真・ゲッターロボ ~黒き獣の在り方~ (陰猫(改))
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プロローグ:"百年後の世界"

 インベーダーの脅威が去って百年後の世界。

 

 インベーダーとの戦いで疲弊した人類はそれでもなんとか再生の道を歩き出し、インベーダーの脅威も過去の物となって忘れられようとしていた。

 

 その復興して行く街並みの片隅の浜辺で彼ーー月岡修次は錆びだらけの黒いスーパーロボットに出会う。

 

 修次は復興する街で任侠道を貫く月岡修造の養子にあたる月岡組の若頭である。

 

「……なんだ、こいつは?」

 

 そんな修次は海から浜辺に打ち上げられたそのロボットに近付くと錆びだらけのそのボディーに触れた。

 

 するとロボットの口元が開き、そのコクピットがあらわになる。

 

『よく来た』

 

 誰かがそう呼んだ気がしたので周囲を見渡したが、修次の他には誰もいない。

 

 修次は持ち前の度胸と好奇心もあり、そのコクピットに入る。

 

 コクピットの中は不思議と浸水していなかった。

 

「こりゃあ、再調整して海外にでも売りゃあ、高く買ってくれそうだな?」

 

 修次は独り、そう呟くと試しに座席に座ってみる。

 

 レバーを握ってもうんともすんともロボットが言う事はなかった。

 

「ふむ。動力部がイカれているのか、それともエネルギーがないのか……」

 

 修次はブツブツと呟くとレバーから手を放そうとした。

 

 次の瞬間、修次の身体が淡い光に包まれる。

 

「ーーっ!?」

 

 突然の出来事に焦る修次だったが、光はすぐに収まり、修次の身体に異変はなかった。

 

「なんだ?今のは?」

 

「兄貴いいいぃぃぃーーっっ!!」

 

 異変の身体のあった手足を修次が見ていると舎弟の辰三が自分を呼ぶ声が聞こえる。

 

 修次は首を捻りながらコクピットから顔を出すと不安げに自分を探すペンギンのイラストの描かれたTシャツを着た辰三に叫ぶ。

 

「どうした、タツ!」

「あ、兄貴!?どこっすか!?」

「此処だ!このロボットの中だ!」

「あ、そこっすか!ーーって、なんだこりゃあ!?」

 

 辰三はロボットに今頃気付いたのか、大きく目を見開いて驚く。

 

「どうしたんですか、これ?」

「解らん。だが、この"ブラックゲッター"は動かんらしい」

「"ブラックゲッター"?」

「ん?なんだ?」

「こいつ、"ブラックゲッター"って名前なんですか?」

「ん?あ、ああ」

 

 辰三にそう問われて、修次は疑問に思いながらも頷く。

 

(なんで、こいつが"ブラックゲッター"だと解ったんだ?さっきの光の影響か?)

 

 修次が悩んでいると辰三がブラックゲッターに近付いて、コンコンと叩く。

 

「本当、なんなんでしょうね?

 あ、そう言えば、この間、大津波がありましたよね?

 それで流されて来たんじゃないですか?」

「……」

「兄貴?」

「……ん?すまん。少しボーッとしていた」

「しっかりして下さいよ。今だってーーって、ああああああぁぁぁーーっっ!!」

 

 そこまで言い掛けて辰三が叫ぶ。

 

 修次は耳を押さえてから辰三の金髪の頭に拳骨を落とす。

 

「いてっ!」

「いきなり、人の耳元で怒鳴るな!」

「す、すみません。でも、大事な事を思い出して……」

「大事な事?」

「山坂組の連中がオレらのシマで暴れてんです!」

「馬鹿野郎!なんで、そんな大事な事を早く言わないんだ!」

 

 修次は辰三の頭にもう一度、拳骨を落とすと街へと向かって駆け出す。

 

「いてて……って、ちょっーー兄貴!?その格好で行くんですか!?」

 

 そう言われて、修次は自分の格好に気付いて速度を緩める。

 

 今日は浜辺でまったりするつもりでいたのでハーフパンツタイプの水着にアロハシャツを羽織っただけの格好をしている。

 

 履いているものも靴ではなく、ビーチサンダルである。

 

 一旦着替えるべきかとも考えたが、修次はすぐに頭を振って足を速めた。

 

「堅気が巻き込まれているかも知れないんだ!戻って着替え直す暇が惜しい!」

「で、でも、その格好じゃ、舐められーー」

「良いから行くぞ!案内しろ、タツ!」

「わ、解ったっす!」

 

 先を行く辰三に案内されながら修次はあのロボットの事が気になったが、街の惨状を見て、すぐに忘れる事となる。

 

 

 

「ヒューッ!これがロケランの威力か!」

 

 爆発して炎上する建物を愉快げに見ながら山坂組のグレーのスーツを着た男が口笛を吹くと他の者達も銃を構えて住民に威嚇発射する。

 

 そんな中、山坂組の幹部である真下公二郎は悲鳴を上げて、うずくまる少女に歩み寄った。

 

「あらあら。可愛そうにこんなに震えて」

 

 そう言うと真下は少女の震える腕を取り、その手をベロンと舐める。

 

「ひっ!」

「んふふ♪今日の私の相手は貴女に決めたわ♪

 じっくり、ねっぷり、可愛がって・あ・げ・る♪」

「い、いやああああぁぁぁーーっっ!!

