俺と"せんせい"のヒーローアカデミア (thekey)
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第1話:俺"達"のヒーローアカデミア

誤字脱字等あれば教えてください。オナシャス
亀更新だと思いますが許してください。オナシャス
低評価でも高評価でもいいんでオナシャス。ナンデモシマスカラ


「久しぶり、義父さん」

 

 

都市郊外にある墓地にて花束を片手に、どこか冷たさを感じる自身と同じくらいの大きさの石の前に立っていた。

周りには人影はなく、ただ一基の墓石に語り掛ける。

 

 

「明日から雄英に通うんだぜ。サクッと日本一……いや世界一のヒーローになってやるからよ。見ててくれよな」

 

手に持った花束を墓前に供えて軽く手を合わせる。数秒の沈黙の後、ゆっくりと顔を上げ墓に背を向ける。

 

「それじゃ行こっか"せんせい"」

 

『もういいのか?』

 

「どうせここには石しかないんだ。きっとどっかで見ててくれるさ」

 

墓地の出口に向かいながら隣を歩く女性──"せんせい"と話す。

いや、これでは少し表現に誤りがある。正確には隣を歩いているのではなく、隣で"浮いて"いる。

 

「せんせいの様に、世の中には"幽霊"が居るんだからさ」

 

そう、隣にいるせんせいは俺にしか見えない幽霊だ。

その証拠に出口付近にいた親子が

 

「あのお兄ちゃん誰と喋ってるの?」

 

「きっと"個性"なのよ。指さしちゃいけません」

 

といったやり取りをしていた。

 

 

"個性"

 

始まりはどこだったか忘れたが、この世界は超常が日常になっている。

口から火を吹くことや目からビームを出すことだって今では"当たり前"になっている。

 

俺の個性は"憑代"

 

自身にとり憑いた幽霊を見ることができ、話すことができ、さらに幽霊が憑依することによって、その幽霊の個性を使うことができる。

 

"せんせい"は俺が物心ついた時から一緒にいる幽霊だ。人生で一番初めに見た顔もせんせいだし、孤児院にいた時も親代わりに俺を育て、守ってくれた。

俺にとっては世界一のヒーローだ。

 

『そういえば、世界一のヒーローになるんだって?』

 

「当然だろ。せんせいと一緒なら楽勝だぜ!」

 

『オールマイトを超えれるのか~?』

 

せんせいは笑いながら俺の頭を乱暴に撫でてきた。

 

「できる!せんせいも言ってるだろ。『笑ってるやつが一番強い』って。ならオールマイトよりも笑って、オールマイトよりもヴィラン捕まえればいいだけだ!!」

 

俺はせんせいに向って両手で口角を上げて作った笑顔を見せる。

それを見た先生は俺を鼻で笑った。

 

「お前の笑顔じゃまだまだだな!!」

 

「いってぇ!!」

 

せんせいの強すぎる平手が背中を叩いた。そのまま二人でじゃれ付いたまま帰路につく。

周りから見たら一人で騒ぐ不審者でしかなかったかもしれないが、俺にとっては楽しい日常の一つだ。

 

 

 

 

 

 

窓はガラス張り。天井はビルの2階分はあろうかというほど高く、これでワンフロアなのだから日本一の学校と言われるのも頷ける。

 

『これが雄英の中か……』

 

「せんせいも初めてなのか?」

 

『あぁ、私は雄英出身じゃないからな……うわっ!?扉まで大きいじゃないか!!』

 

「異形型の個性に配慮したバリアフリーなんだってさ」

 

初めて歩く憧れの雄英の廊下に、俺はキョロキョロと周りを見てしまうが、それはせんせいも同じだった。それほど新鮮であり、夢の第一歩といった感動を滲ませてしまうのだ。

 

「ここが1-Aか」

 

『クラスメイトとは仲良くするんだぞ~』

 

「俺は子供か!!」

 

『私からしたらまだ子供だよ』

 

まるで母と子のようなやり取りをしながら、見た目からは想像もつかないほど軽い、スライド式の巨大な扉を開ける

 

「先生ってどんな人だろうね、緊張するよね」

 

「ち、近い……」

 

すると目の前では真っ赤になりながら両手で顔隠している髪の毛がモジャモジャな少年と、少年に話しかける"丸っこい"印象を受ける少女が道を塞いでいた。

 

「その……なんだ、通っていいか?」

 

「あっ邪魔だったよね!すぐに退くね!!」

 

「ス、スイマセン!!」

 

「そんなビクビクしなくてもいいて、同い年なんだからよ」

 

「私は麗日お茶子、ヨロシクね!」

 

「あ、僕は緑谷……です」

 

「俺は──「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」」

 

丸い女子こと麗日とモジャモジャこと緑谷に自己紹介をしようとした瞬間、第三者の声が割り込んでくる。

 

声のした方向──真後ろを向くとそこには……芋虫?

 

「ここは……ヒーロー科だぞ」

 

ヂュッ!!と音を立てながら芋虫はゼリー飲料を飲み干していた。

のっそりと芋虫は立ち上がりながら言葉を続ける

 

「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。君たちは合理性に欠くね。担任の相澤消太だ、よろしくね」

 

芋虫は脱皮……ではなく寝袋を脱ぎながら駄目出しと自己紹介を済ませる。

隣に浮くせんせいも

 

『これが担任……プロヒーローなのか?時代は変わったな……』

 

と我らが担任様の姿にドン引いている。

それもそうだろう。伸ばしっぱなしの髪の隙間から見える目は隈が色濃く残り、常に充血している。それに加え教職ともあろうに無精ひげを蓄え清潔感とは無縁の見た目をしていた。

 

「早速だがコレ着てグラウンドに出ろ」

 

そういって担任が差し出したのは体操服だった。

 

 

 

 

 

 

「「「「個性把握……テストォ!!??」」」」

 

どうやら入学式やガイダンスをすっ飛ばして俺たち1-Aはテストを行うらしい。

雄英は自由な校風が売りで、それは教師側も自由にしていいという事なんだとか。

 

『入学式がない?!コイツの晴れ姿が……』

 

俺にとっては入学式はただ眠くなるだけだからどうだっていいが、せんせいは大変楽しみにしていたらしい。両腕両膝を地面につけ、これ以上ないくらい落ち込んでいる。

 

「爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった」

 

「67m」

 

「じゃあ個性をつかってやってみろ。円からでなきゃ何してもいい。早よ。思いっきりな」

 

担任がボールを投げ渡した。

 

