ジゼル異世界出張日記~ハドラー子育て日記番外編~ (ディア)
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1話

今回は一話きりとなっていますが近いうちに次話を投稿したいと思います。


大魔王バーンが倒れ、新たに魔界を統べたのは雷竜ボリクスの孫であるジゼルと元魔王のハドラー。ジゼルとハドラーはそれぞれ魔竜王と魔王を名乗る──ハドラーは改めて名乗る──ようになって数年。魔竜王として暮らしているジゼルだが、ある不満点があった。

 

「ハドラー様成分が足りないいぃぃぃっ!」

 

だだっ子のように暴れ、転げ回るジゼル。彼女の不満は魔竜王となってから多忙極まる生活を送っており魔王であるハドラーとのコミュニケーションがここ数日なくなっていたからである。ラーゼルやフレイザードそしてハドラー親衛騎団等ハドラーと関わりが深い息子達とはよく会うのだが、ハドラー本人とは中々会えずにいた。その為不満が爆発し、現在のように転げ回ってストレスを発散していた。昔に比べればまだマシな方である。

 

「リリルーラ解除しなくても良いじゃない……バカ」

魔竜王となってからハドラーにリリルーラの登録を解除され、ジゼルは不満を抱いていた。ハドラーが解除した理由はジゼルがしょっちゅうハドラーの元に訪れてしまい、ハドラーの仕事に影響を与えてしまうからである。自業自得ともいう。

 

「はぁ~、やらないと駄目よね……」

散々暴れ回り、頭を冷やし気が済んだジゼルが書類を捌く為に机の上を見ると何故か日記帳がそこに置かれていた。

「えっ、この日記帳は……!!」

ジゼルはその日記帳を凝視、隠し、忍び足の三テンポで自らの部屋に持っていく。いくら本職でもここまで要領良く運ぶことなど出来ない動きだった。

「ふひひひ……まさかこんなものを手にするなんて思いもしなかったわ」

不気味な笑い声を上げ、その日記帳を眺める。それだけでもジゼルは何とも言えない幸福感に満たされてしまう。

「ハドラー■■■日記……この潰れた文字には愛妻家と入るに違いない。ハドラーの文字は間違いなくハドラー様が書かれたもの。ハドラー様の事だから禁呪法を使って読めないように呪いをかけているはず。念のためシャナクしておかないと酷い目に遭う……シャナク」

シャナクで呪い──ありもしないが──を解き、さらに笑みを増すジゼル。そしてその本を開いた。

 

「ハドラー様、この不肖の妻ジゼルが読ませて頂きます!」

そしてその瞬間、ジゼルの視界は光に包まれた。自称ハドラーの愛する妻、他称魔竜王はこうして異世界へと旅立った。

 

 

 

「……ここは?」

ジゼルは、頭にクエスチョンマークを浮かべながら天井を見つめ、辺りを見渡すとジゼルが先ほど手にしていた日記が逆戻りしたかのように新品になっていた。

「気がついたか」

その声はジゼルが何度も聞いた声であり、そして他のことをいくら忘れようともこの声だけは忘れようがない声である。

「ハドラー様……!」

その声の持ち主はジゼルの夫であり、魔王ハドラーその人であった。

 

「俺を知っているのか? 女よ」

「知っているも何も……!?」

ハドラーが他人を見るようにジゼルに声をかけると、ジゼルは違和感に気づく。妻であるジゼルをハドラーは突き放したりはしない上に、ジゼルの知るハドラー特有の匂いが感じられなかった。

「ハドラー様であってハドラー様でない。一体どういうこと?」

「おい、何をぶつぶつ言っている?」

あまりの違和感にジゼルがそう呟くとハドラーが眉を顰めながら声をかける。

 

「失礼しました。私の名前はジゼル。魔界に住む竜です」

「なら貴様は冥竜王ヴェルザーの差し金か?」

「冥竜王ヴェルザーなる竜は大昔に死んでいます」

「なんだと?」

「現在魔界は大魔王バーンが死に、冥竜王ヴェルザーも死に、代わりに魔界を統べる魔族の王と竜の女王が夫婦となり統一されました」

「つまり、お前はその魔王と竜の女王の支配下にある竜なのか?」

「いいえ違います」

「ではお前は竜の女王の勢力争いに負けた竜なのか?」

「いいえ違います。私こそ魔界を支配している竜の女王そのもの。その夫はハドラー様なのです」

「なんだと!?」

どや顔のジゼルの言葉に驚きを隠せないハドラー。こちらのハドラーは魔王になるどころか死んでおり、現在は甦って竜の子供を育てている。そのハドラーが魔界を制し魔王として君臨しており、自分が知らない女を妻にしていて明らかに矛盾している。

