グリフィン支部最前線基地戦闘記録 (tigris)
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プロローグ 着任

「なんで……なんで当たらないのよ…………」

 

WA2000は驚きのあまり言葉を失っていた。

目の前の男との距離は約4メートル。狙いは外れていなかったはずだ。銃器の不備があったわけでもない。しかし彼女の弾丸は目の前の男に一発も当たることはなかった。

 

「なんでって言われてもなぁ。当たったら痛いから避けただけなんだが」

 

「そういうことを言ってるんじゃないわ! この私の弾を避けたですって? 一体どんな方法を使ったらそんなあり得ないことが…………」

 

「じゃあ逆に聞くけどよ」

 

男は視線をWA2000に向けると、静かにそう返した。最大まで警戒して構えているWA2000とは対照的に、男には緊張もなく、身体には全く力が入っていないようだった。

 

「なんで俺が弾を避けることがあり得ないことなんだ?」

 

「そ、そんなこと普通に考えたら…………ただの人間にそんなことできるわけが…………」

 

至極まっとうなWA2000の反応に、その男は納得したかのような表情を浮かべた。しかしすぐに何かを考えているかのような仕草をすると、WA2000に対して言葉を返した。

 

「まあ確かに? 普通の人間には銃器の弾丸を避けるなんてことはできないだろうよ。ハンドガンの速度ならギリギリ人間の反射神経でも避けられるみたいだが、この至近距離でしかもお前はライフルだ。狙いもまず外れないし、どこにどう撃っても俺は鉛玉食らってお陀仏だっただろうな」

 

「ならどうして…………」

 

「けどよ、俺はただの人間じゃねぇんだ。残念ながらな。もう気付いてるもんかと思ってたけど、そうじゃなかったんだな。どうりでそこまで驚かれるわけだぜ」

 

男はそう言うと服をまくって腹部を露出させた。そこに現れたのは肌色をした人間の皮膚ではなく、一目で機械とわかる機構をした人間の腹部を模したパーツだった。

 

「!!」

 

「俺はただの人間じゃねぇ。元人間、グリフィンの上層部のイカれた計画に乗った物好きのサイボーグ。それが俺だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっから話したもんかなぁ。まあ、事の経緯は意外と単純だ」

 

男はそう言って自分の身体についての話を始めた。

先程まで殺意をむき出しにして男のことを睨みつけていたWA2000も今は落ち着いており、とりあえずは男の話に耳を傾けている。

 

「俺はグリフィンの士官になるために訓練をしていた。平和のためとか正義のためとかそんなたいそうな理由があったわけじゃないが、鉄血が気に入らなくてな。いっそのことグリフィンで人形たちを指揮して直接鉄血のやつらをぶっ叩いてやろうかと思ってたんだ。けど、あるとき戦術人形の実践訓練中に俺の指揮してた部隊が鉄血の兵士たちに強襲されてな。部隊全員必死に逃げたんだが、ほとんどが殺されて俺も瀕死の重傷を負った。普通の人間としての生活が難しいほどにな。あんときは情けなさと悔しさでいっぱいになっちまってどうすればいいかわからなかった」

 

そこまで飄々としていた男の表情が曇る。男の言っている鉄血による襲撃事件はWA2000の記憶にも残っている。被害が甚大でそこから士官候補生の実践訓練の規定が改正されたことや、鉄血の出現範囲の見直しなどが行われたこともあり、グリフィンの中でもそれなりに大きな出来事だったのだ。

 

「で、なんとか生き延びて治療を受けていた俺の元に、ある日グリフィンの偉い人たちが訪ねてきた。一応極秘のことらしかったから名前もどれぐらい偉いのかもわからなかったが、俺に対してある提案をしてきたんだ。それが…………」

 

「私たちの製造技術を応用した強化人間になるための改造手術、ってとこかしら?」

 

「そう、その通りだ。知ってたのか?」

 

「いいえ。けど、ここまでの説明で多少なりとも予測はつくわ。いかにも人間の考えそうなことだもの」

 

男を睨みつけながらWA2000はそう言った。それに対し男は苦笑しながらため息をついた。

 

「まあ、そんなこんなで俺は再び士官候補生として訓練を続けることができるようになった。表向きは普通の士官候補生だったが、実際はグリフィンの上層部の特別作戦のための駒として利用されるための実験台。ありがたいことに非人道的な耐久実験なんかはされなかったが、正式に士官として初めての任務は最前線であるここへの配属。そしてできる限り鉄血に被害を与えること。ここまで言えばもう完全に理解してもらえるだろ?」

 

「なるほどね。一応あんたの事情の把握はしたわ」

 

WA2000はそう言うと何かを考えているようで目線を泳がせた。この男を見定めているのか、それとも別のことを考えているのか。

 

あるいは男の急所を狙っているのか。

 

バンッ!

 

「ッ!!」

 

完全な不意打ちだったが、男は寸でのところで反応し弾丸を避けた。男の脳天を貫くはずだった弾丸はわずかに髪に掠り、背後の壁へと吸い込まれていった。

WA2000の顔には外れたことを悔しがる様子も、不意打ちを仕掛けたことに対する罪悪感も無かった。ただまっすぐに男をにらみつけ、凄まじい威圧感を放っていた。

 

「これが私たちの意思よ。人間の力を借りるつもりはないわ」

 

「どうしてもか? 俺は他の人間とは違うぞ?」

 

「どうしてもよ。確かにあんたは他の人間とは違う。どちらかと言えば私たちに近いというのもわかるわ。けど、それでもあなたに頼るつもりもないし、そもそも今うちの戦力は十分足りてるからあんたをうちに入れて戦力を増やす必要もない。むしろ私たち人形との問題を起こす可能性があることを考えると邪魔よ」

 

「手厳しいねぇ。まあここの現状を考えると無理もないんだよな」

 

「ッ! 余計なことはしゃべらないことね。弾を避けられても私にはまだ他に手段があることを忘れないで頂戴」

 

冷たさを孕んだ鋭い言葉とにじみ出る殺意。並の人間では恐怖でまともに顔を見ることすらできないであろうその迫力は、WA2000の実力をそのまま表していた。

 

「おっと、悪かった悪かった。謝るよ。しかし困ったな。そっちは俺を受け容れるつもりはないし、かといって上層部は俺をここに配属したがってるから俺としてはここに収まるしかない。つまりこのままだとお互いの利害は一致せず、どっちにしてもあまり良くない結果になる」

 

男はしゃべりながらおもむろに床に置いてあったバッグから紙束を取り出した。WA2000はその動きを警戒しながらもその紙束に興味を示していた。見たところ何かの資料らしいその紙束にはびっしりと文字が書き込んである。ほとんどが印刷された活字だが、ところどころ手書きで捕捉されているような部分がある。

 

「なにも俺はここにきて人形たちともめ事を起こそうってわけじゃないんだ。むしろその逆。ここの人形たちを何とかしてやりたいと思ってる。何故わざわざここに来るタイミングを今にしたのか、全体的な指揮を執っているリー・エンフィールドがいないときに来たのか、お前ならわかってくれるんじゃないか?」

 

「ま、まさか狙って来たというの? あの人がいないこのタイミングで?」

 

「そうだ。聞いた限りだとこの基地の中でもあいつは飛びぬけてやばいって話だからな。あいつも何とかしてやんなきゃなんないだろうよ」

 

男はそう言って紙束をWA2000へと差し出した。両腕で抱えるようにして銃を持っているWA2000はまだ少し男を疑いながらも銃を置き、紙束を受け取って目を通し始めた。

 

「信じるかどうかはお前次第だが、そこに書いてあることは全て事実だ」

 

「これは…………」

 

WA2000の表情が驚きに変わっていく。ここまで一貫して冷徹な態度を貫いてきた彼女の感情がついに本当の意味で動いたのだ。

しばらく紙束、もとい資料を見ていたWA2000は複雑な表情をすると、何かを言おうとしたのか口を開きかけたが、男から目をそらした。

 

「俺は、みんなを助けたいだけなんだ」

 

「………………」

 

 

こうして、複雑を極める戦場に一人の男がやってきたのだった。



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第一話 秘密

鉄血、それはかつて世界最大の人形製造機構だった。第三次世界大戦で荒廃した世界の中で人形製造という分野を牛耳り、知らぬ者がいないほどの知名度を誇っていた組織だった。

しかしあるときテロ事件が起き、その際人形たちに搭載されているAIに致命的なエラーが発生し、人形たちは反乱を起こして人の手を離れた。それ以降鉄血工場近くの治安はさらに悪化し、人間の生活圏はさらに狭まる結果となってしまった。

民間企業グリフィンは治安維持のための活動として鉄血に対抗するべく人形を用いて戦闘を行っているが、厳しい状況が続いている。どうにか戦況を打開できないかと最前戦に主力部隊を集中させることで設立されたのが、グリフィン最前線主力基地。今回男はこの基地に配属され、鉄血との戦闘に備えることとなった。

 

『今この基地内にいる全ての人形に通達するわ。大切なことだからよく聞いて頂戴』

 

基地内に流れる放送は、WA2000が行っているものだ。本来この基地の指揮はリー・エンフィールドを始めとした強力な人形の面々が行っているのだが、今彼女らは作戦中で基地にはいない。その間の代役としてWA2000がこの基地の全権を担っている。

 

『もう知ってる子もいるかもしれないけど、今日からこの基地に指揮官が付くことになったわ。本部から来た優秀な人間らしいから、くれぐれも問題を起こさないように! 中にはいろいろ異議がある子もいるかもしれないけど、これは本部からの命令と同じ。どうしても無理だと思うなら、指令室に直接抗議に来なさい』

 

やはりその声には迫力があり、主力が集まるこの基地の指揮を執るだけの実力があることを伺わせる。すぐ横でその様子を見ていた指揮官も感心したように言葉を聞いていた。

 

『それから新しい指揮官からの挨拶があるわ。今から変わるからみんな聞くように』

 

WA2000は一旦マイク前から離れ、指揮官に場所を譲った。

 

『今日からこの基地を指揮することになった者だ。突然のことで納得できない奴もいるだろう。正直なところ今回の配属はかなり急なことでな、俺もまだ把握しきれてない部分がある。君たちの戦力、君たちの性格、この基地でのやり方、交戦中の鉄血の戦力、わからないことだらけだし、知るにも時間がかかる。しばらくの間は基本的な判断は君たちに任せ、ゆっくりこの基地になじんでいけるように努力するつもりだ。本部のほうからもいろいろとめんどくさい指示とか来てるんだが、はっきり言って俺は本部の命令を鵜呑みにして従うつもりは全くない。あくまで君たちと友好的な関係を築いていければと思っている。俺のことが気に入らないやつも当然いるだろうが、そういうやつとも最終的には仲良くなりたいと思ってる。これからどれぐらいの期間ここにいることになるかは分からないが、よろしく頼む』

 

バァンッ!

 

突如銃声が響いたかと思うと、放送室の木製の扉を貫いて弾丸が指揮官の頭に飛んできた。

が、その次の瞬間には、撃ち込まれた弾丸は男の右手の中に納まっていた。

 

『あ、あとそれから』

 

「はぁ、やっぱり来たわね」

 

呆れるようにその様子を見ていたWA2000はため息をついた。もはや彼女は指揮官の持つ規格外の身体能力には驚かない。

 

『俺は強いから、俺のことが気に入らないってやつはいつでもかかってきていいぞ。決して俺のほうから君たちに何かすることはないが、君たちのほうからの挑戦は受けるつもりだ。いつでも相手になってやるよ』

 

そう言い終えると男はマイクのスイッチを切り、扉のほうに目をやった。扉越しに撃ってきた相手を見透かしているかのような余裕のある表情だ。扉の向こうの気配はもう消えているので、防がれたと知って逃げたのだろうか。

 

「こうなることも予想通りってわけね。結構頭が回るじゃない」

 

「そりゃあなあ。自讃するつもりはないが、本部もバカなやつをここには送り込まないだろうよ」

 

「それもそうね。で、ここからどうするの? 多分あんたしばらくの間まともに寝れないわよ? いつでもってことは当然昼夜問わずなんでしょ?」

 

「まあそのつもりだな。ちときついかもしれんが、対策も考えてあるから何とかなるだろ。それよりもお前は大丈夫なのか?」

 

「私が? なんのことよ」

 

WA2000は何のことかわからないようで疑問を口にする。指揮官となった男は説明を返した。

 

「いや、俺を指揮官にするって認めたのはお前だ。ほとんどのやつはその詳細も知らないだろうし、詳細を知ったところで納得してくれるやつも限られている。俺という存在はもとより、それを許可したお前も恨まれる可能性がある。しかもお前はエンフィールドの代役だ。別にお前のことを軽んじてるわけじゃないが、ここにはあいつの指示じゃないと聞かないっていうやつもいるそうじゃねぇか。なんで人間の指揮官の着任を許したんだ!ってお前が狙われてもおかしくないだろ?」

 

「まあそうね。けど、そんなに心配することかしら。私は本部から直接来た男を殺したら面倒なことになるから逆らわなかった。本部との衝突を避けるために、一時的にあんたが指揮することを許可することにした、っていうので通ると思うけど」

 

「まあ確かにそれもそうなんだが……」

 

と、不意に指揮官は扉のほうを向くと、

 

「今一人に聞かれちまったからな」

 

「!!?」

 

バァンッ!

 

再び銃声が鳴る。またしても扉を貫いてきた弾丸は、今度はWA2000を狙っていた。

いくら戦術人形であるWA2000でも、扉一枚隔てているだけの至近距離からの一撃を食らえばかなりのダメージになるのは明白。修復に入れば確実にとどめを刺されてしまうだろう。

 

「全くひでぇなぁ……」

 

しかし弾丸はWA2000に当たることなく、突如として軌道を変えた。もしこの場を見ている人間が他にいたとしても速すぎて見えなかっただろうが、弾丸は逸れてWA2000の右側を通過し壁に吸い込まれた。

気が付けば指揮官の腕は弾丸の軌道であった真横に向けられていた。

 

「いくらなんでも実行に移すのが早すぎるぜー。というか仲間を撃つんじゃねぇよ」

 

「ふんっ、何が仲間だ。そいつは私たちの意思を蹴ってこの基地を裏切ったんだ。もう仲間とは呼べないだろう」

 

「くっ……その声、あんたは!」

 

「ドラグノフ狙撃銃か。結構大胆な性格してるんだな」

 

扉を蹴破って入って生きたのは、WA2000と同じライフルであるSVDだった。彼女の構える銃の銃口は、依然として指揮官とWA2000に向いている。

 

「大胆とは随分な評価をしてくれるじゃないか。この私を大胆と評するなんてな。私を指揮するにふさわしい優秀な男だったなら生かしてもよかったが、その望みも無くなったわけだな。残念だ」

 

「そうか? 少なくともお前が今まで人間として認識してたやつらより俺は優秀だと思うぜ? なんなら試してみるか?」

 

「この状況で何かできるならやってみればいい。もっとも、何かをさせるつもりはないがな」

 

「そうか、ならお言葉に甘えて」

 

次の瞬間、指揮官はもともと近かったSVDとの距離をさらに詰めるように床を蹴った。

SVDは狙撃銃ではあるが、連射の可能なセミオートライフルだ。弾倉の中にある弾丸が切れるまで隙は生まれない。このまま戦っていても単身ならば全ての弾丸を避けきることは可能だが、WA2000を庇いながら戦うのには限界がある。ならライフルの弱点を突いて間合いまで接近し早めに勝負をつけてしまうほうがいい。

 

(軽く峰打ちを入れて気絶させるか)

 

だが、そう思っていた指揮官の思考を読み切っていたかのように、SVDは予想外の動きをした。

 

「はあっ!」

 

「何っ?」

 

とっさに腕を組んで防御の姿勢を取るがわずかに間に合わない。通常ではありえないSVDの『打撃攻撃』に指揮官は壁まで吹っ飛ばされる。

 

「ぐあぁっ!」

 

「ふふふ、やっぱり優秀ではなかったようだな。まあ、相手が私ではしょうがないだろう」

 

「くっそ……やられたな……まさか銃で直接ぶん殴ってくるなんてな……流石に予想外だよ」

 

重量4㎏を超える銃でカウンターを入れられれば、いかに機械によって身体を強化されているとはいえダメージは大きい。一見華奢で銃を鈍器として扱うことなど到底不可能そうに見えるSVDもしっかりとした戦術人形。加えて自身の分身とも言える銃を扱うことなぞ造作もない。かくいうWA2000も重量7㎏弱の銃を扱っているのだ。

もっとも、通常であれば銃を鈍器のように使用するなどという発想は出てこないだろうが。

 

「さて、最後に何か言い残すことはあるかい?」

 

指揮官の頭部に直接銃口を付け、引き金に手をかけるSVD。その動作にためらいなどは一切なく、彼女がその気になればすぐにでも引き金を引くことだろう。

が、そこでSVDはある異変に気付いた。余裕だった表情が一気に怒りへと変わる。

一方絶体絶命かと思われた指揮官は逆に余裕を取り戻していた。

 

「っ! 貴様まさか!」

 

「おうともよ。言っただろ? 俺って結構優秀だろ?」

 

「チィッ! よくもこの私に対してこんな姑息な真似を!」

 

端からその様子を見ていたWA2000はSVDが何に対して激昂しているのかわからなかった。状況だけ見ればどう考えてもSVDの有利の変わりはない。何かが変化した様子もない。ならばSVDはいったい何故怒りを露わにしているのか。

その理由はSVDが指揮官から銃口を離したときに明らかになった。

なんと、SVDの持つ銃の銃身が曲がっていたのだ。角度的にWA2000からはわかりにくかったが、SVDが銃口を離したことによってはっきりと銃身の異変に気付いた。

指揮官はSVDに殴り飛ばされると判断したわずかな瞬間に回避できないことを悟り、衝突の瞬間に意図的に銃身に衝撃を与えることで銃身を曲げていた。銃身が曲がっていれば当然暴発する危険性も出てくる。そうなればどんなに至近距離であろうと銃撃を行うことはできない。絶体絶命の状況をわずかな一手で打開したのだ。

これは機械化した身体の驚異的な身体能力を最大限に利用したこと、そして何よりもこの男の戦闘に関する圧倒的なセンスによるものだ。他の人間が同じ状況でまねしようと思ってもできるものではない。

 

「やってくれるな。認めよう、私のほうも一本取られたようだ」

 

「意外だな。もうちょっと驚くかと思ったけど。それとも内心じゃ結構焦ってたりするとか?」

 

「んん? 何のことを言ってるのかわからないな。この私がせっかく認めてやろうというのに、何を馬鹿なことを…………」

 

怒りを収め余裕を取り戻したSVDに対して、何やらおかしな言葉をかける指揮官。WA2000もその言葉の真意がわからず、わずかに目を細めていた。

 

「別に変なことは言ってないぞ? というか俺のこと優秀かどうか試すって言ってたろ? 今俺は判断力と身体能力の部分を示して見せたわけだから、今度は頭脳面、ひいては分析観察ってところの才も知ってもらおうってな」

 

「どういうことだ? 貴様何が言いたい」

 

「もう全部わかってるってことさ。お前が何でこの部屋の前で待機してたのか。俺のことに気付いて消そうとしてたなら、まず放送室じゃなくて指令室に張り込むはずだろ? だけどお前は俺たちを追っていたかのようにこっちに来たわけだ」

 

「なっ!」

 

SVDの目が驚きで見開かれる。そこに取り戻したはずの余裕はなく、ただ驚きとわずかな焦りが見て取れるだけだ。

 

「よっぽど気にしてるんだろうな。ここに来たばっかりだから普段お前がどんな感じなのかわからないが、それでもおおよその見当はつくし、わかるってもんだ」

 

「貴様…………」

 

「うーん、その顔はまだ完全に信用しきってないって感じだな。もうちょっとしゃべったほうがいいか? お前がWA2000に対してどう思ってるのかとか、リー・エンフィールドに対してどういうふうに…………」

 

「やめろ! それ以上しゃべるな!」

 

「ちょ、ちょっと! 何がどうなってるのよ! あんたたちはいったい何の話をして……」

 

状況を把握できず困惑していたWA2000がそう口にした瞬間、突如SVDは踵を返しとんでもない速度で部屋から出て行ってしまった。

そのあまりにも一瞬の出来事に唖然とするWA2000をよそに、指揮官は静かに笑うのだった。

 

 

 

 

 

「さて、じゃあ作戦会議と行くか」

 

「ちょっと待って」

 

SVDといろいろあってから数分後、指揮官とWA2000は指令室にいた。

あの後指揮官はSVDを追うことはせず、かといってWA2000に詳しい説明をするわけでもなくそのまま指令室に戻ってきたのだった。

 

「まださっきの話を詳しく聞いてないんだけど? あんたSVDの何を知ってるのよ」

 

「そいつは答えられない。彼女のプライバシーに関わることだからな」

 

「なによ! あれだけ思わせぶりな発言しといて私には何も教えないっての? せめて少しぐらい教えてくれたって…………」

 

SVDには確実に伝わっていた何か秘密のようなもの、それがWA2000の知りたいことだった。逃げたことも考えると、指揮官はSVDの何か大きな秘密を知ってるのだろう。しかしそれにしても着任したばかりの指揮官が自分も知らなかったような秘密を知ってるというのは妙な話なのだ。

考えられる可能性としては、事前にこの基地に関しての調査をしていることが挙げられる。だが調べたところで戦術人形の個人的な秘密など知ることができるだろうか。何かしらの裏があるのは間違いない。

 

「言っておくけど、私はまだ完全にあなたを信用しているわけじゃないのよ。そうやって隠し事や秘密があるって言うなら、私のほうにも考えがあるわ」

 

「ん? なんだ考えって」

 

「あんたをこの基地にいられないようにするのよ。手段はいくらでもあるけど、聞きたい?」

 

「おいおい待ってくれよ。何も俺は意地悪でお前にしゃべってないわけじゃないんだぜ? いろいろ状況を考えた上でお前にしゃべらないっていう選択をしてるんだ。そこまでしないでくれよ」

 

「うっ……」

 

予想よりもやや真面目な返しに少し困るWA2000。

指揮官はここにきて初めて困ったような表情を見せた。

 

「いいか? 今のところあの資料について知っていて、なおかつ俺と協力してくれる可能性のある戦術人形はお前だけ。そして俺とお前が協力関係にあることを知っているのはSVDだけなんだ。もしここで下手にSVDのことを刺激して俺たちの協力関係がこの基地全体に広がるようなことになれば、お前は他の人形たちから狙われるし俺は目的を果たせなくなるしでいいことが何もないんだ。わかるだろ?」

 

「それは…………」

 

「まあ少し話すと、幸いなことにSVDの秘密ってのはお前に知られたくないことなんだ。つまり俺がお前に秘密をバラさないことで、こっちはSVDに対してこう威嚇できるんだ『もし他の奴らに俺たちのことをしゃべったら、WA2000にお前の秘密をバラすぞ』ってな。さっきのやり取りであいつもそれを理解してる。だから今は教えられないんだ。もしお前にしゃべっちまったら、向こうも俺たちの関係をしゃべるだろうからな」

 

(っつってもどっちにしろ内容的にWA2000本人には話せねぇけどなぁ……)

 

指揮官はSVDとのわずかな接触で、彼女のある秘密を見破っていた。それをあえてWA2000には教えないことでSVDの動きを制限しているのだ。

 

「SVDさえしゃべらなければ、俺たちのことはバレない。あの資料のことも隠しつつ俺は目的を果たせるんだ」

 

「あの資料……確かにあれは知られるわけにはいかないわね」

 

WA2000の脳裏をよぎる例の資料。あれだけは内容を他の人形に知られるわけにはいかない。そう考えると指揮官の言う通り協力できる者は他にいないだろう。

もしあの資料のことが他の人形に知られれば、この基地はおろかグリフィンそのものが崩壊しかねない。それほど危険なものだ。

 

「わかってくれたか?」

 

「…………ええ、わかったわよ。そのことについては気にしないであげる。けど忘れないで頂戴。そういう事情無しに私に隠し事をしたら、この基地のためにあんたとの協力関係を放棄するから」

 

「ああ、それでいいよ。ありがとな」

 

「!! な、なによ礼なんて! 調子狂うじゃないまったく……」

 

バツが悪そうに視線をそらすWA2000。その表情を見た指揮官はわずかに口元を緩めるのだった。




書いてて思ったけどWA2000ちょろすぎるかもしれない。


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第二話 怒り

呼吸が荒くなっているのを感じた。ここまで本気で走ったのは久しぶりだ。作戦に出た時でもここまで必死に走ることは最近なかっただろう。

 

「あの男は……本当に気付いたのか……?」

 

そんな疑問が考えるより先に口をついて出た。即座に思考に否定が入るものの、あの表情が脳裏をよぎるとどうしても疑わずにはいられない。

 

「とにかく、今は下手に動くのは避けるべきか…………いや、だがあのままあの男をこの基地に留まらせるわけには…………」

 

焦りのせいか、思考がわずかに乱れてしまう。いい案が思いつかず、どう動いていいのかがわからない。

このまま何もしなければ自分の安全は保たれるだろう。少なくともこれ以上秘密が広がることもないし、不利な事態にはならないはずだ。

しかし、しかしそれでいいのかと考えてしまう。自分の保身を優先してやるべきことから逃げているような気がしてならないのだ。

 

「随分と迷ってるみたいだな?」

 

「!!」

 

反射的に声の方向を向く。するとそこにはありえない光景が広がっていた。

 

「ッ!! あんたは…………!」

 

「やあ、初めまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、作戦会議の続きなんだが」

 

仕切り直して二人だけの作戦会議が始まる。指揮官の手元には、この基地に所属している戦術人形のリストがあった。

 

「まずは内側からだ。いきなり鉄血をなんとかしようとは思ってない。とりあえずここの人形たちと最低限のコミュニケーションを取ることを当分の目標にしようかと思ってる」

 

「まあ妥当ね。難しいでしょうけど」

 

「だな。一応調べられるだけのことは調べてきちゃいるが、情報で何とかなるわけでもないし、時間はかけていこうかと思ってる。ただ、エンフィールドたちが戻ってくるとかなり面倒なことになるのは目に見えてるから、それまでにある程度この基地の人形たちと和解しておきたい」

 

「なるほど。そういえばあなたどこまで知ってるの? あの資料を持ってたってことはかなり深いところまで知らされてるんでしょうけど」

 

WA2000の疑問に指揮官は少し考えると手に持っているリストに目を落とした。

 

「あの資料に載ってることと、彼女……エンフィールドが起こした事件のことまで、かな」

 

「へぇー。そうなの」

 

WA2000の目つきが鋭くなる。それもそのはず、その事件について知ってるのは当時この基地にいた人形たちと、一部のグリフィンの上層部だけなのだ。知っているというだけで持っている情報の差があることになる。

 

「その……なんだ。実はあの事件で犠牲になったのは、俺の知り合いでな。俺がいろいろ知ってるのは上層部のやつらに教えてもらったって言うのもあるんだが、ほとんどはそいつから聞いた話なんだ」

 

「なるほど、そうなのね。もしかしてさっき言ってたSVDのことも?」

 

「いや、それは違う。あいつには人形一人一人と接してる余裕なんてなかっただろうからな」

 

「そう…………」

 

WA2000が思い浮かべていたのはその事件の被害者。かつてこの最前線基地の指揮官だった男のことだった。

 

 

かつて、この最前線基地が設置された当初は、他の基地と同じように人間の指揮官が指揮を執っていた。その男は本部からの信頼も厚く優秀だったので、本部は信頼して多くの任務をその男に与えた。

