指揮官と仕事とHK416 (が、画面の向こうの人形が僕を見てる!)
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番外編
設定集(ガバガバ、読まなくても良い)


厳正なるアンケートの結果

設定
6:3で載せる

他の人形
2:0で書く

指揮官と416の出会い
2:0で書く

というような結果に為りました事を御報告申し上げます。





この話は私が人形に感じたイメージを元に作成した設定集です。読まなくても何ら支障は御座いません。

尚、『指揮官と仕事とHK416』を書くに当たり原作の世界観と変更した点に付きましては何らかの要望が無い限りは載せ無い事とします。









あ、そうだ(唐突)


指揮官を社畜から解放するかのアンケートを取りますので、読まない方も一番下まで飛ばしてもらい、答えて下さると幸いで御座います。

(以下空白)




























・指揮官

 

 今作の主人公。当初は性別不明にしようとしていたが失敗したので男。地の文で一人称が《自分》だったりするのはこの為。

 公私を別ける事を心に決めており、その為しっかりさせたい時は《私》、それ以外は《俺》にしている。

 珈琲に弱く、飲んだら直ぐに腹を下すマンモーニ。

 民間採用で指揮官になり、それまでは林業家を営んでいた。

 実はグリフィン内で自分だけが社畜ムーブしている事に未だに気が付いていない。

 好きな人形はHK416、好みはVector。

 

 

・HK416

 

 今作ヒロイン。実は1話にだけ出して他は脇役になる予定だった。

 指揮官とは所属基地創設以来の仲であり、最初は後方幕僚と指揮官と416で業務を進めていた。

 鉄面皮で冷酷無慈悲なイメージとは違い、かなり《可愛い物》に執着しており、部屋が誰よりも女の子らしい。

 誰よりも酒に弱く、M16に醜態を見られた事が若干トラウマ。

 因みに第1話だけで終わる予定であり、書いた時は徹夜続きで眠れなかった。

 好きなものは指揮官、その次は猫。

 

 

・ネゲヴ

 

 第2話ヒロイン。実は一番設定を練った。

 何かのネット記事で読んだ話では、《ネゲヴは欠陥を抱えている》らしいのでこのネゲヴにも欠陥()を抱えてもらった。

 欠陥の内容は《他人との距離が測れない》というもの。現在は416の献身があり、改善した。その甲斐あってか、今では緊急時以外指揮官と目を合わせられない程だ。詳しい内容は要望があったら書く。

 どうでも良いが、途中までネゲヴではなくグリズリーを思い浮かべて書いていた。それと書いた時はマジで熱が出ていた。

 料理は人並みにでき、得意料理は何故か中華。

 好きなものは指揮官、次に調理道具。

 

 

・M590

 

 第4話ヒロイン。母性を求めていたので書いた。導入は『走れメロス』。

 指揮官を弟の様な存在だと感じている。その為、良く世話を焼きに部屋まで押し掛けたり、副官の日にはしっかり食事を摂っているか訊いてくる。

 指揮官に陰で《オカン》と呼ばれている事は知らない。

 趣味は読書と洋裁で、良く色々な人形に服の手直しを頼まれている。

 好きなものは人との会話。

 

 

・Vector

 

 第5話ヒロイン。早見沙織が好きなので書いた。

 この話を書いた時は、第1話を書いた時より頭が空っぽな状態で書いた為、導入がガバガバ。

 着任したばかりの頃は指揮官の事は只の仕事狂いのキチガイだと思っていたが、毎日《好き!(挨拶)》をされる度、何故か呼吸が荒くなり心拍が上昇するので恋()をしたと思っている。

 趣味は花壇の手入れと珈琲。

 好きなものは指揮官だと思っているが、本当は珈琲。指揮官は5番目位。

 

 

・リベロール1918(大陸版人形)

 

 第6話ヒロイン。病院へ行った際、患者衣を見て思い浮かんだので書いた。導入は『吾輩は猫である』。

 病弱な人形で常に包帯と血液パックを身に付けており、格好も患者衣。正直良く戦術人形やってるな、という見た目であるが、かなり有用。詳しくは書かない。

 普段はあまり出撃せず、基地の清掃をしていたりする。

 休日は良く映画鑑賞をしており、副官になった際は映画をあまり観れていない指揮官に無意識にマウントを取っている。

 かなり耳年増で控え目にいってHだと思う(個人の感想)。

 好きなものは映画。

 

 

・UMP9

 

 第7話ヒロイン。実は台詞が殆どない。導入は《ドグラ・マグラ》

 この基地には4番目に着任した。着任した当時はまだ余裕があった為指揮官と遊んでいたりした。

 最近は暗闇で銃を解体し元に戻すという遊びを行っている。何度かパーツが余る事があるらしい。

 特技は足音で人を区別する事で、一度聞いたら間違えはしないらしい。

 姉よりデカイ、そしてまだ成長する。

 好きなものは家族、それ以外は二の次。

 

 

・UMP45

 

 第7話ヒロイン。構想段階では居なかったのにいつの間にか居た。

 この基地には2番目に着任した。着任した当時は設備点検を主に行っていた。

 最近は暗器の扱いをマスターし、任務の幅が広がった。今ではレシート1枚でも凶器に変える事が出来るようになった。

 特技はハッキングで、自分自身がコンピュータの一種である為、特に媒体を介す事なくネットワークにアクセスできる。

 実は誰よりも仲間思いであるが、404小隊の隊長として悟られたくない為、わざと他から気に入られない様にしている。

 妹より小さい、そして成長しない。

 好きなものは基地の皆、でも1番は妹。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここから番外

 

 

・作戦報告書

 

 言わずと知れた今作のメインヒロイン。コイツを作製する為指揮官は1日の殆どの時間を割いて作業している。

 この基地では1バッテリーで5枚分の報告書が6つ出来る。

 何故なら作戦報告書職人が手ずから、1経験値も無駄にするかと、拘って書いているからである。

 因みに人形達が書くと、416クラスでは指揮官の3/5、その他ではカリーナネキの2/3程度になる。

 

 

・MDR(大陸版人形)

 

 第4、5話で出てきた人形。決して《TDN表記》ではない。

 この人形を簡潔に説明すると、『ネット大好きJK』だと思う。

 大陸版では3番目に手に入れた星5。

 

・G11

 

 察している方も居るだろうが、持ってない。

 何となくの雰囲気しかわからない。

 因みに3番目に着任した。

 

 

 

 

 

 

 

 

その他

 

 

・AR小隊

 

 主人公ではない為、所属していない。

 しかし、任務の際立ち寄る事はある。その時は過労気味な指揮官に差し入れをしている。

 

 

・404小隊

 

 訳あって主人公の基地所属。

 任務の際は指揮官に休暇の申請を入れている。

 

 

・IWS2000(大陸版人形)

 

 これから出したい。

 腐ってそうとか、クルーガー×主人公本持ってそうとか思ってる。この設定を生かすかは未定。

 

 

・M950A

 

 これから出したい。

 珈琲好きそう(小並感)

 リベロール回の人形はコイツにするつもりだった。

 

 

・UMP40(大陸版人形)

 

 これから出したい。

 でも出すとしても深層映写が終わった後です。

 

 

 

 

 

 

 どうでも良いことですが、第9話は最初、各話の人形達が話に関係のある場所を捜して、最終的に416が指揮官を見つける予定でした。

 ですが、上手く書けなかった為、あの様な形になりました。

 要望がありましたら、また書きます。




現在決まっているのはこの位です。
何か意見があれば増えるかもしれません。





04/04 20:16 追記
人形追加しました。


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人形と現実と忘却

 色んなゲームやってましたごめんち


 最近、私には大量の書類の処理に加えて、もう1つ仕事が増えた。それは指令室の掃除だ。

 私はいつも通り午前5時前には起床してある程度の身支度を整えたら先ず、指令室へ向かい澱んだ空気を入れ換える為に窓を開けた。そうしたら隣の物置部屋から掃除用具を幾つか取り出して、始業である6時頃に間に合うように掃除を始める。

 暫くして、ハタキで資料棚や執務机を払っていた時である。突然ガチャリとドアを開けて何者かが入ってきた。

 

 

「おはよう416、今日も精が出るわね」

 

 

 この人を小馬鹿にしたような挨拶をするのは、私の知る限り1人しかいない、UMP45だ。

 私は特に気に掛けず、掃除を続けたまま適当に挨拶を返した。しかし45にはそれが気に入らない様子で、話を続けてくる。執務机を挟んで呆れたようにして。

 

 

「…416、前にも言ったと思うのだけど」

 

「この前?何だったかしら」

 

「…そんなことを毎日続けていても、もう指揮官は帰って来ないわよ」

 

「そう、貴女はそう考えているのね」

 

「…これは事実よ」

 

「妄言ね」

 

 

 どうやら45は私が此処を掃除している事が気に食わないらしい。椅子の背凭れを掃きながら話を続ける。

 

 

「あの人が帰って来ないなんて事があるわけ無いでしょ、あの人はそんなに無責任じゃないわ」

 

「…そう言い続けて、もうどれ位の日月が過ぎた?」

 

「さあ?どの位かしら」

 

 

 今まで掃いていた椅子に深く腰を据え、45に眼を向ける。気分はさながら指揮官だ。試しに尊大に話を進めてみる。

 …指揮官はこんなに偉そうだったか。

 

 

「ねぇ45、貴女には指揮官が信じられないのかしら」

 

 

 視線の先の45は黙りこくった。歯を強く食い縛る音がギリリ、と耳に届いた。視線は私の周りをなぞるばかりだ。45がこんな反応をするなんて珍しいと、私は思った。いつも飄々としているこの人形は今日も何故か様子が違う。

 …も?

 まぁいい、私は畳み掛けるように話して続ける。

 

 

「45、貴女だって信じてるんじゃないの。指揮官は絶対に戻ってくるって。それが何日後か何ヵ月後か何年後かはわからなくても、絶対に戻ってくるって事を」

「戻って来たらあの人は、いつも通り執務を始めるのよ、書類を処理して作戦を立てて資料を纏めて…。それでまた疲れたように眠るのよ」

「起きたらまたそれを繰り返して、時々巫山戯た事をし初めたり、でも真面目になって仕事をしたり。いつも通り、いつも通りを繰り返すの」

「でもそれだったらまた居なくなってしまう…。だから今度は私が指揮官を管理するわ、と言っても指揮官は仕事が大好きだからある程度は仕事をしてもらって…それで指揮官が疲れないように、またいなくならない様に、私が仕事も食事も娯楽も休息も、ずっとずっっっっっっと付き添って、日常のどこを切り取っても全て、1から10まで私が管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して管理して、それで指揮官を続けてもらうの」

「また指揮官が逃げようとしたら今度は脚を切り飛ばすわ、そしたら逃げられないでしょう。1歩も歩けないから他の人形からは不審に思われるかもしれないけど、あの指揮官ですもの、また巫山戯た事をして怪我をしたとでも言えば納得してくれるでしょう」

「それでもまた指揮官が消えてしまいそうになったら次は左腕を、利き腕は最後に取り除くわ。そうしたらもう指揮官はいなくなれない、逃げられない、消えてしまわない、ずっとずっとずぅぅぅぅぅぅぅっと私と一緒…死ぬまで指揮官と一緒に過ごせるの!」

「だから、その為にまずは此処を綺麗に保たなくちゃいけないの、もし今日戻ってきてしまったら失望してまた直ぐに何処かへ行ってしまうでしょう…今度は逃がさないわ…絶対に」

「45達も強力してくれるわよね?行き場の無い私達を引き取ってくれた恩人の為ですもの」

 

「…」

 

 

 目の前の人形は苦虫を噛み潰したような顔をして此方を見る。私の提案が受け入れられなかったのだろうか。

 45は餌を求める金魚の様に何回か口をパクパクさせると、1度強く目を瞑った。目を開くと私を真っ直ぐ見詰めて問い掛けてきた。

 

 

「…416、それ、本気?」

 

「えぇ、勿論」

 

 

 間髪入れずにそう答える。本気でなければこんなことを言わない。

 45はさっきと変わらず私の要求には答えずに子供のように同じ主張を続ける。見ていて少し、痛々しい。

 

 

「416、今の貴女は正気じゃないわ。可笑しい、狂ってる」

 

「私が可笑しい?狂ってる?何を言うのかしら、そんな訳無いじゃない」

 

「いいえ、可笑しいわ、もう何回同じことを言わせれば気が済むの」

 

「何回?これが1回目でしょ」

 

 

 45はいつの間にか目に涙を溜め頬を赤くして、泣きそうで、怒っているような表情で俯いていた。今日の45はいつもと違う様だ。

 

 

「…416貴女は」

 

「45、それ以上つまらない冗談をひけらかすつもりなら出ていってくれないかしら。もう5時半よ、早く掃除を終わらせないといけないの」

 

「っ…そう、わかったわ」

 

 

 それじゃあね、とその人形は部屋を出ていった。静かにドアを閉めて。

 

 

 

 

 

*     side change : UMP45

 

 

 

 

 

 去年、鉄血による未知の攻撃を受けてしまった416は、未だに回復の兆しを見せない。今日も今日とて誰が使う訳でもない執務室を掃除している。

 