 誰か助けてえええぇぇぇーーっっ!!」

 

 助けを求める声を上げても誰も来ない。

 

 当然であろう。

 

 銃を手にした相手を前にーーしかも集団で襲い掛かって来る連中に噛み付こうとする勇気のある者などいる訳がない。

 

 いや、一人いた。

 

「やめろ!」

 

 その人物は恐怖で震える足で辛うじて立つ青年だった。

 

「ちーちゃんから離れろ!」

「あら、やだ。貴方なんなの?」

「ひーくん!助けて!」

「あらあら。もしかして、彼氏?

 それじゃあ、仕方ないわね?」

 

 そう言うと真下はうっすらと笑い、ひーくんと呼ばれる青年の膝を撃つ。

 

「ああああああああぁぁぁーーっっ!!」

「男の悲鳴ってヤーネ?やっぱり、悲鳴は女の子に限るわ」

 

 そう言うと真下は少女の手を引きながら近付き、足を押さえて蹲る青年の頭に銃口を向けた。

 

 その瞬間、パカンと何かが飛んできて真下の頭に当たる。

 

 真下は特に痛みを感じなかったが当たった箇所を擦るとその何かに視線を落とす。

 

 それはビーチサンダルだった。

 

 そして、そのビーチサンダルの飛んできた先にはアロハシャツを羽織ったハーフパンツの水着を履いた男が真下達を睨んで佇んでいる。

 

「何よ、貴方?」

「月岡修次だ」

「ああ。貴方が月岡組の若頭の……」

「それよりもこれはどう言う事だ?

 何故、こんな事をする?」

 

 修次が静かな怒りを秘めて問うと真下はうっすらと笑いながら、銃口を彼に向ける。

 

「大した理由じゃないわよ。ちょっと米軍の兵器をかっぱらってね。

 それで勢力拡大も兼ねて試し撃ちをしているって訳よ」

「……そんな下らない理由で堅気に手を出すとは、お前、外道の様だな?」

「うるさいわね。極道に外道もへったくれもないわよ。

 それにこの世界では強い者こそが正義なのよ」

 

 真下はそう言うと修次に拳銃の引き金を引こうとする。

 

 絶叫が上がったのは、その瞬間である。

 

 真下がそちらに顔を向けると銃を持つ集団に単身突撃する辰三の姿があった。

 

 辰三は手にしたドスで銃を手にする男の一人を刺すとその銃を奪い、物陰に隠れて真下達の方へと銃を投げる。

 

 それを見ていた真下が修次の方へと向き直った時には既に間合いに入られていた。

 

 修次は真下の銃を持つ手を捻ると銃のスライド部分を解体し、その部分を手にしながら裏拳で真下の頬を殴る。

 

 そして、辰三が放り投げた拳銃をキャッチすると銃口を真下に突き付けた。

 

「ま、待って!降参よ!」

「なら、早いところ、武装解除するんだな。五つ数えてやる」

 

 修次はそう言うと真下の左膝を撃ち抜く。

 

「ぎゃあああああぁぁぁーーっっ!!」

「一つ」

「ま、待ちなさいよ!こう言う時、数えてから撃つもんでーーぎゃあああああぁぁぁーーっっ!!」

「反論は認めん……二つ」

「わ、わかった!武装解除するから!」

 

 二度目の銃弾を右肩に受けながら真下は泣き叫ぶと部下に手を掲げる。

 

 それを見て、真下の部下は戸惑いながらも武器を地面に置いて行く。

 

「お前も隠している銃を出せ」

「は、はあっ!?何をーーあぎゃあああぁぁぁーーっっ!!」

 

 真下が口答えをした瞬間、修次は真下の健在な方の足に発砲する。

 

「解らないと思っているのか?お前から臭う火薬の臭いに?

 ……俺達、月岡組を舐めるなよ?」

 

 そう言われて、真下は怯えながら隠していた銃を手放す。

 

 かくて、山坂組の暴動はたった二人に鎮圧されるのだった。



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第一話"漢の物語"

 辰三に投降した真下達の銃を撤収しながら、修次は彼らを一ヶ所に集め、背後を向かせて壁に手を付かせる。

 

 真下は両膝と右肩を撃たれ、手下に助け起こされながら壁に手を付いた。

 

 しばらくして月岡運送と書かれたトラックが到着し、運転席の黒いスーツの男が降りてバンを開くと中から銃を手にする黒いスーツを着た男達が出てくる。

 

「月岡さん、ご無事ですか?」

 

 運転席に座っていたサングラスの男が尋ねると修次は頷き、真下達に視線を向けた。

 

「俺の事は良い。それよりも後を頼むぞ、安田」

「はっ!」

 

 安田と呼ばれた男は修次の言葉に頭を下げると他のスーツの男達と共に真下達を連行する。

 

 そんな安田達を見送ると修次は足を押さえて蹲るひーくんと呼ばれた青年に近付き、遅れて到着した救急隊員に傷口をされる彼に膝をついて、その肩に手を乗せる。

 

「遅れてしまって、すまないな」

「い、いえ、貴方のせいじゃーー」

「いや、俺がもう少し早ければ、君は怪我をしなかった。それは紛れもない事実だ」

 

 そう言うと修次は立ち上がり、救急隊員に頭を下げる。

 

「彼をお願いします」

「解ってますよ、月岡さん!任せて下さい!」

 

 修次の言葉に救急隊員は頷くとひーくんを担架で運び、同行するちーちゃんと呼ばれる少女と共に救急車に乗せた。

 

 修次はその救急車が去るのを見送ると銃火器の山に視線を移す。

 

 銃火器の山の方では辰三が目を輝かせていた。

 

「タツ」

「あ、兄貴!先程はお疲れさんです!」

「お前のお蔭だ。気にするな」

 

 修次は辰三に歩み寄りながら、そう言うと照れる辰三が手にする銃を見る。

 

「そのハジキだが……」

「あ!そうですよ!こんな宝の山を放っとけませんよね!

