みつけ歩くぬかるんだ道、雨の後の湿った風。濡れて顔に張り付く髪。

 

 髪…。んん?張り付…いてない。

 

 マグナさん達は濡れネズミって感じなんだけど、私の髪は風に揺られている。

 

 衣服もローブも乾き歩く度に揺れている。水に関わる事だし、きっとこれもアクア様に由来するのだろうか。

 

 脳内で一人でシリアスぶってみたけど、もう既に不思議でいっぱいで実はもう異世界すごい!って位にしか思って無い。

 

 自由に動く身体、アクア様がベースの超美少女ボディ、魔法にスキル。そして波動拳。

 

 波動拳はもうちょいゲームのイメージでゆっくりな弾速とふんわりした形に調整して連発出来るようにしてみたいかなーって思うけど。個人的には特に不満は無いかな、新生活への不安は有るけどたぶんきっとなんとかなるでしょ。

 

 水が貴重だったら飲み水はクリエイト・ウォーターで出せば良いじゃん?

 

 文字通り生まれ変わったんだし、暗い過去なんて見なくても良いよね。アクア様最高、ありがとうございます。

 

 

 まあ、そんなこんなでギルドに戻って来ました。今度はマグナさん達も一緒だし扉の前でうじうじせずに中に入れました。

 

 

 

 ギルドの中は受付のアステールさん以外居なくてがらんとしている。酒場の方はウェイターのお兄さんがテーブルを拭いている位であちらも人が居ない。

 

 

「酒場の方で話すか。」

 マグナさんが言い私達は付いて行った。

 

 

 全員が席に着いたのを確認してマグナさんが口を開いた。

 

「じゃあとりあえず、ネロイドのシャワシャワ4つ。」

 

 マグナさんがウェイターさんに注文していたけど、ネロイドのシャワシャワって何だろう。

 

 

「さて、まずはうちのパーティーの決まり事から説明していくか。決まり事と言っても別に重たい事じゃないから安心して欲しい。うちは初心者への指導のようなものもやっててな、安全性を重視してるってだけだ。」

 

 マグナさん曰く。

 討伐に行くときは最低二人以上でパーティーを組む事、レベルどうこうと言うよりも緊急時の為に一人では危険だからと言う事と互いに切磋琢磨して欲しいから。

 

 胸部は最低でも革鎧かチェインメイルを着る事、胸に強い衝撃を受ければ詠唱出来ないし息も出来なくなる。ベテランでも一瞬の隙が命取りだと。

 

 常に予備の武器を携行する事、魔力が切れた武器が壊れた戦えません、では話にならないし、味方を危険に晒す。魔法使い職やプリーストも武器を持て、戦士職は予備の武器を持て。

 

 

「以上だ。冒険者をやる上で当然であり、基本中の基本だ。だが、残念ながらこの基本が出来ない奴も多く毎年死人が出てる。本人が死ぬぶんには自業自得だが巻き添えを食らう者は堪ったもんじゃ無いからな。」

 

 すごく納得がいった。当たり前の事って言われる事って、当たり前にやるのって実は難しいよね。

 

「まあ、そんなわけだから。マイムのステータスが高くともやってもらうからな。ああ、金の心配は要らん。新メンバー用の胸部鎧の費用はパーティーの予算から出す事に決まっているんだ。各人毎月報酬の1割を拠出する事になってるんだ。」

 

 非常時の治療用やパーティー全員での慰労会をやったりしているそうだ。もっともプリーストが複数居るし、治療用に使う事は滅多に無いそうだ。

 

 

「予備の武器の件は、そうだな…。私のナイフを一本あげよう、使い込んではいるがまだまだ使える。負傷した時や採取の時等に使うといい。」

 

 ナイフを受け取った。柄に人差し指を掛ける穴が在り、刃の厚みは3mm位で刃渡りは20cm位だった。

 

「扱い方や手入れの仕方は後で私かリナに聞くといい。」

 

「ありがとうございます。」

 

 ナイフと言うと果物ナイフや十徳の折り畳みナイフしか見た事が無かった私には、少しおっかなかった。

 

「他の防具はどうするかな。マイム、その手袋を少し見せてくれないか。」

 

 

 私が脱ごうとすると、そのままで良いと言われ私の手を取り間近で観察し始めた。手袋の上から私の手を握ったり、補強プレートを摘まんだりしたり、手のひら側を指で押されたりした。

 マグナさんが真面目にやってるのは分かるけど、なんだか気恥ずかしい。顔が赤くなってないと良いけど。

 

 

「かなり防具としても出来が良いだろう。柔軟性が有るが、手首や肘等は革自体に厚みが有り裁断が工夫されていて屈曲を妨げない様になっている。プレートはおそらくミスリルだ。手入れしながら使えば長持ちする非常に良い品だ。マイムはスキルで頭部の防御も上がってるし、胸部の防御を上げ、後は様子見としよう。戦闘スタイルに合わせて防具を揃えればいいだろう。」

 

 

 

 ウェイターさんがジョッキを4つ持って来た。これがネロイドのシャワシャワか。語感から言って炭酸飲料かと思ったけど、違う。なんだろうコレ。あ、乾杯するのか。

 

「では、今日は我が灼熱の風にマイムと言う新たな仲間を迎え入れた事に乾杯だ。マイム、一言。」

 

 

 うぇっ、急に言われても。

 

「え、えと。全然わからない事ばっかで、その、これからどうしていくとかわからなくて、迷惑掛けてしまうと思いますけど、一生懸命頑張ります。よろしくお願いします!」

 

「じゃ、乾杯!」

 

「「「乾杯っ!」」」

 

 マグナさんの掛け声で乾杯した。こういうの初めてで嬉しい。あと、無茶振りは焦るやめて欲しい。

 

 飲んだら甘酸っぱくておいしい。果物じゃないし、でも何となくどっかで飲んだような味。あとなんだかシャワシャワする。シャワシャワと言うのがなんなのか上手く言えないけど、口の中での刺激じゃなくてなんだろうコレ。

 とりあえず美味しいからいいや。

 

 

「ニシシ。マグナさんはほーんと、女の子には優しいよねー。女の子には。」

 

 リナさんが笑いながら言い、マグナさんは反論した。

 

「心外だな。私は飲んだくれと馬鹿以外には誰にだって優しいだろう?どっかの飲んだくれドムとかな。」

 

「ドムって誰ですか?」

 

 はっ、私は今無意識に小首を傾げながら聞いていた。「私」じゃなくて女の子がやってたら見たい仕草なのに、自分でやってたら見れないいいい。

 

「ドムって言うのはね、うちのパーティーでプリーストをしている人の一人よ。クエストから帰るといつも飲んだくれてる人よ、悪い人じゃ無いんだけどね。良い人かって言うと微妙ね。」

 

 ミアさんが教えてくれた。微妙な表情をしている、嫌いじゃないけど好きじゃないみたいな。

 

「で、いつも飲んでてクダ巻いてて鬱陶しいんだけど。酒場から帰る時は自分にだけ解毒魔法掛けて帰るのよ。酒場の中だけだから外だと害は無いし腕は良いんだけどね。」

 

 仕事は出来るけど残念な人って事か。ちょっと気を付けておこう。

 

 マグナさんとリナさんは、と。

 

「えー、シグが来た時は結構口調も強かったし、ちょっと怖かったじゃん。」

 

「話を聞かんし、勝手に空回る馬鹿には強く言わなきゃ届かん、最初が肝心だ。冒険者に成りたてで浮かれてたにせよ、ガツンと言わんと示しがつかんだろ。」

 

「態度によって変えるのは当然だろう。世間知らずの子供といい歳した男で対応は変えて然るべきだろう。」

 

 シグというのは馬鹿剣士その1で突撃馬鹿だと教えて貰った、ミアさんって割りと辛辣だな。

 

  二人はまだ色々話している。ミアさんに色々聞いておこうかな、と思ったら。

 

「ねえ、マイム。あなたの髪って長いし綺麗ね。私は短くしてるしリナも似たり寄ったりだし、ちょっと色々髪を結ったりとかしてもいい?て言うか、させて。ね?ね?」

 

 おおっと、女の子同士で髪を弄り合うとか難易度高い。女の子一日目の私にはハードル高いな。何て返せばいいんだ。というか、返事する前に毛先を指にくるくるさせてる。見ていたい光景だけど、私は当事者なんだよね。

 

「ええ、いいですよ。」

 

 とりあえず、yesで。どうやって断れと。

 

「言質取ったからね。」

 

 え、ナニソレ怖い。

 

「今夜は私とリナの泊まってる部屋に来なよ。リナも髪で遊…結ったりとかしたいだろうし。冒険者の事とか色々教えてあげるよ。」

 

 絶対遊ぶって言おうとしたよね。でも今日は…。

 

「今日はギルドの仮眠室を借りる事になってるんです。アステールさんに周辺地理等を教えて貰うんですよ。」

 

 ちょっと勿体無いけど、これで逃げられるはず。

 

「だーめ。私からアステールには言っとくから。ね?それに周辺地理なんて私達にも教えられるし。」

 

 退路を断たれたー。

 

「こんな可愛い女の子が仲間になったんだもん。それにこんな綺麗な青い髪、まるで伝承にある女神アクアみたいじゃない。雨を降らせたりなんて神様や精霊か紅魔族のアークウィザードくらいしか聞いた事無いしさ。」

 

 紅魔族?

 

「その顔は、紅魔族も知らないのね。ほんと世間知らずね、いったいあなたはどこから来たのかな?ああ、今は答えなくても良いわ。いつか教えても良いって思ってからで良いわ。紅魔族っていうのはね。」

 

 曰く。

 生まれつき高い魔力と知力を持ち、そのほとんどがアークウィザードになるという最強の民族にして人類の切り札。

 魔王の城を常に監視し警戒している人類の守護者達。

 古代の神の領域に登り詰めた錬金術師が産み出した人造の神々の子孫である。

 強大な魔力により繰り出される魔法は天地を自在に操り理を歪め、精霊をも屈伏させる。

 黒髪に紅い目をしており、風変わりな名前と風習を持つと言う。

 

 

「どこまでがほんとなのかは知らないし与太話かも知れないけど、雨を降らせる魔法が使えるって人は領主様の配下に居るそうだけどね。」

 

 なんかすごい人達が居るんだ…天地を操り理を歪めるとか。もう、何て言うの。こう。大魔導師とか賢者みたいな人達なのかな。異世界すごい。滾る。

 

「興味持ったみたいね。今度の雨乞いの儀式の時に視察に来るらしいのよ。効果が有る無しに関わらず地方の風習とかに興味が有るんだってさ。私も紅魔族の人に会うのは初めてだけど気になるよね。」

 

「正直、すごく気になります。確か巫女を募集してるって話でしたよね。」

 

「そうよ。そして雨乞いの儀式は関係者以外見ることも出来ないのよ。だから会いたければ巫女になるしか無いのよ。私はもう志願したわ、マイムもどうかしら?」

 

 ここまで聞いたら、やるしかない。

 

「そうですね、私もやってみようかな。」

 

「じゃあ決まりね。マグナ!マイムも巫女に志願するってさ。」

 

 向こうの二人の話は途中から二人で盛り上がってたんだけど、二人ともこっちに振り向いた。

 

「おっ、マイムもやるんだ。じゃあ私達三人お揃いだね。」

 

 眩しい笑顔でリナさんが言った。

 

 

「そうか、後でアステールに申請しておくよ。」

 

 マグナさんが言い、私達三人を順に見ていった。

 

「その日は私は周辺の警護をする事になっているから顔を出せないが、頼んだぞ。」

 

「二人は私が責任を持って引率するから心配しなくて大丈夫よ。」

 

「ああ頼むぞ、まあミアに任せておけば大丈夫だな。」

 

 

 マグナさんは咳払いを一つして口を開いた。

 

「さて、明日からだが。当面の間マイムは私と行動をして貰う。クエストを受けながら実地での指導や地理を覚えていって貰う。まずは自分の力に振り回され無いように出来る事、出来ない事をしっかり把握していく事からだ。」

 

 「あと、出来ればリナとミアのどちらかには同行してもらいたい。歳の近い同性が居れば何かと安心出来るだろうし、私には出来ないアドバイスも有るだろうし、どうだ?」

 

「言われるまでも無く付いて行くわ。だってマイムはなんだか危なっかしいし。」

 

 ミアさんはそう言い私を見た。

 

「もちろん私も行くよ。じゃあ明日からはこの四人パーティーって事で良いの?」

 

 片手を振りながらリナさんが言った。

 

「ああ、そうだ。他のメンバーは追々紹介していけば良いだろうし。じゃあマイムから質問とかは無いか?」

 

 そう言われ、幾つか気になっている事を聞いた。

 

「じゃあ、えっと。灼熱の風って言う名前の由来って何ですか?」

 

「それはだな、二つの理由が有る。昔初めてパーティーを組んだ時に名付けたもので、私のもっとも多用する魔法から来ている。ヒートウェイブという非常に高温の風を発生させる魔法が在ってな、それを多用している事から私の代名詞となりパーティー名にしたんだ。もう一つの理由はこの乾いた大地を仲間と共に風の様に駆け抜けて行こうと言う願掛けだな。」

 

 パーティー名が格好いいって重要だよね。

 

「マグナさんってハイウィザードなんですよね。でもガタイ良いし腰回りに剣とか斧とか持ってるのって予備の武器の範囲を超えて無いですか?」

 

「私は元々魔法戦士でな、途中で魔法に重点を置くようになってハイウィザードに転職したんだ。だから武器の扱いに慣れてるし接近戦にも対応出来るようにしてるんだ。まあもっとも後衛が接近戦してるようじゃダメなんだがな。」

 

 ワハハと頭を掻きながら笑うマグナさん。ガタイが良くて渋い声とか、こういう大人に成りたかったんだけどね。と少しだけ内心寂しくなった。

 

 

「じゃあ次、リナさんの剣って変わった形してますよね。それはどういう物なんですか?」

 

 リナさんの剣は鉈を大きくしたような形で、鞘も剣の背?峰って言うんだっけ?が露出した形をしている。今は椅子に鞘を掛けているけど移動中は背負っていた。

 

 

「ああコレ。うちの村だと昔から使ってるんだけど、他じゃ珍しいらしいね。簡単に言うと、鉈を剣にしたような物よ?重さで叩き斬ったり背で殴ったり出来るし刃が厚くて丈夫だし。先端には刃が付いてなくて鞘に引っ掛けるように固定して革ベルトで留めてるのよ。長さの割に重いから普通の剣と扱い方が違うけど慣れればどうって事は無いし便利よ。」

 

 そのまま鉈なのか。鉈剣、いや剣鉈か?

 

「あとは皆さん、腰回りのベルトに色々付けてるのって何を持ってるんですか?」

 

 三人とも革のポーチやら袋やナイフや斧とか何か色々付けてるし。

 

「私は、簡易砥石や目潰しとか止血薬とかポーション、毒餌かな。後は予備でショートソードとナイフだね。ナイフは剥ぎ取りにも使うよ。」

 

 リナさんがクルッと回りながら説明してくれた。ポーションきたよポーション、ファンタジーの定番きたよ。

 

「私は矢筒以外だと、予備の矢じり、毒、目潰し、ポーションと毒消し、後はメイスとナイフだね。予備の矢じりは矢を再利用する時に使うのよ。矢じりには抜けないように反しを付けてるから、モンスターが身を捩って矢を抜こうとしても体内に残るようになってるの。それに矢じりには溝があって矢が抜ければそこが空洞になって血が流れ出るようになってるから矢が抜けても大きなダメージになるのよ。」

 

 想像するとエグい。ミアさんは矢じりを取り出して説明してくれた。

 

 

「最後は私だな。予備の杖と斧、ショートソード、目潰し、ポーション、エリス教の聖水とアクシズ教の聖水、止血材などだな。聖水が二種類有るのはそれぞれ効能に違いが有るんだ。」

 

「どちらもアンデッドに有効だが、エリス教の聖水は僅かに幸運値を上げる効果が有り、アクシズ教の聖水には水の浄化の効果が有る。生水を飲む時はアクシズ教の聖水を混ぜると腹を壊しにくいんだ。効果の違いは、それぞれの女神の権能の違いによるものだろう。より高度な加護を得た聖水ならモンスターの忌避効果も有るが残念ながらこの辺りでは手に入らん。」

 

 

 何かのゲームにあったね。聖水を撒くと弱い敵が寄ってこなくなるっていうの。ほんとに有るんだ。

 

 

「何故三人とも目潰しを?」

 

 

「主に不意に接近された時の時間稼ぎや牽制だな。目が無いモンスターに対しては口に投げ込んでも有効だ。凄まじい苦味を付けてあるらしく悶え苦しむからな。」

 

 

 そう言えば、こっちに来てからなにも食べて無いな。って思ってたら…。

 

「くぅ…」

 

 小さくお腹がなった。恥ずかしい。今顔が真っ赤になってると思う。うわぁ。

 

 

「くくく、マイムは腹が減ったか。私達も昼食はまだだったな。」

 

 

「マーグナ!マイムの歓迎会だし、お昼ご飯代も出るよね?」

 

 リナさんが笑いながら聞く。

 

 

「そうだな仕方ない。日替わりセット4つだ!」

 

 マグナさんが注文している横でリナさんがニヤニヤしながら冗談めかして聞いてくる。

 

「マーイムちゃんは腹ペコだったんだねぇ。お姉さん気付かなくてゴメンねぇ。」

 

 「でも丁度よかったわ、私もお腹が減ってきてたし。可愛いお腹の音だったわよ。」

 

 ミアさんも私を弄ってくる。恥ずかしい…くそぉ。

 

 

 そうこうしているとウェイターさんが料理を持って来た。バゲットを使ったサンドイッチと焼き鳥を大きくしたような肉串と野菜スティックだった。

 なんか野菜スティックがプルプル震えてるけど、気のせいだよね。

 

 

「おっ今日は砂狼の肉串か。これはこの地方にしか居ない砂狼の肉でな。歯応えが有るが肉食獣にしては臭みが無くて岩塩で味付けしてあるだけなんだがコレが旨いんだ。」

 

 油が滴る香ばしい肉、思わず唾を飲み込んだ。

 

 

「「「「いただきます。」」」」

 

 

 美味しい。歯応えは確かに有る、でもこの噛み応えは肉を食べてるって感じで良い。サンドイッチも美味しい。後は…プルプルしてる野菜スティックだ…。これは他の人が食べてから手を出そう。なんか怖い。

 

 リナさんが野菜スティックの入ってる器の端を指で弾いた。指で弾いた時、スティックが跳ねてた。見間違いじゃない。跳ねてたよ。跳ねた後、動かなくなったスティックを摘まんで塩を振り掛けて食べてた。

 

 この世界って野菜が動くの?それも切った奴が。踊り食い?野菜の踊り食いなの?

 

 他の二人も同じようにしていった。私も食べてみよう。同じようにして手に取った。まずはそのままで。

 

 

 なにコレ。野菜がすっごく美味しい。ただの野菜スティックだよ?なんでこんなに美味しいの。

 

 

 

 

 

 食べ終わり、休憩しながら聞き忘れていた事を聞いた。

 

「雨が降らない状態で畑の水やりとかってどうしてたんですか?井戸水使うわけでは無いですよね。」

 

「それはクリエイト・ウォーターが使える者に対して水の召喚クエストが出てたり、大きな桶を運搬して川から水を汲んで来たりだな。とは言え、本来この時期は週に2,3回は雨が降るのが正常でな。今年は明らかに異常だ。クリエイト・ウォーターで水やりをしていてもどうにも水が不足している。このままでは飲み水すらも危うくなるだろう。」

 

 だから雨乞いの儀式をやる事になったんだとマグナさんは続け、領都から来ていた調査団によると精霊の力関係のバランスが崩れてしまっているそうだ。その為に儀式で精霊を鎮めるんだとか。

 

 精霊か。あれかな各属性の調和とか光と闇の戦いとかみたいなアレなのかな。ああ、すごいファンタジーしてる。

 

 

「今日はそろそろ解散にしよう。各人自由時間だ。風邪を引かないようにな。じゃあ二人とも、マイムの事は頼むぞ。」

 

 そうマグナさんは言い支払いを済ませて帰って行った。

 

 

 

 

「さてと、「行こうか。」」

 

 あ、ミアさんが私の手を握った。今の私よりも少しだけ大きい手。細いけれど力が強い。コレはこのまま連れていかれるんだろうか。

 テーブルの反対側でリナさんも笑ってる。

 

 

「アステールさんに言わないと。」

 

「私が言って来るよ。」

 

 リナさんが席を立ち受付に向かった。

 

 私は本格的に退路を断たれた。諦めよう。

 

 

 

 

 こうして私達もギルドから出た。今の状態は両手に花か、はたまた連行される宇宙人かと言ったところかな。

 

 

 

 

 

 




マイムの外見は14~16歳の想定。書籍版でアクアとの初対面時にカズマが俺と同じくらいだろうかと記述があったので上限を16としてます。
中二病を患い気味なお年頃と思って貰えばいいです。


マグナさんがさっさと帰ってしまったは、他のメンバーへの連絡等です。普段はバラバラで動いていてもリーダーですので色々調整もあるかと。面倒見の良い苦労人です。


マイム達の居る場所はド辺境で紅魔族の実態等は伝わらず、噂のみが語られています。


キャラ名は思い付きか、どっかの国の言葉だったりします。
語感と響きを重視で意味はあんまり重視では無いですが、アステールはギリシャ語で星、ドムはデンマーク語で馬鹿の意味です。

追記
誤字報告でシャワシャワが来てますが、誤字ではありません。
書籍版はシャワシャワでアニメ版はシュワシュワになってますが、シャワシャワする謎の飲み物の方が面白いので書籍版のシャワシャワにしています。


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はじめのいっぽ

今回は短めです。

私の休みは終わってしまったので、今後は短めで投稿するのが増えると思います。


 あのあと、二人にお部屋に連行されてオモチャにされました。

 女の子の髪型って色々有るんだなって思いました。でも私はポニーテール派です。サイドテールも悪くないけどポニーテール派なんです。

 

 オモチャになったり、色々話聞いたりしてましたけど私には付いて行けない内容ばかりでした。経験値が足りません。女子力とか無いので。

 

 クリエイト・ウォーターで水を出して布で身体を拭いて寝ました。リナさんと同じベッドで。幸か不幸か今の私には付いてないので何の問題もありません。マイサンとは永遠の別れを告げたのです。悲しくなんて、ないんだから…。

 

 

 一夜明けて、宿で朝食を取り三人で一緒にギルドに行きました。ギルド内には掲示板を見ている人が数人と酒場で朝食を食べている人達が数人で閑散としています。

 マグナさんはもう来ていました。

 

「マグナさんおはようございます。」

 

「三人ともおはよう。」

 

 私達も席に着きました。

 

「今日の予定だが、村の外で常設依頼の砂狼を討伐しつつ、アクシズ教会へ行くぞ。」

 

 アステールさんは危険だから関わるなって言ってたけど、良いのかな?

 

「都会のアクシズ教徒は危険人物ばかりだが、辺境のアクシズ教徒は関わり方を間違えなければそれほど害は無いぞ。」

 

 疑問に思ったのが顔に出てたのかな。

 

「行けば分かるが、エリス教もアクシズ教も辺境では戒律等も緩くて割りと適当で良いとこ取りで運営してるから大した問題は無い。なんせ都会と違って細かい事を気にしてたら生きていけないからな。」

 

 と、言うことは。今日はアクシズ教会に行ける、布教の第一歩と言う事だ。

 アクシズ教への入信を希望している事をここで言うのはまだ不味いか。教会で告白しよう。

 

 

「さてと出発するとしよう。」

 

 

 

 村の境界の柵を出て私達は立ち止まった。

 アクシズ教会ある村へは徒歩だと半日ほど掛かる為、マグナさんの魔法により移動速度を上げてから行くそうだ。

 

「風よ。我が身を浮かべ、一陣の風と成せ。ウインドウォーカー!」

 

 マグナさんが詠唱を終えると、つむじ風が私達一人一人の身体にまとわり着いて少しだけ身体が浮かび上がった。

 

「ウインドウォーカーの魔法だ。身体を浮かせ地面を滑るように移動出来るようになる。初めてだと少しコツがいるが慣らしながら向かうぞ。」

 

 人間エアホッケーと言った感じ。

 リナさんが横に着いて教えて貰いながら移動しているけど、ふわふわ浮きながら滑ってて急な制動が難しい。

 

「急に止まりたい時は進行方向と逆に重心を傾けると良いよ。」

 

 アドバイスを貰うも、コレがなかなか難しい。どこにも掴まれずにバランス取ると言う事そのものが難しい。

 

 私が徐々に慣れてきたのが分かると段々ペースが上がってきた。しばらく歩いていると、先行していたミアさんが戻って来た。

 

「この先のくぼ地に砂狼が6、その付近でサンドスネークが2居る。」

 

 偵察から帰って来たミアさんの報告を聞き、マグナさんが指示を出した。

 

「マイムは初戦闘だ。一度解除して戦うぞ。ミアは先行して陽動と狙撃で蛇を、リナはマイムの援護をしつつ狼だ。私がフレイムウィップで狼を牽制しておくから、二人で一匹ずつ確実に片付けろ。終わったら蛇を殺る。質問は?」

 

「具体的にはどうしたら良いんですか?」

 

 三人は阿吽の呼吸で意志疎通してるけど、私はよくわからない。

 

「私が他の狼を近付けさせないからマイムはリナと狼を挟み撃ちにするんだ、落ち着いてやれば大丈夫だ。マイムなら一撃で倒す事も可能だろう。リナは狼の動きを阻害してマイムが攻撃する隙を作れ、危険を感じたらいつも通りやって良い。」

 

「わかりました。」

 

 明確な指示でやっとわかった。

 

「あの岩まで来たら開始だ。タイミングはミアに任せた。」

 

「了解。」

 

 ミアさんはまた先行していった。私達は岩に近付くと同時に魔法を解除して待機した。

 

 

「始まった。行くぞ。」

 

 岩の裏から出て私とリナさんは走って端の方に居る狼に向かった。

 

「焔よ。束なり連ね一条の鞭と成れ。フレイムウィップ!」

 

 タクトを引き抜くと同時に焔が一筋の線状となり、それを振るうと鞭の如くしなりマイム達に向かおうとした狼達の目の前を通り過ぎ地面を焼き焦がして行く。狼達は必然的にマグナに注意を引かれ、一匹だけが孤立する事になった。

 

「っし!」

 

 リナさんが剣の背で狼の前足を払い体勢を崩させた。この、隙に。

 

「っせいっ!」

 

 自然と掛け声が出る。拳を握り締め、左足を一歩前に出し身体を捻りながら拳を振り下ろした。狼の背後から背骨の横付近を殴りつけた。

 一瞬、僅かな抵抗を感じたが拳はゴキともゴリィとも言える音を立ててめり込み、湿った音を出しながら狼の背中に突き刺さった。捻るようにして拳を引き抜くと、狼は声も上げず倒れた。口と私が殴りつけた穴から夥しい血を流し痙攣している。

 

 私は一瞬、気を取られた。

 

「次行くよっ!」

 

 リナさんの声で、我に返り気持ちを切り替えた。

 横目でマグナさんの方を見ると焔の鞭を縦横無尽に振り、自身には狼を近付けずに狼達をあしらい動きを封じていた。私達に気付くと動きを変え自身の周囲から狼を追いやるように誘導し、一匹だけがこちらに向かうようにさせた。

 

 そこからは一匹目と同じだった。リナさんが足払いか剣で殴打し私が背後から殴りつけ続けた。六匹目を倒し終えると、岩の周囲でのたうっている蛇の方へ向かった。蛇の体長は4mは有るだろうか。

 

 蛇は何本も矢が刺さっているが、二匹未だ健在だった。ミアさんが私達に気付くと一匹の頭を矢で居抜き絶命させた。

 

「マイム、波動拳でもう一匹を倒してみろ。私とリナは牽制だ。」

 

 私は頷き、足を止め力を練った。

 

 凝縮し過ぎず、でも弱すぎず。当てやすいように広げるイメージで。手のひらの熱を感じコントロールする。手を突き出し、撃ち出す。

 

 

「波動拳!!」

 

 

 今回はスイカ位のサイズになった。蛇の頭よりも下に当たったが、内側から弾け蛇は胴体の半分程がバラバラに飛び散った。

 

 今度は力が抜ける事もなく僅かな疲労感が有るだけだ。

 

「よくやったなマイム。初めてにしては上出来だ。」

 

  マグナさんが近付いて来て、私の頭を撫でた。私の頭を撫でた。

 私は撫でられるのが好き。両親の事を思い浮かべられるから。最後に撫でられたのは、祖母が無くなる前だったかな。

 

「ありがとうございます。上手く行ったのは皆さんのおかげです。」

 

「当たり前だ。それがパーティーだからな。」

 

 そう言ってくれたマグナさんの声が優しくて嬉しかった。

 

「やるじゃん、マイム。私の時よりもぜんぜん上手くやってたよ」

 

 リナさんが後ろから肩を組みながら言ってきた。

 

「おめでとう、マイム。初めてでこれだけ動けたならやっていけるわ。」

 

 ミアさんも岩から下りて来て言った。

 

「さて、怪我も無く戦闘を終えられた。マイム、私達のパーティーでの基本戦術はこんな感じだ。メンバーによって多少変わるが、基本は陽動と各個撃破だ。あとはその都度指示を出す。目的地までは残り半分くらいだから、もう少し頑張ってくれ。」

 

 再びマグナさんが魔法を掛け直し出発した。お昼前には着きたいからと、今度は最初から早めのペースだ。

 

 




詠唱を考える時は、眠りに着いた私の中二心が疼く。

今回は初めての戦いと初めての仕事です。


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異端者達の楽園

やっとアクシズ教徒を出せる。

追記
サブタイトルを変更しました。


 再出発後は狼が12、蛇が9の討伐となった。同じような戦法を繰り返して危なげなくこなせた。三回目からは浮遊したままでも戦えるようになった。

 この辺りでは餌があまり無いせいで砂狼とサンドスネークが多く、大型のモンスターは滅多に見掛け無いそうで今日は訓練の意味合いが強いと言われました。

 まだ冒険者カードを見ていないけど、どのくらい経験値が貯まってるのか見るのが楽しみだな。

 

 

「もうじき目的地だ。」

 

 さっきから段々と緑が増えて来ている。川に近付いているらしく草原とは言わないけど、所々草むらを見掛けるようになってきた。

 

「これから行く場所は通称、水の村と呼ばれている。辺境でもっとも多くのアクシズ教徒が居住しているが下手に刺激しなければ大丈夫だ。彼らが話始めたら相槌や声を掛けず聞き流せ。」

 

 それは、どうなんだろう。面と向かって無視するのはちょっと抵抗がある。

 

「どうしてですか?」

 

 わからない事は聞く。聞くは一時の恥、聞かぬは一生恥って教わったし。

 

「話を聞く姿勢を見せると他のアクシズ教徒も集まって来て、自分達の信仰を語り出して鬱陶しいからだ。ここの連中は信仰の押し売りはしてこないが、自分達の信仰を語り聞かせる事を生き甲斐にしてる様な変人ばかりだ。無駄に時間も喰うしその場から動けなくなるぞ。」

 

 見知らぬ人に囲まれるのは嫌だなぁ。

 

「ちょっとマグナ。それは心外ね。私達は当たり前の事しか言ってないわ。生けるものは全てが水を必要とし、水が無ければ死ぬ。水に感謝をして女神アクアの慈悲に祈りを捧げ、日々を生きる。幸運なんて無くても死なないけど、女神アクアの恩寵にすがらねば生きられぬ定命の者として女神アクアを信仰するのは当然の事じゃない。」

 

 ミアさんってもしかして。

 

「ああ、普段意識しないから忘れてた。ミアもアクシズ教徒だったな。」

 

 げんなりした顔でマグナさんが言った。

 

「ちょっと!私はアクシズ教徒だけど、享楽派のクズ共と一緒にしないでよ! 私達、原始派は自然の恵みに感謝を捧げ女神アクアを真に信仰する真なるアクシズ教徒よ。教義に胡座をかき好き勝手するだけで日々の恵みに感謝を捧げない奴等とは違うわっ!」

 

 えーと、アニミズムだっけ。自然とかあらゆる物に魂が宿るとして信仰するのって。言ってる事は間違ってないと思うんだけどなぁ。

 

「マイム、これだ。あの村のアクシズ教徒は全員こんな感じだ。否定も肯定もするな、話が長くなる。」

 

 

「?言ってる事は間違ってないと思うんですけど?」

 

「そう言う問題じゃ無くてだな。」

 

 

「そうよ。私達は何も間違ってないわ!マイムは分かってるわ、その髪、その目、その力。女神アクアの御加護に違いないわ。あなたはアクシズ教に入信すべきだわ。」

 

 さっきまでのミアさんと印象が全然違う…。すっごい食い付いて来るなぁ。

 

「ああ、もう! だからアクシズ教徒は嫌なんだっ。今すぐその口を閉じろ、パーティー内での勧誘は止めろ。信仰の自由は誰にでも有るんだ!マイム、どこの神を信じるも信じないも自分で決めろ。親兄弟や友人知人が何を言っても無視しろ、自分の心のままでいるんだ!」

 

 マグナさんも熱くなってて、収集が着かないよ…。トラウマでも有るのかな。

 

「はぁ、コレが無きゃマグナもミアも仲が良いんだけどね。」

 

 リナさんが頭を振りながらため息をついた。

 

「ねえ、マイム。あなたが何を信仰しようと問わないけど、パーティーで宗教の話はご法度でお願いね。普段はマグナもミアも口にしないんだけど、ちょっと口が滑っちゃっただけだから忘れてあげて。」

 

 リナさんは悲しそうにため息をついた。

 

「はい…。」

 

 この世界でも宗教対立が有るんだ…。仲間同士で喧嘩してるのは見たく無いや。

 

「ミアもマグナもそのへんにしときなよ、マイムが怖がってるのが分かんないの?そういう問答は後でやりなよ。」

 

 リナさんは素っ気なく言ってるけど怒ってるのが分かる。

 

「行くんでしょ、教会。司祭様相手に三人で問答してりゃ良いでしょ、嫌なの?マグナ。」

 

 あ、すごい怒ってるや…。

 

「わかった、わかったから。私が悪かった。すまないマイム、リナ。熱くなりすぎた。」

 

 マグナさんが私達に謝ったけど、リナさんはミアさんにアゴでしゃくって促している。

 

「ミアは?」

 

「私は、悪くないわよ。マグナがみんなを馬鹿にしたのが許せなかったのよ。マイムに入信を勧めたのも本音よ、強制はしないけど…。」

 

「……(イラッ)」

 

「パーティー内で勧誘したのは悪かったわ、ごめんなさい。」

 

 リナさんは頷き納得したようだ。一番怖いのはリナさんだと思う…。

 

「この話はこれでおしまい。さ、いつもの二人に戻ってよ。」

 

 しばらく無言で歩き続けた。空気が重苦しい。

 

 

「村に入ったら真っ直ぐに教会に向かう。足を止めるなよ。」

 

 マグナさんがそう言い、ミアさんも頷いていた。

 

 

 

 村に入った途端に。

 

「ようこそアクア様への祈りを捧ぐ水の村へ。入信ですか?観光ですか?商いですか?入信ですよね。いい加減入信しろよマグナ、入信したら色々割引するからさぁ。」

 

 私達は無言で通り過ぎて行く、マグナさんの知り合いなのかな。

 

 ん?なんか向こうが騒がしい。口笛を吹いてる人や歓声を上げてる人が居る。つい顔を向けようとしたら。

 

「マイム、後だ。興味が有るなら後でミアに案内してもらえ。」

 

 前を向き直す事にした。

 

「私はここの出身だから村中どこでも案内してあげるわ。」

 

 ミアさんの故郷だったのか。

 

「もうじき教会だ。」

 

 通りを歩き、真ん中に石碑が有る広場を抜けた先にそれはあった。

 真っ青に塗られた屋根と白い壁、アクシズ教のシンボルが屋根に掲げられていた。なんとなく教会のイメージ通りだけど、建っている場所が違った。

 川の中に建っている。川底から柱が伸び、その上に教会が立てられていた。教会へは橋を渡って行くようだけど、その橋の床板が一枚飛ばしで敷かれている。

 

「毎度思うが、なんでこんな配置なんだ。」

 

 マグナさんがぼやき。

 

「それに関しては同感ね。子供の時に何度も落ちそうになって怖かったわ。」

 

 ミアさんも同意していた。いや、単純に危ないじゃん。

 

「足元に気を付けろよ。お前らなら落ちはしないが痛いからな。」

 

 片足だけ踏み外したら、股関節か太ももを強打しそうで普通に怖い。恐る恐る橋を渡った。

 

 なんとか橋を渡りきり、教会へと足を踏み入れた。

 

 

「ようこそ、真なるアクシズ教の聖地へ!」

 

 白くて所々に銀や青で装飾が付けられたローブを纏った老人が出迎えた。歳は70近くだろうか。白髪で豊かな髭を蓄えた優しそうな方だ。

 

 マグナさんが小声でボソッと「自称聖地な」と言ってた。

 

「そこに居るのは不信心者のマグナと我が同胞と渇きの地の民だな。そこのお嬢さんは初めてましてだなっ!儂はリムタス、この原始派アクシズ教会の司祭を務めておる。名を伺ってもよいかね、お嬢さん。」

 

「私はマイムです。」

 

「マイムか、良い名だ。何処かの言葉で水を意味する言葉だったはず。その青き髪と相まって、まるで女神アクア様を彷彿とさせる。ようこそマイムよ、そなたにはきっとアクア様の御加護が有るのだろう。」

 

 意味を知ってる人が居た。それに私がアクア様を彷彿とさせるだなんて、嬉しい。

 

「して、今日は如何なる用だ?また聖水か?たまには説教でも聞いて行け。渇きの地に住まうなら、水が如何に尊いか実感しているだろう。アクア様に祈りを捧げる事を何故拒む?」

 

「強要された祈りに意味は有るのか?誰にだって何を信じるかの自由は有るはずだ。」

 

「相変わらず頑固な奴だ。そんなんだから未だに独身なんだぞ、さっさと身を固めろ。大地に根付き子を育てよ。全ては繋がっている。水も空も大地も、もちろん人もだ。水は命を育み空は恵みの水をもたらせ、大地は恵みを実らす。人も自然の一部だ。いつまで引き摺っておる、お前の両親も悲しむぞ。」

 

 マグナさんが吠えた。

 

「両親の話は止めろ!あいつ等はどうでも良い、あんただってあいつ等の事は嫌いだろう!」

 

「儂も人間としては嫌いだな。大嫌いだ、享楽派は視界に入れたくもない。だが人の親としては分かる所も有る。あれらが歩み寄るのは無理だな絶望的だ。だがあいつ等ももう歳だ、喧嘩別れでいつ永遠の別れを迎えるか分からんだろう。分かり合えんでも良い、話し合え。」

 

「アクシズ教は全てを受け入れる。例えどんな結果になろうとも受け入れるだろうさ。さて、本日の用向きは聖水だな?いつもの奴なら自分で汲め。寄進箱はいつもの所だ。」

 

 事情はわからないけど、聞いたらいけない奴だ。

 

「さて、マイムよ。そなたからは迷いと決意を感じる。儂に話してみなさい。きっと答えを出す手助けが出来るだろう。」

 

 お見通し、かぁ。隠しているのも嫌だし言ってしまおう。

 

「私はアクシズ教に入信する為に来ました。私はとある事情で死に瀕し、このままでは死ぬ所をアクア様に救われました。自由に動かない身体、家族は皆死に私だけが生き残り親類に引き取られても居場所は無かった。せっかく生き残れたのに今度こそ死を迎える時にアクア様にお会いしたのです。そして自由に動かせる身体をそして新天地への道を与えられたんです。信じて貰えなくても良いです。私はアクア様に誓ったんです。大恩を返す為にアクア様の尊さを布教する旅に出ると。」

 

 涙が流れ、涙声になっていく。

 

「ギルドでアステールさんからはアクシズ教には関わるなって言われて、でも私の使命だぢ…。私はアクア様の写し身を頂いたんです…私は恩を仇で返す様な人には…なりたくなくて…だから私は…第一歩として入信したいのです。」

 

 言葉がまとまらない。上手く伝えられない。

 

「儂は信じる、全てを。魔道具や看破に頼らずとも嘘は無いと確信しておる。よく話してくれた。世間は儂等の事を狂信的で頭が狂っていると言う者も多い。事実そういった者も存在する。その中で自身がアクシズ教に入信したいと告白するのは勇気がいる事だ。」

 

 リムタスさんは私に近づき涙を拭った。

 

「勇敢なる少女よ。アクシズ教への入信を歓迎する。我らアクシズ教は全てを受け入れる。」

 

「アクシズ教教義その一。アクシズ教徒はやれば出来る、出来る子達なのだから上手く行かなくてもあなたのせいじゃない。上手くいかないのは世間が悪い。自分で何もかもを背負う必要は無い、自分ではどうしようもない運命という物もある。」

 

「アクシズ教教義その二。真面目に生きても頑張らないまま生きても明日は何が起こるかわからない。わからない明日より、確かな今を全力で生きなさい。今、君には仲間が居る。そしてアクシズ教徒の同胞が居る。周りの者達を頼って良いから今を全力で生きなさい。」

 

「アクシズ教教義その三。汝何かの事で悩むなら、今を楽しく生きなさい、楽な方へと流されなさい。自分を抑えず本能のままに生きなさい。悩み苦しむばかりの人生は辛いばかりだ。自分を解放する事も時には必要じゃ。」

 

「アクシズ教教義その四。汝、我慢する事なかれ。飲みたい気分の時に飲み、食べたい気分の時に食べるがいい。明日もそれが食べられるとは限らないのだから。この乾いた大地では明日の命も危うい、だから我慢をしてはいけない。今ある恵みを享受しなさい。」

 

「アクシズ教教義その五。犯罪で無ければ何をしてもいい。因果応報と言う言葉が有る、しても良いが自分や大事な人に振りかかる事も有るだろう、大きな自由の中でも自分を見失ってはいけない。」

 

「アクシズ教教義その六。悪魔殺すべし、魔王しばくべし。小さな悪事を見逃せばより大きな悪事へと繋がるだろう。人を堕落させる邪悪なる者共は滅ぼさねばならぬ。人々を脅かす魔王は懲らしめねばならぬ。人と世界の平穏の為に。」

 

 

「アクシズ教教義その七。嫌な事からは逃げればいい。逃げるのは負けじゃない。逃げるが勝ちと言う言葉が有るのだから。生きてさえいれば次が有る。みっともなく逃げ出しても良い、最後に生き残った者こそが勝者じゃ。」

 

「アクシズ教教義その八。迷った末に出した答えはどちらを選んでも後悔するもの。どうせ後悔するのなら、今が楽な方を選びなさい。迷えば迷うほど時間を浪費するしどうせ後で、ああすればこうすればと思うじゃろう?だったら楽な方を選べば良い、間違ってたら次に頑張れば良い。」

 

「アクシズ教教義その九。汝、老後を恐れるなかれ。未来のあなたが笑っているか、それは神すらもわからない。なら、今だけでも笑いなさい。恐れるだけでは進めない、ならば笑いながら共に歩めばよい。」

 

 

 聞き終え、涙が止まらない。肯定された。ずっと否定され続けてきた私の全てを肯定してくれている。リムタスさんのハンカチは私の涙でグショグショになってしまっている。私の頭を優しく撫でる手が少しくすぐったいけど嬉しい。

 

 

「アクシズ教教義その十。」

 

「同性愛者であったりニートであったり、人外獣耳少女愛好家であったりロリコンであったとしてもアンデッド悪魔っ子以外なら愛があり、全てが赦される。愛があれば種族も性別も信教も年齢もすべて関係無い。そう愛さえあれば、年齢は関係無い。」

 

 なんか、手つきが変わって来たんだけど…。首の方に手が…。なんかちょっと嫌なんだけど。

 

「離せセクハラ爺!」

 

 後ろから抱き締められるように引っ張られた。私はミアさんに抱き締められてる?

