日本国召喚~different world wars~ (瀬名誠庵)
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本作の登場国家(随時更新予定

旧作通り、グ帝は第二文明圏国として扱います。


日本周辺・文明圏外国

第三文明圏

第二文明圏

中央世界

 

日本周辺・文明圏外国

 

日本国

本作の主人公スタンスの国。

首都は東京都。

新世界では珍しい『1億人以上の単一種族の民族が中心を担う』立憲君主国であり、政治スタンスや軍事も新世界の常識からかけ離れている。

しかし原作とは違い、1954年の怪獣王『ゴジラ』の襲来に端を発する特殊生物『怪獣』との戦闘に明け暮れており、自衛隊の戦力は非常に高いものとなっている。

また領土も、北方は千島四島のみならず、千島列島全島と樺太全土が転移しているため、国内情勢はややシビアな状況に置かれている。また、早期に『武器輸出三原則』が見直されて『防衛装備移転三原則』に変更されており、他国との共同開発装備が多い。

 

台湾国

日本とともに転移した国。

正式名称は『台湾中華民国』で、首都は台北。

中華民国総統を元首とする共和制国家で、戦後の極東情勢が原作・旧作よりも厳しくなっている分、中華民国国軍の戦力が非常に多い。

 

クワ・トイネ公国→クワ・トイネ王国

日本と台湾との最初の国交締結を行った第三文明圏外国。

ロデニウス大陸北東部の中規模国家で、首都は公都クワ・トイネ市。

日本と台湾との国交締結後、農作物を中心にして盛んに行われた貿易や、ロデニウス戦役でのパワーバランスの変化を経て、王制にシフトチェンジが行われ、国名も改称。首都も、新都カイコン市に遷都した。

 

クイラ王国

クワ・トイネ公国の親しき隣人にて、ロデニウス大陸最小の第三文明圏外国。

王を中心にした君主国で、首都はバルラート。

農業に適していない土地で、ワイバーンも住みにくい環境という貧しい国だったが、日本と台湾との貿易で、空前絶後のオイル・レアメタルマネーに沸く。

その際に発生した潤沢な資金と、輸出して尚余りある資源、国内の技巧に優れたドワーフ集団を使って、近代工業化と新兵器の開発を進めている。

 

ロウリア王国

かつてロデニウス大陸最大を誇った第三文明圏外国。

絶対君主国で首都はジン・ハーク。

日本・台湾転移前はロデニウス大陸最大にして第三文明圏外でトップクラスの大国だったが、ロデニウス大陸の統一と亜人殲滅を目的として起こしたロデニウス戦役にて、クワ・トイネ公国とクイラ王国を守るために参戦した自衛隊・中華民国国軍の攻撃を受けて連敗し、ジン・ハーク攻防戦において国王ハーク・ロウリア34世が逮捕され、国は四つに分裂。新ロウリア王国国王に即位したアルダのもとで、平和路線に切り替わっていった。

国内の『古代ロデニウス文明』の遺跡を解析し、その技術を対価にパーパルディア皇国やソルジャーユニオンから支援を受けていたため、技術力と兵力は文明圏外随一のものであり、戦後の復興にも大きく役立てられた。

 

西ロウリア王国

ロデニウス戦役後、ロウリア王国から分離独立した第三文明圏外国。

複数の有力貴族が合議を行って選挙で国王を選ぶ限定君主制国家で、首都はザン・ハーク。

分離独立後は、日本の民間企業を誘致して造船業で財を成すが、その地理的要因により何度も戦乱の舞台となる。

 

フェン王国

第三文明圏外国の一つ。

君主制国家で首都はアマノキ。ただし剣王を中心に複数の大名・藩主の合議で国政を決める等、封建制と州制の長所をいいとこどりした様な政治手法を取り入れている。

先々代の王の悪政もあって、魔法を使える者が壊滅的におらず、他の文明圏外国に比べて国力や魔法関係の技術で立ち遅れている。

この国の正規軍である王宮武士団は、質・量ともに文明圏外国でも下位に入るレベルながら、個人の武技は非常に高く、剣士一人だけで歩兵10人分の戦闘能力を持つと言われている。

日本がパーパルディア皇国と戦争になる切っ掛けを生み出した国の一つでもあり、外交面にて日本からやや不利な(それでもパーパルディア皇国のよりかは全然ましな)協定や条約を結ばされている。

 

アルタラス王国

第三文明圏外国の一つ。

君主制国家で首都はル・ブリアス。文明圏外国の中では第三文明圏に一番近く、元々の国力も非常に高い国であったため、文明圏外国の中では一番進んだ国であった。

しかし列強パーパルディア皇国との戦争で一度滅び、これまでの繁栄が嘘であったかの様な植民地化をされてしまうが、パーパルディア皇国が日本・台湾と戦端を開いたのち、日本に保護されていた唯一の生き残りの王族、ルミエス王女をリーダーとするアルタラス王国正統政府が誕生。そしてアルタラス島での戦いで皇国軍派遣部隊が壊滅させられた直後に再建された。

現在は魔石輸出で利益を得つつ、近代化を推し進めている。

 

トーパ王国

第三文明圏外国の一つ。

君主制国家で首都はベルンゲン。

フィルアデス大陸とグラメウス大陸の中間地点を国土としており、文明圏外国で唯一グラメウス大陸に領土を有している。

『世界の扉』と呼ばれる対魔物防衛ラインが存在しており、ワイバーンの様な航空戦力を有していないものの、文明圏外国の中でも優れた軍事力を有している。

魔王軍侵攻によって日本からトーパ王国の重要性を認識され、兵器の供与を経て大規模な近代化が進んでいる。

 

第三文明圏

 

パーパルディア皇国→パルディア王国

フィルアデス大陸南部の大部分を支配していた元列強第四位の国。

皇帝を中心にした絶対王政を敷く君主国で、首都はエストシラント。

72の属領から搾取していた富で生み出された、第三文明圏の中で突出した軍事力を誇り、フィルアデス大陸統一政策を進めていた。

しかしフェン王国ニシノミヤコや西ロウリア王国における日本人・台湾人虐殺事件をきっかけに日本や台湾、ロデニウス大陸諸国を敵に回し、戦争にて皇国軍が壊滅的な打撃を被る。

そして全ての属領が叛乱を起こして再独立し、一気に国力は衰退。

全属領の連合軍である73ヵ国連合軍やリーム王国の緊急参戦により存亡の危機に立たされるが、エストシラントでのクーデターにより戦闘を終結させ、どうにか生き長らえた。

戦後は中規模文明国にまで後退した後に国名を改名。国家の再建とともに立憲政治の確立を進めている。

 

リーム王国

フィルアデス大陸中東部に位置する文明圏内国。

君主制国家で首都はヒルキガ。列強国と文明圏外国の中間地点という微妙な位置に存在しているせいで歪なプライドを有する国民性であるのが特徴。

パーパルディア皇国が全属領を叛乱で喪失した直後に73ヵ国連合軍に与する形で参戦し、パーパルディア皇国から列強国の地位を奪い取ろうと画策した。

 

第二文明圏

 

ムー

ムー大陸北東部に存在する列強第二位の大国。

国家緊急事態時に王家に政権を譲渡する立憲君主制で、首都はオタハイト。

この世界で唯一の科学技術立国で、地球の西暦1910年代クラスの文明水準を有する。

日本と同じく、地球から新世界に転移してきた国であり、12000年前は第二文明圏を構成するムー大陸全土を国土としていた。

また神代日本や1960年代に旧世界に宣戦布告したムゥ帝国と密接な繋がりを有する。

日本との国交樹立後、貿易で多数の日本・台湾製品を輸入しているが、そのためにムー国内の産業が死にかけるという異常事態に面している。

 

レイフォル

ムー大陸西部に存在した元列強第五位の国。

絶対君主国で首都はレイフォリア。

西部の文明圏外諸国を束ねる大国だったが、突然出現したグラ・バルカス帝国との戦争で敗北し、滅亡。

国土は全てグラ・バルカス帝国の植民地と化した。

 

中央世界

 

神聖ミリシアル帝国

第一文明圏の中心部を担う列強第一位の大国。

君主制国家で首都はルーンポリス。

古の魔法帝国の遺跡に残る魔導技術文明を吸収して発展した魔導文明の中心地であり、近代的な文明水準を築き上げている。

 

エモール王国

第一文明圏北部に存在する列強第三位の国。

君主制国家で首都は竜都ドラグスマギラ。

竜種を祖先とする竜人族が100万人の人口の殆どを占めている単一種族国家で、魔力の高さで相手を区別する民族主義国家である。



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本作に登場する怪獣・生物(随時更新予定)

怪獣の設定は結構オリジナル・ごちゃまぜが入っております。ご注意下さい。


特一級有害特殊生物

 

ゴジラ(原種)

頭頂高・60メートル(1954年時)55メートル(1999~2004年時個体)

体重・20000トン(1954年時)25000トン(1999~2004年時個体)

能力・放射熱線

第一次・第二次ゴジラ事変の際に出現した特殊生物。現在確認されているだけでも2体~3体。

ジュラ紀後半から白亜紀前半に棲息していた恐竜が、絶滅の危機に際して地下に逃げ込み、地底のエネルギーと水爆実験の影響で突然変異して生まれた怪獣で、口部から体内で蓄積・凝縮したエネルギーを高熱・高圧のガス状にして放射する放射熱線で敵を攻撃する。

なお第二次ゴジラ事変にて、自衛隊は第一次ゴジラ事変の際にオキシジェンデストロイヤーで撃破された原種ゴジラの骨格を利用してサイボーグ兵器『三式機龍』を開発・配備し、二頭目の原種を迎撃した。

 

ゴジラ(古代種)

頭頂高・108メートル(2014年時)

体重・90000トン

能力・放射熱線

2014年、アメリカ合衆国ハワイ・サンフランシスコに出現した特殊生物。

第一次・第二次ゴジラ事変の時の固体とは違い、古生代ペルム紀に地上で棲息していた生物であり、元から同規模の巨大生物からの防衛手段として放射熱線を有していたと見られている。

表皮は非常に堅牢で、並みの砲撃では傷一つ付かない頑丈さを有する。また、アメリカの特務機関がその存在を認知して以降、米軍及び核保有国は、核実験を名目にこの個体に対して核攻撃を行っていたが、その際の放射能により強化された。

 

ゴジラ(シン種)

頭頂高・118.5メートル(2016年・第四形態時)

体重・92000トン(2016年・第四形態時)

能力・放射熱線

2016年、第三次ゴジラ事変の時に出現・上陸した特殊生物。

原種や古代種と違い、世界各地で相次いだ核実験や、いわゆる『核のごみ』の不法投棄によって得た放射性物質によって突然変異した海棲型古代生物がそのルーツで、空気中の物質を使用して生存に必要不可欠な元素を自由に生成・分解する核融合・分裂能力を有した『熱核エネルギー変換生体器官』を持っており、当時の『巨大特殊生物対策本部(巨災対)』メンバーをして『霞を食べて生きる仙人みたいだ』と言わせしめた。

機動性は劣悪であるが、それを補うレベルの火力を有しており、頭部や尻尾、背鰭の合間から粒子ビーム状の放射熱線を発射して迎撃する。また、表皮も非常に強固で、アメリカ空軍の対特殊生物大重量貫通爆弾『MOAB-G』にてようやく損傷を負わせられた程である。

巨災対を中心に実行されたヤシオリ作戦にて活動停止に追い込まれ、その後は〈しらさぎ〉10機を使用して日本海溝に放り込まれた。しかし転移後、その影響で活動を再開し、形態変化・自己増殖能力によって各種派生生物を生み出している。

 

ラドン

身長・50メートル(1954年時)

体重・15000トン

第一次ゴジラ事変の直後、生態系が崩れ始めた日本に現れ始めた特殊生物の一体。

高度15000メートルの高空をマッハ3で飛行する能力を持ち、当時の航空自衛隊を存分に苦しめた。また、これをきっかけに、冷戦中でありながらソ連からMig-25を輸入しようという計画が立ち上がり、ベレンコ中尉亡命事件にて手に入れた実機をコピーしようとした程に日本の防空体制に衝撃を与えた。

 

ムートー

頭頂高・61メートル(雄個体)91メートル(雌個体)

体重・18000トン(雄個体)85000トン(雌個体)

能力・電磁パルス放射・操作能力

1999年に存在が確認され、2014年に古代種ゴジラとともにアメリカ西部に出現した特殊生物。

古代種ゴジラと同時代の古生代ペルム紀に地上で生きていた古代生物で、放射能を摂取して生活するという生態から、電磁パルスの発生・放射能力を有し、迎撃時に米軍を苦戦させた。

生殖行動による繁殖を必要とし、飛翔能力のある雄と、雄の2倍以上の巨体である雌のつがいとなって地下に巣を作り、そこに卵を産んで育てる事などから、昆虫類の見た目に反して鳥類と哺乳類に近い生態を持つ。

 

鉄甲鎧虫

全長・30メートル~40メートル(成体)

体重・400トン(成体)

能力・砲塔状器官

旧ロウリア王国軍残党・パーパルディア皇国軍・魔王軍が使役していた大型昆虫型特殊生物。

新世界の伝承によれば、かつて古の魔法帝国と古代ロデニウス文明が開発・使役していた生物兵器で、火砲と同じ働きをする器官を有し、『動く要塞』の名に相応しい攻撃能力と防御能力を有している。

生態はアリに近く、『兵器』として十分な生産性を有している。

 

一級有害特殊生物

 

モスラ

全長・36メートル(成虫)43メートル(幼虫)

体重・12000トン(成虫)10000トン(幼虫)

能力・超音速巡航飛翔・特殊鱗粉散布能力(成虫)特殊糸生成・放出能力(幼虫)

1961年に出現した昆虫型特殊生物。

太平洋上の孤島インファント島を住処とする怪獣で、幼虫・成虫ともに唯一ゴジラと対等に渡り合うだけの実力を有している。

インファント島では島を守る守護神として奉られており、自衛隊も迂闊に攻撃・排除を仕掛ける事が出来ない存在である。

 

ガメラ

全長・40メートル

体重・20000トン

能力・強力火炎放射能力

1960年代に出現した爬虫類型特殊生物。

見た目は巨大な亀そのものであるが、古代種ゴジラと同じく遥か昔に放射能を摂取して生きていた生物で、手足に当たる部分から強力な火炎ジェットを放出する事による飛翔能力と、強力な火焔放射能力を有している。

 

エビラ

全長・50メートル

体重・23000トン

1960年代に出現した海棲型巨大生物。

見た目は巨大なザリガニないしロブスターで、前肢の巨大な鋏は鉄骨すら切断する程の握力と鋭さがあり、また刺突による攻撃も得意。

鋏のみならず後肢も頑強で、地上でも高い機動性を有している。

 

黒龍

全長・16メートル

体重・6.5トン

能力・強力火炎弾放射能力

ロデニウス戦役後にロデニウス大陸各地で出現した竜型生物。

見た目は『GODZILLA怪獣惑星』の飛翔型セルヴァム。

ワイバーンを凌駕する飛翔能力・攻撃能力を有しており、風竜と比肩するとまで言われている。

また繁殖能力も高く、ロデニウス戦役後のクワ・トイネ王国空軍の主戦力として大量配備された他、新ロウリア王国の飛竜騎士団再生にも貢献した。

 

風竜

全長・15メートル

体重・5トン

能力・風魔法攻撃能力

新世界の一部地域に棲息する竜型生物。

4枚の翼を有し、高い飛翔能力と人間並みの知能・自我を有する。

基本的に使役される事を嫌い、フィルアデス大陸の人の住まない奥地や中央世界を主な生息地としているが、ガハラ神国は『神通力』という謎の能力を使用して風竜を『雇用』し、風竜騎士団を編成している。

 

二級有害特殊生物

 

メガヌロン/メガニューラ

全長・2メートル(メガヌロン)5メートル(メガニューラ)

体重・250キロ(メガヌロン)170キロ(メガニューラ)

1955年頃に出現した昆虫型特殊生物。

体内に肺に類似した効率的にガス交換を行う器官を有し、昆虫ながら非常に巨大な身体を有している。

成長段階によって名前が変わる生物であり、幼虫時はメガヌロン、羽化して成虫になるとメガニューラと呼ばれる事となる。

社会性生物でもあり、一番生育の良いメガヌロンが、手下のメガニューラを使ってエネルギーを摂取し、メガギラスとして羽化する。

 

ワイバーン

全長・14メートル

体重・6トン前後

能力・導力火炎弾放射能力

新世界のスタンダードな竜型生物。

前肢が進化して変じた翼を持ち、軽快な飛翔能力を持つ。

使役・育成のしやすさや極寒の地以外に棲息している行動力の広さ、そして導力火炎弾という強力な攻撃能力から、魔王軍敗北後の新世界各地に勃興した国々の主要航空戦力として使役され、魔法技術による改良型の開発も行われている。

 

リントヴルム

全長・12メートル

体重・20トン前後

能力・火炎放射能力

新世界のフィルアデス大陸に棲息する竜型生物。

いわゆるワーム型の竜で、火炎放射能力のみならず分厚い表皮による高い防御力も有しており、パーパルディア皇国軍のみがこれを使役する事に成功していた。

 

ゴブリン

体高・1.5~2メートル

体重・50~80キロ

新世界の人型生物。

世界各地に棲息しており、身体能力はヒト種よりも低い個体が圧倒的多数ながら、高い繁殖能力を有している。

上位種にホブゴブリン、ゴブリンロードが存在している。

なお原始的な知性・言語を有する『半知性体』であり、法務省や防衛省はゴブリンの日本国内での法的な扱いに

苦慮している。

 

オーク

体高・2メートル前後

新世界の人型生物。

ゴブリン同様世界各地に棲息しており、身体能力はヒト種並。

上位種にオークキングが存在する。

こちらも『半知性体』扱いとなっている。



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本作に登場する日本の兵器(随時更新予定

新たな兵器が登場次第、更新してまいります。


陸上自衛隊

 

90式戦車

陸上自衛隊の第三世代主力戦車。

ラインメタル社からライセンス生産された120ミリ滑腔砲を装備し、高い防御能力を持つ。

 

99式自走155ミリりゅう弾砲

陸上自衛隊特科部隊の主力自走砲。

52口径155ミリ榴弾砲を装備しており、最長30キロの長射程を誇る。

 

MLRS(多連装ロケット発射機システム)

陸上自衛隊特科部隊の主力兵器の一つ。

各種ロケット弾を一斉射して面制圧を行う。

 

89式装甲戦闘車

陸上自衛隊戦車部隊に配備されている歩兵戦闘車。

史実と異なり、戦車の使用頻度と損害が(怪獣との戦闘等によって)多いため、生産数と配備部隊が多くなっている。

 

96式装輪装甲車

陸上自衛隊普通科部隊の装輪装甲車。愛称は『クーガー』。

史実とは異なり、複数種の形式が開発・生産されており、A型とB型以外に、武装の取り付け部をパッケージ化して互換性を持たせたC型や、40ミリ自動てき弾銃と20ミリリボルバー式機関砲を一体化させた複合式砲塔を装備したD型、電子戦対応のE型がある。

 

海上自衛隊

 

大型護衛艦「やましろ」

全長238メートル、全幅32メートル、喫水10.2メートル

基準排水量32700トン、満載排水量40000トン

主機 IHI-TGM-02L×8・4軸推進(出力160000馬力)

速力 35ノット(高機動戦時45ノット)、航続距離9000カイリ/20ノット

兵装(転移後改造主要目) 18式50口径35.6センチ連装砲×4

18式60口径12.7センチ単装砲×4

Mk57ミサイルVLS×80セル

17式多目的迎撃システム×4

68式32.4センチ三連装魚雷発射管×2

搭載 〈SH‐60k〉×2

レーダー・ソナー FCS-3B多機能レーダー、OPS-48対水上レーダー、OPS-20航海レーダー、OQQ-25ソナーシステム

FCS GFCS-2・35.6センチ砲用×1、FCS-3B・12.7センチ砲・ミサイル用×1

乗員970名

 

海上自衛隊が旧日本海軍から引き継いで保有する唯一の『戦艦』。

扶桑型戦艦2番艦「山城」がその前身で、第一次ゴジラ事変を始めとした様々な戦いに参加した。

第二次ゴジラ事変以降に大規模改修が行われ、主砲塔を2基降ろす代わりにVLSやヘリコプター搭載・運用能力、新型レーダーへの更新などが行われた。

転移後、超巨大高速ガレアス船「ウラガンとの戦闘で損傷し、修復を兼ねた近代化改修で機関の変更や魔導技術の試験導入が行われた。

余談であるが、第一次ゴジラ事変の際にオキシジェン・デストロイヤーで弱体化した原種ゴジラに主砲で砲撃を与えて引導を渡したが、その際の被弾箇所は三式機龍開発時にアブソリュート・ゼロや三連ハイパー・メーサー砲の装備箇所となった。

 

いぶき型航空機搭載護衛艦

全長260メートル、全幅56メートル(エレベータ含まず)、喫水7.8メートル

基準排水量23400トン、満載排水量28200トン

主機 IHI-TGM-03L×8・4軸推進(出力280000馬力)

速力 35ノット、航続距離8000カイリ/20ノット

兵装 Mk41ミサイルVLS×32セル(16セル×2)

17式多目的迎撃システム×4

68式32.4センチ三連装魚雷発射管×2

搭載 〈F‐35D〉×12~24、〈SH‐60k〉×3~6

レーダー・ソナー FCS-3C多機能レーダー、OPS-28対水上レーダー、OPS-20航海レーダー、OQQ-23ソナーシステム

FCS FCS-3C・ミサイル用

乗員740名

同型艦 DDV-185「いぶき」

DDV-186「あまぎ」

 

海上自衛隊のいずも型の拡大発展型で、最初から固定翼機の搭載・運用を前提に建造された艦として海自初の『航空母艦』。

エレベーターを全て右舷開放型にしている事や、艦首全体を巨大なスキージャンプ台にしている点など、ロシア海軍のアドミラル・グズネツォフ級航空母艦に近い改設計が施されているのが特徴で、いずも型よりも高い艦載機搭載・運用能力を有している。

 

いずも型護衛艦

海上自衛隊の最新鋭ヘリコプター搭載護衛艦。

ひゅうが型よりも洋上での護衛隊群旗艦としての能力と、多数のヘリコプター搭載・運用能力が強化されており、〈SH‐60k〉を最大14機搭載。

その後、これの拡大発展型としていぶき型護衛艦が建造された。

 

あいづ型護衛艦

全長180メートル、全幅21メートル、喫水9メートル

基準排水量9400トン、満載排水量12100トン

主機 LM2500ガスタービンエンジン×4・2軸推進(出力100000馬力)

速力 30ノット、航続距離7000カイリ/20ノット

兵装 オートメラーラ54口径12.7センチ単装砲×2

74式八連装ミサイル発射機×1

Mk29八連装ミサイル発射機×1(のちにMk41ミサイルVLS64セルに改造)

『ファランクス』20ミリCIWS×4

68式三連装魚雷発射機×2

搭載 〈SH-60k〉×2

レーダー・ソナー AN/SPY-1B多機能レーダー、OPS-24B対空捜索用レーダー、OPS-20航海用レーダー、OQS-102艦首固定ソナー、OQR-2曳航式ソナー

FCS Mk99・ミサイル用×4、AN/SPS-49・主砲用×1

搭載ミサイル RIM-7、RUM-139、RGM-84

乗員390名

同型艦

DDG147「あいづ」

DDG148「あこう」

 

海上自衛隊が建造した第3世代ミサイル護衛艦。

見た目はタイコンデロガ級巡洋艦の前部上部構造物をこんごう型にし、艦橋部の形状のみをタイコンデロガ級にしている。また、前部ミサイル発射機は74式ミサイルランチャーになっている。

海自護衛艦として初のイージスシステム搭載艦で、イージスシステムと従来のターターシステムとの比較検証用としてはたかぜ型護衛艦と並行して建造された。

前部にアスロック・ハープーン用74式八連装ミサイル発射機を、後部にMk29八連装ミサイル発射機を装備し、高い対空・対潜戦闘能力を持つ。

その後、性能向上のために大改造が行われ、後部ミサイル発射機のVLS化、国産型イージスシステムへの換装等が行われた。

 

こんごう型護衛艦

全長161メートル、全幅21メートル、喫水6.2メートル

基準排水量7250トン、満載排水量9500トン

主機 LM2500ガスタービンエンジン×4・2軸推進(出力100000馬力)

速力 30ノット、航続距離6000カイリ/20ノット

兵装 オートメラーラ54口径12.7センチ単装砲×1

Mk41ミサイルVLS×96セル(前部32セル、後部64セル)

『ハープーン』艦対艦ミサイル四連装発射筒×2

『ファランクス』20ミリCIWS×2

68式324ミリ三連装魚雷発射管×2

搭載ミサイル SM-2、SM-1RJ、05式艦対空誘導弾、RUM-139、RGM-84

乗員300名

同型艦

DDG173「こんごう」

DDG174「きりしま」

DDG175「みょうこう」

DDG176「ちょうかい」

 

海上自衛隊が建造した第3世代ミサイル護衛艦。

海自護衛艦として2番目にイージスシステムを搭載した艦級であり、国内外の事情と怪獣のに関わる諸問題で、現実とは違ってイージスシステムを構成する機器の大半が日本製となっている。

また、搭載武器も現実と違い、SM-2『スタンダード』艦対空ミサイルやRUM-139『アスロック』以外にも、SM-1Rの日本独自改良型であるSM-1RJや、日本版ESSMこと05式艦対空誘導弾(SAM-1)を装備している。

また、現実ではミサイル再装填用スペースに充てられ、溶接して封じられていた前後3セル分を改造でミサイル装備スペースに変え、ミサイル搭載数を6~24発増やしている。

 

あたご型護衛艦

海上自衛隊が建造した第4世代ミサイル護衛艦。

海自護衛艦として3番目にイージスシステムを搭載した艦級で、こんごう型と異なり、VLS配置の変更やAN/SPY-1レーダーの配置変更、FCSの改良、ヘリコプター艦載能力の付与が行われている。

ちなみに2番艦「あしがら」は、SM-2発射試験の際に、たまたま付近を飛んでいた亀型怪獣『ガメラ』を模擬弾頭のSM-2をぶつけて『撃墜』するという戦果を残しており、海自の語り草となっている。

 

航空自衛隊

 

ノースロップ・グラマン/敷島F-14J〈トムキャット〉/〈F‐14J改〉

全長18.9メートル、全幅10.2~19.6メートル(後退角度75度~20度)、全高4.9メートル

自重18.8トン

主機 ゼネラル・エレクトリックF110-GE400×2(推力5.25トン×2)

速度 マッハ2.2(高度12000メートル) 航続距離2150キロ/マッハ0.95

兵装 JM61A1『バルカン』×1、各種AAM×6~12、AGM-84J・ASM-2×2~4

生産機数、〈F‐14J〉40機、〈F‐14J改〉160機

 

航空自衛隊が運用している空戦・対艦攻撃用可変ジェット戦闘機。

F‐4RJ〈ファントム〉や〈F‐1〉の後継機を選定する第三次F‐Xにて、F‐15C〈イーグル〉と主力の座を争っていたが、可変翼が故の高い機動性を買われ、航空自衛隊の対特殊生物対策チームに少数配備されたが、〈F‐2〉の性能上の限界や、対特殊生物戦での損耗の激しさなどから、エンジンやレーダーなどを国産に変えた改良型が製造され、航空自衛隊と特生自衛隊に配備された。

アメリカ海軍艦上ジェット戦闘機〈F‐14D〉のライセンス製造版だが、改良型の〈F‐14J改〉は国内製造パーツの比率が上がっており、〈F‐2〉並みの対艦ミサイル搭載能力が付加されている。

 

特生自衛隊

 

三菱重工/敷島重工84式大型特殊迎撃機〈スーパーX〉

全長27.2メートル、全幅20メートル、全高11.2メートル

自重98トン

主機 敷島NR11トカマク型核融合炉×1

熱交換式ターボファンエンジン×5(推進用×2、離着陸用×3)(推力27トン×5)

速度 時速200キロ

兵装 81式クリプトンレーザー砲×2

84式三連装多目的グレネードランチャー×1

82式ミサイルランチャー×2

30.5センチ多目的榴弾砲×14

 

敷島重工89式対特殊生物迎撃機〈スーパーX2〉

生産機数 6機

 

敷島重工05式対特殊生物迎撃機〈スーパーXⅢ〉

全長38.5メートル、全幅38.7メートル~58.7メートル(後退角度75度~40度)、全高7.4メートル

自重200トン

主機 敷島NR13レーザー核融合炉×1(出力200000キロワット)

熱交換式タービンジェットエンジン×4(推力30トン×4)

速度 マッハ1.7(高度11000メートル) 航続距離7900キロ/マッハ0.95

兵装 03式極超低温光線砲『アブソリュート・ゼロ改』×1

47センチ四連装対地ロケット弾発射機×2

四連装冷凍弾頭ミサイルランチャー×4

乗員5名

生産機数 13機

 

特生自衛隊が開発した対特殊生物迎撃兵器。

MFS-3『機龍』の後継機として開発・製造され、機首にマイナス273度の冷凍光線をレーザービーム状に照射する『アブソリュート・ゼロ改』を装備し、対ゴジラ迎撃のみならず核攻撃・原発事故にも対処できる様に造られている。

爆撃機と見まがう程の巨体ながら、戦闘機並みの機動性を有しており、垂直噴射ノズルによる垂直離着陸性能も有する。

本作では最初にクワ・トイネ公国のワイバーンに接触し、異世界の存在を始めて日本にもたらした。



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本作に登場する文明圏外国の兵器

主に第三文明圏外がメインとなります。


クワ・トイネ公国→クワ・トイネ王国

 

M1639・155ミリ榴弾砲

 

クワ・トイネ公国時代に設立された公国軍備工廠(KNI)が、台湾陸軍から払い下げられたM114・155ミリ榴弾砲をもとにして開発した国産の榴弾砲。

中世ヨーロッパ基準の文明・技術水準で製造されたとはいえ、金属加工に長けたドワーフ族技士の尽力もあって、オリジナルには及ばずとも第三文明圏外の火器では優れた性能を有している。

国号改称によって名称が王国軍備工廠に変わった後でも、クワ・トイネ王国陸軍工廠で生産・配備されている。

 

エルレ・ケンシーバ級戦艦

全長190メートル、全幅30.2メートル、喫水9メートル

基準排水量21400トン、満載排水量24700トン

主機 リアドラ式重油専焼ボイラー×8、リアドラ式反動式ギヤードタービン×4

兵装 三年式改50口径20.3センチ三連装砲×5(「エルレ・ケンシーバ」のみ)

KNI・G305/40・40口径30.5センチ連装砲×5(1番艦は第一次改造にて換装・2番艦以降は最初から装備)

KNI・G

同型艦 「エルレ・ケンシーバ」「エルレ・イルカンレシス」

 

クワ・トイネ王国海軍が開発・建造した同国海軍初の戦艦。

ひたすらに大口径砲塔を多く搭載しようとしたために巨大化し、地球の弩級戦艦並みのサイズにまで発展した。

建造当初はまだ15センチ以上の大口径砲を製造する技術・設備が存在していなかったため、台湾製の50口径20.3センチ三連装砲を装備していた。

艦名は数万年前の魔王軍の侵攻に立ち向かった英雄の名前が採用されている。

 

キュリ級装甲巡洋艦

全長150メートル、全幅18メートル、喫水7.5メートル

基準排水量7400t、満載排水量9800t

主機、リアドラ式重油専焼ボイラー×8、リアドラ式反動式ギヤードタービン×2

機関出力24000馬力、速力25ノット、航続距離16ノットで4500カイリ

兵装、三年式2号50口径20.3センチ連装砲×2

KNI・G76/50・50口径7.6センチ単装砲×4

KNI・L90・35ミリ連装機関砲×4

KNI製48センチ連装魚雷発射管×2(40式魚雷×8)

同型艦、「キュリ」「ピーマ」「スーナ」「トメト」ほか

 

クワ・トイネ王国海軍が設計・建造した装甲巡洋艦。

短期間で建造・配備するために、ブロック建造方式や通常の軍艦よりも簡略化された構造が採用されているのが特徴で、そもそも鋼鉄製の火砲を装備した軍艦が存在しなかった第三文明圏外では突出した攻撃力・防御力・機動性を有しているが、装備の大半が台湾からの輸入である事や、船体に使用している鋼材の大半が日本から『商船用』に加工されたものであるため、性能の陳腐化が懸念されている。

 

カガチ級防護巡洋艦

全長130メートル、全幅19.5メートル、喫水6.5メートル

基準排水量4500t、満載排水量6000t

主機、リアドラ重工式石炭重油混焼ボイラー×16、リアドラ重工式反動式ギヤードタービン×2

機関出力19200馬力、速力21ノット、航続距離10ノットで3000カイリ

兵装、KNI・G155/45・45口径15.5センチ単装砲×2

SS‐2SSM三連装発射筒×4

KNI・L90・35ミリ連装機関砲×4

KNI製48センチ連装魚雷発射管×4(40式魚雷×16)

同型艦、「カガチ」「ハビスカス」「ミソハギ」「マンジュシャゲ」

 

クワ・トイネ王国海軍が公国海軍時代に設計・建造した同国海軍初の鋼鉄製巡洋艦。

構造としては仮設巡洋艦に近いが、原始的な対艦ミサイルや高出力の蒸気タービン機関を装備しており、バランスの取れた性能を有する。

クワ・トイネ王国海軍所属艦の艦名には日本の精霊花にちなんだものが多い。

 

グラナダ級駆逐艦

 

クワ・トイネ王国海軍の駆逐艦。

性能は第二次世界大戦時のアメリカ海軍護衛駆逐艦とほぼ同レベル。

主に対海魔排除任務や領海哨戒任務に動員される。

 

ニジン級ミサイル艇

 

クワ・トイネ王国海軍の高速哨戒艦艇。

国産艦対空ミサイル『オブシディアン』を装備し、高い機動性と火力を誇る。

 

ワイバーン

この世界のスタンダードな航空戦力。

原種でも時速235キロという速度を有しており、ムーの航空機技術を地球よりも早いペースで発展させるきっかけとなった。

上位種として品種改良型のロード種や、遺伝子改良でほぼ純粋な兵器として生まれたオーバーロード種が存在する。

 

ロウリア王国

 

ウラガン級超巨大ガレアス艦

 

ロウリア王国が古代ロデニウス文明の現状で復元・使用できうる全ての技術と国力を以て建造した超大型艦。

『風神の涙』や『海神の魔靴』による高い航行能力を有しており、木造帆船でありながら100ノットという驚異的な速力で航行する事が出来る。

艦首に太陽光凝集式光線砲『ブラフマプトラ』を装備しており、その他にも大口径・長砲身魔導砲といった第三文明圏外でも並外れた大火力を有していた。

 

アルタラス王国

 

風神の矢

アルタラス王国が独自開発した大型バリスタ用対艦弓矢。

弾頭部に爆裂魔法を封じた魔石製矢じりを、尾底部に国産の『風神の涙』を装備する事により、第三文明圏で使用されている火砲並みの威力・射程距離を付与している。

ルミエスの日本亡命によってその技術がクワ・トイネ王国にもたらされ、ミサイル技術の改良に使用された。

 

戦艦「ホーリー・マルタ」

 

クワ・トイネ王国海軍マイハーク工廠とイモジ重工造船部門が、ムーより日本経由で手に入れたラ・ジフ級戦艦「ラ・ジフ」を魔改造した戦艦。

主砲を40口径30.5センチ連装砲から50口径20.3センチ三連装砲に替えて射程距離・投射能力を上げ、国産艦対艦ミサイルや50センチ魚雷を装備する事により全体的な火力の強化を図っている。

機関も国産の蒸気タービンに替え、速力を18ノットから30ノット近くにまで引き上げている。

第一次文明圏大戦後は新生アルタラス王国海軍総旗艦となり、海軍の再建に従事している。



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本作に登場する台湾軍の兵器(随時更新予定

台北級の機関について修正しました。蒸気カタパルトの蒸気は機関から抽出した奴だった事を忘れてた…


概要

 

国共内乱後に台湾に逃れた国民党政権によって建てられた台湾中華民国の軍隊で、正式名称は『中華民国国軍』。ただし中華人民共和国の人民解放軍と区別するために『台湾軍』の通称で呼ばれる事が多い。

第二次世界大戦後、ソビエト連邦は軍の再編・強化計画を実行し、1950年までに戦艦8隻と航空母艦4隻を含む120隻の艦船を建造・整備し、日本やドイツ、イタリア等の敗戦国から賠償として得た艦を含めた500隻の『共産革命艦隊』を構築。同時に中華人民共和国もソビエト連邦から積極的な支援を受け、1955年までに戦艦6隻と空母3隻からなる『人民解放艦隊』を整備したため、大日本帝国軍無き後の極東情勢が一変した。

朝鮮戦争での中国軍の参戦を受けたアメリカ等自由主義国は、中華民国に対して積極的な軍事支援を行い、結果として台湾軍は極東の中でも随一の軍事規模にまで成長した。

冷戦終結後、アメリカ等の自由主義国が台湾への支援を躊躇う中で、成長著しい中華人民共和国の脅威を受け続ける台湾は国産兵器の開発・生産を進め、部分的には日本を超える質・量を保有している。

 

台湾陸軍

 

M-60A3戦車

中華民国陸軍の有する主力戦車。

メインバトルタンクとしては旧周辺諸国に比べて古いが、新世界では十分過ぎる程の性能を持つ。

 

台湾海軍

 

戦艦「中山」

全長225メートル、全幅32メートル、喫水9.5メートル

基準排水量32400トン、満載排水量35900トン

主機 LM2500ガスタービンエンジン×4 出力100000馬力

速力29ノット 航続距離18ノットで6400カイリ

兵装 マーク1・42口径38.1センチ連装砲×3

オートメラーラ62口径7.6センチ単装砲×4

35ミリ連装機関砲×6

スティンガー近接防御SAM四連装発射機×5

搭載 〈S-70C〉×2

FCS STIR-180×2

レーダー LW-08早期警戒用×1、AN/SPS-67水上捜索用×1

 

中華民国海軍所属の戦艦。

元はイギリス海軍クイーンエリザベス級戦艦「ウォースパイト」で、アメリカとともに第二次世界大戦後のソ連・中国の台頭を危惧したイギリスが、朝鮮戦争後の1955年に中華民国政府に対してリースした。

冷戦終結後、日本と同じく戦争特需で経済が栄えた台湾は、イギリスより本艦をリースから購入に切り替え、第三主砲塔を降ろして対潜哨戒ヘリ用格納庫・発着スポットを設け、主機やレーダーを換装する大改造を行った。その際に出たパーツを流用して凖同型艦を建造している。

 

台北級航空母艦

全長272メートル、全幅28メートル(飛行甲板部最大46ートル)、喫水8.4メートル

基準排水量33200トン、満載排水量43100トン

主機 ボイラー×8、蒸気タービン×4 出力160000馬力

速力31ノット 航続距離18ノットで7100カイリ

兵装 『ゴールキーパー』30ミリCIWS×4

スティンガー近接防御SAM四連装発射機×4

搭載、A‐4F〈スカイホーク〉×18、F‐CK-2C〈仙逸〉×18、〈MD500〉×12

FCS STIR-180×1

レーダー AN/SPS-49対空捜索用×1、AN/SPS-55対水上捜索・航法用×1、AN/SPS-67対水上捜索用×1

同型艦 211「台北」(旧米CV‐38「シャングリラ」

212「台南」(旧米CV‐13「フランクリン」

213「台中」(旧米CV‐17「バンカーヒル」

 

中華民国海軍所属の航空母艦。

成長著しい中国の影響を危惧したアメリカが、台湾にリースしたエセックス級航空母艦で、冷戦終結後に売却に切り替わり、大改造が行われた。

第二次世界大戦中に建造された艦であるため、性能は最新の航空母艦に及ばないものの、台湾軍の戦力として十分な存在感を持つ。

 

台湾空軍

 

ノーススロップ・グラマン/漢翔航空工業F-CK-2〈仙逸〉

全長14.6メートル、全幅8.7メートル(主翼折り畳み時5.7メートル)、全高4.6メートル

自重6.8トン

主機 F‐127ターボジェットエンジン×2(推力13トン×2)

速度 マッハ2(高度12000メートル) 航続距離 マッハ0.95で2000キロ

兵装 M61バルカン×1、TC‐1×2~6、TC‐2×2~4、HF‐2×1~3

 

中華民国空軍・海軍航空隊が採用する第二世代国産戦闘機。

F‐CK-1〈経国〉とA‐4Fの後継機として開発され、台北級航空母艦で運用可能な範囲に収めつつ、第5世代ジェット戦闘機に迫る性能を有する。



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本作に登場する第三文明圏の兵器(随時更新予定

主にパーパルディア皇国が中心になると思います。


概要

 

フィルアデス大陸を中心とする第三文明圏は、文明水準が中世~近世ヨーロッパであり、武器も未だに剣や弓が主流の国が多い。

しかし、唯一の列強国であるパーパルディア皇国は、中央世界や第二文明圏諸国に打ち勝つために、積極的な技術の取り入れと開発を進めている。そのため、技術水準ではパーパルディア皇国は19世紀イギリスに迫る程の規模を有している。

 

魔導砲

第三文明圏内の主流兵器となっている火砲。

地球の大砲との差異は、砲弾の発射に炸薬ではなく、炎魔法と風魔法がベースの炸裂魔法が封じられた魔術媒体を使用するという事で、この媒体は術式によって物理的な衝撃で発動しにくい様に作られている。そして発射時に封印解除と爆裂魔法を使用して、火薬を使った大砲と同じ作用を働かせて撃ち出す。

また砲弾にも爆裂魔法を封じる事により、黒色火薬を炸薬とした榴弾と同レベルの破壊力を付加する事が出来る事も、地球の同時代の大砲との違いとなっている。

パーパルディア皇国はムーからの技術を得て改良を施しており、馬に曳かせて戦術機動性を確保した野砲タイプの牽引式魔導砲や、砲郭や砲塔に装備して、大重量の炸薬入り砲弾を高速で発射する、長射程・大威力の艦砲タイプも開発・配備している。また、神聖ミリシアル帝国の天の浮舟やムーの航空機に対抗するべく、57ミリ速射高射砲の開発も進めている。

 

小銃

パーパルディア皇国は、2年に1回開催される『先進11ヵ国会議』でムーより、小型の魔導砲ともいうべき銃器の製造ノウハウを獲得し、自力で改良を進めてきた。

そのため、初期のフリントロック式マスケット銃は監察軍、または文明国の主力装備になり、主力の皇国正規軍にはボルトアクション式ライフル銃が普及しつつある。

また、機関銃の開発も盛んで、リボルバー式を応用した大型速射銃や、手回しクランク式の対空ガトリング砲を開発・配備している。

 

戦列艦

パーパルディア皇国などの文明国と、アルタラス王国などの限られた圏外国で使用されている軍艦。

地球の戦列艦とは違い、無風でも推進力を得る事の出来る『風神の涙』を装備し、魔導砲や魔法攻撃に耐えうる対魔弾鉄鋼式装甲を張り、30門以上の魔導砲を装備している事である。そのため、カタログスペック上では地球の戦列艦を遥かに上回る性能を持つ。

 

竜母

文明圏内にて使用されている軍艦。

ワイバーンを艦載機として搭載・運用する航空母艦であり、通常の木造船よりも大型となる場合が多い。

ワイバーン離着艦時にはマストの帆を畳み、『風神の涙』の合成風で飛行可能な環境を生み出す。

 

パーパルディア皇国

 

リントヴルム

パーパルディア皇国陸軍の主力生物兵器。

四足歩行式の大型竜種で、口から鉄の鎧をも融かす導力火炎放射を放つ。

この竜の使役の成功によってパーパルディア皇国軍は、他国と隔絶した戦闘能力を手に入れ、フィルアデス大陸南部の征服に成功した。そのため、皇国国旗には2頭のリントヴルムが描かれている。

 

リントヴルムロード

パーパルディア皇国軍が、対ムー・対神聖ミリシアル帝国戦を想定して改良を行ったリントヴルム。

原種との違いとして、表皮を小銃弾に耐えうる様に強化し、攻撃能力も導力火炎弾を追加して、機動性や戦闘能力・継戦能力等を全般的に強化している。

 

機甲歩兵

パーパルディア皇国陸軍歩兵部隊の主力装備。

金属製ゴーレムをベースにしたパワードスーツで、腕部にライフル砲や連発式ライフル銃を装備している。

 

1627年型フィシャヌス級戦列艦

全長100メートル、全幅18.2メートル、喫水8.4メートル

満載排水量5800t

速力15.9ノット、航続距離12ノットで6400カイリ

兵装 20口径15センチ魔導砲×100

57ミリ単装速射砲×4

9ミリ対空ガトリング砲×8

装甲 甲板部10ミリ、側舷30ミリ、喫水線下15ミリ

 

パーパルディア皇国海軍の主力戦列艦。

地球の戦列艦を遥かに上回る大きさを有し、100門以上の各種魔導砲を装備している。また、その巨体と対魔弾鉄鋼式装甲を支えるために、竜骨に鉄鋼を使用した木鉄交造タイプが多い。

火力と防御力もさりながら、機動性も地球の戦列艦より高く、砲撃戦で本艦に勝てる戦列艦は存在しないとまで言われている。

 

カイゼラ・ネルロ級戦列艦

全長125メートル、全幅24.2メートル、喫水7.9メートル

基準排水量12400t、満載排水量14700t

主機 海軍式石炭燃焼ボイラー×20、三段膨張式蒸気レシプロ機関×2 出力18000馬力

速力23ノット、航続距離12ノットで7700カイリ

兵装 40口径30.5センチ三連装砲×1

40口径15センチ単装砲×10

40口径7.6センチ単装砲×20

57ミリ単装速射砲×8

9ミリ対空ガトリング砲×10

装甲 甲板部45ミリ、側舷・喫水線下90ミリ、バイタルパート120ミリ、砲塔50ミリ

 

パーパルディア皇国海軍最新鋭大型装甲戦列艦。

最新鋭の鉄鋼だけで造られた前弩級戦艦で、ムーの戦艦部隊と対等に渡り合うための性能を有する。

主機の蒸気機関と補助推進システムの『海神の魔靴』は最新バージョンで、蒸気レシプロ機関では困難な20ノット以上の高機動戦闘を可能にしている。

また、噂では一発逆転のための兵装を有するともいわれている。

 

1624年型ガリアス級戦列艦

全長71メートル、全幅17.1メートル、喫水8.1メートル

満載排水量4100t

速力16.2ノット、航続距離12ノットで5900カイリ

兵装 20口径15センチ魔導砲×74

40口径57ミリ単装速射砲×6

9ミリ対空用ガトリング砲×8

同型艦「ガリアス」「ミシュラ」「レシーン」「クション」「パーズ」

 

パーパルディア皇国海軍の戦列艦。

中央世界や第二文明圏では『標準的』な戦列艦であり、フィシャヌス級の配備開始とともに二線級の装備や監察軍の装備にされている。

 

ミールⅠ級飛竜母艦

全長85メートル、全幅27.2メートル(飛行甲板含め)、喫水8.2メートル

満載排水量5000t

速力15.2ノット 航続距離12ノットで6000カイリ

兵装 9ミリ対空ガトリング砲×6

装甲 甲板15ミリ、側舷・喫水線下25ミリ

搭載 ワイバーンロード×15

 

パーパルディア皇国海軍の主力竜母。

通常の戦列艦を上回るサイズを持ち、ワイバーン用空母として世界最高レベルの航行能力とワイバーン搭載・運用能力を有する。

 

ワイバーンロード

パーパルディア皇国飛竜騎士団の主力ワイバーン。

生殖能力と寿命を削った代わりに、時速350キロ、航続距離1600キロという飛行能力と、搭載可能重量300キロというペイロードを実現させている。

また、導力火炎弾にも改良が加えられており、空戦能力もワイバーン原種以上のものになっている。



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本作に登場する第二文明圏の兵器

グラ・バルカス帝国の兵器や民間の乗り物も含めます。ご注意下さい。


ムー

 

ラ・カサミ級戦艦

全長132.3メートル、全幅23.2メートル、喫水8メートル

基準排水量14500トン、満載排水量15200トン

機関 リグリエラ・ビサンズ重工製コスカ海軍工廠式水冷14気筒重油レシプロ機関×4

機関出力 合計15000馬力

速力 18ノット

兵装 GS32・40口径30.5センチ連装砲×2

GS28・40口径15.2センチ単装砲×14

GS27・40口径7.6センチ単装砲×8

MGS2・7.92ミリ単装機銃×10(建造時

MGS4・20ミリ単装機銃×10(第一次改造時

同型艦 B19「ラ・カサミ」

 

ムー統制海軍の主力戦艦。

前級のラ・ジフ級戦艦の後継艦として開発された戦艦で、見た目は旧日本海軍の戦艦「三笠」に近い。

「三笠」との相違点として、この世界に水雷艇が存在せず、また文明圏外の魔導砲を装備していない帆船と交戦する機会もあまりないため、40口径7.6センチ単装砲は少ない。その代わりワイバーン迎撃用に対空機銃を多数装備している。

機関に重油を燃焼させて直接動力に変え、スクリューを回す重油レシプロエンジンを搭載しており、第二次世界大戦時のディーゼルエンジンに匹敵する機関出力と燃費を誇る。

日本との交流開始やグラ・バルカス帝国の台頭でその能力が相対的に落ち始め、現在クワ・トイネ王国製大出力ディーゼルエンジンへの換装や対空機銃の増強、主砲の改良などの改造が行われている。

 

ラ・マツサ級戦艦

全長150メートル、全幅25.4メートル、喫水8.3メートル

基準排水量17800トン、満載排水量21300トン

機関 リグリエラ・ビサンズ重工製コスカ海軍工廠式水冷18気筒重油レシプロ機関×4

機関出力 合計28000馬力

速力 21ノット

兵装 GS37・50口径30.5センチ連装砲×2

GS28・40口径15.2センチ単装砲×8

GS37/540・40口径12.7センチ連装高角砲×4

MGS3・13.2ミリ連装機銃×10

同型艦 B27「ラ・マツサ」

 

ムー統制海軍が新たに開発した弩級戦艦。

見た目は旧日本海軍の薩摩型戦艦であるが、最大の相違点として45口径25.4センチ連装砲4基が装備されている箇所に、八九式12センチ連装高角砲に類似した40口径12.7センチ連装高角砲が装備されている。また主砲口径長も薩摩型が45口径であったのに対して50口径となっている。

パーパルディア皇国の工業力強化によるカイゼラ・ネルロ級装甲艦の就役と、神聖ミリシアル帝国軍の航空戦力増強を受けて開発された艦で、最初から対空戦闘が出来る様に設計されたGS37/540型連装高角砲や、13.2ミリ連装機銃を多数装備している。

現在ラ・カサミ級とともに改造工事による性能向上を進めている。

 

ラ・コスタ級航空母艦

全長180メートル、喫水幅21メートル、喫水7.8メートル

飛行甲板 全長176メートル、最大幅22メートル

基準排水量13800トン、満載排水量18000トン

機関 リグリエラ・ビサンズ重工製コスカ海軍工廠式水冷14気筒重油レシプロ機関×4

機関出力 合計15000馬力

速力20ノット

兵装 GS27・40口径7.6センチ単装砲×4

MGS3・13.2ミリ連装機銃×13

搭載 〈マリン〉C型ないしF型×24〈スカイアイ〉偵察機×2~6

 

ムー統制海軍が開発したムー史上初の量産型航空母艦。

見た目は旧日本海軍の空母「鳳翔」。

準列強国やパーパルディア皇国の竜母と、それから発艦するワイバーンに苦しめられてきていたムーは、航空機を海上でも運用可能な軍艦を欲した。その試行錯誤の果てに生まれたのが本級である。

戦艦とはまた違ったスリムな艦形をしており、ラ・カサミ級戦艦の機関を流用していながら20ノット以上の速力を得る事に成功している。

 

OATI・F-03〈マリン〉

全長7.2メートル、全幅8.6メートル(主翼折り畳み時3.8メートル)、全高2.9メートル

自重 1.4トン(C型・F型1.51トン) 全備重量 1.92トン(C型・F型2.03トン)

機関 マイカル重機械工業製OATI式RS9A1・空冷星型9気筒レシプロ(A・B・C型)

マイカル重機械工業製OATI式RS9A3(D・E・F型)

出力 600馬力(A・B・C型) 730馬力(D・E・F型)

速度 時速380キロ(A・B・C型) 時速420キロ(D・E・F型)

兵装 MGA2・7.92ミリ機銃×2(装弾数200発×2)

 

オタハイト航空技術廠(OATI)が開発した、ムー空軍・海軍航空隊の主力戦闘機。

イタリアの試作戦闘機、カプロニ〈CH.1〉に類似したスペックを有しており、ワイバーンロードはおろか、第一次世界大戦時から戦間期初期の複葉戦闘機を凌駕する性能を持つ。

しかしグラ・バルカス帝国がそれらを大幅に凌駕する戦闘機を多数配備・使用してきているという情報が入ってから、一気に二線級装備になってしまった。

日本からもたらされたターボチャージャーを装備したD型は、A型を大幅に上回る性能を有しており、新型戦闘機が開発・配備されるまでの繋ぎとして運用されている。

 

グラ・バルカス帝国

 

グラ・アトラス級特一等艦隊型航洋装甲艦

全長263メートル、全幅38.9メートル、喫水10.4メートル

基準排水量63400トン 満載排水量71000トン

機関 ENI式重油専焼水管ボイラー×12、ENI式蒸気ギヤードタービン×4

機関出力 合計168000馬力

速力 30ノット

兵装 SK34・45口径46センチ三連装砲×3

SK21/15560・60口径15.5センチ三連装砲×2

SAk38・65口径10.5センチ三連装両用砲×12

SMk97・40ミリ三連装対空機銃×30

 

グラ・バルカス帝国海軍の最新鋭戦艦。

外見は旧日本海軍の大和型戦艦に酷似しているが、武装や性能に相違が存在する。

日本語では「グレードアトラスター級戦艦」と呼称されている。



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序幕 転移

リメイクしました。ではどうぞ。



…かつてこの星に、空さえも我が物にしていた魔法の大帝国が存在せり。

 

彼らは神をも殺そうとし、その裁きを受ける前に別の星に移る。

 

そして神は、魔法の大帝国から、虐げられていた者達とこの星を救うべく、日の出ずる戦士の国を呼び出す。

 

されど、同じ刻にして、忌まわしき力を持つ獣達もいざなわれ、この星に一度の滅びの恐ろしさと再生の機会を与えるであろう…(某国預言書より抜粋

 

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西暦2017年12月31日 日本

その日、日本は新たな年を迎えようとしていた。日本は、戦後すぐの頃から、『ゴジラ』や『モスラ』といった巨大生物、通称『怪獣』に襲来され、上陸の度に都市は荒れ果て、多くの命が消えていった。その中で、現行の憲法下で創設された自衛隊は、大きな犠牲を払いつつもこれらの脅威に迎え撃ち、国民を国ならざる者達から守り抜いていた。

しかし、一昨年の『第三次ゴジラ襲来』以降、日本近海に怪獣が襲来する事はなく、周辺国との関係が歴史的な背景から微妙になり、国内も犯罪の頻出で治安に陰りが浮かび、経済も20世紀末~21世紀初頭の世界的な不況をまともに浴びて株価が低迷するも、どうにか『平成』の年号通りの平和を享受していた。

 

「…年末にも関わらず、海上で年末を迎える羽目になるとはな」

 

浦賀水道から南に50キロの沖合、1隻の漆黒の護衛艦の艦橋で、一人の男が呟く。その護衛艦は、一見潜水艦の様に見えるものの、甲板に聳え立つセイルの前後には、小口径の三連装砲が備えられ、艦首は現代の潜水艦に見られる様な形ではなく、幾つもの溝が彫られ、鈍い銀色に輝く、衝角というよりも『ドリル』に近い形状をしていた。

 

「仕方ありませんよ。本艦は特自の特務艦として建造されたんですから。流石に12月末に就役というのも間が悪すぎますけどね」

 

男の隣で、副長の男性が肩をすくめながら答える。この艦は、自衛隊の陸海空三自衛隊に次ぐ、特殊な存在ー『特生自衛隊』に所属する艦で、その艦が持つ特殊性から、専用の基地が完成するまでは、海自の基地を利用しつつ、試験と訓練を繰り返していた。

すると、ソナーモニターを見ていた乗組員が、大声を上げて男に報告してきた。

 

「艦長、ソナーに感あり。方位263、距離9000より、急速接近する物体を検知。速度40ノット、音紋確認出来ず」

 

「…この年末に久々の怪獣か?各員、戦闘配置!」

 

艦長と呼ばれた男の命令と同時に、乗組員は一斉にキーボードを打ち始め、慌ただしい雰囲気になる。操舵手はスティック型の操縦桿を操作して取り舵を取り、左に曲がっていく。艦は暫く低速で進むと、ソナー手と観測員が声を上げた。

 

「前方距離4500、物体停止しました!」

 

「さらに本艦の後方12000キロの海域より、高エネルギー反応!」

 

「何…!?」

 

「映像、映します!」

 

艦橋の天井部に設けられたモニターに、外の映像が映し出される。その中央で、海面から水しぶきを立たせ、周囲に轟かんばかりの轟音を上げながら、黒く巨大な物体が浮上する。そしてそれを見た艦長達の表情が一変する。それは、これまで彼らを苦しめ、日本はおろかあのアメリカでさえ勝てなかった相手であったからだ。

 

「ゴジラ…!?」

 

「目標、ゴジラと確定!体長は推定108メートル、2014年のアメリカ多発的巨大特殊生物連続襲来事件時の固体と同一のものと思われます!」

 

乗組員が額に汗を垂らしながら報告し、艦長はモニターを睨み付ける。艦の目前に立つ怪獣、『ゴジラ』は、海面に上半身を浮かべながら、艦の後方をじっと睨み付けており、艦長は乗組員に指示する。

 

「…有田、本艦の後方の映像に切り替えろ。どうにもゴジラは本艦を見ていないらしい」

 

「りょ、了解!映像切り替えます!」

 

直ぐに操作が行われ、モニター映像が切り替わる。するとそこに映し出されたのは、海面から天高く昇るかの様に聳え立つ、青い光の柱だった。しかも水平線の彼方の方にも、同じ様な光の柱が立っており、その数は増えているかの様に見えた。

 

「な、何の光だ!?」

 

艦長達がその光の柱に驚く中、ゴジラは艦の真横を通り過ぎ、柱の方に向かう。そして背びれに青い光が灯り、艦長はゴジラがこれから何をしようとしているのか察する。

 

「…奴め、まさかあの光の柱を攻撃しようとしているのか?」

 

「っ、あの光の柱より、非常に強力なエネルギー波が発せられています!計測不能ー!」

 

乗組員の報告に、艦長達は大きく目を見開く。直後、ゴジラは頭を前に突き出し、口を大きく開けて、目前の光の柱に向けて青い炎の塊を吐き出した。その炎は、次第に太い光線の様な形に変わり、光の柱に触れる。刹那、その柱は眩いばかりの光を放ち、ゴジラや艦を呑み込んでいった。

光は瞬く間に終息していき、完全に消えたその時、その海域には何も残っておらず、ただ広大な海が広がっているだけであった。

 

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艦長達の目が覚めた時、モニターに飛び込んできたのは、自国の陸地と、広大な海であった。

 

「…一体、何が起きたと言うんだ…?」

 

艦長はそう呟きながら、モニターを凝視する。

既に夜は明けており、あの光の柱は全て消えていた。近くにはゴジラもいたが、直ぐにそっぽを向いて海中に潜って去っていく。

 

「…各部点検!至急報告せよ!」

 

『こちら機関室、異常ありません!』

 

『艦首魚雷発射管室、異常なし!』

 

『荷電子砲塔制御室、異常なし!』

 

各部から異常なしとの報告が飛び込む中で、艦橋の一席で、通信士は必死の表情で通信機器を操作していた。

 

「艦長、一大事です。衛星通信が使えません!それどころか、GPSすら使用不可能です!」

 

「何?一体どういう事だ」

 

「分かりません。ですが…」

 

通信士が顔を青くしながら操作を続けるが、艦長は直ぐに制止する。

 

「通常の通信に切り替えろ。防衛省との回線は衛星が不要だろう?」

 

「はっ…はっ!通常通信に切り替えます!」

 

通信士が衛星を介さない通常の通信に切り替えると、直ぐに返事が来る。そしてモニターに、一人の男の姿が映し出された。

 

『…神宮寺、ようやく繋がったか』

 

「富樫さ…いえ、富樫特将。こちら「須佐乃男」、乗組員の全員の無事を確認。特将、一体何事でございますか?」

 

『ああ…先程から衛星通信が使えないのは分かっているな?』

 

「はい。先程、確認致しました」

 

『そうか…とにかく、報告は後でいい。直ぐに横須賀に帰投してくれ。少し困った事になった』

 

富樫が、顔を暗くしながら言い、神宮寺と呼ばれた艦長は顔をしかめる。どうやら結構重大な事が起きたらしい。

 

「…分かりました。直ぐに帰投します」

 

『うむ。防衛省でまた会おう』

 

通信が終わり、神宮寺は直ぐに命令を発した。

 

「主舵一杯、横須賀に帰投する!」

 

『了解!』

 

艦ー特殊護衛艦「須佐乃男」は、大きく右に回頭し、現在の母港である横須賀に向かって行った。

しかし、この時彼らを始めとした日本中の人々は、自身に一体何が起きたのか、まだ知る由もなかった。

 

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中央暦1639年1月1日 クワ・トイネ公国

第三文明圏外に位置するロデニウス大陸。地球のオーストラリアの半分程の面積しかない大陸の北東部に存在するこの国は、主に農業で成り立っており、周囲国に農作物を輸出して財を得ていた。人々の生活の根幹を支える産業である農業を主体に成り立つ国であるが故、国民は勤勉で実直な者が多く、第三文明圏内の国からは『プライドの感じられない馬鹿真面目な田舎の弱国』と見られていた。

しかし、この国にも、自国の更なる発展を願う者は多く、国内に点在する『遺跡』を地道に研究して、その技術を自分達の生活にフィードバックしていっていた。

その国の中心部たる公都クワ・トイネ。中心部の公城の庭園に似た会議場では、公国内諸侯や、庶民階級から才能を見定められて抜擢された者達が執り行う、今年最初の政治部会が開かれていた。

 

「…軍務卿、現在の我が公国を守る力である、公国騎士団の増強は捗っているかね?」

 

公国首相のカナタ・サージレイ侯爵の問いに対し、軍務局のトップ、ミトウ軍務卿は立ち上がって、羊皮紙を片手に持ち、テーブル上のスイッチを押す。空中に、魔素位相式魔導映像が映し出され、ミトウはそれを使いながら話し始める。

 

「現在、隣国ロウリア王国の急激な軍拡に対し、我が公国騎士団は、有力諸侯への兵力貸し出しの要請や、国民からの徴兵等を行って、即応戦力を1万から3万に増やしているところであります。また、魔導研究局の物質複製魔法の研究も実用段階に来ており、質の高い武器の量産も進めているところであります」

 

スライドショー式の旧式魔導映像を交えた説明に、カナタは満足げに頷く。

 

「そうか…では、経済産業卿。現在の我が国の国家財政の状況は?」

 

その問いに対し、経済産業局のトップであるノコタケ経産卿は立ち上がり、テーブル上のスイッチを操作して映像を切り替え、説明を始める。

 

「現在、我が国から輸出される作物数は年々増加しております。しかし、最近は輸出先の食料自給率が上がっているらしく、取引額は年々低下の兆しを見せております」

 

「ウム…そろそろ別の産業にも力を入れるべきだろうな。この国は農業で成り立っているが、工業や商業も国の発展のために必要な産業だ。ロウリア王国の存在感が増している今、総合的な産業の発展が求められるであろう…」

 

カナタはそう言いながら、窓の外を眺める。城下には、中世ヨーロッパの街並みに似た市街地が広がり、市場には大勢の市民が行き交う。上空を竜騎士団のワイバーンが哨戒飛行し、いつもの日常が広がっていた。

 

「…この日常が、いつまでも続けばよいが…」

 

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この世界とは全く異なる、異質にして厳かな空間。

光に包まれたこの空間にて、一人の少女が、日本列島を見下ろしていた。

 

「…転移は無事に終わった。だが…」

 

すると、一人の白い顎鬚を生やした男が現れ、少女の隣に立つ。別の場所に、ゴジラが海面を泳ぐ姿が映し出され、少女は複雑な表情を浮かべながら口を開く。

 

「…私の名を捧げて行う筈だった転移が、アレの放った『命』で置き換えられてしまった…しかも、他の獣達を引き込む形で…」

 

「…アレは、人間は愚か、我々の常識すら通じぬ相手。ギドレアスと同世代の獣は一体、この国とこの星に何をもたらすのだろうな…」

 

男はそう言いながら、ゴジラを見つめる。すると、ゴジラは不意に顔を上げ、男と一瞬だけ目が合う。ゴジラが直ぐに顔を戻し、海中に潜って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

年が変わるその瞬間。

日本国は、周囲の幾つかの島々を巻き込んで別世界に転移した。

 




次回、接触。


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導かれし太陽編
第1話 接触


接触回です。流れは原作と多少異なる形になります。


中央暦1639年1月24日 ロデニウス大陸北部上空

 

「大分奇麗な青空ね…」

 

05式対特殊生物迎撃機〈スーパーXⅢ〉のコックピットで、機長の野中恵美は小声で呟きながら、異世界の空を見上げていた。

この〈スーパーXⅢ〉は、かつて特生自衛隊が保有していた対大型特殊生物迎撃機〈3式機龍〉の後継機として開発されたもので、全武装が対原発事故対処用に開発された冷凍兵器になっており、2011年の東日本大震災で起きた原発事故の対処を皮切りに、第三次ゴジラ襲来事件の時には『ヤシオリ作戦』で外からゴジラ・シン種を冷凍する作戦に参加するなど、特自の中でも『歴戦』の部類に入る兵器であった。

また、怪獣捜索用装備が充実しており、通常の観測機器よりも精度がいいという事から、海自の〈P‐3C〉とともに、日本周囲の状況の調査に動員されたのだった。

 

「機長、間もなく都市上空を通過します」

 

オペレーターの言葉に、野中は下の方を見る。陸地の緑が一端途切れ、広大な荒野の中心に形成された市街地が見えてくる。その市街地は、中世ヨーロッパの工法で建てられた建物で出来ている様であり、その中心部に、小高い丘の上に築かれた城が存在していた。

 

「ラジャ。何か変なものを見かけたら、直ぐに報告して」

 

「ラジャ…ん?」

 

オペレーターが野中に対して答えたその時、レーダー上に5つの光点が映り、顔をしかめる。直後、目前を巨大な影が通り過ぎ、野中達はそれを目で追う。

 

「何なの、今のは!」

 

「分かりません!何らかの飛行物体としか…」

 

野中の問いに、オペレーターはやや困惑気味に答える。そして再び窓の外を見て、先ほど目の前を横切った物体の正体に気付く。それは、背中に一人の人を乗せた、小型の竜であった。その竜は、前足が翼になっており、かつて1956年に出現した巨大翼竜『ラドン』よりかは小さいものの、その姿は、ファンタジー作品に出てくる飛竜ワイバーンそのものだった。

 

「竜!?しかも、人が使役しているのか…!?」

 

「見たところ、銃とかは持っていなさそうですね…」

 

野中達がそう話し合う中、その竜の編隊は、〈スーパーXⅢ〉の周囲を飛び回り、拡声器らしきものを使って警告してきた。

 

「警告を発してきていますね…」

 

「これ以上長居するのは危険だな。引き上げる」

 

野中はそう言って操縦桿を倒し、〈スーパーXⅢ〉が大きく旋回して、日本への帰途に着いていった。飛竜の編隊はそれを追いかけようとしたが、流石に速度はラドン以下で、瞬く間に距離を離されていった。

 

この日、〈スーパーXⅢ〉と偵察第二班の〈P‐3C〉、は、日本の南西部に陸地がある事を発見し、同時に現地勢力の航空部隊と接触。間一髪のところで交戦を免れた。

直後、外務省職員を乗せて、この地と本格的な接触に動いていた第1護衛隊群は、現地勢力の海上部隊と遭遇。穏便な接触を果たす事に成功したのだった。

 

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2週間後 日本国首都 東京

 

「ようこそおいで下さいました。私が、今回の協議を取り仕切らせて頂く事になりました、官房長官の垂水と申します」

 

都内のとある高級ホテルにて、垂水は初接触した現地勢力ークワ・トイネ公国の使節団を出迎えていた。

今回の協議は、文字通り日本の命運がかかったものであり、通常なら各省庁の職員が担当する事になる協議進行役を、官房長官が自ら取り仕切るのである。職員達は非常に張り詰めた雰囲気になり、使節団の一行も、これは非常に重大な議案になるかもしれないと察した。

 

「まず、我が国がまず欲しているものについて。最初に、年間5500万トンの食料品。我が国は、食料の時給率は低くないのですが、栽培・収穫している作物に偏りがありまして、その不足を懸念しております。もし貴国に存在しない作物がありましたら、農業研究所にて保管してある種や苗木を提供致しましょう」

 

垂水の言葉に、使節団の一行は驚愕の表情を見せる。しかし、使節団のリーダーを務める公国外務局員のヤゴウは、自信満々に答える。ちなみに、クワ・トイネ公国に限らず、周辺国家で使われている大陸共通言語は、日本語と全く似ている言語であり、それでいて何故か文字は日本語とは全く違っていた。

 

「5500万トンですか。我が国は農業が盛んな国です。小麦だけでも年間で1億トンは生産しておりますし、十分に要求に応える事が可能でございましょう。ですが…」

 

ヤゴウは一端言葉を区切り、話を再開する。

 

「我が国は、それらを輸出するためのインフラが、貴国よりも劣っている。ですので、インフラ整備の協力と、関連技術の提供を求めたい。我が国は現在、農業以外の産業にも力を入れている故、貴国も、輸出出来る品々のバリエーションが増えて、悪い話ではないと思いますが如何でしょうか?」

 

ヤゴウの言葉に、垂水は、目の前の相手を内心で称賛する。現在、日本は国外に自国の技術が流出するのを防止するため、『新世界技術流出防止法』を施行している。しかし、相手はインフラ整備のために、最低限の科学技術と、軍事との直接的な関係が薄い分野での提供を要求してきた。どうやら文明の発展度に見合わず、優秀な外交官の様である。

 

(自国と相手国との関係が悪くならない程度の範囲で、相手から譲歩を引き出し、自国全体の利益を生み出す…これは一本取られたな)

 

協議は凡そ1時間で終了し、双方共に、国交締結と各種条約調印を前向きに検討する方針で決まった。

さらにこの時、クワ・トイネ公国と、その南の隣国であるクイラ王国は、日本とともに転移してきた国『台湾・中華民国』にも使節団を派遣、協議を行っており、こちらも国交締結と条約調印を前向きに検討する方針で動いていた。

 

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中央暦1639年2月14日

この日、日本、台湾、クワ・トイネ、クイラ4国は、それぞれの国交締結と各種条約の調印からなる『バレンタイン合意』を締結。締結直後から、日本と台湾の対クワ・トイネ公国及びクイラ王国へのインフラ整備等の支援が開始され、何度も怪獣の襲来でインフラの復旧を行ってきていた日本の技術力により、マイハーク市を始めとする各都市は瞬く間に近代化し、国内には作物や鉱石を輸送する鉄道が整備。近代化に必要な工業地帯の形成も進められていくとともに、日本・台湾への留学生が次々と送られ、異世界の科学技術や文化、概念の輸入も進められていった。

この結果、クワ・トイネ公国は他の文明圏国よりも発展した経済大国となるのだが、それはまだ先の話である。




原作では〈P‐3C〉でしたが、本作では〈スーパーXⅢ〉とします。
次回、ついに戦争勃発。


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第2話 発展、そして開戦

小説書くために図書館に籠っていると、作中のクワ・トイネ公国使節団も同じ感じだったのかなと思う今日この頃。



中央暦1639年3月22日 クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ

4か国が新たな国交を結んでから1か月と少し。クワ・トイネ公国とクイラ王国は大きく変わり始めていた。

まず、鉄道や大型貨物船という大規模輸送手段を手に入れたクワ・トイネ公国は、大地神の祝福を受けて常に豊穣をもたらす穀倉地帯で収穫された作物を、マイハークにまで伸びる鉄道で輸送し、そこから拡張された港湾に停泊する貨物船に載せ換えて、日本や台湾に輸出。そして日本と台湾からは、農業の効率化に不可欠な化学肥料や、耕運機などの農業用機械を輸入し、穀倉地帯の拡大に努めた。クイラ王国は、国内で採れる石油や地下資源を輸出して、お返しにクワ・トイネ公国と繋ぐ交通インフラの整備や、荒野を開墾するための各種技術を輸入。さらに、この土地では不要扱いされていたナツメヤシの一大群生地がある事も確認され、それらの加工技術も伝えられた。また、水道・電気などのインフラも伝えられ、2国は近代化をさらに進めていった。

 

「しかし、我が国も大きく変わったな」

 

公城の会議室で、カナタは魔導映像に映し出される各種グラフを見ながら呟く。わずか1か月で貿易は黒字になっており、生産数も増加の一途を辿っている。それに合わせて総合的な国力の増強にも力を入れており、まず新たに科学技術局を建て、工業に必要な技術の開発・改良を開始。日本と台湾からは、初歩的な鉄鋼・プラスチック・アルミニウムの生産技術が提供され、来日して図書館を巡った技術局職員からの手紙も参考にして、科学技術水準を最低でも地球暦1900年代にまで引き上げる事を目標にした。しかし、両国から輸出される技術は民生品がメインのため、民間の技術に関しては地球暦1960年代は行くと見られている。

 

「さて…鉄道卿、現在の鉄道敷設状況は?」

 

カナタの問いに対し、鉄道局のトップを担う錬金術師のギッシャ・ノーグは、日本より伝えられた技術で製造された紙を持ち、説明を始める。

 

「はっ。現在、国内の鉄道は、総延長8千キロを突破し、旅客用路線ではクワ・トイネ市からマイハーク市間、東部のマイゲン市からクイラ王国国境を越えてバイド市の間が開通済みでございます。鉄道自体に関しては、シュロウ技術卿よりお聞き下さい」

 

ギッシャはそう言って座り、入れ違いにシュロウ・ポルダー技術卿が立ち上がり、説明を始める。彼は公国の中では著名な錬金術師で、農業技術の改良に尽力していたのだが、研究分野の関係から所謂自然科学にも明るく、日本より輸入した科学技術をモノにする計画の進行役として、初代技術卿に抜擢されていた。

 

「まず、自国で機械を製造するための技術を定着させるために、日本国内の技師を招き、数両の蒸気機関車を製造。蒸気機関とガソリン機関、ディーゼル機関の製造技術を定着させつつ、電気技術の熟成も進めます。そして製造された機関車は、主にクイラ王国と繋ぐ鉄道路線を走っております」

 

「やがては蒸気機関車だけでなく、電気機関車も走らせる事が出来る様にしたいものだな。船舶も、国産の貨物船の開発と建造が進んでいるそうであるし、さらなる発展が見込まれよう。して、兵器開発は進んでいるか?」

 

カナタの問いに対し、ポルダーは数枚の石板をテーブルに挿し込み、スイッチを幾つか押して操作する。すると、複数の立体魔導映像が映し出され、説明が始められる。

 

「現在、国産の魔導媒体を利用した射出攻撃兵器、『魔導砲』の開発・改良・生産と、軍艦や航空機の開発を進めております。詳しい事はミトウ軍務卿よりお聞き下さい」

 

ポルダーはそう言って座り、ミトウが説明を引き継ぐ。現在クワ・トイネ公国は、日本よりも近い国である台湾より、銃や火砲の開発・製造ノウハウと、近代的な集団戦闘戦術の提供を受けており、国内の演習場では、台湾陸軍より派遣された士官が、公国騎士団員や民間から徴兵された兵士に訓練を施し、工業地帯や技術局直属の工廠では、現在の公国の技術力と軍の熟練度に適した兵器の開発が進められていた。

 

「まず、台湾国からは、旧式のライフル銃や機関銃、野砲の製造方法が提供され、それをベースにした国産兵器の開発・製造を進めております。幸い技術局はヘッドハンティングした者に『物質複製魔法』を知る者がいた事や、クイラ王国にて火砲の材料が結構見つかったため、設備が整い次第、製造が可能かと思われます」

 

平和主義に従って武器の輸出や別国軍隊への協力を渋る日本に比べ、台湾はクワ・トイネ公国の軍事や安全保障にかなり関わっている。というのも、現在の台湾周辺を取り囲む状況は、日本よりもやや厳しいものになっていたからである。

まず、台湾は日本沖縄県西部という地理上から、クワ・トイネ公国北部沖合、ロウリア王国寄りの海域に転移しており、その際日本とともに、ロウリア王国に対しても国交締結の交渉を試みたものの、門前払いを受けた。

そして、諜報機関により、ロウリア王国がロデニウス大陸統一と、エルフやドワーフ等の亜人を殲滅するために『統一』の名目で侵略戦争を準備しているという情報を得て、ロウリア王国が台湾にも侵略を行ってくるかもしれない危機感から、直接国境を接するクワ・トイネ公国に、ロウリア王国軍に勝てるだけの最低限の軍事支援を行う事を決定したのだった。また、ロウリア王国の戦争の準備には、北西のフィルアデス大陸の盟主と思われる大国、パーパルディア皇国が本格的な軍事支援を行っているという情報も入っており、いつしかパーパルディア皇国もロデニウス大陸統一後のロウリア王国とともに、台湾や日本を狙って侵攻してくるかもしれないという危機感を抱いていた。

如何に技術力で圧倒的に上回っているとはいえ、日本の自衛隊がゴジラやラドン、ムートー相手に苦戦している様に、パーパルディア皇国が人智を超えた能力を有する存在を使役してくる可能性も捨てきれず、万が一そういった危機に晒された際に、味方は一国でも多い方が有難いため、軍事支援の必要性は比較的声高に叫ばれていた。

台湾政府や、中華民国軍上層部の立てた懸念は、その大半が実際に形となって現れ、日本と台湾、そしてクワ・トイネ公国の前に立ちはだかる事になるのだが、それは遠くない出来事になりつつあった。

 

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クワ・トイネ公国北部 騎士団専用演習場

主に竜騎士団や騎兵隊の大規模演習を行う際に使用される広大な演習場にて、とある兵器の試験が行われていた。

 

「発射準備よろし。発射10秒前」

 

数人の男達がいるテントの約100メートル前方、途中に高さ60センチ程度の仕切り板を挟んだ地点に、一つの巨大な物体が、斜めに立てかけられた板の上に載せられている。板の下の方には数本のケーブルが取り付けられ、それらは仕切り板を貫通してテントのところにまで伸びていた。

 

「3…2…1…点火!」

 

男の一人が、手前のテーブル上に取り付けられたスイッチを押し、直後、前方の物体から勢いよく煙と炎が噴き出す。物体は炎と煙を勢いよく噴き出しながら板の上を滑り、空中に向かって飛び出す。

 

「今だ、誘導開始!」

 

男の指示とともに、そばに控えていた男が、遠目からは大型の望遠鏡にしか見えない装置に向かい、操作を開始する。

装置の筒の先端が、10キロ先に存在する、船をかたどった巨大模型の方に向けられ、空中を勢いよく飛翔する物体は、その模型に向かっていく。そしてゆっくりと落下していき、模型にそのまま激突した。

 

「命中を確認。成功です」

 

望遠鏡でその様子を確認していた男の言葉に、一同は安堵した表情を浮かべる。

現在、クワ・トイネ公国軍は、中華民国軍の支援のもとに兵器開発を進め、同時に、国内に点在する古代文明、古代ロデニウス文明の遺跡から発掘された資料をもとに、更なる研究と開発を進めている。古代ロデニウス文明は、かつて1万5千年も前にロデニウス大陸に存在した超古代文明で、古の魔法帝国との戦争で滅亡し、その後の古の魔法帝国が創り出した魔王の軍との戦いで遺跡の半数が破壊された。その後、幾つかの遺跡が発掘・研究されて、国内の生活水準の発展などに使われたものの、発掘されたものの大半が、自分達の概念に存在しないものばかりであったため、解析はあまり進まなかった。しかし、日本と台湾からもたらされた知識や概念によって解析が進み、その中で、古代ロデニウス文明の国が使用していたと思われる兵器、『誘導式噴進飛翔弾』の再現・開発が開始されていた。

水滴型の弾体に、三角形の安定翼を複数取り付けたような見た目のその兵器は、炎魔法と風魔法を主に使用する魔石系固体燃料ロケットで推進力を得て、雷魔法がベースの指向式誘導魔導通信で目標に誘導。弾頭部の爆弾の炸裂で敵を破壊するという仕組みであり、従来の戦術を180度変えてしまうかもしれない新兵器として、不眠不休の開発・改良が進められていた。

そして現在、習作としてSS‐1〈クオーツ〉の試射を行い、見事に成功したのだった。

 

「素晴らしい。10キロという途方もない距離から、一方的に敵船を完全破壊する、強力な魔導兵器。これならロウリア王国にも負けぬな」

 

テントの中で、視察に来ていた海軍第2艦隊司令官のパンカーレ・ブラッドリは、二度目の試射準備が行われる光景を眺めながら呟く。しかし、その隣にいた同僚のバタール・ブラッドレは、やや不満げな表情を浮かべながら話しかける。

 

「しかし、古の魔法帝国が使用していたという『誘導魔光弾』や、日本・台湾のミサイルに比べますと、性能はまだまだといった感じです。現在、あの〈クオーツ〉の改良型ともいうべき対艦誘導噴進弾が開発中でございますし、改良と発展はまだ半ばといったところです。航空機の開発も進んでいるそうですが、まともに実戦で使える様になるまでは、まだ半年はかかるそうです」

 

「だが、魔導砲とともに、あの兵器を実戦で使用する事が出来るというのなら、非常に有り難い事になる。なんせ、海戦を白兵戦に持ち込む前に片を付ける事が出来る様になるのだからな」

 

「…実戦配備まで、相手が待ってくれればの話ですがね…」

 

バタールはそう呟きながら、試験場のさらに西の果てを見る。そこは、現在公国を脅かそうとする国が存在していた。

 

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ロウリア王国 王都ジン・ハーク ハーク城

ロデニウス大陸最大の大国、ロウリア王国の中心部たる王都ジン・ハーク。純粋なヒト種のみの地である大城塞都市の中心部に築かれた居城の会議室にて、御前会議が始められようとしていた。

古代ロデニウス文明がベースの魔導技術や、パーパルディア皇国から輸入された最新鋭技術が使われたこの会議室には、ロウリア王国ハーク朝第34代国王のハーク・ロウリア34世を筆頭に、国王を政治の面から補佐する宰相マオス・ジョカ・タンショクら文官系幹部に王族、王都を守護し、かつ王国内諸侯の騎士団の統合連合部隊である王国軍の総司令官であるパタジン・ジョカ・ジュケツ、王国軍現場指揮官を務める十数人の将軍、王宮専属魔導師のヤミレイ・ジョク・マギカレ率いる王国精鋭の魔導師団、そして黒いローブを身に纏った怪しい男や、パーパルディア皇国からの使者である、豪華な服に身を包んだ男の姿があった。

 

「これより会議を始めます。まずは国王陛下より、皆様にお話があります」

 

マオスの言葉に、一同は揃って国王の方を向き、礼をする。それを見たハーク・ロウリア34世は、厳かな雰囲気を出しながら口を開いた。

 

「皆の者。これまでの準備期間、ある者は厳しい訓練に耐え、ある者は財源確保に寝る間も惜しんで奔走し、またある者は命をかけて敵国の情報を掴んできた。皆大義であった。この大陸の半分を不当に占拠する亜人ー害獣共を、このロデニウス大陸から全て駆逐する事は、先々代からの大願である。その意思を継ぐため、諸君らは必死で取り組んでくれた。まずは諸君らの働きに礼を言う」

 

ハーク・ロウリア34世はそう言って頭を下げ、臣下達はどよめく。

 

「おお…」

 

「なんと恐れ多い…」

 

各々が驚く中、ハーク・ロウリア34世は頭を上げる。

 

「全ての準備が整ったと報告を受けた。では、会議を始めよう」

 

ハーク・ロウリア34世はそう言ってマオスの方を見て、マオスはパタジンに顔を向けながら話し始める。

 

「まず、ロデニウス大陸統一は目前にまで来ております。クワ・トイネ公国とクイラ王国は強固な絆を結んでおり、この戦争は二か国同時に戦う事になります。パタジン殿、勝算はおありでしょうか?」

 

マオスの問いに、通常の制服姿ではなく、白銀の鎧で筋骨隆々の肉体を包んだ姿の猛将パタジンは、自信満々な表情を浮かべながら頷く。

 

「クワ・トイネ公国は戦いに慣れていない農民の集まりにして、クイラ王国は不毛の地の貧国。我が国は先々代より列強パーパルディア皇国からの支援を受けており、最新にして強力な兵士と装備を揃えた我が国の敵ではありませぬ。また、現在大陸東方に『二ホン』と『タイワン』などという新興国が現れましたが、使節団ですら『ワイバーンを見た事がない』と言う様な野蛮人の国。統一政策に何ら影響は起きないでしょう」

 

パタジンは自身に満ちた口調で言い、ハーク・ロウリア34世も笑みを浮かべる。

 

「しかし、我が代でこのロデニウス大陸が統一され、忌々しい亜人共を根絶やしに出来ると思うと、余は嬉しく思うぞ」

 

嬉しそうな様子で言ったその時、黒いローブで身を包んだ男が話しかけてくる。

 

「陛下、統一の暁には、我々との『企業契約』もお忘れなく。クックックッ」

 

「分かっておる。公国内の遺跡は貴様らの良い様にせよ」

 

ハーク・ロウリア34世は、この男を薄気味悪く思いながらも、しかめ顔で答える。この男は、世界中を股にかけると豪語する魔導戦士ギルド『ソルジャーユニオン』の使者で、パーパルディア皇国とともに、技術面からロウリア王国に『出資』の名目で支援してきた。そのため、今この場でこの男を処刑したくても出来ず、ただ目を逸らして自分の視界に入らない様にするしかなかったのだった。

 

「では、作戦概要を説明致します」

 

パタジンはそう言いながら、目の前のテーブルのスイッチを押していき、会議室中央の床の表面が一瞬砂に変わって変形していき、巨大な地図と化す。その上に幾つもの駒が浮遊しながら飛んできて、ロウリア王国各所の都市や城塞を表すアイコンの上で静止する。この駒は、ロウリア王国軍の部隊を表すアイコンで、それよりも一回り小さい駒が、クワ・トイネ公国とクイラ王国の上に移されていき、都市のアイコン上で停止する。

 

「今回の作戦用総兵力は100万人、そのうち90万をクワ・トイネ公国に差し向け、残りは本土防衛用兵力とします。最初に、国境にほど近い人口10万の地方都市ギムを強襲制圧し、侵攻の橋頭保とします。兵站については、現地調達で十分でしょう」

 

チェスの剣士ピースの形をした、王国軍を構成する諸侯連合騎士団を表す10個の大きな駒のうち9個が、魔導師の杖による誘導でクワ・トイネ公国に向かって進み、同時に地図の国境が東側へ進み始め、クワ・トイネ公国領を表す緑色が、ロウリア王国の赤色に変わっていく。そして駒の一つが、ギムのアイコン上の、公国騎士団都市守備隊を表す駒を押しのけ、ギムのアイコンの下に沈んでいく。そこから駒はギム周囲の街や城塞のアイコンの方に向かっていき、守備隊の駒を次々と地図に沈めていく。

 

「ギム制圧後、その東方55キロにある城塞都市エジェイを包囲。公都クワ・トイネ市は、都市部を城壁で覆っていない無防備な都市です、このエジェイを落とせば、クワ・トイネ市までの540キロを全く苦労せずに進軍し、敵首都を包囲・陥落させる事が出来ます」

 

エジェイの駒が地図に呑み込まれていき、9個の駒はそのまま地図上の都市や町、領主の城塞のアイコン上から駒を蹴散らしながら進み、地図の色を塗り替えていく。そしてクワ・トイネ市を包囲し、アイコン自体が地図から消滅する。

パタジンは傍に控える魔導師にアイコンタクトを送り、今度は騎士団の駒よりも高い位置に浮かぶ駒と、船の形をした複数の駒が浮かべられる。

 

「クワ・トイネ公国の航空戦力と、クイラ王国の大山脈要塞群及び獣人山岳軍団は、我らのワイバーン1000騎と、最新鋭兵器の『空中砲艦』で十分に殲滅可能です。それと並行して、海上からは名将シャークン海将率いる4400隻のクワ・トイネ公国方面艦隊と、ワーニ海将率いる1500隻のクイラ王国方面艦隊を差し向け、クワ・トイネのマイハーク市とクイラのメナジ市を制圧。これでクイラ王国は直ぐに干上がり、実質的にクワ・トイネ公国のみと戦う事になります」

 

ワイバーンと王国の新兵器を表す駒が、クワ・トイネ公国のワイバーンや、山岳の獣人部隊を表す駒を蹴散らし、北部と南部から艦隊の駒が進んで、マイハークとクイラ王国の港町であるメナジに置かれる。同時にクイラ王国全体が黄色から赤色に染まり、クワ・トイネ公国全体も赤く染まる。

 

「クワ・トイネ公国の現在の兵力は約6万人。そのうち即応兵力は約2万程度で、今作戦のために動員される兵力ならば鎧袖一触。先々代の王からの長い年月と、途方もない費用による我らの苦労が実を結ぶ事でしょう」

 

パタジンの言葉に、ハーク・ロウリア34世は歯を見せて笑い、玉座から立ち上がる。

 

「そうか…今宵は我が人生最良の日だ!クワ・トイネ公国、並びにクイラ王国に対する戦争を許可する!ロデニウス大陸は我らロウリア大王国のものだ!」

 

『ははーっ!!!』

 

臣下達が揃ってハーク・ロウリア34世に対して敬礼を捧げ、会議室内は彼らの国王と王朝を称える声で響き渡る。しかし、一人の青年だけが、その様子を冷めた目で見つめていた。

 

「…亜人達を滅ぼしたところで、この国に一体何が残るというのか…これでは、古の魔法帝国と全く変わらないというのに…」

 

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翌日 日本国 首都東京

首相官邸の会議室にて、垂水は現内閣総理大臣の森田が開いた閣議に参加していた。この閣議の題材は、台湾より伝えられた『ロウリア王国のクワ・トイネ公国侵攻計画の開始』である。

 

「浜本防衛大臣、現在のロウリア王国の動きを教えてくれ」

 

森田の問いに、防衛大臣の浜本は席から立ち、書類片手に話し始める。その顔は汗が浮かび、理不尽に困惑している様子が見て取れる。

 

「ロウリア王国付近に展開している潜水艦からの報告によりますと、各地港湾より合計4000隻以上の大艦隊が出港し、クワ・トイネ公国に向かっているという事です。ほとんどは全長30メートル程度の小型帆船ないしガレー船で、武装も連弩がメインですが、旗艦クラスは火砲を十数門程度装備したガレオン船で、現在のクワ・トイネ公国軍の軍船では数・質ともに太刀打ち出来ません」

 

軍事に疎い者でも分かる、クワ・トイネ公国とロウリア王国の軍事的な差。森田は4000隻以上という数に顔を青くし、垂水は深刻そうな表情を浮かべる。次に、外務大臣の吉田が手を挙げ、口を開く。

 

「補足説明として、公国大使館からも、ロウリア王国がクワ・トイネ公国の国境に向けて侵攻を開始したという情報が入っております。数は概算でも90万以上で、その中にはトロールや魔獣からなる怪異部隊も確認されているとの事です」

 

ロウリア王国軍が使役しているという、トロールやルアキューレ、サラマンダーなどの写真が載せられた配布資料が配られ、森田達は揃って顔をしかめる。というのも、今も閣僚の半数が、こういった新世界生物の存在に懐疑的であり、かつ怪獣よりも容易い存在だと考えていたからである。

 

「して、クワ・トイネ公国からは何か言ってきたかね?如何に集団安全保障条約を締結しているといっても、国民は自衛隊の派遣に賛同するとは思えんしな…それに、ロウリア王国も流石に日本に対して何かちょっかいをかけてきたわけでもないしな…」

 

森田の言葉に、垂水と吉田は顔をしかめる。というのも、現在台湾がクワ・トイネ公国に対して救援部隊を派遣する準備を整えているという話が来ているからであり、ここで日本も動かなければ、確実に相手に悪い印象を与えてしまう事になる。しかも、日本にとってのデメリットはそれだけには限らなかった。

 

「…この事態に対し、クワ・トイネ公国は国内の安定化が見込めないとして、食料品等の輸出品の国外輸出を一時的に停止し、クイラ王国もそれに従うそうです」

 

吉田が次に言った言葉に、森田は目を丸くする。垂水は内心で「やはりそうなるな」と察する。通商破壊が行われるかもしれない戦争中に呑気に貿易できる国など、アメリカの様な物資と護衛艦が余っている大国ぐらいしかないであろうというのに、未だに国力と技術力が産業革命突入期の近代ヨーロッパの国程度になったばかりのクワ・トイネ公国にその様な余裕はない。これでまだ食料を輸出してくれると思い込んでいるのは、世の中を全く知らないおめでたい者ぐらいであろう。そして流石に森田も、それが何を意味しているのか分かる位には愚鈍ではなかった。

 

「普通に集団安全保障条約の適用範囲だと言って自衛隊を派遣するとメディアや活動家が五月蠅いし、かといってそのまま放置しても、国内を飢えさせてしまう…垂水君、何かいい方法はないのかね?」

 

森田の問いに対し、垂水はやれやれといった表情を浮かべながら立ち上がる。森田は組閣時から何か困った時にはいつも垂水を頼りにしていたが、ここまで情けない姿を見るのは初めてであった。

 

「(…いつもはアメリカの存在感が森田の力の源になっていたからな…)…では、憲法の解釈を変えて、派遣出来る様にしましょう。そのためには、幾つか準備が必要となりますが、如何でしょうか?」

 

垂水の言葉に、森田は一瞬眉を顰めるものの、今の憲法下で全くの問題なしに解決できるという事なのであれば、それはそれで有難い事である。森田は何のためらいもなく答えた。

 

「分かった。一切の事は君に任せる。では次の議題に移ろう。こんな戦争云々の話などもうしたくもない」

 

森田の言葉に、他の閣僚も頷く。その中で垂水は、すっかり平和に慣れきってしまった様な者達を見て、小声で呟いた。

 

「…この非常時に、全く危機感を持たずに別の議題に移ろうとは…これではこれからどうなろうとも文句は言えないだろうな」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

中央暦1639年4月1日。

この日、ロウリア王国は周辺諸国に対して『ロデニウス大陸統一戦争』の開始を宣言。この実質的な宣戦布告とともにクワ・トイネ公国・クイラ王国は対日・台湾輸出を差し止めし、戦争状態に突入した。それと同時に日本国内では、内閣不信任決議案が複数の野党から出された上で採択され、森田内閣は総辞職。直ぐに次の内閣を決めるための総選挙が始められたのだった。




次回、ギム会戦。そして自衛隊動く。


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第3話 ギムの悲劇

ついにロウリア戦役です。


中央暦1639年4月11日 クワ・トイネ公国西部 地方都市ギム

ギム市中に設けられた西部方面騎士団司令部では、団長のモイジが、斥候の兵士から現在のロウリア王国軍の状況を聞いていた。

 

「現在、敵は我らからの魔信による呼び掛けを無視し、攻勢の準備を整えております」

 

「そうか…通信兵、総司令部への増援要請に対する回答はどうなっている?」

 

「『現在非常招集中』とだけしか…明確な回答はありません…」

 