「んじゃま……死ねぇ!!!!」

 

爆豪ってやつが見本となってソフトボール投げをする。ボールを投げる瞬間、爆豪の手からは爆炎と轟音が生じ、物凄い勢いでボールの姿が小さくなっていく。

結果は705.2m

 

このデモンストレーションに生徒達ははしゃぎ、面白そう楽しそうだと言っていると、担任の雰囲気が変わった

 

「面白そう……か。三年間そんな腹積もりで過ごす気か?よし、トータル最下位の者は見込みなしと判断し除籍処分としよう」

 

「「「「はぁああああ!?」」」」

 

こうして俺たちの第一の試練が、入学初日から始まった。

 

 

 

第一種目の50m走を行うため白線の敷かれたトラックに向ってると、せんせいが話しかけてきた。

 

『このテスト私にやらせろ』

 

「なぜ!?」

 

『私の個性はお前の個性みたいなものだろ?"個性把握テスト"なんだからいいじゃないか』

 

「……本音は?」

 

『入学式を無くしたアイツの度肝を抜かしてやる!!』

 

本当にこの人はプロヒーローだったんだろうか……。

昔からせんせいは俺にとっての理想のヒーローだが、親代わりだったせいか偶に親バカを発動することがある。

 

「明日に響くから60%までなら」

 

『任せときな!私がテストで1位にしてやる!!』

 

せんせいが飛び切りの笑顔を向け、俺に"重なって"いく。

胸の内側から日向のような温かさが広がっていき、ある一定のラインを超えたとき全身をお湯に浮かんでいるような感覚が包む。

 

『よし、異常はないな』

 

「ケロ、どこか体に違和感があったのかしら」

 

せんせいにからだを預け終わったとき、カエルのような見た目をした少女に話しかけられた。

 

しかし体の主導権はせんせいにあるため俺は答えることができない。

 

『なんでもないよ、心配してくれてありがとう。えーと…蛙吹さん……だったかな』

 

「梅雨ちゃんとよんで」

 

『それじゃ梅雨ちゃん、除籍されないためにも急ごうか』

 

「そうね」

 

そういって二人は50m走の順番にならんだ。

 

 

 

 

現在、テストは第4種目まで終了していた。その成績は……

 

第1種目:50m走──1位 

 

第2種目:握力──1位 

 

第3種目:立ち幅跳び──1位

 

第4種目:反復横跳び──2位

 

とほぼ全てでトップに立っていた。

 

今行っているのは第5種目のボール投げ。

 

 流石のせんせいでも無限なんて記録は出せないよね

 

『く……なぜかバカにされている気がする』

 

麗日が出した驚異的な成績を前に悔しそうにするせんせい。無限という記録が出てしまい俺達の記録は2位になってしまった。

 

 次は……緑谷か

 

『焦っているな……あの子』

 

「たしかに。緑谷君はこのままだとマズいぞ」

 

「ったりめーだ!無個性のザコだぞ!」

 

俺とせんせいの会話にメガネ委員長っぽいやつとツンツン頭で常にキレている男が混ざってきた。まぁ彼らには俺の声が聞こえていないからしょうがない。

 

「無個性!?彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」

 

「は?」

 

緑谷はボールを投げる体制に入り、その腕には何か力をためているように見えた

──が、しかし

 

「46m」

 

その結果は平凡と言わざるを得ないものだった。

 

『……あの個性』

 

 ……?緑谷は個性を使ってないだろ

 

視界の端では緑谷と相澤先生がなにか話していた。どうやら緑谷が個性を使おうとしたところを相澤先生の個性で消したらしい。

 

『消される前の一瞬だけ腕に個性を使っていたよ』

 

 ふーん。なんて個性なんだ?

 

『あれは……いや、ナイショだ』

 

 なんで!?

 

『お前が一人前になったら教えてやるよ』

 

そう言ったせんせいは俺の顔で優しく緑谷を見つめていた。

 

もう一度やり直した緑谷の成績は無個性とは思えないほど良く。なぜか緑谷に襲い掛かったツンツン頭を相澤先生が拘束していた。お疲れ様です。

 

一悶着あったものの無事個性把握テストは終了した。結果は1位です。やったね。

 

除籍はどうやら嘘だったらしい。身勝手だったり嘘ついたり……本当にこいつは教師なのだろうか。

 

ついでに放課後オールマイトに呼び出された……なんで?



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第2話:毎日シバかれてるがMじゃないよ?

「よく来たね。ささ、座って座って」

 

オールマイトに勧められるまま応接室の革張りのソファに座る。この場所には今、俺とオールマイトしかいない(+幽霊)

 

「それで……なんで俺は呼び出されたんですか?」

 

「それなんだけどね」

 

なぜか神妙な面持ちで話し始めるオールマイト。俺は初日から何かやらかしてしまったのだろうか。てかせんせい。オールマイトのウサ耳みたいな触覚抜こうとしないでください。

 

「君の個性のことで聞きたいことがあってね。(まとい)少年」

 

『2話にしてようやく名前が出たな、ツクモ』

 

せんせいは黙っててくれ。

 

「個性“憑代”……幽霊が見えて、話せて、憑依されれば幽霊の個性が使えると聞いたが?」

 

「そうですね」

 

「今も近くにその幽霊はいるのかい?」

 

「い、いますよ」

 

その幽霊は今アナタとにらめっこをしています。

 

「今日の個性把握テスト……その幽霊の個性を使ったんだろう?」

 

「使いましたが……問題ありましたか?」

 

「いや問題ナッシン!しかし気になることがあってだな……」

 

オールマイトはそこで一呼吸置いた。

 

「その幽霊の名前を教えてくれないかい?」

 

オールマイトがそう言った瞬間、せんせいの動きが止まった。どうしたんだろうか。

 

「それなんですが……」

 

「頼む!君の使っていた個性に見覚えがあったんだ!!どうか教えてはくれないだろうか!!」

 

両手を合わせた上に頭を下げて頼んでくるオールマイト。大のオトナにそこまでされて断る理由はないが、こちらにも言えない理由があった。

 

「いや──知らないんです」

 

「……なんだって?」

 

「だから、幽霊の名前を知らないんです」

 

「話せるんだろう?」

 

「はい、物心ついたころから一緒にいますが、"せんせい"としか呼んでないので」

 

「その幽霊は今居るのかな?」

 

「いますよ」

 

『絶対に教えないぞ!』

 

「……教えないそうです」

 

「そうか……それならしょうがないね」

 

「なんか、すいません」

 