 

「マグナが居ない隙に、優しい言葉で油断させてセクハラするとかほんとゴミね。大丈夫マイム?もう大丈夫だからね。」

 

 ミアさんに強く抱き締められて声を掛けられた。

 

「震えちゃってるね。もう大丈夫よ。そこのセクハラ爺はマグナに任せてこんな所は出ましょう。行くわよリナ。」

 

「待ちたまえ。ちょっとしたお茶目だろう。老い先短い老人の「ふざけんな!」」

 

「行こう。」

 

 ミアさんと手を繋いだままで教会を出た。

 

 

 三人が出ていくと入れ替わりで、マグナがリムタスの背後に立った。

 

「さて、物理的に二枚舌にでもしてあげましょうか?幸いここには浄化の聖水もポーションも沢山有りますし?ね。」

 

 

 

 

 

 

 

 三人は広場に戻ってきた。

 

「ったく、あのエロ爺油断も隙も無いわ。」

 

「司祭様は真面目な時とどうしようもない時が有るからねぇ。私の時は即座に脛に蹴りを入れたっけ。」

 

「リナさんは反撃したんだ、私はお爺さんを蹴るのはちょっと抵抗があるなぁ。」

 

 いくら何でも70近くのお爺さんに暴力振るのは良く無いと思う。

 

「甘いわ。あの爺はレベル42のアークプリーストなのよ、ちょっと蹴ったり殴ったりしたくらいじゃビクともしないわよ。」

 

 レベル42かぁ、そう言えば私のレベルはどうなったかな。

 

「真面目なままで居りゃ良いのに、余計な事してくれるわ。」

 

 ほんとそう。

 

「私達はアクア様の恩寵に感謝を捧げ仕え、教えを広めていくのよ。あのエロ爺みたいなのばっかりじゃないからね。教団に伝えられている様々な逸話を聞けば、マイムもアクア様がどれだけ優しくて思いやりに満ちた方か分かるはずよ。アクア様を敬い仕えれば色々な意味で人生が劇的に変わるわ。」

 

 私はミアさんを信じる、ロリコン爺なんて忘れよう。

 

「それじゃ村の中を見て回ろうかミア?今日は何かやってたりするの?」

 

 さっきの歓声とか私も気になってた。

 

 

 

 歓声がしていた方に歩くと、異様な光景が広がっていた。

 

「アレはアクア様への愛を試す試練なのよ。水を渇望し心の底から望む事。それは則ち、アクア様を心の底から愛する事。心の底から渇望する為にはどうすれば良いと思う?簡単よ激辛料理を口にし耐え続ける事よ。苦痛が極限に達するまで水を渇望しつつも手を着けないようにする事で己を高めるのよ。」

 

 ちょっと、わからなくなってきた。

 

 老若男女様々な人が試練?をしていた。テーブルが幾つも置かれ、皿に赤い何かが置いてある。その赤い何かを震える手で口に入れ、うめき声を上げながら咀嚼していた。涙を流し噎せながらも飲み込もうとしている。拳を握り締めテーブルに突っ伏して耐えようとしている人も居る。そんな人々を周りの住民は口笛や歓声、野次を飛ばして盛り上がっている。

 

「うわぁ…。我慢大会してる…。」

 

 ちょっと期待していたのとは別の光景だった、見ているだけで辛いや。

 

「夏は極限まで暑さに耐える試練をするわ。アクシズ教の教義では辛い事から逃げても良いわ、でも逃げずに立ち向かい水を極限まで渇望した者はアクア様を心の底から愛していると言う何にも変えがたい信仰の証明になるのよ。」

 

 私もリナさんも絶句している。変わった風習が有るんだね…。

 

「ミアさんもやったんですか?」

 

「私?やらないわよ。嫌よあんなしんどいのは、周りで野次馬してる方が楽しいもの。アレは信仰に狂った馬鹿を見て楽しむのが賢いわ。だいたい冒険者になってからは普段から水が無くて苦しんでるんだもの。私はいつだって水を渇望しアクア様への愛を捧げているわ。だから辺境の住民は皆、潜在的にアクア様への愛を捧げているのよ。水を渇望する日々の生活それその物がアクア様の愛を渇望しているのよ。」

 

 リナさんは言う。エリス教徒もアクシズ教徒も関係無く、人も動物も植物も更にはモンスターでさえも水を渇望しアクア様の愛を渇望しているのだと言う。

 ちょっと拡大し過ぎじゃないのかなぁ。でもミアさんはすごく楽しそうに話してる。過酷な生活が愛を育んでいるのと、蕩けそうな笑みを浮かべて主張している。

 

「ミアはこういう子だから。愛を語るのは良いけどもうちょい方向性を変えてくれたらね…。でも普段はしっかりしてて良い子なんだよ。」

 

 リナさんが私の肩を叩きながら言う。今はちょっと目がイッてるけど、優しい人なのは分かってるから大丈夫。好きな事を語る時は周りが見えなくなるものしょうがないよ、多少は。

 

「さあ!次はどこへ行く?私が色々案内するわ。」

 

 その後リナさんの案内であちこち行った。活気がある村で子供も大人もみんな笑顔が溢れてる。誰もが水が入った瓶や革の水筒を持ち歩いている不思議な村だった。常にアクア様(水)と共に在る為に水を持ち歩いているそうだ。

 変わってるけど、教会以外ならまた来たいって思いました。

 

 

 村の門の所で待っていると、マグナさんがやって来た。私に小瓶を幾つかとポーチや革袋の着いた革のベルトを手渡してきた。迷惑料がてらエロ司祭から貰って来たと言われた。瓶は聖水とポーションだった。

 

 私はポーションを手に入れた!

 私は聖水を手に入れた!

 

 頭上に掲げたい衝動にかられたけど、我慢した。ベルトを手に入れやっと冒険者らしくなった。今日は間に合わないからと昨日と装備が変わってなかったけど、アイテムを持ち歩くベルトを手に入れてみんなとお揃いになった。貰ったナイフも持ち歩けないからリナさんに預かって貰ってたので受け取った、これで私も冒険者だ!

 

「これでお揃いですね!」

 

 何故かリナさんが優しい目をして私を撫でた。何故に?

 

「胸甲も注文してあるから、明日には受け取れるだろう。帰りも気を付けて帰るんだぞ。」

 

 門から離れた所でウインドウォーカーを掛け、帰路に着いた。帰りはモンスターに遭遇せずに帰る事が出来、そのままギルドに直行した。

 

 ギルドに着くと私達は受付に行き討伐数の報告をして報酬を等分した。一匹辺り狼は4000エリス、蛇は3000エリスだった。端数はパーティーの予算に渡し、2万6000エリスを受け取った。初めて自分で稼いだお金だ。感動する。

 

 レベルは2に上がっていた。上級職はレベルが上がるのが遅いらしいけど、その分のステータス上昇率は大きいそうだ。ちなみに知力も幸運も上がってない。

 

「今日はここで解散だ。私はちょっと用事が出来た。」

 

 受付が終わるとマグナさんは帰って行き、私達は酒場に向かった。とりあえず、とネロイドのシャワシャワと今日のおすすめを注文した。リナさんはクリムゾンビアと言うのを注文した。ビアと聞くとビールだけどここでもビールなのかそれとも得体の知れない何かなのか。

 

「マイムにはクリムゾンビアはまだ早いよ。でも一口だけ飲んでみるぅ?」

 

 興味が有るのがバレてしまった。

 

「今日はマイムの初めての戦闘だったけどどうだった?」

 

「緊張したけど、終わってみれば割りと大丈夫でした。」

 

 初めてこの手で命を奪った。でもそれはモンスターだからで、もしそれが盗賊とか人間だったら私は戦えるのだろうか。

 

「人間だったら、って思ってる?大丈夫よこの辺りには盗賊は居ないから。何せ何にも無いから奪いようが無いもの。それに必死になれば人間何とでもなるわ、アクシズ教徒は出来る子よ。だから大丈夫。」

 

 注文したシャワシャワとクリムゾンビアが来た。

 

 

「じゃあ、今日はお疲れ!乾杯!」

 

 乾杯した後、クリムゾンビアを一口飲んだ。苦い、たぶんビールと一緒だ。私は無理。

 

「マイムにはやっぱり早いかぁ。甘いのが良い?」

 

「私は甘いのが良いです。」

 

 ほっぺたを指で突っつかないで。

 

 今日のおすすめは何かなっと待ちつつ。冒険者生活二日目が終わっていく。

 

 まだ始まったばかりだけど、優しい人達に囲まれて私は幸せです。

 

 ありがとうございます、アクア様。今日も幸せに過ごせたのはアクア様のお陰です。

 

 




アクシズ教の教義って間違った事は言って無いけど、良くも悪くもどこまでも拡大解釈で好き勝手出来てしまうと思うんです。

解釈が違っても、アクシズ教はアクシズ教でした。ひたすら前向きでへこたれない強靭な精神力を持った人々です。

リムタス氏は派閥争いに敗れ辺境へ追いやられました。辺境に来ても諦め無い強靭な心でしっかりとアクシズ教は根付き、じわじわと布教して行ってます。いつの日か全てを飲み込みアクシズ教の主流となれるように。

承認欲求って人それぞれだけど、大なり小なりあると思います。


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戦士の魂

はじめてルビをふりました。おもったよりもかんたんでした。


 ちょっとした疑問。

 別に知らなくてもなんとかなるとは思うけど、一度気になると知りたくなってしまうもの。

 

「詠唱の文言はどうやって決まっているのかだって?」

 

 今朝、ギルドで今日の予定を聞いている時にマグナさんに聞いてみた。

 

「特に決まりは無いが、使う者がイメージしやすいような文言を選ぶ事が多いな。例えば各属性ごとに、炎よ風よ水よ土よ等を基本として何を使おうとしているのか。次にどうしたいかを宣言し、最後にどう発動させるのかと言う順で詠唱しているな。」

 

 あくまでも基本は、と言う事で使う本人がやり易いように変えれば良いし。使い慣れてれば詠唱無しでも使えるし、詠唱するかしないかその辺は自由みたい。

 

「詠唱をすると言うのは精神の集中、味方への注意喚起と言う面もある。味方と連携する上で攻撃魔法に味方を巻き込む訳にはいかないだろう?それを防止する為に何をしようとしているのかを教えると言う意味でも私は詠唱をしている。詠唱無しでも屋外での戦いならまだ良いが、洞窟や遺跡等で戦うなら特に重要だと私は考えている。」

 

「遺跡…ですか?」

 

 遺跡、ロマンを刺激する言葉だ。

 

「そう遺跡だ。この乾燥地帯にはあちこちに古代の遺跡が点在している。今まで見つかっている遺跡もそれぞれで時代が違う物も多い。遺跡には古代文明の遺物や財宝、未知の技術が眠っている。この辺りで冒険者をしている者で開拓村の出身者以外はそういった遺跡の踏破を目的にしている者達も多い。」

 

 古代遺跡、財宝。おおぉ、ロマンを感じる。

 

「我ら、灼熱の風もその一つだ。私達は冒険者であり、トレジャーハンターなのだよ。」

 

 きたきたきたー、これだよ。私は眼を輝かせながら聞き入る。

 

「ここに灼熱の風が11人と言う大所帯である理由が有るんだ。遺跡が点在しているとは言え、その多くは埋もれていたり、入り口が隠されていたりする。地上を歩いているだけでは見付けるのは困難だろう?それも手掛かりは殆ど無い。見つかる遺跡の多くは依頼の途中で偶然に見付かった物が殆どだ。」

 

 マグナさんはテーブルの上で手を組みながら含み笑いをしながら言ってる。

 

「ならば、探索の専門チームを作ったらどうかと思ったんだ。だが、探索だけでは飯を食えない。資金も資材も只ではないんだ。だから私は仲間を集めた。大きなチームを組み、探索班を支えられるような枠組みを作る為にな。今、灼熱の風は3チームに別れている。一つは私達だ、主に辺境で依頼をしつつ情報を収集しながら資金を貯め人材を集める班。二つ目は都市や村々を周り依頼をこなし人の流れや物の流れから遺跡の噂等を収集する班。そして三つ目が探索班だ、彼らは辺境中を渡り歩き文明や都市の痕跡を探し遺物や遺跡を探している。」

 

 マグナさんが、手招きして私の耳にだけ伝えた。「声を出すなよ、実は既に幾つかの遺物を発見している。我らが遺跡に踏みいる日も遠くないだろう。」と。

 

「!」

 

 口を押さえて声を出さないようにしながら聞いたけど、驚いた。古代遺跡、古代遺跡だよ。

 

 私が他の三人を見回すと、指を口の前に立てていた。ああ、そりゃ知ってるよね。私は興奮していた。未知の遺跡、冒険だよ。ねぇ!

 

「踏み入ったならば、私達は集結し。一丸となって踏破と探索を行う。マイム、君の能力は稀有だ。前衛と支援回復をこなせ、高い機動力と攻防に優れた人材なんだ。まだレベルは低いが私達が君を育て上げる、だから私達の力となってくれ。君を信頼し期待しているからこそ話したんだ。」

 

 出会ってまだ三日目。でも私はとても濃い三日だったと思う。とても大切な秘密を打ち明け、私をこんなにも必要としてくれた。嬉しい、今涙が出ているだろう。こっちに来てから涙腺が緩いと思う。でも仕方ないよね。私の答えは決まっている。

 

「もちろんです。私を、こんなにも信用と期待してくれてありがとうございます。私、頑張ります!」

 

 ここで引くとか出来るわけ無いじゃん。

 

「そう言ってくれると信じていた。ありがとうマイム。」

 

 マグナさんは柔らかく笑った。こう、なんとも言えない感覚がした。嬉しいとはちょっと違うようなでも、こう胸が高鳴るって言うかなんだろうこの感覚。

 

 マグナさんと握手をした。大きくて力強い手。まるでお父さんみたい。

 

 秘密を共有した四人は微笑み、より深く繋がった。

 

「さて、そろそろ行こうか。今日はマイムの胸甲を受け取り、依頼へ行こう。」

 

 今日の依頼は隣の村周辺で目撃されている砂狼の群の討伐と群のボスで上位種のモンスターの討伐だ。

 砂狼よりも大きく素早い上に歳を経た個体は魔法を使うと言う魔獣デザートファング。本来の生息地から流入し幾つもの群を従えているそうで手強いらしい。私に出来る事は全力で戦う事だけ。仲間を信じこの手に勝利を!

 

 ちょっと格好付けました。頑張ります。

 

 この脳内一人モノローグ、ちょっとヤバいクセなのは分かってるけど辞められない。だって、寂しいじゃん。ほら、内なる私達が聞いてるって思うと一人じゃないって思えるって言うか。

 

 

 

 (マイムは少々ボッチを拗らせ過ぎている。どこかのボッチアークウィザードとは仲良く出来るかもしれない。見知らぬ人に話し掛ける勇気が出ればだが。)

 

 

 

 ギルドを出た私達は村の鍛冶屋に来ていた。40代のおじさんとその家族で経営している村で唯一の鍛冶屋だ。マグナさんが言うには元々は領都で営業していた鍛冶屋だそうで、腕は良いそうだ。

 そこで私は胸甲を受け取った。

 

 私には胸甲と言うと、肩から腰の上くらいまでを覆う分厚い板金鎧と言うイメージがあった。史実で言うと徳川家康の南蛮胴具足かな。歴史の資料集とかで写真を見た覚えがある。ああ言うゴツいのを想像していて、重そうだなと思っていた。

 

 私が受け取ったのは、胸を覆う部分は黒く染められた金属製のプレートが着いているけれど、横や背中は茶色で分厚く硬い革が重なったような板札(いたざね)で作られていて身体の動きを制限しにくくなっていた。鎧を着る以上動きに制限が出るのは仕方ないけれど、これならあまり重く無いし動き易そうだ。

 胸部から下は薄手の革と厚手の革が重ねられていた。上から被るように着用するみたい。

 

 鍛冶屋さんに着せられ細かい調整を行ってから受け取り鎧についての説明を受けた。

 

「胸部は衝撃と矢や鉄杭を受け止め弾くように鋼で作ってある、背中と横は動きを妨げ難く衝撃にも耐えられるだろう。腹の部分は革を重ねることにより動きやすく衝撃と刺突に対してもある程度の防御を持たせてある。お前さんら冒険者なら防御系のスキルと合わせれば充分な防御力になるだろう。」

 

 鍛冶屋のおじさんの説明は続く。

 

「俺に言わせりゃ鎧は壊れてなんぼだ、壊れてでも中身が無事ならそれで良い。鋼で全て覆えばそりゃ硬い。だが衝撃は鎧を貫き身体に届くだろう。防御スキルを使えば身体は斬擊や刺突に強くなる、だが衝撃は内臓に響く。だったら鎧が衝撃を緩和すれば丁度良いだろう。お嬢ちゃんは前衛だ、衝撃で呼吸が乱れりゃ一瞬でも隙が生まれちまう。それを補うのが防具だって覚えときな。」

 

 私は鎧に詳しくないし、そんな風に考えて作られてたんだ…。硬ければ強いって思ってた。

 

「ありがとうございます!」

 

 職人は使う人の事も考えて物造りをするって、どこかで聞いた覚えある。誰に聞いたんだっけ…。

 

「おう、頑張んなお嬢ちゃん。」

 

 

 鍛冶屋を離れ、村から出て依頼先の村へ向かった。道中は一度の戦闘で砂狼が20頭も居た。今回は昨日と違ってマグナさんの魔法を主力として討伐した。

 

 魔法って凄い、でも同時に恐ろしい。私は戦闘の様子を思い起こしていた。

 

 

「マグナ、この先の曲がり角の向こうの崖下の日影に狼が20。半数が寝てて残りが警戒態勢を取ってる。」

 

 例によってミアさんが先行して偵察をしていた。

 

「20か。例の群の一部かな。私がまとめて殺る。ミアは崖の上で奇襲の警戒と追い立てを。二人は私の直衛についてくれ。」

 

 マグナさんの指示で私達は配置に着く。ミアさんが弓で狼を追い立てて私達に向かわせ、私達は狼を引き付け時間を稼ぎつつ出来るだけ一塊に追いやる役だった。

 

 寝ていた所に急に射掛けられ混乱している所に、私達が分かりやすい敵として引き付けて、斬り伏せ殴り殺し狼達をマグナさんに近付けないようにしていた。そして、詠唱が聞こえ私達は待避した。

 

 

火精(サラマンダー)の如き、灼熱の吐息よ。我が眼前の獣共(けだものども)()き尽くせ。」

 

「ヒートウェイブ!」

 

 マグナさんのタクトの先の景色が揺らいでいた。目には見えないけれど待避した私達も熱気を感じた。

 揺らぎは瞬く間に狼達を飲み込み、口から断末魔と泡を吹き倒れていった。

 

 私達が倒した分を抜いて残り14頭の狼が二秒程で死んでいった。

 

 倒れた狼達からは少し湯気が立ち上っていた、初めて見る範囲攻撃魔法。凄いと同時に恐ろしさも感じる。

 目に見えない力が命を奪う。熱気。サウナどころじゃない猛烈な熱量で、身体を蒸されて殺される。目の前で見て震えた。殺さなければ殺されるこの世界は残酷だけど美しい。全力で生き、全力で殺し合っている。

 

 私は全力で生きる。死なない為に。仲間を殺させない為に。モンスターも一緒なんだろう、でも私が勝つ。

 私がこの拳で殺す。この世界が厳しいなら、私も立ち向かう。

 

 

 狼を討伐し、道の脇に死体を固めマグナさんがまとめて焼いた。

 

「炎よ、死せる戦士達を天に送り届けよ。」

 

「フレイム!」

 

 マグナさんは言った。モンスターとは言え死体と怨念でアンデッド化することがある、だから焼くんだ。

 その後ちょっとだけ悲しそうな表情で言った。コイツ等も生きて家族が居た。私はそれらを殺すんだこれからも、だから戦った相手はたとえモンスターでも戦士なんだ。勇敢な戦士の魂を地上でさ迷わせる訳にはいかない。だから私が亡骸を焼き天に届けるんだ。本当に天に行ったかはわからない。だが生まれ変わるなら、今度は肩を並べて戦いたいものだ。

 

 この世界の死生観の事はよく知らない。でも私もそうだったら良いなと思った。

 

 

 焼き終え、ミアさんが警戒を解いて戻ってきた。全員装備と負傷の有無を確認して村へ向けて再出発した。

 

 




皆さんは脳内一人モノローグってやりませんか?
やりませんか、そうですか…。

ファザコン(?)を発症。

マイムの一人称だと割りと中2的に暴走して文が書けます。他人から見て面白いかどうかは兎も角。

マグナなら
「勝利かソブンガルデかだ。」
とか言ってても様になりそうだと思った、書かんけど。



狼20討伐


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俺達の女神様


性癖の発露たる二次創作なれども、お気に入りが増えているのは嬉しい。

ありがとうございます。


 道中警戒しつつもモンスターとの遭遇は無く、私達は無事に村の近くまでは来た。

 

 風に乗って怒号や遠吠えが聞こえて来て、私達は急ぎ村へと向かう。

 

 村を砂狼が襲っていた。

 

「光よ、(いわお)の如き、鎧を成せ。プロテクション!」

 

 マグナさんが直ぐに私達へ向け支援魔法を使い、散開して狼達を撃破するように伝えた。

 

 私とリナさんは弾かれる様に走り、狼へと襲い掛かった。

 

 まずは一。近くに居た狼の背へと手を伸ばし掴んだ、そして勢いのままに地面に投げ付け首が折れた、次っ!。投げた狼の後ろに居たのが飛び掛かって来たので裏拳で頭を殴り潰した、これで二。

 次で三、私の方を向いた狼の頭を右手で握り潰した。手に着いた血を振り飛ばし狼に目潰しをしがてら近付き、怯んでいる所を回し蹴りで飛ばした。蹴った足を戻しながら踵落としで頭を潰した四頭目。

 私を殺しに来はじめた狼達に、わたしは叫ぶのスキルを使い雄叫びを上げた。響き渡る大音声により近くの狼達は怯み、遠くの狼達は私に引き付けられた。

 

 丁度良く私に対して纏まった数が来た。毎晩の特訓の成果を冥土の土産に見せてあげる。

 

 威力を少し落とし貫通力を下げた、闘気の凝縮をやや下げ素早く形にする。そして大きく広がるイメージで撃ち出す。

 

「波動拳!」

 

 珠から皿の様な形に広がり一撃で七頭の狼を薙ぎ払い吹き飛んで行く。これで拾一。

 

 

 !、応戦している村人が引き倒され、今にも喰らいつかれそうになってる。

 

 私は疾走する(走る)、より速く。そして飛び蹴りを放つ!

 

 間一髪、間に合った。狼の前足の上辺りから上は吹き飛び、血肉が散乱した。村人さんは…ごめんなさい。血塗れになっちゃった。腰が抜けた村人を担ぎ上げ、村の柵に近付き中に投げ込んだ。少々手荒だけど許して欲しい。これで十二。

 

 まだまだ多くの狼達は村を襲っている。

 

 私は柵の前に陣取って構え直し、狼達を睨み付けながら辺りを見回した。皆は…。

 

 

 ミアさんは走りながら狙撃を繰り返し、応戦する村人を援護している。狼に近付かれたら、腰に差した金槌で狼の頭をカチ割って距離を取りながら村人の援護に徹している。

 

 リナさんはあの大鉈で狼を幹竹割りにし続けている。片っ端から斬り伏せて回ってて夥しい死体の山で私よりも明らかに多くの狼達を倒している。

 

 マグナさんは…アレ何だろう…左手を振る度に狼がバラバラになって吹き飛んでる。右手のタクトではフレイムウィップを使ってるのは分かるんだけど。

 

 心配はいらないか、むしろ皆チラチラとこっちを見てるし。そうだよね初心者の私と違って皆はベテランだもんね。よし!もうひと頑張りしよう!

 

 直ぐに村人を助けられるように柵から離れ過ぎ無い様にしつつ、私は戦う。

 

 拳で掌底で蹴りで頭突きで裏拳、体当たりと。思い付く限り身体中を使って戦い続けた。

 何度か咬み付かれ、いくら防御が高くても素肌に牙を突き立てられれば血を流す。痛みに涙目になりながらも気功で継続的に回復しながら戦った。途中で数えるのは止めた。ほんとうにうんざりする数だった。

 

 そして、目の前の狼の頭蓋を手刀で斬り落とし。辺りを見た。もう、立っている狼は居ない。村の外の狼は殆どを倒せたと思う、遠くに逃げ出す狼の姿が見えた。

 

 大きな息を吐き、私は座り込んだ。

 

「疲れた…もういい、今日は閉店です。帰ってね。」

 

 意味不明な事を呟いてしまう、ほんとうに疲れたよ…。ああ、しんど。

 

 

 座り込んで項垂れる私に誰かが勢い良く抱き付く、踏ん張りが利かなくてそのまま倒れた。あー、お空が青いや。

 

「マイム!怪我してる!だいじょぶ?泣いてる?」

 

 何故かリナさんが片言みたいな口調で話し掛けて来た。うん大丈夫と返すけど、起き上がる力も出ないや。

 

 ミアさんが私からリナさんを引き剥がして、ポーションみたいなのを口に流し込んでる。何だろう、あの濃い緑のドロッとした奴。

 

 リナさんは飲み込んだけど、口を抑えて蹲ってる。なんかすごく、ほんとうにすごく青臭い匂いがするんだけど。大丈夫なのアレ。

 

「お疲れさま、マイム。」

 

 ミアさんが私を起き上がらせて、片手で抱き締めながらもう片手で後頭部をぽんぽんしてくる。

 あー、なんか落ち着く。

 

 あ、リナさんが復活した。苦マズ酸っぱうぇ、うぇ。って呟きながら口から唾を絞り出して吐いてる。ほんとに何だったんだろうアレ…。

 

「アレは気にしなくて良いわ。あとマグナはトドメを刺して回ってるからそのうち戻って来るわ。怪我、大丈夫なの?」

 

「戦いながら治療したから大丈夫。まだちょっと痛むけど、もう少しで治るから。」

 

 もう一度お疲れ様と言われ、そのまま休んで居るように言われた。ちょっと横になろう…。

 

 

 

 マグナさんが戻って来て、三人は何か話してた。そのあとミアさんが私の横に腰を下ろして、話しの内容を教えてくれた。

 

 マグナさんが村との交渉とかに行ってるから、その間はミアさんは狼が逃げていった方への警戒と監視。私はしばらく休憩。村には怪我人がいっぱい居るだろうから、手当てを頼む事になるかも。ってさ。

 

 ミアさんが頭を撫でてる。気持ちい……。

 

「寝ちゃったか。まあ、しょうがないか。まだ冒険者になったばっかで、こーんな八面六臂の大活躍だもんね。」

 

 いくらステータスが高くても、ただの女の子なんだし。ちょっと寝かしてあげよっと。

 

 監視を続けながらミアは子守唄の様に鼻歌を歌いながら座り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 身体が揺れてる?、誰かが呼んでる?

 

 声が聞こえる様ような…

 

「フッ」

 

「うひゃぁ。」

 

 耳に息を吹き込まれ、驚いて起きた。

 

「おはよう、お寝坊さん?」

 

「おはようございます。」

 

 目覚めたばかりで混乱していると。

 

「目は覚めた?まだならー、くすぐっちゃうよ?」

 

 起きます、起きます。一番早起きなミアさんがなかなか起きない私達に地獄の擽りで起こす朝の、朝の?あ、。

 

「ご、ごめんなさい。寝てしまってすみません。」

 

 即座に土下座した。仕事中に寝ちゃうとか、絶対にやっちゃいけないやつだ。

 

「いいっていいって。大活躍だったからしょうが無いよ。いや大丈夫だから、土下座とかやめて!ね?ね?」

 

 ミアさんは焦って私を起こして、抱き締めて止めた。やわらかい。

 

「もうっ。さてお仕事するよ。マグナが話しを付けて来たから、私達は怪我人の手当てをするの。マイムはヒールで怪我の重い人から治療をお願いね。」

 

「わかりました。」

 

 名誉挽回だ、張り切って治療しよう!はっ、ここはアクア様の写し身の私が治療して回ればきっとアクア様の尊さの布教になるはず。アクア様に成りきって治療しなきゃ。

 「僕」の記憶にあるあの神々しい美しさと優しさを兼ね備えた、アクア様の姿を皆にも教えてあげなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 村長は昨晩から散発的に狼に襲われていたのだと言う。一気に攻めて来る訳でも無く、村の男衆と狩人達で撃退出来ていたと言う。だが襲撃と不安で睡眠は妨害され、確実に体力を削られていたのだ。

 

 そして夜が明けても、村の周りをうろつく狼の姿。そして、本当の襲撃が始まった。

 

 村を取り囲む様に狼が集まる。だが無秩序に襲い掛からず、何かを待っているようで不気味な静けさが漂う。

 

 そして村人達は見た。太陽に照らされた金色の毛並みを。他の狼達よりも二回りは大きな巨体を。

 

 そして、狼達が襲い掛かって来た。

 

 最初の襲撃以降柵以外の場所はバリケードで塞ぎ、たまたま村に来ていた行商と冒険者達は村人に指示を出しながら防衛せんとした。

 

 弄ぶ様に少しずつしか狼は襲って来なかったが時間と共に狼は増えていった。柵に張り付き手製の槍で狼を突き立てる村人達も疲労で手が震え、空振るばかり。バリケード前で戦っていた冒険者達も負傷し中へ引っ込み、狼の侵入を防ぐのでやっとだった。時折、高く跳んだ狼が侵入し村の中でも戦い始めいよいよ死を覚悟しなくてはならなくなってきた。

 

 

 そんな時にあなた方が来たんだ、と。涙ながらにマグナの手を取り村長は語った。

 

 聞きながらマグナは思う。もう本当にギリギリだったんだなと。あと10分いや5分程遅れていれば手遅れだっただろう…。内心冷や汗をかきながらも表情には出さない。

 

 

 

「それで、そのぅ。厚かましいとは思うのですが、ポーションを分けて頂けないでしょうか?見ての通り負傷者が多数でして、村の蓄えや行商人の方の持っていた分も尽きてしまいまして…」

 

 

 言わんとする事は分かるが、この人数ではとても足りないだろう…。だが。

 

「申し訳ないのですが、ポーションではとても足りないでしょう。」

 

 聞いた村長は項垂れる。

 

「ですが、仲間がヒールを使えます。重傷者優先でしたらお力添え出来るでしょう。」

 

「ありがとうございます!っで、では早速…。」

 

「村の外で待機して居ますので呼んで来ます。」

 

 村長の言葉に被せ気味で言う。魔力が尽きたらポーションも分けるか…と思いつつも悩むマグナ。

 

 

 

 

 リナさんと一緒に村へ入った私は息を飲んだ。

 

 そこかしこに大人も子供も冒険者も村人も皆が怪我をしていた。軽症が多数とは言え無傷な者は少ないだろう。そして身体中から血を流している冒険者の姿が有り私は駆け寄った。

 

 

「はは…幻かなぁ…。こんな所に別嬪さんが見えらぁ…。」

 

 その少年は剣士だった。傍らには長剣(ロングソード)が転がっている。彼の仲間が上半身を胸に抱え泣いていた。彼は息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。

 

「最期に見るのが…狼や兄貴の面じゃなくて、こんな別嬪さんなら…幻でもいい、かぁ…。幻でも、ああ…。別嬪がふ…たりか。悪くねぇ…最期、だ…。」

 

 

 私は彼に近付き横にしゃがみ込み、力無く投げ出されたその手を取り胸に抱いた。

 

「幻じゃありません。必ず、助けます。」

 

 微笑み優しく語り掛け、詠唱をする。

 

「清浄なる光よ、傷付き倒れ伏す者達に、再び立ち上がる力を授けよ!」

 

「ヒール!」

 

 私は自身を中心に拡がって行く様に、かなり魔力を多めにして発動させた。

 

 目の前の満身創痍の少年の傷は塞がっていく。彼を抱く仲間も、その横で見守っていた少女も、呻き腹を押さえていた中年女性も周囲の幾人もの村人達も。皆、一様に傷が癒え驚愕と喜びを口にしていく。

 

 

「幻の別嬪さんじゃなくて、女神様だったか…。」

 

 そんなうわ言を口にすると、剣士の少年は気を失った。

 

「良かった、良かった…。助かった。ライル…。」

 

 彼の仲間の少年は安心して呟く。

 

「ありがとうございます!俺達を、皆を助けてくれてありがとうございます!」

 

「誰かを助けるのに、理由なんて必要無いですから。お大事にね。」

 

 私は微笑み手を離し、次の場所へ向かう。まだまだ沢山の人が助けを求めているんだから。

 

「(掴みは完璧!この調子で女神様ムーブしよう!とりあえず気功使いながらにしよう、思ったより魔力持ってかれたし。)」

 

 心の声はちょっと残念だったが…。

 

 

 もうダメだと泣きながら繰り返す青年の手を取り、励ます。

 

「上手く行かないのはあなたのせいじゃありません。このどうしようも無い世間が悪いんです。この怪我も私が治しますから、どうかもう一度頑張ってみませんか?今度はきっと上手くいきますよ。」

 

 足が!足が!とのたうつ少女を抱き締め落ち着かせる。

 

「大丈夫です。私が今助けます…。さあこれで傷は癒えました。涙を拭いて、一緒に立ち上がりましょう。大丈夫ですよ?ほらね。もう大丈夫よ。」

 

