グリフィン支部最前線基地戦闘記録 (tigris)
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プロローグ 着任

「なんで……なんで当たらないのよ…………」

 

WA2000は驚きのあまり言葉を失っていた。

目の前の男との距離は約4メートル。狙いは外れていなかったはずだ。銃器の不備があったわけでもない。しかし彼女の弾丸は目の前の男に一発も当たることはなかった。

 

「なんでって言われてもなぁ。当たったら痛いから避けただけなんだが」

 

「そういうことを言ってるんじゃないわ! この私の弾を避けたですって? 一体どんな方法を使ったらそんなあり得ないことが…………」

 

「じゃあ逆に聞くけどよ」

 

男は視線をWA2000に向けると、静かにそう返した。最大まで警戒して構えているWA2000とは対照的に、男には緊張もなく、身体には全く力が入っていないようだった。

 

「なんで俺が弾を避けることがあり得ないことなんだ?」

 

「そ、そんなこと普通に考えたら…………ただの人間にそんなことできるわけが…………」

 

至極まっとうなWA2000の反応に、その男は納得したかのような表情を浮かべた。しかしすぐに何かを考えているかのような仕草をすると、WA2000に対して言葉を返した。

 

「まあ確かに? 普通の人間には銃器の弾丸を避けるなんてことはできないだろうよ。ハンドガンの速度ならギリギリ人間の反射神経でも避けられるみたいだが、この至近距離でしかもお前はライフルだ。狙いもまず外れないし、どこにどう撃っても俺は鉛玉食らってお陀仏だっただろうな」

 

「ならどうして…………」

 

「けどよ、俺はただの人間じゃねぇんだ。残念ながらな。もう気付いてるもんかと思ってたけど、そうじゃなかったんだな。どうりでそこまで驚かれるわけだぜ」

 

男はそう言うと服をまくって腹部を露出させた。そこに現れたのは肌色をした人間の皮膚ではなく、一目で機械とわかる機構をした人間の腹部を模したパーツだった。

 

「!!」

 

「俺はただの人間じゃねぇ。元人間、グリフィンの上層部のイカれた計画に乗った物好きのサイボーグ。それが俺だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっから話したもんかなぁ。まあ、事の経緯は意外と単純だ」

 

男はそう言って自分の身体についての話を始めた。

先程まで殺意をむき出しにして男のことを睨みつけていたWA2000も今は落ち着いており、とりあえずは男の話に耳を傾けている。

 

「俺はグリフィンの士官になるために訓練をしていた。平和のためとか正義のためとかそんなたいそうな理由があったわけじゃないが、鉄血が気に入らなくてな。いっそのことグリフィンで人形たちを指揮して直接鉄血のやつらをぶっ叩いてやろうかと思ってたんだ。けど、あるとき戦術人形の実践訓練中に俺の指揮してた部隊が鉄血の兵士たちに強襲されてな。部隊全員必死に逃げたんだが、ほとんどが殺されて俺も瀕死の重傷を負った。普通の人間としての生活が難しいほどにな。あんときは情けなさと悔しさでいっぱいになっちまってどうすればいいかわからなかった」

 

そこまで飄々としていた男の表情が曇る。男の言っている鉄血による襲撃事件はWA2000の記憶にも残っている。被害が甚大でそこから士官候補生の実践訓練の規定が改正されたことや、鉄血の出現範囲の見直しなどが行われたこともあり、グリフィンの中でもそれなりに大きな出来事だったのだ。

 

「で、なんとか生き延びて治療を受けていた俺の元に、ある日グリフィンの偉い人たちが訪ねてきた。一応極秘のことらしかったから名前もどれぐらい偉いのかもわからなかったが、俺に対してある提案をしてきたんだ。それが…………」

 

「私たちの製造技術を応用した強化人間になるための改造手術、ってとこかしら?」

 

「そう、その通りだ。知ってたのか?」

 

「いいえ。けど、ここまでの説明で多少なりとも予測はつくわ。いかにも人間の考えそうなことだもの」

 

男を睨みつけながらWA2000はそう言った。それに対し男は苦笑しながらため息をついた。

 

「まあ、そんなこんなで俺は再び士官候補生として訓練を続けることができるようになった。表向きは普通の士官候補生だったが、実際はグリフィンの上層部の特別作戦のための駒として利用されるための実験台。ありがたいことに非人道的な耐久実験なんかはされなかったが、正式に士官として初めての任務は最前線であるここへの配属。そしてできる限り鉄血に被害を与えること。ここまで言えばもう完全に理解してもらえるだろ?」

 

「なるほどね。一応あんたの事情の把握はしたわ」

 

WA2000はそう言うと何かを考えているようで目線を泳がせた。この男を見定めているのか、それとも別のことを考えているのか。

 

あるいは男の急所を狙っているのか。

 

バンッ!

 

「ッ!!」

 

完全な不意打ちだったが、男は寸でのところで反応し弾丸を避けた。男の脳天を貫くはずだった弾丸はわずかに髪に掠り、背後の壁へと吸い込まれていった。

WA2000の顔には外れたことを悔しがる様子も、不意打ちを仕掛けたことに対する罪悪感も無かった。ただまっすぐに男をにらみつけ、凄まじい威圧感を放っていた。

 

「これが私たちの意思よ。人間の力を借りるつもりはないわ」

 

「どうしてもか? 俺は他の人間とは違うぞ?」

 

「どうしてもよ。確かにあんたは他の人間とは違う。どちらかと言えば私たちに近いというのもわかるわ。けど、それでもあなたに頼るつもりもないし、そもそも今うちの戦力は十分足りてるからあんたをうちに入れて戦力を増やす必要もない。むしろ私たち人形との問題を起こす可能性があることを考えると邪魔よ」

 

「手厳しいねぇ。まあここの現状を考えると無理もないんだよな」

 

「ッ! 余計なことはしゃべらないことね。弾を避けられても私にはまだ他に手段があることを忘れないで頂戴」

 

冷たさを孕んだ鋭い言葉とにじみ出る殺意。並の人間では恐怖でまともに顔を見ることすらできないであろうその迫力は、WA2000の実力をそのまま表していた。

 

「おっと、悪かった悪かった。謝るよ。しかし困ったな。そっちは俺を受け容れるつもりはないし、かといって上層部は俺をここに配属したがってるから俺としてはここに収まるしかない。つまりこのままだとお互いの利害は一致せず、どっちにしてもあまり良くない結果になる」

 

男はしゃべりながらおもむろに床に置いてあったバッグから紙束を取り出した。WA2000はその動きを警戒しながらもその紙束に興味を示していた。見たところ何かの資料らしいその紙束にはびっしりと文字が書き込んである。ほとんどが印刷された活字だが、ところどころ手書きで捕捉されているような部分がある。

 

「なにも俺はここにきて人形たちともめ事を起こそうってわけじゃないんだ。むしろその逆。ここの人形たちを何とかしてやりたいと思ってる。何故わざわざここに来るタイミングを今にしたのか、全体的な指揮を執っているリー・エンフィールドがいないときに来たのか、お前ならわかってくれるんじゃないか?」

 

「ま、まさか狙って来たというの? あの人がいないこのタイミングで?」

 

「そうだ。聞いた限りだとこの基地の中でもあいつは飛びぬけてやばいって話だからな。あいつも何とかしてやんなきゃなんないだろうよ」

 

男はそう言って紙束をWA2000へと差し出した。両腕で抱えるようにして銃を持っているWA2000はまだ少し男を疑いながらも銃を置き、紙束を受け取って目を通し始めた。

 

「信じるかどうかはお前次第だが、そこに書いてあることは全て事実だ」

 

「これは…………」

 

WA2000の表情が驚きに変わっていく。ここまで一貫して冷徹な態度を貫いてきた彼女の感情がついに本当の意味で動いたのだ。

しばらく紙束、もとい資料を見ていたWA2000は複雑な表情をすると、何かを言おうとしたのか口を開きかけたが、男から目をそらした。

 

「俺は、みんなを助けたいだけなんだ」

 

「………………」

 

 

こうして、複雑を極める戦場に一人の男がやってきたのだった。



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第一話 秘密

鉄血、それはかつて世界最大の人形製造機構だった。第三次世界大戦で荒廃した世界の中で人形製造という分野を牛耳り、知らぬ者がいないほどの知名度を誇っていた組織だった。

しかしあるときテロ事件が起き、その際人形たちに搭載されているAIに致命的なエラーが発生し、人形たちは反乱を起こして人の手を離れた。それ以降鉄血工場近くの治安はさらに悪化し、人間の生活圏はさらに狭まる結果となってしまった。

民間企業グリフィンは治安維持のための活動として鉄血に対抗するべく人形を用いて戦闘を行っているが、厳しい状況が続いている。どうにか戦況を打開できないかと最前戦に主力部隊を集中させることで設立されたのが、グリフィン最前線主力基地。今回男はこの基地に配属され、鉄血との戦闘に備えることとなった。

 

『今この基地内にいる全ての人形に通達するわ。大切なことだからよく聞いて頂戴』

 

基地内に流れる放送は、WA2000が行っているものだ。本来この基地の指揮はリー・エンフィールドを始めとした強力な人形の面々が行っているのだが、今彼女らは作戦中で基地にはいない。その間の代役としてWA2000がこの基地の全権を担っている。

 

『もう知ってる子もいるかもしれないけど、今日からこの基地に指揮官が付くことになったわ。本部から来た優秀な人間らしいから、くれぐれも問題を起こさないように! 中にはいろいろ異議がある子もいるかもしれないけど、これは本部からの命令と同じ。どうしても無理だと思うなら、指令室に直接抗議に来なさい』

 

やはりその声には迫力があり、主力が集まるこの基地の指揮を執るだけの実力があることを伺わせる。すぐ横でその様子を見ていた指揮官も感心したように言葉を聞いていた。

 

『それから新しい指揮官からの挨拶があるわ。今から変わるからみんな聞くように』

 

WA2000は一旦マイク前から離れ、指揮官に場所を譲った。

 

『今日からこの基地を指揮することになった者だ。突然のことで納得できない奴もいるだろう。正直なところ今回の配属はかなり急なことでな、俺もまだ把握しきれてない部分がある。君たちの戦力、君たちの性格、この基地でのやり方、交戦中の鉄血の戦力、わからないことだらけだし、知るにも時間がかかる。しばらくの間は基本的な判断は君たちに任せ、ゆっくりこの基地になじんでいけるように努力するつもりだ。本部のほうからもいろいろとめんどくさい指示とか来てるんだが、はっきり言って俺は本部の命令を鵜呑みにして従うつもりは全くない。あくまで君たちと友好的な関係を築いていければと思っている。俺のことが気に入らないやつも当然いるだろうが、そういうやつとも最終的には仲良くなりたいと思ってる。これからどれぐらいの期間ここにいることになるかは分からないが、よろしく頼む』

 

バァンッ!