 指揮官がいなくなったのは、416が未知の攻撃を受ける数日前だ。もしかしたらそれが原因で攻撃を受けてしまったのかもしれない。

 …ある日、突如として自室にも執務室にも、指揮官と言う存在の証拠は消えてしまった。それは人形達も同様で、一部の特殊な強化を受けている人形を除き、『此処は元から人形だけで運営を進めていた』と認識している。

 

 なぜこんな事態になったのかはわからない、G&K社本社に問い合わせても『彼』が居たと言う事実は見付からなかった。それは記憶も同様である。ただ、彼と良く交流が有ったと言う一部の人間には彼の事を覚えているかもしれないと言質を得た。これが冗談や何か出ないことを願うばかりだ。

 

 執務室を出て、歩く気力が何故か出ずに壁に凭れて下を向くと何故か涙が垂れてきた。何度も繰り返し袖で拭う。

 もう何回、似たようなやり取りを繰り返しただろうか。416が正気に戻る事はない。あの兄妹に見せても原因不明、攻撃の正体も不明で、指揮官が懇意にしていたと言うペルシカに見せても同様であった。何が起こるかわからない以上、このままと云う訳にも行かないのだが、しかし何が可笑しいのかも判らず、最終的にはこのままと言う手段を取らざる終えなくなった。

 

 指揮官の居場所はナインとG11が頑張って追っている。私は指揮官の正体を探ると共に416の説得だ。…しかしどちらも芳しくはない。ナインは兎も角、G11は指揮官を忘れかけている。勿論G11も記憶が消えないように何重にもロックをかけているようなのだが。それでも駄目なようだ…。私の方は指揮官の履歴書を見付け出しただけで特に手懸かりは見付けられず、416も説得できていない。

 …つい先週、気に食わないが指揮官を覚えていた404小隊に協力を要請した。…ペルシカの方から話は行っていた様で、それでも見付からない様なのだが。

 

 …霧を追って靄を掴むような日々だ。如何な私と言えど、もう、疲れてしまった。

 本当に、疲れてしまった。

 

 

 

40、今貴女に会いたいよ。

 

 

 




続くかわからん

続いても投稿が今日に間に合わなかったらタイトル変えた方が良いよね…?
















やる気が出たのでタイトルを変えます


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本編
指揮官と仕事とHK416


仕事に疲れたので


 仕事がしたくない。

 

 ある朝、寝起きの布団の上で指揮官はそう思った。

 

 毎日のように山のような書類を片づけ、作戦報告書を徹夜で書き上げ資料室へ保管し、風呂や食事、睡眠を最低限こなしては上から下された指令どうりに戦術人形を派遣し作戦や任務をこなす日々。

 中でも作戦報告書を書き上げるのは時間が掛かり、毎日約10時間はそれに充てている、お陰で先月に腱鞘炎になった。

 報告書作成を副官として手伝おうとする人形も居るが教える時間が勿体無いし、それをする時間があるなら一人でやった方が効率が良い。

 別に人形自体が報告書を書くことができない訳ではないが、殆ど皆個性的な作戦報告書を書き上げるのだ、これでは読めたものではない。ちゃんとした報告書作成ができるような人形は古参で練度が高く作戦や任務に欠かせないから高々作戦報告書作成程度に充てられない。

 報告書作成を手伝ってくれる後方幕僚はこの基地には居らず、S09地区の後方幕僚が毎日デスマーチだと言う噂を聞いてか誰もこの任に就く人間は居らず、上に問い合わせても

「今の状態で貴官の基地は運営できている」

等と言う返答のみで話にならなかった。

 

 まぁ詰まる処、指揮官は疲れていたのだ。

 

 

「こうなりゃ今日の仕事はボイコットや!」

 こんな黴臭くて埃っぽい基地からおさらばや!と指揮官は直ぐに逃走の準備を開始する、当然この基地は黴臭くも埃っぽくもないのだが、疲れた指揮官の心が早朝の基地をそう見せる。

  取り敢えず基地から出て外周区域の街の酒場にでも行くかと考え、財布と携帯端末だけを持ち部屋を出る。

 今の時間は0440、いつもなら資材倉庫へ行き備蓄数を確認している時間で、この時間ならほぼすべての人形が眠っている時間であり、のんびり逃走を図れる筈である。

 万が一の為に司令室へ行き書き置きを残し、堂々と正面玄関から出て行き、一刻も早くここから離れようとしたところで一人の人形に声をかけられた。

 

 

「指揮官?」

 まだ冷たい朝風に靡く青い髪に紫色のベレー帽、エナドリのように黄緑色の瞳とその下にある赤い涙型のタトゥー、その手には彼女と同じ名を冠するアサルトライフルが携えられていた、そう彼女はHK416である。

 彼女は指揮官がこの基地に着任してからの付き合いであり、今最も会いたくなかった人形の一人だ。

(まずい、実にまずい)

 指揮官はいつもならまだ寝てるだろ!と心の中で悪態をつきながら416をどう切り抜けようか考える。

「きょ、今日は早いね?なんかあったか?」

 苦し紛れに口から出た言葉はおかしいくらいにに震えていた。

「?、今日の基地周辺警備は私よ、指揮官。それより指揮官はどうして此処へ?」

 416の言っていることは本当であるのだが、人形一人一人のシフトを一々覚えていなかった指揮官は

(まさか416は自分を捕まえに来たのでは…?)

などと見当違いのことを考え始めていた。 

(取り敢えず適当なことを言って誤魔化さなければ)

 そう思った指揮官は外壁のメンテナンスとでも言って誤魔化すことにした。

「き、基地の外壁のメンテナンスだよ?ま、万が一があったら困るしね?」

 挙動不審で目も泳ぎまくっていたが、416は寒さのせいだろうと思いそれで納得したらしい。

 416は自分を捕まえに来たわけやなかったんや!この理由で納得するなんてチョロいで!などと考えながらホッと胸を撫で下ろし、今度こそ基地から離れようとすると5mも歩かないうちに416からまた声をかけられた。

「外は危険よ、指揮官。此処ら一帯を制圧したとはいえいつ鉄血が攻めてくるかわからないんだから」

 口外に基地から出てはいけないと言われた指揮官はマジで自分を捕まえに来たのでは?と考えはじめた。

 指揮官は更に適当な理由をつけて外へ行こうとしたが、416が

「指揮官がそこまで言うなら私も行くわ、これで指揮官は安全ね」

と言い、何故か二人で外壁調査と洒落込む羽目になった。416が自分を捕まえに来ていると信じている指揮官からすれば地獄である。

 もうこの時点で指揮官は416から逃れることを諦め、どう416の機嫌を取り仕事から逃げるかだけを考えていた。

 そんなことを考えながら外壁を見て回っていると416に何かを感づかれたのか、何を隠しているのか聞かれてしまった。

 聞かれた以上は仕方なく、やはり自分を捕まえに来たのだと確信し、仕事から逃走しようとしていたこととその理由を事細かに白状した。

 すると416は顔を引き吊らせながら小声で

「あの量の書類を全て一人で精査していたの…?」

と言うと俯いて考え込んでしまった。

 因みに指揮官が普段片づけている書類の量は厚さ2,30cmが大体五山分ほどである。当然この基地だけでこの量になる筈もなく、殆どは他の基地から押し付けられた書類である。指揮官は生粋の天然なのでそんなこともあるだろ程度で済ませているが、そんなことはない。

 考え込んでいた416が顔を上げ、指揮官の方へ向くと

「指揮官、私たちと一緒に今日は休みましょう」 と言った。

 

 

 完璧主義の416らしくない言葉に指揮官は戸惑った、正直416から雷が落ちる覚悟はしていたし、愛想尽かされると思っていた。だが返ってきた言葉は

「一緒に休みましょう」

である、意外とかいう次元ではないもうわけがわからない。

 416と一緒に基地へ戻る道すがら、基地周辺警備は大丈夫なのかとか仕事をサボろうとしたことを責めないのか聞いたが、416は他の人形に任せればいいとか、あの仕事量は異常だからたまには休んだっていいとか、そんならしくない答えばかり返ってきた。

 そんなこんなしている内に基地へ戻ってきて、416はまず最初に戦術人形が過ごしている朝を迎えたばかりの宿舎へ向け指揮官が休む旨の放送を流した。

 正直この後どれだけ文句を言われるか気が気でなかったが、416から大丈夫よと声を掛けられると、不思議と大丈夫だと思えた。何故かサボるのに肯定的なのが気になるが、416がとても頼もしかった。

 

 

 放送を終えた416に連れられて着いたのは、『AR HK416』と書かれているネームプレートの下がった扉の前であった。この部屋は416の自室である。

 416に入ってと言われ内心緊張しっぱなしでお邪魔しまーすと言いながら入ると部屋の中の光景に指揮官は目を見開いた。

 HK416は所詮女の子趣味であったのだ。

 普段とのギャップに言葉を失い、驚愕のあまり無意識で

「えっ何ここは?」

と言う始末である。

 416は指揮官の反応から少し恥ずかしがりながらも、ベッドに座るよう促した。

 指揮官が座ったことを確認すると416は何か飲む?と聞いてきた。

「何でもいい」

と素っ気無く返すと少しニヤけながら

「コーヒーでも淹れようかしら」

と冗談めかして言ってきた、慌ててコーヒー以外を頼むと416はわかってるわよと言ってきた。

 そのまま一息つくと指揮官は緊張が解れたのか、部屋をよく観察しようとした。

 緊張が解れたことを見計らってから416がこう言った。

「指揮官、あなたの疲れをとるために私は何でもするわ」

 その言葉を聞き指揮官は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、部屋で何があったかはわからないが、指揮官とHK416が暫くの間、妙に余所余所しかったという。




続かない


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指揮官と風邪とNegev

熱を出したので


 

 いつも通りに起きて感じたのは、目の奥の痛みと、関節の痛み。それから頭がぼーっとしだして、どんどん体が火照ってきた。

 まさかと思い体温計を手に取ると頭が重くなってきた。

 体温を測らずともわかる、自分は今熱を出している。

 それに気がつくとぱったりと糸が切れたように布団の上に倒れてしまった。

 

 

 額に冷たさを感じ、重い瞼を開く。

 まず見えたのは艶のある桜色の髪、それから白地に青で縁取られた欠けた六芒星、そして鮮血のように赤い瞳、朧気な視界の向こうに見えた彼女は不安そうな顔をしていたと思う。

 頭のこれはなんだと手をやれば、そこには冷却シートが貼ってあった。

 大丈夫?と彼女に訊かれ、口を開いて大丈夫だと伝えようとすれば、喉に痛みが走ってうまく発音できない。

 それを見て彼女は更に不安そうな顔になってしまった。

 それから彼女は自分を起き上がらせてから水を飲ませてくれた。

 喉の痛みが少し引き、やっと少しだけ喋れるようになったので彼女に礼と大丈夫だということを伝える。伝え終わったら、それだけでも大分疲れたので布団に再び寝転がる。

 大丈夫だということは彼女に伝わったようで、少し安心した表情になった。

 心配させないでと言う彼女は儚げな表情をしていたと思う。

 彼女が立ち上がり自分の居る布団から離れ台所へ向かって行く、少し寂しいが彼女は今から何か作るつもりらしい、楽しみだ。

 彼女に時間を訊いてみると11:26よと言われた、始業の時間はとっくに過ぎていた。

 今日の業務はどうなっているか訊いてみるが、今日くらいは休んでと言われてしまった。それでも気になって業務は滞りなく進んでいるか、自分が休んでしまって大丈夫か、等と訊いていると、今日は基地のほぼ全てを休みにしたわ。と返ってきた。

 それはそれで不味いのではないかと思ったが、彼女が安心してと言うので、大丈夫なのだろう。 

 

 

 そうこうしているうちに彼女が台所から戻ってきた、その手には湯気の上る小さい土鍋が握られている。恐らくお粥だろう、具材を当ててやろうと鼻から息を吸い込んで、よくわからないと言うことだけがわかった。風邪っぴきは辛いのである。

 彼女は土鍋を置こうとして、机がないことに気がついたらしい。結構天然なのだろうか。

 一旦土鍋を台所へ置き、部屋の隅に畳んで置いてあるちゃぶ台を持って自分の目の前に設置した。その後やっと土鍋を持ってきて、漸く中身が見えた。

 土鍋の中身はシンプルな卵粥だった、どうやらお粥で当たっていたようだ、内心ほくそ笑む。

 いただきますと言って蓮華を取り卵粥を味わおうとすると、彼女は蓮華を自分の手から奪い取り、蓮華の上のお粥にフーッと細く息を吹きかけ冷ますと、あーんと自分に食べさせてくれた。

 恥ずかしさや風邪のせいで味はちっとも感じなかったが、お粥はとても美味しかった。

 一口目を食べ終わり、ありがとう美味しいよと口にすると彼女はスペシャリストの私が作れば当然の結果と耳を赤くして言っていた。

 それから自分で食べていると、お粥がなくなりかけたところで彼女はまた食べさせてあげようかと顔をほんのり赤くしながら言い出した。

 それがなんだか可愛くってよろしく頼むと笑いながら言うと、彼女は更に顔を赤くしながらやってくれた。

 もう最後の一口なのだから冷ます必要はないのにフーッと息を吹きかけて、あーんと食べさせてくれた。

 