 

「もっとも私の知るハドラー様は身体の中にある私のマヒャドで凍りついた黒の核晶を埋め込んでいる為に私の匂いがこびりついています。考えられる可能性としては一つ」

「お前がいたか、いないかの違いだろう?」

「間違いなくそうでしょう。大魔王バーンの部下だった頃、親衛隊隊長として私が配属され、何度も顔を合わせています。しかし貴方のその様子を見る限り私との面識はないことから大魔王軍結成時代に既に私が死んでいたか、あるいは元々いなかったかのどちらかになります」

「ところが何らかの原因で、お前から見たパラレルワールドの俺がいる世界に迷いこんだ」

「ええ。しかしここは魔界でもなければ地上でもなさそうですが、いったいここはどこなのでしょうか?」

「ここはコーセルテル。竜術士と竜の里だ」

ジゼルは聞いたこともない土地の名前を聞かされ、本当に異世界に来てしまったのだと実感し、頭を抱えてしまった。




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2話

ようやく書けた……データが消えて以来別の小説ばかり書いていました。更新遅くて申し訳ありません。


竜術士と竜の里、コーセルテルについて詳しく聞くためにジゼル(大)はハドラーから事情を聞いていた。

 

「なるほど……しかしハドラー殿は竜の神から説明があったのに関わらず私には説明がないのは違和感がある。やはりイレギュラーによるものと見なして考えた方が良さそうですね」

「ボリクス、念の為に俺が竜の神に言われたことを守っておけ。もし万が一、竜の神がお前の悪行を見て排除しようと考えるかもしれない。しかし俺と同じことをしていればお咎め無し、上手くいけば向こうの世界に戻れるかもしれん」

ボリクスという名前はジゼル(大)──以下ボリクス表記──がこちらの世界のジゼルがいることもあり、ややこしくならないように祖父の名前を名乗ることにしている。

 

「ええ。ただハドラー殿、私が懸念するとしたら貴方が他者をコーセルテルに連れてこないという約束、あるいはコーセルテルを部外者に口外しない約束を破ってしまっていないかという点です」

「前者はともかく後者に関しては何一つ問題はない。事情が事情なだけにやむ無しに話したことだ。その前者も俺のせいであるかも疑わしいのにどうして裁けるというのだ」

「確かに……」

「それにいざとなれば俺のヘルズクローで串刺しにしてくれるわ」

『絶っ対に止めてくださいよ!!』

聖母竜の反応を見たハドラーが笑い声を抑えて、ボリクスを見つめる。

「ハドラー殿、貴方がそういうなら安心して貴方に言われたことを守るとしましょう。ただ──」

「ただ?」

「私には家もお金もありません。どうか仕事を紹介して頂けないでしょうか?」

「そうは言っても何が出来るのかわからんぞ。魔竜王というからには戦闘が出来るのはわかっているがほかにどんな事が出来る?」

「家事が得意です。魔王軍に所属する前はハドラー様のメイドを勤めていました」

「ほう……ならば今日の昼飯の用意とこの部屋を掃除してみろ」

「わかりました」

ボリクスがそう返事したことに満足したハドラーが立ち上がりその場を離れる。

 

 

 

30分後、ハドラーが戻るとそこには小綺麗になった部屋と、20数種類の料理が置かれたテーブルがそこにあった。

「見事だ」

指で埃がつかないことを確認し、ハドラーが呟く。

「ありがとうございます」

「しかしボリクス、この短時間でこれだけの料理を作り上げるとは一体どうやって作った?」

「ああ、それは同時に料理を作ったんですよ。例えばこのカレーと肉じゃがはほぼ同じ作り方ですから簡単に作れましたよ」

「ほう、同時にか。俺も参考にしてみるか」

「更にこのラップを使えば、食べ残した食べ物でも保存も簡単に出来ます」

「おお……」

「その上、この魔力レンジで温め直すことも可能です」

ボリクスが取り出した箱形の機械にハドラーが目を見開く。

「そっちの魔界はそこまで進化したのか」

「魔界だけではなく地上もですよ」

「しかしレンジはともかくそのラップは見たところ使い捨ての道具に見えるが使い切ったらどうする気だ?」

「このラップは一見すると使い捨ての道具に見えますが機械なんですよ。だから故障しない限りは使えますよ」

「日進月歩、時代の移り変わりという奴か……旨いな」

ハドラーがつまみ食いをし、そう感想を呟いた。

 