「チィ…のんびりしている暇はないというのに…このままではギムを守るどころか、放棄する事態になってしまうぞ!」

 

一行に進まない避難作業に、モイジは歯がゆい感触を覚える。

現在の西部方面騎士団戦力は、歩兵2500、弓兵200、重装歩兵500、騎兵200、軽騎兵100、ワイバーン24騎、戦闘魔導師30人。これに加えて、近代化の繋ぎに開発された、微量の魔石を混合して威力を高めた黒色火薬を使用する新兵器『火縄銃』で武装した銃兵200に、数人の兵士によって城塞で運用される『魔導砲』10門。公国騎士団の総戦力からすると、かなりの割合が西部方面守備のために割かれているが、それでもロウリア王国軍に比べると、未だに貧弱な戦力にしか思えなかった。

 

「火縄銃と魔導砲は、弓よりも圧倒的に射程が長いし、威力も弓矢とは桁違いに強い。しかし、数が少ない上に、装填までの時間は弓矢よりも圧倒的に劣る。噂の『機関銃』と『後装式魔導砲』が配備されていたならば…」

 

モイジは自身の戦力の少なさを忌々しく思うも、現在の彼らに無い物ねだりする程の余裕はない。とにかく、住民の避難が完了するまでに敵の侵攻を食い止める事が重要な事だと、彼は考える。しかし、時は無情にも流れていき、戦いの狼煙は翌朝に上がる事になる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

中央暦1639年4月12日早朝

銅鑼やラッパの音とともに、ロウリア王国軍の大軍勢がギム防衛ラインに迫りくる。

トロールやルアキューレ、サラマンダー等の怪異や魔獣が先頭を進み、空を100騎以上のワイバーンの大編隊が舞う。

 

「皆の者!ここで奴らの侵攻を防がねば、家族や友人が奴らに皆殺しにされる!絶対にここで食い止めろ!」

 

モイジが剣を天に突き上げながら叫び、兵士達は歓声を上げて答える。一方のロウリア王国軍本陣の馬車では、第2軍前衛団司令のアデムが、薄気味悪い笑みを浮かべながら命じる。

 

「全て皆殺しにせよ!亜人共は全てこの世から抹消せねばならぬ!清浄なるロデニウス大陸統一のために!」

 

3万以上の大軍勢は波濤を立てて突撃し、魔導砲や銃兵は一斉に銃砲撃をかけて前衛の魔獣や歩兵を倒す。しかし、サラマンダーに似た茶色の巨大な竜は、弓矢はおろか火縄銃の銃撃をいとも容易く跳ね返し、砲撃を巧みに躱しながら木で出来た柵に突進していく。柵を壊し、踏みにじった竜の口からは、サラマンダー以上の火力を持つ火炎放射が放たれ、柵や城壁にいた兵士達は瞬く間に火だるまに包まれる。空ではロウリア王国軍のワイバーンが、クワ・トイネ公国騎士団のワイバーンを数と質、練度で圧倒して落としていき、制空権を確保した後に、城壁に向けて火炎弾や火炎放射を放つ。城壁上は火に包まれ、魔導砲は近くに置いてあった弾薬ごと爆発して吹き飛び、兵士達は身に着けていた鎧もろともドロドロに溶かされる。ワイバーンは弓矢では落とせない機動性と鱗の硬さや、口から炎・風魔法を混ぜて放つ導力火炎弾による火力から、10騎で1万の歩兵を全滅させる事が出来るとまで言われている。そのワイバーンが100騎いるという現実は、クワ・トイネ公国西部方面騎士団に敗北の絶望を植え付けるのには十分過ぎる数であった。

 

「飛竜隊、全滅!さらに前衛は壊滅的打撃を受けました!」

 

「畜生…強い、強過ぎる…」

 

兵士が顔を青くしながら報告し、モイジは悲痛の表情を浮かべながら城壁の方を見る。空にはロウリア王国軍のワイバーンが舞い、市街地や避難者のキャラバンに炎を浴びせ、多くの人々が焼け炭に変えられていく。城壁では弓兵や銃兵が必死に応戦していたが、どこからともなく現れた、幾つもの黒い箱型の飛行物体が、けたたましい轟音を立てながら城壁上空を飛び、城壁に向けて何発もの砲撃を見舞い、これを粉砕していく。

城壁が崩れ、抵抗が薄まっていくのが確認され、敵の軍勢は一斉にギム市内に向けて雪崩れ込む。モイジ達は抜刀して迎え撃ち、市街地各所で剣と剣がぶつかり合い、血で血を洗う激しい戦闘が繰り広げられる。しかし奮戦しているといえども、多勢に無勢というもので、戦況は瞬く間にロウリア王国軍側の圧倒的優勢であった。

夕方、クワ・トイネ公国西部の地方都市ギムは陥落。西部方面騎士団は全滅し、モイジは妻子ごと魔獣に食われて死亡。9万人以上の民間人が犠牲になった。100人程度の生き残りがクワ・トイネ公国各所の都市に生きて解き放たれ、惨状は公国中に伝えられた。

しかし、その惨状は日本にも伝わり、これは自衛隊に『クワ・トイネ公国を残虐無比な暴力から守る』という大義名分を与える事になった。

 

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日本国 首都東京 都内品川区

 

「お疲れ様です、垂水先生」

 

とある議員事務所の控室にて、自身の派閥の応援演説を行っていた垂水は、数人の秘書に出迎えられていた。

 

「いやはや、ここまで選挙が順調に進むとは、思いもしなかったよ」

 

垂水は今回の選挙の様子を呟きながら、秘書の出した緑茶を飲む。

現在日本は、垂水と彼の派閥の議員、そして彼と同じく国政の変化を望む野党議員の仕掛けた内閣不信任決議で森田内閣を解体。そして新たな内閣を作り、かつこれからの新世界での日本の行く先を固めるための衆議院総選挙を行っていた。アメリカの庇護を受けられなくなった今、これからの日本を引っ張る事になる議員は誰が適任かを決める選挙でもあるため、この選挙では、20~30代の若手の議員や、民間出身の、これまで政治とは何ら関係のなかった様な者達からなる候補者が乱立し、これまで議席に座っていたものの、今回の衆議院解散で議員を辞める事になった者が彼らを支援するという、『次世代への橋渡し』が目立つ選挙が行われていた。

その中で垂水は、それまで属していた民主自由党を離党し、自身の派閥や、意見の相違でもといた党から離党した議員、そして民間出身の候補者からなる新党『立憲国民社会党』を作り、複数の野党と連立を組んでの政権の建設を目指していた。現在日本は、国を治める内閣が不在という異常の状況となっていたが、垂水の派閥に近い存在だった前政権副総理を中心とする臨時内閣が政府を運営しており、今のところ混乱は最小限に抑えられていた。

 

「垂水先生、先程クワ・トイネ公国大使の田中より通信です。先程、クワ・トイネ公国のギム市がロウリア王国の侵略を受けて陥落した可能性があるとの事です」

 

秘書の報告に、垂水は顔を下に向け、表情を暗くする。

 

「間に合わなかったか…なんとしてでも一週間以内に選挙を決めねば、自衛隊は愚か、国策すら動かせん。なんとしてでも勝ち、クワ・トイネ公国を救わねば…」

 

垂水は改めて、この選挙に勝利して、この世界で生き抜く意志を持った政権を誕生させなければならないと誓う。そして、ひと時の休憩を終えて彼は、別の出馬者の応援に向かっていった。

 

5日後、総選挙が実施され、立憲国民社会党とそれに属する野党3党からなる4党連合は、議席の半数以上を獲得。垂水が新たな内閣総理大臣に選ばれ、彼らにとって今すべき事が即座に始められた。

 

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4月22日 クワ・トイネ公国公都クワ・トイネ市 政治部会

 

「…軍務卿、現状を報告せよ」

 

カナタの言葉に、ミトウは口を重く開き、報告を始める。

 

「現在、ギム以西はロウリア王国の勢力圏となっております。先遣の前衛団だけでも3万以上の大軍勢で、諜報部によれば、作戦兵力は100万に達する模様です。また、未確認ながらパーパルディア皇国が軍事支援を行っているとの報告があり、現に敵軍は、公国のよりも高性能のワイバーンや、パーパルディア皇国でしか運用が確認されていない地竜『リントヴルム』を投入してきております。また、北部海域を4400隻の大艦隊が航行しているとの情報も入っており、マイハークを落としにかかるものと見られています」

 

軍務卿の報告に、カナタら公国政府上層部は顔を青くする。この報告だけでも分かる、自国とロウリア王国との圧倒的な国力の差。これを解決する手立ては、今の公国には存在しない。

すると、外務局のトップであるコンカイ・リンスイ伯爵がおそるおそると手を挙げ、発言を求めてきた。

 

「首相、よろしいでしょうか?」

 

「何だね、リンスイ君」

 

「実は、政治部会が始まる直前に、日本大使館より連絡がありまして…『日本国政府は、クワ・トイネ公国西部にて発生した『武装勢力』による非人道的な行為を見逃す事は出来ない。公国政府に、徹底した武装勢力の取り締まりを要望する。なお、クワ・トイネ公国政府からの要望があれば、日本国政府はクワ・トイネ公国に対し、武装勢力排除のための自衛隊を派遣する用意がある』…との事です!」

 

リンスイの読み上げた文書に、カナタ達は目を丸くする。なんと、軍事的な協力には消極的だった日本が、自国の実質的な軍隊である自衛隊を派遣してくれるというのだ。どうやら現在の憲法の状況下で自衛隊を動かすべく、ロウリア王国を独立国家ではなく、武装勢力と扱う事にして対処するという事である。

 

「また、台湾国民政府からも、公国支援のための部隊を派遣する準備があるとの回答が来ております。首相、ここは彼らに協力を仰ぎましょう」

 

リンスイの言葉に、カナタは目の前が明るくなってきたのを感じる。そして直ぐに指示を出した。

 

「よし!直ぐに敵対勢力の排除の応援を要請しろ!公国騎士団及び各都市は、日本及び台湾の援軍を最大限サポートするように、指示を徹底させろ!」

 

『了解!』

 

カナタの号令一過、彼らは行動を開始する。この日、日本国政府は自衛隊に対し、『クワ・トイネ公国内に発生した武装勢力排除のための防衛行動』を発令。台湾中華民国軍とともに、クワ・トイネ公国とクイラ王国を救うために、自衛隊をクワ・トイネ公国に派遣する事となった。




次回、ロデニウス沖海戦。


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第4話 勃発、ロデニウス沖海戦

ロウリア戦役目玉の一つ、ロデニウス沖海戦回の始まり。


中央暦1639年4月25日 クワ・トイネ公国マイハーク港

公国海軍第2艦隊50隻は、迫りくるロウリア王国軍艦隊を迎え撃つべく、マイハーク港から出港していた。

日本・台湾との交流や、台湾軍からの支援を受けた結果、これまでバリスタや火矢で武装したガレー船や中型帆船程度の規模だった公国海軍艦隊は、ボルトアクション式ライフルや鉄から鋳造した前装式魔導砲で武装した大型帆船や武装蒸気船からなる比較的近代的な水上艦隊に生まれ変わっていた。それでも、この艦隊を率いる第2艦隊司令のパンカーレは、未だに心配を抱えていた。

 

「相手の数はこちらの100倍…果たして、この艦隊のうち一体何隻が生きて帰れるのか…」

 

艦隊旗艦「シード」の艦橋で、パンカーレは自身の艦隊を見ながら呟く。

現在、この第2艦隊に、日本と台湾からの援軍が合流するそうだが、数は日本・台湾ともに8隻の計16隻という、圧倒的な少なさであった。そのため、パンカーレは未だに日本・台湾の実力を疑い、かつ勝機を見出せないでいた。

 

「提督、見えてきました!日本と台湾の艦隊です!」

 

見張り員の報告に、パンカーレは望遠鏡を手に取り、水平線の彼方を見る。すると、海の彼方から幾つもの巨大な影が、彼らからしたら非常に速い速力で迫ってくるのが見えた。

 

「なっ…なんという大きさに、なんという速さ!まるで、伝説の島亀だ!」

 

パンカーレ達が驚く中、「シード」の隣に巨大な艦ーヘリコプター搭載護衛艦「いずも」が位置し、1隻のボートが「シード」に向かっていく。

 

「では、パンカーレ提督。行って参ります」

 

今回の海戦で、日本艦隊への観戦武官を引き受けた海軍幹部のブルーアイは、パンカーレにそう言ってボートに乗り込む。ボートはかなりの速さで「いずも」に向かい、ボートは回収されるのを確認して、日本・台湾・クワ・トイネ公国三国連合艦隊66隻は、西に向かって10ノットという低速で進んでいった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いずも」艦橋

 

「…今、なんとおっしゃいましたか?」

 

目の前に立つ日本艦隊指揮官、海自第1護衛隊群司令の高野幸永海将の言葉に、ブルーアイは澄んだ青い瞳を点にする。なんと、ロウリア王国艦隊を日本・台湾両艦隊が全て引き受けるというのだ。

 

「無論、貴方がたの顔を立てて、最終段階では皆様も参加してもらいます。ですが、それまでに敵艦隊の数は我々が減らします。公国第2艦隊は、どうぞゆっくりと戦闘の準備を完璧に整えて下さる様にとお伝え下さい」

 

高野の自信満々な言葉に、ブルーアイは顔をしかめる。何故なら、その言いようはまるで、『敵艦隊撃滅の功は我々に寄越せ』と言っている様にしか聞こえなかったからだ。

 

「しかし高野提督、敵は4400隻という大艦隊なのですぞ。それをたった16隻で迎え撃つと?しかも敵は、石製城壁を粉砕する威力と、2キロメーターの射程を持つと言われる魔導砲を装備した砲艦を多数配備しているとも聞きますし…」

 

ブルーアイの疑心と不安に満ちた問いに、高野はフムフムと頷き、自信ありげに答えた。

 

「かつて、我が国は800年前、旧世界の隣国から攻めてきた、14万の兵士を乗せた4400隻の大船団を、たった数万の兵士と、ガレー船以下の大きさの軍船で迎え撃ちました。相手に魔導砲の様な長射程かつ高威力の兵器がなかった事もありましたが、岩を積み上げて築いた堤で敵の上陸を防ぎ、先程の本艦に乗り込む時に使ったカッターと同じサイズの船で夜襲を仕掛けて混乱を生み起こし、その後に訪れた嵐で崩壊した船団に攻勢を仕掛けて辛勝を収めました。それに比べれば、我が国は非常に装備に恵まれております。どうぞご安心ください」

 

日本の昔の戦いの話を交えた高野の問いに、ブルーアイはただ驚愕するしかなかった。どうやらロウリア王国の大艦隊など、彼らにとってみれば、はるか昔の骨董品の群れに過ぎないという事らしい。

そして艦隊は、ゆっくりと、だが着実にロウリア王国艦隊の方に接近していった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日 クワ・トイネ公国北部海域

ロウリア王国海軍東方征伐艦隊4400隻は、悠々と大海原を進んでいた。

 

「壮観な光景だ。実に美しい」

 

艦隊旗艦「グー・グラグス・グラン」の船楼で、艦隊司令のシャークン・ジョキ・ジン一等海将は、海を埋め尽くさんばかりの軍船の群れを眺めながら呟く。

この世界の最新の力学と工学のもとで設計・建造されて出来た機能的かつ洗練されたデザインに、ロデニウス様式が使われた彫刻や装飾が施された、芸術品の様に美しく、日用品のように堅実な帆船が、幾つも張られた帆に目一杯の風を受けて進む。南西からの風を受けて進むこの艦隊は、巡航13ノットという、非動力搭載の帆船としてはかなり速い速力を出して、マイハークを目指して進む。

旗艦「グー・グラグス・グラン」を始めとする、30門の第三文明圏第一世代魔導砲を装備したガレオン船44隻と、数門の小型魔導砲に新型バリスタを装備したガレアス船176隻、補給艦兼揚陸艦の役割を担うキャラック船220隻に、3960隻のガレー船からなる大艦隊は、実に12年という、先々代の王の時代からコツコツと積み上げてきた結果生まれた大艦隊であり、各艦底部には、海流をある程度制御・操作して推進力を生む魔導システム『海神の魔靴』が装備され、側舷にも薄い銅板が装甲として張られている。

ロデニウス大陸最大かつ最強の大艦隊。これならば、軍事支援元のパーパルディア皇国にも余裕で勝てるであろう。

 

「いや、パーパルディア皇国には、100門以上の魔導砲を備えた戦列艦や、海上の飛竜隊基地ともいえる竜母が存在すると聞く。それにはまだ我が国の力は足りんな…」

 

シャークンは一瞬顔を覗かせた野望の炎を、理性で打ち消す。なんせガレオン船に装備している魔導砲は第三文明圏では30年以上前に開発された第一世代の骨董品。パーパルディア皇国主力軍の装備する魔導砲は、最新の規格で量産された第三世代の高性能砲と聞く。また、マスケット銃という対人用の小型魔導砲も装備していると聞いており、今のロウリア王国の工業力では、そこまでの高性能兵器の開発は困難といえた。

 

「我が国はまだまだ、発展途上だな…ん?」

 

その時、遠くからバタバタバタという、虫の羽音を千倍も大きくしたかの様な音が聞こえ、シャークン達はその方角を見る。すると、白い虫の様な形状をした物体が、ワイバーン並みの速度で水平線の彼方から現れ、ロウリア王国艦隊上空に飛来してきたのだ。その物体の真横には、赤い丸のマークがあしらわれており、国の外交関係にもそれなりの知識を有していたシャークンは、それが日本のものだと気づく。

 

「魔蟲か…いや、人が乗っている!」

 

顔に見えた前部のガラスに、数人の人の姿が映っている事に気付いたシャークンは、その奇妙な飛行物体に顔をしかめる。すると、その物体から、大音量の男の声が発された。

 

『こちらは日本国海上自衛隊です。ロウリア王国艦隊に警告します。貴艦らは現在、クワ・トイネ公国の領海を侵犯しています。直ちに回頭し、自国の領海に引き返しなさい。繰り返します…』

 

日本国の軍事組織と名乗ったその物体は、繰り返しロウリア王国艦隊に向けて警告を発する。外務局関係者からの話では、日本と、付近に突然出現した台湾国は、ワイバーンを知らない蛮族の国だという。しかし、あの様な物体を持つ国が、宰相達の言うような蛮族の集まりであろうか。

物体は、しばらくその場にとどまって警告を発していたが、軍船から火矢が飛ばされるのを見て、直ぐにその場から飛び去って行く。直後、水平線の彼方に突然島が現れ、かなりの高速でロウリア王国艦隊に向かって接近してきた。その船は全身を灰色に包み、マストもオールもないのに、非常に高速で海面を進んでいた。

 

「なんて巨大な船だ…」

 

シャークン達が驚愕する中、その船はロウリア王国艦隊と300メートル程度の距離を保ち、そして何処からか、若い女性の声で警告が発される。

 

『直ちに回頭して引き返せ!さもなくば、貴艦隊に対し発砲する!繰り返す、直ちに回頭して引き返せ!さもなくば、貴艦隊に対し発砲する!』

 

巨大船からの警告に、シャークン達は顔をしかめる。どうやら先程の飛行物体と同じ日本に属する船らしい。

 

「…海将、如何致しますか?」

 

「…右翼艦隊、敵船に対し、魔導砲及び『雷神の飛槍』による攻撃を仕掛けよ!当たらなくても威嚇になる」

 

「了解!」

 

シャークンの指示が前衛艦隊右翼に伝えられ、数隻のガレオン船とガレアス船が横に並ぶ。砲門が開いて魔導砲が現れ、砲口に魔方陣が浮かび上がる。甲板上に数人の水兵が現れ、矢じりに巻いた布に点火して燃やした火矢を構える。さらに数基の大型バリスタが指向され、攻撃準備が整えられる。

 

「攻撃準備よろし!」

 

「よし…攻撃始め!」

 

シャークンの号令一過、軍船より一斉に火矢が放たれ、敵船に命中する。しかし、敵は全身鉄で出来ているのか、そのまま突き刺さって燃える事はなく、金属音を響かせながら火矢を跳ね返した。

直後に魔導砲が火を噴き、敵船の周囲に幾つもの水柱が聳え立つ。数発が命中し、甲板の一部をへこませたが、それでも航行に支障は無い様に見える。

そして最後に、最上甲板上に配備されたバリスタから、稲妻が迸りながら、鉄製の弓矢が高速で放たれる。『雷神の飛槍』と名付けられたこのバリスタは、矢を装填するスペースの端に磁力を持つ金属の細長い板が張られ、その板に雷魔法を流す事によって、鉄製の弓矢を高速で射出する仕組みで、試験では魔導砲以上の射程と、木造船すら一撃で粉砕する威力を発揮した。この『雷神の飛槍』ならば、如何に相手が鉄で出来た船と言えども、古代ロデニウス文明の超技術で造られた兵器で撃破出来るであろう。

『雷神の飛槍』は稲妻を迸らせながら飛翔し、そのうち1発が敵船の側舷部に命中する。しかし、矢は先端部が側舷に突き刺さった程度で、あまり損傷を受けていない様に見受けられた。

 

「な、なんて頑丈な船だ!」

 

敵船の頑丈さにシャークン達が驚愕する中、敵船は急回頭してロウリア王国艦隊から離れていき、距離を3キロにまで離す。

 

「ひゃっはぁ、逃げやがったぜ!」

 

水兵達が歓声を上げる中、シャークンは得も言われぬ不安に襲われていた。

 

「全く攻撃をしてこない…奴め、何か特別な武装でも積んでいるのか…?」

 

シャークンが敵船から不気味な雰囲気を感じ始めたその時であった。

突然、敵船の一部から煙が噴き出し、直後、敵船に一番近い位置にいた軍船が吹き飛んだ。

木製の船体が木端微塵に吹き飛び、火だるまに包まれる。甲板上にいた水兵が一人残らず爆発四散して飛び散り、海面に木材の破片とともに落ちていく。

 

「なっ!?大口径の魔導砲だと!?しかもあんな長距離から!」

 

敵の攻撃に、シャークン達は愕然し、ただ炎上する軍船を見つめる。しかしシャークンが真っ先に我に戻り、通信士に指示を飛ばした。

 

「っ、まだ本国の竜騎士団活動範囲内でよかった。司令部に通信!ワイバーンによる上空支援を要請しろ!『現在敵主力船団と交戦中』とな!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロウリア王国 王都ジン・ハーク 王国軍総司令部

パタジンは、シャークンからの通信を聞き、すぐさま指示を飛ばす。

 

「竜騎士団司令部に命令。直ちにワイバーン400騎をロウリア王国艦隊の航空支援に差し向けろ」

 

「400騎も、ですか?」

 

「少数を逐次投入するのは愚の骨頂。大戦力で一気に畳みかけるのだ。急げ!」

 

「は、はっ!」

 

命令は竜騎士団隊舎に伝えられ、王国精鋭の象徴である竜騎士達は軽装の鎧を身に纏い、次々とワイバーンに跨る。ワイバーンは30メートル程度の滑走路を走って翼をはためかせ、大空に舞っていく。

そして400騎のワイバーンが大空に舞い、ロデニウス沖に向かって飛び去って行った。




次回、1対400。


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第5話 鋼鉄の神風

推奨BGM、ジパングより「みらい」


中央暦1639年4月25日 クワ・トイネ公国沖

海上自衛隊護衛艦「みょうこう」は、上部構造物に直付けされている4基のAN/SPY-1Dフェーズド・アレイ・レーダーで、こちらに向けて接近してくるワイバーンの大編隊を捉えていた。

 

「副長、レーダーに反応あり。方位350より、200以上の飛行物体が接近してきます。速度は凡そ230キロ」

 

レーダーのスコープを見ていた「みょうこう」CIC(戦闘指揮所)オペレーターの報告に、副長の女性、種田真弓二等海佐はインカムで艦橋にいる艦長に報告する。

 

「CICより艦長、11時の方向よりロウリア王国軍のワイバーンとおぼしき飛行物体が、時速230キロで接近中です。これより迎撃します!」

 

『艦橋よりCIC、了解した。ただちに迎撃を開始せよ』

 

「了解!総員、対空戦闘用意!」

 

種田の指示が飛び、オペレーター達は操作を開始する。レーダーで捉えたワイバーンを一つ一つ捕捉して目標を振り分け、マーカーを付けていく。その間にモニターに映し出される、ワイバーンを示す光点は200以上に増え、そのうち40の光点に捕捉マーカーが付けられた。

 

「目標第一波、捕捉完了」

 

「迎撃準備よろし!」

 

「よし…攻撃始め!VLS1番から10番、発射(サルボー)!」

 

種田の号令が飛び、砲雷長は幾つかのスイッチを押した。

直後、外から轟音と振動が響き渡り、外部モニターは幾つものミサイルが、炎と煙を噴き上げながら空に舞い上がっていくのが見えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

こんごう型護衛艦は、海上自衛隊()()世代のイージスシステム搭載ミサイル護衛艦である。

旧ソ連の対艦ミサイルによる飽和攻撃に対処するべく、アメリカで開発されたイージスシステムは、開発国であるアメリカ以外では、日本が初めて採用し、新型ミサイル護衛艦に搭載される事になった。

しかし、その頃ターター・システムを搭載したはたかぜ型ミサイル護衛艦の3番艦を建造するか否かで揉めており、イージスシステムに不安を抱いている者も多かったため、システム実証艦としてまずは第一世代として、MK29八連装ミサイル発射機を装備し、シー・スパロー艦対空ミサイルを運用可能なあいづ型ミサイル護衛艦を建造。巨大翼竜『ラドン』の迎撃任務によってシステムの実証性を再確認し、第二世代のミサイル護衛艦の建造が開始された。

しかし、当初アメリカからシステム・レーダーを全輸入して、日本で建造された船体に組み込むという計画で進められていたのだが、怪獣の存在がその計画を邪魔したのだった。

1990年代初頭、太平洋に甲殻類型巨大特殊生物『エビラ』と『海魔ダコ』が出現し、多数の商船・貨物船が襲撃を受けたため、船舶による輸出が困難と見られ、アメリカは日本に対し、ブラックボックス部分を航空機で輸送し、他の大部分を日本で製造する形で完成にまで漕ぎ付けた。なおその際に、「あいづ」が『エビラ』迎撃に参加していたが、その際にイージスシステムという、『人の兵器を迎撃する兵器』の弱点が露呈。そのため、第三世代のあたご型護衛艦以降からは、日米共同で改良され、日本でライセンス生産されたイージスシステムが搭載される事になる。

そして一番艦「こんごう」就役直後に訪れた、巨大蜻蛉『メガニューラ』迎撃任務にて、運用可能なミサイルの種類の少なさが判明し、日本にて独自にイージスシステムが改良される事になった。

日本の特異性を考慮したアメリカ政府と国防総省が事実上黙認し、特生自衛隊主導で進められた改良工事により、システムは8割以上が日本が関与し、運用できるミサイルも、RIM-162『発展型シー・スパロー』短距離艦対空ミサイルと、04式空対空誘導弾をベースに、昆虫型でありながらマッハ3で飛行し、航空機以上の運動性を持つメガニューラを迎撃可能なミサイルとして、05式艦対空誘導弾が新たに追加された。また、ターター・システムで運用されていたSM-1・SM‐2艦対空ミサイルをベースにした国産地対空迎撃ミサイルも開発され、PAC3迎撃ミサイルとともに、北朝鮮や中国の弾道ミサイル迎撃に備えた防空網が形成されていった。特にイージスシステム改良への外国の関与は、日本だけに許されているといっても過言ではなかった。なんせ同じ様に導入している韓国やノルウェー、スペインは全くブラックボックスに接触出来ないというのに、日本は『怪獣対処能力』を組み込むために、神の盾(イージス)の聖域に触れているからである。

ちなみに、第四世代のまや型護衛艦が建造され始めた頃に、日本はこの世界に転移したのだが、特生自衛隊や、噂程度で囁かれていた諜報機関によって、すでにイージスシステムのブラックボックスの解析を終えており、あきづき型汎用護衛艦の開発技術も使用して国産型イージスシステムを搭載する事になっており、技術的な問題はほぼ解決されていた。

そして今、アメリカが開発し、導入元の日本の地で、ただ怪獣に勝つためだけに、オリジナル以上に改良されたイージスシステムの本気が発揮されていた。

10発のSM-2RJ艦対空ミサイルが空に舞い、推進可変ノズルで向きを変えて、Mk99射撃管制装置の電波誘導を受けながらワイバーンの編隊に向かって飛んで行く。セミアクティブホーミングに切り替わったミサイルはあっという間にワイバーンの編隊に接近し、至近距離で弾頭部の近接信管を作動させ、爆風破片効果弾頭を起爆させた。

10発の艦対空ミサイルが一斉に炸裂し、大量の鉄片と鉄球子弾、高熱の炎が周囲にまき散らされ、比較的密集して飛んでいたワイバーンの編隊はそれに真正面から突っ込む。ワイバーンと搭乗していた竜騎士は、ジェット航空機を破壊可能な弾頭の爆発に呑み込まれ、鉄片と鉄球の嵐にズタズタに引き裂かれていく。

 

『な、何が起きた!』

 

『ジョーンズ!畜生、ジョーンズがバラバラに!』

 

『う、狼狽えるな!』

 

この攻撃だけでワイバーンは40騎程が肉片と化して落下していき、編隊は大きく崩れ始める。

そこに第二波攻撃が飛来し、六つの光の塊が接近してきたのに気付いた時には、34騎のワイバーンが空中で四散していた。編隊は急激に減速し、謎の光の塊の出現を警戒する。しかし、再度の出現が認められない事に気付き、編隊は再び前進を開始する。真下に広がる大海原に、ロウリア王国艦隊が見え始め、竜騎士達はその周囲を見渡して敵を探す。すると、東の方から雷鳴とは違う轟音が聞こえ、彼らは揃ってその方向を見る。

直後、東の方にポツリと浮かぶ、島の様に大きな灰色の船から煙が上がり、そこから幾つもの光の塊が現れる。光の塊に見えたそれは、白い槍の様な形をした飛翔物体で、後方から勢いよく炎を噴き出し、常人の目にも止まらぬ速さで飛翔するために、光の塊に見えたのだ。

 

『敵船、攻撃来ます!』

 

『全騎、回避しろぉぉぉぉぉ!!!』

 

各隊隊長が叫び、編隊は散開しながら敵船に向かう。しかし、敵船の放った光の槍はそれを見逃さず、一斉に散開してワイバーンに襲い掛かった。

VLSのキャニスターに1セル当たり4発収められる形で搭載されている05式艦対空誘導弾は、マッハ4の超音速で次々とワイバーンに襲い掛かり、至近距離で炸裂してワイバーンと竜騎士を粉砕する。破片炸薬の爆発は、運が良ければ2騎まとめて撃墜する事が可能であり、撃ち落とされたワイバーンは海面に水柱を立てながら落下し、中には軍船に向かって真っ逆さまに落ちてマストを潰すものもあった。「みょうこう」のイージスシステムは敵ワイバーンの光点が一つ、また一つ消えていくたびに、発射準備街の05式艦対空誘導弾に、別の捕捉していないワイバーンを振り分け、ある程度の距離までMk99射撃管制装置で誘導し、追尾モードに切り替わったのちに目標への振り分けを再開する。その速度は非常に凄まじく、瞬く間に「みょうこう」に搭載されていたSM-02RJ16発と05式艦対空誘導弾296発は全て撃ち尽くされた。

 

『敵ワイバーン、残り36!』

 

「主砲に切り替え、撃ちまくれ!」

 

ワイバーンとの距離が10キロ以内になり、「みょうこう」艦首側に装備されたオートメラーラ54口径12.7センチ単装速射砲が砲撃を開始する。

ガレオン船の魔導砲とは比べ物にならない大きさの砲声が響き渡り、砲身下の排出口から真鍮製の薬莢が煙を漂わせながら排出される度、仰角65度に砲身を上げた速射砲から12.7センチ砲弾が放たれ、ワイバーンに向かって超音速で突っ込み、ある弾は直撃して粉々に粉砕し、ある弾は近接信管を作動させて鉄片をまき散らし、ワイバーンと竜騎士を挽いていく。

やがて距離は4000を割り、唯一生き残った3騎が、口に炎を溜めながら急降下する。

 

「敵ワイバーン3騎、来ます!」

 

「CIWSで迎え撃て!これで最後だ!」

 

上部構造物前部に搭載された、1基の20ミリCIWS(近接防御システム)『ファランクス』が作動し、円筒形のレドームで敵を捕捉し、下部のM61ガトリング砲『バルカン』の6本の機銃身を束ねた砲身が回転を始める。そして1丁1丁から、20ミリタングステン徹甲弾が放たれた。

毎分6000発にも及ぶ連射速度の生み出す弾幕は、一瞬でワイバーンと竜騎士をエメンタールチーズの様な穴ぼこに変え、ワイバーン『だったもの』は、付近の海面に落下した。

迎撃は僅か10分で終わり、その場を静寂が包み込む。種田は額の汗を拭い取り、一息吐く。その時、通信士が叫んだ。

 

「副長、味方の艦が来ます!さらに旗艦「いずも」より伝達!『各艦は単横陣を組み、敵艦を一掃せよ』との事!」

 

「これで一気に決めるという事か…主砲、即応弾の補充を急げ!」

 

「みょうこう」は一気に減速し、後方からやってくる味方の艦と舳先を並べていく。主砲の即応弾用ドラムに砲弾が補充され、81式射撃指揮装置2型とイージスシステム内の射撃管制システムが目標照準を開始し、ロウリア王国艦隊に狙いを定めていく。そして、「いずも」の艦橋にて、高野は大声で命じた。

 

「攻撃、開始!」

 

一斉に各艦の主砲が火を噴き、大量の12.7センチ砲弾と7.6センチ砲弾の雨がロウリア王国艦隊に降り注ぐ。

ロウリア王国艦隊の周囲には、マスト用よりも高い水柱が幾つも聳え立ち、ある艦は砲弾の直撃で爆発四散し、ある艦は蜂の巣になって海底に沈んでいき、ある艦は水柱に煽られた挙句、体勢を崩して転覆する。9割以上の砲撃は敵船に命中し、ロウリア王国艦隊は瞬く間に減っていく。そこに、ようやくクワ・トイネ公国第2艦隊が到着し、艦隊は12ノットで突撃する。

各艦の主砲に加え、『ファランクス』や大口径機関砲、非対称戦用のM2ブローニング重機関銃がガレー船を蜂の巣にし、「いずも」や各護衛艦から飛び立ったAH-1〈コブラ〉や〈SH‐60k〉が飛び立っては、ヘルファイア空対艦ミサイルを放って敵船を粉砕し、機銃を浴びせて撃破数を増やしていく。運よく攻撃を逃れた船もいたが、そこにクワ・トイネ公国第2艦隊の攻撃が集中し、ロウリア王国艦隊側のよりも発展した魔導砲が、装甲を全く持たないガレアス船を撃破していく。ロウリア王国艦隊は必死に魔導砲や『雷神の飛槍』を撃って応戦するが、魔導砲は命中率と射程距離の低さから大して影響せず、『雷神の飛槍』も完全にマークされ、〈コブラ〉が重点的にM61A1ガトリング砲3銃身型で潰していく。この時点で、勝敗は決したも当然であった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロウリア王国海軍東方征伐艦隊旗艦「グー・グラグス・グラン」

 

「そんな…僅か10分でワイバーン400騎が、全滅だなんて…」

 

シャークンの愕然とした言葉とともに、船は航空戦力を撃墜する事は不可能だという文明圏外の常識と、日本に対しての勝利の自信が崩れ落ちていく。直後、水平線の彼方に幾つもの船影が現れ、敵船はその船と舳先を並べ、ゆっくりと進み始める。そして、一斉に砲撃を始めた。

死を招く灰色の列島が迫り、軍船は瞬く間に海底へと消えていく。もはや戦いの勝敗は決していた。

 

「…海将、このままでは…」

 

「…全艦、撤退を開始せよ。全ての責任は私が取る」

 

シャークンの指示に、副官は驚愕の表情を浮かべ、しばし沈黙する。しかし、直ぐに敬礼をして、通信士に指示を飛ばす。

この戦いに負けた以上、シャークンには死刑以外の末路は残っていないであろう。それでも、多くの味方を救うために撤退の指示を飛ばしたのだ。一同は静かにシャークンを見つめた。しかし、彼らの思考はそこで途切れる事となる。

「みょうこう」から放たれた12.7センチ砲弾が「グー・グラグス・グラン」に直撃し、その爆発でシャークンは船から投げ出される。直後に幾つもの砲弾が「グー・グラグス・グラン」に突き刺さり、「グー・グラグス・グラン」は粉々に砕け散った。

その光景を見た船々は一斉に回頭し、ロウリア王国へ撤退し始める。その様子は、「いずも」の艦橋からもよく見えていた。

 

「敵艦隊、撤退を開始しました」

 

「よし…全艦、停止!これより、ロウリア王国軍の兵士の救助作業を開始する。救助した兵士は全て捕虜待遇として丁重にもてなせ!」

 

「了解!」

 

高野の指示に、副官達が応じる中、ブルーアイはただ、日本と台湾の強力な力に驚愕しっぱなしであった。

なんせ、400騎以上のワイバーンと数千隻以上の軍船を、ただ一方的に叩き潰したのである。とにもかくにも、これでクワ・トイネ公国はロウリア王国の脅威の一つが消えた事になる。

 

「…これは、報告が大変な事になりそうだな…」

 

ブルーアイはそう呟きながら、海上自衛隊と台湾海軍のボートが海面を走り回り、ロウリア王国軍兵士を救助していく様子を眺めた。

 

この日、ロウリア王国海軍東方征伐艦隊4400隻は、日本・台湾・クワ・トイネ公国連合艦隊と交戦し、3000隻が撃沈。8万人以上の兵士が400騎のワイバーンとともに暗い水底へと消えていき、シャークンら数千の将兵は日本・台湾艦隊に救助された。これによって、ロウリア王国軍のマイハーク攻略作戦は頓挫し、侵攻計画が練り直される事になる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同日 クイラ王国沖

海上自衛隊臨時護衛隊4隻は、ロデニウス大陸南方海域からクイラ王国に向けて進むロウリア王国艦隊を待ち構えていた。

その4隻の艦隊の中央に位置する1隻の大型艦、大型護衛艦「やましろ」の艦橋では、一人の女性乗組員が、この艦の艦長と話し合っていた。

 

「艦長、敵は本当にこのルートで来るのでしょうか?」

 

「このままこっちに来てくれない方が嬉しいんだが、残念ながらこっちに向かって進行中だ。気を引き締めろよ、藤田」

 

「はぁ…本当に不幸だわ」

 

艦長の言葉に、藤田と呼ばれた女性はため息をつき、双眼鏡を構える。彼らの乗るこの艦は、かつての太平洋戦争の激戦を、数奇な運命に翻弄されながら生き残った悪運の艦であり、進水から100年を迎えた今もなお、この日本を守る護衛艦として、洋上に浮かんでいた。そして、周囲を警戒していたレーダー士が、艦長達に顔を向けて報告してきた。

 

「艦長、レーダーに反応あり。敵艦隊多数が、こちらに向かって接近中です!そのうち非常に巨大な反応が一つ!」

 

「やはり来たか…全艦戦闘配置!藤田は直ぐにCICに向かえ!」

 

「了解、艦長」

 

藤田は司令塔改造のCICに向かい、艦長は双眼鏡を構えて水平線の彼方を見つめる。同時に護衛艦「くらま」「あいづ」「あこう」の3隻が前進し、戦闘配置を整えていく。その遥か背後には、クイラ王国海軍第1・第2艦隊50隻がおり、必死に日本艦隊の後を追いかけていた。

 

「敵艦隊視認!数、最低でも300以上!」

 

「多いな…特に中央に、非常にデカい艦がいるな…」

 

艦長はそう呟いて双眼鏡を覗き込み、敵艦隊の中心に位置する、1隻の巨大なガレアス船を睨む。

そしてここに、もう一つの海戦が始まろうとしていた。




次回、本作最初の超兵器が登場。


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第6話 大海に吹き荒れる大嵐

今日、コミックス1巻買いました!
ニコニコ漫画で見ていたのが、ようやく紙で見れるわ…


中央暦1639年4月26日 ロウリア王国 サディエゴ市 ロード・ポート城

ロウリア王国の海の玄関口であるロード・ポートを守護する城の一室で、ロウリア王国第三王子のアルダ・ジョカ・ハークは、側近から報告を受けていた。

 

「そうですか…東方征伐艦隊は壊滅的被害を…」

 

「はっ。シャークン海将も戦死したとの未確認情報が入っており、非常に手痛い損害を被った模様です」

 

側近の報告に、アルダは憂鬱な表情を浮かべながら、窓の外を眺める。

彼は、亜人絶滅を掲げる現在の王国の方針を否定する派閥の一人で、加えてパーパルディア皇国に対して尻尾を振る様な今の王国を情けないとも思っていた。そのため、王族の一人ながら、王位継承権は現国王のハーク・ロウリア34世の兄弟や、兄達より順位は低い姉達よりも低く、大して影響力は無い様に調整されていた。しかし、それ故に彼はクワ・トイネ公国やクイラ王国の事をよく知り、情報を集める過程の中で、日本や台湾の事も、ロウリア王国人の中で一番詳しく知っていた。

 

「例え亜人を全て殺し、ロデニウス大陸を統一したからといって、その後パーパルディア皇国に滅ぼされる可能性もあるというのに…」

 

アルダはそう呟き、王国の巨大な港湾を見つめる。かつて数千隻の大艦隊が停泊していた港にはほとんど船の姿は見えず、この港に一体どれ程の船が戻ってくるのか、彼には予想だに出来なかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

クイラ王国沖 ロウリア王国海軍東方征伐第二艦隊

 

「いたぞ!全艦戦闘配置!」

 

艦隊旗艦「ウラガン」の艦尾船楼で、筋骨隆々な肉体が特徴的な、艦隊司令のワーニ海将は、魔信機に向かって叫び、指示を出していく。

最大でも全長40メートル程度のガレオン船やガレアス船が主力のこの艦隊の中で、それらよりも圧倒的に巨大なガレアス『艦』は、百本以上のオールを百足の足の様に動かし、多くの軍船を周囲に纏わせながら進んでいた。

古代ロデニウス文明の遺跡に遺っていた超技術と、パーパルディア皇国から受けた技術支援をもとに開発・建造されたこの巨大艦は、木材に木の精霊を憑依させて自己修復・再生能力を持たせた『樹神の加護』で構成され、全長200メートルという木造船の限界を超えた巨体を維持している。また5本のマストの付近には、風魔法で風圧を調整し、人工的な風を発生させる魔石使用型魔導装置『風神の涙』を装備し、艦底部に装備された、水魔法で『風神の涙』に近い働きを行う魔石使用型魔導装置『海神の魔靴』と合わせて、100ノットという全長200メートルの木造船らしからぬ速力を生み出している。

そういった尋常ならざる力を生み出すために、「ウラガン」の中心部には強大な魔導力を発生させる魔導炉が装備されており、日光や熱、風などの自然エネルギーを魔素に変えて、魔石加工燃料と混合させて動力用の魔導力に変換している。そして現在、敵艦隊に『挨拶』をかますために、11ノットという低速で進みつつ、艦首にエネルギーを溜めていた。

 

「ワーニ海将、『ブラフマストラ』発射準備完了!」

 

「この一撃で敵艦隊を一掃してくれよう…ミラー展開!艦首光魔法発生装置、出力最大!」

 

「ウラガン」艦首の大きなハッチが、奴隷達にロープで引っ張られて開き、一枚の銀色の皿状の物体が現れる。その物体の中心部には、一本の細長い突起物が伸び、そこからは黄色い光が発せられていた。

 

「目標、前方敵艦隊!」

 

「艦艇、射線上より退避完了!」

 

「フフフ…我がロウリア王国の正義の鉄槌を食らうがいい。『ブラフマストラ』、発射ー!」

 

ワーニの号令と同時に、突起物の先端から幾つもの黄色のレーザーが放たれ、ミラーに吸収されていく。ミラーは白く発光し、艦首全体を白い光に包み込んでいく。

その瞬間、「ウラガン」の艦首から前方に向け、眩いばかりの光とともに、白く巨大な光の奔流が放たれる。

光の奔流は海面を抉り、波しぶきと湯気を起こしながら一直線に進んでいく。その異変に気付いた前衛の日本艦隊は、緊急回避に移った。

事前に「ウラガン」の異変に気付いた4隻は、射線上から逃れる様に舵を切り、全ての艦が光の奔流から逃れる。しかし、影響範囲は彼らの予想外であった。

 

「うぉっ!?」

 

「一体、何の光!?」

 

「なんて出力なんだ!?」

 

「やましろ」の艦橋要員一同が悲鳴を上げ、その場に倒れこむ。艦橋のガラス窓は全て水飴の様に溶け落ち、露出している右舷側アンテナの幾つかが黒く変色する。

 

「くっ…損害報告!」

 

「右舷アンテナ群、機能停止!レーダー及びFCSの一部に障害が起きました!」

 

乗組員からの報告に、艦長は顔をしかめ、すぐに対処を行う。

 

「FCS、手動操作に切り替え!システムの復旧急げ!」

 

「艦長、後方のクイラ王国艦隊が!」

 

すると、見張り員が顔を青くしながら後ろを指さす。双眼鏡で後方を見ると、後ろを追いかけていたクイラ王国艦隊は、半数が敵艦の光線兵器を食らって炎上し、艦隊は崩壊しかけていた。

 

「なんて威力だ…メーサー砲以上の威力はあるぞ」

 

「出来る限り敵の真正面に出ない様に気を付けねばならんな…第三戦速、ようそろ!敵大型艦の右舷に回り込む!」

 

「了解、取り舵アイ!」

 

「「あいづ」「あこう」「くらま」に伝達、我に続け!単縦陣で敵艦隊を攻撃する!」

 

4隻は陣形を組み直し、30ノットの速力で左に舵を切る。中央の大型艦が艦首を日本艦隊に向けようとしていたが、あまりの加速の速さについてこれず、加えて周囲の味方軍船が邪魔になって攻撃しあぐねていた。そうこうしているうちに4隻はロウリア王国艦隊の右側に回り込んだ。

 

「照準よろし!補正よろし!」

 

「よし、攻撃始め!」

 

艦長の号令と同時に、4隻はロウリア王国艦隊に向けて一斉に砲撃を開始する。

四一式45口径35.6センチ連装砲4基8門と、73式54口径12.7センチ単装砲4基4門、オートメラーラ54口径12.7センチ単装砲4基4門の計15門が火を噴き、大量の砲弾がロウリア王国艦隊に降り注ぐ。

35.6センチ対地キャニスター弾が数隻の軍船を海面ごと刻み、12.7センチ榴弾がガレオン船を一撃で火だるまに変える。何隻かが舵を切って日本艦隊に向かおうとしたが、距離を3000にまで縮めた時、「やましろ」に搭載された『ゴールキーパー』30ミリCIWSが迎撃を開始し、軍船を撃破していく。

 

「右翼第3・第4戦隊、全滅!他にも被害甚大!」

 

通信士の報告に、ワーニは顔を歪ませ、大声で命じる。

 

「他艦は先にメナジへ向かえ!あの船団は本艦が直接沈める!」

 

ワーニは通信士に指示を飛ばし、攻撃を続ける日本艦隊を睨み付ける。そして「ウラガン」操舵手に命じた。

 

「出力最大!敵艦隊に向かって突撃する!」

 

「りょ、了解!」

 

操舵手は舵輪の近くに設置された、タッチパネル式の操作盤に手を触れ、様々な文を書き込んでいく。直後、「ウラガン」の奥から何かが震える様な音が響き渡り、周囲を大きな風が包み込む。

 

「「ウラガン」よ、見せて貰おうか。古代ロデニウス文明の真の力とやらを!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

異変に気付いたのは、「やましろ」の見張り員であった。

 

「敵大型艦、回頭始めました!…え?早い!」

 

「何?」

 

報告を聞いた艦長は、双眼鏡を片手にロウリア王国艦隊を見る。

巨大ガレアス船は、味方の軍船を避けながら左に曲がり、両舷から伸びる大量のオールをばたつかせながら進み始める。オールの起こす波は次第に大きくなり、白い波しぶきを起こしながら加速していく。危機を察した艦長は、咄嗟に操舵手に命じた。

 

「操舵手、主舵一杯!最大戦速で進め!」

 

操舵手がハンドル式舵輪を回し、「やましろ」は右に大きく傾きながら回頭を始める。直後、衝角突撃を仕掛けようとした巨大ガレアス船は、船にあるまじき速力で「やましろ」の横を通り過ぎ、甲板や主砲に波が覆い被さる。

 

「敵艦増速!40…50…ありえない、さらに増速しております!」

 

「何ですって!?おかしい、オール推進式の木造船がそんな速力を出せる筈がないわ!」

 

「ですが、現にかなりの高速で反転してきます!」

 

CICで、レーダーで敵艦を観測していた乗組員が、敵大型艦の脅威の速力に対して驚愕の声を上げながら報告する。藤田達が戸惑う合間にも、敵大型艦は速力を上げ、大きなカーブを描きながら日本艦隊に向かって再び突っ込む。「やましろ」はバウ・スラスターも使いながら左に舵を切り、二度目の突撃を躱す。敵大型艦は再び大きなカーブを描く様に右に回り、牽制として側舷の魔導砲や『雷神の飛槍』を放つ。「やましろ」も単装砲で応戦するが、敵艦の船の枠組みを超えた速力にFCSが付いてこれず、砲撃は空を切っていた。

 

「艦長、敵の速力は100ノットにも達しています!このままでは敵艦の突撃を食らうのも時間の問題です!」

 

藤田が艦橋にいる艦長に声を上げる中、艦長は静かに、大きな波を立てながら爆走を続ける敵大型艦を見つめる。そして、マイクを近づけて藤田に命じる。

 

「藤田、主砲全てを右舷に指向。砲塔内の照準器で直接射撃しろ。仰角は零度、弾種は榴弾だ」

 

「砲塔の照準器で、ですか…?」

 

「ああ。私の指示と同時に放つ様に。タイミングはこちらから伝える。準備してくれ」

 

「りょ…了解!」

 

艦長は藤田の返事を聞き、ロウリア王国艦隊の足止めを行っている「あいづ」と「あこう」に指示を飛ばす。

 

「「あいづ」と「あこう」は、SSMを発射準備。本艦が敵大型艦を攻撃し、これの速力が止まったところを見計らって、一斉攻撃を仕掛けろ。確実に仕留めてやれ」

 

『了解!』

 

艦長は指示を出し終わり、再び視線を前に向ける。そして操舵手に命じた。

 

「主舵30度、前進全速!文字通りぶつける覚悟で進め!」

 

艦長の命令に、操舵手は目を丸くする。というのも、そのままの進路で進むと、三度目の突撃を仕掛けようとする敵大型艦と真正面から衝突する事になるからである。

 

「艦長、その進路だと、敵かんと真っ向からぶつかります!危険では?」

 

「ただぶつかるだけで指示を出すか。衝突する寸前に左に舵を切り、激突を回避する。その瞬間に全ての火力を敵に叩きこむ!」

 

艦長は操舵手にそう言い、真正面を睨み付ける。2隻は真正面から互いに最大速力で進み、瞬く間に距離を詰めていく。互いの距離が1キロを切ったその時、艦長は叫んだ。

 

「今だ!」

 

操舵手が直ぐにハンドルを回し、バウ・スラスターも使って「やましろ」は左に滑り込んでいく。建造されてから100年以上経つ船体から軋む音が響き渡り、乗組員は揺れに必死に耐える。「やましろ」の艦首が「ウラガン」右舷側のオールの1本に接触し、木が勢いよく折れる音が聞こえ、艦長は大声で藤田に命じた。

 

「主砲、てーっ!」

 

艦長の叫びの直後、「ウラガン」右舷側の魔導砲と『雷神の飛槍』が上を向き、「やましろ」艦橋に狙いを定める。そして「やましろ」と「ウラガン」の武装が、ほぼ同時に火を噴いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ミサイル護衛艦「あいづ」艦橋

 

「艦長、「やましろ」が!」

 

乗組員の悲痛の叫びに、「あいづ」艦長の崎田は、双眼鏡を構えて2隻を見る。

2隻は一瞬で炎と煙に包まれ、互いに速力を落とす。崎田は暫し茫然となるが、直ぐに我を取り戻し、命令を発した。

 

「っ、SSM発射始め!」

 

2隻の74式八連装ミサイル発射機から、ハープーン対艦ミサイルがそれぞれ4発、計8発発射され、35.6センチ砲弾8発を零距離で被弾し、炎上している「ウラガン」に向かって殺到した。

鋼鉄製の大型艦すら完全破壊する程の威力を持つハープーン対艦ミサイルが突き刺さり、弾頭部が起爆。木造の船体は跡形もなく吹き飛び、複数の魔石と反応して色とりどりの火柱が聳え立った。

「ウラガン」の轟沈を目の当たりにしたロウリア王国艦隊は、たちまち士気を落として反転を開始し、ロウリア王国への逃走を開始する。崎田はそれを見送り、乗組員に指示を飛ばす。

 

「これより敵兵士の救助を開始する。クイラ王国艦隊にも協力を仰げ、急げ!」

 

『了解!』

 

すぐさま3隻からボートが降ろされ、残存艦艇に見捨てられたロウリア王国艦隊兵士の救助を開始する。身柄の保護は常々クイラ王国艦隊に伝えられ、クイラ王国近海の防衛に参加していた海上自衛隊派遣艦隊や、クイラ王国海軍第二艦隊も急行して、概算でも数千人以上はいると見られている漂流者の救助に当たっていく。その中で「あいづ」は「やましろ」に接近し、乗組員の安否を確認する。

 

「こちら「あいづ」、「やましろ」応答せよ。繰り返す、こちら「あいづ」、「やましろ」応答せよ!」

 

崎田が必死に呼び掛け、返事を待つ。すると、雑音混じりに藤田の返事が返ってくる。

 

『…ちら、「やましろ」…現在、第二艦橋にて操艦中…』

 

「…第二艦橋…第一が潰されたのか…!?」

 

「やましろ」からの通信に崎田は、顔を青くしつつ、火災が収まりつつある「やましろ」の上部構造物を見上げた。

 

この日、後に『クイラ沖海戦』と呼称されるこの戦いにて、海上自衛隊臨時護衛隊は、ロウリア王国艦隊1500隻と交戦し、900隻を撃沈。600隻はロウリア王国へと逃げ帰って行った。

しかし、「やましろ」もまた損傷を負い、自衛隊の作戦計画は大幅な修正を迫られる事となった。




次回、戦いは陸上に移ります。


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第7話 エジェイを防衛せよ

原作ブログ版で、石油がどうのこうの言ってる奴がいたけど、日本にも陸上油田あるで?(国内消費量のうち0.3パーセントが、秋田と新潟辺りの油田等。なお採掘量は0.3パーセントという数字からお察し
あと、帝石という企業を知らんのかね?製油もENEOSとか出光が協力するだろうし…それに外伝1でも油田の事が書かれているのに…これだから紙の本を読まない最近の若者は…(そういう自分も若者
さて、陸上戦が始まります。


中央暦1639年4月30日 クワ・トイネ公国 蓮の庭園

 

「…以上が、今回のロデニウス沖・クイラ沖両海戦での結果です」

 

政治部会の中心部で、ブルーアイの報告が終わり、カナタ達は終始圧倒された表情を浮かべる。魔素位相式魔導映像で日本や台湾の艦隊の写真と、海戦後のロウリア王国艦隊兵士救出の様子が映し出され、彼らの手元には、自衛隊がまとめた海戦の経緯のレポートが渡されていく。そのレポートには、日本の兵器の性能とともに、この時に使用された戦術の色々が載せられていた。しかし、あまりにも隔絶した戦術と兵器の性能ばかりであったため、理解できた者は少数であった。

 

「…これでどうにか、海上の心配はあまりしなくていいだろうな。だが、ロウリア王国艦隊がこんな化け物を作っていたとは…」

 

カナタはそう呟きながら、一枚の写真を机の上に置く。その写真は、日本製のカメラを持って潜入した諜報員の得た情報で、それには1隻の大型艦が映し出されていた。

超巨大ガレアス船「ウラガン」。クイラ沖でクイラ王国艦隊を半壊させ、「やましろ」ら日本艦隊をも苦しめた未知の脅威。この1隻と戦った時に「やましろ」は艦橋を損傷し、艦長ら数名の乗組員が死亡したとの事である。この超兵器を非常に危険な存在と捉えた日本・台湾両政府は、ロウリア王国軍が更なる未知の兵器を有していると見て、クワ・トイネ公国に積極的に協力する事を決定。現在三国が知り得る情報及び自国の軍の戦力及び状況の共有が行われていった。

 

「それと首相、日本国政府及び台湾政府より、エジェイの東側5キロの地点、ダイダル平野に、3キロ四方の土地の貸出許可を求めてきております」

 

ミトウはそう言いながら、自身とリンスイ外務卿のサインが書かれた書類がカナタの前に置かれる。そこには、大陸共通言語の文字で、『ダイダル平野での自衛隊・中華民国軍基地の建設許可』と、その理由が書かれていた。どうやらエジェイ付近の荒野に基地を造り、ロウリア王国への反抗拠点を設ける予定らしい。

 

「あの場所は、利用価値が低い土地だからな…分かった、許可しよう。これで我が国が救われるのなら大歓迎だ」

 

カナタはそう言って、羽ペンを持ってサインを書き始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

城塞都市エジェイより東に5キロ ダイダル平野

そこでは、数十両の車両が動き回り、土地を平らに均してはアスファルトを舗装し、基地を土台から造り上げていっていた。

 

「城壁は必要ないのか…?」

 

その様子を見ていた、公国砲兵団団長のキースは不安げな表情を浮かべながら呟く。すると、隣に一人の男が現れ、説明を始めた。

 

「大丈夫ですよ、キース団長。我が軍は少数精鋭が基本。如何に何万という大軍勢で攻めて来ようとも、地形を理解して立てた戦術と、こちらの兵器の情報を持たない限りは大丈夫です。それに、航空機が離着陸する飛行場が完成すれば、航空支援もやりやすくなりますしね」

 

陸上自衛隊士官の男はそう言いながら、大きなコンテナを懸吊して空輸してくる数機の白い大型機を見上げる。

現在、ダイダル平野の中心部にて陸上自衛隊と中華民国陸軍は、対ロウリア王国軍攻撃用拠点となる仮設基地と飛行場を建設していた。飛行場はもしもクワ・トイネ公国が航空機を運用し始めた場合に、民間に空港として売却する予定があるため、管制塔やハンガーは仮説ではなく本格的なものとして建設が進められている。加えてロウリア王国軍が特殊な航空兵器を配備しているという情報も入っており、それを受けて滑走路の周囲には、日本から手間を惜しまずに運んできた『ホーク』地対空誘導弾や03式中距離空対空誘導弾が配備され、滑走路も頑丈に造られていた。

 

「だが、エジェイの西側ではなく東側に建設して、大丈夫なものか?我々はそれを危惧しているのだが…」

 

キースの言葉に、士官の男は自信ありげに頷く。

 

「ご安心下さい、キース団長。公国は確実に守り抜きますので。それが、我らの仕事ですから」

 

男はそう言って、作業に戻っていく。キースは、相変わらず浮かない表情を浮かべ、作業を眺めていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

中央暦1639年5月21日 クワ・トイネ公国西部

陸上自衛隊派遣部隊は、逃げ遅れた公国住民を保護し、安全な場所まで避難させるべく、攻撃ヘリ・汎用ヘリからなるヘリコプター部隊を展開していた。

 

「…ハンター1よりコマンダー1、避難途中のエルフの住民を確認。その後方200メートルに、住民を追撃しているロウリア王国軍騎兵を確認。数は凡そ200」

 

先頭を進むAH‐1S〈コブラ〉の報告に、隊長機であるUH‐60J〈ブラックホーク〉多用途ヘリコプターに乗る第6小隊隊長の神尾は、即座に指示を飛ばす。

 

「先頭の隊長格と取り巻きを優先的に潰せ。それでも止まらない場合は全て倒してもよい」

 

「了解!」

 

神尾からの指示に従い、〈コブラ〉は機体を前に傾け、一気に加速する。そして機首下部に装備されたM197ガトリング砲を敵騎兵に向けた。

 

「攻撃開始!」

 

毎分750発の連射速度を持つ20ミリ3砲身ガトリング砲が火を噴き、エルフの避難民最後尾に襲い掛かろうとしていた敵騎兵を蜂の巣に変える。突然の攻撃に、後続の騎兵達が驚いて急停止するも、直ぐに追撃に入ろうとする。そこへ2機が増援に加わり、一斉に機銃掃射を浴びせる。わずか30秒で200人いた騎兵は乗っていた馬ごと挽肉となり、消滅した。

 

「敵騎兵、殲滅を確認」

 

「了解。これより避難民の収容を開始する。ハンター隊は引き続き警戒を続行せよ」

 

「ハンター1、了解!」

 

〈コブラ〉が上空を警戒する中、〈ブラックホーク〉やCH‐47〈チヌーク〉は着陸し、避難民の収容を開始する。

余談だが、この時エルフの民間人から伝説の戦士達と誤解され、ひと悶着があったという。そしてこの時のエルフ達の協力により、日本はこの世界の神話に伝わる『古の魔法帝国』を知る事になる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

中央暦1639年7月22日 城塞都市エジェイ市

かなり以前からロウリア王国との戦争に備えて築かれたこの城塞都市は、半径5キロ、最長32キロにも及ぶ長大な城壁に囲まれており、その内部は複数の城壁が仕切って区画を形成し、万が一外城壁が突破された時に備えた造りになっている。内部には複数の水源や食糧庫、ワイバーン舎に武器生産工場が築かれており、長期の籠城戦にも対応できる様になっている事から、公国随一の堅牢さを有していた。

そしてその城塞都市には、公国の名将として名高いエジェイリ・ノウ将軍率いる公国騎士団西部方面師団4万人が配置され、敵の侵攻を待ち構えていた。

 

「ノウ将軍、日本と台湾の将軍が参りました」

 

それを聞いたノウは、報告してきた部下の方に振り返って頷く。そして会議室に、二人の同年代の男を先頭に、日本と台湾両国の陸軍将校6名が入室する。彼らは緑と茶色の斑模様の服を着ており、装飾が施されたノウの服に比べるとみすぼらしく思えた。

 

「初めまして、ノウ閣下。日本国より派遣されました陸上自衛隊第7師団団長の大内田です」

 

「台湾より派遣されました、中華民国陸軍第11連隊隊長の張です。閣下、お初にお目にかかります」

 

二人の指揮官はそう言ってノウと握手し、ノウは自己紹介を行う。

 

「これはよくおいで下さりました、大内田将軍に張将軍。公国騎士団西部方面師団団長のエジェイリ・ノウと申します。この度の援軍に感謝します」

 

ノウはそう言って、地図を広げ、複数の駒を浮かべて説明を始める。

 

「現在、ロウリア王国軍はギムより東に50キロ、チアレ平野に陣を構え、このエジェイを狙っております。我がエジェイは公国最強ともいわれる鉄壁の城塞都市、如何に人海戦術を得意とするロウリア王国軍でも抜く事は不可能でございましょう」

 

高圧的な話し方に、日本語を話せるという理由で派遣部隊に選ばれ、1個連隊を指揮する事になった将官である張は眉を顰める。どうやら相手は本音では援軍を快く思っていないらしい。無理もない。こうも簡単に自分達の守るべき国土の防衛を別の国に任せているのは癪に障るというもの。ただ、大内田達は在日米軍の影響力が強かったために、その自覚が薄れかけているらしいが。

 

「甚だ心外ながら、我が国はロウリア王国に侵略され、彼の国に一矢報いようと国の存亡をかけて立ち向かっております。我らの誇りにかけて、ロウリア王国軍は我らが退けます。両国の陸軍はどうぞ安心して、貴方がたが作った基地から出る事なく、後方支援をして頂きたい」

 

ほぼ直接『邪魔者は引っ込んでいろ』と言ってきたノウに対し、張は少しだけムッとする。すると、大内田はノウの心中を知ってか知らずか、自信満々な調子で話し始める。

 

「分かりました。我々は臨時駐屯地から後方支援を行います。ただ、我らは敵の位置・戦局を本国の統合幕僚本部と作戦本部に送る必要があるので、観測要員を50人程エジェイに置かせてもらえませんか?また、クワ・トイネ公国軍の動きを把握している方との連絡も密にしたいので、通信士の同行の許可をお願いしたく存じます」

 

「連絡要員を、ですか?まぁ本国に報告する義務もありましょう。許可します」

 

大内田の『お願い』に、ノウ達西部方面師団上層部は首を傾げつつも、許可を出す。すると今度は、張がノウに話しかける。

 

「では、ノウ閣下。我々陸軍連隊のうち2個中隊を、エジェイ内に展開させて頂けませんか?あくまで公国騎士団の皆様の『後方支援』ですので…それと、観測機器及び各種テレビジョンを持ち込んでもよろしいでしょうか?貴方がたも戦局を理解しやすくなると思いますし…」

 

張の説明に、ノウは「そうか」と言って頷き、許可を出す。そして情報交換を終え、会議は終了した。

会議が終わり、大内田と張は部下を引き連れ、エジェイ城の広場に停めていたジープに乗り込む。そして駐屯地へ戻る中、張は大内田に話しかける。

 

「大内田、お前、邪魔者扱いされていたぞ。気付かなかったのか?」

 

「えっ…?私にはそうは見えなかったが…むしろ、身をもって我らに被害が及ばない様に取り計らっている様に思えたが…」

 

大内田の言葉に、張はため息をつき、苦い顔を浮かべながら話す。

 

「どうやら、相手さんは戦果と『公国をロウリア王国軍から守った』という誇りを独占したいらしい。それに、自国の防衛のために他国の軍隊を易々と招き入れるなんて、軍人としての誇りに傷がつくかもしれない。お前だって分かるだろう?」

 

張の言葉に、大内田はその言葉を理解し、複雑な表情を浮かべる。これまで自衛隊が大幅な軍拡をせずにいてこれたのは、ひとえに在日米軍の存在があったからであり、その事を忘れていない者は多くないであろう。しかし現在、アメリカ本国との連絡が途絶えている今、在日米軍は全てが機能停止に陥っており、現在旧太平洋沖に確認された無人島を開拓し、そこにアメリカ大使館を中心とした自治政府を作り上げて、機能回復を目指しているところである。

 

「…まぁ、ノウ閣下も、大砲という兵器の事をよく理解していないらしいし、ここで我らの力をしっかりと理解させて、下手な衝突が起きる事の無い様にしてやりましょうか。で、大内田。航空支援はどうする?」

 

「そうですね…すでに飛行場は完成していますし、空自に協力を要請しましょう。一応ロウリア王国軍にも攻撃の警告を送っておかなければなりませんし」

 

「そうか…警告はそちらに任せよう。で、大内田。次にクワ・トイネ公国の顔を立てるための対策だが…」

 

二人は綿密に作戦の打ち合わせを進め、如何に戦うかを決めていく。そして駐屯地に到着し、すぐに準備が開始された。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

エジェイより西に5キロ ロウリア王国陸軍東方征伐軍前衛部隊

ジューンフィルア伯爵率いるロウリア王国陸軍東方征伐軍第一前衛団4万と、アデム率いる第二前衛団4万の計8万は、エジェイまであと5キロという距離で止まり、野営を行っていた。

 

「現在、公国軍は要塞西部に魔導砲を設置し、かなりの警戒を行っている模様です。如何しますか?」

 

兵士からの報告に、ジューンフィルアは腕を組んで黙り込み、アデムも流石に滅多な事を言わずに冷静に思索にふける。

 

「魔導砲を複数配置しているか…ワイバーンで城壁上を攻撃してから攻勢に出るか…?」

 

「だが、エジェイには確か、貴重なアダマン鋼を矢じりに使用した対空用バリスタが複数配備されているという話がある。迂闊に攻めには行けないな…」

 

ジューンフィルアは参謀や副官と話し合い、取れうる最善の攻撃計画を模索する。すると、アデムが提案してきた。

 

「では伯爵、我が第2前衛団と魔獣兵団が、二手に分かれてエジェイを迂回し、東部から挟撃致しましょう。エジェイはいかに難攻不落といえど、我が魔獣兵団ならば、魔導砲の存在せぬ城壁など突破は容易というもの。それに、我が軍には『空中砲艦』がございます。空中砲艦に数人兵士を乗せ、空中からの砲撃で城壁を崩し、攻勢の機会を作るという手も使えましょう。それに、いざとなれば『あの手』も残っておりますしね」

 

アデムの提案に、ジューンフィルアは背中に寒気を覚える。しかし、成功すればその後の公都クワ・トイネへの侵攻は楽なものになるだろうし、自軍の損害も軽いものとなるであろう。

 

「成程…よし、すぐに準備を進めてくれ。これでクワ・トイネ市への侵攻が楽になるのなら儲けものだからな」

 

「ははっ!」

 

アデムは薄気味悪い笑みを浮かべながら離れていき、ジューンフィルアは深く息を吐きながら空を見上げた。

 

「亜人相手と言えど、外道な戦術…これは皆、ろくな死に方をしないかもな…この私も含めて…」

 

ジューンフィルアの呟きは、誰も聞かぬ予言として成就する事になるのだが、それはもうすぐ訪れようとしていた。




次回、エジェイ会戦開始。


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第8話 エジェイ会戦

エジェイ会戦開始。


中央暦1639年7月26日 エジェイ西部

 

ノウは、焦燥感に囚われていた。

 

「おのれロウリア王国軍め…我が軍を焦らして来おって…」

 

この時、ロウリア王国軍は数日に渡り、少数の斥候を放っては挑発行動を行うという事を繰り返しており、兵士達の鬱憤は日増しに高まる一方で、士気は次第にすり減って行った。

 

「しかし、相手も中々やりますな。この様にいつ本格侵攻してくるのか分からない様に挑発行為のみで仕掛けてくるとは…相手は中々の策士です」

 

すると、エジェイに来ていた張がそう呟きながら、双眼鏡を覗く。すると、数機の〈UH‐60〉が戻ってくるのが見えてきた。1時間前、陸上自衛隊ヘリコプター部隊はロウリア王国軍に対し、撤収・退却と攻撃の勧告が書かれたビラを撒いて来たのである。しかし、それが受け入れられる可能性は限りなく低いであろう。

 

「さて閣下、そろそろ司令部に戻りましょう。ついでに砲兵団にも戦闘配置を整える様に指示お願いします」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

陸上自衛隊・中華民国陸軍ダイダル合同駐屯地

 

「これ…持ってきていたんだ…」

 

真上から見ると六芒星の様に見える駐屯地の敷地内で、陸自隊員と台湾陸軍兵士は、目の前にある車両を見て呟く。

90式メーサー殺獣光線車と11式自走型レールガン。怪獣に有効なダメージを与えるために開発された、特生自衛隊の装備がこの駐屯地に運び込まれているという事は、敵はそれなりに強い存在であり、かつ油断と慢心が許されないという事なのであろう。また、面制圧用火器であるMLRS(多連装ロケットシステム)には対メガニューラ迎撃用対地・対空クラスター弾頭ロケット弾が装填され、99式自走りゅう弾砲やM110・203ミリ自走榴弾砲が、地平線の彼方にいるロウリア王国軍の方角へ砲身を向ける。

 

「大内田司令、攻撃準備が整いました」

 

陸上自衛隊司令部で、部下の隊員が大内田に報告する。さらにエジェイにいる観測要員からも報告の通信が入る。

 

『こちらエジェイ観測部隊、ロウリア王国軍は現在、エジェイに向かって進行中。結構な数です!』

 

「そうか…」

 

観測員からの報告に、大内田は顔を下に向け、目を瞑る。どうやらどうあっても戦いは免れない模様である。

 

「…エジェイまであと2キロ近付いた時点で攻撃を開始する。砲撃用意!」

 

大内田の号令に従い、全ての自走砲の砲身が上を向き、準備を完了させる。そして観測員からの報告でロウリア王国軍が所定の位置にまで接近した事が伝えられると、大内田は大声で命じた。

 

「撃ち方始め!」

 

大内田の命令は即座に各自走砲に伝えられ、台湾陸軍兵士には日本語の分かる将校が指示を訳して飛ばす。

指揮者、大内田。演奏、陸上自衛隊特科大隊及び台湾陸軍砲兵大隊。

多くの命を死に誘う砲火の協奏曲が今、始まる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロウリア王国陸軍 東方征伐軍第1前衛団

 

「全軍、突撃!」

 

小高い丘の上から、ジューンフィルアがトランシーバー型魔信機片手に、全軍に指示を飛ばす。軍勢は歓声を上げ、横に長い隊列を組み、ゆっくりと前進を開始する。数だけならばクワ・トイネ公国騎士団の総戦力の8割にも上る前衛団は、大盾を前に突き出し、長大な槍を構えた重装歩兵を前に、大勢の歩兵や騎兵が後に続く。後方には弓兵が並び、支援射撃の準備を整える。

上空には、支援用の空中砲艦が15隻と、護衛のワイバーン60騎が付き、最初にこのワイバーンと空中砲艦が城壁を破壊し、地上の軍勢が破壊箇所からエジェイ内部に流れ込んで、総攻撃を行う。まさしくジューンフィルアにとっては必勝の戦術であった。また、兵士自身も日本からの警告を挑発と受け止め、士気は多いに向上していた。

だがこの時、ジューンフィルアは得も言われぬ不安に襲われていた。

 

「…しかし、一体なんだこの寒気は…それに、エジェイも妙に静か過ぎる…これは一体ー」

 

その時であった。ジューンフィルアの思考は、その場に響き渡った轟音によって不意に中断させられた。

突如、最前列の重装歩兵の隊列が、一瞬で炎と煙の柱に呑み込まれ、鎧や肉片をまき散らしながら『消滅』したのだ。上空を飛んでいた空中砲艦とワイバーンも、最前にいた砲艦と騎が、白い煙を噴き出しながら飛翔してくる物体に襲われ、物体が炸裂してまき散らす無数の炎の玉にズタズタに引き裂かれ、隊列の上に落ちていく。

 

「な、何が起きた!何が一体!」

 

ジューンフィルアの問いに答えられる者はだれ一人としておらず、瞬く間に火柱と土煙に吹き飛ばされ、炎の雨に降られて焼き焦がされ、地面と攪拌される。上空では数機のワイバーンよりも巨大な灰色の飛行物体が飛び回り、光の槍を放ってはワイバーンを吹き飛ばし、空中砲艦を光の雨で粉々に粉砕していた。

 

「こんな…こんなバカなぁぁぁぁぁ!!!」

 

周辺に響き渡る程の絶叫の直後、ジューンフィルアの意識は、彼に直撃した155ミリ榴弾の炸裂によって空の彼方へ吹き飛ばされた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

エジェイ城 西部方面師団総司令部

 

「な…」

 

公国騎士団西部方面師団の司令部は、沈黙に包まれていた。

目の前に設置された、二つの大画面。片方では、ロウリア王国軍に向けて砲撃の調べを奏でる自走砲群の映像が、もう片方では、着弾と炸裂の伴奏を奏でながら、砲撃によって地面ごと耕されていくロウリア王国軍の映像が流されていた。その自身の常識を軽く凌駕する光景に、張はやや誇らしげに話す。

 

「如何でしょうか、陸上自衛隊特科大隊と、我が中華民国陸軍砲兵大隊の長距離面制圧砲撃は。我が軍は最長30キロ彼方の敵すらも、あのように地面ごと耕す事が出来ます。だからこそ我々は、戦場になりうる場所とは反対のダイダル平野に駐屯地を築いたのです。我が方の火砲の間合いを考えましてね」

 

張の説明に、ノウ達公国騎士団将兵はただ顎を外してその映像を見る。城壁に登っている兵士達も今、想像の及ばない遥か彼方から飛んでくる炸裂兵器で焼かれるロウリア王国軍を見ているところであるし、この映像は日本国経由で公都クワ・トイネ市政治部会の面子も見ているところであろう。

 

「…張殿、貴方がたと自衛隊は、全ての兵士が大魔導師なのですか?あの規模と威力、ハイエルフとダークエルフの大魔導師1万人が特大のファイアーボールを飛ばさなくては不可能な程のもの…一体どのような魔法を使えばあの規模の…!」

 

すると、西部方面師団所属魔術部隊を率いる魔導師の男が、顔を青くしながら話しかける。張は、幾つか勘違いをしている事に気付き、丁寧に説明する。

 

「あれは魔法ではなく、地球…我が国と日本の存在した世界の科学技術によって生み出された力。生命エネルギーなんぞでは生み出せないような規模の力を生み出す事によって、あの規模の破壊を生み出しているのです。…まぁ例外が存在するのが、世の常と言うものですがね」

 

張は一旦言葉を区切り、ノウ達に話す。

 

「怪獣王ゴジラ。地球暦にして1954年から日本を中心に出現する大怪獣は、世界自体の持つエネルギーを取り込んで動く化け物でして、アレの放つ炎は、ワイバーンのものとは比べ物にならない程の威力を有している。また表皮も頑丈で、自衛隊の火器でも傷をつけるのに一苦労する程。というか、自衛隊の火器があそこまで強くなったのも、ゴジラとの戦いありきなんですよ」

 

「なんと…そんな神竜の様な怪物と戦ってきた歴史を持っていたとは…」

 

張の説明に、ノウ達はただ目を丸くしながら、話に聞き入る。すると、観測部隊から報告が飛び込んできた。

 

『観測部隊より司令部、敵残余が突撃を開始。数は約2000程ですが…如何しますか?』

 

観測部隊からの報告に、張はマイクを手に取り、大内田に通信を繋げる。

 

「大内田、そろそろ頃合いだろう。いいよな?」

 

『分かった。直ぐに取り掛かってくれ』

 

「…ノウ閣下、西部方面師団の出番ですよ」

 

張の言葉に、茫然としていたノウはハッとして我に返り、城壁上の砲兵団に指示を飛ばす。

 

「砲兵団、迫ってくる敵を排除せよ!」

 

『砲兵団より司令部、了解!』

 

すぐに城壁上のキース率いる砲兵団が動き始め、10門のM-1639-01魔導城砲がロウリア王国軍残余に向けられる。一斉にロウリア王国軍に向けて130ミリ球形炸裂砲弾が放たれ、着弾とともに兵士達がまとめて吹き飛ばされる。城壁上からは陸上自衛隊観測要員が、89式小銃で掃射をかけて後始末を進め、戦闘は僅か5分程度で終了した。

 

『敵軍、全滅を確認。残余は散り散りになって後退していきます』

 

『決まりましたな、ノウ閣下」

 

「あ、ああ…全軍、我らの勝利である」

 

ノウは勝利を宣言するが、一同の顔は暗い。なんせ、本当の勝者はエジェイ後方の自衛隊・台湾軍なのだから。

一同がやるせない気分に浸っていたその時、突然空中を哨戒していた航空自衛隊戦闘機から通信が入ってきた。

 

『こちら航空自衛隊デルタ3、現在ダイダル平野に向けて侵攻してくる敵軍部隊を確認!数は凡そ1万以上!』




ノウ「こんなのオーケストラじゃないわ!ただのレクイエムよ!」

張「いや陸自、ガチで砲声でオーケストラやってるぞ?(総火演のM101によるチャイコフスキー懐かしいなぁ…)」

次回、アデム受難。


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第9話 ダイダル防衛戦

あのセリフを再現するために、久々にトップをねらえ!観た…


中央暦1639年7月26日 ダイダル平野

 

『それ』はまさしく、青天の霹靂であった。

 

『こちら前哨監視線、敵軍接近!繰り返す、敵大軍接近!北西7キロの地点にかなりの数の部隊を展開させている!』

 

前哨監視所からの報告に、ダイダル合同駐屯地に設けられた連合司令部士官は我が耳を疑う。ロウリア王国軍の部隊の一部が、エジェイを回避する形でダイダル平野に向けて侵攻しているというのだ。

 

「北西部に敵の大軍だと!?本当か!?」

 

『そうだ、敵の数が多すぎて、地面がよく見えない!敵が7分で地面が3分、いいか、敵が7分に地面が3分だ!急いで迎撃準備をしてくれ!』

 

すぐに司令部に報告が届けられ、それを聞いた大内田達の表情が一変する。

 

「敵の別動隊だと!?何故こっちに向かって来ているんだ!」

 

「もしや、我らの事を察していたのでは…」

 

「いや、単にエジェイを完全に包囲しようと動いていた隊なのかもしれない。我らの事を知っていたのなら、早い段階でエジェイではなく真っ先にこちらに攻めていた筈だ!」

 

参謀達が激論を繰り広げる中、大内田は手を出して黙らせ、口を開く。

 

「ともかく、こちらに敵が迫ってきている事には変わらない。直ぐに迎撃態勢を取れ!」

 

「りょ、了解!」

 

直ぐに司令部から駐屯地守備隊に指示が飛ばされ、迎撃準備が進められる。そして地平線上に敵の軍勢が現れ、駐屯地に迫っていく。そして駐屯地の存在に気付き、戦闘態勢に入って行った。

 

「敵軍、戦闘態勢に入りました!我らに気付いた模様!」

 

「さらに南西からも敵軍が接近!かなりの大軍です!」

 

報告が相次ぎ、大内田は顔をしかめる。どうやら敵の数は自分達の予想以上だった様である。

 

「気を抜き過ぎたか…距離5000に入り次第、迎撃開始!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

戦闘は自衛隊側の砲声から始まった。

 

「撃ち方始めぇー!」

 

砲台に配備された、FH70・155ミリりゅう弾砲と11式自走型レールガンが火を噴き、迫りくる重装歩兵と大型の蜥蜴を吹き飛ばす。それでも進撃は止まらず、次々と土煙の中から現れては、駐屯地に向かって突き進む。

 

「敵軍、進撃を止めません!」

 

「怯むな!迫撃砲、攻撃始め!1キロ以内に入ったら機関銃による攻撃に切り替えろ!」

 

FH70からL16・81ミリ迫撃砲と120ミリ迫撃砲に切り替えられ、一斉に大量の砲弾の雨をロウリア王国軍に降らせる。それでも砲火を潜り抜けていく者も多く、攻撃は機関銃や小銃による弾幕射撃に切り替えられた。

ロウリア王国軍兵士達に、12.7ミリ・5.56ミリ銃弾の雨が降り注ぎ、防弾チョッキにもダメージを与えうる威力と貫通性能を有した銃弾は、中世の技術力で作られている薄い鉄の鎧を簡単に撃ち抜き、兵士をミンチに変えていく。大型の蜥蜴も、5.56ミリ銃弾は分厚い表皮で弾いたが、M2ブローニング重機関銃の12.7ミリ銃弾までは防げず、瞬く間に蜂の巣となっていく。特に六芒星型の形状を生み出している、6つの三角形の堡塁は、攻め寄せる敵兵を銃火で挟み撃ちする様に造られているため、敵兵は三角形の合間に吸い込まれる様に突っ込み、挽肉に変わっていく。

空からは多くのワイバーンや空中砲艦が攻めるが、各所に配置されたL90・35ミリ連装高射機関砲や87式自走高射機関砲、01式自走対空迎撃システムが対空砲火を撃ち上げ、遠くにいる敵に対しては、『ホーク』地対空ミサイルが使用され、速度が第一次世界大戦時の航空機並みであるワイバーンと空中砲艦は次々と蜂の巣にされて落とされていく。それでもロウリア軍の猛攻は続き、飛行場周辺では90式戦車やM60A3戦車、90式メーサー殺獣光線車が、迫りくる敵兵を一掃して守備していた。やがて、外部をモニターしていたオペレーターから報告が飛び込んできた。

 

「敵軍、6割の殲滅を確認!…あっ、後退していきます!」

 

「敵軍、侵攻を中断!西の方に引き上げて行きます!」

 

「そうか…追撃不要!引き続き警戒を怠るなよ!」

 

大内田の指示が飛び、各所の攻撃が止まっていく。戦闘は僅か10分で終わり、大内田はため息をつく。

かつて日露戦争の旅順攻囲戦では、日本軍は51000人の兵力で6万近くのロシア軍将兵が守る旅順要塞を攻め、三回の総攻撃を経て15400人の命と4か月もの期間を費やして陥落させたという。

しかし今回は、13000人の自衛隊員と台湾陸軍兵士が守る要塞に対し、4万以上の兵士と多数の怪異からなる軍勢が攻め寄せ、現代と中世という隔絶した技術力で造られた兵器が勝敗を決した。だが、次も同じ様に勝てるとは限らないであろう。

 

「…勝って得たものも大きいが、残された課題も大きいな…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロウリア王国軍第2前衛団本陣

アデムは、ただ茫然と立ち尽くしていた。

ハーク・ロウリア王から与えられた精強な兵士が、手塩にかけて育て上げた魔獣と怪異の軍団が、未知の形状をした城塞に吸い込まれる様に消えていく。城塞からは、数体の神竜を潜ませているのではないかと思える程の破壊がまき散らされ、ロウリア王国軍に死をもたらしていく。

 

「あの要塞…もしやクワ・トイネ公国のエルフ共の禁術か!?」

 

「いや…あの要塞からは魔導を全く感じない。あれは、噂の日本国の要塞か?」

 

アデムと、黒いローブ姿の男は話し合い、ロウリア王国軍を呑み込んでいく魔城を見つめる。このままではさらに危険だと判断したアデムは、すぐに新たな指示を出した。

 

「…このままでは、全滅の恐れがあるな…全軍、撤退!パンドール将軍のもとまで後退する!同時に『蟲攻作戦』を発動させる!エジェイもろとも、粉々に砕いてくれるわ!」

 

アデムはそう言い捨てて、馬に乗ってその場を離れていった。

 

この日、後に『エジェイ会戦』と呼称されるこの戦いで、ロウリア王国東方征伐軍第1・第2前衛団は日本・台湾連合軍の砲火を浴び、6万の将兵を失った。その一方で日本・台湾・クワ・トイネ公国三軍の被害は全くの0であり、第三文明圏外史でも稀に見るワンサイドゲームとして歴史書に遺される事になる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

エジェイ西部 強行偵察隊

2機の台湾空軍所属戦闘機、F‐16B〈ファイティングファルコン〉は、強行偵察隊としてエジェイ西部、ギム上空に来ていた。

 

「しかし、あんな多くの兵士をまだため込んでいるとは…」

 

『全く、驚きの声しか出ないな…』

 

ギム周辺に張られたテントの群れをガンカメラで撮影しつつ、2機はその場から飛び去って行く。ワイバーンがそれを追いかけようとしたが、2機は超音速で距離を離し、容易に振り切る。そして飛行場への帰途に付いていた途中で、土煙を上げながら荒野を突き進む、何かの群れを見かける。

 

「何だ、あの群は?」

 

『ちょっと接近してみようか…』

 

2機はゆっくりと高度を落とし、土煙を上げながら進む謎の群れを見る。そしてその群れの正体に気付き、操縦士達は顔を青ざめた。

 

「こ、これは!」

 

『こりゃ特自案件だな…すぐに戻って報告しないといけないな!』

 

2機は直ぐにその群れから離れ、ダイダル合同駐屯地に向かって飛び去って行った。




次回、ジブリ成分とブラブレ成分入ります。


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第10話 怪蟲の荒波

原作ブログ版の感想やAmazonでコミックに色々言っている人、Twitterでの高野氏のコメント見ていないのだろうか?
後ブラックブレットが打ち切りってマジ?


