転生者の楽しいヨルムンガンド生活(仮) (Bälz)
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楽しい演奏会と男の決意

 はじめまして。
 ROM専でしたがこの度、一品出してみることにしました。
 拙い代物で有りますが頑張って書きました、褒めてください。嘘です。
 自分が読みたい作品を自分と相談しながら吐き出しました。
 ちなみにこの作品には主人公が前世でどのように生き、どのように死んで、どのようにヨルムンガンドの世界に生まれたのか。から、ヨルムンガンドの面々と行動を共にし、最終巻の俺たちはこれからだEND迄の大まかなプロットが自分の中には存在します。その上、高橋先生のデストロ246とか、相田先生のガンスリンガー・ガールとか、芝村先生のマージナル・オペレーションとか、銃と子供が出る作品を無節操にクロスオーバーさせる妄想もあります。しかし、どうせ短編で終わると思うので、ヨルムンガンドオンリーで。その上、序盤の一部分だけを切り取ってそこへオリ主をぶち込むだけで原作要素も薄味という浅い作品です。
 多分、一切、面白くないと思うのでブラウザバック推奨であります。


 夜が明け、輝かしい太陽が窓から遮光カーテンの隙間を縫って暗い部屋の中に一筋の光をもたらす。

 その光に当てられ、男は自宅のベッドの上でぼんやりと目を覚ます。

 のっそりと起き上がり、無意識に目元をこすって目ヤニを取りながら意識をゆっくりと覚醒させていく。

 

 数分もしない内に、それなりにはっきりした意識でベッド横の小さなテーブルの上の腕時計で時刻を確認すると男の起床に気づいたのであろう少女が男の下着と着替えやタオルを持って慎ましいノックの後、部屋へと現れる。

 

 男は少女から少女からそれらを受け取るとのそのそと階段を降り、バスルームへと向かう。

 少女はその姿を見送ると朝食の用意をテキパキと始める。そして、二十、三十分としない内に二人分には少し多いように見える量の朝食を用意し終える。

 

 そのタイミングに合わせるように男がシャワーを浴びてスッキリとした面持ちで朝食が用意されたダイニングへやってくる。

 

 少女は男になみなみとコップに注がれた緑茶を渡し、男はそれを受け取るとゆっくりと飲みながら、朝食の席へと着く。それを見ながら、少女も自分の飲み物を用意すると席に付き、各々食事の挨拶をすると朝食を始める。

 

 朝食の内容は少女の気分でいろいろと変化するが今日は和食の気分だったようでそれなりに体裁の整った形で手の込んだものからある程度簡単に用意できるものを合わせて用意していた。

 

 少女は年相応の量に用意したそれをバランスよく味を確かめるように食べていくのに対し、男は朝食を多く摂る質のようでおよそ二人分にも見える量の朝食を左から右へといった感じで流れ作業のように平らげていく。

 

 食事を終えると二人揃って地下の作業部屋に降り、昨日使った仕事道具の整備を始める。

 男と少女は一時間足らずでそれらの整備を終えると、男は作業部屋の隣に用意した射撃部屋へ赴き、整備したばかりの銃で日課と趣味と実益とを兼ね備えた射撃を始める。

 

 3つほど並べられた拳銃の収まったガンケースから最初に手に取ったのは小型で隠匿携行に特に向いているオーストリア製拳銃(Glock29)であった。よく見れば照星が弄られているようにも見える。

 遊底(スライド)を引いて薬室(チャンバー)が空であること確認すると、男はエクステンション付きの10mmAUTOがぎちぎちと詰まった複列弾倉を銃把の中へ納め、再度、遊底を引いて薬室に弾を送り込む。

 

 静かにアイソセレススタンスで吊られたターゲットに向けて照準する。その距離十メートル前後。

 

 狙いをそこそこに男は一発撃つ。.357マグナムにも匹敵しようかという反動が男の両腕を通って身体の全体に伝わり、その撃ち味を男はゆっくりと楽しむ。そして、余韻をそこそこに男は照準をそのまま、素早く銃爪を二度引いて(ダブルタップで)ターゲットを撃ち始める。そして、十数秒にも満たぬ内にそれを5回繰り返し、ターゲットの中心線を外れない形で弾痕を残す。

 

 指掛けを兼ねたエクステンション付きの弾倉の容量は11発。それを撃ち切り遊底が後退した位置で止まる。

 

 遊底を後退位置に固定する遊底留め(スライドストップ)を操作し、遊底を前進させると空になった弾倉を抜いて新しい弾倉を挿し込む。空の弾倉をテーブルに置いて遊底を逆手で引き、薬室に弾を送り込む。

 

 ベルトの右腰にヒップホルスターを着け、そこへGLOCK29を納めると反対側にはマガジンポーチを着け、予備の弾倉を挿し込む。そして、ターゲットの数を増やすようにリモコンで操作する。

 

 距離はまばらにターゲットの数を4つに増やすと一呼吸を置く。

 男は自分の中のスイッチを切り替えるように瞬きを意識的に一度、目を開いた瞬間、ホルスターに納められた拳銃を抜く。

 

 最初に一番近くに配置されたターゲットの中心線を目安に抜いたばかりの拳銃を腰だめの位置でダブルタップ。

 すかさず、胸の前まで腕を持ってきて撃ち込んだばかりのターゲットの頭部に照準を持ってくる。銃爪(トリガー)を絞って一発。

 次の目標は一番遠い位置に配置されたターゲット。ウィーバースタンス気味に狙いをつけ、胴へダブルタップ、反動で照準が上へズレることを利用してそのまま頭にエイム。銃爪を引き絞り一発(ワン・ショット)、頭部へヒット。

 今度は反動を完璧に押し殺し、照準を崩さず次のターゲットへ。そこから一番近いシルエットの頭部へエイムをずらし、ダブルタップ。

 最後の目標の胴へ視線をやり、その視線の先に銃の3ポイントドットを持ってくるようにエイム、ダブルタップ。そのまま頭部にもエイム、トリガ。そして、ヒット。遊底が後退した位置で止まる(ホールドオープン)

 

 一切の猶予を挟まず、空になった弾倉をリリース。それと同時に抜いていた予備の弾倉を叩き込み、遊底留めを親指で操作し、遊底を前進させる。

 他の目標の有無を視認、コンバットレディポジションに銃を持ってきて、もう一度、周りを確認をして、右腰のホルスターへ銃を納める。

 

 十秒足らずの事を終え、男は深呼吸を一つ。あらためて、結果を確認する。どれも、照準の通りに弾痕が残っていることを確認するとリリースした空の弾倉を拾い上げ、壊れてないか一応の確認すると、同じことを二度、三度とターゲットの位置や使用する拳銃を変えつつ、繰り返す。

 

 同じように少女も男の隣で射撃を始めるが、一時間もしない内に先日終えた仕事の報告書や経費の算出、新しい弾薬の注文のため、少女は自分の部屋へと戻っていく。

 男はその後も部屋に籠もり、三時間近く、拳銃だけでなく、アサルトライフルやライフル、ショットガンと次々と撃ち続けた所で満足したのか軽く整備した後、自分の部屋へと戻っていく。

