ソードアート・オンライン ~時幻の体現者~ (☆さくらもち♪)
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始まる世界へ

久々の投稿と共に新作です。
案の定不定期更新なので期待は・・・。
とりあえず完走というか一期分のストーリーぐらいはやり遂げたいですね。
では、どうぞ。


人生、生きていれば意外な事に出会ったりする。

 

例えば・・・。

人の生死に関わったり。

難病を完治させる万能薬を作り出したり。

 

例えば・・・。

世界を遡行どころか、異なる世界へ行ったり。

 

 

 

最初は妙だとは思っていた。

自分の思考が他人とは違うと。

何故自分と他人の時間の感じ方が大きく異なるのだろうと。

『時間操作』と言えばファンタジー的に聞こえるが、実際に体験すれば恐怖や畏怖を抱く。

時間というのは言葉の通り時間を操作して自分と他人との時間を変える。

自分自身が早くなったり、遅くなったり。

そしてもう一つは。

()()というのは()()と密接な関係といえる。

その原理は話すと長いが、要は空間もある程度は操作できる。

 

そんな人生を歩んでいたからか、物事を客観的にとらえることが多くなった。

時間操作にも大きく関係してか、身体の成長も幼い状態で止まったきり。

世間的には小学生五年生ぐらいだろう。

自分の容姿も面倒だからと整えていないために、無造作に伸びた長い白髪。

目は緑眼と言えるだろう。

だが深緑で、自分でも見ていて落ち着いたりする色合い。

 

「もうすぐ、かぁ」

 

生きる年月が長くなれば長くなるほど、平和的な思考になった気がしなくもない。

だが一番心踊る出来事がもうすぐやってくる。

 

「機材、よし。環境、よし」

 

今いる世界・・・というより偶然という奇跡で飛ばされた異なる世界。

どうやら元の世界とは違うようで、世界線が違う。

こっちの世界の方が大きく科学が進んでいた。

僕が今被っているヘルメットのような機材。

『ナーヴギア』と呼ばれるもので、今世間を賑わせている期待の科学結晶。

仮想空間と呼ばれるものがあり、ナーヴギアはそれにアクセスするための機器。

頭から出される信号をナーヴギアが拾う形で人間の意識を仮想空間へと飛ばす。

 

「2022年、11月、6日。僕は今からゲームの世界へと飛び出します・・・っと」

 

中々にナーヴギアが重いも動かせるので、書き忘れていた日記にそう書き残す。

これをしていないと何となくもやもやした感じはある。

サービス開始時刻を告げる時計の音が鳴ると、ナーヴギアへと意識を移していく。

 

「・・・リンク・スタート!」

 

世界中で一万人が手にできたゲーム『ソードアート・オンライン』。

少年らしいといえば、少年らしいだろう。

だが手を貸せと言われ協力して作り上げたゲーム。

心踊るのは仕方ないだろう。

僕だって遊ぶのは好きだ。

それが現実世界にまで影響を及ぼすゲームだとしても。

僕にその責任を求めようが気にならない。

このゲームで僕が死んだら、関係ないだけだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベータテストどころか、なんどもデバッグでプレイはしていたのでアカウントは持ち合わせている。

僕のアカウントはそこそこの権限・・・があるが、それに甘えるのはゲーム好きとしてはダメだろう。

それでも使っていた武具に愛着はあるので、しばらくは封印しておこう。

 

「名前・・・」

 

デバッグ時には名前なんてなくても困らなかった。

だがこれは正式リリース。

考えなければ。

自分の名前をそのまま使えば良いかという安直な考えになり、入力する。

 

「名前は『Kyo』っと」

 

プレイヤー設定などは適当に。

どうせあの科学者がイベントで何か起こす。

わざわざデスゲームと告げて来るぐらいだ。

現実世界にどれほど近くするのか予想は出来る。

設定も全て終えると、『Welcome to Sword Art Online』と告げられ光の粒子に飲まれる。

気がつくと大きな街の真ん中へと飛ばれた。

 

「・・・なんか久々だなあ」

 

デバッグ、ベータテストと入っているが感慨深いものはある。

とりあえず早速街から出るために武具屋で初期武器を買う。

 

「ねぇー、そこの君ー!」

 

すると遠くから自分を呼ぶ声がする。

目を向けると紫紺と言える髪で、紅い眼を持つ少女がこちらに向かって走って来ていた。

見たところ初心者感がする。

 

「凄く手慣れた感じだね?」

 

「ん、まあね」

 

「ボクこのゲーム初めてだから教えてもらってもいいかな?」

 

初心者がこのゲームを触るのは酷な気がするがそれはそれ。

この少女に教えるのはどうしようか。

あまり関わりすぎるとこっちの事がばれる可能性がある。

だからといって冷たく返すのはなにか違う。

 

「ん・・・まあいいよ」

 

「ホント!?やったー!」

 

ボクは『ユウキ』ね、と教えてくれた少女。

中身は確実に男ではないと分かる。

反応や仕草、会話、歩き方で察した。

少女にもとりあえずでオーソドックスな片手剣を教えることで進むと、早速街の外へと足を進めた。

 

 

 



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無慈悲な宣告を

フィールドに出て数時間。

教えていた少女の動きに無駄が無くなって来ていた。

恐らくこういった身体を動かす才能に天性があるのだろう。

天は一物を与えるというがまさにその通り・・・。

 

「はっ!とおっ!」

 

このあたりで一番弱いモンスターだろうと、その育っていく技術には目を見張るものがある。

 

「・・・ふうん」

 

だがそれ以上にこの仮想世界に対する適性もあるのだろう。

全員が全員に仮想空間へと行けるわけではない。

彼女や僕のような人間は最高と言っていい適性だが、一部には仮想空間に一切飛べない人物もいる。

こればかりは個々の適性なのでどうとも出来ない。

 

「ふー・・・つっかれたぁー」

 

そういいながら汗を拭う仕草。

このSAOではかなりの試行錯誤、デバッグを重ねて実現したものがある。

それが現実世界との違和感。

これはかなり近づけており、あの科学者をも悩ませた問題で、担当は僕がした。

それまではずっと手を付けれなかったそうだが、やはり()()()()()()()という謳い文句もある。

味覚、視覚、触覚、嗅覚、痛覚。

この五感の中で再現率はかなり低くしたのが痛覚だ。

人間生きていると痛みに対する耐性は少ない。

SAOの世界はモンスターとの戦闘も当然あるために自分自身が吹き飛ばされたりするのは良くある。

それに現実性を近付けて痛覚などを入れれば、痛みの恐怖で楽しく遊べないだろう。

そのため、痛覚を除いた四感がSAOの世界に実装されている。

 

「ねー、キョウ」

 

「なに?」

 

「このゲームってパーティーがあるって言ったよね?」

 

「ん、まあ」

 

パーティーとは、数人のプレイヤーが協力的関係になるシステム。

戦闘勝利した際に得られる経験値・資金の分配を自動的に割り振れる機能と、パーティーメンバーの居場所が分かるなど色々機能はある。

HPもあるので、MMORPGの分類になるこのゲームにおいてはかなり重要だろう。

 

「ならさっ、ボクと組まない?」

 

だが、気をつけるのは異性で組むパーティー。

こればかりはお互いの信頼関係などがあるので容易くは組めない。

SAOには、男性が女性の身体に数秒以上触ると警告画面が表示される。

これだけならば良いのだが、女性側にだけ見えるように表示される牢獄送りの画面があるため、セクハラといった行為は出来ない。

なので僕にその危険性を捨ててでもユウキと組む理由がない。

正直ソロ活動出来るほどには実力はあるつもりだ。

 

「理由は?」

 

「んー・・・特にはないよ?ただソロより安全になるかなって」

 

「・・・好きにしたら」

 

気まぐれで呟いた一言。

バッチリ少女に聞こえていたようで、嬉しいのか笑顔になっていた。

だが僕の今のアバターはかなり適当に作っている。

時間は16時30分。

 

「・・・もうすぐ、か」

 

「ふぇ?」

 

時間ピッタリと言わんばかりに、大きな鐘の音が鳴り響く。

それがトリガーとなり僕の身体が淡く光った。

 

「転移か」

 

転移された先はログインしたときにみた始まりの街の中心街。

大きな噴水があり、先のフィールドにいてもなお聞こえた鐘はここでも聞こえていた。

辺りを見渡してもさっきみた少女はいない。

転移先ではぐれたのだろう。

 

「さすが、というべきか」

 

恐らくこの後に続く内容は予想できる。

急な転移に他のプレイヤーは説明を求めているのか、空に向かって喋っている。

すると空が急に真っ赤に染まっていく。

システムアナウンスメントのパネルが覆い尽くし、その隙間から液体がどろっと垂れて来る。

 

「こりゃ、また大層な」

 

苦笑しながらも、協力関係だった科学者を思い出す。

 

『私の世界へようこそ』

 

確かに彼の世界だろう。

その想像、理論全て構築している。

 

『私の名前は『茅場晶彦』。このゲームにおいてのゲームマスターだ』

 

唯一とは言わない辺り食えない相手だ。

彼がゲームマスターではあるも、その絶対的権限は唯一人ではなく僕にもそれはある。

 

『突然の転移だったろう。しかしお気づきになられた人も多いはずだ』

 

『システムメニューの一番下にある設定の中にあるログアウトボタンが失くなっている事に』

 

一応確認はするも、僕には当然のように存在していた。

《Log out》と表示されているボタン。

元の世界に戻る気はないので押しはしない。

 

『だがこれは不具合などではない。繰り返し言おう。これは不具合ではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である』

 

これに関しては伝えられていた。

茅場本人からこのゲームの設計コンセプトを。

ゲームという遊び感覚ではなく、現実のような実感を得るための手段。

 

『そしてこの世界から出るための唯一の手段。それはアインクラッド最上階《第百層》にいるボスの撃破となり、それ以外の脱出方法は一切存在しないだろう』

 

ベータテスト実施時にはろくに階層攻略が出来なかったこのSAO。

その頂点の難易度を誇る最上階の攻略をもってゲームクリアとする。

無駄に内容や装飾など色々凝らされたものだ。

 

『もし諸君らのHPが0になり、ゲームオーバーとなった瞬間、システムによりアバターは即座に削除され、そしてナーヴギアから発せられる電磁パルスによって諸君らの脳は()()される』

 

電磁パルスは簡単にいえば電子レンジといえば分かるだろう。

人間の脳を電子レンジで温めているような感じ。

脳の限界温度はおおよそ42度。

電子レンジは100度ぐらいまで温めれるので簡単に破壊が出来てしまう。

 

『また、外部からの接触も有り得ない。私の警告を無視したログアウト方法・・・外部からのナーヴギアの取り外しを行い、このSAO及び現実世界からも退出している』

 

その説明を裏付ける現実世界での報道画面。

それによって報道されている内容はSAOをプレイし実際に死んだ事が報道されていた。

家族や身内がナーヴギアを強制的に取って死亡しているのも見える。

だが、どこにもネットワークによる死亡はない。

これはネットワーク切断の時間が1時間を経過すると信号が発信されて電磁パルスが出るが、大体は1時間以内に再接続されるためだ。

恐らく政府はこの報道後に現実世界のSAOプレイヤーを病院に運ぶために準備をしている頃だろう。

 

『さて、諸君らはこう考え思っていることだろう。何故と』

 

『何故、天才科学者である茅場晶彦はこのようなことを起こしたのか』

 

最もな疑問。

巻き込まれた側からすればたまったものではないし、関わりたくもないデスゲームに巻き込まれたのだから。

 

『私も何故かと何度も問い、そして導き出した。私が創造したのは()()()()()()()。この世界を創造し諸君らが入り込んだ時点で私の願いは達成された』

 

「はた迷惑な願いだことで」

 

僕の呟いた一言は大混乱に陥ったプレイヤー達には聞こえていない。

それでも、迷惑とは思ったがそれを否定はしない。

異なる世界線とはいえ一度はその奇跡を垣間見て体験した。

この仮想世界はまさに現実世界とは全く違う異世界だろう。

 

『では私からだが、諸君らにささやかながらもプレゼントを贈らせていただこう。確認して見てほしい』

 

そう、これだ。

これこそ僕がアバター設定を適当にした理由。

アイテムからプレゼントを見ると中にしっかり入っていた。

名前はシンプルに『手鏡』。

タッチして具現化させるとよくあるような丸みのある長方形ほどの手鏡が出る。

その鏡面には僕の適当に設定したアバターの顔。

だが、そんな程度の効果じゃない。

 

「うわっ!」

 

「きゃあぁっ!」

 

悲鳴が聞こえたプレイヤーを見やる前に僕が持つ手鏡から僕自身を包むほど淡い光が溢れ出す。

それが無くなり止まると手鏡に写るのは設定した顔じゃない。

 

「ん・・・」

 

目線は低く、視界には見慣れた白髪の前髪。

背中には髪の感触がした。

そして極めつけは鏡に写る深緑の瞳。

現実世界の顔そのものの表現。

ナーヴギアによって完全に頭を包み込んでいるからこそ可能にしたもの。

 

「・・・やっぱり切れば良かったなあ」

 

垂れて来る前髪が邪魔に思うものの結局切るのが面倒だったからと放っておいたが、これが分かっているのだからそれぐらいはすれば良かったか。

 

『それではこれにてソードアート・オンライン正式リリース及びチュートリアルを終了する』

 

無機質にそう告げると形はぐちゃぐちゃになり、消え去っていく。

システムアナウンスメントのパネルは消えていた。

 

「・・・んじゃ、行くか」

 

アイテムからローブを装備する。

これで印象に残りやすい白髪は隠せる。

身長ばかりはどうしようもないし、眼も同様だがこれだけでも大きく変わる。

 

「そういえば・・・あの子・・・一応探すだけ探すか・・・」

 

街を出る前に一度面倒を見た相手だ。

それぐらいは許されるだろう。

あの容姿から変わっていると仮定しても、見つけれるか怪しいがそれでも探すだけ探そう。

パーティーを組む前に転移が始まったから場所が全然検討もつかない。

人の集まりから移動して適当に探すと微かに泣き声が聞こえた。

 

「ん・・・あっちかな」

 

声がする方向へ進むと暗闇の中、声を押し殺すように泣く少女の姿があった。

その容姿は紫紺の髪の毛を持ち、身長も中学生ほど。

さっき転移前にみたユウキと似通っていた。

 

「ユウキ?」

 

「ん、ぇ」

 

大きな涙の粒を貯めながらも僕の方へ顔をあげた。

紅色の瞳に名前で反応している辺り本人か。

 

「泣いてるんだね」

 

「だって・・・帰れないんだよ?」

 

「それもそうか」

 

ユウキの隣に座り込んで泣き続けるユウキの背中を優しく叩く。

無理に変な事を言わなくても良いだろう。

それほどまで信頼を取れているわけでもないし、こればかりは本人次第。

まぁまさかこんな美少女とは思わなかったけど、これも役得。

 

「はぁ・・・」

 

数分ほどだろう。

落ち着いてきたのか、泣き啜る音もせず小さなため息が聞こえた。

その発生源はユウキからのもの。

 

「これからボク達どうなっちゃうんだろ」

 

「どうなる・・・ね。どうともなるとは思ってる」

 

「そう、なの・・・?」

 

不安そうに見てくるユウキ。

さっきまで泣いてたからか、目許は赤い。

だけどまだ目は潤んでる感じがあってちょっと見続けるのは毒になりそう。

 

「そうだね・・・ユウキはどうしたい?」

 

「ボクは・・・」

 

「この世界で死んだら現実世界でも死ぬ。それが嫌ならこの街に引き篭れば死ぬ事はないよ」

 

出来るだけ、明るい声でそう告げた。

 

「まあ・・・僕はここにはいるつもりはないけどね」

 

「死んじゃうのに?」

 

「ずっと引き篭る事は僕には合わないよ。現実でも変化がない毎日は楽しくないから」

 

つまらない人生を歩んでいるつもりはない。

自分が楽しいと思える人生を歩みたい。

それが出来ないなら死んでいる方がよっぽど良い。

時間操作なんていう大層なものがあっても。

 

「そうだねえ・・・ユウキはこの世界で生きる意味を見出だすといいよ。それが出来ない人間は長くないだろうからね」

 

僕はそうユウキへ告げると彼女から立ち去った。

泣き止んでいる様子だったし、あれだけヒントをあげれば自ずと立ち上がれるだろうから。

 

「さて・・・動きますか」

 

目指すは次の街。

そこへたどり着くまで休憩は無しだ。

 

 



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攻略会議

完全原作ではないので、多少なりとも違うところはありますが作者クオリティということで。
というよりも原作の記憶はそこまでなくてにわか知識みたいなもので書いてます。


ソードアート・オンラインが正式始動してはや一ヶ月ほどが経過しようとしていた。

未だ第一層の攻略は叶わず、迷宮区の最深部であるボス部屋すら見つかっていないというのが現状。

僕はその場所を見つけているけれど迷宮区の攻略にはそんなに参加していない。

ソロ活動でずっとレベリングしているだけ。

 