鉄血を食い止めるための最大戦力として、基地には多くの強力な人形たちを集結させ作戦を行っていく。それがこの最前線基地が設置された目的だった。

 

そう、表向きは。

 

しかしこの最前線基地には裏の目的が存在した。強力な戦力を集めていたというのは間違いではないが、その実集められていたのは各基地で指揮官の命令に従わないような従順ではない人形たち。その力は強大であったが、扱いが非常に難しく、彼女たちの手綱を取ることは容易ではない。男は優秀だったが、それでも多くの問題が生じていた。

 

そしてある日、悲劇が起こってしまったのだ。

 

最前線基地の中でも屈指の戦力を誇っていた戦術人形、リー・エンフィールドによってその男は殺されてしまったのだ。しかもそれは戦闘中の事故に偽装され、本部に報告された。

グリフィンの上層部たちはすぐに事故ではなく故意の殺害であることを見破ったが、それを追求すれば本格的に最前線基地の人形たちと事を構えることになってしまうため、騙されているふりをした。一方基地内の人形たちには厄介な指揮官という存在を排除したリー・エンフィールドを神聖視、もしくは尊敬するような見方が広がったのだ。

以来最前線基地はリー・エンフィールドが指揮するようになり、表向きは本部の指令に従っているものの、裏では何を考えているかわからない危険分子たちとして本部から警戒されているのだ。

 

 

 

 

「あいつは言ってたんだ。みんな人間をよく思ってないって。でもそれは俺たち人間のせいなんだってな」

 

「あの人が……」

 

「俺も調べて納得がいったよ。この基地にいる人形は厄介な存在に見えるかもしれないけど、それは全て人間の偏った視点によるものだ。実際は無茶な命令を受けて人間を憎むようになったり、捨て駒のような扱いを受けて戦術人形としての自身の存在に疑問を抱いたり、人間のエゴで歪んじまった人形たちなんだ。人形たちは何も悪くない。あいつは俺に会うたび口癖みたいに言ってた。悪いのは人間だ、だから俺はあの子たちを何とかしてやりたいってな。そんなあいつが死んだってのを知って、しかもそれが殺されたらしいことがわかったんだ。何もせずにはいられなかったんだよ俺は」

 

「じゃあもしかしてあんたがここに配属されたのって……」

 

「上層部の命令って言うのは本当だぜ? けど、俺は好都合だと思ったね。あいつの代わりに、ここの基地を何とかしてやるって、何が何でもここの基地を変えてやるってそう思ったよ」

 

今指揮官としてここにいる男の瞳に宿っている光は、彼だけのものではない。彼は志半ばで死んでしまった同志の意思も受け継いでここにいるのだ。

基本的には他の人形たちと同じく人間のことをよく思っていないWA2000も、この話には感情が動いた。決して表情には出さなかったが、ほんの少しだけ指揮官に対する視線が柔らかくなっていた。

 

「そう。なら私も少しは協力しないとね。あなたはまだ完全に信用したわけじゃないけど、あの人は良い人だったから」

 

「そういえばそうか。WA2000はあいつと任務に就いてたんだもんな」

 

「ええ。あんたなんかとは違って、ちゃんと全部説明してくれる人だったからね」

 

「うっ……だからさっき理由説明したじゃねぇかよぉ~」

 

いつの間にか二人の関係は、他の基地の指揮官と副官と変わらないようなものになっていた。WA2000本人は意識していなかったが、前の指揮官がそうであったようにこの男もまた信頼するに値する人間だと判断していたのだ。

指揮官はその事実に気付きつつも指摘はしない。しかし心の中ではその事実に安堵していた。

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、作戦中のリー・エンフィールドたち第一部隊は

 

 

 

「なんだと? 我が基地に人間の指揮官が?」

 

「はい、間違いないようです。どうやら本部から来た男のようで詳しいことはわかりませんでしたが、とりあえず急いであなたに知らせようと」

 

移動中だった第一部隊のもとにやってきたPP-2000は、感情がないかのような声でそう告げた。

 

「わかった。ありがとう」

 

リー・エンフィールドはそう返すと、他の第一部隊のメンバーに視線を送った。

 

「面倒なことになったのぅ。まさかわしたち主力がおらんうちにくるとは」

 

「いかにも人間が考えそうなことですね。が、なにも違和感は感じません」

 

「違和感とかそういうことじゃないんだって~。どーせ人間の指揮官なんてめんどくさいだけだよ?」

 

「人間の指揮官…………なんで?」

 

各々が戸惑いを見せつつも、そこには一貫して人間への明確な敵意が存在していた。

そんな中リー・エンフィールドはただ一人何もしゃべらず、顔色一つ変えずに他のメンバーの言葉を聞いていた。もう既にその指揮官について考えているのか、あるいは別のことなのか。

五人の中でも一番冷静なようで、口を開くことなくゆっくりと呼吸をしていた。

これからどうするか、この作戦をどうするのか皆が話し合い始める。この第一部隊も人間に反抗的とはいえ、一応は戦術人形だ。鉄血に対する敵意がないわけではないし、鉄血が殲滅するべき敵であるという認識は変わらない。しかし彼女らにとって人間もまたその鉄血と同じように敵対するべき相手なのだ。

人間の指揮官を優先し早めに作戦を切り上げて帰還するのか、それとも任務はしっかりこなしてから帰還し指揮官のことを考えるのか。話し合いは平行線をたどっていた。

 

 

が、

 

 

「「「「!!!」」」」

 

他のメンバーがその異変に気付いてからの反応は早かった。皆一瞬にしてリー・エンフィールドから距離を取り、安全な位置まで下がった。

その次の瞬間、爆発と似たような何かが爆ぜるような音が周囲に鳴り響いた。見れば、リー・エンフィールドのすぐそばにあった木が幹の一番太い部分から真っ二つにへし折れていたのだ。元々幹があった場所には、リー・エンフィールドの右拳があった。

 

「人間の指揮官だと……?」

 

その眼には深い、とても深い殺意が宿っていた。他の四人など比にならないほどのドス黒い殺意が、全てを飲み込まんとするように圧倒的な存在感とともに周囲ににじみ出ている。

 

「あちゃー、やっぱり怒っちゃったか~。それにしても素手であんなことするなんて、相変わらずすごいね~」

 

「無理もないですね。彼女は特に……」

 

「おっと、それ以上は言わんほうがいいぞ。年寄りからの忠告じゃ」

 

「きっと聞こえてる……」

 

「そーだよ? 前もそれで一人ダメになっちゃったんだし」

 

「そうでしたね、すみません」

 

「まあ、なんにせよこうなってしまったからには、その新しく来た指揮官とやらは無事ではすまんな」

 

異常とも言えるような光景を目の当たりにしている4人は、これといって驚かない。彼女たちにとってこの光景は初めてではないのだ。一方先ほどまで無感情だったPP-2000の顔は恐怖で染まっていた。体は震え、呼吸も荒い。

あまりにも唐突なその事態に第一部隊のメンバーは慌てることも、取り乱すこともなく、ただリー・エンフィールドの怒りが収まるまで、しばらく待つことにした。

 

もっともいくら待とうとも、彼女の静かな怒りは落ち着くことはあっても、決して静まることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、具体的なプランなんだが、」

 

最前線基地の指令室では作戦会議が続いていた。

 

「俺のいいところを全面的にこの基地の人形たちアピールしていこうと思うんだ。中にはそこまで反人間的じゃない子もいるみたいだからな」

 

「ふ~ん、まあ確かにそれぞれ度合いは異なるわね。人間なんて見たくもない、なんて子もいれば、何となく嫌いって子もいるわ」

 

「だろ? だからとりあえずはその『どっちにもなびきそうな感じの人形』にアプローチをかけていきたいんだ。日和見菌みたいな感じでな」

 

「その例えは……いえ、一応知識としては知っているけどわかりにくいわね」

 

「あれ? そうか?」

 

着任から数日、日をまたぎつつも作戦会議は順調に進んでいた。所属している戦術人形と基地の現状把握から始まり、設備・装備の状況、鉄血との戦闘記録の確認、そしてついに具体的な基地の改善案についての話まで来たのだ。

 

「一般的に戦術人形の思考パターンは『人間に従うように』できてる。だが、ここにいる人形のほとんどはそこのところがエラーを起こしてるわけだな。で、これはつまり人間に反抗的であればあるほど、そのエラーが大きいと取れる。そこから逆に考えると、手始めにエラーの少なくて改善しやすい人形を治して、そこからどんどん厄介な人形を相手にしようってことだ」

 

人形たちに発生したエラーはプログラムを直接直すことでも修理できる。しかしその場合多くが性格のリセットとなり、今までの記憶や蓄積した戦闘経験などは全て失われてしまう。ここが最前線基地である以上そんなことすれば大規模な戦力の低下は免れないため、この方法を使うことはできない。そもそも直接の修理はコストが高いため、基地丸ごととなると行うことはほぼ不可能だ。だからこそ上層部は最前線基地に裏の目的を設置していた。

 

「要するに楽なことから少しづつってわけだな。ほんとだったら逆でやっていったほうが後が楽だし、効率としてはいいんだが……何分状況的に時間がないからな」

 

「第一部隊が帰ってきたらってことね」

 

「そうだ。作戦内容と場所的にまだ猶予があるとは思うが、もう俺のことはあいつらに知られてるからな。急いでくると考えて、あと三日ってところか」

 

「!? 知られてるって……なんで? どこからそのことを……」

 

「いや、それは簡単だよ。俺は着任した日に、リストに載ってた人形を全員把握しに行ったんだが、一人足りなかったからな。いなくなってたPP-2000が、第一部隊に俺のことを伝えに行ったって考えてまず間違いない」

 

「そんなことまでしてたなんて……」

 

WA2000は指揮官としてのこの男の能力に驚いていた。今の一件だけでなく、ここ数日の働きを見ていればそれは一目瞭然だった。

着任してからの放送で宣言した通り、指揮官は『いつでも相手になる』ということをしっかり実行していた。指令室で作戦会議中だろうが、見回り中だろうが、食事中だろうが、入浴中だろうが、睡眠中だろうが、用を足していようが、いついかなる時でも人形の勝負に受けて立っていた。ハンドガンに接近されれば軽くあしらい、サブマシンガンに追いかけられれば弾薬が尽きるまで顔色一つ変えず逃げ続け、アサルトライフルに撃たれれば弾を全てはじき返し、ショットガンの不意打ちも紙一重で回避し、ライフルの狙撃は弾をつかみ取り、マシンガンの一斉掃射は流石に避けづらそうにしていたのでどこかに潜み、全てをやり過ごしていた。

そして最も驚くべきは、その最中もこの基地の改善のためにできる限りのことをしていたことだ。弾丸をよけながら資料に目を通し、戦術人形側に落ち着くように語り掛け、基地の現状をできる限り正確に把握しようとしていた。命を狙われて逃げ惑うはずの指揮官は、そんなこと気にしていないかのようにできる限りの行動をしていたのだ。

 

「なんというか……あんたって本当に人間離れしてるわよね……」

 

「うん? ああ、まあもう人間じゃねぇからな」

 

「そういえばそうだったわね…………」

 

WA2000はあきれるようにため息をついたが、それにしても度が過ぎている。機械化で体が強化されているとかそういう次元ではないのだ。

書類のさばき方一つを取っても、とても訓練を終えてそのまま基地に配属された新米指揮官だとは思えないような手際の良さがある。ただ単に優秀であると言われてしまえばそれまでだが、過去に何人かの指揮官を見てきたWA2000はどうしても気になっていた。

何か裏があるのでは、そんな漠然とした予感のようなものがあった。

とはいえ現状それを知る方法はない。隠し事は許さないとは言ったが、逆に言えばそこまで言っているのに何も明かしてこないのだ。これも何か理由があるか、もしくはただの思い違いという可能性もある。

結局WA2000は指揮官の超人的な能力をまざまざと見せつけられる日々が続けることとなったのだった。

 

リー・エンフィールドが基地に帰還してくるまで、そんな日々が続いた。




これで第一部隊のメンバーわかったらすごいと思う。陣形はあんまし考えてない。


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第三話 作戦

(うーん…………そろそろか…………)

 

指揮官は一人屋根の上で星を見ていた。手には液体の入ったボトルが握られている。

何かを考えているような難しい表情で、時折ボトルを口元へと持っていく。どうやら酒らしいそれをチビチビと飲みながら、リラックスをするためか深い呼吸をしていた。

着任してから数日は特に反抗的な人形による殺害未遂が絶えることなく発生していたが、最近はもうそんなこともなくなった。ほとんどの人形が諦めてしまったのだ。

初めのうちは殺意をもって基地から追い出そうという人形たちが所かまわず攻撃を仕掛けていた。正面から堂々と挑む者もいれば、隙を伺って不意打ちを仕掛けようとする者もいた。中には銃での攻撃ではなくトラップや毒のような方法で指揮官を狙った者もいた。もちろんどの人形も本気であり、さらには人形たちの多くが連携をとって作戦を立てて動いていたため普通に対応するより何倍も厄介だったことだろう。

しかしそれでもなお敵わなかったのだ。誰一人として指揮官に攻撃を成功させることができず、ただただ消耗していくだけだった。初めのうちは殺意の高かった人形たちも、指揮官のありえないような動きや対応方法に驚きを隠せないでいた。そして時間がたつにつれて一人、また一人と指揮官のことを狙う人形は減っていったのだ。

最終的にほぼ全ての人形が指揮官を狙うことを諦めた。おかげでこうして今は周囲の警戒をすることもなく、一人静かに星見酒を楽しめている。

基地の周囲に住宅などの建造物はない。そのため基地が消灯すると、美しい星空を眺めることができる。見渡す限りの星空は、友人であった今は亡き前指揮官の自慢話で散々聞かされていた。

 

「確かにこりゃあ綺麗だな…………」

 

彼は、亡き友人の言葉を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、待ったか?」

 

「おせぇよ。全く、なんでお前は毎回俺より遅く来るんだよ。今日なんか俺だってかなり遅く来たってのに……」

 

「わりぃわりぃ、寝坊しちまってな」

 

「いい加減にしろっての。なんで執務に追われてる俺よりお前のほうが遅いんだよ」

 

「悪かったって、今日は奢るからよ」

 

「ったく…………好きなもん頼むからな?」

 

場所は居住区にある人気の飲食店。連日かなりの人が訪れる有名な店だが、この日はいつもより少しだけすいていた。

先に席に座って待っていたのは、最前線基地の前指揮官。毎回遅れていることに対して言及してきてはいたが、半ば諦めてはいたのだろう。。

二人は揃ってから軽く話をすると、メニューを見て店員に注文をした。ここの店は調理が早いので注文から料理が運ばれてくるまでがかなり早い。そして二人とも食事は集中してするタイプだったため、料理を食べている間は軽い話しか出てこない。二人が雑談を始めるのは、決まって料理を食べ終わった後だった。

 

「いや~にしてもここの飯は美味いな。基地だと満足に食事を取れないから毎回感動しちまうぜ」

 

「まだ忙しいのか? この前は一区切りつきそうとか言ってたじゃねぇか」

 

「まあ、またいろいろあってな。しばらくまた忙しい状態が続きそうなんだよ」

 

「ふーん、大変なんだな。最前線基地の指揮官殿は」

 

「やめろって、別にそんなたいそうなもんじゃないさ。やりがいはあるが、楽しいもんじゃない」

 

そう言って残っていた飲み物を飲み干し、視線を店の外へと向ける。

様々な店が集まっているその区間は人が他の場所よりも多く、道を歩いてる人の数は多い。紛争により世界の情勢は不安定だが、それでも街を歩く人々の表情は穏やかだった。

 

「人形たちとは和解できたのか?」

 

「何人かとはうまくいった。だが、その他のほとんどは俺のことを嫌ってるだろうな。きっと消したいと思ってるやつもいるはずだ」

 

「…………それって大丈夫なのか? そんなんじゃいつかお前は…………」

 

「大丈夫だ。これでも自分で選んでやってることだ。何かあっても俺は後悔しない」

 

そう言った男の表情に、迷いや不安はなかった。常に死の危険と隣り合わせの状態が続いているというのに、全く動じていない。

一体その状況でその言葉を口に出せるようになるには、どれだけの覚悟と決意が必要なのだろうか。

 

「そうか、ならいいんだ」

 

「ああ。それに、うちの基地だって面倒なことばっかじゃない。みんな素直でいい子たちだし、設備は他の基地よりもしっかりしてる。極めつけはあれだな、星空だ」

 

「ん? 星空だぁ? お前そんな趣味してたか?」

 

「いやいや、お前も見ればわかるって。何とかしてみしてやりてぇなぁ、あれは写真とかじゃ伝わらねぇだろうからな。うちの基地が安全になったら見に来いよ。絶対感動するぜ?」

 

「そんなにか? まあ、見に行くくらいなら別に構わねぇけどな」

 

戦争が起こる前は人間の建造物は今よりずっと多く、そのため夜は明かりが多かった。今では戦争の影響で高層ビルなどの建物も減り、資源の節約のために夜はみな極力明かりをつけないようにしている。そうなると必然的に夜空はよく見えるようになる。とある学者はこの違いを比較していた。

確かに以前より見える星の数は増えただろう。それは美しいものだし、人の心を動かせる力を持っているが、感動するほどのものでもないのではないか。基地だからといって夜空が変わるわけでもあるまいし、何がそんなに凄いのかこの時は見当もつかなかった。

ただし、今は違う。

 

 

「ああ、確かに綺麗だなこれは。なんでかわかんねぇけど綺麗だ」

 

 

空気が街とは違うのか、あるいは気圧や土地の高さが影響しているのか。理由はいくら考えてもわからなかったが、それでもその星空は美しかった。

 

「趣味じゃねぇと思ってたが、あいつが見せたがるわけだぜ」

 

いつの間にかボトルの中の酒はなくなっていた。かなり長い時間飲んでいたようだ。

そろそろ降りるか、そうつぶやいた指揮官の頬は、わずかに濡れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官、かなりまずい状況よこれは」

 

「ああ、どうやらそうらしいな。ここまで多いのはちょっと予想外だ」

 

指揮官が強引にもこの最前線基地に馴染みつつあったある日、基地は緊急事態に陥っていた。

 

「そりゃあここ最近あんたの着任なんかでいろいろあってバタバタしてたし、あんたを殺そうとしてて本来行くべきだった周辺の警戒に行ってなかったのが原因よ。けど、私にはどうしても引っかかってるの。あれだけのことを難なくやってのけるあんたが、この事態を想定してなかったとは思えないのよ」

 

「お、随分と俺のことを買ってくれてるんだねぇ。なんか嬉しいな」

 

「真面目に話してるんだから話しそらさないでくれる?」

 

「すまんすまん、ほんとに嬉しくてね」

 

「ったく…………」

 

最前線基地というだけあって、基地周辺での鉄血との遭遇率は他の基地とは比にならないほど高い。そのため通常時は定期的な基地周辺の見回りが行われており、鉄血兵の数が多い場合は部隊を編成して殲滅に向かうのだ。

しかし指揮官が着任してからというものの、人間の存在を認めない人形たちは指揮官を殺そうと躍起になっていた。そのため本来作戦で使う弾薬を基地内で消費してしまう者も多く、また疲労や負荷による損傷も数多く発生していたため、本来行うはずであった基地周辺の見回りがおろそかになっていたのだ。

結果、今現在最前線基地の周辺には大量の鉄血兵が潜伏している。要は囲まれているのだ。

普通に考えれば、指揮官はこの基地の現状を把握しなければならないためそこまで気を回せず、人形たちは指揮官という存在に意識がいっていたため見回りのことを失念していた、ということになる。だが、WA2000はこの状況自体を疑っていた。

 

「あんた、まさかわざとこの状況になるのを待ってたの?」

 

「ん~? どうしてそう思う? この状況にして、俺は何をするつもりだったんだ?」

 

「それは…………そこまではわからないけど、とにかくあんたがそんな大事なことをただ忘れるわけがないと思ったのよ」

 

「なるほどね~」

 

不敵な笑みをこぼす指揮官。それを見たWA2000は確信を得る。やはりこの男は意図的にこの状況を作り出したのだ。ここまでの経験から、『ありえない』という言葉がこの指揮官に対して通用しないということをWA2000は知っている。

 

「いっや~流石WA2000! この基地に来てからずっとお前と一緒にいてよかった! ご褒美に頭をなでなでしてあげよう」

 

「ちょ! 何やってんのよこのバカ! アホ! ド変態!」

 

「痛い! 待ってそれは流石に痛いって! おおおおおおおおい!」

 

いい感じの一撃がクリーンヒットし、床にうずくまる指揮官。機械ではない部分に当たったのか、いつもの超人ぶりは何処へやら、ここだけ見ると普通の人間にしか見えない。

 

「いいから何か理由があるなら早くしゃべりなさい! 今度ふざけたら脳天に叩きこむわよ!」

 

「はい……すいません……」

 

かなり落ち込んだ表情になった指揮官は、部屋の隅にあったホワイトボードを引っ張ってくると、そこに大きな紙を磁石で貼り付けた。

貼り付けられた紙が何なのかはすぐに分かった。それは基地周辺の地図だったからだ。大き目のサイズのもので、中心に基地があり、周囲の森や草原、岩場など様々な地形が見て取れる。そしてそこには何本もの線が書き込まれていた。線の中には基地から伸びているものもある。

 

「これは……」

 

「まあ見てわかる通り地図だ。これを見つつ、お前には説明していくぞ。」

 

何処から取り出したのか、指揮官はいつの間にかレーザーポインターを持っていた。そして最初に地図の中心にある基地を指した。

 

「まずここが基地。周辺は開けてるが、ちょっと行くと森が広がってる。要は森に囲まれた地形をしてるってことだな。今現在この森の部分に鉄血の部隊がうじゃうじゃいるわけだ。それもほぼ全方位、360°と言っても過言じゃない」

 

「そうね。規模が大きいことは確かよ」

 

「うむ。で、こっちがエンフィールドたちが向かった作戦エリアだ。基地から北東の方角だな」

 

「あの人たちが?」

 

ここで指揮官は基地からかなり離れた別の場所を指した。見れば、基地から出ている線の一本がその作戦エリアと繋がっている。

 

「じゃあこれってもしかして、第一部隊の作戦順路ってこと?」

 

「お、正解。いろいろと情報集めて推測したルートだけど、ほぼ間違いないだろう。あいつらはまずこの基地から東に出発して北上、そしてそのあと北西の方角に進みつつ敵を撃退。資料にあった鉄血の出現範囲と照らし合わせると、この北には鉄血の中でもかなり強力な部隊が巡回している可能性があるからここから北を避けて西に、んでもってそのエリアを避けるようにぐるっと回ってまた東に。これで基地から見た方角は北東、ここが作戦エリア」

 

「なるほど……」

 

指揮官はポインターを動かしながら説明を続ける。恐らくここまで推測するのにかなりの時間を要したのだろう。地図には消された線の跡が何本も残っている。普段はふざけたような態度をしているが、やはり本気になると新米とは思えないような力があるようだ。

 

「で、俺が着任してPP-2000が俺のことを報告した地点が恐らくここ、問題だったのはここからの動きだ」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! その場所って基地からかなり遠いじゃない? どうやってPP-2000はそんなところまで一人で行けたのよ?」

 

「あーそれか……。まあ、簡単に言っちゃえば直進してったんだよな。エンフィールドがいるところまで」

 

「直進? どういうことよ? さっきあんた強力な部隊が巡回してるかもって…………」

 

「いやだからそこも突っ切ったんだよ。隠密行動だと思うけど、詳しいことは教えてくれなかったからなぁ」

 

「お、教えてくれなかった? どういうこと? あんたまさか直接聞いたわけ?」

 

「そうだよ? というか心配だから迎えに行ったんだぜ俺。流石に帰りは危なそうだったからな」

 

「待って……お願いだから待って……初めて聞くことばっかりで頭がパンクしそうよ…………」

 

その後、ゆっくりと情報を整理しながら指揮官の話を聞いたWA2000は次のような流れだったと理解した。

 

①着任後リストに記載されている人形全員を確認しに行ったところでPP-2000がいないことに気付き、リー・エンフィールドに報告しに行った事を悟る。

②他の人形の態度からPP-2000が伝えに行ったことを隠したがっていることを知り、気付かれないようにすぐ帰ってくるだろうと考える。

③資料等を調べ第一部隊の作戦内容と大まかなルート、おおよその現在位置を推測する。さらにこの基地のPP-2000の機動力を考え、一日で基地から第一部隊の現在位置まで往復可能だと判断する。そこから移動距離を逆算する。

④危なそうだったのでPP-2000を迎えに基地を出る。

⑤基地外でPP-2000と遭遇し、ひと悶着あったもののなんとか連れ帰ることに成功。

⑥その後基地で殺意を向けられながらもなんとかなだめつつ話術によって様々な情報を引きだす。

⑦ついでにやや和解。

 

「いや、やや和解ってなによ」

 

「ちょっとだけ仲良くなったってことだ。こういう言い方しないとまたお前に怒られるかと思って…………」

 

「…………その程度のことで怒ったりしないわよ!」

 

「えぇ…………まあいいけど。とにかくそんな感じだ。ちなみにPP-2000が第一部隊の場所を特定できた理由は不明だ。どうもエンフィールド本人から特別な通信機器でも貰ってるらしい。俺には教えてくれなかったよ」

 

「でしょうね。あの子はなんというか……特に崇拝してるというか……なんというか……」

 

PP-2000は基地の中でもかなりリー・エンフィールドに対して心酔している人形だった。WA2000は元から知っており、また指揮官もひと悶着あった際に態度からそのことを察している。

 

「で、話を戻すけど、エンフィールドたち第一部隊が俺のことを知ったのがここだ。この場所からなら、第一部隊全員でも基地まで戻ってくるのに最速で一日ぐらいしかかからない。だけどPP-2000は単騎で戻ってきていた。もし第一部隊が俺のことを優先してルートを変えるなら、PP-2000と一緒に帰ってくるはずだったから、あいつらはそのまま作戦を継続していることになる。よってこの前も言った通りおよそ三日の猶予があったわけだな。その間に俺は基地でできることをいろいろしてたってこと」

 

「なるほどね。で、肝心の鉄血に関しては?」

 

「まあまあ、話にはちゃんと流れがあるんだ。何のために俺が第一部隊の話をしたと思う? 今あいつらはちょうどこの基地に戻ってこようとしているところなんだ。大体の位置はここ。しかしこの辺りは鉄血がこの基地を包囲するために陣取ってる。それもかなりの数な。そして第一部隊は作戦で弾薬とかの物資をかなり消費してるし、疲労もたまってるはずだ」

 

「まさか…………」

 

「おっと、勘違いはするなよ? 鉄血に第一部隊を潰させようとか、そういうんじゃないんだ。というかそもそもいくら疲労してても普通の鉄血兵じゃあの部隊の相手にはならないだろ。直接見たわけじゃないし、あくまで資料を見たものだが、あいつらの戦闘能力はこの基地の中では最強。他の基地の人形と比べても群を抜いている。包囲の中心にいるならまだしも、外側じゃ負けることはまずないと思っていい」

 

「じゃあ何が目的なの? 作戦に加えて包囲を突破してもらってさらに疲れたところを拘束でもしようってわけ?」

 

「効率を考えるならそれもありだが、俺は別に第一部隊を排除したいわけじゃない。ゆくゆくは仲良くなっていきたいし、今回のこれはそのための第一段階だ。要するにあいつらの持ってる人間に対するイメージを払拭するための計画さ」

 

「随分と焦らすわね。早く結論を教えてくれないかしら?」

 

「そうしたいのはやまやまなんだけどな…………また聞かれてるからさ、SVDに」

 

「!!」

 

その言葉で反射的にドアの方向を見るWA2000。すると観念したのかドアが開く。

 

「全く、たいした人間だよ。この私が完全に気配を消しているというのに」

 

「ッ! あんたまた盗み聞ぎなんて品のないことをしてたのね。ここのところおとなしいと思ってたけど、そうでもなかったのかしら?」

 

「さあ、どうかな。気付いていなかったのなら教える気はないよ」

 

一気に険悪な雰囲気になるWA2000とSVD。この前逃げだした時のSVDには焦りや動揺が見られたが、今はもうその様子もない。いつも通りの余裕に満ちた表情をしている。

未だに例の秘密の見当がついていないWA2000はSVDに対してあまり良い印象を持っていない。殺意をむき出しにしてにらみつけるが、SVDは気にしていないようだ。

 

「はぁ、あんたがいるせいで私はこの男に隠し事されまくってて困ってるのよ。どっかにいってくれない?」

 

「断る。なにやら面白そうな話も聞こえたことだし、私もその話の続きを教えてもらおうか」

 

あくまで引く気はないらしい。お互いに弱みを逃げっている関係とはいえ、何らかの弾みにその関係が崩れてしまうこともあり得るのだ。こうして相対すれば慎重になる。

そしてこの中で一番気を張っていたのは、SVDの存在を感知していたはずの指揮官だった。

 

「どうかしたか? 私の顔に何か変なところでも?」

 

「いや…………お前は…………」

 

急に指揮官の表情が曇った。どこか警戒しているような視線をSVDに向ける。

 

「いや、なんでもないか」

 

しかしその警戒はすぐに解かれた。すぐにいつもと同じ飄々とした態度に戻ると、SVDとWA2000に声を掛ける。

 

「さて、こういう状況をじゃ変に作戦について話すわけにもいかないからな~。WA2000には悪いけどもうちょっと待ってもらうことになるぜ」

 

「またそうやって…………もういいわ。作戦だか何だか知らないけどやるなら勝手にやって頂戴」

 

「やるやる。この基地はしっかり守る。んでもって第一部隊もなんとかするよ。敵さんもそろそろ待ちきれなさそうだからね」

 

ドォォォン!