 

 自分の部屋へと戻った男は動きやすい格好に着替え、GLOCK29をTシャツとズボンで隠れるようにレザー製のインサイドホルスターでアペンディクスキャリーすると外へ走りに出かける。対して少女は、自分の部屋で先程の業務を終え、新しい依頼についてのメールに目を通し始める。

 

 一時間程度で外へ走りに出かけた男は家へ戻り、そのまま汗を流すためにシャワーを浴びる。それに気づいた少女は時間を確認し、早めの昼食のため、レシピを探し始める。

 目的のレシピを見つけた少女はそれを頭に入れ、昼食の用意を始める。

 少し早い時間ではあるものの用意を終えた昼食を二人で食べ始め、ゆっくりと食事を終える。

 

 食事の後はゆっくりと時間を過ごすのだろうと少女は思いつつ、自分の部屋に戻ろうとする少女へ男は後ろから

「時計を買いに行こう」

 と、突然言い出す。

 急にそう言われ、少女は混乱した面持ちで男へ振り返る。

 突然、予定と思しき事を言われ、艷やかな黒髪と共に可愛らしい顔を小さく傾げながら褐色の肌色を持つ少女は短く問う。しかし、男はそれに満面の笑みで普段つけている腕時計を指差しながら、

 「時計を買いに行こう。」

 と同じ言葉を繰り返し、そそくさと外出の準備を始める為、動き出す。

 

 少女は男の言動に多少なりと戸惑いの表情を見せたが、なにか面白いことを前にして準備を始める子供のような無邪気な男の表情を前に、何も言わぬまま自分も外出の準備を始める。

 自分の部屋に戻った男はまず、ゆったりとした部屋着から外行き用の装いが詰まった衣装棚を開け、黒いスラックスと暗い紺色のシャツを出して着ると同じように衣装棚に吊られたショルダーホルスターを身に着ける。

 

 テーブルの上へ無造作に置かれたガンケースから今朝も撃ったばかりの愛銃を取り出す。

 その愛銃は一見、コルト・ガバメントの他社製高級モデルにも見える。しかし、至る所に己の使いやすいように改良、変更された仕様が見受けられた。

 特に違うのはコルト・ガバメント特有のグリップセーフティがオミットされた特注のグリップだろう。また、銃口先には銃口制退器(コンペンセイター)が取り付けられており、フルサイズモデルのコルト・ガバメントが更に大きく見える。

 

 男は自らの愛銃を手に取ると遊底を引いて安全確認をすると、同じくガンケースの中から単列弾倉(シングルカラムマガジン)を三つ、取り出す。

 取り出した単列弾倉に10mmAUTO弾が七発、かっちりと入っている事を確認すると一つを愛銃のグリップの中へ滑り込ませ、遊底を引いて初弾を薬室に装填すると、親指で安全装置を掛け、ショルダーホルスターに愛銃を差し込む。

 

 次にベルトの左腰辺りにマガジンポーチを付け、愛銃の予備弾倉を二つ挿す。そして、昼頃からアペンディクスポジションですぐに携帯出来るよう、ホルスターに納められたままのGlock29を抜いてスライドを軽く引いて薬室に弾が装填されているかを確認すると、早速それをアペンディクスポジションに携帯する。

 

 最後にそれなりに上等な灰色のジャケットを羽織るとテーブルに置いたままの腕時計を身に着け、ちらりと確認してから部屋を後にする。

 

 その頃、少女は自分の部屋へと戻ると仕事道具を収めた棚から短機関銃(MP5KーPDW)を取り出しボルトを引くと、弾倉にローダーで素早く弾を装填していき、最大まで装填した弾倉を差し込み、ボルトを叩いて初弾を装填する。

 出かける際にいつも使っているリュックにストックを折り畳んだそれをを収め、同じように装填を終えた予備の弾倉を二本収める。そして、ずっしりと重くなったリュックを背負って部屋を出る。

 男は部屋から出てきた少女に準備はできたかと言わんばかりに視線を送ると、こくりと小さくうなずく。 

 

「では、行こう」

 男はニヤリと口角を上げながら少女を連れて自宅を後にするのだった。

 

 

 

 

 一時間程も寄り道をしながら街を練り歩き、目的地である免税店に近づこうと行った所だった。

 男はその身に着けた物々しい装備に反して一見すればまるで少女を連れて散歩に行くような気軽さで街を歩いている様子だった。

 

 歩調にはまるで踊りださんばかりの軽快さと喜びが溢れるようで少女もこの後、起きるであろう状況を予想しているにも関わらず男との街歩きを楽しんでいた。

 

 後一本、横道を過ぎれば男が言った時計を買える場所に着くかといった所で少女は女の大きな声を聞く。それに伴い、男の雰囲気が一変したことに気づいた少女は素早く体勢を低くしながら物陰に隠れると、リュックからいつでも短機関銃を抜けるように準備する。

 

 男は素早く建物に背を預けながら懐から愛銃を抜いて酷く嬉しそうに凄惨な笑みを浮かべる。

 女の声から数秒と経たずに響く数多の銃声に男はますます機嫌を良くする。

 男や少女が普段聞き慣れた拳銃弾よりキレ良く軽い絶え間なく続く発砲音、それに比べて大きいアサルトライフル(AKS-47)の断続的な発砲音。

 

 そうした銃声の中に連続する爆発音や弾が盾に当たって響く特徴的な音を耳にした瞬間、男はついに身を預けていた建物から離れ、拳銃を片手で撃ちながら銃撃戦の真っ只中へ自己主張するがごとく身を出す。

 

「HAHHA!休日の俺の庭でそんな面白そうなことやってんじゃねぇよ!」

 男はそう言いながら曖昧な照準のまま、オーケストラと呼ばれる殺し屋の男へ愛銃の10mmAUTO弾を撃ち込む。

 軽薄な男の声よりも先に、向けられた殺意を察知して、テンガロンハットをかぶった少女が咄嗟に盾を向ける。

 

 突然聞こえてきた男の声に驚く暇もなく盾が銃弾を弾き、重く鈍い音を響かせる。

 「ナニコレ!?スッゴイ重いよ師匠!?」

 直接的な被弾を避けることは出来たものの予想より強力な弾薬に盾を押されテンガロンハットの少女は泣き言を漏らす。

 師匠と呼ばれた男はこの特徴的な発砲音と発砲の前に突然聞こえた男の言葉が脳裏に過る。

 

 「10mmだ!F○ck‼休暇中なら引っ込んでろよ無謀(ノウフェイス)

 反撃とも言わんばかりに男に向けてアサルトライフルの連射が向けられるが既に建物の影へ身を隠された後だったため有効な射撃にはなり得なかった。

 