「よいっしょっ!」

 

素早く剣を薙ぎ払い僕に集まってくるモンスターを一掃する。

単純なテクニックでSAO特有のソードスキルを使っていない簡単な物だけれど効果は充分といえる。

 

「こんだけ上がれば良いか」

 

第一層のレベリングスポットでひたすら上げている日々。

徹夜してでもやっているときもあったけれど活動自体に不調はないので気にはならない。

恐らく大体のプレイヤーは10~15ほどだろう。

かなり上げている者は20弱。

僕のレベルは22。

これ以上のレベリングはこの階層では見込めない。

経験値効率が悪すぎて17辺りから殆ど得れない。

足早に街へと戻り、ベンチで寛ぐ事にした。

 

「・・・ん」

 

その戻る最中。

誰かに付けられているような感じがあった。

《隠蔽》スキルを使ったのだろうが、微かに吐息や視線を感じる。

それにシステム的な気配は消えてもプレイヤー本来がだしている物理的な気配が残っていた。

 

「まぁいいか」

 

しかし問題にはならない。

SAOで自身より高いレベルの相手に喧嘩を売るような人物はそうそういない。

特に対人戦などをやるならば相手の事を調べてから挑むのは当然といえる。

このSAOには《情報屋》と呼ばれるプレイヤーがおり、金さえ払えば様々なことを教えてくれる。

金額次第では個人的な依頼を頼むことすら可能だ。

僕の事を知りたがる相手をまず作った覚えがないので気にはなれれど、街にさっさと入れば問題無し。

街に入ると《決闘》以外ではプレイヤーのHPを0には出来ないので安全圏内になっている。

モンスターも街の門にいるNPCが倒すため危険性も少ない。

 

「・・・なんかやってるな」

 

今目前に見えはじめた街《トールバーナ》では今日に第一層ボス攻略会議があったはず。

その集まりだろうか。

 

「一応入っておこう」

 

歩きながら深呼吸をつく。

自分自身の存在感は希薄になるように。

足音を消し、呼吸を押し殺す。

暗殺者が行う気配遮断方法。

SAOでも問題なく使える。

そのまま一気に付けて来ているプレイヤーを撒いて攻略会議に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

攻略会議に入ると真ん中のホールで一人の青年が大々的に攻略手順などを事細かに説明していた。

彼が手にしているのは第一層の宿屋で無料配布されているガイドブック。

僕も知人に無理矢理渡されたので持ってはいる。

 

「では、ボス攻略に向けてパーティーを組もう!」

 

「・・・マジか」

 

ソロ活動している僕にパーティーなどない。

脳裏に彼女の姿が過ぎったが今はいい。

 

「少し良いか?」

 

どうしようかと考えていたら僕に向かって声をかけてくるプレイヤー。

 

「なんですか?」

 

まあローブで髪を隠してはいるし、身長的に相手のが圧倒的に高い。

敬語で喋っておいて損はないはず。

 

「あー、そのー、パーティー組まないか?人数足りないんだ」

 

「・・・いいですよ」

 

「助かる」

 

即座にパーティー申請が来た辺りこういうのは慣れている感じか。

というよりもベータテスターか。

視線だけ左上に動かすとパーティーメンバーが表示される。

《Kyo》《Kirito》《Klain》《Asuna》《Yuuki》。

名前から女性二人男性二人か。

最後の名前は・・・多分、そうだよね。

使ってる武器によるから一概にバランスの良いパーティーとは断言も出来ない・・・か。

 

「あと何人かいるんだけど終わってから紹介するよ」

 

「分かりました。僕はキョウと言います」

 

「俺はキリト。向こうのフード被ってる人がアスナ」

 

そういいながらキリトは目線を送る。

その先を見ると確かにフードを被ったプレイヤーがいた。

体つきは細く見えるけれど顔はフードで全く見えない。

目線も俯いているのか表情も見えなかった。

 

「悪い奴じゃないんだが・・・まあよろしく頼む」

 

「はい」

 

他のプレイヤーも大体纏まったのか塊になっているところもある。

それが合図となり青年がまた客席を見る。

 

「よし、みんな組めたみたいだ!明日攻略するボスに向けて今日はかいさ・・・」

 

「ちょっとまちやああああ!!」

 

そう言い終えようとした青年を大声で止める声が聞こえた。

最段上から一気に飛び降りて青年の前へと踊り出るプレイヤー。

 

「ちょいと待ちんや、ディアベルはん」

 

「キバオウさん?どうかしましたか?」

 

どうやら待ったをかけたのはキバオウというらしい。

僕も人の事は言えないけれど背が低いように思う。

 

「ディアベルはん、今日集まったプレイヤーの中におるはずや!」

 

「おるはず・・・?」

 

「そうや!こん中に意地汚いベータテスターがな!」

 

「ちょ、ちょっとキバオウさん。それはどういうことだい?」

 

「あんのゲームマスターが宣言したあの日!おったはずやで。何をすれば良いのかわからなくなったビギナーらを置いて、我先にと違う街へ出たベータ上がりが!」

 

確かにいた。

僕もまあその一員だし。

ユウキを慰めて街を出た時にも何人か見た。

全員が全員ベータテスターではないだろうが、大パニックになり混乱するビギナーを置いていった事は事実だろう。

慰めるだけ慰めて立ち去った僕もまた同罪だ。

だが、無性に気に食わない。

 

「うざっ」

 

「・・・誰や。誰や!今、確かに聞こえたで!」

 

アイテムからストレージ内に入っている使っていない片手剣を出すと勢いよくキバオウの目の前に投げた。

地面に突き刺さらなかったが、その衝撃はエフェクトとなり大きな音を出すには充分。

 

「ベータ上がりだから何?」

 

「キョウ?何を」

 

何が起こっているのか分からないプレイヤー共はどうでもいい。

ただ、キバオウが言った一言は気に食わなかった。

 

「何や!ガキは大人しくしとけや!」

 

そうやって自分より優位に立てると思っている思考。

それこそが気に食わなかった。

 

「ベータテスターは当たるのが奇跡な当選に当たった。それは正当な報酬でもあり、文句を言われる筋合いはないよ」

 

「親しい仲でもないのに他人を救う人がこの世界に限らず現実世界でどれだけいるか考えてみれば良いよ」

 

平和的な考えをするようにはなったとは思っていた。

どうやらまだまだ僕は子供だったらしい。

肉体に精神が引っ張られているのだろうか。

子供らしい思考も幾つかあったと思う。

 

「・・・ふんっ!」

 

どうやら何を言っても言い負けると思ったのか静かになり席に座った。

不機嫌そうな表情だが。

 

「・・・少しトラブルはあったものの、みんなパーティーは組めたと思う。今日はこれで解散にして明日に備えよう」

 

乱入者による全体意識の乱れを纏める辺り、リーダーの素質はあるんだろう。

だがそれは永続せず、一時的なもの。

短期で統率することに特化している。

会議も終わったし、宿で適当に過ごそうと場を離れようとする。

 

「待ってくれ!」

 

「・・・なんでしょうか」

 

そんな僕を止めたのは先の司会者。

確かディアベルだったか。

 

「キバオウさんのあれはすまない。俺からも言っておく。だがあの場を修めてくれた事は感謝したい」

 

「・・・そうですか」

 

「ああ。ありがとう。そしてまた明日の攻略で」

 

そういいながらあの時投げた剣を律儀に返してくれた。

存外にもいい人らしい。

 

「・・・お風呂入る、か」

 

久々にお風呂に入りたくなった。

お風呂付きの宿屋は表通りにはなく、隠れるように存在する知る人は知る宿に大体ある。

 

「キョウ。さっきの・・・」

 

「気に食わなかっただけなので。気にしないでください」

 

「・・・そうか」

 

「ええ。僕は今から宿屋に行きますが・・・そちらは?」

 

「俺らもそうするよ。メンバー全員の自己紹介も終わっていない事だしな」

 

「じゃあ今から言う宿屋に僕は泊まるので。行ける人はそこに」

 

「分かった。ありがとう」

 

キリトと別れると件の宿屋に到着する。

他の宿屋より少し金額は高いものの、この宿屋は良いところだ。

宿泊室の事を聞くのを忘れていたのでチェックインは取れないけどここが埋まることはそうそうない。

知っている人が少ないのと、宿代が高くなってまでお風呂に入りたいプレイヤーが少ない。

女性プレイヤーはそのかぎりではないが。

 

「まだ来る感じはしなさそうだし、休憩しとこう」

 

《索敵》スキルの設定で一定距離内に何かが入ると警報音が鳴るようにすると、僕は少しだけ意識を落とした。

 

 

 



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突破為すための大戦

夢を見た。

いつの記憶だろう。

桜の並木道を歩く僕と隣に立って歩く大人の女性。

 

「ーーーーー?」

 

何か喋っているのが分かる。

だけど女性の顔はぼんやりしていて。

内容は分からない。

 

「ーーー!」

 

夢の中の僕は勝手に動いていく。

誰かに呼ばれたのか、その方向へ振り向くと特徴的な少女が僕に手を振る。

その少女は見たことがあって。

年上ぶるけれどどこか抜けている彼女。

そんな彼女の事が僕は好きだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しだけ眠っただけで結構で身体が軽くなった感がある。

懐かしいというよりあまり覚えていない光景の記憶だったけれどあの少女は誰だったんだろう。

どこか見たことがあるのに思い出せない。

 

「・・・はぁ」

 

思い出したい記憶ほど無理に探ると余計に思い出せなくなる。

そのうち分かることだろうから気にしない。

 

「・・・ん」

 

マップを見れば数人ほどの集団がこっちに向かって来ていた。

プレイヤーアイコンから見てパーティーメンバーのようだ。

 

「悪い!遅くなった」

 

「いいえ、気にしてないですよ。宿はまだ取ってませんが・・・」

 

「あー・・・すまん。言ってなかったな」

 

キリトから内訳を聞いて宿を簡単に取っておく。

宿代は後払いにしておいたので各々が払えるだろう。

 

「んじゃ、メンバー全員の顔合わせをしよう。俺はキリト」

 

その次、座っているキリトの隣に立つ大人の男性。

どちらかと言えば武士面に感じる。

 

「俺ぁクライン。大きなゲームはこれが初めてでよ、まぁよろしく頼むわ」

 

「んじゃ次はボクね!ボクはユウキだよ。クラインさんと同じで大きなゲームはこれが初めてなんだ」

 

「・・・アスナ。よろしく」

 

アスナの馴れ合うつもりがないのがはっきり分かる事にみな苦笑していた。

まぁこんなゲームに余裕を持っている人のが少なめなのかもしれない。

 

「僕はキョウといいます。とは言っても他に自慢できるような物はないですが・・・」

 

「とりあえずみんな合わせは終わったから、こっからは自由行動にしよう。明日はボス攻略だけど打ち合わせは明日に持ち込み・・・で」

 

「ああ、いいぜ」

 

「部屋割はどうするの?」

 

「二人部屋二つ取ってるので。鍵は渡しておきますね」

 

キリトとアスナに鍵を渡しておく。

すると疑問に思ったのかクラインが鍵を見つめたまま口を開いた。

 

「ん?キョウの部屋ってどこなんだ?」

 

「僕は一人部屋がいいので・・・。それに少し外に出たいので」

 

こればかりは譲れない。

寝る部屋に誰かがいると全然寝れない。

昔からずっと、そうだった。

 

「ふーん・・・。そっか」

 

「はい。じゃ僕外に出るので。お先に」

 

「ああ。気をつけな」

 

宿屋を後にして適当に歩いてベンチで寛ぐ。

すると背後に誰かが立っていた。

 

「・・・なんか用」

 

「用がなければいちゃダメなのカ?」

 

「まあ良いけど」

 

「そうカ」

 

相手は僕も知る人物。

SAOで信用に値するプレイヤー。

情報屋の『アルゴ』。

ベータテスターでもあり、多くのSAOプレイヤーからも信頼される情報屋でガイドブックの製作者でもあったりする。

 

「ん・・・く・・・」

 

のんびり体を伸ばしながら夜の風景でゆっくりするのが普段からの日課になっていた。

時間さえ合えばこうしてアルゴと一緒に寛ぐ。

会話こそ少ないがそれで充分。

 

「今日は珍しい事もあるものだナ」

 

「・・・そう」

 

珍しいというのは僕のパーティー加入だろう。

成り行きで入ったが普段から入っていない。

リリース日のユウキの誘いはあったが結局組まず仕舞いだった。

 

「・・・戻る」

 

「そうカ」

 

「おやすみ」

 

アルゴもいつの間にか居なくなっていた。

年齢不詳、性別女性。

不思議なプレイヤーだけど嫌悪感はない。

恋愛感情はないけれどいざという時頼れる人ではある。

 

「帰ろっと」

 

泊まる宿屋に帰るとすぐにチェックインを済ませて一人部屋を取る。

部屋に入って扉に鍵をかけるとベッドに倒れ込む。

明日はボス攻略。

久々にちゃんと寝ておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無機質なアラーム音が聞こえる。

どうやら時間らしい。

目を開けると日の光が部屋を明るくしていた。

 

「んぁ・・・」

 

今日のボス攻略は昼に開始される。

それまでに全員集合なのでそれまでは自由時間。

これ以上ベッドに転がって居ても寝れると思えないから適当に暇を潰す事にしよう。

部屋を出るとキリト達は下の階にいるようで朝ご飯を食べているようだ。

 

「おはようございます」

 

「ん、おはよう」

 

みんな起きていたようで食べながら攻略の打ち合わせをしていた。

僕もパーティーメンバーだし聞いておかないと。

 

「キョウも起きてきたことだしよ、早速始めようぜ」

 

「そうだな。キョウは今日のボスについてどこまで知ってる?」

 

「そうですね・・・」

 

あまり答えすぎると知りすぎている情報を出しかねない。

正直偵察してきたといえばそれで通りそうだけれど。

面倒だしそれでいざという時押そう。

 

「ボスと取り巻きがいて、僕達は取り巻き処理担当でしたよね」

 

「そうなんだが、その取り巻きが終わり次第ボス隊と合流するんだ」

 

「分かりました」

 

「その取り巻きなんだが・・・これについてはまだ言ってないからちょうど良い。取り巻きの名前はセンチネルといって、こいつは鎧を着ていて倒しづらいんだ。これはアスナにやってもらいたい」

 

「・・・私が?」

 

「ああ。アスナの武器は細剣だろ?それでセンチネルの鎧の隙間を狙ってほしい」

 

確か鎧通しという技術。

現実世界でも戦の時代において使われた戦闘技術だったはず。

堅牢な守りを持つ鎧にも弱点はあり、それは鎧と鎧の隙間。

稼動性を考えると必要になるが、その部分は隙間になるのでそこに剣を差し込めばダメージを与えられる。

センチネルも確かに隙間はあるので可能だ。

 

「自分もセンチネル処理に回ります。アスナさんだけじゃ処理仕切れないと思うので」

 

「分かった。基本的にはセンチネル処理に追われてボスにはあまり加勢出来ないが・・・仕方ない」

 

「仕方ねぇよ、こればかりはやる奴らがやらねぇと」

 

クラインの言う通りだ。

これはやる人がいないとダメな役割で必要になる。

正直ボスはやろうと思えばソロでいけなくもないが取り巻きでかなりジリ貧になる。

出番が無ければ良いけどね。

 

「んじゃ、もうすぐ時間になるから行こうか」

 

打ち合わせも終わり、宿屋を出ると件の迷宮区へと入っていく。

どうやら向かっていったパーティーによる掃討でモンスターの出現がなくなっているので特に危なげもなく集団場所へ着けた。

集団時間には攻略メンバーは集まり終えて準備を整えるものが沢山。

 

「さて、みんな!今日は第一層のボス攻略となる!」

 

ディアベルが今回の攻略リーダー。

ボス隊も彼が担当するパーティーのはずだ。

 

「今日こそは第一層を突破し、街で待っているみんなに吉報を伝えるためにも!今日は勝とう!」

 

彼の台詞は士気を上げるのには充分といえる。

短期的な統率力は素晴らしいといえるほどの才能。

 

「じゃあ・・・行くぞ!」

 

ディアベルがボスの扉を開くとその奥には大きな巨体が待ち構えていた。

第一層ボス《イルファング・ザ・コボルド・ロード》。

その取り巻き《ルイン・コボルド・センチネル》。

 

『Gyaaaaaaaaa!!』

 

ボス部屋全体に響くコボルドの王の咆哮。

そして現れる無数のセンチネル。

 

「全員、突撃ー!!」

 

ボス攻略戦が始まった。

予定していたボス隊とセンチネル隊に分かれ、討伐を確実にこなしていく。

 

「さ、やるか」

 

センチネル如きなら数体でも余裕で相手できる。

鎧通しなんてやってれば慣れるものだ。

 

