要注意
・ガチチートです
・残酷な描写があります 苦手な方は目を瞑って読んでください
・エロ要素あります 別にそういったシーンがあるわけでは無いですがモンスターに襲われる過程での描写は書きます 苦手な方はガン見してください
・作者ロリコンで男嫌いです 女の子しか基本出てこないと思ってください
「ぁ...あぁ...」
目の前が薄暗くなる。頭はくらくらとしてきて体は焼き切れるような熱さが襲ってくる。耳鳴りの音に混じって誰か名前を呼ぶ声が聞こえるような気がするがそんなことに構っている余裕は無い。死にたくない、死にたくない死にたくない死にたくないシニタクナイシニタクナイシニタクナイ......。たった二十数年生きただけなのに、女の子を助けようとしただけなのに、まだやり残したことだってあるのにこんな所で...。だが非情にも現実は私を、死の道へと追いやった。
《ここは...どこだろう、何も感じないけど...あぁ、私確か車に轢かれたんだっけ?あーあ、私まだ彼氏もいなかったのに、せめてもう数年あればなぁ》
(汝、力が欲しいか?)
《んぇ?何?今の声》
(汝、力が欲しいか?どんな世界をも救える、力が欲しいか?)
《力?うーん、手に入れられるなら欲しい...かな?》
(了解した。汝、魔の世界でその力を振るうがよい)
《え?魔の世界って言った?...ねえ!》
声はそれ以上何も言うことは無かった。私の意識は渦の中へと吸い込まれるように消えていき、私の第二の人生が始まりを告げた。
「あぅ...ん...んん〜っ!」
ごつごつとした感触と変な肌寒さで私は目を覚ました。一瞬の眩しさから見えた景色は見知らぬ洞窟。眩しかったのは湖の水の反射だった。
「どこ?ここ...洞窟?え?」
自分が何をしていたのか、何者なのか、そもそもここはどこなのか、何も思い出せない。手は、ちゃんと五本指がある。
「あ...水...」
水辺へと行き、自分の姿を確認する。そこに映し出された私の姿は、頼りなさそうな幼げの残る女の子。髪は、深い青で少し長いくらい、目は紫色、着ている衣服はみすぼらしいもので持っているものは何も無い。
「どうしよう...こんな所で、1人なんて」
周りを見渡すが見えるのはごつごつした岩肌だけ...、
「あれ?花?」
自分から見てちょうど対岸側、ほんの小さな花畑のような場所が見えた。私はなんとか対岸に行ける場所がないか見る。
「あ、あった」
左手に道が見えた。私はそこから花の集まっている場所へ。
「この花、綺麗だなあ」
黄色の花弁を付けた花がいくつも集まっていた。その花を両手で優しくひとつ手に取る。
「え...これは...麻痺花草?」
手に取った瞬間、この花がどんな種類か、効果や性質等の全てが頭の中に流れ込んできた。
「食べることは...できない、はぁ...そういえばお腹空いたなぁ」
思い出したように空腹感を覚えた。湖でとりあえず水を飲んで空腹感を紛らわす。そこでもこの水の事が頭に情報が収納されるように流れ込んだ。
「っ!?何!?」
パラッと石が弾けたような音に私は警戒をした。何か変な気配を感じる。私なんかが襲われたら何も出来ずに殺されかねない。足音をたてないように岩陰へと隠れる為に大きめの岩へにじり寄る。岩までは大体15mくらい、少しずつ少しずつ私は緊張で破裂しそうな胸を抑え、歩みを進める。
(もう少し、もう少し!)
あと10m、8m、6m、そして、
(よし、着いた!)
そう思った瞬間、パシッ!という石が破裂する音。あっ、と思った時にはガサガサっという音がこちらへ物凄いスピードで近づいてきた。
「あう...あっ...」
その音の正体は自分より遥かに大きな体躯のワニのようなモンスター。
「グゥルルル...」
青みがかった灰色の鱗は硬さを表したように光を反射している。モンスターは威嚇しているかのように唸り声を上げて警戒しているかのように私の様子を伺う。私はというと、腰が抜けてただ地べたにへたりこんで怯えていた。
「グルルァァァァ!!」
モンスターが吠えた。大気が震え、ビリビリとした振動を私は頬に感じとる。声が出ない。気づかないうちに失禁をして私は逃げることも出来ずただ泣きながら死を待つだけのものと化していた。
(もうダメだ...死ぬ!死んじゃう!)
モンスターの大口が近づいてくる。私は目を閉じてただ祈った。
「弱き者、命が惜しいか?」
声が聞こえた。私が喋った訳では無い、声はすぐ近くから聞こえた。
「無視をするでない、俺に喰らわれたくなければ答えろ」
声はモンスターから発せられていた。私はモンスターを見て恐る恐る答える。
「は...は、はい...まだ、死にたくないです」
「ならば弱き者よ生きるにはただ一つ、この俺、水神竜ポセイドンに忠誠を誓え、さすればお前に水神の加護を授けよう」
「忠誠、ですか?」
「そうだ、断るなら今すぐにお前を喰らって次の獲物を待つ、忠誠を誓うなら我はそなたに力を授けよう。さあ、どうするか答えよ!」
そう言ってポセイドンはまた吠えた。どうするかなんて私に合ってないような選択肢だ。
「その...誓います。死ぬのは、嫌ですから」
「良いだろう。弱き者よ、名を何と申す」
「名前は...わかりません...思い出せなくて」
「ふむ、ならば俺が付けてやろう。弱き者、神から名を与えられるというのは加護ではなく契約になる。神との契約は力を全てその身に宿すという事だ、それでも良いか?」
聞いた感じでは悪くない話にしか聞こえない。そもそも私には首を縦に振る以外の選択肢なんて無いのだ。
「は、はい...大丈夫です」
「よかろう、汝の名は今よりマナ!ポセイドン=マナだ!そして神の名を冠したことにより我をその身に宿し、この力存分に振るうがよい!」
ポセイドンが高らかにそう告げるとその体躯が淡い光に包まれる。その光は私の胸まで来ると私も同じように光に包まれた。
(あ、熱い...!)
濁流のように何かが私の胸に流れ込んでくる。頭の中には津波の渦のようなイメージが目まぐるしく形を変えて頭の中で渦をまく。そしてそれは1つの形となって私の目の前に-、
「っ!?はぁ...はぁ...はぁ...」
すぐに現実に引き戻された。目の前にいた巨大な神はいなくなっていて体を見てみるも特に変化はない。
(何も変わってないよね?)
私は試しに手のひらを水辺へと向ける。まあこれで何か起こるわけなんてない、もし水なんかが出てくるならば-、
「...え?」
力を入れて水が出てくるイメージを浮かべ、実行した。すると手のひらから巨大な水柱が湖へと突き刺さった。
「何...?今の...」
自分でも何が起こったのか分からなかった。手からドバーッと水が出てそれが湖に流れたのだけは認識できた。
その後も色々と試したが小魔法からかなり強そうな魔法まで使えるようになっていた。ただ基本は水魔法で後は黄色い粉を振りかける魔法くらいしか使えなかった。
どうすればいいかはわかりませんが、私はこうして神と契約を交わし洞窟の中で迷える魔法使い(?)に異世界転生してしまったのです。
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私の力
あれから何日経っただろうか。私は今だに洞窟の中を彷徨っていた。モンスターに捕食されないだけマシだと思うがそろそろまともなご飯が食べたい、覚えている限りでは薬草か蛇のようなモンスターの肉しか食べてない。
力を手に入れて色々と試しついでにモンスターを片っ端から狩り、色々なことがわかった。どうやらこの世界にはスキルや魔法といったものが存在する。私には元々、左手で触れた物やモンスターの情報やスキルを盗み取る事ができるスキルが備わっていたらしく実際に炎を吐くトカゲや洞窟内に潜んでいたコウモリに触れたところ、炎系スキルや超音波が使えるようになり、更には蝙蝠の翼で自由に飛行できるようになった。だが1番の驚きはポセイドンの力をも自由に使いこなすことができたことだ。体に鱗を纏わせることが出来、水を自由に操る力を手に入れた。その鱗は強度はどんな岩でも岩を軽々と砕き、炎の熱さなど微塵も感じない優れもの。私はそれらを駆使してモンスターを狩り、スキルをどんどん獲得していった。蜘蛛の糸にゴーレムの腕力、更には洞窟の祭壇でこの世界の古代の言葉も覚えた。
「あぁ...けどそろそろ外に出たいな...一生こんな場所で1人は寂しいよ」
食料にはそこまで困りはしないもののずっと薄暗い洞窟内で生活するのはいささか精神的にきつい。風の通りがあるので必ず外には出られるはずだが出口が一向に見つからない。
(そういえば超音波使えたよね?これでどこから出られるかわからないかな?)
