拳突き上げた先に (それを言うなら)
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【魔拳士】クラウン・スプリングス
プロローグ


ネグレクト要素が入ります。苦手な方はご注意ください。


■????■

 

「ここには世界がある。ここには夢がある。私達はここで救われる」

そう言って、春ねぇ――春夜は<Infinite Dendrogram>を始めた。

親にも見向きもされず、体が弱かった春ねぇはいつもゲームをしているときは楽しそうだった。

ニュースやブログの記事で同じ様な体の弱い子達が、遊ぶ姿を見て、春ねぇは憧れを抱いていたのだ。

そうして、少しずつお金を集めて買った<Infinite Dendrogram>を春ねぇは楽しみ、僕だけがこの現実に取り残された。

その時抱いた嫉妬心を未だに覚えている。僕にとって家族は姉の春夜しかいなかった。だから、嫌だった。春ねぇを取られるのが。

春ねぇはそうして本当に何処かへ言ってしまうのではないのか?

気持ちの奥から溢れる嫉妬心を、春ねぇの前で必死に抑えた。

僕も春ねぇと一緒に遊びたかった。そう思い少しずつお金を集めていった。高くて、いつから一緒に遊べるようになるか分からない。当時小学校の僕にはろくなお金もなかったのだ。

「私もお金出すから一緒にやろうね」

そう言った春ねぇの顔に、喜んだ矢先のことだった。

 

姉が死んだ。

 

心臓麻痺だった。

<Infinite Dendrogram>のVRゴーグルを付けたまま死んでしまっていたのだ。

第一発見者は僕で、全く動かない春ねぇに違和感を抱いたことを覚えている。

ゲームをやっている途中は基本的に寝ているということは聞いたが、顔色が明らかにおかしかったこと、異常に汗をかいていた春ねぇに気づき、体を触ったら異常に冷たかった。

どうすればいいかわからず、家にも電話がなかった家を飛び出し、外に出て助けを叫んだ。それを聞いて近所のおばちゃんが電話をかけてくれ、正式に死んでいることが発覚した。

終始涙を流していた。そうして病院に来た親に言われた一言で、僕は全てを恨むこととなる。

「ようやく死んだか」

何を言っているか分からなかった。だって、死んだのは貴方達の”娘”なはずなのに。

「お前らがっ! お前らがちゃんと春ねぇを見ていなかったから!! なんで、何でそんなこと言うんだよ!!」

叫んだ声を二人は無視して病院を出ていった。家の墓に入れられたが、結局葬式については行われなかった。

そんな全てが嫌になった僕は、中学校から寮がある私立学校を希望し、”あの人達(・・・・)”もそれの方が楽だということで了承した。

寮に移る際、あの人達が隠していた死んだ春ねぇの<Infinite Dendrogram>のVRゴーグルを見つけ、それを持っていった。

「(きっと、春ねぇはこっちにいるはずだ)」

心臓麻痺だって、不思議だった。いきなりあんなのが起こるなんて信じられない。

きっときっと――

「春ねぇは生きてるはずなんだ」

こうして、僕はゲームを始めることになる。この<Infinite Dendrogram>を。

そこで時には負けて、時には勝って、出会った仲間たちと、様々な旅をすることを、僕は体験していくのだ。

春ねぇを。僕のたった一人の家族を探すための冒険が――

――今、始まる。




三行まとめ
1.姉が死んだ
2.両親はクズ
3.姉を救うためゲームスタート!


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【魔拳士】クラウン・スプリングス

既にある程度プレイ済みです。
修正 フレンドチャット→連絡用のマジックアイテム
原作を見るとフレンドチャット事態あるか危うかったので修正しました


■【魔拳士】クラウン・スプリングス■

 

「やっと終わった」

レジェンダリアのマグ・メルという街にある喫茶店【Fairy】。皆が集まる憩いの場であり、ケーキが美味しい上級職のシェフが居る反響のあるお店。

そこでクラウンはカフェラテとケーキを何点か頼みつつ、顔をテーブルに預けていた。

「後は上級職のジョブ探しだよね。……本当にその上級職があるかどうかだけど」

日のあたりも良いガーデンテラス。植物が自然に溶け込む空間で、俺とデコのパーティ会議を行っていた。

170㎝の身長があるスラッとした赤と緑を基調とした装備をしている黒髪の少年が、下級職の【魔拳士(デュアル・ボクサー)】をメインに置くアタッカー担当が俺、クラウン・スプリングス。

165㎝程の身長で、淡いオレンジのチェックで染めた上着とショートパンツを装備しているショートカットの少女が、上級職の【軽双銃士(デュアル・トリック・ガンナー)】をメインに置く支援、誘導担当のデコレーション。通称デコ。

勿論どちらもプレイヤー名で実際の名前ではない。

「始めてから1年経ったね……。【魔拳士】だって取得条件が難しいジョブだったけど、これからそれより難しいと思われるジョブを探す羽目になるなんてね」

「難しかったな。ジョブリセットも2度した。半ばロストジョブ化してる下級職なんて当時は驚きはしたが、探し当てて、今日やっと下級職の上限50レベルに出来た」

今相談しているのは、俺のジョブの問題。

この<Infinite Dendrogram>では下級職を6つまで取得できる。それぞれ50レベルまで育てることが出来る。メインの1つか2つ下級職を育てたら上級職に付くのが定説と言われているのだが。

【魔拳士】はMPとSTRの双方を一定源必要とする取得条件の特殊なジョブで、【魔術師】を絡めなければ取得することが出来ない見つけにくいジョブだった。構成も色々迷った末に、始めてから1年で何とか構成を固めることが出来た。

構成のために天地という別の国で【忍者】のジョブを得たり、その際にマリーと言う人に出会い、共闘する様な事件があったが、それはまた別の話。

「その間に僕なんて、上級職になっちゃったじゃないか。理由があるとは言え、パーティの人が遅れてるなんて由々しき問題だよ」

そうして悶々とやっている内に、俺よりデコの方がレベルが上ってしまった。

しかも、【双銃士】の上級職である【軽双銃士】にまでなっている。

「上級職が付けばもっと強くなるはず。そこからもっと、火力を出して――」

「でも、上級職に目処がないよね……実質ここでストップ状態だよね今」

「<適職診断カタログ>見てみよう。ヒントあるかもしれない」

自分に合い、就けるジョブを探してくれる<適職診断カタログ>は神アイテムだとプレイヤーの皆が言っている神の一品。

「……あった。これだ」

調べて<適職診断カタログ>から出てきたのは2つ。【魔人拳(ジン・ボクサー)】【剛魔拳士(ストロング・デュアル・ボクサー)】。どちらも聞いたことがないジョブだ。

「情報が欲しい。何だろうコレ。聞いたことがないよ」

デコも流石にいきなりお薦めはできないと、情報を求めている。

「見るに、単純に上位互換の職が【剛魔拳士】みたいだが」

だが、1つ目の【魔人拳】が気になる。とても格好いい。

「またジョブリセットをするのは、僕もキツイよ。一回情報探そう。【記者】のカレンさんに聞こう」

そう言って、連絡用のマジックアイテムをデコは使った。

【記者】カレンさん――カレン・レディーはこの<Infinite Dendrogram>のデータをwikiなどに纏めようとしている<DIN>というクランの一人だ。膨大なデータが有る<Infinite Dendrogram>でデータを公開することにより、皆が遊びやすく、そして迷わないデータ運用ができるように色々なデータを調べ回っている。<DIN>はどうやらこの世界内に多数いるようで、そのクランメンバーともデータを共有している。

つまり、こういった相談事ではカレンさん以上の適任はいないというわけだ。

「連絡付いたよ。来てくれるって。カレンさんの方も何か用事があるみたいだし。ただ、ここのケーキぐらいは奢らないと駄目かな」

「それぐらいなら安い。こっちがわからないことを教えてくれる人って珍しいから」

プレイヤーはデータを知られれば知られる程オンリーワンさを失う。対策されてしまうのだ。上級プレイヤー、特に超級職と呼ばれる者の中にはそれを軽々と突破するような者もいるが、逆に対策してしまうとあっさり倒せてしまうような者もいる。

例としては天地にいた【伏姫(ダウン・プリンセス)】という出合い頭の一撃に全てを掛けるジョブを持つプレイヤーは、その一撃さえ凌げてしまえば、どうにかなってしまう。勿論、一撃目を凌ぐのが難しいのだが。

「プレイヤー間でちゃんとしたデータのやり取りが出来る人は貴重だもんね。もっと皆公開してくれないかなぁ。自分のデータ」

「デコの就いている【軽双銃士】は、人口がいるし、データも他の人が公開してるけどな」

だが、俺のデータを流石に公開するのは憚れる。かなり苦労したのもあるが、それ以上にこのジョブに至るまで、周りの人に馬鹿にされたことがあった。だから、データを公開したくない。

「また意地はってる。大丈夫だよ。そのジョブ構成見て、なりたいっていう人はそういないよ」

「現在進行系で成った奴が目の前にいる」

【魔拳士】が気に入ってるんだ。放って置いて欲しい。

「<プリティ・ショートケーキ><ミディア・タルト>それと<フェアリーの紅茶>二つです。どうぞ」

店員さんが持ってきたケーキを持ってきた。<プリティ・ショートケーキ>はレジェンダリア特有の<プリティ・ベリー>という果実を盛ったショートケーキだ。シンプルで<プリティ・ベリー>特有のジワッと来る刺激をクリームが包み込む、調和の取れた一品。

「レジェンダリアで良かったって、こういう時思うよね」

「同感だ」

今までの不服さや、苦労などを忘れ、今は目の前のケーキに集中しよう。

<ミディア・タルト>は果汁の強い<ミディア>という果実から作られたモノだ。ミディア自身がモンスターにも好まれるような存在感のある果実であり、それをタルトにし、味を抑えずに、更に果実をミックスし、食べやすくした甘く、濃いジューシーなタルト。

レジェンダリア特有の魔力の溢れた空間ならではの果実から作られ、輸送もされずに直接届いた新鮮な素材で出来た料理達。

「これでバフも乗るのだから、素晴らしい」

「カレンさんまだ来ないね」

そう言っているデコは食べ始めている。

流れに乗り遅れるなと、最初の一口を口に入れ、感動を体に染み渡らせる。だが、直ぐに次が欲しくなる。

「食べながら、待とう」

「そだね。あ、店員さんすいませーん!」

デコは既に、2つ目のケーキを頼み始めていた。

 




三行まとめ
1.メイン下級職レベル上げ終わり
2.上級職わけわかめ
3.ケーキ美味しい


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<アクシデントサークル>

クエストスタート

修正10日毎に→5日毎に
やっぱり期間空きすぎだと言うことで修正


■【魔拳士】クラウン・スプリングス■

 

「ごめんなさい。待ったかしら?」

しばらくしてカレンさんが来てくれた。相変わらずスーツ姿で、長い金髪の髪をポニーテールで纏めている。それに深い青色のメガネをしていて仕事の出来る大人の女性を思わせるいつもの容姿だ。

「大丈夫です。注文どうぞ。少しぐらいならこちらで出します」

「ありがとう。今まで構築に悩んでた初心者さんの相談に乗ってたんだよね。いやぁ、質問も多くって困った困った」

そう言っている顔は困っておらず、むしろ充実した顔をしている。カレンさんはそういう人だ。何でも困ったことがアレば自分から動いて解決しようとしてしまう。

「それで? 相談事って言うとジョブのことかな?」

自分たちも幾度か相談に乗ってもらっているからか。何処まで進んだか推測されてしまったのだろう。そんな質問が来た。

「そうなんですよ。クラウンの上級職のジョブがちょっと変なのが来て」

「クラウン君は、数あるジョブの中でも浪漫な道をいっているものね。どれどれ?」

「これなんですけど」

先程<適職診断カタログ>で見つけたジョブを見てもらった。するとそれを見た自分たちと同じ様な難しい顔をしている。

「どれもやっぱり聞いたことないわね……。特にこの【魔人拳】って。もしかして人じゃなくなるジョブ?」

「人じゃなくなるジョブ?」

「時々あるのよ、そういうジョブが。ステータスの伸びが良いけど、デメリットが大きいっていうジョブなんだけど」

「コレもそういう部類ってこと?」

「多分。【大死霊(リッチ)】とかが代表的で、【大死霊】に就くと、人からアンデッドになるの。そういうのが嫌なら無難に【剛魔拳士】の方選んでおいた方が良いと思うわ。デメリットがわからないし、2つともロストジョブなんじゃないかしら」

ロストジョブ――付いた者が何らかの理由でいなくなってしまったために、そのジョブが見当たらなくなってしまったジョブ。主に一つに付き一人しか慣れない上級職の上である最終到達点である超級職にありがちなモノ。

「【剛魔拳士】だと、ステータス条件を満たしてるから遺跡のジョブクリスタルを探すだけか」

「そのクリスタルも何処にあるか。何処でドロップするかは不明なんだけどね」

「どちらも、ロストジョブだろうから人から情報を聞けないのが、難しい所なのよね」

そのジョブに就くためには、ジョブクリスタルというモノが必要だ。簡単な職なら大体は各地にあるジョブクリスタルに触れれば終わるのだが、俺の上級職はそういう訳にはいかないらしい。

「この八方塞がりな感じ。まずいわね。停滞するとモチベーションに関わるし、わかったわ。違う人達にもそういうのがあったか聞いてみる」

「「お願いします」」

人脈がある人にこういうことを頼めるのは心強い。自分たちも知り合いに幾つか当たってみよう。

「いいのよ。クラウン君には珍しいジョブである【魔拳士】の情報も貰ってるしね。今回も上級職の取得条件見せてもらったから私は損なんてないわ。連絡入れたから最近の近況聞いて良い?」

そうして何人かにメールを送ってくれたカレンさんにそれぞれの近況を報告した。

 

暫く時間が経ち、知り合いからの連絡が帰って来たが、結局、2つの上級職情報はなかったようで、ケーキを食べ終わった俺達は締めの話に入っていた。

「でね。今、ちょっと調査してるの。手伝ってくれない?」

それがカレンさんが言い出した俺たちに対する【用事】だった。

「手伝う? ……事件ですか」

「そうそう、まだ認知されない程度のモノなんだけどね。なんか可笑しいのよ。<アクシデントサークル>って知ってるわよね。」

「知ってます」

「そう、それがね」

レジェンダリアには<アクシデントサークル>と呼ばれる所謂神隠しがある。これは街の外でよく起きる現象であるのだが。

「それが、街の中で? しかもこの街で?」

<アクシデントサークル>の原因は魔力の濃度であり、空気中の魔力が一定を超えると自然的に発生されると言われている。

そのため街にはそれを抑えるマジックアイテムがあり、普通なら発生しない。

「それがここ5日毎に、1回に1人ずつ連れ去っているのよ。誰も、気付かない内に」

「何が原因だっていうのは?」

「不明。ただ、魔力が原因じゃないわ。魔力を抑えるためのマジックアイテムが機能しているのもちゃんと確認した。そしてね。何より」

そう言ってカレンさんは【クエスト】を開いた。

「……」

【クエスト】。達成することで経験値やアイテムが貰えるモノであり、自然発生するクエストも数多い。その中でも偶発的に調査したり、ある人物に接触したのが条件で発生するクエストもある。

「私が、この事について調査したらね。コレが出てきたの」

 

【調査――アクシデントサークル】

 

「つまり、このアクシデントサークルは」

「不自然だと考えるのが妥当よ。でなければクエストは発生しない」

<アクシデントサークル>の根本的解決を追うものは何人もいた。だが、この様なクエストは発生したという話聞いたことがない。

「もう既に少数だけどティアンが巻き込まれている。もしかしたらマスターも対象かもしれない。何人かのマスターにも協力を依頼しているわ。貴方達二人だけじゃない」

レジェンダリアはレジェンダリア事態を好きだというマスターが多い。ファンタジー溢れる国はマスターに様々なインスピレーションを与え、遂に【変態の国】と呼ばれるまでに。だが、それをレジェンダリアは受け入れてくれている。皆、この国が大好きなのだ。

「受ける」

即答だ。迷う気もない。こんな事を頼まれて、受けないのはオカシイ。

「わかった。クラウンが受けるなら僕もパーティとして付き合うよ」

「ありがとう二人共。じゃあ情報を送るわ」

そうして、カレンさんは俺達に現時点で調べられている情報をデータとして送ってくれた。

「(おや、良いのですかマスター。それを受けて)」

心の中で中性的な声が響く。心がザワツク声だ。聞いているだけで神経を逆なでされる。

今まで黙っていた<エンブリオ>がいきなり喋り出す。こういう時だけ煩い奴だ。

「(良いんだよ。黙ってろ。卵が)」

手に宿る卵状態の<エンブリオ>を見る。

「(ふふっ、良い感情ですよマスター。ようやく私が目覚められそうだ)」

 

攻略対象クエスト難易度:七【調査――アクシデントサークル】

行く先は、謎。

目指すは――攫われた人たちの救出、そして事件の解決。

クエスト、スタート。

 




三行まとめ
1.キューティージャーナリスト、カレン・レディー登場!
2.上級職わからぬ
3.上級職なんてどうでもいい!!そんなことよりクエストだ!!