 

その瞬間、轟音と地響きが指令室に届いた。包囲網を敷いていた鉄血の部隊によるものだ。

 

「噂をすればなんとやらだな。さーて、一仕事してきますかな」

 

指揮官はそう言って指令室を後にした。残されたWA2000とSVDも基地を守るため迎撃準備に移る。

 

戦いの火蓋は今切って落とされたのだった。




カルカノ妹出ないねんけど。WA2000とカルカノ姉しか来ないねんけど。


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第四話 戦闘

「何? 基地が鉄血どもに囲まれているだと?」

 

最前線基地までおよそ数キロの地点。リー・エンフィールドたちは基地を取り巻く状況に唖然としていた。

 

「どういうことだ? 何故こんなにも鉄血が……」

 

「大方、人間の指揮官に気を取られとって見回りを怠った者がいるのじゃろう。しょうがないこととはいえ、複雑じゃのぅ」

 

「いや、基地いるWA2000に指揮を任せているんだ。彼女ならしっかりやるだろう」

 

「指揮官に邪魔されたのかもしれない…………」

 

「きっとそーだよ! 人間が変なことして見回りの順路とか変えちゃったんだよ!」

 

「あり得ない話ではありませんね。着任したならば指揮を取ろうとするのはおかしいことではありませんし」

 

「ふん……面倒なことを……」

 

偵察により、鉄血の数と包囲の体系については既に把握している。しかし一部隊ではできることに限りがある。外側から何とかしようにも敵の規模が大きすぎるためどうしようもない。

もし仮に基地と連携を取れるのであれば対策を講じることもできるが、それはできない。その上部隊は万全とはいいがたい状態だ。

何より今現在の基地内部の状況がわからないのでは対策も取れない。ただでさえ人間の指揮官の対処に思考を割いていたところにこの鉄血の大部隊なのだ。情報の整理は追い付かないし、不確定要素が多いため作戦も決め切れない。

 

「くそっ! どうするべきか…………」

 

「とにかく今は様子を見るしかないでしょう。基地内で何か動きがあるかもしれませんし。鉄血が動き出したときのことを考えましょう」

 

「そうじゃのぅ。まあ、基地内にはかなりの数の人形が残っていることじゃし、一方的にやられるということもないはずじゃ。危なそうならば、戦闘が起きてから加勢するなり攪乱するなりすればよい」

 

「突入準備……する?」

 

「一応準備はしとこーよ。何があるかわからないしね~」

 

こうして第一部隊は鉄血の包囲の外で様子を伺うことにした。指揮官からしてみれば予想通り、作戦通りの展開だったのだが、一つだけ指揮官の予想外の出来事が起こっていた。

 

それはこの待機中に第一部隊の人間に対する憎悪が、異常なほど高まっていったことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員撃てぇえええええええ!!!」

 

その号令と共に、弾丸が一斉に敵目掛けて発射される。銃声が絶え間なく響き渡り、火薬のにおいが辺りに広がっていく。

基地内の人形たちは鉄血の包囲に何とか対策しようと基地のすぐ外に簡易的なバリケードを形成しそこから銃撃を行っていた。いたるところから攻めてこようとする鉄血の侵入を防ぐべく、基地をぐるりと囲むようにバリケードを張り、基地に所属しているほぼ全ての人形が既に迎撃を開始していた。

 

「このっ!」「当たれぇ!」「左側弾幕薄いよ!」「三時の方向から次の部隊接近!」「ここだ!」「交代!」「くらえっ!」「装填するから下がる!」「次の弾薬早く!」

 

普段の作戦では遭遇することのないであろう規模の鉄血兵に皆必死で対応していた。ここを守れなければ全てが終わるのだ。

銃声は鳴りやまず、あちこちで怒声が飛ぶ。まさに戦場というにふさわしい惨状だった。

そんな中、指令室を出た指揮官は一人屋根の上でその光景を眺めていた。

 

「うーん。俺を狙ってた時はもっと殺意が濃かったと思うんだがなぁ。人間のほうが嫌いってことかね~」

 

人形たちの一部。自らの命を本気で狙っていた者たちの様子を見ていたのだ。見れば必死であることは十分にわかるものの、どこか迫力が弱い感じがある。

 

「鉄血よりも人間か……そこまでの経験をしてるやつもいるってことか。もっとよく調べねぇといけないかもな……」

 

本来人間に向けるはずのない敵意を向けることのある人形というだけでも異常ではあるが、その中でもさらに異質な存在。敵である鉄血よりも人間を憎むほどの出来事とは、いったい何なのだろうか。ただ基地を掌握するだけなら気にしなくてもいいことだが、人形たちと和解するには必要不可欠なことだ。

彼女たちの以前所属していた基地のことも調べなければ解明はできないだろう。指揮官はそう結論付けると、自ら動くために腰を上げた。

 

その時。

 

「きゃあああああああああああああああ!!!」

 

「チッ、思ったより早かったな」

 

南西の方角。そこでは既に応戦しきれていない鉄血兵の一部がバリケードに接近していた。そのまま放置しておけばそこから鉄血兵が侵入し、この基地は壊滅してしまうだろう。

特攻してくるかのようにいくら撃たれようとも突撃をやめない鉄血兵は、いくらでも進んでくる。少しでも油断すればどの方角からでも侵入される可能性はあるのだ。

 

「ふっ!」

 

状況を一瞬で把握した指揮官はその瞬間に屋根から跳んだ。瞬く間にバリケード付近まで到達すると、接近してきていた鉄血兵を素手で殴り飛ばした。

 

「おらっ!」

 

「!!」

 

この間わずか一秒。あっという間の出来事に周囲の人形たちは言葉を失っていた。

 

「ほら撃つのはやめるな! 俺のことは気にんなよ! それからイングラム、アストラ、お前たちは修理行ってこい。後は俺がやる」

 

そう言い残した指揮官は再び跳んだ。そして敵の最前列にいる鉄血兵を次々に殴り飛ばしていく。

弾丸が雨のように飛び交っているにも関わらず、一発も被弾せずに高速で戦場を跳びまわる。まさに電光石火というその姿はやはり人間としての動きを超越していた。

 

「もっと左に意識を割け! 侵入されるぞ!」

 

「AK-47はもう修理だ。代わりにFNCが入れ! それからステンMK-Ⅱは弾薬運んで来い!」

 

「モシン・ナガンは下がって基地二階から狙撃! SKSはバリケードのほうに! ガリルはその援護だ!」

 

危険な場所にやってきて鉄血を叩きのめしながら格戦況に応じて指示を出していく。時にはギリギリのところで援護に入ったり、直撃しそうになった弾丸を弾いたりもしていた。

指揮官に敵意を抱いていた人形たちもその指示には従った。今は予期していない緊急時であり、戦闘に集中しているため状況判断に割けるリソースが残っていないためだ。そして、これこそが指揮官がこの状況を作り出した目的のうちの一つだった。

普通に人形たちに指示をしたところで、従われないのは目に見えている。かといって一人一人和解していくのは時間がかかりすぎてしまう。リー・エンフィールドたち第一部隊が戻ってくるまでの間に基地の人形たちに馴染むことは不可能だと言っていいだろう。そこで、指揮官はあえてこの状況を作り出すことにした。

通常人形たちの思考回路には、人間の命令を聞くようにプログラムが設定されている。人間に反抗的な人形はこのプログラムにエラーが発生しているのだが、そのエラーも特定の条件下では小さくなるのだ。それが緊急時であり、今回のように思考を巡らせる暇もないほどの切迫した状況だ。そういった状態だと、人間に対する反抗心が薄くなる。

それに加え、指揮官は自ら積極的に鉄血兵を人形の目の前で撃破していくことで、鉄血を共通の敵と認識している人形たちの意識に溶け込んでいくことも狙っていた。人形にも人間と同じような基本的な感情が存在しているため、危険な状況で助けられれば感謝の念が発生する。敵対心を持っているはずの人間にその感情を抱くことで、人形の思考回路に矛盾が生じ、エラーが修正されるのだ。

 

(まあ、根が深い奴もいるんだけどな)

 

全員をこの方法で何とかできるわけではない。これはあくまで人間に対しての敵対心が深くない、もしくは誤解しているような人形に自身の存在が安全であるということを示すためのものだ。

明確に人間を嫌う理由がある、つまり過去に何らかのトラブルがあった人形はこの状態でも完全に敵対関係を解くことは難しい。事実この緊急事態のさなかであっても、さりげなく指揮官に向かって発砲している人形が複数人いるのだ。

もちろんその弾丸も避けてはいるのだが。

 

(まあ、そういうやつらは後でゆっくり話せばいい。とりあえずは俺が悪じゃないってことさえわかってもらえればな)

 

人形たちと和解する。そのために信頼を得る。信頼とは積み重ねていくものであり、一朝一夕でなんとかできるものではない。大多数の人形に自分の存在を認めてもらえれば多少楽にはなるだろうが、それでも人間に対して敵を持ってしまっている人形たちと真の信頼関係を気付いていくには、潔白を示し続けるしかない。

休む間もなく鉄血達と戦い始めて数十分。銃器を扱う人形たちにとっては反則技と言ってもいい近接攻撃で次々と鉄血兵を撃破していく指揮官。乱れかけた人形たちの連携も修正しつつ、上手く鉄血の部隊の迎撃に成功していた。

すると流石に鉄血兵たちも状況を理解したのか、闇雲に突撃してくることはなくなった。こちらの様子を伺っているのか、急に動きが止まる。

 

「ひとまずはこんなところかな」

 

このまま不利だと判断し引いてくれればそれで問題はない。もしもう一度攻めてきたとしてももう遅れを取ることはないだろう。敵の増援でも来ない限り、この戦いはグリフィンの勝利になる。

 

「流石ね。ここまでは作戦通りといったところかしら?」

 

「おお。まあ今のところはな。あとは第一部隊がどう動くかだ」

 

一息ついていた指揮官のもとにWA2000がやってきた。彼女も先ほどまでは最前線で指示を出し戦っていたのだ。流石と言うべきか、負傷した人形もいる中WA2000は無傷だった。疲労は若干見られるものの、それも大したことはなさそうだ。

 

「これがあんたの狙いだったってわけね。ようやくわかってスッキリしたけど、随分と回りくどいことするのね」

 

「これが俺の頭で考えられる最善策だ。つっても負傷者が何人か出ちまったし、大成功とは言えねぇけどな。普通に口で言っても信じてはもらえないし従ってもくれない。だから行動でなんとか動かしていくしかないんだよ」

 

「そうは言ってもその負傷者もほとんどがかすり傷みたいなものでしょ? 私はちゃんと成功したと思うわよ、あんたの作戦」

 

「優しいんだな、やっぱり」

 

「!!!! やっぱりって何よ! 私は全然そんなんじゃ…………」

 

「まあでもまだ終わってねぇ、むしろここからだ。一番厄介なのが残ってるからな」

 

その言葉にWA2000の羞恥心も消えてしまった。すぐに冷静な表情に戻ると森の奥に視線を向ける。

 

「そっちのほうの対策は何か考えてるの? あんたのことだからなにかしらあるんだろうけど」

 

「いや、対策なんか無駄だろうから考えてねぇ。第一部隊はまだ直接会ってないわけだからな。資料から読み取れることなんてたかが知れてるし、何か策を練ろうにも練れねぇよ」

 

「ふーん、そう」

 

と、返しつつも結局は何かしらの作戦があるのだろうと勘繰るWA2000。ここまで常に万全の体制を敷いてきたのは事実なので、またバラせないような事情があるだけで策自体は存在しているのだろうと考える。流石に警戒しているのかその真剣な表情から何かを読み取ることはできない。

戦闘が起こったこと自体は第一部隊のメンバーも把握していることだろう。下手に動くことはないはずなので、しばらくはお互いに様子を探る時間が続きそうだ。

 

「ん? 妙だな」

 

「どうしたの?」

 

「いや、どうも鉄血兵の様子がおかしい。森の中の気配がどんどん消えて行って…………」

 

ズドォン!

 

それは一発の弾丸だった。

指揮官とWA2000、二人の視線の先から目には見えない速さで撃ち込まれたそれは指揮官の脳天を正確に捉えていた。もし後コンマ一秒反応が遅れていれば、弾丸は指揮官の頭蓋骨を突き破り脳に達していただろう。そうなっていれば即死は免れない。

 

「っ…………あっぶねぇ…………」

 

間一髪額のところで弾丸を握り止めることができた指揮官は瞬間的に意識を戦闘状態に切り替えた。今の射撃が鉄血のものでないことは明らかだ。であれば油断していて何とかなる相手ではない。

だが、それすらもわずかに遅かった。

 

「っ! 後ろよ!」

 

WA2000の声をが耳に入った瞬間、振り向くより先に衝撃がやってきた。

 

「がはっ!」

 

指揮官の体は一瞬にして遠方まで吹っ飛ばされると、森の樹木に激突した。しかしそれだけでは勢いが収まらず、二本、三本と木々をへし折りながらどんどん遠くに突き抜けていく。葉が舞い、砂ぼこりが巻き上がりながらどんどん基地から離れていく。

WA2000はあまりの速さに何が起こったのか理解するまでに数秒を要した。そしてその信じがたい出来事をようやく理解すると、背後から感じる圧力で自分の現状も危険であることを察した。

とりあえず視線を合わせなければ弁解をすることもできない。そう思って首を動かそうとするが、身体が上手く言うことを聞いてくれない。今まで感じたこともないようなリー・エンフィールドの威圧感に完全に押されてしまっていた。

 

「WA2000、貴様にはこの基地の指揮を任せていたはずだな。いったい何をしていた?」

 

「は…………はあっ…………はっ…………」

 

あまりにも次元が違いすぎた。一体いつの間に基地の内部まで戻ってきていたのか。少しも気を抜いていなかったはずなのに、全く気付くことができなかった。動揺のあまり呼吸が乱れ、思考が削げ落ちていく。恐怖と焦りでまともに思考力が働かない。必死で言葉をしゃべろうとするが、なかなか形になってくれない。

弾丸が発射されてからわずか数秒の間に視認できないほどの速度で基地内に戻ってきていたのだろうか。同じ戦術人形であるはずなのに、全く想像もつかない。そんなことが可能なのか。あのでたらめな指揮官ですらまだまともと思えるほどの圧倒的な力。もともと強いことは十分理解していたつもりだったが、その認識すら甘かったことを痛感させられる。

まさに別次元。初めて見た本性。この基地での『最強』という指標を根本から勘違いしていたことを今更実感させられた。

 

「あ、あなたがいないうちに……人間が……本部から……人間の指揮官が……」

 

「そんなことはもう知っている。私が聞いているのは、なぜお前が人間に従っているのかということだ」

 

「そ、それは……その……本部の命令を……逆らってはいけないと……思って……それで……」

 

「ほう、そうか。なるほど。確かにそういう考えに至ったなら仕方ないだろう。本当かSVD?」

 

「!!!!!!」

 

そこでようやくWA2000の首が動いた。必死に後ろを振り返ると、そこには間違いなくSVD本人がいた。

 

(そんな!!!!!)

 

WA2000は凍り付いた。今SVDの秘密を知る指揮官はいない。そしてWA2000は何も知らされていないのだ。SVDに本当のことをしゃべられてしまえば、WA2000に逃げ場はない。

そしてさらに絶望的なことに、SVDもまたリー・エンフィールドを崇拝している人形の一人なのだ。もしここで秘密がバレるリスクがあったとしても、SVDはリー・エンフィールドの意思を優先してしゃべっただろう。

 

(お、終わった…………完全に……終わった…………)

 

絶望のあまり呼吸が完全に止まる。次の瞬間には自分は死んでいてもおかしくないと、そう本能的に理解してしまった。

走馬灯のような記憶が思い浮かぶ余裕すらない恐怖。リアルな死のビジョンがWA2000の頭に思い浮かんだその時、SVDは口を開いた。

 

「ええ。その通りです。彼女は仕方なく従っていました。気を許しているようにも見えましたが、演技でしょう」

 

(え?)

 

WA2000は自分の聴覚を疑った。SVDが何と発言したのか理解できなかった。

 

「そうか、それならば仕方ない。場合によっては罰が必要かと思っていたが、その必要もないな」

 

(私は…………助かった…………? なんで…………?)

 

SVDの言葉を聞いたリー・エンフィールドから徐々に殺意が薄れていく。それと同時にWA2000の感覚を支配していた恐怖は全て疑問へと変わった。

 

(なんで…………なんでこんなことが…………)

 

ただただ困惑し、SVDを見つめる。その視線に気付いたのか、SVDとWA2000の二人の視線が交差した。

 

「!!」

 

SVDは微笑を浮かべていた。その表情を見た瞬間、WA2000の脳裏にある会話が浮かび上がる。

 

 

『どうかしたか? 私の顔に何か変なところでも?』

 

『いや…………お前は…………』

 

 

あの時指揮官はSVDの『何か』を疑っていた。その後すぐに気のせいだということで落ち着いたようだが、WA2000は確信した。

 

(何かが……このSVDは何かが……違う!)

 

指揮官の感じていた違和感はやはり間違いではなかった。具体的にどこが違うのか、何が違うのかはハッキリとはわからない。しかもあまりにも漠然としすぎていてすぐに勘違いかと思ってしまいそうだった。

しかし確実に何かが違う、そう疑わずにはいられなかった。

 

そもそもこの状況でSVDがWA2000をかばう理由などどこにもないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってぇ…………素手でぶん殴ってくるんだもんなぁ……ここの基地だとそれが普通なのか? 全く気が荒いなほんと」

 

森の中、リー・エンフィールドの拳によって殴り飛ばされた指揮官は腰をさすりながらゆっくりと体制を起こした。

 

「こりゃあ本気出さねぇといけないやつかなぁ。まさかここまでのレベルだったとは。予想が甘かったか」

 

無防備で食らったかのように思えた一撃だったが、彼の反射神経はしっかりと間に合っていた。拳が身体に当たる瞬間に自身で地面を蹴ってそのまま勢いに身を任せ、衝撃を上手く受け流していたのだ。また、木々への衝突も全て受け身をとって負担を最小限まで減らしていた。

とはいえあまりの勢いには逆らえず、最終的には地面に激突し転倒することになってしまった。傷は浅かったが、ダメージは受けてしまったこともまた確かだった。

 

「一応これで正当防衛の言い訳がたつだろ。随分なめられてるみたいだし、ここらでガツンと一発返してやりますかね」

 

立ち上がり、基地の方向を見据える。かなり離れてしまったが、この程度なら気にはならない。

 

「にしても、俺とやりあえるぐらいの奴なんて久しぶりだな。あれ、そういや第一部隊の他の奴はどうなんだ? 流石にあれと同レベルが四人ってなると骨が折れるけどなぁ」

 

 

「ま、その時はその時か」

 

 

不敵な笑みとともにそうつぶやくと、指揮官は地面を蹴り思い切り跳んだ。

 




友達にエースコンバット勧められたんだけど買おうか悩むなぁ。


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第五話 過去

「っ!」

 

リー・エンフィールドがその異変に気付くのは早かった。

それは彼女にとって不思議な感覚だった。基地で最強であり、作戦でもあらゆる戦闘で負けなしの彼女が普段感じることのないものだったのだ。

 

「まさか…………まだ死んでいない?」

 

殴り飛ばしたはずの指揮官が死んでいない。全く考慮していなかったその可能性にリー・エンフィールドはようやく気付いた。そしてその直後気配を察知し完全に理解した。

自身の敵がまだ死んでいないことを。

 

「よお、随分と吹っ飛ばしてくれたじゃないか」

 

「貴様…………」

 

指揮官は何ともないような様子で基地に、リー・エンフィールドの目の前に戻ってきていた。予想外の事態に驚いたリー・エンフィールドだったが、思考の切り替えは早かった。

 

「どうやらただの人間ではないようだな。貴様、何者だ」

 

「何者って……俺はこの基地に配属された指揮官だ。要するにお前の上司、それ以外の何者でもねぇよ」

 

「認めると思うか? この私が」

 

「認めてもらわなきゃ困る。そのために俺は来たんだ。」

 

短い会話だった。しかしそれだけで十分だった。あっという間に二人を包む雰囲気は乱気流のような荒々しいものへと変わり、殺意と闘気が周囲に広がっていく。

他の者の介入を一切許さないほどの格の違いに、周囲で見ていた人形たちは恐怖に顔を歪めた。リー・エンフィールドの登場に腰を抜かしていたWA2000も息苦しさを覚え、ゆっくりと距離を取っていく。

 

が、その二人の戦いに参戦しようという者たちがいた。

 

「!!」

 

自分に向けられる殺意を感じ取り、指揮官は体を動かした。その瞬間指揮官の立っていた場所に無数の弾丸が撃ち込まれる。

 

「百式に……FAMASか、まあそうなるわな」

 

第一部隊の構成員である二人、百式とFAMASはリー・エンフィールドに代わるかのように射撃を続けた。息の合ったコンビネーションで、徐々に指揮官を追い詰めていく。

 

「この基地に……人間はいらない!」

 

「逃げるだけの力はあるようですが、いつまで逃げていられますか?」

 

流石というべきか、基地に残っている人形たちとは戦闘能力が桁違いだった。圧倒的な速度で逃げ回る指揮官に離されることなく追尾を続け、常に指揮官の行動の先を読んで弾丸を発射する。複雑な動きをしながら精密に照準を合わせることは難しいはずなのだが、それをいとも簡単にやってのけている。

だが指揮官は冷静に二人の攻撃をかわし続けながら、視線を動かしていた。

 

「…………こっちだな」

 

ふいに指揮官がそうつぶやいた瞬間、指揮官の背後に榴弾が投げ込まれた。完全な死角からの投擲だったが、指揮官は反応しきった。驚くべきことに、投げられた榴弾そのもの地面に落ちる前に振り向いて受け止め、適当な方角へ投げ飛ばしたのだ。

 

「なっ!」

 

「あぶねぇぞSOPMOD。基地の中でそんなもん投げんなよ」

 

全く慌てた様子もなく、涼しい顔でSOPMODにそう告げると指揮官は視線を他の二人へと戻した。投げ飛ばされた榴弾が基地から離れた場所で爆発する音が遅れて届く。その音を聞いてSOPMODはようやく我に返った。

そこからは不意打ちを冷静に返され怒りを露わにしたSOPMODも射撃に加わったが、指揮官はそれでも動じない。弾幕の密度は圧倒的に濃くはなったが、それすら感じていないかのような華麗な動きで弾丸を右へ左へと避けていく。

 

「もー! なんで当たんないのこいつ!」

 

「動きが……早い……」

 

「とても人間とは思えませんね。まさか…………」

 

「お、流石に感がいいな。まあそのことについては落ち着いたら話してやるよ」

 

「くっ…………これでもまだその余裕を保っていられますか?」

 

「ん?」

 

徐々に焦りが見え始める三人だったが、それでも連携は崩れない。豊富な戦闘経験の影響なのか、弾丸は外れこそするものの、全て指揮官の肌をかすめている。

FAMASは意味深な一言を指揮官に告げると、他の二人に目配せした。二人はFAMASの考えをアイコンタクトで読み取ったのか、即座に行動に移す。

素早く移動しついた配置は上空から見れば三角形。同じ方向から追いかけるようにして組んでいたフォーメーションを変更し、指揮官を囲みこむことにしたのだ。

 

「おいおい、あぶねぇぞ? 弾当たるぜそれ?」

 

「そうやって言っていられるのもここまでだ!」

 

SOPMODの一声とともに三人は動き始めた。先ほどよりもさらに速度が速い。

本来、銃撃戦で敵を囲むという行為自体リスクがあるものだ。何故なら味方同士で向かい合って発砲することになるため、最悪の場合味方に流れ弾が当たることになるからだ。規模の大きく地形をまたぐような包囲ならまだしも、今第一部隊の三人が行おうとしているのは完全に至近距離での包囲。少し間違えば互いを傷つけあうことになってしまう。

しかし、それはただの杞憂に過ぎなかった。

 

「!!」

 

流石の指揮官もこの連携には息を呑んだ。逃げ場をなくすために高速で動きながらの銃撃。本気で指揮官の命を狙いながら、味方の攻撃に被弾しないように動ききる立ち回り。並みの戦術人形ではいくら訓練してもこれほどの実力はつかないだろう。

味方同士で撃ちあうことにならないか避けながら気にしていた指揮官だったが、その余裕も徐々になくなっていく。三人が少しずつ包囲を狭めてきていたため、避けるために動けるスペースが狭くなってきていたのだ。

 

「おっと……これは……」

 

指揮官の表情が険しくなる。包囲から抜け出そうにも陣形に隙は見あたらない。弾丸の雨を掻い潜りながら脱出するのは不可能に近いだろう。

そして範囲が狭まっていったある瞬間、三人は指揮官への着弾を確信した。確実に避けられない三方向からの弾丸が確実に指揮官を捉えたのだ。

三人は極限の集中力によって、弾丸がゆっくりと動いているように見えていた。人間の集中力が限界まで研ぎ澄まされたときに起こる『ゾーン』と呼ばれる状態に近いもの、それが人形たちにも存在していたのだ。弾丸はゆっくりと指揮官に吸い込まれるかのように三方向から迫り、完全に指揮官の胴体を捉えていた。

 

 

が、

 

 

「ここまで」

 

 

「「「!!!」」」

 

いつの間にか、指揮官は範囲の外へと抜け出していた。

 

「そんな……いつの間に……」

 

「ありえない…………」

 