 そんな中、激昂した少年兵が短機関銃で突撃する。

 そんな光景を見た少女は舌打ちを一つ、そして、今まで身を隠していた物陰からいつでも撃てるように準備された短機関銃を三点バーストで連射し、彼を援護する。

 二つのSMGによる射撃にオーケストラは怯まず反撃をしようとするが突然、片方の銃声が止まり、少年が引きずられるように物陰に消えていく。

 

 それに合わせ少女も、フルオートにセレクターを切り替えて弾幕を張りつつ、この状況でも愛銃を片手に笑顔を浮かべながらいるであろう男へ向かい、移動する。

 それを察知していたように、男の方も迎えに行くが如く、少女の移動を援護するため、オーケストラへ愛銃を撃ち続ける。

 

 二度、三度、四度。銃爪を引き、オーケストラの面々を威圧し続ける。六発目を撃ち、男は空になった弾倉をリリースする。

 グリップに納められた空の弾倉が自重で落ち、それに合わせるように新しい弾倉を叩き込む。そのまま、射撃。

 同じように威圧するように、反撃の隙を許さない重い一撃をわざわざ、盾に当てていく。そして、少女の移動を終えるのを見たのと同時に物陰へと身を隠し、上機嫌に鼻歌を歌いながらスライドストップした愛銃の10mmAUTO七発を撃ちきった単列弾倉を交換し、スライドを引いて薬室に装弾する。

 

 激しい銃撃に襲われ時間を稼がれたオーケストラの男はイラつきながら配備に付き始めた警察の部隊へアサルトライフルの弾丸を食らわせる。

 そんなオーケストラ達に向けて別の角度からサプレッサーによるくぐもった銃声と共に弾が向けられる。

 テンガロンハットの少女はそれにすら反応してみせ、盾を向けることで防いでみせるが.45口径の威力に押され、その重さに感想を漏らす。

 

 「シケた音混ぜんじゃねーー!」

 盾の後ろで師匠と呼ばれた男がイラつきを爆発させながらアサルトライフルを向け、乱射する。

 男はそんな光景を横目に見ながら、1分もしない程短い電話を終えると

 

 「そろそろ動くかな」

 上機嫌のまま、男はまた突然、少女にそう言い、愛銃による一発をテンガロンハットの少女(カウガール)へ撃ち、テンガロンハットを吹き飛ばすと愛銃をホルスターに納め、そそくさと帰路への道へ着く。

 少女は休暇を男に振り回されたのにも関わらず、男の左腕に絡みつくように抱きつき、仲睦まじい様子で帰路につくのだった。

 

 

 

 

 その日の夕方、男は一旦帰宅して弾倉と弾を補給すると少女を家に置いて外出する。

 だらだらと歩いていると電話がなり、男は電話で10秒程話を聞いて、足を速める。

 10分程歩き、街から少し外れ、世間の日陰とも言える環境に着くと男は見つけた少女に

「Hey カウガール!調子はどうだ?」

 そんな男の軽薄な口調に殺意を隠しきれない様子でテンガロンハットを失った少女は振り返る。

 

 振り返って男を見た瞬間、チナツと呼ばれていた少女は反射的にSOBホルスターへ手を伸ばし、グリップを握る。そして、少女はあと数センチでホルスターから銃のロックが外れるところで、いつの間にか自分を照準する銃の存在を前にして動きを止める。

 そんな様子を見せる少女に対しても軽薄な態度で男は

「気分はどうだい?カウガール」 

と、先の質問を繰り返す。 

 

 少女はあくまでグリップからは手を離さず、男へ

「アンタもあの武器商人の連中と同じように刻んで、痛めつけて殺してやる。」

 と激昂する。

 男は激昂する少女の怒気に対して怯むことなく軽薄な笑みのまま

 「君には武器商人も無論、僕たちも殺すことは無理だろうよ」

 だって本当ならもう死んでるだろ?と男はニヤリと笑いながら暗にそう告げる。

 事実、声を掛けられるまで男に気付けなかった少女はニヤリと笑う男へ更に苛立ちを怒りを募らせ、牙を向くように唸る。

 「帽子が飛んでもお前さんの視界は狭かったな?」

 男のその何気ない一言は少女を更に刺激する。

 

 「そして、そんな視野狭窄なお嬢さんに有り得ないような提案をしよう…」

 男はそう告げると浮かべていた笑みを消して

 「復讐を諦めろ、今までやって来た全てのお仕事の何もかもを嘘にしろ。それが出来るなら、君を、この業界から君を、無かった事に出来る」

 そう、告げる。

 

 

 少女の返答はまだ来ない。当たり前だ、男の言葉をそのまま受け取るならば、『師匠』の復讐を捨て、『オーケストラ』を捨てれば、自分を銃を取ってしまう以前の世界に戻すと、そう言っているのだから。

 少女には意味がわからない、出来る、出来ないの判断が付かないのではない。男の言っている意味が分からないのだ。

 

 キッカケは悲劇から、何か間違った運命の悪戯とはいえ、一度手に取った銃に残りの人生の全てを染め上げられた少女に、男の言葉はもう、届かない。そんな様子を男は少女の表情から読み取る。

 自ら生と死の狭間を望み、戦いと血と鉄に身を染めた男は、悲劇の運命によって、生と死の境界が渦巻き、戦いと血と鉄に見初められ、染め上げられた少女を決して憐れまない。

 

 何故ならば、何方にせよ、既にその身は傷付け、命を奪う事に大なり小なり愉悦を、享楽を見出し、味わった者だから。

 方や、今宵、恐怖を知り、命を散らせる者で。方や、それらの全てを知りながら見送る者だったとしても。何方も同じ穴の狢だったと。

 男はそれを再確認した。そして、己は今、この世界に生きているのだと再認識した。

 

 少女は意味のわからない事をほざいて黙りこくった男を注視する。未だにSOBホルスターの拳銃からは手を離してはいない。

 あまりに静かだから男は隙を見せているのではないかと、そう思った。そして、男の目を見る。一体何処を見ているのかと、隙を見せているなら、右手の拳銃でそれはもう、ズタズタのボロボロにして道路に飾ってやるとさえ、そう思っていた。

 

 男の目は黒かった、目を合わせていると自分の全てを見透かされるのではないかと、もしくは、これを見つめていると、何も知らず何も失っていない、今はもう影も形もない、昔の自分を思い出してしまうのではないかと。

 

 それが怖かった。

 変わってしまった、変わらざるを得なかった今の自分を、過去の私はどう見るのだろうと、そう考えてしまった。

 少女もまた、男がそうするように思考の沼に沈みそうになる。それを男の口が開く事で中断させられる。

 

 「撃たないから、右手を銃から離せ、そしたら、全力で走ると良いよ」

 男はまるで死を悼むような表情で少女へ告げる。

 男の言葉を信用してもいいか迷った。でも、男を見ていると、なんとなくそうした方が良いように、少女は思った。だから、視線を男から外さないまま、銃を諦め、横目で逃走ルートを確認する。そんな分かりやすい隙を見せても男は何もアクションを見せないから、そのまま、全力で走った。

 

 走り出す際、横目でちらりと男を見た。口元は良く見ることが出来なかったが言葉を紡いでいるようにも思えた。男は何を言ったのだろう?そんな考えを振り切るように少女は走った。