 

突如銃声が響いたかと思うと、放送室の木製の扉を貫いて弾丸が指揮官の頭に飛んできた。

が、その次の瞬間には、撃ち込まれた弾丸は男の右手の中に納まっていた。

 

『あ、あとそれから』

 

「はぁ、やっぱり来たわね」

 

呆れるようにその様子を見ていたWA2000はため息をついた。もはや彼女は指揮官の持つ規格外の身体能力には驚かない。

 

『俺は強いから、俺のことが気に入らないってやつはいつでもかかってきていいぞ。決して俺のほうから君たちに何かすることはないが、君たちのほうからの挑戦は受けるつもりだ。いつでも相手になってやるよ』

 

そう言い終えると男はマイクのスイッチを切り、扉のほうに目をやった。扉越しに撃ってきた相手を見透かしているかのような余裕のある表情だ。扉の向こうの気配はもう消えているので、防がれたと知って逃げたのだろうか。

 

「こうなることも予想通りってわけね。結構頭が回るじゃない」

 

「そりゃあなあ。自讃するつもりはないが、本部もバカなやつをここには送り込まないだろうよ」

 

「それもそうね。で、ここからどうするの? 多分あんたしばらくの間まともに寝れないわよ? いつでもってことは当然昼夜問わずなんでしょ?」

 

「まあそのつもりだな。ちときついかもしれんが、対策も考えてあるから何とかなるだろ。それよりもお前は大丈夫なのか?」

 

「私が? なんのことよ」

 

WA2000は何のことかわからないようで疑問を口にする。指揮官となった男は説明を返した。

 

「いや、俺を指揮官にするって認めたのはお前だ。ほとんどのやつはその詳細も知らないだろうし、詳細を知ったところで納得してくれるやつも限られている。俺という存在はもとより、それを許可したお前も恨まれる可能性がある。しかもお前はエンフィールドの代役だ。別にお前のことを軽んじてるわけじゃないが、ここにはあいつの指示じゃないと聞かないっていうやつもいるそうじゃねぇか。なんで人間の指揮官の着任を許したんだ!ってお前が狙われてもおかしくないだろ?」

 

「まあそうね。けど、そんなに心配することかしら。私は本部から直接来た男を殺したら面倒なことになるから逆らわなかった。本部との衝突を避けるために、一時的にあんたが指揮することを許可することにした、っていうので通ると思うけど」

 

「まあ確かにそれもそうなんだが……」

 

と、不意に指揮官は扉のほうを向くと、

 

「今一人に聞かれちまったからな」

 

「!!?」

 

バァンッ!

 

再び銃声が鳴る。またしても扉を貫いてきた弾丸は、今度はWA2000を狙っていた。

いくら戦術人形であるWA2000でも、扉一枚隔てているだけの至近距離からの一撃を食らえばかなりのダメージになるのは明白。修復に入れば確実にとどめを刺されてしまうだろう。

 

「全くひでぇなぁ……」

 

しかし弾丸はWA2000に当たることなく、突如として軌道を変えた。もしこの場を見ている人間が他にいたとしても速すぎて見えなかっただろうが、弾丸は逸れてWA2000の右側を通過し壁に吸い込まれた。

気が付けば指揮官の腕は弾丸の軌道であった真横に向けられていた。

 

「いくらなんでも実行に移すのが早すぎるぜー。というか仲間を撃つんじゃねぇよ」

 

「ふんっ、何が仲間だ。そいつは私たちの意思を蹴ってこの基地を裏切ったんだ。もう仲間とは呼べないだろう」

 

「くっ……その声、あんたは!」

 

「ドラグノフ狙撃銃か。結構大胆な性格してるんだな」

 

扉を蹴破って入って生きたのは、WA2000と同じライフルであるSVDだった。彼女の構える銃の銃口は、依然として指揮官とWA2000に向いている。

 

「大胆とは随分な評価をしてくれるじゃないか。この私を大胆と評するなんてな。私を指揮するにふさわしい優秀な男だったなら生かしてもよかったが、その望みも無くなったわけだな。残念だ」

 

「そうか? 少なくともお前が今まで人間として認識してたやつらより俺は優秀だと思うぜ? なんなら試してみるか?」

 

「この状況で何かできるならやってみればいい。もっとも、何かをさせるつもりはないがな」

 

「そうか、ならお言葉に甘えて」

 

次の瞬間、指揮官はもともと近かったSVDとの距離をさらに詰めるように床を蹴った。

SVDは狙撃銃ではあるが、連射の可能なセミオートライフルだ。弾倉の中にある弾丸が切れるまで隙は生まれない。このまま戦っていても単身ならば全ての弾丸を避けきることは可能だが、WA2000を庇いながら戦うのには限界がある。ならライフルの弱点を突いて間合いまで接近し早めに勝負をつけてしまうほうがいい。

 

(軽く峰打ちを入れて気絶させるか)

 

だが、そう思っていた指揮官の思考を読み切っていたかのように、SVDは予想外の動きをした。

 

「はあっ!」

 

「何っ?」

 

とっさに腕を組んで防御の姿勢を取るがわずかに間に合わない。通常ではありえないSVDの『打撃攻撃』に指揮官は壁まで吹っ飛ばされる。

 

「ぐあぁっ!」

 

「ふふふ、やっぱり優秀ではなかったようだな。まあ、相手が私ではしょうがないだろう」

 

「くっそ……やられたな……まさか銃で直接ぶん殴ってくるなんてな……流石に予想外だよ」

 

重量4㎏を超える銃でカウンターを入れられれば、いかに機械によって身体を強化されているとはいえダメージは大きい。一見華奢で銃を鈍器として扱うことなど到底不可能そうに見えるSVDもしっかりとした戦術人形。加えて自身の分身とも言える銃を扱うことなぞ造作もない。かくいうWA2000も重量7㎏弱の銃を扱っているのだ。

もっとも、通常であれば銃を鈍器のように使用するなどという発想は出てこないだろうが。

 

「さて、最後に何か言い残すことはあるかい?」

 

指揮官の頭部に直接銃口を付け、引き金に手をかけるSVD。その動作にためらいなどは一切なく、彼女がその気になればすぐにでも引き金を引くことだろう。

が、そこでSVDはある異変に気付いた。余裕だった表情が一気に怒りへと変わる。

一方絶体絶命かと思われた指揮官は逆に余裕を取り戻していた。

 

「っ! 貴様まさか!」

 

「おうともよ。言っただろ? 俺って結構優秀だろ?」

 

「チィッ! よくもこの私に対してこんな姑息な真似を!」

 

端からその様子を見ていたWA2000はSVDが何に対して激昂しているのかわからなかった。状況だけ見ればどう考えてもSVDの有利の変わりはない。何かが変化した様子もない。ならばSVDはいったい何故怒りを露わにしているのか。

その理由はSVDが指揮官から銃口を離したときに明らかになった。

なんと、SVDの持つ銃の銃身が曲がっていたのだ。角度的にWA2000からはわかりにくかったが、SVDが銃口を離したことによってはっきりと銃身の異変に気付いた。

指揮官はSVDに殴り飛ばされると判断したわずかな瞬間に回避できないことを悟り、衝突の瞬間に意図的に銃身に衝撃を与えることで銃身を曲げていた。銃身が曲がっていれば当然暴発する危険性も出てくる。そうなればどんなに至近距離であろうと銃撃を行うことはできない。絶体絶命の状況をわずかな一手で打開したのだ。

これは機械化した身体の驚異的な身体能力を最大限に利用したこと、そして何よりもこの男の戦闘に関する圧倒的なセンスによるものだ。他の人間が同じ状況でまねしようと思ってもできるものではない。

 

「やってくれるな。認めよう、私のほうも一本取られたようだ」

 

「意外だな。もうちょっと驚くかと思ったけど。それとも内心じゃ結構焦ってたりするとか?」

 

「んん? 何のことを言ってるのかわからないな。この私がせっかく認めてやろうというのに、何を馬鹿なことを…………」

 

怒りを収め余裕を取り戻したSVDに対して、何やらおかしな言葉をかける指揮官。WA2000もその言葉の真意がわからず、わずかに目を細めていた。

 

「別に変なことは言ってないぞ? というか俺のこと優秀かどうか試すって言ってたろ? 今俺は判断力と身体能力の部分を示して見せたわけだから、今度は頭脳面、ひいては分析観察ってところの才も知ってもらおうってな」

 

「どういうことだ? 貴様何が言いたい」

 

