インフィニット・ストラトス~没作品一覧~ (のんびり日和)
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No.1 鬼灯の冷徹part1

最近思いついた物です。

中止になった理由は以下の事の為です。



・ギャグ漫画なのに、シリアスが混じったらおかしくなると思った為
・地獄の者が現世の学校に通っていいのか?と疑問が生じた為



—ドイツ・とある倉庫—

 

落書きやゴミが散乱している部屋、その部屋の中央に一夏は拘束されていた。ロープで椅子に体ごと巻かれ動けずにいた一夏はただただ椅子に座りながらジッとしていた。

 

「……春斗の奴、大丈夫かな」

 

そう零しながら一夏は自身の弟、春斗の事を心配していた。自身の大切な弟で、たった一人の家族だと思っている一夏。春斗も一夏同様誘拐され何処かに連れていかれているのだ。だが、監禁されている此処ではなく別の場所の為か、部屋にはいなかった。

 

誘拐されどれ程時間が経っただろうか。一夏の中では2時間以上は経っている、そう考えていると突然隣の部屋から慌ただしい声が響く。

 

『クソッ‼ 向こうの拠点が襲撃にあったらしいぞ!』

 

『もうバレたのかよ! 仕方ねぇ、証拠の破棄を急げ!』

 

そう怒鳴り声が一夏のいる部屋に響き、一夏は安堵の表情を浮かべた。

 

「そうか、春斗の方には救援が間に合ったのか。……良かった」

 

そう安心した表情を浮かべていると、部屋に覆面の男が入って来た。その手には拳銃が握られており一夏は、おおよそ見当がついているのか別に慌てていなかった。

 

「アンタ達の予想は外れたみたいだな」

 

「……最初から読んでたのか? あのブリュンヒルデがもう一人の弟の方に向かうと?」

 

「あぁあ。アイツは俺より春斗を可愛がってたからな。まぁ本人(春斗)はアイツを嫌ってるがな」

 

一夏はそう言い、笑みを零す。男は拳銃のスライドを引き初弾を込める。

 

「……やるならさっさと殺せ。じきに此処にも軍が来ると思うぜ」

 

「…あぁ、そうさせてもらう」

 

そう言い男は拳銃を一夏の頭に向け構え、そして引き金が引かれた。

 

(じゃあな春斗、皆)

 

そう思ったと同時に一夏の意識は真っ暗な世界へと落ちて行った。

 

 

 

―ドイツ・とある病院―

「……うぁ、いっつつ。こ、此処は?」

 

ぼんやりする頭、そして腕や脚からくる痛みに堪えながらベッドから上体を起こす春斗。

辺りを見渡し、自身が拘束されていた部屋ではなく独特な消毒液や薬品の匂いがする場所、つまり病院だとすぐに分かった。

 

「俺、助かったのか? ッ! 兄貴。兄貴は!?」

 

春斗は自身の大切な家族であり、最も信頼できる兄はどうなったと思い部屋を見渡すも何処にも一夏の姿は無かった。春斗は慌ててベッドから降り痛む体に喝を入れつつ扉を開けようとドアノブに手を伸ばした瞬間

 

『別に軍など派遣しなくていい』

 

「……あいつの声?」

 

春斗は扉の向こうに自身の姉である千冬の声がするのが聞こえ、ドアノブに手を掛けながらも聞き耳を立てる。

 

『別にアイツが死のうが勝手だ。春斗さえ居ればそれでいい』

 

「っ!?」

 

その声に春斗の頭が真っ白になる。

 

(あの女、今なんて言った? 死のうが勝手だと? 俺だけ助けておいて、兄貴を見捨てたってのか? ……ふざけるな!)

 

春斗は千冬の発言に頭の何かが切れ、扉を勢いよく開け放った。

 

「っ! は、春斗だいじょ「てめぇ、どう言う事だ?」 な、何がだ?」

 

千冬は春斗が目が覚めた事に喜び、声を掛けようとするも春斗の怒気を含んだ問いに戸惑う。

 

「何で…。何で兄貴を助けに行かねぇんだよ! こんなところで油売ってねぇさっさと兄貴を助けに行けよ!」

 

春斗は怒声を上げながら千冬に言う。だが

 

「別にアイツが居なくてもいい。お前さえ無事であればそれでいい」

 

淡々と言った感じに千冬がそう言うと、春斗は握りしめていた拳を更に握りしめ殴り掛かろうとした瞬間、その腕を突然捕まれた。

 

「っ! 邪魔す「ダメ、はっくん」た、束さん?」

 

「た、束!? な、何故此処に居る!」

 

春斗の背後に居たのは機械のうさ耳を頭に付け、奇抜な格好をした篠ノ之束が其処にいた。

 

「はっくん、私と一緒に来て」

 

「な、何でですか?」

 

「……いっくんにお願いされたからだよ」

 

「「っ!?」」

 

束の口からいっくん、つまり一夏に頼まれたと言われ春斗と千冬は驚く。

 

「あ、兄貴は生きてるんですね! よ、よか「うんん。違うんだ」えっ? じゃ、じゃあどう言う事なんですか?」

 

春斗の問いに束は顔を俯かせる。時折顔からポタポタと水が落ちていくのが見えた。

 

「いっくんは死んだ」

 

「えっ? う、嘘…ですよね?」

 

春斗は信じられない表情を浮かべ嘘だと、質の悪い冗談だと思っていた。だが、束が首を横に振る。

 

「あ、ああぁぁああ。兄貴、あにきぃいいぃ!!!」

 

膝から崩れ落ち涙を零しながら嗚呼と叫ぶ春斗。

 

「死んで何も問題は無いだろ、あんな奴」

 

そう声が春斗の後ろから聞こえた。千冬だった。

 

「アイツは春斗なんかより劣っている。あんな愚者何て居なくなって良いんだ」

 

そう言うと春斗は再度拳に力を入れ脚に力を入れた。

 

「……てめぇの方が愚者だ」

 

「は、春斗?」

 

「兄貴は……。兄貴はてめぇなんかより優秀だ!」

 

そう叫ぶと再度拳を振り上げ千冬の頬を殴った。殴られた千冬の口から血が若干流れていた。

 

「あ、アイツが優秀なんてあり得る訳が「能ある鷹は爪を隠す。いっくんはまさにその言葉通りの人間なんだよ」ど、どう言う事だ?」

 

束の言葉に千冬は疑問符を浮かべながら問う。

 

「いっくんがテストの点数は憶えてる?」

 

「はぁ? そんなもの一々「俺は憶えてる」」

 

「じゃあ言ってみて、はっくん」

 

「小4の頃は国語60点、算数60点、社会60点、理科60点だ。小5も同じ全教科60点だ」

 

「っ!?」

 

春斗が淡々と一夏の小4の頃のテスト結果を言い、その後のテストを言っていく。どの教科も全て60点。千冬は驚きの余り目を見開いていた。

 

「そうだよ、いっくんは()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

束はそう言いスッと降ろしていた手にメスを何処からか取り出し、千冬に見えないよう隠し持つ。

 

「いっくんは小学校の頃からずっと続けていた。その理由知ってる?」

 

「そ、そんなの知るわけが無いだろ!」

 

「いっくんはね、はっくんがお前に暴力が振るわれないようにする為にやったんだよ」

 

「な、なに?」

 

「いっくんはね、大切なはっくんを守る為に勉強のやり方、上手な暗記方法をはっくんに教えていたんだ。けど、自分より低い点数を取った場合、暴力を振るわれる。そう思っていっくんはわざとはっくんより点数が低くくなるよう計算してやったんだ。…そんな事にも気付かず、いっくんを遇者と決めつけるお前の方がよっぽど愚者なんだよ!」

 

そう怒鳴ると同時に束は持っていたメスを千冬の右肩目掛け深々と刺す。

 

「がぁあぁぁぁぁ!?!!?!? た、束。な、何を!? ぎゃっぁああああ!??!!」

 

千冬の問いに返さず束は刺したメスをグリッと撹拌するよう抉る。溢れ出る血にも気にせず束はメスで刺した所を撹拌後、勢いよくメスを抜き取る。

 

「いっくんが受けた痛み。もっと受けさせてやるつもりでいたけど、これで十分だ」

 

倒れ込み、溢れ出る血を抑えようと左手で患部を抑える千冬に見下すように言う束。

 

「お前の利き腕に抉って骨や神経に傷をつけたんだから、もう刀は握れないだろうな」

 

そう言った後、春斗の方に体を向ける。

 

「さぁ、行こうはっくん」

 

「はい」

 

春斗はそう言い踵を返して歩き出す束と共に去ろうとする。

 

「い、行くんじゃない、春斗!!」

 

血で濡れた手を春斗へと向ける千冬。春斗はその姿に冷ややかな目で見下す。

 

「……くたばれ、糞野郎」

 

そう言い束と共にその場を去って行った。背後から聞こえる叫び声を無視して。

 

 

人気のない森へとやって来た春斗と束。目の前には人参型ロケットが停まっていた。

 

「さぁ乗ってはっくん」

 

そう言い手を差し出す束。春斗はずっと疑問に思っていた事を口にした。

 

「束さん、何で兄貴は俺を連れ出すよう言ったんですか?」

 

「……いっくんははっくんをただの『織斑春斗』として生きて欲しい、そう願っていたの。けどあいつの傍に居る限りそれは無い。だから将来自立できるようになったらはっくんの戸籍を消し、別の戸籍にして普通の生活を送れるようにして欲しい。そう頼まれていたの。勿論いっくんもするつもりでいた。私がいっくんにそう言った時、いっくんは―――」

 

『じゃあもし俺の身に何かあった時は、すぐにアイツを連れて行って下さい。あの女の手の届かない、何処か遠くに』

 

「いっくんとそう約束していたの。だから、いっくんの思いを無駄にしないであげて」

 

束はまた溢れ出ようとする涙を必死にこらえながらそう言うと、春斗はそうですか。と返す。目にあふれる涙を零しながら。そしてロケットに乗り込み、春斗と束は何処かに飛び立っていった。

 

 

 

 

一夏は目の前が真っ黒な世界を彷徨っていた。

 

―――何処からか声がする

 

「―――――ろ」

 

―――俺はもう死んだはずだ。なのに、何で声が?