「いやいや大丈夫だよ纏少年!むしろ時間を取らせちゃってゴメンね」

 

「いえ、こちらこそ力になれなくてすいません。それじゃ」

 

スクっと立ち上がり、俺は応接室から出るため扉に手をかけた。

 

『なあツクモ……──って言ってくれないか』

 

「え?いいけど…」

 

俺はせんせいの言葉を伝えるため軽くオールマイトの方を振り返った。

 

「あの、オールマイト」

 

「なんだい?」

 

「その……"ちゃんと笑えて"ますか?」

 

「──ッ!?」

 

「では、失礼します」

 

俺は少し足早にその場を後にした。

 

 

 

「ただいま」

 

「あら、お帰りなさい。初めての雄英はどうだった?」

 

学校から電車を使って1時間かかる距離に俺の自宅がある。

玄関を開けると5歳のころから俺を育ててくれている義母さんが出迎えてくれた。

 

「いろいろ規格外だったよ、建物も教師も。それに初日からオールマイトに会えたしね」

 

「それはよかったじゃない!どうだった?」

 

どうだったとはオールマイトを間近でみた感想だろう。

とりあえず受けた印象は……

 

「画風が違ったかな」

 

「画風?」

 

「そのことはいいや。着替えたら出るから。晩飯までには戻ってこれるよう頑張るよ」

 

「毎日"せんせい"と特訓なんてホントに頑張るわね」

 

「そりゃヒーローにならなきゃいけないからね。雄英に入ったからってサボってたら周りの奴らにおいてかれるよ」

 

義母さんは"せんせい"の存在を知っている。もちろん見たこともないし話したこともないけど5歳から今まで育ててくれたんだ。知らないなんてことのほうが無理がある。

 

俺は自室に入ると急いで制服から三本線で有名なブランドのジャージに着替え、また玄関に戻った。

 

「それじゃ行ってきます!」

 

大きめの声で叫ぶと、おそらく台所であろう方向から「いってらっしゃい!」と返事が返ってくる。

 

さて、まずはアップでランニング10kmだな

 

 

有酸素運動、筋力トレーニング、柔軟を行った後にせんせい指導の戦闘訓練を行う。なぜ一番最後に戦闘訓練なのかと過去に聞いたところ

 

『余力のない状態で動けないとヒーロー失格だ』

 

とのことだ。

 

『ホラ!左腕から右脚のつながりが甘い!私なら3発入れられるぞ!それに目が素直すぎて狙いがバレバレだ!!』

 

「お、おう!」

 

人気の少ない空地で"個性不使用"での組手。せんせいは幽霊だが、俺にだけなら触れることを利用した訓練だ。

さすが俺が目指しているヒーローなだけあり、個性を使わなくても俺の攻撃が一切当たらない。むしろ俺の欠点を指摘しながら動いており、もし致命的な隙があったならば即座に一発入れてくる。

 

例えば今、せんせいの頭めがけ回し蹴りを放ったが

 

『軸がブレ過ぎて次につながらないだろうが!!』

 

「グォッっは!」

 

せんせいは俺の股下に滑り込むように入り、その最中に腹に拳をめり込ませた。

 

『さて、それじゃ次は"アリ"でやってみようか』

 

アリとは個性ありでの訓練だ。この毎日の特訓のシメはこの訓練なのだ。

やることは簡単。個性を使用し5分間本気で戦うだけ。

 

「40%で」

 

『いいのか?学校で60%使ったばかりだぞ?明日どうなってもしらないぞ?』

 

「それくらいでへばってたらトップになれないよ」

 

俺がそう言うとせんせいは嬉しそうに『そっか』とだけ言い俺に個性を貸してくれる。

40%とは、せんせいの個性の全力を100%としたときの40%までを引き出せるように力を借りた状態だ。仮に50%以上を使おうとすればせんせいと一体化し、体の主導権を渡さなければならない。これが今日の個性把握テストの状態だ。

 

疲れた体に熱い何かが満ち始める。体の周りには薄っすらと黄色いオーラのようなものが現れている。

 

「よし、準備完了」

 

『それじゃ、行くぞ!』

 

純粋な力と力が衝突し、足元にクレーターができる。ここからの5分間。毎度のことだか死を覚悟するような瞬間が何度も訪れた。

 

そして今回の訓練の結果だが……

 

『さっき何も食べなくてよかったな』

 

地面に胃液を垂らしながらぶっ倒れた俺をせんせいがドヤ顔で見下していた。

絶対いつか泣かす。10年後くらいに。

 

 

次の日

本格的な雄英の授業が始まった。

初日がアレだったせいで身構えていたが存外普通の高校であったと思わせるような授業内容だった。プレゼントマイクの英語が時々五月蠅いだけで普通の授業だったのは少しがっかりした。

昼にクックヒーロ"ランチラッシュ"の料理を食べ、いよいよ午後の授業が始まる。

 

 "ヒーロー基礎学"

 

「わーたーしーがー!!」

 

「来っ」

 

「普通にドアから来た!!!」

 

「オールマイトだ!本当に先生やってるんだな…!!」

 

「銀時代のコスチュームだ!」

 

「画風が違いすぎて鳥肌が!」

 

明らかに線の太さが違う日本ナンバーワンヒーロー"オールマイト"の登場にクラスメイトは一気に沸き立つ。

 

俺はというと昨日会ってしまったがために感動は半減してしまっている。しかしあのオールマイトの授業が受けれるとあって少しばかり浮足立っている。

 

教壇の真ん中に立ちみんなの前に来ると、一瞬だけだが目が合った気がした。

 

「ヒーロー基礎学!ヒーロの素地を作るため様々な訓練を行う課目だ!!」

 

ぐっと力をためるような態勢になったかと思うと、全員の前にバン!と何かが描かれたカードを差し出した。

 

そこには"BATTLE"の文字が

 

「早速だが今日はコレ!戦闘訓練!!!」

 

あ、これはやってしまったかもしれない。

 

『……ツクモ』

 

せんせいの憐みの声は俺にしか聞こえなかった。




この小説のボツ案1

設定上無理があったため終わった前作にはあった設定
・主人公にとりついている幽霊は7人
7人の理由もちゃんとあったが私の実力でそんなに扱いきれるはずがなかった


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第3話:ご利用は計画的に…いやマジで

「始めようか有精卵共!!!戦闘訓練のお時間だ!!!」

 

