異血の姉は幻影と共に (エンゼ)
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序幕

初めまして!(大嘘)
頑張って執筆しましたので、是非ご覧下さい!


 昔々、とある人間達が暮らしている町に一人の黒髪の女の子がいました。その子には家族というものがおらずに一人暮らしをしていましたが、その子の人柄がとても良く町の子供達のお姉ちゃん的な存在であったこともあり、多数の人達からの支援を受けれました。

 

 こんな日常が少しでも長く続きますように...と、女の子は切に願いました。

 

 ────しかし、そんな日々に終わりを告げるかのような事件が起きてしまいます。彼女はとある朝、背中に違和感を抱きました。何か今までは無かったものが出来てしまったような、そんな感覚でした。

 

 そう思い背中を見てみると...太い大きな爪のようなものが背中から生えていたのです。彼女は少し怖いと感じましたが、相談することで他の人に迷惑が掛かってしまうと危惧しそのままにしてしまいました。

 

 問題はその次の日です。彼女は背中の酷い激痛で目が覚めました。患部は昨日生えてきた爪のようなものの部分。

 

 恐る恐るそこを見てみると───なんと、全てが骨で出来た羽根があったのです。しかもそれは自分の背中から生えている......

 

 とうとう彼女は怖くなって叫んでしまいました。滅多に弱音を吐かなかった彼女ですから周りの人々はただ事ではないと思い彼女の家に突入します。そこで人々が見たものは町の人が良く知るあの女の子ではなく─────

 

 

 

 

 

 ────髪の毛が真っ白で骨の羽根を持った『何か』でした。

 

 見た人々は驚きます。あれは誰なんだ、あの少女はどこだ...等と口々に言っておりました。その中、ある者が叫びました。「あいつは吸血鬼だ!」と。

 

 吸血鬼。それは町...いや、国全体に住む人間を脅かす一種の妖怪です。蝙蝠のような羽根で夜の空を飛び、人間離れしたその力で人々を殺し血を飲む悪魔なのです。

 

 無残に殺される人々ですが、当然やられてばかりではいられません。軍隊を組みなんとか吸血鬼に対抗しようとしますが、勝てた試しはありませんでした。そのため、人々にとって吸血鬼というのは最悪そのものでした。

 

 それが今目の前にいる。その事実が人々に恐怖を与えました。

 

 すると、さっき叫んだ人とはまた別の人、更にまた別の人が次々に言います。

 

「あいつは女の子に化けてたんだ!」

 

「俺達が油断したところを喰うつもりだったんだ!」

 

「愛想が良かったのはそういうわけか!」

 

「俺達は騙されてたのか...」

 

「なら殺ることは一つだ!」

 

「そうだ!殺せ!」

 

「殺してしまえばいい!」

 

「「「「「「殺せ!殺せ!殺せ!!」」」」」」

 

 女の子は咄嗟にそんな人々達から逃げ出しました。本能で感じたのもあるのでしょうが、とにかく捕まったらダメだということが頭にありました。

 

 しかし、彼女は羽根が出来たとはいえ飛ぶことは出来ない。しかもまだ体格は子供ですから、大人から完全に逃げ切ることなんて出来ません。とりあえず森まで逃げ茂みに隠れますが、すぐに近くまで来られてしまいます。

 

「いたか!」

 

「こっちにはいないぞ!」

 

「こっちのほうに来たのは確かなんだが...」

 

 今すぐにでも助けを呼びたい衝動を無理矢理抑え息を殺します。

 

(怖い!怖い!怖い!!)

 

 彼女の心の中はその感情だけが支配していました。突然羽根が生えてきて、それを見た今まで良くしてくれた人達が急に面相を変えて自分を追いかけ回してる。もう訳が分かんなくなっていました。

 

 

 

「助けて...!!」

 

 

 

 キュッと目を瞑り祈るようにしてひっそりと呟きます。すると──────辺りの景色が彼女から広がるようにして変わっていきます。朝日が照らす繁った森が一瞬で何もない暗い空間へと変化していったのです。

 

「な、なんだこれは!」

「ここはどこだ!」

「何が起こっている!?」

 

 少しすると、その空間に変化が訪れました。突然、何か人の形をした影のようなものが人語ではない何かを叫びながら人々を襲い始めたのです。

 

「な、なんだこいつら!」

「ひぃ!来るなぁ!」

「た、助けてくれぇ!!」

 

 人々は一目散に突如暗い空間に現れた、まるで出口のような一筋の光に向かって逃げ出していきました。人々が全員逃げていくと───空間は彼女に吸い込まれていくかのようにして元に戻っていきます。

 

「...あれ?」

 

 暫くして彼女が辺りを見渡すと、あの怖かった人々はどこにもいません。

 

「...よし、チャンスだ」

 

 これを好機と見て、彼女は逃げ出しました。またいつ探しに来るか分かったものじゃありませんから出来るだけ遠く、遠くに向かって歩いていきます。

 

 道中別の町を見付けたりしましたが、やはり襲われるのが怖くて避けたりしました。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで歩き続けて一週間...彼女は遂に倒れてしまいました。

 

 考えてみれば当然でしょう。何も食べず飲まずでひたすら人のいないところへ向かって歩き続けていたのですから。いや、もう前から体力の限界はあったのでしょう。

 しかしとにかく人に襲われたくなかった彼女は気力だけでここまで来たのかもしれませんが...とうとうそれにも限界がやってきたのです。

 

(...もう私、死んじゃうのかな...)

 

 ふと、そんな事が頭を過りました。

 

(次生まれて来るときは...襲われたくないなぁ...)