 

「――――きろ!」

 

―――黄泉の世界にでもやって来たからなのか?

 

「おい、起きろって!」

 

―――そうハッキリと声が聞こえ、目に力を入れる。

目の前に頭に角の生えた男の子が其処に居た。

 

「……うぉおっ!?」

 

「び、びっくりしたぁ!? 大丈夫かよ、お前?」

 

そう言われ一夏はえっ?と零しながら辺りを見渡す。辺りは岩や石ころが散乱しており、明るいが何処か暗い雰囲気を漂う場所だった。

 

「えっと、あれ? 俺死んだはずなのに…」

 

「死んだ? どう言う事だよ?」

 

目の前にいた少年はそう言うと、一夏は訳を話す前に疑問が色々と頭に浮かぶ。

 

「てか、此処は一体?」

 

「此処か? 此処は()()だぞ」

 

「は?」

 

突然少年が此処は地獄と言うと一夏は目を点にしながら首を傾げる。

 

「え? 地獄? 別府にあるあれ?」

 

「いや、別府って言われても分からないんだが」

 

「その頭にある角も、着けてるの?」

 

「はぁ? いや、これは生えてるもんだぞ。てか、アンタの額にも生えてるからな」

 

そう言われ一夏はえっ?と手を額に付ける。其処には鋭い一本の角が生えていた。

 

「え? 嘘だろ? 何の冗談なんだ?」

 

そう思い角を引っ張る。だが角を引っ張ると頭も一緒に持って行かれそうになり本当に生えていると分かった。

 

「こ、これじゃあまるで鬼じゃん」

 

「いや、俺達鬼だから」

 

「……マジで?」

 

少年からの言葉に一夏は問い返すと。少年はうん。と頷き返す。

 

「ま、マジかぁあぁああぁぁぁあ!!!??!!!」

 

その日、一夏は鬼となった。




因みにこれpart3まであります。大体入学したころまでは考えていました。


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鬼灯の冷徹part2

一夏が鬼へとなって月日が経ったある日のこと。此処は地獄にある閻魔庁、つまり地獄に落ちてきた亡者達が裁判を受ける場所。

その奥にある裁判所には白の着物を着て、頭に三角の布【天冠】を身に付けた女性の亡者が裁判を受けていた。

亡者の目の前には一際図体が大きな人物、そうこの者こそ地獄を管理している閻魔大王である。

 

「判決を言い渡す! 貴様に言い渡す判決は大叫喚地獄行き‼ その腐った性根を叩き直るまで貴様が生前書いたポエムを地獄放送で垂れ流しだ!」

 

「ちょっ! そ、それだけは止めてぇ!! お願い、それだけはぁ!」

 

鬼に引きずられながら女性の亡者は叫びながら裁判所から連れ出されていった。

 

「はぁ~、全くここ最近落ちてくるのがあぁ言った女性ばっかで嫌になっちゃうよ。鬼灯君、ちょっと休憩「まだ3件しか終えてません。あと10件、それが終われば5分休憩させてあげます」ちょっと短くない!?」

 

黒を基調にしており背中には鬼灯が描かれた着物を着たその鬼は、普段鋭い目を更に鋭くさせ大王を見つめる。

 

「そんなに休憩、休憩言うのは、貴方のそのお腹周りの無駄な肉が原因でしょうが。減量させるべく、削ぎ落してあげましょうか?」

 

そう言い何処からともなく棘が大量に付いている金棒を取り出す鬼。

そう、彼が閻魔大王の第一補佐官である鬼神と噂されている鬼灯なのだ。

 

「嫌に決まってるじゃん!? そんなことしても儂が痛いだけじゃない!」

 

「だったら少しは痩せる様努力してください」

 

そう言いながら次の裁判の被告の事が書かれた巻物を手渡す。

 

~数時間後~

 

「以上、次の裁判に回せ!」

 

そう叫び、亡者を裁判所から出すと大王は、疲れたと半身を机へと俯せた。

 

「つ、疲れたぁ~」

 

「お疲れ様です、では5分休憩したら「せめて15分にして!」チッ。分かりました、では15分にします」

 

軽く舌打ちした鬼灯は巻物を片付ける。机に突っ伏していた大王は起き上がり懐から本を取り出す。しばし読んでいるとある事を思い出し机の引き出しに手を掛ける。

 

「そうだ、そうだ。この前並んでも中々買えない、ドーナツ店のドーナツがあったんだった」

 

そう言い机の引き出しを開ける。だが、其処には大王が買ったドーナツの入った紙袋は無かった。

 

「あ、あれ? 儂のドーナツは何処に? はっ! 鬼灯君、まさか君また?」

 

「はい? 申し訳ないのですが、私ではありませんよ」

 

大王は以前鬼灯が毒見と称して大王が買ってきたドーナツを全部食べた事があるのだ(本人に罪悪感等は無し)

 

「えぇ? じゃあ一体誰が儂のドーナツを食べたのさ?」

 

大王は首を傾げる。すると大王はスッと机の下付近で遊んでいる双子へと目を向けた。

双子は黒の着物をした黒髪の少女と白の着物をした白髪の少女が絵本を読んでいた。大王の視線に気付いたのか、双子は首を横に振る。この双子は鬼灯が何処かの潰れた屋敷で見つけた妖怪[座敷童]なのだ。因みに黒の着物の方が一子、白の着物の方が二子と言う名前が付けられている。

 

「私達、知らない」

 

「勝手に人の食べ物には手は付けない」

 

そう言われ大王は更に首を傾げる。

 

「じゃあ一体誰がドーナツを食べたの?」

 

そう呟くと裁判所と廊下を繋ぐ扉が開かれ、一人の鬼が現れた。

 

「閻魔大王、鬼灯様。三途の川の確認終わりました。特にこれといって問題はありませんでした」

 

「あぁ、お疲れ様です。()()さん」

 

鬼灯がそう声を掛けたのは鬼の夏輝。そして名を変える前は一夏と呼ばれていた元人間だ。

彼は鬼灯と同じ黒を基調にした着物を着ていた。少し違うとすれば裾や帯付近が白い所であった。

 

「ところで、大王。何をそんなに首を傾げておられるんですか?」

 

「うん? 実は儂のドーナツが消えちゃったんだ。一体何処に消えたんだろう」

 

そう言うと、あぁ。と夏輝が何か心当たりがあるのか声を漏らした。

 

「それでしたら自分が毒見しておきましたよ。並ばなければ味わえないと言われるほど、絶品でした」

 

淡々と言った表情で報告する夏輝に大王は、ぎゃっぁああああ!??!!と大声をあげて絶叫した。

 

「ちょっとぉ!? 何で君までも毒見と称して食べてるのさぁ‼ しかも全部!」

 

そう叫ぶ大王に夏輝はしばし考えこんだ後、顔を大王に向ける。

 

「そりゃあ、大王の為ですから」

 

「へ? 儂の為?」

 

「そうです。大王はこの地獄の管理者です。何時如何なる時も何者かが大王の命を狙っているか分かりません。だから我々下の者が大王の命を守らなければなりません」

 

「……な、夏輝君」

 

大王は命を張ってでも大王を守ると言う夏輝の言葉に感動し、目に涙を溜める。

 

 

 

 

 

「で、夏輝さん。本音は?」

 

「並ぶのが面倒くさくて、大王の体調管理と言う名目で食べました」

 

鬼灯に本音を問われ、夏輝は正直に話すと大王は本日2回目のぎゃっぁああああ!??!!を上げられた。

 

 

 

さてさて、何故夏輝事一夏が地獄で働ているか。それは彼が地獄に落ちてきた日まで遡る。

 

~一夏が地獄に落ちてきた日~

自分が鬼になっている事に驚きの声を上げた後暫し茫然としていると傍に居た茶色の着物を着た鬼が声を掛ける。

 

「な、なぁ。大丈夫か、アンタ?」

 

「……す、すいません。ちょっとまだ心の整理が出来てません」

 