 それを男は静かに見送った。きっと、少女には聞こえないだろうと思いながら

 「良き旅路を」

 男はそう、呟いた。

 

 

 

 

 

 夜になる。そして、夜が更け、深夜とも言える時間になる。

 男は闇夜が空を覆い、地を人の生み出した光が照らす、静かなようで、人の営みが垣間見える、そんな街の何処かで、サプレッサーで抑えられた一発の発砲を聴き取る。

 「おやすみ、カウガール。」

 男はグラスに注がれたウォッカを空へ掲げ、一口煽る。

 飲み慣れた酒の味を舌の上で転がせながら、思想に耽る。

 

 己は、こうなることは知っていたのだ。それで、助けられるならば、助けてやりたいとも思った。しかし、助けて、それからどうなるのかという怖さもあった。

 今さらもうひとり、養うことに問題はない。経済的余裕も精神的余裕も持ち合わせてはいた。

 

 だが、原作に手を入れることへの恐怖はあった。今まででも、多少なり、原作に浅くは関わってきた。しかし、これは今までと違う。

 いくら、彼女に悲しいバックボーンがあれど、本来なら、死ぬはずの人間をただのわがままでやってもいいことなのかと、ここの原作は関わっていいものなのかと、そう考えた。己の中でいくら考えても答えは出なかった。

 

 だから試した。出来るなら、彼女がそう望むならそうしようと。

 

 結果はこれだった。

 彼女は救えなかった。しかし、原作を気にせず手を入れる勇気は手に入れた。男は気づいたのだ。前世の記憶に、原作に、気をかけすぎていたと。

 彼女について、紙の一枚二枚から読み取れることだけで何故、こうも自分は憐れんでいたのかと憐れむ傲慢さに気づいた。

 

 例え、どれだけ過去の自分が知る世界に似ていようと、自分が住む世界とそれとを同一視してはいけないのだ。彼がこの世界に生きてきたように、彼女もまた、この世界で生きていたことを再確認したのだ。

 故に、男は迷わないことにした。

 自分の知る限り起きる未来に合わせ、自分の都合で原作に関わることにした。

 

 男の望みは唯一つ。

 

 戦いを、血と鉄と硝煙と火にまみれ、生と死が混ざり、その境界が捩れる戦場を。

 

 前世で知った、知ってしまった、生と死の間で揺れる、その快楽に浸り続けるために、この丸い地球の形をした火薬庫の総てを歩き渡り、平和の為に武器を売る武器商人の手で平和になってしまうかもしれない、この世界を。

 

 己の命を賭け代にした戦場という名のカジノで運が尽きる(死ぬ)か、それとも勝ち続けた先に訪れる戦場の終幕(平和の誕生)か。

 どちらかの未来が訪れる、その瞬間まで戦いを続けようと。

 

 男はそう、決意した。

 

 「Happy birthday to me」

 男は一人、己に祝詞を紡ぐ。男はこれから行く先の戦場と、それによって変わってしまう、自分だけが知る、未来の予想図に出会いと別れの祈りを胸に。

 グラスに注がれた残りのウォッカを、一息に飲み干すのであった。

 

                                                         




 お疲れ様です。
 とても読みにくかったであろう当作品の読了を終えたあなたは褒められるべき存在足り得るでしょう。
 そんな貴方に私は感謝と色々な思いを込めて一言。
 「congratulation!」
 と言わせて頂きます。
 感想、評価はご自由に。まぁ、する程の作品ではないので、早々に口直しをオススメします。
 ちなみに、今更ではありますが、多分加筆訂正はすると思います。何故ならば、原作要素激薄でこの作品選んだ意味が無いと思うので


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楽しいドラゴン退治と生まれた男と彼女とのファーストコンタクト

 大変お久しぶりですねという挨拶が正しいのでしょうが、ここまで時間を開けてしまうとはじめましてが正しいように思いますね。

 さて、前回を見切り発車で出してから何をしていたかと言われればまぁ読んだり飲んだり食べたり読んだり遊んだり書いたり読んだり飲んだり遊んだりしてました。

 たまに感想や評価を頂いていたようで普通の人ならまぁ喜んで続きを書こうものですが、残念。
 私は根っからのROM専だったのです。という感じで嬉しいなとは思っても、じゃあ書こうとまで行かないことに若干の落ち目を感じましたが、まぁ世の中そんなものです。

 等価交換の法則は尊なれど、そうはならぬ複雑さが世の中を生きにくい一つの原因でしょう。
 とやかく書きましたがまぁ拙作です。味が合わぬ者は去り、合えど感じる雑味は指摘されれば気づけば直します。

 味が合わぬものを味が合わぬと書いたところでそれは負の達成感を得るのみで失う物は私のモチベとあなたの時間。時は金なりと申しますれば、失うばかりが大きかろうと言う訳です。

 だらだら書きましたがブラウザバックを左手に添えて、口直しの良作を携えて御一読あれ


 鬱蒼とまでは言わずともそれなりに人の手の入っていない森林の中、彼のホームグラウンドから遠くないとは言え、其処はすでに国境超えた先にある戦地。その上、その戦場は戦火が現在進行系で地を焼き、様々な思惑と感情が蠢きながら銃弾が交錯する場で彼の装いは其処へ溶け込むかのように当然であったし、彼女の存在は装いは兎も角、異質であった。

 

 彼等の装いに多くの違いはなかった。その地に合うような色合いの迷彩服、その上からは予備の弾倉や手榴弾が入っているであろうポーチにナイフと言った物が付けられたタクティカルベスト、野外で過ごすに当たり必要な物資が日数分詰められているであろうそれなりに大きなバックパックを背負っていた。

 

 

 彼ら二人の違いを上げるとすればその体格差に見合った装備の大きさの違いと男が一本の些か貧相にも見える細身のライフルと通常とはかけ離れた風貌(ブルパップ方式)のアサルトライフルを持つのに対して、少女には一目ではかの有名な短機関銃(H&KMP5)と見間違えるような風貌のアサルトライフルを持っているという事ぐらいであった。

 

「言葉と言うモノは偉大だな。どんなに荒れ果てた土地でも尽くせば見知らぬ顔でも無理が通る」

 男が小型ながら確かな耐久性を思わせる単眼鏡で今回の仕事先を眺めながらそう言うと隣りにいた少女は

「今回の依頼ではそのライフルは使えなさそうですね。分かりきったことでしたが」

 男の背にある細身のライフル、スコープ込みでも3.5kgを超えない.308Win仕様スカウトライフルをじとりとした横目を送りつつデッドウェイトであるとブツブツ呟いていた。

 

 男が単眼鏡を目標に向けるのを止め、

「ざっと700mちょい、有効射程距離ではあるね」

 と呟けば、少女が正しく軍用、といった風貌の一般的な物より一回り、二回り大きい双眼鏡を背負ったバックパックから取り出し、覗いて数秒で距離を測る。

「726mで誤差範囲は±2m弱ですね。当てられない距離ではないです。問題はそこでは無いのですが……」

 もう一度、少女は男の背にあるライフルへ目を向ける。

 