 どうします、これ?俺らのモンにしちゃいましょうか?」

 

 修次はしばし、考え込むと首を左右に振り、辰三にある提案を告げる。

 

「これは米軍のモンだ。今頃、血眼になって探している筈だ。こいつは返してやろう」

「えっ!?」

 

 意外な言葉に辰三は目を丸くして驚く。

 

「本気ですか、兄貴!?アメリカなんてメルトダウンだかメンタルダウンだか起こしてなくなったじゃないですか!」

「それでもだ。生き残っているアメリカ人がいるだろう。

 何より、こんな物を持ってても宝の持ち腐れだ」

「そ、そんな勿体無い!」

「月岡さんのお言葉だ。諦めろ、タツ」

「ま、待てよ!ヤスだって本音はこの山が欲しいだろ!」

「欲しい欲しくないで言えば、欲しいところだが、その分、傘下が力を誇示したくなるだろう。奴等の様にな。

 月岡さんは奴等の二の舞を踏まない様に心掛けているんだ」

「け、けどよ~」

 

 渋る辰三に安田は溜め息を吐くと修次に振り返る。

 

「返すにしてもどうします、月岡さん?

 仮に相手が返して貰えると思っても、自分らの言う事を聞くとも思えませんが……」

「かもな。だが、安田の言う様にこのハジキを手元に置きっぱなしじゃ、山坂組がまた取り返そうとするだろう。

 そしたら、また戦争だ。俺らは良いが、堅気を巻き込んだとあっちゃあ、任侠道を貫く月岡組に泥を塗る事になる」

「そこまでお考えなら自分は何も言いません。月岡さんに従うのみです」

 

 安田がそう言うと辰三もあれこれ、葛藤したのちに脱力して銃を置く。

 

「じゃあ、早速、これを返しに行くとしよう」

「え?今からですかい、兄貴?」

「ああ。あれこれ悩んでいたら、下のモンが欲を出しちまうかも知れないからな。

 やると決めたら、上のモンはそれなりの覚悟で行動を示さにゃならん」

「流石です、月岡さん。そう言うだろうと思っていたので、着替えをご用意しました」

「相変わらず、気が利くな、安田」

「伊達に月岡さんの義兄弟は名乗らせて貰ってまさんから」

 

 修次は安田の用意したグレーのスーツに着替えると辰三と共にゆっくりと到着したリムジンに乗り込む。

 

 その間にも安田がキビキビと指示を飛ばして銃の山をトラックに詰める。

 

「お前達は街の復興に協力しろ。山坂組がハジキについて聞いて来たら、素直に米軍に返したと教えてやれ」

「はい!」

 

 修次は窓を開けて部下にそう言うとリムジンを出させ、その後ろから安田の運転するトラックが追う。

 

 これが月岡修次と言う漢の物語の始まりである。

 



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第二話"武器よ、さらば"

 米軍の基地があった跡まで来ると修次はリムジンから降り、その中を歩く。

 

「止まれ!」

 

 その言葉に修次が止まるとハンドガンを手にした金髪の女性が瓦礫の影から現れる。

 

 それに対して安田や辰三が各々の武器を手にしようとするのを修次は右手を軽く上げて制す。

 

「……日本語は解るな?……俺達は敵ではない」

 

 その言葉を警戒する様に金髪の女性は修次に近付くとグルッと半周して彼の前に来る。

 

「……此処へは何しに来た?」

「山坂組から武器を取られたろう?……それを返しに来た」

「……目的はなんだ?」

「ない。俺達には過ぎた物だから、返しに来たってだけだ」

 

 その言葉に金髪の女性はチラリと安田の乗って来たトラックを見るとクイッと首を傾げた。

 

 すると、鉄パイプやらを持つ黒人やライフルを持つ白人の男性が金髪の女性の周りに集まり、数人がトラックの中を調べる。

 

 トラックの中にある銃を男達が確認すると彼らは女性に頷く。

 

「……お前達は馬鹿だ。私達が武器を取り返したら、それで殺されるかも知れないとは考えなかったのか?」

「それを承知で返しに来た」

 

 金髪の女性は修次の黒い瞳を真っ直ぐ見ると銃を下ろす。

 

 それを合図に身構えていた外人達も各々の武器を下ろす。

 

「いいだろう。お前を信じよう。

 だが、武器を構える私達に動じないと言う事はただの一般人と言う訳でもないな?」

「俺は月岡修次。月岡組の若頭だ」

「日本のヤクザか……」

 

 金髪の女性は修次の言葉に呟くとしばし、考えてからニヤリと笑う。

 

「ツキオカと言ったな。お前の度胸が気に入った。

 大したもてなしは出来ないが、銃を取り戻してくれた礼だ。

 酒の一杯でも奢ってやる」

「あいつらも良いか?」

 

 金髪の女性は修次の言葉に一瞥して振り返ると辰三達を見て、軽く手を上げてサインを送り、修次に背を向けて歩き出す。

 

 修次は金髪の女性の後について行くと、まだ健在しているビルの中へと入って行く。

 

 そこは老若男女が集まるコロニーになっていた。

 

「そう言えば、まだ名を聞いてなかったな?」

「アドレナだ。インベーダーと戦った大戦士シュワルツの意思を継ぐ者だ」

「ほう」

「インベーダーを殲滅した後、シュワルツの意思を継ぎ、私達はこの地に留まった。

 そして、再びインベーダーの脅威が起こらぬ様に見守って来た」

 

 アドレナはそう言うとビルの一室に入り、簡素な机にウィスキーとグラスを用意する。

 

「それで?本当の目的はなんだ?