転んで血を流している幼女を撫でながら抱き締め。

 

「恐かったよね。もう大丈夫よ、怖い狼さん達はお姉さん達がやっつけたから。痛いの痛いの飛んでけー(ヒール)。ほらね、もう痛く無いでしょう?」

 

男を女を子供も大人も重傷も軽症も目に付く限りを癒して回る。それも安心させる様な微笑みと共に。

 

 心を奪われる男は多く、女性も見惚れる笑みを撒き散らし救い歩く。やがて、あちこちから、天使や女神と言った囁きが聞こえだした。

 

「(完璧!私のイメージのアクア様出来てる。劣化コピーの私じゃこれが限界だけど、頑張ってアクア様の尊い姿を布教していくんだ!)」

 

 脳裏には、あの時見たアクア様。死んだ者を迎える慈しみに溢れた女神様。優しく微笑み掛け親身になってくれた姿。安心するような朗らかな笑みと共に送り出してくれた姿。

 

 私の心を支えるのはアクア様への恩返しが大きな部分を占めている。この世界の人達は、あのお方のお姿を見る事は出来ない。だからこそ私がそれを伝えなきゃいけない。

 

 女神様は人間を愛し、慈しみに満ちていると。

 

 (マイムにとって女神エリスは、パッド神という刷り込みが強くて存在にすら思い至らない。)

 

 

 そして、最期の一人を治療する。

 

「光よ、傷付くも力強い戦士に、癒しを与えよ!」

 

「ヒール!」

 

 最後の一人はリナさん。あの後、口を濯いでから黙々と狼のトドメを刺して回り最後に村に入って来た。

 

「ありがとう、マイム。」

 

 微笑み、礼を口にするリナ。

 

「しっかし、すごいね。まさか全員治療出来ちゃうとかさ。手持ちのポーションを村人に分ける必要も無くなったね。」

 

 ポーションを手に持って振りながら言うリナさん。

 

「ええ、そうですね。重傷者が少なくて何とかなりましたから、それも大きいですね。」

 

 気功を使いながらでも、重傷者の治療には多めの魔力を持って行かれてたから。もっと多い重傷者だったら力尽きてただろう。

 

「しかも、アクシズ教のシンボルを首から下げとくとかアピールバッチリじゃん。」

 

 笑いながら胸元を指差してくる。

 

「あー、とりあえず。マグナ待ちだね。」

 

「そうですね、ちょっと聞きたい事が有るんですけど、良いですか?」

 

「何?いいよ。」

 

「さっきの緑色のすごい奴、アレ何ですか?」

 

「アレはねー、気付け薬だよ。ベルセルクのスキルの解除に使ってるんだ。無しでも時間が経てば解けるけど、アレをの飲むとすぐなんだ。すごい味だけどね…。で、ベルセルクのスキルって言うのはね。筋力、生命力、俊敏性が大きく上昇する代わりに知力が激減するスキルなんだ。だからああいう殲滅戦以外だとなかなか使えないんだ。」

 

 味を思い出したのか顔を歪めながら言う。

 

「アレはね、瀕死でも余りの不味さに飛び起きるって言われてるんだ…。」

 

 絶対に、飲みたくない。

 

「錯乱やバーサクしたら飲まされると思うよ?」

 

 錯乱やバーサクしないように気を付けよう。絶対に。

 

「マグナが来たね。」

 

「疲れてる所悪いが、もう一仕事だ。明るい内に柵とバリケードの補修を手伝う事になった。終わったら村で一泊して、明日は山に入って残党とボス狩りの開始だ。」

 

 ボス狩り。なんとなく心躍るフレーズ。

 

 

 

 柵は木の棒を狭い間隔で立てて、間を動物等が通れない様になっている物で柵の前には深くは無いけど空堀もある。

 

 倒れたり、折れた棒を取り替えて補強を施して行った。村人の男衆総出と私達とあの負傷していた冒険者達でやっている。頭数が居るので2時間程で終わった。日が傾いて来ている、たぶん4時くらいかなぁ。

 

 マグナさんとミアさんと村の狩人達は、柵の外に獣用の罠や魔法の罠とかを仕掛けている。ここからじゃ地面で何かしてるくらいにしか分からないかな。

 

 遠くからマグナさん達を眺めて居ると、冒険者の男の子二人に声を掛けられた。さっきの子達だ。

 

「さっきはありがとう。お陰で死なずに済んだ。ほんとうにありがとう、君は俺の命の恩人だ。」

 

 言ったのはライル君、さっき重傷だった少年剣士の子でたぶん12歳くらい。150無いくらい140前半かな、ちっちゃくて可愛い。茶色の髪に緑の瞳が綺麗な男の子。仲間内だとさっきみたいにもっと砕けた口調何だろうけど、今は緊張してるのか大人しい。

 

「あなたは僕達全員の命の恩人です。ほんとうにありがとうございます。僕はライルの兄でニールです。」

 

 ニールさんは17歳くらいで170ちょいくらいで細身。プリーストっぽい格好をしてる大人しそうな青年。

 

「私は私に出来る事をしただけだよ。間に合って良かった。」

 

 これは本心。布教も大事だけど、目の前で困っている人が居て私に出来る事が有るならそうしたい。

 

「あ、えと。お姉さんの名前を教えてください!命の恩人の名前も知らないなんてダメだと思うから。」

 

 真っ赤になってライル君が聞いてくる。ちょっとイタズラ心が湧くけど我慢我慢。

 

「私はマイム。冒険者チーム灼熱の風のモンクよ。」

 

 普通はパーティーって言うのかも知れないけど、私達はチームだから。

 

「モンク…上級職だっけ。すごい!」

 

 目をキラキラさせて反応する。貰い物の力だからちょっと後ろめたい…。

 

 

「上級職の方でしたか、なるほど。獅子奮迅と言うのが相応しい程で大活躍されていたのも納得です。他の方達もそうなんですか?」

 

 冒険者の職業には詳しく無いから、リナさんの方を向いてみた。

 

「上級と中級の混成って所かな。私はウォリアーで後はハイウィザードとハンターだよ。ただ上級中級はたぶんあんまり関係ないよ。うちのリーダーは魔法戦士からの転向で近接も魔法もどっちも強いし。レベルとステータスの結果さ。」

 

 そして何故か私の方を向いて言う。

 

「レベルを上げて物理で殴れって昔から言われてるでしょ?私達はただ高ステータスでゴリ押しただけだよ。」

 

 それは暗に私に脳筋って言ってるのかな?事実だけど。それとも、もっとレベルを上げて物理で殴れって?

 

「あ、はい。」

 

 なんか言葉に圧力が有るんだけど、どうしたんだろう。ニールさんは押し黙った。

 

「全員強いとかすっげー!」

 

 ライル君は可愛いなー、撫でたら怒るかな。無性に撫でたい。

 

 というか撫でた。

 

「子供扱いすんなよ。俺だって冒険者なんだからさー。」

 

 でも、嫌がらない。可愛い。

 

「えらいえらい。」

 

 口を尖らせてスネちゃったか、ごめんねー。

 

「では、僕達はこれで失礼します。」

 

 逃げる様にニールさんは去っていく。

 

「ありがとうマイムお姉さん。お姉さんは俺達の女神様だよ!」

 

 顔を真っ赤にして、女神様と言い走ってニールさんを追いかけて行った。

 

「女神様、か。」

 

「充分に女神だったよ。村人全員と冒険者、行商人を笑顔を絶さず励ましながら治療して回ったんだから。ほーら、誇って良いんだよ。マイムのお陰で何人も死なずに済んだんだから。この村では充分に女神様さ。」

 

 私の肩を抱きながらリナさんは言った。だとしたら嬉しい。アクア様の布教、それだけじゃなくて達成感がある。

 

 

 私達は先に村長宅へ向かうことにした。

 

 

 

 




ミアさんは狩人なので弓だけでなく、接近戦も結構強いのです。金槌を持ってるのは鈍器なら磨がなくて良いから楽が出来、メイスとかじゃなくて金槌なのは軽くて携行しやすく、素早く振り抜ける為です。

マグナさんが使ってた謎魔法はゆんゆんが使ってた中級魔法でブレード・オブ・ウインドです。手を振る度に風の刃を飛ばす奴でバラバラ死体を量産してました。

マイムは渾身の女神様ムーブです。

リナさんの言葉に圧力があるのは、職業の高低で判断する奴の空気を感じ取ってイラッとしたからです。


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寄り道ウィザード

 村長宅前は()せかえる程の血の匂いが立ち込めていた。

 

 

 

「あー、血抜きかー。新鮮だもんね。」

 

 鍋の中は血の海、そこかしこで倒した狼の血抜きをしていた。

 

 私はそういうのは詳しく知らないけど、首を切った狼を吊り上げたりして血抜きしていた。辺境の村々では狼肉を食べるのは一般的と言うか、ろくに家畜も育てられ無い村も多い。その為、必然的にモンスターを食べるしか無くなるらしい。

 

 ギルドの酒場で食べた狼ステーキ、美味しかったな…。

 

 そんな訳で、今日は村でご馳走になる事になりました。

 

 ブラッドソーセージと言う物も作るらしい。私は実物を食べた事無いのでちょっと楽しみ。今日調理する分だけでなく、干し肉や塩漬け肉も作ると聞いた。未知のご当地料理的に楽しみで仕方ない。

 

 

 私達を見ると子供達が駆け寄って来た。

 

「おねえちゃんたちありがとう。」「ありあとー」「ありがとうございます。」

 

 子供達は口々にお礼を言いながら抱きついてくる、可愛い。私のヴァルハラはここにあったのか。

 

 しゃがみ込み、子供達と目線を合わせた。

 

「お姉ちゃん達は村長さんに会いに来たんだけど、どこに居るかわかるかなぁ?」

 

「わかるー。」「こっちこっちー。」「村長さんはこっちだよ。」

 

 子供達は私達の両手を引いて行こうとする。

 

「じゃあ案内してくれると嬉しいな。」

 

 私達の両手に何人もの子供達が手を繋いだり握ったりして団子状態になって歩いて行く。

 

 

「おじいちゃん、冒険者のお姉ちゃん達が来たよー!」

 

 一人の女の子が大きな声で呼びながら駆けて行く。

 

「おお、こちらです。もうすぐ焼けますので少しお待ち頂けますかな。」

 

 肉の焼ける匂いに生唾を飲み込む。村長達は狼肉を焼いていた。そう言えば、お腹が減ったなぁ。

 

 周りでは子供達がキャッキャッと遊び回っている。和む。やけたー?まだー?と声がしている。

 

「お待たせしました。この度は誠にありがとうございます。」

 

 そう言いながら、皿に焼きたての肉を渡して来た。

 

「是非とも、お召し上がりください。まずは我らの村を救った英雄にこそ食べていただきたい。」

 

 私達は皿を受け取る。爪楊枝みたいな鉄の串が刺さっている。肉汁が滴り…ああいただきます。味付けは塩だけだけど、これだけで良い。むしろ塩だけが良い。

 

「今晩は細やかなれども宴とします。見てわかる通り食材は尽きる事も無いでしょう。肉ばかりですがお楽しみ戴けたら幸いです。」

 

 周囲では延々と血抜きや解体が行われている。

 

「マグナ殿からお聞きやも知れませが、今晩は我が家にお泊まりいただきます。」

 

 村長さんとの話はリナさんがしている。今日は村に泊まって明日は山に行くが、村をベースキャンプにして数日掛けて討伐を進める事になるみたい。私の手を子供が引っ張ってるけど、指でしーっとして子供の頭を撫でる事にした。

 

「とりあえずマグナ達が帰って来るまで待機ね。子供達の相手はよろしく。私は今のうちに武器の手入れしてくるね。」

 

 リナさんは村長さんに連れられていった。モンスターを一掃した後、剣の血を布で拭っただけでまだ血が付着しているので早めに手入れしたいそうだ。

 

「おねーちゃん、あそぼー?」

 

「うん、いいよ。」

 

 とりあえず私は子供達と遊んでおこう。

 

 

 

 

 

 1時間程してマグナさん達が帰って来た。村長宅の前には肉を焼く台やお酒の入った瓶などが準備されていった。村人が集まって来て、後は主賓が揃うのを待つのみだった。

 

 

「待たせてしまったな。」

 

「お帰りなさい。」

 

 マグナさんとミアさんが戻って来た。村の狩人達も一緒のようだ。さて、これで揃ったかな。

 

 

 村長の奥さんがマグナさん達に杯を渡し、お酒を次いでいった。私?私は薬草茶だよ。ミント系の何かでスッとするやつ。待ってる間にも戴いて、後で茶葉を分けて貰える事になった。

 

 村長さんが杯を手に持ち、口上を述べる。

 

「皆の者よ静かに。まずは村を代表して、お礼を申し上げる。灼熱の風の皆さん、風の導きの皆さん。この村をお救いいただき誠に誠にありがとうございます。今この瞬間を迎える事が出来たのも皆さんのお陰です。そして村の同胞達よ、お前達も諦めずよく頑張ってくれた。皆の働きが有ったからこそ、今私達は生きている。そして、マイム殿。あなたのお陰で村人が一人も欠ける事無く生き延びられた。あなたはこの村にとって女神と言っても過言ではありません。ほんとうにありがとうございます!」

 

 村長さんはそう言い頭を下げた。面と向かって言われ気恥ずかしいけれど、誇らしくも思う。

 

「さて、皆の者よ。腹は減っているな?私達の前には充分に焼かれた肉と酒が有る。言わずとも分かるな?今宵は宴だ。皆の健闘を祝う宴だ。存分に楽しめ!」

 

「乾杯!」

 

 村長さんの乾杯と共に皆が杯を掲げ乾杯した。乾杯するとお酒を飲む者、肉を取りに行く者、隣合う者と歓声を上げながら抱き合う者。様々だけど誰も彼もが嬉しさを表していた。私も肉を取りに行こっと。

 

 

「俺がよそってやるよ。」

 

 村の男の人が肉を皿によそってくれた。他にもいっぱい食べろよとか、あんたは村の恩人だとか。子供達がドライフルーツを渡して来たりとかで人に囲まれた。知らない人に囲まれるのは苦手だったけど、今日は大丈夫だった。みんなと一緒に作業したり遊んだりして打ち解けられたからだろうか。

 

 でも、

 

「うちの息子を婿にどうだ?」

 

 これはいただけない。丁重にお断りしました。もっとも、言ってきたおじさんも冗談だったようで。周りから、お前の倅とじゃ釣り合わねえって。とか言われて笑ってた。私も自然に笑えてた。

 

 元の場所へ戻ると、ミアさんは村の狩人達と罠がどうだ痺れ草がどうとか杯を片手に盛り上がってる。

 

 リナさんは杯片手に村の男衆と腕相撲をしていた。負けたら2杯飲むんだとかで、酔い潰れるまで往くぞーって声も聞こえる。

 

 マグナさんは肉が山盛りになった皿を前にチビチビと飲んでた。私に気付くと片手を上げた。

 

「マグナさん、今日もお疲れでした。」

 

「ああ、お疲れさん。」

 

 お互い喋らずに、山盛りの肉と格闘する。塩加減が絶妙でうっま!付け合わせに貰ったピクルスもさっぱしてて良いし、時々ドライフルーツで口直ししてまた肉を食べてと。お互いに大変忙しい。

 

 私は肉が半分くらいに減った所で口を開く。

 

「レベルが上がったんですけど、今後はどういうスキルを取っていったら良いでしょうか?」

 

 そう、今日の戦いでまたレベルが上がった。レベルは5に上がった。相変わらず、知力と幸運は上がらない…。

 

「そうだな。今日の戦いで不足を感じた所を補う様なスキルを取っていくのが良いだろう。俊敏性や器用度の向上等がいいのではないかな?」

 

 確かにそうかも。もっと速ければ敵に攻撃される前に反撃出来るかも知れないし、もっと器用なら的確に攻撃出来たかも知れない。

 

「そうですね、そっちの方を上げてみます。魔法はどうしましょうか?ヒールだと広範囲の治癒だと魔力を大きく消費するので、エリアヒールを取ろうかと思うんです。」

 

 今回みたいに村人の治療が必要な事も有るかもしれない。

 

「悪くは無いが、効率化や消費軽減系のスキルが有るはずだ。そっちの方がスキルでの魔力消費も抑えられるはずだ。」

 

 なるほど。そっちは気が付かなかった。魔力効率が上がればヒールでの範囲治療も消費が落ちるし。

 

「私の経験上だが、ある程度レベルが上がったら一度冒険者に転職して色々なスキルを習得するのも手だぞ。」

 

「冒険者ですか?」

 

「職としての冒険者だ。アレはステータス補正が無いが、その代わりにあらゆるスキルや魔法を習得する事が出来るんだ。転職には手数料が掛かるが色々と便利なスキルを取っておいても良いだろ。私はプリースト系、盗賊系、狩人系と幾つか習得しているんだ。まあ、そのせいで着いた渾名が寄り道ウィザードなんだがな。そんな寄り道してるからアークウィザードに成れないんだとか言われるよ。」

 

 マグナさんは苦笑しつつ言った。そんな手も有るんだ、そのうちやってみよう。

 

「後はそうだな。私の場合だが、いつまでもハイウィザードなのにはちゃんとした理由がある。職業は上位ほど専門性が上がり成長補正が大きくなる代わりに補正が下がる物もある。アークウィザードはハイウィザードに比べ知力と魔力が上がり易いが、生命力や筋力は上がり難いんだ。私はある程度接近戦にも対応する為に筋力等も上げる必要が有ったからハイウィザードのままにしていたんだ。」

 

 私は脳裏に浮かぶ事がある。モンクとグラップラーは上級職、つまり。知力が上がらない原因はそれなのでは…。

 

「だが、マイムが入った事で前提が変わった。マイムがもう少し成長したら、私が接近戦をする必要も減るだろう。そうしたらアークウィザードに転職するのも良いかも知れないな。」

 

 確かにそうだろう。私がもっと強くなればマグナさんは魔法に専念できる。

 

「私達はパーティーを組んでいるんだ。お互いがお互いの長所を伸ばして、穴を埋め合うように出来れば良いと思ってるよ。それに便利なスキルを習得してれば、いつかマイムが別の地域や国へ行きたいと思った時にきっと役に立つだろう。」

 

 私は、どうしたいんだろう。マグナさん達と遺跡に行きたいと思う気持ちと、この世界を見てみたい気持ちもある。でも少なくとも今はマグナさん達と同じパーティーで居たい。私はそれをマグナさんに伝えた。

 

「いつか、その時が来てしまうまでは頼りにさせて貰うよ。まあ、私としてはこのまま居てくれるのが望ましいがな。それに私もその気持ちは分かる。自分の知らない土地への冒険ってのは心躍るものだからな。」

 

 やっぱり、マグナさんは優しいと思う。

 

「さ、重い話はここまでだ。今は楽しもう。」

 

 そして、肉との格闘に戻る私達。

 

 肉を食べるとしあわせ、はーと。

 

 

 

  途中で子供達が何人か来て、私はあやとりを教えた。指を動かす事に慣れてると器用になるとかなんとかで、一時期嵌まってて色々出来る。

 

 少し遅い時間になり子供達は帰って行き、辺りには酔っぱらいで溢れた。リナさんの方からは相変わらず、オッシャーとか負け犬ーとか叫びが聞こえる。明日、大丈夫なのかな。

 

 ちょっと前からマグナさんは村長さんや村人と話しに行ってて私は暇だったので肉焼き台のお手伝いをしていた。

 

「嬢ちゃん、俺にも肉くれよ。」

 

 村人達とも打ち解けて雑談しながら、肉を焼きつつ自分も食べる。少し眠くなってきたので肉焼きを変わり、宛がわれた部屋に行く。部屋に行くとミアさんはもう寝てた。私も寝よう。

 

 外ではまだガヤガヤと騒いでいるけど、寝るのには支障は無い。

 

 今日も1日が終わります。アクア様今日も楽しく過ごせました。そして村を助けられたのもアクア様のお陰です、ありがとうございます。

 

 私は日課の女神アクアへの感謝を告げて眠りについた。

 

 




肉を食べるとしあわせ。


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独りぼっちはいや


お気に入りが急増している…ありがたい事だと思う反面、プレッシャーが掛か…らんな。別に。

アクア様は尊い、アクア様は尊い、アクア様はアホ可愛い、アクア様は…

最近は自キャラのマイムも可愛いです。尊い。


 田舎の朝は早い。それはこの世界も同じのようだ。

 

 多くの村人は夜明けと共に起き、日没後しばらくして眠る。そんな中私とミアさんは夜明けから少し経って明るくなってから起きた。眠い目をこすりながらミアさんに挨拶をする。

 

「おはようございます。」

 

「おはよう。」

 

 だけど、リナさんが居ない。この部屋は私達三人で使う事になっているはずだけれど?

 

「あー、リナはたぶん酔い潰れて外で寝てるんじゃないかな。よくあるからほっとけば良いよ。」

 

 それは、どうなんだ…。起こして来た方が良いのかな。

 

「どうせ朝食になれば起きるから放置でいいよ。」

 

「うーん。でもちょっと心配なので見てきますね。」

 

 ミアさんはそう言うけど、女の子なんだしそれは不味いのでは?私は外に出て、昨日リナさん達が飲んでいた場所へ向かった。

 

 そこには、村の男衆だけで無く女性や狩人達も一緒になって地面で寝ていた…。あ、リナさんも居るや。うわぁ、お酒を入れてた瓶に抱き付いてるよ…。

 

 地面で雑魚寝してる人達でリナさんには辿り着く事が出来そうに無いから放置しよう。

 

 部屋に戻ると、ミアさんはいつも通り柔軟体操をしていた。身体、柔らかいなぁ。私も宿でやってるけど、手が爪先に届かないんだよね。

 

「言った通りだったでしょ?」

 

「はい。よくあるんですか?」

 

 宿だとそんな感じには見えなかったんだけど。

 

「他の村とかで村人と飲んでると、よくあるのよ。酒には強いから起きたら元通りだからほかっときゃ良いのよ。ダメならアレ、飲ませるだけだし。」

 

 アレって言うとあの緑のだろう…。

 

「アレ飲むの嫌がってるから多少は加減してるだろうしね。してなきゃ、口に捩じ込むだけよ。」

 

 うわぁ。まあ自業自得かな。

 

「それにしても、マイムの浄化のスキルって便利よね。あんだけ肉弾戦で戦ってるのに血も匂いも消えちゃうなんてズルいくらいね。」

 

 ミアさんが私の方を見ながら言う。籠手も鎧も一切汚れは無く、身体もキレイなままだ。いや、血塗れだったのに気付いたら身綺麗になってたと言うべきか。もうどこにも戦いの痕跡は無い。汗もかなりかいたはずなのに、汗臭さも全く無い。便利だと思う、けど一応クリエイトウォーターで顔くらいは洗った。

 

 

 ああ、湯船のあるお風呂に入りたい…。サウナじゃ今一汚れが落ちる気がしないよ。

 

 

「それって習得原理不明のスキルだから、冒険者に転職しても習得出来ないし残念よね。」

 

 私が初めから習得していたスキルの浄化、心眼、雨乞い、水中呼吸の四つはギルドでもどういう条件での習得が可能か不明で習得出来ないと分かった。似たようなスキルは在れど同じ物は無い事が分かっている。

 

「条件不明繋がりだと、リナの職のウォリアーもそうなのよね。リナの出身の村の黒髪黒目の人は全員がウォリアーの素養を持ってるのはわかってるんだけど、同じ村でも他の人には無いのよ。」

 

 黒髪黒目か。まるで日本人みたい。そう言えば、ウォリアーって闘士や未開部族の戦士を表す以外に近年だと侍の事もそう表現する事が有ったはず。黒髪黒目のウォリアー、まさかね…。顔立ちは日本人とは違うし。

 

「マグナに言わせると、未知を既知にする事こそが探求であり冒険だって。分かるけど、私は分からないのがモヤモヤするのよ。手の届く所に未知が有るなら知りたいって思うのよ。」

 

 探求か、遺跡も過去の埋もれた歴史を解き明かすのも同じって事か。

 

「はぁ、悩んでも仕方ないか。ベルゼルグのギルドなら何か知ってるのかしらね。」

 

 ベルゼルグ、それは魔王軍と人類の前線を支える最強の国。代々の王家は勇者達の血を取り入れ強化を重ねる武人の国。勇者候補や英雄が犇めく修羅の国。強者が集う国のギルドなら持っている情報も多いはず。

 

「いつか、機会が有ったら行ってみたいわね。温泉とかも有ったはずだし。」

 

「温泉かぁ、行きたいなぁ。」

 

「この砂埃だらけの所から、ちょっと骨休めとか行きたいわね。」

 

「良いですね、いつか私も行きたいです。」

 

 この世界のまだ見ぬ温泉に思いをはせた。

 

「そういえば、マグナの出身ってアルカンレティアなんだけど。あそこってベルゼルグで有数の温泉地なのよね。享楽派の連中はウザイけど、温泉は行きたいわね。マグナを両親と話し合えって唆して、私達も着いて行くとか良いわね。」

 

「温泉だから仕方ないですね。マグナさんには犠牲になってもらいましょうか。」

 

 大嫌いなアクシズ教徒に囲まれて、揉みくちゃにされるマグナさんが思い浮かぶ。でも、温泉だから仕方ないですよ。諦めてください、マグナさん。

 

「リナが起きたら、話しときましょう。」

 

「はい。」

 

 

 

 程なくして村長の奥さんから、朝食に呼ばれた。

 

「おはよう、三人とも。」

 

「おはようございます。」

 

 マグナさんは今日も朝からビシっとしてるな。

 

「リナの二日酔いも大丈夫そうだな。」

 

「はい、加減してるからね。」

 

「もうちょっと加減して、部屋で寝てくれるともっと良いんだけど?」

 

「たははー、面目無い。腕相撲がヒートアップしちゃってね。因みに私が優勝!」

 

「でしょうね…。戦士職に勝てる村人とかどんなよ…。」

 

 そんなこんなで朝食を食べ始める。肉を主として固く焼きいたパンと野草等が入ったスープだった。スープは肉で出汁を取ってるのかなかなか美味しい。パンは日持ちするように固く焼いてるのでスープに浸してから食べていく。

 

「食べながらで良い、聞いてくれ。村の狩人の話しからある程度は目標の絞り込みは出来た。後は現地に行ってから次第だが、三日程度での討伐と狼の間引きを完了させたい。無理は禁物だが昨日の戦いでの消耗は少なく無いはずだ。個々の脅威は高くないとは言え、山中で囲まれれば不利になる。日没前に野宿出来そうな洞窟か穴でも掘ろう。また、可能であれば村に戻る。」

 

「山中では、ミア、マイム、私、リナの順での行動を基本とする。ミア、今回は数が多い。先行は最小限で良い。マイムは左右の警戒を主として前方も時折頼む。私は適宜支援しながら前後への警戒も行う。リナ、殿は任せる。」

 

 マグナさんは水晶の様な物を取り出した。

 

「最悪、どうしようも無ければコレを使う。コレにはテレポートの魔法が込められている。水晶は三つある一つは水の村、あと二つはこの村だ。重症を負い、回復手段も無ければ即座に水の村に行く。リムタスの爺は回復魔法に関しては、私の知る限り最高の腕だ。出来れば放棄はしたくないが、最悪の場合も頭に入れておいてくれ。」

 

 私達は頷く。

 

「地の利は奴等にある。各々油断無きように事にあたれ。」

 

 

 

 朝食後、装備を確認し山へと向かう。昨日、狼達が逃げていった道を通って行くと、所々に息絶えた狼が転がっている。ミアさんが遅効性の毒薬を使い、道標になるようにしたものだと言う。

 

 息のある狼はミアさんがトドメを差し楽にしていく。徐々に道は頼りなくなり、獣道になっていく。時折、地面にしゃがみ込み足跡を確認しつつ進んで行く。

 

 山だと言うのに、鳥や虫のの鳴き声がしなくなってきた。ミアさんが声を殺しながら言う。

 

「敵感知に微弱な反応がある。衰弱しているのでは無く、恐らく身を潜めて気配を殺している。」

 

「法擊するか?」

 

「位置を特定出来ない。何かで陽動出来ないかな。」

 

「私が投石すると言うのは?山なりで投げればこっちの場所は分からないんじゃ無いですか?」

 

「それも有りか。幻術を掛けるから、そこの崖の上から投げてくれ。」

 

 大まかな目標を聞き、手頃な石を拾った。

 

「光よ、虚と実を曖昧にし、影と為せ。」

 

「インビジブル!」

 

「これで影の中に立ってれば姿は見えなくなる。行ってくれ。」

 

 私は指示された通りに動き、位置に着く。

 

 右手には小石を幾つか、ボールを投げるのと同じ要領だけど今は筋力が違う。小石は空に消える。少し経つと山の向こうから唸り声が聞こえた気がした。その直後、轟音がして地面が揺れた。私は元の位置に戻った。

 

 

 

 

「特定した、大岩の左下!」

 

「光よ、無窮の闇の彼方に去れ!破壊よ顕現せよ!」

 

「ダークボム!」

 

 大岩の付近は蜃気楼の様に歪み、中心に空間に穴が空いたように漆黒の珠の様な物が見えた。そこに歪みが飲み込まれ、目が眩む程の閃光と共に弾けた。大岩は跡形も無く、周囲の地面は抉れ消し飛んだ。

 

「これだけの音を出せば、何か動きは出るだろう?」

 

「敵感知に複数の反応、たぶん狼。このまま奥の方に移動していってるわ。」

 

「マイムが戻ったら追跡しよう。」

 

 

 

 

 

「戻りました。」

 

「ミアが狼を捕捉している。このまま追跡するぞ。恐らく待ち伏せもあるだろう。」

 

「はい。」

 

 私達は先ほどと同じ様に行動を開始した。狼を捕捉している分、今度は足跡を見ずに移動しているので少し速い。

 

「待ち伏せ、2頭。片付けるわ。」

 

 ミアさんは矢筒から矢を二本取り出し、右手に二本とも持ち一本目を撃ったあと即座に二本目を持ちかえて撃った。早撃ちで撃ち終わるまでに二秒掛かって無い。

 

「片付いた。」

 

 そしてまた進み出す。その後も、三回とも同じ様にミアさんが倒していった。

 

「情報だとこの先は谷だ。川沿いに幾つも洞窟が有るそうだ。もう何十年と姿を見てないがジャイアントモールの巣穴だったそうだ。そこに狼が住み着いていたと言う目撃証言がある。全員にインビジブルを掛けたあと、洞窟から燻り出す。」

 

 

 私達は洞窟が見える木陰に立った。私とリナさんは周囲の警戒、ミアさんは敵感知、マグナさんが燻り出しと攻撃をする。

 

「火と風よ、舞い踊れ、白き闇となり行き渡り、穴蔵に潜む者共を燻し出せ!」

 

「スモーキング!」

 

 洞窟のすぐ前で白い煙がたち、範囲を広げながら分かれ崖下の洞窟に入っていく。

 

 

 私達はじっとしてしばらく見ていると、穴と言う穴から狼達が転がり出て来た。噎せているみたいで、苦し気に見える。

 

「敵感知に反応、すぐ下に4。」

 

「二人とも頼む。」

 

 私とリナさんは足音を頼りに位置を確かめた。

 

 垂直に近い崖を狼が駆け上がり、道に登った。その瞬間に、私の拳とリナさんの剣が即座に迎撃した。吹き飛んだ狼と入れ替わりで登って来るも、同じく崖下に叩き落とした。

 

「谷を行き交う水の精(ウンディーネ)よ、風の精(シルフ)と手を取り舞い(ワルツを)踊れ、穴蔵より()でし獣共(観客達)に死の舞いを見せ付けろ!」

 

「ウォーターーーー・トルネーード!!」

 

 谷底から水が持ち上がり、渦巻いていく。そよ風から強風、そして暴風に変わった。暴風に舞いあげられた水はさながら風とワルツを踊っているようで、観客たる狼達は間近で起こる天災の如き力に呑み込まれ、風に舞い上げられそして深い谷底へと消えていった。

 

 あとには弱まる風と降り注ぐ水が、拍手の様に鳴り響く。そして静寂が支配する谷が残るのみだった。

 

 

「すっご…。」

 

 私にはそれしか言えない。たぶん100まで行かないけど、70くらいは居た狼が残らず谷に落とされていった。洞窟は結構広い範囲で散らばってたのに全部の狼を呑み込んで行く水の竜巻は圧巻だった。

 

「久しぶりに見たけど、すごいよね。」

 

 リナさんは、谷底を見ながら言った。

 

「威力は有るが私には精霊の力を借りなければ使えないから、こういう条件が整った場所で無きゃ使い物にならんよ。」

 

 確か、場の力だっけ。自然の中に居る精霊や川の水や山の土や砂とかその場の素材とかを使うと、魔力だけでやるよりも魔力消費が小さくなったりより大きな威力を出せるっていう。この場合はウンディーネとシルフの力を借りて威力を増したって所かな。

 

「とりあえず、ここはハズレだ。ついでにこの周囲の狼を間引いて、今日は村に帰るぞ。」

 

 まだ日は高いけど、ここまでの道のりを考えると帰ったら夕方かな。

 

 帰りは道も分かってるので、ミアさんの敵感知を頼りに三つの群れを討伐して村に帰りました。

 

 村に帰り夕食を取り、装備の手入れ、クリエイトウォーターで身体を洗ったりしていたらもう夜。

 

 今日も終わり。

 

 この世界には私の知らない事がいっぱいあります。魔法もスキルもモンスターも人間関係も。いっぱい、いっぱいまだまだ知りたい事があります。そんな機会を下さったのはアクア様です。本当に本当にありがとうございます。明日も頑張ります。お休みなさい、アクア様。

 

 

 

 

 

 そしてまた夜が明ける。今日は夜明けと共に出立だ。

 

「今日は山の中腹の洞窟に向かう。嘗ての鉱山跡だ。中は入りくんでいるし、水が湧き出ていたり通路が脆くなっている箇所もある。地形にはよく注意するように。」

 

 

 そしてまた、歩き歩き歩き。洞窟へ。道中は狼の姿は無くて、特に言う事も無いのです。

 

 辿り着いた場所は岩肌をくりぬき道を作って露天掘りをしていた鉱山で、最下部に更に下に伸びる地下通路がある。露天掘りの後、山師がスキルで銀鉱脈を発見したとかで馬車が通れる程の通路が作られている。その中に潜んで居るのでは無いかとの事。

 ここがハズレだと、後は森に潜むしか無いけどあの金狼は洞窟等に棲家を構える性質があるとかで、ここが一番可能性が高い。

 

 

 今回はリナさん、私、マグナさん、ミアさんの順で行く。深部以外はほぼ一本道なので力で排除して進み、深部は索敵しながら進む事になった。ここは天然のダンジョンでもあり他のモンスターも居る可能性があるらしい。

 

 入る前に、私はスキルを幾つか習得する事にした。

 

・聖拳

聖なる力を拳に宿し、不浄なる者や悪しき者へと痛撃を与える。浄化と退魔の効果を持つモンクのスキル。聖属性+物理攻撃。ターン・アンデッドやエクソシズム程の浄化と退魔の効果は無い。力ずくで現世から叩き出す攻撃。

 

・マスターキー

扉や門の鍵だけを破壊するスキル。機械式、魔法式問わず破壊するモンクのスキル。ダンジョン以外だと強盗でもするの?って言うスキル。

 

・魔力効率上昇

魔法やスキルでの魔力のロスを減らし、効率化する。同じ魔力量での威力と精度が上昇する。

 

・ブレイクスペル

魔法効果を打ち消す。射程距離は自身を中心に10mの球状。上位の魔法には効果が無い。魔力を多く籠めると威力と範囲上昇。

 

 この四つを習得した。最初のスキルポイントもまだ有るけど、とりあえずこれだけ。

 

 

 

 

 

 一歩入り、暗闇が私達を待ち受ける。と思ったけど、私は普通に見える。いつも明るいのは月明かりかと思ってたけど、これって心眼の力だったのか。

 

「暗闇よ、我らの友となり闇を見通す力を貸せ!」

 

「ダークビジョン!」

 

「マグナさん、私は暗闇でも普通に見えるのですがこれはどんな顔の魔法なんですか?」

 

「この暗闇が見通せるのか?」

 

「はい、満月の夜よりも少し明るい位で見えてます。たぶん心眼の効果だと思います。」

 

 マグナさんは何とも言えない表情をしている。

 

「これは暗闇で物の輪郭や生き物の熱を捉え視覚化する魔法だ。視覚は緑色だな。マイムは色も分かるのか。」

 

「はい、だいたいの色は濃淡で分かります。」

 

「順番を変更だ、マイムとリナが先頭だ。では出発だ。」

 

 私はリナさんと両手間隔で離れ、横並びで進む。

 

 暗がりから、狼が喰らい付こうとしてきた。でもとっくに見えてる。右手で振り払い壁に叩き着けた。鈍い音がして狼は力無く横たわった。

 

 さっき外で小石を拾っておいたので腰の袋には幾つもの石が入っている。

 

 前方に伏せてるのが居るので、それぞれに小石を投げつけた。小石とは言え、いまの私の筋力で投げつければ小石で岩を砕ける。それを頭に受ければ、説明は不要でしょ?

