寝取り寝取らせ、寝取り寝取られ (ベーシックハッピー)
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寝取り寝取らせ
あーしさんの悩み相談


奉仕部の二人がほとんど出番なしです。そこをご了承ください。


 突然だが、今俺はベストプレイスにいる。事の始まりは、今日の昼間まで遡る。

 

 俺がいつものように昼を過ごそうと教室を出ようとした時、突然三浦が後ろから声を掛けてきた。何でも放課後に話があるそうで、絶対来いと念を押された。場所は俺が昼を食べている場所近く。

 

 ……俺のベストプレイスってもう知る人ぞ知る場所にランクダウンしちゃったのん? そんな事を思いながら由比ヶ浜へ部活に遅れる旨のメールをし、やってきましたベストプレイス。

 

 そこに三浦はいた。何故かとても切羽詰まったような表情で。ここで冒頭に戻る。

 

「すまん、待たせたか?」

「べ、別にいいし。その、話があるし」

 

 いつものあーしさんらしからぬ様子に内心疑問符を浮かべつつ、俺はその話とやらが切り出されるのを待った。あーしさんは何度も何度も深呼吸をし、小さく何事かを呟いていた。どうも自分に何か言い聞かせているようだ。

 

「あの、な、ヒキオ」

「おう」

「あ、あーしを抱いて欲しいんだけど」

「……はい?」

「い、今ので分かんないとか有り得なくない? だから」

「あー、分かった分かった。今のは理解出来なかったってやつじゃない。理解したくなかったってやつなんだ。で、一体葉山と何があった?」

 

 顔を真っ赤にして今にもとんでもない事を言いそうだった三浦を制止し、俺は単刀直入に尋ねた。すると、どうやら的中したようで三浦は顔を真っ赤にしたまま項垂れる。そのまま五分ぐらいはそうしていただろうか。さすがにそろそろ俺も待つのが辛いと思い出したところで、三浦はポツリポツリと話し出した。その内容は信じられないものだった。そして、知りたくなかった事を知ってしまった瞬間でもあった。

 

「……そうか。葉山の奴がそんな事を」

「うん、あーしも最初は何言ってるのか分からなかった。でも、それが隼人の望みならって」

 

 深刻な表情で項垂れる三浦。そう、葉山は彼女へとんでもない事をカミングアウトしたのだ。それは……。

 

「まさかあいつが寝取られ趣味とはな……」

 

 そう、そうなのである。昔、雪ノ下を失った葉山はそこで性の目覚めを経験したらしい。それ以来、自分が好きな相手や物を人に取られると興奮するようになってしまったらしく、この度葉山へ告白した三浦はそれらの事を洗いざらい聞かされたそうだ。でも、それが好きな男の性的趣向であり望みであるならと、受け止めようとした。この辺り、三浦のおかん力が天元突破しているな。で、口も堅く人付き合いも少ない俺へ白羽の矢を立てたのだと。

 

「葉山も直そうとはしたんだろ?」

「みたいだし。でも、雪ノ下さんのお姉さんが隼人のそういうのをガンガン刺激してきたんだって」

 

 陽乃さん、か。たしかにあの人と接していたら寝取られ趣味は酷くなりそうだ。て、待てよ? まさか俺と一色がいるのを望むのは……考えたくないが可能性はあるな。三浦には言えないけれど。

 

「な、俺が言うのも何だけどな? これは、さすがに考え直した方がいいぞ」

「……でも、隼人がこれを教えてくれたのはあーしの事を信じてくれたからだし。それに、ヒキオになら話しても構わないって言ったから、きっと隼人はあんたを認めてるんだと思う」

 

 言い終わって三浦が小さく体を震わせた。正直最後の意見には言いたい事があるんだが、今は寒いし移動するべきか。

 

「三浦、悪いんだが場所変えていいか? ここは立ち話するには寒くてな」

「仕方ないし。じゃ、行くぞヒキオ」

 

 心なしか嬉しそうな顔でそう返し三浦は歩き出した。俺もその背について行くように動き出す。少しだが声が明るくなり出している。さて、この問題をどう片付けるかだな。この後、俺はまず小町へメールを送り口裏合わせを依頼、続いて由比ヶ浜へ小町に呼ばれ部活に行けなくなったとメール。そして俺は三浦からの相談を片付けるべく、近くのファストフード店へ向かった。

 

「さて、話の続きをするが、その前に一つだけ言っておくぞ三浦」

「何?」

「葉山の趣味趣向を理解してるなら、あいつがまだ雪ノ下をどう思ってるかは」

「分かってるし。そう考えると色々納得出来る事もあるけど、それでもこんな事を話したのはあーしが初めてって隼人は言ってた」

 

 それが三浦にとっては一番嬉しかったんだろう。葉山が長年誰にも言えず見せられなかった本当の自分の一面なのだ。……でも、だからってなぁ。

 

「んじゃ、次な。葉山が本当に望む事をするってなると、三浦はあいつの見てる前か、もしくはそういう事を映像に収めて見せる必要があるんだが……?」

「…………そう、なるよね、やっぱ」

 

 表情が強張る。そりゃそうだ。好きでもない男に抱かれるのも嫌だし、それを好きな男に見せるとか映像に収めるなんてもってのほかだろう。でも、それをよりによって好きな男が望んでるんだもんなぁ。気持ちは複雑だ。

 

「しかも、おそらく一回じゃないぞ。下手をしたら何回もだ。映像で見られるのだって回数に入れればもっとになる。それで本当に耐えられるか?」

「……ヒキオ、あんたホントに男?」

 

 突然の言葉に俺は思わず面食らった。何でこの場面でそんな事を言い出すんだこいつは?

 

「いきなりなんだ?」

「ふつー、こういう時ってあーしを好きにしようとか考えない? 男からしたらチャンス以外の何でもないし」

「あのな、俺は石橋を叩いて渡るどころか最初から渡る事を放棄するタイプだ。君子危うきに近寄らずとも言うし、俺は少しでも危険を感じたら迷う事無く避けるか逃げる」

 

 その言葉で三浦も理解したのだろう。どこか呆れるような、でも好ましいような笑みを浮かべていた。結局この日は答えが出るはずもなく、とりあえず俺と三浦はこの日連絡先を交換して解散となった。

 

 そして、その翌日。俺は三浦と自室にいた。運よく小町が友人宅へお泊りすると聞いて、前回の反省を踏まえここへ招いたのだ。……何気に自分から家、それも自室へ異性を招いた第一号が三浦とはな。俺自身も驚きだった。

 

「試しに何かアクションを起こしてみる?」

「ん。隼人が最終的に望んでるのはきっとこの前ヒキオを言った事だし。でも、もしかしたら軽い事でも満足出来るかもしれないじゃん」

「つまり、他の男と仲良くしてるだけでもって事か?」

「だからさっそく今からやるよ」

「……何をすればいい?」

「ヒキオがあーしと肩寄せ合うのを写メ?」

「……物は試しだ。やってみるか」

 

 三浦がスマホを手にして自撮りの準備をする。俺はその隣へ座り三浦の方へ近寄るのだが、やはり慣れない事のせいか緊張する。それを見た三浦が自然な形で俺の体を引き寄せてきた。

 

「ヒキオ、もっと寄れ。写らないじゃん」

「お、おい」

 

 まるで抱き寄せられるような感じで俺と三浦のツーショットが撮影される。それを確認し問題ないと見るやすかさず葉山のアドレス宛に送信する三浦。これでいいんだろうか。そう思うもさっき感じた三浦の諸々が俺の中で渦巻いていた。匂いや温もり、そして感触など。……今夜はきっとこれで寝れないな。

 

「じゃ、次ね」

「は? 次?」

「当たり前だし。どれが隼人に喜ばれるか分からないから思いつくだけやってみるの」

 

 意気込むあーしさんを見て、俺はがっくりと肩を落とす。この後、腕組みに始まり、恋人繋ぎ、前後両パターンのハグなどを撮影した。おかげで俺のライフはゼロ。三浦はやりきった顔で帰って行った。去り際、部活終わりの葉山から反応があったら連絡すると告げて。ちなみに、残念ながら送った中で葉山を興奮させるものはなかったそうだ。




毎日更新します。既に書き終えているものなので。


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それぞれの変化

第一部と第二部があり、五話と六話構成です。これがいわば第一部の承ですかね。


 三浦と様々なツーショットを撮影した翌日の放課後。俺は葉山と屋上にいた。

 

「それで話は優美子の事かな?」

「ああ。お前の性癖がそういうのだとしても、三浦のエロい事から普通の事まで初めてはお前がなってやれ。ないと思いたいが、あいつの初めてを俺に奪わせて興奮しようとか考えてないだろうな?」

「……否定はしないよ」

 

 マジか。いや、あの話を信じるなら有り得ないとは言わないが……そこまでか。

 

「そこは否定しろよ。てかしてくれ。三浦が言ってたが、お前がその事を打ち明けたのはあいつが初めてなんだろ? なら、お前も三浦を」

「言い寄ってきたのが面倒だったから、とは考えないのか比企谷」

 

 俺の言葉を遮って葉山が告げた言葉は、一瞬で俺の中から思考能力を奪った。目の前の野郎は無表情でそう言っている。そこからは何も読めない。だが、三浦はこいつに打ち明けてもらえたと喜んでいた。それをこいつは知りながら……

 

「お前……それが本当なら」

「冗談さ。俺だってそこまで出来ないよ。でも、嬉しいよ比企谷。やっぱり君を推薦して良かった。優美子に打ち明けて一週間もしないで、彼女をそこまで思ってくれるとはね」

「一週間……」

 

 おれが三浦から相談を受けたのは二日前。つまりあいつはかなり早く行動を起こしたのか。そこからも三浦の本気と葉山への想いが垣間見える。

 

「比企谷、一つだけ言っておく。俺だって優美子を愛してやりたい。でも、悲しい事に体と心が一致しない時もあるんだ」

「……お前もお前で過去がトラウマか」

「そう、だな。そうかもしれない」

「とにかく三浦と早い内にデートしてやれ。言っておくが、いくら三浦が俺へ迫ってもお前と済ませていない行為は今後一切しない」

「……比企谷、それは逆に言えば俺が済ませた事は優美子に出来るんだな?」

 

 葉山の窺うような声に思わず息を呑む。初めて見る目と顔を葉山はしていた。これが三浦が少しだけ教えてもらった葉山の素なのか?

 

「……出来るとは言わん。だが、可能性はある」

「そうか。なら、お前の言う通り早く優美子の気持ちへ応えるとするよ。それが結果的に俺のためにもなるようだ」

 

 そう言って葉山は屋上から出て行った。残された俺は何とも言えない気持ちでその背を見送った。もしかして葉山の奴、俺と自分を比べさせて負けたいとか思ってないだろうか? いや、さすがにそれはないな。大体あれの大きさとか知りようもないし。

 

 ……どこかでそれを願ってる可能性がゼロとは言わんが。

 

「三浦、やっぱり考え直すべきだぞ、これ」

 

 誰もいない屋上で俺は一人呟く。葉山の性癖が本当かは置いておいても、こんな事を望む時点でどうかと思う。でも、三浦がそういう女だと分かったから葉山も打ち明けたかもしれんと考えると……なぁ。

 

「やっぱ他人の恋愛は関わるもんじゃないな」

 

 そう結論付けて俺も屋上を後にした。この日は普通に部活へ顔を出し下校となった。だが、夕食を終え部屋で寛いでいると三浦からメール。

 その内容は要約するとこんな感じ。葉山とデートした。そこでキスされた。で、俺ともキスをして写メを送ってほしいと頼まれた。

 うん、有り得ないぐらい酷い内容だこれ。さすがに俺も何とも言えない気分となり、三浦へ電話する事にした。すると、三コールもしない内に三浦が出た。

 

『もしもし?』

「三浦、お前それでいいのか? 今日のキスは」

『分かってるし。隼人がヒキオとあーしをキスさせるためにしてくれた事は』

「……なら」

『それでも嬉しかった。隼人が初めてキスしたって教えてくれたし。あーしだけが隼人とそういう事したんだって』

 

 三浦の心からの言葉に何も言えない。こいつは本気で葉山が好きなのだ。例えその行いが他人とさせるためだと分かっていても。

 

『それに、ヒキオとなら別に構わないって感じ?』

「は?」

『その、隼人から聞いた。ヒキオがあーしの気持ちに応えてやれって言ってきたって。じゃないと俺は何もしないって』

 

 そこで俺は葉山の恐ろしさを実感した。あいつ、俺の行動を嘘にならない程度に改変して三浦へ伝えやがった。これじゃ、俺が三浦を大事に思ってる男みたいだ。しかも、それでいて葉山との仲を応援しているようにも取れる。くそっ、やられた。道理で三浦の声がちょっと照れが入ってるはずだ。

 

「……あのな、誤解してるみたいだから言っておく。俺はお前の事が好きって訳じゃないぞ」

『でもあーしの事を考えてくれたのは分かるし。ヒキオって素直な行動しないけど、よく考えると優しいって分かる行動してんだよね。やっと結衣の気持ちが分かったし』

 

 ダメだ。もう三浦の中で俺はこういう人間だと決めつけられた。これを覆すのは可能だが、今それをやると三浦は葉山の事を相談出来る相手を失いどうなるか分からん。三浦がおかしくなれば当然由比ヶ浜にも影響し、更には雪ノ下や他の奴らにも波及する。もし葉山がこれを狙っていたのなら……さすが雪ノ下姉妹と長く傍にいただけはあると言えるな。

 

「もうそれでいい。じゃあな」

『ん。おやすみヒキオ』

「……おう」

 

 生まれて初めて女子に優しくおやすみって言われた。やばいな、これ。思ったよりも心にくる。それに、相手は好きな男がいるのだ。しかも付き合っているし自他共に認める恋人と言える。それなのに、俺はそんな女に憎からず思われキス出来るのか。

 

 ……いかん。俺に寝取り属性が生まれそうだ。開けてはいけない扉へしっかり鍵を付ける。葉山が寝取らせで俺が寝取りとか厄介な関係になるのが目に浮かぶからな。

 

 

 

「じゃ、写メ撮るよ」

「……本当にするのかよ」

 

 明けて翌日の放課後、俺はまた屋上にいた。三浦は吹っ切れたような感じでスマホを手にしている。これは良くない流れだ。三浦からすれば、俺は葉山との仲を進めようとしている優しい男。葉山からすれば、俺は自分の欲望を満たすために助言している存在。共に俺を見えない糸でがんじがらめにしてきている。だが、それを逃れようとすれば奉仕部へ良くない影響を与える。

 

 ……やっぱぼっちが最強だと証明されてしまったか。

 

「ほら、こっちこいヒキオ」

「どうしてお前はそこまで平然としてられるんだ?」

 

 俺なんか正直呆れ半分動揺半分だ。昨夜は好きじゃないと言ったが、それでも三浦のような美人とキスなんて興奮しない訳もなく、また嬉しくない訳もない。でも、これをしてしまったら昨日しっかり鍵を付けた扉が開きそうな気がするんだよなぁ。

 

「平気じゃないから」

「えっ?」

「そりゃ、隼人以外の男とキスするなんて嫌だし。でも、ヒキオがあーしの事を大事にしろって隼人に言ってくれたからキス出来たようなもんだし。だから……これはそのお礼みたいなもん」

「お礼でキスって……大盤振る舞い過ぎだぞ」

「いいから早くする! あーしだって恥ずかしいんだからさっさと終わらせるよヒキオ!」

 

 照れと怒りと色々な感情が混ざって顔を真っ赤にする三浦。正直言おう。滅茶苦茶可愛いです、あーしさん。そういうの葉山に見せてやったら歪んだ性癖も少しはマシになるかもしれない。

 ともあれ、俺は三浦と向かい合って立つ。互いの息をかかるくらいの距離で。それでも三浦は普通にスマホを片手に画面調整をしている。俺はと言えば、これからの事を考え落ち着きを失い出していた。以前ハグをした時よりも緊張と動悸がヤバイ。

 

「……ん、これでいいし」

「な、やっぱりしてるように見せるだけで」

「駄目。隼人がちゃんとしてるとこ写してくれって頼んできたし。ヒキオ、男なら喜べ。自慢じゃないけど、あーしって結構イケてる女じゃん? それと一度とはいえキス出来るんだから光栄に思えって」

 

 胸を張るあーしさん。今、軽く揺れた。思わず唾を飲む。据え膳ではないが、確かに男なら喜ぶべきかもしれない。だが、俺はそれでも拒否感がある。

 

「その、確かにお前はいい女だと思う。俺だって本音を言えばそういう事をしてみたい。でもな、お前が好きなのは葉山で、あいつもお前をそういう風に思ってる。なら、やっぱり俺はお前とキスは出来ん」

「……バカヒキオ。それ、狙って言ってるなら大したもんだし」

「は?」

 

 噛み締めるような三浦の呟きに意識を取られた瞬間、彼女の顔が視界いっぱいに映っていた。同時に感じる複数の柔らかな感触。一つは胸。もう一つは……唇。微かに聞こえるシャッター音。そしてゆっくり離れていくやや潤んだ瞳の三浦の照れた表情。そこで俺はキスされたのだと気付いた。

 

「三浦、お前……」

「ん! ちゃんと撮れたし! じゃ、あーし帰るから! じゃあね、ヒキオ!」

 

 茫然とする俺を置いて三浦は真っ赤な顔でその場から去って行く。その急ぐような姿に言葉をかける事は出来ず、見送る事しか出来ない。他の男が好きな女が俺にキスして照れながら去る。何だ、この状況は。どこのエロゲーだ? そう思った瞬間、俺はそこで気付いた。気付いてしまった。

 

「……何で勃ってるんだよ」

 

 それは、俺の中に微かな寝取り属性が芽生えた証拠だった……。




四話と五話はエロあり回です。


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嘘と葛藤

「最近優美子がおかしいんだ」

 

 何気なく由比ヶ浜が言った言葉に心臓が止まる程驚く。

 

「おかしい?」

「えっとね、どうも隼人君と付き合い出したみたいなんだけど、あたし達との付き合いを避けてるんだよね」

「それは二人の時間が大事だからではないの?」

「それが隼人君が部活の時もなんだ。しかも、どうも優美子に他の男がいるんじゃないかって姫菜が言うんだ」

 

 今度こそ本気で心臓が止まるかと思った。海老名さん、マジエスパーか。女の勘ってそんなに精度高いのかよ。ちなみに今日も部活前に屋上で葉山のためにと、ちょいエロ写メを撮影しました。ま、エロと言っても俺が三浦を後ろから抱き締めるようにしてキスしたって事なんだが。

 

 ……やっぱりあのキス以降俺の理性も脆くなっている。それと……

 

―――そ、そんな事葉山としたのか?

―――ったり前だし。だ、だからやるよヒキオ。

 

 三浦もあの一件で葉山が喜んだらしく、余計にやる気を出してきているんだよなぁ。葉山とした事を俺とすると、次の段階に進めるみたいになってるせいだ。これもきっと葉山の狙いなんだとは思う。でも、どこか不気味だ。まるで俺と三浦をくっつけようとしている風にも感じる。まさか、雪ノ下から俺を引き離すために?

 

 ……考えすぎか。

 

「ね、ヒッキーはどう思う?」

 

 突然問いかけられる言葉に思考が追いつかない。しまった。あいつらの事を考えていたせいで二人の会話を聞いていなかった。

 

「あのな、俺に女性関連の事が分かる訳ないだろ」

「それもそうね。しかも比企谷くんと三浦さんは接点もないし」

 

 すまん。今はかなり接点がある。下手すりゃお前ら以上のな。でも口にはしないし出来ない。そんな事をしたら三浦の覚悟や勇気が無駄になる。葉山だけが苦しむならともかく、三浦までそれに巻き込まれるのは気分が悪いし。こんな事を思う時点で俺も相当か。

 

「でもでも、隼人君以外に優美子が親しくしてる男の子いるのは間違いないし。だって、付き合い出した辺りから戸部っち達は一度も隼人君関係の話をした事も聞かれた事もないって言うもん」

「……単に本人から直接聞いているのではなくて?」

「うん。優美子、隼人君と付き合う前は戸部っち達から情報得ようとしてたから。それが最近まったくなくなったんだって」

 

 そりゃ聞く訳にはいかんわな。今一番三浦の頭を悩ませてるのは、彼氏の歪んだ性癖なのだから。戸部を疑う訳ではないが、あいつはふとした拍子に漏らしてしまいかねん気がする。ま、だから葉山も俺ならって三浦へ告げ……待てよ?

 そうやって思い出してみると、あいつは最初から俺を巻き込む腹積もりだった。その狙いは何だ? 本当に自分の性癖を満たすために三浦へ俺の名を出したのだろうか? さっき有り得ないと馬鹿にした考えが静かに首をもたげ始める。あいつが雪ノ下を異性として意識してるのは間違いないとして、なら目下の所、一番の障害となるのは誰だ?

 

「……確かめてみるか」

 

 別に雪ノ下とどうこうなりたい訳ではないが、仮にそうなら葉山の奴が三浦を利用し捨てようとしてる事になる。それだけは許せない。かつて振られて酷い目にあった者として、絶対見過ごす事は出来ん。

 この時、俺は気付くべきだった。三浦から相談された時点で、既に俺は逃げられない道を歩かされていた事を……。

 

 

 

 日も暮れ、辺りを夕闇どころか完全な夜の帳が降りた頃、俺は葉山と学校近くのコンビニ前にいた。三浦へ葉山と話したい事があるとメールし、連絡してもらったのだ。

 

「一体何の用だ?」

「お前、三浦をどうするつもりだ?」

 

 単刀直入に尋ねる。駆け引きなどしたくないしするつもりもない。三浦には悪いが、事と次第によっては葉山の学校生活を終わらせる。

 

「どうって……いきなり何だ?」

「いいから答えろ。あいつを最後はどうするつもりだ」

「……ああ、そういう事か。比企谷、相変わらず物事を深く読むんだな。俺が優美子を使って、お前を雪ノ下さんから遠ざけようとしてるとでも?」

「……ないとは言い切れないだろ」

「だとしても、どうしてそれでお前が俺へ? 普通は優美子に教えて俺へ詰め寄らせるだろ」

 

 葉山は無表情で俺へ告げる。それは俺の理由を察しているからだ。そう、俺が三浦へ気を遣っている事を。

 

「あいつはお前を本気で好きなんだ。お前だってそうなんだろ? なら」

「比企谷、今日はありがとう。あの写メ、中々興奮したよ」

 

 突然葉山が俺の言葉を遮って携帯を取り出した。そこに表示されていたのは今日撮った三浦との写メ。そこに映る三浦はどこか艶めいて見える。

 

「何だ、急に」

「いや、俺もこんなキスはした事ないんだ。後ろから抱き締めた事はあるんだけどね」

 

 ガツン、と、頭を殴られた気がした。葉山の顔が一瞬笑って見えた。だが、そんな事はなく軽い驚きを浮かべたままだった。

 

「まさかお前から約束を破ってくれるとは思わなかったよ。ホント、正直嬉しいんだ。これで俺の不安もなくなる」

「……不安?」

 

 聞くな、聞いちゃいけない。そうどこかで思いながらもつい口が動く。その問いかけを葉山が待っていたような気がした。葉山は軽く笑っていた。

 

「いや、いざって時に情けない事になりそうだったからな。これで優美子を抱いてあげられそうだ」

「っ!」

 

 思わず拳を握る。だが、それも一瞬だった。言い終えた葉山は心底悲しそうな顔をしていたのだ。

 

「本当に情けないだろ? 他人の女にならなきゃ男として機能し辛いなんて。優美子や比企谷が望んでる事は分かるし、俺だって出来るならそうしたい。でも、怖いんだよ。笑いたいなら笑ってくれ。俺はどうやらその小さなプライドが捨てられないらしい」

「……その、こんな事で言うのが合ってるかは知らんが、やるだけやってみろよ」

「ははっ、そうだな。まずは軽いところから試してみるよ。あんな話をしたせいか、優美子はそういう事に積極的だからね」

 

 最後に軽くのろけられる。普段なら負の感情を抱くのだろうが、今はむしろ喜んでしまう自分がいる。葉山も三浦も本当は俺を関係させずいたいのだろうな。俺だって関係せずいたかったし。

 この日、俺は葉山と連絡先を交換した。去り際、葉山からこんな事を言われたのが印象に残った。

 

―――今の比企谷なら仲良くなれそうだ。

 

 まぁ、俺としてはそうするつもりはまったくないが、同じ男として思う事がない訳ではない。とりあえず今は葉山から聞いた事を三浦へ確かめるのが先だ。

 

 こうして俺は自宅へ帰り、夕食後に自室で三浦へメールする事にした。まずは今日の写メについて。何故嘘を吐いてまで撮影したのか。それを尋ねた。一応文面から怒りを感じないように気を配ったが、さてどうなるやら。

 

「……さすがあーしさん。メールじゃなく電話っすか」

 

 着信を伝える振動と画面にはあーしさんの文字。これは長くなるかもしれんな。そう思いつつ通話状態にする。

 

『ヒキオ、ごめん』

「……は?」

 

 いきなり謝られた。どうしてだ? やっぱ文面が怒ってるように見えたのだろうか?