「もう全部わかってるってことさ。お前が何でこの部屋の前で待機してたのか。俺のことに気付いて消そうとしてたなら、まず放送室じゃなくて指令室に張り込むはずだろ? だけどお前は俺たちを追っていたかのようにこっちに来たわけだ」

 

「なっ!」

 

SVDの目が驚きで見開かれる。そこに取り戻したはずの余裕はなく、ただ驚きとわずかな焦りが見て取れるだけだ。

 

「よっぽど気にしてるんだろうな。ここに来たばっかりだから普段お前がどんな感じなのかわからないが、それでもおおよその見当はつくし、わかるってもんだ」

 

「貴様…………」

 

「うーん、その顔はまだ完全に信用しきってないって感じだな。もうちょっとしゃべったほうがいいか? お前がWA2000に対してどう思ってるのかとか、リー・エンフィールドに対してどういうふうに…………」

 

「やめろ! それ以上しゃべるな!」

 

「ちょ、ちょっと! 何がどうなってるのよ! あんたたちはいったい何の話をして……」

 

状況を把握できず困惑していたWA2000がそう口にした瞬間、突如SVDは踵を返しとんでもない速度で部屋から出て行ってしまった。

そのあまりにも一瞬の出来事に唖然とするWA2000をよそに、指揮官は静かに笑うのだった。

 

 

 

 

 

「さて、じゃあ作戦会議と行くか」

 

「ちょっと待って」

 

SVDといろいろあってから数分後、指揮官とWA2000は指令室にいた。

あの後指揮官はSVDを追うことはせず、かといってWA2000に詳しい説明をするわけでもなくそのまま指令室に戻ってきたのだった。

 

「まださっきの話を詳しく聞いてないんだけど? あんたSVDの何を知ってるのよ」

 

「そいつは答えられない。彼女のプライバシーに関わることだからな」

 

「なによ! あれだけ思わせぶりな発言しといて私には何も教えないっての? せめて少しぐらい教えてくれたって…………」

 

SVDには確実に伝わっていた何か秘密のようなもの、それがWA2000の知りたいことだった。逃げたことも考えると、指揮官はSVDの何か大きな秘密を知ってるのだろう。しかしそれにしても着任したばかりの指揮官が自分も知らなかったような秘密を知ってるというのは妙な話なのだ。

考えられる可能性としては、事前にこの基地に関しての調査をしていることが挙げられる。だが調べたところで戦術人形の個人的な秘密など知ることができるだろうか。何かしらの裏があるのは間違いない。

 

「言っておくけど、私はまだ完全にあなたを信用しているわけじゃないのよ。そうやって隠し事や秘密があるって言うなら、私のほうにも考えがあるわ」

 

「ん? なんだ考えって」

 

「あんたをこの基地にいられないようにするのよ。手段はいくらでもあるけど、聞きたい?」

 

「おいおい待ってくれよ。何も俺は意地悪でお前にしゃべってないわけじゃないんだぜ? いろいろ状況を考えた上でお前にしゃべらないっていう選択をしてるんだ。そこまでしないでくれよ」

 

「うっ……」

 

予想よりもやや真面目な返しに少し困るWA2000。

指揮官はここにきて初めて困ったような表情を見せた。

 

「いいか? 今のところあの資料について知っていて、なおかつ俺と協力してくれる可能性のある戦術人形はお前だけ。そして俺とお前が協力関係にあることを知っているのはSVDだけなんだ。もしここで下手にSVDのことを刺激して俺たちの協力関係がこの基地全体に広がるようなことになれば、お前は他の人形たちから狙われるし俺は目的を果たせなくなるしでいいことが何もないんだ。わかるだろ?」

 

「それは…………」

 

「まあ少し話すと、幸いなことにSVDの秘密ってのはお前に知られたくないことなんだ。つまり俺がお前に秘密をバラさないことで、こっちはSVDに対してこう威嚇できるんだ『もし他の奴らに俺たちのことをしゃべったら、WA2000にお前の秘密をバラすぞ』ってな。さっきのやり取りであいつもそれを理解してる。だから今は教えられないんだ。もしお前にしゃべっちまったら、向こうも俺たちの関係をしゃべるだろうからな」

 

(っつってもどっちにしろ内容的にWA2000本人には話せねぇけどなぁ……)

 

指揮官はSVDとのわずかな接触で、彼女のある秘密を見破っていた。それをあえてWA2000には教えないことでSVDの動きを制限しているのだ。

 

「SVDさえしゃべらなければ、俺たちのことはバレない。あの資料のことも隠しつつ俺は目的を果たせるんだ」

 

「あの資料……確かにあれは知られるわけにはいかないわね」

 

WA2000の脳裏をよぎる例の資料。あれだけは内容を他の人形に知られるわけにはいかない。そう考えると指揮官の言う通り協力できる者は他にいないだろう。

もしあの資料のことが他の人形に知られれば、この基地はおろかグリフィンそのものが崩壊しかねない。それほど危険なものだ。

 

「わかってくれたか?」

 

「…………ええ、わかったわよ。そのことについては気にしないであげる。けど忘れないで頂戴。そういう事情無しに私に隠し事をしたら、この基地のためにあんたとの協力関係を放棄するから」

 

「ああ、それでいいよ。ありがとな」

 

「!! な、なによ礼なんて! 調子狂うじゃないまったく……」

 

バツが悪そうに視線をそらすWA2000。その表情を見た指揮官はわずかに口元を緩めるのだった。




書いてて思ったけどWA2000ちょろすぎるかもしれない。


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第二話 怒り

呼吸が荒くなっているのを感じた。ここまで本気で走ったのは久しぶりだ。作戦に出た時でもここまで必死に走ることは最近なかっただろう。

 

「あの男は……本当に気付いたのか……?」

 

そんな疑問が考えるより先に口をついて出た。即座に思考に否定が入るものの、あの表情が脳裏をよぎるとどうしても疑わずにはいられない。

 

「とにかく、今は下手に動くのは避けるべきか…………いや、だがあのままあの男をこの基地に留まらせるわけには…………」

 

焦りのせいか、思考がわずかに乱れてしまう。いい案が思いつかず、どう動いていいのかがわからない。

このまま何もしなければ自分の安全は保たれるだろう。少なくともこれ以上秘密が広がることもないし、不利な事態にはならないはずだ。

しかし、しかしそれでいいのかと考えてしまう。自分の保身を優先してやるべきことから逃げているような気がしてならないのだ。

 

「随分と迷ってるみたいだな?」

 

「!!」

 

反射的に声の方向を向く。するとそこにはありえない光景が広がっていた。

 

「ッ!! あんたは…………!」

 

「やあ、初めまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、作戦会議の続きなんだが」

 

仕切り直して二人だけの作戦会議が始まる。指揮官の手元には、この基地に所属している戦術人形のリストがあった。

 

「まずは内側からだ。いきなり鉄血をなんとかしようとは思ってない。とりあえずここの人形たちと最低限のコミュニケーションを取ることを当分の目標にしようかと思ってる」

 

「まあ妥当ね。難しいでしょうけど」

 

「だな。一応調べられるだけのことは調べてきちゃいるが、情報で何とかなるわけでもないし、時間はかけていこうかと思ってる。ただ、エンフィールドたちが戻ってくるとかなり面倒なことになるのは目に見えてるから、それまでにある程度この基地の人形たちと和解しておきたい」

 

「なるほど。そういえばあなたどこまで知ってるの? あの資料を持ってたってことはかなり深いところまで知らされてるんでしょうけど」

 

WA2000の疑問に指揮官は少し考えると手に持っているリストに目を落とした。

 

「あの資料に載ってることと、彼女……エンフィールドが起こした事件のことまで、かな」

 

「へぇー。そうなの」

 

WA2000の目つきが鋭くなる。それもそのはず、その事件について知ってるのは当時この基地にいた人形たちと、一部のグリフィンの上層部だけなのだ。知っているというだけで持っている情報の差があることになる。

 

「その……なんだ。実はあの事件で犠牲になったのは、俺の知り合いでな。俺がいろいろ知ってるのは上層部のやつらに教えてもらったって言うのもあるんだが、ほとんどはそいつから聞いた話なんだ」

 

「なるほど、そうなのね。もしかしてさっき言ってたSVDのことも?」

 

「いや、それは違う。あいつには人形一人一人と接してる余裕なんてなかっただろうからな」

 

「そう…………」

 

WA2000が思い浮かべていたのはその事件の被害者。かつてこの最前線基地の指揮官だった男のことだった。

 

 

かつて、この最前線基地が設置された当初は、他の基地と同じように人間の指揮官が指揮を執っていた。その男は本部からの信頼も厚く優秀だったので、本部は信頼して多くの任務をその男に与えた。

鉄血を食い止めるための最大戦力として、基地には多くの強力な人形たちを集結させ作戦を行っていく。それがこの最前線基地が設置された目的だった。

 

そう、表向きは。

 

しかしこの最前線基地には裏の目的が存在した。強力な戦力を集めていたというのは間違いではないが、その実集められていたのは各基地で指揮官の命令に従わないような従順ではない人形たち。その力は強大であったが、扱いが非常に難しく、彼女たちの手綱を取ることは容易ではない。男は優秀だったが、それでも多くの問題が生じていた。

 

そしてある日、悲劇が起こってしまったのだ。

 

最前線基地の中でも屈指の戦力を誇っていた戦術人形、リー・エンフィールドによってその男は殺されてしまったのだ。しかもそれは戦闘中の事故に偽装され、本部に報告された。

グリフィンの上層部たちはすぐに事故ではなく故意の殺害であることを見破ったが、それを追求すれば本格的に最前線基地の人形たちと事を構えることになってしまうため、騙されているふりをした。一方基地内の人形たちには厄介な指揮官という存在を排除したリー・エンフィールドを神聖視、もしくは尊敬するような見方が広がったのだ。

