オレのスタンド生活 (鏡餅)
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ヘブンズ・ドアーは動き回る

矛盾点や細かい点が気にならない人向け。



 突然ですがこんにちは、オレの名前は【天国への扉(ヘブンズ・ドアー)】。

 

 

 そうだな、意味が分からないと思う。オレだって分からない。でも目が覚めたらヘブンズ・ドアーだったのだ。

 とは言えオレが人間だったというふわっとした記憶はあるが、個人としての記憶やそこに付随するべき感情が全く思い出せないので多少混乱こそしているものの特に困っていない。この身には本体を助けねばという意思だけがしっかりと根付いている、これがスタンドという存在特有のものなのかオレの特性であるのかはわからないが。あとなんでか露伴以外の何人かのスタンド使いや杜王町ついては知っている、これはきっと人間だった頃の記憶なんだろう、どれもこれも露伴に関係のある記憶だからヘブンズ・ドアーになってからも残っているのではないかと睨んでいる。

 

 さて、そんなオレの傍にはたったいま矢で射られてブッ倒れているオレの本体こと岸辺露伴がいる、背後からブッスリいかれ無防備にも顔面から地面に突っ込んでしまった可哀想な本体、あ、鼻血。というかこのクソ寒いのに外で寝ると風邪をひいてしまうのでは? それは良くない、風邪で休載は露伴も嫌がるだろう。

 それはさておき、ちょっと離れた位置には弓と矢を持った虹村形兆。矢で射られた瞬間露伴の体から飛び出るように現れたオレに対して驚愕の表情を見せたがすぐに持ち直してスタンドを出した、させませんとも! 目が合った瞬間に本にしてやりましたとも! オレってば有能なスタンドだナァ!

 嘘です。いや、目が合った瞬間本にはしたんだが出来るとは思わなかったし今も滅茶苦茶ビビってる。本になっても睨んでくる虹村形兆こえーよ。

 怖いので真っ先に『岸辺露伴に危害を及ぼすことは出来ない』と書き込んでからついでにブッ倒れている露伴を家まで運んでもらうことにした。とっても嫌そうな顔をしていたけれど先手さえ取ってしまえば大抵の相手はヘブンズ・ドアーには逆らえない、ほらオレの本体が風邪ひいちゃう前に早く運ぶんだよぉ! あ、ムリ怖いこっち睨まないでごめんなさい。

 

 その後、命令通り虹村形兆に露伴を運ばせてソファに寝かせたのでこれで風邪をひくことは無いだろう、あとで毛布も持って来よう。

 血も止まって大人しく寝ている露伴はきっと虹村形兆にもその父親にも興味を示すだろうけれどオレとしては危うきに飛び込んで欲しくはないので虹村形兆に書き込んだ命令は消さずにおいておくことにした。虹村形兆の本を読んで父親の問題については大体把握したが恐らくオレの能力では大した事は出来ないだろう。

 そもそもその為に弓と矢を使い危険を冒している虹村形兆には敵が多いはずだ、そんな奴の所にこの好奇心旺盛なマッチポンプピンチ野郎……もとい大事なオレの本体である露伴は送り込めない。そのうち状況が落ち着くなりすれば何か出来ることがないか試行錯誤するのも良いとは思うが、今は露伴だってヘブンズ・ドアーを使いこなせないだろうし奇人なりに大人しくしておいてもらわないと。

 一応未成年相手なので困ったことがあれば力になっても良いという旨のメモを渡し、露伴が食べないお菓子をお駄賃代わりのお土産にと押し付け、虹村形兆を見送った。とっても微妙な表情でお菓子を受け取る虹村形兆、露伴が起きていればスケッチしたことだろう。

 

 

 

 そしてオレは何となく露伴を観察したり奇行(の結果のアクシデント)に対してフォローを入れてみたり、度々執筆に熱中しすぎて色々疎かになる露伴にフォローを入れてみたり、時折個人的に行く末の心配な虹村形兆の様子を見に行ったり、主に陰から露伴の面倒を見ながらのスタンド生活を満喫するようになった。

 

 露伴を観察していく内に、気付いたことがいくつかある。

 中々の奇人でトラブルを自発、誘発、吸引、悪化させるとかそういう困ったパーソナリティについても短い期間で散々思い知ったが、まず、露伴本人はヘブンズ・ドアーの能力については何となく分かっているがオレを出すことは出来ず、オレがタイミングを見ているのもあるがスタンドを視認もしていない。能力の使用についてもまだ漫画を描いて見せ波長の合った相手しか本に出来ない。これについては露伴がスタンドについて知り経験を積めばその内解決するだろう。