そう言い暫し近くにあった岩に腰掛けながら考えを巡らせていた。

何故自分は鬼になったのか? そして本当に此処は地獄なんだろうか?と、様々は疑問が頭の中を巡っていると、遠くから誰かを呼ぶ声が響いた。

 

「おぉ~~~い、かーらーうーりー‼」

 

「ん? あ、茄子が戻ってき…って、鬼灯様!?」

 

「えっ? 鬼灯様?」

 

俯いていた一夏は顔を上げると、遠くから白髪で白い着物を着た少年の鬼が、切れ目で黒の着物を着た鬼の手を引っ張りながら連れてきたのだ。

 

「この者です、鬼灯様」

 

「おい、茄子! 鬼灯様をわざわざ連れてくる必要があるか!?」

 

「いえいえ、私が行くと言ったので問題はありませんよ、唐瓜さん」

 

茄子と呼ばれた白髪の少年を叱る茶色の着物少年、唐瓜をやんわりと宥める切れ目の鬼、鬼灯。鬼灯は顔を一夏の方へ向けそっと近づく。

 

「こんにちは。私は閻魔大王の第一補佐官を務めております、鬼灯と申します」

 

「えっと、一夏です。元人間です」

 

そう言うと、鬼灯はふむと声を漏らしジッと一夏を見つめる。

 

「…確かに若干人間の気配が残っていますね。それもごく最近と言った物です」

 

「そんな事があるんですか?」

 

「私にも分かりません。一夏さん、貴方が死んだ場所は何処ですか?」

 

「ドイツです。恐らく廃工場か廃倉庫の何処かの場所で銃で撃たれて死にました」

 

「なるほど。恐らく其処に飛んでいた鬼火、まぁ簡単に言えば人の怨念が火となって現れたものが一夏さんの魂と混ざって此処に落ちてきた際に鬼になったのではないか。そう考えられます」

 

「へぇ~、海外にも鬼火って現れるんだぁ」

 

「えぇ、奇しくもドイツの墓場で長い鬼火の行列を見たという伝承はいくつかあります。恐らくその建物近く、もしくはその下に墓場があったんでしょう。ところで一夏さん」

 

先程まで一夏が鬼になってしまった理由を解説していた鬼灯は真剣そうな表情で一夏に視線を向ける。

 

「貴方はこれからどうしますか?」

 

「え? どうするかですか?」

 

「貴方は既に鬼になってしまった。その姿では現世に戻る事は出来ません」

 

鬼灯の言葉には一夏は言葉を失うと同時に確かにと理解した。自分は既に人間ではなく鬼になってしまった。そんな者が現世を歩いていれば直ぐに捕まって解剖やら何やらされてしまう恐れがある。

 

「何処にも……俺には行く当て何て「一つご相談なんですが」はい?」

 

「私は大王の補佐官を務めているのですが、なかなか大変でしてね。まぁ大抵は大王が仕事をしないのが悪いんですが。で、私一人では対応しきれない仕事もあったりして私の秘書官を設けようかと思っているんです。そこで一夏さん、貴方私の秘書官になりませんか?」

 

突然自分の秘書官にならないかと誘われ、一夏は言葉を失い暫し茫然となる。

 

「あの、自分今鬼になったばかりでそんな仕事とか全然「大丈夫です、研修はしっかりあります。しかも給料、社会保障もしっかりしております。最初の内はバイトとして行い徐々に正社員になって貰います。住まいは獄卒用の寮があり無償です」……分かりました。お世話になります」

 

そう言い深々と頭を下げ一夏は地獄の獄卒となったのだ。その時に一夏は死んだ名前を何時までも名乗る気になれず、【夏輝】と新しい名前で新しい人生を歩み出したのだ。

 

~時間は現在に戻る~

「そんなに落ち込まないでください、代わりのドーナツ持ってきてありますから」

 

そう言い夏輝は懐から紙袋を取り出し大王に差し出す。

 

「……変な物入ってないよね?」

 

「入っていませんよ。副料理長である私に何てこと言うんですか? これ鬼灯様にあげますよ?」

 

そう言って紙袋を取り上げようとすると慌てて大王が謝る。

 

「そう言えば、夏輝さん。今からお昼休憩ですよね? 食堂は大丈夫なんですか?」

 

「はい、今日は料理長と他の皆さんが対処できるとのことなので私は今日鬼灯様の秘書官としてお仕えします」

 

夏輝が副料理長になったのは鬼灯の正式な秘書官になって暫くしてからだ。食堂の人員が足りなくなった際に一時的に夏輝が入ったのだ。その時の食堂の味は普段の数倍美味くなった。

その功績を称えられ、夏輝は副料理長に任命され臨時の際に応援に行くことになっているのだ。

 

「た、大変ですぅ~~~!?」

 

そう叫びながら裁判所に飛び込んできたのは茄子だった。血相を変えた表情で膝に手を付きながら肩で息をする茄子は鬼灯たちに報告をする。

 

「た、大変です鬼灯様、夏輝さん‼」

 

「どうしたんですか、茄子さんそんなに慌てて?」

 

「な、なんか変な格好をした生者が地獄に現れて、暴れているんですぅ!」

 

「変な格好をした生者?」

 

「と、兎に角来てくださいぃ!」

 

そう言って夏輝の手を取って走り出す。鬼灯も夏輝だけでは難しいかもしれないと思いその後を追いかける。

因みに一人残った大王は、夏輝から受け取ったドーナツを食べるが最後の一個を口にした瞬間

 

「おんぎゃぁぁぁぁぁあぁぁぁ!??!!!!?」

 

と、閻魔庁全体に響くほどの奇声を上げたとか。

 

茄子に地獄の入り口と言われている三途の川を渡った先に連れていかれる夏輝。その道中、至る所に獄卒達が頬をはらしていたり、頭にたんこぶをつくった状態で気を失っていた。

 

「あらら、まさか只の生者にやられるなんて堕落してきているんですか?」

 

「あ、いや。只の生者じゃなかったんです」

 

茄子の報告にはい?と首を傾げる夏輝。そうこうしていると暴れている音が聞こえ始め、現場へと到着した。

現場では山積みになっている獄卒たちがいた。そしてそれを山積みにしたであろう人物が其処に居た。

 

「ん? げ、まだいるのぉ? 早く束さんは帰りたいのにぃ」

 

そう言いながら振り返ったのは夏輝がよく知っている篠ノ之束であった。

 

「ありゃま、束さん。何してるんですか、こんなところで?」

 

「へ? い、い、いっくん!?」

 

また現れた鬼が一夏に似ている。最初はそう思っていたが、突然自分の名前を呼んできたため確信した。目の前にいる鬼は自分が知っている一夏だと。

 

「な、なんで此処に居るの!? だって死んでたのは束さんが確認したし、遺体だってはっくんと一緒に海が綺麗に見える岬に弔ったのに何でぇ!?」

 

「あ、約束守って下さったんですか。ありがとうございます。それと、俺はもう人ではありませんよ」

 

そう言い自分の額に生えている角に指をさす。

 

「鬼です」

 

「え? 鬼って、あの赤だとか青とかそんな肌色をしていて虎柄のパンツをはいてるあれ?」

 

「それは別の鬼です。自分は獄卒、簡単に言えば地獄の役人と言った者になったんです」

 

説明しつつ夏輝は束を落ち着かせる。そして落ち着いたところで鬼灯も到着した。

 

「夏輝さん、彼女とお知り合いだったんですか?」

 

「はい、鬼灯様。自分が生前にお世話になっていた人物です」

 

「えっと、その人と言うか、鬼は?」

 

「此方は俺の上司の鬼灯様」

 

「初めまして。閻魔大王の第一補佐官を勤めております、鬼灯と申します」

 

「篠ノ之束、それでいっくんは一夏って言う名前だよ? 夏輝って誰?」

 

「あぁ、夏輝は俺の新しい名前だよ。それで束さん、なんで死んでもいないのに地獄に居るのさ?」

 

「そうなんだぁ。じゃあなっくんって言う名前に更新ね。それで、束さんが此処に居る理由なんだけどよく分からないんだぁ」

 

そう言い口を尖らせながら、両手を肩まで上げ首を横に振る束。

 

「束さんの移動式隠れ家に飲み水を補給しようと井戸にホースを突っ込んだの。けど全然汲み上がってこないから何でだろうと思って井戸を覗き込んで運悪く落ちたの。そしたら此処に居たんだぁ」

 

束の説明に鬼灯、そして夏輝は顎に手を当て暫し考え込む。

 

「鬼灯様、もしかして…」

 

「えぇ、恐らくあれでしょう」

 

「え? え? 何々? 束さんにも教えてよなっくん」

 

「束さんが落ちた井戸はどれくらい経っている物でした?」

 

「え~と、多分500年以上は経ってると思うよ。でも何で?」

 

「井戸と言う物は古来からあの世とこの世を繋ぐ道の一つだと言われているんです。普通はそんな簡単に繋がる物じゃないんですが、かなり古い井戸は繋がったりすることがあるんです」

 

へぇ~。と束が感心する。

 

「それじゃあ夏輝さん、彼女を現世にお連れしてあげて下さい。私は穴を塞ぐ準備をしておきますから」

 