「せっぇやぁぁ!」

 

剣を振って、鎧の隙間に勢いよく突き穿つ。

ソードスキルなんて今の状態で使えば硬直で死ぬ。

単純な技術でどうにかするだけ。

僕に群がって来るセンチネルをどんどん片付けていく。

ここのセンチネルはベータテストと変化しており、開幕から無限リポップだ。

そしてセンチネルの討伐数が多いプレイヤーにヘイトが優先するようになっている。

当然ながら僕にかなりのヘイトが向いているのは討伐数が多いからだ。

 

『Glaa...Gaaa!!』

 

二度目のコボルドロードの咆哮。

目を向けると本来ある4本のHPゲージが残り1ゲージ分になっていた。

そして持っていた斧とバックラーを放り投げたかと思うと、取り出したのは異なる武器。

 

「キリトさん」

 

「なんだっ!」

 

「・・・ここ、任せて良いですか」

 

「なにかあるのか」

 

その問いに頷く。

キリトに僕の担当を任せて、ボスの方へ一気に走る。

その間に武器の変更を済ませる。

持っていた片手剣をコボルドロードの目の前に放り投げ、その間にストレージから予備の片手剣を取り出す。

だがコボルドロードも馬鹿じゃない。

取り出しているのはベータテストとは違う武器。

元々はタルワールという曲刀だが、持っているのは野太刀。

そしてすぐさまとある構えを取りはじめた。

それは《刀》スキルの範囲攻撃技。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

こっちも《ホリゾンタル》を発動させて相殺する。

それと同時に持っていた片手剣が壊れた。

ボスの攻撃力があまりにも高すぎてスキル相殺による耐久減少に堪えれなかったんだろう。

 

「・・・まさか、貴方がね」

 

「ばれていたのかい」

 

「・・・さて、どうやら」

 

なんでこんな自殺行為にも等しい真似をしたのか。

それはディアベルの行動にあった。

恐らくベータテスターなら知っているだろう階層ボスのラストアタックを。

ラストアタックを取ったプレイヤーには特別なアイテムを送られる。

それは優位な物が多く、強力だ。

ディアベルはそれを知っていて前へとくり出ようとしていた。

 

「死なれると、目覚めが悪いので」

 

あまり関係性がなくとも目覚めが悪くなったら困る。

睡眠自体そこまでとらないが、それでもだ。

それに攻略メンバーも統率者の喪失がおこるとパニックになる。

 

『gaa!!gaaaa!!』

 

「全く・・・があがあと吠えるだけか」

 

コボルドロードが下に武器を構えた。

あれは・・・《刀》の《浮舟》という技だったはず。

当たればまずいな。

 

「ここで潰してやる」

 

あれよりも早く攻撃が当たる技。

脳内で模索、検証、比較。

数コンマに等しい処理が廻る。

 

「ふっ・・・!」

 

《レイジスパイク》で突進。

真っすぐ突き進む技で僅かにこっちが先に攻撃を取った。

《浮舟》の不発どころか、スキル硬直を喰らったコボルドロードは今無防備。

 

「・・・チェック、メイト」

 

突進技は硬直が少ない。

そのまますぐに違うスキルに繋げていく。

《ホリゾンタル》に繋げて、すぐさま止めに繋げる。

コボルドロードのHPは5分の1。

横薙ぎから体勢をすぐに整えると勢い飛んで最後のスキルに繋げた。

二連撃技《バーチカル・アーク》。

V字に斬られ、そのままHPはみるみると無くなり0になる。

 

『gya...gaaa......g.a..aaa』

 

コボルドロードの体が光るとポリゴン片へと変わっていく。

そしてボス部屋の真ん中には《congratulation》と大々的に表示される。

 

「た、倒した、のか?」

 

「ああ、倒したんだ!」

 

「倒したぞおおおおおおお!!!!」

 

ついに果たされた第一層ボス攻略。

それがようやく成された。

 

「はぁ・・・」

 

「すごいな、君は」

 

「別に・・・」

 

称賛するディアベルをよそにキリトの方へ向けば疲れきったのか地に座っていた。

 

「なんでや!」

 

お互いがお互いを励まし合い、分かち合っていた勝利の中、その声は響いた。

 

「なんでや、なんでや!」

 

「キバオウさん?どうかしたのか?)

 

「どうしたのもこうしたもない!あんのガキ!」

 

ガキと指差されたのは僕。

まあ確かに1番背は低いけれど。

 

「あの子が・・・どうかしたのかい?」

 

「あのガキ、ボスの使う技知っとったんやぞ!それやのに何も思わへんのかい!」

 

「ちっ」

 

知ってたから何だと思うが、そもそも情報自体何故教えないとダメなんだか。

知りたいなら自分で得れば良いのに。

ベータテスターに聞けば分かることだ。

 

「た、確かに」

 

「キバオウさん、確かにあの子は知っていただろうがそれは僕も同罪だ。僕は・・・ベータテスト経験者なのだから」

 

「な、な・・・!」

 

攻略リーダーからの宣言。

それによって一気に疑心暗鬼へと変わる空気。

 

「くっくっくっ・・・」

 

だがそれも一人の笑い声で止まる。

その主はキリトのもの。

 

「な、なんや!なにがおかしいんや!」

 

「いや?これほどまで可笑しいと思ったことはないだけだよ」

 

「なんやて!?」

 

まあキリトの方に同じくだが。

 

「なんで知ってたかなんて簡単さ、俺が教えたからだよ」

 

その瞬間キリトから視線が送られる。

なるほど、合わせろということか。

 

「俺がこうやればいいと教えた。ソードスキルに関してもタイミングもそうだ」

 

「なんや、なんやそれ・・・」

 

「それに考えてもみろ?当選確率数百倍だったSAOのベータテストに当選したプレイヤーの中に何人のゲーマーがいたと思う?殆どはあんたらと変わらないニュービーだったさ。だが俺は違う。俺はニュービーなんかよりも遥か上の階層にたどり着いた。ボスの事を教えれたのも上の階層で散々そういう相手と戦ったからさ」

 

「そんなん、チートやろ!チーターやろ!」

 

「ベータテスターのチーター・・・だから()()()()だ!」

 

うざったい群集なことで。

キリトがわざわざ悪役になる必要もないのにな。

だがこれでベータテスターにも二手に分かれる。

情報や技術を独占するベータテスターと、そうでないベータテスターに。

 

「良い名だな、ビーター。貰った。今日から俺はビーターだ!他のベータテスター如きと一緒にしないでもらいたい」

 

そういい、キリトはボス部屋から第二層へ繋がる扉へ向かっていった。

彼が悪役に自らなるというならせめて餞別は渡しておくべきだろう。

本来僕が被るはずだったのだから。

 

「キリトさん。これ渡しておきます。使ってください」

 

「・・・ああ」

 

コボルドロードのラストアタックボーナス。

僕が止めを刺したので貰っていたがそれをキリトへ渡す。

すぐに装備して黒いコートが反映された。

そのままキリトは消えていった。

パーティーも抜けて。

 

「・・・じゃ、僕も」

 

目的を果たすためのパーティーだったから、離脱する。

メンバーの中でユウキだけは不安そうに僕を見ていたが気にしてはいけない。

関係を探られれると彼女にまで被害が及ぶ可能性を考えれば不干渉が安定だ。

 

「馬鹿な奴ら」

 

デスゲームを未だに分かってないプレイヤーだが自由に動けるようにはなった。

久々に外の空気は吸いたいだろう?

僕も使いたくてウズウズしてた。

 

「さあ、一暴れさせてもらおう」

 

ストレージから取り出すのは一振りの刀。

SAO上では二つとない僕だけが持つ武器だ。

彼をチーターというなら僕も近くなってやろう。

仲間は多い方が良いだろうから。

 

 

 



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工房の条件

のんびり横になって寝転がっている日々。

とはいつつもやることはやっている。

 

「ん・・・」

 

適当に過ごしていれば気がつけばもう一年ほどか。

SAOも長く攻略され続けているものだ。

あの日から一年、階層は五十を超えた攻略。

随分と躍進したのだろう。

僕は攻略組ではないから分からないが。

 

「もう、時間か」

 

ごろ寝しているとお昼の時間になっていた。

この時間なら行けるか。

転移結晶を取り出すと行きたい階層を呟く。

 

「転移、四十八層」

 

転移結晶の転移方法は簡単で、掲げて行きたい階層を言うだけ。

階層ではなく街の名前を言えばその街の転移門に転送される。

 

「確か・・・こっちだっけ」

 

四十八層は比較的平和な階層だ。

そこらかしこに水車があり、のどかな雰囲気がある。

モンスターの出現も少ないから住居にする人も多かったりする。

 

「ん、あれか」

 

そんな中、一つの建物を見つける。

看板には『リズベッド武具店』。

目的の店を見つけると中へ早速入った。

 

「いらっしゃーい!リズベッド武具店へようこそ!」

 

店の奥から聞こえてくる声ははきはきとしており聞き取りやすい。

その自信は武器にも出ており、立て掛けられている販売品も業物が多かった。

 

「ごめんくださーい」

 

「はいはーい!」

 

「金属の買い取りってやってますか?」

 

奥から出てきたのはピンク髪の少女。

そばかすがあり、どちらかというと愛嬌がある。

何故ここで金属を売るのか。

それはどの鍛冶プレイヤーがぶち当たる問題。

武器や防具を作るには材料が必要になり、その材料は金属。

よって安価で高品質な金属を仕入れる技術も必要になる。

 

「やってますが・・・その・・・うちは低い金属は買い取れないので」

 

僕の身なりはローブで身体を隠している状態だ。

それでいて身長も小学生ほどだから子供だと思われたのだろう。

こういうとき第一印象になる容姿が整っている人が羨ましい。

 

「一応見てもらっても・・・良いですか?」

 

とりあえずで、適当に金属を取り出す。

それを彼女に渡すと一瞬にして目の色が変わる。

それもそうだろう。

今最前線は第六十ニ層だ。

その前線より一つ下の層で取れた金属。

まだ市場に殆ど出回っておらず、入手できる者も限られている。

 

「こ、これ・・・」

 

「どうですか?」

 

「・・・うちじゃまだ扱ったことのない物だから分からないわね」

 

どうやら初めての金属に敬語も消えているようだ。

正直気にはしないのでいいが。

 

「それで、どうしてこんな金属をうちで?」

 

さすがに察したらしい。

鍛冶プレイヤーに渡せば大業物が出来るだろう件の金属を易々と見せている時点で何か裏があると勘繰る。

それこそ僕が求めていたから良いのだけれどね。

 

「これから金属をここで卸すかわりに工房を借りたいんです」

 

「ふうん・・・」

 

一応僕は《鍛冶》スキルを最大まで育てているが、必要になるのが工房。

携帯できる簡易的な工房では精々武具の整備と金属の精製ぐらい。

実際に造るにはちゃんとした工房がいる。

そしてそれを買うと金額がばかにならない。

なのでこうやって交渉をしているわけだ。

 

「あんた、名前は?」

 

「キョウといいます」

 

「その条件飲むわ。だけれど工房はちゃんと使ってちょうだい」

 

「分かりました」

 

無事成立したので、持ち合わせている金属を適当にストレージから取り出しておく。

この交渉もあったが、金属自体持ち歩くとストレージが圧迫される。

保管できる場所も欲しかった。

 

「うわ、うわわわ」

 

「金属自体は好きに使ってもらっていいです。その時の売上のいくらかを渡してもらえれば」

 

「それは構わないけど・・・この量どんだけあるのよ」

 

僕なりに高品質な金属を保管していたが、それでも3桁はある量だ。

ストレージの七割を圧迫していたが、それも今日で解決出来る。

 

「今日はこれで失礼しますね」

 

「使わないの?工房」

 

「今はまだ大丈夫です。必要になったら言います」

 

「分かったわ。金属は纏めておくから」

 

「はい。では」

 

店を後にしようと扉に手をかけた瞬間。

ノブが動いた。

誰かがここに入ってくる。

 

「リズー!来たよー!」

 

入ってきたのは亜麻色の髪が印象的な少女。

どことなく見たことがある気がする。

 

「っとと、ごめんね。出るところ」

 

「・・・いえ。気にしないでください」

 

「・・・ねえ」

 

「なに、か」

 

「あなたどっかで会ったこと・・・ある?」

 

この声どっかで聞いたことのある。

いつ、どこで。

膨大にある記憶からその一点に絞り込む。

僅かな時間でその答えは見つかった。

 

「・・・なる、ほど」

 

あの時はフードを被っていたから分からなかった。

ただ女性と細剣使いとだけ。

今となっては有名プレイヤーであり攻略組。

異名は『閃光』のアスナ。

 

「まずいな」

 

今の僕は攻略組と関わるとあまりよろしくない。

犯罪ギリギリを行っている身としては、強者が集う攻略組に好んで関わるのは避けたいが・・・。

 

「いえ、会ったことは・・・ないかもしれないです。記憶にないので・・・」

 

動揺を見せない声で、それでいて戸惑うような感じに。

知らないフリをするだけだ。

 

「そう・・・ごめんね。変なこと聞いて」

 

「いえ・・・ではリズベッドさん失礼しますね」

 

そのまま脱兎の如く逃げ出す。

よりにもよって攻略組のメンバーで会いたくない相手だ。

アスナは攻略組幹部でもあるが、それと同時にSAO最大級のギルド『血盟騎士団』の副団長。

人望もあり、異名が付けられるほど裏打ちされた実力者。

相手にするのは中々面倒だ。

 

「・・・まだゴミ仕事終わってないんだけどなあ」

 

早めに終わらせておきたかったが、終わる前に攻略組と会うなど運がない。

 

「残りは・・・3人か」

 

頭の中で出てくるのは知る人は知るプレイヤー。

その3人を始末すれば気楽な物だ。

 

「ん・・・そういえば《竜使い》があれを求めてたんだっけか」

 

どうにかして始末する方法を模索しているとふと思い出した。

芋づる式・・・とはいかないが、出来ればの希望的観測だ。

やるだけやって見る価値はあるだろう。

 

「問題は・・・攻略組がいる・・・」

 

《竜使い》が求める品自体は僕も持っている。

だが、それを自分の手で入手するのが厳しい。

生憎それを手助けするお人よしがいるが。

 

「・・・異名3人との戦闘も視野に入れとく・・・かあ」

 

戦闘したくないが、可能性は広げておいて損はない。

面倒になりそうと思いながら転移結晶を掲げた。

 

「転移、四十七層」

 

花が咲き誇る美しい階層。

そのとある場所には()()()()()と呼ばれるところがあり、そこにはビーストテイマー関係の品がある。

行くのも難しくはないが、その関係品が高額な取引で闇プレイヤーに狙われやすい傾向がある。

 

「今日が、命日になるといい」

 

棺桶から出てきたのならまた放り込んでやろう。

邪魔なゴミは捨ててしまわないとな。

 

 



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薄ら影の燕斬り

件の日。

第四十七層でそれとなくくつろいでいると転移の光が見えた。

転移してきたのはSAO攻略組幹部メンバー。

『黒の剣士』と『閃光』と『絶剣』。

そして中層プレイヤーのアイドルになっている『竜使い』もいた。

 

「・・・あの3人を相手出来るか・・・?」

 

レベル制MMORPGであるSAOではレベルの差は絶対的ともいえる。

それが対人戦なら尚更に。

一人一人のレベルは調べているが、協力して来られると苦戦の可能性がある。

かといってオレンジやレッドじゃないのでこちらからは手を出せない。

なってしまっても数日街に入れないだけで些か問題はないが。

 

「ま、やるだけやってやるか」

 

装備を《隠蔽》と《速度》優先に切り替える。

索敵能力は僕の目と耳で充分だ。

そして転移してきた竜使い達にばれないよう尾行を始める。

元々彼女はここよりも十層低い場所で活動しているが、目的のアイテムを求めてここまで来たのだろう。

実力者3人がいれば充分どころか過剰戦力だが、裏で関わっているプレイヤーが問題だ。

今日が命日になるだろう件のプレイヤー。

SAO唯一の殺人ギルド『笑う棺桶』。

その幹部メンバーを始末する。

あいつらはここで潰しておかなければ後々面倒になる気がする。

 

「キリトさーん!助けてくださーい!」

 

あの竜使いの声はよく聞こえる。

まさかここまで聞こえるとは思わなかった。

透き通るというよりは元気が有り余るという感じだろうか。

彼女らの進行も色々ありながら目的地へとたどり着く。

《隠蔽》スキル全振りに加え、物理的気配も消している。

気づこうとするなら150レベルほどはないとまずスキルを打ち破れないだろう。

そして竜使いが目的のアイテムである『プネウマの花』を入手すると、木の影から赤い髪の女性が現れる。

 

「・・・見たことあるな」

 

数あるオレンジギルドの中でも中位ぐらいだったか。

『タイタンズハンド』とかいうギルドだったはずだ。

狙いは竜使いの持つアイテム。

あれはビーストテイマー本人が赴かなければ手に入らず、その入手も『心アイテムの有無』。

死んでしまった相方がいなければ入手出来ない。

存在自体知らぬ者のが多そうだ。

 

「・・・さあ、始まりだ」

 

あの赤髪が捕まったのが見えた瞬間、麻痺毒ナイフを四方八方へ投擲する。

その数150。

狡猾でありながら今の今まで尻尾を掴ませなかった暗殺者どもだ。

これぐらいせねば逆に失礼だろう。

 

「誰だっ!」

 

キリト達の方へ当たらぬよう投げたが、見えてはしまう。

だがまだだ。

二人、かかったが頭領はノー。

 

「さすがというべきか。プロだな」

 

返事はない。

まだ逃げていないだろう。

だがそれがあだになる。

時間なんてかける必要がないからな。

 

「冥土の土産だ。その目に焼き付けて消えろ」

 

プロにはプロをあてるのが1番だろう?