 

 そしてオレ、なんかもうメチャクチャ自由に動ける。露伴が自由過ぎる影響がオレにも現れているんだろうか、勝手に外に出れるし、波長とか気にせず誰でも何でも本にしてしまえる、ついでに言うなら射程距離? なにそれ? である。能力をフル活用出来る原理は分からないがオレが出来ると思っているから出来てしまうのかもしれない。とはいえ基本的に露伴の意志と行動が最優先されるしオレの行動も大抵まずは露伴の身の安全を守ったり露伴の起こしたトラブルを回避することから始まるのでオレが何かして露伴が困るようなことは起きないだろうと思う。逆は多々ある。

 

 片時も目の離せない困った本体だがそれはそれでスタンド的には程よく忙しく充実していると言えるかもしれない。他のスタンドと話したことないから知らんけど。

 

 

 

 季節は過ぎ去り冬から春へ、そして初夏を感じさせる涼やかな風の吹く五月……。

 オレの本体、岸辺露伴は今、同じスタンド使いの東方仗助にブッ飛ばされて宙を舞っている。

 

 ほ、本体ーッ!!

 

 無情にも紙の様に宙を舞うオレの本体。

 まぁ散々東方仗助の友人を危険な目に遭わせた上で更に東方仗助の地雷原でブレイクダンスかました結果なので擁護は出来ない、プッツンした東方仗助はまだまだ殴り足りないらしくオレの本体は意識を飛ばした後もボコボコにされている。よ、擁護出来ないとは言ったけどオーバーキルはやめたげてよぉ。

 東方仗助はプッツン状態だがスタンドは出していないので壁とか本棚と融合した哀れな肉塊になる危険はない、せいぜい可哀想な岸辺露伴にしかならないだろう、うん、仕方ないね。

 戦闘向きではないオレは己の行動理念を無視し自業自得な本体救出を諦めて露伴が意識を失ったことで本化が解除された広瀬康一と虹村億泰を観察する、そういえばオレがいる弊害なのか露伴の書き込んだ命令こそ消えているが広瀬康一の千切られたページはまだ戻っていないみたいだ。仕方ないな、露伴は頭から壁にめり込んでいるのでオレが何とかしよう。あ、ちょっと体が重い気がする。

 

「えっ、ピンクダークの少年!?」

 

 ひょっこり現れふよふよと行動を始めたオレに気付いた広瀬康一が驚いて身構える、隣の虹村億泰もスタンドかと目を見開きザ・ハンドを出してこっちを警戒する。オレが攻撃を受けると現在九割死んでる露伴が十割死ぬので両手を上げてパタパタと振って敵意がないことをアピールしてみる、まだ警戒は続いているけどすぐに攻撃はされなさそうだ、良かった。

 露伴の机に向かって広瀬康一のページを回収する、こちとらこれでもスタンドなのでちょっと指揮者気取りで指を振るだけでページが勝手に飛んできてくれるのだ、それが鍵をかけた引き出しの中にあるページであってもだ。

 一応隠しっぱなしのページがないか確認してから広瀬康一の元にページの束を持っていく、露伴は随分欲張ってページを千切ったらしい。

 

「ぼくのページ!」

 

 紙束が何なのか把握した広瀬康一の叫びに合わせてパラパラとページを飛ばして広瀬康一の体にそれらを戻していく。自分の変化に慌てている広瀬康一を見ながらもオレに敵意がないと判断したらしい虹村億泰が打って変わって顎に手を当て軽く腰を折り、そこにもう片方の手を当てた探偵チックなポーズでオレを観察し始める、背後のザ・ハンドも似たようなポーズでこちらを見ているのがなんだか面白い。

 折角なので露伴の漫画の扉絵をイメージし気取ったポーズを取るとおおっと言って反応してくれた、ふふん格好良いだろう露伴の描いたピンクダークの少年そっくりのオレ! 露伴本人がオレの姿をまだ見ていないのが非常に残念でならない。

 

「ページが戻った!! 君が戻してくれたんだね、ありがとう!」

 

 笑顔でお礼を言われた。良い奴だな広瀬康一、露伴が気に入るだけのことはある。けどそもそもその露伴というかオレの能力のせいなので素直にお礼を受け取っていいものなのか疑問だ。

 少し離れた位置では壁にめり込んだ露伴を睨みつけながらふうふうと荒い息を吐く東方仗助が立っている、苛立ちこそ収まっていないが激昂状態からは落ち着いてきた様子だ、オレとしても早めに残念な本体の手当をしてやりたいのでそろそろ終わりにしてもらいたい。