「分かりました。さ、行きま「ねぇ、なっくん」何ですか?」

 

先程までニコニコ笑顔だった束の表情が一瞬で暗くなる。

 

「穴が塞がったら……、もうなっくんとは会えないの?」

 

「……残念ですが、俺は既に地獄の者です。現世にはもう戻れません」

 

そう言うと束は更に落ち込んだ表情を浮かべる。

 

「…やっぱり、そうなんだ」

 

落ち込んでいる束に声を掛けられない夏輝は現世に連れて行こうと束を連れ歩き出そうとした瞬間

 

「待って下さい、夏輝さん」

 

鬼灯がそう声を掛け止めた。

 

「どうしたんですか、鬼灯様?」

 

「いえ、少し思いついたことがありまして」

 

そう言うと鬼灯は束の方に体を向ける。

 

「篠ノ之さん。貴女が宜しければ、地獄で働きませんか?」

 

「「はい?」」

 

突然鬼灯が束に地獄で働かないかとスカウトに二人は驚きの余り声を漏らす。

 

「と、突然どうしたんですか鬼灯様? というか、彼女は生者ですよ。流石に不味いのでは?」

 

「えぇ、確かに彼女は生者です。地獄行きが決定しておりますが」

 

「因みに刑場は?」

 

「等活地獄、つまり殺人を行った。というより手助けしてしまったと言った方が良いですか、篠ノ之さん?」

 

鬼灯の問いに束は驚き体が硬直する。

 

「な、なんで?」

 

「いえ、現世でかなりの悪行を働いた者をメモしているのですが、貴女の名前があったのを思い出しましてね」

 

そう言われ束は何処か納得がいった表情を浮かべる

 

「……やっぱ地獄なんだね。自分の罪とかすぐばれるんだ」

 

「鬼灯様、束さんが犯した罪って?」

 

「彼女は数年前、自身が開発したISを彼女の友人に渡しISの実力を世界に知らしめるため日本に向けミサイルを撃ったんです。そして撃墜後、駆け付けた戦闘機及びイージス艦を撃墜したんです。彼女がやらなかったとはいえ、それをほう助したのです。落ちるのは確実です」

 

「そう、だったんですか」

 

鬼灯が言った束の犯した罪、それはISが絶対の力を持っていると知らしめた白騎士事件の事だった。あの事件は束が一人で行った事だと世間に言われている。だが鬼灯の説明には友人に渡したと言っている、その言葉に夏輝は直ぐに誰なのか見当がつく。

 

「……鬼灯様奴は…。織斑千冬は何処の地獄に落ちる予定ですか?」

 

「まぁ確実なのは大叫喚地獄と、等活地獄でしょうね」

 

「そうですか」

 

と、返事を返すも若干怒気が含まれており、さらに若干殺気が漏れていた。鬼灯は特に問題ないが束には生前の一夏からは感じられた事が無い程のモノだった。

 

「夏輝さん、殺気が若干漏れてますよ」

 

「すいません、少しムカついてしまいまして」

 

そう言うと殺気は消え去り何事も無かった様な雰囲気へと戻って行った。

 

「では、閻魔庁に戻って篠ノ之さんの雇用書の作成を「鬼灯様ぁ~、夏輝く~ん!」ん? お香さん、どうされたんですか?」

 

閻魔庁へと戻ろうとした矢先に水色髪に着物の帯に蛇を巻いている鬼。衆合地獄の主任補佐であるお香と言う女性獄卒である。

 

「実はこれを見て欲しいのですが」

 

そう言ってお香が鬼灯の渡したのは一つの巻物だった。表紙には衆合地獄管理帳簿と書かれていた。

 

「管理帳簿ですか? 一体何が…」

 

巻物を開いた瞬間、鬼灯の顔つきが変わった。夏輝はその表情で何かを察したのか何処からともなく金棒を取り出す。巻物の中はぐちゃぐちゃな何かが書かれており、全く読めるような状態では無かった。

 

「……お香さん、申し訳ないのですが彼女を閻魔庁の応接間にお連れして貰ってもいいですか?」

 

「構いませんけど、鬼灯様は?」

 

「ちょっと夏輝さんと共に大王の元に行ってきます」

 

そう言い愛用の金棒を何処からか取り出し肩に担ぎながら歩き出した。鬼灯が歩き出すと同時に夏輝も鬼灯の一歩後ろに控えつつも金棒を担ぐ。

 

「え、なっくん何処行くの?」

 

「ん? ちょっと大王の所に行ってくるから束さんは其処に居られるお香さんと一緒に来て下さい」

 

頗るいい笑顔ではあるが何処かS気、それもドが付くほどの表情を浮かべている気がした束。

そして夏輝は鬼灯の後に付いて行き閻魔庁へと向かって行った。

 

「あらあら、裁判所がまた血の海にならなければいいのだけれど」

 

お香はそう言いながら頬に手を当てながら呟く。

束は遠ざかっていく夏輝の後姿を見つつ、さっきの夏輝の表情に何か分からないが変な気分になっていた。

 

(な、なんでだろう。さっきのなっくんのS気の顔を見たらす、すっごく興奮しちゃった。ハァハァハァ)




次で終わりです


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鬼灯の冷徹part3

これでラストです。



~日本・モノレール車内~

 

モノレールの窓から見える海に一人ため息を吐く夏輝。彼が今向かっているのはISについて学ぶ学園【IS学園】だった。何故彼がIS学園に向かっているのか。それはほんの3ヵ月ほど前まで遡る。

 

~3ヵ月前・地獄にある閻魔庁~

その日、夏輝は何時もと変わらない仕事を行っていた。

 

「鬼灯様、先日の裁判の資料纏め終わりました」

 

「ありがとうございます。では後で葉鶏頭さんにお渡ししておいてください」

 

「分かりました」

 

夏輝は鬼灯から頼まれていた資料を綺麗に纏め紙のフォルダへと仕舞い机の中へと仕舞う。

 

「おぉ~い、なっく~ん! 鬼灯様ぁ~!」

 

と大声で2人を呼びながら裁判所に入って来た束。その姿は普段のアリス服ではなく青や白を混じらせ、ウサギの刺繍が入った着物であった。

※因みに束が鬼灯の事を様付で呼んだのは、鬼灯がそんじょ其処らに居る鬼よりも力強く、変な呼び名で呼んだら鼻フックされるかもよ。と夏輝に忠告された為

 

「あぁ、束さん。どうしたんです?」

 

「実はちょっとなっくんにお願いがあって来たんだぁ」

 

「お願いですか?」

 

束のお願いに首を傾げる夏輝。

 

「うん、実ははっくんの関する事なの」

 

「春斗の? 一体何なんです?」

 

「実は……。はっくん、ISに乗れるの」

 

「……は?」

 

束の口から突然出た春斗がISに乗れると言う言葉に夏輝は首を傾げた。

 

「篠ノ之さん、確かISは女性しか乗れないのでは?」

 

「うん、確かにISは女性しか乗れないはずなんだけど、何故かはっくんISに乗れちゃったみたいで。で、今度IS学園通うことになったの」

 

「それ本当ですか? 春斗の奴、可哀想に」

 

夏輝は自身の弟が悲惨に目に合わなければいいのだが。と思っていると

 

「実は、なっくもISが乗れる可能性が出ちゃった」

 

と束が言うと、夏輝の顔から表情が消え無の顔になった。

 

「……束さん、まさかと思いますが」

 

「そのまさか」

 

「何時分かったんです?」

 

「なっくんが寝ている時にこっそりと[バチッン!!]あひん♡」

 

夏輝が寝ている時にこっそりと調べと言った束に向かって思いっきり頭をしばく夏輝。叩かれた束は痛がっているが、何処か嬉しそうな表情をコッソリと浮かべていた。

 

「まったく、何を勝手に調べているんですか」

 

「えへへへ、ついつい」

 

呆れた顔でため息を吐く夏輝。そんな中一緒に居た鬼灯はふむと暫し考え込んでいた。

 

「ん? 鬼灯様、如何なさいましたか?」

 

「いえ、少しある事を思いついた物ですから」

 

「ある事?」

 

そう首を傾げていると、大王が昼食をとり終えたのか裁判所に戻って来た。

 

「ふぅ、相変わらずシーラカンス丼は美味しかったぁ。うん? 鬼灯君達何を話し合ってるの?」

 

そう声を掛けると鬼灯が大王の方に顔を向け暫し見つめる。

 

「な、なに?」

 

「……大王、少しお話があります」

 

「ん? なんの話?」

 

「暫く夏輝さんを現世のIS学園に視察と言う事で通わせようと思っているんですが、宜しいですか?」

 

「はい?」

 

突然鬼灯が大王に夏輝を現世のIS学園に通わせたいと願い出したのだ。それには流石の夏輝も驚きの余り言葉を零してしまった。

 

「ほ、鬼灯様一体何をお考えなのですか!? 私は既に獄卒の者です。現世に通うなど不可能に近いかと思います! それに仕事はどうするのですか? 今現在の仕事が溜まりますと、鬼灯様にかかる負担が多くなります。秘書官としてはそれは見過ごせません!」