 

『その、ヒキオには悪いと思ったけど、隼人を喜ばせたくて嘘吐いたし。だから、ごめん』

「……ま、そういう事じゃないかとは思ってた。でもな、だからってキスは」

『ま、前も言ったし。ヒキオとならキスぐらい構わないって』

 

 もしもしあーしさん? そんな事言わないでくれます? 今ので俺の男が軽く反応したんですけど。

 

『それに、さっき隼人からもメールが来た。今日のは凄く良かったって。それと、今度の休みにデートしたいって言ってきたんだ』

 

 言えない。それも俺が口出しした結果とは。言ったら三浦の中にある俺への何かがまた上がる。だから当たり障りのない事を言おう。

 

「そうか。それは良かったな。でも、今回みたいなのはもう駄目だからな」

『わ、分かったし。てか、これ普通立場逆じゃね?』

「そうだな。普通は俺が言われる方だ」

 

 三浦の声が普段の調子に戻りつつある。それに安堵し俺も口調を合わせた。

 

『だよね。あー、ヒキオってやっぱ優しすぎるんだって。普段はそれでもいいけど、いざって時はちゃんと男気見せろ』

「何でそんな心配をお前にされなならん。それと、別に俺は優しくない。自分の事を第一に考えてるだけだ」

 

 そう返しつつ、内心は照れと嬉しさに悶えている。女子にここまで想われるなんて初めての経験過ぎて耐性がない。しかも、相手が三浦だ。そこに裏がないのは明らかである。それがより俺の心をかき乱す。

 

『はいはい。ヒキオ、あんたにこの事言って良かったってホント思うし』

「……ま、言いたくても言う相手もいないからな」

『ふふっ、そういう事にしとく。じゃ、おやすみ』

「おう、おやすみ」

 

 通話を終えたスマホを眺め、俺はふと気付く。今のやり取りも本来なら三浦は葉山とするべきだろ、と。

 だが、どこかで優越感を感じている自分にも気付いていた。葉山では三浦を愛してやる事が出来ないかもしれない。その事がずっと頭の片隅で囁いてくるのだ。そして今日の三浦の嘘もそれに拍車をかける。そう、俺の頭の中で囁かれる悪魔の誘い。

 

―――この面倒事を片付けて、二人が望む事をさせるために、三浦を抱いてしまえ、と……。



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越えたいけど越えたくない

初エロ回。ここが転です。次回で第一部は終わりとなります。


「……そうか、駄目だったか」

「うん。隼人も本気であーしを抱きたいって思ってくれたみたいなんだけど……」

 

 月曜日の夕方、俺は三浦と自室にいた。昨日の夜、三浦から人のいない場所で相談したいと言われたので、小町が塾へ行っている間でそれを片付けるべく部活をさぼったのだ。そして、聞かされたのは日曜のデートに関して。

 予想通りというか葉山と三浦は締め括りにホテルへと行ったそうだ。そこで二人は互いを求め合おうとしたのだが、最後の最後で葉山がヘタレてしまったらしい。

 

「言い難いなら言わなくていいんだが、葉山の奴は……」

「大きくはなってた。でも、その……」

「……挿れようとすると萎えた感じか?」

 

 俺の問いかけに三浦は顔を少し赤くしながら頷いた。成程な。やはり精神的なものが強く作用してるんだろう。ここまでくると葉山の不安は的中した事になる。下手をすると新しいトラウマが増えたかもしれん。そう考えると悪い事をした気もするが……今度本気で謝っておくか?

 

「ね、ヒキオ。隼人、もうあーしとそういう事したくないって思ってないかな?」

「……可能性はゼロじゃない。だが、あいつはお前が惚れた奴だろ。なら信じてやれ」

 

 その言葉に三浦は黙って頷いた。いかんな。葉山もだろうが、三浦もかなりまいってる。そりゃそうだと思う。意を決して初めてを好きな男に捧げようと思ったら、まさか挿入に至らないなんてな。分かっていても、自分にそこまでさせる魅力がないのかもしれないと感じたっておかしくない。

 

「三浦、俺に葉山の奴と結ばれるように出来る提案が一つある」

「っ!? 何? 早く教えろ!」

「落ち着け。その、この前お前が使った方法だ。葉山に嘘を吐く。それであいつの性癖を刺激するんだ」

「嘘……?」

「ああ。俺に抱かれたと言えばいい。で、葉山の奴に抱かれたらきっと反応なんかで嘘が分かるだろうが、その時はこう返せ。俺が変な気を遣って前じゃなく後ろでしたって。抱かれたとは言ったが、どこで迎え入れたかは言ってないからな」

 

 正直言えば、ここで本当に抱いてしまいたい。だが、それは出来ないししたくない。開きかかった扉を見ない振りをし、俺は何とか本能を抑え込んだ。三浦は俺の提案に驚きを浮かべていたが、少し考えて理解納得したように頷いた。

 

「それ、いけるかも。ヒキオ、やっぱあんたすごいじゃん」

「そんな事はない。お前が教えてくれたみたいなもんだ」

「それでもだって。確かにそれなら隼人に処女あげれるし」

 

 嬉しそうな顔をする三浦を見て、俺の中の黒い部分が顔を出す。何故この女を抱かないのか。いっそ今のように口先で丸め込んでしまえばいいだろう。そんな声が聞こえてくる。それでも、俺は従うつもりはない。

 

「ま、後はお前の芝居次第だな。それと、葉山の奴に一気に貫いてもらう事を勧める。慎重にこられるとそれだけばれる可能性が上がる」

「……そのとおりじゃん。あーしの反応で隼人は気付いちゃいそう。だって、ホントは抱かれてないし」

 

 何やら考え込み始める三浦を眺めながら、俺は自分の中に生まれてしまった良くない感情を必死に押し殺す。

 葉山のためと言いながら自分の欲望をぶつけてしまえと、そう囁く悪魔の声を。寝取れる気がするのは確かだ。特に今の三浦は葉山と初体験を失敗しやや気弱になっている。

 

 だが、そこにつけ込んで事に至るのは俺の中の何かが拒絶する。しかし、その一方で別の何かが歓迎しているのも事実だ。

 

「ヒキオ、一つお願いがあるけどいい?」

「何だ?」

 

 天使と悪魔の戦いを繰り広げていた俺へ、三浦が何か決意したような表情で声を掛けてきた。その凛とした雰囲気が俺の中の悪魔を消し去る。

 

「その、さ。考えたんだけど、もしかすると隼人にヒキオの事聞かれるかもしれないじゃん? だから、ヒキオの見せて欲しい」

「……見せてって、男性器か?」

 

 顔を赤めて小さく頷く三浦。かなり可愛い。てか、今ので軽く反応させられたんですけど?

 

 乙女あーしさん、マジ半端無い。

 

 でも、その心配は意外と的を得ていると思う。寝取られ属性な葉山が俺に抱かれたと聞いて、その辺りを触れない可能性はおそらく低い。

 

「俺は構わないが、ホントにいいのか?」

「……ん。それに、ヒキオはあーしと隼人の事本気で応援してくれてるの分かってるしから、あーしも本気であんたの作戦を成功させたい」

 

 すまん。実はかなり危ない橋を渡っているんだ。今も息を吹き返した悪魔に懸命に抗っている最中なんだよ。

 そんな事を口に出せず、俺はならばとおもむろにズボンを脱いだ。三浦の息を呑む音が聞こえる。それに活性化する悪魔を強引に捻じ伏せ、俺はトランクスも下ろした。

 

「……おっきい」

 

 俺のを見た三浦のきっと無意識の呟きが悪魔へ最大の栄養となる。それでも俺の天使が最後の抵抗を続けていた。

 

「で、いつまでこうしてればいい?」

「え? あっ、えっと……まだ、まだ待って。ちゃんと覚えるから」

「慌てるなって。普通は俺の方がそうなるんだぞ。て、こんな会話前もしたな」

「あー、したした。ホント、ヒキオといるとどっちが男で女か分からなくなるし」

「よく言うわ。今のお前は誰がどう見たって可愛い乙女だっての。チンポ見ただけでそんな赤くなって。葉山のだって見たんだろ?」

「み、見たけど……明かり消してたからここまではっきりとは見てない……」

 

 傍から見ればおかしい事この上ない光景だったろう。下半身を露出した男とそれを見て赤面しつつ口を尖らせる女の図は。それでも、三浦の視線は俺のチンポを捉え続けていたし、俺の視線もそんな三浦の反応を捉え続けていた。

 

 異様な雰囲気ではあった。いや、ある意味で当然とも言える。何せ俺のチンポは臨戦態勢。三浦はそんな状態をしっかり見るのは初めてだ。更に、口には出さないがおそらく葉山のよりも俺の方が大きさは上なのだろう……きっと。

 

「さて、そろそろいいか? いくら室内とは言え下半身剥き出しは寒いんだ」

「……ヒキオ、一つ聞かせて。どうしてそこまであーし達のためにしてくれんの?」

 

 トランクスへ手を伸ばしたところで三浦がぽつりと尋ねてきた。まぁ、そうだよな。普通ならとっくに三浦を抱いてるし、下手すりゃ本当に寝取っているもんな。

 

「どうしてかは正直分からん。でも、きっとお前がお前だってのが理由の一つではあるだろうな。三浦は良くも悪くも裏がない。そんなお前だから俺も好ましく感じてるんだと思う」

「……つまり、あーしが相談してきたからって事?」

「そうなるな。葉山からなら同情はするが助けようとはしなかった」

 

 トランクスを履きながらなのでまったく様にならない。残りのズボンを履こうと思って手を伸ばそうとするが……何故かズボンがない。いや、正確には三浦が手にしていた。

 

「もしもしあーしさん。ズボンを返していただけませんか?」

「ヒキオ、隼人が気付きそうな反応って入れる時だけ?」

 

 何故か顔を赤めたままの三浦がそう話を切り出した。何が言いたいんだと思いつつ、少し考える。三浦が俺に抱かれたと聞いた葉山が意識しそうな反応。一番はやはり挿入時だろう。これは間違いない。

 

 では、他は? あるとすれば初回にした事への反応だろう。そこがまったく変わっていないならあいつは不審がるかもしれん。

 

「……前回した事への反応だろうな。さっきお前が言った俺のチンポを見るのはそこに通じるし」

「じゃ、じゃあ隼人と昨日した事やっといた方がいいじゃん? その方がヒキオの作戦も上手くいく訳だし」

 

 なん……だと……? どうしてこうもあーしさんは俺の悪魔を復活させるのが好きなんでしょうか?

 俺の中の天使がブラック企業の社畜並に働かされているんですけど。というか、はっきり言ってもう限界だ。だって、今のはそういう事だし。

 

「何をしたんだ?」

 

 俺の中の悪魔が動き出す。三浦の本気を利用するように。

 

「……ディープキスでしょ? それとムネ触らせたり、す、吸われたり……」

「他には? フェラはしなかったのか?」

「そ、それはしてあげようと思ったけど、隼人が一度出したら出来なくなるかもしれないって言って」

「ああ、あいつはその辺りから不安だったのか。じゃ、今言った辺りはしとくか。俺との違いを聞かれるかもしれない」

「う、うん。そうかもしれない」

 

 俺のはっきりとした言い方に三浦が従うように頷く。こいつの中では俺は自分達を結ばせようとする仲介役なのだ。そこに欲望を絡める事を避けていると、三浦はきっと思っている。そこが悪魔の付け入る隙なのだ。

 

 向かい合うように立つ俺と三浦。だが、その雰囲気は以前と違って落ち着かないのが三浦で、平然としているのが俺だった。

 

「どうやってやるんだ? した事ないから分からんのだが」

「えっと、舌を絡めるから……。ヒキオ、舌出せ」

「おう」

 

 本当は知っているが敢えて三浦へ説明させる。照れる三浦が可愛いからだ。俺の出した舌へ三浦が舌を絡めてくる。

 これは……やばいな。どんどん俺の中で寝取り属性が強くなっているのを感じる。他の男が好きな女が俺へ自分から舌を絡めてくるのだから。

 

 気付けば俺は三浦を抱き締めていた。三浦の大き目の胸が俺の胸で潰れるように形を変える。当然ながら俺のチンポも三浦へ押し付けられた。それもあってか、段々キスが激しくなってくる。三浦もテンションがおかしくなっているのだろう。ある程度で互いに口を離す。すると、透明な糸がその間で橋を作って落ちる。

 

「……次はどうすればいい?」

 

 どこか惚けた顔の三浦へ冷静に尋ねる。だが、チンポはトランクスから分かるぐらい、これ以上ない程反り返っていた。

 

 それを見て三浦が……小さく唾を呑んだ気がした。

 

「む、胸触ったりした」

「そうか。じゃあ、脱いでくれ。無理ならブラだけでも外してくれ。服の上から触るから」

「わ、分かったし」

 

 やはり俺の中の悪魔も俺のようだ。ここで強引にいかず、一見紳士のような提案に聞こえるが、どちらにしろ触る事は止めない時点で同じである。

 もっとも三浦はこれを葉山に自分を抱かせるためと思っているので逆らうつもりはないだろうが。

 

 服の中へ手を入れ何やら動かす三浦。その光景さえも興奮材料として俺は眺めていた。

 

「これでいい?」

「……なら、触るぞ?」

「ん。その、優しくしろヒキオ」

「分かってる」

 

 恥ずかしがるような三浦に俺も嬉しく思って言葉を返す。三浦の背後に回り込み、制服の中へ手を入れた。

 初めて触った女性の胸は、とても良かった。柔らかく温かいし、何よりそれが他の男を好きな女なのだ。それが自分へ強制ではなく自発的に体を委ねている事実。それが否応なく俺を興奮させる。

 

 そして、口に出さないが三浦も似たような背徳感を感じているのだろう。それを葉山への気持ちだったり、俺への評価だったりで押し殺し、淫らな自分を叱りつけているに違いない。そう思うと余計に興奮が高まっていく。

 

「んっ……ヒキオ、意外と上手いじゃん」

「そうか。もう少しだけ強くしても大丈夫そうか?」

 

 気遣いではない。だが、それでも三浦にはそう聞こえるだろう。黙って頷いてくれた。ならばと、強く揉みながら先端の突起を軽く刺激してみる。

 

「あっ……ひ、ヒキオ? 今」

「すまん。つい、な。嫌だったなら謝る」

「そ、そういう訳じゃないし。その、あーしなら平気だけど……でも」

「そうだな。俺との違いを聞かれた時に今みたいな方が答え易いか。じゃ、もう少し触らせてもらうぞ」

「え? あっ……そ、そうそう。あーしもそう言おうと思ってた」

 

 俺の言い訳に三浦が乗ってきた。どうやら向こうも性欲が高まってきているようだ。きっと普段の三浦なら俺の変化に気付いて止めに入っただろう。

 でも、ディープキスなどで理性を溶かされた今、歯止めとなるべきものはなく、大義名分である葉山への作戦用の言い訳作りがその性欲を後押ししているのだ。

 

「んっ……あんっ……ひ、ヒキオ……だめぇ」

 

 優しく胸を愛撫しながら、時々乳首を触ってやる。摘んだり弾いたりと色々だが、その強弱も変えてやる事でより三浦を悦ばせる。更に、三浦の耳たぶを甘噛みしてやった。

 

「っ!」

 

 その瞬間、三浦が小さく震えた。それは嫌悪からではなく感じたからこその反応だった。耳が性感帯か?

 

「ヒキオっ! 何すんの!」

「悪い。三浦の耳が何となく可愛く見えてしたくなった」

「……今回は許すけど次はないから」

「分かった。もう甘噛みはしない」

 

 その言葉に油断したところで今度は耳たぶを舐めてやる。すると、また三浦が震えた。どうやら耳は性感帯で確定らしい。

 

「ひ、ヒキオ!」

「すまん。もう本当にしない」

「……ホント?」

「おう、本当だ。三浦に嫌われたくないからな」

「…………信じてやるし。でも、ホントにこれで最後だからなヒキオ」

 

 顔を真っ赤にして俺から背ける三浦。それを見た俺の中にある気持ちが生まれた。

 

 ……こいつ、本当に俺を信じてるんだなと、そう思った瞬間、俺の中の悪魔が急速に勢いを無くした。裏切りたくない。その気持ちが、理性に本能を従えさせた。三浦の胸からそっと手を放す。そしてそのまま制服から手を出した。

 

「……ヒキオ?」

「これで十分だろ。これで葉山に俺との違いを話せるはずだ」

 

 正直痛いくらいチンポは勃起してるし、性欲は激しく燃え盛っている。だけど、もう俺に三浦を愛撫するつもりはなかった。

 十分だ。本来なら触る事など出来ないものを触らせてもらった。出来ないはずのキスさえしてもらった。満足だ。俺は惚れた相手から寝取るような最低野郎になれないしなりたくない。

 

「ヒキオ……」

 

 俺の様子から何か察したのだろうか。三浦はどこか驚いたような顔をしていたが、急に座る向きを変え俺へと向き直った。

 

「どうした?」

「……嘘だけじゃ不安だから、ホントも混ぜておく」

 

 そう言うなり、三浦は俺のトランクスからチンポを出させた。既に我慢汁がかなり出ているそれを見て、三浦は僅かに顔をしかめるも迷う事なく舌を出して……舐めた。

 

「っ?! み、三浦?!」

「フェラ、してやるし。それで隼人に言ってあげるんだ。隼人がさせてくれないから、あーしは口の初めてヒキオにあげちゃったって」

 

 そう告げると三浦は再びフェラを開始する。その舌の動きからくる刺激と視覚からの情報が、俺の興奮を高めていく。俺のチンポを舐める三浦の表情はとても艶かしかった。そしてとても愛らしく感じてしまった。

 

 葉山にさえしてない事。俺だけにしている事。それがまた俺の中の寝取り属性を刺激する。それでも、今の俺はもう三浦へ自ら手を出すつもりはなかった。ただ、何を思って三浦がそうしてくれたかを考え嬉しくは思っていたが。

 

「んっ……ヒキオ、どう? あーし、上手く出来てる?」

「……ああ、すげぇ気持ちいい。冗談じゃなく、今死んでもいいぐらいだ」

「っ……ば~か。でも、褒められるのは嫌いじゃないし。しっかり隼人のために練習させてもらうからな、ヒキオ」

 

 嬉しそうに笑顔を見せ、三浦はまた俺への奉仕を再開する。そして、その数十秒後で彼女から凄まじい勢いで怒られる事になるのだが、それは仕方ないよな。

 

―――ヒキオっ! 出すなら出すって言え!

―――ほんっとうに悪い! 気持ちよすぎて言う前に出ちまったんだよ!

 

 そんなやり取りをしながら、俺は心の中でこう思い出していた。寝取りたいとかではなく、本気でこの女が欲しいと……。



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寝取らせの終わり、寝取りの始まり

これで第一部完。第二部はある程度日を置いてから投稿します。早ければ今月中旬で、遅くても今月下旬ぐらいを予定。


 三浦にフェラしてもらって二週間近く経過した金曜。今、俺は公園のベンチで日が沈むのを眺めている。

 その理由は、今週の月曜に日付が変わった辺りで三浦と葉山からそれぞれ送られたメールにあった。その内容はほぼ同じ。つまり、見事に結ばれた事とその感謝だった。しかも、どうやら三浦は葉山のトラウマを解消ないし軽減させたらしく、その詳しい話を聞かせてもらう事になっていた。

 

 ま、葉山が月曜休みと聞いた時は少々心臓に悪かったがな。本当は何かあって寝込んでたのかと思ったし。理由は筋トレのし過ぎによる筋肉痛だった。戸部が「隼人君、最近落ち込んでたからってハッスルし過ぎっしょ~!」と言った時、葉山も苦笑していたっけ。それにしてもだ。

 

「……これで俺の役目も終わったな」

 

 正直口惜しいものはある。だが、これでいいんだと思う。三浦も葉山も互いを思い合っていた。ただ、そこに厄介な問題があっただけなのだ。それを乗り越えたのは二人であり俺じゃない。俺は結果的にその手助けを出来た程度。だから、今日話を聞いたらあの二人へ関わるのは最後にする。そのつもりでここにいた。

 

「ヒキオ、お待たせ」

「……一人で来たのか? 彼氏はどうした?」

 

 声に振り向けば、そこにいたのは三浦ただ一人。葉山も来ると思っていたんだが……? いや、だって直接礼を言いたいってメールにあったし。

 

「隼人には今日は遠慮してもらったし。ほら、あの関係の話はあーしだけで話したい事もあったから」

「そりゃそうか。あいつもその辺りを聞くのは居心地悪いだろうな」

 

 何せ彼女が他の男に自分の性体験の失態や成功までの話をするのだ。俺だったら絶対無理だ。そして葉山もおそらく無理だろう。三浦のこういう気遣いは当然か。

 

「で、ここでいいのか?」

「その、場所変えたい。ヒキオ、今日は帰り遅くなっても大丈夫?」

「まあな。そんなに長くなりそうか?」

 

 てっきり手短に終わると思っていたんだが、三浦の雰囲気からするとそうでもないらしい。今もやや申し訳なさそうな顔をしている。どうでもいいが、三浦が俺にこんな表情を見せるようになるとは千葉村の時には夢にも思わなかったな。

 

「悪いけどそうなる。だから家に連絡入れとけ」

「分かった。じゃ、ちょっと待ってくれ」

 

 小町へメールを送る。文面は一言。今日は晩飯いらない。これだけで帰りが遅くなるって判断出来るっていいな。さて、これでよし。

 

「いいぞ。で、どこへ行くんだ? サイゼ?」

「は? なんでサイゼだし。あーしについてくればいいだけだから」

「あの、せめて食事出来る場所でお願いしたいんだが」

 

 さっき食事いらないって送ってしまったのでね。うちの妹、そういうとこしっかりしてるから絶対用意しないんだよ。気を遣って何か食べられる物とか残したりしないぐらいしっかり者だから。

 そんな俺の家庭事情を知らず、三浦はスタスタと歩き出す。仕方ないのでその後を追って歩き出した。

 

 公園を抜け、向かうのは学生が向かうような方ではなく飲み屋などがある方向。はて、こっちにどこかいい店でもあるのか? まさか飲み屋に入る訳もないだろうが……

 

「おい三浦。さすがにこっちに話が出来て食事も出来る場所があるとは思えんぞ」

「いいから黙って歩け。もう見えてくるって」

 

 こちらへ一度として振り向く事無く進む三浦。周囲の風景も飲み屋街から段々変わり……て、ちょっと待て。完全にネオン街だぞ、ここ。

 と、俺が周囲の光景に疑問符を浮かべた辺りで三浦が迷う事なくラブホへ入る。突然の事で理解が追いつかない俺だったが、それに気付いたのか三浦がまた戻ってきた。

 

「何してるの。ほら、入る」

「いや、入るってお前な」

 

 引っ張られるように俺は三浦とホテルの中へ。既に二回も使った事があるからか、慣れた感じの三浦の所作を俺はただ眺めるだけ。そして三浦に手を引かれたまま、俺はとある一室へ。

 

「……何でラブホだよ?」

「じゃ、どこでエッチの話をしろって言うし。カラオケだって完全に音が聞こえない訳じゃないじゃん」

 

 こちらの言いたい事を先んじるように三浦は告げる。ま、たしかにそうだけども。それだけ葉山との話は聞かれたくないって事か。でも、こういうとこだってその観点だと安心出来ないんだけどなぁ。

 

「分かった。とりあえずこの場所が選ばれたのはいい。なら、どうして前もって教えてくれなかった?」

「言ったらヒキオは変に緊張してキモくなりそうだった」

 

 否定出来んのが辛い。いや、今のように理由を挙げられても場所が場所だ、と抵抗しただろうな。だが、俺や三浦の家など選択肢に出来んし、カラオケやファミレスなども論外だ。

 

 ……成程、結局ここに落ち着く訳か。

 

「真に遺憾ながらお前の言う通りだ。なら、聞かせてくれるんだな。葉山のトラウマ関連を」

「聞かせてやる。ううん、聞いて欲しい。ヒキオがいなかったらきっとああはならなかっただろうから」

 

 その時の事を思い出しているのか、三浦の目はとても優しかった。

 

 葉山と三浦は前回と同じようにホテルへ入った。その前の食事の段階で三浦が俺に抱かれたと例の嘘を吐いたらしい。

 それもあって葉山はまさしく目の色を変えたそうだ。そして部屋に入るなり、いきなり押し倒された。やや乱暴なぐらいの振る舞いに三浦も抵抗しようと思ったが、それぐらい自分を抱きたいのだと思って受け入れたらしい。

 

「……それでそのまま?」

「さすがにそれはないって。でも、隼人はそうしたかったんだと思うし。その、お、おちんちんが凄い硬くなってたから……」

 

 あーしさんのおちんちんいただきました。というか、三浦は男性器をそう呼ぶんだな。可愛らしくていいと思います。やはり乙女なあーしさんだ。

 

「そうか。じゃあ、どうなったんだ?」

「……そこで隼人が一回出しちゃった。で、冷静になって……」

 

 賢者となってしまい、葉山は三浦へ謝ったそうだ。でも、まだ葉山は臨戦態勢。そこで三浦は一緒に風呂へと誘ったのだ。ま、女としては当然だわな。

 そこで葉山とイチャイチャバスタイムを過ごし、再び愛撫開始。前回の俺との事を引き合いに出しながら葉山を興奮させ、いよいよ挿入となった。

 

「ヒキオに言われた通り、隼人に一気に来てってお願いしたし。隼人も一度抱かれたならって素直に応じてくれて」

「で、見事初めて交換、と」

「……でね、隼人もそこで気付いたんだって。でも、不思議な事に萎えなかったし」

「そこだ。どうして真実を知ったあいつは最後まで持続出来たんだ?」

 

 葉山のメールには詳しい事は書いてなかった。俺もさすがにあいつのトラウマを刺激しかねないと思って聞けなかったし。だが、三浦はそんな男二人の心境をしっかり理解していたようだ。

 

「隼人がね、終わった後にこう言ってきた。ヒキオとあーしが自分をここまで思って動いてくれた。それがまず嬉しかったって。それと気付かれた時に、あーしが何があっても隼人から離れる事はないって、そう言い切ったのも効いたって」

 

 つまり、葉山のトラウマである好きな人が離れる事。それへ三浦が正面からぶつかったからか。何があっても自分から離れる事はない。これを三浦が言うから葉山に届いたのだろう。おそらくだが、最初に言った事は葉山なりの照れ隠しだ。でなければ、わざわざ最後の言葉に効いたなど付けない。

 

 それこそが本命で、前者は俺への配慮だろう。まったく、どこまでいってもみんなの葉山君だな。

 

「……そうか。じゃ、もう普通に抱いてもらえそうか?」

 

 その問いかけに三浦が真っ赤になって俯いた。どうやらそのようだ。きっとその後も何度となく愛されたのだろう。葉山も今までの鬱屈としたものを振り払うように腰を動かしたはずだし……って、待てよ? まさか月曜あいつが休んだ理由は……。

 その疑問を込めた視線を三浦へ向ける。すると、三浦はそれに気づいて小首を傾げた。可愛いな、おい。

 

「な、あいつが今週の月曜休んだ理由って」

「……そういう事」

「マジか。あいつ、休まなきゃいけないぐらい動いたの? どんだけ三浦を愛してんだよ」

「そ、それ以上言うな! あーしだってかなり辛かったんだから!」

 

 顔を真っ赤にして答える三浦。そういえば、月曜三浦も辛そうだったわ。てっきり処女喪失から来るものだと思ったら、彼氏の頑張りのせいかよ。くそ、末永く爆発しろ。

 

「ったく。ま、何にせよだ。葉山の寝取られ趣味もなくなり、三浦もちゃんと女にしてもらって、全てが丸く収まった訳か」

「……ううん、まだじゃん」

 

 ぽつりと呟かれた言葉は、俺のまとめを否定していた。どうしてだ? 何か問題残ってるか? そんな風に思う俺に三浦はしっかりと視線を合わせて告げた。

 

「ヒキオの事が残ってる」

「……俺の事なんて何も」

「あの時、ヒキオはあーしを抱きたいって思ってた。違う?」

 

 その声と目はこれっぽっちも自分の言葉を疑っていないものだった。俺はそんな三浦に気圧されるように何も言えない。それがある意味で事実だと認めていたからだ。

 

「ヒキオ、女舐めんな。あの時のヒキオの目、初めてエッチしようとした隼人よりもぎらついてたし」

「……すまん」

 

 三浦の言葉に俺はそう返すのが精一杯だった。おそらくあの時は三浦もテンションが狂っていたからお咎めなしで済んだんだろう。でも、落ち着いてから今のように怒りを感じ出したに違いない。

 

「謝る必要ないし。だって、ヒキオが目付き変わったの、あーしにズボンを返してくれって言った後からだったし」

「……マジか」

「うん、マジ」

 

 どうやらあーしさんは俺が悪魔に負けた時をしっかり察知していたようだ。あれ? でも、ならどうして……?