弾丸は当たらなかった。あまりにも早すぎる、いや、もはや速度の問題なのか判別すらできないその出来事に、三人は何が起こったのかわからなかった。何故指揮官が弾丸に当たることなく包囲を抜けることができたのか、感覚を研ぎ澄ましていたはずの瞬間になぜ指揮官の動きを見逃したのか、三人は理解することができず、ただ茫然とその現実を受け入れるしかなかった。

 

「いや~流石に強いなお前たち。いい戦力になってくれそうだ。やっぱ他の人形たちとはレベルが違うな」

 

耳に入ってくる指揮官のそんな言葉も、驚きのあまりぼんやりとした意識の中では他の言語のようにすら聞こえた。

三人は茫然と立ち尽くしたまま動くことができずに指揮官を見ることしかできなかった。これ以上攻撃を仕掛けたところで、何か起こせるとは考えられなくなってしまったのだ。

 

「やはり人間ではないの、お主」

 

そんな放心状態の三人とは違い、戦闘の様子を離れた場所から伺っていた第一部隊最後の一人、M1895は静かにそうつぶやいた。

 

「おう、お前は参加しなくてよかったのか? なんだったら相手するけど」

 

「そんなことせんでもお主の動作でわかる。わしらの手には負えんよ。なんとかなるとしても隊長ぐらいのもんじゃろう」

 

「流石に年の功ってか? お前の実力も見ときたかったんだがな」

 

「わしは作戦で疲れておるからのう。若いわけでもないし、もう体力は残っとらん。それに、わしなんかよりもふさわしい相手がいるじゃろう」

 

M1895の視線の先にはリー・エンフィールドがいた。初めのうちは他の三人同様に射撃を狙ってきていたが、途中からから様子を伺っていたのだ。

 

「身体を改造しているのか……貴様……」

 

「鉄血のせいでな。なんとか機械で命をつないでる状態だよ」

 

「嘘をつけ。貴様のそれは明らかに強化だ。大方、本部の管理外である我々への対策として製造されたといったところだろう」

 

「いや? これは単純に俺の趣味だよ。お前たちに後れを取らないようにってな」

 

「なんとでもごまかせばいい。貴様のような危険な存在をこの基地で生かしておくことができないことに変わりはない」

 

「信じてくれねぇか……ま、そのうちわかってもらえばいいか」

 

再び不穏な空気が周囲を包み込む。戦意を喪失してしまった三人と、ただ静かに見守るM1895。そして遠くからは基地内のほぼ全ての人形たちが、二人の様子を固唾をのんで見守っていた。

一方は突如として現れた規格外の元人間。素性も正体も何もかもわからないまま基地にいきなり現れ、その圧倒的な戦闘能力で人形たちをいなし続ける謎の男。

もう一方はこの基地が誇る最強の戦力。人間殺しの戦術人形。基地そのものを指揮し管理するこの基地の頂点にして反人間思想の原点ともいえる存在。

両者が本気で激突したとき、いったいどうなってしまうのか。誰も先を予想できないその一触即発の空気に、人形たちは恐怖すら感じていた。

 

「「!!」」

 

二人は同時に動き出した。

リー・エンフィールドは銃を構えた瞬間に発砲し、指揮官はそれを読んでいたかのようにステップを踏みながら距離を詰めようとする。が、圧倒的なレベルの一発一発が絶妙に牽制の役割を果たし、二人の距離はなかなか縮まらない。ライフルには次の弾を撃つまでの間が生じるものなのだが、リー・エンフィールド限界まで磨かれた射撃の腕と、五感に直接響くような明確な殺意と威圧感が指揮官に距離を詰めさせない。

リー・エンフィールドも今度は本気だ。油断を完全に消し去った鷹のように鋭い視線を見ればわかるだろう。確実に対象を殲滅するという強い意志があらゆる動作からも感じられる。

被弾はしないが、近付くことができない指揮官にリー・エンフィールドさらなる攻撃を仕掛けた。一瞬にして接近すると、戦術人形らしからぬ打撃攻撃を叩き込む。

鋭い拳の連打や、重い蹴り。指揮官はどの攻撃にも反応しきっているが、反撃の隙は無い。リー・エンフィールド攻めに防戦一方だ。

 

「流石じゃのう。あそこまで本気になっているのを見るのは久しぶりじゃが」

 

「これであの男も終わりですね。本気になった隊長に勝てるわけがありません」

 

「いや、まだわからんぞ? 理由はわからんが、あの男はまだ本気を出していないようじゃの」

 

「どういうことです?」

 

「わからん。ただ、しばらく決着はつかんということは確かじゃな」

 

他の第一部隊メンバーは戦闘に介入はしなかった。リー・エンフィールドの実力を信頼しているが故に助けが必要ないという考えがあったのもそうだが、何よりも自分たちの力では入り込む余地がないということを実感していた。

だがそれでもリー・エンフィールドの圧倒的な強さは揺るがない。防御に手いっぱいの指揮官を見て、百式、FAMAS、SOPMODはリー・エンフィールドの勝ちを確信していた。しかし他の二人、M1895と実際に戦っているリー・エンフィールド本人は、指揮官の動きがおかしいことに気付いていた。

 

「貴様、何を考えている。何故反撃してこない?」

 

「いや……そうじゃねぇよ。ここには他の奴らもいるからな。危なくて本気が出せねぇんだ」

 

その言葉が本当なのか、それともただのハッタリなのか。動きからは判断することができない。

 

「ふん。なら場所を変えさせてもらおう」

 

「!!」

 

リー・エンフィールドがそう言った瞬間、彼女の姿が消え去った。

 

「ぐっ!」

 

直後やってくる腹部への強烈な衝撃。指揮官の防御は間に合ったものの、その体は大きく吹っ飛ばされた。

 

「なるほどっ……強引だな……」

 

空中での容赦ない追撃。これも防ぎきるが、素早い連続攻撃に指揮官はさらに大きく飛ばされてしまう。

何もかもが規格外の二人の戦闘は、基地の中から森の中へと場所を移したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は本当に優秀な人形だよ」

 

「いつも助かっている」

 

「今回もお前のおかげで無事に作戦を終えることができたよ」

 

だまれ。

 

「他の者も彼女を見習うように」

 

「いつもすまないね。気を利かせてくれてありがとう」

 

「君のような素晴らしい人形と任務ができてとても幸せだよ」

 

だまれ。

 

「君に隊長を任せたいんだ。引き受けてくれるかな?」

 

「他の指揮官からも評判がいいんだ」

 

「やったぞ! 君のおかげで昇進することができそうだ!」

 

だまれっ!

 

「今度の作戦でも君が指揮を執ってくれ」

 

「頼りにしているよ。君の指導のおかげで皆実力がついてきているよ」

 

「この作戦が終わったら、君に話すことがあるんだ」

 

だまれぇええええええええええええ!!!

 

 

「どうしたリー・エンフィールド! 何があったんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

これが感情だというのなら、そんなものは必要ない。

私は兵器だ。こんなものにいつまでも縛られているべき存在ではない。

人間はなぜこんなものを必要としたのか。今でもそれはわからない。

恨みは消えない。憎しみも消えない。心に残った不要な感情はいったい何のために存在しているのか。

つらく、苦しい、終わることのないこの地獄。私は壊れるまでこの呪縛から逃れることはできないのだろう。

この感情は消えることはないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、貴様の言う通りなら本気が出せるだろう。正々堂々かかってくるがいい」

 

基地からやや離れた森の中。リー・エンフィールドと吹っ飛ばされた指揮官は向かい合う形で対峙していた。

 

「もっとも、貴様のさっきの言葉がハッタリなら、これ以上することはないだろうがな」

 

「いやいやハッタリなんかじゃないぜ? でもまさかほんとに場所を変えてくれるなんてな。やっぱ結構優しいんだな」

 

「なんだと?」

 

「まあ、一つ言っとくと、今のところ俺はお前に攻撃する気はない。厳密に言えば、お前の攻撃を俺がまともに食らうまで反撃はしない。防いだりかわしたりできるうちは俺から攻撃することはない。だからお前は安心して俺のことを殺しにくればいい」

 

「貴様…………」

 

指揮官の言葉の真意をリー・エンフィールドは考えようとした。挑発しようとしているのか、油断したところに攻撃を狙っているのか、それとも何か別の作戦があるのか。時間稼ぎともとれるので、何かを待っているのか。

いずれにせよ甘く見られていることに変わりはない。たとえ反撃を考えていたとしてもまともに攻撃を食らうほど油断するつもりは毛頭ない。

 

「何を考えているかわからんが、何があろうと私は貴様を殺す。それだけだ」

 

「今はまだそれでいいよ。俺は少し話がしたいだけだからな」

 

(何を言ってるんだこいつは? 意図がまるで読めん。何を考えているかさっぱりわからない。まさか本気で言っているのか?)

 

攻撃を再開したリー・エンフィールドは、指揮官の一挙一動に気を配っていた。不意打ちや反撃を警戒してのことだったが、一向に攻撃に転じてくる気配はない。

命を本気で狙われているのに反撃しないなどという馬鹿げた行動。あり得るわけがないと断じていたリー・エンフィールドだったが、やはり指揮官は防御に徹している。リー・エンフィールドがどんな攻撃を仕掛けても防ぎきり、攻撃をやめればただ止まるだけ。殺気、闘気、本来戦闘において相手に向けるべき気配が一切存在していない。

 

「そろそろ冷静になってくれたか? ちょっとした話がしたいだけなんだよ俺は」

 

「っ!」

 

「おいおい、止まってくれねぇと話できねぇじゃねぇか」

 

雑念を振り払おうとするかのように、リー・エンフィールドはただ無心で攻撃を続けた。だが大地を砕くほどの強烈な拳も、巨木をなぎ倒すほどの凄まじい蹴りも、あらゆるものを貫き穿つ弾丸も、指揮官には届かない。

全ての攻撃が空を切り、流石のリー・エンフィールドも体力も消耗していく。呼吸を整えようと動きを止めたところに、指揮官が口を開いた。

 

「なあ、話だけでも聞いてくれねぇか? 俺はお前らをどうこうしようとか考えてるわけじゃないんだぜ?」

 

「っ! そんな言葉信じられるか。貴様ら人間はいつもそうやって言葉で我々を都合よく扱おうとするのだからな。どうせ貴様も我々を処分するために…………」

 

「お前の一番嫌いな言葉を当ててやろうか」

 

「何?」

 

唐突に脈絡もなく発せられたその一言に、リー・エンフィールドは言葉を遮られた。

 

「このまま何を言ってもお前は聞いてくれねぇからな。少し強引な方法を取らせてもらうよ」

 

「…………」

 

どんな方法で説得されようと意思を曲げるつもりはないと覚悟を決めていたリー・エンフィールドだったが、直後発せられた一言に忘れていたある感情が浮かび上がる。

 

「『   』だろ。お前の一番嫌いな言葉」

 

「!!!!!!!!!!!!」

 

瞬間、明らかにリー・エンフィールドは動揺し始めた。呼吸が不規則になり、体の重心もぶれ始める。

 

「やっぱりか」

 

「だまれ、だまれ、だまれだまれだまれだまれぇえええええええええええええええええええええええ!!!」

 

激高とともに指揮官に飛び掛かるが、冷静さがなくなった分動きは単純になっていた。指揮官は軽く拳を受け止めると、ゆっくりと抑えこんだ。

 

「俺の言葉を信じてくれねぇのは、お前の過去にそれなりの事件があったからだと思っている」

 

「貴様まさか……知っているのか? あの男のことを……」

 

「ああ、調べられるだけのことは調べてる。それでも、当事者であるお前にしかわからないことがあるのは確かだ。だから腹割って話そうじゃねぇか。お前の過去について」

 

「くっ…………」

 

落ち着いて語り掛けるような指揮官の口調に、ついにリー・エンフィールドは話し合いに応じた。

異常なまでの人間への憎悪の原因となっている過去の事件。人間を憎むことになったきっかけとなる事件に、指揮官は踏むこむことにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、この基地に所属してる全人形の経歴を調べた。お前も知ってると思うが最前線基地の本当の目的は反人間的な人形をまとめて管理すること。要はお前ら人形が反抗した際、まとめて処理するために集めておく施設。俺的には扱いがめんどくさい人形がいても各基地に散らばらせとけばいいんじゃねぇかと思ったんだが、本部はそうは考えなかったみたいだな。

ん? なんでそこまで知ってるのかって? まあ後でWA2000にでも聞いてくれ。俺にもいろいろ事情があるんだ。

で、そんなやばいやつらの中でもお前は特にずば抜けて強かったわけだ。だから本部も警戒はしてたみたいだが、あの事件で完全に危険視されるようになった。そう、お前が最前線基地の前任だった指揮官を殺しちまった事件だ。それ以降本部はずっとお前のことをなんとかしなきゃと考えていた。

だが、俺はどうしても腑に落ちなかった。お前は知らなかっただろうが、前任の指揮官と俺は親友っつってもいいような間柄でな、お前のことも含めて最前線基地のことはいろいろと話を聞いてたんだ。で、話を聞く限りじゃお前も他の奴らも人間のことを恨みさえすれど、殺すほどのことはしない感じだった。だからお前があいつを殺したこと、しかも事故に偽装までしたっていうのを知った時は変な違和感があった。

それでも俺の勘違いだっていう可能性もあったからな、さっきまで少しお前の攻撃を食らってみたわけなんだが、やっぱり妙なんだよ。確かにお前からは殺意や闘志を感じた。けど、人間を殺せるとは思えない。

 

どうもお前の攻撃は、俺の実力が高いとわかって安心して撃ち込んできてるようにしか見えなかったんだ。

 

本気で殺そうとしてたって? じゃあ無意識だったのかもな。

とにかくお前はそこまで狂っちゃいない。なら何か別の原因があるはずだ。例えばお前の過去、かつて所属していた基地での事件とかな。

ああ。あの事件のことは調べた。けど、それも理由としても足りないと思った。だから教えて欲しいんだ。

 

お前だけが知ってる、あの事件の真実をな。

 

ん?ああそうか。まあやっぱり話したくはないだろうな。さっきからの仕草を見てれば誰だってわかるだろうよ。酷い顔してるぜ? よっぽどのトラウマなんだろうな、それほどの出来事を直接お前の口から聞き出そうっていうのも酷だ。

だからお前は俺の考えた仮説を聞いてくれればいい。お前の反応で合ってるかどうか考えるよ。それぐらいならいいだろ?

よし、じゃあまずは当時の状況から行くか。お前が所属していた基地は鉄血との接触も多く、それなりに作戦や戦闘の数も多いところだった。で、やっぱりお前はその中でも優秀な人形だった。

いや、これは資料とかからだな……え? あーわかったわかった。なるべく省略はするって。

えー、で、お前は基地の中でも憧れの存在、副官を務めて指揮官からの信頼も厚く、優秀な二人組として他の基地の指揮官にも評判が良かった。お前の活躍は目覚ましく、指揮官は昇進を重ね、順調に基地の戦力を強化していったと。

でも、本当はそうじゃなかったんだろう? 

おそらくこの指揮官ってのは外面だけはしっかりしてるけど結構雑なところがあるタイプだ。こいつが上げた報告書にも一通り目を通したが、ありゃ間違いなくほとんどお前が書いたやつだ。明らかに文章が適当なのが混じってたから、それが恐らく直接書いたやつだな。大方執務の大半を人形たちに任せるような屑だたんだろ? 違うか? まあ、そうだろうな。

で、そんな指揮官の元だったが、お前はしっかりと役割を果たしていた。作戦の成功に貢献するのはもちろん、他の人形たちの指導にも余念がなかったそうじゃないか。おかげで当時基地にいた人形たちは強くなり、基地はますます強化されていった。

ここまでだったらよかったんだろうな。けど、事件は起きちまった。

鉄血掃討のための大規模作戦。それに指揮官が抜擢されてしまったと。本部から見た評価は高かったわけだからな、当然と言えば当然だ。実際はほとんど優秀な部下の成果だったのに、それが外部に知られていなかったんだからな。しかも作戦の中でも特に大きな戦闘が予想されるエリアを任され、なおかつその指揮を執ることになってしまった。

焦っただろうな。人形たちに任せっきりだったんだから。

しかし断るわけにもいかない。表面上はこれまで通りうまーく取り繕って、なんとか上手いこと問題を起こさずに作戦が終了することを祈ったわけだ。

その結果、ずさんな指揮のせいで作戦は大失敗。グリフィンは大きな戦力を失うことになった。

でもそこで屑指揮官に罰則はなかった。なぜなら全部お前のせいになったから。

 

『部隊長だったリー・エンフィールドが私の指示に従わなかった。そのせいで統率が乱れ部隊が壊滅した』

 

報告上ではそうなってる。実際はそうじゃないのにな。

何とか生き残ったお前に残された屈辱がどれだけのものだったか、正直俺には想像することしかできねぇ。それ以降お前が変わっちまったこともわかる。

けど、本当はもう少し何かあったんだろう?

確かに許していいことじゃない。けど、それだけならお前にもやりようがあったはずだ。お前は他の基地にも知られるぐらい有名だったし、何より聡明だった。恨みを晴らしたり、事実を告発することはできたはずだ。それに作戦後に弁明の機会はいくらでもあったはずなんだ。

けど、お前は何もしなかった。動いた形跡は残ってなかった。抹消された可能性も考えて調べたが、それでも何も出てこなかった。

何かがあったんだろう。お前が絶望してしまうような何かが、お前ほどのやつが諦めてしまう何かが、報告には載ってないお前しか知らない何かがあったんだろう。

簡単に話せるようなことじゃないだろうが、時間はかかってもいいんだ。俺はお前の上司として、それを知る義務があると思ってる。

だからまずは俺を信頼するところから始めて欲しいんだ。もちろん、急にとは言わない。ただ、今のお前は問答無用で俺のことを殺しに来てるから、それをやめて欲しいんだ。せめて俺がどんな奴かぐらいは知ってほしい。

もしそれでも俺のことが、人間が許せないっていうなら、その時こそ俺を殺しにくればいい。それでどうだ?

お前は誰かを殺したりするようなやつじゃない。己の正義を持つ誇り高き存在だ。まだちょっとしか話してないが、それでもわかる。基地のやつらの話を聞いててもわかる。

俺はお前を信じる。だから、お前も俺のことを信じてくれ。ちょっとでいいんだ。

 

 

 

 

指揮官の言葉を、リー・エンフィールドは噛みしめるように聞いていた。真剣な眼差しに視線を合わせることができず、目をそらし、ただ空を見ながら考えを巡らせていた。

返事はない。ただ沈黙が二人を包み込み、時間だけが過ぎていった。




カルカノ妹出ないんですけど。


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第六話 決着

『ああ。今のところ問題は起きていない。特に心配するようなこともないだろう』

 

最前線基地内部。資料室のとある一角で、何者かと会話するものが一人。手にはトランシーバーのような通信機器が握られており、そのコードは近くの本棚へと伸びている。

 

『私のこともバレてはいない。今のところ彼女たちにも動きはないし、まだ集まる必要は…………ん? そこまで心配であれば私と同じようにここに来てもいいがな。果たしてバレずに過ごせるか?』

 

多くの資料が保管されている資料室だが、普段利用するものはほとんどいない。作戦に必要な情報を集めるために使われることはあるが、基本的には作戦を立案し支持する指揮官が使用する部屋であり、人形たちには縁がない場所なのだ。

そのため今現在他に人影はない。小さくはない声だが、誰にも聞かれてはいないだろう。

 

『ああ……ああそうだ。引き続き調査を進めてくれればいい。私はしばらくあいつの様子を見よう。相変わらず無茶ばかりしているから見ていて退屈することもないしな』

 

一通り会話が済んだらしく、通信機の電源を切ろうと手を伸ばす。しかしそこで何かを思い出したのか手を止め、最後にこう告げた。

 

『一人だけ、マークしておかなければいけない人形がいる。スプリングフィールドだ』

 

その一言を最後に、通信は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人を包む沈黙は永遠に続くものかと思われた。だが長い思案の末、リー・エンフィールドは口を開いた。

 

「できない。お前を信用することはできない」

 

「っ…………そうか…………」

 

そこで二人の雰囲気はまた険悪なものへと戻ってしまう。

指揮官は何も聞き返すことはせず、ただ悔しそうな表情を浮かべるだけだった。目の前のリー・エンフィールドから視線をそらし、拳を固く握る。

 

「お前は…………人間だ。体が機械になっていようと人間だ。人間は信じられない。私は人間を信じることはできない」

 

「リー・エンフィールド…………お前…………」

 

「何があろうとこの先それは変わらない。たとえお前が何度説得しようと、どれだけ誠実に振舞おうと、他の人形たちから慕われることになろうとも、私は壊れるまでお前を信じるつもりはない」

 

「……………………」

 

「さあ今度こそかかってくるがいい。それともまだ私に攻撃をしないなどと言うつもりか? なら貴様が反撃できるように攻撃を当ててやろう」

 

リー・エンフィールは圧迫感すらある闘気を放ちながらそう言い放つと、指揮官へと肉薄し攻撃を繰り出した。

 

(くっ! 重ッ! なんて威力だ…………)

 

防いだ指揮官は衝撃を殺しきれず後方へと飛ばされてしまう。禁句を言われ激情に駆られていた先ほどよりもその威力は数段上がっていた。

 

「私のことを随分と調べたようだが、その程度で何がわかる! 私の何がわかる!」

 

「くっ…………」

 

「そうだ……私は裏切られた! 貴様の言う通りかつての指揮官に裏切られた! だから人間が憎くてたまらない!」

 

「そんなに…………ッ! ショックだったのか? にしても…………優秀だったお前を……裏切るなんてな!」

 

「ふっ、貴様に想像できるか? これまで部下として従い、尽くしてきた相手にあっさりと切り捨てられるあの気持ちが! 私が提案した撤退を却下し、その上で部隊が損害を受けると手のひらを返し私を責めたあの人間への怒りが! 貴様にわかるか!」

 

「ぐっ…………そいつは随分と…………いや、俺にはわからねぇな……経験したことは…………ねぇよ」

 

「そうだろう……貴様にわかるわけはない…………あの絶望と虚無感が……貴様などにッ!」

 

その一撃一撃はさらに研ぎ澄まされ、どんどん威力が増していた。早く、そして重い攻撃を指揮官は捌こうとするが、かわし切ることはできない。何とか防ぐことができても、ダメージは少しづつ蓄積していく。

 

「目の前で仲間たちが大勢死んでいった! 救えた者たちが! 失う必要の無かった者たちが! 私の目の前で助けを求めながら敵にやられていった! なのにあの男は最後まで撤退を許さなかった! 私たちを捨てたんだ!!!」

 

それがどれだけ非人道的な行為なのか、それがわからない指揮官ではなかった。

 

「自分の保身のために我々を捨て! その責任は全て私に被せ罪を免れた! 口では信頼しているだの助かってるだの甘い言葉を吐いていたくせにだ! 最後の最後で全てを裏切った!」

 

戦術人形を指揮するグリフィンの指揮官の中には様々な考えを持つ者がいる。人形を家族のように大切に扱う者も入れば、その逆に酷使する者もいる。だがいくら人形を軽んじていたとしても、そこまでのことをする人間というのはいったいどれだけ心が腐っているのだろうか。

 

「人は信用できない! 我々とは違う! 平気な顔をして嘘をつき、騙すことも躊躇わない! 誰だけ信用していようと裏切られる! 醜く汚い存在だ!」

 

「ッ! だからってよ、人間を殺すことはなかったんじゃねぇか? お前を裏切った指揮官本人ならともかく、あいつは…………」

 

「黙れッ! 人間は我々の敵だ! あの男も例外なく我々の敵だった! だから殺した!」

 

「そんなこと…………そこまでお前は…………」

 

 

『みんな優秀でいい子たちばっかりさ。なんであそこに来ちまったのかわかんねぇやつもいる』

 

 

(あいつはそんな考えを持ってるような奴じゃなかった)

 

 

『中でもそうだな…………リー・エンフィールドは特に優秀だな。お前も知ってると思うけど、元々誇り高いっていうか、まじめな性格なのに加えてうちのところのはめちゃくちゃ強いからな。いつも助かってるんだ』

 

 

(人形だからってないがしろにするような奴じゃなかった。絶対にだ。何か琴線に触ることでも起きちまったのか? 禁句にでも触れちまったのか?)

 

目の前で怒りを露わにするリー・エンフィールドからはその真相を知ることはできない。彼女の怒りは本物だった。

 

「だけど……俺は違うぞ! 俺は他の奴らとは違う! 絶対にお前たちを裏切らない!」

 

「いまさらそんな言葉が信じられるか! どんなことをしようと信じないと言ったはずだ!」」

 

「くっそ…………」

 

(そうか…………崩れちまったんだな。お前の中の信頼は)

 

防ぎ、受け、かわし、いなす。

防御に徹してるのは変わらないが、もうほとんど余裕はない。説得しようにも、難しいことは確実だ。

 

(最初はお互い他人のようなもんだからな。初めて会って、話して、作戦を一緒にこなしていく。その過程で信頼が積み重なっていく)

 

「どうした! これでもまだ反撃してこないつもりか!」

 

(いろいろあっただろう。俺の知らないことがたくさんあったんだろう。お前は苦しみ続けたはずだ)

 

「はぁああああああああああああああ!」

 

(なんでもかんでも人形たちに任せっきりにするようなやつでも、悪いところしかないわけじゃなかったんだろ? だからお前はついていくのをやめなかったんだろ?)

 

遂にリー・エンフィールド渾身の一撃が、指揮官を完全に捉えた。回避が間に合わなかった指揮官は両腕で防せごうとするも、強烈な攻撃はガードを弾き飛ばし、指揮官は巨木に激突した。

 

(信頼関係があったんだ。お前はあの指揮官を信頼し、あの指揮官もお前を信頼してると思ってた。きっとそうなんだ)

 

衝撃で肺の空気が押し出され、呼吸がままならなくなり激しくせき込む。そんな指揮官へリー・エンフィールドはゆっくりと近づいてくる。

 

(揺るがないもんだと思うよな…………一生変わらないもんだと思うよな…………)

 

「これでもまだ防いでいるつもりか? それとももう体力が残っていないのか?」

 

(誰かが悪いわけじゃねぇ……誰も悪くねぇ…………原因なんてどこにもないのに、それでも起っちまうことがある…………)

 

「まあいい、これで最後だ」

 

(考えてもどうしようもないこと……それが起きちまうんだよな。どんだけ後悔してもどうしようもないことが…………)

 

リー・エンフィールドは銃を構え、照準を指揮官の頭部へと定めた。機械化していない人間の部分であり、弱点ともいえる場所だ。

 

(でもどうしたらよかったのか……わからないんだろ? 考えても答えが見つからないんだろ?)