私は精神を集中させ洞窟内に超音波を使い、空気を振動させる。
(これは...足音?3人かな?)
私がいる場所から右手の入り組んだ道の奥から微かに何か動くのを感じた。モンスターではないのは確かだ。
道を進んだ先には何もいなかった。しかし何か燃えたような匂いが漂っていた。それを辿っていくと奥に光が見えてきた。
(あれ、出口だよね!)
私はやっとの思いで洞窟から初めて外へと出ることに成功した。
外は森の中だった。明るく、少し先に川が見える。
「いいにおーい!気持ちいい〜!」
肌寒くて薄暗く岩の匂いしかしなかった洞窟内とは違い、外はとても暖かく空気がおいしかった。私はごろんと横になり陽の光をいっぱいに浴びる。とても暖かい、そのまま眠ってしまいそうだった。
「んん〜!んっ?」
寝転んでいると何か柔らかいものが手に触れた。見上げると青いぷにぷにとしたものがぴょんぴょんと跳ねている。
「スライム?可愛いー!」
私はスライムを持ち上げると抱きしめたり伸ばしたりして遊んだ。すべすべしているのに柔らかくちぎっても元に戻るのが面白くてたまらなかった。
「あなた、自己再生を持ってるのね!それに自然治癒に麻痺、毒、熱耐性かー、とても小さいのに凄いわ」
もはや触っただけでそのモンスターの持っているスキルが分かるようにまでなっていた。
「何これ?捕食?へえー!便利そうね!」
スライムからは様々なスキルを習得することが出来た。恐らく相当強いモンスターなのだろう。だが聖水と氷には滅法弱いらしくすぐに溶けて消えてしまったり凍ってそのまま動けなくなるらしい。
私がそのままスライムを抱えて森を歩いていると-、
「た、助けてくれえー!!!」
どこからか大声が聞こえてきた。私は超音波で確認すると右手奥から人が3人、それを、追いかけるようにモンスターが1匹こちらに走ってくる。
「あっ...スライム...」
危機を察してかスライムは私の手から離れ、どこかへ逃げてしまった。
「むぅ...許さない...」
私はこちらへと走ってくるモンスターに標準を定める。3人の姿が見えてきた。硬そうな物を身につけている、重そうだというのはわかった。
「おい!女の子だ!おい!危ないぞ!」
「ちょっと!早く逃げて!」
「もう帰りたいですーー!!」
私に何か言っているのはわかったが悲しみと怒りで私はモンスターにしか意識が向いていなかった。モンスターは小型の恐竜のような姿、弱そうだな、というのが印象だった。
「はぁぁぁ!!!」
私はモンスターを逃がさないように水の結界を張る。モンスターは水の壁にぶつかり一瞬こちらを睨みつけた後、壁に体当たりをしている。
「私のスライム!返して!!」
私は突き出した手のひらをギュッと握った。すると結界が一瞬にして小さくなり、モンスターはそれに押しつぶされて死んでしまった。
「えっ!?」
「なんだよ...この子...」
「今の...魔法、ですよね?しかも、最上位の...」
3人は呆然としている。私はモンスターの死体を一瞥して捕食スキルを使ってみることにした。腕が一瞬にしてドロっと溶け、モンスターの死体を包み込んだ。
「ひっ...!?」
3人のうちの1人が小さな悲鳴をあげたが気にせず続ける。死体を溶かし終わると腕を元に戻した。なるほど、このモンスターはティラライナーという小型の肉食獣らしい。無限にスタミナが尽きないランナーと死体でも普通の肉と変わらない味で食べられるようになる死肉捕食を獲得することが出来た。
私は3人の方へ顔をむける。3人ともかなり怯えた表情をしている、よほどモンスターに追われたのが怖かったのだろう。
「お、おい、どうするんだよ...こっち見たぞ」
「あんた男でしょ...何とかしなさいよ!」
「知るかよ!」
2人は何か言い合いをしている。座ってこちらを見つめている人はうるさくないし仲良くしてくれそう。私はその人の前まで行ってしゃがんだ。
「あ...あの、君は?」
かなり怯えた表情で体が震えている。寒いのかな?と思った私はギュッとその人を抱きしめてあげて言った。
「私はマナ!へえ、あなたはミナって言うのね!」
「ど、どうして...私の名前をっ!」
「うーん、わかんないけど触ったものの事がわかるの。ミナは氷魔法が得意なのね、けどまだ強い魔法は持ってないみたいね...スキルも無いみたいだし」
「なんだよ...それ...」
一緒にいた男の人が震える声で私を睨んで、なんだか嫌な雰囲気を出している。
「ちょっと、アインやめなさいよ!」
「うるせえ!こいつは...!こいつは!バケモノだ!」
そう言ってアインと呼ばれた男は私に少し長い刃物で切りかかってきた。私は腕に鱗を纏いそれを軽々と受け止めた。そして男の腹に手を当てて情報とスキルを盗みとる。こいつも大したスキルは持ってないな、と呟きそのまま力を込めた。
「がはっ!?」
男の腹に水の槍が貫通し、血飛沫を撒き散らしながら絶命した。ミナともう1人の女の人は恐怖で顔を引き攣らせ、悲鳴も出せずただ死体を見つめているだけだった。
「ミナ!この人何?いきなり殺そうとしてきたから殺しちゃったよ」
私はミナに言ったが返事は返ってこない。
「逃げるよ!ミナ!」
女の人がミナの腕を引きどこかへ連れていく。
「あっ...」
また逃げた、と私はしょんぼりとして辺りを見渡す。まだ日は高いがやることも無い。そういえばさっきミナからこの近くに街があるという情報を得ていた。試しに行ってみようなーっと思っていたところに、
「あの!お願いします!助けてください!」
と、私の前にいつの間にか角の生えた小さな子が地面に頭をつけて座っていた。
「ようこそ、オーガ族の村へ」
私は子どもについて行き、オーガの村へと入った。オーガは鬼のような風貌で衣服はあまり纏わず、腰にのみ布を巻いている。
「へえー、大きい!」
私が連れてこられたのは村の中で1番大きな屋敷だった。中に入ると胸の大きなオーガの女2人に出迎えられ、奥の部屋へと通された。
「ご訪問感謝する。私がこの村の村長及び軍の若大将だ、よろしく頼む」
「私はマナ!よろしくね!」
(この人、凄い)
がっちりと握手を交わす。どうやらこのオーガは村長ということだけあってかなりの実力者のようだ。スキルは剣技系のスキルを多く獲得できた。更には千里眼の持ち主だったらしく遠くの物まで超音波を使わずに見れるようになった。
「こちらは私の妹、そしてこっちは私の剣の師匠だ」
左の胸の大きなオーガは優しそうに笑って握手を交わす。さっきの入口で出迎えてくれたうちの1人だった。このオーガは回復魔法が多くなんと蘇生魔法まで使えるらしかった。そして左の老人、こちらをじっと見て仕方なさそうに握手をした。村長よりも多くの剣術、更に気配を消すハイド、罠や地雷を仕掛けるトラップ、影を自在に操り移動出来る影打ちという珍しいスキルを獲得できた。
「それで、早速本題に入らせていただきます」
私はうんうんと頷く。
「私たちオーガ族は見た目通り戦闘を好む種族ですが、長らくは平和で比較的大人しい生活を送っていました。しかし数ヶ月前の事です、突然人間達が襲ってきて村は壊滅状態にまで陥りました。なんとか持ち前の戦闘力で追い返しはしましたが村のオーガの大半が戦死してしまいました」
「うーん、それは大変...だったね?」
あまり理解できなかったがとりあえずたくさんの人が殺されたことだけはわかった。
「はい、それで私達はなんとか今の状態まで持ち直したのですが、また襲撃があるという情報を耳に致しまして...偵察を出したところ、あなた様を見かけてその強さが本物だと報告を受けてお声をかけさせていただいた、という次第です」
「なるほどねー、それで私は何を殺せばいいの?」
老人がこちらを鋭い眼光で睨んだ気がしたが、私はそんなのを意にも介さない。
「お願い致します、私たちと共に人間共を追っ払ってほしいのです!」
追っ払うとはどういうことなのだろうか。言葉の意味がまだよく分からないがとりあえず私が必要とされていることくらいはわかる。
「うん!いいよ!」
「ちょっと待てい!」
しゃがれた声だが大きな声を老人が発した。凄い気迫を放っていて明らかに敵意を向けている。
「その小娘、どこからどう見てもあの忌々しい人間共と同じ容姿ではあるまいか。しかも着ているものもみすぼらしくとてもこやつ1人加わったからと言ってどうこうできるようには思わなんだ」