 

 そう思い、彼女は目を閉じました。ここは人目もつかない森の中。吸血鬼が生息していると有名な森でした。しかも真夜中です。

 

 このままでは彼女は呆気なく死んでしまうでしょう───

 

 

 

「...む?そこにいるのは...」

 

 

 

 ───運命の歯車を握る、一人の吸血鬼が通らなければの話ですが。

 

吸血鬼(同胞)か?...いや、それにしては妖力が少なすぎる。羽根も骨組みだけだと?...異質過ぎる...だが」

 

 ───美しい。

 

「優美な髪の毛だ...我が妻にも劣らないほどに。その存在も儚いもののようでまた良い...」

 

 ───あぁ、欲しい。この娘が欲しい!

 

「...これはもう私のものだ。誰にも渡さんぞ」

 

 吸血鬼は大事そうに女の子を抱え、自身の屋敷へと持ち去って行きました。

 

 

 ◯ ◯ ◯ ◯

 

 

「あら...貴方、その娘は?」

 

「拾ってきた。どうだ、美しいだろう?」

 

「まぁ...可憐だわ。それをどうするおつもりで?」

 

 屋敷へ持ち帰った吸血鬼は自身の妻であろう女の吸血鬼に見せびらかします。妻も妻でそれを良く思ったのか、少し声を弾ませて尋ねます。

 

「我が娘にしよう。私の元へ置いておけば盗られる心配はなかろう」

 

「...貴方、それは...」

 

「分かってる。だが、そう教育すればいい話だろう?最悪、また私達が頑張れば良い」

 

「そうですが...」

 

 実はその吸血鬼の家系は国の中でも最高に有名な吸血鬼の家系の一つであり、娘にするということは、後継者にするということと繋がってしまうのだ。

 

 更にこの夫婦、子に中々恵まれずまだ一度も孕んでいないのである。そんな中でこの話であった。

 

「...とりあえず、その娘に名前を付けましょう。名前が無いとなんと呼べばいいのか分からないわ」

「それもそうだ...うむ...」

 

 二人は真剣にそれの名前を考え始めます。暫くして、夫のほうが言いました。

 

 

 

 

 

「...エレナだ。今日からこの娘を名を『エレナ・スカーレット』としよう」

 

 

 

 

 

 ───運命が、動き始めました。




あれ、リメイクなのに分かりにくくなってる...?
...成長、してないのかなぁ。


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色々と忙しくて遅くなりました...本当はもっと早く投稿するつもりだったんです。許して...


 

 

 

 ───あったかい。

 

 それが私がそこで最初に感じたことだった。ふわふわでぬくぬくしてて...とっても気持ちがいい。ずっとここで寝ていたいような...そんな感じ。

 

 それにいい匂い...こんなの初めてかも。あそこでもこんなにいい匂いはしなかったしね...

 

 

 ───待って、そういえばここはどこなの?

 

 極々単純な疑問が沸き上がってくる。というか何で私は寝てたんだっけ?

 

 ............そうだ。確か変な感じの森の中で倒れたんだ。でも、寝る前はこんなにふわふわして無かったし、暖かくもなかったはず。

 

 バッと飛び起きて周りを見渡してみる。そこは森なんかじゃなくて...建物の中みたいだった。見たこと無い壁や天井の模様で、心なしか落ち着ける空間になってる。

 

 私が今いるところも見たことがないものだった。布団...とはまた違うのかな。

 

 似てるけど、こっちのほうがふわふわしてて暖かいし、なんか豪華。

 

 なんか、ここってまるで...

 

「天国...?」

 

「残念ながら、ここは天国ではない」

 

 ふと呟くと、知らない誰かの声が聞こえてきた。その声がする方向を向くと...人型の男の人がいた。

 

 ──瞬間、私の血の気が引いていくのを感じた。

 

 捕まった。

 

 捕まってしまった。

 

 殺される。

 

 あの怖い人たちに殺される。

 

 嫌だ。

 

 嫌だ...!

 

 死にたくない...!!

 

 死にたくない...!!!

 

 

 

「来ないで...!!!!」

 

 

 

 その感情を露にしたとき、私から何かが広がっていくのを感じた。私を追って殺そうとする人達から逃げる時と同じあれ。

 

 その人達はいつも変な叫び声を上げたかと想えば居なくなってた。今回も同じであって欲しい...と私は切に願う。目を瞑ってるから何が起こってるか分かんないけど...

 

「むぅ...これは...!」

 

 だけど、その男の人は叫び声なんて一切上げなかった。寧ろそれをじっくり見てるみたいで、声が若干弾んでるような気がする。

 

「幻術か?...私の見た中で一番精度が良いぞこれは。リアリティが凄まじい...並大抵の者なら即座に騙されてドボンだ。この歳でこれならば...」

 

 何を言ってるのか分かんなくて、私は恐る恐る目を開けてみると......そこは地獄だった。

 

 周りは真っ暗で殆ど何もなくて、男の人に向かって影みたいな真っ黒の人型の何かが襲いかかってるみたいだけど、男の人は全く驚いてない。

 

 でも私にとっては...めちゃくちゃ怖かった。

 

「イヤァァァァ!!!」

 

 目をギュッと瞑って怖さのあまり叫ぶと、更に私から何かが広がっていく。とにかく、早くあの怖いのがどっかに行って欲しいと思い続けてた。

 

「落ち着きなさい」

「あっ...」

 

 あれ、急に抱きしめられた...?

 ...暖かいなぁ。少し苦しいけど、気持ちいい。

 

「ほら、私の背中を見てみなさい。羽があるだろう?つまり、お前の仲間だ」

 

「...仲間?」

「そうだ。だから私はお前を殺さないしこれからも殺すつもりなんてない」

 

「本当?」

 

「本当だとも。寧ろ、お前を私の娘として迎えようと思っているところだ」

 

 娘ってことは...この男の人の子供になるってことだよね。

 ...それって...

 

「わ、私...ここにいても、いいの?」

 

「勿論さ」

 

「っ!」

 

 私がその言葉を聞いた刹那、涙が溢れて止まらなくなった。

 

 初めてこの姿の私を認めてくれた!この人は私はここにいていいんだと言った!私を、娘にしてくれると言った!