「ハドラー殿、口に合いましたか?」

「ああ、俺の好みの味付けにしているのは流石と言ったところか。しかしこれではジゼルの口に合わないぞ」

「ご安心を。甘口味の物も用意しています」

自分と同名の名前の子竜の為に取り出した物は照り焼きチキン定食だった。

「野菜を残すようであればこちらのハンバーグ定食を食べさせてあげてください」

更にハンバーグ定食を取り出して肉汁の匂いをその場に充満させる。

そしてその匂いを嗅いだ直後にハドラーの腹の虫が鳴り響く。

「ハドラー殿の分もありますよ?」

「いや、これはジゼルがもっと食べたいと思った時の為に残しておこう。俺の場合食事は趣向品でしかないからな」

ハドラーが自分の娘の為に食事を残す姿にボリクスは羨望の目で見る。

 

──もし、叶うのであれば私の夫であるハドラー様にあのようにして愛されてみたい──

 

そうボリクスが心の中で願うと、この場にいないハドラーがくしゃみをした。

 

 

 

しばらくしてジゼル達を初めとした竜や竜術士達がその部屋に入って来る。

「ハドラーさん、その人は?」

「俺と同じく異世界からやって来たボリクスだ」

「はじめまして。現在ハドラー殿に雇われたお手伝いさんです」

ボリクスが頭を下げると子竜達がわらわらと群がりジゼルに飛び付く。

「ハドラー殿、助けて欲しい」

流石にボリクスもこれには根を上げ、ハドラーに助けを求める。

「良いではないか。こうやって子供に慕われるのは久しぶりなんだろう?」

「こんな風に慕われたのは始めてですよ」

ボリクスを親として慕った子供はフレイザードと自身の娘であるラーゼル、連れ子のアルビナスくらいのものだろう。他は部下であり、このようにして慕われること自体が始めてであった。

 

「ほら、皆急いで食べて。食べないと私が竜になった姿見られないよ!」

「えっ、竜になれるんですか!?」

「気になる? それじゃご飯食べましょう」

「あ……はいっ!」

ボリクスに見とれた若い竜術士が顔を紅潮させながら昼食を摂り始め、悶絶する。

「~っ!! んまいっ!」

「おかわり~!」

「はいはい、ちょっと待ってね」

そのような声が飛び交い、ボリクスはしばらくの間、台所の主となる。

 

 

「人生でこんなに食べたの始めて……」

「僕もー」

「私もー」

当たり一帯腹ボテ姿の子竜と竜術士を作り上げたボリクスが笑みを浮かべる。

「さあ皆、外に出掛けましょうか。出ないと狼さんが皆を食べに来ちゃうわよ~」

ボリクスが保母さんらしくそう伝えると竜術士は当然、子竜達も全く動かない。その原因は何なのかと考えるまでもなく、狼はこの子供達にとって何でもないからだ。

「そう……それじゃ狼さんに代わってお腹を突いちゃおうかな?今こんなに膨らんでいるんだから吐き出すのも簡単だよね~」

ボリクスが腹を突こうとすると危険を感じた子竜や竜術士達が慌てて口を抑えながら外に出る。

 

「ああも言うことを聞かせるとは子育てをしていただけのことはある」

「ハドラー殿も一緒に見ますか?私の本当の姿を」

「無論だ。異世界の俺がお前を妻と認めたのだからそれを見る義務は俺にはある」

「それでこそハドラーという男ですよ。さあ行きましょうか」

ハドラーとボリクスが子竜達を追いかけるように外に出ていった。




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3話

これでとりあえず完結です。


「さてそれじゃ皆、私のもう一つの姿を披露するわよ。準備はいい?」

湖周辺に集まり、ボリクスがそう告げると子竜達が「いいよー」「早くー」などと言いながら期待の眼差しでボリクスを見る。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

いざ、竜の姿に変化しようとした瞬間に竜術士のマシェルに止められボリクスが顔を顰める。

「何よ、せっかく良いところなのに」

「何故体から電気が出ているんですか!?」

「マシェル、こいつは雷竜と呼ばれた竜の孫だ。ボリクスの名前もその竜から由来している」

「雷竜……!?」

マシェルは目を見開き、顔が驚愕の色に染まる。彼はコーセルテル1の竜術士と呼ばれるだけあって竜に関する知識も豊富である。故に雷竜などという未知の存在を初めて聞き、驚愕するのは無理なかった。