 

 お粥を食べ終わった後は彼女は土鍋を洗いに行き、自分は眠くなったので近くにあったスポーツドリンクを少し飲んで寝ることにした。

 おやすみと皿を洗っている彼女の後ろ姿に声をかければ、よく寝て早く元気になりなさいと返ってきた。

 わかったよと一言だけ返して自分は眠りに着いた。




駄文は続くよどこまでも


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指揮官と日常と作戦報告書

本気を出した指揮官は最短で1時間に80枚仕上げることができるらしい(身を犠牲にした最効率)


 作戦報告書作成職人の朝は早い。

 

 

04:20

 起床、朝食をとり、上官として恥ずかしくない様に身だしなみを整える。この時間は特に気を使って鏡を見る、人形達に「うわっ私の指揮官、キモすぎ…」と言われないためである。

 

 

04:40

 身だしなみを整えた後は戦術人形達が起きてくる前に資源備蓄倉庫へ行き、資源収支を報告書と照らし合わせて確認する。

 この際夜戦を終えてようやく帰還した戦術人形が居ることがある、その場合はよくやったと誉めてやれば良い。序でに戦闘データを受け取れたら尚の事良し。

 

 

05:10

 確認が終わったら司令室へ向かう前に輸送物資受け取り所へ赴き、基地外に存在する街からの郵便物や他基地と本部から送られてくる大量の書類等を受け取る。

 荷物を受け取ったらまず社外から送られてきた郵便物の中身を確認する。殆どがうちの人形への差し入れやら役場への申請書(何故か送られてくる)やらだが、極稀にヤバい物が紛れているので慎重に選別しなければならない。

 

 

05:45

 次に今日中に処理せねばならない書類等を持って司令室へ向かう、この頃には人形達も起き出しており元気に挨拶してくれるのでしっかりと挨拶を返す。

 殆どの人形達が食堂舎で朝食をとっている間、遠方任務のある小隊の見送りをし、司令室で書類を仕分け始める。仕分ける際に時々誰かがイタズラで仕込んだのか鉄血からの果たし状が見つかるが、これはイタズラにしては悪質なので司令室前の廊下に貼り付け犯人には反省してもらうことにする。犯人が見付かったら416達が折檻しに行ってくれる筈だ。

 

 

06:20

 書類を仕分け終わる頃には人形達が朝食を終えているので召集し、朝礼を訓練棟の射撃場で行う。

 適当に二、三話したら「本日も怪我のないよう過ごすように」とでも言って話を締めくくる。

 朝礼が終了したら、今日の副官と一緒に一日の予定を確認しながら司令室へ向かう。

 これでようやく本日の業務に取り掛かれるようになる。

 

 

 

06:35

 仕分けた書類の内、期限が今日中及び近日迄のものを仕上げる。種類にもよるが殆どが判子を押してサインをするだけなので簡単だ。

 副官が手伝おうとしてくるだろうが仕事を教える手間が面倒なのでお茶汲みでもさせておく、少し酷いかもしれないがこれは人形達が知らなくても良い情報が眼に入るのを防ぐためでもある。戦えなくなった人形の始末書類は絶対に彼女らには見せてはならない。

 

 

08:30

 この時間から任務のある小隊が出発する時間なのでしっかり見送る。任務概要は人形達の頭に叩き込んであるので、不測の事態がなければ特に滞りなく済ませてくれるだろう。

 

 

08:45

 非番の人形達が遊びに来るだろうが、戸棚の菓子を出してやり副官を遊び相手として引き渡せば直ぐに帰ってくれるだろう。どうせお茶汲みしかさせてあげられないのだから皆と遊んできた方がいいだろう。

 

 

09:20

 この時間からは長ったらしい文章を書かなければならなかったり他地区や本部に問い合わせなければならない書類を仕上げる。

 適当に文を書き、適当に問い合わせて少し質疑応答すれば終わるので比較的楽な業務である。

 

 

12:00

 食堂へ赴き、人形達と昼飯を食べる。何故か一緒に食べたいという人形が多いからだ。

 

 

12:30

 今日処理した書類の精査を始める、誤字脱字は未だに少しあるためそれらを修正する。

 このあとは任務に出た人形に進捗を訊き、作戦を修正しなければならない。どれだけ事前に用意していても必ず不測の事態はあるものだ。

 

 

13:25

 作戦に出ていった人形達に指示をだす。殆ど問題はないが、それでも指示を出すのは形だけでも指揮官としてあるためなのかもしれない。

 

 

15:20

 作戦報告書の作成準備を始める。

 前日提出された戦闘データを解析し、作戦に参加した人形達の配置を確認。会話ログも確認しておく。

 

 

16:35

 解析したすべての戦闘データを幾つかのモニターに映しながら、要点をメモしていく、このときばかりは副官にも手伝ってもらう。

 

 

17:00

 夜戦に出発する小隊を見送る。

 夜戦の時間はこちらが手出し出来ないので優秀な人形達に向かってもらうことにする。

 

 

18:00

 作戦報告書作成の始まり

     ~地獄への道~

 

 取り敢えず副官には片手で食べられる物を用意してもらう。

 作戦報告書は少しでも不備があれば人形に入る経験値が少なくなってしまうのですべてに神経を使い手書きで書いて行く。コンピューターで書いた方が早く仕上がるので出来れば使いたいが、この前エラーを起こしたので今回は使わないこととする。

 さっき要点をメモした用紙を見ながら書きすすめていく。

 

 

19:00

 副官に用意してもらった物を食べながら書きすすめていく、報告書に落とさないように注意を払うが、手を止めてはならない。

 

 

20:30

 手を止めてはならない、書きすすめていく。

 副官にはここで帰ってもらうことにする。

 

 

 

21:00

 手を止めてはならない、書きすすめていく。

 

 

 

 

22:00

 手を止めてはならない。

 

 

 

 

 

23:00

書きすすめる。

 一部人形が話しかけてくるが、適当にあしらう。

 

 

 

 

 

00:00

 てを止めてはならない、書きすすめる。

 

 

 

 

 

00:30

 手を止めずにかきすすめる。

 

 

 

 

 

 

01:00

 ……………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

01:30

 作戦報告書を書き終える。

 報告書は日付を書いたファイルに入れ資料室へしまいに行く。

 

 

 

02:00

 今日の業務は終わり。

 シャワーを浴び、寝巻きに着替えて自室の布団で寝る。

 

 

 

 

04:20

 起床、今日も報告書を書く。

 




指揮官ってのは楽な仕事じゃねぇんだよ!





前話改稿しないかも(面倒)


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指揮官と計画とM590

イベント周回に疲れたので。






2/9 02:20タイトル修正


 指揮官は激怒した。

 

 何故、指揮官である俺が作戦報告書なんぞを書かねばならぬのか。

 

 指揮官には最初、報告書の書き方などてんでわからぬものであったが、後方幕僚が居なくなってからというもの自らの手で、或いは有能な人形達と二人三脚で少しずつ作成してきた。

 

 だが今となってはどうだ、鉄血の猛攻に毎日のように人形達を出撃させる日々、帰還してから自分一人では書けないからと手伝わせるのも申し訳ない。

 

 次の日に先送りにしようとしたが、毎日毎日作戦情報が溢れそうになる日々、貧乏性なものだから溢れないようにしなければ気がすまない。

 そこで今のような長い夜の時間を利用するスタイルになったのだ。

 

 溜まりに溜まったストレスによって正気を失った指揮官はクルーガーをストレスで禿げさせることを決意した。

 

 最近はいつもと違い仕事が少ない、届く書類が少ないのだ。

 理由は何故だかわからんが、これを利用しない手はない。

 これを利用して仕事をボイコットし、あの邪智暴虐の髭面をハゲという地獄へ叩き落とすのだ。

 

 

 

 

 

03:50

 少し早めに起床、朝食を摂り、逃走の準備をする。

 この基地周辺は高山地帯で基地はちょうど麓に面している。そこで、この地形を利用して軽い家出をすることにした。

 前のように街へ繰り出そうとしようものならば、人形の見つかり袋叩きに遭いかねん。

 

 

04:25

 いつもと違い資材倉庫には向かわず、輸送物資を受け取りに行く。

 この時間ならもう色々と届いている筈なので、それらを回収して台車に載せる。

 

 

05:15

 資材収支の確認へGO、配給から乾パンとレーション、チョコ等と飲料水を回収して台車の荷物に紛れ込ませる。

 減った配給分は書類から誤りがあったとして差し引いておく、これで完全犯罪成立や…!(ガバガバ)

 

 

05:40

 何食わぬ顔で司令室へ向かう。目敏い人形が菓子をねだってくるので少し分けて万が一の為に懐柔する。

 この時最悪と言って良い情報をMDRから聞いてしまった。

 

 今日の副官は《M590》らしい。

 

 

 

 

 やばい、何がやばいって今日の副官がM590な事だ、これはやばい、やばすぎる。

 M590の事を簡単に説明するとこの基地のオカンだ、断じてお母さんであるとかママではない。

 オカンである所以は彼女はなにかと世話を焼く事が好きで、よく部屋を勝手に片付けたりしてくるからだ、たまに「ちゃんとご飯食べてますか?」とか聞いてくるところとかも完全にオカン。

 だがそれだけでは自分が今彼女を恐れる理由にはならない、理由は他にある。

 

 少し前に一度だけ、確か半年くらい前だ。

 彼女にイタズラを仕掛けたんだ、P7と二人で考えたちょっとしたイタズラだ。彼女に取らせたファイルの中に黒光りする例の虫の玩具を挟んでおいたのだ。

 普通は「きゃっ!驚かせないでください!」みたいな反応をするだろうが、彼女は違った。

 「は?(怒り)」みたいな声を出したのだ、その後三、四時間余正座でずっっっっと説教された。正直それからはちょっと彼女にビビりつつ生活している。

 

 

 

 

 

 今日の副官はイワシちゃんが良かったなぁ…、なんて考えながら書類を仕分けていると司令室の扉が開いた。

 膝まである絹のような長い白髪とどこか人を安心させる様な琥珀色の瞳、そして魅惑的な褐色の肌、出撃時とは違い私服姿の彼女は微笑んでいて何故か楽しそうだ。

 そう、彼女はM590、魔王降臨である。

 

「おはようございます、指揮官。仕分け、手伝いましょうか?」

 

「おはよう、今日はM590か。じゃあ手伝ってもらおうかな、この机の上のを頼むよ」

 

 正直心のなかではビビり散らしているし、台車に載っている配給に気付かれなくないから手伝って欲しくないが、これが指揮官の精一杯である。

 だが机の上の書類など微々たるものである、仕分け終わるのに10分も掛からないだろう。

 指揮官は逃走計画がバレたくない一心で必死に考えた、どうすればM590より速く仕分け終わるのかを、しかし台車に載っている書類は机の上の四倍はある。そこで指揮官は逃走計画に関係のあるものだけを何処かへ隠すことにした。

 自室は駄目だ、いつだか手持ち無沙汰になった彼女は「指揮官、最近自分の部屋を掃除してます?指揮官は散らす癖がありますから心配です」みたいなことを言って本当に掃除をしてきた事がある。

 この司令室は当然ながらダメだ、逃走に必要なものは他の荷物同様に一応段ボールに入れてはいるが明らかに重いし宛名がないから怪しい、もしかしたら「何ですかこれ」とか言いながら開けかねん。

 色々考えたがやはり駄目か、と思ったその時、名案を思い付いた。

 トイレだ、トイレに隠そう。この司令部は当然ながらトイレは男女別だ、男子トイレには流石に入ってこないだろう。

 

「イタタタタタタ、ハラガイタイヨォー、コレハトイレニイクシカナイナァー」

 

 わざとらしく腹を擦りながら片言で言う、明らかに怪しいが彼女は何故かスルーしてくれた、これは勝つる。

 荷物を体で隠すように持ち、違和感の無いようにそっっっと部屋を出る。実際は違和感バリバリである。

 

「指揮官、待ってください。その隠しているものはなんですか?」

 

 バ レ て し ま っ た か ?

 いや、まだだ、M590は「何を隠しているのか」と訊いた、何を持っているかはわかっていない筈だ。

 そっと死角からポケットに右手を突っ込み飴を取り出し彼女に投げ渡す。バレていないなら多分納得してくれる筈や…!

 喰らえ!!鉄砲玉(飴)!!!!

 

「これだよ」

 

「……はぁ、何を隠してるかと思えば飴玉ですか、…まぁ良いです、ありがとうございます」

 

「うむ、良きに計らえ」

 

 よっしゃセーーーーーフ!!!!!!

 釈然としない感じだったがバレてないからセーフ!!!

 ふゥへへへへへェェェ!!!!馬ァ鹿めェ!!!!!本当の目的はこの荷物じゃああああああああ!!!!!!!