 金か?食料か?それとも、女か?」

「信じたんじゃなかったのか?」

「念を押しただけだ。他意はない」

「なら、さっきも言ったが、俺達には過ぎた物だから返しただけだ。

 それ以上でも、それ以下でもない」

「……フッ。おかしな男だ」

 

 修次の言葉にアドレナはうっすらと笑うとウィスキーをグラスに注ぐ。

 

「ツキオカ。勇敢なる男よ。お前に頼みがある」

「なんだ?」

「私達が保持していたスーパーロボットを先の奴らに乗っ取られてしまった。

 骨董品に近いが、今でも現役のロボットだ。

 それを奪還ーーもしくは破壊したい」

「見返りは?」

「残念ながら、私達は自分たちの暮らしを建て直すので手一杯だ。

 それに応じられる物はない。

 他の機体もご丁寧に破壊されてしまって、実質、私達には打つ手すらない」

「話にもならんな。共闘する事にメリットがない」

「だが、ツキオカには奴らと戦う理由がある。

 ツキオカは奴らの顔に泥を塗った。

 このまま、奴らが引き下がるとも思えない」

「……ふむ。確かにな。

 つまり、お前達の為だけではなく、俺達の為でもある訳か……」

 

 修次の言葉にアドレナは頷く。

 

 だが、インベーダーとの戦いを繰り広げたスーパーロボットが相手となると打つ手がない。

 

 加えて、月岡組にはそう言った軍事用のスーパーロボットなどはない。

 

(さて、どうしたものか……)

 

 そう考えていると不意に海から打ち上げられたブラックゲッターの事を思い出す。

 

「……もしかしたら、ブラックゲッターを修理すれば、なんとかなるかも知れん」

「ゲッター!?あのゲッターロボがまだ残っているのか!?」

 

 修次が呟くとアドレナが身を乗り出して叫ぶ。

 

 修次はそれに気圧されながらも頷くと、すぐに気を取り直して真剣な表情を作る。

 

「コックピットは無事だったから改修すれば、使えるだろう」

「案内してくれ!インベーダーを殲滅したあの機体をこの目で見たい!」

「解ったから落ち着け」

 

 修次は興奮するアドレナをなだめるとウィスキーを飲むのも忘れて、部屋から出る。

 

 この時、ゲッターロボの新しい可能性が産まれる事を、この時の修次達は知る由もなかった。



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第三話"兄貴分"

 二人が部屋から出ると周囲が人混みで溢れかえっていた。

 

「ん?なんだ?」

 

 アドレナもごった返す人混みに首を捻ると近くにいた老人と修次には馴染みのない言葉ーー英語で会話する。

 

「ああっと、なんだって?」

「又聞きだが、ツキオカの連れの二人が喧嘩をしているらしい」

「はっ!?」

 

 修次は素っ頓狂な声を上げると人混みを掻き分け、殴り合う辰三と安田の二人の間に割って入りながら叫ぶ。

 

「何やってんだ、テメエら!」

「ーーっ!月岡さん!?」

「あ、兄貴!?」

 

 修次の怒号に二人は怯みながら矛をおさめる。

 

 二人が落ち着くのを待ってから、修次は溜め息を吐く。

 

「堅気の前で手なんざ上げやがって……」

 

 そう呟くと修次は安田を殴り倒し、振り向き様に辰三の顔面を殴る。

 

「テメエら、俺にーー組に恥を掻かせる気か!ああっ!」

 

 殴り倒された安田はサングラスにヒビが入った状態で怒れる表情の修次を申し訳なさそうな顔で見詰めながら起き上がり、辰三が尻餅をついて口を拭って俯く。

 

 そんな修次を見て、野次を飛ばしていた周囲の外人達もシュンと静まり返る。

 

「……すんません、兄貴」

「……申し訳ありません、月岡さん」

 

 そんな静寂に包まれた中、辰三と安田の声が響く。

 

「何があったか説明しろ。シマ以外で暴れてた理由を……」

 

 修次が静かな怒りを込めて問うと安田が口を開く。

 

「タツがまた悪いクセをーー」

「だから、違うって言ってんだろ!

 あの子から抱き着いてーーげふっ!?」

 

 辰三が安田の言葉に反論しようとすると修次がその横っ面に回し蹴りを喰らわせて倒す。

 

「……続けろ、安田」

「は、はい。それで自分が注意したんですが、タツが調子に乗って接吻しようとしたんで見かねてーー」

「ーーで、喧嘩になったって訳か?」

「はい。そのとーーぐふっ!」

 

 修次は安田の腹を蹴り、うずくまる安田に怒号を発する。

 

「そんな下らねえ理由で喧嘩してんじゃねえ!

 此処は俺らのシマじゃねえんだぞ!