 

夏輝はそう言うと鬼灯が夏輝の方に顔を向ける。

 

「確かに私に掛かる負担は大きくなります。ですが、それは大王がしっかり仕事をしないせいでもありますからね」

 

そう言うと夏輝も納得ですと言った表情を浮かべる。大王は2人の会話に酷く嫌な予感を感じ背中に冷たい汗が流れる。

 

「それと現世に行く場合の対処法は既にあるんでしょう、篠ノ之さん」

 

「うん、なっくん用のISにちょっとしたステルス機能とか載せておいたからなっくんが鬼だと言うのは気付かれないようしてあるよ」

 

「そう言う訳です。無論視察ですので仕事になります。ここ最近の現世で蔓延っている風潮などを調査し報告書にまとめて送ってください」

 

「……行かないといけないですか?」

 

「そうですね、では上司の命令として行くよう言います」

 

鬼灯にそう言われ、夏輝は深くため息を吐く。

 

「分かりました。鬼灯様がそう指示を出されるのでしたら、秘書官である私は従わなければなりません。それで私が抜けた場合の仕事は如何しますか?」

 

「それは決まっています」

 

そう言い鬼灯はおもむろに金棒を取り出し床にドンっと置く。

 

大王(あれ)にしっかりと自分の仕事をやらせる」

 

「それしかありませんね」

 

そう言い同じく金棒を取り出す夏輝。二人は閻魔大王の方に顔を向けると大王はガタガタと震えていた。

 

「ふ、2人ともお、落ち着いてぇ」

 

「「落ち着いています、仕事をしっかりとするよう指導するだけです」」

 

そう言いながら大王の方に向かう二人。

その後裁判所から大王の悲鳴が鳴り響いたのは言うまでもなく、更に今後の大王の就労時間が大幅の伸びた。

 

~現在に戻る~

そんな事があり、夏輝はIS学園へと向かっているのだ。

モノレールが最終駅、IS学園前へと到着すると夏輝はモノレールから降り駅を後にした。そして学園へと向かって歩くと一人の年配のスーツ姿の女性が立っていた。

 

「本日転入されました、鬼島夏輝さんですか?」

 

「えぇ、私です。貴女が此処の学園長であられる」

 

「はい、轡木佳代子言います。どうかよろしくお願いしますね」

 

「此方こそ3年ほどお世話になります」

 

挨拶を終え轡木と共に学園内へと入って行く。

 

「鬼島くんの教室なんですが、1年1組になっております。もう一人の男性操縦者も1組におられます」

 

「そうですか。それは気を張詰めなくて「要らねぇって言ってるだろうがぁ‼」」

 

もうすぐ1組に到着する。そう思った矢先に突然教室内から怒声が聞こえ、夏輝は声から春斗が怒鳴ったと分かり何事かと考え込む。

 

「す、すいません。少し見てきますので夏輝君は教室前で待っててもらってもいいですか?」

 

「えぇ、構いません」

 

すいません。と轡木は言うと1組の中へと入って行く。

1組に入って行った轡木が見たのは、怯えた生徒達と教師。そして怒りを露にしているもう一人の男性操縦者、春斗と腕を組みながら見据える教師の千冬。

 

「織斑先生、一体何があったんですか?」

 

そう声を掛けると、千冬は轡木にバツが悪そうな顔を浮かべる。

 

「実はこいつに専用機を「俺はもう自分のISは持っているって報告している。なのにこの糞教師が許可も取らずに取り上げて、自分と同じ能力のISを強引に渡そうとして来た」」

 

「……織斑先生、貴女一体何をしているんですか?」

 

千冬の言葉を重ねる様に春斗が報告すると、轡木は目を細め千冬の方を睨む。

 

「……」

 

「ダンマリですか。まぁいいです。SHRが終わり次第学園長室に来るように」

 

そう言われ苦虫を噛んだように顔を歪め俯く千冬。

 

「さて、坂本くん。彼女が勝手に用意したISは此方で何とかしておきますのでご安心しておいてください」

 

「……分かりました。それと例の件はどうなったんですか?」

 

「それも問題ありません。今日来られているもう一人の男性操縦者と同室になっております」

 

「「「!?」」」

 

もう1人の男性操縦者と学園長が言うと教室内が驚きで一杯になった。

 

「それでは入ってください」

 

そう言われ教室の扉が開き一人の生徒が入って来た。

 

「「「っ!?」」」

 

「初めまして、鬼島夏輝と言います。もう一人の男性操縦者と言う事で此方でお世話になることになりました。どうぞよろしくお願いします」

 

頭を下げ挨拶をする姿に、クラスの生徒達は

 

「「「「きゃあぁあああああ!!!」」」」

 

「もう一人の男性操縦者来たぁ!」

 

「もはや私達は勝ち組じゃない?」

 

「よっしゃーー!」

 

と叫び声が上がる。するとガンッと鈍い音が教室内を響き一瞬に静寂になりその音の方に目を向ける。其処には金棒の先を床にぶつけたのか床がひび割れていた。やったのは夏輝だった。

 

「騒がしい所申し訳ありませんが、他のクラスがまだSHR中だと思います。騒ぐのでしたら休憩時間にしてください」

 

にっこりと笑っているが何処か暗い何かを見せる夏輝に生徒達は全員首を激しく縦に振った。

 

「で、では鬼島君は坂本君の隣にお座りください」

 

そう言われ夏輝は分かりました。と言い席に着く。そしてSHRは進めらた。

隣の春斗はチラチラと夏輝の方に目を向ける。

 

(兄貴に似ている。けど、兄貴は…)

 

そう、春斗の兄貴は既に死んでいる。それなのにそっくりな夏輝が現れたことに若干動揺していた。

 

「何か用ですか?」

 

「あ、いや。気を悪くしていたらごめんなさい」

 

「いえいえ。別に気にしてませんよ。それとため口で構いませんよ、同い年ですから」

 

「えっ!? 同い年なんですか?」

 

「えぇ。ですからため口で構いませんよ。あ、先に言っておきますが私の口調は元からこれ何で気にしないでください」

 

そう言うとそうか。と砕けた口調になる春斗。

 

「そうだ、ISの勉強とかやってるのか?」

 

「そうですね。渡された参考資料をササっと憶えたのである程度は分かりますよ」

 

そう言うと春斗の顔が若干固まった。

 

「あ、あの電話帳に見たいに分厚いアレを全部覚えたのか?」

 

「えぇ。早読は得意ですから」

 

「すまん、勉強教えてくれ」

 

春斗は思いっきり頭を下げお願いすると、夏輝は構いませんよ。と快く了承した。

そして時刻が放課後へとなり、それぞれ教室を退室して行く。

 

「それじゃあ寮に行くか」

 

「そうですね。すいませんが、案内してもらっても?」

 

「おう、良いぜ。同室になるんだし一緒に行こうぜ」

 

そう言われ、えぇ。と夏輝は了承して教室から出る。

 

「待て、春斗」

 

そう呼ばれると春斗は顔をしかめ、声がした方に向ける。其処には黒髪のポニーテールにした生徒が居た。夏輝はあぁ、束さんの妹の箒か。と思い出す。

 

「何だよ? さっさと帰って予習したいんだよ」

 

「べ、勉強位後で「うっせぇよ。何時も窓の景色ばっか見て授業をまともに受けてねぇ奴が言うんじゃねぇよ。てか、昨日も言っただろうが、俺に関わんなって」な、なんでそんなことを言うんだ!」

 

ウザそうな表情で言う春斗に怒り顔を浮かべる箒。

 

「決まってるだろうが。一々絡んでくるお前の事が嫌いだからに決まってるだろうが。夏輝、行こうぜ」

 

「えぇ、分かりました」

 

そう言い歩き出そうとした瞬間

 

「ふ、ふざけるなぁ!!」

 

と大声をあげながら殴り出してきた箒。春斗は難なく掴もうとしたが、その前に夏輝の手が早かった。

 

「っ!? な、何をする!」

 

「何をって。殴り掛かろうとしていたので取り押さえただけですが?」

 

淡々と言った表情で言うと、夏輝は掴んでいた手を突き放す。

 

「人の気持ちを考えず、己の主張を押し付ける様ではこの先色んなもの失いますよ」

 

そう言い夏輝は春斗に行きましょう。と促す。春斗は夏輝の手を出して箒の拳を止めた動き驚いていたが、直ぐに我に返り、おう。と返し歩き出す。

 

「…るさい。うるさい。うるいさい、うるさいぃ!!」

 

そう叫びながら今度は夏輝に殴り掛かる箒。だが、その行動を予期していたのか夏輝は慌てることなく、突き出された右拳を左手で払い、素早く接近し右肘で箒のこめかみを殴った。殴られた箒はその場で意識を失い倒れこんだ。

 

「……す、すげぇ」

 

「ふむ、ちょっと力入れ過ぎましたかね?」

 

そう言いながら落とした鞄を拾い上げる夏輝。

 

「な、なぁ今の技って…」

 

「護身術です。何かと物騒な時代ですからね」

 

そう言いながらケラケラと笑う夏輝。

 

「ところで、彼女どうしましょう?」

 

