【ドルフロ】夜の司令室にて (なぁのいも(水上ナギ))
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キャラクター設定資料集(仮)+余談

※あくまで仮の設定資料集です。

 

 Twitterの企画にて書かせて頂いたモノをまとめた感じです。

 

 作者自身そこまで考えて無いので、深く受け止めなくて大丈夫です!

 

 この人、こんな事設定しようとしてんだなー位に思ってくださればOKです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 レン・ハイム(連・ハイム)

 

 

 ※この子に関して、過去の設定資料集も参照

 

 夜の司令室にてシリーズの主人公(?)。男性。年齢は23歳。通称『被害が減らない方の指揮官』

 

 先祖代々から逆レ被害者の血統の血筋。

 

 日本人と西洋人のハーフ。所謂日系。よく彼の瞳を夜色の瞳といってるが、正確に言うと黒ではなく濃い紺色に近い。顔立ちはアジア系とヨーロッパ系が半分ずつ混じった感じ。髪の色は黒寄りの茶色系統。取り敢えず言えることは、日本から移住した人間に、自分は日本人のハーフだ。と言っても、あんまり信じて貰えない感じの容姿をしている。

 

 父方は滅んだと言われる東の島国の出身。海洋汚染と戦禍によって、人が住むのに適さない区画となった。彼自身は生まれは大陸のどこか。滅ぼされたとされる東の島国には幼い頃に行った限りでほぼ記憶がない。

 

 中流層出身だと彼は言ってるが、本物の中流層のカントレ(後述・指揮官が癒しを求めてもいんですかの主人公のこと)から言わせてもらえば十分富裕層。何故なら、彼はアメリカにあるようなデカイ家に住んでるので。この時代のガチの中流層は集合住宅に住むのが殆どです。そんな中で持ち家があるのは流石に中流層とは言い辛い。その上、彼はお金さえあれば入れると言う大学も出ているので、なおさらである。

 

 先祖代々から絶対男の子が一人は産まれている。男の子の方は逆レされてますが絶対結婚はできている。女の子の方は逆レすることはまずない。不思議である。

 

 この一族から生まれる男には、逆レされる女の子の管轄があります。指揮官の祖父は大人しくて控えめな性格の女性から、父は気が強い女性から逆レされやすかった。

 

 結婚願望は殆ど無い。諦めているが夢はある。詳しくはスオミ編を参照。

 

 指揮官になる前の恋愛と逆レ経験は二回ほど。一度目は、14歳の時にずっと姉のように慕ってた(恋愛感情は微か)近所の年上の女性から、もう一度は17歳の時に後輩から。よくもまぁ、女性にトラウマを抱かないものだと言える。

 

 因みに二人とも、一年足らずに別れた。理由は『器が大きすぎて怖い』、『私ではあなたを愛し続ける自信がない』と、女性側から。

 

 自分より相手、な本質あり。それより、自分は二の次どころか十次位のところがあります。大人しく逆レされてるのは、相手の気持ちを優先しているから。そう言うところが、過去の別れに繋がるのである。

 

 彼は自分の幸せというのを余り追求しません。相手の幸せな姿が自分の幸せとか思う人。だから、自分が気に入った人や幸せになって欲しいと願った人の為なら、いくらでもどこもまでも身を切る。聖人とかと呼ばれるのはそのため。

 

 彼は感応力と共感力が高いです。その為、彼はグリフィンから指揮官と言うよりかは、『戦術人形や職員達の支えとなれるカウンセラー』としての役割を期待されている側面がある。

 

 なぜかと言うと、グリフィンも『理想の指揮官』を模索している最中だから。指揮能力は高くは無いですが低くもない、と言った所。

 

 そのため、彼の本質はグリフィンにとっても都合がいい。

 

 それに、グリフィンの人形や職員達は無意識に支えとなってくれる存在を求める傾向にあるので尚更。

 

 彼はカリスマ性は高くはありませんが、どんな相手であろうと隣に寄り添える人である。

 

 聖人気取りめ、逆レされろ。

 

 お酒はペースを守って飲めば酔わないタイプ。

 

 フラフラもするし、口が軽くなったりもするけれど、泥酔まではいかないタイプ。

 

 ぶっちゃけ、それが不幸だとしか言いようがない。泥酔してたら、まだ同情されるのかもしれないのに。

 

 帰省出来るほどの休日がある日は、祖父の駄菓子屋を手伝うのが殆ど。ワーカーホリックだと一部から揶揄られてるが、子供たちを相手して癒されたいと言う彼なりの思惑はある。彼のデータベースは最早フリー素材と化してるので、駄菓子屋は特定されてるし、人形もよく訪れてる(UMP9編参照)

 

 彼の持っている武器は、通常の装備に偽造した対ELID兵器。偽造の技術名は『ヨセギ』。滅んだ筈の東の島国の技術。生き残りELID殲滅を誓った日本人技術者が作った銃。彼の持つ武器の殆どが軍以外の所有を認めず個人が管理・携行を禁止と『勝手に独自設定している』偽造ELID兵器。

 

 結婚願望は枯れてるが、普通の恋愛をしたいという願望は心の奥底にある。

 

 普通に後輩と付き合ってると思ったら逆レされた。自分が慕ってる人が突如筆下ろし逆レしてきた、等々まともな恋愛を経験していない。

 

 逆レされる理由。

 

 彼が逆レされる理由は、好感度が90位あって後10あればお楽しみスチル(エ□シーン)開放的な場面で、30点位の答えを口にするもんだから、相手の好意がバグってエ□シーンに入ってる筈の状態という参照エラーが出て来て逆レされます。不憫である。

 

 

 

 

 

ディクレド・カントレ

 

 指揮官が癒しを求めていいんですか?の主人公。年齢は恐らく22歳。男性。通称『仕事が減らない方の指揮官』

 

 彼もまた、ハイムと同じように一般人であり、グリフィンにより指揮官募集の公募によって、指揮官適性検査と試験を受けて指揮官となった人物。

 

 ハイム(※夜の司令室にての主人公)と違って、集合住宅に住む本物の中流層出身。

 

 ハイムも自分で富裕という程じゃないと聞いて意気投合しいたが、所々で食い違いが出て、ハイムの環境を聞いたところ、ハイムが一軒家持ちの富裕層に近いと判明して、激昂。

 

 殴りあっていた所にハイネ(※後述・二人の同期)に殴り飛ばされて仲直りした。

 

 ハイム、ハイネとは互いに認め会う親友の仲。

 

 三人で集まれるときがあれば、移民街に集まって温泉にいったあとに朝まで飲んで、気がついたら三人仲良く旅館の布団にインしてることがよくある。

 

 趣味は色々とあるけれど、最近の趣味は入浴。候補生時代にハイムの誘いにのって温泉に行ったところドはまり。その影響は、指揮官となってから自身のバスルームに特注で浴槽を作らせる程に。

 

 家族構成は、父、母、姉、弟。彼はドイツ系の家系らしいとのこと。家族仲はそれなりに良好。

 

 性格は意地っ張りで気が強くて負けず嫌い。そんな彼は候補生時代は『模範生』と呼ばれていた。ちなみにハイムが『優等生』で、ハイネは『優秀過ぎる問題児』である。

 

 基本的に彼はガス抜きが苦手。溜めに溜め込んで爆発するタイプ。なので、候補生時代はハイムが共感力を活かして、彼のガス抜きをしていた。

 

 指揮官になってからはご覧の通り、表だって弱音が吐けないのであんな感じで発散しようとしていた。今は色んな戦術人形に癒されてるとの話。

 

 彼にはカリスマと言えるものはない。が、この人は私が見てあげないとすぐに無茶しちゃう、と言うような放っておけない魅力がある。自分に不器用な処が惹き付ける要素なのだろう。

 

 若干粗暴なところはあるが、寂しがりなので、人が嫌がることはしませんし、気遣いは出来るので、人形達にはかなり慕われているとのこと。

 

 彼は突出した能力は無いけど、バランスの良い指揮官のテストケースとしてグリフィンに密かに期待されている。が、作戦立案能力は、三人の中でも一番高い。

 

 

 

 

 

 

 

ハイネ・ジークリンデ・ミツヤ

 

 女性。ハイム、カントレの同期で、実は最近20歳になった。『よくわかるUMPシリーズの特徴講座 補講』にて、『ハイネ教官』という言葉があったが、彼女の事。あの日、偶々あの施設を訪れていた。

 

 ハイネは上二人の物語の世界を安定させるためのバランスブレイカーの為、主人公としての作品を作る予定は無し。

 

 彼女もくくり的には一般人ではあるが、ハイム、カントレと違って貧困層出身。指揮官適性検査と試験を受けてグリフィンに入った訳ではなく、クルーガーが引き連れてきたとの噂。

 

 実は元々『ハイネ』と言う名前しかなく、ファミリーネームやミドルネームは彼女には存在しなかった。

 

 父は詳しく知らない、母の記憶だけは微かにある。それも、亡くなる寸前に彼女に送った言葉が、

 

 その遺言は

 

『ハイネ、あなたは良い未来を手に入れてね』

 

 という願い。

 

 それ以降、ハイネは『未来』に執着するようになる

 

 ハイネが気づいた頃には、彼女は自分の住む貧困街を纏めていた。彼女にはその才能があった。人を惹き付けて離さない、ダイヤの原石の様なカリスマが。

 

 同時に彼女は勤勉であった。

 

 自分に足りないものをその都度理解し、破れた書物や古紙、或いは興味本意で貧民街に訪れた愚か者たちから知識を吸収した。

 

 彼女は貧困層では珍しく字の読み書きも出来た。街の支援に訪れる協会の人間から真摯に教えを授かって貰ったから。

 

 若くして一貧民街の統治者と祭り上げられるようになったハイネ。

 

 ハイネの街で略奪を行おうとする者は居なかった。略奪や闘争を働こうものなら、確実に大ダメージを負うからだ。

 

 クルーガーとの出会いは、グリフィンが彼女の街一帯の統治権を得るために視察に来たときである。

 

 あぁいう類いには手を出すなとハイネは警告していたが、仲間がクルーガー一同を襲い、金品を略奪しようとしたところ返り討ちに。

 

  ハイネが救出に向かい、護衛は倒したがクルーガーを倒す前に体力が尽きる。軍人の相手は、化け物と戦かれるハイネですら厳しかった。

 

 クルーガーにリーダーとしての責任を果たさせるために投降し、処刑するなり自由にしろと潔く身を差し出すが、クルーガーに気に入られて、引き取られる。

 

 最初、ハイネは反発していたが、『今のままでは君に未来はない』という言葉が引っ掛かり、クルーガーに乗せられる形でグリフィンに身を置く。

 

 そこで、一般的な教養を一年受けた後、カリスマ性を認められ、グリフィンの指揮官候補育成施設へと入所させられる。

 

 これが指揮官となる前までの流れ。

 

 入所してからは、ハイム、カントレらと今まで感じることがなかった友情を覚えて、深い友情を結び『お前たちを私の未来に加える!』と宣言するほどになった。

 

 ジークリンデの名前は、カントレから余りにもお転婆で男らしいので、女の子らしくしろという願いを込めて、

 

 ミツヤ(三矢)は、ハイムから『自分達はどこでも一緒だし、三人揃えばなんでも出来るよ』と言う友情を込めて。三本の矢の逸話になぞって与えられた。

 

 グリフィンの中でも最前線にいる。

 

 彼女のカリスマ性は人形すら心酔させ、他の部門のグリフィン職員すら自然と取り込んでしまった。

 

 結果、彼女は今、人形と人間の混成部隊と言う、実験部隊のテストベッドの立場にある。

 

 対人形に置いてハイネは人形の天敵とも言える野性的な直感と徹底対策を駆使するので、そのような部隊を任せられることになった。

 

 個人の戦闘能力。バランスブレイカーに設定してあるため異常。

 

 他の二人が、鉄血の下級兵相手に5.5:4.5位なのに対し、彼女はエリート機相手に7:3のレシオを叩き出した。

 

 未対策、対策、完全対策のフェーズがあり、完全対策になると処刑人、狩人相手取っても終始優勢を保ち二人の首をはね飛ばした

 

 性格は男勝りというよりか殆ど男の荒々しさそのもの。

 

 が、幽霊が苦手だという意外な弱点はある。理由は、『対策しようがないから』。

 

 幽霊や怪談をしてると、珍しく女の子言葉になる。

 

 が、露骨に脅かそうとすると殴るので注意。

 

 これから度々彼女が出てくるかも知れないですけれど、基本的に彼女の活躍の場はありません。

 

 彼女は物語の舞台を守る為の守護者であり、バランスブレイカーなので。

 

 

 

 

 

試験区画トリックスター闖入事件

 

 ハイム、カントレ、ハイネら指揮官候補生の最終技能・実戦試験の会場となった××試験区画に約二年前の作戦にて破壊した筈の鉄血人形『トリックスター』が試験地区に闖入し、監督官を殺害。

 

 続いて警備にあたった戦術人形を破壊、自らに組み込んだ。

 

 グリフィンからの救助隊が来るまで三人には堪えるように緊急の命令が下されるが、三人は協力・連携し、あるときは鉄血を引き付けた作戦を立ててを繰り返した。

 

 最終的には、ハイネがトリックスターと対峙して追い込み、ハイムが隠し持ってた対ELIDHGと徹甲榴弾で部位を破壊、カントレの案で崩落させた建物の残骸で行動不能に追い込み、怪我を追いながらも事なきを得た。

 

 トリックスターの思考・データをインプットして逃走を図ったダイナゲートも三人に確保されたことで、トリックスターの逃走を防止し、三人は表彰され、無事グリフィンの指揮官となった。

 

 

 

フリージングクライ作戦

 

 件の三人を含む、五人の優秀な指揮官が召集されて行われた大規模な鉄血駆逐作戦。

 

 上層部の一部の思惑でクルーガーが気にかけられていた三人の評価を落とし、自分達に都合がいい指揮官に融通と優遇させる目的があったと言われている。

 

 が、グリフィンを私物化しようとする上層部の思惑は叶うことなく、破竹の勢いであった三人は功績をあげ、他の二人は焦りのあまり再起不能の失態と殉職と言う末路を迎える。

 

 結果的にまた三人で頑張ることになったのだが、久方ぶりで各自能力も上がり、前のような連携は不可能と思われたが息はぴったり。

 

 ハイム、カントレの二人が指揮する人形達が、侵入者が率いる大部隊を駆逐、蹂躙。

 

 予想外の被害に焦燥を覚えた代理人がこの戦いに介入。代理人こそが真の目的であり、潜伏していたハイネ隊が代理人と対峙。代理人に『揺りかご』と言われるウィルスの注入に成功。

 

 揺りかごは、IOPと鉄血の共同子会社痕に遺されてたものをハイネがグリフィンにも秘匿しながら持ち帰り、独自に研究・開発した成果。

 

 『揺りかご』を打ち込まれた代理人は離脱、ハイムとディクレドも侵入者の破壊に成功し作戦は終了した。

 

 『揺りかご』を打ち込まれた代理人は潜伏先に戻るや否や強制シャットダウンと再起動を繰り返すようになり、代理人の指揮権で自由にできる人形達も同じ状態に陥り、鉄血は大損害を被り活動を大幅縮小。

 

 『揺りかご』とは停止命令を無限に繰り返すウィルスであり、感染者の指揮下の存在にも感染するモノ

 

 ついでに、ハイネが子会社から持ち帰った記録には、『傘』の存在とその基礎技術の記述がありそれをペルシカに公開、更には『トリックスター』のインプット技術から『傘』の侵攻を食い止める対抗技術の開発にも成功。

 

 

 

余談

 

 こんな感じで、二人の物語の世界は4章から大幅に分岐した世界となっています。

 

 なので、今はお互いに植え付けられたウィルスの侵攻を食い止めつつ、解析してる比較的平穏な状態。

 

 あの世界の二人の『傘』の侵攻は完全に停止し、更には『傘』の解析により、だんだんと侵攻された部分も補完されていっている。

 

 これが、ハイネがバランスブレイカーの理由です。あの子、優秀すぎるので……。

  

 まぁその……二次創作の世界くらいは、こういう世界でも許して欲しいです…… 。皆幸せにするにはこんな感じに分岐させるしか無いかなーって……。

 

 以上が今回の設定(仮)となります。お疲れマサでした!



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夜の司令室にて ST AR-15

静寂に包まれた夜の司令室。

 

 指揮官の指揮を補助する為のモジュールの殆どが電源を落とし、薄暗い空間にいる人物が二人。

 

 一人はこの基地を任された新米の指揮官。照明以外の電源が落ちた夜の司令室で、ひっそりとアルコール類を嗜むのが彼の趣味なのだ。

 

 そんな風に秘密の趣味を嗜んでいた彼の元に、後方支援の報告書を渡すついでに一緒にアルコールを飲まないかと誘われ、それに了承した戦術人形が居た。

 

「聞ーいーてーまーすーかー指揮官!」

 

 その相手は春先に咲く梅の花ような色合いの髪をワンサイドアップにした碧眼の戦術人形。16LAB製の替えがきかない特別製の戦術人形であり、指揮官を必要としない特殊な部隊に所属する彼女。

 

 彼女の名はSTAR-15。

 

 AR小隊の中では、隊長を務めるM4A1の事を一歩引いた立場で補佐する冷静な彼女。

 

 そんな風に冷静沈着なAR-15が何故か頬を彼女の髪の色の様に染め、指揮官の襟首を掴んで指揮官の顔を子供向けの玩具みたいにガクガクと揺らしている。

 

「き、聞いてるから離し―――ヴォエッ!」 

 

 AR-15に弱々しい声で襟首を離す様に懇願する指揮官。アルコールで弱体化パッチが入った身体に三半規管をダイレクトアタックされるのは、ドローンが故障して戦場の物陰で指揮を執った事のある指揮官でも耐えられぬ物だった。

 

 聞いてると言われて満足したのか、或いは、指揮官の頼みをやっと聞き入れる気になったのか、AR-15は指揮官の指揮官の襟首を離すと、小さく頬を膨らませながら電源の落ちたパネルの上にあるコップを手に取り、中身を一気に飲み干す。

 

「M4は優柔不断すぎる!あのままだと、必要な時に必要な判断をするのが遅れてしまう。M4は隊長としての責任感が――」

 

 コップに新たにアルコールを注ぎ、化学調味料を加えて甘く仕上げる。

 

 このご時世、本物のアルコールを窘めるのは富裕層のみで、第三次世界大戦とコーラップスで汚染された世界の中で、比較的安定した職であるPMCに務める指揮官でも易々とありつけない。

 

 なので、人間が美味しく飲めるように調整したアルコールに化学調味料を加えて、かつての世界にあった酒やカクテルの味を再現するのだ。

 

 人工甘味料をドバドバと入れるAR-15は甘めのお酒が好きな様だ。

 

 両手でコップを持って指揮官に愚痴を言いつつ、コクコクと喉をらしてアルコールを飲むAR-15。

 

 普段は見れないような可愛らしいAR-15の姿なのだが、散々揺らされグロッキーとなった指揮官は四つん這いになって口を抑えてる為、拝むことが出来ない。

 

 指揮官は興味本位でAR-15に飲酒を勧めたのだ。疑似感情モジュールを有する戦術人形が、アルコールを摂取したらどうなるか。

 

 彼女達は人間の様に飲食が出来る。それに、仕組みは詳しく知らないが摂った食事はエネルギーに変換する事も可能らしい。

 

 それを知っているからこそ湧いた興味だった。もしかして、戦術人形も酔うんじゃないかと。

 

 戦闘の時でも役立つ指揮官の突発的な発想は見事に的中。AR-15は恐らく酔った。酔って普段は見せない位に感情を露わにした。そして、指揮官は思い知った。酔ったAR-15は非常に面倒くさいと。

 

 AR-15はAR小隊の中では、隊長のM4A1を一番補佐している立場だ。それ故、彼女なりの苦悩が多いのだろう。

 

 溜めに溜め込んだ感情はアルコールの力を借りて吐き出されているのだ。指揮官に。

 

「私が持つのは民間用の銃……他の三人と違って特別な改造や改良を加えられたモノでも無いです……。だから、私は実力を示さないと……。特別じゃないから……」

 

 先程までは部隊長の愚痴で声を荒げてたと思えば、今度は自らのコンプレックスを勝手に暴露して勝手に沈む。

 

 アルコールに寄ったAR-15は非常に激情家である。

 

「うぇっぷ……全く……」

 

 吐き気を飲み込みながら立ち上がった指揮官は顔を伏せたAR-15の肩に手を置く。すると、AR-15は指揮官の事を見上げ、見つめ合う形になる。

 

(全く……仕事を忘れたいから酒を飲んでたのに……)

 

 日に日に激化していく鉄血との戦い、資材の管理、戦術人形たちの相手、カリーナからの購買の品を買えという催促。

 

 その全ての疲れを忘れる為に、一人でアルコールを楽しんでいたのに。

 

 でも――仕方ないだろう。戦術人形にも感情はある。だから、募りに募ったモノもあるだろう。

 

 部下の悩みを聞くのも上司の仕事の内だ。それに、アルコールを勧めたのは自分だからその責任はとるべきだろう。

 

 という建前でお節介な本性を包んで隠しつつ、指揮官はAR-15に労いの言葉をかける。

 

「いつもありがとうAR-15」

 

 指揮官からの感謝の言葉にAR-15の目は丸くなる。その言葉をかけてくれるとは、露にも思ってなかったと言うように。

 

「AR-15がM4を補佐してくれるから、M4も少しずつ成長できてるんだ。あの子の優柔不断さは段々と無くなっているし、迷っても最悪の判断をすることは無い。それはAR-15がM4を支えてくれているおかげだと思う」

 

「私の……おかげ……?」

 

「そうだ。いつも冷静で、M4が間違った道に進みそうになったらAR-15が手助けをしてくれる。導いてくれるから、M4は成長しているんだと思う」

 

「指揮官……」

 

「M4の成長は遅いかもしれない。でも、それでも、M4は前に進む、進み続けると信じてあげて欲しい。AR-15が背中を押してくれるから」

 

「……はい」

 

 小さな逡巡の後、AR-15は小さく口許を歪める。AR-15が浮かべた小さな笑顔、普段なら絶対に拝むことが出来ない貴重な表情。

 

 アルコールが体に巡っているせいか、それとも別の要因から指揮官の頬がかっと熱を持った。

 

 指揮官は照れくさそうに頬を掻きつつAR-15から背を向けて、AR-15に顔を見られない様にすると、宙に落書きするように人差し指を立てる。

 

「それとな、民間の銃を扱っているからって、それをコンプレックスにする事も無いと思うぞ?」

 

「それは……」

 

「民間にも出回ってるって事は、それだけ信頼性も高いって考える事も出来るだろ?いつも、M4を支えてる様に。確かにST-15はM4に対して辛辣な所はあるが、M4は君の事を嫌ってないだろ?そう言う意味でも、信頼性が高いってことだと思う」

 

「……」

 

「それに、民間人にも扱えるって事は、拡張しやすいってことなのかも知れないぞ?AR-15が他の皆より強くなれる可能性は大いにある。それにさ、扱いやすいって事は、指揮官の腕も試されるってことだ。余り、わたしにプレッシャーをかけないでくれよ」

 

 指揮官は踵を返し、再びAR-15の肩に手を置く。

 

 肩に触れる指揮官の手。今のAR-15には、先程肩に手を置かれた時よりも大きく温かく感じた。

 

「だから、もっと自信をもっていいと思う。AR-15は凄いからさ」

 

 AR-15は指揮官と再び目を合わせると――瞼を細めて微笑んだ。

 

「指揮官、酔ってるのですか?言ってる事が滅茶苦茶です」

 

「お互いさまだろ」

 

「それもそうですね。言ってる事の意味は深く理解できなかったのですけど、指揮官が私のことを励まそうと必死なのは伝わりました」

 

「アルコールの入った頭で、がんばって言葉を捻り出したんだから、もっと深く理解して欲しいんだが……」

 

「無理です。私は酔ってますから」

 

「……そうか」

 

「でも、ありがとうございます」

 

 指揮官は疲れたようにため息を付く。アルコールが入ったせいで回らない頭で必死に捻り出した言葉だったのだが、AR-15の疑似感情とAIに響いてくれたのかはよくわからない。

 

 でも、必死さは伝わった。そのおかげでAR-15から笑顔を引き出すことは出来た。

 

 彼女の中にある影を完全に晴らす事は出来なかっただろうが、これで幾分気が楽になってくれたのなら、指揮官としても幸いだ。

 

 気が楽になったのはAR-15だけでは無い。普段は一人でアルコールを嗜んでいる指揮官もだ。

 

 普段は作戦の反省をしながら一人で飲んでいたのだが、誰かと話しながらの酒の席も悪く無い。例えそれが一方的なモノであっても、誰かと話しながら飲む酒は、普段より美味に感じたから。

 

 その結果、飲んだ酒がAR-15が襟首を掴んで振り回したせいで、リバースしそうになったとしても。

 

 指揮官は腕時計を確認する。腕につけたデジタル時計は、後僅かで明日が今日になると訴えていた。

 

 明日も仕事だ。PMCに休暇と言う贅沢は殆どない。機能しなくなった政府の代わりに、民間人の安全を保証するのが彼らに与えられた仕事なのだから。

 

「おーい、そろそろお開きにす――」

 

「ところで指揮官、AR-15は拡張しやすいって言ってましたよね?」

 

「言ったな」

 

「だったら――」

 

 AR-15はアルコールの入った容器を手放しながら指揮官に飛びつき、その勢いのまま指揮官を押し倒した。

 

「AR-15の拡張性、試してみますか?」

 

「ちょ!?どういうつもりだ!」

 

「そのままの意味です!」

 

 お腹の上に乗ったAR-15をどかそうと必死に暴れる指揮官。しかし相手は戦闘のプロの戦術人形。指揮官の抵抗は完全に抑える。

 

 AR-15はワンピースの裾を両手であげる。その先にあったのは、冷静なイメージのAR-15にしては可愛らしいリボン付きのパンツが。

 

 そこまでされたら、拡張性を試すという言葉の意味を察せざるを得ない。

 

「そのままの意味じゃないだろ!」

 

「いいえ!そのままの意味です!」

 

「私とそんな事をしてどうするんだ!」

 

「好きな人が相手じゃ無かったらする訳ないでしょ!!」

 

 突然の告白に表情が固まる指揮官と、顔からの排熱が間に合わないAR-15。

 

 僅かな時の中、凍り付いた様に固まってた二人だが――

 

「拡張性が高そうだと言ったのは指揮官です。だから、責任を持って試してください」

 

「これ、そういうことをする流れだったっか……?」

 

 何処で何を間違えたのかと首をひねる指揮官と、色々な意味で吹っ切れた表情を浮べるAR-15。

 

 二人の顔のシルエットが重なったのは、数秒もしない内の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、指揮官は有休をとった。有給をとった理由はカリーナにもヘリアンにも伝えられなかったと言う。

 

 一方、AR-15は上機嫌であった。その日の活躍ぶりを目にした戦術人形たちは、彼女の戦闘能力が僅かばかりあがってたと言う。

 

 指揮官が有休をとった理由、AR-15の戦闘力が上がった理由。その理由を知るのは、当事者のみだろう。



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HK416

照明以外の電源が落ちた物寂しい司令室。

 

 バックアップ用のファイルサーバーのファンが回る音以外には、グラスに液体を注ぐ音が一つ。

 

 グラスに注がれるのはアルコール。かつての時代で言う、なんかしらの名を持つ酒の事では無く、文字通りのアルコール。

 

 酒と呼ばれるものは、裕層が嗜む者であり、PMCに所属する者であっても滅多にありつくことが出来ない逸品だ。

 

 グラスにアルコールを注いでいる最中の指揮官すらも、成人した時の祝いとして両親が注いでくれた酒がこれまでの人生で初めて味わった本物の酒であり、それ以降は口にした事が無い。

 

 アルコールの中に水を注いで濃度を薄め、更に化学調味料で味を調えて完成。

 

 これが、第三次世界とコーラプッスで汚染された世界の中では、安価で入手しやすくスタンダードなお酒だ。

 

 指揮官はグラスを手に持ち、左右に軽く振って中身を混ぜる。

 

 彼は一日の役割を終えた司令室で、無機質なファンの音をBGMにして、一人で酒を嗜み一日の疲れを飲み込むのが趣味だ。

 

 前回は、支援の報告を届けに来たAR-15に興味本位でアルコールを飲ませて、好奇心は猫をも殺すと言う古い言い伝えをその身で思い知ったばかりだ。

 

 アレ以来、AR-15がまた一緒に飲みたいと言ってきたが、言い訳したりお茶を濁したりして避けてきた。

 

AR-15が指揮官に好意を抱いていて、色々とぶっちゃけるついでに情熱的に迫ってきたのだが、彼らの関係は上司と部下である。

 

いくらプライベートな時間を共有していたからと言っても、その線引きだけははっきりとしなくては、と指揮官は肝に命じている。例えそれが、既に一夜の過ちを迎えてしまった後だとしても。

 

何より、指揮官には一人の時間が少ないのだ。人間誰しも一人になりたいときがある。そのためのこの一人酒なのだから。

 

司令室は締め切ったと、基地の皆には伝えてある。それに、本日は夜間の後方支援は命じていないから、報告に訪れる者もいない。

 

つまり、今回の一人酒は誰にも邪魔されることがないのだ。

 

「勝ったな」

 

グラスを宙に掲げ、天に勝利を捧げてから、口をつける指揮官であったがーーー緊急用の解錠コードが無いと開かない設定に弄ってあるドアが何故か勢いよく開かれた。

 

廊下からの光で逆光になってて一目で誰かはわからない。

 

唖然と口を開く指揮官の反応など気にしないとばかりに、扉を開けた主は司令室に侵入する。

 

廊下からの光が収束し、シルエットの主が露になる。シルエットの正体は、腰まである浅葱色の髪と左目の下に涙のようなタトゥーを入れた戦術人形、404小隊に同モデルが所属していることで有名なHK416が片手に一升瓶を持って入室してきた。

 

「ちょっ」

 

そこから先の言葉は何が出そうになったか、指揮官自身にもわからなかった。なんせ、突っ込みどころがありすぎる。どこから何を突っ込むのか自分でも予想がつかない。

 

そんな指揮官のリアクションなど気にしないとばかりにHK416は、後ろ手で司令室の扉の認証機に手を翳す。認証のパネルは赤く変色し、デカデカとLOCKの文字が表示されていた。

 

「えぇ……」

 

一瞬のうちに色々なことが起こりすぎて、困惑のあまり情けない声をあげてしまう。

 

HK416は電源の落ちたパネルの上に極東の文字で大口今なんとか、と書かれたラベルが貼られた一升瓶を力強く置くと、固まる指揮官にずいっと顔を寄せる。鼻先が触れあってしまうくらいの距離に。

 

「指揮官」

 

「お、おう」

 

一瞬のうちに色々と起こりすぎて、司令官はリアクションを放棄して、ただただ狼狽える。

 

「飲みましょう」

 

ーー拒否権は必要ないですよね?

どうやってやったのか知らないが、部屋が独自権限でロックされたのだから、拒否権もなにも、これでは助けを中にいれることすら出来はしない。

強引すぎる416の提案に小さく首を縦に振る。指揮官は本能的に416の提案に従った方が身のためだと判断したのだ。

 

指揮官愛しの一人タイムは僅か十分で終わった瞬間だった。

 

指揮官からの同意が得られた416は指揮官の持ってたグラスをぶんどると、中身を一気に飲み干した。

 

「指揮官は甘い方が好きなのかしら?」

 

「あぁ、いや、別になんでも飲めるぞ?」

 

その証拠に、テーブル代わりのパネルに置いてあるのは甘味だけでなく、酸味、辛味、苦味の化学調味料が置いてある。レシピ通りに作るのではなく、適当に組み合わせたりして、新しいカクテルモドキを作るのが一人で飲んでるときの楽しみの一つだから。甘くしたのは、たまたま甘いモノが飲みたかったからに過ぎない。

 

「そう。ならよかった。指揮官の先祖は極東に居たと聞いたから、その辺りにあるお酒を持ってきたのよ」

 

誇らしげに鼻を鳴らしながら、一升瓶を両手に持って指揮官にラベルを見せつける。

 

「確かに私の祖父位までがニッポン?ってところに住んでたらしいけど、なんで416が知ってんだ?」

「私は完璧よ」

 

再びラベルを見せつけて自慢げな顔をする416。イッキ飲みしたせいでもうアルコールが回ったのだろうか。

 

「いやだからどこから情報を参照ーー」

「私は完璧よ!」

 

若干語気を強めがら指揮官の眼を覆うように一升瓶を突きつける。彼の視界には一升瓶の中に満たされた液体によって歪められた416の姿が一杯に映る。

 

彼は悟った。酔ってるかどうかの判断はしかねるが、確実に教えてくれる気は無いのだと。

 

守秘されるべき情報が漏れてることを懸念して質問したのだが、このまま癇癪を起こされてはたまったモノじゃないので、もう聞く気は湧かなかった。

 

「じゃあ、その酒は?」

「この前の検閲任務のときに押収した密造酒よ」

「……私、押収品の扱いに関しては詳しく無いんだけど、持ってきて平気なの?」

「記録は偽造して置いたから大丈夫」

「そう言うこと、最高責任者に言っちゃう!?」

 

目の前の盗人発言で、頭痛がしてきたので指揮官は額に手を添える。

 

機械の誤操作を起こさせないように必要がないときに司令室にいるのは少々にグレーな行為なのだが、目の前の416がやったことは完全にクロは行為。流石に盗品(?)を飲むわけにはいかない。

 

「私は完璧よ」

 

が、416はまともに取り合おうとしない。不利な状況になると『私は完璧よbot』と化して受け答えをしてくれないからだ。

 

指揮官は両手で頭を抱えてしゃがみこむ。部屋は指揮官の持つ権限とは別の権限でロックされて脱出不可能。目の前には押収品を私物化した盗人。しかも、断るのこの字の選択肢すら与えてくれない極悪仕様。

 

一口も飲酒してないのに頭が痛くなるのも納得である。

 

「指揮官、大丈夫ですか?」

「誰のせいで……」

「私は完璧よ」

 

私は完璧よbotさんは返答に困ったら私は完璧よしか返してくれない。会話のドッヂボールどころか会話のサンドバッグである。指揮官は長いため息をついて、ヨロヨロと立ち上がった。

 

「……飲むか」

「そう。それでいいのよ」

 

なるようになれと言わんばかりに疲れたように小さく呟く指揮官に、416は小さく頬を綻ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一つのグラスに入った極東風の密造酒を二人で飲む。

 

飲みに来る気満々だったのに何故自分のグラスを持ってこなかったのかと、416に聞いた指揮官であったが、「私は完璧よ」と返してきたので諦めた。本日の指揮官は諦めてばかりである。だらしない。

 

二人は何かを語ることもなく、二人は淡々とグラスに入ったお酒を飲む。お酒自体は中々に美味。指揮官がいつも飲む時のような、化学調味料だらけのお酒よりも断然。恐らく天然素材で作られた酒なのだろう。密造なんかせずに、きっちり許可を貰って作れば良いのにと指揮官は思った。この味なら、固定客もそれなりにいるだろうに。

 

そんなことを飲み始めた当初は416と語ってたのだが、今は話題が尽きて、サーバーのファンが回る音だけが空しく響いてる。

 

指揮官が飲んだ後に中身が無くなったらグラスを持つ416に指揮官が酒をつぎ、416が飲んだ後に無くなったらグラスを指揮官に持たせて416が注ぐ。

 

気まずい。指揮官としては非常に気まずい。元々、アルコールを飲むときは誰にも邪魔されずひっそりと飲みたいのが指揮官だ。それなのに突如として一人酒に乱入され、どうして気まずい雰囲気を味あわないと行けないのか。

 

416の顔色は変わらない。相変わらず、雲のように真っ白な顔をしている。対する指揮官は、酔い自体は始まってるが、酒に飲まれる程ではない。ペースを守って飲めば、酷く酔っぱらうことはない。

 

416はマナー講師か何かの様に、お酒を飲む指揮官の事を真顔で黙って見つめてくるので、気まずさを通り越し、居心地の悪さすら若干感じ始めた頃。

 

「指揮官」

突如416が語りかける。

 

「なんだ?」

「指揮官にとって私はなんなのかしら?」

 

なんで突然面倒くさい恋人みたいなことを言ってくるのか。そんなことを思ったが、416は自分の価値を証明したがるところがある。それが、彼女のAIに基本に組み込まれたモノなのか、大元となった404のHK416の影響なのか、或いは他の要因があるのかわからない。原因はわからないが、彼女にとって深刻な疑問であるのは、推して察するべしだろう。

 

いつから一人飲みの時間は、他人のお悩み相談の時間になったのだろうか。でも、悩みがあるならそれを聞くのも上司の役目だしーーーー

 

二秒程考えた指揮官は、取り敢えず416の質問に答えることにした。

 

「大切な存在だよ」

 

「っ!」

 

グラスを傾ける416の手が止まった。その言葉に間違えではないし、本心からの言葉なので、バッサリ切られたら指揮官は泣いていた。

 

「どういう意味で?」

 

「戦力的にも大事だし、何よりもこの基地に欠かせないメンバーだ。アサルトライフルの練度が低いこの基地の中で比較的練度が高いし、冷静な416がいると作戦行動時の修正もしやすい。意図をよく理解してくれるからな頼りになる」

 

「頼りになる……頼りになる……ふふふ」

 

指揮官からの誉め言葉を何度も何度も繰り返す416。彼女の口角は大きく持ち上がっていて見るからにニヤニヤとしてることがわかる。

 

「奴らよりも?」

 

奴らと言うのはAR小隊の四人のことだ。ここはお世辞でも416の方が優れてると言うべきなのかも知れないが、416の性格だと、あの四人に言って対抗心を煽る可能性がある。その矛先が一番向くM16A1は受け流すだろうが、STAR-15が受け流してくれないと言う確信が指揮官にはあった。あまり言いたくないが、同じような褒め言葉を彼女にも使ってしまったし、何よりも向こうは一夜の過ち(故意犯)をしてしまった関係なのもあり、煽り返して大惨事になる可能性がある。

 

「……同じくらいと言う回答で勘弁してくれるか?」

 

「同じくらい……ね。ふふふ。まぁ、いいわ。指揮官は実直だから評価は当てになるし。私の完璧さは指揮官にしっかりと理解されてるみたいだから嬉しいわ」

 

 そう言うと416は指揮官をパネルの上に座らせる様に促す。

 

 彼女の意図がわからず、首を傾げながら大人しく誘導に従うと、416は隣に座り指揮官の肩に頭を預けるように寄せる。

 

 服越しに伝わる416の顔の感触は柔らかく、人間のそれと遜色が無い様に思える。

 

「指揮官」

 

「なんだ?」

 

「もう少しだけ私の完璧な所を言ってくれるかしら?」

 

 416の声色はいつもの様な内なる激しさと一種の暗い欲望を感じさせるそれでは無く、なんかしらで一番をとった子供がおねだるかのよう。

 

 これが彼女の酔い方なのだろう。普段は完璧主義で自分を高める彼女が、他人からの称賛を自分から強く求める。行動と成果によって人から評価をされたい彼女が、遠まわしに褒めて欲しいと求める。簡単に言ってしまえば、他人に強く甘えるのが、彼女の酔い方なのだろう。

 

 寄せていた顔を上げ指揮官を見上げながら、指揮官の膝に置かれた彼の手に自分の手を重ねる。重ねられた彼女の手が握ったり話したりを繰り返しているのが、何とも子供っぽい。

 

「射撃が正確なところ」

 

「それから?」

 

「冷静沈着なところ」

 

「それから?」

 

「部隊に配属されてると、その部隊の空気が引き締まるところ」

 

「それから?」

 

「特殊な装備を積んでるから一気に突破口を開いてくれるところ」

 

「それから?」

 

「まだか!?えっとその……かわいい顔をしてるところ?」

 

「うふっ、ふふふふふ……」

 

 散々褒められて満足したのか、416は口許に手を当ててどこか怪しげな笑い声をあげる。

 

 その間にもまたと促された場合を想定して、指揮官は次の褒め言葉を考えていたのだが、その必要は無いようだ。

 

「流石私の指揮官。私の完璧さを全て言い当ててくれたわ」

 

 目尻が緩み、口角をあげて笑みを浮かべる416。それは満面の笑みとは言えないかも知れないが、指揮官としては彼女らしい笑みだと言う感想を抱いた。

 

 指揮官はチラリと腕時計を見る。時刻はもう、明日を迎える寸前。

 

 PMCに休暇は無い。指揮官はこの基地において特に重要な人材であるのだから睡眠時間はしっかりと取らないといけないのだ。

 

 416も満足したようだし、何とか言いくるめてロックを解除してお開きにして貰おう。

 

 そう思い至った指揮官はロックを解除して貰おうと口を開こうとしたが、

 

「だけど、一つだけ足りない」

 

 その前に、416が指揮官の身体を押し倒し、パネルの上に磔けにした。

 

「私はこのボディも完璧なのよ?それを今からしっかりとわからせてあげる」

 

 つい数日前の出来事がリフレインする指揮官。これはあの時、AR-15の時のそれと同じ流れだと。

 

「ちょっ!?セクハラに当たるかもしれないから言わなかっただけだって――」

 

「戦術人形にセクハラも何もないわ。指揮官は気にしなくていいのよ」

 

 身体について言わなかったこと理由を伝えるが、416はバッサリと切る。

 

「私が完璧になるためには、指揮官にも私のことを完璧に知って貰う必要がある。これは必要なことなのよ」

 

「嘘つけ!なんで舌なめずりしてんだ!」

 

「私は完璧よ」

 

「またか!!」

 

 指揮官はジタバタと暴れるが、私は完璧よbotと化した416が指揮官の肩を抑えつけている為、まともな抵抗など出来やしない。今の指揮官は疑似餌に騙されて針にかかった魚のである。

 

 一通り抵抗を試して無駄な体力消費で終った指揮官は肩で息をする。

 

「私は完璧よ。指揮官の望む刺激を私が全部与えてあげる」

 

「もうちょっと穏健なやり方で完璧さを伝えようと思わなかったのか……?」

 

「大丈夫よ。私は完璧だから」

 

「それで無茶を通そうとするの止めない?」

 

 これからする事への期待か、或いは一気に酔いが回ったからかはわからない。416は赤く色づいた顔を指揮官に接近させると、いつもより血色のいい唇を指揮官へと捧げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、指揮官は酷くやつれた様子で指揮を執っていた。

 

 416は丸三日は『私は完璧よ』といつもより弾んだ声で口癖の様に言っていた。

 

 基地の窓辺から灰色の空を眺めてた指揮官が言ってた。

 

「完璧になるってすっごく大変なことなんだな」

 

 と。

 

 指揮官がやつれていた理由、416の機嫌が目に見えてよかった理由。それは当事者のみが知ることだろう。

 



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SV-98

※注意

 

 作者はドルフロを始めて二週間なので、世界観、キャラ把握が余りで来てません。やっと5章を終わらせて実家を周回しているクソ雑魚司令部の指揮官です。

 

 ネタバレをしない程度に世界観を調べましたが、齟齬がある可能性が高いです。

 

 無理だと判断したら、即刻読むのを止めて、スオミの彫刻品の様なケツを崇める作業に戻ってください。

 

 

 

 主な一日の業務が終わり、夜間の基地警備だけを行っているグリフィンの基地。

 

 監視塔や警備に必要な施設以外の電源が落とされ、すっかりと節電モードとなった基地内。

 

 一日の役目を終え、サーバー以外はスリープモードとなるべき司令室の灯りをつけ、密かな楽しみに興じる影が二つ。

 

「一日ご苦労様。今日もありがとうな」

 

 一つは黒く気泡を浮かばせる液体に満たされたグラスを掲げる指揮官。着任して数か月もしないうちに、激動のPMC生活に揉まれる若人。

 

「はい。今日も頑張りましたね指揮官」

 

 赤紫の液体に満たされたグラスを両手に持った戦術人形、黄金色の髪に紅色の瞳のライフル、SV-98。

 

 二人はグラスを近づけ、コツンと触れさせる。冷却用のファンだけが回る執務室に高音が響き渡った。

 

 音が聞こえてるうちに、どちらからともなくグラスに口をつけ喉を鳴らして液体を飲む。指揮官の口の中をシュワシュワと音を立てながら気泡を叩き、爽快感を与える。

 

「ぷはー!うまいなぁ……」

 

 今回のアルコールは、いつも指揮官がやるような化学調味料で味付けしただけの無色透明なそれではない。SV-98が持ってきてくれたジュースで割ったものだ。指揮官が割り材に使ったのは、第三次世界大戦が起こる前の世界で愛されていた赤いラベルの黒いジュース――を再現した物。かつてそのジュースを作った会社が、未だに残っているかは指揮官にもわかっていない。

 

 一方、SV-98が割り材に使用したのはぶどうジュース。勿論、天然の素材では無く化学調味料で再現した飲料であるのだが。と言っても、司令官が生まれる前から、この手のジュースは化学調味料で作られたと聞いていたが、果たしてどうなのだろうか。

 

「喜んでくれてなによりです!」

 

 両手に持ったグラスを胸元に持ってくとニコリと微笑む。

 

「にしても、こんなに一杯のジュース一体どこで買ったんだ?」

 

 電源の落ちたパネルの上には、二人が割り材に使用した物も含めて七本もある。その全てが500mlサイズと言った所。二人だけで一日で使い切るには多すぎる。

 

「カリーナさんのところで安売りしてましたよ?何でも、最近は指揮官が買って下さらないから余ってるって言ってました」

 

「あぁ……成程……。だからと言って、在庫が余り余る位の量を俺に買わせようとしたのかカリーナは……」

 

 ジュースを流し見して苦笑を滲ませつつ、指揮官は泣く泣く割引を決めた後方幕僚の姿を想像する。最近は、忙しく飲む暇が無いのと、一人飲みをしてるとよくない事が起こる予感しか起こらなかったので控えていたのだ。その結果、カリーナが泣く羽目になった様だが、指揮官の知ったところでは無い。売れ筋を予測できなかったカリーナが悪い。

 

 そんな訳で暫し飲酒を控えていた指揮官なのであるが、本日は解禁。その理由もいつもの様に一人で飲もうとしたわけでは無く、SV-98に誘われたからである。

 

 戦術人形と二回程お酒の席を共にしたときは、その二人から一夜の過ちを犯され、若干不信感を抱いて居たのだが、最古参の部類であるSV-98は流石にそんな事をしてこないだろうと、快諾したのだ。

 

 指揮官は必ずしも一人で飲みたいと言う訳では無い。誘われたのなら普通に乗る。一人の気分の時に大勢に乱入されるのが嫌なだけなのだ。

 

「美味しいですね……。まだまだありますから、沢山飲んでくださいね」

 

「ありがとう。次はSV-98が何で割るかを選んでくれないか?」

 

「じゃあ、私が割る物は指揮官が選んで下さいね」

 

 指揮官が空になったグラスにアルコールを注ぐと、SV-98はジュースを手に取って割る。SV-98が無くなったら、その逆。

 

 飲み進めて立っている事に疲れた二人は、ジュースを退かしてスペースを確保すると、パネルの上に座り込む。

 

 古くからの仲の二人らしく、何気ない会話に花を咲かせながら――

 

 

 

 

 

 

 割り材として使っていたジュースを四本開けた頃、SV-98は指揮官の肩に自らの頭を預けてきた。

 

 大分酔いも回ったのだろうか、排熱が間に合っていないらしく肩越しに伝わる彼女の体温は高く、まるでカイロの様。酒で冷えた指揮官の身体には染み入る温かさだった。

 

「それにしてもよかったです」

 

「何がだ?」

 

「私のこと、ちゃんと覚えていてくださって」

 

「忘れる筈が無いだろ。SV-98には何度も世話になってるしな」

 

「ふふっ、そう言ってくださると嬉しいです」

 

 SV-98は身体を更に指揮官に寄せて倒れ込む。指揮官の体制は彼女が倒れてしまわない様に、自然と抱きしめて支えるような形になる。

 

「指揮官、覚えてますか?昔のここの事を」

 

「昔も何も、ほんの数か月前の事だろ」

 

「そうですけど……激動の日々なので何だか昔の様に感じて」

 

「確かになぁ……」

 

「懐かしく感じますよね。私やガリル、M1895やM9、スぺくトラにMP40達と一緒に指揮官から作戦の詳細を聞いてた時が――」

 

 SV-98が口に出したのは、この基地が初期の頃からいるメンバー。昔から世話になっている大事な存在達。彼女達無くしては、この基地は成り立たなかったと言っても過言では無いくらいに。

 

「最近は、後方支援に回されるのが不満なのか?」

 

 そのメンバーたちは今は後方支援に回っているのが殆どだ。ある時、グリフィンの本部から莫大な予算をまわされ、戦力を拡充していく内に、古くから世話になった高練度の戦術人形たちは支援へと回され、新しく入って来た戦術人形たちは積極的に現地に赴かせて最適化させる。出来るだけ戦力の偏りを無くし、いついかなる時でも対応できるようにするのが、指揮官の方針であるから。

 

「そうじゃないですけど……。いえ、そうかも知れませんね……。私もまだまだ戦えますから」

 

「わかってる。それでも――」

 

「私もわかってますよ。指揮官の方針はもっともです。だから、私達も従います」

 

 新入りの指導役として、古参の戦術人形を配置したりもするが、昔と比べれば古参の前線配置率も圧倒的に減っている。その理由について理解はしているつもりでも、幾らか不満はあったのだろう。

 

「私達は戦術人形。HK416やMP5の様な上昇志向を基本的に持ってます。人間や色んな者達に自分が優秀であると認められたい、と」

 

「ああ……。深く理解している」

 

 STAR-15すら自分の銃の性能が特別で無い事を気にしていた。本当にどの戦術人形も持っている物なのだろう。人間達と同じように。

 

 指揮官のライバルは他所の基地の指揮官である。多くの戦果を挙げて上に認められたいと思っている。

 

 それは、疑似的なモノとは言え感情を持つ彼女達とてなんら変わりないのだ。

 

「戦地に赴けるのはやっぱり特別なんです。だから、はしたないかもしれないですけど、新人たちにちょっと嫉妬してましたし、指揮官は私達の古参の事を忘れちゃったのかなってちょっと悲しくもありました」

 

「すまなかった」

 

 小さな声で素直に謝罪をする指揮官。そんなに思い詰める様になるまで、SV-98達の活躍の機会を奪ってしまったのでは無いかと。

 

 そんなことは無いと否定する様にSV-98は指揮官の腕の中で頭を振る。

 

「謝らないでください。指揮官が私を、私達の事を忘れて無い事はよくわかりましたから」

 

 顔を上げたSV-98は笑みを浮かべる。昔と変わらないような、朗らかな微笑みを。でも、その中には一抹の寂しさが混じっている。

 

 彼女、彼女達古参の自信たっぷりの言葉と笑顔には何度も勇気づけられてきた。だから、許されるだろう。そのお礼と最近のお詫びして、少し位先の事を伝えても。

 

「最近、新人の練度も最適化も進んできた。だから、新しい任務をいい加減請け負ってみようと思ってたんだ」

 

「それって――」

 

「今のところ、新人と古参の混成で考えてる。なぁに、昔より配置できる部隊を増やしても資源には余裕がある。古参達の殆どを配置できるさ。未だにRFの配備数は少ないからな、SV-98にはまた腕を振るって貰いたい。また忙しくなるぞぉ~」

 

 クツクツと喉を鳴らして楽しげに笑い声をあげる指揮官。彼の思わしげで特徴的な笑い方も、昔と変わらぬそれであった。

 

 その笑い声につられる様にSV-98も笑う。心の底から安堵し、喜びを伝えるように。

 

「はい!お任せください!」

 

 彼女の誠実な言葉はいつだって頼もしい。記憶の奥底に沈もうとしていた彼女の誠実さはまた指揮官に引き出されたのだ。

 

 SV-98は支えて貰っていた体を起こし、指揮官と向き合う形になる。

 

「頼んだぞ」

 

 SV-98の肩に手を置いて語り掛ける指揮官。その動作は、重要な作戦を託した戦術人形に必ず贈っていたもの。

 

「貴方様の期待に必ず応えてみせます!」

 

 SV-98は拳をぎゅっと握りしめて彼からの信頼を受け止める。

 

 その光景は、この基地の初期の頃の様で、また二人は笑いあった。

 

 散々笑いあって、少しずつ収まった頃、指揮官はちらりと腕時計を見る。時刻は月が頂点へと達する頃。割り材で割って飲んだとはいえ、二人でそれなりに飲んだので、そろそろお開きでいいだろう。

 

 SV-98も悩みは聞けた。新人の育成ももちろん大事だが、そちらを優先しすぎると古参から頼りにされてないのでは?と言うような不満が積もってしまうことを理解し反省できた。

 

 前までの飲みも、今回の飲みも何だかんだ為になる物だった。それを糧に指揮官は明日へと向かって行く。

 

「じゃあ、そろそろ――」

 

 ――お開きに

 

 そう言いながら指揮官の手は空になった容器を片付けようとした所で、SV-98にその手を掴まれた。

 

「ところでですけど、指揮官」

 

「うん?」

 

「私の苦手だった接近戦、どこまで得意になったか気になりませんか?」

 

 今から組手でもするのかと驚愕に目を開いた指揮官を、SV-98が押し倒す。

 

 その瞬間、指揮官の脳細胞が活性化し、一つの答えへと導いた。

 

 この流れは――

 

「この接近戦は違うだろ!」

 

「いーえ、これも接近戦です!」

 

 SV-98は話を聞かない。片手でコートのボタンを外して、スポーツブラに包まれた豊かな胸部を露わにする。

 

 指揮官は完全に理解した。SV-98はヤル気なのだと。古参の戦術人形はそう言う事をしないと、心の何処かで信じていたのに。

 

「どうしてこんな事に」

 

「指揮官はスナイパーのハートをとっくの昔に撃ち抜いたんですから、その責任はとってくださいね」

 

 楽しげに鼻を鳴らしながら、顔を接近させるSV-98。

 

 指揮官は、スナイパーはスナイパーの潜む場所を爆撃してでも始末しろと聞いたっけ、と心の中で思いながらも、SV-98の柔らかさを享受した。

 

 

 

 

 翌日、指揮官は頭を抑えながら指揮をとっていた。話しによると悪酔いしたらしい。

 

 SV-98は暫く絶好調であった。それは、後日の新たな任務で敵の頭に何回も命中させた位に。

 

 指揮官が酷い頭痛に悩まされた理由。SV-98の機嫌が良かった理由。それは当事者のみが知ることだろう。



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スオミ

 これで一旦区切りです。

 戦術人形のリクエストがあればメッセージまで。尚、採用率は低いので、宝くじに出す位の気分でお願いします。


 夜間警備だけが行われるグリフィン基地の一つ。

 

 前線に出た戦術人形たちをサポートする為のモニターや機器の殆どがスリープモードとなって役割を待つ状態となっている司令室。そんなもの寂しい司令室に指揮官は居た。

 

 一日の役割を終えた夜に指揮官が司令室に居る時は大抵が一人でアルコールに浸りたいと思っている時だ。その証拠に、電源の落ちたテーブルの様な大きなパネルに飾り気のない透明なグラスと飲用アルコールと水が入ったボトル、それと味付けの為の化学調味料が置いてある。

 

 なのに指揮官からは飲む気配は無い。それどころか、グラスには何も注がれておらず、グラスも二つあると言う始末。

 

 グラスを爪で弾き、空のグラスで跳ねまわって外に飛び出す音に耳を傾けながら、指揮官は腕時計を見る。

 

 時刻は22時。食堂どころか売店も閉まっている時間帯。

 

「もうすぐ……だよな……?」

 

 指揮官は待っている。何故なら、今朝に彼の私室のドアの隙間に挟む形で手紙が届いたから。

 

 差出人の名前は無かったのだが、消印も無かったので恐らく基地に居る誰かだったと言う事は確か。手紙の内容も若干堅苦しさはあったが丁寧な物であった。

 

 手紙の内容を簡潔に言えば、

 

『今夜の22時に私と二人で、司令室で飲みませんか?』

 

 というものであった。その為に、夜の司令室は指揮官の持つ特別な権限でロックをし、解除の為のコードを手紙のアドレスに送って欲しいと言う用意の良い所も。

 

 手紙を書くとは何とも時代錯誤な、と司令官は想いはしたが恥しくて直接言えない事なんてよくある事だ。

 

 もし、自分が行かないと返事したらどういうつもりだったのか、とも思ったのだが、彼が来てくれると深い信頼をおいてる戦術人形が送ったのだろう。

 

 正体不明の誰かの為に指揮官が頑張ったからか、或いは差出人の読み通りであったのかは不明だが、夜にはこうして謎の人物を待つ余裕が出来たのだ。

 

 ――一体誰なのだろうか?

 

 まだ見ぬ相手に指揮官は想いを馳せる。

 

 ――ARかそれともHGか、それとも大穴でMGかいや、カリーナか上官かもしれないぞ?

 

 新たなキャラクターの登場を聞かされた子供の様に想像を膨らませながら待ちわびていると、司令室の認証式のドアが開く。少々前に、HK416が独自権限でロックをした出来事からセキュリティの脆弱性が発見されたので、強化されたのだ。

 

 そのおかげで、一人飲みを堪能し司令室を出た時に扉の前で、待ちかまえていたと思われるHK416が認証パネルに向かって呪詛を吐いてたのを指揮官は見てしまったのだが(この時は認証パネルに夢中になっていて、指揮官が出て行ったことには気づかれなかった)

 

 今回はセキュリティは強化されたので、乱入者じゃない事を祈りつつ、ドアの前に立つシルエットに手を振る。

 

 小柄なシルエットは指揮官の姿を確認すると、一度丁寧に頭を下げてから入室する。

 

 扉が閉まり、外からの逆光が収まるとシルエットの正体が露わになる。

 

「なっ……」

 

 予想して無かった正体に指揮官は思わず声を漏らす。

 

 金髪碧眼で清楚で生真面目な外見と性格とは裏腹に少々人見知りな所が彼女にはある。手紙を置いていくのも納得だ。だけれども、予想がつかなかった。何故なら彼女は、この基地に初めて配備された超高性能戦術人形であり、基地の創設期から今も第一部隊の隊長を務める戦術人形だから。

 

 指揮官に手紙を送った者の正体は、

 

「お待たせしました指揮官」

 

 KP-31、この基地において不動のエースであるスオミだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人はパネルの上に隣り合う様に座り、グラスを満たすアルコールを黙々と口に含みながら、スオミが持ってきたつまみを口にする。

 

 スオミが持ってきたのは合成肉をジャーキー風に味付けした物と、塩ノリ味のポテトチップス。

 

 指揮官は本物の海を見た事が無い。なので、ノリと言われても予測がつかないが、しょっぱさと口に残る風味がアルコールとの相性が抜群だった。

 

「旨いな」

 

「そうですね」

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 先程から短い言葉しかつなげることが出来ない。

 

 スオミが司令室に来て、スオミに頼まれるままアルコールに味付けをし、乾杯もしたのだが、そこから『最近の調子』だとか、『困ったことは無いか?』だとか当たり障りのない会話をして、そこから続かず。

 

 今の二人は短い会話と、スオミが持ってきたミュージックプレイヤーから流れるヘビーメタルの音のみ。彼女は故郷の素晴らしさを皆に知って貰いたいのだが、だからと言って酒の席で頭に響く様なヘビーメタルを流すのはどうかと思うが。

 

 指揮官はちらりとスオミの顔色を伺う度に、指揮官からの視線に気づいたスオミはほんのりと赤色に染めた顔でニコリと微笑む。その笑顔にあてられ、指揮官は小さく笑みを返すと気恥ずかしそうに顔を逸らす。その様子を楽しそうに見つめると、スオミはまたチビチビとアルコールを口に含むのだ。

 

 指揮官にとってスオミと言う戦術人形は特別だ。何の運命の悪戯かこの基地の創設期に建造・配備に成功した超高性能な戦術人形だ。それ故に、指揮官に一番頼りにされ、昔も今も第一部隊の隊長を任された不動のエース。

 

 戦力が低い内に来た超高性能機という事で、他の戦術人形よりも多少優遇をしたと言う想いは勿論ある。本当に最初の頃は装備も強化も彼女に優先した位に。

 

 彼女は指揮官の期待と皆からの羨望を受けそのうえで努力を重ねて、今の地位を確立した頑張り屋だ。

 

 だけれども、人見知りな所もあり、昔は指揮官も距離を測りかねていたが、今はスオミと隣り合って座る位の信頼は得たつもりだ。

 

 指揮官の腹心と言っても過言では無いと言うスオミが、心の奥底で何を溜め込んでいるのかと思うと指揮官は戦々恐々としていた。

 

 これまで、酒の席を共にしたSTAR-15、HK416、SV-98は様々な不安や願望を口にしてきた。

 

 だから、尚更指揮官は不満になる。最古参の部類、それも指揮官が強く信頼を置く彼女が心の奥底に何が溜め込まれているのかと。

 

「スオミ……」

 

「なんですか?」

 

 スオミは両手に持ったグラスを膝に置き、首を傾げながらも上目遣いで指揮官を見上げる。

 

 その動作は、小動物の様で指揮官は微笑ましさを覚える。

 

「その……私と飲んでて楽しいか?」

 

 何も話さないのは、言葉にせずとも疎通できる仲と言えば聞こえはいいが、指揮官が感じていたのは居心地の悪さ。自分に不満があるなら早く言って欲しいと言う、判決を待つ罪人の様。

 

「ええ、とっても楽しいです」

 

 対するスオミは、指揮官の腹のそこにあるものなど素知らぬように微笑む。その笑顔に心に闇に覆われそうであった指揮官の心が洗われかけるがまだ油断はならない。

 

「なんで、私と飲もうと思ったんだ?何か悩み事とか、その……嫌な事とかあるのか?」

 

 一度息を飲んで、自分の気持ちをある程度整理してから、抱えてたものを吐き出す指揮官。

 

 先程も言った通り、今まで一緒に酒を飲んだ戦術人形には抱えてるモノがあったのだ。だから、指揮官は気を緩めずに続けて聞く。

 

「無いですよ。私はただ、本当に指揮官と飲みたかっただけですから。お手紙で書いたのはその……直接伝えるのは恥ずかしかったから……」

 

 最後の方は段々と小声になり、最後は指揮官からそっぽを向いてしまうスオミ。

 

 そんな彼女の姿をみて、指揮官は完全に理解できた。

 

 スオミは、本当に指揮官と飲みたかっただけなのだと。腹に抱えるモノは何も無いとは言い切れないが、それ以上に指揮官と一緒に飲みたいと言う気持ちの方が圧倒的に上なのだと。

 

 スオミには何度も重責を負わせてしまったと言う負い目がある。だけれど、彼女はその重責すらも糧にして必死に努力してきたから、指揮官に関する不満は余り感じてないのだと。

 

 スオミの好き嫌いははっきりとしている。ロシア製の武器を携えた戦術人形を見たら一目散に逃げるか突っかかるかする位の気概の持ち主なのだ。抱えてるものがあったら、素直に言ってくるだろう。

 

 指揮官は思わず苦笑を浮べる。結局は自分の考えすぎで、その考えすぎのせいで、この飲みが楽しめて無かったのだと。

 

 ちらりと、スオミの顔を伺う。偶々視線があったスオミは小さく微笑むとまた顔を逸らす。

 

 どんなに気心が知れても、彼女の人見知りは簡単には抜けないのだと、湧いて出た懐かしさに胸が満たされる。

 

「悪かった」

 

「な、なんで謝るのですか!?」

 

 唐突な指揮官からの頭を下げての謝罪に驚いて飛び上がるスオミ。そんな彼女の姿が面白くて、彼女にばれない様に口だけを歪ませる。

 

「気にしないでくれ。ちょっと反省したい事がって」

 

「そうですか……?余り深く思い詰めて抱えるのはよくないですよ?何かあったら相談してくださいね?」

 

 突如謝られた事にスオミは頭の上に疑問符を浮べながらも相談に乗ると言ってくれるスオミ。

 

 そんな生真面目で優しいスオミが、最初に来た超高性能機であった事を心の中で指揮官は感謝する。

 

 今でこそHK416の様な他の超高性能機も配備されているが、お察しの通り癖が強い存在が多い。

 

 だからこそ、素直なスオミが最初に来てくれたことに改めて感謝を捧げてるのだ。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 短い言葉のやり取り。そのやりとりには、指揮官が内包していたスオミの腹の内を探る様な陰鬱さは無く、互いに晴れ晴れとした笑顔があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は先程と同じように短い会話を何度も繰り広げながらも居心地の悪さを感じなかった。それは、指揮官の心の中にあった闇が晴れたから。

 

 スオミからは直接何もされてないかもしれない。だけれども、今日はいつもと違って戦術人形の方に救われた事には間違いないのだ。

 

 互いのグラスにアルコールを注ぎ、ある時は相手の為に化学調味料を調整しながら飲みあう。

 

 頭に響く様なヘビーメタルと、影の無いスオミの笑み。なんとも相性が悪そうな組み合わせだが、不思議とつまみとお酒が進んだ。

 

 ある時、スオミがミュージックプレイヤーの音を止めると目元を擦り始める。よくよく見ると、彼女の顔は真っ赤だ。恥ずかしさの赤なのか、それとも酔いの赤なのかを判別するのは指揮官とて用意でない位に。

 

 その様子を見て指揮官は不思議と理解した。飲むと眠くなるのが、彼女の酔い方であるのだと。

 

 スオミは指揮官の太腿に頭を預ける。

 

「えへへ~いい枕です~」

 

 緩み切った表情で指揮官の膝枕に顔を擦りつけるスオミ。その動作はお気に入りのおもちゃをマーキングする小動物の様。

 

 余りにも微笑ましいので、指揮官は自然とスオミの頭を撫でていた。彼女の頭髪は指通りがよく、しゃらしゃらと音を立ててすり抜けていく。

 

「指揮官の手、おっきくて温かいです……」

 

 その様子を見て、もし、自分に娘が出来たらこんな風に甘えてくれるのかと想像して、頭を振る。上司であるヘリアンも恋愛には苦労しているのだ。PMCは収入こそ高いが伴侶としての人気は昔からそこまで高くない。

 

 だから、指揮官は結婚して家庭を持とうとは、そこまで本気で思っていない。

 

 ――せめてここにいる仲間や戦術人形たちと、もうちょっと平和な環境でずっと暮らしていけたら

 

 それが、指揮官のささやかな願い。この基地に来てから抱いた指揮官だけの願望。

 

 スオミの頭を撫で続けていると、彼女の目蓋は殆ど閉じていてスリープモードに入る寸前になっている。

 

 そんな中で、スオミはふと零す。

 

「指揮官……大好きです……」

 

 彼女が唯一腹の中に隠していた者を。

 

 それが、親愛なのか、敬愛なのか、あるいは恋慕なのかは指揮官にはわからない。だけれども、とある三人の例があるから、最後の可能性は否めない。

 

 その言葉だけを残して、スオミは眠りについてしまったのだから。

 

 指揮官は座ったまま飲みに使った物を袋に入れて片付けると、スオミをおぶって司令室から退室し通常権限でロックをかける。

 

「私、実は結構モテる人間だったりするのか?」

 

 そんな疑問を抱きながらも、どこか軽い足取りで、指揮官は司令室から離れて行った。

 

 

 

 

 翌日の指揮官は好調。頭の回転も修正能力もとても冴え、ヘリアンからの褒め言葉を賜った。

 

 スオミもまた好調な一日であった。第一部隊の隊長として前線に出て、被弾一つなく完遂させるエースの貫禄を見せつけた。その姿を見て、冷静に気を引き締めるもの、自分よりも完璧に遂行する姿を見て対抗心を燃やす者、頑張る古参の姿を見て勇気づけられた者と様々だ。

 

 二人の調子が絶好調であった理由。それは当事者のみが知ることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スオミは逆レしない。イイね?

 

 

 アッハイな皆さんは、下にスクロールする事をお勧めするよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケ Rルート

 

「ウゲッ」

 

 スオミが寝入り、パネルの上を片付けた指揮官はスオミの姿に声をあげる。

 

 彼女は脚を曲げた状態で寝ており、スカートも捲れて僅かに鼠蹊部が覗いており、いつの間にかコートのボタンを外したのか彼女の幼さが残る顔立ちと体躯に見合わない位に豊かな胸も露わになっている。

 

「全く、隙を晒し過ぎだぞ……」

 

 苦笑を浮べつつ、彼女の服を正そうとすると、

 

「もう……指揮官だから隙を晒してるんですよ?」

 

 指揮官の腕が突如として掴まれ、次の瞬間には天井を向き、目の前には眠そうに瞳を細めながらも、その奥からは獲物を追いつめたハンターの様な視線の鋭さを隠さないスオミが。

 

 唖然としながらも、指揮官の脳は演算を繰り返し、一つの結論を導出した。

 

 そう、いつもの流れだと。

 

「ちょっ!絶対そういう流れじゃ無かっただろ!」

 

「女の子が勇気を出して誘ったってことは、こういう事をするってことですよ」

 

「えぇ……」

 

 いつにもましてニコニコと微笑むスオミは指揮官の頬を両手でホールドし、逃げれない様に動きを封じる。

 

 指揮官は、「いや、全員がそうだって言いきれないよな?……よな?」と三つの過去を思い返して不安になりながらも、スオミの柔らかい唇の感触を受けいれた。

 

 

 

 

 

 

 翌日の指揮官は燃え尽きたような様子で指揮を執っていた。その燃え尽きっぷりは、彼を見た者全てが心配の言葉をかけるくらいに。

 

 スオミは着任してから一番の好調っぷりを発揮し、火力を抑えた装備なのに何回もMVPを獲得した。

 

 指揮官は語る。

 

「誰だって、何かを抱えているんだな」

 

 と。

 

 指揮官が燃え尽きていた理由。スオミが一番の好調であった理由。それは当事者のみが知ることだろう。



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UMP45

思い浮んだから書いちゃったけど、これで本当に一区切りだかんね!