 

 ぱーーんと言う音が鳴り響き砕け散っていった。隣でリナさんが呆れた様な目で見てくる。

 

「ねえ、マイム。どこまで見えてるの?」

 

「300m位先の曲がり角までかな。」

 

「ねえ、マグナ。」

 

「言わんとする事は分かる。だがこのままだ。」

 

「はいよぉ。」

 

 呆れられてるけど、気にしない気にしない。

 

 他のモンスターと言えば大きなコウモリが10匹前から来たけど、遅いし敵じゃない。足元の砂利を投げつければ簡単に叩き落とせた。なんというか拍子抜けかな。

 

 狼はぜんぜん来なくなって、時々コウモリとでっかい虫が来たくらいだった。虫は大嫌いなので気付いたら即座に砂利を投げつけて倒してたから、何の虫か知らない知りたくない。

 

 角まで来たら、下り坂だった。長い長い下り坂で私でも見通せ無い。

 

「慎重に進むしか無いだろう。転がり落ちるなよ?」

 

「分かってますよ。」

 

 緩やかな下り坂だから転んでも落ちる事は無いと思う。たぶん。

 

 !何か光った。

 

 全力で小石を投げつけた。

 

「ギュエエエッリイイイ」

 

 何かの不気味な断末魔が聞こえた。

 

「マグナさん!これは?」

 

「インプだな。グレムリンと並ぶ低級悪魔だ。狼よりもよっぽど雑魚だ。」

 

 なんだ、驚いて損した。どんどん行こう。

 

 水の流れる音がしてきた。

 

「村の狩人の話だと坑道は何ヵ所かで川に繋がってるらしい。狼達はそこから出入りしているのかもしれん。」

 

 とりあえず見敵必殺。ガンガン行こう。

 

 その後は虫虫虫コウモリ悪魔虫虫狼狼で虫が多い。すごく嫌。異世界に来てから一番嫌。死んで、さっさと死んで。殺虫剤が欲しいよー。

 

 だんだん降りて行くに従って、人工の坑道から自然の洞窟みたいに変わってきた。そしてだんだん狼と悪魔が増えてきた。小石は無くなったから足元の砂利を投げつけている。

 

 

 

 そして私達は広い空間に出た。人工か自然か分からないけど、地下に湖の様な物が在った。その湖には小島が一つだけ。そこだけは太陽の光が降り注ぎ黄金の様に輝いていた。

 

 ソレはそこに居た。

 

 太陽の光を浴び、金色の毛皮を持つ大狼(オオカミ)。どこか神々しさを感じる。まるで太陽の化身の様だ。

 

「クッソ、考えうる中で最悪だ。」

 

 苦虫を噛み潰した様にマグナさんが呟く。

 

「あれは歳を経た個体だ。あの黄金の毛皮は間違い無い。風と火の魔法を扱えるだろう。奴にはこの湖も魔法で足場に出来る。」

 

 余裕が無いマグナさんは初めて見る。

 

「全員、離れすぎるなよ。最悪水晶で帰還する。アレは風と火の精霊の加護を受けている。その属性は効かん。私の魔法攻撃の大半が封じられたと思ってもらって良い。絶対に正面からは挑むなよ。常に死角に入る前に様に心掛けろ。」

 

 今までの狼とは違う。これこそ怪物(モンスター)と言うべきだ。

 

「防御魔法を掛ける、その後攻撃開始だ。」

 

「岩よ、鋼の如し、強靭なる鎧を為せ。」

 

「ロックプロテクト!」

 

 私は走った。湖を足場にするならば、もっと早く動けば良いと⁉️

 

 大狼は水面を走りこっちに来た。速い!目潰しになれば良いけどっ!砂利を投げたけど、かわされた。

 

「聖なる波動よ、我が拳に宿れ!」

 

 私の右拳は白銀の光が灯り、聖なる力が宿って行く。走りながら拳に力を溜める。

 

 もう、アイツの攻撃は届く。そして私の拳も届く。足を止め、振り返る。

 

 そして全力の拳を放つ!

 

 届いた!その瞬間私は凄まじい衝撃で吹き飛ばされ、地面をバウンドし転がって行く。

 

「っくぅうく。あっああ!」

 

 痛い、全身が痛い。口に血の味が広がる。立ち上がった私の目の前にアイツが居た。

 

「がっぁぁぁぁ。うううあ。」

 

 アイツは私のお腹に喰らい付いた。私を咥えたまま走って行く。振動が響く。お腹が熱い痛い痛い痛い!力が入らない、気功を使えない集中出来ない、ヒールも無理!痛い痛い痛い痛い痛い。こぼれていく…

 

 涙も零れる。マグナさんは魔法をミアさんは弓を撃つ。リナさんは?

 

「マイムをおおおお、放せぇ!おらああああ!」

 

 リナさんがコイツに追い付き、剣の背で頭を殴り飛ばした。私は衝撃で口から離れたけど、もう動けない…。なん、とか…回…復。しないと…。死ぬ…。死に…たくな…い。血があふれて、いきが…

 

 

「水よ…我…身の内に宿りし…水よ。女神アクアの恩寵よ…零れ落ちし…命…を繋げ…。我に……明日を…この手に…取り戻せ…」

 

「ヒ…ール」

 

 

 思い浮かんだ言葉を繋げた。身体が癒えて行く。まだ、治癒しきらないけど、きっともうすぐ。

 

 三人は戦っている。

 

 怖い。今、死にかけたばかり。

 怖い。牙が、私を貫いた。

 怖い。私の中身が零れ落ちそうだった。

 怖い。色々な物が漏れ零れ、流れ出した。

 怖い。喪う事が。

 怖い。大切な人達が居なくなる事が。

 怖い。もう、独りぼっちは嫌。

 怖い。怖い。怖い。怖い。

 

 

 怖い。だから、もう。喪いたくない。

 

 

 もう、誰も。この手の届く限り。私は足掻く。

 

 四肢に力が戻って来た。

 心に力が戻って来た。

 

 さあ、立ち上がれ。

 さあ、大切な人を今度こそ、守るんだ!

 

 

 私は力をためる。全身に力を行き渡らせる。

 

 焦らない。見極める。

 

 リナさんが剣で斬りつけ、殴り翻弄し。ミアさんが目や耳を狙って狙撃する。アレは急所に当たらない様に必死に避ける。

 

 マグナさんは、湖の水で槍を作り撃ち出している。アイツの死角を取るには、どうするか。

 

 アレは湖面を走っている。下は向いていない。自身が水上に立てるのが当然だと思っているから。

 

 ならば、その傲慢さを崩してやろう。

 

 静かに潜る。私は水中で息が出来る。ならば真下に行こう。アレの見ていない真下へと。

 

 

 浮遊魔法でリナさんがアレと湖上で戦っている。双方満身創痍だ。

 

 もうすぐ。終わらせる。

 

 力を溜めながら湖底を歩いて行く。

 

 後はタイミングを測り、今度は私が貫く番だ。

 

 

 

 

 今!

 

 

 

 溜めた力の全力で湖底から飛び上がり、目指すはアイツの(はらわた)

 

 

 私の貫手がアイツの膓を貫く。

 

 

 そして、掴み。もぎ取る。私は死なない、大切な人達も奪わせない。

 

 だから。

 

 お前が死ね。

 

 私達は生きる。

 

 

 

 

 コイツは息絶えた。沈ませるのにはこの毛皮は惜しい。

 

 

 血が流れ過ぎで頭が働かない。目の前が真っ暗になってきた。何も聞こえない。抱きしめられてる。私は独りぼっちじゃない。私は独りぼっちじゃない。

 

 私は……

 

 

 

 

 

 

 




魔法とかは色々参考にしたりしなかったり、原作で使えそうなのがあれば使うし、無ければ適当に詠唱から自作してでっち上げてます。

使う都度や場面で詠唱が違ったりするのは仕様です。文中で場の力うんぬとかも絡んでて気分で作ってます。カードゲームとかのフィールド効果みたいなもんです。


色々こぼれて、あふれて、もれた。何がとかは各自のご想像にお任せします。


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女神とは

前話のラストのマイムの動きは、お風呂で使うラッコとかの形のオモチャを思い浮かべて貰うと分かりやすいと思います。

水面に向かって、シュポーンと浮かび上がるアレです。



 私は気付くと、布団を掛けられ寝ていた。

 

 ここは村長宅かな、外から子供の声が聞こえる。

 

「マイム!」

 

 声がしてそっちを見る。リナさんが抱きついてきた。正直、頭が回らない。なんで寝てるんだっけ?

 

「お腹!お腹はもう大丈夫なの?」

 

 お腹…なんかあったっけ…?お腹、お腹、お腹。あ…。

 

「そうだったお腹。」

 

 傷は塞いだ。けど、治りきったかは確認してない。私は服を捲った。

 

「傷一つ無いね。良かった、良かったよぉ。」

 

 リナさんは私のお腹を撫でながら泣いている。

 

「良かった塞がった。」

 

 私はホッとした。中身が零れ落ちかけてた覚えがある。くぱぁ、ってなってて死にたくないの一心だった。

 

「塞がってるけど、今日は一日絶対に安静にしててね。」

 

「はーい…。ところであの後ってどうなったんですか?」

 

 ここで寝てるって事はおんぶされたのかな。

 

「あの後はね、マイムが大狼に抜き手やったままで気絶して一緒に湖に沈みそうだったから大慌てで陸地に引っ張り上げたんだ。でマイムは意識無いし、討伐した証拠に狼を持っていこうにも人手足りないし。全員傷だらけだしで、周囲をちょっと探索した後でテレポートクリスタル使って村まで帰って来たんだよ。」

 

 その後はもっと大変だったとリナさんは語る。私達全員が傷だらけであちこち出血してるし、私も返り血で血塗れで意識は無いしで、それを見た村人達はパニックになったそうだ。

 

 とにかくマイムを一刻も早く休ませ無きゃいけないけど、血も拭わなければいけなくてクリエイトウォーターで洗ってもピクリともしなくて、子供達が泣き出したり、老人達は悲嘆に暮れて祈りだしたりと大人から子供まで村中大混乱に陥ってますます時間が掛かって焦ってたと言う。

 

「もう、本当に大変だったよ。マイムがこのまま死んじゃうんじゃ無いかって私も皆も泣いてて。ほん、とに、心配したんだからね。」

 

 途中から涙声で言われて、大変申し訳ない。

 

「でも、良かったよ。全員で帰って来れて。かなりギリギリで私も結構危なかったし。咬まれたのがマイムじゃなくてミアだったら、たぶん助からなかったし…。不幸中の幸いじゃ無いけど、あの状況は誰が死んでもおかしく無かったんだ。」

 

「だ・か・ら。今日は一日安静にしててね。何かして欲しければ私がやるから何でも言ってよね。明日は念のためもう一度山を見回るから、今日はゆっくり休んで明日に備えなさい。」

 

「はい。」

 

 でも、いきなり暇になってもやる事が見つからない。

 

「お話、しませんか?」

 

「いいよ、何にしようか?」

 

「えーっと、リナさんの事を聞かせてください。」

 

 私は仲間の事をあまり知らない、特にリナさんは全然。

 

「と言っても、大して話の種になる様な事は無いんじゃ無いかなー。じゃあ、お互いに改めて、詳しく自己紹介しようか。隠し事は無しで行くわよ、どんなに信じられない事でも包み隠さず言うこと。」

 

 どんな話が聞けるのか楽しいだな。

 

「私の本名は、ササキ・リナ。この辺境にあるエドの村出身でウォリアーの職に着いてるわ。私の村で黒髪黒目の人はみんなウォリアーの資質を生まれつき持ってて、それ以外の全員がソードマスターの資質を持って産まれる。この性質は先祖に由来してるの。」

 

 ササキ・リナ。じゃあ…

 

「私達の先祖はそれぞれ、サムライ、ナイトと言う職に着いていた戦士達だったのよ。生まれや育ちは様々だったけど皆が共通の逸話があるの。」

 

 なんとなく、聞くのが怖い。

 

「水色の髪と水色の瞳のこの世の者とは思えないほど美しい天女、若しくは乙女に導かれこの地へやって来た…と。マイム、貴女の容姿にそっくりよね?そして女神アクアもそれに当てはまる。」

 

 誤魔化しは出来ない…。

 

「貴女は女神アクアに関係があるんじゃ無いの?容姿、そして気配。それに雨を呼ぶ力。尋常な存在では無いのが丸分かりよ?」

 

 眼が怖い。

 

「私は…。私も女神アクアにより、この地へ導かれたんです。」

 

 全部、全部。言ってしまおう。

 

「私は、理由は分からないんですが。死にました。そして死後の世界でアクア様にお会いしました。私には三つの選択肢が与えられました。」

 

 きっと、侍や騎士の人も一緒なんだろう…。

 

「一つは天国へ行き、魂が消滅するまで終わらない日向ぼっこをする事。一つは、全ての記憶を失って生まれ変わり新たな人生を歩む事。」

 

 

「最後の一つは、記憶を持ったままで何か一つの力を持ってこの世界に来る事。魔王を討つ神の尖兵としてこの世界に降り立つ事。リナさんの先祖の侍と言うのは私の国での騎士に当たる身分で戦士でもある人達の事です。私が生まれるよりもずっと昔に居た人達です。」

 

「居た…とは?もう居ないって言う事?」

 

 呆然とするように聞かれた。

 

「はい、もう居ません。時代の流れにより武士は廃止されました。私の国には貴族ももう居ません。居るのは、帝と民のみ。他の多くの国も騎士の身分は廃止されたはずです。」

 

 サムライもニンジャも居ない。現実は切ない。

 

「それにモンスターも居ません。神は居るのか居ないのか分かりませんでした。」

 

 でも私は会った。アクア様に。

 

「現代の私達の世界では死後の世界もお伽噺の部類扱いでした。死んで死後の世界でアクア様に会うまでは、私も眉唾物だと思ってました。」

 

 神は見てる、見てるだけ。なんて言葉もあったっけ。

 

「神様が居ると分かったのが、死んだ後なんてどうしようもないですよね。でも、それが私達の世界でした。神も悪魔も奇跡も運命も何も無いんです。全ては必然の積み重ねで世界は回ってました。」

 

 リナさんは言葉を発しない。

 

「私はアクア様に会い惹かれました。美しい神々しい、そんな言葉じゃ語れ無いんです。私には光り輝いて見えました。その光に飲み込まれて消えても良いとさえ思いました。」

 

 まるで未練が消えて、自身が浄化されていくようだった。

 

「そして、アクア様は尊い。その尊さを世に広く伝える事こそが我が使命だと悟りました。」

 

 何を言ってるのか分からないのかな?簡単でしょ?アクア様は尊い。アクア様は尊いんだよ、真理でしょ?

 

「アクア様は尊い。それだけで、もう全部どうでも良くなってしまいました。」

 

 私が生涯を掛けても伝え無ければならない。

 

「アクア様にこの世界の人々は会う事は叶いません。だから、私がアクア様の写し身となって善行を積み、アクア様のお姿を教え広めるんです。」

 

「そう、私はアクア様を布教する為の使徒です。」

 

「頭を強く打っちゃったのね、可哀想に。元気になるまで私がお世話するから、諦めちゃダメよ。」

 

 私を抱きながら優しく諭す。

 

「違う。私は正気です!女神アクアの威光と尊さを広めるのが使命なんです!」

 

 ごめんね、ごめんね、守ってあげられなくて。と繰り返される。

 

「私もリナさんの先祖達も、みんなアクア様に導かれたんですよ。ほんとです、頭打ったとかじゃないですよ。信じてくださいよぉ。」

 

 私は正気!正気だってば。

 

「それに私の姿が証拠ですよ!私は前世は男だったんです、今はアクア様にそっくりに生まれ変わったんですよ。」

 

 私を少し離して全身を観察している。

 

「そんな事言っちゃダメよ?可愛く産んでくれたご両親に申し訳ない無いじゃないの。いい?そんな事言ってたらアクシズ教徒に思われちゃうよ?ミア達じゃなくて、頭のおかしい方のアクシズ教徒よ。」

 

 凹む、信じてくれない…それ以上にアクア様の事を信じて無いのが分かって辛い。

 

「ほんと、です。ほんとなんです。私はほんとです。」

 

 涙が溢れる、私は真実しか言ってないのに…。

 

 

 

 

「はぁ、信じられないけど。本当だとして。マイム自身が女神だって言われた方が信じられるくらいなのよ、アクシズ教徒ってさ。もう泣かないでよ。」

 

 私を抱きながらよしよしってされ続けている。

 

 どうしたら、信じてくれるのかな。

 

 今は分からない。もっと多くの人もきっと信じてくれない。どうしたら信じてくれるんだろう…。

 

 

 私自身が女神を目指してみる、とか?

 

 

 女神の様な人が言えば、ただの冒険者やアクシズ教徒が言うよりも信憑性が増すのかな。

 

 女神を目指すってどうすれば良いんだろう。

 

 女神、女神か。多くの人を救い歩き手助けして回るとかかな。今は力も知識も足りない。何より常識が足りない。ミアさんと、ちょっと嫌だけどリムタスさんにも相談してみよう。

 

 

 

「寝ちゃったか。信じられないけど、信じてる。女神アクアはよくわからないけど、マイムは信じていい。言ってる事も言い伝え通りだったし、サムライの時代は終わったとか。本当なのかな?色々と。剣で空を飛ぶ鳥を斬ったり、巨大な蛙を召喚して使役してたとか。スキルも無しに分身したり壁を歩いたりとか、そういう眉唾物もさ。」

 

 いつか、マイムをエドの村に連れて行こうと心に決めた。

 

 

 

 




途中まではシリアスだったのに、どうしてこうなったのか。

シリアスのままだったらすんなりとリナも受け入れられたんだろうけど、アクア様を布教するとか言い出したせいでスッカリ頭の可哀想な子扱い。

子は親に似るかの如く、マイムも女神アクアに似た所がでてしまった感。狂信者と言われても否定が出来なくなってしまった。


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考えるんじゃない、感じるんだ。

 

 

 泣き疲れて寝てしまった。

 

 今は真夜中かな。寝直したいけど、目が冴えてしまった。とりあえず眠くなるまで今日の反省をしよう。

 

 まず、浄化スキルについて。血塗れで帰って来た所から、意識の無い間は無効化されているようだ。これ、なんとかオンオフ出来るようにならないかな。

 

 この服も不思議な事に破れてない。確かに牙が貫通してたのに、新品同様のままだ。不思議パワーで直ったって事にしとこ、深く考えるのはやめよう。

 

 

 新スキルの習得について。

 

 マスターキーは必要なかったかな。ダンジョンって聞いて取っちゃったけど、そもそも扉とか無いし。いつか遺跡に入った時に使うかもしれないけど、それまでは使わないかな。

 

 魔力効率上昇とブレイクスペルは今回は使わなかったけど、あって困るものでも無いし良いかな。ブレイクスペルはタイミングを合わせて攻撃魔法にぶつければ、打ち消せるみたいだし。

 

 聖拳は、微妙。暗闇のモンスターだったら光とか聖属性に弱いかと思ったけど、そもそも砂利と小石で充分だったし。一応、物理+属性ダメージで多少は威力アップみたいだけど。これなら、アイアンフィストでも取って攻撃力アップにすれば良かった。

 

 

 あとは、あの大狼との戦いか。

 

 私に足りないのは、物理防御とスピードかな。あと姿勢制御。聖拳使った時にもっと腰を入れて打ってればもっと威力出ただろうし、攻撃を逸らす事が出来たかもしれない。

 

 私は脳筋だけど、脳筋だからって所で思考停止してステータス任せで戦ってるからダメなんだろうね。もっと考えて動かなきゃ。今回は足場が悪かったけど…。足場か、何か使えそうなスキルは有るかな?

 

 

 私は冒険者カードを取り出して、スキルの表示をチェックした。なんかカードがうっすら光ってるし。

 

 えーと、幾つかあるね。

 

・水上走行

水面を走れるようになる。片足が沈む前にもう片足を出して進む。歩行不能。※要、高俊敏性。

 

・水面蹴り

水面を素早く蹴り、反発させて移動する。水面への静止不能。※要、高俊敏性、高筋力。

 

・エアロステップ

空気を超高速で圧縮し、足場にする。空中への静止不能。※要、超高俊敏性、超高筋力。

 

 

 ダメだ、脳筋移動しか無いや…。

 

 何このNINJIA紛いなスキル。どうせならチャクラを使って水面に立つみたいなのとか無いの?

 

 忍者の職とかあるのかな?またはNINJIAなのか。

 

 微妙だし、相談した方が良いや。他の職業でもっと良いスキルが有るかもしれないし。

 

 姿勢制御とか防御関係は何があるのかな。

 

・急制動

高速移動中での急停止や急激な方向転換を容易にする。

 

・仰け反り抑制

攻撃を受けた際の仰け反りを気合いで抑制する。殴られても蹴られても仰け反り難くなる。※投げ技、吹き飛ばしに対しては無力。

 

・ストロングスキン

皮膚強度を強化する。火傷や凍傷以外の物理的な刺激への防護力を上昇させる。斬擊、刺突、殴打に対して特に有効。

 

・ストロングボディ

骨格、内臓、神経、脳を強化する。火傷や凍傷以外の物理的な刺激への防護力を上昇させる。斬擊、刺突、殴打に対して特に有効。

 

・物理防御上昇

物理攻撃への防御力を上昇させる。気合いで上昇性が変動する。

 

 

 

 やっぱりモンクは超脳筋職なんだね、て言うか気合いって…。

 

 こっちは全部取っても良いかな。魔法防御って無いのかな。

 

 

・魔法抵抗力上昇

常時、魔法への抵抗力を上昇させる。※全ての魔法に対して有効な為、自身が受けたい魔法の時は停止させる必要がある。

 

・闘気の鎧

闘気で鎧を作り、魔法を弾く。発動中は常に体力を消耗し続ける。

 

・心頭滅却

暑さ寒さに強くなる。気合いで耐えられる間は炎も氷もダメージを受けなくなる。

 

 

 なんでこんな微妙に使いにくい仕様ばっかりなのかな…頭じゃなくて筋肉で感じろって?

 

 

 モンクにしたの、早まったかな…。

 

 

 こっちも全部取っとこ、こんな所にしよう。そろそろ寝よう。

 

 

 

 

 夜が明け、私は二人と一緒に部屋を出た。

 

「おはようマイム、もう大丈夫か。」

 

「おはようございますマグナさん。もう動いても違和感とかも無いです。」

 

「なら良かった。朝食を取ったら行こう。今日は周辺の見回りと残党の掃討だ。マイムは身体に違和感を感じたらすぐに言ってくれ。」

 

 

 

 村を出た私達は廃坑のダンジョンの方に向かい、昨日は見なかった所を確認して回った。沢に沿って歩き、潜んでいるモンスターを探して掃討していった。

 

 大ミミズや大土竜(ジャイアントモール)等が数匹、後は普通のほんとうに普通の動物だけだった。

 

「狼達、居ませんね。」

 

「結構な数を狩ったし、残りは逃げたのだろう。」

 

 

 

 昼を過ぎ、折り返す事にした。今日はモンスターとの遭遇も少なく、一日散歩をしていたようなものだった。

 

 

 今晩もう一泊して明日の早朝に帰路に着くのだけど、なんだか名残惜しい。帰る前にもう一度子供達と遊んでおこうかな。

 

 

 村に戻り子供達と夕方まで戯れ、幸せな一時を過ごした。小さい子って可愛いよね。

 

 

 夕食時の事、村長の孫娘(9)が私に言った。小さい子って以下略。

 

「マイムお姉さんほんとうにありがとうございました。お姉さん達は仕事かもしれないけど、私達は助けてもらってほんとうにうれしかったです。」

 

 孫娘ちゃん(9)の頭を優しく撫でながら私も言う。

 

「私もあなた達を助けられて良かった。あなた達の事は忘れないよ。」

 

 私に取って、初めての遠出と初めての敗北と重症。嬉しい事も悔しい事も経験した依頼だったし。

 

 夕食も終わり、風呂場で汗を流した。ここでも水は貴重品。サウナで汗を流してクリエイトウォーターで流す。

 

 つい、こう思わずに居られない。

 

 ああ、湯船のあるお風呂に入りたい。

 

 

 サウナで、一つ思う事がある。毎日着替えたりお風呂で全裸になっても、一切欲情しない。

 男なら一度くらい考えるだろう。好きな女の子の裸が見たいって。

 今の私にとって、アクア様は憧れの女性。その似姿ならって思うけど、全く無い。自分の身体だからとかじゃなくて、心の深い部分が書き換えられたのではないかと思う。リナさんとミアさんの裸を見ても、キレイだと思っても興奮する事も無い。

 

 私の心は知らない間に、男じゃ無くなってたと思うと何故か安心するような気分になった。名残惜しさも無い。きっと、心と身体が一致してるから違和感も無いのだろうか。身も心も憧れの人に近付いているのが嬉しいとすら思う。

 

 

 着替えて部屋に戻る、この時はいつも髪をほどいている。私の髪は毎晩二人のオモチャになっている。

 

 でも、私はポニーテール派です。なんと言われてもポニーテール一択ですよ。

 

 色々言われるけど、変えませんよ。今は青髪だけど、黒髪ロングのポニーテールとか大好きです。リナさん、髪を伸ばしてくれないかな。

 

 

 夜が更け今日も終わりです。

 

 アクア様今日もありがとうございました。私は私を見ているだけで、貴女を思い出します。私が感じる事の全てはアクア様のお陰です。アクア様に始まり、アクア様に終わります。いつの日か全ての人とこの感動を分かち合いたいです。

 

 

 



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わくわく

 

 

 夜が明け、身の回りを片付けた。

 

 今日は帰る日だ。依頼は仕事だけど、なんだか旅行の最終日みたいな感覚がある。名残惜しいけど、家が恋しいみたいな。ま、家って言っても居た日数はこっちと変わらないけどね。

 

 荷物と言える程の荷物は無い、せいぜいが装備と着替え程度。腰まわりのポーチに入れたり、丸めて縛り着けたりして動いても邪魔にならないように固定していく。

 

 なんか、リュックみたいなの探してみようかな。ナップザックでも良いかも、狼の毛皮で作ってみようかな。

 

 ミアとリナが背中に背負い袋の様なボディバッグを着けているのを見て思う。拳一つだから手ぶらだが、装備を持つとなると必要を感じた。

 

「じゃあ、行こうか。」

 

 

 

 村長達に挨拶してから帰る事にした。

 

「皆さん、お元気で。この度はほんとうにありがとうございました。あなた方の行く先にエリス様の御加護がありますように。」

 

 村長は旅立つ者への幸運を祈る。

 

「ええ、お元気で。私達は少し村の様子を見回って帰ります。」

 

 マグナさんが村長さんと話してる。私に出来る事って何か無いかな?幸運か。パッドの女神様の女神エリスは幸運の女神だって聞いたけど、幸運なら私も出来る事がある。

 

「皆さん、お元気で。皆さんに水の女神アクアの恩寵と御加護がありますように。ブレッシング!」

 

 幸運を付与したよっ!パッド神の加護が有るなら、こんな不運なんて来なかったんじゃないの?アクア様万歳!

 

「ああ、女神様はアクシズ教徒の方でしたか…。」

 

 

 ちょっと引きながら言われた。良いじゃんか!

 

「はい。私はアクア様を信仰しています。生きとし生ける者、全てが生きるのに水が無ければ生きられません。生きる事、それその物がアクア様の恩寵にすがらねばなりません。日々暮らし、人生を謳歌する。全てはアクア様のお陰です。」

 

 水が無きゃ、生きられない。水が無きゃ、死ぬ。

 

「こう言っては、不敬に聞こえるでしょうが。運が悪くても別に死にません。ですが、水が無ければ生きられません。ならば、水の恵みに感謝しましょう。エリス教徒もアクシズ教徒も関係ないのです。日々の恵みに感謝を。今ある恵みを享受すれば良いのです。アクア様はきっと感謝しろ等とは言わないでしょう。日々を生き楽しむ事こそ、アクア様への最大の感謝の表し方だと私は思います。」

 

 アクシズ教の教義を思い浮かべつつ言う。

 

「何を信仰しようと関係ありません。何かに感謝すればその全ての大元はアクア様の恩寵によって成り立っています。そう、この世の全てはアクア様のお陰です。」

 

 村長さんは考え込んでいる。考える事なのかな?水も食べ物も全部アクア様のお陰でしょ。

 

「そうですな…。私達が日々口にする糧、それも全ては水が無くば成り立ちませんな。日々の恵みに感謝しているのも、全てが祈りなら人も動物もモンスターも全てが女神アクアによって生かされているのでしょうな。」

 

 さあ!口に出して。さあ!言わないの?言わないの?

 

「これからは女神アクアへも感謝するように、子供達へと教えていかねばなりませんな。」

 

 言ってくれないんだ…。パッド神めっ!エリスの胸はパッド入りっ!男達の夢をパッドで誤魔化すなんて、女神のやる事じゃない!アクア様が正しいのに!豊かなのは正しいんだよっ!

 

「信仰とは急に変える事は出来ません。だから、女神マイムよ、あなたがこの村を救った。あなたが来たのもきっと女神エリスと女神アクアのお導きでしょう。」

 

 っく、ここで女神なんて言われたら。何も言えないじゃん。

 

「分かりました。そう言う事にしておきましょう。」

 

 まあ、しょうがないか。でも、女神って言われて嬉しいとかじゃ無いから。

 

 

 

「ゴホン!マイム、行くぞ。」

 

 マグナさんの咳払いで我に返った。いけないいけない、帰るんだった。

 

「では、皆さんお元気で。」

 

 互いに手を振り合った。

 

 

 村の中は平和その物。小さな子が親に付いて回ってはしゃぐ声、何か作業してるのか掛け声も聞こえる。木槌の音、井戸の滑車の音、様々な生活の音。

 

「おねえちゃん、かえっちゃうのー?」

 

「うん、そうだよ。」

 

「そっかー…。またね、おねえちゃん。またいつかきてね!」

 

 村の小さな女の子が抱き付きながら言う。

 

「うん、またね。また、絶対に行くから良い子にしててね?」

 

「うん!いいこにしてる!やくそくだよっ!」

 

 いい子だなー。

 

「ええ、約束ね。あなたに、幸運が訪れますように。ブレッシング!じゃあ、またね。」

 

 手を振り別れた。いつ行けるかは分からないけど、絶対来ようと心に誓った。

 

 

 行き交う人に挨拶を交わし村を出た。例によっていつもの魔法を使いながら帰って行く。

 

 今回の道中ではモンスターに会わなかった。あの狼達の縄張りだったから、暫くはこの辺りでモンスターに会う事は少ないだろうとの事。

 

 

 そして、ホームにしてる村に帰る。

 

 この村、実は正式名称が無い。村が成立したばかりだと、ちょっとした災害やモンスターで全滅したりして村が無くなったりする。その為、住民が300を超えるか20年以上経たないと村の命名に領主の許可下りないらしい。

 

 だからこの村は8番目の開拓村だから8の村。正式名称が付けられるようになるまで、あと7年だそうだ。

 因みに村名を名乗ると税金が上がるらしく、水の村の様に通称だけで正式名称を名乗らない村も幾つもある。水の村は税金を払う位なら、その分で贅沢したいんだとか…。アクシズ教徒の上に理由が理由だから、領主からは嫌われてるらしい。でもって、領主主導の開拓じゃなくて勝手に住み着いて村を作ったのも要因だそうだ。アクシズ教は自由だから…。

 

 

 そんなこんなで、ギルドに到着。報告はマグナさんが行った、私達は。

 

「「「かんぱーい!」」」

 

 先に始めました。マグナさんの許可は取ってるよ。

 

 今日はステーキです。アクア様ありがとうございます。肉汁が滴るぅ!

 

 

 あ、帰って来た。

 

「乾杯。」

 

 二回目の乾杯でマグナさんを迎える。

 

「報告は終わった、報酬は後で渡す。明日以降だが、私は定時連絡に行くから3日程留守にする。マイムはまだ慣れないだろうから、どちらかが付いててやってくれないか。」

 

 他の人達に私の加入と大物討伐の件の報告に行くらしい。

 

「それと、帰ったら他のメンバーとの顔合わせだ。」

 

 あ、やっと会えるんだ。

 

「また外?」

 

 リナさんが聞いた。外って?

 

「今回はここでやる。前回はまだ無かったからな。」

 

「あの、外とかって何がですか?」

 

 話が見えないよ。

 

「顔合わせさ。前回はまだ他の村を拠点にしててね。そこの村は酒場が無かったんだよ。」

 

 荒野の岩場でBBQしながら会合したらしい。BBQか、良いなぁ。

 

「今回はせっかく酒場が有るんだから、屋根のある所でやりたい。楽だしな。」

 

 わかる。

 

「なるほど、そう言う事でしたか。」

 

 じゃあしょうがない。男女混合野外BBQがリア充っぽくて羨ましいとか思ったけど。

 

「私、ちょっと実家の様子見てきたいから。行って来てもいい?」

 

 リアさんの実家って、例の。

 

「そうなると、ミアになるが。ミア、大丈夫か?」

 

「大丈夫よ、どのみち一緒に居るつもりだったし。」

 

「じゃあ、頼むぞ。村から離れる時は行き違いになるといけないからギルドに伝言を残して行ってくれ。」

 

 ギルドの端っこに黒板みたいなのがある。炭で書く白い板だから、ホワイトボードでも良いのかな?黒板消しがわりの布キレが置いてある。

 

 

 

「じゃあ、全員気を付けて。また再会出来るようにな。」

 

 解散し、宿に帰った。

 

 

 今日も、サウナ。そしてクリエイトウォーターで汗を流す。川に近い村には湯船があるお風呂が有るそうだ。良いなぁ、お風呂入りたい。良いなぁ…。

 

 

 リアさんが装備の手入れと荷造りをしている横で私とミアさんは明日の事に付いて相談してる。

 

「ミアさん。私、水の村に行きたいです。」

 

 切実に。

 

「良いけど、どうしたの?」

 

 聞いたからには、行かなきゃ。

 

「水の村には湯船の有るお風呂が有ると聞いて。」

 

 日本人の魂が叫ぶ、風呂に入りたいと。

 

「ああ、ずっと言ってたもんね。じゃあうちに来なよ。うちもお風呂有るし、来てくれたらきっと母さんも喜ぶし。」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 お風呂!遂に、遂に。

 

 

「マイムとお風呂かー。私も行きたかったけど、今度にするよ。または、今度皆でうちの村に来てもいいし。あんまり広く無いけど温泉も有るよ。」

 

 !温泉!

 

「行きます。そのうち、絶対行きます。」

 

 温泉行きたい!

 

「あはは、じゃあ近いうちにマグナも誘って行こうか。あ、混浴しか無いから。」

 

 っちょ!

 

「湯浴み着って言うのが有るから、大丈夫だよ。無くても良いなら良いけど。」

 

「要ります要ります、絶対要ります。」

 

「はいよー、帰ったらいつ来ても良いように用意しとくね。」

 

「お願いします。」

 

「あそこのお風呂も良いよね。木で出来た大きいお風呂でさ、なんて言ったっけアレ。」

 

 まさか、この世界で。

 

「名前?おじいちゃんはヒノキ風呂って呼んでたね。」

 

 檜風呂も有るとは…行きたい行きたい行きたいっ!

 

「また次の機会でね。」

 

 今回は我慢しよう。ミアさんの家にお泊まりして水の村を見回って、その後で教会で相談事してっと。

 

 

 

「そろそろ寝ようか。」

 

 わくわくして眠れな…くも無いや。普通に眠い。

 

 

 今日も1日終わります。水の恵みも肉汁滴るステーキもお風呂も温泉も、全てアクア様のお陰です。ありがとうございます。ああ、なんて楽しみ。おやすみなさい、アクア様。

 

 

 

 




温泉、近所に有るけど全然行ってないなー。


エリス様のパッド、別に嫌いじゃ無いです。

胸が貧しい(失礼)なのを隠して、盛りたいと思う事自体はいじらしくグッとくる。大きな胸に憧れる貧乳女神、なかなか良いです。


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パライソの門が開く

 風呂は命の洗濯とも言う。実にその通りだ。

 

 

 辺境は乾燥地帯という特性上どうしても埃っぽい。外を歩けば砂ぼこりが舞い、風が吹けばもうもうと埃が立つ。そしてそれらはとても粒が細かく、服に侵入したり髪に絡みつく。

 

 自身の浄化で汗や血をクリエイトウォーターで肌にまとわりついた砂を落とし、サウナと水で全身を流す日々。

 日本で生まれ育った者なら分かるだろう。夏場の運動場で砂ぼこりと汗が混じってざらつくあの感触を。私は毎日それを味わいながらもお風呂に入れなかった。汗を洗い流してもどうしても気分が晴れなかった。だが、それも終わった。

 

 

 

 遂に念願の入浴を果たした。やったぜ!

 

 

 

 あのあと、さっさっと就寝し早朝に村を出てミアさんと二人で水の村へ向かった。起きた時には既にリナさんは出発したあとだった。

 

 道中のモンスターをサクサク倒して先を急ぎ水の村、いやお風呂に向かいたかった。けれど私にとって初めて二人だけでの移動で、マグナさんの補助も無く自らの足で荒野を進まなくてはならなかった。

 

 先日通った道だけど、随分遠く感じる。これが当たり前なのは承知しているだけど、人間一度楽を覚えてしまうと億劫になるもの。ミアさんは私に荒野での移動する際の注意を教えながらも周囲の警戒もしつつで、何も出来ないこの身が歯痒い。

 

「いい、マイム。ちゃんと覚えてね。二人だけで移動する時は街道の移動時はお互いに別々の方向を警戒するのよ。」

 

 私から見て左斜め前方5mをミアさんが歩き前方と左側を警戒し、私は右側と後方を警戒する。お互いの警戒位置が僅かに重なるようにし、洩れが無いようにしていく。

 

「お互いがカバー出来る位置を取りつつ、襲撃を受けた時に二人が同時に敵の攻撃範囲に入らないようにするのよ。」

 

 横並びで歩いていたら、不意の襲撃で二人とも敵の攻撃範囲に入ってしまい負傷してしまう。それに武器を振るとしても近すぎて動きづらくなってしまう、だから距離を取りなさい。

 近ければお互いの身体が遮蔽物になって死角が増えるし良いことは何も無い。

 

 話ながらゆっくり歩いたりという事は、実力のある高レベルの冒険者でも無ければ自殺行為だと教えられた。

 

 のんびり歩いて行こうと思ってた私には、耳の痛い話だ。気が緩んでいたんだと思う。この荒野には狼や大蛇が多数生息し、土の下からは大土竜(ジャイアントモール)が襲い掛かり、空からはハゲ鷲(空飛ぶハゲ)が襲って来る危険地帯だというのに。

 

 

「街道に石が敷き詰められているのは何故だと思う?」

 

「大土竜への対策ですか?」

 

「その通りよ、大土竜は石の敷かれた街道からは地上に出られないわ。だから街道から外れないようにしなさい。奇襲出来ない大土竜なんてただの肉よ。」

 

 

 大土竜(ジャイアントモール)も食べられるらしい。脂身が多くあんまり美味しいものでは無いけど、貴重な食糧になる。

 

 

 その時、どこからか奇声が聞こえた気がした。

 

「その場に伏せなさいっ!」

 

 ミアさんが鋭く指示を出す。言われた通りに即座に伏せた。

 

 私が伏せている間にミアさんは弓を番え、空に放った!

