ボッチのハンドレッド使い (リコルト)
しおりを挟む

原作の前日談
プロローグ


どうも、初めての方は初めまして。私の作品を見たことがある方はご無沙汰です。今回は昨年、2018年に原作が終わった『ハンドレッド』とコラボさせて頂きました。動機はハンドレッドの小説が少ないため初心者ながらも増やしてみようと思ったのと単純に私が好きだったからです。アニメはまぁ、駄作だと言われて自分でも原作と比べるとそう思うところは少なからずありましたね。ただ主題歌やエンディング曲は神曲だと思いますよ。ただ原作は私の中ではトップクラスに入る面白さだと思います。これを見て原作を知っていただけると、愛読者の私からしたら嬉しい限りです。
さて、話が長くなりました。それでは本編をお楽しみ下さい。


 

 

『こっちに来るな!!バケモノ!!』

 

『私達の小町に悪影響だわ!』

 

 どうして……どうしてなの。僕は何もしていないよ。どうして僕を捨てるの?父さん、母さん……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?………またあの夢か」

 

 俺は空港に向かう直通の電車の中でとある夢を見て目覚めた。ここ最近、あの頃を思い出させるような夢ばかり見る。

 

 

 

『貴女のそのやり方、嫌いだわ!』

 

『人の気持ちをもっと考えてよ!』

 

 あいつらの言葉が俺を捨てた両親の声と重なって聞こえる。だからあんな夢をここ最近見るのか。

 

「そんなに言うならお前達はどう解決したっていうんだよ。人任せのお前達は……」

 

 電車の中で俺は一人言のように呟いた。まぁ、今の俺にはそんな事関係のない事だ。

 

 何故、総武高校の生徒である俺が空港に向かっているかだと?答えは簡単だ。

 

 

今日をもって俺は総武高校を自主退学したからだ。

 

 

 修学旅行の一件から俺がやった事は悪評として総武高校に広まった。戸部の告白を邪魔した悪者として。

 

 それだけではない。文化祭の件もその悪評に便乗して広まったのだ。しかもそれを流しているのは被害者と自称している相模本人だ。

 

 戸塚や川崎は俺の事をしていたが、俺に関わると戸塚達も悪者として扱われるため一度だけの接触を機に、関わらない方が良いと俺から話してそれからは接触してくることはなかった。俺からしたらそれは良かったと思っている。

 

 雪ノ下や由比ヶ浜とは一度も話していない。向こうから会おうとしないなら俺も接触しようとは思わない。関わると俺も腹が立つからな。

 

 そして、俺が一番腹が立つのは葉山グループ、いや葉山本人だ。あいつから俺に依頼を頼んできたにも関わらず、相模と同じく俺の悪評を広めているのだ。

 

 学校トップカーストの言うことは誰もが信じる。俺が言った所でただの言い訳として捉えられる。ましてや、その噂は高校卒業まで広まり続けるだろう。

 

 そんなのには耐えられない。耐えられるとしたらただのドMだ。俺は普通の学校生活が送りたかっただけなのに。

 

 俺は退学届をもらうと、すぐさま手続きに必要な事を書いた。校長先生はそれを何も言わずに受け取った。そして今に至る。別れの挨拶?するわけがないだろ。

 

 「あ、忘れ物した……」

 

 俺は電車の中でふと、思い出す。俺が一人で過ごした家に有ったものはほぼ持って来た。だが、総武高校に有ったものは別だ。確か奉仕部の部室で俺が座っている席の机に今までの活動を書いたノートが残っている。まぁ、今の俺には関係ない。忘れ物なんて無かったんだ。

 

 

そうこうしていると、電車は終点である空港に着いた。

 

 

 

………………………

 

 

……………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

「確かここが集合場所だよな」

 

 俺は空港のターミナルの待合室である人を待っていた。その人は両親に捨てられた俺を引き取り、総武高校入学までお世話になった人だ。俺が退学した事情もしっかりと聞いてくれた。

 

「久しぶりね、八幡くん」

 

 声のした方を見ると、そこには眼鏡をしたあたかも秘書のような女性が立っていた。

 

「お久しぶりです、スフレさん」

 

 

スフレ・クリアレール

俺を地獄から救ってくれた大恩人の一人だ。彼女は今、ある人物のマネージャーをやっている。その人物のおかげで本来なら俺に会う時間もないはずだ。

 

「八幡君のお願いだった普通の学生生活はどうだったかしら。一応、事情は知っているけど」

 

「……まぁまぁという感じですね。良いところもあれば悪い所もあったというのが感想です。俺のわがままに付き合って頂きありがとうございました」

 

「いいえ。貴方の幼少期を考えたら、普通の学校生活に憧れる気持ちも分かるわ。さて、早く飛行機に乗り込みましょう。あの子が中で待っているわ」

 

 俺はスフレさんに連れられて自家用ジェット機が停まる発着場に向かった。

 

 

 

…………………………

 

 

…………………………………

 

 

……………………………………………

 

 

「さぁ、中に入って頂戴」

 

 スフレさんにそう言われ、俺は自家用ジェット機に乗り込んだ。昔から思うが、でかいよな。

 

「失礼します」

 

 俺が自家用ジェット機の中に入ると、一般家庭のリビングのような部屋が広がっていた。

 

「ハチマン!!」

 

 俺が中に入ると、その部屋に備え付けられたソファーに座っているピンク髪の少女が俺に抱きつく。

 

 

「久しぶりだな、サクラ」

 

 

 俺に抱きついたこの少女ー霧島サクラ。世界的に有名なアイドルで、俺と同じ境遇を持つ唯一の家族だ。

 

 

 

 




アンチ詰め詰めな展開でしたが、どうでしたか?前に私の作品を見て頂いた方は私の作品の書き方に驚いたでしょう。今回からは登場人物を分かりやすくするため、このような書き方にしました。しばらくは原作前、プロローグの話を投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

百武装、展開。(ハンドレッド・オン。)

 

 

サクラと再開を果たすと、スフレさんにすぐ出発すると言われてサクラの隣の席に座った。やはりお忍びと言えどサクラが世界的アイドルのために俺と一緒にいる所を見られると危ないらしい。

 

 

今はちょうど離陸中であり、離陸している間は俺の学校生活の話題をサクラとスフレさんとで話していた。アイドルの仕事で忙しく、普通の学校に行けないサクラから見たら学校生活は未知の体験らしく、非常に興味を持っていた。

 

 

 

 

「へぇ、ハチマンが学校を中退しちゃったのはその葉山という男と雪ノ下と由比ヶ浜という女のせいなんだ」

 

 

サクラは不機嫌そうにしながら俺が学校を中退した経緯についての話を聞いていた。

 

 

「あくまで中退を決意したのは俺の判断だ。ただ、あそこに居続けても意味がないからな。残り一年もあんな地獄で過ごすなら辞めた方がまだマシだ」

 

 

俺は空港で買ったマッ缶を飲みながらサクラに話した。この学校生活の成果はこのマッ缶だけだろう。

 

 

「まぁ、そんな事はどうでも良いわ。大事なのは私の所に帰って来たという事は私の例の約束を果たしにきたのよね?」

 

 

サクラは俺に訊ねた。サクラは俺に会ってからその話しかしない。そんなに嬉しいのか。

 

 

「ああ、学校生活を終えたらずっとサクラの専属のボディーガードをするって約束だろう。俺もそのつもりで電話したんだ」

 

 

サクラはそれを聞いて、表情がとても明るくなった。うわ、めっちゃ可愛いんだが。

 

 

実はサクラとは俺が総武高校に通う前にある約束したのだ。「サクラとは高校生活中の三年間は一緒に過ごせないが、学校生活を終えたらサクラの専属のボディーガードをするという約束」だ。中退とはいえ、サクラとの約束だ。叶えないわけがない。

 

 

「けど……ちょっとな」

 

 

「ハチマン、歯切れが悪いわね?どうしたの、まさか私の約束……」

 

 

「いや、破るわけじゃないぞ。ただちょっとある所から先約の勧誘が有ってな」

 

 

俺は不安そうに目をウルウルとしているサクラをどうにかしてなだめようとする。すると、スフレさんが助け船を出す。

 

 

「そう、八幡君にはある所からずっと勧誘が有ったのよ。八幡君は決してサクラの約束を破ろうとしてないわ。これから約束を破らない為にそこに交渉に行くのよ」

 

 

「勧誘?どこからの?」

 

 

「リトルガーデンだ」

 

 

「リトルガーデン?」

 

 

それを聞いてサクラは首を傾げる。まぁ、普通の人は知らないだろう。そんなサクラを見て俺は荷物からリトルガーデンのパンフレットを取りだそうとする。

 

 

だが、俺の荷物からはそれが見つからない。あれ、どこにやったんだ?そんな様子を見てスフレさんは俺の代わりにサクラにリトルガーデンについて説明する。

 

 

「昨年にワルスラーン社によって作られた対サベージ用の拠点であり、ハンドレッドの研究開発とそれを用いて戦う唯一の武芸者の育成および開発製造も兼ねている機関よ。簡単に説明すると学校ね」

 

 

「へぇー、そんな物が出来てたんだ」

 

 

「ああ、まだここ最近建てられた施設だからサクラが知らないのは無理はない。俺は設立当初から誘われていたんだが、俺の要望を優先したからそっちには行かなかったんだ」

 

 

「でも学校って言うからにはどこかにあるのよね?そのリトルガーデンって何処にあるの?リベリア合衆国?」

 

 

「海の上だ」

 

 

「えっ?……」

 

 

サクラは俺の答えを聞いて目を丸くした。

 

 

「海って………島?」

 

 

それを聞いてスフレさんが答えようとする。

 

 

「いえ、違うわ。リトルガーデンは海を航海する空母型の学校よ」

 

 

「要は船の中に学校があるんだ。そのため、何処にいるか詳しい場所は分からない。日々移動しているからな。今回は俺がリトルガーデンに向かうとワルスラーン社に電話したら、太平洋上のある島にしばらく停まってくれるらしい」

 

 

そう、今はリトルガーデンに行くため、飛行機でその島に向かっているのだ。もちろん、スフレさんはその事情を知っている。だから飛行機を出してくれたんだ。サクラにだけは話すの忘れてたなぁ。

 

 

「それにしても、わざわざ俺だけの為に船を停めるって凄いよな。入学費や授業料も免除と言っていたし」

 

 

「当然よ、ハチマンはなんたって………」

 

 

サクラが言いかけると、俺のポケットからバイブ音がした。これはリトルガーデンと連絡をする時にしか使わない通信機であるPDAからだ。

 

 

『……もしもし……もしもし……』

 

 

PDAからは幼い少年を連想させるような声が聞こえる。しかも確認してみたらこの通信は俺だけにでなく、リトルガーデン近く全域に連絡をしている。ただ事ではなさそうだ。俺はその通信に答えようとする。

 

 

「もしもし、比企谷です」

 

 

『比企谷……?もしかして比企谷様ですか?』

 

 

「その声……もしかしてクリスか?久しぶりだな。約二年振りか?」

 

 

『ええ、そうです。お久しぶりです』

 

 

電話の主である少年ークリス・シュタインベルトが電話の向こうで嬉しそうなのが想像できる。

 

 

クリス・シュタインベルト

幼いながらもワルスラーン社に所属する大人顔負けの天才解析官だ。今はリトルガーデンを拠点に中等部一年ながらも主力解析官としての職務を果たしているはずだ。

 

 

「俺が乗っている飛行機がそろそろ来るはずだと連絡をしてきた……訳じゃなさそうだな」

 

 

『はい……。実はこの近辺で突如サベージが出現しまして。突如発生したものですから住民の避難誘導も含めて増援を近くに頼もうと………』

 

 

「増援?確かリトルガーデンには小隊規模の武芸者達が居たはずだろ?そいつらはどうした?」

 

 

『実は申しにくい話ですが、先日の赤道近くの出撃でまともに動けるのが、会長を含めて3人程なんです』

 

 

おいおい、マジか。俺が知る限りだと30人は居たぞ。あいつが動けるのは分かるが、ほぼ全滅じゃないか。

 

 

「成る程な……ちなみに場所と数は?」

 

 

『ヤマトの南に位置する島、オガサワラです。敵情報は数は5体、いずれも通常型です』

 

 

場所は俺達からかなり近いな。そこならちょうど俺が今から飛行機で降りても向かえる。

 

 

「リトルガーデン側の到着は?」

 

 

『今から15分後です。ヤマトにあるワルスラーン社の支部からの増援は30分後です』

 

 

駄目だ、間に合わない。確かオガサワラにはワルスラーン社の武芸者による支部はまだなかったはずだ。5体もいると、島ぐらいなんてあっという間に侵略される。それに住民の避難もまだ終わってない。リトルガーデン側の武芸君が来ても、被害は大きいはずだ。

 

 

被害を最小限に抑えるには俺が行くしかない。

 

 

「分かった、俺が行く」

 

 

『1人でですか!?相手は5体もいるんですよ』

 

 

「そうでもしないと、間に合わないだろ。それに俺の強さは知っているだろ。それでも不安か?」

 

 

俺はクリスに訊ねると、しばしの静寂が辺りを包むが、クリスは俺の問いに答える。

 

 

『……いえ。比企谷様の強さは私だけでなく、クレア様も存じ上げています』

 

 

「なら問題はないな。じゃあ、俺は今から出撃するから。リトルガーデンは約束した場所に停まっているんだろ。そっちに俺が乗っている飛行機を向かわせるから、俺が乗っていなくても迎え入れてくれ」

 

 

『かしこまりました』

 

 

「あと、クレアも来るんだろ?なら伝言を頼むわ」

 

 

俺はクリスにある伝言を頼んだ。伝言を頼み終えると、俺は通信機の電源を切った。

 

 

「……話は聞いていたわ。行くのね」

 

 

そう言ってサクラは俺に訊ねる。

 

 

「ああ、すまないな。折角予定を空けてまで俺を迎えに来てくれたのに」

 

 

「別に心配することないわ。ハチマンのためにここ数日は予定を空けているのだから」

 

 

おいおい、俺と会う準備万端じゃないか。俺はそれを聞いてクスリと笑いかける。

 

 

「怪我をしないでね、ハチマン」

 

 

 

ちゅっ………

 

 

 

サクラはそう言って俺の近くに寄ると、そのままサクラは俺の顔に手を寄せて、おでこにキスをする。

 

 

昔から俺が出撃する時はこうしていたが、高校生になると恥ずかしいな。それにサクラのファンから見たら殺されそうだ。

 

 

「ああ、すぐ戻る」

 

 

俺はサクラに言葉を交わすと、飛行機のハッチの前に立つ。降下の準備は万端だ。

 

 

俺は腰に付いたホルスターからハンドガンのような物を取り出す。その弾倉部分には黒を基調とし、紫色に輝く石が組み込まれている。

 

 

そう、この銃そのものが俺のハンドレッドだ。俺は銃の引き金に指をかける。

 

 

百武装、展開(ハンドレッド・オン)

 

 

すると俺の体は私服から武芸者が着る基本装備、ヴァリアブルスーツに変化する。その姿は黒を基調とし、紺色が入り混じったタイツスーツである。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

俺はハッチの扉を開けて、サベージの被害に遭っているオガサワラに向けて急降下する。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その頃、リトルガーデンでは………

 

 

「クレア様!!」

 

 

比企谷の通信を終えたクリスがリトルガーデンが所有する輸送機に乗ろうとしている女性武芸者3人に聞こえるような大きな声を出す。

 

 

「何ですの、クリス?」

 

 

その1人の金髪とグラマーな体型が目立ち、赤いヴァリアブルスーツに身を包んでいる女性、クレア・ハーヴェイがクリスに訊ねる。

 

 

彼女はリトルガーデンの生徒会長でありながら、総責任者でもあるため生徒会直属武芸者の部隊であるセレクションズの総指揮もしている。サベージが発生した今、一刻も早く急行したいと思っているはずだ。

 

 

「増援の件ですが、たった今向かっていると」

 

 

「っ!!。どこの部隊ですの?」

 

 

「比企谷様……影の働き人(シャドウ・ワーカー)です」

 

 

「「「なっ!?」」」

 

 

その知らせを聞いて、クレアだけでなく、クレアの後ろに控えていた眼鏡がトレードマークの女武芸者、エリカ・キャンドルと同じく控えていた褐色の肌とポニーテールが目立つ女武芸者、リディ・スタインバーグが驚きの声を上げる。

 

 

「影の働き人だと…………!?」

 

 

「サベージをたった一人で倒すためにどこにも所属していないと言われている武芸者で、その実力はクレア様にも劣らないと言われている天才……確か、ここ最近はヤマトを中心に活動をしていたはず」

 

 

エリカとリディは影の働き人という名前を聞いて、驚いた様子であるが、クレアは一人静かに落ち着いていた。

 

 

クレア(私達3人でサベージ5体は正直キツイと思っていましたわ。でもハチマンが来るならいけますわ)

 

 

「それとクレア様……」

 

 

クリスがクレアに言いづらそうに話しかける。

 

 

「……はい?何ですの?」

 

 

「彼から伝言も御座いまして………」

 

 

クレアはクリスの伝言を聞こうとする。そして、クリスは覚悟したかのように息を呑み、それを言う。

 

 

「俺が全て片付けるから、クレアはゆっくり紅茶を飲みながら来い……と」

 

 

「はあぁっ!?」

 

 

伝言を聞いてクレアの驚きと怒気を込めたような声がリトルガーデンに響いた。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オガサワラ現着、そして掃討

 

 

 

俺はサクラ達が乗っていた飛行機から飛び降り、スカイダイビングの感覚でオガサワラ本土に降下していく。

 

 

「お、あれか………」

 

 

オガサワラに降下していくにつれて、オガサワラの港町でサベージが暴れているのがはっきりと視認できる。サベージはちょうど港町に5体か。それぞれが極端に離れているよりはマシだな。  

 

 

武装顕現(メイク・アップ)、シューター!」

 

 

俺がそう言うと、ヴァリアブルスーツに黒色のプロテクターが発現し、俺の体を黒色の装備が覆う。そして、先程使った銃型のハンドレッドはハンドガンからアサルトライフルの形になる。

 

 

「ターゲット、ロック・オン」

 

 

俺は目標であるサベージにアサルトライフルの照準を合わせながら、オガサワラに降下していく。

 

 

そして、俺はライフルの引き金を引く。

 

 

影の拡散弾(フル・シャドウ・ホーミング)!」

 

 

俺がそう言って引き金を引くと、銃口からオガサワラに向けて一発の黒い光弾が飛んでいく。

 

 

あれは俺がセンスエナジーと呼ばれる武芸者から発せられる特殊な物質から出来ている。センスエナジーは武芸者の戦いに合わせて武芸者の攻撃や防御に大きな作用を与える。

 

 

しばらくすると、その弾はサベージが視認できる範囲に入って行く。サベージは攻撃に気付き、その弾を持ち前の鋏のような腕で弾こうとするが、その弾は変化する。

 

 

黒い弾は一発の弾から無数の弾のように分離し、雨のようにサベージ達に攻撃を与える。

 

 

『ギャオォオォォォォ!!!!』

 

 

おーおー、サベージ達の叫びが聞こえるなぁ。先程の弾は俺がセンスエナジーでプログラミングを施した弾だ。まぁ、クレアにはああいう感じの戦い方は質的に劣るが。

 

 

お、どうやら当たり所が悪かったらしく、先程の攻撃で核がやられて撃沈したそうだ。残りは4体か。

 

 

俺はセンスエナジーを使ってオガサワラ本土に到着する。センスエナジーを使わないとあんな高い所から落ちたら、骨折じゃすまない。

 

 

「おっと……いけないな」

 

 

俺はセンスエナジーを使って、黒いフードを顕現させて、それを顔を覆い隠すようにする。

 

 

今までは総武高校に通いながら、自分なりに正体が一般人に分からないように一人でサベージを倒していたが、それが武芸者専用の情報サイトや公共のサイトで〈影の働き人〉という名前をつけられて、正体を知るサクラに尊敬の眼差しで見られていたのが懐かしい。俺としてはサクラに尊敬されて気に入ってはいるが、普通に見たらただの厨二病だ。冷静に見ると、恥ずい。

 

 

しかも、いつの間にか俺のファンサイトなどが出来ていて、中には正体不明の俺をネタにしているサイトもある。その規模は万単位とかなりでかい。俺的には正体を明かしても良いが、『正体を明かすと子供や大人のイメージを壊しかねないわ。まぁ、ハチマンは素顔でも素敵だけど。』とサクラに言われたので、今日まで顔を隠してやって来た。

 

 

「おい、見ろ。武芸者の人が来たぞ!!」

 

 

「でも、一人じゃない。本当に大丈夫なの?」

 

 

「いや、あの黒いフードに黒いハンドレッド……〈影の働き人〉だ!!。すげえ、本物だ!!」

 

 

俺の後ろでは避難をしている最中の島民達が俺の姿を見て興奮している。

 

 

しばらくすると、先程の攻撃を受けたサベージ達が体勢を立て直して、俺の方を凝視する。敵である俺を確認すると、口を開き、口からレーザーを俺に向けて一斉に放つ。

 

 

「おいおい、住民の避難はまだ終わってねぇんだ。撃たないで貰えるかな!!」

 

 

だが、俺はそれをセンスエナジーから作り出す武芸者の防御能力、Eバリアでそれを防御する。

 

 

「ここは俺が奴等を押さえます。住民の方は今すぐこの港町から離れてください」

 

 

「わ、分かりました」

 

 

俺はEバリアを張りながら俺の後ろに居た住民達に避難指示を出す。俺が指示を出すと、直ぐに港町から離れるように俺の後ろを走っていく。

 

 

だが、サベージにも知能というものは存在する。サベージの一体が他の仲間に俺への攻撃をまかせて、ただ一体逃げて行く住民達を追いかけようとする。

 

 

「ちっ、行かせるか!」

 

 

俺はみすみすそれを見逃すわけがない。俺はセンスエナジーを自分の影に込める。すると、俺の影は変化して、伸びるようにそのサベージに絡み付く。サベージはそれにより動きがまったく取れない。

 

 

影の縛り(シャドウ・スパイダー)。しばらく大人しくしていろよ」

 

 

仲間が俺の謎の攻撃にやられて動揺したのか、俺に砲撃をかましていたサベージ達は砲撃を一時的に中止する。俺はその間、サベージから距離を取る。

 

 

「俺の攻撃に理解が追い付かないようだな。安心しろ。お前達は知らなくて良いからな」

 

 

俺は武器として使っていた銃型のハンドレッドをアサルトライフルから本来のハンドガン型の形に戻して、腰に着いているホルスターにしまう。その代わりとして、影から黒く光る刀を取り出す。

 

 

「大抵の奴は俺のハンドレッドからシュータータイプの武芸者と判断する。だが、それは相手を惑わすフェイクだ。実際はオールラウンダーなんだわ」

 

 

俺は刀をサベージ達に構えながら説明する。

 

 

武装顕現(メイク・アップ)、アタッカー!」

 

 

俺が構えていた説明していた間、俺に砲撃をかましていた3体のサベージ達は俺に鋏を使って攻撃してくる。

 

 

だが………

 

 

ギャゴンッ、ギャゴン、ギャガンッ!

 

 

鈍い音が響き渡る。それは攻撃をしていたサベージ達の鋏が地面に落ちた音である。その切り口は粗さを残さない綺麗な切り口だった。もちろん、サベージに対してそんなことをするのは状況的に彼しかいない。

 

 

「おいおい、自分の腕が切られているのに気付かなかったのか?何もしてなければくっついていたかもしれないのにな。まぁ、次でお終いだけどな」

 

 

俺はサベージ達にそう話すが、腕である鋏を失ったサベージは切り口から体液を噴き出しながら悶えている。俺はそれを無視して、刀にセンスエナジーを込める。

 

 

そして、それを撃ち放つ。

 

 

影斬・旋空(えいざん・せんくう)

 

 

そう言って刀を抜くように動作をすると、影から作られた刀から黒い斬撃がサベージ達を襲う。

 

 

それはサベージ達の心臓とも言えるコアがある部分を鮮やかに一刀両断にする。三体のサベージはコアをやられてその場に崩れ落ちて撃沈する。

 

 

「そして、お前もだ」

 

 

俺は先程、影で動きを制限した最後のサベージにもさっきの黒い斬撃を食らわせる。もちろん、そいつもコアをやられてその場に撃沈だ。これで全滅したわけだ。俺はハンドレッドを解除すると、ヴァリアブルスーツから元の私服に戻った。

 

 

 

今更だが、俺のハンドレッドはどんな武器にもなれる〈イノセンス〉型のハンドレッドかだと?それは半分正解だ。だが、それでは先程の影を操るのは証明できない。

 

 

 

正解はこうだ。俺のハンドレッドはどんな武器にもなれる〈イノセンス〉型のハンドレッドの性質と周囲の影を操る〈フィールド制御〉型のハンドレッドの性質を持つ、〈ハイブリッド〉型のハンドレッドなんだわ。

 

 

 

 

しばらくすると、リトルガーデンの空母がオガサワラの港町に入って来た。もう終わってしまったが。すると、中から褐色の肌が目立つ女性が出てきた。

 

 

「貴方が〈影の働き人〉…比企谷八幡ですか」

 

 

「ああ、あんたは?」

 

 

「私の名はリディ・スタインバーグ。武芸科一年ですが、リトルガーデンで副生徒会長をやっています」

 

 

ほぉ、副生徒会長ということはクレアの付き人か。確かにクレアが認めるような強さはハンドレッドを使っていなくても分かる。元軍人か?

 

 

「副生徒会長が来たということは……」

 

 

「はい、リトルガーデンを代表して貴方を迎えに来ました。生徒会長室でクレア様がお待ちです」

 

 

「ああ、分かった」

 

 

俺はリディ・スタインバーグと共に、リトルガーデンの中へと乗り込む。サベージの後始末に関してはリトルガーデン側がやるから心配ないと話していた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

生徒会長室にて

 

 

今、俺は俺の前を歩いているリディ・スタインバーグと共にリトルガーデン内にある生徒会長室に向かっていた。そこにはこのリトルガーデンの総責任者である彼女がいるはずだ。

 

 

「こちらでクレア様がお待ちです」

 

 

そう言って俺の前を歩いていたリディが扉の前に立ち止まった。俺はリディに促されるように生徒会長室の中に入ろうとする。

 

 

「失礼します」

 

 

俺が生徒会長室の扉を開けると………

 

 

「ハチマーン!!」

 

 

サクラが俺に抱き付いて来た。

 

 

「怪我はしていない?大丈夫?」

 

 

「ああ、大丈夫だ。サクラ達もどうやらリトルガーデンと合流出来たようだな」

 

 

俺はサクラを安心させながら、周りを見渡す。サクラがいた所にはスフレさんともう一人、眼鏡をした子供のような体型の女性がいた。

 

 

だが、この子供体型の人物は俺の大恩人でもある。現に俺よりは年上だし、頭脳は大学を飛び級する天才の域である。

 

 

「やぁ、しばらく見ない内に大きくなったねぇ。ハチマン」

 

 

「そういうシャロは相変わらずだな」

 

 

シャーロット・ディマンディウス

俺を地獄から助けてくれたスフレさんと同じく俺の大恩人だ。俺のハンドレッドを作ってくれたのも彼女である。今はリトルガーデンの技術顧問をしていたはずだ。

 

 

「そうかい?まぁ、私としても久しぶりに君とは話したいのだが、先客がいるようでねぇ」

 

 

シャロはそう言って俺の正面にある大きな机の方を見る。そこには完全に空気と化していた金髪の女性が椅子に座っていた。

 

 

「よぉ、クレア………今は会長か?」

 

 

「まったくまた貴方は勝手な事を………別に昔のようにクレアで構いませんわ」

 

 

クレアはゲンナリとしながら俺に話す。あれ?俺からしたらクレア達が疲れないようにと一人で倒したのだが、普段より疲れているような。

 

 

「まぁ、良いですわ。取り敢えずそこの空いている席で話しましょう。エリカ、彼に紅茶を」

 

 

「かしこまりました」

 

 

俺はクレアにそう言われて、空いていたソファに腰掛ける。もちろん、隣にはサクラがくっついているが。

 

 

 

………………………………………

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

「事情は聞いていますわ。貴方が学校を辞めた経緯、そしてリトルガーデンに入学する事まで」

 

 

「ああ、ジュダル………クレアの兄からはしっかりと連絡が来ていたようだな」

 

 

「え!?ハチマン、また入学するの?」

 

 

サクラは俺とクレアの話を聞いて驚いた様子である。まぁ、サクラとは約束をしたのに、すぐに学校に入るのもおかしな話か。

 

 

「ああ、これはサクラと約束をする前………俺が普通の高校に行く前にワルスラーン社の社長であるクレアの兄とある賭けをしてだな」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

回想

 

 

 

「やぁ、比企谷君。例の件については考えてくれたかな?」

 

 

金髪の男性が俺に話しかける。今、この部屋には俺とこの金髪の男性しかいない。

 

 

ジュダル・ハーヴェイ

ワルスラーン社の社長をしているクレア・ハーヴェイの兄。この人とはワルスラーン社に所属するシャロを通して会っていたが、未だにこの人の本質が掴めない。不思議であり、不気味な人でもある。だが、彼とは親しい仲を築いていると思う。ワルスラーン社には男性が少ないからな。

 

 

「悪いな。クレアと一緒に俺はリトルガーデンの入学はしない。俺にもしたいことがあるからな」

 

 

「そうか……設立時の第一期生に君とクレアがいればこれほど安心できるものはないのに。それにクレアも君を気に入ってはいるようだし、学校に通う事が目的ならリトルガーデンでも良いんじゃないのかい?」

 

 

「それは違う。ジュダルも知っているように俺は不慮の事故で俺は武芸者の才能が開花して、ヴァリアントになった。あの事故がなければ、俺は武芸者に関わらず普通の生活をしていたんだ。普通の生活に憧れるのは悪いのか?」

 

 

「まぁ、そういう意味でなら君は被害者でもある。分かった、無理な強要はやめよう。君には今までサベージを倒してもらったこともあるし、君の要望はある程度通すつもりだ。」

 

 

「一応サベージが俺に支障が出る範囲内に来たなら討伐するから別に良いだろ。」

 

 

「まぁ……そうなんだけど。やはり、君の事は諦めきれなくてね…………そうだ、賭けをしないか?」

 

 

「諦めが悪いですね、賭けですか?」

 

 

「そう、もし君が学校を通い続けているなら、そのまま君の普通の高校生活をしても良い。けど、もし君が途中で学校を辞めたなら、即時リトルガーデンに入学。もちろん、特待生として迎え入れるよ」

 

 

「なら、その賭けは俺の勝ちです。成績が悪くなければ、俺の意志以外での中退はありえませんよ。それじゃ話が終わったので、俺は帰りますよ」

 

 

俺は部屋から出ようとする。すると、ジュダルは俺を止めるように声をかける。

 

 

「それはどうかな。君は普通の人とは明らかに違う。私としては君の考えは優れていても周りと協調できず、後に自滅するのが見えているよ」

 

 

「……どうぞ、ご勝手に思ってください」

 

 

 

回想終了

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

今となっては少々腹立たしい事だ。まさか、ジュダルの思い通りになってしまうとはな。

 

 

「それで、一応賭けによって俺はリトルガーデンに入学するんだが、ジュダルは何か言っていたか?」

 

 

「賭けは私の勝ちだね。それに〈影の働き人〉として有名になった比企谷君をリトルガーデンに編入させたら、戦力だけでなく、宣伝的な意味で入学者が増えるから好都合だ、と勝ち誇ったように話していましたわ」

 

 

あの野郎、人を広告のように使いやがって。社長じゃなかったら確実に一発は殴っている。

 

 

「はぁ……分かった。それで俺はリトルガーデンに編入するんだが、学年はどうなる?」

 

 

「そうですわね。高等部武芸科3年次からの編入は前例がなく、武芸者として初心者なら高等部1年から編入することになりますが、ハチマンなら実践経験がありますから高等部3年からでも大丈夫でしょう。来年度からは私と同じ学年です」

 

 

「ほぁ、その言い方だと俺の編入はクレアが全て決めているのか?」

 

 

「大体そうですわ、リトルガーデンの総責任者としてリトルガーデンのカリキュラムや授業まで全て私が決めていますの」

 

 

「なら、クレアに提案がある。武芸科3年次からほとんどの生徒がインターンシップによる授業がメインだろ。そのインターンシップの場所を自分で決められるか?」

 

 

「別に可能ですわ。本来はワルスラーン社の各国の支部にインターンをするのですが、何処を所望していますの?」

 

 

「隣にいる霧島サクラのボディガードをしたい。実はサクラとは約束をしていてな」

 

 

それを聞いて隣に座るサクラは嬉しそうにする。俺がサクラの約束を破るものか。

 

 

「別に構いませんわ。ただ、私の兄からは時間があれば、なるべくリトルガーデンには居て欲しいそうです。宣伝的な意味でも、戦力の意味でも」

 

 

「……了解した。俺が聞きたかったのはそれだけだ。さぁ、編入の手続きをしよう」

 

 

その後、俺はクレアから編入についての要項を聞いた。編入には試験がいるのだが、俺の場合は必要はないそうだ。

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………………

 

 

 

…………………………………………………

 

 

「これで編入手続きは終わりましたわ。これで貴方もリトルガーデンの生徒です」

 

 

「ああ、それで俺の編入を在学中の生徒にも話すからここ数日はリトルガーデンに滞在だろ?」

 

 

「ええ、そうですわ。貴方の部屋は用意してありますから、今日からはそこを使用してください」

 

 

「ねぇ、私の部屋は無いのかしら?」

 

 

そう言ってサクラがクレアに訊ねた。

 

 

「貴方、ハチマンの付き添いだからってここをホテルか何かと勘違いしていません?生徒以外のは無いに決まっています。」

 

 

「ええー、ハチマンと過ごすために数日は予定を入れていなかったのにー。じゃあ、ハチマンの部屋と同室というのはどう?良い提案じゃない?」

 

 

サクラがそう言って俺の腕に体を寄せる。おいおい、世界的なアイドルと同室はいけないだろ。

 

 

「駄目に決まっていますわ!!」

 

 

まぁ、もちろんクレアが許すわけがない。サクラとクレアのお互いに引けを取らないにらみ合いが続いた。

 

 

 

その後、サクラがリトルガーデンに入学しようとして、俺やスフレさんに止められる事態に発展したりしたが、クレアが妥協して俺の隣の部屋を使わせてくれるそうだ。

 

 

今日はもう遅いので、俺やサクラはその部屋に行って休もうとする。クレア達は俺が倒したサベージの件があり、忙しいそうだ。話すのは落ち着いてからにしよう。

 

 

それにしても、リトルガーデンか。ムカつくがジュダルさんが言っていたのはこういう事だったのか。俺のやり方に雪ノ下達はあーだこーだ言っていたが、クレアやリディ、それと眼鏡が目立つエリカは総武高校での事情を知った上で俺のやり方に共感してくれて、責める事はなかった。

 

 

彼女達となら新しい学校生活を過ごせるかもしれない。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一時の休日

 

 

 

「ハチマーン、早く早く!」

 

 

「おいおい、そんな急ぐなって」

 

 

俺のリトルガーデンへの編入が決まった次の日の朝から俺とサクラはリトルガーデンの見学をしていた。

 

 

全長4000m、全幅1000mの船に武芸者を育成する学校や生徒達の宿泊施設、それに加えてラボといった主要施設や生徒達が船での生活に飽きないように娯楽施設が多く入っている。どんだけデカイ船なんだよ。今はもう昼なんだが、普通に見学するだけで2日ぐらいはかかりそうな勢いなんだが。

 

 

サクラに呼ばれて俺は急ぐように彼女に付いていく。周りのリトルガーデン関係者達にその様子を見られているが、ピンク髪の少女が世界のアイドル霧島サクラだということには気付かれていないだろう。簡単にだが変装としてサングラスはしているし、目立つピンク色の髪は帽子で隠している。

 

 

俺はサクラに連れていかれるがままに、すぐそこにあるお洒落な喫茶店に入る。何でもリベリアに最近出来た人気の店でサクラが行きたかった場所だそうだ。

 

 

 

…………………………

 

 

…………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

 

「ふぅー、美味しかったわね」

 

 

そう言ってサクラは一息をついて昼飯にセットで付いてきたオレンジジュースを飲む。サクラが言うように確かに美味しい店だったな。サクラもご満悦だし。

 

 

「ねぇ、ハチマン」

 

 

「ん、どうしたサクラ?」

 

 

「昨日からずっと思ってたんだけど、あの会長さんとは結構仲が良いみたいだけど、どういう関係なの?」

 

 

そう言ってサクラは俺を睨みながらオレンジジュースを机に置いた。俺が女性関係に絡むとサクラは本当に怖い。

 

 

「別にサクラが思っている関係じゃないぞ。俺とクレアは昔、武芸者として一緒に戦った仲だ。それだけだ」

 

 

「そう、なら良かった」

 

 

それを聞いてサクラは普段の様子に戻った。いや、本当にクレアとはただの仲間としての関係だから。八幡ウソつかない。

 

 

「ところで、ハチマンはこれからどうするの?見た感じ暫く忙しくなりそうだけど」

 

 

「そうだな。クレアからもしばらくはリトルガーデンに滞在して欲しいと言われていたし、それに俺のハンドレッドは総武に居た間は調整もしていなかったから、今はシャロに調整して貰っている感じだ。それにシャロからある武芸者にハンドレッドの使い方を教えてあげて欲しいと言われてな。次のリトルガーデンの入学式近くまではここを出れないだろう。ごめんな、あまりサクラの側に居てあげられなくて」

 

 

ちなみにサクラは俺のリトルガーデン編入……『影の働き手』の編入の公式発表が終わるのを見届けて彼女の家があるリベリア合衆国に帰ってしまう。

 

 

「別に大丈夫よ。私もその時期までは大きなライブや仕事も入ってないからボディーガードが必要な仕事はないし。その代わり次のツヴァイ諸島での大型ライブには絶対に来てよね。私との約束だから」

 

 

確かサクラのツヴァイ諸島での大型ライブは入学式の次の日ぐらいからだったよな。ボディーガードとして行くなら3日前ぐらいから現地入りしなきゃならない。仕方ない、クレアには後で入学式には欠席する旨を伝えておこう。

 

 

「分かった、絶対に行くからな」

 

 

そう言って俺とサクラは指切りげんまんをした。まるで娘の授業参観に行く父親の気分だ。

 

 

「そう言えばさっきシャロからハチマンにハンドレッドの使い方を教えて貰いたい人がいるって話をしていたけれど、その人って誰なの?」

 

 

「確かエミール・クロスフォードっていう次のリトルガーデンで入学する男子と聞いている。それ以外の事は会ったこともないし、良く分からないな」

 

 

シャロからはイノセンス型のハンドレッドを使うから教えて上げて欲しいとか言われておらず、俺が詳しい素性を聞くとはぐらかされてしまう。まぁ。シャロの所には俺やサクラを含めて特殊な事情を持つ人が多いから無理には聞かないがな。

 

 

 

………………………

 

 

 

…………………………………

 

 

 

……………………………………………………

 

 

サクラに連れ回された夜、俺はシャロに呼ばれたため彼女のラボに向かっていた。何でも俺のハンドレッドの調整が終わったらしく引き取りに来て欲しいそうだ。

 

 

「失礼します」

 

 

「おお、待ってたよ」

 

 

そう言ってラボの中に入ると、椅子の上でパソコンをにらめっこをしていたシャロと……

 

 

「お待ちしておりましたです。ハチマン様」

 

 

シャロの助手をしているというアンドロイドであるメイメイともう一人予想外の人物が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそ……比企谷君。どうして……ここに」

 

 

 

雪ノ下の姉である雪ノ下陽乃がそこに居たのだ。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

意外な再会

八幡side

 

 

自分のハンドレッドを取りにシャロのラボに向かうと、そこには雪ノ下の姉である、陽乃さんがそこにいた。彼女は俺の姿を見て驚いていたが、驚きを隠せないのはこっちもだ。

 

 

「おや、二人とも知り合いなのかい?」

 

 

俺と陽乃さんの関係を知らないシャロが俺達に訊ねた。

 

 

「まぁ……そんな感じです。それより俺のハンドレッドの調整が終わったなら返してください」

 

 

「おお、そうだったね。メイメイ!」

 

 

「はいです!こちらが調整が終わったハチマン様のハンドレッドでございます」

 

 

シャロに呼ばれると、メイメイが奥から銃の形をした俺のハンドレッドを持って来た。

 

 

「ありがとな。それじゃあ失礼します」

 

 

そう言って俺はメイメイからハンドレッドを貰って、要件を済ませたからラボを出ようとすると………

 

 

「待って!比企谷君!」

 

 

陽乃さんが大きな声で俺を引き留める。

 

 

「比企谷君って……武芸者だったの?それに君は総武に通っていた筈でしょ。どうしてこんな所に?」

 

 

陽乃さんがラボのドアの前に立ち、俺の視界に入ってくる。その表情は俺が普段見ている仮面を被った表情ではなく、心から俺を心配するような表情だった。

 

 

「……陽乃さんには関係ないです。そこを退いてください」

 

 

今更、そんな表情をされても困る。何故なら文化祭の件に関しては根本的な問題として彼女が介入しなければ、文化祭で俺があんな事をしなくても良かったのではないかと思っている。俺はそう思いながら強引にでも出ようとする。

 

 

「ハチマン、少し待ちなよ」

 

 

だが、今度はシャロが俺を引き留める。メイメイはシャロの様子を見て少々困惑している様子だった。

 

 

「今の君の話し方と総武高校の話が有ったことからハチマンとハルノとの関係は良くないものだと推測されるよ。君が話したくないのも良く分かる。だけど、彼女が真剣な表情でハチマンの事を聞いているんだ。仮にも親として僕は君に真剣な人を無視するような教育を施した筈はないんだが?」

 

 

俺はシャロの考えを聞いて、俺はしばらくの間その場に立ち止まっていた。その間も陽乃さんは俺を心配そうに見続けていた。

 

 

 

 

「………分かりました。質問に答えますよ。少し長くなるかも知れませんが、良いですか?」

 

 

「……うん、何時間でも話して良いよ」

 

 

 

俺はシャロの立ち会いの下でラボの椅子を貸してもらい、陽乃さんに文化祭、修学旅行、そこからどうして俺がリトルガーデンに来たのかを話した。

 

 

 

…………………………

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

…………………………………………………

 

 

「そっか……私が居なくなった後の文化祭でそんな事があったんだ。確かに君がさっきのような態度を取るのは良く分かるよ。元はと言えば私が文実であんな事を言わなかったらこんな事にはなってなかったからね。……本当にごめんね」

 

 

そう言って陽乃さんは俺に頭を下げる。

 

 

「別に良いですよ。理解してくれて謝ってくれただけで全然マシです。ところで、陽乃さんはどうしてリトルガーデンに居るんですか?大学部はリトルガーデンにはない筈ですが」

 

 

「それはワルスラーン社が彼女をスカウトしたからさ。彼女の才能とリトルガーデンに出資した雪ノ下建設の長女としてね」

 

 

「今はシャロの元で、事務関係の手伝いをしながらとリトルガーデンの解析官として働いているの」

 

 

成る程、そういうことだったのか。それにしても雪ノ下建設がリトルガーデンに出資していたのは初耳だったな。

 

 

「それにしても驚いちゃったよ。まさか比企谷君が武芸者、かの有名な『影の働き手』だったとはね。しかもシャロの家族だとは」

 

 

「血縁関係はないですけどね。本当の家族は俺を捨てて行ったんです。噂では家族全員総武にまだ住んでいると聞いていますが」

 

 

そう言えば、一度も会ったことがないな。まぁ、俺はわさわざ一時間かけて遠くから来ているから会うとしたら総武高校周辺ぐらいか。

 

 

「それじゃあ、あれから時間もかなり経っているので、俺は帰りますね」

 

 

俺は時計を見て椅子から立ち上がる。見ると、あれから一時間近く話していたようだ。

 

 

「そうか、もうそんな時間か。じゃあ、またリトルガーデンの何処かで会おうね」

 

 

「はい。そうだ、あと数日後に俺がリトルガーデンに居る事がバレてしまうんですが、くれぐれもその時まで自身から雪ノ下や由比ヶ浜とかには俺がリトルガーデンに居ることは話さないでください」

 

 

「当たり前じゃない。それじゃあね」

 

 

陽乃さんの言葉を聞いて俺はシャロのラボを後にする。あの人の事だから俺との約束はしっかり守るだろう。リトルガーデンの何処かで会おうとは言っていたが、解析官だからもしかしたらいつかサベージ討伐で一緒になるかもしれないな。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

編入と会見

 

 

八幡side

 

 

「ハチマン、制服のネクタイが曲がっているわよ。ほら、私が直してあげるわ。こっち向きなさい」

 

 

「ああ、悪いな」

 

 

サクラにそう言われて俺はサクラの方を向いてリトルガーデンの制服のネクタイを直してもらった。

 

 

今、俺が居るのはリトルガーデンの講堂のステージ横である。そこでは俺とサクラ以外にクレアやリディやエリカの生徒会メンバーなどが準備をしている。

 

 

何故ここにいるかだと?それは今日、俺がリトルガーデンに編入、『影の働き手』が編入することをリトルガーデンの生徒やわざわざ集まった広報の記者に発表するためだ。

 

 

俺は舞台横からステージを見る。生徒達も多いが、記者の人もかなりだな。まぁ、今までソロで秘密の武芸者がリトルガーデンに入学するんだ。話題性はかなり高いだろう。

 

 

「ハチマン、そろそろ始めたいのですが準備はよろしいですか?」

 

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 

俺はクレアに訊ねられ、問題ないと返答する。

 

 

「なら、行きますわよ。ハチマンは一応特に話さなくても構いませんわ。では、打ち合わせ通りに………」

 

 

「ハチマン、ステージの横でしっかりと見ているから頑張ってね」

 

 

サクラに見送られ、俺はクレア達生徒会のメンバーと共に講堂のステージに上がった。

 

 

…………………………

 

 

 

………………………………………

 

 

 

…………………………………………………

 

 

俺とクレアとリディとエリカがステージに立つと、講堂に響き渡る生徒と記者の声が一斉に静まった。

 

 

『この度は突然の集会に集まって頂き感謝致しますわ。今回、集まって頂いた理由は皆様も噂で聞いていたのかもしれませんが、新たにリトルガーデンの戦力としてある人物を紹介させて頂くからです。それでは…』

 

 

マイクで話していたクレアに続けるように俺はマイクで生徒達に話す。

 

 

『あー……、クレア…会長から紹介がありました比企谷八幡です。皆様が知っている名前だと『影の働き手』とも呼ばれています。今まではソロでの活動をしていましたが、この度からリトルガーデンの武芸者としてやっていこうとリトルガーデンに編入させて頂きました。リトルガーデンの生徒の皆様、よろしくお願いします』

 

 

俺はマイクを通してリトルガーデンの生徒達に簡単な自己紹介をした。俺が自己紹介を終えると、講堂はしばらく静寂に包まれた。やはりいきなり『影の働き手』の名前を使うのは厳しかったか?そう思っていると……

 

 

 

『ウオォォォオォォオォ!!!』

 

 

 

沈黙を破るかのように生徒達が大きな声を上げて興奮し出す。その間、記者達は俺の方にカメラを向けてシャッターを切り出す。

 

 

『スゲーよ!あの『影の働き手』がリトルガーデンに編入してくるなんて!』

 

 

『私、昔彼に故郷の近くに出現したサベージを討伐して貰ったことがあるの。オガサワラで『影の働き手』がリトルガーデンにやって来るという噂が有ったけど、まさか本当だったのね!』

 

 

『それにしても正体がクレア様と同い年の高校生だったとはね!『絶対無敵の女王(パーフェクトクイーン)』のクレア様に『影の働き手』の彼が居たらリトルガーデンに怖いものなんて何もないわね!』

 

 

生徒達があちこちで俺について話していた。信用されないと思っていたが、杞憂だったな。

 

 

『彼はワルスラーン社からのリトルガーデンへの勧誘を設立当時から断っていましたが、彼のある都合からリトルガーデンに編入という形で彼を迎え入れました。明日からは貴方達と同じ生徒であると同時に、武芸者コースの指導者、また生徒会の一員として彼にはリトルガーデンに在籍します』

 

 

『自分がサベージと戦って来た経験を生かして、リトルガーデンの武芸者達に色々な事を教えようと思っているので、明日からよろしくお願いします』

 

 

クレアと俺の話を聞いて講堂は再び喝采とも言える大きな声に包まれた。どうやら大成功のようだな。ステージ横でもサクラが生徒達に認められたからか、嬉しそうにしていた。

 

 

余談だがその後、俺はクレアから生徒達にハンドレッドを起動した姿を見せて欲しいと言われたので、俺はハンドレッドを起動して生徒達に『影の働き手』としての姿を見せた。それを見て生徒や記者達が驚き、興奮していたが、別に自慢をしていたわけではない。ハンドレッドは血縁関係でも無い限り同じ型は作られない。つまりはハンドレッドを見せることは『影の働き手』を確実に証明する行動でもある。これを見れば少なくともハンドレッドについて知っている者から疑いの目はないだろう。

 

 

 

…………………………………

 

 

……………………………………………

 

 

………………………………………………………

 

 

集会が終わり、俺とクレアはリトルガーデンの発着場に来ていた。なぜなら、サクラはまた明日から大きな仕事ではないものの、アイドルとしての仕事が始まるからだ。そのためサクラは今からでもリベリア合衆国に帰らないと行けない。一応、発着場にはサクラが来ていたことを隠すためリディ達が立ち入り禁止にしているらしい。

 

 

「すまんな。一緒に行けなくて……」

 

 

「別にしばらくは大丈夫よ。私もハチマンと久しぶりに一緒に過ごせて楽しかったわ。今はハチマンを必要とする皆のために居ると良いわ。そこはアイドルの私と精通している所だし。それじゃあ、次はツヴァイ諸島のライブで会いましょう」 

 

 

そう言ってサクラは彼女が所有する飛行機にスフレさんと乗り込む。それを機に飛行機のドアがゆっくりと閉まる。

 

 

「ハーチマーン!これでハチマンも有名になったからずっと保留にしていた私との結婚も考えてね-!」

 

 

「なぁっ!?」

 

 

サクラはとんだ爆弾発言を残していき、俺が答える間もなく飛行機はリトルガーデンから離陸していった。

 

 

「……貴方も大変ですわね」

 

 

ははっ………ここに居るのがクレアだけで良かった。もし他の人に聞かれていたら新たな悩みの種を作る所だったわ。

 

 

 

次の日、俺がリトルガーデンに編入した事と俺が『影の働き手』である事がワルスラーン社の公式サイトから全世界に集会の動画と共に発表された。これを受けて今はどのニュース番組を見ても俺の事しか流れていない。また、何でもリトルガーデンの次年度の入学希望者数が昨年の3倍になったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

次の日………別の場所で

 

 

 

「いや~、それにしても比企谷君の話題は凄いよね~。落ち着くのはもう少し先かな~」

 

 

そう言いながら陽乃はリトルガーデン内で使える通信機であるPDAを使い、最近のニュースを見る。

 

 

「………ん?」

 

 