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【名探偵】カレン・レディー

カレンさん視点


■【名探偵】カレン・レディー■

 

私がこのクエストを知ったのは、5日前のティアンからの依頼だった。

「お子様がいなくなった?」

「そうなの。何か知らないカレンちゃん。娘なんだけど全く帰ってこないのよ。昨日から」

マグ・メルは治安の良い街であり、しっかりとした警備隊もいる。住むのにも良い街だし、マスターも揃っているため滅多なことは早々起こらないはずなのだが。

「……他の人達に連絡を入れてみますね。警備隊には?」

「連絡を入れたのだけど、昨日ぐらいのことじゃ動いてくれなかったの。また明日帰ってこなかったらまた来てくれって。オカシイわよね!」

「街の外には出ましたか?」

<アクシデントサークル>ならば違う国まで飛ばされた可能性がある。そうなると捜索も困難な国もちらほらある。

「いいえ。それは言い聞かせているはずなのでありえないと思うのだけど。昨日も遊びに行くって言った時に、街の外に出るなって言っておきましたから」

子供ならば、それを無視して街の外に出るという可能性もある。この家の子供は悪戯っ子なはずだ。信用は出来ないが、いつも言っている言葉を無視するという線は一旦捨てて、街の捜索を私はすることにした。

すると、

「あれ?」

クエスト難易度:7【調査――アクシデントサークル】と出てきた。

この時点でおかしいな。とは思ったが、まだ何も分かっていない段階だと、私は準備を開始した。

メインジョブを【記者】から【探偵】の上級職である【名探偵】に切り替えると同時に、私は<エンブリオ>を起動する。

私の<エンブリオ>【頭概天測 ホヴズ】は私が装備している深い青色のメガネ――TYPE:アームズ・カリキュレーター。

<エンブリオ>にはタイプが幾つかあるが、私のタイプは装備するだけの至って単純なタイプだ。既に第6形態に入っており、区分として上級エンブリオに入っている。

「起動」

【頭概天測 ホヴズ】は今回のクエストにピッタリな能力を持ってくれている。

それは【人の痕跡を見つけることが出来る】という単純な能力。弱いと思われるかも知れないが、まだこれは能力の一つ。だが、今はこれで十分。

そうして痕跡をたどれば辿る程、可笑しい所に気づいた。

「空中に痕跡がある」

【頭概天測 ホヴズ】は幾つかの条件を満たせば、相手の状態がどういう形であったかも知れる。今回は親から条件を満たすためのものを提供してもらい、完璧な形で能力を起動しているのだが、ある一定の場所から、担いで持ち去られているような痕跡が見える。

「……街でそんな事が出来る存在……」

一つの可能性としてマスター。マスターならば、<エンブリオ>の能力があれば誰にも見られずに連れ去ることも可能だろう。

犯罪行為を条件とするジョブは幾つかある。それを果たそうとしての犯行というのは十分有りえる線だろう。

もう一つの可能性。それはモンスターの出現。それも<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>。

いつの間にかこの街に入り、何かしらのスキルを使い。誘拐行為を行っている。

その場合厄介になっていくのは【<UBM>と誰が戦うか】であった。

私はあまり戦闘系のジョブを殆ど持っていない。戦えないわけではないが、それでも1対多数の戦いになれば、分が悪いことも多い。

そして、本当に<UBM>であるなら討伐のMVPに選ばれた時に得られる特典武具を狙い、マスターたちの競争になる可能性が高い。

探しているのに、その過程でPK(プレイヤー同士が戦うこと)が発生した場合、ただの足の引っ張り合いになってしまう。

「(信用出来る人材にしか頼めない。だけど、私なら問題ないか)」

少人数だが、ここに住んでいるマスターで頼りになる人材もいる。この事件を一番最初に受けたのが私でよかったとホッとした。

競争にはなるだろうが、皆で協力体制を築けるようなパーティには出来るだろう。

「(ティアンと一定の好感度がなければ、このクエスト事態発生しなかったでしょうけど)」

ティアン達の情報は<Infinite Dendrogram>にとって大切なモノだと私は考えていた。

このゲームにある神話や、それに属する伝説上のジョブ、モンスター等の情報は今に至るまで様々な面で語り継がれている。

話を聞くだけでワクワクするものだが、それ以上にゲームのヒントになっていると私は思っている。

時々、犯罪になるからティアンとは接しないとか、面倒がってティアンと接しない人達がいるが勿体無いと思うのだ。

『彼らはこのゲームについて全く分かってない』とちょっと過剰なことを思う程に。

メリット・デメリットが見えていない。表上で見えている情報はまだ一部だけなのだ。もっと、もっと深い所にこの<Infinite Dendrogram>の真相がある。

それを少しでも探り当てるのが、私の<Infinite Dendrogram>の楽しみ方。

最後にどんなエンディングを見せてくれるか。どんなイベントで私達を楽しませてくれるのか。私は、ずっと楽しんでいる。

そして、その楽しさを共有するために、新人たちにも色々な楽しさを教えていく。きっと彼らも彼らなりに、私と違う意味での<Infinite Dendrogram>の楽しさを教えてくれるはずだ。

「っと」

そうしていると”最後”の痕跡が見えた。

【頭概天測 ホヴズ】の追跡能力は現在最大。ならばこれで犯人の追跡が……

「?」

そこにあったのは、行き止まり。そう、ここで、痕跡がプッツリ途切れていた。




三行まとめ
1.ティアンからの依頼
2.名探偵!ビューティフォーカレンさん!
3.行き止まりで途切れる人生。


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謎と心配

短かったため二視点回。

修正 高位快癒万能霊薬→快癒万能霊薬
今更すぎる修正……


■【魔拳士】クラウン・スプリングス■

 

「つまり、今の情報はそこまでと?」

書いてあった情報。カレンさんの<エンブリオ>の詳しい能力を省いた情報がそこに乗っていた。

「そう、全くお手上げ。どうやっても無理なのそれ以上は。他にもティアンを当たってみて調べたのだけど。そこから推測されることは。

1.【別空間に入っているのではないか】

2.【別空間に入るにしても、幾つかの決まった入り口がある】って程度」

「そこまでわかるだけでも、凄いと思うんだけどね……。って、5日前?」

「そう、今日なのよ。誘拐される日。だから助けてくれると嬉しいの」

そう言えば、俺達がこの街に入ったのは今日だ。今までは、レベルを上げるために各地を転々としていたから、カレンさんにとって俺たちは何処にいるかわからない存在だった。事前に声をかけてくれれば協力したのだが……気遣ってくれたのか。

「さっき言ったように他マスターにも協力を仰いでいるわ。犯行はいずれも日が落ちた直前に行われている。その時間に協力できるマスター全員で包囲網を作る」

「もしも<UBM>だった場合は早いもの勝ち?」

「その通りよ」

「妥当だね。PKが発生するのは嫌だけど。その可能性は?」

「私を信用して欲しいとしか。そのためのメンバーには揃えたわ。恨みっこなし」

カレンさんの顔は真剣そのもの。この夜に終わらせる気だ。だからこそ、1つ言わなければいけないことがあった。

「俺が囮になるのは?」

「……というと?」

「俺を子供の姿にすれば囮になるんじゃないですか?」

レジェンダリアにはそれが出来るマスターが居る。きっと彼もこのクエストなら協力してくれるはずだ。

「まだそういった所の検証が出来てないわ。件数も少ないから情報が足りない。それをするのはデメリットが大きい段階だと私は思うの。それでもやりたい?」

「やります」

きっと、俺ならば行けるはずだ。何せ元の年齢はまだ13歳。十分子供の範囲なはず。

「【呪術王】は遠征中よ。今レジェンダリアにはいないわ。だけど」

エリーさんはアイテムボックスから一つのポーションを出した。

「希望者がいたら出す気だった<幼体化ポーション>がここにはある。問題点としては1日中<幼体化>付与されてしまうのと、回復するためには<快癒万能霊薬(エリクシル)>しか無理だけど、そっちの準備までは間に合わなかった」

<幼体化>。体が小さくなり、ステータスが小さくなる比率により、減少していく状態異常。<Infinite Dendrogram>に置いて、不味い状態異常の一つだ。

「つまり、弱体化したまま戦うってこと?」

「その通りよ。やめる?」

「やります」

これも、即答した。疑問もない。手段があるなら、どんな手段だって試してみるべきだ。

「……本当に、貴方は凄い子ね」

「僕はやめたほうが良いって言うよ? どう考えてもまずいよ。難易度7なんでしょ? 1対1で弱体化したまま戦うなんて正気じゃないよ」

「だけど、それじゃあ辞める理由にならないだろ?」

この言葉を言うと、カレンさんはニコニコして笑い、デコは深い溜め息をついてしまった。

勿論デコの言っていることはわかる。まだ上級職じゃない俺が、<エンブリオ>もまだ第一形態である俺が、戦うべきではないことを。しかし、根本的な見落しを2人はしている。

「俺だけじゃないだろう? マスターは」

きっとカレンさんが集めてくれたメンバーなら助け合いも出来る。カレンさんの<エンブリオ>の詳しいことは知らないが、追跡能力があることは知っている。ならば、俺を追跡すれば皆で戦うことも出来る。

助けが来ないなら死ぬ気で俺が何とかする。

「俺は、大丈夫だって。思うからやる」

「ブハッ!!」

そんな俺の声に吹き出したモノがいた。俺の手からその声は響き、また呆れるように喋った。

「いやぁ、呆れたマスターです。通常じゃ考えられないことを平然と言う」

「煩い」

「いやいや、言わないと収まりません。マスター貴方はトビッキリの――」

黙らない手の甲にある卵を、テーブルに打ち付ける。

そうすると声は黙り――何か堪えている。相変わらず嫌なヤツだ。

「やりますね」

「クラウンがそれで良いって言ったら曲がらないでしょ。僕はそれで良いよ」

「私も、サポートするわ。少し提供して欲しいものがあるの。良いかしら?」

そうして、カレンさんに幾つかの提供物を渡し、アイテムを買い足して準備は整った。

もうすぐ夜になる。

良い子は寝る時間だ。

 

■【軽双銃士】デコレーション■

 

クラウンはいつもこうだ。リアルの知り合いである僕は、いつもクラウンの頑固さに付き合わさせることになる。

大体【魔拳士】はかなり変な到達の仕方をした。

まず【拳士】と【魔術師】を取ると言った時点で、可笑しい。何でそんな組み合わせを選ぶか、僕にはよく分からなかった。

だが、【魔拳士】はそれに見合う性能をしている。かなり特殊だがその特殊さゆえ1対1で、上級職の僕と戦っても見劣りしない戦いを見せてくれる。

【軽双銃士】に火力があまり無いのもあるし、僕の<エンブリオ>は全く戦闘向きでないためでもあるが、それでも5分5分の戦いが出来ている【魔拳士】の能力の高さを感じさせた。

でも、一抹の不安が残る。クラウンの<エンブリオ>は意志があるようで、アレはよく言っていた。

「マスターは誰にも本当の心を見せたことはありませんよ」

それは、リアルでもだろうか。クラウンは、どこまでが道化師であるのか。

「どうすれば、クラウンの本音が見えてくるのかな」

準備を済まし、配置に付く。

クラウンは<幼体化ポーション>を飲み、別の所に配置されている。

近くにマスターが居ると襲われない可能性があるのと、実際に襲われるかが分からないため、様子見の意味も兼ねていつでも助けられる位置にはいてもらっている。

ステータスが幾らか弱体化されているが、他のマスターの強化を得て、通常状態に近いステータスに戻ったクラウンなら、僕達が助けが来るまでなら凌ぐことが出来るだろう。多分。

「……大丈夫かな。本当に」

何か嫌な予感が胸の中をモヤモヤさせる。何度かこういうこともあったが、特にクラウンの<エンブリオ>の言葉が胸に刺さる。

「とにかく、要警戒。クラウンに異常があったら、すぐ駆けつける」

僕に出来ることはそれだけだ。これ以上の被害を出すのは好ましくない。それに折角の<UBM>だ。逃がすのは勿体無い。

まだ僕達二人は<UBM>のMVP特典武具を貰ったことがないのだから、そろそろ一つ持って箔を付けていきたい。

「クラウン。いっつも無茶するもん」

空を見上げると霧がかかっていた。この先を暗示するように、嫌な霧だった。




三行まとめ
1.ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから
2.曲がらない主人公
3.フラグを積み重ねるデコ


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【悪辣訓戒】

ついに

次回なのですが短いため連続投稿します。


■<幼体化>【魔拳士】クラウン・スプリングス■

 

小さい姿はリアルを思い出すからあまり好きじゃない。

そう後悔したのも束の間。そろそろ夜の時間になる。

他のマスターたちの何人かが俺を注意しつつ、他の所に警戒網を張り巡らせていた。

ここまで他のマスターたちを集められるのは、俺の知っている限りレジェンダリアではカレンさんぐらい。

世話好きな妖精(ヴァルデ・フラウ)】という称号を持っていたり、【妖精女王に表彰された】等の色々な逸話持ちで、素直に尊敬できるレジェンダリアでは珍しい部類の人でお世話になっている。

「霧……。ジャック・ザ・リッパーでも出てたな」

霧の街と言われた昔のロンドン程霧がかかってわけいるわけではないが、マグ・メルも季節によって霧がかかる。今はまだ薄く、前が見えない程ではあるが。もっと夜深くなれば、霧も濃くなるだろう。

ティアン達に夜は出歩かない様に、警備隊からお触れを出している。攫われてしまう恐れがあるためと、街で戦闘になった場合、ティアンを巻き込むのは誰の本意でもないのだ。だが、このまま濃くなってしまうと調査、戦闘どころではなくなってしまう可能性もある。

「(カレンさんの意見だと、霧は前には出ていなかったと言ってた)」

なら、この霧は今日偶然発生したもの。マスターの仕業でも、<UBM>の仕業でもない。

「運がないな」

囮役の俺は常にデコとの連絡用のマジックアイテムをオンにはしているが、この街には久し振りに訪れたばかりだ。

到着には時間がかかることを覚悟し、戦うとしたら、出来るだけ持久戦が望ましい。

「【魔拳士】が持久戦向きじゃないんだ。どうやって時間を稼げばいいと思う?」

『死なない程度に死ぬ気で頑張って。クラウンの得意分野でしょ?』

配置の準備が完了し、準備体操がてらマジックアイテムを使うと皮肉の効いたデコの声が響いてきた。

きっと、囮を買って出たことを怒っているのだ。

「だけど囮が有効なことだって調べなきゃいけないだろう? 他の人だとリアル年齢で引っ掛かるかも知れないから俺の方が良かったんだ」

『だからって「ハイそうですか―」って出ていける神経がどうなんだって話だよ! 引き受けるのは100歩譲って分かるけど、そこから状態異常まで引き受けるなんて正気じゃないねっ!!』

「大丈夫だ。デコが助けてくれるだろ?」

一瞬の沈黙が、訪れる。どうしたんだろう? まさかデコの場所で犯人が――

『馬鹿じゃないの!? 何言ってんのさ!! やってること正気じゃないんだからもっと巫山戯てくれないと困るだろ!?』

「何が?」

言っていることが支離滅裂な気がする。デコが暴走している時はとにかく好きなケーキなどの話をして落ち着かせるしかない。

「これ終わったらまた【Fairy】で食べよう。次は俺が奢るから」

『た、食べ物で釣るんじゃないよ! そういうので、釣られるわけじゃないんだからね!! と、とりあえずケーキ十種は覚悟をしておきなさい』

「わかった」

チョロい。

しかし、【Fairy】のケーキはいい値段がする。割り勘とは言え、既にカレンさんのケーキ3種も奢っているわけだが、俺の装備を買うお金は……。

「(クエスト報酬に、期待して良いのだろうか)」

そう言えば報酬の話をしていない。カレンさんから招集金として、幾らか貰っているがそれはアイテム各種を買うことで、殆どが飛んでいる。

そもそも、冒険者の宿等で受けた正式なクエストではないため、こういった偶発的なクエストはお金での報酬が期待出来ない可能性が高い。

「まぁいいか」

どうせ、上級職を探すためにまた遠征に行くことになるだろう。その時にモンスターを倒してお金を稼げばいい。それに幾つかの場所を回れた方が俺としても都合が良いのだ。

そう、全て――いや

「(霧が濃すぎる?)」

いつの間に、こんなに霧が? 霧事態は事件と関係性がないのではないのか?