 

 

「っち、外した!マイム、立って。走るわよ!」

 

『イギギギイイイイーーー!』

 

 野太い、おじさんの様な叫び声が空から聞こえた。

 

 

「空飛ぶハゲよ!マイムッ、私の後に着いてきて。」

 

 私はミアさんの後を追い、全力で疾走する(走る)。街道を外れ、屋根の様に張り出した大岩の下に入る。

 

 空を大きな鳥が旋回しているのが見える。野太い声で叫びながら私達を見下している。

 

「アレは空飛ぶハゲよ。遠くから見るとただの大鷲の様に見えてるでしょうけど、大鷲の身体に人間の骸骨のようにも見える頭を持った気色の悪いモンスターよ。鋭い爪は無いけど、力が強くて人を簡単に持ち上げて飛ぶ事が出来るのよ。」

 

 視力が良くなってもこの位置からでは、空を飛ぶ異形の姿はよく分からない。分かるのは、私達を見下ろし奇声をあげている事だけ。

 

「この後はどうするんですか。」

 

「あの位置じゃ弓も届かないわ。ごめんなさい、私がミスったばかりに。この後はアイツがこちらを襲って来た所を迎撃するか、どちらかが囮になってもう一方が仕留めるかね。」

 

 高度がどのくらいかは分からない、けれど徐々に上昇していく。

 

「囮は最終手段よ。とりあえずはアイツの動きを見て迎撃よ。マイム、波動拳での牽制を頼んでも良い?」

 

「はい。どうしたら良いですか?」

 

 

「威力は低くても良いから、範囲を広げて撃ってくれる?アイツがそれを避けた所を撃つわ。高度を下げて来る時は一気に来るから、準備して。私の合図で撃って。」

 

「分かりました。」

 

 横ではミアさんが新たな矢を番えた。私は力を凝縮し、両手に集める。想像するのは散弾銃。密度が低すぎてもいけない、適度に散らばるようにしないと。

 

「いつでもいけます。」

 

「そのまま待機ね。奴から目を離さないように。」

 

 

 変わらず、上空を旋回している。…急降下し出した!

 

「まだよ!引き付けて………今!」

 

「波動拳!」

 

 両手を広げて突き出し、手のひらから無数の光弾が放たれた。私は光弾の行方を見守る。

 

 空飛ぶハゲは光弾を避けようとして身体を捻る。そして、避けた先には。

 

「やったわ。」

 

 ミアさんの放った矢が胴を射抜いた。

 

『ぬぐぐぐががあああああ』

 

 野太い悲鳴が響き渡る。

 

 きりもみしながら落ちてくる。途中で体勢を整えようともがいているがどんどん高度は落ち、音を立てて墜落した。

 

 墜落した場所からは砂ぼこりが立ち上った。

 

「まだよ、油断しちゃダメ。次を撃てるように準備しておいて。」

 

 ミアさんは次の矢を番え、ジリジリと前進していく。私も威力を上げて準備してる、ゆっくりと歩いて行く。

 

『ぐぎ…ぐがあぁぁぁ』

 

 さっきよりも弱々しいが、まだ生きている。

 

「止まって。砂ぼこりが落ち着いたら撃ち込んで。」

 

「はいっ!」

 

 バタバタと、もがく音が聞こえる。あの高度から落ちても生きている。揺らぐ砂ぼこりの奥で影が蠢き、否応にも緊張する。

 

「…ゴクリ」

 

 唾を飲み込む音がやけに大きく感じられる。

 

 

 やがてもがく音が聞こえなくなり、静寂が戻って来た。だけど、まだ警戒は解かない。

 

 

 

「撃って!」

 

「波動拳!」

 

 ドッンッとでも形容する音と衝撃を立てて着弾した。

 

『ぐぐうぃぃぁ………』

 

 断末魔が聞こえ、もがく音も聞こえなくなる。ミアさんはまだ弓を番えている。私はいつでも動ける様に腰を落とした。

 

 

 

 

 

 

「もう、いいわ。警戒を解いても。」

 

 ミアさんは弓を下ろした。それを見て、私も力を抜く。

 

「覚えておいてね、確実に止めを刺したと確認出来るまでは警戒を怠らない事。そして敵感知を潜り抜けるモンスターの存在を。」

 

 敵感知、モンスターや敵意を持つ者の数と距離、方向を知覚する事が出来るスキルだそうだ。ミアさんはスキルと目視と聴覚を駆使し索敵している。

 

「コイツは行動に移るまでは、敵感知に反応しないのよ。そして弱ってくると感知阻害のスキルで死体を装いこちらの油断を誘うの。」

 

 

 さっきの、一時的に音がしなくなった時がそうなのだと言う。

 

「感知や目視で判別が付かなければ、後は聴覚か直接攻撃するしかない。今は、生体反応と言う別のスキルを使ったの。射程距離は短いけど、生きている者を感知出来るスキルよ。これでコイツが生きていると判断したというわけよ。」

 

 

 色々なスキルがあるんだなと思う。私には扱う事が出来ないスキルばかりで少し悔しい。

 

「でも、スキルが無いからって何も出来ないわけじゃ無いわ。」

 

「さっきの警戒とかですか?」

 

「ええ、そうよ。スキルが無いなら自身の感覚を頼り、地形や道具を利用するのよ。」

 

 ここは平坦だから良いけど、と前置きして。

 山を歩くなら稜線の下を歩く事。高いと見晴らしが良いけど、空を背にすると下からは丸見えになる。地形に溶け込む色合いの服を着ること。

 

 ミアさんは全体的に茶褐色の色合いの装備を着込んでいる。つまりは迷彩か。

 

「レベルが上がって、ステータスが上がれば感覚もより鋭敏になるからスキル無しでも索敵能力は上がるわ。あとは経験と勘ね、これは今後次第ね。」

 

「つまりは、とりあえずレベルを上げる事が先決って事ですね。」

 

「そうよ。マイムは前衛職だし、今はとにかくレベルを上げて基礎ステータスの向上とそれに伴う経験が必要よ。」

 

 数をこなして身体で動きを覚えて、思考は別の事に使う余力を残さなければならない。

 

「だから、よく言われる言葉だけど。レベルを上げて物理で殴れって事よ。前衛はとにかくステータスを上げて殴れば解決するわ。リナを見てれば分かるでしょ?走って斬って避けるこの三つだけやれば終わるのよ。」

 

 鋭い五感と強靭な肉体が有れば、大抵の事は解決出来る。高ステータスと様々な経験から来る身のこなしで瞬時に敵を倒せる。

 

「だから水の村までは出来るだけモンスターを討伐しながら行くわよ。レベル上げの時間よ。」

 

 私のお風呂タイムは遠退く…。血と汗と砂に塗れて進むのか…。

 

 

 

 

 

 モンスターを討伐しながらでも割りとハイペースで進み、日暮れにはギリギリ間に合った。

 

 村の中心から外れ、川沿いにミアさんの家はあった。ミアさんが先に入り事情を家族に説明し、とりあえず先にお風呂をいただく事になった。ありがたい、やっとザラザラで気持ち悪いのを落とせる。

 

「マイム、入って来て。」

 

「おじゃまします。」

 

「よく来たわね、ミアの仲間なら大歓迎よ。ささ、話は後にして先にお風呂に入ってらっしゃい。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

 優しそうなお母さんだな。そして遂にお☆風☆呂、楽しみだなぁ。

 

「マイム、こっちよ。」

 

 ミアさんに着いていく。風呂場は広く、浴槽は大人が三人は入れる程に大きな物だった。並々とお湯が張ってあり、湯気を肌に感じる。

 お風呂や銭湯とかなんでも良いけど、このふわっとした感覚が好き。

 

「着替え準備してくるから先に入ってて。棚に石鹸とかも有るけど、後で髪洗ったげるからとりあえず流して湯船に浸かってなさい。」

 

「はい。」

 

 んん?と言う事は一緒に入るの?髪長いから洗って貰えるのは助かるけど…。ちょっと恥ずかしい。今は女だけど、その…感覚てきに。

 

 リナさんは脱衣所から出て行った。脱衣所には大きな鏡がある。ちょっとくすんだ年代物だ、そこには今の私の姿が写っている。

 

 身長は160cmくらいで今も前も変わらない。顔はアクア様よりちょっと幼い感じ、細いけど程好く筋肉と脂肪のある手足。鎧と服を脱ぐと、重量感がありたわわに実った果実とキュッと締まった腰、張りのある丸みを帯びたお尻。

 

 自分自身だけど、鏡で見るとドキドキする。

 

 服を脱ぎ下着だけになった今はお腹も見える。うっすらと腹筋が割れその上に僅かに脂肪が乗ったお腹。陸上部の女子のユニフォーム姿を思い出す。痩せて引き締まっているけれど、女性らしい曲線を失わないあの魅力。

 そしてそれに併せて重みを感じる胸。筋肉に支えられた形の良い胸。

 

 

 ショーツに手を掛け、するすると下ろしていく。

 

 (あらわ)になった下腹部。薄い茂みとそこから覗くクレヴァス。そっと指を宛がう、そこまでは砂も侵入していない。ここは聖域、禁足地、何者にも侵入を許してはいない。

 

 やめよう。これ以上はやめよう。

 

 鏡でまじまじと見ると、ドキドキするし恥ずかしい。今の私。男から女に変わったのに心に違和感を感じないのは不思議だけど、こうやって身体を見れば自分だけど自分じゃなくて。でも違和感じゃなくて、逆にしっくりくる。不思議だけど、悪くは無い。

 

「さて、お風呂に行こう。」

 

 そして遂に私はお風呂に入った!!!

 

 

 

 

 

 

 洗面器で頭からお湯を被る。肌を伝うお湯が滴となり落ちていく。張りのある肌はお湯を弾き玉となって落ちていく。何度か流して砂を落とす。

 

 

 湯船に爪先から沈めていく。太ももを越え腰を越え、胸まで浸かる。

 

 

「っっはぁぁぁ。」

 

 

 無意識に声が出る。

 

 

 お湯、ただのお湯。されどお湯。ただお湯に浸かるという行為で身体にたまった疲れが抜け落ちていくみたいだ。

 

「はぁぁぁぁぁ」

 

 何も考えずにぼやっとする。気持ち良い。

 

 「マイムー、入るよー。」

 

 どれくらい経ったのか分からないけど、ミアさんが入って来た。

 

 ミアさんは、スレンダーと言う表現をしよう。決して無いわけではない。少々控え目で形の良いお椀型でそのてっぺんは桜色。腰は引き締まり軽く腹筋が割れている。茶色の茂みは整えられている。

 

 私はそれをぼやっと眺めている。見えてはいるけど、何にも感じてない。

 

「マイム、蕩けちゃってるわね…。」

 

「しょんなことはないです。」

 

 ミアさんも身体を流して湯船に入ってきた。お湯が溢れ、ざばざばと流れ出る。

 手を伸ばしたりしてポキポキと音が聞こえる。

 

「もうちょっと身体を暖めたら洗うわよ。」

 

「はい。」

 

 

 湯船から出て、お風呂用の椅子に腰掛ける。

 

「じゃあ、頭から洗いましょ。」

 

 石鹸を泡立て、身体ににへばりつく髪を手に取った。後ろ側だからよく分からないけど、頭から毛先に向けて洗われていく。束に分けて少しずつ洗っていく。

 

「こういう長い髪って羨ましいけど、自分だと面倒なのよね。」

 

 すごく、面倒だと思う。でもこれは切ってはいけない、伸びても同じ長さをキープすべき。

 

「こんなに長いのに、枝毛も引っ掛かりも無いとかナニコレ。すっご、さらさら。」

 

 朝起きても、手櫛と少しの水で寝癖が直るもんなぁ。

 

「今度は前ね。」

 

 ぼんやりしている間に進んでいき、

 

「じゃあ流すからね。」

 

 目を瞑り、お湯の流れる音を聞く。流しながら手で髪を濯いでいるんだろうな。

 

「終わったよ。ついでだし身体も洗うね。」

 

「そっちは自分で…。」

 

「まーまー、じっとしてなさい。」

 

 ミアさんは鼻歌を歌いながら石鹸をタオルで泡立てている。

 

 ミアさんはタオルを使って私を洗っていく。恥ずかしぃ…。

 

「マイムって肌もすべすべね。傷一つ無いわ。」

 

 首の後ろから肩腕背中と来て、ミアさんが私の目の前に来る。

 タオルが胸を滑っていく、ん?タオルを離してどうしたのかな。

 

「マイムゥ、おっきな物を持ってるねぇ。私と違ってさ。」

 

 嫌な予感がする。

 

「ちょっとだけ。ね。」

 

「あ、ちょ。」

 

 止める間も無く、胸を持ち上げられた。下から手のひらで支え指は胸を包む様に広げて掴む。

 

「ふふふ、重いね。ほら、こんなにたゆんたゆんしてる。」

 

 上げたり離したりされて、胸が揺れる。

 

「良いなぁ、羨ましいわ。ほんとうに羨ましいわ。」

 

 胸から手を離してタオルに持ち替え、続きを洗っていく。私は立ち上がり、お腹から足まで洗われた。下腹部は死守した、ここは自分で洗う。

 

 流し終わった。今日一番の攻防は終わった。

 

 ミアさんは自分でささっと洗って湯船に入る。

 

「拗ねちゃった?ゴメンねぇ。」

 

 ゴメンって言いながら頬っぺたを突っつくのはなんなのか。

 

「今晩は家で泊まって、明日は村で買い物ね。マイムって着替えとかも無いでしょ?良い機会だから普段着とかも買っておきましょ。」

 

 そう。私は着替えが無い。いつもの服は不可思議なパワーで汚れず破れても気が付いたら直ってる。私自身は浄化で汗は水に変わるし、クリエイトウォーターを使えば水で流せる。

 とは言え着た切り雀ではいい気分はしない。せめて部屋着が欲しい。

 

「そうですね。色々欲しい物が有るのでお願いします。」

 

「そう来なくっちゃね。お風呂出たら今日は私の服で我慢してね、あんまり着てない奴だからキレイだし。」

 

「ありがとうございます。」

 

 お風呂から上がった後にいくらキレイになるといえ、また同じ服に袖を通すのは気が進まなかったので渡りに船だった。

 

 

 ほどなくお風呂から上がり、着替えることに。

 着替えは水色のワンピースだった。

 

「マイムの髪色にもピッタリでしょ?」

 

「はい、髪とおんなじ色ですね。」

 

 マイムと言うよりも、女神アクアの髪色と同じ水色が鮮やかなワンピースだった。麻のような素材で爽やかな着心地だ。

 

「髪を拭き終わったらご飯だから、ここに来る途中に台所通ったでしょ。あそこまで来てね。」

 

 そう言いリナさんは先に行った。

 

 

 

 ふと思う。友達の家にお泊まりとか、初めてだなって。

 

 

 

 

 

 

 




中途半端ですが一度切ります。

長くなると、誤字確認がしにくいので。

なんか、日間で9位に入ってた。こんな雜さ溢れる文でなんとも申し訳ないが、性格が雜なのでこれ以上丁寧にやるのはたぶん無理。


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空っぽの宝箱

もっと上手く表現出来たら良いけどなぁ。


 

 手料理、家庭料理、心の籠った料理。

 

 それは、独りぼっちじゃ得られないもの。

 

 誰かと囲む暖かい食卓。

 

 笑顔と会話のある食卓。

 

 あの日に失ったもの。

 

 

 

 

 羨ましいな…。家族、かぁ。

 

 

 思い出すのはかつての光景、自分にもあったもの。今はもう、失われたかけがえの無い宝物。

 

 表情には出さないし、出せない。思いを馳せながら、目の前の光景に自分を重ね合わせ己を慰める。

 

 

 

「マイム、こっちはうちの母のミリシャであっちの髭が父のカサドル。」

 

「ミア、髭は酷いなぁ。初めまして、マイムさん。ようこそ我が家へ、紹介に上がったが僕はカサドル。村で猟師をしている。」

 

「じゃあ、改めて。私はミリシャよ。村の自警団員もやってるわ。」

 

 カサドルさんは見上げる様な身長で190は有るかな。ガッシリしてて筋肉質だけど、優しそうな笑顔を浮かべたおじさん。

 ミリシャさんは細身で小柄だけど、筋肉質な美女。見た目はミアさんのお母さんと言うよりもお姉さんと言われた方がしっくりくる。パッと見では二十代にしか見えない。

 

「初めまして、マイムです。先日ミアさん達のパーティーに加わりました。」

 

 こういう時って何て言うのか分からない。これで良いのかな?

 

「マイム、緊張しなくていいよ。さっき母さんには言ったけど、今日はマイムを泊めて明日は村を案内するから。所で(じじい)は帰って無いの?」

 

「ああ、親父はちょっと調べ物が有るとか言って最近教会で寝泊まりしてるよ。ミア、明日様子を見てきてくれないか?」

 

「うーん、わかった。気が進まないけど明日教会寄ってみるよ。」

 

 おじいさんが居るのか。おじいちゃんかぁ、もう顔も思い出せないや。

 

「あー、言ってなかったよね。教会の司祭リムタスは私の祖父よ。あのセクハラ爺は爺で十分なのよ。」

 

「リムタスさんがおじいちゃんなんだ、苦労…してるみたいだね。」

 

「まあね、マイムは会ってるから分かるよね。まともな時は人格者だと思うんだけど、そうじゃない時がアレだからね。」

 

「お義父さんは、まぁアレだし。自分じゃ否定してるけど、アクシズ教徒らしいアクシズ教徒なのよ。」

 

 アクシズ教徒らしいアクシズ教徒って。あんな感じの人達ばかりって事なのかな。

 

「爺はほっといて食べようよ。」

 

「そうね、じゃあお祈りしましょ。あ、マイムさんは自分の文言で良いわよ。」

 

「「「水を司りし女神よ、今日の糧に感謝を。糧となりし命達に感謝を。全ての根源たる女神アクアの御慈悲に感謝を。いただきます。」」」

 

 私も何か言おう。

 

「天より見守りし女神よ、今日この世に在る全ての命の源よ。我に明日をもたらしたる恩寵に感謝します。いただきます。」

 

 目の前には、湯気の立つ煮込みハンバーグ。何肉とか分からない。フォークで軽く切れる程柔らかいのに口に入れれば肉汁が滲み出す。

 

「おいしい。」

 

 その様子を三人はにこやかに見ながら食事をする。どこか寂しげな雰囲気をマイムから感じていたが、それが霧散し笑顔になったのに安心した。少女の心の裡は分からない、けれど少しでも心が軽くなったのならばそれは喜ばしいと。

 

「おかわりも有るから、言ってね。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

 

 

 無くした宝物は戻らない

 

 けれど、別の宝物でも隙間は埋まるだろう。

 

 少しずつ、少しずつ心の穴は埋まっていく。

 

 いつかは宝物で溢れるように、溢れた宝物で誰かを笑顔に出来るように。

 

 笑顔と会話のある食卓は、寂しげな少女の心も笑顔にした。

 

 無くした物を羨み、寂しげだった心は人の暖かさに触れ癒されていく。

 

 

 

 その日は食事が終わっても賑やかな団欒は夜遅くまで続いた。

 

 

 

 

 

 もう、私は独りぼっちじゃない。思い出だけを見て現実から目を背けてた「僕」じゃない。僕も私も前を見なきゃ。こんな人達に囲まれているのに、そのままじゃダメだと思う。

 

 天より見守っているアクア様、私は変わります。いつかきっと私が誰かを笑顔に出来るように。いつの日か誰かの心を軽く出来るように。

 

 宣言します。私は助けを求める者、声無き助けを求める者を救う者になります。

 

 全ては、慈悲深くこの世の全ての命を繋ぎ止める女神アクア様の尊さを布教する為に。

 

 

 

 

 思えば、この時が「僕」と「私」の尊さが変わったんだと思う。最初に思った、尊すぎて死ぬわ…っていう感情に世間一般的な尊さが自然に混じりあったのだと思う。

 

 どちらにせよ、女神のように振る舞うという方針は変わらない。その根っこがちょっとだけ変わっただけで。

 

 

 

 




ミリシャは民兵を意味する英語。
カサドルはスペイン語で猟師です。

名前に迷ったら、とりあえずどっかの言葉で書くという。


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私の我が儘

ちょっと遅れました。


 

 朝が来た。夜中に一度起きたけど、あとはぐっすり眠れました。今日はミアさんよりも早く起きたけど、ミアさんより早いのは初じゃないかな?

 

 

 昨夜はベッドを譲り合って、結局二人で一緒に眠りました。私は寝相が良くないからベッドだと落ちそうで怖かったので床の方が良かったんだけど、押し負けました。眠る前に手を繋いでたんだけど、ベッドから落ちてたら道連れにするところでした…。危ない危ない。

 

 夜中に一度起きた時、アレが来た。あのアレ、なんとか症候群。手足の感覚とか壁とかが近くに感じたり遠くに感じたり、あと音の聞こえ方や物の見え方が大きくなったり小さくなるアレ。小さい子供での発症が多いらしいけど、私は未だに時々なる。

 

 私は自分の手足がスッゴク遠くなったり近くなったりする感覚に襲われる。普段は手を組んで身を縮こまらせて震えながら感覚が戻るのを待つ。

 

 でも今日は怖くなかった。すぐ前にミアさんが居て、息遣いと体温を感じた。繋いだ方の手は遠くならずにミアさんを感じてた。

 

 誰かと寝るなんて小さい頃にお母さんと寝てた時以来かな。いつもお母さんに抱き付いて寝てた。甘えん坊で泣き虫で、人見知りでいつもおどおどしてたのは覚えてる。

 

 一人で眠るのが怖くて、いつもお母さんと一緒に寝てた。たぶん小三くらいまでは一緒に寝てたんじゃないかな。懐かしいなぁ。

 

 

 

 そんな事を考えながらごろごろしてると、ミアさんも起きたようだ。

 

「んん…マイム。おはよぅ…。」

 

「おはようございます。」

 

「あ、繋いだままだったね。」

 

 そう言ってミアさんは手を離した。ずっと手を繋いでたからか、手のひらは汗でじっとり濡れていたけど、不快では無い。なんだか名残惜しさも感じる。

 

「ふぁぁぁ。」

 

 ミアさんが伸びをしてパキポキと音がする。

 

「顔洗いに行こっか。」

 

 

 

 顔を洗った後、二人で台所へ向かった。

 

「おはよう二人とも、マイムさん、よく眠れたかい?」

 

「おはようございます。はい、ぐっすり眠れました。」

 

 椅子に座って挨拶をしてきたのはカサドルさん。おや、昨日と違って髭を整えてあるや。

 

「おはよう、マイムさん。すぐ朝食にするから待ってね。」

 

 竈の方からミリシャさんの声がした。

 

「はい、わかりました。」

 

 ふんわりと香ばしいパンの匂いが流れてきた。パン屋さんの前を通り掛かった時にするような、甘くて香ばしい匂いがする。

 

 しばし待っていると。

 

「ミア、ちょっと手伝って。」

 

「はーい。」

 

 ミアさんとミリシャさんが焼きたてのパンをテーブルに並べていく。パンとジャムと焼いた厚切りベーコンを並べ、ハーブティーを淹れていく。

 

「お待ちどうさま。パンとベーコンはおかわりも有るからね。」

 

 焼きたてのパン、香ばしく焼かれたベーコン。そしてハーブティー。個人的には理想的な朝食だと思う。日本では朝食を食べたり食べられなかったりだったし、食べられても晩御飯の残りとかだったし。こういう普通の朝食っていう感じのメニューなんて何年も食べて無い。

 ああでも両親が居た時も朝起きるのが遅くて、あんまり朝食は食べて無かったっけ。

 

 いいなぁ、こういうの。

 

「じゃあお祈りして食べましょ。」

 

 

 何故か夜と違ってささっと、祈って食べ始めた。文言は「女神アクアよ日々の糧に感謝します。」だった。後で聞いた話だと、一日の終わりは息災で過ごせた感謝も兼ねて祈るけど、朝昼は短めで祈るんだとか。

 

 

 パンは手のひらよりも少し大きいサイズの丸いパンで表面はこんがり焼け香ばしい。千切って噛み締めれば、焼きたてでもちっとして麦の香りが食欲をそそった。焼きたてのパンはそれだけでも美味しい、野苺のジャムは甘酸っぱくパンと併せるとほんとうにすごく美味しい。ベーコンは厚切りで表面はカリカリに焼かれ、噛めば肉の旨味と塩味でもう言葉は出ない。口直しにハーブティーを飲んで、美味しくてため息を吐く。

 

「おいしい…。」

 

 これ以外に言うべき言葉は無い、しあわせ。わたしはしあわせ。

 

「マイムさんは本当に美味しそうに食べてくれるから、作った方としては嬉しいわ。」

 

 美味しい物を美味しく食べる。ただただ当たり前の事だと思う。

 

「おいしいからです。私もおいしい物を食べるのはしあわせです。」

 

 鏡を見なくても分かる。私は今きっと、満面の笑みを浮かべているんだと思う。ああ、おいしい。

 

「マイムって何食べてても、幸せそうよね。」

 

「三食食べられるのは幸せだと思いますよ?それも全部手間暇掛かった料理なんですから。」

 

「まあ、そうなんだけどさぁ。マイムってこっちに来るまでどんな生活してたら、干し肉食べててもあんな幸せな顔で食べられるんだか。」

 

 そう聞かれ、思わず真顔になる。

 

「誰かと一緒にご飯を食べられる事は無かったし喋る事もなかったです。いつも冷めたご飯を一人で食べたり食べられなかったりでした。何食べてても美味しく感じなかったんです。」

 

 日本での事を思い出すと惨めな気持ちになる。口に出すのも嫌。またあんな生活に戻ったら、もうきっと立ち直れない。

 

「だから、誰かと一緒にご飯を食べられるだけでも幸せなんです。美味しいご飯なら尚更ですよ。」

 

 私は今、どんな顔をしているのだろうか。

 

「マイム…。」

 

「ごめんなさい、暗くなっちゃいましたね。少なくとも、私はこっちに来てからは毎日楽しいし、幸せなんですよ。」

 

 日本では死んじゃったけど、この世界では楽しいんですよ。

 

「マイムさん。家に居る間だけでも自分の家だと思ってくれ。もう一人娘が出来たんだと思えば良いんだしな。」

 

 カサドルさんは私の頭に手を置きながら笑って言う。

 

「いっそ、うちの子になっても良いんじゃないかしら?マイムさんさえ良ければ、ね?」

 

「あっ、それ良いね。じゃあ今日からマイムは私の妹って事で。」

 

 

 唐突過ぎてなんと答えたらいいのか…。嬉しいんだけど、距離感が掴めないって言うか。

 

 

「突然で戸惑うのは当然よね。でも、私達はあなたの事が放っておけないのよ。アクシズ教は全てを受け入れる。目の前に寂しげな女の子が居るのに、放っておくなんて選択肢は無いわ。仮初めだけど、あなたを家族として迎え入れたいのよ。」

 

 

 なんて言えば良いのか、ほんとうに分からない。嬉しいけど、分からないよ。だって()にとっての家族は、私だけを残してみんな…死んじゃったんだから。嬉しいけど、受け入れようとしてくれるのは嬉しいけど。気持ちの整理がつかない。受け入れちゃったら、()が家族が居ない事を受け入れ無くちゃいけないと思うし。

 気持ちがぐちゃぐちゃだ。分からない。分からないよ…。

 

 

「今は、答えられないです。ごめんなさい。私は、私の家族は死んじゃったけど。でも私にとって家族はまだ、気持ちの整理がつかないんです…。受け入れようとしてくれたのは嬉しいです、けど。私はまだ答えられないです。」

 

 苦しい。もう何年も経つけど、受け入れるのが苦しい。考えないようにして目を逸らし続けてきた。私が自分の殻に篭って拒絶してたから、叔母さん達も呆れて離れて行ったんだと思う。自業自得だとは思う。でも、無理。

 

 

「ごめんね。マイムの気持ち、考えてなかったね。ごめんなさい。」

 

 そんな顔をさせたい訳じゃ無いのに、これは私の我が儘なのに。私のせいで悲しませて胸が痛い。

 

「これは私の我が儘ですから、そんな顔をしないでください。せっかくのご飯が冷めちゃいますよ。」

 

 

「ん、まあなんだ。二人とも先走り過ぎだ。マイムさん、悩み過ぎてもいけないよ。今は上手い飯とあったかい風呂でゆっくり休んで行きなさい。また次来た時も家でゆっくりしてけば良いさ。」

 

 私の頭をポンポンと軽く叩きながら言う。手、おっきいなぁ。

 

「じゃあ、僕はそろそろ仕事に行って来るよ。」

 

 カサドルさんは立ち上がり、もう一度私の頭を撫でて行った。

 

 

 しばらく無言での食事が続く。私のせいだけど、すごく気まずい。重い…。

 

「マイムさん。ごめんなさいね。でも私は諦めて無いわ。いつかあなたに、お母さんって呼ばせてみせるわ。」

 

 その…私が言うのもなんだけど、努力の方向性が間違って無いですか?

 

「マイムを妹に出来ないのは残念だけど。私の方が歳上だから、今のままでもお姉ちゃんよね。ほら、お姉ちゃんって呼んでみて。ミア姉さんでも良いわよ。」

 

 そう来るか、ミアさんもへこたれ無いのは流石親子だなって思う。ほらほらーって煽って来てるし。しょうがない。

 

「…お、お姉ちゃん。」

 

 ガバッとミアさんが抱き付いて来て頬擦りされた。

 

「可愛い可愛い。」

 

「ミアずるい。」

 

 ミリシャさんは悔しそうにしてる。

 

「見た目なら私でもお姉ちゃんで行けるんじゃないかしら。」

 

「無理だって母さん。」

 

 見た目で言えば、まあ有りかとは思うけど。メンタル強すぎじゃないですかね。

 

 

「冗談は置いといて、マイムさん。私はいつでもウェルカムだからね。困った事が有ったら力になるからいつでも言ってね。」

 

「私がマイムといつでも一緒に居るから出番は無いかもよ?」

 

「おやおやぁ、困った事があると泣きついてくるミアちゃんはどこに行っちゃったのかなぁ?二人とも困ったらお母さんにちゃーんと相談してね。」

 

「ふふ、わかりました。」

 

 友達母娘(おやこ)って言葉を思い出した。こういう関係のことなんだろうなぁ。

 

「もう!わかったから、それは言わないでよ。」

 

「分かれば宜しい。今日のお昼はどうするの?家で食べるの、それとも外?」

 

「うーん、どうしよっかな。マイムはどうしたい?」

 

 外食も捨てがたいけど、ミリシャさんのご飯は美味しいしなぁ…。

 

「ご迷惑で無ければ、お願いしても良いですか?」

 

「分かったわ、腕によりを掛けて作るわ。楽しみにしててね。」

 

 ミリシャさんはニシシと笑って、腕捲りするポーズを取って言った。

 

「はいっ。お願いします。」

 

 ご飯食べたばっかりだけど、楽しみ。

 

「じゃあ、出掛ける準備しよっか。」

 

「はい。」

 

 

 二人部屋に戻り、着替えをする。いつもの服に袖を通す、今日はローブも着よう。ローブは初日以外は持ち歩いているだけで着て無かったしね。

 

「マイム、それ着るの久しぶりだよね。いつ見ても、綺麗な色合いよね。青から紺でまるで空みたいよね。」

 

 空か。綺麗だとは思ってたけど、水よりも空っぽいかな。

 

 ハッ、水は空から雨になって恵みをもたらす。つまりこれは空からもたらされた恵み()大地(人々)を豊かにするという事なのではっ。

 

 やり遂げて見せます。渇いた大地に恵みをもたらして見せます。

 

 

「マイムー、ぼーっとしちゃってどうしちゃったの。」

 

 いけない、トリップしてた。

 

「ああいえ、なんでも無いです。ただ、空と水で雨を連想しただけです。」

 

「雨かー。マイムの雨乞い、凄かったよね。今度畑の水やりの依頼受けたらアレやってよ。上手く行ったら、クリエイトウォーターでチマチマやらなくても良いしさぁ。」

 

「そうですね、良いかもしれませんね。そういえば、雨乞いの儀式の話ってどうなったんですか?」

 

「あー、アレ。ギルドからも何にも言ってこないし、どうしたんだろうね。」

 

 精霊のバランスがどうとか、土着の文化がどうとかで紅魔族の人が来るって話だったはずだけど。

 

「マグナが帰って来たら相談すれば良いんじゃない?定期連絡終わったら顔合わせって言ってたし、どっちかのチームが帰ってくるだろうし、何か情報あるでしょ。」

 

「他のチームの人達に会えるのが楽しみです。」

 

「まーたキラキラした笑顔浮かべちゃって、まぁ。そんな良いんじゃないよ。遠征してる方は馬鹿ドムがリーダーの飲んだくれチームだし、探索の方は大喰らいの食い意地張った奴らだし。一緒のテーブルだと賑やかどころじゃないわよ。」

 

 やれやれ、みたいな表情でミアさんは言うけど、私にとってはどっちも楽しそうだけど。

 

「考えても仕方ないって。着替えたら、髪結ってあげる。たまには違う髪型にさせてよ。」

 

「わかりました。今日はおまかせします。」

 

「任されたわ。」

 

 

 そして、パジャマ代わりにしていたワンピースを着たままでショーツを穿き替える。今穿いてるショーツは八の村でも手に入ったけれど感触はあんまり良くない物で、もっと良いのがあると良いなぁ。夜の間に洗濯しておいた元の物を穿く、やっぱりこっちの方が着心地が良い。

 

「服屋とかも周りたいので動き易い髪型でお願いしますね。」

 

「分かってるって。」

 

 そしてワンピースを脱ぐ、下にはショーツだけで他は何も身に付けていない。ツンと上を向く果実は重力に逆らい形を崩さず、うっすら割れた腹筋は健康的な美しさを醸し出している。

 

 お腹を撫でながら思う。もしかして、もっと腹筋が有れば防御も上がるのかな?

 

 上着はブラウスって言っても良いのかな、コレ。ノースリーブで脇が見えてるのがちょっとなぁ、袖の有る服買お。

 

 ノースリーブは動き易い、それは認める。だが、うら若き乙女の脇が見えるのは男達にとってはあまりにも目に毒(眼福)だ。

 

 下からボタンを留めていき、最後にブローチを着ける。スカートを穿き横のボタンで留める、流石にこの世界ではジッパーは無くボタンのようだ。

 

 ベッドに座りサイハイソックスを穿く。穿き口を両手で広げまず膝下まで上げ、踵を合わせ、引き上げていく。時折、シワを伸ばし太腿の上まで引き上げていく。最後に部分的なシワを伸ばして終わりだ。

 細過ぎずも適度に筋肉が付いた引き締まった脚を包みこんだ白。青い服とマイムの色白な肌とが相まって清楚さを引き立てる。

 

 

 今日も、完璧。どこから見ても清楚な美少女だよね。私はナルシストじゃないけど、鏡でじっくり眺めたくなるよね。

 

 

「着替えたね、じゃ、こっち座って。」

 

「お願いします。」

 

「んふふーん。じゃあ、始めるよ。」

 

 

 三面鏡?みたいなので見ていると、髪を編んでいってるのが分かった。三つ編みかな、長いから苦戦してる。

 今度左側で編んでる。終わったあと、右前で細めの三つ編みを作って白いリボンで巻いた。

 

「終わったよ。」

 

 髪型の事は分からないけど、左右とも太めの三つ編みを作ってお下げ髪になってる。自分では出来そうにないけど、これも可愛いな。

 

「色々考えたけど、マイムならシンプルな方が似合うって思ったんだけど、これで大丈夫?」

 

「はい、これで良いです。ありがとうございます。」

 

「良かった。」

 

 

 私達の服装は、私は髪型以外はいつも通りでミアさんは所々に刺繍がされた明るい緑色のマキシワンピースで髪はリボンで縛ってお下げにしてる。

 いつもとは雰囲気が違って、冒険者じゃなくて街の綺麗なお姉さんって感じがする。

 

 

「とりあえずまだ早いし、時間潰しがてら行き先を考えようか。」

 

 

 行き先は服屋と雑貨屋、武器屋、教会に決まった。あとは回りながら考えようと言う事になりました。武器屋が入ってるのは、ミアさんの消耗品の購入と私用の武器防具を見ようという事になったから。

 

 高い筋力で殴るだけで無く、棒やメイス等を使うのも有りじゃないかと言う事。遠心力と重量が加わる。今後、毒やトゲを持つモンスターと戦う事もあるかもしれないとの事。

 

 なるほど、と思いつつ時間は過ぎていく。

 

 

 

 

「「行ってきまーす。」」

 

「いってらっしゃい。」

 

 

 

 

 まずは雑貨屋さんに寄り、何か使える物が無いか探しました。

 

「へい、らっしゃい!」

 

 八百屋か何かみたいな言い方の店主に迎えられ、鞄か背負い袋等は無いかと尋ねると。

 

「革のリュックや背負い袋はどうでい?」

 

 手に取り見ると、牛革みたいな革のリュックで開口部は上部のみでポケットが外に二つあるだけのシンプルな物で軽くて丈夫そうだった。背負い袋の方は、袋というよりもボディバックと言った所か。ミアさん達が使っている物に近く、身に付ければ身体に密着し動いてもブレない。

 

「背負い袋の方を下さい。」

 

「あいよ、5000エリスだ。時々、油を塗り込んで手入れするといいよ。」

 

 私が手入れの仕方等を聞いているとミアさんは針と糸等を手渡してきました。

 

「これも買っておきなさい。装備の補修に必要よ。」

 

 裁縫道具も購入し、後は細々とした手入れ油や砥石等を購入し店を離れました。

 

 

「次は武器屋に行くわよ。」

 

 少し歩くと武器屋に着きました。店には所狭しと鎧や剣が並べられています。

 

「おや、ミアちゃんいらっしゃい。」

 

 店主のおばあさんが出迎えてくれます。

 

「そっちの子は、ミアちゃんのお仲間かい?」

 

「そうよ、この子はマイム。ついこの間入ったばかりだけど、優秀なモンクよこの子に武器を見繕って欲しいの。」

 

「そうかえ、モンクなら棍棒や棒はどうだい。軽くて取り回しも良いし使うだけなら特別な技能も要らないし、威力も筋力次第で跳ね上がるよ。」

 

 幾つかの棍棒を手に取り握り軽く振らせて貰った。

 

「もう少し、重くても良さそうだねぇ。ちょいと待ってな。」

 

 店の奥に行き幾つかの武器をを持ってきた。

 

「八角棒やモーニングスターはどうだい?棒ならリーチも有るし突き払い振り下ろしで難しい動作も無く威力が出るし、モーニングスターなら単純に振り下ろすだけでいい。」

 

 今度は八角棒を手に取る、硬い木で出来た棒で多少のしなりがある。両端は金属で補強されていて丈夫そう。モーニングスターは先にトゲ付きの鉄球が取り付けられた棒で見た目で分かる。これは痛い。

 

 次に手に取ったのは、全長50cm程度の鉄の棒。バトンと言うらしい。握り部分は革が巻かれて滑り止めになっていて、先端まで同じ太さの丸棒だった。

 

「バトンはちょっと短めだけど打撃や突きも出来るし、攻撃を払ったりも出来るんだ。何より携行性が良いし、ただの鉄棒だから壊れる事も無い。」

 

 手に取った中では、バトンが一番しっくりくる。攻防共に使えて軽く丈夫で安い。コレにしよう。

 

「じゃあバトンにします。」

 

「そうかい、バトンも幾つか種類が有るから好みのを選びなさい。」

 

 他の武器を片付け、バトンを何本も持ってきて並べていく。色や握り部分の材質、先端形状等様々だ。その中で目を引くのは…。

 

 黒く染められた直径3cm程度で黒い革の巻かれたバトン。柄の部分には青い石が嵌め込まれている。どことなく惹かれる物がある。

 

「それに目を付けたか。柄の石は水の精霊を呼ぶとされている物だよ。ほんとうにそんな効果が有るのかは知らないけれど、昔からそう言われてる物さ。」

 

 曰く、水の精霊の涙とも力の結晶とも。水を浄化する力が有るとも。どれも迷信だが、色も相まって装飾によく使われるらしい。

 

「コレにします。色が気に入ったので。」

 

「武器を使うのに愛着を持つってのは良いことさ。それとミアちゃんの方はいつもので良いのかい?」

 

「いつもので。あとナイフを研いで欲しいの。」

 

 ミアさんはナイフを研ぎに出し、入れ替わりでナイフを受け取っていた。いつも整備の時は預けた分と入れ替わりで次のナイフを整備に出すそうです。

 

「じゃ、また来るね。」

 

「二人とも元気でやりな。」

 

 そして私達は教会へと向かう。

 

 リムタスさん、今度は変な事しないと良いんだけど…。

 

 

 



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成り行きで





 

 教会に足を踏み入れた私達が見たものは、天窓から降り注ぐ光の中に立つ司祭様(リムタスさん)の姿。

 聖典を片手に目を瞑り、瞑想している姿は先日の様子とはまるで違い敬虔なる信徒と言える姿だと思う。思った。

 

 

 立ったままで寝ていると気付くまでは。

 

 

 小さく寝言を言ってるけど、まさに寝言は寝て言えを姿で体現するとは…。

 

 ミアさんが肩を揺さぶって起こした。

 

 

「なんとなく、来そうな予感がしていた。マイムよ、道に迷っておるな。迷いを話してみよ。」

 

 あっ、ナチュラルに寝ていた事を無かったことにしたよ…。

 でも真剣な目付きはまるで私の心の中まで見通すかのようで、少しだけ怖かった。この人には隠し事が出来ないんだなって。

 

「はい、御相談したい事があります。」

 

 私達はそのまま進みミアさんは長椅子に腰掛け私の要件を済ますように促す。私はリムタスさんの正面に立ち言葉を紡ぐ。

 

「私の言葉がより多くの人に受け止められるにはどうしたら良いのでしょうか。」

 

 私には経験も知識も足りないし、その道筋すら分からない。力も足りないし心も強く無い。

 

「ふむ。言葉が届かぬなら、行動で示すがよい。力無き言葉では、想いは伝わらぬ。想い無き力でも伝わらぬ。ならば、言葉と力を示せば良い。力が無くば、心身を鍛えよ。そなたには想いは既に在ろう、なら力を付けよ。」

 

 説得力が無いって事か…。私はポッと出の存在でしかない、だから力と立場が必要か。

 

「手っ取り早いのは、名声を高める事だ。立場は力だ。重責ある者の言葉には重みがある。功績を積み上げれば、いつしか人々の心にも届こう。または、力を示す事だ。他を圧倒する力は人々を惹き付ける。世に蔓延る悪を討つ勇者には、自然と人々も付き従うだろう。」

 

 勇者かぁ、私も勇者候補ではあるんだよね。数多の勇者候補がこの世界に来た、でも未だに魔王は健在。功績と名声があれば…。

 

「だが、マイムよ。力ずくの言葉など、野蛮だとは思わぬか?一般的には強い者の言葉は重い。だが、儂等が持つ力は何じゃ?癒し浄める力があるじゃろう?水と共に生き、この清浄なる力で人々を導くのもまた名声を高めるだろう。」

 

 私は一部だけどプリースト系魔法が使えるし、この身に宿る浄化の力もある。

 

「戦士は数多居る、だが癒し手はいつだって足らぬ。それは戦場でも日常でもじゃ。お主には力も癒しもある。ならば、それらを高めて行く事じゃ。急がば回れ。何事も焦ってはならん。」

 

 私は、急ぎ過ぎている…?