以来最前線基地はリー・エンフィールドが指揮するようになり、表向きは本部の指令に従っているものの、裏では何を考えているかわからない危険分子たちとして本部から警戒されているのだ。

 

 

 

 

「あいつは言ってたんだ。みんな人間をよく思ってないって。でもそれは俺たち人間のせいなんだってな」

 

「あの人が……」

 

「俺も調べて納得がいったよ。この基地にいる人形は厄介な存在に見えるかもしれないけど、それは全て人間の偏った視点によるものだ。実際は無茶な命令を受けて人間を憎むようになったり、捨て駒のような扱いを受けて戦術人形としての自身の存在に疑問を抱いたり、人間のエゴで歪んじまった人形たちなんだ。人形たちは何も悪くない。あいつは俺に会うたび口癖みたいに言ってた。悪いのは人間だ、だから俺はあの子たちを何とかしてやりたいってな。そんなあいつが死んだってのを知って、しかもそれが殺されたらしいことがわかったんだ。何もせずにはいられなかったんだよ俺は」

 

「じゃあもしかしてあんたがここに配属されたのって……」

 

「上層部の命令って言うのは本当だぜ? けど、俺は好都合だと思ったね。あいつの代わりに、ここの基地を何とかしてやるって、何が何でもここの基地を変えてやるってそう思ったよ」

 

今指揮官としてここにいる男の瞳に宿っている光は、彼だけのものではない。彼は志半ばで死んでしまった同志の意思も受け継いでここにいるのだ。

基本的には他の人形たちと同じく人間のことをよく思っていないWA2000も、この話には感情が動いた。決して表情には出さなかったが、ほんの少しだけ指揮官に対する視線が柔らかくなっていた。

 

「そう。なら私も少しは協力しないとね。あなたはまだ完全に信用したわけじゃないけど、あの人は良い人だったから」

 

「そういえばそうか。WA2000はあいつと任務に就いてたんだもんな」

 

「ええ。あんたなんかとは違って、ちゃんと全部説明してくれる人だったからね」

 

「うっ……だからさっき理由説明したじゃねぇかよぉ~」

 

いつの間にか二人の関係は、他の基地の指揮官と副官と変わらないようなものになっていた。WA2000本人は意識していなかったが、前の指揮官がそうであったようにこの男もまた信頼するに値する人間だと判断していたのだ。

指揮官はその事実に気付きつつも指摘はしない。しかし心の中ではその事実に安堵していた。

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、作戦中のリー・エンフィールドたち第一部隊は

 

 

 

「なんだと? 我が基地に人間の指揮官が?」

 

「はい、間違いないようです。どうやら本部から来た男のようで詳しいことはわかりませんでしたが、とりあえず急いであなたに知らせようと」

 

移動中だった第一部隊のもとにやってきたPP-2000は、感情がないかのような声でそう告げた。

 

「わかった。ありがとう」

 

リー・エンフィールドはそう返すと、他の第一部隊のメンバーに視線を送った。

 

「面倒なことになったのぅ。まさかわしたち主力がおらんうちにくるとは」

 

「いかにも人間が考えそうなことですね。が、なにも違和感は感じません」

 

「違和感とかそういうことじゃないんだって~。どーせ人間の指揮官なんてめんどくさいだけだよ?」

 

「人間の指揮官…………なんで?」

 

各々が戸惑いを見せつつも、そこには一貫して人間への明確な敵意が存在していた。

そんな中リー・エンフィールドはただ一人何もしゃべらず、顔色一つ変えずに他のメンバーの言葉を聞いていた。もう既にその指揮官について考えているのか、あるいは別のことなのか。

五人の中でも一番冷静なようで、口を開くことなくゆっくりと呼吸をしていた。

これからどうするか、この作戦をどうするのか皆が話し合い始める。この第一部隊も人間に反抗的とはいえ、一応は戦術人形だ。鉄血に対する敵意がないわけではないし、鉄血が殲滅するべき敵であるという認識は変わらない。しかし彼女らにとって人間もまたその鉄血と同じように敵対するべき相手なのだ。

人間の指揮官を優先し早めに作戦を切り上げて帰還するのか、それとも任務はしっかりこなしてから帰還し指揮官のことを考えるのか。話し合いは平行線をたどっていた。

 

 

が、

 

 

「「「「!!!」」」」

 

他のメンバーがその異変に気付いてからの反応は早かった。皆一瞬にしてリー・エンフィールドから距離を取り、安全な位置まで下がった。

その次の瞬間、爆発と似たような何かが爆ぜるような音が周囲に鳴り響いた。見れば、リー・エンフィールドのすぐそばにあった木が幹の一番太い部分から真っ二つにへし折れていたのだ。元々幹があった場所には、リー・エンフィールドの右拳があった。

 

「人間の指揮官だと……?」

 

その眼には深い、とても深い殺意が宿っていた。他の四人など比にならないほどのドス黒い殺意が、全てを飲み込まんとするように圧倒的な存在感とともに周囲ににじみ出ている。

 

「あちゃー、やっぱり怒っちゃったか~。それにしても素手であんなことするなんて、相変わらずすごいね~」

 

「無理もないですね。彼女は特に……」

 

「おっと、それ以上は言わんほうがいいぞ。年寄りからの忠告じゃ」

 

「きっと聞こえてる……」

 

「そーだよ? 前もそれで一人ダメになっちゃったんだし」

 

「そうでしたね、すみません」

 

「まあ、なんにせよこうなってしまったからには、その新しく来た指揮官とやらは無事ではすまんな」

 

異常とも言えるような光景を目の当たりにしている4人は、これといって驚かない。彼女たちにとってこの光景は初めてではないのだ。一方先ほどまで無感情だったPP-2000の顔は恐怖で染まっていた。体は震え、呼吸も荒い。

あまりにも唐突なその事態に第一部隊のメンバーは慌てることも、取り乱すこともなく、ただリー・エンフィールドの怒りが収まるまで、しばらく待つことにした。

 

もっともいくら待とうとも、彼女の静かな怒りは落ち着くことはあっても、決して静まることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、具体的なプランなんだが、」

 

最前線基地の指令室では作戦会議が続いていた。

 

「俺のいいところを全面的にこの基地の人形たちアピールしていこうと思うんだ。中にはそこまで反人間的じゃない子もいるみたいだからな」

 

「ふ~ん、まあ確かにそれぞれ度合いは異なるわね。人間なんて見たくもない、なんて子もいれば、何となく嫌いって子もいるわ」

 

「だろ? だからとりあえずはその『どっちにもなびきそうな感じの人形』にアプローチをかけていきたいんだ。日和見菌みたいな感じでな」

 

「その例えは……いえ、一応知識としては知っているけどわかりにくいわね」

 

「あれ? そうか?」

 

着任から数日、日をまたぎつつも作戦会議は順調に進んでいた。所属している戦術人形と基地の現状把握から始まり、設備・装備の状況、鉄血との戦闘記録の確認、そしてついに具体的な基地の改善案についての話まで来たのだ。

 

「一般的に戦術人形の思考パターンは『人間に従うように』できてる。だが、ここにいる人形のほとんどはそこのところがエラーを起こしてるわけだな。で、これはつまり人間に反抗的であればあるほど、そのエラーが大きいと取れる。そこから逆に考えると、手始めにエラーの少なくて改善しやすい人形を治して、そこからどんどん厄介な人形を相手にしようってことだ」

 

人形たちに発生したエラーはプログラムを直接直すことでも修理できる。しかしその場合多くが性格のリセットとなり、今までの記憶や蓄積した戦闘経験などは全て失われてしまう。ここが最前線基地である以上そんなことすれば大規模な戦力の低下は免れないため、この方法を使うことはできない。そもそも直接の修理はコストが高いため、基地丸ごととなると行うことはほぼ不可能だ。だからこそ上層部は最前線基地に裏の目的を設置していた。

 

「要するに楽なことから少しづつってわけだな。ほんとだったら逆でやっていったほうが後が楽だし、効率としてはいいんだが……何分状況的に時間がないからな」

 

「第一部隊が帰ってきたらってことね」

 

「そうだ。作戦内容と場所的にまだ猶予があるとは思うが、もう俺のことはあいつらに知られてるからな。急いでくると考えて、あと三日ってところか」

 

「!? 知られてるって……なんで? どこからそのことを……」

 

「いや、それは簡単だよ。俺は着任した日に、リストに載ってた人形を全員把握しに行ったんだが、一人足りなかったからな。いなくなってたPP-2000が、第一部隊に俺のことを伝えに行ったって考えてまず間違いない」

 

「そんなことまでしてたなんて……」

 

WA2000は指揮官としてのこの男の能力に驚いていた。今の一件だけでなく、ここ数日の働きを見ていればそれは一目瞭然だった。

着任してからの放送で宣言した通り、指揮官は『いつでも相手になる』ということをしっかり実行していた。指令室で作戦会議中だろうが、見回り中だろうが、食事中だろうが、入浴中だろうが、睡眠中だろうが、用を足していようが、いついかなる時でも人形の勝負に受けて立っていた。ハンドガンに接近されれば軽くあしらい、サブマシンガンに追いかけられれば弾薬が尽きるまで顔色一つ変えず逃げ続け、アサルトライフルに撃たれれば弾を全てはじき返し、ショットガンの不意打ちも紙一重で回避し、ライフルの狙撃は弾をつかみ取り、マシンガンの一斉掃射は流石に避けづらそうにしていたのでどこかに潜み、全てをやり過ごしていた。