「ほっとけばいいと思うぜ。どうせ誰か起こすでしょ」

 

そう言い春斗は夏輝を連れ寮へと向かって行った。箒はその後千冬によって保健室へと連れていかれ何があったか聞かれるが、その場での記憶が飛んだのか憶えてないと答えたそうだ。

 

寮へと着いた夏輝と春斗は早速明日の授業の為に予習を行うのであった。




以上で鬼灯の冷徹とのクロスオーバーを終えます。
続きが気になる終わり方で申し訳ありません。



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オリジナル

今回はオリジナル話です。
一話のみ上げます。


IS学園。本来ならば女性しかいないクラスに一人の男性がペラリ、ペラリと本を読んでいた。

周りの生徒達は話しかけようと、同じクラスの女子生徒にヒソヒソと話し合っていた。

すると一人の緑髪の童顔の女性が入って来た。

 

「はぁ~い。今日から皆さんのクラスの副担任になりました、山田真耶と言いまう。どうか3年間宜しくお願いしますね!」

 

元気よく真耶は挨拶するも

 

「「「「……」」」」

 

誰もが反応を示さなかった。しばしの沈黙が教室を包み込んだ後、真耶はしょぼんとした表情を浮かべた。

 

「で、では端の方から自己紹介等をお願いしますぅ」

 

落ち込みながらそう伝えると、端の生徒から自己紹介が述べられていった。そして順番は男性生徒の前になった。

だが、本を読んでいる為か全く順番が来ている事に気付いていなかった。

 

「あ、あの織斑君? 織斑君!」

 

真耶がそう声を掛けると少年、織斑一夏は本から顔を上げた。

 

「はい? …あぁ、順番ですか。はいはい、ちょっと待って下さいね」

 

そう言いながら本を()()()()()()と席から立ち上がった。

 

「えぇ~、世界で初めての男性操縦者の織斑一夏です。特技は家事炊事。好きなことはお菓子作り。嫌いなものは自分は正しいと思い込んでる馬鹿と、人の行動を邪魔する糞です」

 

そう言うと前半の自己紹介に生徒達は好感を持てていたが、後半の説明にはほぼ唖然と言った表情を浮かべていた。

 

「あ、それと嫁が居るんでハニトラとかしてきたら表に歩けないくらいぐちゃぐちゃにするからやらないでください。以上」

 

最後の言葉に全員一瞬息を吸うのを忘れてしまうような感覚に陥ってしまった。それは教師でもある真耶も同様だった。

 

「すまない、山田先生。職員会議が長引いてしまい……どうした? やけに静かだな?」

 

そう言いながら教室に入って来たのは黒髪の女性教師であった。

 

「ん? あ、織斑先生。ちぃ~す」

 

「ちぃ~す、ではない! ちゃんとあいさつをせんか! それよりこの静けさは何だ? 何か言ったのか?」

 

織斑と呼ばれた女性。そうこの人物こそブリュンヒルデと言われた人物、織斑千冬なのである。

 

「別に。ただ嫁が居る俺にハニトラしたら容赦しないぞって言っただけ」

 

「……はぁ。十分言っとるではないか、この馬鹿者!」

 

呆れた様な息を吐きながら千冬は自身の弟、一夏に出席簿を墜とすも簡単に右手で防がれた。

 

「危ないじゃん」

 

「全然そう思っておらんだろう」

 

そう言いながら出席簿を持ち上げ肩に叩きながら、教壇に立つ。そして

 

「シャキッとしろ‼」

 

そう叫ぶと固まっていた生徒達、そして真耶は我に返り教壇に居る千冬に顔を向けた。

 

「よろしい。では、自己紹介の続きを行う」

 

そう言い千冬は自身の自己紹介を行い、他の生徒達の自己紹介をさせ朝のSHRを終えた。

 

SHR終了後、一夏はまた何処からともなく本を取り出すと本の続きを読み始めた。周りの生徒達は質問をしに行こうかどうか話し合っているが、自己紹介の時の言葉が頭に過り行こうとしなかった。

だが一人の女子生徒が一夏の元に近付いて行く。

 

「い、一夏」

 

「ん? あぁ、箒か。なんか用か?」

 

一度目線を向けた後また本の方に戻した一夏はそう言いながらページをめくった。

 

「その、話がある。屋上に「そんな時間ねぇから。此処で言え」……」

 

淡々と言った感じに言う一夏に箒はしかめっ面になりながら用件を伝えた。

 

「朝言っていた、その、嫁とは一体誰の事だ!」

 

そう叫ぶ箒に一夏は顔を合わせずに

 

「お前が知ってる人」

 

とだけ言った。その言葉だけで箒は誰なのか予想がついたのか、震える唇をかみしめた。

 

「な、なんであんな人を嫁と呼ぶ! あんな人とお前とでは釣り合わ「お前が決める事じゃない。本人同士が決める事だから」だが、おまえと、その釣り合うのは「あぁ、自分って言うならお門違い。てか、俺お前のこと嫌いだし」ッ!?」

 

本から目線を話さず、突き付ける様に出た言葉に箒は茫然と言った顔つきになった。

 

「…な、何故だ?」

 

「はぁ? そりゃあ決まってるじゃん。ターちゃんの夢を全く理解しようとしない奴は俺にとっては()()()()()()

 

そう答えた瞬間、箒は目の前に居る一夏が自分の知っている一夏ではなくなっている事に絶望し崩れ落ちた。

 

その後千冬たちが教室に入って来て、呆然と言った表情で崩れ落ちている箒に気付き自力では立てそうではなかった為真耶が手伝いながら席へと座らせ、授業が行われた。

 

その後授業は問題なく行われたが、皆箒の姿に見ていられず勇気を振り絞り一夏の元に向かう。

 

「あの、織斑君。ちょっといい?」

 

「ん~? 何?」

 

「篠ノ之さんの事なんだけど。その、ちょっと言い過ぎじゃないのかなと思って」

 

「あぁ、そう。…で?」

 

「だから、その、「言っとくけどアイツの過去の行動が原因で、今の状況になってるだけだから、いちいち気にしてると気が滅入るよ」ど、どう言う事?」

 

女子生徒は一夏の言葉に首を傾げ、周りの生徒達も聞き耳を立てていた。

 

「アイツは小学生の頃から剣道を習わされていたんだけど、そのやり方が余りに暴力的で他の門下生たちから嫌われていたんだ。で、何度注意しても聞き耳を持たなかった。因みにあいつに怪我された門下生は10人以上いたと思うよ。因みに俺もその被害者」

 

そう言った瞬間、一夏に話を聞きに行った生徒はそ、そうなんだ。と答え席へと戻って行った。

周りの生徒達は箒を慰めに行こうかと考えていたが、一夏の言葉に行くのを止め距離をとった。

 

そんなことがありながらも3時間目の授業が行わられた。無論教室内の空気が悪いのは千冬や真耶も感じ取っておりその原因を千冬は感じ取っていた。

だが、どうしてやる事も出来ず結局そのままと言った感じとなった。

そして3時間目の授業が終わり一夏はまた本を読もうとした瞬間

 

「ちょっとよろしくて?」

 

そう高圧的な感じで声を掛けてきたのは金髪の女性が立っていた。

一夏はそんな女子生徒に対しても一度目線を向けた後、また本に目線を向けた。

 

「何? 用件は短めに」

 

「なんですのその態度は! 私セシリア・オルコットに対する態度として全く持って失礼でしてよ!」

 

キーキー怒鳴るセシリアと名乗った生徒に一夏は興味の無さげな顔を向ける。

 

「ふぅ~ん、あっそ」

 

そう言って本にまた顔を戻し本を読み続ける一夏。その態度にセシリアは更に怒りの形相を浮かべ怒鳴ろうとした所でチャイムが鳴り、セシリアは足音を立てながら一夏の元から去って行った。

4限目が始まり千冬がチョークを持って授業を説明しようとした瞬間、何かを思い出したような顔を浮かべ生徒達の方に顔を向けた。

 

「そうだった、実はクラス代表を決めるのを忘れていた。誰かやりたいものは居らんか? 推薦でも構わんぞ」

 

そう千冬が言うと生徒達はがやがやと相談し合う中、一人どや顔を浮かべるセシリアが居た。

そして一人の生徒がおずおずと手を挙げた。

 

「えっと私、織斑君を推薦したいです」

 

「あの、私もです」

 

「わ、私も同意見です」

 

多くの生徒達は一夏を推薦する。当の本人は無関心と言った表情だった。

 

「えっと、織斑君。皆が織斑君を推薦しているんだけど…」

 

「ん? 別にどうでも。てか、織斑先生。そのクラス代表、5時までには帰れますか?」

 

「5時までにか? そりゃあ生徒達の自由時間などもある為、4時までには帰らせるよう言われている。何か問題でもあるのか?」

 

「いえ、ただ帰りが遅くなるようなら断ろうと思っていたんですが、5時までに終わるなら別に良いですよ」

 

一夏の返答に千冬は、そう言う事か。と何処か納得のいった顔を浮かべた。

 

「よろしい。では代表は「ちょっとお待ちください!」…なんだオルコット?」

 