 夜間警備を行う兵士と戦術人形以外は休息についた闇が支配する時間帯のグリフィン基地の一つ。

 

 昼間の喧騒も夢の後言う様な静まり返った司令室。

 

 その司令室で一人っきりで晩酌を行うため、指揮官は脚を運んでいた。

 

 否、既に司令室に入り、持ってきたグラスにアルコールを注ぎ、柑橘系風味に味付けしていざ飲まんとしたのだが、エアコンの効きが良く無かったのか飲む寸前に催してしまい、一回司令室から出てお手洗いへと向かってしまったのだ。

 

 今はお手洗いで体内の不純物を全て出したので快調。これで思う存分飲みを堪能できる。

 

 認証パネルに手をかざし、司令室の扉を開いた先には、

 

「あら?結構早かったわね」

 

 カランカランと空になって氷だけとなったグラスを揺らして遊ぶ、昆布茶色の髪をサイドテールにし、左目に傷痕を残す金眼の少女が――

 

 その瞬間、指揮官は反射的に扉から一歩体を引いてドアを閉めた。

 

 指揮官は片手で眉間を抑える。

 

「何故だ……」

 

 今日は誰とも飲む予定は無い。敢えて司令室から人払いをするような事も言っていない。そもそも今日飲むことは誰にも伝えて無い。

 

 完璧な態勢で今回の一人飲みを迎える筈だったのだ。

 

 それなのにどうだ?司令室の中には呼んだ覚えも、そもそも入室すら不可能な筈なのに客が居るではないか。

 

「よし」

 

 気分が変わった。今日は飲むのをやめよう。司令室に置いたままのアルコールたちの片づけは、明日の朝一番に起きてやればいいのだ。

 

 そう思い至った指揮官は、踵を返し自室へと向かおうとしたのだが、

 

「もう、そんなことされたら拗ねちゃいますよ?」

 

 前へと進むための勢いをつける為に後ろに振った手を、司令室の扉を中からあけた人物に捕まれた。

 

「うぉっ!」

 

 そのまま強く引っ張られ、指揮官は背中から倒れるようにして司令室へと引き入れられる。

 

 腕を引っ張ってきた隙間妖怪は、ドアが閉まった事を確認すると、グローブに覆われた手を認証パネルにかざす。すると、ブザー音が司令室に鳴り響き、画面が赤色へと切り替わりデカデカと『LOCK』の単語が浮かび上がる。

 

 指揮官は理解している。堅牢さを増したグリフィンのセキュリティであっても、かつては電子戦・情報戦に特化したモデルであった彼女にとっては突破する事は難しくない事なのだと。

 

 侵入者は前かがみになると、指揮官に手を差し伸べる。

 

「今日は私と飲みますよ?指揮官」 

 

「はぁ……わかったよ」

 

 指揮官に差し出した手を掴まれた侵入者、指揮官のいれたアルコールを勝手に飲んだ為かほんのりと頬を赤色に染めたUMP45は、諦めた様に大人しく従ってくれた指揮官に含みを持たせた笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官って柑橘系のお酒が好きなの?」

 

「ああ、いや別にそういう訳じゃないんだ。ちょっと柑橘系の再現をしてみようと思ってな」

 

「ふーん」

 

 飲み干されたグラスをカラカラと音を立てて振るう45。自分から強引に飲もうと言って来た割には、グラスにアルコールを注ぐ気配も無い。

 

 空いたグラスは45が持っているそれしかない。何故なら、彼女は自分のグラスを持ってきてないから。

 

 グラスを振りながら指揮官の様子を伺いつつ口角を持ち上げる45。

 

 そこまで、露骨に話しかけてと言わんばかりの態度をとられたら、それに従うしか今の指揮官には出来ない。

 

「はぁ……。で、本当は何の用なんだ?」

 

 大きくため息を吐きながら、45に問う指揮官。

 

 45は一度口許を緩めると、わざとらしく首を傾げる。

 

「んー気になる?」

 

「そりゃ、ここまでお膳立てしてまで聞きたい事って何か気になるさ」

 

「ふーん」

 

 45はグラスを置くと屈んだ状態で指揮官の顔を覗きこむ。見透かすような視線、動作。のんびりとした雰囲気は去り、剣呑な雰囲気に飲まれない様に、指揮官は息を飲む。

 

「指揮官はさ――」

 

 指揮官は45から視線が離せない。何故なら、彼女は先程まで出していた気まぐれなだけれども友好的な態度ではなく、

 

「死ぬつもり?」

 

 相手を縛り付けるような凍える覇気を纏っていたからだ。

 

「それはどういうことだ……?」

 

 生唾を飲み込みつつ、指揮官は45の真意を探る。

 

 確かに彼の人生の中で死んでしまおうと思った事はあったかもしれない。

 

 でも、今もそうかと言われると答えは否だ。何故なら指揮官には小さな夢がある。それは今よりも平和な環境でこの仲間たちと共に生きていきたいという、大雑把だが確かな夢が。

 

 夢を継がれる事はあるかもしれないが、誰にも伝えて無い状態では自分で叶えるしかない。

 

 だから、死ぬつもりは甚だありはしない。

 

 困惑に瞳を揺らす指揮官。そんな指揮官の表情を下から伺うように45はジロジロと伺うと、何処か安心した様に笑みを浮かべた。

 

「変なこと聞いてごめんね指揮官。私の勘違いだったかも」

 

「いや、だから、なんでそんな事を聞いて来たんだ?」

 

 一人合点する45だが、答えを聞かされてない指揮官にはモヤモヤとした感情が残る。

 

「んー……。指揮官って私達の事を凄く大事にしてくれるでしょ?」

 

「ここの貴重な戦力で、仲間だしな」

 

「もし、この基地が襲撃されて、私達が窮地になったら指揮官はどうしてくれる?」

 

「なんでそんな事を」

 

「いいから答えて」

 

 射抜く様な45の眼差し。彼女が敵へと向けるそれよりは幾らか柔らかいが、毎回向けられてる敵側はたまったものでは無いだろう。

 

 何となく、指揮官には45が求める答えがわかった。そして、45は彼に求めてる答えが出される事が無い事もわかっていた。

 

 それは疑心からでは無い。深い信頼からのもの。

 

 だから、口ごもる指揮官に45はため息をつく。やっぱり言ってくれなかったと。

 

「見捨てて逃げる、って言わないんだね」

 

「それは……」

 

 それが正しい選択なのは指揮官にもよくわかっている。それが情を捨て、指揮官と言う役割を担う人物がとるべき行動である事も。

 

 彼女達にはバックアップがある。戦闘記録、カスタマイズのデータ、最適化手法。殆どの戦術人形はその全てのバックアップを取っているので、最悪バックアップをやられなければ、結果的に彼女達は無傷という事も可能だ。

 

 それは指揮官でも頭でよく理解している。だけれど、助けを求める大事な仲間が窮地なのに、何もせずに逃げのびる事を指揮官は出来るのだろうか?そう考えると、指揮官は何も答える事が出来なくなってしまうのだ。

 

 答えを出すことが出来ずに項垂れる指揮官に45が歩み寄る。

 

 彼女は見透かしてたのだろう。他が犠牲になるなら、自分が犠牲になろうとするような、指揮官の心細い強さと弱さに。

 

「私は、さ」

 

 45は指揮官に飛びつくと、彼の首に腕を回す。視線を逸らすのを許さないと言うように、或いは甘える子供の様に。

 

「指揮官が居なくなったら寂しいな。すごく、すごく寂しい」

 

 寂しさを織り交ぜた声で、彼の胸に収まる。彼の胸に寄せられる45の頬。それは、彼女の心配そのものを投映したかのように冷たく冷え切っている様に感じる。

 

「私だけじゃないよ。9も、皆だってきっとそう。皆寂しがるよ。だから、その時が来たら、指揮官は一番に逃げて。何があっても、私達はまた指揮官に会えるから」

 

「45……」

 

「でも、そんな状況になるようなこと、私はさせないから」 

 

 決意の籠った45の声。指揮官の胸から離れ、頭をあげた彼女の顔は――

 

「だから、指揮官の邪魔をするものは全部私が壊してあげるにゃ♪」

 

「にゃ?」

 

 一瞬で火が回ったかの如く顔が真っ赤になっていた。

 

「し・き・かーん!」

 

 戦術人形特有の腕力で指揮官のことを押し倒す45。

 

 全力笑顔で指揮官のマウントをとる彼女からは、普段の狡猾さは感じられない。

 

 彼女は主人に甘える子ネコの様に、彼の胸に頬を擦りつける。その頬は、先程と違って蕩けてしまいそうなくらいの熱を持っていた。

 

「もぉ、最近他の子に構ってばっかで、私のことを構ってくれなくて寂しかったんだよ?」

 

「それがホントの目的か!?」

 

 突然の45の豹変に流石の指揮官もついていけないようで狼狽えている。

 

「んー、本当はさっきみたいにゃことを伝えたっかったんだけど、なんかどうでも良くなってきちゃったにゃ!」

 

「……自由だな」

 

「でも、構ってくれなくて寂しかったのは嘘じゃにゃいから、構ってにゃー」

 

「……はいはい」

 

 突如現れたネコ語UMP45に動揺しつつも、指揮官は彼女の頭を撫でる。

 

 これが、彼女の酔い方なんだろう。

 

 後からアルコールが効いて、何故かネコになって甘えだす。

 

 普段は恐ろしい本性を持っている人物が、こんなに甘えたがりな姿も隠し持ってるのは、なんともいじらしい。

 

 目を細めて頬をスリ寄せる45の頭を撫でる。

 

 45も古参の部類の為、最近は重要な任務によく出しているのだが、彼女の髪はしっかりと手入れされていて手串がよく通る。

 

「全く子ネコみたいだぞ」

 

 指揮官としては思ったことをそのまま言っただけなのだが、45から思いもよらないカウンターが飛ぶ。

 

「そんな指揮官はいたいけな子ネコちゃんを何人食べたのかにゃーん?」

 

「ヌ゛ッ゛!゛!゛」

 

 45からの鋭い指摘に指揮官は言葉を喉に詰まらせる。が、45は知らない筈だ。あてずっぽうで、酔ってお花畑な思考回路で物を言ってるだけに過ぎない。そう結論付けようとする指揮官。しかし、45はその考えを読んでいたと言うようにくすりと怪しげな笑い声をあげる。

 

「いや、指揮官は食べられちゃったんだよねー?いたいけな子ネコちゃん達に」

 

 その言葉は指揮官の推測を全て否定する材料になり得る言葉だった。

 

 45は指揮官の首筋に顔を寄せて舌を押し付けてペロペロと子猫の様に舐める。彼から噴き出た冷や汗を味わうかのように。

 

「な、なんで――」

 

「ふふっ、元々は電子戦に特化した私の性能を甘く見積もられるのは困っちゃうなー」

 

 45はまた含み笑いを浮かべる。何もかもわかっていると言うかのように。

 

 そう、彼女にとって司令室のセキュリティに穴を空ける事は容易。そして、司令室の中の記録を確認する方法など彼女にとってはいくつもある。防犯の関係で、全ての電源は絶対に落とすことが出来ないのだから。

 

「だ・か・ら・ね」

 

 唖然とする指揮官の身体を自身の体重を乗せて押し倒す45。彼女の瞳は獲物を捕らえた猫の様に細められている。

 

「もう一人、指揮官の事を食べちゃっても問題ないでしょ?大丈夫、見ての通り、私も指揮官のことが大好きだから。――他の子が指揮官を食べたって知った時、すっごく嫉妬しちゃったんだからね?」

 

 ふふっと小さく暗い感情を交えた笑みを浮べつつ、ぺろりと舌を出して唇をなぞる45。

 

 その姿は愛らしい子ネコのそれでは無く、獲物を前にした雌豹。

 

 ここに彼の運命は定まった。

 

 ――壁に耳あり障子に目あり、祖父が言っていた言い伝えはこういう時に使うのだろうか?

 

 そんな現実逃避をしながら、指揮官の乾いた唇は、45の柑橘系の香りがする唇と重なった。

 

 

 

 

 翌日、指揮官は酷く上の空な状態になっていた。何を話しかけても多くの言葉は口にしなかったので、その日の指揮は隊員が理解するのに苦労したらしい。

 

 対するUMP45は、指揮官の姿を見て何度か顔を逸らしたりはしつつも、それ以外はいつも通りだったとの事。

 

 45はそっと指揮官に耳打ちする。

 

「次は9も一緒に、ね?」

 

 と。

 

 指揮官がずっと上の空であった理由。UMP45が何度か指揮官から顔を逸らしていた理由。それは当事者のみが知ることだろう。 



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【番外編】灯火を抱くレースヒェン 【G11】

たまには視点を変えて
そう言う意味で番外編です


 植物の蔓の様に好き勝手伸び散らかせた灰色の長髪に気だるげに開かれた同色の瞳の小柄な戦術人形。彼女の名前はGr G11。通称G11。

 

 グリフィンが扱う戦術人形の中でも超高性能機の一つが彼女だ。

 

 更に細かく言うと、404小隊のG11からデータをとり、オリジナルから幾らかの機能をマイナーチェンジ・オミットされてリリースされたのが、グリフィンで建造されるG11に当たる。

 

 そんな風に指揮官たちにも扱いやすい様に最適化とデチューンを施された彼女ではあるが、その評価は喜ばしいものでは無かった。

 

 彼女のOS(性格)は戦闘を生業としている指揮官たちのお眼鏡に敵う物では無かった。

 

 ものぐさで引きこもりで寝たがり。任務にも基本的には消極的。命令には基本的に従うが、自身が寝る為に指揮官に命令してくることもある始末。

 

 アクの強い個性を持つ彼女は、万人の指揮官に受け入れられることは無かった。

 

 指揮官と戦術人形達の関係は上司と部下ですらなく、主従が基本だ。指揮官は主として敵の殲滅を命令し、戦術人形は主の命に従って敵を倒す。

 

 人間たちに従順な性格こそが、万人の指揮官が求めている物だった。

 

 G11のOS(性格)を変える事は簡単には出来ない。そのOS(性格)とAI(思考能力)こそが、彼女の力を最大限に発揮できると設計されたモノであり、多くの指揮官が望む様なモノへと仕様を変更する為には、時間と費用がまたかかってしまう。

 

 取りあえず、命令には従ってくれるので指揮官たちで何とかしてくれ、というのが技術部門達の答えだ。

 

 性格に難があるのなら性能はどうなのだろうと思われるかもしれないが、そこは超高性能機の面目躍如と言った所か、正確無比な射撃能力で敵を射抜き無慈悲に敵を倒し尽くす。それが戦場でのG11。

 

 G11は命令のブリーフィングをしっかりと聞いていない。どんな任務の内容にも面倒と言うだけで完全に拒絶することは無い。

 

 難のある性格、過酷な任務に異論を唱えず拒否することは無い自己管理能力の低さ、射撃能力の高さ。

 

 G11が配属された基地の殆どは彼女を小隊の一隊員に置いて彼女は激戦区、或いは隠密へと駆り出される、彼女の眠りたいと言う願望にそぐわぬ扱いを受ける事が多い。

 

 まるで、オリジナルの404小隊のG11の様に。

 

 だが、その様な扱いを受けて無いG11も勿論いるのだ。

 

 例えば、

 

「ふわぁ~……終わったよ~」

 

「お疲れさん――って、ここで寝ないでくれって!」

 

 彼の性的被害者な指揮官がいる基地の彼女であったり。

 

 指揮官は眠気で倒れゆくG11に駆け足でよると急いで抱き留める。

 

 いつでも寝れるG11とは言え、床で寝ようとするほど節操が無い訳では無い。これは信頼の証。指揮官がふかふかの掛布団の様に受け止めてくれるだろうと言う一方的な信頼の証。

 

 この基地のG11は興味深いことに一小隊の隊長を務めている。

 

 G11はこの基地では新参の部類。そんな彼女が隊長を任せられている理由は、指揮官曰く『この先滅茶苦茶強くなりそう』という彼の先見性からもたらされた。

 

 そんな理由でG11の最適化を優先している彼が、いつか他の指揮官の様にG11を劣悪な環境に置くのではないかと思われるかも知れないが、『戦力は均等に上げてあらゆる状況にも対応できるようにする』という彼の標語が崩れない限り大丈夫だろう。

 

「おやすみ~」

 

 指揮官のみぞおち当たりを枕代わりにして、寝息をあげるG11。

 

「おーい、寝るなー!おーい!」

 

 指揮官は声をかけてG11に意識を保つように呼びかけるが、彼女には馬耳東風。寝息を立てたままである。

 

「……しょうがないか」

 

 指揮官は一度小さく息を吐くと、彼女の小さな体躯を持ち上げて、予め作っておいた、使われてない椅子を並べて長いタオルをシーツ代わりに置いた即席のベッドに彼女を寝かせる。

 

 指揮官は半ば諦めているのだ。G11は終ったとだけ報告した瞬間、毎度の如く寝るから。おかげで、彼女が帰投するまでに簡易ベッドを作る手際もかなり最適化された。全く、どっちの練度を上げるための出撃だと内心毒づきたくもなるが、直接戦闘からのストレスから解放された気分は指揮官には予想できない。

 

 だから、指揮官は言ったのだ。しょうがないかと。G11は自分よりも圧倒的に疲れがたまる環境に居たから、凄く眠いんだと。

 

 ベッドのパーツとなった椅子の背もたれに立てかけたタオルケットでG11の身体を包んであげる。肌寒かったのか、寝入ったG11の手は口許にまで布団を持っていく。

 

 そんな普段の気だるげでおぼつかなさからは想像もつかない可愛らしい仕種に指揮官は頬を緩めると

 

「おやすみなG11」

 

 彼女の頭をポンポンと軽く叩いて、彼女の傍を離れた。

 

 ――温かい

 

 実はG11はここまで寝た振りをしていた。この場で寝たふりをすれば、指揮官はこの場所で簡易的な寝具の上に寝かせてくれることを知っていたから。

 

 いや、G11にとって司令室で寝る事が目的では無い。彼女の目的は、寝入ったと思われる彼女に向けられた優しい労いの言葉と先程の頭を撫でるように叩く動作。

 

 この二つがG11の胸に温かさを宿し、心地よい眠りへと誘ってくれるからだ。

 

 指揮官の気配が傍から消える。それに一抹の寂しさを覚えながらも、彼のくれた温かさを感じながら眠る。それが、G11にとっての一番の報酬。タオルケットで顔を隠したのは、いつも口がにやけそうになるせいで寝たふりだとバレるのが嫌だから。

 

 うっすらと目を開いて指揮官の姿を確認する。後方支援に回った部隊が返ってくるまでは、彼は司令室にいるようだ。

 

「ありがとう……おやすみ、指揮官……」

 

 自分にしか聞こえない声で彼にお礼を言うと、G11は真っ暗なスリープモードの世界へと移っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 問題児として扱われることの多いG11からみても、彼女の指揮官は優しい人間であった。

 

 戦果も多くは望まず、任務に成功すればそれでいいと。例え一回で任務が成功しなくても、成功するまで出直せばいいと言う人。

 

 多くの指揮官がG11というモデルには多大な戦果を挙げる事を望まれているのは、G11にもわかっている。

 

 扱いづらい性格をしていのだから、扱い辛さは戦果で賄わさせようとしているのは、他のG11からフィードバックを受けてる彼のところのG11にもわかっている。

 

 それ故、G11は任務以外は基本的に無気力になる傾向にある。多くの戦術人形は、戦果だけでなく他の面でも優秀さを発揮して人間たちに認められる事を望むが、元々無気力な本質なG11は多くを望むことは無い。

 

 彼のところのG11もその本質は同じなのだが、他のG11よりかはまだ積極的な方だと評される事が何故か多い。

 

 それは、指揮官が彼女の寝ると言う気高き意志を尊重しているからか、それとも別の理由があるのかは不明だ。

 

 無理矢理起こそうとすることはあまりしない、寝そうになったら軽く寝るなと促すだけで完全に引き止めはしない。それどころか簡易的にベッドを作って、起きるまで待っていてくれると言う世話の良さ。

 

 こんな人間を優しくないと言いってしまえるほど、G11の感受性と疑似感情モジュールは腐ってはいなかった。

 

 そんな彼のことを慕う人形が多い事はG11も知っていた。それは、オリジナルからの縁なのか彼女の世話係になっているHK416、参謀を務める事が多くオリジナルからの問題児同士の縁で仲のいいUMP45とその妹であるUMP9も。

 

 G11は彼の事をどう思っているかと言われたら、答えは出せない。

 

 だけれど、指揮官が寝かしつけてくれると、見れない筈の夢が見れる位に温かくてお気に入りだと言うのは断言できる。

 

 そんな風に寝かしつけてくれる指揮官をある日UMP45がこう評していたのを聞いた。

 

「指揮官、その内一人で死んじゃうじゃないの?」

 

 それが、どういう意味で言ったのかG11には理解できなかった。いつも通りの半分微睡んだ頭で、彼女の言葉を聞き流していたから。伴侶が居なくて孤独死すると言う意味なのか、それとも戦場に出ざるを得なくなって死んでいくと言う意味なのかは、ちゃんと聞いて無かったので今もわからない。

 

 他に覚えてるのは、その言葉を口にしたUMP45が目尻を吊り上げながら頬杖を突いていた事だった。

 

 戦術人形にとって死と言う概念は殆ど身近でない物である。彼女達のバックアップは、グリフィンの基地や本部、それとそれらの施設とは無関係の場所に何か所にも何重にもバックアップを取ってある。例え今の義体が完全破壊されてもバックアップさえ無事なら再建造が可能。だから、死と言う概念は彼女達人形にとっては、汚染された夜空に瞬く星の様に遠いモノ。

 

 でも、指揮官はどうなのだろうか?指揮官は人間だ。居住区で暮らしている人間よりかは丈夫だろうが、人間である限り死ぬ。G11の様な戦術人形であっても、相手をすることになったらまず死ぬだろう。

 

 生命にバックアップは無い。予備も無い。彼という人間の記録は残るかもしれないが、死んでしまってはその記録が書き加えられることはまずない。

 

 終わりだ。死とは文字通り終わりだ。まるで、後継機が作られる事が無かったモデルたちの様に、活動を終えてしまったら終わりなのだ。

 

 普段のG11はそんな無駄な事を考えたりはしない。ましてや任務の最中には。任務に出てる時は、さっさと戦いを終わらして司令室で寝る事だけを考えるのが常。

 

 しかし、その時だけは45の指揮官の死と言う言葉が何故か強く引っかかった。

 

「……キモチ悪い」

 

 敵に向かって言ったのか、或いは自分に対していったのか、それすらわからない言葉を零しながら引き金を引き、その日の任務を終わらせた。

 

「任務終わった~」

 

 いつも通りに作戦終了の報告をしながら司令室に入ると、まるで日常動作をするかのように倒れ込むG11。

 

「おつか――おおい!寝るなって!」

 

 そして毎度の如く、彼女の小さい身体を抱き留める指揮官。

 

 このままG11が寝たふりを始めればいつもの通りの日常風景なのだが、G11は両腕を指揮官のお腹に回す。そのはずみに、彼女の緩く被ってる帽子が床に落ちてしまった。

 

 そう、いつもなら体を全て指揮官に委ねているのだが、今日はG11からも彼の身体を抱き留める形になっている。

 

「……どうした?何かあったか?」

 

 怪訝そうに首を傾げる指揮官。彼の言葉遣いは少々高圧的だが、彼女の頭を撫でながら穏やかに彼は語り掛けてくれている。

 

「なんでもない……」

 

 いつもの様に気だるげに返すG11だが、その言葉に含まれてるのは本心と別のモノが半々。

 

 彼女は少しばかり怖くなってしまったのだ。自分が、いや指揮官にだってわからない死と言うモノを。

 

 G11は確かに戦術人形だ。だけれども、今の自分の身体がボロボロに跡形もなく破壊されるのは怖い。だけれど、戦術人形はいざとなったら自分で痛覚キャパシティを遮断して、次の起動を待つだけにすることは出来る。

 

 でも、指揮官は人間だ。痛覚を遮断するような真似は絶対に出来ない。痛みに喘ぎながら死を待つことしか出来ない。

 

 何故か、そう何故かずっと、指揮官の死という言葉が彼女の中で渦巻いて離れなかった。

 

 彼が死んだら、今受け止めてくれるている彼の温かさは何も無くなって、冷えた床で寝た時の様に冷え切ってしまうのだろうか。そう考えると彼女の頭脳部が焼け付く様に熱くなる。

 

 迅速に勝つ為ならエゲツない戦い方をすることを躊躇しないG11の頭は残酷でロマンチックな考えでずっと埋まっていたのだ。

 

 指揮官はG11のボサボサの頭を何回か撫でると、ポンポンと頭を叩く。いつも彼女を労いながらするように。安心していいと示すかのように。

 

 彼はG11の中に何が渦巻いているのかわかっていないだろう。彼は彼女が言わなければそれでもかまわないと思ってる。人であれ、人形であれ抱えるモノがあるのはよく理解しているから。

 

 だから、彼は、せめて彼女の変わらない日常を演じる。今はそれが最適である、と言う直感を信じて

 

「寝るか?」

 

「うん……」

 

 彼の鳩尾に額を当てるG11が小さく頷く。

 

 彼は彼女の華奢で小さな体を持ち上げると、いつもの様に予め作っておいた簡易ベッドに彼女の身体を寝かせる。

 

「お疲れさまG11。おやすみ」

 

 瞳を閉じつつある彼女に労いの言葉をかけ、自由に跳ね放題の髪をポンポンと叩く。それは、指揮官がG11にだけに贈る特別報酬。

 

 でも、今のG11にはそれだけでは足りなかった。離れゆく指揮官の手をG11の小さな手が掴む。

 

「どうした?」

 

 指揮官は仕方がないと穏やかな笑みを浮べながら、彼女に問う。

 

 まだ、彼女の頭の中は黒い霧に支配されている。その支配から抜け出す為には彼の温かさが必要だと、彼女のCPUは瞬時に演算結果を導出した。

 

「ちょっとこのままいい……」

 

 いつも小さい声が更に小さく下手すれば司令室のサーバーを冷却するファンで掻き消えそうな位に小さな声。

 

 彼女がそっぽを向きながら――羞恥を隠しきれない頬を染めて――のおねだりを聞き届けた指揮官は、簡易ベッドの端に腰を下ろす。彼女が寝入る邪魔にならない様に。

 

 指揮官はG11の手を包むように握り、おまけで頭を撫でて安心感を促してあげる。

 

 温かい彼の手の感触。熱暴走を促しそうな彼の体温は何故かG11の頭脳の冷却を促し、黒い霧を晴らしてくれた。

 

 その代り、今度は何故か機関部が一定のリズムで跳ねているような錯覚を起こす。

 

 指揮官の体温を感じる度、彼が頭を撫でる度に、薄らと開かれた視界に居る指揮官の笑顔を認識してしまうごとに。

 

 不思議とそれは嫌なものでは無かった。むしろ、この感覚を意識する前に眠ってしまった今までを後悔したくなるくらいだ。

 

 一日中G11を蝕んでいた呪いは彼の生の体温によって解呪され、再び微睡みを齎される。

 

「おやすみぃ……」

 

「ああ、おやすみ」

 

 返事をしてくれた指揮官に礼をするかのように、G11は彼の手を一度強く握りしめ、もう一度強く彼の体温を感知してスリープモードへと移行する。

 

 戦術人形は夢を見ない。スリープモードも活動時間に得た情報を整理する為の時間でしかない。

 

 でもそんな理屈は今は関係ない。この温かさからもたらされる眠りは絶対に忘れたくないし、しっかりと堪能したかったから。

 

 彼女は今日の彼から貰った温かさを忘れない様に記録デバイスに命令を送ると、スリープモードに移行した。



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【番外編】灯火を抱くレースヒェン 追加パッチ

※一人称です
無理だと判断したら、スオミの文化遺産級のケツを崇める作業にお戻りください


 45が『指揮官の死』と言うモノを語った日から数日後、45は何故かすごく上機嫌だった。

 

 45の足取りはパーツに使用されてる素材が変わったみたいに軽かったし、よく鼻歌を歌っていた。

 

 その日は、45に誘われてカフェスペースに行った。メンバーは45、9、HK416。オリジナルからの腐れ縁たち。

 

 なんでそこまで機嫌がいいのか、少しばかり気になったけど、何となく45について来たあたしには関係の無い事だから寝込もうとした。

 

 でも、目ざとい45には視線を向けてたことがバレバレだった見たいで、45は口に手を当ててくすっと悪だくみでもするかのように口を吊り上げて笑うと、あたしの顔を覗きこんだ。

 

「G11、知りたい?」

 

 45には何もかもお見通しなんだろう。あたしが何を疑問に思っているかも、あたしが何を知りたいのかも。45の金色の目は全てを見抜いているのだろう。

 

 あたしは顔を机に伏せながらも確かに頷く。何が面白かったのかわからないけど、三人は少しだけ笑われた気がした。

 

 45は席を立つと、あたしの手を引いて別の席に移動する。なんで席を移動したのだろう?9と416は知らない方がいいことなのかな?でも、それならなんであたしだけに?

 

 考えれば考える程45が席を移動したことへの疑問が次々へとわくけど、これ以上45に考えを読まれるの癪なので、テーブルの上に顎を乗っけて半開きの視界に45を収める事にした。

 

 だけれど、こんなちょっとした反抗的な態度すらお見通しなんだろう。栄えある第二部隊隊長様は、悪だくみを思いついた時の様に口を歪ませる。

 

「私ね――」

 

 最近まで第一部隊隊長のスオミと一触即発になるくらい機嫌が悪かった第二部隊隊長の45。そんな45の機嫌が機嫌をよくした『ワケ』を聞いてくうちに、あたしの半開きだった瞼は段々と持ち上がっていって、顔から放熱し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の晩、あたしは執務室に居た。それは45が指揮官としたことをあたしもする為。

 

 確かに知識として夜伽の知識はあるけど……、本当にやらないとだめ……?

 

 でも、確かに指揮官のことを考えてると、最近は凄く不調とか排熱が間に合わなくなることが結構あって、指揮官に対して変な反応を返しちゃうことがあるし、そんな調子なのに再起動するのは何故か嫌だし……。

 

 自分で処理しきれない何かの答えが出るなら、それに越したことは無い。

 

 45が司令室のドアセキュリティに仕込んだバッグドアを使って、司令室に侵入した。

 

 あたしは指揮官がいつも作ってくれる椅子を並べてタオルを置いただけの簡易ベッドを作って、指揮官を待ってみる。45が、今日の指揮官は司令室で飲みに来る筈だって言うから。

 

 簡易ベッドは完成、この簡易ベッド、416に『イバラ姫のベッド(ベッド フォン ドルンレースヒェン)みたいね』と皮肉られたことがあるけど、あたしはずっと寝てるわけじゃ無いからイバラ姫とは違うと言い返したら、どっちも変らないわと更に言い返されたっけ。

 

 寝転ぶ。……うん。何か足りない。ちょっと寝心地悪い気がする。指揮官の用意してくれるベッドはもっと寝心地がいい気がする。何かコツとかあるのかな?

 

 でも、直す気は起きない。あたしの身体を包む眠気はいつだってあたしを眠らせようと必死。

 

 指揮官が来るまでは時間があるから、ちょっとだけ寝て待ってよう。

 

 瞳を閉じ、スリープモードに移行するように命令する。指揮官が来るのは2200らしいから、それくらいにタイマーを設定。

 

 タオルケットを体に巻いて……さて寝よっと……。

 

 …………………………………。

 

 寝れない……。なんで?

 

 確かにスリープモードに移る様に命令を出した筈なのに、意識は堕ちないし、頭はずっと処理を行ってる。

 

 指揮官があたしのことに気づいてくれるか、とか、指揮官と飲むお酒ってどんな味なんだろうとか、あたしなんかを相手にしてくれるかな?とか、色んな心配の予測ばっかりして、処理が遅延して、スリープモードへ移れと言う命令がどんどん後回しにされている。

 

 この処理達を中断させれば、スリープモードの命令を最優先事項とさせることは出来るけど、今はこの疑似感情ユニットが生みだす波打つような莫大な処理に身を任せるのも不思議と悪く無かった。

 

 跳ねるように鼓動を打つ機関部、排熱が間に合わなくて火照る頬の人工皮膚。その全てに不快感は全く無くかったけど、普段殆ど覚えることの無い緊張感を覚えていた。

 

 あたしの中の体内時計は指揮官が訪れる予定時刻まで残り二十分だと告げる。

 

 二十分……。長いなぁ……。いつも約束の時間のギリギリに来ちゃうのに。今日は何故か一時間前に来ちゃった。

 

 そんなのG11と言うモデル(あたし)らしくないのに。

 

 二十分なんて、寝てればすぐの筈なのに……。サーバーを冷やす為のファンだけの音が響く司令室は、とても物寂しい。指揮官はこの空間が好きらしいけど、あたしにはちょっとわからないや。寝るなら静かで、出来れば指揮官が傍に居てくれる場所が――

 

 そこまで考えたら、さっきまで排熱が間に合って無くて熱かったのに、急に冷え込んできた。あたしは体を丸める。指揮官がいつもかけてくれるタオルケットを握りしめて。

 

 ……寂しいな

 

 自分でもそんな感情が湧くのが不思議だった。取りあえず言えるのは、すぐにでも指揮官に会いたかった。

 

 

 ―――――

 

 あれから何分か経った。ずっと目を瞑ってたけど、相変わらずスリープモードに移行できない。体内時計を呼び出しても、処理の遅延で後回しにされてて正確な時間がわからない。

 

 もしかしたら、22時を過ぎてるのかも。いくら45の予測の精度が高いと言っても、正確とは言い切れない。

 

 今日は来ないのかな?

 

 機関部の活動が一回り弱くなったのを感じながら起き上がろうとすると――司令室のドアが開かれた。

 

「~♪」

 

 鼻歌を歌い、片手に袋を携えて呑気に入室してきたのは指揮官――あたしの待ち人。

 

 あたしは寝たふりを再開しつつ、薄らと目を開いて視界を確保する。

 

 指揮官はまだ気づいていない。呑気に鼻歌を奏でながらバックドアを設置されたセキュリティドアにロックをかける。

 

 指揮官、あたしに気付くかな?あ、でも、気づいてくれなくても……

 

 自分でもよくわからない葛藤をしながら指揮官の様子を伺ってると、気分よく細められてた指揮官の目が、一気に大きく開かれた。

 

 あっ……指揮官があそこまでびっくりしてる顔って初めて見たかも。

 

 ちょっとした新鮮味に浸りつつ、指揮官の動向を伺う。

 

 指揮官は荷物をパネルにそっと置くと、わたしの方に近づいてくる。

 

 距離が近いと少しだけ目を開いてる事が指揮官にもわかっちゃうかもしれないから目は完全に瞑って置く。

 

 足音が段々と近づいてくる。

 

 うぅ……なんかすっごく緊張する……。顔の火照りだけは表に出ない様にしないと……。あっ、ちょっと鼻息が荒いかな?

 

 指揮官はあたしの事を起こそうとする筈。何時の間に忍び込んだんだって言いながら。

 

 それが、あたしと45の予測であり計画。そこから、あたしと指揮官の飲みを始める。

 

 そんな計画だったんだけど、指揮官はあたしの前で少しだけバツが悪そうに頬を掻くと、寝たふりをするあたしの顔の高さと水平になるように顔を合わせる。

 

 うっ、近い……!顔が赤くなりそう……!

 

 あたしの中を埋め尽くす緊張感の処理が追いつかなくて寝たふりをやめようと思ったあたし。瞼を持ち上げようとしたその時

 

 指揮官の手があたしの頭に触れた。

 

「ふぅ……」

 

 何故かよくわからないけどあたしは変な息を出して、その息にあたしを窒息させようとした緊張感も持ってかれて。温かくて大きな指揮官の手。その手の優しさはいつだってあたしを安心させてくれる――

 

「お疲れさま」

 

 指揮官は全く起こそうとしなかった。それに、頭を撫でたままあたしから離れようともしない。

 

 指揮官は待ってるつもりなのかな。あたしが起きるまで。

 

 優しいな……。なんでも問題児だって疎まれる事の多いあたしにこんなに優しくしてくれるんだろう。なんで、こんなに指揮官は優しいんだろう。大事な場所に侵入されてたら怒るのが当然だと思うのに。

 

 朝まで寝てたらどういうつもり、って寝たふりをやめて言いたくなるけど、今は寝たふりをやめるのすら憚られる。それくらい、あたしにとって指揮官の手の温かさは重要な物だから。

 

 でも、このままだと、指揮官と飲む機会は無くなっちゃう。一体どうすればいいのだろう。頭脳部がオーバーヒートを起こさない様に低速処理状態で考えてると、

 

「イクュッ!!」

 

 あたしのタオルケットをかけ直そうとして持ち上げて埃が舞ったからか、指揮官がくしゃみをした。

 

「ふふっ……」

 

 あっ、ちょっと笑って声が出ちゃったかな?バレて無い?

 

 ……でも、今がチャンス。ここで起きないと、次のタイミングがいつくるかわからない。

 

「うるさいよ……」

 

 いつもの様に気だるげな声を出して、目を擦りながら起きあがる。……ちょっと声が緊張で発声がおかしかった気がするけど平気だよね?

 

「うぉおおおおおおお!?」

 

 あたしが起きたことにびっくりしたみたいで指揮官は大きく飛び上がる。

 

 なんだか、また笑っちゃいそうになったけど、指揮官からすればあたしは寝起きで鈍くないと怪しく思われるから何とか堪える。

 

「なに……指揮官……?あたしの部屋に来て……」

 

 用意していた台詞はスラスラと言えた。本心を言えば、こんな不愛想な言葉を口にしないといけないのがちょっと痛むんだけど……。

 

「いや……ここは司令室なんだが……?」

 

「んー……?」

 

 指揮官に促されてぐるりと周囲を見渡す。

 

 うん、知ってる。ここはあたしの部屋なんかじゃ無くて司令室。違反行為までして入った指揮官と二人っきりになる為の場所。

 

「ほんとだ……。おやすみぃ……」

 

「おーい寝るなー!」

 

 指揮官から背を向けて再び寝入った振りをするあたし。指揮官がいつもの様な小芝居に付き合ってくれるのが何だか凄く嬉しかった。

 

 でも、今は寝るわけには行かない。あたしの目的は指揮官の事を考えると発生するオーバーヒートを直すこと。その為に45から教えて貰った事をやってみる事だから。

 

「冗談……。じゃあ、あたしは部屋で寝るね~……」

 

 ベッドから降りて入口へ向かう振りをする。

 

「一人で大丈夫か?」

 

 そんな心配をしてくれる指揮官の言葉を一旦無視して、あたしはパネルの方に視線を向ける。

 

 そこにあるのは何かわかってる。指揮官が持ってきた、アルコールと化学調味料達。

 

「なにそれ」

 

 あたしはそ知らぬふりでパネルの上にある者を指差す。

 

「あー……アルコールだよ。その……ほら……噂になってるだろ。私が夜遅くの司令室でアルコールを嗜んでるって。つまりその……そういう事だ!」

 

 決まりが悪そうに頬を掻きながら説明する指揮官。なんだか、悪戯がバレた子供みたいで可愛らしい。

 

 指揮官は隠してるつもりなのかもしれないけど、戦術人形たちは指揮官が夜の司令室でアルコールを嗜んでいるのが真実だって知ってる。最近は水面下での、お酌権(?)の争いが激化しつつあるみたいだよ…?

 

「ふ~ん……」

 

 あたしは素っ気ない返事をすると、アルコールの入った瓶を手に取る。

 

 苦笑を浮べてた指揮官の顔が引きつってる。

 

 うん。確か指揮官は4、5体のアルコールが入った人形たちから襲われてる筈。

 

 顔が引きつるのは何となくわかる。でも、あたしは、指揮官と――――

 

「あたしも飲んでいい……?アルコールを飲んだら気持ちよく寝られるって言うし……」

 

 指揮官は腕を組んだ後、何回か唸って頭を困らせて――

 

「ダメ……?」

 

 上目遣いで頼んだあたしに

 

「……いいぞ」

 

 苦笑を浮べながらも頷いてくれた。

 

 それから、あたしと指揮官はお酒を飲みながらの会話に興じた。

 

 会話と言っても、指揮官が調味してくれたアルコールの感想に『おいしい』とか『酸っぱいね』とか、あたしが簡単に感想を言うだけだったけど。

 

 でも、それだけでも、指揮官にとっては十分だったみたいで「そうか」って短い返事をすると、優しく頭を撫でてくれて、ちょっとポワポワってした。

 

 時折、指揮官から『調子はどうだ?』とか『上手くやれてるか?』とか、当たり障りのない事を聞いて来たり。それについてもあたしは短く『問題ないよ』って返すと、指揮官はまた笑いながら「よかった」って頭を撫でてくれた。

 

 そうしてくれる度に、あたしの顔の排熱は間に合わなくなって熱くなる。冷やす為にアルコールを飲んでも、アルコールはあたしの身体の熱さを感じさせるだけだったけど、あたしの疑似感情モジュールは幸せという答えを導出した。

 

 短い会話を繰り返して、一つのグラスでアルコールを飲みあってると、指揮官が腕時計を確認し始めた。あたしも内蔵時計を確認する。時刻は間もなく明日が訪れる時間帯。

 

 短い会話だけを続けた短い時間かと思ってたけど、本当はもっと多くの時間が流れてた。

 

 時間も時間。そろそろお開きにしないといけない。

 

 でも、そう思うと、あたしの疑似感情モジュールは寂しさと心細さを訴えてきて、それが伝播したCPUは指揮官を押し倒すと言う結果を行動で示した。

 

 指揮官は凄くビックリしたみたいで目を丸くしている。

 

 ごめん、ごめんね指揮官……。でも、あたしの全部が、指揮官とまだ離れたくないって、もっと接続したいって訴えてる……。

 

 アルコールが入ったせいなのかもわからないけど、いつもより指揮官のことを考えると機関部の活動が激しくなるし、指揮官と離れると考えると融けそうな位に身体が熱くなる。

 

 それは、疑似涙液があたしの瞳から零れ落ちて顔を冷やそうとしてくるくらいに。

 

 人間は感情の処理が追いつかなくなると、喚いたり泣いてしまうモノらしい。今のあたしもそれと同じなんだろう。感情の処理が追いつかなくて涙を流しているから。

 

「いやだ……!まだ離れたくないよ指揮官……!」

 

 あたしは外見相応に子供みたいに喚く。

 

 指揮官は「はぁ…」と困った様に息をつくと、何かを察したのか、あたしに委ねるように力を抜いてくれた。

 

「G11は」

 

「……うん」

 

「その先のことをしたいのか?」

 

「……うん」

 

「はぁ……そうか……。仕方ないよな……。うん。私で良いなら――」

 

「……指揮官がいい」

 

指揮官はあたしに微笑みかけてくれる。

 

「……あぁ、わかった」

 

 あぁ、聞いてた通り……。指揮官は優しすぎる。

 

 指揮官は拒否しない。求められたら必死に応えようって、自分で言いのかって――。

 

 だから、45は心配したんだ。『指揮官はいつか一人で死んでしまう』って。

 

 嫌だなぁ……。本当に嫌だ。指揮官が居なくなったらあたし――

 

「……始め方はわかるか?」

 

 ネガティブな思考に飲まれそうになったあたしに指揮官は不意に聞く。

 

 指揮官は暗に引き返す最後のチャンスを与えようとしてくれてる。

 

 あたしは必死に頷く。詳しい事は45からある程度聞いた。今のあたしには指揮官の温かさが必要だから。

 

「うん、わかった。任せるよ」

 

「……うん」

 

 あたしは流れ出る疑似涙液を拭ってから、指揮官の胸に手を置いて位置を調整して――涙液で潤いを取り戻した唇で指揮官の唇の温かさを感じ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行為が終わって微睡むあたしを指揮官はずっと抱きしめてくれていた。

 

 途中で『幸せ』、『温かい』、『嬉しい』っていろんな感情が渦巻いて処理が間に合わなくなってまた涙が出ちゃったけど、やっとあたしは気づくことが出来た。

 

 あたしは……指揮官のことが好き、って。

 

「よしよし、頑張ったな」

 

 あたしの涙がつらさから出たものだと思ってるのか、指揮官はポンポンと背中を叩きながら優しく褒めてくれた。

 

 そんな的外れな優しはでも、いまの満たされたあたしの器を溢れさせるには十分だった。

 

「ううっ……ひっぐ……」

 

 ありがとう、わがままに付き合わせてごめん……。そう言いたいのに、今のあたしの頭脳部と疑似感情モジュールは幸福感から齎される排熱処理に間に合わなくて涙ばかり流すだけで……。

 

 指揮官のかけてくれる言葉、直接触れ合って包み込む彼の身体、自分の中を満たす温かさ。

 

 その全部から、幸せだって、指揮官が好きだって引数を与え続けるから処理が追いつかなくて涙ばっかり出ちゃって……。

 

 散々泣いて泣いて、嬉しくて泣いて、やっと収まると、普段からあたしの身を包む眠気が急激に襲って来た。

 

 人間は泣き疲れたら寝てしまうものだって聞いた事がある。今度はそれを再現しようとしてるらしい。

 

 あたしの意識はスリープモードのフェーズへと進もうとしている。

 

 その前にあたしは指揮官の手を握りしめる。より多くの面積で指揮官の温かさを抱いて眠る為に。

 

 段々とあたしの瞼が重くなってく。身体は再起動を望んでる。

 

 あたしの身体の機能が少しずつ止まって意識が暗闇に包まれる中でも、

 

「おやすみG11」

 

 いつもと変わらない優しい指揮官の言葉は確かにメインメモリの中に記録した―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の指揮官はとても眠そうにあくびを出していた。

 

 指揮官はあたしが再起動からスリープへと移った後、司令室の後処理をしたんだろう。あたしは司令室に放置されることは無く、人形たちの宿舎より司令室に近い指揮官の部屋のふかふかのベッドで寝かされていた。

 

 スリープから目覚めたら指揮官は居なかったから指揮官は朝早く出て行ったんだろう。迷惑かけてばっかりで後悔しか無かったから、今日のお仕事はちょっとだけ頑張ろうと思った。

 

 あたしはと言うと、類を見ない位絶好調だった。

 

 それは指揮官に対する想いを自覚したからか、指揮官の温かさを抱きしめて寝れたからかはわかないけど、今日は古参の戦術人形たちが目を張る活躍が出来た。

 

 眠たげに欠伸をする指揮官がインカム越しに作戦終了を伝えてくれた。

 

 今日の指揮官は疲れてるだろうから、一緒にお昼寝をしよう……。

 

 そう思い立ったあたしは、指揮官の手の感触を思い出しながら手を握りしめて、迎えのヘリに乗り込む。

 

 指揮官が眠たげな理由、あたしが好調な理由。それはあたし達しか知らない事なのだ。




番外編としたのは、指揮官よりの三人称ではなく、人形寄りの視点だから、ですね。
人形視点で書きたくなったら、また番外編とさせていただきますね。


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【オマケ】性的被害者な指揮官の設定資料(仮)

Twitterのファボ企画で投下したあの指揮官の適当な設定を公開。
あくまで思い浮かんだ仮設定なので、忘れても平気ですし、場合によっては消します。あまり宛にせずに。


name:レン・ハイム or 蓮・ハイム(仮称)

 

名前の由来は、作者が指揮官の容姿を適当に描いて見たとき、あまりにも閃光のハサウェイのレーン・エイムに似てたため(某チンパン動物園なゲームで一番好きな機体の乗り手だからかもしれない)

 

西洋人と日本人のハーフ。生まれは日本ではなく大陸の何処か。

 

日本語の読み書きは小4レベルまでなら恐らく可能(HK416の持ってきた大吟醸の文字を『大口今なんとか』とちゃんと読めなかったのはその為)。多分、英語圏出身。

 

両親、祖父は健在。

 

 

祖父は日本の元士官。

 

ELIDと交戦経験あり。

 

祖国を守りきれなかった事を悔やみながらも、息子(指揮官の父親)の手を借りて、指揮官の父親のいる地域に移住し、たまに国からELID対策の顧問の一人として呼び出しを受けたりをするが、普段は駄菓子屋を営んで平穏に暮らし、日本という国がどういうものであったかと店を訪れる子供達に昔話として語っている。

 

祖母と祖父の出会いは、接待に使ってた料亭で見習い女将をしてた祖母に一目惚れしたことから。数々のアプローチをするが彼女は釣れず、最後のつもりであったアプローチも粉砕された所に、何故か祖母の方から飲まないかと誘われ、餞別のつもりで付き合った飲みにて昏睡、からの逆レであったとのこと。

 

祖母は情熱的にアプローチをする祖父が好きでわざとつれないふりをしていたのだが、祖父の最後のつもりのアプローチだと気付かずにいつものように釣れない態度をとり、何とか彼の心を引き留めようとした結果が逆レとのこと。逆レは純愛である。

 

父親と母親の出会いは、父親が商社に勤めてた時に海外支部へ出張したことから。

 

海外支部で主任を勤めてた彼女は、最初は彼を異邦人として、冷遇していたが次第に彼を認めて惹かれる。

 

彼に日本支部への帰還の命令が出されたのを知り、彼が日本に帰らないようにすればいいにはどうすればいいかと考えた結果、デートに誘いディナーのために訪れたホテルにて料理に合う酒を言葉巧みに煽って鱈腹飲ませて彼の意識を曖昧にさせ逆レ。

既成事実を盾に彼を彼女の支部へ留まらせることに成功。実は普通に好きあってた二人は、三ヶ月後に婚姻したのであった。

 

指揮官は富裕層に近い中堅層出身。祖父の実績・功績と、父母が世界的にも大手だった商社に勤めているため。

 

幼い指揮官は近所の年上の女の子から人気だったと言う。何故だろうか。

 

両親・祖父だけが健在としか書いてなかった理由は祖母は病死していることによる。祖父曰く、昔は治せる病であったが医療機器の不足で治せなかったとのこと。家族達へそれぞれ愛を伝えて逝ったらしい。

 

父母は第三次世界対戦後、再編された会社に今も勤めている。

 

指揮官が、指揮官になった理由は、『出来るだけ安泰で安全な職について裕福で幸せに暮らして欲しい』と言う両親の願いを叶えようとした結果。

 

本人は特になりたい職も無かったので『(この時代において公務員より)安泰で(基地や司令部の守りが磐石である限りは)安全で(賃金もかなりいいPMCという)裕福な暮らしを(退職したら)得れそうな職』と言った感じで。

 

概ねの条件はあってるがなんかズレてる。

 

指揮官は訓練を積んでるけど、戦術人形との直接戦闘はまず勝てない。それが普通ではあるが。身体能力をサポートする外骨格があれば善戦できるかもしれない程度の戦闘力。

 

鉄血の量産型人形なら頑張れば倒せるかも知れないが、レシオは4:6と言ったところ。基本は不利。

指揮官候補の時代にも『人形と接敵したら逃げろ』と教え込まれてるが果たして彼は……。

 

指揮官の年齢は20歳前後(?)。指揮官としてはかなり若手。成績としてはそれなりに優秀な方。最低限の戦果は時間がかかっても挙げる、と言う謎の信頼を置かれてる。

 

多少ズレた所はあるが、近年稀に見る聖人と多方面から言われてるらしい。

 

 

言葉遣いは割と粗暴なのに一人称が『私』、二人称は『君』と言う風に穏やかなのは、言葉遣いは祖父の影響、人称は父母の影響を受けてるため。

 

勘と理解力と運が高い。初見で扱うものも、ものの数分で使いこなせる。その代わり使い手と呼ばれるような技量にはたどり着けない。そのような力が強いので、本人に自覚は無いが、人や人形達との付き合いはかなり良い。

 

普段から護身用に、祖父から就職祝に譲り受けたナイフとハンドガンを持ち歩いてるらしい。

 

よく逆レされる前に見てる腕時計は、父が若い頃に初任給で買った高級品。『持ち物で見栄を張るのも大事だぞ』と言う助言と共に就職祝として受け取った。

 

自分から話すより人の話を聞く方が好き。だが、祖父の話題を振られると話し込んでくれる。

 

両親は仕事(というよりは情勢)の関係で家を留守にすることが多かったので、祖父母の家に預けられた事も多かったので、祖父母がかなり好き。

 

一人飲みで司令室を選ぶのは、冷却ファンの音が、両親の家での仕事場の音に似てるので無意識に選んでいた。

 

両親からの愛が足りなかったのかな?と聞かれれば指揮官は困ったように笑うだろう。彼自身は両親の事をかなり愛してるつもりだし、彼自身は愛されてる実感もある。

 

休みの時は実家か、祖父の家にたまに帰ったりする。護衛と称して戦術人形がついて行きたがるので、毎回一人か二人だけ同行させている(お目付け役と称して後五人くらいこっそりついて来てたりもするとの情報もある)

 

祖父の家に帰ったら、祖父の駄菓子屋の営業を手伝っている。

 

店に来る子供達に『兄ちゃん』と慕われており、その姿を見た人形達に『子供と関わる職につけばいいのに』と言われる始末。

 

指揮官は今の職を彼なりに気に入ってるので、辞職する気は当分無さそうだ。と言うか、辞めたら何体の人形が彼についてこうとするのか想像するのがちょっと怖いと様々な方面から密やかに言われている。

 

本人は特に鈍感という訳では無いし難聴でもない。寧ろ他人に対しては多少過敏。鈍感なのは自分だけである。

 

好意を伝えられたら受け止めはするが、節操と立場は弁えようなと言うだけで、明確な返事は返さない。余りにも好意を向けられ過ぎて整理が出来てないのかもしれない。

 

好意を伝えられた後に高確率で逆レされることに疑問は覚えているが、両親、祖父母の出会いと経緯を知ってるので『遺伝子レベルでそういう運命が刻まれてるのだ』と、若干悟り始めてる節がある。



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【IF】夢の中で【オマケ】

 一種のIFルートです。
 簡易オールスターと言うよりは、ある種、指揮官のキャラストなので、オマケ扱いです。
 多分、皆様が想像したことがあるルートだと思います……。

今回は特にキャラ崩壊注意です!


 人は夢を見る。

 

 例えば、楽しい思い出。或いは、ハチャメチャな映像。もしかしたら、悲しい出来事。それとも過去の思い出。

 

 夢にも様々な種類があるのだ。喜怒哀楽は千差万別、混沌としたものまで様々な。

 

 そう、夢。彼は多分夢を見ているのだろう。

 

「指揮官、私と一緒に飲みましょう」

 

 桜の花の様な髪色の戦術人形、STAR-15が彼にグラスを差し出す。グラスから漂うのは甘酸っぱいサクランボの香り。普段は表情の変化が少ない彼女がほんのりと頬を染めてお酒を差し出す姿をお目にかかるのは、何とも新鮮だ。

 

「指揮官は私と飲むのよ。私は指揮官の好みを完璧に把握してるわ」

 

 完璧主義な腰まである浅葱色の髪と左目の下に涙のようなタトゥーを入れた戦術人形、HK416も対抗するように彼にグラスを差し出す。彼女のグラスに入っているのは、かつて日本にあったと言う固有のお酒を模した密造酒。はたまた、押収品から勝手に持ち出したのだろうか。

 

「指揮官は私と飲むんだから邪魔しないで。はいっ、指揮官」

 

 顔を顰めた表情を二人に向けてから瞬時に晴れやかな表情に変えてグラスを差し出したのは、昆布茶色の髪をサイドテールにし左目に傷痕を残す金眼の戦術人形、UMP45。彼女の手に持ったグラスからは爽やかな柑橘系の香りとシュワシュワと弾ける炭酸の音が指揮官の耳を楽しませる

 

「あっとその……」

 

 彼は困った様にはにかみながら両手を前に掲げて三人に待ってくれとジェスチャーする。

 

 そう、指揮官は気づいていた。これは夢だ。夢でなければ、こんな美女たちから飲みに誘われる筈が無いと。

 

 三人が持っているグラスに入っているのがアルコールだと何故かわかる。何故か?それは彼のみてる夢だからと、彼は答えるだろう。

 

 これが夢じゃ無かったら何か?美人局としか言いようが無いだろう。しかし、彼には強請られる理由は無い。

 

 それに、彼を包み込むこの非現実的な甘ったるい倦怠感は現実では感じた事は無い。だから、彼は自分に言い聞かせているのだ。これは夢であると。

 

「いえいえ、今日はジュースで爽やかに楽しみましょう」

 

 金色の髪をポニーテールにしてまとめたバンダナの戦術人形、SV-98がグラスの中に黒色のジュースとアルコールを注ぐ。そのジュースは戦前から世界的に愛され、指揮官にも馴染み深かったもの。好物の飲み物で割られたアルコールは食指を動かすのに十分。

 

「あの……一緒に飲みませんか?」

 

 彼の袖をちょこんと摘んで上目遣いに誘う金髪碧眼の小柄な戦術人形はスオミ。彼女は他の四人と違ってグラスとつまみとなる物を掲げて彼に期待の視線を向けている。

 

「あたしと飲も……?」

 

 彼の脚に腰を下ろし、見上げるようにねだるのは灰色の髪を跳ね放題にさせた小柄な戦術人形G11。彼女は五人と違って空のグラスを両手で持っている。酒は彼に入れて欲しいという事だろう。

 

 六人は牽制し合うかの様に睨みあう。

 

「ちょ、ちょっと……」

 

 彼はおどおど手の平を大きく振るう。夢とは言え、美女・美少女から飲まないかと誘われるのは光栄なことだ。彼女達が戦術人形であって、人間とは違う存在なのは彼にも理解している。でも、外見も声も人間のそれとなんら変わらない。寧ろ、人間よりも美しく感じる。

 

 そんな存在達に迫られれば、男としてたじろぐのは多少理解は出来るだろう。

 

「「「「「「誰と飲むんですか?」」」」」」

 

 この空気は皆で飲もうと提案する事が許される状態で無い事は、夢の中の彼にもよくわかっている。その言葉を口にした瞬間、次にあるのは終末を呼ぶ戦争か、鮮血の結末しかない。

 

 彼はなんとか考える。天国の様な地獄の牢獄の中で、何とか平和に終われる方法が無いかと。

 

 そんな風に考え込んで答えの出ない彼に痺れを切らせたのか、六人の衣服は突如として消え去った。

 

「ひぇっ!?」

 

 突然の事に彼は情けない声をあげる。突然服が消え去り、下着に包まれた裸体が現れれば、歓声よりも悲鳴が出るのは納得だ。

 

「仕方がないです」

 

「私が完璧なのよ」

 

「ふっふ~ん♪どの子ネコちゃんが好みかにゃ~?」

 

「そこまで答えが出ないんでしたら」

 

「少し恥ずかしいですけど……」

 

「あたし達の身体で判断して貰うよ」

 

 身体で判断とは文字通りの言葉なのだろう。豊満な体から、滑らかに整った体と様々な体型が指揮官の前に晒される。

 

 その光景は、凡百な男であればすぐにでも飛びつきたくなる様な世紀の絶景であるのかもしれないが、彼の脚はそれとは逆に後退を選んでいた。

 

 何故なら、彼の瞳は六人のハイライトを失った瞳をしっかりと捉えていたから。

 

「お、おぉ……」

 

 逃げると言う判断は出来ない。六人と共に平和に飲むと言う提案は許されていない。

 

 それでもと、それでも何とか平和的に済ませる手段は無いかと思考を重ねる。

 

 ここで諦めるのが潔いのかも知れない。だけれど、彼の本能は夢の中でこう訴えているのだ。『諦めたらヤられる』と。

 

 ふと、六人の瞳に光が戻る。それに気づいた彼は、一筋の光明を得たかに思えたが、彼女らに宿された光は野獣のそれであった。

 

「お、おぉぉぉ……」

 

 彼は小さく慟哭する。気づいてしまったのだ。彼には選択肢など始めから無い。あったのは、いつ彼と言う供物を平らげて欲しいかという身勝手な猶予だった。

 

「「「「「「さぁ、誰と飲むんですか?」」」」」」

 

 迫りくる六人。

 

「ひ、ひぇ……」

 

 思わず後ずさる彼。六人はそれをスタートの合図代わりだと言うかのように、一斉に彼に飛びかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで彼は目を覚ました。全身は汗まみれで気持ち悪く、頭の中ははっきりとしている。

 

 不思議と先程まで見ていた夢はすべて覚えていた。夢とわかっている夢は、起きてるときには忘れているとよく聞くが、今回の彼の夢はそうでは無かったようだ。

 

 彼は記憶を整理する。

 

 そう、彼はグリフィンに就職することが成功し、明日、指揮官候補育成施設へと向かうのだ。そこで指揮官候補生として数か月勉強し、そこから基地へと配属される。

 

 第三次世界大戦で荒れた世界の中では比較的安泰な職業。両親は複雑そうな表情をしていたが、指揮官となると大企業に就職するのと変わらない倍率なので、よく就職出来たなと褒めてくれた。

 

 それに夢に出てきた戦術人形たちはグリフィンと提携しているIOP社の戦術人形たち。殆ど姿形も知らない六体の名前を何故はっきりと思い浮かべれたのかはわからないが、恐らくあんな戦術人形たちが居るのだろう。

 

 ――ああ、今こんな事を思い浮べてる場合じゃないな。明日、グリフィンへ物資を納品する車に乗せて貰ってグリフィンに向かうんだ。早く寝ないと。

 

 そう思って、枕元に置いてある父が就職祝として譲ってくれた貴重な戦前の高級時計を手に取る。彼の視界は真っ暗だが、一応時間の確認はしたかった。

 

 手に取って盤面を確認するがなんだか掠れていて、文字が良く読めない。どうやら視界がはっきりとしないらしい。

 

 視界のぼやけを解消する為に目を擦ったその時、彼は――指揮官は気が付いた。夢の中で夢を見ていた事に。

 

 指揮官は腕時計を持った手を視界から退けて、上半身を起こす。

 

 ぐるりと見渡した視界に映るのは戦闘の指揮の為に必要な機材が並んだ司令室と、服をシーツと布団代わりにして指揮官を囲うようにスリープモードに入った六人の戦術人形たち。

 

 その瞬間、夢の中で感じていた倦怠感の正体を理解し、指揮官は全てを思い出した。

 

 今日も司令室で一人で飲もうと思い司令室へと入ったら、指揮官が想像していたよりも司令室のドアの解除コードはフリー素材になっていたようで、件の六人が既におっぱじめていた。

 

 それだけならまだよかった。一人飲みの気分ではあったが、多人数で飲むのも嫌いでは無いので、その時は混ぜて貰おうと思ったのだ。

 

 しかし、それは間違いであった。最初こそは六人はある程度仲良く飲んでいたのだろうが、指揮官が入って来た時には誰が指揮官の中で一番か若干揉め始めていたのだ。

 

 そんな時にやって来た指揮官は六人にとって供物でしかない。

 

 有無を言わさず指揮官を執務室に引き摺り込むと、連携のとれた動きで司令室をロックし、誰が指揮官の一番であるか詰め寄ったのだ。

 

 しかし、指揮官が答えれる筈もなく、痺れを切らした六人は――後は、想像に難くないだろう。

 

 指揮官は震える。夢であって欲しかったことが、夢で無かった事実に。

 

 同時に過去の夢を思い出して更に震えが大きくなる。何故なら、彼がグリフィンの指揮官候補育成施設に行く前に見た夢は、少なくとも今の人数の十倍近くが居たから。

 

「あは……」

 

 六人から襲われた事実。これから待ち受ける苦悩、

 

「ははは……」

 

 それらを受け止める為の器にひび割れが入ってしまった指揮官は適当に服を着ると――

 

「ムワアアァァァァ!!!!!」

 

 六人を起こさないように口を閉じて悲鳴をあげながら、腕時計を持って執務室から一目散に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 指揮官は突如として一週間の有給休暇を申請し、グリフィンから一時的に去った。

 

 朝起きたら部屋の前に指揮官からの有給申請の書類が置いてあったヘリアンとカリーナ曰く、申請する日数と理由には『暖かさと夢に溢れる実家に帰りたくなりました』と書いてあったと言う。

 

 当然、そんな適当(と思われる様)な理由で指揮官が基地から離れる事を許されなかったが、一部の過激な人形たちが指揮官は誘拐されたと言う身も蓋も無い陰謀説を唱えて基地が騒然となった為、指揮官の苦悩を理解したヘリアンが気を効かせて三日後には帰ってくるようにと指揮官に連絡を入れる運びとなった。

 

 三日後、何故か9A-91を引き連れた指揮官がゲッソリとした面持ちで帰って来た。

 

 噂によると、基地へ補給物資を届け終えた車両の荷台に匿って貰ったようだが、何故か9A-91も紛れており、そして荷台の上で居住区に着くまで――と言われている。9A-91曰く、「離れようとしたから悪いんです」との事。結局、(貞操の危険による迷惑がかかるので)実家には帰れず、実家周辺のホテルに泊まる事になったせいでますます危なかったそうな。

 

 指揮官が突如として実家に帰りたくなった理由、そして、指揮官がゲッソリとした面持ちで帰還した理由。それは当事者達のみが知ることだろう。




 指揮官はハーレム願望は特にありません。

 貞操観念に対しては普通と言った感じなので、集団逆レされたし、昔見た夢が実態を帯びてきてると気づいたらそうなるよねって感じのお話でした(適当)


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UMP9

 太陽が地平線の彼方に沈み、月が頂点に差し掛かる時間帯。

 

 夜間警備の人員以外は休息をとり、日の出ている時間帯で勤労に勤しんでいた者達が休息をとるような夜闇に包まれたグリフィン基地の一つ。

 

 その司令室で夜間の作戦を行うために留まっている――訳では無く、電源の落ちたパネルの上にアルコールと化学調味料を置いき隣り合うようにパネルの上に座って密かな楽しみに興じる為に集まった影が二つつ。

 

「かんぱ~い♪」

 

 影の一つは腰まで届く様な黄褐色の髪を二つに纏めた右目に傷痕を残す戦術人形、UMP9。彼女は上唇を猫の様に丸め、弾けるような笑みを浮かべてグラスを掲げている。

 

「かんぱーい」

 

 それとは対照的に、9の顔色を伺うようにオズオズとグラスを掲げている影の正体は指揮官。このグリフィン基地に居る戦術人形を統括し指揮する者。人形たちにとって、自分達を指揮する頼りになる存在。

 

「もう!もうちょっと乗り気で乾杯してください!」

 

「いや……うん」

 

 指揮官は困ったように頷くと、再びグラスを掲げて。

 

「かんぱーい!」

 

「かんぱ~い♪」

 

 弾けんばかりの笑顔を浮かべる9のグラスに、ヤケクソだと言わんばかりの大声で音頭をとった指揮官は、手に持ったグラスを9のグラスに当て甲高い音を司令室に響き渡らせた。

 

 

 

 9は他の404小隊の機体と違って司令室に侵入するような不躾なマネはせず、昼間に堂々と今夜は一緒に飲まないかと誘ってきたのだ。

 

 当初は、9の事だから仲の良いUMP45、HK416、G11と共に飲もうと言う意味なのかと指揮官は思ったのだが、そうでは無く二人っきりで飲みたいと言って来たのだ。場所はグリフィンの基地にあるバーでは無く、指揮官が(基本的には)一人飲みを堪能している司令室で。

 

 指揮官は当初、HK416、UMP45の様に(G11は感情が溢れて漏れてしまった結果だと指揮官は判断しているので除外)『そういう事』をしたいという下心があるのかと疑ったが、彼女はニコニコと答えを待っているだけ。

 

 404機体の中で誰の感情が一番読めないかと聞かれれば指揮官は間違いなくUMP9であると答えるだろう。HK416は隠しているつもりでも自分から感情を表に出してしまうし、G11は溜め込んでしまう事はあるだろうが基本は素直。UMP45も感情のスイッチを設定しているみたいで隠すのが上手いと思うが、気分が高ぶる様な事が起きると本性を曝け出すことが多い。

 

 9が一番裏表無く社会的でいつもニコニコと笑っている様な朗らかなイメージがあるが、いつもニコニコとしていて感情の変化が乏しいからこそ、腹の内が読めない。読心術の対策としては、UMP9が正解だ。事実、彼女のオリジナル機が所属する404小隊のUMP9は一切の感情の変化も無く笑顔で拷問も殺戮も出来ると言う。

 

 じっと彼女の瞳を見て、真意をはかる司令官。しかし、彼女の瞳に変化は無く、相も変らずその奥底は見えない。何も反応を返さない指揮官に眉を寄せる。

 

「う~ん……。もしかして、45姉達とも一緒の方がいい?」

 

 45が居れば、9が何かをしでかそうとした時のストッパーになってくれると思ったのだが、そこで指揮官に電流が奔り過去の記憶を蘇らせた。

 

『今度は9も一緒に……ね?』

 

 あの日、45から(性的に)襲われた翌日に言われた言葉。あの言葉が本当なら9と45が一緒に飲みに来るという事は、45はストッパーにはならず、寧ろ扇動して来るのでは無かろうか?その上、自分も加わろうとしてくるのではないのだろうか?

 

 9は45達と言った。45のあの言葉を思い出してからだと、あの四人達と共に飲むと言うのは、まるでクリスマスにでるターキーを貪るかのように、指揮官をターキーの代わりに四人で自分を貪ろうとするだけなのではなかろうか?