 特徴的なフォワードマウントされた3-12倍率の高性能可変倍率スコープ、今はついてないが銃口先に捩じ込むサプレッサーが男のバックパックに収まっていることを少女は知っている。しかし、それでも尚、少女が問題視するのは今いる土地が今まさに彼等の目標である民間軍事組織のテリトリー。つまりは目標のホームグラウンドであるという点だった。

 

 狙撃に成功したとしてもそこから自分たちのホームグラウンドへ戻れるかはトップを目の前で失った軍事組織がどの程度機能するかを考慮したとしても大きな問題となる。

 ましてや相手はあくまでも民間である。国家に隷属する軍人と違い、一人の個人が長をする、周りよりか些か力を持ちすぎた軍事組織等といえば彼等からすれば地元の反社会的勢力に毛ほどの忠誠心が生えた程度にしか考えられない。

 一応、狙撃後の撤退ルートを考慮もしたし、用意も一応終えている。しかし、それでも尚、決行には躊躇があった。何せ、少女からしたら今回の仕事を受けるのには最初から反対の立場にあった。

 

 相手はこの民族紛争で栄光を築き上げた民兵組織『バルカン·ドラゴン』の長、英雄ドラガン・ニコラヴィッチであり、それの排除は『バルドラ』からの抵抗だけでなくそれを英雄と崇める地元組織も相手取ることを考えれば、あくまで個人の戦力に限られる彼等の仕事の範疇とは言えない。

 この仕事の依頼者も本来の依頼を受けさせるために用意した謂わば交渉のタネであるのみの代物であった。

 

 少女の反対も依頼主の言葉も遮ってそれを無理に受けたのは男の方であったのだ。そして、少女は彼がこの依頼を受けた理由も、受けた勝算も未だ知らぬままにあるのだから、男のよく分からない自信も、未だ一応は決行の用意を終えた作戦を始動させないことも疑問であったが心底では然程関心は無かった。

 何故ならばこの狂ったような状況を作り出す男が壊れているように見えるのと同じで少女もまた、一言で言えば壊れていたからであった。

 

 

 

 

 数日後、民兵組織が慌ただしく動き出した。頭であり、男にとっても世界にとっても最近ではとびきりの名誉首。

 バルドラのリーダーであるドラガンを乗せた車の後ろに三台の軍用トラックが続く。

 バルドラ一行の向かう先はそこまで離れていない正規軍基地。彼らにとって都合が悪い事でもあるのか、そこまでに至るいくつかの経路の中で最短を、最速で走らせていた。

 

 そんな光景を二人は悠々と各々の眼鏡で覗く。慌ただしく急ぐ彼等の向かう先、正規軍基地の警戒範囲網の中。開けた場所に車を停め、部隊を展開しようものなら一瞬の時差もなく、最初に飛び出した男の頭へ彼が担ぐライフルから飛び出した.308Winの鉄鎚がその頭蓋を砕く様が見れるような最高の観客席で。

 彼等は、いや、彼は……己が憶えているその瞬間を待っていた。何十年の時を経て、朧げとなった記憶の様子とは違い、些か数が多いようにも思ったが、そんな些細な事が彼にとっては関係なかった。

 

 この世界で生きて行くと、紙面や画面の向こうで見た彼女等を外から眺めるのではなく。      

 この世界で生きている彼等と共に、画面の向こうでは語られなかった彼女等が行き着く先に訪れるかも知れない未来を迎える為に。

 

 自分勝手で壊れているどうしようもない彼は、この数多の戦火の果てで世界のすべてを呑み込んだ蛇が、彼の大好きな戦いを、戦争を、武器を、それら全てを呑み干した未来に対して、何も、ナニモ、なにも、出来ない事を知っているから、自分に出来る事が人を傷付け、その命を奪う事しか出来ない事を理解っているから。

 人と人とが、その手に持つ武器とその手で生み出した機械によって傷付け合い、命を奪うその最中、生と死が同居するどうしようも無い一時に感じる幸せしか知らないから、己が感じる幸せがそれだけじゃない事をまだ理解ってないから。

「悪いな……だが、俺の為に死んでくれ。先に俺の行く末を見てきてくれ」

 そんな彼は此処から始める。

 

 今はまだ、自分が知っている幸せを最期まで味わう為に、その為に彼は彼女達と共に行く。今までのすれ違うような関わりではなく、真正面からとも表現できるようなこれは最初のコンタクト、彼女等と歩む最初のストーリーとするべくが為。

 

 この世界を、画面の向こうではなく自分が生きる世界と認め、ここに生きる彼等を、真に生きている生き物だと理解した彼が自分の幸せの為だけに踏み出した第一歩。だから、今は照準眼鏡(スコープ)十字の照準線(クロスヘアレティクル)の先で、もしくはいずれか照門(リアサイト)照星(フロントサイト)で出来たラインの先で、目の前で、彼の手で命を奪う全ての人間に対し、誕生日を既に終えた彼は笑みと共に最初で最後の謝罪の言葉を小さく紡いだ。

 

 

 彼が誰かに謝っていた。今まで何度か彼の謝罪の言葉を耳にした事がある。

 そのどれよりも思いが籠もっていた。いつも通り、軽薄そうに見える作ったような微笑み。彼はいつもその笑みで何も籠もってない言葉だけの謝罪をしていたのに、そんな彼が思いを籠めるような相手は誰なんだろう。

 

 いや、わかっていた。

 

 目の前にあるのは今から始末するワールドチャンピオン級の邪悪、人間大のゴミとチリ。そして、それらが向かう先にある女とそれを守る生き物。

 ゴミやチリに謝る人間は多くないし、もちろん彼はそんな極少数の奇特な人じゃない。

 人が人に謝るのが普通なのだから彼はあの女や周りの生き物に謝ってる事になる。別に謝る事は珍しくてもありえない事じゃない、でも思いが籠もっている事には目を瞑る事が私には到底、出来なかった。

 

「おいていかないで」

 

 不安になった。

 私の想いが簡単には届かない事に諦めはついていた。

 その代わりに彼が誰にも思いを向けなかったから、私は彼の傍にいても大丈夫なんだと思えていた。そんな彼が思いを誰かに向けてしまったら。私の唯一の、最後の居場所は?

 彼の隣に私はいられるのだろうか?