 部屋を出たら急いで便所へ向かい掃除器具入れに隠す、多分見付からないだろう。

 隠す序でに用を足し、何食わぬ顔で部屋に戻る。

 

「指揮官、戻られましたか。本日分の書類はこちらに仕分けておきました」

 

「おお、ありがとう。じゃあいつも通り楽にしてて良いよ」

 

 逃走計画がバレないよう黙々と作業を進めていると、書類に目を通していたM590が声を掛けてきた。

 まさか計画がバレたか…!?

 

「………前から思っていたのですが、指揮官は少々無茶をしているのではないですか。今日もほら、目元に隈が出来ていますよ、しっかり睡眠とってますか?まさか、徹夜とかはしてませんよね?」

 

 お前は俺の母親かよ。

 

「問題ない、昨日は0100には床についている」

 

「問題しかないじゃないですか、しかも聞くところによると毎朝陽が昇る前に起きてるようですし、明らかに睡眠不足で疲労が溜まってます」

 

「416から聞いたな?疲れが溜まっているなんてそんなことはないぞ」

 

 今でもピンピンしてるだろうに、それに徹夜はもう馴れた。

 

「そんなことあるに決まっているでしょう、はあ」

 

 疲れたように彼女は溜め息をつく、そして一言。

 

 

「指揮官、今日は休みましょう」

 

 

 

 

 

 今、何故か自分はM590に膝枕をされている。

 一体これになるまでの間何があったかは何故か思い出せない、しかし何故膝枕をされているのだろう。何故M590は嬉しそうなんだ…。

 太ももの柔らかさを認識する、鼻腔をふわりとした甘い香りがくすぐっている。羞恥心で考えが纏まらない、思考があっちへこっちへずれていく。

 取り敢えず何故膝枕をされているのか訊いてみる。

 

「……何故、膝枕をされているんだったっけ?」

 

「指揮官が眠いとぼやいていたからです」

 

 わけがわからないよ…

 何故眠いという一言だけで膝枕をされなければならないのだ、いや、満更でもないのだが。

 出来ればここに永住したい位だ。

 

 はっ!!まさか!!逃げようとしている事に気付き拘束しようとしているのでは!?

 そうとなればすぐに逃げ出さなければならんぞ!予定変更だ、本来なら今日の書類を処理し終えた後基地からでて明日以降仕事が減るまで山でボイコットするつもりだったが、これは今すぐこの程よく柔らかい太ももから逃げ出さなければ!!

 

「M590、今すぐに処理せねばならん案件を思い出した」

 

「さっき終わったって仰ってましたよね」

 

 あれそうだったっけ(記憶喪失)

 ヤバいなこれは逃げ出せないかもしれん、眠気も増してきた、どうにかして…どうにかして逃げなくては………

 

「指揮官、仕事の心配は要りません。安心してお眠りください」

 

 M590の安心する声が頭を支配する。

 駄目だ、眠気に抗えない…ZZzzzz…………フトモモ………

 

 

 

 

 

 

 こうして指揮官の逃走計画は水の泡となった、尚トイレに隠した荷物はかくれんぼしていた非番の人形に見付かり、食料はおやつに、衣類は襤褸として二束三文で売り払われたのであった。

 




大陸版もやってるから大陸版キャラが出てくるよ、許してちょんまげ(小声)


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指揮官と逃走計画とVector

早見沙織ボイスが好きなので(迫真)。




Vectorの性格が違うかなと思ったけどこのまま投稿します()。


 今日は珍しく我が司令部は休みである。

 

 何故ならここ最近気候が安定せず、鉄血でさえ自然の驚異には敵わなかったのか先日この戦線から撤退していった。まだ近くに基地があるため油断はできないが。

 

 それに天候のためか書類も荷物も何も届いていない、業務を次の日に持ち越したりもしていないので仕事がない。

 

 そんなわけで今日は逃走に使う経路を確保し、序でに何人かの人形を逃走する為の仲間に引き込もうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の副官はVectorである。

 このVectorという人形は一見攻撃的で厚顔無恥、一切他人に興味が無いように思えるが、本当は自己評価が低く、仲間思いで優しい人形である、彼女にしたい。

 そしてこのVectorはとても可愛いのである。すべすべしていて玉のように白い肌、肩の上まで伸びたその銀灰色の髪はよく手入れされているのかさらりとして天使の輪とも呼べるものが表面に窺える。また、その曇りのない眼はまるで早期にサトウカエデから採ったシロップのように綺麗なコガネ色をしている。身に纏う衣は、少しタイト目なワンピースのような服でスカート部は股下から十数糎程しかなく、彼女の穿いているニーハイソックスとの間の絶対領域には弾装を仕舞うためのベルトが巻いてあり、強すぎない程度の絶妙なエロスを感じさせる。彼女にしたい。

 

 

 彼女にしたい(迫真)。

 

 

 

 

「おはよう、今日の副官は私よ、失望した?」

 

「好きです(迫真)」

 

「えっ」

 

 おっといけない、心の声が漏れてしまった。

 

「いやなんでもない。おはようVector」

 

「え、ええ。それで今日の仕事はなに?」

 

「いや、今日は何もない。だから色々探索してみようかと思ってな」

 

「あら珍しいわね。いつも過労死するんじゃないかって位働いてたのに」

 

「まあ、たまにはこんな日があっても良いだろう」

 

 さて、まずは何処に行こうか。

 

「Vectorッ!君の意見を聞こうッ!」

 

「な、何よ、私の意見?聞いてどうするの?」

 

 参考にすると思うんですけど(名推理)。

 

「今日何処へ向かうかの指標にしようかと思ってな」

 

「そうね……訓練棟なんてどうかしら。たまには私達の練度がどれくらいか把握したらどう?」

 

「ふむ、たまには良いかもしれんな。よし、訓練棟へ行こうか」

 

 確か訓練棟の近くにはグラウンドや射撃場があった筈だ、次に逃走するときはそこを通ろうか。正面玄関から逆であるし案外気付かれないのでは、そう考えるが訓練棟の向かいには資源保管庫があることを思い出した。これは見付かるのではないかと一瞬思考するが、向かいだし分かるわけがないと一蹴する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この基地の訓練棟は司令部から向かって西側に位置しており、周辺には前述した通り射撃場にグラウンド、資源保管庫があり、これ等を総称して《演習場》と呼ばれている。

 だが今回向かうのはその中の訓練棟のみだ、何故なら司令部から通路を使い行くことが出来るのは訓練棟だけだからだ。こんな荒れた天気のなかわざわざ射撃場やグラウンドに向かいたくはない。

 

 訓練棟に着くまでは特になにもなかったので割愛する。

 

 目的地に着くとそこには出撃がないからか様々な人形がそれぞれ切磋琢磨していた。ある者は近接格闘技、ある者は装備の慣らし、実に多種多様である。

 

「この時間帯に此処に来たのは暫くぶりな気がするな」

 

「それもそうでしょうね、少なくとも半年は仕事で缶詰になっていたんですもの」

 

「そんなに長かっただろうか」

 

「長かったわよ」

 

 Vectorと雑談しながら逃走に使えそうな物を探す。が、中々見付からない。それもそうだ、此処は人形達が訓練するための場所である、決して人間が逃走するための施設ではない。

 だが指揮官はそんなこと関係ないとばかりに計画がバレないように程々に周囲を見渡している。まあ、実際には指揮官は気が急っているばかりに無意識に大きくキョロキョロしていたのだが。幸運だったのはVectorは指揮官との話を楽しんでおり指揮官自身に目を向けていないことか。

 そんなこんなでVectorと話ながら歩いていると、背後からパシャリとシャッター音が聞こえた。振り返るとそこにはケータイを構えたMDRが居た。

 

「いっひひ~、指揮官のデート写真ゲットだぁ!《グリフィンタレコミ掲示板》では恋人がいなさそうな指揮官ランキングで堂々3位だった我が基地の指揮官にも遂に春が到来か!」

 

「そうだよ(威風堂々)」

 

「ちょっと!そんなわけないじゃない、私は飽くまでも副官として付き添っているだけ。くれぐれも掲示板とかにはあげないで」

 

「あっ、そっかぁ(届かぬ想い)」

 

「え~、本当にそうなの~?つまんないのぉ」

 

 Vectorにさらりとフラれたがそれはそれ、後で写真を送ってもらおう。

 

「じゃあ『指揮官が彼女の横で汗だくの人形達をガン見してた~!キャー襲われちゃーう!』送☆信!」

 

「あっおい待てぃ!(江戸っ子)そんな投稿をされたら私の評価が地の底に落ちる、だから止めてください!何でもしますから!」 

 

「ちょっ、指揮官そんなこと言ったら………!」

 

「え~!本当?指揮官!!だったらぁ、今度最新式のケータイ買ってよ~!」

 

「ぐっ……わかった、良いだろう。その代わりさっきの写真送っておいてくれ」

 

「良いよぉ、よぉ~し!遂に最新のケータイを改造して可愛い私を撮る事が出来るぞお!」

 

 まるで嵐の様にMDRは去って行った。そして去って行った後に思い出した、仲間に勧誘するの忘れてた。

 少しだけ後悔しながらVectorと共に先へ進む、未だ逃走に使えそうなものは見付からない。

 

「あら、指揮官じゃない」

 

 聞き慣れた透き通っている声がした。そっちに顔を向けると416が作業机でアタッチメントを取り換えていた。

 

「416か、調子はどうだ?」

 

「まあ、ぼちぼちね。そんなに悪くは無いわ」

 

「そうか、そりゃいいな。調子は良すぎると却って悪いからな」

 

「そうかしら」

 

「そんなもんだよ」

 

 416と軽口を叩き合う、なんだかんだ基地に着任してからの付き合いなので一番接していて疲れないのが彼女だ。

 416を逃走仲間に加えようか迷ったが、彼女はこの前逃走計画がバレたばかりだ、それにまた逃走しようしてるとバレると〆られそうだ。ここは仲間に加えずそっとしておこう。

 

「ちょっと待ちなさい、指揮官」

 

 ウェイ!まさかバレたか?そんな馬鹿な、今回は隙を見せていない筈だぞ!

 416が此方へ近付いてくる。そして目の前に来て首元に手を伸ばした。

 

「襟が立ってるわよ、しっかりしなさい」

 

 えっバレてない……?

 

「えっ、あ、あぁ、ありがとう」

 

「本当にこういう所は前から直らないわね」

 

「これでも気にしているつもりなんだがなぁ」

 

 よかったバレてないぞ!………ん?何416?そんなに顔を近付けて、

 

(今日は何を企んでいるかは知らないけど、程々にしなさい。Vectorに迷惑かけたら駄目よ、指揮官)

 

「アッハイ」

 

 バレとるやんけ。

 

 416と離れ、再びVectorと一緒に様々見て回る。だが416に『Vectorに迷惑をかけるな』と言われてしまった以上、周りをチラチラ見ていられない。適当に区切りをつけて司令室へ戻るかな。

 

 そうこうしている内に訓練棟を一周してしまったようだ。それにしてもVectorと雑談して歩き、適当な人形と話しただけで終わってしまったな。Vectorが言っていた『人形達の練度の把握』がまったく出来ていないぞ…。

 

「そろそろ全部見て回ったかな」

 

「そうね…。指揮官は私達の練度の把握、できた?」

 

「あ、ああ、お陰さまでな」

 

「妙に歯切れが悪いわね…どうかした?」

 

「あー、いや実はな、話に夢中で周りをよく見てなかったんだよ。だからあまり把握出来なかった…すまない」

 

 するとVectorはふふっと笑って一言。

 

「別に良いわよ、私は今日楽しかったから」

 

 

「ありがと、指揮官」

 

 

 この時のVectorはとても魅力的に見えた。逃走なんぞどうでもよくなる位には。

 

 




こっそり投稿してる連載が滞っているのでお茶を濁す。

最後適当に終わらせたけど許して下さい!何でもしますから!













何故今回がVectorなのかはわかる人はわかるハズ。


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指揮官と医務室とRibeyrolles-1918

久々に病院に行ったので。







読んでて『なんやでこれ』って思った事があったら感想にて知らせてください。どうにかします。


 吾輩は社畜である、役職は指揮官。

 

 今日はいつから仕事をしているかはとんと見当がつかぬ。何でも薄暗い司令室の中でもひぃこら言いながら書類を処理していた事だけは記憶している。

 

 吾輩はここで初めて副官というものを見た。しかも後で聞くとそれは《リベロール1918》と言って基地の人形中で一番病弱な人形であったそうだ。

 

 このリベロールと言うは時々出撃帰りに医務室に立ち寄り休んでいるという話である。しかしこの当時はなんという孝もなかったから別段心配とも思わなかった。

 

 

 吾輩はリベロールの事が心配である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の副官の子に『昨日副官だったリベロールが医務室で寝込んでるみたい』と言われたので今日はリベロールのお見舞いに行こうと思う。

 てな言う訳で今日一日は逃走を諦めることにする、リベロールに感謝するんだなァ!!