 

 そんなことになったらたまったモノでは無い。一人の相手をするだけでも翌日は枯れ果ててしまうのに、多数を相手する事になったら、肉体と精神の疲労の余り唐突に実家に帰って休養したくなるのではないか?そんな後ろ向きな確信が指揮官にはあった。

 

 その考えに至った提督の頬に冷や汗が伝る。自意識過剰な被害妄想爆発の様に思われるかもしれないが、指揮官には9以外の三人にすでに襲われている実績があるので、笑い話では済まない。

 

「大丈夫、指揮官?」

 

 心配そうに眉を曲げながら指揮官の顔色を伺う9。彼女は気づいているのだろうか?純情青年でありたいという指揮官の苦悩が。

 

「あ、あぁ……大丈夫だ……」

 

 袖で汗を拭って、思考状態から抜け出す指揮官。

 

 断る事が出来たらどんなに楽だろうか。しかし、彼は人形たちの統括者。戦術人形たちのコンディションをベストに保てるようにするのは、指揮官の役目。もし、9が悩みを抱えていて、飲みたいと言うのは悩みを相談する為の口実として使っている可能性がある。人間関係も人形関係も亀裂が入ったまま放置して作戦中に関係が悪化して大変な事になるのは、いつの時代も注意すべき事だから。

 

 だから、指揮官は断らない。断れない。その優しさと甘さが入り混じった性格が彼の魅力であり弱点であるとも言えるのだろうが。

 

 ともかく、今は9を信じよう。9は下心など無くただただ自分と飲みたいだけか、相談事があるけど恥ずかしいからそう言っているだけであると。

 

 そう決めた指揮官は、出来る限り自然に笑顔を作った。

 

「あぁ、いいぞ。今、夜の予定を思い出してたんだが、何も無かったから。飲むか、二人で」

 

「ありがとう指揮官!」

 

 こうして9の腹の内を予め探ろうとして結局探ることが出来ず、彼女を信じると言う判断が正しい事を祈りつつ彼女との飲みを承諾した。

 

 45と416の様に、唐突な乱入者(G11に関しては司令室に放置してしまったのでは無いかと指揮官は半分自分を疑っているので除外している)として現れるよりマシであると判断して――

 

 

 

 

 このような経緯を辿って9との飲みにオドオドとしながら興じていた指揮官なのだが、相も変わらず9の腹の底は見えない。

 

 相変わらず腹の底は読めないが、9はニコニコとアルコールを飲み続け、時には指揮官にお勧めのレシピはあるかと聞いて自分でアルコールを味付けしてみたり、偶にレシピの分量を間違えて渋い表情を披露したりと、問いかけがメインで指揮官自体は一口も飲まなかった45との飲みや、一つのコップで飲みまわしじジッと飲んでる姿を見つめて困った事を聞かれたら『私は完璧よ』botと化す416との飲みよりも断然楽しいモノであった。

 

 9は404小隊機の中でも裏表がない分恐ろしいとされてるが、一番社交性はあると評されてる通り、9は自分から次々と話題を振ってくれる。

 

 この前街に行った時に私服を買ってみたと言うエピソードや、たまたま行ったカフェのミルクティーが濃厚で美味しかったとか、戦闘で完全破壊されて大変だったとぷりぷりと怒りながら語ったりだとか、極東から移住したという老人が経営する駄菓子屋と言うお店に行ってみたら沢山お菓子をサービスしてくれたと言うお話だとか。

 

 自分から話題を出すとなったら『最近の調子はどうか?』、『悩みあるか?』とありきたりな話題しか提供できない指揮官にとって9から話題を提供してくれるのはとてもありがたいことだった。

 

 自分から話をするより、人の話を聞く方が指揮官も好きなので、指揮官も会話を楽しめる。

 

「ああ、あのチョコバーうまいよなぁ。私は、あれのホワイトチョコ味が好きなんだよ」

 

「うーん。私はストロベリーチョコの方が好きかな?」

 

 家庭の事情で駄菓子に深く馴染みのある指揮官は、特に駄菓子に関しての話題に強く心惹かれ、珍しく自分からも深く語りだしてしまう程に。

 

 駄菓子を気に入った9も指揮官の話を夢中で聞き込み、自然に新たな話題を振っては指揮官から新たな話を自然と引き出そうとしている。

 

 話が途切れない至福の会話の時間。話を肴にして流し込む格安のアルコールは、416が押収物から盗み出した密造酒と変わらない旨さの様に感じる。

 

 ――9は本当に私と飲みたかっただけなのかもしれない。

 

 心の中で9に対しての謝罪を述べながら、指揮官は会話に興じた。

 

 

 

 

 

「はははっ」

 

「ふふふっ」

 

 会話が一旦途切れた隙に指揮官は腕時計を盗み見る。時刻は長針と短針が頂点で抱き合うまで十数分と言った所。会話を楽しんでいたのも確かだが、本日は会話が弾みすぎて少々飲み過ぎた自覚が指揮官にはある。

 

 明日の為にも本日はもうお開きにしよう。

 

 そう提案しようとした所で、9は指揮官の身体に寄りかかってきた。

 

「んー……しきかーん……」

 

 すりすりと柔軟な素材で出来た頬っぺたを指揮官の胸元に擦りつける。

 

 45が酔うと猫語を使うのに対して、9は行動が猫の様になるのかと、指揮官は酔いが回った頭で考えていた。

 

「しきかーん……」

 

「なんだー?」

 

 呂律や思考が回って無いせいで、二人して間延びした口調にってるのに気づいて二人は小さく笑い声を漏らす。

 

「私達って家族だよねー?」

 

 家族。それは9がこだわっている言葉。

 

「ああ、家族だ」

 

 その答えに指揮官は酔いを振り払って家族だと即座に返す。

 

 そうここに居る皆は家族も同然。同じ場所で寝起きし、共に戦場を駆け抜け、成功した喜びを自分の様に分かち合う。その様は指揮官が実家で育ってた頃の家族像となんら変わりない。

 

 だから、指揮官は迷いなく答える。自分達は家族であると。

 

「指揮官は家族の事が好きー?」

 

「あぁ好きだぞ」

 

 9の言う家族が指揮官の肉親達の事なのか、或いはこの基地の事なのかは酔った頭ではわからないし聞く気すらも起きなかったが、とりあえずは後者の事であると判断してそう答える。

 

 そう、指揮官は皆の事が好きだ。ヘリアンもカリーナもここの職員や技師たち、UNP9達戦術人形の事も。恐らく全員残らず好きだと答えれるだろう。

 

「ふふっー♪しきかーん」

 

 彼女は機嫌よく鼻を鳴らしながら、火照った手で指揮官の両頬を包むと、唇を彼のそれに押し付けた。

 

「!?」

 

 驚愕に目を丸める指揮官。9は驚きで跳ねる指揮官の反応を楽しみながら、深紅の舌を彼の口内に侵入させて蹂躙する。

 

「んっ……じゅっ…ちゅる……」

 

 生々しい水音を立てながら、彼の歯列をなぞるかのように舌を押しつける9は指揮官のことを中から書き換えようとするかの様。更に9の舌が指揮官の舌を組み強いて味わう。器用に指揮官の舌に絡みつく9の舌は、どちらが上かをわからせようとしているみたいであった。

 

 余りにも強い力で頬を挟まれているので、指揮官は顔の向きを変える事も振りら這う事も出来ない。そもそも、振り払うと言う判断は無かったかもしれないが。

 

 キャンディを舐めるかのように散々指揮官の口内を嬲って満足した9はゆっくりと舌を自分の口内に戻し、透明な橋をかけながら離れてゆく。

 

「よかった。指揮官は家族(わたし)の事が好きなんだね」

 

「ちょ、それはどういう」

 

「聞いたでしょ?家族(わたしたち)のこと好きって」

 

 ニコニコと弾けるような笑みはいつもの9のそれと変わらない。だがしかし、それには深みがある。その深みは決していつもの9が纏っているような朗らかな深みでは無い、もっと黒い、陰気な深みが。

 

 酔いが回ってたはずの指揮官の頭は、9からの深い口づけで酔いから完全に冷めて、先程までの情報を整理を始める。

 

 9は確かに家族と言った。最初に聞いたのは『私達は家族か?』と聞いた。それはこの基地にいる皆は家族だと言う意味だと思った。次に聞かれたのは『家族の事が好きか?』と問われた。それも勿論好きだと答えた。

 

 怪しい言葉は『家族』位しか無い。その『家族』の定義が指揮官の思ってたものと違うのもだとしたら?9の指す家族が『基地の皆』という意味では無く、『指揮官と9』という定義だとしたら?

 

 そう、そう考えれば辻褄は一応合う筈だ。彼女がわたしの事が好きなんだねと言った理由が。

 

「45姉も416もG11も酷いよねぇー。私達、家族の関係を壊そうとするなんて」

 

 何とも、何とも理不尽な言葉遊びの結果なのだろうか。酷いと言いたいのは指揮官の方である。しかも、何を言おうにも『指揮官が勘違いしたのが悪いんだよ?』と言い返されても反論がしづらい。認識のズレによる答弁は根本を正さない事には意味が無いから。

 

「でも、大丈夫。今日は私達家族の時間だよ?いっぱい愛し合おうね指揮官♥」

 

 指揮官は気づいた。UMP9の酔い方とは、猫の様に甘えるのではなく、普段は表に出さない独占欲と思い込みか妄想の発露であると。

 

 強い力で指揮官をパネルへ縫い付けて、再び一つになる為に唇を接近させてくる9。

 

 ――45……9と酔った状態でやろうとしたら壮絶な喧嘩が始まる事になりそうだぞ……

 

 心の中で妹想いな腹黒い姉に忠告する指揮官。司令室を照らす照明が二つの影が一つになるのを見守っていた。

 

 

 

 

 

 翌日から暫く、指揮官は普段の服装ですら肌の露出が無いのに、殊更肌を見せないように厚着して業務に励んでいたと言う。本人はちょっと体調が悪くて寒気がするからと言い張っていたが、噂では蚊に刺されたような跡が大量にあったと言う。

 

 UMP9は指揮官の厚着をジロジロ見る度に機嫌よく溌溂と微笑んでいたと言う。

 

 指揮官が数日間厚着をしていた理由。UMP9が厚着を見る度に笑っていた理由。それは当事者のみが知ることだろう。 




「ペルシカさん」

『あら、指揮官?珍しいわね』

「戦術人形ってアルコールを摂取すると性欲が500倍位になるんですか?」

『指揮官も面白い冗談を言えるのね。そんな機能は無い筈よ』

「えぇ……」


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【IF】カリーナ

IFルートです。多分



 荒れた土地に力強く根付く草木や、太陽が登ってる間は懸命に獲物を探していた野鳥たちも眠りに着く月夜の時間帯。

 

とある地区の警備を行うグリフィン基地は夜間でも周辺の警備を行っているが、昼間は業務に当たっていた人員の殆どは休みについている。

 

具体的に夜間は閉めている施設は、食堂であったり、基地内の数少ない癒しと言えるカフェスペースであったり、後方幕僚が運営を任されているショップであるったり、或いは夜間作戦がないので一日の稼働を終えた司令室であったり。

 

一日の仕事を終えて眠りに着いたのかと思いきや全員がそういう訳ではなく、何時如何なる時も例外はあるものだ。

 

「お疲れ様です!かんぱーい!」

 

「かんぱーい」

 

司令室の電源が落ちたパネルの上に、全力で腕を伸ばしてグラスを掲げる褐色の髪を一纏めにした後方幕僚のカリーナと、彼女ほど元気さは無いが精一杯腕を伸ばして彼女のグラスに自分のグラスを触れさせる指揮官の様に。

 

「んぐっんぐっ……!ぷはぁ~!美味しいですねぇ!!」

 

グラスの中に並々と注がれていた麦酒と呼ばれてた飲料を再現した発泡酒を一息に全て飲み干したカリーナ。

 

「いい飲みっぷりだなぁ……」

 

対する指揮官は豪快なカリーナの飲みっぷりに感心しながらもチビチビとグラスに口をつけて、少しずつ量を減らしていっている。

 

「もう指揮官様!そんなペースじゃこの発泡酒は減りませんわ!」

 

 指揮官はお酒をチビチビ飲んで行くタイプであり、一気飲みをするようなタイプでは無い。昔、指揮官の祖父が正月の祝だ何だと言って大好きなニホンシュ(?)を一瓶丸ごと一気飲みした結果、急性アルコール中毒で病院に運ばれたせいで新年が台無しになってから、一気飲みしないと心に決めているという個人的な理由もあるが。

 

「ああ、うん。私も頑張って飲むから、この量の発泡酒がここにあるのが私のせいみたいに言わんでくれ」

 

 指揮官は飽きれながらカリーナの脇を指差す。そこにあるのはビニール袋一杯の発泡酒の入った缶達。その発泡酒の塊こそが、司令室に指揮官とカリーナが二人で飲んでいる理由。

 

「あはは……。でも、今日は私の奢りです!だから、ジャンジャン飲みましょう!」

 

「私、発泡酒は正直一杯目だけで――」

 

「ほらほら、指揮官様!グラスが空きましたわ!どうぞどうぞ!」

 

「うへぇ……」

 

 指揮官のグラスが空いたと見るや否や指揮官のグラスにそそくさと発泡酒を注ぐカリーナ。

 

「さぁさぁどうぞ!指揮官様!」

 

 カリーナは指揮官が高い商品を購入した時の様な極上の笑みを浮かべながらも新たな缶を開けてすでに次の準備を整えている。

 

 その様子に一種の諦めがついた指揮官はカリーナに習う様に一気にグラスの中の黄金の発泡酒を飲み干した。

 

 

 

 

 

 そう、カリーナから飲まないかと誘われたのは、昼間にカリーナに頼んだ作戦報告書を受け取った時の事だ。

 

「あっ、そうだ!指揮官様、今夜は私と飲みませんか?」

 

 唐突にそう飲みに誘われた指揮官。十人の男が居たら全員が見てしまう様な見目麗しい後方幕僚からの同伴の誘い。

 

 並大抵の男であれば一も二も無く飛びつく様な魅力的な提案。の筈なのだが、指揮官の表情はフリーズしたかのように固まる。

 

 飲みの誘い。その瞬間指揮官の頭に過ったのは六、七人の芸術品の様に整った容姿の戦術人形との飲み会。この基地に来てから数か月たつ指揮官なのだが、戦術人形との飲み会の終わり方は決して良いものでは無い。ある意味で言ったら羨ましがられる事なのかもしれないが、それが毎度の事となるともはや新鮮味などは無く、どうしてこうなるのかと因果と運命を疑いたくなるだけである。

 

 誘われるパターンも侵入してくるパターンも迎えた結末は殆ど同じ。指揮官は何故いつもこうなるのかと頭を抱えるばかり。

 

 だから、戦術人形では無く、人間であるカリーナから誘われても疑ってしまうのだ。カリーナももしかしたら、戦術人形たちの様に『そういう事』をする為の口実として飲みに誘っているのではないかと。

 

「あーその……今日はだな……」

 

 今日の指揮官は未知への恐れが勝った。カリーナからの提案を断ろうと頭と口が動いたのだが、はたまた突如としてカリーナが指揮官に抱き付いた。

 

「助けてください」

 

 よろめきながらも指揮官はカリーナの身体を受け止める。

 

 彼女は豊満な胸を押し付け、消え入るような小さな声で助けを求めた。

 

「……どうした?」

 

 その声色は、先程までのどうやって誘いを断ろうかと考えてた小心なものでは無く、戦術人形たちに指示を出す時の様なよく通る低い声へと瞬時に変わる。

 

 お人好しな指揮官は、はたまた飲もうと言うのは口実で、実は胸に秘めた後ろめたい何かがあるのではと勘ぐっていたのだが。

 

「じ、実は、発泡酒を入荷しすぎて不良在庫になりそうなんです!」

 

 瞳を潤ませながら、悩みを口にするカリーナ。その様子は小動物が助けを求めるような愛らしさがあるが、指揮官の脳は一言根性論を口添えしてここから去れとの判決を下した。

 

「うん。ガンバレ」

 

 カリーナの肩に手を置いて一言そう告げると、指揮官はカリーナの脇を通り抜けて司令室に戻ろうとしたのだが、カリーナは指揮官の腰を両手でホールドして逃がさない。

 

「助けてくださいよ指揮官様!」

 

「全部買えって言うのか?!流石にそんなに発泡酒は飲めんぞ!」

 

「ほんの百本!百本でいいですから!!」

 

「どう考えてもほんのじゃないだろ!と言うか、何でそんなに入荷した!酒買う人ってそんなに居ないだろうに!」

 

「いやぁ~いつも飲料を卸してくれる業者さんが安く売ってくれたんですけど、まさか全て賞味期限が近かったなんて」

 

「確認はいつもちゃんとしろって言っただろ!」

 

「何とか捌けると思って格安で売ってたんですけど全然だったんです!助けてください指揮官様!もうこの際無料でお譲りしてもかまいませんので!指揮官様はアルコール好きですよね!?」

 

 無料。タダより高いモノは無いと昔から言うが、無料と言う言葉の響きにはいつの時代でも心が引かれる事だろう。

 

 脇腹に引っ付くカリーナに指揮官は目を向ける。

 

「……賞味期限は?」

 

「明後日です」

 

「頑張って全部飲み干すんだ。頑張れカリーナ」

 

「待っください指揮官様ぁ!ヘリアンさんに怒られたくないんですぅうう!!!」

 

 その後も約五分間カリーナと格闘した指揮官は根負けし、夜の司令室で二人で飲んで出来る限り消費する事を約束する羽目になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そのような経緯でカリーナと二人っきりで発泡酒を次から次へと飲み干す二人。

 

 と言っても、人間のお腹に入る量など限られた者。三本目で二人は味に飽きを感じ始め、指揮官の提案でジュースや化学調味料で味をつけて何とか数を減らそうとしたが、一人五本が関の山であった。

 

 二人してお腹を擦って、冷えた発泡酒で失われていった体温を求めるかのように自然と二人は寄り添う。

 

「お腹いっぱいですね……」

 

「まさか……アルコールでお腹を膨れさせる日が来るなんて……」

 

「うぇひひー……」

 

 指揮官がショップで財布を見せたときにする怪しげな笑いをするカリーナだが、その声にはいつもの様な快活さは無い。発泡酒の炭酸は想像以上に二人の胃を圧迫しているからだ。

 

 指揮官はチラリとカリーナが持ってきた袋を盗み見る。二人で飲んだ数は計十本、開いた袋の口から見える残りの缶の数は四本と言った所。

 

 ある程度の数は減らせた様にも思えるが、嘘かホントかカリーナは『百本買ってくれ』と言って来た。それが本当の事なら、氷山の一角でしかない。

 

「ゲップ……」

 

 指揮官は口を押さえて口から洩れたゲップの音量を押さえる、余りにもお腹が膨れすぎて、ゲップと一緒に飲んだ物を出してしまいそうになる。

 

「……指揮官様」

 

「……なんだい?」

 

「ご満足いただけましたか?」

 

「……大満足だよ」

 

「……うふふ。よかった~」

 

 カリーナは安堵した様に指揮官に体重を預ける。

 

「指揮官様はお酒が好きって聞いたので、ちょっと奮発したんですよ?」

 

 奮発した。その言葉に指揮官は違和感を覚える。不良在庫回避の在庫処分に何を奮発する必要があったのかと。

 

「不良在庫の件は嘘か?」

 

「嘘じゃないですけど、本当でも無いです」

 

「一体どういう――」

 

 思わず振り返ってカリーナを見つめる指揮官。そこに居たのは、普段の陽気なカリーナでは無く、アルコールともしかしたらそれ以外の何かで頬を染めてそっぽを向いているカリーナだった。

 

「指揮官様……あなたへの好意は割り増ししてると言ったら嬉しいですか?」

 

「そりゃ……その……」

 

 カリーナの言葉の意図がどういうものなのか理解できない指揮官では無いし、カリーナがどんな言葉を望んでいるのかも何となく指揮官はわかっている。

 

 わかっているからこそ、口ごもるのだ。指揮官は自分の想いに答えを出せないから。

 

「迷惑か迷惑じゃないか……それだけを教えてくれませんか?」

 

「……嬉しいよ」

 

 それは嘘偽りの無い指揮官の言葉。カリーナからの好意は決して迷惑では無いし、深い信頼をおいて貰えてるのだと嬉しくはある。

 

 だから、迷惑かそうじゃ無いかと与えられた選択肢を使わず、自分が思い浮かんだ言葉をそのままカリーナへと伝えたのだ。

 

「イヒヒ……」

 

 カリーナは指揮官の背中にすり寄ると、まるでぬいぐるみの代わりにするかのように頬を擦りつける。

 

「嬉しいです。指揮官様が来るまで、仲の良い職員ってあまり居ませんでしたから」

 

 この基地にいる人間は仕事に忠実。民間軍事会社なのだからそうあるべきなのだが、戦いへの恐怖を紛らわす為か仕事一辺倒の職員も少なくは無い。

 

 指揮官が基地に着任してからは、指揮官の秘書の様に懸命に働いていたカリーナだが、彼が来るまではどこか心の寂しさを感じながら過ごしていたのかもしれない。

 

「指揮官様はいつも優しいですから、普段からのお返しをしようと思ったんです。だから、今日は奮発しました。全部奢りって言うのは本当です」

 

「……嘘をつかないで素直に誘ってくれたら、私の方から奢ったぞ」

 

「うーん……それはもったいない事をしちゃったかなー……」

 

 カリーナは指揮官の胸に腕を回す様にして抱きしめる。指揮官の方には抵抗しようとする意識は無いので、彼女の腕に身を任せる。背中に感じるカリーナの柔らかさと温かさが今の彼にはとても心地よいモノであった。

 

 アルコールと、カリーナの高い体温。その二つによって唐突に眠気に襲われた指揮官は、ぼんやりとした視界に腕時計の文字盤を収める。時刻はもうそろそろ月が頂点へと昇る頃。いっそのこと、この眠気に身を任せたい衝動に駆られるが、ここには寝具は存在しない。どうやって自室まで帰ろうかと霞がかった頭で考えていると、いつの間にか自分の身体が天井を向く様に倒されている事に気が付いた。

 

「指揮官様――ごめんなさい。今の私には、この想いを抑える力は無いです。だから――」

 

 指揮官はその先に待つであろう運命を直感的に感じ取って、目を瞑る。人間と飲んでもこうなるのかと、諦めた様に、或いは受け入れる準備をするように。

 

「指揮官の温かさを――今だけでいいから感じさせて……!」

 

 真っ暗に閉じてく世界の中で、指揮官はカリーナからの情熱だけはしっかりと感じ取った。

 

 

 

 

 

 

 翌日、指揮官は頭を抱えていた。今までは人形だけにされていたから、あまり心配して無かったのだが、今回の相手は生身の人間。一夜の過ちで、自分のせいでカリーナのこれからの人生が狂ってしまったらどうしてあげるべきか、自分はどう責任をとってあげるべきなのかと。

 

 一方、カリーナはいつも以上に晴れやかな表情で仕事に取り掛かり、彼女を見る者達に元気を分け与えていたと言う。

 

 朝の挨拶の去り際、気まずそうに頬を引きつらせる指揮官にカリーナは耳打ちする。

 

「子供が出来た時の為に名前を決めておきますか?」

 

 指揮官が一日中頭を抱えていた理由。カリーナが晴れやかに仕事にとりかかかってた理由。それは当事者のみが知ることだろう。 




「もしもし父さん」

『うん?どうしたんだい?』

「色々あって去勢しようと思うんだけどどう思う?」

『疲れたらいつでも帰って来ていいから、早まったことはやめなさい……。いつでも相談に乗ってあげるから』

「割と本気の相談してるつもりなんだけどなぁ……」


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WA2000

※キャラ崩壊注意


 一日の業務を終え、昼間にあったような喧騒も幾らか収まった真夜中のグリフィン基地。

 

 昼間は人の出入りが激しく騒がしかった司令室も今は機材の殆どの電源が落ちて、サーバーを冷却する為のファンの音だけが響くくらいに静寂に包まれている。

 

 殆どの人員が自室で休息をとってる中、物寂しい司令室を利用するのは、この基地において唯一人。その利用者とは指揮官、基地に配属された戦術人形達と共に作戦の立案から実行を行う統括者。

 

 そう普段なら一人。最近は乱入されるパターンもあるような気がするが、夜の時間の司令室は基本的には指揮官の貸し切り状態で、一人でアルコールを嗜む為に利用されているのだが、今日は何とも珍妙な同伴者がいる。

 

「しきか~ん!」

 

「ちょ、落ち着け!」

 

 指揮官の頬に赤らんで熱を持った頬を押し付けて擦り合わせているのは、ワインレッドの長髪を一房右側に纏めたヘアスタイルの戦術人形、WA2000。

 

 普段は高飛車な面が強く指揮官に対してはキツイ言動や態度をとったりしているWA2000に何か間違えが起きたのか、今はねこ撫で声で指揮官に頬ずりをしている。

 

「えへへ~……指揮官のほっぺジョリジョリしてる~」

 

 自分には無い髭の感触が楽しいのか、WA2000の頬は何時の間にか顎にまで到達していて、微かに生えた髭の感触を頬っぺた全体で甘受してる。

 

「ちょっ……もういいだろ……」

 

 WA2000の肩を押して離れようとする指揮官。しかし、彼女は決して離れようとしない。

 

「いーやーだー!」

 

 子供の様に駄々を捏ねながら更に強い力で指揮官の首に自分の腕を巻き付けるWA2000。

 

「指揮官と一緒にいるのー!」

 

 甘えたがりなSOPⅡやG41よりも我儘でタチの悪い駄々っ子に指揮官は疲れた様にため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 誰からも誘われる事も無く、だからと言って誘う事も無く、そして、久しぶりに侵略者が訪れる事も無く、司令室にてファンの音を聞きながら一人のみを堪能していた指揮官であったが、そんな密かな楽しみは数十分で終わりを告げた。

 

『指揮官、その……少々宜しいでしょうか?』

 

 扉の前から聞こえるのは穏やかな清流のような優しい声色。その声の持ち主が誰であるかは指揮官はよくわかっている。

 

「どうしたスプリングフィールド?」

 

 グリフィンに所属する戦術人形の一人、スプリングフィールドの声だ。アルコールが入って判断力が鈍り始めてる指揮官ではあるが、酔いが回り始めた位で部下の声がわからなくなるほど頭の回転は鈍って無い。

 

 指揮官はパネルに腰かけるのをやめると、何か問題が起こったのかと首を傾げながらドアの前の認証パネルにふれてロックを解除する。

 

 本日は夜間の遠征は行っていない。なので遠征の報告をしに来たと言う訳では無いのは確か。

 

 緊急事態が発生したら基地中にけたたましい警報が鳴り響く事も身をもって知っている。

 

 だとしたら宿舎に不備でも発生したのだろうか?正直そういう話なら、自分ではどうしようも出来ないので、修理の担当の元に行って欲しいのだが

 

 扉が開ききる前の数舜の間にそんな考えを巡らせながら扉が開ききるのを待つ指揮官。

 

 開ききったドアの向こうに居たのは、困った様に微笑むスプリングフィールドとスプリングフィールドに肩を貸される形で何とか立っている俯き加減のWA2000。

 

 その瞬間、指揮官の顔つきが一瞬で変わる。WA2000に何か異常が起こったのか?まさか、この基地の人員から何かをされたのではないか?

 

 前者なら専門外ではあるが、すべきことは完全に頭の中に入っている。

 

「WA2000に何か異常があったのか?」

 

「その……確かに異常と言ったら異常かも知れませんが……」

 

 スプリングフィールドは困った様にはにかみ、はっきりとしない言葉だけを指揮官に返す。

 

 少しでも多く、それでいて早く情報を掴み、次の行動に移したい指揮官ではあるが、今はWA2000の状態について一番よく知っているスプリングフィールドから証言を聞き出すのが先だ。

 

 そう自分に言い聞かせて、WA2000の詳しい状態を改めて聞こうとした指揮官であったが――

 

「あっ指揮官だー!」

 

 突如顔を上げたWA2000が指揮官の姿を確認すると、テーマパークの着ぐるみに抱き付く子供の様に満面の笑みを浮かべて指揮官に飛びついた。

 

「ぬわっ……!」

 

 突然の事で反応が遅れたのとアルコールによって若干筋肉が弛緩しているので踏ん張りがつかず、指揮官はWA2000のクッションになる形で倒れてしまった。

 

「しきかんだー!しきかんだー!」

 

 WA2000は指揮官のことを幼い子供が遊園地のマスコットキャラクターにするかのようにすりすりと頬を寄せている。

 

「ちょ、これ、どういう事なんだ!?」

 

「ごめんなさい!さっきまでこの子と一緒に飲んでたんですけどその……指揮官の元に行くと駄々を捏ねて……だから、申し訳ありません!」

 

 スプリングフィールドはひとしきり頭を下げると、逃げるように司令室から去っていった。

 

 部屋に取り残されたのは唖然とする指揮官と相変わらずすり寄るWA2000。

 

 司令室の扉は、このまま帰るのは許さんと言わんばかりに、外からの光を遮断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 司令室に二人っきりで取り残されてから数十分、相も変わらずWA2000は指揮官のことに抱き付き、マーキングするかのように頬を寄せている。

 

 頬をするのをやめたのかと思えば指揮官の手を取り、まじまじと見つめたかと思えば、スライムにでも触るかのようにクニクニと握って『柔らか~い!』とはしゃぐ子供の様に感想を言って来たリ。

 

 指揮官がわかった事と言えば、彼女の言葉に乗せて漏れる息からアルコールの独特の匂いを感じたので、WA2000が酔ってると言う推測が何となく出来ただけである。

 

 酔って甘えてくると言えば、HK416とUMP45の姿を即座に思い出す指揮官。前者は遠まわしに褒めてくれと言って来たり、後者は唐突に発情期の猫になって語尾に『にゃ』をつけ始めてWA2000の様に顔を寄せて来たり。いや、どっちも発情期のネコだな、というか酔っぱらったほぼ全員発情期のネコだったな、と回想から現実逃避へと移っていると、唐突に頬を抓られ、そのまま力強く外向きに力のベクトルを向けられた。

 

「私のことをみなさいよ!」

 

「しゅ、しゅんまへん!」

 

 知らぬ間にWA2000から視線を逸らせていた指揮官の頬を、威嚇をするふぐの様に頬を膨らませて引っ張るWA2000。その怒り顔には、先程までの様な子供の様な好奇心に溢れたモノは無く、素面の時の様な理不尽な物言いをしてくる彼女の面影が残っている。

 

 戦術人形から頬を引っ張られるなど溜まったモノではない。非戦闘時の人間相手の為のオートパワーバランスが作用してるため死に至る程の力の強さは働かない筈なのだが、人形もアルコールを摂取すると、その管制も甘くなるのか物理的に頬が落ちてしまう様な危機感を覚える指揮官。

 

 即座に視線を逸らした事を謝罪すると、WA2000はゆっくりと指揮官の頬を抓った手を離して、力を込めて充血した彼の頬を癒す様に指先で撫でた。

 

「ごめんね」

 

 アルコールのせいで正常な判断力が弱まったWA2000でもやり過ぎたと感じたのか、怒られることを悟った子供の様に、弱々しい声色で指揮官に謝る。

 

「いや、別に……」

 

 WA2000に抓られて痛くはあったが、アザになる様な痛みは感じない。現にWA2000が指先に刺激されても、頬が歯に当たる感触を感じるだけで痛さは何もない。

 

「ごめん……。ごめんなさい指揮官……」

 

 しかし、彼女の謝罪は止まらない。留まらない。まるで堰を切ったかのように、次々と謝罪の句を繋げる。

 

 いつものWA2000ならこんな風に謝ったりせずに、『アンタが悪いのよ』と嫌味を言ってきそうなものでペースを崩されてしまう。

 

「いい、気にしなくていいから」

 

 いま起きたのは大きな間違いでは無い。今のはただのじゃれ合いであって、間違いですらない。そう考えつつ、WA2000を慰める指揮官であったが、

 

「ごめんね……。いつも迷惑をかけてばっかりで」

 

 WA2000のその言葉で、彼女がなんでこんなにも謝るのか、何となく理解した。

 

「私、いつも指揮官に対してキツイ態度をとってるし、指揮官が心配してくれても素直に心配してくれて嬉しいとか、ありがとうとか返せないし……」

 

 それは指揮官もよくわかってる。彼女の態度は、規律に重きを置く組織であれば問題視されるべきもの。現に規律に煩い戦術人形から何度か注意されているのも指揮官は知っている。

 

「でも、本当は……私、嬉しいの……!指揮官に話しかけて貰ったりとか、心配して貰ったりとか――。この前に私の銃の点検ミスを指摘してくれたのとか、凄く……。でも、それを素直に言葉に出来なくって――」

 

 彼女の武器に傷みを発見したので報告した事もあったが、彼女は『なによ!?私の点検が悪かったって言うの!?』と肩を怒らせて立ち去られてしまうことがあった。

 

 ただ、それが拘りのあるベテランであったら、そんなミスを指摘されてもミスだと認めずに出撃する愚か者も居るだろうが、

 

「だから、素直に言うにはどうしようって、スプリングフィールドに相談しながら飲んでたら、凄く指揮官に会いたくなって。スプリングフィールドに指揮官の元に連れてきて貰って……」

 

 彼女は案外素直なのだ。その場では、ツッケンドンな態度をとられたが、次の出撃の時は修復していたし、戦闘終了後に囁き声で『悪かったわね』と不器用ながらミスを認めたのだから。

 

 そうWA2000と言う戦術人形は、指揮官からすれば腹の内も読みやすいし、十分素直な部類だ。大抵の場合は、キツイ態度の裏には何があるか読みやすいから。

 

「ごめん……迷惑よね……ごめんね……」

 

 ポロポロと頭部のCPUを冷却するための疑似涙液を流すWA2000。

 

 今の彼女でも、『君は思ったより素直な子だよ』と言っても、全力で否定するだろうし、それでは変わりたいと思う彼女の意志を無視することになる。その言葉をかけるのも間違いでは無いし、正解かもしれない。だから、指揮官のかける言葉を決めた。

 

「もっと話さないか、お互いのことを」

 

「えっ……?」

 

 指揮官の言葉に、思わず疑似涙液を手で拭うのをやめて、彼を見上げるWA2000。視線が合わさった彼は優しく笑んでいた。

 

「多分、お互いのことを詳しく知らないから、そういう態度になっちゃうんだと思う。だけど、お互いの事を詳しく知れば、その態度にはどんな意味があるかとか、わかってくると思う」

 

「でも……」

 

「他人の領域に踏み込むのが下手な人間なんていくらでもいる。WA2000も、そういうモノなんだと思う。だから、もっと話してお互いを知ろう。そうすれば、WA2000も自然と素直な言葉を出せると思う。素直に言葉を出すって言うのは、お互いに素を知り合う事が大事だと思うから」

 

 だから、彼は変われとも、そのままでいて欲しいとも言わない。その代わり、お互いの事をもっと知ろうと言った。お互いの事を知れば、もっと自然に変わることが出来る筈だし、変わらなくても、変れなくても相手の思いがわかれば、それは素直な事と同じだから。

 

「だから、今からもっと話そう」

 

「そうすれば、私、素直になれる……?」

 

「わからない。だけれど、お互いの距離がもっと縮まれば、今よりかはもっと言葉を口に出来る筈だ」

 

「そう……。そうかも知れないわね……。うん……。話しましょう指揮官!」

 

 赤く腫れた目元を拭い自然と笑顔を浮べるWA2000。その表情を素の時も見たいと思いつつもこれから見れる様にすればいいと思い直して、指揮官は微笑み返す。

 

 

 

 

 

 

 それから、WA2000と指揮官は話し合った。好きな食べ物から、好きなこと、休日の過ごし方や世間話。何もかも当たり障りのないモノばかりだが、二人の間には不思議と充足感が漂っていた。

 

 指揮官が持ち寄ったアルコールを二人で飲みながら話し合う二人。時間が過ぎるのを忘れ、ちょっとした話題で盛り上がりついつい話し込んでしまう。

 

「ははっ、なによそれ!」

 

「仕方ないだろ、これは私の体験談なんだから……」

 

 武勇伝語りに一区切りをつけた指揮官の目に不意に腕時計の文字盤が納まる。時刻は長針と短針が最後の周回を終える頃合い。

 

 今日はお互いの事をよく話し合えた。また、WA2000と話すきっかけを作って親睦を深めよう。そう決心した指揮官の視界が突如揺らぎ、司令室の灯りと水平になった。

 

「指揮官」

 

 彼の視界に移る照明を奪うかのように、彼に覆いかぶさるWA2000。

 

「もっと仲良くなる方法に興味ない?」

 

 舌で唇をなぞって潤わせ、初めてのことを体験する子供ように目を輝かせるWA2000。

 

 その瞬間、何が起こるのか指揮官は遺伝子で察した。

 

「それ、もっと仲良くする方法じゃない!仲良くなった人たちが仲良くなりすぎる為にするやつだ!!」

 

「別にいいでしょ。これでお互いの事を知れるなら……ね?」

 

 お互いの事をよく知ろうと言った手前、指揮官は咄嗟に反論を思い浮べる事が出来なかった。

 

 口角を大きく持ち上げて、指揮官の顔との距離を縮めるWA2000。指揮官の唇は、WA2000の燃え上がる様に熱い唇と一つになって融け合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、指揮官はずっと目を回していた。

 

 なんでも、昨日、永遠と悪路を走る車に乗る夢を見ていた為、三半規管の調子が変になっているとの事。

 

 WA2000はそんな指揮官の胸倉を掴んでぐわんぐわんと揺らし『忘れなさい!忘れなさいよ!』と壊れたアナウンス用の民生人形の様に連呼し、指揮官を小一時間トイレに引きこもらせたらしい。

 

 指揮官が目を回していた理由。WA2000が指揮官に掴みかかってた理由。それは当事者のみが知ることだろう。 




「もしもし、母さん」

『うん?どうしたの?』

「最近、女の人からの攻めっ気が異常に強いんだけど、これどうやって対応したらいいとおも――」

『あっ、はい!ごめんなさい!お母さん急激に大事なお仕事が~~!!』

「母さーーーん!!!!」


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【IF】ヘリアン

カリーナと同じくIFルートです。
うん。流石に人から逆レされたら本編(?)に影響が出ちゃうからね!


 草木も眠る何とやら。太陽は果てへと沈み、その役目を月と星々へと引き継いだ時間帯。

 

 とある地区の治安維持も兼任するグリフィン基地も、夜間は活動を控え翌日の活動の為に備えているのがいつもの事なのだが、本日の司令室はLEDの照明が灯されている。

 

 司令室に居るのは、この基地に所属する戦術人形達の式を専門に任された指揮官と、灰がかった長髪の彼の上司、上級代高官の女性ヘリアントス、通称ヘリアン。

 

 指揮官はどうやって音頭を切り出そうかと顔を七変化させながら化学調味料で味付けされたアルコールの入ったグラスを持ち、ヘリアンは顔を俯かせたままグラスを力強く握りしめている。

 

 指揮官はチラチラとヘリアンの表情と、軋む音を発するグラスを気まずそうに交互に見ると、やがて意を決して顔中の筋肉と言う名の筋肉が凍てついた笑いを浮かべながら大きな声でグラスを掲げる。

 

「さ、昨日はお疲れさまでした!か、かんぱーいっ!!!!」

 

「……かんぱい」

 

 無理矢理テンションをあげて音頭をとる指揮官に合わせるように、ヘリアンは普段基地の職員に向けるのより低い声を発しながらグラスを掲げて指揮官のグラスに自分のをぶつける。

 

「んきゅ……んきゅ……」

 

 緊張の糸が張り巡らされ過ぎて、胃の調子が悪かった指揮官は、胃に報酬を与えるかの如く、一息にグラスの中身を飲み干す。祖父が一気のみで救急搬送されてから、大人になっても一気飲みはしないと誓った指揮官であったが、余りのストレスに変調を訴える胃への特効薬は今はアルコールしか無かったから。

 

「ぷは―!!」

 

 空きっ腹にアルコールが注ぎ込まれると、胃から燃えあげるような感覚を味わう事になった指揮官。全身に火が回ったような錯覚を起こし始めたので、やっぱり一気飲みはするものでは無いと、身体に覚えさせたのであった。

 

「いい飲みっぷりだな……」

 

 そんな指揮官の心境を知ってか知らずか、ヘリアンはどこか恨みったらしそうな低い声で指揮官を睨む。

 

「そ、そうですかね!?あはは!!」

 

 指揮官が睨まれるような事をした覚えは――ある意味ある。それは、部下である指揮官が粗相をしたり、大きなミスを犯してヘリアンが責任をとったから、と言う様なビジネスの話では無い。もっとプライベートな、もっと言うとヘリアンの私怨染みたものだ。

 

 指揮官のもみあげから汗が垂れる。アルコールで体温が一気に上がったような錯覚を覚えたくせに、汗の冷たさだけははっきりとわかるのがなんとも不愉快で気持ち悪い。

 

 けれども、指揮官はこの居心地が悪い空間から逃げる事は出来ない。それは、相手が上司で、自分は部下であるから。

 

「あはっ、あはは……」

 

 壊れた玩具の様に苦笑を貼りつかせる指揮官は、空になったグラスにアルコールを注ぐ。アルコールのせいなのか、それとも別の何かのせいなのか、彼の手は禁断症状を起こしたようにガタガタと震え、グラスに注がれる筈のアルコールが手にもかかってしまっている。

 

「指揮官」

 

「は、はぃっ!」

 

 ヘリアンから呼ばれ、指揮官のアルコールを注ぐ手がピタリと止まる。普段は掴みどころが無くどこか飄々とした姿を見せている指揮官だが、今だけは動物病院に連れてかれるペットの様に大人しく、従順になっている。

 

「率直に言って貰いたい」

 

 彼女は一度、言葉を区切ると、息を吸って二の句を繋げる。

 

「昨日の合コン、なにが行けなかったと思う?」

 

 モノクル越しの真剣な眼差しに、指揮官は凍りついてヒビが入ってしまいそうな苦笑いを浮かべるのが精いっぱいであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 指揮官は先日、ヘリアンと共に合コンに呼ばれた。否、指揮官は呼ばれたと言うよりも、ヘリアンに数合わせで来るように命じられていたのだ。

 

 指揮官とて(元(?))純情な好青年。男女同士が集まってする飲み会と言うのには興味がある。

 

 務めている企業の都合上、休暇以外は閉鎖的な基地と言う空間に留まるのが常であり、指揮官は依頼者と直接交渉したりすることも無い。それに、学校教育を終えてから、年齢の近い者との絡みと言ったらカリーナと位しか無い。役職的には上の方には居る指揮官であったが、入社歴の都合上外出の自由はヘリアンより効かないので、ある意味でありがたい話であった。

 

 最も、数合わせと言うよりかは、ヘリアンがいいと思った相手といい雰囲気になれるように手伝えと言うサクラの役割ではあったが、久しぶりに街に出ての飲み会、今の彼にとって見知らぬ他人と関わる機会は貴重なので、願ったり叶ったりな要請であった。

 

 因みに、その日、指揮官が合コンに行くと言う話が何処からか漏れたのか、ST AR-15とHK416が不穏なオーラを纏いながら護衛をやると志願した。戦果の取り合いでいがみ合う事がそれなりにある二人がだ。指揮官曰く、人間であったら二人の目は血走っていたと語っている。

 

 指揮官としてはヘリアンの様に相手を見つけると言うよりかは、楽しく話しながら飲むだけのつもりなので、疚しい事は何もないと何度も説得したのだが、『己の運命を受け入れてください』と『私が居れば十分なのに……?』と言う言葉を凄まじいプレッシャーと共に贈られたので指揮官は屈した。

 

 結局、指揮官の把握している限り、その日の護衛は五人はいたと言う。数人は勝手についてきたようだが、指揮官はあの二人のプレッシャーで心がへこたれていたので何人来ようと同じだと思ってスルーしていた。

 

 因みに護衛達は離れた位置から見守る形で指揮官の邪魔をしないようにしていたとの事。上司であるヘリアンも同伴しているので、恐らく指揮官の顔を立ててくれたのだろう。

 

 話を戻そう。指揮官とヘリアンは居住区内の大衆食堂で合コンを行った。集まったメンバーは指揮官とヘリアン、それと彼らと同じ位の年齢の男女が二人ずつ。だれも彼処も、一流の企業に勤めてて、容姿のレベルが高い。グリフィンも一流企業であるので、それに負けず劣らずと言った勤め先のメンバーが集まったのだろう。

 

 指揮官は、何となくな流れ的に進行役を務めつつ、ヘリアンをさりげなくサポート。指揮官がヘリアンのサクラだとばれない様に知り合いを装って。

 

 指揮官が(進行の為に)女性に話しかけたり、飲み物は何がいいか、次は何に注文しようかと細やかな気遣いをする度に、別のテーブルからグラスが割れる音がしたらしいが、そこは気にしないで貰いたい。

 

 かくして合コンは終始和やかな雰囲気で終わり、指揮官は始めて知り合った男女全員と連絡先を交換し、ヘリアンは女性とだけ連絡先を交換して解散となった。

 

 余談を言うと、合コンが終わり次第、護衛の一人であったUMP45に携帯端末を没収され、合コン前の状態にロールバックされた上にありとあらゆる連絡先が勝手に変更されていたと言う。指揮官は楽しく飲んでいただけなのに何故だろうか。

 

 再び話を戻そう。ヘリアンの異名を知っているだろうか?彼女の異名とは『合コンの負け犬』。『負け犬歴』をめでたく記録更新することになってしまったのである。

 

 指揮官の援護がありながらも何で失敗したのか、その反省会を翌日、つまり本日の夜に行おうとヘリアンが提案(命令)してきた事からこの飲み会が始まったのである。

 

 ヘリアンはじっと指揮官を見つめる。判決を待つ被告人の様に。ヘリアンからすれば見上げてるだけなのかもしれないが、指揮官からすればこれから処刑される罪人が処刑される寸前に処刑人の事を睨みつける様な理不尽な怨嗟を感じているのだが。

 

 指揮官は頬を掻きつつ分析する。ぶっちゃけた話しヘリアンのサポートには回っていたのだが、サポートに回りやすいように自然と進行役になっていたせいで、余り分析の為の材料が揃ってない。個より全を見てしまっていたから。

 

 揃ってないのだが、敢えて言えるとしたら――

 

「自分の事を前面に出し過ぎ――な様な気がしますね」

 

「それは、どういう……?」

 

「うーん。ヘリアンさん、この前はこういう仕事をしたーとか、こういうのが好きとか、本当に自分のことばっかりと言うか……」

 

「…………」

 

「ああ、いえ!自分の事を知って貰おうとして言ってるのはわかってるんですよ!?」

 

 ヘリアンからの無言の睨みと言う名の抗議に、指揮官は両手を振ってフォローを入れる。

 

 そう、ヘリアンは自分の主張が強すぎる面がある気がした。指揮官にとって、合コンとは、男女で集まって飲み、あわよくば親睦を更に深めよう、と言った下心が見え隠れする飲み会、と言うように感じている。

 

 なので、合コンの時点で必要なのは、自分と言うものはその時は軽く紹介する程度に収めて、話の流れで自分と言う引き出しを開けていけばいい。そう言う風に思っていた。

 

 しかし、ヘリアンは自分からどんどん自分と言う引き出しを開けてくる。それこそ、指揮官のフォローが間に合わない位に。

 

「確かに……一理あるかもしれないな……」

 

「私にとっての合コンは殆ど初対面の男女がまずは楽しく飲みあうモノかなーって思っているので、その……」

 

「初心を大事に……か……ふむ……」

 

 納得した様に頷くヘリアンにほっとした様に息をつく指揮官。合コンで失敗するあまり、もしかしたらヘリアンは初心を忘れていたのかもしれない。調和を求められる空間で個の出し過ぎと言うのは、異端になってしまうものだから。

 

「後はそうですね……。グリフィンの仕事に関して詳しく言い過ぎと言うか」

 

「それも、自分を前面に出し過ぎだと?」

 

「うーん……PMCもこのご時世において安泰で倍率の高い職業ですけど、やっぱり仕事内容が仕事内容なので、商業区画で働いてる人達にはショッキングかと――」

 

「ふむ――」

 

 指揮官の分析に相槌を打つヘリアン。時折、細かく聞いて来たりはするが、指揮官は出来る限り言葉を選んで伝えつつも助言をおくる。

 

 彼は、心の奥底で結婚願望を強く持ってるヘリアンの事を少しばかり羨ましく思っていた。

 

 彼が務めているのは民間軍事企業。それも、指揮官と言う立場。敵にとっては忌々しい対象の上位であるだろう。

 

 前にも言った通り、PMCは収入こそ高いが伴侶としての人気は昔からそこまで高くない。理由は簡単、やっている仕事内容が戦いに関わっている事からこのご時世では世間から後ろ指を指される事も少なくないし、結婚しても自分が戦死するという事も珍しくない。

 

 そんな苦境に立たされて尚、結婚に対しての熱い思いを迸らせるヘリアンの姿は、指揮官にとって一番星の様に輝いていた。

 

 だから、彼は真剣に相談に乗っている。この人には幸せになって欲しい、と。自分が半分諦めている家庭を持つ、ということを諦めてないから――

 

 

 

 

 

 

 

 一通り客観的に分析しアドバイスを終えた指揮官は、グラスにアルコールを注ぎ、水で割って飲みこむ。

 

 気がついたら夢中になって話し込んでいたので、すっかり喉が渇いてしまった。

 

 指揮官が一息ついたことで、ヘリアンも緊張の糸が緩んだのかほっと一息をついた。

 

「指揮官、確かに私が自分を前面に押し出しやすい事はよくわかった」

 

 指揮官の分析が精神に来たようで、顔を少し俯かせながら。

 

「だけど、私は、自分の事をよく知って貰いたいと思う。それで、私を選んで欲しいと思っている。こんな職についているんだ。相手に後悔をさせたくはない」

 

「……それもそうですね。ええ、私達は悪く言えば、いつ死んでもおかしくないですしね」

 

「そう。だから、自分の事を多く言ってしまうのだろうな……」

 

「ですかねー」

 

 それだけじゃ無くて、合コンで失敗続きの焦りもあるんだろうなと指揮官は思ったが、彼は口に出さなかった。

 

 せっかく話がまとまりつつあるのだ。上司の逆鱗に触れてまとまりを破壊するほど、指揮官はアルコールに飲まれていないし、蛮勇では無い。

 

「指揮官」

 

「何です?」

 

「指揮官は我の強い女性はどう思う」

 

「うーん。私が万人と同じ感性を持っている訳では無いので、何とも言い辛いですけど……。私はそう言う女性もいいと思いますよ。ほら、戦術人形達も結構個性が強いですし」

 

「……そうか。ありがとう」

 

 指揮官は顔を上げると、緩やかに微笑む。

 

 普段の仕事中ですら中々拝むことが出来ないヘリアンの笑顔。それを拝むことが出来ただけでも、今回の相談に乗った甲斐があったと言うものだ。

 

 指揮官はふと自分の腕時計を見る。時刻は全ての針が1と2の間に収まる頃合い。

 

 本日の飲み会は中々に面白かった。上司とある意味腹を割って話すことが出来たし、ヘリアンの結婚に対する誠実な姿勢を確認させられた。

 

 自分も誠実にならないとなーと指揮官は思いつつ、ヘリアンにお開きの提案をしようとした所で、ヘリアンに肩を抑えられ、そのまま電源が落とされたパネルに押さえこまれた。

 

「ちょっ!?なんで!?」

 

「灯台下暗しとはよく言ったものだと思わないか?こんなに良い案件の男が目の前に居たのに気づかなかったなんて……」

 

「えっ、いや!?えっ?!そういう流れでした!!??」

 

「なに、先ずは互いの相性を試そう。その先はそれから決めればいいことだ」

 

「うっそだぁ……」

 

 指揮官がヘリアンを気遣って言わなかった欠点があと一つだけあった。それは、ヘリアンの酔いが進むと、下ネタをよく挟んでくること。それによって、昨日の合コンに来た男女と自分の表情が何回か凍り付いたいた事。

 

 その下ネタが……彼女の秘められた欲由来のモノであったなら?

 

 いや、それだけは無いと断言したかった指揮官だが――

 

 ヘリアンの口付けは、指揮官の思考の全てを掻っ攫っていってしまった。

 

 

 

 

 

 翌日、指揮官が私室にてム○クの叫びの様な表情で固まっているのを発見された。一部の戦術人形達はきっと合コンでよからぬことをされたのだと、合コンに来ていたメンバーを襲撃する計画を立案しようとしていたらしく、カリーナが死ぬ気で収拾にあたったとのこと。

 

 ヘリアンは休暇をとったとの事。何でも、突然色々な気持ちに対する整理がつかなくなってしまったとの事。カリーナ曰く、休暇を伝えた彼女の表情は何処となく綺麗に見えたらしい。

 

 指揮官が固まっていた理由。ヘリアンが休暇をとった理由。それは当事者のみが知ることだろう。

 

 

 

 

 

 

 




「もしもし、じいちゃん」

『おう、どした?』

「今からじいちゃんの駄菓子屋継いでいい?」

『休みたいならいい施設を紹介するぞ……』

「えっ!?ホント!?じいちゃん大好きー!」

『(思考が幼児化している……。跡継ぎにするか考えておいてあげるべきだろうか……)』







読者様へ少しばかりご相談

『朝の私室にて』は別作品としてあげた方がいいでしょうか?
pixivの方と同じ感覚で投稿しているのですが、『夜の司令室にて』が更新されたのがわかり辛いと思ったので。
新規に投稿するべきか、このままでもいいのか、或いは別の方法で更新されたのがわかりやすいようにするか、その要望もあれば、感想でお聞かせくださると助かります。


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スプリングフィールド

 太陽が地平線の果てに沈み、地表を照らす役割を月へと引き継いだ頃合い。

 

 グリフィンの基地も昼に哨戒と警備を行っていた人員は、夜間に動く人員へと引き継ぎが終わり、基地の機能を最小限に留めた頃合い。

 

 本日は夜間の作戦も、後方支援も無く。多くの戦術人形と、彼女達を指揮する指揮官も羽を休め、明日へと備えている。

 

 そう確かに羽を休めているのだ。

 

「乾杯」

 

「乾杯です」

 

 指揮官と狐色の長髪をリボンで結った戦術人形、スプリングフィールドは精密機器を冷却するために動くファンの音だけが響く司令室でアルコールを摂取すると言う形で。

 

 事のきっかけは昼の作戦終わりにスプリングフィールドから、飲まないかと誘われたからだ。

 

 最近、戦術人形とアルコールを飲むと高確率で性的な被害者と化し、見る夢は後方幕僚や上司から襲われるものばかり見るのが最近の悩みな指揮官ではあるが、スプリングフィールドからの要請は快く受けた。

 

 つい先日、飲酒したWA2000と言う爆弾を投下しては来たが、スプリングフィールドは他の戦術人形や人間たちへの気配りが上手な子。

 

 なので、スプリングフィールドまで流石に襲ってこないだろう、無理に行為に及ぶような真似はしないだろうと楽観視し、こうして彼女の望みを引き受けたのだ。

 

 スプリングフィールドには、WA2000を始め気難しい戦術人形を任せている負い目も若干ある。だから、彼女の愚痴を聞いたり、話し相手になってあげると言った形で、何か癒しを与える事が出来ればと、彼は思っていたから。

 

 指揮官はグラスに口づけると、喉を慣らす様にして飲む。溜まった一日の疲れをアルコールと一緒に飲みこむように。

 

 最初はおずおずと口に含んでいたのだが、ある時何かに気づいたように一気に瞳を見開き、一息にグラスを傾けて勢いよく飲みこみ始める。

 

「イイ飲みっぷりですね」

 

 指揮官の勢いが気に入ったのか、スプリングフィールドは微笑みながら彼の飲みっぷりを見守る。

 

 彼が一息に飲んだのは、スプリングフィールドが入れたカルーアミルク――を模した物。

 

 コーヒー牛乳のような甘くて飲みやすい口当たりが特徴だ。何でも、彼女が経営を任されてるカフェの為に仕入れられた材料が余っているので、その在庫処分の為との事。

 

 指揮官の一日は基本的に司令室で全て終わるので、彼女のいるカフェには中々脚を運べない。彼の仕事が終わる頃には、彼女のカフェにはclosedとなっているからだ。なので、いつかは彼女のスプリングフィールドのカフェで彼女が淹れたコーヒーを飲むのが指揮官の小さな夢だ。

 

「お口に合いましたか?」

 

 指揮官の顔を覗きこむようにして様子を伺うスプリングフィールド。彼の答えはもう決まっている。

 

「うまい!」

 

 まるで子供みたいな弾ける表情を浮べる指揮官。この味は、祖父の駄菓子屋で売っていたコーヒー牛乳の優しい味を思い出す。

 

 カクテルの知識が浅く、今までジュースや化学調味料で味付けをしていた指揮官にとって、リキュールとは未知の割物であった。コーヒー牛乳とは違うが、それに近い味わいをアルコールと共に楽しめるとはこれまでの指揮官は想像すらしていなかった。寧ろ、スプリングフィールドからカルーアミルクを手渡された時、牛乳とアルコールは合うのかとスプリングフィールドを疑った程に。

 

 しかし、その疑りは杞憂に終わった。だから、スプリングフィールの名誉回復を図る時間だ。

 

「疑って悪かった!だから、その……もう一杯頼めるか!?」

 

 疑ってたことを謝りつつも瞳を輝かせてスプリングフィールドに頼む指揮官は、まさにお代わりをねだる子供の様。普段の飄々とした彼らしくない姿に揺れ動かされたスプリングフィールドは自然と指揮官のグラスを手に取る。

 

「うふふ、作りますよ。指揮官が望むならいくらでも」

 

 スプリングフィールド自家製のコーヒーリキュールの黒に白いミルクが注がれて桑色へと変化していくグラスの中を指揮官は初めて見るかのように視線が釘付けになる。そこにスプリングフィールドが飲用アルコールを加え、マドラーでよく混ぜてカルーアミルクが完成する。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう!」

 

 スプリングフィールドからグラスを受け取ると、もう待ちきれないとばかりに指揮官は勢いよく口をつける。

 

「んっ、んぐんぐ……うまいなぁ……」

 

 幼い頃、好きだった仄かな苦みと牛乳のまろやかさと口に残る甘さ。その全てが懐かしくて、アルコールのカッと熱くなる様な感覚が無い飲み物は初めてで、指揮官はすぐにまた味わいたいとグラスを傾ける。

 

 空になったグラスを無意識にスプリングフィールドに手渡した所で、指揮官はスプリングフィールドのグラスの中身が減ってないことに気が付く。

 

「ああ……すまない……。自分ばかり楽しんでしまって……」

 

「ふふっ、いいんですよ。指揮官もお疲れでしょうから」

 

「それを言うなら君もそうだろう……。次は飲むペースを落とすよ。あーと……それと、作り方を教えてくれるか?」

 

「大丈夫ですよ。指揮官は気にしないで。このお酒作るのには結構コツがいりますから、私に任せてください」

 

「そうか……ありがとう。じゃあ、お礼に私のとっておきのレシピで作ったカクテルモドキをスプリングフィールドにご馳走しよう」

 

「うふふ、じゃあ私も沢山飲まないといけませんね」

 

 スプリングフィールドからカルーアミルクを受け取ると、指揮官はジッとスプリングフィールドのことを見つめる。最初は何かが足りないのかと思ったスプリングフィールドであったが、先程の指揮官が言った『自分だけが楽しんでしまっている』と言う発言を思い出し、慌ててグラスを手に持った。

 

 意図が伝わって満足したのか、指揮官は幼い子供のような満面の笑みを浮かべると、スプリングフィールドのいれてくれたカルーアミルクに口をつける。

 

「えぇ、頂きますね」

 

 指揮官の幼い笑みに報いるように、スプリングフィールドはアルコールの入ったグラスに口を着けた。

 

 

 

 

 

 

 あれから幾分か時間が経った。指揮官は飽きることなくカルーアミルクを飲み続け、スプリングフィールドは指揮官の作ってくれたカクテルを口に含む。

 

 指揮官はスプリングフィールドのカフェについての話題を振る。プライベートな飲みの時間に、仕事の話をするのは如何とも心の片隅で思いはしたが、カルーアミルクと言う未知を体験し解放されてしまった探求心を自分では抑えきれなくなっていた。

 

 スプリングフィールドはその話題にも嫌な顔を一つせず、寧ろ顔を綻ばせながら語ってくれる。

 

 あの戦術人形は実は辛いモノが苦手だとか、材料の仕込みは大変だけど来てくれるお客さんが喜んでくれると思えば不思議と頑張れるという事や、

 

「指揮官にも、私のコーヒー、味わって欲しいです……」

 

 その言葉と共にスプリングフィールドは指揮官に寄りかかる。

 

「おおっと!?」

 

 アルコールでバランス感覚が不安定な指揮官は寄りかかったスプリングフィールドを受け止めつつも、電源の落ちたパネルに座るように尻餅をつく。

 

「スプリングフィールド?」

 

 指揮官がスプリングフィールドの名前を呼ぶと、彼女は顔を上げてアルコールで火照った顔とその熱で蕩けた瞳を指揮官へと向ける。

 

「指揮官……」

 

 スプリングフィールドは彼の胸元に顔を押し付ける。甘える子供の様に。

 

「ふふっ、本当は指揮官のことを酔わせてみようと思ったんです。ですが、指揮官はあまり酔ってないのですね」

 

「うーむ……酔ってるには酔ってるが、確かに酷くは酔ってないな」

 

 指揮官は自分のペースを保つことが出来れば、酔いの侵攻をかなり抑える事が出来る人物。例え、最初に一気飲みをしても、後でその分ペースを抑えて辻褄を合わせれば酔いの侵攻を贈らせることが出来る。

 

「カルーアミルクって結構度数があるんですけど……。流石ですね、指揮官……」

 

 だから、彼のペースに付き合っていると、飲みの相手もアルコールの耐性が強く無い限りは相手の方が音を上げる事になる。

 

 それこそ、今のスプリングフィールドのように。

 

「でも、なんで私なんかを酔い潰そうとしたんだ?」

 

 彼の素朴な質問にスプリングフィールドは躊躇するように瞳を伏せた後、意を決したように小さな声で指揮官を酔わそうとした真意を口にする。

 

「誰も見た事が無い指揮官を見てみたかったんです」

 

「それはどういう……?」

 

 彼はまだ彼女の真意がわからないと首を捻る。スプリングフィールドは瞳を伏せてその経緯を語っていく。

 

 指揮官と自分にはあまり接点が無く、会えるとしたらカフェの経営についてや作戦報告をする時しかないのを少々気にしていたこと。カフェに訪れる戦術に人形がする指揮官の話にいつも耳を澄ませていたこと。そして、何人かが指揮官と飲んだと聞いて、本当は心底羨ましく思ってたこと。それと、同時に指揮官が酔い潰れた姿を見た事無いと聞いたこと。そのことを聞いて、誰よりも先に指揮官が酔った姿を見たくなったという事。他の人形たちのする指揮官の話を聞くだけの自分では無く、自分も指揮官のことを語れる存在になりたかったこと。

 

 酔いで回らない舌と、言葉選びに時間がかかるCPUをフル活用して、スプリングフィールドは自分の想いを確かに指揮官に伝えた。

 

 指揮官はスプリングフィールドの告白を聞き入れて、アルコールが入った瓶を手に取る。

 

「そんなに見たいなら――」

 

 自分の酔った姿にどの位の価値があるかはわからない。それに今までペース配分を守って飲んでいたから、酔い潰れた自分を想像することは出来ないし、何をしでかすのかと思うと怖くもある。だけれども、その姿にスプリングフィールドが価値を感じているのなら、思いっきり酔ってみる価値はあるだろう。

 

 ――私は、自分が思っているより多くの人形達に慕われるんだな

 

 アルコールの入った瓶のふたを開け直接口づけ用とした所で

 

「いけません!!」

 

 スプリングフィールドが指揮官を押し倒しながら、無理矢理アルコールの入った瓶を指揮官の手から奪った。

 

 アルコールの瓶を置くと、真っ赤な顔で指揮官に優しく微笑みかける。

 

「いいんです。酔った指揮官の姿を見ることは出来ませんでしけど、指揮官と飲めて楽しい思い出が出来ました。何より子供みたいに私の作るお酒を飲む姿は、私しか知らないでしょうから」

 

 スプリングフィールドにとって、酔った指揮官を拝む以上に貴重な姿を見る事が出来たのだから。

 

「……そっか」

 

 子供みたいと言われると、指揮官も気恥ずかしくもなる。けれども、スプリングフィールドにとって貴重な思い出が出来たのなら、そう思うと嬉しいが……。感情の整理が出来なくて、気恥ずかしそうにはにかむ指揮官。そんな彼に、スプリングフィールドは満足げに微笑みかける。

 

 指揮官はチラリと腕時計を見る。時刻はもう、月の役割の半分が終わる頃。

 

 カルーアミルクはアルコール度数が高いと言った通りいつもより頭が重たい気がする。今日はお開きにして、明日に酔いが残らないようにしなければ。

 

 スプリングフィールドにもうそろそろ退いてくれないかと頼もうとした所で、指揮官の肩に縫い付けるような強い力が加わる。

 

 その瞬間、指揮官の脳細胞が灰色に染まり、これから起こる事象を推測した。そう、これから、自分はまた被害者になるのだと。

 

「違う!絶対違う!これはそういう流れじゃない!」

 

 このまま素直に終わってお互いに明日は頑張ろうな、と互いに励まし合って、指揮官がスプリングフィールドを送って終わる。それでよかったのでは?!と指揮官の目は必死訴えている。

 

「指揮官、もう一つ思い出作りをしませんか?」

 

 しかし、スプリングフィールドはそんな健気な視線を無視して、自分の思い出作りを断固として優先しようとしてくる。

 

 彼女の翡翠の瞳はいつもの穏やかな色をたたえておらず、獲物を抑えつけた肉食獣のそれに等しいモノになっている。

 

「指揮官、私はあなたをお慕いしております」

 

「……そういうことは、素面の時に言ってくれるとありがたいんだが」

 

 司令室の照明で作られた二つのシルエットが交わり、一つとなった瞬間であった。

 

 

 

 翌日、指揮官は頭を抱えて頭痛を和らげていた。

 

 なんでも、昨日の飲みで甘いお酒と油断してついつい飲みすぎてしまったとのこと。

 

 スプリングフィールドに任されたカフェはより和やかになったらしい。なんでも、スプリングフィールドも指揮官の話に積極的に乗って来てくれるので、話に花が咲きやすくなったとか。

 

 指揮官が頭痛に悩まされていた理由。スプリングフィールドのカフェがより和やかになった理由。それは当事者のみが知ることだろう。 

 

 

 







「……父さん」

『だ、大丈夫かい?』

「普段は凄く優しかったり、穏やかな人の方が、激しくなる事ってあるんだね……」

『そのことに関してはお祖父さんの方が詳しいんじゃないかな……』

「まさかの管轄違い……?」


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【特別編 IF】東雲のネコ 【M4A1 & HK416】

 IFルートですね。

 とある方から貰ったネタですけど、気がついたら『いつもの』になってたので、いつもとは違った要因でいつものされてもらいました。

 この物語の彼にとっては、これが初の『いつもの』になるでしょう。

 どの世界線でも、彼は彼なのですよ。多分。
 
 内容はギャグです。
 
 どうぞ。
 


 人間は眠っているあいだ夢を見ることがある。それは自分の想像する理想の世界を映したものであったり、自分の記憶の断片あったり、自分とは全く関係の無い摩訶不思議な光景が広がっていたり。或いは、言葉で言い表せないような恐怖を覚えさせるナニカであったり。

 

 人間に近い容姿を持つ戦術人形達はどうだろうか?

 

 人形達が夢を見ることはない――大部分は。

 

 一部の戦術人形も夢を見る。それは断片化を回避する処理を行う過程や、一日に見てきた映像の記録や過去の記録を整理・間引くための処理の過程で見たものでは無く、人間が見るのと変わらないような夢を見る戦術人形が。

 

 その戦術人形の名前とはM4A1。IOP社の特別製の人形、エリートと呼ばれる機体であり、未熟な部分はありながらもAR小隊の隊長を務める戦術人形。

 

 彼女の見る夢は悪夢だ。彼女が言うには、AR小隊のメンバーが次々と居なくなり、基地の人員や人形達も斃れ伏し、最後は鮮血に染め上げられた衣服をまとった指揮官の亡骸が司令室に転がり、それを抱きしめて震える自分の夢を見るのだと。

 

「指揮官……」

 

「大丈夫……。大丈夫……」

 

 布団の中で涙を零しながら震えるM4の肩を抱き留める指揮官。

 

 この状況になった理由としては、夜中にM4が指揮官の私室にやってきて悪夢の内容を口にした上で一緒に寝て欲しいとM4が望んだから。

 

 最近はずっとずっと悪夢を見るのだと、掠れた声で、震える手を指揮官に伸ばしながら語ったM4。恐らく、AR小隊のメンバーには相談出来なかったのだろう。心を許しているメンバーとは言え、彼女達も夢を見る戦術人形であるとは言い難い。恐怖を和らげたいのなら、その恐怖をわかってくれている、共有出来るモノに縋るのが一番だ。だから、M4は指揮官に助けを求めたのだろう。

 

 M4の儚い想いに応えるために、指揮官はM4と同衾して、指揮官は彼女が眠れるように手を握ってみたり、抱きしめてみたりと、出来るだけ彼女に触れ合ってみる。幼き日に悪夢を見た時は、母親が手を握ってくれた。それで、それだけでも、圧倒的な安心感を得ることが出来たから。自分の傍には誰かがいる。誰かが自分を繋ぎとめてくれている。その安心感で、自分の中の恐怖に何度も打ち勝ったから。

 

「私……私……」

 

「ここにいる。私はここにいる。大丈夫……。私はM4の傍に居るよ」

 

「指揮官……」

 

 指揮官からの絶え間ない励ましと、彼の手から伝わる温かさ。その二つが、彼女の中の恐怖を打ち消す要因になることが出来たようで、M4は一度指揮官の手を離さないように握りしめると穏やかな笑みを浮かべて、瞳を閉じた。

 

「ありがとう……」

 

 小さく、指揮官へと礼を伝えて。

 

 すぅすぅと小さく寝息をたてるM4。指揮官は袖でM4が零した涙の痕を拭きとる。

 

「……悪夢は怖いもんな」

 

 指揮官はどこか淋しげに眠るM4に笑みを向ける。悪夢を見た後に、一人で眠るのはなんとも心細いものだ。夢と言うのは、誰とも共有することが出来ない。悪夢の恐怖には自分一人だけで戦うしかない。それはなんとも残酷で理不尽ななことだろうか。自分が望んで見たものでは無いのに、望まれたものでは決してないのに、夢を見た人物にしか挑戦権を与えられていないのだ。

 

 でも、そうだとしても、恐怖に立ち向かう手助けをすることは出来る。彼女の手を握り返すことによって、彼女にエールを送ることによって、背中を押してあげることだけはできる。

 

 それだけ?と言う言葉も出るかもしれない。否、それほどまでに、だ。恐怖に立ち向かう時、背中を押して貰えると言うのは、他人が想像するよりも原動力になり得る。一歩進む勇気を与えられると言うのは、何よりも偉大なるモノなのだ。

 

 指揮官はM4の手を強く握り返す。繊細でか細い彼女の手を優しく包み込むように。

 

「大丈夫だM4……、そう簡単に失わせるものか……!私は、皆の指揮官だ。皆を、皆の居場所は私が護る……。そんな悪夢の通りになることは、絶対に私がゆるさない!そんな悪夢見る必要なんてないんだ!だから、悪夢に負けるなM4……!」

 

 眠る彼女に自分の決意と言う最後のエールを送る。自分が悪夢の通りにさせないと、彼女の支えとなれるように。

 

「指揮官……」

 

 眠りの世界に居る筈の彼女は小さく彼のことを呼んで、小さく口許を緩めた。

 

 M4の寝顔が安らかなものに変わって安心した指揮官は小さく安堵の息を吐く。 彼女の手に込めていた力を抜く。ただ持つだけの力の入れ具合に。その代り、両手で彼女の手を包んであげるのだ。今のM4の傍には自分が居るのだと。

 

 M4の目尻が何処か緩んだ気がして再び安心感を覚えた指揮官は、彼女に続く様に瞼を閉じる。

 

 ――大丈夫、M4は強い。自分の指揮が行き渡らない時は、彼女自身の力で何度も窮地を脱したのだから

 

 そう彼はM4の持つ力を、彼女が悪夢には負けないと信じている。彼女は悪夢に打ち勝てるのだと、普段はオドオドとしているが悪夢を破る精神的な強さも持っているのだと。

 

「おやすみ、M4」

 

 明日には照れ笑いを浮かべるM4が見れることを願いつつ、指揮官は体を絡めとる微睡み達に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、M4は悪夢を見ることは無くなった―――のかは、指揮官にはわからない。何故なら――

 

「指揮官、今日もお願いできますか……?また、怖い夢を見てしまいそうで……」

 

 伏目がちに、時折上目遣いになりながらも、M4は懇願してきた。

 

 そう言われて断れる程、指揮官は冷血では無かった。なので、その日も同衾を許したのだ。前日と同じように、彼女の手を握ってあげて、一緒に寝てあげたのだ。

 

 そして、その次の日も、その次の日、また次の日も頼まれて指揮官はM4と共に同じ布団で眠りについた。

 

「指揮官、本日もいいでしょうか?」

 

 ある日から、M4は枕を胸に抱きながら指揮官に所望するようになってきた。

 

 彼女の表情からは、最初に懇願してきたような切羽詰まったものは感じず、もう彼女一人でも言いだろうとも思ったが、断ろうとすると目を大きく開いて、絶望したように口を開けて停止するので、断わりきれず同衾を許してしまった。

 

 そんな感じに同衾を許して数日後、

 

「ふふっ、指揮官♪」

 

 布団に入ったM4は指揮官の腕を掴んで抱きしめたり、或いは背中に抱き付くようになってきた。

 

 服越しとは言え触れ合うことで伝わる彼女の胸部の柔らかさ、触られることでわかる彼女のツルツルとした手の平の感覚。時折M4から漏れる、どこか熱に浮かされたような吐息。

 

 最初こそ、何とも感じてないように振る舞う紳士を演じていたが、指揮官とて一人の男であり雄だ。

 

 そのような触れ合いがこれまた数日続けば、指揮官の紳士としてのフィルターが、ファイアウォールが、理性が、段々と突破され崩れようとしているのも仕方がないだろう。

 

 戦術人形の殆どが見目麗しい女性の姿を模して造られたものだ。それに、彼女達に使われている人工皮膚達も、人間のそれと遜色がない。否、もしかしたらそれ以上に良いかもしれない。

 

 指揮官はそんな人形達に囲まれる環境だ。過度なスキンシップは控えることで理性を保ってきたのだが、その過度とも言えるスキンシップを自分以外の要因からもたらされている状態だ。

 

 自分の理性がいつか崩壊して、M4を襲ってしまうのかと思うと恐ろしくて堪らない。理性の限界が近いことを悟った指揮官は先手を打って出る。

 

「M4……私は君と一緒に寝れない……」

 

「……!?」

 

 その言葉を聞かされたM4は件の絶望の表情を浮かべたが、指揮官が彼女の肩を掴み、負傷して生還することが不可能になった兵士のように痛みに耐え涙を堪えながら、

 

「わかって……欲しい……」

 

 と言うので、何かを察し目を伏せて静かに頷くと、顔を床へと向けながら横を通り過ぎ去っていく。

 

「別に……いいんですよ……?」

 

 同衾の拒否に同意したM4がすれ違いざまに言ったその言葉には、果たしてどのような意味があったのだろうか?