代表が決まる。そう思ったとたんにセシリアが机を叩き立ち上がって抗議を上げた。

 

「何故私ではなく、其処の極東の猿なんぞに任されるのですか! そんな者よりもイギリスの代表候補生であるこの私、セシリア・オルコットこそが相応しいのです。そもそもこのような極東の様な島国にIS学園など作るなど、私につまらないサーカスを見ていろと言うのですか!」

 

自分勝手な発言を続けるセシリアに、周りの日本人生徒達は睨むような目線をセシリアに送る中、セシリアは先程から全く反論も何もしてこない一夏に怒りの表情を見せる。

 

「先程から黙っていないで何か言ったらどうなんですの!」

 

「…別に。ただ、()()()()()()()()()()()()()()

 

「はぁ?」

 

一夏のこの言葉にセシリアのみならず、他の生徒達も首を傾げていた。すると千冬はセシリアの背後に注視していた。そしてその違和感に気付きセシリアに声を掛けようとする前に

 

「一体何を言っていあぁぁあああぁぁ!!!????!!」

 

突然悲鳴を上げるセシリア。その姿は足は地面から離れており、頭を何かで掴まれているのか跡が出てきているが、姿が見えていなかった。

 

「あああぁぁ、頭が、頭がぁあぁぁあ!!!???!!」

 

セシリアの痛みの悲鳴は教室内に響き生徒達は皆、顔を青く染めていた。

 

「た、束それ以上は止めろ‼」

 

千冬はそう叫ぶと、突然セシリアの頭を掴んだ機械のうさ耳と奇抜なアリス服を着た女性が突如現れた。

 

「ちーちゃん。束さん言ったよねぇ? こう言う屑をいっくんの教室には入れないでってさぁ」

 

「う、上の決定だ。わ、私自身どうする事も出来ん!」

 

ハイライトの消えた目で淡々と言った口調で千冬に問う束。周りの生徒達は束の登場に驚いていた。だがその中一夏は笑みを浮かべていた。

 

「やっほ~、ターちゃん」

 

「お、いっくん。やっほ~! ちょっと待っててねぇ。今からこの屑処分するから」

 

「いぎぃいいいい、痛い痛い痛いぃ!!?!?」

 

力を更に入れられたのかセシリアは更に大きな声で泣き叫び、其処に淑女と言った表情は無かった。

 

「ターちゃん、ターちゃん。其処まででいいよ」

 

一夏はそう言いながら束を止めに入った。周りの生徒達はセシリアを助ける為だと思った。だが

 

「なんでさぁ?」

 

「万が一そいつの頭を潰した場合、そいつの血とか色々な物がターちゃんに被るかもしれないじゃん。俺そんな姿のターちゃん見たくない」

 

そう言うと、束はそっかぁ!と笑顔を浮かべ掴んでいたセシリアの頭をパッと放す。

頭を強く掴まれていたセシリアは漸く開放され、頭の痛みに悶えていると

 

「おい、屑」

 

そう束に話しかけられ、恐る恐る顔を上げるとハイライトの消えた目をした無表情の束が見下ろしていた。

 

「束さんの大事なダーリンであるいっくんにまた喧嘩売ったら、お前消すよ? 分かったぁ?」

 

殺気全開の状態で伝えられたセシリアは震える体の中、激しく首を縦に振った。

 

「さて、それじゃあいっくん束さん帰るね。今日は束さん特製のカレーだから遅くなっちゃダメだよぉ!」

 

「はぁ~~~い!」

 

先程とは打って変わって頬を染めながら超甘い空気を出しながら一夏に夕飯のメニューを伝え束は帰って行った。

クラス内はさっきまでの光景に驚き余り固まっていた。

 

「……山田先生。オルコットを医務室に運んでください」

 

「え? あっ! はい!」

 

千冬の声に我に返り真耶は速足でセシリアの元に駆け寄り医務室へと運んで行った。

 

「……はぁ、全員注目!」

 

号令に生徒達も我に返り、千冬の方に顔を向ける。

 

「クラス代表は1週間後、試合を行う。オルコットには後で私が伝える。織斑、ISは「知ってるのに聞くんすか?」あくまで確認だ。では授業を『キーンコーンカーンコーン』…此処までとする」

 

そう言って千冬は教材を持って教室から出て行った。

千冬が出て行った後、教室の生徒達は挙って一夏の元に駆け寄った。

 

「お、織斑君のお嫁さんって、まさか篠ノ之博士なの!?」

 

「あのISの生みの親がお嫁さんって本当なの?」

 

と、質問のほとんどが一夏と束の関係関連だった。

それらの質問に対して一夏はにっこり笑顔で

 

「おう、ターちゃん事束さんは俺のお嫁さんだよ。ほら、証拠写真」

 

そう言って何処かの教会で撮ったのかウエディングドレスを見に着けた束と、白のタキシードを着た一夏が写っていた。

 

「う、うそぉ!? だ、だ、だって結婚できるのは「18歳って言いたいんだろ? 残念、俺は自由国籍だからそんな法律守らなくても平気」な、なるほど」

 

「その、織斑君は篠ノ之博士の事どれくらい好きなの?」

 

「どれくらい? うぅ~ん、簡単に言えば彼女の為なら世界を敵に回すほどかな」

 

躊躇いなく言う彼の顔は素晴らしい程の笑顔だった。

 

 

 

 

~人物紹介~

・織斑一夏

束の旦那。小さい頃に束に一目惚れして子供なりにアプローチし続け、中学に上がってからも束にアプローチし続けたら、中学2年でゴールイン。

互いに愛し合っており、共に家事をし合うほど仲が良い。

束の真の夢を理解しようとしない奴は屑と思っている。

 

・篠ノ之束

一夏の嫁。一夏が小さい頃に一目惚れ。色々アプローチしてくる一夏に顔を頬けさせながら、もう少し大きくなったら自分の気持ちを伝えようと考えていた。そして中学2年の頃に思いを伝え相思相愛の甘々カップルになった。

その頃に恋人を飛び越して夫婦になった。(写真の教会は廃教会を束が一からリフォームして直した。現地では一日で変化したことから、奇跡の教会として噂されている)

一夏と家事をしたいがために、苦手な家事炊事を克服し一緒にやる事を楽しんでいる。

一夏の事を愛し過ぎているが故にヤンデレな顔付になる事があるが、一夏には向けた事が無い。(一夏自身束以外に女性に興味が無いから)



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地球防衛軍

新作一覧に並んでいた作品で、一応忘れない様にと一話だけ執筆しておいたものです。
ですが、書ける自信が無くなったので没行きとなりました。


日本・とある県の街

本来街は人々や街頭に掲げられた電子公告の声、そして自動車や電車の走る音が響き渡り常に賑やかに奏でていた。

だが、そんな喧騒は今は無い。街には人っ子一人いない。

いや、人ならざるモノだけは徘徊していた。

 

[きしゃぁぁーーーー!!]

 

大きな黒光りの体をし、大きくて鋭い顎を持ったモノ。それはまるで普段何気に私達の足元でせっせと餌を運ぶアリの様な生物だった。

そんな生物が1、2匹何て数ではなく。何十匹も居た。

生物はカサカサとビルの壁を登って行ったり、家の上に立つなどし何かを探していた。すると突然1匹が何かに気付いたのか触角を向けた。それと同時に銃声が鳴り響く。

 

「こちらクライナー隊! 侵略生物α型を発見、攻撃を開始!」

 

紅いヘルメットを被った兵士がそう叫ぶと後ろに居た緑ヘルメットの兵士達が次々に持っていたアサルトライフルで次々にα型と言った生物を撃っていく。体液をまき散らせながらα型は悲鳴のような鳴き声を上げながら死んでいく。

彼らはEDF、Earth・Defense・Forth。と言う地球防衛軍の兵士達だ。

反撃をさせまいと兵士達はα型を撃っていき、全滅へと追い込む。

そして最後の1匹が駆逐され、それぞれ周囲を警戒する。

 

「軍曹、奴で最後みたいです」

 

「そうみたいだな」

 

「はぁ~、こいつらを片付けてもまたガサガサと増えてくるんですかね?」

 

「おいおい、嫌な事思い出させるなよ」

 

軍曹と呼ばれた紅いヘルメットの兵士は、恐らくな。と返す。するとある事に気付き辺りを見渡す。

 

「おい、新入りはどうした?」

 

「えっ? さっきまで此処に【バババン!!】っ!?」

 

「銃声だ!」

 

「向こうからしたぞ!」

 

そう叫び4人は慌てて銃声が響いた方へと向かう。銃声がした方に行くとビルに挟まれた細い路地からすすり泣く声が響いていた。

 

「お、おい子供の泣き声だぞ?」

 

「けどこの街の住人って既に避難が終了してるんじゃ?」

 

「あぁ、そのはずだが…」

 

「……兎に角向かうぞ」

 

そう言い軍曹はライフルを構え路地へと進む。背後に居た部下の兵士達も警戒しつつその後に続く。

暫く歩くと同じく緑のヘルメットを被った兵士が死亡しているα型にライフルを向けながら立っていた。その背後には2人の小さな男女が居た。

 