 テメエ、俺が教えたイロハもまともに覚えてられねえのか!」

「……う、ぐっ……すみませんでした!」

 

 安田が苦悶しながら土下座すると修次はうずくまりながら怯える辰三にゆっくりと振り返った。

 

「タツ」

「ひっ!」

「お前の言い分も聞かせろ」

「は、はい!さっきも言ったっすけど、あの子から抱き着いて来たんです」

 

 そう言って辰三が指を差したのは十代半ばの金髪碧眼の美少女だった。

 

 修次はそちらを一瞥すると彼の気迫に圧倒されるアドレナに顔を向ける。

 

「アドレナ。悪いが通訳を頼む」

「え、ええ。解ったわ」

 

 アドレナが修次に怯える碧眼の美少女と話すと彼女は修次に簡単に説明する。

 

「先の奴らを追っ払ってくれた人にお礼がしたかったそうだ」

「そうか。なら、次からは余計な気遣いはいらないと伝えてくれ」

 

 修次はそう言うとうずくまる辰三の背中を蹴る。

 

「ぎっ!?」

「タツ。安田が言ってた通りじゃねえか?

 テメエ、調子に乗って、よそのシマの女に何しようとしてんだ?あん?」

「グスッ……だ、だって、あんなアプローチされたらーーごふっ!?」

「言い訳してんじゃねえ!

 また悪いクセ出しやがって!

 テメエ、その粗末なモン、ぶったぎられなきゃ解らねえのか!」

 

 修次が激怒しながら更に蹴ると辰三がうずくまりながら啜り泣く。

 

「えうっ……すんません……すんません……すんません……すんません……すんません……すんません……すんません……すんません……すんません……すんません……俺が悪かったです」

「解りゃ良いんだよ」

 

 修次は泣きながら謝る辰三にそう言うと一息吐いてから襟元を整え、周囲を見渡す。

 

「見せ物じゃないんだ。ほら、散った散った」

 

 

 修次がそう言うとアドレナが通訳して野次馬を散らし、数分後には先程の様な通りへと戻る。

 

 それを確認すると修次は深い溜め息を吐いてから、土下座する安田とうずくまって啜り泣く辰三に優しく声を掛ける。

 

「本当にしっかりしろよ、二人とも?

 シマから出た以上、俺達は月岡組の顔なんだ。外は外、中は中できっちりとしろよな?」

「「……はい」」

 

 修次は二人の素直な返事に苦笑すると安田に手を差し伸べる。

 

「解ったなら、この話は終いだ。

 ほら、顔を上げろ、安田」

「……月岡さん」

 

 安田は顔を上げると恐る恐る修次の手を取り、ゆっくりと立ち上がる。

 

「次からは気を付けろよ?」

「はい。組に泥塗る様な真似して申し訳ありませんでした」

 

 安田が深々と頭を下げると修次はポンと軽く肩を叩いてから、啜り泣く辰三の背中を優しく撫でる。

 

「痛かったろう、タツ?」

「……えぐっ……兄貴……」

「これに懲りたら少しは自重しろよ?」

「……はい……すんませんでした」

「ほら、もう怒っちゃいないんだ。だから、もう泣くな」

「グスッ……はい……」

 

 修次は辰三の背中を擦りながら労る様に助け起こす。

 

「さ、帰るぞ、二人共。待たせてる下のモンに無様な姿は見せるなよ?」

「「はい」」

 

 修次が微笑んで二人に背を向けると安田と辰三が頷いて、その後に続く。

 

 その後を追う様にアドレナが三人の後について行く。



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第四話"改修と変化"

「……これがゲッターロボ」

 

 アドレナは修次達の仕切っているエリアの浜辺に来ると錆び付いたブラックゲッターを前にうっとりと見上げた。

 

「百年も前の物なのに原型を留めているなんて……」

「見惚れるのは構わんが目的を忘れるな?」

「わ、解っている!」

 

 アドレナは頬を赤らめて叫ぶと自分の整備士達に声を掛け、ブラックゲッターを調べ始める。

 

 その三十分後、整備士の一人がアドレナと話し、彼女が何かを悩む。

 

「どうした、アドレナ?」

「ゲッターロボはゲッター線をエネルギーに動く。

 だが、今の世界にはゲッター線はない。

 あってもゲッター線をエネルギーに換える技術がない」

「じゃあ、動かんのか?」

「ああ。だから、炉心を変えようと思う」

「炉心を変える?」

「我々が所有するプラズマ駆動エンジンを使う。

 ゲッター線の様な無尽蔵なエネルギー転換は出来ないが、此方でも取り替えが用意出来る様になるだろう」

 

 アドレナは修次にそう言うと頭上で待機していた大型の輸送ヘリコプターでブラックゲッターを複数のアンカーで固定しに掛からせる。

 

「このゲッターロボは此方で改修する。

 後の事は任せろ」

「解った。頼むぞ、アドレナ」

「整備士の話では一週間あれば、問題ないとの事だ」

 

 その言葉に修次はしばし、考え込んでから頷こうとする。

 

 ーー瞬間、修次は頭を押さえた。

 

「どうした、ツキオカ!?」

 

 アドレナの声が聞こえたのか、浜辺の向こうにある陸地で野次馬などが入って来ない様に待機していた辰三と安田が駆け寄ろうとする。

 

「なんでもない」

 

 修次はアドレナに空いている手で制しながら呟くと、辰三達に向かって叫ぶ。

 

「お前達も心配するな!持ち場へ戻ってろ!」

 

 その声に辰三と安田が互いの顔を見ると何か囁き合いながら戻って行く。

 

 それを確認してから、修次はアドレナに首を横へ振る。

 

「悪いが、五日で済ませろ」

「ーーっ!?無茶を言うな!

 百年も前の機体を改修するんだぞ!?