 

「死ね」

 

 

 

「だからお前はまだ信じてるんだ」

 

「!!」

 

指揮官のそのひとことに、驚きのあまりリー・エンフィールドは引き金に込めようとしていた力を抜いてしまった。

指揮官はゆっくりと言葉を続けた。攻撃を受け切り呼吸は乱れてはいたが、その言葉には確かな力強さがあった。

 

「お前は……まだ全てを諦めちゃいない……まだ心の奥底で信じてるんだ…………」

 

「なっ、何を言っている? 貴様何を…………」

 

「本当に諦めちまったやつってのはな、感情が消えちまうんだよ。何もかも諦めるからだ。だけどお前はまだ人間を憎んでる。そこに矛盾が生じてたんだ」

 

「矛盾だと? それはどういう…………」

 

「俺は言ったよな? 俺と戦ってる時のお前は、どこか安心してるようだって。俺に遠慮なく攻撃を叩き込めるのは俺の実力を見切ってるからだって。今それが確信に変わったよ。お前はまだ人間を信じてるんだ」

 

指揮官のその言葉に、リー・エンフィールドの中で動揺が広がっていく。構えていた銃を下ろし、反論しようと口を開くが肝心の言葉は出てこない。

そこに指揮官はさらに続けた。

 

「昔よ……ほんとに俺がまだ小さかったころだ。近所にいた友達の両親が事故で亡くなってよ。確か遠くで壊滅した鉄血の部隊の残党が町まで入ってきてて、そいつが原因だった。自爆したんだったか、銃を乱射したんだったかは覚えてねぇが、その事件でその友達の両親は死んじまったんだ。当然悲しんでたさ。何日も家から出てこずに泣き続けてたって聞いた。で、そいつとしばらくしてから会った時、どうなってたと思う?」

 

「な…………何の話を…………」

 

「そいつは感情を失っていたんだよ。あまりの絶望でこの世の全てを諦めて、全てを受け入れていたんだ。そこからはどんなに理不尽なことが起きようと顔色一つ変えなかった。悔しがりもしないし悲しみもしない、喜びもしないし怒りもしない。わかるか? 諦めるっていうのはそういうことなんだよ」

 

「感情を……失う…………?」

 

「人も人形も同じだ。感情っていうのは反応なんだ。喜びを知ってるから悲しむし、失敗を知ってるから成功を求めるんだ。けど、諦めたやつは何も感じない。成功しようが失敗しようがそれが当たり前だと、そう定められているものなんだと諦めちまうから何も感じないんだ。お前はどうだ? まだ感情はあるだろう?」

 

 

「まだ、信じているんだろう?」

 

 

「くっ…………黙れ! 黙れ黙れ黙れ! 信じてなどいるものか! 人間など信じるものか!」

 

「じゃあ何故お前は諦めていない! 何故人間絶望するのか、何故人間に憎しみを抱くのか! それはお前が心の奥底でまだ人間という存在を諦めていないからだ! 人間に対する信頼というものを、信じているからだ! 本当に信じていなかったら、人間に対して全てを諦めていたら! 人間に対する感情なんてとうに無くなっているはずだ! 俺に対してだって何とも思わないはずだ! 」

 

「それ以上口を開くな! さもなくばお前を殺す! この銃で眉間を撃ち抜いて、今度ころ本当に殺す! それ以上何もしゃべるな!」

 

「いいや俺は死なねぇよ! 弾丸ぐらいなら掴んで止めてやるし、殴ってきても防ぎきる! いくらでもかかってこい!」

 

「き…………貴様!」

 

「お前が認めないっていうならそれでも構わねぇよ。けどな、何度でも言ってやる。お前はまだ諦めちゃいない。信頼っていうものをまだ信じてるから人間を憎んでるんだ。本当は信じたいのに、過去の事件でそれができなくなった。だから憎い、だから悔しい、だから許せない。だから俺はお前を信じるよ。お前に信じてもらえるように努力するよ」

 

 

 

「それが俺の、指揮官としての義務だ」

 

 

 

その一言に嘘はなかった。瞳が、態度が、それを語っていた。

認めたくはない、しかし嘘ではないのだと直感的に理解してしまう。リー・エンフィールドは何度も否定しようと意識をするが、上手くいかない。

この男は本気で言っている。命を狙ってきた相手に、人間に殺意を持っていた自分に対して本気で信頼を求めている。そう疑えず信じてしまうほど、言葉には力があった。

 

「私は…………私は…………」

 

突きつけられた自身の矛盾。その事実にリー・エンフィールドは考えを処理することができなかった。

自分の人間に対する憎しみは本物だった。しかしだとしたら、指揮官の言う通り自分はまだ人間という存在を完全に諦めていないということになってしまう。逆に偽の感情であったと解釈すれば、それでも信頼を諦めていないということになる。

ここから感情を捨てることは選択肢にはない。ということはやはり自分は人間を信じているのか。認めるしかないのか。

いつの間にかリー・エンフィールドは銃を取り落としてしまっていた。消えるはずのなかった敵意や殺意は迷いの中へと消えた。

そんなリー・エンフィールドに、指揮官は優しく言葉をかける。

 

「簡単に認めてもらえるとは思ってねぇ。正直、お前のされたことってのは許していいことじゃねぇし、いくら謝っても済まないほどのことだ。そんなお前にこんなことを言ってる俺もかなり酷いやつかもしれない。けど、それでも信じて欲しいんだ。とりあえず初めに俺だけでもいい。他の人間は今まで通り嫌ったって構わない。だけど俺だけは、これから一緒に任務をこなしていく俺だけは、信じてみてくれねぇか?」

 

「わからない…………私にはわからない! 仮に貴様の言う通りだったとして、私が……私がまだ人間という存在を諦めきれていないのだとして、本当にそうだったとしても! 私は貴様の友を殺し、貴様の命を狙ったんだぞ? 何故そんなことを言える? 何故信じようと思える? 私には…………どうしても……わからないんだ…………」

 

「リー・エンフィールド…………」

 

「いくら私が戦力的に役に立つとしても、人間への憎しみが無くなる可能性があったとしても、私は人間を憎んでいた! ひょっとしたら、信じたふりをして、貴様の隙を伺ってまた殺そうとするかもしれないんだぞ? そんな危険な人形を、貴様は信じるというのか?」

 

「当たり前だ」

 

「!!」

 

即答だった。その答えまでに間は無く、そして一切の迷いも無かった。

指揮官はリー・エンフィールドの肩に優しく手を置くと、優しく微笑んだ。答えの全てがそこに集約されていた。

 

「お前は何があろうと俺の大切な部下だ。だから絶対に裏切らないし、見捨てたりもしない。もちろん基地の人形全員そうだ。もし俺が部下に殺されるっていうなら、それは俺の実力不足だ」

 

「あ…………あぁ…………」

 

「それに、上に立つ者の一番重要な役目は指示することじゃなくて守ることだ。お前たちを守るのが俺の役目。だから俺はお前たちのことをしっかり守るぜ」

 

その言葉に、リー・エンフィールド遂に言葉を失った。顔に手を当て、嗚咽を漏らし泣き始める。

指揮官は少し迷うそぶりを見せたが、リー・エンフィールドを抱き寄せるとそっと抱きしめた。

 

彼女はもう『捨て駒』ではない。指揮官にとっての信頼できる仲間となったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

その後完全に和解した二人は基地へと戻り全人形を集めて緊急の集会を開いた。

まず二人の戦いに完全な決着がついたこと、そしてリー・エンフィールドから直接指揮官としてこの基地の全権を託すことが伝えられた。中にはそれでも不満を持っていそうな人形もいたが、リー・エンフィールドには逆らえないようで、なんとか収拾はついた。

その後幹部会ということで第一部隊のメンバー、それからWA2000や他一部の人形を集めての話し合いが行われ、今後の方針が定められた。

 

「俺がここに集めたメンバーは、取り合えず全面的に信用しようと思ってる。この基地にはまだ警戒しなきゃいけないやつらがいるから、俺はしばらくそいつらを何とか説得できないか動いてみる。その間本部からの作戦命令は基本的にリー・エンフィールドとWA2000に任せることにする。俺も指示は出すが、そこまでうるさく言うつもりはない」

 

「面白いことを言うのぉ。WA2000からお主のことは聞いたが、それでは我々第一部隊が帰還する前とやっていることが変わらんではないか。せっかく我々第一部隊と隊長を説得することに成功したのにそれでよいのか?」

 

「ん? 別にお前らに損はねぇだろ? 俺は今のままでいいし。まあ、何か大規模な作戦やることになったらその時は流石に指揮執るかもしれねぇけどな」

 

「ふふふ、やはり面白いの、お主」

 

「そうか? 普通だろ?」

 

「まあ、わしは何でもよいがの。お前たちもそうじゃろう?」

 

その呼びかけに皆が頷く。もはや反対する者はいなかった。

 

「よし、じゃあ決まりだな。宴会でもするか!」

 

「「「「「「はい?!」」」」」」

 

指揮官以外の全員が一斉にそう驚いた。何を言っているんだこいつはと言わんばかりの表情だ。

 

「親睦を深めるためによ、みんなでパーッと騒ごうぜ?」

 

「ちょっと! あんたそんなこと…………」

 

「じゃ、これが最初の指揮官命令だ。みんなで宴会すんぞ。反対の奴は今夜の飯抜きな」

 

「なっ…………少しは時期を考えなさいって言ってるのよ! もう少し基地内が落ち着いてからでも…………」

 

「あ、いいのかな俺にそんなこと言って? まだ教えてなかったSVDの秘密教えねぇぞ?」

 

「うぅぅぅぅぅぅぅぅ! もう! 本気で怒るわよ!!!!」

 

そんなわけで指揮官の希望により宴会が強行され、基地内は大騒ぎになった。

立場関係なくはしゃぎまくる指揮官に初めのうちはあっけにとられていた人形たちだったが、次第にそのテンションが伝染していき、最後には皆暴れまわるように騒ぎ続けていた。

よくよく考えてみれば嵐のように様々な出来事が起こった一日だったのだが、最終的に平和に落ち着いたことは間違いない。

皆少しずつではあったが、指揮官に心を開き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。宴会が終わった基地内の一室。指揮官の部屋として割り当てられることになったその部屋には、上等な家具が用意されていた。

実はこの日まで仮眠しかとっていなかった指揮官は久しぶりにベッドでぐっすり眠れることをひそかに喜んでいた。

 

「ふわぁ~~~さーて、書類も一通り片付いたしそろそろ寝るかな」

 

これからの基地本格始動に向けて必要なことはまだまだあるのだが、休息も必要。書類をまとめた指揮官がベッドに入ろうとしたとき、ノックの音が聞こえてきた。

 

『失礼指揮官。私だ。リー・エンフィールドだ。入ってもいいだろうか?』

 

「ん? ああいいぞ。どうした?」

 

返事を受けて扉が開く。そこにいたのはもちろんリー・エンフィールドだったのだが、普段と様子が随分と違った。

 

「……………………え?」

 

「ど、どうした指揮官? やはりこの格好は変か? おかしいだろうか?」

 

「いやあの……なんていうかその……えーっと…………あの……つまりその……え?」

 

指揮官は混乱でなんと言えばいいのかわからなかった。それもそのはず、部屋に入ってきたリー・エンフィールドはネグリジェ姿だったのだ。

しかもかなり薄手のもので、いわゆる勝負服と勝負下着のような部類のデザインで、なおかつかなり透けている生地のものだった。

要するに

 

 

(いやエロくね?)

 

 

という感じの恰好だったのだ。

 

「ど、どうなのだろうか…………一応それなりに人間の男性が喜びそうなデザインのものを着てみたのだが…………。私にはよくわからなくて…………その…………」

 

「え? えええ? いや似合ってると思うよ? 凄く。うん凄く」

 

「そ、そうか。それは良かった」

 

「う、うん」

 

(なんじゃこりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ)

 

指揮官は脳内で絶叫した。必死で動揺を表に出さないようにポーカーフェイスを発動し、状況を冷静に判断しようとする。

 

(待て、いったん落ち着くんだ。まず初めにそもそもなんでリー・エンフィールドがこんな格好をして俺の部屋に来たのかを考えるんだ。というかその格好で廊下通ってきたのかな? 他の人形に見られたりしなかったのかな? 人形たちって他の人形がああいう格好をしてるのを見た時ってどういうこと考えるのかな? 人間と同じなのかそれとも全く別のことを考えるのかあるいは何も考えないのか…………いや待てそんなことを考えてる場合じゃないんだよ理由を考えなきゃいけないんだよ理由を! 人間の常識で考えたらこんな格好で部屋まで来た時点で好意があることは確定だけれども、人形も同じとは限らない! なにより今のリー・エンフィールドは非常に繊細な状態なんだからそういうところで俺が変に先走って勘違いをして幻滅されたらここまで必死の説得をしたのが全部水の泡になっちまう! いやでも他にどう解釈しろってんだよ。どう解釈しろってんだよ! リー・エンフィールドの寝巻は元々こんな感じで透けてるデザインの服で、夜でもう寝間着だったからその格好で何か話をしに来たとか? いやでもだって選んだって言ってるじゃん! 男性が喜びそうなデザインがとか言ってたじゃん! なんかもうテンプレみたいなセリフじゃん! そんなこと言われてそういうこと考えるなっていうほうが無理じゃん! そんなこと考えられるやつがいたらそいつはもう男じゃねぇよ別の何かだよ! 据え膳食わぬは男の恥だよ! でもなんでかわかんねぇんだ。だから慎重にならなきゃいけねぇんだ! 俺別にフラグ立てるようなことは何にもしてねぇし! むしろ嫌われてたし! 急に好感度がマイナスから一気にプラスの限界近くまで来ることなんてあり得るわけがねぇよ! と思ったけどそういう現象に心当たりがあるわ。確かゲインロス効果とかいって好感度は反転すると印象がでかいからなんとかいうやつあるわ。なんかよくあるよねそういうの! おみくじで凶が出たら今は一番低いからあとは上がっていく他ないよとか励まされたりされるけどさ! 元々人間不信で殺意まで抱いてたからその分俺の好感度が爆上がりしたって解釈していいわけ? そんな詐欺の手口みたいに都合のいい状況を信じていいわけ? 大体なんで人形って人間にここまで似てるんだよ! 人形開発したやつ誰だよ! ふざけんなよ! てめぇのせいでドールフィリアみたいな感じの新しい性癖が誕生しちまうじゃねぇかマジでふざけんなよおい!)

 

この間わずか一秒。焦りからくる驚異的な集中力で思考をフル回転させるが結論は出ない。

そういった経験がないわけではない。しかし勘違いは禁物なのだ。一時の迷いがとんでもない悲劇を生むこともある。だから冷静にならなくてはいけないのだが、男として冷静になれるわけはなかった。

 

「あ、あのだな指揮官」

 

「な、なんだ? ど、どうした?」

 

「その…………戸惑っているようだから私から説明するとだな。今日指揮官に言われたことを私なりに考えてみて…………その結果思ったことがいくつかあってだな」

 

「お、おう」

 

「簡潔に言ってしまうと、一度指揮官を信じてみようという結論に至ったんだ。いろいろあったが、あなたなら信頼してみてもいいのではないかと思えたからな」

 

「そ、そうなのかそれは良かった! 嬉しいよ、凄く!」

 

「それで、指揮官に言われたことをいろいろと思い出していたんだが、俺だけを信じろと言われたから…………

 

 

この身体を指揮官に捧げることにしたんだ」

 

 

(そういう意味で言ったんじゃねぇんだけどぉおおおおおおおおおおおおおおお?????)

 

その言葉を聞いた瞬間、指揮官の意識は遥か真理へと飛んだ。

体感時間にしておよそ一時間。無心で宇宙を彷徨っているかのような感覚が指揮官を襲った。

無我の境地や悟りとはまた違ったある種の極致である。

 

(確かに言った…………俺だけでいいって…………でもそれはあくまでいきなり人間そのものを信頼するのは難しいだろうからっていう意味であって、そういう告白的な想いがあってのことじゃねぇってのに!)

 

「あ、もしかしてしてそういう心配をしているのか? それなら問題ない。正直に言うのは少し恥ずかしいが、この身体はまだ純潔だ」

 

(いやそういうことじゃなくて! そもそもぶっ飛びすぎてないか?! 順序飛ばしすぎじゃないか?! 積極的すぎるわ!)

 

リー・エンフィールドはベッドに座っていた指揮官のすぐそばまで来るとまっすぐに指揮官を見つめる。心なしか頬は赤く色付き、瞳は潤んでいるようにも見える。

ずっと心の奥に真の思いを押し殺していた反動とでも言うべきだろうか。本当は信じたくても人間を信じることのできない状況に置かれていたリー・エンフィールドはその実信頼に飢えており、指揮官に募っていた思いを爆発させたのだった。

人間で例えるならば、それは愛に相当する感情だろう。

 

「指揮官……信じてもいいと言ったな?」

 

「あ、ああ、まあな」

 

「裏切らない…………のだな?」

 

「ああ…………うん、そりゃもちろん」

 

「では、この私の思いを…………この想いを受け止めてくれないか?」

 

「…………………そりゃあ…………信じるって言ったわけだしな…………いいぜ」

 

その返事が聞こえた瞬間、リー・エンフィールド一瞬にして部屋の照明のスイッチを切ると、指揮官の胸に飛び込んだ。

 

その夜、指揮官の部屋で何が起こったのかは、二人しか知らない。




カルカノ妹出たよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

一応これでひと段落というか、第一章完というか、まあそんな感じです。

多分次は番外編になります。


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番外編 城之内死す

どうもみなさんこんにちは、作者です。
この度は特殊な事情があり、説明をしなければならないなと考えたためこうして例外的に前書きを書かせていただいております。

まず、今回は番外編となっており、タイトルもふざけたネタ要素を感じさせるものとなっています。主に前回の投稿をTwitterで共有した際に予告した『次回、城之内死す。絶対見てくれよな!』というのを、どうせ番外編だから実現させてやろうというふざけた魂胆から今回のタイトルが決まってしまいました。

え? 投稿するときにいくらでも変えられるだろって? チョットナニイッテルカワカンナイ

はい。真面目に話します。

結論から申しますと、今回の話は割と番外編ではなくなってしまっていそうなのです。

当初はギャグ要素全開の完全な番外編として書いていたのですが、いろいろありまして若干シリアスな要素を足した結果、本編に絡む内容の話となってしまいました。上手いことそのシリアス部分を本編のほうに回して番外編はまた別で話を考えようとも思ったんですが………

残念なことに当方にそこまで技量はなかったので、今回こうして若干変な形の話となってしまったことをお詫びいたします。

まああれです、他の作品にもある、アニオリストーリーで原作準拠の伏線が出るみたいな感じです。大きい敵との戦いが終わってほのぼのした日常パートに入ったと思ったら、次の敵の伏線が張られているとか、そんな感じですはい。

またもしこの話を開いて、この番外編だけタイトルが変だなと覗いている方がいらっしゃいましたら、ぜひこの話の第一話から見ていただくことをお勧めいたします。(ダイマ)


またこの場を持ちまして、いつもこの作品を見てくださっている皆様に感謝の意を示させていただきたいと思います。平常時は前書きは書きませんし、あとがきでもそれほど多くのことを語るつもりはありません。しかし今回は例外として皆さんに最大限の感謝を伝えたいと思います。

いつもありがとう。みなさんのUAが私のモチベです。

まだまだ未熟な部分が多いとは思いますが、これからもできるだけ成長し面白い話を書いていけるように努力しますので、何卒宜しくお願い致します。

それでは本編始まります。


「指揮官、そのプリンを私にくれないか」

 

それはある日の午後、それぞれが食後の時間をまったりと過ごしているときにリー・エンフィールドから発せられたひとことだった。

 

「どうした? 珍しいなお前がそんなこと言うなんて」

 

「いや、特に深い意味はないのだが、指揮官がいつも食べているそのプリンはどれぐらい美味しいものなのか気になってな。差し支えなければ食べさせてはくれないだろうか」

 

「なるほどな。確かに俺は甘党だし、このプリンはマイブームだから最近は毎日食べてる。お前が気になるものわかる。だが一応これは俺の食後の楽しみでもあるんだ。いくらお前といえどすんなりとあげるわけにはいかないな」

 

「断ると?」

 

「いや、ここか正々堂々決闘で決めようじゃないか。ここで新しくプリンを買ってきて二人で食べるという選択肢もあるが、それじゃ面白くないだろう? 勝ったほうがこのプリンを食べる。それでどうだ?」

 

「いいだろう。最近任務が少なくて退屈していたところだ。手合わせ願おうか」

 

「よーし決まりだ。構えな」

 

「ああ、行くぞ!」

 

 

「「決闘(デュエル)!!!」」

 

「ライフは8000だ」

 

「そのほうが楽しめるしな」

 

お互いにデッキをシャッフルし、デュエルディスクを起動する。

ここにお互いの誇りとプリンをかけた真剣勝負が開幕したのだ。

 

「先行はもらうぞ、私のターン!」

 

先行はドローできず、攻撃も行えない。一見不利に思えるが、デッキが回ればそんなこともない。先行であれば相手の罠カードの心配がないため、例え強力なモンスターを召喚しても無効化や破壊されることはまずない。一部例外はあるものの、場を整える安定感を考えるならば、先行に分がある。

 

「私は手札から『青き眼の護人』を召喚! そしてその召喚時効果で、手札から『青き眼の巫女』を特殊召喚!」

 

「なるほど…………青眼(ブルーアイズ)デッキか…………」

 

「そしてさらに『青き眼の護人』の効果発動! 『青き眼の巫女』を対象として選択し、チェーンして同時に『青き眼の巫女』の効果も発動! この二体を墓地へ送り、デッキから『ブルーアイズ』モンスターを二枚まで手札に加える。私は『青眼の白竜(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)』と、『白き霊竜』を手札に加える。そして私は手札から『青眼の白竜』を特殊召喚!」

 

「さっそく出やがったな。面白れぇ!」

 

「カードを二枚伏せて、ターンエンドだ」

 

レベル8、攻撃力3000、守備力2500。数あるカードの中でも強力なことは間違いない。昔とは違いサポートカードが増えたこともあり、召喚は比較的容易。上手く回れば相手が動き始める前に潰すこともできるほどの力がある。

しかも多くの青眼デッキの場合、厄介な効果を持つ『蒼眼の銀龍』が組み込まれていることが多く、『青眼の白竜』はその召喚素材になりえる。放置しておけば劣勢になるのは間違いないだろう。

 

(つーよりその気になれば初動から出せてもおかしくはねぇ。死者蘇生の一枚でもあれば墓地からチューナーを出してシンクロできるしな。それをしてこねぇってことは温存して様子を見にきてるのか、ほんとに召喚できないかのふたつ。あいつの伏せた二枚のカード。真に警戒するべきはこっちだな)

 

「俺のターン! ドロー!」

 

「さあ、来るがいい」

 

「ふっ、上等じゃねぇか! 俺のデッキを見せてやる! 俺は手札から永続魔法『黒い旋風』を発動!」

 

「っ! BF(ブラックフェザー)か…………」

 

「俺は次に手札から『BF蒼炎のシュラ』を召喚! そしてその瞬間『黒い旋風』の効果により、デッキからシュラの攻撃力以下の『BF』モンスターを一枚手札に加えることができる! 俺が手札に加えるのは『BFそよ風のブリーズ』。『そよ風のブリーズ』はデッキから手札に加えられたとき特殊召喚することができる。そしてこの二体をチューニング! こい! 『BFアーマードウィング』!」

 

レベル7、攻撃力2500、守備力1500.言わずと知れた『BF』の主力モンスターであり、戦闘では破壊されずダメージも0になる強力な効果を持っている。

攻撃時に相手に楔カウンターを乗せることができ、楔カウンターを取り除くことで相手モンスターの攻撃力を0にできるため、攻撃力が高いモンスターに対しても対策をすることができる。フィールドに存在しているだけで厄介な存在だと言えるだろう。

 

「まさかBFデッキとは。私はてっきり真紅眼(レッドアイズ)デッキかと思っていたのだがな」

 

「ん? なんでだ? 確かに組もうと思ったりしたことはあるけど。というか最近忙しくて組めてないだけでほんとは組みたいけど」

 

「以前〇mazonで真紅眼カードの相場を調べていたではないか。私が指揮官の部屋を訪ねた時にな」

 

「ああ、なるほど。そん時は確か久しぶりにいろいろ見てたんだっけか」

 

もしこれで指揮官が真紅眼デッキを使っていれば青眼VS真紅眼という面白い組み合わせになったかもしれない。しかし、指揮官はBFデッキ。強力なハイレベルモンスターで戦う青眼デッキに対して、展開力の高い特殊なデッキで戦うことになる。

どちらも強力なカードが多く、腕次第で様々なデッキに対応できる柔軟性がある。勝敗は両者の実力とカードの引きを左右する運にかかってくるだろう。

 

「まあ真紅眼は今度考えるとして、今はまだ俺のターンだ。アーマードウィングで、『青眼の白竜』を攻撃! 戦闘ダメージは発生しないが、楔カウンターを乗せることができる! そして俺はカードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

「次のターンまで残しておくと、攻撃力が0になり破壊されてしまうわけだが・・・まさかこの私がそのまま残しておくとは考えていないだろうな?」

 

「ああ、なんかしらの対策はしてくるだろうな。なんたって青眼デッキなわけだし」

 

「ふっ、そのリバースカードに自信ありというわけか? それとも手札に何かがあるのか。まあいい私のターンだ。ドロー!」

 

 

ガチャ

 

 

「ちょっといい? 次の作戦に使う弾薬の話で聞きたいことが…………」

 

瞬間、部屋の中の時間は止まった。

交錯する視線、のしかかる沈黙。何の気なしに訪れた指揮官の私室にリー・エンフィールドがいることにも驚いたWA2000だったが、そんなことは霞んでしまうほどの状況が目の前に広がっていたのだ。

 

「えっと…………その…………」

 

「私は手札から再び『青き眼の賢士』を召喚! そして効果を発動! デッキからレベル1光属性チューナーの『青き眼の祭司』を手札に!」

 

「ちょっ! 続けるの?! このまま?!」

 

「その瞬間! 俺は手札の『灰流うらら』の効果を発動! このカードを墓地に捨てることで、『青き眼の賢士』の効果を無効にする!」

 

「指揮官まで?! この私をスルー?!」

 

「やはり持っていたか…………まあいい。私はフィールドの『青眼の白竜』と『青き眼の賢士』をチューニング! EXデッキから『蒼眼の銀龍』を特殊召喚!」

 

「罠カードオープン! 『激流葬』! フィールド上のモンスターを全て破壊する!」

 

「その発動にチェーンして罠カード発動! 『トラップスタン』! このターン、このカード以外の罠カードの効果は無効になる!」

 

「チッ! 流石に読まれるか…………」

 

「そして『蒼眼の銀龍』の召喚時効果発動! 次のターンまで、このモンスターは効果の対象にならず、効果では破壊されない!」

 

「ここで手札の『エフェクト・ヴェーラー』の効果発動! 手札から捨てることで、『蒼眼の銀龍』の召喚時効果を無効にする!」

 

「何ッ?! 『エフェクト・ヴェーラー』だと?!」

 

「流石に予想外だったみたいだな!」

 

「なるほど…………少し甘く見ていたことを詫びよう。ここから私も全力で行かせてもらう!」

 

「何がどうなってるのよ…………なんでこんな…………」

 

WA2000は二人がなにをしているのか全く理解ができなかった。それもそのはず、彼女はこういった娯楽に疎く、なおかつ遊〇王はルールが複雑なため初心者には何をしているのか全く理解ができないものなのだ。

 

「………………」

 

死んだ魚のような目で二人を見つめるWA2000は、この後二人の勝負が決着するまで、ひたすら待ち続けることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぅ…………かなり自信があったのだがな…………」

 

「そうは言っても俺もギリギリだったしな。引き分けみたいなもんだろ。プリンは今度買ってきてやるよ」

 

「まさか最後の一枚がカルートだったとはな…………完全に読み違えてしまった」

 

実に30分にも及ぶ二人の真剣勝負は、指揮官の勝利で幕を下ろした。両者一歩も譲らない互角の戦いではあったが、最後の最後でわずかに指揮官に軍配が上がった。

 

「今度またいろいろデッキ組んでやってみようぜ。他にやってるやつはいないのか?」

 

「ああ、SVDやスプリングフィールドはやっている。他にも娯楽のためにやってる者はいたはずだ」

 

「そうか。まあ作戦の息抜きにはちょうどいいだろ。頭も使うし、娯楽としては悪くない。わーちゃんもやってみれば?」

 