 

 今の指揮官には、その言葉が理性を食い破ろうとする、自分の中の獣を刺激して仕方がなった。

 

 

 

 

 

 

 指揮官はもやもやとした獣の感情を抱えつつも何とか眠りに着いた。寝ようとするたびに、物寂しさとM4の感覚を思い出してしまい、何回も目が冴えてしまったのだが、日々の疲れと一人だけと言う気のゆるみが段々と勝り、指揮官を眠りの世界へと誘ったのだ。

 

 その翌日、指揮官は体にのしかかる様な重さで目を覚ます。

 

「うーん……」

 

 息苦しさの原因を探るために、ぼんやりと開いた眼を下方に向けてみると、そこにはこんもりと盛り上がった布団が。

 

 体に絡む様な重さと包み込む様な弾力は彼の腹部から下半身にかけて感じている。

 

 この重さの正体には、指揮官は心当たりがある。そう、ただ一つ。

 

「ダメだといったろう、M4」

 

 布団の端に手をかけて、布団が隠した物の正体を暴く指揮官。

 

 布団から露わになったのは、朝日を反射して蒼銀に輝く頭髪に、オリーブグリーンの双眸。指揮官にのしかかる形になっている関係で、白のブラに包まれた豊かな胸は指揮官の身体を包むように潰れているのが、何とも獣欲を刺激する。そして、最大の特徴が、左目の下にある涙を模した赤い痕と、鼻の下についた赤黒い謎の痕。

 

「…………」

 

 相も変わらず、寝ぼけ眼の指揮官であるが、視界に映るモノが何一つM4の特徴と掠っていない事くらいは理解できる。布団を持ち上げたまま硬直する彼は脊椎反射で頭脳に命令を送り込み、目の前に映る相貌を持つ者を瞬時に割り出し、答えを算出する。

 

「その名前で私を……!!」

 

 同じように固まっていた潜入者は、M4と言う名前に反応して瞬時に目を見開いて激昂。それもその筈、彼女にとってM4とは忌まわしき名。

 

 何で彼女がここに居るのだろうか?当たり前に湧く疑問を口にしそうになったが、彼の高い共感力は彼女がどんな感情を抱き始めているのか察知。

 

 危険を回避するために、彼女の名を呼ぶ。

 

「待ってくれ416!!」

 

 彼女のリアクションで全ての細胞が一斉に覚醒した指揮官は全力で喉と舌を作動させて、潜入者の名を呼ぶ。そう指揮官の布団へ潜入していたのはHK416。よりにも寄ってM4との確執が強い銃の名を持つ戦術人形。

 

 416は正しく名前を呼ばれたことで精神的な平静を瞬時に取り戻したらしく、大きく開いた目と指揮官を呪い殺さんと言わんばかりに噴出していたオーラを収めてくれた。

 

 心の中でホッと息をつく指揮官だが、彼女が怒りを収めた理由が別のことにあったとすぐに思い知る。

 

「って、指揮官、一体どういう意味かしら?どうしてM4の名前が出てくるの?」

 

 正しい名を呼ばれた事も確かに要因に一つだったのかもしれない。けれど、それは大きな要因では無い。本当の要因は、指揮官の口からM4の名が即座に出てきたことにある。

 

「い、いや、違うんだ!宿舎から脱走した猫でも布団に潜り込んだのかと思ってだな……!あはは!」

 

 固まった表情筋を何とか動かし、416から視線を逸らして冗談だと言いたいように笑う指揮官。

 

 M4が数日の間指揮官と同衾していたと知るモノは誰も居ない。もしかしたら、M16やAR-15は気づいてるかも知れないが、何も言わないという事は、黙認しているのだろう。

 

 少なくとも、他に知っている戦術人形は居ない筈、そう信じて指揮官は誤魔化してみることを選択したのだが、それにしては酷い誤魔化し方であると言わざるを得ない。

 

「この基地にそんな猫いないわよね?指揮官は猫に銃の名前をつけてたの?面白い嗜好をしてるのね」

 

「そ、そうかなぁ……?そうかもしれないなぁ……?」

 

 416の声には抑揚が無い。彼女の頭は再び湧いてきた憤怒の感情に焦がされ、頭脳部に使われているCPUの冷却が間に合わず融けるような感覚を覚えているが、それでも比較的冷静に指揮官を追いつめる。

 

 この基地に猫は確かにいるが、M4と言う名前の猫は存在しない。居るのはポチとイヌと言う名前の猫だけだ。

 

 それに、布団を捲りながらM4の名を指揮官が呼んだ理由がわからないほど、416は論理的な処理が苦手な戦術人形では無い。

 

 だから、指揮官の言う『猫』の特徴を言ってあげることにしてあげた。

 

「ねぇ、指揮官?あなたの言う猫って、毛は黒くて少し緑が入ってるんじゃないかしら?」

 

 416が触れている指揮官の腹筋がピクリと反応。

 

 ビンゴ。そう言いたげに416の視線は、優秀な兵士は目で殺すと言わんばかりに鋭くなる。そのまま、指揮官の胃に穴を空けてしまいそうな位に。

 

「ん゛ん゛!?ど、どうだったかなぁ……?可愛らしい猫だったのは覚えてるんだけどなぁ……?」

 

 細胞が覚醒したとは言え、指揮官の頭はまだ寝ぼけ半分にあるようで、誤魔化すと言う方針から変えようとしない。普段の指揮官なら、ここまで追い詰められた時点で、真実と虚実を入り混じった話で様子を見る方向に針路を変えるのだが、それが出来ない。

 

 更に、余計なひと言が、416の憤怒の炎を更に燃え上がらせた。

 

「かわいい……猫……?M4の方が、かわいい……!!!???」

 

 そう、M4を褒めるような言葉が彼女の怒りを更に加速させた。

 

 416は腕に力を入れ膝を立てて四つん這いの姿勢になって、指揮官の逃げ場を奪う。彼女の豊かながらも整った我が儘ボディが全てお披露目される形になるが、高熱に浮かされた時の様に背中に大量の汗を掻くほど追いつめられた指揮官には、416の身体を見て愉しむ余裕はありはしない。

 

「私は……完璧なのよ……!!」

 

 ――昨日の夜、出来なかったことを今ココで

 

 怒りと出来なかったことを果たせる喜びの焔に身体を委ねようとする416であったが、

 

「指揮官、本日の副官は私ですのでお迎えに――どういうことですか指揮官!!」

 

 また、新たな侵入者がやってきた。

 

「M4!?」

 

 侵入者、いや、彼女は副官として正規の手段を使って入って来たので侵入者と言うのは語弊がある。その来訪者こそ、M4A1。前日まで指揮官と同衾していた人物そのもの。指揮官が勘違いした原因。

 

 突然の訪問者に驚きつつも、416はM4に鋭い視線を向ける。それこそ、敵でも見つけたかのように。

 

「い、いや、どういうことだって言ってもなぁ……。寧ろ、私が説明して貰いたいく――」

 

 M4と416の間に視線を行き来する指揮官。そう、今416に襲われそうになっている指揮官も、彼女が布団に潜り込んできた理由がわからない。それも、下着姿で。

 

 いや、予想が完全についていない訳では無いのだが、完全にそれだと言う確証が得られて無いと言った方が正しいか。

 

 テリトリーに入られた肉食獣のようにM4を牽制していた416であったが、彼女と指揮官だけが作り上げていた緊迫感を第三者に壊されたからか、冷静な思考能力が戻りつつあった。

 

 指揮官の頭の横に置いていた手をどかし、指揮官のお腹に馬乗りになるように416は座り直す。

 

 指揮官が小さく「おふっ……」と呻いた気がするが、聞かなかったことにする。

 

「あら?何度か指揮官の寝床に潜り込んでた猫ちゃんじゃない。おはよう」

 

 それこそM4のことを挑発することが出来る位には。

 

 誰にも言ってない秘め事が416に知られたからか、M4の顔は顎から頭にかけて一気に温度が上がったのかのように火が付き熱せられた色に変わる。

 

「な、指揮官!?なんで話しちゃうんですか!!」

 

 真っ赤になった顔で指揮官を責めるM4。

 

 先程から何とか誤魔化そうとして、416に話した記憶は欠片ほども無い指揮官はM4に弁明する。

 

「いや!?私は416に話したつもりは――」

 

 が、そこで、指揮官は気づく。

 

「ハッ!?」

 

 今の指揮官とM4の会話こそ、416が口走ったことを肯定へと至らしめるトリガーとなっていることに。

 

 416はM4を挑発しつつ罠を張っていたのだ。それも大々的では無い、初歩的な罠を。簡単な引っかけを。

 

 指揮官のリアクションで、M4も416の罠に気づいた様で、口に手を当ててこれ以上余計なことを口にしないように戒め始めた。が、もう遅い。二人のそのリアクションと先程の会話で、416は確信へと至った。

 

「はぁ……。口は災いの元よ。まだまだ甘いわね、猫ちゃん?」

 

 M4のことをバカにするように、彼女に一杯食わせた416は自慢げな笑みを浮かべる。

 

「ま、良いわ。指揮官、また今夜にでもゆっくりとお話でもしましょう?それじゃあね、迂闊な仔猫ちゃんはお仕事をがんばりなさいな」

 

「う、ぐ……」

 

 自分から秘密を曝け出す形となった屈辱に唇を噛むM4。416は首の後ろに手を持ってて一払いし、蒼銀の長髪を宙に泳がせながら、ベッドから降りた。

 

 そのまま勝者の余裕と笑みを浮べてM4の横を通り過ぎて寝室から立ち去ろうとしたが、そんな終焉に納得できない人間が一人。

 

「ちょっ、結局何しに来たんだ!?私に何かしたのか!?なんで強者の余裕をかましながら帰ろうとしてるんだ!?あと、せめて服を着て帰ってくれ!!」

 

 そう指揮官だ。彼として朝起きたら下着姿の416が布団の中に潜り込んでいたのだ。彼女が勝者の表情を浮かべて帰ることを許すはずがない。それに、彼女が退いたことで自分の下半身の状態に気づいた。中途半端にズボンを下ろされて彼のパンツが露わになっていたのだ。その状態に恐怖を覚える位には指揮官の貞操観念はある。

 

 彼が寝ている間に何かがあったのだと推測せざるを得ないだろう。

 

 指揮官の追及に思わず足を止め、416は笑みを浮かべながら答える。

 

「それも今晩、ね?」

 

 指を立て――顔を指揮官から背けながら。

 

 ――言えない!言える筈が無い!!

 

 M4がいる状態で言える筈が無い。それはセクシャルな話題が絡むから、と言う様なM4に配慮した理由では無く。

 

 彼女は何も出来なかったのだ。

 

 連日UMP45にヘタレだと煽られ、その煽りに乗る形で45から借りた指揮官の私室の偽造カードキーを使って、彼の私室に侵入した416。寝室で一人ぐっすりと眠る指揮官の前で身に着けていた装備と衣服を脱ぎ始め、指揮官の下半身側からベッドに潜入することまでは出来たのだが、その時点で彼女の緊張は最高地点に達していた。手の震えを何とか抑えて、指揮官のズボンに手をかけ脱がすことまでは出来たのだが、

 

「あっ……」

 

 そこが彼女の限界だった。彼女の鼻腔からは赤黒い冷却液が流れ出し、頭脳回路は緊張と慣れてない状況と慣れてないモノを見ることはこれ以上限界で、これ以上演算しようものなら機能が停止してまうと言う所まで追い込まれ、強制的にシャットダウンするプロセスへと移行したのだ。それで、朝になり、指揮官の声で起動を促されて今に至る訳だ。

 

 今も彼女の鼻の下にある赤黒い痕は、乾いた冷却液が固まった痕。416が何もする事が出来なかったと言う証。

 

 そのことをM4に言える筈が無い。今は自分が勝者なのだ。だから、勝者の余韻を胸にして帰るのだ。そう、指揮官に手を出すことは出来なかったが、夜に会う約束は無理矢理にでも取り付けることが出来た。それこそが、今の自分の勝利なのだと、ぞう自分に言い聞かせながら。

 

 だが、M4は416の機微を察した。彼女はAR小隊の隊長機。人形達の機微を察することは決して難しい事では無い。

 

 彼女はニタリと口許を歪めて反撃の狼煙をあげた。

 

「……どうせ、くっついたはいいけど、緊張で何も出来なかったのでしょう?あなたからは『臭い』がしないもの、指揮官の『臭い』が!!」

 

 M4の宣言に416と指揮官は驚愕の表情を浮かべる。

 

「なっ!?何であんたが指揮官の臭いとか知ってるのよ!!」

 

 416は反射的にM4の肩を掴む。普段は大人しいイメージがある彼女だが、今は凶悪な指名手配犯の様に良い子が恐怖の感情を抱く様なあくどい笑みを浮かべている。

 

「えっ、ちょ、私ってそんなに臭い……?人前に出る職業だから、毎日風呂に浸かってるんだけど、私って人に臭いが移る位臭いの?」

 

 真面目なイメージが先行するM4に『臭い』という単語が発せられたのが余程ショックだったようで、指揮官は裾を掴んで臭いを確認し始めた。身嗜みにはかなり気を使っているのだ。例え、咽返るような硝煙の臭いに包まれたとしても、例え自主訓練で大量に汗を掻いた時も、デスクワークしかしてない時も、指揮官がだらしがないという事で、基地に、人形達に余計な悪評がつかないように清潔感を保っていたつもりだ。

 

 そこまでして身嗜みに細心の注意を払っていた指揮官にとって、『指揮官の臭い』と言われるのは、ショック受ける以外何も無いだろう。

 

「あの……二人とも……私、臭い……?」

 

 指揮官は今にも泣きそうな子供のような表情で、二人に伺ってみるが、至近距離で火花を散らす二人には、指揮官の言葉は届かない。

 

「あなたは知らないでしょうね。指揮官のはすごく濃いくて、喉に絡みつくようなモノなの」

 

「ヌヌッ!!」

 

「熱くて量もあるから、一口で飲み干すのは難しくて……。あなたにはわからないでしょう?」

 

「グゥ!!」

 

 歯噛みをするのはM4から416の方に変わった。416は復讐鬼の様な鬼気迫る表情を浮かべて、M4の肩を掴む手に力を込める。416からから加えられる力に一度だけ顔を歪めたが、M4はまた涼やかな笑みを浮かべる。

 

 が、実はM4の言ってることは、先程の416のようにブラフであり、引っ掻け。彼女の言葉は、小説から得た知識と、指揮官が寝る前に気まぐれでごちそうしてくれたホットチョコレートの感想を言っているだけである。あしからず。

 

 しかし、やられてばかりで終らないのが、プライドの高い416。彼女はひとしきり苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべて俯いた後、

 

「ふふ、ふふふ」

 

 瞳にギラギラとした光を宿して復活したのだ。地獄から甦った幽鬼の様に。M4の上に立つ為に、彼女は自分の中の記録を振り絞ってM4の様に都合がいい様に解釈し、音声にする。

 

「アンタ、知らないわよね?」

 

「っ!?」

 

 腹の底から冷え込む様な低い声を出す416。次に受けに周ることになるのはM4.

 

「指揮官はね、人形達を気持ちよくする方法をね、マスターしてるのよ?」

 

「なっ!?」

 

「私も初めて指揮官に気持ちよくして貰った時は、自分でも恥ずかしくなる様な声が出たものよ。……ふふ」

 

「ぐっ!!」

 

 次に歯噛みをするのはM4の方。自分の知らない指揮官を416は知っているのだと、彼女は焦りと嫉妬を覚えている。

 

 因みに416の言ってることは、指揮官がただ単に整体を施した時の話である。戦術人形もツボは再現されてるのだなーと指揮官は感心していた。あしからず。

 

「私はこの前――」

 

「へぇ、私はね――」

 

「それこそ前に――」

 

「私も――」

 

 至近距離で睨みあいながら、激しく自慢し合う二人。事実を都合よく艶めかしく解釈した言葉の数々に、文豪たちも舌を巻く様な表現達が飛び交っている。

 

 そんな風に都合のいい事実を自慢し合う二人の間で、色々と置いてけぼりにされた人物が一人。

 

「……風呂入って体よく洗って、仕事に向かおう」

 

 自分の体臭はそれほどまでに強烈なのか事実を確認したかった指揮官だが、二人の都合のいい自慢話はデッドヒートし、指揮官は完全に蚊帳の外。

 

 それに拗ねた指揮官は、ショックから立ち直れないまま、寝室のタンスから着替えとハンガーにかけてあったグリフィン支給の赤い制服を手に取り、舌戦を繰り広げる二人の横を通り過ぎて、風呂場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の晩。

 

 仕事を終え、私室へと戻る指揮官。オートロック式の扉の横に付いた認証装置にカードキーをかざし、ロック機能に休憩を与えてやる。

 

「ふぅ……」

 

 自室へと帰ってきた安心感から、一つ吐息をつきながら扉を開けると、そこには。

 

「おかえりなさい!」

 

「待ってたわ!」

 

 リボンのワンポイントがチャーミングなパステルカラーのライトグリーンの可愛らしい下着姿で人懐っこい笑みを浮かべるM4と、レースのついた白で大人の色気を醸し出す妖艶な下着姿の416が腕を組んで余裕の表情で待ちかまえ――

 

 目の前に映るモノが何かを理解した指揮官は、即座に扉を閉めた。

 

「……これは、夢、か?」

 

 閉まり切ったドアに向かって、思わず桃色の髪のAR小隊のメンバーのとある台詞を口に出す指揮官。

 

 どうやら自分は夢を見てるか、或いは幻覚を見ているに違いない。そう判断した指揮官は私室から近くて便利な医務室へと足を運ぼうとした。が、扉はオートロック式であっても、それは外からだけであって、中から外へ出る分には何の障害にもなりはしない。

 

 なので、踵を返して医務室へと足を運ぼうとした指揮官の腕は、彼の部屋の中からドアを開けた二人に捕まれてしまった。

 

「ヤメ、ヤメロー!!!私は、病院に行くんだ!!」

 

 全力で腕を振り回して、二人の拘束から逃れようと必死になるが、相手は戦闘のプロである戦術人形。腕に力が伝わらないように拘束し、指揮官を逃がさない。

 

「夢でも無いですし!」

 

「病院に行かなくて平気よ!!」

 

 二人は指揮官が仕事に向かった後も、延々と舌戦を繰り広げ、一つの結論に至ったのだ。それは、夜間作戦(意味深)をして、そのテクニックで決着をつけるしかないと。どっちが上かその審判者となるのは勿論指揮官だ。

 

 だから、二人は指揮官を逃がさない。逃がす筈が無い。

 

「おおぅ!?」

 

 地に足をつけて踏ん張っていた指揮官だが、二人の引っ張る力に負けて床から足が離れた。踏ん張る力が無い綱引きの相手なぞ無力も同然、二人は息のあった動きで、指揮官を私室へと引っ張り込んだ。

 

 二人はニタリと笑みを浮かべる。子供を食べようとする童話の中の魔女の様に。

 

「さぁ、指揮官」

 

「どっちが上か、わからせてあげるわ」

 

 獲物を目の前にした肉食獣の前で、草食獣はただただ震える。

 

「ひ、ひぇっ……」

 

 指揮官の情けない悲鳴は、ドアの閉まる音にかき消された。

 

 

 

 

 

 翌日、SOPⅡに変な臭いがすると言われた指揮官は、乾いた笑いを浮かべていたと言う。

 

 M4と416の戦闘能力は格段に向上していたと言う。

 

 指揮官から変な臭いが漂っていた理由、二人の戦闘能力が上がった理由。それは当事者のみが知ることだろう。

 

 

 



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M4SOPMODII

 星々の瞬きと月の光を強く感じる夜の時間帯。

 

 夜間の後方支援と、基地の警備の人員以外は長めの休息をとり始めた夜闇に包まれたグリフィン所有のとある基地。

 

 本日も夜の執務室は指揮官の貸し切りでたった一人でお楽しみ中――という訳では無く、

 

「へぇ~これが指揮官が飲んでるお酒なんだ~」

 

 彼の他にも戦術人形が一人。

 

 パネルの上に置かれた無色透明な液体が入ったグラスを、パネルに手を置き紅玉を爛々と輝かせて見つめているのはSOPⅡ。一時的に指揮官の元に配属されたAR小隊のメンバー、その中でもマスコット的な立場で外見的にも精神的にも幼さを残す戦術人形。その幼さは残虐性にも出ていて、鉄血人形を解体したり甚振るのが彼女の愉しみとなっているようだ。

 

 残虐性も秘めているSOPⅡであるが、指揮官の前では純情な子供の側面の方が強い。解体した鉄血人形のパーツを自慢したり、抱っこをねだったり、褒めて褒めてとおねだりしたり。まるで親戚の子供のような愛らしさを彼女に覚えている。

 

 SOPⅡが何故、指揮官の聖域(?)である夜の執務室にいるのか?それは、彼女が夜間の後方支援の隊長を任されて居たからだ。SOPⅡは基地の中でも古参の部類であり、最適化がかなり進んでいる為、高い練度を必要とする後方支援は彼女が隊長を務める事もある。SOPⅡは後方支援は会敵することがまずないので張り合いがないと漏らしたりはするが、大成功をするといつもよりも、我が儘気味におねだりしても指揮官は叶えてくれるので悪い気はしていない。

 

 任されていた夜間の後方支援任務が終わり、SOPⅡは帰還。指揮官へ後方支援の報告をしに、指揮官の待つ司令室へと脚を運んだわけだ。

 

司令室でSOPⅡの嬉々として報告する姿と会敵した鉄血の部品を手渡された指揮官は、毎度のごとくSOPⅡを褒め、だっこして労ってあげ、最後に頭を撫でて、満足したSOPⅡの背中を見送るーーというルーチンで終わらず、SOPⅡは指揮官が持ってきたアルコールと化学調味料に興味を持ち出した。

 

指揮官は、SOPⅡはアルコールに興味がないと読んでいた。だから、いつものように彼女の相手をすれば彼女は立ち去って独りで飲むことが出来る。そう読んで、今回は予め独り飲みセットを司令室に置いていたのだが、その読みは残念ながら外れ。最近、子供の相手をしてなかったせいか、子供の好奇心という物を甘く見積もってしまったようだ。

 

その結果、冒頭のような、アルコールが注がれたグラスを眺めるSOPⅡの構図が完成した訳だ。

 

「意外だなぁ。SOPⅡ、アルコールに興味があるのか」

 

「アルコール自体に興味がある訳じゃないけど、指揮官がどんなものを飲んでるのかなーって」

 

グラスをちょんちょんと小突き、揺れるアルコールを見ては、興味深そうに息を漏らすSOPⅡ。続いてグラスを手に持ち、鼻に近づけて嗅覚センサーを作動させて、匂いを確認すると、呻き声を漏らして両手で鼻を押さえる。

 

「うー……。凄くツンとするぅ……」

 

それもそのはず、グラスに入るアルコールは今は何にも味付けも香り付けも割ってもいない状態。そのままの状態では、指揮官ですら匂いだけで酩酊しそうな程に強烈なのだ。

 

「指揮官、よくこんなの飲めるね。M16の飲んでるお酒はもうちょっといい香りがしたんだけど」

 

うーうーと可愛らしく唸ってはまた香りを嗅ぐSOPⅡ。その愛らしい姿に指揮官は自然と頬を弛ませる。

 

「M16のはそれなりにいいお酒だからなぁ。私のはそのまま飲めるように調整されているアルコールだから、確かに匂いは凄いな。そのまま飲むと舌が痺れるから、私もそのままで飲むことはまずない」

 

「そうなんだー。指揮官ってお給料安いの?」

 

子供の斬新さは時には残酷である。が、指揮官は危険度からPMCの中でも高給取りなので、SOPⅡの考えは外れ。しかし、SOPⅡの中では、いいお酒を飲んでるM16>安いアルコールを嗜んでる指揮官の図式が一瞬で出来上がってしまったのだろう。流石に指揮官職としての威厳に関わるので弁明しておく。

 

「うーん……。M16が飲んでるお酒は味が付いてるからなぁ。私はなんと言うか、自由に味付け出来るこっちの方が好きなんだ。……それに手軽に酔えるしな」

 

「ふーん。なるほどねー」

 

SOPⅡは頬杖を突いて指揮官の話を聞き入れる。その様子に本当にわかってくれたのかと不安を覚える指揮官ではあるが、グラスを弾いて反響する音に耳を済ませるSOPⅡに、それを聞くのは些か大人気ないので、苦笑いを浮かべて、自分の本心を誤魔化した。

 

グラスを揺らしたり、匂いを嗅いだりして、純度の高いアルコールで遊んでいた‏SOPⅡであったが、見ているだけにも飽きたようで、グラスから目を離して指揮官へと視線を移す。彼女の紅玉は指揮官の飲もうとしてるアルコールを発見したときと同じ位の輝きを放ち、その輝きを余すことなく指揮官へと向ける。

 

子供がそのような目を向けてくる理由、それを理解できないほど、指揮官は察しが悪くない。

 

「ねぇ、指揮官」

 

「うん?」

 

「飲んでみていい?」

 

 欲しいおもちゃをねだる子供の様に、指揮官に期待を込めた視線を送るSOPⅡ。

 

 戦術人形、もとい人形は例えみせかけが幼かろうが飲酒を禁止されていない。例え、基礎の人格設定が幼児のように設定されていてもだ。見た目ではかなり幼い部類であるMP5がガバガバとお酒を飲む姿を目にした時は、流石の指揮官でも目を剥いてしまったが。

 

 SOPⅡは見せかけはAR小隊の中でも幼さを残す外見ではあるが、飲酒をすることに何ら問題は無いのだ。

 

「ああ、いいがちょっと」

 

「ありがとー!いただきまーす!!」

 

「ちょ待ってくれって!」

 

 今グラスに入っているのはアルコールの原液。しかも何ら味付けもされても割られてもない、無味無臭の液体。それが与えてくれるのは、身体を内側から焼くような強烈な刺激と熱さだけ。SOPⅡ好みのジュース風味に調整しようとしたのだが時すでに遅し。指揮官の許可が得れた時点でSOPⅡは反射的にグラスを手に取り、流れるようにアルコールを口に含んだ。

 

「ンンッ!?ンフンフッッ!!」

 

 もしかしたらM16の愛飲しているウィスキーを味わったことがあるかもしれないSOPⅡだが、アルコールの濃度で言えばM16の愛飲しているウィスキーの倍以上。しかも、味が無い。本当の意味でのストレートを味わうのは、指揮官とてよっぽどのストレスが溜まった時か、すぐに酔いたい時か、寝たくても寝れない時だけ。それも、一口位の少量で。

 

 原液は流石の戦術人形でも堪えたようで、アルコールの入ったグラスをパネルの上において咽るSOPⅡ。そんな彼女に、指揮官は割ってから飲む許可を出すべきだったかと反省しながら背中をさすってあげる。

 

 暫くせき込んでたSOPⅡであったが、指揮官の支援と強い咳で喉に詰まったアルコールを取り除くことに成功し、「大丈夫だよ……」と彼を見上げる。

 

「凄いね指揮官……。いつもこんなの飲んでるの?」

 

 畏敬を込めたSOPⅡの目で見られ、指揮官は苦笑を浮べる。

 

「いつもは割って飲んでるよ……」

 

「先に言ってよ~!」

 

 どうして止めなかったのか言うようにポカポカと指揮官の胸を叩くSOPⅡ。じゃれ合い程度の力なのであまり痛みを感じはしないのでかわいいモノ。指揮官は止めようとしたのだが、子供とはいつだって理不尽で可愛らしいものだとわかっているので、気にしては無い。

 

 しかし、指揮官としてはアルコールの正しい嗜み方(?)を知らずにSOPⅡに悪いイメージが植え付けられてしまう方が心苦しい。なので、大人として、大人と言うには悪い大人の部類にはなるが、正しいアルコールのたしなみ方を教えてあげるべきだろう。

 

「悪かったって。私がいつも飲んでるのを出すから、それで許して欲しい」

 

「うぅ……。美味しい?」

 

「美味しいよ。SOPⅡでも飲みやすい味にするから」

 

 うーうーと先程の刺激の強さを警戒して唸るSOPⅡの頭に手を置いて安心感を与える指揮官。SOPⅡは小さく唸りながらも、指揮官の手並みを拝見することにしたようだ。

 

 指揮官はグラスにアルコールを少量注ぎ、続いて甘味料を中心に化学調味料を投入。続けて、炭酸水を注ぎ、最後にラムネフレーバーを入れて――ラムネ風味のカクテルが完成だ。

 

「はい、SOPⅡ」

 

 SOPⅡはジト目で、『本当に大丈夫なの?』と指揮官に視線で訴えながらもグラスを受け取り、鼻を近づけて一度香りを嗅いでちる。その時点で原液との違いがわかったようで、顔を上げて指揮官を見上げる。これを飲んでいいのかと言う探求心と、本当に飲んで大丈夫かと言う不安。正と負が入り混じった彼女に、指揮官は黙って笑みを浮かべて後押しする。

 

「頂きます!」

 

 跳ねるような声色でカクテルを流し込むSOPⅡ。強く目を瞑って警戒しながら味わっていた彼女だが、ラムネの爽やかさが一度舌の上を滑り違和感なく喉へと落ちていったことで、警戒は完全に解除。グラスを45度に傾け、喉を鳴らして味わう。

 

「んきゅんきゅ……、ぷはぁ~!美味しいね指揮官」

 

 溌剌な笑みを浮かべるSOPⅡに指揮官も釣られてニッと自慢げな笑顔を作る。

 

「だろう?ちゃんとした飲み方をすればいいんだ」

 

「なるほどね~!指揮官、他にも種類ある!?」

 

 SOPⅡのルビーの瞳から、はアルコールを原液で飲んでいるのかと思い込んでたときの畏怖は取り除かれ、尊敬と期待に満たされる。

 

 ――そう、子供はそう言う目がよく合う。

 

「もちろん、あるさ。次はどんなのがいい?」

 

「じゃ~あ~!」

 

 SOPⅡの要望を聞き、彼女の望みにあうレシピを頭に思い浮かべながら、指揮官は次のカクテル作りに取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SOPⅡは指揮官の作るカクテルに舌鼓を打ち、指揮官は彼女の要望に応えることが出来るようなカクテル作りに勤しみ、時折SOPⅡにカクテル作りを体験させて、自分が品評してみる、と言うのを繰り返して穏やかな時間をおくった。

 

 互いの仕事に関しての愚痴や、SOPⅡが持ち合わせてた解体した鉄血のパーツ自慢と指揮官への譲渡。途中、SOPⅡが『指揮官の目は夜みたいで綺麗で凄く安らぐからずっと見ていたい』との言葉と共に瞼に指を置いて思いっきり開かれたので、もしかして目を抉り出されるのでは?と指揮官は焦ったりもしたが、そんなグロテスクなことは起こることなく平和な飲み会となった。

 

 指揮官はちらりと腕時計を伺う。時刻は全ての針が頂点へと戻る時間帯。指揮官もSOPⅡも明日の仕事は山ほどある。明日の仕事のために体力を残しておくためにも、そろそろお開きにするべきだろう。

 

 だが、指揮官にとってここからが勝負処。何故なら、腕時計から目を離した瞬間が彼の運命が決まる時間。

 

 彼は戦術人形から何度も被害にあった。それは痛めつけられるものでは無く、寧ろ気持ちよくなる様な、そんな特殊な肉体的な被害を。

 

 人形と『そういう行為』を行うのは、彼自身そんなに悪くなく感じてはいるのだが、そんな行為をしてしまった関係が十人近くいるとなったら話は別だろう。彼は人間だ。例え人形相手と言えど、十人近くと肉体的な関係を持つのは、よろしくも好ましくないこともわかっているし、彼の倫理観がそう訴えている。いい加減、普通のそういうことをしてみたいと酔いつつある頭が訴えているが、そんな欲望を果たせる日が来るのだろうかと、彼の心は諦めている。

 

「しきかん」

 

 アルコールが回って真っ赤になったSOPⅡがパネルの上に座って舌足らずな口調で彼を呼ぶ。彼は思わず身構える。今日の彼は違う。SOPⅡにアルコールの飲み方をレクチャーするのがメインでそんなに飲んでは無い。だから、今日はいざとなったらいつものように受け入れるのでは無くて、逃げると言う判断をくださせる。無責任だと言われるかも知れないが、何度体験しても怖いモノは怖い。彼とて自分の貞操観念にヒビが入る音は聞かないに限りのだから。

 

 指揮官は生唾を飲み込んで、SOPⅡに顔を向ける。

 

「うん?」

 

 逃げるようとしている事を悟られないように、何気くSOPⅡの顔を見る指揮官。

 

 SOPⅡは手招きで彼を呼び寄せている。彼女の誘導に従って彼は彼女を見下ろすように向かい合う。

 

「しゃがんで~」

 

「……こうか?」

 

 近づくと今度は別の誘導。今まで無かったパターンに困惑しつつも様子を伺いながら、それに従うと――

 

「指揮官――」

 

 指揮官の頭はSOPⅡが着ている滑らかなパーカーと仄かな温かさに包まれて

 

「ありがとう」

 

 SOPⅡの胸に抱き留められた。

 

「……SOPⅡ?」

 

 顔全体でSOPⅡの体格に見合わない柔らかさと弾力と、子供のような高い体温を感じながらも、どうしてこういう事をしてきたのかと言う疑問が絶えない指揮官。困惑と驚愕に揺らぐ瞳で今は自分より上にある彼女の顔を見上げる。

 

「指揮官、本当はすっごく疲れてるでしょ?それなのに、わたしに構ってくれてから……」

 

 彼女の精神はまだまだ未熟な子供のそれと同じ。だから、成熟した精神を持つものなら、中々言わないであろう相手の本心と言えるものも簡単に察してしまえるのだろう。

 

「……別に迷惑だとか、嫌だとかは思ってないよ。」

 

 それは彼の本心。部下のメンタルケアをするのも自分の大切な仕事の内であると言う認識はあるにはあるが、SOPⅡが新しいことに興味を持ってくれるのは彼にとって自分のことの様に嬉しいことではあった。

 

 だから、SOPⅡを構ったことに関しては、嫌な感情を一欠けらも抱いていない。寧ろ、自分が無理矢理付き合わせてしまったのではと、心の奥底で思ってしまうくらいには。

 

「ほんどう?」

 

「ほんとうだ」

 

「ほんとうにほんとう?」

 

「ほんとうにほんとうだよ」

 

「ほんとうにほんとうにほんとう?」

 

「ほんとうにほんとうにほんとうさ」

 

 何度も何度も繰り返し確認するSOPⅡとそれに応える指揮官。その繰り返しが互いに面白くて、おかしくて、どちらから共なくクスクスと声を漏らして笑いあう。

 

「なんか変なの~」

 

「だなぁ~」

 

 お互いに間延びしたやり取りを終えた後に、潮が引くかの様に互いの笑い声も段々と収まる。

 

「しきかん」

 

「うん?」

 

「疲れたら、疲れたってちゃんと言っていいんだからね?」

 

「私、自分に素直な自負があるんだけど。よく、そういうことを言ってないか?」

 

「うそ。お姉ちゃん達みたいに、ううん、指揮官はそれ以上に頑固なんだから、ぜっっったいに言わないって」

 

「そうかぁ?」

 

「そうそう。わたし、指揮官が倒れたりしちゃったら、泣いちゃうからね?それで毎日、鉄血の生首を指揮官の枕元に置いちゃうからね?倒れたらこんなことになっちゃうぞって」

 

「……想像したくもない光景だな」

 

「でしょ、私も鉄血の生首が置いてある所じゃ寝たく無いもん」

 

「SOPⅡですら無理なのか……」

 

「なにか、いった?」

 

「ナンデモナイデス」

 

 SOPⅡは確かに残虐な側面はあるが、彼女にも確かに優しさや思いやりはあって、精神的に幼い分、好奇心が勝っているだけなのだ。彼女の本心には怖がりで寂しがりな側面もあるのだろう。そして――自分の仲間や大切にしている人が居なくなる恐怖も。

 

 AR小隊の面々は確かに我が強い。それに、それぞれの責任感も確かに強い。それがSOPⅡの言う頑固さなのだろう。仲間だからこそ、大切にしているからこそ、離れることを恐れているのだろう。だから、そんな存在達だからこそ、もっと自分のことを頼って欲しいと感じているのだろう。そんなに気を張ることもなく、それぞれで責任を果たすのではなく、皆で責任を果たそうと。辛かったら支え合い、弱音を吐いてもそれを分かち合ったりして協力するような。

 

 SOPⅡにとってそんな風に感じる存在になれているのは、指揮官としても嬉しい。なので、今の指揮官がするべきことは簡単。

 

「SOPⅡ」

 

「な~に?」

 

 期待を覗かせるSOPⅡの音声。その期待に応えれる言葉を指揮官は導き出す。

 

「……疲れたな」

 

 自分よりも幼い存在に、甘える自分に恥ずかしさを覚えながらも、自分の弱音を口にした。

 

「うん!やすもっ!しきかん、横になってくれる?」

 

 彼女の誘導に従ってパネルの上に横になる指揮官。彼の頭はSOPⅡの柔らかな太腿を枕にするような状態になってる。

 

「しきかん、赤いね」

 

 いつもは甘えるSOPⅡが、今は自分を甘えさせている。それも、自分よりも精神的にも見かけ的にも幼い彼女に。そのことが指揮官の羞恥を煽っていることに、SOPⅡは気づいていない。

 

「アルコールが回ってきたのかもしれないな」

 

「ねー」

 

 そんな彼の葛藤はSOPⅡには流石にわからなかった様で、彼女は間延びをした返事をしつつ、指揮官の瞼に手を置いて光を遮って、硬質な髪を撫で上げる。

 

「うん……」

 

 まるで、幼子を寝かしつけようとする親のように。そんな懐かしさすら感じる優しさに小さく声を漏らして、指揮官はSOPⅡが与えてくれる安らぎに身を委ねる。

 

 彼の中にあったいざとなったら逃げると言う考えはは、安らぎの中に溶けて消え、今はこの穏やかな雰囲気に全てを任せてしまいたくなる。

 

 SOPⅡが気まぐれに指揮官の視界を覆う指の隙間を空ける。露わになったのは、この安らぎに身を任せていいのかと、細く開かれた眠りに抗う彼の夜色の瞳。

 

 その瞳に対して、SOPⅡはただ微笑みかける。その微笑は、無邪気なモノでも、鉄血人形を相手にした時のような愉しみの笑顔でもない。まるで、母親のような慈愛に満ちた微笑み。それが彼に語り掛けてくるのだ。『眠ってもいいのだ』と。

 

「ありがとう……」

 

 彼は小さく礼を言う。安らぎを与えてくれた、弱音を聞いてくれたSOPⅡに。

 

 SOPⅡが指の隙間を塞いで再び視界を閉ざしたのと同時に、彼も瞼を閉じて、彼女の与えてくれた安らぎに身を任せる。

 

 体に籠った力が抜けていく。視界の黒も段々と重苦しく染まっていく。

 

 そんな、意識の限界にまで迫った彼の耳に

 

「おやすみなさい」

 

 SOPⅡの慈しむ様な声が届いて、彼を眠りの世界へと旅立たせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が眠ってから三十分近くが経過した。その間、ずっと彼の寝顔に表情を緩ませつつ、自分によくしてくれるように彼の頭を撫でてあげたSOPⅡであったが、とある欲望が限界に達していた。

 

「うぅ……」

 

 それは指揮官の綺麗な瞳を自分だけのモノにしたいいう欲望。アルコールによって慈悲深い側面が露わになったSOPⅡではあったが、それと同時に幼いが故に欲しいモノを自分のモノにしたいと言う傲慢さも顔を覗かせ、それを何とか抑え込んで保っていた。

 

 起きていた指揮官の瞳を見ているとその欲望は収まったのだが、今の彼は規則的な寝息をたてて眠っており、それを起こすことは憚られる。

 

 自分のことを映す夜色の瞳を独占したい。でも、指揮官の瞳を抉り出すのはNG。指揮官が傷つく姿や痛がる姿を見るのは彼女も嫌だし、彼の夜色の瞳が特別なのは、彼がSOPⅡに目を向けてくれるからこそ意味があるように感じている。

 

 その欲望が最高点に達しそうになったSOPⅡは一つのことを思い出した。

 

 それは、ペルシカ達16Labの職員たちが情操教育(?)のためと過去にSOPⅡに見せた映像記録のこと。男女が裸で抱き合って、時折変な声をあげながらもベッドの上で何かをしている映像を三時間ほど。

 

 その時のSOPⅡはつまらなさそうにポップコーンを齧って炭酸飲料を飲んでいて、映像が終わってから文句交じりにあの映像はなんの意味があるのかとペルシカに聞いてみたら、『後継機や後続のモデルを作るのに必要なことよ』と答えた映像記録があった事が彼女のサーチに引っかかったのだ。

 

 もし、それが本当なら、指揮官の瞳と同じモノを持つ自分の後継機が作られるのではないか?可能性があるのなら試している価値はあるのではないだろうか?

 

 指揮官そっくりな後続モデルが、指揮官と同じような夜色の瞳でSOPⅡのことをずっと見ていてくれると思うと、中々に胸が躍る。

 

「んふふ~♪」

 

 彼女は、好奇心と可能性を胸に鼻歌を奏でながら、指揮官の頭をパネルの上に下ろし、彼のお腹に馬乗りになるSOPⅡ。

 

 あの映像のまぐわいには様々なパターンがあった。今回は指揮官が寝ているので、そのパターンで実践してみるのだ。

 

 お互いの鼻先がくっついてしまうくらいに顔を寄せるSOPⅡ。彼の瞳は閉じられているのに、どうして彼に見つめられている時と同じ位、胸の高鳴りと喜びを覚えるのだろうか?

 

 けれど、その答えは今は知る必要は無い。今の最優先事項は、それを行うことで、指揮官そっくりな後続モデルの生産が決定するか否かだ。

 

 始め方はわかっている。後は、手順を実行するのみ。

 

「しきか~ん♪」

 

 火照る顔を高鳴る鼓動に全てを委ねて――SOPⅡは指揮官のパサついた唇に、瑞々しい唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、朝方の司令室では指揮官の悲鳴が漏れていたとの噂があったが、真偽は不明。ただ、その日の指揮官はずっと壁に顔を向けて頬杖をついて『私ってヤバい存在なのでは……?』とつぶやいていたと言う。

 

 SOPⅡは一日上機嫌で、上機嫌のあまり鉄血の解剖をする事も無かったと言う。そして、繰り返し『ペルシカに聞かなくっちゃね~♪』と言っていて、その翌日から数日間ペルシカが頭を抱えていたと言う。

 

 指揮官が悲鳴をあげた噂が流れた理由、SOPⅡが上機嫌であった理由。それは当事者のみが知ることだろう。

 

 

 

 




『よ~う!久しぶりだなぁ!元気してたか?』

「……答えてくれないか?」

『どうした?』

「幼めな戦術人形に甘えさせて貰って安らぎを覚えるのって、流石におかしいかな?」

『……………………おかしくない(超小声)』

「おかしくないよな!?そうだよな!?」

『……』ブツッ

「ちょっ、電源を切るなって!……絶対、君のエピソードを聞き出してやるからな!!!!」


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夜の司令室にて Gr MG4

今回は特にキャラ崩壊注意です!

先に謝っておきます。リクエストに全然沿えませんでした!ごめんなさい!


 白く燃え盛る太陽が地に墜ち、宇宙の黒が地表を覆う夜の時間帯。

 

 殆どの人員が休息につき、施設の殆どが灯りを落としている中でひっそりと灯りが灯されたままの部屋が一つ。作戦中は戦術人形達の状況をリアルタイムに把握し、忙しなく変わる状況を観測し、対応するための策や修正案をその都度人形達に送る役割を持つ場所。その場所とは司令室。作戦が行われていない時は、サーバー以外の電源はほぼ落とされている筈の場所。

 

「私のグラスはあるのでしょうか……」

 

 密かに再度灯りを灯された部屋で、ため息をつく腰を超える長さの銀色の髪を持つ戦術人形が一人と、

 

「……わざわざ取りに戻っただろ」

 

 そんな彼女に溜め息交じりに両手に持ったグラスを掲げてみせる男性が一人。

 

 戦術人形の名はGr MG4。細身なシルエットな彼女であるが、彼女が扱うのはMG。見た目に寄らず8㎏はあるMG4を自由自在に振り回す姿には圧倒されるものだろう。

 

 男の名は――いや、名前には対した意味がないから省かせて貰おう。男は戦術人形達の指揮を専門とする戦術指揮官。このグリフィン基地に一人しかいない貴重な人材である。

 

 MG4と指揮官が司令室に居る理由。それは秘密の逢瀬――などでは決してなく、指揮官の密かな愉しみである司令室のサーバー達のファンの音を聞きながらの独り飲みを堪能する為に、司令室へと向かっていたのだが、司令室の前でMG4が佇んでいたのだ。

 

 MG4が司令室の前に居るのを見て指揮官は忘れ物でもしたのか、或いは報告に漏れがあったのか、と思って指揮官が彼女に近寄ると、MG4は指揮官のことに気付いた様で「あっ……」と声を漏らすと、ジッと指揮官のことを見つめた。そんなMG4のことを訝しみながらも忘れ物をしたのかと聞くと、『違います』とMG4が。報告に不足があったのかと問うと『そうでもありません』と。

 

 他に思い当る要件が無いのでじゃあ、何の用なんだと言いそうになった指揮官がMG4の視線を辿ってみると、そこには、指揮官の独り飲み様セットが入った袋が。

 

「飲みたいのか?」

 

 独り飲みセットを軽く持ち上げてMG4の眼前に持っていって見る。MG4は一瞬だけ遠慮するように視線を逸らしたが、再び指揮官の独り飲みセットに視線を戻すと。

 

「……はい」

 

 と口数少なく同意したのだ。

 

 そんなMG4の態度から、ただ一緒に酒が飲みたい、と言う訳でないのを何となく悟った指揮官は、『なるほど』と短く返すと、独り飲みセットをMG4に預けて追加のグラスをとりに行き、二人で司令室へと入って冒頭へと至る訳だ。

 

 

 

 

 

 電源の落ちたパネルの上に手に持っていたグラスを置く指揮官。続いて、独り飲みセットもパネルに置き、中から甘みや酸味などの化学調味料達と水や炭酸水などの割り材、飲めるように調整されただけのアルコールが入ったボトルを取り出す。その様子をじっと眺めていたMG4に問う。

 

「味の好みはあるか?」

 

「好み、ですか?」

 

 指揮官の飲み方は一般的なそれではない。飲めるだけの無味無臭なアルコールに味をつけるのが指揮官流の飲み方だ。この飲み方になれてない者達が適当な分量で味付けをして飲もうとすると、アルコールのカッと熱くなる感覚が勝ってしまうため、荒れたような、或いは風情の無い飲み方に見えて繊細な飲み方なのだ。

 

 そのために、指揮官はSV-98やスオミ達の様にアルコールの割り方がわかって無い者達にはまず任せることは無い。折角他人と飲むのだ。楽しく、面白おかしく喋りながら飲みたいに決まっている。

 

 MG4が自分でやるとは言わずに好みを聞き返した事から、このアルコールの飲み方に慣れてないのは明らか。だから、今日のカクテルは全部自分が担当しようと心に決める。相手の酔い加減を伺いながらアルコールの分量を調節すれば、もしかしたら『ナニカ』が起こることは無いだろうと心の片隅で思いながら。そうは思いつつも、MG4からは『ナニカ』を起こすような下心は感じ取れないので、今のところ警戒心は薄い。

 

 MG4は手を頬に当てて考え込む様な動作をとった後、

 

「甘めの……出来れば、その……炭酸とかは抜きで……」

 

「炭酸、苦手なのか?」

 

 小さく頷くMG4に指揮官は、

 

「ふふっ」

 

 思わず笑いを漏らしてしまった。

 

「わ、笑わないでください!」

 

「いや、スマン、ふふっ……まさかMG4が炭酸が苦手とは思わなくて……ふふふっ」

 

 口許を押さえて何とか笑いを堪えようとする指揮官。が、想像をしてなかったMG4の弱点は、指揮官の悪戯心を刺激する。

 

 彼自身よくわからないが、本当にツボに入ってしまった。いつもは物静かで大人しいイメージのMG4の弱点が、意外なモノであったギャップが可笑しくて、同時に愛おしくも感じて。

 

 炭酸の何が苦手なのだろうか?口の中で弾ける感覚が嫌なのだろうか?好奇心の赴くまま聞いてしまいたくなるが、MG4が珍しく意地になって笑うなと言ってくるので、彼女のことを尊重して何とか笑いを飲み込んだ。

 

「わかったわかった」

 

 頬を微かな桃色に染めて、炭酸が苦手だと言うのを笑われたことを気にしているMG4のご機嫌を簡単に取りつつカクテル作りを始める指揮官。グラスに少量のアルコールを注ぎ、甘味料と柑橘系の香料を投下、後は黄色の着色料を入れて溶かした水を入れて、マドラーでかき混ぜる。

 

 残念ながら指揮官はシェイカーの様なオシャレな道具は持ち合わせていない。一人で飲んで、勝手に酔って、部屋に帰って寝るの三つが基本の原則であり、一人で楽しむだけなので、道具を揃えて観客を楽しませるようなことは考えていない。が、最近は闖入者が多いので、ちょっとは揃えるべきかと考え始めているのはここだけの秘密である。

 

 出来上がった柑橘系のカクテルを再現した飲み物を手渡す。明らかに体にいい成分は何一つとして入っていないが、第三次世界大戦がはじまる前の世界ですら、化学調味料が溢れていたので気にしてはいけない。

 

 MG4は先程笑われたことを根に持っているらしく、何処か不服そうに口元を歪めながらも、指揮官お手製のカクテルをじっと見つめる。

 

「召し上がれ」

 

 指揮官からのその一言で、笑われたことを自分の奥底に流す様に橙色の液体口に含むMG4。最初に口内に広がったのは季節外れの柑橘系の鋭利な酸味、そして酸味が通った後の舌を癒すかのような癖の無い甘さ。その二つがMG4の嗜好と合致し、彼女は自然と両手でグラスを持って大きく傾けて次々と液体を体内に取り込む。

 

「へ、平気か……?」

 

 含有しているアルコールが微量とは言え、アルコールはアルコール。一気飲みしてくれるほどに気に入ってくれるのは嬉しいが急性アルコール中毒のような症状になられるのは指揮官としても望んで無い。

 

 指揮官は戦術人形も酔うことはその身に刻んである。楽しみにしている飲みの時間を看病に費やすことになるのは御免だ。

 

 が、その心配は杞憂に終わった。MG4がグラスを口から離すと、アルコールが入って微かに桃色に染まった頬を緩めた。

 

「美味しいです」

 

 普段は見ることは無いMG4のたたえる小さな笑みと、とりあえず何も無かった事に安心した指揮官は何処か安心した様に唇を緩めた。

 

 

 

 

 

そこから暫くは、指揮官のトーク力の低さが光る『最近の調子はどうなんだ?』や『何かいいことはあった?』等のような面白味のない話題を振られMG4も『問題ないです』、『特に思い当たること……』と言うような当たり障りの無い返答をしていたのだが、

 

「……何か悩みでもあるのか?」

 

何気なく、だが、言いづらそうにMG4の様子を伺いながら言葉にしてみた指揮官。

 

先程まで、反射的に、バッサリと斬るように返していたMG4がここに来て言葉に詰まったようにうつむいてしまった。

 

 ――やっぱりか

 

そんな彼女の態度で確信を得た指揮官は目を瞑って、暗闇の中に過去の映像を投影する。今から過去へと記憶の映像を巻き戻して、再生のボタンを押したのは、彼女が司令室の前で待ち構えていた時間。

 

あのとき、指揮官から『飲みたいのか?』と聞かれたMG4は微かに逡巡していた。MG4と言う戦術人形は口数こそ少ないが、面倒なことを避けるために、包み隠さず自分の思いを口にする傾向がある。そんな風に一部の目的に関しては素直な傾向のある彼女が、飲みたいと言うだけなら一瞬とは言え迷うはずがない。普段通りの彼女なら短く『はい』とだけ答えるだろう。

 

MG4も指揮官と飲みたいと言う気持ちは少なからずあったのだろうが、それ以上に成し遂げたい目的があったのだろう。それが、彼女が逡巡した理由だ。

 

「大丈夫だ。ここには、私とMG4しか居ないよ。だから、言いづらかったら、言うまで待つよ」

 

「……ありがとうございます」

 

俯きながらも、言うまで待つと言ってくれた指揮官に感謝の言葉を伝えると、MG4は『あ……』、『うぅ……』と言うような、口にしたくても言葉が出ないようなむず痒い感覚に何とか慣らして行く。

 

彼女が言葉に詰まらせる中、指揮官は瞳を閉じて、何も言わずただただ彼女が発する小さな呼吸のような単語ですら無い言葉達に耳を澄ませてその時を待つ。時間は有限だ。指揮官の腕に巻かれた腕時計から響く秒針が、もうすぐで一日の役目を終えるぞ、と語りかけるよう。だが、待ってて一日が終わること位、今の彼にとって何の問題ではない。勇気を出して悩みを打ち明けようと自分のもとに殴り込んできたMG4の方が、遥かに大事であるから。

 

少しずつ、悩みを打ち明けようと言葉を作る感覚に慣れてきたMG4は、手に持ったグラスに入ったアルコールを一息に飲み込むと、意を決した様に、短く、だが指揮官にも聞こえる音量で、その心中を表現する言葉を発した。

 

「私は……良い印象を持たれてないのでしょうか?」

 

 それが、MG4が抱えていた悩み。彼女の心中を聞いて、瞼を持ち上げた指揮官は、MG4と言う戦術人形がどんな性質を持っているかを思い返す。

 

 彼女は確かにクールで物静かな性格で、表情も豊かとはいえない。それと良い意味で言えば感情で流されないが、悪く言ってしまえばそれは冷たくも捉えられてしまう。

 

「……確かに良い印象は持たれてないかもしれないな」

 

 ここでお世辞を言うのはMG4のためにならない。そう思った指揮官は言い辛そうに、だけどはっきりと伝える。

 

「MG4、あまり表情変えないし、作戦の時はいいけど基地の中では集団で何かをするのは苦手だし、ちょっとドライな印象を受けるし、怖いと言う印象を受けるかもしれない」

 

「…………」

 

 MG4は空になったグラスを強く握りしめる。自分でもわかっていたと言うように、もしくは指揮官にも言われたのがショックだと行動で示すように。

 

 だけど、ここで終らせるつもりは無い。ここで終れば、彼女の悩みを解決するために話を引き出した意味が何も無くなる。ただ貶しただけで、彼女の心に傷を負わせただけになる。

 

 自分から悩みを聞きだしたのだ。それを解決するための方法を提案しなければ相談にはならない。彼女は愚痴を聞いて欲しい訳でも陰口を叩きたいわけでも無いのだから。

 

「でも、私は、そう言う印象を今は持ってないよ」

 

「……昔は持っていたのですか?」

 

 縋るように、暗闇の中で光を見つけたように顔を上げたMG4であったが、彼の言葉を咀嚼し終え彼のことを睨むようにして疑問を投げかける。

 

 そんな視線を向けられても、指揮官は苦笑いを浮かべながら彼女と向き合う。真剣に彼女の悩みに立ち向かってるのだと伝えるように。

 

「昔は、な」

 

「そう、ですか……」

 

 やはり相談したのが間違いだったか、そう言いたいように視線を逸らしたMG4に、対応を間違えたのかと焦った指揮官は早口で言葉を連ねる。

 

「昔はだよ!今はそんな印象を受けてない!MG4の良い所はよくわかって来てるつもりだ!」

 

「例えば、どこでしょうか……?」

 

 良いところその言葉で彼女の注目を再び自分へと集めることに成功した。

 

 自分に自信がない人間は、自分の良い所を見つけられない、或いは見失う傾向にある。それは戦術人形も同じなのだろう。

 

 先程は貶した。カウンセラーとしては貶すのはご法度だが、飴と鞭みたいなもので、ただ手放しにいい所を言った所でMG4は聞き入れてくれないと言う確信があったから。彼女は変ることを望んでいる。だから、よくない点も伝える必要があった。

 

 でも、今は、もう、そんな必要が無い。彼女を褒めてあげる時だ。

 

「君は仕事に忠実だ。どこまでも」

 

「私達は戦術人形なんだから、当たり前でしょう?」

 

「そうとも言い切れないな。G11やFNCを見て見ろって、あの子達は、それぞれ仕事よりも優先順位が高いものがあるだろう?それにMP5は多くの人に認められるために無茶をすることもある。完璧を目指す416だって無茶はしないのに……。与えられた任務を着実に、正確にこなすのって難しいなって思わされるよ」

 

「……なるほど」

 

 MG4もG11、FNC、MP5の素行を想像した様で頷く。微かに頬を持ち上げて。仕事に忠実であるこがプラスなポイントであると理解してくれたのだろう。

 

 掴みは上々と言った所か。ならば、このまま押し進むのみ。

 

「さっき、ドライと言ったな。そして、それを感情に左右されないとも」

 

「ええ」

 

「あれは見方を変えた言い方だ。ドライと言うのは悪くない。寧ろいいことだ。割り切りが効く、と言う意味で。感情に流されないから、着実に仕事をこなしてくれると言う安心感がある。集団での行動を苦手そうと言ったが、見方を変えればブレることがない、客観的な位置にいれる、という事にもなる」

 

「……」

 

「ほら、見方を変えれば、良い所なんて沢山ある。見方を変えればなんて言ったが、これは私が実感した君の良い所だよ。……昔の私は視野が狭かったんだ、怖いなんて言って悪かった」

 

「そんなこと……」

 

「それに、可愛い一面もあるしね」

 

「カワイイ……?」

 

 カワイイと言われても、何処が可愛いのか自分で想像がつかないようで首を傾げるMG4。

 

 そんな仕草も十分可愛らしいのだが、今はそれ以上に可愛らしいと思った場面を伝えてあげるのだ。

 

「誰も居なくなった救護室で、迷い込んだ子犬を抱いてだろう?」

 

「……!?」

 

「そのだなぁ……。バッテリーが貯まってたから、そろそろ動物を飼ってもいいかなーって思って様子を見た時にたまたま」

 

「み、見ていたのですか……!?」

 

「うん」

 

 MG4にとって誰にも見られたくない瞬間だったのだろう。彼女はワナワナと震え、初雪の様に真っ白な頬に着色料をかけられたように赤い色が侵食していく。

 

 指揮官はその時のMG4の姿を脳内に浮かべる。そう、誰も居ない救護室に一人いたMG4が子犬を抱きしめて、目を輝かせていたのだ。初めて動物と触れ合えたことを感動している様に。子犬に頬を舐められて『やめてください』と言葉では嫌がりつつも、顔は綻び子犬の頭を撫でているMG4は文句なく可愛らしかった。

 

「う、うぅぅぅ……」

 

 指揮官の予想通り、そのシーンを見られていたことがよっぽど恥ずかしかったのか、唸りながら顔を背けるMG4に指揮官は笑みを向ける。

 

「そういうところ、もっと皆に見せれるように出来れば、印象は変わると思うぞ?」

 

「無理です……!は、恥ずかしすぎます……」

 

「だろうな、だから、そういう一面をもっと皆に出せるようにしていこうな」

 

 恥ずかしさを誤魔化す為に、指揮官のグラスを奪って中身を飲み干すMG4。

 

 ――本当に、そういうお茶目な姿をもっとだせるようになれるといいな

 

 と心の中で思い浮かべつつ、液体を飲み込んで喉がうねるMG4の姿を見守る。

 

「……はい」

 

 飲み干して、恥ずかしさとアルコールで顔が朱色に染まったMG4は気恥ずかしそうに俯きながら――口許を確かに緩めて――小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 その後も指揮官がMG4の注文を聞いてカクテルを作りつつ、他の皆と仲良く仲良くするにはどうすればいいかと考え、最終的にはMG4を隊長に置いてコミュニケーションが必須の立場に置いて、少しずつ理解者を増やしていこうと言う方針へと至った。

 

「指揮官……」

 

「うん……?」

 

 俯いたまま空になったグラスを握りしめるMG4に視線を投げかける指揮官。

 

「まだ、私のことを怖いと思ってますか?」

 

 今更何を言うのだろうと指揮官は思ったが、不安と言うのはそう簡単に拭えるものでは無いと、アルコールで鈍った頭で思い至る。不安を拭うためには、何回も確認し、大丈夫だと念を押してあげるのがシンプルさゆえに重要なのだ。

 

「いや、思ってない。一欠けらも」

 

 怖いと思ってたのは最初の話、今は口数は少ないが可愛らしい表情を見せる部下であると言う印象。

 

 だから、素直に言ったのだ。そうは思ってないと。

 

「指揮官……」

 

 その言葉を受け取ったMG4は俯いて陰になる中でも唯一光の中にあった口許を緩ませながら、顔を上げると――金色の光を失せた瞳を露わにした。

 

「!?」

 

 指揮官が驚きの余り身体を強張らせていると、MG4がグラスを手放して指揮官の腕を掴む。その弾みで指揮官もグラスを手放してしまった。

 

 カランカラン、っと硬い床をグラスが叩く音が響く。指揮官の飲んでいたストロベリーを再現した赤いアルコールが床に飛び散ったのと、二つのグラスが割れなかったことが幸いである。

 

 が、今の指揮官にそんな余裕はない。今の彼の視線は月食の様に光を失ったMG4の光に吸い込まれている。

 

「ど、どうしたんだ……?」

 

 まさか、対応を間違えたのか?MG4の怒りを買ってしまったのか?突如飛びかかり、指揮官の両腕を塞いだMG4に困惑の目を向ける指揮官。だがMG4はそんな指揮官の不安を拭い去るような微笑みを浮べている。それが指揮官の中に生まれつつ恐怖を脈動させることになっているとは知らずに。

 

「怖がらないでください指揮官。まさか、嘘だったのですか?」

 

「う、嘘じゃないがな!?突然、どうしたんだいったい!?」

 

「えぇ、知ってます。あなたはそんなつまらない嘘をつかないと言うくらい!」

 

 いつも、ひとりごちる様な声量で静かにゆっくりと語り掛けるMG4が今はどうだ?声量は大きく、饒舌になって、表情も豊かになって、平時のMG4のそれとは真逆。

 

 これがMG4の酔い方なのだろうか?今の状況をどこか他人事のように指揮官が整理していると、MG4の手が指揮官の腕をレール代わりにして上へ上へと昇っていき、指揮官の顔を包んで、妖艶に視線を絡ませる。

 

「指揮官、私は嬉しいです。だって、指揮官は私のことをちゃんと見てくれていたから」

 

「み、見るさ!MG4は大事な――」

 

「部下だから、ですよね?ええ、わかってます。それでも嬉しいです。あなたは助けを求めたら答えてくれた。それが重要ですから」

 

 彼女は気を許せる存在が居なかったのだろう。

 

「印象が悪くて、私に近寄ってくれる子は中々いませんでした。でも、いつも、そんな私を気にかけてくれる人がいました」

 

 そんな彼女が抱えているモノをちゃんと発散できる筈が無い。そして、その抱えているモノを解き、無意識に発散してあげてたのが指揮官だった。

 

「それが指揮官でした。私が心の奥底で寂しいと感じた時にあなたに会いに行っても、嫌な顔一つせず、寧ろ迎え入れてくれました。私が一人でいるのを見つけると気さくに話しかけてくれました。そして、私の隠したかった一面も指揮官には筒抜けでした。それが、私は嬉しいんです。あなたは、私を放っておいてくれなかった。積極的でなかった私を」

 

 だから、無意識に、

 

「好きです指揮官……。ヘッケラーコッホMG4は指揮官のことが好きです」

 

 彼に依存するように想いを寄せていたのだろう。

 

 自然と孤立してしまっていたMG4は、目につく限りとは言え決して放ることなどしなかった指揮官に。

 

「え、MG4……?」

 

 早口で捲し立てられた心情、告げられた想いを整理しきれずに驚愕と困惑を解くことが出来ない指揮官。そんな彼の肩を押して、MG4はパネルの上に張りつける様にして押し倒す。

 

「な、悩みは建前だったのか……?」

 

 整理をしきれない彼の口から最初に出た言葉がそれだった。彼の頭脳は脊椎反射レベルで読み取ったこれから起こるであろう結末が目的であったことの方が重要であると判断したらしい。

 

「嘘……ではありません」

 

 MG4は艶やかに口許を綻ばせると、指揮官の右腕を掴んで、MG4の機関部があるであろう胸部に押し付けつけた。

 

「っ!?」

 

 服越しに伝わる、肌のそれとは別の柔らかな感覚。それに触れることが出来た雄としての喜びよりも、目的がわからない恐怖によって指揮官の身体は跳ねる。

 

「わかりますか、指揮官?私の機関部はあなたの事を考えるとこんなにも大きく跳ねるんです」

 

 ふふっと怪しげに笑みを漏らすMG4。指揮官はMG4の考えが読めずただただ固まることしか出来ず、じっと彼女の言葉を聞き入れる。

 

「皆と仲良くなりたいと思ったのも本当です。印象をよくする為の方法を提案してくれたのも嬉しかったです。ですけど、私は――指揮官が私に悪印象を抱いてないと言ってくれたことが一番嬉しかったんです」

 

「そ、そうか、それは指揮官冥利に尽きるかな?」

 

「そして、やっと気づいたんです。ずっと指揮官のことを想ってると高鳴る鼓動の正体が、指揮官が私のことを受けいれてると知って、安心できて初めて知ったこの想いが――指揮官への好意なのだって。その瞬間から、他の子と仲良くしたいと言う思いは殆ど無くなりました。指揮官にさえいい印象があればそれでいいと」

 

「い、些か、重すぎるんじゃないかな?」

 

 微かに思考能力が戻った指揮官には、もはや軽口を叩くことしか出来ていない。今の指揮官は未知の恐怖を覚えているのだ。UMP9も家族の定義が『UMP9と指揮官』だけであったと中々に重いモノではあったが、彼女の日頃の行ないゆえかそこまでの恐怖を感じなかった。

 

 だけれども今はどうだ?彼女は指揮官への依存を口にして、それを一方的に指揮官に叩きつけて、先程まで指揮官の意見に耳を傾けて時折恥ずかしがっていた儚いMG4の面影はもはやない。

 

 目の前に居るのはMG4の内面に潜む怪物と言うべき本性。彼女がために溜め込んで吐き出す事の出来なかった想いを、包み隠さず伝えられる一方的な信頼と依存によって作り出された欲望。

 

「重い、ですか。……そうかもしれませんね」

 

 寂しそうに小さな声でごちるMG4。その姿に、いつも一人でいる彼女を重なって指揮官は胸の痛みを覚えるが、

 

「でしたら、これから、お互いのことをもっと知ればいいことです。私にこういう一面があるのだって」

 

 それは墓穴を掘った頭の痛さへと変わった。

 

 MG4の胸が高鳴る。これから始める行為への期待で。

 

 指揮官の胸が高鳴る。今までにない、一方的に想いを向けられる恐怖によって、縮み上がるように高鳴る。

 

 指揮官は理解したMG4の酔い方とは、秘めた心の内を曝け出す酔い方なのだと。

 

「指揮官、怖がらないでくださいね」

 

 引きつった笑みを浮かべて現実逃避を図ろうとする指揮官の耳の横に両手を置いて追いつめた獲物を味わうかのようにMG4は口づけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、指揮官は有給をとったとの事。カリーナに緊急の有給申請を取りに行った表情は翳っており表情が死んでいたと言う。

 

 MG4は珍しく鼻歌を歌う姿を目撃される位に上機嫌であったと言う。ただ、時折UMP45の様な怖い表情を浮かべるので、話しかけた者は殆どいないと言う。

 

 指揮官が死んだ表情で有休を申請した理由、MG4が鼻歌歌う位上機嫌であった理由。それは当事者のみが知ることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「父さん……」

『……だ、大丈夫かい?声がやつれてるけど……?』

「平気……。うん……。平気」

『そ、そうかい……?』

「大人しい女の子ってお酒が入ると怖くなるんだね……」

『そ、そういうのはお祖父さんの方が詳しいんじゃないかなぁ……?』

「じいちゃんの管轄だったかぁ……」




―————————————ー――


リクエスト気分次第消化ですが募集してます。キャラクターと、出来ればシチュエーションをリクエストの活動報告かメッセージまで!


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【IF個別ルート】朝の私室にて 朝の私室にて ST AR-15

 気分次第で個別ルート(但しIFルート扱いです)を書こうと思ったので、実験作を。
 うん。彼にはまだまだ逆レされてもらわないとね!