すると陽乃の目に気になるニュースの記事があり、陽乃はそれを詳しく見ようとする。

 

 

「………これって!?」

 

 

陽乃はそれを見て動揺した。その記事とは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『影の働き手がリトルガーデンに来た本当の理由!?チバにある総武高校で起きた学校全体によるいじめの真相!彼は冤罪ながらもいじめを受けていた!?』

 

 

それは比企谷八幡がかつて通っていた高校の事だった。今回、比企谷八幡が素顔を明かしたので、パパラッチみたいな誰かが興味本意で比企谷八幡について詳しく知ろうとしたのだろう。詳しく見るとどうやら比企谷八幡が学校をやめてから数日後、総武高校にいじめの事実が発覚したのだ。確かに偶然とは言えないだろう。この見出しもよく分かる。

 

 

(比企谷君はあの時、総武高校に関してはもう未練がないと話していたわ。比企谷君が復讐の意味を込めて発表する筈がないし、そもそもあの件について真実を知っているのは比企谷君と私、後はシャロぐらい。一体誰がいじめの真実を流したのかしら?謎が深まるわ………)

 

 

陽乃はその記事を見ながら深く考え込んでいた。

 

 

(でも、見るとあくまでそのような言及を食らっているのは一部の生徒なんだよね。まぁ、自業自得だし仕方が無いんじゃないかな。比企谷君の正体を知らずにいじめをしていた人に関して言えばね)

 

 

 

「…私の考えだと雪乃ちゃんはこれを受けて近いうちに私にまず、連絡をしてくる筈よ。さて…どう対処しようか」

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真実を知った彼ら

アンチ回です。注意してください。これは八幡がリトルガーデンで会見した後の話です。時系列にも気を付けてください。


 

戸塚side

 

 

八幡が総武を去ってからもう数日か……。この数日は色々な事が有ったなぁ。まさか八幡が『影の働き手』だったとはねぇ。

 

 

とか思いつつ僕は授業に参加していた。だけどその授業の様子は異様で僕や川崎さんなどかつてのクラスの半分しかいない。理由は簡単。今、ここに居ない人は例の件で停学を言い渡されたり、転校をしたりしたからだ。

 

 

誰も話す様子が無さそうだから僕が代表して八幡が退学をした日からの話を知る限り順番にしようかな。

 

 

 

 

 

八幡が退学をして、その事は八幡のクラスでもあった僕のクラスで退学したその日の内に発表された。それを聞いて僕と川崎さんは当時は驚いたよ。でも他の人達はそれを喜んだり、自業自得だと罵るばかりだった。正直言って彼らとは一緒の空間に居たくはなかったよ。だけど、真実を知らなかった彼らにとってその行動は後で地獄となるのは僕や川崎さんも当時は知る由もなかったんだ。

 

 

八幡が居なくなり、退学が全校に知れ渡った数日後、僕達はいきなり体育館に集められ、校長先生から八幡の今までの行動の真実を知らされた。それは文化祭の件、修学旅行の件などが書かれた八幡のノートがきっかけだった。

 

 

そのノートは聞いた話だと平塚先生が奉仕部の教室で偶然発見したらしい。そこには事件の真実の詳細や文化祭実行委員の出席表といったその真実を裏付ける証拠、そして八幡の心からの叫びが文章として書かれていたそうだ。それを平塚先生はすぐさま校長先生に提出したことでああなったとか。何でも平塚先生と校長先生は八幡が退学届けを出した時に居合わせていて、八幡をずっと心配していたらしい。

 

 

そこからの展開は早かった。発表後、僕達は流れるように先生達からそれぞれ個別に事実確認をさせられた。そして、それは城廻会長の文化祭の証言などによってさらに裏付けされる事になった。

 

 

それを受けて八幡を身体的にいじめていた生徒の数名は停学処分、その他いじめに関与した生徒達や文化祭実行委員をサボった生徒の多くは反省文を書かされる処分となった。もちろん、無関係な僕や川崎さん、材木座くん、城廻会長などには何もなかったよ。

 

 

一通り生徒達への処分が終わったと思ったら大間違い。やはり、そう簡単に治まるわけもない。僕のクラスでは日常茶飯事ギスギスした環境になっていた。まず、相模さんはデマを流した張本人として八幡をいじめていた皆から責め立てられていた。皆も皆で責任転嫁で甚だしいが、彼女は当事者でありながらああいう事をしたから仕方がないと思う。それを機に相模さんは今も登校拒否中であれから音沙汰が無い。

 

 

だけど相模さんと同じ、いやそれ以上責め立てられていた人物がいる。葉山くんだ。なぜなら葉山くんは文化祭、修学旅行の件両方に絡んでいながら相模さんと一緒にデマを言いふらしたからだ。修学旅行の真実を聞いて三浦さんは激怒、戸部くんからも裏で工作をしていた事に反感を抱き、事実上葉山くんのグループは解散した。本来は無茶な依頼をした戸部くんや海老名さんにもヘイトが来るかもしれなかったが、葉山くんへのヘイトがすごくて、海老名さん達は葉山くんに利用された被害者として扱われていた。今は海老名さん達はもう反省した雰囲気を見せており、三浦さんを中心に再び新しいグループが出来ていた。その時に八幡を通して仲が良かった僕や川崎さんも三浦さんからグループに誘われ、今は良好な関係である。一方で葉山くんは学校には登校しているものの彼の居場所はどこにもないだろう。

 

 

そして最後に奉仕部の雪ノ下さんと由比ヶ浜さん、彼女らのヘイトもかなりのものだった。なぜなら八幡を精神的に退学にまで追い詰めた人物として葉山くんと同等の罪があると思われていたからだ。彼女達も葉山くんに嵌められたと皆に話したが、それは逆効果でさらに彼女達を苦しめる事になってしまった。彼女達は一応学校には登校しているらしいが、少なくとも教室にはいない。だから僕にも彼女達が何をしているか良く分からないんだ。

 

 

 

ここまでが八幡が退学してからの総武の状況だよ。次はニュースで話題になっていた八幡がリトルガーデンで会見した後の話をしようか。

 

 

八幡がリトルガーデンで会見をした後日、総武高校は有名になってしまった。悪い意味でね。どうやら最初は千葉県内の軽い事件で治まっていたが、八幡のリトルガーデンの会見でそれは世界規模にも知られてしまった。あれから連日、総武高校にはマスコミが駆けつけている。だけど、僕や川崎さんなどには影響はない。マスコミのターゲットは八幡に大きく関わった葉山くんや雪ノ下さん達だからね。

 

 

これを受けて総武高校の評判は地に落ちてしまったものが、通り越して無になってしまった。城廻さん達三学年や僕や川崎さんや三浦さんといったいじめに無関係な人は内申書や推薦入学には支障は出ないようにと、校長先生が手を打ってくれたが、葉山くん達はもう救えないだろう。これにより僕達のクラスでも八幡のいじめに加担しながらも推薦入学を考えていた生徒やマスコミに耐えられない生徒達などが続々と総武高校を去って行った。そして今に至るわけだ。ちなみに葉山くんや雪ノ下さんはこれだけ大事になっても未だに残っている。

 

 

 

さて、話はここで終わりかな。実は授業が終わってから三浦さん達から昼飯を一緒に食べないかと誘われていてね。行かなきゃいけないんだ。じゃあ、またどこかで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

雪ノ下side

 

 

くっ、何故私がこんな目に会うのかしら。あれから私の生活はもう滅茶苦茶よ。あの事件が公になって私と由比ヶ浜さんは学校から罪人のような目で見られているわ。そもそもあの修学旅行に関しては依頼を持って来た葉山くん、そして私達に何も言わず勝手に依頼をあんな方法で解決した比企谷君が悪いじゃない。それにわざわざあんなノートを置いていくなんて嫌がらせかしら。少なくとも、私には罪がないと思うのに。

 

 

そう思いながら、私は奉仕部だった教室のドアを開く。そこで待っていたのは………

 

 

「やぁ、雪乃ちゃん」

 

 

「やっはろー、ゆきのん」

 

 

現在総武高校で腫れ物のように扱われてしまっている、葉山くんと由比ヶ浜さんだった。私としては本当は葉山くんとは居たくもないが、彼にはある共通の目的の為に集まってもらっていた。

 

 

「早いわね。じゃあ、話を始めましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比企谷君に復讐をする会議を」

 

 

私がそう言うと二人はうんうんと頷いた。そう私達の共通点はあのクズに生活を狂わされたという点である。お陰で私は母親からこれでもかと怒られて、学校でも悪者扱いされて内申書からろくな大学にしか行けない。これも全てあのクズの仕業である。

 

 

だが、今は彼はリトルガーデンと呼ばれる施設で武芸者をやっている。そう簡単には復讐できない。

 

 

そこで私はある考えを思い付いた。

 

 

「二人とも、リトルガーデンに編入する件だけど、両親とは相談したかしら?」

 

 

「もちろん、OKしてもらったよ!」

 

 

「俺も大丈夫だったよ」

 

 

そう言って二人は鞄からリトルガーデンの編入願書を持って頷く。この願書は比企谷君がノートと一緒に残したリトルガーデンのパンフレットから切り取ったものである。もちろん、私もリトルガーデンの編入は何とか親に許してもらった。

 

 

「なら、第一段階は無事に終わったようだね。次は編入試験だけど、どうやら今年はあのクズのせいで倍率は入学も含めて過去最高だ。そこはどうするんだい?」

 

 

「そうね。まずは姉さんに相談して何とか入れてくれないか交渉するわ。雪ノ下建設はワルスラーン社にも多額の出資をしてるから多分どうにかなるわ」

 

 

「さっすが!ゆきのん。それにしてもヒッキーまじ最低だし。何も言わずに出ていって挙げ句の果てにはこんな目にあわせるなんて。会ったら謝罪してもらうし」

 

 

私の気持ちは由比ヶ浜さんと同じである。もし、リトルガーデンで会ったなら土下座して謝罪してもらうわ。それに彼が武芸者なのもきっとズルをしたからに違いないわ。私が彼の悪事の全てを暴いて見せるわ。それにしてもあのいじめの件は雪ノ下家の力で情報統制したはず…それに比企谷君は記者会見で総武高校について何も話していない。一体誰が再び話を持ち上げたのかしら?

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

葉山side

 

 

比企谷……お前がただ黙っていればこんな事にはならなかったのに。あんなノートを置いていきやがって……。それにお前が世界から注目される武芸者だと?笑わせるな。俺の方がふさわしいに決まっている。どうせ、クズらしくズルをしたんだろう。お前は俺が始末してやる。そうすれば雪乃ちゃんからも認められるし、ワルスラーン社からも賞賛されるに決まっている。せいぜい俺達が来るまで楽しんでいるんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

彼らが話している頃、ワルスラーンの一室ではある男が総武高校のニュースを見ていた。

 

 

 

「やれやれ、まさか雪ノ下建設が情報統制をしていたとわね………僕の大事な友人に手を出したんだ。まさかうやむやにしようとするなんて腹が立って仕方がない。雪ノ下建設は今頃慌てているだろうな。もみ消した筈の事実が世界中に知られてしまったからね。自業自得さ」

 

 

そう、比企谷八幡が総武高校出身である事といじめの出来事を週刊記者やマスコミにこっそりと流したのはワルスラーン社の社長であるジュダル・ハーヴェイだったのだ。その事を知るのは彼自身だけであった。

 

 

 

 




かなり詰め込み過ぎちゃいましたね。そろそろ本編に入れると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

次年度の編入学試験会議

 

 

八幡side

 

 

あの会見から二日が経過した。俺の学校生活も昨日から始まり、今さっきまで俺も授業があったばかりだ。俺は授業を終えると、すぐに生徒会長室に向かっていた。

 

 

「失礼します」

 

 

そう言って俺が生徒会長室に入ると、中ではクレアとリディとエリカが待っていた。

 

 

「比企谷先輩、お待ちしておりました」

 

 

「すまない、待たせたか?道中で他の生徒達に話しかけられな。収拾に時間がかかった」

 

 

「すっかり人気者ですわね。大丈夫ですわ、集合時間にはしっかり間に合っています。それでは始めましょうか」

 

 

クレアにそう言われながら俺は生徒会長室に新たに設置された自分の席に座る。その間、エリカがコーヒーを汲み、俺の席に置いてくれた。優秀な後輩だ。

 

 

「ああ、今日集まったのは次年度の編入学試験の内容を決めるからだっけか?」

 

 

俺はクレアに今日の会議の題を訊ねた。

 

 

「その通りですわ。毎年リトルガーデンの編入学試験の内容は私達生徒会に一任されていますが、今回はハチマンがリトルガーデンに来た宣伝効果で編入学合わせて例年の三倍以上です。試験の内容もしっかりと考えなければなりません」

 

 

今更ながら思うが、自分の影響力に驚いてしまう。まさかリトルガーデンに入っただけで編入学の希望者が三倍以上になるとは思わなかった。今頃、ジュダルがワルスラーン社の一室でウハウハとしているのが目に浮かぶ。

 

 

「確か、エリカやリディの時のリトルガーデン設立時の試験は三段階分けたんだっけか?」

 

 

「そうです。リディはもう武芸者の教育係としてリトルガーデンに特待生として来ることが決まっていたので、私しか試験は受けていませんが、最初はハンドレッドの適性検査、これが基準値を満たした者しか次の試験に行けず、続いて身体能力と知力測定の検査、そして最後に面接試験でした。しかも私の面接官はクレア様だったのです!」

 

 

俺は後輩であるエリカに訊ねると、エリカは試験の内容を興奮しながら俺に話した。

 

 

お、おう、分かったから落ち着いてくれ。実は最初、エリカは優秀な後輩だと思っていたが、クレアに対しては崇拝のような感情を持ち合わせており、クレアの話になると興奮して普段の冷静さが失われる一面がある。しかも、それはエリカだけかと思っていたが、向かいに座るリディにも同じ一面があるのだ。二人ともまるで、女王に忠実な騎士みたいだな。

 

 

「で、今年も方針としてはそれで行こうと思っていたのですが、実はワルスラーン本社から面接の試験を無くして二段階による試験方法にしろと通達を受けましたわ」

 

 

「ほう、どうしてだ?」

 

 

「今年はあくまで質よりも量に重きをおこうとしたからですわ。今、生徒会直属の武芸者部隊であるセレクションズを含めてリトルガーデンにはサベージと戦える武芸者の数は非常に少ないです。そのため面接試験で志望動機や性格で落とすのはどうかという意見がワルスラーン本社で有ったらしいですの。」

 

 

「じゃあ、もしチームワークがとれなかったり、ゴロツキみたいな性格でも武芸者としての能力が高ければ入学させるっていうことか」

 

 

「まぁ……そうなりますわね。私としてはあまり納得出来ませんが、私達には試験の内容を決める権利しかありません。方針には逆らえませんわ」

 

 

そう言いながらクレアは悔しそうに話す。クレアは規律を乱す人が嫌いなためその気持ちは分かる。そしてそれは単に生理的なものではなく、彼女なりの心配ということもな。

 

 

「じゃあ、一次試験のハンドレッド適性検査は昨年度と同じで変えなくても良さそうだな。下手に基準を上げると、数が減るしな。大事なのは二次試験の内容だな」

 

 

「そうですわね。面接が無い分、そこが重要ですわ。実はハチマンがリトルガーデンに来る前に知力測定のテストを草案ですが、作っておりましたの。ハチマンも目を通してくれませんか?」

 

 

そう言ってクレアから極秘資料と書かれた少し大きめな封筒を貰う。俺はそこからクレアが話していた知力測定のテストの草案を取り出す。

 

 

ほう、テスト科目は数学、国語、外国語と案外普通の学校と変わりがない。中等部、高等部共に難易度も普通だな。普通と言っても難関私立ぐらい。それに加えて社会……高等部だと政治・経済か。うわ、サベージの事件とか結構マニアックだな。この4教科でテストをするなら社会が一番難しいだろう。

 

 

「悪くはない、大丈夫だ」

 

 

俺は草案を封筒に戻してクレアに返した。

 

 

「なら、これで次年度の知力測定のテストはこれで行いますわ。この中には居ないと思いますが、くれぐれも極秘事項なので、内容を漏らさないように。では、次は身体能力テストの話をしましょう。こちらはまだ決まっていないので」

 

 

「そこはやはり、軍人を目指していた経緯があるリディに聞くのが一番じゃないか?」

 

 

「そうですわね。リディ、何か意見があれば」

 

 

そう言って俺とクレアはリディの方を向いた。

 

 

「そうですね……私としては走らせ続けて体力測定をするのが一番ですね。……最低60㎞は」

 

 

「待て。それ普通に死ぬやつだろ」

 

 

いきなり60㎞とか編入学者もびっくりだよ。何?ハンター試験でもやる気なのか?私についてきてくださいとか言うなよ?

 

 

「ですが、軍人を目指していた時期はこれぐらい当たり前でしたが」

 

 

「普通の人が最初から軍人を希望する人なんて余程の事が無い限りありえねーよ」

 

 

「ハチマンの言う通りですわ。今回は確かに身体能力のテストも方針が方針なので、少しは厳しくしても良いですが、流石にやり過ぎですわ。あくまでリトルガーデンは育成施設なのですのよ」

 

 

「ク、クレア様がそう申し上げるなら………20kmぐらいが妥当でしょうか?」

 

 

「まぁ、それぐらいなら……」

 

 

「ええ、それで構いませんわ。なら身体能力テストもひとまずそれで行きましょう。なら会議はこれで解散ということにしましょう。お疲れ様でした」

 

 

こうして次年度の編入学試験の内容は草案として決まった。後はワルスラーン社がこれを見て何もなければこれで試験の内容は決定である。どんな生徒が来るんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

陽乃side

 

 

比企谷君ったらもうすっかり人気者だな~。まぁ、リトルガーデンの男性の数が少ないのもあるけど、やはりクレア・ハーヴェイと並ぶ人が現れたら人気になるのも当たり前か~。実際、隠れてファンクラブが出来ているし。

 

 

そう思っていると、私の携帯電話が音を出して震えた。普段はリトルガーデンでしか使えない通信機であるPDAからしか鳴らないからこっちの普通の携帯電話から鳴ったということは……

 

 

「もしもし、雪乃ちゃん?」

 

 

『姉さん、久しぶりね』

 

 

やはり雪乃ちゃんか。それにしても私の読みが当たったわね。どうせ比企谷君のことかな?試しに聞いてみよう。

 

 

「それにしても珍しいね。雪乃ちゃんから電話をかけてくるなんて何の用かな?」

 

 

『姉さんは比企谷君に会ったのでしょ?』

 

 

「うん、会ったよ。まさか比企谷君が世界から注目される武芸者だったとはねー」

 

 

『姉さん、姉さんはあのクズに騙されているのよ!今すぐにでも彼から離れた方が良いわ。彼は私や由比ヶ浜さんの生活を無茶苦茶にしたのよ!』

 

 

あはは、雪乃ちゃん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何を言っているのかな?

 

 

比企谷君が雪乃ちゃん達の生活を無茶苦茶にした?笑わせないでくれるかな?彼は雪乃ちゃんの依頼に精一杯応えたのよ。それを私が悪く無いって?比企谷君が総武高校にいる間、貴女は何事もなく生活を送れていたでしょ?それは彼のお陰なんだよ。それを雪乃ちゃんは………

 

 

「話はそれだけ?電話を切っても良『待って姉さん、話はもう一つあるの』

 

 

へぇ、本当はこれ以上雪乃ちゃんの話なんか聞きたくはないけど、仕方ないわね。これ以上怒らせないでくれるなら。

 

 

 

『私、次年度のリトルガーデンの編入学試験を受けることにしたの。でも、今年の編入学者は多いと聞いてるわ。そこを姉さんの力でどうにか私と由比ヶ浜さん、それと葉山君をリトルガーデンの武芸科に入れてくれないか交渉してくれないかしら?』

 

 

はぁっ?

 

 

その時私の携帯電話を持つ手が怒りに近い何かで震えていた。どういうことかな?

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

姉と妹の対立

問題!雪ノ下陽乃は雪ノ下雪乃と絶縁する、⭕か❌か?

正解は………

by2040年から来た仮面ライダーより


 

陽乃side

 

 

私は雪乃ちゃんの話を聞いて思わず怒りがこみ上げそうになっていた。貴女は比企谷君をそこまで軽蔑するんでしょ?私が不愉快だと思う程に。それなのにどうして貴女はリトルガーデンに来る意味があるのかしら?

 

 

「詳しく教えてくれるかな?」

 

 

私は雪乃ちゃんに平常を装って訊ねてみた。

 

 

『比企谷君に復讐するためよ。姉さんは知ってるかしら?雪ノ下建設は今、総武高校のあの件について情報統制をしたら何者かによって再び掘り起こされて挙げ句の果てには情報統制をしていたのがバレて多大な被害を受けているのを。今はワルスラーン社に再び大きな出資をして何とかワルスラーン社の影で生き延びている状況なのよ。きっと比企谷君がワルスラーン社を通じて漏らしたんだわ。姉さんも文化祭について関わっていたでしょう?姉さんも彼に弱味を握られて何を漏らされるか分からないわ。あんな男が私達をよそに楽しく過ごしているのが許せないわ。だから彼に復讐するために私達に協力して頂戴。』

 

 

「雪乃ちゃん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いい加減にしなよ?」

 

 

私はもうこれ以上雪乃ちゃんの話を聞くのが耐えられなかった。それと同時に私の怒りを抑えるのも。

 

 

「比企谷君がクズだって?貴女達三人の方がクズよ!貴女達は比企谷君が総武高校に居た間、何事もなく生活を送れていたでしょ!それは比企谷君が貴女達の無理なお願いを引き受けてその責任も彼が引き受けてくれたからよ!それを貴女達は自分達の生活が送れなくなったからという理由で比企谷君に復讐するだって?ふざけるな!元はと言えば貴女達が悪いんでしょうが!それに私が比企谷君に弱味を握られている?ふざけたことを言わないでくれるかな。彼はそんなことはしないし、私を許してくれたわ。復讐に協力しなさい?する筈がないでしょ!頭おかしいんじゃないの!」

 

 

『ね、姉………さん?』

 

 

はぁ……はぁ……こんなに大声で怒ったの何年ぶりかな。雪乃ちゃんも驚いているようだけど。

 

 

「雪ノ下建設が何とか生き延びている?私の知ったこっちゃないわ。私には関係ないから」

 

 

雪乃ちゃんには言わないけど、リトルガーデンに武芸者をサポートするためにスカウトされた時点で私の就職はワルスラーン社だと決まっている。雪ノ下建設を継ぐという定められた人生から抜け出した私にはもう雪ノ下建設など本当に関係ない。

 

 

「少なくとも私は貴女達に協力はしないよ。もし入りたいなら自分の実力で入りなさい。まぁ、比企谷君が生徒会をしている以上貴女達はブラックリストに入っているかも知れないからリトルガーデンには実力を示しても入れないかも知れないかもね。総武高校に居た方が良いんじゃない?来年受験でしょ?」

 

 

これは雪乃ちゃんへの最後の警告よ。私があれだけの事を言って反省して大人しくしているならまだ雪乃ちゃんをまだ見捨てないわ。でももしあれが無意味ならその時は……

 

 

しばらく間を残すと、携帯電話の向こうから雪乃ちゃんが喋ろうとする雰囲気を感じた。さぁ、答えは……

 

 

『黙りなさい!姉さんが協力しないなら結構よ!私達は彼のような偽りの実力と違って自分達の実力で入るわ!私の実力はあのクズ、いやクレア・ハーヴェイ以上なのを証明してみせるわ。私があんなクズを入学させる腐敗したリトルガーデンを変えてみせるわ!』

 

 

………どうやら伝わんないどころか、挙げ句の果てにはリトルガーデンをも侮辱か。クレアさんに聞かれたら何を言われるか。仕方ない………

 

 

「どうやら伝わんなかったみたいだね……なら私からも言わせてもらうよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう貴女を妹とは思わないわ。絶縁ね」

 

 

『え………?』

 

 

「雪ノ下雪乃、今から貴女と私は赤の他人だよ。これ以上私に関わらないでくれるかな。後、もし貴女がリトルガーデンに入れても貴女のそのふざけた意思が有る限り貴女の居場所はどこにもないから」

 

 

『ちょ……姉さ「私を姉さんと呼ぶな!」……』

 

 

私は最後に雪ノ下雪乃が私のことを未だに姉さんと呼んだので、怒鳴りながら携帯電話を切った。

 

 

まさか、雪乃ちゃん……雪ノ下雪乃があんなことを考えていたとわね。妹ながら愚かね。

 

 

私は携帯電話を初期化する。もう私には妹だった女と連絡をする必要はない。彼女以外と連絡をするなら大抵はリトルガーデンから支給されたPDAで大丈夫だからね。

 

 

次、リトルガーデンが何処かに停泊したら携帯電話を売りに行こうかな。そこそこの値段で売れると思うんだけど。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

雪乃side

 

 

 

プー……プー……

 

 

くっ、携帯が繋がらないわ。

 

 

「ゆきのん?どうだった?」

 

 

そう言って隣で由比ヶ浜さんと葉山くんが私を心配そうに見ていた。

 

 

「駄目ね。まったく取り合ってくれなかったわ。それに姉さんに絶縁される始末よ。私が何をしたというのかしら?せっかく親切に比企谷君との縁を断ち切らせようとしたのに」

 

 

「恐らくだが、比企谷のハンドレッドには人を洗脳する力もあるかもしれない。だからリトルガーデンの人や陽乃さんがあんなに比企谷を庇うのかもしれない」

 

 

「ヒッキー、キモッ!人を洗脳するとか人間として終わってるし。」

 

 

「……そうね、葉山くんの言う通り姉さんは比企谷君に洗脳されているに違いないわ。私が救ってあげないと」

 

 

「そうだね、ゆきのん」

 

 

「ああ、陽乃さんと一緒にリトルガーデンをあのクズの魔の手から救ってあげよう」

 

 

「でもリトルガーデンに編入するには意地でも試験に合格しないといけないわ。試験まで死ぬ気でやるわよ」

 

 

私がそう言うと、由比ヶ浜さんと葉山くんは頷いた。居場所が無いですって?それはあのクズが洗脳しているからでしょう。待ってなさい、私が皆を救ってあげるから。

 

 

 




⭕だ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俺の弟子は戸塚二代目である。

今日はついにあのヒロインが出ます。


 

 

八幡side

 

 

「はあっ!そらっ!」

 

 

「くっ……!」

 

 

俺はハンドレッドを起動させている時に使うハンドガン型のものをアサルトライフルの形にしてマシンガンのように絶え間なく撃ち続ける。それに対して俺が今、対峙している武芸者はギリギリながらも弓から青い光を纏ったセンスエナジーで作った矢で俺の攻撃に応戦する。

 

 

俺は矢をかわしながらその武芸者に素早く近づく。その間俺は影から刀を生成し、片手に持つ。

 

 

「遅いなっ!」

 

 

「ぐっ!………」

 

 

俺は急に近付いて怯んだ隙をついて刀でその武芸者を叩きつける。勿論、センスエナジーを使っていないため斬れる事はない。ただ、叩きつけられて痛いだけだから大丈夫だろう。その武芸者は吹っ飛ばされて攻撃された箇所を手で押さえていた。

 

 

「……まだまだだな。イノセンス型は長距離、中距離、近距離に対応できる万能タイプだ。前回よりは反応速度はよくなっていたが、もう少し武装を変える時間を短くしろ。頭の中で何が一番良いかをまだ考えているからこうなるんだ。直感でこれが最適だと思う武装でいかなる状況に素早く対応する、これがイノセンス型の理想の戦い方だ。じゃないと、さっきみたいに急に来られたらやられるぞ。それに武芸者がそんなに毎回痛がってどうするんだ?」

 

 

「しょうがないじゃないか。痛いものは痛いんだし。それに僕だってまだハンドレッドでの練習をしてまだ2ヶ月なんだよ。かなり成長した方じゃないか」

 

 

「まぁな、確かにハンドレッドを使い始めたばかりで武装の扱いが出来なかったあの頃よりは全然マシだな。さて、今日はもうあがるぞ、エミール」

 

 

「了解だよ!ハチマン先生!」

 

 

そう言って俺が先程戦っていた武芸者、エミールが元気な声で俺の提案に乗った。

 

 

……………………………

 

 

 

………………………………………

 

 

 

………………………………………………………

 

 

 

「シャロー、帰ったぞ」

 

 

「ハチマンおかえり~、今日も実に良い研究成果だったよー」

 

 

俺がシャロのラボに帰ると、そう言ってシャロは手元にあるキーボードでカタカタと俺とエミールとの模擬戦の結果を入れていく。

 

 

ついさっきまで俺とエミールはシャロがリトルガーデン内で個人的に所有している武芸者の練習場で模擬戦をしていた。普通に俺の権限で一般使用の練習場を借りようとしたが、何でもシャロ自身もイノセンス型のハンドレッド同士の戦闘はどこにも例がなく、それを通じて研究がしたかったらしい。

 

 

「エミールはどうしたんだい?」

 

 

そう言ってシャロはエミールの所在を訊ねた。

 

 

「ヴァリアブルスーツから普通の服に着替えるために更衣室にいる。ほら、俺の場合ヴァリアブルスーツはハンドレッド起動時に同時に顕現できる特別仕様だから、ハンドレッドを解除すれば普通の服に戻るから着替えの時間は必要ないからさ。後から来るはずだ」

 

 

本当はシャロの所に一緒に行こうと更衣室でエミールを待とうと思っていたんだが、急かされて追い出されてな。顔だけでなく性格も女っぽいよな。男子の割りに。

 

 

「私がハチマンのハンドレッドだけに付けた特別仕様を有効に使ってくれて何よりだ。開発者としても嬉しい限りだね。で、エミールはどうだい?」

 

 

「初期よりはかなり成長しているな。初心者にしてはハンドレッドを使う以前に戦闘を恐れるありがちなメンタルの問題もないし、それに扱いが難しい筈のイノセンス型を俺のアドバイスが有るとはいえ、ああも簡単に使いこなせるとは……武芸者としての才能が非常にある。新入生の入学式まではあと1ヶ月あるが、このまま鍛練していればセレクションズの入隊は確実だな。結果はまだだが、先日新入生の試験にも難なく合格するだろう」

 

 

「ほほー、君がそういうなら確実だね。エミールもきっと喜ぶだろうね」

 

 

「たっだいまー!」

 

 

シャロが話していると、エミールがラボに入って来た。着替えがどうやら終わったらしい。

 

 

「おかえり。ちょうどエミールの話をしていた所さ。ハチマンが言うには試験合格は確実だってさ」

 

 

「ホントに!?やったー!」

 

 

そう言ってエミールは俺の隣で喜んでいた。

 

 

 

エミール・クロスフォード

次の入学式でリトルガーデンに入学予定(俺からしたら確実)のシャロが俺に紹介した武芸者だ。

 

 

その容姿は可愛らしく女性かと思わせるのだが、彼女……失礼、彼は自分は男性だと話している。いわゆる戸塚彩花アローラの姿ならぬ、リトルガーデンの姿である。まさか、戸塚のような人物がリトルガーデンにいるとは当時は思わなかった。性格も明るい所は戸塚は似ているし。

 

 

今から2ヶ月前、俺はシャロからリトルガーデンの入学式までにエミールを武芸者として鍛えて欲しいと言われたのが彼との出会いである。別に他の人でも良いのではないかと思ったが、俺じゃなきゃいけない理由は彼のハンドレッドを見てすぐに分かった。

 

 

彼のハンドレッド、全てを覆い隠す霧(アームズシュラウド)は世界から見ても特殊な性質で俺を含めて二件目であろう非常に珍しいイノセンス型のハンドレッドである。それは未だにエミールとシャロと俺しか知らない秘密である。じゃないとワルスラーン社の一部の悪い奴等に実験体として扱われてしまう。ワルスラーン社にはイノセンス型の性質を利用してドラグーン型でハンドレッドを登録しているが。

 

 

そんなわけで、俺は数少ない同じ性質を持つハンドレッドの先輩として彼を鍛え始めた。最初は銃や剣の扱いなど、武術的な面は駄目だったが、センスエナジーを使った特殊な技術、エナジーバリアや高速移動といったものは優れていた。そのため、俺は模擬戦をしながら彼の武術的な面を強化しつつ、イノセンス型のハンドレッドを使う者として使える武装の種類の数を増やす練習をした。その結果、今では銃や剣の扱いは慣れたもので、使える武装の数も当時よりは倍に増えていた。彼自身のリトルガーデンに入りたい強い気持ちが有ったかもしれないが、2ヶ月でここまで成長するのは異常であった。

 

 

だが、それは彼に秘密が有ったからだ。ハンドレッドを扱う天性に近い才能、普通の人より優れている自身のセンスエナジーの要領、そしてイノセンス型という特殊なハンドレッド。シャロからエミールのハンドレッドの反応数値を見せて貰って案外普通だと思っていたが、それは模擬戦を通して違うと分かった。

 

 

俺はジュダルには知られているが、ヴァリアントであることを隠すためにハンドレッドの反応数値を操作して、クレアと同じくらいにしてワルスラーン社に定期的にハンドレッドの反応数値を提出しているが、俺が知るなかでそんな手段が出来るのは俺と同じ境遇の者しかいない。

 

 

「はしゃぐのは良いが、才能を見せびらかしてヴァリアントだとバレないようにしろよ。ヴァリアントの存在は高等部の2年の授業でやるが、あまり良い印象はないし」

 

 

そう、エミール・クロスフォードは俺やサクラと同じヴァリアントなのだ。俺がシャロとエミールに話すとシャロは「君にいつかバレると思っていたが、こうも早くとはねー」とエミールがヴァリアントであることについて詳しく話してくれた。

 

 

どうやらエミールは昔、グーデンベルグと呼ばれるヤマトのはるか西にある国でサベージによる大規模な事件、『第二次遭遇』の被害にあったらしい。そこでサベージに襲われ、出来た傷からサベージの体液が体内に入り、ヴァリアントになったそうだ。その後シャロが彼を引き取って、ヴァリアントの力をある程度制御できるようになり、今に至るというわけだ。その時に俺もヴァリアントだということをエミールに言うと、その日から同じ境遇の者同士親しい関係である。

 

 

「それは分かってるさ。自分でもあまり使おうとも思わないよ。それより今日次の入学式に来る特待生のデータが来たんだよね?」

 

 

「ああ、今年は一人。名前は如月ハヤト。歴代最高のハンドレッドの反応数値を叩き出した男だな」

 

 

「…………ハヤト。」

 

 

「ん、どうした?しんみりとして。もしかしてこいつと親友とかだったか?」

 

 

「……いや、昔グーデンベルグで一度会ったきりの名前にそっくりでさ」

 

 

「へぇ、成る程な。で、ちょっと問題なのはこいつのハンドレッドの反応数値だな。この高さは…」

 

 

「確実にヴァリアント、だろ?」

 

 

そう言って俺とエミールの話に割り込むようにシャロがその話の続きを話す。やっぱ、分かってたか。

 

 

「ああ、経歴からしてもハンドレッドに触ったのはこの前の特待生の試験が初めてらしい。こうなってしまうと、嫌でも悪目立ちするな」

 

 

「そう、だね。僕とハチマン先生はシャロを通じてヴァリアントでもハンドレッドの反応数値を目立たせないようにする練習は少しずつしてきたからね」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

 

その後、俺はエミールと今日の練習について反省会をした。もうほとんど、反省するところは普通の武芸者としてはあまりないが。それにしても如月ハヤト……か。どんな奴だろう?

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

予想外の通達

これで原作前の話は終わりです。次回からは原作に入っていこうと思いますよ!


 

八幡side

 

 

リトルガーデンの入学式まで残り1ヶ月をきった。俺はサクラとの約束を守るため入学式は欠席し、そろそろリトルガーデンを一時的だか離れる準備をしている。もちろん、それはすでにクレアから了承を得ている。

 

 

そんなわけで、俺は今リトルガーデンを一時外出するために人一倍生徒会長室で公務を行っている。大事な入学式に参加しないのにクレア達に何もせずに任せるのは男として彼女らに悪い気がするからな。

 

 

「ハチマン、こちらが先日の編入学試験に合格した武芸科のリストです。私もまだ中身は詳しく見ていないのですが、初めに目を通して見てください」

 

 

「ああ、拝見するぞ」

 

 

クレアから束の資料を貰い、俺はリベリア合衆国に停泊した際に箱買いをしたマックスコーヒーもどきを飲みながらその合格者リストを拝見する。

 

 

武芸科の合格者は如月ハヤト、エミール・クロスフォード……おお、エミールも合格してたな。後でエミールに話しておこう。それでフリッツ・グランツ、レイティア・サンテミリオン………え……は?

 

 

「ゲホっ!?」

 

 

「ハチマン!?」

 

 

俺は武芸科の合格者のリストのある見覚えのある名前を見てしまい、口に含んだマックスコーヒーもどきを吹き出しそうになる。いきなり咳き込んだからか、クレアやエリカ、リディ達は心配そうな様子をしていた。

 

 

「どうしましたの?ハチマン?」

 

 

「ゲホっ……大丈夫だ。それより合格者を決めているのはワルスラーン本社だったよな?今からあのバカ……じゃないジュダル・ハーヴェイに連絡できるか?」

 

 

((比企谷先輩(さん)、今ワルスラーン社の社長をバカと言っていたような……))

 

 

「ええ、可能ですわ」

 

 

エリカとリディが何故かは知らないが、唖然としている中、クレアはそう言ってワルスラーン社に連絡するための機械をいじり始める。俺はその間、見間違いじゃないかをもう一時リストを確認する。……残念、どうやら見間違いじゃないらしい。

 

 

「出来ましたわ」

 

 

『やぁクレア。』

 

 

生徒会長室にある大きなモニターにクレアに挨拶をするジュダル・ハーヴェイの顔が映った。

 

 

『君から連絡をするなんて珍しいじゃないか。それと……おお、ハチマンじゃないか!顔をお互い見合わせるのはあの賭け以来だね。その制服似合っているよ』

 

 

俺はジュダルの言葉に若干の怒りを覚えながらもジュダルにあることについて訊ねる。

 

 

「そんな再開の挨拶なんてどうでも良い。それよりこれはどういう事か説明してもらうぞ」

 

 

俺はモニターにリストを見せつける。クレアやエリカやリディも何が書いてあるかを横から見ようとする。

 

 

 

そこに書いてあったのは……

 

 

武芸科新入生

 

 

〇雪ノ下雪乃

 

 

〇葉山隼人

 

 

〇由比ヶ浜結衣

 

 

見覚えのあるあの三人の名前だった。

 

 

「この三人って確か……」

 

 

「テレビで報道されている比企谷さんを追いやった奴等じゃないか!」

 

 

そう、リディの言う通りである。まさか、俺のノートがあんなことに発展するとは自分でも思わなかった。余談だが、エリカやリディには葉山と雪ノ下と由比ヶ浜の名前を生徒会の仲間として教えているが、テレビではHくんとYさんというように名前を伏せて報道されている。普通の人はまず知らない。

 

 

「お兄様!これは私からも不服がありますわ!どうして彼らを合格にしたのです?かれらが武芸者科に来るなんてハチマン以外理由がありませんわ!」

 

 

そう言ってクレアは大きな声で自分の兄に対してひどく憤っていた。まぁ、無理はないか。

 

 

「それと………何でこいつら編入生じゃなくて、新入生扱いなんだ?あいつら次3年生だぞ」

 

 

『まぁまぁ、一つずつ話そう。まずはクレアの方だが、彼らは身体能力や知力の面では確かに脱落させるような一面はあったよ』

 

 

だろうな。由比ヶ浜があんな問題を解けるわけないし、雪ノ下はリディが考えた20㎞走なんか出来るわけがない。葉山ならどうにかできそうだが。

 

 

『だけど、それを補ってハンドレッドの反応数値が他の生徒より高くてね。ワルスラーン社でも協議をした結果、将来性にかけて彼らをギリギリながらも入学させることになったというわけだ』

 

 

「ほう……ちゃんとした理由があるならまだ良い。嫌がらせだったらワルスラーン社の社長室に弾を一発お見舞いするするところだ。で、何故こいつらは新入生の枠にいる?次は高3の筈だが?」

 

 

俺はそう言ってジュダルに質問を叩きつける。

 

 

『あれ?君が編入する時にクレアから編入について聞かされていないのかい?』

 

 

 

編入した時……………?

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

回想

 

 

 

 

『はぁ……分かった。それで俺はリトルガーデンに編入するんだが、学年はどうなる?』

 

 

『そうですわね。高等部武芸科3年次からの編入は前例がなく、武芸者として初心者なら高等部1年から編入することになりますが、ハチマンなら実践経験がありますから高等部3年からでも大丈夫でしょう。来年度からは私と同じ学年です』

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「そういえばそんな話あったな。確か俺は武芸者としての経験があるから学年がそのままって。……そうか、あいつらは武芸者としての経験がないから」

 

 

『その通りさ。ワルスラーン社としても武芸者初心者を武芸科の高等部3年に入れるわけにはいかなくてね。だからこのような処置を取らせて貰ったわけ』

 

 

「だが、なぜこいつらは武芸科を選ぶ?転校が目的だとしたら、普通科ならまだ編入できただろうに。事情を知らない奴らから見たらただの留年を重ねたバカにしか見えないんだが?」

 

 

『それがワルスラーン社からも彼らにその旨を伝えても武芸科の一点張りでさ。それにしてもそこまで武芸科に拘るとは……彼らは本当は大学に行く準備をする時期なんだろう?一周回って憐れだね。わざわざプライドを捨ててまで高校生活をやり直すとは』

 

 

うん、俺も憐れに思う。特に雪ノ下とか屈辱の極みだったのかもしれないな。

 

 

『じゃあ、僕はこの辺で失礼するよ。恐らくだが、彼らはハチマン君が目当てだ。学年が離れているから接触はないと思うが、宜しく頼むよ』

 

 

ジュダルがそう言うと、ジュダルが映っていたモニターも真っ暗になる。通信が切れたようだ。

 

 

「……すまない、クレア達には俺がいない時に迷惑をかけるかもしれないな」

 

 

「別に構いませんわ。ハチマンがいない間は私がしっかりと監視しておきますので。特に入学式は」

 

 

クレアがそう言うと、クレアの後ろにいるエリカやリディもうんうんと頷いていた。

 

 

「ああ、ありがとな」

 

 

 

2週間後、俺は約束通りリトルガーデンを一時的に離れることになった。あいつらがクレア達や同じ学年のエミールと何事もなければ良いが。それにしてもジュダルは俺が目的だと推察していたが、彼らは何が目的だ?

 

 

まぁ、リトルガーデンを乱すなら生徒会として彼らには容赦はしないが。

 

 

 




次回からは八幡でなく、あの主人公が八幡の代わりに物語を展開する予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

原作開始 入学編
リトルガーデン到着


最近、怒濤のアンチ回ばかりですが、すいません。
今日もアンチ回です。


 

 

‐飛行機内‐

 

 

(ん、んん……)

 

 

俺、如月ハヤトはリトルガーデンに向かう飛行機の中に射し込む太陽の光で目が覚めた。周りには俺と同じで天候の問題や出国の手続きにより時間がかかったなど、色々な事情で到着がギリギリ入学式当日という生徒がいた。

 

 

(それにしてもまたあの夢を見たな……)

 

 

それはブリタニア連邦、グーデンベルグ王国でサベージの大規模な事件、『第二次遭遇』に遭う夢だ。そこで、俺はサベージに襲われた銀髪の少女に出会い、サベージの毒に侵された彼女を俺が口で傷口から吸い上げて何とか助けようとするのが俺の夢の中の出来事だ。

 

 

だが、それが本当の出来事なのか俺にも分からない。なぜなら俺はそこで両親を失い、自分自身も昏睡状態に陥っていたからだ。それに原因は分からないが、グーデンベルグでの記憶の大半もそれを機に失ってしまったからだ。

 

 

窓の外を見ると、そこから俺が今日から通う場所、リトルガーデンが見えていた。

 

 

俺がここに来た目的は幼い頃から病気で身体が弱い妹のためにワルスラーン社からより良い治療を行ってもらうためと、俺と同じくサベージの襲撃で親を亡くし、困窮した生活を送る施設の仲間に支援金を送るため。

 

 

そしてあの夢が本当か、嘘かを確かめるためだ。

 

 

そういえば入学式まで時間はあるが、俺より先にリトルガーデンに来て病院で治療をしている妹のカレンには会える時間はあるだろうか?

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

如月ハヤトが乗る飛行機の数m後ろでは………

 

 

「見て!ゆきのん。でっかい船だよ!」

 

 

「ええ、あれがリトルガーデン。……そしてあそこに比企谷君が居るのね」

 

 

「そうだね、それにしても全員があいつと同じ武芸科に入れたのは幸運だったね。まぁ、俺達は方針上高等部一年生からやらなきゃいけなくなったけど」

 

 

「あれは本当に屈辱だったわ。どうして私達が年下の者と一緒に仲良しごっこをしなきゃいけないのかしら。それにあの男を私達の先輩として扱わなきゃいけないなんて」

 

 

「まぁまぁ、でもこれで比企谷とは確実に接触出来る。あいつは武芸科の指導者もやっているからな。その時に俺達が比企谷の悪事を暴いて、比企谷に今までの事を謝罪をさせてリトルガーデンを救うんだ」

 

 

「そうだね、葉山くん。陽乃さんも一緒にみんなをヒッキーから助けよう」

 

 

「そうね、姉さんもきっと彼のせいでおかしくなったのだわ。彼を何としてでも更生させないと」

 

 

(待っていろ、比企谷。お前には俺が味わった以上の苦しみを見せてやる。お前が何らかの不正で武芸者になっているのは俺が暴いてみせる。そしたら、ワルスラーン社からもその功績を称えられ、俺があのクレア・ハーヴェイと並ぶ武芸者として扱われる筈だ。そしたら雪乃ちゃんも)

 

 

(ヒッキーにはこれまでの事を謝罪させないと。あの胸がデカイ金髪の女性がワルスラーン社のビデオでヒッキーと仲良さそうにしているけど、最初にヒッキーを好きになったのは私なんだから。もしヒッキーが今までの事を謝罪してくれたら許しあげるし、私と付き合ってもらうんだから)

 

 

(何としてでも比企谷君を倒して姉さんを元に戻してあげないと。それと共に腐敗したリトルガーデンも私が立て直して見せるわ。そのためにはあのクズに洗脳されてしまっている憐れな生徒会長さんを実力で倒さないといけないわ。ハンドレッドの反応数値は他の生徒より高かったのだから無理ではない筈よ)

 

 

 

 

 




同じハヤト同士でも考える事はこんなにも違うんですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

入学式その1

 

 

如月ハヤトside

 

 

リトルガーデンに到着後、俺は入学式まで時間が有ったため妹のカレンが居る病院に向かった。

 

 

病院でついでにトイレを借りて制服に着替えたのだが、ネクタイが曲がっていると妹に指摘され、わざわざ丁寧にネクタイを結び直してもらってしまったが、妹は相変わらず元気そうだった。

 

 

リトルガーデンで妹の世話を担当して貰っている看護師、柏木ミハルさんが言うにはリトルガーデンに来てから治療のせいか、体調は良くなっているらしい。病院の人からもお墨付きを貰い、俺がリトルガーデン来た意味はあったということだ。

 

 

その後、俺はミハルさんにカレンを任せて、病院を後にした。俺は荷物を置くためにリトルガーデンにある武芸科の寮に向かうと、そこでいきなり俺に抱きついてきた銀髪の女……いや、男であるエミール・クロスフォードという俺と同じ新入生に会う。また、そんな様子を眺めていた同じく新入生である、金髪の男、フリッツ・グランツと知り合った。

 

 

フリッツは武芸科の一年生の寮のリーダーとして今日来る俺達のような人を待っていたらしい。それにしてもフリッツやエミールは最初から俺の事を知っていたらしいが、ハンドレッドの適性試験で歴代一位の反応数値を叩き出した事は想像以上に凄い事だったらしい。だから彼らも噂ではあるが、俺の事を知っていたらしい。いやー、知らなかったな。

 

 

フリッツに部屋を案内され、俺はそこに荷物を置いた。部屋は何でもチームとしてのコミュニケーション能力を鍛えるために二人部屋となっていて、そこで俺とルームメイトなるのは先程俺に抱きついてきたエミールだった。何やら念願が叶ったような顔をしていたが、変な奴だな。

 

 

荷物をある程度置くと、入学式が始まる時間が迫っていたため、俺とエミールとフリッツは入学式が行われる武芸科の校舎の講堂に向かった。

 

 

校舎の中に入ると、そこで背丈が低く、ボーイッシュな風貌な少女、レイティア・サンミリオンと知り合った。彼女はフリッツの幼馴染みでフリッツが来るのを待っていたらしい。勿論、彼女も俺の事を噂で知っていた。それにしても彼女は俺の事をクレア様の記録を破った男と話していたが、クレア様とは一体誰の事だろうか?

 

 

彼女にクレア様について聞こうとしたが、入学式が始まる時間となり、俺達は講堂に誘導されて聞きそびれてしまった。そして今は………

 

 

 

 

 

 

『新入生諸君、リトルガーデンにようこそ』

 

 

舞台の袖から眼鏡をした女性と褐色肌のポニーテールが目立つ女性が現れ、ポニーテールの女性が壇上に設置されたマイクを通して入学式の始まりを告げる。同じ制服を着ているから彼女達もリトルガーデンの生徒だろう。上級生かな?

 

 

『私は高等部武芸科の二年でリトルガーデン生徒会副会長の一人、リディ・スタインバーグだ。今後、新入生諸君の教育係を務めることになるので、私のことを覚えていておいて欲しい』

 

 

そう言って頭を下げ、リディさんは言葉を続けた。

 

 

『続いて、隣に立っている君達の先輩を紹介しよう。彼女も私と同じリトルガーデン生徒会副会長の一人で、同じく二年のエリカ・キャンドルだ。これから私達二人でこの入学式を取り仕切らせて貰うことになる』

 

 

『エリカ・キャンドルです。新入生の皆さん、まずはリトルガーデン高等部武芸科への入学、おめでとうございます』

 

 

そう言って眼鏡の女性、エリカさんはリディさんと同じように丁寧に頭を下げた。

 

 

『生徒会は後に挨拶をして頂くクレア様を中心に、私達副会長、そして特別指導顧問である比企谷八幡様の四人で構成されています。比企谷様は本日はある大事なクライアントのために欠席をしていますが、新入生の諸君には彼が帰り次第改めて紹介をさせてもらう』

 

 

それを聞いて俺の周りの他の武芸科の新入生は一気にざわめき始める。何でだ?