中央暦1639年7月26日 エジェイ

エジェイ城クワ・トイネ公国騎士団司令部では、張がノウと会議を行っていた。

 

「敵は戦力回復のために、しばらく侵攻を停止させる筈です。ですが、再度の侵攻に備え、このエジェイに、我が陸軍と陸自の部隊の一部を配備させておきます。如何でしょうか?」

 

張の提案に、ノウはただ頷く。目の前で日本と台湾の強大な火力を見せつけられた今となっては、ノウの心はへし折れ、完全に日本と台湾の要請を聞く事しか出来なくなっていた。

兎にも角にも、現在はエジェイ周辺の守備を完全に固めなくてはいけなかったため、そのための備えを進めていく。その話し合いが進められていたその時、通信士が顔を青ざめて張に報告してきた。

 

「司令、我が空軍の強行偵察隊より、昆虫型巨大生物の群れがこちらに向かって接近中との事!さらに、周囲警戒に出ていた陸自観測ヘリからも、同様の報告が入っております!」

 

その報告に対し張が顔をしかめる中、ノウ達の表情が一変する。瞬く間に血の色が失せ、身体を小刻みに振るわせていく。

 

「どうしましたか、閣下?」

 

「まさか…いや、ありえん。如何にロウリア王国軍と言えども、そんな暴挙に出る筈が…」

 

「…ノウ閣下、それは一体どういう事ですか?少し詳しく教えて頂けませんか?」

 

張の問いに対し、ノウは青ざめた顔で話し始める。

 

「…古来からこのロデニウス大陸には、神々が世界を創る際に、森林を整えるために生み出したと言われる巨蟲が棲んでおります。その身体は山の様に大きく、山を削り取って耕し、豊かな森に造り替えていく…しかもあらゆる山を崩す程の力から、かつて世界中を破壊せんと目論んだ魔王軍ですら、巨蟲の棲息圏には踏み入れようとしませんでした。また、同族意識が非常に強く、仲間が危機に晒された時には、目を赤く光らせ、敵を全力で蹂躙しにかかります。ですので、我らは出来る限り巨蟲達を刺激せずにしていたのですが…もしも、やり方は分からぬが、彼らを怒らせる様な事をロウリア王国軍がしたとなると…」

 

ノウの説明を聞いた張は、直ぐにダイダル合同駐屯地に通信を繋げ、大内田に話しかける。

 

「大内田、ちと不味い事になってきた。そっちにも情報は入っているか?」

 

『バッチリだ。すぐに特自のメーサー砲とレールガンを向かわせる!』

 

大内田の焦りの混じった声が聞こえ、張は複雑な表情を浮かべながら、謎の大群が来るであろう方を見た。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「き、来ました!」

 

観測要員の報告に、陸上自衛隊員や台湾陸軍兵士、クワ・トイネ公国騎士団員は揃って地平線の向こうを見る。すると、土煙とともに、列をなして進む昆虫型巨大生物が見えてくる。

青い外骨格を身に纏い、幾つもの複眼を赤く光らせて進む芋虫型の巨大生物や、赤い外骨格の大百足、焦げ茶色と緑色の外骨格に覆われた巨大ゴキブリ…様々な巨大昆虫が、砲撃によって耕された荒野を駆け抜けていく。

 

「到達まであと20分!」

 

「砲撃始め!」

 

ダイダル合同駐屯地より、99式自走りゅう弾砲やM110自走榴弾砲、MLRSが一斉に砲撃を開始し、全て巨大昆虫に命中する。エジェイ城壁の前に展開した11式レールガンも、阻止砲撃に参加して超音速で徹甲弾を放つが、前列の個体が即死すれば、後続の個体がそれを蹴散らし、怒涛の波となって進んでいく。

 

「進行が止まりません!」

 

「一体、何十体いるんだ!?」

 

止まらぬ巨大昆虫の大群に、隊員達は額に汗を浮かべる。エジェイ城の司令部では、張が空中に展開しているヘリ部隊から報告を聞いていた。

 

『高度500の地点に、3機の飛行物体を視認!それぞれ、ワイヤーで生物らしきモノを吊り下げています!』

 

観測ヘリから映像が送られ、張達はそれを見て絶句する。それは、3隻の空中砲艦が、数本のワイヤーで下部に生物を吊り下げながら飛行している映像であった。しかも生物の身体には数本の杭が打ち込まれており、そこからポトポトと体液が漏れ出ているのが確認できた。

 

「幼体を使っておびき寄せていたのか…」

 

「日本のアニメーション作品でこんなモノを見た事はあるが、リアルで見ると、これは惨い…」

 

張やノウは顔をしかめ、改めてロウリア王国軍に怒りを覚える。だが、何故エジェイに向かって巨蟲の大群が攻め寄せてきているのかが分かったといっても、これをどの様に対処するのかは至難と言えよう。もしそのまま撃墜していたら、巨蟲の怒りは止まることなくエジェイを踏み潰すだろうし、といってもワイヤーで吊り下げられた幼生体をどの様に回収するのかも浮かんでこなかった。

この問題の解決に頭を悩ませていた、その時だった。外を見ていた観測要員から、エジェイ城に向けて通信が入る。

 

「張司令、陸上自衛隊のヘリ部隊が、ロウリア王国軍の空中砲艦に向かっています!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

陸上自衛隊第6小隊は、3機1組で空中砲艦の上に来ていた。〈UH‐60〉のキャビンで、神尾は左腕に盾を装備し、空中砲艦の上部を見る。

 

「穴がある…真上に来たワイバーンの迎撃用だな?」

 

「隊長、これからどうするつもりですかい?キャビンに立って両手を横に広げるんですか?」

 

「阿呆、オッサンにあの少女のポーズが似合うと思うか?その役目は須崎と藍原にやらせろ。俺は剣豪の方をやるんだよ。お前もな」

 

キャビン内に隊員達のジョークが飛び交い、笑い声も起こる。そして神尾は、盾を前に構え、キャビンから飛び降りた。

 

「よっと!」

 

神尾は背中に背負った、空間機動用バックパックを起動させ、小型ジェットスラスターで微調整を行いながら空中砲艦上部に降り立つ。そして上部のバリスタが設置された穴に入り込み、艦内に着地する。同時に、艦内の乗組員が何事かと振り返る。

 

「っ、遅い!」

 

神尾は瞬く間に敵兵を盾で殴り殺し、右腕のミニミ軽機関銃で撃ち倒す。続いて彼の部下である里見に、小隊内でも少ない女性隊員の須崎と藍原が続き、艦内を制圧していく。やがて操縦室にまで到達し、操縦士は自爆処置を行おうとしたが、その直前で神尾に殴られ、昏倒する。そして神尾は装備を全て外し、里見とともに操縦席に座る。

 

「隊長、操縦できるんですか?構造はヘリとかと全く違いますよ?」

 

「…いや、出来るな。操縦系統は船というより輸送機に近い。計器類も、文字や表記が違うだけで、扱い方はファンタジーっぽくない…いけるぞ!」

 

神尾は目の前の操縦桿を握り、ゆっくりと空中砲艦の高度を落としていく。阻止砲撃を行っていた部隊もそれに気付いて砲撃を中断し、護衛の〈AH‐1〉が代わって阻止攻撃を開始する。空中砲艦の高度が5メートル程度になったところで周囲にいた〈UH‐60〉が降り、数人の隊員がヘリから降りては、幼生体を縛り付けていたワイヤーや、杭に繋がっているケーブルを切っていく。同じ事が他の空中砲艦でも行われ、3頭の幼生体が空中砲艦から解放される。

 

「展開中の部隊、及び城壁に展開している部隊に告ぐ!巨蟲がそのまま城壁に激突する可能性が高い!すぐに避難しろ!急げ!」

 

直ぐに自走砲群が城壁内に避難を始め、空中砲艦やヘリも上昇して退避していく。全ての車両が城壁の内側に避難し、城壁上に展開していた部隊も別の城壁に移ったその時、巨蟲の群の最前列は城壁に激突した。

全高20メートル以上にもなる巨大昆虫の激突によって石製の壁が崩れ、監視塔が崩壊する。しかしそこで進撃は止まり、静かになっていく。

 

「…巨蟲群、進行を停止。後続の固体も停止していきます…」

 

エジェイ城司令部内に、沈黙が訪れる。張とノウは、城の展望デッキに出て、西の方を見る。巨蟲の赤く光っていた目は青く変色していき、ゆっくりと反対側に旋回してすごすごと引き上げて行く。

 

「…どうにかこれ以上の被害を抑える事が出来たか…だが、こんな苦労はもう懲りごりだ」

 

「全くですな、張将軍」

 

張とノウはそう呟きながら、自身の住処へと帰っていく巨蟲の群れを見送った。

 

この日、陸上自衛隊第6小隊は、ロウリア王国軍の空中砲艦3隻を鹵獲。同時にエジェイ崩壊の危機を救った。空中砲艦は直ぐに日本本土に運び込まれ、新世界の魔導技術解析に使われる事となる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

1週間後 クワ・トイネ公国 政治部会

この日、多くの公国政治関係者や諸侯が集まり、エジェイでの戦いの報告会が行われていた。

 

「…以上が、エジェイでの戦闘結果です。ロウリア王国軍は巨蟲の怒りに触れてまでエジェイを落とそうとしましたが、陸上自衛隊と台湾陸軍の派遣部隊の活躍により、前衛団6万とワイバーン100騎以上、空中砲艦40隻を撃破した、との事です。それに対して我が方の損害は軽微、西部第一城壁の一部崩壊と、負傷者12名のみです」

 

魔素位相式静止画像と、日本から輸入したプロジェクターによる映像を交えたノウの報告に、一同はただ静まり返り、改めて日本と台湾の軍事力に驚く。なんせたった13000人で、6万以上のロウリア王国軍将兵を土に還らせたのだから、その驚き様は推して知るべしといったものであろう。ノウの説明は続く。

 

「現在、日本及び台湾は、ギム周辺に展開しているロウリア王国軍部隊を撃滅するために、複数の部隊をエジェイ西部に展開しておりますが…ここで一つ、皆様にお伝えしたい事があります。それはこれです」

 

ノウはそう言って、一つの戦闘直後のダイダル平野で撮られた、生物の死骸の画像を出す。それは、このロデニウス大陸では見かけない、茶色の大きな蜥蜴の画像だった。しかし、それを見たクワ・トイネ公国上層部の目の色が変わる。

 

「これは…リントヴルム!?」

 

「馬鹿な、リントヴルムはフィルアデス大陸にしか存在しない生物、しかもこれを軍に配備しているのは、文明国の限られたところだけだ!」

 

リンスイ等の国の政治に関わる諸侯が、驚きの表情を浮かべながらリントヴルムの死骸の画像を見る中、ミトウは深刻な表情を浮かべ、ノウに尋ねる。

 

「…これはつまり、パーパルディア皇国が本格支援している、という事かね?」

 

「…そうなります。それに、ロウリア王国軍が一体どのようにして、巨蟲を怒らせたのか…恐らくこれにも、皇国の大型魔獣操作技術が関与している可能性も…」

 

政治部会会場内が静かになり、それぞれ暗い表情を浮かべる。

このロウリア王国との戦争の根源には、野望を燃やす列強の思惑がひしひしと感じられた。




次回、猛反撃。


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第11話 東方征伐軍、壊滅

ふと思ったんですが、召喚世界の死生観ってどうなっているのでしょう?誰か代わりに公式に尋ねてくれません?(今更ながら公式から垢バンされてる事思い出した勢


中央暦1639年8月4日 ロウリア王国東方征伐軍前線司令部

アデムは、パンドールと話し合っていた。

 

「そんな…ジューンフィルア伯の団も壊滅したのか?」

 

「ええ…私も信じられませんでしたが、彼らの陣地は全くの荒れ地となり、地面には人が埋め込まれていました。…暫く食事に肉は出せませんねぇ」

 

アデムの報告に、パンドール達は眉を顰める。事前にもしもエジェイ攻略が手古摺る可能性があったのなら、直ぐにこの前線司令部に帰還し、巨蟲の群れに『攻略』を任せる算段が立てられていたのだが、パンドールの予想以上に早く、しかもアデムの第2前衛団のみが戻ってきたため、彼らはかなり嫌な予感しかしていなかった。そしてその予感は、有難くない事に見事的中してしまったのだった。

 

「だが、如何にエジェイが補強され、さらに多くの兵士が集められていたといっても、合計8万の軍勢に攻められて無事で済む筈が無い。一体どういう事だ?」

 

パンドール達が頭を悩ませる中、アデムは一人、エジェイの東側に位置して、自分達を待ち構えていた謎の城塞の事を『多少強い程度に思わせながら』報告するか考えていた。

すると、アデムのもとに黒いローブ姿の男がやってきて、小声で話しかける。

 

「…アデム様、もう戦いはかなりキツイ事になってきたみたいです。『報告』を行って見限るのもそろそろかと…」

 

「…そうですねぇ…」

 

アデムと黒ローブの男は頷き合い、そしてパンドールに話しかける。

 

「パンドール閣下、私は一度王都に戻り、戦況の報告をして参ります。それと同時に、更なる兵力の補充を嘆願して参ります。現場から直々将が報告に来たのならば、王都の上層部も理解して下さるでしょう」

 

「そうか…では、お前に任せた。とりあえず現在の残存兵力をまとめ、公都に侵攻する準備を整える。一応こっちでも他の部隊から兵士を回してもらえる様に取り図ろう」

 

「分かりました。では…」

 

アデムと黒ローブの男は、僅かなお供を連れてその場を離れていく。パンドールはそれを見送ると、地平線の彼方を見つめる。

 

「…あの東の方で、一体何があったというのだ…」

 

パンドールが小声で呟いたその時であった。

突如、空から炸裂音が響き、一同は空を見上げる。すると、上空を哨戒飛行していたワイバーンが、数騎まとめて炎と煙に包まれ、肉片となって地面に降り注いできたのだ。

 

「な、何が起きた!?」

 

「おい、アレを見ろ!」

 

兵士達の叫びに、パンドールは真上を見上げる。すると、灰色の矢じりの形をした飛行物体が、嵐の様な轟音を立てて、稲妻の様な速さで飛び去っていった。さらにその物体の下部から光の塊が放たれ、その光の塊は他に飛んでいたワイバーンに向かって飛び、これを吹き飛ばした。

 

「ななな、何だアレは!?」

 

パンドールと副官達が、ワイバーンを瞬殺した謎の飛行物体に狼狽える中、今度は灰色の巨大な怪鳥が現れ、ギム上空をゆっくりと旋回する。そして、腹部から光を放った。

ギムの周辺に建てられたテントが次々と吹き飛び、土煙が吹き荒れる。兵士はその中で攪拌され、地面と掻き混ぜられる。さらに青色の稲妻が地面を焼き、火災を巻き起こす。稲妻で一瞬で炭化した兵士の死体も合わさって炎は大きくなり、わずか数分で2万以上の将兵が『消滅』する。

 

「な、何が一体、何が起きているんだーっ!?」

 

その時、灰色の怪鳥が本陣の前にまで接近し、猛烈な稲妻と光の雨が降りかかる。パンドールの意識は稲妻の光によって一瞬で蒸発した。

 

この日、陸上自衛隊航空支援機〈AC‐130J〉と航空自衛隊戦闘機〈F‐14J〉の航空攻撃により、ロウリア王国東方征伐軍本陣はギムごと砲撃とメーサー光線で耕され、ギム周辺はただの荒野に変えられた。

これを機に自衛隊・中華民国軍はロウリア王国東部への足掛かりを確保したのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

陸上自衛隊観測ヘリ〈OH‐1〉は、エジェイ以西のロウリア王国軍残党の確認のために、哨戒飛行を行っていた。

 

「全く人っ子一人いませんね」

 

前部座席に座って操縦桿を握る操縦士に、後部座席に座って観測機器を操作する機長が答える。

 

「ほとんど砲撃と空爆で叩きのめした上に、あのデカブツ共が殆どの死体を踏み潰して土と完全に混ぜたからなぁ…暫くこの地には大量の幽霊が出るかもな。この世界にも幽霊の概念があるかどうかは分からないがな…」

 

機長がそう呟いたその時、レーダーに一つの反応が浮かび上がる。そして操縦士が前方を指さしながら叫んだ。

 

「機長、前方にワイバーンです!クワ・トイネ公国の騎ではありません!」

 

「ロウリア王国軍のワイバーンか…一応ここで仕留めておこう。近SAM用意!」

 

〈OH‐1〉は機首をワイバーンの方に向け、速度を上げて接近する。そのワイバーンと跨っている竜騎士は、〈OH‐1〉に気付いたのか、距離を取ろうと動き始める。しかしそうは逃さなかった。

 

「SAM…てぃっ!」

 

胴体側面部のパイロンに備え付けられた筒から、91式地対空誘導弾・空対空型が1発発射され、薄く白いフレアを噴きながら飛翔する。それに気づいたワイバーンは、直ぐに急旋回してミサイルを回避しようとするが、対特殊生物迎撃用に調整されている赤外線追尾シーカーは、変温動物の上に、体内に導力火炎弾発生用炎魔法を蓄えているのもあって体温の高いワイバーンの発する赤外線を捉え、急降下に切り替えたワイバーンをしっかりと追尾する。

そして速度差も相まって命中するかと思われたその時、ワイバーンを手繰る竜騎士から何かが零れ落ちて、日の光に反射しながら91式地対空誘導弾に接近する。そして弾頭部にそれが接触し、91式地対空誘導弾は空中で爆発した。

 

「誤作動!?」

 

「いや、あの竜騎士の持ち物か何かが、携SAMの信管に接触したみたいだ。…まぁ、これでこっちを追ってくるという考えに至る奴はいないだろうよ」

 

予想外の展開に操縦士が目を丸くする中、機長は落ち着いたそぶりで話し、ここから離れていくワイバーンを見送る。そして〈OH‐1〉自体も、その場から離れていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロウリア王国軍飛竜騎士団所属の竜騎士トマス・ムーラは、相棒のワイバーンに跨り、ギム周辺のエリアを偵察していた。数分前から通信が取れなくなっているパンドール達のいるギムの現況を確認するために派遣された彼は、途中で緑色の羽虫(〈OH‐1〉)と遭遇し、追尾してくる光の塊で攻撃されたのだが、何故か光の塊は彼の背後で突然爆発し、どうにか九死に一生を得たのだった。

 

「危なかった…ん?」

 

安堵の溜息を吐き出した直後、彼は腰に付けていた、妻から貰ったお守りがなくなっている事に気付く。急降下する際にお守りが外れ、91式地対空誘導弾の信管に接触したために、ムーラは死なずに済んだのだ。

 

「あのお守りが、俺を守ってくれたんだな…ん!?」

 

すると、ギムの街があった周辺に到着し、そこに広がる光景を見て愕然とする。

本陣は全て吹き飛ばされ、市街地も僅かなレンガ積みの壁が残るのみとなり、兵士『だったもの』が、腕や足の形をした炭となって辺り一面に転がっていた。まるでこの場所に、炎で出来た台風が吹き荒れたかの様であった。

 

「そんな…全て、全滅したとでもいうのか…!?」

 

ムーラに、深い絶望と受け入れ難い現実が重くのしかかる。その後、ムーラは簡易的な修理を終えた魔導無線通信機で、東方征伐軍の壊滅を王都の軍総司令部に伝えた。

 

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ダイダル自衛隊・中華民国軍合同駐屯地

駐屯地敷地内の食堂で、大内田は第7師団主要メンバーや張達中華民国陸軍将兵とともに、食事をともにしていた。

 

「ようやくロウリア王国に反撃を食らわせる時が来た。制空は空自が解決してくれるだろうが、気は抜けん。皆も引き続き頑張ってくれたまえ」

 

「了解!」

 

一同は揃って返事し、カレーやスパゲッティなど、烹炊科特製の料理を口に運んでいく。すると、カツカレーを食べていた神尾が、大内田に話しかけてきた。

 

「陸将、少しよろしいでしょうか?」

 

「何だね、ユパ…じゃなかった神尾、いきなりどうした?」

 

「空中砲艦の件はもうよして下さい…実は今、個人的に『太陽神の使い』という伝承について調べているんですが、その中で幾つか気になる事が出てきたんです」

 

神尾はそう言って、この世界に伝わる伝承を語り始める。

遥か昔、何万という年月という過去に、この世界には『魔法帝国』と呼ばれる存在がいた。

自らを『ラヴァーナル帝国』と名乗っていたその国は、現在存命中のどの大魔導師よりも遥かに強大な魔力を有し、神羅万象は愚か、神の奇跡すらその種を明かす程の知識を司る人々が支配し、常人に及ばない超技術を生み出してこの星全てを支配していた。

しかしその国力と技術力から来る傲慢さは、触れてはならぬ禁忌を犯した。

世界を創り上げた神々の正体と居場所を明かし、その地位を成り代わろうとした罰により、国の存在したラティストア大陸に、巨大な星が降り注いだのだ。

この星を食い止める事は出来ないと判断した彼らは、極大転移魔法でラティストア大陸全体を遥か未来に転移させてこの難を逃れた。属領であったミリシエント大陸に、『遥か先に我ら復活せし(とき)、世界は再び我らにひれ伏す』と書かれた不壊の石板を残して…。

ミリシエント大陸に残っていた人種は、その人口の多さで遺されたラヴァーナル帝国人を圧倒・吸収・絶滅させ、彼らの有していた技術を基に、神聖ミリシアル帝国を建国。何時か復活するラヴァーナル帝国に対抗するために、今もなお彼らの遺した技術と遺跡を独占し、その力を蓄えているという…。

 

「…で、魔法帝国転移後に、この近くにフィルアデス大陸に、魔法帝国が創り出した生物兵器『魔王』率いる魔王軍が現れて、フィルアデス大陸にかつて存在していた国は大半が崩壊したそうです。で、その時に種族間で連合軍を組んで対抗したものの、魔王軍の強さに圧倒されて滅ぼされる危機に面した。その際、エルフ族が神に祈りを捧げたところ、『太陽神の使者』という強力な戦士団が現れ、魔王軍を撃退したとの事です」

 

神尾の説明に、大内田のみならず、いつの間にか周囲にいた隊員や兵士達も耳を傾けて、静かに聞いていた。神尾の説明は続く。

 

「エジェイの戦いの後、周辺の残敵の掃討戦が行われましたよね?その際、エルフの者に、彼らの集落まで案内されたんです。その集落で食料を荒らしていたロウリア王国軍兵士を排除した後、こんな場所に連れて来られました」

 

神尾はデジタルカメラを取り出し、撮った画像を大内田に見せる。それを見た大内田は、思わず目を丸くした。

 

「こ、これは!?」

 

「はい…これには私も我が目を疑いましたよ…『太陽神の使者』の伝説によれば、これは彼らの使用した『鉄の地竜』というものらしいんですが…」

 

張や他の隊員も、デジタルカメラの画像を覗き見て、同じ様に目を丸くする。

それは、集落の近くの洞窟で撮られたという写真というが、問題はその中心に置かれたモノである。

その洞窟の中央には、旧日本陸軍機甲部隊の主力を担っていた九五式軽戦車の姿があった。

 

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ダイダル合同駐屯地 会議室

薄暗い部屋の中で、一人の中華民国軍将校が、数十人の将校達の前で説明を始める。

 

「現在、戦局は圧倒的に我らの有利となっており、ここいらで蹴りを付ける事になるでしょう。ですので、陸は自衛隊が、海は我が中華民国海軍とクワ・トイネ公国軍が、空は自衛隊と中華民国空軍が担当して、敵の本拠地であるジン・ハーク市を攻撃、全体的な戦闘力を排除します」

 

将校の説明に、この会議に招かれたバタール達クワ・トイネ公国海軍軍人は目を丸くし、自衛隊幹部も意外そうな表情を浮かべる。なんと日本・台湾・クワ・トイネ公国三国の連合軍で、ロウリア王国首都のジン・ハークを落とそうというのである。これまでクワ・トイネ公国軍が考えもしていなかった作戦に、多くの軍人が疑心を抱く。

 

「今回の作戦の中核は、あくまでも『ギム虐殺事件の指示役であるハーク・ロウリア34世の身柄確保と逮捕』です。ですので、主役は自衛隊となりますが、海に関しては戦力的な問題があったため、我が国とクワ・トイネ公国の海軍が担当する計画を立てております」

 

現在、日本の海上自衛隊は護衛隊群の再編に追われている上に、艦砲射撃支援の要であった「やましろ」がドック入りになっており、打撃力という点での火力がある台湾海軍の方が良いという判断になったため、海上からの攻撃は、艦砲射撃支援能力が高い台湾海軍と、バタール率いる公国海軍第三艦隊が行う事になったのであった。クワ・トイネ公国海軍の参戦については、政治的な問題が高いのだが、同時に日本と台湾の戦い方をクワ・トイネ公国軍に深く知ってもらおうという試みも関係していた。

 

「しかし、火力支援というが、攻撃場所は決まっているのか?ロウリア王国艦隊はその殆どが、ジン・ハーク北部の港湾都市に停泊している。これを全て一網打尽にする事は出来るのか?」

 

大内田の問いに対し、他の将兵も頷く。ロデニウス沖海戦では3000隻以上の艦船を撃沈したが、それは相手が日本や台湾の艦に装備された艦砲を知らず、従来通りの集団戦法で戦いを挑んだからの結果であり、現在はその対策を施していてもおかしくはない。また、クイラ沖で「やましろ」をドック送りにした、例の超巨大ガレアス船、機動性では艦船以上である空中砲艦が控えている可能性もあり、76ミリ砲や127ミリ砲程度では些か不安しかなかった。

すると、将校は全く気にしていないとでも言いたげな表情を浮かべ、次の画像を出す。

 

「そこで今回、111艦隊及び121艦隊も動員し、徹底的にロウリア王国海軍残存兵力を叩きます。こちらは決して油断致しませんし、十分に火力も多い。…まぁ使う艦が古いの一言に尽きるのは見逃して下さい」

 

説明に表された画像に、大内田は小声で「この婆ちゃん達も駆り出されるのか…こっちも笑えないな…」と呟いた。

そして終戦に向けた戦いのための念密な話し合いは続き、作戦は8月31日から開始される事となった。




次回、王都攻防戦開始。


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第12話 作戦目標ジン・ハーク

ロウリア戦役も終盤に差し掛かってきました。


中央暦1639年8月30日 ロウリア王国領内

 

陸上自衛隊第7師団は、王都ジン・ハークより東に5キロの地点に陣地を構え、準備を整えていた。

周囲には塹壕が掘られ、各所には90式戦車や99式自走りゅう弾砲、11式自走レールガンが展開し、対空陣地には87式自走高射機関砲とSAM-3が配置に着く。

 

「陣地の完成まであと数時間…これで戦いが終わるといいのだが…」

 

小高い丘の上で、大内田は小声で呟きながら、着々と築かれていく陣地を見つめる。すると、彼の副官が彼のもとに駆け寄り、報告をしてきた。

 

「大内田団長、付近の警戒を行っていた哨戒部隊より報告です。ここより北東の街、恐らくビーズルとされる場所に、アンギラスが上陸しました。画像を見ますか?」

 

副官の言葉に、大内田は思わず顔をしかめる。何故かこの付近の街に、恐竜型巨大特殊生物『アンギラス』が出現したというのだ。

 

「何故、ビーズルなんかにアンギラスが?アレは確か、鉱石を主食にしている奴だったよな?」

 

「はい。ですが、ビーズルはロウリア王国の中でも発達した工業都市だったみたいで、工業廃水を嗅ぎ付けて現れたみたいです」

 

副官はそう言いながら、大内田にタブレット端末を渡し、観測ヘリの撮ってきた映像が映される。

画面内では、1体の巨大なアンキロサウルスとステゴサウルスを組み合わせた様な見た目の巨大な生物が暴れており、街は炎に包まれ、山の麓に築かれた工場は崩壊していく。

 

「これは酷いな…まぁ今の状況が状況だ。ご愁傷様の一言に尽きるな…」

 

大内田は心の中で念仏を唱え、再び南西の方を見る。その視線の先には、この戦いの切っ掛けを作った王都があった。

 

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ロウリア王国 王都ジン・ハーク

周辺諸国を戦争で吸収・発展していったロウリア王国の中心部。

周辺を三重の高い城壁で覆い、バリスタや魔導砲で武装した巨大城塞都市は、規模ではエジェイと同等であるが、魔導砲を多数装備し、かつ内部に幾つもの飛竜騎士団駐屯地と100騎のワイバーンを配備している点を含めばロデニウス大陸の城塞都市の中で一番の規模を有しているといっても過言ではなかった。

その中心部のハーク城では、緊急御前会議が開かれていた。

 

「現在、東部諸侯を中心とした東方征伐軍は、中核を担うパンドール将軍の部隊が『消滅』と言っても過言ではない被害を受けており、戦力の再編に努めておりますが、現在クワ・トイネ公国軍と援軍として参戦した台湾軍は、各所の陣に散発的な攻撃を仕掛け、混乱を生み出しております」

 

パタジンの報告に、ハーク・ロウリア34世を始めとする参加者達の表情が暗くなる。

ロデニウス沖、クイラ沖での艦隊の惨敗に始まり、エジェイ攻略の失敗に続いて今度は東方征伐軍自体が壊滅するという、前代未聞の大損害。12年もかけて揃えた装備と、数年にもわたる大規模徴兵及び訓練で揃えた兵士が、一瞬で20万近くも消えたという事実に、一同は揃って頭を抱える。

 

「また、さらに悪い事に、工業都市ビーズルが、謎の超巨大地竜に襲われ、市街地は壊滅。工場も7割が全壊という手痛い損害を被りました…ビーズルを襲った超巨大地竜の正体は不明です…」

 

パタジンの戦況報告が終わり、一人の貴族が立ち上がってパタジンを非難する。

 

「これも全て、エジェイを潰すために巨蟲を怒らせる作戦を実行した軍のせいだ!巨蟲は自身の生息地に戻る際に、多くの諸侯の領地と街を踏み潰した!それに伴う被害も甚大なものになっている!」

 

貴族の声に他の貴族も非難の声を上げ始め、その矛先はハーク・ロウリア34世にも向けられ始める。

 

「聞いたところによりますと、パーパルディア皇国とソルジャーユニオンが我らへの協力を停止したそうではありませんか!彼らの支援なしで勝てる算段はおありなのでしょうか?」

 

「…現在、別の工業都市をフル稼働させて武器を生産させている。ワイバーンも、今戦力として使える分を補充させている。とにかく現在は、敵軍の進路上に位置しているビーズルに兵力を集結させて、そこに敵を誘引。これを一気に叩く作戦を立てている。一同は過度に心配しなくてもよろしい」

 

ハーク・ロウリア34世の説明に従い、地図の真上でロウリア王国軍を示す駒が動き、ビーズルに集まる。敵軍を示す小さな駒がビーズルの方に向かって行き、ロウリア王国軍の駒にぶつかった直後に地図の下に沈んでいく。

 

「如何に敵がどのような新兵器を持っていようが、この大軍と古代ロデニウス文明の生み出した兵器群に勝てる訳がない。いや、そうでなければいけない!」

 

ハーク・ロウリア34世は、自身に言い聞かせるように言い、地図上の駒を見つめた。

 

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陸上自衛隊王都攻撃部隊陣地 仮設司令部

司令部には、自衛隊員の他に、警察所属の特殊部隊『SAT』隊員や、クワ・トイネ公国軍騎士の姿があった。

 

「これより、ロウリア王国国王捕獲作戦の会議を始めます。この作戦ではハーク城内に侵入する上、身柄の拘束及び逮捕の権利が警察官の方にありますので、警視庁のSATの方々や、クワ・トイネ公国魔導騎士団の皆様も参加する事となります」

 

進行役の説明に、SATの隊長を務める男が立ち上がって自己紹介を行う。ちなみに自衛隊にも警察や軍の憲兵に相当する組織として警務官(MP)が存在するが、主に自衛隊員やその敷地内での犯罪行為に捜査権が限定されるため、この部隊が出張ってきたのである。また、国王を守る兵士が、日本にとって全くの未知である魔導攻撃を仕掛けてくる可能性もあったため、その手の魔法に精通しているクワ・トイネ公国騎士団の魔導騎士も参加している。

 

「初めまして。私は警視庁警備部警備第一課所属の青木と申します。今回の作戦目標は、今回の武装勢力の首魁とされるロウリア王の身柄確保です。よって、目標の身柄を確保次第、すぐに王国内から人員を引きます。これが大前提となります」

 

ロウリア王国に潜入していた諜報員が入手したハーク・ロウリア34世の魔写が映され、SAT隊員達はその目に焼き付ける。進行役は、改めて彼らに作戦内容を話す。

 

「当初はヘリボーン作戦のみで遂行する予定でしたが、ジン・ハーク市内には多数の兵士が展開されている事も考慮して、大規模な陽動作戦を行います。まず、北部のサディエゴ市軍港に対し、台湾海軍・クワ・トイネ公国海軍連合艦隊が強襲を仕掛けます。それと並行して陸自第7師団と空自戦闘機部隊がジン・ハーク市に接近し、市内のロウリア王国軍を外部に誘引します。そして出来る限り戦力を減らし、突入の隙を作ります。まず戦闘機隊と台湾海軍艦隊が航空戦力を出来る限り減らし、残りは陸自のSAMで対処。第二段階として陸自第7師団が城壁に対して攻撃を敢行。第一の城壁を破壊して防御力を落とします。完全に中心部の守りが薄くなった事が確認され次第、少数の空挺部隊及びSAT、魔導騎士団がハーク・ロウリア34世のいるであろうハーク城に突撃します。そしてハーク・ロウリア34世の身柄を確保して撤退し、作戦は終了となります。万が一失敗した時には一時撤退し、再びロウリア王の居場所を探す事から始まってしまいますので、ご了承を」

 

進行役の言葉に、一同が静かに、しっかりと頷く。進行役はテーブルに間取り図を敷き、説明を続ける。

 

「こちらは、ロウリア王国内の反体制派…亜人殲滅政策に反対する派閥から送られてきたデータと、クワ・トイネ公国の料理人に扮したスパイが持ち帰った資料をもとに作った、ハーク城内の間取り図です。少数で侵入した後は正当防衛として護衛を排除し、王の間の奥にある緊急控室に突入し、王の身柄を確保します。今回集められたSATは、かつての特殊生物関係資料争奪戦において、特一級資料の奪取を成功させた者達が中心となっており、技量は第一空挺団にも劣りません。また、こちらにいるクワ・トイネ公国魔導騎士団は、少数精鋭での対城塞破壊工作、及び内部潜入と攪乱に長けた者達が中心となっております」

 

進行役に紹介され、隊長格のエルフの男が立ち上がる。そして目の前にいる自衛隊員やSAT隊員に対して自己紹介を行う。

 

「どうも初めまして。我が名はクワ・トイネ公国魔導騎士団長のカンミ・ムイラ。この度は我が魔導騎士団15名も参加させて頂きます。此度の作戦に合わせ、我らは凡そ1ヵ月程、台湾陸軍のもとで空挺作戦の指導を受けておりました。ここにいる皆様に比べればまだ未熟者ではございますが、お力になれる様に努力させて頂きます」

 

ムイラは挨拶を終え、再び会議に参加する。会議は深夜にまで及び、一同は大体の作戦内容と進行ルートの工程を確認して会議を終えた。

 

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翌朝 台湾海軍・クワ・トイネ公国海軍連合艦隊

 

「異世界の夜明けもまた、美しいものだな…」

 

台湾海軍艦隊、第61任務部隊旗艦「台北」の艦橋で、艦隊司令の龍は小声で呟く。

台湾中華民国海軍は、主に外国から輸入された艦や、第二次世界大戦後に戦利品として分配された賠償艦等を中核としており、中華人民共和国に対する自由主義国家の前衛としてその規模を誇っていた。そして第二次世界大戦から70年以上が経った今も尚、その戦力の半数はアメリカ等から売却された旧式艦やライセンス建造された艦が中心となっていた。

しかし、その中でも異彩を放つ艦があった。それは、この艦隊を率いる旗艦「台北」と、それに付き従う3隻の大型艦である。

まず、「台北」の前身はアメリカ海軍のエセックス級航空母艦「ランドルフ」で、戦後に日本から賠償艦として「葛城」や「伊吹」、その他数隻の艦を得たソ連が、それらをベースにして建造した空母機動部隊を太平洋に配備し、中国もそれに続いて旧式の護衛空母や軽空母をイギリス等から得て戦力化させた事を受け、アメリカが中華民国政府に対してリースしたエセックス級航空母艦3隻のうちの1隻である。

大型艦3隻も同様で、主に戦後の大不況で大幅な軍縮を迫られたイギリスから売却された戦艦や、改造の際に余ったパーツから造られた艦等、様々な経歴を持つ艦から成り立っていた。

そして時が経ち、この4隻は今も尚、ただでさえ数の少ない台湾海軍艦艇の主力として第一線に留まり、そして今、作戦の中核を担う存在として、第61任務部隊11隻を率いていた。

 

「司令、間もなくロウリア王国軍の警戒ラインに入ります」

 

「クワ・トイネ公国海軍第三艦隊、本艦隊の真横に位置します!」

 

乗組員からの報告に、龍は窓の外を見つめ、煙突から煙を吐きながら必死で並走するクワ・トイネ公国海軍艦隊を見つめる。

クワ・トイネ公国海軍第三艦隊は、主に蒸気機関による動力推進で進む砲艦から成り立ち、数門の魔導砲を備えたシード級砲艦2隻と、SS-2〈オブシディアン〉を搭載したニジン級ミサイル艇8隻、そして独力による開発に成功した『魚雷』を備えたイシワ級魚雷艇8隻の計18隻。特に原始的ながらも実用的な対艦ミサイルを備えたニジン級ミサイル艇と、45センチ魚雷を装備しているイシワ級魚雷艇は、木造の軍船に対して十分な火力を有していると言えよう。

 

「さて、まずは露払いからだ。航空隊、直ちに発艦せよ!そのうち1個飛行隊は王都にまで接近し、ワイバーン共を吊り上げろ!」

 

龍の命令が飛び、飛行甲板上に駐機していたA‐4F〈スカイホーク〉がカタパルトに移動する。1950年代にダグラス社で開発され、アメリカ海軍で運用されていた艦上ジェット攻撃機〈スカイホーク〉は、エセックス級航空母艦3隻が台湾にリースされた際の艦載機として配備され、冷戦終結後にリースから売却に切り替わった際に台湾国内の工場で既存の機体への改造と新規製造が行われ、空母機動部隊の中核的存在として長らく配備されていた。

そして蒸気カタパルトによって〈スカイホーク〉は射出され、大空に舞う。主翼下や胴体下には増槽とTC‐1短距離空対空ミサイル、225キロ航空爆弾が搭載され、これらは主に港湾に停泊している艦船への攻撃とワイバーン迎撃用に使用される。

それに続き、〈スカイホーク〉の後継機として開発されたF‐CK-2〈仙逸〉艦上ジェット戦闘機がカタパルトに着き、TC‐1とTC‐2中距離空対空ミサイルを装備して飛び立つ。

 

「航空隊、全機発艦しました!」

 

「各艦、対空対水上戦闘用意!この海を完全に制するぞ!」

 

龍の指示に従い、艦隊は輪形陣を組み始め、ワイバーンの迎撃準備を整えていく。クワ・トイネ公国艦隊も複縦陣を組み、戦闘態勢を整える。すると、哨戒に出ていた〈S-70C〉対潜ヘリコプターから通信が入った。

 

『こちら「獅頭」2番機、敵超大型帆船を確認!多数の護衛を連れてこちらに接近してきます!』




旧作よりも台湾の戦力を強化しました。
とりあえず突っ込みは感想でお願いします。
次回、旋風再び。


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第13話 サディエゴ沖海戦

前回、『50キロは流石に遠すぎるだろ…』と思い、修正しました。


中央暦1639年9月1日 ジン・ハーク ハーク城

 

アルダは一人、自室の窓にもたれながら、先程サディエゴから出港したという本土防衛艦隊の事を思い浮かべていた。

 

「しかし、まさか本格的な量産型を用意していたなんて…それもあんな大量に…」

 

ロデニウス沖海戦での敗北後、ロウリア王国海軍は新たな艦船の建造を進め、ウラガン級をベースに本格的な量産仕様にまとめ上げたウィントシュトース級巨大ガレアス艦に、支援停止前にパーパルディア皇国から払い下げられていたものをコピー建造した30門級戦列艦を多数建造。再度の再侵攻の準備を進めていた。そして敵がサディエゴに攻めてくる可能性も考慮して、造船所は王国の各港湾都市や港町に建設され、急ピッチでの戦力回復に努めていた。

しかし、そこまでして戦争を続ける事に、アルダは意義も何もないと考えていた。今のロウリア王国に残っているのはただ一つ、ロデニウス大陸最大の国家というプライドだけだ。

 

「…このままでは戦争は泥沼に陥り、多くの民が悲しむ事になる。それだけでなく、弱体化した所をパーパルディア皇国に付け入られる可能性だってある。あの密書が上手く届けばいいのだが…」

 

アルダはそう呟きながら、遥か東の方を見る。少し前、アルダはクワ・トイネ公国のスパイに対してハーク城の詳しい間取り図を流しており、もはや今の王制を転覆させる事しか、この国を止める事は出来ないという覚悟のもとで、積極的かつ極秘裏に日本側と交渉を行っていた。

 

「…出来る限り少ない損害で、この戦いが終わってくれ…」

 

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ロウリア王国北部海域

 

ロウリア王国海軍本土防衛艦隊は、王国最大の港湾都市サディエゴを守るべく、哨戒を行っていた。

 

「海将、上空にあの羽虫がおりやす!」

 

艦隊旗艦「ディスミュド」の船楼で、水兵の報告を聞いた本土防衛艦隊司令ホエイルは、水平の指さす方を見て目を顰める。その先では1機の羽虫が飛んでいるのが確認され、ホエイルは顔をしかめた。

 

「あの羽虫がいるという事は…近くに日本の艦隊がいるという事だな。全艦戦闘配置!増速して敵艦隊に急速接近する!」

 

ホエイルの指示に従い、「ディスミュド」とウィントシュトース級巨大ガレアス艦100隻、30門級戦列艦100隻の計201隻は、魔導炉の出力を上げ、20ノットの速度で進んでいく。やがて、水平線の彼方に幾つもの艦影が見え始め、ホエイルは大声で命じる。

 

「全艦、全速力で突撃!奴らを蹴散らしてしまえ!」

 

ホエイルの指示に従い、周囲にいた巨大ガレアスが加速を開始し、速力を50ノットにまで上げる。帆船とは思えぬ程の速力で進む巨大ガレアスに気付いたのか、敵艦隊は回避機動を取りつつ、一斉に何かを発射した。

光の塊が白い煙を引きながら、高速でロウリア王国艦隊に向かって飛翔し、先頭を進んでいた巨大ガレアス2隻に命中する。

ウィントシュトース級巨大ガレアス艦は一瞬で吹き飛び、他の艦も火だるまに包まれる。さらに先頭を進む3隻の大型艦からは、大口径の砲撃が放たれ、ウィントシュトース級の艦列を大きく崩す。他の艦からも砲撃が放たれ、30門級戦列艦は一瞬で大破し、ウィントシュトース級も回避機動を取る前にオールやマストを吹き飛ばされ、足を止められたところで袋叩きにされていく。

 

「17、18番艦大破!35番艦轟沈!損害拡大していきます!」

 

「くそぉ、最大戦速で突撃する!我らロウリア王国海軍の誇りを見せつけてやれぇぇぇ!!!」

 

「ディスミュド」の船楼でホエイルが吼え、「ディスミュド」のオールの動きが激しくなっていく。横に数隻のウィントシュトース級が並び、艦首の『ブラフマプトラ』が展開されていく。そして各艦の速力は100ノット近くにまで上がり、海面を滑る様に進んでいく。

 

「撃て!これ以上奴らの良い様にさせるな!ここで勝たねば、我らロウリア王国に未来はないと思え!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「敵大型艦及び護衛のガレアス船、急速接近中!速度90ノット!」

 

中華民国海軍第111戦列艦隊旗艦、戦艦「中山」の艦橋に、乗組員の報告が響き渡る。艦長の雷は双眼鏡を覗いて敵艦を確認し、マイクを手に取って指示を飛ばす。

 

「後続艦に伝達!敵は艦首に大出力光線兵器を装備している。絶対に奴の艦首の前に出ない様に注意させろ!主砲、左90度、仰角5度で待機。かなりの近距離での撃ち合いになる、覚悟しておけ。さらに側舷速射砲及びCIWS、すれ違う5秒前には発射を始めろ。敵艦は一瞬で通り過ぎるからな、一発も外すんじゃないぞ!」

 

『了解!』

 

「操舵手、これからちとキツイ操艦を行う!思い切り舵を回せ!機関も全力で回す!」

 

「了、艦長!」

 

操舵手にも指示を飛ばした雷は、ヘルメットを被り直して小声で呟く。それはまるで、自身の手繰る艦に言い聞かせる様に。

 

「…行くぞ、『老嬢(Old Lady)』。二度の戦禍を生き抜いたお前さんの力を見せつけてやれ!」

 

雷の言葉に応えるかの様に「中山」は増速し、『ブラフマプトラ』の発射態勢に入った「ディスミュド」の射線から逃れる様に右に舵を切る。戦中舵の故障に悩まされ、戦後になって漸く舵の問題を解決した「中山」は、華麗なターンを決めるかの様に右に滑り、直後に発射された白い光の奔流を回避する。

 

「敵初弾、回避しました!」

 

「後続艦に損害認められず!」

 

「よし…撃ちー方ー始めー!」

 

雷の号令に合わせ、左舷に指向された3基6門の38.1センチ連装砲と、2基2門の76ミリ単装砲、35ミリ連装機関砲3基6門の計14門の火砲が火を噴き、砲弾は両艦の相対速度に合わせられて放たれたため、全て「ディスミュド」の左舷に命中する。

左舷側のオールを全て破壊され、火災も起こり始めた「ディスミュド」は急激に減速し、「中山」はこの隙に距離を5キロ程に離す。そして完全に死に体となった「ディスミュド」に向けて、猛攻撃を仕掛けた。

 

「て、敵巨大艦、砲撃ー!」

 

「なっ!?ろ、ロウリア王国バンザーイ!!!」

 

ホエイルが絶叫を上げた直後、彼らの意識は爆炎によって全て燃やし尽くされた。

如何に『樹神の加護』による回復能力と耐火能力を有しているといっても、自身と同規模の鋼鉄艦を破壊するために造られた38.1センチ砲弾は、内部炸薬の強力な爆轟によってその力を破壊し、木造船であるが故の宿命を叩きつける。「ディスミュド」の上部構造物は木端微塵に破壊され、暫く炎を上げながら洋上を漂っていたが、船体に幾つもの亀裂を生じさせてゆっくりと沈んでいく。残ったウィントシュトース級は、衝撃のあまりに加速を止め、ただ茫然とその場に浮かんでいる様な状況となったが、そこにクワ・トイネ公国艦隊の放った〈オブシディアン〉や魚雷が突き刺さり、水柱や火柱に砕かれて沈んでいく。洋上では肉食魚が跳ね、乗組員の死体や肉片を食い千切っていく。

 

「敵大型艦、撃沈!その他の艦も撃破ないし撃沈していきます!」

 

「旗艦「台北」より入電!航空隊、港湾部への攻撃に成功したとの事!」

 

乗組員から次々と報告が寄せられ、雷はしっかりと頷く。

 

「よし…残党は僚艦に任せろ!後続の「孫文」「横興」に通達!これよりサディエゴ市ロード・ポートに突撃し、艦砲射撃を実施する!後に続け!」

 

「中山」を先頭に、3隻の戦艦が30ノットの高速で進む。30分後、3隻はロウリア王国最大の港湾都市、サディエゴのロード・ポートに到達し、多数の艦船が停泊する埠頭や、海軍本部のある施設に砲門を向ける。

 

「撃ち方始め!」

 

一斉に何十門もの38.1センチ砲や7.6センチ砲が火を噴き、砲弾の雨が港湾に降り注ぐ。大重量の38.1センチ榴弾は1発で石造りの建物を吹き飛ばし、数隻の軍船を粉微塵に破壊する。3隻『だけ』とはいえ、海上自衛隊の護衛艦10隻分にも匹敵する投射火力は非常に強力で、僅か2回の斉射でロード・ポートは煙と炎に包まれ、完全に破壊されて軍港としての機能を喪失したのだった。

 

「敵軍港、完全破壊を確認しました!」

 

「敵ワイバーン、多数こちらに向かってきます!」

 

「対空戦闘、開始!」

 

直ぐに各艦の主砲と速射砲が上を向き、空に向けて対空射撃を開始する。38.1センチ榴散弾が炸裂して鉄球をまき散らし、7.6センチ砲弾が矢継ぎ早に放たれて幾つもの黒い花を空に咲かせる。ワイバーンは瞬く間に竜騎士ごと肉片と化し、火だるまになって墜落していく。そのさらに上では、〈スカイホーク〉と〈仙逸〉が、空対空ミサイルを放ってワイバーンを撃墜しては、20ミリバルカン砲で蜂の巣にして飛び去って行く。

こうして、ロウリア王国海軍主力艦隊1200隻と、ワイバーン100騎が台湾艦隊との交戦で失われたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

台湾艦隊がロウリア王国艦隊と激戦を繰り広げていた頃、航空自衛隊第88飛行隊はロウリア王国軍飛竜騎士団と交戦していた。

王都付近を数機の〈スカイホーク〉が飛んでいるのを確認した王国軍司令部は、これを迎撃すべく王都防衛騎士団直属の飛竜騎士団に命令を発し、300騎のワイバーンを上げていた。そのうち100騎がサディエゴに向かい、残りの200騎が王都防衛のために哨戒飛行していたのだが、そこに第88飛行隊が現れ、敵の部隊だと確認した飛竜騎士団は一斉に導力火炎弾を放ったのだ。第88飛行団はそれらを全て回避し、正当防衛の手順を踏む形で交戦に入った。そして現在、戦況は自衛隊側に大きく傾いていた。

 

「3騎目!」

 

〈F‐14J改〉より1発のAAM-5が放たれ、機首のフェーズドアレイレーダーで捕捉しつつ誘導された空対空ミサイルは、終末誘導の赤外線画像誘導に切り替わり、変温動物であるワイバーンの高い体温を捉えて食いつく。ワイバーンが吹き飛んだのを見届けた〈F‐14J〉のパイロットは、真上から気配を感じ取って真上を見上げる。

 

「太陽を背に!?舐めやがって!」

 

咄嗟に主翼を可動させ、後退角度を75度に引き下げた〈F‐14J改〉は、2基のターボファンエンジンの推力も借りて加速し、真上から降り注いだ導力火炎弾を回避する。1騎のワイバーンがそのまま真下へ急降下し、地表すれすれの地点で上昇に転じるが、〈F‐14J改〉は直ぐに後退角度を20度に上げて減速し、大きく旋回する。

 

「蜥蜴が、調子に乗るんじゃねぇ!」

 

ワイバーンが上昇する暇を与える事無く、〈F‐14J〉は下方に向けてJM61A1バルカンを撃つ。毎分4500発の連射速度を誇る6砲身ガトリング砲から20ミリ砲弾が放たれ、ワイバーンはズタズタに引き裂かれて地面に激突する。この時点で400発以上の20ミリ砲弾が放たれたが、〈F‐14J改〉は飛翔型特殊生物との戦闘を前提に設計が改良されているため、まだ800発程砲弾を残している。

 

「さて次!」

 

急激に上昇した〈F‐14J〉は、新たな獲物を探して再び雲の彼方に消えていく。その様子を、一人の竜騎士と1騎のワイバーンが、地面から見つめていた。

 

「そんな…飛竜騎士団がこんな呆気なく…」

 

第2竜騎士団員のターナケインは、出撃直後に乗騎のワイバーンが急降下して地面に降り立ったために、〈F‐14J改〉の空対空ミサイルから逃れていた。そして今、上空では仲間のワイバーンと竜騎士達が、余りにも呆気なく

命を散らしていた。

 

「嘘だろ…夢であってくれ…」

 

ジン・ハーク外縁部の城壁から、魔導師達が必死に魔導火球を放って対空砲火を撃ち上げるが、雷のような速さで飛ぶ鉄の巨鳥には1発も当たらず、火の玉はただヘロヘロと空を飛んでいく。

中には、王都東側に敵の陣地を発見し、その方へ攻撃に向かった騎もいたが、それは逆に第7師団に正当防衛の免罪符を配る行為でしかなく、全て87式自走高射機関砲とSAM-3の餌食となる。

こうして、ロウリア王国艦隊主力と海軍基地が壊滅したとほぼ同じ時に、飛竜騎士団のワイバーン199騎は、〈どら猫(トムキャット)〉達と第7師団対空陣地の餌食となったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ジン・ハークより東に5キロ 陸上自衛隊第7師団

 

大内田は、南の方で起きている空戦の様子を眺めつつ、マイクを手に取る。

すでに攻撃のための手順は踏んでおり、隊員達も彼の命令を心待ちにしていた。大内田は真正面を真っすぐ見据え、大声で発した。

 

「作戦第二段階、開始する。特科連隊、砲撃始め!」

 

号令と同時に、99式自走155ミリりゅう弾砲10門と11式自走レールガン10門が火を噴き、20発の155ミリ砲弾が城壁に降りかかる。

 

「3…2…弾着、今!」

 

副官の声に合わせ、東側の城壁が炎と煙に呑み込まれる。双眼鏡を覗き、城壁の崩壊を確認した大内田は、号令を発した。

 

「戦車隊、前進せよ!徹底的に攻撃して敵軍を釣り出す!」

 

大内田の命令が戦車隊に伝えられ、100両の10式・90式戦車が前進を開始する。自走砲とMLRSが支援射撃を行う中、戦車隊は敵軍を誘い出すべく、50キロの速度でジン・ハークに向かって行った。




「中山」の正体に気付けた人はどれぐらいいるんだろうか…?
次回、第7師団大暴れ。


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第14話 ジン・ハーク攻防戦

皆さんお待ちかねの攻防戦です。


中央暦1639年9月1日 ジン・ハーク ロウリア王国軍司令部

 

パタジンは、部下からの報告を聞いて、ミスリル製の鎧を着こんで司令部に駆け付けていた。

報告内容はなんと、東側に突如見慣れぬ軍勢が現れて、信じ難い長距離から大規模強力魔導攻撃を仕掛けて第一城壁を破壊したのである。

 

「現在の状況を知らせろ!」

 

「はっ…現在、敵は第一の城壁を破壊し、謎の甲虫100体を差し向けて攻めてきております!魔力を感じない謎の攻撃を行ってきた事から、恐らく日本の軍かと!」

 

部下が血相を変えながらパタジンに向かって言い、パタジンも顔色を青くする。

 

「日本の軍が、こんなところにまで!?馬鹿な、エジェイからここまでは最低でも1ヵ月以上はかかる!それをこんな短期間で…!」

 

「さらにサディエゴ付近の城からも報告!超大型艦からなる艦隊がサディエゴ付近に出現し、本土防衛艦隊及び主力艦隊は全滅。海軍基地も破壊されました!」

 

「敵軍の迎撃に出たワイバーンも、300騎中299騎がすでに落とされました!これで我らに残されているのは東部方面に展開させている200騎と、生き残った1騎、現在育成中のワイバーン数騎のみです!」

 

相次ぐ連敗の報告に、パタジン達ロウリア王国軍上層部は皆揃って険しい表情を浮かべる。すでにワイバーンを800騎近く失い、兵士も概算で10万人以上が死亡ないし『行方不明』になっている。これ程までに手痛い損害を受けた事は一つもなく、まさしく前代未聞の一言でしか言い表せなかった。

 

「東側に展開している敵の動きは、今どうなっている?」

 

「はっ…現在、敵の甲虫は城壁に幾つかダメージを与えた後、急速に後方に下がっております!恐らくその方向に敵の本陣があるものかと!」

 

「このままでは奴らにこの王都を蹂躙されてしまう…王都防衛騎士団全軍に伝達!すぐに集結して、東側に陣取る敵を殲滅する!この私が直接率いる、出陣の準備を始めよ!」

 

パタジンはそう命じ、司令部から出ていく。パタジンの命令は直ぐに王都防衛騎士団全部隊に伝えられ、兵士達は出撃の準備を整えていく。そして2時間後、3万の兵士と20隻の空中砲艦からなる王都防衛騎士団が、陸上自衛隊の陣地に向けて出撃した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

陸上自衛隊陣地

 

「敵軍、来ます!」

 

部下からの報告を聞いた大内田は、すぐに部下達に迎撃を命じる。

 

「迎え撃て!出来る限り敵の戦力を減らすぞ!」

 

「了解!」

 

隊員達は急いで配置に就き、迫りくるロウリア王国軍に対して全ての銃砲を向ける。そして地面を埋め尽くさんばかりに迫ってきたロウリア王国軍に向けて、一斉に火を噴いた。

銀色の鎧が日の光を反射して白く光り輝いていた敵の軍勢が、瞬く間に炎と煙に呑み込まれていき、木端微塵に吹き飛んでいく。榴弾砲や戦車砲の砲撃を掻い潜った者には、各陣地に待機していた自衛隊員の装備する小銃や機関銃からの猛烈な銃弾の雨が降り注ぎ、薄い金属の鎧と鉄製の薄く簡易な構造の盾でしか己を守っていない兵士達は瞬く間に蜂の巣となって倒れていき、次に降ってきた迫撃砲の砲弾に吹き飛ばされていく。空中砲艦が高空から陣地に接近し、砲撃の雨を浴びせようとするが、87式自走高射機関砲が必死に対空砲火を撃ち上げ、空中砲艦は穴だらけになって墜落していく。そしてわずか10分で、空中砲艦は全て墜落する。

 

「おい、アレを見ろ!」

 

すると、隊員の一人が89式小銃を構えながら叫び、一同はその隊員が指さした方を見る。その先には、一回り大きな盾を前に構え、7.62ミリ機関銃弾や12.7ミリ重機関銃弾を受け止めて耐える重装歩兵達の姿があった。

 

「凄いな、重機関銃の攻撃すら跳ね返しているとは…」

 

「ありゃ、迫撃砲の砲撃にすら耐えるんじゃないのか?冗談抜きで」

 

「とりあえずガンタンク(87式自走高射機関砲)を回してもらうか?」

 

隊員達が驚きの表情を浮かべる中、第2重装歩兵大隊は必死に陸上自衛隊の銃撃を耐えていた。

 

「耐えろー!必死になって踏ん張れ!」

 

真っ先に迫撃砲に吹き飛ばされて死んだ隊長に代わり、部隊の指揮を執るヤコベ・スワウロは、他の兵士達にむかって大声で叫ぶ。対パーパルディア皇国戦も考慮して創設された第2重装歩兵大隊は、パーパルディア皇国軍兵士の装備であるマスケット銃に耐えうるべく、古代ロデニウス文明の遺跡で発掘された武器を基に開発した、ミスリルや鋼鉄を何層にも重ね合わせた複合式装甲の盾を装備しており、中でもスワウロが装備しているのは、代々彼の家の家宝として伝わっていた、複合式装甲の盾のオリジナルであり、彼らの強靭な肉体と、盾の製造技術を流用して製造した軽量かつ頑丈な複合式装甲の鎧が組み合わさり、類まれなる防御力を持って敵の攻撃を耐えていた。

 

「スワウロさん!味方が突撃を再開しました!さらにパタジン団長より魔信です!散開戦術に切り替えて波状攻撃で敵陣地に突撃せよとの事です!」

 

通信兵からの報告に、スワウロは顔をしかめる。どうやら指揮官達はまだ攻撃を諦めていないらしい。

しかし、その直後に後方が炎に包まれ、スワウロ達はその際に起きた爆風に圧され、目前の天然の溝の中に落ちる。

 

「ぐぉっ…だ、大丈夫か?」

 

「どうにか…でも、味方が…!」

 

スワウロ達はどうにか溝の中から這い上がり、辺りを見渡す。周辺は土煙が立ち込め、人の気配がまるで感じられなくなっていた。

 

「そんな…もしや、全滅か…!?」

 

スワウロ達残存兵は、味方が文字通り『消滅』した荒野を見渡し、途方に暮れる。そして彼らが今出来る事は、夕暮れの中を必死に走って王都に戻る事しかなかった。

この日、王都防衛騎士団は総戦力の7割に及ぶ28000の兵士を失い、王都内に後退。しかし、90式戦車を中心とする機甲部隊は残存兵を追いかけ、第一の城壁に向かって前進した。

 

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「全機、突撃!」

 

隊長の命令と同時に、〈AH‐1S〉と〈AH‐64D〉からなる攻撃ヘリ部隊も前進するが、そこに数騎のワイバーンが襲い掛かる。

 

「敵襲ー!」

 

「狼狽えるな、迎え撃てー!」

 

先頭を進んでいた〈AH‐1〉が急上昇し、機首下部のM197ガトリング砲でワイバーンを迎え撃つ。ワイバーンは20ミリガトリング砲の火線を巧みにかわして導力火炎弾を放つが、〈AH‐1S〉も高い機動性を発揮して回避し、お返しにM197ガトリング砲を旋回させて、通り過ぎようとしたワイバーンに20ミリ砲弾を浴びせる。ワイバーンの頭部は粉々に吹き飛び、血肉をまき散らしながら落下していく中、攻撃ヘリはワイバーンと高度な空中戦を繰り広げつつ、城壁にハイドラ70ロケット弾やTOW対戦車ミサイルを叩き込んで破壊していく。

城壁の城門が粉々に吹き飛ばされ、城壁上に並んでバリスタや魔導砲を用意していた兵士達は〈AH‐64D〉の30ミリチェーンガンで薙ぎ払われていく。そして城門が完全に破壊され、強行突入用ブルドーザーが瓦礫を押しのけて進み、90式戦車や各種装甲車がその後に続く。

 

「第一の城壁、突破!」

 

「よし、そのまま予定通りここを陣地とする!車両、半円陣を組んで警戒を続けよ!さらに普通科は城壁上に展開し、敵兵の接近に注意せよ!」

 

第7師団第11普通科連隊所属で、城壁突撃部隊指揮官の百田太郎二尉は大声で指示を飛ばし、真正面を見据える。そうしている合間にも日は暮れていき、その間に百田達は陣地を整えていく。

そして夜の帳が完全に降りた時、戦闘は再開した。

暗視装置を装備した普通科隊員達は、89式小銃やM2ブローニング重機関銃を構え、馬に乗って迫ってくる騎兵を撃って薙ぎ払う。やがて、敵兵士の大半が掃射されたのが確認され、11式自走レールガンが前に出る。

 

「こちらレールガン、配置に就きました!」

 

「よし…本城までは真っすぐだ。そのまま撃ち抜け!」

 

百田の指示に従い、砲手はレールガンの砲身を城門に向ける。そして155ミリ砲弾を超音速で放つレールガンのトリガーに指をかけた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ハーク城 ロウリア王国軍総司令部

 

遠くからけたたましい炸裂音が響き渡り、パタジンは司令部の窓の外を見る。第一の城壁の周辺では眩いばかりの光が瞬き、煙が立ち上る。

 

「ほ、報告!第一の城壁の城門付近を占領した敵軍、第3騎兵団を殲滅!カルシオ団長戦死!」

 

「続いて敵軍、迎撃に出た我が第6歩兵大隊を壊滅させました!我が方の航空戦力も、動員できるワイバーンがもう…」

 

相次いで届く報告に、パタジン達上層部は揃って顔を青くする。この時点で王都防衛騎士団の戦力の大半が消失したも当然の状況となっており、最早今の彼らに、陸上自衛隊とまともに戦えるだけの戦力は残っていなかった。もし残っていたとしても、使用する武器の性能の差は如何しがたく、瞬く間に東方征伐軍の二の舞を演じていたであろう。

 

「くそっ…このままでは、この王都が…」

 

パタジンが顔を歪ませて拳を机に叩き付けたその時、炸裂音が響いたと同時に城門から何かが崩れる音が響き渡る。その時の振動で机の上に置かれたインク壺や筆が落ち、ガラス窓が割れる。

 

「な、何事だ!?」

 

「か、閣下!第二の城門と第三の城門、本城の城門が破壊されました!鉄の甲虫から放たれた爆裂魔法による攻撃が原因です!」

 

慌てて司令部内に駆け込んだ兵士の報告に、一同は愕然とした表情を浮かべる。

 

「な…す、全ての城門が、破壊されただと!?たった一撃で!」

 

「はっ…第二から本城までの街道は真っすぐな一本道ですので、その地形を利用して攻撃をおこなったものかと!」

 

「くそぉ、直ちに第二城壁の城門に全ての部隊を展開させろ!第二以内は市民の住まう地域だ、何としてでも死守しろ!」

 

パタジンが大声で指示を飛ばす中、ハーク城の内部庭園ではアルダがカンデラを持ちつつ、自身の配下を指揮していた。

 

「発光用魔石、敷き終わりました」

 

「監視兵、全員我らの配下にすり替えました。先にいた者は全員睡眠魔法で眠らせております」

 

「そうか…これで失敗すれば我らはただの裏切者だ。だが、成功すれば、これ以上この国がどうしようもない国是で苦しむ事はなくなるであろう」

 

アルダはそう呟いて、真上を見上げる。すると、3機のワイバーンや空中砲艦とは全く違う飛行物体がやって来て、数本のロープを垂らしながら降下してくるのが見えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「内通者を確認。予定通り、マーカーを用意してくれていたみたいだな」

 

〈UH‐60JA〉のキャビン内で、第一空挺団第2中隊長の中野は小声で呟きつつ、青木やムイラに目配せを行う。〈UH‐60JA〉と〈CH‐47JA〉、〈AH‐64D〉の3機からなる空挺強襲部隊は、ムイラ達の使役した風聖霊魔法によってローター音を消して庭に接近する。そして大原達はロープを手繰って降下し、第一空挺団、SAT、魔導騎士団の順に降下する。

 

「日本の皆様ですね?一応この周辺にいる者は全て我ら反体制派の者です。急いで向かって下さい!」

 

降下地点の指示を行った反体制派の男の言葉を聞いた中野は、青木やムイラと目配せして頷き合い、出撃前に何度も見返した王城の間取り図を思い出しながら駆け出す。

約50人の突入部隊はそれぞれ20人規模の班に分かれて王城内を走り、王の緊急控室と私室の両方を制圧しに行く。途中で王城の警護を行う近衛兵と遭遇したが、ムイラ達エルフ魔導騎士の風聖霊魔法で消音処理を受けつつ、MP5や89式小銃で撃ち倒す。特にMP5は銃口にサプレッサーを装備している事もあって、近衛兵は一体何が起きたのか理解する暇もなく撃ち殺されていく。

 

『こちら第4中隊。王私室に到着し、これを制圧。されどロウリア王の姿は確認されず』

 

「了解。…しかし、SATもだが、魔導騎士団もよく我らに付いてこれている。流石は公国騎士団の精鋭と言われている物達だ」

 

第一空挺団第3小隊長の橋元はそう呟きながら、ムイラ達魔導騎士を見る。魔導騎士は比較的軽装な鎧の上に黒いローブを纏っており、このローブは周囲の空気と魔素を変化させて視覚的に見えにくくする効果を発揮してムイラ達の姿を見えにくくしていた。そして右腕には小型のバリスタが装備されており、そこから矢じりに毒を塗った弓矢が発射されて、大声で叫ぼうとした近衛兵の眉間を貫いて沈黙させる。全く気付いていない者に対しては睡眠魔法を飛ばし、無力化していく。

 

「これは魔法もあまり馬鹿に出来ないな…ん?」

 

すると、4階の王の謁見の間に到着し、青木は周囲を見渡しつつ扉を開ける。ムイラ達がローブを被って完全に姿を消し、橋本達は謁見の間に突入する。するとそこには、二人のメイド服姿の女性が立っており、恐怖心からか顔は悲壮に包まれており、床も濡れていた。そして奥の暗闇から、火の明かりに照らされる様に一人の鎧姿の男が現れた。

 

「やぁ皆さん、よくぞいらっしゃいました。近衛隊大隊長のランドと申します。…私と少し、お話をしませんか?」

 

ランドと名乗った男の言葉に、橋本は89式小銃の銃口を前に向けたまま答える。

 

「話をしている暇はない。敵意がないのならば、直ぐに武器を捨てて投降しろ。その柱の影に隠れている者達もだ」

 

数人の兵士が銃口を柱の方に向け、その影からぞろぞろと12人の兵士達が現れる。隊員達は銃口を向けながら指示を飛ばす。

 

「敵意がないというのなら、剣を捨てて、床に伏せろ。でなければ敵とみなす」

 

「アルファ小隊、彼らの言う事に従いたまえ。直ぐに剣を離し、床に伏せろ」

 

ランドからの呼びかけもあって、一同は揃って剣を捨て、床に伏せる。それを確認した中野は、ランドに近付いて膝を折り、ランドの顔を見ながら話しかける。

 

「ハーク・ロウリア34世はこの先だな?」

 

中野がそう問うと、ランドの目つきが鋭くなり、笑みが消える。

 

「そうだ。しかし、王は我らの光。行かないでほしいと頼んでも無理か?」

 

「ああ、無理だな。王を捕らえて戦争を終わらせるのが我らの仕事なんでな」

 

「では、仕方がない!」

 

直後、ランドの手のひらから煙が噴き出し、王の間が煙に包まれる。

 

「アルファ小隊、ベータ小隊!突撃せよ!」

 

ランドの号令と同時に、伏せていたアルファ小隊は立ち上がり、別の控室に通じる扉の影に隠れていた兵士達も現れ、突入部隊に襲い掛かる。

 

「付け剣!出来る限り距離を取れ!」

 

中野はそう怒鳴りながらランドから離れ、89式小銃の銃口下に銃剣を装着させる。そしてランドの剣撃を二脚部分で受け止め、蹴りを繰り出して銃口を向ける。ランドは大きく跳躍して火線を回避し、大上段で剣を振り下ろす。

 

「『ウィンド・シュライデン』!」

 

「うぉっ!?」

 

中野は間一髪で風魔法の斬撃を回避し、89式小銃の引き金を引く。5.56ミリ銃弾が音を立てながら柱を抉り、ランドは再び突撃する。

 

「ィィやあああァァー!」

 

叫び声を上げながらランドが突撃し、剣を突き出す。中野は紙一重でこれを回避し、橋本が横から突進してランドは距離を離す。

その時だった。突然、真横から剣が突き出され、ランドは固まる。そして真横に目を向けると、そこにはアルダの姿があった。

 

「あ、アルダ王子…!?」

 

「…直ちに戦闘を停止せよ。繰り返す、全員直ちに戦闘を停止せよ」

 

扉が開いて十数人の兵士が現れ、瞬く間に近衛隊を拘束していく。一同はただ茫然としてその様子を眺めていたが、アルダが彼らに話しかけたため、一同は我に返る。

 

「…どうぞ、このまま行って下さい」

 

「…あ、ああ」

 

中野達が奥の方に向かって走っていく中、アルダはランドに顔を向けつつ、口を開いた。

 

「…もう、幻想を見るのも終わりです」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

王の控室

そこでは、ハーク・ロウリア34世が一人、玉座に座り込みながらうなだれていた。

服従と言っていい程の、屈辱的なまでの条件を飲んだ末に受けた列強国の支援。ソルジャーユニオンという謎のギルドの協力を得て復活させた古代ロデニウス文明の超兵器。そして列強式兵隊教育を12年もの歳月をかけて施し、ようやく実現した、ロデニウス大陸最強の大軍隊。

資材も費用も国力の許す限りまで投じ、数十年先まで借金をした上で作り上げた大軍。クワ・トイネ公国軍とクイラ王国の連合軍の何十倍という規模にまで成長させた大軍ならば、勝利は間違いなしの筈だった。しかし、日本と台湾という、二つのデタラメな軍事力を持つ国の参戦により、有力な戦力の殆どを失った。

国交を結ぶために訪れた二つの国の使者を、丁重に扱えばよかった。もっとあの二国の事を調べておくべきだった。

ワイバーンのいない国?とんでもない、ワイバーンが全く必要の無いほどの超文明と軍事力を有した大国家ではないか。

こちらの軍は、最早壊滅的被害を被り、反撃は愚か国土を守る事すら困難な程に疲弊しているというのに対し、日本と台湾の軍は、全く一人も死者を出していない。

悔やんでも悔やみきれず、ただ空しくうなだれている事しか出来ない。

すでに敵の兵士は王城にまで攻め込んで来ている模様で、連続して響き渡る、聞きなれない乾いた音と近衛兵の悲鳴が、控室の向こうから聞こえてくる。そして扉が蹴破られ、十数人の、緑色の斑模様の服を身に纏った、奇妙な軍勢が現れる。

兵士というより魔術師に見えるその風貌から、ハーク・ロウリア・ロウリア34世の脳裏には、古の魔法帝国の軍勢がよぎる。

 

「き、貴様ら…まさか魔帝軍…古の魔法帝国の手先か!?」

 

ロウリア王が恐怖に震える声で尋ねると、一人の紺色の服の男が近付き、話しかけた。

 

「魔帝軍というのは存じ上げませんが…日本国警視庁の青木と言います。ハーク・ロウリア34世ですね?貴方はクワ・トイネ公国のギム市において、大量殺戮を指示した罪で逮捕状が出ております。逮捕状は別の者が持っており、今ここにないので緊急執行しますね。後で見せます」

 

そしてハーク・ロウリア34世の両手に手錠がかけられ、その場から連行されていく。そしてアルダは、柱の影からその様子を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、ロウリア王国は国王を失い、そのまま空中崩壊。軍は戦場から引き揚げ、戦争は自然終息していった。

しかし一方で、別の都に逃げていた王族が、その地で対日・対台湾徹底抗戦を宣言したため、陸上自衛隊と台湾陸軍は引き続きダイダル合同駐屯地に留まり、アルダを中心とする『ロウリア王国正統政府』の要請に従って、国内の武装勢力の完全討伐に乗り出す事となった。




次回、後日談兼第一章エピローグ。


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第15話 列強の影

戦闘の際に参考にしているモノといえば、ゲートと安里アサト氏の『86』ぐらいかなぁ…
ところで関係ない話ですが、比叡の発見が確実ってマジですか?


中央暦1639年9月11日 ダイダル合同駐屯地 司令部

大内田と張は、現在ロウリア王国西部で発生した『武装勢力』討伐の作戦指示を行っていた。しかし、現在彼らが見ているモニターには、全く別の映像が映し出されていた。

 

「しかし、まさかこんな結末を迎える事になるとはな…」

 

大きく息を吐き出しながら大内田が呟き、張も頷く。

現在、日本・台湾両国から『ロウリア王国正統政府』からの要請に従い、ロウリア王国西部の中規模都市ザン・ハーク市に臨時の拠点を設けた『武装勢力』の殲滅に動いていた。

日本・台湾両国から『武装勢力』と認定されたロウリア王国軍抗戦派は、ザン・ハークを中心とする半径100キロ圏内を実質的に支配していたが、日本・台湾との戦闘の様子が国中に伝わっていた事や、元々ロウリア王国軍自体が、ハーク朝への忠誠を誓わされた諸侯王族や貴族の私兵・正規兵の連合軍である事もあって、抗戦派の戦力として使えるのは自身の領内の私兵や正規兵、王族直属の近衛兵のみであり、装備の質はおろか数でも大きく劣る事になっていた。

そんな不利な状況下でも、日台連合軍がザン・ハークを直ぐに落とせなかったのは、単に政治的な問題等の複雑な問題ではなく、単純かつ面倒な理由からであった。

ザン・ハークの周囲、半径100キロの地点。巨大な円を描く様に展開する、幾多もの巨大な甲虫の群れ。

かつて古の魔法帝国が、巨蟲を滅ぼすために造ったと神話や伝承で語られていた、人造巨大昆虫兵器『鉄甲鎧虫』の大群が、日台連合軍を阻む壁となって立ち塞がっていたのだ。

120ミリ滑腔砲は愚か、155ミリ榴弾ですら傷一つ付かず、11式自走レールガンの超音速で放たれる対特殊生物用155ミリAPFSDSでようやく貫通するという頑丈な外骨格を纏い、着弾時の衝撃で爆発する固形物を射出する長大な大砲様の器官や、溶解液などを水鉄砲の要領で遠方に発射する器官を幾つも備えた攻撃力を持つ、陸上の戦艦とでもいうべき化け物。

どうにか特科大隊の全力砲撃と空中支援機である〈AC130J〉の高空からの支援攻撃で足を止め、11式自走レールガンが慣れない機動戦で肉薄して複数方向から一斉射するという、現代の軍らしくない戦術でどうにか11体を仕留めたが、その間に15名の死傷者を出しており、弾薬も次の日本本土からの補給までには間に合わない程に欠乏し欠けていた。

しかしロウリア王国政府との休戦から2日かけて西に移動し、ザン・ハーク攻囲戦を開始して7日目。

これまで抗戦派支配地帯の防衛ラインに並んでいた鉄甲鎧虫の群れは、突然踵を返してザン・ハークの方に向かって行き、一斉に姿を消したのだ。

これを怪しく思った上層部は、鉄甲鎧虫の進行ルートからそれらの巣の位置を割り出し、特に鉄甲鎧虫の多くが向かっていた地点に向けて、少数の調査部隊を派遣した。そして今、その部隊が撮ってきた映像が、モニターに映し出されていた。

一つの山の麓から中腹にかけて、スプーンで抉り取ったかの様に形成された空洞の中に築かれていた鉄甲鎧虫の巣。アリ塚にも見える幾つもの石製の塔は、ジャングルの奥地に忘れ去られた古代遺跡の建物の様に崩れ落ち、辺り一面には鉄甲鎧虫のものと思しき外骨格の一部が転がっており、その外骨格も、バーナーで炙られて熔け落ちた鉄の様になっていた。

 

『…周囲より放射線を検知。カバタニウムも検知されました』

 

現場で調査を行っている隊員からの報告に、大内田達は、この巣に一体何が起きたのかを察する。

ただでさえ放射性物質が確実に検知できる程である上に、最初に検知された場所から名が取られた新元素の名前が出てきた事は、つまりー。

 

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ロウリア王国西部 ザン・ハーク

 

ロウリア王国の西部に位置する中規模都市、ザン・ハーク。

王国の中でもジン・ハークとサディエゴに次いで栄え、かつハーク朝の者が治める街である事もあって、『ロウリア王国第二の都市』とまで呼ばれた城塞都市。

その中世ヨーロッパの様な街並みは今、炎に呑まれていた。

市街地に多数の鉄甲鎧虫の死骸が転がり、レンガと木で建てられた建物は炎に包まれる。戦争勃発時に、王子達が休暇のために訪れていたザン・ハーク城も破壊され、見るも無残な状況になっていた。

地獄を現世に造り上げた様な光景の中心部に、一頭の黒く巨大な爬虫類型の生物が立つ。

ザン・ハークを炎で染め上げた張本人は、付近を歩いていた時に襲い掛かり、そしてこの街並みの中でも戦いを挑んだ鉄甲鎧虫の死骸を見下ろす。鉄の様に硬く、闇夜の様に黒い鉄甲鎧虫の外骨格はゲル状に溶け、内部の肉や臓物が可燃材替わりになって炎を燃やす。

 

『なんと惨い光景であるという事か』

 

すると、背後に一頭の黒く巨大な竜が現れ、黒い爬虫類型の背後に降り立つ。一対の巨大な羽と四本の肢を持ち、後ろ足で人の様に立つその竜は、口一つ動かさずに、爬虫類型に話しかける。爬虫類型は振り向きもせずに目の前を眺め、ただその場に静かに立つ。

 

『…『ゴジラ』、といったか。魔帝の作り出した怪物共と争っているうちにこの街に来たのだろうが、破壊の跡が凄まじいな。貴様は人の全てを滅ぼすつもりか?』

 

竜は首を前の方に向けて伸ばし、ゴジラに問いかける。ゴジラはただ無言で立っていたが、背中の先端部が露出した背びれに青い光が灯り始めている事から、多少苛立ちを抱え始めている事は理解出来た。

 

『…まぁいい。常世で人が大勢死んで困るのは神々ぐらいだから、我には何の関係もない。それとも、ここで一つ、我とやり合うか?』

 

竜は挑発する様な口調で言い、頬のない口に笑みを浮かべる。直後、ゴジラは一気に振り向き、口から青い炎の奔流を吐き出した。

 

『ぐおっ!?』

 

竜は放射熱線をまともに浴び、ワイバーンとは比べ物にならない程頑丈な肉体を焦がされる。傷は直ぐに修復出来るが、放射熱線の効果によるものなのか、治りは非常に悪かった。

 

『チッ…今はその気分じゃないってか。分かったよ、ここは大人しく退いてやろう…』

 

竜はそう言って大きく翅を羽ばたかせ、空に舞い上がる。ゴジラはそれを見送り、ザン・ハークから離れていく。そしてその場に遺されたのは、炎と煙に包まれながら死にゆく都市だけだった。

 

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中央暦1639年9月15日 日本国 東京

東京拘置所に、アルダの姿があった。

ロウリア王国正統政府の元首として、一部諸侯の独立容認と国内の混乱の鎮静化に取り掛かったアルダは、亜人殲滅派を処罰してこれまでの国是を否定し、周辺諸国との関係修復に奔走した。また、ハーク・ロウリア34世がパーパルディア皇国から借りていた借金の返済も、長期的に少額ずつ返済する形で決着を付け、どうにか2週間で国としての機能を回復させる事に成功していた。

そして今、ひと段落がついたところで彼は、拘置所に収監された父に面会に来ていた。

 

「面会時間は10分です。会話は一応モニタリング…監視させて頂きます」

 

看守がアルダに向かって言うと、向こうの部屋の奥にある扉が開いて、収監者の服を着たハーク・ロウリア34世が入ってきた。前ロウリア王は椅子に座り、アルダの顔を真正面から見据える。

 

「…お久しぶりです、父上」

 

「…アルダ、か。ワシを嗤いに来たのか」

 

自身の父の言葉に、アルダは一瞬眉を顰める。こればかりは流石にどうしようもない。なんせ、これまで侮っていた国の軍に捕えられ、自国の犯罪者と同じ牢に放り込まれているのだから。

 

「父上、現在私は、完全な終戦のための交渉作業と、パーパルディア皇国に対する借金返済のための手続きを進めております。父上が心配なされている様な事にはなっておりません。ですが、兄達が…」

 

アルダの声のトーンが落ち、表情も暗くなる。表情の変化に気付いたハーク・ロウリア34世は、自分が逮捕された後に何かよからぬ事が起きたのだと察する。

 

「兄達は、姉達の命を対価にして鉄甲鎧虫の統制システムを起動させ、徹底抗戦しようとしたそうです。…兄達が立て籠もっていたザン・ハークも、鉄甲鎧虫と日本や台湾との戦いや、突然出現したという、黒い海龍の蹂躙に巻き込まれたそうで…」

 

如何に手に入れられる情報が少なくとも、抗戦派が未だに戦争を続けようとした事と、彼らが立て籠もっていたザン・ハークが陥落したという事は、噂程度には耳に入っていた。しかし、実際は予想よりも酷い事態になっていた事に、ハーク・ロウリア34世は大きく目を見開いた。

 

「まさか、鉄甲鎧虫を操作して戦争を続けようと…」

 

「ですが、鉄甲鎧虫は成虫の大半が死滅し、巣も一番大きな巣が破壊されたため、生き残った者は皆降伏し、別の拘置所に移されたそうです。…特に、古代の遺跡と技術を使った虐殺未遂に、その元となった亜人廃絶政策は、日本と台湾から厳しく糾弾される事になりますね」

 

だからこそ、ロウリア王国の価値観では王の器と見られなかった自分が、『国家として認められた』ロウリアの王となる事になったのだが。

 

「…では、これで失礼します。一刻も早い保釈をお待ちしております」

 

アルダはそう言って席から立ち、その場を後にしていく。ハーク・ロウリア34世はただ、静かにそれを見送って行った。

 

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東京都 首相官邸

垂水は、防衛省からのロウリア戦役に関する報告を聞いていた。

 

「今回はどうにか勝てましたが…中世ヨーロッパ程度の国力とはいっても、魔法という理解しがたい技術で、巨大な木造船の艦隊や、巨大な昆虫の操作等を仕掛けてくるとは…」

 

「その点では諜報の分野を強化しなければならないな。国民から非難はされるが、この世界の事はまだまだ知らない事ばかりだ。それに、自衛隊の戦力も大幅に強化しなければならない。防衛費は今以上に増やしておこう」

 

垂水の言葉に、防衛事務次官は頷く。そして、垂水にもう一つの事を報告する。

 

「それと、ロウリア王国正統政府及びクワ・トイネ公国政府から提供された情報なのですが、此度のロウリア王国の戦争には、北のフィルアデス大陸のトップであり、『列強』と呼ばれている大国、パーパルディア皇国からの支援があったそうです。パーパルディア皇国が主に魔導砲や大型船の建造、ワイバーンの育成や増強について支援をし、『ソルジャーユニオン』というギルドが、古代ロデニウス文明という古代文明の解析に協力して、件の巨大木造船艦隊を造り上げたそうです。…なんか、旧世界と同じ様な臭いを感じますね」

 

かつての世界でも、第二次世界大戦で名実ともに勝利を収め、正規空母からなる機動部隊や核兵器を持ち、高度な経済力を有する国々が、自国の利益と、そのための同志を確保するために、中東やアフリカ等の後進国や発展途上国に支援を行い、内戦を泥沼化させている事があった。それと似たような事が、この世界も行われているらしい。

 

「…どうやらこれは、まだ一波乱が待ち構えていそうだな。現在、周辺国に使節を派遣しているが、良い交渉結果をもたらすところもあれば、芳しくない結果に終わったところもある。まだまだ苦労しそうだな…」

 

垂水はそう呟きながら、今後の政治運営について思索する。

これからも、自分とこの国に更なる困難が降り注ぐ様に思えて仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、国会にて新たな臨時予算が組まれ、日本は新世界で生き抜くための軍拡に追われる事となる。

しかし、ロウリア戦役を含め、それはこの世界に対する波乱の予兆でしかなかった。




次回、間章。それとあの戦艦が出てきます。
ついでに原作よりも詳しく描写していこうかと思います。


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第15.5話 列強対戦艦

気が付けばUA20000超えてた…


中央暦1639年2月26日 第二文明圏外 パガンダ王国

 

この世界に三つ存在する文明圏のうち、一番西側に位置する第二文明圏。

主要な文明国が存在するムー大陸の西方500キロに位置する島国パガンダ王国は、かなり古くからムー大陸以西の文明圏外諸国と、この世界に五つしかない列強国の第二位であるムー国や、列強第五位でありパガンダ王国の宗主国であるレイフォル国を繋ぐ貿易の要所として、長らく繁栄を極めていた。

しかし、レイフォルに対して文明圏外国が政治的・経済的接触を行おうとする際は、常に保護国の中でも一番優遇されているパガンダ王国を窓口としなければならなかったため、その事からパガンダ王国国民は揃って『自分達はレイフォルに代わり文明圏外の蛮族を出迎える高貴な使者である』というプライドが高く、レイフォルやムーの様な文明国や列強には媚び諂う一方で、自国よりも多方面で劣る国々を見下す兆候が強かった。

そしてそのパガンダ王国の首都、王都パガンディールのとある邸宅では、数十人の貴族達がパーティーを開いていた。

 

「皆の者飲め飲め!酒は幾らでもあるからな!」

 

このパーティーを主催する王族ドグラス・パガンは、ミスリルの盃を天高く上げながら、自身の友である貴族達に大声で語り掛ける。中央のテーブルには、ムー国からもたらされた調理法で作られた料理が幾つも並べられ、奥の舞台では奴隷の女性達がダンスを披露する。隣に幾つも設けられた小部屋からは男女の喘ぎ声が漏れ出し、彼らは満足げに酒池肉林を味わっていた。

 

「しかしドグラス様、よくぞこの様な宴を催されましたな。費用はさぞ大変でしたでしょうに」

 

貴族の一人が、酒で顔を赤くさせながら彼にドグラスに問いかけ、彼は上機嫌な様子で答える。

 

「なぁに、ある蛮族の国の使者が持っていた品物や所持品を、レイフォルの方に売ったのよ。あの王族に対する不敬な奴ら、何処から入手したのか分からないが、ムーの機械製品を持っていた。ムーの科学とやらで製造された物は値が高くつくからな、その金でこの宴を催しているのだ」

 

「その蛮族って確か、『グラ・バルカス帝国』などという大層な名前を名乗っていた連中でしたな」

 

貴族の言葉に、ドグラスは楽しそうな表情から一変、苦い顔に変えて頷く。

2週間前、『グラ・バルカス帝国』または『第八帝国』と名乗る謎の新興国の使者がやって来て、『レイフォルに対して国交締結のための交渉の仲介となってほしい』と頼みに来たのだ。

第二文明圏外で、新興国が列強と何らかの関りを持とうとする場合、その玄関口としてパガンダ王国が当たる事になっており、外交担当であったドグラスは使者に対し、仲介の仕事はしてやる代わりに、個人的に賄賂を渡す様に使者達に『命令』したのだ。その額はパガンダ王国の政府予算の5分の1にも及ぶ膨大なモノで、同時に『自分達は列強レイフォル一の保護国である』という話も共に吊り下げておく事で、大体の相手はもしパガンダ王国に対して喧嘩を売ればどうなるのかを理解し、レイフォルのみならずパガンダ王国に対しても敬意を払う様になり、パガンダ王国の地位とプライドは保たれる。ドグラスはグラ・バルカス帝国の使者に対してもこの常套手段を使い、賄賂を出す事を許諾したところでその額を下げ、そのまま自身の懐を温めつつ、王国全体に益をもたらす手筈であった。

しかし、グラ・バルカス帝国の使者のリーダーも王族であった模様で、賄賂を拒否したばかりか、レイフォルの存在をちらつかせた途端に、『自身の宗主国の威光に頼ってばかりの貴様らには相手国の使者を粗雑に扱う程度の品格しか持ち合わせていないのか』とたしなめてきた事に加え、そもそもパガンダ王国を通さずに直接レイフォルに出向いていた事自体がプライドに抵触しており、この時点でドグラスの中ではただの野蛮かつ常識知らずの連中にしか見えなかった。

即日使者達は身柄を拘束し、郊外の処刑場にて死刑に処した後、その死体を晒しものにした上で魔写をグラ・バルカス帝国の連中に渡したドグラスは、その時彼らが身に付けていた物は全て押収し、レイフォルに対して売り払ったため、その時に手に入れた金でパーティーを催しているのであった。

 

「しかし、蛮族がムーから手に入れた様に思えますが、あんなに精巧なモノ、ムーで売ってましたかねぇ?」

 

「どちらかというと、神聖ミリシアル帝国で売っている魔導機械に近かったが…まぁ奴らの国を攻め滅ぼせば、そういったモノがわんさかと出てくるかもしれないな。ここは一つ、周辺の圏外諸国全てを巻き込んで、奴らの国を滅ぼすための連合軍でも作るか!そして奴らの資源と民を山分けしてやろう…」

 

ドグラスの提案に、他の貴族達も笑みを浮かべる。彼らが陽気な気分で酒を煽いだその時、一人のスーツ姿の男が現れ、ドグラスは彼に気付く。それは、ドグラスが日頃から頼りにしている商人であった。

 

「おや、『ソルジャーユニオン』の。何だ、また私を通じて武器の売り込みに来たのか?」

 

ドグラスが笑みを浮かべながら話しかけると、その男は多少顔を青くしながら、震えそうな声で話し出す。

 

「いえ、此度ドグラス様にお売りするのは、貴方様の身の安全で御座います」

 

男がそう言ったその時、突如、外から轟音が響き渡り、その時の揺れでコップやグラスが倒れ、一同は辺りを見回す。

 

「な、何だこの揺れは?」

 

ドグラス達が、突然の轟音に皆揃って酒に酔っていた顔を青くする中、スーツ姿の男も表情を青くしつつ、大声で叫ぶ。

 

「…早い。ドグラス様、一刻も早く、ここから逃げ出す準備を始めて下さい!グラ・バルカス帝国の軍が、このパガンダ王国に攻め寄せて来たのです!」

 

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その日、後の歴史家に『破壊の7日間』と呼ばれる事となる戦いが、パガンダ王国にて勃発した。

強襲を仕掛けてきたグラ・バルカス帝国軍の航空攻撃から始まり、パガンダ王国軍はワイバーンを手繰る飛竜騎士団で迎撃したものの、グラ・バルカス帝国軍の航空戦力は非常に強く、瞬く間にワイバーンを全て叩き落し、制空権を掌握。

次に、迎撃に出ようと出撃したパガンダ王国艦隊120隻は、グラ・バルカス帝国軍艦隊80隻と交戦して全滅し、艦砲射撃で残りの艦船も撃破。制海権すら喪失する。

空と海の両方を抑えられたパガンダ王国軍は、瞬く間にグラ・バルカス帝国軍に蹴散らされ、生き残っていた兵士は全て皆殺しにされた。ある者は自身の保身と引き換えに、味方の隠れ砦の位置を暴露して、隠れ砦に潜んでいた兵士ごと皆殺しにされ、ある者は自身の財産を捧げると言って、逆に軍指揮官の逆鱗に触れて、車両で何度も轢き殺された。

パガンディールは空爆で徹底的に破壊され、市民は悉く機銃掃射や爆撃で殺されていき、王族も国外に逃げ出したドグラス以外はなぶり殺しにされるか、捕虜として、帝国皇族や将校達の慰み者にされた。

結果、僅か1週間でパガンダ王国は滅亡し、パガンダ島はグラ・バルカス帝国軍が第二文明圏に進出するための橋頭保に造り替えられていく事となる。

 

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中央暦1639年3月11日 レイフォル 首都レイフォリア

 

列強第五位であるレイフォル国の中心部たる大都市、レイフォリア。

その象徴としてレイフォリア中心部に築かれている巨大な城、レイフォリア城の会議室では、緊急帝前会議が開かれていた。

会議室には、レイフォル皇帝のレイフォル10世の他に、内政を補佐する宰相や、国防と保護国の監視を担う軍の将軍達が集まり、席に座って会議に臨んでいた。

 

「…諸君、余は非常に悲しい」

 

レイフォルと全ての保護国を治める王である皇帝レイフォル10世は、悲しみと怒りが入り混じった表情で話し出す。その様子に、この会議に参加している者達も揃って真剣な面持ちになる。

 

「我が国の発展のために寄与していたパガンダ王国が、文明圏外の蛮族共に滅ぼされた。これの何と悲しい事か。我らの友であった国の一つが、礼儀の知らぬ野蛮な者共になぶり殺しにされたのだ!よって余は、パガンダ王国を滅ぼしたグラ・バルカス帝国に、正義の鉄槌を与える事を、ここに宣言する!」

 

レイフォル10世はそう言いつつ、軍務大臣とレイフォル軍の将軍達に顔を向け、命令を出す。

 

「軍務大臣、直ちにパガンダ王国救援軍の編成に当たれ!列強の庇護下におかれた国を滅ぼし、我らに逆らった者はどうなるのか、奴らに思い知らせてやれ!」

 

『御意!』

 

一同は揃って頷き、敬礼を捧げる。そして会議の終わった直後からパガンダ王国救援のための部隊の編成が開始され、レイフォリア付近の港にそのための艦艇と将兵が召集される。3週間の長い期間をかけて準備は進められ、同時に皇帝の名の下にグラ・バルカス帝国に対して宣戦布告。3月31日に、パガンダ島に向けてレイフォル国海軍主力艦隊が大勢のレイフォリア市民や貴族達に見送られながら出撃した。

しかし、彼らはまだ知らなかった。

パガンダ王国が滅んだ事は知ってはいても、『どの様に』滅ぼされた事を。

 

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中央暦1639年4月1日 ムー大陸西方海域

 

レイフォル国海軍主力艦隊203隻は、『風神の涙』で風を手繰り、波をかき分けながら15ノットの速力で進んでいた。

その名の通り100門の魔導砲を備えた100門級戦列艦を含めた1等戦列艦43隻に、ワイバーンの改良型であるワイバーンロードを搭載した竜母15隻、隣国イルネティア王国の技術を盗んで改良し、20ノットでの高速機動を叶えた2等戦列艦84隻、そして1隻当たり200人の歩兵と、パーパルディア皇国から密輸入した地竜リントヴルムを搭載した揚陸艦61隻からなるこの艦隊は、かつてこれまでの文明圏外との戦争や、100年前のムーとの戦争で何度も勝利を収め、レイフォル軍の無敵の存在として、畏怖と警戒の念がかけられていた。

 

「提督、偵察のワイバーンが、グラ・バルカス帝国軍の艦と思しきモノを確認しました!数は1!」

 

レイフォル主力艦隊旗艦、100門級戦列艦「ホーリー」の船楼で、艦隊司令のオゴリ・バルは通信兵からの報告を聞き、顔をしかめる。

 

「1隻だけだと?他に艦は確認されていないのか?」

 

「ハッ、その様です。しかも…その艦の全長は250メートル以上はあり、約30ノットの高速でこちらに接近してきています!また、甲板上には巨大な三連装の旋回式砲塔が5基備え付けられており、マストの類は確認されない事から、鋼鉄製の機械動力艦と思われます!」

 

通信士からの報告に、バルは大きく目を開く。全長が250メートル以上ある巨大な鋼鉄の機械動力艦など、古の魔法帝国の伝承にも全く出てこない様な兵器である。そのような規格外の存在など、容易に想像できるものではなかった。

しかし、ここで自分達は退くわけにはいかない上に、魔導砲も最新の魔術回路を使って対魔弾鉄鋼式装甲も貫通する事が出来るタイプであるため、負ける未来は彼らには見えなかった。

 

「全艦増速!竜母は直ちにワイバーンを全て上げ、護衛の30騎を残して他は全て敵艦攻撃に回せ!如何に図体がデカくても、ワイバーンに太刀打ちする事は出来ないと思い知らさせろ!」

 

「了解!」

 

すぐに竜母は減速して帆を畳み、左舷側に大きく突き出ている飛行甲板上に人力エレベータでワイバーンを上げる。甲板上に埋め込まれた『風神の涙』が緑色の光を放ち始め、甲板周囲の風圧が大きく変化する。そしてワイバーンが離陸するのに適した風が生み出され、ワイバーンはその風を前肢が変化した翼で受け止めながら甲板を走り、空に舞い上がる。

従来のワイバーンよりも飛翔能力と筋力、導力火炎弾の速射能力が強化されたワイバーンロードは、最高時速が350キロにも及び、1騎でワイバーン10騎分の能力を持つと言われている。特にレイフォルのワイバーンロードは、対魔弾鉄鋼式装甲も破壊できる様に導力火炎能力に改良が施されており、対ムー艦隊に対しても有効な対艦攻撃戦力として、周囲国から恐れられていた。

そのワイバーンロードは、次々と竜母から飛び立ち、編隊を組んで西の方へと向かって行く。その数は実に165騎。

 

「見事に壮観な光景だ。編隊も非常に美しい。これは勝ったな」

 

味方の訓練が行き届いた編隊を眺め、バルは満足げな笑みを浮かべる。そしてワイバーンロードの編隊は、グラ・バルカス帝国軍攻撃のために、レイフォル艦隊乗組員に見送られながら西へ飛び去って行った。

 

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グラ・バルカス帝国海軍監察軍所属の最新鋭艦、特一等艦隊型航洋装甲艦「グレードアトラスター」は、30ノットの速力で東に進んでいた。

黒みがかった灰色の船体には、城の塔の様な上部構造物が聳え立ち、前後に計5つの三連装主砲を備えたその姿は、日本人が見たら日本で一番有名な戦艦「大和」の様に見える。しかし、最上部の測距儀上や、後部マストに設置されたレーダーの形状は旧日本海軍の採用していた電探とは異なる形状をしており、側舷部に集中配置された高角砲も、旧日本海軍艦では見る事のない三連装型で、それを管制する射撃指揮装置も、大和型戦艦の九四式高射装置ではなく、Mk37砲射撃指揮装置に酷似したものが装備されていた。

その巨大な戦艦の上部構造物、幾つもの双眼鏡が設置された防空指揮所にて、一人の女性が空を見上げていた。

深緑色の軍服を身に纏い、茶色の長髪を後ろにまとめ上げてポニーテールにしているその女性は、ただ静かに真正面を見つめる。すると、後方のドアが開き、そこから一人の男が現れる。

 

「アトラ、そろそろ艦橋に戻れ。先程、レーダーに反応が出た」

 

「分かっています。数は凡そ160。方位355、距離は約6万。速度は大体…350キロです。会敵まであと9分」

 

アトラと呼ばれた女性の報告に、男はフッと笑みをこぼす。

 

「正確なサーチだ。流石は、帝国一の『プロセッサー』だ。思念接続でここまでの情報をレーダーから捉えるとはな」

 

「ラクスタル艦長、『ローレライ』第8バッジの実力はこんなモノではありませんよ?超能力を異端としていたケインの連中を負かすために生み出された技術なら、100キロ先の兵士の思念すら感知できますから。悪口なんて直ぐにお見通しです」

 

アトラはそう言いながら振り返り、男ー「グレードアトラスター」艦長のコサク・ラクスタルを見る。ラクスタルは不敵な笑みを浮かべつつ、艦長帽を被り直してアトラに言う。

 

「では、給料分の仕事をしに行こうじゃないか。艦橋に戻るぞ」

 

「了解」

 

二人は揃って真下の昼戦艦橋に戻って行き、ラクスタルは艦長の立ち位置につく。アトラはその後ろに立ち、壁に設置されたケーブルを手に取って背中に取り付ける。軍服の背中に付いている金属のカバーにケーブルが繋げられたその時、アトラの目の色が文字通り変わる。

通常の茶色の瞳が、ルビーの様な赤い色に変わり、その場の雰囲気も一変する。そして艦内のベルを鳴らしつつ、放送を流す。

 

「全艦戦闘配置。対空戦闘準備。主砲及び副砲は散式弾を装填し、高角砲及び機銃は砲弾を装填して待機せよ」

 

前部2基、後部1基装備している3基の45口径46センチ三連装砲塔と、前後1基ずつ装備している60口径15.5センチ三連装砲に、散式榴散弾が装填され、艦はゆっくりと左に回頭していく。それと合わせて主砲と副砲は右舷側に砲身を向け、仰角を上げる。

 

「敵編隊、主砲の有効射程圏内に突入」

 

「敵編隊密集空域算出。各砲身仰角調整」

 

『こちら砲術長、主砲及び副砲、撃ち方準備よろし!』

 

乗組員からの報告を聞いたラクスタルは、深く息を吸い込み、大声で命じた。

 

「主砲、撃ち方始め!」

 

ズガガガァァァン!!!