「デコっ!! 何が変だ!! そっちはどう――」

異常を感知し、マジックアイテムでデコに連絡を取ろうとした時、危険を知らせてくれるスキル<危険感知>から警戒音が鳴り響く。

「敵っ!?」

後ろを振り向いた時、後悔が走る。姿を見た体が凍る。振り向いた先に見えたのは、狂気を感じる程にあべこべな敵の姿だったから。

黒い肌であり、赤い靴をしており、不自然な程痩せており、高襟の燕尾服を着ており、鞭を持っており、大きな入れ物を肩にかけており。

――その顔はグチャグチャに崩れたネズミのような顔をしていた。

「っ!?」

恐怖が、体中を走り、バットステータスを受けた時のアラームが容赦なく今の状態を知らせてくれる。

自分の意志とは別に、体が、恐怖で、

「悪い子はしまっちゃおうねぇ」

必死に名前を見た。そうして気付く、これは、普通ではない。様々な姿が重なった都市伝説の始まり【悪辣訓戒(あくらつくんかい) ブギーマン】。

<伝説級>の<UBM>。悪しき姿が俺を見て、笑った。




三行まとめ
1.財政危機
2.デコ、チョロい
3.しまっちゃ○おじさん登場


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暗い闇の中

<エンブリオ>による辛辣なマスターへの応援


■???? ??????■

ここは黒い空間。黒はマスターにとって落ち着く色であったが、同時に嫌なことを思い出す色でもあった。

だから、マスターはここを黒で染めている。

「こんにちわ。相変わらずこちらを向きませんね」

そうして話し掛けるが、背を向けたまま全く答えを返さない。

「わかります。マスターはこの世界が好きで、嫌いなんだ」

「何で、ここにいる?」

ここは何処だと、聞かないマスターに好感を持ちながら、それに答える。

「あれは、マスターには倒せません」

勿論、マスターの望まぬ答えを。答えになってない答えを。

「まだ、何も終わっていない」

「強さじゃないのですよマスター。あれは貴方にとって天敵だ。対策されたわけではないですが、抵抗できないわけじゃないですが、最後には負けてしまいます」

負けると聞くと、マスターの雰囲気が険しくなった。マスターは何回も負けたことがある。大切な時に負けたことも……ある。

今、きっとマスターは抗おうとしている。葛藤している。だが、自分でもわかっているのだ。

勝てない(・・・・)】と。

心の何処かで刻まれてしまっている。【クラウン・スプリングスはブギーマンに勝てない(・・・・)】と。

「俺だけじゃないはずだ」

「助けは期待出来ません。わかっていますよね」

「俺が勝たなくても、誰かがきっと倒してくれるはずだ」

「ここで逃したら、あれはもっと人を殺しますよ?」

【悪辣訓戒 ブギーマン】は誰にも見つからない。何故なら良い子に【ブギーマン】は訪れないから。

「悪い子にしか見つからない。しかも子供の姿、年齢、二つをクリアしないと見れない。そんな所ですかね。私が推理するに」

あくまで推理だが、それで十分だ。マスターの心が動いているのが手を取るように分かる。

「なら、俺が倒せばいい」

それを聞き、帰ってくる答えに笑いが止まらなくなる。大好きですマスター。貴方はトビッキリの――

「馬鹿です!! マスターは法則を飛び越えようとしている。そんなことは逆立ちしてもダメなんです。だって、マスターはそんなこと望んでない(・・・・・)くせに!!」

法則を飛び越えようとしてるくせに、マスターは可能性を信じていない。この<Infinite Dendrogram>を信じていない。

崖を飛び越えようと望む少年。だが、実際に崖を飛び越えようと行動へ移さなければ、無意味も、不可能も分からない。

 

のに。

 

「貴方はこの世界を信じている。いや、言葉を信じている。 現実だとも思っている。現実だからこそ、過度な可能性を期待しない」

 

『ここには世界がある。ここには夢がある。私達はここで救われる』

 

言葉は呪いだ。

マスター。マスター。貴方は心が歪だ。グチャグチャだ。信じようとしてないものを信じようとしている。

誰にも助けられなかった”姉”を。助けられないままの”マスター(自身)”のままでいる。一番助けたものを、助けたかった自分の無念を引きずっている。

 

【それが、自分なんだと】

 

分かる。私にはマスターの心が伝わってくる。だから、

「現実を知りに行ってください。マスターには、何も助けられない」

そうしてマスターの背中を押す。その先は、崖になっている。

 

そう、現実に突き落とそう。<Infinite Dendrogram>に突き落とそう。

――マスターが、可能性を信じてくれるまで。

 

「頑張ってくださいマスター。私達の助けがあれば、きっと貴方は……きっと」

求めて欲しいのは、<私達(・・)>も一緒だ。救われたいのも、私達も一緒だ。

 

可能性は、信じなければ得られない。誰でもない。自分が、信じて、可能性を手繰り寄せるしか、ないのだ。




三行まとめ
1.ツンデレエンブリオ
2.頑ななマスター
3.可愛い子は谷へ突き落とされる


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【魔拳士】

やっと戦いです!戦いの描写って難しいですね!


■<幼体化>【魔拳士】クラウン・スプリングス■

 

目を覚ました時見たのはトビッキリ嫌な顔だった。

「悪い子は君だね?」

【悪辣訓戒 ブギーマン】の言葉と気持ち悪い顔を見て、また恐怖が走る。しかし、前より抵抗が出来ている。動ける。

<エンブリオ>の起動を確認する。何分か立っているらしい。具体的に何分気絶したかは分からないが、しっかりとした強化が確認できた。

 

スキル<生まれる世界(ワールド・クリエイション)> LV:1

『戦闘中の経過時間、HP回復量、与えるダメージ量、受けたダメージ量、この4つの要素を貯めることにより、13段階のステータス強化、状態異常耐性強化を受けられる。

このスキルは、全形態で効果を発揮出来る』

 

小さな段階だと効果が余りなく、高い段階へ至るためには膨大な量が必要なスキルで、現在は1段階目に達してる。時間の経過量のみでそこまで達したと考えると、経過してまだ5分経ったぐらいか。

とにかくこのままでは不味いと、蹴りを入れ、ブギーマンを攻撃する。

ブギーマンは飛び退き、その蹴りを避け、ダメージを回避した。

「何だここ?」

一定の間合いを取り、辺りを確認すると、豚などを解体する解体所のような辛辣さを感じる光景が目に入った。

一番酷いのは、豚の代わりにここで解体するのが、【人間】だということだろう。辺りには人間の腕や足らしき物体が転がっている。

連絡用のマジックアイテムも、何故か機能していない。ここ事態がブギーマンによる特殊な空間なのだろう。

「イヒヒ、ヒヒッ、何で君は、悪い子何だい?」

ブギーマンはそう言って、不気味に笑っていた。先程から問われる度に気持ち悪い感触が肌を襲う。

<アイテムボックス>に収納されているアイテムを即座に装備できる<瞬間装備><瞬間装着>を使い、戦闘装備を整える。

装備したのは恐怖対策のアクセサリーと手甲。

服の色と同じ赤と緑の二色が流れるように入った手甲。だが、その左手だけが、異様に大きい。それは天地へ訪れた際に知り合った職人に作ってもらった完全オーダーメイド装備、名を『二式六十六型 魔天流動』。

【魔拳士】クラウン・スプリングス――俺のメイン武器。

幼体化に合わせて留め具を締め直すことで、普段通り扱えるのは実証済みだ。

「(さっきから、問いかけしかしない)」

恐らくだが、このブギーマンには幾つかの『プロセス』が存在する。

その『プロセス』の内容まではわからないが、ブギーマンの問いかけがある度に、何かしらの不快感を感じる所を見るに、この問いかけ事態がスキルに何かしら直結している。

「(攻撃態勢は整った。だけど、ブギーマンのスキルが、手札がわからない)」

 

なら、殴りかかるっ!!

 

巨大な方の左手で、ブギーマンの気持ち悪い顔を殴りかかる。

AGI(素早さ)があまり高くないのか、反応がない。ブギーマンの体が動かぬ前に、顔に一撃がクリーンヒットした。が、全くHPは減っていない。恐らくだが霊体系特有の、物理軽減が入っていたのだ。

「(実体じゃない。霊体系、幽霊のモンスターなのか。ブギーマンならあり得ると思ったけど。はっきりした姿だったから、分からなかった)」

五感、経験、直感。様々な要素を使い、出来るだけ情報のないブギーマンを精査し、集めようとする。

「イヒヒヒヒヒヒヒ!? イヒヒヒヒヒヒヒ!! 殴るっ!? 殴るなんて悪い子だ!!」

今までの言動。【悪い子】は何かしらのキーワードだろうか。

やはり長引かせると、不味い気がした。こういう直感は強敵との戦いでも何回かあった信用出来るもの。

【魔拳士】で、良かった。相性が良い。だったら、俺の戦いをするのみ!

「<魔法遅延>5秒!<マジック・ミサイル・パーティ>!!」

無属性の魔法の弾を連続発射する<マジック・ミサイル・パーティ>。それを<魔法遅延>により、一旦宙に置く。

「イヒッ! ヒヒッ! 君は何で悪い子なのか、自分でわかっているじゃないか?」

スキだらけなブギーマンの腹に、右手でボディブローを叩き込む。ただのブローではない。スキルを――

「<魔法格闘士(マジック・オブ・グラップラー)>!!」

このスキルは、拳の攻撃を魔法攻撃に置き換えるスキルだ。その際に威力も上がり、ブギーマンの体が宙を浮く。

「<解放(リリース)!!>」

宙を浮いたブギーマンに、更に<マジック・ミサイル・パーティ>の追撃を入れていく。ブギーマンのHPはみるみる内に減っていった。

こうした武器、魔法両方で攻めていくのが【魔拳士】の本領。相手に対して魔法属性でダメージを与えていき、魔法で追撃、牽制を行っていくのが俺の構築した【魔拳士】だ。

「やっぱり、相性が良い」

霊体系のモンスターとは何度か1対1戦ったが、その戦いで殆どが勝ち越している。

恐怖も、かなり効果が薄れており、このままなら無視しても問題ない程。

「(勝てる)」

油断はしていないが、このまま攻める。

ラッシュを浴びせ、HPを減らしていく度に勝利を確信していく。

元々この特殊空間スキル。そして、誰にも見つからない隠密スキル。先程から来る問いかけのスキル。この3つに能力を割いた敵だ。

戦闘能力はそれほど……高く――

 

「IHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIIHIHI!!!!!!!!!!!!!!」

 

ブギーマンが、咆哮を上げた。

それと同時に、HPがみるみる内に、回復――いや、上がっていく!?

「(上がる!? HPが? どういう仕組で!?)」

何かしらスキルによるものだろう。だが、今までと何か違う。

体が膨張している。どんどんと膨れ上がり、筋肉が付き、服もパンパンになっていく。

「(不味い。不味い不味い!! とにかく、止める!)」

すぐさま攻撃に移る。AGIの差は圧倒的だったはずだ。これなら――

「クラウン・スプリングス」

不意に後ろから、名前を呼ばれた。

 

「君は悪い子だ」

 

空気が割れる音がした。俺の体が吹き飛ばされ、地に伏せる。

何が起きたか分からない。一体何が――

「(あれが……ブギーマン?)」

今までと違う異様な姿に、心が凍る。さっきまでの恐怖とは違う。身の毛もよだつ様な逸脱感。

鞭を振るう手は俺ぐらいのサイズが有る。グチャグチャなネズミの顔が影を帯び、歩く一歩に地面が悲鳴をあげるような衝撃を鳴らす。

「悪い子は、食べちゃおうねぇ」

これが【悪辣訓戒 ブギーマン】

これが、ブギーマン戦闘状態なのだ。




1.問いかけるだけのブギーマン
2.そんなブギーマンを調子に乗って殴るクラウン
3.逆上するブギーマン


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誕生

とあるエネミーの話


■【悪辣訓戒 ブギーマン】■

 

体が軽い。羽根のように体が動き、力に満ちた肉体は、自分の意志を高揚させる。

そしてそれは、今までティアン”だけ”を相手にしてきたブギーマンにとって、初めての経験であり、とても悲しい出来事だった。

―クラウン・スプリングス。なんて悲しい子だ―

ブギーマンは、分かったのだ。そうして下された判決を納得した。後は――彼を救わなければならない。

 

元々ブギーマンは善良な霊体型エネミーだった。【ブギーマン】という名前も、元々付けられたものではなく、最初の頃は名前自体ないエネミーで、村に居ても害がなく、むしろ何らかの形で住人を助け、人の笑顔が好きな、エネミーだったのだ。

【ブギーマン】に変わった瞬間は、とある日の夜のことだった。

夜寝る前に、親は子供に夜出歩かないように言い聞かせていた。ティアン達はジョブについていたとしても、それは殆どが非戦闘職、戦えないのだ。ましてや子供たちの大半はジョブ自体就いているものはこの村では少ない。

しかし子供は親の言いつけを守らずに外へと出た。それを昔のブギーマン――彼は見ていた。

そこにモンスターが村の近くにやってきた。いずれ警備の者が気付くかも知れないが、今外へ出ているのは危ない。

幾つかの偶然が重なった結果だ。彼はどうにかしてそれを止めようと、子供の前に立ち、止めに入いく。

それでも子供は、直接的な危機に直面もせず楽観的に構えてしまい。その時、彼は言葉も話せず、身振り手振りで懸命に事柄を伝えようと努力したが、何も伝わらなかった。

むしろその姿を見て、子供は自分と遊んでくれるものだと、勘違いしてしまったのだ。

彼はどうすればいいかが分からなかった。

子供を守りたい。だが、このままではモンスターに子供は襲われてしまうだろう。

どんどんと近づいてくるモンスターの気配に、彼の焦りは積もっていく。その時親が子供に言い聞かせる逸話を思い出した。

 

今、村でどの家の子供もそう言い聞かせている【ブギーマン】も言い伝えだった。

 

この頃は丁度、マスターが増えていた。外の逸話などを聞かせてティアン達に自慢するようなマスターが村を通った後のことだった。

子供たちがやんちゃで苦労しているからと、聞かせてくれた話。

それを何も娯楽もなかった村は取り入れ、子供たちに聞かせることにしたのだ。

様々な逸話が一体化した【ブギーマン】の話は、内容が様々あり、バリエーションも豊富で長持ちする、子供たちが怖がるような逸話。

これからどんな事があっても、子供を言い聞かせられる【ブギーマン】という存在。

村の皆には丁度いい逸話だった。これから何があっても子供たちには【ブギーマンが来る】と言い聞かせればいい。

 

それを思い出したのだ。

 

形を変えようとする。自分の全霊を使い、今までの”自分”ではない【ブギーマン】へと存在を変えていく。

目の前の子供もブギーマンの話は聞いていた。だがしかし、『体験したことのない。実感のない話なんて』と高を括っている。

 

【ならば、教えてやればいい。自分が、それに成ればいい。”伝説”に。”逸話”に】

 

そうして、力を使い果たした先。彼は【ブギーマン】になっていた。

 

そうして、村の【ブギーマン】の噂は”真”となった。

村で彼は子供を諌める存在となり、村に貢献していく。しかし、ここで問題が生じた。

 

姿が恐ろしい。

 

村に住む者達も、彼が良い存在とは思っていた。思っていたが、いきなり一夜に変わった姿は、どれだけ見ても伝説通り醜いのだ。

むしろマスターに伝わった伝説は複数あり、それを”全て”ちぐはぐな形で再現してしまった彼は、村人からするとモンスターと変わらなかった。

 

『いつか、彼は邪悪な存在となり、本当に子供を食べてしまうのではないか』

『本当はどの子供を食べるか、美味しそうな子を探しているだけで、本性を隠しているのではないか』

 

恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。

村人たちは噂した。アレは敵ではないのかと。

彼は懸命に、そうではないと訴えた。言葉が話せないながらも必死に自分はこの村の一員だと。だが、彼は霊であるため、活動するのは根本的に夜だった。夜に彼を見たいなど思う村人はいなかった。

村人の心は、彼からどんどん離れていった。

夜に出ていく子供が見れば、その姿を表すだけ子供の抑止力となる。しかし、その姿に恐怖するのは、子供だけではなく、大人も一緒だった。

そうして、村長が代表し彼に言った。出て行ってくれ、と。これ以上【ブギーマン】はいらない、と。

そうして彼は村を出ていくことになった。

 

もう限界だと。

 

村人たちの訴えもあったが、もう一つ彼の懸念があったのだ。

幾つもの【ブギーマン】を聞き、取り込んだ彼は、自分の中に何処かで抑えきれない衝動を感じていた。

もっと言えば、その衝動をもうすぐ自分は抑えられなくなることも彼は、察していた。

 

本当の自分はどんなのだったのだろうか。

 

彼には、それがわからなくなってしまっていた。

【子供たちを諌めなければらない】【子供たちを諌めるためには恐怖を与え成ればならない】【良い子に子供たちをしなければならない】。

その時、彼は、自分が成りたかった姿とはどんなものか。本当の自分の姿はどんなモノだったかを忘れていく。

【ブギーマン】にそんなモノはいらないから。

 

――姿なき幻想。あらゆる都市伝説の始祖と言われる存在。

 

もう彼は戻れないところまで入ってしまった。

そうして、彼は伝説を、逸話を取り込み始めた。

都市伝説系の正体不明なものに限るが、それらをドンドンと再現し、今の形に至る。

彼の通った所には【良い子】しか残らない。【悪い子】は彼の前にはいない。

そうして、様々な村や街を渡り歩き、彼はいつの間にか【悪辣訓戒 ブギーマン】となり、彼はいつの間にか今の能力を得ていた。

 

全ては、子供たちに言うことを聞いてもらうために。

全ては、子供たちに守ってもらうために。

全ては、……一体なんのためだったのだろうか。

 

彼にはもうワカラナイ。




三行まとめ
1.こんな気持ちで戦うの初めて!
2.俺が【ブギーマン】になるんだよ!
3.ハッピバースデイ!新たな君の誕生だ!!