 

「今は学べ、足らぬ知識を補おうぞ。」

 

「よろしくお願いします。」

 

 今、出来る事をしよう。

 

 

 

 辺境の歴史と成り立ちの知識を学ぶ事になりました。言葉を届かせるなら、歴史を知り背景を読み解くべきと。

 

「まずは辺境の成り立ちと現状からじゃな。地図を見ながら聞きなさい。」

 

 古来、この辺りは広大な森林地帯でエルフや獣人達の集落があったそうです。ですが、何らかの災害により、エルフ達の拠り所であった大木と都が滅び森も枯れていった。

 森と都を失ったエルフ達は安住の地を求めて各地に散ってゆき、人間との混血により純粋なエルフは消えた。旅に出なかった一族が何処かに隠れ里を作って住んでいるという言い伝えが残っているらしい。

 

 森が消え草原と荒野になり精霊のバランスも変わり、徐々に水の精霊が減って行くと共に乾燥した土地が増えていった。ここ百年程は安定していたけれど、三年前から急激に土地が痩せて乾燥していったらしい。急激な変化の裏には精霊達の変動が有ったと推測されていて、領主やギルドが中心になって原因の究明と対策に乗り出している状況で雨乞いもその一環だそうです。

 このまま乾燥地帯が拡大したら幾つもの村が放棄される自体に発展するので、領主は焦りはじめている。

 

 

「以上が大まかな現状じゃ。このままでは領地全体へと影響が出るだろうし、路頭に迷う者も多数出るし治安の悪化も懸念されておる。」

 

 

 つまり雨が降らないと、詰む。思ってたよりも深刻な状況みたい。実は残された時間はもう、あまり無いのでは…。

 

「その、思ってたよりもずっと深刻な状況ですけど。時間はあまり無いんじゃないですか?」

 

「と、思うじゃろ?だが実はまだ何年かは持ちこたえられるんじゃ。」

 

 要約すると。領主の一族の所有する土地には肥沃な土地がまだあるのでそこに大規模な農場を作り、農民達を受け入れる準備が進んでいる。なので時間稼ぎしている間に解決出来れば良いし、出来なければ農場を拡大して町を作ればいいと。

 

「という訳じゃ。根本的な解決が出来なくても大量の人手があれば何とかなる。とは言え、これ迄に開拓につぎ込んだ資材が全て無駄になるのは領主にとっても痛手なのは事実じゃ。出来れば解決はしたいというのが現状じゃの。」

 

 放棄するとなれば開拓民の士気は大いに下がるのは目に見えていて、領主の求心力も下がるのは確実だそうです。確かに全部一からやり直しなんて事になればうんざりしてしまうと思います。

 

 

「この領地は交易ルートから外れているせいで領主もあんまり金を持っとらんのでな、領内で賄える資材はともかく金属製品や薬草や医療品の類いを買う資金が心許ないんじゃ。開拓用の物資の遣り繰りが結構カツカツで出来るだけ出費は抑えたいから、儂等にも医療面での協力依頼が来とるんじゃよ。」

 

 食料は保存食なら辺境まである程度は行き届かせる事が出来るけど、他の物資がキツイらしい。

 

 

「本筋に戻るぞ。そんなわけで、癒し手は引く手数多だから何処に行っても功績は積み上げられていくじゃろう。もっと手っ取り早くという事ならば、有力者に顔を売るのが早いだろう。貴族や商人、有力な冒険者等にな。そして、勇者候補だ。」

 

 

勇者候補。

 

 話を聞くと当然ながら私達の様な転生者だけではなく現地の強力な冒険者達も勇者候補と呼ばれ、貴族や商人が後援者となっている事もあるそうです。彼らの殆どがベルゼルグで活躍しており、彼等に接触する為には必然的にベルゼルグに行く必要がある。

 王都なら確実に接触は出来るだろうが王都を拠点にする有力な勇者候補ならば後援者が付いている可能性が高いとも、そこに私達が話を捩じ込むのは難しいと。

 

 ならば、どうするか?他の都市で将来の見込みが有りそうな者を取り込むのが良いだろうと。つまりは青田買いすると。

 

 大成するかは兎も角、私なら転生した日本人を探して接触するのが良いかも知れない。転生者は皆、チートを貰って転生しているはずだし。少なくとも埋もれてその他大勢って事は無いと思う。それに、日本人なら見た目で分かるし。

 

「リムタスさん、私の同郷の人達もアクア様に導かれ魔王討伐に出ています。私はその人達に接触してみるのが良いと思います。」

 

「同郷の者か。その者達は見た目で分かる様な特徴でも有るのか?」

 

「はい、日本人なら大抵黒髪で黒色の瞳または茶色の瞳です。それに名前を聞けば分かります。そして今の私の姿を見れば何らかの反応が有ると思います。」

 

「そこまで言うならばそれで良いじゃろう、だがどこの都市を目的とするのだ?闇雲に探しても見付からんかも知れんぞ?」

 

「それは…。」

 

 私には土地勘が全く無い。そもそもベルゼルグがどっちの方角かも距離も分からず言葉に詰まる。

 

「で、あるならば。良い物が有る、きっと役に立つだろう。少し待っておれ。」

 

 そうい言ってリムタスさんは礼拝堂を出て行った。

 

「ねえ、マイム。どこって言うか、アルカンレティア行くときについでにちょっと回って見るのも良いんじゃない?観光しながら回れば同郷の人達も来てるんじゃないかな。」

 

「アルカンレティアって結構大きな街って話でしたよね、だったら湯治に来てる人も居るかも知れませんね。」

 

 

 話しながら待っていると、リムタスさんが真っ青な石のあしらわれたペンダントを手に持って帰って来た。

 

「コレを見よ。これは転移石と言う物だ。かつてアルカンレティアで我々が研究していた物の成果の一つだ。」

 

リムタスさんによると、古い時代に使われていた儀式魔法を応用している物で相似した地形同士を結んで転移する事が出来る物だと言う。

 水の村はアルカンレティアを模しており、水が豊富である事と温泉の代わりに家々に川から水を引き風呂を作り、教会を始め建物や通りの配置を似せてあるのだと言う。儀式場を作り上げそこに水の精霊の力を流し込み転移陣を作り、転移魔法を発動させるという大掛かりな物。

 

「へえー、そんな便利な物が有ったんだ。その割には誰も使ってる所を見た事無いんだけど?」

 

 ミアさんは疑わし気にリムタスさんを見る。

 

「それには理由が有ってだな…あー。水の精霊の力を借りる為には水の精霊との強い繋がりを持つ清らかなる乙女にしか使えんのだ。昔、共に来た聖女候補のミシャにしか使えんくてな…。それ以降誰も条件を満たす者が居らんのだ…。」

 

 気まずそうに、斜め上を見ながらリムタスさんは尻すぼみに言う。

 

「ミシャって、隣のミシャ婆ちゃんの事?」

 

「ああ、そうだ。歳と共に繋がりが弱まって行ったそうで、三十路以降は発動しなくなってしまったのだ。あ、この先はミシャには言うなよ。水の精霊は清らかなる乙女の姿をしていると言われておるのは知っとるな?相似魔法の特性上、力を貸し借りする同士も似通っているのが条件だと言われておる。だから、そのな体型がな。」

 

「あー。その先は良いよ分かった。ミシャ婆ちゃんには内緒にしとくよ。」

 

「??」

 

「あー。マイム。えっとね。幸せ太りって言うかなんと言うか。うん。分かって。」

 

「あー。なるほど。」

 

 分かったよ。

 

「そういう訳だから内緒にしておいてくれ、アレじゃ無ければもう少し長く発動は出来たと思うんだがの。」

 

「でも、水の精霊との繋がりっていうのは?娘のリザさんってミシャさんの若い頃に瓜二つって言われてるじゃん。」

 

「曲がりなりにもミシャは幼い頃から修行を積んで居た身だからな、容姿が似ている程度じゃそこまでは行かんだろう。村でやってるアレとかはお遊び程度なのは分かるじゃろ?だからミシャの血筋とはいえ精霊の気配を感じるのがやっとなのだ。」

 

「じゃあ、ミシャ婆ちゃんが使えなくなってからはずっと仕舞われてたの?」

 

「研究は続けていたが、発動は出来なかったからほぼ仕舞っていたな。他に精霊を見る事が出来るのは儂を始め何人か居るには居るが、なんでか知らんが見事に男ばかりでな。うら若き乙女にしか見えぬ水の精霊は目の保養にはなるがそこまででな。儂等には精霊と自由に言葉を交わす事は出来んのだ。」

 

「目の保養って…。」

 

 うわぁ…って目でミアさんがリムタスさんを見ている。

 

「オホン。そこでだ。コレをマイム、そなたに託そうと思うのだ。」

 

「私に、ですか?でも私は精霊なんて見えないですよ。」

 

 キョロキョロと周りを見回すけど、精霊なんて見えない。

 

 

「精霊が見えるようになるには切っ掛けが必要でな。儂等は修行で見える様になったが、マイムならコレを身に着ければ精霊との交信が出来るようになる可能性がある。とりあえず着けてみてくれんか?」

 

「わかりました。」

 

 ペンダントを手渡された。五百円玉よりも少し小さいくらいの青い石が着いたペンダントだ。透明感は無くまるで絵の具で塗ったような均一な青一色の石を銀の鎖で吊っている。私は留め具を着けるに少し手間取りペンダントを首から下げた。

 

 すると、私の視界は一変した。礼拝堂には私達三人しか居なかった筈なのに、私達の周りには青い髪の女性達が居た。私にはその女性達は…

 

「アクア様…。」

 

 年格好は様々ではあるけど、アクア様にそっくりな女性達が見えた。

 

「そうか、マイムにはアクア様に見えたか。彼女達の声は聞こえるか?心を澄まし、声を聞き取るのだ。」

 

 何かを言ってるけど、分からない。もっと澄まさないと。

 

『きこえる?わたしのこえが?きこえる?』

 

 近いのに遠く、どこかエコーの掛かった様に聞こえる。

 

「聞こえます。私の声は聞こえていますか?」

 

『きこえるよ。やっとおはなしできるね。わたしはずっと、あなたと。おはなししたかった。』

 

 目の前や後、横と話す声が位置を変えて行く。一人が話して居るのではなく、全員が話している?

 

「マイムよ、精霊は個であって個では無い。全てが繋がっている。目の前の精霊達も遠く離れた精霊も何処かで繋がっていると言われている。だから今周りに居る精霊達は全員で記憶を共有していると思ったら良い。」

 

『わたしはずっとみてた。あなたがこのせかいにきてから、ずっと。』

 

「マイムよ、儂には断片的にしか聞こえぬ出来れば精霊達が何を望んでいるのか聞いてくれんか?もしかすると崩れたバランスを正常に戻す助けになるかも知れない。」

 

「わかりました。えっと、精霊様。私とお話ししたいそうですけど、何をお話しすれば良いですか?」

 

『いっぱい。』『あなたは、あくあさまといっしょ。そっくり。』『どうしてこのせかいにきたの?』『あなたはひとりじゃないよ?だいじょうぶだよ。』『おしえて。いろいろ。』『とじこめられた、たすけて。』『くろいのをおいはらって。』『あそぼ』『かぜがよんでる。』『さむい』『かわいい』『いいこ、いいこ。』『邪なる者を退けて欲しい。』『つよい?』『たのしい』『てつだって』『きて』『でんぱ』『』『』『』『』『』………

 

 一斉に話し掛けられて混乱する。所々に重要そうな言葉が入ってるけど、聞き返す暇が無い。

 

 

「あ、えっとえっと。そんなに一編に言われても。」

 

「マイム、私達はちょっと席を外すよ。ゆっくり話合ってからで良いよ。爺行くよ。」

 

「待て、ミア。引っ張るな。こんなに沢山の精霊が集まって来るなど初めて「良いから行くよ!マイムが集中出来ないでしょ。」」

 

 視界の端で二人が出て行くのが見えた。

 

 

「精霊様、もう少しゆっくりお願いします。何に困っているんですか?」

 

『こまってる。』『きりはなされた。』『でられない。』『くろいのがじゃま。』『邪なる者の尖兵を退けてくれ。』『たすけて。』『かてない。』『つよい。』『したい。』『よごれる。』『さらまんだーがまけた。』『よごされる』『したい。』『くろいやつ。』『ぞんび。』『じょうかして。』『かいほうしてあげて。』

 

 

 少しずつ分かってきた。

 

 まず、邪なる者の尖兵。これは魔王か悪魔の手先なんじゃないかと思う。

 次に、切り離された、出られない、黒いのが邪魔。何者かに閉じ込められたか封印されたか。

 次は、勝てない、強い、さらまんだー?火蜥蜴(サラマンダー)かな。敵が強くてサラマンダーが負けた。たぶんサラマンダーは味方だと思う。

 そして、死体、ゾンビ、汚れる、汚される、浄化して。敵はアンデッド。浄化その物か、倒して浄化して欲しがっている。

 最後、解放してあげて。これが分からない。解放してあげて?アンデッドはこの世に縛り付けられた魂の成れの果てだと聞いた。じゃあ、この解放とはアンデッドを浄化して魂を天に還す事?

 

 

「精霊様。確認させてください。精霊様は魔王の手先のアンデッドに閉じ込められて、味方のサラマンダーがその敵に負けてしまったんですね。そして、アンデッドを倒して浄化して魂を解放して欲しい。という事で合ってますか?」

 

『あってる。』『だいたい。』『ただしい。』『おしい。』『さらまんだーがぞんび。』『あやつられてる。』『邪なる者の尖兵がサラマンダーを汚した。』『さらまんだーをたすけて』『ぞんびがぞんびつくった。』

 

 一人だけ居る精神年齢が高い人と話せないかなぁ。魔王の手先は否定しなかったから。魔王の手先のアンデッドがサラマンダーを倒してゾンビにして操って、水の精霊を閉じ込めている。って所かな。

 

「精霊様。もう一度確認します。魔王の手先のアンデッドがサラマンダーを倒してゾンビにして水の精霊様を閉じ込めている。という事ですか。」

 

『ただしい。』『そのとおり。』『あってる。』『その認識で正しい。』『たぶん。』『しるふもなかま。』『たいたんも。』『せいれいはなかま。』『あんでっどてき。』

 

 …登場人物?が増えたし。シルフは風の精霊でタイタンは大地の精霊かな。つまり、精霊達は魔王の手先と戦って負けてしまった?

 

 

「精霊様、つまり。精霊達様は魔王の手先に負けて支配下に置かれていると言う事でしょうか?」

 

『そうだよ。』『そう『私が代表して話す、お前達は少し黙っていろ。』』『えー、ずるーい。』『わたしもおはなししたいー。』『ずるーい』『ずるい』『やだー。』『黙れ、後にしろ。』

 

 ああ、やっと話が進むよ。

 

『同胞よ、そなたの言う通りだ。我らは魔王の手先に敗れた。そしてサラマンダーが汚され使役されてしまった。我等精霊同士で長きに渡り争っていた。それ故に団結しなかったのが敗因だ。』

 

 つまり、各個撃破されてサラマンダーが使役された。シルフとタイタンはアンデッドを倒そうとしてるけど力が足りない。アンデッドは精霊達を支配したいけど力が足りない。水の精霊はアンデッドに閉じ込められて少しずつ汚染されている。汚染しきればサラマンダー同様使役されるし、他の精霊も負けてしまう。

 精霊は死なないから浄化されれば復活する。復活したら今度こそ団結して敵を倒す。その為に、サラマンダーを浄化して欲しい。

 

「場所はどこでしょうか?」

 

『この川の上流に泉がある、そこだ。汚染が進めば人間達も暮らして行けなくなるだろう。あと、畏まった言葉は要らぬ。同胞であるそなたと我等は同等だ。』

 

 

「同胞ですか?」

 

『女神アクアの写し身なら、それは女神アクアの眷族だ。女神アクアは水を司る者、そして我等水の精霊は眷族だ。なら我等は同胞で同等だ。』

 

 正直言って、畏れ多い。

 

「それでは司祭様も交えて相談していきましょうか。」

 

『うむ、良いだろう。ああ、彼に伝えて欲しい事がある。我等の声が届かずとも我等は共に在る、と伝えてくれ。』

 

「はあ、わかりました。」

 

 

 私は二人が出て行った扉を開き二人を呼びこれまでの経緯を説明した。

 

 

「ふむ、なるほど。では急激な環境の悪化の原因は魔王の差し金と言う事か。前線から遠く離れているからと油断しておった所を突かれたか。この件は領主にも報告しておく、精霊達を抑え付ける等並大抵の手合いでは無いだろう。下手をすれば幹部級かも知れん、大規模な討伐隊を組む事にもなるだろう。」

 

 この村を流れる川は例の大規模農場の水源の一つであり、これが汚染されれば延命策も潰える事になる。

 

「辺境の戦力だけでは難しいかも知れんな。それに浄化か…。最悪、本当に最悪だが。アルカンレティアの者共の手を借りる事になるかもな。奴等は堕落仕切った屑だが、腹立たしい事に能力はある。今もやってるかは知らんが、昔は前線に義勇兵を派遣していた程だ。奴等は能力だけは有るからの。」

 

 本当に嫌そうにリムタスさんは語る。そこまで嫌いなのか…。

 

「一度、近いうちにアルカンレティアに行かなくてはならんな…。これではマグナの小僧に説教しとる場合では無いな。何にせよ、領主の判断を仰ぐ。ミア、この件は小僧に伝えよ。だが、他にはとりあえず他言無用だ。」

 

「分かった。ギルドの方とかはそっちでやってくれるんだよね?」

 

「ああ、領主に報告すればギルドも交えて会合する事になるだろう。」

 

 

 なんだか、すごく大事になっちゃった。でも、来て正解だった。

 

 

『現状維持出来るのは概ね半年程度が期限だと思って欲しい。それまでに頼むぞ。』

 

「半年ですか、それを過ぎたらもう手遅れですか。」

 

『そうだ。それ以降は一気に侵食されるだろう。』

 

 言ったあと、精霊様は何かを悩むように腕を組んで唸り始めた。

 

『この話し合いについて一つ提案がある。我等の声をいちいち伝えるのは面倒だろう。そなたの手を他の者が握れば我等の声が聞こえるようになる。だが、乙女の手を取らせるのは如何な物かとも思う。』

 

 手を繋ぐのか、私は別にそんなに抵抗無いかなぁ。

 

「えっと、精霊様が言うには私と手を繋げば精霊様の声が聞こえるようになるそうです。」

 

「それは精霊が見えない私でも?」

 

「たぶん。」

 

 ミアさんの手を取りながら言った。とりあえずやってみよう。

 

『我が声が聞こえるか?』

 

「おおぅ。聞こえます!それに姿も見えます。」

 

 興奮気味にミアさんは言う。

 

「なんかこう、精霊達がマイムと一緒に並んでると姉妹みたいに見えるね。」

 

「儂もよいか?」

 

「良いですよ。」

 

 もう片方の手をリムタスさんと繋ぐ。リムタスさんの手は大きくてゴツゴツとしている。力仕事をしている男の人の手と言うイメージかな。

 

「見える、今までよりもはっきり見えるぞぉ!わ、儂にも何かお言葉を戴けませんか。」

 

 目を見開き興奮して感激している。

 

『では、伝言ではなく直接言おう。我等は常に共に在る。我等の声を聞けずとも、我等はお前達を見ている。』

 

 さっきも言ってたけど、どういう意味なんだろう。

 

「ああ、ありがとうございます…。」

 

 リムタスさんは涙を流しながら私と繋いだ手を、もう片方の手で包み込みながら精霊様に向かって頭を下げている。

 

「リムタスさん、それってどういう意味があるんでしょうか?」

 

「そうだな、マイムは知らぬな。それに村の若い者達も知らぬ事だろう。」

 

 涙声でリムタスさんは語った。

 水の精霊は女神アクアの眷族であり、その存在は信仰対象の一つであると。嘗て堕落の中に浸かりきっていた我等を嫌悪しつつも叱咤し、道を正してくれた事。当時の聖女が精霊の声を聞き、正しい信仰を説く動きの切っ掛けになった。原点回帰し、水を讃え女神アクアを崇める原始派を産んだ存在であると。

 清らかなる水の乙女達が我等を真の信仰へと立ち戻らせた。水の精霊無くして、原始派は産まれなかった。原始派の多くは水の精霊の姿は見えず、僅かな者が姿を見る事が出来。聖女を含む数名が声を伝えた。神の眷族のお言葉が聞こえないのは残念だが、きっと我等の祈りは通じていると信じていた事。そしてそれは無駄では無かった。

 

 

 リムタスさんは万感の想いを籠めて語った。この世界の人にとってアクア様の姿も声も聞くことは出来ない。だから、その眷族を信仰するのは当然の流れだと思う。こちらは姿を見る事が出来る者が居て、声を聖女や司祭を通して聞くことが出来る。そんな存在から声を掛けられたのだからそういう事なんだろう。

 

 

「儂等に出来る事であれば、この老骨も我が魂も全てを捧げて精霊様のお力になります。村の者達なら、皆同じ事を言うでしょう。総力を挙げます。」

 

 目に力を込めどこかスッキリした表情で精霊様を見詰めながら宣言した。

 

「全ては、アクア様の為に!失礼しましたな、では続きを話し合いましょう。」

 

『では、続けよう。率直に言って長くて半年だ。あと半年で我等が半身は汚され、闇に犯される。そうなれば我等はお前達を害するだろう。』

 

 精霊様は一度言葉を切る。周囲の精霊様達も一様にこちらを見詰める。

 

『この地の我等はお前達を見守ってきた。その愛し子を傷つけたく無い。もしも間に合わなければ、我等を置いて逃げろ。お前達が生きる事が我等が一番に望む事だ。』

 

「なりませんっ!それだけは、決して!そんな事を言わないで下さい。導き見守ってきた精霊様を見捨てる事など有り得ません。必ずや、必ずやお救いしますっ!だからどうか、そんな事を言わないで下さい。儂等は水と共に生きるのです。半年以内、いえ。遅くとも3ヶ月以内に戦力をかき集めて見せます。」

 

 私と繋いだ手に力が籠っている。涙を流し長らも強い意思で以て対話をしている。

 

「儂のプライドなど、価値は無い。村の有力者で会合し、アルカンレティアに戦力を頼る。アイツ等が話を聞く保証は欠片も無いだろう。だが!土下座でも何でもして戦力を確保しなければならん!何としてでも、この難局を乗り切るぞ。」

 

 リムタスさんは私とミアさんにも頭を下げて頼み込んだ。

 

「マイム、アルカンレティアに行くときは同行して欲しい。精霊の声を聞く事が出来る者が必要だ。どうか、儂に力を貸して欲しい。ミア、マグナの小僧ににも覚悟を決めろと言っておいてくれ。アイツも他人事では無い。アイツの父親はアクシズ教の司祭だ、必ず接触する事になる。ミアはアルカンレティアに行くときはマイムの身辺の警護を頼みたい、出来ればお前達のパーティーでだ。」

 

 断る事なんて有り得ません。私が力になれるなら。

 

「はい。私に出来る限り協力します。全てはアクア様の為に!」

 

「分かった。マグナには伝えとくよ。会合するんなら早い方が良いでしょ?私が今から伝令に行って来ようか?」

 

「ああ、頼む。それと自警団長も呼んで来てくれ。」

 

「分かった。じゃあ行ってくるね。村の存亡が掛かった緊急事態だって言っておくよ。じゃあマイム、あとは頼むね。」

 

 ミアさんは手を離して、私に手を振って教会から出て行った。

 

 

 

「二人は明日には戻らねばならんのだったな。事は一刻を争う。マグナには自警団から伝令を出す。村から指名で依頼も出そう。奴には嫌とは言わせん、絶対に依頼を飲ませる。マイムはこのまま村に残って会合にも出席して貰う、会合の出席者は全員が精霊様のお姿が見える者達だ。これ程の数の精霊様達が集っているのだ、すぐに結論は出るだろう。」

 

 

『あの者達か。皆、神官の子や孫達だったな。彼等の子に、赤い髪の幼い少女が居るだろう?彼女を連れて来ると良い。あの子は我等の声が聞こえている素振りがある。純粋なうちに修行を積めばきっと聞こえし者になるだろう。』

 

「そう言えば、子供のうちは見聞き出来る者が時折居るのでしたな。マイム、疑問が顔に出ておるぞ?幼い子供というのは純粋だ。それ故に精霊や妖精の姿や声を捉え易いのだ、だが歳とともに純粋さは失われ見聞き出来なくなるのだ。だから幼いうちから修行を積めば優秀な神官となり得るのだよ。」

 

「じゃあその子が修行を積めば、精霊様達と交信の出来る人になれるって事ですね?」

 

「可能性は高い。見える者はある程度居るが、聞こえる者は本当にごくごく僅かでその才が開くのは更に少ない。だが精霊様が言うのだから、他の者よりも素質は有ると思う。」

 

 

『戦力も必要だが、浄化魔法が使える者も数が必要だ。堕ちたサラマンダーを浄化しなければならん。腐っても精霊だ、抗魔力も高く大人数でも長時間掛かるだろう。』

 

「それこそ、アクシズ教団の十八番ですな。村の者は元よりアルカンレティアのアクシズ教団もそれを飯の種にしておりますから。毒や呪いを浄化解呪し治癒魔法で癒すのが主な収入源ですから。」

 

『そうであったな。では数は揃えられるだろう。戦力はどうだ?この村の戦士達は粒選りだがそんなに数は居ないだろう。サラマンダーの攻撃を凌ぎながら切り結ぶのは苛酷だ。』

 

「話の腰を折ってすみません。サラマンダーと言うのをあまりよく知らないんですけど、どういう感じ何ですか?」

 

 イメージ的には炎を纏った大トカゲか炎で出来たトカゲみたいなイメージ。

 

『その辺の知識も必要か。我等精霊とは人間の意識により姿形が作られるのは知っているな?何、それも知らないのか。』

 

「儂から説明しましょう。マイム、精霊の姿と言うのは決まっていないのだよ。我等人間がきっとこうだ、と自然を見てイメージした姿が素になるのだ。一般的に、水の精霊は清らかなる乙女を火の精霊は炎を纏った大トカゲを、風の精霊は薄衣を纏った美女を、大地の精霊は岩の様な肌を持つ大男をイメージすると言われている。」

 

 リムタスさんによると。一般的なイメージ以外に居住環境や地形から違う姿を連想しそれぞれの姿を取る事もあるそうです。

 

 滝から落ちる水が滝壺で渦巻く様から大蛇や龍を想像したり、鳴り響く雷鳴と共に降り注ぐ雨から雷神を想像するように。

 

 火の精霊は噴煙や噴火で空に立ち上る姿から龍を山火事や大火事から焔の翼を持つ鳳を。

 

 風の精霊は、吹き荒ぶ突風や嵐から地上に息吹を掛ける巨人や竜を、竜巻から竜、その軌跡の爪痕から荒ぶる巨人を夢想する。

 

 自然の姿と人の心次第でその姿は如何様にも変わる。精霊は想う人が多い姿を取り、人々の前に顕れる。

 

 

『説明ご苦労。元のサラマンダーは炎を身に纏った大トカゲで深紅の鱗と舞い散る黄金の火の粉が美しかったが、汚されてからは黒い闇の衣を纏った大トカゲと言った姿だ。鉄をも溶かす炎は猛毒と鉄を腐らせるの霧へと変わった。そしてその体躯は、骨に腐った肉がこびりついたおぞましい姿になってしまった。』

 

 サラマンダーゾンビを想像した。すごいボス感がある。真面目な話なのについつい思考が逸れる。

 

『それ故、ただの武器ではその身に届く前に腐り落ちる。聖剣や魔剣の類いで無ければ無駄に命を散らすだろう。魔法には元から高い抗魔力がある上、最早冷気は弱点では無い。有効な可能性が有るのは、風で闇の衣を剥ぎ炎で焼き払うか聖なる力で浄化するのが有効だろう。』

 

 

「聖剣や魔剣ですか。そんなのを持ってるのはまるで勇者や英雄とかじゃないですかね。」

 

 あのカタログ。チートには聖剣や魔剣が載っていたはず。勇者を探さなきゃ、私達の勇者を。

 

 

『勇者か、聞いた覚えがある。人々の心が折れ闇が蔓延る時。魔王や悪魔を討つ為に、神々が異界より勇敢なる者をこの世界に導いていると。』

 

「勇者候補と呼ばれる者達が居ます。その中には見慣れぬ容姿や名前を持つ者達が居ると聞きます。もしやその者達が、そうなるとその者達と同郷だと言うマイム。おぬしは…。」

 

 

 

 アクア様の導きで、とは言ったけど勇者候補とは言ってなかったし。言う気も無かった。だって私みたいなのが勇敢候補だなんて名乗れないよ。コミュ障でクソザコメンタルの私が勇者候補とか、言えないよ。でも、言い逃れは出来そうに無い。

 

 

 

「そうですね。私はアクア様に導かれました。」

 

 

 

「でも、私がアクア様から聞いた話はこうです。若くして亡くなった人に、生まれ変わるかこの世界に転生するかを選ぶように言われました。この世界では魔王により人々が脅かされ生まれ変わるのを拒否する人が増えていて、このままでは遠くない未来に世界は滅ぶと。この世界に勇者候補として行くならば、何か一つだけ欲しい物を与えると。」

 

 

 だから私はこの身体を貰った。新しい自分に生まれ変わる為に。そしてアクア様の尊さを布教する為に。

 

 

 

「そうか…。」

 

 

 引いたかな。引いたかな?他の人達が世界を救う為に勇者候補として来たのに、私は布教の為とか言ってるんだし。ふざけてるよね?私自身は真剣だけど。

 

 

『嘘は無い。全て真実だな。そなたの事は自身が一番知っているだろう。女神の期待に応えるように精進すればいい。聖剣や魔剣を持っていそうな者が居ると分かったでけでも一歩前進だ。ではその者達を中心に探せば良い。』

 

 

「マイムよ。」

 

「はい。」

 

「アクア様は尊い。それは真理だ。そしてその布教の為にこの危険な世界に降り立ったのだ、責める理由等無い。その姿は女神アクアの生き写しで女神アクアの眷族でもあるならば、人々を導く為に立つ事も多々有るだろう。そこに、本当に後悔はないか?」

 

 

 人前に出るのは緊張するし、出来ればしたくない。でも私は変わりたい、今までの自分から。

 

「後悔はありません。私が選んだ道です。」

 

 でも、後悔はしてない。変われるチャンスを貰ったんだから。

 

 

「マイムよ。儂が認める。アクシズ教原始派、司祭リムタスの名に於いてマイムを聖女と認定する。資格については言うまでも無いな。」

 

 

「はい。謹んでお受けします。」

 

 

 成り行きで聖女になりました。

 

 

「追々、聖女としての教育もしよう。会合にはミシャも来る、その辺りは彼女に聞くとしよう。」

 

『繋がった。マイムとの間でパスを繋げた。今後はペンダントを身に付けずとも我等との交信が出来る様になった。転移魔法とやらにはまだ干渉が出来ん。それが精霊を介する物なれば、機能になんらかの干渉が出来るようになるだろう。』

 

 

 今は、とってもとっても大事な話をしているのに。

 

 

「くぅ。」

 

 ちいさくお腹が鳴った、私の。手を繋いでるから近いし、絶対聞かれた。聞かれちゃった。

 

 

「……そろそろ昼だな。」

 

 少し、間があった。ううぅ。

 

 

「はい。お昼ご飯はミアさんの家で食べる事になってるですがどうしましょうか?ミアさんを待ってようと思うんですが。」

 

「そうだな。ミアが戻ってきたら昼食を取って来るとよい。その後でまたここに戻って来てくれ。」

 

「わかりました。」

 

 

 

 そうこうしていると。教会の扉が開いてミアさんが戻って来た。

 

「ただいま。会合は昼からで良いんだよね?みんな昼からなら来れるってさ。」

 

「ああ、昼からで大丈夫だ。二人は昼食を取って来なさい。」

 

「分かった。会合はもちろん私も出て良いよね?関係者なんだし。」

 

「ああ、二人も会合に出て貰うぞ。」

 

「了解、了解っと。じゃあマイム行こ。」

 

「はい、ではリムタスさんまた後程。」

 

 

 

 私達は教会を出てミアさんの家に帰って行った。

 

 

 

 

 

 




前回の投稿から一月も掛かってしまった。

ああ、狂おしい程に年度末だ。忌々しい納期は、容赦無く私の休みを奪い去って行く。


もうちょいで、原作キャラを出せる所まで行けそう。


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憑依合体

本日2話目です。


 

 教会から帰ってくる時に殆どの精霊達は残っていたけど、二人の幼い精霊は私達に着いて来た。見た目は6歳か7歳くらいのアクア様似の女の子。髪は結ばず流している、私達の周りを楽しそうに駆け回り私の腰に抱き付いてくる。可愛い。

 

 撫でて、と言わんばかりに頭を差し出しぎゅっと抱き締めてくる。撫でると頭を手に押し付けてくる。犬か、犬系なのか。可愛い。

 

「なにしてんのマイム?」

 

「私と手を繋げば分かりますよ。」

 

 そういって私は左手を差し出す。

 

「ああそういう。って何してんのさ。いや凄い可愛いんだけどさ。」

 

『わーい』『もっともっとー』

 

 精霊二人がはしゃいでいるのが分かって貰えたようです。精霊が見えない人には私は一人で不審な動きをしている様にしか見えないのは困り物ですね。

 

「精霊様達も一緒に来るんですか?」

 

『うん』『ついてく』

 

「そういう事みたいですので行きましょうか。」

 

 

 ミアさんの家に着くと二人は外で遊びながら待つと言い、私達は昼食を取る事にした。

 

 

 メニューは焼き魚ときゅうりの漬物。畑で収穫されたばかりの新鮮なサンマの塩焼きと川で取れたばかりのきゅうりで作った浅漬け。もうツッコマ無い諦めよう。

 ご飯が食べたい、パンじゃなくてお米のご飯が。美味しいけれど、そんな感想の出る昼食を終え私達は教会に戻って来ました。

 

 

 

 村の会合は教会の食堂?で行われています。何でお酒とオツマミを準備してるんですかね?しかも既に飲んでる人も居ますよね?

 しかもなんか私をじっと見ている人が何人も居る。

 

 ミアさんは無言で首を振っている、諦めろって?