 

3基の主砲が、発砲遅延装置で発射タイミングをずらしつつ吼え、9発の46センチ砲弾を大空に撃ち上げる。初速では超音速の時速2808キロに達する速度で放たれた砲弾は、ワイバーンロードの最も編隊が密集している空域に向かって飛翔し、僅か1分でワイバーンロードの編隊に到達する。

弾頭部の小型レーダーが仕込まれた近接信管が作動し、散式弾は前方の広範囲に向けて大量の子弾や鉄片をシャワー状にまき散らし、一瞬で60騎のワイバーンをズタズタに粉砕する。

突然、何も見えないところから攻撃された事に戸惑ったのか、ワイバーンロードの編隊に乱れが生じ、アトラはゆっくりと口角を吊り上げる。

 

「副砲、射程圏内に入り次第、砲撃を開始。高角砲及び機銃はいつでも撃てる様に準備しておきなさい」

 

アトラは静かに命令を発し、真正面を見据える。同時に副砲が砲撃を開始し、毎分5発、3門合わせて15発の散式弾が、ワイバーンロードの編隊に向けて放たれる。

黒い炎の花が空中に咲き乱れ、ワイバーンロードは次々とズタズタに身体を引き裂かれて墜落していく。それでも副砲の弾幕を掻い潜って突撃をしてきたが、「グレードアトラスター」はそれを見逃す程甘くはなかった。

 

「高角砲、対空機銃、攻撃準備」

 

アトラの指示に従い、主砲の爆風と爆圧から逃れるために隠れていた操作員が出てきて、対空戦闘準備を開始する。そして全ての準備が終わり、肉眼でもワイバーンロードの編隊が見える距離にまで接近したその時、「グレードアトラスター」は右に曲がっていく。そしてワイバーンロードの編隊が、左右に分かれて挟撃する態勢に入ったその時、アトラは静かに命じた。

 

「…1匹残らず、全て叩き落せ」

 

その声と同時に、一斉に全ての高角砲と対空機銃が火を噴き、10.5センチ砲弾や40ミリ機関砲弾の雨がワイバーンロードに降り注ぐ。

対空測定レーダーと連動した機械式計算機の補助による射撃管制は、如何に原種のワイバーンより強化されているとはいえ、速度が350キロ程度のワイバーンロードに対して驚異的な命中率を叩き出していた。ワイバーンロードは竜騎士もろとも砲弾に蜂の巣にされ、粉々になって海面に落ちていく。

そしてわずか5分で、165騎全てのワイバーンロードが、粉々に粉砕されて果てたのだった。

 

「全騎撃墜を確認。さらに対水上レーダーに反応を検知。敵艦隊約200がこちらに向かって接近中。速力は凡そ15ノット。全長は突撃艦以下ですが、幅が結構広いので、排水量はそれなりにあると思われます」

 

アトラからの報告を聞いたラクスタルは、彼女に尋ねる。

 

「さて、確認だ。この世界の軍艦の性能と、搭載する火砲の威力は、どれぐらいかね?」

 

「ハッ。パガンダ王国攻撃の際に遭遇した敵の戦列艦は、100年程前に我が国でも使用されていたモノとほぼ同じだけの性能で、火砲も威力は黒色火薬を使った炸裂弾並のものでした。しかし砲弾は球形で、射程は約1キロ程です。レイフォルの戦列艦と艦砲は、パガンダ王国のモノよりも高性能でしょうが、確実に火力と防御力は突撃艦にすら劣りますね」

 

「ハッ。その様な武装で我々を滅ぼそうなどと吼えているのか。我々を辺境の蛮族と思って見下している様だが、敵の指揮官が哀れだよ」

 

ラクスタルはそう呟きながら、首にかけた双眼鏡を覗き、水平線の彼方を見る。すると、そこに幾つもの黒く輝く帆船の姿が幾つも映り込んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ラクスタルがレイフォル艦隊を哀れに思う中、当のレイフォル主力艦隊では、バルが驚愕と憤怒の入り混じった表情で叫んでいた。

 

「なっ…5分!たった5分で、165騎のワイバーンロードが、全滅だと!?」

 

「て、提督!如何しますか?」

 

参謀達が顔を青くしながら尋ねる中、バルは怒りで顔を赤くしながら叫ぶ。

 

「おのれおのれおのれおのれぇーっ!文明圏外の蛮族風情がぁぁぁ!栄えある列強のレイフォル艦隊が、ワイバーンがやられた程度でおめおめと引き下がるわけにはいかぬのだぁぁぁ!!!全艦、全速で敵艦に向かい突撃!列強の恐ろしさを思い知らせてやれぇぇぇ!!!」

 

レイフォル主力艦隊は『風神の涙』の出力を上げ、速力を15ノットから17ノットにまで引き上げる。そして増速と臨戦態勢への変化は、「グレードアトラスター」のレーダーに確実に捉えられていた。

 

「敵艦隊増速。本艦の右舷側に移動し、接近して砲撃戦に持ち込む模様です。ただし敵の竜母と輸送艦らしき艦は別ルートを進み、パガンダ島の方に向かう模様です」

 

アトラの報告に、目視でレイフォル主力艦隊をバッチリと見ていたラクスタルはフムと頷き、指示を飛ばす。

 

「主砲は敵竜母及び輸送艦を、副砲及び高角砲、機銃は敵戦列艦を攻撃せよ!まずは主砲で遠方の敵艦を全て叩く!アトラ、弾種は任せる!聞いていたな、フラグストン!数発で決めてやれ!」

 

『了解!』

 

全ての主砲が、向こう側の竜母・揚陸艦の集団に向けられていき、副砲は接近しつつあるレイフォル主力艦隊を追尾し始める。そして全ての準備が終わり、攻撃が開始された。

46センチ三連装砲が散式弾を放ち、時限信管によって調定された砲弾は揚陸艦隊上方で炸裂し、揚陸艦を海面ごと切り刻む。竜母の甲板は瞬く間に蜂の巣となって粉砕され、子弾が艦底まで貫通して沈没し始める。

副砲は専用射撃管制装置と水上射撃用レーダーによって、効率的に砲弾を落とす角度に調整しながら撃ち、至近弾や狭叉弾で戦列艦の列を崩し、狭叉で動きが鈍ったところに15.5センチ砲弾を直撃させる。

レイフォルの戦列艦は、外板に鉄製の対魔弾式鉄鋼装甲を施しているため、木造船より遥かに防御力は高く、加えてレイフォルの艦はムー艦隊の攻撃にある程度耐えうる様に風魔法系の爆炎軽減障壁が展開出来る様に造られ、その名の通り魔法攻撃はほぼ無効化出来る他、魔導砲でも貫通するのは至難の業といえた。

しかし、ムーの艦砲よりも長射程かつ重量も多い15.5センチ砲徹甲榴弾は、対魔弾式鉄鋼装甲を簡単に突き破り、肋骨や内部隔壁を突き破り、弾薬庫に飛び込む。そして信管が作動して少量の炸薬が起爆し、小さくも8畳間の空間を埋め尽くす規模の炎を発生させる。結果、物理的作用にも反応する魔導砲炸薬用魔術媒体が誘爆し、戦列艦は大爆発を起こして次々と沈んでいく。

 

「敵戦列艦、7隻撃沈を確認。加えて、竜母3隻と輸送艦9隻の撃沈を確認」

 

「右舷後方より、敵艦8近付く。距離6000」

 

「右舷高角砲、及び後部砲塔、迎撃を開始。対空機銃はワイバーンに留意せよ」

 

乗組員からの報告を聞きつつ、アトラは次々と指示を飛ばす。

3基の高角砲が砲身を水平に向け、接近してくる二等戦列艦に10.5センチ砲弾を撃ちまくる。毎分12発の連射速度で放たれる砲弾は、戦列艦のマストをへし折り、側舷の最も装甲が薄いところである砲門付近を貫通し、ガラクタに変えていく。1隻が火だるまになりながらも接近するが、40ミリ三連装対空機銃の猛烈な射撃に蜂の巣にされ、海底に引きずり込まれていく。

「グレードアトラスター」の戦いっぷりはまさしく『戦神』の一言であり、あらゆる敵の艦を真正面からねじ伏せるために与えられた破壊の力が、レイフォル主力艦隊に容赦なく振るわれる。そして気が付けば、ワイバーンは全て対空射撃で叩き落とされ、水上艦で無事に海に浮かんでいたのは、艦隊旗艦「ホーリー」のみとなっていた。

 

「敵艦隊、9割以上の轟沈・航行不能を確認。後は敵旗艦とおぼしき戦列艦のみです」

 

『魔信』と呼ばれる電波以外のエネルギーで通信する機器を調査し、逆探知や通信解析が出来る様に工夫された解析装置で敵艦隊の通信を傍受していた乗組員が報告し、ラクスタルは残った敵戦列艦を見る。

すると、その艦は白旗を上げ、速度を落として接近してきた。どうやら降伏してくるらしい。

 

「降伏するか…まぁここで、本艦の実力を余すところなく見たんだ。当然の行動だろうな」

 

ラクスタルがそう言いながら敵戦列艦を眺める中、アトラは自身の能力で、敵戦列艦に乗っている者達の『心』を捉える。

 

『…辺境の野蛮人共め。不意打ちでその息の根を止めてやる』

 

数キロというレーダーよりも短い距離でなければ捉えられない、敵戦列艦のおそらく指揮官級の男の心の声。

アトラは静かに息を吐きつつ、憐憫に満ちた目で戦列艦を見る。

 

「…愚かな。降伏すると見せかけながら接近し、至近距離で私を倒そうというのか…やましい者達です。貴方も哀れですよ。属国の蛮行を黙認し、自らを最強の存在だと驕り高ぶっている様な者達の(フネ)として、私と相まみえる事になったのですから…本当に哀れです」

 

アトラは相手の行動を読み取った上で、敢えてその攻撃を受ける事を決める。

直後、真横に並んだ戦列艦の砲門に魔方陣が浮かび上がり、一斉に炎と煙が噴き出して「グレードアトラスター」の真横に突き刺さる。

幾つもの炸裂音が響き渡り、艦全体がわずかながらも揺れる。その衝撃の大きさからして、威力は半世紀前の旧式巡洋艦の15センチ砲弾ぐらいか。

しかし、自身の46センチ砲弾をも受け止める様に造られている側舷部のVH式装甲は、その程度の威力の砲弾を易々と受け止め、加えて艦全体に張り巡らしているサイコバリアで物理的な衝撃を軽減したため、煙が晴れた時には、命中箇所にはわずかな凹みと擦り傷しかなかった。戦列艦上の将兵達が騒然とするのを確認しつつ、アトラは超感覚でそれを確認して、全ての主砲を戦列艦に向けた。

 

「せめてこの一撃が、貴方を死出の旅に誘う弔砲と成らん事を…撃て」

 

アトラの指示とともに、約300メートル離れた距離にいる戦列艦に向けて、全ての46センチ砲が吼える。旧式の一等艦隊型航洋装甲艦を廃艦にするのに十分な量である9発の46センチ砲弾は、全長70メートル程度の木造の戦列艦を木端微塵に吹き飛ばし、海上から消滅させる。そしてレイフォル主力艦隊は、全て海上から姿を消したのだった。

 

「やれやれ…降参したと見せかけて、不意打ちしてくるとは…列強と名乗ってもこの程度の品位しか持ち合わせていないのか。これは少し『お仕置き』が必要だな」

 

ラクスタルは小さくため息をつきつつ、アトラに顔を向ける。

 

「アトラ。残弾数はどうだ?」

 

「はい。主砲は徹甲弾と榴弾が各砲塔70発程で、散式弾は30発程。副砲と高角砲はまだ十分に残っております」

 

「そうか…敵の首都は海に面していたか?」

 

「パガンダ王国に遺されていた海図によれば、港湾都市の模様です。距離は、ここから東に350キロ程です。航空隊の航空支援を要請しますか?性能が低いとはいえ、対空弾が少ない状況でワイバーンの航空攻撃に晒されるのはいただけませんよ」

 

「ワイバーンの性能は水上偵察機にすら劣る。本艦に搭載している〈ギェナー〉で十分に対応出来るだろう。弾着観測も必要になるだろうし、偵察隊に出撃準備を指示してくれ」

 

「了解、艦長。…〈ギェナー〉搭乗員に伝達。直ちに出撃して先行せよ。繰り返す、直ちに先行して出撃せよ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

レイフォル 首都レイフォリア

レイフォリア城の会議室は、紛糾の嵐に包まれていた。

 

「しゅ、主力艦隊が全滅だと!?一体どういう事だ!?」

 

レイフォル10世が顔を青ざめながら軍部の将軍達に問いかけ、将軍達も血の引けた表情で報告する。

 

「ハッ…それが、主力艦隊の魔導シグナルは3時間前まで確認されたのですが、わずか20分で全てのシグナルが消失し…現在、本土防衛艦隊及び地方軍艦隊を第一次防衛ラインに展開し、飛竜騎士団を空中警戒に展開させておりますが、未だに不安が拭えません。陛下、せめて副首都の方に避難なさって下さい!」

 

将軍が自身の指導者たる皇帝に避難を進言するが、レイフォル10世はそれを否定する。

 

「馬鹿者!ここで余が真っ先に逃げてしまえば、ここまで繁栄を築き上げたレイフォルの民に示しがつかん!首都内住民を優先的に疎開させよ!港湾要塞には対艦迎撃準備命令を出し、飛竜騎士団で動員可能な戦力は全て西方に向かわせよ!恐らく敵はこちらに向かっている筈だ、蛮族共に我がレイフォリアの鉄壁の守備というものを見せつけてやれ!」

 

「りょ、了解!」

 

レイフォル10世の号令が響き渡り、将軍達は急いで魔信機で部隊に指示を飛ばす。慌てた様子で戦闘態勢が整えられていく中、一人の兵士が会議室内に駆け込み、顔に汗を浮かべながら叫んだ。

 

「しょ、哨戒のワイバーンロードより入信!敵の超大型艦が1隻、30ノットの高速でこちらに接近してきています!現在飛竜騎士団の第2から第4帝都防衛分隊が迎撃に向かっておりますが、奮戦虚しく全て撃墜されたとの事です!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

戦闘は、夜の帳が降り始めた頃から始まった。

レイフォル艦隊は列を成して海上の壁となり、一斉に魔導砲を撃つ。

しかし、砲弾は全て3キロという艦砲として短い距離で落ち、ただ水柱を聳え立てさせる。

お返しに「グレードアトラスター」の高角砲が火を噴き、10.5センチ砲弾の雨が降り注いで戦列艦を蜂の巣にしていく。

ワイバーンの編隊が一斉に襲い掛かるものの、各所に配置された対空機銃が猛烈な弾幕を張り、ワイバーンロードを次々と叩き落とす。上空では数機の複葉水上機が飛び回り、機首の機銃でワイバーンロードの頭部や竜騎士を撃ち抜いて落としていく。

海上・航空戦力が壊滅した頃を見計らい、「グレードアトラスター」はレイフォリア港湾に近付き、探照灯が港湾施設を照らし出す中、奥の方を照らすために複葉水上機が照明弾を落としていく。直後、「グレードアトラスター」の有する全ての砲が火を噴いた。

主砲は遠方の施設に46センチ榴弾や徹甲弾を飛ばし、着弾によって建物を粉微塵に粉砕する。中距離に15.5センチ砲弾が幾つも降り注ぎ、石製の5階建てビルを次々と破壊する。10.5センチ砲弾の雨が港湾施設や沿岸砲台に降り注ぎ、港や要塞としての機能を殺していく。

砲撃は30分以上にも及び、何百発もの砲弾の雨を浴びたレイフォリアは、市街地の8割を喪失し、レイフォリア城も46センチ砲弾で塔や城壁が粉々に吹き飛ばされた。

皇帝レイフォル10世や市街地に残っていた者達は皆、建物とともに砲弾で耕され、レイフォリアはもはや、ただの石の散らばる荒野と化したのだった。

レイフォリアの郊外に築かれていた城塞で、市民の避難指示を行っていた軍部はその惨状を見て降伏を決意し、全部隊の戦闘停止を通達。そして皇帝や政府上層部の全員死亡を確認して「グレードアトラスター」に無条件降伏を打診。ここにレイフォルは国家として滅亡した。

数日後、「グレードアトラスター」は一つの国を落とした英雄として祖国に凱旋し、グラ・バルカス帝国全土はその大勝利に沸いた。

そして単艦で列強に大勝した戦艦「グレードアトラスター」の名は、全ての世界に轟く事となる。




気が付けば初めて1万字超えた…
次回、間章その2。


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外1 接触

外伝でヲタク拗らせ始めたブロントと、お茶目なルミエスに草。


西暦2018年2月14日 大西洋

アメリカ海軍第2艦隊所属の第10空母打撃群は、18ノットの巡航速度で大海原を進んでいた。

ニミッツ級原子力航空母艦「ドワイト・D・アイゼンハワー」を中心に、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦やボルチモア級原子力ミサイル巡洋艦、ズムウォルト級ミサイル駆逐艦にアーレイバーク級ミサイル駆逐艦からなる総勢16隻の艦隊は、数日前にこの付近で行方不明になった友軍艦隊の第11空母打撃群の捜索を行っていた。

 

「周辺海域に反応認められず」

 

「航空隊より入電。艦1隻の反応すら感知出来ません」

 

「「プロビデンス」より入電。海底に沈没艦の反応検知されず」

 

艦隊旗艦「ドワイト・D・アイゼンハワー」の艦橋に、幾つもの報告が届く。打撃群司令のランシング少将は、自身の顎に手を添えながら唸る。

 

「第11空母打撃群の残骸すら見つからないとは…太平洋での一件といい、一体何が起きているというのだ…?」

 

ランシングはそう呟きながら、2か月前の太平洋での異変を思い出していた。

2017年と2018年を跨ぐその瞬間、突然日本列島と周辺諸島、そして台湾が突然『消失』し、日本を母港としていた第7艦隊諸艦艇も行方不明になったのだった。

現在、アメリカとロシアの2ヵ国からなる連合調査チームが、当該海域の調査を行っているものの、その1ヵ月後に今度は第11空母打撃群が行方不明になったのである。この異常な事態に、アメリカ政府は本腰を上げて徹底的な調査を行っているが、それでも理解の範囲外である事には変わりはない。

 

「もう少しこの海域の調査が必要となるな…ん?」

 

すると、目前の海域に霧が立ち込め始め、幾つもの黒い影が浮かび上がる。そして霧の中から生え出る様に、何隻もの奇妙な形状の艦が現れた。

その艦は、金色や銀色のカラーリングがなされており、上部構造物はマストというより文字通りの『塔』の様な形状をしていた。そして艦首側には幾つもの多連装砲塔を装備し、一昔前の軍艦の様に見えた。

 

「み…未確認の艦船、多数接近!距離15000、速力18ノット!」

 

「な…何だ、アレは?」

 

乗組員の報告に、ランシングが疑問から顔をしかめる。しかし一応こちらから無線と発光信号でコンタクトを取ろうとしたその時であった。突然、目前の艦がチカチカと光り、白い光弾の雨が放たれた。

 

「っ、不明艦、飛翔体を多数発射!前衛の駆逐艦に向かっています!」

 

「何!?」

 

突然の不明艦の行動にランシング達が驚愕する中、その光弾は、『まるで意思を持っている』かの様にアーレイバーク級ミサイル駆逐艦に向かって飛翔し、次々と当たって炸裂する。

 

「べ…「ベインブリッジ」、被弾!」

 

乗組員が双眼鏡を覗きながら報告した直後、「ベインブリッジ」は大爆発し、炎上しながら洋上を漂う。イージスシステム搭載艦特有の巨大な上部構造物は無残に破壊され、AN/SPY-1レーダーは脱落して海面に落ちる。

 

「「ベインブリッジ」、航行不能!」

 

「…っ、全艦戦闘配置!急げ、これは訓練ではない!」

 

ランシングは直ぐに戦闘配置を命じ、「ドワイト・D・アイゼンハワー」の飛行甲板上ではF/A-18E〈スーパーホーネット〉が発艦準備を始め、護衛の巡洋艦や駆逐艦は主砲に砲弾を装填し始める。しかし相手はすでに戦闘態勢に入っており、即座に白い光弾や青い光弾を放つ。

 

「ふ、不明艦よりさらなる光弾が!」

 

「あれはもう不明艦ではない!あれは明確な敵だ!回避せよー」

 

ランシングが叫んだ直後、周囲に幾つもの水柱が聳え立ち、駆逐艦は大きく揺れて波を被る。白い光弾は「ドワイト・D・アイゼンハワー」に殺到するが、RAM近接防御SAM21連装発射機やファランクス20ミリCIWSが反応し、近接防御ミサイルや20ミリ劣化ウラン弾が光弾に向けて放たれる。迫りくる対艦ミサイルを迎撃するために装備されたCIWSの防御力は、未知の光弾に対しても正常に働き、全ての光弾を撃墜する。

 

「迎撃、成功しました!」

 

「航空隊、発艦を開始!」

 

「ドワイト・D・アイゼンハワー」の飛行甲板から次々と〈スーパーホーネット〉が発艦し、謎の敵艦隊に向かって飛んでいく。主翼下にはハープーン空対艦ミサイルが装備されており、ある程度まで低空飛行で接近すると、一斉にハープーン空対艦ミサイルを発射する。低空で発射された空対艦ミサイルに驚いたのか、敵艦隊は一斉に赤いレーザー状の弾幕射撃を開始し、空対艦ミサイルは数発が赤い対空砲火に撃ち抜かれて撃墜されるが、複数発の空対艦ミサイル一斉射で迎撃能力が飽和されたのか、半数は敵艦に命中する。

 

「命中を確認!大型艦1と、中型艦2に命中した模様!」

 

乗組員の報告に、艦橋内が一瞬色めき立つ。しかしすぐにランシングが諫める。

 

「気を抜くな!まだ戦闘は始まったばかりだ!各艦、対艦ミサイルを一斉射!後に砲撃戦で畳み掛けてやれ!」

 

「りょ、了解!」

 

「ドワイト・D・アイゼンハワー」の周囲に展開する護衛各艦は一斉にMk41ミサイルVLSからトマホーク艦対艦ミサイルを、後部の四連装発射筒からハープーン艦対艦ミサイルを発射し、薄く白いフレアを引きながら敵艦隊に向かって進んでいく。敵艦隊は必死に弾幕や白い光弾を発射して迎撃するが、艦対艦ミサイルの一斉発射は迎撃能力を飽和させるのに十分な量であり、次々と敵艦に命中していく。

 

「敵大型艦2、中型艦4、小型艦6に命中!中型艦2と小型艦は轟沈した模様!」

 

CICより戦果報告が送られ、ランシングは笑みを浮かべる。そしてさらなる指示を飛ばす。

 

「敵の大型艦1隻のみは残しておけ!他は全て撃沈せよ!」

 

ランシングの号令と同時に、5インチ単装砲と6インチAGS、8インチ単装砲が火を噴き、次々と敵艦隊に突き刺さっていく。レーダーとFCSで管制された砲撃は正確無比に敵艦に命中し、塔状のタワーや金色に輝く船体を崩していく。すると、敵艦隊は急速に反転し始め、撤退を開始する。

 

「敵艦隊、撤退を開始!急速に反転していきます!」

 

「逃げ始めたか…」

 

すごすごと引いていく敵艦隊を見つつ、ランシングはようやく湧いて来た疑問を呈する。

あの艦隊は一体何処から来たのか。何故自分達を攻撃して来たのか。そして一体何処の国の艦隊なのか。

彼の疑問が晴れるのは、もう少し先だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

太平洋 ウラジオストックより南1000キロ

ロシア連邦海軍太平洋艦隊とアメリカ海軍第3艦隊第3空母打撃群は、『元』日本海にて共同調査を行っていた。

 

「見事に壮観な光景だな。最も、演習の時で見たかったがな…」

 

空母「ジョン・C・ステニス」の艦橋で、打撃群司令のウィリアム・ステンツ少将は小声で呟きつつ、目前のただっ広い海を見つめる。

原子力航空母艦2隻と原子力ミサイル巡洋艦2隻、ミサイル巡洋艦3隻、ミサイル駆逐艦8隻、駆逐艦4隻、その他艦船5隻の計22隻からなる米ロ合同調査艦隊は、20ノットの巡航速度で南へ進んでいく。

日本国内の米軍基地に停泊していた第7艦隊艦艇は、旗艦「ブルーリッジ」を中心に空母2隻、ミサイル巡洋艦6隻、ミサイル駆逐艦12隻、沿岸域哨戒艦8隻、揚陸艦6隻、その他各種艦船9隻に、一時的な寄港で佐世保に停泊していた原子力潜水艦4隻の計48隻。樺太や千島列島内の海軍基地に停泊していたロシア連邦海軍艦船は駆逐艦4隻にフリゲート艦4隻、各種艦艇24隻に潜水艦8隻の計40隻。その他艦載機や陸上戦力等も『消失』しているため、米ロ両国にとって非常に手痛い損害であり、日本国や台湾とともにこれらの行方も探されていた。

 

「僚艦「ハードフォード」より入電。『付近に艦影は愚か島の反応すら捕捉出来ず』との事です!」

 

先行偵察に出た味方艦からの報告に、ステンツは顔をしかめる。

 

「すでに富山湾近くにまで来たというのに、何も見つからないとは…」

 

「というか、そこまで来たのなら、左手に能登半島が見える筈なんですがね」

 

ステンツの呟きに副官が答える中、偵察に出ていたE-2〈ホークアイ〉から通信が入る。

 

『こちら2番機、艦隊より南方100キロの地点に複数の諸島を確認。島の大きさは、最大でもハワイ島と同等の規模と推定されます!』

 

「何?本当に一体どういう事なんだ…?」

 

ステンツはただ、目前の海域を見ながら首を傾げるしかなかった。

 

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惑星『ユグド』 ケイン神王国沖

ケイン神王国海軍第一艦隊は、陣形を組んで16ノットで進んでいた。

 

「レーダーに反応あり。方位350、距離25000に、多数の艦影見ゆ。おそらく『連中』の残存部隊でしょう」

 

艦隊旗艦、戦艦「フラガラッハ」の艦橋に、レーダー員の報告が飛び込む。艦隊司令のヴィルター海軍中将は、顔をしかめつつ指示を飛ばす。

 

「敵は植民地軍だが、装備の質は我ら以上だ。各艦、第一種戦闘配置!空母は直ちに攻撃隊を発艦し、敵艦隊に打撃を与えろ!気を引き締めてかかれ!」

 

「了解。空母は直ちに攻撃隊を発艦せよ。繰り返す…」

 

後方の大型空母より、甲板上に並べられていた複葉式艦上攻撃機が発艦し、航空魚雷や爆弾を抱えて飛んでいく。地球の旧ソ連海軍ガングート級戦艦に酷似した戦艦の前を、旧ドイツ海軍Z1級駆逐艦に酷似した小型艦が前進し、輪形陣を整えていく。

ケイン神王国はかつてこの国に存在していた『ある大国』と比肩する程の国力を有していたのだが、国の最高指導部である『聖神徒教会』の教義で軍備に制限がかけられており、それでも解釈の調整等でどうにか戦力の拡充を進めていたところで戦争が勃発。『ある大国』の猛烈な攻勢に政府も『聖神徒教会』も対応が後手後手に回って劣勢に陥り、『降伏』の二文字が彼らの脳裏にちらつき始めていた。

しかし、突然その国が忽然と『消失』し、ケイン神王国を始めとする国々は安堵した。そしてその国の属領や属国に残っている残存兵力との戦争に突入したのだが、戦況は拮抗状態に陥っていた。

 

「攻撃隊、敵戦闘機部隊と交戦に突入。我が方の劣勢なり」

 

「さらに敵艦隊より攻撃隊が急速接近!数は凡そ40!」

 

「全艦、対空戦闘用意!来るぞ、1発たりとも落とさせるな!」

 

青い空にポツポツと黒点が現れ、レシプロ機特有の騒音を立てながら接近する。そして少数ながらも急降下してきた敵編隊に向けて、一斉に対空砲が火を噴く。

7.5センチ速射砲や23ミリ対空機銃が弾幕を撃ち上げ、敵機の接近を妨害する。それでも相手は練度が高いのか、楽々と対空砲火を潜り抜けては、空母に向かって爆弾を投下する。

60キロ爆弾は空母の飛行甲板上で炸裂し、甲板要員や駐機していた予備機を吹き飛ばす。瞬く間に甲板上が火の海と化し、速力が落ちていく。

 

「空母「クイーン・メイヴ」被弾!甲板が大破したとの事です!」

 

「…おのれ、『バルカス帝国』め…!」

 

ヴィルターは、敵対相手の国名を忌々しく呟きつつも、敵のいるであろう海域を睨み付ける。やがて、水平線の彼方から幾つもの黒い巨塔の様な艦影が幾つも見えてきた。

 

「敵艦隊、急速接近中!数は、凡そ18!」

 

「18か…くそっ、これは厳しそうだ!」

 

この世界では旧式の部類に入る、Aスコープ式モニターの波の大きさと数で敵の詳報を調べたレーダー士の報告に、ヴィクターは悪態を吐く。

第一艦隊の戦力は、30センチ砲を主武装としたフラガラッハ級戦艦に、多数の中間砲を戦列艦の様に側舷に多数装備した旧式戦艦2隻、砲戦に対応した装備が目立つ空母1隻に巡洋艦4隻、駆逐艦8隻という計16隻の旧世代艦ばかり。

対して敵ーグラ・バルカス帝国地方軍艦隊は、我が国では最新鋭であり未だに試験航海中であるモラルタ級戦艦と同規模のスペックを誇るオリオン級戦艦に、単葉式艦載機を多数搭載したガリレイ級航空母艦、自分達のよりもはるかに発展している各種巡洋艦や駆逐艦を保有しており、数ではほぼ同じといっても、質は雲泥の差となっていた。

 

「…水上機は直ぐに出せるか?この艦全乗組員の遺書と幾らかの所持品を持たせて現海域から離脱させる」

 

「司令…」

 

すでに命を捨てる覚悟を決めたヴィルターに、艦長や艦橋要員一同は思わず涙ぐむ。そして悲壮な決意をもってグラ・バルカス帝国残存艦隊と死闘を繰り広げようとしたその時、辺りを霧が覆い始めた。

 

「何だ…?」

 

謎の霧に、ヴィルター達は戦闘中であるにも関わらず首を傾げる。すると、通信士がげげんな表情を浮かべながらヴィルターに報告してきた。

 

「っ、本土の軍司令部より入電!現在、我が同盟国の艦隊が、救援に向かっているとの事です!もう間もなく各戦闘海域に到着するとの事ですが…」

 

「同盟国?私の知る限り、頼りになる同盟国だなんて…」

 

辺りが薄い霧に包まれる中、ヴィルターは本国からの通信内容にげげんな表情を浮かべる。

その時であった。目前に見えていたオリオン級戦艦の1隻が、真横から飛んできた光の塊に『吹き飛ばされた』。

 

「…え?」

 

余りにも一瞬の出来事に、ヴィルター達は茫然となる。すると、霧の中から幾つもの艦船が現れ、グラ・バルカス帝国艦隊に向かって攻撃を開始し始めたのだ。

如何にグラ・バルカス帝国とはいえ、地方軍の旧式艦艇からなる艦隊は、次々と敵の放つ光の攻撃を食らい、大破炎上して沈んでいく。そして最後の1隻が火だるまになって沈んでいく中、謎の艦艇群のうちの1隻が、「フラガラッハ」に通信を繋げてきた。

 

『こちら、ケイン神王国の新たなる同盟国、ラヴァーナル共和国艦隊。ケイン神王国聖神徒教会からの要請に従い、貴君らの援護に参った。貴艦隊で損傷している艦は直ちに引き返す様に要請する』

 

ラヴァーナル共和国と名乗る謎の国の艦隊。しかし、相手にはケイン神王国海軍艦隊に対する敵意は感じられず、ヴィルターの感情は複雑に絡み合っていた。

 

数日後、ケイン神王国は全世界に対してラヴァーナル共和国との同盟を発表。

世界は、グラ・バルカス帝国地方軍の殲滅と新たな世界秩序の構築に向かって動き出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

地球にて米軍艦隊が謎の艦隊に勝利し、ケイン神王国軍艦隊が謎の国の艦隊に救われた頃。

ある施設の広大な広間にて、一人の男が現場からの報告を目の当たりにしていた。

 

「…テラ、神共の庭では魔法を持てぬ様に造られた玩具(ペット)共の非魔導の力に負け、異なる神の支配する星では、我らを神の使いと勘違いしおった…ククク、本当に分からぬ事ばかりよのう」

 

男は薄気味悪い笑みを浮かべつつ、指示を出す。

 

「本土をテラの太平洋に降ろせ。この地に根付かせつつ、魔力を浸透させる。さらに神共の力が及びにくい世界にも手を伸ばせ。元の世界に戻るまでの前菜にしてくれるわ。ファーッハッハッハッ、ファーッハッハッハーッ!!!」

 

男の笑い声が、部屋中に響き渡る。

謎の脅威と悪意が、あらゆる世界を飲み込もうとしていた。




書籍第5巻ゲットじゃー!
しかし、ラクスタルの見た目がほぼ「奇麗な碇ゲンドウ」で大草原。
さらにメテオスが「マスクド・フユヅキ」でさらに大草原。
そしてミ帝空母が自分の予想の遥か斜め上に行ってたわ…W
ちなみに有〇堂が経験上一番書籍が手に入りやすいです。
次回、ロデニウス大陸発展回です。


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列強の脅威編
第16話 新たな王国の誕生


友人から『特典結構面白いぞ』と勧められ、とらのあなにて第5巻もう1冊買いました。が…
特典内容、型月ギャグ時空で例えるなら、虞美人先輩とブーディカ姉さんとキアラがアイドルユニット組む様なレベルだぞおい!?
あと幾つか誤記とか見つけたんですが、Twitter垢バンされていたんだった…orz


中央暦1639年9月4日 クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ市

日本・台湾との国交締結と本格的な貿易の開始から7か月。

クワ・トイネ公国はクイラ王国ともども、日台両国からの支援を受けて産業革命などの近代化に成功し、これまで貧弱だった国力を大幅に上げていた。

国中を作物・燃料資源輸送用に整備された鉄道網には、輸送列車のみならず貨客用列車も走り、ロデニウス大陸内の人・物資の行き来を盛んにしていた。

国内の工業地帯も整備が進められ、重化学工業や軽化学工業のレベルは地球史換算で西暦1930年代イギリスのレベルにまで向上していた。これは日本が民生品を中心にプラスチックや軽金属の製造・加工技術を輸出したからである。

特にクワ・トイネ公国とクイラ王国では、それぞれの国民性やその土地ならではの特徴が、生産される工業製品に如実に表れており、農業立国であるクワ・トイネ公国ではトラクターや耕運機などの農業関係の機械が、クイラ王国では自国産の石油を原材料としたプラスチック製品が生産されていた。

 

「しかし、ここまでこの国とクイラ王国が発展するなんて、非常に驚きしかありません」

 

クワ・トイネ市首相官邸の応接室で、クワ・トイネ公国に訪れている垂水の言葉に、カナタは笑みを浮かべる。

 

「国家事業として基礎教育の普及と自然科学の研究を行っていますからね。『魔法の関与しない前提での自然現象の説明』を基に、科学技術の根幹である自然科学を知ろうという活動で、貴国の技術をよりよく吸収できる様に努力しておりますので…同時に錬金術師達のもとで、科学と魔法を上手く融合させる『科魔融合学』という学問も進められています。非魔法分野で理解の深い者は、所謂『物理』の力で魔法に近い事を起こそうとする錬金術師達の方が多いので」

 

カナタの話に、垂水は「成程」と頷きつつ、語り始める。

 

「実は、我が国でも魔法の研究が進められています。ヤゴウ氏の治癒魔法を魅了的に感じた医療関係者や、魔法工学によって作られた魔法具に興味を持った技術関係者を中心に、魔法の研究が進められているのですが…個人の魔法だと魔力を持っている者しか行使できない事と、魔石の製造・加工技術が皆無である事から、結構苦労しているそうです。魔石は単に宝石を加工する様に造れるものだと我々は思っていましたので…」

 

「魔石は、高純度の魔素をふんだんに含んでいますが、それを引き出すためには人の手作業でしか刻めない高度な呪印が必要となります。神聖ミリシアル帝国はその技術を有しているとの事ですが、非魔法の技術でそれを再現する事は不可能ですね。西の列強国であるムーですら、魔法が必要となる部分ではレイフォルに頼っていたと言われているそうですから…」

 

カナタの説明に、垂水は静かに頷き、納得する。如何に技術で日本が圧倒的に上回っているといっても、それは『総合的な』部分での話である。魔法工学によって作られたモノの中には、科学技術では開発すら困難と言われていたモノが普通に生産されている事だってあったのだ。その点から日本国内では、魔法を軽んじるべきではないという意見が強く言われていた。

 

「現在では、国内向けの市販用自動車や、『魔導四元素組成方程式』と機械式計算システムをベースとした初歩的なコンピューターの開発を進め、多方面での国力と技術の向上に努めております。その辺りでの支援もお願いします」

 

「分かりました。『新世界技術流出防止法』の範囲内で出来る限りの援助を約束いたしましょう」

 

垂水はそう言って、カナタと握手を交わす。

そして数日後、クワ・トイネ公国に対してどこまで『新世界技術流出防止法』を緩和するべきかの協議が行われる事となった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

マイハーク沖100キロ 公国海軍演習海域

新たに設けられた演習海域を、11隻の艦隊が10ノットの速力で進む。

戦後、『ロデニウス統一戦役』と名付けられたロウリア王国との戦争で、自国の戦力の矮小さを思い知らされたクワ・トイネ公国は、日本・台湾との貿易で黒字経済となり、暫し戦争の脅威から解放されたのを好機として、大幅な軍拡政策を開始した。

まず、1週間後の国号改元を踏まえ、正規軍であった公国騎士団を『クワ・トイネ国軍』に吸収する形で解体。農業の効率化で余り始めた人材を取り込む形で志願兵制度を確立し、人員の増加を実行。台湾軍からの軍事支援を基に、剣や槍ではなく銃を主武装とした近代的な陸軍の構築を進めた。

ロデニウス戦役にてロウリア王国軍相手の戦闘で、十分に火砲を活かしきれなかった事からの反省であり、翌年までには5個歩兵師団約6万人が整備される予定である。

同時に海軍も大規模な近代化・拡大が計画され、従来型のシード級砲艦を中心とする小型艦艇からなる沿岸警備艦隊から、文明圏内国との本格的な衝突に備えた遠洋航行艦隊へとシフトしていく事となった。

しかし、これまで船といえば木造が常識であったクワ・トイネ公国には鋼鉄製軍艦の建造能力は殆どなく、限定された技術支援や、台湾軍の軍事支援でどうにかシード級の様な砲艦を数隻量産する事が出来た事から、クワ・トイネ公国政府は、本格的な鋼鉄製軍艦を建造する事が出来る様になるまでの繋ぎとして、日本や台湾の技師の協力を受けつつ商船構造の多用途船を設計し、建造を開始。戦争には間に合わなかったものの8月末までに20隻の大型多用途艦が就役し、そのうち数隻が公国海軍籍に移管された。

当初は機械動力船の操艦を学ぶための訓練目的で使用されたが、火砲やレーダーなどの電子機器の訓練も必要になってきたため、初期に建造されたシード級やニジン級ミサイル艇からなる演習艦隊の旗艦に改造。民生品を流用して開発したレーダーや電気通信装置に、シード級のよりも発達し、火力のある15.5センチ単装砲、台湾より購入したブローニングM2重機関銃、そして独力での開発に成功したSS-2〈オブシディアン〉や45センチ魚雷の発射管を装備した『カガチ級巡洋艦』が就役し。本格的な遠洋航行艦隊の礎となるべく演習艦隊旗艦として任務をこなしていた。

 

「艦隊、梯形陣に編成!〈オブシディアン〉発射準備!目標、方位040、距離19000!」

 

旗艦「カガチ」の艦橋に、バタールの号令が響き渡る。乗組員は公国海軍上層部と台湾海軍が構築したマニュアルに従い、近代的な軍艦を手繰り、戦うための知識と技術を磨いていく。

 

「いいか、実戦では一瞬の迷いも許されない!焦らず素早く先手を打て!」

 

「了解!」

 

乗組員が慌ただしく作業を進める中、艦隊は梯形陣を組み、目標の廃船数隻を捕捉する。全艦加速を開始し、18ノットで進みながら距離を詰める。そして〈オブシディアン〉照準用の射撃指示装置から誘導電波が放たれ、距離と方位を調整する。そしてバタールは部下からの報告を待つ。

 

「捕捉完了!発射準備完了しました!」

 

「よし…撃ち方始め!」

 

11隻から1発ずつ〈オブシディアン〉が発射され、クワ・トイネ軍主力対艦ミサイルは白いフレアを引きながら飛翔する。固体式ロケットエンジンは搭載燃料の点から燃費が悪く、射程もそれに応じて短くなるため、十分な誘導性能と射程を確保するために弾頭部の炸薬量は少なく作られており、今までの木造船との戦闘では十分に活躍しているものの、鋼鉄製の艦船への攻撃には多少の不安があった。そのため現在、ミサイル用の小型低燃費高出力エンジンの開発が進められており、ニジン級が退役する日は近く思えた。

11隻から放たれた〈オブシディアン〉は、寸分の狂いもなく廃船に命中し、これを吹き飛ばす。直ぐに別の廃船が停泊している地点へ艦隊は移動し、砲戦による攻撃訓練を開始する。

15.5センチ単装砲や7.6センチ単装砲、5.7ミリ単装速射砲が火を噴き、廃船はたちまち穴だらけになっていく。『月月火水木金金』の訓練スケジュールで砲戦訓練のイロハを叩き込まれた乗組員達の練度は高く、わずか5分で8隻の廃船を完全破壊する。

 

「腕が上がったな。早く本格的な軍艦でこういう演習を行いたいものだ」

 

バタールの言葉に、副官も頷く。

カガチ級巡洋艦は軍艦としては遜色のない性能なのだが、商船改造艦である事から速力と防御力だけは低く、実戦でどこまで通用するのかが公国海軍の悩みの種と化していた。技師達もこの点を心配しており、本格的な鋼鉄製大型軍艦を建造出来るように、必死で造船工学の研究を進めていた。

 

「如何に鉄鋼製造技術と造船所があっても、鉄鋼加工技術と造船能力がなければ、軍艦はおろか商船すら建造出来ませんからね。電子機器の技術も大幅に遅れておりますし、科魔融合学も実用段階に来ているものはごく少数。時間はじっくりかけたいところですが、周辺環境がそれを許してはくれないでしょうね…」

 

「ああ…」

 

副官の言葉に、バタールは頷いて遠くの海を見つめる。

かつてロウリア王国を支援し、更なる覇権を求め続けている列強国の影が、水平線の彼方に見えた気がした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

所変わって、エジェイ近郊の空軍訓練基地。

そこでは、技術向上により開発に成功した『飛行機』と、ロデニウス大陸付近で確認される様になった新種のワイバーン『黒竜』を使用した運用戦術の訓練が行われていた。

 

「訓練は非常に捗っていますなぁ」

 

滑走路近くの天幕で、公国空軍初代司令官に就任したシカカ・ハタは、空を見上げながら呟く。晴天の下を、3機の複葉機が編隊を組んで飛行し、その後を黒いワイバーンの編隊が追いかける。

背中を覆い尽くす程の大きさを持つ楕円形のガラス製ドームが加えられた鞍に竜騎士が跨り、ワイバーンよりも二回り大きい巨体が竜騎士と鞍を乗せながら優雅に旋回する。文明圏外ではガハラ神国にしか生息しない『風竜』に匹敵する巨体を有し、速度500キロの高速とワイバーンを軽く凌駕する機動性を発揮するこの『黒竜』は、日本の転移直後からロデニウス大陸周辺で確認される様になり、クワ・トイネ公国はどうにかこれらの固体を飼い慣らす事に成功した。

戦争後半の空戦はひたすら航空自衛隊と台湾空軍や海軍航空隊のジェット戦闘機が主役となったために実戦には間に合わなかったものの、ワイバーンロードを凌駕する能力から、現在は航空機が空軍の主力となるまでの繋ぎとしてワイバーンからの更新と配備が進められている。

そして黒竜とともに飛行している複葉機ー公国航空技術工廠汎用偵察機〈サギ1型〉は、クワ・トイネ公国が最初に開発した軍用航空機で、航空機開発・製造のためのノウハウを蓄積するための任務として、黒竜との訓練に臨んでいた。

 

「現在、諜報部からの『パーパルディア皇国が新種のワイバーンと飛行機械の開発を進めている』という情報が入り、それらに対処するべく新たな戦術の構築と、竜騎士や操縦士の訓練を急ピッチで進めております。…流石にフルで月月火水木金金は厳しすぎるので、2週間おきに3日間の休暇を与えておりますが…」

 

訓練の教導官を務めるマールパティマが説明し、シカカは頷きつつ理解する。

短期間で技量を上げるためには、全ての時間を訓練に使えばいいだけだが、あいにく人の身体は24時間全力で運動する事は出来ない。それはエルフやドワーフでも同様であり、適度な休息もまた、優秀な兵士を育てるためには必要な条件であった。

 

「実戦に耐えうる程の練度と装備になるまでには、時間はまだかかりますが…この部分だけは気長にやるしかありませんね」

 

「ウム。本来飛竜騎士団も数年の時間をかけて育成するものだからな。台湾空軍の考案した戦時用教導プログラムのおかげで、短期間で育成する事は出来ているが、それでも数か月はかかる。確実に優秀な戦士を育てるためには、時間を惜しんではならん」

 

シカカはそう言いながら、編隊飛行を繰り返す〈サギ1型〉の編隊を見つめ続けた。

 

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新ロウリア王国 王都ジン・ハーク市 ハーク城

新国王に即位し、国の立て直しに奔走するアルダは、机に積み上げられた書類の山の高さを少しずつ減らしていた。

 

「国王、クワ・トイネ公国より国号改元式典の招待状が届きました。如何しますか?」

 

新たに雇った補佐官の報告を聞き、アルダは書類に印を押しつつ答える。

 

「式典に出ると伝えてくれ。…まさか、クワ・トイネ公殿下が、『国王』に変わるとはな」

 

齢19にて前国王並に優れた政治力を発揮しているアルダでさえ、今回の国号改称には驚きを持っていた。

9月11日、クワ・トイネ公国は国号を『クワ・トイネ王国』に改称し、同時に首都をクワ・トイネ市から東部の新都市カイコン市に移す。その式典にアルダは周辺諸国の指導者達とともに招待されていた。

現在のロウリア王国は、戦前に比べて国土・人口が縮小していたが、同時に軍備も縮小してリソースを国内産業の振興に回していったため、経済状況は比較的向上していた。

戦後の日本・台湾両国からの経済支援と、古代ロデニウス文明復活計画の中で得られた技術の民間流用。そしてそれを基にして生産した資源や製品の輸出は、長い期間続けられた戦争の準備と、結果起こされたロデニウス戦役によって浪費された国家予算を回復させるだけの富をもたらした。

しかし、直接日本と台湾から支援を受け、十分な近代化と工業化を果たしているクワ・トイネ公国・クイラ王国両国には未だに及ばず、今回の式典も、クワ・トイネ公国が名実ともにロウリア王国と対等であるという意思表示に他ならないため、ロウリア国王となった今となっては複雑な気分であった。

 

「しかし…非常に変化が激しい。これは更なる波乱が起きそうな気がするな…」

 

アルダはそう言いつつも書類を処理していき、2時間かけてようやく最後の1枚にサインをし終わり、部屋から出ていった。

 

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第三文明圏 フィルアデス大陸南部 パーパルディア皇国

第三文明圏最大の文明国かつ唯一の列強国、パーパルディア皇国。

この国は昔から、中央世界や第二文明圏に対する対抗心と、『第三文明圏唯一の列強国』という肩書からくるプライドが非常に高く、常に列強上位の地位にある神聖ミリシアル帝国とムー国を敵視して国力の増強に努めていた。

しかし元々の国民性はというと、非常に勤勉かつ上昇志向の高い者が多く、第三文明圏で唯一『本国の』工業化を成功させ、軍備の近代化を進めていた。

複数の属国・属領を保有するパーパルディア皇国は、対外関係の点では他の列強国と対等になる様に、三つの外務担当部局を設けている。まず皇国精鋭の外交官の中でも選りすぐりのエリートである者を中心とした第一外務局は、世界に五つしか存在しない列強国との外交を担当し、彼らに告ぐ優秀なエリートである者は、凖列強や文明国との外交を担当する。『エリート』の資格がまだないとされている者は文明圏外国相手に交渉を行う第三外務局に配置され、日々パーパルディア皇国の利益のために身を粉にして働いていた。

その第三外務局の局長執務室では、カイオス・ファン・キーマンが文明圏外国から届けられた外交文書に目を通していた。

 

「フーム、マール王国から奴隷1000人を献上する代わりに、熱病に対する特効薬の製造レシピを、か…まぁ無駄に人が死んで人が減るのも困るし、熱病が本国に入ってくる可能性も潰しておきたいから許可は出しておこう。一応タダで許可するわけにもいかないから、ライセンス料は付けておこう」

 

第三外務局の仕事の一つは、複数の文明圏外国に対し、『指定供与制限技術目録』で定められている文明圏外への供与を制限している技術を、何らかの対価と引き換えに供与する事である。それとは逆に、第一・第二外務局の仕事は、自国と対等ないし上位の国との交渉以外に、貿易関連の譲歩を前提にした相手国の有する技術や権利の獲得もあり、2年に1度開かれる国際会議『先進11ヵ国会議』でも神聖ミリシアル帝国から古の魔法帝国の有していた魔導技術の一部を、ムーから科学技術の一部を引き出し、自国の国力増強に結び付ける事に成功している。

しかし、その結果によって生み出される発展の裏には、余りにも多大な犠牲がある事を、カイオスはよく知っていた。

順調に書類を処理していると、部下のタンザン・ストーンブリッジが入室してきて、カイオスに話しかけた。

 

「局長、クワ・トイネ公国より国号を『クワ・トイネ王国』に改称するとの通達がありました。如何しますか?」

 

「クワ・トイネ公国が?…ああ、確かロウリア王国との戦争に勝利した国なんだったな。しかも『二ホン』や『タイワン』という新興国の支援を受けて、と…」

 

「はい。一応形だけでも祝辞を送りますか?」

 

「ああ、そうしておいてくれ。それと、出立の準備を。国家戦略局が隠蔽しようとした情報の中に、クワ・トイネ公国軍がムーのものと同等の性能を持つ魔導砲を装備していたというモノがあった。それの確認に行きたい。公的な仕事ではなくプライベートとして式典に参加すると伝えておいてくれ。情報部の者も数人連れて行く」

 

「承知致しました。直ぐに準備に取り掛かります」

 

「それと、例の計画はどうなっている?」

 

「はっ。現在デュロにて監察軍艦隊が出撃準備を整えているところです。いつでも出撃出来るものと報告が来ております」

 

「そうか…私が3外に戻り次第出撃する様に」

 

タンザンはタンザンに幾つか指示を出して退出し、カイオスは静かに窓の外を眺める。自身のいる皇都エストシラントは、幾つも建てられた石やコンクリート製の建物が立ち並び、進む発展を目に見える形にしていた。

 

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第一文明圏『中央世界』 神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス

世界に五つしかない列強の第一位、神聖ミリシアル帝国。

この国は、遥か大昔から古の魔法帝国の遺跡から得られた魔導技術を基に発展しており、その特性から『情報』を非常に重視している。

その『情報』を中心に取り扱う帝国情報局では、ある一つの情報に多くの局員が驚愕していた。

それは、『ロデニウス戦役で使われた魔導兵器』である。

ロデニウス大陸に、かつて古の魔法帝国が敵対していた勢力がいたという情報を得ていた情報局は、諜報員を放って調査を行っていたのだが、その最中にロデニウス戦役が勃発。結果的に自分達の予想を遥かに上回る戦いを観戦する羽目になった。

100ノットで海面を爆走する巨大ガレアス『艦』に、魔力保持者の命を対価に成し得る巨大魔蟲操作技術、飛空船や『一部の魔導兵器』に使用されているシステムが使われた空中砲艦。如何にパーパルディア皇国から支援を受けていたとはいえ、ロウリア王国はその様な超兵器を使ってロデニウス大陸統一と亜人殲滅を成しえようとしたのだ。

そしてそれを食い止めたクワ・トイネ公国と、支援国と言われる新興国『日本』と『台湾』も、非常に強力な兵器を有していた。

クワ・トイネ公国はムーと同等の性能を有する魔導砲や、神聖ミリシアル帝国でも開発途上である『誘導魔光弾』を保有し、ロウリア王国軍に立ち向かった。日本と台湾は魔導を使わず動く、自国の魔導戦艦と同規模の巨大戦艦や音の速さで飛行する『天の浮舟』でロウリア王国軍を鎧袖一触で撃滅した。

 

「…おかしい、最近の文明圏外は本当におかしい!一体何が起きているというんだ!?」

 

情報局長のアルネウスは、諜報員が撮ってきた幾つもの魔写や魔導映像を前に、頭を抱えながら呻く。

情報局と、ミリシアル帝国軍はこの情報を基に、遠洋航海を名目に調査艦隊を派遣する事を決定した。同時に外務局でも近日『クワ・トイネ王国』に改称するクワ・トイネ公国に使節を派遣する事も決まり、文明圏外で起き始めた異変を本格的に調べる事となった。

 

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第二文明圏 ムー国 首都オタハイト

列強第二位にして唯一の科学技術立国たる大国ムー。

その首都オタハイトにある統括軍情報通信部、情報通信課の一室では、世界各国の軍事情報を中心に扱う情報分析官ヒラー・マイラスが、レイフォルに潜入していた部下からのゼラチン乾板写真に冷や汗を浮かべていた。

 

「これは、不味いな…」

 

部下が撮影した、超巨大戦艦の写真。レイフォリアを今まさに破壊している戦艦「グレードアトラスター」の写真を分析していたマイラスは、自ら推測した推定スペックに震えた。

 

全長260メートル

満載排水量6万トン

機関出力10万馬力以上

速力30ノット

兵装40センチ三連装砲3基、15センチ三連装砲2基等

 

確実に自国の主力戦艦『ラ・カサミ級』や、建造中の新型戦艦を遥かに上回る事が予想される性能に、マイラスは恐怖を覚える。

神聖ミリシアル帝国の最新鋭戦艦の開発や、先進11ヵ国会議でムーから幾つかの重要技術を手に入れたパーパルディア皇国の進展を危惧したムー海軍は、新たに鋼鉄製大型軍艦を開発。大規模な近代化・軍拡計画を立てた。

鋼鉄製の船体に、魔導砲を完全に跳ね返す強力な装甲。排水量1万トン超えの巨体を動かす出力15000馬力の重油レシプロエンジンから生み出される18ノットの優速。2基の旋回式砲塔に収めた40口径30.5センチライフル砲や対戦列艦用の40口径15.2センチ単装砲、対空戦闘能力も有する側舷7.6センチ単装砲といった強力な武装を装備したラ・カサミ級戦艦は、間違いなく現在のムー最強の戦艦といえる。

しかし、グラ・バルカス帝国と名乗る新興国の超巨大戦艦「グレードアトラスター」は、その最強の名を奪い取る可能性がある様に思えた。

 

「軍のお偉いさんは認めないかもしれないが、一応報告しておかなければ…」

 

マイラスは声を震わせつつも写真を傍に置く。そして次に一部のレポートを手に取り、それをめくる。それは、第三文明圏に調査しに行っていた諜報員からのレポートであった。

 

「えーと…なっ!?何だ、これは!?」

 

レポートに添付されていた写真に、マイラスは目を丸くする。

帆船が何隻も停泊しているマイハーク港の写真。その写真の中には、真っ平らな甲板と小さな艦橋構造物を有する巨大艦や、幾つもの連装砲塔を装備した大型艦の写真が写っていた。帆船の方も、マストの間に煙突らしき筒が見える。レポートには、諜報員の報告内容と分析結果が書かれている。

曰く、クワ・トイネ公国海軍は蒸気機関と魔導砲を装備した軍艦を多数建造している。曰く、支援国の『日本国』と『台湾国』は、巨大な単装・連装砲塔を装備した戦艦や、大型の天の浮舟に酷似した艦載機を搭載する航空母艦を有する。曰く、三国とも神聖ミリシアル帝国の伝承に出てくる『誘導魔光弾』を装備し、実戦にて絶大な戦果を収めている。

これらの情報に、マイラスの頭はオーバーヒートを迎えそうになっていた。しかし報告しないわけにもいかず、暫くマイラスの頭痛は収まらなかった。

 

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中央暦1639年9月11日 クワ・トイネ『王国』 新首都カイコン市

2か月もの期間をかけて建設された新王城の前には、招待された大勢の人々や記者が詰めかけ、今か今かと心待ちにしていた。そして檀上に一人の男が上がり、カメラのシャッターが瞬く。日本のテレビ局のカメラがその姿を追い、一同の視線が集中する。クワ・トイネ公改め初代クワ・トイネ王国国王ノギョウ・クワ・トイネは、幾つものマイクが置かれた演説台の前に立ち、口を開く。

 

「…この街、カイコン市はクワ・トイネ王国初の遷都のために築かれた、新たな都市です。以前ここは、農業はおろか牧畜にすら適さない荒れ地でした。しかし、国の更なる発展と国力の増強に適合した新たな中心地が求められる様になり、日本と台湾の支援を受けて、この地を作り替えました。その象徴が、この王城です」

 

ノギョウ王はそう言いながら、背後の鉄筋コンクリート造りの王城を紹介する。外見にはロデニウス大陸の建築様式や、日本で流行している建築デザインがふんだんに施され、華美に見えて質実剛健を思わせる様なものになっている。

 

「現在、我が国はこれまで以上の発展を遂げている。ですが、その発展を独占してはなりません。クイラ王国やロウリア王国、そのロウリアから分離独立した諸国全てに、同じ富を分け与え、共有する。ロデニウス大陸全体の発展こそが、よき未来をもたらす事になるのです!私はここに、新たなる王国にして新たなる隣人、クワ・トイネ王国への改称を宣言致します!」

 

新国王の演説に、拍手が巻き起こる。続いて公国首相から続く形で王国初代首相を務めるカナタが演説を始める。

 

「現在、我が国を含めたロデニウス大陸全国家は平和を享受しております。ですが、その最中でも外からの脅威に備えなくてはなりません。現在、パーパルディア皇国を始めとする第三文明圏内国は、周辺の文明圏外国に対して圧力をかけており、日々自国を含めた文明圏外諸国の独立が脅かされています。我らはその事を自覚しつつ、周辺諸国と良好な関係を築いていかなければなりません」

 

カナタの演説に、聴衆は静かに耳を傾け、参加者達もしっかりと頷く。

現在、第三文明圏の盟主たる大国パーパルディア皇国は、文明圏外一の大国であるアルタラス王国や、武人の国であるフェン王国に圧力をかけており、領土や奴隷の献上要求を出しているという。その牙が何時ロデニウス大陸にも向いてくるのか。その危険性を日本は危惧していない節がある模様で、クワ・トイネ王国政府と台湾中華民国政府はその事を心配していた。

 

「現在、旧公国騎士団を中核とする国軍の拡充を急ピッチで進めており、兵器の国産化も進めております。そして自国の平和のために、その力を日々磨いていきます。これが、我が国の意思であります」

 

カナタの演説が終わり、聴衆は拍手を送る。そして王城の真上を3機編隊の〈サギ1型〉3機と黒竜6騎が飛び去り、白い煙の尾を引いていった。

この日、クワ・トイネ公国は国名を『クワ・トイネ王国』に改称。

この国は後に、日本や台湾、グラ・バルカス帝国とともに、世界に新たな波を起こした先進国の一つとして、歴史書に名を遺す事になる。




暫くは閑話を数話やります。
次回、日本に舞台を移して色々な話をば。


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第17話 広がる日本

日本の光と闇が、今ここに。


中央暦1639年9月15日 日本国東京都 国会議事堂

垂水は、本会議を終えて補佐官達と会話を交わしていた。

 

「今回はどうにか臨時予算が承認された。だが、まだ足りないかもしれないな…」

 

「しばらく在日米軍は動く事すら出来ませんからね…」

 

垂水はそう呟きながら、予算内容を思い返す。

ロデニウス戦役後、財務省が大幅な譲歩を強要された形で臨時予算が組まれ、自衛隊の装備拡大が決定された。

 

・陸上自衛隊新型戦闘車両の開発

インフラが整備されていない場所での対歩兵戦・対城塞戦用戦車を今年から5年以内に開発する。なお整備性を確保するために16式機動戦闘車と互換性がある様に作る。

 

・海上自衛隊の新規護衛隊群設立と護衛艦追加建造

在日米軍に頼れる状況ではなくなった事を踏まえ、海上自衛隊護衛艦隊を倍の8個護衛隊群にまで拡充。既存の護衛艦の改良型を大量建造する。

計画では8年かけて拡充を行う予定だが、周辺国家の状況を踏まえて前倒しになる可能性あり。

また、「やましろ」の代艦も建造する予定である。

 

・いずも型護衛艦の『航空支援護衛艦』改造

現在建造中である大型航空機搭載護衛艦の完成までの場繋ぎとして、現在製造中の新型戦闘機が運用可能な様にいずも型護衛艦2隻に改造を行う。

 

・新型戦闘機の開発・製造による航空自衛隊拡充

新世界では周辺地形の関係上、海と空での戦闘が中心となるため、新規に主力戦闘機を開発し、追加編成された航空隊に配備する。

 

その他にも、大規模な作戦行動や遠地への部隊派遣等、アメリカ軍ベースの作戦計画に基づいた軍事行動が起こせる様に、輸送艦や補給艦などの後方支援艦艇や、新型輸送機の開発等も進める。

ちなみに、陸上自衛隊の隊員数は今のところは増やす予定はないが、それは予算を海自と空自に多めに振り分けたからであり、来年度の予算では『ある問題』の解決も含めて、陸自拡張分の予算が組まれる予定である。

 

「さて、そろそろ時間か。浜本に連絡を入れてくれ」

 

垂水は補佐官に指示を出して立ち上がり、一路防衛省に向かっていった。

 

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防衛省 会議室

 

「では、これより報告会を開始します」

 

防衛省幹部の言葉とともに、外地調査を行っていた諜報部隊からの報告会が始められる。この場には垂水と浜本、その他自衛隊関係者や外務省職員の姿もあり、非常に重要な報告会が行われる事がひしひしと感じられた。

 

「まず、第三文明圏外国についてですが、台湾から支援を受けているクワ・トイネ王国やクイラ王国以外で、最も軍事力が高いとされている国は、ロデニウス大陸より西に1000キロ程の位置にあるアルタラス王国で、50門程度の大砲を装備した戦列艦や、魔法具で強化されたワイバーンを多数保有しています。戦列艦の性能は西暦18世紀前半のモノで、魔信を装備している分、艦隊行動能力は非常に高いでしょう。その他の文明圏外と呼ばれている国では、北部のフィルアデス大陸にある国以外で大砲を装備している国は殆ど存在しておらず、大砲を知らない国も多いみたいです」

 

幹部の言葉に、垂水も頷く。どうやら厳重な技術流出防止政策が働いているみたいなのか、技術概念は波及していないものが多い模様である。だからといって安心は出来ない。何故なら、中世ヨーロッパの軍隊は絶対に保有していない『高度な通信指揮手段』と『航空戦力』を保有しているからだ。

 

「クワ・トイネ王国軍将官からの情報によりますと、陸上戦闘はワイバーンを主戦力とする飛竜騎士団との連携を中心にしており、ワイバーンの有無によって戦闘の勝敗が決定される程の影響が出るそうです」

 

「ワイバーンの運用方法は戦闘機兼攻撃ヘリといった感じで、ベトナム戦争後にアメリカ空軍が採用する様になった軽攻撃機に似ています。まぁ裏を返せばどっちつかずといった感じなんですが…文明圏内国だと、ワイバーン自体の身体能力を向上させて、両方の能力を向上させている事もあるそうです。大まかなスペックだと、最高速度は時速350キロ程で、導力火炎弾は単発ながら石製の城壁を粉砕する威力を保持し、チャージ時間も早くなっています」

 

「第二次世界大戦前の小型爆撃機レベルはあるという事か。だが、空自の戦闘機の敵でない事は明らかだし、陸自の防空装備でも十分に対応可能な事は分かった。で、第三文明圏内国の軍事力はどうなのかね?」

 

垂水の問いに、幹部は表情を暗くしながら答える。

 

「はい。フィルアデス大陸最大の文明国、パーパルディア皇国ですが…まず陸軍は総数900万人の兵士を中心とした大軍で、『リントヴルム』と呼ばれる小型の竜を使役。リントヴルムは鉄製の鎧を溶かす程の高熱の火炎放射能力を有し、歩兵も魔導砲や銃を装備しております。しかし…」

 

幹部はリモコンを操作して、スクリーンに幾つかの写真を映し出す。それは、諜報員が特殊な撮影機材で撮影してきた、訓練風景の写真だった。

 

「銃はフリントロック式マスケット銃だけでなく、ボルトアクション式ライフル銃も装備している部隊も見受けられました。魔導砲も、先籠め式の野砲はなく、後装式で駐退機も装備されている、近代的な牽引式野砲タイプのものばかりが散見されました。砲弾も単なる鉄球ではなく、椎の実型の、現代のと同じ形の砲弾であり、炸裂魔法や砲弾内の魔術媒体との組み合わせで、かなりの威力を持たせていると見られます」

 

幹部の報告に、垂水達は冷や汗を流す。周囲が中世ヨーロッパ程度の技術力の国ばかりという中で、1国だけ近世ヨーロッパの軍隊レベルの装備を有しているのである。戦術について相当な練り直しが求められる事になるであろう。

 

「海軍につきましては、複数の軍港に数十隻規模の艦隊を複数配置しており、総数は2000隻を超えます。主力艦は戦列艦なのですが、80~100門級が中心で、サイズも地球の戦列艦より大きく、鉄製の装甲を施しているのも多い事が確認されています。火砲の性能までは分かりませんが、陸軍の魔導砲と同等の性能だと仮定すると、3キロ圏内に接近するのは非常に危険だと思われます。また、従来の戦列艦よりも大きく、砲門数が少ない艦も確認された事から、大口径長射程の魔導砲を装備した鋼鉄製戦列艦も保有している事が分かります」

 

鉄製装甲を施し、19世紀後半のヨーロッパ製大砲並の性能を持つ艦砲を100門以上装備した戦列艦。同時代の戦列艦では間違いなく負けると理解出来る程の性能に、垂水は恐怖を感じる。

全長70メートル程度の木造船に外板として鉄板を張ると、重量が重くなって機動性が悪くなるだろうが、全長200メートルの巨大木造船に100ノットの超高速を与えた魔法具『風神の涙』が存在し、その『風神の涙』の生産元もパーパルディア皇国だとすると、機動性はその魔法具でカバーしていると見ていいであろう。

 

「航空戦力も充実しており、パーパルディア皇国は『竜母』と呼ばれるワイバーンを運用する航空母艦を多数保有しており、ワイバーンを最大15騎搭載している模様です。魔信の存在も併せて、戦術は第二次世界大戦前の空母機動部隊に酷似している可能性が否定できません。その他にも、機械動力を搭載した軍艦を多数保有している模様ですが、これは引き続き調査が必要かと思われます」

 

報告が終わり、垂水は顔をしかめつつ呟く。

 

「しばらくは砲戦に頼るしかないだろうな…ミサイルは国産が多いといえども、コストは砲弾の方が安いし、何より今は数が欲しいし…次は第二文明圏や中央世界と呼ばれている地域の報告を頼む」

 

「はい。第二文明圏最大の国であるムー国は、我が国と同じ科学技術文明で成り立つ国なんですが、クワ・トイネ王国諜報部やロウリア王国の資料等の情報から、技術レベルは航空機だけ西暦1920年代後半で、その他は日露戦争直後の水準の模様です。そして中央世界は、魔法工学という技術を中心としているので理解しにくいですが、少なくとも近代的な文明水準に達していると思われます。軍備については、ムーは鋼鉄製軍艦を中心とした空母機動部隊や、複葉戦闘機を中心とした近代的な空軍を保有し、その規模は戦間期のイギリス・フランス・イタリア・日本を足した規模に匹敵します。中央世界最大の国と言われる神聖ミリシアル帝国は、連装式砲塔や対空機銃を装備した戦艦や、ジェットエンジン搭載艦載機を運用する航空母艦からなる機動部隊を複数保有しており、空軍戦力もジェット戦闘機が中心の近代的部隊を保有しているらしいです。この辺りは我が国から神聖ミリシアル帝国とムー国に使節と調査団を派遣しない限り、分からないと思いますが…」

 

「そうか…とにかく、日本の全ての海域を防護出来るだけの戦力が欲しいところだ。引き続き、調査を進めてくれ」

 

「了解」

 

垂水はそう言って、会議を終わらせる。部屋から退出しつつ、垂水は今も必死に装備拡充のために努力している者達に思いをはせた。

 

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東京都内 アメリカ大使館

 

大使館内の一室で、吉田は一人の女性と茶を飲み交わしていた。

 

「此度の臨時政府主席就任おめでとうございます、パタースン大使」

 

「いえ、これもひとえにミスター垂水の考慮あってのものです。でなければ、私達のみならず在日米軍もただ干されていただけになっていましたから」

 

吉田の言葉に、女性ーカヨコ・パタースンは謙遜するかの様に答える。

転移後、日本には幾つかの問題が起きていた。その中の一つとして、日本に取り残された旧世界外国人があった。

少子高齢化によって減少が進んでいるとはいえ、1億2700万人以上の人口を持つ日本に、推定100万人以上の外国人が十分な生活を送れる分の環境はなく、また日本に来航していた外国船の取り扱いについても非常に苦慮していた。

しかし、転移直後の周辺調査で、沖縄本島大の島が4つ程見つかり、それらに外国人の大半が移住。新たな都市を建設して生活圏を確保する事になった。

四つの島はそれぞれ『ヨーク島』『ジュネーブ島』『北京島』『アタリア島』と名付けられ、ヨーク島にはアメリカ大陸の、ジュネーブ島にはヨーロッパ諸国の、北京島には中国及び周辺諸国の外国人が移住し、アタリア島には様々な国の人々が移り住んだ。転移によって帳消しになったオリンピック関連工事で稼ごうとしていた日本の建設会社は、その島の開拓に積極的に関わり、順調に島の開拓を進めた。

また、日本政府もその開拓事業に積極的に関わる事になるのだが、その際に旧アメリカ大使館を中心として樹立されたヨーク島臨時政府は、日本政府から出された要求を呑む事になった。

 

「しかし、戦力不足だからといって、少々強引ではないのでしょうか?仮に元の世界に戻った時に、色々と面倒ですよ?」

 

パタースンが顔をしかめながら言い、吉田も複雑そうな表情を浮かべながら答える。

 

「ですが、私達も大変なんですよ。今の自衛隊は、装備も人員も非常に足りない。それに、貴方がたが我が国と対立する国と手を組んで後ろ弾を撃つ可能性だってなきしにもあらず。北の方に比べればずっとマシなモノです」

 

吉田はそう答えて紅茶を飲み干す。今や旧世界産の産物は貴重品と化しており、このスリランカ製紅茶も、残りはあと1ヵ月分しか存在しない。

吉田は、ポット内の紅茶の出し殻が、今の日本の逼迫した状況を語っている様に思えた。

 

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現在の日本の国土は、名実ともに転移前より増えていた。

まず、従来の日本列島四島と沖縄・小笠原などの諸島に加え、自治政府の設けられた四つの新島に、北方の樺太、千島列島全島が、日本国領土として確定したのである。

転移に巻き込まれる形で転移した樺太、千島列島については、現地のロシア人との間で衝突が起きたが、垂水の迅速な対処や、現地関係者の尽力もあって、樺太は48番目の都道府県『樺太県』として、千島列島は49番目の都道府県『千島県』として確定。また、その地域のみ公用語が日本語・ロシア語・アイヌ語三言語に定められた。

標識には漢字と仮名文字、キリル文字、アイヌ語発音を表すカタカナ文字が書かれ、義務教育でも現地の学生にはトライリンガルが義務付けられた。特にフィルアデス大陸北部では、大陸共通言語とは別の、アイヌ語に近しい言語で話す地域もあるため、アイヌ語の必要性は非常に高まっていた。

しかし、それでも完全にわだかまりがなくなったわけではなかった。

 

「第3小隊、左に回り込め!」

 

「相手は少数だ、確実に制圧せよ!」

 

樺太のある施設に、男達の怒号と銃声が響き渡る。陸上自衛隊北部方面隊は、日本からの独立を声高に叫んでいる旧ロシア連邦軍部隊を鎮圧すべく、軍事施設にて死闘を繰り広げていた。

日本に靡く事を嫌った者達が起こした独立運動は、沖縄の在日米軍基地や中国地方の竹島でも起き、日本からの分離独立を唱えた。しかし、転移後の混乱から立ち直った中で、冷静に物事を見つめる余裕の出来た者達からしたら、日本から独立するどころか、逆に周辺諸国の政治に利用されて滅びを招く愚行にしか見えず、瞬く間に信頼を失って鎮静化の一途を辿っていた。その中で数少ない叛乱の拠点となったロシア陸軍施設も、もうまもなく陥落するところであった。

 

「こちら第2小隊、司令室クリア!反乱グループ指導者は自殺した模様!」

 

「第1小隊より第2小隊、了解した。他の小隊は投降者の連行を開始せよ」

 

82式指揮通信車の車内で、北部方面隊第4普通科連隊司令の長本は配下の小隊からの報告を聞き、命令を発する。施設が完全に制圧され、武装解除が進められる中、長本は小声で一人ごちた。

 

「…全く、面倒な手間をかけさせるんじゃないって。しかし、まさかここまで転移してくるなんて…本当に意外の一言しか出てこないな…」

 

長本はそう呟きつつ、82式指揮通信車の外に出る。異世界の秋空は、やけに青く透き通って見えた。

樺太や沖縄、竹島での分離独立を騙る反乱は、どうにか年末にまで鎮圧が完了したが、それが後になって芽吹く争いの種が撒かれる事になるのだが、それはまだ先の話であった。




次回、自衛隊関係の話。


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第18話 その刀は己を守るがために

今回は日本強化回です。
しかし書籍版5巻、本当に鋼鉄の咆哮の感じがヤバかったなぁ…(旧作のインフレぶりから目を逸らしつつ


中央暦1639年9月16日 日本 呉

 

広島県呉市内にある造船所。そこでは、ガントリークレーンや作業員がひっきりなしに動いていた。

 

「いや~、随分とフル稼働で動いているんですねぇ~」

 

造船所内を歩く数人の男女。その中の一人の女性が、ヘルメットを左手で押さえつつドックを見る。

そこでは、一つのドック内で2隻の護衛艦が建造されており、奥の方の艦はもうすぐ進水式を迎えられそうな状態にまで仕上がっていた。

 

「現在、日本各地の造船所が、クワ・トイネ王国やクイラ王国からの受注以外にも、自衛隊の装備拡大計画を受けてフル稼働で動いているからな。お陰で造船と防衛装備関係の企業の株価は鰻上りだという話だ!」

 

男性の一人が、女性に向かって大声で話す。そして一同は、造船所の経営者がいる建物に向かって再び歩き出した。

現在、8年間という長い期間をかけて、自衛隊の規模を拡充する新規防衛大綱が進められているのだが、その中で海上自衛隊は、現状の護衛艦50隻からなる4個護衛隊群体制から、1個護衛隊群を8隻から12隻に増やしつつ、地方隊などを含めた護衛艦120隻からなる8個護衛隊群体制に切り替わった。今までの倍以上の艦船を建造・整備するという常軌を逸した計画は、多くの関係者を驚愕させ、混乱を起こしたものの、裏を返せばそれ程までに周囲の状況が厳しいという事である。予算委員会でも垂水は、

 

『先の武装勢力との戦いでは、魔法という我々の理解し難い技術と、この世界の未知の資源を持っていた武装勢力が、4000隻の大艦隊と時速180キロで海面を爆走する巨大艦で攻めてきた件がある。周辺には同様に、魔法の技術によって造られた強力な兵器や、一級特殊生物を使役して利用する生物兵器を有する敵性国家が存在する可能性もある』

 

と述べ、改めて『軍拡』の必要性を説いた。

また、台湾も軍備拡大を進めており、新たに艦隊旗艦・対地支援攻撃用の大型戦闘艦3隻と、台北級航空母艦の替艦となる新型空母3隻を中心とする、自衛隊と共同開発した新型艦を多数建造・整備する計画を立てているため、旧在日米軍や台湾とのパワーバランスを保ちつつ、新世界の海に潜む海棲型特殊生物に対処するためにも、海上自衛隊の戦力増強は必須事項であった。

ちなみに半年程で既存の4個護衛隊群を全て12隻体制にするためにかかる予算の捻出に関して、財務省でストレス性脱毛や胃潰瘍で倒れる職員が急増し、その最中にスキャンダルを起こした上司が、1年程無給に近い状態で過労する羽目になりかけたというが、真実は定かではない。

 

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横浜 民間造船所

通常の貨物船やタンカー以外にも、多数の護衛艦を急ピッチで建造しているこの造船所を、数人の男達が歩く。

 

「進捗状況はどのくらいですか?」

 

海上自衛隊の制服に身を包んだ男は、隣の作業着姿の男に問いかける。作業着姿の男は、目の前のドックを見ながら答える。

 

「まもなく進水を迎えられるところまで来ておりますが…既に幾つか艤装も施してあります。如何に質を落とさずに工期を短縮出来るか…ただの平時ならその心配はしなくて済むのですが、コイツをたった1年以内に進水・竣工させろという上からのお達しには参りましたよ」

 

作業着姿の男が目の下に隈を浮かべながら説明し、男は静かにドックを見る。

そこには、いずも型護衛艦よりも一回り大きな全通甲板装備の艦があり、まだ進水前であるにも関わらず、アンテナ類やレーダー類の幾つかが、右舷寄りのアイランド式艦橋構造物のマストに設置されていた。その隣のドックには、逆に左寄りにアイランド式艦橋構造物がある艦が入っており、それはまるで鏡映しの様であった。

 

「2番艦と、追加建造が許可された4番艦は、運用システムの再確認のために、艦橋と武装の位置が1番艦や3番艦と反対側にされています。…まぁ、旧軍の模倣が好きな若い連中の悪ふざけ、で全て説明出来るんですがね。他にも、前に提案されていた替艦の設計図案をベースにした大型護衛艦も建造が進められています。大型ミサイル護衛艦の建造も行われている中で、予算は大丈夫なんですかねぇ」

 

作業着姿の男はそう呟きながら、その場から離れていく。その場には制服姿の男一人が残された。

 

「戦後の、そして自衛隊初の、最初から固定翼機を運用するために設計・建造された大型航空機搭載護衛艦…果たして、自衛隊に如何なる『息吹』を吹き込んでくれるのか」

 

男は小声で呟き、建造が進む護衛艦を見つめる。

これらの艦が、異世界の大海原に漕ぎ出し、その後、あらゆる戦いの海を駆け抜けるまであと3ヵ月。

 

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旧太平洋・現北ロデニウス海 特別演習海域

海上自衛隊とクワ・トイネ王国海軍が共同で使用する訓練用海域の空を、2機のジェット戦闘機が駆け抜ける。

旧世界にて最強を名乗ったアメリカ空軍の最新技術がつぎ込まれ、非常に発達した航空力学によって設計された青色の機体は、広々とした海洋にその姿を紛れ込ませる様に低空飛行する。直後、真上からもう2機の戦闘機が急降下して襲い掛かり、2機は一斉に急上昇して回避機動を取る。

本格的な戦闘訓練が行われている中、護衛艦「いずも」艦橋では高野達がその光景を眺めていた。

 

「漸く改良型が完成したか…しかし、原型からは予想もつかぬ性能になっているな」

 

高野の呟きに、山本も同感とばかりに頷く。

転移前の2015年、〈F‐15J〉や〈F‐2〉の戦闘行動半径外に出現する特殊生物に悩まされていた海上自衛隊は、当初ヘリコプターのみの搭載・運用能力しか持っていなかった「いずも」を、アメリカ軍が開発した新型戦闘機〈F‐35〉の垂直・近距離離着陸能力を有するB型を搭載・運用出来る様にする改造工事を決定。建造中であった「かが」は途中でその仕様に改造していき、「いずも」も任務上の都合から2017年1月から改造する事となっていた。

しかし、〈F‐35B〉が自衛隊の求める任務に適さない可能性がある事が判明すると、防衛省は〈F‐2〉の時の様に、日米共同で〈F‐35B〉をベースにした新型機の開発を打診。自衛隊の求める戦闘機の開発が困難だと判断した国防総省は、エンジンや垂直離着陸性能の技術等、引き渡しても問題の無い技術や、製造用の設計図を高額で三菱重工などの開発・製造関連企業に貸与した。

そして試作機が完成し、「いずも」も艦首をスクエア型に改造し終えた2017年年末、日本は転移。アメリカとの繋がりが途絶えた防衛省は、独力で開発を続行し、ロデニウス戦役が終わりを迎えた8月下旬に、日本最初の艦上ジェット戦闘機〈F‐35D〉初号機がロールアウトした。

原型の〈F‐35B〉以上の性能を求め、設計図の改良などが行われたこのジェット戦闘機は、改良にAC‐3〈しらさぎ〉の技術も使われており、オリジナルよりも非常に高い戦術機動性を有している。また、現在クワ・トイネ王国からの支援を受けつつ、魔導技術を導入したバッジ2型を開発中で、速度や航続距離の問題が改善される見越しである。

そして今、その初期型が旧在日米軍所属の〈F‐35B〉と空戦機動訓練を行っており、性能差は明らかに目で見える形になっていた。

 

「まさか〈F‐35〉タイプでプガチョフ・コブラを見る日が来ようとはな…」

 

山本は小声で呟きながら、高度な空戦機動で〈F‐35B〉から撃墜判定を取る〈F‐35D〉を見つめる。原型よりも格闘戦能力を高められた新型ジェット戦闘機は、現在建造が進められている航空機搭載護衛艦の艦載機として、活躍が期待されている。同時に台湾海軍や在日米軍からの協力を受けつつ、CTOL型航空母艦と、〈F‐2〉の後継機たる本格的な艦上ジェット戦闘機の開発が開始されている。

在日米軍に全て頼る事の出来ない今、高野は改めて、自国を守る決意を固めた。

 

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横浜 民間造船所

藤田は、「やましろ」の改造工事を観に来ていた。

ロウリア王国の超巨大ガレアス「ウラガン」との戦闘で損傷した「やましろ」は、次世代艦建造や、魔法技術導入の有用性確認のためのテストベッド艦として改造が始められ、上部構造物の作り直しやレーダーや通信機器の換装、主機の換装等が行われていた。

主機は戦後の改造で蒸気タービンからガスタービンに変えられていたが、今回の改造では、ロウリア王国側から提供された魔法具『風神の涙』と魔素発生用システムを組み込み、熱効率や燃費の問題点を魔法技術で解決している魔導補助式ガスタービンに換装して、実際の艦船運用での有用性の確認を行う事になっていた。

兵装も、全長の延長とともに主砲を長砲身型に換装し、CIWSも新型に取り換える事になっており、改造は比較的長期に渡るものになると見られている。

 

「随分と改造が大規模になっていますね…」

 

藤田の言葉に、この造船所で働く技師は、肩をすくめながらも答える。

 

「クイラ沖での戦闘で、魔法を馬鹿に出来なくなりましたね…実際、クワ・トイネ王国の魔法騎士団は、陸自の特殊部隊並の能力を獲得し始めたそうですし、空自でも〈F‐35D〉に魔法技術を組み込んだジェットエンジンを搭載するそうです。まぁ科学技術オンリーで解決出来ない事を解決する事だって出来る事が、民間でも認知されていく様になっていますから、逆にこの流れに逆らう事は悪手みたいなものでしょうね」

 

技師はそう言いながら、戦前の旧日本海軍特有の艦橋構造物が解体されていく様子を見つめる。藤田も、不安そうな表情を浮かべながら、改造が加えられていく「やましろ」を見つめた。

 

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従来戦力の大幅な強化は、装備の新規開発・製造に留まらず、在日米軍の一部取り込みや、ロシア連邦軍部隊の取り込みという形でも行われていた。

旧世界よりも国防が厳しい事になった自衛隊に、日本政府は旧アメリカ大使館を中心とするヨーク自治政府樹立の支援と引き換えに、在日米軍全軍をヨーク自治区自衛軍に編入させた上で、戦力調整のために戦力の一部を自衛隊に編入させるという、やや強引な戦力強化策を実行。空母や沿岸域戦闘艦、支援艦艇の半数は旧在日米軍の管轄下のままとされたものの、ミサイル巡洋艦2隻と駆逐艦4隻、揚陸艦6隻の計12隻は海上自衛隊へと籍を移され、空軍も戦力の半数を航空自衛隊に移された。

この『編入』には多くの米軍軍人が反対したが、それ以上に未知の世界でただ張子の虎みたいに極潰しも当然の軍人としてみじめな日々を送る事を良しとしない者が多く、米軍軍人の自衛隊員への『転職』はスムーズに進められた。反対していた者も、転移前に起こした犯罪で起訴され、本国政府の庇護を受けられぬまま正当な処罰を受けた者が多く、ヨーク自治区自衛軍の者になるか、自衛隊員に変わるかの選択を選ばなかった者の末路は悲惨そのものであった。

北の樺太や千島でも同様の事が起きており、ソブレメンヌイ級駆逐艦や〈Su-27〉などのロシア製兵器の管理・整備で混乱が生じたものの、編入自体は比較的スムーズに進められた。

 

「3番艦、動きが遅いぞ!何をやっている!」

 

ミサイル護衛艦「あいづ」の艦橋に、新たに編成された第5護衛隊群の司令、涌井継治は大声を上げながら指示を飛ばす。

日本海の能登半島沖、海上自衛隊用演習海域では、在日米軍から接収した艦や、旧ロシア海軍太平洋艦隊艦艇からなる演習艦隊の入念な訓練が行われていた。なんせ設計時点から全く異なるアメリカ・ロシア製艦船を一つの艦隊で運用するのである。内部機器を日本の規格に合わせるだけでも重度の困難であるというのに、運用思想すら全く異なる冷戦対立の中で開発された艦を使うのは、非常に骨の折れる仕事であった。

しかし、戦力強化のために建造されている護衛艦が完成するのはまだ先の事である上に、元米軍所属の兵士と元ロシア軍兵士を部下として戦場に赴く事も荒唐無稽と言えなくなる日も近いのである。その分涌井の指示には熱が籠っていた。

 

「いいか、今はアメリカやロシアという国は『この世界』には存在しない!あるのは我が『日本国』と、全く異なる国だけだ!国防の意思を統一出来なければ、自分達に待っているのは亡国だけだと覚悟しながら訓練に臨め!言語や規格の違いなど、この世界の常識からすれば些細な問題だ!」

 

「りょ、了解!」

 

「サー、イエッサー!」

 

「ダー!」

 

日本語と英語、ロシア語での返答が返り、涌井はその返答に手ごたえを感じる。

 

「…今のところは目に見える程の対立は生じていない。そのまま対立などせずに力を磨いてくれ…」

 

涌井は心配を抱えながらも、訓練の指示を続ける。

日本政府と防衛省、自衛隊の苦労は数年後、世界一の戦力を有する強国として世界中に目に見える形で発揮されるのだが、それはまだ先の事ではなくなろうとしていた。




次回、軍祭回です。


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第19話 波乱の祭

今章は間に魔王戦を挟みつつ進めたいと思います。


中央暦1639年9月2日 フェン王国

日本の北西に位置する、九州とほぼ同規模の国土を持つ小国フェン王国。

この国は第三文明圏外では珍しく、魔法を専門的に扱える者がいない。数世代前の王が、魔法を嫌って魔導師を全員追放してこの国から魔法そのものを無くしたからだ。

その分武力と騎士精神に重点が置かれ、国民は如何なる職業でも刀での戦い方を学ぶ。そして日本の武士道に近しい精神が培われたため、個人での戦闘能力と軍人としての精神は文明国以上とも称される。

その中心部たる王都アマノキの王城では、日本国外務省の使節団が、フェン王国の国王である『剣王』シハン・ハオウ3世に謁見していた。

王位継承権すら剣の腕前で変わるフェン王国剣王は、常に文武両道の道を歩み、国民を率いていかなければならないため、王家の一族は常に勉強を積み重ねつつ、剣の腕前を磨く。

そのため、使節団のリーダーであり、剣道七段の腕前を持つ外務省職員、島田の目から見ても、シハンの所作には剣技の全てを極めた武人としての能力が感じられた。

 

「其方らが、日本国の使節団か。この国まで遠路遥々よく来られた」

 

江戸時代以前の日本の城を感じさせる王城の謁見の間に、日本の着物に酷似した衣装をまとう初老の男の声が静かに染み渡る。垂水の様に意思を力強く示しつつも、天皇陛下の様に自国や外国の者達を思いやる優しさの籠った声に、島田達は無意識に背筋を正す。

 

「はい…貴国と国交を締結したく、参りました。ご挨拶として、我が国の品をご覧下さい」

 

シハン達の前に、日本刀や西陣織の着物、伊勢志摩産養殖真珠のネックレス、運動靴などの日本の生活を支える製品の幾つかが並べられる。

シハン達はその品々を物色し、日本の国力の一端を窺い知る。

 

「素晴らしいものばかりだ…さて、貴国はどのようなモノを求めるというのかね?」

 

シハンの問いに対し、島田はシハンに、大陸共通言語で書かれた通商航海条約の締結に関する文書を出す。そして条約締結における提示条件と、文書に何らかの間違いがないかの確認が行われる。

確認が終えられ、シハンは語気を緩めて島田に話しかける。

 

「失礼ながら、私は其方らの国、日本の事をよく知らぬ。其方らからの提案通りならば、列強と同じ力を有する日本と対等な関係を築き、非常に有益な交易を行う事が出来るであろう。だが、未だに国ごとの転移や、鉄で出来た飛竜、城の如く巨大な船などというモノは信じ難い。そこでだ」

 

シハンは一旦言葉を止め、目つきを変えて話し出す。

 

「貴国には、自衛組織としての水軍…確か『海上自衛隊』と言ったかな?それの船団の一部を我が国に派遣してくれぬか?今年はアマノキ港にて軍祭が行われる。そこで其方らの軍の力を見せて欲しいのだ」

 

シハンからの要請に、島田は面食らう。なんと、海上自衛隊の部隊を外国の国事に派遣して、その戦闘能力を見せて欲しいというのだ。

他国が国交もない国に軍を派遣するというのは威嚇行動の他でもなく、それを嫌がるのが通常の反応である。しかも王国の中心部でその力を見せて欲しいというのである。

しかし、この国は『武の国』という言葉が似あう様な国である。異世界であるという事も加えて、旧世界にはない外交の一つなのかと納得し、本国の外務省にそのまま報告を送る事となった。

 

「…さて、彼らはワシらの要請通りに動いてくれるかのう?」

 

使節団が去って行った直後の謁見の間。シハンは、目の前にいる側近達の前で呟く。家臣の一人であるマゴロク・モトムは、日本からの献上品である扇を見つつ答える。

 

「彼らは約束を簡単に違えぬ者達に見えました。少なくとも、リーム王国の者共に比べたら信頼出来るでしょう。…それに、そうでなければ、困るのは彼らではございません」

 

「ああ…」

 

シハンは小声で呟きながら、謁見の間の真横、市街地に面した縁側の方を見る。

数か月前、パーパルディア皇国がフェン王国に対し、南部の土地の一部を献上する様にと『要請』してきたのだ。この『要請』は、10年以上前に皇国皇帝に即位したルディアス・ファン・エストシラントが、3代前から国策として進めている国土拡大政策の一環であり、その要請を受諾する代わりにパーパルディア皇国からは、『指定技術供与制限目録』で定められている技術がその国に供与される。

通常の文明圏外国ならば、国土を少しだけ失う代わりに、パーパルディア皇国から皇国の優れた技術を供与してもらえるのである。土地だけが犠牲となるならすぐにこの要求を呑むだろう。

しかし、時には策略を以てフェン王国を統一したハオウ王家の者だからこそ、この『要請』の裏の事を知っていた。『要請』は次第に『命令』へと上げられていき、最終的に全て受諾した国はパーパルディア皇国の属国となる。その実例が何度も繰り返されたのを目の当たりにしているシハンは、相手のプライドに気を配りながら丁寧に断った。

するとパーパルディア皇国第三外務局は、第二案として『第一案と同じ場所を498年間租借する』案を提出したが、5世紀近くもの超長期間を租借して、期間通りに返還したという話は全く聞かない。シハンはこの案も丁寧に拒否し、使者を丁重にもてなした上でお返しした。

しかし、パーパルディア皇国のプライドはこの程度でも傷つくぐらいに脆いらしい。現在、第三外務局の指揮下で動く皇国監査軍が、フェン王国に懲罰攻撃を行うために、軍事行動の準備を始めたという情報が、隣国ガハラ神国から入ってきたのだ。

パーパルディア皇国とフェン王国の軍事力は、地竜とヤモリという比較レベルでかけ離れている。

まず人口ではパーパルディア皇国は号して7000万人ー属領の国民とカウントされていない下級奴隷やゴブリン等を含めれば1億人以上とされているがーに対し、フェン王国は僅か70万人。海上戦力もパーパルディア皇国海軍は100門級戦列艦や竜母を多数保有しているのに比べ、フェン王宮水軍は手漕ぎ式の中型木造船を改造した軍船21隻を中心とする貧弱な艦隊。航空戦力に至っては、隣国のガハラ神国に棲息する風竜を恐れてワイバーンが住み着かないフェン王国に対し、パーパルディア皇国は原種のワイバーンだけでも1000騎以上は保有し、改良型のワイバーンロードはその倍以上はいるという。

そのためフェン王国は、ガハラ神国に援軍を要請しつつ、紛争を出来る限り最小限に抑えようと努力していた。

 

「さて日本よ…異世界からの転移者を名乗る其方らは、列強に真正面から立ち向かえる力を持っているかね?」

 

シハンの呟きは、家臣の誰の耳にも届かずに空に消えた。

 

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中央暦1639年9月17日 ロデニウス大陸北西沖

 

カイオスは、クワ・トイネ王国国号改称式典の帰り際、皇国民間商社の商船内で思索に更けていた。

 

「驚いた…まさか、クワ・トイネ王国がこれだけの発展度を遂げているとは…!」

 

カイオスはそう呟きながら、カイコン市で見た、近代的な都市の情景を思い出す。

市内各所にはレンガ以外に、ムーで発明された建材『鉄筋コンクリート』で建てられた10階建てのビルが建ち並び、道路もムーで使用されている『アスファルト』で固く舗装されており、神聖ミリシアル帝国やムーでしか見る事の少ない『自動車』が走り回っている。如何に第三外務局と言えど、ムーの動向は抜かりなく把握している。ムーが文明圏外に秘密裏に支援して代理戦争を起こそうとしているという可能性だってあるからだ。しかし自ら行った調査では、ムーは何一つ関与していない。そもそも建物や自動車自体が、ムーのモノよりも非常に発展しているのだ。

次に思い返したのは、見違える程までに変貌したマイハーク市であった。

岩のアーチに仕切られた湾内はもとより、険しい崖や浜辺ばかりであった湾外の海岸は、神聖ミリシアル帝国のカルトアルパス以上に発展した港湾都市に生まれ変わっており、造船所では巨大な鋼鉄製商船が建造され、桟橋には何十隻もの鋼鉄の商船が停泊しては、大量の穀物や資源が積み込まれていく。空にはワイバーンに交じって飛行機械が飛び、空中を哨戒している様子もあり、クワ・トイネ王国は最早ただの文明圏外国ではない事を、カイオスに思い知らせていた。

 

「ロウリア王国がクワ・トイネ公国に負けたという情報が入った時は信じられなかったが…何故、何故ここまで発展出来たというのだ…?これも、『日本』などという国の支援か…?」

 

街の中を歩いていた時によく耳にした言葉。

 

『日本がクワ・トイネをさらに豊かにしてくれた』

 

『日本と台湾のおかげでロデニウス大陸全体が幸せになれた』

 

当初、カイオスはこの言葉を全く信用していなかった。が、旧首都のクワ・トイネ市でも『日本』の名がよく聞かれた以上、嘘と決めつける訳にもいかなくなり、カイオスは改めて魔写撮影機を持ってきていない事を悔やむ。

 

「だが、魔写を見せたところで信じてもらえる訳でもないだろうし…どうするべきか…」

 

今後の動きについて頭を悩ませる中、テレビ電話型魔信機が鳴り、カイオスはボタンを押して魔素位相式半立体魔導映像を空中に映し出す。そしてそこに、ホロウィンドウ式モニターとしてタンザンの顔が映し出された。

 

『局長、本日日本国の使節団が再び窓口に現れ、面会を求めて参りました。窓口の者が追い払いましたが、如何しましょうか?』

 

タンザンの言葉に、カイオスは頭を押さえつつ、深く息を吐いてから指示する。

 

「私が戻り次第、すぐに会談をセットすると相手方に伝えておいてくれ。色々と相手の事について探りを入れておきたい。後はそっちで適当に処理しておいてくれ」

 

『分かりました。一刻も早いご帰国をお待ちしております』

 

通信を終え、カイオスは深くため息を吐き出す。

 

「こんな情報を信じる者は、皆無に等しいであろうな…」

 

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中央暦1639年9月25日 フェン王国 首都アマノキ上空