 

 

「なーんだ、今日は『影の働き手』はいないのか。残念だなぁ、会いたかったのに」

 

 

「フリッツは比企谷先輩の大ファンだからな。気持ちは分かるよ」

 

 

「なぁ、さっきから比企谷先輩とか『影の働き手』とか一体誰の事なんだ?」

 

 

俺は近くに一緒に座っていたフリッツとレイティアに訊ねた。すると、二人になぜか驚かれてしまった。

 

 

「ハヤト、まさか知らないのか?リトルガーデンが誇る最強の男性武芸者、比企谷八幡先輩のことを」

 

 

俺はそれにうんうんと頷くことしか出来なかった。

 

 

「ハチマン先せ……比企谷先輩は世界が注目する武芸者で、『絶対無敵の女王(パーフェクトクイーン)』である生徒会長のクレア・ハーヴェイと肩を並べるリトルガーデン最強の男性武芸者なんだ!」

 

 

「男性武芸者にとっては憧れの存在で、女性武芸者には多くのファンが居てな。今、周りでざわついている新入生もきっと比企谷先輩のファンだろうな。もちろん、わたしやフリッツも彼のファンだぞ」

 

 

そう言ってエミールとレイティアが俺に説明する。リトルガーデン最強の男性武芸者か。今日は来ていないそうだが、どんな先輩だろうか。入学式を休む程だから余程大事な仕事なんだろうな。それにしてもエミールの奴やけに詳しかったな。もしかすると知り合いだろうか。

 

 

『静かにしないか!』

 

 

そう思っていると、ざわめきを治めようとするためにリディさんがマイクを通して強く一喝する。それにより新入生のざわめきは治まり、先程の静寂な雰囲気に戻った。

 

 

ざわめきを治まったのを確認すると、エリカさんは手に持っていた箱を壇上に置き、箱から三角形のバッジを取り出した。

 

 

『これからあなた達にこのバッジを授けます。これはリトルガーデンの生徒であることと、その学年を示すものです』

 

 

なるほど、校章か。見ると副会長の二人にもバッジが付いている。数は二つ、二年生を示しているのか。

 

 

『それでは名前を呼ばれた者からバッジを取りに来るように。まずは由比ヶ浜結衣からーーー』

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

入学式その2

 

 

如月ハヤトside

 

 

ピンクの髪をした女子生徒、黒髪の女子生徒、金髪の男子生徒と順番にひとり、またひとりと、リディさんから名前を読み上げられると、壇上に上がってエリカさんから三角形のバッジを貰っていく。それにしても最初の三人、何だか俺やエミールより年上な雰囲気があるんだよな。気のせいか?

 

 

「どうやら呼ばれているのは、試験の成績順が低い順からのようだな」

 

 

式が中盤に差し掛かった頃に、レイティアが小声でぼそりと呟いた。

 

 

「どうしてそんなことが分かるんだ?」

 

 

そう言って俺はレイティアに訊ねた。

 

 

「外に紙が張り出されていたんだ。途中、何人か飛ばされているが、次に呼ばれるのはわたしの筈だ」

 

 

レイティアがそう言った時、リディさんはレイティアの名前を呼んだ。本当だ。レイティアは得意げそうに舞台に歩きだした。すでに新入生の半分以上が呼ばれているため、彼女もかなり成績は優秀な方だろう。

 

 

「残っているのは俺達ぐらいだな」

 

 

「そのようだね。ハヤトが最後なのは分かっているから、あとは僕とフリッツぐらいだね」

 

 

エミールとフリッツがそう話していると、リディさんは舞台からフリッツの名前を呼んだ。

 

 

「どうやらお前の方が上だったみたいだな。じゃあ、行ってくるわ」

 

 

エミールにそう言い残して壇上に向かうと、女性陣から黄色い歓声が巻き起こった。

 

 

それもそのはず、美しい金髪に長身。そして、甘いマスク。彼がモテるのは俺も十分に理解できる。

 

 

「そういや武芸科って、男臭い名前の割りには女の方が多いんだよな……」

 

 

試しに見渡すと、俺の周りには俺やエミールやフリッツを含めても新入生の5分の1ぐらいしかいない。

 

 

「年々男性の割合は殖えているとは言っても、ハンドレッドが強く反応するのは女性の方が多いらしいからね。僕達は珍しい存在なんだよ」

 

 

「つまり、ハンドレッドが反応する学生を集めると、女の方が多くなるってことか」

 

 

「ハヤトはそっちの方が嬉しい?」

 

 

「そりゃまあ、男だらけでむさ苦しいよりは嬉しいけどな」

 

 

「ふぅん、ハヤトも男の子なんだね」

 

 

「男の子って、お前もそうだろ」

 

 

「まぁ、そうなんだけどさ」

 

 

そう言ってエミールが曖昧な笑みを浮かべていると、舞台から不機嫌そうな様子でレイティアが戻って来た。

 

 

「……何かあったのか?」

 

 

「そんなの決まっているじゃないか。レイティアはフリッツが女の子達にモテモテなのが気にくわないんじゃないかな」

 

 

「おい、お前!余計な事を言うなっ!」

 

 

「ごめんごめん、って、次は僕だね」

 

 

エミールとレイティアが話していると、リディさんはエミールの名前を読み上げた。

 

 

「凄いな………」

 

 

俺が思わず呟いたのはエミールが舞台に向かって歩き出すと、フリッツの時と同じくらい黄色い歓声が講堂を満たしたからだ。

 

 

「何を言ってるんだ、お前の時の方が凄い事になるぜ」

 

 

舞台からエミールと入れ替わりで戻って来たフリッツが俺にそう話す。

 

 

「そんなことあり得ないって」

 

 

だって、フリッツみたいに長身でもなければ、エミールみたいにかわいい感じではない。いたって平凡と言いたい所だったが……

 

 

『次、如月ハヤト!』

 

 

「ほら、行ってこいよ」

 

 

俺はフリッツに背中を押されながら舞台に向かって歩きだした。すると、新入生からは黄色い歓声というよりはどよめきである。明らかにフリッツ達とは違う。

 

 

(本当に注目されてんだな、俺……)

 

 

俺に向けられる眼差しは尊敬や羨望だけではない。ライバルとして敵視する者もいれば、嫉妬のような突き刺さる目で見る者もいる。正直居心地が悪い。

 

 

俺は前にバッジを貰ったエミールとすれ違って、そのまま舞台の方に上がる。

 

 

「……あなたが如月ハヤトですか」

 

 

エリカさんの目がまるで品定めをするかのような目で見ていた。その視線に戸惑いはしたが、特に何事もなく、エリカさんは俺にバッジを渡してくれた。そのまま俺は自分の座席に戻った。

 

 

その後、プログラムとして教員の紹介が行われた。ただ、その大半は二十代ぐらいで、三十代以上は数名しかいない。ハンドレッドの開発などはここ最近のもののため、関係者は比較的若いと聞いていたが、これほどとは。

 

 

教員の紹介が早々に終わると、リディさんが再びマイクの前に立った。

 

 

『続いて、このリトルガーデンの艦長であり、生徒会長ー武芸科として、女王の座に就かれているクレア様からのご挨拶となります』

 

 

次はリトルガーデンの総責任者の挨拶か。そういえばクレア様ってレイティアも話していたような……

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(如月ハヤト……クレア様を破る程の武芸者ですか。正直あまりそうには見えませんでしたが、悪意を持ってこの学園には来ていないため警戒はしなくて良いでしょう。問題は比企谷先輩が話していたあの三人ですね。彼らをしばらく観察していましたが、リディが比企谷先輩の話題を出してざわめいた瞬間、彼らだけは不愉快そうな表情でした。それにバッジを渡した時もあの雪ノ下雪乃という生徒はまるで、私の方が年上だと言わんばかりな態度でした。あなたが自ら来たのでしょうに。ひとまず彼らは警戒が必要ですね………)

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

入学式その3

入学式はこれで最後です。


 

 

如月ハヤトside

 

 

リディさんがそう言うと、舞台の袖から金髪の縦ロールを左右の耳元から垂らした、いかにもお嬢様と言った雰囲気が醸し出されていた。本当に同じ学生なのか疑うぐらいだ。

 

 

クレア会長がマイクの前に辿り着いて、これから彼女が喋ろうとした瞬間………

 

 

 

「すみませんっ!!」

 

 

 

「遅れて申し訳ございませんでした!」

 

 

講堂の出入口の扉が開く音に続いて、二つの声が響く。それにより講堂にいる全ての者が彼女らに対して一斉に視線を向ける。

 

 

見ると制服にはバッジが付いておらず、恐らくレイティアが話していた順番を飛ばされた生徒とは彼女達のことだろう。

 

 

『入学初日に遅刻とは良い度胸ですわね』

 

 

「あ、あの……朝から繁華街に行っていたのですが、思っていた以上に時間がかかってしま『理由など聞いておりません、時間厳守と伝えた筈です』

 

 

クレア会長は遅刻をしてしまった少女の言い訳を聞かず、そのまま厳しい口調で話を続ける。

 

 

『約束を守れない人間はこのリトルガーデンに必要はありません。今すぐ荷物を纏めてこのリトルガーデンから出ていきなさい』

 

 

クレア会長がそう言って彼女達は今にも泣きそうである。すると、その会話に割り込む者が現れる。

 

 

「ねぇ、ちょっといいかな?」

 

 

それは俺の隣に座っていたエミールである。予想外の介入者に俺は驚きを隠せなかった。

 

 

「一度のミスでいきなり退学処分は横暴すぎるんじゃないかな。二人とも泣いているし、可哀想じゃないか」

 

 

「おい、ちょっと待てって!」

 

 

「んぐっ!何をするんだよ!」

 

 

エミールに抵抗されているが、俺は慌てて何とかエミールの口を塞ごうとする。

 

 

「何をするって、それはこっちの話だ!なんでいきなり喧嘩腰で突っかかるんだよ。そんなんじゃ、お前もアイツらと一緒に退学処分になっちまうぞ!」

 

 

「僕はああやって権力を振るうやつが大嫌いなんだ。親の七光りでやっているくせにさ」

 

 

「親の七光りって、何だよそれ?」

 

 

「クレア様はリトルガーデンを経営しているワルスラーン社のご息女なんだっ!それだけにこの場での権力はものすごいのだぞっ!」

 

 

俺と一緒にエミールを止めているレイティアが俺にクレア会長の事をすかさず説明してきた。

 

 

ワルスラーン社のご息女って、そんなに偉い人だったのか。だとしたら、エミールも退学になりかねない。こうなったら、仕方がない……まずは状況を鎮めなければ。

 

 

「ええと、言い方はともかく、確かに一度のミスで退学は厳しすぎるんじゃないかと思うんですが」

 

 

俺はクレア会長に提言をすることを決めた。

 

 

『あなた、如月ハヤトですわね』

 

 

「そう、ですけど」

 

 

俺は会長に睨み付けられて、その視線に気圧されながらも何とか答える。

 

 

『如月ハヤト、いえ、この場所にいる新入生は全員、これから私が言うことを胸に刻んでおきなさい』

 

 

そう言ってクレア会長は続けて語り出す。

 

 

『リトルガーデンの武芸科は普通の学校とは似て非なるものなのです。あなた達は命を賭してサベージと戦うワルスラーン社の見習い武芸者でもありますから。卒業後、あなた達は戦場に出ることもあるでしょう。そこではたった一人の間違いが致命傷となって部隊が全滅することもあるのです。だからこそ、上官の命令は厳守すること。それと……』

 

 

話しながら会長はエミールを睨み付ける。

 

 

『エミール・クロスフォード、先程あなたは私が親の七光りと言いましたが、それは違いますわ。艦長及び生徒会長は武芸科の学生の中で一番序列が高い者、(クラウン)もしくは女王(クイーン)がなることになっているのです』

 

 

「じゃあそれってつまり、会長に勝って王の座につけば処分は撤回できるんだよね?」

 

 

『無礼だぞ。エミール・クロスフォード!新入生がクレア様に勝てるわけがないだろう!』

 

 

そう言ってクレア会長の隣にいたリディさんがエミールの発言に対して憤りを感じていた。

 

 

「でも歴代一位であるハヤトの方が会長より上なんでしょ。やってみないと分からないんじゃない?」

 

 

もう生徒会と俺達は一触即発の状態である。もう一人生徒会のメンバーがいるらしいが、その人もこんな感じだろうか。

 

 

すると、会長は壇上から人差し指を俺に向けて突きだして、高らかに宣言する。

 

 

『分かりましたわ。私、クレア・ハーヴェイは新入生、如月ハヤトに決闘(デュエル)を申し込みますわ』

 

 

「え………俺?」

 

 

それを聞いて、俺だけでなく副会長達やエミールやフリッツやレイティアも目を丸くする。

 

 

決闘、それは生徒会公認の武芸者同士の模擬試合である。それに勝てば序列を塗り替えることも可能だが……

 

 

『クレア様、本気なのですか?』

 

 

『もちろん、本気ですわ。エリカもリディも彼の実力に興味があるでしょう?それに新入生達に彼が居ないとはいえ、生徒会の実力を見せる良い機会です。』

 

 

生徒会で何やら話が進んでいるようだが、こちらはまだ理解に辿り着いていない。

 

 

「ちょっと待ってくれよ。いきなり決闘と言われても俺はまだハンドレッドを使って戦った経験はないんだが」

 

 

『あなたがハンドレッドに触れた時、刀のような形になったのは試験で分かっています。それに幼い頃から剣術を嗜んでいたため、その腕も十分にあるとあなたの経歴に書いてあります。戦えない事はないと思いますが?』

 

 

会長の言う通り、俺は剣術は十分に出来る。だが、ハンドレッドを使うのは初めてなのだ。戦えるかどうかはハンドレッドを使わないとよく分からない。

 

 

『もし、あなたが勝てば彼女らの退学、そしてエミール・クロスフォードの無礼は許しますわ。もしやらないのであれば、私としては別に結構ですが』

 

 

それはつまり、俺が受けなかったら彼女達や、もしかするとエミールも退学することになる。

 

 

だったらやるしかない。

 

 

「分かりました。その決闘受けます」

 

 

『良い返事ですわ。決闘は明日の午前中。特待生であるあなた専用のハンドレッドはこのあとすぐに渡すように担当者に伝えておきます。後で研究所に取りにいくように。それでは明日を楽しみにしておりますわ』

 

 

そう言って会長は舞台の袖から出ていった。

 

 

 

入学式とは言えない雰囲気となってしまったが、その後は副会長達が何事もなかったかのように校舎の設備の説明、このリトルガーデンでの規則を淡々と説明して、問題だらけの入学式は幕を下ろした。いやー、長い時間だった。生きた心地がまるでしなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

(あの如月ハヤトの言う通りだ。いきなり彼女達を退学にするのはおかしいじゃないか。これもきっと比企谷の仕業だな。本当なら俺が出たかったが、俺には比企谷を倒す使命がある。彼には感謝だな。それにしても比企谷の奴、俺達に会うのが怖くて逃げ出したのか?まぁ、お前は元からそんな奴だからな。生徒会が庇っていても俺には分かるぞ)

 

 

(あの会長さんも洗脳されている割りにはまともな事も話せるのね。それにしても如月ハヤト君とエミール・クロスフォード君と言ったかしら、彼には比企谷君に洗脳された生徒会に抵抗する私達と同じ意思を感じるわ。ひとまず、彼の明日の試合を見て今後、利用できるなら仲良くしたいものね)

 

 

(ヒッキーたら私を置いてどこに行ったし!私やゆきのんより大事な仕事とかヒッキーにあるわけないし!会ったらそのクライアント?について聞かせてもらうし)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(何だかヤバい事になっちゃったなぁ。あれほどハチマン先生から会長とは性格が合わないと思うから問題を起こさないようにと、注意されていたのに。ハチマン先生が聞いたら何て言うだろ。それにしてもハチマン先生からお願いされて成績がビリの三人の監視をしていたけど、なんだか近寄りがたい雰囲気だし、自分としてもハチマン先生をいじめた彼らとは関わりたくないなぁ)

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ヘックシュッ!」

 

 

「あら、ハチマン風邪ひいたの?」

 

 

「いや、何でもない。なんだか自分が言うのも難だが、あれほど問題を起こさないようにと話したのに、なんだかとんでもない問題が起きた感じがしてな。」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

警護日和

長らくお待たせしました。八幡の復活です。


 

 

八幡side

 

 

『ハンドレッド・オン』

 

 

泊まっているホテルで簡単な身支度をして、ハンドレッドを起動する所から俺の警備生活が始まる。

 

 

ハンドレッドを起動すると、普段のようにヴァリアブルスーツやプロテクターが現れず、まるで黒服を纏ったような戦闘には似合わない姿になる。

 

 

何故ハンドレッドを起動しているかだと?

 

 

俺のハンドレッド、今まで話していなかったが、正式名は『影を纏う者(シャドウ・メイクアップ)』。それは戦闘時に影を通してプロテクター等の防具や武器を自分の戦いに合わせて顕現、変えることができ、ハンドレッドの効果範囲なら影を操ることも出来る俺だけが使えるハイブリット型ハンドレッドだ。実際その全貌を知るのはクレア達生徒会メンバーとジュダルとエミールとシャロ、サクラぐらいだ。大抵の人はハンドレッドの形からシューター型と勘違いする。

 

 

そして、その性能は戦闘面だけでなく、日常的な面でも活躍する。俺のハンドレッドで作る影の防具はセンスエナジーの量で変わる時はあるが、思った以上に耐久力が高い。おそらくだが、生半可な防弾チョッキよりは数倍優秀だと思う。そのためサクラをボディーガードをするときはハンドレッドを起動して普通の私服の上から羽織るように影の防具を周りの黒服の男達に合わせて着ている。これがあれば万が一襲われても銃弾ぐらいなら俺は無傷でいられる。

 

 

またこの行動にはもう一つメリットがあり、それは普段から影を操る能力が使えることだ。使いすぎるとセンスエナジーがなくなり、大事な時に使えなくなるためにあまり使いはしないが、影で人を拘束したりするのには便利だからな。

 

 

さて話が長くなったが、サクラのボディーガードが始まって数日、リトルガーデンの入学式が有った今日はというと…

 

 

 

 

 

 

 

「ハチマン、あの飲み物が飲みたいわ」

 

 

「了解だ。すいません、これください」

 

 

サクラのライブを明後日に控えていて、リハーサルは明日行われる。今日はサクラがライブ前に息抜きが出来る最後の日である。そのため今日はサクラの希望を尊重してツヴァイ諸島の繁華街にやって来ていた。

 

 

俺はサクラが飲みたいと言っていた苺風味のドリンクを車販売のおじさんに一つ注文すると、すぐに出てきた。

 

 

「少し待ってな」

 

 

俺はそのドリンクにストローを刺して一口飲んでみる。別にアイドルの物を変態のように飲もうとしているわけではない。毒味のためにやっているだけである。万が一毒殺などが有ったりなんかしたら困るからな。

 

 

「うん、大丈夫だ。じゃあ……」

 

 

毒味を終えて、特に何もなかったため、俺はストロー引き抜き、新しいストローに替えようとすると……

 

 

「もーらい!」

 

 

「お、おい!」

 

 

サクラは俺からドリンクを奪い取り、俺が使ったストローに口をつけてドリンクを飲んでしまった。

 

 

「うん、美味しいわ!」

 

 

「あ、あのサクラさん……ストロー……」

 

 

俺はサクラが急にドリンクを奪い取るとは予想外で、まさか間接キスするとも思わなかったためかなり動揺している。俺達から少し離れて監視をしている他の警備もざわついている。やめて!俺が一番恥ずかしいの!

 

 

「あら。間接キスのこと?あれは私が狙ってやったことよ。別に良いじゃない」

 

 

「自覚あるのかよ。だったらやめておけよ。ほら、俺達ってまだ付き合っていないし……な?」

 

 

「え?付き合っているでしょ?私とハチマンってお互い同じ家で過ごした仲じゃない」

 

 

「恋人みたいに同棲してるように言うなよ。幼い頃、スフレさんも含めて家族のように過ごしただけだわ!」

 

 

本当にその発言は危ない。ただでさえ、明後日にライブがあるからサクラのファンも多いのに。まぁ、一応俺はともかく、サクラは変装してるから大丈夫かな。

 

 

「ハッハッハー!君達、お互い仲の良いカップルじゃないか!ほら、彼氏さん、サービスだ」

 

 

すると、俺とサクラの会話を面白そうに見ていた車販売のおじさんが俺に無償でドリンクをサービスしてくれた。ドリンクの色は黒っぽいからコーラだろうか。

 

 

そうだ、確かツヴァイ諸島は上空から見ると、ハートの形をした島となっていてカップルの観光客に人気な場所だったな。カップルに店員が優しいのも何となく頷ける。

 

 

「ほら、店員さんもカップルって言っているじゃない。さぁ、向こうで一緒に飲みましょう」

 

 

俺はサクラに手を繋がれ、サクラにされるがままに連れていかれる。それにしてもあの店員さん、サクラはともかくとして俺には気付いていないのだろうか。

 

 

 

 

……………………………………

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

「そういえば今日はリトルガーデンの入学式だけど、ハチマンが興味のある人物っているの?」

 

 

椅子に座ってジュースを飲みながら、サクラが俺に訊ねた。

 

 

「そうだな……如月ハヤトっていう男子生徒かな。武芸者の素質が非常に高い。もしかすると、俺をいつか越えるかもしれないな」

 

 

「そんなことはないわよ。ハチマンは私の一番の武芸者だもの。もう少し自信を持ちなさい」

 

 

あらら、説教されちまったな。それでもサクラにそう言って貰えるだけでも嬉しいものだ。

 

 

「今頃、もう入学式は終わっているだろうな。何事もなければ良いんだが」

 

 

「それってハチマンをいじめたあの三人のこと?確かにハチマンが目当てで来たなら何かありそうかも」

 

 

「ああ、何かやりそうだが、さすがに入学式では事件は起こさないだろ。一応、常識はあるし」

 

 

 

その後、八幡とサクラは今年のリトルガーデンの新入生について色々と話しながらゆっくりと彼ら二人だけの休日を楽しんだ。

 

 

 

だが、八幡の予感は悪い意味で的中し、クレアが新入生の如月ハヤトと決闘することを知り、ホテルに八幡の大きな声が響くのはこの数時間後の話である。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

どうしてそうなった

 

 

 

「はあぁ!?お前と新入生の如月ハヤトが決闘だと!?どうしてただの入学式でそうなったんだよ!?」

 

 

夜のホテルの一室で八幡の大きな声が響き渡る。理由は簡単。入学式でクレアが新入生の如月ハヤトにいきなり他の新入生の退学を賭けて決闘を申し込むという、前代未聞な事件が起こったからだ。これには葉山達だけを危惧していた八幡も予想外の展開である。

 

 

『生徒会として正当な措置をしただけですわ。それに如月ハヤトを利用して、リトルガーデンの生徒会の力を見せる良い機会だと思いまして』

 

 

そう言って八幡の手にある通信用のタブレットでクレアが画面越しで淡々と説明する。

 

 

「いや、でも相手はハンドレッドの適性数値が高いだけで、ハンドレッドでの戦闘は初めてなんだろ?一日時間があるとはいえ、明らかにお前と勝負にならないし、不公平だろ」

 

 

『そんなことはないですわ。本当は入学式が終わってからでも良かったと私は思っています』

 

 

「………もしかしてお前、如月ハヤトにリトルガーデンでの記録を破られてムキになってるのか?」

 

 

八幡はクレアの逆鱗に触れてしまうだろうという心配をしながら、おそるおそる聞いてみた。

 

 

『……違いますわ。と、言いたい所ですが、ハチマンの言う通りかもしれませんね。正直言って、私の記録、私の努力をあんなハンドレッドを触れたことがない新人に負けるのに納得をしてませんの。それに、如月ハヤトは私の記録だけでなく、貴方の記録を打ち破っているのですのよ。そんなの、私が許しませんわ。貴方は私が唯一負けた武芸者でなくちゃいけませんの。これは貴方と私のプライドをかけた戦いでもあるのですわ』

 

 

クレアがそう話すと、八幡は驚いた様子でしばしの間、深く考え込んでいた。

 

 

「……成る程、まさかクレアがそう思っていたとはな。なら、絶対に負けるなよ」

 

 

『勿論ですわ。では、失礼しますわ』

 

 

八幡はクレアの気持ちを理解して、クレアに一言応援の言葉を告げると、クレアは自信満々そうに通信を切った。

 

 

「それにしても、クレアと如月ハヤトの決闘か。俺も見たかったなぁ」

 

 

八幡がそう思っていると、再びタブレットが音を出して震える。今度はエミールからである。

 

 

『ヤッホー、ハチマン先生』

 

 

「ヤッホーじゃねぇよ。その前に言うことがあるだろ。なぜ、あれほど言って問題を起こした?」

 

 

『あれ……何で知ってるの?』

 

 

画面越しでエミールが八幡から目を反らそうとしていた。エミールのその様子から八幡が事情を知っているのは予想外だったらしい。

 

 

「一応、俺も生徒会だからな。情報はしっかりと共有される。さっきまでクレアと話していた所だ」

 

 

『………もしかして先生は会長の味方なの?』

 

 

「まぁな。事情は聞いているが、俺はクレアの意見に賛成だ。まぁ、入学式から退学はトラウマになると思うから少しやりすぎだとは思うが」

 

 

『でもさ!ちゃんとした理由もあるのに、あんなに意地悪することは無いじゃないか!それに、彼女達は泣いてたんだよ。可哀想じゃないか』

 

 

「エミール、それは甘い考えだ。クレアはお前達を武芸者として死なせないために厳しくしたんだ。決してただの意地悪なんかじゃない」

 

 

『それって…………』

 

 

「俺とクレアは昔、武芸者として色々な場数を踏んできた。でも、そんな中で俺とクレアは同じ部隊の仲間の死を何度も見てきた。中には俺の知り合いが居て、俺も辛い時はあった。でも、俺以上に辛いのはクレアの方だ。彼女は司令塔として仲間が死んだとき、何度も自責の念に囚われていたんだ。その経験の中で生まれたのが今のクレアの考えだ。チームの一度のミスが致命傷に繋がるか、クレアの言う通りだな」

 

 

八幡は静かに続けるように話す。

 

 

「別にクレアの全てを理解しろとは言わない。でも、彼女の行動にはちゃんとした意味がある。それを忘れるな。分かったか?」

 

 

『うん……分かったよ』

 

 

「ならいい。この話は終わりだ。じゃあ、話は変わるが、俺が頼んだあいつらの監視はどうだ?」

 

 

八幡はエミールに葉山達の様子を聞いた。

 

 

『今の所は問題は起こしてないよ。だけど、入学式が終わってからも誰とも馴れ合わないで、基本はあの三人で行動してたね』

 

 

「そうか、ならまだ良い。俺がいない間も引き続き監視を頼む。何かあれば俺に伝えてくれ」

 

 

『了解だよ!先生』

 

 

「あ、そうだ、あと明日の如月ハヤトとクレアの決闘の記録を撮って送ってくれると助かる」

 

 

『はいはい!じゃあ、おやすみなさーい!』

 

 

そう言ってエミールとの通信はブツンと切れた。

 

 

「さて、明日はリハーサルだから俺も早く寝るか。サクラもすでに寝ているようだし」

 

 

八幡は明日のリハーサルのスケジュールを確認して、軽く準備を済ませると、すぐに就寝してしまった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ライブスタート

 

八幡side

 

 

『みんなー!次の曲行くわよー!』

 

 

『オォォォォオォォ!!!!』

 

 

サクラがライブステージの上でそう言うと、多くの観客ペンライトを持って盛り上がりを見せる。

 

 

『~~♪~♪~♪~♪~♪』

 

 

俺はサクラの歌声を聴きながらライブステージの舞台袖でしっかりと警備を続ける。まぁ、もしサクラに危害を加えるようだったら、人間が相手でもハンドレッドの使用は辞さないが。

 

 

「どう?久しぶりのサクラの生歌は?」

 

 

俺が舞台袖でサクラのライブを見ながら警備をしていると、後ろからサクラのマネージャーであり、俺の親代わりでもあるスフレさんが声をかけてきた。

 

 

「やはり、サクラの歌は生で聞くのが一番ですね。聞いてるだけで心が落ち着きますよ」

 

 

「うふふ。その言葉、私でなくサクラに直接言ってあげたら良いわ。彼女も喜ぶわよ」

 

 

そう話しながら俺とスフレさんはサクラがライブステージで頑張っている姿を見届ける。

 

 

 

さて、ライブ中は俺の警備の仕事は側付きとしてただ、サクラを舞台袖君から見続けるだけである。正直時間が空いて暇だから軽く、昨日あったクレアと如月ハヤトの決闘について話をしよう。

 

 

昨日あった、クレアと如月ハヤトによる決闘。結果から話すとクレアの勝利であった。そのため、遅刻をした新入生達は退学したのかと思ったら、エミールが話すにはクレアにも決闘について思う所があり、免除になったらしい。

 

 

この決闘について注目すべき大事な所は色々とあった。まず、如月ハヤトのハンドレッドの扱い。一日あるとはいえ、ハンドレッドの技術であるエナジーバリアやセンスエナジーの使用による身体能力の向上はかなりの完成度だった。クレアの砲撃を初心者で防げるなら相当である。まぁ、最初は速攻で勝負を決めようとしたのか、クレアにすごい速さで突っ込み、クレアの胸に触るという珍事件を起こすラッキースケベを発動させたが。あれにはクレアも相当キレてたなぁ。

 

 

さて、話を戻そう。次に注目すべき所は初心者の如月ハヤトが『全身武装』と呼ばれる武芸者の中では扱える人が少ない高等技術を使った所である。『全身武装』、それはハンドレッドの力を100%引き出す武芸者の奥の手である。これを使えるのは現段階ではリトルガーデンではクレアと如月ハヤトであろう。

 

 

俺?俺の場合は……な。確かにクレアが使えるなら俺も使えると思う人がいるかもしれないが、ちょっと訳ありでな。いつか時が来たら詳しく話そう。

 

 

大半の人は如月ハヤトが全身武装を使えた事に注目するだろう。だが、俺が注目したのはそこじゃない。全身武装をした時に彼の目は黄金色のようになり、暴力的な戦いをしながらも今までの動きが嘘みたいにあのクレアを追い詰めたからだ。これにはクレアも全身武装で応戦していたが。

 

 

これはヴァリアントとしての力が覚醒した特徴である。恐らく、あの全身武装もヴァリアントとしての力がクレアとの戦いで覚醒し、偶発的に出来たものだろう。

 

 

その面だけ見ると、ヴァリアントは凄いと思われるが、ヴァリアントにはデメリットの方が多い。

 

 

ヴァリアントの力は主に日常的には現れず、生命の危機といった自身の体の緊急事態や精神の高ぶりにより発生する。そして、ヴァリアントの力に目覚めると理性的な戦いは出来なくなり、暴走状態になる。最悪、敵味方関係なく襲いかかってしまう。武芸者として致命的だ。だが、ヴァリアントはエ〇ァンゲリオンみたいに最後まで暴走みたいな事はない。すぐに対処する方法は色々ある。かなり大変だが。

 

 

そして、もうひとつのデメリット、それはヴァリアントとしての活動を終えると、疲労感に襲われてしばらくは休養が必要になることだ。決闘後、如月ハヤトはそのまま疲労感で寝てしまったのが想像できる。

 

 

サクラは戦いとは無縁のため、ヴァリアントの力が発現したのはまったく見たことがない。それに対して俺やエミールは武芸者だから戦闘時に発現するかもしれないと思われるが、シャロのサポートもあり、戦闘時でもヴァリアントの力に基本的に目覚める事はない。

 

 

さて、これが昨日の決闘の全容だ。かなり長く話してしまったな。サクラも次の曲に移るようだし。

 

 

「如月ハヤト……か。ヴァリアントであり、あのクレアも追い詰める基本的な強さもある。サベージを倒すために生まれた存在だな。会うのが楽しみだ」

 

 

俺は誰にも聞こえないようにボソリと呟くと、サクラが次に歌う歌に耳を傾けようとする。

 

 

『さぁ!次の曲はー!』

 

 

サクラがそう言いかけた瞬間…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドンッ!!

 

 

突如、大きな音と共に地面が揺れる。

 

 

『な、何っ!?地震?』

 

 

ライブステージではサクラやサクラのライブの観客達が突然の出来事に狼狽える。

 

 

「……嫌な予感がする。スフレさん、俺は少し周りを見てきますので、サクラの事を頼みます」

 

 

「分かったわ。まかせて」

 

 

俺はスフレさんと他のサクラの警備の人にサクラと観客の事をまかせて、俺はハンドレッドを手に持つ。

 

 

「ハンドレッド・オン!」

 

 

ハンドレッドのトリガーを引くと、俺の体を守っていた影は形を変えて、ヴァリアブルスーツとなり、その上からサベージと戦う用の装甲が体を纏う。

 

 

俺は屋外に出て、センスエナジーを使って地面から高くジャンプする。こういう時、クレアみたいに飛行機能があればいいんだが。

 

 

そう思いながらそこから見えたのは…………

 

 

「………マジか」

 

 

おれが視認にしたのは遠くから、こちらにゆっくりと近づくサベージの姿だった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ツヴァイ諸島、襲来

 

 

八幡side

 

 

俺が視認したもの……それは遠くからこちらに向かっている一体のサベージの姿だった。

 

 

すると、サベージは動きを止めて口にセンスエナジーを溜め始める。まさか…………

 

 

「ちっ!エナジーバリア展開!!」

 

 

俺はすぐにライブステージの屋根に上がって、サベージの真っ正面に移動し、エナジーバリアを展開する。すると、サベージが口からレーザーをライブステージに向けて放ってきた。

 

 

「……あぶねぇ」

 

 

俺は何とかサベージの行動を予知し、レーザーをエナジーバリアで吸収する。

 

 

『ハチマン!!』

 

 

俺の後ろではサクラや観客の人達が心配している。もし、俺がやられたらこの人達も……まずは避難だな。

 

 

「皆さん、落ち着いてください。俺はリトルガーデン生徒会の比企谷です!ただいまサベージがツヴァイ諸島で発生しました。このライブステージは俺が何としてでも守りますので、観客の皆様は慌てず係員の指示に従い、避難場所にむかってください!」

 

 

『比企谷って………あの『影の働き手』か!』

 

 

『男性武芸者最強の男がどうしてサクラさんのライブに……でも今は彼に従った方が良さそうだ』

 

 

俺がそう言うと、観客の人達は徐々に落ち着きを取り戻す。その間、ライブの係員の人が観客の人を少しずつであるが、避難場所へと誘導する。

 

 

それに伴い、サクラやスフレさんも観客と同じように避難場所へと誘導される。また後で会おう。

 

 

「……それにしてもこのサベージ、どんどん撃ってくるな。俺じゃなきゃ、防げないだろ」

 

 

俺はサベージの攻撃をひたすら防ぎながらそう思っていると、通信が鳴る。おそらく…リトルガーデンだな。

 

 

「はい、比企谷です」

 

 

『ヤッホー、比企谷君』

 

 

「は、陽乃さん!?どうしてこんな時に…。今、非常に忙しいんですけど、個人的な電話でしたら後にして貰えるととても嬉しいんですが」

 

 

『それは分かっているよ。シャロから聞いたんだけど、それにしてもまさか比企谷君が忙しいのは身内のサクラちゃんのライブの警護とはねー。お姉さん、びっくりだよ。世界の歌姫が比企谷君の家族なんてさ。さて、本題だけど私が君に通信をしたのはリトルガーデンの解析官としてさ」

 

 

そう言えば確か陽乃さんは解析官としてリトルガーデンにスカウトされたんだったな、納得だわ。

 

 

「へぇー、仕事として一緒になるのは初めてですね。で、今の状況は?」

 

 

俺は解析官として陽乃さんに訊ねた。

 

 

『現在、ツヴァイ諸島に三体のサベージが出現してるよ。二体は通常型で、一体は超弩級型(トレンタ)だよ』

 

 

超弩級型(トレンタ)か。通常型よりも数倍大きいサベージの個体だ。俺も何度か戦ったことはあるが、攻撃力が高く、あまり油断できない奴だ。でも、俺に攻撃をしているのは通常型だ。つまり、ここじゃない何処かに居るわけだ。

 

 

「成る程、リトルガーデン側の武芸者はあとどのくらいで到着しますか?」

 

 

『もう到着したよー』

 

 

えっ?

 

 

俺がそれを聞いた瞬間、俺へのサベージの攻撃が止む。見てみると、黒い武芸者と白い武芸者がサベージと戦っていた。

 

 

「……ナイスタイミングだ。それにしても今、戦っているのはエミールと誰ですか?」

 

 

『おお!半分正解。今、比企谷君の目の前で戦っているのはエミール君と如月君だよ。もちろん、他の場所でも生徒会のメンバーが応戦してるよ』

 

 

成る程、あの黒い武芸者は噂の如月ハヤトだったのか。それに生徒会のメンバーもフル参戦ね。

 

 

「一応、今フリーになったんですけど、彼らに加勢をした方が良いですか?」

 

 

『いや、会長さんや如月君のおかげで通常型は簡単に片付きそうだよ。後は超弩級型を倒すだけだけど、会長さんが比企谷君は市民の避難誘導にまわれって。オガサワラでの借りは返すと話してたよ』

 

 

オガサワラの借り………成る程、超弩級型は私達でやるから、俺は休んどけということか。

 

 

「了解」

 

 

さて、後ろを見たが、まだサクラのライブの観客の避難は終わっていないな。警護をしても構わないが、俺は通常型が暴れた辺りで逃げ遅れた人を助けますか。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

休めって?無理だろ?

 

 

八幡side

 

 

「影斬り・旋空!」

 

 

俺は影で顕現させた黒い刀で大きな瓦礫を撤去する。すると、瓦礫の中から人が数人出てくる。

 

 

「た、助かりました」

 

 

「ここから今すぐに避難場所に向かってください。まだサベージが暴れているので」

 

 

「は、はい」

 

 

そう言って、俺がサベージの襲撃に逃げ遅れた人を助けると、助けた人達は急いで避難場所に向かった。

 

 

「陽乃さん、これでこの辺りにいる逃げ遅れた人達は全員ですか?」

 

 

『うん、そうだね。比企谷君の周りをサーチしても人が逃げ遅れた反応はないし、大丈夫だと思う』

 

 

ふぅー、あの人達で最後か。後はクレアが言うように彼女達が超弩級型を倒すのを待つだけかな。

 

 

俺がそう思っていると……

 

 

「っ!?エナジーバリア!」

 

 

何かが来る反応に気付き、俺はエナジーバリアを張る。すると向こうから俺の方に向かってレーザーがすごい速さで飛んできた。

 

 

「ぐうっ!!」

 

 

俺はそれをなんとか受け流す。

 

 

「この威力………超弩級型だな。やはり、普通の通常型よりレベルが違うようだ」

 

 

『そのようだね。リトルガーデンの解析官達がツヴァイ諸島にいる超弩級型の強さを測った所、よほど面倒な奴らしいよ。会長さん達も苦戦しているようだし』

 

 

「……マジですか。」

 

 

超弩級型はクレアと生徒会副会長の二人は確か倒した経験がある個体の筈だ。その経験者達ですら苦戦するのかよ。だとしたら、かなり厄介な存在だ。そこに如月ハヤトやエミールが加わっても勝てるか、どうか。

 

 

「陽乃さん。超弩級型がいるのは何処ですか?」

 

 

『お、やはり仲間が心配かい?超弩級型はレーザーが飛んできた方角に、比企谷君からだいたい3km離れた所にいるよ』

 

 

ここから3km か。ならセンスエナジーを使えば、6分で行けるな。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ………はぁ………」

 

 

完全武装をしていながらも、すでに息切れの如月ハヤトの前には未だ暴れ足りないと言わんばかりの超弩級型が立っていた。

 

 

クレアは負傷をしたエリカを守るために彼女の近くに居り、エミールは戦いで意識を失ったリディを安全な場所に運び、状況を伺っていた。だが、もうエミールのヴァリアブルスーツは破れたりと、戦える状態ではないが。

 

 

(くそ、せっかくエミール、いやエミリアのお陰でヴァリアントの力を抑えたのに。あの超弩級型、あまりに隙がない。どうする?)

 

 

今、如月ハヤトが完全武装を制御出来ているのは彼エミール・クロスフォード、いや、彼女エミリア・ハーミットがヴァリアントを止める方法、『ヴァリアント同士でキスをした』を実践したお陰であったのだ。

 

 

如月ハヤト以外は八幡も含め誰も気付いていなかったが、実はエミール・クロスフォードは男性としての偽名であり、本当の名前はエミリア・ハーミット。性別も女性である。

 

 

彼女の正体は如月ハヤトが話していた夢に出てきた銀髪の少女であり、グーデンベルグのお姫様である。

 

 

彼女がどうしてリトルガーデンに来たか?それはもちろん、昔助けて貰い、異性として好意を抱いている如月ハヤトに会うためである。次になぜ男装をしていたのか?それはお姫様でも特殊な家族関係で生まれたお姫様であり、バレないようにしていたためである。

 

 

「くっ!」

 

 

「ハヤトっ!」

 

 

如月ハヤトがただ一人、超弩級型に対して対峙し、サベージの攻撃を何とか受け止めていると………

 

 

 

ドンッ!ドーンッ!ドンッ!!

 

 

 

突如、サベージの体に黒い光弾が数発ヒットし、土煙が発生する。サベージはその攻撃により体勢が崩してしまう。

 

 

「何だ!?一体誰が………」

 

 

「あの光弾……まさか!!」

 

 

「………休んでおきなさいと言いましたのに」

 

 

ハヤト達がそれぞれ口々に反応する中、サベージに攻撃を与えた張本人がサベージの前に土煙と共に現れる。

 

 

「休めって?仲間が苦戦してんだ。無理だろ?」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二人の黒き武芸者

そろそろ原作一巻分が終わりますね。いやー、かなり長い道のりのように感じましたね。


 

 

八幡side

 

 

「あ、あの貴方は……?」

 

 

合流して早々、全身武装をした男、如月ハヤトが俺に訊ねてきた。あれ?結構有名だと思うんだが。

 

 

「俺は武芸科3年、生徒会特別顧問の比企谷八幡だ。お前の名前は知っているぞ、如月ハヤト」

 

 

「比企谷って……この前の入学式に参加してなかった『影の働き手』か!でも、どうしてここに?」

 

 

「入学式でクレア達が話していたかもしれないが、クライアントの仕事があってな。それがちょうど、ここだったわけだ。それにしても今、話せるということはヴァリアントの力は制御できたのか?」

 

 

「は、はい。それはエミリアが……」

 

 

「え、エミリア?誰だ、そいつ?」

 

 

聞き覚えのない名前なので、俺は如月に訊ねた。エミリア?似たような名前でエミールなら知っているが…

 

 

「ハチマン先生!来てくれたんだね。」

 

 

「ああ、エミー……どうした、その格好!?それにむ、胸が……まさか、エミリアって……」

 

 

俺に気付いて、エミールが意識を失っているリディを肩に背負いながらやって来るが、俺はその姿に驚きを隠せなかった。

 

 

なぜならエミールはサベージの攻撃を受けたのか、ヴァリアブルスーツが裂けていたのだが、その裂けた部分から男性ではあり得ない筈のほどほどに大きい胸が少し見えているのだ。

 

 

戸塚二代目だと思っていた俺の心は衝撃の事実でボロボロである。まさか、本当に女性だったとは……

 

 

「え?………あ、あはは。バレちゃったか。そう、僕がハヤトが話していたエミリア、エミリア・ハーミットだよ。事情があって隠してたんだ」

 

 

いや、話す前にまず胸を隠せよ!やり辛いわ!

 

 

「はぁ……で、如月はどうやってヴァリアントの力を制御したんだ?如月が話すにはお前だと言うが」

 

 

「ああ……それね。キス……したんだ」

 

 

「キス?…………はあぁ!?お前、その方法を使ったのかよ!?確かに可能だが!」

 

 

エミールが恥ずかしそうに話しているのを他所に俺は予想外の答えで思わず大きな声を出してしまう。

 

 

前にヴァリアントの力の抑え方について説明したが、それには色々と種類がある。一つは、力で止める。言い換えれば、暴走したヴァリアントを武力をもって戦意喪失にする事だ。そして二つ目、それは暴走していないヴァリアントから何らかの方法でヴァリアントの力の源であるヴァリアントウイルスを与える事である。三つ目は、シャロが作った薬で抑えるぐらいだ。

 

 

一般的なのは一つ目だ。ヴァリアントは世界でも数える程しかいないから二つ目は条件が厳しいし、薬は最初は効果はあるが、徐々に耐性が出来てきて効果が薄れてくるデメリットがあるからな。

 

 

で、先程エミリアがやったのは二番目である。確かに如月とエミリアはヴァリアントのため条件が揃う。だが、その方法なんだが、まともな方法がキスなのだ。

 

 

これを話したシャロに「キスよりまともな別の方法が無いのか」と俺が訊ねたら、「もっとディープな話になるよ」と言われてこれ以上聞かなかった。察したわ。

 

 

これには人間関係が絡んでくるから厳しいのではないかと思ったが、どうやら二人とも顔馴染みで抵抗は無かったらしい。なら、良いんだが。

 

 

「ハチマン!サベージが!」

 

 

俺達より少し離れた所でエリカを抱えながら、クレアが大きな声で叫んでいた。クレアのお陰で気付いたが、超弩級型が俺の攻撃から立ち直ろうとしていたのだ。どうやら、かなり長く話し過ぎたようだ。

 

 

「ちっ。立てねーように脚を狙って撃ったんだが、まだ立つのかよ。しぶといな。なぁ、如月?」

 

 

「は、はい。何ですか?」

 

 

「俺が隙を作る。お前はその瞬間にコアに向かって攻撃を思いっきり叩き込め」

 

 

「え……でもさっきの先輩の攻撃なら」

 

 

「残念ながら、さっきみたいに脚を崩す位の威力の攻撃はもう無理だ。ここに来る途中で思った以上にセンスエナジーを使ってしまってな」

 

 

あのライブステージの時にエナジーバリアでかなり持っていかれたからな。サベージのレーザーを数十発も保てるエナジーバリアってかなり大変だったんだぞ。

 

 

「……分かりました」

 

 

「いい返事だ。行くぞ」

 

 

俺はサベージに突進しながら、影から二本の黒い刀を顕現させて両手に構える。

 

 

「か、影から刀を!?」

 

 

「影斬り・二閃!!」

 

 

初めて俺の戦いを見て驚く如月を無視して、俺は黒い刀にセンスエナジーを込めて、先程の攻撃で装甲がボロボロの脚に追い打ちを決める。そんなにセンスエナジーを込めていないため破壊は出来ないが、体勢を崩すのには十分な攻撃だ。

 

 

その攻撃によりサベージは脚がよろけて、頭にあるコアを守っていた大きな鋏が地面に着く。

 

 

「今だ!如月!」

 

 

「は、はい!うおおぉぉぉぉ!!!」

 

 

俺が作った隙を突いて、如月は武器である刀にセンスエナジーを溜め込み、コアを正確に斬った。

 

 

コアを破壊されたことによる死後硬直か、サベージは少しの間微動したが、すぐに大人しくなった。

 

 

「………よし」

 

 

「やったよ!ハヤト!」

 

 

そう言ってエミリアは全身武装で疲労した如月に抱きつきながら彼を回収する。

 

 

「ふぅ……終わったな」

 

 

「助かりましたわ、ハチマン」

 

 

「比企谷先輩、わざわざすいません」

 

 

そう言ってクレア達も俺達と合流した。

 

 

「オガサワラの借りは返せなかったな。いつでもお返しは待っているぞ」

 

 

「ぐっ!良いですわ、絶対に近い内に返しますから待っているのですわ!」

 

 

俺は少々意地悪にクレアをからかってみる。クレアも負傷しているが、その元気があれば大丈夫だろ。

 

 

だが、何か忘れてんだよな………

 

 

すると、クレアとエリカがそれに気付く、いや気付いてしまったの方が正しい。

 

 

「エ、エミール・クロスフォード!?そ、その格好は何ですの!?貴方、男の筈では!?」

 

 

…何で、俺の弟子はこんなに面倒を起こすのだろうか。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

事後処理

 

 

八幡side

 

 

「じゃあ、俺はこれからクライアントをリベリア合衆国に届けに行く。一応、明日の朝にはリトルガーデンに戻って来れる予定だからさ」

 

 

「了解ですわ。それではまた」

 

 

クレアにこれからの簡単な予定を説明すると、クレアは俺の事情を踏まえた上で納得してくれた。

 

 

 

 

ツヴァイ諸島に発生したサベージを掃討後、ワルスラーン社からも支援の武芸者や医療スタッフが駆け付け、何事もなく事態は収束していった。実際、俺が早めの避難誘導をしたおかげで怪我人はいたが、死人は出て無かった。意識を失ったリディも休養を取れば大丈夫そうだし。

 

 

しばらくすると、ツヴァイ諸島の交通網も回復し、空港が使えるようになった。俺は報告も兼ねてリトルガーデンに行かなきゃならないが、サクラのボディガードは彼女の家があるリベリア合衆国に送り届けまでが仕事である。それに今回の件もあり、個人的にもサクラをひとまず、家に送り届けたい。

 

 

それにクレア達も別にツヴァイ諸島には観光に来たわけではない。事態が収束次第、すぐにでもリトルガーデンに帰らなきゃならなかった。

 

 

というわけで、俺とクレア達はここ、空港で一旦別れなきゃいけない。滑走路にはすでにリトルガーデンの専用機とサクラの自家用飛行機が停まっていた。

 

 

「ハチマン先生!」

 

 

俺がサクラの自家用飛行機が停まっているゲートに向かおうとすると、エミール、いやエミリアと如月がこっちに向かって走ってくる。

 

 

「もう行くんですか?」

 

 

「ああ。まぁ、明日にはリトルガーデンに帰って来れるけどな。あと、お前らの事情はある程度クレア達には伝えてある。だが、エミー……エミリアは退学は無いかもしれないが、ある程度の罰はあるかもしれない。性別を偽って入学したからな。一応、フォローはしたから後は頑張れ」

 

 

「はーい。後、僕のことはエミールで構わないよ。生徒会の皆にはバレちゃったけど、他の皆にはまだ秘密にしておきたいからさ」

 

 

「分かった。じゃあ、エミール、如月、またな。何かあったらお前らのPDAに連絡するから」

 

 

そう言って俺はゲートに入っていく。それにしても期待の新人に早くも会えるとはな。如月ハヤト……なかなか見応えのある奴だったな。同じハヤトでもあの金髪と大違いだ。礼儀もしっかりしているし。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「さて、私達も行きますわよ。それと貴方達の事はしっかりと中で事情を聞きますから」

 

 

「は、はぁ了解です」

 

 

「……ハチマン先生が話していた通り、大目には見てくれるんだよね?」

 

 

「……さぁ、どうでしょう。貴方達の対応次第ですわね。それと貴方には個人的にハチマンとの関係も聞かなければなりません。ハチマン先生って呼ぶ理由に興味がありますし」

 

 

そう話しながら、彼女らも八幡とは反対側のゲートに向かって歩いて行った。帰る場所のために。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「帰ったぞー」

 

 

俺は飛行機にゆっくりと乗りこむと……

 

 

「ハチマン!お帰りなさい!」

 

 

飛行機の中で待っていたサクラが俺に抱きついてきた。それをスフレさんがその様子を微笑みながら見ていた。二人とも怪我が無さそうで良かった。

 

 

…………………………………

 

 

……………………………………………

 

 

………………………………………………………

 

 

「そう言えば、まだ途中だったライブってどうなるんだ?中止になるのか?」

 

 

ガタガタと揺れる飛行機の中で俺はサクラに訊ねた。

 

 

「いえ、やるわよ。そんな事したらファンの皆が可哀想じゃない。そうね………ツヴァイ諸島の復興ライブってモチーフでやろうかしら?」

 

 

「でも、すぐには厳しいぞ。瓦礫の撤去とかに時間がかかるし、それにサベージがまた出ないとは限らない。少なくとも様子見で1ヶ月は必要だな」

 

 

「1ヶ月?それなら十分よ。それにハチマンがまたボディガードをしたら大丈夫じゃない。早くリベリアに帰ったらライブに向けて調整しなきゃ」

 

 

それを聞いて、サクラの後ろに座っているスフレさんと俺はやれやれといったような表情をする。

 

 

「そうだ!ハチマン。今日、ハチマンが話していた如月ハヤト君に会ったんだよね?」

 

 

「あ、ああ。そうだが」

 

 

「実は彼がサベージを倒した動画が挙がっていてね。私、彼に興味が湧いたの。ハチマン、彼について何か知っている事は無いかしら?」

 

 

「そうだな……ヤマト出身で……確か武芸者になったきっかけはグーデンベルグで第二次遭遇の被害に会った事だと聞いている。そう言えばサクラもその時……サクラ?」

 

 

ある程度の内容をはぐらかしながらサクラに説明すると、サクラがなんだか深く思い詰めた様子だった。

 

 

「……え?ああ、ごめんなさい。何だが昔の事を思い出しちゃって」

 

 

「それってあれか?サクラのアイドルをするきっかけをくれたヤマト出身の兄妹の話か?でも、如月から妹が居るなんて話を聞いてないな」

 

 

「……ハチマン、明日にはリトルガーデンに帰るんだよね?少しお願いをしても良いかしら?」

 

 

「あ、ああ。出来る事なら構わないぞ」

 

 

「ツヴァイ諸島での復興ライブが始まるまでに如月ハヤト君について調べてくれないかしら?家柄、家族図、如月ハヤト君について分かる事を何でもよ」

 

 

サクラはリベリアに帰ったら小規模なイベントが沢山有って忙しいと思うから別に構わないが、俺っていつから諜報部になったのだろうか。

 

 

まぁ、俺も興味があるし、引き受けてみよう。

 

 

 

 

 




これで原作一巻分はおしまいです。次回からは閑話を挟みながら原作第二巻に突入しようと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話
意味の無い勧誘


久し振りのアンチ回です。注意してください。


 

 

如月ハヤトside

 

 

あのツヴァイ諸島のサベージ襲撃の次の日、俺は戦いで疲れながらも朝から学校に登校した。エミリ……いや、学校ではエミールか、あいつと共に。

 

 

確か比企谷先輩は朝にはリトルガーデンには帰って来ていると話していた。後であの人には会ってお礼をしなきゃいけない。今、エミールが性別を偽って入学した事を許されているのはあの人のフォローのお陰だからな。

 

 

そう思いながら最後まで授業を受けて、放課後に生徒会長室に向かおうとすると、同じクラスの三人に廊下で話しかけられた。葉山と雪ノ下と由比ヶ浜だっけか?