 復元するだけでも三日は時間が掛かるんだ!」

「五日したら山坂組の奴らが来る」

「え?」

 

 その言葉を聞いて、アドレナが困惑する。

 

 修次自身も自分の発した言葉に戸惑う。

 

(何故、俺は奴らが来ると解るんだ?

 いや、何故、奴らが来ると思っているんだ?

 それにさっきの声は?)

 

 修次はついさっき聞いたばかりの声と炎に包まれる町のビジョンを思い出しながら項垂れる。

 

 確かに彼には聞こえたのだ。

 

『敵が来る』とーー

 

 そんな自分以上に混乱する修次を見て、アドレナは逆に落ち着くのが解った。

 

「……ゲッター線の影響かも知れないな」

「ゲッター線の?」

「ゲッター線は未知のエネルギーだ。

 ツキオカはそれに触れて、何かが宿ったのかもな」

「気味の悪い事を言わんでくれ。

 まあ、それについては心当たりがあるから何とも言えないが……」

「どんなだったか覚えているか?」

「そうだな。何か緑色の光に包まれた様な感じだったと思う」

「……そうか」

 

 アドレナは修次の言葉に頷くと陸地に停めた軍用のトラックに向かう。

 

「五日したら取りに来い。その時には新しくなったブラックゲッターを見せてやろう」

「俺の言葉を信じるのか?」

「ツキオカを信じるんじゃない。

 ツキオカに宿るゲッター線を信じるんだ」

 

 アドレナはそう言って笑うとブラックゲッターから離れた整備士達と共にトラックに乗り、輸送ヘリコプターと共に基地跡に帰って行く。

 

 それを見送ってから修次に辰三と安田がやって来る。

 

「兄貴」

「月岡さん」

「どうした、二人共?」

「兄貴。あのアドレナって娘にたぶらかされちゃいませんか?」

「……は?」

 

 その言葉に修次は思考を停止させる。

 

「月岡さんの判断とは言え、義親父に許可なく、勝手に軍人と決めるのはどうかと……」

「そうっすよ。幾ら、金髪のボンキュッボンな姉ちゃんが相手とは言え、商売敵みたいな軍人さんなんですから。

 あまり、心許すのはどうかと思いますよ」

「今頃、向こうは此方を出し抜く算段をしているかも知れません。

 貰うモン貰って、知らん顔するかも知れませんよ?」

 

 安田と辰三の言葉に修次は「確かにそうだな」と思いながら、再度、思考を取り戻すと頭を掻く。

 

「……すまん。お前達の言う様に少々ーーいや、だいぶ見誤ったかも知れん。

 だがな、辰三よ。アドレナとは、そう言う関係とかじゃないからな?」

 

 修次はそう言うと二人の肩を叩く。

 

「戻るぞ。この事はキチンと義親父に報告しなきゃならんからな」

 

 そう言って、修次は辰三達と共に月岡組のアジトへと戻って行く。



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第五話"月岡修造"

 月岡組のアジトに戻ると修次は義理の父である月岡修造の元へと向い、その扉の前で止まる。

 

「義親父」

「入れ」

「失礼します」

 

 修次が扉を開くと白髪混じりの厳つい顔の修造が革製のソファーに座り、デスク越しに彼を見据えていた。

 

「話は安田から聞いている。

 俺の許可無く、勝手に米軍と宜しくやるとは、随分と出世じゃねえか?

 え?修次よ?」

「申し訳ありません、義親父」

 

 修造の言葉に修次は頭を下げる。

 

 修造は椅子から立ち上がると身に付けた和服の袖をはためかせながら修次に歩み寄った。

 

「お前、自分のした事は解ってんだろうな?」

「そのつもりです。罰は如何様にでも……」

「……そうか」

 

 修造は瞼を閉じて下を向くと修次の二の腕を掴みーー

 

 ーー豪快に笑い飛ばす。

 

「はっはっは!まあ、そんなにしゃっちょこばるな、修次よ!」

「は?ですがーー」

 

 戸惑う修次の背中をバシンと叩くと修造は穏やかな表情で彼に囁く。

 

「義理とは言え、俺の息子がする事だ。

 何かしらの意味があるんだろ?」

「まあ、確かにそうですが……」

「なら、気にするな。お前は月岡組の次期組長になる男なんだ。

 そんなお前の意見なら、俺から言うべき事はない」

 

 修造はそう言うと真剣な顔つきになり、修次から半歩下がる。

 

「だが、何があったか位は俺にも話せ。勿論、お前の口からな?」

「……はい」

 

 修次は静かに頷くと山坂組が米軍から武器を奪って暴れていた事やその山坂組を鎮圧化し、米軍に武器を返した事、それに浜辺に打ち上げられたブラックゲッターの事を話す。

 そして、五日後に山坂組が逆襲しに来るであろう予知を見た事も……。

 

 修造はそんな修次の言葉を真剣な表情を崩さずに聞き、腕を組んで考え込む。

 

「ゲッター線か……また厄介なモンに取り憑かれたな、修次よ?」

「信じてくれるんですか?」

「当たり前な事を聞くな。

 そもそも、お前が俺に嘘なんざ吐けねえだろ。

 吐いたとしても、お前を見て来た俺が見落とす訳がねえ。

 仮にもし、そんなお前が嘘を吐いていたと見破れなかったのなら、そりゃあ、俺の目が節穴だったってだけだ。

 つまり、俺の落ち度よ」

 

 修造は修次にそう言って笑う。

 

「この件はお前に任せるーーと言うよりも、ゲッター線なんてもんが憑いちまったんだ。お前に任せる他ない」

「……義親父」

「話は終いだ。お前はお前の信じる道を行け」

「はい。ありがとうございます」

 

 修次は修造に一礼すると部屋を後にしようとする。

 

「ところで修次よ。お前も25なんだ。

 そろそろ、縁談の一つでもやろうかと思うんだが……」

「え?」

 

 修次は扉を開けようとした手を止め、修造に振り返る。

 

「間谷組の令嬢とかどうだ?