フェン王国が5年に1度開催する恒例行事『軍祭』。フェン王国の誇る王宮武士団が己の力量を披露する場となるこの祭典には、文明圏外諸国の武官も招かれており、武技を競い、自国の自慢の装備を見せ合う。それは単なる国家行事ではなく、それぞれの軍事力の高さを見せつけ、互いに牽制を掛ける、国家間のパワーゲームも兼ねての事だった。

そして上空には、ガハラ神国から親善として派遣された、神軍風竜隊の風竜3騎が飛行していた。

ワイバーンを遥かに凌駕する能力を有する風竜は、ガハラ神国で『神通力』によってその国の武士と心を通じ合い、ガハラ神国神軍の戦力として12騎が属している。

その風竜隊を率いる風竜第一分隊隊長のタケル・スサノウは、真下のアマノキを眺めつつ、遠くに目を向ける。

 

「おい、アレを見ろ。随分とデカいな…」

 

『ああ。まるで小山だ。それに、何故か随分と戦い慣れしている様な雰囲気だ』

 

スサノウが指さした方向を見た風竜は、神通力で直接心に語り掛ける様に返事する。

その視線の先、アマノキから約5キロ離れたところでは、古代種のゴジラが全長160メートル越えの巨体を、遠くまで広がる浜辺に横たわらせていた。身体に新しい傷が無いところから、何らかの戦闘直後というわけでもなく、単に日光を浴びながら昼寝をしに来ているだけの模様である。

首都の喧騒を臆せずに寝るゴジラを他所に、スサノウは真下に目を移す。

今回、文明圏外一の軍事力を有するアルタラス王国は、『国内の諸問題』という理由で参加を見送ったのだが、今回の軍祭には『日本国』と『台湾国』の2ヵ国が参加している。そしてその参加戦力が衝撃的であった。

軍祭に参加した16隻の灰色の巨船と2隻の白い船。そのうち2隻は非常に巨大で、真っ平らな甲板は風竜が着陸出来るぐらいの広さがあった。その2隻からは、白く巨大な羽虫が飛び上がり、青色の巨大な怪鳥とともにアマノキ上空で曲芸飛行を行う。そのどちらにも魔力は感じられず、一体どうやって飛行しているのかが不明であった。

 

『アレが日本と台湾の軍船か…常に眩しい光を放っておる』

 

風竜の呟きに、スサノウは首を傾げる。

 

「光だと?俺には見えないが…」

 

『我らは同族との交信に、人の目では見る事の出来ない光を使っている。個体差はあるが、儂は120キロぐらいだ。そしてあの軍船は、我らと同じ力を使って、魔信に似た通信や、広範囲の探知を行っているらしい。しかもあの18隻と、空を飛んでいるあの怪鳥に羽虫の全てがな』

 

「なんと…これは驚いた…」

 

スサノウと風竜が、海上自衛隊と台湾海軍の艦隊に驚く中、台湾海軍所属の空母「台東」より、3機の複葉機と3騎の黒竜が離艦する。黒竜はワイバーンとは違い、風竜を全く恐れる様子もなく空に舞い上がり、見事な3騎編隊を組む。そして〈サギ1型〉とともに風竜の編隊の横に並んで、速度を合わせて飛行する。

 

『随分と我らを恐れていない様だな。だが、何故だ?この黒い飛竜から、あの向こうに寝そべっている巨竜と同じ雰囲気を感じる…』

 

風竜が首を傾げる中、アマノキの剣王用物見櫓では、シハン達が海上自衛隊と台湾海軍の艦船を見つめていた。地上の演習場では、台湾陸軍が群衆や他国の武官に射撃訓練を披露し、戦車部隊がパレードを行っている。上空では旧在日米軍所属の〈F‐35B〉と、空母「台東」から発艦した〈仙逸〉が曲芸飛行を披露し多くの者を驚かせている。ちなみに台湾は、日本の使節団と入れ違う様にフェン王国に使節団を派遣し、同じ様に軍祭に自国の軍を派遣する様に要請されていたため、海上自衛隊との合同演習の名目で軍祭に陸軍2個中隊と海軍第64任務群を派遣していた。

 

「本当にただ驚く事しか出来ないな…まさか、本当に鉄で出来た巨船を派遣してくるとは」

 

「それを言うのでしたら、クワ・トイネ王国の艦隊も驚くに値するモノです。アルタラス王国の戦列艦がおもちゃに思えてくる程の大型艦ばかりです」

 

王宮武士団を率いる長、コレチカ・マグレブの言葉に、シハンも頷く。そして艦隊の前に、人魚族によって牽引された廃船4隻が位置に付けられる。これは王宮水軍の演習用に使われていた船で、ところどころボロボロに損傷していた。

それを確認した海上自衛隊の護衛艦の1隻は、ゆっくりと前進すると、艦首側の1門の砲塔を可動させる。そして四度の轟音を響かせつつ、煙と炎を噴く度に廃船を吹き飛ばした。

 

「おお…」

 

「アレが、自衛隊の魔導砲の力…」

 

アルタラス王国の魔導砲とは比べ物にならない程の射程距離の長さと連射能力。そして百発百中に等しい、圧倒的な命中性能。これには多くの武官や武士が驚愕する。

次に、台湾海軍艦隊の実演が開始されるのだが、国内にて予備装備として保管してあったものを引っ張り出した旧アメリカ海軍ギアリング級駆逐艦を目標に、2隻のミサイル巡洋艦が砲撃を開始する。

台湾中華民国海軍は、第二次世界大戦後に世界各国から旧式化しつつある巡洋艦を購入して戦力の強化に努めていたのだが、冷戦終結後にそれらの大部分を解体し、同時に大型軍艦建造のための技術を吸収。その上でアメリカから、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦のMk.29連装ミサイル発射機搭載型を購入し、近代化を果たした。

しかし、第二世界大戦前に建造された艦で、排水量や状態の面から余裕のある艦は改造を施し、十分にミサイル巡洋艦として運用可能な様に配備した艦もあった。その中には、終戦後の旧日本海軍に属していた重巡洋艦2隻もあった。

2隻の前部に装備されている3年式改50口径20.3センチ連装砲塔2基4門、2隻合計4基8門が火を噴き、廃艦を蜂の巣に変える。廃艦は瞬く間に炎上し、最後は戦艦「中山」の艦砲射撃で沈められる。その光景にシハン達はただ、静かにその光景を見つめる事しか出来なかった。

 

「これ程までの性能…これはパーパルディア皇国を確実に凌駕していますな…!」

 

「すぐにでも日本と国交を締結する準備に取り掛かろう。不可侵条約は勿論の事、出来れば安全保障条約も取り付けたいな…!」

 

シハンは満面の笑みを浮かべながら、日本と台湾の実力を認め、今後の方針を決める。

その時、背後に一人の女性が現れ、シハンに報告する。

 

「王都西部の監視台より伝書鳩での伝令です。西部よりワイバーンロードが30騎程接近しているとの事です」

 

「ついに来たか…直ちに対空警戒を発令。大型弩弓及び『ライジョウドウ』を展開せよ。必ず民達に被害を及ぼさせるな!」

 

『御意!』

 

シハンの指示は王都内の王宮武士団全員に飛び、直ぐに臨戦態勢が整えられる。

しかし海上にいる日本・台湾艦隊はこの異変をまだ知らない。

 

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海上自衛隊第三護衛隊群 ミサイル護衛艦「みょうこう」CIC

種田は、CIC担当の乗組員とともに、レーダーを見ていた。別のモニターには、上空を飛ぶ風竜の姿があった。

 

「信じられませんね…あの生物から、ここまで強力なレーダー波と通信波が発せられているとは…」

 

「ええ…この出力は一世代前の…ターターシステム搭載艦並みの性能ね。これは上がかなり混乱するでしょうね…まさか生物でレーダー能力を保持するのが存在するなんて知ったら…」

 

種田は風竜の能力に驚きつつも、艦外モニターを見る。そこには2隻の大型艦が映っていた。

台湾海軍ミサイル巡洋艦「高雄」と「陽明」。旧日本海軍の重巡洋艦を改造したこの艦には、スタンダート艦対空ミサイルを使用するターターシステムが装備され、対艦・対空・対潜全てに対応出来るだけの性能が与えられていた。

 

「…初代とこう肩を並べて演習に参加する事自体は、転移前も結構あったけど、なんか複雑ね…」

 

種田はそう呟きながら、ミサイル巡洋艦「陽明」を見つめる。その時、レーダーを見ていたCIC監視員が報告を上げた。

 

「副長、レーダーに反応あり。アマノキ上空、高度4000の地点に、風竜や台湾海軍機、クワ・トイネ王国軍機とは全く別の反応を検知。西部より約7000、数は30、速度は約350キロ…ワイバーンレベルの反応にしては速いですね」

 

「西…確かここから西に500キロの地点には、パーパルディア皇国があったわね。参加国リストになかったから、サプライズかしら?」

 

種田達が疑問に思ったその時だった。突然、ワイバーンの編隊の一部が王城に襲い掛かり、一斉に導力火炎弾を発射したのだ。木造建築物は確実に火だるまに変える一撃は、安土桃山時代の日本の城の天守閣に近い建物を炎上させ、辺りに火の粉をまき散らす。そしてその炎の弾は、港湾部の王宮水軍の軍船にも命中した。

 

「なっ!?」

 

「攻撃!?一体、どういうー」

 

種田達が突然の出来事に驚愕する中、艦橋の見張台にいた乗組員から報告が入る。

 

『国籍不明ワイバーン、約15騎が海上保安庁巡視艇「いなさ」に向かって突撃!「いなさ」は正当防衛射撃を開始!』

 

見張員からの報告に、種田達は信じられないモノを見るかの様な目でモニターを見る。

外務省外交官を護送するために護衛隊群に同行していた巡視艇「いなさ」は、急加速して回避機動を取るが、ワイバーンの編隊は一斉に急降下し、口から一斉に導力火炎弾を放つ。「いなさ」の周辺に幾つもの水柱が聳え立ち、ついに先頭の騎が放った1発が、「いなさ」の船尾に命中する。

 

「「いなさ」、船尾に被弾!火災発生している模様!」

 

『「いなさ」より入電、正当防衛射撃を開始するとの事です!』

 

乗組員からの報告が相次ぐ中、「いなさ」は空に向け、船首側に装備しているJM61-RFS『バルカン』20ミリガトリング砲を撃ち、先頭を飛んでいたワイバーンを撃ち抜く。ワイバーンとともに竜騎士が墜落し、海面に落ちる。他のワイバーンは一瞬編隊を崩すものの、直ぐに組み直して急上昇し、今度は台湾の外交使節団を運んでいた巡防艇に襲い掛かる。巡防艇は20ミリ機関砲で応戦しつつ、全速力で回避機動を取る。それを見ていた艦長の海原より、命令が下された。

 

『艦橋よりCIC、個別的自衛権を行使する!対空戦闘用意!』

 

「聞いたわね、対空戦闘用意!SAMだと勿体ないし、クワ・トイネ王国軍機に当たってしまう!ワイバーンのみを撃ち落とせ!」

 

即座に艦首のオートメラーラ54口径12.7センチ単装砲が仰角を上げ、空に向かって12.7センチ榴弾を放つ。近接信管が作動してワイバーンを吹き飛ばし、次々と落としていく。近くにいた「陽明」からも20.3センチ三式弾改が放たれ、空中で鉄片をまき散らしてワイバーンを数騎叩き落とす。

2隻の新旧「妙高」の対空戦闘によって、残りのワイバーンは僅か14騎となり、それらは西の方へ逃走を試みる。しかし、そこにクワ・トイネ王国空軍の黒竜が襲い掛かり、黒竜は口から青い炎のレーザーを放ってワイバーンを斬り裂く。黒竜の最高時速は500キロであり、口から放たれる熱線は導力火炎弾以上の火力と射程、連射性能を持つ。その風竜に限りなく近い能力を有したワイバーンは、訓練飛行のために模擬弾頭のミサイルと機銃しか装備していなかった〈仙逸〉の機銃攻撃と連携して、瞬く間に敵ワイバーン9騎を叩き落としたのだった。

ちなみに残った4騎は、混乱から逆方向の東の方へ飛んで行ったところを、丁度目覚めて起き上がったゴジラの、欠伸の感覚で放たれた放射熱線によって塵芥になった。

 

「状況終了。これ以上、他に来てはほしくないんだけど…」

 

「…副長、それはフラグというモノです」

 

CIC管制官が渋い顔を浮かべながら答える中、種田は静かに、消火活動が開始された王城を見つめた。

あの城から立ち上る煙が、戦いの始まりを告げる狼煙の様に思えた。

 

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フェン王国 王城

他国の外交官を迎え入れ、実務者協議を行う場である応接の間に、島田達日本国外務省使節団と、台湾中華民国外交部使節団の姿があった。

 

「日本の皆様、今回はフェン王国の軍祭に乱入した不届き者を、誠に見事な武技で退治なされた事に、先ずは謝意を申し上げる」

 

日本国・台湾の外交官達に対し、マグレブは深々と頭を下げながら話しかける。島田はやや困り切った様な表情を浮かべながら答える。

 

「いえ、我々は貴国を守ったのではありません。海保の巡視艇に危険が及んだため、降りかかった火の粉を掃っただけです。…しかし、先程のワイバーンは一体何だったのですか?」

 

「アレは、ここから西に500キロの位置、フィルアデス大陸南部を支配する列強国パーパルディア皇国監察軍飛竜騎士団に所属するワイバーンロードでございましょう。我が国は以前、パーパルディア皇国より一方的に土地を献上せよと要求され、これを拒否致しました。パーパルディア皇国はそういった列強国に逆らった文明圏外国に対し、見せしめのための懲罰攻撃を行います。此度の事も、その懲罰攻撃の一環でございましょう。この軍祭には文明圏外国の軍しか集まっておらず、パーパルディア皇国にとってみれば、その他の国の者に被害が及んだとしても何の問題もないと判断して、日本国の軍船も襲ったのでしょう」

 

マグレブの言葉に、島田達は恐怖を覚える。この世界には、旧世界よりも野蛮かつ残忍な方法を交えた外交政策を行ってくる国が存在するという事である。

 

「…我々の権限だけでは、現時点で国交開設の交渉が出来ません。事態の重みを考えるに、一度帰国して内容を詰めてから、再度ご連絡したいと思います」

 

島田の言葉に、マグレブは一瞬だけ顔をしかめるが、直ぐに表情を真剣なものに変え、島田達に話す。

 

「…では、ただ一つ、これだけは心に留めて置いて下されよ。パーパルディア皇国は自国の利益と自尊心にかけては第三文明圏一です。過去に、我々の様に懲罰攻撃を受けた国がありましたが、その国は皇国軍の竜騎士を不意打ちで殺しました。かの国は報復として攻め滅ぼされ、反抗した者や王族親戚縁者の大半は皆殺しにされ、王城前で串刺しにされて晒された。服従した民衆は奴隷となり、大半は外国に安値で売り捌かれました。…この様な末路を迎えぬ様にご注意下されよ」

 

マグレブの言葉に、島田達は寒気を覚える。台湾外交部の外交官達も、中華人民解放軍ですらやらないであろう暴挙に、揃って顔を歪ませる。

そして彼らは、幾つか情報を得た後に、王城から出て巡視艇の方に向かって行った。

 

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フェン王国西部から100キロの沖合

護衛艦「みょうこう」は、未だアマノキ沖に錨を降ろしている僚艦から離れ、単艦で進んでいた。

軍祭でのトラブルの後、外交官を連れて帰国する予定だった「いなさ」と巡防艇が、ワイバーンロードの導力火炎弾の影響で航行不能になり、外交官達の迅速な出国が困難になったのである。

そのため、本格的な武力衝突が起きる前に、戦闘の停止と現場海域からの反転離脱の呼びかけを行うため、「みょうこう」は単艦でパーパルディア皇国軍艦隊に接近していた。

 

「「ひゅうが」3番機、コールサイン『ズイウン3』より入電です。フェン王国軍艦隊13隻は、パーパルディア皇国監察軍とおぼしき艦隊と交戦し、全滅したとの事です。なおパーパルディア皇国艦隊は前進を再開しております」

 

通信士からの報告に、海原は静かに目を瞑る。戦いで自国の防衛のために海に散った戦士達に向けた短い黙祷を終え、海原は真正面を見つめる。すると、CICから報告が上がる。

 

『レーダーに多数の艦船を確認。数は凡そ22、方位012、距離21000、速度16ノット』

 

「意外と速いな…例の魔法具を使っているという事か…?」

 

海原の呟きに、CICから状況を観測している種田がインカムで答える。

 

『ロウリア王国軍から提供された魔法具『風神の涙』は、風魔法で周辺の風圧を操作し、常に順風を得られる様にする機能を持っています。常に呪印の組み直しや風魔法呪文の刻印変更等のアップデートと新規ブラックボックスの追加・更新等の、イージスシステムと同じ様なシステム設定が組まれているらしく、最新バージョンだと台風の中でも帆やマストを損傷させない程度の風圧に調整する事が出来るらしいです』

 

「十分に驚異的な機能だな…」

 

海原はそう言いながら、双眼鏡を見る。水平線の彼方に幾つものマストが見え始め、「みょうこう」にぐんぐんと接近していく。

パーパルディア皇国艦隊は、全長が60メートル規模の大型帆船から成り立っており、戦列艦は側舷に何十もの砲門を配し、その周囲を覆う様に、文字が施された鉄板が張られている。マストの間には緑色に光り輝く発光部があり、それが風を操作する『風神の涙』なのであろう。

 

「数、80門級5、50門級8、20門級大型9。おそらくフリゲート艦に相当する艦だと思われます」

 

「よし…魔信機で通信送れ。『ここから先はフェン王国の領海内である。ただちに戦闘行動を停止し、反転して引き返せ』とな」

 

海原の命令に従い、通信員は傍に設置された魔導通信機を作動させ、パーパルディア皇国艦隊に通信を入れる。クワ・トイネ王国からの情報で、この世界には『手旗信号』や『発光信号』というものがなく、全て思念伝達(テレパシー)等を含めた魔法通信ないし魔導通信、魔導拡声器による直接の呼びかけで、撤退勧告などを行うという事を知ったからで、国内の民間企業がクワ・トイネ王国と共同開発した魔導通信機で呼び掛ける事になったのだ。

 

「こちら、日本国海上自衛隊護衛艦「みょうこう」。貴艦らは現在、フェン王国了解内を侵犯している。現在、アマノキには東洋諸国の外交官及び武官がおり、さらなる被害を及ぼす可能性がある。直ちに戦闘行動を停止し、現海域より撤退なされたし」

 

通信士の連絡が送られ、しばし沈黙が流れる。すると今度は、相手から通信が繋がってきた。通信用魔導波に適合したスピーカーより、初老の男性の声が流れる。

 

『…こちら、パーパルディア皇国監察軍、第2戦列艦隊司令ポクトアール三等海将。現在我々は、パーパルディア皇国に対して叛逆行為を働いたフェン王国に対する懲罰攻撃と、文明圏外国は列強には逆らえないという事実を改めて認知させるために、アマノキに向かっている。また、先程我が艦隊はフェン王国艦隊と交戦しており、すでに戦端は開かれている。もし貴艦がフェン王国に与し、我が艦隊の任を妨害するというのなら、ここで貴艦を撃沈する。交信終わり』

 

相手艦隊からの通信に、一同は絶句する。しかし、相手も好きでやっている訳ではなく、あくまでも自国のために赴いているといった感があった。

 

「…どのみち衝突は避けられん、という訳か。相手艦隊の動きは?」

 

「はい。現在、本艦と距離を取り…待って下さい、現在増速してこちらに接近してきます!距離3000!」

 

見張員が叫んだ直後、真横に位置した戦列艦の砲門が開き、幾つもの魔方陣が浮かび上がる。そして一斉に炎を噴いた。

 

ズドドドドドォォォォォン!!!

 

一斉に放たれた砲撃は、「みょうこう」周辺に幾つもの水柱を聳え立たせ、艦体を揺らす。そしてそのうち数発が側舷に命中した。

炸裂音が響き渡り、照明が一瞬だけ落ちる。海原は机にしがみ付きつつ、声を上げる。

 

「そ、損害報告!」

 

「さ、左舷に被弾!一部で浸水が認められます!」

 

『こちらCIC、システムの一部に障害が発生。されど戦闘能力に支障なし』

 

乗組員の報告が相次ぎ、海原は顔をしかめる。

 

「接近して被弾するの、これで二度目だ…!前進全速、主舵一杯!距離を4000にまで離せ!」

 

「りょ、了解!主舵一杯、よーそろー!」

 

「みょうこう」は急加速してパーパルディア皇国艦隊から離れ、ある程度距離を取る。そして海原は、種田に指示を出す。

 

「CIC、この距離から、敵艦のマストを狙い撃つ事は出来るか?」

 

『…何をやろうかについては突っ込みませんが、本艦のFCSは対特殊生物補正済みですよ?主砲、撃ち方用意!目標、敵戦列艦マスト!』

 

種田が指示を飛ばし、艦首の主砲が作動する。

オートメラーラ54口径12.7センチ単装砲が、艦橋上の82式FCSの管制を受けながら旋回し、戦列艦のマストを捕捉する。CICでは射撃管制員がスティック型のトリガーを握り、FCS内蔵のカメラで確認しつつ狙いを定める。そしてスティックのボタン型の引き金を引いた。

 

「撃ち方始め!」

 

「うちーかた、始め!」

 

毎分45発の連射速度を誇る、54口径12.7センチ単装砲が火を噴き、一番近くにいた戦列艦のマストをまとめてへし折る。砲弾が別の艦に当たらずに海面に着弾したのを確認し、次の目標に狙いを定めて2発目を放つ。

3発目、4発目が放たれる度に、パーパルディア皇国艦隊の艦のマストはへし折れ、航行不能に陥っていく。1発ごとの発射時間は僅か10秒であり、そのためたったの2分足らずで、22隻中11隻の艦が航行不能に陥った。

そしてそれを確認すると、艦橋から「攻撃止め」の指示が下った。

「みょうこう」とパーパルディア皇国艦隊は暫し睨み合っていたが、やがてパーパルディア皇国艦隊の方が折れ、航行不能艦に綱を伸ばして曳航する準備を始めた。「みょうこう」は少しだけ距離を離し、その様子を監視する。そして反転して撤退を開始したのを確認して、海原は通信を送った。

 

「こちら「みょうこう」、パーパルディア皇国艦隊は刀を収めた。繰り返す、パーパルディア皇国艦隊は刀を収めた」

 

この日、フェン王国沖で起きた『第一次ニシノハマ沖海戦』は『世界で稀な死者・沈没艦を出さずに勝敗を決した戦い』として、アマノキでの一件とともに、日本の力を第三文明圏外諸国に知れ渡らせた出来事として記録された。




次回、大規模軍事演習とそれぞれの分析。


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第20話 ミリシアルとパーパルディアの分析

今回は余り戦闘なし、日本の出番殆どなしです。多分2~3話程そうなるかも…


中央暦1639年10月25日 ロデニウス大陸北西沖合

 

第三文明圏外の海を、13隻の艦隊が進む。

神聖ミリシアル帝国は、第三文明圏外のロデニウス大陸にて、『古代ロデニウス文明の技術を使用した戦いが起きた』『ロデニウス大陸でムーより進歩した科学技術文明が発生している』との情報を手に入れ、その真偽を確かめるべく、遠洋演習航海の名目で東部地方軍魔導艦隊と魔導文明調査団を派遣した。

なお、事前に派遣の事は知らせていないが、魔信機の周波帯は文明圏内外共通であり、圏外国の魔信機でも1000キロ遠くからの通信は十分に届くため、艦隊司令の権限で来航の事を知らせていた。

 

「文明圏外国で、科学技術文明か…」

 

艦隊旗艦、マーキュリー級魔導戦艦「ベガルタ」の艦橋で、イリアム・アロイ少将は小声で呟きつつ、真正面を見つめる。すると、後ろから一人の男が近付き、アロイに話しかけてきた。その男は、顔に銀色の仮面を付けており、周囲にそぐわない雰囲気を醸し出していた。

 

「長い航海でしたねぇ。しかし、魔帝の遺跡が魔王に破壊されているところばかりの文明圏外国で、果たしてその力が使われたのでしょうか?」

 

古の魔法帝国の遺跡を研究・解析する魔帝対策省から派遣されたという男の言葉に、アロイは肩をすくめつつも答える。

 

「さあ…ですが、中央世界ですらまだまだ魔帝の遺跡が発掘されていると聞きますから、文明圏外にも破壊を免れ、最近まで見つからずに済んでいた遺跡があってもおかしくないでしょうね」

 

「それもそうですね…」

 

短い会話が途切れ、しばし沈黙が流れる。すると、見張員の一人が報告してきた。

 

「司令、艦長。右1時の方向より、多数の艦影が接近してきます」

 

「こちら魔信探知機室、魔信探知レーダーに微弱ながら反応あり。数は凡そ11、距離15000、速度10」

 

乗組員の報告を聞きつつ、アロイは双眼鏡を覗き込む。すると、黒い煙を上げながら、十数隻の艦船が接近してくるのが見えてきた。そしてそれを見たアロイ達の目が丸くなる。

 

「なんと、機械動力艦だと!?何故ムーにしかない様な純機械動力艦がここにある!」

 

「…いや、どうやらムー製ではないみたいだ。艦形がムーの軍艦とは違うし、砲塔の形状や配置、マストの構造もかなり異なっている。そして何より、魔力が微弱という事は、機関部に魔導具を組み込んでいないという事だ」

 

仮面の男の言葉に、アロイもそれに気付く。

ムーの軍艦の場合、通気システムや動力部の吸気に『風神の涙』を組み込んでおり、それで燃費の向上を果たしている。しかし、その反応すら感じられないという事はつまり、あの艦から感じられる魔導波は乗組員のものだけという事になる。

 

「これは、驚きの言葉しか出てこないな…」

 

「ええ…しかし、文明圏外の国にここまで優秀な科学技術文明を有する国が存在するだなんて聞いた事もありませんし、何やら裏がありそうですな…」

 

二人が驚きの言葉を上げる中、艦隊旗艦とおぼしき艦から通信が入る。どうやら通信機器はムーの無線通信機ではなく魔信機を使用しているらしい。

 

『こちらクワ・トイネ王国海軍第三艦隊、目前の国籍不明艦隊、応答せよ。貴艦らは我が国の領海に接近している。貴艦らの所属と目的を明らかにされたし』

 

「…随分と文明国らしい質問になった事だ。とりあえず答えてやろう」

 

アロイはそう言いながら、マイクを手に取る。そして相手艦に向けて話し始める。

 

「こちらは、神聖ミリシアル帝国海軍東部地方艦隊だ。本艦隊は遠洋航海演習のために現海域にまで来ている。また現在、クワ・トイネ王国マイハーク港に来航する予定も立てているため、この海域の通行の許可を求める」

 

『了解した。ただし、現海域我が国の演習用海域の付近を通るルートのため、本艦隊が先導を行う』

 

クワ・トイネ王国艦隊はそう応じて反転を開始し、神聖ミリシアル帝国艦隊の前に位置する。その艦隊行動の乱れの無さと陣形の整い振りから、かなり練度が高い事が伺える。

地方軍魔導艦隊はクワ・トイネ王国海軍艦隊に先導されて、クワ・トイネ王国領海内に進入する。

そして目前に見えてきたのは、演習中とおぼしき数十隻の大艦隊であった。

 

「こ、これは!?」

 

「これは…凄い…」

 

目の前に見えてきた大艦隊に、アロイ達は思わず感嘆の声を漏らす。

全長が200メートル以上ある戦艦に、自国の魔導制空母艦よりも巨大な航空母艦、そして砲塔が一つから二つしかないものの、巨大な上部構造物やマストを備えた巡洋艦…。そのどれもが、ムーは愚か、神聖ミリシアル帝国海軍最新鋭艦でも見た事のないものばかりであった。

 

「…我らは今、夢でも見ているのか?」

 

「夢ではないですよ、アロイ司令」

 

仮面の男がアロイを現実に引き戻す中、クワ・トイネ王国海軍艦隊旗艦より広域通信が流される。

 

『こちら、第三艦隊旗艦「カガチ」、現在本艦隊は領海内警戒中、遠洋航海演習中の神聖ミリシアル帝国海軍艦隊と遭遇。神聖ミリシアル帝国海軍艦隊はマイハーク港への寄港を希望しており、現在これを先導中である。各艦、了承されたし』

 

『こちら第一艦隊、了承した。日本国海上自衛隊及び台湾国海軍にはこちらから連絡しておこう』

 

艦隊旗艦同士でのやりとりを聞きつつ、アロイはまじまじと他の艦隊を見つめる。

 

「あまり見た事のない艦が多いな…」

 

「ええ。どうやら、『日本国』と『台湾国』という二つの国が関係しているみたいですねぇ…とにかく、マイハーク港に到着次第、色々と情報を集める必要がありそうですなぁ」

 

仮面の男はそう言いながら、艦橋を後にする。やがて、地方艦隊はクワ・トイネ王国海軍第三艦隊の案内を受け、マイハークに到着する。すると今度は、多くの巨大な貨物船が目に入る。

 

「…もしかして、ムーのマイカルがここに移ってきたのではないか?」

 

近代的な港湾都市と化したマイハークの港と都市を見つつ、アロイは小声で呟いた。

そして数週間、彼らはここで信じられない様な体験をする事になる。

 

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クワ・トイネ王国 首都カイコン市

 

クワ・トイネ王国の新たな中心部にある首相官邸で、仮面の男はカナタと面会していた。

 

「どうも初めまして、カナタ首相。私は神聖ミリシアル帝国より派遣されました、魔帝関係遺跡調査団長のアルトワと申します。急な訪問にも関わらず、出迎えて頂きありがとうございます」

 

「いえいえ、事前に艦隊の方から知らせて頂けたため、直ぐに準備をする事が出来ました。…改めて歓迎の意を表します。ようこそ、クワ・トイネ王国へ」

 

カナタとアルトワは握手を交わし、互いに着席する。そして最初にアルトワから話が切り出される。

 

「さて…私がここに来た理由は、一つです。この地にて古の魔法帝国の遺跡に近しいモノが発見され、ついこないだの戦争で使用されたという件についてです。先程、艦隊を出迎えたあの機械動力艦は、貴国の遺跡で発見された技術を基にしているのですか?」

 

アルトワの問いに、カナタは神聖ミリシアル帝国が何故この地に調査団を派遣したのかを理解する。そして丁寧に答える。

 

「失礼ながら、あの艦は我が国の国内で発見された遺跡の資料からではなく、半年以上も前にこの近くに『転移』してきた、日本と台湾からの支援によって建造されたモノです」

 

「…!」

 

カナタの口から飛び出てきた言葉に、アルトワは仮面の奥で目を丸くする。

 

(魔導技術の使用が認められていない事から、その二ヵ国が関係があるだろうと思っていたが…まさか、この者から『転移』の言葉が飛び出すとは…これは日本と台湾についても要調査だな)

 

アルトワはそう言いつつ、次の質問を出す。

 

「成程…では、この地で古の魔法帝国の技術が使われた、という噂が立ったのは、どういう事でしょうか?」

 

「ああ…実は、隣国のロウリア王国が、国内で発見された古代ロデニウス文明の遺跡を利用していたからです。恐らくはその情報が、中央世界へ伝達する途中で、内容に誤差が生じたのでしょう」

 

カナタの答えに、アルトワは成程なと納得する。

 

(やはりロウリア王国が使用していたか…調査期間はかなり長期に渡りそうだ…)

 

アルトワとカナタは、その後20分に渡って会談を行い、一部の古代ロデニウス文明の情報開示と、本格的な国交締結のための幾つかの取り決めについて決定していった。

 

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翌日 合同演習海域

 

アロイは、クワ・トイネ王国海軍に対し、演習の見学を申し込んでいた。

見学の目的は観戦武官に近かったものの、神聖ミリシアル帝国に対し、生まれ変わった王国海軍の事を知ってもらえる事になるのなら有益になると判断され、政府からの許可も下りた上で、アロイは第三艦隊旗艦「カガチ」に迎えられていた。

 

「どうですか、我がクワ・トイネ王国海軍は?」

 

隣に立つバタールの問いに、アロイは双眼鏡を覗きつつ答える。

 

「いやはや、壮観の一言ですな。まさか短期間で、ここまで立派な艦隊を造り上げるとは…」

 

「これも全て、日本の経済支援による国力増強と、台湾の軍事支援による防衛力強化の賜物です。これまでムーにしか存在しなかった『科学』を、限定的ながらも供与している日本と台湾の支援のお陰で、質ではパーパルディア皇国を超えているでしょう。まず、これを見て下さい」

 

バタールは、アロイをある一つの機器に案内する。その機器を見たアロイは、思わず目を丸くする。

 

「これは、魔信探知機ですか?まさか、魔信探知機を実用化させているとは…」

 

アロイの問いに対し、バタールは丁寧に答える。

 

「いえ、これは台湾からの支援を受けて開発した、『対水上捜索レーダー』です。本艦には『電波』という魔導波に類似した不可視の波を発して周囲の物体を探知するレーダーを各種装備しておりまして、対ワイバーン・航空機用の対空捜索レーダー、艦砲等の兵器の射撃を補佐する射撃指示レーダーも搭載しております。性能は日本と台湾のオリジナルに劣りますが、それでも闇夜でも十分に戦えるだけのモノに仕上がっております」

 

バタールの説明に、アロイは驚愕の表情を浮かべる。

 

「なんと…我が国でも開発中といわれている『魔導電磁レーダー』を実用化しているとは…これはムーからの支援ではないですな…」

 

アロイはただ、驚きの表情を浮かべながらスコープを覗き込む。すると、艦橋内にベルが鳴り響き、乗組員の一人が声を上げる。

 

「司令、各艦、演習準備整いました!」

 

「では、演習を始めようか。各艦、速力上げ!単縦陣のまま相手艦隊に接近する!

 

バタールの指示に従い、第三艦隊11隻は速力を上げ、演習海域にて待機している標的船団に接近していく。マストには海軍旗と艦隊旗が上げられ、警笛が鳴らされる。

 

「ではアロイ少将、まもなく戦闘演習を開始致します。よくご覧なさって下さい」

 

「ウム…ところで、あの箱は一体何だ?見たところ、魔導砲には見えないが…」

 

アロイが指さした、前部に斜めに立てかける様に設置された箱に気付いたバタールは、笑みを浮かべながら答える。

 

「それは今からご紹介致しましょう。全艦、〈オブシディアン〉発射準備!目標、標的船団!1発も外すなよ!」

 

バタールの号令が響き渡り、艦隊は単縦陣のまま標的船団の真横に位置する。艦橋上の双眼鏡型の射撃指示装置が動き、レーダー波を当てて距離と方位を測定する。

 

『各艦、〈オブシディアン〉発射準備よし!』

 

「全艦、各2発ずつ〈オブシディアン〉発射!」

 

号令一過、各艦から2発ずつ、改良が加えられたSS-2〈オブシディアン〉が発射され、対艦ミサイルは白い煙を引きながら飛翔する。それを見たアロイの表情が、再び驚愕に包まれる。

 

「あ、アレは誘導魔光弾!!!古の魔法帝国しか実用化出来なかったと言われるアレが、どうしてこの艦に!?」

 

「はい、これは台湾軍からの技術支援によって実用化が成されたモノで、実戦でも使用済みです。今はまだ対艦用しかありませんが、現在は対空用が開発中だと聞いております」

 

バタールの言葉に、アロイは改めて、クワ・トイネの変わりぶりに驚かされる。つい最近まで魔導砲すら知らなかった文明圏外国が、神聖ミリシアル帝国ですら開発中である誘導魔光弾を、科学技術で実用化しているのだ。それで驚かない者は、少なくともこの世界にはいないだろう。

 

「本艦の武装はこれだけではありませんよ。後続2番艦、及び3番艦、雷撃戦に移行!距離を5000にまで詰めろ!」

 

バタールの指示の直後、先頭を進んでいたカガチ級巡洋艦3隻は舵を切り、標的船団に接近する。そして、すでに炎上している標的船に魚雷発射管を向ける。

 

「…?あの者達は何をしているのですか?」

 

アロイは、甲板上で二本の筒を束ねた物体を旋回させている乗組員に気付き、バタールに問いかける。バタールはその様子を見つつ答える。

 

「これから、我が海軍とクイラ王国海軍、そして日本と台湾しか実用化していない兵器をご覧に入れましょう。右舷発射管、発射準備いいな?」

 

『発射準備よろし!いつでも発射出来ます!』

 

乗組員からの報告を聞いたバタールは、艦長に目配せしつつ大声で叫んだ。

 

「よし…攻撃始め!」

 

バタールの号令の直後、発射管から45センチ空気魚雷が2本ずつ発射され、魚雷は着水すると機関を始動させ、白い航跡を引きながら海中を進み始める。そして白い線が標的船にまで引かれたその瞬間、標的船に幾つもの水柱が聳え立ち、瞬く間に沈んでいった。

 

「な…!?」

 

「如何ですか?先程発射した兵器は、日本と台湾からもたらされた知識と技術をもとに開発された、39式45センチ魚雷です。主要諸元はお教え出来ませんが、1発で大型艦ですら艦底部に致命的な損害を被って航行不能になるだけの威力を有します。恐らくこれだけはムーや神聖ミリシアル帝国は愚か、古の魔法帝国すら有していないでしょう。ちなみに現在、魚雷を機体下に搭載して飛行し、対空砲の有効射程外から投下して攻撃する航空兵器の開発も始まっていると聞いております」

 

バタールの言葉に、アロイは額に汗を浮かべながら、沈んでいく標的船を見つめる。

得られる戦果ともたらされる損害の比率から衝角を使った体当たり攻撃が下火になり、砲撃戦による戦闘のみで敵艦を沈められる戦いになった今、損害を最小限に留めつつ喫水線下を破壊する戦術と兵器は開発されていないに等しい。というかその発想が出てくる者が皆無であった。そのため、この巡洋艦が放った見えない槍はかなりの脅威に思えた。

 

「…日本と台湾からもたらされたと聞いたが、その2ヵ国の魚雷とは如何なるモノなのか…?」

 

「噂によれば、あの雷跡…先程の白い航跡が全く見えず、それでいて20キロ彼方から僅か10分で届き、1発で本艦を海の藻屑に変える程の性能を持つと言われています。あと…」

 

バタールが説明していたその時、別の乗組員が艦長に向けて叫んだ。

 

「艦長、ソナーに反応あり!急速浮上します!」

 

その声と同時に、海上に突然鯨に似た巨大な黒い物体が現れ、アロイは目を丸くする。その黒い鯨には、ある筈のない高い背鰭が付いていたが、その背鰭や背中からは数人の人が現れ、「カガチ」に向けて手を振ってきた。それを見たバタールは、手を振り返しながら説明する。

 

「アレは『潜水艦』と言いまして、海中に潜って敵艦隊や通商航路に忍び寄り、人知れずに魚雷を発射して敵に打撃を与える兵器です。恐らくあの兵器に対抗出来るのは、日本と台湾だけでしょうね」

 

バタールの説明に、アロイは冷や汗を浮かべながら、再び海中に潜って行く潜水艦を見送る。やがて、今度は海上自衛隊と台湾海軍の艦隊がやって来て、砲撃訓練と対空訓練を開始した。

修理兼改装が終わったばかりの「やましろ」と「中山」、「孫文」の砲撃が轟き、標的の周辺に幾つもの水柱を聳え立たせる。砲弾には着色剤が混ぜられているため、紫色や黄色、緑色の水柱が上がる。次に標的船に向けて、90式艦対艦ミサイルと17式艦対艦ミサイルの発射訓練が行われ、標的船2隻が一瞬で撃沈する。護衛艦や駆逐艦の主砲が連続で砲弾を吐き出し、標的船を蜂の巣にしていく。空母「台北」からは〈仙逸〉が発艦し、標的船に水平爆撃で正確に攻撃を命中させ、機銃掃射で上部構造物を完全に破壊する。訓練支援艦からは標的機が発射され、護衛艦は訓練用ESSMを発射してこれを撃墜する。4か月前にこの海域でロウリア王国軍艦隊相手に振るわれた力が目の前で披露され、アロイは恐怖を覚える。

 

「…この力…今の神聖ミリシアル帝国では艦隊戦でまともにやり合う事は出来ない…」

 

現在の神聖ミリシアル帝国の技術と軍備では、数で上回る事は出来ても質で軽く凌駕されてしまう。物量戦を仕掛けようにも反撃で工業地帯や基地を潰されて詰みになるのが目に見えている。実際、中央世界にて起きた地域紛争では、自国の空母部隊が空爆で反乱グループの中心部を叩き、降伏させているのだ。台湾の空母には間違いなく、同じ事が出来るであろう。

 

「…この情報は、確実に本国に持ち帰らなくては…」

 

アロイはそう言いながら、魔写機を取り出して撮影を行う。途中で現れた潜水艦や、砲撃訓練やミサイルによる戦闘の演習を行う護衛艦、そしてクワ・トイネ王国海軍の軍艦…日本と台湾が確実に転移国家であるという証拠や、今のクワ・トイネ王国の実情を写し出した魔写は、神聖ミリシアル帝国の中でも特一級の重要資料として長らく保管される事となる。

 

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クワ・トイネ王国 カイコン市 首相官邸

 

神聖ミリシアル帝国調査団が、現在のクワ・トイネ王国の経済・軍事等の情報を収集していた頃、カナタは緊急会議で神聖ミリシアル帝国調査団に関係する事について聞いていた。

 

「神聖ミリシアル帝国の派遣艦隊についての調査結果ですが…はっきり言って、日本と台湾の艦隊には全く勝てませんね」

 

修理と解析の指揮を担当しているポルダーの報告に、カナタは目を丸くする。世界最強と呼ばれている国の艦隊が、日本よりも弱いと断じられたのだ。そこまで自信満々に言うからには、重要な理由があるのだろう。

 

「まず、派遣された東部地方艦隊艦艇は、戦艦1隻に大型巡洋艦2隻、巡洋艦4隻、航空母艦1隻、高速砲艦4隻、補給艦1隻の計13隻から成り立っていますが、構造的に見ると改造前の「山城」や台湾海軍主力艦に劣ります。また、遠距離砲戦での真上から降ってくる砲弾に対する防御は成されているものの、喫水線下の防御は商船と余り変わりなく、被雷時のダメージコントロールも行えない可能性が高いです。乗組員から色々と話を聞きましたが、損害が生じた時の処置方法は海上自衛隊のよりも幼稚でした」

 

曰く、『防御は基本的に船体と装甲を魔法で強化して耐える』、『排水ポンプは骨董品レベル』、『戦闘時に艦底部に損害が生じたら三十六計逃げるに如かず』…世界最強の肩書が怪しく思える程のモノであったという。

 

「速力と武装に関しましては、機動性は戦艦と巡洋艦は高い方ですが、空母が足を引っ張りますね。艦砲は被弾すれば日本や台湾の艦でも致命的なダメージになりかねませんが、防御用の装備となると、対空装備が我が国のモノよりも貧弱です。主要な対空装備である対空魔光砲は、近距離での低速航空機に対する迎撃装備という認識であり、制空戦のメインは空母の艦載機みたいです。ですが、射程1万メートル以内の中距離での高速機に対する装備…高角砲や主砲対空弾といったモノは装備されておらず、時限信管も知らなかった様です。現在開発中の『雷撃機』ならば我が国でも確実に勝てるかもしれません」

 

ポルダーの説明に、カナタ達は神聖ミリシアル帝国の意外な弱点を知る。カナタは別の事を尋ねる。

 

「では、空中戦はどうか?神聖ミリシアル帝国軍の『天の浮舟』はワイバーンより圧倒的に強い。それに対してはどの様に対応出来ると思っているのかね?」

 

「その点につきましては、私からお話しましょう」

 

今度はシカカが立ち上がり、説明を始める。

 

「首相の心配される通り、通常のワイバーンでしたら確実に負けるでしょう。しかし、黒竜部隊でなら対等に渡り合えますし、地上には対空砲陣地が設営されています。また、台湾軍の厳重な監視下で供与されている携帯式対空ミサイルもありますので、その時の心構えと周囲の環境次第で落とす事は可能です。また、日本や台湾とはもうすぐ集団安全保障条約が締結される運びとなっておりますし、ダイダル駐屯地の航空自衛隊と台湾空軍の戦闘機がこれを排除してくれますでしょう」

勝てる相手ではないが、そう簡単に負ける事もない。その事実にカナタ達は一安心する。

そして会議が進められ、今後の方針が決定された。

 

・今後、神聖ミリシアル帝国とは良好な関係を保ち、最大限武力衝突が起きない様に留意する。

・神聖ミリシアル帝国等の列強国と国交の締結や条約締結を行う際は、日本及び台湾国にも確実にかつ詳細に知らせる。また、日本台湾両国が神聖ミリシアル帝国等の列強国と国交や条約締結を行う際はこれの支援を行う。

 

外交面での重要な事項が決められると同時に、国防方針でも今後のクワ・トイネ王国軍に求められるモノが決定された。

 

・陸軍は国産の近代的な装甲車両からなる機甲部隊を編成し、国内に上陸された時の陸上戦による高機動積極防衛を行える様にする。また部隊・師団単位での防空装備を充実させる。

・海軍は3年以内に戦艦ないし大型巡洋艦と航空母艦を中心とする水上打撃部隊を配備・編成し、制海権・制空権の確保に努める。また、国産の潜水艦の開発・配備計画も進める。

・空軍は5年以内に機械動力式の戦闘機のみで編成される飛行団を編成・配備し、神聖ミリシアル帝国軍の天の浮舟にも対抗出来るだけの防空体制を構築する。

 

神聖ミリシアル帝国調査団の来訪は、クワ・トイネ王国側にも明確な変化をもたらそうとしていた。

 

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中央暦1639年11月5日 パーパルディア皇国 皇都エストシラント

第三文明圏唯一の列強国たる大国パーパルディア皇国の中心部、皇都エストシラント。現皇国皇帝家の前身であるエストシラント大公家領の屋敷があった地を中心に発展したこの大都市の外務局会議室では、第三文明圏外で起きている異変についての会議が行われていた。

 

「現在、ロデニウス大陸の国家群は我が国からの支援が行われていないにも関わらず、ムーに近い発展を遂げている。この事について他に分かった事はあるか?」

 

第二外務局長のリウス・フュン・ウスカゲの問いに対し、外務局員の一人が答える。

 

「現在のところ、ムーが支援を行っているという形跡は見られません。ですが、南方海域の一部はアニュンリール皇国がムーに通行権を売っている事もありますし、何よりレイフォルが滅亡した今、魔石を手に入れるために第三文明圏外国に独自に国交を結んでいる事も考えられます。そしてその見返りに、未だに公表していない技術を供与している可能性もあります」

 

第二文明圏はこの世界では珍しく、魔法具の原材料である魔石の産出地が少ない。そのため第二文明圏内国は魔石を文明圏外国から高値で輸入している。そして現在、レイフォルが滅亡した影響で第二文明圏以西の文明圏外国が揃ってグラ・バルカス帝国に降伏し、魔石の輸入先が大幅に減った今、より多くの魔石や資源を入手するために、見返りを吊り上げている可能性だって捨てきれないのだ。

 

「成程…ですが、断片的に入ってくる情報からすれば、クワ・トイネ王国を始めとする国々の戦力は我々以下らしいですし、日本と台湾という新興国も、結構な欺瞞情報を流して我が国を混乱させようとしているみたいですね」

 

第一外務局長のエルト・フュン・アデラーの言葉に、他の局員も頷く。どうやら外務局員の殆どは、『日本と台湾は、ロデニウス大陸諸国の隆盛に便乗して欺瞞を流している辺境国』という認識らしい。

しかし、ただ一人だけそうは思っていない者がいた。カイオスである。

実際にクワ・トイネ王国の様子を見た彼からすれば、断片的に入ってくる情報はほぼ全て真実であるという認識であった。

しかし、皇国一の技術力を持つ先進兵器研究所ですら、フェン王国への懲罰攻撃に向かい、敗走して帰って来た監察軍艦隊の発言に対し、『百発百中の兵器など、100年先の皇国でも不可能だ』と切り捨てている。はたして自分の発言を信じる者などこの場にいようか。

そして会議の結果、『日本・台湾・ロデニウス大陸諸国は要注意であるものの、大して心配する程のモノでもない』と断じられ、暫くは静観する事となった。それでも、神聖ミリシアル帝国の調査団が軍の地方隊艦隊でクワ・トイネ王国に来訪したとの情報が入っている分、相応の注意を払う必要がある事だけは肝に置く事となった。

 

「しかし、面倒な事になって来ましたね」

 

会議が終わり、カイオス達が会議室から退出すると、そこに一人の少女が話しかけてきた。その少女の服装は、皇国軍前線部隊の制服であったが、制服に施されている装飾は属国の旧王族ないし高級貴族、またはエストシラント大公家か血縁の近しい者の服装によく見られるモノであった。

 

「…レミア殿、痛いところを突いてくるのは止めにしてくれませぬか」

 

カイオスは顔を渋くしつつ、役職も年齢も下である少女ーレミア・ファン・エストシラントに丁寧に話し返す。レミアはカイオスの横を歩きながら話を交わす。

 

「妾も、皇族の身ながら軍で働いていると、耳の痛い情報が嫌でも多く入ってきまする。今の叔父上(皇帝陛下)ならば、たかが文明圏外国として暫し放置した後、今の面倒な障害を排除したところで対処にかかられると思いますが…多分今回は監査室が腰を上げますよ?」

 

今の監査室の男衆は、元王族の妾相手に現を抜かして上げる腰を無くしているので、女性監査官が動く事になりますが、と付け加えつつ、手に持っている書類をカイオスに渡す。

その書類には、第一外務局が元ロウリア王国軍将軍のアデムの亡命を受け入れたとの情報が書かれていた。

 

「…今後が面倒な事になりそうだな…」

 

カイオスの呟きは、レミア以外の誰にも届かなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同日 クワ・トイネ王国 マイハーク市

市内の神聖ミリシアル帝国調査団に提供されたホテルの一室では、アロイとアルトワが情報交換を行っていた。

 

「…クワ・トイネ王国海軍の装備は、確実に我が国を凌駕している。恐らく制空権を喪失している状況下で戦いを挑むのは危険だ。また、これからは海中の方にも警戒しなければならないであろう」

 

「成程…こちらは古代ロデニウス文明の詳細について知る事が出来たのだが、古の魔法帝国と真っ向から戦う事の出来る力を有していた事が分かったよ。遺されている記録からも、この地は早い期間に徹底的に滅ぼされている事が記されている事から、その理由が納得出来た事も有難い。そしてクワ・トイネ王国は、そこから得られた情報も上手く活用して、今の発展を築き上げているらしい。これは今後の神聖ミリシアル帝国の方針にも大きく影響を与えてくるかもしれませんなぁ」

 

アロイとアルトワの二人は、そう話して今後の行動について話し合う。

その後、二人はクワ・トイネ王国に支店を出している日本の書店の話を聞き付け、そこから日本と台湾に関する情報を集める作業に奔走した。そしてこの二人の結果、のちの神聖ミリシアル帝国でも有数の日本通として知られる様になるのだが、それはまだ先の話。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

1週間後 戦艦「ベガルタ」のある一室

 

アルトワは自身の部署に向けた、ある一通の手紙を書いていた。手紙程度の文書は、通信で呼び出した通信社所属の飛空船を飛脚代わりにして速達で送る事が可能である。そしてその飛空船も、中央世界と第三文明圏の中間に位置する北ベリアーレ海では結構頻繁に航行しているため、直ぐに目的地に届きやすい。魔導波を使った安価かつ安定した超距離通信方法が確立していない今、長距離での交信は手紙の方が信頼性と届く手間が安いのである。

そして手紙の最後には、この様に書かれていた。

 

『…最近の第三文明圏外国は、『日本国』と『台湾国』という二つの新興国によって大きく変わりつつある。同時に、彼らのもたらした知識により、古代ロデニウス文明の使い方を正しく認知出来る様になってきており、これはいつしかこの世界に戻ってくるであろう古の魔法帝国に立ち向かうための力に大いに役立つであろう…

 

神聖ミリシアル帝国対魔帝対策省・古代兵器分析戦術運用部運用課 コードネーム『メテオス』』




まさかのこの地点でこの人物が出てくる事を予測出来た者はいないだろうなぁ。
次回、アルタラス王国戦争開始。


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第21話 アルタラス王国の悲劇

本作のアルタラス王国は原作よりも強化されています。
あと最近、ハーメルン大丈夫かなぁ?何かいきなりお気に入りの作品数作が消えているんだけど…(汗)


中央暦1639年11月12日 パーパルディア皇国 皇都エストシラント

列強第四位たるフィルアデス大陸の盟主パーパルディア皇国。

皇都エストシラントの中心部に位置する巨大な城塞、国中の富と力の全てを集めて豪勢に築き上げた皇宮パラディス城の玉座の間では、一人の男が目前の席に跪いていた。

 

「カイオス・キーマンよ、面を上げよ」

 

玉座に座る男、皇帝ルディアス・ファン・エストシラントの威厳に満ちた声がその場に響き渡り、カイオスは冷や汗をダラダラと流しながら顔を上げる。

 

「フェン王国に監察軍を使った懲罰攻撃を行った件、一体どうなった?」

 

「ハッ…監察軍の派遣と、屈辱的な失態の件を報告せず、誠に申し訳…」

 

「たわけぇっ!!!」

 

ルディアスの一喝が響き渡り、カイオスはその身を竦ませる。

 

「派遣を報告しなかった事はどうでもよい。それは余が認めた第三外務局の権限だからだ。蛮国への侵攻計画なぞ一々受けている程暇ではない。問題は…敗北した事だ」

 

すでに第一外務局からの情報で、フェン王国への懲罰攻撃の結果と、ロデニウス戦役に国家戦略局が一枚噛んでいた事をルディアスは知っていた。顔から滝の様に汗を流すカイオスに対し、ルディアスは問う。

 

「一体何処にやられた?まさかフェン王国か?」

 

「目下全力で対象国の割り出しを行っておりますが、現在までの調査結果では文明圏外国であると推察されております。しかし、結果がまだ明確でないため、陛下の耳にお入れ出来る段階ではないと判断し、報告を差し控えておりました」

 

「まだ分からぬというのか…だが、余に真の正しき事を伝えようと労している事は評価しよう」

 

カイオスの説明に、ルディアスはやや態度を軟化させる。

 

「旧式の装備の寄せ集めとはいえ、我が国の軍に土を付ける国がいるとは驚きだな。戦闘結果だけを見た各国は、皇国がフェン如き弱小の圏外国に負けたと見るだろう。我が国に逆らった国が判明次第、フェン王国ともどもその国には必ず責任を取らせよ。皇国に逆らうとはどういう事か、きっちり教育してやれ。よいな?」

 

「御意!」

 

カイオスは深く頭を下げて了解する。そして、続けて話した。

 

「それと陛下、アルタラス王国大使に着任していた局員より報告が来ました。想定通り、我らからの要求を拒絶し、アルタラス国内の皇国資産凍結と国交断絶を伝えてきたとの事です。本気で我らと一戦交える模様でございます」

 

カイオスの報告に、ルディアスは残忍さに満ち溢れた笑みを浮かべる。

 

「予定通りであるな。文明圏外一の国力を持つアルタラスが亡べば、暫く文明圏外の者共は大人しくなるであろう。伝令、直ちに軍に出撃準備を命令。カイオスは余に代わり宣戦布告書を出せ。余はここに命じる。アルタラス王国に宣戦布告し、これを滅ぼせ。勅令である(イイ・ネ)

 

御意(ア・ハイ)!!!』

 

カイオス達の声が響き渡り、直ぐに皇帝の意志が外務局と軍に伝達される。

そして5日後、パーパルディア皇国よりアルタラス王国に向けて宣戦布告が出された。

 

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中央暦1639年11月18日 アルタラス王国 王都ル・ブリアス

 

フィルアデス大陸より南1000キロ離れた地点に位置するアルタラス島を国土とするアルタラス王国は、第三文明圏外国で一番栄えている国である。

人口は1500万人を数え、豊富な魔石の産出と輸出に支えられた経済によって文明圏外とは思えぬ程の豊かな暮らしが営まれている。

その中心部である王都ル・ブリアスの王城アテノール城の一室。そこには、国王ターラ14世の姿があった。

 

「お父様?ルミエスが今参りました」

 

王の私室に、タラス王朝第一王女のルミエス・タラスが入室すると、ターラ14世は彼女に駆け寄り、両手を彼女の肩に置いて話しかけた。

 

「ルミエスよ…先程、船を1隻手配した。戦争が始まる前にこの国から逃げるのだ」

 

自身の父の顔には、焦りと悲壮が籠っており、ルミエスは眉を顰めつつ尋ねる。

 

「何故ですか、お父様?」

 

「…先程、パーパルディア皇国より我が国に対して宣戦布告が行われた。この意味が分かるな?…来るのは懲罰攻撃を担当する監察軍ではなく、文明国との戦闘や侵略作戦を担当する正規の皇国軍だ」

 

ターラ14世の言葉に、ルミエスは震え上がった。

事の発端は約2週間前、パーパルディア皇国から屈辱的な要求が出された事に始まる。

まず一つ目は『シルウトラス鉱山の献上』。この鉱山は、アルタラス王国の経済の中心と言っても過言ではない程の魔石の産出量と産出される魔石のバリエーションに定評があり、この鉱山抜きにしてアルタラス王国の経済は成り立たないとまで言われている。特に最近は、ムーへの輸出が盛んになっていたのもあって、ますますこの鉱山の重要性が高まっていた。

二つ目は『ルミエスの身柄を奴隷として献上する事』。当然ながらこの要求は皇帝からの命令や、その身柄の立場を使った政治的な思惑からではなく、パーパルディア皇国在アルタラス王国大使であるカスト・ヒュン・ゲーセの『個人的』な要求である。そして文章の中身も最早要求ではなく『命令』に近かった。

若くも外交官として公務に勤しんでいるルミエスも、公務の中でパーパルディア皇国の強さをよく耳にしていた。

しかし、この国と民を愛する彼女は、父の指示を拒否する。

 

「ですが、国と民を見捨てて私だけ逃げるなど…王家の名を汚す事になってしまいます!」

 

「国力差を考えれば、我が国は負ける公算が高い。そして王族は、皆殺しになるか奴らの慰み者になるだけだ。お前に地獄に等しい苦しみを味合わせる訳にはいかん…」

 

文明圏外国では、国運をかけた戦いが始まる前に、信頼出来る同盟国に王位継承権を有する者の身柄を預ける事がある。同盟を組んでいる相手の興廃次第で国益に影響が及ぼされるからである。

しかし、ターラ14世の心中には、全く別の理由があった。

 

「…私は、国王として失格だろうな。肉親だけ国外に逃がすなど…しかし、お前は母さんの遺したたった一人だけの娘だ。一人の父親として、我らの生きた証として、ここで死なせるわけにはいかない。…ルミ、お父さんの言う事を聞きなさい」

 

父の目には、王としての使命を投げ捨ててでも自身のたった一人の娘を守ろうとする覚悟が燃えているのが見えた。その強い意志を感じ取ったルミエスは、目に涙を浮かべながら頷く。

 

「…わ、分かりました…」

 

「南海海流に乗れば、国交を有しているクワ・トイネ王国に辿り着くだろう。そこでクワ・トイネ王国内の大使を頼りにすると良い。近くに出現した『日本』と『台湾』という国にも助けを求めるといい。その二ヵ国には、非常に優しい民族がいると聞く。大使達も十分に協力してくれる事であろう」

 

「お父様…お父様も…どうかご無事で…」

 

二人は抱擁を交わし合い、ルミエスは離れて直ぐに脱出の準備を始める。

そしてその日の夜、ルミエスは偽装商船に乗ってアルタラス王国から脱出した。

 

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中央暦1639年11月24日 アルタラス島北東沖合130キロの海域

 

「我が国を乗っ取り、食い尽くそうとする(イナゴ)共め」

 

アルタラス王国海軍第一艦隊旗艦「タス1世」の船楼にて、艦隊総司令を務めるドルステ・ボルド王国海軍長は怒気の含まれた言葉を呟く。

アルタラス王国は潤沢な魔石の輸出による経済を元手に、国策として工業化の進展と国産品の充実を図ってきた。それと併せて国内で兵器の自力開発と生産を行っており、仮想敵としているパーパルディア皇国に勝利するために、『風神の涙』や対魔弾鉄鋼式装甲の国産化を果たし、魔導砲の改良も行っている。さらに造船技術の発達もあって、初期型の竜母の建造にも成功し、軍備の質では文明国に迫りつつあった。

そのアルタラス王国を守護する王国海軍連合艦隊は、国内に存在する四つの艦隊のうち三つの存在で成り立っており、74門級を含む戦列艦90隻、ワイバーンを10騎搭載した竜母15隻、20門の長射程魔導砲を装備したフリゲート艦90隻の計195隻から成り立っており、この大戦力は正しく文明圏外一の大国と呼ぶに相応しいモノであった。

 

「報告!パーパルディア皇国艦隊、接近を確認!数、推定でも400隻以上!速力は約10ノット!」

 

「来たか…ここで奴らに目にもの見せてやる!何時まで経っても文明圏外と思っている愚か者共に、我らの力を知らしめよう!直ちに竜母はワイバーンを出せ!さらに本土の飛竜騎士団にも増援を要請しろ!手を抜くな、我が祖国と王女を奴らの魔の手から守り抜くのだ!」

 

ボルドの号令が響き渡り、直ぐに竜母からワイバーンが飛び立ち、編隊を組んでパーパルディア皇国艦隊に向かう。文明国に匹敵する戦力を前に、ボルドは勝利を確信する。

しかし、ボルド達は知らなかった。何故アルタラス王国が文明圏外の範疇から抜け出せないのかを。そして何故パーパルディア皇国が列強国として広く知れ渡っているのかを。

 

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広大な海を、何百隻もの大艦隊が進む。

パーパルディア皇国海軍第四艦隊は、アルタラス王国の制海権を奪い取るべく、南に向かって進んでいた。

パーパルディア皇国の『平均的な』文明・技術水準は18世紀頃の地球であるが、同時代の地球の技術では造る事の困難な、巨大な100門級戦列艦が列をなし、通常の木造船よりも非常に大きい竜母からは哨戒用のワイバーンが飛び、周囲を一回り小さいフリゲート艦が取り囲んで防備を固める。

そして艦隊旗艦、フィシャヌス級100門級戦列艦「シラント」の船楼に、艦隊司令のベルナテ・ソウス二等海将が立っていた。

 

「壮観な光景だ。これこそ、文明国の王にして列強の軍なり」

 

シウスはそう呟きながら、後ろを振り返る。

「シラント」の後ろには、全身を黒い鉄板で覆い、マストの中腹程度までの高さを有する煙突から黒い煙を吐き出す大型艦や、巨大な船体を2隻、横に繋ぎ合わせた異形の大型艦の姿がある。これらの艦は、次世代の皇国海軍主力艦として建造された試作艦で、性能は同時代の地球の艦など比にもならない程のものを有していた。

何故、アルタラス王国が文明圏外のままなのか。それは、『帆走以外の天候に左右されない動力推進を有した、鋼鉄製の大型艦』を始めとする、中央世界や第二文明圏に匹敵する技術力と国力を有していないからであり、竜母も、アルタラス王国の有する艦より一回りも大きく、搭載騎も改良型のワイバーンロードのみとなっていた。

列強国ですら辛勝は免れない戦力を有する皇国艦隊を見た文明圏外の者は、揃いも揃って恐怖を覚える。なんせ、質と量の両方で、自国を軽く凌駕しているのだから。

パーパルディア皇国繁栄と強力無比の象徴たる艦隊を眺めていると、対空魔振感知機で警戒を行っていた兵士が報告を上げてきた。

 

「報告!アルタラス王国より、ワイバーンの編隊が多数接近中!数は300騎以上!」

 

「フム…意外と多いな。だが、その程度で負ける程、我が国は甘くない!通信兵、直ちに全竜母にワイバーンの発艦を命令!さらに『例の新型』も出す様に伝えろ!」

 

「了解!」

 

推奨BGM、艦隊これくしょんより『我、敵機動部隊ト交戦ス』

 

シウスの号令とともに、全ての竜母と双胴艦が前進し、甲板上に大勢のワイバーンロードが並ぶ。そして先頭の騎が羽ばたきながら滑走し、大空に飛び立つ。その数は実に340騎。そのどれもが通常のワイバーンより大きく、速い。

そして編隊を組んで南下していくのを見送った直後、新型対空魔振感知機のモニターを見ていたレーダー士が叫んだ。

 

「敵編隊の一部、低空飛行でこちらに接近してきます!数は凡そ100!」

 

「隊を二手に分け、多数の編隊でこちらのワイバーンを惹きつけ、少数で艦隊に打撃を与えるか…だが甘いな。ワイバーン隊に命令!直掩隊を低空で接近する敵に向け、高空から来る敵の一部をこちらへ回せ!どうせ奴らでは本艦隊に損害を与える事など困難だ!」

 

シウスの命令が即座に下され、上空を飛んでいた直掩のワイバーンが低空で接近する敵ワイバーンに向かう。太陽を背にして急降下するワイバーンは、即座に口に炎を溜め、一斉に導力火炎弾を放って敵ワイバーンを数騎火だるまに変える。ワイバーンは即座に飛び上がって反撃に移るが、パーパルディア皇国の生み出した改良型ワイバーンは、首を横に曲げながら導力火炎弾を放ち、死角からの超高速の炎の塊を浴びたアルタラス王国のワイバーンは全身を焼き焦がされながら落ちていく。

それでも幾つかはパーパルディア皇国艦隊にまで辿り着き、導力火炎弾の発射準備に入る。それを見た乗組員が大声で叫ぶ。

 

「敵騎、攻撃に入ります!」

 

「全艦、対空戦闘開始!1騎残らず叩き落とせ!」

 

シウスが号令を発した直後、一斉に各艦より砲火が撃ち上げられる。

かつてムーで使用されていた、手回し式対空ガトリング砲と、高い仰角でも装填・発射出来る様に作られている57ミリ単装高射砲が火を噴き、真上から襲い掛かるワイバーンをズタズタに引き裂く。リボルバー式の速射機構を備えた13ミリ速射銃も火を噴き、ワイバーンを確実に貫いていく。

空の王者たるワイバーンをいとも容易く落とす対空砲火は、瞬く間に敵ワイバーンを全て撃ち落とし、制空権を確保する。

 

「敵ワイバーン、全騎撃墜を確認」

 

「フッ、呆気ないものだ。さて、次は艦隊戦となるが、せいぜい死ぬまで踊って見せろよ?」

 

シウスが笑みを浮かべる中、水平線の向こうに幾つもの艦影が見え始める。距離は瞬く間に10キロにまで縮まり、シウスは通信士に指示を出す。

 

「「カイゼラ・ネルロ」に伝達。主砲を一発お見舞いしてやれ。こちらの攻撃はこの距離からも届くという事を分からせてやる」

 

「了解!」

 

直ぐに航続の大型艦ーカイゼラ・ネルロ級新型機甲戦列艦「カイゼラ・ネルロ」が前に出る。そして艦首側に装備している、40口径30.5センチ三連装砲が指向され、轟音とともに火を噴いた。

大重量の砲弾が飛翔し、10キロ先のアルタラス王国艦隊周辺に着弾する。水柱が三つ上がるが、その中の一つは煙が混じっていた。

 

「敵艦隊、戦列艦1に命中した模様です!轟沈は確実!」

 

「初弾命中とは…これは幸先がいい!全艦前進全速!敵艦隊を左右から挟め!」

 

シウスの命令に従い、艦隊は増速してアルタラス王国連合艦隊を左右から挟み込む。そして距離を5キロにまで縮めたその時、戦列艦より幾つもの巨大な矢が放たれる。しかしその矢は、稲妻を纏いながら高速で飛翔し、「シラント」の近くに着弾して巨大な水柱を上げる。それを見たシウス達は、思わず目を丸くする。

 

「バリスタか?しかも、かなり速い上に威力も高い!」

 

「恐らくロウリア王国から秘密裏に輸入していた『雷神の魔槍』を装備しているのでしょう。ですが、矢自体にも『風神の涙』や炸裂魔法を封じた魔石を使用している模様ですな。なんと勿体ない使い方である事か」

 

参謀の言葉に、シウスは顔をしかめる。

 

「魔石をふんだんに使った兵器か…これは油断ならんな…だが、その程度で怯むとでも思っているのか!全艦、距離を5000にまで離しつつ、撃ち方始め!敵艦隊を蹂躙せよ!」

 

シウスの号令とともに、隊列を組んだ戦列艦の砲門が開き、一斉に魔方陣を浮かべる。そしてほぼ同時に火を噴いた。

大重量の砲弾がアルタラス王国連合艦隊に降り注ぎ、幾多もの水柱が乱立する。1発当たりの命中率の低さは、片舷50門の手数の多さでカバーし、砲郭式は射撃調整装置で誤差を補正して命中率を上げていく。猛烈な砲撃で動きを制限されたアルタラス王国艦隊に、魔石ベースの炸薬を詰め、形状を球形から団栗に近いモノにして飛翔性能を上げた砲弾の雨が降りかかり、やがて何発も同時に命中する。砲弾は内部炸薬と爆裂魔法の掛け合わせで、非常に高い破壊力を解放し、旧式の術式が施されたアルタラス王国製対魔弾鉄鋼式装甲を叩き割る。爆発の炎は木造の船体を焼き焦がし、更なる損害を負わせていく。何隻かが接近して数百メートルの距離で対空用ガトリング砲を撃ち、甲板上にいた兵士を撃ち殺す。アルタラス王国艦隊も必死に応戦するが、アルタラス王国艦隊の爆裂魔法や炸薬が封じられていない砲弾は容易くパーパルディア皇国艦隊戦列艦の対魔弾鉄鋼式装甲に跳ね返され、逆にパーパルディア皇国戦列艦の魔導砲はアルタラス王国戦列艦の装甲や船体を貫き、木端微塵に粉砕する。

 

「戦況は圧倒的に我々の有利…これは勝てるな」

 

シウスがそう呟いた、その時、「カイゼラ・ネルロ」が前進して「シラント」の前に出て、敵戦列艦から放たれた矢を受け止める。「カイゼラ・ネルロ」の左舷側に巨大な爆発の炎が起こり、艦体は煙に包まれる。

 

「「カイゼラ・ネルロ」、被弾!」

 

「本艦の盾になったか…損害報告!」

 

シウスの問いに対し、「カイゼラ・ネルロ」艦長から返事が来る。

 

『こちら「カイゼラ・ネルロ」、敵弾の攻撃を被弾!されど魔導攻撃中和術式が発動し、損害は軽微』

 

元々対魔弾鉄鋼式装甲は、その名の通り魔法攻撃に対する防御システムとして開発されたものであり、旧式でさえワイバーンの導力火炎弾を無効化させる機能を有する防御力は、魔石の魔法力に破壊力を依存する兵器に対して有利に働く。対してパーパルディア皇国の魔導砲は、物理的な破壊力も高く、砲弾に施されている爆裂魔法も魔法攻撃中和術式に対する対策が施されている。この高い魔法技術もまた、パーパルディア皇国が第三文明圏内の列強国として降臨している理由の一つである。

パーパルディア皇国艦隊の猛烈な攻撃は、次々とアルタラス王国艦隊の戦列艦を1隻ずつ潰していき、アルタラス王国海軍将兵の士気を削り取っていく。後方に退避していた竜母も、全てのワイバーンを落としたパーパルディア皇国軍のワイバーンロードが襲い掛かり、導力火炎弾や30キロ魔導爆弾を放って航行不能に陥らせていく。

 

「戦列艦「ベシアル」被弾、轟沈!「オシア」火災発生!」

 

「おのれ、パーパルディアめ…!ここまで力の差があるというのか…!」

 

次々と散っていく味方艦を見つめながら、ボルドは拳を船縁の手すりに打ち付ける。

今回、各艦にはロウリア王国から輸入した『雷神の魔槍』を装備し、魔導砲と同等の射程距離を得ている。弓矢も、矢自体に『風神の涙』を埋め込み、矢じりに爆裂魔法を封じた魔導攻撃矢『風神の矢』を使用し、破壊力も得ている。そして試験では、対魔弾鉄鋼式装甲を施した艦ですら1発で大破させられる程の威力を発した。間違いなくパーパルディア皇国に真正面から対抗する事が出来た筈であった。

しかし実際のパーパルディア皇国軍の強さは、交流を持つ国々からの話以上であった。5キロ以上先から一方的に木造船を瞬殺出来る魔導砲に、魔法攻撃を中和して耐える対魔弾鉄鋼式装甲を有する巨大戦列艦は、瞬く間に味方戦列艦を猛烈な砲撃で殺戮していく。最早この時点で、アルタラス王国海軍がパーパルディア皇国軍に海戦で勝てる見込みは全くなくなってしまった。

 

「戦列艦「ブーデッヒ」「パケラ」、轟沈!竜母「トレミア」火災発生!」

 

「おのれぇぇぇぇぇ!!!」

 

ボルドはやり場のない怒りと悔しさを、天に向けて吐き出す。

直後、「カイゼラ・ネルロ」と「シラント」の放った砲弾が、「タス1世」に命中し、ボルドは多くの将兵とともに木端微塵に吹き飛ばされた。

 

この日、『第一次ルビリア岬沖海戦』にてアルタラス王国海軍連合艦隊195隻は、パーパルディア皇国海軍第四艦隊400隻と交戦し、全滅。制海権は瞬く間にパーパルディア皇国軍のものとなったのだった。

 

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翌日 アルタラス島北部 ルバイル平野

 

パーパルディア皇国陸軍第16師団は、王都ル・ブリアスに向けて進軍していた。

 

「司令、まもなくル・ブリアスまであと30キロです。そろそろ警戒を厳に致しましょう」

 

司令部の置かれている8頭立て巨大馬車の車内で、参謀長の言葉に、第16師団司令のグラスト・バフラム二等陸将は不敵な笑みを浮かべながら頷く。

 

「ここはあくまでも敵の地だからな。ワイバーンロードの哨戒部隊は逐次敵の情報をこちらに送る様に命じよ」

 

バフラムが指示を出したその時、傍の通信席で報告を受けていた通信兵が声を上げた。

 

「報告!アルタラス王国軍の部隊はここから20キロ先の地点に陣地を敷き、我らを迎え撃つつもりの様です!数は約5万!」

 

「かなりの大盤振る舞いだな。だが、我が軍が負ける事はない。全軍、敵軍との距離を5000にまで詰めよ!そこで奴らに我らの強さを見せつけてやろう!」

 

第16師団は海岸線を沿う様に南下し、アルタラス王国軍に接近する。そして互いの距離が5000メートルにまで縮まったその時、バフラムは魔信機のマイクを手に取り、命令を発した。

 

「砲兵隊、及び鉄甲鎧虫隊、砲撃開始。先ずは連中の退路を断ち切れ」

 

命令と同時に、部隊の停止と同時に設営が開始され、即座に戦闘態勢に入った砲兵隊と、横一本に並んだ鉄甲鎧虫の列が砲撃を開始する。

馬の牽引による戦術機動性を有したバシ1628野砲からは75ミリ砲弾が、鉄甲鎧虫の大砲状器官からは砲弾様固形物が放たれ、5キロ以上先の地点に着弾する。猛烈な爆裂の煙と火柱が聳え立ち、一瞬で数百人の兵士が吹き飛ばされる。

 

「敵陣に命中しました!混乱を生じている模様!」

 

「いやはや、鉄甲鎧虫の火力は凄まじいものだな。だが、主力たるリントヴルムも負けてはおらん。前方の地竜師団及び機甲歩兵に命令!直ちに突撃を開始し…全て踏み潰せ!」

 

バフラムの命令と同時に、ゴーレムをベースにした甲冑を身に纏った機甲歩兵と、背中に二人の兵士と大型の銃を装備した地竜リントヴルムが歓声を上げながら前進を開始する。辺り一面に地響きが鳴り響き、軍勢が走り出すと同時に地面が大きく揺れる。そして目の前に見えてきたアルタラス王国軍に対し、リントヴルムは一斉に火炎放射を吐き出す。

このリンドブルムの戦力化成功がパーパルディア皇国軍が陸戦で他国と大きく優位に立つ事の出来た理由である、リントヴルムの火炎放射は、目の前の多くの兵士を鎧ごと焼き焦がし、兵士は焼き焦げ、直接肌に張り付いた鎧の熱さに身を悶えさせる。後続の兵士は必死になって弓矢を放ち、炎や氷、風などの攻撃魔法を飛ばすが、ゴーレムと同材料のパワードスーツ型鎧はそれらを跳ね返し、リントヴルムも分厚い表皮でその攻撃を跳ね返しながら、大火傷を負ってのたうち回るアルタラス王国軍兵士を踏み潰していく。機甲歩兵はマニピュレータに装備された砲で砲撃し、敵を吹き飛ばす。さらに兵士自体をマニピュレータで殴り飛ばし、足で踏み潰す。最早パーパルディア皇国軍の進撃を止められる者はなく、空には多くのワイバーンが飛び交い、沿岸部には戦列艦や砲艦が並び、アルタラス王国軍に艦砲射撃の雨が降り注ぐ。

国王ターラ14世は戦況を立て直すべく撤退する途中に、ワイバーンの攻撃に遭い、全身を焼かれて戦死。指揮官を失ったアルタラス王国軍は崩壊し、パーパルディア皇国軍はそのまま2日かけて王都ル・ブリアスに進軍。

開戦から僅か9日で、アルタラス王国は滅亡し、パーパルディア皇国属領の一つに組み込まれた。

このニュースは瞬く間に第三文明圏内外に広まり、多くの文明圏外国が震えた。そしてロデニウス大陸諸国も、この身近に迫って来た脅威に対し、急速な軍拡を進めていずれ来る侵攻に備える事になった。

 

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アルタラス王国近海の海中。

海上自衛隊特殊動力搭載潜水艦「へいはちろう」は、日本から離れた海域を調査するために、アルタラス王国近海に来ていた。

海上自衛隊初の原子力潜水艦である本級は、従来動力潜水艦では対処が困難な海棲特殊生物に対抗するために開発され、深深度での高機動戦闘が行える様に出来ている。

その指令室では、艦長達が非貫通式潜望鏡から送られてくる海上の様子を見ていた。

 

「…なんと凄まじいまでの数だ。予想以上にかなりの戦力と装備を有しているな」

 

艦長の海江田はそう呟きながら、モニターに目を通す。

当初、自衛隊の見立てではパーパルディア皇国軍艦隊は地球換算で18世紀中盤のヨーロッパ並みの技術水準を持ち、数は当時のヨーロッパ諸国海軍全艦艇合計数並だとされていた。

しかし実際には、数だけでも18世紀頃のイギリス海軍の保有していた量の4倍以上であり、その中には19世紀終盤の鋼鉄製前弩級戦艦並みの性能を持つ艦もいた。そして戦列艦自体も、目測だけで全長100メートル級の大型艦が複数いた事から、確実に自分達の予想を遥かに上回る規模である事を認めざるを得なかった。

 

「イギリスの「ヴィクトリー」がチンケに思える程の戦列艦をあんなに有しているとは…竜母も有して対空兵器も充実しているとなると、ロデニウス大陸諸国の軍備では不利は免れないだろうな…」

 

海江田の呟きに、傍にいた副長も頷く。今のロデニウス大陸諸国の海軍艦隊は、巡洋艦や水雷艇、初期的なミサイル艇からなる水雷戦隊タイプの水上打撃艦隊レベルであり、それに乗る乗組員の練度から考えてみても、パーパルディア皇国軍の竜母と100門級戦列艦からなる空母機動部隊と水上打撃艦隊相手には苦戦は免れないであろう。

 

「現在、台湾海軍もこの事を考慮して、クワ・トイネ王国海軍用の大型巡洋艦を開発し、クワ・トイネ国内でノックダウン建造しているそうです。今のクワ・トイネ王国の港湾施設なら、それなりの大型艦が建造出来る環境になりましたからね…」

 

「とにかく、いつでも刃を交える事が出来る様にという覚悟が必要になってくるな…」

 

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中央暦1639年11月28日 シオス王国西部沖合

 

第三文明圏外国の一つであり、ロデニウス戦役後に日本と国交を締結した国でもあるシオス王国。

アルタラス王国と同じく、パーパルディア皇国に近いこの島国は、ロデニウス戦役後に続発した海賊に対処するべく、海上自衛隊・台湾海軍・海上保安庁・行政院海岸巡防署合同基地が建設され、日々文明圏外の海の治安維持が進められていた。

 

「しかし、静かになったものだ」

 

巡視船「しきしま」船橋で、船長の瀬戸は小声で呟いた。

海上保安庁は現在、海賊が複数の船で船団を組み、徒党で商船を襲う事が多い事を知り、ヘリコプター搭載型巡視船と数隻の巡視船・巡視艇からなる巡視船団を編成。海賊を確実に鎮圧するための任務を進めていた。そして「しきしま」は、本船を含む大型巡視船3隻と、転移後に建造された巡視船6隻の計9隻からなる第4巡視船団の司令船として、シオス王国周辺の海賊船を討伐していた。ちなみにこの時の暴れっぷりから海賊の間では、『白い悪魔』として恐れられていた。

 

「船長、哨戒に出ていたヘリから入電です。付近海域にて3隻の海賊船が、1隻の商船を襲っているとの事です。方位は321、距離は17000」

 

「早速久々に海賊が出てきたか。直ぐに急行しよう。全船我に続け!」

 

「しきしま」を先頭に、3隻の巡視船が20ノットの速力で現場海域に向かう。そして水平線の向こうに数隻の海賊船が現れ、その近くには1隻の商船が浮かんでいた。

 

「海賊船を発見しました。相手もこちらに気付いた模様です!」

 

「よし…先ずは警告を出そう。…こちらは、日本国海上保安庁である!直ちに停船せよ。さもなければ貴船に対し攻撃する!繰り返すー」

 

瀬戸がスピーカーから警告を流し、相手に投降を促す。しかし相手から返って来たのは、高速で放たれた大型の弓矢であった。

スパークの音とともに、1発が「しきしま」の船体に突き刺さり、火花が飛び散る。それを見た船員は顔を青くする。

 

「海賊船、攻撃してきました!船首に被弾!」

 

例のバリスタ(『雷神の魔槍』)を装備していたか…正当防衛射撃開始!」

 

「了解!正当防衛射撃開始!」

 

乗員の点呼とともに、船首側のエリコン35ミリ連装機関砲が火を噴き、曳光弾を交えた砲火が海賊船を貫く。海賊船のリーダー格1隻が木端微塵に破壊された直後、今度は巡視船「しれとこ」が20ミリガトリング砲を放って小型の海賊船を破壊し、3隻目の海賊船に接近する。すると海賊船は、マストに張っていた帆を降ろし、完全に停止して降伏の意を示してきた。一瞬で2隻の味方が瞬殺されたのだから、無理もない事である。

 

「さて、本船はあの商船に向かうか…」

 

瀬戸はそう呟きながら、カッターを出させる。そして商船に近付き、その近くで停止する。そしてカッターが戻ってきて、商船の責任者とおぼしき二人の女性が乗船してきた。一方は黒く長い髪と、確実にモデルとして大成しそうな美貌を有した、気品に溢れた女性で、もう一方は、茶色の長髪を後ろに束ね、動きやすい服装に身を包んだ、商人というよりも騎士に近い雰囲気をまとった女性であった。瀬戸は二人の姿を見つつ、応接室に向かう。そして応接室に到着し、責任者の到着を待つ。

 

「船長、連れてまいりました」

 

乗員が応接室に二人を入れ、瀬戸は業務監理官とともに出迎える。そして黒髪の女性に話しかける。

 

「ようこそ、巡視船「しきしま」へ。本船の船長を務める瀬戸と申します。海賊船に襲われていた様ですが、かなりの人数が負傷されている様ですね。貴船の航行能力はいかほどでしょうか?」

 

瀬戸の問いに対し、女性は丁寧な口調で答える。

 

「この度は貴船の救援に感謝します。私は商船「タルコス号」の代表者である、ルミエスと申します。こちらは騎し…傭兵のリルセイドです。早速ですが、今回の海賊からの襲撃により、多数の負傷者が出ました。また、クワ・トイネ王国を目指して遠洋を航行していたため、食料も心許ない状態です。恐縮ですが、貴国の支援を希望します」

 

「遠路はるばるクワ・トイネ王国に向かっておられたのですか…ところで、貴船の国籍はどこでしょうか?」

 

瀬戸の問いに、ルミエスは顔に汗を浮かべる。

しかし、その問いに答えようとしたその時、額から緊張から来るもの以外の汗がどっと噴き出し、音を立ててその場に倒れた。

 

「ひ、姫様ぁ!?」

 

「なっ!?」

 

リルセイドが顔を青くしてルミエスを抱きかかえ、瀬戸も目を丸くして駆け寄る。すると、右腕に巻かれた包帯は、紫色の体液にも見えなくもない何かに染められていた。

 

「これは、毒矢によるものではない…!おい、直ぐに船医とエルフの乗員を連れて来い!それとクワ・トイネ王国国内の自衛隊病院に連絡!女性1名、救命措置を必要とする!急げ!」

 

室内が騒然となり、ロデニウス戦役後から魔法攻撃で負傷した者の治療と対策を担当するために海上保安庁で採用されたエルフの船員が、船医とともに急行する。そして取り合えずの呪いと毒の進行を食い止める措置が施され、ルミエス達アルタラス王国からの亡命者は保護されたのだった。

その後、彼女達の身柄について色々と問題が起きたものの、身柄はクワ・トイネ王国国内のアルタラス王国大使館の協力を得て、日本国内にてクワ・トイネ王国からの留学生として保護される事となった。




パーパルディア皇国、ちと強化し過ぎたかねぇ?
次回、魔王編を挟みます。


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第22話 魔王侵攻

旧作ではなかった魔王編、開始です。
つか原作であずきバーが回収されていて草。
せめて雪見だいふくとかにしてあげて…


中央暦1639年12月5日 樺太県北部沖合

 

転移後の日本最北端となった樺太県北部。その沖合を、海上自衛隊第21護衛隊が進んでいた。

 

「結構揺れるな…これは暫く酔い止めが必要かもしれん」

 

哨戒型護衛艦「もがみ」の艦橋で、第21護衛隊司令の大村はそう呟きながら、冬の荒れ始めた海を見つめる。

転移後に緊急予算で建造されたもがみ型護衛艦は、転移世界の周辺諸国の水準を考慮して、武装が大幅に小さいものとなっており、ボフォース5.7センチ単装速射砲3基と、30ミリ4砲身ガトリング砲と91式携SAMをベースとした近接防御SAMを運用可能な17式CIWS2基、05式艦対空誘導弾や07式艦対潜誘導ロケット弾の運用を考慮した18式VLSなど、コスト・性能・生産性・整備性に重きを置いた装備を備えている。また、ウラガン級超巨大ガレアス船との戦闘を戦訓とし、96式多目的ミサイルシステムをベースとした18式軽艦対艦誘導弾も装備しており、従来の護衛艦よりも転移後の世界に適した艦として完成していた。

すると、CICから大村のもとに報告が上がる。

 

『レーダーに反応あり、複数の物体がこちらに向けて進行してきます。数は約30、速力は凡そ12ノット』

 

その報告に、大村は首を傾げる。

 

「北の方から…となると、リーム王国か、トーパ王国の船か?だが、大体1隻程度で来る筈…」

 

「分かりません。一応偵察用の無人ヘリを飛ばしておきます」

 

5分後、「もがみ」の後部甲板より、1機の小型ヘリコプターが発艦する。このヘリコプターは、母艦からの遠隔操作と機体自体の人工知能によって飛行する偵察・哨戒用ヘリコプターで、かつて使用されていたDASH無人対潜攻撃ヘリコプターの後継機の母体ともなるべき機体である。そのヘリコプターはレーダーで捉えられた海域に向かって飛んでいく。そして10分後、その海域の映像が艦橋天井のモニターに映し出され、一同は目を丸くする。

 

「な、何だこれは!?」

 

「これは…怪獣…?」

 

大村達が絶句する中、画面内では、30以上の蛸とも烏賊ともつかぬ巨大な軟体動物が、背中に木組みの台を乗せて南下を進めていた。台の上には、幾多もの人に似た生物がおり、画面越しでも分かる位に禍々しい雰囲気が漂っていた。しかもその周りには、黒い鯨とも見分けがつかない巨大生物がおり、少なくとも友好的な存在ではない感じがした。

 

「…あの鯨モドキ、何かのゲームで見た事があるぞ」

 

「奇遇だ。俺もそのゲームやってるわ。ちなみに横須賀サバな」

 

乗組員がざわめく中、大村と近くにいた「もがみ」艦長は、画面に映る謎の船団を睨む。

やがて、水平線の向こうに幾つもの影が見えてきて、乗組員達は双眼鏡で見る。すると、黒い生物の幾つかが増速し、急接近してくる。

 

「謎の生物3、急速接近してきます!速度30、かなりの速度です!」

 

乗組員が驚きに満ちた声で報告する中、大村達は窓の外を見る。隣に並んだ黒い鯨状の生物は、むき出しになった白い歯と、生物らしからぬ緑色の濁った目を光らせ、魚類に近い泳ぎ方で並走する。すると、突然向きを変え、口の中から黒い筒状の物体を出した。そして「もがみ」に、その筒先を向けてきたのだ。

 

「っ、緊急加速!後続の艦にも第二種戦闘態勢に入る様に指示しろ!」

 

大村の指示の直後、生物の出した筒先に魔方陣が浮かび上がり、そして煙とともに黒い砲弾型の物体が吐き出される。生物と「もがみ」の距離は僅か1000メートル程であったが、「もがみ」は急加速してその攻撃を回避する。物体は海面近くを飛翔して遠くの海域に着弾し、水柱を上げる。

 

「くそっ、攻撃方法までそっくりだなおい!」

 

「呼称はどうせなら『駆逐イ級』にしようや!つかその名前しか思いつかねえ!」

 

乗組員が大声で叫ぶ中、大村は冷静に指示を飛ばす。

 

「全艦、対水上戦闘用意!主砲、SSM、発射準備!後続の艦にも応援を要請しろ、急げ!」

 

大村の指示に従い、艦首側の2基の54口径5.7センチ単装砲が旋回し、慎重に狙いを定めていく。後続の護衛艦も追い付き、鯨状の生物は数体で一つの組となり、口から筒を出して次々と砲撃を仕掛けてくる。そして戦闘準備が整ったその時、大村は叫んだ。

 

「攻撃始め!」

 

5.7センチ単装砲と7.6センチ単装砲が火を噴き、砲撃が生物に突き刺さる。数発は生物的な機動によって外れ、数発も生物の纏う膜の様なものに跳ね返されたが、それを突破した砲弾が生物の表皮を破壊し、どす黒い体液がまき散らされる。それでも生物は反撃を続け、砲弾様の物体をまき散らす。すると今度は、軟体動物型の生物が近付いてきて、「もがみ」に向けて墨を吐き掛けてきた。その墨は勢いが強く、右舷側のカッターが吹き飛ばされ、アンテナも幾つかが損傷する。

 

「右舷に被弾!通信機器の一部が損傷した模様!」

 

「SSM、発射せよ!「おおよど」、「きたかみ」は十分に距離を取りつつ、砲撃を行え!」

 

「もがみ」より18式軽SSMが連続発射され、鯨状の生物と軟体動物型の生物に命中していく。戦車なら一撃で破壊し、小型船にも致命傷を負わせるその一撃は、生物に晩鐘を指し示し、表皮ごと重要器官を吹き飛ばす。

攻撃は苛烈を極め、生物は次々と粉砕され、体液と肉片をまき散らしながら死んでいく。そしてついに、最後の生物が頭を吹き飛ばされて息絶え、戦闘は終了した。

 

「全個体、停止を確認しました。サルベージ班を要請します」

 

「任せた。…しかし、厄介な相手が来たものだ。これは後々面倒な事になるぞ…」

 

大村はそう言いながら、幾つもの死骸が浮かぶ北の海を見つめた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

中央暦1639年12月10日 東京都 首相官邸

 

この日、首相官邸にて緊急会議が開かれた。

 

「…3日前、樺太県北部沖合にて、海上自衛隊第21護衛隊は、謎の生物群と遭遇し、これと交戦。鯨状生物18頭と軟体動物型巨大生物17頭の合計35頭との戦闘の末、32頭を撃破し、3頭を捕獲致しました」

 

 

会議の進行役を務める、防衛省事務次官補の上陰竜二郎の声が会議室内に響き渡る。手元のレジュメを見つつ、垂水達は顔をしかめる。

 

「海棲型特殊生物との交戦か…」

 

「自衛隊に死傷者が出なかった分マシだが…何だ、この鯨状生物は?」

 

「見た目といい能力といい…ウチの息子がハマっているパソコンのゲームの敵キャラで、こんな感じの奴がいたぞ」

 

閣僚達がそれぞれ思った事を呟く中、上陰の説明は続く。

 

「現在、クワ・トイネ王国より有識者を招いて本格的な調査に移る事となりますが…これと並行しているのか、2日前、トーパ王国より我が国に対し、援軍を要請してきました」

 

「援軍?一体どういう事だ?」

 

垂水の問いに対し、上陰は書類をめくりながら答える。

 

「3日前、トーパ王国北部のフィルアデス大陸とグラメウス大陸の境界線上にある要塞『世界の扉』が、『魔王軍』と呼ばれる武装集団に突破されたとの事です。詳しくは魔写をプリントした資料に書いてありますが、この魔王軍は、かつて神話の時代に全世界を滅ぼそうとして戦いを起こし、勇者達に封印された『魔王』を中心とする武装集団で、主にゴブリンやオーク、トロール等といった人型生物からなります。この部分だけ聞けば、おとぎ話だけで済むのですが…すでにかなりの実害が出ているそうです」

 

上陰の合図とともに、垂水達に羊皮紙の書類が配られていく。これはトーパ王国が用意した魔王軍の資料で、それにはフィルアデス大陸共通文字で書かれた文章と、数枚のカラー写真の様な絵が添えられていた。

 

「魔王に属する兵士は全て人間種の最下位とされる生物で、ほぼ全てがヒト種やエルフ、ドワーフを主食とする肉食との事です。そのどれもが狂暴で、集団で徒党を組んだ時には、好んで人の集落を襲い、捕らえた全ての人々を食らうそうです…現在、『世界の扉』の南部に位置する城塞都市トルメスが落とされ、最低でも2000人の住民が取り残されたそうです。そして推定される魔王軍の規模は、魔王の腹心である『オーガ』2体に『トロール』1000体、『オーク』5000体、『ゴブリン』10000体、その他魔獣が1000体と、かなりの規模との事です。特にゴブリンは土を培地にして増殖する生物であるとの事ですので、このまま放っておきますと、急激に増殖するそうです」

 

上陰の言葉に、一同は震え上がる。これまで自衛隊が相手してきた特殊生物で、軍隊だったらずるいにも程のある能力を有した存在は幾多も存在したが、今回のものは自分達の想像以上に厄介に思える。また、これまでの特殊生物と異なり、好んで人間を食べるという話自体で、脅威度は非常に跳ね上がっている。そして現在、トーパ王国がそのような脅威に晒されているのだ。これだけでも自衛隊が動くのに十分な理由がある。

 

「また、このグラメウス大陸からは、多くの大型海棲型特殊生物が、大量のゴブリンやオークを背中に乗せて、海路からトーパ王国のフィルアデス大陸側に回り込もうとしているのが、哨戒機の長距離哨戒飛行によって判明しました。恐らく第21護衛隊が交戦したのはこの集団の一部みたいです」

 

上陰はそう言って、総論をまとめる。

 

「つまり、この武装集団をそのまま放置してしまうと、援軍を要請してきたトーパ王国は愚か、フィルアデス大陸諸国、果てには我が国やロデニウス大陸にもかなりの被害を及ぼす脅威になると思われます。私からは以上です」

 

上陰の説明が終わり、垂水は深刻そうな表情を浮かべつつ、皆に語り掛ける。

 

「…聞いた様に、今回の敵は我々が遭遇した事のない様な、未知の敵だ。すでに第三次ゴジラ事変にて『想定外』と『予想外』を浴びる程経験してきたが、今回はそれ以上の『予想外』と出くわす事になるかもしれん。一同、気を引き締めて会議に赴いてもらいたい」

 

垂水の言葉とともに、会議が始められる。

そして会議の結果、『魔王』をかつての人型巨大生物『ガイラ』と同レベルの危険な特殊生物と認定して、有害鳥獣・特殊生物駆除の国際貢献として陸上自衛隊のトーパ王国への海外派遣を決定した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

中央暦1639年12月16日 日本北部海域

海上自衛隊第1護衛隊群と輸送艦「おおすみ」は、トーパ王国に向けて北上していた。

「おおすみ」の艦内にて、陸自トーパ王国派遣部隊の特生自衛隊部隊の指揮官を務める特生自衛隊の黒木和則特生三佐は、部下達や国際協力機構(JICA)職員の前に立って説明を始める。

 

「今回、我々は有害鳥獣及び特殊生物駆除の名目で我々は派遣されるのですが…今回の相手は他の特殊生物と全く違い、非常に高い知能と、人間と同等の思考を有しているという事です。では、お手元のレジュメをご覧下さい」

 

黒木はそう言って、レジュメの内容について簡潔に、かつ分かりやすく説明する。

 

・種族名『魔王』、個体名『ノスグーラ』は、ヒト種のものよりも非常に強力な魔法を使い、射程距離も最大3キロと長大である。また頑強な肉体と不老長寿の生命力を有し、不死に近い頑丈さを持つ。

・『ノスグーラ』はヒト種と同等の知能・思考・感情を有し、ゴブリン・オーク等の魔獣を配下にして軍隊に近い組織を作り、人間等各種族、総括して人類全体に対し害を与えようとする。

・種族名『オーガ』は魔王の配下の中でも上位の生物の一つであり、人間に近い知能を有している。身体能力と耐久性が非常に高く、魔導砲レベルの魔法攻撃でしかダメージを与えられない可能性が高い。ちなみにトーパ王国からの情報によると、『魔王』と『オーガ』は『古の魔法帝国』という古代文明の作り出した人造生物兵器であるという。この事から、この二種族は遺伝子操作ないしそれに類似した技術で以上の能力を有していると考えられる。

種族名『オーク』は半人半豚の人型生物で、頭長高2.5メートルの巨人に近い。知能は低いがそれでも意思疎通が可能なレベルであり、それなりに頑丈な肉体を有する。

・種族名『ゴブリン』は人間よりも弱い種族だが、土を培地にして増殖する種族のため、数は非常に多い。また、上位種の『ゴブリンロード』は人間に匹敵する能力を有し、並みの兵士であれば苦戦は免れない程である。

・確認されている魔獣は他にも存在し、複数種の生物を融合させたかの様な外見をしている大型魔獣『キマイラ』『ルアキューレ』『ゴウルアス』、半人半馬の『ケンタウロス』に半人半牛の『ミノタウロス』等、様々な魔獣を従えていると見られている。

・魔獣の大半は肉食であり、特に『魔王』『オーガ』『ゴブリン』『ルアキューレ』『ゴウルアス』は好んで人肉を食する。そのためこの組織的活動も、捕食行動の一種であると推察される。

 

これより対処すべき敵の情報が認知されたところで、一人の隊員が手を挙げ、黒木に質問する。

 

「敵の事は分かりました。現在、戦況はどうなっているのでしょうか?」

 

「そうだな…現在、トーパ王国軍はトルメス要塞の南部に位置するヴェルガエ要塞にまで後退させられているという。今はトーパ王国全軍が総力を挙げて迎撃に出ているそうだが、かなり芳しくないみたいだ。まず魔王軍は敵の殲滅よりも、敵兵の拿捕を最優先にして戦いを進めている。出来る限り死なない程度に相手を動けなくさせて、そのまま連れ去っているそうだ。…この意味が分かるな?」

 

黒木の言葉に、一同は不快感を露にする。黒木の話は続く。

 

「また、小規模な部隊を編成して各地の集落や小規模な町を襲い、大規模な人攫いと焦土作戦を行っており、かなりの被害が出ているそうだ。そして我々の作戦目標は『魔王軍』の徹底的な排除、またはグラメウス大陸への完全な撤退を促す事である。そしてそのために我々は、確実に『魔王』と『オーガ』を確実に倒さなくてはならない。…方針はそれでよろしいですね?」

 

黒木が国際協力機構職員に尋ね、職員は頷く。そして黒木は、大勢の顔を見ながら言う。

 

「今回の作戦は単なる特殊生物の駆除ではない。最初から戦争に挑む覚悟を以て当たってほしい。私からは以上だ」

 

『了解!』

 

黒木が部下達に改めて意思を固める様に言う中、第一護衛隊群旗艦「いずも」の艦橋では、乗組員の指示が飛び交っていた。

 

「司令、レーダーに反応あり!全長80メートル級生物35、50メートル級生物28、30メートル級生物18!かなりの数です!」

 

「哨戒ヘリより映像が届きました、モニターに映します」

 

「いずも」艦橋内に設置されたテレビモニターに、哨戒ヘリからの中継映像が映し出される。すると、高野が異変に気付いた。

 

「…よく見てみると、何か逃げ惑っていないか?」

 

「…本当ですね。海中にいる『何か』から必死で逃げ惑っている様に見えます。それに、怪我を負っている個体も複数確認できます」

 

傍にいた山本の言葉通り、巨大生物の群れは、半数が死骸も当然の様に、どす黒い体液で海面を染めながら浮いており、他の固体も、右往左往するかの様に動き回り、必死に北の方へ逃げようとしていた。

 

「一体何が起きているのでしょうか?」

 

「分からんが…とりあえず仕留めておこう。各艦、SSM及びアスロック発射用意!目標、特殊生物群!」

 

高野の命令に従い、護衛艦はすぐに艦対艦ミサイルと07式VLAの発射準備に入り、レーダーで捕捉しつつ目標を割り振っていく。そして全ての準備が整い、乗組員が報告する。

 

「全艦、発射準備完了!」

 

「よし…攻撃始め!」

 

高野の号令に合わせ、対艦ミサイル搭載艦7隻から90式艦対艦誘導弾が四連装発射筒から、〈アスロック〉と07式艦対潜ミサイルがMk.41VLSから発射される。1隻当たり対艦ミサイル4発と対潜ミサイル4発の合計56発が発射され、それぞれ1発ずつ、巨大生物に命中していく。この第一波だけで一気に28のアイコンが消滅し、続いて第二波が放たれる。

さらに28のアイコンが消失したところで、護衛隊群は接近し、まだ残っている巨大生物に向けて砲撃を開始する。

大量の12.7センチ砲弾が怪異に降り注ぎ、蛸に近い形状の巨怪は蜂の巣になり、黒い鯨状生物も、連続して降り注ぐ砲撃によって木端微塵に砕かれる。

多くの巨大生物が粉々に砕かれて沈んでいく中、海中では2体の巨大な生物がうごめいていた。

 

『…一体何をしておるのだ、貴様らは』

 

突然何処からともなくかけられた言葉に、亀が巨大化したかの様な生物と、鋏が左右非対称なザリガニ型の巨大生物は身を縮こまらせ、ゆっくりと振り向く。するとそこには、島が沈没してきたのかと思うぐらい巨大な竜の姿があった。

 

『…見慣れぬ顔だが、もしや、フィルアデス大陸の南部に転移してきた島々に棲む者達か?』

 

竜の言葉に、亀とザリガニは身体を震わせながら頷く。すると、何処からともなく一人の男が現れ、竜に話しかけてきた。

 

『リヴァイアサンよ、彼らを赦してやれ。そ奴らはシャマシュの行った転移に偶々巻き込まれただけなのだから。ちなみに島の者達から名も付けられていてな、亀の方は『ガメラ』、ザリガニの方は『エビラ』と呼ばれている』

 

『ほう…ガメラにエビラ、か。では何故、貴様らがこんなところにいる?』

 

竜ー海龍リヴァイアサンが問いかけたその時、目の前に巨大生物の死骸が降りてくる。エビラは直ぐに肢をばたつかせて死骸を掴み、近くの岩場に降り立つ。それに続いて大量の死骸が降り注いでくるのを見たリヴァイアサンは、理由を理解する。

 

『成程…クラーケンやカリュブティスの死骸にありつこうとしていたのか。だが、こんなに死骸が出る事など、滅多にない事だ』

 

『その事だが、どうやらコイツらは『魔王』に洗脳された連中らしい。で、ガメラとエビラは、ゴブリンやオークの海上輸送用に使役されたコイツら目当てに、まずは数頭を襲って海中に引きずり込み、少しずつ削り取って食料として貯めていこうとしていたみたいだが…その手間が省けてしまったみたいだな』

 

男はそう言いながら、真上を見上げる。その上を幾つもの影が通り過ぎ、それを見たガメラとエビラは身を硬直させる。それに気付いたリヴァイアサンは、2頭の異変に首を傾げる。

 

『どうした、何故固まっている?』

 

『…今、真上を進んでいるフネの音を聞いて、ビビっているんですよ。毎度毎度あのフネに『お世話になっている』んですからねぇ』

 

『そうか…難儀しているのう…』

 

男の言葉に、リヴァイアサンは2頭があのフネからどんな目に遭っているのかを理解する。

そして第一護衛隊群が通り過ぎた後、2頭は何度も真上を見て安全を確認し、エビラは安心した様子で大量の死骸を食べ始め、ガメラは死骸を別の場所に持っていく。そして自分に付いてきていた数頭の怪獣に分け与えていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

中央暦1639年12月19日 トーパ王国南海岸

 

「流石は樺太よりも北の国だ。空気が冷たいな」

 

輸送艦「おおすみ」の甲板上に、一人の男が立つ。

ロデニウス戦役後、陸海空特四自衛隊を統合運用する『統合幕僚団』をベースに、連隊や護衛隊、飛行隊といった中規模統括部隊レベルでの円滑な指揮・運用を行う統合任務指揮部隊『統合団』が考案され、その中の一人であり、現在国内に4人しかいない元帥クラスの階級『統合団幕僚長』に任命された男、北良寛は、第7師団と第一護衛隊群、空自・特自部隊を統合指揮する第三統合団幕僚長として、未知の戦場に赴いていた。

 

「幕僚長、間もなく到着します。艦内にお戻り下さい」

 

「分かった。直ちに陸自部隊に上陸準備を命じよ」

 

北は部下の統合団員に命じ、白毛が混じり始めた髭を撫でながら艦内に戻って行った。

この日、自衛隊第三統合団はトーパ王国に到着し、陸自部隊はLCACで上陸。そこからトーパ王国軍の護衛と合流し、陸路でヴェルガエ要塞に向かって行った。




『駆逐イ級』出現。そろそろタグ増やすかねぇ?
次回、作戦開始。


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第23話 発動!オペレーション・モモタロウ

最近の二次仲間、本当に大丈夫だろうか…?