「新入り!」

 

軍曹の声に兵士は気付き振り向く。そして2人の子供も俯いていた顔を上げた。

 

「大丈夫か、新入り?」

 

軍曹の問いに兵士はコクリと頷く。それに安堵し次にその後ろに居る子供達に顔を向けた。

 

「大丈夫か、お前達?」

 

「…う、うん」

 

少年は涙を浮かべながらも頷く。少女の方はずっと少年に抱き着きながら涙を流していた。

 

「此処の街の子供か?」

 

「う、うんん。こ、此処から遠い街」

 

「? それじゃあ何で此処に居る?」

 

「お、おじさんが…」

 

「ん?」

 

「ぼ、僕達の面倒を何時も見てくれてたおじさんが、安全な所に避難しよう。って言って、おじさんの部下って言う人が迎えに来て、それで車に乗って移動していたらさっきの化け物に襲われて、それで」

 

涙を浮かべながら説明する少年。軍曹は悲惨な目に遭ったんだなと思い、もう、いいぞ。と言って止めさせた。

 

(恐らく、そのおじさんの部下って言う奴はもう…)

 

軍曹はそう思いながら立ち上がる。すると

 

『こちら作戦本部指揮官。軍曹、聞こえるか?』

 

「こちらクライナーリーダー。どうぞ」

 

『周辺の敵は片付いたか?』

 

「はい、α型を殲滅しました。それと、民間人を保護しました」

 

『民間人? その辺の避難は既に終了しているはずだが?』

 

「はい、発見したのは別の街の子供の様で、避難中に襲われたようです」

 

そうか。と指揮官が言うと無線機から新たな声が入る。

 

『横から突然申し訳ない。EDF総司令官だ』

 

「っ!? そ、総司令官!」

 

突然の総司令官からの無線に軍曹は背筋を伸ばした。

 

「い、一体何の御用でしょうか?」

 

『ふむ、君達が保護した子供達なんだが、名前は何と言う名だ?』

 

「えっと、少々お待ちください」

 

そう言い軍曹は膝をつき少年達と同じ目線となる。

 

「少年、名前は?」

 

「お、織斑一夏。こっちが妹の真香」

 

「総司令官、少年の名前は織斑一夏。少女は少年の妹らしく名は真香と」

 

そう報告すると。司令官から安堵の様な息が無線機越しから聞こえた。

 

『……良かった。本当に良かった』

 

『総司令官、発言をお許しください』

 

指揮官がそう言うと、司令官はいいぞ。と許可する。

 

『その少年達は、司令のご子息達なのですか?』

 

『いや、私の友人の子供達だ。いざと言う時には面倒を見ておいて欲しいと頼まれていてな』

 

『…そうですか』

 

『申し訳ないが、軍曹。無線を子供達に貸してやってくれ』

 

軍曹は了解しました。と返し、無線機を子供達に扱い方を教えながら貸す。

 

「お、おじさん?」

 

『あぁ、私だよ一夏。真香ちゃんと一緒に居るんだね?』

 

「うん。けど、く、黒服のおじさん達が…ひっく。み、みんな…」

 

『……そうか。…一夏、何時までも泣いていては駄目だ』

 

「う、うん」

 

『其処に居るおじさん達も私の信頼できる部下達だ。その人と一緒に避難施設に向かうんだ。いいね?』

 

「……うん。おじさんは?」

 

『私はやらないといけない事がある。大丈夫、ちゃんと迎えに行くからね。その時はおじさんと3人で暮らそうな?』

 

「うん」

 

『よし、それじゃあ紅いヘルメットの人に無線機を替わってくれないか?』

 

そう言われ無線機を軍曹に返す一夏。

 

「替わりました」

 

『軍曹、君達に特命を言い渡す。その子達をA05地区にある避難所に連れて行ってやって欲しい。其処からさほど遠くはないが、その子達だけでは危険なため君達に頼む』

 

「了解しました。命を賭けてでもこの子達を届けます」

 

『頼んだ』

 

そう言うと総司令官との無線が切れた。

 

『よし、では軍曹。総司令官からの特命を遂行せよ。それと迎えのヘリを送るから届け次第、それに乗って駐屯所に出頭してくれ』

 

「了解しました」

 

指揮官との無線を終え、軍曹は一夏達に顔を向ける。

 

「それじゃあ避難施設までお前達を連れて行くから、俺達の言う事をしっかり聞いてくれよ」

 

「うん/……うん」

 

二人が頷いたのを確認した軍曹は立ち上がると、一夏と真香も立ち上がる。そして2人を守る様に囲みながら移動を開始した。敵と遭遇する可能性がある中、軍曹たちは周囲に目を凝らしながら警戒し数時間かけ漸く避難施設があるA05地区へと到着した。

 

「よし、此処までくればもう安心だ。此処はEDFの勢力圏内だからな」

 

そう言い少しだけ警戒を緩ませ、進むと避難所と書かれたトンネルが現れた。トンネル前には軍曹達と同じ装備をした兵士が居た。

 

「うん? お前達何処の所属だ?」

 

「元228駐屯基地所属のクライナー隊だ」

 

「お前達が、あのテレポーテーションを破壊した部隊か。それで此処に居るのは其処に居る子供達を此処にか?」

 

「あぁ。偶然街で発見してな」

 

軍曹達は総司令からの特命と言うのを伏せながら、子供達を避難施設を警備している兵士に引き渡す。

 

「確かに」

 

「それじゃあ俺達は行く」

 

「おう。異星人共に目に物を見せてやれ」

 

そう言い軍曹達は後ろ手で手を振りながら去って行った。一夏と真香はお礼を言うタイミング無くその後姿を見送るだけだった。

 

 

 

それから数ヵ月が経った。

EDFと異星人の船団【プライマー】との戦いは苛烈さを極め、多くの兵士や民間人が犠牲となり地球上の総人口はぐんぐんと減っていった。

そんなある日、避難施設で周りの人達に支えられながら生活していた一夏と真香にお客さんがやって来たと言われた。

 

「お客さんって誰ですか?」

 

「君達を助けた人達だよ」

 

そう言われ一夏と真香に若干明るくなった。施設のスタッフの案内され連れて来られたのは、EDFの数少ない補給物資を溜めておく場所で今は最後の作戦へと向かう兵士達でごった返していた。その中をかき分けながら進むと、4人程の人物達が作戦会議を開いていた。

 

「すいません、お探しの子供が見つかりました」

 

「ん? おぉ、一夏。それに真香も久しぶりだな」

 

「うん、おじさん達も久しぶり」

 

「久しぶり」

 

そう挨拶され軍曹は二人の頭を乱暴に撫でる。すると傍に居た赤い軽装甲の女性が咎める。

 

「おいおいストーム2。そんなに乱暴にしたら、その女の子の髪の毛が痛むだろうが!」

 

そう言い若干ぐちゃぐちゃになった真香の髪の毛を手くしでとかす。

 

「ごめんなさいね」

 

「うんん。このおじさん達私達の恩人だから」

 

そう言いながら女性の手くしに気持ちよさそうに受ける真香。

 

『こちら作戦司令本部。これより最終決戦を行う。各自作戦地域に向け行動を開始せよ。繰り返す、行動開始』

 

無線機からそう声が響くと、それぞれ武器を手に持ち外へと向かう。

 

「…おじさん、行くの?」

 

「あぁ。全部終わらせるためにな」

 

見るからに落ち込む一夏と真香。二人の姿に軍曹は居た堪れない気持ちになっていると、その隣を通って二人と同じ目線に片膝をつく人物が居た。

 

「……ストーム1」

 

突然2人の前に行く自分達の部隊長であるストーム1。その戦績は目まぐるしく、生存が絶望的な状況の中たった一人生き残ったりと驚異的な戦闘力を見せた為に、遊撃部隊ストームの部隊長に任命されたのだ。

ストーム1は何も言うことなく自身のショルダーパッドに付けられているワッペンを外し一夏に手渡す。

 

「お守りだ」

 

そう短く言うとストーム1は立ち上がり、外へと向かう。軍曹は一夏達の方に一度見た後その後に続き外へと出る。ワッペンを貰った一夏はジッとそれを見ていた。ワッペンには『Earth Defense Forth Storm1』と刺繍されていた。

一夏はそれを持って外へと走り出す。外へと出ると、戦場へと向かう兵士達が見えた。一夏は肺に一杯の空気を入れ、そして

 

 

 

「僕も大きくなったら、おじさんみたいな軍人になる‼ 絶対に、強くてかっこいい軍人になるぅ‼」

 

 

 

その大声が聞こえたのかストーム1は拳を高々に掲げながら歩いて行く。その後姿を目に焼き付ける一夏。

 

 

 

最後の交戦に出たEDFは突如として現れたマザーシップを撃墜。だが、その母船に乗っていたプライマーの指揮官が現れ、兵士達を次々に倒していく。そして他のマザーシップを足止めするべく市民達も武器を手に戦場へと出た。足止めをしている中、最後まで残ったストームチーム、そしてそれを束ねるリーダー、ストーム1が敵の指揮官を倒し、世界を救った



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