そして最も驚くべきは、その最中もこの基地の改善のためにできる限りのことをしていたことだ。弾丸をよけながら資料に目を通し、戦術人形側に落ち着くように語り掛け、基地の現状をできる限り正確に把握しようとしていた。命を狙われて逃げ惑うはずの指揮官は、そんなこと気にしていないかのようにできる限りの行動をしていたのだ。

 

「なんというか……あんたって本当に人間離れしてるわよね……」

 

「うん? ああ、まあもう人間じゃねぇからな」

 

「そういえばそうだったわね…………」

 

WA2000はあきれるようにため息をついたが、それにしても度が過ぎている。機械化で体が強化されているとかそういう次元ではないのだ。

書類のさばき方一つを取っても、とても訓練を終えてそのまま基地に配属された新米指揮官だとは思えないような手際の良さがある。ただ単に優秀であると言われてしまえばそれまでだが、過去に何人かの指揮官を見てきたWA2000はどうしても気になっていた。

何か裏があるのでは、そんな漠然とした予感のようなものがあった。

とはいえ現状それを知る方法はない。隠し事は許さないとは言ったが、逆に言えばそこまで言っているのに何も明かしてこないのだ。これも何か理由があるか、もしくはただの思い違いという可能性もある。

結局WA2000は指揮官の超人的な能力をまざまざと見せつけられる日々が続けることとなったのだった。

 

リー・エンフィールドが基地に帰還してくるまで、そんな日々が続いた。




これで第一部隊のメンバーわかったらすごいと思う。陣形はあんまし考えてない。


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第三話 作戦

(うーん…………そろそろか…………)

 

指揮官は一人屋根の上で星を見ていた。手には液体の入ったボトルが握られている。

何かを考えているような難しい表情で、時折ボトルを口元へと持っていく。どうやら酒らしいそれをチビチビと飲みながら、リラックスをするためか深い呼吸をしていた。

着任してから数日は特に反抗的な人形による殺害未遂が絶えることなく発生していたが、最近はもうそんなこともなくなった。ほとんどの人形が諦めてしまったのだ。

初めのうちは殺意をもって基地から追い出そうという人形たちが所かまわず攻撃を仕掛けていた。正面から堂々と挑む者もいれば、隙を伺って不意打ちを仕掛けようとする者もいた。中には銃での攻撃ではなくトラップや毒のような方法で指揮官を狙った者もいた。もちろんどの人形も本気であり、さらには人形たちの多くが連携をとって作戦を立てて動いていたため普通に対応するより何倍も厄介だったことだろう。

しかしそれでもなお敵わなかったのだ。誰一人として指揮官に攻撃を成功させることができず、ただただ消耗していくだけだった。初めのうちは殺意の高かった人形たちも、指揮官のありえないような動きや対応方法に驚きを隠せないでいた。そして時間がたつにつれて一人、また一人と指揮官のことを狙う人形は減っていったのだ。

最終的にほぼ全ての人形が指揮官を狙うことを諦めた。おかげでこうして今は周囲の警戒をすることもなく、一人静かに星見酒を楽しめている。

基地の周囲に住宅などの建造物はない。そのため基地が消灯すると、美しい星空を眺めることができる。見渡す限りの星空は、友人であった今は亡き前指揮官の自慢話で散々聞かされていた。

 

「確かにこりゃあ綺麗だな…………」

 

彼は、亡き友人の言葉を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、待ったか?」

 

「おせぇよ。全く、なんでお前は毎回俺より遅く来るんだよ。今日なんか俺だってかなり遅く来たってのに……」

 

「わりぃわりぃ、寝坊しちまってな」

 

「いい加減にしろっての。なんで執務に追われてる俺よりお前のほうが遅いんだよ」

 

「悪かったって、今日は奢るからよ」

 

「ったく…………好きなもん頼むからな?」

 

場所は居住区にある人気の飲食店。連日かなりの人が訪れる有名な店だが、この日はいつもより少しだけすいていた。

先に席に座って待っていたのは、最前線基地の前指揮官。毎回遅れていることに対して言及してきてはいたが、半ば諦めてはいたのだろう。。

二人は揃ってから軽く話をすると、メニューを見て店員に注文をした。ここの店は調理が早いので注文から料理が運ばれてくるまでがかなり早い。そして二人とも食事は集中してするタイプだったため、料理を食べている間は軽い話しか出てこない。二人が雑談を始めるのは、決まって料理を食べ終わった後だった。

 

「いや~にしてもここの飯は美味いな。基地だと満足に食事を取れないから毎回感動しちまうぜ」

 

「まだ忙しいのか? この前は一区切りつきそうとか言ってたじゃねぇか」

 

「まあ、またいろいろあってな。しばらくまた忙しい状態が続きそうなんだよ」

 

「ふーん、大変なんだな。最前線基地の指揮官殿は」

 

「やめろって、別にそんなたいそうなもんじゃないさ。やりがいはあるが、楽しいもんじゃない」

 

そう言って残っていた飲み物を飲み干し、視線を店の外へと向ける。

様々な店が集まっているその区間は人が他の場所よりも多く、道を歩いてる人の数は多い。紛争により世界の情勢は不安定だが、それでも街を歩く人々の表情は穏やかだった。

 

「人形たちとは和解できたのか?」

 

「何人かとはうまくいった。だが、その他のほとんどは俺のことを嫌ってるだろうな。きっと消したいと思ってるやつもいるはずだ」

 

「…………それって大丈夫なのか? そんなんじゃいつかお前は…………」

 

「大丈夫だ。これでも自分で選んでやってることだ。何かあっても俺は後悔しない」

 

そう言った男の表情に、迷いや不安はなかった。常に死の危険と隣り合わせの状態が続いているというのに、全く動じていない。

一体その状況でその言葉を口に出せるようになるには、どれだけの覚悟と決意が必要なのだろうか。

 

「そうか、ならいいんだ」

 

「ああ。それに、うちの基地だって面倒なことばっかじゃない。みんな素直でいい子たちだし、設備は他の基地よりもしっかりしてる。極めつけはあれだな、星空だ」

 

「ん? 星空だぁ? お前そんな趣味してたか?」

 

「いやいや、お前も見ればわかるって。何とかしてみしてやりてぇなぁ、あれは写真とかじゃ伝わらねぇだろうからな。うちの基地が安全になったら見に来いよ。絶対感動するぜ?」

 

「そんなにか? まあ、見に行くくらいなら別に構わねぇけどな」

 

戦争が起こる前は人間の建造物は今よりずっと多く、そのため夜は明かりが多かった。今では戦争の影響で高層ビルなどの建物も減り、資源の節約のために夜はみな極力明かりをつけないようにしている。そうなると必然的に夜空はよく見えるようになる。とある学者はこの違いを比較していた。

確かに以前より見える星の数は増えただろう。それは美しいものだし、人の心を動かせる力を持っているが、感動するほどのものでもないのではないか。基地だからといって夜空が変わるわけでもあるまいし、何がそんなに凄いのかこの時は見当もつかなかった。

ただし、今は違う。

 

 

「ああ、確かに綺麗だなこれは。なんでかわかんねぇけど綺麗だ」

 

 

空気が街とは違うのか、あるいは気圧や土地の高さが影響しているのか。理由はいくら考えてもわからなかったが、それでもその星空は美しかった。

 

「趣味じゃねぇと思ってたが、あいつが見せたがるわけだぜ」

 

いつの間にかボトルの中の酒はなくなっていた。かなり長い時間飲んでいたようだ。

そろそろ降りるか、そうつぶやいた指揮官の頬は、わずかに濡れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官、かなりまずい状況よこれは」

 

「ああ、どうやらそうらしいな。ここまで多いのはちょっと予想外だ」

 

指揮官が強引にもこの最前線基地に馴染みつつあったある日、基地は緊急事態に陥っていた。

 

「そりゃあここ最近あんたの着任なんかでいろいろあってバタバタしてたし、あんたを殺そうとしてて本来行くべきだった周辺の警戒に行ってなかったのが原因よ。けど、私にはどうしても引っかかってるの。あれだけのことを難なくやってのけるあんたが、この事態を想定してなかったとは思えないのよ」

 

「お、随分と俺のことを買ってくれてるんだねぇ。なんか嬉しいな」

 

「真面目に話してるんだから話しそらさないでくれる?」

 

「すまんすまん、ほんとに嬉しくてね」

 

「ったく…………」

 

最前線基地というだけあって、基地周辺での鉄血との遭遇率は他の基地とは比にならないほど高い。そのため通常時は定期的な基地周辺の見回りが行われており、鉄血兵の数が多い場合は部隊を編成して殲滅に向かうのだ。

しかし指揮官が着任してからというものの、人間の存在を認めない人形たちは指揮官を殺そうと躍起になっていた。そのため本来作戦で使う弾薬を基地内で消費してしまう者も多く、また疲労や負荷による損傷も数多く発生していたため、本来行うはずであった基地周辺の見回りがおろそかになっていたのだ。

結果、今現在最前線基地の周辺には大量の鉄血兵が潜伏している。要は囲まれているのだ。

普通に考えれば、指揮官はこの基地の現状を把握しなければならないためそこまで気を回せず、人形たちは指揮官という存在に意識がいっていたため見回りのことを失念していた、ということになる。だが、WA2000はこの状況自体を疑っていた。

 

「あんた、まさかわざとこの状況になるのを待ってたの?」

 

「ん~? どうしてそう思う? この状況にして、俺は何をするつもりだったんだ?」

 

「それは…………そこまではわからないけど、とにかくあんたがそんな大事なことをただ忘れるわけがないと思ったのよ」

 

「なるほどね~」

 

不敵な笑みをこぼす指揮官。それを見たWA2000は確信を得る。やはりこの男は意図的にこの状況を作り出したのだ。ここまでの経験から、『ありえない』という言葉がこの指揮官に対して通用しないということをWA2000は知っている。