 俺の抱いた疑問に気付いたのだろう。三浦はどこか恥ずかしそうに顔を赤めこちらを見つめてきた。

 

「あ、あーしもあの時はあんたに抱かれてもいいって思った。それぐらいヒキオの事許してたし」

 

 頭が真っ白になった。つまり、あの時の三浦は俺に抱かれてもいいと考えて動いていたのか。だから最後にはフェラまでしてくれた? じゃ、あの時のどこか俺を焚き付けるような言葉は誘ってた……?

 

「ヒキオ、覚えとけ。大抵の女はフェラよりキスを嫌がるんだから。フェラはおちんちんしか意識しないで済むけど、キスは嫌でも相手の顔を意識するからね」

「…………分かった。絶対覚えておくわ」

 

 今の言葉は俺の中の疑問を全て解決してくれた。要するにあのキス写メの時点で、俺は三浦にかなりの事を許されていたのか。

 と、そこで三浦がおもむろに立ち上がる。そしてそのままどこかへ行ってしまった。トイレだろうか。

 

 一人残された俺は、三浦から告げられた言葉をただ反芻していた。俺に抱かれてもいいと思っていた。それがずっと頭の中にこだまする。手に入れたいと思った。

 でも、手に入れてはいけないと思った。そうして何とか折り合いをつけたはずなのに。本当に三浦は俺の悪魔を復活させる天才だ。ま、もうその悪魔の出番はない。葉山が三浦のおかげでトラウマを払拭出来た以上、寝取れる可能性は潰えたのだから。

 

「結局、この件が俺にもたらしたのは厄介な属性だけか」

 

 寝取り属性。人の女や俺以外を好きな女との性的行為に大きく興奮する性質。それがこの三浦からの依頼で俺に残ったものだった。

 

 それにしても三浦の奴、やけに長いトイレだな。あまり考えたくないが大きい方か?

 でも、だとすれば俺に何も言わず行った理由になるか。そんな馬鹿げた事を考えつつ、俺は初めて訪れたラブホを調べ始めた。

 

 そうして軽く十分以上は経っていたと思う。そんな時、ふと背後から三浦の気配を感じて振り向いた。そこにはバスタオルを頭と体に巻いて不思議そうな顔の三浦が立っていた。

 

「何してるの?」

「いや、初めて来たから色々とな。てか、汗流してたのかよ」

「は? もしかして分かってなかったとか? 有り得ないし」

 

 何故俺が怒られるんでしょうか。にしても、これはどういう事だ?

 

「ヒキオさ、さっきの会話とあーしの行動である程度分かれ。どうしてこういう事はいつもみたいなすごさが出ないし」

 

 がっかりするような顔のあーしさん。でも、言われる方も困るのだ。だって、これはまるであーしさんが俺に抱かれようとしている風にしか見えないしな。

 

「……何かすまん。でも、はっきり言わせてもらうとだな? 俺と三浦は普段いる環境が違い過ぎて分からない部分があるんだ。今回もきっとそういう事なんだと思う」

「……やっぱタオル巻かずに出てくれば良かったかも」

「は?」

 

 一体何を仰ってるんでしょうかと、そう言おうとした瞬間、三浦は躊躇う事なく二つのバスタオルを取った。

 

 視界に映る三浦の裸体。初めて生で見る女性の、それも美少女のそれに俺は目が放せない。

 すらりとした足。引き締まった腿。整えられた陰毛とくびれた腰回り。そして豊かな胸に流れる髪。どれも男が魅入られる事請け合いのものがそこにはある。

 

「……そんなに見られると恥ずかしいんだけど?」

「っ!? わ、悪いっ!」

 

 三浦の声で我に返る。慌てて顔を背けるが、既に股間が盛り上がっていた。そして、事ここに至って、やっと俺も三浦の行動の意味を理解出来た。

 

「……三浦、どうして俺に抱かれようとする?」

「…………それ、聞かなきゃ分かんない?」

 

 その答えが全てだった。三浦が言う事を考えれば、キスを許した時点で俺はかなり認められていたらしい。

 だが、その時は抱かれてもいいとまではいってなかったはずだ。きっとそうなったのはあの日。葉山との初エッチに失敗し、俺がその対策を教えたあの日の出来事。あれが三浦の中の女に再び自信を与えたのだ。だからこれはその事と葉山との行為を成功させた礼なのだろう。キス写メが葉山とのキスの礼だったように。

 

「気持ちは嬉しい。だが、俺は好きな男がいる相手と」

「なら、どうしてあの日あーしを抱こうとした?」

 

 鋭く俺の心を抉る一言だった。俺が反論しようとする全てを問答無用で叩き伏せる攻撃だった。言葉に詰まる俺へ、尚も三浦は容赦なく言葉を続ける。

 

「あーしが隼人とエッチ失敗したのを知ってて、ヒキオはあーしへ手ぇ出してたじゃん。乳首触ったのは完全に狙ってっしょ? ディープの時だって抱き締めてきたし、あーしが耳が弱いって分かったのに舐めてきたりした」

 

 本当に今更何言ってるんだよな、俺。とっくに惚れた男がいる女にいかがわしい事したじゃねえか。それなのに、かっこつけるようにさ、好きな男がいる相手とそういう事は出来ないって言おうとするなんて……本当に救いようのない馬鹿だ。

 

「ヒキオ、顔上げろ。あーしは別にヒキオを責めてる訳じゃないし」

「……どういう事だ?」

「先に嘘吐いたのあーしだし。でも、ヒキオはそれを許してくれた。だから、今度はあーしが許す番じゃん?」

「えっと、俺が以前やった事を許してくれるって事か?」

「それとこれは話が違うから。あーしが許すのは、今ヒキオが言おうとした嘘だし」

 

 要するに好きな相手がいる奴に手を出さないってやつか。ん? 何かひっかかる。これを許してもらったとして、ならばあの時の事はどうなのだろうか。

 

「なぁ、じゃあ俺がした事はどうなるんだ?」

「それが今のこれに繋がってるの」

 

 やっと言いたい事が言えたとばかりに三浦は息を吐く。えっと……ちょっと理解が追いつかない。三浦は俺に何を求めているんだ?

 

「あの時、あーしを散々焦らしてくれた罰を受けろ、ヒキオ」

「……それで抱けって? おかしいだろ、それ」

「うるさいっ! いいからあーしに尽くすっ!」

 

 真っ赤な顔でそう叫ぶあーしさん。これは……俺に気を遣ってくれてるのか。こうすれば自分を抱いても問題ないと。俺が劣情からではなく、罪滅ぼしとして自分を抱くならば構わない。葉山への裏切りではなく、俺への心変わりでもない。これは以前やった事のつけなのだからと、そういう事にして。

 

「…………なら、一つだけ頼みがある」

「言ってみろ」

「俺が三浦へ触れたら、それからはお互いへ嘘しか言わない事。そしてそれは部屋を出るまで続く事」

「…………分かったし。あーしは心が広いから認めてあげる」

 

 どこか呆れたような笑みを浮かべて三浦はそう言ってくれた。きっと俺の提案の意味を悟っているのだ。

 だからこそ余計その笑みが辛い。今から始まる事は嘘であり、罰なのだ。決して愛し合うのではない。そう言い訳しなければ俺は彼女を抱けない。それを分かっているから彼女は呆れ笑いをしたのだ。

 

「じゃ、スタートだ」

「ん」

 

 三浦の肩へ手をそっと置いた。もうシャワーの熱は冷めきっている。でも、三浦の温もりが俺の手へ伝わってきた。その温かさに感謝するように、俺は始まりの嘘を吐く。

 

「三浦、好きだ。愛してる」

「何他人行儀で呼んでるの。あーしの事、優美子って呼べ」

 

 返ってきた言葉に俺は思わず笑ってしまう。そうか、そうくるか。そうきて、くれるのか。

 

「そうかよ。じゃあ……優美子、愛してる」

「……あーしも愛してる。ね、キスしたい」

 

 優美子がこちらを見つめてくる。なので俺は彼女へゆっくりと顔を近付けた。触れ合う唇と唇。そのまま俺は優美子をベッドへ押し倒した。ギシりとベッドが軋む音がする。それを聞きながら俺はキスを止めると、優美子の胸へ舌を這わせた。前回出来なかったからか、自分でも引くぐらい重点的に愛撫した。

 

「もう、ヒキオ赤ちゃんみたい。そんなに乳首ばっか舐めるなぁ」

 

 聞く耳持たんとばかりに今度は乳首へ吸い付いた。強くではなく優しく。すると優美子から甘い声が聞こえてきた。そして、それに比例するように乳首が硬くなっていく。なので片方を指で優しく摘んでやる。それが余計優美子の声に艶を与えた。

 

「んっ…………あっ、今のいいかも。んんっ! それ、もっとぉ!」

 

 優美子の乳首を甘噛みしてやったら、それを気に行ったらしく喜ぶ声が聞こえた。ご所望とあればやってやろう。

 

「ああっ! ヒキオっ! もっと! もっとしてぇ!」

 

 ……もしかして優美子はMの気質なのだろうか? どちらかと言えばSかと思ったが、よくよく考えてみると尽くすタイプっぽいしそうなのかもしれん。ならばと、今度は乳首甘噛みと残る片方を指で強く摘んでやった。

 

「っ~~~~~!」

 

 仰け反った。シーツをしっかり握り締めて、口を真一文字にきつく結んだままで。そこでふと思いついた。甘噛みではなく強く噛んだらどうなのだろうと。思い付いたら即実践だ。

 

「痛っ!」

「……悪い。調子乗った」

 

 どうやらソフトMであって痛すぎるのは駄目のようだ。若干涙目でこちらを睨む優美子は可愛らしいです。と、そろそろ俺も服を脱いでおこう。正直股間が辛い。

 

「……すご、やっぱおっきい……」

「葉山と比べてもか?」

「…………うん。隼人も大きいと思ったけど、ヒキオの方が少しだけ上」

 

 み・な・ぎ・って・き・た!

 

 寝取り属性持ちに一番言ってはいけない事を優美子は言ってしまった。どうやら圧勝ではないらしいが、それでも勝ちは勝ちだ。心なしかチンポも優美子の評価を受け更に逞しくなった気がする。俺はチンポを見つめる優美子へ腰を突き出した。

 

「優美子、パイズリしてくれないか? 頼む」

「……どうやればいい?」

 

 ちょっと赤面しつつ困った顔で告げる優美子は犯罪級の可愛さだと思う。なので俺は煩悩全開で指導した。

 優美子は俺が言った巨乳彼女を持った男共通の夢との表現で、葉山へしっかりとしたパイズリをするべく練習すると言った。そして、その練習台が俺となる。

 

 ……何気にフェラ関係は俺が初めて二連発か。悪いな葉山。今のお前には悪夢かもしれんが、今の俺には蜜の味なんだよ。

 

「んっ、んっ、んっ……これでホントにいい?」

「ああ。気持ちいいってより精神的なもんだなこれは。とにかく嬉しいし満足だ」

「ならいい。んっ……ぬるぬるして変な感じ」

「なぁ、もし可能なら舌出して先っぽだけでも舐めてくれ」

「はいはい。もう、注文が多いんだから……」

 

 苦笑しつつ言う通りに舌を出す優美子。時折そこへチンポが当たり、何とも言えない感覚になる。優美子も我慢汁によって滑りが良くなってくる事には、様々な要因が重なりパイズリしながら興奮してきたようだった。

 

 今は咥えようとしているようで、何度かチンポが頬へ当たって艶かしい光景を演出している。これを狙ってやってるのなら優美子は魔女だな。

 

「んぅ……暴れん坊過ぎ」

「優美子の胸が良すぎるからだ」

「……そう言われると悪い気しないかも」

 

 照れくさそうに微笑みながら、優美子が先だけ顔を出してるチンポへ軽いキスをした。いかん。今ので軽く出しそうになった。以前の二の舞は避けたい。

 

「優美子、そろそろ出しそうだからやめてくれ」

「ふ~ん、出しそうなんだぁ……じゃあ……」

「っ!? ゆ、優美子っ?!」

 

 何と胸をチンポから離したと思ったら、そのまま口でくわえてきた。温かくぬるっとした口内の感触で射精しそうになる。いや、優美子はそれを狙っているのだろう。

 

「優美子、ホントにもう出るっ! 出すぞ!」

 

 こみ上げてくる衝動に抗う事なく従うと、言いようのない快感が全身を駆け巡る。そして強い射精感と同じぐらいの脱力感が襲ってきた。

 それでも視線は優美子へ向けている。彼女は精液を受け止めきれなかったのか、咳き込んでいた。慌てて体を起こして背中をさする。

 

「大丈夫か? 無茶させて悪い」

「……んーん。あーしがしたくてした事だし。それよりごめんヒキオ。飲んであげられなかった」

 

 その一言が俺の中の何かを強く刺激する。それでも衝動を必死に抑え、優美子の体を抱き締める。

 

 愛しくて、切なくて。彼女は絶対俺の女にはならないし出来ない。それを俺は分かってる。きっと優美子も分かってる。もし自惚れでなければ、俺達の気持ちは同じはずだ。どうしてこうなってしまったのだろうと。

 ここまで親しくならなければ、ここまで関わり合わなければ、けっして惹かれ合いはしなかったのに。

 

 優美子は俺を葉山と同じぐらいに扱ってくれているはずだ。でも、俺と違って葉山は自分でなければならない明確な理由が出来た。だからもう決して自分から離れる事はしないだろう。そして、きっとこの行動は葉山への最初で最後の仕返しなのだ。

 

 そう、優美子は最初に俺へこう頼んできた。自分を抱いて欲しいと。それを言わせた事への意趣返しなのだろうな。

 

 俺との別れへの餞別も兼ねて。

 

 だから優美子へキスをした。優しいキスを。彼女もそれがどんな気持ちからのキスか分かったのだろう。静かに舌を絡める事もなく、ただ口づけを交わす。

 

「……いれたい」

「……うん、あーしも欲しい」

 

 見つめ合いながら俺達はもう一度キスをする。今度は深いキスを。何度も何度も舌を絡ませ求め合う。

 そこに愛情などない。あってはいけない。これは罰であり仕返しなのだ。そこにあるのはただの性欲だけ。そうでなければならないのだから。

 

「ちゃんと着けれるかヒキオ」

「……無理。やってくれ」

「それが人に物頼む態度? ったく、しょうがないんだから」

 

 そう言いつつ優美子はちゃんとコンドームを着けてくれた。手慣れてるなと言ったら、葉山に着けてやった事があるらしい。同じじゃないかと思ったら、最初以外は自分で着けていたとの事。

 

 ……俺だって慣れれば出来るわ。思っても言えないけどな。

 

「じゃ、行くぞ」

「ん」

 

 片手でチンポを持ちながら優美子のマンコへあてがう。今から他人の彼女とセックスする。そう考えると何とも言えない興奮が押し寄せてきた。

 堪らなくなり、力強くチンポを挿入する。思っていたよりも抵抗感はない。やはり葉山との行為でもう挿入に慣れたのだろう。

 

「どうだ?」

「ん……痛みはない」

「……どこか違いはあるか?」

 

 内心ドッキドキで問いかける。それを分かっているのだろう。優美子は悪戯めいた笑みを浮かべた。

 

「そんなにはないみたい。でも、ほんの少しだけ違和感あるかも」

「……動くぞ」

 

 今の俺を滾らせる一言が優美子の口から飛び出した。これが嘘でもホントでも構わない。絶対寝取れないからこそ寝取るぐらいの気持ちで抱く。

 せめて、エッチは俺の方が気持ちいいと優美子へ刻み付けたい。そんな思いで腰を動かす。

 

 パンパンと打ち付ける音が響く。優美子のマンコが俺のチンポから精液を絞り出そうと締め付けてくるのが嬉しい。ここだけは嘘を吐けないからだ。今、この女は俺で感じてくれている。

 

「優美子っ! どうだ! 気持ちいいかっ!」

「んんっ! け、結構上手いじゃん。あっ! そ、そこがいいっ! 今のとこ、もっと突いてぇ!」

「分かった……ここ、かぁ!」

「ああっ! そう! そこっ! そこがいいっ!」

 

 入口の少し上辺り。そこがどうやら優美子は好きなようだ。Gスポットというやつなのだろうか。とにかくそこを重点的に攻める。ある程度したら、今度は優美子に上になってもらう。騎乗位だ。優美子の胸が揺れて眺めは最高だ。

 

「んっ……んんっ……乳首いじるなぁ」

「無理。こんな目の前でゆさゆさ揺れてるんだ。手を出さないのは失礼に当たる」

「ばかぁ……そっちの方が失礼じゃん……」

 

 自分で気持ちのいい場所へ腰を動かす優美子を眺め、俺は豊かな胸をこれでもかと堪能する。そしてそのまま起き上がって、今度は対面座位。キスをしながら優美子と求め合う。

 

「ん~……やっぱあーしキスが好き」

「俺も好きだ。まぁディープの方だけど」

「そっちも嫌いじゃないけど、あーしは普通の方がいいし。あと、これマジやばくね? 繋がったままでハグチューとかかなりクル」

「だな。肉体的にも精神的にも満足度高いわ」

「ん。じゃ、も一回キス」

「おう」

 

 優美子が伸ばした舌へ自分の舌を絡める。その間も優美子の締め付けが俺のチンポを襲う。優美子はこの体位を気に入ったようで、しばらくこのままで過ごした。

 

 そして最後は後背位、つまりバックだ。色々試してみたいが、体力的にそこまで持たないので仕方ない。

 にしても、これだと一番深く挿入出来るらしく、優美子が「あっ……これヤバイ」と小さく呟いたのが印象的だ。今も後ろから突かれて、その胸を大きく揺らしながら俺の劣情を煽ってくる。

 

「優美子の尻、やっぱエロいな! ホントにこっちの初めてもらっとけば良かった!」

「ば、馬鹿言うなし! あーしの処女は全部隼人に上げるんだからっ!」

「そうかよ。それは残念だ……なぁ!」

「~~~~~っ!」

 

 思い切り突き上げると優美子が仰け反った。そのままチンポをぐりぐりと押し付ける。

 すると優美子が脱力するようにベッドへ突っ伏した。でも、攻めの手は緩めない。むしろここからとばかりに顔を耳元へ近付ける。

 

「イったのか?」

「っ……うん」

「葉山にはイかせてもらえなかったのか?」

「そんな事ないし。隼人もちゃんとイかせてくれた」

「じゃ、俺と葉山、どっちがより多く気持ちよくしてくれた?」

 

 その問いかけに優美子が確かに息を呑んだ。ずるい問いだ。自分でもそう思う。だけど、言わせてみたかったのだ。今だけでいい。今日だけで構わない。三浦優美子が、葉山の彼女が、俺の方がいいと選ぶのを聞きたいのだ。

 

「それは……」

「……優美子、俺の頼みを忘れるな。今は全部嘘なんだぞ」

 

 その言葉に、優美子が小さく喉を鳴らした。今の囁きは俺の中の悪魔のものだ。いや、もしかしたら天使なのかもしれない。どちらにせよ、それが最後の一押しだった。

 

―――ひ、ヒキオ……ヒキオの方がいっぱいあーしを気持ちよくしてくれたぁ!

 

 折れた。今、この瞬間だけ三浦優美子が俺の女になった。それだけでいい。後はもうよく覚えていない。

 ただ目の前の女を悦ばせたくて。ただ感じてもらいたくて。ひたすら俺に出来る限りの事をした。気が付けば、互いに抱き合うようになっていた。優美子の足が俺の腰を掴んで離さない。

 

「ヒキオっ……ヒキオぉ!」

「優美子! 優美子っ! 優美子ぉ!」

 

 もう何も考えられない。ただ求め合うだけしか出来ない。意味のある言葉も言えない。ただ目の前の相手を呼ぶだけしか出来ない。

 

 それで良かった。それでいいんだ。俺達は愛し合う関係じゃない。最初から最後までギブアンドテイクの二人なのだから。

 

 こみ上げてくる感覚に身を委ねながら、俺は最後に思いっきり腰を打ち付けた。その瞬間、優美子の爪が俺の背中へ食い込み、腰を砕かんばかりに足へ力がこもる。

 

「「っあああああああっ!!」」

 

 真っ白になった。何もかもが真っ白に。そしてその日は終わった……。

 

 

「ね、聞いてよゆきのん。やっぱ優美子と隼人君付き合ってたんだって」

 

 紅茶の香り漂う部室内。そこでいつものように由比ヶ浜が雪ノ下と喋っていた。話しかけられた雪ノ下は、やや驚いたような表情を浮かべていた。

 

「本当だったのね。それで、どうして分かったの?」

「今日ね、優美子と隼人君から教えてもらったの。でも、まだ学校内には広めたくないんだって。優美子が悪戯されるかもしれないからって」

「賢明な判断ね。ただでさえ、葉山君に近い女子は恨まれるのだから」

 

 経験者は語る。これ程説得力ある人物もいないだろう。だから由比ヶ浜、どうして雪ノ下がそんな事を知ってるんだみたいな顔するな。お前の空気読みスキルはどうした。

 

「それと、姫菜が優美子にあった男の影が消えたって言ってて」

 

 危うく紅茶を吹き出すところだった。やはり海老名さんは侮れん。ま、それが誰なのかまではさすがに分かっていないようだがな。

 

「どういう事かしら。海老名さんはどうやってその男の影を察知出来たの?」

「えっと……何でもある時期から優美子が特定の男子を見るようになったんだって」

「それはクラスで?」

「そこまでは言ってなかったなぁ。でも、姫菜はそれで気付いたんだって。で、今はもう見なくなったって」

 

 ……前言撤回。海老名さん、マジこえぇ。これ、俺とあーしさんの事もばれてるんじゃないだろうか?

 だが、例えそうだとしても今更事を荒立てるつもりはないだろう。何せ、今やあの二人は幸せの只中なのだから。

 

「ホント、女子って人の色恋沙汰が好きなんだな」

「ヒッキーは興味ないの?」

「あったら彼女が出来るとかなら持たなくもない」

「……最低ね」

「何とでも言え。所詮他人の恋愛なんて首突っ込んでもロクな事にならん」

 

 俺の噛み締める言葉に二人も何とも言えない顔をした。さて、そろそろ帰るか。鞄を手にし、残った紅茶を飲み干す。

 

「……もう帰るの?」

「ああ。ちょっと用事があるんでな」

「そっか。ヒッキー、また明日ね~」

「おう、お前らも気を付けて帰れよ」

 

 手を振る由比ヶ浜へ軽く手を挙げ、部室を出る。紅茶で少し温まったとはいえ、やはり冬の寒さは堪えるな。

 マフラーを巻き、やや体を丸めるようにしながら下駄箱を目指す。と、その途中校舎外であの二人を見かけた。パッと見は今までと変わらない距離だが、俺は知っているのだ。

 

「……幸せにな、三浦。手放すなよ、葉山」

 

 部活終わりなのか、ユニフォーム姿で三浦と語らう葉山を眺め、心からそう呟く。あの後、部屋を出る時になって三浦は、先に廊下へ出た俺に顔だけ部屋から出してこう告げた。

 

―――もし隼人があーしを捨てたら、その時は迎えに来い。

 

 あれは、三浦なりのメッセージなのだろうか。体は部屋の中で顔だけ外。それは、言葉だけは嘘じゃないという意味だったのか。あるいは気持ちは嘘という事なのだろうか。どちらにせよ、俺への仕返しには違いない。こうやって悩ませ、もしかしたらを考え続けさせようという三浦なりの。

 

「……悪いな三浦。もう、俺は待ち続けるなんて出来ないんだ」

 

 新しい相手を見つけよう。それだけの気持ちを三浦が与えてくれたんだ。そう思っての呟きは風に乗って冬の空に消えた……。

 

 

 

 靴に履き替え、一人自転車置き場へ向かう。すると、そこに一人の女子が立っていた。そいつは俺に気付くと、やや怒り顔で近付いてきた。

 

「あー、やっと来た。先輩、どうして手伝いに来てくれなかったんですかぁ」

「理由がない」

「責任、取ってくれるって言ったじゃないですか」

「だからどうしてもって時は手伝ってやるって言っただろ。お前、一生に一度をどれだけ言うつもりだ?」

 

 自転車の鍵を開けながら一色の相手をする。と、そうだった。思い出したように着けていたマフラーを外して一色へかける。

 

「えっ?」

「詫びにならんが、寒空の下で待たせたからな。男くさいかもしれんが我慢してくれ」

「な、なんですか急に。はっ、もしかして口説こうとしてます?」

「かもな。で? お前、まだ葉山が好きなのか? 気付いてないって事はないんだろ?」

 

 何気ない口調で尋ねる。一色はその問いかけに握り拳を見せて頷いた。

 

「当たり前です。ま、たしかに最近三浦先輩と急接近した感じですけど、まだ入り込むチャンスはありますから!」

「そうか。まだ葉山が好きか」

 

 にやりと、笑みが浮かぶ。だが、それは心の中であり実際の顔は呆れている。気付かれてはいけない。まだ一色にはあいつを想っていてもらわなければ面白くない。

 由比ヶ浜や雪ノ下では駄目なのだ。あいつらは、きっと俺に好意を抱いている。それじゃ、あの感覚は味わえない。

 

「何ですか? もしかして嫉妬してます?」

「どうだろうな。俺なんかが葉山に嫉妬してたらキリないが」

「ですね~。ま、いいです。じゃ、いつものように送迎よろしくです」

 

 そう言って俺の自転車の後ろへ乗る一色。ああ、分かってる。一気に迫ると駄目なのは三浦が教えてくれた。それと、どうやって俺を意識させればいいのかも。あの三浦でさえそうなってくれたのだ。俺はもてない訳じゃない。

 

「しっかり掴まれよ」

「分かってますよ」

「それと、風邪引かないように帰ったら一応風邪薬飲んどけ」

「……そうします」

 

 俺の制服をしっかり掴む手へ少しだけ力が加わる。走り出す自転車。一色の視線が少しだけ葉山達へ向く。頼むぞ一色。お前も三浦のように葉山を想い続けてくれ。でないと……

 

―――寝取る楽しみがなくなっちまうからな。




と、ここまでが第一部です。第二部も読んでやってもいいと思っていただけたら嬉しいです。


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寝取り寝取られ
一色いろはは諦めたい


ここから第二部。八幡がどんどん歪んでいきますので、それが嫌な方は一部で終わりとしておいた方がよいと思います。


「よ、よろしくお願いします先輩」

「な、やっぱりやめといた方が良くないか?」

 

 ヴァレンタイン本番を控えたある日の昼下がり。俺と一色はとあるラブホの中にいた。理由は簡単。一色へ葉山の誤情報を流したからだ。まぁ、それとなく本人にも言わせたのでまったく嘘とも言い切れないが。内容はこう。葉山は処女が苦手であり、その理由はそれを盾に重たい関係を迫る可能性が高いから。そう俺は一色へ伝え、それをこいつは葉山へそれとなく確かめたそうだ。葉山は俺の頼みもあって、一色へ肯定的な意見を返したらしい。で、色々悩んで一色は俺へ相談してきたのだ。

 

―――せ、先輩。私の処女、もらってくれますか?