 

 

「あの、何ですか?」

 

 

「如月ハヤト君。この間の君の生徒会長との戦いは負けてはしまったが、素晴らしい物だったよ」

 

 

「ええ、それにあの入学式での貴方の生徒会への態度、私達の計画に参加をする権利があるわ」

 

 

えっ……何だか褒められているのは分かるが、重要な話がまったく見えてこない。計画って何の事だ?

 

 

「あの計画って……」

 

 

「ああ、すまない。話が分からないよね。実は俺達はある目的のためにリトルガーデンに来たんだ」

 

 

「ある目的?リトルガーデンにはサベージを倒すために来たんじゃないのか?」

 

 

そう言って俺は葉山と雪ノ下に訊ねた。

 

 

「ええ、そうね。でも、私達にはそれよりも大事な事があるの。けれども、私達にはそれを行えるには厳しい状態。だから貴方には協力してもらいたいの」

 

 

「で、その目的はね……」

 

 

葉山が周りに気を使って話そうとする。よほど、他人には気付かれたくない内容のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生徒会の比企谷を潰す事だ」

 

 

「はい?」

 

 

邪悪な笑みで話す内容に俺は驚きを隠せない。比企谷って……昨日会った比企谷先輩のことか!?

 

 

「それはどういう………」

 

 

「言葉通りの意味よ。今、生徒会、いやリトルガーデンは彼によって洗脳されているの。私達は彼の洗脳からリトルガーデンを救うためにここに来たの。でも、彼には生徒会という手強い仲間が居るわ。だから入学式で生徒会に歯向かう意思と実力がある貴方に声をかけたの。さぁ、一緒に……」

 

 

「………断る」

 

 

「……何ですって?」

 

 

雪ノ下にそう言われても、俺の気持ちは変わらない。雪ノ下達がそれをやる以上は。

 

 

「比企谷先輩はそんな奴じゃない!昨日会ったが、あの人は武芸者として立派な人だ!実力もあり、住民の避難誘導には積極的で、仲間が困っていたら助ける他人思いの先輩だ!話を聞いて失礼するけど、俺は参加しないからな」

 

 

聞くに堪えない。もしかして、成績が低いからただの妬みだろう。俺はその場を立ち去ろうとすると、後ろから葉山が制服を掴んで俺を壁に叩きつけて来た。

 

 

「痛っ!」

 

 

俺は制服を掴んだ葉山の顔を見る。だが、その顔は先程とは違い、まるで人を憎んでいる険しい顔だった。雪ノ下や由比ヶ浜も彼と同じような表情だった。

 

 

「おい今、比企谷に昨日会ったって言ったよな…。言え!あのクズが何処に居るかを!どこで会ったんだ!なぁ!早く言えつってんだよ!」

 

 

「教えなさい!私達はあのクズに人生を狂わされたの。彼はどこで何をしていたのかしら!」

 

 

「そうだし!早く言えし!」

 

 

彼らが大きな声で俺に問い詰めていると、向こうからエミールが走ってやって来た。

 

 

「君達!ハヤトに何をしているんだ!ハヤトを掴んでいるその手を離せよ!」

 

 

そう言ってエミールが俺を掴んでいる手を掴み、抵抗してなんとか俺は葉山から解放される。

 

 

「……クロスフォード君。貴方も如月君の味方をするのね。失望したわ」

 

 

「失望したのはこっちのセリフさ!ハヤト、彼らに何をしたんだい?」

 

 

「ケホッ……実はあいつらが比企谷先輩を潰すのに協力をしろって……。それを断ったらいきなり……」

 

 

それを聞いてエミールは葉山達を睨み付けた。

 

 

「ハチマン先生を潰すだって?そんな事させないよ。ていうか、そもそも君達にはそんな実力が無いじゃん、成績ギリギリの歳上三人組さん」

 

 

え、こいつら歳上だったのかよ!?道理で入学式の時に違和感を感じたんだよな。

 

 

「何故……それを。貴方達は黙って歳上である私達に従っていれば良いのよ!」

 

 

「入学式の時に会長が言っていたのを忘れたかな?ここでは年功序列制じゃない。実力序列制なんだよ。つまり、僕達の方が上なんだよ。僕達より歳をとってるから記憶力も僕達より悪いんじゃない?」

 

 

「くっ………」

 

 

雪ノ下さんは静かにエミールを睨み付ける。もう俺達と彼らは一触即発の状態である。すると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはい、何で同じ学年同士でパワハラの現場みたいなのが発生しているのかな~?(笑)」

 

 

向こうの廊下から騒ぎを嗅ぎ付けたのか、若い解析官らしい女性が騒ぎに笑いながら介入してきた。話す内容からどうやら彼らを煽っているようだが。

 

 

「は、陽乃さん……」

 

 

「やぁ、久し振りだね三人とも。それにしても良く入学出来たよね~。お姉さんびっくりだよ~」

 

 

「姉さ「雪ノ下雪乃、私はその名で呼ぶなと言った筈だよね?記憶力悪いのかな?」

 

 

雪ノ下さんに喋らせず、威圧に近い何かをあの解析官の人から感じる。一体何者だろう?

 

 

「これ以上騒ぐなら貴方達は退学だよ。まぁ、退いてくれるなら黙っておいてあげるけど。まぁ、流石に良い選択肢は分かるよね?」

 

 

「くっ…………二人とも、行こう」

 

 

そう言って葉山と雪ノ下と由比ヶ浜は睨み付けて渋々ながらもその場を後にした。

 

 

「さて、大丈夫かい?二人とも」

 

 

「は、はい」

 

 

「助かったよ。ハルノさん」

 

 

「エミール、知り合いなのか?」

 

 

「うん、彼女は雪ノ下ハルノさん。シャロの手伝いをしながら、解析官もしている人さ」

 

 

「雪ノ下って…………」

 

 

「そ。私は雪ノ下雪乃の姉……だったんだよ。ついこの間、彼女と縁を切ってね。彼女達の行動と思想はかなり歪んじゃっているからさ」

 

 

成る程、雪ノ下さんのお姉さんだったのか。容姿は確かに似ているが、性格がまったく似ていないな。

 

 

「あの……どうして彼らはあんなに比企谷先輩の事を憎んでいるんですか?」

 

 

「あー……別に私が話しても構わないけど、そこは本人に聞いたら?今は自宅に居るそうだし。じゃあ、お姉さんはこの辺で失礼するね」

 

 

そう言い残して陽乃さんはその場を後にした。

 

 

そうだな、やはり本人に聞くのが一番だな。電話番号もツヴァイ諸島で交換したし、聞いてみよう。

 

 

 

 

その後、俺は比企谷先輩に電話をしたのだが、何故か先輩の家に招待される事になった。そんなに大事なのだろうか。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

なぜお前まで居る?

あの男、登場です。


 

八幡side

 

 

昨日、サクラを自宅のあるリベリア合衆国までしっかり送り届けて、俺は今日の朝にリトルガーデンへ帰って来た。もうすっかり授業は始まっている時間だったが。

 

 

まぁ、別にリトルガーデンの高等部3年生はインターンシップが中心だから、授業には基本参加しなくても良いんだけどな。クレアはリトルガーデンの模範生の象徴だから授業には積極的に参加しているけど。

 

 

そんなわけで、俺は今日は朝から授業を休んでシャロのラボに向かっていた。あるお願いをするために……

 

 

「シャロー?居るかー?」

 

 

俺がシャロのラボに入ろうとすると……

 

 

「おお、比企谷君。生で見るのは久し振りだね。仕事で忙しかった割りには元気そうじゃないか」

 

 

ラボのドアの前で入れ違いでラボから出ようとしていた陽乃さんと出会った。

 

 

「シャロに用があって来たんですけど、シャロは何処にいます?」

 

 

「ああ、そこで寝ているよ。新しいヴァリアブルストーンを徹夜して加工していてね。それじゃ、私は私で解析官の仕事があるから。じゃあね~」

 

 

机で倒れるように寝ているシャロを俺にまかせて、陽乃さんはラボから出ていった。

 

 

「シャロ、起きてくれ」

 

 

俺は机でぐったりと寝ているシャロを起こそうと体を強く揺さぶる。こうでもしないと起きないからな。

 

 

「ん……?やぁ……ハチマン。リトルガーデンにもう帰って来てたの?……」

 

 

シャロが大きなあくびをしながら夢の世界から目を覚ます。良かった、起きてくれたようだ。

 

 

「ええ、ついさっきです。それと……はい、ツヴァイ諸島でのお土産です」

 

 

「おお!気が利くね~。会長さん達ったら遊びに来てないとか言って、お土産買ってきてなかったんだよね~。仮にも世界的有名な観光地なのにさ~」

 

 

そう言ってシャロは俺からお土産が入った袋を受け取り、中からツヴァイ諸島で買った南国感を味わえそうなパイナップルが入った小さなパウンドケーキを一つ手に取る。あ、陽乃さんにお土産渡し忘れたな。用事が終わったら後で渡しに行こう。

 

 

「で、ここに来たのは勿論ハチマンのハンドレッドの調整だよね?」

 

 

「ああ、一週間近くもメンテナンスはしてないからな。それに、クレアに明後日から武芸科一年の指導に参加をしろと言われてな。状態は万全にしておきたいんだ」

 

 

シャロにそう話しながら、俺はシャロの近くに俺のハンドレッドを置いた。

 

 

「りょーかい。今からやれば明日には調整は終わっているよ。おーい、これよろしく~」

 

 

「うむ?昨日のサベージのコアから加工したヴァリアブルストーンをハンドレッドにする作業はどうするのであるか、シャロ殿?」

 

 

「それよりこっちが優先だよ。ささ、早く持って行ってくれよ。僕も忙しいんだからさ」

 

 

そう言ってシャロはついたての向こうで作業をしている男を呼び続けた。あれ?今の声……どっかで。

 

 

「分かったである……む?」

 

 

「……おい、なぜここに居る?」

 

 

ついたての向こうからやって来た白衣の男に俺は驚きを隠せなかった。マジか、何で居るんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久し振りではないか!我が相棒!」

 

 

 

 

……今からでも戸塚とチェンジ出来ないかな……

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人は見かけによらない

 

八幡side

 

 

まさか、葉山達だけでなくお前も居るとはな……だが、なぜあいつはリトルガーデンの開発班の白衣を着ている?リトルガーデンに来る理由は無い筈だが………

 

 

「シャロ、なぜこいつがシャロのラボに居るんだ?リトルガーデンに来ているなんて初耳なんだが?」

 

 

俺は思わずシャロに訊ねてしまう。

 

 

「ああ、そう言えば君達は一緒の学校だったね。だったら知っている筈なんだけど……」

 

 

「え……何を?」

 

 

「彼がワルスラーン社が注目するハンドレッド開発の天才大型新人だという事だよ」

 

 

「……嘘だろ」

 

 

はあぁっ!?あいつがハンドレッド開発の天才!?クソ程面白くない小説を書く厨二病のあいつが!?てか、どうやってワルスラーン社とのツテを手に入れたんだよ!?昨日まで普通の高校生みたいな奴だったんだぞ!?どういう事情だよ!?

 

 

「……材木座、どうやってワルスラーン社と繋がりを持ったんだ?ワルスラーン社と繋がっているような雰囲気はまったく感じなかったんだが」

 

 

「それは我が輩のセリフだ。まさか、貴様が『影の働き手』だとはな。記者会見の時はびっくりしたぞ。それに貴様が総武を去った理由もな。あの時は貴様の力になれなくて本当にすまなかったのである」

 

 

そう言って材木座は俺に対して頭を下げる。そうか、川崎や戸塚だけでなく材木座にも心配させてしまったな。

 

 

「別に謝る必要はない。今となっては事件を引きずっていないからな。で、なぜここに?」

 

 

「うむ、実は我が輩達が修学旅行に行く前に、我が輩はワルスラーン社が主催するハンドレッドのアイデア開発の大きなコンクールに応募したのだ」

 

 

あぁー、それジュダルから聞いた事があるな。確かコンクールの優秀者には色々な特典がもらえると……

 

 

「…まさか、お前コンクールで……」

 

 

「うむ。最優秀賞を獲得したのである」

 

 

マジかよ。もう小説なんて書くのをやめて、ハンドレッド開発に才能を費やせよ。その才能が可哀想だわ。

 

 

「たしか、優秀者にはワルスラーン社から色々な特典が貰えると聞いてるが、それはどうした?」

 

 

「実はそのコンクールの結果が来たのが、貴様が総武を去った後でな。その時にワルスラーン社から我が輩のワルスラーン社への就職安泰とリトルガーデンに居るシャロ殿によるハンドレッド開発のインターンシップという特典を貰ったのだ」

 

 

いや、その特典十分凄くね?ワルスラーン社への就職安泰ってなかなかだぞ。世界に名が響く大きな会社だし。普通の人でも喉から手が出るわ。前者だけでも学生が貰って良い特典の規模を越えているんだが。

 

 

「で、ここに居ると」

 

 

「その通りである。我が輩は貴様に会えると思ってここに編入したのだが、入学式シーズンに貴様が不在でな」

 

 

「それは悪い事をしたな。俺も仕事が有ったんだわ。そうだ、雪ノ下達には会ったか?」

 

 

雪ノ下達とは違い、高等部3年としてリトルガーデンに編入した材木座に試しに聞いてみた。一応、入ってきた時期としては同じだからな。

 

 

「会ってはいないが、彼らがリトルガーデンに来ているのは知っておる。まぁ、我が輩は開発班だから彼らとは接点が少ないから会う機会はほぼ無いがな。だが、貴様は違うだろ?十分注意した方が良いぞ」

 

 

「当たり前だ。じゃあ、俺のハンドレッドの調整を頼むぞ」

 

 

「うむ。まだシャロ殿から教わっている身だが、明日には終わらせておこう」

 

 

そう言って材木座は俺のハンドレッドを持って、再びついたての向こうに行ってしまった。

 

 

「彼はああ言っているけど、初心者にしてはハンドレッドの調整は素晴らしいセンスだ。近い内には私と同じくらいの天才に育つと思うよ。彼の作る小説は壊滅的に面白くないけど」

 

 

どうやらあいつの小説の評価は万国共通らしい。これでワルスラーン社の就職を蹴って、作家に転職したら誰かしらに殴られるな。多分、最初は俺だと思う。

 

 

「あ、あとこれも頼むわ」

 

 

俺は懐から赤色のガジェットを取り出して渡す。

 

 

「……ハチマン、急にどうしたんだい?これを僕に調整させるなんて。まさか、使う気じゃないよね?」

 

 

俺からそれを受け取り、シャロは珍しく険しい表情をして俺に訊ねる。

 

 

「当たり前だ。俺も出来たら使いたくはない。だが、ここ最近のサベージの強さは昔よりも上がってきている。万が一の時を考えて調整を頼むだけだ。で、調整にはどのくらいかかる?」

 

 

「………これを調整するのは5年ぶりだからね。今の君の体力などのデータを組み込んだら、夏ぐらいかな」

 

 

夏か。今は春になったばかりだから、終わるのは早くても3ヶ月後ぐらいだな。

 

 

「別に構わない。じゃあ、頼むわ」

 

 

俺はシャロにまかせて、ラボを後にする。さて、陽乃さんにお土産を渡したら家で報告書でも書くか。

 

 

 

……………………………………

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

「シャロ殿?先程、聞いた限りだと八幡から何かを調整するように貰っていたが、それも我が輩が調整をした方がよろしいか?」

 

 

「いや、こればかりは僕にしか調整が不可能でね。君は彼のハンドレッドに専念してくれ」

 

 

「うむ、心得た。それにしても八幡から貰ったそれは何であるか?ハンドレッドではなさそうだが」

 

 

「確かに君の言う通りこれはハンドレッドじゃない。だけど、詳しい内容はあまり他人には話せないんだ。そうだね……」

 

 

そう言ってシャロは八幡から貰った赤色のガジェットを椅子に座りながら静かに見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはハザードトリガー。僕が特別に製作した八幡専用のガジェットさ」

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お家にご招待

 

 

八幡side 

 

 

「お、来たようだな」

 

 

自宅の前で待っていると、昨日ぶりに会う如月とエミールが向こうからこっちに歩いて来ているのが見えた。

 

 

「ヤッホー!ハチマン先生!」

 

 

「比企谷先輩、先日はありがとうございました。お陰でエミールも退学にならずに済みました」

 

 

「別にお礼する程ではない。まぁ、詳しい話は家の中でやろう」

 

 

 

…………………………

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

なぜ、俺が如月達を自宅に招き入れたか?それは約1時間前に遡る出来事から始まった。

 

 

俺が家で昨日のサベージ討伐の報告書を書いていた時、俺の傍らに有ったPDAが鳴ったのだ。相手は昨日、会ったばかりの如月ハヤトだった。確かに、如月とはPDAの連絡先も交換したから、連絡が来るのも不思議ではなかったが、何だか嫌な予感がしてな。そう思いつつも、俺は電話に出た。別に後輩の電話を無視するような理由はないし。

 

 

だが、その嫌な予感は的中。話を聞くと、さっき如月とエミールが葉山達と俺の事について一悶着あったらしい。その場に偶然、居合わせた陽乃さんが仲裁したらしくその場は何とか治まったらしいが。その時に陽乃さんが葉山達の事を聞くなら、俺に連絡した方が良いと如月に提案した事が俺に電話をしてきた理由らしい。

 

 

まぁ、他人に勝手に話されるよりは自分から話した方がマシだな。それに如月とは個人的に話す内容もあるし。

 

 

というわけで、俺は如月達を俺の家に招待することにした。時間的に夜なので、迷惑するかもしれないと思ったが、快く承諾してくれた。如月達の寮やその辺の公共のスペースで話しても良いが、なるべく葉山達には会いたくないからな。

 

 

「比企谷先輩はこんな広い家に一人で住んでいるんですか?」

 

 

家の中に入り、如月が家の中を見渡しながら俺に訊ねた。やはり、如月もそう思うか………

 

 

「まぁな。と言っても部屋の半分以上は使わないから空き部屋ばっかりだけどな」

 

 

 

俺の自宅は如月達が住む学生寮から少し離れたリトルガーデンのファミリー区画の郊外にある。

 

 

俺も最初に来た時は如月達と同じ学生寮に泊まっていた。だが、葉山達が来る事になったためにクレアが俺に気を使ってこの家を用意し、リトルガーデンを仕事で不在にする前に引っ越したのだ。

 

 

3階建てで、地下室有りで、庭もある……如月の言う通り、何でこんな家に住んでいるんだろう。

 

 

最初の頃は家の大きさに流石にクレアに抗議した。そしたら、俺……『影の働き手』がただの安い一軒家に住むのは周りに示しがつかないと猛反対されてしまった。聞くと、クレアもリトルガーデンに専用の家があるらしく、この家の倍のスケールあるらしい。流石は令嬢。レベルが違う。

 

 

そんな経緯もあり、俺はこの家に住んでいるのだが、正直言って一人では住み辛いと思う。

 

 

だって、学生寮の一人部屋ぐらいの個室が十個以上はあるんだぞ。俺でも多くて半分しか使ってないわ。倉庫として扱いにもなかなか無理がある。

 

 

しかも、クレアが余談として増築も可能だと言うのだ。それ、今の俺には本当に必要のない情報なんだが。

 

 

「二人共、ここで待ってな」

 

 

俺は二人を自分の自室に待たせて、その間キッチンでドリンクを作りに向かう。コーヒーで良いよな?

 

 

 

…………………………………

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

「さて、まずは生徒会特別顧問として話そう。遅くはなったが、二人とも入学おめでとう」

 

 

「「ありがとうございます」」

 

 

俺は二人に賛辞を送って、二人にコーヒーを渡す。すると、如月がコーヒーを貰いながら笑みを浮かべた。

 

 

「んっ?どうした如月?」

 

 

「あ、いや、比企谷先輩ってまともな先輩だなって…ほら俺が知っている先輩は……」

 

 

俺はそれを聞いて思わず笑いそうになる。

 

 

「俺がまともね……。確かに入学式に色々あった如月から見たらそう捉えられてもおかしくはないか。まぁ、クレアは金持ちとかそういう面があるから価値観が違うだろうし、副会長もクレア絶対主義みたいな所はあるからな」

 

 

「そうだね。あの生徒会の面子の中だったらハチマン先生がまともかな。あの超甘いドリンクの依存症という一面を除いたらね」

 

 

おい、何気なく俺とマッ缶をディスッてんじゃねぇよ。その言い方だと生徒会全員ヤバい奴じゃねぇか。

 

 

「なぁ、ずっと気になってたんだが、どうしてエミリアは比企谷先輩を先生と呼ぶんだ?」

 

 

「あれ?聞いてなかったのか?エミールにハンドレッドを教えたのは俺なんだわ」

 

 

それを聞いて如月は驚いたような表情をした。多分、他の武芸科の皆が聞いても同じような反応をするな。

 

 

「さて、そろそろ本題に入ろうか。俺と葉山達の関係を聞きたいんだってな?」

 

 

俺は椅子に座り直して如月に訊ねた。

 

 

「はい。どうしてあんなに比企谷先輩に恨みを抱いてるのかって。そう言えば、あの人達が比企谷先輩がリトルガーデンの皆を洗脳しているって話してたんですけど……あれって、彼らの嘘ですよね?」

 

 

はぁ?あいつら、バカじゃねーの?洗脳とか今時、あるわけがないだろ。

 

 

「当たり前だ。洗脳なんかするわけがないし、洗脳する能力なんて持ってはいない」

 

 

「ですよね」

 

 

如月も葉山達を信用していないからか、即答だな。

 

 

「ああ、それで話をするが、如月って俺の記者会見のニュースを見たか?」

 

 

訊ねると、如月は横に頭を振る。だろうな、ツヴァイ諸島でも俺の事はまったく知らない様子だったし。

 

 

 

これは話が長くなるな………

 

 

 

 

……………………………

 

 

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

「……以上が葉山達と俺の関係だ」

 

 

俺は総武高校から今に至るまでの葉山達との関係を全て如月に話した。一から話すって大変だな。

 

 

「へぇー、そんな事が」

 

 

「本当にバカな人達だよね。自分達が悪いのに、ハチマン先生に復讐するなんてさ」

 

 

エミールの言う通りだな。まさか、復讐のためにリトルガーデンにまで来るとは思っていなかったわ。

 

 

「でも、比企谷先輩は明後日から俺達のハンドレッドの模擬戦の練習に参加するんですよね?確実に彼らと鉢合わせですが、どうするんですか?」

 

 

「何もしてこないな無視するさ。ただ、してくるならその時はその時だ」

 

 

まぁ、何かしてくると思うがな。

 

 

「さて、話はこれで終わりだ。用事が無いなら、お前らは明日授業だから早く帰りな」

 

 

「はーい」

 

 

俺がそう言うと、エミールは早々に部屋を出ていった。彼女に悪いが、これで如月と個人的に話せる。

 

 

「……如月、少し良いか?」

 

 

「はい?」

 

 

俺はエミールに付いていこうと、部屋を後にしようとする如月を呼び止める。 

 

 

「……お前、妹っているか?」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

運命の繋がりって恐ろしい

すいません、大学の入学手続きで投稿が遅れてしまいました。


 

 

八幡side

 

 

「妹の病室はこっちです」

 

 

「ああ、分かった」

 

 

俺は如月に連れられて病院の廊下を歩いていく。うっわ、周りからの俺への視線がすごいな。未だにこの有名になった感覚って慣れないんだよな。

 

 

今日、俺が病院に来ているのは怪我や病気が原因ではない。入院している如月の妹に会うためである。

 

 

昨日の夜、俺はサクラからのお願いのために如月に妹が居るかを聞いてみた。あまりに直球過ぎて言った自分でもドン引きだったが、如月はそんな気にせずに答えてくれた。

 

 

まさか、本当に妹がいるとは……サクラと同じ時期にグーデンベルグにいたヤマト生まれの兄妹という条件に合致してるだけでかなり凄いが、まだサクラが知りたい兄妹である確証には至れない。実際、グーデンベルグで被災した兄妹で数を絞っても、一組ではないからな。

 

 

そこで、俺は次の日に如月に頼んで学校が終わった後に、妹さんが入院している病院に案内してもらう約束をしたのだ。妹に会えば、何か分かるかもしれないし。

 

 

「ここです。比企谷先輩」

 

 

「お、ここか」

 

 

俺は病室の名札を見ると、如月の妹である『如月カレン』と書いてあった。そう言えば、サクラもサクラで妹の名前でも知っていれば、俺も調べやすいのに。

 

 

俺はそう思いながら見てると…………

 

 

『~♪~♪~♪~♪』

 

 

病室の中から歌を歌っている少女の声が聞こえた。

 

 

(おいおい、この歌は………)

 

 

「比企谷先輩?どうしました?」

 

 

「……いや、何でもない。中に入ろうか」

 

 

俺がそう言うと如月は病室のスライド式のドアを開けた。中にはヤマトの出身を思わせる黒髪の少女が病室のベッドてこちらを見ながら横になっていた。

 

 

「兄さん!それと兄さんの隣に居るそちらの方はもしかして……」

 

 

「初めまして。生徒会の比企谷八幡だ。まぁ、『影の働き手』の方が有名かな?」

 

 

「い、いえ、そんな事は。初めまして、如月カレンです。先日は兄さんがお世話になりました」

 

 

そう言ってカレンちゃんは頭を下げた。兄と変わらず、礼儀正しい子だな。

 

 

「まさか…本当に占い通りの方が来るなんて」

 

 

「占い?」

 

 

「カレンはタロット占いが得意なんです。しかも、その的中率は俺が知る限りほぼ100%です」

 

 

ほぉ、そんな趣味があるのか。的中率がほぼ100%のタロット占い、ね。如月兄は気付いていなさそうだが、多分センスエナジーの力が働いているな。実際、武芸者の才能は遺伝による要因もあるからカレンちゃんもセンスエナジーが扱える武芸者の素質が有ってもおかしくない。兄は武芸者の大型新人だからな。

 

 

「へぇ、それはすごいな。ちなみに出来たら占いの結果の内容を教えてくれるかな?」

 

 

「は、はい。今日の私の出来事を占ったのですが、『好きな人をよく知る人物が現れる』と」

 

 

そう言って俺がカレンちゃんに訊ねると、カレンちゃんは快く俺に占いの結果を教えてくれた。

 

 

「好きな人?」

 

 

好きな人?どういう意味だ?

 

 

「それって彼氏という意味か?」

 

 

「いえ、そう意味ではありません。私がそういう意味で好きな人は兄さんだけですから」

 

 

おおう、そうですか。これはまた典型的なブラコンでいらっしゃる。如月兄は顔を隠してるし。恥ずかしい気持ちは分かるし、色々と大変だな。

 

 

「じゃあ、一体………」

 

 

「私が好きな人はサクラさんです」

 

 

えっ……サクラ?サクラってまさか………

 

 

「サクラって……霧島サクラの事か?」

 

 

俺は思わず衝動的にカレンちゃんに訊ねてしまう。

 

 

「はい!実は私、サクラさんのファンなんです!比企谷先輩もやっぱり好きなんですよね?」

 

 

カレンちゃんの占い、普通にすごくね!?ほぼ当たってるどころじゃない。好きな人ってそういう意味かよ。

 

 

「ん?やっぱりって?」

 

 

だが、俺は最後にカレンちゃんが言ったやっぱりの意味が良く分からなかった。

 

 

「あれ?違うんですか?実はツヴァイ諸島で行われたサクラさんのライブに比企谷先輩が居たのがファンの間で話題になっているんですよ。もしかすると、比企谷先輩もサクラさんのファンじゃないかって」

 

 

何それ!?いや、ただ警備で居ただけなんですけど、そういう事になってるの!?

 

 

「でも、私は違うと思うんですよね」

 

 

「ほ、ほう。な、何が違うと?」

 

 

や、ヤバい、動揺して声が震えてしまった。

 

 

「実は比企谷先輩ってただのファンじゃないですよね?だって、兄さんから聞いたんですけど、比企谷先輩って入学式辺りの数日休んでたんですよね?いくら、生徒会でも私情で休んだら入学式はヤバいと思うんですよね」

 

 

ぐっ!?確かに言われてみればここで否定しなかったら、入学式よりアイドルのライブを優先したクソ野郎の先輩じゃないか。如月の妹、なかなか侮れない。

 

 

気付かれたなら仕方ない。それに否定しないと、クソ野郎認定は免れない。それにあれを聞いた以上、もうこの兄妹とは他人という関係ではないからな………。

 

 

「……カレンちゃん、素晴らしい推理だ。実は俺は入学式辺りの数日はある依頼者の警護のために休んでいたんだ。で、その依頼者なんだが……」

 

 

「もしかして……」

 

 

「ああ、霧島サクラさ。秘密だけどな」

 

 

それを聞いてベッドの上でカレンちゃんはすごく興奮した様子になる。そんなに興奮しなくても。

 

 

「兄さん!聞きましたか!やっぱり比企谷先輩はスゴイ方ですね!サクラさんの警護なんて普通のボディガードの人でも無理なのに!」

 

 

そう言うカレンちゃんを如月兄が何とか鎮めようとする。カレンちゃんの言う通り、俺以外のボディガードもかなりの経歴の持ち主だったから間違ってはいない。

 

 

「つまりは比企谷先輩はサクラさんと常に居たって事ですよね!?できたらサクラさんについて……」

 

 

「ああ、話しても構わないぞ。その代わり、周りには言わないようにしてくれるならな」

 

 

俺がそう言うと、カレンちゃんは嬉しそうに首を縦に振る。本当にサクラの事が好きなんだな。

 

 

…………………………

 

 

…………………………………………

 

 

……………………………………………………

 

 

あれから俺はツヴァイ諸島でのサクラの様子をカレンちゃんに話し続けた。こんなに興味を持ってくれるなら俺も話す価値はあるしな。如月兄は妹とは反対にあまり興味が無さそうにだったが。

 

 

「カレン、もう面会時間が終わりだからその辺にしておきな」

 

 

如月兄の言う通り、面会時間終了まで残り十分近くだった。カレンちゃんに話すので夢中だったが、かなり話し込んでいたんだな。

 

 

「そうですね。比企谷先輩、今日は楽しい話をありがとうございました」

 

 

「ああ、また暇があれば話しに来るよ。如月、お前は先に病院の外で待っててくれ」

 

 

「え……比企谷先輩は?」

 

 

「カレンちゃんと最後に少しだけ話をな」

 

 

「わ、分かりました」

 

 

そう言って如月兄は部屋から一足先に出ていった。警戒していたようだが、お前の妹を襲う気はまったく無いからな。失礼な後輩め。

 

 

「あの……話というのは?」

 

 

事情が分からないカレンちゃんが俺に訊ねた。

 

 

「ああ、さっきカレンちゃんの病室に来る前に部屋から歌を歌っているのが聴こえたんだけど、あれを歌っていたのはカレンちゃんだよな?」

 

 

「は、はい。うるさかったですか?」

 

 

「いやいや、そんな事はない。聴いてて良い歌だなと思ってな。オリジナルか?」

 

 

「あ、ありがとうございます。いえ、この歌は私と兄さんがグーデンベルグで第二次遭遇の被害に遭った時に、両親がいない私と兄さんのために歌ってくれた女の子のものです。」

 

 

「……ほぉ。ちなみにその女の子はどこに行ったのかは知らないのか?」

 

 

「いえ……でも、もしまた会えたらその人と一緒にこの歌を歌いたいですね。」

 

 

「……そうか。……もしかするとそう遠くない未来かもしれないぞ」

 

 

「えっ……?」

 

 

「じゃあ、またな。カレンちゃん」

 

 

俺はカレンちゃんに訊ねられる前にそそくさと彼女の病室を退出した。

 

 

「……運命って恐ろしいものだな。調べてみたらこんな因果があるとは思っていなかったな」

 

 

これで確信した。ひとまず、家に帰ったらサクラに今日の報告をしないとな。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

兄妹の正体

風邪ひきました。辛いお。


 

 

八幡side

 

 

『えぇー!?私がずっと探していたあの兄妹が見つかったですって!?』

 

 

俺が今日の晩飯であるカレーを食っている片手間に、サクラがテレビ電話を通して大きな声を出した。

 

 

「ああ、本当だ」

 

 

『でも、私がハチマンに頼んでいたのは如月ハヤト君の調査よ。どうして……まさか……』

 

 

「ああ、そのまさかだ。サクラが話していた兄妹は如月兄妹の事だったんだ」

 

 

俺は片手でテレビ電話の画面を弄り、サクラにリトルガーデンが所有する如月のパーソナルデータを転送した。

 

 

「妹の名前が如月カレンと言うんだが、この名前にサクラは聞き覚えがないか?」

 

 

『そうよ……カレン……間違いないわ』

 

 

やはりか。サクラからの確認も取れた以上、サクラが探していた兄妹は如月兄妹で確定だな。

 

 

『でも、どうしてハチマンはカレンちゃんの名前も知らないのに正体が分かったの?』

 

 

「実はカレンちゃんがサクラの母親から教わった歌を歌っていてな。あの歌はサクラが世間でも公開していない歌だ。だから、聞いた事がある俺はピンと来てな。少なくともサクラと会った事がある人物ではないかって」

 

 

『なるほどね。さすが、ハチマンだわ』

 

 

そう言って画面の向こうで嬉しそうにサクラが褒める。そう言われると苦労した甲斐があったな。

 

 

「で、サクラの事だから今すぐにでも会いたいと言うと思っていたが、行きたくないのか?」

 

 

『ええ、ハチマンの言う通りハヤト君達には会いたいわ。でも、ハヤト君達は知らないようだからそこはアイドルとしてサプライズで会いたいわね。それに…』

 

 

「それに?」

 

 

『今すぐに私がハヤト君に会ったらハチマンが妬いちゃうでしょ?ハチマンったらハヤト君達の話が始まってからそんな顔をしていたわよ』

 

 

えっ!?マジかよ。顔に出てたのか!?

 

 

『確かにハヤト君はハチマンや私と同じヴァリアントだし、幼馴染みでもある、まさしく運命の人よ。アイドルに導いてくれたきっかけも彼らだからね。でも、ハチマンはそれ以上に運命の人よ。私のアイドル活動をずっと支えてくれたし、ヴァリアントとして孤独だった私に生きる喜びをくれたわ。私が好きな人はハチマン一人よ。それは変わらないわ』

 

 

「……へぇ。そう言って貰えると嬉しいな。俺も気持ちは同じだ。俺もヴァリアントだからずっと孤独だったが、サクラと生活してきてサクラがが心の支えになってくれたんだ。だから…その…俺もサクラの事が好きなのかもな」

 

 

それを聞いてサクラは画面越しで目を丸くした。

 

 

『それって…つまり…告白?』

 

 

「まぁ……世間からしたらそうだろうな。本当はこんな画面越しでやる事ではないと思うが…」

 

 

『いえ、十分よ。ああ…今日は最高の日ね。私の願いが2つも叶ったんだから』

 

 

そうか……サクラはずっと俺からの告白を待っていたのか。サクラが世界的なアイドルだから、こんな自分でも良いのかとサクラからのアプローチはあやふやにしていたが、なんだかサクラには悪い事をしたな。

 

 

「ああ、そうだな。ところで、如月達の事はどうするんだ?サプライズと話していたが」

 

 

『そうね……そこは私が考えておくわ。彼らが驚くようなサプライズをね。それよりも!』

 

 

「は、はい?何でしょう?」

 

 

いきなりズームアップで画面から出てきそうなサクラに俺は驚きながら訊ねた。

 

 

『結婚はいつにしようかしら?』

 

 

「いやいや、待て待て!?さすがにアイドルが急に結婚なんかしたらまずいだろ!?」

 

 

『あら、別に結婚してもファンは少し減るけど、アイドル活動は続けられるわ。それにハチマンとは長い付き合いだから、今すぐにでも結婚してもおかしくないわよ。世界的アイドルと最強の男性武芸者のカップル…素敵じゃない』

 

 

スフレさ~ん!サクラを止めてくれ!画面越しで赤飯の準備なんかしなくて良いから!

 

 

 

その後、スフレさんと俺の説得でどうにかサクラを鎮める事に成功した。やはり、サクラの知名度から電撃結婚はヤバイらしい。だが、どうやらツヴァイ諸島の一件でサクラが俺の下の名前を呼んだ事から一部のファンがサクラと俺の関係を察しているのに俺達が気付くのはまた別の話である。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

因縁の再会

アンチ回です。
昨日の作品も含めて、なんか文章力が低下しているんですよね。スランプかな?


 

 

八幡side

 

 

「さて、今日から皆さんも顔は知っていると思いますが、彼にもハンドレッドの実戦練習に指導者として参加してもらいますわ」

 

 

クレアの前置きに従うように俺は武芸科一年生の前に自己紹介をするために前に立った。

 

 

「ああー……新入生の皆さん、遅くはなったが、入学おめでとう。生徒会特別顧問の比企谷八幡だ。入学式には大事な用が有ったため出席は出来なかったが、先日に用が終わり、今日から生徒会の一人として新入生に指導をしていこうと思う。よろしく頼む」

 

 

俺が新入生に対して頭を下げると、ヴァリアブルスーツをした新入生達が一斉にざわめく。

 

 

「スゲー!!あの比企谷先輩から指導を受けられるなんて夢みたいだな」

 

 

「ああ、クレア会長と並ぶと壮観だな。リトルガーデン最強の男女タッグペアだ」

 

 

如月やエミールは先日に会ったばかりだから普段通りだが、他はかなり興奮してるな。入学式でも俺が居ないと説明したらざわめくレベルだったし。

 

 

「今日は俺とハンドレッドを使ってでの模擬戦だ。だから「あら、屑ヶ谷君が何を寝ぼけた事を言っているのかしら」……何だよ、雪ノ下」

 

 

絶対絡んでくると思ったよ。本当はこいつらが居るから参加したくはなかったんだけどな。だけど、こいつはバカなのか?あの空気で俺に悪口を言ったら他の生徒から嫌な目をされるのに。

 

 

「あら?私は正論を述べたまでよ。貴方の性格と実力では指導なんて向いていないわ」

 

 

「雪乃ちゃんの言う通りだ。入学式に来なかったのも新入生にボロが出てしまうからだ。お前の偽りの実力がな」

 

 

「ヒッキー、まじ最低だし!どうせ、クライアントも嘘に決まっているし!」

 

 

雪ノ下に続くように葉山や由比ヶ浜も俺に対して悪口を言って来る。

 

 

はぁ~……こいつらは何を言っているんだ?偽りの実力って何もズルはしていないんだが。ほら、如月は頭を抱えているし、エミールや他の生徒は雪ノ下達に敵意剥き出しだし。

 

 

「貴方達、いい加減にしなさい。新入生なら先輩に教わる態度というものがあるでしょう。それに彼が入学式に休んだのはクライアントからの仕事という明確な理由があります」

 

 

流石にカバーが入るか、ナイスだクレア。

 

 

「なら、そのクライアントは人を見る目がないのね。屑ヶ谷君と同じで目が腐っているに違いないわ」

 

 

「ああ。こんな奴に対して依頼をするなんて頭がイカれているんじゃないか」

 

 

「きっとそうだし!物好きも「……おい、少しは黙ったらどうだ」っっ!?」

 

 

こいつら……黙っていればサクラの事をバカにしやがって。俺の事ならまだしも、サクラを悪く言われるのはさすがに俺も限界だ。間違って殺意と一緒にセンスエナジーを出しちまったじゃねぇか。

 

 

「は、ハチマン落ち着きなさい」

 

 

「そうかそうか、俺が実力不足ね。だったら、お前らは何目線で話をしているんだ。なぁ?総武高校のH君とYさんお二人よ」

 

 

クレアが俺を落ち着かせようと話す中、俺は生徒達の前で葉山達の正体を明かした。

 

 

「総武高校のH君とYさんって確か……」

 

 

「ああ、ニュースで話題になっていた比企谷先輩を退学させた原因の主犯格3人だろ?どうしてここに……」

 

 

「という事はあの人達、年上!?成績もビリなのによくあんな口を叩けるわよね」

 

 

「くっ…!比企谷、お前!」

 

 

周りの生徒達に騒がれて立場が悪くなったと思ったのか、葉山が俺に対して睨み付ける。

 

 

「なんだ、隠していたのか。それは悪い事をしたな。で、年下にも成績で負けてるビリの三人組が何目線で話をしているんだって?」

 

 

俺がそう言うと、三人は黙ってこちらを睨み付ける。その間にも他の生徒は雪ノ下達の話題で持ちきりである。おい、エミールこっそり嘲笑うなって。

 

 

「……くっ!なら、証明してあげるわ。私達が貴方よりも強い事を」

 

 

「雪ノ下雪乃!いい加減「なら、やってみろよ。最初の模擬戦の相手はお前だ」ハチマン!?」

 

 

「なんならお前達三人でかかってきても構わないぞ。まぁ、ハンデだな」

 

 

クレアに止められそうだったが、売られた喧嘩は買わないとな。それに先輩の怖さを教えてやらないと。

 

 

「…あら、そんなに一方的にやられたいようなのね。なら、良いわ。その勝負受けてたつわ」

 

 

「……良いだろう。後悔するなよ」

 

 

お前らは俺を怒らせたんだ。ただでは済まさないから。

 

 

……………………

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

………………………………………………………

 

 

 

 

『準備はよろしいですわね?』

 

 

観客席に如月達を連れていき、審判をすることになったクレアがマイクで俺と雪ノ下に訊ねた。

 

 

「構わない」

 

 

「……ええ、私達も大丈夫よ」

 

 

『なら、ハンドレッドを』

 

 

クレアがそう言うと、俺と雪ノ下達三人はお互いが向かい合うようにハンドレッドを構える。

 

 

 

「「「「ハンドレッド・オン」」」」

 

 

 

俺はハンドレッドのトリガーを引き、雪ノ下達はハンドレッドを指で弾くと、ヴァリアブルスーツを覆うように装甲が現れる。

 

 

最初の俺の武装は銃で良いか。で、あいつらの武装は雪ノ下が薙刀、葉山が片手剣と盾……両方ともシュバリエ型か。対して由比ヶ浜はライフル……シューター型ね。あいつに銃なんか持たせて大丈夫なのだろうか。

 

 

「おい、比企谷。賭けをしないか?」

 

 

俺がそう考えていると、葉山が俺に賭けを提案してきた。何だ、こいつ。賭けを提案してくるなんて。まさか、もう勝ちは確定だと言いたいのか?

 

 

「負けた方が勝った方の言うことを聞く。どうだ、簡単な内容だろう?」

 

 

「ああ、別に構わない」

 

 

まぁ、別に勝つからお前らの言うことなんて意味はないし、俺が勝てばメリットがあるから別に受けても構わないな。

 

 

「よし、賭けは成立だ。早く始めよう」

 

 

葉山がそう言って武装を構えたのと同時に、勝負の始まりを告げるカウントが始まった。

 

 

 

『3……2……1……Go!!』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「頑張れー!比企谷先輩!!」

 

 

「そんな奴等、ボコボコにしろー!」

 

 

比企谷達が闘技場で賭けについて話している間、応援席ではフリッツやレイティアが中心になって、比企谷の応援をしていた。

 

 

「会長、そう言えば比企谷先輩のハンドレッドの型はどんな型何ですか?」

 

 

如月がクレアに訊ねると、比企谷を応援していた皆も興味を示してクレア達の方を向いた。

 

 

「それはハチマンからハンドレッドの扱い方を教わったエミール・クロスフォードの方が詳しいのではないかしら?」

 

 

それを聞いて生徒からの興味の視線はクレアからエミールへと一斉に移る。

 

 

「おい!エミール。比企谷先輩にハンドレッドの稽古をして貰っていたのかよ!く~、羨ましい!」

 

 

「まったくだぞ!」

 

 

「ちょ、ちょっと皆落ち着いてよ~。あ、会長、もしかして謀ったなぁ~!?」

 

 

エミールは何とか皆を落ち着かせようとするもエミールへの質問攻めはまったく治まらなかった。

 

 

「ふふっ。これで貴方とゆっくり二人きりで話せますわね」

 

 

「は、はぁ」

 

 

エミールが揉みくちゃにされる光景を如月は何も出来ないまま眺めていた。

 

 

「で、ハチマンのハンドレッドについてでしたわね。まず、貴方はハチマンのハンドレッドを今までの知識からどう推測を致します?」

 

 

そう言ってクレアは如月にクイズ形式のような問いで訊ねた。

 

 

「そうですね…銃や刀に変化する事からエミールと同じイノセンス型では?」

 

 

「半分正解ですわね」

 

 

「半分?」

 

 

「ハチマンのハンドレッド……影を纏う者(シャドウ・メイクアップ)はイノセンス型に加えて、周囲の影を操るフィールド型の力を持つ、世界で一つのハイブリット型のハンドレッドですわ」

 

 

「ハイブリット型……。」

 

 

「簡単に説明すると、エミール・クロスフォードの上位互換と言うべきですわね」

 

 

「へぇ、比企谷先輩のハンドレッドはすごいですね。最強と言われる所以も分かりますよ」

 

 

「……そうですわね」

 

 

(ハンドレッドの本質は使用者の個性や性格が大きく反映されますわ。ハンドレッドは使用者の鏡と言っても過言ではないでしょう)

 

 

(なら、ハチマンの場合はどうか。私の推測ですが、ハチマンの影を操るハンドレッドが表しているもの、それは……表と裏ですわね。ハチマンは普段から私達には見せない裏の顔がある……壮絶な過去を過ごした彼の事情から私はそう捉えられてしまいますの。先程のハチマンの殺気……あれはハチマンの裏の顔の片鱗と言うべきものなのでしょうか)

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

早すぎる決着

 

 

比企谷side

 

 

『Go!!』

 

 

「うおぉぉぉおぉぉぉぉ!」

 

 

カウントがスタートを告げたと同時に葉山が剣を構えて攻撃を仕掛けてきた。如月のモノマネか。ハヤト同士で皮肉なものだな。

 

 

「はっ!そらっ!」

 

 

俺は葉山が接近するのに対して銃の照準を合わせて発砲する。それを葉山は難なくかわして、余裕な表情を見せるが、別に本気じゃないし。

 

 

「おらっ!」

 

 

葉山はかわしながら、そのまま俺に剣で斬りつけようとする。だが、俺はそれを銃身でガードする。

 

 

「今だ!雪乃ちゃん!結衣!比企谷はシューター型だから俺を銃身で抑えている間は無防備だ!」

 

 

「ええ!そんなの分かっているわ!」

 

 

「分かったよ!葉山君」

 

 

はい、バカ丸出し。全員、俺をシューター型と勘違いしてやがる。何が分かっただよ。

 

 

影の歩行術(シャドウ・ステップ)

 

 

俺はセンスエナジーを使い、素早く移動して残像を残すように姿をくらます。

 

 

「なっ!?消えた!?」

 

 

「葉山君!危ない!」

 

 

「えっ?がはっ!?」

 

 

俺の方に飛んできた由比ヶ浜の光弾が射線内に入っていた葉山に直撃する。おおー、ナイスフレンドリーファイヤー。由比ヶ浜のクソAIMがあって初めて実現するな。

 

 

「くっ!彼はどこ?」

 

 

「後ろだよ」

 

 

俺は死角である雪ノ下の後ろに回り、影から質量がありそうな黒いハルバードを取りだし、両手に振りかぶるように構える。

 

 

影の轟撃(シャドウ・ゲイザー)!」

 

 

「きゃあっ!!!?」

 

 

俺が雪ノ下の腹の部分にセンスエナジーを込めて、黒い衝撃波と共にハルバードを当てると、雪ノ下は闘技場の端の壁に吹き飛ばされ、ハンドレッドの解除と共に両手で痛そうに腹を押さえている。

 

 

やべっ、加減を間違えたわ。まぁ、受け身をしなかった雪ノ下も雪ノ下だから俺は悪くないよな。

 

 

「ヒ、ヒッキー!?」

 

 

「ついでにお前もだ」

 

 

俺はハルバードを由比ヶ浜に向けて投げると、ハルバードは由比ヶ浜と共に闘技場の端へと叩きつけられる。由比ヶ浜は意識を失い、ハンドレッドは解除される。

 

 

「ひ、ヒキガヤァァ!!!!」

 

 

俺は怒りに身をまかせて剣を振り続ける葉山の攻撃を難なくかわしていく。仲間がやられたぐらいでうるさい奴だ。

 

 

(そうだ……材木座が試しに作ってくれた武装の試運転でもしてみるか。確か、材木座がハンドレッドの調整の時にその武装の構造データを組み込んだんだよな。なら、影からでも顕現は可能だ)

 

 

俺は葉山から距離を取り、イメージを固める。

 

 

武装顕現(メイクアップ)、ツインブレイカー!」

 

 

すると、俺の影が右手を覆うようにパイルバンカーのような白色と青色を基調とした武装が顕現される。

 

 

これがツインブレイカーか。材木座が基本はこれで殴るのが攻撃だと言っていたが………

 

 

「ビームモード!」

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

どうやら遠距離にも対応しているらしく、試してみたら葉山に対して黒い光弾が出た。汎用性あるな。

 

 

で、材木座から貰ったこの黒色のボトルとゼリーパックみたいな物をツインブレイカーの空いている隙間に差し込めば、俺のセンスエナジーを最大限に引き出した技が使えるらしい。

 

 

材木座が言うにはこの黒色のボトルとゼリーパックもどきは俺の影の力を持つセンスエナジーを成分として溜めたものらしい。名前はシャドウフルボトルとシャドウスクラッシュゼリーと話していたな。

 

 

俺はこの2つをツインブレイカーに差し込む。

 

 

『シングル!!ツイン!!』

 

 

おおう!機械音がするのかよ。びっくりしたわ。だが、材木座の言う通り右手には黒色の凄い量のセンスエナジーが溜め込まれている。

 

 

「これで最後だ!」

 

 

影の双撃(ツインブレイク)!!』

 

 

俺はツインブレイカーで葉山に攻撃を当てようとするが、葉山はそれを盾で何とか防ごうとする。

 

 

「ぐううぅっっ!!がはぁっ!!!?」

 

 

だが、それは無意味な抵抗だった。ツインブレイカーは葉山の盾を砕き、そのまま葉山を吹き飛ばす。葉山はその衝撃で地面を何回も転がり、やがて地面に倒れる。

 

 

「ふぅ、口ほどでも無いな」

 

 

お前ら、受け身すらできないのかよ。本当にこいつらはいったい何をしに来たんだか。

 

 

すると、それを観客席から見ていた如月達から歓声が聞こえ、クレアも試合の終わりを告げる。

 

 

『勝者!比企谷ハチマン!』

 

 

少々加減しなかった所があったが、サクラを侮辱したんだ。これぐらいは容赦なく制裁をしないとな。

 

 

 

 




ツインブレイカー……元ネタはあれですよ。どんなものか知りたかったら『ツインブレイカー』と検索してみてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

見苦しい奴ら

 

 

比企谷side

 

 

非常に呆気ない試合が終わったので、俺は観客席に戻ろうとすると、ハンドレッドをしたままの葉山と意識を失った由比ヶ浜を肩に背負う雪ノ下が立ち塞がる。

 

 

「……何だよ。勝負は俺の勝ちだ」

 

 

「いえ、あの勝負は卑怯谷君がズルをしたから無効よ。もう一度、私達と勝負しなさい」

 

 

はぁ?こいつら何を言っているんだ。そんな惨めに負けて素直に負けすらも認められないのかよ。

 

 

「なら、何がズルなのかを言ってみろよ」

 

 

「貴方のハンドレッドは由比ヶ浜さんと同じシューター型の筈よ。なのに、貴方は銃から色々な武器に武装を変えている……これはズル以外の何物でもない証拠よ。貴方はワルスラーン社を脅してその不正の塊であるハンドレッドを作らせたに違いないわ」

 

 

はぁ……雪ノ下は何を言っているんだか。無知なのによくベラベラと話せるな。クレアや新入生達も話を聞いて呆れた顔をしているし。

 

 

「あのなぁ、そもそも俺のハンドレッドの型はシューター型じゃない。そこから間違っている。そこまで俺のハンドレッドに不正があると言うなら由比ヶ浜の使ってたやつで不正じゃないかを証明してやるよ」

 

 

「なら、やってみなさい」

 

 

俺は雪ノ下から由比ヶ浜が使っていたハンドレッドを受取り、ハンドレッドを起動する。そして、俺は雪ノ下に見せつけるように影から剣やら銃やらを取り出す。

 

 

「そ、そんな……ありえないわ」

 

 

「ハンドレッドは自分を移す鏡のような物だ。だから、普段使わないハンドレッドを起動してもハンドレッドの型の本質は変わらない。授業で習わなかったのか?」

 

 

「ぐっ……」

 

 

おいおい、そんなに睨むなよ。お前の無知が露呈したのは自分のせいだろ。

 

 

「話は済んだな、じゃあ」

 

 

俺は雪ノ下達の横をすれ違い、クレア達の方に向かうと後ろで葉山が俺を呼び止める。

 

 

「……比企谷、話は終わってないぞ」

 

 

「あ?」

 

 

「お前は最初、銃を装備していた筈だ。なら、最後までそれを貫くのが正々堂々じゃないのか!それに雪乃ちゃんや由衣にここまでやる必要はないじゃないか!女の子なんだぞ!」

 

 

はぁ……呆れた。聞いてて嫌になる。雪ノ下の言い訳よりも質が悪いんじゃないか?