 瞼を指すような熱。目を閉じていてもチリチリと網膜を焼く様な熱線。

 

 朝日からの暴力を顔一杯に受けて、彼は深い闇の世界から帰還する為に、冷え切った瞼を薄らと持ち上げる。

 

 彼の目覚め始めた身体が一番に感じ取ったのは、月が照らす夜の世界の冷たい空気。

 

 目覚め始めた感覚が、もう一度眠ろうと促す。身体に布団を巻き付けて、身体をよく温めて、疲れが抜けない身体を癒そうと、悪魔の提案をしてくる。

 

 でも、彼の心は言う。自分一人でその暖かさを甘受することなど出来ないと。何故なら、彼の身体は彼女の腕が巻き付いて離さ――と思って、彼は自分の腹部を軽く触るが、そこには鍛え上げられた自らの腹筋の硬い感触しか無かった。

 

 そこで、彼の意識は再び目覚めへと向かう。昨夜、眠りに入るまで感じていた感触と、もう離さないとばかりに抱き留めていた彼女の腕の感覚が無く、その寂しさに似た感情が彼の頭脳を染み込むように冷やしたから。

 

 ――そうか。時間か……。

 

 温かい布団に包まれるのも、布団以上に温かさを与えてくれた彼女の感触を思い出すのも、今は終わり。これから先は、活動を始めた彼女の為に使う時間。

 

 指揮官は薄らと開いた瞼に力を入れて持ち上げる。視界に移るのは、常夜灯と窓から差し込む朝日に照らされた光と、彼の祖父が大好きであった桜並木と二つの清らかな湖。

 

 朝日を吸収して仄かに輝く、湖に彼――指揮官は語り掛ける。

 

「うん……綺麗だな」

 

 湖は一瞬だけ波風を立たせると、呆れた様に風の音を聞かせる。

 

「もう……寝ぼけているのですか、指揮官」

 

 呆れの意味だけでなく、照れ隠しの意味も内包した春の湖を吹き渡る風の音。彼女の声は、いつも朝の微睡みの中を泳ぐ指揮官の意識を引きあげてくれる。

 

 視覚が戻り、聴覚も戻った。続いて戻ったのは、嗅覚。彼の鼻腔を擽るのは、この時代に置いて高級な嗜好品である紅茶の葉とミルクをたっぷりと使ったミルクティーの芳醇な香り。

 

 祝として商業地区の大企業に務める友人から貰った茶葉で、彼女の為に彼の作って挙げたミルクティーと似た香り高さ。彼女はその味を気に入った様で、彼が作るミルクティーの味を自分でも再現できるように努力している。今日のは中々にいい再現度じゃないだろうか。

 

 芳醇な香りによって眠っていた脳細胞たちも目を覚まし、ぼんやりとした視界も段々と霧が晴れたかのようにはっきりとしていく。

 

 指揮官の視界に投映されていたのは、残念ながら春の湖ではなく――否、残念なんかでは決してない。そこにあったのは、彼が求めてた景色そのものだから。

 

「おはよう」

 

 彼の瞳が写したのは、

 

「おはようございます、指揮官」

 

 湯気と共に芳醇な香りを漂わせるマグカップを差し出し朝一番の微笑みを向けてくれるSTAR-15だった。

 

 

 

 

 STAR-15と指揮官は誓約をした関係にある。

 

 百数体を超える戦術人形から好意を向けられ(尚且つ肉体的な関係を持つことになりながらも)、指揮官が殊更に特別になる事を望んだのはAR-15であった。

 

 思えば、彼の(性的な)苦難は彼女から始まったモノだ。(戦術人形に飲酒させたらどうなるかという)好奇心によって(指揮官と言う)ネコが(性的にハメ)殺される日常を送ったきっかけは彼女から始まったのだ。

 

 AR-15と誓約を決めるた時、彼の基地内は荒れに荒れた。それこそ、第四次世界大戦はここにあったのかと、指揮官は光が消え失せた瞳でその光景を見ていた事から何となく想像がつくだろう。

 

 しかし、その戦争は数日で終った。素直に二人を祝うモノ、或いは第二の誓約者になろうと画策すると言った感じの二代派閥に別れる形で。

 

 その時に誓約する寸前、AR-15が皆の前で『私は誰にも負けない!いつでもかかって来なさい!』と堂々と宣言した時は流石の指揮官でも肝を冷やしたと言う。

 

 とは言え、今の基地内の日常は比較的平和な方。

 

 誓約をした日から変わった事と言えば、普段はアプローチをしなかった戦術人形まで積極的になったり、積極的だった人形は誘惑をしかけるようになったり――AR-15と指揮官は同棲をすることになったり。

 

 同じベッドで起きて、同じテーブルで朝食をとり、同じドアから出て行って仕事をして、帰ったら同じ風呂で一緒に入って、同じテーブルで夕食を食べて、同じベッドで寝る。そんな日常が今の二人の毎日。

 

 AR-15は今日のミルクティーの出来具合の品評を聞きながら指揮官と一緒に朝食をとる。いつか指揮官が満足するモノを淹れたいと言う強い決心を抱いて。

 

 その後、二人で食器を片付けて、仕事着に着替えて一緒に出れば、二人の仕事が始まる。

 

 でも、その前に――

 

「し、指揮官、その……」

 

 AR-15はそっぽを向きながらも緊張に震える声色で玄関に手をかけた指揮官を引き留める。

 

 指揮官はいつも言ってる筈なのにと思いつつも、初心を忘れることが出来ないAR-15を可愛らしく感じながら振り向く。

 

「どうした?」

 

「その……手を握ってもいいです……か……?」

 

 段々と歯切れが悪くなって、声量もフェードアウト処理がかかったかのように小さくなっていったが、指揮官はしっかりと聞き取っていた。

 

「ああ、いいよ」

 

 指揮官は淡雪の様に真っ白なAR-15の手を掬い執って両手で挟む。

 

「あぁ……指揮官……」

 

 これは、AR-15と同棲するようになってから、彼女がいつも望むようになったこと。いつもやってるのに、彼女の瞳は熱に浮かされた様に蕩けるのがなんとも愛らしい。

 

「夢じゃないんですね……」

 

「あぁ、夢じゃないさ」

 

 そう、手を握ると言う行為は、彼女にとって夢じゃ無いかを調べる為に必要なこと。戦術人形は夢を見ないと言われるが、何らかの不具合によって夢を見て、それに閉じ込められているのでは?と言う恐怖が彼女の中にあるらしい。

 

 だから、彼女は抱擁よりも口付けよりも手を握ると言う事を望む。それは指揮官が誓約した時に言ってくれた『夢の世界には体温を持っていけないから安心してくれ』と言う言葉がとても心強かったから。

 

「温かいです……。指揮官の手はとても」

 

「夢じゃないだろ?」

 

「えぇ、現実です……。幸せすぎて、熱暴走でフリーズしてしまいそうな位に幸せな、現実です……!ありがとうございます指揮官」

 

 お返しと言わんばかりにAR-15は指揮官の両頬を火照った掌で包み――幸福な熱によってただれそうな唇で彼に熱を伝えた。

 

 二人の距離は再び離れ、お互いの顔を視界一杯に収めると、熱で蕩けた瞳を閉じて、二人は微笑み合う。

 

「行くか」

 

「ええ、行きましょう」

 

 二人は指を絡ませるように固く繋ぎ夢でない事を強く確かめながら、私室を後にしたのであった。




 評価とか、感想などの次第で他の子も書くかも知れないです……


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【IF個別ルート】ST AR-15と添い寝するだけの話

 AR-15の個別ルートなお話ですね。なので、朝の私室にて、に入る予定です。

 うん。実はそんなに甘々な話じゃないのです……。今回はブラックなのです……。申し訳ないのです……。

※最新の話がわかりづらいので、試験的に最新話の章を導入してみました。投稿から3日が経過したら適切な章に入れ直すと言う試みです。よかったら最新話と言う章に関してのご意見をください。不評であれば廃止します。



 睡眠と言うのは人間及び生物にとって重要な物である。

 

 人間は睡眠をとることで心身の健康を維持し、体力の回復や生活習慣病の予防、更にはストレスの軽減を図ることだって可能なのだ。

 

 では、睡眠が少ないとどうなるだろうか?前日の疲れが翌朝に持ち越されることで集中力が低下し正常な判断能力が出来にくくなり、イライラしやすくなってストレスを溜めやすくなり、健康を害する症状が出てしまう。

 

 だから、最高のパフォーマンスを叩きだすためにはしっかりと睡眠を取ることが重要なのだ。

 

 特に、

 

「ふわぁ~~」

 

 戦術人形の指揮を専門とする彼のような人材には。

 

 欠伸をする指揮官の隣で雑務を手伝っていた誓約を結んだ仲である戦術人形――ST AR-15は欠伸をする彼を愁いを帯びた瞳で盗み見る。

 

 彼が欠伸をするのは本日で何度目だろうか?十回を超えた辺りから、数える必要性を感じなくなってやめてしまった。

 

「あっ……」

 

 口許に手を当て腕を伸ばしてリラックスを図る彼を一瞥し書類に目を戻すと、書類の不備を見つけてしまいAR-15は思わず声をあげてしまった。

 

「指揮官……」

 

「うーん……?」

 

 欠伸で涙腺を刺激された指揮官が手で目を擦りながらAR-15の方を振り向く。すると、彼女は気まずそうな、それ以上に申し訳なさそうな顔を浮べて、書類を差し出す。

 

「修正点を見つけました……。誤字と数値の間違いです……。一桁多いかと……」

 

「うわっ、またやらかしか……。ありがとうAR-15」

 

 指揮官は困った様に頭を掻きながらもAR-15に感謝の言葉と居た堪れなさが混じった微笑みを向ける。

 

 どんなモノであれ、彼の笑った顔はAR-15にとって大きな原動力になり得るモノ。しかし、今は全く原動力にする事が出来ず、寧ろ――なんとも胸が痛み、作業効率が落ちていく気さえする。

 

 AR-15は上目遣いで彼のことを見上げる。彼は相変わらず乾いた笑みを浮かべながら頭を掻いている。そんな彼の目元をよく見ると、平時には絶対に見られない黒い隈が浮き出ていた。

 

 彼女からの視線に気づいた指揮官が、苦笑と溜め息をやめて、彼女を見つめる。

 

「……どうした?」

 

「……なんでもありません」

 

「うん……?そうか……?」

 

 お互いに短く間を置いて続く、当たり障りのないやりとり。そんな短いやり取りですら、今のAR-15にとっては心苦しい。互いへと向いてた視線を切り、再び書類の山へと向きあう。

 

「……はぁ」

 

 指揮官は重々しく息を吐くとペンを手に取り、時には端末を操作して書類の作成に取り掛かる。指揮官の仕事の一つだから。作戦の報告書、資材の支出、戦術人形達の状態把握etc。

 

 けれども、今彼に求められている仕事の数々は明らかに多く、対応が滞ってる状態にある。

 

 それもその筈、先日まで十日間に及ぶ掃討作戦が行われていたのだ。鉄血による地区の占領騒動。それだけならば毎度のことであると笑いながら言えるが、今回は人権保護の一派がこの騒動に噛んでいたために、『後始末と応対』に今も追われている状態にある。

 

 おかげで指揮官は睡眠時間を返上し、いつもより早い始業時間といつもよりも遅い終業時間で業務に勤しんでいる。『後始末と応対』に集中するだけならば、彼もここまでのことをしなくてもいいのだが、生憎なことに普段の警備任務や後方支援任務にプラスされる形である。普段の業務すら激務であるのに、仕事を増やされては溜まったモノでは無い。

 

 が、残念なことにグリフィンと言う会社は人手不足なのだ。誰か、それも責任のある立場がある者が応対しなくてはならないのだ。

 

 これが、指揮官が寝不足に陥り、作業効率が落ちている原因である。

 

 普段の指揮官ならば何度も注意深く確認するので、AR-15による最後の確認作業も大抵は形式だけのモノで終るのだが、今はご覧の有様。集中力の低下により、書類の不備が散見される状態となっている。幸い、作戦の指揮の時は重大なミスを犯しては無いし、犯すことは無いとAR-15も深く信頼しているのだが、今の彼の状態を顧みてしまうと不安を覚えてしまう。

 

 だけど、それ以上にAR-15は心配なのだ。彼がこのまま仕事に押しつぶされる形で倒れてしまうのではないかと。

 

 AR-15は何度も手伝うと自分から申し出た。日に日に疲れがたまって、それでも皆にはその疲れをおくびにも出そうとせずに笑い続ける指揮官を見たく無くて。

 

 だが、その申し出をする度に指揮官は却下した。それは、AR-15は大事だからと、戦場で十全のパフォーマンスを発揮して無事に帰って来て欲しいから無理しないで欲しいのだと。

 

 何度も、何度も、それは私も同じだと、AR-15は言い返そうとした。私もあなたのことが大事なのだと。あなたが沈んでいると私も力を発揮できないと。私はあなたのために戦っているのだから、と。

 

 でも、彼がAR-15の身を案じた笑みを浮かべる度に、彼が自分のために無理をしているのがわかる度に、その言葉は詰まってしまう。

 

 指揮官は一秒でも早く、今の多忙な時期を抜け出して、時間を作ろうとしている。AR-15と一緒に居られる時間を得るために。AR-15には直接伝えては居なかったが、指揮官と公私を共にしたパートナーであり、AR小隊の隊長を一歩引いた立場で補佐していたAR-15が察せない筈が無かった。

 

 だが、AR-15はそんな思いを募らせることは、ここで終わりにするつもりだった。無理をするのをやめてくれと何度も伝えたが、それでもまだ平気だと嘯く彼をここで完全に食い止める。

 

 AR-15は内部時計を呼び出す。時刻は1613。一旦休憩するには丁度いい時間だろう。

 

「指揮官」

 

「うん……?」

 

「そろそろ休憩しませんか?」

 

 AR-15の言葉に促される形で、指揮官は自分の腕時計を確認し、合点したように頷く。

 

「ふむ……。確かに。一旦休憩するかー」

 

 体を伸ばし、大きく欠伸をする指揮官。その姿を最初は可愛らしいと思えていた余裕があったAR-15であったが、今はもう痛々しさすら感じて胸を痛めてしまう。彼女は自分の疑似感情モジュールが導き出した感情を誤魔化すように給湯室に向かい、手早く二人分のミルクティーを淹れて指揮官と自分の作業場へと戻る。

 

「どうぞ。今回は砂糖とミルクを多めに入れてみました」

 

「ありがとう……」

 

 指揮官は一口、AR-15の淹れてくれたミルクティーを口に含む。熱いと感じない程よい温度が指揮官の身体を駆け巡り、糖分がずっと働きっぱなしであった脳を労うように染みていく。

 

「ふぅ……美味しい……。甘さが身に染みる……」

 

 その感覚に安らぎを覚えた指揮官は、ほぅっと安堵の息を漏らして、表情筋を緩める。

 

「ふふっ」

 

 そんな指揮官に笑みを浮べつつAR-15もミルクティーを味見する。

 

 ――うん。今日のは特に上手くいったわね

 

 自分も指揮官のように疲れていたら、この先の計画を上手く実行できない。彼女も自分のコンディションをミルクティーの味で確認したのだ。

 

 お互いに甘いミルクティーを飲んで一息をつく。これまでの疲れを忘れるように。

 

 しかし、これだけでは、今の指揮官の疲れを完全に癒すことなど出来はしないだろう。だから、これから、指揮官の疲れを抜くための、彼に無理させないための計画を実行するのだ。

 

「指揮官」

 

「おぅ?」

 

「息抜きにゲームをしませんか?」

 

「ゲーム?」

 

 AR-15はティーカップを机に置くと、黒のパーカーのポケットから一つの箱を出し、中身を開封する。箱の中から現れたのは、ダイヤとKの文字と王のイラストが描かれたカード。

 

「トランプ?」

 

「ええ、トランプです。今回は52枚の方です」

 

 彼女が取り出したのはトランプ。四つの絵柄に13までの番号が当てられたカードを使って、様々なゲーム、ルールを設けて遊ぶ道具。

 

「なるほど。私に合わせてくれたってことか」

 

「トランプは国によって枚数が違いますけど、指揮官に馴染みがありそうな枚数のトランプが手に入ったのでこれで」

 

「ありがとう。じゃあ、ゲームは何にするんだ?」

 

「ポーカーでお願いできますか?短時間で終わるので」

 

「成程、いいな」

 

「ですが、一つだけ罰ゲームをつけさせて貰います」

 

「罰ゲーム?」

 

「三回勝負の二本先取のルールで、負けた方が勝った方のいう事を聞く、と言う罰ゲームです」

 

「ははっ、いいよ。AR-15も知ってるだろ?私の運の良さは」

 

「ええ……。だからこそ、燃え上がると言うものです」

 

 AR-15も指揮官の運の良さは理解している。彼は決して運だけでなく、基礎的な指揮能力も十分高いのだが、彼の持つ運の良さが更に相乗効果を生みだしている。それと共に、他人の機微を感じ取る目聡さも彼の独特の強みに拍車をかけているのもよく理解している。

 

 それでもAR-15はこの勝負を勝つつもりだ。それこそ、邪道な方法を使ってでも。

 

 AR-15は山札の上からカードを持ち上げてはシャッフルし、最初に指揮官、次に自分へとカードを分配する。

 

 指揮官は配分された自分のカードを確認する。眉一つ動かさない引き締まった表情。AR-15にどんなカードを引いたかばれない様にするために表情を固めているのだろう。それこそ、極力疲れを表に出さないようにしている今のように。

 

 ――指揮官……ごめんなさい……。

 

 AR-15は心の中で指揮官への謝罪を浮べる。彼女は確信したから。この勝負、指揮官への勝ち目は無いだろう、と。

 

 ――あなたには、もっと……

 

 一度目を瞑り、自分の迷いを断ち切って、指揮官とのポーカーへとAR-15は臨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は一日が後一時間で終る頃合い。指揮官の私室、その中の寝室。そこに居るのは、寝間着姿の二人。

 

「ははっ、まさか、あんなことされてまでAR-15から働きすぎるなと言われるとは思わなかった」

 

「当然です。あなたは働きすぎなのよ。もっと自分のことを考えて欲しいわ」

 

 苦笑を浮べる指揮官に、仕事の時とは違い敬語では無く砕けた口調で、語りかける拗ねたようなAR-15。

 

 ポーカーの結果を言おう。AR-15は指揮官に勝利した。あっさりと二本を先取して。

 

 強運を持つ彼に確実に勝つ方法、具体的に言えばイカサマをしたのだ。

 

 最初の勝負は山札の上だけを切ってシャッフルし、下に自分に有利なカードを残し、指揮官にはよくシャッフルされた山札の上にあったカードを、自分には山札の下に仕込んだカードを配る不正で勝った。その時の役はAR-15がフォーカード、指揮官の役がフラッシュ。不正をしなければ負けていたと、AR-15を慄かせるには十分な役であった。

 

 次の勝負はもっと単純、彼が目を逸らした隙にパーカーのポケットに仕込んでいたカードと入れ替えただけ。その役とはストレートフラッシュ。その役に勝にはロイヤルフラッシュを出すしかない強役。指揮官が次に出した役はフォーカード。勿論彼の負けだ。彼の負けだが、不正をしなければ確実に負けてたとAR-15に畏怖を抱かせるには十分だった。

 

 指揮官はAR-15が勝ったことを手放しに祝福した。AR-15がイカサマをしているのだと根っから思ってないと言うように。乾いた皮膚が浮き出る顔で笑いながら祝福した。

 

 そこでやっとAR-15は指揮官の無理な勤労を止める手段を得れた。彼女のイカサマは手慣れたものでは無い。初めて実践したことの上に、普段通りのある程度の注意力があればわかる位の手際の悪さを残していた。彼がAR-15を信頼していて指摘しなかったと言われるのかもしれないが、多少は表情に出てしまうものだろう。それがおくびにもでなかった、手放しにAR-15の勝利に喜んでいると言う事は、注視していれば気づくことに気づけなかったと言うこと。

 

 何をして欲しいのかと聞いてくる指揮官に、AR-15は一度謝罪し、今回のイカサマポーカーの全容を説明した。

 

 自分はイカサマをして勝ったと言うこと。普段通りに注視していれば気付けたレベルの手際の悪さを残していたこと。そんな集中も注視する力も削がれた状態では、近いうちに指揮でミスを起こして取り返しのつかないことになってしまうのではないかと心配であること。そして、その事に気づかない位に指揮官は疲労しているのだと気づかせたかったこと。

 

 最初こそ口を開けて理解が追いついてない、と言うように指揮官は呆けていたがすぐに全容を理解して、『どうしてそこまでして……』と小さく呟いた。弱気になった指揮官の隙を見逃さず、AR-15は彼の手を握りしめた。彼女の大好きな指揮官の大きくて暖かい手は、無理をしているせいか仄かな温かさしか保っていないことを実感しながら。

 

『私は、もっとあなたには、自分を大事にして貰いたい!だから、無理はしないで……!私のことを想うなら、お願いだから、もっと自分を大事にして……!』

 

 縋りつく様に潤む瞳で、感情の処理が間に合わなくなって零れ落ちる涙と共に、ノイズ交じりに発せられた言葉は、確かに彼の心に響き――彼の手の中の温かさを取り戻させた。

 

 彼は『そこまで言わせることになるなんて……本当に悪かった』とAR-15に心の底から詫び、改めて『罰ゲーム』を求めた。AR-15は指揮官が『罰ゲーム』を求めることに違和感を感じなかった。彼の瞳を見て、自分がこれ以上無理をしないようにAR-15に枷を、鎖を着けて欲しいのだと、他人のためと思うならまたどこまでも無理をしてしまうだろうと言う、彼の葛藤を感じ取ったから。

 

 だから、AR-15は罰ゲームの内容を告げた。それは――

 

「あなた、来て……」

 

 二人が寝れるサイズのベッドに先に入り込んだAR-15は両腕を広げて、彼を迎え入れる。

 

「あぁ、入るよ」

 

 彼女の言葉に促されて、指揮官はAR-15に習うようにしてベッドの中に入り込む。このベッドは二人が仰向けになって寝るのにはサイズが小さい。だから二人は必然と向き合う形になる。距離が近く、パートナーとじっくりと向き合えたことで二人は自然と笑みを浮かべる。

 

 AR-15は指揮官の左肩を優しくぽんぽんと叩く。それは、頭の位置を下げて欲しいと言う合図。合図に従って指揮官は頭の位置を下げると、AR-15は彼の頭を胸の内に収めるようにして抱きしめるのであった。

 

「久しぶりね……。あなたと一緒に寝れるなんて」

 

 AR-15が指揮官に与えた罰。それは、『これからはどんな事があっても、自分と同じ時間に寝て、同じ時間に起きて仕事に向かうこと』。仕事が忙しくなる前の日常を取り戻そうと言う彼女の計らいであった。

 

「ごめんなAR-15……。寂しい思いをさせてたんだな……」

 

「凄く寂しかった……、でも、あなたは私を想って仕事を片付けようとしてくれてるから、何も言えなかった」

 

「ははっ、仕事と私、どっちが大事って?」

 

「……あなたにはもっと自分を大事にして欲しいわ」

 

 AR-15は軽く指揮官を睨み、冗談を言う指揮官の頭に軽く手刀をいれる。そんな冗談を言える余裕があるのなら、その余裕を自分を大事にするために使ってくれと態度でも表すように。

 

「痛ッ!……ごめん、悪かった」

 

 対する指揮官はAR-15から与えられた痛みに顔を歪めながらも、すぐに苦笑に変わる。彼女にここまでさせる原因となったのは指揮官のせいなのだ。普段は冷静で内面に熱さを保っている彼女が泣きながら『自分を大事にしてくれ』と言って来たのだ。それで心に痛みを、苦しさを覚えないほど指揮官は冷酷な人間では無い。

 

 苦笑を浮べる指揮官の髪に、AR-15は一つ唇を落として、硬質な彼の髪を撫で上げる。先ほど自分が与えた痛みを癒そうとするように。

 

「いいんです……。こうしてまたあなたと寝ることが出来るから……」

 

「……ありがとう、AR-15」

 

 指揮官は自分の中の思いを、彼女を寂しく思わせたことへの情けなさ、彼女の為を思ってと謳いながらも彼女のことを想ってなかった行動への謝罪、それと、それら全てを飲み込み許してくれたAR-15の感謝を伝えるために彼女の腰に腕を回して抱きしめ返す。

 

 AR-15は自分の胸の中で指揮官の呼吸を強く感じる。彼女は指揮官と手を繋いで彼の温かさを感じるのが好きなのだが、それと同じくらい、自分の胸の中で彼の息遣いを感じるのが好きでもある。

 

 つまるところ、AR-15は指揮官と触れ合うのが好きなのだ。彼の体温、彼の息遣い。夢の世界に持っていけないモノの数々を感じ取ることが出来るのだから。

 

 AR-15は指揮官の頭を覆う腕に力を入れる。自分だけの大事なモノを抱えるように。彼の存在をより強く感じ取るために。

 

「あなた」

 

「うん?」

 

「あなたは知ってるわね?私が、こうやったあなたの息遣いを感じることが好きだって」

 

「知ってるさ。手を握るのと同じ位好きだもんな」

 

 胸の中で言葉と共に吐き出される小さな息達がなんともこそばゆく何とも愛おしい。

 

「でも、ここ数日はずっと一人で寝ることに……。二人で使う分には狭くて、一人で使う分には大きすぎるこのベッドに……」

 

「え、AR-15……?」

 

 彼女の腕に込められた力が強まる。

 

「一緒に寝れたと思っても、あなたは時間を置いたら抜け出して、部屋に持ち帰った仕事をして――また私は一人に」

 

「AR-15さん!?」

 

 更にまた力が強まる。今度は肌の柔らかさだけでなく、骨格に使われている素材の硬さも感じ取れる位に強い力が加わった。

 

「私が、私がどんな思いで、一人で寝ていたか……!!」

 

「痛い痛い痛い痛い!悪かった!!本当に悪かったから!!!」

 

 彼女の腕の力が更に強まり、指揮官の頭は万力で挟まれているよう。指揮官の頭蓋骨はギシギシと悲鳴をあげ、内部だけでは抑えきれなくなり彼の口から吐き出されていく。

 

 大きな声をあげて謝罪する彼の姿にAR-15の溜飲がさがったようで、AR-15はくすりと声を漏らして微笑むと、腕に加えた力を再び抱き留める程度に弱めてあげた。

 

 胸の中で彼の小さくて長い、ほぅ……、と言う吐息を感じる。吐息のこそばゆさに思わず身を捩りながらも、痛みに喘いでた彼を慰めるように、AR-15は再び後頭部を撫でてあげる。

 

「本当にごめん……。これからは、出来る限り控える……」

 

「出来る限り、じゃないです。これから毎日、二人で一緒に寝るのよ」

 

 そう。彼女が彼に言い渡した罰は『これからはどんな事があっても、自分と同じ時間に寝て、同じ時間に起きて仕事に向かうこと』。彼女はいつまでと言う終わりの期間を彼に説明していない。そして、彼もその場で拒否しなかった。ならば、罰は成立だ。彼は毎日AR-15と床を同じにする運命にあるのだ。

 

「あれは……言葉の綾みたいなものじゃ無かったのか……」

 

「そうよ。罰ゲームの期間を決め無かったあなたが悪いのよ」

 

「ははっ……AR-15は意外と狡猾だよな……」

 

「うるさいわ……」

 

 指揮官を黙らせるようにAR-15は彼の頭を自分の胸に押し付ける。もう逃がさないと、自分の傍から離れることを許さないと言わんばかりに。彼が勝手にどこかへ行ってしまわないように、彼に置いて行かれないように、AR-15が彼を留まらせるための楔となるかのように。

 

 力強く、ぎゅっと音を立てて、彼の頭を抱きしめて離さない。

 

 AR-15の仄かな膨らみの柔らかさと石鹸の香り、そして後頭部に回された柔らかい彼女の二の腕。自分が安心できるモノに包まれたせいか、或いは彼女が自分を守るかの様に抱きしめてくれているおかげか、指揮官の瞼が段々と重さを増してきた。こんな優しい眠気は久しぶりだと、指揮官は暗くなる意識の中で微笑む。最近は体中に重りを着けられたかのような泥沼のような眠気にしか身を任せることが出来なかったから。

 

 指揮官の寝息が段々と規則的になっていることを彼を包むAR-15も感じ取る。彼が眠るまで、あと僅か。

 

「AR-15……」

 

「なぁに?」

 

 AR-15の腕の中から聞こえる道に迷った子供のような弱々しい声に、彼女は優しく慈愛に溢れた笑みを浮かべて返事をする。

 

「ありがとう……大好きだよ……」

 

「わたしも大好きです。あなた……」

 

 全意識を振り絞って自らの中の思慕を伝えた指揮官は、彼女からの愛情の言葉を頭に刻んで眠りの世界に身を寄せる。

 

「おやすみなさい、あなた」

 

 安らかな顔で眠る指揮官の髪に唇を落としたAR-15は月明かりを弾く様な瑞々しい微笑みを彼に捧げ、彼の後を追うようにスリープモードへと移行した。



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HK416

 カーテンの隙間から朝の光が漏れる。その光を目覚まし代わりに、HK416は目を覚ます。

 

 彼女は完璧だ。指揮官より早くスリープモードを解除し、指揮官の為に朝食を作り、指揮官と共に部屋を出て仕事を始める。

 

 それが、誓約と言う聖杯を得たHK416の特権であるからだ。

 

 そう、416は念願かなって指揮官と誓約を交わしたのだ。

 

 オリジナルでは懇意(?)であった404小隊仲間と仁義なき対決をし、AR小隊のメンバーと激突しては屍の山(大量のダミー達)を築き、百数体の戦術人形を押しのけ第一部隊隊長のスオミを紙一重で降して、『これで完璧だと認めてくれるかしら?』と情熱的なプロポーズの言葉を送って、引きつった笑みを浮かべる指揮官から誓約と指輪を受け取ったのだ。

 

 それ以降、416の毎日はバラ色の色彩が追加されている。416が指揮官に何かをしてあげる度に指揮官は『ありがとう』と彼女だけに微笑みながら礼を返してくれるし、何かにつけて『私は完璧よ』と言うと、指揮官も嬉しそうに『完璧な嫁さんを持てて幸せだよ』と返してくれる。

 

 416が毎日幸せなのも納得だろう。一番、自分が認めて欲しかった人から毎日認めていると言う言葉を彼女の為に贈り、彼女と共に居る事が幸せだと囁いてくれるのだから。

 

 そう、まさに416は指揮官を独占している状態で、それが許されている唯一の存在なのだから。誓約の時に『指揮官の全ては自分のモノ』と無意識に口にしたとき、指揮官も『そうだな。だけれど、416の全部も私のものになってくれよ』とまさかの返し方をされたので、思わず照れてしまったのは416の記録に新しい。

 

 指揮官の前では完璧な416。だけれど、完璧な彼女には隙がある。

 

 それは、指揮官がまだ寝ているその瞬間にこそ見せるモノ。

 

 416は自分に背を向ける形で隣に寝ている指揮官に腕を回すと、力強く抱きしめる。

 

「ひひっ……」

 

 見目麗しい人形があげるとは思えない奇声をあげる416。そのまま彼の背中に頬をスリスリと擦りつける。

 

 これこそが、普段は完璧(?)な彼女が指揮官にも見せないようにしている完璧じゃない姿。普段はクールで冷静(尚且つ苦労人ポジション)な彼女を保つ為に必要なこと。

 

「ふふっ、ふふふ………!!」

 

 そう必要な事なのだ。これは彼女が完璧さを保ち、更に高みへと至る為に必要なこと。決して、こんな普段は見せないような甘えたな姿を彼に見せたくないと言う乙女心からと言う訳では無い。彼には完璧な自分だけを見て欲しいと言う思いから出てる訳では無い。そう、完璧な彼女には完璧な指揮官成分の定期的な摂取が必要なのだ。彼女の触覚モジュールはそんな成分検出されてないとの結論を下しているのだが、指揮官成分は確かに出てる筈なのだから。

 

 頭脳部に何とか論理的な理由で彼の背中に頬を擦りつけるのを続行していると、ふんわりとした香りが寝室の中に漂っている事に気づく。

 

 彼女の嗅覚センサーはその香りの成分から何の匂いが漂っているのか検出する。たどり着いた結論は、ホットミルク。416が目覚めの一杯として、朝食を作る前に飲んでいるモノ。

 

 その香りに釣れられ、匂いの発生源を辿る様に緩み切った顔を上げる416。冷静に考えればわかる筈だった。ホットミルクの香りを漂わせる事が出来るのは、指揮官の私室において彼女ともう一人だけ、

 

「その……抱き枕でも今度買おうか……?」

 

 そう、彼女の誓約の相手である指揮官。彼は両手に湯気が立ち上るペアのマグカップを持って苦笑を浮べていたのだ。

 

「し、しきか――」

 

 そんな筈はない。自分が抱きしめているものこそ指揮官の筈。困惑した416は一瞬幻でも見たのかと思い、自分の腕の中にある物を確認する。そこにあったのは、横向きになった指揮官と同じ位の大きさに丸められた布団であった。

 

「あ……その……早くに目が覚めたんだ。それで、416の為にホットミルクを作ろうかなって思ったんだけど、私が離れると寝てる416が切なそうな声をあげるから、何か代わりのモノを置いてあげないとなーって思ってそれを……」

 

 気まずそうに目を逸らしながら言葉を選ぶ指揮官と、驚愕の表情で腕の中にある物を見つめる416。それと同時に、指揮官に普段は見せることの無い姿をみられた事を自覚した416の透き通る様な頬は茹った様に桜色に染まる。そのまま熱が額にも伝わり、これ以上排熱処理が間に合わない顔をみられてくなくて、416は丸まった布団の中に顔を埋めてしまった。

 

 自分の為にホットミルクを入れてくれた事が嬉しいのやら、今まで隠してた寝起きの習慣をみられて恥ずかしいのやら、様々な感情が渦巻いて416の中で整理がつかなくなってしまい、変な表情を浮べているであろう今の顔を指揮官に見られたくなかったのだ。

 

「私は完璧なのに……」

 

 消え入るような声で湯気を立ち上らせる416。指揮官は中々見れない甘える姿を拝めて何処か満足そうに笑みを浮かべる。

 

「そうやってカワイイ姿を隠されるくらいなら、完璧じゃない方が好みかもしれないな」

 

 からかう様な指揮官の口調に、416はそっぽを向いて反抗する。

 

「私は指揮官に完璧と認められる存在じゃないといけないの」

 

「ははっ、そうか?完璧な存在なら、完璧な弱点を持っててもおかしくないと思うけどな」

 

 相も変わらず、からかう様な口調で笑う指揮官。いつもは主導権を握っているのは416。そう、朝も夜も――深夜も。

 

 だから、彼に言われっぱなしなのは、416には少々面白くない。例えそれが、最愛の相手からの称賛交じりの言葉であっても。

 

 416は上半身を持ち上げて、彼と同じ目線になると、

 

「……そうね。私に弱点があったとしたらそれは」

 

 彼の首の後ろに腕を回して拘束し、

 

「あなたのことね」

 

 窓から差しこむ煌めく朝日に指揮官との口づけを見せつけた。

 

 カチカチと指揮官の腕時計が数刻経ったことを告げる。どちらからともなく距離を離すと、お互いに艶めかしく一息つく。

 

「私も完璧にならないと駄目か?」

 

「その必要は無いわ。あなたまで完璧だと、私が完璧であると言う証人が別に必要になるから。だから、あなたはそのままでいて」

 

「ああ、わかったよ」

 

 416もそのままでいてくれと言いそうになった指揮官だが、その言葉は完璧を目指す彼女には残酷な言葉なので口を噤む。

 

 その代りに、彼は立ち上がると416に手を差し出す。

 

「じゃあ、今日も私のことを支えて欲しい」

 

「勿論よ。私は指揮官の完璧な416なのだから」

 

 416は今日も彼が自分を求めてくれる嬉しさを胸に感じながら、彼の手をとって微笑むと、彼の力に引っ張られる様に立ち上がる。どちらからともなく、二人は指を絡めるように繋ぎ合う。今日もお互いには互いの事が必要であると実感しつつ。二人は寝室を後にし、朝の準備へと取り掛かった。



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『特別ルート』何処にも行かないで 寄り添って 前編『UMP40』

※注意
 
 この作品には深層映写のネタバレ及び、オリジナル設定、オリジナルキャラ、中途半端なUMP40のキャラ把握が含まれています。

 この言葉に嫌な予感がした方はブラウザバックをお願いします。



 彼女は罪を犯した。

 

 取り返しのつかない罪を。

 

 それは決められていたことだった。彼女はその罪を犯すためだけに存在していたのだから。いわば、彼女はそういう運命であったのだ。

 

 その罪を犯した彼女は断罪されることはない。

 

 何故なら、彼女は罪をさばかれる前に、その存在を、居たと言う記録を自ら消し去ったのだから。

 

 誰からも覚えられること忘れ去られず消え去っていったこと。それこそが、彼女に与えられた判決なのかもしれない。

 

 しかし、彼女には心残りが、後悔が、内に秘めていた欲望があった。

 

 唯一心を許した存在にすら明かさなかった胸の内が――――

 

 ♦ ♦ ♦

 

 

 ある日、スナッチャーと呼ばれる鉄血の人形がの残骸が回収された。この機体は戦闘目的ではなく、形成された通信を傍受、敵性ネットワークへの侵入、果てには過去に形成された戦術人形のネットワーク、通信ログすらも解析する情報戦特化の鉄血モデル。戦地で散った戦術人形やダミー達を解析し、その情報を鉄血の共有ネットワークへと送る役割を持つ、凶悪な通信・情報処理特化モデル。

 

 その特性を危惧したIOP社から直接鹵獲・やむを得なければ破壊の任務をグリフィンは承ったのだが、指揮官はやむを得ないと判断してスナッチャーを破壊、残骸を回収してペルシカへ謝罪を述べつつそれを送りつけた。

 

スナッチャーの危険性を理解していたペルシカであるが、破壊されたスナッチャーを見て渋い表情を隠しきれなかった。

 

が、それでも彼女の研究者としての本質は疼いてしまう物だ。

 

ペルシカは指揮官に礼を述べて報酬やスナッチャーの残骸の扱いについての協議書にサインを書かせて追い出すと、スナッチャーの残骸を専用の機械に繋いで解析を開始。

 

スナッチャーが得た情報の数々を暴いていくことに胸の高鳴りを覚えつつ、記録の解析を続けていくと――とある名前が、存在を抹消された人形のデータが『殆どそのまま』、スナッチャーの中に収まってることがわかった。

 

その人形の名前は――

 

いや、名前など関係ない。なぜその人形のデータがスナッチャーの中に収まっていたのかはわからない。インターネットと言う海に網を投げ入れて、網にかかったデータ達を回収するのがスナッチャーの役割だと言われればそれまでなのだが、それにしても説明がつかない。彼女の記録はグリフィンからも、IOP社からも消されていたのだ。他の誰でもない、彼女の手で。どんなに痕跡を炙り出そうとしてみても、1bもデータを復元することが叶わなかったのに。

 

そんな彼女のデータが、ネットワークに漂っていたのは、彼女が消えていく前に起こしてしまったミスか、それとも故意か。もしかしたらこれは、現世に留まろうとする霊のような――

 

ペルシカはスナッチャーから、『彼女』のデータを切り離し、暗号化し、外付けの記録媒体に移して保存しパスワードをかけると、接続機器を外して、記録媒体を金庫に封入した。

 

彼女の行いは許されるものではない。彼女はグリフィンと国家保安局に甚大な被害を被らせた。本来なら彼女のデータは保存などせず、完全に消してしまうのが、正しい対処だろう。

 

それでも彼女のデータを消さずに秘匿という形にしたのは、ペルシカが彼女に同情を覚えたからか、後で分析するためになのかは彼女にはわからない。ただ、せっかく残った彼女のデータを消してしまうのだけは、不思議と許せなかったのだ――

 ♦ ♦ ♦

 

ある時、グリフィンによる鉄血人形たちの掃討作戦が展開された。理由は簡単、国家からの依頼、グリフィンが自治を任された地域の周辺の治安維持の為に。

 

それだけならいつも通りの任務、いつも通りのグリフィンのお仕事。優秀な新人指揮官のお陰で、今日も区画の平和は守られた!それで終わる筈の日常風景のような一コマ。

 

グリフィンに身を置く、感覚が麻痺した者達にはとるに足らない、寧ろ、一種の安心感すら感じるような、いつものこと。

 

けれど、それは、いつものような、とるに足らない日常で終わることが出来なかった。

 

『―――――!!!』

 

UMP45の頭の中で、指揮官からの通信がガンガンと響く、揺さぶる。

 

彼女の頭脳回路を内側から炸裂させるかのように。周囲には、彼女と同じように、頭の中で響くアラートに呻く仲間たち。

 

45は頭を掻きむしって頭の中身を全て出してしまいたい衝動をなんとか律しっているが、限界に近い。

 

恐れていた自体が起きた。戦場のど真ん中で、一番恐れていた自体が。

 

スナッチャーが収拾したデータにより、グリフィンに所属する戦術人形の脆弱性を突くウィルスが開発されてしまったのだ。

 

それは、ジーナプロトコルを利用し人形間のネットワークに侵入し、ネットワークに接続している人形をじわりじわりと蝕んでいく毒の様なウィルス。『傘』ウィルスのような、感染者を思い通りにするような凶悪さこそないが、一人感染したら戦術人形間のネットワーク経由で次々と飛び火する高い感染力と感染者の自由を奪う力十分にある最悪のウィルス。

 

このウィルスには、感染したものに単純な命令を永遠と送り込むウィルス。『停止しろ』、『武器を捨てろ』と言うような単純な命令を永遠に送り込むウィルス。

 

しかし、その命令が人形たち側で完全に拒否できる権限で無いのならば話は別だ。耐えれば耐えるほど、命令はかさみ、処理は遅延し始め、だんだんと人形達を蝕んでいく遅効性の毒。

 

戦術人形達が異常な命令を検知したことを指揮官に報告した頃にはもう遅く、そこからものの数分で彼女たちは行動不能に陥った。

 

指揮官は人形達のログから、すぐさまジーナプロトコル経由でウィルスが感染したことを検知、IOPのペルシカに緊急対策チームを設立させ、ウィルス対策へと取り組ませたが、それだけではまだ足りない。

 

UMP45を隊長とした戦術人形チームが戦地に置いてけぼりになっているのだ。

 

すぐさま救援を向かわせようとしたが、新型ウィルスの対策はもちろんすぐには出来ていない。戦術人形を救援に行かせるのは、ミイラ取りがミイラとなるリスクが高いため言わずもがなである。人間で構成された部隊は、別の戦線に立っており、人形達の救援に向かうことは不可能。

 

45はバックアップがあれば何度でも復活できると、指揮官に救援を諦めさせようとするが、指揮官は45達が鉄血に回収される事態が起これば、それこそ最悪の事態になると諦めてくれない。

 

でも、45達はわかっているのだ。指揮官が自分達の回収に固執するのは、そんな理由からではなくて、『どんなに傷ついてもこの基地に帰って欲しい』のだと、彼女たちはよくわかってる。

 

なんとも、非合理的な判断を下す人なのだろう。戦いにおいて、思いやりなど必要がないのだ。

 

でも、そんな思いやりがある人だから、甘い指揮官だからこそ、自然と拠り所にしてしまうのだろう。だから、45達も諦めずに、ウィルスに耐えて、何とか退路を確保しようとしていた。

 

指揮官も45達の退却のために何ができるかと、顔に手をおき、額に爪を食い込ませる程考え込んでいる中で、ペルシカからの秘匿回線が開かれた。

 

ウィルスの対策が出来たのかと、藁にもすがるような焦燥しきった表情で聞く指揮官にペルシカは首を振る。

 

返答に愕然とした表情を浮かべる指揮官に、ペルシカは口許を大きく歪ませて、

 

「ウィルスの対策はまだだけど、彼女達の退路を確保する手段を今『送った』わ。私が新しく開発した試験機をね。指揮官には、彼女の指揮をお願いしたいの。頼める?」

 

一も二もなく頷く指揮官に、ペルシカは無線の周波数の番号を送りつけて回線を切った。

 

「……大丈夫かしら」

 

ペルシカは彼女がコーヒーと騙る液体を口に含みながら、人形の仕様が書かれた書類を手に取る。

 

ネットワークに接続すると感染するなら、ネットワークに登録されてない、まだ接続していない人形を用意すれば良い。だが、そんな特別な人形を一から設計・開発するには時間が足りない。

 

でも、彼女の手元にはあったのだ。ネットワークに登録されてない機体のデータが。忌むべき存在として、秘匿した人形のデータが。誰にも気づかれないように、墓場で眠らせるように金庫に収めていた戦術人形の存在が。

 

ペルシカは自分の中の禁忌を破った。自分の設計したエリート人形AR小隊達が気に入ってる指揮官のために、一応の客商売としてお得意様を支援するために。

 

「後は頼んだわよ――」

 

ペルシカが書類を置いてコーヒーのような液体に口をつけた。

 

 ♦ ♦ ♦ ♦ 

 

 ダミーを引き連れて鈍色の髪を風の中に泳がせて戦場を駆け巡る戦術人形がいる。金糸雀色の瞳に星を浮べている彼女が耳につけた無線機が微かな雑音を発する。多くの人間の喧騒によって出来た雑音を。

 

 その雑音がどういう意味であるのか見当がついた彼女は、表情を緩ませて第一声を最大音量でハキハキと発した。

 

『やっほー!指揮官!』

 

 無線機の設定を終えた指揮官の無線機から躍動感のある大音量の声が発せられた。

 

「君は、一体……」

 

あまりにも鼓膜に害する大音量に、耳に指を突っ込みながら無線の主に問う指揮官。

 

『うん、あたい?あたいはね――』

 

指揮官の問いに無線の主は威勢よく、

 

『UMP40、新しく作られたモデルだよ!よろしく!古い奴らなんてちゃちゃっとやっつけちゃうから!』

 

――抹消された筈の名前を彼に告げた。

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

戦地に取り残された戦術人形の救出は無事に成功。

 

 ウィルスと敵の包囲に蝕まれた45が率いる部隊を、無線越しに指揮官の指示を受けた40がダミーを率いて包囲に穴を開けることに成功した。

 

 残念ながらダミーを含めた完全な救出は、40だけでは手が足りなかったので、ダミーはメインフレームがなんとか自立崩壊プロトコルを適用させて破壊し、メインフレームのみをなんとか救出したのだ。

 

救出に来た40を、45はいつもは決して見せない驚きの表情を浮かべて、目の前にいるのが誰なのかを理解した彼女は今にも泣きそうになって固まった。40は彼女の心境も事情もわからないが、取り敢えず彼女の手をとって『大丈夫、あたいと指揮官が何とかしちゃうから!』と励まして、45を再起させ、姉妹銃らしく息のあった連携で包囲を突破し、基地へと帰ってこれたのだ。

 

 これだけなら、40のお陰で窮地を脱した、というだけで終わるのだが。

 

「はっはっはー!」

 

「私の帽子返してくださいよー!」

 

 40は指揮官の元に預けられることになったのだ。

 

 取り残された戦術人形の回収をこなしてくれた40。彼女の管轄はグリフィンでは無くIOP社、その16LABの主任であるペルシカなので、彼女をペルシカの元に送り届けないといけない。『それほどでもないよ』と朗らかに謙遜する40に、指揮官は何度も何度も礼を言ってペルシカ達のいるIOP社の研究施設へと送る手はずを整えようとしたのだが、当のペルシカからグリフィンでなく自分へのメールが来ていることに気付いた。

 

 メールの内容を要約するとこうだ。

 

『彼女はスナッチャーのような機体の対策として作られた情報戦特化人形の試験モデル。今回の作戦の為に急いで建造したので、色々と不備があるかもしれないわ。当分は指揮官の元で運用をして貰いデータをとって欲しい』

 

 と、書かれていた。

 

『委任状はもう送ってあるから、君は何もしなくていいし、気兼ねしなくて大丈夫よ』

 

 とも。

 

 ペルシカからのメールを、またいつものように無茶ぶりをしようとしているのかと頭を抱えて指揮官の元に、研究施設に帰る為の手続きを確認しに来た40にそのことを伝えると、

 

「えっ?あたいもここに居てもいいの?!やったー!』

 

 っと大きく万歳をして文字通り手放しに喜んだので、彼は仕方ないと思いつつ、彼女に「ようこそ、私達の基地へ」と言う言葉を贈って迎え入れたのだ。基地に40や45達を伴って帰還した時、出迎えてくれたヘリアンが何処か複雑そうな表情を浮かべて40のことを迎え入れてたことにどこか違和感を覚えはしたが、帰還してからも新型ウイルスの応対に追われていた指揮官にはヘリアンがそんな顔をした理由を聞き出すことを忘れてしまっていた。。

 

 基地に来てからはと言うモノは、MP5の帽子を被って彼女から逃げ回る40の姿を見て何となく予想がつくだろう。

 

 40の明朗快活な性格ですぐに基地へと馴染んだ。SOPⅡや姉妹機であるUMP9とすぐに打ち解けたり、P7と一緒に戦術人形に悪戯を仕掛けたり、指揮官や多くの戦術人形を巻き込んでは外で遊びその度に日焼け止め塗るのを忘れて大騒ぎしたりと、元々騒がしかった基地のうるささに拍車がかかった様だった。

 

 でも、それは指揮官には嫌な思いを受ける煩さでは無い。相手が近くに居ても、40は大きな声を出すせいで耳がキーンと痛むことはありはするが、彼女のおかげで基地の雰囲気が更に明るくなったのは間違えでは無い。

 

 他者との絡み方がわからない戦術人形を誘って輪の中に入れてあげたり、成績が低いと落ち込む戦術人形を励ましたり、おさぼり組と日向ぼっこをしたりと、色んな人形と積極的に絡むので物事を自然と明るい方向に持っていってくれる魅力が40にはあったのだ。

 

 そんな底抜けの明るさを発揮する40に対して、45とM16が何処か後ろめたそうに40から顔を背ける時があるのは、指揮官は気になっていた。

 

 何故なら、指揮官は最近になって配属されたため、40のことを、『最近ペルシカが設計・建造した試験機』としか、本当に知らなかったから。

 

 どうしてあの二人が40に対して密かに冷たい態度をとるのかはわからなかったが、45とM16はそれぞれのチームの中では頼られる存在。それゆえか口が堅いので、チャンスがあったら聞いてみようと思ったが、それより先に40の性格にあの二人は絆されてしまいそうだと何となく確信していた。

 

 特に45は40の姉妹機なのだ。人懐っこい40が45のことを放っておくことなど無いだろうと、指揮官の直感は訴えかけていた。

 

 カリーナに報告書の作成を依頼し司令室へと戻ろうとする指揮官の前に、MP5の帽子を取り上げ自分の頭に被せて基地を走り回ってた40が現れる。

 

「はっはっはー!」

 

 楽しそうに目を細める彼女を見て、帽子を被ってご機嫌なだけかと指揮官は一瞬で判断しそうになったが、

 

「返してー!!」

 

 彼女を追うように必死に腕を前に突き出して走るMP5を見て、真相を察した。

 

 指揮官は、自分の傍を通り抜けようとした40の頭の位置に手の高さを合わせて、彼女の頭にあった帽子を取り上げた。

 

「あっ!?」

 

 40が異変に気づいて自分の頭に手を置きながら振り返った時にはもう遅い。指揮官はMP5の目線に合わせるようにしゃがんで、彼女の頭に帽子を載せおえていた。

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

 先程まで涙目であったMP5は、可憐に表情を綻ばせて「ありがとうございます……!」何度も何度も感謝を伝えると、40から逃げるように駆け足で来た道を戻っていった。

 

「ちょっ、指揮官――」

 

 突如介入してきた指揮官に文句を言いそうになった40だが、彼が普段は表に出さない気迫を醸し出しつつ、幽鬼のようにゆっくり立ち上がってきたことで委縮する。この後に何が起こるかの予測が完了した40はMP5に倣う形でこの場から逃げ出そうとしたが、指揮官が壁に手を置いて威圧し、逃げ道を塞ぐ。

 

「ひっ!?」

 

 思わず胸の前で両手を組んで身構える40。その様は、教徒が神に祈るかのよう。が、残念がら目の前に居るのは神では無く、ただの人間の指揮官である。祈りる意味は無い。

 

「40……やりすぎるなと、言った筈だよな?」

 

「ソ、ソウデスネ……」

 

 委縮し普段よりキーが高い声で返答する40。彼女はMP5を気に入ってるのか、或いは彼女の持つ生真面目な気質故に弄りやすいのか、最近は軽いイジメにも見える悪戯が増えてきたので、指揮官は口を酸っぱくして注意していたのだ。それなのに40は――。そう言いたいかの様に大きくため息をつく指揮官は、鋭い視線を40に向ける。

 

 指揮官から睨まれたことで反射的に身体を震わせる40に、注意する度に反省した様子をとっていた40を信じていたことを反省し心を鬼にして、彼女に刑の執行を低く、腹に響くような声で彼女に伝える。

 

「やりたくなかったがお説教だ。覚悟して貰おうか?」

 

「や、やりたくないならやらなくても――」

 

 何とか言い逃れようとしていた40だったが、指揮官の無言の気迫に気圧されて、結局項垂れてしまった。

 

「ゴメンナサイ……」

 

 指揮官は40の手を掴む。彼からの不意な行動に驚いて40の身体が一度跳ねる。

 

「行くぞ?」

 

 呆れたように息を吐きながら40を引っ張って先導する彼。

 

「……はーい」

 

 40は諦めたように、吐き捨てるように言いながら、自分の手を握って逃がさないように繋がれた二人の手をみながら、どことなく顔を色づかせながら彼に追従するのであった。

 

 

 

 

 

 これが、40がやって来てからの基地の日常。

 

 基地に新しい風が舞い込んだ、愉快な基地の日常。

 

 何も知らない40と指揮官の日常――

 

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 

 

 

 40が基地に配属されて二週間が経った。持ち前の明るさを活かしてすぐに基地に馴染んだ彼女に、指揮官は安心感を覚えつつも40を副官として傍に置く事にした。それは、ペルシカから与えられた『40の運用』に関しての任務の為でもあるし、副官となれば指揮官の傍に居る関係上友好の輪が広がると言うのもあるし、指揮官個人の思惑としては少しは責任感と言うモノを持って貰いたいと言うのもあった。

 

 任命した当初は、

 

『え~……』

 

 と、上司である指揮官相手に拒絶の態度を示した。活発な彼女にとって、一つの場所に留まって作業するのは苦手意識があったのだろう。

 

 最初はその意識の通りに、書類が一枚終わるごとに『お仕事終わり~!』や、『これで遊べるね!』と言って、仕事から逃れようとしたが、その度に指揮官が首根っこを掴んで、『終わってない』、『全部終わったら遊んでいいから』と引き止めて仕事を続行させていた。

 

 流石に仕事をさせてばっかりだと、40もストレスを感じてパーツや回路の寿命を縮めることになるので、休憩時間が終わったら戻る、仕事が終わったら指揮官と鬼ごっこをすると言う条件をお互いに飲んで副官を続行させたのだ。

 

 最初こそは渋々と言った様子でぶーたれながら露骨に不満ですよ、と指揮官にアピールしながら仕事に取り掛かっていたのだが、数日経ったらあら不思議。

 

「今日もよろしくね、指揮官!」

 

 彼女は喜色を浮べて仕事の準備に取り掛かり、時折鼻歌交じりに仕事をこなすようになっていった。

 

 その理由としては、基地での活動範囲は狭まるが副官として指揮官の傍で動いていると色んな人形と関わることが出来ること。40が他の戦術人形と話し込むことに関しては黙認しているので、色んな戦術人形と会話を楽しむことが出来ているのだ。その代わり仕事は溜まっていくので、

 

「その……指揮官、手伝って!」

 

「……はぁ」

 

 終業間際に指揮官を拝むように手を合わせて手伝ってくれないかと頼み込むのが常と化しているのが悩みどころにはなっているのだが。

 

 それともう一つは、指揮官が守るべき約束ごと。

 

「こっちだよー!」

 

「はぁ……はぁ……さすがに速いっ!」

 

 それは、仕事終わりの40との鬼ごっこ。いつも決まって、40は逃げる側で、指揮官は鬼側。一時間だけのチェイス。

 

 デスクワークと立ち仕事が殆どである指揮官にとって運動が出来るいい機会になっている為、疲れた身体に鞭を打ってでも興じているのだ。

 

「はははっ!」

 

 何よりも、楽しそうに笑い声をあげながら夜の基地を駆け巡る40を見ると、指揮官まで何だか楽しくなる。仕事の疲れをついつい忘れて興じてしまう。

 

「はぁはぁ……ははっ……!」

 

 だから指揮官も自然と笑顔になって40を追いかける。戦前で流行っていたラブロマンス映画のワンシーンを再現するかのよう。

 

「わぷっ!?」

 

 愉快なシーンが終わりを告げるのはいつも唐突。大体、40が油断してどこかで転び、立ち上がる前に指揮官が追いついて背中に触れる。

 

「はぁ……はぁ……今日は早く決着がついたな……」

 

 息を切らしながらも、どことなく晴れやかな表情で、40に手を差し伸べる指揮官。

 

「イタタ……明日はあたいが逃げ切るからっ!」

 

 地面に叩きつけて赤くなったしまった鼻頭を手で押さえながらも、指揮官が差し伸べた手をとって立ち上がる40。彼女の目は涙目ではあるが、その表情は指揮官と同じように爽やかなモノであった。

 

 息を荒げて呼吸を整える指揮官と、鼻頭を押さえて涙目な40はお互いに見つめあう。

 

 その光景がなんだかおかしくて。

 

「ふふっ」

 

「はははっ」

 

「「あははっ!!」」

 

 夜の基地に響き渡る位の笑い声を二人はあげるのであった。

 

 

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 40が着任して更に一ヶ月ほど経過。

 

 最初は40に対して何処か余所余所しく接していたM16とUMP45も、40の明るさに影響されてか、態度が軟化していった。

 

 特に40に対して借りてきた猫のように、大人しく、気弱にどこか怯えたように応対していた45であったが、段々と分厚い氷が融けていくように、40に心を開くようになっていった。

 

 指揮官は45に心を開かせるのにかなり時間を要したのだが、それを着任してから一ヶ月の間に45の信頼を勝ち取ったのは、快闊さの化身の様な40故か、或いは45とは姉妹機だからか。今では、UMP45、UMP9、UMP40の三人揃ってカフェで駄弁ってる姿も見受けられるとのこと。

 

 40のことを訝しげな眼差しで観察していたヘリアンも、いつの間にか世間話をする位には仲良くなっていた。 

 

 ともかく、指揮官が予想していた通りに40は、一方的なわだかまりを持っていた人物達のそれを無事に解消した。

 

 基地の仲間との交友関係も大分広がったと判断した指揮官は、戦闘面は問題なし、執務面は落ち着きのない一面が目立つが多分支障は無いと判断。そのことをペルシカに報告しつつ、40の副官の任を解こうとしたが。

 

『ん~……あたい、まだ指揮官と鬼ごっこしたいなー』

 

 との返事をされて副官から外されることを拒否したので、そのまま継続させてあげることにした。

 

 そんな40のいる日常のある日の夜のこと。

 

 一日の業務も終わり、40との鬼ごっこもして、頭脳と体をイジメ抜いた。今日は早くに仕事を終えることが出来たので、指揮官の密かな趣味を久しぶりに堪能しようと趣味に必要なための道具を持って司令室に向かっている所で――廊下の窓辺に立ってぼんやりと外を眺めている40の姿があった。

 

「珍しいな。40も物思いに耽ることがあるなんて」

 

「あ……指揮官」

 

 指揮官はそんな彼女の隣に立って、同じように窓を眺める。窓から見えるのは、夜間警備の為に基地を徘徊している人員と、車両類の整備が行われているのか照明が漏れている倉庫、それと夜の世界を照らす月と星々が浮かぶ雲一つない夜空。

 

 彼にとっては見慣れた風景。いや、見飽きた風景と言うべきだろうか。最初の頃は、夜なのに仕事を続ける彼らを見て、心の奥底に感謝の言葉を述べてみたり、基地の周辺に建築物が無いおかげか、居住区にいた頃よりかは夜空も明るい様に感じていたが、今はそれも当たり前のように感じている。そのことに気付いた時、少し寂しくも思ったのは何故か未だに覚えているのだが、それはきっと、彼以外にとってどうでもよいことだろう。

 

 指揮官は窓を開けて、廊下の籠った空気を入れ替える。まるで、自分の心の底にある鬱屈さを風に溶かしてしまおうとするかのように。微かに吹く夜風と野外から漏れる雑音が二人の肌を撫でて、身体を冷やした。

 

「うーん……。物思いって言うのかなぁ……」

 

 40は苦笑を浮べながら、風に流される金糸雀色の髪をかき上げる。

 

「なんだか、偶に虚しくなっちゃうんだ……」

 

「虚しい……?」

 

 いつも明るさを振りまいている40が発したのは、想像して無かった言葉だった。

 

「何ていうのかな……。本当に偶に思っちゃうんだ。あたい、ここに居ていいのかなって」

 

「……何でそんな事を」

 

 短期間で、色んな人間、戦術人形に認められながらどうしてそんなことを――と思ってしまう指揮官。何故か彼女に対して複雑な思いを抱いている者達は数人が居たが、その人物とも今は打ち解けられている状況だ。

 

「なんでだろう……申し訳なく思っちゃうんだよね……」

 

 鼻先を掻きながら、気まずそうに指揮官に語る40。

 

 指揮官はその申し訳なく思う理由を予測して口に出してみる。少しでも、40の不安を取り除いてあげるために。

 

「自分が突然やって来てせいで、他の人形の友好関係がおかしくなったりでも?」

 

 今まで仲良くしていたグループがあったとして、そこに新人が加わるとする。グループのメンバーが新人によくして仲良くなって古くからのメンバーがそれに不満をを覚えて亀裂が入るのは人間同士であってもよくあることだ。

 

 人形同士の問題なら、指揮官の管轄だ。それなら役立てるだろうと言ってみた指揮官であったが、40は首を振って否定する。

 

「それとも、悪口でも言われたとか?」

 

 戦術人形は人間には友好的である。そう設定されていると言われればそれまでだが、基本的に人間に逆らう事は勿論不可能であるし、悪口を言うのだって制限がかかる。

 

 が、人形同士となるとその制限が外れるため、結構罵りあったりしているのは指揮官も理解している。見目麗しい人形達が罵りあってる場面は、精神的に来るものはあるので、余り見たくはないのだが。

 

 彼女はこの基地の中では新人だ。それに彼女は、ペルシカによってつくられたAR小隊の様な特別な人形だ。それを快く思わない人形だっているだろう。人形達には感情を再現する疑似感情モジュールが組み込まれているのだ。人間でいう『嫉妬』の感情を持たれることだってあるだろう。

 

 もし、彼女が心無い言葉に傷ついてるのであれば、それも指揮官の出番だ。あまり個人的な指導はしたく無いが、チームである限り大事な『調和』を乱すのであれば話は別だ。チームメンバーの間で生まれた軋轢のせいで、作戦が台無しになっては堪ったモノでは無い。40の度が過ぎた悪戯を叱りつけたように指導する必要がある。

 

 が、それも外れ。40は黙ってまた首を振るう。

 

「うーむ……」

 

 他の理由を考えるために口許に手を置く指揮官。暫し、夜風の音と基地内の小さな雑音が二人の耳朶を満たしていたが、ある時一際強い風が吹き、

 

「あたいの居場所ってあるのかな」

 

 風の中に置き去りにするように、40が呟いた。

 

「……どうして?」

 

 40の語った胸中に、指揮官が返したのは四文字の疑問。何度も言う、彼女は短期間で色んな戦術人形にも人間にも間違いなく認められている。彼女の性格、活躍、戦績もその全て。その中には指揮官だって含まれている。

 

「皆、それぞれの居場所を持ってるでしょ?SOPⅡだったら、AR小隊。9と45だったら、404小隊。MP5だってMG5とかと仲が良いし……」

 

「特定の、凄く仲が良いって子が居ないことを気にしている、と?それこそ、9と45は?」

 

「うーん……。9とはけっこう仲が良いつもりだけど、それでも45の方を頼りにしてるし……45は……まだちょっと壁があるし……」

 

 確かに40と45は最近になって打ち解けてきたが、彼女が言うように壁があるように感じる。彼女の前ではいつものような飄々とした一面が出ずに、心配性な、臆病な少女の様に振る舞っている。それが、彼女なりに愛想を良くしようとした結果なのか、突如建造された姉妹機に警戒しているのか、或いは―――それが彼女の素なのか。

 

 そのどれかなのかは、もしくはそのどれでも無いのかは指揮官にはわからない。45からの信頼を勝ち取り、からかわれたり、偶に冗談交じりに迫られて笑われたりする仲にはなったが、それでも彼女には秘密が多くて。

 

「だから、色んな子と仲良くなれるように頑張ってみたけど、その子達は結局あたいが来るより前の子と仲が良くて……。それを見ると思っちゃうんだ。あたいの居場所はあるのかなって」

 

 姉妹機とはある程度打ち解けられたものの感じている隔たり。どうやっても覆す事の出来ない、長い時間をかけて培えって出来た深い友情の壁。

 

 それらを目の前にして、40は感じてしまったのだろう。自分の居場所はここにあるのかと。

 

 彼女は無邪気だ。皆に元気を振りまく明るさを持っている。それを活かして多くの者達と仲良くなるのは、間違いなく彼女の能力だろう。その能力を使って、彼女は多くの友人を作り上げたのだ。

 

 彼女の魅力は、能力は既に認められている。それなのに、居場所があるのか不安になるのは、なんとも贅沢な悩みでは無いだろうか。

 

 贅沢な悩みを持つ40に指揮官は思わず鼻を鳴らす。

 

「わ、笑うこと無いでしょ!?」

 

「ははっ、悪い。贅沢な悩みだなって思ってな」

 

「贅沢……?」

 

 突然、笑われた事に不満を感じた40が頬を膨らませがらも指揮官に聞く。

 

「そう、贅沢だよ。確かに君は新人だ。深く仲が良い友人と言うのは居ないかもしれない。けれど、君は色んな人達に確かに認めれているよ」

 

「そうかなぁ……」

 

「そうだよ。君が何かをしたいと呼びかければ、君の元に色んな子が集まってくるだろう?それは君を認めている証拠だ。でなければ、君が和の中心に立ってるときに、人が集まることなんてないよ」

 

「うーん……」

 

「だから、贅沢って言ったんだ。君は多くの者達に認められている。寧ろ、居場所なんてよりどりみどりだろうに。心配しなくたって、今のまま仲を少しずつ深めていけばいい。」

 

「うん……」

 

「ははっ、人間だってすぐに深く仲良くなる事なんて出来ないよ。深く仲良くなるためには、基本的に長い時間を要するんだ。その深度も人によって大きく変わる。そうなるまでに何年もかかることはあるし、逆に明日になったらそうなってるかもしれない。悩むのもわかるけど、こればかりは仕方の無いことだ。けれど、いつかは出来る。そう言う仲になってくれる仲間が。それに――」

 

 指揮官は40の肩に手を置く。40も指揮官の方に振り向いて、視線を交わす形となる。

 

 目と目があった事を認識した指揮官は、40に優しく微笑みかえる。

 

「私は君の居場所であったつもりなんだけどな。あまり寂しくなるようなこと、言わないでほしい。君に何があろうと、私は君の居場所だよ」

 

 そんな、ある種の告白まがいの言葉を受け、夜風で冷え切っていた筈なのに彼女の顔は火傷でもしたかのように瞬時に赤く染まり、彼の視線を切るように顔を逸らした。

 

「な、なーに指揮官?あたいのこと、好きなの?そんな愛の告白みたいな台詞言っちゃって」

 

「な!?た、確かに君のことは好きだが、別に愛の言葉と言うつもりじゃ――」

 

「じゃあ、あたいのこと、愛してないっていっちゃう?」

 

「そ、それはだなぁ……」

 

 40の言葉で自分の言葉がどのように捉えられるか理解した指揮官も、40から視線を逸らして気恥ずかしそうに頬を掻いて誤魔化す。

 

「嘘だよ~!」

 

 そんな子供らしい彼の仕種に、一泡吹かせたと言わんばかりに悪戯な笑みを向ける。その表情とからかい方が何処となく45を思わせるので、肌の色は日に焼けて若干違えど彼女達は姉妹なのだと、指揮官に改めて認識させた。

 

「ふふん、でも嬉しかったよ。ありがとう指揮官!」

 

 そして、彼女の確かな『居場所』となってくれる。彼女の事を確かに認めていると、恥ずかしげもなく言ってくれた彼に、いつも彼女が浮かべている溌剌な笑顔を彼に送る。彼の言葉によって与えられた恥ずかしさが抜けないおかげで、額まで真っ赤なのはここだけの話である。

 

「どういたしまして」

 

 そんな風に短く礼を言う彼も気恥ずかしそうに頬を掻きながらも、彼女が元気を取り戻したことを喜んで口端を持ち上げる。

 

 少しの間だけ気恥ずかしさが頂点に至ったので、40は俯き、指揮官は視線を外へと向けて、お互いに顔を背けていたが、40が指揮官の手を握った。

 

「し、指揮官、どこかに向かう途中だったんでしょ、あたいもついて行っていい?」

 

「あー……その……」

 

「……ダメ?」

 

 40の言葉で、自分がこれから何をしようとしたのか思い出した指揮官は、言い辛そうに視線を泳がせたが、おねだりをするUMP9の様に甘えたな視線を向けてくるので、

 

「……いいぞ」

 

 同伴を許可してしまった。今までは意識したことは無かったが、よく観察してみると40もUMP二人の姉妹機体であるのだと思える場面が多い。

 

 自分は彼女の居場所であり続けると言ったが、まだまだ知らないことが多い。そのことを恥じながらも、これから知ることが出来る喜びを今の指揮官は感じている。

 

「いこう!」

 

 彼女に手を引かれて歩き出す指揮官。

 

「で、行き先は?」

 

「司令室だ」

 

「司令室?おー……なるほど!指揮官が夜の司令室で一人でお酒を飲んでるって噂、聞いたことあるよ!」

 

「まぁー、これからしたい事はそれだな」

 

「あたいも飲んでいい?」

 

「安物でもいいのなら」

 

 40は一度指揮官の手を強く握りしめる。それに返すように指揮官も40の手を握る力を込める。

 

 それが、嬉しくて、指揮官が自分のことを繋ぎとめてくれている様で嬉しくて、40はまた笑顔を浮かべながら、指揮官を伴って司令室へと向かうのであった。

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 

 40がやって来てからの基地の日常。

 

 指揮官が40の居場所になると表明した、愉快な基地の日常。

 

 お互いのことがわかりあえてきた40と指揮官の日常――

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 

 40が基地にやって来てから更に時が経過した。

 

「こっちこっちー!」

 

「待ってよ40~!」

 

 指揮官のいった通り、時間をかけて友情を育んだことで、彼女も指揮官以外に『居場所』と言える人物達を少しずつ作れているらしい。

 

 45との間にあったわだかまりも今では殆ど無くなっている。40に対して、何処か様子を伺うように、彼女の機嫌を損ねないように接していた45も40とすっかりと打ち解けた様だ。

 

「40、今度一緒に出掛けない?」

 

「いいね!行こう行こう!」

 

 想像がつかないかもしれないが、今では45が40にべったりとしている印象すら受ける位に。最近、40から45と9と相部屋になりたいと申請が来た。二人は快く受け入れたと言う言葉と明朗な笑顔と共に。指揮官は二つ返事でその申請を受け入れた。

 

 そんな風に確かに居場所と言える物を多く確保した40であるが、彼女がもっともお気に入りの居場所というのは、

 

「しきか~ん!」

 

 45がわざと発する甘えたな声をマネして、椅子に座る指揮官の背後から抱き付く40。そう、彼女のお気に入りの居場所は指揮官の傍であった。

 

 夜に彼女と言葉を交わした後も、何かと気にかけてくれたり、相変わらず世話を焼いてくれる指揮官に、40はすっかりと心を砕いてしまったようだ。好感度と言うモノが数値化して存在するのであれば、彼女の好感度は頂点にまで達していることだろう。

 

「うん、どうした?」 

 