 

 内心でガッツポーズをしつつ、俺は三浦との触れ合いで学んだ事を総動員して一色へ対応した。

 

―――気持ちは嬉しいが、止めておけ。葉山は苦手なだけで嫌とは言ってないだろ。

―――でも、不利なのは事実です。三浦先輩はとっくに卒業してるだろうし、このままじゃ……。

 

 こんなやり取りがあり、俺はじっくり一色を絡め取っていった。俺はお前と葉山を応援している。手助けはするが、性交渉はさすがに気が引ける。お前が戦うのは三浦じゃなく葉山とだ。そんな風にあくまで支援するだけの男であり、本心から一色の恋を支えているように。すると、一色も三浦と同じく俺へ信頼を厚くしていった。処女と寸前まで分からないようにテクニックだけでも磨くかとの誘いに、一色は乗ってきたのだ。

 

―――こ、こうでいいですか?

 

 まずは手コキ。次は口で。胸を寄せてのパイズリさえさせた。勿論、俺はステップを進む度に最初だけここで止めとくべきと制する。それが一色の背中を余計押すと分かっていてだ。こうして一色のフェラ関連を全て俺が貰ったところで、遂に時は来たのだ。そう、クリスマスである。ま、もっとも生徒会でイベントをやるはめになり、そちらが想像以上に面倒となったので早々に雪ノ下達の力も借り終了させたが。おかげで意図せず一色の好感度を上げる事にも繋がったから良しとしよう。

 そして、冒頭の流れに至る。一色はいっそ本当に処女を捨て、その上で葉山へ迫る方が可能性は高いと考えたらしく、ディスティニーでの告白を見送ってまで時期を待っていたのだ。

 

「ダメです! 何のためにここまで来たんですか」

「代金なら俺が払う。やっぱりそういうのは葉山としろ」

「そのためにここで済ませておくんです! ……それに、私だって誰でもいい訳じゃありません」

「葉山の次が俺とは驚きしかないが、まぁ嬉しいぞ? でもなぁ」

 

 内心の笑いが止まらない。実にいい。正直チンポがガチガチだ。葉山へ捧げようと思えば出来るのに、それをせず俺へ処女を捧げようとするのだ。葉山を、他の男を好きな女が、俺へ。今も一色は躊躇う振りをする俺へ赤い顔で迫ってくる。

 

「でもも何もありません。先輩は私を抱きたくないんですか! どうなんですかぁ!」

「……そりゃ抱きたいに決まってるだろ。でもな、可愛い後輩で健気なお前だから抱けないんだ。その気持ちで葉山へぶつかれ。きっと悪いようにはならんはずだ」

「先輩……」

 

 俺はここで一色を抱けなくてもいいと考えていた。焦ってはいけないと三浦の時に教わったからな。どっしり構えて待てばやがて果実の方から堕ちてくるのだ。そう……。

 

「いえ、やっぱり先輩とがいいです。で、もし葉山先輩が私と付き合ってくれるようになった時、エッチしたらこう言ってあげるんです。葉山先輩のために処女捨てて来ましたって」

「で、相手が俺と伝えて軽くダメージを与える訳だ。俺は比企谷のお下がりかと」

「はい、それぐらいはいいと思うんです。処女をめんどくさがる男の人がいるって知ってはいましたけど、まさか葉山先輩がそうだったなんて」

 

 こういう風にな。すまんな、一色。葉山は別に処女を面倒とは思ってないぞ。ただ三浦が居る時点で誰も抱くつもりはないだけだ。その上処女なんて余計相手にする訳にはいかないと、真実はこういう事だ。さて、ならばここからはお楽しみだ。三浦の時と違って一色はどうしても葉山じゃなければダメではない。となると、ここで抱いた後で俺へ乗り換える可能性が大いにある。その時は……その時に考えるとするか。

 

「……分かった。なら、一つだけ言っておく。俺も男だ。始まったら優しく出来ないかもしれん。何せ経験不足だからな」

「はい、分かってます。えっと、じゃあまずはシャワー浴びてきますね」

「おう、そうしろ。で、やっぱりやめたくなったらそう言ってくれ」

「先輩、気持ちは嬉しいですけどもう決めたんですから。あまりその決意を鈍らせないでください」

「そんな事で鈍るぐらいなら鈍ってやめろ。その方がお前のためになる」

「もうっ!」

 

 やや怒った声でふくれ顔をしつつ、一色はバスルームへと向かって行く。その背を見送りながら、俺は初めての完全寝取りを目論んでチンポを痛い程勃起させていた……。

 

 

 

「……やっぱり先輩って優しいな」

 

 流れるシャワーを浴びながら、私は今までの事を思い返していた。思えば先輩が恋愛相談へ親身になってくれたのは、三浦先輩が葉山先輩へ急接近した辺りだった。きっとそれで私の恋が終わると思ったんだろう。だからこそ親身になってくれたんだ。せめて可能性を少しでもって。本当に捻くれた優しさだ。でも、おかげで色々分かった事がある。先輩は本当に優しくて、頼りになって、そしてとても男らしいって事。

 

「さっきだって、普通なら抱いちゃうとこだよね」

 

 でも、先輩は私の事を思って理性全開で相手してくれた。初めておちんちんを触った時だって、最後まで私へ手を出さないようにしてくれたし。まさか手と足を縛って安全確保とか考えもしなかったもん。それだけ先輩は私を応援してくれてる。そのせいで、最近はむしろ葉山先輩よりも先輩の方がいいなぁって思う事が増えてきた。でも……。

 

「何故かその度に先輩の目付きが冷たくなるような気がするんだよね」

 

 一度だけ冗談で先輩を相手にした方が色々と便利かもって、そう言った時、先輩が初めて見るような冷たい目で私を見てきた事がある。声も冷たくて、本当にびっくりした。

 

―――お前の葉山への想いはそんなもんか?

 

 失望、と表現するのがピッタリの声と雰囲気だった。その場は冗談ですよって言って理由を教えてもらった。先輩は昔告白した相手に呆気なく振られ、それをクラス中に広められた事があるらしい。詳しくは教えてくれなかったけど、多分イジメみたいな事もあったんだと思う。だからあっさり気持ちを切り替える女子が嫌いなんだと思った。

 

「でも、本当に最近先輩の事ばかり考えちゃうんだよね。今度の告白も、どっちかって言うと先輩に軽い女って思われないための行動だし」

 

 だからこそ、ここで先輩に抱かれておくのだ。こうでもしないとあの人は私を抱いてくれない気がするから。葉山先輩へ告白した後だと、上手くいっても失敗してもきっとあの人は私を相手にしてくれない。

 諦めなければ別かもしれないけど、何となくそれは無理な気がするし。とにかく今は体を入念に洗おう。葉山先輩と上手く行った時、先輩に悔しいと思ってもらえるように、今日は私を刻み付けてやるんだっ!

 

 

 

「一色、先に言っておく。俺からはお前にキスをしない」

 

 全裸で向かい合う俺と一色。そこで俺が告げた言葉に一色が不思議そうな顔を浮かべた。

 

「ファーストキスを葉山先輩にって事ですか?」

「好きにとってくれて構わん。とにかく、俺からは絶対しないと約束する」

「よく分かりませんがそれでいいです。じゃ、じゃあお願いします」

「ああ、まず胸から触らせてもらう」

 

 一色の返事を聞かずに俺はその胸を触る。大きさは小さくなく大きすぎもしない。三浦に比べればボリューム不足だが、俺にはどちらでもいい事だ。優しく揉んでやると一色から声が漏れ出てくる。さて、一色は乳首をどうされるのが好きだろうか。三浦は少し痛いくらいが好きだったが。

 

「せ、せんぱぁい……慣れてませんかぁ?」

「AVやエロゲーからの知識だ。男のそういう知識欲舐めんな」

「んっ! さ、先っぽぉ……」

「どうだ? これぐらいがいいか? それとも……」

「ああっ! そ、そっち! 今の強さがいいですっ!」

 

 どうやら一色も少し強めがいいようだ。なのでそれからしばらく乳首を強めにいじめてやる。欲を言えばキスもしてより蕩けさせてやりたいが、俺からキスはしないと言ったので断念せざるを得ない。それでも一色はどんどん性感を高めているらしく、内股を擦り合わせてこちらへ切ない眼差しを向けて来た。

 

「んんっ、先輩ぃ……寂しいですぅ」

「何が?」

「そ、その……アソコです」

「どこだ? あそこじゃ分からん」

 

 両乳首を指で弄ばれながら一色は懸命にマンコへ刺激を与えようと考えるも、俺の見てる前では恥ずかしさが勝るのか、両手はお返しとして俺の乳首をいじるだけだった。さて、ならそろそろ次の段階だな。

 

「先輩っ、意地悪しないでくださいよ!」

「分かった。じゃ、お互いのを触り合うって事でいいか?」

「そ、それなら……はい」

「ん。じゃあ……」

「んっ、先輩の触り方って優しいですね。童貞さんってもっとがっつくかと思ってました」

 

 童貞じゃないからな。そう思いつつ俺は一色のマンコを優しく刺激した。三浦は俺とした時既に処女ではなくなっていたし、喪失の際に葉山がこれでもかと抱いていたので痛みなども無かった。

 でも、一色は違う。なので細心の注意を払いながら愛撫する。指など入れるつもりはない。ここへ初めて侵入するのは俺のチンポしかないからだ。

 

「凄い……先輩の今までで一番大きくて硬くなってます。これって私の裸が原因ですよね?」

「以外にないだろ。綺麗でエロいぞ一色」

「あっ、今跳ねた……」

 

 嬉しそうに手コキを続ける一色。このままだと出してしまうな。そう察したのか、一色は躊躇う事なく口を開いてチンポを咥えた。そしてそのまま舌を動かして亀頭舐め。こいつ、俺の射精が近い事を分かったのか。

 

「一色……出すぞ……っ!」

「んんっ! ……んくっ」

 

 何度かした事もあって、一色は躊躇いもなくごっくんする。処女らしくないテクニック講座の成果である。そのまま尿道に残った分まで吸い出し、一色は口を離した。口の端に流れる白濁液が艶かしい。

 

「んー、いつもより濃い感じがします。先輩、もしかしてオナ禁してました?」

「つっても三日ぐらいだ」

「……それ、私にしてもらう以外はしてなかったって事ですか?」

「あー、その、何となくな。勝手に気分だけ彼女扱いしてたもんだから」

「っ! いきなりなんですかこんな時にそんな事言い出して口説いてんぅ」

「口、拭いておけ。それと、口説くぐらいいいだろ。こんな事してんだから」

 

 その言葉に顔を赤める一色を眺め、俺は興奮が高まっていくのを感じていた。確信に近いものがある。そう、今日で一色は堕ちる。好きな男がいながら別の男を選んでしまうのだ。しかも体だけでなく心まで。三浦は結局心までは堕ちなかった。だからこそ俺にとってあいつは特別だ。一瞬だけ心さえ堕ちたものの、事が終わればしっかり葉山への想いで立て直していたのだから。

 

 その点からすると、一色は望み薄か。ま、いいさ。精々処女と完堕ちを楽しませてもらおう。そう考え、俺はコンドームを手に取った。

 

 

 

 先輩のおちんちんが私の大事なところへあてがわれる。いよいよかぁ。そう思いながら私は小さく深呼吸。痛いって聞いてるし、きっと多分そうなんだと思う。でも、先輩はそんな私をやや笑いながら見つめていた。むぅ、余裕が感じられてむかつくなぁ。

 

「先輩、いいですよ?」

「じゃあ、入れるぞ。力は抜いておけ」

「はい」

 

 やだ。こんな時まで優しさ見せないでください。そう思いつつ、体と心は嬉しくてキュンキュンしちゃう。あっ、入ってきた。と、ある程度まで進んで先輩が止まる。

 理由はすぐ分かった。私も感じる抵抗感。きっとこれが処女膜って事だ。先輩が視線だけで問いかけてくる。どうするって。だから私は目を閉じてはっきり頷いた。構いませんって。それに先輩が小さく笑った気がした。

 

 でも、何だろう。さっきの笑いは苦笑や微笑みっていうより、せせら笑いのような気がする。

 

「いっ!」

「……大丈夫、じゃなさそうだな」

「メチャクチャ痛いですっ! あー、もうっ! 幸せな痛みとか誰が言ったんですか!? ぜんっぜんそんな感じしないですっ!」

 

 昔呼んだ小説じゃ、たしかにそんな事書いてあった気がする。でも、声を出してるからか少しずつ痛みが緩和されてく感じがした。それと、もう一つの理由はきっとこれ。

 

「痛み引くまで出来るだけ動かずいる。だからそうなったら教えてくれ」

「……はい」

 

 私の頭を優しく撫でる手。先輩の気遣いが染み渡る。でも、それが私のアソコを締め付けさせて先輩のおちんちんを感じさせる。痛い、でも嬉しい。あ、もしかしてこれが幸せな痛みかな?

 

 それなら少し共感出来る。そのまま先輩は本当に動かないようにしてくれた。すごくキスしたくなったけど、私からねだったら、葉山先輩への気持ちがもう薄いって思われそうで出来なかった。

 先輩の撫でる手が温かくて、ずっとお腹の辺りがキュンキュンしてる。痛みも和らいできたし、そろそろ私自身も先輩に気持ち良くなって欲しい。そう思って少しだけ下半身に力を入れた。

 

「おっ……もう大丈夫か?」

「はい。ちょっと痛みはありますけど、先輩にも感じて欲しいんです」

「健気な事言うな、お前。ホント葉山が羨ましいわ」

「残念ですね。ま、振られたら考えてあげますよ」

「言ってろ。じゃ、動くからな」

「はい」

 

 ゆっくり腰を動かす先輩。その瞬間痛みが走る。でも、耐えられない程じゃない。その気持ちを視線で伝える。すると先輩が小さくため息を吐いて頷いてくれた。あっ、ダメ。そんな顔されたら嬉しくなっちゃうよぉ。

 

「うおっ! 急に締め付けきつくなったぞ一色」

「い、一々言わないでください! 先輩がいきなりかっこよくなるからですっ!」

 

 さっきの頷いた顔、本当にかっこよかった。私の気持ちを分かった上で優しくしてやるみたいな顔だったもん。正直、あんな顔を普段からしたら先輩はモテると思う。だって、今の私がそうだから。

 

 あんな先輩、見た事ない。私だけしか知らない先輩。そう思うとどんどん好きの気持ちが強くなる。この人は私にだけ特別な顔を見せてくれるんだって。あー、ダメダメ。葉山先輩の顔が薄れていく。代わりに先輩の顔が強く濃く浮かんで、このままこの人の女になりたいって思っちゃう!

 

「あっ、あっ、ああっ! せ、せんぱぁい!」

「一色っ、お前のマンコがさっきから滅茶苦茶締め付けてくるぞ! もう感じ始めてるのかよっ!」

「だ、だってぇ! 先輩が、先輩がぁ!」

「俺が何だ!」

「先輩がいけないんですよぉ! 私にあんな顔見せるからぁ! 私だけの先輩になっちゃうからぁ!」

 

 言えば言う程そうなってく。先輩のおちんちんがお腹の奥へ突き当たる度に、好きの気持ちが刻まれるみたい。ああ、分かる。分かっちゃう。今、私は先輩のものにされてるんだ。先輩のおちんちん専用の女になってるんだ。ダメだ。こんな風になったら葉山先輩とエッチ出来ない。

 

 だって、きっと分かっちゃう。私が先輩のものだって。その男としかエッチしたくない体になってるって。

 

「先輩っ! 先輩っ!」

「……この辺か」

 

 私が先輩にしがみついた瞬間、聞こえてきた小さな、でも冷たい声。何が起きたのか分からなかった。でも、一つだけ分かったのは、先輩が動きを止めて私を見つめている事。そして、何かを言わせようとしている事だった。

 

 

 どこか茫然とする一色を見下ろし、俺はどうするかと考えていた。さっきの反応や言葉から一色が葉山より俺を選んでしまいそうなのは分かった。だが、それでは面白みは半減だ。と、そこでふと思いついた事がある。我ながら最低だが、思えばこうなったのはあいつが悪いのだ。なら、こんな意趣返しも仕方ないよな。

 

「一色、正直に答えてくれ。お前は葉山と俺ならどっちを選ぶ?」

「えっ……そ、それは……」

「もし葉山ならここで終わりだ。当初の目的通りに処女は散らしたし、痛みも引いたんだろ?」

「それは……そうですけど……」

 

 予想通り一色は悩み始めている。素直に俺を選べば捨てられると本能的に察しているんだろう。賢い奴だ。だが、だからこそ一色でなければダメなのだ。俺のこの意趣返しは俺の考えと想いを察する事が重要なのだから。

 

「一色、約束する。お前が素直に答えてくれれば、俺はその気持ちを無下にはしない。今まで通りお前の手助けをする」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。何なら一筆書いてもいいぐらいだ。どうする?」

 

 これは本心だ。何せ無下にはしないと言ったが、誰も叶えてやるとは言ってないのだから。普段の一色なら分からないが、今の焦らされている状態では冷静な思考など出来ないはず。だからこのタイミングを狙った。一色が俺の与える快楽を求め、葉山への気持ちを薄れさせる瞬間を。

 

「せ、先輩です」

「もう一度」

「先輩ですっ! 先輩の方が好きになっちゃったんですっ!」

「そうか。なら、いろはに頼みがある」

 

 名前で呼んだ瞬間、いろはの締め付けが強くなる。分かり易いな。いや、それでこそだ。

 

「な、何ですか? あまりエッチなのはまだ難しいですけど」

「何、すぐじゃなくていい。葉山に抱かれてこい」

 

 その瞬間、静寂が室内を包んだ。いろはは何を言われたか理解出来ないような顔をし、俺はそんな彼女をただ無表情で見つめていた。どれぐらいそうだったのだろうか。やがていろははゆっくりと俺へ腕を伸ばしてきた。涙を流しながら。

 

「分かりました。葉山先輩に抱かれてきます。そして、先輩に抱いてもらって報告します。先輩の方が葉山先輩よりもいいって」

「嘘はダメだからな」

「はい。でも、全部じゃなくていいですよね? 私の個人的な感想ですし」

「……いろはは賢いな。ああ、それでいい」

 

 そう頭を撫でてやると、いろはは嬉しそうに微笑んで顔を近付けてきた。ならばと、俺はそれを受け止める。重なる唇と唇。そのまま俺はいろはの口内へ舌をねじ込む。驚くいろはだったが、それでも喜んで受け入れ舌を絡めてくる。本当にいい女だ。そう思って愛おしさを込めてキスをする。

 

「っぷは。どうだ?」

「最高です。先輩に私の初めて、全部あげたいぐらい」

「ならもらってやるよ。いつか尻も犯してやる」

「はい。私の全部、先輩に捧げます。だから……」

 

 捨てないで、か。ああ、いいさ。俺のためにどこまでも尽くせるなら捨てるものか。その気持ちを言葉ではなく流れる涙を舐め取る事で示してやる。するといろはは心から嬉しそうに笑った。こうして俺と同じくいろはも歪んだ。俺の寝取り趣味を察し、あえて他の男へ抱かれに行くという女に。



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葉山隼人は悩んでいる

おそらく寝取りというジャンルとしては第二部が相当するかと思います。第一部はそういう雰囲気は薄かったですし。


「ゆ、優美子っ! そろそろ……っ!」

「うん、いいよ! 隼人ぉ!」

「ぐっ!」

 

 一番奥へと本能に従うように腰を突き入れる。それに優美子が応えるように足を絡めてくる。強い快感と脱力感。それを感じつつ俺は優美子からゆっくり腰を引き抜いた。ゴムにはたっぷりと俺の精液が溜まっている。ゴムを外して簡単に結んでゴミ箱へ。もうこの流れも慣れてきたな。

 

「ありがとう優美子。先にシャワーを使っていいから」

「ん。じゃ、そうさせてもらうね」

 

 こちらへティッシュを手渡す優美子へ礼と共にそう伝えると、笑みを返してベッドから降りた。その背中を見送り、俺は小さくため息を吐く。何となくだが、優美子と上手くいってない気がするのだ。互いに初体験だった時は無我夢中で分からなかったが、それから何度か肌を重ねる内に気付いた事がある。

 

「今日も俺だけ多くイカされてる」

 

 最後も優美子は感じてる振りをしてくれたんじゃないかと思う。こんな発想になるのは、やはり優美子が比企谷と一切の関わりを絶ったからかもしれない。少なくても俺の見える場所では完全に。比企谷にそれとなく聞いたら……。

 

―――お前に変な心配させたくないんだろ。ほら、トラウマ再発させるかもしれないし。

 

 と、そんな答えが返ってきた。俺もそうかもしれないと思って納得したが、どこか引っかかる部分はある。あの日は本当にお互いに感じ合い、また求め合った気がするのに、今は俺だけが優美子を求めているような感覚なのだ。勿論気のせいだと思うし、優美子は俺だけしか男付き合いはしていない。戸部達といる事はあっても、俺なしで出かける事さえしないぐらいだ。優美子は俺を想ってくれている。

 

「……ダメだ。こんな事を考えると本当に昔に戻るぞ」

 

 自分へ言い聞かせながら頭を横に振る。と、そこで聞こえてくる水音。そうだ。優美子と一緒にシャワーを浴びよう。きっと優美子は驚くだろうけど許してくれるはずだ。たまにはそういう事じゃない触れ合いも必要だしな。

 そう思って俺はバスルームへ向かう。静かにドアを開けて中へ入ると、優美子の整った体が見える。あれが俺だけのものなんて、それだけで幸せになれる。

 

「ん? 隼人?」

「うん、一緒に浴びようかなって」

「もう、隼人もこういう時は子供みたい。エッチなのはダメだから、そこは気を付けて?」

「分かってる。そういうのはベッドだけ、だろ?」

「ん」

 

 優美子の背中を優しく抱きしめる。それに優美子は嬉しそうな顔を返してくれる。ああ、やっぱり勘違いだよな。そう思い直し、俺は優美子とキスをする。舌を絡めたいけど、優美子にダメと言われた以上それは出来ないので断念した。

 

 こうしてこの日も終わる。優美子を家へ送り届け、一人家路を行く。と、そんな時だった。

 

「メール? ……いろはか」

 

 最近俺へアプローチを続ける後輩からのメール。その内容に俺は大きく頭を悩ませる事になった。

 

―――葉山先輩、お願いがあります。一度だけでいいので私を抱いてください。思い出だけでいいんです。私、三浦先輩には勝てませんから。

 

 どうして俺と優美子の事を。そう思うものの、こういう事に関して女性の勘は恐ろしい程働くのかもしれないと、そう思ってメールを閉じる。優美子へ相談するべきかもしれない。

 

 いや、ダメだ。そこで優美子が一度だけならいいと言って来たら、俺はどこかで彼女を信じられなくなる。だが、いろはの気持ちは分からなくもない。しかし、断るべきだ。そう思って返信を送ろうと思った時、またメールを受信する。相手はいろは。

 

―――葉山先輩が抱いてくれないなら、三浦先輩とお付き合いしてるって周りに言いふらします。本気です。だからいい返事待ってます。

 

 完全に先手を取られた。いや、どちらにせよ俺に打つ手はない。未だに俺は優美子との付き合いを数人にしか話していない。

 結衣と姫菜は気付かれるだろうから話をした。それと、戸部には教えたが大岡達には言っていない。グループ全員へ教えるべきと思ったのだが、あのチェーンメールの件もあって、どうしてもあの二人を信じきれないと判断したためだ。

 

「……俺はどうしたらいいんだ」

 

 優美子に相談は出来ない。すれば答えは分かり切ってる。でも、そうしたら優美子があの時の雪乃ちゃんみたいにされる。なら受けるしか。でも、それは優美子への裏切りになる。そこでまた振動するスマホ。いろはかと思って見てみると、そこには違う人物の名。

 

「比企谷……?」

 

 着信は比企谷だった。あの一件以来ほとんど連絡していなかったが、どうしてこのタイミングで。そう思いつつ電話に出た。

 

『葉山、悪い。止められなかった』

「……いろはの事か。そうか、やっぱり君に相談してたんだな」

『ああ。それであいつは前々から三浦との事を疑ってたらしい。俺はまだ関係は持ってないと言ったんだが、なら揺さぶりをかけるって』

 

 その瞬間、俺は自分の浅はかさを呪った。成程、関係ないなら即答しているはずか。してやられた。そう思いながら比企谷へ相談してみる事にした。

 

「比企谷、また君に頼るのは心苦しいが」

『一色の件だな。何を言ってきた』

「話が早くて助かるよ。一度でいいから抱いてくれと。抱かないと俺達の関係を周りへ言いふらすそうだ」

『…………三浦へ相談しろ。お前にすればトラウマ再発ものかもしれんが、今のお前らなら乗り越えられるだろ』

 