中央暦1639年12月19日 ヴェルガエ要塞南門

 

南門の入り口に、二人の男が立つ。その二人は、地平線の向こうを見つめながら話し合う。

 

「なぁモア、俺達が案内する援軍って、一体どんな連中なんだ?中隊規模しか来ないって聞いたが、そんな少数の部隊だけで大丈夫なのか?」

 

モアと呼ばれた、エルフの騎士の隣に立つ、傭兵のガイ・ガリバルディはそう呟きながら、地平線の彼方を見つめる。

二人はトーパ王国正規軍の一つである、北部方面騎士団に属する兵士で、現在この要塞に向かっている陸上自衛隊の部隊を出迎える仕事を仰せつかっていた。

そしてガイは、城門の上から遠くを見つめ、同僚であり腐れ縁の騎士モア・ルシェトは保温魔法が施されている陶器製魔法瓶を煽いで紅茶を飲む。

 

「しかし、局地戦とはいえ、ロウリアやパーパルディアに勝ったというのは本当の事なんだろう。だがな、死者どころか怪我人すら出していないなんて話は出来過ぎているぜ。それに、その連中の有する兵器の性能も、ただの偶然の積み重ねかもしれんし、そういう体面が大事な国なら、先遣隊すら黄金やミスリルの鎧を着て来るんじゃねぇか?」

 

「そういうものか…?…ん?アレは何だ?」

 

日が完全に登りきる直前、遠くから岩崩とは違うような地響きが聞こえ始め、二人は揃って目を細める。すると、何かが雪を巻き上げながら、ヴェルガエ要塞に向かって来た。

 

「なっ!?」

 

「な、何だ、あの連中は…」

 

何やら白い布を被った何かが、モアとガイは揃って顎が外れた様な顔を浮かべる。すると、城門の塔にいる兵士から、携帯型魔信機で報告が来た。

 

「アレが日本の援軍です!さらに来ます!」

 

兵士からの報告が相次ぎ、二人は急いで城門から地面の方に降りる。

雪原を走って来た、数頭の深緑色の地竜は、上部に白い布を被り、その後ろには数台の荷車らしきものを連れて来ていた。そのどれもが馬よりも格段に速く、非常に頑強に見えた。

一同が一斉に停車し、地竜のうちの一頭から、奇妙な服装をした人が降りて来た。

その人は、何の装飾も施されていない兜を被り、緑をベースにしたまだら模様の服を着ており、モアが想像していた様な騎士と正反対の見た目であった。しかし、十分に髭を蓄え、長い間『戦い』を見てきた者しか持っていない表情と眼光が生み出すその容貌から、二人からはこの男はあらゆる戦いを経験した、歴戦の兵士に見えた。

 

「日本国より派遣されました、自衛隊第三統合団幕僚長の北良寛と申します。お迎えとご案内、感謝致します。これからよろしくお願いします」

 

敬礼を決める北に、二人は揃って目を丸くする。

 

(嘘だろ…蛮族の下っ端兵士でも見た事ない様な服装のこの男が、援軍の指揮官だと!?)

 

(幕僚長というと…確か中央世界の軍では『元帥』に値する人だよな!?何でそんな男が陣頭指揮を執りに来ているんだ!?)

 

二人は驚愕に揺さぶられながらも、北達に向けて王国騎士団流の敬礼を行う。

 

「トーパ王国北部方面騎士団所属のモア・ルシェトと申します。これより城内に案内した後、貴方がたに同行致します。よろしくお願いします」

 

「同じく、北部方面騎士団所属の傭兵、ガイ・ガリバルディだ。同じく、アンタらに同行する事になっている。よろしく頼む」

 

ガイが自己紹介を行った後、モアは改めて彼らの服に施されている、白地に赤い丸の描かれた図案を見る。

 

(あの紋章…何かで見た事があるな…何だったっかな…)

 

お互いの自己紹介が終わり、陸上自衛隊戦闘団はヴェルガエ要塞に入っていく。この要塞はクワ・トイネ王国のエジェイやロウリア王国のジン・ハークと同じ、城塞と都市が一体化した大型城塞都市で、城内の市街地は未知の援軍に騒然とし、加えて近郊に特生自衛隊の〈スーパーXⅢ〉が3機降りて来た事もあって、最早一同の城内進入はパレードみたいな状態になっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ヴェルガエ要塞 ヴェルガエ城 会議室

 

北達自衛隊指揮官と護衛は、武装をしたまま会議室内に入り、白銀の鎧を纏った指揮官の男と握手を交わす。

 

「日本の皆様、よく来て下さった。私はトーパ王国陸軍北部方面騎士団長のアジズと申します。此度の魔王軍侵攻に対し、魔王討伐軍総司令も務めております」

 

アジズと北が握手を交わし、一同は円卓の席に座る。そしてこれまでの経過が説明される。

 

・魔王軍17000は2週間前、グラメウス大陸から南下する形で侵攻を開始。トーパ王国が管理する要塞『世界の扉』が陥落。守備隊250のうち、後方へ報告しに向かったモアとガイの二人以外248人全員戦死。

・続いて『世界の扉』付近の城塞都市トルメスに侵攻し、守備隊・住民合わせ3000人死亡。守備隊残存・住民2万は脱出に成功したものの、トルメスは8日に陥落し、未だに住民200人が取り残されている。

・12月9日にトーパ王国軍本隊5万が到着。現在に至るまで、被害を出しながらも侵攻を食い止めている。

・魔王はトルメス城を占拠し、そこから指揮を執っているものと推察される。

・魔王軍は周辺の村や町に小規模な部隊を送って人攫い等を行っており、そこから食料を得ているものと推察される。また、魔王軍は鉄甲鎧虫や増援をトルメスに集結させており、その数は約3万にまで増えている。

・魔王軍に与えた損害は、ゴブリン4000体、オーク100体、魔獣50体。なお、過去に3回、人質救出作戦が行われたが、人質が閉じ込められている建物のある広場に通じる大通りにはオーガを中心とする精鋭の部隊が交代で見張っており、正面突破と裏道からの侵入全てが失敗に終わっている。

 

「…戦況は非常に逼迫しているな。それに、戦い方もテロリストや軍隊に近い…苦戦は免れ無さそうだ」

 

北の言葉に、アジズは苦しそうな表情を浮かべながら頷く。すると、百田が隣から話しかけてきた。

 

「ところで、オーガはどれぐらいの強さなのですか?かなりの数がいる様に話しておられますが…」

 

「ウム…神話の時代、魔王は赤・青・黄・白のオーガを従えていたという。そのうちイエローオーガとホワイトオーガは勇者達によって倒されているが、どうやら奥地の魔王城にてオーガの量産に成功した模様で、ブラックオーガとグリーンオーガがそれぞれ500確認されている。肉体には常に治癒魔法が施されており、傷を負わせても直ぐに再生させる。魔力と体力も、グラメウス大陸産の豊富な有害魔素を含んだ魔獣と人肉…特にエルフの肉を食べている限りは疲れというものを知らない。そして肉体自身も、針金の様な硬くしなやかな体毛で剣と槍に耐え、その俊敏さでバリスタの攻撃をいとも容易く回避する。そして我が軍は、『指定供与制限技術目録』の関係でパーパルディア皇国から魔導砲の製造技術すら貰っていない。つまり、今の我々にはオーガへの対処が出来ない状態という訳なのだ…」

 

アジズの説明に、北は改めて特生自衛隊も派遣される事になった理由を察する。どうやら敵は本当に特自案件の宝庫らしい。

もし人質全員が魔王軍に食い尽くされたなら、本格的な侵攻は再開される事になる。自衛隊としては、そうなる前に生存している人質を全て救出し、魔王を確実に排除したいところである。

 

「大体の事は分かりました。では、こちらからは今回の作戦に投入される戦力の詳細をー」

 

百田が今回の自衛隊派遣部隊の全貌を話そうとしたその時であった。

 

ドガァッ!!!

 

突如、会議室の窓が割れ、黒い影が窓の木枠やガラスの破片をまき散らしながら、円卓の中央に舞い降りる。それを見たモアとガイは椅子を蹴って剣を抜き、北達は9ミリ拳銃と89式小銃の安全装置を外して銃口を向ける。

 

「コイツは…魔王の側近、マラストラス!」

 

「何故、奴がこんなところに!?」

 

モア達トーパ王国軍騎士が驚愕の声を上げる中、白い布を身に纏う、黒い人型の魔物は、黒い羽根を羽ばたかせながら降り立ち、流暢な言葉で話しかける。

 

「ホッホッホッ…たかが人間の将を討ち取るために、我が直接足を運ばねばならぬとは…魔王様が憎き勇者共に封じられていた永い時の間に随分と進化した様だな」

 

マラストラスがそう言いながら、右手を出して手のひらに黒い炎を出すと、近くにいた数人の騎士が、剣を構えて突進し、魔導師達も杖をマラストラスに向けて電撃と炎を飛ばす。しかしマラストラスは軽々と上に飛んで魔法攻撃を回避し、騎士達に向けて黒い炎を放つ。

 

「業火よ、焼け!」

 

マラストラスの放った炎は、瞬く間に騎士達と魔導師達を飲み込み、騎士達は悲鳴を上げながら炭と化す。騎士達は瞬く間に炭化焼死体と化し、ざわめきが広がる。

 

「うるさい雑魚共は始末した。後は、貴様だけだ!」

 

マラストラスはそう言いながら、黒い炎をアジズに向けようとする。しかしモアとガイがアジズに駆け寄ろうとしたその時、アジズの前に人影が躍り出た。

 

パァン!!

 

「ガッ!?」

 

北の9ミリ拳銃がマラストラスの眉間を撃ち抜き、マラストラスは短い悲鳴を上げて落下する。直後、数人の隊員の89式小銃が火を噴き、数十発の5.56ミリ×45NATO弾がマラストラスの身体を引き裂く。

 

「…な…」

 

一瞬でマラストラスがボロ雑巾と化し、一同は茫然となる。

樺太よりも北に位置するトーパ王国は、変温動物であるワイバーンを運用する事が出来ない。そのため、飛行生物であるマラストラスら魔人種には長らく苦労させられていた。

しかし彼らは、瞬く間に強敵マラストラスを難なく倒したのである。どうやらロウリア王国とパーパルディア皇国の軍に勝ったという情報は本当の模様である。

 

「北殿、本当に申し訳ない…まさか貴方に助けられるとは…」

 

「いえ、正当防衛射撃を行ったまでです。しかし…複数人を焼き焦がす攻撃魔法とは…もしや魔王は、これの上を行くのでしょうか?」

 

「…北殿の予想通りです。過去の戦いでは、種族間連合軍の1万の軍勢が、魔王一人に全滅させられたとの話もございます。そしてその魔王と、魔王が率いる軍勢を倒すために、古の時代に『太陽神の使者』と呼ばれる戦士達が召喚されたのです。魔王はそれ程に強い存在である事をお忘れなく」

 

一同は直ぐに部屋を移し、そこで会議を再開する。

そして1時間の話し合いと情報の共有によって作戦内容が定まり、ここに、自衛隊の対魔王軍排除作戦『オペレーション・モモタロウ』が開始された。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

中央暦1639年12月21日 ヴェルガエ要塞北部高原

 

「では、これより人質救出作戦を開始する」

 

日がまだ登らない中、百田は目の前に並んだ自衛隊員やトーパ王国軍兵士達に向けて、人質救出作戦の説明を開始する。

この作戦に動員される戦力は、陸自1個小隊50人に、89式装甲戦闘車2両、96式装輪装甲車4両、高機動車10台、73式大型トラック10台、作戦に同行するトーパ王国軍兵士50人。高機動車と大型トラックは救出した人質をヴェルガエ要塞まで移送するために用意されたものであり、この作戦には海自と特自の支援が加わる予定となっている。

 

「まず、海自のヘリ部隊と特自の〈スーパーXⅢ〉が大規模な陽動を行い、敵を攪乱。その隙に我らは迅速にトルメス城内に突入し、人質が閉じ込められているとされているポイントを制圧。全ての生存者を救出しつつ、敵脅威を迎撃して脱出する。脱出後は陸自特科中隊及び攻撃ヘリ部隊が阻止砲撃を行う。この作戦はスピードと機動性が求められる。なので、トーパ王国軍の皆さんは人質の捜索と救出に注力して下さい。敵は我々が迎撃します」

 

「了承した」

 

モア達の了解を聞くと、部下の一人である月島が話しかけてきた。

 

「しかし隊長、今回の人選、何か因果というものを感じませんか?小隊長はもとより、分隊長はそれぞれ『犬神』『城島』『猿渡』…これ、日本のおとぎ話『桃太郎』の三人のおともですよね?」

 

「となると隊長は『桃太郎』…向かう先は鬼ヶ島よりもヤバいところですがね」

 

犬神の冗談に、一同は笑い声を上げる。直ぐに声を収め、一同は直ぐに車両に乗り込んでいく。

 

「こちらアルファ小隊、これよりトルメスに向かう。援護されたし」

 

『統合団幕僚よりアルファ小隊、了解した。これより援護を開始する』

 

合計26両の車両が出発したと同時に、トルメスに向けて〈スーパーXⅢ〉と、沖合に展開している第一護衛隊群の〈SH‐60k〉艦載ヘリと、陸自の〈AH‐1H〉攻撃ヘリが出撃する。

〈スーパーXⅢ〉は、まずトルメス北部にいる鉄甲鎧虫に向けて、冷凍弾頭ミサイルを一斉射し、救出部隊の侵入の妨げにならない様に天高い氷柱をこしらえていく。突然の攻撃に、鉄甲鎧虫は混乱して四方八方に動き回るが、〈スーパーXⅢ〉の攻撃からは逃れられず、次々と氷に呑み込まれて氷柱の一部と化していく。〈SH‐60k〉と〈AH‐1H〉は城壁全域に機銃掃射を行い、哨戒を行っていたゴブリンとオークを排除するとともに、彼らの視線が地上に向きにくい様に盛んに飛び回る。

 

「陽動、成功しています」

 

「よし…このまま市街地に突入し、広場まで突入するぞ!トラックと高機動車はその場で待機し、出口の確保に努めろ!広場への突入は少数の部隊でのみ行う!」

 

城門上が氷に覆われ、城壁上や周囲のゴブリンもM2ブローニングとM61の機銃掃射で薙ぎ払われたポイントから、26両は進入する。重機関銃程度の攻撃に耐えうる装甲を有する89式装甲戦闘車と96式装輪装甲車の6両だけがそのまま広場まで爆走し、瞬く間に辿り着く。すると、青い肌を持つ巨大な鬼と、黒い巨人の様な鬼が現れ、6両を取り囲んでいく。

 

「取り囲まれました!」

 

「何の、メガニューラとデストロイアに包囲された時に比べれば遥かに楽だ!薙ぎ払え!」

 

89式装甲戦闘車のエリコン35ミリ機関砲と、96式装輪装甲車の複合式砲塔が火を噴き、35ミリ徹甲弾はブラックオーガを蜂の巣にし、複合式砲塔の40ミリグレネード弾と20ミリ機関砲弾は、手や顔面等の体毛が薄い箇所を吹き飛ばす。

 

「グガッ!!!」

 

「あべしっ!」

 

「ひでぶっ!?」

 

「はばっしゅ!?」

 

オーガの悲鳴が響き渡る中、1両の89式装甲戦闘車にブルーオーガが襲い掛かるが、89式装甲戦闘車は急加速して回避すると、履帯式にはあるまじきドリフトを行ってブルーオーガの背後に回り込み、時速70キロの高速で突進した。

 

「ぐぁっ!?」

 

ブルーオーガはその場に転がり周り、腰を抑える。直後、今度は96式装輪装甲車が体当たりを行い、ブルーオーガはゴム鞠の様に跳ねながら、駆け付けて来たオーガ達に激突する。

 

「今だ!直ぐに展開!トーパ王国軍兵士は直ぐに降りて建物に向かえ!」

 

百田の号令がかかる中、後部ハッチから次々と陸自隊員とトーパ王国軍兵士が降りていく。オーガが彼らに向かおうとしたその時、数人の陸自隊員の携行装備が火を噴いた。

84ミリ無反動砲と110ミリ個人携帯対戦車弾(LAM)が火を噴き、オーガを次々と木端微塵に吹き飛ばす。手榴弾と89式小銃に取り付けられたグレネード弾がオーガの目を潰し、行動不能に陥れていく。すると、その場に怒号が響き渡った。

 

「貴様らぁぁぁぁぁ!!!」

 

レッドオーガが、ただでさえ赤い顔をさらに赤くして、巨大な斧を振り下ろす。しかし、そこにLAMが命中し、斧を持つ右手ごと吹き飛ばされる。直後にブルーオーガがレッドオーガを突き飛ばし、幾つもの35ミリ機関砲弾と84ミリ無反動砲弾がブルーオーガに突き刺さった。

 

「っ、ブルー!!!」

 

レッドオーガが叫んだその直後、スタングレネードがレッドオーガの視線を潰し、真正面から89式装甲戦闘車が体当たりを食らわす。打ちどころが悪かったのか、レッドオーガは気絶し、隊員達は呆れ返った表情を浮かべながら、全高3メートルの巨体を見下ろす。

 

「…コイツ、どうします?」

 

「〈スーパーXⅢ〉に連絡して、氷漬けにしてもらおう。そして地面ごとお持ち帰りだ。特自の遺伝子研究所辺りが狂喜乱舞するぞ」

 

隊員達は軽口を飛ばしつつ、教会や集会場、学校校舎等に向かう。

人質の収容場所にはゴブリンとオーク、指揮官のケンタウロスやミノタウロスぐらいしかおらず、ケンタウロスとミノタウロスは64式小銃の狙撃中仕様で脳天を撃ち抜かれて即死し、ゴブリンとオークは89式小銃の的か、トーパ王国軍兵士の剣の錆と化した。

続いて十数台の高機動車と大型トラックがやってきて、数十人の陸自隊員とトーパ王国軍兵士が降りていく。そして急いで集会場等の大きな建物に向かっていく。

 

「こちら犬神、ポイントAをクリア。生存者を発見。数は約80名程度、送れ」

 

『了解。高機動車とトラックが到着している。直ぐに乗り移らせろ、送れ』

 

「了解。以上(オーバー)

 

犬神達は生存者を高機動車と大型トラックにまで案内しつつ、周囲を警戒する。すると、遠くから女性の悲鳴が聞こえた。

 

「悲鳴!?」

 

「っ、エレイ!」

 

「お、おい!」

 

悲鳴を耳にしたガイが、その方向に向かって駆け出し、犬神とモアは急いでその後を追う。するとその先には、十数体のゴブリンロードが、数人の女性を連れて移動しているのが見え、犬神は直ぐに89式小銃を構える。

しかし、引き金を引く前に、3体のゴブリンロードの首が飛び、緑色の血しぶきがまき散らされる。ガイの剣裁きは陸自隊員の剣道有段者ですら惚れ惚れとする程の腕前で、瞬く間に6体のゴブリンロードが仕留められる。

続いてモアも突撃し、ミスリル製のレイピアはゴブリンロードを薄い木製の鎧ごと一刀両断し、2体のゴブリンロードが倒される。

残りのゴブリンロードは、女性達から手を離し、雄たけびを上げながら二人に斬りかかるが、89式小銃の三点バーストが貫き、キックボクシングを趣味とする犬神の蹴りはゴブリンロードを10メートル先まで吹き飛ばし、あっという間に10体以上のゴブリンロードが殲滅された。

 

「危なかった…もう少しで見落とすところだった」

 

連れて行かれそうになっていた女性達を救えた事に、犬神が安堵の声を漏らしていると、背後から女性の黄色い声が聞こえて来た。

振り返ると、助けたばかりの数人の女性が、モアを取り囲んで黄色い声を上げていた。

 

「モア様、助けに来てくれたのね!ありがとう!」

 

「颯爽と駆け付けてくれるなんて、カ・ン・ゲ・キ!」

 

「ああ…いや…」

 

モアが女性達に囲まれている中、ガイはただ一人、その様子を遠くから見つめる。

察した犬神は無言で、ガイの肩に手を置いた。

 

この日、陸上自衛隊・トーパ王国軍連合救出部隊は、生存者204名を救出。

同時に、レッドオーガと数体のゴブリン、オークの生体を捕獲し、ヴェルガエ要塞に戻った。

直ぐに魔王軍から追撃が放たれたが、特科中隊の阻止砲撃と〈スーパーXⅢ〉の支援攻撃によって追撃を殲滅し、作戦第一次段階は成功に終わった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同日 夜 トルメス

 

「おのれ…随分と舐めた真似をしてくれおって…」

 

魔王軍を率いる『魔王』ノスグーラは、一人憤慨していた。

『外部からの介入によって』、古代の勇者達が掛けた封印が解けた後、ノスグーラはかつての仲間達を再び集め、魔王軍を再結成。

まず、1年程の期間をかけて軍を再編して、海魔を使役。グラメウス大陸とフィルアデス大陸を分ける境界線上に建設されていた要塞を落とし、同時に海上から海魔の輸送部隊を差し向けて、トーパ王国を挟撃。完全に滅ぼした上で少しずつ侵攻し、長期間かけてフィルアデス大陸を落とす。そういう手筈であった。

しかし突然、その計画は狂い始める。まず、海魔輸送部隊が壊滅に近い損害を受け、続いてトルメス以南で、数も装備の質も、かつての種族間連合とは比較にもならない程のものになったトーパ王国軍に足止めされた。

その上、突如、謎の怪鳥と羽虫が現れ、多くの配下を一方的に蹂躙したのだ。この時点で魔王軍が負った損害はかなりのものとなっている。

自身の重要な部下であったマラストラスやレッドオーガ、ブルーオーガもいなくなった今、魔王軍は再び劣勢に立たされそうになっていた。

 

「…まさか、また『奴ら』が来たのか?もしそうだとすると…今後の計画がさらに狂いだすぞ…!このままでは魔帝様に顔向け出来ん…!」

 

ノスグーラは一人、苦悶の状況に立たされていた。

ノスグーラが予想以上の被害に頭を悩ましていたその頃、ヴェルガエ要塞の会議室では、北達がノスグーラの情報について議論を交わしていた。

 

「古文書によりますと、『身体は剣や槍、弓矢では傷一つ付かず、毒や呪いに対する耐性も非常に高い。あらゆる属性の魔法を使う事が出来、対象の意思を操作する念動波によって、知性の低い魔獣を立派な兵士に変える』…カルト教団や過激派テロリストの指導者で絶対にいて欲しくないタイプの敵ですよ、これ」

 

「あと『ドラ〇エ』とか、『フェ〇リーテ〇ル』辺りにもいて欲しくないな…正しく敵に回したくないタイプの典型的な敵だ…」

 

百田の説明に、意外とサブカルチャーに詳しい黒木が、唸りを上げながら呟く。今のトーパ王国軍の装備ですら勝てない相手に、数万年昔の者達はどうやって勝ったのだろうか。

 

「魔王との戦闘の記録は、残っているのか?」

 

「人の記憶を石板に写し込む『魔写』によって、鮮明に残ってはいるんですが…古文書などの情報を合わせると、『ヒト族の戦士タ・ロウ、獣人族の武者ケンシーバ、ドワーフ族の武王キージ、エルフ族の賢者ルーサの四人が、魔獣の血肉を食らって命を削りながら超人的な力を得、ホワイトオーガとイエローオーガを撃破。ケンシーバ以外の三人が自分の命を対価にノスグーラを封印した』そうです。その封印も、時間とともに効力が薄れゆくもので、おそらく今がその効力が切れた時だったのでしょう。そしてその様な事が出来たのも、今は存在しない数多くの禁術や魔法があったからこそ、と書かれています。後、この四人の勇者が反撃に転じる前の戦いについて、面白い記述がありました」

 

百田は説明を行いながら、北と黒木に、数枚の写真を見せる。それは、トーパ王国軍から提供された、古文書の魔写を撮影した写真であった。

 

「魔王軍はフィルアデス大陸はおろか、ロデニウス大陸にまで攻め込み、種族間連合を苦しめたそうです。そんなある時、エルフ族の神が祈りを捧げ、その神の名と引き換えに、太陽神シャマシュの眷族『太陽神の使者』が召喚されました。その使者は、鉄の鱗と強力な炎魔法を持つ地竜と、ワイバーンを一方的に圧倒する神の天舟、島みたいに大きく、強力な爆裂魔法で陸地を耕す魔導船を使用して、魔王軍をグラメウス大陸まで後退させたそうです。その時の魔王軍が負った損害は非常に大きく、そのおかげで種族間連合は反撃に移る事が出来たそうです」

 

百田の説明に、黒木は静かに頷きつつ、口を開く。

 

「…魔写の表現から見て、この地竜、戦車にも見えるな…」

 

「…前、ロデニウス戦役に参加していた者から聞いたんだがな。エルフの集落の一つで、旧陸軍の九五式軽戦車が祭神として祀られていたそうだ。理由は今も不明だが、敵は我らの戦力でも十分に対処する事が可能という事だ。明日、気を引き締めて取り掛からねばな」

 

『了解!』

 

北の言葉に、二人は頷く。

会議は深夜にまで及び、自衛隊と魔王軍の戦いは三日目に差し掛かろうとしていた。




次回、決戦。


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第24話 決戦、ヴェルガエ要塞攻防戦

ようやく魔王編が終わります。


中央暦1639年12月22日 ヴェルガエ要塞

その日は、不安定な気温の変動によって霧が発生し、城壁から下は白い煙の様な霧に覆い尽くされていた。

高さ60メートルの塔から監視を行う兵士達は、紅茶を飲みながら周囲を見渡す。

すると、遠くから地響きと地揺れにも似た音と振動が伝わってきて、手すりに置いた魔法瓶がカタカタと震え出す。

 

「何だ…?」

 

兵士達は、パーパルディア皇国製の望遠鏡を使って、遠くを覗く。すると、山の様に見えた黒い影が、幾つもの巨大な人影とともに接近しているのが見えて来た。そしてその影の中に紛れ、どす黒い雰囲気を纏わせながら、空中に浮かんで接近してくる人影が一人。それを見た兵士達は、目を丸くして叫ぶ。

 

「…ま、魔王だぁぁぁぁぁー!!!」

 

兵士達は急いで魔信機に向かって叫び、ムーで開発されたものをパーパルディア皇国が生産した、輸入品のサイレンを鳴らす。

 

「こちら北部第二城塔、魔王軍が攻めてきました!数は非常に多く、雪が三分に敵が七分!繰り返す、雪が三分に敵が七分!至急戦闘態勢に入る様に求む!」

 

報告を入れたその直後、鉄甲鎧虫の攻撃が塔を木端微塵に吹き飛ばした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ヴェルガエ要塞の通路内を、北とアジズの二人が走る。

 

「状況は!」

 

「北部第二城塔からの報告で、魔王ノスグーラ及び鉄甲鎧虫24、超巨大ゴーレム36がこちらに向かって接近中との報告が入りました。直後に、第二城塔を含む複数の城塔が破壊された事から、現在の状況は不明ですが…北部城壁への到達まで、あと15分といった感じです!」

 

「15分か…アジズ司令、陸自の特科中隊はすでに配置に付いておりますので、時間稼ぎの阻止砲撃が可能です。ぞの間に、〈スーパーXⅢ〉を全機上げます。ここで決着を付けましょう!」

 

「同感ですな、北殿。だが、まさかノスグーラめ、『カイザーゴーレム』まで造ってくるとは…カイザーゴーレムは、古の魔法帝国が主戦力としていた二足歩行型陸戦兵器を模した人型兵器で、『太陽神の使い』の鉄竜ですら苦戦したという曰く付きの代物です。今の戦力で果たして勝てるかどうか…」

 

アジズは不安の籠った表情を浮かべながら、北とともに作戦司令部に入る。すると、魔信機で各所との連絡を取っていたトーパ王国軍兵士が、アジズに振り向いて報告してきた。

 

「将軍、即応騎兵隊より通信です!現在、魔王軍に向けて突撃途中との事!」

 

「何?直ぐに引き返させろ!」

 

アジズが顔を青くして命じる中、スピーカーより即応騎兵隊指揮官の声が響く。

 

『こちら即応騎兵隊隊長アボン!敵軍の現戦力は未だ不明!なれば、直接接触して敵の詳細を探る他なし!敵軍の詳細は逐次報告するため、その情報をもとに戦術を練られたし!」

 

騎兵隊からの連絡に、アジズ達は苦悶の表情を浮かべる。何せ自棄になっての自殺行動ではなく、文字通り命を張って敵の力を調べようというのだ。ここで彼らを戻させても、無駄に体力と時間を浪費させるだけであろう。

すると、直ぐに報告が来た。

 

『こちらアボン、敵軍と接触!魔王は鎧虫とゴーレム以外にゴブリン等の従来戦力も多数引き連れている!これより戦闘を行った後に直ぐに後退する!』

 

「司令部よりアボン隊長、現在、自衛隊が攻撃準備を整えている。直ちに自衛隊の大規模攻撃範囲内より脱出せよ!」

 

通信兵の言葉に、アボンは一瞬だけ沈黙するものの、直ぐに答える。

 

『っ、了解した!これより敵を攪乱しつつ後退する!』

 

アボンが返事をした直後、城壁から戦闘を観測していた自衛隊員より報告が入る。

 

『魔王、何らかの魔法攻撃を開始!あっ…即応騎兵隊が焼かれていきます!』

 

「何!?」

 

観測員からの報告に、アジズは目を丸くする。すると、目の前に設置されたモニターに戦闘の様子が映し出され、一同は息を呑む。

中央で空中に浮かんでいる魔王から、幾つもの黒い鳥が飛び出し、1羽1羽が兵士一人一人に突進して黒い炎に包んでいく。魔信スピーカーから騎士達の悲鳴が流れ、不意に途切れる。

 

「即応騎兵隊…全滅…」

 

沈黙が流れ、北達は顔を暗くする。すると、今度は陸自隊員が報告してきた。

 

「〈スーパーXⅢ〉、発進準備完了との報告が来ました」

 

「…直ちに出撃せよ。特科部隊、及び戦車隊はその支援を行え」

 

直ぐに北の命令が伝えられ、城壁前に並んだ5両の99式自走155ミリりゅう弾砲と10門のFH70りゅう弾砲、5両の11式自走レールガン、5両の90式戦車が砲撃を開始する。大量の120ミリ砲弾と155ミリ砲弾が魔獣に降り注ぎ、ゴブリンやオーク、トロールが次々と吹き飛ばされていく。

盛んに砲撃が魔王軍に降り注ぐ中、ヴェルガエ要塞の上を3機の巨大な緑色の機体が通過する。北は空を見上げながら呟いた。

 

「頼むぞ…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「な…!?」

 

即応騎兵隊を全滅させた直後、突然、ノスグーラの目前が炎と煙に包まれる。大勢のゴブリンとオークが木端微塵に吹き飛ばされ、ゴーレムも数体が粉々に砕かれる。ノスグーラは風魔法で爆風を吹き飛ばし、能力の一つである千里眼を使って、ヴェルガエ要塞の前方を見る。すると、1本の棒が飛び出る様に付いている、複数の緑色の箱状の物体が見えた。

 

「アレは…まさか、『太陽神の使者』の鉄竜!!!」

 

かつて、自分と魔獣達を苦しめた、『太陽神の使者』の鉄の鱗を持つ地竜に、ノスグーラは本来持ち得ぬ筈の感情、『恐怖』を呼び起こさせる。

 

「道理で突然苦戦するばかりか、オーガ達も倒された訳か…!ゴーレム!それに鉄甲鎧虫!あの鉄竜を優先的に潰せ!」

 

ノスグーラの指示が飛び、カイザーゴーレムと鉄甲鎧虫は前進しながら攻撃を飛ばす。

するとその時、要塞の反対側から轟音が聞こえ、一同はその方向に目を向ける。

すると、要塞の向こう側から、3つの緑色の巨大な何かが現れ、轟音を響かせながら魔王軍に向けて突き進む。そして、至る所から魔王軍に向けて青い光を降らした。

 

推奨BGM、ゴジラVSデストロイアより『スーパーXⅢの攻撃』

 

機首の『アブソリュート・ゼロ改』が雪原に氷柱を立てながら迸り、魔獣を氷漬けにしていく。冷凍弾頭ミサイルが鉄甲鎧虫の表面で炸裂して、鉄甲鎧虫を卍固めにする。

 

「な、何が起きている!!!」

 

「わ…分かりませぬ!!」

 

寒気の嵐が吹き荒れ、ノスグーラは混乱する。魔獣も謎の氷攻撃に混乱し、四方八方に逃げようとする。しかし、〈スーパーXⅢ〉の冷凍兵器攻撃は『猛烈』の一言であり、3機の大型攻撃機は魔王軍の周囲を飛び回りながら、極超低温レーザー砲や冷凍弾頭ミサイルの雨を降らし、次々と氷漬けにしていく。

 

「ぐっ…ゴウルアス!突撃せよ!」

 

猛烈な攻撃に晒される中で、狼に角と翼を生やした様な外見の魔獣ゴウルアスが駆ける。角から稲妻が放たれ、自走砲の周囲に着弾する。

 

「敵魔獣、攻撃してきました!」

 

「メーサー砲、迎撃せよ!」

 

北の鋭い指示が飛び、自走砲群の背後で待機していた90式メーサー殺獣光線砲が、パラボラアンテナ型の光線放射部をもたげ、砲塔を真横に旋回させる。そして迫りくるゴウルアスの群れにめがけて、黄色いメーサーの稲妻を放った。

10万ボルトの稲光が雪原を切り裂き、湯気が巻き起こる。90式メーサー殺獣光線車は砲塔を上下左右に旋回しながらメーサー光線を放ち、迫りくるゴウルアスに稲妻を打ち付ける。人なら一瞬で蒸発させる程の威力を有する電撃は、ゴウルアスを次々と火だるまにし、爆発四散させていく。

その攻撃に気付いた鉄甲鎧虫が、空や地平線に幾つも生えた砲塔状器官を向け、砲弾様物体を連続で撃ち出す。その『砲撃』は苛烈を極め、自走砲群と〈スーパーXⅢ〉は思わず後退する。

 

「鉄竜、及び緑の怪鳥、後退を開始しやした!」

 

「よし!全軍前進!このまま敵を踏み潰せ!」

 

ノスグーラの指示に従い、怪異の軍勢は歓声を上げて前へ進む。

そして城壁まであと1キロ切ったその時、突如、魔王軍の真上に黒い影が降りる。

直後、その影は急速に接近し、ゴブリンとオークの群れを押し潰した。

 

「な、何だ!?」

 

「ま、魔王様!アイツです!アイツが前から海魔の船団に嫌がらせしてくる奴でさぁ!」

 

配下のゴブリンが大声で叫ぶ中、ガメラは地面に降り立ち、首を左右に振りながら炎を吐いて焼き払っていく。突然の乱入者に魔王軍は大混乱に陥り、攻勢が止まる。数頭のゴウルアスが引き返して火球を飛ばすが、逆に火球はガメラに吸収され、ガメラはその力を増していく。

 

「貴様ぁぁぁぁぁ!!!『詩を紡ぎ静寂を迎えよ。汝福音をもたらすとき、灰燼は土に舞う。極彩食らいて影落とすべし。照らせ、我が使者。空の彼方はまだ暗い』!燃え尽きろ!」

 

ノスグーラは、特大の黒い炎の鳥を現出させ、ガメラに向けて飛ばす。それに気付いたガメラは、口を大きく開いて炎を吸い込み、そのまま呑み込んでいく。そして完全に飲み切ると、今度は鉄甲鎧虫に向けて、黒い火球を吐いた。

その火球は、瞬く間に鉄甲鎧虫やカイザーゴーレムを飲み込み、溶岩の様にドロドロに溶かしていく。その熱が辺りを包み込み、魔獣達は自然発火で火だるまに包まれていく。

 

「な…我の業火を取り込んで、自らのものにしただと…!?」

 

ノスグーラが驚愕を露にする中、ヴェルガエ要塞作戦司令部では、ガメラの乱入に多くの隊員の顎が外れていた。

 

「ガメラが、こんな北国に何でいるんだ…?」

 

「分からんが…今が攻勢の時だ!攻め押せ!」

 

北の命令に従い、自走砲群と〈スーパーXⅢ〉は前進を再開する。再び魔王軍に砲撃と冷凍光線が降り注ぎ、徹底的に叩き潰されていく。そんな中、煙と氷柱の中から、黒い影が真上に飛び上がる。

 

「っ、魔王が上空に!そのまま後退する模様!」

 

「逃がすな、撃ち落とせ!」

 

直ぐに全ての90式メーサー殺獣光線砲が空に向けられ、空中に浮かぶノスグーラに向けて、黄色い稲妻を飛ばす。〈スーパーXⅢ〉の『アブソリュート・ゼロ改』も加わり、黄色と青の稲妻がノスグーラを飲み込んだ。

 

「グゥオオオオオォォォォォ!!!???」

 

空にノスグーラの悲鳴が響き渡り、駄目押しとばかりに91式携帯地対空誘導弾や93式近距離空対空誘導弾が何発も命中して、ノスグーラは炎と煙に包まれて地上に落下していく。そして土煙を立ててゴーレムの残骸に落下し、その場が静まり返る。すると、全ての兵士の脳内に、ノスグーラの声が響き渡った。

 

『おのれぇ…『太陽神の使者』めぇぇ…一度ならず二度までも我が使命を打ち砕きおってぇ…!!!』

 

「何だ…!?頭の中に直接…!?」

 

突然響き始めた声に、北達は目を丸くする。ノスグーラは恨みの籠った声で、自衛隊とトーパ王国軍に向けて言い放つ。

 

『よく聞け、下等種共よ!近いうちに魔帝様が、ラヴァーナル帝国がこの世に復活なさる!貴様ら下等種の世界は間もなく終わりを告げるだろう!圧倒的な魔帝軍によって、貴様らは再び奴隷と化すのだ!それまで恐怖で震えているがいい!!!はーっはっはぁー!はーっはっはっ…』

 

すると、魔王軍は踵を返して北の方に逃げ帰っていき、土煙を立てて姿を消していった。

北達はただ、呆気なく退いていった魔王軍を見送る事しか出来なかった。

 

この日、魔王軍は敗退して『世界の扉』以北まで後退。

自衛隊とトーパ王国軍は、どうにか脅威を退ける事に成功したのだった。

その後、トーパ王国の実情を知った日本国政府は、台湾と協議を行った上で『防衛装備移転三原則』を事実上撤廃し、機関銃を中心とした小火器をトーパ王国軍に供与する事を決定。同時に、ボルトアクション式ライフル銃や、旧式の大砲の製造ノウハウも提供し、トーパ王国だけでも魔王軍と対等に渡り合える様にする方針が定められた。

 

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同日夜 トーパ王国 ヴェルガエ要塞

要塞都市内は、お祭り騒ぎとなっていた。

自衛隊が魔王軍を徹底的に叩きのめしたニュースは、瞬く間に王国全土に広まり、各所でお祭り騒ぎとなっていた。

そんな中、ある宿の一室では、一人の男が頭を抱えていた。

神聖ミリシアル帝国の情報官、クラウス・ライドルカである。

彼は、魔王ノスグーラが復活して侵攻を再開したという情報の真偽を確かめるべく派遣された情報官で、国産の魔写機と魔信機を片手にトーパ王国に赴いていた。

そして先程、目の前で繰り広げられていたのは、想像を絶する激戦であった。

魔王ノスグーラは、一度に数百人を炭に変える炎魔法で攻撃し、古の魔法帝国の主力兵器であった『二足歩行型陸戦兵器』を模した大型ゴーレムや、古の魔法帝国の遺物たる怪物、鉄甲鎧虫を難なく複数体制御する能力を発揮し、多くのトーパ王国軍兵士を恐怖と絶望のどん底に陥れた。

しかし、『日本』という新興国の兵器は、その上を行っていた。

『戦車』と呼ばれる重装甲・高速・大火力の陸戦車両に、『メーサー砲』という人工の雷によって魔獣を焼き払う高出力光線兵器。非常に巨大な緑色の『天の浮舟』。そのどれもが、神聖ミリシアル帝国軍はおろか、古の魔法帝国すら持っていない様な怪物兵器であった。

純粋な戦闘よりも、歩兵の護送を主任務とする『装甲車』程度なら、ミリシアルの技術でも製造出来る事は可能であるし、車両に魔導砲を乗せて移動可能な砲台とした『自走砲』も、実際に配備されている。しかし、機動砲艦の艦砲レベルの威力を持つ大砲と、ゴウルアスの雷魔法すら耐える重装甲を持ちつつ、荒れ地を時速50キロ以上で走破する事の出来る車両は、神聖ミリシアル帝国の技術では開発する事すら困難である。

日本の兵器からは魔力反応は全くしなかったので、恐らくムーの科学技術と同系統の技術で造られた兵器なのだろう。

緑色の巨大な『天の浮舟』も、全く魔力反応がなかったというのに、自国最大の旅客機〈ゲルニカ〉以上の巨体でありながら制空型以上の速度と機動性で敵を翻弄しつつ、全てを凍らせる稲妻を放って鉄甲鎧虫を氷漬けにしていった。残念ながら神聖ミリシアル帝国はあんな化け物を製造する事は不可能である。

さらに驚きなのが、日本の軍隊が『誘導魔光弾』を使用していた事である。

空中に滞空していた魔王に向けて使用されたソレは、古の魔法帝国が使用していたとされる誘導魔光弾に瓜二つであり、現在の神聖ミリシアル帝国では、艦対艦タイプのモノが開発中であり、対空タイプは愚か、小型車両や携行型は遥か先の未来の技術だ。

その激戦に乱入してきた巨大な亀型の怪物も驚異であり、手足の収納場所から炎を噴きながら飛行し、あの魔王の業火すら飲み込んで自らの力とする怪物など、神話でも見たことが無い。そしてソレはカイザーゴーレムとも対等に渡り合う程に強かった。

様々な驚きと衝撃がライドルカの身に降りかかった中、一番の衝撃は、魔王が最後に言い残した事であった。

 

『間もなく古の魔法帝国が復活する』

 

エルフですら凌駕する魔力を有した、人類の最上位種が創り上げた、無敵の大帝国。

その傲慢さから神々を犯そうとした、恐怖の国が間もなく復活する。

あの魔王の口から直接語られたのだ。間違いなく本当の事であろう。

 

「…急いで帰国し、早急に報告しなければ…!」

 

魔王軍をいとも容易く退けた日本の軍隊と、新たに現れた未知の怪物。そして、近い古の魔法帝国の復活。

これらの事を早急に本国に伝えるべく、ライドルカは報告書の制作を切り上げ、帰国の準備を始めた。

 

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トーパ王国全土がお祭り騒ぎになっている中、ガメラはひそひそと海中に戻っていた。

すると、エビラ達海棲怪獣の面々と、リヴァイアサンが出迎えて来た。

 

『驚いたのう…まさか人間と魔王軍の戦いに割り込んでいくとは…』

 

リヴァイアサンが驚きとも呆れともつかない様子で呟き、ガメラは少しだけ首を引っ込める。

すると、ガメラはリヴァイアサンに向けて、鳴き声で魔王の言葉を伝えた。それを聞いたリヴァイアサンは、思わず目を丸くする。

 

『何…?古の魔法帝国が復活するだと…?魔王は、そう言ったのか?」

 

リヴァイアサンの問いに、ガメラは静かに頷く。リヴァイアサンは顔をしかめ、真上を見上げた。

 

『…これから、地上が騒がしくなりそうだな…』

 

リヴァイアサンの呟きは、海の中に溶け込んでいった。




次回、少しだけ時間を巻き戻して、日本とムーの交流回です。


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第25話 日の国と竜の国

今回は時間を少しだけ巻き戻して日本とムーの接触回です。


中央暦1639年10月6日 ムー アイナンク空港

 

ムー南部の港湾都市レクに近いこの民間空港は、主に富裕層が旅客機で神聖ミリシアル帝国に向かう際に利用される空港で、ムー統制軍空軍基地も隣接されており、鉄筋コンクリート製のハンガーには数機の複葉機が駐機していた。

その空港の一室に、マイラスの姿があった。

 

「しかし、わざわざ民間空港と隣接している空軍基地に呼び出すとは、一体何の用なんだろうか…」

 

外務省から情報通信部に所属している自分に声がかかった事にマイラスが首を傾げていると、三人の人間種の男が入ってきた。そのうち一人はマイラスの上司である情報通信部長で、後の二人は外務省の外交官であった。

 

「待たせたな、マイラス君。…彼が、情報士官のヒラー・マイラスです。彼は統制軍一の技術士官で、この若さにして第一種総合技将の資格を持っています」

 

「どうも初めまして、技術士官のマイラスと申します」

 

マイラスは慣れない笑顔を浮かべつつ、二人の外交官と握手を交わす。そして許可を得てソファに座ると、上役らしき男が話を切り出す。

 

「何と説明しようか…端的に説明すると、今回君を呼び出したのは、正体不明の国の技術水準を探ってほしいためだよ」

 

外交官の言葉に、マイラスは眉を顰め、尋ねる。

 

「もしや…『グラ・バルカス帝国』ですか?」

 

「いや、違うな。だが、こちらも新興国家だ。本日、レク沖合100キロの海域に1隻の国籍不明の船が現れた。海軍が臨検したところ、『ニッポン』という国の船だと名乗った。何か心当たりがあるかね?」

 

外交官の言葉に、マイラスは外交官の質問を理解する。

 

「はい、もちろんあります。1か月前、同じ新興国家の『タイワン』とともに、ロウリア王国軍を叩き潰し、敗北に追い込んだ国と聞き及んでおります」

 

「なら話が早いな。その船にはニッポンの使節団が乗っていて、我が国と新たに国交を開きたいと言ってきた。国交樹立を希望する国は珍しくないが、問題は彼らの乗って来た船だ。…なんと、木造帆船ではなく、鋼鉄製の機械動力船なのだ。しかも彼の国では一般的であり、その船は軍艦ではなく、海上警備隊の大型警備船、非軍用船なのだ」

 

外交官の説明に、マイラスは唖然とする。すでにロデニウス大陸にいる情報官からの情報で、日本は鋼鉄製の機械動力艦を主力とした海軍を有しているとの情報を得ていたが、軍用に限らず、民間の船も鋼鉄製の機械動力船であるというのなら、それだけ技術力が成熟しているという事である。そしてムーの場合、民間にも鋼鉄製の機械動力船が普及しているが、最近になって木鉄交造タイプの重油レシプロ機関で動く帆装動力船タイプの商船を輸出し始めたばかりであり、第二文明圏全体では完全に普及しているとは言い難かった。

マイラスが驚きと不安に満ちた表情を浮かべる中、外交官の説明は続く。

 

「それだけではない。さらに大きな問題がある。我が国の技術的優位を見せるためにここ、アイナンク空港を会談場所に指定したら、なんと飛行許可を申請してきたのだよ」

 

外交官の言葉に、マイラスは目を見張る。

 

「飛行許可を…相手はワイバーンを搭載していたという事ですか?」

 

「それならまだ良かったのだがな…なんと、警備船の狭い甲板から、比較的大型の飛行機械を出して飛ばして来たのだよ」

 

外交官の言葉に、マイラスは再び目を丸くする。現在、ムーでは神聖ミリシアル帝国の新型艦『制空魔導母艦』に対抗すべく、全長180メートル以上の全通式飛行甲板を有し、ワイバーンではなく飛行機械を搭載・運用する事が出来る『航空機母艦』を開発・建造している。そして現時点では、先行試作型を含む6隻が就役し、増強著しい神聖ミリシアル帝国海軍と、瞬く間にレイフォルを制圧したグラ・バルカス帝国に対抗するべく、改良型を含む8隻が建造中である。

しかし、彼らの言い様からすると、その警備船は非全通式ながらも飛行甲板を有し、空軍の主力戦闘機である〈マリン〉を遥かに上回る大きさの艦載機を搭載・運用しているらしい。

 

「彼らの大使の説明によれば、ニッポンはロデニウス大陸の北に位置した島国で、隣国タイワン国はその西に位置するそうだ。地形的に見れば文明圏外国家だが、あの飛行機械の技術は確実にパーパルディア皇国の技術で作られたものではない。帝代政府との会談は1週間後に行われるので、それまでに彼らを観光に案内し、我が国の技術の高さを見せつけ、同時に相手国の技術水準を探ってくれ」

 

「分かりました。微力ながら頑張ります」

 

「ウム。では、件の飛行機械を見に行こう」

 

四人は揃って立ち上がり、空港の東側にある、大型機用ハンガーに向かっていく。

ハンガーに到着すると、すでに大勢の人だかりが出来ており、統制空軍のパイロットや整備士、管制官等、基地人員の殆どが集まっている様に見えた。

そしてその人だかりを掻き分けると、そこには、上部に四枚羽根の巨大なプロペラを付けた、白い箱型の乗り物であった。それは全長18メートルはあり、統制空軍の旧型爆撃機とほぼ同じぐらいの大きさがあった。

 

「…マイラス君、君はこの飛行機械が、どの様に飛ぶのか、見当が付いたかね?」

 

情報通信部長の問いに、周囲にいた者は揃って黙り、マイラスは顎に手を付けながら話す。

 

「これは…上部の巨大なプロペラを回転させて下向きに風を送り、上昇するための揚力を確保しているみたいです。それに、プロペラは風を送る向きを変えると、軸に対して垂直な方向に向けて推進力を生みだします。恐らく機体全体を前後左右に傾けて、揚力を推進力に変えているのでしょう。つまり、あの巨大なプロペラが主翼と推進器の両方を兼ねていると思われます」

 

「ほう…」

 

マイラスの言葉に、一同が感嘆の声を漏らす。マイラスの説明は続く。

 

「機尾とおぼしき部分に小さいプロペラが付いていますが、あれは上の大きなプロペラの回転方向とは逆向きのモーメントを打ち消すためのものでしょう。あのサイズで機体自体をプロペラと反対方向の回転を起こさないレベルの推力を生み出すためには、緻密な出力調整が必要となるでしょう。そしてそもそも、この巨体を浮かすだけの推力を生み出すプロペラを回すエンジンも、確実に高出力なエンジンが使われている筈です。…確実に日本は、我が国よりも高い技術力を持っています」

 

マイラスの言葉に、一同がざわめく。その中でマイラスは、ただ静かに、目の前の日本の飛行機械ー海上保安庁ヘリコプターEC225LP〈あきたか1号〉を見つめた。

 

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空軍基地詰所 応接室

 

日本の航空機を見たマイラスは、重い足取りで日本国の使者がいる応接室に入る。

扉をノックして開けると、そこには二人の人間種の男がいた。

 

「皆様どうも初めまして。会議までの一週間、ムーをご紹介させて頂きます、マイラスと言います」

 

「こちらこそ初めまして。私は日本国外務省より派遣されました、ムーとの交渉担当の御園と言います。今回、ムー国を紹介して頂けるとの事で、大変嬉しく思います。こちらは補佐の佐伯です」

 

三人は挨拶を終え、早速マイラスが案内を始める。

 

「それでは、長旅でお疲れでしょうから、本格的にご案内するのは、明日からとします。本日はこのアイナンク空港をご案内した後、首都オタハイト内のホテルにお連れします」

 

マイラスはそう言いながら、ハンガー内に二人を連れて行く。その中には、数機の白地に青いストライプが施された小型の航空機があった。

片方は固定脚タイプの複葉機で、機首には2丁の機関銃が装備され、プロペラは3枚羽根で、エンジンとプロペラを繋ぐハブは青色のスピナで覆われていた。もう片方は固定脚タイプの単葉高翼機で、エンジンとプロペラは主翼上にあり、主翼下には航空爆弾が置かれた荷車が置かれ、胴体部が複座式で後部座席に機関銃が装備されている事から、複座式の爆撃機である事が分かる。その両方が丁寧に磨かれ、整備が行き届いている様に見える事から、どうやら整備員が日本の航空機に対抗心を燃やしたらしい。

 

「この鉄竜は、我が国では『飛行機』と呼んでいる機械であり、乗り物です。この国は我が国の統制空軍主力戦闘機、オタハイト・マイカルF-03A〈マリン〉です。オタハイト統制軍軍備工廠とマイカル重工業グループ航空機部が開発し航空機部工場と軍備工廠で生産されています。最大速度は時速380キロメートルで、ワイバーンは愚か、文明国の主力航空兵器ワイバーンロードですら上回ります。武装は機銃という、火薬の爆発力で鉛製の物体を攻撃魔法よりも高速かつ連続で射出する武器を機首に2丁装備しています。また、一人で操縦可能な様に設計されており、空戦能力もワイバーンより非常に高いです。反対側の機体は、リバケプ飛行機会社が開発・生産している主力軽爆撃機のBL-01A〈ライト〉で、最高時速300キロ、胴体下と主翼下に50キロ爆弾を3発装備して、敵城塞の真上から爆弾を落として攻撃します。この機体の登場により、これまでの陸上戦は大きく様変わりしました」

 

マイラスは自信満々に言い切り、二人の方を見る。するとマイラスの期待とは裏腹に、二人はただ口をぽかんと開けて、間抜けそうな表情を浮かべていた。

 

「はぁ…複葉機なのですね。片方の〈ライト〉でしたっけ?爆撃機は単葉機なのですね~」

 

「御園さん、見て下さい。ちゃんとした星型エンジンにV型航空機用エンジンですよ。このレトロな感じがいいですねぇ。よく奇麗に整備されているなぁ。複葉の戦闘機だなんて地方の飛行機通学を行っている学校ぐらいでしか見かけませんよコレ」

 

二人が話す中、佐伯がムー主力戦闘機に対して言った『レトロ』という言葉に、マイラスは引っ掛かる。

 

(レトロ…?一体どういう意味で言っているんだ…?)

 

思っていたものと違う反応に、マイラスは不安を抱きつつ尋ねる。

 

「日本では、内燃レシプロ機関以外に、乗り物の機関でどういった機関がありますか?蒸気機関もレシプロ機関といいますが、アレは重い上に重量との出力比が弱く、初期の飛行船ぐらいにしか使われていませんが…」

 

マイラスの問いに対し、佐伯は首を傾げながら答える。

 

「日本にはジェットエンジンと呼ばれる、航空機に適した高出力のエンジンがありますので…もちろん、レシプロエンジンもありますし、軽飛行機では大型高出力のモーターを使った電気飛行機もありますよ。流石に飛行機に蒸気機関は使っていませんね。レシプロタイプでは動態保存中の列車が存在するのみで、船舶ではレシプロ式よりも燃費と出力が高い蒸気タービン式エンジンを主流としています。最近ではそれよりも燃費のいいディーゼルエンジンとガスタービンエンジンを採用し、どのエンジンも石炭ではなく石油を使っています」

 

佐伯の答えに、マイラスは敢えて探りを入れて正解だったと確信する。

 

「(!…やはり、日本は高性能のエンジンを所有しているのか…)ほう…あの『ヘリコプター』とかいう飛行機に使用しているのも、ジェット?エンジンですか?是非構造を教えてもらいたいものです」

 

「はい、私達が乗って来たヘリコプターも、確かにジェットエンジンです。エンジン素材の詳細や高出力化の技術については国内法で開示を禁じられておりますが、国交樹立後は我が国の書店で簡単な原理や設計の書かれた書籍を幾らでも入手する事が出来ます。また、ムーの技術力次第では国内法が幾らか緩和されますので、初歩的なジェットエンジンでしたら製造技術が開示されるでしょう」

 

「おお、それは凄い…個人的には是非、日本と国交を締結する事が出来る事を願いますよ」

 

三人は〈マリン〉から離れ、基地司令塔前に停めてある自動車に向かう。その途中でマイラスは、恐る恐る御園に尋ねる。

 

「ちなみにですが、日本にも戦闘機はありますか?その戦闘機の時速は一体どれぐらいなのでしょうか?」

 

航空戦において、戦闘機は何よりも速度が重要となる。まず、複数機で一斉に攻撃を仕掛けつつ敵から離れる、一撃離脱戦法は、かつてのワイバーン同士の戦いで、ワイバーンロードが原種に圧倒的な強さを見せつけた戦法の一つであり、神聖ミリシアル帝国の『天の浮舟』が、世界最強の航空戦力としてその座をほしいままにした理由の一つでもある。それよりややマイナーな戦法である格闘戦でも、竜種の上位種の一つである『風竜』が、ワイバーンロードにすら大きくアドバンテージを得ている理由の一つとして時速500キロ以上の高速があるし、何より〈マリン〉が時速380キロという速度で、複葉機という揚力を大きく生み出す主翼形状によって得た運動性でワイバーン相手に圧倒的なアドバンテージを有した戦闘機である。以下の点から、戦闘機の速度は高速であった方がいいのである。

マイラスの問いに対し、御園と佐伯は目を合わせ、ひそひそと小声で相談し合う。

 

「…どこまで開示すればいいんだ?時速380キロって確か、戦間期の戦闘機レベルだよな?」

 

「ま…まぁ、現代の戦闘では速度は性能に余り関係がありませんし、国内で市販されている書籍には大体の機体性能が書かれていますから、教えても全く問題はないかと…」

 

「国交を締結した後は、問題がないレベルで相手に教える事になるから、隠す事もないか…」

 

相談が終わり、御園はにこやかな笑顔を浮かべながら答える。

 

「失礼…我が国が保有する航空自衛隊…いわゆる『空軍』の主力戦闘機〈F‐15J〉が、確か最高速度マッハ2.5…時速換算で約2962キロメートルです」

 

「御園さん、時速に換算すると逆に分かりにくいですよ。マッハ2.5は音の速さの2.5倍ぐらいです。巡航速度は時速900キロぐらいで、旅客機であれば、対気速度で時速850キロぐらいです」

 

「おお、意外と速いな…まぁ東京から沖縄まで2000キロの距離を2時間半で飛べるぐらいだからそのぐらいか」

 

御園と佐伯が話す中、マイラスは二人の答えにただ絶句する。その背後では、数人の技士達も顔を青くしていた。

 

(お…お…音速を超えているだと…!?そそそ…そんな馬鹿な!巡航速度だけで遷音速に達しているじゃないか!!!)

 

マイラスはやや顔を青くしつつ、一人の空軍基地職員を呼び掛ける。そして幾つか指示を出して御園達に振り返る。

 

「すいません、今回、オタハイトへの移動手段について、幾つか変更がございます。まず、自動車でレク市の駅に向かい、そこから鉄道で魔導港に向かいます。そして空の便でオタハイトに向かいます」

 

「そうですか…分かりました。様々な乗り物に乗る事が出来るとは…」

 

「ええ…この第二文明圏で使用されている乗り物は、半数が我が国で開発・生産されたものですので…」

 

先程の職員が戻ってきてマイラスに耳打ちし、そこで三人はタクシータイプの中型自動車に乗り込み、レク市内に向かう。車内でマイラスは佐伯に尋ねる。

 

「お二人とも、全く驚かれずに自動車に乗られましたが…日本にも自動車は存在するのですか?」

 

馬を使わずに、ガソリンを燃料とする内燃レシプロ機関で走る自動車は、ムーの科学技術文明の結晶たる乗り物である。その自動車に全く驚かないのは同じ列強の神聖ミリシアル帝国と、蒸気機関で動く大型自動車を発明・使用している列強国パーパルディア皇国と南の隣国マギカライヒ共同体ぐらいであり、大半の文明圏外国の者は馬を使わずに動く荷車に驚愕し、恐怖するのだ。

マイラスが首を傾げながら尋ねると、佐伯はあっさりとした口調でマイラスに答えた。

 

「はい。三年前のデータとなりますが、乗用車だけで6051万台は走っております。信号などの交通管理システムは非常に充実していますし、交通インフラ関係の法律も整備されているため、渋滞は比較的軽いものです。まぁたまに数時間の大渋滞が起きる事もありますが…」

 

佐伯の答えに、マイラスはあんぐりと口を開ける。現在のムーを走る自動車は富裕層向けの乗用車だけで約50万台。学校用や交通用のバス、貨物輸送用のトラックも含めると合計500万台。明らかに数が違い過ぎるのが分かった。それでもムーより圧倒的に狭い国土の中で、あまり渋滞が起きていないという事実も驚きである。

自動車は十分にアスファルトで整地された道路を走り、レク市の中央広場にある駅に到着する。三人は自動車から降りて駅内を歩き、ホームに来た列車に乗り込む。この列車は、内燃レシプロ機関を動力にして時速140キロの速度で20両の客車と1000人の乗員を牽引しながら走行する一般的な貨客列車で、一日あたり1000本程度がムー国内や隣国国境付近までを走行している。

その事を二人に説明すると、佐伯が目を丸くして問いかけた。

 

「この広大な国土で、一日に1000本程度ですか!?意外と少ないですね」

 

「え、少ないですか?」

 

「ええ。我が国では、一日当たり約3179本以上が運行し、400万人以上が利用しています。鉄道も様々で、ディーゼルエンジンで走り、50両以上の貨車を牽引する貨物列車や、全ての台車にモーターを装備している動力分散式電気機関車…路面電車を3両以上連結した様な鉄道、合計2000キロ近くの高架路線を時速300キロの高速で走って数時間で行き来する新幹線などがあります。これら全て、我が国が全世界に誇れる様なものばかりです」

 

佐伯の言葉に、マイラスは内心引いた。

どうやら日本は、鉄道に関して文字通りの『変態』であるらしい。恐らく神聖ミリシアル帝国の魔導列車ですら敵わないであろう。

列車は1時間かけて、内陸部の小さな町に到着し、三人はそこで降りる。そして統制空軍の送迎車に乗り込み、近くの大きな湖に向かう。するとそこには、数隻もの巨大な帆船や、アイナンク空港に匹敵する規模の飛行場があった。

 

「お二人とも、アレをご覧下さい。アレが、私達がこれから乗る大型飛行船です!」

 

マイラスはそう言いながら、空に指を向ける。すると、雲の合間から巨大な飛行船が現れ、小山にも見える程に巨大なハンガーに向かって行くのが見えてくる。それと入れ替わる様に、巨大な帆船がトビウオの胸鰭に似た巨大な翼を広げ、空中に飛び立つ。その光景に御園と佐伯は顎が外れる。

 

「マイラスさん、あの帆船は…?」

 

「アレは、『飛空船』です。主に文明圏内国の魔導技術が中心となっている国で運用されています。対ワイバーン用の小型魔導砲を装備した砲艦や、飛行甲板を装備してワイバーンを運用する竜母も存在しますが、それらは我が国の飛行船に比べると圧倒的に弱いため、空賊が使う程度になっています」

 

送迎車は飛行場に入り、ハンガーの方へ走っていく。そしてハンガー前に到着すると、三人はハンガー内に入り、飛行船のゴンドラ部分から乗船する。

 

「かなり大きいですね。しかも軟式じゃなくて硬式ですか?」

 

「ええ。表面は鉄板を張り付けていまして、ガスも不燃性の安全なモノですので、ワイバーンの導力火炎弾にも余裕で耐える事が出来ます。では、こちらの乗組員が客室までご案内します。それから、船内を案内しましょう」

 

御園と佐伯は乗組員の案内で客室に向かい、そこで荷物を置く。そして身軽になったところで再びゴンドラに戻り、マイラスの案内を受ける。

 

「ではまず、上に行きます」

 

三人は、ゴンドラのブリッジから上のエレベーターに乗り込み、上の階に向かう。そして到着すると、そこには広大な空間が広がっていた。

 

「マイラスさん、ここは一体…」

 

「ここは、この飛行船…「ラ・アクロ」の艦内格納庫です。中央の道は滑走路になっており、本艦だけで〈マリン〉を24機を搭載しております。艦自体の武装も充実しており、対飛空船用の7.6センチ単装砲や、対ワイバーン用の7.92ミリ対空機銃を各所に装備しています。また、爆弾搭載・投下能力も持ち、対城塞攻略戦の主力としても活躍出来ます。この大型飛行船の開発と配備により、我が国は他国に対して航空戦で圧倒的なアドバンテージを得ました」

 

マイラスの説明に、御園と佐伯は驚きに満ちた表情を浮かべながら、数機の〈マリン〉が格納されている格納庫を見渡し、スマートフォンや一眼レフカメラで撮影する。

三人は船内のレストランに向かい、席に座った丁度その時に、軍用飛行船「ラ・アクロ」は離陸する。そして高度3000メートルにまで上昇した頃、レストランで御園と佐伯はムー国発祥の料理に舌鼓を打ちつつ、マイラスにスマートフォンや一眼レフカメラについて説明を行う。いつしか乗組員も数人集まって話に耳を傾けていた。

時速100キロで飛行する飛行船の船旅は、一日にも及び、御園達は飛行船で一泊を過ごした。

 

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翌日 オタハイト上空

 

「ラ・アクロ」はオタハイト郊外の統制空軍基地に到着し、御園達は自動車でオタハイト市内の国立歴史資料館に向かう。

資料館に到着し、御園と佐伯はマイラスに連れられ、資料館のロビーの休憩スペースで席に着く。そしてマイラスは、二人に向けて簡単に説明を始めた。

 

「まず、幾つか前提をご説明しておかないといけません。世界の各国には中々信じてもらえないのですが、我々純粋なムー人の先祖は、この星の住民ではありません」

 

『へ!?』

 

マイラスの言葉に、二人は顎が外れた様な表情となる。マイラスはいつもの事だなと思いながら、話を続ける。

 

「時はこの世界で神話の世界となる、遥か1万2千年前、第二文明圏の中心地たるここ、ムー大陸が、別の惑星からこの惑星に転移するという、『大陸大転移』と呼ばれる現象が起こりました。ムー大陸の大半がこの世界に転移してきたという事実は、当時絶対帝政だった我が国の公文書等によって正式な記録として遺されています。そしてこれが、前世界の惑星になります」

 

マイラスはそう言いながら、机の上に天球儀を置く。資料館職員が用意したそれに、二人の目は釘付けになった。

 

「な…こ、これは…」

 

「御園さん、これって…」

 

(ふむ…流石に惑星、天体の概念程度も知っているか)

 

知っている様な反応を示した二人に、少々インパクトが足りなかっただろうなとマイラスは肩を落とす。それに悔しさは残ったものの、とりあえずは説明を続ける。

 

「ご存じかとは思いますが、この世界は惑星という球体ですよね。前世界はもう少し小さな惑星だったのです。今も遺る文献の水平線の湾曲率や隣国との距離などから計算すると、恐らく全周4万キロ程だったかと…」

 

マイラスがそこまで言ったその時、二人は揃って叫んだ。

 

『地球だ!!!』

 

「…はい?」

 

突然叫んだ二人に、マイラスと近くにいた職員達は首を傾げる。二人は天球儀をまじまじと見ながら話し合う。

 

「これは…地軸の位置が少し違うのか?」

 

「しかし、この配置は紛れもなく地球の大陸ですね。…む?南極大陸がこの位置にある?」

 

「という事は、氷に覆われていなかったという事か…」

 

何やら想像とは全く違う所で驚いている事に、マイラスは釈然としない感情になりつつも、二人がある大陸を指さしているので説明を始めた。

 

「この大陸は『アトランティス』と言いまして、ムーとともに世界を二分する程の力を持っていました。ムーがいなくなった今、恐らく全世界を支配しているでしょうね。ちなみに…」

 

マイラスは説明しつつ、ユーラシア大陸の横にある、複数の大きな島が集まった場所を指し示す。

 

「この国は『ヤムート』と言って、かつての我が国一の友好国だったそうです。転移で引き裂かれたため、恐らくアトランティスに呑み込まれているでしょうけれど…」

 

マイラスがそこまで説明したところで、御園が解説に割って入った。

 

「マイラスさん、ちょっといいですか?」

 

「?…どうぞ」

 

「我が国を説明するのに、一番いい方法がありました」

 

「…はい?」

 

御園の言葉に、マイラス達は首を傾げる。すると、佐伯がバッグから2冊の地図を出して御園に手渡し、御園は机の上に日本地図とメルカトル図法で描かれた地球の世界地図を広げる。マイラスと職員達は、それを見て目を丸くする。

 

「こ、これは!?」

 

「地球儀に描かれているのと、全く同じ地形…いや待て、アトランティス大陸が南極側に移動してるぞ!?」

 

「この地図、ヤムートと全く同じだぞ!?…おや?エムシスの土地の一部が載っておらん…」

 

マイラス達が愕然とする中、御園と佐伯は地図を指さしながら説明を始める。

 

「実は、我が国も転移国家です。同一次元にあったかは不明ですが、恐らく貴方がたの昔いた星から転移してきたものと推測します。そしてこの地図がその証拠です」

 

「我々の元居た世界にも、『1万2千年前に突如として海に沈んだ大陸がある』と、言い伝え程度ですが遺っています。また、貴方がたの転移に取り残された一部が、『ムゥ帝国』を名乗って我が国と戦争状態になった事もあります。あなたが今アトランティスと呼んでいた大陸は、南極になってしまっている様ですね。もしかしたら、地軸がずれたのかな?」

 

御園達の説明に、マイラス達はただあんぐりと口を開ける。何せ、日本の正体が、かつての友好国の末裔である上に、繁栄の限りを尽くしていたアトランティスが、氷に覆われた極寒の大地と化して滅んでいたからである。

 

「は…はは…ま、まさかの歴史的発見ですね。貴方がた日本とは、個人的には友好国となりたいものです。まさか…そんな事が…後で、直ぐに上に報告します」

 

突然の衝撃の事実に驚きつつも、マイラスは気を取り直して、二人を案内しながら、ムーの歴史を説明する。

転移後のムー大陸全土に広がった混乱と、それに乗じた異民族の侵略による国土の大幅な喪失。魔法文明を中心とした周辺国との軋轢と衝突。その中での唯一の科学技術文明国家としての再出発。そして世界列強第二位へ。その苦難の道のりに、御園達は驚く。なんせ、単一国家独力で自動車や鉄道、飛行機を発明しているのだから、その努力の量は推して知るべしである。

一通り説明を終え、三人はオタハイトから東の港湾都市コスカに自動車で向かう。そしてコスカ統制海軍基地に到着し、敷地内を歩く。すると、佐伯は桟橋の方を見るなりはしゃぎ始めた。

 

「御園さん、アレを見て下さい!かなりの数の戦艦ですよ!やはり戦艦はロマンがありますね!」

 

「佐伯さん、ちょっとはしゃぎすぎですよ。ですが、確かに結構かなりの数の軍艦がありますね」

 

御園と佐伯が会話を交わす中、マイラスは桟橋に指を向けながら説明を始める。

 

「あちらをご覧下さい。まず、第一桟橋に停泊しているのは、ムー統制海軍第一艦隊の第一戦艦隊です。艦隊旗艦を務めているのは、統制海軍主力の座を担う戦艦、ラ・カサミ級1番艦「ラ・カサミ」です。全長132.7メートル、全幅23.2メートル、喫水8.3メートル、満載排水量16000t。主機はコスカ海軍工廠で開発され、マイカル重工業グループで製造された重油レシプロ機関を4基搭載し、2軸推進で出力は蒸気機関を大幅に上回る15000馬力。速力は最高18ノットであり、帆船でこのフネに追いつけるのはパーパルディア皇国の戦列艦だけしかないとも言われています。武装は40口径30.5センチ連装砲2基に40口径15.2センチ単装砲14基、40口径7.6センチ単装砲4基、対ワイバーン用迎撃用の7.92ミリ連装対空機銃16基で、1隻で文明圏外国の艦隊を撃破する事が可能です。その後ろにあるのは、同型艦で2番艦の「ラ・エルド」と、3番艦の「ラ・マキシ」、4番艦の「ラ・ガレジ」です」

 

旧日本海軍の戦艦「三笠」に酷似した戦艦群を紹介しつつ、マイラスの説明は別の戦艦群に移っていく。

 

「その隣の桟橋に停泊しているのは、次世代艦として整備が進んでいる新型艦、ラ・マツサ級戦艦で、全長150メートル、全幅25.4メートル、喫水8.3メートル、満載排水量21300t。主機は新型の重油レシプロ機関を4基搭載し、出力は28000馬力。速力は2万トン以上の艦で初めての21.8ノット。武装は砲身長を伸ばして性能を向上させた45口径30.5センチ連装砲2基に、神聖ミリシアル帝国の『天の浮舟』との戦闘に備えて開発された、40口径12.7センチ連装両用砲4基、40口径15.2センチ単装砲8基、13.2ミリ連装対空機銃20基です。そして奥に見えるのは、首都防衛隊直属の水上迎撃艦隊で、艦隊旗艦はラ・カサミ級の前級であるラ・ジフ級戦艦「ラ・ゲージ」です。ラ・ジフ級戦艦は統制海軍初の鋼鉄製大型戦艦で、全長122.6メートル、全幅22.3メートル、喫水8.1メートル、満載排水量13000t。主機は初期型の重油レシプロ機関を4基搭載して出力は14000馬力。速力は18.7ノットぐらいです。兵装は40口径30.5センチ連装砲2基に40口径15.2センチ単装砲10基、7.92ミリ連装対空機銃16基です」

 

マイラスが説明する中、御園は港の奥の方を指さしてマイラスに尋ねる。

 

「マイラスさん、あの大型艦は何ですか?見たところ、甲板上に数機の〈マリン〉でしたっけ?それが載っている様に見えますが…」

 

「ああ…アレは我が海軍最新の艦で、他国の竜母から飛来してくるワイバーンを迎撃するために開発された、ラ・コスタ級航空母艦です。全長180メートル、全幅21メートル、喫水7.8メートル、満載排水量18000t。主機はラ・マツサ級戦艦と同一のものを2基搭載し、速力は20ノット。自衛用の40口径7.6センチ単装砲4基に13.2ミリ連装対空機銃13基を装備し、〈マリン〉を最大30機搭載する事が可能です」

 

「ほう…航空母艦も有しているのですね…」

 

御園は驚愕の表情を浮かべながら、マイラスに話しかける。すると、マイラスは二人に尋ねた。

 

「ところで、日本は戦艦を何隻保有しているのでしょうか?戦艦の数は列強国のバロメーターみたいなもので、質の高い戦艦を複数有しているだけでも、属国を複数有しているのと同じぐらいに誇る事が出来ます」

 

「あー…我が国は現在、100年以上前に建造され、戦争後に旧海軍から自衛隊に受け継がれた戦艦を1隻、『大型護衛艦』の名称で保有しております。また、その代艦を3隻程建造しているとも聞いております。我が国の海上自衛隊は、巡洋艦や駆逐艦クラス…排水量が3000tから1万tクラスの護衛艦を主力としていましたので」

 

御園の言葉に、マイラスは首を傾げる。

 

(おや?日本は本当に巡洋艦を中心とした小規模な水上打撃部隊程度の海軍しか持っていないのか…しかも戦艦もたったの1隻だけだと?そんな貧弱な戦力で一体どうやってロウリア王国に勝利したんだ…?)