オールマイトの声が市街地演習場に響く。周りには本当の街のようにビルや商店などの建物が乱立しており、実地に近い訓練ができるようにと用意された場所だ。ただ本物の街と異なる点は一切の人の気配が消えており、ゴーストタウンの様相をしているところだ。

 

ちなみにこの場所は入試に使われていた。

 

今の俺の恰好は制服でも個性把握テストの際に来ていたジャージでもない。

全身を黒色のウエットスーツのようなもので包み、手と足には黄色のグローブとブーツを着用している。これらはすべて防弾防刃性で攻撃から身を守ってくれる。腰には赤いベルトを巻いており、左右2個ずつポーチがあるのでサポート用の小物を持ち運べるようになっている。肩には白い膝裏まであるマントを羽織っている。これは耐火性があり火を使うような個性持ちや火事場での活動をある程度可能にするためだ。

 

デザインの参考はせんせいだ。せんせいの個性しか使う機会がないので同じようなコスチュームにしたのだが、ナイショで作ったからなのかこのコスチュームを着た際、せんせいに『バレバレじゃないか!』と頭をはたかれた。解せぬ。

 

このコスチュームを用意できたのは雄英にある"被服控除"というシステムのおかげだ。個性届や身体情報を学校に提出するとサポート会社がコスチュームを用意してくれる。デザインなどの要望があれば可能な限り叶えてくれるのだが、俺の個性はザックリといえば幽霊と触れあれる個性なのでそのまま要望が通った形だ。

 

「ケロ、とてもシンプルなコスチュームなのね纏ちゃん」

 

「まさにヒーローって感じがしてカッケェじゃねーか!」

 

頭に大きなレンズ型ゴーグルをつけ、より一層カエルっぽさを強調したコスチュームを着た梅雨ちゃんこと蛙吹と、上半身はほぼ裸で両肩に歯車をはめたような装飾がされており、口元の牙のようなマスクとベルトのバックル部分のRの文字が特徴的なコスチュームを着た少年が話しかけてきた。

どうやら周りの生徒もコスチュームの感想を言い合っているらしい。

 

「ありがとさん。蛙吹とえっと……切島だっけ?」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。とゆうか昨日は呼んでたじゃないの」

 

「俺も鋭児郎でいいぜ」

 

「そうだっけか?まぁよろしくな梅雨ちゃんに鋭児郎。お前らのコスチュームも似合ってるな」

 

お互いを褒めあっているとオールマイトが話し始めた。

 

「良いじゃないか皆、カッコイイぜ!!」

 

クラスメイト全員を見渡しながら大きな声で言うと

 

「ムム!!」

 

と何かを見つけたのか急に横を向いて笑いをこらえていた。

 

また正面を向いた時にオールマイトと目が合った。するとなぜか生暖かい目を向けていた。変なところでもあったんだろうか。

 

全身をロボットのようなコスチュームに包んだ奴がオールマイトに質問をしていた。どうやら市街地演習を行うのかと聞いたようだが、本当にコイツは誰なんだろうか。まあクラスメイトはまだ4人しか覚えてないから誰だろうと大体わかんないんだけど。

 

「いや、もう二歩先に踏み込む。屋内での対人戦闘訓練さ!!ヴィラン退治は屋外で主に見られるが屋内のほうが凶悪ヴィラン出現率は高いんだ。真に賢しい敵は屋内にひそむ!!」

 

オールマイトは咳ばらいをしながらこれから行う訓練を説明していく。

 

「君らにはこれからヴィラン組とヒーロー組に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!!」

 

「勝敗のシステムはどうなりますの?」

 

「ぶっ飛ばしても良いんすか?」

 

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか?」

 

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」

 

「んんん~~聖徳太子ィィイ!!」

 

途端に複数名の生徒からの質問攻めに変なうめき声をあげるオールマイト。

 

ツンツン頭君は敵組確定だろ。何がぶっ飛ばしていいだ。

 

困り果てたオールマイトはポケットからカンペを取り出し説明を続けた。

 

今回の訓練はヴィランが核兵器を隠し持っており、ヒーローはその処理にやって来たという設定らしい。この訓練の達成条件はヒーローならば敵の捕獲と核兵器の回収。ヴィランならヒーローの捕獲と制限時間まで核兵器を守り通すことだ。なんとも設定が自由の国スケールな気がするが気のせいだろうか。オールマイトは日本人なのか?

 

チーム決めはくじ引きで行うそうだ。くじの前には生徒が一列に並び、どんどんと引いていく。そしてついには俺の番だ。

 

「さぁ纏少年の番だ!」

 

俺は短く「はいっす」と返事をすると箱の中に右手を突っ込んでくじを探す。すると俺にだけ聞こえる声でオールマイトに話しかけられた。

 

「良いコスチュームじゃないか、誰がデザインしたんだい?」

 

「一応俺ですけど、真似しただけなんで」

 

「それでも良いじゃないか!きっと君ならそのコスチュームの似合うヒーローになれるさ!!」

 

ぐるぐると遊ばせていた右手を箱から抜き出し、引いたくじを見るとEの文字があった。

 

「それでは」

 

「あぁ!訓練頑張ってね!!」

 

俺は列から外れるとチームメイトであろう人を探していく。

すると全身ピンク色で二本の角が生えた女の子がこちらに近付いてきた。

 

「ねぇねぇ!君がEチームだよね?私、芦戸三奈!よろしくね!!」

 

「お、おぅ。俺は纏ツクモだ」

 

ググイッ!っと詰め寄ってくる芦戸に距離が近すぎてたじろいでしまう。

 

くじを全員引き終わり、周りでは既に全チームがそろい終わっていた。それを確認したオールマイトが二つの箱を取り出した。

 

「続いて、最初の対戦相手はこいつらだ!!」

 

HEROとVILLAINと書かれた箱から一つずつボールを取り出した。ヒーローを決める箱から取り出したボールにはAの文字が、ヴィランを決める箱から取り出したボールにはDの文字がプリントされている。

 

どうやらAチームは緑谷と麗日。Dチームはキレ気味なツンツン頭君とあのロボット君らしい。

選ばれた2チームは訓練会場であるコンクリートがむき出しのビルに向かい、その他である俺たちはオールマイトに連れられ同じビルの地下に用意されたモニタールームに移動した。

 

「さぁ君たちも考えてみるんだぞ!」

 

そういってオールマイトや生徒たちはビル内の至る所に設置されたカメラから送られてくる映像を見つめる。

 

 

 

 