 比企谷の声はとても苦しそうだった。分かっているんだろう。彼もかつて女性の悪意を経験しているに違いない。それでも優美子と俺を思って、そして信じているからこそこう言っているのだ。同じ女性を愛した者として。

 

「分かってるんだ。それでも怖いんだよ、比企谷。優美子まで雪乃ちゃんと同じになったらと、そう思うとさ」

『葉山……』

「優美子の性格は知っているだろ? 確実に毅然とした態度でいろはへ立ち向かうさ。そして学校中に俺達の事は知れ渡る。でも、優美子が思っているよりも女子の陰湿さは恐ろしい。優美子も知らない訳じゃないだろうけど、自分がその標的にされた事はないはずだ。だからこそ」

『…………分かった。なら、考えがある』

「比企谷?」

『一色が秘密をばらされたくなければ抱いてくれと言ってきたなら、こっちも相手の秘密を握ればいい』

 

 比企谷の声はとても冷静だった。いや、きっとそうであろうとしてるのだろう。おそらくは優美子のために。でも、俺としてもそれでいいと思う。だけど、いろはの秘密を握るなんてどうやって。そう思った時、俺にも比企谷の考えが分かった。

 

「動画、か」

『さすが葉山だ。ああ、行為を撮影しろ。一色に気付かれないようにな』

「……出来るだろうか」

『出来る出来ないじゃない。三浦を守るためだ。やれ』

 

 有無を言わせぬ迫力だった。たしかに俺が鬼にならないと優美子を守れない。もうあの時のような事は嫌だ。そう思って俺は決心した。比企谷に礼を告げ、通話を終える。ふと後ろを振り返った。

 

―――優美子、俺、今度は間違えないから。

 

 

 

「これでいいか」

 

 葉山との通話を終え、俺は一応の達成感を感じていた。いろはの奴が葉山へ送ったメールは知らない。だが、送った事だけは知っている。何せ目の前でやったのだから。今、いろははご褒美として俺のチンポをフェラしている。葉山との通話中、熱っぽくフェラをしたのは褒めて欲しいからだろうな。

 

「いろは、よくやった。お前、やっぱりすごい奴だ」

「ジュルッ……いえ、先輩の方こそ凄いです。だって、今ので私は嘘吐けなくなりましたもん」

「何だよ。嘘吐くつもりだったのか?」

「吐けたらってぐらいですけどね。まぁ、今の聞いてると葉山先輩って意外とヘタレなんですね。女子の怖さは私も分かりますけど、進学校の総武で何か発覚したら将来に響くんであまり派手な事出来ませんよ」

 

 そう言い切ると俺のチンポへ舌を這わす。その光景に俺も興奮し、よりチンポが反り返る。すると、いろはは嬉しそうに笑う。本当に女は怖いな、葉山。少し前まで恋する乙女だった奴が、今では平気でかつての想い人を陥れようとするんだ。しかも、男のチンポを美味そうに舐めながら。

 

「いろは、ゴムつけてくれ」

「はぁい」

「分かってるな。ちゃんと抱かれてこい」

「ん~……っぷは。はい、分かってます。だからぁ」

「ああ、たっぷり抱いてやる。今も、その後もな」

 

 俺の言葉に嬉しそうな笑みを浮かべいろはは股を開く。濡れに濡れたマンコへチンポをあてがう。ああ、最高だ。寝取り切った後でも興奮出来る。何故なら、こいつはこれっぽっちも葉山を想っていないのに想っている振りが出来るのだ。俺だけに可愛がられたくて他の男へ股を開く。例え葉山に抱かれていても、その最中も俺の事ばかり考えているのだから。

 

「あんっ、先輩のオチンポ硬いです。そんなにヘタレ先輩を苦しめたいんですか?」

「違うな。俺はあいつに苦しんで欲しいんじゃない。ただ俺が楽しむためにそうなってしまうだけだ」

「本当に先輩って酷いですよね。んっ、さっきだって三浦先輩を理由に私を抱かせようとしましたし」

「元はと言えばあいつがさっさと周囲へ見せつけないのがいけないんだ。きっと三浦もそれを望んでるだろうし」

「ですです。今もヘタレ先輩を好きな女子、多いですよ。ま、三浦先輩が実質彼女みたいに見えるんで遠巻きに見るぐらいが精一杯ですけどぉ」

 

 三浦が彼女。その言葉が妙に気に入らずいろはの口を塞ぐ。そしてそのまま腰を激しく打ち付け始めた。

 

 いろはを抱きながら思う。やはり俺はあの女を忘れる事が出来ないらしい。初めての女だからだけではない。今の俺にとって理想とも言うべき存在だからだろう。

 だが、俺は忘れていない。葉山よりも俺の方がチンポが立派である事を。最低な男だが、故に安心していろはを抱かせられるのだ。

 

「ああっ! 先輩っ、激しいですっ! これぇ、好きぃ!」

「そうかよっ! なら、壊れるぐらいしてやるっ!」

「ああんっ! いい、いいよぉ! 先輩チンポ気持ちいいっ! 私ぃ、もう先輩専用マンコですっ!」

「くっ、いろはっ! 舌出せっ!」

 

 伸ばされた舌へ俺も舌を絡めつつ、最後の仕上げとばかりに腰を打ち付ける。腰へ絡み付くいろはの足。ああ、堪らない。俺のためだけに尽くす可愛い女。俺に愛されるためなら他の男とも寝られるのだ。こんな愛しい奴がいるものか。

 今の俺にとって、いろはは得難い存在だ。三浦が理想ならいろはは完璧だ。こいつとなら上手く付き合っていける。そう思いながら俺は込み上げる射精感を解き放つ。

 

「出すぞっ! 出すぞぉ!」

「はいっ! 出してくださいっ! 私で気持ち良くなってくださいっ!」

「いろはぁぁぁぁっ!!」

「せんぱぁぁぁぁぁいっ!!」

 

 一番奥へゴムを突き破るようにチンポを打ち付ける。いろはのマンコが締め付け、俺はとてつもない解放感と気怠さを覚えた。少し落ち着いてからいろはの顔にかかった髪を優しく払う。それにいろはが嬉しそうに笑みを返した。

 

「悪い。ちょっと激しくし過ぎた。いろはが求めてくれたのが嬉しくてな」

「ふふっ、先輩って優しいですよね。終わった後、こういう事するとポイント高いですよ」

「そうか。なら、これはどうなんだろうな」

「ん……最高です。優しいキスに甘い言葉。エッチの後に女の子が望むものトップスリーです」

「俺はお前が喜んでくれればそれでいい。そろそろ抜くぞ」

「んぅ……やっぱりちょっと寂しいですね。先輩の温もりがお腹からなくなるの」

 

 本当にいろはは可愛い。俺がこうならなければきっと一生大切にしただろう。だが、歪んでしまった俺ではこんなセリフも嬉しさは感じるものの、そこまでで終わってしまうのだ。愛おしさが込み上げるでもなく、照れるでもない。ただ、中々嬉しい事を言うなと、それまでだ。

 

「ね、先輩。ヘタレ先輩とエッチしたら、その録画した動画はどうするんです?」

「さてな。いっそ三浦へ送りつけてやるか?」

「わぁ鬼畜。それをきっかけに三浦先輩を寝取るつもりですか?」

「…………あいつは寝取れねーよ」

「先輩?」

 

 いろはの言葉に思い出されるホテルでの一言。そう、優美子を寝取れるとしたらそれは葉山が手放した時。しかも、そこで俺が寝取るためにしなければいけない事はただ一つ。傷付いたあいつを迎えに行く。ただそれだけでいい。そういう意味では優美子はとっくに寝取られているのだ。そう思い、俺はゴムをゴミ箱へ捨てた。

 

「いろは、葉山には俺の事をこれでもかとアピールしてこい」

「……先輩の方がエッチ上手とかですか?」

「それでもいい。とにかく、事実を言ってやれ。例えばチンポが小さいとか、いくのが早いとか。葉山の精神へダメージ与えてこい」

「三浦先輩がそれを癒すと思いますけど?」

「それでいいんだ。上手くすれば、それが一番のダメージになる」

 

 我ながら下衆だな。そう思うも止めるつもりはない。きっとこれをこういうのだろう。因果応報と。ただ、違うとすれば意識して歪めようとする俺と、意図せず歪めてしまった葉山となるが。だから、そのうち俺へも何らかの罰が降るのだろう。願わくば、それを受けるのは俺だけで済むようにしてほしいもんだ。



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海老名姫菜は後悔していた

ここで第二部のキーパーソン登場。


「分かった。いや、予想外ではあるがそれならそれでもいい。ああ、ちゃんと可愛がってやるから。期待してろ」

 

 通話を終了し、俺は込み上げてくる笑いを抑えられなかった。たった今、いろはから連絡があり、葉山と別れて家に着いたそうだ。

 そして、あいつとあったある事を教えてくれた。これは本当に予想外だった。だが、考えてみれば当然だったのかもしれない。多少悔しい部分もない訳ではないが、まぁそこは今後の課題としよう。

 

「とにかくこれでいい。葉山の奴も動画を確認したみたいだし、ここからが俺の出番か」

 

 まずは明日の学校だな。だが葉山の奴、一体どうするんだろうな、あの動画。いろはの話じゃおそらく三浦へは教えないはずだし、手元にある意味でとっておくだろう。さてさて、これは楽しくなってきた。

 

 とりあえず明日の葉山との話し合いが一番の問題か。いろはからの情報じゃ俺とセックスした事は伝えてあるそうだし、その辺りを触れてくれるはずだ。ま、葉山の事だからどうしていろはと俺がそうなったかは勘違いしてくれてそうだが。

 

「三浦に出張られると面倒だな。そっちは……いろはに頼むか」

 

 女の事は女に任せるのが無難だろう。それに今のいろはは俺の事をよく分かってる。なら下手な事はしないはずだ。それぐらいには俺はいろはを信頼している。愛しているかは……もうよく分からない。

 そもそも愛するっていうのはどういう事だ。大事に思う? なら愛している。どの女よりも一番? なら違う。俺にとっては未だに三浦がそこにいる。考えるものではないのかもしれないが、だからこそ今の俺には分からない。小町への気持ちは家族だからだし、そこは別格だろう。

 

「それにしても、まさかいろはがここまで優秀とはなぁ」

 

 葉山とのセックスはいろはとしては色々と物足りなかったらしい。理由を一言で言えば、攻めがヘタレだそうだ。つまり優しすぎるのである。

 おそらくその原因はあいつのトラウマが関係しているんだろう。つまり、激しくし過ぎて嫌われないか。強くして嫌がられないか。痛くしたらどうしようとか。とにかくそういう気持ちが無意識に働いているはずだ。

 

 いろはもその辺を察して逆に主導権を握ったらしい。で、問題はここからだ。いろはが攻めに転じた瞬間、葉山の奴は興奮度合を上げたらしい。つまり、あいつは攻めるよりも攻められる方が好きなのだ。これも前述の原因によるものだ。自分が苦しんだり痛いのは我慢出来る。しかも相手の好きにさせてやれる。そう、あいつは知らず精神的にM男になっているのだ。

 

「いろはとのセックスにドハマりするようなら、それはそれで好都合だ。いろはとしても次々と男を変えるのは嫌だろうし、俺としてもよく知らない奴にあいつを抱かせたくない」

 

 この辺り、俺も本格的に寝取り好きではないという事なのだろう。あくまで対象は葉山を好きな奴なのかもしれん。ああ、そうか。この歪みの原因みたいなもんだもんな。成程、最初から仕返ししてたようなもんか。そう一人納得し小さく笑う。

 

―――優美子、俺はもう待たないからな。

 

 

 

 翌日、俺は放課後に部活を休み屋上にいた。理由はある人物から呼び出しを受けたからである。その相手は、いつかこうなる気がしていた女子だった。

 

「ごめんねヒキタニ君。こんな寒いとこに呼び出して」

「別にいい。で、一体何の用だ」

 

 海老名さんはこちらを見つめ笑みを浮かべている。何を考えているか知らんが、俺としては面倒な事この上ない。昼に葉山から頼まれた事で頭が一杯なのだ。そちらをどうしようかをゆっくり考えたいと思っていたのに、まさかこんな事になるなんてな。

 

「うん、単刀直入に聞くね。優美子に何をしたの?」

「抽象的過ぎる。もっと具体的に言ってくれ」

「あれ? 分かんない? 男女の関係になったのかどうかって事なんだけど」

 

 この女狐め。と、そこで思い出す事がある。修学旅行の依頼だ。あの時もこの女のせいで俺は面倒事に巻き込まれたんだよな。そう思うと怒りがふつふつとわいてくる。どうせだ。この場を借りて軽い復讐といこう。自分は何でも知ってるみたいな顔しやがって。

 

「なってたら俺は今頃三浦を彼女だと言ってるぞ。あいつだってそんな事を隠すような性格じゃないだろ」

「隼人君のために隠れて関係を持ってたとしたら? 例えば、優美子が男性経験を積むため、とか」

「あのな、あいつの一途さは知ってるだろ。葉山のために他の男と密会なんて」

「隼人君も知ってるとしたら? もしくは隼人君がそれを望んでるとしたら?」

「意味分からん。何だそれ。浮気してる女を好きな男なんているか」

 

 この女、どこまで気付いてる。俺は表情を変えないようにしながら海老名さんの動向を探った。この女はどうやら確信までなくても推測で気付いている。俺と三浦の関係が一線を越えているだろう事に。そして、葉山がそれをどこかで黙認ないし希望していた事も。

 

「うん、いないよね……普通は」

「な、さっさと話を終わらせてくれないか。ここは本気で寒いんだよ」

「ごめんごめん。でも、ヒキタニ君も悪いんだよ? 早く事実を言ってくれれば」

「それ、お前が言うのか腐女子め」

 

 その一言で海老名の表情が強張る。俺の言った腐女子の意味合いに気付いたらしい。何もオタク的な意味じゃない。文字通り腐った性格の女という意味合いで言い放ったのだ。それを察する辺りは鋭いが、どうやらこいつは俺程打たれ強くはないらしい。これなら十分勝機はある。

 

「何が早く事実をだ。なら、同じ事をあの時のお前に言ってやる。どうして奉仕部で事実を言わなかった。回りくどい言い方で、俺みたいな捻くれた奴がようやく分かるような事したくせに」

「あれは……」

「言っとくが、あれは今は関係ないとか抜かすなよ。あの時の事が今の事に無関係だとでも思ってんのか」

 

 俺の突き放す言葉に海老名の声は返ってこない。当然だ。あっちは推測でしかないが、俺のは確実にあった過去なのだ。俺の言いがかりだと思っても、それを否定出来るだけの証拠も証言もない海老名にはどうしようもない。ただ、自分がした事が三浦に影響を及ばしたのかと驚いているのだ。ここで攻めを緩めるつもりはない。この女は強かだ。開き直る前に追加攻撃をしかける。

 

「あの事件のせいで俺はせっかく出来た居場所を失うとこだった。ああ、まるで誰かさんと同じだな。そうか。つまり俺は誰かさんの身代わりにされたんだな。いや、やっと気付いたわ。本当に俺ってバカな奴だ」

「その、比企谷君……」

「おい、何だ今の。どうして俺の名前を正しく言う? 葉山もそうだがお前もか。困った時に俺を頼ったり、あるいは利用したりする時とかは媚びるように名前を正しく発音しやがって」

 

 言いながら海老名へ迫る。心なしか怯えているような気がした。その姿に俺の中の嗜虐心がそそられる。もっと追い詰めてやるか。いや、じわじわと痛めつけるべきか。迷うところではあるが、あまり調子に乗って足元をすくわれないようにしないとな。

 

「ひ、比企谷君、ごめんなさい。その、そんなつもりじゃ」

「じゃあどんなつもりだったんだよっ!」

「ひっ!」

 

 大きな音を立てて足元を踏み鳴らす。俺はきっとこんな風に怒るとは思っていなかったんだろう。予想外の事に怯える海老名が可愛く見えた。ああ、いいな。どうも歪んだ辺りから俺はサド傾向にあるみたいだ。

 ま、当然か。寝取りなんてもんはサドじゃなきゃ出来ないしやらない。とにかく海老名だ。これで最後とばかりに顔を近付ける。怯えるものの、それでも逃げようとはしなかった。この辺りは大したもんだな。

 

「三浦との事を聞きたがってたな。教えてやるよ。俺はあいつと寝た。いや、抱かせてもらったんだ。お前の推測通り葉山の希望でな。でも一度きりだ。おかげでこっちは欲求不満でフラストレーション溜まりまくりだっ!」

「っ……そ、そうなんだ。その、えっと……」

「この事は誰にも言うな。今、あの二人は上手くいってる。詳しくは言えないが、葉山の奴は自分の問題を三浦と解消したんだ。俺もあの二人を引き裂くつもりはない」

 

 これは本当だ。俺は引き裂くつもりはない。ただ、きっかけは俺かもしれんがな。今、あいつらを引き裂こうとしているのはいろはだ。俺じゃない。そんな事を考えながら怯える海老名を見つめた。それに何度も頷く海老名を見て、俺は内心で満足しながら表情は申し訳なさそうにした。

 

「その、悪い。ついかっとなった。怖がらせてすまん」

「あ、ううん。私こそごめん。そう、だよね。色々君に面倒かけておいて今更だよ。本当にごめんなさい」

「いや、結局はそれを引き受けてああ解消したのは俺だ。そうしないでそっちを裏切る事も出来た。全て俺が選んでやった事なんだ。だからそこまで気にすんな」

 

 そう言うだけ言って俺は屋上を去る。その背中へ海老名が一言だけ声を掛けてきた。

 

「比企谷君、これだけは本当だから。あの最終日に言った事、私は本気だから」

 

 それに俺は言葉を返す事もせず、ただ片手を上げてドアを閉めた。そのまましばらく歩き、自転車置き場まで行くといろはがいた。

 

「先輩、どうしたんです? すごく楽しそうな顔してますよ?」

「詳しい事は部屋で話す。とりあえず後ろに乗れ」

「はい、分かりました。それと、三浦先輩について報告が」

 

 無言で頷き、俺は自転車の鍵を外す。それを合図にいろはが後ろへ乗った。動き出す自転車。感じるいろはの鼓動と温もり。それも今の俺にはさして喜びもなく、ただ海老名の事だけが頭の中を渦巻いていた。

 

 あの女、言うに事欠いてあの告白もどきを持ち出してきた。あれを深読みすると、自分は俺になら抱かれてもいいって事か? もしそうならこれはまた面白い。いろはの報告次第だが、事と次第によっては海老名も巻き込んでやろうか。

 

「先輩、何で大きくしてるんですか?」

「お前をどう可愛がろうかと思ってな。激しくして欲しいんだろ?」

「はい。だって、ヘタレ先輩って体位全然変えないんです。ほとんど正常位か後は騎乗位ぐらい」

「バックは?」

「ないです。あれ、深く感じて気持ちいいんですけどね。三浦先輩、嫌いなんでしょうか?」

「……かもしれんな」

 

 何となく俺に思い当る節があった。あの一度限りの夜。そこで俺と三浦は四つの体位を試した。その事を思い出せば、何故葉山がバックをしていないかは見当がつく。だが、もしそうなら本当に三浦は……。

 

「いろは、今日は何時頃に帰宅予定だ?」

「……お泊りでもいいですか?」

「ああ、小町は友人宅で勉強会兼最後の息抜きだそうだ。だから構わないぞ」

「小町ちゃんの帰宅は何時頃です?」

「昼過ぎには帰ってくると言ってた。何だ? さっさと飯食べて少しイチャついたら風呂か?」

「……ダメ、ですか?」

 

 言いながら体を更に密着させ胸を押し当てるいろはに笑みが込み上げる。ったく、可愛いったらないな。いいだろう。今日は深夜まで繋がるとするか。その気持ちを込めて一言だけ返す。

 

―――意識飛ばしてやる。

―――はい、いっぱいご奉仕しますね。

 

 今日は長い夜になりそうだ。そう感じて俺は股間を膨らませる。いろはの吐息も熱っぽくなっていた。本当にこいつは最高だ。俺のパートナーとしてこれ以上ない逸材だろう。見れば自宅が近付いてきた。とりあえずいろはと寝て結果を待つとしよう。果報は寝て待てと言うしな。

 

 

 

「私が結果的に彼を歪ませちゃったのかな……?」

 

 誰もいなくなった屋上で、私はそう呟いた。さっきまでの彼、比企谷君は本当に怖かった。彼の中にあった男を見せつけられたみたいに。

 

 そのせいで頭が上手く働かなくなった。優美子が隼人君と付き合いだしてもう二か月以上になるけど、何となくその関係はゆっくり良くない方向へ進んでる気がしてた。

 その原因を考えた時、真っ先に浮かんだのが比企谷君だった。優美子が隼人君と付き合う直前まで、よく目で追うようになっていたのが比企谷君だったから。

 

「きっと彼は優美子が好きになっちゃったんだろうな」

 

 だからあそこまで怒ったのだ。好きな女の幸せを願い、自分は我慢して耐えようとしていたのに、そこを私が何も知らず踏み込んだから。そう考えれば彼の怒りはもっともだ。いくら優美子の親しい友人でも、軽々しく踏み込んでいい事じゃない。そんな事、腐ってる私が一番分かってるはずだったのに。

 

「一度優美子とエッチしたから、今の彼はストレスが溜まってるんだ。そうだよね。学校で必ず見せつけられるんだもん」

 

 例え公表してなくても今の二人は確実に特別な関係だと感じる。教えられてない大岡君達でさえ感じ取っているぐらいだ。それでも今までの優美子の立ち位置を考え、みんなその延長線上と捉えているから大きな混乱がないだけで。

 私は今のグループが壊れないならそれでいいと、静観するつもりだった。でも、優美子からある相談をされた事で事情が変わったのだ。

 

―――海老名、男ってどうしたら自信つけてくれるか知らん? もし知ってんなら教えて欲しいし。

 

 その詳しい話を聞いて驚いた。元々隼人君がED手前みたいだった事もそうだけど、優美子とエッチするようになってから段々気持ちのすれ違いみたいな事が起き出したらしい。優美子は原因が自分にあるって言ってたけど、聞いた感じだとそんな単純な感じがしなかった。だから比企谷君へ問いかけてみたんだけど……。

 

「あの感じだと、本当に優美子とはそれっきりっぽいなぁ」

 

 あの時の彼には心からの怒りがあった。優美子が好きだから傍にいて欲しい。でもそれを相手が望んでない。なら、好きな相手の幸せを願って別の男との仲を後押しせざるを得なかった。そんな悔しさや憤りが感じられたのだ。あれが演技とは思えない。彼はそもそもそういう事が嫌いなタイプだし。

 

「結局私が腐ってるせいで回りが腐っちゃうのかな。あはは、かもしれないなぁ。ホント、救いようないよね、私って」

 

 こんな事ならあの時あの集まりを捨てれば良かった。隼人君じゃなくて比企谷君を最初から頼れば良かった。思い返せばキリがないけど、本当に私は選択肢を間違っていたんだと思う。だからこそ、せめてもの償いをしようと思ってあんな事を彼へ言った。じゃないと、彼はその内優美子へ迫って行きそうだから。

 

―――優美子の気持ちは隼人君にあるって分かる。でも、隼人君とのエッチであまりイケないのはどうして? その答えは絶対比企谷君にあるはず……。

 

 一度きりの、秘密の関係。そんな危ない一夜が優美子と彼の中に大きく影響してるのは疑いようがない。だからこそ、二度目を起こさせてはダメなんだ。それはきっと彼と優美子が一番望まない展開になるから。

 

 罪滅ぼしにもならないかもしれないけど、私が最後の歯止めになれるなら。優美子が私に久しぶりの平穏をくれた。なら、その分ぐらいはお返ししておきたい。そう思って私はスマホを取り出した。結衣へ連絡して比企谷君の連絡先を聞き出そうと、そう考えて……。



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三浦優美子は知ってしまう

ここが第二部の転ですかね。そろそろ終わりも近いです。


「んぅ、せんぱぁい……」

「まだし足りないのか? この淫乱め」

「だってぇ、先輩のエッチってスゴイんですもん。緩急って言うんですか? 激しさと優しさがいい感じにまざってるんです」

 

 そうこちらを艶かしく見やり、いろはは俺のチンポへ舌を這わす。ゴムを外したばかりのチンポにはさっき出した精子がたっぷりついているのだが、それさえ愛おしそうにいろはは舐め取る。

 本当に変わったな。これも俺に捨てられたくない一心からだろう。ま、俺としてもいろはを捨てるつもりはない。こんないい女、とてもじゃないが今後出会える気がしないしな。

 

「なぁ、いろは。生でしてみたいとか女も思うもんなのか?」

「……私はありますよ? てか、今もそうです。先輩の赤ちゃん産みたいなぁって」

「そうすれば捨てられても寂しくないからか?」

「…………寂しいですよ。でも、先輩との赤ちゃんがいれば生きていけますから」

 

 そう噛み締めるように呟くいろはがとても小さく見えた。その瞬間、強く感じる何かに突き動かされ、気付けばいろはへキスしていた。

 

「せ、先輩?」

「何勘違いしてんだ。お前、俺に言ってたろ。私の全部を捧げるって。なら、人生そのものさえ俺のもんだ。例え子供が出来ようが関係ない。お前は一生俺のもんだ」

「……はい、先輩」

 

 何となくだが、今のが愛してるって事かもしれん。あんないろはは見てられなかった。互いの間に流れる空気がセックスをする感じでなくなったのもあり、俺は気分を変えるためにスマホを手にした。すると、思いもよらぬ相手からメールが届いていた。

 

「……いろは、三浦は葉山が自分以外を選ぶはずはないって言ったんだな」

「はい、私がお昼にヘタレ先輩へ告白しますって言ったら、そう返してきました」

「なら、三浦の理性は揺るがないって事だ。で、さっきのお前に聞いた生で云々は何にあたると思う?」

「……本能、ですか?」

「正解だ。三浦の本能の部分はどうなんだろうな。何せお前が葉山とセックスした時に感じたのは不満ばかりだった」

「ホントですよ。体力だけはあるんでそこは褒めてもいいですけど、他は全然でした。三浦先輩、絶対エッチに不満持ってるはずです」

 

 いろはの言葉に俺は内心で頷いた。だからこそ葉山にバックをさせていないのだ。そう、あれを俺とした時三浦はヤバイと言っていた。

 