だからお返しさせていただこう。

邪魔者は潔く退場するべきだ。

我が一振り、見抜いてみろ。

 

「・・・秘剣」

 

昔読んだ書物に、燕を斬ろうとした剣豪がいたらしい。

余興なのかはたまた大馬鹿なのか。

その剣豪が持つ刀は()()()竿()と呼ばれ、とても長かったそうだ。

僕には長い武器は扱える気がしない。

しかしその長刀を巧みに操り、燕を斬ったそうだ。

そうして名付けられたのは『秘剣・燕返し』。

 

「燕返し」

 

再現率は低いだろう。

だがやってみるだけの価値はあった。

時間操作という異能がある。

ここSAOにおいてもそれは使えた。

だがそれは対人戦をするときだけと決めている。

でなければ何倍にもスローモーションなモンスターをただ斬るだけだ。

何も面白くない。

だからこういう仕事の時だけは使うことにしていた。

 

「く、そがっ・・・!」

 

さあ、避けてみろ。

僕が出来る腕を持って再現した究極の剣。

一の太刀で、相手の頭上から股下を断ち。

二の太刀は、一を回避するための逃げ道を断ち。

三の太刀が、左右の離脱を阻む払い。

システム的アシストがなくとも人間やれば出来るものらしい。

一瞬のズレも赦さない三つの斬撃が相手へ向かう。

まるで魔法のような、神の領域に達せん剣技。

 

「・・・なんだ。人違いか」

 

暗殺のプロならば見抜けると思ったこの剣技。

どうやら期待ハズレだったらしい。

つまらない相手だ。

向こうを見やるとどうやら僕を見付けたようでこっちに近寄って来ている。

あのナイフには麻痺毒が塗ってあるが、そのレベルは最高峰の10。

《薬師》《調合》などのスキルがマックスでないと作れすらしないものだ。

 

「攻略組3人を相手に逃げる気か」

 

「・・・まさか」

 

さすがにそれはご遠慮願いたい。

単純に疲れるし、負けるかもしれない可能性がある。

この件のために勝手に利用させてもらったが元は無関係だから。

 

「少々用事があったので居合わせただけです」

 

「・・・それが事実だという証拠は」

 

「いいえ、ありませんね」

 

僕があまりにも堂々としている事に拍子抜けしているのか、何を言えば良いのか分からないらしい。

戦闘はこれ以上する必要性もないだろう。

武器をストレージにしまうと両手を上げて表に出る。

そこには地面に無数のナイフが刺さったままで、警戒を続ける少女達がいた。

 

「『閃光』に『絶剣』。それに『黒の剣士』がいて無事に帰れる気がしないので」

 

「余計な真似はするなよ」

 

「それは良いですけど・・・これ回収していいです?」

 

地面に刺さるナイフを見やる。

地味にこの麻痺毒ナイフ作るの大変だから。

警戒はされた状態だが、頷かれたので回収していると別の場所から変な感じがする。

 

「・・・?」

 

その方向へ向くとそこから一本のナイフが飛んでくる。

僕のとは違う麻痺毒ナイフ。

即座にストレージから愛刀を取り出すと抜刀して斬り飛ばす。

 

「ちっ、まだ居たか」

 

全員始末した感じだったが、どうやら甘かったらしい。

お返しとばかりに僕のナイフを投げつけると的中したのか木影からプレイヤーが倒れてくる。

 

「随分とまぁしつこい」

 

どうやら見せしめで3人始末したというのに懲りないらしい。

右手に持つ刀を握り締め振り上げる。

 

「やめろっ!」

 

下ろそうとするが、声をかけられ止められた。

情けでも、時には残酷にならないとダメだけど・・・。

ここは尊重しよう。

 

「もう一本喰らってていいよ」

 

効力の延長だ。

ナイフを追加でお見舞いするとそのまま放置する。

 

「それで?僕をどうするんです?」

 

「それは・・・」

 

「あ、あのっ」

 

困りあぐねている中、竜使いの少女が声をあげた。

殺気が立ち込めていたのに中々勇気がある。

 

「・・・はぁ。ずっと立ってるのもなんですし・・・花は取れたんでしょう?帰りたいんですが。今日は寄りたい場所もあるので」

 

「分かった。だがこの場に偶然居合わせたというのは・・・本当に偶然なのか?」

 

「そうなりますね。用事で居合わせただけなので」

 

「・・・シリカ、すまない。こんな状況になって」

 

「い、いえ!キリトさん達が居なかったらここまでこれなかったでしょうし・・・」

 

「花は今中々高い。まあいないとは思うけど狙われることを考えたら早めに宿に帰ってる方がいいですよ」

 

「・・・そう、だな」

 

「じゃ、僕どっか行くので。お気を付けて」

 

出来るかぎり早めに去っておこう。

今は疲れたから休憩したい。

 

「転移、四十八層」

 

素早く行動した僕を止めようとしたキリト達が慌てるが遅い。

もう転移は始まっているのだから。

淡い光が無事収まる頃にはすっかり景色も変化しており、以前来た四十八層の景色だ。

水車があるのもそうだが、平和な階層だからか擦れていた心身がゆっくり出来る。

 

「はぁ・・・」

 

あの剣技は使うだけかなり精神を持ってかれる。

凄まじいほどの集中力と正確さに加え純粋な力も必要だ。

頭の冷却をする為にもこの階層はいい。

近くにあの武具店もあるから彼女に見られるかもだがいいや。

今は、疲れた。

 

「ん・・・う・・・」

 

段々とうつらうつらになってきた意識。

今日は意外と気候がいい。

このまましばらく寝ていよう。

いつの間にか意識はゆっくりと落ちていった。

 

 

 



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何気ない感情

四十八層の草原でくつろぎながら適当に過ごす毎日。

しっかりと攻略自体はしているから誰も文句言わない。

それどころかソロで階層攻略をするプレイヤーを血眼で探している攻略組のが多い。

 

「ん・・・?」

 

そんなときメッセージが届く音が鳴った。

SAOでのメッセージは二種類に分かれる。

そのどちらも僕の名を知っていなければ送信出来ず、知っているプレイヤーも少ない。

誰から来たのか予想ついていたが普段夜に伝えて来ることが多い。

メールで送ってくるのは単独では解決出来なかったり、協力者がいるなど事情ありの時だけだ。

 

「・・・なる、ほど」

 

送信者は予想通りアルゴから。

内容は圏内で殺人事件が発生したから協力者として手を貸してあげてほしい、と。

だが僕が出来る事など知れている。

 

「ならなんで?」

 

アルゴには僕の力量をある程度伝えている。

だから得意不得意は知っているから内容文がすこし変だと感じた。

 

「探ってみる、か」

 

分からないのなら自分で見れば早い。

件の問題になった階層は一緒に送られていたのでそこまで転移する。

転移門から出ると多少賑わうものの、どこか不安さが出ていた。

だが、そんな中一つだけ足音が異なる。

耳を澄ませてその音を聴く。

 

「・・・しっかりとした音」

 

普通に考えればそんな音どこもかしもかしこも溢れている。

しかしそれはこの階層ではあまり合わない。

不安そうな足取りが殆どだ。

恐らく先に起きた圏内事件での事がもう広まりつつあるのだろう。

絶対的安全といえた圏内で殺人が可能となればかなりの大問題だ。

 

「・・・覚えた」

 

足取り、呼吸、仕草。

顔がなくともそれがあれば目的の人物との照合は出来る。

無駄な記憶能力もここでは役に立った。

 

「さて、事件解決をしようとするプレイヤーを追っておこうっと」

 

協力者として名をあげるのはお断りだ。

目立つというより視線を浴びるのが好きじゃない。

だからあまり目立たないというよりは他プレイヤーへと向くように仕向けている。

今も階層攻略プレイヤーを探しているも、それは『キョウ(自分)』と繋がりはしない。

それを知るのはアルゴだけだ。

まあ後一人も知っているだろうけれどね。

 

「ん・・・キリト?なんでここに」

 

ぶらつきながらプレイヤーを探しているとキリトの姿が見えた。

そこにはユウキ、アスナもいた。

 

「・・・ヒースクリフ」

 

立場上はアスナの上司。

血盟騎士団の団長でSAO最強プレイヤーの一人だ。

 

「と、なると追うのは決まり、か」

 

《隠蔽》優先に装備を変更してキリト達の後を追っていく。

解決自体は出来るだろう。

元々聡明なプレイヤーだし、正義感は強い。

であるなら何故アルゴは僕を指名したのだろうか。

攻略組が相手に出来ない、もしくはしにくい相手。

 

「・・・オレンジか」

 

オレンジやレッドの相手なら僕を指名するのは必然だろうか。

こと対人戦に関してはここで右に出る相手なんてそうそういない。

モンスターを斬る剣と人を斬る剣には決定的な違いがある。

それは同族を斬る事に対する抵抗感。

そしてその嫌悪。

 

「全く・・・」

 

しばらくは僕の出番はないだろう。

それまでは適当に後をつけておくことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリト達を尾行してはや数日。

ようやく動きに進展が起きたようで、急いでいる様子があった。

 

「なるほどね・・・」

 

転移する際の破片と武具の耐久消失による破片。

それを利用した殺人未遂のトリック。

よく考えついたもんだ。

キリト達に合わせて転移もやっているが、かなりあわただしい。

馬も利用する程だとかなり急いでいるな。

 

「間に合うか、これ」

 

《隠蔽》から《速度》へ装備をかえる。

じゃないと間に合わない。

さすがに馬は普通に早いからね。

なんとか後を付けれるようになるとそのまま奥へ見える一本の大樹へと向かっていた。

そこにはプレイヤーの姿も見える。

 

「・・・いた」

 

同時に近くにはオレンジプレイヤー。

《索敵》には数人ほど引っ掛かっていた。

麻痺ナイフを取り出すとすぐに投擲する。

命中率なんて考えてない。

投げれば当たるから投げてるだけ。

多分キリト達に気付かれたな。

向こうも話が終わったらしい。

 

「・・・そこにいるんだろ」

 

どうやら隠れて居たのもばれてたらしい。

さすがに隠蔽優先装備じゃないと攻略組にはばれるか。

 

「なんだ、ばれちゃってた」

 

一触即発。

どっちも動ける感じではない。

 

「ねえ・・・君って、キョウ?」

 

そんな中ユウキが僕の名前を的確に当てた。

どうやって?

ばれるようなヘマはしてないはずだけれど。

 

「キョウ・・・だよね?」

 

「・・・さあ?」

 

そういえばユウキって妙に鋭いんだっけ。

勘が良いのか・・・。

ばれたところで些か問題はないのだけれど。

 

「まあ・・・そうだね」

 

さすがにこんな場所で狐の化かし合いなど疲れる。

平和で行けるなら平和で行きたいものだ。

武器をしまって何気なくユウキに近づく。

 

「ユウキっ、危険かもしれないんだよ!?」

 

「えへへ、大丈夫だよ」

 

何が大丈夫なんだか。

もし僕がユウキを殺そうとするかもしれない可能性を考えるならばアスナの言い分はもっともだろう。

そのつもりはないけれど。

 

「別に。手、出すだけ無駄」

 

アルゴへの報告はそのうち誰かを通じてされるだろう。

勝手に向こうからやってくるだろうし。

ユウキ達と歩きながら街へ戻っているとメッセージが飛んできた。

誰からと開けばまさかのユウキ。

内容はハラスメント警告は切ってる、と。

・・・なんで?

ユウキの顔を見ればニコニコしていて全然意図が汲み取れない。

 

「はぁ・・・」

 

なんでかなあ。

そういったような事はしてないつもりだったけど。

いつの間にかわかりやすいまでに向けられてるなんてね。

誰も知らないんだろうね。

『絶剣』ユウキには想い人がいて、その相手が僕だとは。

恋愛感情なんてとうの昔に枯れたと思っていたけれど・・・。

まだ恥ずかしいというか照れがある程度には残ってるらしい、僕にも。

 

「ねえ、キョウ」

 

ずっと思考しているとボソッと耳元で囁かれた。

 

「ひゃっ」

 

さすがに突然だったから変な声が出る。

キリトやアスナには聞かれてなかったけどユウキにはバッチリ聞こえていたみたいで。

 

「耳弱いんだ?」

 

「う、うるさい・・・」

 

男性側のハラスメントを何故つけなかったのか。

今になって悔やまれる。

してやったりな顔をするユウキだが、そこまで嫌でもない。

元々ユウキ自体は好ましいとは思えた。

性格というのもあるが、僕の内面をしっかりと見ている。

恐らくそれで看破されたんだろう。

第一層以外では会ったことなんて殆どないはずだ。

ソロ活動ばっかして、時々姿は見るも声までかけてない。

 

「・・・街、か」

 

主街区にいつの間にかついていたようで、そのまま僕は宿に行く。

今の状態でキリト達と会話するのはつらい。

頭の処理がだいぶ止まっている。

 

「どこに行くの?」

 

「・・・宿」

 

「ボクもそうしようかな」

 

絶対言うと思ったよ。

なんなら予想できたよ。

会話っていう会話は全然なかったと思うけど。

ここまでぞっこんなの・・・。

 

「・・・好きにすれば」

 

だがユウキを嫌っているわけではないし、その感情は微笑ましいものだ。

だけど単純に怖いだけなんだろう。

誰かを好きになってそれが成就したことはない。

元々の僕は臆病者だ。

それをカバー出来る技術を使っているだけで。

 

「キョウ?どうかした?」

 

「・・・別に」

 

ここまで真っすぐに想ってくれるのが嬉しくても。

臆病者の僕にはやっぱり怖い。

フラフラとしながら宿を取るとそのままベッドにダイブする。

そういえば・・・二人部屋にしてたんだっけ・・・。

 

「キョウ・・・?大丈夫・・・?!」

 

「だい、じょぶ」

 

そんな心配そうにしなくても・・・。

こんなの慣れてるよ。

誰かと居たら寂しくなっただけなんて言えるものか。

少し弱気になってたら誰かに抱きしめられるような暖かい感じ。

情けなくも僕はその暖かさで意識がうつらうつらとしてきた。

 

「・・・あり、がとね」

 

「ううん。どういたしまして」

 

好意をずっと向けているとその相手は段々と好きになってくるらしい。

どうやら僕もそれに漏れなかったようだ。

寂しさと急な感情をごまかすように手を握られてそのまま寝付いた。

 

「好きだよ・・・キョウ」

 

何か聞こえた気がしたけれど、もう夢の中。

昔もこんなのあったような。

そんなまどろみをずっと感じた。

 

 

 



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絡ませ合う恋情

暖かい感覚が僕を包みながらも目を開けようと瞼を動かす。

ずっとこのまま居たい。

安心出来て心身ともにすごくリラックスしている。

 

「はぁ・・・」

 

「んむ・・・」

 

だけどこのままいると色々と、まずい。

あのまま力尽きて寝ちゃったけれどはっきりと覚えてる。

ぼやーっとしながらも一緒に寝ちゃった女の子。

最後に意識が落ちる前に呟かれた言葉は聞こえてしまっていたから。

 

「・・・好き、かあ・・・」

 

何となく、そうなんじゃないかなって思ってた。

絶対的な確信は無かった。

指摘して自意識過剰と思われるのも嫌だった。

そういう風に感情を持ってくれるよう誘導したわけでもない。

関わりなんて第一層の時だけだ。

それだけでこれほどまで好意を持ってくれるのは、生きてきた中で初めて。

ならばそれには応えよう。

僕なりに精一杯。

 

「ん、頑張る」

 

とりあえず動こうとしたけれどユウキの抱き枕状態になっていて起こしちゃうかもしれない。

気持ち良さそうに寝てるから起こすのも・・・。

 

「ん~・・・ぎゅ~・・・」

 

為されるがまま居たらユウキがさらに抱き着いて来る。

ハラスメント警告も昨日切ったままだからユウキには一切合切通告がいかない。

つまるどころ、ユウキの柔らかい部分が思いっきり当たってて。

 

