金のイクラを集めるだけの簡単なお仕事です (とぅりりりり)
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アルバイトのキホンのキ

息抜きに……


 

 空は濁り、緑色のインクが飛び散っている。わあおそらきれい。

「イヤーッ! 無理デス! コウさんヘルプ――!」

「こんのクソブキがぁ!」

 

 悲鳴と怒声が聞こえるけどなんでだったかなぁ……。

 

「おいバカ! カタパッド――」

 

 私は、なんでこんなことしてるんだっけ――?

 

 その疑問を塗りつぶすようにインクミサイルが直撃し、私は破裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一ヶ月前――。

 

 

「ここがハイカラスクエア……!」

 

 14歳になった私はここ、流行の発信地であるハイカラスクエアにやってきた。

 イカしたガールになるため、まずはナワバリバトルでランクをあげて……と考えていると道行くイカたちの格好に目を奪われる。

 皆それぞれ違う魅力はあれどイカしたファッションでシャレたドリンクを飲んでいたり、揃いの服でチームの仲間とこれからナワバリバトルに向かおうとしているのもいた。

 

 ――私も早くあんなオシャレなギアが欲しいなぁ。

 

 ともかくランクをあげないことにはろくにギアも買えないのでこうして私のナワバリデビューが幕を開けた。

 

 

 

 

 デビューから一週間後、ランクは少しあがったものの危機的状況に直面していた。

 そう、おカネが足りないのである。

 ついついブキを買ってしまったせいでギアを買うおカネがすっからかんになってしまったのだ。

 ナワバリバトルで稼ぐにしても時間が掛かるし……。

 

 

『こんちゃーっ、ハイカラニュースの時間だよ!』

『今日もハイカラスクエアのかたスミからテンタクルズがおとどけします』

 

 

 頭を抱えているといつものお馴染みハイカラニュースが流れてくる。現在のステージ紹介中だ。

「ヒメちゃんは今日もかわいいな~」

 テンタクルズのヒメちゃんは応援しているアイドルで、相方のイイダちゃんとの相性ばっちりのラッパーだ。私のお気に入りブキであるマニューバ使いであることから尊敬するイカでもある。

 すると、いつもと違うニュースが流れる。

 

『えーっと……クマサン商会からアルバイト募集ノオシラセデス』

『センパイ! カンペ見過ぎですよ!』

 

「クマサン、商会……?」

 ちょっと怪しそうな広告が流れ、すぐ近くにあることを知るとアルバイトという今の私に魅力的なそれは正常な判断力を失わせてしまった。

 はじめての方でも大丈夫、センパイスタッフが丁寧に指導! ブキ、制服支給あり……しかも働けば働いた分だけ報酬がもらえる。

「よーし、せっかくだしアルバイトやってみよっ!」

 

 

 

 それがまさか、私のwage slave(賃金奴隷)の始まりだとは、この時は思っていなかったのです。

 

 

 

 


 

 

 

「は、はじめまして!」

 

 クマサンから軽い研修を受けたあと、次の船が出るということでこれから同行するセンパイに挨拶すると三者三様の反応を示す。

 まず三人の中で一番威圧感のあるボーイがじとっとした目でこちらを見てくる。次に今ちょっと流行ってるのかよく見かけるイイダちゃんみたいな髪型のガールが軽く会釈してくれた。そしてどこか死んだ目をしているボーイは気づいているのか気づいていないのかわからないがぼんやりと虚空を見つめていた。

「……新人か。名前は?」

「ムギといいます!

 威圧感のあるボーイはそうか、と答えて淡々と私に言う。

「俺はコウ。現場では俺の言うことを聞くように」

「はいっ!」

「あとこっちはヤナギ、そこで死んだ目をしてるのがシリヤ。シリヤは始まったらマシになるから気にするな」

 お疲れみたいだけど大丈夫なんだろうか。

 それはさておきバイトの主な内容を再度頭の中で復習する。

 

 一番の目的は金のイクラを回収しコンテナに集めること。

 金のイクラはオオモノシャケから得ることができ、襲い来るシャケを倒して3WAVEのノルマをクリアする。それで1回分のバイトが終了。ただし、ノルマを達成できない場合は途中でも帰還。

 ブキは決まったものがランダムで支給され、スペシャルは2回まで。

 ちょっとシビアな気もするがまあ大丈夫だろう。

 そして制服にも着替え、もうすぐ目的地につくということでワクワクしながら準備すると、全員どこか達観したような目の先輩たちとの温度差を感じつつもスーパージャンプで現場へと向かう。

 

 

 

今日のサーモンラン

 ステージ:シェケナダム

 シャープマーカー、ノーチラス47、クラッシュブラスター、スプラスコープ

 

 

 船から飛んだ先はシェケナダムと呼ばれる寂れた場所。そしてランダムのブキで私はシャープマーカーを引いた。

 始まってすぐ、センパイたちの行動は迅速だった。

 まず足場を塗るのは当然として、なぜかやたら壁も塗っていく。とりあえず真似するようにあちこち塗ると何かを告げる音とともにシャケたちがやってくる。

「お前はとりあえずザコたちを倒せ。オオモノは俺らがやる」

「はいっ!」

 こちらに突っ込んでくるシャケたちにインクをぶつけいわゆるザコ処理に徹する。

 すると足元で浮きみたいなものが止まり、なんだろうと思って下を見――

 

 

 

「コウさん! ムギちゃんモグラに食べられましタ!」

「えっ待って僕救助する! コウはバクダン処理して!」

 近くにいたシリヤが浮き輪状態になったムギの元へと向かい、コンテナまでシャケを誘導するヤナギ。

 そしてスプラスコープを構えるコウは険しい顔を浮かべながら一発でバクダンを仕留めると金イクラを回収して呟いた。

「面倒事押し付けられた……」

 

 

 



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