 つまり勘付いているのだ。葉山にそれをさせたら自分がどう思ってしまうのか。当然と言えば当然か。三浦は俺のものの大きさを知っている。何となくだが、俺には分かってきた。三浦のあの時の言葉の本当の意味。嘘ではなかった。あれは理性と本能のせめぎ合いだったのだろう。

 

「いろは、日曜出かけるぞ」

「デートですか?」

「ああ、こいつも巻き込んでな」

 

 そう言って俺が見せたメールに、いろははやや間を置いてからその意味を理解したのか楽しそうに笑みを浮かべる。そこには海老名の連絡先が表示してあり、文面には自分で出来る事があれば言ってほしいと書いてあった。なら早速利用させてもらおう。それと万全を期す事も兼ねて葉山にもメールを送ってやるか。

 

「いろは、今夜だが」

「ヘタレ先輩とエッチしてくればいいんですね?」

「ああ。あいつも大分悩んでいたが、ある意味で自分を捨ててる相手なんだから気にせず、むしろお前が捨てるぐらいで相手してやれ。処女捨てるためだけに使われた俺の分までな、と言ってやったら乗り気になってな」

「うわ、大義名分まであげたんですか。で、今から私がメールを送るんですね。三浦先輩とエッチさせないために」

「そこまでは言わん。ただ、あいつも三浦との関係で悩んでんだ。ここらで違う女を相手にさせて三浦の有難みを思い知らせるべきだろ」

 

 きっと今の俺はあくどい顔をしているはずだ。いろはも俺の顔を見ながら小悪魔のような笑みを浮かべている。

 

「先輩ってホント怖いです。ヘタレ先輩のためみたいに言いながら、どう考えても自分のためですし」

「突き詰めれば人ってのはそんなもんだ。そいつの自分勝手が誰かのためになるかならないかで善悪を決められるだけなんだからな」

 

 そう言いながら俺はいろはの胸を揉み始めた。それが合図と分かったのだろう。いろはも何も言わず新しいゴムを手に取り、中身を口に咥えて俺を見る。こうして俺は再びいろはと繋がった。

 

 

 

「にしても珍しくない? 海老名が自分からカラオケに誘うとか」

 

 あーしの言葉に先を歩いていた海老名が振り向く。その顔は海老名もそう思っていると告げてた。

 

「まぁ、たまにはね。優美子の気分転換にもなればいいかなって」

「……ん。ありがと」

 

 昨日、隼人とデートした。でも、いつも以上に噛み合わないような気が拭えなかった。あーしと一緒にいるのに、どこか別の事を考えているような隼人に何度も文句を言った。

 

 そん時はちゃんと謝ってあーしを見てくれるけど、また少しすると他の事を考え出す。でも、一番おかしかったのはデートの最後。いつもならホテルに行くのに、昨日は止めておこうって隼人が言い出してそのまま帰宅。おかげであーしはもやもやしたまま今日を迎えた。

 

「でも、どうして結衣を誘わないの?」

「だって、結衣には優美子の悩み関連は刺激強いでしょ? 男性経験ないのに隼人君関係は無理だって」

「……ま、そうかもしれないし」

「そうそう。結衣が好きなのは隼人君とは全然違うタイプだからね」

 

 その言葉に胸が締め付けられる気がした。そうだ。あーしは結衣の好きな男をある意味盗った。今はどうか知らないけど、ヒキオも結衣を結構意識してたと思う。

 

 でも、きっとあの夜からはあーしがヒキオの中に居座ってる、と思う。それでもあーしが隼人と付き合った事を恨みもせず、ただ見届けて身を引いてくれた優しく強い男。

 

 そう、だからあーしはヒキオを忘れられない。あんないい男、早く捕まえなって結衣には言いたい。だけどそれを言ったら、あーしとの関わりがないはずのヒキオをどうしてそんな風に言えるのか、ってなってヒキオの気持ちを無駄にする。こうして結局あーしは何も結衣へ言えないまま、隼人との時間を大切にするしかなかった。なのに、それももしかしたら……。

 

「とにかく、今日は歌って騒いで色んな事忘れよう。ね、優美子」

「そうするし。海老名、今日はとことん付き合え」

 

 こうしてあーしと海老名はカラオケ店へ入る。そして告げられた部屋番号を探して店内を歩き、それぞれ飲み物をドリンクバーで選んで室内へ。そしてすぐに海老名が一曲入れたのを皮切りにあーしも歌いたい曲を入れていった。

 

 本当にストレス発散しか考えてなかった。いつもならあまり歌わない激しいやつを歌い、いつもなら絶対歌うラブソングを歌わず、ただあーしの中のもやもやしたものを吐き出すように歌った。

 

「あー、喉痛いかも」

 

 マイクを置いて少し休む。海老名はトイレに行っていて、今はあーし一人だけ。ホント、今日誘ってもらってよかった。じゃないと確実思い悩んでた。隼人と付き合うようになってから、デートの時は絶対エッチしてた。頻繁にデート出来ないし、学校じゃイチャイチャさせてくれない事もあって、必ず求め合ってたのに。

 

「どうして昨日はエッチしなかったし。教えてよ、隼人ぉ……」

 

 やっぱりあーしがあまりエッチな事させなかったから? 隼人としてる時にそんなにイケないから? もしそうなら完全にあーしが悪い。全てはあの日ヒキオとしたエッチのせいだから。

 

 優しい隼人と違って荒々しくて自分勝手なヒキオ。でも、ちゃんとあーしの事を考えてくれてるのが伝わるエッチ。隼人もあーしの事を大事に思ってるのは伝わるけど、何かが足りない気がしてしまう。後ほんの少しの激しさが、強さが、荒々しさが欲しいと思ってしまう。

 

「……ダメじゃん。こんなんだから隼人を落ち込ませたんだし」

 

 初めての時はお互い何も知らなかったから上手くいってた。でも、隼人にとって二度目の、あーしのとっては三度のエッチでそれはずれ始めた。気持ち良くない訳じゃない。だけど、足りない。

 

 あの時の、あーしが隼人を裏切っちゃった時の感覚には届いてくれない。そう感じてしまった。最初は隼人も慣れてないし、あーしもヒキオとして間もないからだって、そう思ってた。

 なのに、回数を重ねる内にそのずれはどんどんはっきりしてきた。隼人はあーしを大事に思ってくれてるせいか、エッチの時にお願いをしてこない。

 

 ヒキオは色んな体位をしたがったけど、隼人はずっと向き合うだけ。あーしから言わないと何もしようとしない。それは、隼人の抱えてたものが原因なんだと思う。だからあーしも気にしないで隼人に好きにしていいって言った。それでも隼人はそれが自分のしたい事だからって、そう言って終わりにしてきた。

 

「あー、びっくりしたぁ」

「海老名? 何かあった?」

 

 そのまま気持ちが沈みそうな感じになったところで海老名が顔を赤くして戻ってきた。こういうのは珍しい。いつも変な事を言ってあーしに擬態しろって言わせるような奴なのに。

 

「あ、うん。トイレから戻ってくる時にね、何気なく他の部屋が見えちゃったんだ。で、そこにいたのがヒキタニ君でさ」

「ヒキオ?」

「うん。で、一人じゃなかったんだよ。その、生徒会長の子と二人でいたんだけど、あまりこんなとこでしていい事じゃないような事しててさ」

 

 それだけであーしも海老名の見たものが分かった。にしても、ヒキオがあの一年と? つい最近隼人へ告白するとか言いながら、ヒキオにも手ぇ出してるのか。そう思った瞬間、あーしは妙にムカムカしてきた。あーしの好きな男二人を天秤にかけるどころか、ヒキオの優しさにつけ込んでから隼人へ迫ろうなんて許せない。

 

「海老名、悪いけどコンビニ行ってのど飴買ってきて欲しいし」

「えっ……いいけど?」

「お金は後で払うから。お願い」

「う、うん……」

 

 あーしの雰囲気が変わった事に疑問を抱きつつ、海老名は部屋を出て行った。それを確認してあーしは部屋を出てトイレの方向へ歩き出す。一体どこだ。そう思いながらそれとなく周囲の部屋を見ていく。

 

 と、あった。入口の部分から少しだけ中が見える。その先ではあのいろはって子がヒキオのおちんちんをしゃぶってた。カッとなって部屋へ踏み込もうとした時、はたと気付いた。

 

「あーしが何でヒキオといろはの事で文句言える? あーしが隼人を選んだから、ヒキオは別の相手を求めただけじゃん」

 

 自分の言葉で急激に頭が冷えていく。でも、そんな事お構いなしに部屋の中で二人はエッチを続けていた。

 

 いろはが美味しそうにヒキオのおちんちんをしゃぶってる。それを見てヒキオが嬉しそうに笑って、その頭を優しく撫でていた。いろはの目が喜びで細くなる。ああ、あーしもああされた事がある。ヒキオの部屋で初めてフェラした時、ぎこちないけど優しい触り方であーしの髪を撫でてくれた。

 

「ヒキオ……」

 

 いろはが激しく頭を上下させると、ヒキオは限界が来たのか何かを告げて髪を一撫でする。そして、いろはの頭を軽く掴んで小さく震えた。あーしには分かる。今、ヒキオは出したんだ。

 

 思えば隼人にはあまりフェラをしてない。隼人が言わないのもあるけど、一番は隼人がヒキオみたいに撫でてくれなかったからかもしれない。

 いろはが口をゆっくり放す。そしてそのまま口を開けてヒキオへ見せた。きっと口の中にヒキオの精子がたっぷり入ってるんだ。それを見てヒキオは少し興奮したみたいで、何かいろはへ言ってから頷いた。それを合図にいろはが口を閉じて喉を動かす。それにヒキオは凄く嬉しそうな顔をして頭を撫でると、そのままキスをした。

 

「……そんなの、あーしにしてくれなかったじゃん」

 

 隼人もごっくんした後のキスは嫌がった。ヒキオだってあの夜はしてくれなかった。いろははあーしよりも大事って事? ちゃんとごっくんしたからご褒美って事? それなら……

 

―――それなら今のあーしだって出来る。

 

 そう呟いたところで我に返る。中のいろはと目が合ったからだ。慌ててその場を離れトイレへ向かう。ドアを閉め、鍵をして、あーしはそのままそこでオナった。

 

「隼人ぉ……あーし、あーしはぁ……」

 

 懸命に隼人を思い浮かべようとするけど、どうしても浮かぶのはヒキオといろはの光景。あのおちんちんはあーしのものだったのに。あの嬉しそうな顔も、優しい手つきも、全部あーししか知らないはずだったのに!

 

 悔しいと、そう思いながらあーしは自分を慰める。本当なら昨日隼人とエッチして、こんな事しなくて良かったはずなのに。どうして抱いてくれなかったの隼人。あーしはこんなにも寂しいのに。こんなにも抱いて欲しいのに。

 

「んっ、あっ、欲しい……おちんちん欲しいのぉ」

 

 あの大きくて硬くて逞しいヒキオのおちんちん。ううん、隼人のがおちんちんならヒキオのはチンポだ。きっとそう言ってあげた方がヒキオも喜ぶ。

 そう考えたからか、どんどんヒキオとのエッチが思い出される。今まで思い出さないようにしてたあの夜の事。あーしに本当のイクって事を教えてくれた時の事。あれ以来一度も感じた事のない気持ち良さ。それらを思い出して、あーしは咄嗟に片手で口を押えた。

 

「ん~~~~~~っ!」

 

 ……初めてオナニーでこんなに感じた。ふとオマンコを触っていた手を見れば、そこにはたっぷりのラブジュース。でも、まだ足りない。お腹の奥が熱くて仕方ない。もう一度しよう。そう思った時、トイレに誰か入ってきた。

 

「優美子? いる?」

「っ……海老名? どうかした?」

「あっ、よかった。戻ってきたら部屋にいないから。きっとトイレだと思ったんだけど、中々帰ってこないから心配になって」

「マジごめん。ちょっと考え事しちゃってた」

「そっか。じゃ、部屋に戻ってるね」

「あ、あーしももう出るから通路で待っててくんない?」

 

 ペーパーで拭き取り、海老名が出て行ったのを確認してお手洗いで名残を消す。そして何事もなかったかのように海老名と合流して部屋へ戻った。途中ヒキオ達の部屋をちらりと見たけど、もうそこには誰もいなかった。海老名も同じ事をしてたみたいで、小さく「良かった」と呟いてた。その後はあーし的にカラオケって気分じゃなくなっていたけど、それでも海老名と時間まで過ごした。

 

「じゃあ、明日学校でね」

「ん。気を付けて帰りな」

 

 海老名と別れあーしは一人家路を歩く。まだ体の芯の部分が熱い。中途半端な発散をしたせいか、昨日の分まで余計に熱がある気がする。隼人へ連絡したら迷惑かな。でも、仮に呼び出せてもエッチは出来ないだろうし、出来ても気持ち良くなれない気がする。そう思うとスマホを操作しようとする手が止まる。

 

 隼人の彼女になりたくて、彼の悩みを何とかしてあげたくて、やっとあーしがそれを解決してあげられたのに。そう思いながら、気付けばあーしはある番号をコールしていた。何度か呼び出し音が鳴る。そして、遂に繋がった。

 

『どうした? もう連絡はしてこないと思ったのに』

 

 ああ、あーしの連絡先を消してなかったんだ。そう思って胸の奥が高鳴る。あんな関係になったからこそ、あーしはヒキオと接点を消そうとして最後にメールを一通送った。隼人のためにもヒキオとは連絡を取らない。出来れば連絡先も消して欲しいって。なのに、ヒキオは……。

 

「……消してって言ったじゃん。何で残したし」

『…………誰かさんがもしもの時は迎えに来いつったからだろ』

 

 ダメ。これ以上ヒキオと話しちゃいけない。今のあーしには、ヒキオの優しさは怖い。それにすがったら、頼ったら、もう隼人に戻れない気がする。なのに、どうしてあーしはこの繋がりを切れないんだろう。

 

『そっちこそよく俺の番号残してたな。葉山に見つかったらどうするつもりだ』

「隼人はそんな事を気にするような男じゃないから。それに、今のあーしらがあるのはヒキオのおかげって思ってるよ」

『なんだ。じゃ、知ってるのか』

 

 安心したようなヒキオの声。きっとそれであーしと隼人が揉めないか心配してたんだ。本当に優しい奴。でも、だからあのいろはって一年はヒキオを誑しこんでる。隼人を好きって言いながら他の男とエッチな事をするなんて……。

 

「ヒキオ、あの一年とは縁切れ」

『……どうした急に』

 

 ヒキオの声が若干不機嫌になった。やっぱり、あの一年はヒキオを騙してる。ホントは隼人が好きなのに、保険としてヒキオを確保してるんだ。ああ、すっごいむかつく。

 

「あの子、隼人が本当は好きなんだし。金曜にあーしへ言ってきた。隼人へ告白す」

『知ってる』

「……は?」

『知ってる。あいつが葉山を好きな事も、俺は都合のいい相手な事も』

 

 ヒキオの淡々とした声にあーしは返す言葉が見つからなかった。何で。どうして。そう思うけれど口には出せない。今のあーしにヒキオへ言える事なんてないからだ。

 

『それでも俺は嬉しかったんだよ。人の温かさってやつを、また感じられるようになったから』

「ヒキオ……」

『それにあいつには言ったんだ。葉山には三浦がいる。あの二人の仲には割り込む隙なんてないって。それでもあいつは諦めないって、そう言うもんだからな。俺も、誰かさんを思い出しちまったんだ』

 

 その言葉にあーしは今度こそ言葉を失った。ヒキオがあの一年を可愛がってるのは、あーしを重ねてるから? 諦めた方がいいのにそれをせず、何とか振り向いてもらおうとしてるから? だからヒキオは我慢してるの? またヒキオだけが辛い目に遭うのを、あーしは見てる事しか出来ないの?

 

「ヒキオ、気持ちは分かるし。でも、あーしは」

『葉山を捨てるつもりはないんだろ。だからそのままでいてくれ。俺も何とかあいつを葉山から引き離そうと思ってるんだ。何せあいつは葉山の抱えてるトラウマを知らないからな』

 

 その言葉であーしは思い出した。そうだ。あーしは隼人を支えてあげないといけない。ヒキオだってそれを知ってるからあーし達を応援してくれたんだ。

 なら、せめてあの一年がヒキオの良さをちゃんと分かってやって、隼人じゃなくヒキオの隣を選ぶ事を願うしかない。正直まだ許せない部分はあるけど、ヒキオが動いてくれるなら大丈夫だし。

 

「ん、分かったし。じゃ、あの子の事はヒキオに任せる。隼人の事はあーしがちゃんと見張っておくから心配すんな」

『ああ、頼んだ。しっかり見張っておいてくれ』

「じゃ、切るね」

『おう、何か悪いな。せっかくそっちの気遣いで言ってくれたのに』

「気にしなくていいって。あーしもヒキオと話してちょっと楽になったから。お互い様じゃん」

『……お前、やっぱりいい女だな』

「っ!?」

 

 その言葉を最後に通話が切れた。あーしはスマホを持っていない方の手で顔を触る。少し熱い。それから心臓の辺りへ手を当てる。鼓動が早い。最近隼人相手にも感じなかった何か。それを今、あーしは感じてしまっていた。

 

 

 

「これで良かったの?」

『ああ、十分だ。これで三浦も俺が他の女とそういう関係を作ってるって理解出来たはずだ』

 

 優美子と別れた後、私は家へ帰り彼からの連絡を待っていた。昨日の深夜に送られたメールには、日曜に優美子を誘ってカラオケに行く事が指示されていたのだ。

 

 なのでカラオケへ優美子を誘い、部屋が決まってからメールを比企谷君に送信。それを受けてから比企谷君が生徒会長の子と入店し、店員へ同じフロアの空室を希望したと言う訳だった。空室が同じフロアになかったら面倒だったけど、何とか運良く空室があり、後は私がトイレに行く振りをして彼と連絡を取り合い、情事を見た風に優美子へ告げればいいだけだった。

 

「優美子は何て?」

『葉山は自分がしっかり見張る。だから一色は俺に任せるとさ』

「そう。それにしても、まさかあの子が比企谷君の彼女なんて……」

『傷の舐めあいみたいなもんだ。お互い、本当に傍にいて欲しい相手には届かないもんでな』

 

 その噛み締めるような声に私は何も言えない。優美子が欲しい比企谷君と、隼人君が欲しい一色さんか。たしかに傷の舐めあいだ。それに、今日の優美子の様子からすると、結構過激な事も出来るぐらいの関係になってるみたいだし。

 

「比企谷君、本当にごめんなさい。君の優美子への気持ち、私全然考えてなかった」

『それはもういいって言ったはずだ。それより、もう俺と接点を持たない方がいい』

「えっ……?」

 

 どういう事? そう思っての声に比企谷君は少し言いよどんでから小声で告げた。

 

―――あのタイミングであんな事言われたら、嫌でもエロい事にしか考えられないんだよ……。

 

 その言葉がどういう意味かを察し、私は思わず赤面した。いや、たしかにそういう意味で言ったし、それで彼のブレーキになれればとも思ってた。だけど、こんな風に言われるとは思わなかったのだ。

 でも、同時に思う事がある。やはり彼の本質は優しいんだと。これだって、言わずに欲望のまま私へ迫ればいいのだ。例えそこで拒否されても彼はそこまで堪えないはずだし。それでも、そうしないのは私を思いやっているから。自分が逆の立場ならどうして欲しいかを考えているんだ。

 

「ひ、比企谷君。その、別にいいよ? 私はそれぐらいの事を君にさせたって思ってるから」

『……俺に本気になってくれるか?』

 

 その問いかけの心細い声が、私の心を捕まえた。この人は怖いんだ。一番好きな女性に捨てられ、一番大事にしたい女性は別に好きな相手がいて、だから私へ尋ねてきたんだ。自分を一番にしてくれるかと。捨てないで傍にいてくれるのかと。それは同情ではなく愛情かと。ごめんね、結衣。貴女の想い人、私も本当に好きになっちゃいそう。

 

「……うん、なってみるよ。だから比企谷君も手伝ってくれないかな?」

『っ…………ああ、やれるだけやってみる』

「それで十分だよ。ありがとう、比企谷君。こんな私だけど、よろしくね?」

『こっちこそだ。当分一色と二股みたいになるけど、そこはすまん』

「ううん、仕方ないよ。そっちは私が本気になった時に考えて」

 

 そう、仕方ない。今の時点で私が彼の女性関係をどうこう言う資格はない。それはせめて私が心の底から彼を好きになって、それを彼が信じられるようになった時だ。それまでは私が保険でいい。そう思って通話を終えようとした瞬間、ふと漏らした呟きのような彼の声が聞こえた。

 

―――これで進める……。

 

 一体何の事と問いかける前に通話は終わる。……これで進める、か。もしかして彼も優美子の事を吹っ切ろうとしていたのかもしれない。その相手として私を求めてくれたのかな。そんな事を考え小さく息を吐く。

 

「我ながら早すぎるでしょ。何でもう嬉しくなってるんだか……」

 

 

 

 何も音がしなくなったスマホを見つめ、俺は達成感に浸っていた。本当なら大笑いしたいぐらいだが、生憎ネカフェなのでそれは出来ない。それにしても上出来な程の流れだ。怖いぐらい俺の望む流れと同じで、いっそ恐怖さえ感じる。

 だからこそ油断はしない。慢心もない。常に想定外が起こると身構え、最悪を想定して動くのみだ。今回も一つだけ予想外の出来事が起こったしな。

 

「まさか三浦が俺へ連絡してくるとは」

 

 いろはの話では三浦も彼女の連絡先を知っているとの事。なのでてっきりそちらへ怒りをぶつけてくると思っていたのだが……。

 

「あの感じだと、三浦は欲求不満気味か。ああ、そうか。土曜に期待を外されたからだろうな」

 

 いろはのメールに葉山は表面上は仕方なく、本心としては一も二もなく飛び付いた。しかも、聞いたところによると土曜は三浦とデートだったようで、本来なら夜までのところを夕方で切り上げ、いろはとのセックスを選んだのだ。

 

 ここが男の悲しいところだ。一度知った快楽に弱いのは女よりも男。それも葉山は鬱屈としていたものが噴出しているようなものなので、より一層セックスに貪欲なのだろう。

 

「三浦が葉山と上手くいかなくなった理由は、下手の横好きに近いものもあるかもしれんな」

「絶対そうです。無駄に体力だけはありますからね」

 

 昨日葉山をたっぷりイカせて満足させた奴が言うと説得力が違うな。そう思うも口にはしない。何せ今朝、俺のスマホに葉山からメールが届いていたのだ。

 

 内容は簡単にまとめるとこう。俺を好き勝手弄ぶいろはとのセックスは自分に合っている。理由は陽乃さんを連想させるからではないか。三浦は自分にとってかけがえのない存在だが、故に満足させられていないのが申し訳ない。浮気しといてなんだが、三浦を満足させられる方法はないか。

 

 これを見た時、俺はいよいよ最後の時が近いと感じた。

 

「それで先輩、これからどうするんです? 三浦先輩がせっかく堕ちそうだったのに」

「だからこそ立ち直らせたんだ。三浦にはまだ凛としてもらいたいんでな」

「寝取るには早い?」

「違うな。真実を知るには、だ」

 

 そう、さっきの会話で確信した。三浦はもう限界だ。元々そうだったのかもしれんが、今日のカラオケが決定打となったらしい。いろはと縁を切れというのは、裏を返せば俺は自分の男と言いたいのだ。踏み込まれた時の事を想定してたが、そこは三浦だよく踏み止まった。おかげでこっちも予定を変えずに済んだしな。

 

「じゃ、一体いつならいいんです?」

「いろは、次葉山とする時にやってほしい事がある」

「動画ですか?」

「大筋当たってるが、それだけじゃない。言っただろ。やって欲しい事って」

 

 その言葉の意味をいろはへ伝えると、心底嫌そうな顔をした。それでも俺がそれでどうするかも想像したのだろう。拒否せず、しっかりやってくると納得した。そんな、俺にはもったいない程健気ないろはへ優しくキスをしてやる。いろはも目を閉じて嬉しそうにそれを受け入れた。

 

「……先輩、私、信じていいですよね?」

「信じるな。ただ、俺の傍にいればいい」

「先輩……」

「俺はお前を信じない。だが、傍にいるなら傍に置く。いや、置きたいだな。これじゃ不満か?」

「いいえ、満足です。だって、先輩は私に言いましたから。一生俺のもんだって」

 

 そう微笑みながら告げると、いろはは俺の胸に顔を埋める。その髪を優しく撫でながら、俺は来る日の事を考えて笑みを浮かべた。この歪んだ関係に終止符を打つ時を。



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比企谷八幡は仕上げに動く

次回でラスト。男を変えるのが女なら、女を変えるのは男、なんでしょうか……。


「で、上手くいったか?」

「はい、完全に勘違いしました。それと、アレも言われた通りに」

 

 いろはは満面の笑みでそう報告を締め括る。俺はそれに満足し頷いた。勿論それだけでなくいろはを手招きし抱き締めてやるのも忘れない。

 そうしてやるといろはも嬉しそうに抱き返し俺へキスをしてくる。本当に可愛い奴だ。俺の言いつけどおり葉山との情事を撮影し、その中で頼まれた事を遂行してきたとは。本当に優秀で得難い存在だ。

 

「いろは、本当に助かった。お前じゃなかったらきっと俺はここまで立ち回れなかった」

「……でも、私じゃなくてもある程度は出来たんですよね」

「あー、悪い。言い直す。いろはだから俺は今のような悪巧みが出来た。お前以外じゃそもそも付き合うさえ無理だわ」

 

 そう心から言ってやるといろはが喜びと嬉しさを噛み締めるように微笑んだ。本当に、俺にとっては三浦以上の存在だ。寝取り相手の理想はあいつだが、共に歩むならいろはに勝る奴はいないだろう。

 そういう意味ではいろはと三浦は似た者同士だ。惚れこんだ相手にとことん尽くすという点では。ただ、三浦ではいろはのような立ち振る舞いは出来まい。だからこそ、今の俺にはいろは以上はいないのだ。完璧と評する所以である。

 

「先輩、私ご褒美が欲しいです」

「……イチャイチャかエロエロか選べ」

「両方、がいいんですけど……」

 

 窺うような眼差しと声でこちらを見つめるいろは。ったく、仕方ない奴だ。昔はあざといを狙っていたが、こうなってからは本心からこういう事をするのだから厄介だ。ま、いいだろう。今回はそれだけの事をやってもらった。なら、俺も相応の対価を支払ってやるか。

 