 

 

「二人はこちらに座ってくれ。さて揃ったようだな。これより緊急の会合を始める。」

 

 リムタスさんは一同を見回し私達の紹介と彼等の紹介をしていく。

 

「この二人。まあミアは説明不要の儂の孫だな。こっちがマイムだ。姿を見て何か言いたい事が有る者も居るだろうが待て。そしてここに集うこれ程までの精霊達。緊急事態だと言った意味が分かるな?」

 

 

 さっきまで私にじゃれ着いていた幼い精霊も私の服の端を握って大人しく立っている。見られている。全員の視線が集中しているのを感じる。

 

「此度は村の存亡が掛かった話だ。見えるお前達はどういう事か分かるな?精霊達が寄り添う者が現れたのだ。ミシャ、精霊達の言葉をお前の口から伝えてくれぬか?」

 

 ミシャと呼ばれたお婆さんはデラックスな体型の白に近い銀髪のお婆さんだった。

 

「ああ聞こえる、いつもよりもはっきり聞こえる。まるで若い頃に戻ったようだよ。」

 

 私を見たあと、周囲の精霊達を見回していく。

 

「精霊達は彼女についてこう言っている。女神アクアの眷族であり、水の精霊と同格の存在だと。女神アクアの写し身としてこの世界に降り立ったと。ね。見ただけで分かるだろうけど、彼女と精霊達の姿は似ているなんてレベルじゃぁ無い、実体を持った精霊と言われた方が納得が行く容姿だったけど、これで納得したよ。」

 

「では彼女は…。」

 

 出席者の一人が口を開くと、次々に声が上がり好き勝手に話し出す。

 

「静粛に!」

 

 リムタスさんが言うと瞬時に静まった。

 

「これから彼女が語る事は精霊達より伝え聞いた事だ。今更疑う者は居ないだろう、ここは既に精霊達の支配下だ。いつもよりも精霊達がはっきり見えるのもそのせいだ。ではマイム頼む。」

 

 

  ドックンドックン

 

 心音がやけに大きく感じられる。人前、しかも初対面の人達の前。緊張で吐きそう。上手く言葉が浮かばない。しょうがない、思った事を言おう。上手く言うのは諦めよう、補足はリムタスさんと精霊様達に任せよう。

 

「私はマイム。女神アクアの導きによりこの地に参りました。今、この地の精霊達は危機に陥っています。魔王の手先により火の精霊は敗れ水の精霊の半身が捕らえられています。残された刻限は長くて半年です。このままでは汚染され闇に堕ち、人々に害を与える存在へとなるでしょう。そして残った土と風の精霊が支配下に置かれるのも時間の問題です。」

 

 なんだかクラクラする、一度深呼吸しよう。

 

「これを解決するには、闇に堕ちたサラマンダーを打ち倒し浄化せねばなりません。サラマンダーが復帰したならば、精霊達は団結して魔王の手先に立ち向かう事が出来ます。精霊達と人間達の力を併せればきっと魔王の手先を討つ事が出来ると信じています。」

 

「そこで、あなた方にはその助力をお願いしたいのです。浄化魔法の使い手が多数と強力な戦力が必要です。闇に堕ちたサラマンダーは鋼を腐らせる猛毒の霧を纏っています。風と火の魔法の使い手と聖剣や魔剣に類する強固な武器の使い手が必要なのです。私には残念ながら伝はありません。ですので戦力を募る助力をお願いしたい。」

 

 演説をした。実はこれ、横で小声であの精神年齢が高いあの精霊様が内容を教えてくれています。精霊様様です。

 

「ギルドから募集を掛けます。私の持ちうる権限でベルゼルグのギルドにも掛け合って見せます!」

 

 立ち上がって発言したのは、水の村の冒険者ギルドのギルド長のおじさん。

 

「私も商業ギルド経由で行商人達に方々へ伝え志願者を募ります。」

 

 商業ギルドの事務員をしているお兄さんが続き。

 

「各村や領都や近隣の領への募集を掛けます。」「鍛冶ギルドの総力で強固な武器の作成と使用者を洗い出して見せましょう。」「領都の魔術ギルドに広域募集を掛け合います。」

 

 駅馬車の管理人、鍛冶ギルド員、ウィザードの男性と次々に案を出して行きます。まだ案を出せていない人達も考えています。

 

 

「儂は、アルカンレティアに行こうと思う。」

 

 皆が息を飲み黙り込む。沈黙が痛い。

 

「分かってて言ってるんでしょうね?」

 

 ミシャさんが沈黙を破る。

 

「ああ。異端者の儂はどうなるかは分からん。儂の布告が未だに出ていれば即座に捕らえられる事になるかも知れんのは承知の上だ。」

 

 周囲を見て続きを言う。

 

「だが、過去の負債を若者達に遺す訳にも行くまい。儂よりも上の先達者は皆死んだ。儂の首一つで解決出来るなら良し、出来ずとも今回の件での助力は引き出して見せよう。」

 

 ミシャさんは鋭い目で問う。

 

「死ぬつもり?」

 

「死にたくは無いが、仕方無かろう。その後は村を頼むぞ、ミシャ。」

 

 ギリッと歯軋りする音が聞こえリムタスさんを睨むミシャさん。

 

「承服しかねるわ。意地でも生きて帰って来るくらい言いなさいな。あの鉄拳のリムタスが情けないわよ。」

 

「善処しよう。」

 

「フンッ。必ず生きて帰りなさい。」

 

 

 

「儂は過去の精算と助力を得る為にアルカンレティアに向かう。この辺境の戦力だけで勝てるとは言いきれない。精霊達を抑え込む実力だ、幹部級の力が有るかもしれん。儂はまだアルカンレティアに居た頃に義勇兵として前線に出た事がある。」

 

 昔を思い出す様に宙を見ながら話し出す。

 

「勇者候補と呼ばれていた騎士団の若い騎士や紅魔族のアークウィザードや数多の冒険者達と肩を並べ、アクシズ教義勇兵達も戦って居た頃だ。数多くの神官戦士を派遣し、魔王軍幹部デュラハンのベルディアと戦った。」

 

 強大なアンデッドの騎士は勇者候補と一騎討ちをして、勇者候補を討ち取った。

 配下のアンデッドナイト達も魔法と矢の雨を掻い潜り肉薄し乱戦となり多くの冒険者や騎士、義勇兵達が倒れていった。

 

 死を恐れれぬ戦士でも傷を負えば動きは鈍る。だが、不死の軍団は滅びるその時まで戦うのを辞めない。徐々に戦線は押され、砦まで後退させられていった。このまま徐々に削られて行くのを待つならば、決死の突撃をして華々しく散ろう言い出す者が増えてきた。

 

「そんな時、彼は来た。先代のベルゼルグ王だ、その時はまだ皇太子だったがな。」

 

 国事で一度王都に戻っていた所をベルディアが急襲し、前線は崩壊仕掛かっていた。だが崩壊の直前に間に合い、ベルディアと一騎討ちをして討てずとも退け増援と共にアンデッドの軍勢を押し返し事なきを得た。

 

「その後の事は村でも殆どの者が知っているだろう。存亡を掛けた戦いが繰り広げられているなか、好き勝手に騒ぎ堕落の中にいるアクシズ教徒達に心底嫌気が差した我等はアルカンレティアを出た。」

 

 リムタスさんは一度水を飲み続ける。

 

「魔王軍幹部は強い。ただただ、強い。あの日討たれた勇者候補の若者はレベル46のクルセイダーだった。当時の騎士団最強で皇太子の幼なじみで、片腕とも言われている程だった。故に油断せず、出来うる限りの戦力を用意せねばならん。例えそれが袂を別った者で在ろうともな。」

 

 

「精霊様、その魔王軍の手先はどのような者でしたか?」

 

 ミシャさんが聞く。他の人達はミシャさんの言葉を聞き漏らさない様に耳を傾けている。

 

「豪華なローブを纏った骸骨ですか。騎士ではなく、ですね?術士系でしょうか。魔法を主体にして、体術でサラマンダーを打ち据えた、ですか。」

 

 ミシャさんは腕組みして唸っている。

 

「術士系のアンデッドならば最悪、リッチかも知れないと思ったけど。体術を使ってくるとなると…外法に手を染めた魔導師の成れの果てという可能性もあるわね。どっちにしろデュラハンではないみたいよ。」

 

 他の出席者は胸を撫で下ろす。

 

「でも、強者には違い無いわ。本来なら火を弱点とするアンデッドがサラマンダーに体術を使った時点で異常よ。魔法と体術、モンク系の派生職かしらね。予想でしか無いけど、魔王軍に下った元人間かも知れないわ。」

 

 苦々しい顔を浮かべる出席者達。これが人間の手によってもたらされた事だとしたら、やりきれない。

 

『悩む必要は無いと言うのに。』

 

 私達に語り掛ける精霊様。でも聞こえるのは私と手を繋いでいるミアさんとあとはミシャさんだけ。

 

『マイム、身体を貸してくれ。私の言葉を直接伝えたい。』

 

「え?はい。」

 

 私に重なる様にして一つになった。

 

「『気に病む必要は無い。良い者も悪い者も居るのなど分かっている。我等精霊の中にも魔王に力を貸す者も居るし、神の中にも居る。なら常命の者が狂わされ闇に堕ちても不思議は無い。堕ちたなら掬い上げて解放すればいい。』」

 

 私の口から私とは違う口調で私よりも少し低い声が出ている。

 

「『で、あるならば。魔王が全ての元凶だ。愛し子よ、我等を手伝っておくれ。共に邪なる者を打ち倒そうではないか。既に水の都の半身が彼方の者に伝えている。だから心配するな、そう悪い事にはならんだろう。』」

 

 精霊様、いやお姉様は言った。これからはお姉様って言っても良いですか?良いんですね。言質は取りましたよ。

 

「『日程等は任せる。転移のペンダントにも干渉した。私が憑依した状態でマイムが使う場合限定だが、周囲5m以内の者を纏めて転移出来るようにした。』」

 

「希望が見えて来ましたな。精霊様、ありがとうございます。」

 

 口々にお姉様を始め精霊様達に礼を述べていく。

 

「では方針を決めよう。儂とマイムの他、ギルド関係者がアルカンレティアに赴きそれぞれの交渉をする。その間にもこちらで出来る手段全てで戦力を募る。領主との話し合いはミシャを中心に進める。冒険者にも依頼を出す。」

 

 各々が頷きを返す。

 

「マイムは今、マグナのパーティーに参加しておる、暫く戻れなくなる旨をマグナへと伝令を出してくれ。同時にアルカンレティアに行く際、マイムの護衛を指名で依頼を出す。マグナ達がこちらに来るようであれば連れてきてくれ。」

 

「了解した。彼等の他のチームも居た場合も希望したら連れてくると言う事で良いか?」

 

 自警団長が答える。

 

「それで構わん、自己裁量で判断してくれ。他に何かある者は居るか?居ないなら…今日は宴会だ!新たな仲間を祝福しよう。」

 

 

「「「「「無しっ」」」」」

 

 全会一致で答えがあった。宴会って言うかもう飲んでるんだけど?

 

 

「『宴をするならば川の畔で頼む。川に近ければ水を使って実体を造れる。』」

 

「そんな事が出来るのですな、では川の横の広場でやりましょう。皆の者、後は任せる。それでは解散。」

 

 

 また後でね、と言って皆さんは帰って行った。

 

「マイムお疲れ様。良い演説だったよ。」

 

 凄く緊張していたけど、ミアさんはずっと手を繋いでくれていて少し気が楽になっていた。

 にししと笑いながら私の肩を叩く。

 

「『さて、それでは身体を返すか。まるで元からそうだったかのように違和感が無かった。これも眷族同士だからだろうな。』」

 

 そう言って私から出て行った。スルリと抜け出し目の前に立つお姉様。本当にそっくりだと思う。アクア様よりも少し歳上で二十歳過ぎ位の容姿かな。お姉様、アクア様、私で並んだとしたら姉妹にしか見えないと思う。

 

 

「それでは二人は一度帰っても良いぞ。夕方になったら広場に来てくれ。」

 

「お姉様はどうするんですか?」

 

『私はここに残ろう。ここが一番水の都との繋がりが強くて半身との連絡がしやすい。』

 

「お姉様?」

 

「はい、お姉様です。そう呼んでも良いと言ってくれたので。」

 

「まあ容姿としてもしっくりくるね。」

 

『今までやらなかったが水で文字を書けば声を聞けずとも伝えられるしな。司祭と細かい打ち合わせをするつもりだ。』

 

「わかりました。では私達は一度戻りますね。」

 

 

 私達は教会を出る、日が傾いて来ていて夕方まではあまり時間は無さそうだ。

 今度は幼い精霊が着いてきて無かったので手を繋がずに帰った。

 

 今日は宴会か。楽しみだなぁ。

 

 

 

 




ベルディアって原作だとあんなやられ方したけど、ほんとは凄く強いはず、きっと。

ミシャお婆さんはデラックスな体型です。そうデラックス。


年度末を乗り越えるまでは更新が遅れますが、毎日少しずつ書いてます。失踪はしませんのでご安心下さい。


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お酒はほどほどに

 

 

 

 

 宴は川のほとりの広場で行われた。私達が来た時には早くも飲み始めている大人達が居て、私達を見ると。

 

「主役のご到着だぁーー。」「わぁー。」と歓声を上げたり口笛を吹いたりと大騒ぎで迎えられた。出来上がっている人達に囲まれ少々お酒臭かったのはご愛敬。

 

 川で採れたのか、畑で収穫されたのかどちらとも分からない魚や野菜が串刺しで焼かれていたり、ピチピチ跳ねるバナナの様な何かが皿に盛り付けられていた。

 お酒のツマミと言った風情が強いが、果物や肉をパンに挟んだサンドイッチ等もありお酒が飲めない人向けに飲み物も用意されていた。

 

 私は適当に小皿にバナナ風の何かと魚の串焼きや果物を貰ってきた。お酒を勧められたけど遠慮した。

 

「お酒はいりません。あっ、そっちの葡萄ジュースを下さい。ありがとうございます。」

 

 みんな笑顔で思い思いに飲み食いしながら話している。

 私にも見知らぬ人達が、特に酔っぱらいが「お嬢ちゃぁん、楽しんでっかぁー?」と陽気に話し掛けてくれたりして、自分から話し掛けに行くのが苦手な私も楽しくなってきた。

 

 

 

 さて、そろそろ誰かと合流したいなぁ。ミアさんとはぐれてしまったし。

 

 

 周囲をキョロキョロと見回すけれど、ミアさんもリムタスさん達も見当たらない。小さな村と言えども数百人が暮らす村であり、村の宴会ともなれば村人だけで無く、商人や冒険者もおり人でごった返している。

 

 私の悪い癖だけれど、人ごみの中に居ても見知らぬ人に囲まれているとつい、寂しくなる。

 人が居ても、私の知らない人ばかり。声を掛けられれば応えるけれど、私の知人友人では無い。その他大勢の私は、酷く場違いに感じてしまう。

 

 例えば花火を見に来たけど、誰かと特に約束した訳でも無くて。誰か友達にたぶん会えるはずって、思って来たけどそうそう会えず。見掛けてもその輪の中に入れない時みたいな。

 

 声を掛ける。見知らぬ誰かに話しかける。たったそれだけの事が出来ない私。

 一歩踏み出して声を掛ける普通の人なら当たり前に出来るコミュニケーション。

 でも私には出来ない。その一歩が限り無く遠く険しい道に見えてしまい、声を掛けられるのを待ってしまう。

 

 一人で勝手に完結して暗くなっていると、誰かに腕を掴まれて引っ張られた。手を引っ張られた私は突然の事に動揺し、抵抗する事も思い付かず連れていかれた。

 

 

 

「おっ、可愛いいの見つけて来たじゃん。」

 

「よう姉ちゃん、暇だろぉ。俺らにお酌してくれよ、なっ?」

 

 私はガラの悪い冒険者風の男達の前に引きずり出された。私を連れてきた人は私の肩を後ろから掴み、私の顔の横へ後ろから覗き込む様にして言う。

 

「キミ、折角の宴会なのに独りぼっちで寂しそうだったじゃん。友達が見付かるまでで良いからちょっと付き合ってよ、なぁ。」

 

 なぁ。の所だけドスの利いた声で脅された。怖い。力で敵うとか敵わないとかじゃなくて怖い。

 

「あの、私は……。」

 

「いいからさぁ、ちょとだけ付き合えよ。可愛いからってお高く留まっちゃってんの?あぁ?さっさと注げや。」

 

「はい……。」

 

 私は消え入りそうな声で返事をした。昔からお祭りとかで絡まれる事があったけど、こっちでもそうなのか……。なんでなんだろう。

 

 

「そうそ、大人しくお酌してくれれば何にもしねえからさ。」

 

「俺にも頼むぜ。」

 

「おーいー、次は俺だってぇ。」

 

 

 そうして何度かお酌していると一人が腕を引っ張り、私を抱き抱えようとした。私は咄嗟に男を突き飛ばした。

 

 突き飛ばされた男は地面を転がっていった。

 

「いってぇ!なにしやがんだ、クソアマがぁ。」

 

 立ち上がって殴り掛かって来た。横に居た男は私を羽交い締めにし、お腹に男の拳が突き刺さる……突き刺さ……アレ、痛くない。

 

「いってぇぇぇ。」

 

 殴り掛かって来た男が手を押さえて痛がっているのを見て、急に頭が冷えた。ザッコ……。私、こんな奴らを怖がってたんだ。どうにも苛立つ、男達(雑魚)もムカつくけど、怖いと思って震えてた私自身にも苛立つ

 

 後ろのと横に居る男が反応しない。羽交い締めにされているのを力ずくで引き剥がして胸ぐらを掴んで持ち上げてやった。身長差があるから男はまだ足が地面に引き摺っている。男が私の腕を引き剥がそうと抵抗しているけれど無駄。全然無駄。狼の方がよっぽど強いくらい。

 

 もう一人の男に向かって投げ飛ばした。

 

「あなたの友達でしょ?受け止めてあげなよ。」

 

 自分の声に、こんな冷たい声が出せるんだって変な感心をした。

 

 投げ飛ばした男と一緒に地面に倒れた男達。するとそこへ……。

 

 

「こらぁ!何の騒ぎだぁ!」

 

 自警団の腕章を着けた男の人が駆け付けて来た。内心、遅いと思いながら。

 

 

「こ、この女が俺達を殴り付けやがったんだよ!」

 

「ほんとうかね、お嬢さん。ちょっと来て貰えるか。」

 

 自警団員は警杖を手に近寄って来る。どうして私が責められるのか、凄く腹が立つ。私は無意識のうちに拳を握り込んでいた。

 

「あのっ。僕見てましたけど。そっちのおじさん達がそのお姉ちゃんを殴ったからお姉ちゃんが反撃したんだよ!」

 

 自警団員が私に辿り着く前に、少し離れた所にいた小さな男の子が声をあげ証言をしてくれた。

 

「おいっ、そんなガキの言う事信じんのかよ?」

 

 

(ゴミ)(雑音)を上げる。うっざ。

 

 私も俺もと何人かが証言し出す。一番最初に言い出した男の子が居なきゃこの人達は見て見ぬふりだったのかなって思うとイラッとした。

 こういうところは世界が違っても一緒なんだね。誰かが困って居ても見ていぬふり、知らん振りで嵐が過ぎるのをただ待つだけの群衆。心配そうにするふりだけで、何もしない人々。

 

 

「私は腕を掴まれて連れて来られて、脅されてお酌させられてました。あっちの男の人が私を抱き締めようとしたから突き飛ばしました。そのあと、そっちの人が羽交い締めにしてきてあっちの男にお腹を殴られました。なので反撃しただけです。」

 

 私は何一つ嘘は言ってないけど、自警団の男は私を疑わし気に見ている。他の人が証言したの、聞いて無いの?耳は飾りか何かなのかな?

 

 それとも、女ならか弱くて当然だから男達が転がってて、私が立ってるのがおかしいから嘘じゃ無いかって?

 

「私を疑ってるんですか?」

 

「…………」

 

 答えない、何か言えよハゲ。イライラが止まらない身体が熱い。これじゃ折角の宴会が台無しだよ。

 

「何か言ったらどうですか?」

 

「おい、ハゲ!お姉ちゃんは何も悪い事してないってみんな言ってるだろ!」

 

 最初の男の子がハゲって言った。子供にまでハゲって言われるなんてね。

 

 周囲の目撃者や酔っぱらいがハゲコールを始めた。

 

「ハーゲ」「ハーゲ」「ハーゲ」……

 

 ハゲがプルプルしてる。

 

「わかった、何もしてないなら行って良いぞ。あとハゲって言ってんじゃねえよ。」

 

 横柄な態度でハゲは雑音()を放つ。

 

「じゃあ、もう行きますね。ああ、この事はリムタスさんや自警団長さんに報告しておきます。被害者なのに無実の罪を被せられそうになったって。」

 

「おっおい、どういう事だ!団長を何で知ってる?」

 

 狼狽え始めるハゲ。

 

「どうも何も、面識が有りますし。私は村の会合でご挨拶させて貰った身ですから。ハゲ散らかした人に大変お世話になったって言っておきますね。」

 

 まだ何か喚いているけど、そんな雑音聞きたく無い。さっさと離れよう。あー、むかつく。

 

 

 今度からは絡まれたら力ずくで対応しようと心に決めた。きっと変に弱気だから付け込まれるんだ。

 

 川の近くに行こう。精霊様に慰めて貰おう。

 

 

 

 

 川の近くではリムタスさんを始め会合のメンバーが揃っていて、水で実体を作った精霊様達が立っていた。

 

「こんばんはリムタスさん。」

 

「おお、来たかマイム。んん?えらく機嫌が悪いようだがどうした?」

 

 気持ちを切り替えたつもりだったけど態度に出てたか。

 

「さっき絡まれてお酌しろって脅された挙げ句、抱き付かれそうになったんです。」

 

「何だと!そいつらはどうした?この儂の鉄拳で引導を渡してやろうぞ。」

 

「ああ、ぶっ飛ばしたからもう良いですよ。そのあと、ハゲた自警団の男が被害者の私に無実の罪を吹っ掛けようとしてきたのがムカつきました。」

 

 思い出しても腹が立つ。

 

「何、その自警団の男はどんな奴だ。ちょっと行って地面の染みにしてくれるわ。」

 

 お酒が入ってるから、ちょーっと発言が過激だなぁ。拳を握ったり閉じたりしながら聞いてきた。

 

「おいっ!ルーク。お前の所の団員の不祥事だ!ちょっと行ってここまで引き摺って来い。」

 

 ルークと呼ばれたのは自警団長の男の人だ。

 

「どんな奴でした?」

 

「ハゲです。小太りのハゲです。」

 

 ハゲめ、良い気味だ。

 

「ハゲと言うと、ハーゲルだな。分かりました、引き摺ってでも連れてきます。」

 

 名前もハゲなんだ。ハーゲルって禿げるのが確定したような名前だなぁ。

 

「全く、こんな目出度い日にどうしようも無い奴が居たもんだな。マイムを脅迫した屑達も自警団に拘束させるとしよう。」

 

 因果応報だ。捕まってしまえ。

 

「こんな時飲むに限る!さあマイムも飲むと良い、嫌な事は忘れよう。」

 

「いえ、私は飲めないのでジュースですよ。」

 

 私は甘いジュースでじゅうぶんじゅうぶん。あまくておいしいなぁ。

 

「うん?それはリキュールだの。お酒じゃぞ。」

 

「え?」

 

「村で作っとるブドウのリキュールだな。甘いがそれも酒じゃぞ、それに度数も高めだ。おーいマイム顔が赤いが大丈夫か?」

 

 

 お酒だったんだ。さっきから熱いのは酔ってたから?なんだか、ぼーっとしてきて感覚が遠いや。

 

「あー、酔ってしまっておったか。こっちの果実水を飲むといい、ほれそっちのコップを渡しなさい。」

 

 でも、もうほとんど飲んじゃったしなぁ。残りも飲んじゃえ、勿体無いし。

 

「あー、無理せんでええのに。ほれこっちに座りなさい。」

 

 ベンチに座るように勧められて腰を下ろした。まわってる?ううん?こう、ふわーっと。

 

 

 

「あはは。」

 

 なんだか突然笑いたくなった。なんで?なんかもうどうでもいいや。さっきまでムカついてたけど、もういいや。たのしい。

 

 

 

 ぼーっとしてたら、いつの間にか周りが少し騒がしいしなんか怒鳴り声がしてる。なんかあったっけ?あー、あのハゲだ。そうだったや。

 

 

 

「貴様!職務中に飲酒するとは何を考えている!そればかりか無実の少女に罪を被せようとするとは何事だっ!歯を食いしばれぇ!!」

 

 

 あー、ハゲが殴られてる。ざまぁ。うふふ。

 

 

 

 ルークさんが私の前に来て、ハゲの頭を掴んで力尽くで頭を下げさせた。光ってる。

 

「ケジメを付けさせて下さい。さあ、一発コイツをぶん殴って下さいマイム様。それでおあいこにして頂きたい。」

 

 えー……。脂ぎってるし触りたく無いんですけど。」

 

 途中から声に出てたよ。まあいいか。

 

「この村の掟です。やられたらやり返せ!自警団の前でお互いがお互いに復讐したらそれで終わりです。それで事件は終わりにする掟なのです。死なない程度なら、殴っても蹴ってもいいです。ご協力お願いします。」

 

 もうどうでもいいんだけど、殴るまで終わらせてくれそうに無いなぁ……。

 

「分かりました。では一発だけ。」

 

 腕を引きながら拳を握り込んで、殴ると見せ掛けて。平手でっ!

 

 ビンタしたら、吹き飛んでった。手首のスナップで打つべし!

 

 

「スカッとしました。なるほど、こういう事なんですね。」

 

「そういう事です。これでお互い仲直りです。ハゲ、じゃなくてハーゲルの事はこれで勘弁してやって下さい。」

 

「はい、私はもう何も言いません。」

 

 顔の脂でギト付く手をクリエイト・ウォーターでさっと洗った。あー、気持ち悪い。蹴った方が良かったかな。

 

『マイムよ、災難であったな。だが、人間とは見ていて飽きぬ。絶えず目まぐるしく変わっていく様はまるで、流れる水のようだ。怒りも悲しみも全て水に流して生を謳歌すると良い。』

 

 水の精霊こと、お姉様が慰めてくれた。半透明な人型でまるで氷の彫像のようだ。その手はヒンヤリ冷たく、火照った頬を冷ましていく。

 

 

 少しだけ酔いが醒めた。

 

「はぁ、そもそも私が冷静に動けてたら大事にならなかったんだよね。」

 

 冷静になって少し自己嫌悪がしてくる。最初に振りほどいてれば、断ってればと。たらればの話が頭に思い浮かぶ。

 

「マイム、酔っていたのだから仕方ない。そう思えば良い。汝、何かの事で悩むなら今を楽しく生きなさい。人間、生きてれば次がある。次に頑張れば良い。そういう事じゃぞ、難しく考え過ぎだ。」

 

 アクシズ教教義か……。そうだよね。今度頑張れば良いよね。

 

 

「はいっ!今度は頑張ってみます。」

 

「うむ、それでよい。お、さてさて。ウジ虫どものご登場じゃのう?」

 

 私に向けていた優しげな目を、一転させ視線で殺すかの様な鋭い視線に変えた。その視線の先には……。

 

 

「おいっ、離せよ!クソが、離せって言ってるだろぉ!」

「うっぜぇなぁ。女一人殴っただけだろうが、しかもこっちはそのあと投げられたんだ。こっちが被害者だろぉ!」

「離せよ!触んな!」

 

 ああ、ゴミ男達(ウジ虫達)のご登場だ。落ち着いていた心がざわつく。自分達が被害者だって?脳ミソ入ってるのかなぁ?カチ割って中身見てあげようか?

 

 

 

「団長、連れて来ました!」

 

 若い団員がルークさんに向けて報告している。ルークさんと、アレは誰だろう?何か話し合ってる。

 

 

「ああ、代官殿が来ておるな。」

 

「代官殿?」

 

 お代官様?この紋所……、は違うか。

 

 

「領主の代官じゃな。大きめな村々に常駐して税や法の取り締まりを統括している領主の配下だ。代官が見聞きした事はすべて領主の耳に入る。あの愚か者共のした事は恫喝と強制猥褻未遂と暴行だから、代官の担当じゃの。」

 

 代官は甘く無いぞ、と暗い目をして笑うリムタスさんは少し怖かった。ハゲ団員のした事はムカついただけで実害は無かったけど、ゴミ男達の方は私じゃなくて普通の女性だったら大変な事になっていたし当然の事だと思う。

 ちょっとした喧嘩や争い事など実害の無い事件は各村々で処理するけど、それ以上の犯罪行為は領主の定めた法で裁かれるそうです。

 

「あとは代官殿に任せておけば良い。適切に処理してくれるだろう。さ、悪い事は忘れて楽しもうぞ。」

 

「そうですね。忘れましょう。」

 

 

 

 

 その後、ミアさんと合流し食べたりしゃべったりして今夜もミアさんの家でお世話になった。明くる日の昼頃、教会でアクア様の伝説が書かれた本を読んでいると教会に訪れた人達がいた。それは……。

 

 

 

 

「マイム、ミア。話は聞いている。村からの依頼でアルカンレティアに行くときは我々も同行する。」

 

 村に来たのは、マグナさんとリナさんだけではなく。

 

 剣士が二人とプリースト、シーフ、狩人が各一人の五人パーティーだった。灼熱の風の別パーティーで、普段は村や街を異動しながら依頼を受けている人達で後日顔合わせをすると言われていた人達です。

 

 プリーストのドムさん、剣士のシグさんとスタイナーさん、シーフのシャッテンさん、狩人のサッヤードさん。

 

 

 ドムさんはマグナさんと同じくらい、スタイナーさんシャッテンさんサッヤードさんは二十代、シグさんは私より少し上でたぶん18歳くらい。アルカンレティアには彼らも一緒に行くそうです。

 

 

「詳しい話は司祭(リムタス)から聞き直すことにする。二人はもう少し待っていてくれ。」

 

 

 待つ事15分。

 

「事情は分かった。転移に関してだが一度少人数で試してみて、後日交渉に行く人員も同行した方が良いだろう。」

 

 人数が多いと私への負担が増えるかも知れないと。いや、私負担増えるとか聞いて無いんですけど。そもそも知らない間に話が進んでる?

 

「急で悪いがこの後、私とミア、リナ、シグ、が同行し一度アルカンレティアに行く。まずは現地の情報収集だ。他の者は村でギルドや代官との調整にあたってくれ。」

 

 五人でアルカンレティアに行き宿を取り二泊して情報収集し、現在のベルゼルグの情勢を掴むそうな。その間、私にミアさんかシグさんが交代で護衛と言うか迷子にならないようにお守りされる事になった。

 お守り……、いやあ、昨夜は確かに速攻ではぐれたけどさぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

「各人装備は確認したな?アクシズ教団の印になる物は持ったな?これが無いと勧誘で揉みくちゃにされるそうだ。必ず見える所に着けておけ。」

 

 

 アルカンレティアでは道行く観光客等にあの手この手で執拗な勧誘合戦が繰り広げられているらしい。

 それを回避し街に溶け込む為に全員がアクシズ教徒であると偽装する事になった。私とミアさんは元々アクシズ教徒だから良いけど他の三人は少々抵抗があるみたいだ。

 

 私は最初から持っていたローブの背中側に精霊様によって魔法による刻印を刻まれた。詳しくは聞いて無いけど、水の魔法の刻印で熱さを和らげる効果を持たせたらしい。水の羽衣的な効果?

 刻印が太陽の光で煌めき紋様が浮かび上がっている。

 

 

「『では、行きます!』」

 

 お姉様が憑依し、私と同調し心を一つにする。

 

 私の知らない光景、街、人々、川、泉、池。頭に様々な風景が浮かぶ、水の精霊がいる場所の風景。様々な場所に水の精霊が居る、水が流れる場所の全てに様々な姿で水の精霊が居る。その中から行きたい場所を選ぶ。

 

 今回は出来るだけ人目に付かないように……。

 

『「行き先は用水路脇。』」

 

 行き先を告げると、私達を水がドーム状に囲んだ。

 

 水の中の泡になったように感じる、暗く青い水の中を進む。水の流れを辿る様に。一瞬にも一時間にも感じ、時間の感覚があやふやになった。目標の用水路が見え、ぐんぐん近付いて行く。

 

 そして、泡が弾ける。

 

 用水路の脇に私達は五体満足で辿り着いた。

 

「『どれくらい時間が経ったんでしょうか?』」

 

 私には、あやふやな時間の感覚により経過時間が掴めない。

 

「ん?一瞬だったな。水で包まれたと思ったら直ぐに弾けたが?」

 

 私以外の四人は一瞬の事だと感じたようだ。

 

「『私には随分と長く感じたので。』」

 

『「我々にとって時間はあまり意識する事では無いのだ。それ故、同調していたマイムの感覚が狂ったのだ。」』

 

「『なるほど。じゃあ、実際には掛かった時間は一瞬なんですね。』」

 

『「そうだ。瞬きする程度の時間だ。」』

 

「だ、そうです。ではまず宿を取るんでしたね。」

 

 憑依を解く。この後は常に私と一緒に居ていつでも憑依出来るように準備していてくれる事になりました。

 憑依中は全ステータスが向上し、特に抗魔力が精霊に準じて上昇しますが時間経過と共に魔力を消耗していきます。万が一の時の防御用に備えてくれるようです。

 

 

「では繁華街方向に向かう。はぐれるなよ。」

 

 主に私に言った。むしろ私だけに言った。酷い。

 

 

 

 私達は繁華街方向に歩く、街の地理は教会に有った地図を見た。五十年前の地図だとはいえ、そうそうかわらないはずだと信じて……。

 

 




中途半端な長さだったので分割しました。次話はたぶん明日か明後日。

マイムを酔い潰させて記憶を飛ばそうかと思ったけど、初めてのお酒で記憶飛ばすとかトラウマ物なのでちょっと過激な言動までにしました。

シャッテンはドイツ語で影
サッヤードはアラビア語で狩人


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初めての友達

3/26 誤字及び言い回しを少し変更しました。


 アルカンレティアの地に立った私達は人気の無い路地を進み大通りを目指した。

 

 そして、入り組んだ路地から出ると。

 

「そこのお嬢様、見てらっしゃいうちじゃぁ…」

「よっ!そこの兄ちゃん、今ならここにサインしてくれたら8割引きで…」

「そこのお兄ちゃん、コレ落としたよ…」

「アクシズ教徒になればハッピー、みんなハッピーだー。どういじい様、入らないかい?」

「元祖アルカンレティア名物の…」

「うちこそが本家本元アルカンレティア名物…」

「うまいよやすいよー…」「」「」「」……

 

 あちこちで呼び込みや客引きの声がし、観光客でごった返す賑やかな大通りに出た。この世界に来てから初めてみる混雑ぶりだった。

 

 

 私達に対して声を掛けようとして印に気付き、笑顔で手を振る子供や勧誘を含まない普通の呼び込みも受けた。

 

「やあやあ、お嬢さん達。うちこそが本家本元のアルカンレティア名物、アルカン饅頭本舗だよ。アクア様の恵みがタップリのどっかのパクりじゃない本物のアルカン饅頭さ。試食してかないかい?お嬢さん達美人さんだからお安くしとくよ!」

 

 ミアさんと一緒にちょっとだけ足を止めて試食した。即お買い上げです。水まんじゅうでした。水気いっぱいなので、確かに水の恵みでいっぱいです。

 

 

 通りを進み、宿屋を見つけ足を踏み入れる。

 壁に何か貼ってある。アクシズ教徒歓迎、アクシズ教徒なら5%割引。アクシズ教徒ではない場合、当宿で入信書を記入された方は最大30%割引!