「う・・・」

 

「にゅ~・・・えへへ~・・・」

 

「早く、起きないかな」

 

枯れたと思った欲とかはやっぱりあったようで。

我慢するのが大変です。

お願いなので早く起きてほしいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局あのままユウキが起きたのはあれから1時間ぐらいしてから。

それまで寝ようにも柔らかい物で寝れなくて。

 

「ごめんよ・・・キョウ」

 

責めるにもユウキは泣きそうになりながら謝ってきたから気にしないことにした。

役得ではあったし、ユウキに少し抱き着いたりしてたから。

 

「別に・・・」

 

「ボクって寝るとき抱き癖あるみたいで・・・ホントにごめんよ・・・」

 

「気にしてない。そんなしょんぼりしなくても、いい」

 

どんよりしたユウキの姿なんてあまり見てられない。

ユウキのが背は高いけどベッドの上だから立って頭を撫でてあげる。

SAOと現実世界の感触はこういうのもリアルに近づけてる。

だからかユウキの髪はすごくふわふわしてて触ってて柔らかい。

 

「よしよし」

 

「あうう・・・」

 

元々ユウキには好ましい印象があったからか、好かれてると分かると彼女に対する感情が出る。

 

「キョウ、どうかしたの?・・・」

 

「ん・・・?」

 

「なんか・・・優しいね」

 

あまり言われたことというか、人とあまり喋らないからか久々にそんなことを言われる。

ふにゃっと笑ってるユウキの顔がもっと見たくて頭をずっと撫でたい。

 

「ユウキ」

 

「ん~・・・?」

 

「姿、見たい?」

 

何気なく聞いてみた。

そういえば僕の容姿を見たことのある人はSAOじゃいないんじゃないかな。

あの科学者は除いて。

 

「いいの?ずっと着てたのに」

 

頷きながら装備を変更する。

見た目専用装備があって、このローブはその中に入る。

《隠蔽》スキルにも僅かばかり恩恵を与えるから容姿を隠せて便利だった。

そんなローブを外す。

ずっと秘されてた僕の容姿がユウキの目の前でさらけだされる。

背中にも届く長い白髪。

そして深い緑色の瞳。

呆けたユウキに少し不安になった。

あまりこの容姿に僕は自信がない。

時間操作なんていう所業の代償に、生まれた時から白髪だった。

それでよく馬鹿にされたり、化け物呼ばわりされたな。

 

「ゅ、うきぃ・・・」

 

伸ばされた手は僕の白髪に触れる。

恐る恐るで、すごく優しく。

それがすっごくくすぐったく感じる。

 

「ぁ・・・ごめんよ。その・・・すごく綺麗」

 

もっと触っていい?と聞かれて頷く。

ユウキの表情はすごくうっとりした感じで、髪をずっと弄ってる。

それが心地好い。

 

「ねえ、キョウ」

 

「ん・・・」

 

「言いたかった事、言っても良いかな・・・」

 

もちろん頷く。

とはいってもユウキは何度も深呼吸していて、身体も少し強張っていた。

何を言うのか何となく予想はつくし、その返答も決まってる。

 

「ボクね。キョウの事好き。このゲームがデスゲームだって言われたあの日から、ずっと」

 

「ユウキ」

 

「な、なに・・・?」

 

ユウキが髪を触るために背を向けていた僕は正面へと向き直る。

僕が何を言おうとしているのか予想ついたのか、泣きそうな表情になっていた。

無意識なんだろうか、自分の服を力強く掴んでて。

こんなにも僕を好いてるんだなと分かると少し嬉しい。

そのままユウキの唇と僕の唇を重ねた。

目を見開くユウキだけどそのまま目を閉じてお互いにぎゅうっと抱きしめあう。

 

「ん・・・」

 

「んぅ・・・あむ・・・」

 

僕よりもユウキが嬉しそうに口づけを何度もしている。

少しだけでも長く感じたそれを終えると物足りなさそうにユウキが目を潤ませていた。

 

「好きだよ。ユウキ」

 

「うんっ・・・!」

 

ちゃんと言葉に表すのも大事だし、それを行動に移せるのも大事。

ろくに恋愛どころか、そういうのを避けてたからか偉そうな事も言えない。

だけどユウキの事は大切にしたいな。

 

「えへへ・・・」

 

嬉しそうにはにかみながら、ユウキの頭を撫でる。

小さい子供の頭も撫でるのは好きだった。

ああいう純粋な子が一番関わる中で気楽ではあったから。

 

「キョウ」

 

「ん。なに?」

 

「これからずっと一緒に居ようね」

 

「・・・それは、向こうでも?」

 

「ダメ・・・かな」

 

向こうの僕がユウキと関われるか分からない。

僕の事情もあるし、やることは多い。

もちろん一緒にいることが出来るなら越したこともないし・・・。

 

「・・・分かった」

 

「ホントに・・・?」

 

「僕は『()() ()』だよ」

 

現実世界でも関わるために僕の本当の名前を教える。

SAOではリアルの事は詮索禁止で、とてもプライベートだ。

だからお互いにそれを教えるというのは帰還後も関わりましょうという意思。

 

「『()() ()綿()()』・・・です。ふ、不束者ですが、よろしくお願いします・・・」

 

それだと嫁入りする言葉になっちゃうのに。

でも・・・良いかな。

木綿季なら側に居てほしい。

もう独りで過ごすのは無理そう。

こんな暖かさ知っちゃったら。

好きな人がいて、一緒にいることが出来るってこんなに良いんだ。

 

「ふふっ・・・」

 

「キョウ?」

 

「んーん。なんでもない」

 

 

 



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温かな愛情を

ユウキと両想いになってから数日。

階層攻略は着実に進んでいたようではや七十層を突破していた。

だけど一層一層の道中攻略が厳しくなって、モンスターのアルゴリズムも変化していく。

この辺りの変化の仕方は決まったものではなく、運営がいなくてもSAOを動かしていけるプログラムによって自動的に決められてる。

SAOのプログラムは大きく二つに分かれていて、その両方がお互いがお互いをアップデートし、エラー修正を行う。

だから人の手が必要じゃない。

無論起動するときと停止するときは人の手で止めるのだけれどね。

その大部分というかそのプログラムを作り上げたのは僕だ。

伊達に長い間生きてるわけじゃない。

蓄えられた知識に基づいて構築している。

このプログラムがあるからSAOは不具合がないし、美味しい狩り場が固定されない。

 

「キョウ~」

 

「ん・・・?」

 

「これからどうしよう?」

 

「どうする、って」

 

僕はともかくユウキは異名持ちでありながらも元々の容姿が良い。

それだけで男性プレイヤーからは勧誘や交際を求められてたらしい。

性格も良いか余計に奪い合いみたいになっちゃうんだろうね。

 

「もし、これからボクに知らない男の人がどうする?」

 

なんだか試されてる感あるなあ。

この数日過ごしていて分かったことは、ユウキと僕はお互いに独占欲が強いっていうのが分かった。

それと寂しがりってのも。

案外似てるのかもね。

 

「ん、やだ」

 

「ふふっ・・・可愛い」

 

僕を可愛いというのはどうなんだろう。

男なんだけどなあ・・・。

彼女からすると彼氏は可愛いと思うらしい。

それは僕から見てもユウキは可愛いけどね。

 

「それでねっ、SAOには()()っていうのがあるんだよ」

 

「・・・うん」

 

知ってるよ。

それ実装したの、あの腹立つ科学者だもの。

現実性を求めるがあまり、結婚システムも入れるとは思わなかったけれどね。

 

「その~・・・ボクとキョウは現実世界でも一緒って交わしたからさ・・・」

 

「ん・・・」

 

女の子にここまで言わせて分からないのはかなりの鈍感だろう。

まだ確かめ合ってから短いけれど、ユウキがそうなりたいというなら応えてあげよう。

ストレージには少し前に自作した指輪が入ってる。

結婚・・・までいったらいいなと思って作った物だけど。

 

「ユウキ。これ」

 

ユウキに渡したのは淡い緑色の宝石が輝く銀輪。

見た目装備として作ったけれどしっかりと凝っている。

宝石の方が入手が難しかったりするけれど・・・それは言わなくて良い。

 

「へっ?」

 

「結婚、指輪。僕が作ったものだけど・・・」

 

SAOでの結婚システムは結婚に繋がる言葉を発すると自動的にウィンドウが出てくる。

そこに承認と拒否があり、承認を押せばSAOで婚姻が為される仕組みだ。

結婚指輪なんて用意しなくても出来るけれど、ユウキは女の子だから夢を見せてあげたい。

 

「その・・・僕と結婚・・・して、ずっと一緒に居よう?」

 

「っ・・・はい!」

 

ユウキには結婚するかのウィンドウが出ていて。

泣きながらも承認を押した。

これでSAO内では僕とユウキは夫婦。

お互いの左手の薬指には指輪がついてる。

 

「お互い、分からないことだらけだから。一緒に見よう?」

 

「うん・・・」

 

僕の方が背が低いから姉と弟のように思われるかもしれないけれど。

分かってる人がいればそれでいい。

もう二度とユウキ無しで暮らすのは出来ないから。

 

「お家・・・買わなきゃだね」

 

「四十八層、あそこが良い」

 

家は元々買おうと思案はしてた。

使うことは少ないだろうけれど持っていて損じゃない。

今はユウキと暮らす為にも持っていないとだ。

四十八層は僕が好きな階層。

平和な場所で、モンスターポップも殆どない。

 

「四十八層・・・いいね。よしっ、今から買いに行こう?」

 

「あっ・・・い、今から?」

 

「キョウがまだここに居たいなら、ボクは幾らでも待つよ」

 

「ん・・・夜のが良いけど・・・頑張る」

 

今の時間は昼間。

プレイヤーが多いのとユウキの姿を知る者も多い。

そしてぽっと出のように一緒にいる僕。

注目の的にされかねない。

人目というか視線があまり好きじゃない。

だけどこれからユウキと一緒に居る以上は僕が頑張るしかない。

 

「ローブ着なくても良いの?」

 

「・・・着た方がいいなら」

 

「う~・・・外でキョウの姿が見えない・・・でも、見せたくない・・・」

 

僕の見た目なんてそこまでだと思うけれどな。

ユウキの方が可愛いし綺麗だと思う。

好きな人だからってのもあるけど、客観的に見てもユウキは美少女の部類だろうから。

 

「キョウって、独占欲の強い女の子・・・嫌い・・・?」

 

自覚はしてるらしいユウキさん。

別にそれで嫌いにはならないけれど、極端になるとヤンデレってのになるんだろうな。

 

「別に・・・気にならない、けど。個性、だし」

 

「うう・・・ボクよりキョウのが大人だあ・・・」

 

身長じゃなくて中身がかな。

確かにユウキより長生きしてるけど。

それを指摘はしない。

時間操作の事は・・・まだ言わない。

墓まで持っていくつもりだけれど、いつかは話したいな。

 

「ふふっ・・・」

 

頭を抱えながら悩んでるユウキの姿が可愛くてつい笑っちゃう。

姿なんてこれからいつでも見れるんだから。

装備の見た目にあのローブを着とく。

頭もすっぽり被る深めのだけど、ずらしたら僕の顔見れるからね。

 

「これでいい?ユウキ」

 

「うん・・・ごめんね、こんなボクで」

 

「可愛い、から。見たければ、ずらしたらいい」

 

実際にユウキの前で見せてあげる。

僕の目立つ白髪はしっかり中に入ってるから風に吹かれてぼさぼさにならない。

それを知ったユウキはご満悦なのか、ぎゅうっと抱きしめて来る。

 

「現実の姿が出るときからローブ着てるのは、姿を見られるのが嫌だっただろうから・・・。でもボクが見たいからって着させないのが嫌だったんだ」

 

「いつでもどこでも見れる。見たい時はずらせば良いから」

 

「うんっ・・・」

 

我が儘だけどそれを律する理性はあるから悩んじゃったんだろうね。

長くない間一緒にいても独占欲が強いって分かっちゃう。

こういうのは僕が気付いてあげないと。

ユウキって悩んで溜め込んじゃいそう。

 

「行こ、ユウキ」

 

「分かった!」

 

さっきまで悩んでたのにもう元気よくなってる。

変わり身が早いというか、思考を変えるのが早いのか。

宿屋を出るとSAOの有名人でもあるユウキの姿が見え少しざわめいていた。

 

「お、おい、《絶剣》だぞ」

 

「可愛いなあ・・・」

 

「誰かと歩いてるぞ。誰だ?」

 

普通に聞こえてしまうから居心地が悪く感じる。

ちらりとユウキを見ると僕と同じなのか苦笑してた。

 

「こういうとき、()()を捨てたくなるよ」

 

攻略組でありながら異名を持つほどの実力。

それでいてSAOでは数少ない女性プレイヤー。

美少女で性格も悪くない。

引く手数多だけれど、何故か居場所がないように思える。

虚しさというか。

押し付けられる期待と羨望。

まるで社交界みたいだ。

 

「・・・分かる、かも」

 

「えっ?」

 

「時々。捨てたくなる」

 

釘宮響として居て、その家を持っているけれど。

僕自身じゃなくて家目当てだ。

ドロドロとした居場所で楽しくもない。

 

「キョウ・・・?」

 

「ん、ごめん。行こう?」

 

そんな場所にユウキをそこに連れてはいかない。

慰め者として扱われる可能性すらある。

金持ちは庶民をそんな風に見てるんだから。

令息、令嬢限らず。

生まればかりの頃からそういう風に教え込まれて道具にされる。

見ていて気持ち悪い。

産みの親なのに、子供を使って上へと昇ろうとする汚さ。

上流階級は見た目は綺麗でも、その背後は汚れているだけ。

 

「転移、四十八層」

 

少し思考に耽っていたらいつの間にか四十八層に着いていた。

周囲にプレイヤーはいない。

遠目に見えても片手で数えれるほど。

 

「キョウ。凄く怖い顔してる」

 

「・・・ごめん」

 

「なんかあったら言ってね?ボクはキョウのお嫁さんなんだから」

 

「ん・・・」

 

こういうとき、ユウキの優しさが嬉しい。

冷たい思考がどんどん溶かされて、ふにゃふにゃになってく。

 

「んにゃ・・・」

 

「色々見ていこうね」

 

頷くとユウキの手を握る。

理想的というか。

ずっと欲しかった人はユウキなんだなって。

()()()そう思えてしまった。

 

 

 



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時幻の愛し子

少しというかかなり甘いです。
内容エッチぽいかもですが、どうぞ。


SAOでのハウス購入のやり方は至極簡単。

メニューウィンドウを開いて該当階層の空き家を探して購入手続きをするだけ。

現地に赴いて下見も出来るし、内装も見れる。

だけれどSAOのハウスは総じて高い。

階層が上がれば上がるほど相場は上がる。

機能性や実用性がある家や、豪華絢爛な家などはさらに高くなったりする。

四十八層の空き家もそこそこ値は張ったけれど、僕はソロ専。

お金なんて腐るほどあるし、使い道も対してなかったので貯まる一方だった。

攻略組幹部全員の金額を数倍した金額を持っているといえば、僕の持ち金は分かると思う。

ユウキと色々と悩んで選んだのはシンプルな一軒家。

外装に水車がついてたり、水路が近くにあったりと景色の音が多い。

二人暮らしをするなら困らない部屋の大きさで、お互いこの家が良いと決まった。

 

「キョウ、ありがとう」

 

「うん・・・?」

 

「ホントはボクもお金出さないと駄目なのに・・・」

 

「ん、良い」

 

そして購入はすぐに済ませたが、ユウキはずっと落ち込んでいた。

この購入した家の金額があまりにも高額で、四十八層の空き家では上から数えた方が早いほど高額物件だった。

それは最前線で戦っているユウキですら、半分も出せなかったぐらいに。

 

「こんな、高いと思わなかった」

 

一般的な家でも200~300万あれば買える。

だがこの家は1200万というぶっ飛んだ金額。

諦めようとユウキは言いつつも名残惜しそうにしてたから、僕が一括で買った。

かなり減っちゃったけれど、それでも問題はない。

使い道そこまでないからね。

 

「ん・・・でも、内装に家具はある」

 

「そう、だね」

 

内装には珍しく家具があり、デザインも家と合っていた。

これもあったからこその金額だったのだろうと思う。

 

「・・・気になる?」

 

「うん・・・」

 

「出せないのは、仕方ない。だから、僕の我が儘聞いて?」

 

「分かった・・・」

 

ユウキはこういうのをずっと引きずる。

だから代わりに僕の我が儘というか、したいことをやってもらう。

 

「ベッド、行こっ」

 

あまり元気がない彼女の手を引いて寝室へと連れていく。

そのままベッドに引き込むと、ぎゅうっと抱きしめる。

家探しであまり気にしてなかったけれど、夕方でなんだか疲れた感じがあった。

 

「き、キョウ?どうしたの?」

 

「んむ・・・」

 