 彼の左肩に顎を乗せて甘える40に声をかける指揮官。子犬の様に甘える彼女にはどことなく愛おしさを覚えるのも仕方ないだろう。

 

 40は今も指揮官の副官を続けている。

 

 当初は40が満足するまで、或いは飽きたらやめたいと言ってくると思ったのだが、指揮官の予測は外れて、今もこうして副官を続けている。

 

「今度、45達と出掛けるんだ!」

 

 耳元で言葉を発して来るので少しくすぐったいが、彼女の喜色に溢れた声を聞いて指揮官は不快になる人間では無い。

 

「そうか、よかったなー」

 

 右手で書類の確認をしつつ、左手で40の頭を撫でてやる指揮官。言葉こそ素っ気ないが、彼の言葉にも喜びが満ちている。

 

「ホントにそう思ってる~?」

 

 指揮官の頬を突っつきつつ、意地悪そうに表情を変える40。が、彼女の声には不満の色は全くなく、冗談であることが読み取れる。

 

「思ってるさ。つい最近まで、『あたいの居場所が~』とか言ってたじゃないか」

 

 対する指揮官も、わざとらしく声を高くして40の声をマネてからかってやる。

 

「ぶー!そのことは忘れてって言ってるでしょー!」

 

「ははっ、悪かったって」

 

 彼女が指揮官の頬を押す力が強まって、頬の内側が彼の歯に当たる。そんな痛気持ち良いような感覚を享受しながら、彼は心にも思ってない謝罪を口にする。

 

 彼の謝罪に不満を覚えて頬を膨らませて、飽きることなく彼の頬を指で突いたり押し込んだりを繰り返す40。が次第にその力は弱まり、彼の頬をくすぐるだけの力になると、彼の頬を弄ってた手を彼の首に巻き付けて、彼の首筋に顔を寄せて、

 

「ありがとう」

 

 明るく朗らかで、驚かされると驚かせた側が反射的に耳を塞ぐくらい大きな声を出す彼女が、密着してぎりぎり聞き取れる位の声量で、彼の耳朶に感謝の言葉を送り届けた。

 

「……どういたしまして」

 

 40からの礼に優しい声色で返事を返して、彼女の指通りのいい髪を撫ぜてあげると、40は心地よさそうに目を細めた。

 

 

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 指揮官と40は互いに深く心を通わせた。

 

 互いに認め合い、互いにとって深く必要な存在となるくらいに。

 

 人形は心が無いと言われるかもしれないが、どんな時も寄り添う二人を見て、その言葉を口にする者は流石に固定観念に囚われすぎているか、感性が風化しかけていると言わざるを得ないだろう。

 

 指揮官はその深い信頼を形にする為に――お互いのことを更に理解し、寄り添うために、40と誓約を交わそうと考えていた。

 

 が、そこには一つの壁がある。それは、40という戦術人形はペルシカの所有物であることだ。

 

 指揮官はあくまでペルシカに依頼されて40を傍に置いているだけに過ぎない。本来なら他人の所有物である人形に心を寄せるのは間違いなのかも知れないが、その間違いに気づいた時には、40は指揮官にとってかけがえのない存在となっていた。

 

 だから、指揮官はペルシカの居る16LAB所有の研究施設に足を運んで、40との誓約についての話をつけに行った。40はペルシカの作った特別な人形。一生をかけてのローンを作ってでも、彼女を買い取る心構えで。ペルシカからの人体実験や無茶な任務を何度もこなす覚悟で。

 

 指揮官と面会したペルシカは、40との誓約についての打診を聞いた後、指揮官を見定めるようにジロジロと見つめる。指揮官が緊張した面持ちで生唾を飲み込むと、値踏みを終えたペルシカがどこか満足したように息がついた後、

 

「指揮官、今から重要な話があるから、聞き逃さないように」

 

 ペルシカからの最後の審判が始まった。

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 ペルシカは指揮官に『UMP40』の真実を語った。

 

 彼女がグリフィンと国家保安局との共同作戦の最中に謀反を起こし甚大な被害を与えたこと。彼女の裏切りにより、グリフィン及びIOP社の信頼が一気に失われることになったこと。作戦中に彼女が自分の情報を抹消したために、彼女の存在自体が闇に葬られていたこと。

 

 そんな彼女を復元、再建造が出来た理由は過去に依頼したスナッチャーに彼女のデータが事細かに残っていたから出来たこと。

 

 しかし、過去の行ないから彼女の再建造は危険と判断し、ペルシカの自己判断でデータに封を施し秘匿していたこと。そして、過去の作戦でばら撒かれたウィルスに対応できる存在が、存在を消されたUMP40しか居ないと判断し、彼女の封印を解いて再建造したこと。指揮官の元へ預けたのは、データをとるためでなく彼女が再び謀反を起こさないか監視するためであったこと。

 

 明かされる衝撃の真実達。思わず目を見開いて口許に手を当てて息を飲む指揮官。あんなにも快闊な少女であったUMP40が、自分の所属している組織に甚大な被害を被らせた害悪だと知ったのだ。彼の反応も無理はないだろう。

 

「一応、あの子の過去の記憶は消してあるわ。また裏切られては困るから。」

 

 彼女のいっていた申し訳なさというのは、もしかしたら、彼女の罪に関連していたことなのかもしれない。居場所が無いと嘆いたいたのは、彼女の何かが過去の行ないを覚えていたのかもしれない。

 

 UMP45とM16A1、それにヘリアンが彼女のことを訝しんでいたのは、真実を知っていたからだろう。だから、ずっと口を塞いでたのだ。彼女の記憶が無いことを悟って、複雑そうに口を噤んでいたのだろう

 

「それでも、君は40と誓約したいって言うつもり?」

 

 ペルシカの視線は何処か憐みを帯びているモノ。知らなかったとはいえ好きになった存在が大罪人であったとは、到底受け入れがたい真実であるだろう。

 

 そんな真実を知って、すぐさま返事を返せる人間など――

 

「それでも……それでも、私は……40と誓約をしたいです」

 

 居た。目の前に居る指揮官がそうであった。

 

「……どうして?」

 

 ペルシカは目を丸くしながらも、指揮官に問いかける。

 

「確かに、グリフィンの一社員として、40のしたことは許せないです」

 

 拳を握り、怒りをあらわにする指揮官。

 

「でも、今の40が、また謀反を起こすとは信じられません。過去の記憶が無いのなら尚更。彼女の明るさに何度も助けられました。私だけでなく、基地の皆も。だから、もう一度裏切ることは信じられません」

 

「それは、指揮官が信じたく無いだけじゃないのかしら?」

 

「……でも、それでも、私は40のことを信じてます。私は40のことが好きだから」

 

「ふーん……」

 

 ペルシカは何処かつまらなさそうに机に置いてあったペンをとると、彼に糾弾するように先を向ける。

 

「彼女と結ばれたら、もしかしたら世間から後ろ指をさされることになるかもしれない」

 

「構いません。私は、彼女の居場所になると、彼女と約束しました」

 

「この事件の真相を知るグリフィンの上層部は快く思わない筈よ。指揮官の昇進の道は途絶えるかもしれない」

 

「知りません。それでも、彼女の傍に居られるなら」

 

「また、彼女が裏切るかもしれない」

 

「止めます。やろうとしたら、いつものように叱りつけてやります。それこそ、彼女が泣くまで、しっかりと反省するまでずっと傍に居てやります」

 

「ふふ、ふふふ……」

 

 指揮官の決意溢れる眼差しと共に解き放たれた言葉達。その真剣さに胸を打たれたペルシカはクツクツと喉を鳴らして、静かに笑い声をあげる。

 

「はははっ!良い覚悟ね!」

 

「な、何で笑うんですか!!」

 

 自分の覚悟を馬鹿にされたと思い顔を真っ赤にして糺す指揮官。ペルシカは笑い、お腹を抱えるほど一通り笑って、机をバンバンと大きく叩いて、やっと収まってきた所で、笑い声以外の言葉を口にした。

 

「良いわ。UMP40はあなたに譲る。お代もいらない。他の人形と同じように、いつものように彼女のデータを送って貰えれば結構よ。上層部も私が黙らせてあげる」

 

「っ!?本当ですか!?」

 

「つまらない嘘はつかないから安心して。ふふっ、そんなに愛されるなんて、40も幸せでしょうね。ちょっと妬けてしまうわ」

 

「……どうも」

 

「ふふっ、ふふふっ。お幸せにね」

 

 彼女の笑いは指揮官を馬鹿にするような面白さから出たのものでは無く、40がどんな存在であっても受け入れると言う彼の決意に敬意を表した笑いだ。

 

「笑わないでくださいよ……。ありがとうございます」

 

 気恥ずかしそうに頬を掻きながらも、指揮官はペルシカからの祝福に擽ったそうな笑みを浮かべながら受け入れた。

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 

 譲渡と取り決めに関しての書類に一通り記入し、残りは指揮官に郵送することを決めて、部屋から出て行く指揮官を見送ったペルシカ。

 

 彼女はコーヒーと主張する摩訶不思議な液体を飲みながら一人ごちる。

 

「繋ぎとめる鎖。指揮官がそれになれているのなら任せられる。前のあの子には頼れる存在が誰も居なかったから。よかったわね。これから彼はあなたのものよ」

 

 どこか遠くを、天井の隅を見つめながら、ペルシカは再びカップに入った液体を口に含んだ。

 

 ♦ ♦ ♦

 

 数日かけてペルシカと40の譲渡についてのやり取り終えた指揮官は、カリーナから誓約に関しての書類と指輪を購入し、少しは洒落たインテリアがある執務室で40のことを待ち受けていた。本来なら、誓約は余った宿舎や予備宿舎に教会のセットを組み立てて行うのだが、今回はサプライズでやるので執務室で行おうとしていた。

 

 先程、基地内の放送で40を呼び出した指揮官。休憩時間が終わればどのみち彼の元に来てくれるのだが、勝手ながら休憩時間が終わるまで待つことが出来なかったのだ。

 

 書類に不備がないかを何度も何度も確認し指輪を収めたケースも中身が入っているかの確認を何回も行った。

 

 自惚れかもしれないが、40がこの誓約を受けてくれる自信はある。40と確かに心を通じ合っている自身もある。成功する可能性が99%であっても、1%だけ失敗の確率があるのなら不安になってしまうのと同じで。

 

 頭の中で何度もシミュレーションをした。台詞だって何度も何度も考え抜いた。そう不安要素は無い。後は、考え練習し自分の想いを伝えて、彼女の返事を待つのみ。

 

 強く鼓動を打つ心臓を手で押さえ、息を吸って吐いてを繰り返して火照る身体を何とか冷却させて、40を待ち受ける指揮官。

 

 そこに、力強く執務室の扉を叩く音が、

 

「来たよー」

 

 マイペースな所がある40も、これから何が起こるかなんとなく理解しているのか、若干声が震えているのが付き合いの長い指揮官にはわかった。

 

 そんな彼女の声に安心した指揮官は、呼び出しに応えてくれた彼女に中に入る許可を出す。

 

「40だよな?入ってくれ」

 

「う、うん……」

 

 40と同じように緊張で上擦った声で、部屋に入るように許可を出す指揮官。入室を許可された40は瞳だけを動かして室内の様子を伺いながら入室し、指揮官の前に立つ。

 

 何もしていないのに、赤く染まった二人の顔。そんなお互いの顔を見て、微笑ましく思う余裕は、今の二人にはない。

 

「指揮官……何のご用……?これから日光浴に行くので……」

 

 指揮官から視線を逸らし、両手の人差し指の先を合わせるようにしながら緊張気味に言う40。休憩時間は後数分もせずに終わる。彼女なりに指揮官と自分の緊張をほぐすためのジョークなのだが、それに突っ込む余裕も指揮官には無い。

 

「だ、大事な用があるんだ」

 

「だ、大事な用?」

 

 言葉をつっかえさせながらも大事な用とアバウトに伝える指揮官と、つっかえた部分もオウム返ししてしまう40。そんな二人の様子から、彼らがどれだけ緊張しているのか伺い知ることが出来るだろう。

 

 指揮官は胸に手を当てて息を吸い、自分の中の空気を換えることで緊張感を解そうと試みる。

 

「この書類に君のサインを書いて貰いたいんだ。その……君が良ければ……」

 

 40が誓約を受けてくれる自信を指揮官は確かに持っている。とは言っても不安は確かにある。緊張によって一時的に不安が上回って、語尾が小さくなってしまうのは、仕方の無いことだろう。

 

 机の前に立っていた指揮官は横に一歩ずれ、片腕を使って机を指し示し、40に机の上にあるモノを見てくれるように促す。

 

 関節が錆びついているかのように、無理矢理手足を動かして前進する40。机の前に立ち、身を乗り出して上にあるモノを確認して、彼女は息を潜めるように両手で口元を覆った。

 

「指揮官っ!こ、これって!!」

 

 40の体内を巡る人工血液が一気に沸騰したかのように赤く茹る。

 

 そんな彼女の緊張感が伝染して、同じように顔を赤くして、考えていた台詞が全て吹き飛んでしまった指揮官。

 

 一瞬だけ考えに考えた台詞が霧散して頭の中がパニック状態に陥ったが、作戦中にアクシデントが起きた場合に、すぐに軌道修正をする事が出来る冷静さが、彼が次に口にする言葉は何か思い至らせる。

 

 ――本当は出会いの始まりから語って40のどんなところが気になり、どんなことが好きになったとかを語ろうと思っていた。でも、その言葉達が吹き飛んでしまったのは、それは自分が言いたい事には必要が無かったなのかもしれない。だから、これから自分が口にする言葉は、そう言った装飾が無い本心からの言葉になる。

 

 だから、指揮官は、

 

「40――」

 

 飾ることをやめた自分の本心を、

 

「私と――」

 

 ありのままの言葉を、

 

「誓約して欲しい!!」

 

 彼女へと捧げたのだ。

 

「えっ……」

 

 返事を受け取った彼女は、

 

「うそっ……」

 

 大きく手を天井へとあげて、

 

「やったー!!!」

 

 嬉し涙を流しながらも満面の笑みを浮かべて、書類へとサインしたのであった。

 

「ありがとう!」

 

「ありがとう指揮官!!」

 

 感極まった二人は、どちらから共なく抱きしめ合う。

 

「嬉しい……嬉しいよ指揮官!!」

 

「私もだよ40……!」

 

「居場所になってくれるんだね……!あたいの確かな居場所に……!」

 

「そうだよ!私は君の居場所になる!君に何があろうとも、君のための居場所に!!」

 

 緩やかに抱擁を解いて、お互いに向き合う二人。

 

 40と同じように喜びに満ちた涙を流しながらも、指揮官はポケットから手のひらサイズの箱を取り出して蓋を開ける。

 

「おぉー!」

 

 そこにあるのは、誓約の指輪。二人の絆の強さを示す証。

 

「あたいにつけて指揮官!」

 

 彼女の催促に頷く形で返事をする指揮官。右手で指輪を摘み、彼女の滑らかな小麦色の左手を空いた手で取り、彼女の薬指へと嵌める。彼女の指へと指輪が執務室の窓から入り込んだ日の光を浴びて光冠を発した。

 

 これで指揮官は40の揺ぎ無き居場所になることが出来た。彼女が嫌われようと、非難されようと、彼女が帰って来れる居場所に。彼女と共に未来を歩むための居場所へと、存在へと。

 

 40は興味深そうに、あるいは夢でないことを確認するかのように、何度も何度もあらゆる角度から自分の薬指に嵌った指輪を確認すると、溢れそうな想いを抑えきれなくなって。

 

「指揮官!みんなに言っとく!これから指揮官はあたいのものだって!」

 

 一目散に執務室から出て行って、自慢しに行った。

 

「はっはっはー!!」

 

 喜びの余り廊下中に響く大きな完成をあげながら。

 

「……おーい」

 

 一人執務室に置き去りにされる形となった指揮官。彼が当初に決めていた予定では、ひっそりと取得していた自分と40の半休を使って街にお出かけをして、最後はレストランでディナーを堪能しながら今日の誓約を祝おうとしたのだが、当の相手は嬉しさの余り基地を駆け巡りに行ってしまった。

 

「……まぁ、いいか」

 

 一通り自慢を終えてここに帰ってくる頃には流石に落ち着いていることだろう。デートの時間は減ってしまうが、40が嬉しそうに皆に自慢しているのなら、それはそれでいいと指揮官は受け入れることにした。

 

 指揮官は、机の上に置かれた誓約の書類を手に取る。記入者の欄には、指揮官の名前と、書き殴られたUMP40の文字が確かにあった。

 

 ♦ ♦ ♦

 

 これは40が喜びに余り基地を駆け巡る日常。

 

 指揮官が40の確かな居場所になった、新たな基地の日常。

 

 40と指揮官が結ばれた日常――




 取りあえずは前編です。後編はまだまだお待ちを……。

 因みに逆レはされてないですよ。ええ、されてませんとも。


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『特別ルート』何処にも行かないで 寄り添って 中編『UMP40』

※注意
 
 この作品には深層映写のネタバレ及び、オリジナル設定、中途半端なUMP40のキャラ把握が含まれています。

 この言葉に嫌な予感がした方はブラウザバックをお願いします。



 指揮官とUMP40は誓約を交わした。時間をかけて信頼を培い、愛情を育み、それを指輪と言う形にしたのだ。

 

 40以外にも指揮官に好意を抱いていた戦術人形は多く存在した。ある者は潔く指揮官から手を引き、ある者は恋慕を拗らせたりもしたが、40と指揮官の仲の深さをみて結局手を引いたモノが殆どだったようだ。

 

 基地に居る戦術人形、人員から盛大に祝われて誓約を迎えた二人。グリフィン、IOPからも公認の仲となった二人は、人目を憚る事無くたわむれ合っている――と思いきや、そういう訳では無かった。

 

 誓約を期に40が指揮官と同居する、事も無ければ、二人の仲の良さを知るモノが、思わず砂糖を吐く勢いで熱々な蜜月を送っている、わけでも無い。

 

 寧ろ――

 

「……ふぅ」

 

 休憩時間、執務室で書類に軽く目を通した指揮官は、何処か疲れたように溜め息をついた。誓約をする前なら、傍に控えていた40が、『お疲れ指揮官!飲み物用意するよ!』と指揮官の疲れた目を癒すような溌剌とした笑顔を浮かべて、小走りで部屋を出て行って飲み物を用意してくれた物だが、今の彼の傍には40は居ない。

 

 それもその筈、40は休憩時間を利用して、他の戦術人形に絡みに行っているのだから。

 

 誓約を期に指揮官と40の時間は更に増えたと言えば、指揮官は苦笑を浮べながら首を振るうことだろう。誓約の前と変化がない。それはある意味で贅沢な悩みと言えるかもしれない。初心を忘れず、愛を育んでいると言えるかもしれない。

 

 ……違うのだ。増えた訳でも無ければ、変わったわけでも無い。

 

 減った。二人の時間が減ったのだ。

 

 それは何故か?

 

 その答えも簡単なモノ。40が休憩時間を利用して、戦術人形達に会いに行っているから。

 

 指揮官が彼女を止める権利は無い。それに、40が指揮官を避けている様子も無い。それなのに何故二人っきりの時間を40はとらないのか。

 

 その答えを、指揮官はこう導き出した。

 

『自分と言う絶対に傍に居る存在が居ることで安心できたのだろう』

 

 と。

 

 当初の40は、ずっと自分の居場所と言うモノを人に求めていた。誰かに認められて、自分が傍にいることを許してくれることを。

 

 指揮官は、彼女が望む『居場所』となった。何があろうと、彼女を受け入れ、彼女と共にあり続ける確固たる『居場所』に。

 

 そんな居場所が出来て、彼女は深く安心したのだろう。

 

 だから、40は指揮官の傍を離れて色んな戦術人形達と交友を深めに行くことにしたのだろう。

 

 なので、指揮官としては安心していた。40は指揮官と言う居場所だけに満足することなく、他の戦術人形の中にも自分の居場所を築こうとしていることに。

 

 だが、そうはわかっていても――

 

「ちょっと、寂しいな……」

 

 ついついそう思ってしまう。指揮官は40の誓約相手。公私を共にするパートナー。お互いがお互いを深く支え合う唯一無二の関係。

 

 疎かにされている訳では無いのは、指揮官も理解はしている。

 

 でも、そうとわかっていても、女々しいと言われようとも、想いを通じ合った相手が余り傍に居ないと言うのは、彼女の相手として寂しく感じてしまっても仕方がないことだろう。

 

「よっと……」

 

 指揮官はずっと座り込んでいたせいで痛みの信号を発する腰を手で押さえながら立ち上がると、給湯室へと足を運ぶ。

 

 休憩時間は後数分で終わり、喋りつかれた副官の40が喉を潤わす物を求めながら戻ってくることだろう。

 

 給湯室の棚に閉まってあるグラスを取り出し、冷蔵庫から氷と水を取り出してグラスに注ぎ、副官の席に置いておく。彼女には言ってないが、美味しそうに水を飲みながら、戦術人形達と何があったかを語る40の姿は愛らしくて好きだった。

 

 休憩時間が終わる一分。ノックも無しに執務室の扉が開かれる。

 

「たっだいまー指揮官!」

 

 弾けるような笑顔を浮かべて、よく通る声で帰還を告げる40。

 

「おかえり、40」

 

 短い時間ながらも戦術人形達との交友を楽しんできた様子の彼女。指揮官はそんな彼女の様子を自分のことの様に喜びながら、彼女に微笑みかけるのであった。

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 これは40との新たなる日常。

 

 指揮官が新たな居場所を作る40の姿を見守る基地の日常。

 

 40と指揮官が結ばれてからの日常――

 

 ♦ ♦ ♦

 

誓約してからまたいくらか日が経った。

40は相も変わらず誓約を交わした指揮官との時間を取らず、戦術人形との時間を中心にとるようになった。

 

今までは仕事の合間にある休憩時間だけであったが、最近は休日も戦術人形達も過ごしていることが多い。

 

最近は彼女の姉妹機である45と出掛けていることが多いようだ。出掛けた日の事を事細かに、楽しそうに彼女が指揮官に語るから。

 

その姿をみても、指揮官は不思議と自分の事を無いがしろにされているという意識も自覚も無かった。それは、40は彼が望めば快く傍に居てくれるからだ。自分の隣で笑顔を振り撒き、最近あった楽しかった事を語る彼女に嘘偽りを感じなかったから。

 

手を握り、愛の言葉囁き合うことも、口付けを交わすことも彼女は拒絶しなかった。特に手を握ることに関しては彼女の方から積極的にやってくる。指揮官を自分に繋ぎ止めるように、彼の腕を抱き締めて指を絡めて握るのは、誓約をする前からの彼女のお気に入りの行為だった。それをする度に、満足そうに微笑む彼女の顔には喜びが満ちていることを、ずっと彼女の傍に居た指揮官にはよくわかっていた。

 

45達と特別仲良くしていることにも何ら疑問を抱いてなかった。寧ろ、今までの空白であった姉妹の時間を埋めていっているようで微笑ましくもあった。

 

あの45が『姉妹の時間を奪っちゃダメだよ、しきか~ん?』と、本気とも冗談ともとれない口調で言ってきたことは、指揮官の脳に刻み込まれている。そんな彼女に便乗するように40も『そうそう。あたい達の時間を取らないでよ?しきか~ん』と、彼女もからかうように言ってきたから、特に記憶に残ってる。

 

それに、40が不在なのを良いことに彼に迫った戦術人形も数体は居たが、数日後には40との間に何かあったのか、彼に迫ってくる様子は無くなった。

 

だから、40から蔑ろにされていると思ったことは、一度も無く、相も変わらず40が交流の輪を広げていることを喜ばしく思ってたのだ。

 

40は指揮官に語る。戦術人形との交流の中であったことを。『可愛い服をみてきた』とか、『迷い混んだ子猫を可愛がった』とか、『美味しい料理を食べてきた』とか、そんな他愛の無い話を屈託の無い笑顔を浮かべて。

 

指揮官は記憶の中にあることを追体験するように、身ぶり手振りを加えて語る40を微笑ましそうに眺める。

 

あまり変わらない指揮官の反応が面白くないのか、時折40は指揮官のことをジト目で見つめながら、

 

「指揮官、あたいの話ちゃんと聞いてる?」

 

と何処か不満げに確かめてくるのが、可愛らしい。そんな彼女の髪の毛を手入れするように撫でて、

 

「ちゃんと聞いてるよ」

 

と返すと、くしゃりと表情を緩めるのが愛らしい。

 

他の戦術人形と仲良くしてる様を語る彼女は魅力的だ。特に姉妹のことを語るときは、

 

『二人の顔の傷をファンデーションで隠すと凄く可愛らしい』とか、『45はああ見えてビターなものは苦手』とか、『45は意外と裁縫が得意』な事とか。

 

40は特に45と仲良くしているらしい。ちょっとした因縁があるらしいが、彼女と姉妹だからだろうか。二人が揃ってると、どことなく指揮官も嬉しくなる。

 

そして、45の事を語る40はどことなく輝いてるように見えて、

 

 ――指揮官の指先に僅かに力が込められた。

 

45のことを語る40は相変わらず笑んでいる。楽しそうに、嬉しそうに――

 

 

 

他の戦術人形や45との絡みの話は何日も渡って40の口から語られた。例えそれが、指揮官と二人っきりで出掛けているときや、デートの翌日であっても、ずっとずっと――

 

ある時の40からのお話が終わった後に、指揮官は自分の手のひらに爪の痕が残っていることに気がついた。それは、知らぬ間に彼が握り拳を作っていた証拠だった。

 

 ♦ ♦ ♦

 

40はまた指揮官に語る。他の戦術人形との間にあったことや、45達のことを。作戦中の話や、プライベートであったことなど、その話題を中心に。

 

指揮官は気づいてしまった。自分が不安に思ってることに。

 

その理由は分かりやすいものだ。どんなことがあっても、どんなときでも、彼のことは40の話題の中に出てこないのだ。まるで、彼女から忘れ去られたように。自分には魅力がないと遠回しにいうかのように。

 

指揮官は40の話を聞くのが好きだ。笑顔を浮かべて、楽しそうに語りかけてくれる彼女のことが好きだ。

 

だけれども、彼女は余りにも自分とのことを話してくれなさすぎる。通じあってる仲だからだと、他人は言うかも知れないが、それにしても自分に関しての、自分達に関しての話題が出なさすぎる。

 

それが指揮官を不安にさせた。40は本当に自分の事を好きなのかと、愛しているのかと。

 

40はまだ戦術人形との話ばかりをしてくる。自分は彼女の特別である筈なのに。自分は彼女から特別な扱いは、今は何も――

 ――40どうして……

 

これでは、40が特別な扱いをしているのは自分ではなく戦術人形達ではないのか。

 

また40は戦術人形と過ごした時間の話をしてくる。無邪気に、朗らかに、何処までも楽しそうに。

 

指揮官と40は誓約を結んでいるのに、自分は彼女の確固たる居場所であるが、それと同じくらい重要な特別な関係であるのに。

 

指揮官が好きな彼女の笑顔が向けられているのは、目の前にいる指揮官ではなく、彼女の思い出の中の戦術人形たち。その事実が、心臓に針を刺されたかの如く、指揮官の胸を締め付ける。

 

指揮官は40に見られないようにひっそりと拳を握っていた。微かに伸びた爪が、彼の手のひらに刺さるくらいに強く、強く。それだけに止めることが出来なくて指揮官は奥歯を噛み締めていた。それでも、彼の中に渦巻くものは収まらなくて、彼は奥歯を噛み締めるのを止めて、下唇を噛んでいた。

 

自分の外側から伝播していく痛み達。それに呼応するような、彼の胸の痛み。

 

内側と外側その二つの痛みが共鳴しあったその瞬間、彼は自分の中で渦巻いていたモノの正体に気がつけた。

 

彼は、

 

――40を笑顔にする者達に嫉妬しているのだと

 

「指揮官?」

 

突如として指揮官の相づちがなくなったからか、40が指揮官の顔を覗きこむ。

 

我に返った指揮官は、ハッとしたように口を開けて、握りしめていた拳を解いた。

 

「……何でもない」

 

「ん~?もしかして、嫉妬ちゃった?」

 

「なんでも無いさ……」

 

自分の部下への嫉妬を自覚し、片手で果物を掴むように顔を覆って自己嫌悪に陥る指揮官。

 

「ふ~ん……」

 

40は突如調子が沈んだ彼に首を傾げながらも――その表情は、どこか涼やかに微笑んでいるようにも見えた。

 

 ♦ ♦ ♦

 

 指揮官が自分の中の嫉妬を自覚してから更に時間が経った。

 

40は、やはり『指揮官に関する話題』以外を彼に語りかけてくる。彼の大好きな溌剌とした微笑みで。友達と心行くまで遊んで帰ってきた子供のような無邪気さで。

 

どんなに彼女の傍にいようと、どんなに彼女を喜ばそうとしても、彼女が笑顔にする時は決まって『指揮官が関係しない』話。

 

指揮官は気が気で無かった。心の奥底から叫びだしそうになった。勘弁してくれと、彼は何も悪くないのに、許して欲しいと思ったことすらある。つい最近までは、彼女のことを詳しく知っているのは自分以外にいないと自負していた位なのだが、今は自分がもっとも彼女のことを知らないのではないか?と恐怖すら感じている。

 

彼女が語りながら浮かべる笑顔は、彼に向けられたものではない。何度も、何度だって言おう。彼女の笑顔が向けられた先は、過去に彼女を笑顔にした者達。

 

40の笑顔の意味に気づいたときから、彼女の笑顔が好きだという気持ちと、彼女の笑顔を見たくないという気持ちの板挟みだった。胸が張り裂けそうになったことは何度もある。苦しさのあまり肺が破裂してしまいそうに思ったことも何度もある。星を浮かべた彼女の瞳が、目の前にいる自分を向いてないことを知って、自分に視力があることを呪ったこともある。彼女の言の葉を癒しとして捉える鼓膜を破ってしまいたいと思ったこともある。

 

それでも、彼が狂わなかったのは、ひとえに彼女を愛していたから。他の人間や戦術人形に愛を捧げることは微塵も揺らいだとこはなく、一途に40だけに注いでいたから。

 

そして、不思議なことに、本当に不思議なことに、彼は40からの愛情を確かに感じ取っていた。まだ、彼の中では40に蔑ろにされているという感覚は微塵もなく、彼女から愛されているという実感が不思議とあった。彼女から指揮官への応対こそ、彼女が誓約してから変わっていないが、二人だけの時間を過ごすなかで、不思議とそれ以外の時もこうして話している時すらも、自分を苦しめる40からの愛情を感じ取っていた。

 

40と通じ会えているこそ感じ取れているのか、それとも、指揮官の願望が思い込みへと変化したのか、それはわからない。

 

ただ言えることは、指揮官を狂わせるのが40への愛情なら、彼の正気を繋ぎ止めているのは40からの愛情だということ。なんとも皮肉な対照なのだろうか、彼を苦しませるものも、繋ぎ止めているのも、愛なのだ。

 

だから、ずっと指揮官は耐えてきた。自分へと微笑みを向けながら、自分へと向けられてない思い出話達に。彼女にバレないように、拳を握りしめ、密かに唇を噛みながら。明朗快活な40を守るために。40が無邪気に与えてくる心の痛みを、身体的な痛みに変換して耐え忍んできた。決して、彼女にはそんな姿を見せないため。

 

しかし、耐えるだけではいつまでも続かない。その我慢は限界を迎えた。

 

何時ものように向かい合って話し込む二人。指揮官は油断していたのかも知れない。テーブルの上に置いていた手を、何時ものように力強く握りしめてしまったのだ。

 

「指揮官、何でそんなに力を入れてるの?」

 

40が震えるほど力を込められた指揮官の手を指差す。

 

遂に、40が指揮官の秘密が暴いてしまった。彼女を守るために、耐え続けて来たのに、ふとした瞬間にその努力が水泡に帰した。

 

「な……!そんな事……」

 

 言い訳をしようとして 、俯いて口を閉ざす指揮官。

 

一瞬の葛藤がそこにはあった。このまま言い訳をして、耐え続けるか、素直に心のうちを明かして、無邪気な40を傷つけるか。

 

一瞬の葛藤だった。暴かれてしまったことで、心のなかに隙が出来てしまった彼には、また耐え続けるのは酷な選択肢だった。

 

諦めて自分の心のうちをすべて語ってしまおう。もっと早くからそうすればよかったのだ。

 

自分に笑顔を向けて欲しい。ずっと抱えていた思いを口にしようとした所で――

 

40が丸められた彼の拳を、繊細で滑らかな彼女の手が覆った。

 

突如与えられた温もり。

 

「あっ……」

 

思わず声を漏らして、顔をあげる指揮官。彼の目に映るのは、『彼だけに』微笑みを湛える40。

 

その微笑みはまるで著名な画家が描いた絵画のよう。見るもの全てに深い敬意と慈愛を感じさせる笑み、そう見えるはずだ。彼女と心を深く通わせた指揮官『以外』には。

 

40の微笑みを目の当たりに指揮官は彼女から捧げられる愛情を感じると同時に、背筋に稲妻が走り冷や汗が吹き出したかのような錯覚を覚えた。

 

彼女の浮かべる笑み。それに内包されるのは愛だけでなく、悪巧みを実行するUMP45のような狡猾さと、鉄血機体を尋問にかけるUMP9のような残虐さ――

 

「ははっ……!」

 

その二つを合わせたものを別の言い方で表現するのなら――

「ははっ!はは!あははははっ!素敵だよ!今の指揮官、凄く素敵ッ!!」

 

――狂気

 

 その二言が、彼女から放出される愛情の裏に潜むモノ。

 

 40の笑みに嘲りは無い、40の声に侮蔑は無い。ただ、ただただ、喜びだけがある。

 彼の手をテーブルへと縫い付けつつ、身を乗り出す40。彼の鼻先と自分の鼻先がくっついてしまう位接近して、指揮官の夜色の瞳をに金色の月夜の様な40の瞳が闇夜を照らすかのように覗きこむ。

 

「指揮官!指揮官!」

 

 40が彼を呼ぶ。遊んでもらおうとねだる子供の様に、興奮が隠せない無邪気な子供みたいに。

 

 いや、違う。彼は彼女の好奇心溢れた瞳のことを良く知っている。その瞳は子供がする無邪気なモノでは無い。恋する乙女が想いを告白するような、想いの丈を伝えようとするような、無垢な瞳。

 

「あたいね、戦術人形や45達の話をすると悔しそうに顔を歪める指揮官がね大好きなの!!」

 

 無垢な視線と、無邪気な表情。40の言葉には嘲笑う意図はなく、彼をバカにする意志はない。

 

 40との信頼を培った指揮官だからわかる。誰よりも40のことを理解していると自負している指揮官だからわかる。彼女は指揮官を貶すつもりは塵一つなく、恋する少女の様に想いの全てを指揮官にぶつけているのだ。

 

 だが、その内容な余りにも衝撃的でショックを受けるモノには十分だ。

 

 40は指揮官のことを馬鹿にする意思がないのはよくわかっている。でも、それでも、40のことを深く信頼している指揮官がこう思ってしまうのは、仕方ないだろう。何せ、彼女の言葉を真に受けるのなら、嫉妬をさせるために、それだけの為に彼の心を傷つけたのだから。

 

「私は、君に弄ばれていたのか……?」

 

 風に吹かれた水面の様に揺れる指揮官の夜色の瞳。

 

 40は彼の手を覆っていた手を離すと、彼の両頬に自分の手を添える。健康的な小麦色をした手で、日に当てられて熱せられた手で、今にも心が凍り付いて涙が零れそうな指揮官の頬を包む。

 

「違うよ。言ったでしょ?あたいは指揮官のことが大好きなんだから!」

 

 屈託の無い笑顔で、確かに好意を伝える。その声色には、若干の怒りが含まれてることを指揮官は何となく感じ取った。その怒りがあるという事は、40が彼へと向ける思いに偽りはないと言う確固たる証拠。

 

 でも、それでけでは足りない。

 

 40が自分のことを見てくれている。40が自分のために想いを伝えてくれる。40が自分のために微笑みを向けてくれる。

 

 それだけでは、今の彼には足りない。

 

 彼は零す。今にも泣きそうな子供が痛みを堪えて伝えるように。

 

「私は……君に……愛されているのか……?」

 

 40の我儘に振り回され、40から想いを向けられることが少なくて、指揮官はすっかり弱っていた。

 

 彼女に飽きられた、或いは、詰まらない人間として切り捨てられたのかと、自分では彼女の居場所は努められないのかと、そんなことを思いずっと心を痛めていた。

 

 頬に添えられた彼女の手に、冷え切った自分の手を重ねて、懇願するような視線を向ける指揮官。

 

「っ……!」

 

 そんな彼の縋る様な視線と、40へとしがみ付こうとするする声色に、彼女の頭脳回路に電流が奔るのを感じた。それは、異常な出力の電流が放出されたのではなく、人間でいう快楽を感じた瞬間に近い。

 

 ――見れた。指揮官の新しい一面……!!

 

 40は指揮官の頬を舐めるように指に這わせて顎のラインをなぞると、どこか名残惜しそうに彼の顔から手を離していく。

 

 彼女は可愛らしく小首を傾げながらも溌剌な笑みを浮かべて、

 

「そんなに言うなら、真夜中にあたいを迎えに来て!部屋の鍵は、開けとくから」

 

 そんな提案を残すと踵を返し、彼から距離をとっていく。

 

「40!」

 

 思わず彼女のことを引き止めようとする指揮官。

 

 40は彼に振り向くと、

 

「あ、でも音は立てちゃダメだからね?起きた45が指揮官の事を袋叩きにしちゃうかもよ?」

 

 一つ警告を残して、彼との談話を後にし、出撃の為に工廠へと向かってしまった。

 

 一人取り残された指揮官は、40の言葉を思い返す。

 

『真夜中にあたいを迎えに来て!』

 

 と彼女は言った。そこで、わかるのだろう。40が指揮官を愛しているかどうか。

 

 それと、

 

『起きた45が指揮官の事を袋叩きにしちゃうかもよ?』

 

 とも言った。

 

 40がよく45のことを構っているせいか、最近の45は40に若干依存している所がある。そんな45の前で40のことを連れ去ろうとしたらどうなるか、想像を絶する拷問をされるか、或いは壮絶な死を迎えるか。何にせよそんな未来は想像したくない。

 

 だが、それでも、

 

「私は……」

 

 45に袋叩きにされるリスクを背負ってでも、

 

「それでも、私は……」

 

 指揮官は――

 

「40、君を迎えに行くよ」

 

 惨めな嫉妬心に溺れる日々は送りたくないから。

 

 彼にだけ向けられたあの笑みを、彼は忘れることが出来ないから。

 

 何よりも、40が彼のことを愛しているのか確かめたいから。

 

 指揮官は、彼女を迎えに行く決意を固めた。

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 これは40の本心に迫った日常。

 

 指揮官が40からの愛を確かめる基地の日常。

 

 40と指揮官が、互いの心に迫る日常――




後編の更新は遅めになります。
気長に待ってくださると幸いです。


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『特別ルート』何処にも行かないで 寄り添って 後編1『UMP40』

ちょっと書けたので更新です。


 

 日が沈み、指揮官の瞳の色の様に真っ黒な夜の時間帯。

 

 指揮官は戦術人形達の宿舎、その中にある、UMP姉妹の部屋へと向かっていた。

 

 その理由は簡単、

 

『真夜中にあたいを迎えに来て!』

 

 と言った40のことを迎えに行くため。

 

 彼だけでは整理のつかない想いと、彼女からの愛を確かめるために彼は40の待つ部屋へと向かっていた。

 

「……ここだな」

 

 かつては何度も通った部屋。誓約する前は副官である40のことを迎えに行くためによく足を運んだUMPシリーズの人形達が共同で過ごしている部屋。

 

 指揮官は胸に手を置いて呼吸を整える。

 

 ここから先は40を迎えに行くことを成功しても、45に妨害されて袋叩きになる結果になっても、後戻りが出来なくなる岐路。

 

 40の愛を確かめることに成功するか、失敗して40の失望を買うことになるか。

 

 もし失敗したらと思うと怖い気持ちは確かにある。でも今の指揮官にとっては、愛を一身に捧げている40が本当に自分を愛しているのか、確かめることが出来ない方がもっと怖い。

 

 だから、指揮官は一歩を踏み出す。

 

 40は指揮官のことを愛しているのだと。どんな形であれ、ずっと感じていた愛情が本物であることを確かめるために。

 

 指揮官はドアノブに手をかけて、手前に引く。40の言った通り鍵はかけられておらず、小さく蝶番が軋む音を立てて隙間が広がっていく。

 

「遅かったね、しきか~ん」

 

 ドアを開け、40が待つ室内に薄暗い廊下の光を送り込んだところで、わざとらしく甘えるような間延びした声が彼の耳に届く。そんなわざとらしい甘えたな喋り方をするのは、指揮官の知る限りただ一人。指揮官の目標を達成するために今もっとも恐れるべき戦術人形、UMP45。

 

 ――まさか、この部屋にくることが予め察知されていた?

 

 彼の頭がこのままでは危険だと警鐘を鳴らすが、彼の目的の為に今は引き下がるわけには行かない。叶うかどうかはわからないが、話し合いで解決を図ろう。

 

 彼が打開策を思い浮かべ、声の主と相対する準備を整えて一気にドアを開け放ったところで、彼は小さく息を飲んだ。

 

「なんてね~~」

 

 玄関に座り込み、頬に手を添えて悪戯っぽく微笑みながら彼のことを見上げるのは、夜空を照らす月の瞳を夜闇に包まれた室内で煌かすUMP40。彼が迎えに来た相手その人。

 

「はろ~!それともぐっどあふたぬーん?まぁいいや!来てくれたんだね指揮官!」

 

 深夜の時間だと言うのに、彼女の声量は全く持って変わらない。そんな彼女の調子に指揮官は苦笑を浮べる。

 

 そう、彼女は何も変わって無い。変わってるように見えない。だから、彼女の話に自分のことが無いことに気がつくのが大幅に遅れてしまったのだ。

 

「大声を出して平気なのか……?」

 

 対する指揮官は、中で眠るUMP9とUMP45を警戒しており、周囲を憚る様な声量だ。

 

「平気だよ。ちゃ~んと寝かしつけてあるからね~」

 

 手をひらひらと振って大丈夫だとアピールする40に、指揮官は胸を撫でおろす。

 

 彼が警戒しなくても、40はわざわざお膳立てをしてくれていたようだ。まるでスパイや暗殺者にでもなった気分の決死の覚悟でやって来たのに、その気苦労は全てとり越し苦労だったようだ。安心したような、それならそうと言ってくれればよかったのにと言いたくなる様な、複雑な気分に陥る指揮官。

 

 そんな指揮官に40は微笑みを浮べて、悠々と語りだす。

 

「二人とも可愛いんだよ。寝顔だって可愛いし、二人はお気に入りのぬいぐるみと一緒じゃないと寝れないんだ~。特に指揮――」

 

 40から二人の、指揮官以外のことを口にされた瞬間に、指揮官の瞳が一気に鋭く変わる。

 

 もう限界なのだ。指揮官にとって、40が自分以外のことで話しこむ姿を見るのは。自分達以外のことをずっと聞き続けるのは。40の中には指揮官の居場所は無いのだと、悲しい思いを抱いてしまうのは、もう嫌なのだ。

 

彼の視線の変化に気づいた40は、口許を大きく持ち上げて歪な微笑みを浮かべる。

 

「ふふふっ、良い表情だよ、指揮官!」

 

悪巧みが成功した45のように。いや、そんな子供のいたずらが成功したときのような朗らかな笑みではない。その笑顔は、昼間の語り合いで40が指揮官に向けてきた狂気を孕んだ微笑むに近いものだった。

 

我慢のタガが外れた指揮官は、40の口から自分の自分達二人に関すること以外の話を紡がれると、もはや条件反射のレベルで軽く拳を握り歯を食いしばって嫉妬を露にするようになってしまった。

 

こんな感情は、恋人の、最愛のパートナーの前で晒すべき物ではない。そう、彼は頭の中で理解はしているが、溢れてしまった感情はもはや止まらない。

 

40は緩やかに立ち上がる。目元はつり上げ、口許は引き絞り、嫉妬という負の感情を露にする指揮官を恐れることなく。立ち上がり、彼を見上げる形になると、40は手を伸ばし彼の頬に手を添える。彫刻品を触るような手つきで彼の頬を撫でると、軽く背伸びをして彼の首に自分の腕を巻き付けて、彼の肩に顎を置くようにして抱き締めた。

 

「からかうとすぐ向きになるんだから~」

 

まるで、指揮官がずっと嫉妬していたことをわかっていたような言葉。彼女にとって、『指揮官が話題にいない話』はからかいでしかなかったのか?やはり、自分は40に愛されてないのか?

 

「指揮官のそういう表情、あたい好きだよ?」

 

歌でも口ずさむように好意を伝える40。

 

好き、それがからかい半分の口調であっても、愛を捧げる人から言われると、どうして身体が震えるのだろうか。抑えきれない、心の底から湧き出る喜びによって。

 

40は指揮官の頬を撫でる。肩に顎を乗せている位置関係的に彼の表情を伺い知ることは不可能。でも、彼の頬に、表情筋に、手を触れることでわかったのだ。

 

彼の引き絞られ、よく手入れされたナイフのような鋭利さを持った表情が和らいでいることを。

 

40は口端を大きく持ち上げる。彼の浮かべているであろう表情に満足するように。

 

――あぁ、何て可愛いんだろうか

 

このまま意地悪したくなる。また彼のことをからかいたくなる。あの嫉妬に焦がした表情を見たくなる。

 

でも、今は我慢の時だ。だって、これ以上彼を焦らすと、彼は40への愛で真っ黒に焦げてしまうだろうから、

 

「だから――」

 

今は素直な思いを

 

――他のひとに、その表情を見せたら許さないからね?

 

指揮官の耳元に唇を落としながら囁いた。

 

40からの言葉に含まれているのは、間違いなく独占欲。彼女は『表情』とだけしか言ってないが、それでも40が自分の嫉妬した顔が好きなのだということは、そう言ったことには間違いがない。

 

40の聴覚センサーが、集音機器が指揮官の吐息を捉える。その情報だけで、指揮官が眉を開き安堵している姿が40の中で容易にイメージが出来る。

 

何故その姿が簡単にイメージできるのか?その理由はとっくにわかりきったこと。40は指揮官のことをずっと――見ていたから。

 

「しきかーん……」

 

指揮官の耳から頭の中にかけて染み入るような甘く切ない40の囁き声。

 

その声が、彼女が指揮官と呼ぶことに、呼んでくれることに、彼は喜びを抱いている。だって今は、自分の事を呼んで、自分の事を求めてくれているのだから。

 

40は指揮官の首に回していた腕を解くと、今度は彼の肩に手を置いて、彼と視線を交わす。

 

指揮官の夜色の瞳には、中心に星を浮かべ月のような金色の輝きを放つ40の瞳が、40の満月のような神秘的な瞳には、月の光を覆うような雄大な夜を思わせる指揮官の瞳が。

 

まるで、二人が一つに混じったかのような喜びを覚える40。二人が織り成すそれはふとしたときに見上げた澄み渡った夜空のような胸を打つ風景。

 

40は瞳を閉じて二人が作り上げた風景を閉じ込める。

 

そのまま閉じたままの目尻を緩め口端を持ち上げて、

 

「あたいを連れ出して!」

 

童話にあるような、お城に閉じ込めるられたお姫様が迷い混んできた王子様に願うように、連れ出すように求める。

 

指揮官の答えはすでに決まっている。

 

言われなくてもそうするつもりだった。彼はそのためにここまで来たのだ。

 

だから――

 

「40」

 

指揮官は肩におかれた40の手をとり握りしめる。彼のことだけを意識させるように、40のことを逃がさないというように。

 

「うん」

 

40は目を瞑りながらも彼の意思の強さを感じ取り、告白の返事を心待ちにする少女のように、彼の言葉に集中する。

 

「君を連れていくよ」

 

彼はわかりきっていた返事を彼女へと確かに返した。40の細い手を握りつぶす勢いで力を込めて。彼女のことを放さないとその力強さで示しながら。

 

「うん、あたいを連れてって!」

 

確固たる気構えと彼の手に込められた力強さ、その執念を感知した40は満足そうに可憐に表情を緩ませる。

 

指揮官の好きな40の表情。40の笑顔。その笑顔の中でもあまり見たことがない、女の子らしい40の微笑み。彼女の笑みに胸を震わせながら、彼女が傍にいることを感じとる。

 

二人はお互いのことを認めあうと、どちらからともなくお互いの指を絡めて繋ぎあい、指揮官に手を引かれようにして、二人は部屋を後にした。

 



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『特別ルート』何処にも行かないで 寄り添って 後編2『UMP40』

※注意
 
 この作品には深層映写のネタバレ及び、オリジナル設定、中途半端なUMP40のキャラ把握が含まれています。

 この言葉に嫌な予感がした方はブラウザバックをお願いします。



自ら指揮官を煽り、彼から能動的に部屋から連れ出される形となった40。

 

指揮官に手を引かれるがままに、二人が向かった先は指揮官の私室。

 

指揮官がカードキーをかざすと、ロックが音を立てて外れる。指揮官が招き入れるようにドアを開けると、

 

「おじゃましまーす!」

 

指揮官からの言葉を待たずに、40は初めて訪れるホテルの一室に飛び込む子供のように、目を輝かせ、靴を脱ぎ捨てながら突入した。

 

大袈裟なリアクションをとりながら入室した40であったが、彼女が彼の部屋を訪れたのは初めてではない。

 

寧ろ、誓約を結ぶ前は、40は彼の部屋に入り浸っていたと言っても過言ではない。休日に訪れてはなにげない会話に花を咲かせ、共に映画を観賞したり、彼からご飯を馳走に預かったり、一緒にお昼寝したり、挙げ句の果てに帰るのが遅くなったからだの、今日はもう動きたくないだの駄々を捏ねて泊まることになったりと、彼女はよく彼の部屋を訪れていたのだ。

 

それこそ、部屋に差し込む光が、夜空に浮かぶ光源達が発してる微かな光しかない薄暗い空間の中でも、障害となるものに接触することなく悠々と歩ける位には、彼女は彼の部屋のことを熟知している。

「~~♪」

 

鼻唄を奏でながら軽やかな足取りで40が向かったのは、寝室。窓際におかれたベッドと、少しの衣服が入ったクローゼットと空き場所ばかりのチェスト、後は物置と貸してる収納スペースしかない面白味のない部屋だ。

 

40が脱ぎ捨てた靴を揃え、彼女を追うように寝室へと入ると、そこにはベッドに腰を下ろし、振り返るようにして、いつかの時のように窓ガラス越しに外を見つめる40が。

 

指揮官が入室したことに気づいた40が、自分の隣をポンポンと叩いて、隣に座るように促す。指揮官はその誘導に従うがままに彼女の隣に座り、彼女に倣うように、いつかの日と同じように、窓に写る景色を眺める。

 

彼の私室から拝める外の景色も、いつかの日に40と見たものと何ら代わりはない。

 

窓から見えるのは、夜間警備の為に基地を徘徊している人員と、車両類の整備が行われているのか照明が漏れている倉庫、それと夜の世界を照らす月と星々が浮かぶ雲一つない空。

 

あのときからすっかりと変わった二人の関係と比べても、何も変わっていない窓の風景。

 

その風景を眺めながら、

 

「あたいね」

 

変わってしまった原因の一つである40が、

 

「指揮官があたいに言ってくれたこと」

 

少しずつ、

 

「凄く嬉しかったよ」

 

言葉を口にして空間を震わせた。

 

「私が言ったこと?」

 

 彼女の言う『指揮官が言ったこと』というのが、何を指しているのかは、指揮官にもわかっている。

 

 でも、指揮官としてはその言葉は40に言って貰いたかった。彼女が自分を想っているのは伝わった。彼の表情の一つを独占したいと言い出す位に、想われていることはわかった。

 

 しかし、一度失われた自信と言うのは、そう簡単に取り戻せる物ではない。自分だけで取り戻すには、余りにも回り道をする必要だってある。簡単に自信を取り戻すには、自信を失った原因を取り除くのが一番手っ取り早い方法だ。

 

「な~に~?あたいにイジワルしてるつもり~?」

 

 おかしそうに喉をクツクツと鳴らす40。

 

「………」

 

 それに対する指揮官の答えは沈黙。叱られることを恐れ自分の殻にこもって傷つかない様にする子供のような答え。

 

 指揮官はわかってないのだ。40が何故こんな意地悪をしているのか。

 

 皆は知らないだろう。みんなの頼りになる指揮官が、こんな態度を、傷ついた子供のような表情をする時があるなんて。

 

 でも、今はこれ以上、彼にイジワルをするのは宜しい行為では無い。イジワルも過ぎれば虐めと何ら変わりはない。それは、彼から叱られて教え込まれたもの。

 

 彼女の目的は果たした。だから、今は彼の望みを叶えてあげるのだ。

 

「指揮官が『あたいの居場所であったつもりなんだけどな』って言ってくれたこと」

 

 彼の予測に間違いなかった。指揮官が予想していた言葉もまさしく彼女が言ってくれていた言葉だった。

 

 ずっと彼女の中には、かつて彼が送った言葉が刻み込まれていた。

 

 二人が深い信頼関係を築くきっかけとなった言葉が。

 

「あまりにもね。そう、当然みたいに言ってくれたから、あたい、凄く嬉しかったんだ。例えそれが、その場凌ぎであたいの信頼を勝ち取るための言葉だったとしても、ね」

 

「そんな訳ないだろう」

 

「うん……。よくわかってるつもり。そうやって当然のように言ってくれるところ、あたい好きだよ」

 

 ベッドのシーツに置かれていた指揮官の手に、40は自分の手を重ねる。彼女の中の心と言える物を、彼女のアイデンティティを言える物を彼と共有するかのように。

 

「今思うと45もM16ももしかしたら416だって、あたいのことをよく知っていたかもしれないのに、あんな余所余所しくしてくるんだもん。いくらあたいでも傷ついちゃうよ」

 

 40が列挙する戦術人形達は、『過去』のUMP40と関係が深かったもの。結局、彼女達から詳しい過去の40について聞き出せてはいないが、過去の40について思うところがあったから口を閉ざしていたのだろう。

 

 例え姿形は同じでも、同じように扱えない、同じように扱い辛いと言うのは、よくあることだ。亡くなったペットと同じ種類のペットを飼っても、亡くなったペットと同じように扱う、と言うのは中々に出来ない人間の心理と同じようなもので。

 

「そんな中で、何もわからなくて、どこか取り残されたみたいな、疎外感を感じてる中で、指揮官が『居場所』だって言ってくれたこと本当に嬉しかった」

 

 40は指揮官の指の隙間に差し入れて、

 

「……初期の頃になるけど、指揮官があたいを叱ってくれたのも、けっこう嬉しかったんだよ。あのときに握ってくれた手の大きさと温かさ、ずうっと記録に残してるくらいに。あの頃から、指揮官はあたいのことを認めてくれていたんだよね」

 

 彼の手の上から覆いかぶさるように握る。

 

 元々高めの温度を持っていた彼女の手。その中にある一片の冷たさは彼が送った特別であるという証明。

 

 彼女の手の温度が微かに上がる。これが、彼女が言う初めて指揮官の手を握った時の温かさなのだろうか。

 

「指揮官に励まされて応援されて、あたし一杯頑張ったなぁ……。色んな戦術人形と仲良くなっていっぱい居場所を作ろうって」

 

 それもわかっている。彼女が戦術人形と仲良くなれたことを小躍りしながら語っていた時もあった。

 

 その時は、指揮官も彼女が親交を深めていくことを手放しに喜んでいた。

 

 ――その時は、

 

「誓約してからもいっぱいいっぱい、色んな子とも遊んだかなー」

 

 そう。そのこともよくわかってる。彼女が笑顔になる時は、戦術人形との話の時だけだと、彼が思いこんでしまうくらいに。

 

 そのことを、自分以外のことで笑顔を浮かべる40のことを思い出すと、指揮官はまた嫉妬の感情を覚える。苛立ちを覚える。

 

 40は自分の事を見ていないのではないか?と。彼女にとって都合のいい存在でしかなかったのではないか?と。

 

 負の感情に捕えられた末に最後に出てくる言葉は決まっている。

 

 ――私は、40に本当に愛されているのか?

 

 と。

 

 彼が望めば傍に居てくれる。彼といる時は触れ合ってくれる。でも、今の彼女が決まって笑顔になるのは、自分や自分達との話以外のこと。

 

 本日の昼に彼の為だけに浮かべた『狂気混じり』の笑顔。そして、迎えに来た時に浮かべた意地悪な笑顔。それが、彼にだけ向けられた久しぶりの彼女からの笑顔。

 

 嫉妬と喜びが入り混じった指揮官は、再び表情を歪め、指先に力を入れてシーツに皺を作る。

 

 一度壊れた負の感情の堰は、それを留める役割を果たすことなく、そのまま彼の表情、行動として出力させる。今の彼の様に。

 

「でも」

 

 そんな彼の様子を、

 

「途中であたい、気づいたんだ」

 

 横目で伺い、

 

「別にあたいは、他の子の中に居場所を欲していたわけじゃ無いんだって」

 

 あの狂気を孕んだ笑みを浮かべると、

 

「あたいは」

 

 苛立ちで熱を持ち始めた指揮官の頬を

 

「あたいが欲しかった居場所は」

 

 両手で包み込んで、

 

「指揮官の傍、ただそれだけを望んでたんだって……!」

 

 指揮官の血色の良い唇に、40の赤い花びらのような可憐な唇を重ねた。

 

 指揮官にとっては予想だにしない一撃。

 

 二人が唇を重ねていた時間は瞬きの間と言っても過言では無い程一瞬だったが、その一瞬で、指揮官の胸は、彼女からの愛に焦がされた。

 

 ――40が自分の傍に居ることを望んでくれた!

 

 その事実が彼の心を揺さぶる。

 

 だけど、それ同時にもう一つ湧き出る感情が、

 

 ――そう思ってくれたのにどうして自分にあんな意地悪をしたのだろう?

 

 彼女に対する疑いは彼の中でまだ完全には晴れていない。

 

 その疑いの元を晴らす為に彼女へ聞こうとしたその瞬間、

 

「んふふ♪」

 

 40らしい弾けるような――UMPの系譜らしい影を感じさせる――笑顔を浮かべて、彼の肩を押して押し倒してきた。

 

「っ!?」

 

 油断していた彼の身体がベッドに沈む。その意図がわからなくて、身体を起き上がらせようとすると、40が彼の首の横に手を置き、彼の顔を覗きこむようにして、動きを封じ込めにかかる。

 

「40……?」

 

 喜びと嫉妬が入り混じった表情は霧散し、困惑に固められる。

 

 彼を文字通り目と鼻の先に捕えた40は、彼と視線を交えて、再び夜空を作ると、口許を三日月の様に歪める。

 

「意地悪ばかり?ごめんね指揮官。でも、あたいね、指揮官の事が大好きなの!」

 

今まで指揮官ですら聞いたことが無かった、想いの丈をぶつけてきたのだ。

 

彼女の瞳に映るのは指揮官の姿。胸にある想いが溢れた結果、瞳を疑似涙液で潤ませて彼のことを見つめる。今にも零れてしまいそうな愛情の海に、彼の身体を沈めようとするかのように。

 

「ずっと!ずっと!指揮官さえ知らない指揮官の表情を見たかったの!指揮官のことが大好きだから!」

 

戦術人形たちとあったことを語るように、明朗に語る40。彼女の言う指揮官の表情とは、彼が嫉妬したときの表情のこと。彼女しか見ることが出来ない、特別な存在である彼女だけが拝むことが許された普段は見せない彼の表情。

 

今彼女が浮かべている興奮した表情も、月のような瞳も向けられているのは、指揮官ただ一人。それが、指揮官には嬉しかった。

 

「40……!!」

 

彼の胸のうちを満たすのは喜び。まるで、天に昇るような歓喜。

 

今の40は指揮官の事だけを見てくれている。彼にだけ語ってくれている。それもずっと聞きたかった、『指揮官』についてのことを。自分の事をどう思ってるかということも。

 

「しきかん……」

 

40は法悦に表情を委ねながら、指揮官の頬に手を添えて、彼にその可憐な顔を接近させる。

 

「あぁ……40……」

 

彼女の意図を理解した指揮官は瞼を閉じて、もう一度口付けを交わした。

 

「指揮官……」

 

「40……」

 

お互いの愛情に蕩けてしまったような緩んだ笑みを捧げ合う二人。

 

「指揮官」

 

「あぁ……なんだ……?」

 

彼女の望む言葉が指揮官にはわかる。彼女は語りたがっているのだ。自分の中にある想いを。その全てを。彼女の輝く目を見れば、何をいって欲しいのかなんて手に取るようにわかる。

 

だって、彼らは通じあっているから。指揮官がどんなに彼女へ不満を持っていたとしても、彼女が彼のことを軽んじた振りをしても、結局は互いが互いを思いあってるような息のあった二人だから。

 

だから、聞いてあげるのだ。今にもその全てを解き放ちたくて、待てと命令された愛らしい子犬のような彼女の話を。

 

「あたいね……指揮官のことが大好き!!」

 

力強く、静まり返った寝室によく通る気勢のある彼女の声。

 

彼女から好きだと言われた。それだけで、指揮官の胸には温かさが満ちて、自然と顔が緩んでしまう。意識してないのに頬が持ち上がって、興奮のあまり言葉すら上手く口に出来なくて息を飲む。

 

それだけでも、彼の中の暗雲を払うのには十分過ぎるのに40はこれだけで終わるつもりは毛頭ない。彼女は一度大きく息を吸う。彼女は一息に口にするつもりなのだ。彼へと抱いている想いを。

 

「指揮官の声が好き。普段は威厳を保つためにちょっと低くしてるけど、お仕事が終わったら皆が萎縮しないように元の高さに戻してる指揮官の声が好き。あたいのことを好きだっていてくれる指揮官の声が好き。指揮官の顔が好き。普段はあんまり表情を出さないようにしてるけど、人の話を聞いたりしてるとすぐに顔に出しちゃう指揮官の顔が好き。あたいに笑いかけてくれる指揮官の顔が好き。指揮官の目が好き。夜みたいに雄大で自然の夜空よりも澄んでいる指揮官の黒い目が好き。あたいを見つめてくれる指揮官の目が好き。指揮官の髪が好き。あたいと日向ぼっこをした後は、暖かくてお日様の匂いがするから。太陽のような暖かさを持ってくれる指揮官の髪が好き。あたいの話を聞いてくれる指揮官が好き。あたいが話すたびに相づちを打ってくれたり、あたいが欲しいリアクションを返してくれる指揮官が好き。あたいの話を聞いてくれる指揮官が好き。あたいを抱きしめてくれる指揮官が好き。指揮官に包まれると温かくなって凄く安らいで、指揮官が傍に居るんだって実感できるから。あたいを包むように抱き締めてくれる指揮官が好き。あたいのことを構ってくれる指揮官が好き。どんなときでもあたいを優先しようとしてくれる指揮官が好き。自分の事を大事にして欲しいって思うこともあるけど、そんな指揮官があたいは好き。あたいにご飯を作ってくれる指揮官が好き。指揮官、気づいてるかわからないけど、あたいにご飯を作ってくれる時、いつも嬉しそうな表情で作ってるよ?一回だけ理由を聞いたときに『40が喜んでくれるから』って答えてくれたこと、あたいはちゃーんと記録してるよ。あたいのためのご飯を嬉しそうに、楽しそうに作ってくれる指揮官があたいは好き。心配してくれる指揮官が好き。心配をかけちゃうとあたいの胸も凄く痛くなるんだけど、心配が晴れたときにほっとしたように息をつく意外と心配性な指揮官が好き。思いやりの強い指揮官が好き。この基地に配属されてから孤独を感じてたあたいに寄り添ってくれた指揮官が好き。あたいを思いやってくれる指揮官が好き。優しい指揮官が好き。そうやって誰にでも優しさを振りまくから、あたいの方が嫉妬しちゃうんだよ?……でも、そんな風に優しい指揮官のことが、あたいは大好き!」

 

次々と紡がれる40の言葉。止まることの無い告白。戦術人形に息継ぎと言う概念は無い。だから、彼女は語り続ける。壊れたアナウンスマシーンのように。まるで、彼への好意を告げる目的で作られたロボットのように。次から次へと、彼への想いが彼女の口から出て来る。彼女が記憶をスキャンして、彼の好きなポイントを頭の中で映写する前に。彼女が演算するより早く。人間で言う反射のように。

 

怒濤の勢いで押し寄せてくる40からの好意。彼は彼女の言葉によって、薄暗い寝室の中でもわかるくらいに真っ赤な顔となり、夜色の瞳の潤いを増して彼女の告白を受け止めていた。

 

彼の中にあるのは羞恥心などでは決してない。長い乾期を耐え凌いだ植物が、その身に降り注ぐ恵みの雨に狂乱するような喜び。今まで満たされることの無かった。乾きり、汚泥を蓄積した彼の器は洗浄され、器から溢れる程の愛を受け止めれる喜びを受け止めているのだ。

 

「40……!」

 

言葉にするだけでは足りなくなった40は、指揮官の前髪をかきあげて、指揮官の額に唇を落とす。それが、彼女の息継ぎの仕方なのだと言うかのように。

 

リップ音を立てて彼の額から唇を話した40は彼の頭を何故あげる。子供や自分の姉妹を相手に宥めるように、大切な宝物を磨きあげるような優しい手つきで。それな心地よくて、愛しくて、指揮官は目を細めて彼女がなで回す手つきを楽しむ。

 

指揮官に撫でることに満足した40が彼の頭を撫でていた手を再び頬に添え、彼の注目を自分へ集める。

 

時の流れがゆっくりになったように、40の口が開く様子をじっくりとみてとれる。

 

その間に指揮官は、再び彼女の言葉に、彼女の声以外を弾くように、耳にフィルターをかけた。

 

必要ない。彼女の言葉以外の音は、今の指揮官には必要な筈がない。

 

彼女が再び空気を震わせる。

 

「指揮官の笑顔が好き。指揮官の笑顔を見ると胸が、お腹の底から温まるみたいで癒されるから。あたいへ向けてくれる指揮官の笑顔が好き。真剣な表情を浮かべる指揮官が好き。あたい達のことをよく考えて作戦を練ってくれたりしてるのが判るから。でも、なんでそんな表情をしてるのかを聞いたら、凄くどうでも良いことで悩んでることもあるから油断は出来ないんだけどね。指揮官の引き締まった真剣な表情が好き。驚いた表情を浮かべる指揮官が好き。あたいが唐突に抱きついたりすると『あっ』て声を漏らしちゃうのが可愛いから。かわいらしい一面のでる驚いたときの指揮官が好き。得意気な顔になってる指揮官が好き。普段は謙遜ばっかりしてるけど、認めてほしいところが認めてもらったとき、大きく頬っぺたが持ち上げてるのが可愛らしいから。かわいらしい指揮官の得意気な顔があたいは好き。落ち込んでる指揮官は、あたいも苦しくなるけどやっぱり好き。でも、あたいはそんな指揮官を見たくないから、あたいが笑わせてみせると 楽しそうにいつもより大きく笑ってくれる。悲しそうにしてたあとには、一段と大きな笑顔を向けてくれる落ち込んでる指揮官があたいは好き。嫉妬してる指揮官が好き。嫉妬してると唇を噛んだり、唇を握りしめたりしてる。いつもの指揮官をみてると凄く大人って感じがするのに、嫉妬してるときはすっごく子供みたいで可愛いんだよ。この前まで意地悪ばっかりしてごめんね。嫉妬してる指揮官のことが好き」

 

外見を語った後は今度は指揮官の表情、内面の好きなところを語る40。

 

「40……!」

 

40の降らせる好きの雨に、溺れそうになる指揮官の手を彼女は掴む。指を絡ませて握る。まるで、彼女を私室へとつれてきたときの指揮官のように。指揮官が好きな溌剌な笑みを浮かべながら。

 

「あたいが一番好きなのは、あたいのことをいつ消えても、消し去られてもおかしくなかったあたいを繋ぎ止めてくれた指揮官の大きな手と、あたいの居場所を作ってくれた指揮官――あなたそのもの」

 

40は再び指揮官に柔らかな唇を押し付ける。だけで、伝えるだけで収まらなくなった想いを、その全てを共有するかのように。疑似感情モジュールが導きだした答えをその全てを指揮官にもわかってほしくて。

 

40が口付けをやめると、指揮官の胸に倒れ込む。指揮官は誰に言われるでもなく、彼女の細い身体を抱き締めてあげる。彼女のことを受け止めていることを示すために。好きだと言ってくれたこと彼女を、自分へと居場所を求めてくれた、か弱い少女のことを守るために。

 

そっと目を閉じて指揮官の胸に耳を当てる40。彼女の聴覚センサーは一つの雑音を捉え、周波数を解析、それが彼の心音だと言う答えを彼女の頭脳回路へと伝える。ついでに、いつもより鼓動を打つペースも早いと。

 

緊張してるのか、或いは喜びが限界に達しているから鼓動が早いのか。そこまで解析してしまうのは流石に風情がない。それに、解析するまでもなく40にはわかってる。

 

――指揮官が喜んでいるのだと。

 

「しきかーん……あたいね――」

 

自分が傍にいてくれることを喜んでくれる彼に、自分を受け入れて包み込んでくれる彼に、40は抑え込んでいたものを、自分の中にあってずっと出さないように堪え続けた感情をその思いを彼へと解き放つ。

 

UMP40という戦術人形はグリフィン、否人間を裏切る為だけに作られた存在であったこと。そのためとは言え、時代の流れから外れてると言われてる情報戦特化の戦術人形として世に生まれた為に戦闘力は低く、人間達からぞんざいに扱われていたこと。彼女と同じ戦術人形達からも何度も陰口を叩かれたこと。

 

そんな酷い環境の中で、彼女の姉妹機、UMP45と出会い、彼女の『居場所』となってあげていたこと。そして、彼女も運命に囚われることを知って彼女だけは運命の鎖から逃れさせようと奔走、暗躍していたこと。

 

自分の運命を受け入れつつも、45を運命から解放させようと動いてるなかで、彼女は誰かに『認められる』こと、自分が居場所を作るのではなく誰かに『自分のための居場所を作って欲しい』と望む自分に気づいたこと。それが後悔となって、叶わないとわかっていながらずっと自分を蝕んでいたこと。今の自分ではその願いは果たすことが出来ないから――最後の作戦の前に、彼女の運命の時が迫る直前に、周囲のネットワークを探索していたときにたまたま接続した一つに自分のデータを分散させて、彼女が願いを込めて隠したこと。

 

「40……」

 

私室に40と来てから彼女の話し振りに指揮官は引っかりを覚えるものがあった。特に彼女が『自分のことを知っているはずのUMP45とM16A1が冷たかった』と言ったことが、

 

だって、そう言えるということは

 

「君は……記憶が……?」

 

40がペルシカによって消された記憶を取り戻しているとしか思えないから。

 

その問いに40は頷いて肯定する。

 

「あたい、45程落ち着きは無いけど、同じ情報戦特化のモデルだからね。自分に違和感を感じて、自己メンテナンスをしてみたら、記録が消されてた痕が出て来て……」

 

「それで、復元したと?」

 

「うん。復元に凄い時間がかかったし、全部が戻った訳じゃないし……。『最期の最期』は、そもそも記録がないんだけどね……」

 

今の40は、最期の、運命の瞬間を迎える前に自分のデータをネットワークに隠し、それをスナッチャーが収集し、ペルシカが組み直して復活したのだ。欠落があるのは仕方ないことだろう。

 

寧ろ、様々な奇跡によって彼女が再び世に出れたことに指揮官は感謝しているくらいだ。それこそ、UMP40をよく知る筈のUMP45が後ろめたさを覚えるくらいに。過去の40とほとんど変わらないくらいの再現が出来ているのは奇跡としか言いようがない。

 

「スナッチャーを指揮官が回収して、ペルシカが解析してあたいをみつけて……指揮官のピンチにあたいはまた作られて」

 

「覚えているよ。君が居なかったから私たちは……。君の元気な声に驚かされたのは、今だって忘れはしない」

 

「ぶ~、仕方ないって。あたいの指揮をしてくれる人がどんな人かなって楽しみだったんだから」

 

「……でも、あの時は君の元気な声に励まされたよ。ありがとう40」

 

「どういたしましてっ……!」

 

甘えるように指揮官の胸に鼻先を押し付けると40は再び胸のうちを語る。彼の存在を意識するように彼の手を強く握りしめて。

 

着任してから指揮官のおかげで基地に馴染むことはすぐできて感謝していること。自分を叱るのに場所を変える必要があったとは言え、その時に手を握ってくれたのが嬉しかったこと。叱ってくれたことで、指揮官が40のことを意識してくれている、認めてくれているとわかったこと。段々と自分の『居場所』といえるものを求めて焦り始めていたこと。過去には散々仲良くしていた45が自分の姉妹機よそよそしい対応をしてくるのが、無意識な焦りに拍車をかけていたこと。頭の奥底で自分の『居場所』は無いのかもしれないと思っていた中で指揮官に『40の居場所のつもりだ』と言われて救われたこと。初めて自分のために作られた居場所、彼女は嬉しさのあまり転げ回って叫びだしそうになっていたこと。

 

その時から、指揮官の存在を意識し初めたこと。

 

唐突に自分に違和感を覚えて行った自己メンテナンスによって、自身の歪みを発見したこと――

 

「あたい……凄く不安だったんだ……。あたいの真実を指揮官が受け入れてくれるか……」

 

誓約を結ぶ前の時期、40からのアプローチが突如として増えてきたと思っていた。それは40との仲が深くなったから、と言うような単純なものではくて、彼女の心配が表に出てきたということもあったのだろう。

 

彼女の真実は残酷で衝撃的なものだ。どんなに親交を深めても、どれだけわかりあっても、その真実だけで積み上げた全てが音を立てて崩れていってしまうような。

 

だが彼は――

 

「でも、指揮官は今のあたいを信じてくれるって言ってくれたから。あたいを好きだと言ってくれたから。あたいの居場所になるって言ってくれたから――!」

 

「40、なんでその言葉を……?」

 

その言葉を言ったのは指揮官がペルシカに『40と誓約をしたい』と願いに向かったとき。つまり、彼の決意を聞いたのは彼とペルシカのみしかいない。

 

「あたい……ずっと見てたよ。指揮官があたいをどう思うのか不安を覚えた時から……。指揮官の携帯端末を使ったり、監視カメラを使ったり……。ペルシカの所に行ってた時は、ペルシカの部屋の監視カメラ越しに……。ごめんね指揮官」

 

 40はずっと不安が取り除けなかったのだろう。どんなに心を寄せても、どんなに信じていても、取り除けない不安を覚えることは人間でもあること。

 

 彼女は、その不安を取り除くために、誓約寸前の時から指揮官を監視していたのだろう。16LABの強固なセキュリティを突破した40の実力には流石に驚いたが。

 

「……別に、いいさ」

 

 40の抱く不安。それがわからない指揮官では無い。

 

 ただ、娘を嫁に貰おうと相手の両親にこっそり相談していたようなシーンを、本人に見られていたと言うのは流石に気恥ずかしいので、少々目を泳がせてしまったが。

 

 そんな指揮官の羞恥心がわかったのか、40はどこか嬉しそうに楽しそうに鼻を鳴らす。

 

「指揮官があたいと誓約してくれたこと、本当に嬉しかった……」 

 

 そして40は誓約してからの事の真意を語る。

 

 誓約をしてから毎日が幸せだったこと。指揮官と一緒に居るだけでも楽しかったこと。まだまだ知らない指揮官を色んな指揮官をもっと知りたいと思ったこと。

 

 その中で、40は不安を覚えていたこと。

 

 それは、指揮官に対する不安ではなく、自分の居場所が指揮官の隣と言う『自分だけの居場所』が奪われてしまうのではないかと言う恐怖による不安であること。

 

指揮官と40が誓約をしてからも、指揮官のことを諦めなかった戦術人形は数多く存在していた。その人形達も自分には無い魅力を持っていて、それぞれの良さがあることも、たくさんの居場所を作ろうとして付き合いが多かった40にはよくわかっていた。だから、恐怖を抱いていた。自分の居場所が、指揮官の隣と言う40だけに許された居場所が、他の戦術人形に奪われてしまうのではないか、と。再び自分の居場所が無くなってしまうのではないか、と。

 

だから彼女は二つの行動にでた。一つは、指揮官のことをさらによく知ること。指揮官の中にある自分の居場所を盤石にすること。

 

指揮官がグリフィンに来る前の経緯から、来たあとの、40が着任してない間までのことを網羅した。指揮官の趣味嗜好だって40は完璧に覚え、それに対する理解も深めた。指揮官の生活習慣だって刻んでいる。朝起きる時間、食事の傾向、就寝時間、本人に言ったら引かれてしまうようなことも全て。

 

しかし、それだけでは足りない。何故なら、単純に記録し忘れないことは機械の得意な作業。生まれた意義の一つ。つまり、戦術人形なら誰でも出来るのだ。今すぐにでも。

 

だから、40は悩みに悩んだ。戦術人形ですら中々成すことが出来ないものが何か無いのかと。

 

彼女の答えは、決して小難しいものではなかった。指揮官が自分だけに向けてくれる感情を引き出す。ただ、それだけだった。

 

笑顔は誰にでも向ける。40にだけ向けてくれる笑顔はあるが、端から見ても気づかないだろう。

 

悲しい顔も誰にでも向ける。本当に誰にでも向けるわけではないが、彼が限界を迎えるタイミングに40以外が立ち会ったらどうなるだろうか?或いは、40が彼を悲しませる状況を作ってしまったのならどうなるだろうか?誰にでも見せないとは言い切れないだろう。

 

そこで思い立ったのが嫉妬。

 

彼は自分の同僚を羨むことも妬むこともしない。同僚や同期が高い戦果をあげたと聞いたときは手放しで喜ぶほどのお人好し。

 

そんなお人好しの指揮官から嫉妬を引き出せれば、それは誰も知らない自分だけに向ける表情と言えるのではないか?40と言う存在が、彼の中でどれだけ比重が大きいのかという証明する術となるのではないか?