最初のチームの訓練開始から時間が経ち、今3組目の訓練が終わったところだ。

今のところのハイライトはやっぱり最初のAチームとDチームの戦いだろう。緑谷とキレツンツンには因縁があったのか、訓練の初っ端から二人の派手な攻防が続いていた。まあ基本派手だったのはキレツンの個性で緑谷は身体能力と知識でそれを避けていたみたいだ。結果はキレツンの裏をかき、個性でもってビルの床をぶち抜いて麗日が核兵器を確保するチャンスを作ったAチームに軍配が上がった。勝敗が決した後キレツンはどこか呆然としていたようだがオールマイトが連れ戻した。

ちなみに緑谷は個性の反動で腕がボロボロになり搬送ロボットに連れて行かれた。

超パワーの代償が怪我なのだろうか、なんとも難儀な個性だ。

 

まあ、それはいい。今からは俺が気を引き締めないといけない。なぜなら

 

「次はGチーム対Eチーム!敵役のEチームは先に準備を始めてくれ!!」

 

「さ、行こっか纏ー!」

 

「おう、ちょっくらヒーロー締めちまうか」

 

 

俺はスキップしながら進む芦戸についていく。ビルの階段を上りながら芦戸は上機嫌に鼻歌も歌っている。

 

「いやぁ、まさか個性テスト1位と一緒のチームなんてラッキーだね!期待してるよー!」

 

「え?あ……」

 

芦戸に言われ、俺はあることを思い出した。周りには相手チームは居ないし言うなら今しかないだろう。

 

「なぁ芦戸、ちょっといいか」

 

「ん?なにー?」

 

「俺、今日個性使えないかも」

 

「へーそうなんだ……。うん?えぇえええーー!!!ウソ!?」

 

「いや、まじで……。正確には使えるけど使えないっていうか」

 

「ちょっと!ちゃんと説明してよ!!」

 

「ちょっ!わかった、わかったから揺らすな!!」

 

動転した芦戸に肩を思いっきり揺さぶられ説明を乞われた。

 

「俺の個性は"憑代"って言うんだが、まぁ簡単に言えば幽霊と話せたり触れたり出来て、尚且つ個性も借りることができるんだ」

 

「はぁ?!めっちゃ強個性じゃん!!じゃあ色んな幽霊から色んな個性借りれるってことでしょ!!」

 

「まぁそうなんだが。俺が個性を借りれるのは一人しかいないんだ」

 

「なんで?」

 

「その……せんせいって呼んでるんだがな?その人が全部追っ払っちゃうんだ」

 

『ツクモに不埒な輩は近づかせん!』

 

後ろのほうでせんせいがドヤ顔をしていた。

 

「そ、そうなんだ……。でもそれじゃあなんで個性が使えないの?その人の個性使えばいいじゃん!」

 

そう言われ、俺は気まずそうに芦戸から目をそらす。

 

「確かにそうなんだが、借り物の個性だから自分のモノじゃないだろ?だから本人よりも力を発揮しにくいんだ。それにリスクも少し大きくなる」

 

「昨日のテストそんなに頑張ってたの!?」

 

「それもあるしその後な……。雄英に来て嬉しくて、個人トレーニングでちょっと張り切っちゃって」

 

「それで今日個性使えないの?!」

 

「いや一応使えるんだよ!その…1%……くらい?」

 

「それってどの位なの?」

 

「プロボクシングチャンピオンくらいかな。……無個性の」

 

「ダメじゃん!もう、どうしよーー!!」

 

芦戸は頭を抱えて天を仰いだ。

 

俺の雄英初めての戦闘訓練は前途多難なようだ。

 




この小説のボツ案2

・個性を偽る
幼少のころにトラウマができ、ただの身体強化の個性と偽るという設定。
話の展開上偽る意味がなかった。


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第4話:たった一つの冴えたやり方(笑)

 

「取り合えず作戦会議始めようぜ」

 

頭を抱えて、絶望したような表情で空を仰ぐ全身ピンク色の少女、芦戸三奈に話しかける。空を仰ぐといったが此処は訓練のために作られたコンクリ―トのビルで、上を見上げたところでコンクリの天井か蛍光灯しかない。

 

「芦戸の個性はなんだ?」

 

「え~私の個性?私は手から酸が出せるよー!」

 

芦戸は手から酸を出して近くの壁に掛ける。すると酸をかけられた場所がドロドロと融けだしていく。

 

「他にも粘度を変えたり床に撒いて滑ることもできるよ!」

 

「なるほど。ちなみに相手の個性は知ってるのか?」

 

「纏は昨日のテスト見てなかったの!?」

 

芦戸は信じられないといった顔で驚いていた。仕方ないだろ、実際昨日のテストを受けていたのはせんせいなんだから。

 

「Gチームは上鳴と耳郎だね。上鳴の個性は"帯電"だよ。体の周りに電気を纏わせるんだって!耳郎はたしか"イヤホンジャック"だっけ。耳たぶのプラグを刺して音を流したり周りの音を聴きとれるらしいよ!」

 

見た目はそんなに賢そうではない芦戸から、意外としっかりとした情報を得ることができた。

 

「予想以上に情報があって助かったよ。なら耳郎が音で索敵をしてきて位置を割り出して、上鳴が戦闘役かな。上鳴の個性的にインファイトを仕掛けてくるだろうから芦戸なら近づかず倒せるんじゃないか?」

 

芦戸は「たしかに!」と俺の案に同意してくれた。大筋としては芦戸と上鳴。俺と耳郎の戦いを想定すればいいだろう。

 

「このビルをショートカット出来そうな個性はなさそうだから、核兵器は最上階でいいだろう。後は芦戸の個性で滑らせるトラップを仕掛けるくらいだな」

 

「纏なにもしてないじゃ~ん」

 

『そうだそうだー!』

 

「ぐっ!だからこうやって頭働かしてんだろ!!」

 

痛いところをついてくるな。なぜかせんせいも一緒になって煽ってくるし。

 

「それにしても昨日のテストだけでよくそこまで二人の個性を知れたな」

 

「へ?昨日友達になって聞いたに決まってんじゃん!二人以外にも蛙吹に葉隠にヤオモモでしょ。あと麗日や瀬呂とも友達だよ!!」

 

「なん…だと……!?」

 

『昔から言ってるだろ。お前はもうちょっと他人に興味を持てって』

 

たった一日。それも数時間しか共にいなかったのに友達がそんなにできるものなのか!?というかそれは本当に友達なのだろうか。きっとこいつとって友達とはちょっと挨拶したくらいで──

 