「だが爺や、この者は人間の偵察を1人、いとも簡単に殺していたとの報告だ。しかも最上位クラスの魔法を詠唱無しで使う事もできるらしい。その力があれば人間ごとき-」
「若様、お言葉ですがそんな簡単に人間を信用してはなりません。そこまで言われるなら、わたくしめにその力を見せてもらいましょう」
そうして私は老人と一騎打ちをするとこになった。
「立ち会いは村長である私が務める。どちらかが先に一撃でも入れればその時点でその者の勝ちだ」
私も老人も一振の剣を携え、互いに向き合う。
「小娘よ、手を抜いたら容赦なくその首をはねる。本気でこられよ」
圧倒的なオーラを纏い、剣を構える。私は凄いなーって思いながら剣を見た。今にも折れそうな細い剣で、こんなものに頼らないでいいやとそれを放り捨てる。
「ふむ...」
「...どういうおつもりかな?」
老人は静かにこちらを睨んで言う。
「だって弱そうなんだもん。わたしはこっちでいいよ」
私は魔法で水の塊から先ほどより強靭な魔剣を作り出す。その剣は薄く光りを纏っていて、刀身には不気味な装飾が刻まれている。
「ぬぅ...なんと禍々しい魔剣じゃ」
老人は警戒心を強くして唸る。さっきから侮っていたのか余裕を少し見せていたが完全にそれは無くなった。
(なんだ今のは...水から魔剣を作り上げた?そんな魔法聞いたことないぞ)
村長や群がってきた村人達もその奇妙な光景に度肝を抜かれている。
「そ、それでは、はじめ!」
合図と共に私は老人の周りに水柱を立て動きを制限する。
「その程度でわしが怯むとでも思うか」
そう言葉を残し影の中へ消えていく。影打ちを使って影の中を移動しているのだろう。
「消えちゃった!すごーい!」
私は面白くてきゃっきゃと笑う。
「ならこれはどうかな!」
そして野次馬は入らないように炎の結界を張り、水柱から炎柱へと変える。
「小癪な!せいっ!」
背後から飛び出してきた老人は一刀、目にも止まらぬ速さで薙ぎ払う。
「何ぃッ!?」
しかしその刀は私の首を切り落とすことは無かった。硬い鱗に弾かれ、逆にその刃が砕け折れた。
「あらら、折れちゃったね」
「爺や!」
「小娘...これならどうじゃ」
そう言って何か呪文を唱える。ただ魔法の情報なら全て把握済み、私に何か通用するなんてことはない。私の周りに粉が漂い始め、私は場違いにおーっと感心する。
「はぁっ!!!」
一喝。するとその瞬間、結界内で大爆発が起きた。
「どうじゃ...これがわしの使える最大威力の魔法じゃ」
「凄いけど私には効かないよ」
老人が振り向いた時には、彼の右腕は肩元から無くなっていた。鮮血が飛び散り、老人と村人の悲鳴が村に響いた。
「そこまで!そこまでだ!」
村長の声が聞こえ、私は結界を消す。村人達が倒れている老人の元へと一斉に駆け寄って行った。
「爺や!大丈夫か!?爺や!」
老人は虫の息で肩からは大量に血が流れでている。
「ふっ...若様、お見苦しいお姿を...見せてしまい申し訳ない」
「いい!喋るな!」
村長は泣きながら老人の左手を握る。他の村人も泣いている中、私はその中をかき分け、2人の前まで歩み寄る。
「今回は私の負けだね、あれを避けられるなんて凄いね」
「ふっふっ......何を、言うとるんじゃ...わしの刃を折り、魔法に耐え、右腕まで切り落としてくれおって...」
「そもそも一撃当てた方が勝ちなんだから私は刃を砕いたとはいえあそこで負けてた、でしょ?」
「お前さんは本当にわからん奴じゃな...言葉を理解しておるのかおらぬのか...何にせよわしはもうここまでのよう-」
「あ、ごめんごめん。今治してあげるから」
私はそう言って老人に手をかざす。すると薄い緑色の光に包まれ、切り落とされた腕は治り、完全に回復した。
「これでよし、これはあげるよ」
私は魔剣を渡すと屋敷へと戻る道を歩く。オーガ達は呆気に取られて言葉も出ない様子でただ私の後ろ姿を見送っていた。
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奇襲/仲間
「ご報告します!ミナ様とフェリ様の報告通り、アイン様の死体を発見いたしました!」
「うむ、ご苦労。して首尾は?」
「それが...行方知れずでまだ偵察隊が付近を捜索中です」
「わかった、見つけ次第捕らえて連れてこい」
「はっ!」
兵士は深々と一礼すると速足で部屋を出て行った。部屋には鎧を身につけた渋い雰囲気の男が1人、愛刀を磨いている。
「水を自在に操る子どもか...報告が本当なら殺すには惜しいか」
男は剣を鞘に収め、ふぅっと息を吐く。
「そろそろ始めるとするか、戦争だ」
私がオーガの村に来て数日が経った。あの決闘の後、すぐは村人達に怯えられて避けられていたが子どもたちと遊んだり剣を教えたりしているうちに次第に打ち解けていった。今では普通に話せるくらいにまで仲良くなっていた。
「マナ様!食料調達隊が戻ってきました!」
オーガ族の少女が私の元へと来て報告をした。この女の子は私の秘書のような役目をしてもらっている。
「うん、ご苦労さま。今日はもう戻っていいよ」
「はい!」
彼女や村人達と話をして、ある程度の言葉や知識を身につけた。まだ人間達が攻めてくるような気配はなく、近くに大型のモンスターが出てくるようなことも無い。平和そのものだ。
「これはマナ様、調子はいかがですかな?」
「爺や、特に変わらないよ。いつも通りいつも通り。そういえば剣の方はどう?」
「とても良いですぞ、切れ味も落ちない上にどんなに硬いものでも切れる、まさに魔剣ですな。このような品をいただき感謝しております」
「なら良かった、また何かあったら言ってね」
「はい、ありがたきお言葉」
爺やともこんな感じで毎日話をしている。あげた魔剣を直ぐに使いこなしてかなりご機嫌なご様子だ。
「うーん、今日も行ってくるかなー」
私は村の入口までのんびりと歩く。最近の私の日課、森の中を散歩することだ。
「おや、マナ様。今日もお散歩ですかな?」
「うん!黒炎も少しは運動させないとね」
黒炎とは私が少し前に見つけた角の生えた馬のことだ。毛並みが黒く、風にたゆたう毛が炎のように見えたから黒炎と名付けた。私が言うことをよく聞くお利口な馬で脚も速く、しかも戦闘能力もかなり高かった。その辺のモンスターなら軽く倒せるくらいだ。
「お気をつけて」
「うん、行ってくるねー」
私は結界の中から黒炎を呼び出す。黒炎に名前を付けた時から魔法でいつでも好きな時に呼び出せるようになった。結界で私の中に取り込んで置けるのでわざわざ世話をしなくても良いのでとても便利だ。私は黒炎に乗り、森の中を駆けた。
オーガ族の村から北西へ数十キロの場所、海の傍に1つの王国がある。そして村から山を挟んで南側数十キロの場所、火山の近くに同じく1つの国があった。その2つの国は長年仲が悪く、たまに武力行使で衝突していて私がちょうど村に入った頃、火の王国が協定を破り、遂に全面戦争にまで発展した。1回目の衝突は水の王国の優勢で終わり、火の王国は対策として国の背後から奇襲する事を決めた。しかし、それにはオーガの村を通らないといけない。私がその情報を知ることとなるのは、村が襲われた時のことだった。
「うん、これでよし」
私は蜘蛛の糸を張り、それをハイドスキルで隠す。これで夜のうちに獲物がかかり、翌日にそれを食料調達隊が回収するのだ。
私は一息ついて辺りを見渡す。この辺では肉食獣や草食獣といったモンスターが彷徨いている、はずだったが私は何回かしか見たことがなかった。何でなのかよく分からないが襲われないので特に気にしたことは無い。まあ悪いことではないのでいいだろう。
「黒炎、戻ろうか」
私は黒炎に乗り、村へと戻る道を行く。今日のご飯は何かな、と呑気に考えていると、
「黒炎、急ぐよ。村が襲われてる」
空間感知能力で村から大勢の人が戦っているのを感じた。恐らく人間達が来たのだろう。黒炎は高くいななき、森を駆け抜けた。
「くっ!持ちこたえろ!マナ様が戻るまで耐えるのだ!」
「若様!ここはわしだけで充分だ!」
爺が魔剣で押し寄せてくる軍勢を薙ぎ払う。剣の光はより一層強くなり、一振りする度に稲妻が迸る。