 

 早めに仕事を切り上げ、今日は徹夜だという覚悟を胸にリベロールの眠るであろう医務室へ向かう。

 朝は静謐としていて心が引き締まる廊下もこの時間は非番の人形達が遊んで騒いでいて、それは眺めていてとても微笑ましく、其処にこれから突入して医務室へ向かうのは非常に躊躇われた。

 勇気を持って通るとすれ違う人形達は物珍しそうに此方を見てくるが、万が一『うわっキモ』と言われるのを避けるため、声を掛けるのを止しておく。もし何もせずとも言われたらその日に指揮官を辞職し、一人雪山で冬眠する覚悟だ。

 

 そんな下らないことを考えている内に医務室の前に着いた。

 久し振りに見る《医務室》と掲げられた如何にも清潔そうな部屋は薬や消毒液がほんのり香っていた、鍵も空いているし明かりも点いているが誰かが居る気配はない。

 はて、目的の彼女は何処だろうか?と部屋に入って直ぐにある背凭れの無い椅子に座って考える。

 

 暫く思考していると、背後から「指揮官さん…?」とか細くもはっきりとした声が耳に届いた。振り返るとそこには目的の人形が居た。

 毛先に少しだけ水色とピンク色のグラデーションのかかった長い白髪、同じようにグラデーションのかかった瞳とまだ幼さが残る顔、患者衣のような服を纏う体は色白で、頭部と腹部からは輸血の為のチューブが太股の血液パックまで伸びている。

 この如何にも病人な彼女こそリベロール1918である。

 

「指揮官さん…どうして此処に?」

 

「君を見舞いに来たんだよ、寝込んでいると耳にしてね。昨日無理をさせてしまったんじゃないかと」

 

「大丈夫です…我慢強い事だけが、私の取り柄ですから」

 

 彼女はそんなことを豪語しつつもコホッコホッと少し咳き込んでいる。

 

「そんなところに立っていては体に悪いだろう、早く布団で横になりなさい。ほら掴まって」

 

「え…指揮官さん、悪いですよ」

 

「いいから、いいから」

 

 彼女の腕を引き、ベッド迄に連れて行く。少し強引だが心配なのだ。

 

「っ……痛い!…指揮官さん、力入れすぎです……」

 

「す、すまない!じゃあこうだ……っ!」

 

「きゃあっ!な、何を…!」

 

 彼女の腕から一旦手を離す。その後右腕を彼女の膝の裏、左腕を彼女の背中の方へ回して一息に持ち上げる。俗に言う《お姫様抱っこ》である。

 こうしてみてわかったことだが彼女は思った以上に軽く、とても心配になった。まるで儚く脆い雪のようだと感じた。

 まるで毀れ物を扱うようにそっと部屋を歩き、ベッドの並ぶ場所まで慎重に抱えていく。

 

「指揮官さん…あの、」

 

「ちょっと待っていろ」

 

 少しだけ顔を朱に染めた彼女を手近なベッドにそっと寝かせ布団を掛け、近くから毛布と湯たんぽを取ってくる。まだまだ冬で寒いのだ、体を暖めて貰わなければ。

 

 彼女の布団の上から毛布を掛けて、手が空いたのでお湯を沸かしに行く。台所でヤカンを用意し水を入れ、そのままコンロで火にかける。お湯が沸いたら直ぐに湯たんぽに容れられるように近くに湯たんぽを置いておく。

 お湯が沸くまでの間にそこらの棚を探し湯たんぽを包むタオルを取ってくる。

 それでもまだお湯が沸くまで時間があるので彼女の近くに寄り、昨日無理をさせたことを謝ることにした。

 

「昨日はすまなかったな、仕事が行き詰まっているからと言って君に手伝わせるような真似をして。本当に申し訳ないと思っているよ」

 

「指揮官さん、謝らないで下さい。昨日我が儘を言って指揮官さんを手伝っていたのは私の方ですから。そのせいで指揮官さんにここまでお手数お掛けしてしまって……本当に申し訳ありません…」

 

「謝るのは君の方ではない。部下の疲労を見逃してしまったのは私の責任だ」

 

「そんなことありません、指揮官さんは自分の事を責めすぎです」

 

「そうは言っても、君が副官になった次の日にこうなっているのだ、私だって少し無理をさせ過ぎたなと思っていたのだから、明らかにこっちが悪いだろう」

 

「はぁ……指揮官さんがそこまで考えているなら仕方ありませんね」

 

 彼女は呆れたようにそう言った。

 そして彼女は少しの思考をして、声をちょっぴり弾ませながらこう言った。

 

「私をこんなにした責任を取ってくださいね」

 

 

 

 

 

 

* side change : とある人形 ......副官

 

 

 

 

 

 

 昼過ぎ頃に『リベロールのことが心配だ』と言って部屋を出ていった指揮官が夕方頃になっても戻ってこない、『仕事はまだあるから少ししたら戻ってくる』とも言っていたと言うのに、一体何処をほっつき歩いているのやら。

 普通、少しお見舞いをするだけなら長くても一時間もすれば戻ってくるもの、と思って居たのにまだ戻らないのだ、明らかに可笑しいだろう。しかも医務室はこの指令室のある棟の端である。別棟でもないしそこまで遠い訳でもないのだから用事を済ませたらすぐにでもあの仕事大好き指揮官が戻ってこないと可笑しいのである。

 考えたくはないが、もしかして何処かに逃げたのだろうか、この前冗談なのかなんなのか『あー、仕事やめて農業でもして暮らしてぇよ』と彼らしくないことを言っているのを聞いたことがある。もしここから逃げているのだとしたらかなりヤバイ。

 あの指揮官はあれでもこの司令部では少しだけ人気があるのだ、もし居なくなったと知れればちょっとした処ではない騒ぎになることは火を見るより明らかだ。

 

 仕方無いなと、ずっと座りすぎて一体化するのではないかと感じていたソファーから腰を上げる、少し呻き声をあげながら伸びをして背中を反らすとパキパキと小気味良い音がなった。

 机の上に置いていた少し冷めた珈琲をぐいっと飲み干すと指揮官を探しに部屋を出ることにした。

 

 部屋を出るともうすぐ夕御飯ができる時間だからか人形たちが食堂へ向かっているのが見えた、その中の一人が私が部屋を出るときに中を覗いていたのか『あれ、指揮官は?』と聞いてきたが居なくなったことがバレると不味いので適当に誤魔化しておいた。

 何処へ指揮官を捜しに行くかなと思考を回すが私は逃げてはいないと希望をもってまだ医務室に居ると思うことにした。きっと話が盛り上がっているのだろう。

 

 医務室へ着くとそこは夕暮れの光が窓から射していていつもの清潔な白色の部屋から橙の部屋へと染め上げられていた。

 そのまま真っ直ぐ唯一使われているカーテンで囲われたベッドへ向かうと穏やかな吐息が二つ聞こえた。

 一瞬指揮官がリベロールと致してしまったのか!という桃色な思考が頭を過るがあの指揮官がそんなこと出来る筈がないよなと持ち直す。

 目の前に垂れているカーテンに手を掛けそっと開くと、そこのベッドで指揮官はリベロールに寄り添って眠っていた。普段では考えきれないほど優しくまるで父性を帯びたような表情で穏やかな寝息をたてていた。

 この分ならリベロールに手を出してはいないな私はそう判断して、そろそろ仕事だと指揮官を起こそうと考えるが、指揮官は普段余り寝れていないから寝かせておいた方がいいかなと考え直す。

 残っている仕事はそんなに難しい物ばかりでは無いのだ、書類の作成くらい自分でもできる。それにいざとなれば誰かを巻き込んで終らせれば良いのである。

 

 

 私は静かにその場を立ち去った。

 

 

 

 




各話毎に書き方が違うのは書いている気分が違うからです。




最後に出てきた娘は後で適当に決めます。


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指揮官と悪戯とUMP姉妹

溶かしたので息抜きに。


 ……………キィイイ――――――ンンンン――――――ンンンンン……………………。

 私が薄々と眼を醒ました時、こうした甲高い耳を劈く音は、まだ金属を掻く様な余韻を、私の耳にハッキリと引き残していた。

 それをじっと聞いているうちに……今は真夜中だな……と直覚した。そうしてどこか近くで携帯電話が起動しているんだな……と思い思い、又もウトウトしているうちに、その金属を掻く様な余韻は、いつとなく次々に消え薄れて行って、そこいら中がヒッソリ静まり返ってしまった。

 

 私はフッと眼を開いた。

 

 

 

 何故か目の前に《UMP9》が居た。

 

「ぬああああああああああああああぁぁぁああああぁぁああああああぁああああああああぁぁぁぁああ!!!!??!??!!!!??」

 

 

 思わず絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故こいつが目の前に居るのかわからない、しかも寝る前には居なかった筈だ、正直色々と怖い。もしかしたらもしかするかも知れない。その場合は責任を取るしか無いのか…?

 ナインと自分の衣類には目立った乱れはない、セーフか…?多分。

 色々と怖いが取り敢えず起こす事にした。それにしても良く寝てるなこいつ。

 布団から起き上がり、体を揺さぶりながら声を掛ける。

 

「おい、起きろ、起きてくれ」

 

「ぐぅ……」

 

 駄目ですねこれは、完全に熟睡ですわ。

 ………かっ、勝手に布団に入って来たんやから悪戯()してもバレへんやろ…グヘヘへ…ヌフヘへへへ………。

 

 先ずは何をしてやろうかとナインを舐め回すように観察する。若干処ではない位に変態チックである、正確にはド変態チックだが。

 それにしてもこの人形、普段の性格が鳴りを潜めるていると中々に美人である。いつもは元気溌剌で美人と言うよりやんちゃ娘と言うイメージが先行してしまっていたが、どうやらそれは間違いだった様である。

 

 2つに結ばれていた赤朽葉の髪は今は長々しく下ろされている。まるで瀬戸物の様に白い頬は健やかに眠っている為か上気していて厭に色っぽく、右目の傷も指でなそってしまいたくなる程美しく映えて見えた。普段とは違ってポリエステル生地の薄い寝巻きに包まれた姉とは違い豊満な肢体は、艶やかに私の自制心を揺さぶった。

 

 ……なんか悪戯するのが申し訳無くなってきたな、万が一姉の《UMP45》に見付かった場合は何をされるかわからんし…下手したら一生立ち上がれなくされそうだ……うーん、辞めようかな。

 でもただで引き下がるのも何か癪に障るしな、寝顔でも撮っておくかな。

 携帯電話を取り出してカメラを向ける、起こしてしまわない様にフラッシュは切って暗所モードで撮ることにする。勘が良いから気付くかもしれないが寝てるから心配ないだろう。

 

「んー………この辺かな?よっと」

 

「良く撮れてるじゃない」

 

「だろ?…………ぇ」

 

「どうしたのかしら、指揮官?」

 

 後ろから聞き覚えのある声が聞こえた………ヤバいな、どうにかやり過ごさなければ。

 

「い、居たのか45。どっから入ってきた、鍵は掛かってただろ?」

 

「ああ?あれの事、ナインが壊して入ったのか掛かってなかったわよ」

 

「えぇ…」

 

 どうやって入ってきたかの謎は解けたな。

 

「まあいいじゃない、あの子だって最近『指揮官が遊んでくれない~』ってぶー垂れてたのよ。少し位許してあげてね」

 

「ほう」

 

 多分やり過ごせそうやな。

 

「ならばこの写真で私の部屋の鍵を破壊した事は許すことにしよう」

 

「それでいいわ」

 

 カーテンの隙間から入る月明かりに照らされた45は、静かに微笑んでいた。

 

 内心指揮官は凄く安堵していた、45から逃げ切れそうだからだ。このまま誤魔化し続ければ私がナインに悪戯しようとしたことはバレないだろう。

 

「45は何故ここに?」

 

 すると45は此方を見てニッコリと笑った、何故か私は肉食獣に睨まれた様に恐怖で動けなくなった。

 

「ナインが指揮官に変な事されてないか心配で心配で、だから見に来たのよ、指揮官」

 

「ほ、ほう。まあ大丈夫だろう、私には416が居るからな」

 

「じゃあさっきは何しようとしてたのかしら?」

 

 笑顔の圧が増した気がする、息が詰まって死にそうである。

 

「あー、写真を撮ってただろ?」

 

「ふふ、その前よ。私にはナインに良からぬ事をしようとしてる様に見えたのだけど、もしかして浮気?」

 

「見てたのかよ」

 

「見てたのよ」

 

 下手したら45経由で416にも立ち上がれなくされそう。土下座するしかない気がする、どうしようか。

 

 

 

 私は━━━━━━━

 

 

 

「すみませんでした、悪戯しようとしてました」

 

 

 ━━━━━━━全力で土下座した。

 

 

「正直で良いわよ、今回は見逃してあげるわ」

 

「アザス!アザス!」

 

 助かる為にはプライドは捨てなければならないのだ。

 




今回の書き出しの元ネタがわかった人はかなりの本好き(偏見)
でも有名な本だからわかる人多そうやなぁ

今回も適当ですみません!許して下さい!何でもしますから!