 

「ど、どうしたんだ!?」

 

「大丈夫...あれ、おかしいな...嬉しいはずなのに...涙が...止まらない...」

 

「......そうか」

 

 その男の人は私が泣いている間、ずっと頭を撫でてくれてた。頭を撫でられるなんていつ振りだろう...初めてかもしれない...でも気持ちいいなぁ。

 

 

 私がある程度落ち着いて来た後、急に思い出したことがあった。この人誰だろ...っていう、普通なら多分一番最初に思うこと。今更だからちょっと聞きにくいなぁ、と思いつつも聞いてみることにした。

 

「あの...お名前はなんていうんですか?」

 

「うむ、私か?私の名は『ウラド・スカーレット』、吸血鬼だ。そしてだな、お前は今日から『エレナ・スカーレット』と名乗りなさい」

 

「『エレナ・スカーレット』...」

 

 私の元の名前なんてもう思い出せないから殆ど名前無しみたいな感じだったんだけど...名前を貰うってこんなに嬉しいことなんだなぁ...

 

 そういや吸血鬼ってどこかで聞いたような...そうだ、私のことだ。本当にこの人は、お父さんは私の仲間なんだ...

 

「さて、我が妻にもお前のことを改めて紹介せねばいかんな。エレナ、行くぞ」

 

「...はい!」

 

 ウラドさんの妻...私のお母さんになるのかな。どんな感じの人なんだろ...お父さんみたいに優しい人だといいなぁ...



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まずはここで謝罪を...すみませんでした。
次はあんまり遅れないよう努力したいです...


 

 

 

 ヴラドさん───いや、お父様に拾われて名前を貰ってから色々なことを経験した。

 

 その例の一つとしてお母様──エリザ・スカーレットさんについて。私の初めての母だ。そうなるとお父様は初めての父ってことになるね...と、これは置いといて。お母様はとっても優しい方だった。スカーレット家の一員となってからやらされたのは勉強。

 

 食事や振る舞いのマナーとか食事で使うらしい道具──ナイフとフォークって言うらしい──の正しい使い方とかそういうの。

 

 最初は本当に何に使うのか分かんなくて聞きづらかったけど側にいたお母様に尋ねてみたら...めちゃくちゃ丁寧に教えてくれたの。それはもうバカな私でもすぐ理解出来るレベルにね。

 

 お母様自身、子供が中々出来にくい体質らしくてこうやって子供に何かを教えることに憧れたんだって...なんかごめんね、これからお母様から生まれてくるであろう子供さん。お母様の初めてを貰っちゃった。

 

 そんで今私は何をしてるかというと...紅魔館の図書館にいる。本を読んでいるの。

 

 お父様曰く、私に大きく欠けているものは知識らしい。だから本を読んで知識を身に付けろとのこと。

 

 最初は──というか今でもあるけど──読めない文字が多くていつも近くにいるメイドさんに聞いたりしてた。分かんないことは聞かないと解決出来ないからね。仕方ない。

 

 その中でも興味を持ったものは神話だった。ここの図書館には溢れるほどの本があって色んな種類のがあるけど、何故か神話に惹かれた。特に神話に出てくる武器。

 

「...カッコイイなぁ」

 

 いつも思うのはこれ。性能もあり得ないほど強くて妙に心を擽ってくる。

 

 流石にどんなのだったかっていう絵とかは載ってないんだけど、それがまたこうだったんじゃないか、みたいな想像が出来て楽しい。

 

「フフッ、エレナお嬢様はいつも神話を見ていらっしゃいますね」

 

 私の側にいてくれてるメイドさんが私に声を掛ける。

 

「そう...ですか?でも、気付いたら読んじゃうんですよね」

 

「確かに格好いいですものね。神話って」

 

「中でも武器が好きなんですよ!特にウル神が使う弓が好きで...」

 

「弓...ですか?」

 

「はい!固有の名前とかは無いですが、ロマンを感じるんです!勿論グングニルとかレーヴァテインとかもカッコイイとは思うんですけど、私はこの弓が好きなんです!」

 

「そうなのですね」

 

 嫌な顔一つしないで話を聞いてくれるこのメイドさんはとってもいい方なんだろうなぁ...私だけが盛り上がってるのにニコニコしながら聞いてくれてるし。

 

 そういや紅魔館のメイドさん達が私の事悪くいってるの聞いたこと無いなぁ...いきなり養子でも余所者が入ってきたなら絶対とは言えないけど陰口とか言われるものだと思うんだけど...私が気付いてないだけかもだけど、言われてなかったら嬉しいな。

 

 まぁ、それは置いといて...

 

「私もこんな武器使いたいなぁ...」

 

 カッコイイ武器を見たり聞いたりしたら多分誰もが思うことだと思うの。自分も使いたいなぁって。

 

 お父様からの戦闘訓練──というかまだその段階に至ってないから実際は身体作りね──をしてはいるけどまだダメダメだから貰ったとしても使いこなせないのは目に見えてるけど、やっぱり一度は使ってみたいじゃん?憧れみたいなものだよ。

 

「...ふむ、これを機会に試してみるべきでしょうか...いえまだ早いかもですし...」

 

 そしたらね、なんかいきなりメイドさんが顎に手をおいて何か考え出したんだけど。

 

 時々ブツブツ呟いてるのはなんだろう?ちょっと怖いんだけど。

 

「...エレナお嬢様、少しよろしいでしょうか」

「は、はい?」

「エレナお嬢様が好きとおっしゃったその弓はどんなものかというイメージはありますか?」

「あ、はい、一応は。こんな感じなのかなーって程度ですけど」

「では、それを頭でイメージしつつ、造り出してみてください」

「つ、造り出す!?」

 

 急に何を言い出すんでしょうこのメイドさんは...そんなのは本で見た魔法とかそんなのが無いと無理なレベルだよ。

 

 いや読んだ本の中には魔導書みたいなのはあったし実在するんだろうけど私には素質は無いだろうし。

 

「とりあえずやってみてください」

「...分かりました」

 

 何が悲しくてこんなことしにゃならんのだ...まぁいいや。

 

 私は本を机に置いて手を出し目を瞑る。

 

 イメージするのは弓。名前の記述が無かったからそこまで派手でもない、だけど普通の弓とは一味違う見た目をしてる。そんな弓を。

 

 ──段々恥ずかしくなってきたな。そろそろ止めていいかな?