「ごめん!遅くなっちゃった!」
私が村へと戻った時には多くの人間が村に押し寄せていた。数は2000人程でオーガの兵も応戦はしていてなんとか持ち堪えてはいるが数が多すぎて押されている状況。
「若と爺やは残った村人達を避難させて!すぐに終わらせるから!」
「頼みます!」
2人は急いで村人達を森の中へと移動させた。私は空へと移動し、オーガ達が安全な場所まで移ったのを確認する。
「させるか!1匹たりとも逃がすな!逃がせば後々我らが食われるぞ!」
人間達は逃げるオーガ達を追う、しかしそれを見過ごす私ではない。
「な、なんだ!?水...?進めねえ!」
「隊長!村全体に水の障壁が!閉じ込められました!」
「何を言っとるか!ただの水ごときで進めないだと?ふざけたことを抜かすな!」
「ち、違うんです!何か、見えない壁があって進めません!」
人間達は混乱に陥った。当たり前だ、私の結界は絶対に破れない魔法なのだから、ただの人間にどうこうできるものでは無い。
「そろそろお仕置きの時間だよ!」
私は結界の中の大気と水を圧縮させる。当然だが人間達はその事には気がついていない。限界まで圧縮させたところで、それを中央へと持ってくる。
「ばーん!」
私が指をパチンと鳴らした瞬間、結界の中で見たことも無いような大爆発が起こった。土煙と爆煙で中の様子は見えないがこれで生きている人などいないだろう。
しばらくして結界を消し、様子を確認する。爆発の衝撃で地面にはぽっかりと数メートルの穴が開き、人の死体どころか鎧すら消し飛んでしまったらしい。
「あー、ちょっとやりすぎちゃった?」
私は苦笑いで頬をかく。村が突然襲われて頭にきていたとはいえ、せめて死体は残しておくべきだったろうか。
「まあいいか、みんなを守れただけでも良しとしよう。それより若達大丈夫かな?結界の外だったから死にはしないだろうけど」
私はオーガ達が逃げた方へと向かった。幸い、そこまで離れた所にはいなかったのですぐに見つけられた。
「みんな!大丈夫だった?」
「マナ様!よくご無事で!数名やられましたが、なんとか。怪我人は今私の妹が治癒魔法を」
「わかった、私も手伝うよ」
奥には怪我人が十数名居た。そしてその中に1人、人間の兵士が混じっていたのだ。縄で縛られていて目隠しをされ、口もロープで轡をされている。
「あの人は?」
「はい!爺が話を聞くためだと殺さずに生かして情報を聞き出そうと縛っていたのです」
「なるほど、よくやった。とりあえず話は後で聞くからそのままにしといて」
私は負傷者に治癒魔法をかけて傷を癒す。2人だったので案外速く終わらせることが出来た。
「さて、これで終わりっと。じゃあそこの人間に話を聞こうか」
私は人間の兵士の目隠しと轡を取る。男かと思っていたが女兵士だった。
「今から質問させてもらうから正直に答えてね。大丈夫、変な事言わなかったら殺しはしないからさ」
「...私が答えると思うのか?」
女は私を睨みつけて言った。まあ答えなくても情報は取れるからいいけど。
「答えないと貴女の国を滅ぼしに行くだけだからいいんだけどね」
「先に答えろ...私の仲間はどうなった?」
「......殺したよ、貴女以外生きてない」
「......」
女は特に何も言わず私を睨みつけたままだった。
「じゃあ私から質問するね?何で村を襲ったの?」
「国王から命じられた、目的は知らん」
「前にもオーガの村を襲ったことは?」
「わからん、少なくとも私は今回が初めてだ」
とりあえず嘘を言っているようには思えなかったが一応彼女から情報を取っておく。私は彼女の頭を撫でた、特に嫌がる様子は無い。情報を見たが彼女はどうやら嘘は言っていないようだった。スキルは弓スキルくらいでめぼしいものは特にない。まああまり期待はしていなかったが。
「これからどうしたい?国に返すことは出来ないけど」
「私は捕虜だ、殺すなり生かして配下にするなり好きにしろ。私は逃げも隠れもせん、言われたらその通りにするだけだ」
とても潔い人だった。
「マナ様、こいつを生かしておくのは賛成しません。こいつらは私たちの村を二度も...」
「若の気持ちもわかるけど、この人は悪い人じゃないよ」
「ですが!」
「お前、マナという名前があるのか...人間なのに、どうしてオーガ族の村にいるのだ?しかも統率まで」
「私は人間じゃないよ、オーガでもないけどね。わからないんだよ、私、自分が何なのか」
「...?どういうことだ?」
女は首を傾げる。周りで聞いていたオーガ達も疑問の表情を浮かべている。無理もない、自分でもわかっていないのだから。
「私ね、気づいたら洞窟の中にいたんだ、結構前の話だけどね。そこでポセイドンってモンスターに出会って名前を付けてもらったんだよ...ってあれ?みんなどうしたの?」
女も若も爺も、それどころか周りのみんなが私に跪いている。なんだろう?変な事言ったかな?
「ま、まさか...契約者だったとは知らずに、失礼な態度を取ってしまい申し訳ない」
女は急にかしこまった話し方になった。
「んー?どういうこと?」
「ま、まさか知らないのですか?マナ様」
知っていたらこんなに不思議に思うわけなどない。
「契約者とは、神と対峙し絶対的な忠誠を誓うことで直接名を与えてもらい、神自身をその身に宿した者のことです。ポセイドンは海の神と呼ばれ、水を自在に操ることができると言われています」
「へえー、なるほどね。けどそんなに契約者って凄いの?」
「当たり前です!契約者は神自身をその御身に取り込んでいるのです」
「つまり?」
「貴女様は神様そのものでいらっしゃいます」
なるほど、そういう事なのか。だからみんな頭を下げているということか。だけどこのままはちょっと気が引ける。
「みんな頭を上げて。話はわかったけど私別にそんな偉くないからさ、いつも通りでいいよ」
「しかし!」
「言う通りにしないと今日のご飯抜きだから」
みんな一斉に頭を上げて立ち上がった。こいつら食い意地だけ張ってるんだから。
「まあそんな感じだからさ、私は姿はこんなだけど人間じゃないんだよ」
「なるほど、よく分かりました」
「それじゃあ、貴女は私の護衛になりなさい。それなら若もいいでしょ?みんなには迷惑かけないだろうし」
女は意外そうな顔で私を見つめた。
「マナ様がそう仰るなら、構わないと思いますが」
「い、良いのですか?私なんかをお傍に置いていただいて」
「うん、いいよ。その代わり、ちゃんと私の為に働いてもらうからね」
まあこのまま放っておくわけにもいかない。それに兵士ならそこそこ戦力としても使えるだろう。
「爺や、この人に剣を教えてあげて。人間だから嫌ってのは無しね」
「心得た。娘さんよ、厳しく鍛えるので覚悟するのじゃぞ」
私は村人達の方にも向かって言った。
「今日からこの人も私たちの大事な同胞となる!人間ではあるけど悪い人では無い!もし!この人を傷付けるようなことがあれば容赦なく罰を与える!いいね!」
「はっ!心得ました」
村人達は一斉に頭を下げた。これで彼女はとりあえず安全だろう。
「マナ...様!いや、我が主!感謝致します!」
彼女は地面に頭をつけて咽び泣いた。私は彼女の縄を解いてあげて零れ落ちる涙を指で拭う。
「そういえば名前まだ聞いてなかったよね、名前は?」
「私は...」
何か歯切れが悪そうな反応。いや、名前なら知ってはいるが私には少し考えがあった。
「ねえねえ、それなら私から貴女に名前を付けてあげようか?」
「え...えぇ!?」
彼女は目を丸くして驚いた。若達も驚愕した表情でこちらを見ている。
「だってさ、私たちの仲間になる訳じゃん?人間の時の名前だとみんな気にしちゃうからさ。人間では無い、私たちの仲間としての貴女に生まれ変わるって意味で、ね?」
彼女は少し考える。もちろん意味は分かっているだろう。ただ私は強制するつもりは無かった。彼女が断ればそれはそれでいいと思っていたのだ。
「1つお聞きしますが、それがどういう意味かは分かっていますか?」
「ん?どういう意味?」
私は首を傾げる。別に深い意味で考えた訳ではなかったから彼女が言ってることが理解出来ていなかった。