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指揮官と4月馬鹿とHK416

エイプリルフールなので。


 今日は4月1日、通称《エイプリルフール》と呼ばれる日である。世間ではこの日に嘘を吐いても良いらしいが、この基地であってもそれは変わり無いようで、朝から指揮下の人形達が嘘を吐きに現れている。正直迷惑であると感じる節はあるが、変化の少なく殺伐とした昨今では貴重なイベントである為、仕方無しに付き合っている。仕事に関しては最近少なくなっているので前の様な無理はする必要が無いだろう。

 

 嘘を吐かれ続けて指揮官はふと思い付いた、幾ら仕事が少なくなってきているとは言え多いものは多いのだ、ならばまた増えない内にこの《嘘を吐いて良い日》を利用しこの基地から逃げ出せないかと。

 思い付いたら即行動だ、思い立ったが吉日とは良く言ったものである。この嘘に塗れた基地から逃げ出して自由に羽を広げて暮らすのだ!指揮官はこの意気込みを胸に着々と逃走の準備を始めるのであった。

 

 普段は始業前に逃走しようとしたり、副官の目を盗み逃走を図っていたが、これが駄目だったのだ。一番怪しまれずに逃げ出せるのはこの日だけである。しかし、懸念事項が一つ。今日の副官は《HK416》である。

 HK416という人形は兎に角勘が鋭いのである。前に逃走を図ったときはこの人形に潰されたのだ。その後の事は良く覚えてはいないが暫く口も聞けなくなったので余程惨いことをされたに決まっている。しかもこの前「怪しい事をするなよ」(意訳)と釘を刺されたばかりだ、逃げ出す事がバレたのなら最悪この世からおさらばだろう。

 だが今日は嘘を吐いて良いと言う免罪符がある!これで幾ら怪しまれようと『あぁ、今日はエイプリルフールだからだな』と適当に流してくれるに違いない!嘘を吐く日に本当の事を言うなんて思いもしないだろう。

 

 

 作戦決行は午後からだ……覚悟しろよ416…!

 

 

 

 

 

 

 

* side change : HK416 ......副官

 

 

 

 

 

 

 

 今日は嘘を吐いて良い日らしい、その為普段は恥ずかしくて口に出せないような事を口にしても後から嘘であると言えば許されるのである。そこで私はこれを利用して指揮官に告白することにした。

 

 暫く前に指揮官が仕事が多いからと逃げ出そうとした時、私は指揮官に告白紛いの事を言われた。私が何でもすると口にしたせいだが、結局はナニも起こらずただ添い寝をしただけである。しかも指揮官は余程疲れていたのかその事を綺麗サッパリ忘れていた上、頭の何処かで覚えているのか私と少し疎遠気味になっていたのだ。

 ならばあの時の指揮官の告白は無効である、今度は私から確りと《嘘の》告白してやる。エイプリルフールと言う日はどんな事でも口を滑らせてしまう不思議な日なのだ。しかしこの嘘は嘘ではない、だから私は《嘘を吐ける時間》が終わる午後に告白することにした。

 

 指揮官は少し世間に疎いから嘘を吐いて良いのが午後までとは知らないだろう、だから指揮官は私の告白を嘘と受け取るのだ、だがこれで良い。指揮官が後で真実を知った時、指揮官は私の、私だけの指揮官になるのだ。

 

 

 

 作戦決行は今日の午後、覚悟しておくと良いわ、指揮官。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何事もなく午後を迎え、作戦決行の時刻になった。いざ指揮官に告白するとなると胸の鼓動が高まるが、飽くまで冷静に指揮官に告白だ。

 

「指揮官、ちょっといいかしら?」

 

「奇遇だな、私も416に用があったのだ」

 

 指揮官が私に用?珍しいな一体なんだろうか、私は早く告白したいと言うのに。覚悟を決め話し掛けたと言うのに焦らされては緊張しすぎて訳のわからないことを口走りそうだ。

 

「私の話は後で良いわ、指揮官から話してくれるかしら」

 

「ああ、では私から話そう。」

 

 すると指揮官は長い間をおいて、ある言葉を吐いたのだ。私が嘘でも聞きたくないある言葉を。

 

 

 

 

「私は今日で指揮官をを辞める、これから此処を出て行くよ。長い間世話になったな、416」

 

 

 

 

 瞬間、思考が停止した。体が底冷え、思うように言葉が発っせなくなった。

 

 まるで悪い夢を見た様に目の前が暗くなり、背中から変な汗が噴き出した。

 

 周囲の気温が一気に低下した様に全身は震え、歯はカチカチと硬い音を発している

 

 口からは言葉とも取れないあやふやな音が「あ……あぁ、あ」と意味を持たず出ていった。

 

 

 停滞している思考をなんとか動かし平静を装いながらまだちゃんと働きそうにない頭を使い考える。

 

 恐らく、指揮官は嘘で言ったつもりなのだろう。それは自信満々な表情からして明らかだ。それに私はこの前も《似たような事》を聞いた筈だ、なのになぜこんなにも狼狽えているのだろうか。

 指揮官はこの態度からして午後は嘘を吐かないと知っている筈だ、なのになぜ戸惑う必要がある?自分の思考が安定しない。

 

 ふと、気付いた。

 私は《似たような事》は聞いてもここまでハッキリと、指揮官の口から《辞める》と聞いたことが無かったのだ。

 だからこんなに狼狽えているのだ。

 

 少しずつ頭が平常を取り戻してきた、体の震えは止まり、呼吸も元に戻り始めた。

 指揮官にこの発言の真意を問う事にする。

 

「し、指揮官。それは嘘でも言ってはダメよ、もちろん嘘なのはわかっているけれど」

 

「いや、私は本気だ。して、416。私に何か言いたい事があるのだろう?」

 

 指揮官は剰りにもあっさりと『本気だ』と口にした。それは私の思考を再び凍らせて、私は何を言おうとしていたのかサッパリと忘れてしまった。

 

「……いえ、何でもないわ指揮官。お元気で…」

 

「ああ!それではな」

 

  指揮官は一仕事終えたように軽い足取りでこの指令室から出で行ってしまった。

 

 私はその場から動けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃあああああああ!!!!!自由だあああああああああ!!!!!!」




新元号は「步枪」です、間違いありません。


※步枪はARの事






















もうちっとだけ続くんじゃ

明日(昼)投稿します。



04/03 03:46 追記
元号外れた上に投稿遅れましたね。


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指揮官と終わった嘘とHK416

エイプリルフールが終わったので。


 指揮官がこの基地から立ち去ってから一時間が経ち、私はまだその場から動けずにいた。コン、コンと扉をノックするその音で漸く私は金縛りが解けたように動けるようになった。依然として体は重いままだが。

 

「指揮官、入っても良い?少し話があるのだけど」

 

 扉の向こうから聞こえた声は私が良く聞き馴染みのある繕ったような高い声で、普段は不快感が立ち込めるそれに私は飛び付いた。何でも良いから助けが欲しかった。

 

 

 

「45ッ!」

 

 

 

 私は扉を開き、まるで母を見付けた子供の様にその人物に近寄って、縋る様に抱き締めた。

 

「え?ちょ、ちょっと416?どうしたのよ、良いから離れて、もう嘘を吐いて良い時間は終わったのよ………ねぇ416?」

 

 私の様子が可笑しい事に気が付いたのか45は私を抱き締め返して「どうかしたの?」と優しく訊いてきた。

 ゆっくりと指令室に入ると客人用の大きなソファーに二人で座り、そして話を始めた。

 

「45…実は、もう、気付いていると…思うのだけど……」

 

 『指揮官が指揮官を辞めて、この基地から出て行った』その事実は私が口にしようとすれば、それは剰りにも重く、指揮官の様にまるで冗談みたいに軽々しく口には出来なかった。話そうとすればする程に私の眦からは涙が溢れ出して、喉が震えた。

 しかし45はそんな私に「大丈夫だから、ゆっくりで良いわ」と子供に言い聞かせる様に囁いた。

 

「あ、ありがとう……それで…し、指揮官が……」

 

「指揮官がどうしたの?」

 

 鼻を啜りながらどうにかその言葉を絞り出した。 

 

「指揮官が、辞めるって……基地を、で、出ていって……しまったのよ…」

 

 身体が震えて涙がより溢れた。人形だからこの程度では狼狽えないと頭で言い聞かせようとしても駄目だった。

 

「…そう、良く話してくれたわ416。」

 

 すると45は私をぎゅっと抱き締めて続けてこう言った。

 

「普段は蚊帳の外から眺めてるだけだけど、貴女がここまでなるんだもの。任務に支障を来たされたら困るし、今回は私がどうにかするわ」

 

「45…」

 

「だから貴女は安心して眠っていて頂戴。起きたら全てが終わっているわ、あれは唯の悪い夢だってわからせてあげる」

 

 私は安心して45の胸の中で眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

* side change : UMP45

 

 

 

 

 

 

 

 

 すっかり夢の中へ旅立った416をソファーに寝かせて、近くにある指揮官の部屋から毛布を持ってきてかけておく。少しは安心できるだろう。

 さて、指揮官がこの基地から出ていったとの事だが、今日はエイプリルフールだ、一縷の希望にかけて先ずは上着に付けているGPSを確認しよう。

 このGPSは普段は余り使わない、何故なら指揮官は殆ど指令室に籠りっきりで仕事をしている為だ。それに居なかったとしても他の人形が居場所を知っているので態々確かめる必要はない。

 懐から無線を取り出しナインへ連絡を取り、居場所を確認する。

 

「ナイン、聴こえてるかしら?」

 

『通信良好!バッチリ聴こえてるよ!』

 

「そう、それはよかったわ。指揮官の上着に付けてたGPSは今何処?」

 

『ちょっと待ってね……あった!資源備蓄倉庫だよ』

 

「了解、貴女も其処に向かって貰える?」

 

『了解!今行くよ!』

 

 ナインの情報を信じるならば、指揮官は資源備蓄倉庫に居る事になる。果たして素直に其処に居るだろうか。居てくれたら良いのだけど。あの指揮官の事だ、きっと対策をしているに決まっている。とは言え向かわない訳にはいかないが。

 

 案の定そんな願いは通じず、資源倉庫には指揮官の上着だけが残されていた。しかもポケットにはご丁寧にメッセージが書かれた紙切れ一つ。

 

『今更捕まる訳には行かない、見付けてみろ』

 

 それは私の敵愾心の様なモノに火を着けた。

 

「絶対に見付けてやるわ……覚悟しなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 資源備蓄倉庫から見付かった指揮官の上着を手に私とナインは作戦を練っていた。

 指揮官はこの基地の人形に好かれている。指揮官が居なくなったと知れれば大多数の人形が混乱に陥るだろう。その為、指揮官は信頼できる404小隊の仲間達で探す必要がある。

 私達404小隊は現在4体の人形が所属している、少数精鋭と言う奴だ。その為誰か1体が抜けるだけで戦力はガクッと落ちる、今回は早期に見付けるのは少し厳しそうだ。まあ、かと言って指揮官を見付けられないと言う訳にはいかないのだが。

 一先ず自室で眠りこけているG11を叩き起こして指揮官探しに参加してもらうことにする。いつもは何かにつけて休もうとするが今回はちゃんと協力するらしい。正直助かる。

 

 実を言うと、指揮官が何処に居るかは大体の目星が付いている。余談だが私は416の次にあの指揮官と居た時間が長いのだ、考え位は判る。しかし今回はそれが仇になっている、目星が付きすぎるのだ。つまりは複数の候補があると言う事だ。流石に全て回っていては運が良くない限り見付からない可能性が高いだろう。

 さて、どうしたものか。手分けをして探すとしても少々キツいな。

 

 

 

 

 

 

 

* side change : 指揮官

 

 

 

 

 

 

 

「俺は自由だああああああああああああああああ!!!!!!!!Fooooooooo!!!!!!!!!やっとだッッッッッ!!!!やっとッッッッ!!!!!」

 

 木々の生い茂った山の斜面を全力で下りながら指揮官を辞めた喜びを叫ぶ。苦節1年とちょっと、漸く指揮官を辞められた。もうあの大量の書類を処理する事も!人形達の機嫌を窺うことも!!戦場に送り出す事も!!!!しなくて良いのだ!!!!!!

 

 ふぅ……取り敢えずは近くの街にでも向かおう、そして久しぶりに酒でも飲むのだ。金ならあまり使わないから腐る程あるし、お高い物でも飲もうかな。今から楽しみだぜ…!!!