 

「エ、エレナお嬢様...!?」

 

「え、どうしたんですか?」

 

 突然驚いたような声をメイドさんが上げたからびっくりして目を開けてしまう。でも、私はそのメイドさんの方を向くことは無かった。何故なら───

 

 

 

「...ん?あれ、なんで?」

 

 

 

 ──私の右手には『私のイメージした弓と全く同じ弓』がそこに合ったからだ。

 

 あれー可笑しいな。メイドさんが手にそっと持たせてくれたのかな?いやでもそれなら私のイメージと合致してることの説明がつかない...偶然かな?

 

「...おぉ、質感までイメージ通りだ」

 

 触ってみるとあら不思議。感触も完全に一致してる。

 

「わ、私も触ってもよろしいでしょうか?」

 

「あ、いいですよ」

 

 なんか興味深々なメイドさんだったからとりあえず許可しといた...ってあれ?これくれたのメイドさんじゃないの?

 

 なんて考えてたら、メイドさんが触った瞬間──弓が散った。

 

「ん?」

 

「え?」

 

 思わず間抜けな声を出しちゃったけどこれは仕方ないと思う。だって言葉通り弓がいきなり粒子っぽい何かになって分散したんだから。

 

 弓があった場所に手をやってもそこには何もなくて、なんか虚しい気分になった。

 

「...これはまさか...幻術魔法?取得方法、必要儀式が不明とされる謎の魔法の一つ...生きてる間に御目にかかれるなんて...これは報告しないと

 

「えっと、メイドさん?」

 

「...ハッ!すみませんエレナお嬢様!そろそろ私行かなくては!失礼します!」

 

「...いってらっしゃーい」

 

 ...なんか嵐みたいに去っていったなぁ。忙しそうになってたしなんかあるんだろうね。

 

 お父様との訓練までは時間あるしもうちょいだけ本読んでおこうっと。

 

 さてさて、今日は北欧神話だけじゃなくてギリシャ神話辺りでも読もっかな!

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「...そうか、報告ご苦労。下がってよいぞ」

 

「失礼します」

 

 たった今、エレナの教育を担当させているメイドからの今日の報告があった。

 

 いつもはどういうことをして過ごしていたとか、エレナとどんな話をしていたとかなど本当にとりとめもないことなのだが、今日の報告は違った。

 

 それは、エレナが幻術魔法を扱えるかもしれない、というものだった。

 

 当初それを聞いたとき、私は『やはりか』とひっそり心の内で呟いてしまった。あの日エレナが展開した世界は紛れもなく幻術...いや、幻術魔法だったのだから。

 

 ただの幻術と幻術魔法というのは完全に異なるものだ。幻術魔法には幻術には無い『魔力』が関わっている。魔力があることでよりリアリティが増しより相手を騙しやすく出来るのだ。

 

 今思えばエレナのあの世界からは微かながら魔力を感じれた。

 

 それに、エレナが良く読む本の中に魔導書もある。これは素質のある者しか読めない本らしい。現に私は全く解読出来なかった。我が妻のエリザさえもだ。これなら魔法が使えても可笑しくはない。

 

「...ふむ、すると気になるな」

 

 実はあのメイドは知らない幻術魔法の事情...と言ってもこれはあくまで説だが...が存在する。

 

 我が友人で魔法使いでもある『バートリー・ノーレッジ』曰く、幻術魔法を扱える者にはとても大きなストレス、トラウマを抱えている者が多いそうだ。

 

 ここからは彼の推察だが、幻術魔法というのはその者がストレスやトラウマから逃避するために自然発現する...らしい。

 

 仮にこの説が本当ならばエレナには何か大きなそれがあるんだろう...

 

「...父親としては、エレナにはそんなものは抱えてほしくないのだがな」

 

 だが、エレナが数少ない希少な幻術魔法を使えるのならば生かさない手はない。

 

 私はこれからの訓練項目に『幻術魔法訓練』を作ると決め、とりあえず切り替えて別の書類仕事に取り組み始めた。

 

 

 ──夜はこれから更けていく。




...うぅ、あんまり話が進んでない...


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めっちゃ遅くなりましたすみません許して。
短め...かもです。
それではどうぞ。


 

 

 

 

 

 

 

『お前には幻術魔法が使える』。これは私が幻術魔法の訓練をするときお父様から最初に言われたことだ。

 

 最初は何を言ってるのかさっぱりだった。まだ戦闘訓練の時間じゃあないはずなのにいきなりお父様が私の所にやって来て急に言い出したんだからね。

 

 色々話を聞いていく内に以前私の手にあった弓が私が幻術魔法を使って作り出されたものだって分かった。お父様からは無自覚か...と言われて呆れられちゃったけどね...

 

 お父様曰く、幻術魔法というのはかなり稀少なもので訓練をするにも私の想像力と創造力がなきゃダメなんだって。

 

 ───この日から、地獄の訓練が始まった。

 

 まずはとにかく色々なものを片っ端から幻術で作り出すとこから始まったんだ。

 

 日常的に使う櫛、歯ブラシ、ナイフやフォークのような元から形が分かるものの再現から始まって、神話に出てくる武器みたいな形が分かんないものまで......とにかく作らされた。

 

 ...正直、あの時の私凄いと思う。突発的にこの武器はこんな形だーとか、あんな形だろーなーみたいなのをすぐに作り出したんだし、しかもそれまだ覚えてるっていうね。怖いよ私。

 

 更にね、作り出したもの達を維持させろって指示も出たんだよね。一個だけを維持させるのはとっても簡単だよ?一個だけに魔力を注げばいいからね。

 

 ...あ、魔力っていうのはね、魔法を使う者がそれぞれ持ってる魔法を使うために必要な目には見えない力のこと。酷使すればその分増えるらしいからなんか体力みたいだね。というか魔法の存在もこの時知ったんだ。今思えばメイドさん達魔法使っていたような...