「もうみんなと連絡先交換してるから、あとで紹介したげよっか?」

 

「グハァ!!」

 

敗北だ。完全敗北だ。今まで俺のコミュ力は普通だと思っていた。だがどうやら俺はただのクソ陰キャ。路傍のクソザコ青虫だったようだ。

俺が両手両足をついた敗者のポーズをしていると、芦戸が肩に手を置いてきた。

 

「勿論纏とももう友達だから!後で連絡先教えてね!!」

 

「う、五月蠅い!それよりも準備をはじめるぞ!!」

 

「あ、照れてる。カワイー!」

 

俺は少し熱くなった顔を芦戸からそらしながら、ずんずんと先に進んでいく。その後ろをからかいながら芦戸がついてきた。

 

 

《訓練開始まであと1分だ》

 

スピーカーからオールマイトのアナウンスが聞こえてきた。

 

「まずは動かないんだっけ?」

 

「あぁ、音を聴く個性なんだろ?動いたら俺達の位置から核兵器の場所がばれるかもしれないからな」

 

「速攻で来たらどうすんの?」

 

「そのために芦戸の個性でブービートラップ仕掛けたんだろ」

 

「あ、そっか」

 

この5階建てのビルの通路や階段には滑りやすい芦戸の酸を撒いている。他にもドアノブを溶かして蹴破らないと開かないようにしたりと、かなり嫌がらせに力を入れた。

 

「トラップで時間稼ぎ&体力消耗。4階で相手を分断して一対一に持ち込み、時間切れを狙いつつ隙があればヒーローを確保。完璧だな。ハァーハッハッハ!!」

 

「纏まじでヴィランぽーい」

 

「いや、設定でやってるだけだからね?正直個性使えないだけで大分焦ってるから」

 

《戦闘訓練スタート!!》

 

とうとう訓練が始まってしまった。相手の個性の範囲は分からないが念を入れて最初の1分は静かにしておく。時間が経ったことを芦戸に伝えると二人で行動を開始する。

 

「それじゃ待ち伏せしますか」

 

「はいよ!」

 

階段を降り、四階の階段付近で隠れておく。相手の姿が見えた瞬間に芦戸は上鳴を酸でけん制しつつ3階へ。俺は耳郎と相対し加勢に向かわないようプレッシャーをかける。相手チームは俺の個性の強さを昨日と同じだと思っているから慎重になるだろう。

 

そうして息をひそめるうちに階下から物音が聞こえてくる。

 

「うわ、此処にも酸があるのかよ!?」

 

「芦戸の奴頑張りすぎじゃない?」

 

その声が段々と近付いてくる。俺達二人も音が大きくなるに連れ緊張感が増してくる。

階段から先に見えたのは耳たぶがイヤホンのケーブルのようになって、パンクロッカーのようなコスチュームを着た少女だった。完全に姿が見え、もう一人の頭が見え始めた時、一気に飛び出す。

 

「恨みはないけどカクゴー!」

 

芦戸は走りながら踏み込んでジャンプをし、耳郎を飛び越えライダーキックをしながら階段から消えていった。その時に「はぁ?!ばっ、ぐわぁーー!!」という叫び声が聞こえた気がしたが忘れることにした。芦戸身体能力高すぎね?

 

「ちょ──っ!上鳴!?」

 

「おーっと待ってくれるかな?お前は俺の相手をしてもらおう」

 

「うげっ、纏じゃん」

 

いかにもヴィランっぽいセリフを言いながら上鳴の助けに向かおうとする次郎を足止めする。あのセリフは正直恥ずかしかった。

 

「アンタの相手なんて最悪なんだけど」

 

「なら投降したらどうだ?」

 

「それは──いやだね!」

 

「──ッ!」

 

耳郎は個性である耳たぶを一直線に俺へと伸ばしてくる。咄嗟の判断で避ける事に成功したが、あのジャックが刺さっていたらまずかった気がする

それよりも俺とあいつの距離わりとあった気がするんだが。あの耳たぶかなり伸びたぞ。

 

「流石に避けるか……。これならどう!」

 

耳たぶについたピンジャックをコスチュームのまるでスピーカーのようなブーツに刺した。ん?スピーカー?

 

疑問に思った瞬間

 

ギュォォオオオオンーー!!

 

と爆音が部屋中を満たした。あまりの煩さに思わず耳を塞ぎ目をつむってしまう。頑張って右目で相手を見ると、目の前には脚が迫っていた。

 

「グッハ!」

 

側頭部に受けた衝撃に思わず唸ってしまう。相手もヒーロー志望で最難関の試験を突破したエリートだ。個性だけではこの学校に入れないのは明らか。なかなかの威力を持った蹴りで少しふらついてしまう。

 

「初対面の相手に脚振りぬくとか良い根性してるな」

 

「ヴィラン相手に遠慮なんかしてられないからね。それよりもあんた個性使ったら速攻決着ついたんじゃないの?」

 

「生憎女子供には暴力を振るわない主義って言ったら信じるか?」

 

「いや全然」

 

「あっそ!!」

 

少しぶれる視界を気合で抑え、距離を詰めるための踏み込みから右ストレートを出す。耳郎は後ろにバックステップしながら腕を丸めてガードする。普段の特訓から至近距離での殴り合いなら完全に俺に分がある。距離を離されないように攻撃を続けようとするが、その攻撃に対してカウンターのようにジャックが迫ってきたため、無理やり体制を反らして避ける。

 

「くっそ──っ!おい!こちとら軽い筋肉痛の上に余り個性が使えねーんだぞ!お前も個性を捨ててかかってこい!!」

 

「それで生身で突っ込んでくると思ったら映画やマンガの見過ぎだぞ!?」

 

「ちっ、ノリが悪いな」

 

「うっさいな!てか個性使えないって自分から暴露するとか馬鹿なのか?!」

 

「……」

 

頭に血が昇りすぎたみたいだ。だが本当にどうする?まさか相手の個性が中距離タイプで相性最悪だ。これで20%でも個性が使えてたら力こそパワ-でごり押し出来たんだがな。ここで真の力に目覚めるとかあれば良いんだが…それこそ漫画や映画の話──ん?