「そうよ。私の変身は少々特殊でね、こうやって電気を集めないと変身出来ない体質なのよ」

「そう言うことですか……しかし本当に大丈夫なんですよね?」

「子供達に被害は及ばないようにするから大丈夫大丈夫」

「本当に大丈夫なんですかーっ!?」

マシェルの悲鳴を無視し、ボリクスが姿を変える。白銀に輝く鱗に、空色に染まった腹と巨大な翼、そして電気とともに神々しさを纏うその竜に誰もが魅了され言葉を失う。

 

 

 

その姿を見た聖母竜が一人呟く。

『空の英雄、グレイナル……』

「グレイナル?」

 

その呟きに反応出来る人物はこの場においてただ一人、ハドラーしかいない。

 

『かつて人々からそう呼ばれた竜に酷似していたものですから思わずそう呟いてしまいました』

「人々から英雄と呼ばれた竜か。かつて魔物と間違われたバランにもこのような神々しさがあれば間違われずにダイと過ごしたかもしれぬな。冥竜王を封じる力を持つ竜の騎士と言っても所詮は竜、魔族、人間の三つの種族を足して3で割った存在でしかなかったということか」

『ですね……もし今後竜の騎士を誕生させる際には彼女のようなカリスマを兼ね備えさせなければなりませんね』

 

「聖母竜、竜の騎士は本来、前線で戦う兵士だ。お前程度の力では付け焼き刃にしかならん。良くてもバランの超竜軍団よりも少しマシな規模しか統率出来ん。少なくとも魔界の半分も統べることもあるまい」

『そう言えばバランは魔王軍に所属していたそうですね』

 

「うむ……かつてバランは俺の部下ではあったがその実力は遥かに超え、俺はいつその地位を脅かされるか震えていた」

『ああ……あの時の貴方は地位や名誉を気にする時期でしたね。自分よりも実力のあるバランが部下では心中穏やかではなかったということですか』

 

「しかしあの時何故バーンはバランではなく俺を魔軍司令にしたのかよく分かる。バランは少数精鋭の戦士を束ねる力に長けている一方、数多の兵士を束ねる力はないが故に俺が魔軍司令となった。ところがあのボリクスは強さに関係なくそれが出来る」

 

『何故そう言いきれるのですか?』

「そうでなければ非力な子竜達がなつく訳がない」

『……そう言えばバランは子供をあやすのは苦手でしたね』

「もしかしたら一部の地域では魔竜王とは呼ばずに聖母竜と呼ばれているかもしれんな」

『そ、そんなことは!』

「ない、と言いきれるのか? 聖母竜?」

『……』

聖母竜が子竜達になつかれているボリクスを凝視し思考する。魔族と竜のハーフではあるがあのように子供達に慕われている以上強く否定出来なかった。

 

 

 

 

「さて、そろそろここの湖を全部凍らせて見せます」

「ゑ?」

「離れて下さいね」

間抜けな声を出す竜術士達を無理やりどかし、ボリクスが湖の前に立つと息を軽く吸い、そして吸うのを止めて溜め込む。

輝く息(コールド・ブレス)!」

その瞬間、ボリクスの口から白銀の輝きが打ち出され、湖どころかその奥の草木まで凍りついてしまった。

 

「……」

この場にいた全員が唖然とし、目を見開く。

「す……」

「凄ーい!」

「どうやったらそんなに強くなれるのー?」

わらわらと子竜達がはしゃぎ、ボリクスに駆け寄るとボリクスが口を開いた。

「よく動いて、よく学んで、よく遊んで、よく寝て、よく休む。何事も一生懸命にこなすことで強くなるわ」

「へー!」

「そうするー!」

その言葉を信じた竜達が竜術士に近づき、視線を合わせるとボリクスが更に口を開いた。

「竜術士の皆さん、どうかこの言葉を忘れないで下さいね」

「当たり前です!」

「さて早速戻ってよく休みましょうか」

ボリクスがそう告げると元の魔族の姿に戻り、埃を払うと全員賛同した。

 

 

 

「しかし良いものを見せて貰ったぞボリクス」

ハドラーとボリクスが台所で菓子を作成しているとハドラーがボリクスを褒めるとボリクスが照れ隠しに頭をかいた。

「ハドラー殿にそう褒められると複雑ですね」

「ああ、お前は異世界の俺の妻だったな」

「でも滅多に褒めてくれないんですよ」

「異世界の俺がお前を褒めないのはお前が何かしでかしたか、今回のようなことが当たり前なのかのどちらかだ」

ボリクスの世界のハドラーがこのセリフを聞いていたなら苦虫を噛み砕いた顔で「……両方だ」と答えただろう。

 

「後者ですね。ハドラー殿」

しかしこの場にいるのはハドラーではなく無自覚に何かしらのことをしでかすボリクスだ。後者と答えるしか選択肢がない。

 