 

マイラスが首を傾げる中、今度は佐伯が尋ねて来た。

 

「ところで、戦艦の艦首には、どれもこれも竜らしき生物のレリーフが施されていますね。アレはムーの海軍の紋章か何かなんですか?」

 

佐伯が指さす先、「ラ・カサミ」の艦首には、日本の神話上の生物である竜に似た生物のレリーフが装備されており、それはすべての艦の艦首に付けられていた。それに気付いたマイラスは、納得して説明を始めた。

 

「アレはムーに古来から伝わる神獣、『マンダ』のレリーフです。統制軍の軍旗にも使用されている神聖な竜で、我が軍の必勝を守護する存在でもあります。転移後は旧世界に置いていかれたらしく、今はこの目で見る事は出来ませんが…」

 

「そうですか…」

 

マイラスの答えに、佐伯はただそう呟き、艦船群を眺めた。

翌日、マイラスは首脳陣に対して報告書を提出。内容は『荒唐無稽』の一言では足りない程のものであったが、日本及び隣国の台湾国もムーと国交を樹立する事を望んでいる事や、日本の経済支援を受けているロデニウス大陸諸国が非常に発展しているという事が外務省からも伝えられている事も加わり、協議はスムーズに進められた。

そしてムー帝代政府は日本との国交樹立を決定し、その事が日本に伝えられた。

 

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中央暦1639年10月11日 巡視船「あきつしま」船内

 

今回のムーへの使節団派遣の際、日本国政府は須佐乃男型特殊護衛艦をハブ回線とした超長距離量子通信ネットワークシステムを使い、人工衛星のないこの世界で、2万キロ彼方にいる「あきつしま」と通信を繋げていた。

 

『御園、ムーについて何か分かった事はあったか?』

 

「はい。ムーは我が国と同じ転移国家で、かつての『ムゥ帝国』と繋がりがありました。といっても、祖先と基本的な技術が同じ、という程度でしたが…私達を案内してくれたマイラス氏の説明によりますと、ムーは転移後に、魔法文明勢力との衝突で、これまで自国が有していた超技術の大半を喪失したそうです。ですが、一部の技術は継承に成功している模様です」

 

ムー国内を巡っている中で、御園達はムーの科学技術文明について念密に調べ上げていた。その結果、ムーの文明には地球のムゥ帝国と類似した技術が散見される事が判明した。

まず、市街地のビルは高さ100メートル級の鉄筋コンクリート製ビルが散見されたが、それよりも多く、大理石や水晶、御影石で出来た石製のビルが圧倒的に多く、装飾も至る所に竜をモチーフにした紋章が見受けられた。恐らく技術の根幹はかつてのムゥ帝国と同質のものであると言えよう。

 

「今のところ、技術力は平均では20世紀初頭といった感じですが、航空機関係技術は1930年代レベルですし、通信手段に至ってはテレビ放送が一般化しております。一部の技術がかなり発展しているといった感じですね」

 

『ワイバーンは第一次世界大戦時の戦闘機よりも速いし、魔信という通信手段が中世レベルの国にも浸透しているからな。その部分で上回ろうと努力した結果だろうな。もう少し情報の収集に努めてくれ』

 

「分かりました。それと、ムー帝代政府から、自国の技術を存分に知ってもらうために、幾つかサンプルを提供するとの事です。内容はまだ不明ですが、結構な数となるでしょう」

 

『そうか…後の事は全てこちらに任せてくれ』

 

通信はそこで終わり、御園は天井に顔を上げて溜息をついた。

 

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中央暦1639年11月2日 ロデニウス大陸西北上空

 

晴天の空の下、1機の大型機が飛ぶ。

その大型機は、4基の空冷星型エンジンを装備し、巨大な翼に風を受けて、高度3000メートル上空を飛行していた。

 

「しかし、信じられぬな…」

 

大型機の機内で、一人の中年の男が訝しげに呟く。すると、彼の補佐の一人が話しかけてきた。

 

「ですが、私の情報網によりますと、ロデニウス大陸諸国は日本と台湾との各種交流により、非常に高い国力を達成している事が判明しております。今やその富はパーパルディア皇国を上回るものになっているとされております。そこに我が社の入る隙があると思うのです」

 

補佐の言葉に、男は顔をしかめる。彼は、ムーの民間企業リバーウェスト社の社長で、今自分達が乗っている大型機、RW-04〈ラ・アビス〉も自社製品の一つである。現在のムーの航空機産業は、複数の企業がギルドの形にして結成したマイカル重工業グループ航空機部と、リバケプ飛行機工業がシェアの大半を占めており、対して新参者のリバーウェスト社は、若手の精鋭技術者を中心とした開発グループの努力により〈ラ・アビス〉の開発と販売に成功し、顧客のターゲットも外国の魔導港に向かう中間層や労働者対象にしている民間航空会社に売り込む事によってシェアを確保し始め、マイカル重工業グループの〈ラ・カオス〉、リバケプ飛行機工業の〈ラ・ガイア〉に並ぶ旅客機メーカーとして名を馳せる事に成功していた。

そして今回、ロデニウス大陸諸国が、最近ムーに接触してきた日本やムーとの交流によって文明圏並の豊かな生活を手にし始めているという事を聞き付け、自社製品のセールスに動き出した。そして現在、社長自らが〈ラ・アビス〉に乗って、ロデニウス大陸諸国に向かっているのだった。

〈ラ・アビス〉のセールスポイントとして、機体の類まれなる頑丈さと平らな場所なら草地でも選ばない汎用性があり、整備の悪い魔導港でも使用できるという事が売りになっていた。そのため、まともな空港がないロデニウス大陸でも降りる事が可能であるという事で、本機で向かう事となったのだった。

男が憂鬱そうに外を眺めていると、乗務員の一人が大声で叫んだ。

 

「く、空賊が来るぞぉぉぉ!!!」

 

「何っ、空賊だと!?」

 

乗務員の絶叫に、社長は直ぐに窓の外を見る。外には1隻の飛空船があり、そこから次々とワイバーンが発艦して、〈ラ・アビス〉に接近してくるのが見えた。最近、第三文明圏内にて、飛空船を拠点に盗賊行為を行う空賊が頻発しており、文明国は長距離飛行仕様のワイバーンや、対空用ガトリング砲を装備した飛空船を護衛につけて対処しているものの、最近の空賊は何故かパーパルディア皇国で生産されているタイプのワイバーンロードを使用している事例が多くなっており、度々ムーの航空機が被害に遭っている。

そして今回も、空賊はワイバーンロードを使用しており、速度は明らかに〈ラ・アビス〉を遥かに超えている。

 

「くそっ、応戦準備!何のために自衛用を積んでいると思っている!」

 

「は、はい!」

 

社員達は急いで機体各所の窓や天井の一部を開き、7.62ミリ軽機関銃を出す。そして迫りくるワイバーンに向けて、必死に弾幕を張る。

突然の反撃に、ワイバーンの編隊は怯むものの、すぐに態勢を立て直し、進路を妨害する様に導力火炎弾を放つ。〈ラ・アビス〉の機体には薄い対魔弾鉄鋼式装甲が張られているものの、ワイバーンロードの導力火炎弾に十分に耐えうるものではなく、同じ個所に2発以上被弾すれば、確実に破損する可能性が高い。

 

「くそっ!ここで落ちてたまるかよ!」

 

社長は大声で叫びながら、軽機関銃の引き金を引き、7.62ミリ銃弾をばらまく。1騎のワイバーンロードが火線を巧みに回避しながら急接近し、口の中に炎を溜め始める。

そして首を真っすぐにのばし、〈ラ・アビス〉に向けて放とうとしたその時、突然上からワイバーンロードに向けて火線が降り注いだ。

 

「グギャアアア!!!」

 

「…え?」

 

突然の出来事に、社長は思わず呆然となる。直後、真上から1機の航空機が現れ、ワイバーンロードに向けて銃撃を行いながら〈ラ・アビス〉の横を通り過ぎた。それに続いて、数騎の黒い飛竜が現れ、ワイバーンロードを青い炎のビームで焼き払っていく。そして飛空船に近付いて、航空機が銃撃で飛行甲板を破壊し、黒い竜が両舷の主翼やマストを青い炎で叩き切っていく。飛空船は瞬く間に落ちていき、敵の排除を確認した航空機は、〈ラ・アビス〉の横に並んだ。それを見た社長は、思わず目を丸くする。

 

「ひ、飛行機だと!?ロデニウス大陸諸国はすでに航空機を開発していたのか!?しかも、あんな軽快な飛行が出来るとは…」

 

社長が驚愕と感心の混ざった声を上げていると、補佐が大声で話しかけてきた。

 

「社長、アレはクワ・トイネ王国竜騎士団の騎みたいです!本機を出迎えに来たとの事です!今後はこの騎が誘導するとの事です!」

 

「なんと…しかし、我が国の戦闘機に比べると、比較的遅れているな…これは協力のしがいがありそうだ」

 

社長はそう呟きながら、平行して飛ぶ航空機ーイモジR‐391B〈サギ2型〉と、2騎の黒竜を見つめた。

この日、クワ・トイネ王国にムーの民間企業リバーウェスト社が来訪し、社長はクワ・トイネ王国政府と協議。結果、リバーウェスト社初の海外工場がクワ・トイネ王国に建設され、ムーの最新技術がクワ・トイネ王国に渡る事になる。




久々に1万字超えた…結構力入れたからなぁ…
次回、ついに戦争が始まります。


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第26話 迫りくる脅威(前編)

本章もついに後半です。


中央暦1639年12月12日 フェン王国 ニシノミヤコ

 

フェン王国王宮武士団十士長アインは、この街の守備を行う地方武士団とともに、ニシノミヤコの守備に就いていた。

市街地の外縁部を囲む様に築かれている土塁と木製の塀、木組み櫓から構成される城壁には木製の塀の裏には竹を束ねた銃弾除けの盾が立てられ、武士達は刀や槍を持ち、弓やクワ・トイネ王国製のボルトアクション式ライフル銃を抱え、水平線の彼方を見る。土塁の各所には近代的な野砲が設置され、櫓には台湾軍から供与されたM2ブローニング重機関銃が備え付けられていた。

軍祭後、日本国政府はパーパルディア皇国のワイバーンロードを撃墜した事や、監察軍艦隊を独断による攻撃で退けた事に関して、現場の責任者を更迭する等と言った混乱があったものの、パーパルディア皇国がフェン王国に対してアクションを何も取らなかった事や、フェン王国自体が戦時体制でない事から、予定通りに日本はフェン王国と国交を樹立した。

フェン王国全体が、何処か昔の日本を思わせる街並みである事と、武士団の活動によって治安が極めて良い事もあって、樹立後はフェン王国と日本・台湾を結ぶ客船などの定期便が出る様になった。その結果、アマノキやニシノミヤコなどのフェン王国の大都市において、日本人と台湾人観光客の姿が多く見られる様になった。この二ヵ国の観光客は他国の観光客に比べて圧倒的に人数が多く、礼儀が正しい上に、金払いもいいので、フェンの民から非常に歓迎されていた。

軍祭にてパーパルディア皇国の監察軍を撃退した事は全土に知れ渡っており、以降フェン王国国民の対日・対台湾感情は極めて良好であり、日本政府外務省と台湾行政院外交部の意図を他所に、三国の関係は非常に親密な状態となっていた。

 

「平和だな…この日常が何時までもあってほしいのだが…」

 

アインは小声で呟きつつ、台湾より供与されたM4カービンの銃身を握りつつ、水平線の向こうを見る。

フェン王国は、日本とフィルアデス大陸のほぼ中間に位置する島国である。台湾といい、沖縄といい、国力も武力も貧弱な島国は大体、戦略的・経済的に重要な要所にある事が多い。アルタラス王国が文明圏外国として有数の発展を遂げていたのも、フィルアデス大陸との距離で、パーパルディア皇国が迂闊に手を出しにくい状態にあったからだ。

しかし現在、パーパルディア皇国はアルタラス王国を瞬く間に平らげて属領と化した後は、王国民を奴隷として酷使させながら軍事基地を建設し、更なる軍備の増強に動いているという。海軍も現時点で300隻レベルの大艦隊を12個有し、揚陸艦の整備やワイバーンの量産も進めているという情報も入っている事から、フェン王国上層部の見解では、そろそろパーパルディア皇国が何らかのアクションを取ってくると見られていた。

パーパルディア皇国は非常にプライドが高い。一度土を付けられた事に対し、確実に皇国は強大な力を以て、その屈辱を晴らしにやってくるであろう。そしてフェン王国は、日本の思惑とは裏腹に、パーパルディア皇国がもし日本にも攻めて行こうとした時に重要となる位置に存在している。

 

「…次は、監察軍などという貧弱な部隊ではない。本物の皇国軍が攻めてくる…!」

 

アインは悲壮な表情を浮かべながら、フィルアデス大陸の方を睨んだ。

 

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クワ・トイネ王国 エジェイ近郊 王国空軍基地

 

エジェイの空を、1機の白い単葉機が飛ぶ。その単葉機は、全て軽金属で出来た機体であり、機首の星型空冷エンジンは高らかに音を鳴らしながら、三枚羽根のプロペラを高速回転させていた。

 

「いやはや、一週間程度で試験飛行に漕ぎ付ける事が出来るとは…」

 

地上の管制塔では、リバーウェスト社の社長がそう呟き、隣にいたシカカも同感という風に頷く。

 

「実は、日本の一部の高校が、修学旅行ついでに我が国に来ておりましてね。日本国政府からもその機体の整備に協力する事を認められているのです。その際、幾つか日本のかつての戦闘機に使われていた技術を入手する事に成功したのですが、その技術を完全に使いこなせるようにするためには、ムーの技術も必要だったのです。エンジンの構造までは調べる事が出来ても、冶金技術までは開示されていませんでしたので。それに、我が国には双発機の開発技術が存在しない。その開発のための技術をムーが持っていると聞いて、此度のリバーウェスト社の提案と来国を受け入れたのです」

 

現在、エジェイ上空を飛行している単葉機、試作制空型機械飛竜〈FX-3901〉は、リバーウェスト社の技術協力を受けて開発に成功した試作全金属製単葉戦闘機で、日本の高校からの技術提供もあって開発に成功した空冷星型8気筒レシプロエンジンを1基装備し、800馬力の機関出力は、ワイバーンロードは愚か、ムー空軍主力戦闘機の〈マリン〉をも上回る時速410キロの速度を生み出していた。また、日本と台湾の経済支援によって生産が開始されたジュラルミンを使用する機体には、かつてロウリア王国が有していたのを改良した対魔弾鉄鋼式装甲の技術が使われており、ワイバーンの導力火炎弾に対してある程度の防御力を付与されていた。

また、武装面でも大幅な改良が行われており、ムーの開発した技術の一つである『機銃同調装置』を使用した事により、機首に機銃を装備する事が可能になり、空戦能力が高い戦闘機の開発が可能になった。

また、ムーに海外工場の用地を提供する条件として、〈ラ・アビス〉の設計図を始めとする大型双発航空機の開発・製造技術を受け取り、国全体の技術力向上に繋げていった。大型双発航空機は今後のクワ・トイネ王国にとって、軍用輸送機や大型爆撃機の他、民間用としても国産の旅客機を開発する際に重要な技術となるからだ。

 

「しかし、この国がここまで発展しているとは…ですが、軍事技術については、進展が遅く感じられますね」

 

「ええ…日本は戦争に余り乗り気ではないらしく、兵器及び関連技術の輸出は台湾とトーパ王国にしか認めていません。その二ヵ国も、片方は『同じ異世界からの転移国であり、水準も等しい友好国』、片方は『対峙している脅威に対抗しなければならないために強大な力の供与が必要とされた国』という事情からのものです。台湾からの技術支援も行われていますが、日本と同水準の力になるまでは、非常に時間がかかります」

 

「フム…我がムーも、すでに通商条約を締結しているし、サンプルとして幾つかの兵器を日本側に提供しているから、技術供与のハードルは低いでしょうな。しかし、ダイダルを訪れた時は非常に驚きました。アレが日本の戦闘機とは…」

 

リバーウェスト社長はそう呟きながら、お忍びでダイダルの街に行った時の事を思い出す。

ロデニウス戦役にて自衛隊・台湾軍合同基地が建設されたダイダルの地は、カイコンやマイハークとエジェイを結ぶ鉄道の開通や、戦後の移民流入などを理由に、周囲に街が形成されていき、平野内からボーキサイトとレアメタルの鉱床が見つかった事もあって、軍事基地が近くにある工業都市として成長を始めていた。その基地に視察しに行った社長は、そこで航空自衛隊の〈F‐15J〉と台湾空軍の〈F‐16B〉を目にしたのである。

神聖ミリシアル帝国の天の浮舟と同じ推進方式ながら、機体は非常に大きく、武装も人力ではなくモーターで回す20ミリガトリング砲に、『ミサイル』という誘導式ロケット弾を装備しているという、明らかに〈マリン〉より遥かに強力な戦闘機を見た社長は、今後は日本にも行ってみようと決意を固めていた。

 

「しかし、最近パーパルディア皇国が怪しいですな…すでにアルタラス王国を我が物にしている皇国は、フェン王国とロデニウス大陸に攻め込む準備を進めていると聞いております。状況次第によっては、我が社も撤退する事になるかもしれませんな…」

 

「それは困りますな…」

 

二人はそう呟きながら、航空機の飛ぶ空を見上げた。

 

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パーパルディア皇国 皇都エストシラント 皇宮パラディス城

 

パラディス城の王の間には、十数人の男女が集まり、会議を開いていた。

その中で玉座に座るルディアスが口を開く。

 

「カイオス、アルデ、アルタラス王国は完全に掌握したな?」

 

「はっ。現在、皇国軍は大部分が撤収し、替わりに統治機構と監察軍が入っております」

 

「また、軍事基地の整備も進んでおり、王国内にあったムーの施設も接収。現在、第一外務局が施設の土地提供権利についてムーと協議を行っているところでございます。飛行機械用の空港の土地の租借料と、第二文明圏に対しての魔石輸出にて、わが国に新たな富がもたらされる事になりましょう」

 

カイオスとパーパルディア皇国軍総司令官アルデ・ファン・ヒンデンガルダ一等陸将の言葉に、ルディアスは満足そうな笑みを浮かべる。しかし、すぐに表情を変えた。

 

「これで、魔石はふんだんに獲得出来るとして…エルト、フェン王国の軍祭にて監察軍を退けた蛮国について判明したそうだな」

 

「はっ。詳しい事は、お手元の資料に」

 

ルディアスの問いに、エルトは小さく頷きながら、ルディアスの手元に置かれた書類を指さして答える。すでにルディアスは書類に目を通しており、大体の内容を把握していた。

 

「『日本』と『台湾』…とかいう国だそうだ。この中にも心当たりのある者がいるのだろう?」

 

ルディアスの言葉に、カイオスはやや表情を暗くしつつ、顔を青くしながら床に座る二人を見る。

その二人は、皇国が世界最強の国となるべく活動する国家戦略局、その文明圏外国担当部の者で、彼らは独断でロウリア王国に出資・支援し、戦争後にロウリア王国から出資・支援の代価として膨大な利益ー古代ロデニウス文明の技術や、亜人などの潤沢な奴隷に、クワ・トイネ公告の穀倉地帯ーを獲得しようと暗躍していた。つまり、ロデニウス戦役の引き金をハーク・ロウリア34世に握らせた張本人である。

戦後、この事はこの二人が隠蔽しようとしていたが、その時の証拠はアルダ新国王のロウリア再建政策の際に明るみに出て、第一外務局や情報局の合同調査もあって、その際にどれだけの出資と支援が行われたのかまでが割れていた。

ルディアスは酷く冷めた声で、国家戦略局文明圏外国担当部の一人、南方担当課長のコラニ・イノスに尋ねる。

 

「イノスよ、貴様は何故、日本と台湾の存在を黙っておった?そしてロデニウスの戦いで、その二か国が支援していた事もだ」

 

「はっ…恐れながら…陛下や他局、皇国正規軍には内密に、ロウリア王国を支援しておりました故…」

 

「そしてロウリア王国が予想に反して敗北を喫し、その際の損失を隠蔽するために、という事か」

 

「…はい…」

 

二人がうなだれて答え、ルディアスは部屋中に響かんばかりの大声で怒鳴った。

 

「この愚か者共が!」

 

『ひっ…!』

 

ルディアスの一喝に、二人は震え上がり、アルデやエルト達はそれを横目に悪趣味なにやけ顔を見せる。

何せ、国家予算の1パーセントにも上る金額に、属国や奴隷出身の兵士を中心とした『軍事顧問』数万人と数百騎のワイバーンを喪失したのである。如何に二線級の旧式装備といえども、文明圏外国同士の戦いでそれら全てを喪失したという事実は、ルディアスを激怒させるに十分な情報といえた。

 

「貴様らが独断でやっていた事は、余に対する背信行為に当たる。その上、甚大な損失を出した訳だからな。しかもそれを隠蔽するとは、言語道断である!」

 

「弁解の…余地もございません…」

 

イノスは地に頭を付け、彼の部下で南方担当係長のコレニ・パルソとともに、見事なまでの土下座を見せた。

そしてルディアスは、エルトに顔を向けて話しかけた。

 

「さてエルト、こやつらには裁きが必要であるな。何か、言い加える事はあるか?」

 

ルディアスの言葉に、二人は目に涙を浮かべながら、『ついにこの時が来たか』と覚悟を固める。しかしエルトの口から出てきたのは、意外な言葉であった。

 

「言い加えるとすればですが…今回の一件、確かに多額の損失を出しましたが、元々の目的は皇国の利益を考えてのものと思われます。彼らは自分達の資産を使って補填しようとした形跡があり、ロウリア王国からも徐々にですが返済が始められております。本来であれば死罪でしょうが、このような忠臣を斬っては逆に皇国の損失。ここは、二人の降格と部署全身の減給1年がよろしいのではないでしょうか」

 

『えっ…?』

 

エルトのまさかの擁護に、二人は思わず顔を上げて、ルディアスとエルトの顔を交互に見やる。

 

「ウム。我らは同じ皇国の気高き民。それは同じ血と文化を共有する身内にしてライバルでもある。謀り合い、出し抜き合い、大いに結構。そうでなくては、国は発展せん。余や皇族を貶めたり、私腹を肥やしたりするのでなければ、存分にやるがよい」

 

状況が飲み込めず、ただ茫然とする二人に対し、ルディアスは意地悪そうな笑みを浮かべながら命じた。

 

「クックックッ…何を呆けておる、彼女に感謝せいよ。イノス、パルソ、貴様らは降格。さらに部内全員1年間給料2割減給でまけてやるそうだ。しっかり損失を補填せよ」

 

国家戦略局局長が、ルディアスとエルトに深々と礼をして、号泣しながら感謝の言葉を述べる二人を下がらせる。そして、会議は再開された。

 

「さて、話を戻そう。まずは日本と友好関係にあるフェン王国と、ロデニウス大陸西部の西ロウリア王国を滅ぼせ。元はと言えばフェン王国に懲罰を加えるのが当初の目的だったのだろう?あそこは昔から文明圏外国の分際で生意気な国だったからな。それに、まだロウリア王国からは完全に損失の決済が済んでいないからな。代価はロデニウス大陸の土地の一部で支払ってもらおう。全世界に我が国の国力と兵力を知らしめるとともに、日本や台湾などという生意気な国はどうなるのか、文明圏外国に思い知らせるのだいいな?地理的にもフェン王国の方が我が国に近いし、落とす事が出来れば、日本と文明圏外諸国への侵攻の足掛かりとする事が出来る。異論のある者はおらんな?」

 

ルディアスの言葉に、一同は黙して頷く。ルディアスはそれを確認して、アルデに尋ねる。

 

「やれるか、アルデ?監察軍を退けた日本の軍が出しゃばってくるやもしれんぞ?」

 

「はっ、勿論でございます。旧式装備の弱軍とはいえ、魔導砲すらよく知らぬ文明圏外国に負けるとは…第三外務局と監察軍は、栄えある皇国の恥さらしでございます」

 

「くっ…!」

 

アルデの言葉に、カイオスと隣にいた監察軍総司令は顔を歪ませる。それを知ってか知らずか、アルデは自信満々に答える。

 

「現在の我が軍の規模でしたら、複数国に対する同時侵攻を行う事が出来ます。いえ、間違いなく勝てます。して、一体どこまで侵攻いたしましょう?」

 

「ふーむ、そうだな…フェン王国とロデニウス大陸西部は完全に占領しよう。間違ってもガハラ神国には構うなよ。あの国は初代皇帝が世話になったからな。忘恩の徒の汚名を余に着せるなよ。いいな?」

 

御意(ア・ハイ)。戦略や作戦は私めに任せてもよろしいでしょうか?」

 

アルデの問いに、ルディアスは意地悪そうな笑みを浮かべながら答える。その表情はまるで、戦いと殺戮を心待ちにしているといった顔であった。

 

「うむ、好きにいたせ。そうだな…戦後はフェンの地はアルデ、貴様にやろう。なんなら大公の地位も貴様に与えよう。引き続き一族郎党に至るまで我が国に忠誠を誓うと約束するのならな」

 

「なっ…!」

 

ルディアスの言葉に、一同は絶句する。何せ、一人の将軍に一国の領土と民が与えられるのだ。そしてそれには公爵から大公への昇格のおまけつきである。しかしそれは、任務の困難さの裏返しでもある。

 

「あ…ありがたき幸せ!」

 

アルデはルディアスに平伏し、感謝の言葉を述べる。そして会議が終わり、アルデは早速準備を始めた。

 

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中央暦1640年1月17日早朝 フェン王国近海

 

日本と台湾が異世界で初の年越しを迎え、三が日も過ぎたある日。

海上自衛隊特殊護衛艦「須佐乃男」は、海中パトロールを行っていた。

対特殊生物戦を想定して作られた本級は、かつて地球再侵略をもくろんだムゥ帝国と戦った海底軍艦「轟天号」の量産型で、海上自衛隊潜水艦のカラーである黒い艦体であるものの、艦内収納が可能なセイルと三連装速射砲、艦首に装備された巨大な黒いドリルと三枚の回転ノコギリと、「轟天号」から受け継いでいるところは多い。艦の性能である高い全環境対応能力に至っては新合金の採用により向上している。

 

「久々に凪いだ海だな…最近は怪獣の連中も大人しくしているし、ずっとこの日が続けばいいんだがな…」

 

神宮寺は小声で呟きながら、非貫通式望遠鏡から送られてきた映像を見つめる。

ここ最近、日本近海は穏やかといっても過言ではない程に静かで平和であり、特殊生物も何故か大人しくなっていた。ちなみに自衛隊やメディアで『特殊生物』と呼ばれている生物は、一般的には『怪獣』と総称されており、自衛隊員も戦闘時以外では普通に怪獣と言う事も多かった。

 

「特殊生物は現在、南方の無人島辺りに落ち着いて、そこで静かに暮らしているみたいですよ。あの辺りは結構海産物とかが多いみたいで、一部はロデニウス大陸に住みかを移したみたいです」

 

「…クワ・トイネ王国とかに被害が及ぶ奴じゃねぇか。ダイダルの連中が忙しくなるな…ん?」

 

副長と会話を交わしていたその時、ソナー手が顔をしかめながら報告してきた。

 

「艦長、方位305より、多数の反応を検知。スクリュー音が探知できないので、帆船と思われます」

 

「何?潜望鏡、方位305に。拡大投影せよ」

 

神宮寺の指示に従い、望遠鏡が指定された方角にレンズを向けられ、遠くの光景を拡大する。すると画面に飛び込んできたのは、大量の帆船の群れであった。

 

「なっ…!?」

 

「何だ、あの大群は!?100は超えているぞ!」

 

大量の帆船の群れに、神宮寺達は目を丸くし、驚きの声を上げる。この世界には『潜水艦』や『魚雷』の概念が無い模様で、あの大船団が「須佐乃男」に攻撃するどころか存在に気付く事もないだろうが、この大船団の進行方向如何では日本に被害が及ぼされる可能性がある。しかも、マストの部分を拡大すると、そこには国旗とおぼしき旗がはためいており、どの国の所属なのかも割り出された。そしてその船団の進行方向は恐らくー。

 

「っ、直ぐに連絡!『現在、パーパルディア皇国の船団がフェン王国に向けて進行中!数は凡そ400』!」

 

「りょ、了解!」

 

直ぐに量子通信で日本本土に伝えられ、自衛隊は偵察機を派遣して調査を行い、この船団がパーパルディア皇国軍艦隊である事を完全に把握。そして他国からの情報で、この艦隊がフェン王国侵攻を目的に進んでいるという事を知り、3時間後に緊急会議が始められた。

 

「諸君、大変由々しき事態が起きた。現在、パーパルディア皇国の艦隊が、フェン王国に向かって進行している。目的はフェン王国の侵略との事だ」

 

垂水の言葉に、一同の表情が凍り付く。軍祭の時の一件で懲りたと思えば、あの時は単に本気でフェン王国を攻撃しようと思っていなかっただけだったのだ。そして現在、フェン王国を完全に滅ぼすために、フェン王国武士団からすれば大軍にも等しい部隊を差し向けているのである。現在、フェン王国には日本人や台湾人の観光客6千人がおり、このままでは間違いなく戦いに巻き込まれる事になるであろう。

 

「総理、ここは直ぐに自衛隊に出動命令を出し、輸送艦で観光客を救助しましょう。さらに民間の客船も動員して、救助人数を増やすべきです」

 

矢口蘭堂官房長官が意見を出し、垂水は渋い表情を浮かべながら答える。

 

「分かっている。しかし、これは我が国だけの問題ではない。台湾とも直ぐに協議を行わねば、現場でどんな問題が起きるか分からん。大体現地には携帯電話用の電波塔はない。外務省からフェンに連絡しても、江戸時代の様に掲示板に警告を張られて終わるのが関の山だ。それでは十分に伝わらない」

 

垂水の懸念に、矢口も苦しい表情を浮かべる。新世界技術流出防止法に引っ掛かって、外国への通信技術輸出を積極的に行ってこなかった弊害が今ここに現れていた。

 

「では、パーパルディア皇国艦隊を止めるべきです。如何に帆船と言えど、パーパルディア皇国艦は『風神の涙』によって無風でも最低10ノットで推進する事が出来ます。恐らくこのままでは翌日にはフェン西部に到着してしまいます」

 

浜本が直ぐに意見を出すが、法務大臣が反論してきた。

 

「まだフェン王国との間には集団的自衛権を盛り込むだけの法整備がなされていない。邦人保護のために自衛隊を出すのであれば、前回の様に護衛艦による接触は出来ないのか?」

 

法務大臣の言葉に、垂水は声を荒らげた。

 

「フェンへの攻撃の意思を明確にされたら、国家間紛争の話になって憲法に引っ掛かる。それとも、また護衛艦に砲撃させて対応させる気か?「やましろ」ならいざ知らず、主力護衛艦の大砲でも、1発当たれば死者が出るんだぞ!しわ寄せを現場に求める様な無責任な事が出来るか!大体、『皇国監察軍と呼ばれる軍を現場の判断で追い返したのは文民統制に反している、やり過ぎだ』と外務省と法務省が音頭を取って糾弾して、「みょうこう」艦長を処分する様な決断を下したのは我々だ。今更どの口が言うか!」

 

垂水の言葉に、吉田と法務大臣は揃って黙り込む。ワイバーンの攻撃を受けた海上保安庁巡視艇「いなさ」乗組員や、監察軍艦隊の攻撃を受けた「みょうこう」乗組員に死傷者が出なかったために、国内世論としては何の問題も

なかったのだが、反内閣派の野党議員やメディアが騒ぎ出したために余計なアピールをした内閣派議員が何名かいたのである。海上自衛隊の人事に言及した勢力の中に、法務大臣の姿もあった。恐らく次回の総選挙でその責任が問われる事になるであろう。

 

「しかし、外務省は何をしている?相手は止められないのか?」

 

「…パーパルディア皇国とは、ようやく外交チャンネルが開けそうなタイミングだ。先程、使節団から第三外務局上層部との会談に成功したとの情報が入ってきている。まだ正式なルートはない」

 

総務大臣の問いに、外務大臣は苦虫を嚙み潰したような表情で答える。パーパルディア皇国の外務省に該当する機関の構造や、パーパルディア皇国がどの様な外交を行っているのかは、垂水達はすでに知ってはいたが、その内容には絶句していた。まず、地域ごとに外交を請け負う部署が局単位で分けられているというだけでも不快であり、自身と同等ないし上位の国には対等に話し合う癖に、格下としている国に対しては、領土や国民の献上を求め、常に武力による脅しを掛けるという、ロシアや中国ですら公然とやらない様なおぞましい行為に、垂水と矢口は吐き気を催していた。

 

「最初のコンタクトから会談まで、一体何ヵ月経っていたと思っているんだ?怠慢にも程があるぞ」

 

「…とにかく、ここで内輪もめしている場合ではない。他に意見はないのか?」

 

垂水が質問を投げかけるものの、他の者達からは芳しい意見は出ず、会議は平行線を辿る。

その間にも、無情にも時間は流れていき、誰も解決策を見出す事は出来なかった。

 

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中央暦1640年1月18日 第一外務局

 

カイオスは、タンザンやレミアとともに、第一外務局に出頭していた。第一外務局の人事課長が『皇帝の命令書』を携えてカイオスに『第一外務局に出頭せよ』という命令を伝えに来たためである。

 

「しかし、第一に出頭せよとは…余り無い事だぞ…」

 

「局長、一体何をやらかしたんですか?」

 

「さぁな…だが、嫌な予感しかないな…」

 

カイオスは二人に返事しながら、局長室の扉の前に立つ。第三の局長室とは全く異なる、絢爛豪華な装飾が施された重厚な扉を眺めて、顔をしかめる。

 

(…何度見ても嫌になる)

 

本来は自分が使う筈だった部屋の扉。折り合いをつけたつもりでも、いつも心の中にくすぶり続ける。

案内役の職員が扉を開け、三人を部屋の中に案内すると、そこにはエルトや第二外務局次長のハンス・ベネムンデ、数人の第一外務局員、そして見慣れぬ20代後半の美女がいた。その女性は、比較的平坦なエルトと違い、その胸は豊満だった。

 

「皇帝陛下直々の御命令で出頭致しましたが…どういったご用件でしょうか?」

 

カイオスが面々に挨拶しながら尋ねると、局長の椅子に座っていた女性が棘のある言葉で話しかけてきた。

 

「分からんのか、カイオス?身に覚えがないわけではなかろう?」

 

女性がそう話しかけると、レミアが顔を青くしてカイオスに耳打ちし始めた。

 

「局長…この方は皇国外務局監査室の幹部の一人で、妾の義姉の一人ですよ…下手に口走ったら、奴隷になりかねないですよ」

 

「なっ…」

 

レミアの耳打ちに、カイオスも表情を青くする。それに気付いた女性は、ニヤリと笑みを浮かべながら、カイオス達に話しかける。

 

「おや、私の義妹が随分と世話になっているみたいだな。いかにも、私は皇国外務局監査室のレミール・ファン・エストシラントだ。今回、第三と監察軍が非常に情けないという話を聞いて、今回の担当を買って出たのだ」

 

レミールと名乗った女性の言葉に、カイオス達に緊張が走る。

外務局の不正が判明した時や、対応に不手際が発生した時を考慮して設置された組織である外務局監査室は、皇帝と皇族を中心とした皇族統制(インペリアル・コントロール)を形にした様な組織で、エリート集団を外部から監査するため、人員は全て皇族で構成されている。そして役目も、外部から外務局を監査し、場合によっては担当者を処分する権限を有し、問題となった外交案件については、監査室の人員が相談役として参加し、必要と認めれば担当者と交替して案件を処理する場合もある。

カイオスは直ぐに非礼を詫びつつ、レミールに尋ねる。

 

「監査室のお方であられましたか…して、一体何の事でしょうか?」

 

「決まっている、日本とかいう新興国との会談の件だ。会談の議事録を見たぞ。何だ、あの第二や第一に来た国賓に対する様な対応の仕方は?」

 

レミールの言葉に、カイオスは冷や汗を流しながら言葉を選ぶ。

先月20日、第三外務局はこれまで諸事情によって延期していた日本使節団との会談に臨んでいた。しかし、その際にカイオスはルディアスから直接『文明圏外の新興国にはきっちりと『教育』する様に』と命じられていたにも関わらず、特に列強の何たるかを日本側に述べる事もなく、そしてパーパルディア皇国に逆らうとどうなるのかを教える事もなく、普通に会談を行って帰したのだった。どうやらその行動が監査室に問題視された模様である。

 

「はっ…お言葉でございますが、私にも文明圏外国を上手く利用するための考えがございまして…」

 

「口答えするな。確かに文明圏外国の担当は第三外務局、局長であるお前の管轄だ。しかし、皇帝陛下は『日本にきっちり教育しろ』と仰せになった。日本のたかが公使に、あろうことか局長以下重役が雁首揃えて対応し、しかもその内容が弱腰外交ーいや、平伏外交と言ってもよい程の無様なものではないか。列強たる皇国の役人がこんな…陛下の御意思も汲めぬとは情けない限りだ。カイオスよ」

 

レミールの言葉に、カイオスは額に汗を浮かべる。フィルアデス大陸南部を支配する皇帝の血筋に連なる者だけあって、その言葉には有無を言わさない重みがある。

 

「今後、日本との外交は第三ではなく第一が担当とする。また、現在『台湾』なる国が接触しようとしている様だが、日本と同じ時期に誕生した新興国で、ロデニウス戦役にて日本と同様にクワ・トイネ公国側に…いや、今は王国か…そやつらに味方していた事も考慮して、台湾も第一が担当する事とする。カイオスよ、言われた事も出来ない愚か者は皇国にはいらぬ。今回処分されなかっただけでもありがたいと思え。我が妹の身柄ともども、せいぜい気を付けるんだな」

 

「はっ…承知しました」

 

カイオスは深々と頭を下げ、部屋から退出する。しかし拳は血が滲み出さんばかりに強く握られていた。

 

(小娘が…偉そうな事を!)

 

レミアが目前にいるために口には出さなかったものの、カイオスが今何を思っているのか、レミアとタンザンは理解出来ていた。

こうしてパーパルディア皇国内での日本・台湾・クワ・トイネ王国の扱いは、第三外務局から第一外務局から権限移譲され、実質的に外務局監査室、その中でも上位の立場にあるレミールが担当する事となった。

 

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皇都エストシラント 平民用ホテル

外務省外交官の朝田敏則は、同僚の篠原秀樹とともに、ホテルの一室で話し合っていた。

 

「しかし、この国は本当に奇妙ですね。街は非常に奇麗ですが、何故か交通を禁止している場所もありますね。どうやらこの大都市にもスラム街があるみたいですが…」

 

「ああ…しかし、皇国の外交官があんな粗暴だとは…しかも、こんな長期間に渡って会談を先延ばしにするなんて…」

 

篠原の言葉に、朝田も同感とばかりに頷く。

皇都エストシラントは、高さ120メートル以上もある皇宮パラディス城を中心に発展した大都市であり、市街地には高さ30メートル程度のローマ・コンクリート製のビルやアパートメントが立ち並び、マーケットは巨大な倉庫型建物の中に造られ、ごみやたばこのポイ捨ては東京以上に厳しくなっていた。道路には馬やケンタウロスが牽引する馬車や、小型の蒸気機関で動く蒸気自動車のバスが走り、人々は貴族から平民に至るまで小奇麗な服装でおしとやかに歩いていた。

見た目だけなら、第三文明圏内でも非常に発展している都市の様に感じられるが、市場が隔離ないし建物の中に閉じ込められている事など、都市ならありがちな『喧噪』が徹底的に取り除かれている事に、朝田達は寂しさを感じていた。

 

「しかし、キーマンさん以外にまともな人はいませんね…この国の人々は見栄っ張りな性分なのでしょうか?にしては大国とは思い難いアイデンティティの人ばかりですね」

 

「だが、戦前の日本だって、相手を完全に見下さない人は少数派だったし、軍人や政治家、外交官は全員現代と同じ常識と感性だったのなら、日韓関係は今より良かっただろうし、軍縮条約会議の時もそんなに揉める事はなかったかもしれんぞ。まぁそれは今になって言えるであろう事だろうが…」

 

安い平民用ホテルの、それでも格式が高い方のホテルの客室で話し合っていると、ドアをノックする音が聞こえて来た。浅田が立ち上がって何事かとドアの方に向かい、大陸共通言語で返事しながら開けると、そこにはタンザンが立っていた。

 

「おや、ストーンブリッジさん。一体何の用事でしょうか?」

 

「朝田殿、篠原殿、カイオス局長からお二人に連絡です。まずは部屋の中に入らせて下さい」

 

タンザンを部屋の中に招き入れると、タンザンは辺りを見回しつつ、小声で呪文を唱える。すると、客室の至る所から緑色の鱗粉状の微粒子が巻き上がる。それを確認したタンザンは部屋中に呪印を施して口を開いた。

 

「実は、本日付けを以て日本と台湾国、クワ・トイネ王国は第三外務局から第一外務局に担当が移ります。しかも、外交担当は監査室の皇族が行われます」

 

タンザンの言葉に、朝田と篠原は目を丸くする。日本や台湾、クワ・トイネ王国と外交を担当する部署が、文明圏外国を担当する第三外務局から、パーパルディア皇国と同等の国力を持つ第一外務局に移ったという事に、ようやく相手は自国の事を認めてくれたかと考える。しかし、タンザンの表情は優れない。

 

「素直に喜べる事ではございません。担当が第三から第一に移ったのは、カイオス局長の会談時の対応が皇帝陛下及び皇国政府にとって望むべきものでなかったという理由で、今後の協議と会談には非常に慎重な姿勢が求められます。特に皇族はプライドが高い者が多く、下手に相手を刺激する様な言い方は謹んで下さい。これからの交渉は非常に厳しいものになるどころの話では済まなくなるでしょう」

 

タンザンの言葉に、朝田達は眉を顰める。先程彼が行っていた魔法は、盗聴防止のための処置なのだろう。確かに魔法を使う能力がないとはいえ、これは不用心であった。

 

「兎に角、これからはお気を付けください。下手すれば、『事故死』にされる事もありますので。では…」

 

タンザンはそう言って呪印を解除し、部屋から出ていく。そして朝田と篠原はそれを見送りつつ、不安そうな表情を浮かべた。




次回、戦争開始。


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第27話 迫りくる脅威(後編)

後編です。しかしweb版でマギカライヒが予想外の戦果を手に入れるとは…


中央暦1640年1月18日 フェン王国 ニシノミヤコ城

 

「敵艦隊、来襲ー!」

 

ニシノミヤコ西部の小島に築かれた監視塔より、台湾軍から供与された無線機で、パーパルディア皇国軍の接近が知らされる。ユキヒサ・ゴダンはその報告を聞きつつ、指示を飛ばす。

 

「直ちに市街地に避難勧告を発令せよ!さらに王都及び周辺大名に対し、増援を要請!部隊は総員第一種戦闘配置につけ!とにかく一刻でも長く、敵の侵攻を防ぐのだ!」

 

『御意!』

 

「アイン、お前は日本人と台湾の観光客に避難指示を飛ばしつつ、住民達を東へ避難させろ!急げ!」

 

「ぎょ、御意!」

 

ゴダンはアインに指示を飛ばしつつ、城の天守閣に設けられた司令部に入り、幾つも設置された通信機に耳をすます。

 

『港湾部城塞、応戦準備よろし!』

 

『西部海岸防衛線、迎撃準備よろし!』

 

『西部監視塔、敵艦隊の詳細送る!数、砲艦280、竜母20、揚陸艦100!』

 

各地からの報告に、ゴダンは悲壮な表情を浮かべるも、直ぐに表情を戻して指示を飛ばした。

 

「港湾部城塞は全ての砲台に展開し、敵を迎撃せよ!詰所の者は直ちに出撃し、住民と観光客の避難誘導を行え!西部海岸防衛線は敵艦隊が射程圏内に入り次第、攻撃を開始せよ!増援の到着まで奴らの侵攻を許すな!」

 

ゴダンの命令に従い、武士団は戦闘態勢を整えていき、敵を迎撃する準備を終えていく。

そして正午前、後に『ニシノミヤコ会戦』と呼ばれる事になる戦闘は開始された。

 

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パーパルディア皇国海軍第四艦隊 旗艦「パール」

 

皇国海軍の力の象徴たる120門級超フィシャヌス級戦列艦の船楼では、シウスがワイバーンロードからの情報をもとに、指示を飛ばしていた。

 

『敵は港湾部に魔導砲を配備し、厳重な防御を敷いている模様。また、銃も配備している模様』

 

「国家戦略局が大海賊や空賊に横流ししていた兵器が、フェンの方にも流されていたみたいだな…だが、横流しされた兵器が最新鋭と思うなよ。竜母は直ちにワイバーンを発艦し、航空支援攻撃を開始せよ。さらに戦列艦隊は二手に分かれ、港湾部と海岸の防衛拠点を破壊せよ。列強の人間もいない土地だ、文明圏外国人には容赦するな!」

 

『了解!』

 

シウスの命令は直ぐに全ての部隊に伝えられ、竜母からはワイバーンが連続して発艦し、ニシノミヤコの港湾部に向かう。大型揚陸艦からは、ワイバーン製造技術の進展によって開発された輸送型ワイバーン、ワイバーンキャリアが飛び立ち、背中に鉄製の歩兵防護コンテナを背負い、翼とは別の両足を使って上手にホバリングしながらもう一つのコンテナを掴み、ニシノミヤコに向かう。

戦列艦は隊列を組んで砲撃を開始し、魔導榴弾の雨が海岸や港湾部の城塞に降り注いで、これらを破壊していく。

フェン王国武士団も、堤防上に設置された榴弾砲で応戦するが、砲門数で圧倒的に劣っており、瞬く間に数の暴力で潰されていく。

海岸の防衛線も同様で、ワイバーンが上方から導力火炎弾を吐いて砲兵を焼き、そこに揚陸艦から小舟で出た歩兵が上陸していく。

歩兵は艦砲射撃によって均された浜辺を、横に列を組んで前進し、ニシノミヤコに向かう。すると、浜辺の中に偽装して作られた塹壕からフェン王国武士が現れ、不意を突かれたパーパルディア皇国軍は銃を構えるのも忘れて混乱をきたす。

しかし、後方にいた歩兵がすぐに臨戦態勢に入り、銃撃を開始したため、カットラスタイプの剣と拳銃程度しか有していなかったフェン王国軍は瞬く間に連発式ライフル銃に撃ち倒されていく。そしてパーパルディア皇国軍は、200名程度の犠牲を出しつつも、海岸防衛線を落としたのだった。

 

『海岸防衛線、攻略を確認。我が方の死者は200名程ですが、敵歩兵400は殲滅しました』

 

『港湾部城塞、沈黙を確認。敵軍詰所は完全破壊されました』

 

『こちら第3竜挺大隊、ニシノミヤコ城への奇襲に成功。我が方の被害は軽微なり』

 

魔信機からは次々と戦況が報告され、シウスは満足げな笑みを浮かべる。

 

「意外と苦戦した様だが…予定通りにニシノミヤコを落とせそうだな。揚陸艦は入港次第、リントヴルムと機甲歩兵を陸揚げせよ。後は陸軍の仕事だ」

 

シウスは部下にそう指示を出して、艦内に戻っていった。

 

この日、フェン王国ニシノミヤコは、兵士3000人と民間人2000人の犠牲を出して、パーパルディア皇国の手に落ちた。

そして、後にこの地で起きた悲劇は、この世界の歴史を変える切っ掛けとなるのだが、それはまだ先の話であった。

 

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同日 西ロウリア王国 首都ザン・ハーク

 

かつてのロデニウス戦役の際に、ゴジラと鉄甲鎧虫の手によって破壊されたこの地は、日本と台湾の経済支援を受けて復興が進み、今では近代的な鉄筋コンクリート造りのビルがぽつぽつと建っている、ロウリア王国から分離独立した新興国の首都として再出発していた。

 

「しっかし、ザン・ハークも変わりやしたなぁ。4か月前はもう駄目なんやないかというぐらいに破壊されていたっちゅーうのに…やっぱ日本の技術力は違いまんなぁ」

 

ザン・ハークの近代化された港湾で、商船の船長は葉巻を吸いながら、ザン・ハークの近代化されつつある街並みを見つめて呟く。

ロデニウス大陸全体での積極的な近代化・殖産興業政策は、短期間でロデニウス大陸の文明・技術水準を西暦1900年代ヨーロッパに近いものにし、全ての国に日本の規格で敷設された鉄道が走り、港湾には国産の大型商船が停泊する光景も日常の一風景になりつつあった。特に日本と台湾の冷蔵庫に等しいクワ・トイネ王国と、燃料・金属資源の供給源であるクイラ王国の発展は目覚ましいものであり、軍事以外では西の列強ムーすら凌駕しているとも言われている。

 

「やっぱ、ロウリア王国はおもろくない亜人殲滅政策を捨てて、日本や台湾と仲良うやった方がよかったやろな…ん?」

 

すると、反対側が何やら騒がしくなり、船長はその方に向かう。そこでは、数人の船員が、海の方を見ながら騒めいていた。

 

「どないした、お前ら。人魚か半魚人のべっぴんさんでも見たんか?」

 

「せ、船長!あっちの方を見て下さい!」

 

船員が声を震わせながら水平線の向こうを指さし、船長は目を細めてその方向を見る。すると、彼の目に、幾つものワイバーンの群れが来ているのが見えた。そして水平線上には、数十もの船の影が見えた。

 

「何や?海軍さんの演習か?」

 

船長が首を傾げながら呟いたその時、ワイバーンの群れはザン・ハーク上空に到達し、市街地に向けて導力火炎弾を吐いた。

魔導力で出来た火の玉は、瞬く間に地面で炸裂して、道路を走っていた日本産自動車や市民を吹き飛ばす。煙とともに悲鳴が起き始め、混乱が巻き起こる。そして商船の船長達も、その混乱の最中に陥った。

 

「な、何や!?どないして攻撃してー」

 

船長が疑問を口にしたその時、望遠鏡を取り出して船影の方を見ていた船員が、悲鳴を上げた。

 

「ぱ…ぱ…パーパルディアだぁぁぁぁぁ!!!???」

 

船員の悲鳴に、船長達は揃って目を丸くして、叫んだ船員を見た。

 

「皇国の艦隊やと!?何でや、うちら関係ないやろ!?」

 

「と、兎に角ここを離れましょう!船長、急いで下さい!」

 

船員達が大慌てで出港準備を始める中、ワイバーンロードの編隊は胴体部に航空爆弾を抱えながらザン・ハーク上空に飛来し、城や重要地点に爆撃を行っていく。首都付近の防衛基地から飛竜騎士団が緊急発進(スクランブル)したが、飛竜騎士団の戦力がワイバーン原種50騎に対し、パーパルディア皇国軍艦隊から発艦したワイバーンはロード種が15騎。数は圧倒的に西ロウリア王国軍飛竜騎士団の方が上であるが、ワイバーンは成体になったばかりの若い個体ばかりで、竜騎士も訓練学校から出たばかりの新米ばかりであった。

空中戦は戦歴も経験も豊富なパーパルディア皇国軍の圧倒的優勢で、瞬く間に西ロウリア王国軍飛竜騎士団は33騎が落とされ、日本や台湾の兵法書を基にした戦術でどうにか善戦しても、パーパルディア皇国軍のワイバーンはたったの4騎しか落とされなかった。

残る17騎も、導力火炎弾で翼を焼かれて墜落し、地面に激突したところを導力火炎弾で炭になるまで焼かれ、制空権は完全にパーパルディア皇国軍が掌握する。

そして商船が逃げ出す中、皇国軍艦隊は隊列を組み、一斉に艦砲射撃を開始した。

中には、アルタラス王国戦にも参加した最新鋭戦艦「カイゼラ・ネルロ」の姿もあり、大量の砲弾が降り注いで港湾部の西ロウリア王国海軍軍艦をスクラップに変えていく。

 

「ふっ、案外脆いものよのぅ」

 

戦艦「カイゼラ・ネルロ」の艦橋で、一人の華美な衣装に身を包んだ女性が、炎に呑まれていくザン・ハークを眺めながら呟いた。この「カイゼラ・ネルロ」は皇国海軍の最新鋭艦である事から、皇国海軍の顔となる最新鋭艦の艦長は皇族が務めるという慣習に基づき、この女性は皇族の身として、この艦の艦長を務めていた。

 

「ネリア艦長、敵軍の防衛能力は完全に喪失致しました。後は陸軍の出番となります」

 

「分かった、副長。しかし、最近物足りぬな…文明圏外の者共は、ムーより弱くて困る。これでは戦いをした気になれん」

 

ネリアと呼ばれた女性の言葉に、副長は苦笑を浮かべつつも、乗組員に新たな指示を出していく。

すぐに揚陸艦から上陸用舟艇が出され、陸軍の部隊はザン・ハーク市内を制圧していく。

こうして、ニシノミヤコが陥落したのと同じ時、ザン・ハークもまた、パーパルディア皇国の手に落ちたのだった。

 

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同日 アルタラス島東沖合

 

パーパルディア皇国の手に落ちたばかりのアルタラス島の近くを1隻のクルーザーが航行する。

そのクルーザーのデッキ上では、一人の男が数十人の男女の前で演説を行っていた。この船に乗っているのはNGО職員が主であるが、その中には現職の与野党議員や各種の運動家も混じっていた。

 

「いいですか、皆さん。これより私達『新世界友好平和促進クラブ』が向かうのは、パーパルディア皇国アルタラス州です。パーパルディア皇国は日本の近くにある国で一番大きな国で、日本の新たな隣人かつ、貿易・文化交流等のよきパートナーとなるであろう国です。私達は彼の国に対し、日本の素晴らしい文化と技術を披露し、一層振興が深まる様に頑張っていきましょう!」

 

『おー!』

 

会長の言葉に、一同は歓声を上げる。その様子を、後ろから数人の議員達が見ていた。

 

「しかし、彼らは本当に呑気なものですねぇ。相手がこんな直ぐに対応してくるなんて、おかしいとも思わずに…」

 

「いいじゃないですか。シオス王国であんなに成功したばかりなんですから。それに、相手も結構乗り気で反応していましたし」

 

片方の若手議員の言葉に、中年男性議員は複雑そうな表情を浮かべる。

彼らは日本の新世界転移後、国内外にて積極的な日本の常識と情報、そして旧世界に関する事を政府から指示される事無く喧伝していた。そして文明圏外国の一つであるシオス王国にて、国交の樹立にも大きく関与した事から、彼らは非常に味をしめていた。

 

「かつて、フェン王国にて行われていた前時代的かつ戦争賛美的な祭典にて、自衛隊は愚かにも、文民統制から外れて勝手に行動し、パーパルディア皇国に対して攻撃を行いました。真に残念な事です。平和主義の使者たる我が国が、この様な自分から戦いを挑む様な愚行を犯しました。我らはその様な愚かな者共と違い、ひたすら武器を見せびらかして相手を挑発する様な者ではないという事をパーパルディア皇国に分かってもらうだけでも、我らの行動は価値があります!皆さん、頑張って我が国のいいところを披露いたしましょう!」

 

リーダーの言葉に、男女は揃って歓声を上げ、議員達はやれやれと首を横に振る。やがて、クルーズ船はアルタラス島北部の港湾部にまで接近し、そこで減速する。すると、1隻の巨大な軍艦が現れ、クルーズ船に接近する。

 

「なんてデカい木造船なんだ…しかも、双胴船とは…」

 

「週刊誌の海賊マンガにすら出て来なさそうなフネですね…」

 

クルーザーのブリッジで、船長達は気楽に会話を交わしながら、目の前の巨大艦を見つめる。すると、巨大艦はクルーズ船の真横に停止して1隻のボートを出し、数人の男達がそれに乗ってクルーザーに向かって行く。

 

「使者が来ました!」

 

「よし、本船に乗船させよ」

 

船長の指示に従い、船員達は丁寧な対応でパーパルディア皇国側の人員をクルーズ船に乗せる。そしてリーダー格とおぼしき、狐の様な吊り上がった目をした男が、NGО会長の前に立つ。

 

「パーパルディア皇国統治機構より派遣されました、皆様の担当を行うカリュ・フェックと申します」

 

「こちらこそ初めまして。私は『新世界友好平和促進クラブ』の会長を務めている、柳川と申します。此度、私達は政府の意向とは別に、パーパルディア皇国の皆様に、我が国の事をよりよく知ってもらおうと、皆様に対してコンタクトを取りました」

 

柳川の言葉に、フェックはにやりと笑みを浮かべつつ、穏やかな口調で答える。

 

「そうですかそうですか。本来ならば第三外務局が皆様の対応を行うのですが。貴国は我が国の皇帝陛下が興味を示されているため、アルタラス島にて会談に移りましょう」

 

「そうですか!ありがとうございます!」

 

柳川は満面の笑みを浮かべてフェックの手を取り、上下に激しく振る。そしてフェックは幾つか話を交わし、ボートに戻る。そこで彼は、部下に命じる。

 

「アルタラス州統治機構に到着次第、直ぐに奴ら全員の身ぐるみを剥がせ。その中で技術者と料理人は丁重に本国に送り…扇動者気取りの連中は奴隷としろ。奴らは自分達の国とは全く別に行動している連中との事だ。奴らの処遇など、奴らの国の政府がどうこう言える事ではなかろう」

 

フェックはそう言いつつ、獣の様な獰猛な表情を浮かべる。

 

「どうやら、中には若い男女もいる様だ。レミール閣下やシュサク長官のお目に適う奴もいるかもしれん」

 

「では、そのおこぼれは我らが。そして老いぼれは始末か、鉱山送りですな」

 

「そういう事だ。鮮度が命だからな、直ぐに飛空船の手配をしろ」

 

「御意!」

 

1時間後、クルーザーはアルタラス島に到着。

『新世界友好平和促進クラブ』の一行は全員統治機構に招かれた。

しかし、彼らは知らなかった。今の日本に反するこの行為が、自分達に絶望的な破滅を、日本に戻れぬ修羅の道を招く事になる事を。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

中央暦1640年1月19日 日本国東京都世田谷区

 

世田谷区のある居酒屋で、一人の女性が飲んだくれていた。

 

「なぁんでかんちょ~が、あんな酷い処分を受けなければならないんですかぁ~」

 

すっかりアルコールの回った種田に、藤田と数人の女性自衛官は苦笑を浮かべながら、彼女の愚痴に耳を傾ける。

 

「種田、まだ軍祭の時の事を引きずっているの?もう吹っ切れた筈じゃないの?」

 

藤田がうんざりしている様な表情を浮かべて話しかけ、種田はきっと藤田を睨んで大声で怒鳴る。

 

「だって、あの時の行動を『文民統制に反する』といちゃもん付けられたんですよ!アレ自衛隊に許可された作戦行動の範囲内だと言うのに!」

 

「まぁ政府内でも、あの処罰はやりすぎだという声は出てるけどね…しかし、ずれ込みとはいえ「みょうこう」の艦長になるなんてね」

 

種田の同期である女性自衛官、中島月美が、ハイボールの入ったグラスを傾けながら言うと、種田はふくれっ面になって呟いた。

 

「望んで昇進したわけじゃないし~、それにアレは美玖さんみたいに、上官の責任を引き継ぐ形での人事異動だし~」

 

種田の呟きに、藤田も渋い顔を浮かべる。そして彼女は、中島に目を向けて言った。

 

「それに比べて咲夜、アンタは本当に羨ましいわよ。人事異動ではなく、実力でもって新型艦の艦長に任じられたんだから」

 

「新型艦…「はつづき」の事ですか…アレ、従来の護衛艦よりも扱いづらいんですよね。常に機関科にクワ・トイネの魔術師を乗せていないといけませんし、魔法に詳しくない人ばかりですし…何より復元性が心配ですよ」

 

中島が任じられた新型艦、護衛艦「はつづき」は、海上自衛隊のあきづき型汎用護衛艦の改良型で、純国産の艦隊防空システムと新装備の15式艦対空ミサイルを装備しているが、特徴はそれだけに限らず、転移世界の軍艦は、ミサイルが勿体ないぐらいに防御力の低い木造船が主力という事もあり、主砲は防衛装備庁が新規開発した60口径10.5センチ連装砲を装備し、舷側には30ミリRWS(無人銃架システム)や40ミリグレネードランチャーを配置している。そして最大の特徴として、機関に魔導技術を使用しているという点であり、ガスタービンエンジンに魔導技術を組み込む事により、燃費や出力、連続稼働時間の向上に成功。また、吸排気システムにも、アルタラス王国からの亡命者から提供された『風神の涙』や、熱エネルギーを炎魔法に変えて、そこから雷魔法に変換した上で電力に変える魔導発電システムを組み込んだ事により、艦船設計にも幾らか発展がもたらされた。なんせ世界のあらゆるエネルギーを無駄なく使う魔導技術を使えば、燃料から生み出されるエネルギーをより効率的に使用する事が出来るからである。しかもその根幹となる魔導技術は、ロデニウス大陸の魔導師達が使い道を見いだせずに持て余していたものだったため、日本のもたらした科学技術や知識の応用で発展させるだけの余地があり、今もなおその改良は続けられていた。

 

「「やましろ」をテストベッドとした科学魔導混成技術を使用した技術が、こんなにも早く正式採用されるなんてね…しかもこの事を切っ掛けに、政府はロデニウス大陸諸国に対して新世界技術流出防止法の一部緩和も決定したそうだし…」

 

「そういえば、『航空護衛艦』も1番艦がそろそろ就役するそうね。アッチもふんだんに魔導技術を使用しているそうだし…」

 

「後、佐世保には今、ムーからサンプルとして提供された…ラ・ジフ級って言うんだっけ?富士型戦艦に酷似した軍艦が停泊しているわよ。この後クワ・トイネ王国に譲渡されるそうだけど…」

 

「大口径砲の製造技術は、クワ・トイネ王国が昔から欲しがっていた技術だからね…それに明治時代の戦艦なんて、「やましろ」の35.6センチ砲とSSMで十分に対処可能だし…」

 

藤田達が自分達の仕事に関わる会話を交わしていると、その中で一人、静かにビールを飲んでいた女性が、不意に口を開く。

 

「そういえば、兄から聞いたんですが、今政府は、どうにかパーパルディア皇国と接触出来ないか、模索しているそうです。兄の知人によると、パーパルディアの外務省に該当する組織は非常に複雑で、コンタクトを取る事すら難しいそうです」

 

女性の言葉に、種田と藤田はそろって嫌そうな顔を浮かべる。

 

「パーパルディアと?撤収要請を聞かず、招待されていない式典に突然攻撃してくる様な国と外交出来るのかしら?」

 

「あの『新世界友好平和促進クラブ』とかいう頭の中がお花畑の連中が勢い増している状態とはいえ、周辺国から良いように思われていない国と関係を結べるものなのかしら…」

 

種田と藤田の言葉に、女性は言葉に困る様な表情を浮かべる。無理もない、実際彼女達は、フェン王国の軍祭でパーパルディア皇国軍の暴力を目の当たりにしているのだから。

 

「朝田さん、今あなたのお兄さんは何をしているの?確か、外務省の外交官だったわよね?」

 

「ええ…今、その件の国に、使節団の一人として行っているらしくて…それでちょっと心配なの…」

 

「ああ…だからこの話題振ったのね…」

 

彼女達が会話を交わしていると、不意に外が騒がしくなってきた。

 

「あら、何かしら?」

 

藤田は、首を傾げながら席を立ち、外に出る。すると、不意に一枚の紙が彼女の顔に張り付き、藤田は思わず後ろに転倒しかける。

 

「キャッ!?」

 

「な、なんだこれは…?」

 

「ビラ、か…?」

 

「お、おい!上を見ろ!」

 

藤田の顔に張り付いたのと同じ、少し質の悪い紙が道路中にまき散らされ、その場にいた人達は揃って首を傾げる。すると、上を見上げた男の大声が響き渡り、一同は空を見上げる。すると上空には、舷側から何枚もの巨大な翼を生やした、1隻の巨大な帆船の姿があった。

 

「キャアアアアア!?」

 

「な、なんだアレは!?」

 

突然現れた、謎の帆船に、一同は慌てふためき、混乱が加速する。

 

「な、何よ、一体…」

 

藤田は小声で呟きながら顔をしかめ、上空を低速で飛行する帆船を見つめた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

首相官邸

 

「一体何が起きている!状況を報告せよ!」

 

垂水は首相官邸の通路を勇み足で歩きながら、部下や閣僚に尋ねる。

午後9時になろうとしたその時、突然東京上空に5隻の飛空船が現れ、都内23区各地に現れては、至る所にビラをばらまき始めたのだ。この5隻は何らかの視覚的に姿を隠す魔法で来ていたらしく、前々から日本国内の早期警戒レーダーで捉えていたものの、迎撃機が直ぐに出撃して調べても、視覚的に捉えられないためにその正体が不明であったため、有効な迎撃を行う事が出来なかった。また、サイズも通常の飛空船とは全く違うレベルのサイズであったため、例え正当防衛で撃墜しても、その後の被害の方が甚大なものになるとして、軍祭での一件後、風当たりが厳しいものになっていた自衛隊上層部は攻撃許可を出せずにいた。

 

「現在、国籍不明飛空船は、時速30キロで首都上空に展開。ワイバーンを飛ばしては威嚇飛行を行い、ビラをばらまいております」

 

「ビラとは、どういう内容が書かれている奴だ?」

 

「それが、全て第三文明圏共通文字で書かれたものらしく、専門家以外、解読は不可能でして…」

 

垂水が部下から話を聞きながら歩いていると、外の方が騒がしくなり、垂水は走って外に出る。すると、目の前を数騎のワイバーンが通り過ぎ、風が舞う。

 

「うおっ…!」

 

垂水は全身で風を浴びつつもこらえ、上空を見上げる。すると、そこには1隻の飛空船がおり、飛空船は垂水に向けて矢を飛ばした。

 

「!?」

 

垂水は咄嗟に避け、弓矢は地面に突き刺さる。その弓矢には一つの筒が付けられており、その筒を取り出すと、その中には一枚の書類が入っていた。

 

「何だ、この書類は?」

 

垂水が疑問を呟いたその時、突如、飛空船の側面に映像が浮かび上がり、垂水はそれに気付いて見上げる。その四角形の立体映像は、一人のドレス姿の女性を映し出していた。その20代後半とおぼしき銀髪の女性の胸は豊満だった。

 

『…文明圏外の野蛮人共に達する。我が名はパーパルディア皇国外務局観察部幹部にして、第三文明圏を支配するエストシラント皇家の一族、レミール・ファン・エストシラント。日本とやらの野蛮人の国の王よ、心して聞くがよい』

 

レミールと名乗った女性の尊大な物言いに、垂水は思わず不快感で顔をしかめる。レミールは口調を変えずに、後ろの十字架に張り付けられた男女数人の姿を映す。それを見た垂水は、自分に駆け寄って来た閣僚達とともに目を丸くする。

 

「あ、あれは『新世界友好平和促進クラブ』の柳川会長達!?」

 

「彼ら、幾らNGОだからといって、迂闊に直接接触しようとしたのか!?」

 

浜本や吉田が驚愕の声を上げる中、画面内に数人の屈強な身体の男達が現れ、それぞれ鞭や棍棒を取り出しては、それを手にして柳川達を取り囲んでいく。レミールはそれを確認しつつ、再び口を開く。

 

『この者共は先日、我が国のアルタラス州に侵入しようとし、我が属国に叛乱を起こさせようと目論んでいた。そして愚かにも、『民主主義』に『平和主義』などという腑抜けた蛮族の考えを我らに押し付け、皇国に未曽有の混乱を引き起こそうとしていた。我らは皇国に対する危険性を考慮し、この生意気な者共に『教育』を施す事を決定した』

 

『そ、そんなのは言いがかりだ!私達は本当に、日本とパーパルディア皇国が真の友好関係を結べる様に働きかけていただけなのに!それに、この接触は貴方達の方から求めてきた筈ではー』

 

柳川が必死に反論しようとしたが、直後に拷問係が鞭を振るい、柳川を黙らせる。レミールは横からその様子を笑みを浮かべて見つつ、話を続ける。

 

『蛮族の奴隷如きが生意気な事を吠え立てた様だが、そんなものは関係ない…問題は、フェン王国と西ロウリア王国を攻めた時の事である』

 

その言葉に、垂水達は嫌な予感を察した。そして不幸にも、それは現実のものとなった。

 

『先日、我が無敵の皇国軍は、フェン王国西部のニシノミヤコと、西ロウリア王国の首都ザン・ハークを陥落させた。その際、我が軍へのスパイ行為をしようとした容疑で、本日、貴様らの使者の前でニシノミヤコで捕らえた日本人及び台湾人311人と、ザン・ハークで捕らえた日本人及び台湾人117人を『始末』した。これで我らの要求を大人しく飲むと思えば、無駄に吼えてきたわ。この後アマノキにいる日本人めも無駄に処分する事になるというのに…』

 

レミールの言葉に、垂水は驚愕とともに、怒りの感情がこみ上げてくる。相手は日本と台湾をパーパルディア皇国よりも圧倒的に劣る発展途上国と決めつけ、その国民をまるで害虫を駆除する感覚で殺したのだ。

 

『さて、再三皇国の『教育』に従う余地を潰してきた貴様らに、改めて大パーパルディア皇国皇帝陛下ルディアス・ファン・エストシラントの名において、貴様らに我らの要求を伝えよう。日本及び台湾は直ちに我らの軍門に降り、属国として皇国の全世界統一に従事せよ!王族と宰相は全て皇国の皇族とし、従来の王族は全ての王女を皇帝陛下に差し出し、男は全て処分せよ。現時点で貴様らの持つ資産と資源、技術は全て我が国に差し出し、毎年決められた数の奴隷を献上せよ。法律の執行・改正権を全て皇国政府に譲り渡せ。司法・立法・国会三権の権利も義務も皇帝陛下に譲渡せよ。貴様らの民も、資源も、資産も、全て我が皇国のものとなれ。もしこの要求を飲まぬ場合は、アルタラス王国やフェン王国とともに、我らが列強に歯向かった者共の末路を味わいながら滅びの道を辿る事になると思えよ。ハーッハッハッハッ!!!ハーッハッハッハッ…』

 

映像はそこで終わり、飛空船は悠々とした様子で引き上げて行く。その様子を見送りつつ、垂水はビラを見る。それには丁寧にも『新世界友好平和促進クラブ』の者達から聞き出したのか、しっかりと日本語の文字で、パーパルディア皇国の要求が書かれていた。そしてそれに目を通すうちに、垂水の腕が震え始める。そして不意に、ビラをぐしゃりと握り潰した。

 

「これが…これが、人間のやる事か!!!何が列強国だ!人々から全ての幸福を奪う事が、貴様らの正義か!!!」

 

古来からのやんごとなき者の地位を貶め、民を率いる義務を根こそぎ奪い、国民全員の自由を皇国の好き勝手にさせる。そしてその暴力と略奪に歯向かう者には死しか与えない。そのやり方は古代の覇権国家ですらやった事がない程の規模であろう。

その後、飛空船は自衛隊が先制攻撃出来ないのをいい事に日本各地を飛び回り、同じ様な映像を流して日本上空から退去した。そして次にクワ・トイネ王国やロウリア王国上空にも現れ、同じ様な宣言を行い、その場から立ち去って行った。台湾に対しては、直接皇国海軍第一艦隊が出向いて使者が宣告書を出し、猶予付きでの属国化を命令した。この皇国の行いに、多くの文明圏外国は震え上がり、いつ自分達にも同じような刃を向けてくるのかと恐怖に慄き、中央世界や第二文明圏ですら、パーパルディア皇国の自信しかない様子に不安を抱いた。

しかし、この世界全ての者達は知らなかった。このパーパルディア皇国の行った行為が、かつて70年以上前、10倍以上の国力があった世界最強の国に戦いを挑み、国土の殆どを焼き尽くされるまで降伏しなかった日本人の、何度も怪獣に攻められてもなお故郷を捨てる事を良しとせずに抗い続けた、遥か昔からの武士(もののふ)の血を、永き眠りから解き放つ事になる事を。そしてこれが、後に『文明圏の定義を根本から覆した戦争』とも称される『第一次文明圏大戦』の幕開けを告げる宣告となった事を。




次回、ついに日本が動き出す。


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第28話 日本国の意思

さて、遂に戦争開始です。
ちなみに前回とは違い、容赦はしません。というか自衛隊と台湾軍が無双します。


中央暦1640年1月21日 日本国東京都 首相官邸

 

「間もなく記者会見が始まります!」

 

レポーターの言葉に、記者達は色めき立ち、閣僚が出てくるであろう扉に目を向ける。国内の大使館では、クワ・トイネ王国やクイラ王国といった友好国の使者達が、大使館内に設置されているテレビに食い入る様に見つめ、日本各地のテレビでも同じような光景が見られていた日本との交流により昭和30年代後半レベルでテレビ放送やラジオ放送が普及したクワ・トイネ王国でも、多くの民衆がテレビの設置された街頭広場に集まり、家では多くの者が魔信型ラジオに耳を傾ける。このラジオは日本のもたらした電波指揮ラジオの仕組みを応用して開発されたもので、従来の魔導通信にも十分に対応する事が出来る事から、電力化の進んでいない地域では非常に愛用されている。

そして、スーツ姿の垂水が会見場に入室し、一斉にカメラのストロボが焚かれる。その中にはエルフ種のクワ・トイネ王国にある報道機関や民間メディアの記者も混じっており、そこから垂水は改めて『これは間違いなく夢ではなく異世界で起きている事なのだ』と感じる。

後の歴史書にて『東京の屈辱』と呼ばれる事となる日本側の法的な防衛の不備と、軍祭での政治的なダメージから回復出来ていなかった政府の思考の隙を突いた形となったパーパルディア皇国の暴挙は、日本全体に衝撃を与えており、これまで左翼的な言動の強かった者や新世界の魔法を軽視していた者は、大バッシングを受けた後に生命的にも沈黙する者まで現れる始末となり、『新世界友好平和促進クラブ』と繋がりのあった者は、片や同情の眼差しで見られ、片や孫の代まで侮蔑されるという極端な視線に晒された。そしてこの中で自衛隊を批判する者は少なかった。

というのも、パーパルディア皇国の飛空船は『光学処理』に『完全遮音』という、SFでしか見た事のない様な高度なステルス処理をこれ見よがしにと全ての目撃者に披露しており、これが防衛省の発表した『レーダーでは捉えているのに肉眼では確認出来ない』という、幽霊をレーダーで捕捉している様な奇妙な現象の解明に繋がった。

また、例え捕捉していたとしても、飛来してきたのは全長150メートルから200メートル級の蒸気機関を動力とした木造船である。並みのジェット旅客機よりもずっと大きく、飛行船よりも木材や金属が占める体積が大きいデカブツを撃墜した時、その際に降ってくる残骸による二次被害は考えたくもない。そして何より、軍祭での一件で自衛隊が肩身が狭い状況下で、怪獣とは違い、明確に意思疎通が出来る人間が多数乗り込んでいる国籍不明機に警告をする事すら慮られた状況下で、すぐに撃墜する様に命じる方が暴虐というものである。特にパーパルディア皇国は現在日本が国交を結ぼうとしていた国の一つでもあるため、軍祭の一件を再現しない様に、政府と自衛隊はその配慮に苦慮していた。

しかし、その心配を『新世界友好平和促進クラブ』の独断専行と、パーパルディア皇国の現代ロシアや中国ですらやらない様な、中東のイスラム原理主義武装勢力よりも大規模な暴挙が全て無駄にした。皇国の『大国だからこそ無意味な圧政や暴挙は許されて当然である』という考えに、最早垂水の心の内は怒りに震えていた。

国旗の日の丸に礼をし、垂水は檀上に立って口を開く。

 

「皆さんもご存じの通り、2日前の午後9時、パーパルディア皇国の飛空船5隻は我が国の領空に侵犯し、上空から日本と台湾の植民地化を求めるビラを散布。同時に、活動の一環として外国に赴いていた『新世界友好平和促進クラブ』の要人に対して拷問を行う映像を公開しました。さらに、彼らはフェン王国ニシノミヤコと西ロウリア王国ザン・ハークにて日本人・台湾人観光客、計428人を捕らえました。外務省は直ちに彼らの解放を要請しましたが…信じられない事に、彼らは非道の論理で、即座に全員を処刑しました。しかもこの二つの都市に侵攻する際に、フェン王国軍への攻撃で兵士・市民・民間人関係なく虐殺したとも宣言しており、日本人観光客も少なからず巻き込まれている可能性があります」

 

直後、垂水は一瞬だけ顔を俯く。そして再び顔を上げた時には、その表情は怒りに満ちていた。

 

「…私達は、この蛮行を決して許す事は出来ません。今回の虐殺の首謀者には、相応の報いを受けてもらわねばなりません!現在パーパルディア皇国は、今度はフェン王国の首都アマノキに侵攻すると宣言しました、このままパーパルディア皇国の侵攻を放置すれば、その凶刃はアマノキにいる日本人及び台湾人観光客5千人に、そしていずれは日本本土にも届く事になります。政府にはこの日本の地と、全ての日本国民を守る義務があります。そして我が国の全ての新たな同盟国の平和、そして第三文明圏全体の安定に寄与する社会的役割も持っています!」

 

垂水の演説はヒートアップしていき、記者達も垂水の燃えだした怒りの感情を肌身で感じ始める。

そう、これは主義主張の問題ではなく、冗談抜きで日本という国の存亡に関わる事なのである。

 

「我が国は平和を愛する国であり、常に平和的かつ友好的な問題解決を目指して、彼の国との平等な対話を求めてきました。しかし皇国は常に闘争と相手国の侵略を是とし、自分達以外全てを見下し、日本の植民地化、日本人の奴隷化を求め、日本のみならず第三文明圏全体に重大な危機をもたらさんとしています。この侵略者に対して、断固たる態度を示し、我が国の自衛のために彼らをフェン王国から追い払わねばなりません!我が国とその同盟国たる台湾中華民国、クワ・トイネ王国、ロウリア王国、フェン王国は全ての文明圏外に住まう命と、国の独立と自由を守るため、互いに協力し合い、侵略者を徹底的に撃退する事で決定いたしました。また、パーパルディア皇国は侵略に際し、一級特殊生物に匹敵する大型生物兵器を多数使役・運用しているとの情報も得ております。私は首相命として、陸海空のみならず、パーパルディア皇国自体を『特一級有害特殊生物』として認識し、特生自衛隊も総動員して民間人を保護するために、あらゆる措置を講じるよう指示致しました」

 

パーパルディア皇国を特一級有害特殊生物、つまりゴジラと同等の脅威と捉えて、専守防衛の方針で国家間紛争に投入しない筈の特生自衛隊までも投じるという事に、多くの視聴者が驚愕する。しかし、特生自衛隊までも投入せざるを得ない程に脅威となる国が、この日本を狙っているという事である。

この後、幾つかの質疑応答が行われ、緊急会見は終わった。

その後、今度は台湾の明成功中華民国総統と、クワ・トイネ王国カナタ首相、ロウリア王国アルダ国王が会見を行い、日本とフェン王国とともに、パーパルディア皇国の侵攻部隊を撃退するとの声明を出した。

それから数分後、全ての日本のテレビ局は特番を組み、軍祭以降の日本とフェン王国、パーパルディア皇国の関係変化の経過やパーパルディア皇国の詳細、そしてパーパルディア皇国から出された要求という名の命令が説明され、右翼左翼の関係なく、あらゆる人々が垂水と同様に怒りを抱いた。

そして翌日、即座に垂水を自衛隊全部隊最高司令官、統合幕僚総長を現場最高司令官とした『フェン王国救援司令部』が設置された。

 

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パーパルディア皇国領アルタラス島 ル・ブリアス地下

クワ・トイネ王国陸軍特務魔導兵団長ムイラは、数人の部下とともに、アルタラス島に潜入していた。

アルタラス王国内に反パーパルディア皇国パルチザンがいる可能性を考慮したクワ・トイネ王国は、そのパルチザンに極秘裏に接触すべく、王国軍備研究開発部が試作していた兵器『潜水艇』を使って潜入し、アルタラス王国亡命者の協力を得て見事にアルタラス島民に扮していた。

 

「隊長、どうやらパルチザンは散発的に統治機構の兵士を襲って、破壊工作も行っているみたいです」

 

「となると、そこで恩を売って繋がりを得る事も出来るな。よし、とりあえず一人ぐらいは〆るか」

 

ムイラはそう言って路地裏に潜み、パルチザンや奴隷として酷使出来そうな者を探す兵士を待ち受ける。そして兵士が近くを通りかかったところで、ムイラは兵士の首元に手を伸ばし、台湾製のスタンガンで気絶させる。

 

「とりあえず手土産が出来た。お前達はどうにかパルチザンに接触を図れ。如何に統治機構とはいえ、酒場を無駄に荒らす様な事はしていないだろうからな」

 

『了解!』

 

ムイラ達はクワ・トイネ王国を守り、そして被害者であるアルタラス王国を救うため、密かに行動を進めていた。

 

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ムー 首都オタハイト 帝代政府会議場

ムーは基本共和制を名乗っているが、実際は皇帝の代わりに政治の実権を担っている立憲君主制に近い政治形態で、国家存亡に関わる緊急事態のみ、皇帝に全ての権限を返上して、首相はその補佐役として事にあたるというスタンスを取っている。政府に『帝代』の名が付くのも、平時は皇帝の代わりに国を治めるからである。

その会議場では、マイラスの報告書を基に、今度行われる可能性が高いとされている日本とパーパルディア皇国の戦争に、どちらの方に観戦武官を出すべきかで会議を行っていた。

観戦武官は、出来る限り死亡する確率の低い方に派遣したい。国家間紛争において永世中立を宣言しているムーにとって、観戦武官は派遣した国が戦った相手国の実力を図る事が出来る上に、万が一艦船武官を派遣した相手国と戦争になった場合も、その国の最新軍備に対する対策が出来るからである。

 

「…あくまで私の見解ですが、日本は確実にパーパルディア皇国に対して勝利を収める事が出来るでしょう。陸上兵力については不明ですが、海上戦と空中戦においては、間違いなくパーパルディア皇国の戦列艦とワイバーンロードでは勝ち目がないでしょう。ここは、日本への艦船武官の派遣に一票をお願いします」

 

マイラスが熱弁を振るって帝代政府閣僚や統制軍上層部に説得し、数十分にも及ぶ話し合いが進められる。

結果、マイラスをリーダーに、陸海空三軍の士官と、技術考証や兵器の解析を行う要員からなる艦船武官及び調査チームを日本に派遣する事が決定された。

そして翌日、マイラス達は輸送機に乗って日本に向かって出発した。

 

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中央暦1640年1月22日 日本国東京都 防衛省統合幕僚監部 会議室

 

統合幕僚監部の運用部運用第二課が主催する会議室にて、垂水達を交えた会議が始められる。

 

「現在、パーパルディア皇国軍はフェン王国のニシノミヤコにて、兵力の集中と再編成を行っております。陸上兵力は2個歩兵師団に相当する2万人の兵士と、『機甲歩兵』と呼ばれるパワードスーツ部隊、『リントヴルム』と呼ばれる四足歩行の竜型生物60頭、そして『鉄甲鎧虫』30頭です。この陸上兵力は、間もなくアマノキの方に向けて出撃する可能性が高いです」

 

会議室前方のスクリーンに、先週打ち上げられたばかりの人工衛星が撮影したデータを基にした、フェン王国の精巧な地図が投影される。ニシノミヤコはすでに茶色と黒色に塗れており、現地の破壊の激しさを物語っている。そして地図には説明に応じて、日本文字や第三文明圏共通文字で書かれた単語や、様々な図形がオーバーレイで加えられていく。この会議には、フェン王国王宮武士団から連絡役として派遣された武士も参加しているからだ。

 

「次に航空戦力ですが、パーパルディア皇国本土より送られてきた騎数不明のワイバーンロードと、各20騎ずつワイバーンロードを搭載した竜母20隻が、ニシノミヤコ周辺に展開しているものと推定されます。皇国飛竜騎士団は現在、飛空船とともにフェン王国の制空権を制圧しており、散発的にアマノキに空襲を仕掛けております」

 

進行役の北がそこまで説明したところで、地図が少しだけ左下にずれる。

 

「海上戦力としては、50門以上の魔導砲を装備した戦列艦が120隻、先程申し上げた竜母が20隻、50門以下の魔導砲を装備したフリゲート艦が160隻、陸上戦力を輸送する揚陸艦が100隻の計400隻です。竜母と護衛艦40隻の計60隻は、陸上からの襲撃を警戒しているのか、ニシノミヤコから西に30キロの海域に停泊しております。ですので、主力艦隊の防空戦力はなきに等しいほか、艦隊戦にてワイバーンに悩まされずに戦う事が出来るでしょう」

 

北がそこまで説明したところで、垂水が手を挙げて尋ねる。

 

「敵は分かったが、どうやって自衛隊の部隊を展開するんだ?陸自の部隊を展開するのに結構時間がかかると聞いたが…」

 

「はい。前提として、まず現在動員可能な輸送艦は、おおすみ型3隻と在日米軍から接収した各種揚陸艦6隻、そして「ナッチャンworld」に数隻の民間貨物船です。これで1個師団は輸送可能ですが、他にも日本人と台湾人の観光客を避難させないといけないので、陸自部隊を展開しつつ民間人を避難させるために、輸送機も必要となります。そのため、作戦では鉄甲鎧虫の駆除も念頭に、制空権の奪取が前提となります」

 

北の説明を垂水達が理解したところで、地図が陸と海を簡略に表した図解に代わり、周囲に艦船や航空機・ワイバーンのアイコンが配置される。

 

「作戦概要ですが、まずは制空権を確保するために、ニシノミヤコから西30キロの沖合に展開している竜母機動部隊を〈F‐2〉及び在日米軍から接収した〈F/A-18〉の対艦ミサイルによる波状攻撃で撃滅。同時に、同時に、艦隊護衛と陸上支援のために飛行・展開しているワイバーンロード全騎を〈F‐15J〉及び〈F-35A〉で撃墜。撃ち漏らした騎は海自の護衛隊群が処理します」

 

画面が切り替わり、今度はフェン王国陸上の地図が映し出される。そして地図上に、幾つものアイコンが示されていく。

 

「敵陸上兵力はニシノミヤコを占拠中のため、ある程度部隊をまとめて出撃するまで待ちます。その間にニシノミヤコとアマノキの中間地点に位置するゴトク平原に機甲科・特科・航空科・特殊部隊の混成隊からなる陸自迎撃部隊を展開し、これを全て叩きます。その後、輸送ヘリを使ってフェン王国武士団とともにニシノミヤコに強襲し、残存兵力の掃討と制圧を行います。降伏した兵士を除き、パーパルディア皇国軍兵士の殺傷制限は解除しますが、よろしいですね?」

 

北の言葉に、垂水は一瞬目を瞑って俯く。

殺傷制限を解除すれば、自衛隊はその強大な火力で多くの命を冥土送りにするであろう。しかし、相手はパーパルディア皇国。ただ『蛮族だから』という理由で多くの民間人の命を奪った彼らには、その代償を払わせる必要がある。

 

「…許可しよう。一応、外務省から相手の外務局に対し、降伏方法を伝えてくれ。こちらはこの世界での戦場での交渉方法は知らないし、相手もこちらの降伏の仕方が分からないかもしれないからな」

 

「それがよろしいかと。この世界は魔信という便利な通信手段がある分、発光信号や手旗信号等の言葉を使わない連絡手段を知らないですからね…」

 

会議は終わり、ここに対パーパルディア皇国軍撃退作戦『ふ一号作戦』が承認された。

 

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同日 クワ・トイネ王国カイコン市 王国軍国防省

 

日本の防衛省で作戦会議が進められていたその頃、国防省ではクワ・トイネ王国・クイラ王国・ロウリア王国・台湾四軍の連合軍防衛会議が行われていた。

この会議には連合軍の総司令官に任じられたクワ・トイネ王国陸軍のクワ将軍を筆頭に、ロウリア王国軍総司令官のパタジンや海軍艦隊司令官のシャークン、台湾陸軍の第11連隊長を務める張大佐等の各国の将兵が集められていた。

 

「現在、西ロウリア王国西半分がパーパルディア皇国軍の制圧下にあり、西部方面軍が展開して防衛線を構築しております。皇国軍は一斉侵攻に備え、兵力を集結中ですが、再侵攻まで時間は残り少ないかと思われます」

 

進行役の説明に、一同は顔を暗くする。現在分かっているだけでも西ロウリア王国に侵攻してきたパーパルディア皇国軍は兵士2万人にリントヴルム180頭、鉄甲鎧虫50頭、監察軍の艦船100隻、ワイバーンロード300騎という大軍。歩兵の総数ではロデニウス大陸諸国連合軍の方が上回るが、陸上戦力の質やワイバーンの数では皇国に大きく下回る。しかし自分達はこれから、そういった戦力と真正面から戦わなければならないのである。

 

「この圧倒的な戦力に対し、忌憚のない意見を述べて欲しい。策はあるか?」

 

クワ将軍の問いに対し、まず張が手を挙げて答える。

 

「航空戦力に関しては、ダイダルの合同基地の戦力で対処する事が可能でしょう。距離を考えてみても、現在ジン・ハーク郊外に建設されている空港を使えば、十分な航空支援が行えます。陸上戦となると、鉄甲鎧虫が邪魔になりますね…アレは火力が尋常なものではないですし、兎に角様々な方向から対処を考えないといけませんね」

 

台湾軍の意見に、一同に少しだけ安心感が広がる。すると今度は、ロデニウス戦役後に再びロウリア王国海軍の指揮官に返り咲いたシャークンが手を挙げる。

 

「制海権については、我が国とクワ・トイネ王国の艦隊が相手しましょう。もし鉄甲鎧虫が沿岸部近くを進んでいた場合は、台湾海軍の戦艦部隊による艦砲射撃も対策の一つに使えるでしょう」

 

「あのデカブツ達に徹甲弾の雨を降らせるという訳か…成程、悪くない」

 

「兎に角、皇国のワイバーンロードは爆装出来る程の輸送能力を付加されているというから、制空権の奪取は必須条件となるな。では、この場合はどうだろうか?…」

 

会議は一時間近く進められ、その結果、制空権については大半を台湾空軍と航空自衛隊が担当する事で決定し、制海権もクワ・トイネ王国・ロウリア王国海軍連合艦隊が対処する事で決定した。そして陸上戦においては、出来る限り遅滞戦術で足止めしつつ、特生自衛隊の〈スーパーXⅢ〉の到着を待つという事で決定された。

 

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パーパルディア皇国皇都エストシラント 第一外務局

 

「…ゑ?」

 

第一外務局第一次長ハンスは、職員からの報告に唖然となった。

 

「ですから、『ムーは此度の戦争では、日本の方に観戦武官を派遣する』と…」

 

「…はい!?」

 

部下の報告に、ハンスは思わず声を裏返して叫んでしまう。これまで観戦武官は列強国であるパーパルディア皇国の方に派遣されており、対アルタラス王国戦でも観戦武官が派遣されたのはアルタラス王国側ではなくパーパルディア皇国側であった。

しかし今回、派遣されたのはパーパルディア皇国ではなく日本の方だという。その言葉に、ハンスは思わず相手の正気を疑ってしまった。

 

「どういう事だ、すぐに相手の真意を調べ上げろ!更なる情報が必要だ、急げ!」

 

「は、はい!」

 

第一外務局が騒がしくなっていたところ、第三外務局では、カイオスとタンザンも顔を青くしていた。

 

「レミールめ、あんな無謀な事を…」

 

「ですが、夜中とは言え最新式の飛空船を5隻も派遣して、直接属国化を要求するなんて…」

 

レミールと外務局監査室の『目立ちたがり屋』が考案した『東京の屈辱』は、日本の防衛が全くのザルであるという『勘違い』を皇国軍に植え付けるという副次効果ももたらしており、間違いなく皇国は日本と全面衝突するであろう。

 

「ったく、次々と調子を狂わせる様な事をしてくれる…!」

 

カイオスは悪態をつきながらも、如何に今の状況で衝突を最小限に食い止めるかを考え始めた。

 

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日本国東京都 東京拘置所

 

拘置所の食堂では、ロウリア王国前国王ハーク・ロウリア34世が、食事が載せられたトレーを持ってテーブルに向かっていた。

 

「しかし、随分とこの世界の者も増えたな…」

 

ハーク・ロウリア34世は、そう呟きながら食堂内を見回す。転移後、ロデニウス大陸を中心に多くの人々が外国人労働者関連法が制定・施行され始めたばかりの日本に来る様になり、ある者はその地で職を手に入れ、ある者は短期留学するなど、日本での生活を楽しむ者が多かったが、文化の相違や日本人でも起こす事例により、窃盗や物品破壊、傷害等の容疑で逮捕される新世界人も出始め、気が付けば拘置所にはヒト種のみならず、エルフやドワーフも拘留される様になっていた。特にその二種は、前者は脱走に使える魔法を有し、後者は檻を容易く破壊する事が出来る事から、魔法を封じる呪印の施された拘束具や、ミスリル製の特殊な呪印の施された檻に手錠を採用する方針が練られている。

 

「さて、どこに座ろうか…む?」

 

すると、ある机の片隅で、一人のヒト種の男が、顔を青くして新聞を読んでいるのに気付く。

 

「おや、一体どうしたのか?」

 

ハーク・ロウリア34世が尋ねると、男はそれに気付いて顔を上げる。ハーク・ロウリア34世は彼の正面に向かい合う様に座り、今男が読んでいる新聞に目を通す。それには、こう書かれていた。

 

『パーパルディア皇国、日本人観光客を虐殺!』

 

『フェン王国と西ロウリア王国合わせ、民間人1000人以上が死亡』

 

『政府は陸・海・空・特四自衛隊に対し、フェン王国からパーパルディア皇国軍を排除するよう指示』

 

「…なんと、戦争か!」

 

ハーク・ロウリア34世の言葉に、男は静かに頷く。

実はこの男、かつての軍祭の時に巡視艇「いなさ」を襲撃した竜騎士であり、乗騎のワイバーンが撃墜された後、海上保安庁に救助されて身柄を東京拘置所に移送されたのだった。

 

「…この新聞によれば、皇国の軍は日本に全く勝てないと書いてあります…う、嘘ですよね?」

 

「…残念ながら、嘘ではない。ワイバーンロードなど、この国の飛行機械で容易く撃ち落とされてしまうし、海戦も3000隻以上を粉砕したこの国の軍艦の圧勝に終わるであろうな…この国に勝てるのは多分ー」

 

ハーク・ロウリア34世がそこまで言ったその時、轟音とともに激震が食堂を揺らし、囚人達は辺りを見回す。男も目を白黒させながら窓の外を見ると、そこでは二頭の巨大な黒い生物が地面を転がり回っていた。

 

「…あの怪物共ぐらいだろうな。全く、落ち着いて食事を取る事も出来ん」

 

ハーク・ロウリア34世はそう言いながら、黒い巨大生物ー神竜バハムートとムートー雄の喧嘩を横目に、避難指示に従い始めた。

 

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中央暦1640年1月27日 日本上空

 

 

北九州の晴れ晴れとした冬空を、1機の四発型航空機が飛ぶ。

ムーの主力輸送機、マイカルCH-03〈ラ・カオス〉は、マイラスら8人の観戦武官と解析班を乗せて、日本に向かって飛んでいた。

 

「ようやく五日目で到着か…一体どんな戦闘機で来るのだろうか?」

 

マイラスはそう呟きながら、窓の外を眺めた。すでに日本側からの通知で、防空識別圏内という空中の防衛ラインに入り次第日本の戦闘機が迎えに来ると聞いており、マイラスは技術者としてその登場を心待ちにしていた。

すると、隣の席に座っていた、統制海軍士官のジャニス・ラッサンが冷めた言葉を言ってきた。

 

「どうせ大した事は無いだろうよ。所詮はこんな、ワイバーンが未だに主力をしている第三文明圏外のド田舎だ」

 

「おいおい、君もあの『ヘリコプター』の写真を見ただろう?明らかにムーの技術を上回っている機体だったんだ。憶測で軽視しているとろくでもない目に遭うぞ」

 

「ふん、どうだかな」

 

鼻で笑った事から、どうやら文明圏外に派遣された事自体が文字通り鼻持ちならないらしい。

マイラスは日本の技術の一端に触れているのは勿論の事、ムーでも典型的な理系の人間なので、同じ技術を重んじる人々に対しては分け隔てない敬意を抱いていた。

 

「頼むから、そういう態度を見せるのだけは私だけにしてくれよ…ん?」

 

マイラスがラッサンに釘を刺したその時、突如、外から轟音が響き、一同は一斉に窓の外を見る。直後、目の前を灰色の矢じりの様な形をした、二つの飛行物体が高速ですれ違った。

 

「は、速い!なんて速さだ!」

 

一同は一同は目を丸くしながら、窓の外を食い入る様に見つめる。どうやら件の日本の戦闘機のようだ。

その機はすぐさまに旋回し、〈ラ・カオス〉に速度を合わせて並走する。そして一同は、その機体の詳細な形状に唖然となった。

 

「ぷ、プロペラが無いぞ!何だあの飛行機は、どうやって飛んでいるんだ!?」

 

「形状からして、神聖ミリシアル帝国の天の浮舟に近いな…だが、推進力はどうやって得ているんだ!?」

 

ラッサン達は、自分達の常識と理解を超える航空機の存在に驚愕し、戦慄を覚える。

〈ラ・カオス〉は2機の〈F-15J改〉に先導され、目的地に近付いていく。

すると、真下の海上に何かが浮かび上がり、それを見たマイラス達は、思わず目を丸くする。

 

「おい、アレを見ろ!マンダだ、マンダがいるぞ!」

 

「本当だ、教科書の資料でしか見たことがなかったものが…ん、何だあの黒い怪物は!?マンダよりもデカく見えるぞ!」

 

マイラス達が興奮の面持ちで叫ぶ中、海上ではゴジラとマンダが、真上を飛ぶ航空機を気にする事無く、激しい戦いを繰り広げる。

そして〈ラ・カオス〉は、高さ150メートル以上はあろうかというビル群の立ち並ぶ、福岡市の国際空港に到着する。

アイナンク空港よりも巨大で、非常に洗練された空港の滑走路に〈ラ・カオス〉は着陸し、滑走路の脇に移動する。そしてマイラス達の目に飛び込んできたのは、〈B-767〉や〈A380〉等の、〈ラ・カオス〉以上のサイズを持つ旅客機ばかりであった。

 

「…とんでもない国に来てしまったみたいだな…」

 

マイラス達は、改めて自分達の任務の重要性を痛感するとともに、日本の計り知れぬ技術力と国力に身震いするのだった。




次回、ついに戦闘開始。


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第29話 フェン王国の戦い

『異世界大戦』を見返していたら、「ラ・カサミ改」の艦首について予言レベルの記述を発見。まさか、ねぇ…。
さてついに戦闘が始まります。


中央暦1640年1月28日 パーパルディア皇国 皇都エストシラント

 

エストシラントの中央に位置するパラディス城のとある部屋に、ルディアスとレミールの姿があった。

レミールはルディアスの手に自身の手を添えつつ、彼の目を見る。すると、ルディアスが不意にレミールに問いかけてきた。

 

「レミールよ、この世界の在り方について、そして、今のパーパルディア皇国について、どう思うか?」

 

「はい、陛下。多くの国がひしめく中、我が皇国はこの第三文明圏の頂点に立っております。多くの国々をまとめるために、豊富な国力と強靭な軍備による『恐怖』を以て、我が国に対する『畏怖』と『尊敬』を周辺国に植え付けておりますが、これは非常に有効であると思います」

 

パーパルディア皇国は、昔から周辺国を強大な軍事力で併合・殲滅し、属国ないし属領として自国に組み入れる事によって、第三文明圏でも強大な大国に成長し、属領から吸い取った資源や技術を使って軍事力を増強。周辺国に対し、常に無敵の皇国軍の存在をちらつかせながら、周辺が余り国力を付けない程度に資源を吸い取り、さらなる自国の発展に繋げていた。また、2年に1回、中央世界で開かれている『先進11ヵ国会議』にて、魔石や良質な鉄鉱石などの潤沢な地下資源を元手に、全文明圏の技術水準の平均化を主張する事によって、破格の条件で神聖ミリシアル帝国やムーから、古の魔法帝国の有していた技術の一部や、ムー産の科学技術を入手。東部ドーリア州のデュロや、西部アンカルド州のエリダなどで産業革命が開始。次第にムーに迫る程の文明水準を手にして行っていた。

 

「そうだ。恐怖による全ての属領の支配と、恭順に対する慈悲と恩恵の提供こそ、国力増大のためには必要な事だ。ミリシアルやムーは、近隣国と融和政策を行っている。そんな軟弱な国より、我が国が下に見られている事が我慢ならん。我が国はこの第三文明圏を統一し、超大国として君臨する。いずれは第一文明圏も、第二文明圏も配下に置き、パーパルディアによる世界統一を成し遂げる。その頃にはもう、かの古の魔法帝国でさえも凌駕する超大国になっておろう。そして世界からは戦争がなくなり、真の平和がもたらされる。それこそが世界の平和のため…そうは思わぬか?」

 

ルディアスの政治手法は独裁的だが、その実、第三文明圏の文明水準から見れば非常に合理的であり、最終目的も、この文明圏内では非常に先進的である。しかし、そこに至るまでの経過や、世界を束ねるための方法、そしてその根幹となる主義主張は非常に前時代的であり、民族・国家の多様性や、国民の自由等といった、先進国にはあるだろう理想や思想が欠落していた。つまり、『本国以外の国民は不幸でもよい。全ての地域の人々が大人しくパーパルディア皇国の国民に従っていれば戦いを考える事もない』というものであった。

勿論、レミールなどは皇族で、彼のカリスマ性に心酔しきっているのだから、自分達の価値観と基準で彼を『器の大きな未来の名君』と称賛するのみである。

 

「なんと…ルディアス様は非常に偉大なお方であられます。悲しき事に、この慈悲を理解しようとしない者のなんと多い事か…先程、日本の使者共にも『教育』を致しましたが、奴らは猿みたいにぎゃんぎゃん泣き喚いて私めを愚弄致しました。しかし、あのような者共は即座に処分すべきでありましょうが、何故あ奴らにも教育の機会を?」

 

「フム…いかに蛮族とはいえ、資源として有効価値があるのなら、その価値が全てなくなるまで使い果たすというのが、我ら皇族の教え。無暗に殺しては、文明圏外の野蛮な王、かつてのロウリア王国前国王や、魔王ノスグーラと同じ穴の貉というもの。それに、殲滅戦を発令しても、結局は全ての人間を殺し尽くすのではなく、価値のある者のみを選り分けてその他の者を奴隷として使い潰せばよいだけの事よ。そして最終的には、奴らの地は我が国の新たな領土となり、皇国人の新たな住まいとなる」

 

「おお…」

 

パーパルディアの方針に、レミールが感嘆の声を上げたその時、彼女の左腕に装着しているブレスレットの宝石部分が点滅し、レミールはルディアスから一端離れ、それを口元に近付けてしゃべりかける。

 

「レミールだ。どうした?」

 

『エルトでございます。日本の外交官が、急遽会談を申し込んできました。如何致しますか?』

 

「どうせ我らに降伏するとか言ってきたのであろう。分かった、すぐに招け。私も今行くから待っていろ」

 

レミールはそう答え、ブレスレットを触れて通話を止める。その様子を見ていたルディアスは、笑みを浮かべながら語りかけた。

 

「日本の者共が私の慈悲にすがりだしたと見える。アポなしとはいえきちんと受けてやれ。…仕事が終わったら、すぐに私の私室に戻ってきなさい。時間は空けておこう」

 

「ありがとうございます。では…」

 

レミールは満面の笑みを浮かべ、私室から出ていく。そしてルディアスは、自分の国の繁栄の象徴たる、金銀ミスリルの装飾が施されたコンクリート製のビル群を眺めた。

 

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エストシラント市内 第一外務局

 

エストシラントの第一外務局に、朝田達の姿があった。

彼らの手にはシオス王国経由で〈ラ・アビス〉を使って輸送されてきた公文書があり、彼らはこれをレミールに届ける役割をしようとしていた。

やがて、レミールがエルトとともに入室し、朝田達はソファから立ち上がって一礼し、そのままお互いに座る。

 

「急な来訪だな。それに、この第一の位置を知っているとは…まぁ国の存続がかかっているのだ。その気持ちも無理はなかろう?列強たる我が皇国は寛大だ。アポなしでの来訪程度は非礼のうちには入れずにしておこう」

 

レミールの言葉に、朝田はムッと分かり難い程度に顔をしかめる。ちなみに彼らは最初のレミールとの会談時には第一外務局の場所は知らなかったが、会談後にカイオスが直接接触しており、その際にその位置を教えてもらっている。

 

「して…前回皇国が提示した条件、検討の結果を知らせてもらおうか」

 

「はい…まずは事前通告なしに訪問した事をお詫び申し上げます。政府の意向が決定いたしましたので、まずはその事についてのご相談に参りました」

 

「(譲歩を引き出すために交渉に出たのか…蛮族のくせに小賢しい…)…ほう、やっと皇国の力を理解したのか。賢明な事だ」

 

朝田の言葉に、レミールは少しだけ眉を顰めつつも、朝田が篠原から公文書を受け取る様子を見る。

 

「ではまず貴方がた、パーパルディア皇国のために、こちらを提案いたします」

 

朝田から、上質な紙に良質なインクで書かれて出来た公文書が渡され、レミールはその文書の内容を見て固まった。

 

・現在フェン王国及び西ロウリア王国に展開している、皇国軍全部隊を即時撤退させる事。

・フェン王国及び西ロウリア王国に対し損害を与えたため、公式に謝罪し、賠償を支払う事。なお、賠償については建物に与えた実被害額の20倍を支払う事。

・日本人及び台湾人の虐殺に関し、公式に謝罪し、賠償を支払う事。賠償額に関しては、一人当たり1000万皇国パソ分を金に代え支払う事。

・今回の日本人・台湾人虐殺に関し、日本及び台湾の刑法に基づいて処罰を行うため、事件に関係した者の身柄を全て日本に引き渡す事。

・なお、上記の内容を拒否した場合、日本国及び台湾国、クワ・トイネ王国はフェン王国及びロデニウス大陸諸国と締結している集団安全保障条約に基づき、フェン王国及び西ロウリア王国に展開しているパーパルディア皇国軍全部隊の実力行使による排除を行う。