 

 まぁ、話を戻すね。その作ったやつ...最初のほうはホントに一気に作れるのは三個とかが限界で維持した時間も3分持てばいいほうだったんだ。しかも幻術の質も相当悪かったしね...

 

 だけど最近...というか今では最大50個作れて1時間も持つようになったんだ!くっそ質悪いけどね! まだまだ訓練は続けてるからどんどん増やしていきたいね!

 

 まぁここまでは正直うわ、きっつ...程度の...程度?だんだん私感覚麻痺してきてない?...まぁいいや。

 

 とにかく次の段階からかなりきつくなったわけなんだ。うん、その次って言うのが今やってることなんだよね。どういうことかというと────

 

 

 

 

「立てエレナ。まだ初めてから一時間も経ってないぞ?」

 

「ハァ......ハァ......っはい!!」

 

 ───戦闘訓練に幻術魔法を応用するっていうことなんだ。

 

 つまり私が使う武器全て幻術魔法で作って、攻撃や防御をしなきゃならないってことだ。お父様私を殺す気なんですかね...?

 

 普通に考えて幻術で武器を作るってアホじゃないかって思うでしょ?

 

 でも私ができる幻術は普通のただ単に幻を作るやつだけじゃない。質量を持った幻───私は『有幻』って呼んでる───も作れるんだ。

 

 最早投影ってやつだねこれ。まぁかなり魔力使うからまだ沢山は作れないんだけどさ...

 

 というか、やってる側からしたら相当きついんだよこれ。だって常に思考しなきゃならないしね。どこにどんなどういう幻術を使うのかとか、それを使ってどう倒すのかとか。

 

 お父様の倒し方? ...分かってたら苦労しないよね?

 

「......いきます!」

 

 両手に出現させるのは大量のナイフ。ただのナイフじゃあないよ。吸血鬼が苦手とする銀で出来たナイフだ。

 

 それを高速で移動しながらお父様に向かって色んな方向から放つ。吸血鬼は羽があって空を飛べるから空中戦闘が主なものになる、つまり360度完全に逃げ道を無くすようにしてナイフを投げないといけない。でも、まだそんなに大量の有幻のナイフは作れない。

 

 そこで使うのがただの幻。上手く織り混ぜることで、どれが幻か有幻なのかを分からなくさせるのね。

 

 でもなんでかな...お父様さっきから目を瞑って私にされるがままで動こうとしないね。このままだとナイフに当たっちゃうんじゃ...?

 

 

 

「───なるほど、そこか」

 

 

 

 いきなり目を開いてそう呟いたかと思えば─────お父様は幻で出来たナイフの部分に身をやり、上手く有幻のナイフを全て回避してみせた。

 

 しかも、必要最低限の動きのみで。

 

「...えぇ!?」

 

「確かにお前の幻術は一級品だ。これまで戦ってきた中でも格別だと言えるほどな。だが、まだまだ未熟だ。幻を使い分けるのはいい、だが、感じ取れる魔力でどれがどういう幻なのか悟られてしまうのはNGだな」

 

「わかっちゃうのかー...」

 

 かなりレベル高いこと要求してることお父様分かってる...? 幻術魔法の訓練始めてまだそこまで経ってないのお父様知ってるはずなんだけどなぁ...

 

「次はこっちから行くぞっ!!!」

 

「わわっ!?」

 

 は、速いってお父様!! こんなの対応なんて...まぁ、ある程度なら出来るんだけどね。最初の頃はまず見えなかったしなぁ...今考えればよくここまで来れたよね私。

 

「戦闘中に考え事とは余裕だな!!」

 

「あ、危なっ!!」

 

 お父様は速い。そして疾くて捷い。まぁとにかくスピードが桁違いなわけだ。

 

 でもそれだからっていって攻撃力が低いかと問われれば否だ。割とシャレにならないくらい痛い。

 

 今回避出来たのはマジでギリギリ...しかもまだお父様のペース...なら、アレを使おう。自信はない...けどね。

 

「いきます、お父様!」

 

「!!」

 

 まず両手にに有幻で出すのは少し大きめのグレネード。展開すると同時にピンを切る。

 

「ちぃ!」

 

「逃がしませんよ!!」

 

 ピンを切ってから爆発までは大体7秒ほど。それまでにこれをお父様に当てなきゃならない。でも投げてたら回避されるのは当たり前。

 

 じゃあどうするか? ...簡単、私がお父様に近づけばいい。言ってしまえば人間爆弾ってやつ...私人間じゃないけど。

 

 私ならある程度お父様の機動に着いていける。投げるよりは良心的だよね。

 

 爆弾まで...4。

 

「どうした! 投げないのか!!」

 

 

 3。

 

 

「投げたら逃げられるのが関の山です!」

 

 

 2。

 

 

「...まさかお前、特攻する気か!?」

 

 

 1。

 

 

「...そのまさかですよ」

 

 

 ────0。

 

 

ドッガァァァァン!!!!

 

 

 かなり規模の大きい爆発。凄まじく鳴り響く爆音。ここまでくりゃお父様も無事ではないはず...だよね?