「やはり...知らないのですね。契約者から名を貰うということはその者の眷属になる、ということです。つまりは私がこのまま貴女様から名を貰うと私は貴女様の眷属、マナ様からのどんな要求や辱めでも断ることができない存在となってしまいます。大変失礼極まり無いのですが悪い言い方をしてしまうと、貴女様の奴隷となってしまうのです」
彼女の説明はとても分かりやすかった。そうなると私も少し考えるものがある。というよりも、
「ねえ若、今の説明が本当なら黒炎は?」
「はい、既にマナ様の眷属ということです」
やっぱりか。それだと私の気持ちよりも彼女の気持ち次第ということになる。
「私はあくまで仲間、として見るつもりだよ。当然ちょっと頼み事とかはするけどさ、眷属とか奴隷とかそんな風には見るつもりないから、貴女が決めていいよ。私から名前を貰うか、人間の時の名前をそのままつかうか」
何だか責任を投げたみたいで、言った後で後悔した。
「私は......」
彼女は一息間を開けて、息を飲んで言った。
「私は、名前を賜りたいです。マナ様にお仕えするこの命は既にマナ様の為に使うもの。人間だった頃の私はもう存在致しません。なので、お願いします、名もなき私に..,名をお与えください」
私はその言葉を聞いて、嬉しいと思った。何故かはわからない。ただ1つ言えるのは彼女はここにきてはじめて笑顔を見せた。
「わかった...名も無き者よ、汝にマナ=ミーシャの名を授ける。これよりはその命果てるまで我に忠誠を誓い、同胞を大切にし、我に尽くせ!」
別にこんな堅苦しい事は言わ無くてもいいのだが形というのは重要だ。
「ありがたき幸せ!このミーシャ、永遠に貴女様に尽くすことを誓いましょう!」
うおーっ!と村人達から歓声が上がった。オーガの子どもや女性達がミーシャを囲んで祝福する。私もうんうんと頷き笑った。
これが私の片腕とも言える仲間の、ミーシャとの出会いだった。
ミーシャの元の名前?ちゃんとあるけどそれはまた別のお話で(ξっ˘ω˘c)ネムネム
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歯車
火山地帯という自然の要塞に囲まれた1つの国。その国の中央の城の一室で2人の男が話をしている。部屋の窓際には1人の美しくも妖しい雰囲気の女がじっと窓の外を眺めている。
「奇襲部隊の通信が途切れてもう2週間か...まさか2000人でもオーガ共に勝てないとなると、翼竜部隊を出すしかないのでは?」
1人は左目に龍の彫られた眼帯を付けた男。その眼帯の影には額から鼻元にかけて3本の痛々しい傷跡が見える。
「ふむ...だが何やら良くない噂があるらしいな。水を自在に操る少女...だとか」
そしてもう1人の男。腰には1本の金色の宝剣、青と赤を貴重とした派手な直垂を身につけ、もう一人の男より明らかに身分が上だということが見て分かる。
「なんだそれは?フェアリーかエルフの類か?いや、水を操るならウンディーネか」
「いや、容姿はわしらと同じ人間らしい。どうやらミズガルズの偵察の1人がその少女にやられたとか」
「どうせその辺の雑魚との戦闘中に水魔法が誤爆しただけだろう。そもそも子どもが魔法を使いこなせるとは到底思えん」
眼帯の男はおかしそうに笑う。確かに魔法が存在する世界とはいえ、まだ魔力が未熟な子供に人やモンスターを倒すほどの水魔法なんて普通は使えるわけがない。
「ゲンジョウよ、噂だからと油断していると足元を掬われるぞ。もしかしたらミズガルズの将の1人やもしれぬ」
「ふんっ、それなら叩き斬るだけだ」
そしてゲンジョウと呼ばれた男は部屋を出て行った。
「モウトク様、その女の子...災いを呼ぶ」
ずっと無言だった女が静かに口を開いた。細々とした声だが静かな音楽を思わせる。
「災い、か......はたしてそれがこの国になのか、それともこの世界に...か」
「どっちにしても、良くない存在」
「ブンキ、各将に準備は怠らないように伝えておけ」
ブンキと呼ばれた女は頷くと再び窓の外の景色を見る。この国は火山から吹き出る煙のせいで厚い雲に一年中覆われていて、火山熱で真夏のように暑い。 景色はいつもと変わらない殺風景な街と火山が見えているだけ。だが彼女の目は全く別のものを見ていた。
襲撃から2週間が過ぎた。私達は近くのオーガ族の村に入って共に生活を送っている。あの後元の村の様子を若とミーシャと共に見に行ったが、もはや地面に穴が残っているだけで村なんて跡形もなく消し飛んでいた。
「マナ様、流石にやり過ぎです。家が無くなってしまっただけならまだしも、こんな大穴開けてどうやって村を再建すればよろしいのですか」
当然、若にはこっぴどく叱られた。これからは爆発魔法は使いどころを考えなければならない。
その後、爺やのツテで近くのオーガ族に交渉し、村に入れてもらえることになった。村の村長は壮年で体つきはどのオーガ達よりも体が大きく腕や顔にたくさんの古傷が残っていた。
「大変だったでしょう、そんなに大きな村でもないけどゆっくりしていきなされ」
そう言って私たちを歓迎してくれた。大きな村ではないと言っていたが私たちがいた村の2倍は大きい村だった。村には無かった鍛冶屋や畑もあり、これを機にオーガ達にそれらを学ばせた。当然私もだけど。ちなみに私が契約者だというのは伏せてある。崇められるのはあまり好きではないからね。
しかし、当面の問題は人間がこの村も襲ってくる可能性がある事だ。それを未然に防ぐために若達と相談をした。
「とりあえず、また襲撃される可能性は極めて高いと言っていい。ミーシャ、貴女が知りうる情報をおしえて」
ミーシャは元は人間の兵士だ。それなら何か少しでも情報を知っていてもおかしくはない。
「はい、今の状況からご説明致します」
話の内容はこうだ。この村の北西部に位置する水の国ミズガルズ、そして南部に位置する火の国ムスペルスヘイムが開戦を宣言し、この区域一帯が戦地となっている。ムスペルスヘイム側がミズガルズの背後に周り奇襲をするルートを確保する為にオーガの村を襲撃している、という事だった。
「んー、それは困ったねー。私たち関係ないのに巻き込まれちゃってるって感じかー」
実に迷惑極まりない話である。
「ここらには他のエルフやフェアリーといった種族の村も存在しています。もしかしたら既に戦に巻き込まれているやもしれませぬ」
「主、私から1つご提案が」
ミーシャが小さく手を挙げた。私は頷いてそれに答える。
「ムスペルスヘイムは国を4つの火山に囲まれた自然要塞があり、更にはそこに住み着いたリザードマンたちとも共存関係にある軍事国家です。国王のモウトクは武力、知能に長け配下からの信頼も厚い。そんな国から本気で攻め込まれれば私たちどころかこの森が壊滅してしまうでしょう」
なるほど、それは大変だ。
「ただ、弱点があるとすれば彼らは火山地帯さえ突破してしまえば逃げ場を失ったも同然になります。更に元来、水との関わりがないので兵のみならず国の者らは大半が泳げません。故に申し上げます。ミズガルズと手を組み、共闘するのがよろしいかと」
「ふんふん、よく知っているね。なるほど...共闘か、若と爺やはどう思う?」
私は2人に目を向ける。若も爺やも難しい顔をしている。
「マナ様、ミーシャ様のお話はとてもよく分かりました。しかし、恐れながら我らに人間と共闘できるかどうか...」
やはりまだ人間に対しては険悪感を抱いているのか提案に対して渋る。爺やも同調するかのように頷いている。
「もちろん別の国か村に逃げるってのも一つの手ではあるよ。けど
この村のように快く受け入れてくれる保証はない。それに私はまだこの世界のことをよく知らないけど他の国でも戦争が無いとは限らないよね」
「この娘さんの言う通りじゃと、わしは思いますぞ。それに、わしらは歴戦の戦士...人間だろうが火を噴くトカゲだろうが、背を向けるなんてできんじゃろう」
村長さんの声色は若を試しているようにも感じた。
「それにそこの、マナとやらは相当な実力者とお見受けする。いくら人間共が束になってかかって来ようがそう簡単には負けますまい」
「よく見ておられるな、年は衰えても見る目は衰えておらんということか。じゃが、こればかりはそう簡単な話じゃ-」
「じゃあこうしようよ、ミズガルズまで話をしに行って条件を提示する。その条件を飲むならこちらも協力する、飲めないなら仕方ないし別の平和な地域にでも移住する。それならいいでしょ?」