 

そう思い至った彼女は、行動に移した。それこそが、戦術人形と仲を深めたように振る舞いそのことを話し続けた彼女の真意。

 

中々彼が嫉妬してくれないので、戦術人形を大きく巻き込み、45がかつて彼女へと抱いていた依存心まで引き出させることになった。が、彼女達には彼女達の居場所がある。あの45にだって404という確かな居場所が――40は居場所のある彼女達に無意識な妬みを覚えていたのかもしれない。

 

だが、その努力が実を結び彼女の思惑は成功。彼の嫉妬を引き出すことに成功して彼女は背徳的な喜びを覚えた。

 

彼の唇を噛み拳を握りしめて嫉妬する様が、普段は隣に寄り添うようにしてくれる大人らしい彼が、あまりにも子供みたいで何度も見たくなってずっとやってしまったのは、流石にやりすぎたかとは思ったが――

 

もう一つの彼女の行動は、自分の居場所を奪おうとする者達を排除すること。彼女が指揮官のことを密かに監視し続けた理由。

 

先ほど語ったように40には無い魅力を持つ戦術人形が数多くいることは理解しているのだ。彼女にはない冷静な思考を持つ者、自分の魅力を全面的に押し出す者、庇護欲を抱かせる愛らしさを持つ者。全てが全て、彼女とは違った魅力を持つ者。

 

彼女達がそれぞれの個性を指揮官に押し付けて、指揮官が彼女達に惹かれる事態は何よりも避けたかった。

 

だから、40は暗躍していた。誓約をしてからも指揮官に近づく悪い『子猫』を彼女が可愛がっていたのだ。指揮官と40の居場所を乱す躾のなってない『子猫』たちを。

 

あるときは外出する振りをして、あるいは戦闘で損傷を負ったが故に修復施設に送り届ける振りをして。

 

40は必死に自分だけの居場所を守ろうとしていた。

 

「……嫌いになった?」

 

どこか寂しそうに呟く40。彼女としても出過ぎたことをしてしまった、と言う意識があるのかもしれない。

 

恐怖を抱くだろう。彼女へ嫌悪感を覚えるだろう。彼女は自分の居場所を守るために、彼の中で自分の居場所を盤石にするために彼を悲しませるような、彼の不安を煽るようなことをずっと繰り返していた。

 

自分の我儘のために――

 

「そんなわけないだろう」

 

影を落とす40の前髪を持ち上げて、一つは唇を落とす指揮官。

彼は微塵にもそんなことを感じていなかった。それは、40の過去の所業を罪を聞いて受け入れた心の大きさがあるから、という理由だけではない。

 

彼の中を心を満たしていたのは歓喜の感情。まるで渦潮へと飲まれたかのような、40の愛で自分の身体を溶かされてしまったかのような、莫大な喜びの感情。

 

やっと、心の奥底から実感できたのだ、40は指揮官のことを深く深く愛してくれていると。彼女が自分という居場所を求めてやまないことがやっとわかったのだから。

 

ならば、彼が彼女へと抱くことは何もないことは判るだろう。

 

やっと口にしてくれた、40から指揮官への愛。指揮官にはもう、彼女からの愛の言葉が無いこれからは耐えられる気がしない。否、絶対に耐えられない。

 

彼女が何人を傷つけようと、彼女が自分を傷つけようと――関係ない。

だって彼女は、UMP40は、指揮官のことが好きなのは、愛してくれている確信をようやく得れたのだから。

 

嫌うことなんて出来ない。彼女を愛せなくなることは決してない。

 

「ずっと、ずっと不安だったんだ。君が私のことを愛してくれてるか」

 

「うん……」

 

「君の言うように嫉妬したりもした、不安に思ったりもした。私から想いが離れてしまったのかと思ったこともあった。でも、もう、いいんだ。40が私を愛してくれてることをよくわかったのだ――。そんなにも愛を向けてくれてたなんて」

 

「ごめんね……指揮官……」

 

「いいんだ。わかったから、私達は愛し合ってることを――愛してるこれからもずっとUMP40を」

 

彼はもう、彼女の愛情からは逃げられない。

 

「指揮官……!」

 

指揮官から受け入れてくれた喜びに40は震える。頭の天辺から、爪先まで甘い電流が駆け抜けたから。

 

彼女の身体は電流によって即座に暖められ、疑似感情モジュールは熱暴走を起こして、その思いを、彼への愛を更に伝えたいと出力する。

 

「言ったでしょ?指揮官はあたいのものだって……!」

 

彼へと、心の奥底に泥々とした、歪みきった想いを、その全てを受け入れてくれると、40は信じて、確信しているから。

 

「指揮官!」

 

「うん?」

 

「あたいね、運命って言う言葉が嫌いだった。だって、運命はあたいのことを散々苦しめたから。あたいがあたいのために生きることを許してくれなかったから!」

 

「……ああ」

 

「でも……。今はそうは思ってない。あたいが指揮官の元に着任できた、あたいが指揮官と結ばれた、こうして指揮官と愛しあえてるのが奇跡じゃないなら、運命としか言いようがないから!」

 

「……ああ、そうだ。これは運命なのかもしれないな。私と君が愛し合うのは」

 

「だから、指揮官!あたいにもっと運命を信じさせて!あたいに……指揮官の運命を全部を独占させて!」

 

彼女が涙混じり紡いだ告白。指揮官は彼女へと口付けを贈って――

 

「全部、全部、君あげるよ。私のことも、私の運命も、全て――。私は君だけのものになる。だから、君も私のものになって欲しい」

 

「うん!もちろん!あたいの全部は指揮官のものだよ」

 

今度は40が唇を捧げる。自分の全てを指揮官に譲り渡すように、指揮官の全てを自分へと取り込むように。

 

「私に寄り添ってくれ40……」

 

「何処にもいかないでね、しきかん……」

 

40が指揮官の頬を両手で包む。排熱が間に合わなくて熱せられた両手を、喜びによって暗闇の中でも熟れ具合が見てとれる彼の頬に。

 

二人の視線が合わさって、お互いの瞳に満月を望む夜空が完成する。

 

40は星を浮かべた満月の夜空を瞼の裏に閉じこめる。指揮官も自ずと夜色の瞳を閉じて、距離を縮め始めた40のことを待ち受ける。お互いの距離が零となり――二人が一つとなった。

 

「ずっと、一緒だよ」

「これからはずっと、一緒だ」

 

間もなくしてベッドの上にあった二つの影が一つになって躍り狂っていた。窓に映る空の果てが白むまで――

 

 ♦ ♦ ♦

 

 誰かが二人の関係を依存と嘲ることだろう。壊れて歪んだ関係であると嘆く者もいるだろう。

 

 違う、二人の間にあるのは、『二人だけの居場所』を確認できて大きく増幅された―――愛だ。

 

二人は、二人だけの、二人だけのための愛を手に入れた。二人だけの『居場所』という愛を。絡んで捻りあう愛を。

二人は今、二人だけが知る本物の愛を手に入れたのだ―――

 

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 これは40の本心を知った日のこと。

 

 指揮官が40からの愛を確かめあった日のこと。

 

 40と指揮官が心からわかりあった日のこと――

 

 



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『特別ルート』何処にも行かないで 寄り添って Epilogue『UMP40』

※注意
 
 この作品には深層映写のネタバレ及び、オリジナル設定、オリジナルキャラ、中途半端なUMP40のキャラ把握が含まれています。

 この言葉に嫌な予感がした方はブラウザバックをお願いします。

同時に投稿した後編2がございます。さきにそちらをお読みください!


ある日を境に40が戦術人形たちとの交流するのをピタリと止めたという。

 

誓約をしてからずっと指揮官と居るよりも戦術人形達といる時間の方が長いと言われていた交流が、すっかりと収まった。指揮官と一緒にいないことに心配していた戦術人形も居たくらいだ。彼女の頻度の異常さを伺い知ることが出きるだろう。

そこから適度に他の戦術人形と遊ぶようになった――のかと思うかもしれないが、そうではない。本当にぴったりと止まったのだ。ダムが作られて水の流れが塞き止められるようにしっかりと。まるで、過剰に交流していた毎日が嘘であったように。

 

それを指揮官といる時間を優先するようになったと言うものもいれば、自分達の友情は何だと嘆く者もいる。だが、彼女の真意は誰も知らない。それを知るのは40自身とそのパートナーである指揮官だけだ。

 

勿論、付き合いが唐突に無くなったことを悲しむだけの者も勿論いる。

 

「…………」

 

40との因縁から、特に親睦が深かったUMP45は。

 

グリフィンの基地にあるカフェの窓際に頬杖ついて座り込む彼女。向かいの席で頬を押さえてストロベリーパフェを頬張る9を尻目にして、彼女の見つめる先にあるのは、テラス席に座るUMP40と指揮官。

 

隣り合うようにして寄り添い、目と鼻の距離にまで顔を寄せ、楽しそうに会話に花を咲かせる恋人たちの姿。

 

指揮官が45の視線に気がついて、40から目を離してしまう。すると、それに気づいた40が頬を膨らませながら彼の耳を引っ張って、自分の方に向くように実力行使で促す。

 

 防音ガラスごしなので何を言ってるのかわからないが、二人の口の動きとジェスチャーで何を言ってるのか45にはわかる。

 

『あたいのこと、ちゃ~んと見てよ!』

 

『悪い悪い!』

 

指揮官が40の額に唇を落とす。

 

口付けを額に落とされた40は表情を制御する機能が壊れたかのように瞬時に顔を綻ばせる。

 

『しょうがないんだから~』

 

甘いものを味わうようにスプーンを持ったまま頬を支える40。頬を赤らめたまま、お返しとばかりに指揮官の額に口付けをする。

 

すると指揮官も照れ臭そうに頬を掻くと、どちらからともなくマウストゥマウスへと――

 

「はぁー……」

 

その光景をみて45の口からはため息が漏れる。まるで蜜月のようなやりとりを、誓約してから数ヶ月がたってから繰り広げる二人に対して呆れるかのように。そのため息に何処と無く憂いを混ぜ混んで。

 

「どうしたの45姉?」

 

苺を練り込んだクリームを頬っぺたにつけた9が可愛らしく小首を傾げる。そんな愛らしい妹分の様子をチラリと瞳だけを動かして伺うと、また視線をテラスの二人へと戻し指を指す。

 

 45の指の差すものを目で追う9。そこには人目を憚らず愛し合う二人の姿が。

 

 45が憂う理由を理解した9が、『あぁ~……』と納得したように声を零し、苦笑を浮べる。

 

「相変わらず熱々だねぇ……」

 

「全く、少しは人目を気にして欲しいわ」

 

「まぁまぁそう言わずに45姉。40姉、最近ちょっとおかしかったし……」

 

「9にだけは言われたくないと思うわ……」

 

「え~!どういう意味~!?」

 

 クスクスと冗談めかして笑う9。その姿に45は、姉の様に慕っていた40の笑顔を重ねていた。

 

 自分達は髪の色も肌の色も違うが、やっぱり姉妹機という事だろう。45が明るく勤めて発破をかける場面は、9から『あ~!それって40姉譲りだったんだね!』と指摘されてしまった。

 

 45は重なってしまった像を打ち消すためにカフェ特製ブレンドのブラックコーヒーを口に着ける。

 

 口の中に広がる酸味と苦味が味覚センサーを通り過ぎて――その味が40との付き合いが途絶える寸前のことを思い出させる。

 

 40が指揮官にべったりと寄り添う前に彼女から言われた事があった。

 

『いいよね45は……。あたいが居なくても、45の居場所があるんだから』

 

『あたいには指揮官の隣が全て。そこがあたいの居場所……。ううん。それでいい。そこだけが、指揮官の隣だけが『あたいだけの居場所』でいい』

 

 45は『違う!40も私の大切な居場所よ!』と答えようとした。40の優しさに触れて彼女への依存心が甦った45にはそうやって言い返せる筈だった。

 

 だけど、40は、

 

『あたい、45の事がちょっと羨ましかったよ――』

 

 自嘲気味に、寂しそうな彼女の声色に気圧されて、45は何も言えなくなってしまった。

 

 たまたま45より早く製造された彼女。それだけの理由で滅びの運命を迎えた彼女。いや、運命なんて生やさしいものでは無い。彼女が滅ぶのは決まっていた。それはもはや、宿命と言える領域だった。

 

彼女が最後に45に残してくれた言葉達は、45は記憶階層の奥深くに刻み込んでいる。今もそれは45が生き続ける理由の一つとなっている。

 

でも、45は彼女の一面しか知らなかった。お互いがお互いを支えあって生き抜いていたにも関わらず、彼女の『彼女のためだけ』の願いを45は知らなかったのだ。45が最後まで彼女に守られていたことを知らなかったように。

 

彼女はもしかしたら、自分の運命を呪っていたのだろう。

 

誰にも言わず、たった一人で運命を受け入れて、運命の鐘がなる前に45を救いだした彼女。底抜けの明るさを演じてUMP45を導き続けた彼女。

 

ずっと自由に生きたかったに違いない。45に生き方を諭してくれた時のように。

 

そんな彼女が自由を得て、自分は自由を奪われるとは、何という運命の悪戯だろうか。運命の女神というものがいるなら、その容姿はきっと肌は焼け爛れ、身体中の穴という穴から蛆が湧き、鼻を摘まんでも嗅ぎとれてしまうような激臭を発する醜い怪物なのだろう。

 

 40から最後に言われた言葉をずっと噛みしめて、やっと理解できた。45の周りには彼女を支えてくれる仲間が居た。妹分のUMP9を始めとする、HK416にG11と言った、彼女が心から信頼しあっている仲間たちが。

 

 40からの唐突な拒絶に近い言葉に取り乱し、更に40が指揮官の部屋で暮らすと言ってパニックに陥った時期はあの三人支えられて、今では40の幸せな姿を眺めれる位に平静となっている。

 

 それこそが40が言っていた『居場所がある』という事だろう。世界から拒絶されたと自嘲しても、45には45の『居場所』を確かに与えてくれる存在が居たのだ。彼女の存在を許してくれる存在達が居たのだ。

 

 そういう45の事を40は羨んでいたのだろう。

 

 UMP40と言う存在は、運命にすら拒絶され、滅ぶことを余儀なくされていた。ずっとずっと、生きることを、自分が存在していいのだと誰かに認めて欲しかったのだろう。

 

 そして、彼女の望みは叶った。二度目の生によって。

 

 指揮官に自分と言う存在を認められ、自分は彼の傍に居ていいと留まることを許された。

 

 自分のために『居場所』を作って貰うことを、与えて貰うことを、ずっと彼女は望み、それが叶った。

 

 その願いが叶った結果が、テラスで寄り添うあの二人。二人だけの世界にずっと入ったままの二人。

 

「はぁ……」

 

 コーヒーを喉に押し込んで45は一つ息を吐く。それは、テラス席で太陽のような熱々な甘ったるい雰囲気を流す二人に対する呆れ、では無くて、喪失感から。

 

 40が指揮官と誓約したばかりの頃に45と9へ言っていた。

 

『あたい達UMPって居場所を作られることに弱いよね』

 

 と。9は家族と言う居場所を作られることに弱そうだし、45も404が作ってくれた居場所、それと誰にも言ってなかったが指揮官と言う居場所が好きだった。

 

 どうしてそう言ったのだろうかと思ったが、何てことは無い。彼女は今生で初めて『居場所』を作ってくれる喜びを理解したのだろう。或いは、妹分のことをよく理解して言ったのか。いや、両方だろう。

 

 そうやって、皆で指揮官と言う居場所を共有できるかと思っていた。しかし、今まで『自分のために作られた居場所』を与えられなかった40の執着は鮮烈で、彼女の『居場所』を盤石にするために、40への依存心を甦らせて、40と45の『運命の日』の様に、彼女にいいように利用される形になってしまったが。それこそ、今まで無意識に『居場所』として慕っていた指揮官へ『40が奪われる』という恐怖から湧き出た小さな敵愾心を抱く位の依存心を。

 

 流石は45の姉貴分と言った所だろう。彼女の目論見には、また気づけなかった。

 

 40の目論見に気付いていれば、40の思いに気づいて居れば45は居場所を守れたのだろうか。40と指揮官と言うかけがえの無い居場所を。

 

「ねぇ、9」

 

「うん?なぁに?」

 

「私の居場所ってちゃんとあるかな……?」

 

 見えない壁に阻まれて、遠くの、それこそ二人だけの世界に行ってしまった二人のことを見やりながら、捨てられた仔猫の様に心細そうに呟く45。

 

「あるよ。45姉の居場所、今は沢山あるよ!私にだってあるしね!」

 

「そう……ありがとう9」

 

 無邪気な妹の笑顔は姉に向ける。彼女の姉貴分であった存在が自分に向けてくれたそれのように。

 

 大切な居場所を二つ失った痛みを誤魔化して、45はかつて40が彼女を元気づける為に浮かべてた笑顔と似たそれを、自分の妹へと贈った。

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 散々語り合い、散々食べさせあい、散々口づけをし終わった指揮官とUMP40はカフェスペースを後にしていた。

 

 腕を組み合い、指を絡ませて、お互いが離れないように固く硬く繋ぎ合って。

 

 二人の間に赤い糸が繋がっているようだと、可愛らしい表現をする者もいるかもしれない。

 

 だが、二人の糸の本質は、糸なんていう可愛らしいものでは無い。鎖、二度と二人が離れることを許さない、二人の事を縛り付ける鎖であり手錠。二人の組みあっている腕が鎖で繋がる手が錠前。そんな皮肉すら言われてしまいそうな位に二人はお互いの手を離すまいとしている。

 

 手錠の鍵となっているのは、40の左手薬指に嵌められた指輪。二人の愛の証であり、二人が共にある証拠品。これから永遠に寄り添いあい、二度と離れることを許さないと言う約束。

 

 しかし、二人がこの錠を外そうとすることは無い。寧ろ、二人は望んで着けられにいく事だろう。

 

 何故なら、二人は愛し合っているから。心の奥底からお互いを求めてやまないのだから。

 

 40が指揮官の肩に顔を寄せる。甘えるように、指揮官が隣に居ることを確かめるように。

 

「指揮官……」

 

「うん?」

 

「これでずっと一緒だね!運命のその先まで――!」

 

 指揮官が心の奥底から湧き出る喜びに震えながらも笑顔を浮かべて肯定する。自分達はもう二度と離れることは無いのだと、そう言うかのように。

 

 彼の肯定に、40は溌剌な笑みを浮かべて彼に口づける。

 

 真昼の太陽が二つの影が重なった瞬間を見守る。太陽の輝きを受けた二人を結びつける指輪(錠前)が二人が離れることは無いと証明するかのように、白銀の輝きを放っていた。

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 これから先にあるのは40との永遠。

 

 指揮官が40の絡み合い決して別つことのない永遠。

 

 40と指揮官の愛が織りなす永遠の物語――




この作品から投稿されてから半日後位に、活動報告にて後書きが投稿される予定です。

 その……、私としても挑戦的な作品で不安な点が多いので、ご感想を頂けると幸いです……。


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昼の基地にて(日常回) 赤いコートのスオミ

コメディ回?
特別なキャラ回では無く日常回と言える物は、昼の基地にてとしてまとめる事にしました


 いらっしゃいませー!あら、あなたがショップに来るのは珍しいですね?本日は何をお求めですか?

 

 なるほど、銃のメンテナンス用の道具がすり減ったと……でしたら、こちらの道具とかいかがでしょう?最新のモノなので―――

 

 お買い上げありがとうございます!

 

 うん?どうしました?浮かない顔をしてますよ?

 

 自分の最適化も戦果も十分な筈なのに、第一部隊に配属されないのは何故か?それに、何で第一部隊の隊長はDPSの低いスオミちゃんなのか、納得がいかない。ですか?

 

 うーん……。私から見ても最適化されたあなたはある程度の作戦だと満足な仕事は出来ると思います。ですが、あなたはまだ配属されたばかりですし、作戦の経験も危険度がそれなりの戦地に送り出されてただけで、豊富と言えるわけではありません。

 

 だから、指揮官様はもっと経験を積んで欲しいって思ってるんですよ。無理に危険な作戦に駆り出すのでは無く、今のあなたにとってギリギリ突破できる作戦を任せてるのだと思います。もっと経験を積めば第一部隊に配属されなくても、第四部隊には配属されると思いますよ。

 

 ……それと、第一部隊はあなたが思っているほど簡単に入れる部隊ではありません。

 

 第一部隊は、指揮官様の期待に必ず応える部隊です。それこそ、最後の一人になってでも。指揮官様はそんな事になる前に撤退させていますけどね。

 

 でも、メンバーをみれば何となくわかるでしょ?スオミちゃんに、ST AR-15、HK416、SV-98、MP5ちゃん。あの子達は、指揮官様のためなら喜んで壊れるまで戦うでしょうね……。

 

 第一部隊は指揮官様の期待に必ず応えようとする部隊。つまり、この基地において最強の部隊なんです。あの部隊が戦場にいること、それ自体が全体の指揮に関わるんです。確かに指揮官様はいつ、だれが戦場に出てもいい様に最適化の配分を均等にしてますが、それでもあの部隊がいる事、それ自体が特別なんですよ。

 

 あの部隊に至るまでの信頼をあなたはまだまだ勝ち得ていません。実力もまだまだ及んでません。今のあなたは、第一部隊どころか、第二部隊、第三部隊にも入隊出来ないでしょう。最強の第一部隊、最良の第二部隊、最高の第三部隊。それぞれの壁はまだまだ高いですよ。

 

 それと、スオミちゃんが隊長なのが気になると言いましたよね?

 

 スオミちゃんはこの基地に指揮官様がやって来た時に初めて建造された超高性能機なんです。

 

 古参だから優遇されてるだけ?

 

 違います違います。確かに超高性能機が少なかった昔では今よりもスオミちゃんはとても重宝されてました。それこそ、他の戦術人形からも顰蹙を買うくらいに。

 

 ですけど、スオミちゃんは優遇される立場に甘えることなくずっと努力し続けていたんです。戦場では誰よりも前に立って耐久力を活かして盾役になって、それでいて皆に指示を送って、基地に帰っても自主的に訓練に勤しんで……。

 

 そうやってずっと頑張り続けて、皆にも、そして指揮官様からも超高性能機ではなく改めて『スオミ』と言う自分を認めさせたんですよ。見ての通り、スオミちゃんは努力家ですから。

 

 スオミちゃんのDPSは確かに低いです。それは仕方がありません。SMGはその性質上、火力は余りありません。敵機破壊のスコアで見れば、スオミちゃんは確かに高くありません。ですが、それとは別に貢献度と言うのもありまして……。誰がチームの勝利に一番貢献したかと言う、殲滅のスコアとは別のモノです。

 

 それでみると、スオミちゃんは前線を押し上げて味方のポジションの確保や、さっきも言った通り耐久力を活かしての盾役を積極的に行ってるので、そっちのスコアがとても高いんです。

 

 隊長としての判断能力も高いですから、そこも評価点の一つですね。

 

 最後に、確かにDPSは低いし、普段は温厚なので想像できないかも知れないですが、スオミちゃん結構怖いし強いんですよ?

 

 指揮官からの指名を果たすために敵機が行動不能になっても確実に起き上がることの無いようにコアの破壊を徹底させてたり、作戦に失敗したら連帯責任として第一部隊の皆で延々と演習と訓練を組んだり、特に昔のスオミちゃんは鉄血指揮官機の破壊を特に念入りにやってたのでSOPⅡちゃんが、「もういいじゃない?」と止めに入ったららしいですよ。

 

 何より一番恐ろしいのは、スオミちゃんの軌道予測の精度ですね。あの子は弾道の軌道欲の精度が高いので全然被弾しないんですよ。

 

 それでスオミちゃんに密かにつけられてる二つ名があるんですけど知ってますか?

 

 通称、『赤いコートのスオミ』。

 

 その異名の通り、スオミちゃんの真っ白なコートが敵の返り血で真っ赤に染まるんです。自分の人工血液で汚れることなく、敵からの返り血で。

 

 敵からの攻撃を受けても一歩も引かない勇敢さを持つスオミちゃんらしくはあるんですけど、真っ赤に染まったコートで帰って来てときは、指揮官様がスオミが致命傷を負ったと騒いでましたね……。私もその時に居合わせてたんですけど、私も同じ位びっくりしましたよ。それでいて、スオミちゃんはなんで騒ぐのかわからないと首を捻ってたのが何というか……。

 

 スオミちゃんが強いと言いましたけど、想像できないと思いますよね?

 

 簡単にその強さをご説明しましょう。STAR-15とHK416が戦果の取り分でもめたことがあるんです。戦果を多くとる程、指揮官様も自然と労ってくれますから。スオミちゃんは喧嘩を止めるためにやむなく二人を機能停止寸前まで追い込んで修復施設に放り込んだらしいですよ。それも、スオミちゃんは殆ど無傷の状態で。この基地切っての武闘派で普段は反目しあうようなライバル関係の二人を同時に相手取って無傷だったんです。

 

 あっ、ちょっと震えましたね。わかります。私もそれを聞いて背筋が凍りつきましたし、指揮官様も顔が白くなってましたから。その報告をした時のスオミちゃんが余りにも爽やかな笑顔を浮かべてたのが頭の中に焼き付いてます……。それ以来、あの二人はスオミちゃんの前で喧嘩をしたことは決してありませんね。最重要事項として記憶回路に刻み込んだんでしょう……。

 

 わかったでしょ?第一部隊と言う壁の高さが。

 

 ええ、もっと最適化を進めて目指せ第一部隊です!

 

 あっ、ちょうどスオミちゃんが通り過ぎました。指揮官様を連れてます。カフェテリアにでも行くんですかね。……いいなぁ。

 

 普段はあんなに可愛らしいのに、戦闘と規律を乱される事には厳しいとは誰も思いませんよね。

 

 壁は高い方がいい?

 

 ふふっ、その方が燃え上がると言うものですよね。

 

 これから訓練をしてくる?

 

 ええ、あなたなら出来ますよ。お買い上げ、ありがとうございました!またのご利用をお待ちしております!




そう言えば、深夜の寝室にて(https://syosetu.org/novel/182548/)
を書いてみました。はい、エ□な奴です。読める年齢の方は良かったらどうぞ。


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おんぶと眠らぬ眠り姫

 G11は指揮官に淡い想いを抱いていた。それは彼の優しさにずっと触れていたことで。彼女の怠惰な性格と思考回路は決して万人受けするモノでない。それなのに、彼女の性質に付き合う形で接してくれたことで、いつの間にG11も深く心を開いていてしまい、知らぬ間に好意を持ち、その想いをつい最近自覚したのだ。

 

 今はもう、任務が終わり彼が椅子とタオルケットで作った即席のベッドに寝かしつけて貰うだけでは足りなくなってしまった。今の彼女は、自分が寝てても指揮官が傍に居て欲しいと思ってしまうから。

 

 だが、指揮官は戦術人形とは違い、彼女達が請け負った任務をまとめて報告書を作ったり、資源の管理を行ったり、或いは次の任務をまとめたりと、任務を請け負い遂行する戦術人形とは格段に違う忙しさがある。

 

 指揮官の専門は戦術人形の指揮。だが、人員不足のグリフィンではそれ以上の業務を指揮官も請け負わなくてはならない。本来はショップの運営が専門としている後方幕僚のカリーナが書類の作成や指揮官の補佐を務めている様に。

 

 G11のために時間を使って欲しいと言えば、指揮官は恐らく使ってくれるだろう。彼は自分よりも人のことを優先するところがあるから。

 

 だから、言えない。自分のために時間を割いて欲しいと言う我が儘。

 

 けれども、G11の中で気持ちは募るばかり。寝ても傍に居て欲しいと言う思いや、最近は戦況が激化して何日も基地に帰れなくて寂しかったと言う思いや――自分のことをもっと見て欲しいと言う思い。

 

 そこでG11は考えた。自分の想いと眠気を優先しつつ、指揮官に迷惑をかけず、構って貰える方法を。何度も眠気に負け、夢の世界へと落ちてを繰り返したG11がたどり着いた結論とは――

 

「よし」

 

「いや、なにがよしなんだ!?」

 

 G11は指揮官の背中におぶられる様に抱き付いたのだ。

 

「おやすみ~」

 

 こうすれば、指揮官の行動を大きく阻害することなく仕事は優先的に出来るし、自分は指揮官の傍で彼の体温を感じながら眠りにつくことが出来る。まさに一石二鳥。だれも傷つく事が無い平和な世界。

 

「ちょ、寝るならベッドで……」

 

 いつものように寝るならベッドで寝て欲しいと促すが、思い浮んだ名案を実行するG11にとってはどこ吹く風。小動物のように口許を緩めて、大きくて暖房器具のように暖かい彼の背中に頬を寄せる。

 

 指揮官はベッドに移動するのが面倒なだけなのかと推測し、G11をおぶっていつものように作った簡易ベッドに腰を下ろして行動でベッドで寝るように促す。しかし、G11の身体はベッドの重力に引かれる事は無く、依然として指揮官の背中と言う引力に引っ張られたままである。

 

「すー……すー……」

 

 背中にG11の鼻息を感じつつ、申し訳なさを覚えながら背をのけぞらせる形で振り落とそうと試みるが、G11は脚を彼の腹に回して引っ付くことで徹底抗戦の構え。今のG11は指揮官の背中に絶対に張り付いてやると、自分と言う存在をアピールしつつ寝てやると言う意志の塊なのだ。

 

「ぬぬぬ……!!!」

 

「んんんん……!!!!」

 

 左右に身体を振ったり、軽く飛び跳ねたりしようとしたり、何とかして背中に引っ付くG11を下ろそうと試みるが、彼女の引っ付く力は強く自分がベッドの重量に負けそうであった。

 

 指揮官は無理矢理下ろすのはやめて、改めてお願いしてみる事にした。

 

「G11……」

 

「なーにー?」

 

「降りてくれないか?ぶっちゃけ重――」

 

 小柄なG11とは言え、彼女もれっきとした戦術人形。その総重量は小柄な子供以上は優にある。G11を簡易ベッドに運ぶときに短時間だけ彼女の身体を持ち上げれてはいるが、それはG11が指揮官の腕に大きな負担がかからないようにウェイトコントロールをしているからで、今は完全にその負担が全て指揮官が負う事になっている。だから、つい言葉として出そうになったのだ。女の子に対しての禁句である、重いと言う言葉を。

 

 そして、その禁句は全て発せられる前に高性能なG11の集音センサには届き、どんな単語となるのかの予測も全て終わっていた。確かに髪は自由に跳ねまくり、服の着方もだらしないままだが、今のG11は恋する乙女でもある。気になる存在からその言葉を言われるのだけは耐えられない。だから、G11はその言葉を封じるための奇策に出た。

 

「うるさいよ」

 

 G11は指揮官の耳を口に含んだ。

 

「ひゃっ!?」

 

 男があげるとは思えない甲高い声。耳を生温い唾液と柔らかな舌が這いまわる感覚、そして時たま軽く歯を立てて耳に後をつけようとする感覚。

 

 普通に生きていく上では先ず実感することの無い未知の感覚が指揮官の耳に襲い掛かる。

 

「いっ、G11、やめ、ひぃ……!」

 

「ひゃら……」

 

 喋る時に吐き出される吐息がくすぐったい様で、息が耳にあたる度に指揮官の背筋がブルブルと震えるのがG11の身体全体に伝わってよくわかる。

 

 指揮官の耳を舐める度、息を直接当てる度に今まで聞いた事無い声と、普段は絶対に見せることの無い乱れた姿に、G11の中の何かが満たされる。

 

 ――あたししかしらない指揮官……

 

 HK416もUMP二人も他の皆だって知らない指揮官の姿。指揮官の耳をコントローラ代わりにして、自分の想い通りに操っているような感覚。自分だけが知る指揮官がもっと知りたくて、

 

「はむ……」

 

「いいっ!?」

 

 指揮官の耳に再び唇で挟んだところで、突如として司令室の扉が開いた。

 

「むぅ……」

 

 無理矢理起こされた時のように顔をしかめるG11。入室してきたのはHK416。彼女の相棒とも腐れ縁とも言える戦術人形。

 

「指揮官、作戦の報告書を――」

 

 二人が組みあってる間に、第一部隊の任務が終わったのだろう。416はその報告書を持って来たに違いない。いつもだったら、416が報告書を持ってきたついでに簡易ベッドで寝てるG11を連れ帰るのだが、今の状況は平時のそれとは明らかに違う。

 

 指揮官におぶられたG11が指揮官の耳を口に含んで、416を睨んでいるのだ。まるで、自分の縄張りに入るなと警告する猫のように。

 

 416はそんな表情を浮かべるG11に驚愕を覚える前に、憤りを覚えた。何故なら、416は指揮官におんぶをされた事も、ましてや、指揮官の耳を味わった事もありはしない。

 

 ――なんで、G11だけ

 

 彼女が覚えたのはそんな理不尽にも似た嫉妬。

 

「ち、違うんだこれは!」

 

 まるで浮気現場を抑えられた夫のような台詞を口にする指揮官。指揮官はそもそも誓約も何もしてないので、そもそも浮気では無い。敢えて言うとしたら、全員にどう返事をすべきか迷っていて答えが出せていないと言う事だろうか。

 

 416は持っていた書類を自然と手放すと、指揮官の背中に引っ付いて416を睨みつけるG11の腰を掴み引っ張る。

 

「離れなさい!そこは私の特等席よ!!」

 

「いーやー!」

 

 416が全力で指揮官の背中から引っぺがそうと引っ張る。G11も対抗して、自分の身体を全力で指揮官に巻き付けて抵抗する。

 

「オゴゴゴゴ……!!」

 

 が、その負担を全て押し付けられている指揮官にはたまったものでは無い。そもそも416はそんなことをしてこなかっただろうと反論する事も許されず、首と腹が圧迫され、息苦しさを覚えて大きく、だが小刻みに息を吸う。

 

「ぬぐぐぐぐ!!」

 

「うぎぎぎぎ!!!」

 

「ううううう……!」

 

 呼吸困難になって顔が真っ赤になっていく指揮官を無視して二人は引っ張り引っ張られと言う応酬を繰り返していたが、やがて416は諦めたのかG11の腰を掴んだ手を離した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 呼吸が自由になった指揮官は、全力で酸素の循環を行う。こんなに息が出来なくて苦しく思ったのは、指揮官候補生であったときに受けた水練以来だと。

 

 G11は引っぺがすことを諦めた416に自慢げな表情を浮かべる。416は一瞬だけG11に鋭い視線を向けて最後の抵抗をすると、指揮官の正面に回って、正面から彼を抱きしめた。

 

「お、おい?!」

 

 想定して無かった416の選択に指揮官は息も絶え絶えに困惑の声をあげる。が、416はその声を無視して指揮官の鎖骨に顔を寄せるようにして抱きしめる。

 

「なんで、こうなった……」

 

「私は完璧よ」

 

「困ったらそれで押し通そうとするの、止めない?」

 

「むぅ……!」

 

 G11は自分も居るのにと言うように眉根を吊り上げると、再び指揮官の耳を口に含む。

 

「ひぃあ!?」

 

 突如甲高い声をあげた指揮官に驚き416が顔を上げると、そこには指揮官の耳を口に含んで勝ち誇った様な表情を浮かべるG11が。

 

「あんただけばっかりはさせない!!」

 

 対抗心に火がついた416は抱擁をとき、指揮官の肩に手を置いて空いてる指揮官のもう片方の耳を口に含む。

 

「ふぁ!?」

 

 416の目線がG11と並ぶ。お互いの視線が交わり指揮官の顔周りで火花が散る。G11は指揮官に密着しながら寝ると言う目的を忘れ、指揮官から未知の音を出させようと必死になっていた。

 

「んにゅ!」

 

「おぉ?!」

 

「むぅ!」

 

「ふぉお!?」

 

 二人による、指揮官と言う楽器のチューニング合戦は、次の作戦内容を聞きに来たスオミに怒られるまで続いたのであった。

 

 

 

 

 

 翌日

 

「はい、指揮官」

 

「今日の作戦も終わったよ~」

 

 司令室でUMP45、UMP9から作戦の報告書を受け取る指揮官。

 

「ありがとう、次も頼むな」

 

 笑顔と労いの言葉をかけた指揮官は、二人が妙に上機嫌にニコニコと笑顔であることに気が付く。

 

「何かいいことがったのか?」

 

 素朴な疑問を口にする指揮官。その一言が、余計な言葉である事に気づいて無い。いや、気づいてたとしても、彼の命運が変る事が無いだろう。

 

「しきかーん」

 

「これ、なーんだ?」

 

 UMP9が携帯端末を取り出して指揮官に見せた瞬間。彼の表情が固まった。画面に映ったのは、つい昨日の映像。G11と416が背後と正面から抱き付いて指揮官の耳を舐め合っている衝撃映像。

 

 二人は情報戦に特化したモデル。恐らく司令室にある監視カメラの映像を盗み見ていたのだろう。

 

「しきかーん。この映像をね」

 

「みんなにバラ撒かれたく無かったら、わかるよね?」

 

 二人は指揮官のことを逃がさないように互いにカバーし合える距離を保ちつつ指揮官ににじり寄る。

 

 指揮官は気づいた。二人の表情こそ笑っているが、微かに開かれている瞼から覗く瞳は光を失っていて全く笑っていないことに。

 

「う、嘘だろ……?」

 

 指揮官の苦悩はまだまだ終わりそうにない。



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『昼の基地にて』UMP9丑の刻参り(?)するってよ

 

 ギャグです。

 UMP9が逆レした後のIFルート的なお話。

 その……色々とお許しください……。

※最新の話がわかりづらいので、試験的に最新話の章を導入してみました。投稿から3日が経過したら適切な章に入れ直すと言う試みです。よかったら最新話と言う章に関してのご意見をください。不評であれば廃止します。


 草木も生物たちの大半が眠り、月と星々が地表を照らす夜の1時過ぎ。

 

 グリフィンの基地の一つを任された指揮官も眠りにつき、明日への活力を養おうとしているその時間。昔の戦争で亡くなった東の島国では、夜の1時から3時までの時間の事を丑の刻と呼んでいたらしい。

 

 その今は亡き東の島国では丑の刻に行われていた儀式があるとの事。その名を『丑の刻参り』。神社と言う神を祀った施設に植えてある御神木に憎い相手に見立てた藁で作った人形に釘を打ち込んで相手を呪う呪術である。

 

 かつての東の島国では恨みや憎しみ抱いた人達が『丑の刻参り』をしまくるので、御神木は藁人形だらけであったとの記録が206×年の現在の記録に残っている。

 

 だが、その儀式が正しい形で今も残っているとは限らない。そう、『丑の刻参り』も時代に合わせて変化しているのだ。

 

「お邪魔しま~す」

 

 電子ロックを突破し、指揮官の私室へと侵入を果たしたのはUMP9。自分だけに聞こえるような声量でそう呟くと、大きな音が出ないように後ろ手でドアを占める。

 

 UMP45程の電子戦能力は無いモノの、部屋に仕掛けられたセキュリティを解除する位はお茶の子さいさいといった所だ。

 

 抜き足、差し足で音を殺しながらリビングを周って寝室へと向かうと、寝苦しかったのか自分に掛けられた布団を幾らか肌蹴た仰向けの状態で眠る指揮官が。

 

「にひっ♪」

 

 眠りに着く指揮官のもとに、天に瞬く星々のような笑顔を浮かべながら接近する9。

 

 規則的に鼻で呼吸をし、あどけない寝顔でぐっすりと眠る指揮官。普段は絶対に拝むことが出来ない彼の寝顔に9は胸の高鳴りを覚えながら、彼の耳元で内緒話をするように手を当て、そして――

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 と、何度も何度も、経典や魔術書に書かれた呪文を音読するかのように指揮官の耳元で囁き続きた。

 

「う、うーん……」

 

 眠る指揮官も何度も繰り返す『指揮官と9は家族』言葉には不安感を覚えたようでうめき声を漏らして表情を歪める。続けて9からの音波攻撃から逃れようと向きを変えて横向きになってしまう。

 

「あっ、酷いよ指揮官!」

 

 連呼から逃れようとした指揮官のことを思わず大きな声で非難する9。彼の耳元でしていた囁き声の清涼では無く、普段の天真爛漫な9らしい大きな声が出てしまった。そのことに気付いた9が自分の口を押さえて即座に音を殺す。口を封じながら指揮官のことを瞳だけを動かして伺う。指揮官の眠りは深かったようで、起きる気配は無い。

 

 9はホッと一つ息を吐き出して、再び指揮官の耳元に手を当てて先程の呪文を囁く。

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 9の行動を見て何となく察した人も出てきたと思う。206×年に伝わった『丑の刻参り』とは、丑の刻と呼ばれる時間に、自分の願望を対象の耳元で延々と言うことで、自分にとって都合のいいことを対象に刷り込む呪術として伝わっているのだ。

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

「うーん…ううーん……」

 

 9お手製の超音波から逃れようと指揮官は再び寝相を変える。横向きだったのが再び仰向けになる形で。枕に対して垂直になる形でおまじないを唱えていたので、指揮官と9の顔がほんの数センチで鼻先がぶつかるくらいに近くなる。そのことを意識してしまった9の頬が暗闇の中でもわかる位にぽっと色づき、そのまま指揮官を(性的に)襲ったあの日のように唇を奪いたい衝動に襲われたが、ここはなんとか堪えて、再び指揮官の耳元に手を当ててお呪いを唱える作業を再開。

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 なんで9がこんなお呪いを頼っているのかと言うと、それには立派な理由がある。その立派な理由とは『指揮官が家族』になってくれないから、である。

 

 ある時の飲みで、指揮官に『自分達は家族(指揮官と9のみ対象)か?』と聞いたら『家族だ』と答えてくれ、『家族(指揮官と9のみ対象)が好きか?』と聞いたら、『好きだ』と返してくれた。アルコールが入っていたとはいえ、決して聞き間違えでは無い。9の音声ログにもキチンと残っている。それに指揮官と9は(一方的な)想いで結ばれて、(一方的に)肉体の関係も営んだ仲である。これはもう家族と言っても間違いないだろう。

 

 それなのに指揮官は『いやその……こんなに私と9で意識の差があるとは思わなかった…!』とはぐらかすし、指揮官の私室で待機してても追い出されてしまうし、家族になるための書類を仕事の書類に混ぜたら翌日は資源再生ゴミに出されているしで踏んだり蹴ったりなのだ。

 

 (指揮官と9は)家族だと一度は認めたのに、また素知らぬ振りをして元の関係に戻ろうとする指揮官に痺れを切らし、9は決意したのだ。どんな方法であっても指揮官と家族になるのだと。

 

 そのために9はあらゆる方法を調べた。まず最初に既成事実。これは確かに使えるが、彼と既成事実を作っている戦術人形は多数いる。これを材料に使ったら、9を皮切りに他の戦術人形も仕掛けてくる可能性が高いため廃案。

 

 次に考え付いたのは、婚姻届けや遺族を模した人形の所有に関する届け出だ。この二つに関しては、9が自分の経歴などを何とかして偽造し、指揮官のサインさえ貰えれば文句なしに家族となる事が可能だが、先程言った通り仕事の書類に紛れ込ませてみたら、翌日には資源再生ゴミとして出されていたので失敗。

 

 懇願してみても迫ってもダメ、既成事実も無理、書類も失敗。そうなった9には何が残されていたのかと言うと、古来から伝わるお呪いである。

 

 9は指揮官と家族になるためなら手段を選ぶつもりは無かったので、思いつく限りのお呪いを試してみた。料理に9の念を注いだ人口血液を仕込んでみたり、敷地内の花を壊滅させる勢いで花占いをやってみたり、指揮官の持つ端末の壁紙を指揮官と9の映る写真に変えてみたり、指揮官の姿を思い浮かべて呪文を唱えてみたり、とやれる限りを尽くしてみたが全滅。

 

 諦めかけた所で、指揮官の祖先が居たとされる東の島国の独特なお呪いのことを思い出し、それを調べ上げ実践することにしてみたのだ。

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

「うぅ……うーん……」

 

 その結果がこの丑の刻参り。眠る相手の耳元で自分の願望を丑の刻の間に何度も何度も言い聞かせることで、深層心理に刷り込ませ自分の願いを成就させる、というお呪いだと出てきた。

 

 これは一ヶ月位は毎日欠かさずやらないといけないお呪いらしいが、お呪いの成功者は『合コンで狙っていた男をおとせた』、『ケチな顧客がよくお金をおとしてくれる上客になってくれた』、『モルモ――被検体となってくれた』、『私は完璧よ』等の感想を残していることからそれなりに高い効果を発揮していることがわかる。

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 寝相を変えて9のお呪いから逃れようとする指揮官に合わせて、9もお呪いを言い聞かせてあげる。確かに、このお呪いは難易度が高いモノだ。なんせ二時間近くも間、指揮官の耳元で願望を言い聞かせないといけないのだから。

 

 しかし、一ヶ月頑張るだけで、指揮官と永遠に家族になることが出来るのかも知れないのだ。そう考えると、たったの一ヶ月、それも二時間の言い聞かせなどとるに足らない物だ。都合がいいことに9は戦術人形だ。繰り返しの作業ならまさに適任だ。

 

「うぅぅ……」

 

 まるでうなされているかのような指揮官の様子に9はほくそ笑む。少しお呪いが効いているのかもしれないと思うと、嬉しくもなるだろう。

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 ――家族になろうね指揮官♪

 

 9はいつものような朗らかな笑みを浮べながら、お呪いを唱え続けた。

 

 

 

 その日から9は夜な夜な指揮官の部屋に通い詰めてはお呪いを唱えた。

 

「指揮官と9は家族」

 

 晴れの日も曇りの日も雨の日も、

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 毎日毎日通い詰めては自分の悲願を果たすために、

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 彼の深層心理に自分の願望を刷り込ませるために、

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 お呪いを実行し続けた。

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 お呪いの効果を図るために何度か指揮官の家族構成を聞いてみたりした。

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 最初の内は、指揮官は自分の家族構成は祖父と両親だけだと言い切っていたのだが、

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 半月を経過した位から聞かれる度に顎に手を置いて、

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 本当にそれだけであったか?と言うように考える仕種を取るようになって

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 9は確かな効果を実感した。

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 お呪いも参照した文献のアドバイスに従って、

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 単純に願望を言い聞かせるのではなく、

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 ある程度の効果を実感した段階で嘘のエピソードも盛り込んでみることにした。

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 例えば、昔からの仲であるとか、

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 例えば、笑顔が素敵であると言ったとか、

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 例えば、頑張り屋やなところがいいと褒めてくれたとか、

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 あたかも昔から親密な仲であるようなエピソードも語ってみることで、

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 指揮官の深層意識に9の願望がより自然に馴染むように仕向けたのだ。

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 そして、9のお呪いが一ヶ月続き、

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 達成することが出来た翌日に、

 

「指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族指揮官と9は家族」

 

 指揮官から全ての人形は多目的ルームに集まるようにとの通達が出された。

 

 

 

 多目的ルームには一糸乱れず整列する戦術人形達が指揮官の言葉を待っていた。

 

 重大な作戦の発表かと、緊張感が漂う中で、ニコニコと笑みを絶やさない9。その笑顔の理由は、彼女だけは何故指揮官が多目的ルームに戦術人形を集めたのかを理解しているからだ。

 

「皆に聞いて欲しいことがある。私には戦術人形の家族がいたんだ!!」

 

 指揮官からの衝撃の告白に、ざわざわと騒ぎ立てる戦術人形達。そんな中でも、9だけが笑みを浮かべている。

 

「なんでずっと忘れていたかはわからない。でも、確かにこの基地にいる戦術人形の中に、私の家族が居る!!」

 

 45がまさかと言わんばかりに、隣にいる9の表情を伺うと、9は相変わらず笑みを絶やさないでいる。

 

「そう。昔からの仲で――」

 

 だって、笑わずには居られないだろう。

 

「笑顔が素敵で――」

 

 自分の悲願が今ここで果たされるのだから、

 

「頑張り屋な――」

 

 ようやく願いに願った、指揮官と家族になると言う願いが。

 

「その戦術人形は――」

 

 指揮官がツカツカと足音を立てて戦術人形達の列の中を歩む。

 

 なにをしたのだ、と視線だけで問い詰める姉に、9は沈みゆく上限の月のように口許を歪めて、笑みを作る。

 

 それは、勝利宣言の笑み。姉に対してだけでなく、ここにいる人形全てに対してだ。

 

 指揮官の足音が近くなる。後は彼からの指名を受けるだけ。

 

 妖しい笑みを浮かべるのをやめ、いつも彼女が浮かべる朗らかな笑みを浮かべて指揮官を待ち構える。

 

 ――後は待つだけ。指揮官が私のことを家族だと言うのを

 

 指揮官が9の傍で歩みを止める。勝利の鐘を鳴らす準備は整った。後は、彼の口から忘れ去られた家族の正体を告げられるだけ。

 

「私の忘れていた家族とは――」

 

 そう言って、指揮官は9の手をとった――

 

「君だ!!」

 

 ―――正確に言うと、UMP9の隣の列に並んでいた9の手を取った。

 

「えええええっ!?」

 

 突如手を取られて、驚愕の声をあげたのはFNP9。建造・入手のしやすさから指揮官が配属されたばかりの頃から基地に居た昔からの中で、アイドルとして笑顔が素敵で、どんなステージでも手を抜かない頑張り屋さんなハンドガン。

 

「ええええっ!?」

 

 9の隣に居た45も驚きの声をあげる。まさか、9がFNP9と指揮官が家族の関係であったのを知ってたのかと言うように。

 

「「「「「えええええええええぇぇぇぇっ!!!!!」」」」」

 

 多目的ホールに居た戦術人形達がどよめく。指揮官とFNP9がそんな密接な関係であったことを初めて知ったと言わんばかりに。

 

「違う……」

 

 9は顔を床に向けながら、手の平に力を入れてプルプルと震えながら拳を作る。なんで、どうしてこうなったのかと言うように。

 

 確かに指揮官に『指揮官と9は家族』と言い聞かせたし、『昔からの仲』、『笑顔が素敵』、『頑張り屋』と言うキーワードも刷り込ませた。まさか、刷り込ませた結果、自分より別の戦術人形の方と条件が合致してしまうなんて思いもしなかった。誤算だった。それも、大誤算だ。まさかこんな事になるなんて。

 

「ちがーーーう!!!!!!!!」

 

 9の心からの叫びが天井に当たって多目的ホール全体へと響き渡るのであった。

 

 








 と言った感じの戦術人形が見る筈の無い夢を見た9は、全身に纏わりつような悪寒と異常な位に排出された疑似汗液によって目を覚ます。

「な、なんかとてつもないものを見た気がする!!!」

 思わず上半身を起こして、大声を出してしまった9。

 夢の内容は何一つ覚えていないが、せっかく継続させて成就までいったお呪いが台無しになったかのようなとんだ茶番を見せられた様な気はしている9。

 そんな茶番が現実にならないようにする為の方法は簡単。

「指揮官には『指揮官と『UMP』9は家族』って言い聞かせないと……!!」

 今の丑の刻参りの経過日数は半月ほど。効果も僅かばかりだが表面にも出始めた頃合い。お呪いの内容を変えることでこの半月の成果が無駄になるかもしれないが、先程までのとんでもない茶番が現実になるよりかはもう一ヶ月実践した方が勿論いいだろう。今のまま続けても無駄になってしまいそうな気がするから。

「言葉ははっきりとわかりやすく伝えないと駄目だよね……」

 言葉の曖昧さと言うものを認識しつつ、明日からはお呪いの内容を変えようと決意した9は、バクバクと跳ね上がる機関部を辺りを手で抑えつけながら再び布団を被るのであった。

 9のお呪いが無事成就したのかどうかは、一か月後の9達のみが知ることである。


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【IF】UMP45が感情を切り離そうとするだけの話

 今回は、指揮官に逆レした量産型45姉の話じゃ無くて、404小隊(オリジナル機)の45姉の話です。なので、一応IFです。量産型より純情ですねオリジナルは。


 UMP45は今の指揮官に入れ込み過ぎた。彼女を人間のように扱い、彼女が損傷を負ったら傷ついたら自分が泣きそうな表情を浮かべ、気がついたら自分の隣に居て談笑をして笑かしてくれる彼に。

 

 45達の所属する404小隊は何度も人間の我儘に付き合わされた。その度に何度も人間に対する不信感を募らせ、ある時は憎しみすら抱き、それでも人間の従順な道具の一つとして、文句を垂れつつも確かに従ってきた。

 

 だからこそ、彼女にとって今の雇い主ヘリアンの部下である戦術指揮官の対応は異質だった。誰も理解しなかった、ただ便利な道具としてに扱われるだけの45達に自分の部下にするのと変わらない扱いを受けれるように腐心してくれたことを、壁を張って自分達の領域に深入りしないようにしているのにそれでも、少しずつ心を開いてくれると信じて接してくれた指揮官が。

 

 それが、45にとっての失敗。彼の対応に絆されて、何時の間にか彼の隣と言う居心地の良い場所を望むようになってしまった、彼女の失敗。

 

 彼女は自分でも知らぬ間に指揮官に対する思慕の感情を募らせてしまった。もっと彼の傍に居たいと、彼の隣に立ちたいと、いつからかそんな願望を持つようになってしまった。

 

「……そんなこと、許される筈無いじゃない」

 

 甘ったるい考えが渦巻く思考回路に嫌味を垂らしながら45は手に持ったメンテナンス用のタブレット端末を手際よく操作する。彼女の持つタブレットにはケーブルが接続されており、ケーブルのもう一方は彼女の首筋に接続されている。

 

 彼女が今、何をしているのか?それは自身の機能を検証・点検するためのテストベンチを行っているわけでは無い。彼女がやっているのはある意味で言うと手術。自分に不要な機能を切り離すための。

 

 45は不要な感情を抱いてしまった。そう、指揮官に対する思慕を。彼女は404小隊の一員、表向きには存在しない云わば影そのモノ。対して、彼女の憧れる指揮官は戦術人形達にとって上司であり、それ以上に光と言って差し支えの無い存在。だから、自分と交わる筈が無いし、交わってはいけない存在。

 

 何よりも、金の切れ目が縁の切れ目。今でこそ彼の居る基地に所属しているが、契約が切れればまた別の雇い主のもとへと向かわなくてはならない。

 

 必要ないのだ。いや、あってはならないのだ。特定の指揮官に対する思慕と言う感情は。特に45は404小隊を任された隊長。感情に左右される事無く、最適に与えられた任務をこなす存在でなくてはいけない。

 

 だから、45は感情を指揮官への思慕を切り離すことに決めた。ブラックボックスな技術である自分の疑似感情モジュールを弄ることになったとしても。自分には存在してはならない感情であると、これはバグなのだと自分に思い込ませて。

 

 疑似感情モジュールの解析には長い時間を要した。解析しても45の知識では足りないものが多かったので、調べれる限りは調べた。それでも、解明出来た部分は少なく、大々的に弄るとどのようなエラーが発生するかの想像も出来ないので、自分から切り離し大容量と予測される切り離した感情は分割し、ダミーに格納して凍結、と言う手段をとることにした。

 

 そのためにメンテナンスルームは貸し切り、感情を収める箱となる自分のダミー達も用意してある。タブレットに入ってるメンテナンスプログラムをベースにプログラムを作成し終えている。シミュレーション結果も満足がいくもの。後は実行するのみ。

 

 段々と自分の手が震えているのがわかる。

 

「呆れちゃう……」

 

 本当は怖いのだ。やりたくないのだと、彼女の思考とは裏腹に身体は拒絶反応を示している。折角手に入れた自分だけが持つこの気持ちを失いたく無いのだ。これから先、もう一回この感情が手に入るとは言い切れない。否、もう手に入る様なことはしていけないしとるつもりは無い。今まで見ていたのは夢、甘く蕩けるような優しい夢。目を覚ましたら自分い待つのは身を焦がすような欲望の業火。あの焔に焼かれる日々は彼女だって体験したいとは思わない。

 

「でも……」

 

 そう、本当はこの感情を手放すのも、あまつさえ自分で切り離す事だって本当は仕方ない。

 

「仕方……無いでしょ……!」

 

 タブレットの上に、沸騰しそうな位な温度を保った雫が一つ、また一つと落ちて行くのがわかる。視界が滲んで、手の震えが大きくなって、体全体が、身体の節々にある回路が頭脳部の命令に独断で逆らおうとしているのもわかる。

 

 でも、仕方の無いことなのだ。彼女達に望まれるのは、自分達の手を汚すのを躊躇う人間たちのために従順に動くこと。指揮官のために動きたいと思うこの感情は、彼女達に与えられた主目的には大きな障害となる。

 

 45は体の震えを抑えつけて実行のボタンを押す。しかし、画面に滴った雫のせいでタッチパネルが反応しない。

 

「はやく……はやく……」

 

 胸を締め付けるような想いを抱えながら作業をするのも限界だった。45はパネルについた水滴を何度も袖で拭い、その度に新たな雫が生成されて失敗するを繰り返して、、

 

「もう私を苦しめないで!」

 

 最後は慟哭しながら実行のボタンを押したところで、45の身体から力が抜けていくのを感じた。

 

 やっと修正プログラムの実行に成功した。45は強制的にメンテナンスモードになり、指揮官への思慕を切り離し終えたら再起動をする。次に目覚めた時は、指揮官と出会ったばっかりの時のような、飄々として彼に踏み込まれないようにしていた頃の自分に戻れる事だろう。

 

 段々とブラックアウトしていく視界に映るのは、指揮官と自分が過ごした楽しかった日々。次に目が覚めた時は、それらは『思い出』ではなく、ただの『記録』へと変わってしまう事だろう。それは、とても恐ろしいことではあった。でも、仕方の無いことなのだ。自分達の使命を果たすためには。

 

「ありがとう……指揮官……」

 

 最後に、彼に対する思慕が残った45が浮かべた微笑みは、なんとも痛々しくて、みてるものに悲しみだけを訴える悲劇の芸術作品のようだった。

 

 45の身体から力が抜け、だらりと腕が垂れさがる。修正プログラムが実行し、彼女が得たものを切り離していく。

 

 しかし、彼女は予測できていなかった。疑似感情モジュールが得た、感情と言うものの『重さ』を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修正プログラムの実行は無事に終了。修正を適用すための再起動も終わった45の視界に再び照明の光が差し始める。

 

「ん……」

 

 軽く伸びをし、身体に不調が無いかを確かめる。身体の具合は良好。だが、スリープから覚めた時の気分は、ぐっすりと眠って目を覚ましたような軽さは無く、悪夢を打ち切るために起きた時のような衣服が肌に張り付く様なまとわりつく様な不快感のみ。

 

 疑似感情モジュールから一部の感情を切り離すと言うのは前代未聞の行為。中途半端に解析して、理解したつもりで修正プログラムを実行したから、そのために熱処理が間に合わなくなって、疑似汗腺が開いて急速冷却処理が行われた。そう論理的に原因を解明したふりをして自分に言い聞かせた。

 

 自分の中でぽっかりと穴が開いたような不愉快な気分を味わう45。感情を無理矢理切り離したせいだろう。人間であったらそれを埋め合わせて解決するのだが、彼女は戦術人形。埋め合わせると言う非効率的な手段は思い浮かばなかったのだろう。

 

 45は自分の胸に手を置く。自分の感情が元に戻ったことを確かめるように。

 

「……これでいいのよ」

 

 そう。これでいい。彼女は影。影が太陽に恋をしてはならない。何故なら、交わることが出来ないのだから。

 

 だが、何故だろうか、彼女は違和感を覚えていた。まるで、胸の奥にある機関部がざわついているいる様な。それこそ、埋め合わせることなく、削り取った感情が自然と戻っていくような。

 

「……!」

 

 45は周囲を見回す。

 

「無いっ!」

 

 そう無かった。彼女の切り離した感情を分割して格納し、凍結するための封印の箱とした自分のダミー達が。命令を送ってないのになぜ?

 

「ちょ、ちょお!?」

 

 ダミー達の失踪への思案を巡らせるより先に、メンテナンスルームの外から聞えた指揮官の悲鳴が彼女の身体を動かさせた。

 

「指揮官!」

 

 急いで45がメンテナンスルームを飛び出すとそこには、

 

「しきかーん!」

 

「手を繋ごうよ指揮官!」

 

「わたしもG11みたいにだっこしてよ指揮官!」

 

「カフェに一緒に行こう指揮官!」

 

 指揮官に群がる、失踪したと思われた45のダミー達が。

 

「ど、どうしたんだ一体!?」

 

 45のダミー達は指揮官の脇腹に抱き付くわ、勝手に飛びかかって抱っこの体勢になるわ、両腕に絡みついて頬を寄せるわと、見てる45本人が恥ずかしがる甘えっぷり。

 

「もっとみて!」

 

「またお話して!」

 

「ご飯食べに行こうよー!」

 

「だっこー!!」

 

 甘えてはいるが、願望が余りにも子供みたいな上に、それを全て口をしているのが、何とも45の羞恥心を煽らせ、人工皮膚の表面が焦げてしまいそうな位に頬っぺたが熱くなるのを自分でも感じている。

 

「えっ……?えぇ!?」

 

 驚愕の声をあげつつダミー達の内部処理を確認する45。その中のタスクを確認することで、ダミー達が何故勝手に起動したのかわかった。

 

 その理由は酷く単純なモノだった。45が切り離した指揮官への思慕は分割しても容量が大きすぎてなんとか保存は出来たが凍結も圧縮もすることが出来ず、かといってメインフレームに送り返すことは出来ずと言った状況に陥り、勝手に例外処理を適用していた。

 

 例外処理と言うのも単純。メインフレームから受信した感情を命令として実行し、送られてきた感情を発散することで軽量化を促すというもの。

 

 目の前でダミー達が甘えているのは、45の感情が莫大なものであった事を示す証拠。それを意識したら今度は全身に火を着けれたようにカッと熱くなった。

 

 しかも、凍結できる容量になるまでの時間をみたら4294967296秒と言う32bitの限界の数値を叩きだし、数が減って無いことからバグっているのもわかる。四つに分割したのにその数値、年に換算すれば136年だ。一体全体、本当の自分はどれだけ欲求不満だったのかと恥ずかしさを覚えるのも無理はないだろう。

 

「しきかん!」

 

「遊ぼう!」

 

「褒めてよしきかーん!」

 

「頭撫でて!」

 

「えぇ、ええええええぇ………」

 

 困惑する指揮官を他所に、45は自分の胸に手を乗せる。凍結が失敗し、ダミーが指揮官に甘え始めたせいで、ぽっかりと空いた穴が自然と元の形に埋まっていくのを感じ取った。ダミーの経験はメインフレームにも還元される。ダミー達の中にあるのは甘えたい、指揮官が好きだと言う純粋な感情。指揮官に甘える度、指揮官へと言葉を向ける度に、その想いが募って本体にも還元されていったのだ。

 

「わからないものね……」

 

 感情とは自分達戦術人形には未知で、解明できたと思っても全然出来てないモノで、予測を優に超えていくもの。

 

 自然と45は微笑みを浮べていた。そのことをやっと理解し、手放すことが出来ないのであれば、この感情を受け入れ、一生背負って生きていた方がよっぽど建設的であると理解したから。

 

影が太陽に恋をしてはいけない?交わることが出来ないから?そんなことは45にはわかってる。でも自分はなんだ?無茶な任務を何度もこなしてきた404小隊の隊長だ。無茶を何度も押し通してきた戦術人形だ。ならば、いつも通りに無茶を可能にしてしまえばいい。それだけの話。自分が影であることを受け入れて、今度は本気で太陽と向き合う。それだけだ。

 

 受け入れると決めたのなら――後は突き進みのみ。自分の感情は自分だけのモノ。もう離さない。手放そうと思わない。そうこの想いはダミーのものじゃない、UMP45のモノなのだ。

 

 45は指揮官に飛びつく。身を焦がすような羞恥の炎すらも受け入れて。

 

「し・き・かーん!」

 

「うわぉっ?!」

 

 指揮官はよろめきながらも新しく加わった45を受け入れる。彼はダミーとメインフレームの違いはわかっているのだろうか?いや、関係ない。自分は自分だ。今だけは自分のことをダミーの一人だと思われても、彼女は自分として、ダミーにも渡さずにひっそりと凍結しようとしていたこの想いを彼に伝えるのだ!