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予想外と対策と

カレンさんのエンブリオの能力公開

明日にクラウン君のエンブリオの名前公開です。良ければ名前などを考察してみてください。

修正 <橋の向こうへ>をストック制に。
SPコストだけだと軽すぎると思ったゆえ修正。


■【名探偵】カレン・レディ■

 

完璧に機能しているはずの【頭概天測 ホヴズ】の探知だが、痕跡が見えない。だが、ここでは機能は生きていることに意味があった。

「(まだクラウン君が生きてる。ホヴズの探知は続いているってことはそういうこと)」

デコちゃんから、クラウン君からの連絡が途絶えたと聞き、敵に殺された恐れがあったが、今の所そういうことはないようだ。

【頭概天測 ホヴズ】は探知してる対象の死亡、、ログアウトがない限り解除されない。

つまり、まだクラウン君は生きているはず。

しかし、事態は一刻を争う。

持久戦に向かない【魔拳士】。<エンブリオ>は未だ第1形態。未知の敵に対してクラウン君が何処まで抗えるかはわからない。

既に経った時間に焦りを感じつつ。デコちゃんの元へ私は走っていた。

集まってもらったメンバーにも配置場所周辺で情報を調べてもらった後に、デコちゃんの元へは走ってもらっている。緊急時の対策をするためと、各々の能力でどうにか出来るかの確認のためだ。

"ジョブ"、"エンブリオ"、"特典武具"。

隠すことが多いこのゲームでは、人の能力を一見では判断出来ない。喋ってくれるか、能力を明かして協力してくれるかは善意を信じるしかないのだ。

私も、様々な能力を隠しているもの一人として、隠すを責めることは出来ない。

「カレンさん!」

合流場所に着くとデコちゃんが駆け寄ってきた。

「誰かどうにか出来そうな人はいた?」

既にそういった話をするようには促していたが、

「いえ、皆じゃこれはどうにも出来ないって……」

敵の能力が不明な以上対処の仕様がない。推測の域を出ない意見では当てにならない。確かな情報も一番あるのは、私だけ。

「そう。皆!」

集まってくれた皆に呼びかける。

「私の能力でクラウン君の生存が確認出来たわ! 調べた後に集まってもらった所悪いけど、もう一度各自で当たってみてくれないかしら。次は自分の配置場所だけじゃなくて、この街全体をお願い!」

少しでも情報が欲しい。こんなにも隠密性に特化した敵は初めてだ。噂では、完全に認知できなくなる能力が幾つかあるとは聞いたことがあるが、ここまで有効なものなのだろうか。<UBM>なら<伝説級><古代伝説級>。マスターなら<凖・超級><超級>を覚悟しなければいけない。

「(事件現場で調べれば何らかの情報が出るなんて考えてたのが甘かった。魔力の密度が濃いレジェンダリアじゃ、魔力なんてそこらへんに溢れてるから魔法の探知も難しいし……)」

となれば、

 

「――最終手段ね」

 

皆が散ったのを確認しつつ、デコちゃんの肩を叩き皆に見えない所へ誘導する。

「デコちゃんにはクラウン君の元へ行ってもらうわ」

そう、自分のの能力を明かす決意をした。

「出来るんですか!?」

食い気味に聞いてくるデコちゃんを制し、落ち着いてもらう。ここから、一番気まずいのはここから……なのだ。

「あのね。それには条件があって――」

「僕何でもやります! 言ってください」

「髪の毛が欲しいの」

その言葉を聞いたデコちゃんの顔には疑問符が浮かんでいた。クラウン君には秘密にしておいて欲しかったため、提供時してもらった時に個別で話したからか、デコちゃんには何のことか分からないのだろう。

それでもクラウン君は全く何も聞かずにその場で髪の毛を引き抜いてくれたが、デコちゃんはそれでは終わってくれない。

「……髪の毛。どうするんですか?」

「た、探索のために、ね?」

「答えになってませんよね」

「ち、違うの! 本当に探索に使うのよ! これから使う能力にも必要で!」

「答えてください」

「……はい……」

そうして私は【頭概天測 ホヴズ】の探知能力の条件である『DNAの摂取』。エンブリオにDNA情報を収納が必要なを話すことになった。

ホヴズは古ノルド語で人間の頭を示す単語である。そのためか、能力発動には人の頭にあるモノのほうが効果が発揮しやすい。

一応、肌の垢などを摂取することでも発動することは確認しているが、人の頭にある髪の毛の方が何故か精度が良くなる。頭の皮などを食べるとどうなるかとは考えたことがあるが、私は、私は――

「望んでこんな能力じゃないの。仕方なくなの、仕方なくなの……」

だから【頭概天測 ホヴズ】の能力は余り好んで使わない。自分から出た<エンブリオ>の能力発動条件が、恥ずかしい。どうしても手がかりがなさ過ぎる最初の時か、仲間を囮として使うこういった状況でなければ……いや、便利だから数え切れないぐらい使っている。

「公開するわね……。こういうスキルなの……」

 

スキル<虹から見た世界(ボックモール・フェルデン)> 

『他者のDNA情報を摂取し収納スペースに入れることで発動する。摂取したDAN情報を痕跡としてレンズに映し出すことが出来る。

なお、痕跡の探知は頭にある髪の毛などのDAN情報からのほうが精密に映し出される。

探知時はMPを継続的に消費する。

このスキルは対象が死亡、ログアウトするまで探知可能。

ストックも可能。最大3人までDAN情報をキープ出来る。このストックは24時間保持される(探知出来るのは一人まで)』

 

「これ、対人限定って使いにくくないですか?」

「モンスターのDAN情報でも発動できるわ。だから、探知するのに結構便利よ」

モンスターの場合は用途が多い、特に生態系等を調べたい時などは使えるし、今回の相手も、調査していればどこかで体の何かしらが見つけていれば、ホヴズの能力で調べられると思って当たりを付けていた。

「じゃあ、どうやってクラウンの元に?」

「<上から見た世界(ボックモール・フェルデン)>は次のスキル繋がるの。それが探知した相手へのテレポート能力があるのよ」

 

スキル<橋の向こうへ(ユートベル・ヴェルワン)>

『ストックを貯められている中から対象を選ぶ。選べるストックは頭部のDAN情報からのみ。その選んだ対象先にテレポートすることが出来る。

消費SPはテレポート距離に依存する。

また、ストックに貯められている対象と肉体的接触があれば、自身の代わりに対象をテレポート可能。その場合テレポートの消費SPは1.5倍になる。

このスキルは2回まで行える。回数は2日に1回分使用回数が回復する』

 

しかし、この能力はコストが高い。距離によって消費されるSPが変動されるが、自身を数メテルの距離テレポートしてもSPの3分の1程が持っていかれるために、そうそう使える能力じゃない。

それでも奇襲、緊急回避と用途が多く、戦闘でも使用時には余りスキがないため、条件さえクリアすれば使える部類の能力なのだ。

「特殊な空間に入り込まれるとテレポート出来るかわからないけど、ほぼほぼ行けると思うわ」

特殊な空間にテレポートするのは余り試したことはないために確証はできないが、出来なかったパターンは、昔下級職の頃にSPが足りなかった時と、完全に隔離された空間による抵抗があった場合のみ。

「じゃあカレンさんが行くのは?」

「大した戦力じゃない私が行くより、息の合った相棒のデコちゃんが行ったほうが戦力になるわ。デコちゃんを送った後は、<SP回復ポーション>飲んで他の誰かを、クラウン君かデコちゃんの元へテレポート出来るからね」

あくまで私の目的は敵を倒すことではなく<クエスト>の解決だ。自分に拘る必要はない。

「……わかりました。お願いしますカレンさん」

そう言ってデコちゃんは髪の毛を一本抜いて。

「こ、コレでいいですよね」

そう恥じらいを載せ、髪の毛を渡してくれた。これで、テレポートが出来る。

「ええ、ありがとう。なるべく早く助けを送れるように私も頑張るわ」

そうして髪の毛を摂取し、デコちゃんと握手した。

「出来るだけ時間を稼いで、応援は必ず出すから」

「はい。カレンさんのことは頼りにしてます」

確かに握られた感触を感じながら、【頭概天測 ホヴズ】メガネのテンプル部分にある収納スペースに髪の毛を入れ、デコちゃんに<橋の向こうへ>のスキルを使う。

「無事にね。成功したら、また【Fairy】に行きましょう」

「はい!!」

スキルの使用と共にデコちゃんの体が光に成り空を飛ぶ、残光は虹となり、何処かへと向かった。

 

その虹を見てホッとしたと同時に、SPがなくなるぐったりとした感じを味わいながら、残り残量を確認するとSPは100分の1も残っていなかった。

「<SP回復ポーション>足りるかしら……ね」

あの二人に足りない役割を考えながら、アイテムボックスからあるだけ出していく。

「盾役が、必要かしら」

お腹は減っていない。むしろケーキも食べたのだから、少食の私は今お腹一杯だ。しかし、飲まなければいけない。

助けを求めているものがいる。助けが必要なものがいる。

そのために、何も迷わずに向かった少年のために、私は奔走した。




1.変態<エンブリオ>
2.ストーカーになる能力
3.ポーション腹

実は髪フェチカレンさん


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【矛盾創造】

やっとエンブリオ出せた……。長かった。
ちょっと危うい所もありますが、これからも宜しくお願いします。


■<幼児化>【魔拳士】クラウン・スプリングス■

 

とにかく攻撃に当たらないことが重要だった。

AGIの値が超えられ、こちらの目では捉えきれない【悪辣訓戒 ブギーマン】に俺は、何とかして対応している。

天地へ遠征に行っていた時のPK経験や、レジェンダリアでカレンさんを筆頭し、マスター達に鍛えてもらった経験が生きていた。

そうして戦いながら感じたことは【ブギーマン】が戦いに慣れていないという確かな感触。

「(自分の速さについていけていない時が所々見える)」

攻撃は鞭による中距離攻撃が主なため余り見せていないが、移動が時々おぼつかない様な仕草を見せている。

先程の急激な成長に、意志と体が追いついていない。そういった所を感じる動作があった。

こちらの対応としては、この空間にあるできるだけ大きな物を投げ、鞭の攻撃に置いておくこと、魔法での牽制の二つだ。

相手の攻撃は幼稚で、真っ直ぐした攻撃のみなため、それで対応することが出来た。

 

だからといって、全てに対応できるわけではない。

 

鞭の衝撃波や鞭に当たった物の破片でHPを徐々に削られている。

特に鞭の衝撃はについては理不尽極まりない。目で見えないものでダメージを受け、ノックバックに抗うことが出来ない。

「(まだ、3段階目)」

<生まれる世界(ワールド・クリエイション)>は段々と段階を上がってきているが、その強化は段階を重ねる毎に条件がシビアに成っていく。俺が見たことある最大強化値は6段階目まで、何人かで軍団型の<伝説級><UBM>を退治した時だった。そこまで行けば上級職一つをカンストした者とステータスは大差がないが、今ではそれも期待出来ない。

 

1つ目にダメージを与えられないこと。

2つ目に次攻撃をまともに食らったら死ぬかねないため、余りダメージを受けられないこと。

 

この2つが問題だった。

特に1つ目の『俺がブギーマンへダメージを与えられない』という障害が今、立ちはだかっていた。

先程の強化の後に、中距離から魔法を牽制して撃っているのだが、ブギーマンは躱しもしない。いや、受けてさえいない。

攻撃が全て、ブギーマンの直前で何らかのバリアにより防がれてしまうのだ。

「(多分、【悪い子】に対する攻撃耐性。巫山戯てる。徹底的に"俺"じゃ勝てない)」

それさえなければ今まで削ったHPが生きてくる。大きな一撃を残している俺が、捨て身でブギーマンに一撃を決めさえ出来れば、まだ、可能性があった。

今では、攻撃を当てることの意味さえない。牽制は、相手を動かすため物を壊したり、地形を削ったりすることのみ。

「どうしたんだい? 隠れちゃダメだよ。クラウン・スプリングス……君は【悪い子】だぁ……」

名前を呼ばれる度に、<恐怖>が襲ってくる。この声に対しては怖気が走ってしまう。

しかし木陰に隠れることが出来た。移動がおぼつかない【ブギーマン】なら暫くやり過ごせる。今のうちに俺は<ヒールポーション>でHPを回復させた。

だが、ここは奴の空間。他の能力のリソースを見るに、余り大きな空間ではないと考えられた。少し、少しなら時間は稼げる。この間に何とか出来る方法を考えなくてはならない。

「(……デコたちによる援軍が期待できない)」

この空間は、恐らく【悪辣訓戒 ブギーマン】のスキルによる特殊空間。奴と【悪い子】しか入ることは出来ない。

 

望めぬ援軍、与えられないダメージ、絶望的なステータス差。

 

どれをとっても状況が無理だと言っている。

 

――諦めるのか?

 

心の何処かで、自分の中からそんな囁きがあった。

「(そんな事は出来ない)」

それを囁いた"心”を俺は否定した。まだ何も終わっていない。自分の手持ちのアイテムを考えればまだ何かあるはずだ。

アイテムによる攻撃ならば、通る可能性もある。攻撃耐性は何処までか限界があるはずだ。

防御力が上がったのならば、それを超える攻撃力を。ある程度のダメージまで無効化するならばそれ以上のダメージを。

まだ、"一撃"がある。

 

「みーつーけーたー」

 

戦闘から意識を離した一瞬だけだった。しかし、【ブギーマン】にとってはそれで十分だったのだ。

「(一瞬で現れた!? こんな能力までっ!!)」

また、<恐怖>が体を鈍らせる。俺はその抵抗をしながら、体を捻った。次の攻撃に対する対応を出来るだけしようと動きを――。

 

いきなり来た浮遊感。

足に締め付けられたと思ったら体が地面から離れ、乱暴に引き離される。

 

ニュースでよく見た遊園地にあるアトラクション。空中でブランコに乗り一定の速度でグルグル回る回転ブランコが、コレなのだろうか。

意識が遠のくのと同時に、『終わった』という感覚がじわりと滲む。

足に掛かった圧力が消え、ふんわりとしたまるで無重力を体験しているような一瞬。

その後に、全てが壊れる衝撃が背中から襲いかかってくる。石切のように飛び跳ね回る体に、俺の力は何の役にも立たない。

壁にぶつかり、血とともに息を吐いた時、朦朧とした意識が何もかもを悟らせた。

状態異常のアラームが頭の中で響いている。もう禄に体も動かない。

 

……嫌だ。

【何も出来ない】。ずっとずっとずっとずっと――

 

目を開け、夢を見る。姉の死体がそこら中に転がっている。

人の腕、人の足、人の頭、人の胴体。全てが俺にとって【春ねぇ】に見えた。

 

「【悪い子】は殺しちゃおうねぇ」

 

吐き気がする。【ブギーマン】の声は"あの二人"だ。

コイツは、"僕"にも死を告げに来たのだ。巫山戯てる。

 

体に力を入れる。まだ辛うじて動く。<エンブリオ>の<生まれる世界(ワールド・クリエイション)>は4段階目に達している。ステータスが上がった俺ならまだ動ける。

 

終わらせたくない。終わりたくない。

そのために、強くなってきたのに。

 

逆転の手を探す。意識が拡大していくのを感じる。走馬灯のような、時間を圧縮した感覚の中で"一人"……見つけて、しまった。

 

女の子だ。5日前に誘拐された子?生きている?春ねぇと違う。ちゃんとした肌の色をしている。だけど動いていない。衰弱している?――少し今動いた。

 

――助かる?