このままじゃ埒が明かないので無理矢理ではあるが案を提示する。
「わしはそれでいいと思うぞ」
村長さんは1番に頷いた。若と爺やも何か言いたげな顔だったが首を縦に振る。仕方ないがここはわかってもらうしかない。
「ミズガルズまでは私とミーシャが行くよ。若と爺やと村長さんはその間留守を頼んでいいかな」
「了解致しました」
一応の対策は決まった。翌日私とミーシャは黒炎に乗り、ミズガルズへと出発した。
黒炎を走らせること約1日半、私とミーシャは山を越えて海辺の道を進んでいた。珊瑚の海はとても綺麗で潮風が心地よい。黒炎の脚力は凄まじくあっという間にミズガルズ手前まで辿り着いていた。
「見えました!ミズガルズです!」
海の向こう側、大きな城壁がどこまでもそびえ立っているのが見えてきた。
「あれがミズガルズかー、大きな国だね」
「ミズガルズは7大国の1つですからね、国の中には美しい運河が流れているとも聞いたことがあります」
それは期待できそうだ、少しばかり観光もしてみようか。
潮風に吹かれながら歩いていると、私達はミズガルズの巨大な門の下に着いた。
「入国者ですね、観光でしょうか?」
門の前では青を基調とした鎧を纏った門番に入国の審査をされた。
「この国の国王様にお取り次ぎを願えますか?私はマナ=ミーシャ、こちらは主のマナ様、此度のムスペルスヘイムとの戦のことでお話をしたく参りました」
ミーシャが私の代わりに答える。とても優秀すぎて抱きしめてあげたくなる。
「国王様に...?失礼だがどこの国の者だ?」
当然だがそう簡単に通してもらえるわけがない。怪しまれているのが声色でわかった。
「私たちはオルカの森のオーガ族の村から参りました。先日、村をムスペルスヘイム兵に襲われ、今は別のオーガ族の村にいます」
「オーガ族の村だと?なぜ人間がオーガ族にいるのだ」
やはり聞かれたか...当然といえば当然の疑問ではある。
「私達はオーガの娘に命を救われました。その御恩に報いるため、村の発展に尽くしている所存です」
ミーシャは平然と嘘の話をでっちあげる。その方が都合が良いから私は特に何も言わずうんうんと頷く。
「ふむ...わかった。国王様には取り次いでおこう。だが時間がかかる故、今日中の面会は厳しい。決まり次第こちらから通達を出す、それまではしばし観光を楽しむといい」
ミーシャの機転で私達は無事にミズガルズへと入ることができた。
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水の都ミズガルズ
水の都ミズガルズ、その名の通り水路がいくつも流れていてそこを名物のゴンドラに乗って移動することが出来る。私が生まれて見る初めての国はとても大きく、広く、全てが新しかった。初めて見る噴水、初めて見るゴンドラ、初めて見るお城、初めて見る石造りの大きな建物。私はそれら全てを目に焼き付ける。
「おやお嬢さん、ミズガルズははじめてかい?だったらこいつはおじさんからのサービスだ、名物の水饅頭だよ」
景観を楽しんでいると紫色の無精髭のおじさんから透明でスライムのようにぷるぷるとした手のひらサイズの饅頭を5つ貰った。どうやら食べれるらしい。パクッと口に入れた瞬間パッと弾けてひんやりとした冷たさと、何か甘い風味が口の中で広がった。とても美味しくてすぐにもう1つ口に入れると次はほろ苦い風味、どうやら一つ一つ味が違うらしい。ミーシャも幸せそうに食べている。
「へい綺麗なおねーちゃん、良かったら見てかない?今だったら安くしとくよー」
「あら可愛いお嬢ちゃんだこと、うちのお洋服見ていかない?きっと似合うわよ」
「職人が鍛えた特上の武器、見ていかない?今ちょうど良い剣入ってるよ!」
街は活気に溢れていて道行く武器を持った人や女の人、子どもにまで店の人はひっきりなしに声をかけている。オーガの村ではこんなのは見れなかったのでなんだか楽しい。
「ん?ミーシャ、あれ何?」
私はその中の一つのお店が気になって指をさした。
「あれは...お面、という物です。お祭りの時などに顔に被ったりしてファッションとして楽しんだりするのですよ」
「へぇー!ちょっと見てみようよ」
私はミーシャの手を引いてその店頭に並んだお面を眺める。動物やゴブリン、オーガの顔のお面など種類はいっぱいあった。
「おっ、これなんかいい感じ」
私はその中の一つのお面を手に取った。何かをモチーフにしてある訳では無いが、黒を基調に白い剣が描かれているお面だ。
「ほう、お嬢さんなかなか良い目をしているね」
店を出しているであろう妖狐のお面を被った人が声をかけてきた。声色からして女の人だということがわかる。
「うん、これなんだか不思議な感じがするから」
「そいつは魔攻の面というやつだよ。使用者の魔力と近接攻撃を上昇させる効果と探知スキルの索敵範囲を少し広げる効果が備わった魔法の面さ。効果は良いんだけど、何せお面は元々そこまで売れない上にその辛気臭いデザインだ、誰も買いやしない」
「えー、勿体ないよ...いくら?もし買えそうなら私これ買うよ」
「本当?優しいお嬢さんだね、特別価格にしてあげよう」
私は料金を払いそのお面を手に入れた。お金はミーシャの貯金がたんまりとあるので当面は困らない。はじめて購入した物だ、大事にしよう。
「ふんふんふーーんふんふんふん」
私は鼻歌混じりにスキップしながら街を歩く。潮風とぽかぽかとした太陽の光がとても心地良い。お面はそのまま被ると怪しい人に見られるかもとミーシャに言われたので顔が見えるように斜めに被っている。
「ミーシャ、この後どうする?」
「そうですね...先に今日寝る宿を探すのはいかがでしょうか?」
「ならあそこがいい!」
私が指さしたのは西側の水路の向こう側にある、一際大きな白い建物。先ほどおじさんから水饅頭を貰った後に通って目を付けていた。
「あそこ...ですか?あの白の?」
「うん!さっきいろんな人がここの宿にしようって話して入っていってたし私たちもあそこにしよー!」
「マナ様が仰るならあそこにいたしましょう」
「えぇー!空いてない!?」
来てみたはいいものの宿の部屋は満室だと言われてしまった。
「むぅ〜......」
私は頬を膨らませ、ムスッとした気分で街を歩く。
「ま、マナ様、またあそこには別の機会に行きましょう。別の宿もいい所かも知れませんし...」
「むむぅ〜...」
私がムスッとして歩いていると、
「お困りかい?お嬢ちゃん」
ダンディーな渋いおじさんから声をかけられた。
「誰?」
「おっと、これは失礼。俺はオスマン、ハンターをやっている」
「私はマナ!えっと、ハンターって?」
「ハンターってのはモンスターを狩って稼いでる奴らのことさ。ほら、あそこの酒場にギルドがあってな、そこに依頼が来るからいいやつ選んで討伐しに行くのさ」
オスマンは少し先の木造の建物を指さす。その建物には鎧を身につけ武器を持った人達が多く出入りしていた。
「へえー!それって私でも行けるの?」
「そいつはどうかな...お嬢さん、ハンター登録してないだろ?このハンターズカードを持ってないと依頼は受けられないんだ」
オスマンはポケットから1枚のカードを取り出して私に見せた。そこには銀色のBという文字と26という数字が大きく書いてある他に色々と細かいことまで記されている。
「この文字と26っていうのはどういう意味?」
「このBってのは貢献ランクだ。倒したモンスターの数と強さによって決められる。26ってのはハンターランク、今までのハンターとしての実績みたいなもんだ。俺はまだまだ底辺さ、強いやつになると70を超える奴もいる」
話を聞いているととても面白そうに思えてきた。モンスターを倒すだけで稼げるなんて簡単そうだし、何よりとても楽しそうだ。
「そのハンター登録っていうのはどうやってするの?」
「ギルドの受付で適性審査に合格すれば登録できるぜ。審査って言っても本人のステータスを魔法で割り出して一定値かどうか見るだけなんだけどな」
「その...モンスターの討伐というのは1人だけで行くのですか?」
それまで私たちの様子を見ていたミーシャが口を開いた。興味があるのだろうか?