 彼処の嬢ちゃんなら、月岡組も安泰だろ?」

「いやいや、間谷組の令嬢って言えば、まだ13歳じゃないですか?」

「昔で言えば、元服ーーつまり、成人なんだ。問題なかろう?」

「昔って何年前ですか?

 俺は……その……」

「なんだ?親である俺の言う事が聞けないのか?」

「いや、そう言う訳では……」

 

 修次が困っていると修造はニヤリと笑う。

 

「はは~ん。さてはお前、惚れた女がいるのか?」

「そう言う訳でも……ただ、そう言うのはまだ考えてないと言うか」

「なんでえ。つまらん奴だな」

 

 修造は溜め息を吐くと大げさに肩を竦める。

 

「まあ、結婚については考えとけ」

「……政略結婚ですか?」

「そんな大層なモンじゃねえよ。

 俺が早く孫の顔が見てえだけだ」

 

 そこまで言って、修造は、ふと、思い出したかの様にある事を呟く。

 

「そう言えば、辰三が面白い事言ってたな」

「タツが?」

「ああ。確か、米軍の女と親しくしてたとか」

「……タツの奴」

 

 それを聞いて、修次は頭痛でもしたかの様に自身の頭に触れる。

 

「言って置きますが、アドレナとはーーその米軍の女とはそんな関係じゃありませんよ」

「なんでえ。つまらねえな。

 流石の俺もそう言うところだけは育て方を間違えたんじゃねえかって思っちまう」

「まあ、今は考えてないってだけですよ。

 三十路にでもなったら考えますから」

 

 修次は修造にそう告げると扉を開ける。

 

「それじゃあ、義親父。今日はこの辺で」

「いや、待て、修次よ。

 せめて、縁談の話だけでもーー」

「失礼しました」

 

 修次は修造の部屋から出ると逃げる様にその場を後にした。

 

 一人残された修造は頭を掻くと椅子に座り直し、深い溜め息を吐く。

 

「……何がいけなかったんだ?」

 

 修造は誰に言うでもなく、一人呟き、首を傾げた。



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第六話"ブラックゲッター出撃!"

 そして、五日後ーー

 

 修次はバイクに跨がり、エンジンを吹かせる。

 

「本当に一人で行くんですかい、兄貴?」

「ああ。大丈夫だ」

 

 修次は心配する辰三にそう言って前回、山坂組が暴れていた方角を指差す。

 

「俺が見た光景に間違いがなければ、彼処からまた来るだろう。

 お前は安田と共に住民の避難を行え」

「本当に来るんでしょうか?」

「備えあれば憂い無しだ。俺自身、半信半疑だがな。

 まあ、奴らに好き勝手されるよりはマシだろ」

 

 修次はそう言うとバイクを走らせる。

 

 今回、修次が一人で行く理由は山坂組の強奪したスーパーロボットを警戒しての事である。

 

 集団で行けば、守りが疎かになる。

 

 故に修次は単身で基地に向かう必要があった。

 

 無論、修次自身の守りが必要なのも事実だが、修次は敢えて、それを断った。

 

 そんな修次は荒れ果てた道をバイクで疾走して行く。

 

 ーーと、大型のミサイルが右側から降って来た。

 

 修次はバイクをジャンプさせて回避すると更にバイクの速度を上げながら、バックミラーをチラリと一瞥する。

 

 修次の予言通り、バックミラーにはゴリラを角張らせた様なスーパーロボットがズシンズシンと動いているのが映る。

 

 ゴリラ似のスーパーロボットはバックパックのブースターを吹かせると民家を破壊しながら、バイクで疾走する修次へと迫る。

 

(マズいな)

 

 修次は自身の置かれた状況を察知し、更に加速する。

 

 それでもゴリラ似のスーパーロボットの方が速い。

 

『きひひひっ!逃さないわよ!』

 

 その声を聞いて修次は更に危機感を覚えた。

 

 そう。そのゴリラ似のスーパーロボットに乗っているのはあろう事か、月岡組のシマを荒らした真下であったのだ。

 

 それも薬物投与しているのか、かなり狂っているらしい。

 

『きひっ!潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す!』

 

 真下は発狂しているかの様に叫ぶとスーパーロボットの手を上げた。

 

 修次の乗るバイクは至って普通のバイクである。

 

 直撃を食らえば、ひとたまりもないだろう。

 

 このままでは不利と修次は判断すると急ブレーキを掛け、いりくんだ細い道へとバイクを侵入させてアスファルトに叩き付けられるスーパーロボットの手を回避する。

 

『逃げるんじゃないわよ!

 あんたも壊してやるんだから!』

 

 真下は叫ぶとスーパーロボットに内蔵されているミサイルを発射した。

 

 ーー修次の誤算。

 

 それは火の海になるのが自身のシマではない事であった。

 

 そして、搭乗しているのが真下であり、狂った様に修次を狙っている事だろう。

 

 このままでは米軍の基地まで向かうのも困難である。

 

(さて、どうしたものかな?)