 

 私? 私は平気。なんたって───幻術魔法があるからね。

 

 爆発する寸前。私は私を霧みたいな状態にして分散させて爆発から免れた。まるで私が初めからそこに居なかったように。

 

 そして爆発が収まった頃、霧を再構成して私を作った。勿論無傷だ。

 これ、幻術魔法の応用なのですよ。

 

「───やるじゃないか、エレナ」

 

「...まぁ、そりゃそうですよね」

 

 どこからかやって来た蝙蝠が一つに集まりお父様を構成していく。そう、純吸血鬼は私が幻術魔法でやったさっきのことを蝙蝠を使って出来るんだよね。そしてお父様も無傷と。

 

「...っと、今日はここまでだ。明日またやるからしっかり休むように」

 

「はーい」

 

 これから更にやるのかと思ったけどお父様帰っちゃった。あれまぁ...完敗だね。

 

「さてさて、この手はダメと...なら、明日はあの手で行くかぁ」

 

 作戦は山ほどある。いつかお父様に勝って褒めてもらうんだ。無論お母様にも。

 

 それに、それが今私の出来る唯一の恩返しでもあるしね...義理でも娘を名乗ってるなら強くならないと。私を...何よりも、私の家族を守るために、ね。

 

 

「さて、明日も頑張ろっとぉ...」

 

 部屋に帰ってじっくり反省だね。本当に頑張らないと......



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一年以上何やってたんですかねこいつは?

というわけで一年以上経ってしまいましたが投稿します。なので初投稿ですね。

待っててくださった方、ありがとうございました。これから頑張っていきます。


 最近、お父様が何か色々と忙しいようだ。戦闘訓練とか、ご飯のときとかですぐにどこかへと行ってしまう。お父様と全く会えなかったりした日なんかもあったりした。

 

 そんな中、お母様は一緒にいてくれたけど...最近は体調を崩してるみたいで、中々会えない。これによって更にお父様が忙しくなってしまったみたいだ。

 

 なんだろう...少し、寂しさを感じる。私に飽きてしまったんじゃないか、なんて考えが過る。

 

 ...大丈夫...だよね。心配、しなくていいよね。私を家族にしてくれたんだから...

 

「...ふぅ」

 

 私は一息をつく。気を紛らわすため、半日ぐらいずっと魔力コントロールや幻術の鍛練をしてきたんだけど...あんまり集中出来なかった。

 

 寝不足も原因の一つなのだろう。最近は悩みすぎてて、よく寝れていないからだ。

 

 ...成果が上げられないし、今日はもういいや。

 

「お疲れ様です。エレナお嬢様」

 

「あ、ありがとうございますっ」

 

 鍛練が終わったベストのタイミングで、いつものメイドさんがタオルを持ってきてくれた。ふかふかだ...かなり心地がいい。

 

「...エレナお嬢様。先ほどの鍛練ですが...」

 

「...なんでしょう」

 

「いえ、あの...なんといいますか、何か考え事でもしていらっしゃったのかと思いまして...」

 

「...いえ、ちょっと調子が悪かっただけです」

 

 心配はあんまりかけたくないからね。無理矢理笑顔を作ってやり過ごす。

 

「明日からはきちんとやります。娘として、頑張らないとですから」

 

「...無理はなさらないでくださいね? 倒れてしまうなんてことがあれば、旦那様も奥様も心配しますから」

 

「そう...ですね」

 

 ズキッと、胸が痛む。お父様やお母様と話したのはもう何日前だろう。仕方がないのは分かってる。お父様はお仕事、お母様は療養中だ。お父様がどんなお仕事をしてて、お母様がどんな病気を患っているのかは聞いてないけど...

 

 ...話してくれても、いいのにな。

 

「じゃあ、私は部屋に戻りますね」

 

「お部屋までお供します。エレナお嬢様」

 

「...ありがとうございます」

 

 私が歩き、その三歩ほど後ろをメイドさんがついてくる。なんか、これはいつまでも慣れないなぁ...自分が偉くなったみたいで小恥ずかしい。

 

 でもここで自分は偉くなったんだと勘違いしてはいけない。私は拾って貰った身。飽きられていつ捨てられてもおかしくはない...んだから。

 

 ...いつ、捨てられても...

 

「......」

 

「...あ、そういえばっ!」

 

「...何ですか?」

 

 メイドさんがいつも以上に元気に私に話題を振ってくる。内面だけのつもりだったけど、もしや表情に感情が出てるのかな。気を使わせちゃったかも...

 

 

 

「──もうすぐ、妹様がお生まれになりますね!」

 

 

 

「...え?」

 

 思わず私はメイドさんのほうを振り向く。何それ...聞いてないよ...?

 

「早ければ今月でしょうか。エレナお嬢様はお姉さんになるんですね!」

 

「あ、はい...そうですね...」

 

 妹...ってことは、お父様とお母様の本当の子ども...かぁ。それなら、ますます私...いらない子になるんじゃ...

 

 そりゃそうだよね...養子なんかより、実の娘のほうが可愛いもんね...やっぱり、私に飽きちゃったんだ...

 

「...ごめんなさいメイドさん。しばらく一人にさせてくださいっ」

 

「あ、エレナお嬢様!?」

 

 走って走って走り続ける。自分の部屋まで顔を隠しながら。今は多分情けない顔をしてる。誰にも見られたくなかった。

 

 バタンと扉を開いて中に入ってベッドに潜り込む。もうすぐ私は用済み...実の娘の教育に専念するから捨てられるだろう。

 

 そこら辺に放置されて、お腹が空きすぎて、そして野垂れ死んでいくんだろう。

 

 心のどこかでこんな日が来ることは分かってたんだと思う。あの日、あそこから追い出された化け物の私が...幸せになれるわけがないんだ。

 

 それでも...でもっ!!

 

「...もう、やだぁ...!」

 

 もっとお父様やお母様と一緒にいたい。お話したい。笑って皆でご飯を食べたい。メイドさんと一緒に勉強したい。誉められたい。喜んでもらいたい...