 一番話の通じそうな広瀬康一の服の裾を引っ張って注意を引く、想定通りにどうしたのとオレに向き合う広瀬康一とそれに倣い一緒にこちらを見る虹村億泰に対してその辺に転がっていた時計を手に取って見せて時間を主張する。

 

「あっ! 学校!!」

 

 そうそう、その通り。現在時刻は朝の九時前、遅刻確定ではあるが早く学校に行くんだ学生よ。

 慌て始めた広瀬康一に部屋の隅に放り投げられていた鞄を持たせ、虹村億泰の背を押して玄関に向かわせる。東方仗助は広瀬康一がなんとか宥めすかして背を押している。すると怪訝な表情の虹村億泰が、わあわあと騒ぐ二人には聞こえなさそうな大きさの声で話しかけてきた。

 

「ナァ、あいつ大丈夫かよ? ボロボロだし、救急車とか呼んだ方がいいんじゃあねぇのか?」

 

 ……露伴、露伴、こいつめっちゃ良い奴だぞ?

 しかしこれでも人間と同程度の力はあるので露伴を運ぶくらいは問題ない、外部への連絡もとりあえず編集部に緊急事態だとFAXを送るなりすればすぐに対応してもらえるだろう、スタンド使いな不良高校生の地雷原で踊り狂う人格破綻者でもあれで社会からの需要はがっつりある人間なのだオレの本体は。

 むしろ彼らが救急車を呼ぶなりしてしまうと、恐らくは事情を聞かれる事になるだろう。明らかに暴行の跡が見える訳だし、かと言ってバレないように東方仗助のスタンドで露伴を治すっていうのもどうかと思う、本人も気持ち的に嫌だろうし。というか露伴はここらで一度大怪我して反省した方が良い。反省……しなさそうだなぁ。

 そういう訳なので、その辺の紙に『ろはん が わるい』と書いて虹村億泰に見せて、それから露伴をとりあえず無事だった椅子の上に運んでやると虹村億泰もオレが対処するという事に納得がいったのだろう、ヨロシクなぁ、とオレに声をかけてから玄関に向かう広瀬康一に追いつき一緒になって東方仗助を宥める作業に入りながら家を後にした。

 

 彼らを窓から見送り、露伴という名のボロ雑巾をとりあえず使い古した雑巾レベルに見える程度まで応急処置を施し、編集部に『緊急事態。重傷。至急救急車呼ばれたし。』と若干怪文書なFAXを送信。

 それから散らかり切った部屋を……一応露伴の為に写真に収めてから片付け始める。壊れた棚なんかはどうしようもないのでそのままだが、本やスケッチブックや画材等の必要そうなものをそれぞれまとめておく……これってスタンドの仕事なのか? 甚だ疑問ではあるが文句は特にないので黙々と作業する。

 

「う、うぅ……」

 

 片付けの最中、意識が朦朧としてる露伴が呻いた。

 ……ふむ、全身が痛くて重くて動けない、呼吸をするのにも痛みがあって辛い、腕が少しも動かない、指先ですら持ち上げられない、瞼を持ち上げることも出来ない、鋭く刺す痛みに染み込むような鈍痛、熱を持った激痛と感覚を殺す重圧のような痛み、思考ははっきりしないのに色んな種類の痛みだけは明確に感じる。とな、スタンドと本体の痛覚のフィードバックが双方向じゃなくて良かったとこれ程までに感じたことはないな!

 とりあえずその感想だけはメモにとっておいてやるけど無理せず早く寝ろ? と言うか、心配なので妙ちきりんなこと仕出かす前に大人しく意識を飛ばして欲しい。飛ばせ。

 遠くに聞こえ始めた救急車のサイレンを耳に入れながら片付けを続ける、第三者がいたと分かるような痕跡だけは消しておかないと不味い、あとはもう露伴を多少知る人達ならちょっと興味があったから発狂してみたとかそんな感じで適当に誤魔化しても岸辺露伴ならそんな事もあるかと流してくれるだろう。

 

 全く、目が離せないと言うか、世話のやける本体だ。

 まぁ、東方仗助達というスタンド使いに会ったのだからスタンドについての理解も進んだ事だろう。残念ながら休載は免れないわけだし、気が紛れるよう次に露伴が病室で目を覚ました時にはドアップで顔を見せてやるのも悪くない。

 

 あ、救急隊員がすぐ来れるように鍵開けとこう。

 

 




この後感動の対面(適当)
もし続きを書く場合はチラシの裏へ移動すると思います


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