「土曜にデートするぞ。買い物や映画でも何でもいい。お前の希望に付き合ってやる。で、最後は朝までラブホだ」

「……いいんですか?」

「構わん。今回のはそれだけいろはに負担がでかかったからな。ちゃんとやった事に見合うだけの報酬はやる」

「先輩、やっぱりそういうとこズルいです。冷たいようであったかいんですもん。これじゃ、どんどんのめり込んじゃいます」

「それが狙いだとしたら?」

「それでもいいです。私、とっくに先輩のものですから」

 

 言い終わると同時にいろはがキスをし舌を入れてくる。それを内心で苦笑しながら受け入れ舌を絡めてやる。俺の部屋に響く淫らな水音。

 

 だが今回はセックスはなしだ。いろはもそう考えているだろう。だからこそいきなりディープなのだ。いろはは徐々に高めるのが好きな女だ。だから普段はそういう雰囲気をゆっくり作っていく。しかし、今はそうではない。俺がそれを求めていないのを察しているのだ。

 

「……先輩、この前先輩は信じるなって言いましたけど」

「私はそれでも信じたい、か?」

「いえ、信じるなって先輩が言うならそうします。でも、愛するのはいいですよね? 私、何があっても先輩を愛してます。例え捨てられる事になっても」

「…………ま、何を信じると捉えて愛すると捉えるかはそいつにしか分からないしな。勝手にしろ」

 

 言いながらいろはの髪を軽く手で梳いてやる。それをくすぐったそうにしながらも拒否する事なく、いろははただ身を俺に委ねていた。ホント、手放したくないな。それと同時にこうも思うのだ。

 

 歪む前にこうなれていたら、と。本当に、心から、切ない程に思うのだ。

 

 

 

 千葉県内にあるとあるラブホテル。その一室で一組の男女が交わりを終えていた。男は達成感や満足感のようなものを強く得たのか、自信満々な表情で隣に寝そべる女を見つめている。対して女は男から顔を背けるように寝そべっていた。その表情は男とは正反対と言ってもいい程のもので。

 

「じゃあ、俺はシャワー浴びてくるよ」

「う、うん。あーしはもう少し休んでからにする」

 

 普段であれば逆の流れが当然であった事もあり、男は更に表情を歓喜へと変えながらその場から立ち去る。その気配が遠ざかり、完全に消えたのを感じとって女は顔を両手で覆う。

 

「何で……何でなん隼人。あーし、隼人に言ったはずじゃん。後ろからは止めて欲しいって。隼人も分かったって、そう言ってくれたなのに何で……」

 

 その独り言は恨み言ではなく糾弾だった。そう、女は以前一度だけ男に後ろから抱かれた事がある。その時、女は感じ取ったのだ。これを男にさせ続けてはいけないと。なのでその時に男の顔が見えないのが怖いと嘘を吐き、以降は一度としてさせなかった。男が体位を変える事をあまりしなくなったのもこのためである。

 

「……サイテーだし、あーしって。ヒキオと隼人を比べるだけじゃなくて、遂に隼人とエッチしてる時にヒキオの事思い出すなんて……」

 

 女はそう吐き捨てるように呟き、寝返りを打つように仰向けになった。そしてそのまま片手を自らの秘部へと移動させる。己の愛液で濡れたそこを、女はその手で愛撫し始めた。

 

「ああ……足んないよぉ……ヒキオのチンポが、あのチンポが欲しい。あーしの奥をゴンッゴンッ……って、突き入れてくれる刺激が欲しい……」

 

 ここに至り、女は自覚した。心と体が噛み合わない事があるのだと。そして、それを決定づけたのはよりにもよって愛する男の行為だったのだ。女が男のためにと避けた危険をその男が何故か踏み込む事で。

 

 女の自慰行為は男が戻ってきても続いた。さすがに別の者の名を出す事は止めていたが、男は女の行動を見てまたしたくなったのかと勘違いを起こし、より一層自分達の関係を破壊していく。

 

 この日、初めて女は男へ嫌悪という感情を抱いた。かつては、あれ程想い、また求めた相手に。

 

「本当にいいのかい?」

「ん。今日は少し一人でいたいから」

「分かった。じゃあ、また学校で」

「じゃあね隼人」

 

 女へ背を向け歩き出す男。その背が上機嫌なのに対し、女は大きくため息を吐くと男へ背を向け歩き出す。その手にはスマホが握られており、画面にはヒキオの文字が表示されていた。

 

 前回はどこか躊躇いや戸惑いさえ覚えたはずの行動に、今回女は何も感じる事なくそれを行う。数回のコール音が聞こえた後、女の求めていた相手の声が聞こえてくる。

 

『どうした? また何かあったのか?』

「…………ヒキオ」

 

 聞こえてきた声がこちらを気遣うものという事もあり、女は何かこみ上げてくるものを覚えた。思えばいつだって彼は自分を気遣ってくれていたと。常に女と男の関係を考え、決して自分の欲望へ身を任せる事をよしとしなかった事を。

 

 普段であれば例えそう思っても辿り着かぬ言葉。出すはずのない答え。それを女はこの時出してしまった。初めて愛した男が我を見せた日、それをどこかで望んでいた女は、それによって自身の中にある何かをはっきり感じ取ってしまったために。

 

 呟いたきり何も言わない女に彼も気付く事があったのだろう。心持ちぎこちない声がスマホから女の耳に流れてきた。

 

『よく分からんが、きっと愚痴か恨み言でもあるんだろ? 俺に聞いて欲しい事が。いや、あいつ以外にしか言えない事か。誰かに聞かれる事や知られる事は心配いらんぞ。相変わらず俺は話す相手などいないからな。むしろいなさすぎて言葉を忘れるまである』

「……ふふっ、何言ってるか分かんない。あと、そんな事心配してないし。ね、ヒキオ。今から会えない? 直接顔見て話したい」

 

 沈んだ心に沁み込む不器用な優しさ。平静を装おうとして出来てない声。でも、それが女の知る彼が変化していない事を伝えてきて、彼女の顔を綻ばす。その感覚がかつて男相手になっていた事だと、そう思い出しつつ女は会話を楽しんだ。

 

 生憎彼は外出が出来ないらしく、女の希望には添えなかったが、それでも女が切るまで会話に付き合ってくれた。それもまた女には嬉しかった。自宅に着き、名残惜しく思いながら女は通話を終える。

 

 自室に入り、ベッドへ座る頃には男と別れるまであった黒い感情が綺麗に消えていた事に気付き、女は改めて思うのだ。

 

―――あーし、やっぱり男見る目なかったかも。

 

 その時、女は自分の中で大事だったはずの何かに亀裂が入る音を聞いた気がした。

 

 

 

 私は今、三浦先輩と二人で顔を合わせていた。何か先輩に言われた訳でも頼まれた訳でもない。これは私の独断だ。

 

「今度は一体何?」

「今日、葉山先輩に告白します」

 

 私がはっきり告げた言葉に三浦先輩は一瞬呆気に取られた顔をした。ここまでは前回と同じ。前回はここで小さく笑みを浮かべて「好きにすればいいし。隼人があーし以外を選ぶはずないし」と勝ち誇られたのだ。さて、今回はどうなるのか。そう思って三浦先輩の反応を見つめた。

 

「そ。ま、勝手にすれば?」

「余裕ですね」

 

 これは意外だ。だけど、どこかで予想していた事でもある。本当に先輩の言った通り立ち直ったようだ。おかしいな。私の感覚だと、立ち直ったとしてもどこかに綻びぐらいあると思ったんだけど。

 

 それにしても、私に対しての刺々しさがすごい。ディスティニーでは面倒を見てくれたけど、今は絶対あんな事はしないだろうと確信出来るぐらいに。

 

「とーぜんじゃん。精々振られて悲しむといいし」

「ご心配なく。振られたって悲しくなりませんから」

「ヒキオにすがるつもりか。なら最初からヒキオを選べばいいだろ」

 

 その言葉に私は舌なめずりしたくなった。あった。三浦先輩の綻び。見つけちゃった。この女の抱えてる黒い感情。そっかぁ。私に嫉妬してるから刺々しいのか。どこか嘲笑うように思いつつ、私は目を細めて三浦先輩へ問いかけた。

 

―――どうして三浦先輩が私と先輩の関係を知ってるんですか?

 

 間違いなく三浦先輩の表情が凍った。いや、これはやってしまったという反応か。あのカラオケで私と目が合ったと言えばいいけどそれは出来ないはず。この女は先輩に見損なわれたくないのだ。だから絶対言えない。

 

 ああ、やっぱりそうだ。薄々思ってたけど、私ってどうでもいい相手にはSっ気出るんだ。今も三浦先輩をどう追い詰めようか考えてるし。

 

「失礼ですけど、三浦先輩って先輩と仲良くないですよね? まぁ、先輩自身仲良くしてる人なんて皆無ですけど」

「ゆ、結衣がいるじゃん。同じ部活だし」

「プッ、三浦先輩本気で言ってます? あの先輩が私との関係を結衣先輩達へ教える訳ないじゃないですかぁ。ま、もしそうなら今ここで結衣先輩へ聞いてもいいですよ?」

 

 私がバカにするように笑いながらそう言うと、三浦先輩は怒りに顔を歪める。でも、それだけ。結衣先輩へ聞けとも聞くなとも言わない。

 あ~あ、こんな女が先輩の中で大きな顔してるなんて最悪。きっと先輩の初めてだからだろうけど、私の方があの人に尽くしてるし愛してるんだからっ!

 

「何で何も言わないんですか? あっ、そっか。言えないんですよね。カラオケで私とばっちり目合いましたもん」

「調子に乗んな一年。あーしは」

「葉山先輩と先輩で二股してた女が何言うんです? 今の私と何が違うんですか」

「っ!?」

 

 乾いた音が廊下に響いた。私の頬を三浦先輩が引っ叩いたからだ。じんじんとした痛みが私を襲う。それでも私は三浦先輩へにっこりと笑ってみせる。

 

 こんな痛み、先輩から捨てられる怖さに比べれば何て事ない。

 

「あーしは二股なんてしてない! あーしは隼人が」

「先輩はまだ三浦先輩を想ってますよ」

 

 すかさず言い放つと三浦先輩の言葉が切れた。その表情は不意を突かれて告げられた内容で朱に染まっている。それが私により一層の冷気をもたらす。でも、これ以上は私がやっていい事じゃない。だからここはこれで終わる。

 

「じゃ、葉山先輩が私を選んでも恨まないでくださいね」

 

 赤面している女を横切りながらそう言い放つ。もしそうなったら恨むどころか感謝するかもしれないけど。ま、それでもどこかで、あの女はヘタレ先輩が自分を捨てないと思っているんだろう。本当におめでたい。

 

 本当に尽くすっていうのは自分を殺す事も必要なんだから。

 

 そう思いながら私はサッカー部の練習しているグラウンドへ向かう。だけど、最後に一度だけ後ろを振り返った。そこに、もうあの女はいなくなっていた……。

 

 

 

「……ああ、別に気にしなくていい。前も言ったが俺は利用されただけだ。だから……ああ、それで構わないぞ。大体向こうは駄目元で、しかも脅迫紛いで迫ったんだ。更に、個人的に言わせてもらえば保険にされた俺の気持ちはどうなる。…………悪い。そうだな。俺もあいつの大事なもんをもらった事に変わりはないもんな。でも、それをお前が気にする必要はない。…………そうか。なら、三浦のためにもあいつのためにも利用してやればいいさ。因果応報って言葉の意味をしっかり教えてやれ。じゃあな」

 

 通話を終える。いろはめ、行動が早いな。いや、俺の事をある程度理解していればこそか。それにしても葉山の奴も根は素直だったんだろうな。もしくはそれだけ舞い上がっていたのか。

 

 いろはの仕込みが想像以上に効いたらしい。葉山の話では三浦はとても感じてくれ、いつもと違いすぐにシャワーへ行けず、更にあいつを誘うような事をしていたそうだ。こんな事をベラベラ話すぐらい、葉山は事態の本質が見えていない。

 

「……三浦はやはり俺との行為との差異を理解していたか」

 

 俺がいろはに頼んだのは、葉山との行為でバックをさせる事とそこで感じまくる事だ。それにより、葉山へ三浦がそれを嫌がっていたのは、感じ過ぎて乱れる様を好きな男に見せたくない心境だといろはが告げる。

 更に、そうしたのは葉山が三浦を強く求めてないように思わせているからだと追い打ちをかけたらしい。こうして葉山は三浦に以前もっと好きにしていいと言われた事も相まって、遂に三浦に対しバックから何度も何度も抱いたそうだ。

 

「さて、いよいよだな」

 

 いろはをセフレとして受け入れようとしている葉山と、葉山とのセックスに不満を募らせてしまった三浦。見事なまでの気持ちと体の不一致だ。

 

 ここで迷うのは、三浦をどうするかだ。あいつに葉山を捨てさせるのもいいが、葉山に捨てさせるのも捨てがたい。どちらにせよ、三浦が俺を選ぶのは間違いないだろう。ゴールは見えているが、そこまでのルートが色々あるのでその選択に迷うとは……。

 

「贅沢な悩みだ。しかもどう選んでも……なぁ」

 

 思わず口の端が持ち上がる。その時の想像をするとチンポがガチガチに勃起する。と、その時スマホが振動した。表示されたのはいろはの文字。きっと葉山への告白関連報告だろう。そう思ってスマホを耳に当てる。

 

『先輩、やりました』

「ああ、葉山から相談があった。セフレになれって言われたか?」

『意味合いはそれですけど、言い方は違いました。ま、それはいいんですけどね。実はちょっとその前に三浦先輩とやり合いまして』

「……詳しく話せ」

 

 いろはにしては珍しいな。と、そこで気付く。おそらく俺の三浦への執着にいろはは腹を立てていたのだろうと。だからここでそれをぶつけてしまったのだ。俺に怒られる事を覚悟しながら。

 

『今日ヘタレに告白するって言って反応を見たんです。前回と違って前向きな余裕じゃなかったです。どちらかと言うともうどうでもいいみたいな感じを受けました』

「…………続けろ」

『それで振られて悲しめとか言われたんで、そんな事にはなりませんって返したら先輩の事を持ち出してきて』

「誘導したな。まぁいい。それで、三浦はどうした?」

『……どうして知ってるのか聞いたら、結衣先輩から聞いたとか言ってきたんで、逃げ道塞いで無言になったところでカラオケの事を持ち出しました』

 

 中々えげつない事をする。最後のは特にだ。成程、あそこで俺じゃなくいろはが三浦を視認したがったのはこのためか。俺に対しポイントを稼ぐ事を常に考えているとは、やはりいろはは優秀過ぎるな。

 

「で?」

『そうしたら調子に乗るなとか言われたんで、二股してた人が何を私に言うんだって返したら引っ叩かれました』

「大丈夫だったか? 腫れたりしてないだろうな?」

 

 本気で心配する声が出た。顔は女の命とも言う事があるが、そうじゃなくてもいろはの事が心配になったのだ。それが伝わったのか、いろはは少し無言になってから嬉しそうな声を返してきた。

 

『はい、大丈夫です。さすがにそこまで三浦先輩も強くは』

「……ならいい。それで終わりか?」

『…………はい』

 

 最後に不自然な間が開いたが、きっと俺に報告するまでもない事と判断したのだろう。こういうとこはいろはも賢いしな。

 

 こうして俺はいろはの報告を受け、最後の仕上げが終わった事を理解した。明日にでもいろはの事を労ってやろうと思い、とりあえず電話口でその旨を伝えると楽しみにしてると弾んだ声が返ってくる。本当に可愛いな、いろはは。そう思って通話を終えて、ふとカレンダーを見やった。最後の日は三月十四日が相応しいかと、そんな事をぼんやりと思いながら……。

 

 

 

 何も聞こえなくなったスマホを見つめ、少女はそれをそっと両手で包むようにしながら胸へ当てる。

 

―――先輩、絶対私が言ってない事があるって分かったはずなのに。私を信じないって言ったけど、やっぱり捻くれてるんだから。

 

 その声はとても優しく噛み締めるようなものだった……。



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寝取り寝取らせ、寝取り寝取られ

これにて終わり。一応pixivには続きもありますが、寝取りなどの要素はないに等しく、歪んでしまった男とそれを取り巻く女の話となっていますので、あまり期待などはしないで読んでください。


「悪いな、寒かったろ」

「大丈夫だし。で、どこ行くの?」

 

 ある日の午後、あーしはヒキオにあの日に待ち合わせた公園へ呼び出された。本当なら断るべきなんだろうけど、あれ以来隼人があーしとのエッチを乱暴なものへ変えた事もあって、すっかりヒキオへ愚痴ったりする事が増えたから断れなかった。

 

 ……ううん、断りたくなかった。今のあーしにとって、ヒキオは隼人よりも安らぐ相手になってたから。

 

「……その前に一つ確認しておく。この事、葉山は知らないな?」

「うん、知らない。ま、明日会うから今日は気にしてないと思う」

 

 真剣な顔のヒキオに違和感を覚えつつ、あーしは少しだけ明るく返した。春休みになり、隼人はあーしと会う頻度を減らしていた。表向きは来年度に備えて色々準備があるって、そう言ってるけどあーしには分かってる。最近あーしがエッチを避けてるからだって。

 

「そうか。三浦、今日お前に話す内容はかなりきついものになると思う。それでも聞いてくれるか?」

 

 ヒキオの目はどこか辛そうに見えた。隼人が知らない事を確認して、更にあーしへこう言ってくれるような事。嫌な予感がする。

 でも、あーしは迷わなかった。ヒキオがあーしを呼び出してまで教えたい事なら。そう思って頷いた。それにヒキオは一度だけ目を閉じて、次に開いた時には覚悟が決まった男の目をしてた。

 

 ……やば、今のヒキオ、ちょーイケてるし。

 

「分かった。ならついて来てくれ。ここじゃ、な」

「ん」

 

 歩き出すヒキオについていく形であーしは歩き出す。その間、ヒキオは一言も喋らなかった。あーしも何も言わなかった。通り過ぎる景色に覚えがあったからだけじゃない。無言の背中が頼もしく見えたからだ。

 

 この背中について行けば大丈夫って、そんな事を思っちゃうぐらいに。

 

 やがてあーしの目の前にあの時使ったホテルが見えてきた。ヒキオは何も言わずその中へ入る。あーしもその後を追った。パネルを見るとあの夜入った部屋が空いている。

 

「同じ部屋が空いてるな」

 

 ぽつりとヒキオがそう言ってその部屋を選ぶ。それだけであーしは胸が高鳴るのを感じた。やっぱり覚えてるんだ。あーしと同じでそこ見てたんだ。

 

 先を歩くヒキオは、あの夜と違って堂々としていた。あれからまだ半年も経ってないけど、ヒキオの男としての成長を感じて笑みが零れる。でも、同時にどこかで悔しさも感じた。このヒキオにあの一年は大事にされてるんだって、そう思って。

 

「コート渡せ。掛けておく」

「ん。ありがと」

 

 部屋に入るとまずヒキオはあーしへ手を差し出してそう言ってきた。あの夜はそんな気配り出来なかったのに。そう思って少し笑う。それを見てヒキオがちょっとだけ照れくさそうに顔を背けた。それが余計あーしを笑顔にさせる。

 

「あまり笑うな。俺だっていつまでも童貞臭くはないぞ」

「悪かったって。ヒキオも女の扱い分かってきたなって思っただけじゃん」

「ったく。とりあえず座ってくれ。ゆっくり話してく」

「分かったし」

 

 あーしがソファに座るとヒキオは隣へ座る。そこに確かな成長と変化を感じ、あーしは複雑な気持ちになった。ヒキオが慣れたのはあの一年がいたからだ。あーしが知ってたヒキオが今のヒキオへ成長してくのを見てたのは、あの一年だ。それがあーしの中にもやもやしたものを生み出してく。

 

「まずは、先に謝っておく。すまん」

「何で謝んの?」

「お前と葉山がすれ違い始めた原因は俺だからだ」

 

 そう言い切るヒキオはあーしの目を見れないようで、少しだけ俯いていた。でも、それは違うとあーしは思った。原因はあーしだ。あーしがヒキオとエッチしたから。それを隼人に隠してたから。だからヒキオにそんな事を言わせたのが心苦しかった。

 

「違う。あーしが悪いんだ。あの時、ヒキオはあーしとエッチしようなんて思ってなかったし。それをあーしが、あーしが……」

「それはお前が俺の気持ちを察してくれたからだろ。お前の性格を考えれば分かってた事だ。お前の気持ちは嬉しいが、ここは俺が悪いって事にしてくれ」

「……ならお互い様」

「そう、だな。それが落としどころか」

 

 そう告げるヒキオはどこか苦笑してた。その表情にあーしは胸が高鳴るのを感じる。そんな顔、あーしは見た事なかったからだ。

 

 どこか可愛いじゃん、その顔。そう思うけど口にはしない。可愛いって言われて喜ぶ男はいないからだ。

 

 少し空気が和んだとこで、ヒキオはゆっくり話し始めた。あの一年から恋愛相談を受けていた事。隼人があの一年に迫られた事で相談を受けた事。その結果、あーしとの関係に影響が出た事を。

 

「じゃ、隼人はあの一年と浮気してる?」

「……お前のためだ」

「っ! そう言って他の女とエッチしたいだけじゃん! 何であーしに相談して」

「お前の性格を分かってるからだ。それと、お前も知ってるだろ? 女の陰湿さを」

 

 ヒキオの冷静な声にあーしは怒りを少しだけ抑える事が出来た。隼人はあーしを他の女から守るために関係を秘密にしてた。それをあーしも聞いている。心配し過ぎとも思ったけど、隼人が昔経験した事を思えば当然の考えかなって、そう思ったからあの時は納得した。

 

 でも、だからって他の女と、しかもあの一年となんて。そう思うとやっぱりやだ。

 

「……納得したくないけど分かったし」

「すまんな。俺が一色を煽ったのかもしれん。お前がいるから諦めろなんて、よく考えれば一色の心へ傷をつけたに決まってる」

「仕方ないし。ヒキオはあーしと隼人の関係を知ってたじゃん」

「だからこそ、もっと別の言い方があったんじゃないかとも思うんだ。そうしていれば、葉山もお前を裏切る必要はなかったかもしれん」

 

 裏切る。その言葉があーしの中へ波紋を起こす。先にあーしはヒキオとエッチして裏切った。なら、隼人の裏切りも許してやるべきじゃないかって。

 

「……もう起きた事言っても意味ないし。それより、ヒキオの話ってそれで終わり? それならわざわざラブホである必要ないじゃん」

 

 あーしがそう言うと、ヒキオは初めて見る程暗い顔をした。そして、静かに立ち上がると掛けてあったコートから何かのディスクを取り出した。そのディスクを手にしたまま、ヒキオはあーしへ問いかけた。

 

―――覚悟はいいか?

 

 そのどこか冷たい声にあーしは息が止まるかと思った。それぐらいそのディスクの中身はヤバイんだって、そう思った。

 

 多分だけど、そのディスクはあの一年が関わってる気がする。隼人とエッチしたのでもヒキオへ送り付けたのか。それか、あーしへのあてつけかもしれない。ヒキオと隼人を二股したって、あの一年は思ってるみたいだし。そんな事を考えながらあーしが躊躇してるのをヒキオも分かったんだと思う。少しだけ息を吐いて、ちょっと優しい声で問いかけてきた。

 

「止めとくか? 俺としてもこれは正直見せたくない」

「…………見る。ヒキオ、ありがと。でも、どうせあの一年からのやつじゃないの? なら見る」

 

 あーしの言葉にヒキオは何も言わずプレーヤーへディスクをセットした。そして、再生されたそれを見て、あーしは言葉を失った。

 

―――あれあれ? どうしたんですかぁ? 年下の、それも好きでもない相手の手コキでイっちゃうんですかぁ?

―――ぐっ……い、いろは……。

―――いいですよ? いっ…………っぱぁいチンポ汁出して。葉山先輩の情けないとこ、私にぃ……見せて?

―――ああっ……ああっ!

―――あはっ、出た出た。ヘタレ先輩のヘタレチンポ汁。あ~あ、ホントなら受精させるためのものなのに、卵子どころかマンコへも出してもらえず私の手で一生を終えちゃうなんてね。ホ~ント、ざん・ねん。

 

 画面の中で隼人は一年にいいようにされていた。なのに、ずっとおちんちんは大きなまま。どうして? 隼人はあーししかおちんちん大きくならないんじゃなかったん? なんで、なんでそんなに嬉しそうなん?

 

―――んっ……ヘタレ先輩、ちゃんと腰振ってください。ぜんっぜん気持ち良くないんですけどぉ?

―――ううっ! こ、このっ!

―――んふっ、今のはいいですよ? あはっ! 惜しいですね。今の、奥に当たりそうでしたぁ。

―――っ! おおっ!

―――あんっ! そうそう、そんな感じですぅ! ガンバレガンバレ、ヘ・タ・レ。

 

 あーしは目を覆いたくなった。一年に馬鹿にされてるのに、むしろ隼人はそれを喜ぶようにエッチしている。あーしには見せた事のない熱量を感じるぐらい、画面の中の隼人は一年を感じさせようと必死になってる。

 

 やがて、一年が隼人の腰へ足を絡め、何かを耳元で囁いたと思うと、その瞬間に隼人が動きを止めた。出したんだと、あーしにも分かった。そこでヒキオは映像を止めた。

 

「どうする? ここで止めておくか?」

「え……?」

 

 ヒキオの言葉にあーしは頭が真っ白になるかと思った。どーゆー事? 今ので終わりじゃないのって……?

 

 あーしの表情からヒキオはそれに気づいたらしく、しまったって顔をする。

 

「あっ……いや、何でもない。忘れてくれ」

「無理だし。ヒキオ、説明して」

「…………今のは葉山が対一色用に撮影したものだ。つまり、脅迫に対する脅迫でな。実は続きがある」

「は? 何で隼人が二回も撮影してんの?」

「違うんだ。それは一色が撮影したもので、お前との関係を言いふらすのとは別の形で脅迫するためのものだ」

 

 そのヒキオの絞り出す声にあーしは悟った。そっちの方がより酷い内容なのだと。つまり、あの一年は隼人がやったようにエッチを撮影して、あーしへ見せて浮気してるって思わせて別れさせようとしてたんだ。

 

 怒りが込み上げるけど、それでも我を忘れるぐらいじゃない。何となくだけど、今の怒りはヒキオがいながらそんな事をする事に怒った気がする。

 

「ヒキオ、再生して。あーし、もう隠されたままは嫌」

「……分かった。でも、辛くなったら言え」

「ん」

 

 その最後の一言が嬉しくて、あーしは少しだけ気分が晴れた。ヒキオがディスクを再生させる。そして、再び画面に隼人と一年が映し出される。心なしかさっきよりも隼人が一年へ強気な気がした。そう思いつつイライラしながら映像を見る。やがて、あーしは信じられない光景を見た。

 

―――いろはっ! いろはぁ!