 

 挙げればキリがないほどあふれでてくる私の欲望。終わりが来ると分かったからこそ感じる今までの幸せ。

 

「...うわぁぁぁん!」

 

 気持ちが落ちていくと同時に止まらなくなっていく涙。でも、泣いちゃいけない...どうせ捨てられると分かってても私はあの人たちの娘。せめて最後まで、あの人たちの娘でいたいから...!

 

「ぐすっ...ひっく...」

 

「...エレナお嬢様?」

 

「っ!!」

 

 メ、メイドさん...! 一人にしてって言ったのに...!!

 

「こ、こないでっ!」

 

「...はぁ」

 

「疲れてるから! 休憩させて! ね?!」

 

「入りますよっ!」

 

 強引に扉を開けてくるメイドさん。私はとっさに、幻術で自身の顔を普通の表情のものへと変換させた。

 

「な、なんで入ってきたんですか?」

 

「......幻術、バレバレですよ」

 

「え、嘘っ!?」

 

「はぁ...エレナお嬢様っ!」

 

 メイドさんは私の両肩をガシッと両手で掴み、私の目をじっと見てくる。なんだが、怒ってるような心配してるような、そんな顔で。

 

「何かあるんでしたら言ってください! 私はそのためにいるんですから!」

 

「だ、だって迷惑になるといやだし...」

 

「私はエレナお嬢様にお仕えするのが使命です! 迷惑だなんてこれっぽっちも思っていません!」

 

 凄い熱量で一言一言を発してくる。嬉しいって気持ちで心がポカポカしてくる。でも...

 

「私、捨てられちゃうし...」

 

「...はぁぁぁぁ!!?? それ本気で言ってるんですかぁ!?」

 

「え、あ、うん...」

 

「はぁぁぁぁ......旦那様から少し言われていましたが、ここまでとは...」

 

 今度はため息をつくメイドさん。え、何か私間違ってる...のかな...?

 

「エレナお嬢様。今から旦那様と奥様の所へ行きましょう」

 

「...え」

 

「いいからいきますよっ!! エレナお嬢様はどれだけ愛されているのか自覚なさってください!」

 

「あ、ちょ───」

 

 言われるがままにメイドさんに手を引かれ、ある一室の扉の前まできた。そこはお母様の部屋。療養なさっていると聞いてから敢えてあんまり近づかないようにしてた部屋だ。私が行って悪化したら嫌だったし...

 

「あ、あのメイドさん。ここ...」

 

「旦那様、奥様。失礼します」

 

 私の言うことを無視してメイドさんはノックをして扉を開ける。

 

 そこにはお父様と、ベッドで横になっているお腹の膨れたお母様がいた。

 

「──エレナ」

 

「あらあらあら。エレナじゃない! ごめんね、今こんな状況だから...」

 

「あ、いえ...」

 

 療養中じゃなかったの...?

 あ、そりゃそっか、妊娠してるんだからある意味合ってる...のかな。私が病気だって勘違いしてただけみたいだね。

 

「旦那様、奥様。エレナお嬢様は先ほど捨てられると申していたのですが」

 

「ちょ!?」

 

「...ん?」

 

「あらあら...?」

 

 何言いづらいこと直球で言ってくれてるのことメイドさん!? この話になったら私を捨てるって直接言われちゃうじゃん!

 

 ...それは、やだなぁ...

 

 

 

 

「...何を言ってるんだ? 私たちは、そんなつもり一切ないが...」

 

「エレナは私たちの娘です。捨てたりなんて...するわけがないでしょう?」

 

 

 

 

「...え?」

 

「ほら! エレナお嬢様はやっぱり愛されてますよ!」

 

 ...うそ。

 

「...ホント?」

 

「本当だとも。なんでそういう風に思ったんだい?」

 

「だってだって、最近構ってくれなくって...」

 

「あー......そう、だったな」

 

「あっ......」

 

 ギュっと、心地のよい強さでお父様が抱き締めてきた。お父様を強く感じる。

 

「ふふっ、私も...」

 

「んっ......」

 

 続けてお母様からのハグ。お父様とはまた違った心地よさがあり、満たされていく。気持ちがいい...

 

「すまないな...レミリアのことはサプライズにしようと思っていたんだ」

 

「レミ、リア?」

 

「あなたの妹よ。エレナ...私たちの新しい家族」

 

 私たち...ということは...

 

 

「私はここにいていいの...?」

 

 

 そんな私の問いに、二人は同時に答えてくれた。

 

 

「「当然っ!」」

 

 

 ...いいんだ。ここにいても。私の、私だけの居場所...いていいんだっ!

 

 すると、また涙があふれでてきた。さっきのは悲しかったけど...今度は別の感情。

 

「あっ、あれ...おかしい...なぁ...」

 

「...大丈夫だ。エレナ」

 

「私たちはずっとあなたの味方。ずっと一緒にいるわ。ね?」

 

「う、うんっ!」

 

 暖かい...なぁ...気持ちがいい。

 

 私はそのまま──眠りについた。今までの睡眠を取り戻すように、ぐっすりと──



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遅くなりました。しかも短いです。
それでも良い方は見てってくださいませ……


 

 

 

 

 

 

 つい最近────とは言っても数年前だけれど、お母様が子どもをお産みになった。なんとなく最近は時が過ぎるのが早くなった気がする。毎日が楽しいからかな。

 

 それで、その子の名前はレミリア。お母様譲りの空の色をした髪の毛、さらに深紅色の目を宿した、まさに正統派吸血鬼。お父様やお母様のきちんとした娘で私の義妹だ。

 

 このレミリアがね……可愛いすぎるんだ。とっても。最高すぎるんだ。

 

 養子である私を『おねぇさま』と呼んで慕ってくれてる。ここだけでももう最高なのに、気を許してくれてるのかたまにお父様との訓練で辛かったこととかを話してくれたりする。頑張ったねと言うとにへらと笑ってくれる。めちゃくちゃ可愛い。

 