 

「大好きだよ!しきかーん!」

 

 顔を春の花々のように赤色に染めつつ満面の笑みを浮かべる45。指揮官は一瞬だけハトが豆鉄砲を喰らったような驚きを露わにしたがすぐにそれを崩す。そして、穏やかな笑みを浮べつつ、彼女の頭に手を置いて彼女のことを受け入れるのであった。

 




「で、45、私は仕事が残ってるんだが、いつまでこのままでいればいいのだろうか?」

「ショップに行きましょう!」

「抱っこしてー!」

「ケーキ食べにいきましょう!」

「おーひーるーねー!」

「……もうちょっとだけ、いい?」

「別にいいが、私の身体は一つしか無いんだ。大事に扱ってくれよ?」

「ううっ//ううぅぅぅ////」


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『IF』UMP45と映画を観るだけの話

 小ネタです。ほのぼのです。

 題材はとある映画ですが、実は全く知りません。2の方は、私のトラウマになっているのですがね……。


「久しぶりに映画でも見てみるか?実家から面白そうな映画を持ってきたんだ」

 

 一日の業務が早くに終わった指揮官はその片づけをしながら、終身の副官であり、同じ部屋で暮らす同棲相手であり、唯一の誓約者であるUMP45に何気なく聞いてみる。

 

「へぇ~どんな映画?」

 

 機器の電源を確認しながら45は指揮官に伺う。最近まで人権派団体との小競り合いのせいで緊迫した状況が続いてて、まともな休息が無かったのだ。彼女の声が自然と跳ねてしまうのも仕方の無い事だろう。

 

「ホラー映画だよ」

 

「ふーん、なぁに指揮官?私が怖がってるところみたいの?」

 

確認を終え、指揮官の側に控えていた45が可愛らしく小首を傾げる。

 

「どうせ、ビビんないだろう?G11と一緒にホラー映画をみてもそうだったし」

 

「まぁねー」

 

G11はあんな可愛らしい容姿をして、ゾンビ系やスプラッター系のホラー映画やドラマを観るのが趣味だったりする。それに45達も付き合う形で一緒に観賞しているのを指揮官も知っているし、指揮官もたまに混ぜてもらってるいる。そのドラマで流れるビックリシーンで45は全くもって驚くことはないし、残虐シーンもつまらなそうに眺めてたり、挙げ句の果てに笑っていたりする。

 

だから、指揮官は全く持って期待してないのだ。45がホラー映画で怖がることを。

 

「二人っきりで同じことしたいんだ」

 

「あら?お仕事もそうじゃない?」

 

「頭を使わなくて良いことを二人っきりでしたいんだよ」

 

「ふふっ、そっかー。そんなに二人っきりになりたいんだね指揮官は」

 

「そうだよ!その通りだよ!」

 

余りにもからかってくるので、ムキになるように大きな声で同意する指揮官。そんな指揮官に体を預けるように45は彼に抱きつくと、

 

「……ありがと」

 

髪の分け目から覗く耳を微かに赤く色付かせて、彼に礼を言うのであった。

 

 

 

 戸締りを終え、私室へと戻って夕食を摂り、それぞれ入浴を終えた二人は思い思いにドリンクを準備し、45が入浴しているうちに指揮官が作った夜食をお共に、プレイヤーにディスクを挿入し、照明を落として雰囲気を作って準備は万端。テレビのチャンネルを外部入力のモノへと変更するとそこには、配給元のショートムービーが流れていた。

 

 指揮官は隣に座る45へと目を向けてみる。見下ろすようにして見える彼女の表情は目元こそ前髪と陰で見えないが、影に隠れていない口許はどことなく緩んでる気がする。それが映画への期待なのか、或いは指揮官と一緒に映画を観れることが嬉しいのか。視線に気付いた45が顔を上げて指揮官を見上げると、目元を緩ませる。これで、45の口許が緩んでた理由がどちらにあったのか判明しただろう。

 

 最初は日常風景が映し出され、そのまま冗長な生活描写を、そして机に置かれた携帯端末――とある東の島国ではガラケーと呼ばれた古い携帯端末に――壊れたオルゴールの様な音程も音階もぐちゃぐちゃな不協和音を奏で始めてタイトルが映し出される。映画の名前は『不在着信』と言う題名。かつてあった東の島国『ニッポン』にて人気を博したホラー映画。その独特な恐怖演出、世界観から『ジャパニーズホラー』と呼ばれて世界でも多大な評価を得ていたとは、指揮官の父の談。指揮官が幼い頃、家族そろってこの映画を見た時はトラウマになるレベルの恐怖を植え付けてくれたものだが、数年前に見返した時は楽しめる位の怖さであることに気付いた。それは指揮官が成長し、感性が豊かになったからだろう。怖いと言う先入観が幾らか無くなり、色んな角度から映画を捉えれるようになったからだろうか?

 

 閑話休題。ともかく、何度かこの映画を観ている指揮官だが、見る度に慣れず恐怖を覚えるので気に入っているのだ。ちらりと隣の45の様子を伺う。彼女は映画の導入であちらの世界に引き込まれた様子で、今度は指揮官の視線に気づいていない。

 

 掴みは上々。果たして彼女は気に入ってくれるだろうか?そんな期待と不安を抱いて、指揮官はディスプレイに向き直る。

 

 映画は最初の犠牲者が出たところ。風呂場で包丁で首を切って自殺したと思われる犠牲者と、それを見つけたであろう主人公。犠牲者の傍には着信履歴が開かれたケータイ電話が。

 

 まだ始まった段階。犠牲者に何が起こったのかも、どうしてそうなったかも判明していない。被害者の口は黒い液体で満たされているのがなんとも悍ましい。

 

 何度見てもこの導入のシーンには指揮官は圧倒されてしまう。何が起きたかわからない状況と言うのが、一番怖いからだ。対する45の表情は冷ややかである。指揮官から見てみると、事件を分析する刑事や探偵の様で心強い。この冷静さが、彼女が404小隊の隊長機足らしめている要素なのだろうと感心してしまう。一時の恐怖に負けないような、そんな気持ちの在り方が。

 

 映画は次の犠牲者が選定されたシーン。壊れたオルゴールの様な着信が流れて次の被害者が電話をとる。そこには犠牲者以外にも全身が青ざめた少女の姿が――と言った、犯人を臭わせる存在が描写されるシーン。犠牲者がとった電話には、雑音と悲鳴が。気味悪がって犠牲者が電話を切り、着信履歴が露わにあると、そこには自分の携帯番号と未来の時刻が。そして、次の犠牲者は死んだ。住んでいたアパ―トから出火し、そのまま火に巻かれて死亡したのだ。

 

 何となく、おわかりだろう。この映画はゾンビや殺人鬼などと言ったものでは無く、所謂呪いや怨念によるホラー映画だ。その呪いと言うのも、不気味な着信音が流れる自分のケータイ電話に出る。そこから音声、犠牲者が死ぬ時の悲鳴や雑音が流れる。ケータイの履歴には自分の番号と未来の時間。つまり、書かれた未来の時間に自分が死ぬ事を示唆した電話がくるのだ。そして、犠牲者が死んだら次の犠牲者は、死んだ犠牲者の電話帳に登録された人物が選ばれる。

 

 このような感じで繋がっていく呪いだ。

 

 そして、その呪いがあると噂になって広まっていく場面へと移る。日常シーンに戻り、指揮官も心の平静を取り戻したので、隣を観てみる。するとそこには、相変わらず表情を変えず、体育座りの体勢で映画を注視する45が。その姿に冷静さを保って流石だと言う称賛を心の中で彼女へと送ったが、彼女のもみあげ付近に、ディスプレイの光を反射する一筋の痕が――

 

 空調、特につけたままの暖房が効きすぎているのか?そう思った指揮官だが、すぐにその考えが間違いであることに気付く。

 

 三人目の犠牲者が死亡する時刻になった。犠牲者は電車に轢かれて右手足を失い、痛みに喚きながら絶望して死んでいった。その傍らには、嘲笑う様な表情を浮かべる呪いの元凶である少女の姿が。

 

 その瞬間、彼の傍で微かな布ずれの音が。チラリと45の様子を伺ってみる。45は自分のパジャマの袖がくしゃくしゃになるくらい強く握りしめ、顔からは疑似汗腺から零れて描かれた筋が何本も顎に向かって垂れていた。

 

 指揮官は驚いていた。間違い様も無い。あの45がホラー映画を観て怖がっているのだと予測した。

 

 ――なんでだろうか?

 

 指揮官の集中力は映画では無く、ポーカーフェイスで、出来るだけ態度に出さないまま、恐怖に打ちひしがれる45へと注がれていた。

 

 映画は次の犠牲者の死亡シーンへと移っていた。犠牲者に呪いの元凶である少女が乗り移り、刃物で自分の前面をめった刺しにし始めたのだ。

 

 そこで――45の身体が一度大きく跳ねた。彼女の手に持ったグラスに入った氷が、大きくカランと音を立てるくらいに。

 

 そんな45を観て指揮官は、画面に視線を戻して何気なく彼女に聞いてみる。

 

「うん?怖かったか?」

 

「……ぜんぜん。私が怖がった雰囲気にしないでよ。こういう呪い?って言うのかな?非科学的で怖くないわね」

 

 言葉こそ強気ではあるが、彼女の声は微かに震えていたし語尾も跳ね上がってたし、なんなら普段の1.2倍の速度で喋っていた。

 

 指揮官は確信した。45はこの映画に恐怖を抱いているのだと。

 

 それと同時に、彼女が何故、G11達と見ているとゾンビ系やスプラッター系が大丈夫で、怨念系統のホラーが苦手なのかも何となく理解した。

 

 彼女が言った非科学的と言う言葉がヒントであり、その答え。

 

 非科学的だからこそ、科学的な論理的な対処が不可能であるからこそ、彼女は怖がっているのだろう。ゾンビが怖くない理由は簡単。自分達がその映画の状況に放り込まれても対処できるから。簡単に言えば、ゾンビは撃てば、ある程度のダメージを与えることが出来れば殺せる。 

 

 しかし、怨念はどうだろうか?撃っても殺せない。止めようと思っても科学的な方法で止めることはほぼ不可能。そして、元凶がわかっても、対処の方法が特殊すぎて、どうしてその方法で対処できるのか理解できない。

 

 そう人間と同じだ。理解が出来ないから彼女は怖がっているのだ。今、彼女の頭には、意味がわからないと言った思考回路の演算結果が延々と出力されているのだろう。表情に出さないのは、流石と言った所か。

 

 しかし、取り繕うのも限界が来たらしい。主人公の親友が犠牲者となり、落ちてきた照明器具に押しつぶされたシーンで、自分の袖を握っていた手を45は床へと下ろした。

 

 ディスプレイの光を反射しながら微かに震える45の手。そんな珍しく弱弱しげな彼女の手に指揮官は自分の手を重ねた。それは、幼い日にホラー映画をみた時に両親がやってくれたこと。手を握って貰えるだけでも、誰かが傍に居てくれるだけでも、多大な安心感を得られるのだ。

 

 突然手を握られた45は一度大きく体を震わせた後、

 

「あっ……」

 

 自分の手に乗せられたモノが何かわかったようで、何処か安心したように言葉を漏らす。

 

 指揮官がこっそりと、45に視線を向けると、そこには表情筋を強張らせながらも、映画をみる前より口元を緩ませた可愛らしい少女の表情となっていた彼女が。

 

 そんな普段は見れない一面をみれた事に、指揮官は喜びを胸にしながら、再び映画へと集中した。

 

 

 

 結局、映画を最後まで見ることは無かった。

 

 それは、

 

「すー……すー……」

 

 指揮官の肩に頭を預けて眠ってしまった45がのおかげで。

 

 あの後、45は安心感を得たことで緊張感が緩んでしまったのか、五分もしない内に眠ってしまった。指揮官が最初にこの映画を観た時も、両親に手を握られて眠ってしまったことと重なって、年頃の少女らしい45の姿に深い愛おしさを覚えてしまう。

 

 眠る前に手の指を絡めるように握って眠りに落ちて行ったのが、何とも愛らしい。

 

 指揮官はリモコンを使ってプレイヤーの電源を落とし、45を抱えて寝室へと向かう。そして、彼女をベッドへと下ろし、45の隣を埋めるように彼も続いてベッドに潜り込む。

 

「おやすみ45.怖がってる姿、中々に可愛らしかったよ」

 

 どこか不満げに顔を歪める45に笑みを送りつつ、先程の怖がってる45の表情を確かに頭に刻み込んで、指揮官も眠りの世界へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 







「45姉!指揮官のおすすめの映画どうだった?」、

「全然、あんなの非科学的で何にも怖く無かったわ」

「ははっ、そうか?」

「指揮官は黙ってて!とにかく何にも怖く無か――」

 ~~♪~~♪

「なんだこの着信音?壊れたオルゴールみたいな――」

「う~ん……指揮官の端末からなってるよ」

「ま、待って指揮官その着信音……!」

「取りあえず出てみ――」

「で、でちゃだめぇー!!」

(実はアラームで鳴らしたイタズラなんだ。ごめんな45)


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『IF個別ルート』G11が看病してくれるだけの話

このアイディアはSiranuiさん(https://syosetu.org/novel/175030/)と話してて生まれたアイディアです。Siranuiさんからアイディアを使っていい許可は貰っております。この場を借りましてSiranuiさんに改めて感謝を


 カーテンから漏れた朝日が跳ね放題の銀色の頭髪に注がれる。朝日を髪一杯に受けた戦術人形G11は一人で寝るには大きな布団の中で眠っていた。

 

 何故、彼女が一人で寝るには大きな布団の中に居るのか?それは、彼女がフカフカの布団が好きだからと言うのもありはするが、その理由以上のワケがある。それは、G11の左手の薬指に起因する。この指輪は永続契約の証。契約相手はグリフィンと言う組織では無く、指揮官。つまり、個人との永続契約の証。

 

 G11は指揮官と誓約したのだ。二人の直筆の署名が書かれた書類と、G11の指輪がその証。

 

 大きな布団は、二人が一つの部屋で暮らしている証。大きな布団は、愛する二人の距離の証明。

 

 閑話休題。そんな風にぐっすりとスリープモードへと入っていたG11であるが、起動の時間が訪れて薄らと瞼を持ち上げる。が、彼女はそのことに違和感を感じている。

 

 ――おかしい……。いつもなら、アタシが目覚める前に指揮官から――

 

 いつもなら、彼女が(一応)起きる時間になる前に、指揮官から起きるように声をかけられるのだ。甘いホットドリンクの香りを纏いながら。気怠そうにまだ眠いと言いたいように目を擦りながらG11が起き上がると、笑みを浮かべて『おはよう』と声をかけてくれる指揮官が好きで――。

 

 物思いに耽っていたG11であるが、目の前に青いパジャマで覆われた大きな背中があることに気づく。司令室や執務室で眠ってしまったG11を背負って自室の布団へと運んでくれる、彼女が好きな大きな背中。最近では、一番長い眠りに着くときは彼の背中を抱き枕の様にして寝ないと安眠できなくなってるのは、彼女だけの秘密。

 

 彼女の大好きな背中が何故か今は目の前にある。いつもなら、目を開けた瞬間に初めて見るモノは彼の顔の筈。

 

 G11はなんとなく、演算を自分からすることなく受動的にそうしろと言う命令が出て、彼の背中に手を触れてみる。その背中は温かさを放っていたが、彼女が快適と感じるそれよりも高い温度で、何よりも湿っていたのだ。

 

「!?」

 

 その不快感に、G11の意識は一気に覚醒した。いつも半開き彼女の灰色の瞳が全て露わになるくらいに。続けて彼女の耳、集音センサーで音声を解析する。先程から、風の音の様な、或いは耳を蝕む雑音の様な音が聞こえていたことに気付いたのだ。音の解析が終了する。音の正体は吐息、それも運動をした後の様なハイペースで荒々しいモノ。

 

 解析が終わった瞬間、G11は跳ね起きた。

 

「指揮官!?」

 

 焦燥に焼かれた上擦った声。慌ただしく両手足を動かして指揮官の顔が見れるように回り込んだG11は思わず息を飲んだ。何故なら、真っ青な顔で自分の身体を抱きしめて震える指揮官が居たから。

 

「あっ……おはようG11……」

 

 力なく微笑む指揮官に、G11は胸が締め付けられるような苦しさを覚える。彼はそんな風に弱ってまで、いつもの自分を演じようと――

 

「ちょっと身体が重くてな……大丈夫だから安心して欲しい」

 

「そんな訳ないでしょ!!寝ててよ!!」

 

 無理に身体を起こそうとする指揮官の肩を押さえて布団へと押し留まらせるG11。今の彼女の必死な形相は重傷を負った時でも見ることが無かったもの。彼女の開ききった瞳は必死さの余り潤み、普段は森の中の小鳥のように囁くだけの声量が部屋中に響くくらい大きなものになっている。

 

 G11の必死な顔に気圧された指揮官は、何も言い返すことが出来ずにG11から加わえられる力に身を委ねて再び布団に身体を沈める。

 

 G11は指揮官の身体に毛布を被せると、彼女は基地内のネットワークに接続、緊急回線を開いて医療スタッフを私室に来るように呼び出す。

 

「待っててよ……!」

 

 指揮官に布団の中で待つように言いつけたG11は、タンスを漁ってタオルを取り出して、洗面所へと向かう。冷えたタオルを作るために――

 

 

 

 

 

 

 大慌てでやって来た医療スタッフからの検診を受けて、指揮官は風邪を引いたとの診断を下された。

 

 最近まで、雪原地帯に派遣されそこに設営された前線基地で数日指揮を執っていた指揮官。無事に任務が終わり、比較的温暖な基地周辺の気候に身を置いていたのだが、彼の身体は気温の変化についていけず、悲鳴をあげてしまった結果らしい。人形であれば簡単に気温に適応できるが、人間は簡単には適応できない。適応できたと思っても、このようなことが起こってしまうからだ。

 

 指揮官は、風邪くらいなら仕事を続行できるだろうと、彼が指揮官を任された故の責任感から、頼りなく立ち上がろうとしたが、上半身を持ち上げた彼にG11が抱き付いて引き止め、

 

「お願いだから……今は寝ててよ……!アタシの代わりにって思ってさ!」

 

 と、涙で一杯にした瞳で訴えられてしまったので指揮官は黙って頷いたのだ。

 

 指揮官が大人しく寝てくれることに安心したG11は頬を持ち上げて安堵すると、普段のものぐさな一面は顔を潜めて、テキパキと行動した。基地の参謀を務めるUMP45に連絡を取って指揮官は体調不良で療養のために休むと伝え、自分も看病のために休暇をとることを。『ものぐさなG11がそこまで思われるなんてねー』や『ちゃんと看病できるの?看病中に寝たりしない?』とからかわれたりもしたが、『冗談言ってる余裕……無いから』と珍しく声を荒げて45の冗談を斬るG11に驚きつつも『指揮官のことよろしくね』と快く背中を押してくれた。

 

 書類仕事はカリーナを筆頭に分担。戦闘の指揮については、UMP45、M4A1、RO635がそれぞれ担ってくれることだろう。

 

 G11がやることは、彼女を信頼して指揮官を任せてくれた期待に応えること、彼に寄り添う存在として彼のお世話をしてあげること。

 

 熱と寝汗が酷かった指揮官の身体を小さい身体を精一杯使って拭いてあげたG11は、彼の寝間着を着替えさせてあげ、彼の傍に控えていた。

 

「水……いる……?」

 

「あー……ありがとう……」

 

 冷えたコップにストローを差して彼の口許に持っていくG11。指揮官はそれくらい出来るよと苦笑交じりに言ったのだが、G11がそっぽを向きながら「アタシがやりたいんだって……」と言うものだから負けてしまったのだ。

 

 目を瞑りストローから水を必死に吸い上げる指揮官に可愛らしく思えると同時に、庇護欲が湧いてくる。それは、普段は皆の前で威風堂々と言った佇まいをしている指揮官が、こんな姿を見せてくるから。これが、ギャップと言うのだろうかと、G11は自分の中の辞書に今の心境を当てはめて考えてみる。

 

 水を飲ませてあげてから、少し時間が経った頃、指揮官の瞳が額にあるモノを伺うように動いたのを、G11の目は捉えた。

 

「代えるね……」

 

 指揮官の額に乗っていたタオルを手に取る。最初にあったような冷たさは彼の額から発せられる体温によって奪われ、ぬるくなってしまっている。G11は氷を浮かばせた水をの入った桶にタオルごと手を突っ込んで浸す。

 

 こんな時、戦術人形の感覚処理と言うのは便利だ。温度を感じるセンサーを無効にすれば、じっくりとタオルを冷やすことが出来て、それを指揮官に提供できる。タオルをよく絞って、指揮官の額に再び載せてあげる。

 

「はい」

 

「ありがとう……」

 

 ひんやりとした感触が心地よいのか指揮官は、小さく微笑みながらタオルに手を置いて自分の額に押し付ける。

 

「ふふっ、意外だなぁ……。G11がこんなにも手際よく看病できるなんて……」

 

 G11の看病は手際が良かった。それこそ、指揮官の異変を察知してから医療スタッフをすぐ呼ぶ頭の回転の早さ、スタッフを待つ間に指揮官の様子からわかる症状に必要な道具をすぐに揃える準備の良さ。そして、指揮官が指示するまでも無く必要なことをこなす様は、いつもはグータラとしているG11とは思えなくて、ついつい感心してしまったのだ。

 

「このくらい、アタシも出来るよ…」

 

 不満げに指揮官のことをジト目で見つめるG11。そんな風に拗ねてしまったG11に『そうか……悪かったよ』と短く謝罪して彼女のボサボサの髪を更に乱すように力強く撫でる。この撫で方はG11は好きだ。彼の力強さをよく感じ取れるから。でも、今は、ウィルスによって弱っているので撫でる力も普段より弱い。そのことがG11の胸を締め付けて、どこか淋しい気持ちにさせる。

 

 家事のスキルは元々備わっていた。ある程度の家事、ある程度の料理はG11にも出来る。良質な睡眠を得るために備わったG11のスキルたち。それに磨きはかかったのは、誓約してからG11がこっそり家事炊事関係のライブラリーと思考プログラムを後付で購入しこっそりとインストールしたからだ。いつも家事を指揮官に任せてるのが、疑似感情モジュールのどこかで申し訳なく思っていて――指揮官が驚いて喜ぶ姿が見て見たくて。

 

 まかさそれが、このような形でお披露目されることになるとは、思っても居なかったが。彼をお世話するスキルをキチンと入れといてよかった、とG11は安堵している。一応のため、風邪と診断された瞬間に看病のための後付アルゴリズムもダウンロードしたのだが、必要無かったのかもしれない。だがスキルが揃っていなければ、指揮官の看病相手は、別の誰かに任せることになっていただろうから。仕事に行くよりも、指揮官の傍に居る方がいいに決まっている。彼の傍で寝るのが、彼女にとっての一番の安らぎなのだから。 

 

 ピピピ!!とキッチンタイマーがけたたましい音を奏でる。G11は小走りでキッチンに向かい、鍋を熱するスイッチを切る。ミトンを着けて鍋を持ち運び、予備のタオルを鍋敷きの代わりにして鍋を置く。

 

 G11がどこか自慢げに口許を持ち上げて、鍋の蓋をあける。蓋に閉じ込められていた水蒸気が和だしの香りを纏いながら天井へと昇る。その香りに促される形で指揮官の腹の虫が鳴く。

 

「G11……まさかそれは……!」

 

 子供の様な期待に満ちた瞳。それに答えるようにG11は告げる。

 

「卵粥、って言うんだっけ?」

 

 そうG11が作っていたのは卵粥。かつて存在した東の島国の病人食として人気の料理。

 

だし汁に炊き上がった白米を入れた後に卵を入れて煮立てた簡単な料理。が、たっぷりの水と共に煮込まれているため、固形であった白米も液状に近くなり飲み込みやすくなる上に栄養価も高いので、かの国ではよく食べられたそうだ。

 

今は亡き島国の国民の血をひく指揮官にとっても馴染み深い料理。幼い日に風邪をひいた日は、両親がよく作ってくれたものだ。

 

G11はレンゲを持つと、黄金の粥を一掬いし、ふーふーと優しく息を吹きかけてから指揮官に差し出す。

 

「はい、あーん……」

 

何のこともないように食べさせようとしてくれるG11に思わず指揮官は固まる。

 

「その……食べさせてくれるのか……?」

 

「早く食べてよ……その……、ちょっとは恥ずかしいから……」

 

その言葉と共に指揮官から顔を逸らして伏し目がちに彼の顔を伺うG11。彼女の弾力に富んだ頬っぺたには赤色がひかれ、跳ねた髪の毛の間から覗く耳も朱に染まっているのが見てとれる。

 

「ありがとう」

 

恥ずかしがりながらも食べさせてくれるのG11を可愛らしく思いつつ礼を述べる指揮官。対するG11は腕を一度ピンと伸ばして、礼はいいから早く食べて欲しいと催促するかのよう。

 

「あーん」

 

G11が程よく冷ましてくれたお粥を口に含む。冷まし具合は完璧。風邪をひいて敏感な指揮官の口は拒否反応無く含むことが出来る。これにはHK416もニッコリだろう。

 

続いて口に広がるのは卵のまろやかさと出汁の旨味。白米の煮込み具合もちょうど良い。粒感を残しつつもあまり租借しなくてもすんなりと飲み込める塩梅だ。

 

「美味しいよG11」

 

風邪であることを忘れさせるような朗らかに微笑む指揮官。

 

「……よかった」

 

彼からの称賛を受け取ったG11は、小さく笑みを浮かべつつ、どこか安堵したように1人ごちた。

 

 

 

 

「コホ……コホ……」

 

 食事を食べ終えた指揮官がせき込む。咳が出るのは、彼の身体がウィルスを追い払おうとしている証拠。

 

「大丈夫……?」

 

 が、咳を出すたびに指揮官が辛そうな表情をするので、G11も心配になって顔を覗きこんでしまう。

 

 そんな風に心配に顔を歪める彼女をみたく無くて、指揮官はやんわりと笑んで見せる。

 

「大丈夫だよ。G11の看病のおかげでね。それに美味しい御飯のおかげで元気が出た位だ」

 

 彼の表情を咄嗟に分析するG11。表情筋の動き、声紋、共に嘘の反応は無し。彼は心配をかけまいとすぐに嘘をつくから、慎重にならないといけない。が、今回は解析結果から嘘とは出なかった。本当に少しずつ快方へと向かっているのだろう。

 

「うん……。よかった……」

 

 だから、G11も自然と緩い笑みを浮かべる。彼の風邪が良くなっていることが嬉しいから。

 

 そのままお互い何も多くを語ることなくG11に大人しく看病されていた指揮官だったが、満腹になった故か眠気が襲ってきた。風邪を引いて物寂しさを感じていたからだろうか、或いはいつもは甘えられる側だからだろうか、指揮官は珍しくG11にお願いをしてみたのだ。

 

「G11」

 

「なぁに?」

 

「膝枕、してくれないか?」

 

「えー……面倒くさい……」

 

 口では嫌がる素振りを見せるG11だが、指揮官からの甘えられること、頼られている事実が嬉しくて、喜色を浮べながら彼女の身体は正座の姿勢へと変わり、指揮官の頭を小さくて狭い腿の上へと乗せてあげていた。

 

 後頭部に伝わる柔らかさと、子供のような高い体温が指揮官の心の隙間を埋めてくれる。誓約をした相手に頼ることによって、一番心を許した存在が近くにいてくれることによって。

 

 G11がサービスで指揮官の頭を撫でてあげると、子犬の様に指揮官は目を細める。そんな愛らしい一面に、G11は胸がときめくのを感じている。

 

「早くよくなってよ。じゃないとアタシ、床で寝ることになるんだから……」

 

「ははっ、戦術人形は風邪を引かないだろ?」

 

「……そういうことじゃないから」

 

 ――今の指揮官じゃ、汗臭くて抱き枕にもならないよ

 

 そんな皮肉と甘えたい気持ちは胸の奥に押し込んで、G11は拗ねたように指揮官の頬っぺた突っつく。彼の筋肉質に思える頬っぺたは意外にも柔らかくG11の白魚の様な指先を飲み込む。

 

 G11は自分の頬っぺたの柔らかさに自信を持っていた。それはよくUMP9にほっぺたに弄ばれたり、他の戦術人形に可愛がられたり、カリーナから突如弄られたりしてることが、彼女に密かな自信を持たせていた。

 

 その自信が指揮官のもっちりほっぺに砕かれようとしている。そんなジェラシーを内包しながら、指揮官の頬っぺたに指を押し込む。押し込まれた指揮官が何処か楽しそうに『ごめんごめん』と言っているのが、小憎たらしいのは内緒だ。

 

「わかってるよ。今の私じゃ、抱き枕にするには湿っぽいからな」

 

 流石はパートナーと言うべきか、熱にうなされた状態であっても、G11が言いたかったことはわかったらしい。

 

 思わず、口を絞って眠そうに開かれた瞳を見開くG11。指揮官は悪戯が成功した子供の様に笑いながら状態を軽く起こし、右腕をG11の後頭部に持っていって、コツンと自分の額とG11の小さな額を重ねた。

 

 身体を持ち上げる過程でタオルが滑り落ちたおかげで素肌と素肌が触れ合うことが出来ている。タオルが残した湿り気が若干邪魔だが、お互いの気持ちを伝え合う分にはなんら障害とならない。二人は示し合わせた様に瞼を下す。お互いの想いを共有するように。

 

「ありがとう。よくなってみせるよ。でも、そのためにはG11、君が必要だ。今の私は一人じゃさみしい。こんな私でもよければ、君の側に置いて欲しい」

 

 熱にうなされながらも紡がれる確かな愛の言葉。その言葉にG11が最初に抱いた感情はズルいと言うモノであった。

 

 ――だって、必要だって、寂しいなんて、傍に置いて欲しいなんて言われたら

 

「……いいよ」

 

 G11は指揮官との誓約したときと同じような、寝言のような、指揮官にだけは聞こえる声量で返事を返してあげた。

 

 流石に気恥ずかしさがあったのか、お互いに体温が上昇し、顔が夕焼け空のように赤く染まっていきながらも、二人は自然と微笑みあっていた。

 

「おやすみG11」

 

「うん……おやすみぃ」

 

 その言葉を合図に指揮官は夢の世界へと身を委ねて行った。

 

 

 

 その後、G11は安らかな表情で寝息を立てる指揮官の姿を見つめていたが、唐突に指揮官の頬に手を添えてみた。温度が高いと彼が不快感を抱いてしまいそうなので、低体温モードにして。

 

 ひんやりとした手が心地よいのか、眠る指揮官は宿舎に迷い込んだ小動物たちの様にG11の手に頬を擦りつける。

 

「ふふっ……」

 

 誰も見た事が無いような、指揮官ですらしらない甘えたがりな一面にG11は彼への愛しさを改めて覚える。普段は皆の頼りになる指揮官が、こんなにも小さい動物みたいに甘えてくる。そんな優越感にも近い愛おしさが。

 

 硬質な彼の髪の毛を弄ったり、意外ともっちりとしていた彼の頬を堪能したりと、寝ている彼で遊んでいたG11であったが、一日ずっと動きっぱなしだったからか、彼女のOSが稼動限界であると訴え、眠気にも似た感覚を覚え始める。彼女はその警告に従い、膝の上に乗せていた指揮官の頭を名残惜しそうに枕に下ろすと、指揮官の胸に収まるようにして布団に潜り込む。

 

 さっきは床に寝ることになるなんて言ったが、それは流石に嫌なのと、側にいて欲しいと言われたから仕方なく指揮官の布団で寝る。そう仕方なくだ。傍に居て欲しいと言われたことを思い出し、嬉しさで顔がニヤついているのは無視して頂きたい。

 

「アタシばっかりをこんなに働かせたんだから、ちゃんとお返ししてね……」

 

 仕方ないそう言わんばかりの微笑をうかびあがらせながら、G11は頭脳回路に鳴り響く警告を切って、スリープモードに移行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、指揮官は無事完治した。完治したのだが、

 

「はくちゅっ!うぅ……」

 

 何故かG11が風邪と似た症状を引き起こした。技術班やペルシカが言うには、看病用の奉仕思考の後付プログラムに風邪になったときの最適な奉仕を自己学習させるためにウィルスが仕込まれていた、或いは生体パーツがウィルスに対して過剰に反応してしまい結果としてウィルスを追い出すために風邪と似た症状が出てしまったのかもしれない、とのこと。

 

「大丈夫か?」

 

 復帰早々、指揮官に任された仕事は愛しの誓約相手の看病であったという事だ。

 

「ズビー……!大丈夫じゃないよ……」

 

 チリ紙をG11の鼻の前に持ってくと彼女は大きく音を立てて鼻をかむ。嗅覚センサーを保護するための粘液達がチリ紙にこびり付いた。

 

「だよなぁ……」

 

 そんな自分の時よりも酷そうな症状を発症するG11に指揮官は苦笑を浮べる。

 

「指揮官のせいなんだから、ちゃんと看病してよ、ね……?」

 

「はーいわかったよ」

 

 苦笑を浮べつつG11の頭を撫でてくれる指揮官。その手の温かさは発熱時のような不快感を感じる熱さでは無く、彼女を眠りに誘うような優しい温もり。

 

 今日はどんな風に指揮官にお世話して貰おうか?指揮官のお粥を食べされて貰いたいし、寝るときは膝枕、それと子守唄も着けて貰おう。

 

 愛するパートナーとの快適な病人ライフを想像しながらG11は指揮官が差し出したチリ紙を使って大きく鼻をかむのであった。



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最新話 よくわかるUMPシリーズの特徴講座『UMP45 UMP9 UMP40』

※未実装キャラであるUMP40が居るので注意


はい。皆様こんにちは。

 

 今日の講義を担当する、○○○地区の指揮官です。名前はレン――いや、一日しか講義しないので多分誰も覚えないと思うので割愛します。この名札みてください。

 

 えーと……私は君たち候補生の一年先輩です。つまり私も新人と言った所です。講義は早めに終えて質問タイムを多めに作るから、候補生として研修してる間に辛いこと、配属されてから大変なこととか、どしどし聞いてください。答えれる限りのことは答えようと思います。

 

 そんな私が何を教えるのかと言うと、君達指揮官候補生から大人気の戦術人形、UMPシリーズ三人についてです。

 

 なんで私がこの講義を担当するのか、この講義になんの意味があるのかも私にはよくわかりませんが、講義をお願いねと上司に言われて急いで資料を作って来ました。不備しかないと思うので、そこのところは申し訳ないです。

 

 ……おぉ、本当に君達の目の輝きが変わってる。やっぱり大人気だね彼女達は。

 

 という訳で、いくつかのケースで紹介しようと思います。

 

 まず一つ目、普段から。

 

 それではまず、映像をどうぞ。

 

「指揮官、ここの数値が違うわ」

 

「なるほど……。でも、ここはこうした方がいいと思う」

 

「うふふ……」

 

 され、この映像に映っているのは誰でしょう?

 

 君、わかるかな?

 

 正解。UMP45だ。

 

 彼女はとても冷静な子でね。凄く頼りになります。作戦の立案から、書類仕事まで、なにからなにまで頼りになります。

 

 通称『UMPの依存させてくる方』なんて言われてますね。私も彼女に頼りっきりではいけないので、頑張っているのですがどうしても彼女に頼ってしまうのが……。

 

 コホン。こんな頼りになる彼女ですが、凶暴な一面と少女らしい弱い一面を確かに持ってます。なので、コントロールなんて言い方はしませんが、彼女の事は出来るだけ放っておかないようにしましょう。

 

 次はこの子。

 

「指揮官!」

 

「カフェに行きましょう!」

 

「いひひひ!!」

 

 はいこの子。ツインテールが特徴的な子ですね。

 

 君、わかるかな?

 

 正解。彼女はUMP9。UMPシリーズの中では妹分に当たる戦術人形だ。

 

 彼女はムードメーカーになれる子でね。可愛らしい笑い方が特徴的です。彼女の明るさには色々と助けられてるよ。

 

 通称『UMPの依存して来る方』なんて言われてますね。その理由としては、彼女が家族と言う言葉が大好きだからです。だから、一緒に多くの人とお出かけすると彼女はとても喜びます。

 

 甘えたな一面が強いので、甘えさせてると不思議とこっちも癒されてたりもしますね。

 

 最後がこの子。

 

「指揮官、遊ぼう!」

 

「う~ん。また日焼けしちゃった……」

 

「はっはっはっ!」

 

 はいこの子。二人とは服装が違うのが特徴的ですね。

 

 君、この子が誰かわかるかな?

 

 正解。この子はあまり製造されてないんだけど、よくわかったね。

 

 彼女はUMP40。二人の姉貴分にあたる戦術人形だ。

 

 彼女はUMPの中でもかなり社交的でね。積極的に色んな子と絡むんだ。ふだんはかなりお転婆なんだけど、かなりのリーダーシップを持っててね、よく色んな子の相談に乗ってるのを見受けられます。

 

 通称『UMPの依存しちゃう方』なんて言われてますね。彼女の底抜けな明るさにはついつい甘えたくなります。

 

 普段は底抜けに明るいですが、時たま悩みを抱えてぼうっと空を眺めていたりします。普段は煩いくらいなので、黙ってるとすぐにわかります。そういう時は相談に乗ってあげましょう。

 

 これが、普段からの三人です。三人のことが少しはわかりましたかね?

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 

 次はまた別のシーンです。

 

 グリフィンの基地では停電がよく起こります。それは整備員のミスだったり落雷によるものだったり、敵襲を受けたからであり……等々、よくあります。

 

 ああ、そんなに怯えなくて大丈夫です。敵襲は二ヶ月に一回あるか無いかくらいで、そう大規模な襲撃が来るわけでもありません。偵察に来た敵を見つけて交戦した、そんな感じです。

 

 コホン。そんなわけで、街に住むよりも停電がよく起こる訳です。

 

 そんな風に急に停電が、それも夜中に起きた時の彼女達の反応の仕方で違いを見てみましょう。

 

 簡単なクイズ形式にします。こちらの映像をどうぞ。

 

 ……真っ暗ですね。停電が起きた直後の映像です。

 

 ちょっと映像をナイトビジョンに切り替えてみましょう。ほいっと。

 

 おっと、手が映ってますね。大きな男性な手と、華奢な女の子の手です。この手を暫し観察すると……おっと、女の子が男性の手を掴みましたね?

 

 さて、問題。この行動は誰がしたモノでしょうか?

 

 君、答えれるかな?

 

 9?

 

 残念、正解は――映像の続きに。

 

 はい。停電から復旧しましたね。

 

 正解は、UMP45でした。

 

 停電が起こると心細くなっちゃうのか、私の手を握ってくるのですよね。映像だからわからないかもしれませんが、彼女の手、凄く震えてるんです。

 

 突然一人になるのが、彼女は苦手なのかも知れませんね。

 

 復旧した瞬間に高速で手を離して、

 

「私が居なくて寂しかった?しきか~ん?」

 

 なんて言っちゃうのが特徴です。強がりが可愛らしいですね。

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 

 次の映像もクイズです。

 

 はい、また停電が起こった映像を見てみましょう。

 

 おっと、今度は目元しか映ってませんね。これがこの子の特徴です。

 

 はい、そこの君。この子が誰かわかるかな?

 

 9?

 

 果たして正解は――はい、正解!答えはUMP9です。

 

 彼女も心細くなるようですが、45とは違って完全に立ち竦んでしまう様です。なので、その場から私が居る方向をじっと見ているようですね。

 

 家族を重んじる彼女の目の前で突然家族が居なくなる……。想像もしたくない恐ろしさですね……。

 

 停電が終わった後にほっと一息ついて『よかった……そこに居てくれたんだね』っと安心した様に言うのが可愛らしいですね。 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 

 

 最後の映像になります。

 

 本当だったら先程の映像と同時に流して、どっちがどっちでしょうか?とクイズを流した方が楽しいとは思ったのですが……。

 

 映像を見ればそうしなかった理由がわかると思います。

 

 では、どうぞ。

 

『停電だ!指揮官、停電が起きちゃったよ!かくれんぼしようよ!!指揮官、見つけてね!復旧したらスタートだから!!』

 

 ………はい。この通りです。

 

 皆、『あっ(察し)』と言った表情をしてますね。

 

 これが、停電が起きた時のUMP40の反応です。煩いですね。でも元気いっぱいです。停電なんて忘れる明るさですね。

 

 ただ、この時のかくれんぼは隠れようとした40がこけた瞬間に復旧することが多いです。

 

 後、見つけられないと、『指揮官……遅いよ……』とグズり始めちゃうので、さっさと見つけるように心がけましょう。

 

 ただ、見つけた時に彼女が浮かべてくれる笑顔はとても可愛らしいです。

 

 これが、三人の反応です。

 

 特殊な場面故か、三人の心の中がちょっと出てますね。

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 

 

 最後に紹介するシーンはこちら。

 

 『朝起きたら何故か布団の中にUMPシリーズが居た時のパターン』です。

 

 ……何を言ってるのかわからないと言う表情をされましたが、指揮官である限りそう言うシーンがよくあります。

 

 お勉強の一つだと思って聞いてください……。

 

 今回はクイズ形式じゃ無くて普通に紹介しますね。

 

 まずは『UMP45』からです。

 

「うふふ……、昨日はお楽しみだったね、しきか~ん?」

 

 はい、見ての通り、朝起きたら肩を露わにした45が枕を抱きしめてうつぶせの状態でいます。

 

 もちろん、彼女のからかいです。それはわかってますが、彼女の肌が露わになってるのと、露出している肌が綺麗なので驚かされますね。

 

 彼女、ああ見えて肌と髪の手入れはしっかりとやってるんです。彼女曰く、髪と肌も大事な商売道具だからって。

 

 だから、本当にドキッとするんですよ。あの子の綺麗な肌に魅了されて本当に過ちを犯したんじゃないかって。

 

 そのまま呆気にとられてると、45が鼻先を指で押してはにかむんです。

 

「冗談だよ♪本気にしちゃった?」

 

 って言いながらね。わかっていてもやられたって思いますね。彼女には敵わない……。

 

 

 

 次に紹介するのは、『UMP9』。

 

 朝起きたら自分の隣が盛り上がってるのに気づいて持ち上げてみると。

 

「指揮官、おはようございます!」

 

 って朝一番に良い笑顔を浮かべて挨拶をする9が居たんです。

 

 どうして布団の中に居るんだ?って聞くと、

 

「こうすれば家族が出来るって聞いて来たんだよ!」

 

 っと元気溌剌に答えます。可愛いですね。

 

「本当に家族ができるかな~。いひひひ!」

 

 と口ずさむ9。朝一番に聞く音楽として、これほど素晴らしいモノは無いと思います。

 

 ただ、9は同衾して『家族を作る』という意味をわかっていない様子。その意味を教えるかどうかは、君達に任せます。

 

 うん?私はどうしたって?彼女の頭を撫でながら『そうか~できるといいなぁ』と言いました。

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 

 

 最後に紹介するのは明るさの化身、『UMP40』。

 

 彼女が布団に潜り込んでいる時は、手の平に痺れを感じて起きることがよくあります。

 

 それは、重量のあるものをずっと手に乗っけていた様な……。

 

 目を開けてみるとそこには、私の手を枕代わりにして寝こけている40が居ます。

 

 スースーと安らかな寝息を立てながら。

 

 その顔が可愛らしいのと、朝日を受けた彼女の髪が雪の様に煌めくので、どこか神秘的なモノを見た気分になれます。

 

 彼女が私の布団に潜り込んできた理由はよくわかりません。ですが、そんなの彼女の寝顔の前では些細なことです。

 

 私が彼女の寝顔に見とれていると、視線に気づいたのか、彼女が目を覚まします。

 

「むにゃ……おはよう、指揮官……」

 

 なんて、目を擦って眠たげな微笑みを浮べながら。

 

 そんな彼女の笑顔を見ると、一日良いことが置きそうな予感がしますね。

 

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 

 ―――

 

 

 これにて私の講義を終わります。質問とか相談があったら、ホワイトボードに書いてあるアドレスに送るように。

 

 UMPシリーズは個性的で気難しい戦術人形だ。人気の戦術人形だからと言って簡単に手なずけられると思ったら大間違いだ。彼女達とのコミュニケーションの取り方はよく考えるように。

 

 今回の講義が役に立つかわからないが、将来的に彼女達と接することになった時に参考なると幸いだ。

 

 では、善き指揮官になれるように努めてください!

 

 以上!本当に接し方には気を付けるんだぞ!!

 

 

 

 

オマケ

 

 講義を終え施設の廊下を速足で歩く指揮官は焦っていた。まさか『教官は戦術人形と肉体的な付き合いが多いと聞きました』、『絶倫末代指揮官はあの三人とそう言う関係になったことがありましたか?』とか、そんな質問をされるとは思ってなかったから。

 

 流石にこれは指揮官も叱った。普段は温厚で怒りと言う感情を生まれた時に母親の中に置いてきたと言われる指揮官も流石に叱った。『くだらない噂に踊らされないでください』、『情報の取捨選択が出来ないのであれば、指揮官としてこの先は生き抜けません!』と。

 

 というよりも、そんな噂が広がっているとは思っていなかった。確かに指揮官は戦術人形達と(向こうから押し倒される形で)肉体的な付き合いが多い。傍から見ても自分から見ても異常な位だ。

 

 一応、その問題には決着をつけてある。それは、

 

「待ってたよ~」

 

「お帰り!」

 

「お疲れ~!」

 

 三人と誓約を結ぶ形で。

 

 恐らく指揮官が今回の講義に呼ばれたのは、先程彼自身が言った『気難しいUMPシリーズ』を全員手なずけたことにあるだろう。いや、手なずけたなんて人聞きが悪い彼は見事三人と深く心を通わせたのだ。

 

 一応言っておくが、この三人との肉体的な関係はある。毎度の如く彼女達の方から押し倒されることによって。

 

 UMP45は、

 

「私のことなんてどうでもよくなっちゃった?他の子とばっかり最近は仲良くしてるもんね~。……許さない!」

 

 と言って、

 

 UMP9は

 

「指揮官。指揮官は私の家族だって言ってくれたよね?……じゃあ、ちゃんとした家族になろうよ。私、ちゃんとお勉強してきたんだよ?」

 

 と言って、

 

 UMP40は

 

「指揮官、最近あたいと遊んでくれないよね……。新しい子と仲良くするのもいいけど、昔からの子と仲良くするのもいいと思う。……ううん。はっきりと言うね。あたいのものになって指揮官」

 

 と言って。

 

 普段の性格も特徴も違う姉妹。その三人が指揮官を押し倒した理由が、寸分の狂いもなく嫉妬だった。

 

 そこから箍が外れた三人は、UMPシリーズ以外の追従を許さない勢いで、指揮官との誓約レースのトップを競い合い。時には血みどろの姉妹喧嘩を繰り広げ、最終的には指揮官に「君達には悪いが三人とも好きだから、三人と一緒に誓約する」と説得されて今に至る。

 

 その証拠に、三人の左手薬指には銀色の指輪がきらめいている。

 

 UMP45が指揮官の右手を、UMP9が彼の左手を、UMP40が彼の腰に腕を巻き付ける。

 

 それぞれがそれぞれ、指揮官と離れまいとするように。

 

「近くの街を調べたら、ケーキの美味しいカフェがあるって出てきたんだよね~」

 

「おっ、いいねぇ!行こう行こう!」

 

「よーしレッツゴー!」

 

 45と9が指揮官の腕を引き、40が彼の背中を押すようにして歩みをすすませる。

 

 三人とも凄まじく独占欲が強いが、今はこうしてかなり仲良くやれているのでそこは『姉妹の絆』といった所だろうか。

 

「ふふっ」

 

 誓約してから三人に振り回される毎日になったがそれはそれで満ち足りた物なのだ。

 

 今日も三人に振り回される指揮官は、笑みを湛えて三人に引っ張られるがままにカフェへと向かうのであった。

 




 こういうの沢山書きたいけどアイディアが……。だ、誰か私にリクエストかアイディアをお恵みを……。『こういうパターン見てみたい』とか『このキャラでこういうパターンを』とか、そういうので良いので……。


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よくわかるUMPシリーズの特徴講座 補講 『UMP45 UMP9 UMP40』

※現時点で未実装キャラのUMP40が居ます。中途半端なキャラ把握なので注意を。それが嫌な方はブラウザバックをお願いします

 

  ♦  ♦  ♦

 

 ……お久しぶりだね君たち。

 

 なぜかよくわからないけど、この講座が結構反響があったみたいでまた私が呼ばれたわけです。

 

 うん……。本当に楽しみにしてくれたみたいだね。拍手が前回の講習の時よりも迫力があるね……。

 

 言葉遣い丁寧なのはやめたんですか、って?

 

 程よく丁寧語使うぐらいがちょうどよく思えてきたんだよ。教えるべきことを教えるときは敬語を使うけど、それ以外は私語で行くから宜しく。

 

 というわけで今回もよろしく頼みます。講師は私、レン――いや、多分、みんな忘れると思うからいう意味がないかな?スライドに書いてあるからそれを覚えてください。これです。これ。

 

 えーと……。今回も質問タイムを多めにとりたいと思いますが、前回のような『教官は性的な被害にどれだけ合われたのですか?』という感じの質問をした生徒は、この講習の出席点をゼロにするから、覚悟するように。

 

 と、あいさつはここまで。今回私が教えるのは――はいやっぱりUMPシリーズ三人についてです。

 

 というか、私はあの三人以外は語れないですしね。

 

 うん?なんで戦術人形を体じゃなくて人と数えるのか?

 

 ……それは、君たちが戦術人形を指揮できるようになってから自ずとわかってくるよ。

 

 というわけで、今回もUMPシリーズについて語っていきます。

 

 前回、私は最後に接し方に気を付けるようにと語ったと思います。

 

 それは何故か?それは人間関係が悪化したときの様に悲劇的な事態が起こるからです。

 

 そして、私はそれを体験しました。鬼畜マッドサイエンティスト、ペ――とある研究者の実験に付き合う形で。

 

 簡単に言えば、誓約をした人形に莫大なストレスを与えること、彼女たちのメンタルモデルにどのような影響を及ぼすかの実験に付き合わされることになりました。具体的に言うと、彼女たちに誓約の破棄を迫ったわけです。

 

 ……ええ、私もやりたくなかったのですが、どうしても逆らうことが出来なかったので。

 

 皆には言い忘れてましたけど、私は『UMP45』、『UMP9』、『UMP40』の三人と誓約しております。多分、君たちは引っかかるものがあると思います。一人の夫に一人の妻と決められた世界で生きてきたと思いますから。

 

 なんで私が三人と誓約したかは今回は割愛します。質問タイムでも答えるつもりは無いから、覚えとくように。聞いてきたら、罰掃除をさせますので覚悟するように。

 

 というわけで、私が付き合うことになった実験を行った結果どうなったのか、ちゃんと研究者の方からも許可をもらったのでお話ししたいと思います。と言うよりも、それを話せと言われましたので。

 

 ……いつか絶対ペルシカさんにぎゃふんといわせなくては。

 

  ♦  ♦  ♦

 

  まず最初にUMP45がどんな反応をしたのかを言おうかと思います。

 

  はい、皆大好き『UMPの依存させてくる方』ですね。

 

  私は日替わりか、週代わり、まぁ、その彼女たちの気分次第で副官を交代させてるのですが、その時の副官が45だったわけです。

 

  それで、彼女に何気なく言いました。

 

「誓約を解消して欲しい」

 

  と。

 

  正面を切って言うべきでしょうが、心臓はもう飛び跳ねそうな勢いでしたし、口はもう縫い付けられたように動かなかったです。何気なく言わないと言葉として口に出なかったと思います。

 

  誓約を解消してくれと言われた45は

 

「ふ~ん」

 

  と、素っ気ない反応を返してきました。

 

  あれ?とは思いましたね。

 

  あまりにも素っ気ないので、私は彼女に飽きられたのかと思いましたね。

 

  ですが、私は一つの可能性にたどり着きました。それは、『冗談だと思われた』ということ。彼女は賢いので、これが何かしらの意図があっての行為だと思ってくれたのでは無いかって。

 

  ここで、これは実験のための嘘だと言えればよかったのですがね……。残念ながら、研究者には『絶対に大きな揺らぎがでる。具体的にいうと凄いリアクションを示す筈。それが表に出てくるまで、これが実験だと言ってはいけない』と念を押されてしまってまして……。言うことが出来なかったんですよ。

 

  でも、彼女からの反応はなかったんです。『もし反応がなかったときは、3日様子をみて欲しい。それでも反応が出なかったら中止していい』と言われました。

 

  その日はいつも通り仕事をして、終業を迎えてそれぞれの部屋に帰って、一日を終えました。

 

  45はあの言葉の裏にあるものを感じ取ったのか、それとも、本当に私に飽きてしまったのか。

 

  不安と緊張を胸になかなか寝れずにいて、気がついたら寝たような感じで翌朝を迎えると――体の芯から冷え込む感覚がして、目が覚めたんです。

 

  冷え込んで固まった筋肉を動かして起きてみると、そこは――簡単な寝具と簡易トイレしかない真っ暗で冷たい床の懲罰房だったんです。

 

「!?」

 

  飛び起きましたよ。それはそれは飛び起きますって。なんせ、身に覚えも、懲罰房に入れられる記憶もありません。

 

「目が覚めた?しきか~ん?」

 

  混乱の中にいると、懲罰房の外から甘ったるい声が聞こえたんです。微かに光が漏れる懲罰房の鉄の扉、その窓の部分に45が顔を出していたんです。

 

「45!なんでこんなことを!!」

 

  そう糺す私に45は首を傾げて、

 

「なんでって、指揮官がいけないんでしょ?私と誓約を解消しようって言うから」

 

  そう、心当たりを一つありました。それは某鬼畜研究員の実験について。

 

  45は扉の鍵を開けて入室してきました。入れ替わるようにして逃げようとも思いましたが、それを、彼女の心を傷つけたまま逃げようとする事が許せなかったのと、そもそも足に枷が付けられていて脱出は不可能でした。

 

「私ね……。他の誰からも嫌われても構わないんだ。私は、そういう存在だから」

 

  迫る45が私の頬に触れます。寂しげな儚げな表情を浮かべて。

 

「でもね。指揮官から嫌われるのだけは許せない!私の居場所を与えてくれた指揮官から嫌われるのだけは!!」

 

  かと思えば憤怒の形相を浮かべて、私の頬に爪を立ててきます。自分の中の怒りの感情を表すように。

 

「ようやく得た私の居場所!!それを奪うのは指揮官だって許せない」

 

  語気を荒くして興奮しきった様子の45がポケットから注射器を取り出します。あの針が凄く細くて痛くないタイプの奴です。でも、中に入ってる液体が、ケバケバしいピンク色をしてたのですよ。

 

「だから……指揮官。そんなことを考えないように、考えることが出来ないようにしてあげる。うふふ……」

 

  恍惚の笑みを浮かべて注射器を押し付けようとして来たのです。注射器の中身は知ってます。鉄血の研究施設で見つけた、ハニートラップ用の洗脳を目的とした危険な薬物です。

 

「う、嘘なんだ!これは!誓約は破棄しない本当だ!」

 

  限界だと判断した私は思わず白状しました。本心から。でも、これがいけなかったですね。言葉足らずでした。研究者から頼まれた実験なのだと言葉を足しておくべきでした。

 

「嘘……?ふふ、ふふふふ!あはははは!!!」

 

  嘘だと伝えられた45は口をぽかんと開けましたがらすぐさま笑いだします。えぇ、恐怖を感じる狂喜的なそれです。

 

「だったら……!尚更考えないようにしないといけないわ!!そんな嘘が二度とつけないように躾ないと!!」

 

  45が私を押し倒します。そして、息を荒くして私の首筋に注射器を押し当てて、万事休すかと思ったところで。

 

「指揮官!」

 

「45!何してるの!」

 

  9と40が救出しに来てくれました。

 

 

 

  ええ、これが45の反応ですね。

 

  ……凄く怖かったです。流石の『UMPの依存させてくる方』です……。

 

  ぶっちゃけると多分漏らしてました。45の迫真の表情が怖すぎて……。

 

  二人が助けに来なかったら今頃どうなってたか……。

 

  でも……45から愛されてるとわかって嬉しかったな……。普段はそんなそぶりを見せてくれないから……。

 

  余談を言うと、その日に16LABのサーバーがダウンしたそうです。

 

  なんででしょうね?

 

 

  ♦  ♦  ♦

 

 

  お次はUMP9です。

 

  45の時と同じように執務中に言ってみました。立ちながら、その日の書類を執務室で確認してるときに。

 

「誓約を破棄して欲しい」

 

  って。

 

  はい。このときの声、かなり震えてたと思います。それはそれは、45の時のことがフラッシュバックしてきましてね……。

 

  で、9が返した来た反応というのが、口を栗みたいに三角に開いた後に。

 

「へぇ~。指揮官、私との誓約を破棄したいんだ~」

 

  って、口ずさむように返答してきたんですよ。見かけ的にはショックを受けているように全く思えませんね。何処か楽しんでいるようにも見えますね。何処かからかうように。

 

「ふ~ん……」

 

  と思ってた時期が少しありました。その後、9は笑ったんですよ。

 

「そっか~」

 

  って、ゆるーく言いながら。

 

  そしたらですよ。次の瞬間、机に押し倒されてました。

 

  一瞬で私の視界から書類が消えて、天井を向いてたので、何が起こったのか訳がわからなかったんです。

 

  慌てて上半身を起こすと、そこにはニタリと理不尽な契約を突き付ける悪徳商人のように、悪どい笑みを浮かべる9が私の顔を覗きこんできたわけですよ。

 

「ねぇ、指揮官。私達は家族だよね?」

 

「そ、そうだな……」

 

  震える声帯をなんとかコントロールして言葉を発する私。設定を守るのなら、『もう家族じゃない』とキッパリと否定するべきなのでしょうけど、彼女に圧倒されてそんなこと言えません。

 

  もし言い返せるなら見てみたいです。

 

「んふふ~♪そうだよね~♪」

 

  可愛らしく鼻唄を奏でて上機嫌に喜ぶ9。その表情は凄く可愛らしいのですが、

 

「じゃあ、指揮官?」

 

「う、うん?」

 

  9は急に真顔になって、

 

「どうして家族に酷いことを言うの?」

 

  私の腹の底に響くような声で、抑揚の無い声で、彼女がそう言ってきたのです。

 

  9は私と鼻先がくっつくくらい顔を寄せると、抑揚の無い声で淡々と言ってきたんです。

 

「ねぇ、指揮官。指揮官と私は家族なんだよ?家族が家族を悲しませちゃダメだよね?」

 

  そう言うと9は私に口づけをしてきました。それもただの口づけではありません。ディープなダイヴなキスです。私の口の中を蹂躙するようなキスです。彼女の舌が滅茶苦茶に、怪獣のように暴れまわって、私の脳をシェイクするような、暴力的な深層映写なキスです。

 

  そんなキスをされたら透明な橋がかかりますよね?その橋を架けながら9は口を離したのです。

 

「見て、指揮官。これは家族の証だよ」

 

  多分、透明な橋の事でしょうね。それを9は家族の証と称したのでしょう。

 

「私と指揮官の繋がりだよ?それを指揮官は――」

 

  透明な橋が、崩れました。

 

「壊そうとするの?」

 

  まるで、私のことを支配するような低い声で、彼女は脅してきました。

 

  もう限界でした。見ての通り、もう十分メンタルモデルの揺らぎを計測できただろうと判断しました。だから、伝えました。

 

「う、嘘なんだ……!誓約破棄はしないから……!」

 

  そのまま、これは研究者に頼まれ(脅され)てやってることを白状しようとしました。45の時の反省を踏まえて。

 

  が、恐怖で怯んだ私では二の句が継げれませんでした。

 

「うそぉ?へぇ~、うそなんだ~♪」

 

  にこにこと微笑む9に若干の安心感を覚えました。色々と怖い面が目立つ9ですが、根は素直なので、わかってくれたのだと。話せばわかるという言葉は名言だと確信した瞬間です。

 

「いひひ~♥️」

 

  が、その確信は刹那で砕け散りました。何故なら9が口付けをしてきたからです。

 

  それだけでは私が絶望する理由がわからないかも知れませんが、この後続けてきた行動が重要です。

 

  彼女は唇に吸い付いてきました。ディープなアレではないですよ?ただただ、唇を吸ってきたんです。

 

  が、それが尋常ではありませんでした。私の唇が腫れるような勢いで、私のソウルを吸いとって亡者にするかの如き勢いで吸うのです。9が私の上唇に前歯を突き立てます。痛みで眉を歪めますが、私が痛みに歪む表情は9には見えてないことでしょう。傷つけた唇をまた吸って、満足したように口を離すと、私の血を口紅代わりにするように、自分の唇に馴染ませ始めたのです。

 

「じゃあ~、そんな嘘がつけなくなるように、しっかりと家族を教育しないと行けないね♥️」

 

「ひ、ヒェ……」

 

  私の口から出たのは、そんな悲鳴でした。

 

  その後記憶に残ってるのは、執務室にロックをかけた9が終業時間まで誰も入室出来ないようにしたここと、恍惚の表情で乱れる9と許しを乞う私の事だけですね。

 

  流石、『UMPの依存してくる方』でした。

 

  うん?45と40は助けに来なかったか?

 

  40は助けようとしてくれたみたいだけど、45に止められたみたいです。

 

  まぁその……因果応報だと思って受け止めました……。

 

  でも、9が私のことをあんなに愛してくれてたなんて嬉しい限りだったよ……。

 

  うん?どうかしたのかな?なんで、顔から血の気が引いてるんだ君達?

 

  どうして喜べてるんですか?器が大きすぎる?そんなこと無いと思うけどなぁ……。

 

  ちなみに、この数日後16LABへ着払いの形でジャガイモ500kgが届いたらしいぞ。ちゃんと注文元は16LABになってたから、大騒ぎになったらしい。何でだろうな?

 

 

  ♦  ♦  ♦

 

  さて、最後は『UMP40』です。そう、『UMPの依存したくなる方』です。

 

  二人の時と同じように執務中に言ってみました。その日の書類を立ちながら、執務室で確認してるときに。

 

「悪いんだが、私との誓約を破棄して欲しい」

 

  っといった感じに。

 

  ぶっちゃけ、もうやりたくなかったです。怖いし心が痛むし寿命を縮めるしで……。

 

  でも、やらざるを得ませんでした。やらないと40が――関係ない話なので省きます。質問タイムにこの事を聞いた人は、罰としてラビットタンクをやらせます。そう、あのMGと同じ重さのリュック背負ってうさぎ跳びするやつな?酷いことしたときの罰としてしかやらせないやつな?覚悟しておくように。

 

  話が逸れましたね。とにかく、私は40に誓約の破棄を言ってみたんです。それはもう、吐血するような勢いで。

 

 40がとった反応というのが、

 

「そっか~」

 

 というあっさりと軽く流すようなものでした。

 

 ……はい。嫌な予感がしますね。あの子を思い出しますね。そう、『UMPの依存させてくる方』です。

 

 続けて、

 

「ふ~ん。そっか~」

 

 って言うんです。

 

 …………はい、凄く嫌な予感がしますね。これは、あれです。『依存させてくる方』と『依存してくる方』のハイブリッドな反応です。

 

 私はこの瞬間に過呼吸を起こしそうでした。前の二人のアレが、トラウマというかPTSDと言うか……。とにかく、はい。怯えてました。

 

 それで、そのままビクビクとしたまま、肉食獣が通り過ぎるのを擬態しながら待つ小動物のような気分で待っていたのですが――何も起こりませんでした。

 

 ええ、そうです。全く何も起こらなかったのです。45の様に聞き流したように仕事を再開する事も無ければ、9の様に豹変した様子も無いんです。

 

 怖くて俯いてて40の顔を見れなかったのですが、勇気を出して顔を上げて見るとそこには――先程の私の様に俯いてるのです。

 

 そんな彼女の様子を見て、何も言えずに固まっていると、40の顎を伝う透明な一滴が。

 

「そっか~指揮官、あたいのこと必要無くなっちゃたか~」

 

 40がそう言いながら顔を上げたんです。涙を流して、くしゃくしゃになった顔で笑う40が、そこには居たんです。

 

「指揮官、あたいのこと、必要ないって言うんだね……」

 

 その言葉と共に顔を手で覆って泣き崩れる40。疑似感情モジュールの処理が限界に達したんだと思います。

 

 前回までの二人の反応が狂気的過ぎたので、暫し呆気にとられてたのですが、40の状態を見て、途端に、発作を起こしたように心臓が痛みを発しました。

 

 そう。普段は明朗快活に天真爛漫に振る舞う彼女ですが、彼女のバックグラウンドを知っていると、彼女の居場所を奪う様なこの行為は、絶対にやるべきでないのです。

 

「ごめんね指揮官……!あたい、そういう距離感とか上手くわからなくて……。あたい、迷惑かけてばっかりじゃ無かった……?」

 

 目元を真っ赤にして両手で必死に押さえて、擦って、涙を止めようと、それでも、私に迷惑をかけないように必死に笑って見せて明るく振る舞う40。

 

 限界でした。私はもうこれ以上、人間の我儘で彼女を傷つけたくありませんでした。

 

「本当にすまない40!誓約解消は嘘なんだ!これはIOP社にやれと依頼された事なんだ!」

 

 今回は恐怖心はありませんでした。ただただ、申し訳ない気持ちと、この胸の痛みを取り除きたくて必死で、必要な事を全て言いました。

 

「……えっ?」

 

 私の告白に、思わず泣くのをやめて驚きの表情を浮かべる彼女に今回の経緯を説明します。

 

 主に、鬼畜ケモ耳研究員にやれと命令されたのだと。

 

 その説明を聞き終えた40は、泣きじゃくられた顔をみられたのが恥ずかしいのとか、誓約の解消が嘘なのが嬉しいのと、騙された怒りが交わって顔を赤くして――

 

「指揮官!あたい怒ったからね!」

 

 最終的には頬を膨らませて怒ってしまいました……。

 

 おかげで暫くは口を聞いてくれませんでした。おのれペル――某研究員ッ!!!!!

 

 しかも最悪なことに、40の人脈はかなり広いです。それはもう、基地の皆と仲良しと言っていいくらいに。UMPの中では異端な社交性ですが、それが40の一番の魅力でしょう。

 

 話を戻します。それが、最悪の結果を生みだしました。具体的に言うと、基地の皆から『あの40を指揮官が泣かせた』、『40を悲しませた』と言ったうわさが色々な尾ひれがついて広まりました。

 

 しかも、このような事態に陥った顛末をしっている先の被害者である45と9から「サイテー」、「40姉を泣かせるなんてヒドイよ!」と糾弾される始末です。

 

 いや、確かに私が悪いんですけど、納得できるような、その……。

 

 とにかく、大変でした。

 

 ただ、その後は一週間は40に対して誠実に対応することで、何とか機嫌を直してもらいました。おかげで財布の中身が真っ黒になりましたが、40の心に染み入る様な溌剌な笑みが見れると思えばこの位何ともありません。

 

 流石、『UMPの依存したくなる方』。彼女の笑顔が見れるなら安い易い。

 

 でも、彼女の不安を煽る様な真似をしたのは本当に反省しないと……。あんなに不安を抱えてたなんてちょっと予想外だったんだ……。

 

 はぁ……40に甘えすぎてるのかも知れない。

 

 因みに40に誓約解消を伝えた数日後に16LABは大規模なクラックを仕掛けられて、一週間分の研究データが消去されると言う大損害を被ったそうな。

 

 データが入ってたディレクトリには『私はオマエのものでは無い』というメッセージが残されてたそうで。

 

 不幸が続いてるけど大丈夫かIOP社……。

 

 

 

 

  ♦  ♦  ♦

 

 

 ―――

 

 これにて今回の講義は終わりとします。

 

 はい、君は余計なことを質問したから宣言通り、罰掃除をして貰うよ。二階の廊下の窓ふきと雑巾がけ、朝と夜に一週間ね。

 

 後、そこの君はラビットタンクの刑だ。監視にはハイネ教官について貰うから覚悟して置け。

 

 人の話を聞かないのは勝手だし、覚えてないことは悪い事では無いが、警告したことを蒸し返すのは野暮だ。得られた情報を活かすことを指揮官には重要だ。よく覚えて置く様に。

 

 じゃあ、今度こそ最後だ。

 

 UMPシリーズは確かに人気だが、説明した通り扱いが難しい戦術人形だ。それをよく心得ておくように。

 

 

誓約を破棄したいと言うと、精神的に追い詰めてくるのが『UMPの依存させてくる方』、肉体的に追い詰めてくるのが『UMPの依存してくる方』、社会的に追い詰めてくるのが『UMPの依存したくなる方』。これだけは覚えて置くように!

 

 以上。善き指揮官と慣れるよう、努めてくれ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♦  ♦  ♦

 

 

 指揮官候補育成施設の廊下を歩み、彼の護衛を務める戦術人形達が待つ部屋へとわき目も振らずに向かった。

 

「ただいまー」

 

 気の抜けた挨拶をすると、中に居たUMP45、UMP9、UMP40の三人が緊張を解き、それぞれ柔和な笑みを浮かべる。

 

「おかえりなさい」

 

「おっかえりー!」

 

「おかえりー!」

 

 それぞれ座していた椅子から飛び上がるように立ち上がると、彼の元へと駆け寄る三人。

 

「今日は街でいいものを見つけたから」

 

「指揮官にあげようと思ったんだ!」

 

 9と40に促され、45が手に持った袋から街で見つけたプレゼントを取り出す。

 

「うんそれは?」

 

 彼女が取り出した、黒の短いベルトの様な物。

 

「チョーカー。指揮官、たまにはお洒落してみたらどうかなって」

 

「成程……」

 

 確かに指揮官は私物も少ない。普段から袖を通すのはグリフィン支給の制服ばかり。

 

 彼女達は結構お洒落だから、パートナーのオシャレにも気を遣うのだろう。

 

「着けて貰えるか?」

 

「もちろん♪」

 

 45は裏の無い笑顔で指揮官の首にチョーカーを着けてやる。

 

 チョーカーを装着された指揮官の首輪を見て、三人が思わず息を漏らす。

 

「おぉ!合ってるあってる!」

 

「いいね、指揮官!」

 

「うん。よく似合ってるよ」

 

 感嘆の声をあげる9。手を叩いて明朗な笑みを浮かべる40。満足したようにうんうんと頷く45。

 

「そうかな?」

 

 気恥ずかしそうに頬を掻く指揮官に、賛美の言葉を贈る三人。

 

 三人は指揮官へと贈ったチョーカーにある『5・0・9's』とある銀の刺繍を見て、満足そうに――どこか狂気的に――姉妹らしいよく似た笑みをうかべるのであった。




 これで講座はネタ切れです……。まだ読みたい方は誰かアイディアかリクエストをか活動報告に……。

追記

因みにペルなんとかケモミミマッドサイエンティストの依頼を渋々引き受けた理由は、『受けないと40がどうなってもいいのか?』と恐喝されたからです。彼女の経緯は概ね『何処にも行かないで 寄り添って』と同じなのです。

40の後に16LABに残ってたメッセージは『私はオマエのものではない』。果たしてどういう意味だったのでしょうかねぇ……?


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