 

 

「お前、バカか?俺達武芸者はサベージを倒すのが目的だ。サベージの倒し方にルールがあるのか?俺達は命をかけて真面目にやっているんだ。クレアや他の女子生徒もな。そんなに正々堂々と言うならリトルガーデンをやめて、ヤマトでチャンバラごっこでもしていたらどうだ?ルールがあって楽しいぞ」

 

 

まったく…こいつらはリトルガーデンを何と勘違いしているんだか。スポーツ選手の育成をしているんじゃねぇぞ。

 

 

「ぐぅ!!ヒキガヤァ!!!!」

 

 

おいおい、逆ギレかよ!?クソっ、葉山のハンドレッドを解除するぐらいに攻撃をすればよかった。

 

 

葉山が俺の後ろから剣を振り回して俺に接近してきたため、ツインブレイカーで対応しようとすると……

 

 

 

チュドーンッッ!!!!

 

 

 

突然葉山達に光弾が飛んできて葉山達を吹き飛ばす。その時に葉山のハンドレッドは解除され、一緒に飛ばされた雪ノ下と葉山のハンドレッドが俺の近くに転がっていたので、俺はそれらを回収する。

 

 

さっきの光弾の犯人はあいつしか居ないな。

 

 

「貴方達、勝負は決したのに逆上して後ろから不意打ちをするなんて品が無いにも程がありますわよ」

 

 

先程の犯人…クレアを見ると、証拠としてハンドレッドが起動しており、ハンドレッドを起動したまま観客席から俺の近くにやって来る。

 

 

本当だよ。ルールとかほざいていた奴が不意打ちとか支離滅裂してるだろ。頭イカれてんじゃないか?

 

 

「先程の行動を含めて、貴方達の行動は上官への謀反活動に値します。今日から貴方達のハンドレッドは没収及び使用を半年間禁止にしますわ」

 

 

「そんな!それでは……」

 

 

雪ノ下が必死だな。きっとハンドレッドがあれば俺にまた復讐出来ると思っていたんだろ。

 

 

「それでは……何ですの?これでも貴方達が更正するのも期待して刑を軽くしていますの。なんなら退学をしても私達は構いませんわ。ハチマンの言う通り母国でチャンバラごっこでもしたらどうです?」

 

 

「くっ……分かりました」

 

 

流石にこれ以上立場が悪くなるのは不味いと思ったのか、葉山が雪ノ下の代わりにハンドレッドの没収を許した。

 

 

「あと、賭けは俺の勝ちだから命令するが、二度と俺に関わるな。関わったら容赦はしない」

 

 

俺は追い打ちに彼らに命令する。いや、睨むなよ。お前らが先に賭けを提案したじゃねぇか。

 

 

「さて、今日の実習演習はバタバタしたため、明日から取り直しをしてハチマンに指導をして貰いますわ。新入生の皆さんはハチマンの実力を見たと思いますから、明日に備えて対策を考えてください。それでは解散してください」

 

 

クレアがそう言うと、如月やエミール達は闘技場をぞろぞろと出ていく。誰も倒れている葉山達の心配をしないとか彼らの人望は終わったな。まぁ、ハンドレッドを没収した以上はこの授業にも参加出来ないから明日からは俺も楽で良いな。

 

 

 

……………………………

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

………………………………………………………

 

 

 

「クレア、さっきの葉山達の処遇だが、お前らしくないな。入学式みたいに即刻退学させるものだと思っていたんだが」

 

 

俺は廊下で回収した葉山達のハンドレッドをクレアに渡しながら訊ねた。

 

 

「……実はお兄様の方から彼ら…特に雪ノ下雪乃と葉山隼人は問題を起こしても退学にはしないようにと命令されたのですわ」

 

 

「ジュダルが?どうして?」

 

 

「私にも詳しく理由は教えてくれませんでしたわ。ですが、ハチマンに『搾取』と伝えたらハチマンなら分かるだろうと話していましたわ」

 

 

「搾取……ああ、察したわ」

 

 

ジュダルとは男同士で会食をする仲だが、あいつが搾取と話す時は大抵お金の話だ。きっと敢えて退学させないで、問題の口止め料等で雪ノ下建設と弁護士である葉山の父から多額のお金を徴収する気なんだろう。確かに金だけはあるからな。顔はイケメンなのに、考えは冷酷な人だ。お金をあるだけ徴収したら切り捨てるに違いない。

 

 

「どう言う事ですの?」

 

 

「いや、ビジネスの話だ。気にするな」

 

 

それにしても最近、ジュダルはあちこちからお金を集めているようだが、何をする気なんだ?

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雪ノ下建設の苦悩

昨日は受験で投稿できませんでした。これで私の受験生活が終わると良いです。


 

 

雪ノ下母side

 

 

『お金は振り込んで頂けましたか?』

 

 

「……ええ、しっかりと8億円そちらが指定した口座に振り込みましたわ」

 

 

『………はい!入金の確認が取れました。それでは失礼します』

 

 

そう言って電話の相手……ワルスラーン社社長のジュダル様は電話をお切りになった。

 

 

 

どうして私がこんな目に……

 

 

 

事の始まりは私の娘が学校で問題を起こした事だったわね。頼まれた依頼を人任せにして、挙げ句の果てには責任までを押し付けた。そのおかげで、雪乃によるその被害者は学校で噂が立ち、虐められる結果となった。

 

 

後にそれは冤罪で隼人が首謀者だと分かり、私はすぐに葉山さんを雪ノ下家の顧問弁護士から外し、なるべく大きな噂にならないように工作をしたわ。

 

 

でも、今回はそれだけでは治まらなかった。なにせ、雪乃や隼人の依頼の被害者の正体はワルスラーン社のお抱えの武芸者……影の働き手だったのだから。

 

 

影の働き手である比企谷君が正体を明かしてから総武高校は話題になってしまった。優秀な才能の持ち主を冤罪で追い詰めた高校として。

 

 

ただ、そのマスコミの集まりは異常だった。比企谷君の知名度のせいで済ますのも簡単だけど、情報統制をしたのに、あの記者の数は異常だったわ。

 

 

それに隼人や雪乃や雪乃と同じ部活の由比ヶ浜さんをピンポイントに記者達は狙っていた。まるで、記者達は最初から全てを知っているような様子だった。記者の数も含めて裏で大きな力が働いているようだったわ。

 

 

私はその裏で動いたものの正体を知る事が出来ないまま、時間を過ごした。でも、あの事件が公になったおかげで雪ノ下建設の信用はガタ落ちで仕事どころではなかったわ。

 

 

ただ、そんな時に救いの手が舞い降りたわ。あのワルスラーン社があるプロジェクトに資金援助をするだけで、今後雪ノ下建設と取引をしてくれる提案が舞い込んで来たの。出資の額はかなり高かったけども、私はそのチャンスを逃さなかったわ。ワルスラーン社と取引を続けていれば、いずれ信用は戻るに違いないもの。

 

 

その結果、雪ノ下建設は何とか倒産することなく、息を吹き返したわ。ただ、それも束の間だった。

 

 

雪乃が突然、ワルスラーン社が経営するリトルガーデンに入学したいと私に頼んできたの。最初は何かを企んでいるのではないかと思ったけど、陽乃もリトルガーデンにスカウトされて働いているから安心だし、ワルスラーン社との仲の改善を見越して私はそれを許してしまった。本当は実家で雪乃を再教育するはずだったのだけれど。

 

 

雪乃は無事に合格したわ。武芸科を受験したおかげで実践の面から高等部1年からやり直しだけれど、ワルスラーン社と深い関わりが持てる以上、私は問題にしなかった。

 

 

けど、先日雪乃が一緒に入学した隼人と由比ヶ浜さんと問題を起こしたらしい。内容は比企谷君を罵り、上官に対する謀反行為をしたとか。私はそれを聞いて驚き呆れたわ。まさか、まったく懲りていなかったとは。

 

 

私はそれを聞いて、これ以上汚点を増やさないように雪乃を勝手ながら中退させようとしたわ。

 

 

けど、ジュダル様が雪乃を退学にするなら、雪ノ下建設とワルスラーン社との取引を打ち切ると私に申したの。本当なら理由を聞き出したかったけど、それでジュダル様の反感を買ったらマズイと思ったから聞けなかったわ。

 

 

私はそれだけはマズイと思ったわ。すると、ジュダル様がある提案を私にしてきたの。問題の口止め料としてお金を払ったら、退学も無しにして、問題を口外せず、雪ノ下建設との取引を続けると。

 

 

その額は8億円。問題を起こしただけで、8億円はぼったくりだと思ったわ。でも交渉は無理そうだし、ワルスラーン社を敵に回さず、雪ノ下建設を潰させないためにも8億円を払うしか方法はなかった。

 

 

聞いたところ、葉山さんや由比ヶ浜さんの家も8億円程ではないけど、家計を圧迫させる額を払わされたらしい。生活が苦しいのは私だけじゃなかったらしいわ。

 

 

これ以上、このような額の口止め料を払わされると、雪ノ下建設は潰れないかもしれないが、先に雪ノ下家が崩壊してしまう。

 

 

私はリトルガーデンに居る筈の陽乃に相談しようと思ったわ。彼女なら雪乃と違って、私を助けてくれるに違いないと。でも、何回も連絡しても彼女には繋がらなかったわ。

 

 

今更、過去の事を言うのも難ですが、私が救いの手だと思っていたものは悪魔の手だったかも知れなかったかもしれません。雪乃を実家に戻すのも不可能ですから、あとは二度とこのような事が起きないように祈るだけだわ。

 

 

 

 

 




そろそろ閑話も終わりですかね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

比企谷八幡の弱点

新しい学校生活に向けて絶賛準備中です。ここ最近は投稿が不安定かもです。


 

 

―武芸科学生寮の食堂にて―

 

 

 

「エミール、比企谷先輩の弱点って無いのか?3ヵ月ぐらい模擬戦の相手をして貰ったんだろ?」

 

 

「それはそうだけど~。相手をしてもらってもハチマン先生に勝った事なんて一回もないよ。ハチマン先生に一撃でも食らわせたら良い方だよ」

 

 

「ハヤトならどうなのだ?クレア会長とは良い勝負をしていたから実力なら比企谷先輩とも良い勝負が出来るのではないかと思うんだが?」

 

 

「あの三人の試合を見て対策をしろって会長は話していたけど、ハチマン先生まったく本気じゃなかったからあまり参考にならないんだよね~」

 

 

「ああ……会長が話していた周囲の影を操るフィールド型の能力か。確かに厄介だよな」

 

 

授業や部活のような課外活動が終わり、リトルガーデンの生徒達は風呂に入ったり、夕飯を食べたりと個人的な時間を堪能していた。

 

 

そんな中、武芸科の学生寮の食堂には武芸科のハヤト、エミール、フリッツ、レイティアが夕飯を食べながら頭を抱えていた。食堂を見渡すと、如月達以外にも武芸科の一年生が如月達のように集まりながら会話をしていた。

 

 

「う~ん、何か無いかな~?」

 

 

「何を悩んでいるんだ?」

 

 

「わっ!?は、ハチマン先生!?」

 

 

エミールは後ろから話題に出ていた八幡に声をかけられて、面食らってしまう。エミール以外の面子も予想外だと思わせるような様子だった。

 

 

「隣、良いか?」

 

 

「ど、どうぞ」

 

 

フリッツから了解を得ると、八幡はフリッツの隣の席のテーブルに夕飯だと思われる麻婆豆腐定食を置いて、フリッツの隣に座る。

 

 

「あの……どうしてここに?」

 

 

そう言ってハヤトが八幡に皆の気持ちを代弁するかのように訊ねた。

 

 

「言い方は悪いが、葉山達が今日の決闘のおかげで俺に対して余計な干渉をしてこないからな。元々はあいつらとの接触を避けるためにここから引っ越したわけだから、あいつらが居なければ俺もここに来やすいからな」

 

 

「ああ……なるほど」

 

 

それを聞いて八幡のお家事情を知っているハヤトは頷いて納得する。

 

 

「別に興味はないが、あいつらはどうしてる?ここには姿が無いようだが」

 

 

八幡がそう言ってハヤト達に葉山達がどうしているかを訊ねると、フリッツとエミールがそれに答える。

 

 

「葉山さんは自室に籠っていますよ」

 

 

「残りの二人もね」

 

 

「ほぉ。まぁ、別に引きこもっても俺のせいじゃないな。そっとしておけ」

 

 

「そうですね。自業自得ですし」

 

 

フリッツの言葉に八幡達はうんうんと頷く。

 

 

「で、何について話してたんだ?」

 

 

 

………………………………

 

 

 

………………………………………………

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

「俺のハンドレッドの弱点ねぇ……」

 

 

八幡は麻婆豆腐定食を食べながら如月達が何について悩んでいたかを聞いていた。

 

 

(意欲は良いが、そこまで頭を悩ませるか?まるで殺〇生を暗殺するような雰囲気だったぞ)

 

 

「別に教えても構わないぞ」

 

 

「え!?良いの!?」

 

 

エミールと同様にハヤト達も八幡の話を聞いて驚き、他の武芸科の生徒達も興味を持ち、耳を傾ける。

 

 

「別に俺を倒すのは課題であって、武芸者の目的じゃないからな。それに俺の弱点を知れば、それを補うようにサベージの討伐がチームとしてやり易くなる。遅かれ、早かれ、いつかは話す事だからな。それに……」

 

 

「それに?」

 

 

エミールが食い付くように八幡に聞き返す。

 

 

「いくら弱点が分かった所で俺はお前達に負ける気が全然しないからな」

 

 

それを聞いてハヤトやエミールなど話を聞いていた他の生徒はガクッと転けるような動きをする。

 

 

「ははは、まぁ、そんな冗談はさておきだ。俺の弱点を教えてやるよ。俺の弱点は……影だ」

 

 

 

『『『『えっ?』』』』

 

 

 

八幡が水を飲み、一息ついて軽く話した意外な弱点にその場に居た生徒達は疑問を覚える。

 

 

「えっ……それって比企谷先輩が扱う能力ですよね?弱点ではないような……」

 

 

「確かに如月がそう言うのも無理はないな。だが、影が俺の弱点なのは事実だ」

 

 

八幡は水を飲み干し、新たにコップに水を汲みながらハヤト達に話を続ける。

 

 

「俺の戦いは影に7割ぐらい依存していてな。センスエナジーを使った基本的な銃撃や剣術は可能だが、影が無ければ相手を影で拘束したり、影から武器を新たに顕現するのもなかなか厳しいんだ」

 

 

「そう言えば、クレア会長や他の武芸者が夜に活動するのは見たことがあるが、比企谷先輩が夜に活動するのは見たことが無いな」

 

 

「フリッツ・グランツ……と言ったな。なかなかの観察眼だ。彼の言う通り、俺は夜の武芸者の活動は能力が激減するため控えていてな。夜の街ならイオンの光とかで活動は多少可能だが、森とかだと厳しいな」

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

八幡のファンであるフリッツは八幡に褒められて照れた様子で、それをレイティアが茶化すようにしていた。

 

 

「まぁ……俺も自分自身の弱点を他人に教わった身だから、あまり偉そうには言えないけどな」

 

 

「え?ハチマン先生、そうなの?」

 

 

「ああ、俺のハンドレッドの弱点に気付いたのはクレアでな。確か……一度きりだが、非公認の試合でクレアと三本勝負した時だな」

 

 

『『『『何それ、すごい知りたい』』』』

 

 

八幡やクレアのファンである生徒達はその話題に弱点の話以上に興味を抱いていたが、八幡はそんな生徒達の視線をまったく気にしていなかった。

 

 

「へぇー、会長とねぇ。ちなみに勝負はハチマン先生と会長どっちが勝ったの?」

 

 

「一勝二敗で俺の負けだ。最初は俺が一本取ったんだが、二試合目で俺のハンドレッドの弱点をクレアに気付かれて負けて、最後はクレアの完全武装による攻撃で勢い負けした感じだな」

 

 

それを聞いて生徒達が納得する中、ハヤトは八幡の話を聞いて疑問がある表情をしていた。

 

 

「あの……少し気になったんですけど、比企谷先輩って完全武装が使えるんじゃないんですか?さっきの話を聞くと、比企谷先輩は完全武装が使えないから負けたように聞こえるんですが」

 

 

「……っ!!」

 

 

ハヤトの指摘に八幡は少し動揺した表情を見せる。

 

 

「そう言えば……単にハチマン先生が強いからというのはあるけど、会長みたいに頻繁に完全武装の姿を見たことが無いよね」

 

 

ハヤトの指摘にエミール達他の生徒が反応する中、八幡は頭を抱えながら皆に話す。

 

 

「ああー……ざわついている所悪いんだが、実は俺は完全武装が使えなくてな。皆の強い比企谷八幡というイメージを壊したか?」

 

 

「いえ……その……なんかすいません」

 

 

「聞いた如月は何も悪くはない。単に俺の実力不足だからな」

 

 

「でも!ハチマン先生が頑張ればきっと完全武装か使えるようになるよ!」

 

 

「エミールの言う通りです。比企谷先輩が完全武装を使えるようになれば心強いですよ」

 

 

そう言ってエミールに続くようにフリッツやレイティアが八幡を励まそうとする。

 

 

「……ああ、ありがとな。さて、俺も自分の家に帰るとしよう。また来るかもな」

 

 

「はい。ありがとうございました」

 

 

そう言って学生寮の食堂を出ていく八幡をハヤト達は最後まで見送った。

 

 

……………………

 

 

 

……………………………………

 

 

 

……………………………………………………

 

 

八幡side

 

 

如月達に俺の弱点の講義をした次の日の朝、生徒達もまだ登校していない時間だが、俺はクレアに生徒会長室に招集された。一体何の用だろうか。

 

 

「クレア、来たぞ」

 

 

そう言って俺は生徒会長室に入ると、クレアが普段から座っている席で紅茶を飲んでいた。さすがにこの時間だから副生徒会長の二人も来ていないか。

 

 

「ハチマン、おはようございます」

 

 

「ああ。こんな時間に何の用だ?状況から副生徒会長にも聞かれてはいけない話だと思われるが?」

 

 

一体何の話だろうか。ここ最近、クレアが如月に対して好意を抱いているのは俺や副会長の二人から見てもバレバレだから恋愛相談とかだったら困るんだが。

 

 

「ええ、その通りです。さて、本題に入りますが、なぜ如月ハヤト達に()()をついたのです?」

 

 

「……なぜ知っている?」

 

 

「昨日の夜に貴方が武芸科の一年に弱点を教えていると、遠くから偶然聞いていたエリカが私に教えてくれましてね。その時に貴方が完全武装が使()()()()と話していたらしいですわ」

 

 

「……俺の完全武装は使えないと同義だ。で、話を聞いたエリカに真実を話したのか?」

 

 

「話していませんわ。()()は私とハチマンとお兄様とシャーロットぐらいしか知らない秘密ですから。というより知られてはいけません」

 

 

「……だろうな」

 

 

「……ハチマン、貴方がシャーロットにハザートトリガーの調整を頼んでいるのも知っていますわ。貴方、使う気はありませんよね?」

 

 

「……ああ、今のところはな。シャロにも話したが、ここ最近のサベージは強くなって来ている。万が一のためだ」

 

 

「ですが!」

 

 

「それに如月達に弱点をああ話したが、最悪()()を止めるためでもある。そうすれば一度だけ止めたことがあるクレアもやり易いだろ」

 

 

「そうですが……」

 

 

「安心しろ、俺も万が一にしか使わない。それに今の如月達とクレアなら止められるさ。だから、この話はもう無しだ。さぁ、俺の今日の仕事をくれよ」

 

 

「……了解しましたわ」

 

 

そう言ってクレアは俺に今日の事務作業の書類の束を渡す。

 

 

ああ、()()は絶対に使うかよ。何故なら()()を使えばワルスラーン社から処分命令が出るんだからな。

 

 

 

 




閑話は次回の葉山達のその後を書いて一区切りつけようとする予定です。次は原作の第二巻に入ろうと思いますよ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

反省しない奴ら

これにて閑話は終了です。


 

 

葉山side

 

 

クソッ!どうしてこんな目に遭うんだ。

 

 

あの比企谷との決闘から周りの生徒の俺や雪乃ちゃんや結衣を見る目が変わってしまった。

 

 

唯一参加できる座学の授業の時間や休み時間ではクラスの皆にまるで除け者のように扱われ、リトルガーデンの施設を歩くだけでも違う学年の人達からあちこちで陰口を言われる。これでは総武高校と同じじゃないか。

 

 

どうしてだ!?俺達は比企谷の洗脳から皆を救おうとしているのに。なぜ分かってくれない!?

 

 

比企谷は自分のハンドレッドをああ言って説明していたが、きっと何か隠している。洗脳能力とかな。

 

 

だが今はあいつが企んだ陰謀のせいで、ハンドレッドも使えないし、比企谷に近寄れない。

 

 

ハンドレッドが使えない半年間、余計な事をせずに俺は雪乃ちゃん達と比企谷を潰す事を計画するのに専念しよう。騒ぎを起こしたらハンドレッドが永久的に使えず、最悪何も出来ないまま退学だからな。

 

 

それにしても今更ながら退学は免れて助かったよ。比企谷に洗脳されたクレア会長なら入学式みたいに即刻退学だと思っていたからね。これはクレア会長の比企谷の洗脳から救ってほしいというSOS信号に違いない。だから、敢えて退学にされなかったんだ。

 

 

そう言えば、久しく家族に連絡しようかな。いや…やめておこう。父は雪ノ下家の顧問弁護士を辞めさせられて、うつ病みたいな感じだからな。面倒くさそうだ。

 

 

だが、安心しろ。俺が比企谷を潰せば、ワルスラーン社から称賛され、ワルスラーン社の顧問弁護士になれる機会がある。それに雪乃ちゃんも見直すに違いないな。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

雪ノ下side

 

 

まったく……あのクズのせいで同級生だけではなく、他学年の生徒からも笑い者よ。

 

 

ハンドレッドを没収……葉山君が没収された期間は比企谷君を潰す計画を立てて、余計な騒ぎは起こさないようにと話していたけど、元は貴方のせいでハンドレッドを没収されたじゃない。

 

 

それに貴方は男なのに、比企谷君に一撃も与えられないなんて無能以外何者でもないわ。私や由比ヶ浜さんと目的が同じだから仲間に入れてあげただけだから、最後は切り捨てる予定だったし、あまり期待はしていなかったけど。

 

 

周りでは比企谷君の話題ばかりで溢れているけど、私は騙されないわよ。

 

 

あの試合で見せた比企谷君のハンドレッドだって元から私達のハンドレッドに細工したから私達のハンドレッドでもあのような奇怪な技が使えたのよ。生徒会の権限を使って私達を騙すためだけに私達のハンドレッドに細工するなんてクズの所業ね。私達は騙されなかったわ。

 

 

けど、退学にはならなかったのは良い意味で予想外だったわ。これなら比企谷君を潰すチャンスはまだあるもの。あの会長にしては良い事するじゃない。

 

 

待っていなさい。貴方がリトルガーデンで過ごせるのは時間の問題よ。これから地獄を見るのだから。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

由比ヶ浜side

 

 

ヒッキーまじ最低だし!なんで女性に優しくしないし!お陰で怪我しちゃったし!

 

 

それにヒッキーに負けたからハンドレッドも没収されて、ヒッキーに近付く事もできないなんて。ヒッキーって私の事が好きなんじゃないの?

 

 

もし勝ったらヒッキーに謝らせて気になっていたクライアントが誰かを聞こうと思っていたのに。

 

 

そう言えばヒッキーは入学式のシーズンにツヴァイ諸島に居たらしいね。ネットに書いてあったよ。

 

 

その時は霧島サクラというアイドルがライブをしていたらしいけど、まさかヒッキーのクライアントが霧島サクラなわけないよね。

 

 

もしそうだったら、あのアイドルの何処が良いし!?ピンクの髪型は同じだし、胸が大きい私の方があのアイドルよりも魅力的だし!

 

 

なんか近いうちにツヴァイ諸島で霧島サクラかまたアイドルをする噂があるらしいけど、ヒッキーは行かないよね?アイドルとか興味無いもん。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

波乱のライブ編
序章 地下坑道にて



第二章です。


 

 

ツヴァイ諸島がサベージによって襲撃されてから二週間、サベージによって破壊された建物は少しずつ建て直され、町には活気が戻りつつあった。

 

 

そこより遠く離れた荒野にポツンとある廃棄された採掘場、その地下坑道は三人の褐色肌のヴァリアブルスーツを着た少年少女が身を潜めるアジトと化していた。

 

 

「それにしても二週間前のサベージの襲来は幸運だったな。おかげで霧島サクラとかいうアイドルのライブに使われるヴァリアブルストーンだけでなく、サベージの核というお土産も出来そうだ」

 

 

「でも、ライブで使われるヴァリアブルストーンは盗めたけど、サベージの方はリトルガーデンに死体ごと持っていかれたじゃない?」

 

 

褐色肌の少年が嬉しそうに話しているのを同じく褐色肌の活発そうな少女が少年の発言に疑問を抱いていた。

 

 

それを三人組の中でも年上で大人びている眼帯をした少女が補足説明をするように話す。

 

 

「………ヴィタリーが言うにはツヴァイ諸島にはサベージが七体来た筈。三体はリトルガーデンに倒され、一体はフランソワ軍に撃墜。でも、残りの三体は見つからない。つまり、まだツヴァイ諸島の何処かにその三体は居る……」

 

 

「ああ、ねーちゃんの言う通りだ。俺達はその三体を狙うわけだ。それに懲りずにそのアイドルが近い内にまたツヴァイ諸島でライブをやるらしい。そこのヴァリアブルストーンも一緒にもう一度奪うまでだ」

 

 

坑道のチカチカと光ったり消えたりする僅かな光の中で三人組はお互いに顔を見合わせて談笑している。

 

 

そんな中、坑道の入り口側の方の影から三人組に近付くように誰かの足音が大きくなる。

 

 

「……!!誰だ!?」

 

 

「よぉ、楽しそうなお話だな」

 

 

少年が気配に気付き、大きな声で訊ねると、影からハンドレッドを起動させた状態で、三人組に武器にもなる銃型のハンドレッドを構えた比企谷八幡が現れた。

 

 

「影の働き手……リトルガーデンか!?」

 

 

「…………………………」

 

 

活発そうな少女は八幡の出現に動揺を隠さないのに対して、眼帯の少女は観察するように静かに八幡の方を見ていた。

 

 

 

「いや、違うな。これは俺が個人的にやっている事だ。さて、ライブで奪ったヴァリアブルストーンを返して投降してもらおうか、密猟者(ハンター)共」

 

 

八幡がそう言うと、三人組もハンドレッドを起動させて構えて対峙するように向かい合う。

 

 

「……投降する気は無しか」

 

 

「当たり前だ!ついでにお前のハンドレッドも俺達が一緒に頂くからな!」

 

 

「……やってみろ。数でなら勝っていると思っているようだが、俺も甘くは無いぞ」

 

 

 

………………………

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

「くっ……強ぇ……」

 

 

「これが男性最強……武芸者の力なの?」

 

 

「………………強い」

 

 

三人組はそう言ってほぼ無傷である八幡の前で地面に膝をつく。

 

 

「なかなか見事なチームワークだ。俺が最近戦ったバカ三人組よりもかなり完成度が高い。それにお前らのハンドレッド……かなり変わってるな。やはりヴァリアントだからか?」

 

 

「くっ……どうしてアタシ達がヴァリアントだと?普通の武芸者は存在すらも知らないのに」

 

 

活発そうな少女が痛みで苦しみながらも彼女の前に立っている八幡に訊ねる。

 

 

「何でだろうな?それに少し話を聞いたが、サベージの核を集めるとはサベージの核について世間に明かされていないあの秘密を知っているようだ。さて、詳しい話は後で話そう。ヴィタリーについてもな」

 

 

そう言って八幡は銃型のハンドレッドにシャドウフルボトルをくぼみに装填し、三人組に構える。

 

 

「チッ……!!」

 

 

「フルチャージ。影の光閃(シャドウ・フル・レイ)!」

 

 

「クソがぁぁぁ!!!」

 

 

「何!?」

 

 

八幡がシャドウフルボトルを込めて光線を撃つ瞬間、少年は右手に握られたブレードを振り回した。それにより坑道の僅かな光は消え、三人組と八幡の間に上から瓦礫が落ちてきて両者を分断する。

 

 

「ぐっ!」

 

 

「どうやら運は俺達にあるようだ!また会おうぜ、影の働き手!」

 

 

八幡の居る逆側から三人組の少年の声が聞こえるが、その声は八幡から徐々に遠ざかっていく。話し方から何処かに別ルートがあり、生き埋めというわけでは無いらしい。

 

 

「……逃がしたか。だが、こんなに暗いと俺も能力が使えないな。まずはここを出よう」

 

 

 

……………………………

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

………………………………………………………

 

 

八幡が時間をかけて地下坑道を抜けると、外はすっかり日が暮れそうだった。

 

 

「……かなり時間をかけてしまったようだ。少しだけ外出すると言ってクレア達には心配させないようにしようと思っていたのだが」

 

 

八幡がハンドレッドを解除しながらそう思っていると、八幡の通信機にバイブ音と共に着信が入った。

 

 

「はい、もしもし」

 

 

『八幡くん?無事で良かったわ。盗難者らしい奴等のアジトを見つけたという連絡を受けてからまったく連絡をしてこなかったから心配したのよ』

 

 

今回の依頼者である八幡の育ての親、スフレさんは安心した様子で八幡に話す。

 

 

「すいません、少々時間がかかりまして。それとサクラのライブで使われるヴァリアブルストーンを奪った奴等を見つけたのですが、最後で取り逃がしちゃいました」

 

 

『別にそんな残念そうにしなくても良いわ。ライブで使う新しいヴァリアブルストーンはこちらが手配するから。盗難者の情報だけでも得られたなら十分よ。対策が可能だからね。八幡くんは帰ってきなさい』

 

 

「ですが……」

 

 

『もうこの時間ではハンドレッドの能力は厳しいでしょ?また盗難者達と戦って勝てるかは分からないわ。八幡くんが怪我したらサクラが心配してライブどころじゃないでしょ?』

 

 

「……分かりました」

 

 

『よろしい。なら、今日はツヴァイ諸島のホテルに泊まってから、明日リトルガーデンに帰りなさい。私達がリベリアにいる身で八幡君にわざわざ依頼を頼んだのだから、ホテル代ぐらいは払わせて貰うわ。もちろん一流ホテルよ』

 

 

「それじゃ、お言葉に甘えて。あと、盗難者達についてですが、ホテルに着いてから話しても構いませんか?」

 

 

『構わないわ。それじゃ後でね』

 

 

そう言ってスフレさんは八幡との通信を切った。

 

 

「さて、帰りますか」

 

 

八幡はそう言って採掘場を後にする。

 

 

(ヴァリアントで構成された密猟者のグループか。戦ってみたが、かなりの手練れだったな。騒がしい少年少女二人も十分に強かったが、あの無口な眼帯の少女のハンドレッドは特にヤバイな。それに奴等は引き下がったものの、ヴァリアントだから実力もまだ未知数だ。如月とかでも厳しいかもな。今回、個人的にスフレさんから事件の詳細を聞いて依頼を受けたが、リトルガーデンにも報告した方が良さそうだ)

 

 

八幡が公道に出るまで考え込みながら荒野を歩き続けていると、八幡はふと立ち止まる。

 

 

(悪魔の科学者ヴィタリー、ヴァリアント……まさか、あの三人組の正体って……おいおい、ヴィタリーはまだあの実験をしているのかよ!?だとしたら……)

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

如月ハヤトへの初めての依頼

 

 

八幡side

 

 

ツヴァイ諸島の一件からもう1ヶ月か。葉山達に絡まれたり、サクラのライブに使われるヴァリアブルストーンを奪った密猟者達の捕縛の依頼など色々あったな。

 

 

ちなみに今はというと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!」

 

 

「ふっ!」

 

 

リトルガーデンの生徒会の特別顧問として如月達武芸科一年の実践練習の授業中である。葉山達を除いてな。

 

 

「行くよ!レイティア!」

 

 

「勿論だ!エミール!」

 

 

「ついでにこれもだ!」

 

 

俺と如月が刀同士でつばぜり合いをしていると、右方から槍を構えたエミール、左方から拳型の武装で殴りかかろうとするレイティア、ハヤトの後ろから銃を俺に構えるフリッツの姿を視認する。

 

 

俺が何をしているかだと?見ての通り1対4の模擬試合だが。成績トップのこの四人が相手でも別に負ける気はないぞ。観客席にいる他の生徒は唖然としているけど。

 

 

「そらっ!」

 

 

俺は如月の武装であるブレードを弾き、如月から離れてレイティアとエミールとフリッツの攻撃をかわす。

 

 

「やるな。良いチームワークだ」

 

 

「いや、その四人がかりのチームワークをなに食わぬ顔で捌かれてもですね……」

 

 

「フリッツの言う通りだよ……」

 

 

「いやいや、そんな落胆するなよ。特に個人的な面からしたらフリッツとレイティアの二人はかなり評価してるんだぞ」

 

 

「そうなのか!?」

 

 

俺がそう言うと、レイティアが目を輝かせながら嬉しそうに俺に訊ねた。

 

 

「ああ、二人は如月やエミールと違って専用のハンドレッドを使わなくても如月達に合わせたスペックでチームワークが出来ている。セレクションズの加入も夢ではない。そうなれば、セレクションズの特権でお前達の専用のハンドレッドも作られるだろう」

 

 

「よっしゃ!!」

 

 

「やったな、フリッツ!」

 

 

戦いの最中だが、フリッツとレイティアは玩具を与えられた少年のように喜んでいる。まぁ、ハンドレッドの原材料であるヴァリアブルストーンは価値が非常に高く、自分用に作って貰えるとなれば確かに普通の人は嬉しいだろうな。

 

 

「さて、喜んでいる所悪いが、そろそろ授業も終わりの時間だ。もし俺のこの技を初見で避けられたらレイティアとフリッツは今からセレクションズの加入をクレアに頼んでみよう」

 

 

「よっしゃー!レイティア頑張るぞ!」

 

 

「絶対にかわす!」

 

 

うんうん、元気は十分だな。

 

 

「ハチマン先生ー。僕とハヤトはー?僕達にもご褒美が欲しいんだけど?」

 

 

「あ?あー……特に無いな」

 

 

エミールもご褒美が欲しそうに訊ねるが、別にお前らには必要ないだろ。セレクションズに入っているわけだし。

 

 

「えっ!?それはちょ「まぁ、腕試しが出来ると思え。じゃあ、行くぞー」

 

 

俺はエミールの言葉を無視して、銃型のハンドレッドにシャドウフルボトルを差し込む。

 

 

「フルチャージ。幻影の魔弾(イリュージョン・シュート)!」

 

 

俺が銃を構えてトリガーを引くと、銃口から黒い光弾がまるで人魂のように不規則に如月達の方に飛んでいく。

 

 

「うわっ!?何だこれ!?」

 

 

初見の如月が驚くのも無理はない。何故なら、その弾をブレードを斬ろうとしたら光弾は分裂したり、すり抜けたりしたからだ。

 

 

「ハヤト!後ろ!」

 

 

「えっ?なっ!?」

 

 

エミールの警告を受けて如月が後ろを振り向くと、光弾が如月の後ろに迫っており、如月はそれへの対応が遅れて背中に爆発音と共に被弾する。

 

 

「エミール、人を助ける暇は無いぞ」

 

 

「くっ!ぬわっ!?」

 

 

ハヤトの方を向いていたエミールは正面から来る光弾に如月と同じように被弾する。

 

 

逆サイドを見ると、やる気満々だったフリッツとレイティアはすでに被弾しており、二人一緒に倒れていた。

 

 

やれやれ、初見にはやり過ぎたか………

 

 

……………………………

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

授業が終わると、武芸科一年生達が俺や如月やエミール達を取り囲み、ハンドレッドの扱いやアドバイスを聞きに来たりしていた。如月のようにハンドレッドを扱って戦えるのは武芸科一年の二割、武装として変形出来るのが三割、残りの五割が武装として変形は出来ないが、ハンドレッドを何かしらの形に変えられる者である。だからこそ俺や如月のようにハンドレッドを扱える者は生徒からも一目を集めている。

 

 

今、如月に訊ねている入学式に遅刻をした女子生徒の二人、ノア・シェルダンと劉梅雪(リュウ・シュエメイ)は武装として扱える三割の人物だ。そのため、彼女達は戦い方を主に聞いているが、あいつかなりモテるな。エミールやクレアもだが、天然のたらしだろ。

 

 

一通り落ち着くと、俺は如月にある話をするため如月を大きな声で呼んだ。

 

 

「何です?比企谷先輩?」

 

 

「ああ、実はお前にセレクションズとしての個人的な依頼が来ていてな。すまないが、次の授業は休んで俺と生徒会長室に来てくれないか?」

 

 

「別に大丈夫ですけど……」

 

 

「よし、ならついてこい」

 

 

俺は如月にそう言って如月を生徒会長室に連れていく。エミールも誘って欲しそうな顔をしてたが、これだけは如月にしか言えない内容でな。

 

 

それにしてもサクラはよくあんな方法で如月達にサプライズをするよな。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歌姫の警護

 

 

八幡side

 

 

「クレア、入るぞ」

 

 

「し、失礼します」

 

 

俺が生徒会長室に入ると、如月も俺の後に続くように生徒会長室に入ってくる。緊張しすぎだ。

 

 

生徒会長室に入ると、中央にある豪勢な机の椅子に座るクレアと側付きの少年、クリスがいた。

 

 

「来ましたわね、お待ちしておりましたわ」

 

 

「如月様、比企谷様、お久し振りです」

 

 

クレアは椅子に座りながら淡々と挨拶をし、対してクリスは召し使いのように深く会釈する。

 

 

「あの……比企谷先輩からセレクションズとして俺に依頼があると言われて来たんですけど」

 

 

詳しい事情を伝えられないまま、ここに連れてこられた如月がクレアに訊ねた。

 

 

「そうですわ。まず、来週ツヴァイ諸島に接岸することは貴方もご存じですわよね?」

 

 

「はい、確か滞在期間は四日間でその間はリトルガーデンの生徒は島に出入り自由だと……」

 

 

そう、如月の言う通りリトルガーデンはツヴァイ諸島の西側の島、ウエストランドに接岸し、滞在期間である四日間はそこから生徒達はツヴァイ諸島を出入り自由なのだ。そのため、今リトルガーデンの生徒達は観光気分で盛り上がっている。

 

 

停泊の理由は物資の補給もあるが、もう一つの大きな理由としてツヴァイ諸島政府の方々が俺達に助けてもらった恩返しをしたいそうだ。

 

 

「ええ、それで滞在期間の最終日である月曜日の祝日にツヴァイ諸島で霧島サクラのライブが仕切り直されるそうなのです」

 

 

「霧島サクラってたしか……」

 

 

そう言って如月は俺の方を見る。まぁ、確かに俺を見るのも仕方が無い事か。

 

 

「ハチマン?もしかして先日のクライアントについて如月ハヤトに話しましたの?」

 

 

「クレア、そんなに睨むなって。別にもうこの話を聞いている以上、隠さなくても大丈夫だろ」

 

 

「まぁ……そうですが」

 

 

「じゃあ、ここからは俺が話そう。霧島サクラがもう一度ライブをする理由は被災したツヴァイ諸島でいわゆるチャリティーライブをするためだ」

 

 

「チャリティーライブですか」

 

 

まぁ、リトルガーデンがツヴァイ諸島に接岸する情報を聞いて、サクラが予定表に強引にチャリティーライブをぶちこんだのは俺とスフレさんの秘密である。もちろん如月ハヤトとその妹にサプライズで会うためにな。

 

 

「ああ、ライブのチケットを買った人達はもちろん、ツヴァイ諸島の住民やリトルガーデンの人も無料参加のライブなんだが、少し問題があってな」

 

 

「問題ですか?」

 

 

「警備がちょっと心配でな」

 

 

それを聞いて如月は疑問を覚えた表情をする。

 

 

「えっ?でも比企谷先輩が霧島サクラの警護をしているんですよね?何も問題は……」

 

 

如月がそう言うと、ずっと俺と如月のやり取りを聞いていたクレアが如月にある話をした。

 

 

「そうですわね。確かにハチマンが警護として一人いれば心強いでしょう。ですが、実はツヴァイ諸島にはまだサベージが潜んでいるのです」

 

 

「サベージが!?」

 

 

一般生徒には明かされていないサベージの存在の話を聞いて如月は大きな声で驚いた。

 

 

「ああ、あの時宇宙から飛来したサベージの総数は七体だったんだ。その内の三体は俺達が倒し、一体はフランソワ軍が倒したんだが、残りの三体が行方不明なんだ」

 

 

「それにツヴァイ諸島で密猟者(ハンター)の存在が目撃され、今回のライブにも現れる可能性があるのです」

 

 

「密猟者?」

 

 

クレアが先程話した密猟者という単語に如月は聞いたことが無いという表情をしたので、俺は如月に軽く密猟者について説明する。

 

 

「国連やワルスラーン社といった公的な組織に属さない武芸者やその集団の事だ。簡単に言うとテロリストみたいな奴等だな。で、一週間前ぐらいに俺はその三人組の密猟者達と戦ったんだ。俺が不在だった日があっただろ?」

 

 

俺が如月に訊ねると、しばらくしてその出来事を思い出し、うんうんと頷く。

 

 

「強かった……ですか?」

 

 

おそるおそると如月が俺に訊ねた。

 

 

「ああ……この依頼自体が他言無用だから関係者の如月には話すが、かなり強かったな。しかも、全員がヴァリアントだから一回じゃ戦力も確実に計れない」

 

 

「全員がヴァリアント!?」

 

 

「貴方が驚くのも無理はありませんわね。私もハチマンからそれを聞いた時は驚きましたわ。ヴァリアントによる密猟者集団なんて私は聞いた事がありませんもの」

 

 

もちろん、俺でも聞いた事がない。会った時の驚きは今でも忘れられないと思う。

 

 

「一応、普通の警備の人は前回のライブの数倍の数は配備したが、武芸者も警備に必要だと思ってな。それも並外れた強さの。そこで如月が霧島サクラの追加の警護に選ばれたわけだ」

 

 

俺はそう言って如月に対して指を指す。まずは如月がこの依頼を受けないとサクラのサプライズは始まらない。お願いだ、引き受けてくれ。サクラの機嫌を直すのかなり大変なんだ。

 

 

「も、もしかして依頼って霧島サクラの警護の事だったんですか?そ、そんなの俺だけで大丈夫なんですか?エミールとかも……」

 

 

「いや、確かに如月を警護に選んだのは《LiZA》とサクラの警護をしてきた俺の判断もあるが、霧島サクラが警護として選ぶなら如月だけだと指名があったんだ」

 

 

どうだ?俺としても如月だけに警護をやらせる都合が良すぎる理由を思わず話したが、怪しすぎたか?

 

 

「……分かりました。相手のクライアントが俺を指名している以上やります」

 

 

やり過ごした~!!?いや、少しは疑えよ!

 

 

「……良い返事です。では、詳細はハチマンを通じて後日報告させて頂きます。休暇が消える代わりに給金が出ますからそこは覚えておいてください」

 

 

「あとは出来るだけ如月の希望を叶えるが、何か欲しい物とかあるか?可能な限りはするぞ」

 

 

「……でしたら、ライブの時に………」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歌姫との密談



つい先日アンチコメントのような物が来たのですが、初めての経験で気持ちが少々萎えてしまい、この小説もどうしようか迷っていましたが、先輩からそういうのはあまり気にしない方が良いというアドバイスとこれまでこのような稚拙な作品を読んでくれた読者の皆様のために立ち直って、頑張ることにしました。これからもこの作品をよろしくお願いします。


 

 

八幡side

 

 

ふぅー、サクラのサプライズ計画のために如月をどうにかサクラの警護にさせることに成功したわ。如月が依頼を受けてくれないと計画すら始まらないからな。

 

 

如月だけを指名してきたという違和感がありまくりの理由を話したが、案外通じるものだな。流石は天然のたらしだ。『鈍感』という項目が成績表にあったら5段階評価で5を付けたい。

 

 

『もしもーし?ハチマーン?』

 

 

俺がそう思っていると、通信機のモニターからパジャマのサクラが心配そうに俺に呼び掛けていた。時差はほぼ無いが、もう夜だからな。そろそろ寝るのだろう。

 

 

「ああ、すまんすまん。ちょっと如月ハヤトについて深く考えていてな」

 

 

『ふぅん、例えば?」

 

 

例えば?えっ?詳しく話せってか?