 

 

 彼の望んだ歌劇は始まる。悪役の男の前にか弱き乙女が傅き、許しを乞う。悪役の男が腰の剣に手を掛け、乙女に一振りを振るえば、乙女を守る騎士が、その長を務める者の一声で手に持つ武器を振るう。悪役の家臣がぞろぞろと馬車から出れば血と鉄の劇は銃火の歌声と共に始まった。

 

 

『東より微風、三台目、助手席から出ます。照準用意(Aim free)……どうぞ(shot)

 少女が地面に固定した双眼鏡で戦場を覗きながら、無線越しに彼にそう伝える。

 彼の記憶が正しければバルドラの部隊はトラック一台分だった筈が、何故か三台まで増えていた。

 

 それにしても、良くもまぁ彼女は殲滅を命じれたものだなと彼は思いながら観客席から舞台の上へ、急な劇への参加に贈り物を贈った。そして、最初の贈り物は彼女等から最も離れた位置の馬車から飛び出した男の頭へ届き、彼の命を刈り取った。

 その光景に少女が

まずは一人(One down)。532mで命中(Head shot)次弾修正の要なし(Next aim free)

 と一切の感情を感じさせない冷たい声音を紡ぐ。

 

 一発の弾丸が、発砲音が、思いもよらぬ場所から届き、戦場は硬直するかと思われた。しかしながら、彼女等の兵士はその力に多彩さはあれど大差の強弱はなく、そのどれもが熟練の選りすぐりであった。対して、バルドラの一行は玉石混交とも言い難く、況してや殺しには慣れど、殺し合いには些か場数が足りぬ数だけの散兵。動きは正しく対照的でありはすれどもその戦場に膠着はなかった。

 

 彼女等、武器商人ココ・ヘクマティアルとその私兵からすれば戦場には意図せぬ状況は多くあり、狙撃の最初の弾丸が脅威度の高い少数でなく、数だけの兵士の頭を砕くのであれば狙いが我々には無いと察するのも無理はなかった。それでも、弾の方角へ気を張り続けながら目の前の有象無象へ恐ろしい速さと正確さで銃火の矛先を向ける事を止めることは無かった。

 

 前からも後ろからも少数ながら速く、的確な攻撃を受けたバルドラの兵の動きは酷く、拙かった。

 文字通りに敵から挟撃を受けた状況の彼等の多くは目の前の脅威に対してのみにしか対応できなかった。しかし、少なからず小賢しさを発揮する者もおり、後ろからの射線を切りつつ、応戦する姿はあれど、それすらも経験で知る歴戦の戦士からすれば児戯にも等しい抵抗であり、分間750発を超える5.56mmの一薙ぎがその命を刈り取った。

 

 そもそも目の前の敵が少数ながら余りにも脅威であったのは事実でも、彼等には挟撃を受けた経験が浅かった。況してやホームグラウンドから外れない彼等からすればそれは仕方のない事だったのかもしれない。しかし、そんな事を今更言ってもどうしようもないのが戦闘という劇の本番というものであり戦場という舞台の上では後悔は先に立たず、弱みを見せた兵士の逝く先は地獄のみだった。

 

 

 眼の前にある開けた戦場の上で、数多の兵士が跋扈し、手に持つ長筒から銃火が跳ね、高らかに銃声が鳴り響き、動きの悪い黒帽子の木偶の坊が鉛玉と一緒に生命だったものを飛び散らせながら倒れ臥す戦場を前に彼は何時にもなく上機嫌だった。

 それは止めどなく銃爪を引き、流れるように槓桿(ボルトハンドル)を操作して次弾を装填し、スコープに映る拙い動きの人形へ十字の中心を合わせると同時に銃爪に置かれた人差し指を引き絞る。

 一つの絡繰りのように同じ動作を繰り返しながら、次の目標への目算を立てながら鼻歌を歌っている姿からその隣りにいる彼女なら容易に想像がつくであろう。

 

 例え、その視線の先で命が一つまた一つと零れ落ちていく光景を繰り広げているにも関わらず、そのある意味異常な様を咎める者は今は誰も居なかった。

 そんな上機嫌の男の隣で、少女は淡々と目の前の状況で彼女等にとって一番脅威足り得る者を目標に指示を伝え、男はそれに嬉々として銃口を向け、照準に一寸のブレなく、軽く調整された銃爪を引き絞るように引いた。

 

 

 輸送機の周りで展開する少数の部隊とその眼前で展開を始めたある程度の規模を誇る部隊。そして、両部隊を射程に収める高所の森林地帯でどの対象に対しても、ある程度高確率で先制を取れる状況を位置取った、たった二名の兵士。

 緊迫した状況を生み出した多数の兵士を有する部隊、緊迫した状況で戦端を切った少数の部隊。最初の一発は少数の彼等が務めたが、この戦闘を終わらせる一発を務めたのはたった二人の兵士だった。

 

 

 目の前で、自分の周りで、情報の出処を精査する間もなく、連れてきた部下達が次々と血と肉を飛び散らせながら、武器を取りこぼしながら崩れ落ち、天に召されていく戦場の中でドラガン・ニコラヴィッチには現状を正しく理解はすれど認める事はできなかった。

 

 己を狙うものが多くいる事を知ってはいた。しかし、目の前に敵を拵えた瞬間に後ろから敵が襲ってくる。

 このタイミングの良さ、ここまでの動きに一切の気配が無かったことに今までにない恐怖を味わった。そして、目の前では拵えたばかりの敵が想定を遥かに越える対応を見せ、後ろでは止めどなく減音器(サプレッサー)で抑えられた発砲音と共に目立たぬ銃火が弾丸と共にテンポを崩す事なく、頭蓋を砕いていった。そうして、挟撃の間で蹂躙されていけば自らの命が惜しくなる。

 

 前門の虎後門の狼とも言わんばかりの状況でどちらの弾丸も命を奪う事に効率はあれど躊躇も油断も無かった。

 こうなれば人質でも取って、逃げに回らなければ生き残れない。そう思えば、動きの節々に恐れを孕みつつも全速で動ける。

 肩を撃ち抜いてやったアメリカ人を連れて車に乗り込む。

 焦りとは裏腹に悠長に掛かる車のエンジンに苛立ちを露わにしながら悪態をつき、今後の報復プランを練る。

 

 この大地から空を飛んで行けるとは言わせない。

怒りと苛立ちを綯い交ぜに殺意が込み上げる。彼にとって永遠にも思うような時間とともに車のエンジンがようやく唸りを上げる。そのまま反射的に左手でギアをドライブに入れてアクセルをベタ踏みし、逃走へ加速する。

 

 そこに一発の弾丸が飛来する。

 

 正確にタイヤを撃ち抜き、パンクさせる。

 そんな事お構いなしに加速させれば、二発目が問答無用でもう一つのタイヤをお釈迦にする。

 流石にタイヤが二つも抜ければ思うような加速は出来ずコントロールを奪われる。

 

 真っ直ぐ逃げ道をひた走る筈が二発の弾丸で足を奪われども一度勢い付いた動力から伝わるパワーが失われる事はなく、短い距離を車体を削るようにしながら暴走し、間髪を入れず音と共に飛来した二発の弾丸は正確に車の心臓部の要を抜いて、その命すらも奪い取った。

 そうして動力も加速もそれを伝える足すら失った車は軍基地が有する広い滑走路を走り切ることなく、停止した。

 