 

「いらっしゃいませー!温泉宿、水の導き亭にようこそ!」

 

 カウンターに座っている女の子が元気な声で出迎えてくれる。

 

「あっ!皆さんアクシズ教徒ですね。うちでは5%割引やってます。是非ともうちでお願いします!」

 

「五人だが部屋は空いているか?」

 

「はい、部屋割はいかがしましょう?五人部屋一つか、三人部屋と二人部屋一つずつならご案内出来ます。」

 

「三人部屋と二人部屋を一つずつで頼む。」

 

 順当に男女別になった。とりあえず休憩し、その後夕食まで情報収集することになった。私はミアさんと一緒に街を歩き情報収集がてら観光する事になった。

 

 

「っく、っはぁぁぁぁ。温泉、良い響きだよね。今すぐ行きたいけど、先に仕事を済まそう。」

 

 待ちきれないと言った表情でリナさんは言う、私も温泉に行きたい。ああ、待ち遠しいけど帰ってからのお楽しみに取っておこう。

 

 

「念のためだが、マイムはフードで髪を隠しておいてくれ。」

 

 出発前に言われ、これまでの道中でもずっと隠していた。水の精霊や女神アクアと瓜二つと言うのはトラブルに巻き込まれる要因になりかねないとの事。

 少なくとも私以外で青い髪色の人は居なかった。顔立ちもそっくり。隠しておいた方がいいのは実感した。

 

 街ではアクア様にあやかって、髪を青く染める怪しげな薬品も売っていた。でも売り子のお姉さんの髪色は青は青でももっと濃い青だった。

 アクア様のような鮮やかな水色の髪は私以外に居なかった。

 

 

 これは観光客のふりして正体を隠して潜入するミッション。私のテンションが上がる。

 

 

 

 観光客として街を散策するふりをする。ふりですよ?遊んで無いですよ。

 

 道の両側にはズラリとお土産屋さんや温泉宿や酒場が並ぶ。客引きや客引きと平行してアクシズ教に勧誘していたり、地元の通行人が観光客を勧誘している。それは視界に入る全ての場所で行われている。

 

 

 勧誘されている人達の反応も様々だ。

 入信書をポケットや鞄に無理矢理ネジ込まれて揉みくちゃにされている黒髪の男の子や上手い事煽ててあしらっているおじさん、若い女性に勧誘されて逆に口説き始めたお兄さん、両手で耳を塞ぎながら走って逃げようとしている女の子等。大半の人はなんとか勧誘を逃れようと奮戦している。

 アクシズ教徒の観光客は普通に買い物する他に他の観光客を勧誘しようとしたり、指を指して大笑いしていたりとカオスな光景が繰り広げられている。

 

 

 私達は買い食いしながらそれを眺めていた。私達には関係無いもん、って思っていたら勧誘から逃げてきた男の子とぶつかってしまった。

 

 

 のほほんと他人事だと思って気を抜き過ぎていたのかも知れない。ぶつかった拍子に被っていたフードが脱げてしまった。それを見た男の子は唖然とし、声を上げようとしたので咄嗟に彼の腕を掴んで背後の路地裏に連れて行った。

 

 

 思いがけないタイミングだったけど、いつか接触しないといけない人達の一人と出会えた。出会った事に後悔は無いけど、強いて言えばもうちょっと格好着けて登場したかったかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 とある少年

 

 

 

 正直、アルカンレティアに来た事を後悔し始めていた。

 

 一度、アクア様のお膝元のアルカンレティアに行ってみようとは思っていたんだ。でも、誰に聞いても良い顔をされない。

 

「温泉は良いんだけど、アクシズ教徒がなぁ。」

「執拗な勧誘で道も歩いてられないよ。」

「うざすぎて観光どころじゃなかったよ。」

「女の子に声を掛けられたと思ったら宗教の勧誘だったよ…。」

「飯は旨いし温泉も良かったけど、勧誘が鬱陶しかった。」

「年齢イコールの俺が可愛い女の子に声を掛けられて舞い上がって、着いてったらさ。アクシズ教徒のオッサンに囲まれて勧誘地獄を味合された恨みは忘れない。」

「女の子にチヤホヤされても油断するなよ?アレは罠だ。絶対魔王軍より悪質だ。」

「女の子と付き合えるなら入信してもいいかなぁ…。」

「男でもイケるオッサン司祭が居るから気をつけろよ。」「」「」「」「」………。

 

 

 聞けども聞けども、ろくな話じゃ無かったから気をつけていたつもりだった。

 王都で買ったガイドブックに載っていた比較的マシな対応の宿で部屋を取り、街を観光するつもりだったんだ。

 

 宿まで行くときも大変だったから僕達はへとへとだった。でもせっかく来たんだしこっちで出来た知り合いにお土産でも買っていこうと思って街の散策に行こうと二人を誘ったけど、二人には断られてしまった。まぁ、気持ちは分かる。僕も正直、気乗りはしない。でもお土産を買ってくると約束してしまったしね。

 

 

 歩きながら考える。

 

 僕は昔から鈍感だって言われて来た。確かに周りが見えて無くて空回ってたりして他人の気持ちに気付けない事も有ったと思う。

 

 でも、本当は気付かないふりをしている部分がある。今もそうだ。

 二人から明確に好意を示されて、気付かないワケが無い。彼女達の気持ちに気付いてて知らないふりをしている。僕の中途半端な態度が彼女達を傷付けている事も分かってる。分かってて応え無い僕は、最低のクソ野郎だともね。

 

 でも、僕はどうしても諦める事が出来ないでいる。

 

 あの日、僕は。女神様に恋をした。

 

 初恋は実らないと言われている。確かにそうなんだろう。女神様に恋をする。それはお伽噺で語られるようなレベルの話。叶うはずの無い、身の程知らずの愚かな想い。

 

 僕の本心を見抜いた人はアクア様が初めてだった。

 

 僕が気付かないふりをしている理由も見抜かれた。

 僕には幼なじみがいた。僕とアイツとあの娘。あの娘が僕に好意を寄せているのは気付いていた。でも、アイツがあの娘を好きだったのも知ってる。僕はこの何でも言い合える関係が壊れてしまうのが怖くて、ずっと気付かないふりをしてた。誰かの為じゃない、僕が傷付かない為にしていた事だ。上手く隠せていたと思っていた。

 誰も気付かないし、誰も傷付け無くて良いって思ってたんだ。思い込んでいたんだ。

 

 でも、僕はアクア様に叱られた。僕のしていた事はただの自己満足で、本当は僕は二人を傷付けていたんだと。あんな風に親身になって、言葉を掛けてくれた人は居なかった。誰もが僕の仮面の裏に潜む醜い心を見抜いてくれなかった。

 

 後悔しても、もう遅い。僕は幼なじみ達に謝る事はもう出来ない。死んでから気付くなんてね。

 

 だから、アクア様の言葉は僕を救ったんだ。

 

「迷った末に出した答えは、どちらを選んでも後悔するもの。どうせ後悔するなら今が楽チンな方を選びなさい。」

 

 そして僕は異世界へ行き、魔王を倒すように頼まれた。

 

「新たな命を得て、新たな人生を歩みなさい。あなたの後悔は次の世界で晴らせば良いのよ!さあ、あなたはここで立ち止まって逃げ出すの?それとも不器用でも前に進むの?」

 

 僕は答えた。

 

「前に進みます。今度は後悔しないために。」

 

 アクア様は僕に微笑んでくれた。

 

「次は後悔しないようにしなさい。誰かの為なんて気にするのはやめて、本能のままに生きなさい。汝、何かの事で悩むなら今を楽しく生きなさい。楽な方へ流され自分を抑えず本能のままに進みなさい。あなた自信の幸せを掴む事が罪滅ぼしよ。」

 

 

 僕に新たな道を示してくださったアクア様。魔王を倒した暁には願いを叶えてくれると聞いた。僕は再びアクア様に会いたい。願いを叶えてくれる時に会えるはず。絶対に何が何でも魔王を倒すと心に誓った。

 

 

 誓ったはずだった。

 

 でも、僕はまた同じ事を繰り返している。そんな自分が大嫌いだ。そしてこんな僕には二人に応える資格は無いと思っている。でもこの中途半端さが一番彼女達を傷付けているとも自覚している。それでもどうしたら良いのか判らなくて泣きそうだった。

 

 アクア様に一目会いたい。言葉が欲しい、厳しい言葉でも何でもいい。最低な僕にはお会いする資格なんて無いだろう。でもそれでも諦められず、こんな所(アルカンレティア)まで来てしまった。

 

 

 考えながら、迫り来るアクシズ教徒を捌きながら逃げて逃げて逃げて。

 

 目の前にフードを被った女性が居る事に気付かずぶつかってしまった。フードが脱げて露になった姿を見て、僕は思わず息を呑んだ。

 

 ずっと会いたかった。きっとこの想いが通じたんだと思った。声を掛けようとして無意識に大声になってしまったんだと思う。

 

 

「ア、アクア様!」

 

「シーッ。こっちに来て。」

 

 アクア様は僕の腕を取り路地裏へと連れて行った。

 

 アクア様に連れられて、大通りから離れた所まで来て止まった。僕が声を出す前にアクア様は人差し指を口の前に立て静かにするように合図を出した。僕は小声で尋ねた。

 

「アクア様。ありがとうございます。僕の想いを読み取ってくださったんですね。」

 

 ここにアクア様が来たのは、きっとそうに違い無い。僕はアクア様と運命で繋がっている。

 

「日本人、ですよね?あと、私はアクア様ではありません。」

 

 そんな事を言われた。だけどこの世界に来てからも一度たりとも忘れた事は無い。アクア様の声を聞き違えたりしないし、顔を間違えるワケ等絶対に無いと自信を持って言える。

 

「そんなはずはありません。僕はアクア様の声や顔を見間違える筈はありません。それに僕を日本人だと知っているのが何よりの証拠です。あっ、お忍びで来られているんですね。だから、今はアクア様じゃ無いって事ですね。」

 

 きっとそうに違い無い。お忍びで地上の様子を見に来られたついでにこちらへ来られたんだ。

 

「私は、アクア様本人ではありません。私の名前はマイム。アクア様の眷属です。」

 

「眷属ですか?でも、瓜二つですよ。本当にアクア様では無いんですか?」

 

 正直信じられない。記憶の中のアクア様と瓜二つだ。いや、眷属と言う事は本体では無いだけでアクア様の一部と言う事じゃ無いのか。だったらそれは十分にアクア様だと思う。

 

「はい、私は水の精霊と同じ様にアクア様の眷属であり、アクア様本人ではありません。ですから誤解です。それと私の質問に答えて貰えませんか?あなたは日本人ですよね?アクア様によってこの世界に送られた。」

 

 水の精霊と同じと言う事はやはりアクア様の一部だと思う。本体では無いけれど、僕はアクアに再びお会い出来た。ああ、祈りは届いていたんだ。

 

「あのー?もしもーし。私の声聞こえてますか?おーい。」

 

 ハッと気付く、アクア様じゃなくてマイム様は僕の目の前で手を振っていた。感動してあの日と変わらぬ美しさに見とれてしまっていた。

 

「はい、すみません。その通りです僕は日本人です。アクア様にこの世界に導かれた一人です。」

 

「良かった、合ってましたね。」

 

 マイム様はほっとして笑顔になった。あの日の凜とした顔は美しかったけれど、普通の女の子のように笑顔になった姿は僕の心を掴んで離さない。胸が苦しい。心臓が早鐘の様に鳴る。

 

「実はお願いがあるのですが聞いてくれますか?」

 

 否応無い。答えはイエスだ!マイム様のお力になりたい、僕は本能で答える。

 

「はいっ!もちろんです。どんな事でもお聞きします。」

 

 この気持ちはなんだろう。何処からか力が沸き上がって来るようだ。さっきまでの迷いは吹き飛んだ!どんな事であってもこの笑顔の前ではイエスしかあり得ない。

 

「あっはい。ありがとうございます。」

 

 ああ、声が大きかったか。ビックリさせてしまったか。ああ、凄く申し訳ない気持ちになる。僕はなんてダメなんだ。

 

「私が拠点にしている場所があるのですが、そこが魔王軍の手先によって攻撃されているんです。既に火の精霊が敗れ支配下に置かれています。私達は水の精霊と共に闇に落ちた精霊を打ち破り火の精霊を解放せねばなりません。」

 

 マイム様は胸の前で両手を組み、僕を上目遣いで見る。

 

「どうか力を貸して戴けませんか?私達はこのベルゼルグでは伝が有りません。一人でも多くの人の手助けが必要なのです。あなたの知り合いへ伝えてくれませんか?近くギルドを通じて正式に依頼が出るはずです。ですが、もう時間はあまり無いのです。」

 

 気のせいでは無い。彼女の目尻に光る物がある。僕の答えは決まっている。

 

「僕に出来る事で有れば何でもします。王都には同じ様に日本から来た人達が居ます、彼等に伝えます。僕自身もお力にならせて下さい。」

 

 泣きそうで不安そうにしていた彼女は笑顔に戻った。今の僕ならきっと何でも出来る。

 

「ありがとうございます!火の精霊との戦いでは聖剣や魔剣に類する武器が必要だと言われているのですが、大丈夫ですか?」

 

 これこそ、僕には打ってつけだ。僕の魔剣グラムはきっと今日この日の為だったのかも知れない。

 

「僕はアクア様より、魔剣グラムを戴きました。この剣ならきっとお役に立てると思います。」

 

 マイム様は僕の手を取って言った。

 

「ほんとうですか?ありがとうございます。ほんとうにありがとうございます。良かった、魔剣を持ってる人が見付かって…良かった。」

 

 マイム様は涙を流した。彼女の涙が僕の手に掛かる。暖かな涙は僕に勇気をくれた。

 僕の手は、自然と動いていた。彼女は僕の左手を両手で包んでいる、右手で彼女の頬から涙を拭う。

 

「必ず、お力になると誓います。この剣に、いや。僕の魂に誓って。全身全霊で戦います。」

 

「はい…ありがとう、ございます。」

 

 涙声で言う彼女はひどく庇護欲を誘う。護りたい。僕はアクア様に恋をしたはずだったのに、こんなにも心を揺り動かされている。たぶんアクア様への想いは恋では無くて、憧憬だったのかも知れない。

 

 僕はきっと、今この瞬間、恋をしたんだ。きっとこの形に出来ない想いが初恋なんだ…。

 

 このか弱くも美しく可憐な少女は女神様の眷属。僕の様な人間では手の届かない存在なんだと思う。

 でも、アクア様は言った。本能のままに生きなさいと。だから僕は諦めたくない、どんなに遠い存在でも手を伸ばし続ける。いつかこの手が彼女に届くと信じて。

 

 

「そうだ。ごめんなさい、まだお名前聞いて無いですよね?あなたの名前を教えてください。」

 

「僕の名前は御剣 響夜。」

 

「御剣、響夜さんですね。御剣さんはいつもはベルゼルグの王都に居るんですか?」

 

 御剣さん、か。いつもはキョウヤって呼ばれるから新鮮な響きだ。でも名前で呼んで欲しいな。

 

「そうです。いつもは王都を中心に活動しています。と言っても最近来たばかりですけどね。それと、出来れば響夜って読んで貰えませんか?他の人達はそう呼ぶので。」

 

 よしっ、自然な流れだ。

 

「えーと、御剣さんではダメ、ですか?その、初対面の人を名前で呼ぶのは恥ずかしくて…。」

 

 顔を赤らめ、目を逸らされた。胸が痛い。そんな恥ずかしそうな顔は、クリティカルだ。初対面じゃ無ければ、いつか。いつか呼んで貰えるだろうか。

 

「良いですよ、こちらこそすみません。馴れ馴れしかったですね。」

 

 焦ってはダメだ。今まで周りには積極的な女の子が多くて、内気で恥ずかしがり屋な女の子は居なかったから距離感が難しい。

 

「こちらこそごめんなさい。では間を取って。御剣君でどうでしょうか?」

 

 僕のライフはもう0だ。クリティカルだぁ。ニヤケ無いようにしないと。

 

「はい、それで良いです。」

 

 御剣君、か。これはこれでいい。なんだか日本に居るときみたいだな。どこか懐かしさを感じる。

 

 

「マイム様はこの後どうされるのですか?」

 

「この後、ですか?」

 

 キョトンとした表情で聞き返された。そんな表情うわぁ、うわぁ。この後、出来れば一緒に歩ければ。

 

「この後も観光されるのでしょうか?」

 

「ああ、そういう。そうですね、観光とベルゼルグの近況を知りたいと思っています。」

 

「ベルゼルグの近況でしたら、僕が教えられると思います。よければ街を歩きながらでも話しませんか?」

 

「良いんですか?さっきはどこか急いでいる様な風に見えたんですが。」

 

 アクシズ教徒から逃げている所を見られてたかな。

 

「大丈夫ですよ。勧誘から逃げてただけです。友人達にお土産を買って行こうと思ってる所ですから。」

 

 グッジョブ過去の僕。お土産買いにきて正解だったぞ。

 

「そうだったんですか、じゃあお願いしても…」

 

 と、そこでずっと黙ったままだったもう一人の女の子がマイム様の言葉を遮って、二人で相談し始めた。漏れ聞こえる声に耳を澄ませる。

 

「大丈夫じゃ……ですか?」

 

「初対…の男……よ。」

 

「で…良い人そ……。」

 

 結論が出たようだ。

 

「話を中断して悪いわね。私はミア。彼女の護衛よ。悪いけど初対面の男を信用するほど私はお人好しじゃ無いから。人目のある場所だけという条件を付けさせて貰うわよ。」

 

 疑われているんだろうな、話が出来すぎていると。でもなんとか信用して貰うしか無い。

 

「はい、それで結構です。」

 

「あら、意外ね。押しが強いし、不満を言ってくると思ってたわ。」

 

「女性二人ですから、男の僕を警戒するのは無理無いでしょう。僕としては信用して貰えるように態度で見せるしか無いと思いましてね。」

 

「分かってるようで何より。マイム、そういう事よ。表の土産物屋だけよ。」

 

「ありがとうございます、ミアさん。じゃあ御剣君、行きましょうか。」

 

 僕とミアさんのやり取りを不安そうに聞いていたマイム様だったけど、花が咲くように笑顔になった。

 

 

 

 こうして僕はマイム様と街を歩く事が出来た。

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 マイム

 

 

 

 突然の出会いだったけど、なんとか上手くいったかな。一人目で魔剣持ちに出会えたのは幸先が良いな。御剣君がベルゼルグの近況も教えてくれるみたいだし丁度良いよね。

 ミアさんは警戒しなさいって言うけど、私は大丈夫だと思うな。

 

 話を聞くと御剣君は3ヶ月前にこの世界に来たようで、魔剣の力でバッサバッサとモンスターを倒してレベルを上げているらしい。この世界に来た転生者は通常はベルゼルグのアクセルと言う街に行くそうです。そこは冒険者志望の人達が集まる場所で、ある程度レベルが上がったら他の街に行くと聞いた。

 はじまりの街や王都かぁ、どんな感じなんだろう。私は辺境の村とアルカンレティアしか見た事が無い。ちょっと羨ましい。

 

 そしてベルゼルグの近況へと話は移る。

 

 魔王軍の進攻により、王都近くでも小競り合いが起きる様になったとかでそこには多くの日本人が勇者候補として戦場に立っているそうです。

 それよりも前線にも多くの日本人が居て、日夜魔王軍との戦いを繰り広げている。ベルゼルグの騎士団やエリス教徒による義勇兵や冒険者により前線が維持されているけれど、時折少数の敵がすり抜けて他の街を攻撃している。

 現在はアクシズ教徒の義勇兵は居ないそうで、私が昔はアクシズ教徒の義勇兵部隊も居た事を教えると驚いていた。

 

 まとめると前線は一進一退で、有力な勇者候補は前線かベルゼルグの王都に居る。冒険者の居る街には大抵何人か日本人も居る事が多い。ほとんどがチートで活躍していて、現地の冒険者の先頭に立ち一目置かれている人が多い。

 戦闘系以外の人達も何かしらの分野で活躍している。御剣君によれば、私が声を掛ければきっと多くの日本人が力を貸してくれるだろうと。

 一度、王都に行ってみるのも良いかも知れない。

 

 

 三人で街を歩いていると客引き以外には声を掛けられ無かった。

 ミアさんに聞くと。明らかにアクシズ教徒と分かる女の子がアクシズ教徒じゃない男を連れているから、勧誘の最中だと勘違いしてくれて邪魔をしないようにしてるんじゃないかと。

 

 御剣君も、勧誘でもみくちゃにされなくて助かるって笑ってた。

 

 お互いの買い物を済ませた。もう夕方だから戻らなきゃいけない。御剣君の泊まってる宿屋はちょっと離れた所だから、私達と離れたらまたもみくちゃにされるだろうねって苦笑いしてた。

 私が近くまで送ろうか?って提案すると断られた。女性を送るならともかく、僕を送る必要は無いって言われた。頑張って切り抜けるさ、って言ってた。私としてはもう少し話したかったから残念かな。

 

 別れる前に聞いてみた。

 

「せっかくだから、お友達になりませんか?」

 

 って聞いてみた。色々な話をしながらお土産屋を回って街を歩いたんだし。でも反応を見るのがちょっとだけ怖かった、これで断られたらショックかな。

 

「も、もちろんです。マイム様!」

 

 様付け、やめて欲しいな。

 

「友達なら、様付けで呼ぶのやめてね?私の事はマイムって普通に呼んで。敬語も要らないからね。」

 

 様付けや敬語で話されるのって、なんだか遠いって言うか。壁があるみたいで嫌だった。

 

「わかりました、いや。わかった。マイム、僕達は友達だよ。」

 

「うん、これからよろしくね。響夜君。」

 

 友達だったら、名前で呼んでもいいかな。

 

「名前、呼んでくれた…。」

 

「どうしたの、ボーッとしちゃって?」

 

 響夜君の方が背が高いから下から覗き込む様にして見た。

 

「いっ、いや。何でも無い。」

 

 変なの。

 

「じゃあ、またね!」

 

「ああ、じゃあまた。」

 

 

 

 

 そうして私達の宿の前で別れ、響夜君は速攻で人波に飲み込まれて行っちゃった。大丈夫かな?

 

 

 今日は、この世界で初めての友達が出来ました。

 

 

 

 

 




暴走特急ミツルギ見☆参

ミツルギのキャラ崩れて無いかな、大丈夫だろうか。

ミツルギは小説の挿し絵を見ると黒髪っぽいのでここでは黒髪で行きます。

マイムは、暴走特急ミツルギにロックオンされました。


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合法



まだミツルギのターン。


 

 世界がスローモーションになる。

 

 僕の股間にフィオの膝蹴りが吸い込まれていく。

 瞬間、僕はマイムと別れた後の事を走馬灯の様に思い起こしていた。

 

 

 

 アクシズ教徒の勧誘を避けながら宿に向かっていた時の事。

 

 運命的な出会いに浮かれていた僕は重要な事を忘れていた事に思い至り、顔色を無くす。

 

 クレメアとフィオへの返事をどうするのかと。僕は二人の事は好きだ。仲間としてはもちろん女性としても好ましい。少々我が儘だったり依存気味なのも可愛らしいと思う。

 

 でも、今。僕はマイムに恋をした。

 

 今の僕が二人の気持ちを受けとるのは不誠実だ。でも、優柔不断な僕は二人に断りを告げるのを躊躇ってズルズルとこのままでいそうだ。

 そして、どんどん事態は悪化し手遅れになるだろうとも。

 

 思考は纏まらず脳内をグルグルと駆け回り答えは出ない。

 

 

 そんな時に、アクシズ教徒の男に声を掛けれた。また勧誘かと思い、鬱陶しく思ったが彼の言葉に少しだけ興味を抱いてしまった。それが運の尽きだったと今なら分かる。どうして上手く行くなんて思ったんだか…。

 

「よう!そこの色男の兄ちゃん。なんだか悩んでるな?オッサンがズバリ当ててやろう。恋の悩みだな。それも複数の女の子に言い寄られてるのに他にも好きな女の子が居るんだろ?」

 

 図星に僕は言葉に詰まる。

 

「おっ正解だな。うんうん。青春してるな。そこでオッサンが妙案を授けてやろう。」

 

 男の言葉に僕は苦り切った表情になる。

 

「全員と付き合っちまえば良いのさ。一婦多妻は男の甲斐性さ。エリス教徒の連中は良い顔しないが、ちゃんと合法だぜ。女の子達に受け入れて貰えずに喧嘩になったら、こう言えば良いのさ。アクシズ教徒に唆されたってな。上手く行ったら儲けもの失敗してもアクシズ教徒のせいさ。どうだい?やってみないか。」

 

 合法とは言え、些か良心が痛む。それに失敗した責任を他人に押し付けるのは良くない事だ。

 

「責任をおしつける事に悩んでるって顔だな?心配しなくて良い、アクシズ教徒にとってこの程度じゃ今更風評なんて変わらねえ。もし上手く行ったらアクア様に感謝して、アクシズ教への入信をちょっと考えてくれたら良いさ。」

 

 それだけ言うと男はガハハと笑いながら去っていった。

 

 

 ダメで元々、やってみようなんて思ったのが間違いだったんだろう。

 

 宿に戻り、扉の前で覚悟を決めた。部屋に入ると二人は僕を笑顔で迎えた。僕はそんな二人にこれから、人として最低な事をしようとしていたのに。

 

「大事な話があるんだ、二人とも聞いて欲しいんだ。」

 

 僕は二人とも好きだと伝えた。どちらかを選ぶ事が出来ず、二人とも同じくらい好きだと。だから最低な事を言うと、二人と付き合いたい。

 

 そこまでは少しイラッとされつつも、承諾してくれた。フィオとクレメアは一緒だったらまあ、納得はすると。幼なじみでずっと一緒だったんだし、ギリギリ納得してあげると。

 

 二人の広い心に感謝して、二人を同時に抱き締めた。僕の腕のなかの二人の体温を感じた。離した後、続きを話した。

 

「実は他にも好き女の子が居る。」

 

 聞いた二人は眉を吊り上げ、僕に詰め寄った。

 

「どういう事っ!私達を好きなんじゃ無かったの?」

「ねえキョウヤ!それは誰っ?誰なの?」

 

 

 やはり受け入れる事は難しいかと思うが、ここで止まる事は今更出来ない。

 

「実は女神様に恋をしていたんだ。」

 

 女神アクア様そっくりな女の子に出会った。その女の子は女神様の眷属だと知った。初めは彼女を通してアクア様を見ていた。でも、彼女を知ると彼女に恋してる自分に気が付いた。アクア様は僕にとって憧れの存在だけどそれは恋では無かった。

 

「僕は二人の気持ちを知りつつも彼女を好きになってしまったんだ。僕はどうしようも無い最低な…」

 

 言葉は続けられなかった。クレメアが泣きながらぼくに平手打ちをした。嘘つき嘘つき裏切り者と泣きながら僕の両肩を掴んで揺さぶる。

 

「ねえ、キョウヤはさ。私達がそれを聞いてどう思うか考え無かったの?」

 

 フィオの言葉は胸を抉る。でもこれは自業自得だ。

 

「考えたさ、でも僕の本当の気持ちを聞いて欲しかった。僕は自分で抱えているのが辛くて楽になりたかっただけの最低な男だ。」

 

「私はさ、もっと早く知りたかった。こんなにも好きになる前にさ。こんな話を聞いたのに、まだあなたの事を好きな自分に反吐が出る。」

 

 覚悟はしていたつもりだったけど、僕は彼女達を苦しめただけだ。僕は本当に最低なゴミ男だな。

 

 

「私とクレメアを泣かせたあなたを許さない。だからせめて、一発蹴らせて?その後は許してあげるからさ。」

 

 フィオは僕にすがり付いて泣き続けていたクレメアを退かせ、僕の正面に立ち僕を見た。その目は僕を睨むでも無く、なんと言うか憐れんでいる様にも見えた。

 

「じゃあいくね、ちゃんと私達の怒りを受け止めてよね。」

 

 

 

 

 

 回想は終わり、僕の股間にフィオの膝がめり込んで行く。ほっそりとしつつも適度に筋肉の付いた脚はいつ見ても魅力的だと、そんな場違いな気持ちを抱く。股間に圧力を感じ、強く押される様な感覚と共に痛みが襲う。

 

 スローモーションな世界が時を取り戻す。

 

 深く鋭い刺す様な痛みと鈍く重い鈍痛が股間から上に走っていく。吐き気を催す様な痛みと脳天を突き抜ける様な痛みで僕の意識は遠退く…膝から崩れ落ちていく。ああ、世界が色を喪う。灰色から黒に変わり視界が塗り潰されていく…。

 

 もう、すべてが遅い。僕はきっと間違ってしまったんだ…。

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

フィオ

 

 

 崩れ落ちたキョウヤの身体が床に落ちる前に抱き留めた。完全に力の抜けた身体は酷く重く感じた。キョウヤをそっと床に寝かせた。

 

「フィオ…。」

 

 クレメアが抱き付いてくる。いつもは勝ち気で元気一杯な幼なじみのこんな姿に心が痛む。クレメアを抱き締めた、震えている。私が震えているのかクレメアか、それとも両方か。

 

「クレメア、キョウヤをベッドに寝かせるのを手伝って。」

 

 今のクレメアにこんなお願いをするのは心苦しい。私もクレメアも抱き合いながら泣いているけど、いつまでもこうしているわけにもいかない。

 

「うん…。」

 

 クレメアはキョウヤに手を伸ばすも、ビクリと戸惑い止まる。拳を握り震わし、手を開くも震えているようだった。

 私も少しだけ震えた。キョウヤは口を半開きにし白眼を剥いて仰向けに倒れている。

 

 私がやった事。

 

 大好き、愛してる。そんな思いを抱いた人を蹴り倒した私。急所を蹴り潰し、痙攣しながら白眼を剥く、愛しい人。

 

 複雑な想いを抱える。大好きだけど許せない、苛つく、愛してる、憎い。どれも私の心。それでも私は好き。キョウヤが好き。

 

 

 キョウヤの身体をベッドに横たえた。

 

「ねえ、クレメア。これからどうする?」

 

「どうって…。」

 

 クレメアは言葉に詰まり考え込んでいる。

 

「このまま、パーティーを組み続けるか別れるか。って事よ。」

 

 こんな思いを抱きながら、今まで通りで居るのはきっと無理。どこかでギクシャクしてバラバラになっちゃうと思う。

 

「クレメア、今すぐじゃなくても良いよ。でも考えておいてね。私はクレメアとずっと一緒だから。クレメアがパーティーから抜けるなら私も一緒だよ。」

 

 今の私なら、クレメアとキョウヤなら迷わずクレメアを選ぶ。三股宣言の男よりも、幼なじみを選ぶのは当然。

 

 でも、クレメアはどうなんだろう?私を選んでくれるかな?

 

 

「えっ…。うん、でも私もフィオとずっと一緒が良い。」

 

 力無くクレメアは呟く。こんなにも元気の無いクレメアは久しぶりに見た。私はクレメアを抱き締めた。

 

「クレメア、私はずっと一緒だから。今までと一緒だよ。いつだって二人で乗り越えて来たでしょ?」

 

 でも、乗り越えられなかった事もある。

 

 あの日、キョウヤに出会った時。

 

 

 

 

 私とクレメアは故郷を離れ、アクセルで冒険者になった。二人でパーティーを組んで、街の中の依頼をこなしたり採取を中心にして暮らしてた。それから時折ジャイアントトードを討伐したりして、そこそこ上手くやれてたと思ってた。

 

 

 でもある日、いつもの様にジャイアントトードの討伐をしていた時。小さなミスが重なり命の危機を招いた。

 

 その結果、私とクレメアは補食された。

 

 徐々に飲み込まれ、クレメアの私を呼ぶ叫びを聞きながら先に飲み込まれた。ジャイアントトードの口の中は粘液で満たされ、私を犯していく。身体中粘液にまみれ服も下着も肌も粘液に包まれている。生温いカエルの体温が私を包み、回りの肉が動き私を運んでいく。

 

 だけど、次の瞬間。私の腕は何者かに力強く引かれた。息が出来る。空気を感じた。

 

 

「もう、大丈夫だよ。君の友達も助けたから安心して良い。」

 

 彼の声を聞いて私は目を開いた。

 

 彼は私を抱き抱えながらクレメアの隣に降ろした。

 

「フィオ!」

 

 クレメアは私に抱き付いた。どうやら私達は彼に救出されたようだった。私達が礼を口にすると。

 

「二人が無事で良かった。」

 

 太陽のような笑顔でそう口にした。

 

「お礼なんて…いやそうだ。僕はこの街は初めてなんだ、だから案内してくれると嬉しい。」

 

 一度お礼を断ろうとしたが、その後の提案は私にも嬉しい事だった。恩人を案内出来るって。

 

 でも、今の私達はベットベトヌッルヌル。私達を抱き締めたせいで彼の服も同じ様になってしまったのが申し訳ない。服を綺麗にしつつ身体も洗うべきだ、なのでお礼を兼ねて公衆浴場の代金と案内をする事を伝えた。

 

 

「ああ、そうだね。男の僕は兎も角二人は…、わかったよ。」

 

 承諾してくれて何より。

 

 道すがら話を聞いて驚く、冒険者登録をしていない一般人だと彼は言う。冒険者になる為に来たと聞き、お風呂から上がってから一緒にギルドまで行き登録を見守った。

 

 凄まじいステータスで初めからソードマスターになったり、パーティーに誘ったり一緒に依頼を受けたり同じ宿に泊まったり。

 

 出会ってから今までの事を思い出す。

 

 

 

 二人で思い出を話しながら泣いた。あれからは、いつだって三人一緒だった。三人で冒険して三人で遊んで。この三ヶ月ずっと一緒に過ごして来た。

 

 もう、答えは出たも同然だった。

 

 離れたく無い。クレメアも同じ結論だった。

 

 すぐに元通りって言うのは難しいけど、キョウヤは私達の気持ちを受け入れてくれたんだからこれからはもっと積極的になろう。

 

 まだ見ぬもう一人の事は置いておこう。私達がキョウヤの心を掴み直せば良いんだから。

 

 

 

 

 ふと、キョウヤを見た。まだ気絶している。手で瞼を閉じさせたけどまだ目覚めない。

 

 

「フィオ、キョウヤ大丈夫かなぁ?」

 

 冷静に考えるとやり過ぎたかも知れない。悲鳴を上げる事もなく崩れ落ちて気絶した事に少し不安になる。

 

「もしかして、潰しちゃったかな…。」

 

 案外感単に潰れたりするって聞いた事がある。ヤバいかな。

 

「ねえ、確かめてみない?ポーションが必要かも知れないよ。」

 

 確かめる…。服を脱がせて?

 

 

 

 これは治療に必要な事、これは治療に必要な事。自分自身にそう言い聞かせズボンを脱がせ、下着に手を掛ける。

 

 目を瞑り下着を膝下まで下ろす。目を開けるとそこには。

 

 

「うわぁ、腫れてる。よね。」

 

 普段の状態なんて知らないけど、でもこれは明らかに腫れている。

 

 タマは赤く大きく腫れその周囲は内出血したように見える。竿は…。

 

 目を背けてしまった。でもこれは私のせい。

 

「そうだ、ポーション。早くポーションを。」

 

 そっとポーションを掛けると、ビクリと大きく痙攣した。それを見て私はポーションを手に掛け、手のひらで馴染ませる様に塗り込んでいく。

 

 未だに意識は戻らず、腫れも引かない。

 

「どうしよう、私のせいだ。どうしよう…。」

 

 事態の大きさに私は不安に押し潰されそうになった。

 

「回復魔法じゃ無きゃダメなのかな…。」

 

 クレメアの言葉にハッとする。教会で回復魔法での治療を依頼すれば…。

 

「教会に。教会に行かなきゃ。」

 

 きっと回復魔法の使える人が居るはず。そうとなれば…。

 

「クレメア、キョウヤの事をお願い。私は教会に行って回復魔法の使える人を連れてくる。」

 

「フィオ!一人で大丈夫?」

 

「一人でも行かなきゃ。キョウヤをこのままにはしておけない。クレメアごめん、後は頼むね。」

 

 私は宿を出て、教会を探しに行った。

 

 

 夜になって人も疎らになっていた。勧誘はされなくなったから、走り続け教会を探しにていた。

 

 探せど探せど、エリス教会は見つからない。大小様変わりなアクシズ教会はあちこちにある。この街はアクシズ教の総本山。エリス教会は無いのかも知れない。

 アクシズ教会に行かざる負えないのかと、少しだけ憂鬱になる。でも、キョウヤの姿を思い出して頭を振る。

 

 誰が相手でも関係無い、これは私の罪。確実に助けを呼ばなければ。

 自然と街で一番大きな教会へと向かう。意を決し、教会に足を踏み入れる。

 

「あら?こんな夜更けにどうしましたか?」

 

 金髪の妙齢のシスターに出会い、要件を告げた。

 

「急患が居るんです、誰か回復魔法の使える方は居ませんか?私のせいだから連れて来なきゃ、彼が目を覚まさないんです、だから。」

 

 言葉が上手く纏まらない、一刻も早くと焦りが募る。

 

「急患ね!でも少し落ち着いて、症状を教えてください。」

 

 私はやった事見た事を話した。

 

「うわぁ、それは。ちょっと待っててね、すぐに戻るから。」

 

 シスターさんは大慌てで走って行った。

 

 もう夜も更けて教会には私以外の人影は無い。探し回っている間にずいぶんと時間が掛かってしまった。正確には分からないけど、一時間以上は経ってしまったと思う。一秒が長く感じられる。今どのくらい経ったのかな。

 

 

 待っていると、さっきのシスターさんが男の司祭を連れて戻って来た。

 

「ゼスタ様、女の子が困ってるんだから助けてくれますよね?」

 

 ゼスタ様と呼ばれた男性は頷く。

 

「もちろんだ、少女の頼み事に比べたら他の事など些事だ。さ、お嬢さん私にもう少し一度何が有ったか教えてくれ。」

 

 もう一度同じ説明をした。説明をしている間頷いたり、鼻息を荒くしていた。私がした事は同じ男として許せない事だろうと思った。

 

 

「うむ、事情は分かった。早速案内を頼む。」

 

 良かった、これで助けられる。

 

「ゼスタ様、私はまだ仕事が残ってて一緒に行けませんけど絶対に変な事しないで下さいね。」

 

 変な事とは一体…。

 

「心配は要らん。さ、フィオと言ったかな。急患の元に行かねばな。」

 

 

 私はゼスタ様を連れて宿に戻った。

 

 クレメアは所在無さげに、キョウヤのベッドの横に座り込んでいた。空のポーションの瓶が幾つも床に転がっている。

 

「フィオ!」

 

「ゼスタ様お願いします。」

 

 私はクレメアに今までの事聞いた。手持ちのポーションを使いきっても腫れが引かず意識も戻らずどうしたら良いか分からなくなっていたそうだ。

 

「少し、触診をさせてもらう。」

 

 ゼスタ様は手で患部を触り頷いたり唸ったりしていた。

 

「うむ、これなら大丈夫そうだの。」

 

 手でキョウヤに触れながら詠唱を始めた。

 

「傷付き倒れ伏す者よ、水の加護により、今再び立ち上がらん。」

 

「ヒール」

 

 ゼスタ様の手から光が溢れ、キョウヤの下腹部を包み込んで行く。下腹部を覆い尽くすと光は全身に広がって行く。

 

 光が消えて患部が見えると、腫れと内出血が消えていた。

 それを見た私とクレメアは抱き合い安堵の息を吐いた。

 

「これでもう大丈夫だ。朝になれば目を覚ますだろう。」

 

 振り返ったゼスタ様の言葉で安心した。

 

「ありがとうございますゼスタ様。こんな夜中だったのに助けてくださってありがとうございます。あ、その。どの様にお礼をしたら良いですか?」

 

 お礼はどうしよう。見た所豪華なローブで高い立場の人である事が窺える。そんな人を夜中にここまで連れてきて治療をしてもらったんだ、払える、かな。

 

「そうだな。お嬢さんとの一夜…冗談だ。そうだな、笑顔が見たい。お嬢さんのような別嬪さんの笑顔なら充分な対価になる。」

 

 うんうんと頷き私を見た。一夜は冗談だと言ったけど、例え冗談じゃ無くても断る事は出来なかったと思う。笑顔か、上手く笑えるかな。

 

「ゼスタ様、ほんとうにありがとうございました。」

 

「うむ、良いものを見せて貰った。可愛い女の子には涙よりも笑顔が似合う。」

 

 ゼスタ様は私に近付き、頭を撫でた。

 

「これからはあんまり無茶をしてはいかんぞ。今回は破裂はしとらんかったが、破裂してたらヒールでは治らんからの。では夜も遅いし帰るとしよう。明日辺りにでも教会に顔を出してくれると嬉しいがな。」

 

 そう言いゼスタ様は帰った。アクシズ教徒にも良い人は居るんだ。

 

 

 

「クレメア、もう寝ようか。」

 

「そうだね。」

 

 キョウヤの寝息も穏やかで安心したら眠くなってきた。お風呂どうしよう、行きたいけどもう眠い。朝にしよう。

 

 キョウヤの両隣にはスペースがある。

 

「クレメア、三人で寝よう。」

 

 三人で川の字でベッドに横になる。明日起きたら、キョウヤ驚くかな?少しイタズラ心が湧いた、下着は脱がせたままにしちゃえ。

 

 

「おやすみ。」

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、クレメアとフィオに挟まれて下半身丸出し(フルチン)の少年の嘆きが宿に響き渡ったかも知れない。

 

 でもまあ、元気なのは良いことだ。

 

 その声で目覚めた二人が元気なミツルギを見たとしても良いことだ。

 

 

 

 

 




一度書いてから最初から新たに全部書き直しました。このままでは三股屑男になってしまう所だったので蹴り潰されて貰いました。

修正前はクレメアがヤンデレっぽくなったのでこれじゃないなとなり、全面修正しこの形になりました。

フルチンの勇者ミツルギ、オッサンの誘惑に乗り、タマを蹴り潰され、女の子に股間を撫でられオッサンに股間を揉まれた勇者。

何でもいけるゼスタ様が合法的に少年の股間を愛でた。



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