 

 

「あー……天然のたらしだなぁと」

 

 

俺は先程、如月について思っていたことをそのまま口に出してみる。

 

 

『たらし?もしかして女性関係の話かしら?」

 

 

おお、正解。何でサクラは昔からこういうのやスキャンダルに敏感なのだろうか。

 

 

「ああ、そうだが」

 

 

『あんだけ目立っていたらねぇ。女性との噂なんて結構あるでしょう。ちなみにハチマンから見てハヤトくんの恋人の有力候補は誰かしら?』

 

 

うーん、そう言われてもなぁ。ブライパシーとかがあるしなぁ。特徴だけ話すか。

 

 

「まぁ、名前は言わないが、幼馴染みの同級生の女性Aとお嬢様系の年上の女性Bだな」

 

 

『いや、ハチマンそれ名前隠してるつもり?後者は明らかに生徒会長よね』

 

 

そう言ってサクラがジト目で俺に訊ねる。あらら、バレたか。そう言えばサクラは俺が入学する時クレアに会った事があるんだっけ。

 

 

「ははは、バレたか」

 

 

『ハチマンったらそういう隠し事は昔から苦手よね。たまに本音も口から出てるし。それにしてもお相手が幼馴染みとお嬢様ねぇ。ドラマチックじゃない』

 

 

サクラが目をキラキラと輝かせながら話をしているのを俺はマッ缶を飲みながら眺めていた。

 

 

確かにドラマチックだよな。恋人が幼馴染みと生徒会長とかどこのラノベだよ。しかも、サクラはエミールを知らないため、ただの幼馴染みの一般人と思うが、一応王族なんだよなぁ。別で童話みたいな話が作れそうだ。

 

 

「それにしてもまさか、如月をサクラのボディーガードにするとはな。その計画を聞いた時、俺は驚いたぞ」

 

 

『だって、そうでもしないと、ハヤトくんと二人きりで話す機会が無くなるじゃない。妹のカレンちゃんともね』

 

 

まぁ、そうだな。そもそも俺達が如月達の素性を知っているわけで、向こうから見たらサクラはただの芸能人だからな。こうでもしないと、話す機会や会う機会はほぼ無いだろう。

 

 

じゃないと、サクラが計画する『如月兄妹達と一緒になって、あの歌を通じてサクラの素性をサプライズで明かそう大作戦』が何もしないで失敗に終わるからな。

 

 

「そうだ、如月からの希望を聞いたか?リトルガーデン側から連絡が来ていると思うが?」

 

 

『もちろんよ、足が悪いカレンちゃんのために車椅子でもライブがよく見える席の用意だったわよね?そんなの全然大丈夫よ』

 

 

そう、如月が生徒会長室で俺やクレアに話した希望とは足が悪い妹のカレンちゃんでもライブが見れる席を確保することだった。確かに今回のチャリティーライブはスタンディングライブだからな。カレンちゃんには厳しいだろう。

 

 

「そうか」

 

 

『ああ、早くハヤトくんとカレンちゃんに会いたいなぁ。あ、もちろん、ハチマンにもよ』

 

 

そう言ってサクラは俺に対してウインクをする。まったくサクラは………

 

 

「サクラに会いたいのは俺もだ。だけど、とりあえず一週間は我慢しろ。そしたら久し振りに俺が何でもサクラの希望に応じるからさ」

 

 

『ホント!?』

 

 

「ああ、それじゃあ、もう夜だから今日の電話はこの辺にしておこうか。」

 

 

『ええ、おやすみハチマン』

 

 

サクラの言葉と共にサクラとの通信は切れ、モニターの画面も真っ暗になる。

 

 

ふぅ、サクラも機嫌が良くてよかった、よかった。

 

 

と、言いたいけどな。今回の警備は普段の警備とは状況が違う。敵としてサベージとヴァリアントがいるからな。もちろん、サクラにはその存在は話していない。ライブ前に不安にさせてしまう話題だからな。

 

 

あの三人組………ここ最近戦った中ならダントツの強さだった。俺も弱点でもある影が無かったら、あの坑道でやられていたかもな。

 

 

……少しトレーニングをしてから寝るか。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ツヴァイ諸島、接岸

 

 

 

八幡side

 

 

 

 

 

Pi……Pi……Pi……Pi……Pi……

 

 

朧気ながら俺の目覚まし時計の電子音が聞こえる。そうだ……今日からサクラの警護だから普段より早めに目覚ましをかけたんだったわ。

 

 

俺は目覚まし時計に手を伸ばして目覚まし時計を止め、ベッドから立ち上がる。

 

 

さて、行くか…………

 

 

……………………

 

 

………………………………………

 

 

………………………………………………………

 

 

制服に着替え、キッチンで準備した朝御飯を食べながら、俺はテレビを見る。

 

 

おお、滞在期間中のツヴァイ諸島の天気は晴れか。これならライブも問題なく出来そうだな。

 

 

そう思いながら、朝御飯を食べていると……

 

 

「うおっ!?」

 

 

突如、地震が起きたかのような振動に見舞われる。もしかしてツヴァイ諸島に接岸したのか?

 

 

すると、チャイム音と共に外から何かを放送している声が聞こえる。この声はエリカか?

 

 

『艦内一斉連絡です。リトルガーデンの皆様、おはようございます。たった今、この艦はツヴァイ諸島の東島であるイーストランドに接岸しました。繰り返します……』

 

 

どうやら俺が思っていた通りリトルガーデンがツヴァイ諸島に接岸したようだ。先程の振動もイーストランドに接岸した衝撃だろう。

 

 

確か、到着の一時間後にツヴァイ諸島とリトルガーデンとの検問が開かれ、一般人は出入りが許される予定だ。サクラが来るのは昼だから俺もリトルガーデンに近い店で買い物を済ませておこうかな。

 

 

そう思っていると、俺のPDAが電子音を立てた。生徒会からの通話要請だ。一体何だろう。

 

 

「はい、比企谷です」

 

 

『比企谷先輩、おはようございます。エリカ・キャンドルです。今は大丈夫ですか?』

 

 

「大丈夫だ。で、どうした?」

 

 

『実はクライアントである霧島サクラがリトルガーデンを見て回りたいと一時間と少しで、リトルガーデンのエアポートに到着するようなんです』

 

 

おいおい、聞いてないんだが。先日、早めに着くかもと話していたが、そんなにも早めに着くのかよ。まさか、カレンちゃんにもう会いに行くのか?

 

 

「確か一時間後だと、エリカやクレアはツヴァイ諸島の総督や要職の方と会談があったな?」

 

 

『ええ、そうです。本来は私達もクライアントの迎えに行く予定でしたが、こうなった以上は依頼を受けた比企谷先輩と如月ハヤトだけでも迎えに行くしかありません。先日話した通り警護やそのプランは比企谷先輩が主導で構いませんので、朝早いのですが、行って貰えないでしょうか?』

 

 

「もちろんだ」

 

 

まったく……生徒会の皆を困らせやがって。というか、エリカは俺とサクラが家族関係なのを知っているだろ。行く以外の選択肢なんて無いわ。

 

 

「なら、早速だが俺の家の前に迎えの車を手配してくれるか?そのまま俺はその車に乗り込んで如月を回収してリトルガーデンの空港に向かうからさ」

 

 

『分かりました。それでは失礼します。』

 

 

そう言って俺との通話は切られる。エリカもお偉いさんとの会談があるから忙しいのだろう。

 

 

さて俺も予定は狂ったが、準備をしよう。

 

 

「ハンドレッド・オン」

 

 

俺はハンドレッドを起動させ、警護の時の正装である影で作った黒服を制服の上に纏う。

 

 

まずは如月に連絡だな。もしかすると、エミールがデートに誘っているかもしれないし。だったら、サクラが迷惑をかけて本当にすまないと思う。実際、俺も話を聞いていなくてここからアドリブなんだわ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歌姫の到着

気付いたか方もいるかもしれませんが、台本形式を止めることにしました。
自分としては誰が話しているかを見やすいようにしていただけですが、小説を書いている先輩や台本形式は止めた方が良いという感想の影響を受けて勝手ながらこのような決断をさせて頂きました。
一応、この話を含めて今までに投稿した作品は全て編集させて貰いました。しばらくは台本形式を止めて投稿しますが、見づらいというような感想が多ければ、再び元の形に戻しますのでよろしくお願いします。

それでは本編をどうぞ。




 

八幡side

 

 

「悪いな、こんな朝から」

 

 

「いえ、そんなことは」

 

 

迎えの車の中で揺さぶられながら、俺は朝からわざわざ招集してしまった如月に謝った。本当は俺の身内の歌姫が勝手にやった事なんだが、許してくれるとはなんて優しいのだろうか。聖人かよ。

 

 

「比企谷先輩って前に霧島サクラの警護をやってたんですよね?こういう事ってあったんですか?」

 

 

「……まぁな」

 

 

俺は如月に訊ねられ、その質問にYesと答える。あながち間違いではないな。サクラの気分でたまに時間が早まったり、遅くなったりはする。だが、こんなに大きく時間がズレた事は今までにはない。やはり、如月効果だろうか。

 

 

………………………

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

車に揺られて五分ほどで、俺達はリトルガーデンにある空港に到着した。

 

 

「そうだ、如月にはこれを先に渡しておこう。扱い方は俺が前に教えた通りだ」

 

 

俺は懐から一丁の拳銃を如月に渡す。

 

 

「これがNトランキライザーですか?」

 

 

「ああ、何があっても肌身から離すなよ」

 

 

俺からNトランキライザーを受け取ると、如月は制服の内側にあるホルスターにそれをしまう。

 

 

Nトランキライザーとは人間、そして武芸者にも有効な小型の麻酔銃のことだ。

 

 

基本は麻酔銃だから殺傷能力は無いに等しいが、武芸者に対してはエナジーバリアを中和したり、身体のセンスエナジーのバランスを崩して無力化できる優れものだ。

 

 

普段からハンドレッドを起動している俺には無用かもしれないが、今回ばかりは一応俺も所有している。相手は武芸者、しかもヴァリアントだからな。あくまで保険だよ、保険。

 

 

ここで普段から剣を振り回しているため、銃には疎い如月にそんな物を持たせても大丈夫かと思われるかもしれないが、安心しろ。今日の依頼のために如月には俺がみっちり銃の扱い方を教えておいた。最初はひどかったが、今はそれなりに的に当てられるだろう。

 

 

「あとは如月専用の探査機(ソナー)だ」

 

 

俺は追加で如月に小さな無線機のような物を渡す。

 

 

「前にレクチャーはしたが、ホテルの部屋などには盗聴器やカメラが仕掛けられている可能性がある。これを使えばそれらを見つける事が出来る。基本は俺と一緒だから、俺が気になる場所に対して如月に探知をするように命令するが、自分から気になる場所が見つけたなら積極的に使って貰って構わない」

 

 

「分かりました」

 

 

そう言って如月は俺から貰った探査機も制服の内側にしまう。さて、これでサクラが来る前に如月には話すべきことは一通り話した筈だ。

 

 

如月は誰から連絡が来たのかは知らないが、PDAを弄っているし、俺も気長に待つとしよう。

 

 

…………………………

 

 

……………………………………………

 

 

………………………………………………………

 

 

空港の滑走路のど真ん中に居るのも邪魔なため、空港に隣接している待ち合い室で如月と二人で待機していると、管制塔からサクラの乗っている飛行機が着陸体勢に入ったという連絡を貰った。

 

 

おお、来たかと思いつつ俺と如月は管制塔から伝えられた着陸する予定の場所に急いで向かう。

 

 

 

 

 

「あれがクライアントの飛行機ですか?」

 

 

「ああ、そうだ」

 

 

空港として改造された甲板に出て、指定された場所の近くで待機をしていると、俺がよく知る飛行機のシルエットを空に確認することができた。

 

 

俺が確認できたのも束の間、飛行機は車輪を出して勢いのある音と風と共に俺達の近くに着陸する。そのまま飛行機のハッチが開き、飛行機から地上に降りるための階段が色んな段階を踏んで形成されていく。

 

 

やがて飛行機のハッチからワンピースとホットパンツという動き易そうではあるが、肌が露出しているために男の心を擽るようなファッションをした俺がよく知る桜色の髪色の少女が姿を現し、俺達の存在に気付くと、こちらに向かって走るように急いで階段を下りようとする。

 

 

「ハーチマーン!!」

 

 

階段を降りてリトルガーデンに降り立つや否や、サクラは俺の胸に飛び込んで来て顔を埋める。

 

 

「サクラ、直で会うのは久し振りだな」

 

 

「ええ!会いたかったわ!」

 

 

他人から見たら事情を知らないため分からないが、家族同士の感動の再開を堪能していると、サクラの後を追うように飛行機からサクラのマネージャーであり、サクラのプロデュースをする会社の社長でもあり、俺とサクラの育ての親でもある女性、スフレさんもやって来た。

 

 

「サクラ。ハチマン君にじゃれつくのはその辺にしたらどう?新しい警護の方が置いてけぼりだわ」

 

 

「あら、そうね」 

 

 

スフレさんに注意されると、サクラは如月の方を見て、彼に挨拶をしようと俺の体から離れて如月の方に行く。

 

 

あれ?ズボンポケットに何か紙が入ってるな?待ち合い室で空っぽにした筈なんだが。

 

 

俺はポケットからそれを取り出すと、そこにはサクラからの伝言と言うべきものが書かれていた。いつの間に俺のポケットに入れたんだか。

 

 

『ハチマン、まずは勝手にプランを変えてごめんなさいね。カレンちゃんやハヤトくんに会うのが待ちきれなかったの。それで、今後のプランだけど、まずはリトルガーデンを見学するフリをしてカレンちゃんがいる病院に連れてって貰えるように取り繕ってくれないかしら。早速だけど、サプライズがしたいのよね』

 

 

おいおい、いきなりかよ。そう思いながらサクラの方を見ると、如月と話しながら俺に一瞬だけウインクをする。この紙を俺に渡したのはサプライズをするために口裏を合わせる為だろう。如月の前ではあまり相談が出来ないし。

 

 

まったく……仕方がないなぁ。

 

 

まずはハイヤーの運転手に連絡だな。そう思いながら俺は先程乗ってきた迎えの車の運転手に連絡を入れる。

 

 

う~ん、取り繕ってくれないかと言われて、いきなりアイドルが病院に行くのも変だからなぁ。病院の近くで降ろして貰って、そこからカレンちゃんの病院に向かって歩く事にするか。

 

 

 

 




ここ最近、評価欄を見ると低評価が多くて気になるこの頃です。文章力が下がっているのかなぁ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ファンのためにサプライズを

すみません、帰省と卒業旅行があって投稿出来ませんでした。次回からはなるべく日にちを空けないようにしますので。


 

 

八幡side

 

 

サクラとスフレさんを空港で出迎えた後、俺は二人を俺が連絡したハイヤーに乗せ、カレンちゃんが入院している病院があるリトルガーデンの中心街に向かっていた。

 

 

それにしても家の歌姫は注文が多い。カレンちゃんにサプライズが終わったら、サクラが泊まるホテルでシャワーが浴びたいと申し出たんだぞ。まぁ、そう言うお年頃だから気持ちは分からなくもないが。

 

 

だけど、ただでさえカレンちゃんのサプライズやツヴァイ諸島の総督達との昼食会といった諸々の予定でキツいのに、まだ組み込むのかよ。予定を組み直すこっちの身にもなって考えて欲しいわ。

 

 

と、先程までひどく頭を抱えていたのは車に乗る数分前である。実は予定にあったリトルガーデン艦長であるクレアとの対談をサクラ抜きで代わりにスフレさんだけで出席しても構わないとスフレさんが提案してくれたのだ。

 

 

そのお陰でサクラがご所望のシャワーの時間は何とか確保出来そうだ。スフレさん、マジ感謝します。

 

 

………………………

 

 

…………………………………………

 

 

………………………………………………………

 

 

「それにしてもわざわざ、俺の妹のために会いに来て大丈夫なんですか?」

 

 

予定通りサクラの病院の近くに降ろして貰い、病院までの道のりを徒歩で歩いていると、手をお互いに繋いでいる俺とサクラに如月が訊ねた。

 

 

ちなみにスフレさんは車の中で待機している。マネージャーと社長の兼業、しかも相手が世界の歌姫だもんな。少し疲れていたそうだったから、休ませている。

 

 

町中は生徒達がツヴァイ諸島に行ったために人の数は普段より少ない。そのためスフレさんが注意しなくても大丈夫だ。白昼堂々とサクラと手を繋げるのもそのためである。

 

 

「予定の話なら大丈夫だ。カレンちゃんと会いに行っても時間はそこそこあるからな」

 

 

「そうよ。それに自分から会いに行きたいんだから別に大丈夫でしょ?」

 

 

「は、はぁ」

 

 

戸惑う如月を相手にしながら暫く歩いていると、見覚えのある病院の近くまでやって来た。

 

 

「中は……人が多いな」

 

 

俺は如月にサクラをまかせて、病院の内部を外から覗いてみた。見てみると、人気のない町中とは違い、多くの患者がおり、病院の看護師達も忙しそうにしていた。

 

 

「どうでした?比企谷先輩」

 

 

「正面突破は無理だな。あれだけ人が多いと、俺達が中に入ったら、騒ぎになるのは確実だろう」

 

 

そりゃ世界のアイドル、リトルガーデン期待の星、影の働き手の三人が一緒に来たらな。それで騒ぎになって病院の人達を困らせるのも可哀想だ。

 

 

「仕方ない、()()だな」

 

 

「そうね。ハチマンの()()の出番ね」

 

 

サクラも()()に乗り気のようだ。サクラの了承も得たため、俺は準備のために手にセンスエナジーを溜め込む。

 

 

()()って何の事ですか?」

 

 

そう言って如月が不思議な顔で俺に訊ねてきた。

 

 

そっか、如月は知らないんだったな。

 

 

「まぁ、見てな。サクラ、頭」

 

 

俺がそう言うと、サクラは俺の近くに近付いて来た。そして、俺はそのままサクラの頭にセンスエナジーを込めた右手をそっと乗せる。

 

 

影の恩恵(シャドウ・オーラ)

 

 

すると、俺の右手からセンスエナジーがサクラの方に流れていき、サクラの体を黒色のセンスエナジーが覆う形となる。

 

 

「えっ!?消えた!?」

 

 

やはり初見の如月は驚くよな。まぁ、いきなり人が目の前で消えたら、驚くのは当たり前か。

 

 

「ほら、如月お前もだ」

 

 

俺は目の前の状況に驚いている如月の頭にも手を乗せて、センスエナジーを流し込んだ。

 

 

ついでに俺もな。

 

 

「ひ、比企谷先輩。これは?」

 

 

「俺の隠密専用技、影の恩恵だ。自分や相手に俺のセンスエナジーを纏わせる形で姿を消す技だ。これをしている間は影の恩恵を受けた者だけにしか見えない」

 

 

「おお……便利な技ですね」

 

 

如月の言う通り効果は便利なんだけどなぁ。センスエナジーの燃費が悪いんだよ、これ。今はセンスエナジーをMaxにしてるから音や気配すらも隠せるが、センスエナジーの量が少ないと姿しか隠せないんだよな。音が隠せないと、人間やサベージにもバレてしまう。だからこれを使うのは一日に一、二回と決めている。

 

 

まぁ、今まで使って来た時としては鬱陶しい取材陣がライブの出口の前とかに張っている時にサクラをスムーズにホテルに帰す時とかだから、一日多くても二回ぐらいだから別に支障はない。

 

 

「二人とも、早く行くわよ」

 

 

技の効果について話をしている俺達にサクラが急かすように話しかける。

 

 

「そうだな、よし行くぞ」

 

 

 

…………………………………

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

………………………………………………………

 

 

俺達は影の恩恵のおかげで、病院に入っても患者や看護師達に騒がれる事はなく、カレンちゃんの病室に難なく辿り着く事が出来た。

 

 

「如月、まずは俺達から入るぞ」

 

 

「そうですね、サクラがいきなり入って来たら、カレンも驚いてしまいますしね」

 

 

おう、そうだな。だが、どうして如月はサクラを名前呼びしているんだ?仮にも依頼人という立場なんだから、同い年だとしても馴れ馴れしいと思うんだが。俺?別に嫉妬はしてませんよ。ただ気になっただけだから。

 

 

聞くと、サクラが自分から如月にそう呼ばせているらしい。なら、別に良いんだ。

 

 

俺は周りを見渡して人が居ないことを確認して、俺は自分と如月の影の恩恵を無効化する。

 

 

「カレン、入るぞ」

 

 

如月を先頭にして、俺は病室に入る。中に入ると、前回と同じような格好でカレンちゃんが待っていた。

 

 

「兄さん!それに比企谷先輩も!」

 

 

「よ、カレンちゃん」

 

 

うんうん、元気そうで何よりだ。

 

 

「今日はサクラさんの警護の日ですよね?お二人ともどうしたんですか?」

 

 

おい、依頼の件はセレクションズのエミールぐらいにしか話すなと言った筈だぞ。守秘義務ぐらいは規則だろ。だが、密猟者やサベージの話はしてないそうだから良しとしよう。

 

 

「ああ、実はカレンにどうしても会いたいと言う人が来ていてな。今、ここに連れてきたんだ」

 

 

「はぁ、一体どんな方なんですか?」

 

 

「まぁ、会ってみてのお楽しみだ。来ても良いぞ」

 

 

そう言って俺は病室の外にいるサクラを呼び、同時にサクラの影の恩恵の効果を無効化した。

 

 

「やっほー、カレンちゃん」

 

 

まるで学校の友達みたいな感覚で、サクラは病室のドアを開けて中に入ってきた。

 

 

「え……え?霧島……サクラさん?」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

感動の再会

 

 

八幡side

 

 

唐突なサクラの来訪にカレンちゃんは目を丸くして未だに状況を掴めてなさそうだ。まぁ、いきなり自分の好きなアイドルがやって来たら普通驚くよな。

 

 

「あ…あの、これって……夢ですか?」

 

 

「いいえ、夢じゃないわよ。ほら」

 

 

そう言ってサクラはカレンちゃんの近くのパイプ椅子に座り、彼女の頬を軽くつねった。

 

 

「痛い……じゃあ、これは現実なんですね!」

 

 

サクラにつねられた頬を軽く手で擦りながら、カレンちゃんは状況を理解した。その表情は俺が見たことが無いくらいとても嬉しそうだった。

 

 

カレンちゃんがこの唐突な状況を理解したようなので、俺は彼女にサクラが来た理由を話した。

 

 

 

……………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

「………というわけだ」

 

 

「なるほど、私のために……」

 

 

ふぅ、カレンちゃんは物分かりが良くて助かる。おかげで俺も説明がしやすかった。

 

 

「で、カレンちゃんは私のサインが欲しかったのよね?全然大丈夫よ。ハチマン、色紙」

 

 

「はいよ」

 

 

俺はあらかじめ準備していたサイン色紙とペンを懐から取りだし、サクラに渡した。サクラはそれを受け取ると、カレンちゃんに向かい、ペンを走らせる。

 

 

「はい、どうぞ。ちゃんと《如月カレンちゃんへ》って書いたわよ」

 

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

 

そう言ってカレンちゃんはまるで家宝を扱うかのように緊張しながら色紙を貰うと、彼女は目を丸くした。

 

 

何故なら、そこには如月カレンちゃんへという文字に加えて『久方ぶりの再会に』という文字が書かれていたからだ。

 

 

サクラと如月兄妹の関係を知っている俺からしたら、納得のメッセージである。一方、カレンちゃんとその兄もそのメッセージに未だに困惑している様子だった。

 

 

「このメッセージって、どういう……」

 

 

サクラを見ながら、カレンちゃんは訊ねた。

 

 

「それはね、こういう事よ」

 

 

カレンちゃんに訊ねられると、サクラはカレンちゃんも歌っていたあの歌を歌い始めた。俺もよく知るサクラの亡き母親から教わった彼女のお気に入りの歌だ。

 

 

「おい、これって……」

 

 

「サクラさん、どうしてその歌を……」

 

 

「そのメッセージに書いてある通りよ。この歌を教えたのは私なの。第二次遭遇時のグーデンベルグでね」

 

 

「「っ!!?」」

 

 

第二次遭遇、グーデンベルグ、そしてこの歌、この3つのピースにより困惑していた如月兄妹もまるで何かを確信したような驚いた表情を俺達に見せる。

 

 

「うそ……じゃないですよね」

 

 

「嘘じゃないわ」

 

 

サクラは微笑んで、カレンちゃんに話し続ける。

 

 

「実はあらかじめハチマンには貴方達の調査をして貰っていたの。ツヴァイ諸島でサベージと戦っていたハヤト君に興味が湧いてね。私もね、びっくりしたわよ。あのグーデンベルグの時の兄妹が貴方達だもの。その歌が証拠よ。ハチマンに何か聞かれなかった?」

 

 

「そう言えば……初めて私の所に比企谷先輩が来た時、この歌について……じゃあ、あの時から」

 

 

その通り。俺もあの歌を聞いた時は驚いた。もしかすると、あの時にカレンちゃんが歌ってくれなかったら、如月兄妹の正体について確信出来なかったかもしれない。

 

 

「あらためて……久し振りね、二人とも」

 

 

サクラが残した歌がまるで運命かのように十年近くの時を経て再会を果たした瞬間であった。

 

 

 

………………………

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

あれからサクラ達三人はあの第二次遭遇を振り返ったり、ここ最近の近況について時間一杯話していた。まぁ、話題がない俺はただ時間を気にして眺めてる事しか出来ないけどな。

 

 

「そう言えば……サクラさんと比企谷先輩ってかなり親しげですけど……」

 

 

予定的に話す時間もギリギリとなった事をサクラと如月に伝えようとすると、カレンちゃんが俺に訊ねた。

 

 

別に隠さなくても良いか。逆にここまで情報を共有する程仲が良いと不自然に思われるし。

 

 

「ああ、実は俺とサクラは家族なんだ」

 

 

「ええっ!?サクラさんと比企谷先輩が!?」

 

 

「まぁ、信じられないかも知れないけどな」

 

 

そう言って俺は如月兄妹に俺とサクラの関係を話した。俺とサクラはヴァリアント同士なので、詳しい経緯はカレンちゃんがいるこの場では話せなかったが、孤児同士の仲だと説明すると、二人は理解してくれたようだ。

 

 

「へぇー、名字が違いましたからサクラさんと比企谷先輩が家族だとは気付きませんでしたよ」

 

 

「そりゃ、世間には話していないからな。この事を知っているのはあまり居ないぞ」

 

 

後、如月兄妹以外に知っているのはシャロとスフレさん、後は陽乃さんに、生徒会の三人位だな。身近にいる人達だとそのぐらいだろう。

 

 

「サクラ、そろそろ……」

 

 

「ハチマン、分かったわ。それじゃあカレンちゃん、ライブの時にまた会いましょう」

 

 

「はい、サクラさん!」

 

 

 

こうしてサクラが計画していたサプライズは無事に成功した。カレンちゃんも喜んでいたし、如月も幼馴染み効果のせいか先程より緊張がほぐれている。

 

 

だが、一番嬉しいのはサクラだろう。歌手を始めたきっかけとなる大事な人に会えたのだから。

 

 

だが、如月ハヤト。お前にはサクラのサプライズにもう少し付き合ってもらうぞ。お前には俺達と同じ境遇同士、いつか話さなくちゃいけない事があるんだ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホテルで一時の休憩?

 

八幡side

 

 

「じゃあ八幡君、後はよろしくね」

 

 

「分かりました。総督達との会談にはサクラを確実に間に合わせるので」

 

 

俺がそう言うと、スフレさんを乗せたハイヤーは音を立てて、ホテルの敷地から出ていった。

 

 

「それじゃあ、時間も無いわけだし、早くホテルに入るわよ。二人とも」

 

 

そう言って俺の後ろにいるサクラは俺と如月に早く来いと言わんばかりに俺達の手を引っ張った。

 

 

まったく……時間が無いのはサクラのせいだろ。

 

 

……………………………

 

 

………………………………………

 

 

…………………………………………………

 

 

あれから俺達は名残惜しくもカレンちゃんと別れ、当初の予定にあったツヴァイ諸島の総督達の会談に向かおうとしていた。

 

 

だが、その前にサクラがホテルでシャワーを浴びたいと言う事なので、総督達の会談を行う会場に行く前に経由する形でサクラが泊まるホテルに一時的に滞在していた。

 

 

 

 

 

「ふぅー、サクラが好きな飲み物はこれだよな」

 

 

そんな限られた時間の中で、俺は何をしているのかと言うとホテルの自販機でドリンクを買っていた。

 

 

ツヴァイ諸島は南国であり、時期は夏に入ろうとしている頃である。熱中症とかになったら大変だからな。

 

 

ちなみにサクラの警護は如月に任せている。サクラの部屋に盗聴機や隠しカメラが無いことはすでに確認しているし、俺が居ないのもほんの数分だ。大丈夫だろう。

 

 

そう思いながらサクラの分のドリンクと俺と如月の分のドリンクを手に持ってサクラの部屋に戻ろうとする。

 

 

それにしても如月にはセレクションズとして警護の依頼は早かったか?まぁ、こういうのは慣れだしな。いつかは警護だけでなく他の依頼もこなせるようになるだろう。

 

 

後輩である如月の成長を想像しながら、俺はサクラの部屋の近くまでやってくると………

 

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

サクラの悲鳴が俺の耳に入ってしまった。

 

 

それを聞いて俺は急いでサクラの部屋まで戻ろうとする。おいおい、しっかり確認はした筈だぞ。まさか、あの密猟者か!?それとも………

 

 

色々な悲鳴の原因を頭の中で色々と模索していると、俺はサクラの部屋の前まで辿り着いた。

 

 

「サクラ!何があった!?」

 

 

俺はドアを開けてサクラがいる筈のお風呂場に向かった。そこで俺が見たのは………

 

 

「ひ、比企谷先輩、その………」

 

 

申し訳なさそうに俺を見ている如月と生まれたままの姿で尻もちをついて倒れているサクラだった。

 

 

「はは……如月君、これはどういう事かな?」

 

 

そう言って俺は如月にハンドレッドを構える。

 

 

「えっ…!?あ、あの、比企谷先輩?」

 

 

「まさか、セレクションズの中に裏切り者がいたとはな。サクラの裸が見たいがためにこのような行動をしたわけか。エミールには悪いが、即刻始末しなければ」

 

 

「えー!?ご、誤解ですって!」

 

 

「問答無用だ」

 

 

お互いが幼馴染みなのは分かる。だが、数十分前に俺は如月にサクラは身内だと話した筈なんだが。俺がいない間に身内の裸を見るとはいい度胸だ。

 

 

俺と如月があれこれとやり取りをし、俺が如月に対して引き金を引こうとすると………

 

 

「もぉ~!二人とも、早く出ていきなさい!」

 

 

「「っ!?」」

 

 

俺と如月のやり取りの中で、ずっと空気だったサクラが大きな声を出して俺達をお風呂場から追い出した。

 

 

「痛てぇ………」

 

 

そうか……サクラはまだシャワーの途中だったのか。これは悪いことをした。

 

 

 

あの後、お風呂場からサクラが俺に事情を話してくれた。なんだ、サクラがお風呂場で滑ったのを心配になった如月がお風呂場に向かった時に俺に出くわしてあのような状況になったのか。

 

 

これは俺の落ち度だな。本当にすまないと思う。如月には詫びとしていつか飯に連れて行かなきゃな。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

総督達との会談

 

 

八幡side

 

 

ホテルで俺のちょっとした誤解が生んだトラブルがあったものの、あの後は何事もなく会談に向けた準備を済ませる事が出来た。シャワーを浴び終えたサクラも不機嫌ではなかったので、俺としてもほっとした。

 

 

準備を済ませた後、俺達はホテルの正面玄関前にあるロータリーからハイヤーに乗り、会談が行われるツヴァイ諸島総督の公邸に向かっていた。

 

 

「比企谷先輩、どうやらこの辺はサベージに襲われていなかったようですね」

 

 

ハイヤーから総督府の旧市街を眺めていた如月がそう言って俺に話しかけてきた。

 

 

「ああ、サベージが現れたのは主にサクラのライブ会場の近く中心街だったからな。中心街から離れていたここは被害が少なくて当然だ」

 

 

小さな島にサベージが三体も現れた事件によりツヴァイ諸島は大きな被害を受けたが、別に全地区が破壊されたわけではない。ツヴァイ諸島の心臓とも言える総督府がある地域は不幸中の幸いか、無事だったのだ。そのため、被害を受けた地域は未だ瓦礫の撤去などの復旧作業に取りかかっているものの、短い時間での復旧が望めると俺は思う。

 

 

しばらくすると、俺達は総督府の近くにある総督の公邸に辿り着く。到着すると、玄関前で待機していたスーツ姿の男達が俺達を公邸の応接室に案内してくれた。

 

 

そこには古くからツヴァイ諸島に伝わる民族衣装を着た総督と先に到着したスフレさんの姿があった。

 

 

「おお、これはサクラ殿にハチマン殿」

 

 

そう言って総督は俺達の近くに寄ってきた。

 

 

「どうも、ツヴァイ諸島総督のカレキニ・カラニオプです。この度は誠にありがとうございました」

 

 

総督はサクラと俺の手を取って力強く握手をしながら何度も俺達に頭を下げた。

 

 

別にそこまで頭を下げなくても良いのにと俺は思うんだが。武芸者の仕事を全うしただけだしな。

 

 

「それで……そちらの方は?」

 

 

「ああ、彼はリトルガーデン選抜隊(セレクションズ)所属の如月ハヤトです。この度は私と共にサクラ様のボディーガードとして務めています」

 

 

「おお、彼が噂の如月ハヤト殿ですか!」

 

 

如月に興味が湧いた総督に如月の説明をすると、総督は興奮した様子で如月に握手をした。

 

 

如月は総督の様子に恥ずかしそうにしていたが、その顔はとても嬉しそうだった。

 

 

…………………………

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

………………………………………………………

 

 

総督と話をした後、俺達は総督やその他のお偉い方と昼食をとることになった。如月は初めての出来事に困惑していたが、社交辞令だしな。いつかは慣れるさ。

 

 

俺?俺はもう慣れましたよ。影の働き手だという事を公表してから何十回やったことか。

 

 

昼食会が行われる迎賓館のパーティホールに入ると、そこには多くの人達が正装で溢れていた。数からしてツヴァイ諸島の高官や有力者、その家族達が含まれているだろう。

 

 

昼食はバイキング形式で料理が置かれている壁際には常にシェフが待機していた。さすが、政府が主催する昼食会だ。規模がすごい。

 

 

見るからに美味しそうな料理が並べられている。食えると思うだろ?それがなぁ………

 

 

「ハチマン様!サインをお願い出来ないでしょうか?実は家の息子が大ファンでして!」

 

 

「ハチマン殿!久し振りですな。どうです?向こうでお話でも……」

 

 

昼食会が始まると、高官や有力者達は俺やサクラの元に我先にと寄ってくる。理由は単純に有名だからだ。

 

 

サインを求める者、顔見知りの仲の者、中にはビジネスとして俺達に近寄る者、数十人近くがやってきて俺は忙殺されていた。

 

 

如月……他人事のように見てるが、お前もいつかこうなる運命だぞ。覚悟した方が良い。

 

 

おかげで昼食を落ち着いて食べれたのは食事会が始まって一時間後だった。

 

 

ああ~、疲れた。

 

 

…………………………

 

 

 

………………………………………

 

 

 

…………………………………………………

 

 

食事会が終わり、俺達も迎賓館を後にしようとすると、総督が俺達の元にやって来た。

 

 

「皆様方、この後のご予定は?」

 

 

「特に無い筈ですけど……。ですよね、スフレさん?」

 

 

俺はスフレさんに一応、予定を確認してみた。

 

 

「そうね。私は今夜にライブのサポートメンバーとして打ち合わせがあるけど、サクラ達は明日の夕方のリハーサルまで予定は無いわよ」

 

 

「でしたら、これから私達がツヴァイ諸島の観光地を案内致しましょうか?」

 

 

おお、総督自ら……これはすごい。

 

 

「うーん、そうですね……。前回のライブの際に大抵の所は行ってしまったし……」

 

 

だが、サクラはあまり乗り気ではないようだ。まぁ、総督には悪いが俺も同じ所を行くのは乗り気じゃない。

 

 

すると、サクラがある提案をする。

 

 

「そうだ。ライブ会場を見せてくれないかしら。どうなっているのか、下見したいんです」

 

 

ライブ会場の下見か。確かに歌うサクラにとっては気になるよな。総督も問題ないと話してるし、俺としても行った所を何回も行くよりは全然良いと思う。

 

 

それにサクラのライブを見たことがない如月には良い予習になるんじゃないか。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ライブ会場の下見

 

 

八幡side

 

 

サクラの提案の元、俺達は総督達と別れてサクラが歌う予定のライブ会場に向かっていた。

 

 

車で十数分程、ツヴァイ諸島の中心街を移動すると、ハイヤーは停止した。どうやら目的地に着いたようだ。

 

 

車から下りると、多くのスタッフが必死にセッティングをしている真っ最中だった。

 

 

「ほぼ、ステージの形は出来ているようだな。後は照明や音響のセッティングぐらいだろう」

 

 

「ええ、それにしても良い会場ね。思いっきり飛び回れて気持ち良さそうだわ」

 

 

俺がサクラにそう言って話しかけると、サクラは会場の様子を見てライブの姿の想像をふくらませていた。

 

 

「けど、かなりの規模だから観客席がある後方まで結構距離があるが、大丈夫か?」

 

 

「多分、大丈夫だと思うんだけど……」

 

 

「あの、何の話をしているんですか?」

 

 

俺とサクラが話していると、置いてけぼりの如月が俺達に何について話しているか訊ねてきた。

 

 

「そういえば、如月はサクラのライブスタイルを知らないんだったな」

 

 

俺が確認すると、如月は頷いた。

 

 

「なら、ハヤト君に良いものを見せてあげるわ。スフレ、着替えはもう楽屋にあるかしら?」

 

 

「ええ、まさかトライするつもりなの?」

 

 

「その方が明日のリハーサルに備えられるでしょ?それに観客席まで届くか確認したいの……ダメ?」

 

 

サクラがそう言うとスフレは仕方がないと呆れたようにサクラの提案を承認した。まったく……明日に備えるのは建前で、本当の目的は如月に見せたいためだろ。

 

 

……………………………

 

 

…………………………………………

 

 

……………………………………………………

 

 

しばらくサクラの楽屋の前で待っていると、サクラはピンクの全身タイツのようなものを着て楽屋から現れた。衣装を初めて見た如月はそれに驚いていたが。

 

 

だが、その衣装には秘密があるんだよな。というか、サクラの浮き出たボディラインをマジマジと見るんじゃない。失明させるぞ、こら。

 

 

「ハヤト君、しっかり見ていて。ここが私の戦場だという事を見せてあげる!」

 

 

ステージに移動すると、サクラは俺や如月に見せるように拳を空に向かって高く掲げた。

 

 

「比企谷先輩、サクラが手に握ってるあれって……」

 

 

ほう、サクラの手に握られた宝石のような物を見て、サクラの衣装の秘密に気付いたようだな。

 

 

 

「ハンドレッド・オン!」

 

 

 

サクラがそう言って叫ぶと、宝石はエメラルドグリーンの輝きを放ち、サクラの体を包んでいく。輝きがおさまっていくと、サクラの背中には四枚の妖精の羽が現れ、サクラは舞台を蹴り、空に向かって上昇した。

 

 

「これが私のハンドレッド、《妖精の紡ぐ物語(フェアリー・フェアリーテイル)》よ!」

 

 

そう言って俺達にその姿を見せながら、飛行機雲のように空にエメラルドグリーンの軌跡を描いていく。

 

 

「すごい……サクラは武芸者だったんですか?」

 

 

「その言葉は少し語弊があるな。あくまでサクラにはあの衣装…ヴァリアブルスーツを着て、ハンドレッドを扱える武芸者の才能があるというだけだ。如月や俺のようにサベージとは戦えるような感じではない。そもそもあのハンドレッドでは武器の生成出来ないからな」

 

 

「その通りだよ」

 

 

俺がサクラの姿を見て驚いている如月に説明をしていると、後ろから声をかけられ、俺達は振り返った。

 

 

「シャーロットさん!?どうしてここに……」

 

 

「なんだ、シャロも来ていたのか」

 

 

そこにはリトルガーデンの技術主任であり、俺の親とも言える存在のシャロと助手の猫耳メイドであるメイメイが立っていた。

 

 

「どうしてここにいるのかって?それはヴァリアブルストーンを使ったステージに興味があったのと、古い友達に会いに行こうと思ってね」

 

 

シャロはそう言いながら、スフレさんの方を向いて彼女と数ヶ月の再会の言葉を親しげに交わした。

 

 

「あの……比企谷先輩」

 

 

「ん?どうした、如月?」

 

 

「スフレさんとシャーロットさんってどんな関係なんですか?かなり親しげに話していますけど……」

 

 

如月はシャロ達の方を見ながら、俺に訊ねる。

 

 

「シャロとスフレさんは昔の同僚同士だ。今、スフレさんはサクラのマネージャーをやっているが、昔はスフレさんと同じ技術者だったんだ」

 

 

「へぇー………」

 

 

 

 

しばらくして、サクラが会場中を飛んで一周し終えると、サクラは俺達の前で妖精のように丁寧に着陸した。

 

 

「ハヤト君、どうだったかしら?」

 

 

「ああ……凄かったよ。まさかサクラがハンドレッドを使えるなんて思っていなかったからさ。それにあんなに自由に速く空が飛べるハンドレッドだなんて……」

 

 

「驚いたかい?彼女が自由に空を飛べる事が出来る理由は彼女のハンドレッドの型にある。彼女のハンドレッドの型は一定の空間内を操るフィールド型なんだ」

 

 

「フィールド型……ですか」

 

 

シャロが如月にサクラのハンドレッドについて説明すると、如月は俺の方に視線を向ける。そうだ、フィールド型について如月は俺との模擬戦で嫌と言うほど身に染みているからな。

 

 

「ああ、サクラのハンドレッドの能力のメカニズムは俺と同じだ。俺の場合は一定の領域内の影を操るものだが、サクラの場合は一定の領域内の空気を操る事で、あのように空が飛べるわけだ」

 

 

「なるほど……そういう事ですか」

 

 

フィールド型の能力とは珍しい分、武器を扱うシュバリエ型やシューター型よりも簡単に扱えるイメージがあるように思われる。だが、それは大きな間違いだ。フィールド型の能力こそがハンドレッドの型の中で扱いが難しいと使用者である俺はそう考える。

 

 

フィールド型には他のハンドレッドの型には必要ないセンスが必要である。それは空間演算能力だ。

 

 

それが無ければ俺も影をラクラクと操る事は出来ないし、誤って味方に当てる場合もある。実際、俺も完璧と自負するぐらいまで扱えるには一年ほどの時間を有した。それはサクラも同じである。

 

 

今、目の前でサクラは如月達と何食わぬ笑顔で話しているが、あれだけハンドレッドを使うだけでもかなりの集中力を持っていかれている。空間演算能力、センスエナジーの管理、これらの事を日頃考えないと、空からまっ逆さまなわけだし、しかも本番では歌をずっと歌わなければならない。ライブでは今の倍以上の集中力を使っているんだ。

 

 

サクラはライブを戦場だと言ったが、俺はサクラのライブを何回も見て、その発言は彼女にしか出来ないと思う。あんだけファンのために意匠を凝らし、一つずつ魂を込めたライブが出来る努力家のアイドルはサクラだけだからだ。

 

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

…………………………………………………………

 

 

「如月、今日の仕事はこれでおしまいだ。後は自由に過ごして貰って構わない」

 

 

ライブ会場の下見を終え、ホテルに帰って来たところ、俺は如月にそう言った。

 

 

「え、もういいんですか?」

 

 

まぁ、如月が驚くのも無理はないな。時刻は午後の三時を過ぎたばかりだし。

 

 

「ああ、サクラのリハーサルは明日やる事になっていてな。それまでサクラはホテルから外出する予定はないから、俺達も休みという訳だ。後は基本、ホテルにいる警備の武芸者に任せておけば大丈夫だろう」

 

 

今の所、密猟者が出現した情報はないし、ここにいる警備の武芸者達もそれなりの実力があるからな。

 

 

「それに予定よりも早く仕事をさせてしまったからな。今日はゆっくり休んどけ。また明日必要だったら連絡するからさ」

 

 

「分かりました。でも、比企谷先輩は?」

 

 

「まだここに残る。用があるからな」

 

 

そう言って如月に説明すると、如月は理解したようでホテルからリトルガーデンに向かう車に乗って行った。

 

 

ふぅ、これで今日の仕事は一段落だ。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夜に蠢く者達

 

八幡side

 

 

「ふぃー……今日は大変だったな。特にあの総督達との昼食会がな……」

 

 

呟くように今日の出来事を思い出しながら、俺は街灯に照らされた歩道を自分の家があるリトルガーデンに向けてゆっくりと歩いていた。

 

 

如月が帰った後、俺は何をしていたか?サクラがしっかり作曲の仕事をしているかを見張っていたんだよ。実は来月のアルバムに載せる新曲の作曲が終わっていなくてな。しかも、一週間近くもその予定が遅れていてな。スフレさんから聞いた時、八幡びっくりだよ。

 

 

ただ、スフレさんもライブの打ち合わせがあってな。その間はサクラがしっかりやっているかを確認できない。そこで、俺の出番が来たわけだ。如月を先に帰らせたのは、朝から予定外の事ばかりだったからな。初日に朝から夜まで働かせるのもどうかなと思っただけだ。

 

 

まぁ、スフレさんも打ち合わせを早く終わらせてくれたから、午後の七時ぐらいには解放されたし、夕食やお風呂も彼女の計らいでホテルで済ませる事が出来た。後はこうしてリトルガーデンに帰って寝るだけである。

 

 

けど、疲れたからと言ってすぐに家で寝るわけにはいかない。実は密猟者の目撃情報が全く無いのが、気になってな。少し調べてみようと思うんだ。

 

 

だって、俺が前に見た犯人の顔を基に手配書などで注意を呼びかけているのに、目撃情報が全く無いんだぞ。一般の警備の人達は諦めたのかもしれないと話しているぐらいだ。

 

 

だけど、それは無いと俺は思う。戦ってみて分かったが、かなりの強さだったし、警備が強化されても奴等の性格から確実に来ていると推測する。今も廃坑のような人目につかない場所で様子を伺っているに違いない。

 

 

それに気を付けるのは密猟者だけではない。ツヴァイ諸島の何処かに潜伏している残りのサベージにも注意しなければならない。地震みたいに何時やって来るか分からないからな。

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

八幡がホテルを出て、リトルガーデンに帰る最中、そこからニキロ離れた山中では黒いヴァリアブルスーツを着た例の少年少女三人が立っていた。

 

 

「……今回は警備が厳しいな」

 

 

「そうね、それに影の働き手に顔を見られているせいで、町には手配書みたいのが何枚もあったわ。おかげで街も歩けないじゃない」

 

 

溜め息をつきながら、武装だと思われる円輪を持つ少女は少年の言葉に賛同する。だが、そんな彼女の足下にはあってはならない物が有ったのだ。

 

 

それはサベージの骸。身体は彼らにやられたのだろうか、あちこちが切り刻まれ無残な状態だった。

 

 

「……どうする?諦める?」

 

 

サベージの体液にまみれたサベージの核を左手に持つ眼帯の少女が物静かに少年に訊ねる。

 

 

「何言ってんだよ、ねーちゃん。今はまだ決行する時じゃない。それだけだよ」

 

 

「チッ、アタシは別に今でも良いと思うけど。あんな警備に手こずるアタシ達じゃないし。強いて言うなら影の働き手とリトルガーデンの会長さんだけ気を付ければ良いだけっしょ」

 

 

そう言って円輪の少女はニヤリと笑う。

 

 

「駄目だ、それだとライブが中止になって、ライブを楽しみにしている島民が悲しむだろう。俺達は()()()の味方なんだ。ライブのヴァリアブルストーンを盗むのは終わってからでも大丈夫だ。臨時収入もあるしな」

 

 

円輪の少女のやり方に対して抗議しながらも、少年は眼帯の少女の左手にある核を見つめる。

 

 

「はいはい。ひとまずはそれで満足しろという事だろ」

 

 

「ああ、残りのサベージは二体だ。見つけ次第、リトルガーデンよりも早く始末するぞ」

 

 

少年がそう言うと、二人の少女はそれに頷き、サベージの骸から離れるように姿を消したのだった……

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

警護二日目

すいません、新生活の準備が意外に忙しくて……
今回の話、展開が今までで一番雑かもしれません。


 

 

八幡side

 

 

慌ただしかった昨日とは違い、警護二日目である今日は非常にルーズな予定だ。なにせ、警護の仕事はサクラのライブのリハーサルが始まる午後六時からだからな。おかげで、俺も自由気ままに過ごしているわけだ。

 

 

只今の時刻は昼の一時。警護までの自由時間を俺はツヴァイ諸島で有名な喫茶店でまったりとしていた。ここのコーヒーゼリーのパフェ、すげぇ美味いんだよなぁ。甘さも俺好みぐらいだし。

 

 

たまにはこうして一人でゆっくりするのも良いものだな。サクラのワガママに付き合う必要もないし…

 

 

「ヤッホー、ハチマン♪」

 

 

「……………………………………」

 

 

前言撤回。俺だけの時間は終わってしまったようだ。目の前の空席に座った桜髪の少女によって。

 

 

「サクラ、何故ここに……?」

 

 

「それはハチマンが来そうな所だなぁって思ったからよ。ハチマンの行動パターンを推測するなんて私にとって簡単なものだわ」

 

 

いや、そういうこと聞いてんじゃねぇよ。

 

 

「…外出しているという事は作曲が終わったのか?」

 

 

作曲にはかなりの時間がいる筈だ。昨日の段階でも終わってはいなかったし、それにスフレさんも終わるまではサクラを外出させないと話していたが……

 

 

「いえ、全然よ。抜け出して来ちゃった」

 

 

「おおい!何やってんだよ!?」

 

 

お前の作曲を待っている人が居るんだぞ!?しかも一週間近く!!その人の気持ち考えてみろや!?

 

 

「だって、アイデアが浮かばないんだもん!ホテルにいて何か浮かぶと思う!?」

 

 

そう言ってほっぺをぷくーっと膨らませて可愛らしくサクラは抗議する。一週間近くも待たせている人が何を言っているんだか。

 

 

「はぁ……で、ここに俺がいることを分かった上で来ているという事は俺に何か用があるんだろ?」

 

 

「ええ、流石はハチマン。実は連れて行って貰いたい所があるの。ハヤト君と一緒にね」

 

 

「如月?……まさか、如月にもう話すのか?」

 

 

予想外の提案に俺は思わずサクラに訊ねてしまった。だって、あの件について如月に話すのはライブが終わってからの筈だぞ。

 

 

「……うん、なんだかハヤト君に早くあの件について私の事を知ってもらいたくなってね。そのせいか、作曲やライブにも集中できなくて……」

 

 

先程の明るい様子から一変して、真面目な様子で打ち明けたサクラの悩みを俺は家族として真摯に受け止めた。そうか、そういう事だったのか。

 

 

「……分かった。その提案、乗ってやるよ」

 

 

「……!!ハチマン!!」

 

 

「けど、ホテルから抜け出すのはこれで最後だからな。ライブ前はこれで勘弁してくれよ」

 

 

そう言うと、サクラはうんうんと頷いた。

 

 

「で、場所を聞いていなかったな。やはり、大事な話をすると言ったら、ツヴァイ大峡谷か?」

 

 

「ええ、そうよ。頼めるかしら?」

 

 

「分かった」

 

 

 

 

その後、俺はまず、心配しているだろうスフレさんに連絡をしたが、思いっきり怒られた。でしょうね。けど、サクラの悩みをスフレさんに話した所、リハーサルの午後六時までに帰って来れば大丈夫だと何とか許してくれた。

 

 

次に如月に連絡したのだが、どうやらエミールと町でデートの真っ最中だった。二人だけの時間に申し訳ないが、俺は如月に警護として招集した。いつか、あいつらには何か埋め合わせをしないとな。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ツヴァイ大峡谷にて

しばらく投稿出来なかったため、もう一本サービスです。


 

如月side

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

「ほら如月、もう少しだ」

 

 

そう言って大きな岩などで荒れた山道を何とかして歩く俺を、先に歩いている比企谷先輩が励ます。どうして、比企谷先輩は疲れてないんだ?

 

 

俺がどうしてここにいるか、それは自分でも分からない。だって、比企谷先輩に警護の仕事があると言われて指定された場所に向かったら、いきなりタクシーに連れ込まれたのだからさ。比企谷先輩や同じタクシーにいたサクラに聞いても詳しい事は教えてくれないし、一体何の用があってここにやって来たのだろうか?