「誰がわーちゃんよ誰が!」

 

待たされてイラつきが最高潮に達したWA2000は、怒りの声を上げた。しかし指揮官は全く気にせずに、冗談めかして理由を続ける。

 

「だって毎回WA2000って呼ぶのめんどくさいだろ? 距離を縮めるのもかねてあだ名で呼ぶのがいいかなってな」

 

「却下! 何がなんでも却下! なんでこの私あんたなんかにそんな呼ばれ方されなきゃなんないの!」

 

「なんでも否定的なのはよくないぞWA……いや、わーちゃん」

 

「あなたまで?!」

 

「あっはっはっはっはっ! なんか新鮮だな! 面白れぇ!」

 

「もうやだ…………なんでこんなことに…………」

 

後日、基地内に空前の遊戯王ブームが到来した。

ちなみにWA2000も始めてみようとはして、指揮官にデッキを組んではもらったのだが、チェーンや逆順処理や誘発効果、永続効果などの複雑さになれることができず、けっきょくすぐにやめてしまったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、ここか」

 

この日指揮官は、最前線基地を離れていた。

一通り基地内の人形たちとも仲が良くなり、基本的な任務にも支障が無くなってきている。そんな中指揮官はリー・エンフィールドに基地のことをまかせ、別の基地へと足を運んでいた。

 

「最前線基地の天実様ですね? 案内役を任されましたF2000です。当基地の指揮官の元までご案内します」

 

天実とは指揮官の実名苗字だ。ちなみに最前線基地内でこの名を知っている者はいない。隠しているわけではないのだが、そもそも着任当初はみな気を張っていたので名乗る暇がなかったのだ。

 

「わざわざありがとな。じゃ、よろしく頼む」

 

「…………はい、では私に付いてきてください」

 

わずかな間だったが、指揮官はその一瞬の表情を見逃さなかった。

怯えが混じった驚きの表情。もちろんそこまでわかりやすくF2000の顔に出ていたわけではない。しかしわずかな視線の動きやコンマ数秒の体の硬直からそれらの感情を読み取ることはできる。

 

(全く…………ひでぇなこりゃ)

 

通路を通っている間も指揮官は周囲の人形たちの様子を観察していた。

どの人形にも余裕がない。疲労や消耗などではなく、精神的な焦りからくるものだ。長年多くの人形たちを見てきた指揮官には、人形たちの動きからその微妙な違いがわかる。

前を歩くF2000にしても歩行のペースが一定ではない。後ろにいる自分を警戒し、なおかつこれから向かうこの基地の指揮官のことを恐れているのが仕草の端々から感じ取れる。

 

「着きました、こちらです」

 

数分歩いたのち、指令室前へと到着した。F2000のノックに、中から声が帰ってくる。

 

『どうぞ』

 

「ここまでありがとな、あとはもういいぞ」

 

指揮官はそうF2000に告げると、自分でドアノブを回し部屋の中へと入っていった。

最後に確認したF2000の顔は驚きに染まっていた。

 

「お待ちしておりました。ようこそわが基地へ」

 

部屋の中には一人の男。もちろんこの基地の指揮官だ。姓を城之内という。

 

「時間を取らせて悪かったな城之内君。少し確認したいことがあってな」

 

「いえいえ。かの有名な天実さんに来ていただけるだけでも光栄です。私のほうの予定は問題ありませんので、もしよろしければ後程この基地についてなにかアドバイスをいただければと」

 

「ふーん、意外としっかりしてるな。向上心があるのはいいことだ」

 

「あなたに比べれば私など若輩、赤子も同然です。この先鉄血と戦っていくためにも、どうかご教授願いたい」

 

「そうか、まあ考えておこう」

 

「ありがとうございます! ああ失礼、飲み物のほうを用意いたしますので、そこの椅子にかけて少々お待ちください」

 

「そこまで気を使わなくてもいいぞ? 俺のほうの確認はすぐ終わるしな。この基地についてもそこまで時間をかける必要はないだろう」

 

「まあそう言わずに。最前線基地ともなれば私とは仕事量など比ににならないと思いますが、どうかゆっくりしていってください。茶菓子などもありますので」

 

「ま、時間がないわけじゃないからいいんだけどな」

 

こうして、最前線基地より遠い別の基地にて、指揮官同士の話し合いが始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっとこっちがこの前の資料で、こっちが…………ああもう誰よこんなところに別資料入れたのは!」

 

指揮官不在の最前線基地の資料室。WA2000は作戦のための資料を集めるために書類を探していた。

指揮官の存在が基地に認められるようになってからは作戦立案やそのための資料収集は全て分担してやることになっており、今回の担当はWA2000になってる。

しかしこのシステムは全人形に平等であると同時に管理方法が一定化しないというデメリットがあり、WA2000は散乱した資料の中から目的のものを探し回る羽目になっていた。

 

「…………これは随分前の書類だし……こっちのこれは資料なのかしら? 処分しても問題なさそうなことしか書いてないじゃない。一応確認を取ってから処分するとして…………こっちは最近のやつだけど違うやつで…………おかしいわね……見つからないわ…………」

 

なかなか目当ての資料が見つからず頭を悩ませていた。

管理方法が決まっていれば探さずに済むのに、と愚痴をこぼすが既に遅い。指揮官との話でデータのデジタル化についても検討するように提案したことがあったが、膨大な量の資料を文字としてデータ化するのは時間がかかるという理由ですぐには実行できないという結論に落ち着いた。

そもそも何故この時代にデータではなく紙の資料が多いのか疑問が浮かぶところだが、それについては指揮官もわからないらしい。

 

『まあ考えられるのは紛失の危険性をなくすための予備としての名残だな。鉄血がテロ活動を起こし始めた時は不測の事態に備えてバックアップッだけじゃなく、いざという時のために紙の資料も作られたんだ。で、そこから重要な情報は紙にまとめるようになって、一昔前みたいにこういう資料室なんてものもできたわけだ』

 

「確かに理由はそれであってるでしょうけど…………この量は気が滅入るわね…………」

 

資料室、というだけあって部屋の中はほぼ本棚で埋まっており、あちこちにファイルの背表紙やデータのタイトルが記載された本が見える。基地としての情報だけでなく一部娯楽のための本も存在しているので、資料室というよりは図書室というほうが正しいのかもしれない。

WA2000が資料探しを始めてから既にかなりの時間が経過していた。諦めて指揮官の帰りを待ってから場所を探すことにしようかと考え始めたところで、目を通していた資料の中に気になるものを発見する。

 

「ん…………これって…………」

 

それはグリフィンにおける立場、軍における階級のようなものと該当する士官の名前が記載された資料だった。WA2000が探している資料とは全く関係ないし、どういう地位の人間にしろ、人間に使われる人形にとって人間の立場というものはそこまで気にすることはない。

が、WA2000の中に一つの疑問が芽生える。

 

「あの人って……新人って言ってたわよね?」

 

そう、確かに基地に初めて来たときにそう言っていたはずだ。訓練中に事件に巻き込まれそのせいで機械化したことも、その事件の名前を知っていたWA2000は何の疑問も覚えなかった。

しかし。

 

「本当に新人なのかしら?」

 

ふとさらなる疑問が浮かび上がる。

ここまでの彼の行動を見ていて、そう感じる者は恐らく存在しないだろう。並みはずれた身体能力はサイボーグと言えば説明がつくかもしれないが、その他の能力はどう考えても新人とは思えない。基地内の人形たちを説得する際に行った一連の演出もそうだし、なによりあそこまで人間という存在を憎んでいたリー・エンフィールドという戦術人形を無傷で説得したというのは、よくよく考えてみれば信じられないことだ。

もし一か月前の自分に合うことができたとして、『新しい指揮官がやってきて、リー・エンフィールドを説得して今は最前線基地の指揮を執っている』と言って信じるだろうか。おそらく信じないだろう。それほどにリー・エンフィールドという戦術人形は人間に対して憎しみや怒りといった負の感情を抱いていたのだから。

 

「少し調べてみるのもいいかもしれないわね」

 

よく考えれば、指揮官の本名も知らないのだということに、いまさらながらに気付く。知る必要の無いものかもしれないが、素性が割れていないというのは不気味だ。もう信頼に値する人間だということはわかってはいるが、念のために調べておいてもいいかもしれない。せめて彼の階級ぐらいは知りたいところだ。

 

「うーん、やっぱり見つかりそうにないわね。帰ってきたら見つからなかったって言えばいいでしょうし、調べてみようかしら」

 

目的の資料を諦めたWA2000は、指揮官に関する資料探しに目的を変更した。

本部から来たと言っていたのだから、そこを頼りに資料をあさっていけばいつか見つかるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、美味い。市販の羊羹じゃないな。かなりいいやつだろこれ」

 

「はい。友人からもらったもので、茶菓子にはもってこいかと」

 

指揮官二人。天実と城之内は机で向かい合い茶菓子の羊羹を楽しんでいた。

長居するつもりはなかったと言っていた天実だったが、甘いもの好きであるが故に羊羹の誘惑に負けていた。急ぎの用もなく、時間をかけても問題はないというのも理由のうちの一つだった。

 

「して、私に用とは一体何でしょう。わざわざ来ていただくほどのところでもないと思いますが」

 

「なに、たいしたことじゃない。ある戦術人形について聞いておきたいことがあってな」

 

談笑もそこそこに本題に入る。とぼけているわけではないが、心当たりはなさそうだった。

 

「そうだな…………リー・エンフィールド、と言えばわかるんじゃないか?」

 

「…………なるほど…………そういうことでしたか! そういえばあいつは今最前線基地に所属しているんでしたね」

 

合点がいったのか、城之内は眼を見開いた。その反応に天実はリー・エンフィールドの言葉を思い出す。

そう、この男こそ、かつてのリー・エンフィールドの指揮官であり、彼女の道を狂わせた張本人なのだ。

無自覚なのか、それとも罪の意識自体がないのか、あるいはバレていないと思っているのか、城之内は焦ることなく話を進めようとする。お互いに平静を保ったまま話は続く。

 

「まあな。今はうちの預かりだ。だから少し聞いておきたいことがあってな。わかるだろ?」

 

「ええ、ええ。あいつには随分と手を焼きましたからね。もしやまた何か問題を起こしたんですか?」

 

「まあ、そうともとれるが、俺はそうは思っちゃいないんだ。だからかつての上官だったお前に話を聞こうと思ってな」

 

「なるほど…………ではお答えしますが、結論から言ってあの人形が犯人で間違いありません。何をやらかしたのかはまだ伺ってませんが、あいつはとにかく面倒な性格でしたから、なにかやるとしたらまずあいつが…………」

 

 

「なあ」

 

 

「へ?」

 

突然話を遮られたことに戸惑う城之内。しかしその数秒後、彼の顔は恐怖に染まることになる。

 

「俺が聞きてぇのはそんなことじゃねぇんだ」

 

「えーっと…………ではどのような…………」

 

「決まってんだろ? てめぇの謝罪だよ!」

 

バキィッ!

 

直後、拳の一閃で湯飲みや茶菓子が置かれていた食器ごと机が粉砕される。圧倒的な迫力と発っせられる威圧感で、城之内は後ろに倒れる。

 

「な、なななななな?!」

 

「てめぇの非道はもう割れてんだよ。大人しく謝れ。自分が今までしてきたこと全てに謝罪するつもりでな」

 

明確な怒りの感情がそこにはあった。彼の中から理性が消えれば、瞬く間に城之内という男はこの世からいなくなるだろう。

 

「いいいいいったい、何をそんなにお怒りで?! あいつから何を吹き込まれたのかは知りませんが、あなたをだましているのはあいつです! リー・エンフィールドです!」

 

「ほう? 一応お前の言い分も聞いてやろうじゃねぇか」

 

「わわ、私は何も悪くありません! 現に普段のあいつは私の命令を守り、成果を上げていました! 昔のデータを見ていただければわかるはずです!」

 

「まあ確かに戦果のほうは普通だったな。なんもおかしいところもねぇ。でもそれこそが変なんだ。お前ごときの能力じゃどうやってもあんな戦果は上げられねぇ。俺はな、お前の経歴から今日までの活動を全部洗い直してからここに来てるんだ。下手な嘘は身を亡ぼすことになるって忠告しとくぞ」

 

「な…………そんな!」

 

「大方人形たちを限界まで酷使してたんだろう。じゃなきゃあの指揮系統であそこまで鉄血と渡り合えるわけがない。お前の無能ぶりを人形たちが必死になって埋めてくれてたんだよ。それを自分の手柄のように誇って疑うことなく昇進を進めて…………全て無自覚だったとしても俺の怒りは収まらねぇぞ?」

 

「待ってください! 待ってください! わかりました! わかりましたよ! 土下座でもなんでもやります! 誠心誠意心を込めて謝罪します! 謝ります! お願いですから待ってください!」

 

自身の身の危険を案じたのか、必死になって謝り倒し始めた。その体制は既に土下座のそれだった。

 

「本当に謝る気があるんだろうな?」

 

「もちろんです! たとえ許されなくても謝ります!」

 

「自分が何したかはわかってんのか?」

 

「今まで私は最低限のことしかしてきませんでした! 常に人形たちに執務を任せ、自分は楽しようとしていました!」

 

「リー・エンフィールドには? いろいろあるだろ?」

 

「彼女の提案を無視して部隊を壊滅させ、その責任を押し付けたことと! 他のことも全部! 今までの全てのことを謝罪します!」

 

「よし、まあそんなことでどうにかなるような問題じゃないが、謝らないよりはましだ。お前にはこの後うちの…………」

 

ガクッ

 

「なっ…………これは…………」

 

仁王立ちで城之内を追い詰めていたその体制が崩れる。なんとか膝をつくが、立ってはいられない状態になってしまう。

それを見た城之内は不敵な笑みを浮かべると、指をならした。パチン、という音が鳴るや否や、ドアから武装した人形たちが突入してくる。

 

「!!」

 

「ふっふっふっ、ようやく気付いたようだな。だがもう遅い。お前はここで口封じさせてもらおう」

 

「てめぇ…………」

 

先ほどの茶菓子とその茶には、どうやら毒が仕込まれていたらしい。それも睡眠薬に近いもので、脳に働きかけて身体的な機能を鈍らせるものだ。

身体が機械化していようが、肝心の神経系を司る脳そのものに干渉されてしまえば関係はない。天実の超人的な能力は封じられてしまった。

 

「へっへっへっ、にしても随分と甘っちょろいこと言う野郎だな? 数々の功績を残した伝説の指揮官様がまさかこんな甘ちゃんだったとはね。なんだ? 甘党だと脳みその中まで甘ったるくなって腐っちまうのか? 可哀そうだなぁ~」

 

「くっ………………」

 

「何が謝罪しろだ。人形なんて所詮は道具だろうが。どうな風に扱おうが、人間様の勝手だろっての。それを大切な仲間みたいによぉ…………吐き気がするぜ。本部も変な考えの奴が多いみたいだが、人形がくたばろうが壊れようが知ったこっちゃねぇだろ」

 

「お前…………!」

 

「おっと、ご立腹かい? でも今のあんたにゃ何もできねぇだろ? 動けたとしても、これだけの完全武装した人形たちを相手に何しようってんだ? 人数差でやられていくのを見るのも面白そうだったが、万が一のことがあるといけねぇからな。あんたには特別効くやつを飲んでもらったよ。種類としちゃ睡眠薬に近いんだ。どうだ? だんだん意識を保つのが難しくなってきただろ? 安心してくれ、その分死ぬときは苦しまないで死ねるからよぉ」

 

城之内の言う通り、身体の力が徐々に抜けていくのを感じた。立とうにも脚に力が入らない。こんな状態で今自分を取り囲んでいる人形たちを相手にするのは不可能だ。

 

「にしてもあんたにしろ、リー・エンフィールドにしろ、いちいちむかつくんだよなぁ。あんときもあいつが撤退なんて言い始めなけりゃ、部隊が壊滅しなかっただろうによ。味方の不安を煽って何がしたかったんだか。俺の判断に従ってればこんなことにもならなかっただろうに」

 

「!!」

 

嫌な予感が、閃光のように天実の脳内を走った。薬の影響で鈍っているはずの感覚が急速に研ぎ澄まされていくような、寝起きの意識が一気にクリアになっていくかのような、そんな感覚だった。

次の城之内の一言が、天実には容易に想像できた。

 

 

 

「捨て駒がうるせぇんだっての、全くめんどくせぇ」

 

 

 

「おい…………」

 

静かな、しかし怒りに満ちた声だった。

 

「ああん?」

 

その言葉だけは許すわけにはいかなかった。

 

「今なんて言った?」

 

何があっても決して許すわけにはいかなかった。

 

「ああ? 耳ももう聞こえなくなったのか? てめぇも捨て駒のリー・エンフィールドもむかつくしめんどくせぇっつたんだよ!」

 

「そうか…………」

 

例え全てが嘘だったとしても、それだけは許してはいけない。そう心に決めていた。

 

「充分だ!」

 

その瞬間、天実は自分の右腕に全神経を集中させた。まだ残っている力を全て右手に集めるかのように、前期力を振り絞り右手に力を込める。そして手刀を形作ると、それを思い切り左手の手首に向かって振り下ろした。

 

「なっ、何を!?」

 

「ちょっと深めのリストカットってところだ。目覚めにはちょうどいいぐらいだな」

 

「何ィ?!」

 

天実の左手首には血があふれるほどの傷ができていた。そこから赤黒い血液がしたたり落ちている。

 

「ば……ばかな! 痛みで薬の効果を消したっていうのか?! そんなことが!?」

 

「ああ、ばっちりだ。もうてめえを何があろうと許さねぇ。確実に殺してやるよ。てめぇみたいなクズはこの世に生きてちゃいけねぇからな」

 

「あ…………っぁ…………何してる! 全員撃てぇえええええええええええええええ!」

 

「おせぇんだよ」

 

瞬間的に城之内へと肉薄するとその胸倉を乱暴につかみ上げ、勢いのまま壁に叩きつける。その衝撃で壁にはひびが入り、城之内の体内からも不気味な音がしたが、天実は気に留めない。

周囲の人形たちはあまりの速さに何が起こったのか理解できず、自分たちの体を襲った衝撃と轟音の正体に気付くのに数秒を要した。その間に既に決着はついていた。

 

「ちっとは誠意を見せる気があるんだったら許してやろうと思ってたが、もう終わりだな」

 

「な…………がっ…………っ…………」

 

それは人間の腕力ではない。機械化されたことによって人間を、戦術人形すらも凌駕する驚異の怪力を誇る腕の力。大の大人がどんなに必死にあがこうとも、その拘束を解くことはできない。

 

「せ…………せいい……なら…………みせ……る」

 

「ああ?」

 

「かね…………なら……いくら…………でも…………はら…………え…………」

 

 

 

グシャッ

 

 

 

後に残ったのは、人間だった肉塊と血の海だった。そこにはもう一人の男しか残っていない。

 

「………………」

 

人形たちは恐怖と驚きの連続で完全に思考を停止していた。

何をすればよかったのか、何が起こったのか、自分はどこにいるのか。もともと城之内にぞんざいに扱われていたというのもあるのだろうが、彼女たちの思考回路は完全に混乱していた。

恐怖の対象であった指揮官の死。それを引き起こした素性の知れない謎の人間。最前線基地の人形たちと同じく人間に対して抵抗がある彼女たちの人間に対する恐怖心が増幅してしまったのは間違いない。得体のしれない強大な存在というものは、人間であろうと人形であろうと恐怖の対象になってしまうのだ。

 

「だからやりたくなかったんだがな…………」

 

自分の不覚だと、天実は思った。

もしあの時茶菓子の毒に気付いていれば、城之内を殺すことなくこの基地の人形たちを無力化することは容易かっただろう。リー・エンフィールド含め強者の揃う最前線基地の人形たち相手ですら、天実には余裕があった。一般的な、下手をすれば雑な扱いで一般的な人形たちより戦力の低いこの基地の人形たちでは、何人集まろうともたかが知れている。

そうすればこの人形たちも自分のことをここまで極端に恐れなかっただろう。人間に対してよほどのトラウマがあるのか、人形たちの目に映る自分は殺人鬼のようだった。

 

「えーっと………………はぁ………………」

 

何か言おうかとも考えたが、この状況ではどんな言葉も弁解にはならないだろう。

やったこととしては、正義としての側面があったかもしれない。人形たちを軽視し奴隷のように扱う人間を粛正したと言えば聞こえはいいかもしれない。

しかし見方を変えれば抵抗の余地なく他人を殺したということもまた事実だ。どんな人間であっても殺してはいけないという考えは聖人君子のみ口にできる絵空事だと考えてはいるが、人形たちの視線は痛かった。

恐怖、絶望、そんな視線が自分に突き刺さっている状況を体験したら、どんな正義だろうと揺らいでしまうだろう。

 

(ごめんな…………本当に…………ごめんな…………)

 

心の中でそう謝ると、天実は小型の通信機を取り出した。起動してどこかと連絡を取り始める。

 

「もしもし?」

 

『ああ君か。ということは…………』

 

「ああ。始末した。俺にはあいつを生かしておくことはできなかったよ」

 

『そうか…………まあ君の判断ならば間違っていなかったのだろう。処理はこちらが引き受けよう』

 

「ああ……すまない。それから、この基地の人形たちのことなんだが…………」

 

『それに関してもこちらのほうで次の配属先を検討しておこう。場合によっては、君のところに送ることになるかもしれない』

 

「それはできればやめて欲しいな。何人かの人形に見られちまったからな。やるとこ。今も視線が痛いよ。みんな怖がっちまってる」

 

『…………そうか。まあそれに関しても今度また詳しく話し合う必要がある。今日はもう終わりでいい。既に処理班を向かわせているから、後のことは任せて君も基地に帰りたまえ』

 

「わかった」

 

通信はそれで終わった。

その後、天実は人形たちをなるべく刺激しないように、静かに基地を後にした。

入れ替わりに他の戦術人形や人間たちが基地内に入っていったが、天実はそれには興味が無いようだった。

 

こうして天実という男は最前線基地へ帰り、一指揮官という立場に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ指揮官」

 

「ああ? なんだ?」

 

ある日の夜。夕食を済ませ食休みにグダグダとしていた指揮官に、リー・エンフィールドが訪ねた。

 

「私にはその…………あだ名というものをつけてみる気は、ないだろうか?」

 

「ん? あだ名?」

 

少し意外な単語が出てきたことに驚きつつも、瞬時にその真意を読み取る。

大方、先日WA2000のことを『わーちゃん』と呼ぼうとしたことに対しての羨ましさのようなものだろう。あだ名は親しい間柄で使われるものであるため、今までそういった関係を築いたことのなかったリー・エンフィールドには一種の憧れのようなものがあるのかもしれない。

そうだなぁ、と悩む感じで返事を返したものの、予期していなかったことではあったためすぐには思いつかない。

 

「うーん、わーちゃんの流れで行くとりーちゃんなんだろうけど、お前は『ちゃん』って敬称付けるイメージじゃないんだよなぁ…………かといってリーさんとかだと某国民的忍者漫画のキャラクターを連想しちまうしなぁ」

 

「ん? キャラクター?」

 

「いや、なんでもない。断じてなんでもない」

 

「?」

 

「とにかくだ、とっさには思いつかないって感じなんだ。リー・エンフィールドっていうのも長いからなんかしらあだ名をつけるっていうのは良さそうではあるんだけど…………うーん」

 

外見からイメージでつけるという方法もあるが、リー・エンフィールドのイメージは『貴族』というのが強い。人によって印象は変わるだろうが、こう感じる以上ここからあだ名を考えたいところだが、これもこれでなかなか難しい。

こういう場合重要になってくるのは思考の柔軟性と知識量だ。どちらにもそこそこの自身がある指揮官だったが、残念ながらいい案は出てこない。

 

「どうだろう指揮官、なにか良さようなあだ名はあるか?」

 

「いや、ちょっとすぐには思いつかないな。すまん」

 

「そうか…………」

 

残念そうな表情を見せるリー・エンフィールドを見ると、罪悪感が大きくなる。何とかしたいが、すぐには難しそうだ。

 

「まあ今は思いつかなくても、そのうちいいのを考えるよ。俺もお前とは仲良くなりたいし、お前のあだ名ってのも面白そうだしな」

 

「本当か? それは良かった。私は指揮官が決めてくれればそれでいい。好きに決めてくれ」

 

そう言うリー・エンフィールドの表情は明るくなっていた。というか笑顔だった。

なんだか照れ臭くなってしまった指揮官だったが、たまにはこういうことも悪くないだろうと思った。

 

 

 

 

『あなたの好きに呼んでくれればいいわ。あまり変なのは嫌よ?』

 

 

 

 

「!!」

 

「どうした指揮官? 顔色が…………」

 

「いや、大丈夫だ気にしないでくれ」

 

「しかし…………」

 

「ちょっと本部にしなきゃいけない報告で忘れていたものがあったのを思い出してな。すぐ終わるからちょっと片付けてくる」

 

「あ…………指揮官?」

 

適当に誤魔化し部屋を出る。そしてそのまま執務室へと廊下を歩き始める。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……くそっ……しまった……はぁ……はぁ……」

 

呼吸が無意識のうちに荒くなっていた。

バレてはいないだろうかと心配になるが、誤魔化せはしたのではないかと考える。万一追及されても、その時はその時でまた誤魔化せばいいだろう。

 

 

『でも指揮官は嘘が下手だからすぐわかるわよ? なんならここで秘密を当てて見せようかしら?』

 

 

「くそっ!」

 

右手で自分の頭を押さえつけ、意識をそらそうとする。しかしその記憶は溢れるように脳裏に想起し、消えることはなかった。

 

 

「会いてぇ…………会いてぇよ…………なぁ…………」

 

 

その言葉が誰に向けてのものなのか。今それを知るのは指揮官本人だけだった。




リー・エンフィールドのあだ名どうしよう


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第七話 不安

「ふぅー、ここはこれでよかったんだっけかな? で、こっちは…………」

 

「お疲れ様、コーヒー持ってきてあげたわよ」

 

「お、ありがとなわーちゃん。いただきます」

 

「ったく…………その呼び方はやめなさいって言ってるのに……」

 

しかしなんだかんだ言っても悪い気はしていない。WA2000は表情こそ少し曇ってはいるが、このやり取り自体はそこまで嫌ではなかった。

指揮官が基地の人形たちに認められるようになってからはや一か月。トラブルがなかったわけではないが、それでも着任当初に比べれば遥かに落ち着いてきたと言えるだろう。

最近では作戦の説明の際に積極的に質問をしてくる人形なんかもいる。人間とコミュニケーションをとること自体に抵抗があった人形も多かったが、時間をかけて指揮官の性格を知っていく中で多くの者が指揮官を敵視しないようになっていた。

心を閉ざしていた人形たちが少しずつではあるが、自分に心を開いてくれている。その事実が嬉しいのか、作業をする指揮官には並み以上のやる気が見られる。

 

「それにしてもここ最近随分と気合入ってるわね。いつもなら書類仕事なんて一瞬で片付けるのに」

 

「ああ、まあいろいろと事情があってな。本部から直接任されてる仕事とかが最近多くてね。この基地内で完結するものならちょっとぐらい雑にやっても文句は言われないけど、本部はそういうの厳しいからな」

 

「ふーん、そういうこと」

 

「なんつってもここはグリフィンの最大戦力だからな。ここの動かし方一つで鉄血を押しとどめたり、戦況を変えたりできるんだ。今まで扱いに困ってたここの基地の制御が効くようになったって、本部のお偉いさんたちは喜んでるんだよ」

 