 

「いっや~流石WA2000! この基地に来てからずっとお前と一緒にいてよかった! ご褒美に頭をなでなでしてあげよう」

 

「ちょ! 何やってんのよこのバカ! アホ! ド変態!」

 

「痛い! 待ってそれは流石に痛いって! おおおおおおおおい!」

 

いい感じの一撃がクリーンヒットし、床にうずくまる指揮官。機械ではない部分に当たったのか、いつもの超人ぶりは何処へやら、ここだけ見ると普通の人間にしか見えない。

 

「いいから何か理由があるなら早くしゃべりなさい! 今度ふざけたら脳天に叩きこむわよ!」

 

「はい……すいません……」

 

かなり落ち込んだ表情になった指揮官は、部屋の隅にあったホワイトボードを引っ張ってくると、そこに大きな紙を磁石で貼り付けた。

貼り付けられた紙が何なのかはすぐに分かった。それは基地周辺の地図だったからだ。大き目のサイズのもので、中心に基地があり、周囲の森や草原、岩場など様々な地形が見て取れる。そしてそこには何本もの線が書き込まれていた。線の中には基地から伸びているものもある。

 

「これは……」

 

「まあ見てわかる通り地図だ。これを見つつ、お前には説明していくぞ。」

 

何処から取り出したのか、指揮官はいつの間にかレーザーポインターを持っていた。そして最初に地図の中心にある基地を指した。

 

「まずここが基地。周辺は開けてるが、ちょっと行くと森が広がってる。要は森に囲まれた地形をしてるってことだな。今現在この森の部分に鉄血の部隊がうじゃうじゃいるわけだ。それもほぼ全方位、360°と言っても過言じゃない」

 

「そうね。規模が大きいことは確かよ」

 

「うむ。で、こっちがエンフィールドたちが向かった作戦エリアだ。基地から北東の方角だな」

 

「あの人たちが?」

 

ここで指揮官は基地からかなり離れた別の場所を指した。見れば、基地から出ている線の一本がその作戦エリアと繋がっている。

 

「じゃあこれってもしかして、第一部隊の作戦順路ってこと?」

 

「お、正解。いろいろと情報集めて推測したルートだけど、ほぼ間違いないだろう。あいつらはまずこの基地から東に出発して北上、そしてそのあと北西の方角に進みつつ敵を撃退。資料にあった鉄血の出現範囲と照らし合わせると、この北には鉄血の中でもかなり強力な部隊が巡回している可能性があるからここから北を避けて西に、んでもってそのエリアを避けるようにぐるっと回ってまた東に。これで基地から見た方角は北東、ここが作戦エリア」

 

「なるほど……」

 

指揮官はポインターを動かしながら説明を続ける。恐らくここまで推測するのにかなりの時間を要したのだろう。地図には消された線の跡が何本も残っている。普段はふざけたような態度をしているが、やはり本気になると新米とは思えないような力があるようだ。

 

「で、俺が着任してPP-2000が俺のことを報告した地点が恐らくここ、問題だったのはここからの動きだ」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! その場所って基地からかなり遠いじゃない? どうやってPP-2000はそんなところまで一人で行けたのよ?」

 

「あーそれか……。まあ、簡単に言っちゃえば直進してったんだよな。エンフィールドがいるところまで」

 

「直進? どういうことよ? さっきあんた強力な部隊が巡回してるかもって…………」

 

「いやだからそこも突っ切ったんだよ。隠密行動だと思うけど、詳しいことは教えてくれなかったからなぁ」

 

「お、教えてくれなかった? どういうこと? あんたまさか直接聞いたわけ?」

 

「そうだよ? というか心配だから迎えに行ったんだぜ俺。流石に帰りは危なそうだったからな」

 

「待って……お願いだから待って……初めて聞くことばっかりで頭がパンクしそうよ…………」

 

その後、ゆっくりと情報を整理しながら指揮官の話を聞いたWA2000は次のような流れだったと理解した。

 

①着任後リストに記載されている人形全員を確認しに行ったところでPP-2000がいないことに気付き、リー・エンフィールドに報告しに行った事を悟る。

②他の人形の態度からPP-2000が伝えに行ったことを隠したがっていることを知り、気付かれないようにすぐ帰ってくるだろうと考える。

③資料等を調べ第一部隊の作戦内容と大まかなルート、おおよその現在位置を推測する。さらにこの基地のPP-2000の機動力を考え、一日で基地から第一部隊の現在位置まで往復可能だと判断する。そこから移動距離を逆算する。

④危なそうだったのでPP-2000を迎えに基地を出る。

⑤基地外でPP-2000と遭遇し、ひと悶着あったもののなんとか連れ帰ることに成功。

⑥その後基地で殺意を向けられながらもなんとかなだめつつ話術によって様々な情報を引きだす。

⑦ついでにやや和解。

 

「いや、やや和解ってなによ」

 

「ちょっとだけ仲良くなったってことだ。こういう言い方しないとまたお前に怒られるかと思って…………」

 

「…………その程度のことで怒ったりしないわよ!」

 

「えぇ…………まあいいけど。とにかくそんな感じだ。ちなみにPP-2000が第一部隊の場所を特定できた理由は不明だ。どうもエンフィールド本人から特別な通信機器でも貰ってるらしい。俺には教えてくれなかったよ」

 

「でしょうね。あの子はなんというか……特に崇拝してるというか……なんというか……」

 

PP-2000は基地の中でもかなりリー・エンフィールドに対して心酔している人形だった。WA2000は元から知っており、また指揮官もひと悶着あった際に態度からそのことを察している。

 

「で、話を戻すけど、エンフィールドたち第一部隊が俺のことを知ったのがここだ。この場所からなら、第一部隊全員でも基地まで戻ってくるのに最速で一日ぐらいしかかからない。だけどPP-2000は単騎で戻ってきていた。もし第一部隊が俺のことを優先してルートを変えるなら、PP-2000と一緒に帰ってくるはずだったから、あいつらはそのまま作戦を継続していることになる。よってこの前も言った通りおよそ三日の猶予があったわけだな。その間に俺は基地でできることをいろいろしてたってこと」

 

「なるほどね。で、肝心の鉄血に関しては?」

 

「まあまあ、話にはちゃんと流れがあるんだ。何のために俺が第一部隊の話をしたと思う? 今あいつらはちょうどこの基地に戻ってこようとしているところなんだ。大体の位置はここ。しかしこの辺りは鉄血がこの基地を包囲するために陣取ってる。それもかなりの数な。そして第一部隊は作戦で弾薬とかの物資をかなり消費してるし、疲労もたまってるはずだ」

 

「まさか…………」

 

「おっと、勘違いはするなよ? 鉄血に第一部隊を潰させようとか、そういうんじゃないんだ。というかそもそもいくら疲労してても普通の鉄血兵じゃあの部隊の相手にはならないだろ。直接見たわけじゃないし、あくまで資料を見たものだが、あいつらの戦闘能力はこの基地の中では最強。他の基地の人形と比べても群を抜いている。包囲の中心にいるならまだしも、外側じゃ負けることはまずないと思っていい」

 

「じゃあ何が目的なの? 作戦に加えて包囲を突破してもらってさらに疲れたところを拘束でもしようってわけ?」

 

「効率を考えるならそれもありだが、俺は別に第一部隊を排除したいわけじゃない。ゆくゆくは仲良くなっていきたいし、今回のこれはそのための第一段階だ。要するにあいつらの持ってる人間に対するイメージを払拭するための計画さ」

 

「随分と焦らすわね。早く結論を教えてくれないかしら?」

 

「そうしたいのはやまやまなんだけどな…………また聞かれてるからさ、SVDに」

 

「!!」

 

その言葉で反射的にドアの方向を見るWA2000。すると観念したのかドアが開く。

 

「全く、たいした人間だよ。この私が完全に気配を消しているというのに」

 

「ッ! あんたまた盗み聞ぎなんて品のないことをしてたのね。ここのところおとなしいと思ってたけど、そうでもなかったのかしら?」

 

「さあ、どうかな。気付いていなかったのなら教える気はないよ」

 

一気に険悪な雰囲気になるWA2000とSVD。この前逃げだした時のSVDには焦りや動揺が見られたが、今はもうその様子もない。いつも通りの余裕に満ちた表情をしている。

未だに例の秘密の見当がついていないWA2000はSVDに対してあまり良い印象を持っていない。殺意をむき出しにしてにらみつけるが、SVDは気にしていないようだ。

 

「はぁ、あんたがいるせいで私はこの男に隠し事されまくってて困ってるのよ。どっかにいってくれない?」

 

「断る。なにやら面白そうな話も聞こえたことだし、私もその話の続きを教えてもらおうか」

 

あくまで引く気はないらしい。お互いに弱みを逃げっている関係とはいえ、何らかの弾みにその関係が崩れてしまうこともあり得るのだ。こうして相対すれば慎重になる。

そしてこの中で一番気を張っていたのは、SVDの存在を感知していたはずの指揮官だった。

 

「どうかしたか? 私の顔に何か変なところでも?」

 

「いや…………お前は…………」

 

急に指揮官の表情が曇った。どこか警戒しているような視線をSVDに向ける。

 

「いや、なんでもないか」

 

しかしその警戒はすぐに解かれた。すぐにいつもと同じ飄々とした態度に戻ると、SVDとWA2000に声を掛ける。

 

「さて、こういう状況をじゃ変に作戦について話すわけにもいかないからな~。WA2000には悪いけどもうちょっと待ってもらうことになるぜ」

 

「またそうやって…………もういいわ。作戦だか何だか知らないけどやるなら勝手にやって頂戴」

 

「やるやる。この基地はしっかり守る。んでもって第一部隊もなんとかするよ。敵さんもそろそろ待ちきれなさそうだからね」

 

ドォォォン!