 

 

一時間ぐらいかけて、山道を登ると俺の前で立ち止まる比企谷先輩とサクラに追い付いた。

 

 

「ひ、比企谷先輩……着いたんですか?」

 

 

「ああ、着いたぞ。ここが目的地だ」

 

 

比企谷先輩から水の入ったペットボトルを受け取り、俺は目的地である展望台からその景色を眺めた。そこには今までの疲れを吹き飛ばすような美しい景色が広がっていた。

 

 

 

 

__________________

 

 

八幡side

 

 

 

「どうだ?頑張って歩いた価値があっただろ?」

 

 

「ええ、そうですね」

 

 

隣で水を飲みながら、展望台からの景色を眺めている如月が俺に笑顔で返答した。

 

 

「ここはツヴァイ大峡谷。ツヴァイ諸島の隠れた観光スポットで、サクラの思い出の場所だ」

 

 

「サクラの……?」

 

 

「そうよ。ここは昔、私のママが生きていた頃に連れてこられた場所なの」

 

 

「確か……サクラの母親って……」

 

 

「ああ、そうだ。如月には前話したが、サクラの母親は第二次遭遇に巻き込まれて亡くなっている。サクラを庇ってな」

 

 

そう、サクラの母親は幼かったサクラと共にグーデンブルグに旅行に行っていた際に、第二次遭遇に巻き込まれたのだ。サクラの母親は夫とは離婚しており、サクラの母親にとって娘のサクラはかけがえの無い存在だったのだろう。もし生きていれば、一度はお会いしたかったものだ。

 

 

「どうして俺をそんな場所に?」

 

 

未だにここに連れてこられた理由が分からない如月はそう言ってサクラに訊ねた。

 

 

「………ここはね、昔から大事な話をする時に来ている場所なの。ハチマンとも何か大事な話をする時はここに来ていてね。今日はハヤト君に大事な話があって、ここに連れてきたの」

 

 

「……俺に?」

 

 

「そうだ。俺達に関わる話をな」

 

 

如月は首を傾げながら、俺とサクラをキョロキョロ見て、様子をうかがっていた。

 

 

「まぁ、立ちっぱなしで話すのもあれだ。そこの椅子に座りながら話そう」

 

 

俺は誰もいないため、空席である展望台のベンチに如月とサクラを座らせる。すると、サクラは続けるように如月に話しかけた。

 

 

「さて……話をする前に、ハヤト君に問題です」

 

 

「問題?」

 

 

「私達の共通点は何でしょうか?」

 

 

サクラから問題を出題されると、如月はそれに対して真剣に頭を悩ませる。

 

 

「うーん……武芸者って所か?」

 

 

「ブッブー。五十点の答えね」

 

 

そうだな。だが、普段から頭の回転が鈍い如月にしては目の付け所は悪くない。

 

 

「なら、正解は何なんだ?」

 

 

納得のいかない如月がそう言ってサクラに訊ねた。

 

 

「正解?正解はね………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達がヴァリアントだという事よ」

 

 

「………はぁっ!?」

 

 

サクラの意外な解答に如月は目を丸くする。

 

 

そう、如月に話したかった事……それは俺達がヴァリアントだという事、そして俺達の過去である。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二人の過去とヴァリアント

皆様、お待たせしました。大学の入学式や履修登録が終わり、ようやく投稿できる時間が取れるようになりました!
それでは本編をどうぞ。かなり長めです。


 

如月side

 

 

唐突に知らされた比企谷先輩とサクラがヴァリアントだという事実に俺は驚きを隠せなかった。

 

 

まさかエミリアの他に、しかも身近な人物と幼なじみがヴァリアントだったなんて……

 

 

「え……ヴァリアントということは、二人はやはりサベージに襲われた時に?」

 

 

「ああ。俺はそうだが、サクラは違う」

 

 

比企谷先輩に訊ねると、比企谷先輩はサクラの方を見ながら俺の質問に答えた。

 

 

「違う?どういう事ですか?」

 

 

サクラは違う?ヴァリアントってエミリアもそうだが、サベージの体液を直接摂取する事で、なってしまうものが普通じゃないのか?

 

 

すると、サクラがゆっくりと口を開いた。

 

 

「……私はね、人工的に作られたヴァリアントなの」

 

 

「人工的!?それってつまり……」

 

 

「そう、私はある研究で生まれたヴァリアントなのよ。魚みたいに、ハヤト君やハチマンが天然物なら、私は養殖物のようなものね」

 

 

そう言って自嘲気にサクラは俺に話す。

 

 

それからサクラが続けて語ったのは、グーデンブルグで俺とカレンと別れた後の話だった。

 

 

サクラは俺達と別れた後、離婚した父親の元に引き取られ、ヤマトの北に位置する極寒な気候が特徴の大国、ラスィーヤに生活していたそうだ。

 

 

だが、サクラは生活している内にある病気を発症してしまったのだ。その症状というのは体の筋肉が動かなくなるというもので、病院で入院しているカレンの症状に酷似していた。

 

 

「その病気を患って私はラスィーヤの病院に入院したんだけど、そこで出会ったのが今の私のマネージャーをしているスフレなの。当時はまだ大学を出たばかりの研修医だったけど、私にとても優しくしてくれたわ」

 

 

なるほど、ライブの時に話は聞いていたが、サクラとはそういう関係で知り合ったわけか。昔、研究者だったのは本当だったらしい。

 

 

「でも、私の症状は徐々に悪化して、一年程でそれは私の声までも蝕んでしまった。歌が歌えなくなったのはとても辛かった。けど、私の地獄はここからだったの」

 

 

「地獄……?」

 

 

「私の病気を治すという名目で、私は研究所に移された……いや、父親に被験者として研究所に売られたのよ。父親の多額の借金などの代わりとしてね」

 

 

「……!!?」

 

 

それはもう当時十歳になったばかりの少女が経験しない、いや経験してはいけない出来事だ。サクラは俺やカレンが知らない所でそんな目にあっていたのか。

 

 

「こうして私はワルスラーン社が経営する研究所に移された。そこには私と同じような病気を患っていた子達が沢山いたわ。そして、その子達と私にはサベージの体液を改良して作られたワクチンを接種されたのよ」

 

 

「ワクチン?サベージの体液でですか?」

 

 

「ああ、確かにサベージの体液を摂取すれば大半の人は死んでしまう。ごく稀に俺や如月のようなヴァリアントを生まれるけどな。だが、サベージの体液を改良すればウイルスにも対抗でき、人が死ぬ事のない安全なワクチンを作る事が出来ると考えたのが当時の研究所の所長、ヴィタリー・トゥイニャーノフの理論だった」

 

 

そう言って俺の質問に比企谷先輩が丁寧にゆっくりと説明してくれた。

 

 

「そのワクチンを接種をした後、高熱に襲われたりしたけども、効果は抜群で私の体は動けるようになったし、こうして声も出せるようになったわ」

 

 

「なら……「けど、実験は終わらなかった」

 

 

俺の言葉を遮るようにサクラは辛く悲しそうに話を続けた。声や身体の自由を取り戻した彼女に、一体何があったのだろうか。

 

 

「どうしてだ?」

 

 

「ヴィタリーの本当の目的はワクチンの製造じゃなかったのよ。彼女の本当の目的は改良したサベージの体液で、普通の人間を安全な形で武芸者にする、言いかえれば武芸者量産計画だったのよ」

 

 

「それはつまり、ヴァリアントという形で武芸者を増やすっていう事だろ?どうしてそのヴィタリーさんはその実験をやろうと?」

 

 

サクラやカレンの病気を治す特効薬を作るだけでも、十分過ぎる成果なのに、ヴィタリーさんはどうしてそこまでやろうとしたのだろうか。ヴァリアントを作る実験なんかしたら、最悪死人も出るかもしれないのに。

 

 

「それはだな、ヴィタリーがラスィーヤの研究所に飛ばされる前に遡るが、彼女は当時ワルスラーン社本社の技術主任だったんだ。要はワルスラーン社ではかなりの権力を持つ役職にいたわけだ。だが、その地位はある天才によって奪われてしまったんだ」

 

 

「天才?」

 

 

「シャーロット・ディマンディウス。神童と呼ばれた天才で、俺とサクラの親だ」

 

 

なるほど、シャーロットさんにそういう因縁のようなものが。というより、サクラと比企谷先輩が孤児同士の家族なのは知っていたが、その親がシャーロットさんだという事は初耳だった。聞くと、スフレさんもその一人らしい。

 

 

「つまり、ヴィタリーさんはシャーロットさんにその地位を奪われて、且つラスィーヤの研究所に飛ばされたから、その実験を?」

 

 

「その通りだ。シャロという存在に積み上げた全てを奪われたんだ。悔しかっただろうし、必死だったのだろうな。気持ちは分かるが、やり方は最悪だ」

 

 

比企谷先輩は唇を噛み締めながら、まるでヴィタリーさんという人を憎むようにそれを話した。

 

 

「ええ、最悪だったわ。まさに生き地獄とも呼べるような状況だったもの」

 

 

サクラは当時を振り返るように、辛そうにしながら俺に話し続けた。

 

 

「続いたヴィタリーの実験で、私達被験者の中にはハンドレッドを起動出来たりするようになった子達もいたわ。同時に副作用に襲われた子達も……」

 

 

副作用。それを聞いて、俺にもピンと来たものがある。おそらくその子達は……

 

 

「副作用に襲われた子達はいきなり暴れだしたり、いつも苦しそうにしていた。研究所で出来た私の友達、ラトゥーニ・イヤニノフもその一人だったわ」

 

 

やはり、俺と同じだ。周りが見えなくなり、好戦的になってしまう。サクラの友達も……。

 

 

「ラトゥーニは苦しそうにしながらも、私に言ったの。『歌って』って。だから、私は歌い続けたわ。すると、歌を聞いた子達は次第に落ち着いていったの。けど、次第にそれすらも効果が無くなってしまい、私の周りの子達は傷つけ合ったり、体を悪くして亡くなってしまった」

 

 

恐らく、サクラの友達のラトゥーニも……サクラが地獄だというのも理解できる。家族を失い、ましてや友達も失ってしまったのだから。

 

 

「周りの知っている子も死んでしまい、私の中には絶望しか存在しなくなってしまった。けど、そんな時にスフレとシャロが研究所にやって来て、私を助けてくれたの」

 

 

なるほど、これがサクラとスフレさん、そしてシャーロットさんが家族として知り合う仲になったきっかけだろう。

 

 

「でも、どうしてシャーロットさん達が?」

 

 

「当時、看護師だったスフレが私の移動に違和感を感じたらしくてね。調べて行く内に、私がいる研究所とヴィタリーの悪事を突き止めたらしいの。そこで、スフレは同期のシャロに相談して悪事の証拠をワルスラーン社に叩きつけて、ヴィタリーを逮捕したらしいの」

 

 

「へぇ……じゃあそのヴィタリーさんは今も捕まったままなんですね。良かったじゃないですか」

 

 

「「…………………………」」

 

 

俺がそう言うと、二人は静かに黙ってしまった。……もしかして、言ってはいけないことを?

 

 

「そうか……如月が知らないのも無理はないか。あの件は世間には公表されてないし」

 

 

「そうね……ハチマン」

 

 

「あの……一体?」

 

 

そう言って恐る恐る二人に訊ねると、比企谷先輩が俺の疑問に答える。

 

 

「実は…ヴィタリーは数年前に脱獄したんだ」

 

 

「脱獄!?」

 

 

話を聞くと、どうやらヴィタリーさんはラスィーヤの刑務所に投獄されたのだが、数年前にその刑務所で何者かによる爆発事件が起こったらしい。それを境にヴィタリーの姿が無い事から爆殺されたとも解釈されているが、比企谷先輩とサクラはまだ何処かで生きていると考えているそうだ。

 

 

「へぇ……そんな事が」

 

 

「ああ、この件はワルスラーン社からも秘密裏に委託されていてな。ヴィタリーが脱獄してから少しずつだが、自分でも調査をしていたんだ。成果は…あまり無かったけどな」

 

 

比企谷先輩は自分の力がまるで及ばなかったと落胆するように話す。

 

 

あれ?そう言えば……

 

 

「そう言えば、比企谷先輩ってどうしてヴァリアントになったんですか?」

 

 

「うん?…ああ、そう言えば話してなかったな」

 

 

そう言って思い出したかのように比企谷先輩は俺に話しかけた。比企谷先輩は孤児だったんだよな?なら、俺みたいにサベージによって家族を亡くして、その時にヴァリアントに目覚めたとかだろうか?

 

 

「俺は如月と同じ第二次遭遇の際に、サベージに襲われてヴァリアントになった」

 

 

「……ちなみに家族は?」

 

 

「サベージに襲われた俺以外は全員無事だったよ。言い方は悪いが、そこが如月と違う所だな」

 

 

へぇ……比企谷先輩の家族は全員無事だったんだな。……えっ!?なら……

 

 

「ちょっと待ってください!?比企谷先輩の家族は全員無事だったんですよね!?なら、どうして比企谷先輩は孤児院に!?」

 

 

俺とカレンは家族を第二次遭遇で亡くしたから孤児として孤児院で今まで過ごしてきた。だけど、家族が全員生きている比企谷先輩が孤児院に入る理由が全く見当たらない。どうして……

 

 

「理由は簡単だ。家族が俺を捨てたからだ」

 

 

「っ!?」

 

 

比企谷先輩から放たれる短く、そして重い一言に俺は思わず息を呑んでしまう。

 

 

「どうして…ですか?」

 

 

「家族はサベージの体液が流れている俺をバケモノのように扱い、拒絶したんだ。普通なら、サベージに襲われても生きていることを喜ぶべきなのにな」

 

 

その当時を思い出すように、比企谷先輩は辛そうに俯きながら話を続けた。

 

 

「その後、家族は俺を悪びれる様子もなく平然と孤児院に預けた。だけど、親は俺にサベージの血が流れている事を孤児院の先生に話したらしくてな。親からしたら、注意をした感覚だと思うが、俺から見たら嫌がらせだった。そのせいで、先生だけでなく周囲の子達からも苛められたりされたよ。サクラよりはマシだが、地獄だったな」

 

 

いや、比企谷先輩のも俺からしたら、かなり酷な体験に思える。サクラと比企谷先輩、二人は俺の知らない所で壮絶な幼少期を過ごしていたんだ。

 

 

「そんなある日、転機が訪れた。俺を孤児院から引き取りたいという人達が現れてな。それがシャロ、スフレさん、そしてサクラだ」

 

 

そうか、この時に……

 

 

「最初は冷やかしだと思ったよ。孤児院の先生ですら耳を疑っていたからな。だけど、シャロ達は俺がヴァリアントだという事を知った上で、家族のように優しく接してくれて、サクラは俺と同じヴァリアントだという秘密を打ち明けて仲良くしてくれた。すごく嬉しかった」

 

 

 

 

___________________________________

 

 

 

 

『君が比企谷ハチマンだね。ボクの名前はシャーロット・ディマンディウス。気軽にシャロと呼んでくれ。隣にいるのがスフレ・クリアレール。そして、この子は霧島サクラだ。』

 

 

『……俺を引き取るってなんの冗談すか。俺よりマシな子は孤児院にいると思いますが。俺なんてたまに暴れるし、先生から知られていると思いますが、サベージの血が……』

 

 

『ああ、知っているよ。君の事は全てね』

 

 

『なら、人体実験がお望みか?聞けば、ワルスラーン社の人達じゃないですか。貴女達も俺にこれ以上の苦しみを味わえと言うんですね!!』

 

 

『……瞳が黄金色に。シャロ、あなたの情報は間違っていなかったようね。ヤマトにサベージの体液を取り込んだヴァリアントと疑われる少年がいるって』

 

 

『けど、かなり警戒されているね。彼の経歴を見たが、酷いものだ。彼をこうしてしまったのは親の影響だろう。彼は一番の被害者なのに』

 

 

『っ!?サクラ!!待ちなさい』

 

 

『シャロ、スフレ、私がやるわ』

 

 

『……霧島サクラ、だったな。何の用だ』

 

 

『ハチマン、どうして貴方は私達の申し出を断るのかしら?』

 

 

『家族の繋がりなんて偽りだ。身をもって知ったからこそ、信用していない。それに俺はバケモノだ。バケモノの居場所なんてどこにも無い』

 

 

『なら、貴方の目の前にいる可愛らしい少女も貴方の言うバケモノだとしたら?』

 

 

『っ!?何だと……』

 

 

『もう一度聞くわよ。ハチマン、私達と家族になる気はないかしら?』

 

 

『……話を聞こう』

 

 

 

___________________________________

 

 

 

 

「……これが俺とサクラの出会いだ」

 

 

数十分にもわたる説明を受けて、俺は比企谷先輩の過去について知る事が出来た。普段の先輩からは想像も出来ない凄まじい過去だった。

 

 

最初は家族が無事な点で先輩に嫉妬してしまった自分がいた。けど、その認識は間違っていた。彼は家族に見捨てられ、人を信用しなくなってしまったのだ。もし俺の親が生きていたなら……俺を見捨ててしまうのだろうか、話を聞いてそう考えてしまう。

 

 

「比企谷先輩は親が憎いんですか?」

 

 

俺は比企谷先輩にそう訊ねた。

 

 

「……どうだろうな。今となってはあまり気にしていないから、憎いのかどうかも分からない。ただ言えるのは、俺の家族はシャロにスフレさん、そしてサクラだという事だ」

 

 

そう言って比企谷先輩は先程の辛そうな顔を見せず、笑顔で俺の質問に答えた。

 

 

「さて、如月に話す事は話したし、もう時間だからライブ会場に戻ろうか」

 

 

「そうね。私も何だかスッキリしたわ」

 

 

先程まで辛そうな顔で話をしていた二人は笑顔で顔を合わせながら、山を下って行った。

 

 

「ま、待ってくださいよ!」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帰路とサベージの襲撃

すいません、休稿が続いてしまって。その間もこの作品を見てくれた方、コメントをくれた方、お待たせしました。


 

 

八幡side

 

 

ツヴァイ大峡谷の展望台から下山するようにふもとまで戻って来ると、日はすっかり暮れ、予定のライブのリハーサルまで残り一時間となっていた。

 

 

ここから車で会場まで約三十分。この調子なら間に合うが、夜に近い時間にこんな僻地に車などが通っているわけもなく、俺達は途方にくれていた。予めハイヤーを停めておけば良かったかもな。これは俺の誤算だった。

 

 

まぁ、クヨクヨしても仕方がない。今はただライブ会場に戻ることに専念しよう。

 

 

という訳で、今はだな…………

 

 

「あの……比企谷先輩、本当に大丈夫なんですか?島民が使うバスなんか利用して。バレたらどうするんですか」

 

 

「仕方がないだろ。ちょうどライブ会場近くに向かうバスがバス停に止まっていたわけだし。ハイヤーが来るのも時間は厳しいし、歩くのは論外だろ。それにサクラも変装はしているし、バスの中にいる人はそんなに居ないから多分大丈夫だろ」

 

 

島民が利用する民間のバスを利用して、ツヴァイ大峡谷のあった山から絶賛下山中である。今はちょうどライブ会場のある所とツヴァイ大峡谷の真ん中あたりだ。この調子で行けば、ライブ会場に五分くらいの余裕をもって到着ができそうだ。

 

 

だがまぁ、如月の懸念も分かる。サクラがいると知られれば、パニックで慌ただしくなるのは確実で、サクラもリハーサル前で心が休まらないだろう。けどな……

 

 

「すー……すー……」

 

 

サクラは俺の肩に寄りかかりながら、寝息を立てて寝ており、こうしていれば他人からは霧島サクラとはバレないだろう。最悪、バレたとしても今の彼女に話しかける人なんてそうそういないだろう。サクラが寝ている以上俺や如月も名前を呼ぶことはないし。

 

 

さて、サクラも寝ているようだし、俺も少し休むとするか。

 

 

そう思った次の瞬間……

 

 

「くっ!?何だ!?」

 

 

突如、激しい爆音と共にバスが激しく上下に揺れ動いたのだ。これには俺だけでなく、如月やサクラや他の乗車客も驚きを隠せない様子だった。

 

 

「ハチマン、一体何が起きたの?」

 

 

先ほどの爆音と振動で目が覚めたサクラが深刻そうに俺に訊ねた。

 

 

「分からん。だが……」

 

 

俺はすぐにバスの窓を開けて窓から身を乗りだし、周りの状況を確認した。

 

 

周りの乗客達は地震ではないかと話しているが、俺はこの揺れの原因に心当たりがあった。まさかとは思いたかったが、その原因は俺の斜め前方に道を塞ぐように立っていた。

 

 

「比企谷先輩!あれって……」

 

 

「ああ……サベージだ」

 

 

そう、俺達が乗るバスの前に蛍光色の光を放つバスほどの大きさの生物、サベージが立ち塞がっていたのだ。先程の揺れもあのサベージが原因だ。

 

 

おそらく、あの個体はクレアが数日前に話していた未発見のサベージの残党の一体だろう。まさか、こんなところで遭遇するとはな。

 

 

そう考えているの束の間、サベージは頭部を開けて口の部分にセンスエナジーを溜めていた。あのサベージ、まさかっ!

 

 

「皆さん、衝撃に備えて頭を伏せてください!サベージの砲撃が来ます!」

 

 

俺が周りの乗客に注意を呼び掛けた瞬間、サベージの頭部から光線がバスに向かって放たれた。

 

 

「ぐっ!!エナジーバリア全開!!!」

 

 

サベージの光線に対抗するように、俺は窓からバスを覆うようにエナジーバリアでそれをガードした。激しい衝撃には襲われたものの、バスや乗客にはサベージによる外傷はなかった。

 

 

「如月!出るぞ!!」

 

 

「は、はい!」

 

 

俺は如月を連れて、バスの乗車口から外に出た。その際、乗車口は先程の爆発による衝撃で開かなかったため、強引に銃で開けさせて貰ったが、今は弁償とか言っている場合ではないだろう。

 

 

「如月、お前はサクラと他の乗客をあの崖の近くに避難させろ。あそこなら砲撃が来ても大丈夫だ」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

如月やサクラが率先的にバスに乗っていた乗客を避難させている間、俺はクレアに連絡をかけた。

 

 

『ハチマン、どうしましたの?確か貴方は霧島サクラとライブ会場に向かっている筈では?』

 

 

「ああ、その通りだが、緊急事態だ。ライブ会場に向かうバスに乗車していたら、サベージに遭遇して攻撃を受けた。怪我人は今のところ居ないけどな」

 

 

『何ですって!?』

 

 

「おそらく、この前の戦闘で見つからなかったサベージの一体だろう」

 

 

俺はサベージの詳しい形態の情報や現在地の詳しい座標を冷静にクレアに説明していく。電話の向こうではクリスやエリカが突然のサベージの出現に慌ただしく対処していた。

 

 

『なるほど……分かりましたわ。ハチマン、貴方は如月ハヤトと協力してサベージの討伐、もしくは時間稼ぎを頼みますわ。今、そちらに近くの武芸者を応援に向かわせていますから』

 

 

「了解だ。じゃあ、後でな」

 

 

そう言って俺はクレアとの連絡を切断する。さて、クレアは時間稼ぎとか言っていたが、如月と俺なら討伐だろうな。応援に来た武芸者には申し訳ないかも。

 

 

「比企谷先輩、避難は無事終わりました」

 

 

「よし。如月、ハンドレッドの使用許可が下りた。クレアの話だと、応援の武芸者が来るらしいが、ここで俺達が討伐するぞ。準備は良いな?」

 

 

丁度良いタイミングで如月が報告をしにやって来たので、クレアからの連絡を伝え、俺は如月に戦闘の意思を確かめた。

 

 

「は、はい。ですが……」

 

 

「ん?……そうか、そうだったわ」

 

 

如月は何やら困った様子で俺の問いに返事したので、如月の方を向いたが、俺は如月の今の状態を思い出した。そうだ、如月はヴァリアブルスーツ無しでのハンドレッドの使用は初めてだったな。

 

 

本来、ヴァリアブルスーツ無しでのハンドレッドの使用はリトルガーデンの一年生では習わない実習だ。一年生はハンドレッドに適応するのが最優先で、戦闘訓練は二の次だからな。そのため普通の一年生だとハンドレッドはヴァリアブルスーツを着ないと使用できないと考えてしまう。

 

 

「如月、本来ならもっと後で教える内容だったが、事態が事態だから先に教えておくわ。ハンドレッドはヴァリアブルスーツ無しでも使用は可能だ」

 

 

「え、そうなんですか?」

 

 

「ああ。武装は普段通りに顕現は可能だが、ヴァリアブルスーツが無いから防御力はほぼ皆無だ。エナジーバリアを張らずにサベージの攻撃なんか受けたら即死だ。それでも戦うか?」

 

 

「は、はい!やります!」

 

 

そう言って如月はハッキリと返事をした。

 

 

「よし、行くぞ……ハンドレッド・オン!」

 

 

「ハンドレッド・オン!」

 

 

そう言うと、俺達のハンドレッドは輝き、俺の黒服はヴァリアブルスーツへと変わり、その上から黒い装甲が顕現していく。如月の方もハンドレッドの赤い光から、彼の武装である一本の刀、飛燕が右手に出現した。ヴァリアブルスーツを着ていないため、服は制服の状態だが。

 

 

「如月、あいつが攻撃をした瞬間に一気にコアに全力の攻撃を叩きこむぞ」

 

 

「はい!」

 

 

俺は影から如月の飛燕に近い黒い刀を取り出し、如月は飛燕を改めて握りしめる。すると、サベージが頭部にセンスエナジーを溜め、砲撃の準備をする。

 

 

「今だ!!左右から叩きこむぞ!」

 

 

サベージが砲撃の準備を終え、濃密な光線を俺達の方に放った瞬間、俺と如月はお互い左右にジャンプして回避し、サベージのコアに近付いた。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

「影斬・絶影羅刹(ぜつえいらせつ)!!!」

 

 

如月の飛燕による赤い斬撃と俺の黒い刀による奥義がコアを守るシェルターと共にコアを木っ端微塵に切り刻み、サベージの活動はやがて静止した。

 

 

「やりましたね。比企谷先輩」

 

 

「ああ……そうだ…な……!!?」

 

 

サベージを倒したことで如月やサクラ達避難した皆も安堵していたが、俺はある気配を感じて警戒体制を再び整える。

 

 

「比企谷先輩?」

 

 

影の縛り(シャドウ・スパイダー)!」

 

 

俺は咄嗟に影の縛りを発動させて、気配のあった方に細く黒い糸のような影を延ばしていく。

 

 

「如月、どうやらまだのようだ」

 

 

「えっ?……これって!?」

 

 

如月の視線の先にあったもの、それは先程とは別のサベージが俺の影に拘束されて苦しそうに暴れている姿だった。

 

 

「まさかこのサベージも?」

 

 

「ああ、おそらく前回の戦いで姿を現さなかった未確認のサベージの一体だろうな」

 

 

如月に説明しながらサベージを拘束しているが、これも時間の問題である。

 

 

「比企谷先輩!サベージが砲撃を!」

 

 

「ちっ!しかもあっちはライブ会場の方じゃないか。やらせるわけにいくかよ!」

 

 

影の糸を手繰り寄せて、何とかライブ会場への砲撃を回避しようとするが、サベージが抵抗してなかなか思うようにいかない。

 

 

くそっ!ここまでか…そう思った瞬間、

 

 

 

ドンッ!!!

 

 

 

大きな砲撃音と共にサベージの頭部が爆発したのだ。これには俺や如月も驚いた。

 

 

俺と如月はその砲撃が発せられた方を見ると、そこには三人の見慣れた姿があった。

 

 

「お二方、大丈夫か?」

 

 

「フリッツ!それにレイティアとエミールまで!」

 

 

如月が嬉しそうに彼らの名前を叫ぶと、三人は俺達の所まで素早くやって来た。

 

 

「三人共、どうして?」

 

 

「おそらく、クレアが話していた応援とはこいつらのことだろう。そうだろ?」

 

 

如月の疑問に答えながら三人に確認すると、首を縦に振って頷いた。

 

 

「比企谷先輩、そろそろ厳しいんですよね?」

 

 

そう言いながら、フリッツは俺に訊ねた。そうか、気付いていたのか。

 

 

「ああ、日が暮れた上にこの荒野だ。影がなかなか無くてなかなか厳しかったんだ」

 

 

だからこそ、最初のサベージを倒した時は短期決戦で勝負を決めようとしたわけだが。

 

 

「でしたら、俺達4人にやらせてくれませんか?」

 

 

「それはつまり、4人だけであのサベージを倒すというのか?」

 

 

ふむ、確かに実践経験は大事だし、サベージとの戦闘が初めてのフリッツとレイティアの能力を見極める事が出来る。だが、この4人はヴァリアブルスーツを着ていない状態だ。万が一、死なれたら最悪だ。

 

 

「分かった。如月やエミールもいるし、あのサベージは4人で試しに倒してみろ。俺はバスの乗客を守りながら、お前らの援護をする」

 

 

「「「「はい、分かりました」」」」

 

 

そう言って四人は改めて武装を握りしめてサベージの方を向き、俺は武装を銃に変えてサクラ達の方に向かって走っていく。

 

 

さて、この一ヶ月近くで武芸者としてどこまで成長したか、俺に見せてもらおうか。

 

 

 

 

 

 




ゴールデンウィーク中は休みなので、なるべく多くの作品を書きたいですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VSリジェネレーター

 

 

 

「てやぁぁっ!!」

 

 

レイティアが地面を蹴り、サベージの胴体部分に与えた素早い拳による攻撃によって如月四人とサベージの戦闘に火蓋が切っておろされた。

 

 

けれども、レイティアの攻撃はサベージに対しては無傷で、サベージは大きな鋏を振りかぶり、レイティアに反撃しようとする。

 

 

「おっと!」

 

 

だが、レイティアもサベージの反撃を見極められない生徒ではない。彼女のセンスエナジー量は彼ら四人の中では一番低いものの、それを補うように彼女には俊敏な動きを可能にする抜きん出た身体能力がある。レイティアはサベージの反撃を軽々とかわし、サベージから離れて体勢を整えた。

 

 

「くっ!やはりエミール達と違って汎用型のハンドレッドでは威力が足りないか。だったら……」

 

 

レイティアは素早く地面を蹴り、サベージの腹部分に潜り込んで彼女の重い拳によるハンドレッドの一撃を腹部分に連発する。

 

 

それによりサベージは苦しそうな声をあげながら、両手についている鋏でレイティアを攻撃しようとするが……

 

 

「させないよ!」

 

 

「エミール!やるぞ!」

 

 

ノーマークだったエミールとハヤトが白い剣と飛燕をそれぞれの手で握り、二人の繰り出す斬撃がサベージの鋏を切り落とす。

 

 

「とどめだ!フリッツ!」

 

 

「はいよ。これでフィニッシュだ!」

 

 

ハヤトの一声に反応したフリッツがサベージにスナイパーライフルの照準を合わせて、スナイパーライフルの銃口からセンスエナジーによるエネルギー弾をサベージに向けて発射した。

 

 

「ナイスショットだ、フリッツ!」

 

 

フリッツの一撃にサベージが倒れ、レイティアがフリッツに手でピースをしていると、戦いに巻き込まれないようにサクラや乗客を守っていた八幡が四人の元にやって来た。

 

 

「四人共、見事なコンビネーションだった。まさか、俺の援護も無しにここまでやるとはな」

 

 

憧れの先輩である八幡の称賛の言葉を聞いて四人は嬉しそうにしていたが、戦いはまだ終わりではない。

 

 

「さて、後はあのサベージのコアを破壊するだけだが、レイティアやフリッツが使う汎用型のハンドレッドでは厳しいだろう。エミール、やってくれ」

 

 

「了解、ハチマン先輩!」

 

 

そう言うと、エミールは動けなくなっているサベージに対して白い弓を向けて、コアに青い矢を放とうとする。

 

 

だが、そこで誰もが予想していなかった出来事が起きてしまった。先程までぐったりとしていたサベージが突然赤い光を放ったのだ。

 

 

「ぐっ……何だったんだよあの光……な!?」

 

 

「うそ……だろ!?」

 

 

サベージから放たれた赤い光が治まり、五人が見たもの、それは切断された腕が再生されていたサベージの姿だった。エミールやハヤトはそれに驚いていたが、八幡だけはそれを見て何かを納得していた。

 

 

「なるほど、リジェネレーターか」

 

 

「リジェネレーター……それって確か、再生能力の持つサベージですよね?」

 

 

八幡の言葉にハヤトが反応する。

 

 

「その通りだ、如月達はつい最近リジェネレーターについて座学生で勉強したんだったな。確かにリジェネレーターは厄介だが、あの再生能力は無限に行えるものじゃない。あの再生能力は核が発生源だ。つまり……」

 

 

「サベージの攻撃を掻い潜って、核を一撃で破壊する攻撃をすれば倒せるだよね?」

 

 

そう言ってエミールは八幡の方を向く。

 

 

「ああ、核に攻撃をするのは如月が適任だろうな。その他三人は俺と如月のバックアップだ。通常型ならお前だけに任せようと思っていたが、リジェネレーターが相手なら俺も参戦しよう。あまり戦力にはならんけどな」

 

 

そう言いながら、八幡は影から黒い刀を片手に生成し、サベージに向かい合う。

 

 

「行くぞ!」

 

 

八幡の声と共に五人は一気に散開した。

 

 

「これでも食らいな!」

 

 

「とりゃあぁぁ!」

 

 

フリッツとレイティアがサベージの側面に回り込み、サベージの足にそれぞれの武装による攻撃を食らわしていく。それによりサベージが体勢を崩した瞬間に、ハヤト、エミール、八幡はサベージのコアがある部分近くに一気に近付く。

 

 

「ハヤトの邪魔はさせないよ!」

 

 

「如月、お前はコアだけに集中しろ!」

 

 

ただサベージの方もそう簡単にやられまいと、再生した両手の鋏でハヤト達の妨害をしようと攻撃をしかけるが、エミールと八幡による斬撃により、鋏は切り落とされて攻撃は失敗に終わってしまう。

 

 

「はあぁぁぁ!!!」

 

 

その隙にハヤトは飛燕にセンスエナジーを込めて、核まで残り一メートル近くまで近付くが、そこで思いもよらない事が起こってしまったのだ。なんと、八幡達が切り落とした筈の鋏が片手だけ再生し、ハヤトを襲おうとしていたのだ。

 

 

「は、ハヤト!!危ない!!」

 

 

「あのサベージ、片手だけに再生能力を集中させて再生するスピードを早めたのか!?」

 

 

エミールや八幡達は必死に呼びかけるが、鋏の一撃は絶対絶命の位置にある。全センスエナジーを飛燕に込めたハヤトはエナジーバリアも使えない。攻撃を受ければ、大ケガは免れないだろう。

 

 

(くそっ。ここまでか……)

 

 

ハヤト自身も身の危険を覚悟した瞬間……

 

 

「やめてっ!」

 

 

絶対絶命のハヤトの姿を見たサクラが悲痛な叫びをあげ、それと同時に驚くべき事が起こったのだ。サベージがサクラを向き、攻撃を止めたのである。

 

 

その時、八幡はサクラと過ごしてきた時からずっと推測していた事を難しい顔で考えていた。

 

 

(サクラの歌はサベージの体液を摂取した人に何かしらの反応を与えるのは知っていたが、まさかサベージにも影響があるとはな。確かにサベージの体液を摂取している共通点を持っている以上、理論上はサベージにも影響があるだろう。なら、今までサクラのライブが始まる前や終わる前にサベージが発生したのは……)

 

 

「今だ!うおぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

八幡がそう難しく考えていた間、絶対絶命の危機を乗りきったハヤトはこのチャンスを逃すまいとサベージの核に対して飛燕を大きく振りかぶった瞬間……

 

 

「悪いな兄ちゃん、こいつは俺達の獲物だ!」

 

 

「えっ!?がはっ!!」

 

 

突如、サベージの背後からヴァリアブルスーツを着た褐色肌の少年が現れ、飛燕を握っていたハヤトに少年が武装であろうツインブレードで攻撃を食らわしたのだ。

 

 

それによりハヤトは地面へと叩きつけられ、ハヤトを攻撃した少年をエミール達は睨み付ける。そんな中、少年の正体を唯一知っている八幡は少年に声をかける。

 

 

「お前は……やはり来ていたか」

 

 

「久しぶりだな。影の働き手」

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三人組の密猟者

八幡side

 

 

あいつ……目撃情報が無いからまさかとは思っていたが、やはり来ていたか。ということは……

 

 

「くっ……比企谷先輩、彼はもしかして……」

 

 

声がした方を向くと、そこにはサクラに肩を借りながらゆっくりとこちらに近づく如月の姿があった。あいつのブレードの攻撃を受けていたが、骨が折れている様子もなく見た感じだと軽傷だった。

 

 

「ああ、俺が前にツヴァイ諸島の廃坑で戦闘した密猟者だ。恐らく残りの二人も……」

 

 

俺が如月や密猟者について何も知らないエミール達に軽く彼らに説明をしていると、少年の背後から眼帯をしたあの物静かな少女が現れた。

 

 

「ハチマン先生、あの女も?」

 

 

「気を付けろよ。彼女のハンドレッドは俺やお前のハンドレッドと同じくらい異質だ。俺の予測だと彼女のハンドレッドの能力は……」

 

 

エミールに訊ねられ、彼女のハンドレッドについて説明をしようとした瞬間、彼女は如月の方を向き、右目の黒い眼帯から黄金色に輝く瞳を見せた。

 

 

「……ハンドレッド・オン」

 

 

小さな声で呟き、ハンドレッドを起動させると、彼女の手には如月の飛燕に似た黒い刀が顕現した。彼女はそのままリジェネレーターの元にジャンプするが、鋏はすでに回復しており、サベージは彼女に攻撃をしようとする。

 

 

だが、少女はそれを意図も簡単にかわし、刀で再び鋏を両断してサベージの核がある部分に攻撃を繰り出す。だが、彼女の攻撃は核を守るシェルターは破壊したものの、コアには刃が届かなかった。

 

 

「……能力解放(リミット・アウト)

 

 

しかし、彼女はそれに動じず、無表情な顔でサベージの核に刃を突き刺して攻撃を続ける。すると、先程あの少女が発した言葉のせいか、強さが上がっている気がする。何故なら、あの少女の攻撃が見ている内に核の内部にも侵食しているからだ。

 

 

「……おしまい」

 

 

そう言って彼女がサベージの核に刺さっていた刃を抜くと、コアは輝きを失い、蛍光色のサベージの体液が吹き出し、サベージが物言わぬ死骸となった。

 

 

だが、これで終わりではなかった。彼女はそのままサベージに刃を突き刺し、まるでコアを切り抜くかのように何度も核の周囲を突き刺し続けたのだ。

 

 

「おい……何だよあれ」

 

 

その光景を見て、如月達も絶句していた。サベージの体液を被りながら、サベージの体に何度もぐさり、ぐさりと生々しい音を立てながら刃を突き刺していく。仕事上、多くの武芸者に会ってきたが、ここまでおぞましく狂気的な倒し方をする武芸者を見たことがない。

 

 

「おい!やめるんだ!そんなにサベージの体液を浴びたらウイルスに感染してしまうぞ!」

 

 

「………………………」

 

 

おぞましい光景を見て、レイティアは彼女に注意をするが、それでも彼女は止めなかった。むしろ、レイティアに向けてサベージの体液を舐める仕草を見せたのだ。

 

 

「くそっ!やめろと言っているのに!」

 

 

「待てっ!レイティア!」

 

 

レイティアは地面を蹴り、彼女の奇行を止めようと接近しようとする。俺はレイティアを止めようとするが、間に合わなかった。あいつらには仲間がもう一人……

 

 

「おい、お前!ネサットの邪魔をするなよ!」

 

 

俺の予想通り、もう一人の仲間である二つのリングを武装として扱う好戦的な性格の少女がレイティアを遮るように現れた。彼女はリングの一つをブーメランのように投げ、レイティアの体に当てた。レイティアは彼女の攻撃を受けて地面に叩きつけられてしまった。

 

 

「くそっ!よくも俺の後輩に!」

 

 

俺はすかさず、レイティアに攻撃をした少女に影で作った刀で斬りつけようとするが、それをツインブレードを持ったあの少年に阻まれた。

 

 

「お前の相手は俺だよ、影の働き手(シャドウ・ワーカー)。ヴィタリーから聞いたぜ、お前は影が無い環境だと弱体化するんだろ!」

 

 

くっ!まさか、俺の弱点がこいつらに知られているのか!?だとしたら、かなり分が悪いな。

 

 

「……どうやら、お前達の裏にヴィタリーが絡んでいるのは間違いないようだな。だったら教えて貰おうか!ヴィタリーが今どこにいるかをな!」

 

 

「はっ!俺を倒したら、教えてやっても構わないぜ。それは無理だと思うけどな!」

 

 

「くっ!?」

 

 

少年の瞳が彼に共鳴するかのように黄金色になると、彼の強さが先程より格段に上がり、ツインブレードで俺を弾き返した。

 

 

「くそっ……」

 

 

「やはりヴィタリーが言っていた通り、お前の力は影が少ない夜だと厳しいようだな。確信したぜ」

 

 

少年が指差す方を見ると、そこには先程の攻撃で弾き返されたボロボロの俺の黒い刀があった。やはりこの時間になると、影の能力を使うのは厳しいな。

 

 

「どうやら、お仲間も脱落のようだぜ」

 

 

少年が余裕そうに話している背後では、先程まで二つのリングを使う少女と戦っていたレイティア、フリッツ、エミール、如月だったが、すでに勝負は決しており、四人は地面に膝をついていた。

 

 

ヴァリアブルスーツが無い事や俺の活動条件が悪いと不幸が重なっているとはいえ、ここまで戦力差があるとはな。特殊なハンドレッドの武装による恩恵もあるが、それに加えて彼らは連携攻撃といった戦闘経験もかなり豊富に見える。

 

 

「さて、全員やられた事だし、ついでにお前らのハンドレッドも戦利品として頂こうか」

 

 

そう言って少年が俺に近付いた瞬間……

 

 

「まだだ!」

 

 

影の一突き(シングル・ブレイク)

 

 

俺は先程、少年と会話していた際に最後のセンスエナジーを振りしぼって隠れて顕現させたツインブレイカーにシャドウフルボトルを差し込み、少年の体に拳による一撃を食らわせた。

 

 

「がはっ!?何っ!!」

 

 

油断していた少年はそのまま吹き飛ばされ、二つのリングを持った少女の近くに転がった。

 

 

ふぅ、このシャドウフルボトルは戦いの前に俺がセンスエナジーを込める事で意味を成す、要は携帯電話とかの充電式の予備バッテリーのようなものだ。そのため、あらかじめセンスエナジーをこれに補給しておけば、戦闘でセンスエナジー不足で困った際に、こういう場面を乗り切る事が出来るわけだ。今回は不意打ちだったけどな。

 

 

「ちっ、流石は影の働き手だ。まさか、こんな状況でも俺達に歯向かう力があるとはな」

 

 

少年はそう言ってこちらを睨んでいるが、かなり余裕が無いように見える。それもその筈、あいつの武装には先程の攻撃でヒビが入っていた。

 

 

「くっ……ナクリー、撤退するぞ」

 

 

「はぁ!?なに言っているのよ、クロヴァン。私とあんた、それにネサットがいれば、あいつらなんて簡単に倒せるのよ。どうして!?」

 

 

「……センスエナジーの塊が多く近付いている。恐らく、リトルガーデンの増援だろう」

 

 

「っ!?……そういう事ね」

 

 

ほう、あのクロヴァンとかいう少年は周りが見えているようだな。それにあのナクリーという少女も好戦的な性格だったが、引き時は弁えているらしい。

 

 

「今日の所はこのサベージのコア二つで見逃してやるよ。命拾いしたな!」

 

 

そう言ってナクリーという少女はネサットと呼ばれた眼帯の少女からサベージのコアを受け取り、崖の上に他の二人と移動した。

 

 

「待て、どうしてコアを持っていくんだ!」

 

 

ナクリーに対してレイティアが大きな声で叫ぶと、ナクリーは侮蔑するように答えた。

 

 

「……本当に何も知らないようだな。詳しい事はそこの影の働き手にでも聞けよ」

 

 

そう言い残すと、黒いヴァリアブルスーツを着た三人組は崖の向こうへと消えていった。

 

 

「……ハチマン先生、追う?」

 

 

誰もいなくなった崖の方を向きながら、エミールが俺に訊ねた。

 

 

「いや、やめておこう。あれだけの戦力差を見せつけられたら、今の状況では勝ち目がないだろう。ひとまずはリトルガーデンに帰還しよう」

 

 

 

こうして、突然の密猟者との戦闘は終わりを告げた。だが、その戦闘は圧倒的な戦力差での敗北だった。次に会った時は、如月達も彼らに対抗出来るほどまで強くしないとな。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

敗北の報告

 

 

八幡side

 

 

密猟者との戦いの後、俺達は増援にやってきたリトルガーデンの関係者と合流し、リトルガーデンまで大型の治療バスで帰ることになった。俺はヴァリアブルスーツを着ていたからそこまでの怪我はしていなかったが、如月達四人はほぼ生身の姿で戦っていたので、医療班に念入りに治療されていた。

 

 

サクラはというと、俺達と別れて一足先にライブ会場に戻って行った。今回の件を受けて、リハーサルは先延ばしになったものの、スフレさんやライブ会場のスタッフさんに心配させないように、早く帰ろうとしたのだろう。俺としてはライブ会場までも身内として護衛したい気持ちはあったが、クレアに監督としての報告義務があった。そこで、俺が信頼する武芸者数人に声をかけて彼女の護衛をしてもらった。万が一、サクラに手を出したら半殺しにすると言いながらツインブレイカーを振り回す姿を見せると、顔を青くして頷いていたので大丈夫だろう。

 

 

 

 

そんな経緯もあり、俺達は現在リトルガーデンの生徒会室に集まっていた。その他のメンバーとしてはクレア達生徒会のメンバーとクリス、それにシャロやその助手のメイメイが揃っていた。

 

 

「さて、全員が集まったことですし、本題に移りましょう。ハチマン、報告をお願いしますわ」

 

 

「ああ、分かった」

 

 

クレアにそう言われ、俺はツヴァイ大峡谷で起こった出来事を生徒会長室にいる全員に伝えた。未確認だったサベージに遭遇したこと、密猟者の三人組に遭遇したこと、そして彼らに敗北したことだ。

 

 

「まさか、ハチマンを含めた五人が負けますとはね……彼らの実力を少し舐めていましたわ」

 

 

「けど、今回の戦いはハチマンにとってかなり不利な状況だったじゃないか。それに如月君達もハンドレッドに触れて一ヶ月ぐらいだ。戦い慣れしたヴァリアントを相手にするなんてかなり無理があったとボクは思うよ」

 

 

報告を聞いて、生徒会長室にある大きな机で深刻そうな顔でクレアが話すのを、シャロが淡々と説得するかのようにクレアに話していた。

 

 

「すまない、俺がしっかりしていれば……」

 

 

「別にハチマンが謝ることではありませんわ。サベージと密猟者に襲われたにも関わらず、一年生の四人や民間人に何の被害もなく切り抜けただけでも十分ですわよ。個人的な反省は後にして、今は今回起こった出来事を整理しましょう」

 

 

謝る俺に一言をかけたクレアは引き出しから資料を取り出し、話を続ける。

 

 

「実は如月ハヤトとハチマンには話したのですが、実は先日のツヴァイ諸島での戦闘の際に行方不明のサベージが三体いましたの。その内の二体は貴方達が戦った個体ですが、先程最後の一体が死骸として荒野で発見されたとツヴァイ諸島の総督なら連絡を頂きました。その死体のコアもやはり同じ手口でくり抜かれていたようです」

 

 

引き出しから取り出した資料をクレアから受け取ると、そこにはコアが人為的にくり抜かれていた一体のサベージの写真が載っていた。

 

 

犯行は刃物などによるもの……か。十中八九、あのクロヴァンという少年か、あのネサットと呼ばれていた眼帯の少女によるものだろう。まさか、未確認だったサベージを横取りされた形だとはいえ、あいつらに全て倒されるとはな。

 

 

「そう言えば、ハチマン。彼ら密猟者と二回戦った貴方から見て、彼らの戦力についてどう思ったか私達に教えてくれませんか?詳しいハンドレッドについても」

 

 

クレアにそう訊ねられて、俺は静かに頷く。またいつ彼らと遭遇するか分からない。詳しいハンドレッドの能力などを聞いてクレアとしては急いで対策を練りたいのだろう。

 

 

「まず、あいつらのハンドレッドについてだ。リーダー格のクロヴァンとかいう少年はツインブレードのような武装を扱うハンドレッドだ。力の強さでいったら、彼らの中で一番だな」

 

 

如月とも互角に戦っていたし、身体能力もかなり高い方だ。真っ正面から戦ったら、大抵の奴は力負けしてしまうに違いない。

 

 

「次のナクリーという少女のハンドレッドだ。彼女のハンドレッドは二つのリングを使い、チャクラムのように投擲攻撃をしたり、そのまま至近距離に近付いて攻撃することも可能だ」

 

 

バランスの良い中距離での戦いにおいてでは、彼女が彼らの中で分があるだろう。かなり扱いにくそうな武器ではあるが、彼女にはそれを使いこなす技能があり、彼女も油断してはいけないだろう。

 

 

「最後にネサットという眼帯の少女のハンドレッドなんだが………」

 

 

彼女のハンドレッドについてなんだが、今回の戦いである程度その能力に予想がついた。もしその予想が合っていれば、俺のハンドレッドと同じくらい厄介なものだ。

 

 

「どうしましたの?歯切れが悪いですわね」

 

 

「ああ~…実は彼女のハンドレッドの能力なんだが、大方予想がついているが、まだ二回目の戦闘で確証が無くてな。……俺の予想だが、彼女のハンドレッドは敵味方のハンドレッドをコピーする能力だ」

 

 

「コピーする能力ですって!?」

 

 

それを聞いてクレアは驚きを隠せないような顔をした。もちろん、リディ達他の生徒会のメンバーや如月達も同じような顔である。

 

 

そんな状況の中、シャロが俺に訊ねてきた。

 

 

「成る程、コピーするハンドレッドか。ボクも聞いた事が無いから驚いたが、どうしてハチマンはそうに違いないと思ったんだい?」

 

 

「一回目の戦闘では武装を交替させながら戦っていたからエミールと同じイノセンス型だと思っていたが、今回の戦いで彼女が如月の飛燕とそっくりのものを顕現させたから、この推測に至ったわけだ」

 

 

もしそうだとしたら、あの廃坑の戦闘で武装を交替しているように見えたのは俺が影から武装を取り出していたのを、彼女が単に俺の武装を瞬時にコピーしていたことになるんだよなぁ。なんだか複雑な気分だ。

 

 

「で、彼らと戦ってみた俺の個人的な感想だが、あれを簡単に倒すのは厳しいだろうな。一人一人のハンドレッドの能力が優れている上に、チームワークは一流のものだから」

 

 

まぁ、俺は一度彼らを一人でボコボコにした経験はあるが、今日みたいな状況だとな。

 