「いんや、最大5人までパーティーを組んで行くことが出来るぜ。知らない人と組むもよし、逆に一人で行くもよし。そこは本人の自由さ、ただな......」
そこでオスマンは一息入れ、それまでのふらっとした雰囲気から真剣な表情へと変わる。
「ハンターってのは常に生きるか死ぬかの仕事だ。半端な気持ちでなりたいと思ってんならやめときな、悪いことは言わん。昨日まで一緒に酒飲んでた奴が狩りに行ったきり二度と戻ってこなくなったなんてのはざらにある。モンスターに食われて死にたくなけりゃ、今まで通りの暮らしを送った方が幸せかもしれないぜ」
ミーシャが息を呑む音が聞こえた。オスマンは私の目を真剣にじっと見つめていて微動だにしない。
「なら、なんでおじさんはずっとハンターをやっているの?いつ死ぬかもわからないのに」
私は率直な疑問を投げかけた。その質問にオスマンはふっと笑って答える。
「そんなの、楽しいからに決まってんだろ。確かに俺は明日モンスターに丸呑みにされて死ぬかもしれねえな...だけどよ、それよりもモンスター狩ってそれで儲けた金で仲間たちとバカ騒ぎして酔いつぶれる楽しさの方が大きいんだよ。これだから、ハンターは辞められねえんだ」
「ふふっ、よっぽどハンターが好きなのね」
私は面白くてはにかんだ。それを聞くとますますハンターというものに興味が湧いた。
「まあな...それより話がズレちまったけど、何か困ってたようだがどうしたんだ?」
「今日泊まる宿を探してて、マナ様が希望した宿は断られてしまって」
「なるほどな...それなら酒場にも宿はあるぜ。夜はちょっとうるせえかもしれんが悪い場所じゃねえ。なんならお嬢さんのハンター登録も一緒にすりゃいい」
それは良いことを聞いた。私はミーシャの方を見てパッと目を輝かせる。
「では、酒場の方へ行ってみましょうか」
「やったぁ!」
「酒場へは俺も一緒に行こう。ちょうど酒も飲みたい気分だ」
私は駆け足で酒場へと向かった。ドキドキとワクワクで胸がいっぱいで、こんな気持ちは始めてだ。
「うわぁ〜!人がいっぱい!」
酒場に入ると笑い声や怒声といった喧騒に包まれる。屈強な男達が料理にがっついていたり酒の飲み比べをしていたり、それに混じって女の人も一緒に騒いでいたりと賑やかだ。
酒場はかなり広く、出入口とは別に奥にもいくつか扉が見える。1階と2階があり、2階には人は見当たらない。1階の中央には私たちよりも大きな巨大な青い水晶のようなものが置いてあるが誰も気にするような素振りは見えない。ハンターらしき人たちとは別に白のエプロンを着た女の人達が料理を持って席に置いたり酒を持ってハンターに渡したりと忙しなく動いている。
「とりあえず先に宿の手配だけしてこい。俺はあっちで待っとくからよ」
そう言ってオスマンは近くのお盆を持ったお姉さんに声をかけると人が少ない隅っこの席に腰掛けた。
私とミーシャは宿の予約だけして再びオスマンのところへ戻る。幸い部屋は2人部屋が見つかり、しかもかなり安かった。オスマンは私たちの姿を見ると席を立ち上がり店の奥の方へと案内した。
「ここがギルド受付だ。今はちょっとした理由で人が居ないが普段は依頼を求めるハンターもここに来るんだぜ」
奥の扉の先には酒場よりは少し狭いくらいの部屋。正面に2人の女の人が窓越しに座っていてこちらを見ると「こんにちは」と言って微笑んだ。
「とりあえずあの右側の黄色い服着た若いねーちゃんにハンター登録したいって言ってきな。そしたら説明してくれるからよ。後は言うこと聞いてればわかるだろ」
「うん!おじさん、ありがとう!」
「礼はいいさ。無事に登録出来たら今度1杯奢ってくれや」
それだけ言ってオスマンは部屋を出て行った。私とミーシャは教えられた通り黄色い服のお姉さんの元へと行った。
「こんにちは、ギルドへようこそ!本日はどのようなご要件でしょうか?」
髪はツインテールで声色もちょっと子どもっぽい。どうしても幼く見えてしまう。
「私たち2人ハンター登録をしたいのですが...」
ミーシャは私の方に両手を置くとお姉さんに言った。なんだかミーシャがお姉ちゃんみたいだ。
「ハンター登録ですね!名前をお願いします」
私たちはそれぞれ名前を名乗った。
「マナさんに、ミーシャさんですね、それでは一通りハンターの説明をさせていただきます。まずハンターはそちらのカウンターの左手と右手にある掲示板に張り出された依頼を受注して、指定のモンスターを討伐していただきます。報酬は帰ってきてクエスト達成が確認できた際、こちらから直接お渡しする形になります。もしクエストに失敗してしまった場合は報酬はお渡し出来ませんので自分のレベルに合った依頼を受けるよう気をつけてください。依頼は1人で受けるのも良いですし、最大5人まで受けることも可能です。こちらで依頼を受注する際にパーティー登録をするようお願いします。パーティーでの報酬は山分けとなります、金額はこちらで前もって均等に分けておきますのでご安心ください。あと、受注する際にハンターズカードを提示していただきます。提示されない場合依頼を受注できませんので注意してください。もし紛失してしまったら私か隣の受付に言っていただければまた発行できますのでご安心を。以上が大まかなハンターの説明となります、何か質問はありますか?」
長々と一気に喋りまくってきたのであまり頭に入ってこなかったがとりあえずオスマンの説明とほぼ同じだろう。私もミーシャも黙っているので受付のお姉さんは続けた。
「では無いみたいなので次に登録のご説明をさせていただきます。登録には適性審査をさせていただきます。この適性審査でお2人のステータスをお調べして一定値以上なら登録完了です。ステータスの方はハンターズカードに記載されますのでいつでもご確認可能です。一応登録したその日に依頼の受注は可能だったんですが、現在火の国ムスペルスヘイムとの戦争直前で依頼の受注を一時停止しております。また依頼の受注は再開されますのでそれまでお待ちいただく形になりますが...ご理解の程よろしくお願いします」
戦争のことは分かっていたので特に問題は無かった。私もミーシャも頷くとお姉さんはほっと胸を撫で下ろした。
「ありがとうございます。それでは早速適性審査の方へ参りましょう...こちらです」
お姉さんは受付から出てくると酒場へと続く扉の前で私たちを促す。
そのままお姉さんに付いていくと中央の水晶の前で立ち止まった。私たちが水晶の前まで来ると周りで騒いでいたハンター達がざわざわと私たちに注目し始めた。
「ほう、適性審査か...こんな時期に珍しいじゃねえか」
「おいねーちゃんよ、もし受かったら俺たちとクエスト行こうや!」
ざわめきはどんどん広がっていく。ちらっと周りを確認すると酒場にいるハンターのほとんどが私たちの方に視線を向けていた。
「それでは!只今よりミーシャさんとマナさんの適性審査を開始致します!」
お姉さんの高らかな声が酒場に響いた。それに続いてハンター達の地面を震わせるような歓声が轟く。
「ではまずはミーシャ様、こちらへ」
お姉さんは一言二言何かを言うと、ミーシャは右手を自分の胸元に置き、左手を水晶の方へと伸ばし目を瞑った。すると水晶は光を放ち、その光は伸ばした左手を伝うようにミーシャを包んだかと思うとそのまま消えていった。そこでミーシャは目を開けると一息ついて私の元へと戻ってきた。
「ミーシャ様!......す、ステータス全て平均値以上!規定によりハンター登録完了です!おめでとうございます!」
酒場に再び歓声が沸き起こった。ミーシャはお姉さんからカードを渡されるとパッと私の側へと戻る。
「ミーシャ?どうしたの?」
「マナ様がまだ残っています。心配はいらないでしょうが主の結果を聞かないと...まだ喜べませんから」
ミーシャは緊張した面持ちで私を見つめた。そんなに心配することでもないのに、と心の中で囁く。
「では、続いてマナ様!こちらへ」
名前を呼ばれ、水晶の前まで歩み寄る。
「おいおい、あの子どももか?」
「お嬢ちゃんそんな貧相な体でモンスターなんて狩れると思ってんのかい?」
野次の声が聞こえてくるがそんなのは気にせずに私はミーシャと同様に水晶に手をかざす。目を瞑ると水流のように光が流れてくるのを感じた。一瞬目の前が真っ白になったがすぐにまた暗くなる。これで終わりだろう、私は目を開けて元の場所へと戻った。案外あっさりとしていて少しつまらなかったがとりあえず結果だけは聞いておこう。
「マナ様!......えっ...!?」
お姉さんはカードを見て言葉を失った。その手は震えていて今にもカードを取り落としそうだ。
「どうしたんだ?」
「なんだなんだ?」
周りのハンター達も再びざわつき始める。私はきょとんとして首をかしげた。