―――ああっ! だ、だめぇ! 後ろからだと奥に当たるのぉ!

―――どうだ!? どうだぁ! 散々馬鹿にした俺の物で感じさせられるのはっ!

―――ああんっ! ごめんなさいっ! 葉山先輩のチンポいいっ! 後ろからだと気持ちいいとこ当たるの! イっちゃうのぉ!

―――何が俺ならどうされても平気だっ! こんなにも締め付けてる癖にっ!

 

 隼人が一年をこれでもかってぐらい後ろからおちんちんを突き入れている。隼人には顔が見えてないから分からないけど、この映像だと一年の顔が見えているからはっきり分かる。

 

 声だけだ。顔はむしろバカにするような感じに笑ってる。そこで分かった。隼人がどうしてあーしとの約束を破ったのか。何で後ろからしつこく抱いてきたのか。

 

 全てが繋がった。あーしは一年の手のひらで踊らされる男に抱かれていたんだ。

 

「……もう、いい」

 

 力なく呟く。ヒキオはそれを聞くと同時に映像を止めた。部屋の中を静けさが包む。あーしは泣きたくなった。彼女とのエッチに浮気相手の反応を参考にするとか最悪。ううん、それ以上にあーしよりも一年とのエッチに夢中ってどういう事。最後の演技さえ見抜けず、調子に乗っていい気になるとか……。

 

―――隼人の……馬鹿……。

 

 

 

 小さく呟いたきり、沈黙した三浦を眺め、ここら辺かと判断する。ここからが本番だ。予定調和などいらん。俺は最後の最後までスリルが欲しい。それに、その賭けに勝った時こそ、俺はこの歪みから解き放たれるんだ。

 

「三浦、葉山を責めてやるな」

 

 返事はない。だが、関係ないとばかりに俺は話を続ける。

 

「何せ、葉山へ一色を抱くように仕向けたのは俺なんだから」

「……どういう事?」

 

 こちらへ顔を向けた三浦は、まるで信じていた最後の一人に見捨てられたように見える。そうだ。それでいい。まだ俺へすがるな。選ぶな。葉山への想いを絶やすな。

 

「脅してきたなら脅し返せと言ってな。動画として残せと指示したのも俺だ」

「っ……何で、何でそんな事したの?」

「それだけじゃない。そもそも初めに俺の彼女になったいろはへ葉山に抱かれてこいと命令したんだ。つまり、全部現状は俺が作り出したんだよ三浦。彼女になったいろはを使って他人とセックスさせる最低野郎。お前と葉山がこうなっているのは全部俺が原因だ」

 

 感情もなく、ただ事実を淡々と告げた。三浦はあまりの事に理解が追いついていないようで、何度も瞬きしている。まだだ。まだ終わりじゃないぞ三浦。

 

「それと、続きの映像を撮影する前に、いろはへ葉山とセックスする際にバックでさせて、嘘でいいから感じまくるように指示もした。あいつが体位をほとんど変えないと聞いてな。きっとお前が俺とのセックスで一番感じた体位だから、葉山との差をはっきり分かってしまう事を恐れてるんだろうと当たりをつけたんだよ。どうやら見事にそうだったらしいが」

「ヒキオっ! 答えろっ! 何でそんな事した!」

 

 涙を流しながら俺を睨む三浦。ああ、そうだ。それでいい。お前の前にいる男は最低な奴なんだ。それを、今までお前は無条件でいい奴の自分の味方だと思っていたんだろ?

 

 悪いがそれはあの夜までだ三浦。あの夜以降はある意味でお前の敵になったんだ。だけど、ある意味では味方のままでもある。さて、なら最後の行動だ。これで全てが決まる。

 

 選択権はお前に委ねるよ、優美子。

 

―――優美子が欲しかったから。

 

 その瞬間、全ての音が消えた。俺の意識はただ目の前の女にだけ向けられている。彼女は睨んでいた顔を驚きへ変え、そして何かに気付いたように哀しそうな笑みを浮かべた。

 

 俺は何も言わない。もう今の俺に残された言葉はないからだ。ただ一番欲しい女の言葉を待った。何を言うにせよ、それで俺の言動が決まるのだから。

 

「……そっか、そういう事だったんだ。隼人はあーしを求めてた訳じゃなかったし。でも、ヒキオはずっとあーしを求めてくれた。その違いが、ここまでヒキオにさせたんじゃん。でも、ヒキオはズルイ。何で全部話すの。言わないでくれれば、秘密にしてくれれば、あーしはこんな気分にならずに答えを出せたじゃん」

「それじゃ気が済まなかったんだよ。俺がこれまでした最低行為を知った上で選んで欲しかったんだ。お前に嫌われてもいいから、俺がどれだけ優美子を欲しがっていたかをな」

 

 その言葉に流れる涙をそっと拭い、彼女は俺を見つめた。あの夜に見た、優しい慈愛の眼差しで。どうやらもう答えは決まったようだ。

 

「ヒキオ、サイテー。でも、それだけあーしを想ってくれたって伝わっちゃった。ホント、捻くれた優しさだし」

「そうかよ。でもな優美子、思い出してくれ。女は好きでもない男とキスなんてしないんだろ? お前が自発的にした最初のキスは誰とだ?」

「……うん、そうだった。あーし、隼人よりも先にヒキオに、アナタにキスしたいって思ったんだ」

 

 そう答えると、優美子は俺へ抱き着きキスをする。俺はそれを受け入れ、一旦離させる。疑問を抱く優美子へ、今度は俺からキスをして舌を入れる。それで優美子も先程の行動の意味を理解したのか、嬉しそうに舌を絡めてくる。

 

 そして、俺はそのまま片手を優美子の尻へ動かし撫でまわす。残る片手は優しく胸を触る。それを受けて優美子が自分でブラを外してくれた。

 

「優美子、俺の女になれ」

「……なる。あーし、ヒキオの、アナタの女になるっ!」

「愛してるぜ、優美子」

「あーしもっ! あーしも愛してるっ!」

 

 キスしながら二人でベッドへ倒れ込む。シャワーを浴びるのも惜しい。ずっとこの時を夢見てきたのだ。

 

 一度優美子から離れ服を脱ぐ。破り捨ててもいいならそうしたいぐらいだ。優美子もそれに応じて服を脱いでいく。

 

 あの夜と同じ場所、同じ二人、同じ行為。なのに、そこにある熱量と意味合いがまったく違う。

 

 今の俺達は男と女ではなく雄と雌だった。愛し合うというより、交尾したいに近い。

 

 一足先に全裸なった俺を見て、優美子は躊躇う事無く動く。反り返るチンポへ舌を這わせ、いやらしく舐め始めたのだ。残った大人っぽい下着を脱ぎながらフェラをする光景に、俺は言いようのない興奮を覚えた。嬉しくて優美子を撫でる手にも熱が入る。

 

「優美子、いいぞ。胸も使ってくれ」

「ジュルッ……分かった」

「ああっ、これだこれ。いろはよりも気持ちいいぞ」

 

 いろはを引き合いに出した瞬間、優美子の目がぎらつく。そう、分かったのだ。今の俺は優美子ではなくいろはが基準になっていると。それを自分に塗り替えたい。そんな気持ちが伝わってくるようなパイズリだ。

 

 葉山の奴はこれをされたんだろうか。そう思って優美子へ聞いてみる。

 

「優美子、これをあいつにもしてやったのか?」

「してない。でも、今思うと良かったかも。あーしのこれはアナタだけのものだから」

「っ! 嬉しいぜ、優美子」

「ふふっ、あーしも。ね、隼人にあげてない初めてあるけど……もらってくれる?」

「ああ、言われるまでもなくもらうぞ。今度から準備始めよう。ゆっくりじっくりな」

「ん。楽しみにしてる」

 

 感無量とはこの事だろうか。優美子はあの夜言った言葉を覚えていただけでなく、俺へ自ら提案してきたのだ。

 

 後ろの処女。俺があの夜奪っておけばと口にしたそれを、優美子は捧げたいと言ってきた。おそらくだが、今の優美子は俺にあげられるものは全て差し出したいのだろう。

 

 そして、これは推測だが、葉山とした事全ても俺で塗り替えたいと思っているかもしれん。

 

 ……残りの春休み、チンポが渇く暇がないかもしれないな。

 

「ジュルルっ、ジュプジュプ……」

「優美子……すげぇいい。このまま出すからな」

 

 当然ながら答えはない。だけど、チンポを包む感触が強くなった。あの夜は飲めなかったが、今回は意地でも飲むだろう。そう確信しながら俺は優美子の頭を両手で固定した。

 放たれる俺の精子。それを優美子はちゃんと受け止め、そのまま飲み干していく。やがて飲み終えたのか、ゆっくり口をチンポから離し、鈴口から尿道に残った分までしっかり吸い出した。

 

「……優美子、ありがとうな」

「ん。これぐらい当然」

「それでもだ。嬉しかった」

「ん……」

 

 抱き寄せてキスしてやる。自分のアレの味など嫌でしかないが、これをしてやる事で女は男に愛されてると思い易いそうだ。

 いろはは少なくてもそうだった。優美子もそのようで、嬉しそうに舌さえ入れてくる。なので俺も優美子の可愛さに応じるように舌を絡めてやる。

 

 そうしてキスをしつつ、俺は優美子のマンコを触り濡れ方を確かめる。十分な反応をしているそこは、既にチンポを待ちわびているようだった。なのでベッドサイドにあるゴムを手にして中身を取り出した。

 

「優美子、口で頼めるか?」

「まかせて」

 

 妖艶な表情でゴムを咥え、優美子はそれをチンポへ装着させていく。その間も俺は優しく優美子を撫でた。心なしか優美子の顔がそのまま続けてほしそうだったので、試しにと撫で続けてみる。

 

 優美子はチンポから口を離し、ただこちらを上目で見上げるのみ。それがたまらなく可愛く、またエロい。このままではそれだけで出してしまえそうだったので、仕方なく手を引きあげた。すると優美子が寂しそうな顔をする。まったく、可愛いな優美子は。

 

「これならエロ抜きでもしてやる。今は……な?」

「ん。あーしもその方がいい。ヒキオのチンポ、あーしに入れて?」

 

 優美子は俺へ見せつけるようにマンコを指で開いた。それも中々そそるが、何より俺を興奮させたのは優美子のチンポ発言だ。

 

 以前はおちんちんとしか言ってなかったのに、ここにきてチンポと言い出すとは。それだけいろはの存在を意識しているのか。

 そう思って下卑た笑いを浮かべるも、それさえ優美子は自分への欲情と思って笑みを見せる。

 

 たまらないな、この状況。寝取りだから興奮してるんじゃない。あの三浦優美子を俺のものにしたという事実がチンポを反り返らせている。

 

「あっ……ヒキオのチンポ、すごい熱い……」

「当たり前だろ。出来るなら孕ませたいぐらいだ」

「っ! うん、必ず産ませて!」

「ああ、必ずだ。じゃ……」

 

 マンコへチンポをあてがう。ここでダメ押しのダメ押しだ。

 

「もう誰にもお前を渡さないからな、優美……子っ!」

「ああっ! 来たぁ……来たのぉ……これ、このチンポがずっと欲しかったぁ!」

 

 容赦なく一番奥へチンポを突き入れた。それだけで優美子は軽くイったようで、恍惚とした表情を見せている。そこで激しくしてもいいのだが、ここは徹底的に葉山との違いを分からせてやろう。

 

 なので、まずはそのままキス。舌を絡め、優美子がそれに熱烈な反応を見せ出した辺りで腰を動かし出す。激しくではなく優しく、だけど深く深く突き入れる。

 

「んっ、ああっ……ヒキオのチンポいい。奥をもっとグリグリしてぇ」

「お望み通りに……してやるっ!」

「んんっ! そこぉ……あーし、そこ好きぃ!」

 

 こうして始まる俺と優美子のセックス。正常位でしっかり感じさせ、次は優美子の好きな対面座位。

 

「んぅ……」

「これ、好きだったよな」

「うん、好き。繋がったままのベロチュー最高じゃん……んっ」

 

 こちらも優美子のマンコがチンポを美味しそうに絞ってくるので嫌いじゃない。胸を揉み、時に乳首を可愛がり、優美子をこれでもかと愛してやる。

 

「ね、ヒキオ。あーし、もっともっとヒキオの事知りたい」

「どこが感じて何が好きかとか?」

「それもあるけど。でも、一番はヒキオの、八幡の事がもっと知りたい」

「いいぜ。この春休みでたっぷり教えてやるよ。エロい事から何までな」

「ふふっ、お願い」

 

 優しくキスをすると、優美子も同じようにキスを返す。ディープではないが、それでいいのだ。常に激しいだけでは嫌がられる。こちらがそういう雰囲気を作ってやればおのずと女も合わせてくれるのだから、そうでない時は出来るだけ相手に合わせてやればいい。

 

「次は騎乗位?」

「ああ、そうだ」

 

 ここにきて優美子もようやく分かってくれたようだ。これがあの夜のやり直しだと。嘘だった夜を本当に変える。そのために俺はこの部屋を選んだ。空いて無ければ無いで構わないが、同じ部屋の方がよりその意味を伝えやすいと思って。

 

「あっ、乳首いい……」

「強めが好きだったもんな」

「そ、そう。そうなのにぃ……」

「あいつは優しくしかしてくれない。こうやって……」

「ああっ! その強さで摘んでくれなかったぁ!」

 

 両乳首を強めに摘まれ、優美子は嬉しそうな声を出す。腰を上下に振り、時に前後へグラインドさせ、ただ快楽を貪ろうとしている。それを俺は咎めるつもりはない。俺は別に常にチンポへ快楽を与えられなくてもいいのだ。代わりにこうやって優美子を可愛がる事で満たしてもらうのだから。

 

「これからは嫌になる手前までしてやるからな」

「ああっ、ホント? ホントに手前で止めてくれる?」

「おう。ただ、やり過ぎた時は謝る。それじゃダメか?」

「ううん、それでいいから。だからぁ……」

 

 優美子の声と表情がもっと強くとねだっている。あの夜は痛くし過ぎて睨まれたが、もうそんな事にはならない。優美子が望む強さで痛みと快楽を与えてやる。そして、遂に最後だ。

 

 お待ちかねの後背位、バックである。

 

「あっ! あっ! これぇ、ヤバイ! ヤバイっ!」

「イケ! イケっ! 何度だってイっていいぞ! 優美子がもう止めてって言うまでしてやるからなぁ!」

「あはぁ! 嬉しいっ、嬉しいよぉ! 奥まで、一番奥まで届くチンポいいっ!」

「優美子っ、どうだ? 俺のチンポいいか? あいつよりいいか!」

「うんっ! いいっ! 隼人のおちんちんよりもこのチンポがいいのぉ! あーしを求めてくれるチンポが一番気持ち良くしてくれるのぉぉぉぉっ!」

「うおっ!?」

 

 優美子の絶叫と共にマンコがチンポをきつく締め上げる。堪らず射精してしまうが、俺はここで抜く事はしない。そのままベッドへ倒れ込む優美子の奥へチンポを突き当て、あの時と同じように刺激を与えてやるのだ。

 

「あふっ……それぇ、好きぃ……」

「な、優美子。今イったよな?」

「うん、イった。久しぶりにイったし」

「じゃ、俺と葉山、どっちがより多く気持ち良くしてくれた?」

 

 その瞬間、優美子のマンコがきつく締め付けてきた。思い出したのだろう。あの夜の、あの瞬間を。自分が葉山を裏切ったあの時を。でも、あの時と違い、優美子は顔をこちらへ向けてはっきりと告げた。

 

―――ヒキオ……ヒキオの方があーしをいっぱい気持ち良くしてくれたぁ。

 

 その蕩けた表情はとても淫靡で綺麗だった。

 

 俺はその愛しさを込めてキスをする。優美子もそれを受け入れる。一旦そこでチンポを引き抜き、優美子に掃除させて再度ゴムを着けさせ挿入する。

 

 そこからはあの時と同じだ。違いがあるとすれば、優美子へ俺のものだと刻み付けるようにチンポを打ち付けた事だろうか。あの時は一夜限りの関係だった。これからは一生の関係になるだろう。そう思いながら俺と優美子は交わる。

 

「ヒキオ! ヒキオっ!」

「優美子っ! お前は俺のもんだ! 優美子ぉ!」

 

 腰へ絡み付く優美子の足。俺はがむしゃらに腰を振る。目の前の女を悦ばせるために。求めていると分からせるために、愛していると刻み付けるために。こみ上げてくる色んなものを全て吐き出すために、俺は優美子の一番奥へとチンポを突き入れた。

 

「「あああああああっ!!」」

 

 こうして俺は優美子を手に入れた。だが、まだ終わっていない。俺は荒く呼吸をする優美子を見つめ、その耳元へ囁いた。その内容に優美子は驚きを見せるが、俺の目を見て諦めるように頷く。それに満足し、俺は時計へ目をやった。時刻は午前零時を過ぎ、日付は三月十四日へ変わっていた……。

 

 

 

「何だい? 話って」

 

 世間がホワイトデーと呼ぶこの日、葉山隼人は三浦優美子とデートをしていた。バレンタインのお返しも兼ねてのデートだったが、その帰り道で突然優美子が話したい事があると切り出し、二人はとある公園へ来ていた。

 

 そこは、男にとっては初めて訪れる場所でも、女にとっては思い出の公園。

 

「隼人、最近エッチの仕方変わったし。何で?」

「……優美子が俺の好きにしてくれていいって、そう言ってくれたから」

「そ。なら、どうして急に? それ言ったの、結構最初の頃だったじゃん」

「中々踏ん切りがつかなかったんだよ。優美子を傷付けたくないって、そう思ってたから」

 

 その瞬間、優美子の目が細くなった。まるでその言葉を待っていたように。あるいは、それだけは言って欲しくなかったのかもしれない。何故なら、彼女の瞳には光るものも浮かんでいたのだから。

 

「じゃ、何でいろはとした事をあーしにしたの? その方が余計傷付いたし」

 

 絶句。そう表現するのが相応しい反応だった。隼人は返す言葉もなく、ただ驚愕の表情で優美子を見つめていた。何故その事を優美子が知っているのか。何で気付いたのか誰から聞いたのか。様々な事が頭を駆け巡るも、答えが出る前に優美子が口を開く。

 

「隼人、あーしね? もし隼人が自分でしたくなってああしたならまだ許せてた。色々試してみたくて、それでああなったならあーしも分かったし。でも、何でいろはが喜んだ事をあーしで試したの?」

「ゆ、優美子……それは」

「言い訳はいいし。浮気の理由はあーしを守りたかったからって、それはヒキオから聞いたから納得する。でも、そこでの事をあーしとのエッチへ応用するのは違うと思う」

「その、あれは優美子を満足させたくて」

「っ! ふざけんなっ! ならあーしに聞けばいいだけじゃん! どうして欲しいとか、どこか感じるとか、そうやって求め合うものだし!」

 

 優美子の言葉に隼人は何も言えなかった。たしかにその通りだと思ったのだ。だが、彼はどこかで男である自分がリードすべきで、女である優美子は元々そこまでセックスに積極的じゃないと思ってしまっていた。

 

 それは間違ってはないのだが、それでも優美子へ甘えるべきだったのだ。それが出来ないのはやはりプライドの高さが原因なのだろう。

 自分だけで何とかしようとしてしまった。それこそが最大の間違いと、葉山隼人は気付けないのだ。

 

 かつて幼馴染を失った遠因も、そこにあると思わずに。

 

「……隼人、あーしら別れよ」

「優美子……」

「あーし、隼人の事好きだった。でも、隼人はあーし程好きじゃなかったって、そう思っちゃったし。あーしは隼人が欲しかったけど、隼人はあーしじゃなくて自分を捨てない女なら誰でも良かった」

「ち、違う! それは違うっ! 俺は捨てない女性なら誰でもいい訳じゃないっ!」

 

 自暴自棄になったかのような声に隼人は必死に叫ぶ。すると、それが伝わったのか優美子は顔を上げた。

 

「……そう、かもしれないね」

「優美子……」

 

 考え直してくれるのか。そう思った彼へ彼女は最後のとどめを言い放つ。

 

―――最初から捨ててるような女でもいいんだし。いろはみたいに、ね。

 

 そこで隼人は気付いた。自分といろはの関係が知られたという事は、優美子が自分でなければ彼を支えられないという理由を失ったという事に。そして、それを失った以上、彼女が誰へ気持ちを寄せるかは容易に想像がついた。

 

(比企谷のところへ行くんだな、優美子)

 

 それを口にする事はしない。彼にとっても八幡は恩人であり、本当の意味で友人だからだ。少なくても彼はそう思っている。なので何も言えず項垂れた隼人を見て、優美子はその場から歩き出す。だが、最後に一言だけ呟いた。

 

「さよなら、隼人」

 

 そのまま振り返る事もなく優美子は公園を後にする。残された隼人はしばらくその場に立ち尽くしていたが、不意に振動するスマホが彼を現実へ引き戻した。

 

「……もしもし」

『あ、葉山先輩ですか? 今どこにいます?』

「いろは……比企谷と一緒じゃないのか?」

 

 聞こえてきた声にどこか安堵している自分に気付き、隼人は内心で驚きつつも平静を装って電話を続ける。いろはは先程まで八幡と過ごしていたが、急な呼び出しが入って解散となった事を伝えた。その呼び出しが優美子だろうと察した隼人は、ならばといろはを自分の女にしようと考え直す。

 

(そうだ。考えてみればいろはは元々俺が好きだったし、寝取られたとも言えるな)

 

 その瞬間、隼人は自分の性器が勃起したのを理解した。これなら平気だ。そう考えて、いろはの呼び出しに応じるままその場から移動する。

 

「分かった。じゃあ、今から一時間後にららぽだな」

『はい、遅刻したらダメですからね』

「分かってるさ。食事はどうするんだい?」

『ん~……一緒に食べます?』

「いいよ。じゃ、ららぽで待ってるから」

 

 いろはの提案に隼人はそう返し、やや足早に歩き出す。自分を捨てている相手だが、優美子が八幡と接近する以上いろはも現状のままとはいかないだろう。

 なら、ここで少しでも自分へ気持ちを向けさせよう。そしてあわよくばそのまま。そう考え、何としても自分を選ばせてみせるのだと決意を新たにして彼は行く。それが例え報われぬとしても……。

 

 

 

 通話を終えたスマホを見つめ、いろはは楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「聞きましたか先輩。もう立ち直ってましたよ」

「ああ、俺程じゃないがあいつもかなりのもんだ。お前を寝取られたと仮定して興奮するって気付いたんだろ」

「うぇ~、ヘタレは本当にヘタレですね。でも、意外でした」

「ん?」

「てっきり三浦先輩を彼女にしてあげるんだと」

 

 いろはの指摘通り、俺は優美子を彼女にはしなかった。あの時囁いたのはそれ。

 

―――俺はいろはを捨てるつもりはない。それが嫌なら頑張って捨てさせろ。

 

 その時の事を思い出したからかチンポが軽く勃起する。するとすかさずいろはがそれを掴んで扱き始めた。その手コキを嬉しく思いながらいろはの頭を優しく撫でる。

 

「ホント、先輩って悪人ですよね。三浦先輩に自分を私から寝取れって言うんですもん」

「今回ので俺は満足したからな。今度は寝取られる対象になってみたかったんだよ。それに、あの寝取り属性は葉山と優美子っていう二人だから芽生えたもんだったわ」

「で、今回でヘタレは寝取られ、三浦先輩は寝取り属性を……ですか?」

「どうだろうな。ま、それでいけば俺は寝取らせだな。厳密には違うんだが、お前を葉山にあてがい快楽を得た部分はある」

「なら、私は寝取り、ですかね? ある意味三浦先輩から先輩取りましたもん。今、結構優越感ありますし」

 

 いろはの言葉に苦笑しながら首を横に振った。そう、違うのだ。いろはは俺と関係を進める事で快楽を得た訳ではない。だから違うのだといろはへ告げる。

 

 俺は思うのだ。やはり、この歪んだ関係は俺と優美子に葉山で形成され、その三人で完結したのだと。俺が優美子を寝取り、葉山へ寝取らせたように一旦終わったかに見えた関係だが、いろはが加わった事でそれは再び動き出した。今度こそ俺が優美子を寝取り、葉山は寝取られたのだから。

 

「まぁ、いいです。私も悪女ですから」

 

 そう呟き、いろははチンポを射精へと導く。その手へ放たれる温かい物を嬉しそうに眺め、いろはは俺の見ている目の前でそれを口に含み、美味しそうに飲んだ。

 

 そして、軽くシャワーを浴び身支度を整え家を出ようとした時、不意にいろはへ声を掛けた。

 

「本気になるなよ?」

 

 その声が真剣な事に気付き、いろははある事を思い付いたのかこう返してきた。

 

「先輩次第です」

 

 その小悪魔な笑みと共に告げられた言葉に呆気に取られるが、すぐに持ち直して苦笑する。分かったのだ。

 

 今、いろはは自分を捨てさせないために寝取られてやるぞと脅していると。

 

 もう寝取りは勘弁だ。そう思って頭を掻くも、いろはの気持ちが分からないでもない。なので不安を消せる事を願っていろはへ近付きキスをした。それにいろはも満足したように笑顔を浮かべ、手を振って葉山との待ち合わせへ向かった。その背を見送り、俺も優美子を迎えに行くための支度をするべく家の中へ戻る。

 

「優美子には悪いが、俺の寝取りは難しいだろうな」

 

 思い出すのは、今回の事でいろはへ強いた多くの苦労。しかも、それは未だに継続中だ。それを思えば簡単に優美子へ傾倒する事は出来ない。いくらあの夜からずっと思い続けた相手だとしてもだ。と、そこである人物を思い出す。そちらへも何か手を打たないといけない。何故ならその相手は……

 

―――海老名も意外とマジな感じだったし、どうするか……。

 

 こんな最低野郎の俺の事を本気で好きになると返した相手なのだから……。




ここまで読んで頂きありがとうございました。拙い物ですが、暇潰しにでもなったのなら幸いです。


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