 

「……成る程、分かりましたわ。そちらについては改めて私も整理した上で、対策を練りましょう。他に誰か意見がある者はいますか?」

 

 

クレアが周りを見渡しながら訊ねると、エミールが見えるように手を挙げた。

 

 

「そう言えば、彼らはどうしてサベージのコアを狙ってなんかいるのさ?彼らの仲間が言うにはハチマン先輩が何か知っていると話していたけど、一体何の話なの?」

 

 

 

 

 




そろそろこの章も終わりですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

サベージのコアの秘密

 

 

八幡side

 

 

エミールがそう言うと、視線は一気に俺の方へ向けられた。これって俺が勝手に話しても良い事なのか?これはまだ多くの人には知られてはいけない情報だと思うんだが。

 

 

俺は助け船を求めるが如くクレアの方を見るが、クレアは威圧するかのように俺を睨み付けていた。話すなよってことですね、了解しました。だから、もう睨み付けないでくれ。

 

 

だが、そんなクレアの期待を裏切り、エミールの質問に答える人物が現れる。

 

 

「それはサベージのコアはヴァリアブルストーンの分子構造と同じ形状だからだよ」

 

 

「っ!?待ちなさい、シャーロット!この話はまだ一般学生の彼にはまだ………」

 

 

「こうなった以上、この話は遅かれ早かれ回避は出来ないだろう。彼らはもう当事者みたいなもんなんだ。それとも、子供には関係ないと、君の父や兄みたいな事を君も言うのかい?」

 

 

「それは……」

 

 

シャロにそう言われ、クレアは言いづらそうな表情を俺達に見せる。まさか、シャロが自分から話すとはな。俺も予想外の助け船でびっくりしたわ。

 

 

シャロの言葉にクレアが観念すると、シャロはそのまま如月達に話を続ける。

 

 

「さて、話を戻そう。サベージのコアがヴァリアブルストーンと同じ構造だというのは何を示すか。ヴァリアブルストーンの代わりにサベージのコアを使ってハンドレッドを作る事が可能だということだよ。実際、その技術はすでにワルスラーン社では確立されている」

 

 

そう、シャロの言う通りサベージのコアをヴァリアブルストーンと同じように加工する技術は確立されている。実際、材木座とリトルガーデンで初めて会った時にあいつはサベージのコアを加工していたからな。シャロの助手をしている以上、あいつは知っていて当然か。

 

 

「でも、どうして密猟者達はサベージのコアだけを持っていったんだ?サベージのコアについては分かったが、目的が分からないぞ?」

 

 

「そりゃ、ヴァリアブルストーンに代わるかもしれない資源だからな。ヴァリアブルストーンは国々での資源配分の調整を取り決めた協約があるが、サベージのコアに関してはまだ一部の関係者ぐらいしか注目すらされていないためその資源配分の協約はまだ整備されていない」

 

 

「ああ、それにサベージのコアはハンドレッドやヴァリアブルスーツを使う為の資源じゃない。サクラのライブにだってそれが使われているよ。そんな万能な資源をこの秘密を知った国や組織が何もしないわけが無いだろう?」

 

 

そう言って俺とシャロはレイティアの質問に答えると、如月達はあーと言ったような表情をした。

 

 

「けど、サベージのコアを生活に使うって…考えてみると、かなり気持ち悪いな……」

 

 

レイティアはそう言いながら、複雑そうな顔をしているが、彼女の気持ちが分からないわけではない。だが、サベージのコアは確実に人間の生活の向上に必要なものだ。人類史でも、生活の向上のために他の生き物を素材にした例は幾らでもある。ただ、それとこれは同じ事だと説明しても簡単に気持ちは変わらないだろう。

 

 

「レイティア、安心しろ。別に今からそれを利用するわけじゃない。生活に普及するのはまだこれからだ。それに、俺達のハンドレッドやヴァリアブルスーツにはサベージのコアは含まれてないからな」

 

 

そう言って俺がレイティアに説明すると、レイティアは安堵の息を吐いた。こうやって説明しないと、ハンドレッドやヴァリアブルスーツが着れなくなって困るからな。

 

 

 

 

その後も報告会は続いた。結果だけ話すと、まず如月はサクラのボディガードを外れることになった。まぁ、俺はまだ自分や他人を守るほどのセンスエナジーが残っていたのと個人的な気持ちで任を外されなかったが、如月は戦闘経験が浅いのが原因なのか、センスエナジーの消耗が俺よりも酷かった。こればかりは仕方がないと思う。

 

 

フリッツとレイティアは今回の戦闘と学内成績を鑑みた結果、セレクションズの一員になることが決定した。どうやら、俺の助言を聞き入れた上でクレアも最初から彼らに目をつけて近い内にセレクションズに入れる予定だったそうだ。ヴァリアントの如月とエミールが居なかったら、二人は成績一位、二位だからな。

 

 

それにより、フリッツとレイティアの専用のハンドレッドは今回の戦闘前から製造が始まっていたらしく、近い内に完成するそうだ。これにはフリッツとレイティアも子供のように喜んでいた。

 

 

ただ、その裏でエミールはがっかりしていた。理由は緊急時とはいえ、実践経験が浅いフリッツとレイティアを戦闘に巻き込んでしまい、クレアから罰として減給を食らったからだ。

 

 

ただ、今回はエミールが二人を連れてきたお陰で、戦闘も楽になった所は俺としてはあったと思う。後でクレアにバレないようにエミールに減給された分の額を渡しておくか。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ツヴァイ諸島復興ライブ当日

 

 

 密猟者達とのあの戦闘から二日が経ち、今日はリトルガーデンのツヴァイ諸島滞在最終日で、サクラの復興ライブの日でもあった。

 

 

 本来なら、新たにサベージが発生したため、ライブは延期される筈だっただろう。けど、サクラがスタッフさん達にお願いして何としてでもやって貰うことになったのだ。幸い、ライブ会場も壊されてないし、スタッフさんとしても彼女のお願いを断る理由は無いだろう。

 

 

………………

 

 

……………………………

 

 

…………………………………………

 

 

「八幡、着替え終わったわよ」

 

 

 そう言ってライブ衣装に着替えたサクラが彼女専用の楽屋から出てくると、楽屋の前でただ一人彼女の護衛をしていた八幡が彼女の方を向いた。

 

 

 ハヤトがセンスエナジー切れのために護衛を外れた今、彼女を個人的に護衛をするのは八幡だけである。ただ、今の八幡はサクラの護衛に人一倍の責任感と緊張感を持っていた。

 

 

 密猟者達はあの戦闘では手を引いたものの、まだツヴァイ諸島から撤退したとは思えない。今からでもライブ会場を襲撃する可能性があるかもしれないのだ。それに加えて、彼らはサクラの『声』にも興味を抱いていた。

 

 

 サクラの特殊な声に関しては八幡が信頼出来る人物であるシャーロットに既に報告していた。この件はまだ未確定な部分が多く、またサクラをワルスラーン社の人体実験に巻き込みたくないため、シャーロットとスフレを中心に個人的に調査をしてくれる事になったのだ。

 

 

 ただ、サクラの『声』に興味を持った密猟者達を逃した今、その事はシャーロットと同レベルの頭脳であるマッドサイエンティストのヴィタリーにも伝わっている筈だ。そうなれば、今度はサクラ自身にも危険が及ぶかもしれない。八幡は特にそれを案じていた。

 

 

「ああ、楽屋では何もなかったか?」

 

 

「ええ、大丈夫よ。八幡も心配性ね」

 

 

 そう言ってサクラは八幡の方を見て微笑んだ。サクラにとって家族であり、恋人でもある、八幡に心配されるのはとても安心出来る事だった。

 

 

「比企谷先輩!サクラ!」

 

 

 二人は呼ばれた方に振り向くと、そこには学生服姿のハヤトがこっちに近付いていた。

 

 

「おお如月、カレンちゃんは無事に会場に到着したのか?」

 

 

「はい、今はエミールとフリッツとレイティアに面倒を見て貰ってます」

 

 

「そうか、ところで何でここに来たんだ?警護はもう外された筈だろ?」

 

 

「サクラにお礼を言いに来たんです。カレンの分だけでなく、俺やエミール達の分までライブが見える良い席を準備して貰ったから」

 

 

「別に気にしなくて良いわよ。ハヤトくん達には十分お世話になったから。これぐらいは当然よ」

 

 

 そう言って三人はお互いに今回のツヴァイ諸島での三人の思い出を振り返るように談笑していた。このせいか、八幡の緊張感や警戒感は少し緩んだように見えた。

 

 

「そう言えば、サクラはライブが終わったら、ツヴァイ諸島を出発するのか?」

 

 

「そうね……明日はどうしても外せない音楽番組の収録があって、遅くても明日の朝には出発する予定ね。本当なら、ハヤトくんやカレンちゃんともう少しお話がしたかったのだろうけど」

 

 

 ハヤトの問いにサクラが名残惜しいように答えると、八幡は二人にある提案をした。

 

 

「だったら、俺とハヤトがカレンちゃんを連れてサクラが乗る飛行機がある空港にまで連れていくぞ。リトルガーデンが離岸するのは午後からだからな。朝はサクラを見送る時間はあるぞ」

 

 

「なら、空港で明日会いましょう!詳しい場所はライブが終わったら、PDAに送るわ」

 

 

「ああ、分かった。カレンにも詳しい事情は話しておくよ。それじゃあライブの前だし、俺は帰るよ。また後でな」

 

 

 二人に別れの挨拶をして、観客席に戻ろうとするハヤトにサクラは最後に声をかけた。

 

 

 

 『ライブのアンコールに()()()()()があるから、楽しみにしておいて』と。

 

 

 

……………………………

 

 

………………………………………

 

 

……………………………………………………

 

 

八幡side

 

 

『~~~♪♪~~~♪♪』

 

 

「お、始まったみたいだな」

 

 

 俺はハヤト達とは別の場所からサクラのライブを眺めていた。見てみると、観客席で如月達がぎこちないものの、ライブのペンライトを振っていた。カレンちゃん、なかなか容赦無いな。

 

 

『ハンドレッド・オン!!』

 

 

 サクラがステージでハンドレッドを展開すると、サクラの背中に妖精のような羽が生え、それに合わせてステージの背景も森の背景に姿を変えた。

 

 

『みんな!今日は楽しんでね!』

 

 

 そう言ってサクラはステージの上空を羽ばたきながら、彼女の持ち歌を歌い始めた。その姿に、初めてサクラのライブを見た者、サクラのライブを見たことがある者、全員が魅了され、彼女のステージに引き込まれていった。勿論、俺も例外ではない。何回もサクラのライブを見た俺でも彼女のライブに魅了されてしまう。

 

 

 それは決して彼女のヴァリアントの歌の力では無い。サクラの観客の気持ちに応えようとする気持ちこそがこのライブを作っていると俺は思う。サクラは家でも、ライブの演出などに一つ一つ真剣に向き合っていた。たとえ、そのライブが小さかれ、大きかれと彼女のライブの演出は今まで被った事が無い。それは観客に飽きないようにするためで、サクラなりに観客の気持ちに応えようとする形の表れだろう。俺は少なくともサクラと暮らしてきて、そうだと断言出来る自信があった。

 

 

………………

 

 

……………………………

 

 

……………………………………………

 

 

 やがて、サクラはライブの最後の歌を歌い終わり、暗闇に消えると、観客からはアンコールの声が響くように会場を包み込んだ。

 

 

 しばらくすると、ステージの中央部にスポットライトの光が照らされ、そこには巫女装束のような衣装をしたサクラが立っていた。

 

 

 それを見て、観客達の歓声は盛り上がるように大きくなるが、サクラがすぐにそれを静めた。

 

 

『これからアンコールで歌うのは今日、初めてライブで歌う曲……いえ、昨日出来たばかりの曲なの』

 

 

 それを聞いて観客の歓声はわき上がるが、サクラが話を続けると、すぐにまた静まり返った。

 

 

「サクラの昨日出来たばかりの新曲か。一体どんな歌なんだろうな」

 

 

 そう言えば、さっき如月にサクラが話しかけていたな。アンコールにプレゼントがどうとか、どういう意味なんだろうか。

 

 

『この歌は二度のサベージの襲撃から私達を守ってくれた人達に捧げます。聴いてください』

 

 

 そう言ってサクラは静かな音色と共にその新曲を歌い始めた。しばらく聞いていると、俺はその歌詞の秘密に気付いてしまった。

 

 

(これっ……ラブソングじゃん!!)

 

 

他人が歌詞を作っているならまだしも、恋人が作ると、何かを意識せざるを得ない。周りに如月達がいなくて、良かった~。

 

 

 

離れた席で一人赤面していた八幡を余所に、長かったライブはこうして幕を下ろした。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ

 

 

 ライブから一夜明けた早朝、八幡とハヤト、エミール、レイティア、フリッツ、カレンの六人と生徒会のクレア、リディ、エリカ、そしてシャロはサクラが乗る飛行機が停まっている空港に足を運んでいた。理由は勿論、サクラを見送るためだ。

 

 

 十人がサクラが乗る飛行機のの近くまでやって来ると、彼らの反対方向から走るようにやって来るサクラの姿とそれを追いかけるマネージャーのスフレの姿があった。

 

 

「みんな!昨日の最後のアンコール曲はどうだったかしら?」

 

 

「はい!サクラさんの新曲すっごく素晴らしかったです!ですよね、お兄さん?」

 

 

「ああ、良い曲だったぞ。なぁ、お前ら?」

 

 

 カレンと八幡の言葉にハヤト達はうんうんと頷いた。それを見て、サクラは子供のようにとても嬉しそうな表情をしていた。

 

 

 サクラがカレンちゃん達と話をしている間、その脇では彼らの様子を見て、やれやれと言ったような様子のクレアとサクラが楽しそうにしているのを見て、ひっそりと笑っているスフレが話をしていた。

 

 

「クレアさん、今回は警備等、色々ありがとうございました」

 

 

「こちらこそ、私を含めたリトルガーデンの生徒達をライブにお招き下さってありがとうございます。リトルガーデンの生徒会会長として心より感謝いたします」

 

 

 そう言ってクレアが礼をすると、サクラ達と話していた八幡が二人の元にやって来て、スフレに話しかけた。

 

 

「スフレさん、あの密猟者とヴィタリーの件は俺達に任せてください。もし可能だったら、コンサートで奪われたヴァリアブルストーンも取り返します」

 

 

「分かったわ。でも、無理しないようにね。あなたが怪我しちゃうと、サクラが心配しちゃうから」

 

 

 そう言いながらスフレは隣で楽しそうにしていたサクラの方を見る。その様子を見て、八幡も分かりましたと短く彼女の返事に答える。

 

 

 

 

 しばらくすると、パイロットだと思われる人がスフレに話しかけた。どうやら、出発の準備が整ったらしい。

 

 

「それじゃあ、みんな。また近い内にみんなに会えるのを楽しみにしてるわ」

 

 

 そう言ってサクラはハヤト達にお別れの言葉を言いながら、スフレと共に飛行機に乗り込もうとする。ハヤトとカレンは名残惜しそうにしていたが、彼女の言う通り近い内にどこかで会えるかもしれない。どこかで会えば、またサクラとお話が出来るだろう。

 

 

「じゃあな、サクラ。また暇が出来たら、リベリアにある家に顔を出すからな」

 

 

 最後に八幡がサクラに個人的なお別れの挨拶を交わすと、サクラはまるで何かを企んでいるような笑みで八幡に話しかけた。

 

 

「うふふ、そうね。また()()()に会いましょう、八幡。それじゃあね!」

 

 

「あ、ああ???」

 

 

 何だかやけに強調気味だったサクラの言葉に疑問を残した八幡を放置して、サクラはハヤト達に手を振りながら飛行機に搭乗する。

 

 

 

 こうして八幡達のツヴァイ諸島での長い四日間は幕を下ろしたのだった………

 

 

 

 

 

________________

 

 

………………

 

 

…………………………

 

 

…………………………………

 

 

 リトルガーデンがツヴァイ諸島を離岸してから三日が経った。俺?俺は今、寝てる最中だよ。クレアからツヴァイ諸島での仕事の休暇を貰ってさ。まぁ、あれだけ濃密な数日だったからな。流石の俺にも疲れは見えてくるものだ。

 

 

 さて、まだ朝の六時半だし、二度寝でもするか。武芸家の実習授業もないから、今日はこのまま明日まで寝ても良い『ピンポーン!!』……誰だ?

 

 

 いや、本当にマジで誰だ?こんな朝早くに一体誰が何の用でインターホンを鳴らすんだよ?普通に非常識だろ。葉山とかだったら、ハンドレッドを起動してそのまま生徒会に突き出すからな。

 

 

 俺はある程度寝癖を直して、玄関の方に向かった。全く……誰だよこんな時間に。そう思いつつ、俺はそのまま玄関のドアを開けた。そこにいたのは……

 

 

「やっほー!三日ぶりね、ハチマン!」

 

 

 

え……?サクラ……さん?

 

 

 

 




これで原作第二巻目の話は終了です!いや~、サクラが主役の話だからかなり延びちゃいました。
次回は原作三巻目の話に入る前に、少し閑話を入れようと思います。では、また次回会いましょう!感想やアドバイス等もいつでも受け付けています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話
サクラ入学



閑話編スタートです!


 

 

八幡side

 

 

「う~~~ん!!ホテルで食べる朝食も良いのだけれど、やっぱりハチマンの作る朝食が一番ね!」

 

 そう言って俺が作った朝食をサクラは何事もなかったような空気で食べていた。うん、その感想はとても嬉しいんだが、それ以前にサクラに聞きたい事があるんだわ。俺はそう思いながらテーブルに自分の朝食を置いて、サクラの向かい側に座った。

 

「なぁ、サクラ」

 

「ん?何かしら」

 

「どうしてリトルガーデンに来たんだ?ライブが終わった以上来る理由は無いと思うんだが?」

 

 サクラは今の所、ライブの予定は入ってないから、警護の依頼の線は薄いだろう。そうだとしても、依頼だったらサクラじゃなくてスフレさんが来るしな。ていうか、そもそもスフレさんが来てないってどういう事情だ?

 

「あー、実は私、今日からリトルガーデンに入学することにしたの」

 

「………………………はい?」

 

 それを聞いてサクラに訊ねた俺の口は開いたまま塞がらなかった。待って、俺の聞き間違いか?サクラがリトルガーデンに入学だと?

 

「待ってくれ。俺は何も聞いていないぞ。ていうか、入学には色々と書類の準備がいる筈だ。それはどうしたんだ?」

 

「ちゃんと書いたわよ。見てみる?」

 

 サクラに促されるままに俺はサクラから入学の書類を受け取った。うわ、本当だ。ガチじゃねーか。だがそんな中、俺はまだ印がつけられていない一枚の書類を見つけた。まさか、これ……

 

「サクラ、この書類って……」

 

「ああ、それね。ここの生徒会長さんが入学を認めるサインを書く書類よ。これに生徒会長さんが書いてくれたら、私もリトルガーデンの生徒よ」

 

 いやいや、クレアから入学を認めるサインを貰うってサクラの立場上かなり難しいじゃないか?渡した際に、クレアから反論されるのが想像できる。

 

「……ちなみに聞くが、スフレさんはこの事を知っているのか?」

 

「ううん、知らないわよ」

 

 マジ?アポなしでリトルガーデンに来たのかよ。だとしたら、不法侵入じゃねーか。クレアが反論する以前に怒られるのは免れないだろう。そう言えば、管制塔にサクラのファンのスタッフがいたな。きっと、サインか何かで買収されてサクラを通したに違いない。

 

「仕事は大丈夫なのか?リトルガーデンに通いながらだとサクラもキツいだろう」

 

「別に大丈夫よ。ライブが近くなってきたら、欠席するだげだし、ハチマンも同じような感じでしょ」

 

うっ……確かに言われてみればそうだな。返す言葉が見当たらない。

 

「……はぁ、サクラが入学したい理由は再会できた如月兄弟達と少しでも一緒に居たいからだろ。その気持ちは俺にも分かる。サクラが仕事も含めて大丈夫と言うのなら、クレアには俺から話をつけとく。その代わり、スフレさんにはしっかり連絡しとけよ。もしかすると、今ちょうど心配してるかもしれないからな」

 

「やったー!ありがとね、ハチマン!!」

 

 そう言ってサクラはPDAを取り出し、スフレさんにメールを打ち始めた。スフレさんは厳しい所もあるが、サクラの気持ちを誰よりも理解している人だ。最初は反論するかもしれないが、幸いリトルガーデンには俺がいるし、説得すれば許可してくれるだろう。

 

 さて、俺もクレアに話をする準備をしておこう。まずは住む場所だな。寮だと大騒ぎになるから、確実に俺の家になるだろう。空き部屋もあるしな。

 

 あっ!そうだった……サクラが編入する武芸家一年のクラスには葉山と由比ヶ浜と雪ノ下がいるんだったな。ツヴァイ諸島滞在中は先の一件でツヴァイ諸島に入れず、リトルガーデンで大人しくしていたらしいが、クラスであいつらに絡まれたりしたら面倒くさそうだな。とっとと、退学すれば良いのに。

 

 仕方がない。授業の基本はあいつらが参加出来ない実習の時間だけ如月達と参加する出来るようにしてもらうか。他の座学科目は俺が家庭教師みたいに家で教えるようにしよう。後はあいつらがサクラに接触しないようにクレアから警告して貰おう。よし、これならサクラの身には今の所危険が及ぶことは無いだろう。

 

 

 

 その後、俺はクレアに会うために生徒会長室に向かった。話をしたら、予想通り反論された。非戦闘員をわざわざリトルガーデンに入れるのはどうかってな。だけど、俺の必死の説得と後からやって来たシャロの後押しでどうにか許可してくれた。どうやら、シャロとしてもサクラの声を研究するためにサクラがリトルガーデンにいるのは好都合らしく、俺を助けてくれたようだ。

 

 

 こうしてサクラは正式にリトルガーデンの生徒になった。突然の出来事で武芸家のクラスは荒れるかもしれないが、何事も無いことを祈ろう。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

サクラ入学後のあの三人


久しぶりのアンチ回です。


 

葉山side

 

 

「なぁ、先日あのアイドルの霧島サクラさんがウチのクラスに入学したんだよね?だったら、俺にも彼女について教えてくれないかな?」

 

 そう言って葉山は同じクラスの男子達に笑顔で訊ねるが、彼らの顔には嫌そうな気持ち、面倒臭いなという気持ちが現れていた。

 

「知るかよ!!というか、何でお前ら問題児達に教えなきゃならないんだよ!!」

 

「そんな!!俺達は一緒のクラスじゃないか!クラスメイトなら、情報を共有しても……」

 

「クラスのチームワークを乱すような奴等がクラスメイトを語ってんじゃねーよ!どうせ、お前らに教えた所で問題しか起こさないだろ!みんな、こいつ放って向こうに行こうぜ」

 

 葉山と言い争っていたリーダー格の男子がそう言ってその場から離れると、他の仲間の男子達も葉山達から離れるように彼についていった。

 

「クソッ!!どうして………」

 

 友達(葉山が勝手に思い込んでるだけ)に裏切られ、葉山は悔しそうに唇を噛んでいた。

 

 

(もし霧島さんが入学してきたなら、彼女を俺達側に引き入れることが出来たのに。彼女はメディア関係に多く関わっているから世間への影響力はとても大きい。俺達が比企谷の悪事を彼女に伝えれば、きっと霧島さんはそれを聡明な考えの元で公表してくれる筈だったのに。授業もまるで俺や雪乃ちゃん達を避けるように別の場所で受けているそうじゃないか。これもきっと比企谷のせいだな。お前がそうやって偉そうにしてるのも今のうちだからな!!)

 

 

 

 

______________

 

 

雪乃&由比ヶ浜side

 

 

「ねぇ、貴女達。霧島サクラについて詳しく教えなさい。知っているんでしょ?」

 

「実は私とゆきのんと葉山君、霧島さんに一回も会えなくてね。どこに行ったら会えるかなぁって……」

 

 葉山がクラスの男子達と言い争っていた同時刻、別の場所では雪ノ下と由比ヶ浜が葉山と同じようにクラスの女子達に霧島サクラについて訊ねていた。もちろん、言うまでもなく訊ねられた女子達の顔は先程の男子達と同じような顔色だった。

 

「……雪ノ下さん、それが人に頼む態度なの?確かに貴女が私達より年上なのは知っているけど、それでも人には頼み方があるでしょ」

 

 まるで冷戦のような緊張感の中で、女子グループ内の一人の女子生徒が雪ノ下に指摘するように話し、周りの女子生徒数人も同意するようにうんうんと頷いた。

 

「今はそんな事どうでも良いわ。私はただ、霧島サクラについて聞いているの。余計な事に突っ込む前に早く要件を言いなさい。時間の無駄だわ」

 

「そうだし!知っているなら、早く教えるし!」

 

 だが、女子生徒達の思いは伝わらず、雪ノ下と由比ヶ浜は一方的に自分達の用件を通そうと話す。これには女子生徒達も怒りを通り越して、呆れた様子だった。

 

「……はぁ、私達は知らないわ。他の人に聞いたらどう?私達と話すのは時間の無駄なんでしょ」

 

 そう言いながら、先程の女子生徒はPDAを取り出して何かのメッセージを打ちながら、他の女子生徒達と共に雪ノ下達から離れていった。

 

 雪ノ下達には見えなかったが、彼女が打っていたメッセージは同じクラスのメンツの連絡網(雪ノ下達三人だけ入ってない)に送っていたもので、その内容は「三人に何を聞かれても無視をする」というものだ。八幡はサクラの件に関してあの三人をかなり警戒していたが、その心配はまったく必要なかったようだ。

 

 

「くっ……使えない人達ね」

 

 取り残された雪ノ下は彼女達の背中を見ながら恨めしそうにしていた。

 

「どうする、ゆきのん?」

 

「一度、葉山君の成果を待ちましょう。そこで、葉山君とある話について相談しようと思うわ」

 

「ある話?」

 

 そう言って由比ヶ浜は首をかしげ、雪ノ下は続けるように彼女に話をする。

 

「私達が来る前に彼女達が話していたのだけれど、今日の夜に比企谷君の家で何やらクラスのパーティーをするらしいのよ。そこに行けば、霧島サクラについて少しは情報を得られるわ」

 

「なるほど!流石ゆきのん!」

 

 

(比企谷君、霧島サクラを味方につければ、あなたはもうおしまいよ。私達がリトルガーデンで味わった屈辱を近い内に味わうと良いわ)

 

(ヒッキーのせいで、私達ツヴァイ諸島で遊べなかったんだから、その件も含めて今までの事を謝ってもらうし!後、なんでパーティーの事を私達に連絡しないし!友達なんだから、当たり前じゃん!)

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

入隊祝いと八幡のかつての仲間


もしかすると、オリキャラ入れるかもしれません……


 

 

八幡side

 

 

「うおー!すごい量の料理だな、フリッツ!」

 

「ああ、これ全て比企谷先輩が?」

 

「勿論だ。今日は思いっきり楽しんでくれ。今夜のパーティーの主役は二人だからな」

 

 俺がそう言うと、今夜のパーティーの主役であるレイティアとフリッツがはしゃぐようにテーブルの料理を取っていく。如月やエミールなどの他のクラスの皆の分までかなりの量を作ったが、あいつらがいるなら料理の残りは無くなりそうだな。

 

「他のクラスの皆も今日は二人に負けないように今日はゆっくり楽しんでくれ。今日は俺の奢りだ」

 

 それを聞いて、今日の主役であるレイティアとフリッツに遠慮していた他のクラスの皆も一斉に料理があるテーブルの方に群がって行った。

 

 

 葉山達が奔走した日の夜、武芸家1年の生徒(葉山と雪ノ下と由比ヶ浜以外)は広大な敷地がある八幡の家の庭に集まり、八幡主催のパーティーに参加していた。パーティーの理由はクラスからセレクションズとしてレイティアとフリッツが正式に加入し、二人専用のハンドレッドを生徒会から貰ったからである。

 

「それにしても、豪勢にやりますわね。ただ、セレクションズに選ばれただけですわよ」

 

 そう言って特別枠でパーティーに参加していた生徒会の会長のクレアがやれやれといった様子で俺に話しかけてきた。いや、そうは言うものの普通に俺が作った料理を持ってパーティー楽しんでるじゃねぇか。

 

「別に良いだろ。後輩のことを祝うのも先輩の仕事の一つだと言うからな」

 

 俺は生徒会から貰ったハンドレッドを見せびらかしながら、談笑している如月、エミール、レイティア、フリッツ、カレンちゃん、そしてサクラ達の方を見つめる。ツヴァイ諸島で会った仲でもあり、とても楽しそうで何よりだ。サクラも如月達以外の会ったことのない他の生徒ともすぐに仲良くなれたと言っていたので、良かったと思う。

 

 だが、セレクションズ入りしたことで、レイティアとフリッツは戦闘経験が多くなり、比例するように危険が多く伴う。それは如月やエミールもだ。

 

 軍人や武芸者、誰だって自分や自分の知り合いが傷つけば、悲しむ人がいるからな。だからこそ、ツヴァイ諸島での密猟者の件のようなことは繰り返さないつもりだ。もう誰も傷つけさせはしない。今、あいつらが笑っていられるような環境を誰よりも戦闘経験がある俺が守るんだ。それが俺の義務だ。

 

「……あいつらが今、足りないのは戦闘経験だよな。色々な場面に対応できるようにしたいんだが……」

 

 独り言のようにぼやいていると、クレアが俺にある封筒を渡して話し始めた。

 

「でしたら、これに行ってみてはどうです?」

 

「あ?何だ、これ?」

 

「一週間後に開かれる国連会議の招待状ですわ。会議の代表として私の兄が赴くのですが、警備をリトルガーデンから代表として一人選出しているのです。そこにはあなたのかつての同僚が出席していますわよ。久しぶりの再会も兼ねて相談してみたらどうですの?」

 

「同僚?……あー、あの人達か」

 

「ハチマーン、それ何の話?」

 

声のした方を振り向くと、そこには話に興味津々のサクラと如月達が俺の方に近寄って来ていた。

 

「俺が高校に入る前の武芸者時代のチームの仲間の話だ。確か今の如月達のような感じだったな」

 

「えっ…比企谷先輩にそんな時代が。てっきり、今みたいにソロでの活動が主流だと思ってました」

 

「まぁ、如月がそう言うのも無理は無いな。だけど、流石にソロだけで活動するのは無理があるだろ。当時、まだ中学生だったからな」

 

「ハチマン先生のチームの仲間って……もしかして、会長のこと?」

 

「いえ、私は入ってませんでしたわ。何故なら、ハチマンのチームは特殊部隊のような裏の仕事が専門でしたから。会社の社長の娘が裏の仕事をするのは会社としても無理があるでしょうから」

 

 エミールの質問に簡単に答えたクレアはそのまま俺のチーム時代について話を続けた。

 

「ハチマンが所属していたチームの名前は『ボーダーレス』。色々な国々や会社から優れた武芸者達を集めた少数精鋭の国連直属の部隊ですわ。今はもう解散してしまいましたけど」

 

「解散?どうしてなの、ハチマン?」

 

 そう言ってサクラは俺に訊ねた。

 

「武芸者には武芸者としての活動が出来る限界の時期のようなものがあってな。個人差はあるが、だいたい20歳前後だ。それがチームの数名に現れたんだ。ハンドレッドはまだ使えるらしいが、最盛期の頃のような戦闘は難しく、活動時間がかなり短くなってしまった。事実上の引退ってやつだ。後は……俺のことを含めた色々な諸事情だな」

 

「ええ、ハチマンのチームはそのような事情らで解散しましたが、解散後も武芸者に関わる仕事で働いている方は数名います。その内の二人が次の国連会議に警護として参加するのです」

 

「えっ……ちなみにその人達ってどんな人達なんですか?やっぱり国の直属のSPとか?」

 

「なわけないだろう、フリッツ。ハチマン先輩の同僚だぞ。もっとすごい人達に決まってるだろう!」

 

 俺の目の前でフリッツとレイティアがまだ見ぬ俺の同僚二人について言い争っていると、クレアはすぐにその答えを打ち明けた。

 

 

 

「……一人は現リベリア合衆国の防衛大臣、もう一人『神聖教会(ピューリタリア)』の教皇直属の聖騎士長ですわ」

 

 

 それを聞いた俺とクレア以外は予想外のビックネームで開いた目と口が塞がらなかった。まぁ、俺も総武高校に入る直前に最後の連絡をしたが、聞いた時は俺も如月達のように驚いていたから、人のことは言えないけどな。

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

その頃、八幡の家の近くでは……

 

 

「ねぇ、葉山君。あの人って……」

 

「ああ……間違いない霧島サクラさんだ。クソッ!!すでに比企谷の手に……」

 

(ヒッキー、まじキモいし!あんな胸も私より小さい女にデレデレと話してるとか、考えられないし!ヒッキーと仲良く話して良い女子は私とゆきのんだけだから、ヒッキーに近寄らないで欲しいし!)

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

国連会議と同僚との再会



今日は調子が良いので、もう一つ書いてみました。後、申し訳ないですが、明日から大学のテスト期間に入るため投稿ペースが低下します。少しずつ書いていき、完成次第すぐに投稿するので、よろしくお願いします。


 

 

八幡side

 

 

 あのパーティーから一週間後、俺はリベリア合衆国のニューヨークにある国連本部を警護対象のジュダルと共に訪れていた。

 

 それにしても、国連本部に来たのは何年ぶりだろうな。久しぶりすぎて謎の緊張感みたいなのがあるわ。それに比べてジュダルは慣れてる。週一に社交会みたいな生活は一生俺には無理だわ。

 

「それにしても、まさか比企谷君が警護として来てくれるとはね。今まではずっとクレアが来てたものだから、内心かなり複雑だったんだ。……けど、今回の警護の件を受け入れたのは単純な厚意じゃないよね。大方、会議よりはお仲間との同窓会が目的じゃないかな?」

 

 うっ……やっぱりバレてたか。流石に急に警護やりますって言ったら、誰でも不審に思うか。

 

「……ああ、そうだよ」

 

「フフッ、だよね。こんな自分の国や組織の武芸者の自慢大会みたいな場所に君がただで来るわけがないからね」

 

 ああ、その通りだが、国連会議のことをバカにしすぎだろ。確かにクレアも警護に当たる人物はそれぞれの国や組織が誇る人物で、警護に当たる人物は警護するためではなく、自慢をして戦力を見せびらかされるのが仕事だと言っていたが。うん、ハチマン次はもう参加しない。

 

 

_________________

 

 

 ジュダルと話しながらしばらく長い廊下を歩いていると、会議を行う大きな部屋の前に辿り着いた。部屋の前に着くと、国連の役員であろうスーツの男性がそのまま俺達を部屋の中に案内した。

 

 中にはまだ全員が揃っていないものの、各国の首脳達やワルスラーン社に並ぶ軍事企業の社長達が椅子に座っていて、彼らに警護として付き従う名が通った武芸者や政府関係者はその側で立ちながら待機していた。

 

「か、影の働き手!?……比企谷ハチマンがジュダル・ハーヴェイの警護だと!?」

 

 俺達が部屋に入ると、各国の首脳達や俺のことをよく知っている警護の武芸者達は驚きを隠せず、政治にあるあるの静かだった空気は一気にざわめく。そりゃ、今まではクレアだったもんな。急な趣向の変化で驚かないのは無理があるか。

 

 そんな空気の中でも、ジュダルは普段のような不気味な笑顔で自分の席まで向かい、俺もそれについていくように歩いた。

 

「さて、後は比企谷君も楽にしていいよ。会議までまだ始まらないようだしね」

 

 ジュダルにそう言われ、分かったと伝えると、俺は部屋の壁に寄りかかるように待機した。楽にしても良いと言われてたが、こんな状態じゃ無理だろ。他の首脳や武芸者達が俺を監視するかのように見てるじゃねぇか。ろくに部屋すらも出られねーよ。

 

 周りからの視線を気にしながら待機してると、向こうから黒服のスーツの男性がこっちにやって来た。その顔はチームの時代からは変わっておらず、俺が彼の方を向くと、笑顔で俺に話しかけてきた。

 

「ハチ君、久しぶりだね。まさか、君がリトルガーデンの警護として来るのは私も予想外だったよ」

 

「お久しぶりです、出水(いずみ)さん」

 

 

 この人はエリック・出水。かつてのチーム、ボーダーレスの前衛担当で、俺の先輩に当たる人だ。エリックという名前は彼がヤマト系リベリア人だからであるが、黒髪で顔もヤマト人寄りだから、チームでは全員が彼を出水さんと呼んでいた。

 

「あっ……今は出水防衛大臣でしたっけ」

 

「別に出水で良いよ。昔のチームメイトから肩書きで呼ばれると変な感じがする」

 

 出水さんは現在22歳で、武芸者を引退した今はリベリア合衆国の防衛大臣をしている。防衛大臣に選ばれたのはボーダーレスでの活動が認められ、推薦のような形でなったらしいが、その技量は素晴らしく『リベリア最後の砦』と噂される程だ。

 

「ところで、会議はまだ始まらないようですが、一体何処を待っているんですか?」

 

「どうやら、『神聖教会』の飛行機が気流の関係で遅れているらしくてね。そろそろ来ても良い筈だと思うんだが……」

 

 出水さんがそう言って答えていると、部屋のドアが開き、外から白い修道服を着た薄い金髪の女性とその傍らにいる白銀色の鎧の上に白いコートをきた黒髪の女性が腰に着けた剣ーー剣型のハンドレッドに手をかけて中に入って来た。

 

「遅れて申し訳ありません。気流の関係で飛行機が遅れてしまいまして」

 

 白い修道服を身につけた女性は申し訳なさそうに謝罪するが、ジュダルはもちろん、他の首脳達も何も咎めはしない。何故なら、この会議で異色の存在とも言える『神聖教会』は各国やワルスラーン社といった会社に対してかなりの影響力を持っているからだ。

 

 白い修道服の女性はすぐに指定された席に座ると、会議はすぐにスタートする。白い修道服の女性が座ったことを確認すると、側付きの聖騎士はすぐに俺達の元にやって来た。

 

「こんにちは、出水さん。それと数年ぶりかしらね、ハチマン。またあなたと会えて嬉しいわ」

 

 彼女こそが『神聖教会』のナンバー2。『神聖教会』に所属する武芸者達ーー聖騎士達を束ねる聖騎士長、坂梨(さかなし)里奈(りな)。俺と同い年で、クレアも凌ぐと言われる女性武芸者だ。

 

 

 






エリック・出水……仮面ライダーキバの名護啓介

坂梨 里奈……転スラの坂口ヒナタ

がモデルです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三人の同窓会


ごめんなさい、まだテスト期間中です 
駄文だったら、すいません。


 

 

八幡side

 

 

「やっぱり仲間との酒は旨いな!」

 

 そう言って普段のクールな性格から想像出来ないような様子で酒を目の前でぐびぐび飲んでいるのは出水さんだ。その隣では、対照的に少しずつ酒を飲んでいる里奈の姿があった。俺?里奈を見ると分かるように年齢的には大丈夫だが、味があまり好きじゃない。俺だけアイスココアだ。

 

 会議が終わった後、各国の代表や会社の社長達は晩餐会をすることになり、国連の近くにある五ツ星レストランに行くことになった。

 

 国連の施設の一つのため、警備はしっかりしているし、各国の代表達の大事な話を他の人が聞いたら困る、そんなわけで、俺達警護はその間、暇をもて余すことになったのだ。

 

 そんな経緯により、仕事から解放された俺は出水さんと里奈と共にヤマトの街並みを再現した地区にある居酒屋で同窓会のような会を開いていた。

 

「そうですね。普段はいつも二人で飲むのが当たり前になっていましたから。ハチマンが来てくれて、お酒も普段より数倍進むわ」

 

 そう言いながら、里奈も出水さんに負けず劣らず酒を口に運んでいく。里奈が酒を飲む姿は初めて見たが、出水さんと比べて酒は強い方なんだな。

 

「普段はいつも二人?他の元メンバー達とは会って食事とかしないのか?」

 

「そうね……私は神聖教会の仕事が忙しかったから、会うどころか、連絡もしてないわね」

 

「俺も会うことは難しいが、連絡だったらするぞ。ほら、ユウジロウとか」

 

 ユウジロウさんか……。確かにチームの前衛同士出水さんとはかなり仲が良かったからなぁ。

 

「へぇ~そうなんすか。今頃、他のメンバーは何しているんでしょうね?」

 

「さぁ……ただ、リベリアの防衛大臣をしている以上、風の噂では軽く活躍を聞いたりしているよ。ハチ君もリトルガーデンのデータ網で一度調べてみたらどうだい?」

 

 出水さんの言う通りだな。リトルガーデンに帰ったら、調べてみるとしよう。案外、近い所で活躍しているかもしれないからな。

 

 

………………………………

 

 

……………………………………

 

 

……………………………………………………

 

 

 近頃の近況や今の仕事についてしばらく三人で語り合っていると、里奈がある事を口にする。

 

「……ねぇ、ハチマン。今からでも、神聖教会に転属する気は無いかしら?」

 

「…………何だと?」

 

 待てよ。それってつまり、リトルガーデンから神聖教会に移籍するっていうことか?

 

「教皇のセリヴィアさんもハチマンの力は認めているし、入れば組織内での地位は私と同じになるわ。ハチマンがいれば、聖騎士達の皆も心強いと思うし、私としてもまたハチマンとパートナーとして仕事がしたいのよね……」

 

 顔を赤らめながらそう話す里奈だが、いきなり過ぎて考えがまとまらない。俺達の様子を見て、出水さんは何故か俺を見ながら頭を抱えているが、一体どういうことなのだろうか。

 

「待て里奈、どうしてそんな話になったんだ?」

 

 俺が訊ねると、代わりに先程まで何故か頭を抱えていた出水さんが答えた。

 

「……実は今、ワルスラーン社はリベリアを含めて多くの国に警戒されているんだ。正確に言えば、社長のジュダル・ハーヴェイだけどね」

 

「ジュダルが?どうして?」

 

「今、彼の元に集まる資金や資源の流れが変なんだ。まるで、何か焦っているかのように早くてね。今回の会議で話にあった『サベージ掃討作戦』を覚えているか?」

 

「確か、近々ヤマトの北の秦帝国にあるサベージの巣を国連主導で掃討する大規模作戦ですよね」

 

 この作戦にはリトルガーデンを初め、出水さんが主導のリベリア軍も参加することになっている。里奈が所属する神聖教会は里奈を含めた武芸者は出兵せず、資金援助する事になってるけどな。

 

「それをわざわざ国連を巻き込んでまで作戦を提案したのが、その()()()()なんだ」

 

「………マジですか?」

 

 それは初耳だった。普通、大規模作戦は早くても実行に移すのには一年近くかかる筈だ。偵察やら、支援物資の補給などがあるからな。けど、今回の作戦は発案から半年もかかっていない。出水さんが焦っているという表現はあながち間違っていないかもしれない。各国が不自然と思ったり、警戒するのは普通の反応だ。

 

「それにジュダル・ハーヴェイには悪い噂、不気味な噂が多くまとわりついている。里奈ちゃんはハチ君を心配して勧誘しているんだよ」

 

 なるほど、そうだったのか。けど……

 

「悪いな、里奈。それは無理だ」

 

 俺は里奈からの勧誘を断った。

 

「……どうしてかしら、ハチマン」

 

「別に里奈と仕事がしたくないわけじゃない。また、肩を並べて一緒に戦いたいぐらいだ。けど、今リトルガーデンを抜けるわけにはいかない。……後輩達が予想以上に優秀なんだ。俺には彼らを先輩として育てる責任がある。それに今離れたら泣きそうな奴がいるからな」

 

 そう言いながら、俺の頭に如月やエミール、レイティアやフリッツ、その他のクラスメイトやクレア達生徒会。そして、サクラの顔が思い浮かんだ。

 

「……分かったわ、ハチマンは良い後輩に恵まれたようね。無理な勧誘はもうしないわ。でも、もし何かあったら、私を頼りなさい。私を含めた神聖教会が総力で助けるわ」

 

「それは俺もだ、ハチ君。君には多くのファンがリベリア軍にも多くいてね。昔の同僚が君を助けなかったら、どういうことかって話だから」

 

 そう言って、二人は興奮するように話すが、規模がおかしすぎる。そこまでしなくても、大丈夫です。下手すりゃ、戦争と誤解されるって。

 

 けど、二人がそう言うなら、無茶かもしれないが、一つ訊ねてみるとしよう。

 

「でしたら、二人にお願いが………」

 

 

…………………………

 

 

 

………………………………………

 

 

 

………………………………………………………

 

 

 ー後日ー

 

 

 

「ここがリトルガーデンか。船の上に学校を建てるとはあの社長もセンスはあるな」

 

「ここがハチマンが所属しているリトルガーデンね。ハチマンが言っていた優秀な後輩がどんな子達か楽しみだわ」

 

 まさか、リトルガーデンで一日だけで良いから指導してくれないかと頼んだら、本当に来るとはな。二人ともフットワーク軽くないか?

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

指導開始!!

 

 

「あー……今日の訓練実習は外部からわざわざ特別に来て下さった講師達にやってもらう」

 

 八幡が視線を送ると、出水と里奈はヴァリアブルスーツを来た武芸科一年の前に出る。

 

「武芸科の一年の皆、初めまして。リベリア合衆国防衛大臣のエリック・出水だ。ハチ君とは昔のチームメイトで、ハチ君のように出水さん、もしくはエリックさんと気軽に呼んでくれ」

 

「坂梨里奈よ。出水さんと同じくハチマンとは昔のチームメイトで、ハチマンとは同じ中衛同士パートナーの関係だったわ。今日はよろしく」

 

 二人は簡単に何事も無いように自己紹介を済ませるが、武芸科の一年達は……

 

 

「「「………………………………」」」

 

 

 予想外の大物有名人に言葉が出ず、誰一人として緊張をしていない人はいなかった。なにせ、一人はリベリア合衆国の防衛大臣で、もう一人は世界際大規模の宗教『神聖教会』の武芸者の長みたいな人だからな。

 

 そんな様子を苦笑いしながら見ていた八幡だったが、練習場の端でそれを眺めていたクレアに手で招かれ、それを見た八幡は空気を壊さないように気配を消しながら、すぐにクレアの方に向かった。

 

「ハチマン、どういうことですの!?私は彼らと相談をすれば良いと提案したのに、何でリトルガーデンに直々に指導することになりましたの!?あんなに忙しい人を連れてきたら、リベリアと神聖教会に迷惑をかけますわよ!?」

 

「しょうがないだろ!?まさか本当にお願いしたら、あんな簡単にお散歩感覚で来るとは思っていなくてさ!?幸い、里奈も出水さんも上層部からこの件は許可を貰っているから、お互いに迷惑はかけない筈だ……多分」

 

 端で八幡とクレアが生徒達にバレないように小声で言い争っている他所で、言い争いの発端の二人と一年生達は何をしているかというと……

 

 

 

「あの、エリックさん……サインを」

 

「あ!ズルいぞ、フリッツ!」

 

「別に構わない。えっと……フリッツ君とレイティアさんだね。はい、これで良いかな?」

 

 フリッツやレイティアを中心とした生徒達、リベリア出身組が出水さんと共にリベリアトークに花を咲かせており、その一方では……

 

 

 

「貴女が霧島サクラね。ハチマンから度々聞いているわ。ハチマンの義妹で、()()だと」

 

「へぇ~、神聖教会の聖騎士長さんに名前を覚えて貰えて光栄だわ。そう言えば、ハチマンとはチームでずっとパートナーだったらしいわね。……もしかして、ハチマンを狙っているのかしら?」

 

「……だったら、どうする?」

 

「ふ~ん……やってみなさいよ」

 

 里奈とサクラが互いを火花が散るぐらい睨みつけており、ハヤトやエミール達はその光景を何も出来ずにただただ傍観するしかなかった。他人を寄せ付けないほど、この二人の争いは凄まじいもので、二人が何で争っているかは遠くにいた八幡に聞こえることはなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「さて、自己紹介も終わった所で、彼らの指導を始めよう……と言いたい所だが、まずは出水さんと里奈とそれぞれ誰か代表で戦ってもらい、彼らの強さを確かめてもらいたい」

 

 八幡の言葉を聞くと、武芸科一年の生徒は一斉に動揺を隠しきれないような表情を示す。そんな空気の中、八幡は話を続ける。

 

「なお、出水さん達と試合をする代表はこっちが決めさせてもらった。まず、出水さんと戦う代表だが……レイティア・サンテミリオン」

 

「わ、わたしか!?」

 

 それを聞いたレイティアは驚いた表情を見せ、周りの生徒は一斉にレイティアの方に視線を向ける。

 

「あの……比企谷先輩。強さでいったらわたしより、ハヤトやエミールの方が適任なんじゃ……」

 

「別に強さだけで決めているわけじゃない。俺が重視したのは出水さん達から何を得られるかだ。出水さんはレイティアと同じ型のハンドレッドだ。そういう似たような所を含めて俺は推薦したわけだ」

 

「成る程、分かりました。その代表戦の代表として一生懸命やらせてもらいます、比企谷先輩」

 

 レイティアが自分の人選理由を理解した所で、彼女の相手が彼女に話しかけてきた。

 

「レイティアさん、本気でかかって来なさい。武芸者を体力面で引退したが、これでもまだ現役には負けたくなくてね。身体が保つ限り、君とは本気で戦わせてもらうよ」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「二人とも、準備は大丈夫か?」

 

「はい、比企谷先輩!」

 

「大丈夫だ、ハチ君!」

 

 練習場のステージにレイティアと出水さんが向かいようにスタンバイをし、八幡を含めた他の面子はステージの周りの観客席に座っていた。

 

「それじゃ、ハンドレッドを起動して下さい」

 

「よーし、行くぞ!ハンドレッド・オン!」

 

 八幡の声と共にレイティアはセレクションズ入隊時に貰った専用ハンドレッドー『獣王武神(ストライクビースト)』を起動させる。すると、足に水色の獣の足のような武装が現れ、腕にはレイティアの顔以上の大きさがある水色の拳が顕現する。

 

「成る程、マーシャルアーツ型か。確かに俺とハンドレッドの型は同じだが、戦い方は違うかもな」

 

 出水さんはそう言うと、懐からナックルダスターのような形をしたメカメカしい物を取り出し、レイティアを驚かせるが、すぐにレイティアはその正体に気付いた。

 

(あれは……ハンドレッド!?)

 

 出水さんはそれを右手でしっかりと握りしめ、左手の平に対して強く押し込む。

 

 

『レ・ディ・ー』

 

 

「ハンドレッド・オン!」

 

 

『フィ・ス・ト・オ・ン!!』

 

 

 出水さんの言葉と共に、ハンドレッドは赤く輝き出し、出水さんを白いヴァリアブルスーツで包むと、その上から機械の強化用スーツのような白色を基調とした武装が足や腕や胴に隙間なく顕現する。動きやすいレイティアの武装と比べて、こちらは動きにくそうと誰もが思うだろう。

 

 

(これがエリックさんの専用ハンドレッド……神の御手(ゴッドハンド)か!?)

 

 

 

「さぁ、始めなさい!!」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。