 

「!!…な、何だ、これは!」

 

「確約されなければ、我が国と台湾は実力でフェン王国及び西ロウリア王国から皇国軍を排除いたします。もちろん、それだけでは終わりません。なお、引き渡し名簿には貴女も当然入っています。皇帝陛下ルディアス・ファン・エストシラントも、虐殺に関与した嫌疑がかかっている重要参考人ですので、身柄を引き渡していただきます」

 

朝田の言葉に、レミールは顔に青筋を浮かべ、手をプルプルと震わせながら口を開いた。

 

「やはり辺境の蛮族だな。陛下のご慈悲が分からぬとは。そんなに自国を滅ぼしたいのか、貴様らは?」

 

「いえ、我々は平和を愛する国です。しかし、罪なき人々を一方的に虐殺し、他者の平和を一方的に脅かす犯罪者に対しては、断固とした対応を取る方針を決めただけです。また、この責任者の身柄引き渡しは、皇国民のためでもあるのです。このままでは本格的な戦争に発展いたします。我々は、皇国の一般市民から死者が出る事を良しとしません」

 

レミールは怒りと苛立ちの感情を露わにし、歯を見せる様に口を歪める。

 

「愚か者が…文明圏外国家の中では多少自信がある様だが、列強と文明圏外国との根本的な国力差が全く理解出来てないらしいな…まぁいい。貴様らにはまだ教育が必要な様だな。フェンのアマノキを落とした後、そこにいる日本人も全員処刑だ」

 

「なっ…どうあっても、軍を撤退されないおつもりですか?」

 

「当然に決まっておろう。フッ…次の会談が楽しみだな。また魔導通信機の特等席を用意してやろう。そこで、我が皇国を止められない自らの力を思い知れ。お前達は皇帝陛下の寛大な御心により生かされているのだ。皇帝陛下がその気になれば、国土全てを均す殲滅戦になるであろう。その時は、無害な者共しか残らぬまで全ての国民が処刑されるであろう」

 

レミールの尊大な言葉に、朝田は顔をしかめ、語気を強くして話し返した。

 

「そうですか…では我々も通告します。日本国及び同盟国は、フェン王国及び西ロウリア王国に侵攻中のパーパルディア皇国軍に対し、実力行使いたします。その後に、再度会談を致しましょう。犯罪者の引き渡しは日本国政府及び中華民国政府の譲れない条件です。我が国と台湾の意志は強いとご理解いただきたい!」

 

「フッ…承知した。せいぜい死ぬまで足掻くがいい」

 

「後一点…降伏する場合は白い無地の旗を振って下さい。魔導通信による降伏勧告は認めません。我が国と台湾はいくら軍人であっても、無暗に殺生する事は望みません。くれぐれも現場の方々に通達の徹底をお願いします」

 

「降伏…?我が列強の無敵皇国軍が、文明圏外国の貧弱な軍に降伏だと!?痴れ者が、貴様らこそ命乞いの用意をしておけ!」

 

結局、二回目の会談は決裂に終わり、朝田達は部屋から出ていく。そして第一外務局から出ていき、あるビルに向かう。

そのビルに入り、奴隷を動力としたエレベータを使わずに階段を昇って3階に上がり、ある部屋に入る。そこには、カイオス達の姿があった。

 

「…結局、物別れに終わってしまいましたか。想定はしていましたが…」

 

「しかし、この国の役人は、ほとんどがあんなプライドしかなさそうな人達ばかりなのでしょうか?しかもそれを国政に全て反映させているなんて…」

 

朝田の言葉に、カイオスも図星と言わんばかりに複雑な表情を浮かべる。

彼らは短い会談を行い、そのビルから出ていく。後日、極秘裏にカイオスの屋敷に日本製の無線通信機が設置され、『最悪の事態』に備えた下準備が進められていった。

 

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同日 長崎県 佐世保港

海上自衛隊第4護衛隊群の基地である佐世保に、数十隻の艦艇が集まる。

本来、海上自衛隊の艦隊は、2個以上の護衛隊からなる『護衛隊群』を編成して作戦に当たる。しかし、今回の作戦では、これから戦う相手に対し、どの様な戦力で効率的に、かつ効果的に勝つのかが重要となるため、護衛隊単位で一つの艦隊を編成しなければならない。そのため、各護衛隊群からそれぞれ1個護衛隊を引き抜いた上で、それを『連合護衛艦隊』としてまとめ、作戦に当たる事となった。

 

「5個護衛隊からなる連合護衛艦隊…これまでの海上自衛隊では考えられない程の規模ね…」

 

藤田の呟きに対し、隣を歩く銀髪の女性も頷く。彼女は藤田の妹で、生まれつき髪が銀色に染まっており、他人から見れば、二人はどう見ても姉妹には思えなかった。

 

「今回、フェン王国に展開しているパーパルディア皇国艦隊の総数は凡そ400隻。ワイバーンも400騎以上が展開されているそうです。その規模に対し、対空戦能力に優れたイージス艦とあきづき型、砲撃戦能力に優れた姉さんの「やましろ」にはたかぜ型をメインに艦隊を再編成する事になったそうです。ロデニウス戦役時の対ロウリア王国艦隊戦時の経験が活かせましたね…」

 

二人はそんな話をしながら桟橋を歩き、自身の艦に向かっていく。すると、藤田妹の前に、数人の男達がやってきた。

 

「「すずつき」副長の藤田三佐ですね?今回、ムーより観戦武官が二名、貴艦に乗艦されます」

 

案内役の自衛官の言葉の直後、マイラスとラッサンは前に出て、藤田妹に対して敬礼をしながら自己紹介を行う。

 

「ムー統制軍より派遣されました、情報士官のマイラスです」

 

「同じく、ムー統制海軍より派遣されました、海軍士官のラッサンと言います。階級は少尉です。よろしくお願いします」

 

「護衛艦「すずつき」副長の藤田朔夜です。階級は海上三佐…軍だと海軍少佐となります。これより「すずつき」をご案内致します。ではこちらに…」

 

藤田妹はそう言って、二人を「すずつき」に案内していく。そして艦艇の中で、改造成った「やましろ」の隣に停泊する大型艦ー新型護衛艦「いぶき」の艦橋では、涌井は席に座り、部下達からの報告を聞いていた。

 

「「すずつき」にムー国の観戦武官が乗艦されたそうです」

 

「全艦、出港準備終わりました!」

 

「第一輸送隊旗艦「おおすみ」より入電。『陸自部隊、搭載完了』との事です」

 

報告を聞き終えた涌井は、隣に立つ秋津と目を合わせ、頷いてから口を開いた。

 

「そうか…では、行くか。全艦、出港せよ。目標、フェン王国!」

 

全ての艦が警笛を鳴らし、大勢の国民や自衛隊員達に見送られながら、フェン王国に向けて出港する。そして全ての艦は、巡航16ノットの速力でフェン王国に向かっていった。

 

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同日 クワ・トイネ王国 マイハーク港

 

クワ・トイネ王国最大の港湾都市に、数十隻の大艦隊が集まる。

元アメリカ海軍の大型航空母艦だった「台東」を筆頭に、元イギリス海軍の戦艦部隊や、アメリカ海軍から購入して、独自改造を加えたタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦などからなる台湾海軍第65打撃群に、クワ・トイネ王国海軍の近代化成された海軍第三艦隊、そしてロウリア王国軍の、戦後残されたウラガン級超巨大ガレアス艦に、ヴィントシュトース級巨大ガレアス艦からなる大型木造艦艦隊と、様々な技術で建造された艦艇が、対パーパルディア皇国艦隊撃滅のために集結していた。

 

「まさか、ここまでになるとは…本当に驚きの言葉しか出てこないな…」

 

ロウリア王国艦隊旗艦「ミストラル」の艦橋で、シャークンは一人、そう呟きながら、近代化の進んだロデニウス大陸諸国の軍艦を見つめる。

パーパルディア皇国が西ロウリア王国に攻めてくる以前から進めていた富国強兵政策により、クワ・トイネ王国・クイラ王国の海軍は全て鋼鉄製軍艦になり、1ヵ月前には台湾の支援によって建造された装甲巡洋艦「キュリ」が就役。他にも独自に開発・生産した水雷兵器『魚雷』を主要装備としたグラナダ級駆逐艦や、改良によって原始的なジェットエンジンを搭載し、射程距離を伸ばしたSS-2B〈オブシディアンB型〉を装備したニジン級ミサイル艇が相次いで就役し、質では文明圏外でも有数のものに育っていた。

 

「旗艦「台東」より入電。『全艦出撃せよ』!」

 

「ついに出撃か…全艦、出撃せよ。この戦いに勝てねば、ロウリア王国は滅ぼされてしまう!ロデニウスの興廃、この一戦にあり!各員、一層奮励、努力せよ!」

 

『了解!』

 

全ての艦の錨が上げられ、警笛を鳴らしながら港を出ていく。

こうして、ロデニウス大陸でも自国の存亡をかけた戦いが始まろうとしていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

フェン王国 ニシノミヤコ沖合

フェン王国西部沖合を、40機の戦闘機が海面を切り裂きながら、亜音速で低空飛行する。その上空4000メートルには40機の戦闘機が飛び、低空を飛行する編隊に速度を合わせて警戒を行う。

 

『攻撃、開始せよ』

 

指令部からの指令が下され、20機の〈F‐2〉は一斉に93式空対艦誘導弾(ASM-2)を1機当たり4発、もう20機のF/A-18F〈スーパーホーネット〉はAGM-84(ハープーン)を1機当たり2発発射する。発射された空対艦ミサイル120発が水平線の彼方に消え去るのを確認して、40機は一気に上昇してその場を離れていった。

そして空対艦ミサイルの群れが進む先では、60隻の竜母機動部隊が、ワイバーンの発着艦作業を行っていた。

1629年型ミール1世級飛竜母艦「レクイエム」の船楼で、第4艦隊竜母機動部隊副司令のアルモスは、満足げな笑みを浮かべながら、「レクイエム」竜騎士隊司令に話しかけた。

 

「竜騎士隊司令!」

 

「はっ!」

 

「我が皇国軍は強い!」

 

「その通りであります!」

 

「では問おう。何故、我が皇国軍は強いと思うか?」

 

「はっ、バランスの取れた総合的な軍事力を持っているからであります!」

 

「そうだ!海戦では戦列艦の猛烈な砲撃もさることながら、マスケット銃や前装填式の小型砲では迎撃が困難な上空から、導力火炎弾でマストや甲板を破壊するワイバーンも重要となる!その航空戦力を支える竜母機動部隊もまた、我らが皇国の強さの象徴である!そして見よ、あの竜母機動部隊の旗艦たる最新鋭艦「ミール2世」を!我が皇国の現時点での最新技術が詰め込まれたあの艦は非常に強く、機能美にも優れ、実に美しい!」

 

ミールはそう言いながら、目の前に見える大型の帆船を見つめる。船体の左側に出っ張った様に飛行甲板を装備している竜母は、ワイバーンの発着艦時にはマストに張っている帆を畳まなければならないが、竜母機動部隊旗艦の1636年型ヴェロニア級飛竜母艦は、先進11ヵ国会議にて第一外務局の粘り強い交渉の結果手に入れた蒸気機関を導入する事により、ロウリア王国から手に入れた『海神の魔靴』に自国産の高水準の『風神の涙』と併せて、戦闘時の機動性を確保しながら、効率的にワイバーンを発着艦させる能力を有している。また、木鉄交造式船体には最新型の対魔弾鉄鋼式装甲が装甲として張られており、従来の木造船を大幅に上回る防御力を有している。また、ムーの持つ流体力学や造船工学も少しずつ導入しており、正しく量産型竜母としては世界最強レベルの性能を有していた。

その傍には、同じくパーパルディア皇国海軍の主力艦であり、皇国海軍の顔と言っても過言ではない戦列艦、1627年型フィシャヌス級戦列艦の1番艦「フィシャヌス」もいる。こちらは蒸気機関を搭載していないが、全長100メートルの巨体に最高15.6ノットの速力という、地球の戦列艦を遥かに凌駕する性能を有しており、艦載砲も全てが後装式のカノン砲で、防御力も申し分のないものとなっている。

二人が皇国海軍の象徴たる2隻に見入っていたその時であった。

突然、前方を警戒していた戦列艦から、ムーで開発され、艦隊行動時や緊急時に便利なものとして全世界に普及したサイレン式警報器が鳴り響き、アルモス達は顔をしかめる。

 

「何だ?」

 

アルモスが眉を顰めてその方に目を向けると、水平線の彼方から、二つの青い物体が、白い光を噴き出して海面すれすれの高度で飛翔してくるのが見えた。しかもその物体は、明らかにワイバーンよりも圧倒的に速く見えた。

 

「っ、速い!」

 

アルモスがそう呟いた直後、二つの物体は急に急上昇し、そして尖りのある放物線を描くように急降下し、目前の「ミール2世」に向かって突っ込んだ。

飛行甲板に向かって突撃した93式空対艦誘導弾は、魔石が等間隔に埋め込まれた飛行甲板を甲板上にいたワイバーンごと貫き、そのままの勢いで木製の艦内に潜り込むと、奥のボイラー等が設置された機関室で水管三胴式ボイラーに激突し、弾頭部の信管を作動させた。

全身が鋼鉄で出来た巡洋艦はもとより、堅牢な防御力で知られた旧ソ連海軍のソビエツキー・ソユーズ級戦艦や、かのゴジラの表皮を突破する性能を求められ、開発された93式空対艦誘導弾の破壊力に対し、地球の同年代の船と比べて隔絶した防御力を有していると言っても、竜骨や肋骨部にしか鋼材が使用されておらず、対魔弾鉄鋼式装甲も最大45ミリ程度の厚さしかない「ミール2世」は余りにも貧弱過ぎた。

厚さ100センチの鉄板をも融かす無魔導弾頭の爆轟は対魔弾鉄鋼式装甲の耐炎能力を容易くねじ伏せ、「ミール2世」は炸裂の光に包まれて木端微塵に吹き飛ぶ。直後、〈スーパーホーネット〉の放ったAGM-84が2発、「フィシャヌス」の船体に突き刺さり、対魔弾鉄鋼式装甲を突き破って猛烈な炎の牙を食い込ませた。

戦列艦は基本的に、船内は被弾時のハード面での防御が施されておらず、木材は水魔法や土魔法で難燃状態にされ、弾薬庫も鉄板で覆われているとはいえ、片舷50門という大量の魔導砲を連続で効率的に発射するために艦内は隔壁で仕切られておらず、いつでも撃てる様に魔導砲の傍に準備されていた魔術媒体や、扉が開け放たれていた弾薬庫の中にあった魔術媒体が、焼夷材と混成された弾頭部炸薬の爆炎と反応し、「フィシャヌス」は風船が破裂するかの様に爆発し、炎や木材を四方八方にまき散らした。

 

「み…「ミール2世」、「フィシャヌス」轟沈!」

 

「な…何が起きた!?全艦、直ちに現海域から離れろ!さらに対空戦闘準備!周囲に目を凝らせ!」

 

アルモスが咄嗟に出した指示に従い、各艦は帆を降ろし、ワイバーンも出来る限り発艦させて回避機動に出る。

しかし、速度20ノット以上で動き回る軍艦を正確に撃ち抜く性能を持つ空対艦ミサイルにとっては想定内の行動であり、ある弾はマストを降ろしたばかりの竜母に突き刺さって炸裂し、ある弾は対空用ガトリング砲の9ミリ銃弾を弾きながら戦列艦の甲板を食い破り、ある弾はワイバーンを跳ね飛ばしてから竜母に食らいつく。そして閃光と爆轟が連続し、次々と跡形もなく轟沈していく。

 

「竜母「ガナム」「マサーラ」消滅!」

 

「戦列艦「カバリ」「グノー」「フォーレ」「ケルビーニ」轟沈!」

 

「こんな…こんなバカな…!」

 

次々と沈んでいく僚艦に、アルモスは恐怖で顔を歪ませる。まさしく自分達の常識を遥かに凌駕する光景が、目の前に広がっていた。

 

「まさか…これは古の魔法帝国の誘導魔光弾か!?」

 

考えつく攻撃の正体の一片に気付いたところで、マスト上の見張り員が大声で叫んだ。

 

「こっちに向かってくるぞ!」

 

「なっー」

 

アルモスが驚愕の声を上げた直後、「レクイエム」に93式空対艦誘導弾が突き刺さり、「レクイエム」は炎の中に消えていった。

全ての艦が海面から姿を消した直後、茫然とした様子で飛んでいたワイバーンロードの編隊に幾つもの99式空対空誘導弾(AAM-4)AIM-120(アムラーム)が突き刺さり、一瞬で80騎が撃墜される。

〈F‐15J改〉と〈F‐14JⅡ〉はマッハ2の高速でワイバーンに突撃し、04式空対空誘導弾(AAM-5)を放ってワイバーンをさらに撃墜していく。ワイバーンロードは竜騎士からの指示に従い、必死にはためいて旋回するが、格闘戦で最強レベルの実力を持つ2機の敵ではなく、20ミリガトリング砲『バルカン』も使ってワイバーンロードを竜騎士ごと肉片に変えていく。そしてわずか5分で、200騎のワイバーンロードは海の藻屑と化した。

 

正午、パーパルディア皇国海軍第4艦隊所属の竜母機動部隊は、〈F‐2〉と〈スーパーホーネット〉の空対艦ミサイル攻撃を受け、艦船60隻とワイバーンロード400騎が全滅。

しかし、この未曽有の大損害は、パーパルディア皇国軍にとって自身の葬送曲(レクイエム)の始まりに過ぎなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

フェン王国南部沖合 護衛艦「すずつき」

 

「すずつき」の艦橋に、マイラスとラッサンの姿があった。

 

「かなりの数の電子機器があるな…どれもこれも、ムーのよりも性能が良さそうだ…」

 

マイラスの言葉に、ラッサンも頷く、するとそこに藤田妹がやって来て、二人に話しかけてきた。

 

「マイラスさんにラッサンさん、間もなく作戦海域です。これより本艦の性能を披露致します」

 

「ありがとうございます、ところで艦長は何処にいるのですか?先程から姿が見えませんが…」

 

マイラスの問いに、藤田妹は彼に対して丁寧に答える事にした。

 

「艦長は今、CIC…『戦闘指揮所』にて戦闘指揮を執っております。海上自衛隊及び20世紀中盤以降の海軍軍艦は、艦橋ではなく別個のスペースにて戦闘の指揮が行われます。何故なら、戦闘航行中に敵の攻撃で艦橋が潰されると、同時に戦闘能力も喪失して、効率的な戦闘は愚か、行動すら取れなくなってしまうからです。ラ・カサミ級戦艦だと、艦橋下の装甲で覆われた司令塔に該当しますね。ちなみにそのスペースは軍事機密の宝庫であるため、残念ながら案内する事は出来ません」

 

藤田妹の説明に、ラッサンは首を傾げつつ、彼女に尋ねる。

 

「何故艦橋ではなく別の区画で指揮するのですか?戦闘指揮の際、目視による外部確認も必要となりますが…」

 

「大丈夫です。護衛艦のCICは全て、外部カメラや艦橋要員からの報告で十分に視覚情報を得られますし、何より各種の『レーダー』という電波を使用した、魔力を持たない物体も探知可能な装置で様々な情報を入手する事が出来ます。そのレーダー機器を艦橋に全て詰め込む事は困難なため、別個に専用のスペースを用意して、そこから戦闘指揮を行った方が効率がいいのです。レーダーや関連機器のシステムについては、マイラスさんの方が理解が早いかもしれません。ちなみに本艦のレーダーの性能は、多機能型レーダーで凡そ100キロ程度です」

 

ムーが転移した後の世界で生まれた技術と戦術に、二人は困惑の表情を浮かべるとともに、その性能の高さに驚く。特にレーダーの性能は、軍事機密で多少控えめに脚色しているものの、魔力を持たない物体すら捕捉する事が出来るという事だけで驚愕に値する。

すると、CICの方から藤田妹に対し、報告が上がる。

 

『レーダーに反応あり。ワイバーンロードの編隊が本艦に向けて急速接近中。方位011、距離2万、数は40。陸地の方から飛来してきたため、竜母機動部隊ではなくニシノミヤコを占領している地上部隊のものと推定されます』

 

「やはり来たわね…艦長、ここらへんで花火大会を行いましょう。まずはSAMで半分程叩き落とし、次は主砲で叩き落とし、3騎程になったらCIWSで撃破しましょう」

 

『成程…分かった。副長、君の案を採用する。ムーのお客さん達にしっかりと海上自衛隊の実力を披露して差し上げよう。全艦、対空対水上戦闘、用意!』

 

藤田妹と艦長の会話に、マイラス達は驚愕を露にする。本当に数十キロ遠くの空を飛行する物体を明確に捕捉し、方位や速度すら解析したのである。これは魔力探知レーダーに捉えられにくい事で有利なアドバンテージを得ていたムー艦隊ですら、直ぐに動向を予測されるであろう。

やがて、水平線の向こうにポツポツと黒い点が浮かび上がり、藤田妹はマイラス達に顔を向け、笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「ではご覧下さい、我が国の…いえ、21世紀の対空戦闘を!」

 

藤田妹が笑みを浮かべながら言ったその時、スピーカーからCIC管制官の声が響いた。

 

『VLS1番から5番、SAM、発射(サルボー)!』

 

直後、轟音とともに目の前が煙に包まれ、幾つもの細長い物体が真上に撃ち上げられる。そしてそれらは、炎を拭きながら空に飛んで行った。それを見たマイラスは、思わず目を丸くして艦橋窓に乗り出す。

 

「あ、アレはロケット弾か…いや、直線運動ではない!一斉にワイバーンに向かって物凄い速さで飛んで行っている!」

 

「驚きました?アレは旧世界の同盟国、アメリカ合衆国が開発した短距離艦対空ミサイル、ESSMです。最高速度はマッハ3程度で、射程距離は最大50キロ。本艦のVLS…垂直ミサイル発射機には1セル当たり4発を装填し、艦橋直上の多機能レーダーで敵機を捕捉しつつ、別の波長を発するレーダーで途中まで誘導。最終的にミサイル自体の追尾装置で完全に捉えて命中します。現時点でのこの世界の航空戦力に、アレから逃れられる術は無いに等しいでしょう。ちなみに我が国では、アレの後継となる国産短距離SAMの開発を進めております」

 

藤田妹の説明に、マイラスとラッサンは、ESSMの性能に驚愕するとともに、『ミサイル』という自分達の常識外の兵器に恐ろしさを覚える。数十キロ先から正確に命中する精密誘導兵器など、古の魔法帝国の伝承に出てくる『誘導魔光弾』ぐらいしか聞いた事が無かったからである。

その間にも、ESSMはこちらに向かって接近してくるワイバーンロードを次々と吹き飛ばし、数を20に減らす。

 

「では第二弾、主砲、お願いします」

 

『主砲、対空戦闘準備!1発も外すなよ!』

 

艦首側に装備された、1基の単装砲が砲身の仰角を上げ、ワイバーンロードの編隊に砲口を向ける。マイラス達からこの主砲は貧弱に見えており、マイラスも日本の軍事情報の解析の際に、日本の軍艦は何故大砲を1門しか装備していないのかについて理解に苦しんでいた。

その間にも、「すずつき」は砲撃準備を整え、ワイバーンロードとの距離は10キロメートルを切ったその時、それは始まった。

 

『主砲、撃ちー方、始め!』

 

CIC管制官の号令とともに、FMC社製Mk45・62口径12.7センチ単装砲Mod.4が仰角を上げ、12.7センチ榴弾を空に向けて撃った。

FCS-3Aの管制を受けて照準を定めて放たれた12.7センチ砲弾は、時速350キロで飛行するワイバーンロードに寸分の狂いもなく命中し、信管を作動させて木端微塵に吹き飛ばす。そして命中したと同時に、主砲は2発目を吐き出していた。

 

「なっ!?」

 

「あのワイバーンロードを、あんな距離から1発で…!?ラ・マツサ級の高角砲よりも命中率が高いぞ!」

 

マイラスとラッサンが驚愕の表情を浮かべる中、毎分20発の連射速度を有するMk45・12.7センチ単装砲は次々と砲弾を飛ばし、17騎のワイバーンロードを叩き落としたところで砲撃を止める。その様子に気付いたワイバーンロードは、しばし近くを飛んでいるだけであったが、全く動きがない事を理解し、再び突撃を開始した。

しかし、「すずつき」まで後2キロメートルにまで接近したその時、艦橋目前に設置されたファランクス20ミリCIWSが作動し、M6120ミリガトリング砲は白い円筒型のレドームからの管制情報を基に、口に導力火炎弾を溜め始めたワイバーンに向けて、毎分3000発の20ミリタングステン弾のシャワーを浴びせ始めた。

ワイバーンロード3騎は一瞬でミンチとなって海面に落ち、静寂がその場を包んだ。

 

「…40騎のワイバーンロードを…たった1隻で…」

 

「すずつき」の海自護衛艦でも並外れた対空戦闘能力に、マイラス達がただ茫然となる中、藤田妹は笑みを浮かべ、彼らに話しかける。

 

「どうですか?これが、『21世紀の戦闘』というものですよ。では次に、対艦戦と参りましょう」

 

「すずつき」は単艦で、今度は敵艦隊の一派がいると見られている海域に向かって進み始めた。




次回、今度は陸戦&空中戦&少し海戦です。


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第30話 ゴトク会戦

ラ・カサミの機関配置について、重油レシプロエンジンというエンジンの構造と、蒸気機関に適応したあの煙突の位置がどのように合わせられているのかが気になる今日この頃。


中央暦1640年1月28日 フェン王国 アマノキ上空

 

「ついに私も本格実戦か…特自は絶対に防衛出動に出される事はないと思っていたのに…」

 

〈スーパーXⅢ〉のコックピット内で、野中はそう呟きながら、フェン王国首都、アマノキの空を見る。遠くには数隻の飛空船団とワイバーンが見え、首都市街地の方もよく見れば、所々が破壊され、未だに煙が立ち上っていた。

かつて、ロデニウス戦役において特生自衛隊は、あくまで陸上・航空自衛隊の部隊を、トロールやワイバーンなどの生物や魔獣から保護するために、国内からの批判を受けつつも『武装勢力』排除のための部隊としてエジェイに派遣され、ロウリア王国の大軍に対してメーサー砲を撃った。しかし、巨蟲の大群を使ったロウリア王国軍の非倫理的な無差別攻撃や、これまでロウリア王国が亜人の種族に対して行ってきた蛮行が明るみになると、特生自衛隊の派遣もある意味では間違っていなかった事が証明され、世論の批判はある程度落ち着いていた。そのためトーパ王国への対魔王軍排除のための派遣も、対外派遣に対する反発が少なく済んでいた。

そして今回、政府がパーパルディア皇国を敵性国家だけでなく、かの自衛隊最強の敵ゴジラと同じレベルの重大な脅威だと認識した事により、防衛出動に関する全ての制限が解除。最初から国家間の戦いとして特生自衛隊は派遣される事になっていた。実際、パーパルディア皇国が行っていた事は、これまで特生自衛隊が相手してきていた特殊生物の中でもとりわけ狂暴かつ野蛮な行いであり、日本のみならず世界の平和の守護者として存在していた自衛隊にとって許せる様な行いではなかった。

 

「全機、攻撃を開始せよ。1機たりともアマノキに近寄らせるな!」

 

〈スーパーXⅢ〉1号機に乗る指揮官、富樫一佐の指示が各機に飛び、護衛についていた〈F‐15J改〉は一斉に99式空対空誘導弾を発射し、迫りくるワイバーンロードを撃ち落としていく。同時にアマノキに近付き、ワイバーンを発艦させたり、船体を右に傾けて側舷の魔導砲で市街地を砲撃しようとしていた飛空船に向けて、3機の〈スーパーXⅢ〉は機首を開いて一斉に03式極超低温レーザー光線砲を発射した。

マイナス273度の稲光は、瞬く間に飛空船を包み込んで分子レベルで氷に変え、〈F‐15J改〉の99式空対空誘導弾で木端微塵に粉砕される。

味方が一瞬で氷と化した事に驚いたのか、残りの飛空船は逃走を開始したが、速度マッハ1.7を誇る〈スーパーXⅢ〉からは逃れられず、瞬く間に冷凍ミサイルや極超低温レーザーの餌食となって、雪の様に舞って霧散していく。

そして野中の手繰る機は、降下して機尾を地面すれすれの高度にまで近付け、機首を真上に上げる。そして地面に対して垂直な状態で滑る様に進み、真上にあいる飛空船に向けて極超低温レーザー光線を『撃ち上げた』。

最後の飛空船が木端微塵に吹き飛び、アマノキに人工の雪が舞い散る。

その中で空自の戦闘機達は、格闘戦によって残りのワイバーンロードを空対空ミサイルとバルカン砲で叩き落とし、ここに、アマノキ上空の制空権は自衛隊のものとなった。

 

『富樫より第三団、制空権奪取、完了!』

 

アマノキ付近にて待機する輸送艦「おおすみ」の艦橋で、富樫からの報告を聞いた北は、表情を一つも変えずに、新たな指示を出す。

 

「輸送艦に、部隊の揚陸作業を始めさせよ」

 

「了解!」

 

すぐに3隻のおおすみ型輸送艦と、ワスプ級強襲揚陸艦「あつみ」から、エアクッション式揚陸挺(LCAC)が2隻ずつ発進し、近くの海岸に着岸しては自衛隊員や車両を降ろし、母艦に戻って次の車両を載せていく。人員輸送コンテナを搭載している艇は、隊員を降ろした後、日本人や台湾人、少数ながらクワ・トイネ王国人の観光客を乗せ、母艦に連れて戻っていく。

陸上自衛隊の部隊が上陸を進めていく中、北は幕僚とともにアマノキの王城に出向き、シハンらフェン王国の上層部と会議を行っていた。

 

「現在、陸・特の二部隊はゴトク平原に向かっており、そこで部隊を展開。普通科・特科・機甲科混成大隊が敵陸上部隊を迎撃致します。パーパルディア皇国軍の装備では、我らに損害を与えるのは愚か、隊員一人に傷をつける事も敵いますまい」

 

北の言葉に、シハンも武人の表情を浮かべて頷く。すると、マグレブが北に問いかけてきた。

 

「しかし北将軍、鉄甲鎧虫は如何なさるのですか?古の魔法帝国が創りし怪物を撃破出来る者はこの世には…」

 

「大丈夫です。現在、海自の「やましろ」が付近海域に展開しており、いつでも鉄甲鎧虫を敵の射程外から攻撃する事が出来ます。それに、今ここには〈スーパーXⅢ〉もおります。あのデカブツは全て氷の塊に変えられる事でしょう。それよりも、重要なのはニシノミヤコをどう取り戻すかです」

 

北はそう言いながら、テーブル上に地図を広げ、説明を始める。

 

「まず、海自の護衛艦隊と〈スーパーXⅢ〉が鉄甲鎧虫に攻撃を行い、敵通常兵力と引き離します。そこに陸自と特自の部隊が接近し、一斉攻撃を行います。その隙にニシノミヤコに奪還部隊を送り込みますが…その中心となるのはフェン王国軍となります。具体的にはフェン王国軍の、格別に市街地での白兵戦に長けた者を乗せた〈チヌーク〉を数機、陸自の普通科中隊とともに市街地の中心部に突入させ、敵を西城にまで追い詰めます。そこで降伏勧告を行い、敵の出方を待ちます。もしも攻めてくるようであれば徹底的に撃破し、もし降伏してくるようであれば、それを受け入れましょう」

 

北の言葉に、シハン達は目を丸くする。ニシノミヤコで囚われた日本人観光客を全員処刑されたというのに、彼らは皇国軍に降伏を求めてきたのである。

 

「しかし北将軍。彼らはこれまで『負け』というのを経験しておりません。降伏の形式すら知らないかもしれませぬ」

 

「形式すら知らない?…一応尋ねますが、この世界では戦争に関して国際的な取り決めはなされているのですか?我が国が存在していた世界では、『戦時国際法』という取り決めがなされていますが…」

 

幕僚の問いに、シハンは渋い表情を浮かべ、苦々しく口を開く。

 

「…実を言えば、国交樹立後、日本の政治に関する書籍を読み漁っていたのですが…第三文明圏では、あそこまで複数の国で共通して適用される法律は存在しておりません。降伏形式も第三文明圏で共通のものがありますが、皇国軍がそれを使用してくる可能性は限りなく低いですし、そもそも皆様が求めている形式とは全く違うでしょう」

 

シハンの言葉に、自衛隊第三統合団幕僚は目を丸くする。すでに外務省経由で降伏形式について伝えているものの、どうやら相手の戦闘に関するマニュアルには『白旗』の単語は入っていない模様である。戦闘地で捕らえた捕虜や観光客を容赦なく処刑する様な者達である事から、最初から期待はしていなかったが。

それを聞いた北は、しばし沈黙するものの、再び口を開いた。

 

「…その時はその時です。いざとなれば全員、地獄に蹴り落とすまででしょう」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ゴトク平原

 

パーパルディア皇国陸軍第13魔導機甲師団は、一路アマノキに向かって軍を進めていた。

通常のリントヴルムだけでなく、改良技術により導力火炎弾発射能力の付与とマスケット銃にも耐えうる防御力の強化が行われたリントヴルムロードが横に列を成して進み、ゴーレムベースのパワードスーツを身に纏った機甲歩兵が後に続く。

その中で、馬に乗って陣頭指揮を執っていた第13魔導機甲師団長のモリス・ヒュン・ベルトラン三等陸将は、参謀達とともに真正面を見据え、アマノキがあるであろう方向を見つめていた。

 

「間もなく、アマノキ付近にまで到着するだろう。その時はニシノミヤコの時とは比べ物にならない程の軍勢が待ち受けているであろうが、数でも質でも劣り、戦術も稚拙なフェン王国程度、鎧袖一触でねじ伏せてやろう」

 

「それに、巡航艦40隻も支援砲撃に加わりますからね。如何に日本という新興国が援軍を派遣していたとしても、我が軍の敵ではありますまい」

 

彼らはそう喋りながら、前へと進んでいく。彼らの背後には30頭の鉄甲鎧虫が付いてきており、まず鉄甲鎧虫が砲兵隊とともに支援砲撃を行い、敵が混乱したところにリントヴルムと機甲歩兵を突入させる。この戦術はアルタラス王国戦でも十分に活用されており、彼らは勝利を確信していた。しかし、何故かベルトランの表情は冴えなかった。

 

「…ニシノミヤコで処分した日本の者共が付けていたあの腕時計…ミリシアルやムーでは見た事の無いものだった…本当に相手は文明圏外国なのか…?」

 

ベルトランがそう呟いたその時、斥候に出ていた兵士が馬車で駆け寄り、彼らに報告してきた。

 

「報告!ここから10キロ先の地点に、敵軍を視認!ですが、敵は地竜を中心とした部隊を展開させているとの事です!」

 

「成程…リントヴルム隊、及び機甲歩兵部隊に伝達!直ちに突撃を開始せよ!アマノキを落とせば、アルデ様から褒美が出るぞ!」

 

ベルトランの言葉に、兵士達は歓声を上げ、進軍速度を速めて突撃を開始する。しかしその時、馬車で陸上輸送され、魔力補充システムで垂直離陸して飛んでいたワイバーンロードが、次々と煙に包まれて落ちてきたのだ。

 

「なっ!?偵察用のワイバーンが!?」

 

味方のワイバーンが次々と落ちていく中、参謀の一人が、海の方を指さして叫んだ。

 

「ベルトラン様、海の方を見て下さい!敵の軍艦が2隻、あんなところに!」

 

「何!?」

 

参謀の言葉に、ベルトランは慌てて海の方に目を向ける。

視線の先、海軍巡航艦部隊の遥か後ろの方には、2隻の巨大な灰色の軍艦が浮かんでいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

護衛艦「すずつき」艦橋

 

「…アレが、日本の戦艦か…」

 

マイラスは、目の前にいる巨大な軍艦を見ながら呟く。

「すずつき」と「やましろ」は、敵の陸軍支援艦隊と鉄甲鎧虫を撃破するため、そしてマイラス達に『日本の本気』を知ってもらうために、北の命令を受けてフェン王国南部海域に展開していた。

改造後初の実戦となる「やましろ」は、上部構造物がステルス性よりも機能性を取った、より軍艦らしい無骨なものになり、レーダーやFCSも新型に換装。武装も改良が施されたため、性能は改造前以上のものとなっていた。

 

「今、目の前に見えている艦、大型護衛艦「やましろ」は、西暦1917年に竣工した旧日本海軍扶桑型戦艦二番艦「山城」が前身で、太平洋戦争後、海上自衛隊に大型護衛艦として編入され、1954年の第一次ゴジラ事変では、オキシジェン・デストロイヤーによって瀕死に陥ったゴジラにトドメを刺しました。ちなみにあの艦の艦長は、私の姉です」

 

藤田妹が説明を行う中、2隻は加速し、敵巡航艦部隊に接近する。巡航艦部隊は反転するや否や、煙突からもくもくと黒い煙を吐き出して加速し、2隻に距離を詰め始める。そして側舷の砲郭式砲塔を指向し、距離が5キロにまで縮んだところで一斉に砲撃を開始した。

幾つもの砲弾が周辺に着弾し、水柱が乱立する。しかし2隻は30ノットの高速でこれを回避し、距離を10キロ程度にまで離したところで、落ち着いて反撃を開始した。

 

「では、これから攻撃を開始します!」

 

『SSM1番から4番、発射始め!』

 

「すずつき」の中央部に装備されたキャニスターから、4発の90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)が発射され、それらは斜め上に発射されたあと急激に降下して海面と並行する様に飛び、僅か数秒で巡航艦の真横に突き刺さった。

「すずつき」と同規模の艦艇なら一瞬で破壊する事の出来る威力を持つ90式艦対艦誘導弾は、一瞬で巡航艦4隻を海面から吹き飛ばし、大量の鉄材や木材がまき散らされる。

2隻は再び接近し、今度は艦首や側舷に装備された主砲や副砲を向けて、砲撃を開始した。

Mk45・62口径12.7センチ単装砲1門と、国産開発された「やましろ」の18式60口径12.7センチ単装砲2基2門、そしてファランクス20ミリCIWS2基2門に17式複合CIWS2基が火を噴き、その攻撃は1隻ずつ正確に撃ち抜き、火だるまに変えていく。敵艦で無事なものが2隻までになったその時、2隻は砲撃を開始し、「やましろ」は海岸の方に向かい、「すずつき」は2隻に急接近して速度を落とした。

 

「では、お二人とも後ろの方をご覧下さい。これより、本艦の最後の武装をご覧頂きます。右舷発射管、雷数2!」

 

藤田妹の言葉に、マイラスとラッサンは後部の見張り台に向かい、艦の後部を見る。すると、艦側舷の一部が開き、そこから三つの筒を束ねた物体が出てくる。

 

「無誘導で当ててよ。発射始め!」

 

『了解、発射始め!』

 

藤田の合図とともに、右舷に出された68式32.4センチ三連装魚雷発射管から12式短魚雷が2発発射され、対小型ボート迎撃モードでプログラミングされた2発の魚雷は、2隻の巡航艦の艦尾に向かって40ノットの高速で突き進んだ。

水柱が2隻の艦尾に聳え立ち、2隻は艦後部が木端微塵に吹き飛んだため、艦尾の方から沈んでいく。それを見たマイラス達は、思わず目を丸くした。

 

「なっ…今の攻撃は、一体…!?」

 

「今のは、12式魚雷による雷撃ですね。かつては対艦戦において、巡洋艦や駆逐艦は、魚雷を積んで敵艦の猛烈な砲撃を回避しながら肉薄し、鯨の腹に銛を突き刺す様に魚雷を放って戦艦を沈める、所謂ジャイアントキリングを行っていました。今は対艦ミサイルにとって置き換わられてしまいましたが、いまでも小型艦や潜水艦…海中に潜って魚雷で艦船を攻撃する軍艦には有効な攻撃方法です」

 

藤田妹の説明に、マイラス達は思わず震え上がる。

この世界では海戦は主に砲撃戦が勝負を決める要素となっており、軍艦の沈め方も上部構造物が消滅する程の砲撃ないし大重量・大威力の砲弾を命中させて船体を損壊させるというものが一般常識であった。そのためパーパルディア皇国等の木造船が主流である国は、命中率と着弾数を増やすために100門級戦列艦を開発しているし、神聖ミリシアル帝国も大口径の魔導砲を多数搭載した魔導戦艦を建造・配備している。そしてムーも、大火力の30センチ連装砲や、手数で戦列艦を沈める15.2センチ単装砲を装備し、いざという時は刺し違える覚悟で突進し、敵艦の船体を破壊する衝角を装備したラ・カサミ級戦艦を開発したのだ。そして神聖ミリシアル帝国を頂点とし、大規模な戦争も起きずに文明国が固定されている状況下では、『小型の軍艦では戦艦を沈める事が出来ない』という常識が当たり前になっていた。

しかし、今自衛隊が使った兵器『ミサイル』と『魚雷』は、弾体自体に強力な推進装置を装備し、前者は空中を超高速で索敵しづらい低空を飛んでから敵艦に急接近する事によって、後者は対空砲等による迎撃手段が効かない海中を高速で突き進んで喫水線下に突撃する事によって、敵艦に確実に大ダメージを負わせる能力を持っている。

しかも発射機を見るに、全てがどんな砲塔よりも小さくコンパクトな構造で、発射時の初速の低さも、弾体に推進装置を取り付けた事による連続した推進力で速度と射程距離を補っているため、大口径の火砲を装備出来ない小型艦ですらも搭載可能なものであり、下手すれば全長30メートル程度の木造船ですら、神聖ミリシアル帝国の魔導戦艦を撃沈出来る可能性だってあるのだ。何より衝角による相打ちのリスクを取らずに、確実に船体に致命傷を与えられる魚雷は魅力的に思えた。

 

「さて、そろそろ「やましろ」が艦砲射撃を開始しますよ。鉄甲鎧虫も迎撃してくるでしょうが…あちらをご覧下さい!特生自衛隊の増援が来ました!」

 

藤田妹の言葉に、マイラス達は彼女の指さした方を見て、思わず固まった。

その視線の先には、3機の〈ラ・カオス〉以上の大きさを持ちながら、〈マリン〉以上の速度で飛び回る、巨大な緑色の航空機の姿があった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ゴトク平原

 

「な…何という事だ…」

 

目の前で40隻の巡航艦が海の藻屑と化し、ベルトラン達は唖然とした表情を浮かべる。

しかし敵の攻撃はこれに留まらず、今度は前方から多数の緑色の地竜が現れ、アマノキに向かって前進を続けていたリントヴルム部隊に向けて攻撃を開始した。

ゴトク平原に展開していた陸上自衛隊機甲部隊所属の90式戦車10両は、ラインメタルRh120・44口径120ミリ滑腔砲からTKG・JM33装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)を放ち、一瞬で10頭のリントヴルムを貫いて撃破する。

銃弾に耐えれる様になっても、砲弾までは想定していなかったリントヴルムロードは、一瞬で頭から尻尾の先まで貫かれ、砲弾は後方の機甲歩兵すら5列分貫き、6列目のところで地面に着弾して後方の列を吹き飛ばす。

 

「り、リントヴルム隊、及び機甲歩兵が、敵の砲撃を受けています!」

 

「なっ、敵はあんな高威力の魔導砲を持っていたというのか!?ええい、鉄甲鎧虫及び砲兵隊に支援砲撃を行わせろ!」

 

ベルトランが指示を飛ばしたその直後、遠くから轟音が響き渡り、一同はその音がする方向に目を向ける。

その時、青い稲光が天を裂き、地面も大きく斬り裂きながら鉄甲鎧虫に命中する。

〈スーパーXⅢ〉から放たれた03式極超低温光線は、一瞬で鉄甲鎧虫を氷漬けにし、動きを止めていく。そこに「やましろ」の新たに換装された18式50口径35.6センチ連装砲から放たれた、91式レーザー誘導式徹甲弾が突き刺さり、鉄甲鎧虫は木端微塵に吹き飛ばされていく。一方では90式戦車に89式装甲戦闘車10両が加わり、KDE35ミリ機関砲と79式対舟艇対戦車誘導弾がリントヴルムや機甲歩兵を撃破していく。その中で生き残っている鉄甲鎧虫や、牽引式魔導砲からなる砲兵隊は、陸上自衛隊機甲科部隊に向けて砲撃するものの、同世代のAPFSDSにも耐えうる防御力を持つ90式戦車は魔導砲の攻撃をはねのけ、89式装甲戦闘車もしきりに動いて照準を狂わせ、砲撃を回避する。そして1分後、気が付けばリントヴルムと機甲歩兵、そして鉄甲鎧虫は全て、自衛隊の猛烈な攻撃によって撃破されていた。

 

「こんな…こんな、馬鹿な…くそっ!全軍後退!ニシノミヤコにまで戻って防衛戦に徹する!」

 

ベルトランの指示に従い、部隊は後退を開始する。しかし自衛隊は、この後退すら見逃さなかった。

 

「…このまま逃がしてしまえば、後顧の憂いとなる。全車、砲撃開始!」

 

北の命令が降り、一斉に10両の99式自走155ミリりゅう弾砲と10両のMLRSが砲撃を開始する。海上でも「やましろ」と「すずつき」の砲撃が開始され、後退を始めた第13機甲師団には、大量の12.7センチ・15.5センチ・22.7センチ・35.6センチ砲弾・ロケット弾の雨が降り注いだ。

猛烈な炎と煙の渦が大地を掘り返し、多くの悲鳴が掻き消されていく。1分後、射撃を中止した時には、そこには何一つ残らず、ただ砂漠になるまで荒れた荒野が広がっていた。

パーパルディア皇国陸軍の主力部隊、第13機甲師団は、自衛隊の砲撃によって文字通り『消滅』した。

戦後、ゴトク平原には小さな寺院と街が築かれ、僅かに残った鉄甲鎧虫の残骸を戦争遺産とした観光や、水はけのよい地質を使い、日本からもたらされた作物、サツマイモによる農業、そしてその場の土を材料にしたコンクリート・セラミックの生産で発展する事となる。




愉しいよぉ…戦闘シーンを書くのが愉しすぎて、キーボードを叩く手と麻婆豆腐を食べる手が止まらないよぉぉぉ(CV中田譲治になりながら
つか戦闘シーン、TrySailの『High Free Spirits』と『魂のルフラン』Rossaliaカバーバージョン聞きながら書いてたら、ここまで凄い描写になっていた…。
次回、ついにお待ちかね海戦シーン。ちょっと艦これと宇宙戦艦ヤマトのオリジナルサウンドトラック探して来よう…


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第31話 第二次ニシノハマ沖海戦

今回は少し短めです。
戦闘時推奨BGM、艦隊これくしょんより『激突!夜間砲撃戦!』


中央暦1640年1月28日 フェン王国西部沖合

 

パーパルディア皇国海軍第4艦隊は、ニシノミヤコからそう遠くない海域で停泊していた。その旗艦たる1636年型超フィシャヌス級戦列艦「パール」の船楼では、シウスが一人悩んでいた。

正午頃、突然竜母機動部隊との定期交信が途絶え、その海域で謎の轟音が響き渡ったため、定期連絡をするついでに巡航艦を派遣したのだが、巡航艦からの報告で竜母機動部隊が『消滅』していた事が判明し、シウスは急いで本国に問い合わせ、増援を要請した。

しかし今度は、陸軍を支援するために派遣した巡航艦部隊が『敵大型軍艦と交戦に入る』という通信を最後に交信が途絶え、軍は全く情報が入らない状態に陥っていた。

 

「…一体、何が起きているというのだ…しかも、大型軍艦とは一体…」

 

シウスは額に汗を浮かべながら、海の向こうを睨んだ。今彼が乗っている超フィシャヌス級戦列艦は、1630年代後半に皇国海軍が開発・建造した次世代主力艦のバリエーションの一つで、全長100メートル超えの巨体に新型の蒸気レシプロ機関を装備し、従来型を超える機動性と航続距離を確保。さらに速力にかなりの余裕を確保する事が出来る様になった事で対魔弾鉄鋼式装甲の厚さを増やし、防御力も強化。武装も新型の長射程魔導砲を90門搭載する事に実現した。対空装備も充実しており、現在は神聖ミリシアル帝国とムーの軍拡を受けて、超フィシャヌス級を含む新型主力戦列艦の開発・建造が進められており、皇国艦隊は数を急激に増やしつつあった。

しかし、それでも他の列強に勝てるかと言うとそうではなく、戦列艦の魔導砲は2~5キロの有効射程圏内での殴り合いを前提に開発されており、10キロ以上先からの砲撃に対応する事は困難の一言である。防御力も同様で、同規模の魔導砲の砲撃には耐えれても、口径30センチ以上の砲弾には無力と言っても過言ではなかった。

シウスが謎の軍勢に言い知れぬ恐怖を抱え始めたその時、マスト上にいた見張り兵が大声で叫んだ。

 

「提督!南東方向より未確認艦16、急速接近!」

 

「来たか…全艦、第一種戦闘配置!ニシノミヤコの飛竜騎士団にも航空支援を要請せよ!」

 

シウスの命令に従い、200隻にも及ぶ第4艦隊主力が横に広い逆三角形の陣形を組み、ある艦は『風神の涙』を最大出力にして帆を張り、ある艦はボイラーを盛んに燃やして機関出力を上げ、16ノット以上の速力に上げて前進する。

しかし、全艦が魔導砲に砲弾を装填し終えたその時、互いの距離が10キロを切ったところで敵艦の主砲が火を噴いた。

護衛艦「こんごう」のオートメラーラ54口径12.7センチ単装砲から放たれた砲弾は、先頭を進んでいた100門級戦列艦を真正面から貫き、艦内で炸裂して艦自体を破裂させた。

 

「せ…戦列艦「ロプーレ」、轟沈!」

 

「…え?」

 

突然の出来事に、一同は絶句し、茫然となる。彼らの頭上に木材や鉄の破片が降り注ぎ、喫水線上を焼失した戦列艦は海中に消えていく。

そして敵、海上自衛隊護衛艦隊は左右に分かれ、全ての砲門を以て攻撃を開始した。

この戦いに参加している護衛艦隊の主砲を装備している艦は全15隻。そしてパーパルディア皇国海軍第4艦隊には、54口径12.7センチ単装砲10基10門、62口径12.7センチ単装砲4基4門、60口径12.7センチ単装砲2基2門、70口径13センチ連装砲4基8門、62口径7.6センチ単装砲3基3門、50口径35.6センチ連装砲4基8門の計27基35門が指向され、そして全ての砲口が吼えた。

何十何百もの砲弾が、FCSによる照準・管制を受けて第4艦隊に降り注ぎ、戦列艦や巡航艦は次々と砲弾に貫かれ、叩き潰され、轟沈していく。

 

「て、敵艦連続発砲!戦列艦「ミシュラ」「レシーン」「クション」「パーズ」、轟沈!艦隊損耗率、40パーセント突破!」

 

「なっ…!?こ、航空支援はー」

 

シウスが上を見上げたその時、上空を1機の巨大な黒い飛竜が通り過ぎ、一瞬で陸上の仮設飛行場から発進してきていたワイバーンロードを瞬殺する。

参加している護衛艦隊で唯一、主砲を持たない護衛艦である航空機搭載護衛艦「いぶき」から、艦首と一体化したスキージャンプ台を駆け上がって飛び立った〈F-35D〉は、機体に装備された04式空対空誘導弾を放ってワイバーンロードを撃墜していき、ミサイルが尽きれば、胴体左右に装備された30ミリガトリング砲を放ってワイバーンロードをハチの巣にし、圧倒的な高速と、可変偏向ノズルやリフトファンから生み出される機動性を以てワイバーンを翻弄していく。そこに増援の〈F-15J改〉が20機到着し、瞬く間に99式空対空誘導弾で瞬殺していく。

その最中にも、戦列艦は正確無比な砲撃の雨でハチの巣となり、応戦する艦も、砲撃は全て外れ、お返しとばかりに「やましろ」の35.6センチ砲弾で叩き潰される。

 

「か、艦隊損耗率9割を突破!」

 

「ひ、飛竜騎士団、壊滅!」

 

「な、何なんだ、一体何が起きているんだ!こんな現実があってたまるかぁぁぁぁぁ!!!」

 

シウスが叫んだその直後、「パール」に大量の砲撃が襲い掛かる。超フィシャヌス級戦列艦の装甲は最初の砲撃に耐えたものの、次の砲撃で装甲を叩き割られ、そのうち1発が機関室にまで到達した。

「パール」は大量の水蒸気をまき散らしながら爆発し、シウスは大量の木材とともに宙に放り出される。旗艦が爆散した瞬間を見た残存艦は、即座に動きを止め、マストに張った帆を降ろしていく。戦意を完全に喪失したと判断した護衛艦隊はそこで砲撃を止め、大量のヘリを飛ばしながら武装解除と同時に漂流者の救助を開始した。

こうして、後世に『第二次ニシノハマ沖海戦』と呼ばれる事になる海戦は、海上自衛隊の完勝で幕を閉じた。そしてパーパルディア皇国海軍第4艦隊は実質的に全滅し、シウスを初めとする1000人弱の将兵が自衛隊の捕虜となったのだった。

 

参加兵力

日本国海上自衛隊

航空機搭載護衛艦×1、大型護衛艦×1、ミサイル護衛艦×9、ヘリコプター搭載護衛艦×1、護衛艦×4、計16隻

航空戦力、〈F-35D〉×12、〈F-15J改〉×20、各種ヘリコプター多数

パーパルディア皇国海軍

戦列艦×80、巡航艦×120、計200隻

航空戦力、ワイバーンロード×100

 

損害

日本国海上自衛隊、なし

パーパルディア皇国海軍

艦艇183隻轟沈、戦列艦「シラント」含む艦艇17隻拿捕

航空戦力、全滅

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ニシノミヤコ 西城

 

ニシノミヤコ占領後、西城にはパーパルディア皇国陸軍の補給基地が置かれ、揚陸艦からの物資・装備揚陸や、周辺地域の制圧指示を行っていた。

しかし現在、皇国軍は劣勢に追い込まれていた。

 

『こちら第3中隊、敵軍と交戦中!敵は超小型の機関砲を使用してきてーグァッ!』

 

『第8中隊より司令部、敵は市街地に侵入!フェンの兵士は全員精鋭だ!ガッー』

 

「司令、先程からベルトラン三等陸将の第13機甲師団と連絡が取れません!恐らくは全滅したものと…」

 

相次ぐ被害報告に、指揮官の男は顔を青くし、窓の外を見る。

市街地には幾つもの羽虫のようなものが降り立ち、そこからフェン王国と、見慣れぬ鎧と銃を持った兵士ーおそらく日本の兵士だろうーが現れ、各地で防衛に当たっていた部隊を倒していく。その光景を見ていた指揮官は、決意を固めた。

 

「…これ以上は無理だ。降伏をしよう」

 

「なっ!?正気でございますか!?」

 

指揮官の言葉に、幕僚達は目を丸くする。しかし指揮官の考えは変わらず、彼は馬に乗って、敵軍の陣地近くにまで接近し、拡声器を使って大声で叫んだ。

 

「こちらはパーパルディア皇国陸軍、ニシノミヤコ占領部隊の指揮官である!我らはこれ以上の損害を増やさないために、貴官らに降伏を行いたい!しかし、我らは日本国の軍での降伏形式を知らない!降伏方法を教えてくれまいか!」

 

指揮官の言葉に、現場の陸上自衛隊指揮官達は目を丸くする。しかし罠の可能性もあるとはいえ報告しないわけにもいかないため、この事はアマノキにいる北達に伝えられた。

 

「…降伏形式を知らない、か。外務省は相手にちゃんと伝えてきた筈だろう?」

 

「…北将軍、もしかしたら、皇国の外務局は軍に、日本の降伏形式を伝えなかったのかもしれませんな。それどころか、文明圏共通の降伏形式すら貴国の外務省に伝えなかったのでしょう。何せ、皇国は絶対に勝利する事しか考えておりませんし、負けるといっても相手が神聖ミリシアル帝国の時だけと想定していたでしょう」

 

「…これは戦後、国際的な取り決めが必要となってくるな」

 

シハンの言葉に、北はうんざりとした表情を浮かべながら、現場指揮官に指示を伝える。その20分後、西城の見張り櫓の一つに、天幕から流用した白旗が上がった。

翌日早朝。パーパルディア皇国陸軍ニシノミヤコ占領部隊と揚陸艦隊は、陸上自衛隊・フェン王国連合軍に降伏し、フェン王国での戦いは終わりを告げた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

中央暦1640年1月29日 ロウリア王国・西ロウリア王国国境

 

ロウリア王国陸軍第4混成師団は、敵軍と対峙する様に陣を敷き、命令を待っていた。

 

「間もなく攻撃開始か…」

 

第4混成師団第11砲兵中隊を率いるガリエダ陸軍大尉はそう呟きながら、日本製の腕時計を見る。すると、後ろから二人の女性士官が話しかけてきた。彼女達はロデニウス戦役後、王国の分裂の際に家が衰退した貴族の出身で、王国軍の近代化の際に、第1期女性士官として軍に入隊し、遺された一族の家門と騎士の証を守るために士官学校で必死に勉強をしていたのだが、今回王国全体が滅亡の淵に立たされるレベルの危機を迎えたため、総力戦の一環として前線で部隊指揮官達の補佐に就いていた。

 

「大尉、この戦いは勝てるでしょうか?相手はあのパーパルディア皇国軍です。如何に中華民国軍から供与された装備があるとはいえ、鉄甲鎧虫や機甲歩兵を有する敵にどこまで戦えるのか…」

 

陸軍士官として大尉の補佐に就いている黒髪ロングの女性、ベルタ・ジューンフィルア少尉は少し不安そうな表情を浮かべ、隣に立つ銀髪ロングの女性、レーナ・ジョク・パンドール少尉も頷く。それを見たガリエダは、ふっと笑みを浮かべつつ答える。

 

「今回の作戦では、クワ・トイネ王国や台湾の援軍も支援をしてくれるんだ。彼らも信頼出来る様にしておけ。かつての亜人廃絶政策を進めていた頃はもう忘れろ」

 

ガリエダがそう言ったその時、彼の耳に付けているインカムから通信が入ってきた。

 

『敵軍は着弾予想地点圏内に侵入。各砲兵隊、攻撃を開始せよ』

 

「来たか…まさか我が軍がエジェイで受けた奴をここで再現する日が来ようとはな…砲撃、始め!」

 

ガリエダの号令が発され、直後、台湾陸軍からの供与品であるT65・155ミリ榴弾砲は一斉に火を噴き、クワ・トイネ王国製の野砲とともに、無慈悲な侵略者に向けて砲撃を開始。ここに、ロデニウス大陸での対パーパルディア皇国軍迎撃戦の火蓋が切って落とされた。




次回、今度はロデニウス大陸戦です。


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第32話 西ロウリア王国解放戦

漫画最新話、99式自走砲とMLRSだけかと思ったらFH70も使っているのかよ…


中央暦1640年1月29日 西ロウリア王国領 アルデヌの町

 

パーパルディア皇国陸軍第16師団は、部隊の集結を終え、攻勢の準備を整えていた。

 

「諸君!我らはついに、ロウリア王国にまで侵攻し、王都ジン・ハークに入城する。そこで国王に対して要求を突きつけ、先の戦争で国家戦略局の作った負債を完全に回収する!この西ロウリア王国の占領が完全に成功した暁には、その地は我らに与えられる!我らは一兵卒に至るまで男爵の地位が与えられ、領地を持つ貴族に召されるのだ!」

 

バフラムの訓示に、兵士達は顔をときめかせる。今回、アルデの配慮により西ロウリア王国に攻め入るパーパルディア皇国軍には、皇帝から直々に膨大な恩賞と栄誉が与えられる事になっていた。そのため、彼らは非常に士気が高く、眼をぎらぎらと輝かせながら、戦いに赴いていた。

この戦いに勝ち、『列強の支援を受けておりながら無様な姿を晒した負け犬』ロウリア王国を屈服させれば、西ロウリアの地は第16機甲師団3万人の支配する土地となる。そして同時に爵位も全員に与えられ、栄光の日々が約束される事となる。

この大盤振る舞いに、兵士達は歓声を上げ、隊列を組んで前進する。今回、鉄甲鎧虫は付近に生息する巨蟲に対する牽制として後方で待機し、支援砲撃は全て最新式の牽引式魔導野砲で行う。この部隊であれば、文明圏外国の軍など鎧袖一触であろう。

 

「今回は久々に楽な相手と戦えそうだな。全軍、突撃せよ!」

 

『ウォォォォォー!!!』

 

バフラムの号令に従い、機甲歩兵からなる軍勢は歓声を上げ、リントヴルムの改良型であるリントヴルムロードとともに大地を駆けて突撃を始める。すでに上空からの偵察により敵軍の位置は分かっており、それを最新式の魔導技術の結晶たる機甲歩兵で作り上げた大軍で踏み潰せばいいだけの事である。

魔導砲を全く持たない辺境の蛮族の武装集団にしか過ぎない文明圏外国に対し、ワイバーンと同等の攻撃能力を持つリントヴルムロードと、ゴーレムの技術をもとに開発された武装パワードスーツは戦力過剰にも等しかったが、皇国軍は一度負かすと決めた相手にはとことん強力な攻撃を行う。それが、皇国軍の勝利の方程式であった。

 

「この侵攻の光景こそ、まさに壮観。ロウリア王国よ、我が軍の力を思い知るがいい!」

 

バフラムはそう言って高笑いし、参謀達もそれに合わせるかの様に笑う。

そして皇国陸軍機甲歩兵の第一列が丘を越えようとしたその時であった。

 

ヒュゥルルルルル…ズドドドドォォォォォン!!!

 

突如、機甲歩兵やリントヴルムロードが炎と煙に飲み込まれ、粉々に砕かれていく。後列の機甲歩兵もその攻撃に吹き飛ばされ、丘を転げ落ちていく。

 

「なっ…!?一体何が起きた!?」

 

突然の出来事に、バフラム達は揃って目を丸くし、愕然とした表情を浮かべる。すると、連絡兵が顔を青くして報告してきた。

 

「し、司令!偵察に出ていたワイバーンロードより通信!ここから20キロ先の地点に、多数の擬装砲台を確認したとの事!また、その地点にて砲撃の様子が見られるとの事です!」

 

「何!?奴ら、神聖ミリシアル帝国軍の要塞砲並みの射程を持つ魔導砲を配備しているとでも言うのか!?ありえん、有りえんぞ!」

 

連絡兵の報告に、バフラムは錯乱に陥る。すると、傍にいた参謀達が指示を出した。

 

「機甲歩兵及びリントヴルム隊、直ちに隊列を崩して散開戦術に移行!小隊規模で敵陣地に攻め込め!」

 

「竜騎士団及び空中艦隊に連絡!直ちにワイバーン及び飛空竜母、飛空砲艦を出撃させて、航空支援に当たらせろ!急げ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロウリア王国陸軍第4混成師団陣地

 

「第二射、弾着!」

 

観測要員からの報告に、ガリエダは安堵した表情を浮かべる。

 

「訓練通りに成果が出ているな。この調子だと砲兵隊のみで戦果を独り占め出来るかもな」

 

彼がそう呟く中も、砲兵隊は迫り来るパーパルディア皇国軍に向けて砲撃を行う。

台湾から供与されたT65・155ミリ榴弾砲に、クワ・トイネ王国で製造されたM1639・155ミリ榴弾砲は、ワイバーンの飛行可能高度から遥か高空に位置する偵察機〈サギ2型〉からの観測情報を基に弾着観測射撃を実施しており、その中でも陸上自衛隊のFH70を基に開発されたM1639・155ミリ榴弾砲は、従来の魔導砲とは比べ物にならない射程距離に威力、そして陸上用火砲の中でも指折りの命中率を誇り、パーパルディア皇国軍の機甲歩兵に確実なダメージを与えていた。

すると、長距離からの砲撃である事に気付いたのか、すぐさま散開戦術を取り始め、砲撃を避けながら接近してきた。

 

「敵軍、接近してきます!また、上空からはワイバーンと飛空船の編隊が多数接近中!」

 

「切り替えが早いな…流石はムーや神聖ミリシアル帝国も仮想敵としているだけはあるな。砲撃中止!総司令部に通信を繋げ!」

 

ガリエダはそう呟いて砲撃を中止させ、上官に指示を仰ぐ。

 

「司令、敵は散開戦術を取り始めました。また、航空戦力も出してきております。直ぐにダイダルに航空支援要請を出して下さい!」

 

『了解した。敵機甲歩兵とリントヴルムは地雷原と塹壕に配置している歩兵部隊に相手させよう。ワイバーンと飛空船は台湾空軍と、クワ・トイネ軍に任せる。砲兵隊は引き続き、支援砲撃を続行せよ』

 

「了解!砲撃再開!敵が丘を下り始めたら水平射撃だ!真っすぐ撃ち抜け!」

 

数十門の重砲や榴弾砲が仰角を水平にし、迫りくる機甲歩兵に向けて大量の155ミリ砲弾を放つ。真正面から30キロ超の榴弾が飛び、機甲歩兵やリントヴルムは木端微塵に吹き飛ばされて撃破されていく。塹壕からは迫撃砲と重機関銃の猛烈な弾幕が張られ、機甲歩兵は蜂の巣と化して倒れていく。リントヴルムロードは原種よりも頑丈になった表皮で銃弾を跳ね返しながら進むが、塹壕前に敷設された地雷を踏み、悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。そのため皇国軍の侵攻はたちまち足踏み状態に陥った。

しかし数分後、空に叫び声の様な音が響き、兵士達は上を見上げる。すると上からは、多数のワイバーンが接近してくるのが見えた。

 

「ワイバーン接近!」

 

「対空戦闘!砲兵と塹壕に近寄らせるな!」

 

各所で12.7ミリ重機関銃や25ミリチェーンガンが唸りを上げ、空に向けて対空砲火を浴びせる。ワイバーンはその弾幕の中に飛び込んで次々と蜂の巣と化し、近くに落下していく。

すると遠くから稲妻の様な轟きが響き渡り、直後に急降下しようとしていたワイバーンロード数騎が木端微塵に吹き飛ばされる。直後に幾つもの飛行物体が目にも止まらぬ速さで通過し、兵士達は歓喜の声を上げた。

 

「台湾空軍の戦闘機が来たぞ!」

 

「助かった…」

 

兵士達が歓喜に沸く中、F-CK-1〈経国〉とF‐CK-2〈仙逸〉は一斉に天剣一型(TC-1)空対空ミサイルを放ち、口内に導力火炎弾を溜めていたワイバーンロードの頭部を吹き飛ばす。数騎が格闘戦に移ろうとしたが、台湾空軍戦闘機の編隊は、ミサイルと機銃の一斉射による一撃離脱戦法で敵を撃破し、直ぐにその場から離れていく。そして返す刀で飛空船に襲い掛かり、天剣二型(TC-2)空対空ミサイルで飛空船を撃破していく。

ワイバーンロードの編隊はそれを追いかけようとしたが、直後に後方から幾つもの銃撃が降り注ぎ、背中や竜騎士が撃ち抜かれて墜落していく。

今度はクワ・トイネ王国空軍初の戦闘機、F-1〈トビ1型〉制空型機械飛竜の編隊が襲来し、機首の7.7ミリ機銃でワイバーンに致命傷を負わせて撃破していく。さらにそれに黒龍の編隊も加わり、青い炎のレーザーがワイバーンを焼き裂く。ワイバーンロードもこの攻撃に対して反撃に移るが、台湾からの支援のみならずムーの技術も使用された〈トビ〉と新種のワイバーンとされる黒龍は、速度のみならず旋回性能や加速性においてもワイバーンロードを上回り、かつて自衛隊航空機との空戦を経験したターナケイン考案の巴戦によって敵を翻弄し、撃墜していく。

そしてわずか5分で、パーパルディア皇国軍のワイバーンロードは全騎が撃墜された。その様子は第16機甲師団の本陣からもよく見えた。

 

「そ…そんな…こんなバカな…5分!わずか5分で96騎のワイバーンロードが全滅だと!?」

 

バフラムが恐怖と驚愕で震える中、参謀の一人が顔を青くして駆け込んできた。

 

「し、司令!鉄甲鎧虫が、謎の巨大生物に襲われ、半数近くが戦闘不能!こちらに向かって接近してきています!」

 

「何!?巨大生物がこっちにー」

 

バフラムが言い切る直前、真上を鉄甲鎧虫の身体が飛んでいく。そして彼らの目前に、それらは現れた。

ティラノサウルスを10倍近くにまで巨大化させた様な見た目の地竜と、リントヴルムの20倍はあるかという規模の、背中に多数の棘を生やした地竜が現れ、片方は尻尾の鉄球に似た部分で鉄甲鎧虫の頭を吹き飛ばし、片方は丸く転がって高速で回転しながら鉄甲鎧虫に突進し、棘で外骨格を潰していく。

 

「ひ…ひぃぃぃぃぃ…」

 

自分達の常識を超える存在に、バフラム達の士気はたちまち衰えていく。そして2頭の怪獣の暴れっぷりはロデニウス大陸諸国連合軍の陣地からもよく見えた。

 

「…おいおい、何かアンギラスとゴロサウルスが乱入しているぞ。一体どうなっているんだ?」

 

劉は呆れともつかない調子で呟き、副官も『小官には何とも言えません』と言わんばかりに肩をすくめる。

すると、兵士の一人が駆けつけて、劉達に報告してきた。

 

「劉司令、クワ将軍、敵軍は降伏の意を示しております。如何致しますか?」

 

「ようやくか…クワ将軍、このまま全滅させる事も出来ますが、後々の印象悪化を避けるためにも、降伏は受け入れて差し上げましょう」

 

「分かった。ではそろそろあの地竜達にはご退場願おうか」

 

クワ将軍はそう言いながら、部下に指示を出す。

直後、各陣地からSS-2地対艦ミサイルが発射され、次々とアンギラスとゴロサウルスに命中していく。これに驚いたのか、2頭はそそくさとその場を離れていき、残ったミサイルは鉄甲鎧虫に命中して、これを撃破していく。ロデニウス大陸に投入された鉄甲鎧虫は、寿命間近の固体が殆どだったらしく、若い個体よりも脆くなっていた外骨格は容易く割られ、次々と死に絶えていく。そして最後の鉄甲鎧虫が死んだ時に、後に『アルデヌ会戦』と呼ばれる事になるこの戦いは終わりを告げた。

 

参加兵力

ロデニウス大陸諸国連合軍

兵士33000人、火砲60門、〈経国〉×20、〈仙逸〉×20、〈トビ〉×12、黒龍×12

パーパルディア皇国陸軍第16機甲師団

兵士30000人、火砲30門、鉄甲鎧虫×50、リントヴルムロード×180、ワイバーンロード×96、飛空船×24

損害

ロデニウス大陸諸国連合軍、なし

パーパルディア皇国陸軍第16機甲師団、23000人戦死、7000人捕虜

鉄甲鎧虫及びリントヴルムロード、ワイバーンロード、飛空船全滅

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同日 ザン・ハーク付近海域 ロデニウス大陸諸国連合艦隊

 

ポドラド沖と呼ばれている海域を、数十隻の大艦隊が進む。艦隊旗艦「台東」の艦橋では、第65任務軍司令の孟中将が苦笑を浮かべながら報告を聞いていた。

 

「まさか、アンギラスとゴロサウルスがロデニウス大陸に住みついていたとは…皇国軍にとっては因果応報だな」

 

孟は苦笑を浮かべながらも、真正面を向いて指示を出す。

 

「直ちに艦載機発艦!皇国軍ワイバーン基地に空襲を仕掛ける!戦艦部隊は艦砲射撃で陸軍基地に打撃を与えろ!」

 

孟の命令に従い、「台東」よりフランス製艦上ジェット戦闘機〈ラファールT〉が発艦し、対地攻撃任務に就く〈仙逸〉とともにワイバーンのいるであろう飛竜騎士団基地に向かう。そして「中山」を先頭に3隻の戦艦が、陸軍基地を射程圏内に収められる海域に向かう。やがて、偵察に出ていた〈E‐2T〉早期警戒機から通信が入る。

 

『2番機より「台東」、敵艦隊急速接近!数、戦列艦25、竜母5、フリゲート60!速度15ノットで接近してきます!』

 

「来たか…まずは竜母を全て潰しておきたい。戦列艦やフリゲートも半数は潰しておこう。艦隊、ミサイル攻撃用意!」

 

孟の命令に従い、艦隊旗下の成功級ミサイル巡防艦(フリゲート)2隻と康定級巡防艦2隻、そしてミサイル駆逐艦「馬公」に「新営」が前進し、左右に分かれて展開する。そしてすぐに目標の割り振りが行われ、それを確認した孟は命令を下した。

 

「攻撃準備、完了」

 

「攻撃、始め!」

 

命令一過、成功級ミサイルフリゲートと康定級フリゲートから雄風Ⅱ型艦対艦ミサイルが4発ずつ、「馬公」と「新営」からハープーン艦対艦ミサイルが4発ずつ発射され、24発の艦対艦ミサイルは燃焼し終えたロケットモータを切り離し、ターボジェットエンジンに切り替えて低空飛行に入る。そして水平線の向こうに消え、10秒後に遠くから轟音が響いた。

 

「レーダー、敵艦隊24隻、ロスト。これより第二次攻撃に入ります」

 

前進していた6隻は反転し、反対側のキャニスターを敵艦隊に向ける様に移動する。そして第二射が発射され、再び24発の艦対艦ミサイルがパーパルディア皇国艦隊に襲い掛かった。

 

「24隻、ロスト。残りは42隻です」

 

「よし。後はクワ・トイネ艦隊とロウリア艦隊に任せよう。しかし、戦況が不利と見える様になったら、直ぐに増援を送ろう」

 

孟がそう言った直後、横を十数隻のクワ・トイネ王国海軍第三艦隊と、ロウリア王国海軍第一艦隊が通り過ぎ、敵艦隊に向かって突撃していった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

パーパルディア皇国監察軍第1艦隊 旗艦「カイゼラ・ネルロ」

 

「どういう事だ!」

 

「カイゼラ・ネルロ」の艦橋に、艦隊司令を務めるケリオス三等海将の怒号が響き渡る。

敵艦隊の接近を知り、監察軍第1艦隊は守備隊の10隻を残して出撃し、敵艦隊の迎撃に出ようとしていたのだが、突然水平線の向こうから幾つもの光の矢が飛んできて、竜母5隻と戦列艦12隻、巡航艦31隻が轟沈したのだ。この謎の攻撃に、ケリオスの思考能力はオーバーヒート寸前に陥っていた。

 

「まさか水平線の向こうから一方的に攻撃してくるとは…しかも竜母を優先的に潰してきたという事は、航空戦力にいささか不安があるという事…司令、これは水上戦になるやもしれませぬ」

 

傍にいた「カイゼラ・ネルロ」艦長、ネリア・ファン・エストシラント一等海佐の言葉に、ケリオスは平静を取り戻し、指示を出す。

 

「う、ウム…全艦、全方位を警戒!速力上げ、敵艦隊に突撃を開始する!」

 

艦隊は一気に増速し、速力を20ノットにまで引き上げる。すると、水平線の向こうに幾つもの艦影が見え始め、ケリオスは大声で命じた。

 

「見つけた!全艦、戦闘配置!奴らを撃滅せよ!」

 

艦隊は魔導砲の射程圏内に収めるまで接近を開始し、側舷の砲門を全て開いて発射体制に入る。そして艦隊が砲戦の準備を整えたその時、敵艦隊も左右に分かれ、同時に煙を噴いた。

 

「何だ、自爆か?」

 

ケリオスが訝しげに呟いたその時、敵艦隊から幾つもの物体が放たれ、煙を引きながらパーパルディア皇国艦隊に向かって突撃し始めた。そして瞬く間にパーパルディア皇国艦隊に殺到し、先頭を進んでいた巡航艦と80門級戦列艦に命中した。

クワ・トイネ王国海軍第三艦隊から放たれた、28発のSS‐2艦対艦ミサイルは、28発中16発が戦列艦3隻と巡航艦2隻に命中し、全てを木っ端微塵に吹き飛ばす。15キロという圧倒的な射程圏外からの攻撃に、ケリオス達は思わず唖然となる。

 

「な…何だ、今の攻撃は…」

 

「…っ、待って下さい!前方より大型艦が来ます!あれは…ちょ、超高速巨大ガレアス艦「ウラガン」、接近!」

 

見張り員の報告に、ケリオス達は思わず目を丸くし、顔から血の気が引く。古代ロデニウス文明の技術が生み出した怪物が、この艦隊に接近してくる。そしてウラガン級に搭載されているのはー。

 

「っ、艦隊、散開!急げ、『ブラフマストラ』が来るぞ!」

 

ネリアが咄嗟に指示を飛ばし、艦隊は左右に分かれて距離を取り始める。しかし一歩遅く、左翼側に展開していた戦列艦が、白い光に飲み込まれた。

 

「め…「メイヴ」消滅!「ガネト」大破!その他にも甚大な被害が出ております!」

 

「そ…そんな!改フィシャヌス級と超フィシャヌス級がこんな簡単にやられるだなんて!」

 

見張り員の報告に、ケリオスは驚きを露わにする。改フィシャヌス級は超フィシャヌス級とともに次世代の皇国海軍主力艦の試作品として開発された戦列艦で、超フィシャヌス級が砲門数を100門以上に増やして手数を増やしたのに対し、改フィシャヌス級は砲門数を減らした代わりに長砲身・大口径の魔導砲を装備し、命中率と射程距離の延長でムー艦隊に対抗する様に設計された。そしてどちらとも、ムーの軍艦の砲撃に耐えれる様に設計されていたが、ウラガン級の主砲たる『ブラフマストラ』に対しては赤子も当然だった。

そしてクワ・トイネ艦隊とウラガン級のロングレンジ攻撃で打撃を与えたロデニウス大陸諸国連合艦隊は、30ノットにまで増速し、パーパルディア皇国艦隊を挟み込む。それを見ていたネリアは、大声で乗組員に命じた。

 

「くっ…決戦兵器準備!あのウラガン級と刺し違えても打撃を与える!」

 

ネリアの命令に、一同は驚愕する。

 

「決戦兵器を、ですか!?しかもウラガン級に向けてでありますか!?」

 

「そうだ!既に妾達は危機に窮している!このままではただなぶり殺しにされかねん!ここで奴らに、我が皇国の力を見せつけねばどうなるというのだ!いいから早く準備をせよ!」

 

ネリアの鬼気迫った言葉に、乗組員は圧倒される。しかし直ぐに行動に移り始めた。

 

「…決戦兵器、発射準備!目標、敵ウラガン級!」

 

「カイゼラ・ネルロ」は加速を開始し、ウラガン級に向かって突撃を開始する。それと同時に、クワ・トイネ艦隊は攻撃を開始した。

5キロという近距離で、各艦に装備された15.5センチ単装砲や7.6センチ単装砲が火を噴き、パーパルディア皇国艦隊もそれに応じて応戦を開始する。しかしクワ・トイネ艦隊艦艇には原始的ながらも射撃管制装置が装備されており、ただ複数の魔導砲を一斉に放つ皇国戦列艦に比べて命中率は非常に高かった。砲撃は次々とパーパルディア皇国海軍の戦列艦に命中し、対魔弾徹甲式装甲を叩き割って砲室内に飛び込む。そして室内で炸裂し、他の砲弾や魔術媒体の誘爆を引き起こして損害を増やしていく。皇国艦隊の砲撃もクワ・トイネ艦隊に命中するものの、その数は非常に少なく、しかも鋼鉄製の船体である事や、被弾時のダメージコントロールも十分に施されていたため、撃沈までには至らなかった。特にクワ・トイネ王国海軍第三艦隊旗艦を務める装甲巡洋艦「キュリ」の砲撃は強力で、台湾製50口径20.3センチ連装砲は、たった一撃で巡航艦を屠っていく。

その中で「カイゼラ・ネルロ」は、25ノットという皇国艦として『高速』の部類に入る速力で突撃し、迫りくるヴィントシュトース級ガレアス艦に向けて、30.5センチ三連装砲を放つ。

 

「決戦兵器、発射準備完了!」

 

乗組員からの連絡が届き、ネリアは真正面を見据えながら、大声で命じた。

 

「よし…ロウリア艦隊よ、我が皇国の力を見よ!決戦兵器『太陽神の海槍』、放てぇぇぇぇぇ!」

 

ネリアの号令とともに、艦首から2本の筒状の物体が射出される。そして海中に入るなり、後部から勢いよく炎を噴き出し、海中を高速で疾走し始めたのだ。

「カイゼラ・ネルロ」が発射した決戦兵器、『太陽神の海槍』は、神代から伝わる『太陽神の使者』の文献を参考に開発された、戦列艦や巡航艦でも神聖ミリシアル帝国の魔導戦艦に勝てると言われている兵器で、弾頭部に『海神の魔靴』を装着して弾体の速力と射程距離を増し、後部には魔導エンジンの代わりに、国内の遺跡から見つかったものをベースにした『魔光呪発放射エンジン』を装備し、海中を高速で突き進んで、船体の喫水線下に致命傷を与える設計が施されている。もし地球のミリタリーに詳しい者が見たら、ロシアの『シクヴァル』魚雷に酷似していると思うだろう。

そして2発の『太陽神の海槍』は、200ノットという驚異的な速度で海中を突き進み、回避軌道を取り始めたウラガン級に命中する。

大きな水柱が聳え立ち、ウラガン級は左舷側のオールはことごとくへし折られ、左舷側に傾き始める。

 

「命中、確認!」

 

「よし!直ちに距離を取れ!各砲門、砲撃を止めるな!」

 

ネリアはそう叫び、指揮を執る。しかし旋回の途中、ウラガン級から2発の『雷神の魔槍』が放たれ、その2発は「カイゼラ・ネルロ」の艦橋に直撃した。

 

この後、戦況はクワ・トイネ、ロウリア両艦隊の優勢に進み、後に『ポドラド沖海戦』と呼ばれる事になる戦いでパーパルディア皇国監察軍第1艦隊は80隻が轟沈。残り10隻はボロボロになりながらアルタラス王国の方へ逃走。対してロデニウス大陸諸国連合艦隊は、22隻中5隻中破と、圧倒的に少ない損害でパーパルディア皇国艦隊に対して勝利を収めたのだった。

そして陸上でも、台湾艦隊艦載機・戦艦部隊の猛烈な陸地への攻撃を受けて、皇国陸軍基地と飛竜騎士団基地が壊滅し、同時にザン・ハーク守備隊とそこに停泊していた監察軍艦隊10隻は降伏。ロデニウス大陸に侵攻していたパーパルディア皇国軍は、名実ともに壊滅し、西ロウリアは解放されたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同日午後 日本国東京都 首相官邸

 

ルミエスは数人のお供とともに、記者会見に臨んでいた。それは、パーパルディア皇国に対する『宣言』のためであった。

 

「皆様、始めまして。私はアルタラス王国第一王女のルミエス・タラスです。先のパーパルディア皇国・アルタラス王国間での戦争時に、前国王であり私の父、ターラ14世の配慮により私は日本で保護され、今ここにいます。しかもその戦争は、最初からパーパルディア皇国がアルタラスの地を支配するために最初から計画されていたものであり、現在、我が国はパーパルディア皇国によって不法に占拠されています。我がアルタラス王国は日本国内に臨時政府を置き、私ルミエスを長とするアルタラス王国正統政府の樹立をここに宣言致します」

 

ルミエスの言葉に、記者達は騒めき、一斉にフラッシュが焚かれる。日本やムーの報道各社のカメラは、ルミエスのその民族衣装に身を包んだ姿と、後ろに置かれた日本とアルタラス王国・両方の旗をレンズに収め、日本各地のテレビや、遠く離れたムーや世界各地の魔信テレビジョンに映像の形で映し出していく。

 

「現在、我が正統政府と日本国政府、及び台湾国、ロデニウス大陸諸国との間で、集団安全保障条約の締結に向けて協議を進めております。パーパルディア皇国は、直ちにアルタラス国内から撤退しなさい。さすれば無益な殺生はしません。そしてアルタラス王国の民よ!聞こえているのなら『その(とき)』に向けて準備をするのです!我が国の民なら分かるその方法で、『その刻』を知らせましょう!」

 

ルミエスの言葉に、傍に立っていた護衛の兵士達は揃って目に涙を浮かべるも、直ぐに拭って表情を平静に保つ。

 

「パーパルディア皇国の支配に苦しんでいる全ての属国・属領に住まう人々よ!フェン王国とロデニウス大陸に攻め込んだパーパルディア皇国軍は、日本・台湾・フェン・ロデニウス大陸諸国の連合軍に敗れ去りました!列強パーパルディア皇国は確かに強い。ですが、その皇国も負けたのです!時期が訪れれば、貴方がたの力が必要となるでしょう!今は準備をしていただけませんか!」

 

ルミエスの演説が終わり、一斉にフラッシュが焚かれる。この演説はすぐさま世界各地に流され、様々な衝撃を与える。それはパーパルディア皇国においても同様であった。

 

「…どうやら日本とアルタラス王国の忘れ形見は、本当に列強を愚弄している様だな…」

 

ルディアスの怒りが籠った声が会議場内に響き、参列している閣僚や軍人は、一同表情を硬くする。侍従が慌てて魔信テレビジョンを切り、それと同時にルディアスは大声を張り上げた。

 

「余はここに、日本及び台湾の殲滅戦と、ロデニウス大陸の完全属領化を宣言する!直ちに国内全て総力戦体制に入り、軍を増強せよ!我が列強に逆らいし者を全て殺し、一気に第三文明圏を平らげるぞ!」

 

御意(ア・ハイ)!!!』

 

一同は揃って最上礼を行い、直ぐに行動に取り掛かる。その中でカイオスは、小型の電波通信機を使って朝田達に通信を繋げる。

 

「…やはり、殲滅戦が決定された。後でレミールから呼び出しがかかるかもしれないが、いつでも脱出出来る様に準備しておいてくれ。近衛や港湾関係者で何人か息がかかっている者がいるから、心配はなさらなくてもいい…」

 

その日、全世界にフェン王国と西ロウリア王国でのパーパルディア皇国軍の敗北が報道された。

同日、パーパルディア皇国はロデニウス大陸の完全属領化と、日本・台湾の『殲滅戦』を発令。すぐさま損耗した戦力の回復を図るとともに、装備の近代化や新兵器の開発が急ピッチで進められ、複数の国々を滅ぼすための行動を取り始めた。

そして翌日、後に『全世界の行き先を変えた戦争』と呼ばれる事になる、『第一次文明圏大戦』が勃発する事となる。




『列強の脅威』編、これで終わりです。
どうにか平成最後の日までに完成させる事が出来た…。
次回、改元と外伝を挟んで、新章に突入します。


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外2 迫る嵐

外伝2話目です。


西暦2018年6月1日 アメリカ合衆国ニューヨーク 国際連合本部

会議場では、多くの国々の代表者が、現在彼らを悩ませている議題について話し合っていた。

2か月前、太平洋上に突如、オーストラリアの2倍の面積を持つ大陸が現れ、そこを拠点にして多数の国籍不明の艦隊が出現し、世界各地の海を荒らしているのだ。この謎の敵に対し、どの様に対処すべきかで会議を行っていたのだ。

 

「現在、世界各地にて謎の艦隊が出現し、各国の海軍艦隊及び沿岸部の都市に襲撃を仕掛けては撤退を繰り返している。我が国としてはこの国籍不明の艦隊に対する対処及び方策の早期提出を求めたい!」

 

アメリカ合衆国代表者の演説に、多くの代表者が拍手を送る。次に、ロシア代表が口を開く。

 

「現在、世界各国に襲撃をかけている国籍不明の艦隊ですが、この艦隊を構成する艦艇には、この世界に存在する全ての系統に当てはまらない技術が使われている。我が国としては、この国籍不明艦隊に対する効率的な対処を行うべく、徹底した情報の共有と、幾つかの技術の開示を求めるものである」

 

ロシア代表の言葉に、多くの西側諸国代表者が顔をしかめる。確かに今は、正体も分からない謎の勢力に対し、主義主張の垣根を超えて対処した方が良いだろう。しかし『その後』、戦勝国同士でのやり取りで、全てのカードを晒した状態で対峙するのは、都合上好ましくない事である。もし自国の極秘にしてあった情報や技術を共有した場合、互いにアドバンテージを失った状態で再びパワーバランスを構築しなければならないからだ。

 

「ロシア代表の意見に賛同する。1国が、相手の重大な秘密を得ていた場合、その情報を隠匿されていないかどうかで、どの様に状況が変わるのかは明白な事実である。かつてのムゥ帝国の襲撃の時でさえ、各国はムゥの情報を隠匿しようとした挙句、相手に先手を取られ、自らを滅ぼしかけたではないか」

 

中国代表の言葉に、アメリカ代表とイギリス代表は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。かつてのムゥ帝国の宣戦布告の時に、米英が開発した原子力潜水艦「レッドサタン」がムゥ帝国の潜水艦に負けて水圧で潰された事を隠蔽しようとし、周辺国から白い目で見られた事を指摘され、アメリカは居心地が悪くなるのを感じ取る。

すると、これまで沈黙状態にあったフランス代表が口を開く。

 

「現在、国籍不明の艦隊は、太平洋上に突如出現した大陸を拠点に通商破壊活動を行っている。このまま座視していては、全てが手遅れになってしまう可能性がある。ここは全ての国際連合加盟国の軍隊から構成される『国連軍』を常任理事国代表を最高司令官として結成すべきであると考える」

 

フランス代表の言葉に、一同は複雑そうな表情を浮かべる。今は無き日本のことわざに『船頭多くして船山に上る』がある様に、常任理事国『ばかり』の指導部で軍事作戦を行う事には幾らか不確定要素がある。

しかしこのまま座視している訳にもいかないのは明白であるため、1時間にもわたる協議を進めた結果、常任理事国5ヵ国の軍最高司令部を総司令部とした多国籍連合軍『国連軍』の結成が採決された。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

標準暦1940年6月18日 ケイン神王国 首都バルハラ

 

ケイン神王国は、空前絶後の発展を遂げていた。

グラ・バルカス帝国に反抗する勢力として現れたラヴァーナル共和国は、グラ・バルカス帝国に対抗するために編み出したとされる超技術を無償でユグドの世界各国に開示・提供。世界全体での技術・文明水準は大幅に向上した。

その恩恵はケイン神王国にも十分に行き渡っており、市街地には高さ200メートル近くの高層ビルが建て始められ、自動車も従来より高性能のタイプが走る様になり、発展度合いはグラ・バルカス帝国を遥かに凌駕しようとしていた。

 

「凄いな。まさにこれはエーギル神の恩寵といったところか」

 

ケイン神王国の国王を務めるオディン王は、そう呟きながら窓の外を見る。その呟きに対し、宰相も嬉しそうな表情を浮かべながら答える。

 

「これまで赤字が続いていた国家財政も、ラヴァーナル共和国との交流により黒字に転じ、国家全体での生活水準も非常に良くなっております。『聖神徒教会』もこの国全体が豊かになる事に非常にお喜びになっております」

 

宰相の言葉に、オディンは国の更なる発展に思いを馳せる。すると、宰相が笑みを浮かべながら言葉を続けた。

 

「また、『聖神徒教会』の御聖断により、王国軍の大規模増強も認可されるそうでございます。これでグラ・バルカス帝国に代わり、我が国はユグド一位の大国となる事は確実でございましょう」

 

現在、ケイン神王国を含めた全ての国は、ラヴァーナル共和国からの全面的な協力を得、今も尚強大な力を持つグラ・バルカス帝国残党を撃滅すべく、軍の増強と近代化を推し進めていた。特に海軍戦力の増強はオディンの悲願であり、8年という期間をかけて進められる艦隊拡張計画では、近代的な戦艦16隻と空母16隻を中心とした『世界制覇艦隊』が順調に進められている。

この新たな繁栄がもたらされるその一方で、オディンは同時に不安も抱く。

ラヴァーナル共和国。彼らは自分達を『グラ・バルカス帝国の支配に反する勢力』と名乗ってはいるが、その出自はいささか不明なところが多い。そのラヴァーナル共和国を同盟国として信頼したのも、彼らが正直に自分達の技術を公開し、ケイン神王国を含めた全ての国々に確実に恩恵をもたらしたためであり、加えてグラ・バルカス帝国とは違って丁寧な外交姿勢が各国上層部に好印象を持たせた結果だからである。

それでも、突然現れた全く未知の勢力に、オディンは疑心を抱き続けていた。

 

「…彼の国は我らに、果たして恩恵だけをもたらしてくれるであろうか…?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

太平洋上に出現した巨大な大陸。

その中心地に築かれた大都市の一際豪勢に築かれた宮殿。その一室で一人の男が、報告を受けていた。

 

『皇帝陛下。恐れながらこの世界は、魔法なしで非常に優れた文明を築いております。第4機動艦隊がこの世界の軍勢に真正面からの戦闘で辛酸を舐めさせられている以上は、慎重に軍拡計画を進めねばなりませぬ』

 

『一方でユグドと呼ばれる星では、我らの仮初の国たるラヴァーナル共和国に対し、好印象を持っている模様であります。交易も盛んに行われており、転移直後に喪失した国庫財産の分は直ぐに回復出来る見込みでございます』

 

数人の文官や軍人の報告に、皇帝は満足げな笑みを浮かべ、口を開く。

 

「すでに軍拡と近代化の計画は決定済みである。期間をじっくりとかけて、テラを完全に支配出来るまでに整えれば良い。それに、労せずして敵を弱体化させる方策もすでに考えておる。そのためにはまず、一つの国を生贄として捧げられる程までに肥やさなければな…」

 

皇帝はそう言いながら、空中に天体儀を模した立体映像を映し出し、その中の一つに指を指す。

それには、その星の言葉で『ヨツン王国』と書かれていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

西暦2018年9月2日 アメリカ合衆国 ニューヨーク

 

第二次世界大戦の最終的な終戦日であるこの日、国際連合本部では、歴史的な瞬間が訪れようとしていた。

大勢の国家代表者や元首、世界各国の記者が集まる中、会議場の中心に立つ国連事務総長は、大声を張り上げた。

 

「我らはここに、世界に対して重大な危機をもたらさんとする武装勢力に対し、確実な武力制裁を実施する多国籍実力行使制裁部隊『国連軍』の結成を宣言致します!」

 

『世界に真の平和を!世界に新たな秩序を!』

 

参加者一同が合唱し、拍手が巻き起こる。

しかし彼らは知る由もなかった。これが、長年に渡って繰り広げられる事になる『多重次元大戦』の始まりを告げる号令にしか過ぎなかったという事を。




次回、新章。


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滅びゆく栄光編
第33話 『文明圏大戦』、開戦


新章『滅びゆく栄光』編突入。


中央暦1640年1月30日 日本国東京都 首相官邸

 

「間もなく日・台・クワ・クイラ・ロウリア・アルタラス正統政府6ヵ国首脳による記者会見及び合同宣言が始まります!」

 

レポーターの声が首相官邸の記者会見室に響き渡り、記者達は扉の方にカメラを向ける。そして扉が開き、垂水やカナタ達の姿が現れるや否や、一斉にフラッシュが焚かれ、カメラのレンズは彼らの顔にズームされる。

そして5ヵ国の首脳達が垂水の後ろに立ち、垂水は深刻そうな表情を浮かべながら演壇の前に立つ。そして部屋が静かになったところで口を開いた。

 

「…我々は以前より、転移後の新たな関係を結び、全ての人々の平和で豊かな暮らしのために様々な国々と友好関係を結び、平和的な交流を続けておりました。そしてこの文明圏最大の国、パーパルディア皇国とも国交を樹立し、友好関係を結ぼうと努力してまいりました…しかし、その外交努力も虚しく、パーパルディア皇国は我が国及び非常に友好関係にある台湾、及びロデニウス大陸諸国に対し