 停止した車の中から幾度の衝撃の中で体の節々に打撲を負い、部隊のトレードマークとも言える黒帽子を失い、その下に隠れていた髪を乱れさせながら血を流して、元より怒りと恐怖で失っていた理性と共に意識すら失いつつある彼は車体の前面が削れただけでなくその前足であるタイヤと車の心臓部であるエンジンに穴を空け、チラチラと火が見える車からのろのろと這い出るようにドアから出て、逃げようとする。

『クリア』          『クリア』

    『クリア』   

         『クリア』 

    『クリア』      『クリア』

『こちらのダメージは?』

『ゼロ!』

 それを横目に彼女達ココ・ヘクマティアルとその私兵たちは目の前で殲滅した事とそれによるダメージが無いことを無線で確認すると

『バルメ!トージョ!医師長とバルドラを車から引っ張ってきて!』

 彼女に指示で二人は走り、エンジンから煙を上げ沈黙する車からトージョが医師長に肩を貸すようにして車から助け出し、バルメは運転席から這い出たバルドラの顎を打ち、意識を奪うと引き摺るようにして輸送機の方へ向かう。

 

 その様子を確認したココがトージョに無線で医師長の無事を確認すると無線機を弄りだし、チャンネルを変えると

『で、何故貴方が居るのか聞いてもいいのよねぇ……?

 イスラエルGCAT社地中海域部門特種案件担当員オールドマン!?』

 と若干の苛立を感じさせる声色で問うと、

『HAHAHA!君の部下が引きずってる男だよぉ!

 HAHAHAHAHA……』

 問いかけのテンションとは対称的にかなりの上機嫌な様子の声音で答えると更に、

『今日のは企業のじゃなくて個人的なやつでね?まぁ言ってしまえば賞金目当てだ!』

 と続けると、ココは呆れた声音を新たに滲ませつつ、

『そんなにお金に困る事ないでしょう?それに何故このタイミングでいるのかを聞いてるんだよオールドマン?』

 警戒を緩めることなくココの周辺に集まり始める私兵の各々の一部はその様子から件の狙撃手が何者かを察し始めていた。

 

『君の周りは何時も銃火で騒がしくなるからサァ……ここらで空を飛ぶと聞いた時はチャンスかなと思ってね?』

 後、弾薬費も最近やらかした損害補償金が馬鹿にならなくてね、なんて言葉を紡ぎつつ

『合流しない?どうせこのまま話してても埒は明かないし時間のムダになるでしょうヨォ

 それにこのままだと仲良く民兵集団が遊びに来て帰りが面倒になるのじゃないカナ?』

 なんて言葉を機に、ココも諦めをつけたのかそれに合意する。そうして数分後にはココとその私兵が集まって居る滑走路の輸送機に向けて歩く二人を彼女らは確認する。

 

 先程の戦闘ではその音と共に命を刈り取り続けたライフルを肩に乗せ、スリングで身体にぴたりと付けるようにアサルトライフルを下げ、口笛を吹きながら揚々と彼らへ向かう男とそれに寄り添うように付き従い、酷く冷たく、微塵も興味を感じさせない瞳でココを見る一人の少女。

 彼女の身体にも無駄に揺れることの無いようにスリングで吊られたアサルトライフルがある事に私兵の各々はそこはかとなく既視感と様々な思考が巡る。

 

 

 

 

「とりあえずだ……此処からどうやって飛んでいけるかを考えるべきだな」

 貨物に多少の傷はあれど、欠品もなく良い意味でも悪い意味でも望外の商品も得てしまっている。

 問題はその商品を取り戻す為にまだ残っている民兵組織の残党が必ず攻撃を加えてくる事であり、彼等に一定以上の対空装備が揃ってるにも関わらずそれを指揮する頭がそこまで優秀じゃない点とそれを統制していた頭が失われている点であった。

「ぜってー空中で攻撃される」    

       「陸路?」 「品物を連れて?無理だ」

 ワイやワイやと半ば口論になりなから案を出し合うメンバー

「マジメに考えてんのかよ、オメーはよ⁉」

  「ンだよ、ルツこそなんだよ[戦車パクる]ってバカか?」

「ハイハイ!!ケンカをする間に案を出す‼」

「そうだヨォ、まずは状況を整理していこうじゃないカ?」

 そんな言葉に彼等はある程度の落ち着きを見せる。

「と言っても状況はかなり厳しい」 「〜〜」 「〜〜〜」

「ミサイルを撃ってくるかもしれない」 「絶対撃つ」

  「当たり前だネェ」         「〜〜」 

      「急がないと大勢が報復に来る」

「しょうがないネェ」  「〜〜〜」

「フレアは?」    「〜〜〜〜」        

                     

     「〜〜!」     「〜〜〜〜〜〜〜〜」

「〜〜〜〜」    「あの122mm砲で……」

「マオ、今のもう一度‼」

「122mm砲でミサイル発射台をつぶしましょう」

「OKそれで行こう‼」   

「じゃあ、私からも火力を追加しよう」

 ココが正規軍基地の大尉と交渉を始めるのを横目に私兵と彼等も作戦やタイミングの摺合せを行う。

 

 それも一定以上の練度を誇る彼等ならすぐにそんな些事を終え、輸送機の離陸準備を始める。そうして、輸送機への122mm砲の積込みも済み、エンジンの始動も終えれば早々に離陸を開始する。

 離陸と同時にIRジャマーを起動し、個人携行の対空ミサイルを含めた様々な対空兵器を回避しつつ、機首を上げ、高度を上げる機内の中で男が胸元のラジオポーチから出したイリジウム電話を操作する。

 

 操作を終えると同時に対空兵器で輸送機を攻撃する地上では、ほぼ同時のタイミングで広範囲に広がる森の中で点々とある木々の網が開けた様々な場所で小規模ながら対人地雷と対戦車地雷に加えて、大小様々な簡易爆弾(IED)が起爆し、無慈悲かつ無差別に対空兵器と運用者を撹乱した。

 

「HAHHAどうにもこうにも中途半端だな!」

 

 二人の持ち込みうる爆薬に加え、戦場で拾える爆発物を組み合わせ、対空兵器を運用できる最適とも言える場所へ適当に散らして配置した物を遠隔起動した。しかしながら、二人で持てる量には限界がある上、拾える量にも限度があるならば、先程の言葉通り、その効用にも限界がある。

 言ってしまえばその効用は相手の全てを撃滅できる程のものではない。だが、彼の爆弾は最高のタイミングで起動されたことで撃滅には足りない火力を撹乱において最大の効力を発揮した。

「だがこれで良い。どうせ今から別の方法で死ぬしな」

 男からそんな冷たい言葉が漏れた最中、輸送機から放たれた一発の122mmフレシェット砲弾が、そこから鉄の矢の雨が地上に降り注ぎ、そこにいた命の全てを奪った。

 

 

 

 

 そんな光景を尻目に彼女と彼は拾ってしまった望外の商品の扱いを話し合った。とは言えそこまで長く続くものでも拗れるものでもなく、速やかに4:1の比率で決まり、雑談が始まる。