 さらにあの子は賢い。人の赤ちゃんよりも早く言葉を話せたり、私が身に付けるのに苦労した知識を難なく吸収していたりしていた。しかも、私にはない色んなものを惹き付けるカリスマ性も持っている。まだ2歳になったばっかりなのに……

 

 そんなレミリアに嫉妬心を抱くこともありはしたけど……今は仕方がないと割りきっている。レミリアにはあのお父様の血が流れているのだから。まぁ嫉妬心よりも凄いなぁ可愛いなぁみたいな感情が強かったというのもあるだろうけど。

 

 お父様は今やレミリアに付きっきりで教育を毎日のようにしている。厳しいけども休みも取って効率良く成長していくようにやってみるみたい。次期当主だからこうなっているのは仕方がないのかもしれないけど……やっぱり、ちょっと寂しいかな。

 

 私は一人でお父様から言われたことを実践している。最近は物の有幻はある程度出来るようになってきたから次は空間支配のためのものに。

 

 幻術魔法の特徴は、戦闘において常に優位に立てること。戦場そのものを自分が望むものや相手が苦手とするものにしてしまったり出来るから。例えそれが幻術だって分かっていても身体が反射的に反応してしまうから回避は難しい。極めればそれだけ強くなれるんだ。

 

 勿論戦闘以外にもこの幻術魔法は沢山活用出来るんだけど、一先ず私は自分の身を自分で守れるようにならないとダメだからね。もし狙われてあっさりと殺されたりしたらスカーレット家の恥だから。

 

 この空間支配もだけど、そもそも幻術魔法には豊富な想像力が欠かせない。想像力を広げるためには自分の知る世界を広げなきゃいけない。

 

 だから私はやることがない時間はずっと図書館で本を読んでいる。今このときも含めて。小説から学問書、絵本だったりと様々な種類をだ。

 

「……」

 

 これは最初はお父様から言われて始めたことなんだけど、今では自分から本の世界に向かっていってる。想像力を鍛えるっていう目的が達成されてるかどうかはわかんないんだけど、これがお父様が言うには近道らしいから読んでる。

 

「……」

 

 ふと、時計に目をやる。時間は午後5時。確か今日は2時から訓練をするみたいだったから……大体3時間もやってるんだ。大丈夫かな……レミリア。

 

 私としてはレミリアともっと義姉妹の交流とかをしてみたいんだけど……異端な私が将来スカーレット家を継ぐであろうレミリアにふれあい過ぎるのもどうかなって思って、基本的に私からは出来るだけ近づかないようにはしてる。

 

 もし私から近づいてったら養子の癖にって良い気持ちしない人もいるかもだしね。

 

「んー……」

 

 読書を切り上げ、背筋を伸ばしてリラックスをする。もう今日は読むのはやめにしよう。切りもいいから続きは明日にでも。

 

 色々と考えを巡らせていると───図書館の外から誰かの気配を感じた。これは……お父様じゃないし、いつものメイドさんでもない。なんとなく愛おしさを覚えてしまうこの気配は……

 

「おねぇさまっ!」

「──いらっしゃい。レミリア」

 

 少し服がボロボロな状態だけど、ニッコニコな笑顔のレミリアが来た。この様子から察するに、訓練が終了してそのままやってきたんだろう。

 

 確かに私はさっき『私からは出来るだけ近づかないようにしてる』とは言ったけど……レミリアから来てくれるなら何にも問題ないよね。……多分。

 

「おねぇさま、わたしきょうもがんばったのよ!」

「うんうん。レミリアがいつも頑張ってるのは知ってるよ」

 

 こうやって『素のレミリア』を出してくるのは私が知っている限りでは私の前だけ。お父様やお母様たちはレミリアが次期当主としての振る舞いすることを期待しているということもあって、いつものレミリアは『カリスマなお嬢様』なんだ。

 

「今日は何をしたの?」

「まずはおべんきょうをしたわ! ちょっとむずかしかったけどすぐにおぼえられたの!」

「ホント? 流石レミリア!」

「えへへ……」

 

 だけど、仮面を被り続けたらいつか壊れてしまう。だから私という甘え先を作って素を出せる時間を作ってあげなくちゃいけない。

 

 このことはお父様もお母様も知っているはず。だけど敢えて黙ってくれているんだと思う。

 

「あとはせんとうのくんれんもしたわ! おとうさまがつよくてなかなかかてないのだけど……」

「その歳でお父様に勝てたら凄すぎると思うんだ。まだまだこれからだよ!」

「そ、そうよね! がんばるわ!」

 

 一応戦闘経験はレミリアより多い私でさえ勝てないんだから勝てないのは普通だよ。うん。そうであってほしい。

 

 素でいてくれる時だけはせめて『姉』でいたいんだけど、レミリアがお父様に勝っちゃったら本当に姉としての威厳というか、そういうのがなくなっちゃうからまだ勝てなくてもいいよ……なんて酷いことを考えちゃう。

 

「おねぇさまはなにをしてたの?」

「私は……ずっと本を読んでたな。これが私の今やるべきことなんだって」

「そうなの。どんなほん?」

「んーっとねぇ───」

 

 レミリアはその内容かというより、私がどんな本を読んだのかというところを気にしているようだ。あんまりレミリアは読書をしないからね……忙しいっていうのもあるかもしれないけど。

 

 いつかレミリアが成長して一人で何でも出来るようになって、私を必要としない時がくるかもしれないけど……こうやって私を求めてくれる間は応えてあげたい。それがスカーレット家への恩返しになるならいくらでも。

 

「すごいわおねぇさま……そんなによんでたのね」

「時間さえ取れればレミリアだって読めるはずだよ。今度一緒に読んでみる?」

「いいの?!」

「もちろん! 本の楽しさを教えてあげるからね!」

「うふふ、とってもたのしみだわ!」

 

 こういう少しだけの交流。二人だけでただお喋りをするだけの秘密の時間。これが今の私にとっての一番の楽しみなんだ。



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