「なら少し自重することだな。輝く息ではなく、マヒャドにすれば少しはマシになるぞ」

「竜が魔法を唱えたらおかしいでしょう。常識の範囲内でやっただけですよ。規模は規格外ですが」

「その規模を小さくしろと言っているんだ」

「ええ。今度からそうします。しかし反省はしても後悔しませんよ。子竜だけでなく他の方々もやる気を出したから自重しなくて良かったと思います」

「そうか。なら俺から言うことはない」

 

 

 

そして黙々と菓子を作る二人に子竜のジゼルが駆け寄ってきた。

「ハドラー様、今日は何を作っているの?」

「俺の菓子はクッキーだ。子竜達が取り合いをするからな、こうして数をきちんと分けておけば子竜達も喧嘩はするまい」

「じゃあボリクスさんは?」

「私? 私が作っているのはプリンよ。なんなら一緒に作る?」

「いいの!?」

「おいボリクス」

それを止めようとするハドラーにボリクスが口元に人差し指の第二関節を当てる

「ハドラー殿、私に考えがありますから私に任せてくれませんか?」

「…………わかった」

それを不承不承ながらもハドラーが頷き、ボリクスが材料を追加で用意してジゼルにプリンを作らせた。

 

 

そしておやつの時間になり、子竜全員が席に着くとそこにはボリクスと作ったプリンとハドラーのつくったクッキーがそれぞれの場所に置かれていた。

「あれ? ジゼルのだけプリン多いー?」

「どうして!?」

「このプリンはジゼルが私達とは別に作ったプリンよ。皆もおやつをもっと食べたかったから自分で作りなさい」

「それでもズルい!」

「じゃあ明日から作りましょう? 私達も手伝うから」

「ちぇー」

「そうするー」

子竜達がボリクスの説得に耳を貸し、ハドラー達が感心する。

 

 

 

「うーむ、あのようにして手伝わせればいいのか」

「意外と子供ってそんな切欠から興味を持つようになるんですよ」

「しかしボリクス様、子竜達の面倒を見るのが更に大変になったような気がするんですが……」

「マシェル、余計なお節介だと思うけどそこは竜術士としての力が問われるところよ。子竜達もバカじゃない。より良いお菓子を作ろうと竜術を使おうとするかもしれない。その時に指導出来るのは貴方でしょ?」

「まあそうですが……」

「お菓子作りだけじゃなく他のことにも言えることだけど何かしら手伝わせることで経験になる。その経験が子竜達にとってかけがえのないものになる。その経験を見極めるのも貴方の役割よ」

その言葉を聞き、マシェルがため息を吐いた後笑い声を出す。

「え、何か可笑しいことを言った?」

「いえ、流石魔界を統べる竜だなって思って。僕の完敗です」

「勝ちも負けもないよ。私の娘を喜ばせる為にやったことをもう一度繰り返しているだけだから……」

ボリクスがそう口にするとボリクスの体が透け始めた。

 

 

 

「おいボリクス、体が透けているぞ!」

「うわっ、本当だ!」

「……ってことはもうそろそろなのかな?」

「……ああ、そう言うことか」

「何がそう言うこと何ですかーっ!?」

冷静でいる二人にマシェルが突っ込む。

「私はあくまで道具によってここに転移してきた存在であって、ハドラー殿のように神の力によって来たわけじゃない。そこまでは貴方も知っているでしょ?」

「ええ」

「私の仮説でしかないけど、道具の効果がこのコーセルテルに転移することじゃなく滞在させるという効果で今その期限が切れようとしている……つまり私が透けているのは少しずつ元の世界に転移している状態なんじゃないかしら?」

「なるほど……」

マシェルが頷き、ボリクスの体が点線のように消えてしまう。

「それじゃハドラー殿、マシェル、子竜達にも伝えておいて下さい。また会う時は私の世界のことを話しましょうと」

「よくわかった」

「ボリクスさん……」

「それじゃまた会えるなら会いましょ──」

 

ボリクスの体を描いていた点線が消え去りボリクスの気配も消え去る。それを見届けたハドラーとマシェルはボリクスのことを思いながら子竜達の元に戻っていった。




最後のあとがき

とりあえずこれで完結です。ご拝読ありがとうございました!
私自身書いている小説があまりにも多く(自業自得)完結している作品そのものが少ないんですね。ここで区切らないと未完の作品として終わらせてしまいそうなので読者の皆様やコラボしてくださったウジョー様に迷惑がかかるので完結しました。自分勝手な理由で申し訳ありません。


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