 

その時、今まで回転していた脳の中の全てが、女の子を見た。

 

あれは、【春ねぇ(・・・)】だ。

 

助けたかった命。助けられなかった命。助けられたはずの命。

可能性が、そこにはあった。

 

"可能性(それ)"を寄越せ。

俺に出来る。全てを、持って。可能性を叩きつける。

もう奪うことは、【許さない(・・・・)】。

 

「寄越せ【オメテオトル】。

俺が、俺が勝てる『可能性を』『全部を』寄越せぇぇぇぇぇぇえ!!!」

 

【マスター生命危機感知】

【マスター生存意思感知】

【<エンブリオ>TYPE:メイデン・アポストル【矛盾創造 オメテオトル】の蓄積経験値――グリーン】

【■■■実行可能】

【■■■起動準備中】

【停止する場合はあと20秒以内に停止操作を行ってください】

【停止しますか?】

 

赤く警告画面のようなウィンドウが目の前に現れる。ブギーマンが動き出したのが端で見えた。こちらに不審な気配を感じ動き始めている。時間はない。

 

しかし、答えなど決まっている。

即座に"それ"を実行した。俺の、全てを掛けて。

 

【悪辣訓戒 ブギーマン】を倒す。

俺は立ち上がる。そうして"恐怖"と向かい合った。




三行まとめ
1.悪い子を懲らしめるブギーマン
2.空中ブランコ
3.行き過ぎたシスコン

壊れた少年の反撃が始まる


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”2人”の反撃

<エンブリオ>の設定についてはこれでいいのだろうかと四苦八苦しています。
段階制でスキル決めるの難しい……。

修正 <2つで1つ>消費なしだったのをSP消費アリに。
修正するの忘れてた……。


■<幼児化>【魔拳士】クラウン・スプリングス

 

「待っていました。マスター」

そこに一人の女性が現れる。長身で俺よりも少し背が大きく、髪色がピンクで綺麗なロングヘアーをしている。ひらひらした服だ。今まで見たことがない姿。第1形態に見た時はポリゴンのように形のなかった姿だったはずの<エンブリオ>。俺が嫌悪し、表に出さなかったはずの姿が、色を帯び、変わっていた。

【ブギーマン】が拳で攻撃してくる。

女性――TYPE:メイデン・アポストルwithアームズ・テリトリー【矛盾創造 オメテオトル】は俺を担ぐ形で、避けてくれた。

「自分で動けますよね? マスター」

そう言い、俺を下ろすと、アームズ形態に、俺の左の巨大な手甲の中に宿った。第1形態とは違い、そこにはピンク色の光が灯っている。

「第3形態まで開放されてる」

<エンブリオ>の能力を確認する。第3形態まで一気に開放されたこともあるが、スキルも2つ増えている。これは……これならいけるかも知れない。

「元々、かなりの経験値は溜まってのですよ? さっきの変なシステムで普通のレベルアップと併用することで、一気に第3段階レベルアップすることが出来ましたが」

あのシステムは、【オメテオトル】の仕業だったのか。

「あ、"私"の時はシラトって呼んでください。マスター」

「シラト?」

"私"って――

「今変わりますね。私の出番はまだでしょうし」

そう言うと手甲の中の光が"黒"に染まった。

「早く敵を向けよ。マスター。敵が来てるぜ。俺が、"クーリト"がいるんだ負けることは許さねぇ」

声質が変わっている。男性の少し低音の声が、ズッシリ響いた。

「シラト、クーリト?」

「何だ分かんねぇのか。俺と姉ちゃんで二人いるんだよ。俺達は”2人で1つのエンブリオ”何でな」

マスター1人に対し、<エンブリオ>は1つ。その1つの<エンブリオ>に2人の人格があるってこと……なのか。

「察しが良いじゃないかマスター。そういうこったな。さて、じゃあちっとずつ反撃と行こうじゃねぇか」

「ああ、頼む。クーリト」

<エンブリオ>のスキルが『クーリトとシラト』その双方で使えるものが異なる様だ。切り替え時はどちらのスキルも使えない時間がある。

 

<2つで1つ(イン・ドゥブス・ウーヌス)> LV:1

『最大半径20メテルまで有効。範囲は自在に変えられる。

物理攻撃、魔法攻撃に有効。攻撃の攻撃力を魔法攻撃力と物理攻撃力を合計し、その後1/2にした数値にする。

使用時SPを継続的に消費する。

範囲内の味方敵の識別可能。このスキルは、クーリト状態にしか使えない』

 

「アイツが鞭で攻撃するからって、アイツ自身は霊体だろ? だったら、物理攻撃力は大したことねぇ。目に見えてるアイツは『全部アイツの一部』」

「今までどおりには、ダメージは食らわない」

そう、まだ『攻撃を受ける必要がある』。それはシラトのスキルに関係している。シラトのスキルは<生まれる世界>を"5段階目"まで溜める必要があるのだ。

「使い勝手が悪いな」

「けど、まだ俺は成長するぜ。今後にちゃんと期待しろよ」

「分かってる。悪くないスキルだ」

スキルによる特殊な攻撃には反応しないだろうが、ただの攻撃の打ち合いだけでも有効に使える。俺は【魔拳士】だ。使える場所は多い。

ブギーマンが、鞭を振るう。大きな方の左でそれをガードすると、やはり先程よりグッとダメージが抑えられている。

「?」

そのダメージの通りの悪さに、ブギーマンは顔をしかめている。だが、攻撃をやめる訳にはいかない。また、逃げられるのは厄介だから。

「(後は、"2つ")」

『どうやってこの状況を切り抜けるか』。『どうやってクーリトとシラトの切り替えまで時間を稼ぐか』。

"5段階目"が何処まで溜めればいいか余り、わからない。HPに余裕がある内に、溜まればいいが……。

「(よしっ)」

溜まった。HPにはまだ余裕がある。後は多少HPを食らいながらでも逃げながら作戦を考えられれば――

後ろからかなりの魔力を感じた。まさか、【ブギーマン】? 分裂も出来るというのか?

 

「ほえ?」

後ろから、虹色の発色がしたのと同時に、デコが俺の元へ、舞い降りた。

 

■【軽双銃士】デコレーション■

 

不思議な光景を見た。カレンさんの<エンブリオ>によるテレポートにより、来たのはホラー映画で見るような、気色の悪い部屋。それと、”何もない”方へ向かい合い、ガードの姿勢を取っているクラウンの姿。

しかし、それだけで十分だ。僕はハンドガンをクラウンの目の前の空間に向けて何発か撃つ。

「デコ! そこじゃない! もっと奥だ!」

「うんっ!」

どうやら、近距離で攻撃を受けているわけじゃないようだ。敵の攻撃は中距離辺りだろうか? 次は確かめるように3メテル程を目安に、距離を変えながら撃った。

「ヒット!」

クラウンのその声で、当たったと判断した。

「(なるほど、敵の攻撃範囲はそこら辺か)」

全く見えないのは既に想定済み。ここまでカレンさんが手こずっているのならその可能性があったし、外のマスター達と話している内にそういう意見もちらほら出ていた。

無くなった弾を補充しながら、次を考える。次とは”どうやって倒すか”。見えない敵に対して、僕自身が何処まで出来るかを考えていた。

「デコはやっぱり見えないか?」

ガード姿勢を崩し、前まで立ったクラウンは確認のためにそう聞いてきた。

「見えないよ。大体の間合いは分かったけど、当てずっぽうで当てられるのも限界があると思う」

「時間を稼いでくれないか? 『左手を使う』」

「分かった。じゃあ、何時も通りで」

装填が完了した。銃二つを構えながら、敵がいると思われる場所を向く。

「<マジック・ミサイル・パーティ>!!」

牽制としてクラウンが魔法を放つのを見る。ここで大事なのは『当たっている弾』よりも『当たっていない弾』。

3つ当たっていない弾があった。

当たった弾の所を撃ちながら、『頭の位置』と『敵の大きさ』を確認する。かなり大きいようだ。

「(モンスターなら<UBM>かな。そうじゃないとここまで苦戦っていうのも変だろうし、ってあれ?)」

クラウンの左手の手甲から黒い光が溢れている。今まで見たことがないものだ。

「クラウン? その光は?」

「エンブリオの形態が第3形態になった。モンスターは<伝説級><UBM>だ。多分俺しか狙ってこない」

「よろしく頼むぜデコぉ! 俺はクーリトだ」

「おおっ。良かったね! やっとこさ第3形態かぁ……。あ、よろしく、クーリト?」

聞いてた<エンブリオ>の名前が違う気がする。いや、今は気にしないでおこう。でも、やっぱり<UBM>か。しかも、ターゲットにされてるってなると。中途半端なのよりも、視界を封じるのも必要かな。

「HIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIHIーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

部屋中から<UBM>の悲鳴が響き渡る。どうやら攻撃が当たっているようで、怯んでいるのだろうか? だとしたら耐久力が少ないのかな? そう言えばさっきの攻撃、クラウンの攻撃だけ弾かれてたけど、僕の攻撃はそのまま消えていた気がする。

「"キーワードは【悪い子】"だ。出来ればそっちも頼めるか」

「――ああ、なるほど。分かったエンブリオね。タイミングは頼んだよ」

自分たちが決めている合言葉を了承し、僕はコインの――僕のエンブリオの準備をする。

「準備はいい? 僕はいつでもいけるよ。クラウン」

「俺もいい。やってくれデコ」

 

――そうして、私は【軽双銃士】を始めた。




三行まとめ
1.2人はエンブリオ!
2.魔法と物理が合わさって最強に見える。
3.やっと出番があったよデコぉ!


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"オシマイ"

本日18時にエピローグも投稿します。
何処かでキャラによる説明会も設けたいと思います。


■【軽双銃士】デコレーション■

 

【軽双銃士】の評価は難しい。それは『使いこなす難易度が高い』という単純な理由があった。

そもそも、【軽双銃士】の優位点は最初の頃見出されていなかった。軽い銃しか扱えず、ステータスはAGIとDEX重視であり、大した攻撃力を持たないため立ち回り方が難しい。それと使える弾の種類。

特に各遺跡で発見された特殊弾。現在ではドライフ皇国が主に生産しているその中の一つ。<罠弾>という弾丸が扱いが難しかったのだ。

<罠弾>とは設置式のトラップ弾。一度設置からしか使えない弾丸が多く、<罠師>を取らないとちゃんと扱えない弾丸すら存在した。

設置された弾丸は仲間に見えず、設置した罠が敵味方の認識が出来ないため、野良でパーティを組まれた時は地雷扱いされる程評価が下がった。

そうして広がってしまった<罠弾>の評価に通じて、【軽双銃士】は評価を一時期落としてしまった。

デコはそれでいいと思った。逆に、『コレでいい』と。

他の誰とも競わずにいける職業であり、きっとクラウンとの連携にも使えると。

 

ただ、実際やってみるとやっぱり連携が難しく、大して火力が出ない、アタッカーとして使えないと考えると【軽双銃士】の評価はデコの中でも一般的評価で落ち着いた。

そして一番困ったことは、クラウン以外にチームに前線を取り入れにくく、練習すればするほどなっていったことだった。

だが、それらを全てをひっくるめて、デコはコレでよかったと思った。【軽双銃士】でしか使えない弾達。コンビネーションで生まれる一体感。してやった時の達成感。

これらは、デコがこのゲームを続けていく中で大切なものとなっていった。

練習を重ねた。2人の方向性が決まった時、お互いがオカシイと罵りあった。だからこそ、2人はどちらかが足を引っ張り合うことを良しとしない妥協しない関係になっていったのだ。

 

「(クレイモア弾設置したよ。クラウンの五時方向)」

そうして、出来たクラウンとの連携は、

「(了解)」

目でアイコンタクトを済ますだけで連携が取れるほどに成長することが出来た。

「<マジック・ミサイル>!」

そう、クラウンには魔法がある【魔拳士】では専門職が使えるような魔法は使えない。【魔術師】で使える攻撃魔法のみが【魔拳士】で使える魔法なのだ。

「(いつ考えても少ない……)」

【魔拳士】も【軽双銃士】に似て、中々濃い職だと改めて思い返す。

だが、魔法は弱くても、<罠弾>で設置したトラップに反応する。

同時に魔法を使い、前線に張り付ける【魔拳士】ならではのコンビネーションを、2人は実現することが出来た。

クレイモア弾が爆発し、辺りに煙が巻かれる。敵が分かるように<ペイント弾>を敵の体に設置する。これで、パーティに入っているクラウンは、煙の中でも敵を認識できるようにした。

更に、アイテムボックスから<煙玉>を出し、煙を追加する。

「(準備完了。さってと、後は、<エンブリオ>を使うだけ)」

煙に紛れ、様子を見る。スキはクラウンが作ってくれる。それを見逃さないように、敵の位置を把握し、動いた。

 

■【悪辣訓戒 ブギーマン】■

 

ブギーマンは何もかもが初めてのことが重なっていく。

しかし、もはや半ば【概念】となっているブギーマンには、対応できないことが多すぎた。

他者の介入は一番の問題だった。

しかも、入ってきた子は、子供であるようで子供でないようなマスター。【悪辣訓戒 ブギーマン】としての判定は彼女を【良い子】と指し示していた。

その【良い子】に攻撃された。だが、【良い子】は【悪い子】守ろうとしているだけなのだ。

それをどう罰せようか。

都市伝説や、逸話にそんな回答は一つだけ存在した。あるのは【皆殺し】。

そんなことはしたくない。このままでは、やられてしまう。

"攻め側"から"受け側"に回ってしまった都市伝説は、解決されるだけなのだ。

 

『そんなことは許されない』

 

【悪い子】を処理しなければ【悪辣訓戒 ブギーマン】の存在意義に関わる。

そうでなければ、"彼"は何のために【ブギーマン】になったのか。

【ブギーマン】は【良い子】の攻撃は弾けない。スキルにより【悪い子】に対しての攻撃耐性は持つが、スキルによるステータスの上昇にHPは含まれていない。

このままでは、【悪い子】を、【悪い子】を――

 

「チャージ」

 

目の前から声がした。そう、クラウンだ。【悪い子】だ。

攻撃しようとしている。気配から感じるのだ。手甲から後ろに伸びた大きな管のようなモノ。それを使い自分を殴ろうとしている。

「君は、君は何てっ、何て【悪い子】なんだぁぁぁああああああ!!!!」

 

【ブギーマン】は分からなかった。何で自分が叫んでいるのかを。

そんなことはどうでもいい。この【悪い子】を始末しなければならない。

手を伸ばす。もはや風前の灯火。クラウンには自分は倒せない。

 

――目の前に一枚のコインが浮かんでいた。

 

手を伸ばした瞬間だった。回るコイン。見つめなくても、目に入ってしまう。

 

「<回るコインの表裏(ヤヌス)>」

 

それを耳にした瞬間彼の大事なモノが壊れた。ずっとずっとそのために、生きてきたはずのものが、一瞬で崩れて。

もはや、目の前のことはどうでも良かった。

手を伸ばす方を変えようとする。そう、彼はデコ(良い子)に攻撃の目標を変えたのだ。

彼は何故自分がこんなことになっているか分からなかった。

何故……自分は今まで、【ブギーマン】を――

 

「<矛盾突破(ブレイクスルー・コントラディクション)>」

 

強烈な爆発音。何かが突破された衝撃が、彼を襲う。

「(間に合った)」

安堵した感覚が彼の中に沸き立った。

"それ"は、してはならないはずのものだった。それを止められたことへの安堵感。

【ブギーマン】でなく、"彼"が一番してはならない。自身で守り続けたライン。

それが壊れようとしていた。しかし、それは止まった。止められた。彼は、心の底から安堵した。

自分の体が消えていく。もう、使命は終わってしまった。

だが、そこに無念はなかった。

 

やっと【ブギーマン】を終われる。

 

少年達が見える。彼と無数の傷を受けながら戦い、勝利した2人が見える。

「ありがとう」

やっと、暗い暗い夜を開けられる。

明るい中で、走り回る子供たちを、ようやく……見れる。

遠い日々の思い出が彼の脳裏に浮かび上がる。

 

「さようなら、【ブギーマン】」

 

都市伝説の時間は終わりを告げた。もう、怖がる子はいない。

 

朝日が、登った。

"彼"が――寝る時間だ。




三行まとめ
1.使いこなすの難しい職業
2.2人で出来たこと
3.物語のオシマイ、オシマイ


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冒険は何処までも

後日談

修正 山脈→山に修正
レジェンダリアに山があるか不安だったため


■<幼児化>【魔拳士】クラウン・スプリングス■

 