最近の僕はユウキにべたべただ。

ずっと引っ付いていたい。

抱きしめてるとユウキの柔らかい双丘が僕に当たる。

むにゅむにゅと顔を埋めてると、ユウキに強く抱きしめ返された。

 

「む~・・・」

 

「嫌、だった?」

 

「そうじゃないけど・・・は、恥ずかしい、よ」

 

そう言うユウキは顔を赤くしていたが、それでも熱を孕んだ紅い瞳は僕をしっかりと見つめる。

 

「嬉しい、くせに」

 

意外にもユウキは羞恥はしつつも、期待を優先する。

辱められる方が嬉しがる。

とはいっても、そんな姿のユウキを見せるわけないけどね。

僕だけが見れる特別なユウキだから。

 

「えへへ・・・キョウはボクの旦那様だもの」

 

まだまだ一緒にいるだけでドキドキもする。

だけれど、見た目以上にユウキは色気があって、理性を揺する。

耳元で聞こえてくるユウキの吐息も心なしか、熱くて。

 

「ボクは、良いよ・・・?」

 

その一言で、ずっと我慢してたものが止まらなくなる。

お互いに熟した身体ではないけれど、求め合う。

重ね、離れた唇からは光に反射して銀糸が垂れる。

 

ユウキ(木綿季)、大好き」

 

「っ・・・うんっ。ボクも大好きだよ」

 

僕の言葉の意味に気付いたのか、とても嬉しそうに。

熱い吐息と、甘えた瞳。

それでいてとろんとした表情。

 

「来て・・・」

 

お互い、服はもう着てない。

生まれた姿のままで、ベッドに倒れ込む。

初めてだった彼女を優しく、幸せな世界へと僕は連れ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごそごそ、と布が擦れ合う音がした。

まだ寝ていたい気持ちがあったものの、閉じた瞼からは窓から入り込む光が微かに入ってくる。

 

「ん・・・あ、さ・・・」

 

身体を動かそうとすると、あまり自由に動かなかった。

目を開けると前には柔らかいものが、むにゅむにゅと形を変えて触れていた。

 

「んっ・・・」

 

それに合わせて僕をぎゅっと抱くユウキからは艶っぽい声が少し聞こえた。

 

「あっ、たか」

 

現実世界の身体じゃないけれども、ユウキの身体は暖かい。

僕を抱きしめるユウキも同じ感じなんだろう。

昨日のユウキに色々と反省すべきだったと思うことがあった。

やってしまったことだけれど、ユウキの身体はまだまだ成長するからこそ抑えたかったのに。

今からあんな行為をしてお互いに癖になったら困っちゃう。

 

「んぅ・・・」

 

ユウキの温もりを堪能していると、起こしてしまったらしく、まだ焦点の合わない瞳が僕を見る。

僕が抱きしめてる事が分かると嬉しいのか、ふにゃっと柔らかい笑みを浮かべた。

 

「おはよう、ユウキ」

 

「ん~・・・おはよ~」

 

ここはSAOだからあまり気にならないけれど、

現実世界だったらユウキはまだ身体を起こせない。

多分というか確実に鈍い痛みが多少ある。

 

「まだ寝てて、いいよ」

 

「ん、分かったぁ~・・・」

 

まだまだ眠たいのか、ユウキは少しすると静かに寝ていた。

寝顔がまだ幼くて可愛い。

頭を撫でたくなったけれど、そんなことをしてたらここから動けなくなっちゃう。

 

「まだまだ、おやすみ」

 

毛布をかけ直してあげて、脱いでいた服を着ておく。

メッセージは何個か飛んできていたようで、内容を確認していく。

 

「ん・・・アルゴ」

 

アルゴとは色々と長い付き合いだ。

ベータテスト時というのもあってお互い利用しながらも協力関係ではあった。

昨日はほとんど見れなかったから急いで確認すると、ある一文に目が止まる。

 

()()()()

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)は僕が潰したギルド。

幹部3名を始末しているから、表立った活動も出来なくなって自然消滅したと思っていたけれど。

 

「掃討作成、か」

 

血盟騎士団、風林火山、聖竜連合とSAOの名だたるギルドが参加しているらしい。

ソロのプレイヤーにも声をかけている辺り、本気度は高い。

向こうもレッド主体にオレンジを集めているらしいから対抗するための戦力ってことなんだろう。

人を殺すことに躊躇いがない人間ほど、相手をするのは厳しくなる。

過剰戦力と言われてもおかしな話ではないから。

 

「ユウキ・・・」

 

別に行くのはいい。

だけどユウキが嫌と言うのなら、僕は行かない。

多分言ったら駄目って言うんだろう。

誰が好き好んで、好きな人を死地へと行かせるんだろう。

でも教える必要性は・・・ない。

アルゴの送ってきた内容には、女性プレイヤーには声をかけていないそうだから。

彼女が自分で知り得たのならその時は教えよう。

裏仕事は他人で入るものじゃない。

入りたいというならば、自分の力を示す必要がある。

裏世界というのはそういうものだ。

いつの世も。

自身で気づけない愚か者は、いつの時世も総じて弱者なのだから。

ユウキはそうじゃないと僕は思う。

永く生きた僕の経験が、直感が。

 

「僕の愛しい子。どこまで来れる?」

 

夢の中でまどろむ、類い稀なる美貌を持ちし少女。

僕の居場所。

ずっと作り続けていてね。

じゃないと。

もう君なしじゃ、生きれないから。

 

 

 



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寂しがりな紫紺色

ユウキSideです。
気が向いたら出す予定ですが基本はキョウ視点になります。


いつからこんな感情を抱くようになったんだろう。

たった少ししか関わったことのない相手で。

それでも大切な相手だと理解するのは早かった。

 

「ん、なに?」

 

「んーん。なんでもないよ」

 

無邪気にボクに問う目の前の男の子。

見た目は、それはもう女の子で。

ボクも女の子だけれど嫉妬とかよりも綺麗とか可愛いが先に思っちゃう。

 

「ふにゃ」

 

雪みたいに真っ白な髪。

光の反射加減で白銀に輝くそれがボクは好きだった。

それでいてボクをじっと見つめて来る深い緑色の眼。

その瞳にボクが映されてるんだなって思うと嬉しい。

興味がない事にはとことん関心を示さない彼。

ボクには盲目的というか、溺愛みたいに映してくれる。

普段は大人びてる所もあるけれど、二人きりの時は見た目通りの幼さになって甘えて来るのがすっごく可愛い。

 

「えへへ・・・」

 

「んぅ・・・」

 

こうやって頭を撫でてあげると、目が僅かに左右に動く。

人目を気にするんだよね。

無いことが分かると、ボクが止めるまでずっとされるがまま撫でられてる。

触れると肌はすべすべで、柔らかい。

髪も良い匂いして手櫛で通るぐらい。

こういうのって現実世界の情報をSAOにそのまんま伝えてるらしいから、現実世界もこんな感じの感触なんだろうか。

 

「キョウ~」

 

「んぁ・・・どした」

 

「寒いから抱きしめても良い?」

 

「好きに、したらいい・・・」

 

好きにしたら、っていうのはキョウの照れ隠し。

顔も少し頬が色付いてるのが分かる。

こういうのも二人きりの時だけに見せてくれる。

キョウは普段表情を表さないから冷たいように感じるけど、本当は表情豊か。

ボクだけが見れる特別なキョウの姿。

そう思うとすごく嬉しい。

 

「ふへへ・・・暖かい」

 

「ん、あったか」

 

実は他の人に見せたくないって分かった時に、自己嫌悪があって少し泣いちゃった。

キョウに隠そう、って思ってもすぐにばれちゃって。

その時は怖かったんだろうね。

嫌われちゃうんじゃないかって。

好きな人に嫌われるのってすごく辛くて。

ボクが話すまで、ずっとキョウは待っててくれた。

こんな自分でも受け入れてくれた時なんて号泣しちゃってキョウが焦ってた。

 

「ふぁぁ・・・んう・・・」

 

抱きしめてたらキョウが小さく欠伸をした。

眠たそうな表情をしてて、可愛いと思っていると小さな重みがボクにかかる。

現実世界ならボクの心音が破裂しちゃうんじゃないかな、って思うぐらいドキドキしていて。

それと同時に無防備な寝顔を見せてくれるほど信用してくれてる。

最初会ったときなんて、威嚇してる猫みたいだったのに。

今となってはSAOで夫婦なんだもん。

キョウがいるおかげでボクは寂しくない。

だけど・・・。

居なくなっちゃったらどうなるんだろう。

アスナやキリトもいるけれど・・・。

このSAOがクリアされたら()()()()()()()になるのかな。

嫌だよ、もう・・・。

こんな温もり知っちゃったら戻れない。

 

「ぅぁ・・・?」

 

そう思ってたら涙が出てきちゃって。

止めようって思っても止まらない。

 

「ゆーき・・・?どしたぁ・・・?」

 

滲んだ視界でキョウが心配そうにボクを見て。

泣いてる事が分かるとぎゅっと抱きしめてくれた。

 

「いっぱい、泣いていいよ」

 

ずっと我慢してた感情。

抑圧してた分が爆発して、キョウに泣き縋る。

ずっとずっと寂しくて、誰にも言えなかった。

ボクだけが間に合って。

お母さんもお父さんも姉ちゃんも。

ボクを置いて逝っちゃった。

なんで生き残っちゃったんだろうって。

 

「キョウ・・・お願いだから」

 

ボクを置いて逝かないで。

そのためならなんだってするから。

ボクの全てあげるから。

もう独りぼっちにしないで。

 

ユウキ(木綿季)の隣が、僕の場所」

 

「うん・・・」

 

「ずっと、ね。居場所、作ってて?」

 

「うんっ・・・!」

 

その日はずっとキョウを離したくなかった。

自分でも不思議なぐらいに、()()()綿()()

安定しなくて。

独りぼっちだと怖かった。

それがキョウにも伝わったのか、ボクの隣に居てくれた。

 

「ユウキ」

 

「なに・・・?」

 

真夜中。

キョウの存在を感じていると声をかけられた。

その頃にはボクも落ち着いていて。

ただ二人きりの時間を味わっていた状態。

 

「今日、アスナと居て」

 

「ぇ・・・?」

 

「少し・・・お仕事が入った、から」

 

「な、ならボクも」

 

この時は少し焦ってたんだと思う。

キョウがどっか遠いところに行きそうで。

昨日の状態が落ち着いたと思ってても不安はだった。

 

「僕一人のご指名。だから待ってて」

 

「・・・でも」

 

「帰ってきたとき、困る」

 

そう小さく呟かれた時。

キョウの力が弱くなっていた。

ボクに頭を押し付けて自分の存在を主張していたから。

それだけボクの存在がキョウにとって大切なんだって分かった。

 

「分かった・・・」

 

「んっ・・・」

 

「でもっ、でもっ!絶対、絶対・・・帰ってきてね?」

 

「ちゃんと、帰る」

 

キョウと約束をした。

絶対に破れない約束。

お互いに破らないって分かってるから。

 

「ねえ・・・キョウ」

 

「んう?」

 

「まだ、一緒がいい・・・」

 

「ん、分かった」

 

もう少し、もう少しだけ。

一緒の時間にしたい。

戻ってくるって分かってても寂しいから。

生きて帰るって信じてるから、待ってるから。

ボクの我が儘、聞いてください。

 

 

 



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()()()()()()()()()()()()()()

明朝、件の掃討作戦実行日。

作戦会議があったらしいけれど僕に作戦なんてない。

というかその場を見て立てる方が動きやすい。

それを実行できる実力と思考はある。

人に対する期待も同情もない。

 

「ん、行ってきます」

 

ベッドで僕の隣に寝落ちている愛しい少女。

女性プレイヤーにはこの掃討作戦は伝えられていないからユウキを連れてはいけない。

それに僕とユウキの関係も知る人はいない。

アルゴぐらいには伝えても良いかもしれないけど。

無防備な唇に少しだけ重ねて、家を後にした。

ユウキの親友と言うアスナの元に居るよう言ってはいるから心配はない。

ただ攻略組では鬼と言われるほどの猛者。

中々の女傑なのだろう。

今まで行方知れずだったユウキの事を根掘り葉掘り聞いてクタクタになっていそうだ。

 

「・・・転移、七十二層」

 

その手の情報網から既に潜伏先は詰めてはいた。

ぐうたらと過ごしていた感じだが、暇なときはメッセージでのやり取りで集めていた。

 

「・・・はぁ」

 

そして出てくるため息。

正直攻略組と関わるのは好ましくない。

ローブも着ているが、人目は絶対にある。

既にちらほらと僕を見ているプレイヤーがいる。

 

「ま、いいや」

 

とりあえず掃討作戦の責任者である彼に会いに行くか。

場所は簡単に分かる。

普通に迷宮内を歩いていれば見つかるだろう。

それに索敵使えば表示もされる。

 

「ふぅ・・・」

 

呼吸を整えると、一気に加速する。

先に出発しているのは向こうだ。

さすがに追いつけない可能性もある。

それにオレンジとレッドの混合とはいえ、手慣れがいる。

躊躇いがない熟練者が。

 

「・・・見つけた」

 

走ること数分。

その姿を見る。

そして金属音が虚しく響いていた。

戦闘が始まっていたのだろう。

ということは掃討作戦が裏切り者によって漏れていた。

 

「仕方ない、な」

 

見捨てても良いが、仕事的には助けたのが良いだろう。

ストレージから僕の愛刀を取り出すと、勢いよく引き抜く。

 

「散れ、そして消えろ」

 

仕事で使う普段の声。

冷酷で、無慈悲な宣告。

加速した勢いのままレッドプレイヤーを切り捨てると急な乱入者に両者が止まる。

曲がりなりにも攻略プレイヤー、犯罪プレイヤーはかなりの実力者が多い。

特に犯罪プレイヤーは相手よりも上回る技量やレベルが求められる。

そんな人物が僕の突進を目に入れるどころか、通過されていた。

理解した頃には死んでいるんだから。

 

「逃げても無駄。()()()()()()()()()()()んだから」

 

自然と口角が上がるのが分かった。

どうやら楽しんでるみたい。

 

「や、やれっ!『()()』だ!」

 

僕の異名だ。

暗躍・・・裏で活躍しているのは別口だし、依頼でやったにすぎない。

だけれどその名は今この場では不利じゃないかな。

どうみても犯罪組は怖じけづいてる。

なら今のうちに始末してあげる。

 

「ふっ・・・!」

 

一瞬で相手の視界から逃げるとそのまま、動き回る。

さあ僕を見ろ。

見続け、死んでも離すな。

 

「ど、どこだ!」

 

離せば分かるでしょう?