 

「おっ、そろそろかな」

 

 山を下り続けて3時間程、辺りがすっかり暗くなった頃に建物郡が見えてきた。漸く街に着いたのだ。

 さて、酒場にでも向かおうかな。確か中心地から路地に入った場所にあった筈だが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

* side change : UMP45

 

 

 

 

 

 

 

 

 指揮官を探し始めて約4時間弱が経ち、未だ指揮官は見付からない。山を2、3週し、街までの直線道の監視カメラを解析し、街で聴き込みをして、それでも見付からない。

 もう駄目だ、他の2人には悪いが自棄酒でもしたい気分だ。確か外れに古い酒場があった筈だ、そこで少し飲んでからまた探そう。

 

 なにやら賑わっている酒場に入り、適当な安酒を頼む。一気に煽って、盛り上がりの中心に目を向ける、どうやら賭けをしているらしい。

 

「あっ」

 

 指揮官がいた、しかも結構な大金を賭けている。私達がこんなに苦労して探したと言うのにこんなにあっさり見付かるとは。なんだか怒りが沸々と沸いてきた。1発位ぶちかましても良いだろうか。

 

 昂る感情で出そうになる笑いを抑えながら歩を進める。背後に回って私の獲物を突き付ける。辺りが鎮まった所で一言。

 

「指揮官、探しましたよ」

 

「えっ」

 

「さ、帰りましょう」

 

「う、うわあああああああああああ!!!!!!!!やだ!!!帰りたくない!!!!!!!!!」

 

 ドンッと壁に弾を撃ち込んでやる。

 

「帰 え り ま し ょ う」

 

「はい、本当に申し訳ございませんでした」

 

 静かになった指揮官を引き連れ店を出る。

 早く帰ろう、416も待っているだろう。

 

 

 

 

 

 

* side change : HK416

 

 

 

 

 

 

 何故指揮官は出ていってしまったのだろうか、私が悪かったのだろうか。

 

 もっと私がしっかりしていれば、指揮官は出ていかなかったのだろうか。

 

 私が指揮官をもっと気にかけていれば……………。

 

 ………………………。

 

 …………………。

 

 ……………。

 

 体が揺さぶられる感覚。

 

 「416」と私を呼ぶ声がする。

 

 肌に感じる人肌の温もり。

 

 …………………。

 

 ………。

 

 目を覚ます。

 

「お、漸く起きたか。おはよう、416。私が誰かわかるか?」

 

 あぁ……彼は………。

 

 涙が溢れて止まらない、目の前が掠れて、声が震えだす。

 

「ちょ、416?だ、大丈夫か?」

 

 心配をする彼に少し、笑いが込みだす。

 

「え、何?今度はどうした」

 

 笑いを堪えて指揮官の問いに答えてやる。

 

「大丈夫よ、指揮官。帰ってきたのね」

 

「ああ、帰ってきたよ。すまなかったな、416。冗談でも出ていくんじゃなかった」

 

「少しお酒臭いわ」

 

「き、気のせいだろ……あはは…」

 

「笑えてないわよ、随分と飲んできたのね」

 

「す、すまん!久しぶりに飲みたくなって…」

 

「別に良いわ、帰ってきてくれたんだもの」

 

 そうだ、指揮官に伝え忘れた事があった。

 

「指揮官」

 

「なんだ?」

 

「好きよ、指揮官」

 

 少し気恥ずかしくなってきた。指揮官はどう思っているだろうか。

 

「私……いや、俺もだ、416」

 

 指揮官は、私をぎゅっと抱き締めた。

 




遅くなってすみません!何でもしますから!許してクレメンス!



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指揮官と記念日とHK416




本当は4月の16日に投稿するつもりでした。
なので4月16日の気分で読んでください。






































嘘です、完全に忘れてました。

因みに暫く文章書いてないのでいつものガバガバがよりガバガバです。
めっちゃ適当に進行しますが許してくんさい。


 

 なんだか今日は416がそわそわしている。特にこれと言ってこの日に何があるわけではないと思うのだが。

 久々に多い書類に目を通しながら、珍しく隣で落ち着きのない416を見やる。あ、机に手ぶつけてる。痛そう。

 

「大丈夫か、416。何処か調子が悪いのなら工廠にでも行ってオーバーホールでもして来い」

 

「え、ええ、大丈夫…です……そ、それより指揮官?今日は何の日かわかりますか?」

 

 何故敬語なんだ。もうそんな余所余所しくする様な仲でもないだろうに。

 まあ良い。それより『今日は何の日か』と云う質問だったか。…ふむ、何の日だろうか。最近はカレンダーを見る事もないしよくわからないな…書類も大体は先の物だし、確認は出来ないな。かと言って416に訊く事は出来ないな、416が質問を出しているのだから本人に訊く事は御法度だろう。

 適当に御茶を濁すか。

 

「あぁ、分かるとも。それで、今日がどうかしたのか」

 

 この言葉を聞いて少しカチッと固まったかと思うと動揺を隠し切れずに忙しく眼を游がせる416は、言葉尻を詰まらせながら弁明をする。

 

「どうかしたって…えっと……本当に、それだけですか?……いえ、別に期待してた訳では無いですけど」

 

「ん、何かあったか」

 

「…………いえ、あの、少し席を外しても宜しいですか?」

 

 少し落胆した様な彼女はそう言って、この部屋から静かに出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しきか~ん」

 

「ぅうおおおおおおおおおおおおおお!!!!??!!??!?」

 

 416が退室してから暫く、一人で書類にサインをしたりしていた処、音もなく後ろから45に声を掛けられた。本当に怖いから止めてほしい。と云うより何で正面から入って来なかったんだ。

 いや、それより、45がこの部屋に来るなんて珍しい。今日は任務もない筈だが。

 

「ど、どど、どうした45」

 

 まだ恐怖で心臓がバクバクと大きく脈打つ。その性でちょっと声が震える。

 

「ふふ、指揮官。今日は特に何もないわ、ただ、一応言っておくけれど、今日は《4月16日》よ」

 

「お、おう。ありがとう?」

 

 ん?《4月16日》?

 

「なあ、45。もしかして今日は…」

 

 45は少し微笑んで「貴方ならもうわかるでしょ?」と一言、口にすると、今度はしっかりと正面の扉から出て行った。

 

 成る程、今日は4月16日、文字通り《416の日》と云う訳か。

 416が何処かソワソワしていた謎が解けた。態々訊いてきてくれたと言うのに少し悪い事をしたな。

 そりゃ臍曲げて出て行くわ、いつも一緒に居ると云うのに失念してしまっていたのだから。

 何か埋め合わせでも出来ないだろうか。

 

 そういえば、この基地にも遂に《アレ》が届いていたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* side change : HK416

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 指揮官と私が出会った時の話だ。

 

『HK、416……ふむ、じゃあ4月16日を《416の日》にでもしようか』

 

『はぁ?何ですか、それ』

 

『416だから4と1と6が並んだ、4月16日を416の日と制定しようかと』

 

『ホントになんなんですか』

 

『まあ、いいだろ?この基地の《記念日》だ。これから着任する人形達にも広めるぞ!』

 

『いやいや、止めて下さい』

 

 すぐ昨日の話の様に感じるが、もう随分と前の話だ。最初の頃は冗談かと思ってたけど、1年目は本当に416と云う数字に絡めた物を沢山プレゼントしてくれたのだ。確か指揮官に惚れてしまったのはこの辺りだったと思う。我ながらチョロいものだな。

 でもそれから少しして、指揮官の仕事が増えて、日付を確認する事すら疎かになって、そして今日だ。

 忙しいのはわかっている。私が、私達が手伝っても、人間の手でしか出来ないものは結局指揮官に回されるからまだまだ忙しいくて、周りを気にする余裕が剰り無い事も。

 それでも期待してしまうのだ。

 

 今日、指揮官に質問して『今日がどうかしたのか』と言われた時。当たり前に何かを指揮官から貰えると思っている私に恥ずかしくなった。本来なら4月16日なんて普通の日だ。祝日でも何でもない、普通の。

 なのに何もしていないのに何かが貰えるなんて可笑しな話であったのだ。

 嗚呼恥ずかしい。それだけで指令室を飛び出した自分に落胆した。

 

 仄暗い感情が私の心を支配しようとした時、背後から「416ちゃ~ん」と声が聞こえた。

 思わずひっ、と小さく声を上げてしまった。

 

「なによ45、今は貴女の馬鹿に付き合っては要られないの。無駄話なら後にして頂戴」

 

「あらそう?それは残念。ふふっ……でもね416、今回は貴女にとっては無駄ではないと思うわよ?」

 

 その後45は口許を歪めながら私に一言言うと、灯りの点いていない暗い廊下を去って行った。

 

 

 

 

「416、今からでも遅くないわ。指令室に戻りなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別に45の言葉に従った訳ではないが部屋の前まで戻ってきた。もう23:00を過ぎたと云うのに部屋からはLEDの明かりが漏れている。

 ペンを走らせる音と紙を捲る音が聞こえる。まだ仕事をしているのだなと思うと少し申し訳無くなった。

 

 勇気を振り絞って扉を開ける。人形には剰りにも軽いその扉は、今だけはまるで錆び付いた金属の門を開けているかの如き重さに感じた。

 

 指揮官はペンを走らせながらも私が入室したのを確認すると手を止めて、「ああ、来たか」と一言。

 

「すみません指揮官、突然部屋を出て行ってしまって」

 

「ん?ああ、構わんよ。取り敢えず416、そこにいないでこっちに来てくれ」

 

 指揮官に促されるままに側に寄る。

 指揮官は少し深呼吸するとポケットに突っ込んだ手を私の目の前に出す。その手には━━━━━━。

 

 

 

「この記念すべき日に誓約をしてくれ、416。まだ間に合うだろう?」

 

 

 

 

 

 ━━━━━━その手には匳が、そして開かれた中には銀に輝く指環が納められていた。

 

 

 




ガバガバ適当クオリティでさぁせん!

丁度一週間後って事で許してクレメンス!(意味不明)


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月夜と指揮官とWelrod Mk.II

久々な上短いし、終わらせ方も雑だけど許してクレメンス!


 

 

 夜の冷涼な風が吹き抜けるなかで、凛と月が私達を見下ろしている。淡く、しかし確かに輝きを放つ円は、宝石と見紛うばかりに美しかった。

 月の周囲には雲が停滞していて、時々薄く月を多い朧に見せた。その周りには虹霓が円を描き、まるで仏像の背後に輝く頭光のようだった。

 

 ━━━━━私は月が好きだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、誰だ?こんな時間に屋上に来るとは珍しい奴も居たもんだ」

 

 きぃと鉄扉の軋む音をさせてここまで来たのは指揮官だった。

 

「ウェルロッドMkIIです、指揮官」

 

 声の方向へ振り向き敬礼をする。

 指揮官は湯気を昇らせるマグカップを持っていて、私を見て少し意外そうな顔をすると鉄柵に寄りかかりその中身をちびちびと飲み始めた。

 それから暫く、静寂が続いた。

 さぁと夜の涼やかな風が私達を優しく撫でる。ざぁと草木が揺れ動く。鉄柵に背を預けて眼を閉じて耳を澄ませると、虫が懸命に鳴いている。眼を開くと周囲が少しだけ暗くなっており、見上げれば月が薄雲に隠され柔らかな光を放っていた。美しいと思うと共に、私はなんのために戦っているのか忘れそうになる。こんな世界を見られるのならば戦うのはバカバカしいと心から思ってしまう。戦うための人形なのに。

 少しだけ、感傷に浸る。

 

 それを断ち切ったのは指揮官だった。

 

「どうだウェルロッド、この基地には馴れたか?」

 

 私はつい先日、5日前に別の基地からこの基地に着任した。故の質問だろう。

 この基地は、なんというか、自由だ。色んな人形が思い思いに活動している。1日中訓練をしている人形もいれば、1日中遊び呆ける人形もいる。中には掃除をしていたり、料理を作ったり、自室でゆっくりと読書をしている人形もいる。

 他の基地ではあり得ないような光景だ。

 

 前の基地では人形は文字通り人形で、ただの道具だった。それは間違ってはいない。元々、機械、ひいては人形もその為に作られたのだから。

 人の為に仕え、使えなくなったら棄てられる消耗品。それが私達だ。人形は機械だから幾らでも補填は効く。経験値もデータを読み込ませれば直ぐに獲られる。

 そういうものなのだ。そういうものとして認識してきた。

 

 これが正しい人形の在り方なのだろうか、それともこの基地の人形の方が…?