【悪辣訓戒 ブギーマン】が終わり、あの後皆で眠りについた。

俺達は、その1日後に【Fairy】に集まり、デザートを食べている。だが、まだ問題は幾つかある。

「何でまだ、<幼児化>が解かれてないんですか?」

集まってくれたマスター達は【悪辣訓戒 ブギーマン】を倒されたと聞き、別々の場所へ、自分たちの場所へ帰っていった。聞き分けが良い人が多かったのはカレンさんの人徳だろう。

 

だが、その中で一人帰っていない男がいた。

 

「いやぁ、何ででしょう? 前女子高生に金渡して飲んでもらった時には1日で解けたのになぁ」

目の前でヘラヘラ笑っている細目の男――<YLNT(いえすろりしょたのーたっち)倶楽部>所属ベンジャミン・フランクリンは、<幼児化ポーション>をカレンさんに渡した男だった。

この男のおかげで今、まだ俺は<幼児化>が解けていない。しかも、シラトに膝枕されてしまっている。

シラトの通常時の力が<幼児化>した俺じゃ勝てなかったのだ。

「別に暫くこのままで良いのではないでしょうか?」

なんてのんきなことを言うシラトに厳しい視線を送った。シラトはそんなことお構いなしに、ケーキを食べている。

「ダメだよ。上級職探さないといけないんだから……で、いつ解けるんですコレ」

「いやぁ、何分試作中のもので、わかんないんですよコレ」

話にならない。

「……ごめんね。デコちゃん、クラウン君」

流石に罪悪感を感じてかカレンさんが……持っているカメラ。……その手にある物はなんですか。

「実はね。ちょっと取り引きがあって」

「ダメです」

「話を聞いてよっ!!」

こういう時のカレンさんはダメな人だって相場が決まっている。

「スクショ取らないといけないの……」

「はい。そういうことでよろしいでしょうか? お二人とも」

何故、そういうことになっているのだろうか。別に嫌ではないが、釈然としない。

「良いですよ。カレンさんも頑張ってたので、スクショぐらい」

「ああ、クラウン君大好き!」

そう言って抱きついてくるカレンさん。「あらあら」と何故か親目線なシトラ。デコは呆れて物が言えないような顔をしている。

そうしたてんてこ舞いな所、俺がシラトに良いようにされた所……シラト、「あーん」で食べさせないでくれ……等を写真を何枚か撮られた。

流石に<YLNT倶楽部>以外には出さないと言っていたが、

「(レジェンダリアのクラン1位は何処だったか)」

大半の人に知られたも同然だろう。

その後は使用感、小さくなった感想、ステータス弱体化がどれくらいのものだったか等を話し、ベンジャミンは1つのものを出した。

「<快癒万能霊薬(エリクシル)>です。本日はどうもありがとうございました」

そうして<幼児化>回復用の<快癒万能霊薬(エリクシル)を渡された。流石に何かあった時の用意はしていたようだ。

「まさか使うことになるとは、まだ研究が足りませんね」

「というか、<幼児化>って【呪術王】の?」

「ええ、再現だけですが。でも、完全な再現には程遠いです。<快癒万能霊薬(エリクシル)>で簡単に回復しますし、実際はもっと酷い。だけど気軽に誰かが飲むくらいならコレぐらいのほうが丁度いいのですよ」

色々な意味で酷い技術だ。

「そうですかね? 遊びでこういうモノもあっていいと思いますよ。ああ、勿論研究は全力でやっていますが」

感想などをメモに纏め、次の改ざん点にペンを走らせている。

「誰もがロリショタになれば、我らの夢の楽園が気付かれます! 私達はそこでそっと彼らを見守り、手伝う! 素晴らしいことだと思いませんか?」

どうやら脳に何かしらの傷を負っているらしい。

「カレンさん。なんで、<YLNT(いえすろりしょたのーたっち)倶楽部>が関わってるって言わなかったんですか」

デコが追求している。最も過ぎる一言。俺も少しは何か言って欲しかった。

「言ったら飲んでた? <幼児化ポーション>」

「その場で叩き割ってました」

デコが即答する。そうだ。デコならそうするだろう。デコは前々から関わりたくないと前から言っていた。

「だから……なの……」

「俺は、多分それ聞いても飲んだと思いますけど」

「研究用の在庫が今ひとつしかなかったんですよ。あ、後、実は私の方からも口止めしてました。その代りクランのメンバーが何人か協力してます」

「………」

デコがなんとも言えないような顔をしている。

「まぁ<UBM>でしたからね。クランも見返りなしでは中々協力できなかったんですよ。ただ、このスクショがあれば言い訳はつく」

つかないで欲しい。

「それと、もう1つ。これは君たちがスクショを撮ってくれたらの話でしたが」

条件が具体的過ぎる。

そうして男は懐から紙を出した。

「<魔人拳(ジン・ファイター)>の就職条件。ご存知ですか?」

「…………」

<魔人拳(ジン・ファイター)>について昨日詳しく語れなかったのは理由があった。条件が読めなかったのだ。これはロストジョブになっているからであった。

『1つ目<魔人との戦闘に勝利する>

2つ目<亜竜級以上のモンスター討伐>

3つ目<MP、STRの5000以上の達成>』

今、一番欲しい情報が、そこには書かれていた。

「これは、今日カレンさんに言ったんです。だからカレンさんも知らないことでした」

「な、何でこれを?」

「遺跡で見つけたんです。ロストジョブになっていたものだったので記録しました。いつか使えると思ったのですが、なろうとしている人がいなくて持て余していたんですよ」

「マイナーで悪いですか……?」

「いえ、君はこの条件を聞く前に良いと言ってくれた。カレンさんに聞いた通り、気持ちいい少年だ。これは私からの初<UBM>討伐記念といった所でしょうか」

「……ありがとうございます」

素直に受け取る。確かに怪しいが、これは喉から手が出る程欲しい情報だ。

「そう、それとジョブクリスタルなのですが、魔人からのドロップで排出がされるそうですよ」

「へぇ……」

デコが怪しんでいる。コイン(エンブリオ)は……装備済みだ。

「さて、怪しまれていますし、本題に入りましょうか。実はお願いしたいことがあるのですよ」

 

そこからベンジャミンが依頼してきたのはクエストだった。

クエスト内容は『きのみの採取』。

レジェンダリアにある誰も近づかない『トリスメギストス山』。その中の何処かにあるきのみ――『プラン』の採取を、ベンジャミンは頼み込んできたのだ。

 

To Be Continued




三行まとめ
1.怪しげな男
2.ジョブ条件ゲット!
3.新しいクエストが始まる。


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1章幕間
"彼"と"彼" 前半


現実編 出来てしまったので前半投稿


飾宮 空(かざみや そら)

 

大空を母さんと見上げるのが好きだった。母さんはボーッとする時がよくあり、僕は横に付いているのが好きだった。

「空って、大きいね」

母さんが言う空が、目の前に広がる青色だと言うことに気づき、僕は同意した。

「だから、『空』もこうなるんだよ? 私が大好きな『空』に」

恥ずかしげなことを笑顔で言う母さんのことが僕は大好きだ。子供のような夢を語り、父さんも、そんな母さんのことを愛していた。

「可愛い顔して、私にそっくり。優しい所はお父さんそっくり」

そう言って撫でてくれる手は不器用だったが、愛を感じられた。

だからか、両親と僕はよく旅行に出かけていた。色々な所を周り、その度に僕があたふたさせられる。

父さんも母さんも笑い、僕も笑い。いつもこんな日常が続くのだろうと。

そんな、はずだった。

 

『通り魔事件。ナイフを持った男が、両親を殺害。男の子一人が残される』

『「返して」との男の子の訴え。非道な殺人事件』

『社会問題再発。変質する人間たち。国際情勢の煽りを受けて?』

『新たなVRゲームのリアル過ぎる現状。影響が?』

 

新聞など読む気にならなかった。見るだけで彼らに迫られた時の自分を思い出す。

おばあちゃん達が、実家からこちらに来てくれた。

「怖いね空。大丈夫だよ。これからは私達が守るからね」

そうおじいちゃんもおばあちゃんも言ってくれた。

まともな生活が送れたように、思えたのだ。

 

空に、暗い雲が掛かっている。

 

「すげぇ。先輩に勝っちまったよ。小学校からやってるやつは違うな」

「大丈夫か? 最近ちょっと顔が強張ってたけどよ」

中学生になり、陸上部に入った僕は前から陸上クラブをやっていた。走ると何もかも忘れられたのと、夢中になれることが成長に繋がったため、自己紹介の時にも欠かさずに言うほどには好きになっていた。

「うん。最近は大丈夫だよ」

母さんや父さんのことも、おばあちゃん達のことがあり吹っ切れる要因となっている。

これからは陸上を続け、何か大きな所で、結果でも出たら……なんて変なことも考えてしまう程に。

「なぁ、飛び降りだって、死にかけたんだと」

中学校に入ったばかりの同じクラスに入ってた子たちがよく噂していた事件。

屋上手前の階からの飛び降り自殺未遂、しかも同じクラスの子が。

その子は助かったということで、今は病院に入院中らしい。何でも、近くにあった川に飛び込んだから助かったとか。

「やべぇよな。最近変なゲームも発売されたしその煽りとかもニュースで言ってたぜ」

<Infinite Dendrogram>だったかの話だ。とてもリアルなゲームで、あの<月世の会>も入れ込んでいると噂が立ち、様々な所で注目の的だ。

「ゲームは関係ないでしょ。やってることは変だけど」

「だよな。ゲームとリアルを同一視してるって、やべぇやつの考えだよ」

そう言っているのは今だけ、彼らは今年のそれぞれの誕生日に、<Infinite Dendrogram>を買ってもらいプレイすることになる。

「(そんなの所詮噂だけな気もするけどね)」

その時の僕もそう笑いながら友達と話していた。

「やめてやれよ。飛び降りのこと変に言うの」

そこに僕の席の隣の館武 泊等(かんぶ はくら)が、口を出して来る。珍しい。孤立しており、積極的な話などしない部類なはずなのに。

「冗談だって。変に言うのは先生にだって禁止されてるだろ?」

「……だったら、話するなよ」

「はいはい」

友達は適当に流したが、どうも様子が変に思えた。泊等にああいうイメージがなかった。彼はもっと、人のことをどうでもいいって思っている部類だと思っていたのだ。

それは、隣で見ていた感想もあったし、実感もあった。

彼にプリントを渡したりする際、よく彼は暗い目を、まるで何も見てないような目を向けてくる。

それが今日は、何かしらの考えを持ち、動いている気がしたのだ。

「(なんか心境の変化があった?)」

変なのと思いつつ、その話はここまでだと、チャイムが鳴った。

次の授業の時間だ。

 

それから暫く経った放課後。先輩が部室ではない所に僕を呼びつけた。タイミングを見計らっての犯行だ。僕は一人で、取り囲まれるようにして、連行された。

「なんですか?」

「生意気なんだよ」

「なんで――」

殴られた。お腹を思いっきり、必死に息をしようとまた後ろから殴ってきた。

そうして、僕は何度も先輩に殴られ、その日を去った。

 

次の日も、また次の日も。呼び出しは続いた。

僕はどうすればいいかわからなかった。幸い、顔は殴ってこなかったため、長袖を着て誤魔化した。お風呂のお湯が身にしみて痛かったが、それも何日か続き慣れていった。

どれだけ傷があっても、ドンドンと痛みは鈍化し、慣れてしまう。こうした"日常"もいつの間にか慣れて行くのだろうか。

だから、僕は走った。陸上部では流石に先輩も手を出せず、成績を伸ばしていく。そうしたら、次の大会でレギュラーとして出てみないかと先生にも言われた。

 

「大丈夫かい? 何かあったんじゃないか?」

そうしている内に僕の顔に陰りが出来たらか、おばあちゃん達を心配させてしまった。

「大丈夫。何かあったら言うから」

何が大丈夫なのだろうか。だけど、皆"大丈夫"っていうんだ。だったら、大丈夫なのだろう。




三行まとめ
1.酷い世界
2.噂のゲーム
3."大丈夫"


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"彼"と"彼" 後半

二人の出会いの話


飾宮 空(かざみや そら)

 

時々夢を見る。

 

「ねぇ空。空は空の名前好き?」

大好きだよ。母さん。お父さんが付けてくれた名前だもん。

「そうか。だったら、自分も大切にするんだよ」

……うん。

空から雨が降る。家族皆で濡れる。母さんは僕を見ていた。僕は空を見上げ、父さんはそんな僕達を見守ってくれていた。

 

寂しいよ。寂しいんだよ僕は。何で、何で居なくなったの?

 

雨に濡れていた。濡れた雨粒は下に落ちていく。地面に、土に、染み込んでいった。

 

レギュラーが発表された日。先輩に呼び出された。

怒りの感情を露わにしている。貶すようないつもの表情ではない。彼らは本気で怒っていた。

「何で、レギュラーになった?」

「何ででしょうね」

僕に聞かないで欲しい。僕はただ、頑張っただけで。いつも僕に嫉妬していた先輩たちは単純に練習が足りてなかっただけなのだろう。

「1年の癖に何でそんな生意気な口を叩くんだよ!! 立場分かってるのか!!」

「レギュラーを堕ちた先輩と、レギュラーに成った後輩です」

半ばどうでもいいと思いながらそう答える。いつものように殴ったら終わるんだろう? だったら早くして欲しい。

「お前……」

眉間をピクピクさせわかりやすい表情を浮かべる。何でこんなにわかりやすいのだろうこの人は。

そうして考えると、別々の先輩たちに手と足を抑えられた。

「は?」

 

"いつも"と違う。

 

「お前、ちょっと調子乗りすぎだろ」

「な、なぁほんとやるのか? これ」

「うるせぇ!! やるっつただろうが! てめぇらも同意したろ!!」

彼が持ち出したのは石だった。カッターやナイフではないが先っぽが鋭利になっていた。

 

何処からそんなのを見つけたの? もしかして、それで足を?

 

「『空』なんてな。軟弱な名前して、女子にもモテるんだってな。女の子のような顔して」

ふつふつと恨み言を言う先輩に、僕が、僕が大好きなことを貶した先輩に。

 

僕は初めて、怒りを覚えた。

必死に体を動かそうとする。だが、先輩たちが取り押さえられてうまく動かせない。

「動くんじゃねぇ!!」

そうして抵抗していた所に、頭を石で殴られた。

体から意識が一瞬消え、目覚めた時には地面に倒れ伏せている。

「お、おい! やめろよ。そこまでやったらやばいだろ」

「じゃあ、コイツどうするんだよ! 俺達の立場がなくなるぞ! コイツばっかりやって、コイツが、コイツが居たから――」

女の子の名前を喋った気がする。そっか。それが先輩の本音だったのか。

僕は僕が全く関係ない所で、狙われていたのか。

「足を叩き折ってやる」

命を取らないだけ、マシというものなのだろうか。何故か僕の思考は静かだった。

 

だけど、足を折られたら。……走れないや。僕がやりたいこと。あったんだけどな。

名前も、大事だったのに。顔もお母さんが褒めてくれたのに。

僕は……何も出来なく、なっちゃうのかな。

 

「てめぇが居たからっ!!」

先輩も泣いていた。先輩も悲しいのか。だから、こんなことをしてしまうのか。

「(……嫌だなぁ)」

こんな現実に付き合うのが嫌になる。全てが"現実"だというのが嫌になる。

 

その時、先輩の顔にバッグがぶつけられた。

「煩い」

バッグが来た方に目線を向けると、僕ぐらいの男の子が一人立っていた。見たことがある。彼は――冠無 春衣(かんむ はるい)だ。今まで入院していたはずなのに。

「な、何だよお前! 何でこんなのーー」

そう言っている内に春衣は、先輩に殴りかかった。殴りつけられた先輩はわからない表情をしていた。

「こ、こんなことをしてただじゃ――!」

そういう前に、また春衣は先輩を殴りつけた。彼は話なんて聞く気がない。

「て、てめぇ!」

石を落としてしまった先輩は春衣に殴りかかった。そうして喧嘩が始まる。

「な、な、何やってるんだよっ!!」

僕と僕を押さえつけていた先輩たちも二人の喧嘩に加わり、殴り合った。

 