必死になって目で追いつづけてもすぐに限界はくる。

 

「残念。さようなら」

 

その限界を迎えた順からどんどん犯罪組は消えていく。

いつ、なぜ、どうやって死んだのか。

それも分からず消えていく仲間。

数十分もすれば、犯罪組は全員消えていた。

 

「あーあ。みんな、消えちゃった」

 

攻略組を見やると、警戒心剥き出しで僕を見ていた。

中にはキリトがいた。

 

「なんで、だ・・・なんで殺したんだ」

 

僕が手を下したことがどうやら気になるらしい。

特に理由もないけれど、答えなければいけないんだろう。

 

「理由なんて、所詮自己の理解。なくても良い」

 

「それで殺したのか」

 

「そうだよ」

 

一応僕なりに答えたつもりだ。

あまり納得していないらしく、キリトはまだ俯いている。

 

「仕事はした。帰る」

 

帰ろうとすると手を捕まれた。

おそらくキリトだろう。

何となく分かる。

 

「なんか、用」

 

「・・・お前を易々と見逃すわけじゃない」

 

「人、待たせてる」

 

「なら俺も連れていけ」

 

ユウキの場所は常に追跡できるから迎えはすぐだ。

だけど僕との関係がばれる。

キリトやアスナにそれを伝えて良いのか、分からない。

信用に値するのか、僕自身が見てきたわけじゃないから。

 

「・・・その首、飛ばされても文句は言えない」

 

「ああ」

 

「・・・六十一層。好きにしたら良い」

 

勝手について来る分には構わない。

振り切るほどでもないだろうから。

ユウキが信用する親友とキリトは仲が良いらしい。

 

「転移、六十一層」

 

淡い光に呑まれ、視界は移ろう。

迷宮の景色は、六十一層特有の城塞都市へ変わる。

ユウキのいる場所まで歩いているとキリトもついてきているのか、距離を持って歩いて来ている。

 

「ん、ここか」

 

マップ表示に妙なプレイヤーマークがあった。

わざわざ《隠蔽》で隠れている。

 

「・・・ま、いい」

 

目的のハウスに着くと扉をノックする。

少し待っていると扉は開かれ、そこには亜麻色の髪の女性が出てくる。

 

「あなた、誰?」

 

そういえばアスナとはまともに面識がなかった。

ユウキが来ないとどう言おうか迷う。

 

「ユウキの迎え」

 

「・・・ホントに?」

 

「ん・・・近くに、キリトもいる。呼ぶ?」

 

しばし思考をして、キリトも一緒ならということで家へと入れることになった。

 

「キリト君、あの人って・・・」

 

「・・・()()だよ。向こうで居合わせた」

 

「そう・・・」

 

家の家具はなかなか良いものを使っているようで、ソファーもふかふかしている。

 

「それで、ユウキの迎えだって言う、君は何者?」

 

「呼んだのが、早いけど」

 

「妙な事をしたら」

 

無言の圧力をかけてくるアスナ。

やはり中々の人物だ。

というか・・・彼女の雰囲気は普通の人じゃない。

良いとこのお嬢様だろう。

 

「ユウキー!」

 

「はいはーい?」

 

ばたばたと駆ける足音。

このハウス2階あるのか・・・。

初めて知った。

上から下りてくるのは僕の大好きな人。

僕がいると分かると、周りそっちのけに僕に飛びついてくる。

 

「どぉ~ん!」

 

「ん、戻ってきた」

 

「うんっ!」

 

離れてた時間なんて少しだけなのに、やっぱり寂しく感じる。

さすがに二人の目があるから大胆に出来ない。

 

「え、えっと」

 

「ユウキ、二人見てる」

 

「む~・・・」

 

渋々といった感じでユウキは剥がれた。

左手にはユウキの右手が重なっており、指も絡んでいる。

 

「それで、お二人はどういう・・・関係なの?」

 

「ボクね、結婚したんだ」

 

「えっ?」

 

ユウキの左手の薬指には銀輪が輝いていた。

淡い緑色の宝石が嵌め込まれており、美しく輝く。

 

「ユウキ・・・もしかして」

 

「うん。相手はこの人だよ」

 

そういい、ユウキは僕を見る。

だが僕の正体というか容姿を見る人は殆どいない。

ユウキだけだろう、今のところ。

 

「本当?」

 

「ホントだよ」

 

「相手は・・・その、()()よ?」

 

まあ懸念しているのは僕がユウキを取り込んで利用しているんじゃないか、だろう。

あとは危険性か。

死神という異名は文字通り、対人戦において死を齎す事からつけられたんだろうか。

見逃しはしないし、レッドかオレンジぐらいしか始末はしていない。

真っ当なプレイヤーからすれば畏怖される。

 

「怖くなんかないよ。ボクの生き方を示してくれた。デスゲームだって伝えられた日に」

 

「・・・それは」

 

「それにねっ?すっごく可愛くて綺麗なんだよ!男の子なのに」

 

男に対して可愛いとか綺麗と言われても嬉しいと思う人は少なそう。

現にキリトも少しばつが悪そうな表情をしているし。

 

「ん・・・ローブ、取る?」

 

「う~・・・分かった」

 

ユウキの小さな独占欲が出てくるも、それはすぐに治まる。

この二人ならまだいいと思うんだろう。

それだけ信じてるんだろうね。

ローブを見た目から外すと、白髪が降ろされる。

僕の容姿を見て大体は嫌悪感か好奇心、そして性目的だ。

それが嫌でずっと隠していたのだけれど。

 

「それが・・・正体なのか」

 

「ん、そう」

 

「綺麗・・・ね」

 

「でしょ?触るとさらさらなんだ~」

 

ユウキだけは僕の髪でうっとりしてる。

あまりというか、ユウキぐらいだろう。

髪に触らせるのは元々好きじゃない。

心地好い触り方をするユウキだから良い。

 

「二人は家持ってるのか?」

 

「持ってる。場所は、秘密」

 

「秘密って・・・」

 

教えてもよかった。

だけど聞き耳を立ててる奴が居る。

《隠蔽》で隠れていようが気配が駄々漏れ。

徐に立ち上がった僕は玄関の扉に近づく。

愛刀はしっかり握られている状態で。

 

()()()()()()()()()

 

静かにスキルを立ち上げる。

音はしない。

ただ武器はスキルの光を持つ。

勢いよく扉を開くと同時に斬り上げるも、感触はない。

耳を立てれば必死に逃げる足音が聞こえる。

 

「キョウ!?ど、どうしたの?」

 

「・・・ちっ」

 

珍しく舌打ちが出てしまった。

意外にも避けられると思わなかった。

本気でやったわけでもないし、ここは圏内だからダメージは与えられない。

恐怖感は持てただろうが。

 

「アスナ。護衛とか、いる?」

 

「えっ?ご、護衛・・・同じギルドの『クラディール』がそうよ」

 

姿こそは見えなかったが、近くでこちら・・・というよりアスナの様子を伺っていた。

私邸まで護衛する必要もないだろうし。

 

「その護衛、外したのが良い」

 

「え、ええ?」

 

「なんかあったの?」

 

「珍しい、《聞き耳》持ち。ご丁寧に《隠蔽》も」

 

これで僕とユウキの結婚は表に出ることだろう。

だが、犯罪プレイヤーがまだ残っていたのは驚き。

もうしばらくというか活動すら危険になるほど組織は壊滅しているのに。

 

「・・・変な、感じ」

 

「なんで分かったんだ?俺やアスナでも分からなかったのに」

 

「ん・・・なんでって、言われても。気配ある」

 

こればかりはなんとも説明しにくい。

経験から基づいた直感。

先天的な直感もあるが、経験が大きい。

そこに気配があると分かる。

呼吸も、息遣いも分かる。

常に無意識で行ってる自己防衛のようなもの。

 

「そう、か」

 

「ん・・・曖昧。ごめん」

 

「いや、そういうのは信じるんだ。気にしなくて良い」

 

「ありがとう。気をつけるようにするね。えっと・・・」

 

「ん、キョウで、いい」

 

異名で呼ばれるのは少しこそばゆい。

二人は知っているべきだから教えておく。

 

「今日はもうお仕事終わったの?」

 

「ん、終わってる」

 

「じゃっ、帰ろ?」

 

どうやら僕のお姫様は早くお家に帰りたいらしい。

アスナとキリトにそれを告げるとフレンド交換をしておくことになった。

これで僕のフレンドは四人。

多くても困るからこれぐらいでいい。

 

「それじゃまたねー!」

 

「ん、また」

 

転移結晶で家がある四十八層へ飛ぶとそのまま家に入り込む。

時間は真っ暗だったが、月光が照らされる。

僕とユウキの寝室からは布の擦れる音が響く。

 

「ねぇ・・・響」

 

甘く蕩けたユウキの声。

その呼ぶ名前に僕はビクッと反応した。

ひびき、とは僕の本名。

なんでその名を呼んだんだろう。

 

「えへへぇ・・・響~」

 

「な、に。木綿季」

 

「してもいい、かな」

 

なにを、と聞くまでもない。

身体はお互いすごく熱くなっている。

元より彼女のが欲求は高いのだ。

 

「したい?」

 

意地悪く聞けば素直に頷く。

やり過ぎると癖になりそうで、今までも一度しかしていない。

だけど木綿季はもう我慢できないらしい。

もう少し焦らしてあげたかったけど、僕も抑えるのが辛い。

ずっとしたかったのを僕もまた我慢してた。

お互い重なり合う今宵の夜は、まだまだ長くなりそうだ。

 

 

 



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終わる世界と終わらない毎日

けだるさがありつつ、僕は目を覚ました。

時刻を見ると午後を回っていた。

寝たのが早朝らへんだからというのもあるだろう。

しばらくはのんびりとしていたい。

 

「ん・・・も、ちょい」

 

もう一度ベッドに潜り直して隣で眠るユウキを抱きしめる。

女の子の身体ってすっごく柔らかい。

ずっと触っていたくなるけれど、やり過ぎると辛くなる。

 

「んぅ・・・?」

 

ユウキの身体を触っていると起きたのか、目を覚ました。

だけど甘えたような瞳で僕を見つめていた。

 

「おふぁよ・・・」

 

「ん、おはよう」

 

お互いに身体を抱きしめること数分。

堪能しているとユウキの手が僕の下半身へと伸びていく。

 

「んっ・・・」

 

「えへへ・・・元気だね」

 

「むぅ・・・」

 

僕よりユウキの方が変態だ。

そういう知識というか技術は無いのに積極性がある。

今も僕のを触ってて嬉しそうにしてる。

ぎこちなさはあるけどやり方を教えてあげたらすぐに上達していったからか、すぐに僕が果てちゃう。

 

「したいの?ユウキ」

 

「・・・ダメ?」

 

「あんなにしたのに・・・」

 

「だって・・・」

 

僕だってしたくない訳じゃない。

だけど相性が良すぎてセーブが効きにくい。

男の僕が抑えないといけないのに全然抑えれなくなる。

途中から僕の理性がどんどん蕩けてくる。

少し迷っているとユウキは我慢できないのか、僕のを自分のに入れていた。

あまり我慢しない方が良いのか、僕も分からない。

だけど我慢のしすぎは良くないって聞く。

程々って訳でないけど存分に解放してもいいのかもしれない。

 

「んっ・・・あぅ・・・」

 

「また勝手に・・・」

 

「したいんだもん・・・」

 

「あまり、出来ないけど・・・身体、疲れてる」

 

「うん・・・」

 

そのままお互い果てるまでずっとベッドで暖まった。

終わったら終わったで疲れて寝てしまったけれど、

途中で僕は目が覚めた。

隣にはまだ眠っているユウキが僕に抱き着いて寝ている。

 

「すぅ~・・・すぅ~・・・」

 

「惚れた、欲目・・・か」

 

こういう爛れた感じも嫌じゃない。

一応というかお互い想い合っているし、義務感じゃないから良いのだけれど。

 

「もうすぐ、終わりか」

 

そろそろこのゲームも終わらせる頃合いだろう。

お遊びもおしまいになる。

裏切りにはなってしまうけれどこれ以上の遊戯はつまらなくなってしまうだろうから。

 

「僕の愛しい子。そのまま幸せな夢に浸っていて」

 

無防備な唇に僕のを軽く重ねると、ベッドから抜け出す。

必要な物資は元々僕自身のストレージには入っている。

これは結婚してから共有されるストレージとは別物。

このストレージに仕事に使うものや、緊急時の物など色々入れてある。

 

「しばらく、お別れ」

 

ユウキを置いていくのも寂しく感じる。

このまま一緒に連れていくべきだったのではと。

だけれど彼女じゃ僕に劣る。

どうしても粗が出て動きにくくなる。

仕方ない、と言い聞かす。

 

「転移」

 

しばらくは僕の姿を隠す必要があるだろう。

捜索の日数、攻略日程・・・。

下調べもいる。

後は僕の腕で充分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熱い。

熱い。

身体の中から焼かれるような灼熱。

地獄の灼火は仮想から顕現する。

 

「もうすぐ」

 

第七十五層のボスが倒されると同時に、アインクラッドは崩壊の駒を大きく進める。

自身が瓦解する可能性があると分かっていても。

 

「さあ」

 

大扉を押しのける。

金属の重々しい音が響きながら開かれていく。

戦闘が終わったばかりなのだろう。

中にいるプレイヤーは疲労がある。

そんな中、一人の男は立ち続ける。

 

「君は」

 

()()

 

ただ無情に告げる。

感情なんて無意味だ。

僕の言葉で察したのか、それ以上は何も言わなかった。

だが、一人の少女は驚いたような、悲しむような。

色々混ざった表情を浮かべる。

 

「そうか・・・」

 

一歩。

また一歩と。

僕は歩みつづける。

 

「君はもう最期にすると言うのか」

 

「つまらないゲームに、存在意義はない」

 

「なるほど」

 

交わされる言葉が分からないのだろう。

首を傾げる者ばかり。

 

「仕事で、来てる」

 

「ふむ。内容は?」

 

「貴方を、殺しに」

 

そう、殺しに。

血盟騎士団といえばSAO最大級のギルド。

攻略ギルドでもトップであり、その名は大きい。

そんなギルドのトップを殺すのだ。

 

「だが、それは遂行出来るのかな。周りがそれを許しはしないだろう」

 

「なら、周りも殺ればいい」

 

甘さなんてものはない。

周りのプレイヤーが邪魔をするというのなら、それごと始末する。

 

「本気なのだろう。今までの君はそうだった」

 

ヒースクリフ(茅場晶彦)はウィンドウを操作すると周りにいたプレイヤーが一気に麻痺状態になる。

 

「団長・・・貴方は」

 

「勘づいている者も居たようだ」

 

「ヒースクリフ・・・いや、茅場晶彦だろう。あんたは」

 

キリトは恐らくなんかしらで辿り着いたのだろう。

ヒースクリフの正体などそう易々と気付けはしない。

僕の場合は協力者でもあったからこそ事前に知っていたにすぎない。

 

「さて、どうする?ここで私を殺すかね」

 

「それは、当然」

 

彼は分かっているのだろう。

自分では僕を確実に殺すことは出来ないと。

茅場晶彦という男は天才だ。

だがそれは、()()()()()というカテゴリーに入るだけ。

戦闘においてはこの場では僕よりも圧倒的に弱者だ。

年齢で、身体的優位で、ゲームマスターで。

それらを駆使し、大きなアドバンテージを持っていたとしても僕に勝つ事は不可能だと。

 

「ならば、私が持つ最大限を持って迎え撃とうではないか」

 

そういいながら十字盾と片手剣を構える。

元より話し合いで解決するつもりはなかった。

 

「では。私が勝てば、この場から去りアインクラッド最上階にて君達を待とう」

 

「僕が勝ったら、終わり」

 

「もちろん。それは約束しよう」

 

ストレージからずっと燻らせていた愛刀と愛剣を取り出す。

刀はずっと使っていたけれど剣はまだだ。

使うことの無い武器だと思っていたから。

 

「君のスキルは実に興味深かった。それをこの場で見せてくれるのだろう?」

 

「冥土の土産で、持っていったら良い」

 

元々僕は左右片手で得物を扱う。

だからこうやって西洋と東洋の武器を振るえる。

 

「さぁ。死ね」

 

一気に加速を付ける。

勝負は長く続ける意味はない。

むしろお互い長く続ける分疲労が出てしまうだろう。

響き合う金属音。

一歩読み間違えれば死ぬ。

だが、それがなんだ。

 

「あっははっ!」

 

こんなにも愉しい。

退屈で仕方がなかった今までの人生。

一番心が躍る。

 

「全く、君の威力は馬鹿げている!」

 

動きが単調にならないよう、逐一動きを再演算。

ヒースクリフの動きの癖を読め。

次に打ってくる最善の一手を。

盾で防がれようとも、こっちは二刀。

もう一本の刃が振るわれる。

そして、求めていた時はあっけなく来た。

 

「終わり」

 

「・・・ああ。そう、らしい」

 

お互いに分かってしまった最期の時間。

最大級の過ちだと確信するのに思考はいらない。

次の一手でなにをするのか分かってしまった。

 

「秘剣」

 

かつて棺桶の頭領に向けて放った神の如き一撃。

時間操作があるからこそ成し遂げれた。

 

「燕返し」

 

二刀、あるのなら。

その分の剣撃を放てば良い。

頭上を、股下を断ち。

それらを回避するための逃げ道を断つ。

そして左右への離脱を不可能へと変える払い。

頭への過負荷だろうか。

視界がぶれる。

だが、その時に見えた表情は。

どこか晴れやかに見える。

悔いはないと。

 

「おわ、りか」

 

ならば僕の役目も終わりだろう。

元よりこのSAOで終える命。

両手に持つ武器を僕は思い切り自分自身の胸に突き刺した。

 

「響っ!!」

 

どこか微かに見えた紺色。

そういえば、と思い出す。

この世界へ飛ぶ前。

好きだった女の子がいたと。

思えばこの世界とあの世界は同じものだったのだろう。

だが歩んだ世界線が違った。

結局好きになった相手は同じだったんだ。

それが少し嬉しかった。

 

『ゲームは、クリアされました。ゲームは、クリアされました。ゲームは、クリアされました。』

 

無機質なアナウンスメントが流れる。

ヒースクリフがSAOのラスボスなのだから。

舞台から退場していった以上はゲームクリアとなる。

 

「もう、終わり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれくらい気を失っていたのだろうか。

目を覚ますと、どこか見たことのある風景。

蛍光灯の明かりが網膜を焼いていた。

久方振りの光が眩しく感じる。

 

「ぁ・・・ぅ・・・」

 

確実に死んだと思っていた。

自分のHPが一瞬で0になるところも。

だけれどこうして生きている。

 

「な・・・ん、で」

 

なんで死ねなかったのだろう。

これ以上生きていても何も無い。

時間操作なんてなければよかったと。

また。

独りぼっち。

木綿季。

ごめんね。

 

 



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手繰り寄せる希望

SAO事件から数週間。

身も削るほどのリハビリや運動により、僕の身体は健康的になった。

髪の毛は面倒だからそのままだが。

 

「確か、ここ」

 