「君等は部隊で武器の統一とかはしないのかい?」

    「え?弾倉がプラスチック製?」

「それの使い勝手はどうか?」

        「あの娘は何者だって?」

「君たちは質問が多いなぁ」

「少しずつ、一つずつ答えていこうじゃないか」

 男が手に持つ武器を弄びつつ、話を始める。

 

「弾倉が樹脂製なのは最新の銃と一緒に発表された代物が、僕が使ってるのには使えるか微妙でネ?コネと多額のお金を以て、試作品とも言うべき物を買わせて貰ったヨ」

 弾倉を抜いて、薬室に装填された弾を槓桿(コッキングレバー)を引いて排莢(イジェクション)する。

「ブルパップライフルの利点は、コンパクトな全長に対し、十分な銃身長を確保できる事かつ、一般的なアサルトライフルより格段に取り回しが良い」

「もう一つ加えて、一般的なライフルをカービン化した物と違い、現行の弾薬の性能をそのまま発揮できる点だ。これは構造上と弾薬の仕様の問題で、一般的なアサルトカービンは全長に合わせて銃身長を短くせざるを得ず、その変化に弾薬がまだ追いついていない」

「しかし、欠点がない訳じゃない。機関部が顔に近い位置にあるから発砲音と衝撃が普通の銃より大きく感じる、イヤーマフかなにかは必須と言えるんじゃないかナ」

「そんな事はさてより、この銃は我が国イスラエルの国防軍で制式トライアル中のブルパップアサルトライフル。それの短銃身(15.1in)、フラットトップレールモデルの試作品の横流し品だよ」

 

 再度コッキングレバーを操作し、イジェクションポートを覗き込んで薬室に弾がないことを確認した上で銃器を貸し出しながら、

「上面がピカティニーレールだから光学照準器(オプティクス)は自由に選べる」

 最後の質問について話題が移ろうとする。

 

「彼女については彼女自身から聞くのが筋だろう?」

 そう言って男は彼女へ視線を送ると

「彼等は、彼女は信頼に足る人物でしょうか?」

 そう言うと、少女の冷たく輝く瞳は彼ら一人一人を合わせては次に合わせる。そうして最後に彼女と視線を交わす。

「まだ、嫌です。まだ、気に入りません。信用に足らない、信頼したくない」

「だそうだ、またの機会にしよう。楽しみにしていてくれないか?」

 なんとも言えない空気になるが、地上から放たれた、最後っ屁とも言うべき代物である空へと上がった一発の対空ミサイルが只々空に向けて飛び続け、安全装置の時間式自爆装置が作動し爆発する。

 その音が機内に幾ばくかの緊張感をもたらし、空気がまた別のものへと変化する。

 彼等一行はそれを良しとした。なんせ幾度と協働した男と違い、少女と彼女ら一行の関わりは多くない。

 

 信頼も信用も生まれるまでにはきっかけとは別に時間を少なからず必要とする。たとえ、少女と彼女の一瞬の視線の交差だけで、ある種の感情をお互いが抱いたとしても、そんなきっかけだけでは人間との関係は構築されないものである事をお互いが理解しているから、何も新たな言葉を紡ぐこともなく、ある意味で落ち着くような沈黙が彼等のいる機内を包み込んだ。

 

 

 

 

 こうして彼らは彼ら二人というイレギュラーを含みながらも、おおよそ彼の記憶にある大筋から外れることなく物語を終えた。

 原作を知る彼からすれども、今後の展開もおぼろげな記憶と大差がないように進むと、ココ・ヘクマティアルとの会話を通じて察する。

 多くの会話を終えて彼らが帰路につくように、彼女らも帰路につく。

 

 彼としてはファーストコンタクトとして悪い感触ではなかった。

 彼としては最悪の状況までを想定していた中では、理想の状況から二段程を落とした程度で好感触で済んだことに内面では安堵を漏らすほどであった。また、それに付き従う少女からしたらこの案件をどちらが欠けることも傷つくこともなく抜けたことへ安堵していた。

 この邂逅は男からすれば当初の目的を果たしつつあくまで主観上では悪感情を向けられような感じもなかった。だからこそ、次のアクション、セカンドコンタクトの考案を始める。

 今度の再開はもっと劇的に、尚且この上なく刺激的な、新たな戦場と共に。

 

 自分が持つ最大の実力が発揮出来るような夢の様な劇場で、今度こそは生と死の領域が入り乱れる混沌たる戦場にて血と硝煙の香る世界の醜い部分を煮詰めたような場所で。

 さて、では彼女等は、彼女はこの邂逅をどのように感じたか、思ったのか。

 彼女を守る彼らの多くからすれば、時偶に戦線を同じくする時と何ら変わりはない。ここまで都度四度、彼らは同じ方向を向いて銃火を鳴らした。それらと何ら変わりがない印象を抱いていた。ただし、三人を除いて。

 一人はココ・ヘクマティアルが引き入れた唯一の少年兵、ジョナサン・マル。

 

 彼は未だ、彼ら二人と共闘したことは無かった。しかし、最初の狙撃が目の前の敵を撃ったから取り敢えず味方と判断した。

 合流する前も合流した後も雇い主であるココから何も言われなかったから何もしなかっただけ、故に彼に残った印象は少女兵を連れた油断ならない男、自ら銃声を鳴らすまで一切の気配を零さなかった不気味な男。

 その上、飛行機の中で、空の上で聞いたのは500m弱の狙撃をバイタルポイントから一発も外さなかった事。

 

 幾らか見慣れたブルパップ方式アサルトライフルのあまり見ない銃を持つ事、自分の雇い主と同様、自分と同じ立場で居ながら何処か場違いのような気品を持ち合わせる自分と同じ肌の色の兵士を連れている事。たった一度の戦闘と会話ではその程度を感じ取るに限る。

 残りの二人、ココ・ヘクマティアルとレームブリックの二人は奇しくも同様の感覚を抱き、同様の未来を朧気に見た。つまりは今回以上のさらなる厄介事の予感、いつの間やら我々の中に混ざり込んだ二人の姿を。

 彼女等と彼等に待ち受ける闘いの未来はさほど遠くない距離にある。我々の中に混ざり込んだ二人の姿を。

 




 コングラッチュレーションフォーユーあってるのかこの英語?
 まぁいいですハイ。
 大変お疲れ様でした読破されし者よ!気分を害されたなら早急に携えた良作へ飛ぶのですぞよ!
 ここまで読んで楽しんで頂けたら幸いですが、感想や評価をするまでではありません。
 もし奇特な方が続きを読みたいが為にそれらの労力を発揮されるなら前書きの通りです。
 残念ながらROM専が長い私にとっては何ら意味を成さないのです。ただ、出来れば来年の四月までに2本ほど書いてこの作品を締めたいなという気持ちはあります。
 即ち起承転結の転と結ですがまぁ無理でしょう。
 お気付きの方もいらっしゃいましょうがこの2本目、1年と半年を超えて提出されております。
 お察しがつくでしょう。
 はてさてつらつら文字を並べてもしょうがないでしょうから取り敢えず締めましょう。
 一本締めで良いですか?じゃあ、よぉーいパン


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