 

「なぁ耳郎だっけか、お前幽霊って信じるか?」

 

「はぁ?突然何言ってるんだ……。あんま信じてないけど」

 

「残念居るんだなーこれが。ねぇ"せんせい"?」

 

俺はせんせいのほうへ目を向けると、せんせいは『ん?何をするつもりだ?』とこちらを向く。

 

「はぁ!?マジでいるの!?無理なんだけど!!」

 

「せんせい、俺を武器にしてあいつを倒してくれ!!」

 

人間は大きい音に対して反射的に身を守ろうとしてしまう。なら俺が例え身を守ってても動ければいい。せんせいは他のモノには触れなくても俺には触ることができる。あとは……わかるね?俺が斬げ──武器になってせんせいが振り回せばいいだけだ。

 

『はぁ。どうしてこんなバカになってしまったんだ』

 

と渋い表情をしていたが、俺の躰が吊り上げられるような感覚を得た。俺からはせんせいにマントを掴まれても持ち上げられているように見えているのだが──

 

「はぁ!?なんで浮かんでんの!?ムリムリムリムリ!!!!」

 

と耳郎からは勝手に浮いたように見えているようで、恐怖で半泣きになっている。あいつ幽霊ニガテだったみたいだな。

 

「やれせんせい!俺を使ってアイツ──を?」

 

突然体を浮遊感が包み、視界が回転しだした。廻る世界の最中、何かを投げたような体勢のせんせいが見え、次の瞬間には耳郎の顔が目の前に──

 

「──は?」

 

「──へ?」

 

「「へぶぁ!!」」

 

ゴチン!と星が飛び出しそうな音と共に額に物凄い衝撃が走る。

2度の頭へのダメージは耐えられず、俺の意識はそこで途切れた。

 

 

 

「遅れてゴメーン!上鳴は勝手にアホになったから助けにき……キャーー!!」

 

上鳴を無力化し援護に来た芦戸が見たものは、額に大きなコブを作って倒れている耳郎と

 

「ア……アァ……」

 

仰向けになり、白目を剥きながらだらんと四肢を投げだして、うめき声をあげる俺が空中浮遊をしていた姿だった。




この小説のボツ案3

・主人公の性格
陰のある無口キャラにしようかと思ってた。
話が暗くなりすぎそうだったのと、轟と被るかと思って無くなった。


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番外編
番外編1


本編を書きながら出てきたアイデア
こっちの方が面白そうと思いながら書きました。
本編と設定が似ているため、また新しく始めるのもどうかと思って番外編として投稿しましたが、好評だったら別の小説として上げます。
そうなったら本編は……その時次第。



「──っは!?」

 

上半身を勢いよく起こし、必死に貪るようにして体に酸素を送り込む。過呼吸ではないのかと心配されそうなほど肩は上下し、胸は膨らんでは萎むことを繰り返している。段々と体は汗を流し始め、流れる空気にあたり肌寒さを感じさせた。肌着がべったりと貼りつき不快になったところで額の汗をぬぐう。その時ふと思う。

 

──私は何故起き上がっている

 

現在保有している最新の記憶は、俊典──オールマイトへと未来をたくし、オールフォーワンとの戦いに敗れ、殺された時だ。今でも体から体温が奪われ、死が近づいてくる感覚を鮮明に思い出せる。

 

ようやく呼吸が落ち着き始めたところで、一番初めに気付いた違和感は自身の手であった。冷静になった思考と視界で両の掌を見つめる。

 

──小さすぎる

 

今まで何体ものヴィランを倒し、幾度の試練を乗り越えてきた体には到底思えないほど、その手は小さく、ふっくらとしていて傷一つ見当たらなかった。それはまるでヒーローの手ではなく、守られるべき子供のモノのようだった。

 

「何が──ん?!」

 

数十年も使ってきた体だ。自分の体の形や声でさえ無意識でだって解る。なのにそのどれもが記憶と違っているのだ。今発した声でさえまるで幼児のようではないか。

 

──幼児?

 

体に掛かっている布団をバサっと勢いよくめくり、買った覚えのないフカフカの布団の上に立ち上がる。そこにあったのは幼稚園児ほどの大きさしかない体だった。

本来大人の、それも鍛え上げられた体での感覚に則り立ち上がったため、未だしっかりとした筋肉もついておらず、バランスの悪い体型の幼児であるこの体は思わず尻餅をついてしまう。

 

幼児1人が使うには大きすぎるベット。所々に子供用のぬいぐるみが転がっているが、目に入る家具はどれも大人が使うであろうものだった。その中には少し高級そうな意匠の施された姿見があり、その中には尻餅をついた女の子がこちらを見ていた。鏡の中の女の子は私が右手を上げると同じく右手を上げる。さらにその手を左右に振るとその少女も振り返してくる。

 

「な──なんらって!?」

 

体が幼児であるために舌足らずな口で叫んでしまう。つまりはこの鏡に映る少女こそ私の姿であるということだ。ただし、問題はこの見た目は私が幼児であった時とは全くもって違うということだ。

 

現実に起こっていることが頭の中で処理できないでいると、突然扉が開かれこの体の少女と似た雰囲気を持つ女性が入ってきた。

 

「付喪おきなさ──、あら、もう起きてたのね」

 

「う、うん」

 

「それなら着替えて朝ごはん食べなさい。ご飯食べたら行くわよ」

 

「い、行くって……どこに?」

 

「何処って昨日言ったじゃない」

 

この子風邪かしら……。と言いながら目の前の女性は私の額に手を当ててくる。子供の体温が高いからか、ひんやりとした感触に包まれて心地よかった。久々に感じる人肌に涙腺が緩みかけた。

 

「まぁ風邪ならついでに診てくれるから丁度いいわね」

 

と言い、額に感じていた温度が離れていく。名残惜しく思っていたために「あっ……」と声を上げてしまった。

 

「個性検診──行くわよ!」

 

 

 

 

 

 

「お子さんは今3歳で?」

 

「ええ、来月で四歳になります」

 

今、私は女性──この体にとっての母親に連れられて病院に来ていた。やけに眼に刺さる白さと消毒液の匂いに、私は病院という場所があまり好きではなかった。

目の前にいる白衣を着た初老の男性が何やら紙状のものを取り出すと、横にあったホワイトボードに貼り付けていく。それはレントゲンだったようで、足の骨が映っていた。

 

「四歳になるまでには個性が発現するんだけどね……。付喪ちゃんは小指の関節にも問題はないようだし」

 

どうやら私の足の骨だったようで、先生はそれを睨みながらう~んと唸る。

先生の言葉を聞き、私は閃いてしまった。私が今この子の体を動かしているのはこの子の個性だと。

 

「あ……あの!」

 

自分でも驚くほどの声を出してしまった。子供が突然大声を上げ、目の前の医者はビクりと肩を震わせた後に此方を向く。横にいた母親も此方を向き、話しかけてくる。

 