結局、僕と春衣はボロボロに負けてしまった。勢いは最初だけで体格が出来ていた先輩たちに押され、最後にはタコ殴り。

その後に事態を何処からか聞いて駆けつけてきた先生に見つかり、散り散りになって逃げていった。

だが、春衣と僕だけは、何故か寮の屋上に居た。

寮の屋上は夜まで開放されているらしい。一応カメラでの監視も付いており、柵も高いため、安全にも問題ないということらしい。

「疲れた」

コンクリートに背中を預けて、空を見上げている春衣を僕はじっと見た。

「何だ? 言いたいことあったら言え」

「何見てるの?」

「空だよ。綺麗だろ?」

日が落ちる夕焼け時の空は、焼けたような色をしている。母さんは時々美味しそうなどと変なことを言っていたが、春衣は何を思っているのだろう。

「綺麗だと思う。でも、何で?」

「何が?」

「何で、助けたの?」

「……死にそうな顔してたからかな」

変なことを言う奴だ。

「【嫌】だって顔してただろ? 分かるんだそういうの。だから助けるために体が動いた」

それだけの理由だと、彼は説いた。

「変な理由」

「泊等にも言われた」

「泊等って? え? 知り合い?」

「ああ、何か飛び降り自殺やりそうだったから、代わりに飛び降りた」

……凄く変なことを聞いた気がする。

「代わりに飛び降りた?」

信じられない。何を言っているんだ。

「泊等のヤツ。なんか死にたかったらしい。止めたんだ。だけど、どれだけ言っても、分からなかったから、代わりに飛び降りてやるって言った。そしたら流石に目が覚めるだろって」

「………」

呆れて物が言えない。春衣は何を考えてるんだろう。死んだらどうする気だったの……だろう。

「近くに川があったから、飛び降りれば死なないだろうって。俺、そういうのがわかるんだ」

「馬鹿じゃない?」

「泊等にもそう言われた」

そう彼は笑った。何が可笑しいかわからなかった。いや、もしかしたら春衣は自分がおかしいことに気づいているのかも知れない。

それでも、ほっとけないんだ。

「何でやるの?」

「死ぬのはダメだろ」

差も当然のように、春位はそういう。なんてやつだ。自分がどうなってもいいのだろうか。死ななければ良いなどと思っているのだろうか。

「お前も、良かったよ。あのままじゃ死にそうだったし」

「へ?」

「だって、何か言われたんだろ? それで言い返せなくってさ。多分諦めてたんだよ」

「何を?」

「大切なこと。俺もそうだった。でも諦められなかった。絶対掴んでやる」

 

そう言って彼は拳を突き上げた。大きな空へ届かせるように。

 

「それ叶うの?」

少し羨ましかった。そうやって、夢を掲げられる春衣が。

「叶えるさ。可能性がないなんて言わせない。意地でも掴み取ってやる」

どれだけ言っても折れない決意を、その言葉に感じた。もう、彼は決めてしまったのだ。

 

【夢を叶えることを】

 

「どんな夢なの?」

「姉さんを探す。途中色々な人がいるけど。そいつらも助ける。もう、奪うことなんて許さない」

随分と傲慢なものもくっついている。そんな夢を聞き、僕は笑った。

そんな人もいるんだなと、豪快さが、傲慢さが、羨ましくて笑った。

「それ、僕も手伝おうか?」

「手伝ってくれるなら手伝ってくれ。俺一人だと何回も死んでさ」

「へ?」

「<Infinite Dendrogram>だよ。知らないのか?」

「はぁ!?」

現実のことだと思っていた僕は面食らった。そうして詳しい事情を聞く度に、彼が歪んでいるのを感じた。

だが、見捨てることなんて出来なかった。彼は馬鹿だが、もっと言えばトビッキリの馬鹿だったから。

命の恩は返さなければ、見捨てられたものじゃない。

 

そうして僕は<Infinite Dendrogram>をおばあちゃん達にねだった。

2人にちゃんと今まで心配掛けてたこと、隠していたことを打ち明けて謝った後に。

「いいよ。いいよ空。辛かったね。私達もそれが分かって嬉しいわ」

2人共僕を抱きしめて泣いてくれた。僕も2人を抱きしめて泣いた。

泣いたのはいつ振りだろうか。

僕は2人の暖かさを、改めて感じた。それは父さんや母さんにも負けない暖かさだった。

 

ああいう馬鹿も一人はこの世の中に居ていい。そんな変なことを思わせる出会いを僕はしたのだ。

そうして、陸上部を辞めた。友達からも色々言われたが、もう決めてしまった。

また陸上部にも戻るだろう。春衣の夢を叶えた後に。恩を返した後に。

 

その時は僕の夢に戻ろう。

また、思いっきり走ろう。

 

その時を楽しみに、僕は<Infinite Dendrogram>を始めた。

なんとなく面白そうという理由でアバターを色々いじったり、『空』という名前を現実に置いていき、名字から名前を決めた。

僕はこのゲームを始めた。今でも後悔はない。

人生においての遠回りを、真っ直ぐではない歪な道だけど。

 

――僕は、幸せなんだ。産んでくれて、ありがとう。父さん。母さん。




三行まとめ
1.雨降る空
2.夕焼け
3.新しい空へ

どうやら評価の必要文字数とかの設定が0になっていなかったようです。
感想も非ログインの方からも受け付けるようにしてみました。
初投稿なのでそこらへんまだ分からなかったのです。
良ければ良い設定などを教えていただけたらと思います。


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1章設定
設定回<マスター編>


設定回
ステータスなのですが数値化すると、何処まで伸ばせばいいか分からなかった為曖昧にしてます……。
き、基準があんまりわからない。

段階として
紙→アルミ→やや普通→普通→高い→高すぎる→強い
という振り分け方をしてます。

キャラのコメント欄は
ク→クラウン・スプリングス
デ→デコレーション
カ→カレン・レディ
と省略しております。


PL名:クラウン・スプリングス

職業:メイン<魔拳士(デュアル・ボクサー)> (拳士系統下級職)

サブ:<魔術師(メイジ)>(魔術師系統下級職)<拳士(ボクサー)>(拳士系統下級職)

合計レベル:150レベル

 

名前の由来:名前をもじった。

 

スキル

<魔法格闘士(マジック・オブ・グラップラー)> LV:5

『物理攻撃を魔法攻撃へ変更する。その際、スキルレベルに応じた攻撃力増加をする』

<魔法遅延>

『その名の通りある程度魔法の発動を遅延させる置き弾。読み合いなどにも使えるため重宝している。

遅延する時間が大きいほど、SPを消費する』

 

その他魔術師、拳士スキル等

 

ステータス(ステータス的特徴

HP:紙

MP:高い

SP:普通

STR:高い

AGI:普通

END:紙

DEX:普通

LUC:普通

 

魔法

<マジック・ミサイル><マジック・ミサイル・パーティ>

『無属性の魔法攻撃。MPの消費が少なく牽制などによく使う。

パーティは<マジック・ミサイル>を連射出来るようにしたもの。発射数も選べ、方向も自由自在なためデコの罠を起動させるのに重宝する』

 

特筆装備

<二式六十六型 魔天流動>

装備制限<STR値300以上>

形状:手甲(腕の3スロット同時使用(左部分が2スロット扱い))

STR+750 防御力+150

スキル

<打ち込み式弾頭 四十一式(うちこみしきだんとう よんじゅういちしき)>

『MPをチャージし、それに応じた攻撃力を追加する。

攻撃力増加量は消費MPに応じて変動する』

 

特典武具

<還魂装飾(かんこんそうしょく) ブギーマン>

MP+25% AGI+10% 防御力+150

形状:ロングコート

スキル

<驚かすは都市伝説の定め>

『MPを継続的に消費し、姿を消す。1秒毎にMP10消費。

姿を表した時見破られていなかった場合、現れる姿を見たものに<恐怖>与える』

<悪い子は居ない>

『戦闘中のHP減少があった場合、その10%を回復する。この効果は5回使用された場合チャージに1日を必要とする』

 

 

デ「総合評価で言うと、まだ弱いって所だよね」

ク「神装備来た!これで勝つる!!」

カ「ブギーマンは強いわね。継続戦闘が弱かった所補ってくれてるし、MP上昇は私も欲しいわ」

デ「<魔拳士>の利点が牽制だけっていうのと魔法攻撃になるっていうことで、防御をガッチガチに固めた敵の耐性をすり抜けられるって所はいいよね」

ク「原作の先輩には勝てる気しない」

デ「アレは強すぎるよ……。だけど地味にMP問題も解決したねこれ。いい装備だと思うよ」

ク「<魔拳士>の問題点はSTRとMPは伸びが良いけど、他が疎かになる所と、STRとMPをちゃんと両立するにはビルドの見直しと、装備での強化が必須って所」

カ「そこら辺シビアよね。バランスが取れてるようで取れてない」

デ「一点だけ伸ばせばそれのほうが強いものね。まぁそこを支えるようなエンブリオだったわけだけど」

ク「補正値は微々たるものかも知れないけど、あれはアレで必要なんだ。やっぱり」

カ「魔天流動は強いわね。これ3スロット使うからって破格だし」

ク「値段も破格だった……。珍しい素材が取れたからって言って作ってもらったけど」

デ「その時持ってたお金全部飛んだね……。帰りのお金稼ぐの大変だったよ……。その代り納得の装備だったけど。いやこれ強いよ」

ク「職人さん達もノリノリで作ったからな。お金のこと気にしてなかったんだ。会計の人が怒ってた」

デ「本当なら、もっと掛かるって言われてゾッとしたよ」

 

PL名:デコレーション

職業:メイン<軽双銃士(デュアル・トリック・ガンナー)> (銃士系統上級職)

サブ:<双銃士(デュアル・ガンナー)>(銃士系統下級職)<銃士(ガンナー)>(銃士系統下級職)

<罠師(トラッパー)>(罠師系統下級職)<忍者(ニンジャ)>(忍者系統下級職)

合計レベル:200レベル

 

名前の由来:名字から

 

ステータス(特徴

HP:アルミ

MP:普通

SP:高い

STR:アルミ

AGI:高すぎる

END:紙

DEX:高すぎる

LUC:普通

 

デ「今カンストしてないのは、<忍者>と<軽双銃士>ぐらいだね」

ク「軽双銃士事態がテクニカルすぎて、扱いが難しいって所が課題か」

デ「でも2人だと何とかなるしね―。まぁきにしなくていいかなって」

カ「弾とかどうしてるのよ。そういえば」

デ「弾は内乱の時にドライフ皇国から逃げた職人さん達が居て、その人達が作ってるよ」

ク「結構高いんだよな。しかも専門の弾となると足元見てるからか更に高い」

デ「まぁドライフ皇国からレジェンダリアまで逃げてきてくれただけでもありがたい話だけどね」

ク「アルター王国から逃げてきたって人も居るからな。何というか。生き残るために皆必死だったんだろ」

カ「もう下級職も四種とって上級職に入るからビルドも大詰めね。超級に当たれればいいけど」

デ「銃士系の超級はもう取られてるんですよね―。〈銃神〉が、まぁまだ超級職は色々あるって信じて調べ中ですけど」

ク「<罠神>とかあればそっちでもいいんだけどな。見つかってないけど」

デ「もう成ってる人も居たりするから、大変だよ超級職は」

 

PL名:カレン・レディ

職業:メイン<名探偵(グレート・ディテクティブ)> (探偵系統上級職) 

サブ:<探偵(ディテクティブ)>(探偵系統下級職)<記者(ジャーナリスト)>(記者系統下級職)

<暗殺者(アサッシン)>(暗殺者系統下級職)<斥候(スカウト)>(斥候系統下級職)

もう一つずつ上級職下級職あり、下級職一つ空き

合計レベル:450レベル

 

名前の由来:カレン・マクレディから

 

ステータス(特徴

HP:アルミ

MP:高い

SP:高すぎる

STR:普通

AGI:強い

END:アルミ

DEX:強い

LUC:普通

 

デ「見事に暗殺者なんだけど」

カ「暗殺者超級取られてるから、無理なんだけどね……はぁ……」

ク「ああ、噂の彼処が」

デ「だけど奇襲能力高いよこれ。看破も相当なものなんでしょう?」

カ「勿論持ってるわよ。便利に使ってるけど、まぁやっぱり戦闘職には及ばないわ」

デ「そういうところじゃね。だけど戦った時はそれはそれで厄介だって聞いたことあるけど」

カ「うーん。特定の状況下なら<エンブリオ>もあるから強いと思うわ。それ以外だと絶対負けるって自信はある」

ク「そういう所はっきりしてますよね」

カ「まぁまだ貴方達には負けてはいられないから、クラウン君ともまだやりあったら勝てるぐらいだし」

デ「レベル差があるとやっぱりね」

ク「デコとやったら五分五分だけどな」

デ「銃持ってる相手が、詰め寄られちゃ負けるでしょそりゃー!」

カ「でも、五分五分なのよね。2人共」




このチーム皆紙装甲


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設定回<エンブリオ編>

エンブリオ編

キャラのコメント欄は
ク→クラウン・スプリングス
デ→デコレーション
カ→カレン・レディ
と省略しております。


【矛盾創造 オメテオトル】

TYPE:メイデン・アポストルwithアームズ・テリトリー

能力特性:突破&?

到達形態:第3形態

モチーフ:アステカ神話の創造神。二面性の神オメテオトル。

紹介:2つの人格に別れた<エンブリオ>。

男人格の【クーリト】女人格の【シラト】と二つに別れている。

それぞれ、使えるスキルが異なっており、切り替えに5秒ほど時間がかかる。

なお、アポストルが入っているため<エンブリオ>の補正はなし。

 

スキル

 

<生まれる世界(ワールド・クリエイション)> LV:3

『戦闘中の経過時間、HP回復量、与えるダメージ量、受けたダメージ量、この4つの要素を貯めることにより、13段階のステータス強化、状態異常耐性強化を受けられる。

このスキルは、全形態で効果を発揮出来る』

 

<矛盾突破(ブレイクスルー・コントラディクション)> LV:2

『対象の防御スキルを常時的使用時、または発動が発動された際使える。

<生まれる世界>の段階を【5以上】消費することにより、そのスキルを打ち破る。

消費は必要なストック分自動的に消費される。

またそのスキルを破った時、対象の防御スキルが軽減するはずだったダメージをスキルレベル依存で攻撃力に一撃だけ加算出来る。

このスキルは、【シラト】状態にしか使えない』

 

<2つで1つ(イン・ドゥブス・ウーヌス)> LV:1

『最大半径20メテルまで有効。範囲は自在に変えられる。

物理攻撃、魔法攻撃に有効。攻撃の攻撃力を魔法攻撃力と物理攻撃力を合計し、その後1/2にした数値にする。範囲内の味方敵の識別可能。

使用時SPを継続的に消費する。

このスキルは、【クーリト】状態にしか使えない』

 

カ「うわぁ。ナニコレ」

デ「何か。使いにくそうなのが揃ってるね」

ク「微妙に使いにくいんだ。<生まれる世界>は今だと、上を目指すのが難しい。<矛盾突破>は使うタイミングが限られる。<2つで1つ>は攻撃しか効果がない」

カ「うーん。<生まれる世界>って確か補正悪いのよね」

ク「はい。ただ、これがないとステータスが足りないところが多いんですよね。デコと戦えるのも、このスキルがあるからだし……」

デ「その代り今の段階だと滅多なことで5段階目まで行かないんだよね。これ」

ク「もっと強いスキルだともっと消費される事になるし、上級職に早く入ってHPも上げないと難しい」

デ「レベルが高い戦いな程、<生まれる世界>の段階が上がって、それを消費するであろう次のスキルが使える」

カ「何というか。戦闘狂なスキルね」

ク「時間経過は微々たるもの。本命はダメージ量とHP回復量……」

デ「ブギーマンの特典武具は神だったね……」

 

【内外好転 ヤヌス】

TYPE:アームズ・キャッスル

能力特性:??&??

到達形態:第4形態

モチーフ:ローマ神話の出入り口と扉の守護神。前と後ろに反対向きの2つの顔を持つのが特徴の双面神ヤヌス

紹介:コインのエンブリオ。装備をしたりすると効果がある?

 

スキル

 

『???』

『???』

『???』

 

必殺スキル

<回るコインの表裏(ヤヌス)>

『???』

 

補正

HP:C

MP:E

SP:C

STR:D

AGI:E

END:C

DEX:B

LUC:S

 

ク「鬼畜スキル。鬼畜エンブリオ」

デ「知り合いの前だと装備しないけどね」

カ「そうなの?」

ク「……デコの前で適当なことは言えなくなった」

カ「???」

デ「まぁ僕のは、色々びっくり驚きだよ。アームズ・キャッスルっていうのも珍しいから」

カ「確かにそうね。私もあんまり見ないかしら」

ク「デコがいるだけで、色々重宝されるよ。それだけ言っておく」

デ「多分次回出るからそこでどーぞ」

カ「次回私の出番あるか謎なんだけど」

デ「頑張って、きっと出番、出番あるよ」

 

【頭概天測 ホヴズ】

TYPE:アームズ・カリキュレーター

能力特性:探知&??