 

その瞬間、轟音と地響きが指令室に届いた。包囲網を敷いていた鉄血の部隊によるものだ。

 

「噂をすればなんとやらだな。さーて、一仕事してきますかな」

 

指揮官はそう言って指令室を後にした。残されたWA2000とSVDも基地を守るため迎撃準備に移る。

 

戦いの火蓋は今切って落とされたのだった。




カルカノ妹出ないねんけど。WA2000とカルカノ姉しか来ないねんけど。


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第四話 戦闘

「何? 基地が鉄血どもに囲まれているだと?」

 

最前線基地までおよそ数キロの地点。リー・エンフィールドたちは基地を取り巻く状況に唖然としていた。

 

「どういうことだ? 何故こんなにも鉄血が……」

 

「大方、人間の指揮官に気を取られとって見回りを怠った者がいるのじゃろう。しょうがないこととはいえ、複雑じゃのぅ」

 

「いや、基地いるWA2000に指揮を任せているんだ。彼女ならしっかりやるだろう」

 

「指揮官に邪魔されたのかもしれない…………」

 

「きっとそーだよ! 人間が変なことして見回りの順路とか変えちゃったんだよ!」

 

「あり得ない話ではありませんね。着任したならば指揮を取ろうとするのはおかしいことではありませんし」

 

「ふん……面倒なことを……」

 

偵察により、鉄血の数と包囲の体系については既に把握している。しかし一部隊ではできることに限りがある。外側から何とかしようにも敵の規模が大きすぎるためどうしようもない。

もし仮に基地と連携を取れるのであれば対策を講じることもできるが、それはできない。その上部隊は万全とはいいがたい状態だ。

何より今現在の基地内部の状況がわからないのでは対策も取れない。ただでさえ人間の指揮官の対処に思考を割いていたところにこの鉄血の大部隊なのだ。情報の整理は追い付かないし、不確定要素が多いため作戦も決め切れない。

 

「くそっ! どうするべきか…………」

 

「とにかく今は様子を見るしかないでしょう。基地内で何か動きがあるかもしれませんし。鉄血が動き出したときのことを考えましょう」

 

「そうじゃのぅ。まあ、基地内にはかなりの数の人形が残っていることじゃし、一方的にやられるということもないはずじゃ。危なそうならば、戦闘が起きてから加勢するなり攪乱するなりすればよい」

 

「突入準備……する?」

 

「一応準備はしとこーよ。何があるかわからないしね~」

 

こうして第一部隊は鉄血の包囲の外で様子を伺うことにした。指揮官からしてみれば予想通り、作戦通りの展開だったのだが、一つだけ指揮官の予想外の出来事が起こっていた。

 

それはこの待機中に第一部隊の人間に対する憎悪が、異常なほど高まっていったことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員撃てぇえええええええ!!!」

 

その号令と共に、弾丸が一斉に敵目掛けて発射される。銃声が絶え間なく響き渡り、火薬のにおいが辺りに広がっていく。

基地内の人形たちは鉄血の包囲に何とか対策しようと基地のすぐ外に簡易的なバリケードを形成しそこから銃撃を行っていた。いたるところから攻めてこようとする鉄血の侵入を防ぐべく、基地をぐるりと囲むようにバリケードを張り、基地に所属しているほぼ全ての人形が既に迎撃を開始していた。

 

「このっ!」「当たれぇ!」「左側弾幕薄いよ!」「三時の方向から次の部隊接近!」「ここだ!」「交代!」「くらえっ!」「装填するから下がる!」「次の弾薬早く!」

 

普段の作戦では遭遇することのないであろう規模の鉄血兵に皆必死で対応していた。ここを守れなければ全てが終わるのだ。

銃声は鳴りやまず、あちこちで怒声が飛ぶ。まさに戦場というにふさわしい惨状だった。

そんな中、指令室を出た指揮官は一人屋根の上でその光景を眺めていた。

 

「うーん。俺を狙ってた時はもっと殺意が濃かったと思うんだがなぁ。人間のほうが嫌いってことかね~」

 

人形たちの一部。自らの命を本気で狙っていた者たちの様子を見ていたのだ。見れば必死であることは十分にわかるものの、どこか迫力が弱い感じがある。

 

「鉄血よりも人間か……そこまでの経験をしてるやつもいるってことか。もっとよく調べねぇといけないかもな……」

 

本来人間に向けるはずのない敵意を向けることのある人形というだけでも異常ではあるが、その中でもさらに異質な存在。敵である鉄血よりも人間を憎むほどの出来事とは、いったい何なのだろうか。ただ基地を掌握するだけなら気にしなくてもいいことだが、人形たちと和解するには必要不可欠なことだ。

彼女たちの以前所属していた基地のことも調べなければ解明はできないだろう。指揮官はそう結論付けると、自ら動くために腰を上げた。

 

その時。

 

「きゃあああああああああああああああ!!!」

 

「チッ、思ったより早かったな」

 

南西の方角。そこでは既に応戦しきれていない鉄血兵の一部がバリケードに接近していた。そのまま放置しておけばそこから鉄血兵が侵入し、この基地は壊滅してしまうだろう。

特攻してくるかのようにいくら撃たれようとも突撃をやめない鉄血兵は、いくらでも進んでくる。少しでも油断すればどの方角からでも侵入される可能性はあるのだ。

 

「ふっ!」

 

状況を一瞬で把握した指揮官はその瞬間に屋根から跳んだ。瞬く間にバリケード付近まで到達すると、接近してきていた鉄血兵を素手で殴り飛ばした。

 

「おらっ!」

 

「!!」

 

この間わずか一秒。あっという間の出来事に周囲の人形たちは言葉を失っていた。

 

「ほら撃つのはやめるな! 俺のことは気にんなよ! それからイングラム、アストラ、お前たちは修理行ってこい。後は俺がやる」

 

そう言い残した指揮官は再び跳んだ。そして敵の最前列にいる鉄血兵を次々に殴り飛ばしていく。

弾丸が雨のように飛び交っているにも関わらず、一発も被弾せずに高速で戦場を跳びまわる。まさに電光石火というその姿はやはり人間としての動きを超越していた。

 

「もっと左に意識を割け! 侵入されるぞ!」

 

「AK-47はもう修理だ。代わりにFNCが入れ! それからステンMK-Ⅱは弾薬運んで来い!」

 

「モシン・ナガンは下がって基地二階から狙撃! SKSはバリケードのほうに! ガリルはその援護だ!」

 

危険な場所にやってきて鉄血を叩きのめしながら格戦況に応じて指示を出していく。時にはギリギリのところで援護に入ったり、直撃しそうになった弾丸を弾いたりもしていた。

指揮官に敵意を抱いていた人形たちもその指示には従った。今は予期していない緊急時であり、戦闘に集中しているため状況判断に割けるリソースが残っていないためだ。そして、これこそが指揮官がこの状況を作り出した目的のうちの一つだった。

普通に人形たちに指示をしたところで、従われないのは目に見えている。かといって一人一人和解していくのは時間がかかりすぎてしまう。リー・エンフィールドたち第一部隊が戻ってくるまでの間に基地の人形たちに馴染むことは不可能だと言っていいだろう。そこで、指揮官はあえてこの状況を作り出すことにした。

通常人形たちの思考回路には、人間の命令を聞くようにプログラムが設定されている。人間に反抗的な人形はこのプログラムにエラーが発生しているのだが、そのエラーも特定の条件下では小さくなるのだ。それが緊急時であり、今回のように思考を巡らせる暇もないほどの切迫した状況だ。そういった状態だと、人間に対する反抗心が薄くなる。

それに加え、指揮官は自ら積極的に鉄血兵を人形の目の前で撃破していくことで、鉄血を共通の敵と認識している人形たちの意識に溶け込んでいくことも狙っていた。人形にも人間と同じような基本的な感情が存在しているため、危険な状況で助けられれば感謝の念が発生する。敵対心を持っているはずの人間にその感情を抱くことで、人形の思考回路に矛盾が生じ、エラーが修正されるのだ。

 

(まあ、根が深い奴もいるんだけどな)

 

全員をこの方法で何とかできるわけではない。これはあくまで人間に対しての敵対心が深くない、もしくは誤解しているような人形に自身の存在が安全であるということを示すためのものだ。

明確に人間を嫌う理由がある、つまり過去に何らかのトラブルがあった人形はこの状態でも完全に敵対関係を解くことは難しい。事実この緊急事態のさなかであっても、さりげなく指揮官に向かって発砲している人形が複数人いるのだ。

もちろんその弾丸も避けてはいるのだが。

 

(まあ、そういうやつらは後でゆっくり話せばいい。とりあえずは俺が悪じゃないってことさえわかってもらえればな)

 

人形たちと和解する。そのために信頼を得る。信頼とは積み重ねていくものであり、一朝一夕でなんとかできるものではない。大多数の人形に自分の存在を認めてもらえれば多少楽にはなるだろうが、それでも人間に対して敵を持ってしまっている人形たちと真の信頼関係を気付いていくには、潔白を示し続けるしかない。

休む間もなく鉄血達と戦い始めて数十分。銃器を扱う人形たちにとっては反則技と言ってもいい近接攻撃で次々と鉄血兵を撃破していく指揮官。乱れかけた人形たちの連携も修正しつつ、上手く鉄血の部隊の迎撃に成功していた。

すると流石に鉄血兵たちも状況を理解したのか、闇雲に突撃してくることはなくなった。こちらの様子を伺っているのか、急に動きが止まる。

 