「す...す...ステータス、全て平均値を大幅に上回っています!!魔導力値はひ...1600000です!こんな数値、見たことありません!」
お姉さんの震え混じりの叫び声にざわめきは一転、静寂に包まれる。ミーシャもその数値には言葉を失っていて唖然としている。
「えっと、それで登録の方は?」
この場で私だけが、事の重大さに気づいていなかった。
「あ...おほん!マナ様、規定によりハンター登録完了です。これにて適性審査を終了致します!お二人ともおめでとうございます!」
私はお姉さんからカードを受け取るとそれをまじまじと見つめた。茶色のDという文字にランクは1。裏面には私のステータスが記載されていた。周りでは一瞬遅れて微妙な歓声とひそひそと話す声が入り交じる。
「マナ様、少し見せてもらってもよろしいでしょうか?」
カードを渡すとミーシャは私のステータスの記載されている面を確認する。
「な...なんですかこれは...常人じゃない...」
「そんなに凄いの?普通の人がどのくらいかわからないから実感がないんだけど」
「私のを確認ください、どれも私の5倍の数値はあります。所持スキル数も100超えなんてこの世にマナ様以外存在しません」
確かに見てみればミーシャのと見比べてみると圧倒的に私の数値の方が高かった。
「お、おい!俺にも見せてくれよ」
「俺も見たい!」
周りのハンター達も寄って集って私のカードを見ようと集まってきてちょっとした騒ぎとなってしまった。
その日、ミズガルズのギルドに化け物クラスのハンターが誕生したと世界中に激震が走った。その噂は当然、ムスペルスヘイム、そしてミズガルズの国王の耳にも届いた。
マナの戦闘力って多分フリーザ様超えてるよね(ξっ˘ω˘c)ネム
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国王
「どうぞ、こちらへ」
ミズガルズへ来て3日目、私たちはようやく国王と話をする為に城の一室へと通された。
「じきに参りますのでどうぞお席へかけてお待ちください」
入った部屋は豪華なシャンデリアと壁に掛かった女神の絵が特徴的な広間。絵の下には赤い玉座、中央には石で造られた片側25人がけの机がどっしりと置かれている。私とミーシャはそのうちの1席に座る。
「すごく広い部屋ですね...流石は国王様」
「ミーシャ!これ凄くおいしいよー!」
私は机の上にあったバケットのパンを次々に頬張る。甘くてほんのり温かくて何個でも食べれそうなくらい美味しい。
「マナ様...!勝手に食べるのはちょっと...」
「ははは、よいよい。それは客人にお出しするものだからいくらでも食べて大丈夫だ」
大柄な男が部屋へと入ってきた。老年でニカッと笑うその笑顔は見た目以上に若さを思わせる。
「どうも、わしはコウフク。主が来るまで相手をしてるよう頼まれたのじゃが...どうやら無用な使いじゃったようじゃな」
「い、いえ!そんなことは...私はミーシャ、こちらは主のマナ様です」
「ほう!この小さいのが噂の化け物ハンターか、お主のことはこの城でも噂になっとるぞ。どうじゃ?是非うちの軍に入らぬか?」
私をまじまじと大きく見開いた目で見つめる。そんなに見られるとなんだか照れくさい。
「えー、面倒くさそうだし私はいいかな」
「がっはっはっは!素直に言ってくれるのぅ。わしはそういうやつは好きじゃぞ」
私の背中をバシバシと叩いて大笑いする。この人はとても馬鹿元気な人らしい。
「ねえおじさん、パンのおかわり貰える?」
私は空になったバケット3つをコウフクへ渡す。それを見てまたガハハと笑った。
「もう全部食べおったのか!育ち盛りじゃのう!ちょっと待っとれ、いっぱい持ってきてやるから!」
そう言って出て行ったと思うとすぐに片手に5つずつ持って戻ってきた。
「ほうら!たんまり食べると良い!」
私の前にはバケットに入った様々な種類のパン。それを1つずつ頬張っていく。
パクパクと呑気に私はパンを食べ進め、ミーシャとコウフクが話をしていると、広間の扉が開いた。
「遅くなってすまないな。コウフク、粗相は無かったな?」
「はっ!殿」
コウフクは先ほどとは違い真面目な態度で膝を付く。男は玉座まで進むとこちらを向いた。紫色の無精髭を生やして赤を基調とした軽装の男を、私はどこかで見たことがある気がした。
「少々取り込んでしまい時間がかかってしまった。客人を待たせたこと、謝罪する。私がこのミズガルズの3代目国王、チュウボウだ」
私はパンを頬張りながらお辞儀をした。
「お初に、ではありませんね。一昨日は水饅頭をいただきありがとうございました」
ミーシャも丁寧にお辞儀をする。そこで私も思い出した。
「これは見抜かれていましたか、あれでも変装は完璧だと思っていたのですけどね」
「紫色の髭の人なんてなかなかいませんから。私は...」
「知っているよ、ミーシャさんにマナさん。噂は私の耳にも届いている。大変だったろう、他のハンター達に何もされなかったか?」
「うん!大丈夫だよ!それで、私たち今日はお話があって来たんだけど」
私は菓子パンを口に詰めて飲み込む。
「そうだったな、聞こうではないか」
チュウボウはどかっと玉座に座った。水饅頭を売っている陽気なおじさん、という印象はまだ抜けなかったが座っている様は国王そのものの風格を感じた。
「私たち2人はオルカの村のオーガ族と共に生活しています。ですがそこをムスペルスヘイム兵に襲われ、村は壊滅してしまいました。今は別のオーガ族と共に生活していますが、またいつ奴らが襲ってくるのかわかりません。そこで、ムスペルスヘイムと敵対しているこのミズガルズに我らも戦力として加えていただきたく思い...」
「ふむ、大体の事情は把握した。こちらとしても屈強なオーガ族が味方になってくれればそれに越したことはない...だがわからんことがある、何故我らの所へ?オルカの森からであればここでなくてもアースガルズにもヨツンヘイムにも行けたはずだ」
鋭い目線をこちらに向ける。
「それは...」
ミーシャは言葉を濁す。そこの言い訳は考えてなかったようだ。
「ふぉれはね...んっく...ミーシャが元々ムスペルスヘイムの兵士で弱点とかよく知ってるからだよ」
「ちょ...マナ様!」
私はパンを飲み込んで正直に話した。ミーシャの焦る声は無視して私は続ける。
「おじさん、私たちはムスペルスヘイムの軍事力、情勢、攻略法を全て知っている。まあ私がいればそんなのいらないんだけどね、私強いし。ねえ取引しようよ、私たちはあなた達が条件を飲んでくれるなら最大限この戦争の力立てをするし情報も与える。どう?」
チュウボウはじっと目を瞑り考えていて微動だにしない。私はもう1つパンを頬張る。6つのバケットが空になってそろそろ追加でパンが欲しくなってきた。やがてチュウボウはゆっくりと口を開く。
「ただの子どもかと思っていたが...どうやら違ったらしいな、そちらの条件とやらを申せ!」
居座りなおして威厳ある雰囲気を漂わせる。どうやらようやく本気で話をする気になったらしい。
「オーガたちへ、村へ絶対に危害を加えないこと、少しでも手を出した人は速攻私が殺す。当然こちらもそちらの軍の人には危害は絶対に加えないしもし軍の進行で通ることがあれば村を経由してもらっても構わないわ」
「ふむ、断ったらどうするつもりなんだ?」
私は魔力を放出させて不気味なオーラを纏う。威嚇のつもりだったがそれを感じ取ってか武装した男たちが4人部屋に押し入って私に剣を向ける。
「断ったら?一応何もせずにオーガたちと安全な場所へ行く、つもりだったけどまずはこの人たちを消すっていうのはどうかしら」
私はにやりと笑って男達の足元に結界を張る。これでもう身動きは取れない。
「ぬぅ...これは...」
チュウボウは喉を唸らせて驚いている。私は手の平を上に向け前に差し出す。その気になれば私はこの男たちを簡単に殺すことが出来る。
「それで?おじさん、私の要求を飲むの?それとも断るの?」
YESしかない質問とはこの事だろう。自分でも何をしようとしているのかは分かっているがここまでしたら後には引けない。
「わかった...その条件は飲もう。そいつらを解放してやれ」
手を引いて結界を消滅させる。男たちは不思議そうな顔で足元を確認している。チュウボウは男たちを下がらせると額の汗を拭う。
「ありがとうおじさん。ミーシャ、後の説明はお願いね」
私は後のことを任せると空になったバケットを持って扉の前に控えていた給仕のおばさんに渡す。そして無垢な声で言った。
「おかわり!」
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