到達形態:第6形態

モチーフ:北欧神話の神ヘイムダッルルの剣。この名称は古ノルド語で「(人間の)頭」を意味する。

紹介:ホヴズは探知にて最強。覚えておけ。

 

スキル

 

<虹から見た世界(ボックモール・フェルデン)> LV:6

『他者のDNA情報を摂取し収納スペースに入れることで発動する。摂取したDAN情報を痕跡としてレンズに映し出すことが出来る。

なお、痕跡の探知は頭にある髪の毛などのDAN情報からのほうが精密に映し出される。

探知時はMPを継続的に消費する。

このスキルは対象が死亡、ログアウトするまで探知可能。

ストックも可能。最大3人までDAN情報をキープ出来る。このストックは24時間保持される(探知出来るのは一人まで)』

 

<橋の向こうへ(ユートベル・ヴェルワン)> LV:3

『ストックを貯められている中から対象を選ぶ。選べるストックは頭部のDAN情報からのみ。その選んだ対象先にテレポートすることが出来る。

消費SPはテレポート距離に依存する。

また、ストックに貯められている対象と肉体的接触があれば、自身の代わりに対象をテレポート可能。その場合テレポートの消費SPは1.5倍になる。

このスキルは2回まで行える。回数は2日に1回分使用回数が回復する』

 

???

 

必殺スキル

『???』

 

補正

HP:E

MP:D

SP:D

STR:C

AGI:E

END:B

DEX:E

LUC:C

 

 

カ「相性が悪くて仕方がなかった<エンブリオ>」

デ「探知能力も持ってるし、貴重なテレポート持ちっていうのはとてつもないアドバンテージだと思うんですけどね」

ク「相手が悪かったとしか。霊体系じゃ体の毛はないよ。しかも異空間作るし」

カ「かなり優秀な<エンブリオ>なのよね。私はこれのおかげで戦えてるところもあるし」

デ「<エンブリオ>って基本主からの評価高いけどね」

カ「まぁね。私達を思って作られたものだもの。良いものに決まってるわ」

ク「俺の<エンブリオ>……」

デ「クラウンのはクラウンので、ちゃんと必要に応じたのを出してくれてるから文句言わないの」

ク「第4形態早く来ないかなー。どっちの強化だろう」

カ「すっごく強くなるわよ。第4形態。私もそうだったから」

デ「クラウンのはあれで十分生かせば強いタイプだから。要練習だね」

ク「カレンさん付き合ってください」

カ「ひゃいっ!?」

デ「何考えてるんですか」




一旦ここでストック切れです。
プロットなど一回しっかり練りたいと思いますので、少しお待ち下さい。
<(_ _)>


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『トリスメギストス』
プロローグ


第二章、始まります。


■【大強盗(グレイトバーグラー)】ジョン・デリンジャー■

 

俺達――PKクラン<アル・カポネ>は今、『トリスメギストス』にいた。

それはここに封印されているとされる<UBM>を探すためだった。だが、

「どうだー? 見つかったか―?」

「いやー、見つかりません。ジョンナー」

「ジョンナー言うんじゃねぇよ。チッ、こっちもダメか。一体何処いるんだ<UBM>の野郎」

ジョンナーとは俺の名前『ジョン・デリンジャー』とクランオーナーを混ぜた用語だ。

どっかのメンバーがそう言って以来、意外と合っているとか言われ、そう呼ぶメンバーが増えていった。

それくらいは遊びの範囲だと、俺も見逃している。これはさっきまでの一連の流れも最早テンプレート。いつもやっている流れだ。

「探索型の<エンブリオ>使っても見つからないとなると、そういう探知無効みたいなのが掛かっているのかも知れません」

『トリスメギストス』に来て3日経った。この山は入るのでさえ苦労する馬鹿らしい山でレジェンダリアでは、入るのをおすすめしないとどいつもこいつもが言う。wikiにもそういう情報が乗っていると、誰も入らない。

「今度は霧が濃くなってきたぞ」

その理由は気候の変わりやすいさ。気まぐれのように気分が変わる気候に対応し、様々な装備を用意しなければいけない。そのため準備のためのコストを幾ら払っても抑え切れない被害に俺はイライラしていた。

「(ダメか。<DIN>から高い金出して買った情報だぞ。無駄にすんのか)」

その辺の岩場に座りながら被害からのリターンを考えていた。<UBM>は貴重だ。<超級><超級職>のキチガイ共が幾らでも狩っていきやがる。

あいつらは別格だといつも感じる。俺の【大強盗(グレイトバーグラー)】の<超級職>である【超強盗(キング・オブ・バーグラリー)】に決闘を挑み、戦ったことがあるが、結局俺は負けてしまった。

「(負け犬なんぞに、居る場所はねぇ)」

<Infinite Dendrogram>は可能性を感じる世界でもあるが、それ以上に行き詰まった時にどうすればいいかが難しいゲームだと、俺は感じていた。

エンブリオも第6形態に入り、500レベルまで全てのジョブを伸ばしきってしまっている。

ビルドの見直しも、俺は必要がないと感じてしまった。

全てを取り消して、新しい道に入るというのは俺はしたくなかった。【強盗(バーグラー)】系こそ、俺の道だと俺は確信しまっていたのだ。

「(後はどんなチート装備で身を固めるか。だな)」

大強盗(グレイトバーグラー)】は相手の装備を盗む職だ。敵の貴重な装備。選びに選んだアドバンテージを消す職業であるが、唯一盗めない装備がある。それが<UBM>のMVP特典である特典武具。こいつで身を固められたらたまったもんじゃない。

アルター王国にフィロガという闘技場の現チャンプが居たが、ネット公開されたフィロガの試合を見た時は俺は俺の限界を感じてしまった。

 

――噂されている装備強化能力の<超級エンブリオ>。

 

一見すると相性がよく見えたが何もかもが、俺と相性が悪い。

「(あんな奴が、1位のアルター王国は可哀想だ。まっレジェンダリアも大概だがな)」

1位の連中はぶっ飛んだ奴らばかりだ。挑戦する気にもならない。

そうした才能持ちが跋扈(ばっこ)し、 <Infinite Dendrogram>は固まっていってしまっている、と俺は感じていた。

「巫山戯んじゃねぇ。俺がここで止まるだと。そんなことあってたまるか」

そういった感覚を捨て、意識を奮い立たせる。俺はもっと強くなる。強くなるために、既存品の装備なんかが目じゃない程の装備。誰にも奪われることがない自分だけの特別な【特典武具】。

なんとしても手に入れる。

「ジョンナー」

「あ? どうした?」

「なんか変な小娘を発見しました」

「は?」

3日探索したが人影も何もなかった『トリスメギストス』で人影?

「追跡は? マスターか?」

「出しました。マスターまでかどうかは……接触を避けるために遠目だったんで。【兇手(デッドハンド)】ガロンが追跡中です」

「わかった。リアルで連絡取れるやつ用意しとけ。デスペナルティになったらそいつ通して連絡してもらえ。人影は追跡だけにしとけ。マスターだった場合は殺しも脅しにならねぇ」

マスターだった場合はデスペナルティになるだけで3日居なくなる。むしろ逃げられてしまう。それは不味い。情報を持っているやつは一人でも欲しい。

マスターは、いざとなったら自害することで逃げられてしまうので拷問はあまり意味を成さないのだ。

 

まぁ、NPC(ティアン)共は別だが。

 

奴らなら、殺さない程度であれば拷問もいいだろう。と言っても『トリスメギストス』に人影などさっきので初めてだが。

「他の奴らは一旦休憩にするぞ。TYPE:キャッスル持ちの中に入って、休憩だ」

「うっす。サブオーナーに伝えときます」

「(そいつを追跡して、どうなるか。明日中に何もなければ引き上げだな。コストが掛かりすぎる)」

<UBM>は沢山いるが、出来るだけ競争相手が居ない場所を選んだ弊害が出てしまったか、とにかく急がなければいけないと気持ちを焦らせた。

もう時間がない。

どん詰まりに入った俺を、俺達を救うために俺は歩き出した。

 

さっきまで霧が出ていたはずが、今度は雹が降り出した。普通ではありえないことが起こる。誰もが近寄らない危険地帯『トリスメギストス』。

そこから、また一つの物語が始まる。




三行まとめ
1.見つからない<UBM>
2.どん詰まりのジョンナー
3.人影?


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『トリスメギストス』の謎

動き出す歯車


■【魔拳士】クラウン・スプリングス■

 

ベンジャミンが去り、<快癒万能霊薬(エリクシル)>飲んだ俺はデコと顔を合わせ話し合いをしていた。

「どうしよう。ベンジャミンの話」

ベンジャミンの話を聞き、色々な情報が彼によりもたらされた。

クエストの難易度は『6』。<プラン>を採取するだけとは思えない程に難易度が高めなミッションだ。

「ベンジャミンさんからの話からは?」

「嘘を言ってる感じではなかったかな。目的も言っていたのであっていると思う」

ベンジャミンさんからの話を思い出す。

 

「<プラン>って?」

聞いたことがないきのみだったため、まず情報を欲したデコがそうベンジャミンさんに質問した。

「<プラン>は……そうですね。貴重なきのみだと思ってくれれば、口にすれば<快癒万能霊薬(エリクシル)>よりも強い効果がもたらされ、体のあらゆる所がたちまち良くなるとか。実際の効果は検証できていませんが」

「あれって取るの難しいし見つからないってことで、殆どの人が諦めていなかったかしら? 『トリスメギストス』に行くのだって、苦労するし」

『トリスメギストス』は名前だけは聞いたことがあった。全く気候が予想できない山で、何日も滞在することは辞めたほうが良いと誰もが口を揃えて言う危険地帯。

「だけど<プラン>の存在は他の人達にも認知されてるじゃない? どうして欲しいの?」

「<蘇生薬>を作りたいのです」

<蘇生薬>。 <Infinite Dendrogram>では『蘇生』はとてつもなく難しい。それこそ<超級><超級職>になり、奥義か何かを使わない限り達成し得ない『偉業』。

「今はまだ、試しても一度も上手くいったことがないですが、<プラン>などの貴重な材料があれば、それが出来るのではないかと、愚考しているのですよ」

「それを作りたい理由は?」

「むしろ、作りたくないと思えない理由がない。それが理由です」

『蘇生』が達成されれば、デスペナルティの回避も、ティアンの身近な死からの解放も、あるだけで様々なアドバンテージが果たされる。

「……報酬は? 流石にそれがないと僕達も参加できないよ」

「勿論用意してます。何人で参加してもらっても構いません。<プラン>一つにつき、"一人に100万リル”用意しております」

「……」

予想に反した金額だ。いや、<プラン>の入手難易度を考えれば妥当なのか……?

チラッとカレンさんを見ると、「二人で考えなさい」という顔をしている。こういったことも交渉の一つだと言うことなのだろう。

「ああ、申し訳ない。『トリスメギストス』に行くことを考えれば準備費用も必要ですね。"50万リル”即決でここで渡しましょう」

そう言い、ベンジャミンはアイテムボックスから大きな袋を出した。大分重いお金だ。本格的な戦闘があるとするならば、『トリスメギストス』の事前情報などを集めたりするならば、これぐらいが当然なのだろうか……。

「……」

デコも冷や汗をかいている。むしろデコのほうがこの重い状況に理解がいっているだろう。デコの【内外好転 ヤヌス】はそういう<エンブリオ>だ。

「何故、<YLNT(いえすろりしょたのーたっち)倶楽部>のクランメンバー同士でやらないのですか?」

俺はそう口にした。外部の俺達に持っていく意図がわからない。こんなにも高いお金を払ってまでやることなのだろうか。

「<YLNT(いえすろりしょたのーたっち)倶楽部>は私がいない時にもう<プラン>について調べ終わったらしいのですよ。そして、結局『取らない』という選択をしたと聞いています」

「(取らない?)」

「詳しくは自分で調べてみろと言われました。これについては私が見ないと納得しない質だったからでしょうか。まぁ単純に何でも人に聞くなという所もあったのでしょうが。

それで自分で調べるというと、私は生産職であるためあまりこういったことに向かない。それで託すことにしたのですよ」

「僕達に? もっと有名な所に頼まないの?」

「無名な方が良い。可能性に溢れている方が、この <Infinite Dendrogram>に相応しいと思いませんか?」

ここは茶化しているような雰囲気だったが、僅かに俺の方を見ていた気がする。いや、俺の方じゃない。俺の【矛盾創造 オメテオトル】の方、にだ。

「分かりました。今日中に返事をします。だから、一旦待ってくれませんか?」

「ええ、ええ。良いですとも、私は待っております。<プラン>収穫の期限は設けませんが、早めな方が良いとだけ。おすすめさせて頂きます」

そう言い、帽子とステッキを取り出し。ベンジャミンは離れていった。

 

それから、デコと話し合い。それと『<DIN>のカレンさん』からの『トリスメギストス』と<プラン>の情報を買い、その情報を見通している。

「うわぁ。『トリスメギストス』やばい所だね。数日滞在するならTYPE:キャッスルの<エンブリオ>かマジックアイテムが必須って感じ」

「そういう所はデコがいてくれるだろう。だけど下手にメンバー誘うと食料の問題が出てくるな」

パーティの人数は決まっているが、下手に募集するよりも二人でいったほうが得策と思える。

「あ、マスター。一つ宜しいですか?」

「どうした? シラト」

「私、魔力が乗っている食べ物しか食べられませんので」

「え?」

「"絶対"、魔力が付与されているような食べ物しか食べませんので。確保をお願いしますね」

「ハ、ハイ……」

シラトの有無を言わせない笑顔に押された。そういえばTYPE:メイデンは何かしらの偏食を持っていると聞いたことがあるが、これがそうなのか……そうだったのか……。

「ま、魔力が付与されてるってバフが付く食べ物だよね。つまり」

「はい。デコさんその通りです」

バフが付く食べ物は、付かない食べ物とは一線違う。バフが小さくてもそれなりの値段が付き、大きな物ほど、更に言うなら"有名人が作った物ほど"高い。

特に料理などはSNSなどに大量にアップされており、人によってはそれを見て来るお客も多い、【Fairy】もレジェンダリアのお菓子店TOP10には入っている名店だ。

「ちなみに味とバフの良し悪しは」

「美味しいほうが、より高いものの方が好まれますね。そこはマスターの甲斐性次第です」

一応バフが小さな物でも我慢してくれる口調だが、シラトは知っている。俺がブギーマンを倒して討伐依頼として得た"20万リル"に。

そしてシラトは食べてしまっている【Fairy】の美味しいバフの乗ったケーキを。

「が、頑張る」

「はい。期待してますマスター!」

手を取っていうシラトに、何処かの面影を感じる。

「(なんだ。何処かで見たことある気がするんだけど……シラトの顔)」

 

「で、どうするの」

デコが脱線しそうになっていたのを強い声で止めてくれた。

「<プラン>の採取が出来るかわからないのと、俺達の判断で<プラン>の採取を『やめる』可能性を伝えたら俺は良いと思う」

「うーん。一応理由聞いて良い?」

「ああ、前半は説明しない。分かるよな」

「うん。これについてはやれるまでやれなんて言われたら困るぐらいだもの」

「ああ、それは第一条件だし、クエストなんだから失敗って時もあるにはあるだろうから。後半だけど何か他のクラン達も、<プラン>採取辞めてるような気がするんだ。<YLNT(いえすろりしょたのーたっち)倶楽部>だけじゃなくて他のクランの人達も。

それは多分、ティアン関係なんじゃないかって思うんだ」

「へ? でも、『トリスメギストス』に人がいるなんて聞いたことないよ?」

「理由があって話さなかったんじゃないか? 安易に広まると、駄目な理由があるとか」

「あー、そういうこともあるか。確かに藪蛇突きたいわけじゃないもんね」

「そのティアン達が重要で、ティアンを保護する意味で秘密にしている。そのティアン達は、何か重要な役割を果たしている」

「……カレンさんから買った情報にあった<UBM>の話?」

「かも知れないの段階だけど。他の可能性もあるからそれは見てみないと分からない」

まだ『トリスメギストス』には何か隠されているかも知れない。触れるのは『やめた』というならば、それは難易度6などよりも遥かに上回る可能性がある。

「兎も角依頼は受けてみようと思う。さっき言った二つの条件さえクリアされれば、50万リルだけでメリットが有ると思うし……」

「『トリスメギストス』のこと確かめてみたいね」

「ああ、行くぞ『トリスメギストス』」

「うん。準備しないとね」

 

そうして各種準備を取り揃え、俺達はクエストに挑むことにした。

 

攻略対象クエスト難易度:六【採取――きのみ<プラン>】

行く先は、『トリスメギストス』。

目指すは――『トリスメギストス』と<プラン>の謎の答え。

クエスト、スタート。




三行まとめ
1.怪しい男ベンジャミン
2.高級なものしか食べないシラト
3.行こう!『トリスメギストス』!


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