見た目こそ小学五年生だが、戸籍上はれっきとした成人。

釘宮の力というのは中々強力で、国際的にも大きな発言力を持つほど。

つまるところ、上流階級と呼ばれる家で。

釘宮家の現当主でもある僕を付け狙うご令嬢が多かった。

無論僕はただ一人しか愛さないし、他を愛せる気も無い。

興味自体がなくて、女性的な身体の誘惑をしているんだと分かってもそれに惹かれはしない。

彼女以外に魅力を感じないというのが大きい。

 

「あの」

 

「はい?どうかしましたか?」

 

受付に立つのは女性。

見た目子供の僕は迷子だと勘違いされている気もするが気にしない。

 

「紺野木綿季って女の子の面会したいのですが」

 

「えっとー・・・少し待ってくださいね」

 

ここにきた理由なんて一つ。

彼女に会いに来るため。

家の力を使って探させたが、外出情報など一切見つからない。

となると病院にいるというのが大きかったので入院しているだろう場所に来た。

受付の女性を待っていると代わりにやってきたのはどこか若く見える男性。

白衣を着ている事からも医者だと分かる。

 

「君かな?木綿季くんに面会を希望しているのは」

 

「はい」

 

「あの子に面会者などいない者だと思っていたが・・・少し話を出来ないだろうか」

 

「構いませんよ」

 

恐らくこの医者は木綿季の担当医なのだろう。

面会者がいない、というのも理解はしている。

木綿季の家族は先に逝ってしまっている。

親戚はそんな木綿季に残された遺産や財産目当てに引き取ろうと打算していたが、彼が守っていたのだろう。

こういう裏の関係も分かるのが家の力の強みだろう。

彼に案内されたのはとある一室。

小話をするにはちょうど良いぐらいの大きさだろうか。

 

「私は木綿季くんの担当医の倉橋というんだ」

 

「釘宮響、と申します」

 

さすがに礼儀としては良すぎたかと思ったが、この男性が今や木綿季の保護者的存在。

好印象は今からでも良いだろう。

 

「では響くん、と。それであの子とはどういう?」

 

「SAOで知り合った一人・・・ですね。あの世界では結婚もした夫婦でした」

 

「夫婦・・・」

 

「SAOがクリアされたときに会えるよう、お互いの本名を明かし合いました」

 

「なるほど。それで木綿季くんに会いにきたというわけですか」

 

「そういうことになります」

 

こういう場は慣れているのもあってか、緊張はさほどない。

名のある家や社長、令嬢に令息など腹の探り合いはうんざりするほどにしている。

足をすくわれまいと身につけた社交術だが、案外役に立っている。

 

「とても言いにくいのですが。実は木綿季くんは未だに起きていないんです」

 

「起きていない・・・?」

 

その事実は驚いた。

SAO事件が終わって数週間だが情報自体まだ僕が聞き及んでいない部分もあった。

溜まっていた釘宮の書類や、退院祝いの手紙の返事など実際にはリハビリよりもそちらのが時間をかけていたのが大きい。

 

「まだ報道はされていないのですが、全国の病院を合わせて千人ほどは未だに起きていないというのは事実です」

 

「千人・・・」

 

「原因の究明はされているのですが、何も分からないというが現状ですね。なので僕ら医者としても現状維持なんです」

 

「分かりました・・・。ですが会うこと自体にはどうなんでしょう」

 

「面会自体は問題ありません。面会者用のカードを受け取れば大丈夫ですので」

 

彼は白衣のポケットから紐がついたカードを僕の前に置いた。

そこには0523室と書かれていた。

 

「これが木綿季くんの病室のカードです。響くんが来たと分かればあの子も喜ぶでしょう」

 

「ありがとうございます」

 

そのカードを受け取ると、倉橋に話は済んだのか病室に行くよう促された。

ここでの面談が木綿季の面会者を見極めるポイントなのだろう。

ろくな親戚がいないとよく分かる。

書類だけでは分からないこともあるものだから。

部屋を出てエレベーターで5階へと上がる。

5階に着くと左右に道が分かれるがエレベーターの外の近くに5階地図の見取り図があった。

 

「23は・・・ここ」

 

左へ曲がって少し歩くと0523室『紺野木綿季様』のプレートがある。

一応念のため三回ノックをしてみるも反応はない。

扉を開けると無機質な機械音が聞こえた。

奥にはベッドで横たわる木綿季の姿。

頭にはナーヴギアが装着されており、その瞼は固く閉じられていた。

ゆっくりと、木綿季の身体に触ると痩せ細った肉体。

体温こそあるも、決して高くはない。

どちらかというと低い方だろうか。

それでも生きていることは分かる。

木綿季の左手に指を絡めて握る。

反応なんてない。

僅かな木綿季自身の温度が感じれる程度。

 

「ごめんね」

 

あの時独りぼっちにすべきではなかったのではないかと。

ずっと悩んでいた。

キリトが気付いていたのは確実だったろうが、勝利できたのかは別問題。

五分五分だろう。

だからこそ絶対的な確実に死んだと分かる方法を取った。

 

「っ・・・」

 

気付いたらポロポロと涙が落ちていた。

こんなに僕は馬鹿だったんだなって。

ようやく見つけた僕の唯一。

なんで自分から手放すようなことをしたのか。

 

「木綿季・・・」

 

名前を呼んでも。

あの元気で明るい声は僕を呼んでくれない。

それがすごく悔しくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し泣いて。

木綿季の病室で時間を潰していると、携帯が振動した。

マナーモードにしていたので少し驚いたが画面を見ると、『楓』と表示されていた。

 

「・・・はい」

 

『もしもし?』

 

画面の向こうから聞こえるのは、大人びた女性の声。

釘宮楓。

れっきとした釘宮家の血筋であり、本来の当主。

本人が嫌がり、僕がいたから僕が当主になったのだけれど。

 

『・・・もう夕方よ』

 

「そう、ですね」

 

『帰ってきなさい』

 

「・・・もう少し、したら」

 

まだ帰りたくはなかった。

木綿季が入院しているこの病院は車かバイクでも使わないと気軽には来れない。

片道30分以上かかるので毎日往復となると燃料代が馬鹿にならない。

 

『響』

 

少し真面目そうに。

それでも心配なんだろう。

優しい声色だった。

 

「・・・は、い」

 

『今どこにいるの?』

 

「・・・病院、でしょうか」

 

『ふーん。そう』

 

釘宮楓という女性は、義理の姉だ。

仲は良い方だろう。

よそ者の僕を邪険には扱わなかったし、自分のやりたいことを貫くために僕に当主の椅子を譲るほどだ。

優しい姉だったし、厳しいというよりは甘い。

 

『ねえ、響』

 

「・・・はい」

 

『レクト、って知ってるかしら』

 

「・・・一応は」

 

『その会社、潰すか掌握したいの』

 

何故、と思った。

楓はそういうことに興味を持たないし、どちらかというと嫌悪している。

なのに自ら動くのは不自然と感じた。

楓の勤めている仕事も考えると。

何かあるのでは、と。

 

『私ね、妹が欲しかったの』

 

「え、えっと」

 

『義理の妹でもね。だから響の事を助けてあげようと思ったのよ』

 

「・・・分かりました」

 

『こっちは証拠でもあればいつでも。あとは響がどうにかしてちょうだい』

 

それだけを言い残して電話が切れた。

まさか楓が協力してくれるとは思わなかった。

だけど協力してくれるのはかなり強み。

 

「ん・・・」

 

木綿季の手を離すと病室を出る。

面会者カードを返却すると、乗ってきた車で家に戻る。

今からやる事は簡単。

レクトの裏を探ることだ。

それが結果的に木綿季を救うことになる。

あんな別れ方でさよならはしたくない。

片道30分以上かけて釘宮の屋敷へ着く。

中にはメイドがいるから綺麗になっている。

基本的にここにいることは少ないけれどやることはしないとダメだから。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様」

 

「ん、ただいま」

 

「本日は何か・・・?」

 

珍しく屋敷に帰ってきたのもあって驚いていた。

だけど興味津々。

ここで雇っているメイドは全員一般人ではない。

護衛や隠密など、それぞれが得意とする特技を活かした技術を専門にするプロの殺し屋や暗殺者。

元は僕がそういう子を見つけて雇って、本人達が希望したからそういう仕事をしているのだけれどね。

 

「レクト社。調べて。とりあえず情報が欲しい」

 

「分かりました。他には?」

 

「楓姉さんが、手伝ってくれる。そのための、証拠含めて。期日は・・・一週」

 

「了解致しました。期待に添える物を」

 

それだけ言ってどこかへ消えていく。

この屋敷には数十名ほど人がいるが、その全員がメイド。

本業はメイドだが、副業も楽しんでいるらしい。

 

「んぁ・・・ぅ~・・・」

 

少し動いたからか、身体を伸ばすと少し眠くなった。

たまにはこっちで寝るのも良いかな。

僕用の寝室にふらふらしながら向かうとそのままベッドに潜り込む。

ふかふかで暖かい。

人肌ではないけれど、僕はそのままぐっすりと眠ってしまった。

 

 

 



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墜ちていくのは

木綿季の病院から数日。

僕が頼んだ諜報部隊による情報収集が全て終了した。

今僕の手元にある紙束は、レクト社の一から全が書かれており、それは創設時期にまで遡れる。

そんな中あの会社内部での極秘中の極秘。

VR機器を利用した生体研究。

脳内の改竄を行い、精神に影響を及ぼす研究をしていたレクト社。

無論国際的に言えば禁忌ともいえる技術だ。

世に出せば日本の経済や信用度が大きく揺るぐ。

内容としては実に簡単に纏められているが、分かってしまうとその危険さが分かる。

戦争において重要とされるのは、兵器。

そしてその兵器を扱う兵士。

だが人間というのは本能的に危険を恐怖と感じる。

その恐怖が取り除くことが可能になれば。

相手をするにはとても手強い。

所謂痛覚が無いのと同然なのだ。

それがなければ人としての欠陥品といえる。

異能力者としてもそうだろう。

人として重要とも言える何かがないのだ。

僕が時間操作というものを宿すが、代償に何かが消えている。

それは自覚できるものではなく、指摘されても理解が出来ない。

そういう思考が根付いているからこそ自分自身では理解できず、欠陥品としての自覚が無い。

 

「証拠は、押さえた」

 

レクト社が秘密裏に行っている研究もそういう類だ。

元より人で行って良い技術ではない。

自らの手で正常品を欠陥品に作り替える必要が無いのだから。

 

『どうかしたの?』

 

「品は押さえた。動いて、もらえる?」

 

『分かったわ。今すぐにでも動いてあげる』

 

楓が動く以上はもうレクト社が逃れることは出来ないだろう。

ならば僕は出来ることをしよう。

 

「ねえ。いる」

 

「こちらに」

 

本当によくここまで育ったものだと思う。

小学生ほどの子もいれば、大人もいる。

短期間で、使い物になるほどにまで修練をするのは僕には出来そうもない。

 

「お茶をいれてもらっても良いかな」

 

「かしこまりました」

 

事が動くまでは僕は静観しておこう。

後は勝手に収まることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本で今世間を賑わすは、レクト社の実態。

全仮想世界の日本サーバーを担うレクト社が秘密裏に行っていた内容が出てしまった。

SAO事件による未帰還者1000人もレクト社が工作していた事が判明。

今は解決し無事に全員帰還がされている。

 

「すみません」

 

そんな中僕は病院に来ていた。

無論僕が病気とかではなく、お見舞いで。

 

「はい?」

 

「面会なのですが。紺野木綿季の」

 

「ええっと・・・釘宮響さんですね?」

 

「そうですが・・・?」

 

「倉橋先生から事前にお伝えされております」

 

そういわれて面会者用のカードを渡された。

あの先生も中々の人物だ。

カードを受け取ると以前来たときと同じくエレベーターで五階へ上がる。

号室も場所は勿論覚えているが、如何せん別れ方があれだった。

 

「怖い、な」

 

釘宮家の当主ともあろう者が一人の少女に怯えるなど中々。

それだけ僕の存在を占めているのだろう。

意を決して三回ドアをノックする。

中からは小さくだが声が聞こえた。

 

「失礼します」

 

病室へ入って奥へ進む。

奥には起き上がった姿勢で僕を見る少女。

 

「ぇ・・・?」

 

「初めまして」

 

現実世界では初対面だ。

あっちの世界で幾度ともなく過ごしたが、親しい仲でも礼儀は大切だろう。

 

「な、なんで・・・」

 

「死んだ、と思った?」

 

コクリと頷く。

確実に死んだと僕自身も思っていたから仕方はない。

 

「僕は、そう思った。・・・まあ、生きてるけれど」

 

だが、まあ。

あの時の判断はどうだったのか。

今でも不明だ。

僕には理解が出来ない。

これこそが僕が欠陥しているものだろう。

 

「おかえり。木綿季」

 

「うん・・・。ただいま、響」

 

僕の名を紡いだ瞬間。

木綿季の目から大きな涙の粒が落ちていく。

 

「良かった・・・。良かったよぉぉぉ・・・!!」

 

すぐそばに座っていた僕にしがみつくように木綿季は泣きじゃくる。

絶対に離さないとばかりに力強く。

こうやって泣いてくれる人がいる。

それは今を生きる僕にとってとても嬉しい。

死んだ時に悲しむ人がいる。

 

「ごめん。心配、かけた」

 

「ほんと、だよ・・・ほんとに・・・!」

 

彼女が自然に泣き止むまでは、ずっと。

近くにいると分かればそのまま泣き疲れたのか眠ってしまっていた。

 

「よしよし」

 

頭を撫でてあげながら僕は帰る時間までずっと病室にいた。

面会終了時間になると木綿季の方が帰らないでとせがんで中々に困った。

ちょうど倉橋もその時に来ており、困った顔をしていたが居ても構わないと許可を貰えた。

 

「ねえ、響」

 

「ん」

 

「何でボクの入院してるところ分かったの?」

 

確かにそれは疑問だろう。

普通に木綿季の住所を知っていても分かる訳ではない。

 

「僕の家・・・というよりは、教えてもらった」

 

「教えてもらった・・・?」

 

「・・・腹黒い、役人に」

 

今でもあの役人に会うのは少し勘弁願いたい。

なにか原に一物抱えているのが分かる。

調べれば分かるだろうがそこまでして興味も湧かない。

僕の表情で察したのか木綿季も苦笑していた。

 

「まあ・・・木綿季の入院場所、分かったから。別に良い」

 

「えへへ・・・そういえば、響。ボクって退院したらどうするんだろ?」

 

「・・・親戚、は?」

 

「・・・ちょっと、ね」

 

木綿季も余りいい思い出がないらしい。

となると、住む場所だが・・・。

 

「普通の家・・・だけど。住む?」

 

「へっ?」

 

「部屋は、余ってる。学校も、SAO事件のために支援学校があるけど、近いから」

 

「え、えええ、っと」

 

何をこの子は赤面するんだろう。

SAOの時見たく一緒に住むだけなのに。

 

「まあ・・・住むなら、言って。考えてからでも」

 

「住む!お邪魔じゃない・・・なら・・・うん」

 

最後の方はぼそぼそしていた。

SAOと現実ではまた違うのだろう。

僕はあまり実感が無いけれど。

 

「なら、退院早くできるよう、頑張って」

 

「うん・・・。先生がこの調子なら数週間ぐらいだって」

 

「ん、なら準備、しとく」

 

前後はするだろうが早くて2~3週間。

遅くて一ヶ月だろうが、木綿季の頑張りで変わる。

別邸の家の余り部屋を少し改装しておいても良いかもしれない。

携帯で本邸である釘宮の屋敷に電話する。

 

「響」

 

『これは・・・ご主人様、どうかなさいましたか?』

 

今考えてみるとあの別邸は僕が一人で過ごすためのもの。

もう一人ではないからやっぱり本邸にしよう。

 

「近々、僕含め、二人そっちで暮らす。準備、お願い」

 

『了解致しました。寸法などは』

 

「僕が、やるから大丈夫」

 

『ではお部屋等の準備をしておきましょう。他にもございましたら、その都度』

 

すぐさま電話は切られたが、いつも通り。

携帯を仕舞うと木綿季が不思議そうな顔で僕を見ていた。

 

「誰と話してたの?」

 

「ん、メイド」

 

「・・・メイド」

 

「変な方じゃなくて、普通のメイドさん」

 

「・・・そっか」

 

ちゃんと説明すればほっとしたのか木綿季は安心そうにする。

一般家庭はメイドなんていないから。

義理の姉の楓以外はいないし、木綿季も親戚以外はいない。

似た者なのかもしれない。

 

「ん・・・ふわぁ・・・」

 

「眠たいの?」

 

「ん・・・」

 

頷くと木綿季が僕を撫でてくれる。

それが嬉しい。

あの時みたいだから。

眠気に襲われて僕はそのまま眠った。

近くに木綿季がいると分かるよう手を握って。

 

 



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