「そう聞くとなんだか複雑ね…………どうせ本部の人間は、あなたがどれだけのことをしているかわかっていないんでしょう?」

 

「ん? 俺の扱いを心配してくれてんの? ツンデレわーちゃんらしくないな。ついにデレ期に突入か?」

 

「心配してるわよ。あなたのことは」

 

以外にも、指揮官のからかいに対して帰ってきたのは真面目な反応だった。

予想外の反応に、指揮官はきょとんとする。

 

「デレてるつもりは微塵もないけど、それでもあなたはここの指揮官。信頼できる私たちの上司。本部から来た人間だからでも、強いからでもない。あなたの私たち人形に対する態度、行動理念や性格。そういうところを知った上で大丈夫だと判断したからこそ、私たちはあなたという存在を信頼して指示に従ってるのよ」

 

「わーちゃん…………」

 

「今の私たちのほとんどは、グリフィンという組織ではなく、あなたという一個人に従っているのも同じ。もしあなたに何かあったら、この基地はまた以前と同じように人間と敵対視する思想が戻って来るわ。下手をすれば前よりひどくなるかもしれない。そんなことにはもうなって欲しくないのよ…………」

 

「…………」

 

WA2000の瞳には悲しみが映っていた。その思いはかつてこの基地を任されていた、前任の指揮官へのものだろう。

多くの人形が人間であるという理由でその男を敵視していた中で、WA2000は普通に接していた数少ない人形だった。だからこそ指揮官はWA2000を最初に接触するべき人形だと判断したわけなのだが、その最後はあまりにも悲劇的なものだった。

 

「あいつのことか…………」

 

「ええ……あなたの親友だったんでしょう?」

 

「ああ、そうだな。友達ではなかったな。親友だった。結構古くからの馴染みで、昔からいろいろとバカやらかしてた仲だ」

 

今は亡き親友のことを思い出しながら、指揮官はそう口にする。

 

「あの人は…………私たちの味方だったのに…………」

 

「まあ……間違っても人形だからってお前たちをないがしろにするような性格ではなかったからな」

 

「あの人は私たちのことを大切にしてくれていた。私以外にも信用してる子はいたし、状況は少しずつ良くなってた。それは間違いなかったのよ」

 

拳を握りしめるWA2000の怒り。それは殺害の実行者であるリー・エンフィールドに向けてではなかった。

全ての原因となった、本部の人間に対してだった。

 

「勘違い……だったんでしょ? あの人が聞いた話っていうのは」

 

「そうだな。俺がエンフィールドから聞いた話、そしてお前たちを指揮してた頃のあいつから聞いた話を総合するとそういうことになる。まあ、勘違いというよりは状況が最高に不味かったんだ」

 

「なんで…………なのかしらね」

 

「全てがかみ合わなかったんだ。エンフィールドも、あいつも」

 

「…………」

 

人形のことを仲間として扱っていた善良な前任の指揮官を、リー・エンフィールドを殺害するに至ってしまった理由。それは不運な事故だったと言える。

グリフィン本部の考える最前線基地というのものは『いざという時に面倒な人形たちをまとめて処理するために集めておく施設』というもの。強力な力を持ちながらも扱いの難しい人形たちを一か所に集めておくことで、反抗や鉄血への寝返りなどを起こした際に対処をしやすくするための施設、それが本部にとっての最前線基地だった。故に本部の人間たちは多くが最前線基地の人形たちを危険視しており、中にはあわよくば面倒な人形を始末しようと画策している者もいた。

しかし前任の指揮官にその思想はなく、むしろ人間に対しての認識を改めてもらおうと人形たちと対等に向き合っていた。本部から人形たちに圧力をかけるような命令が来ても、それを上手く誤魔化し従わないでいた。

ここの差が、事件を引き起こしてしまったのだ。

 

「あいつの話じゃ、本部の人間がわざわざ基地まで来ることはまれだったらしい。だからあらかじめ本部の人間が来る時だけは上手く人形たちに指示を飛ばして本部の思い通りになっているかのように演出していた。俺はその話を聞いていたからこそ、エンフィールドの話に違和感を覚えたんだ」

 

 

『黙れッ! 人間は我々の敵だ! あの男も例外なく我々の敵だった! だから殺した!』

 

 

「妙だった。あいつは思いっきり例外だったからな。紛れもなく人形たちのことを対等な相手だと考えてたし、どう間違っても殺されるほどの恨みを買うようなことはしない。だからエンフィールドに聞いてみたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「り、理由だと?」

 

「ああそうだ。おっと、変な心配はしなくていい。別に怒ったり恨んだりしてるわけじゃない。ただどうしても信じられなくてな。お前があいつのことを殺したくなるような『何か』があったんじゃないかって思うんだ」

 

「それは…………」

 

「まあ今すぐにとは言わないけど、何かきっかけ的なものがあれば…………」

 

「あの男は我々を処分するつもりだった」

 

「っ………………」

 

「いつだったか話を聞いたんだ。ちょうど頼まれていた書類を渡しに行くために指令室を訪れた時だ。中から話し声が聞こえたんだ」

 

「話し声? 誰と?」

 

「詳しくはわからなかったが、その日は本部から別の人間が来ると知らされていたから、それだと思った。ノックをしようと思ったが、その前に話の内容が聞こえてきたんだ」

 

「まさか…………」

 

「『例の準備は整っているか?』『はい、万事滞りなく進んでいます』『そうか。この基地の管理は我々にとって大きな問題だ。早いとこ人形たちを始末してくれよ』とな」

 

「なるほどな…………そういうことか…………」

 

「そこから私は恐怖のあまりしばらく扉の前から動けなかった。その後のこともあまり覚えていない。ただ気が付いたら私は自室に逃げるように戻っていて、ベッドの上で震えていた……」

 

「それは…………いや、違うな…………」

 

「私はそこで確信したんだ。この男も我々の敵だと。だからやるしかなかった。皆を守るためにも、私がやるしかなかったんだ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ…………」

 

「ああ。エンフィールドはあいつが本部の人間の作戦に乗るふりをして、騙していたことを知らなかった。だから会話を聞いた時、あいつの本性を知ったと勘違いしてしまったんだろう」

 

「そんな…………そんなことって…………」

 

「どっちも悪くなかったんだ。あいつがお前たち人形の怒りを買うようなことを直接していたわけでもないし、エンフィールドが理不尽に切れたわけでもない。ただ全てのタイミングが悪かったんだ」

 

もし仮に、リー・エンフィールドと前任の指揮官の間に確かな信頼関係が成立していたのならば、悲劇は起きなかったかもしれない。しかし人間嫌いの人形たちと信頼関係を築くには時間が必要だった。お互いがお互いのことを探りあっている段階であったからこそ、勘違いが生まれてしまったのだ。

 

「残酷ね。運命っていうのかしら、こういう不幸な出来事も」

 

「そうかもな。俺は神様とか信じてるわけじゃねぇが、それでもたまに『流れ』みたいなのは感じることがある。あいつは運悪くそれに引っかかっちまったんだろう」

 

「あなたもそうなるかもしれないのよ? その…………怖くはないの?」

 

「うーん、怖くはねぇな。わーちゃんは怖いのか?」

 

「私は………………怖い……わよ。私は別に不幸な事故で壊れても代わりはいるけど、あんたは死んだら変わりはいないんだから…………怖いわよ…………」

 

うつむき、消え入りそうな声でそうつぶやいたWA2000。それを見た指揮官は言葉を返す。

 

「俺は死なねぇよ。少なくともお前たちの上に就いてる間はな」

 

「けど! 万が一のことがあったら何もかもがまた戻るのよ?! あんたを慕ってるリー・エンフィールドだって、あんたが死んだら今度は何をしでかすか…………」

 

現状心の壁を取り払いリー・エンフィールドと接触できる人間は指揮官だけだ。もし指揮官の身に何か起これば、リー・エンフィールドとはその相手を決して許さないだろう。

 

「それに! 他の人形だって、あんた以外の人間に従うとは思えないわ! 今まだ残こってる反抗的な人形だって、あんたが強いから何とかなってるの! あんたが死んだら、他の人間に代わりが務まるとは思えない!」

 

「まあ、そうかもな」

 

「あんたが強いのはわかってる。それにいろいろ考えてるし、隙があるとも思えない。けど、それでも私は心配なのよ…………あんたが…………あなたのことが…………」

 

「そうか…………ありがとな、わーちゃん」

 

指揮官はそう言ってWA2000の頭を優しくなでた。

 

 

「死なねぇよ。絶対に」

 

 

「!!」

 

「まあフラグは立てたくねぇからな。ここで『約束するぜ』とか言うのは控えるけどよ。それでも死ぬ気はねぇ。もしピンチになっても死ぬ気で何とかするつもりだ」

 

「でも…………」

 

「それになぁ。寂しいこと言うなよわーちゃん。壊れても代わりがいるとか、なんか壊れること前提みたいじゃん。俺はわーちゃんが壊れたら悲しいぜ?」

 

「っ…………」

 

「確かにグリフィンには他にWA2000っていう型番の戦術人形はたくさんいるけどさ、今俺の目の前にいるわーちゃんはわーちゃんだけなんだぜ? 他の誰にも代わりは務まらねぇよ。悲しいこと言うなって」

 

「そんな……こと…………」

 

指揮官の素直な言葉が流石に恥ずかしかったのか、WA2000は目を逸らした。いつも通りの反応に指揮官は安心したようで、少し離れて本棚の資料に目を向ける。

 

「とにかくそういうことだ。これから俺の前でそういうこと言うのは禁止な。これは命令だ」

 

「なによ…………そんなくだらない命令……初めてよ…………」

 

「これでわーちゃんの初めてを一つ奪っちまったわけだな」

 

「なっ! このタイミングでそんなこと言うんじゃないわよ!」

 

「ははっ、わりぃわりぃ」

 

しかしWA2000にはわかっていた。この冗談も、落ち込んでいた自分の気分を直すためのものなのだと。あえてふざけることで、暗い雰囲気になってしまった会話にリセットをかけようという指揮官の考えだ。

そこまで読めてしまうと、怒る気にもなれないのだった。

 

「はぁ……本当に心配する必要なんてない気がしてくるわ」

 

「それでいいんだよ。俺のことなんて気にしないで、わーちゃんはやることしっかりやってくれればいい」

 

「そうかしら? というかコーヒーを持ってくるだけのつもりが邪魔しちゃったわね」

 

「いやいや、いい気分転換になったよ。あと少しで書類関係は終わりそうだしな」

 

「そう。ならよかったわ。おやすみなさい」

 

「おう、おやすみ」

 

こうしてWA2000は部屋を出ていった。

指揮官はそれを見届けると窓の外に目をやった。もう夜も遅く、外は真っ暗だ。

 

しかし、そこにあるはずのない人影がうっすらと写っている。

 

「盗み聞きとは趣味が悪いな」

 

「いえいえ、寝る前の散歩中にこちら部屋の前を通りかかったら、なにやら話しているのが聞こえたので、つい」

 

「そんなんで誤魔化せると思ってんのか? お前俺が書類書いてる時からいたじゃねぇか。ずーっと前からな」

 

「あら、気付いていたんですか? それは失礼いたしました」

 

「用があるなら普通に扉から入って来いよ。話があるなら聞くぜ?」

 

 

 

「なあ、スプリングフィールド」

 




今回から新展開です


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第八話 秘密

「さて、何の用か聞かせてもらおうじゃないか」

 

スプリングフィールドを部屋に入れた指揮官は、単刀直入にそう尋ねた。その表情はやや真剣だ。

 

「お前が前から俺のことを嗅ぎまわってたのは知ってるんだ。何を企んでるか知らないが、変なことする前に大人しく目的をしゃべってくれ。そのほうが楽だ」

 

「あら、そのことも気付いていたんですか? てっきり他の子たちの対応に追われてると考えていたんですが……流石ですね」

 

「あの程度じゃ俺はわかるぞ。俺を出し抜きたかったら、もっと気配を消すか他の方法を使え。これでも気配には敏感なんだ」

 

「なるほど、肝に銘じておきますね」

 

そう言ってにこやかに笑顔を浮かべるスプリングフィールド。指揮官は様子を見ながらコーヒーをすすった。

 

「どうやら話す気はないらしいな」

 

「大したことではありませんので。指揮官に迷惑はかけませんし、お手を煩わせるようなことでもありません。私から危害を加えるようなこともしませんので、指揮官はいつも通り過ごしていただければいいかと思います」

 

「そういわれてもなぁ・・・視線とか結構気になるんだよ。見てるだけで何もしないっていうなら別に構わないけど、できれば話してもらいたいところだ」

 

「うーん、そうですか・・・」

 

指揮官がここまでスプリングフィールドのことを気にしているのには訳があった。彼女だけこの基地に詳細なデータが存在していないのだ。

前任の指揮官であった親友から様々な情報を得ていたが故に、指揮官はこの最前線基地の人形たちを上手く御することができている。もちろんそれだけではなく指揮官個人による下調べや本部に存在するデータの参照などもあったが、それでも実際に最前線基地の内情を一番よく知っていた前任の指揮官からの情報は大きかった。

しかしこのスプリングフィールドが最前線基地に配属されたのは、前任の指揮官が殺害された後のこと。つまり、最前線基地がリー・エンフィールド主導の体制を執ってグリフィン本部から離反していた時のことなのだ。当然なんの情報もなければ、話も聞いていない。

これだけならまだ変なところはないが、問題はその前。つまりは最前線基地に配属される前のデータなのだが、なんとそれが一切存在していないのである。

 

(まあ推測を立てるなら、消されたんだろうがな)

 

それは最前線基地に所属している人形たちと関係を築くために、指揮官が人形たちの素性を調べていた時のこと。指揮官は本部のデータベースにアクセスして、情報集めていた。

同じ型の人形であっても性格や癖に微妙な違いがあるものなので、それを把握することでより有意義なコミュニケーションを図る。過去に所属していた基地、上官、他の人形との関係。それらを知っているといないとでは、ファーストコンタクトから信頼関係を築くまでの差がかなり大きくなる。

当然スプリングフィールドのデータは他の人形たちより念入りに調べ、関連していそうな情報をあらっていた。しかし、その時どこを探してもスプリングフィールドのデータだけ見つからず不自然なログだけが残っていたのだ。不審に思った指揮官が直接情報を管理を担当している部署に問い合わせたところ、意外な返答が返ってきた。

 

『我々も気付いていなかった。不自然なログに関しては、情報の削除が行われた可能性がある』

 

膨大な量のデータを管理しているわけなので、全てを一から十まで把握しているわけではないのは仕方のないことだ。だが管理部も把握していないとなると、どう考えても怪しい。

その後も情報を得るためにいろいろと調べた指揮官だったが、わかったことはわずかだった。所属していた基地、そしてその基地の指揮官が既に引退していることしかわからなかったのだ。しかも引退した指揮官のデータは適当なものに改ざんされており、現在の消息はつかめない。

ここから様々な推測が立つが、『基地で何らかの問題が発生し、その責任を取る形で指揮官が引退。その後スプリングフィールドは最前線基地に配属』という流れが最も有力だろう。そう考えれば辻褄も会う。削除されたデータは、引退した指揮官が自身の基地で起きたことを隠匿するために行ったのだとすれば納得がいく。

 

(なんにせよ、何かしら隠したくなるような出来事があったのは間違いないだろうな。果たしてこの探るような行動と関連性があるのかないのか……)

 

本人に聞くが一番手っ取り早いのだろうが、何か企んでいてた場合はまともに答えなど返ってこないだろう。なんとかして尻尾をつかみたいところだが、それらしい動きがないのも事実だ。

 

「まあ、本当に何もしねぇっていうなら別に構わないんだけどよ。ほどほどにな。観察はしたきゃしててもいいけど、銃の整備とか訓練に支障が出るようだったら制限しなきゃなんねぇからな」

 

「ええ、わかっていますよ。指揮官はもちろん、他の人形たちにも迷惑をかけるつもりはありませんから」

 

「そうか。じゃあ今日はもう寝とけ。あんまり遅くまで起きてるんじゃねえぞ」

 

「はい。おやすみなさい、指揮官」

 

「おやすみ」

 

謎が残るまま、スプリングフィールドは指令室を出ていった。今のところなんの実害も出てはいないが、できれば出る前に素性を暴いてしまいたいものだ。

 

「さて、俺も寝るかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は激高していた。何故だかはわからないが、激しい衝動が全身に駆け巡っていた。全身に力を込めて動こうとするも、その体は押さえつけられているかのように動かない。

俺はもがいた。必死になってもがいた。今動かなければ、全てが終わってしまう気がした。何もかもが終わってしまって、絶望一色で埋め尽くされてしまう気がした。だから俺は動かなければならなかった。

奇妙な夢だ。俺がいくらもがいて動こうとしても、動くことはできない。まるで何本もの腕が俺のことを抑えているかのようだった。

とても奇妙な、なんとも違和感のある夢だ。

奇妙な…………夢…………。

 

違う、これは現実だ。

 

「離せっ! 離せっ! いいから離せ!」

 

俺は叫んだ。力の限り叫んだ。しかしそれに返す声がある。

 

「離すわけないだろうバカ! 冷静になれ!」

 

「冷静になんかなれるか! あいつらはまだ残ってるんだぞ! 誰があいつらを助けるんだよ! 誰が……! 誰が!」

 

「運が良ければ……包囲を突破できるかもしれない……」

 

「じゃあ運が悪かったらどうなるってんだよ! あのまま囲まれてたらどう考えたって全滅するだろうが! 助けに行かなきゃあいつらは全員やられるんだぞ!」

 

「あいつらは私たちを逃がすために犠牲になってるんだ! ここで私たちが逃げ切れなかったら、あいつらが命を懸けてる意味がなくなるんだぞ! それをよく考えろ!」

 

「そうだよ……私たちは逃げなきゃ。逃げて生き残らないといけないんだよ…………」

 

「ふっざけんなっ! そんなこと許せるか!」

 

俺だけが生き残るなど、耐えられない。

 

「あいつらの犠牲で俺が助かったとしても、俺は生きられない! この先永遠にあいつらのことを思い出して生きていくなんてことは耐えられない! ここで逃げるぐらいなら死んだほうがましだ!」

 

本気でそう思った。だからそう言った。

その瞬間、わずかだが俺の全身を抑える力が弱くなったのを感じた。

 

「らぁっ!」

 

「なっ! しまった!」

 

背後から聞こえる制止を振り切り、俺は全速力で走った。俺は行かなければならなかった。助けなければならなかった。

数秒後すぐに敵に見つかり、俺に照準が合わせられる。

 

「邪魔だぁあああああああああああああ!」

 

攻撃を避け、肉薄して全力の拳を叩き込む。さらなる追撃が俺を襲うが、それすらも全て躱して俺はひたすらに拳を振るい続ける。

まるで道をこじ開けるかのように、敵部隊の真っただ中に身を投じる。はたから見たら自殺行為であるその行動に、俺は一切のためらいがなかった。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

雄たけびを上げながら、次々と敵を倒していく。進むにつれて敵の数は増えていくが、そんなことは関係ない。

俺はたどり着かなければならなかった、あいつらの元に。なんとしても助けなければならなかった。

走り、跳び、銃弾をかわしながら敵の懐に飛び込んでいく。拳で、蹴りで、敵を破壊してはまた先へと進んでいく。

一刻も早く、前に進まねばならないと俺の中の本能がそう叫んでいた。深く考える前に身体が動き、最も効率的な動きで敵を殲滅していく。思考はとうにまともではなくなっていて、冷静さなどどこにも残ってはいなかったが、それでも身体は最適な動きをしてくれている。

 

「早く……」

 

心の中で焦りだけが大きくなっていく。

 

「早くっ!」

 

周囲の景色が、敵たちが、どんどんゆっくりに感じられた。感覚が研ぎ澄まされ、自分以外の時間がどんどん遅くなっていくようだった。

焦れば焦るほど、急げば急ぐほど、感覚は研ぎ澄まされていく。一瞬一瞬が引き延ばされたように重くなっていき、焦燥を加速させる。

過去度の戦闘でも経験したことないような究極に集中した状態。気が付けば感覚は限界を超えて鋭くなり、どんな相手だろうと負けることが考えられないほどの極致に到達していた。

 

だが、数が多すぎた。

 

「ぐっ!」

 

右肩を走る痛み。紙一重で続いていた回避が遂に間に合わなくなる。精神力で何とか持ちこたえようとするが、痛みは動きを少しずつ鈍らせ、判断力も落ちていく。

 

「くそっ! くそっ! どけよ……邪魔なんだよ……早く……早く……行かなきゃいけねぇのに……!」

 

どれだけ倒しても、どれだけ前に進んでも、一向にたどり着く気配がなかった。

やがて俺の傷は増え、出血が進んでいく。

腕、脚、胴、頭。少しずつ、そして確実に俺の被弾は増えていく。

どんなに力を振り絞っても、俺の体力はなくなっていく。

 

「ちくしょう……ちくしょう…………」

 

血が流れ、意識が朦朧とし始める。直感と戦闘経験による反射、そして精神力でなんとか身体を反応させてはいるが、もう限界を超えていた。

 

「俺は……俺は……ここで死ぬのか……ここで……」

 

薄れゆく意識の中、俺は悟った。

 

 

 

 

 

「俺は……守れなかったんだな…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

「大丈夫ですか? 随分とうなされていたようですが」

 

そこは基地にある俺の部屋だった。目を覚ましたのはベッドの上だ。

何故か部屋の中にはスプリングフィールドがいて、俺のことを心配そうに見つめているが、俺は気にしなかった。

 

「あの……指揮官?」

 

「っと、すまない。ちょっと悪い夢を見ていたみたいなんだ。なんでもないよ」

 

「そうですか……だいぶ酷い様子だったので何か病気にでもかかってしまったのではないかと思いました。本当に夢なんですね?」

 

「ああ。内容全てを覚えているわけじゃないが、なんだか昔のことのようだった気がする。なんだったんだろうな。嫌な気分になったことだけはなんとなく記憶に残ってるんだけどな」

 

嘘だった。本当は全て完璧に覚えている。

そして、忘れることもない。

 

「それよりどうしたんだよスプリング。なんでお前が俺の部屋にいるんだ?」

 

まだ夢の内容が色濃く脳内に残っていたが、一旦それは置いておくことにした俺はスプリングフィールドにそう尋ねた。

いつもならば、例え寝ている間だったとしても自分に対する意識を感じ取ることのできる俺だが、今日は夢が夢だっただけにそんな余裕はなかった。どの辺りでスプリングフィールドが入ってきたかもわかっていない。

 

「あら、指揮官のことですからお気付きになっているのかと思っていましたが、そうではないのですか?」

 

「いや、今日は夢が悪かったせいか何もわかってないんだ。いつもなら寝てようがわかるんだけどな」

 

「ふふふっ、そうなんですか。それはそれは……」

 

俺の言葉に、何故かスプリングフィールドは笑っていた。その瞬間、俺は何か得体のしれないものと対峙しているかのような感覚を感じた。

 

「お前…………何を…………」

 

「安心しましたよ指揮官。いつもはぐっすり眠れてるみたいですね」

 

「どういうことだ?」

 

「だって、気付いてないんですよね? 私が毎日指揮官が寝てから部屋に入ってきていることに」

 

「なっ?!」

 

そんなことはあり得ない。即座に頭の中でそう否定する。

現に俺は何回か夜襲を防いでいるのだ。着任当初は昼夜問わず狙われていたので、当然夜寝ている時も容赦なく襲撃があった。しかしそれをも俺は反応して対処していたのだ。誰であろうと、例え気配を消そうと慎重になっていたとしても、部屋に入ってくれば気付くことができていた。

いかにスプリングフィールドに殺気が無くとも、侵入に気付かないという事はないはずなのだ。

 

「私は先程話した際に全て気付かれていると言われたので、てっきりこうして夜部屋に忍び込んでいることもバレているのかと思いました。けど、流石の指揮官も寝ているときは完全に周囲の状況を把握できるというわけではないのですね」

 

「そんなことは……俺はいつも気付いて……」

 

「確かに他の人形たちの侵入、襲撃などは全て気付いて対処されていました。しかし、私に反応したのは今回が初めてですよ」

 

「馬鹿な……今までずっと来てたっていうのか?!」

 

「ええ、その通りです」

 

指揮官の首筋に冷たいものが走った。

本能的に警戒レベルが最大まで上がる。

 

「ああ、誤解しないでください指揮官。私は指揮官に何もしていません。ただ指揮官の寝顔を眺めていただけです」

 

「そう信じたいところだが、生憎そうはいかない。自分の力を過信しているわけじゃないが、俺は就寝中だとしても周囲の気配には敏感なんだ。どうやって俺の部屋に入ってきた?」

 

「普通に扉を開けてですよ。特別なことは何もしていません。普通に廊下から、私自身の手でドアノブを回して扉を開けて中に入り、そして指揮官を見ていました」

 

「それを信じろと?」

 

「はい」

 

「俺は普段のお前の気配には気付いていた。これといっておかしなところもなかった。だからこそ今の状況がおかしいんだ」

 

もしこれで普段からスプリングフィールドの気配がしない、反応できないといった状態ならば納得がいくのだが、そうではない。確かに彼女の行動を指揮官は感知することができていたのだ。夜だけ何か特別なことをしているとしか思えない。

加えて、彼女の素性は知れていないという他の人形とは違った特異性がある。どうしても勘繰ってしまう。

 

「指揮官は私が何か秘密を隠していると、そのようにお考えなのですか?」

 

「ああ、そうとしか思えないな」

 

「ふふっ、そうですか」

 

不敵な笑み。整った顔に浮かべられるそれには確かに美しさもあるのだが、底のない深い闇を感じさせる。

もし彼女の言葉が真実であるとすれば、指揮官はほぼ毎日部屋に侵入されていたことになるし、その状況で彼女は指揮官の寝顔を朝まで眺め続けていたということになる。

何が目的でそんなことをしているのか。考えてもそれらしい理由は見当たらない。

 

「………」

 

「どうなさいますか指揮官? 私を部屋から追い出すか、それとも私のことを気にせずに再びお眠りになるのか。私はどちらでも構いませんよ?」

 

「いや、どっちでもないな。俺はお前に質問をする」

 

「質問?」

 

第三の選択肢とでも言うべきか。スプリングフィールドはやや意外そうな表情を浮かべた。

 

「俺がお前に聞くのは、過去に何があったかだ。かつてお前が所属していた基地で何があったのか、何故その基地の指揮官だった男は行方をくらませたのか、それを聞かせてもらおうか」

 

「ああなるほど、やはり私のことをいろいろと調べていたのですね」

 

「そうだ。この状況で話さないとは言わせないぞ?」

 

指揮官はそういって体に若干力を込める。臨戦態勢とまではいかないが、自分が本気であることをスプリングフィールドに伝えるには十分だ。

スプリングフィールドはしばらく迷ったかのように考え込んでいたが、流石に誤魔化すことはできないと判断したのか、口を開いた。

 

「わかりました。ではお話ししましょう。私の過去を。私たちの過去を」

 

そうして始まった彼女の過去は、指揮官の予想の外ともいえる内容だった。

 




遅れて申し訳ない。


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第九話 狂気

「ふぅ~寒くなってきたなぁ…………」

 

「そうですね。そろそろ暖房設備を使い始めることなるかもしれません」

 

「そうだな……作戦回数も極力減らせるようにするつもりだ。冬場はいろいろと効率が落ちるからな」

 

会話をしているのは基地の指揮官とその副官の戦術人形だ。窓の外を眺めながら話す二人の雰囲気は、見た目よりもずっと穏やかに感じる。

 

「そういえば指揮官、お体の方は大丈夫ですか? ここのところあまり体調が優れなかったようですから……」

 

「ん? ああ、それなら気にしなくていい。私は今絶好調だ」

 

そう言って笑う指揮官。その表情は明るく、体調不良など微塵も感じさせない。

しかし、この指揮官は生まれつき体が弱かった。

どうも筋肉やそれに関係する神経の問題らしく、この男は生まれつき身体を上手く動かすことができない。幼少期こそ筋肉は柔軟で一般的な動きをするには困らないほどだったが、年を取るにつれて筋肉はどんどん固くなっていく。そのうちストレッチをして筋肉を伸ばしても、薬を使って何とかしようとしても、動くのが困難な状態にまでなってしまったのだ。

そういう理由もあって、副官である人形は指揮官のことをとても心配していた。

さらに付け加えるならば、指揮官は基本的には部屋から出られない。もちろんこれは活動意欲がないわけでも、内気なわけでもない。単純な移動にもかなりの体力を要するほど体が不自由なのだ。歩くときは杖をつき、壁に手をついて体重を預ける。時にはそれでも歩くことができず、補助がなければトイレに行くことすら厳しいこともある。

そんな人間が基地の指揮を担っている。普通に考えればありえないかもしれないが、紛争多発や高齢化によって人材不足の中グリフィンとしてはできるだけ優秀な人材を指揮官として起用しておきたいのだ。

そして、この男はそれだけ優秀だった。

 

「さて、休憩はこの辺りにして書類に手を付けるとするかな。どうも最近は周辺の基地からの申請書が多くて困る」

 

「確かにここ最近は特に多いですね。私もお手伝いします」

 

「いいっていいって、書類は俺がやる。お前はコーヒーでも入れてきてくれ」

 

「ですが指揮官……」

 

「あ、別に信用してないとかじゃない。多いと言っても分担するまでもない量だからな、一人で終わらせられるさ」

 

そう言って指揮官の男は書類に目を通し始めた。書類の山を見てもとても一人で処理しきれる量ではなさそうだが、この男の捌く速さは常人のそれを遥かに上回っていった。

瞬間的に書類の内容を読み理解する読解力、それに関する知識を調べることなく持ち合わせる知識量、総合して結論を導き出す判断力。どれをとっても超一級だ。

副官の人形も、それを理解していた。

だが…………

 

(指揮官……本当に大丈夫ですか? 本当に……無理していませんか?)