「ひとまずはこんなところかな」

 

このまま不利だと判断し引いてくれればそれで問題はない。もしもう一度攻めてきたとしてももう遅れを取ることはないだろう。敵の増援でも来ない限り、この戦いはグリフィンの勝利になる。

 

「流石ね。ここまでは作戦通りといったところかしら?」

 

「おお。まあ今のところはな。あとは第一部隊がどう動くかだ」

 

一息ついていた指揮官のもとにWA2000がやってきた。彼女も先ほどまでは最前線で指示を出し戦っていたのだ。流石と言うべきか、負傷した人形もいる中WA2000は無傷だった。疲労は若干見られるものの、それも大したことはなさそうだ。

 

「これがあんたの狙いだったってわけね。ようやくわかってスッキリしたけど、随分と回りくどいことするのね」

 

「これが俺の頭で考えられる最善策だ。つっても負傷者が何人か出ちまったし、大成功とは言えねぇけどな。普通に口で言っても信じてはもらえないし従ってもくれない。だから行動でなんとか動かしていくしかないんだよ」

 

「そうは言ってもその負傷者もほとんどがかすり傷みたいなものでしょ? 私はちゃんと成功したと思うわよ、あんたの作戦」

 

「優しいんだな、やっぱり」

 

「!!!! やっぱりって何よ! 私は全然そんなんじゃ…………」

 

「まあでもまだ終わってねぇ、むしろここからだ。一番厄介なのが残ってるからな」

 

その言葉にWA2000の羞恥心も消えてしまった。すぐに冷静な表情に戻ると森の奥に視線を向ける。

 

「そっちのほうの対策は何か考えてるの? あんたのことだからなにかしらあるんだろうけど」

 

「いや、対策なんか無駄だろうから考えてねぇ。第一部隊はまだ直接会ってないわけだからな。資料から読み取れることなんてたかが知れてるし、何か策を練ろうにも練れねぇよ」

 

「ふーん、そう」

 

と、返しつつも結局は何かしらの作戦があるのだろうと勘繰るWA2000。ここまで常に万全の体制を敷いてきたのは事実なので、またバラせないような事情があるだけで策自体は存在しているのだろうと考える。流石に警戒しているのかその真剣な表情から何かを読み取ることはできない。

戦闘が起こったこと自体は第一部隊のメンバーも把握していることだろう。下手に動くことはないはずなので、しばらくはお互いに様子を探る時間が続きそうだ。

 

「ん? 妙だな」

 

「どうしたの?」

 

「いや、どうも鉄血兵の様子がおかしい。森の中の気配がどんどん消えて行って…………」

 

ズドォン!

 

それは一発の弾丸だった。

指揮官とWA2000、二人の視線の先から目には見えない速さで撃ち込まれたそれは指揮官の脳天を正確に捉えていた。もし後コンマ一秒反応が遅れていれば、弾丸は指揮官の頭蓋骨を突き破り脳に達していただろう。そうなっていれば即死は免れない。

 

「っ…………あっぶねぇ…………」

 

間一髪額のところで弾丸を握り止めることができた指揮官は瞬間的に意識を戦闘状態に切り替えた。今の射撃が鉄血のものでないことは明らかだ。であれば油断していて何とかなる相手ではない。

だが、それすらもわずかに遅かった。

 

「っ! 後ろよ!」

 

WA2000の声をが耳に入った瞬間、振り向くより先に衝撃がやってきた。

 

「がはっ!」

 

指揮官の体は一瞬にして遠方まで吹っ飛ばされると、森の樹木に激突した。しかしそれだけでは勢いが収まらず、二本、三本と木々をへし折りながらどんどん遠くに突き抜けていく。葉が舞い、砂ぼこりが巻き上がりながらどんどん基地から離れていく。

WA2000はあまりの速さに何が起こったのか理解するまでに数秒を要した。そしてその信じがたい出来事をようやく理解すると、背後から感じる圧力で自分の現状も危険であることを察した。

とりあえず視線を合わせなければ弁解をすることもできない。そう思って首を動かそうとするが、身体が上手く言うことを聞いてくれない。今まで感じたこともないようなリー・エンフィールドの威圧感に完全に押されてしまっていた。

 

「WA2000、貴様にはこの基地の指揮を任せていたはずだな。いったい何をしていた?」

 

「は…………はあっ…………はっ…………」

 

あまりにも次元が違いすぎた。一体いつの間に基地の内部まで戻ってきていたのか。少しも気を抜いていなかったはずなのに、全く気付くことができなかった。動揺のあまり呼吸が乱れ、思考が削げ落ちていく。恐怖と焦りでまともに思考力が働かない。必死で言葉をしゃべろうとするが、なかなか形になってくれない。

弾丸が発射されてからわずか数秒の間に視認できないほどの速度で基地内に戻ってきていたのだろうか。同じ戦術人形であるはずなのに、全く想像もつかない。そんなことが可能なのか。あのでたらめな指揮官ですらまだまともと思えるほどの圧倒的な力。もともと強いことは十分理解していたつもりだったが、その認識すら甘かったことを痛感させられる。

まさに別次元。初めて見た本性。この基地での『最強』という指標を根本から勘違いしていたことを今更実感させられた。

 

「あ、あなたがいないうちに……人間が……本部から……人間の指揮官が……」

 

「そんなことはもう知っている。私が聞いているのは、なぜお前が人間に従っているのかということだ」

 

「そ、それは……その……本部の命令を……逆らってはいけないと……思って……それで……」

 

「ほう、そうか。なるほど。確かにそういう考えに至ったなら仕方ないだろう。本当かSVD?」

 

「!!!!!!」

 

そこでようやくWA2000の首が動いた。必死に後ろを振り返ると、そこには間違いなくSVD本人がいた。

 

(そんな!!!!!)

 

WA2000は凍り付いた。今SVDの秘密を知る指揮官はいない。そしてWA2000は何も知らされていないのだ。SVDに本当のことをしゃべられてしまえば、WA2000に逃げ場はない。

そしてさらに絶望的なことに、SVDもまたリー・エンフィールドを崇拝している人形の一人なのだ。もしここで秘密がバレるリスクがあったとしても、SVDはリー・エンフィールドの意思を優先してしゃべっただろう。

 

(お、終わった…………完全に……終わった…………)

 

絶望のあまり呼吸が完全に止まる。次の瞬間には自分は死んでいてもおかしくないと、そう本能的に理解してしまった。

走馬灯のような記憶が思い浮かぶ余裕すらない恐怖。リアルな死のビジョンがWA2000の頭に思い浮かんだその時、SVDは口を開いた。

 

「ええ。その通りです。彼女は仕方なく従っていました。気を許しているようにも見えましたが、演技でしょう」

 

(え?)

 

WA2000は自分の聴覚を疑った。SVDが何と発言したのか理解できなかった。

 

「そうか、それならば仕方ない。場合によっては罰が必要かと思っていたが、その必要もないな」

 

(私は…………助かった…………? なんで…………?)

 

SVDの言葉を聞いたリー・エンフィールドから徐々に殺意が薄れていく。それと同時にWA2000の感覚を支配していた恐怖は全て疑問へと変わった。

 

(なんで…………なんでこんなことが…………)

 

ただただ困惑し、SVDを見つめる。その視線に気付いたのか、SVDとWA2000の二人の視線が交差した。

 

「!!」

 

SVDは微笑を浮かべていた。その表情を見た瞬間、WA2000の脳裏にある会話が浮かび上がる。

 

 

『どうかしたか? 私の顔に何か変なところでも?』

 

『いや…………お前は…………』

 

 

あの時指揮官はSVDの『何か』を疑っていた。その後すぐに気のせいだということで落ち着いたようだが、WA2000は確信した。

 

(何かが……このSVDは何かが……違う!)

 

指揮官の感じていた違和感はやはり間違いではなかった。具体的にどこが違うのか、何が違うのかはハッキリとはわからない。しかもあまりにも漠然としすぎていてすぐに勘違いかと思ってしまいそうだった。

しかし確実に何かが違う、そう疑わずにはいられなかった。

 

そもそもこの状況でSVDがWA2000をかばう理由などどこにもないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってぇ…………素手でぶん殴ってくるんだもんなぁ……ここの基地だとそれが普通なのか? 全く気が荒いなほんと」

 

森の中、リー・エンフィールドの拳によって殴り飛ばされた指揮官は腰をさすりながらゆっくりと体制を起こした。

 

「こりゃあ本気出さねぇといけないやつかなぁ。まさかここまでのレベルだったとは。予想が甘かったか」

 

無防備で食らったかのように思えた一撃だったが、彼の反射神経はしっかりと間に合っていた。拳が身体に当たる瞬間に自身で地面を蹴ってそのまま勢いに身を任せ、衝撃を上手く受け流していたのだ。また、木々への衝突も全て受け身をとって負担を最小限まで減らしていた。

とはいえあまりの勢いには逆らえず、最終的には地面に激突し転倒することになってしまった。傷は浅かったが、確かにダメージは受けてしまったこともまた確かだった。

 

「一応これで正当防衛の言い訳がたつだろ。随分なめられてるみたいだし、ここらでガツンと一発返してやりますかね」

 

立ち上がり、基地の方向を見据える。かなり離れてしまったが、この程度なら気にはならない。

 

「にしても、俺とやりあえるぐらいの奴なんて久しぶりだな。あれ、そういや第一部隊の他の奴はどうなんだ? 流石にあれと同レベルが四人ってなると骨が折れるけどなぁ」

 

 

「ま、その時はその時か」

 

 

不敵な笑みとともにそうつぶやくと、指揮官は地面を蹴り思い切り跳んだ。

 




友達にエースコンバット勧められたんだけど買おうか悩むなぁ。


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