 

 ………わからない。

 

「…この基地は、自由ですね。人形達が皆、楽しそうで」

 

 私は煮え切らない答えを返してしまった。すると指揮官は大層面白そうに、満足気に笑っていた。

 

「そうだろう、そうだろう!私は人形達が好きでね。私達人間を守り、戦ってくれている人形達には少しでも苦労を掛けてはいけないと思ってるんだよ。自由にさせているのも、感謝しているからだ」

 

 私は驚き、そして納得した。

 嗚呼、そうか。指揮官がこう言う人だから、皆生き生きしているのか。今まで出会ってきた指揮官との違いを知り、少し驚いた。

 …少し、意地の悪い質問をしたくなった。

 

「指揮官は人形を戦地に送り出す時、何を考えてらっしゃるのですか。人形達を、どう思っているのですか」

 

 指揮官は何故か焦った様に空いている手で顎を擦りながら。ぽつり、ぽつりと言葉を詰まらせながら、この問いに答え始めた。

 

「…私はね、その…恥ずかしいのだが、彼女達を送り出す時はとても、心配しているんだ。正直、少し怪我をして腕から配線が覗いているだけでも、寒気がして胃が少し痛くなるくらいには、今でも彼女達を…大切に思っている」

 

 指揮官を視界に入れて、体に風を感じながら黙って話を聴く。

 

「…私が最初に着任した時、所属している人形は416だけでね。後方幕僚もいつの間にかいなくなってて、2人だけでこの広い基地と、そこの小さな街を守ってたんだ。今は皆で守ってるが」

 

 顎に当てていた手ですぐ麓の街を指差す。街の周りには、よく見ると基地で見かけた人形達が通信機で話ながら警戒しているのがわかる。

 話は続く。

 

「…その時期は私は着任したばかりで右も左もわからない新米だったからね、416は良く私を叱っていたよ。私の母より厳しくね」

 

 そう言う指揮官は何処か楽しそうだ。

 トントントンと誰かが階段を登る音が厭に耳に付いた。誰だろうか、指揮官曰くこの時間に此処に居る人形は珍しいと言うのに。

 指揮官は気付いた様子もなく話続ける。

 

「いやぁあの時は辛かったもんだよ、書類で少し誤字脱字があっただけで鬼のように怒るんだから。それで良く抜け出しては雷が落ちたモンだよ」

 

 

「そう、確かにそうね。今みたいに」

 

 

「えっ」

 

 鉄扉を音も立てずに開け放ち、指揮官の背後に付いた416は笑顔で指揮官の肩を叩いた。

 指揮官はこの世の終わりのような顔をした。私は顔を引き攣らせた。

 

「ねぇ、指揮官。まだ仕事は終わっていないのよ。わかってるかしら」

 

「ん、え、あ、そ…そうだったっけなァ~?」

 

「惚けないで結構よ。貴方が昨日死んだ顔で『働きたくない』何て言うから1日だけ休ませたけれど、それで仕事が失くなる訳では無いのよ」

 

「…はい」

 

「大体、どこからこんなに仕事を引き受けてきてるのかしら、訳がわからないくらい大量にあるじゃない」

 

「…ソッスネ」

 

「それでも引き受けたならやるしかないのよ。指揮官、判ってるの?」

 

「…」

 

 すると指揮官はマグカップを416に投げつけて、鉄柵を越えて壁面に付くとパイプ伝いに逃げ出そうとした。416も少し怯んだがそこは戦術人形、素早く翻って指揮官の襟に手をかける。

 

「ああああああああ!!!やだ!!!!働きたくない!!!!!助けてウェルロッド!!!!!」

 

「良いのよ、ウェルロッド。貴女はそのまま手を出さないで」

 

 …私は只見ていることしか出来なかった。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!やだあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

 …指揮官は416に引き摺られて屋上を後にした。

 

 漸く静けさを取り戻した私は、こう思った。

 

 

 

「…あの人形にだけは、逆らわない様にしよう……」

 

 

 私を慰めるように穏やかな風が私を包んだ。

 

 

 




なぜウェルロッドかというと、アンケ結果のを書いてたら詰まりに詰まってどん詰まりだったからなんと無くです。これ以外にも何となくが幾つかあります。


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指揮官と仕事とM4A1

 つい先日の事で御座います、私は己が深き情欲に負け、赴くままに416の春画を探していたのです。広きこのインターネットを時間をかけ少し少し、『このシチュは苦手だ』だとか『このママは叡智』だとか『着衣███!フフフ…███だ!』だとか、ああだこうだと言いながら、さながら春が来る前に目覚めてしまった熊が食料を探し回るように、徘徊していたのですが、その時、私に青天の霹靂とも言いましょうか、大きな衝撃が体を駆け廻ったのです。
 それは416とM4でした。その二人の春画で御座います。私はそれに胸を打たれてしまったのです。それからと言うもの、『M4は縦セタがえっち』だとか『蔑んだ目で授██キをしてほしい』だとか『え、M4ちゃに枯れるまで絞らr……アッ』だとか『太腿で顔を挟まれたら即オチ』だとか、そんな考えが頭の中で右往左往していた訳で御座います。
 考えている内に、私はいつの間にか果てていた訳ですが、その後のあまりにも耐え難い喪失感、それを埋める為に無意識の内に私は少女達の前線を指揮する携帯電話の遊戯を開き、M4をつつき回していたのです。
 そんなこんなで私は、M4の叡智さ、そして可愛いさ、可憐さ等に気が付いたのです…。

長くなりましたが、私の戯言は以上で御座います。




 

 

 

 

 仕事がしたくない。

 

 執務室の窓を開け放ち、轟々と吹きつける朝風を浴びながら私はそう思った。風が通った室内は大量の書類が辺りに散らばり、さながら雪が積もったようだ。窓の縁に腰を掛け、目を瞑り、今までの事を思い出す。

 

 …毎朝基地に届けられる富士山にも届かんばかりな大量の書類を副官と一緒に処理、一日の作戦報告書を徹夜で書き上げファイルに綴じて資料室へ保管し、湯船に浸かる時間もなくシャワーを浴び、最近は2食しか摂れていない食事、そしてやっとのことで手に入れた数時間で睡眠する。それに上から下された命令に従い戦術人形を派遣し作戦や任務をこなさなければならない。ここ最近はずっとこうだ。

 仕事の中でも作戦報告書を書き上げるのはかなりの時間が掛かる、慣れた今でも約八時間はそれに充てている、お陰で先月に腱鞘炎になってしまった。報告書の作成はこの基地に所属してからずっと副官を務めているM4A1と二人でしている。勿論、M4A1以外にも手伝おうとしてくれる心優しい人形も居るには居るのだが、判りやすい書き方教えるのが手間なのだ。M4A1以外の人形が報告書を書けない訳ではないのだが、殆どの人形が主観を交えた個性的な作戦報告書を書き上げてしまう、これでは読めたものではない。その『殆ど』から外れた、ちゃんとした報告書作成が出来る人形は、古参で練度が高く様々な任務に欠かせない。だから作戦報告書の作成程度に充てられず、今でもM4A1と二人でやっているのだ。と言っても、零時を過ぎたら流石に遅いのでお帰り願うのだが。

 普通なら様々な業務を手伝ってくれる後方幕僚は、この基地には居ない、『S09地区の後方幕僚が毎日譫言を吐きながら机に向かっている』と言う根も葉もない噂を聞いてか、誰もこの任に就く人間は居らず、上に問い合わせても「その状態で貴官の基地は運営出来ていると言うことは、妥当な人員を送っていると言うことだ。」等と言う何の役にも立たない返答で話にならなかった。

 

 …まぁ詰まる処、指揮官は疲れたのだ。

 

 

 

 

「ようし!今日からお仕事サボっちゃうぞ!!」

 

 私のような可愛い女の子に仕事を押し付けるような会社の基地になんて居られるか!!と私は思い立ったが吉日と、窓を閉め切り、大量に散らばった書類を集めながら逃走の計画を練り始める。

 取り敢えずは基地から出て近くの街で住み込みバイトでもして暮らすかと考え、財布と携帯端末だけを持ち部屋を出る。もう私には、この基地に帰ってくるという考えはなかった。

 今の時間は05:40を少し過ぎた頃、普段なら資材倉庫へ行き備蓄数を確認している時間だ。この時間ならほぼ全ての人形が眠っている時間であり、のんびり逃走を図れる筈なのだ。

 集めた書類を机の上に丁寧に置き、万が一基地から出たことを知られた時の時間稼ぎの為に書き置きを残し、堂々と正面玄関から出て行った。表門まで着くと耳を澄ませて周りを見渡し、一応人目がないか確認する、特に誰も居ないと分かると胸を撫で下ろした。一刻も早くここから離れようとしたところで、後ろから良く耳にする人形の声が聴こえた。

 

 

「何処へ行かれるのですか指揮官?」

 

 

 背筋が凍った。周囲をしっかりと確認していた筈だ、あり得ない。まだ冷たい朝風が吹き付けているというのに、私の背に汗がすぅーと伝ったのが分かった。ドクンドクンと激しく脈打つ鼓動を抑えながら、ゆっくりと振り向く。

 風に靡く長い茶髪、顔の左側に垂れ下がる黄緑のメッシュ、髑髏の口のような柄の付いた襟巻き、縦筋模様で深緑のセーター、私に向けて構えているのは彼女と同じ名前を冠するアサルトライフル『M4A1』。彼女は私この基地に着任してからの付き合いであり、今最も会いたくなかった人形の一人だ。

 

(不味い、なぜここに…。どうやってつけてきたの…?)

 

 私はいつもならまだ寝てるのに!!と頭の中で悪態をつきながらM4をどう煙に巻こうか思考を巡らせる。

 

「きょ、今日はなんだか朝早いんだね…?あ、もしかして私のこと心配なって起きちゃった?な、なんちゃって…」

 

 苦し紛れに口から出た言葉はおかしいくらいにガタガタと震えていた。

 

「ふふっ、はい、指揮官のことが心配で心配で…ついつい後を追って来ちゃいました。それで、何処へ行かれるのですか?」

 

 M4は微笑みながら言っているが目が笑っていないし、銃口が此方に向いている。

 

(…逃げなきゃ、殺られる…!)

 

 私は直ぐ様踵を返して走り出した。

 直後、足元に銃弾がめり込んだ。止まった。

 

「指揮官…もう一度、訊きます。何処へ行かれるのですか?」

 

 嗚呼、これは最終警告だ、また逃げれば殺られる…。私は直感した。口を開こうとするが構えられた銃の口が、私の事をじっと見て放さない。思わず閉口する。体が恐怖で震えて奥歯がガチガチと噛み合わない。

 

「…?指揮官、大丈夫ですか?何か…調子が悪そうですが…?」

 

 M4は此方を心配した様に振る舞う。しかし尚も銃口は此方を向いている。機嫌を損ねたら、それこそ終わりだ…。額を伝う汗を裾で拭い、意を決して口を開く。

 

「あ、ぁの…、ちょっと街まで…。」

 

「…こんな朝早くに、ですか?何のために?」

 

「っ……そ、それは…ぁの…。」

 

「正直に話してください。」

 

 M4は怪訝な顔を浮かべつつも銃を撃つ様子はない。少し安堵し、少しずつ言葉を紡ぐ。…正直に話すのだ、彼女の言う通りに。

 

「し、仕事が辛いので…、職を棄てて街で暮らそうかと…思って…。」

 

「…そうだったんですね、話してくれてありがとうございます。」

 

 M4はこの回答に満足したようで銃口を下ろして私に駆け寄ると、優しく私を包み込んだ。ふわりと柑橘の香りが鼻腔を擽る。思わず私は安心しきって脱力してしまった。膝を折り崩れ落ちそうになるが、しっかりと私を抱き留めて放さない。温かい吐息が私の耳許に触れ、くすぐったくて思わず身震いをしてしまう。

 暫くしてM4は感窮まった様に話し出す。

 

「良かったです、指揮官…!私、指揮官が私の事を嫌いになって、それで何処かへ行ってしまうとばかり…。でも、仕事が嫌になってしまったんですね、安心しました…。そういう事なら、私も着いて行きます!私なら指揮官を守って居られますし、それに疲れを癒す事だって出来ます…。だから指揮官、一人で居なくならないで下さいね。」

 

(…嗚呼、そうか…私の事をここまで想ってくれる人形が居たのか…。)

 

 M4はまだなにやら話し続けているが、私は感動していて耳には入って居なかった。大切なことを気付かせてくれたM4を強く抱き締めて今までの自分の行動を反省する。

 

(こんなにも私は愛されて居たなんて…家出なんて馬鹿なことを考えるんじゃなかった…。これでもう充分、仕事を辞める動機はなくなったな…。)

 

 基地へ戻ろう、私は決心した。未だに話を止めないM4の肩を少し叩いて止めさせると、やっぱり戻る、と伝えた。抱き締める力が強くなった。

 

「指揮官、もう無駄ですよ?指揮官はこれから私と一緒に暮らすんです。基地なんてもう棄ててしまいましょう?一度は辞めると決めたじゃ無いですか、覆しちゃダメですよ。」

 

 最早彼女の声に優しさは感じず、ただ暗い影を感じていた。力はまだ強くなっていき、声を出すことすら叶わない。私はどうなってしまうのだろうか。

 

「街へ行って暮らすのでしたよね、指揮官の事だからすぐ近くの小さな街ですよね?着任したばかりの頃は良く二人で遊びに行ってましたから、良くわかります。でもあそこだとM16姉さんや45さんに見付かってしまう…。だから指揮官、私、隠れて住むのに良い街を知ってるんです!前から一緒に暮らしたいなと思っていて、もう部屋も借りてるんですよ!指揮官、一緒に行きましょう?指揮官も女性ですし、二人で住むのには問題ないですよね。そうだ、指揮官…」

 

 徐々に暗転して行く意識の中、私はただM4の楽しそうな声だけを聞いていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ…!はぁ!はぁ!」

 

 途轍もない息苦しさに思わず私は飛び起きた、顔に被さっていた布団を退けて壁に掛かっている時計を見るとまだ三時半を指していた。まだ夜中じゃないか…、なんとも気味の悪い夢を見たものだ。

 布団を整え、横になるとふと、違和感を覚えた。

 

(…?あれ、私の部屋ってあんな所に時計あったかな…?)

 

 違和感を解消しようと起き上がろうとしたが、眠気に負けて布団から起き上がれない。そのまま私は心地よい微睡みに呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからもずっと一緒ですよ、指揮官」




 04:01に投稿しようと思ってたけど間に合わんかった…。







そう言えば私、彼女が出来たんですよね!『HK416』って銃みたいな名前をしてるし、恥ずかしがって画面から出てきてくれないけど、良い子なんですよ!羨ましかろ~?



所で今日はエイプリルフールですね、だからまぁ何という訳でも無いのですが、エイプリルフールですね、悲しいことに、何が悲しいのかわからないのですが。


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