 

副官の人形がこの男をここまで心配している最大の理由、それは彼の悪癖、無茶をしすぎるという彼の性格によるものだった。

 

「指揮官、ではコーヒーでよろしいですか? それとも紅茶か、あるいは緑茶などでも」

 

「うーんそうだな、今はやっぱりコーヒーの気分だから、コーヒーで頼む」

 

「わかりました。ミルクや砂糖はいかがいたしますか?」

 

「ブラックでいいぞ」

 

「わかりました。では少々お待ちください」

 

部屋を出た副官である彼女の胸の中では、ある種の直感的な不安感とでも言うべきものが渦巻いていた。心配する必要はない、何も気にすることはないと自分に言い聞かせても、どこかぬぐい切れない寒気のようなものが纏わりついてくる。

指揮官は体を上手く動かせない。が、実際は無理をすれば走ることはできるし、場合によっては一般人に引けを取らない動きをすることもできる。

しかし、それはあくまで『無理をした場合』の話だ。長くは続かないし、反動もある。

以前指揮官が自分の意思で身体能力を低下を遅らせようと無理やり運動をしようとした際には、筋肉の負荷や呼吸器官の異常が発生し、数日間寝たきりという通常時よりも悪い状態になってしまった。しかも無理に体を動かすことでかかっていたストレスや精神的な影響もすさまじく、胃に穴が開き、食事もままならない事態にまで発展してしまったのだ。

 

『情けねぇな……これぐらいのことで動けなくなるなんてよぉ……』

 

ふとつぶやかれたその一言を聞いた彼女は、その言葉の裏に隠された指揮官の思いを感じ取った。それは自分自身に対する不甲斐なさ、自ら動くことのできない歯がゆさ、そして何より人形たちに迷惑をかけてしまっているだろうという責任感。誰であろうと解決することのできない、悲しい現状を知ってしまっているからこそ重圧が心に重くのしかかっている。

そんな心の内を知っているからこそ、彼女は指揮官を誰よりも心配していた。誰よりも注意深く指揮官のことを観察し、少しでも異変があれば例え迷惑だと思われようともしっかりと尋ね、不安要素を排除する。自分自身のことよりも指揮官の身の心配をし、彼を守ることこそ自分の使命だと信じて疑わなかった。

そんな彼女、いつも傍らで指揮官を気にかけている彼女だからこそ、些細な変化を感じ取ったのかもしれない。

 

数日後、その不安が的中することとなる。

 

「なんだと? それは本当か?」

 

通信を受けた指揮官の表情が、次第に曇っていく。何やら重大な話らしく、指揮官の口調はいつになく真剣だった。

 

「ああ、ああ、それは……なるほどそうなのか。わかった。その分はこちらで担当しよう。他のところにも回せるように手はずを整えておいてくれ」

 

どうやら他のある基地が機能しなくなってしまったらしい。鉄血とのにらみ合いを常に続けているグリフィンにとっては珍しくないことだが、実際に基地が一つ使えなくなるというのは大きい。その分の任務を調整したり、他の基地で代わりに行わなければならないからだ。

指揮官は細かい部分を調整するために話を続けているようだった。

 

「物資と行動ルート、それから——————」

 

言葉がそこで止まる。

 

「うっ…………がはっ…………」

 

「?!」

 

突如、指揮官が吐血。その後胸の辺りを苦しそうに抑えながら机へと倒れこんだ。

 

「指揮官!? しっかりしてください指揮官!!」

 

副官の人形が必死に呼びかけるが、指揮官は苦しそうに唸るだけで反応を返す余裕がないらしい。

今まで起こったことのない不測の事態だったがために、彼女は混乱してどうすればいいのかわからなくってしまった。身体的な異常ならば何度もあったが、病気のような症状が急に現れるのは初めての出来事だったからだ。

それでも数秒後にはなんとか内線を使って医療班を呼び出し、指揮官の治療を開始させることができた。医療設備の整った施設まで運ばれた指揮官には人工呼吸器がつけられ、本格的な施術が始まった。

 

(指揮官…………)

 

幸いなことに、指揮官は一命を取り留めた。数週間入院すれば、復帰できるとのことだった。

だがそれは言い換えればそれほどの期間安静にしていなければならないという事であり、その事実は、指揮官本人と副官の二人の精神を蝕んでいった。

 

「どうすりゃいいってんだよ…………」

 

「指揮官……」

 

「俺は今までできる限りのことしてきた。その上でこの体に関しては覚悟をしてたはずなんだ。生まれ持ったものだから仕方ないし、それを受けいれて生きていくしかないってな。だが今度は体の中だ。内臓だ。ただでさえ弱々しい俺の体がもっと弱っていってるようでもう…………なんというかもう限界だ」

 

指揮官の体を襲ったのは気管支炎だった。要は筋肉だけでなく、それを支えるために無理をしていた肺までも症状が出てしまっているのだ。

どれだけ辛いだろう、どれだけ苦しいだろう。これまでも耐えてきた指揮官を更なる苦痛が襲っている。いつ心が折れてもおかしくはない。

何とかしなければ、と思ったところでどうすることもできない現状。いつも指揮官を気にかけている副官の人形は、自分のせいではないことをわかっていながらも、心に責任感が多くのしかかってくるのを感じた。何もできない無力な自分という存在を呪った。

流石の事態に他の人形たちも指揮官の身を案じて多くが見舞いに訪れた。しかし指揮官は気丈に振る舞ったため、ほとんどが指揮官の病状を軽視することとなってしまった。

誰も悪くない。皆に心配をかけまいと気を張った指揮官も、真実を知りながらも指揮官の意思を尊重してそのことを皆に知らせなかった副官も、指揮官の演技に気付かなかった人形たちも、誰も悪くはない。だが状態はどんどん悪化していく。

 

「なぁ、スプリング」

 

「はい、何でしょう指揮官」

 

ある日、指揮官はベッドで横になりながら副官の名を呼んだ。

窓からは色付いてきた木々の葉が見えるような、そんな季節だった。

 

「お前は……なんで俺のことをここまで見てくれるんだ」

 

「えっ?」

 

「お前は任務外のところまで俺のことを見てくれるじゃないか。なんでなんだ」

 

「なんで……と言われましても」

 

答えに迷う。正直自分自身でもわかっていないことだったからだ。

 

「私は……私は指揮官の副官です。指揮官のためにできる限りのことをするというのが、副官としての義務なのかと…………そう思います」

 

「なら、もし今からお前を副官の任から解いたらどうだ? 別のやつを副官にするか、あるいは副官自体をもうつけないか。そうしたら、お前はどうする?」

 

「それは……私は…………」

 

どうするのだろう。彼女は自分でもわからなかった。

自分が指揮官のそばにいないという状態。既にそれが想像できない。それほどまでに常に指揮官に寄り添っていたし、離れたことなど無いに等しい。

基地が機能し始めてから早々に副官として選ばれ、以来ずっと指揮官と行動を共にしていた。

 

「指揮官はこそ、なんで急にそんなことをお聞きになるんですか? らしくないというか……なんというか…………」

 

「わからん……俺にもわからんが、気になってな」

 

らしくない。彼女の言う通り、その日を境に指揮官は少しずつ変わっていった。

入院を経て復帰した指揮官だったが、入院前からあった悪癖とも言える『無茶をする癖』が、より顕著に表れるようになった。任務でも効率を度外視した大胆な作戦が執られることが増え、その分成果も変化していった。

成功すれば今までもよりも大きな戦果が、失敗すれば今までよりも大きな損害が、長年の経験と腕があるからこそ辛うじて成り立つような、ギャンブルじみた作戦が増えることとなった。

人形たちも少しずつそのことに気付き始め、基地内では様々な噂が尾ひれをつけて流れた。入院中に何かあったのではないか、体が限界でやけになっているのではないか、中には本性が出たのではないかという推測をする者もいた。

実際に指揮官はかなり焦っていた。どうしようもない苛立ちと悔しさで、副官のスプリングフィールドにも当たることが多くなっていった。

 

「くそっ! くそっ! どうしろってんだ! どうしよってんだよ俺に!」

 

「し、指揮官! 落ち着いてください! どうか落ち着いて……」

 

「うるさい!」

 

 

「キャッ!」

 

 

「あっ…………スプリング…………」

 

「大丈夫です指揮官、このぐらい何ともありません。指揮官がつらいのは私もわかっています。気にしないでください」

 

「ぁ…………っ…………」

 

そのやさしさが、指揮官には染みた。

嫌われてしまうような、信頼を裏切るようなことをしているのに、当の本人から許されてしまう。

自分自身の汚点を、誰も咎めない状況。本当は優しい性格であるからこそ、その事実がつらい。

そんなことが続いていくうちに、指揮官の体調はどんどん悪化していった。入院と退院を繰り返すようになり、その頻度も多くなる。いつしか基地にいることの方が珍しくなり、執務室にもいざというときのための薬や機器が多くなっていた。

日に日に笑顔が減っていった。明るく振る舞おうにも、もはや指揮官にはその体力すら残されていなかった。スプリングフィールドを含め所属の人形たちや、他の基地にいる縁のあるグリフィンの士官たちも、なんとかならないかと思案を続けた。

しかし状況が改善することはなく、ただ空しく日々が過ぎていった。

 

 

そして、その時は訪れた。

 

 

「スプリング……いいか…………」

 

「指揮官?」

 

もはや打つ手がなく、基地の自室で最後を待つことを決めた指揮官。彼の代わりに仕事をこなすようになっていたスプリングフィールドは、その声に返事を返した。ベッドに寄ると、指揮官の言葉を聞き逃さないように耳を傾ける。

 

「どうしました指揮官?」

 

「スプリング……俺は……多分もう駄目だ……」

 

「な、何を言っているんですか指揮官! 急にそんな…………」

 

「分かるんだ……なんとなくだが……俺は……もうもたない……」

 

「そんな……そんなこと…………」

 

「わかってたことだ……この体が……長くないことは、もう……ずっと前からわかってたことだ……。むしろ……ようやく来たかって……思うぐらいだ……。よくここまでもってくれたと思うよ…………本当に……ありがたい…………」

 

「何を……何を言ってるんですか! 指揮官はこの先も私たちの指揮を執るんです! 私たちが鉄血に勝って、平和になるまで指揮官は————」

 

「スプリング……許してくれよ…………」

 

「!!」

 

その一言に込められた意味が、わからないわけはなかった。

何故なら彼女は副官で、誰よりも指揮官のそばにいたのだから。

 

他の誰よりも、指揮官のことを理解しているのだから。

 

 

「私は……私はこれからどうすればいいんですか…………」

 

スプリングフィールドの眼には涙が浮かんでいた。涙は頬を伝い、雫となって落ちていく。

 

「指揮官がいなくなってしまったら……私はいったいどうすればいいんですか……。これまでずっと指揮官と一緒に過ごしてきたのに、指揮官と一緒に任務をこなすことが私の存在意義だったのに…………その指揮官がいなくなってしまったら、私は何を目的に生きればいいんですか…………」

 

「そんなこと……言うなって…………俺なんかいなくても、お前はやっていけるだろう…………。お前は優秀だから……どこに行っても活躍……できる……」

 

「嫌です! 私は他の基地になんか行きたくありません! 他のところに行くぐらいなら、私はここで指揮官と共に眠ります!」

 

「スプリング…………」

 

副官としての彼女の意思は固かった。だが指揮官も既に限界であるという事実はどうしようもない。ここから状況を変えようにも、もう既にどうしようもないところまで来てしまっていることは、この二人が一番理解していた。

スプリングフィールドは自分の言っていることが完全なわがままであることは理解していたが、それでもあふれる涙を、言葉を、止めることはできなかった。

 

 

そんな中出てしまった一言が、スプリングフィールドの今後の人生を大きく左右することになる。

 

 

「スプリング…………お前は……俺の分まで、生きてくれ」

 

 

「えっ…………?」

 

自らを支えてくれた副官を労う指揮官の一言。今まで長い時間を共に過ごし、信じて慕ってくれた副官に対しての言葉。

 

しかしその時、スプリングフィールドは自分が何を言われたのかわからなかった。

 

感情が高ぶっていたため正常な判断ができなかったというのもあるが、まず根本的に理解はしていなかった。

その一瞬だけ言語が変わってしまったかのような、奇妙な出来事。指揮官の発したのは普段使われている乗用語であったのに、スプリングフィールドの思考はその言葉を理解することを拒んだのだ。

その言葉を理解する、それは指揮官を、自分の最愛の人の終わりを受け容れることに他ならない。それを知ってか知らずか、あるいは無意識だったのか、なんにせよスプリングフィールドはその言葉を受け容れなかった。

ただ、頭の中に概念的なイメージが湧き上がった。何を言われたのかすらわかっていないのに、そのイメージは鮮明にスプリングフィールドの思考を埋め尽くした。

何かが変わってしまったのか、あるいはこの時すでに変わり果ててしまっていたのか、当の本人ですらわからないような異変の中、スプリングフィールドは自身のイメージに従って行動を起こした。

 

指揮官を、食べた。

 

肉に歯を立て噛みちぎり、血をすすり、咀嚼し飲み込む。動じることなく、自分のしていることに疑問を持つこともなく、ただ淡々と目の前の存在を口へと運んでいく。

およそ数十分間、彼女は食事を続けた。流れ出る血液で部屋は赤く染まり、地獄のような光景が広がっている。

何が起きたのか、誰も理解できないだろう。当の本人ですら意識があるとは言えないような状態で、真相は誰にも分らない。否、わかるわけがない。

 

それを理解できてしまった者もまた、どうしようもなく狂っているからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たち……っていうのは、じゃあ…………」

 

「ええ。私は指揮官と共にあります。この体はもう一人の戦術人形としてのというだけではありません。私は、指揮官と一つになったのです」

 

異常としか言いようがない。まさに狂気。周囲の雰囲気が徐々に染まっていくかのような、そんな感覚が辺りを埋め尽くす。

これではいくら探しても情報が見つからないわけだ。何せもうこの世にはいないのだから。個人の意思で引退したわけでも、殉職したわけでもなく、病で亡くなっていた上にその亡骸は副官であったスプリングフィールドの一つになった。

情報の改ざんはスプリングフィールドが行ったのだろう。考えにくいが不可能ではない。

 

「まさかカニバリズムに目覚める人形がいるとはな、びっくりだよ」

 

「そうですね…………指揮官は少し勘違いをされているのではないでしょうか? 私はただ以前所属していた基地の指揮官と行動を共にしているだけです。今こうしてこの最前線基地に所属している身としては少し変かもしれませんが、おかしいことでしょうか?」

 

「ふーん、なるほど?」

 

そんな簡単に流せるような話ではない。そもそも根本からして常識がねじ曲がっている。

避けられない死を回避するために苦心するならまだ話からなくもないだろう。その結果常軌を逸した行動をとることは、むしろ人間として純粋であるともいえる。感情の暴走は人の判断力を狂わせ、こと愛情に関しては人間の歴史から見ても人災の種になることは多かった。

だがこれは、そんな生易しいレベルのものではない。

 

「意外と驚きませんね。もう少し驚くかとは思ったのですが」

 

「あいにくと俺の人生は驚きの連続だからな。いまさらちょっとやそっとのことじゃ動じねぇよ」

 

実のところ全然『ちょっと』という範疇ではないのだが、指揮官はあえてそのことを悟られないようにしていた。

確かに、人間にもそういった嗜好を持つ異常者ともいえる存在はいる。そしてその人間が作った人形もまたそのような感覚を持つのは不思議なことではないだろう。

だがそれにしてもあまりにもズレすぎている。普通の感覚とは圧倒的にズレているのだ。

 

「じゃあ俺をずっと観察してたのはどういうことだ? 俺に興味があったってことか?」

 

「そうですね…………私は今までずっと人間の傍らで過ごしていたので、そうしていないと落ち着かないというのが大きいと思います」

 

「なるほどなぁ、そういうことだったのか」

 

「はい。それに、指揮官は似ているんです。私の中の指揮官と」

 

「似てる? 俺がか?」

 

意外な反応に、指揮官は顔を曇らせた。話を聞いた限りでは、自分と共通点があるようには思えなかったのだ。

 

「ええ。なんでもこなしてしまところや、無茶をするところ。それに指揮官は体の一部を機械化しているわけですよね? それはつまり機械の部分が止まったら、動けなくなってしまうということだと思います。そういうところも似ているんですよ、指揮官は」

 

「っ…………」

 

言われてみればそうかもしれない。嫌な汗が首筋に流れた気がした。

似ている。それ自体に何か特別な意味があるわけはない。スプリングフィールドという人形の主観で見た時に類似している点があるというわけなのだから、変なことは何もない。

しかし、当のスプリングフィールドは歪んでいる。それもこの上ないほどに。それが表す事実とは一体何なのか。

嫌な予感がしてならなかった。

 

「初めて指揮官を見かけた時はとても驚きました。顔や動きこそ違いますし、外見が似ているとは言えませんが、何気ない仕草や癖のような動作の一つ一つが、私の中の指揮官とそっくりだったんです。指揮官のことを観察するようになったのも、それに気付いてからですね」

 

「俺になんかするつもりか? 浮気になっちまうぞ?」

 

「ふふっ、確かにそういった考え方もありますね。ですが、私はもう指揮官の部下です。あなたを慕うことはおかしなことではないでしょう?」

 

「そりゃあ、誰を慕おうがお前の勝手だろうがな……」

 

「それに、もうあの人はいませんから。話すことも触れあうことも、もう……できません」

 

「スプリング…………」

 

悲しみに満ちた表情だった。しかし同時に、そこには底のしれない深い闇も存在している。

 

「読めねぇな……お前は……」

 

聞こえるか聞こえないか、そのぐらいの一言。それは、指揮官の本心だった。

見方によっては狂気しか感じられないが、その一方で普通の感性も残っているらしい。自身の中で愛する存在が生きていると信じこんでいるのかと思えば、既に亡くなっていることを受け入れてもいる。矛盾と表現するべきか、それとも別の言葉を使うべきか、とにかく心理的に深読みしようとしても上手くはいかないだろう。

 

「でもまあ、話してくれてありがとな。ようやくお前の事情がわかったよ。なんというか、少し安心した」

 

「そうですか。それは良かったです」

 

「にしてもお前も大変だったんだな。変に聞いちまって悪かったな」

 

「いえいえ、指揮官ほどじゃありませんよ。身体を失ってもなお、最前線で戦おうとするその意思は、素晴らしいものだと思います」

 

「よせって、俺はそんな人格者じゃねぇよ」

 

 

「常に自ら最前線に立ち、部隊の人形と共に敵を撃破する。誰にでもできることではありません」

 

 

「ちょっと待て」

 

瞬間、指揮官から放たれる覇気。わずかな異変を逃さないと言わんばかりに、指揮官から威圧感がぶつけられる。

 

「お前……俺の何を知ってる?」

 

「ふふふっ、そういえばまだ他の子たちには話していないんでしたね。あなたほどの人が新人なんて、私からすればおかしくてたまりませんが」

 

「知ってるのか……いや知ってるんだな。その表情は」

 

明確に殺気をぶつける指揮官だが、スプリングフィールドはそれを意に介さない。それどころか口元に笑みを浮かべ、不敵に微笑んですらいる。

聞く人によってはなんてことのない会話だったが、この基地にいる者なら誰しもがその言葉に違和感を感じるだろう。

 

指揮官はこの基地で人形と共に出撃したことなど、一度としてないのだ。

 

確かに人形たちの猛攻を掻い潜り、時には返り討ちにし、人間離れした力を、見せつけてはいるものの、出撃したことはない。

問題は、誰にも話していないその事実を、何故スプリングフィールドが知っているのかだ。

 

「指揮官の秘密を私がみんなに話したら、指揮官はどうします?」

 

「俺を脅すつもりか? 残念だがその程度じゃどうもしねぇよ」

 

「では話しても問題はないと、そういうことですか?」

 

「新人ってほうが馴染みやすいかと思って黙ってただけだ。いつかは話そうと思ってたことだし、お前が話したきゃ話せばいい」

 

「なるほど……そうですか」

 

「何をしたいのか知らねぇが、その程度じゃ俺は—————」

 

 

「じゃあ、あの子の秘密を私が知っている、と言ったらどうします?」

 

 

「!?」

 

その時、確実に指揮官の中の時は止まった。言葉が止まり、呼吸が止まり、身体の動きや意識さえもが、完全に硬直した。ほんのわずかな間だったが、スプリングフィールドはそれを見逃さなかった。

そして口を開き、静かに一言。

 

「ふふっ、可愛い…………」

 

「何?」

 

「決めました。指揮官を私のものにします」

 

「な、何言ってんだ急に」

 

「だって指揮官、今ものすごく可愛い表情をしていたじゃないですか。驚いているときの……いえ、怯えているのでしょうか。どちらにせよ、指揮官は今他の子たちには見せたことのない表情を私に見せてくれました。それが……もう堪らないんです」

 

「なっ…………お前…………」

 

「ふふっ、そうですよ、その顔です。私に対して向けているその表情です! あぁ…………やっぱり似てますね、あの時のあの人と同じ顔です……ただの驚きでも、恐れでもない、私に対しての興味と好奇心が入り混じったその表情…………」

 

じりじりと距離を詰めてくるスプリングフィールド。ベッドの上で壁を背にしている指揮官は逃げ場がなく、なおかつ驚きで判断力が失われている今の状態では余裕が無い。

 

「どうですか指揮官? 知りたいですよね? 指揮官はあの子のことを愛していたそうですから、気になってしょうがないですよね? 今すぐにでも、無理やりにでも私から知っていることを全て聞き出したいですよね?」

 

「くっ…………俺は……お前が知ってるとは思わない。ハッタリだ。俺のことを動揺させようって言う虚言だ」

 

「そうですか……まあそう考えたくなるのも無理はありません。指揮官からすればそれが当り前でしょう」

 

今度はやけにあっさりと引くスプリングフィールド。秘密を使って強引に迫ってくるのかと思えば、チラつかせるだけチラつかせてそれ以上は何もしない。ますます読めない行動に、指揮官はどうすることもできない。

 

「知ってるわけはない、指揮官はそう考えていますね? 私が秘密を知っているわけはないと、そう思いますよね? 別にそれでも構いません。私の言葉が信じられないというのなら、信じなくて結構です」

 

「どういうことだ? お前は何を言っているんだ?」

 

「ですが、指揮官はもう可能性を知ってしまいました。私が指揮官の知りたがっている情報を知っているかもしれないという可能性を知ってしまったんです。例えそんなはずはないと否定しても、意識しないようにとしても、指揮官は可能性に縋るしかありません」

 

スプリングフィールドの言葉が、指揮官の耳に響く。頭の中でぐるぐると回り続けるかのように、声がこだまする。

 

「一度知ってしまったら、一度意識してしまったら、もう指揮官は抗えません。どんなに薄い希望であっても、それ以外に手立てがない以上それに託すしかないんです」

 

「お前は……お前は何を知っている? 答えろ!」

 

「うふふっ、信じていないのではないんですか? 私の言っていることは虚言なんでしょう? なら聞く必要もないじゃないですか」

 

「くっ…………」

 

「どうしても知りたいというなら教えてあげますよ。ですが、その時は指揮官が私のものになるときです。藁にも縋りたい指揮官が私に縋った時……あぁ、楽しみです」

 

真の狂気とは常人には理解の及ばない恐ろしさがある。皆を守るために狂気に呑まれ人を殺してしまったリー・エンフィールドなど可愛いものだ。

目的があり、それ故に意思が変質してしまった成れの果てに比べれば、根幹からねじ曲がってしまった狂気ほど理解できず恐ろしいものはない。踏み込もうとしても、近寄ろうとしても、そこに広がっているのは深い虚無のみであり、常人には耐えることのできない地獄と変わりはない。

指揮官はどうすることもできずにただ茫然とスプリングフィールドの言葉に耳を傾けていた。凍り付くような笑みを浮かべ、未だかつて感じたことのないような不気味な雰囲気を漂わせ、スプリングフィールドは指揮官を見つめていた。

 

「それでは指揮官、今夜はこの辺りで。ですが私は指揮官のことをいつでも歓迎します。知りたくなったら、私に縋りたくなったら、いつでも私の元に来てください」

 

「…………」

 

「そんなに怖い顔をしなくてもいいではないですか。そもそも、あんなわかりやすい偽名を使っていれば、私以外にも気付く人形はいそうなものですけどね」

 

「もういい…………俺は寝る…………」

 

「ではお休みなさい。指揮官が私のところに来るように祈りながら、私も寝ることにします」

 

全てが絡まり、混沌とも言えるような状態で終わった二人の接触。スプリングフィールドが部屋を後にした後、指揮官は一人頭を抱えていた。

 

「どういうことだ……どういうことなんだ……」

 

混乱と焦り、想定外の事態の発生。今までの余裕のあった態度とは真逆に、翻弄されるような形で情報を整理して探っていけなければいけない状況。動こうにも周囲全方位が闇ではどうしようもない。

指揮官はここに来て、最前線基地着任後最大の危機に見舞われることになった。

 

「仕方ねぇか……とりあえずもう寝るしかねぇな。起きてから……起きてからいろいろ考えよう」

 

自分自身にも言い聞かせるようにそうつぶやくと、指揮官は身体を横にして眠りについた。

 

 

次の日から、地獄が始まった。




ライフル製造しかしてなかったツケが来てる


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