「どうしたの?」

 

「何かあったかね?」

 

「あの、個性……ある…かも」

 

「本当!?」

 

「どんな個性かね?」

 

大人二人にずいっと迫られ思わず身を縮ませてしまう。この場で真実を話そうと喋ろうとしたが……うまく声が出ない。それでも尚、意を決して話そうとする。

 

「私の個性は──、力が強くなること……です」

 

その小さな口から出たのは嘘だった。どうして咄嗟に嘘をついてしまったのか分からなかったが、段々と自分の本心が分かってくる。

 

──怖かったのだ。

 

生前、ヒーローとして生きてきた自分が3歳の少女の人生を横取りしてしまったことが。それを誰かに知られてしまうことが。

自分はここまで弱い人間だったかと打ちひしがれてしまう。

 

「ほほう、それでは検査してみようか」

 

私の内心をよそに、医者はいそいそと個性を測るための準備をはじめ、隣にいる母親はとても嬉しそうに私を抱きすくめていた。

 

 

 

「かなり簡単な測り方だけどね、身体強化系の個性は握力で分かるものなんだよ」

 

医者は私に子供用の握力系を差し出してくる。学校で使うような無機質なものではなく、色はパステルカラーが使われ、数値を出すモニターの横には何かわからないキャラクターが大きく載っていた。

 

「この頃の子供の握力は5㎏もないからね、個性があれば平気で成人男性くらいの数値を出すんだよ」

 

それじゃここを握ってくれるかな?と医者は優しく握力系を握らせてきた。

 

思わず口に出した嘘に、私は焦りながらもどこか確信を持っていた。私本来の個性"ワン・フォー・オール"が使えると。胸の奥にある、温かくも力強いものを感じる。

この個性とは受け継いでから死ぬその時まで付き合ってきたんだ。まだ未成熟なこの体で全力を出せば無事では済まないことは分かっていたし、この体で出せる限界を調節できる自信もあった。

 

「──ん」

 

と右手に力を籠める。その時に使う個性は全力を100%とした時の0.5%程だった。

 

「おぉ!」

 

「まぁ、すごいわ!」

 

私の右手に握られている握力計をのぞき込んでいた二人は感嘆の声を上げる。そこに書かれていた数値は

 

「38㎏──確かに身体強化系の個性のようだね」

 

「良かったわね付喪!!」

 

喜びを表す二人に合わせ私も笑顔を浮かべるも、内側では泥濘のような後悔を感じていた。

 

 

 

 

 

3歳──それも4歳になる頃といえば幼稚園や保育園に通っていそうなものだが、どうやら今日は休日だったそうだ。だからこそ個性検診を今日にしたのだろう。

 

病院から帰った私はリビングであろう場所の、大人が3人ほど座れそうなソファに寝ころんでいた。この場所から動かないのはどうしてもこの家が他人の家である感覚が抜けず居心地が悪いのと、母親が昼ごはんを作るというので待っているのだ。

 

母親は忙しなく動きながら私の方を一瞥し、寝ころぶ私を退屈していると勘違いしたのか46型テレビの電源を入れた。

 

昼ごはんを作りながらも、娘を思いやった行動ができる事に驚きを覚えるとともに過去の自分を思い出させた。私も母であったが子供の世話をするどころか突き放す始末。今思えばこんな些細なこともしてやれなかったと際限のない落胆に呑まれる。

 

ぼーっとテレビを眺めれば、そこに映るのは昼のニュース番組の生中継であった。その内容はヴィランが子供を人質に銀行を占拠しているというものだ。

私があれほど頑張って来たことは何だったのか。世界は何も変わっていないのかと、より一層のダウナーに入っていると、ヴィランが立て籠もっていた銀行に"青色の何か"が突っ込んでいった。数秒の後、その青いナニカは片腕にヴィランを米俵のように抱え、もう片方に子供を肩車しながら言った。

 

『私が来た!!!』

 

「──ッ!とし……のり」

 

そこに映っていたのはかつての愛弟子の姿だった。あの時よりも7割増しで筋肉と輪郭が太くなってはいたが見間違うはずがない。この国の柱を目指し、私が未来を託した少年。彼が現れると同時に銀行を遠巻きに囲っていたマスコミや群衆は拍手喝采を起こしていた。

 

『No1ヒーロー"オールマイト"が颯爽と現れ、瞬く間にヴィランを倒し少年を救助しました!流石は"平和の象徴"です!!彼の活躍に市民の興奮が止まりません!!!』

 

テレビの中のリポーターが、興奮のせいか早口で捲し立てながら言う。

 

──平和の象徴

 

そうか、あいつはそう呼ばれるまでに成長したのか。……よかった。

今まで感じていた不安や後悔が一瞬で取り払われた。愛弟子の姿を見て不安が消えたのなら、私もある意味救われてしまったのかもしれない。

 

「あら、オールマイトじゃない。流石はトップヒーローよね」

 

昼ごはんが出来上がったのか、母親は机に湯気の立つ昼食を配膳しながら話しかけてきた。

 

「そうそう、付喪の個性もオールマイトみたいな個性だからプロヒーローになれるんじゃないかしら!」

 

キャーっと浮つきながら小躍りする母親。みたいというよりは同じ個性……それも私が渡した個性なのだから当たり前だ。内心苦笑いしながら私は母親に話しかけた。

 

「お母さんは……私にヒーローになって欲しいの?」

 

「勿論よ!誰もが憧れる職業じゃない!!」

 

そうなったらヒーローの母として取材されちゃったりして―、と嬉しそうに台所に戻っていく。

 

そうか。今ではヒーローは皆から憧れられる存在となっているのか。これもオールマイトの成した事なのかもしれない。この時、私は自分の進むべき道を決めた。

 

「お母さん」

 

「何かしら?」

 

「私、ヒーローになるよ!」

 

「まぁ!嬉しいわー!!」

 

母は私を両腕で抱きしめ、両腕で持ち上げながらぐるぐると廻る。少しの息苦しさを感じたが不快感はなかった。

この子が何を望んだかはわからない。だがこの子の…そしてこの子の家族のために出来ることを精一杯やろうと私は決心した。

 

 




使ったアイデア
・憑代という個性が幽霊に完全に乗っ取られる。自我はない
・志村菜奈転生?憑依?モノ
・個性を偽る
その他etc

シガラキの真実を知ったり、デクと会ったりした時の反応が楽しみすぎて仕方ない。


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