 

 細い道を何度も曲がりながら、修次はバイクをひたすら疾走させた。

 

 ーーと、そのスーパーロボットの頭部に何かが当たる。

 

 勿論、そんなものは微々たるダメージにならないものだったが、それは対戦車ライフルの様であったらしく、真下が乗るスーパーロボットの塗装を剥げ落とした。

 

 故に真下が修次から気を逸らせるには十分な理由であった。

 

『今の誰よ?』

 

 その問いに答える者はいない。

 

 その間に修次はバイクを再び道路に乗せ、真下から距離を取る。

 

 ーーと、そんな修次にもう一台のバイクが迫った。

 

 最初は敵かと思った修次だったが、バイクに跨がる人物は修次の乗るバイクの横に並ぶと一言呟く。

 

「行け」

 

 それだけ言うとバイクの人物は反転し、真下の元へと向かう。

 

 そして、バイクの人物はライフルを片手にスーパーロボットへと挑む。

 

(アドレナの使いか?)

 

 修次はバイクの速度を緩め、そちらをバックミラーでそちらを見る。

 

 バイクの人物はヘルメットをしていて解らないが、何か通じるものを感じた。

 

 バイクの人物はスーパーロボットと戦い慣れているのか、ライフルで真下を翻弄する。

 

 修次はそれを確認すると再びバイクを加速させた。

 

 時間が惜しいからと言うのもあったが、何かが彼なら大丈夫だと囁いたからである。

 

 そうこうしている間に修次は基地へと到着した。

 

「アドレナ。ブラックゲッターは?」

「今、換装が終わったところだ」

「そうか。あのバイクの男と言い、助かる」

 

 修次はそう言うとバイクから降り、ブラックゲッターへと乗り込む。

 

 そんな修次を見ながら、アドレナは首を捻る。

 

「……バイクの男?ツキオカは何を言っているんだ?」

 

 そうぼやきながら、アドレナは修次が起動するブラックゲッターを見詰めた。

 

「ツキオカ。操縦方法は解るのか?」

『解らん。いや、解らん筈なんだが……何故か解る』

 

 修次はスピーカー越しにアドレナにそう言うとブラックゲッターを前進させる。

 

『エンジンが変わったせいで内蔵武器は使えないのか……』

 

 修次はそう呟くと手頃な大振りの刀を手にする。

 

「おい。それはただの展示品だぞ?」

『問題ない。これを使わせて貰う』

 

 アドレナの言葉に修次はそう告げると真下の元へと駆け出す。

 

「お、おい!ツキオカ!」

 

 アドレナの叫びも虚しく、修次の乗るブラックゲッターは疾走する。

 




ふと、疑問、歳を取らなかった彼は百年も生きていられるのか?


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第七話"ゲッターの導き"

 暴れ回るゴリラ似のスーパーロボットに修次の操るブラックゲッターは接近すると展示品の刀を振るう。

 

 当然、展示品に過ぎない刀ではゴリラ似のスーパーロボットを切り裂くには至らない。

 

 それどころか、逆にへし折れる始末である。

 

『けへっ!このマウントGにそんななまくらが通用する訳ないでしょ!?』

『ちっ!』

『ん?まさか、乗っているのは、あんたなの、月岡修次?』

『だとしたら、どうする?』

『けへへっ!なら、ぶち殺して、その機体も私の物にして上げるわ!』

 

 そう叫ぶと真下の乗るマウントGがブラックゲッターに襲い掛かる。

 

 修次は初めて乗ったとは思えぬ慣れた手つきでバックステップで下がるとブラックゲッターの左腕を振るう。

 

 そのブラックゲッターの左腕から生えたゲッターレザーと呼ばれる刃の様な先端にマウントGが触れるとその硬さが嘘だったかの様に胴体の装甲が裂け、その箇所からコックピットが露出する。

 

 真下はマウントGと一体化して機械の一部となっていた。

 

 そんな斬られた隙間から真下は驚いた表情で修次の乗るブラックゲッターを見詰める。

 

『どうやら、下手ななまくらよりも素手の方が強いらしいな』

『そんな馬鹿な!?私達の闇市で仕入れた最上級の合金なのよ!?』

『伊達に歴戦の機体じゃないってだけだ』

 

 修次はそう言うとマウントGに組み付き、腕の関節を逆方向に捻る。

 

 さながら、その動きは合気道のそれであった。

 

 修次は関節技を決めたマウントGのボディーにブラックゲッターのスパイクの付いた右拳を叩き込み、そのまま、宙に浮いたマウントGの顔面に続けざまに喧嘩キックを喰らわせて転倒させる。

 

『げふっ!』

 

 そんなマウントGに修次の乗るブラックゲッターは地を蹴ってマウントGにのし掛かり、その露出したコックピットにへし折れた刀を突っ込む。

 

 血とも油とも解らぬ液体が吹き出し、真下の乗るマウントGが痙攣して動かなくなったのは、それから数秒後の事であった。

 

 マウントGから離れると修次はブラックゲッターの中で一息吐く。

 

 ーーとブラックゲッターのコックピットのハッチが開かれ、あのバイクの男が佇む。

 

「……お前か。どうやって動いているブラックゲッターに?」

「ブラックゲッターはお前の物だ。

 あとはゲッターがお前を導く」

「俺の質問に答えろ。お前、何者だ?

 アドレナ達の仲間じゃないのか?」

 

 その言葉にヘルメットの男は答えない。

 

 代わりにヘルメットの男が淡い緑の光に包まれ、それに呼応する様に修次も緑の光に包まれる。

 

「ーーっ!?」

「恐れるな。ゲッターに身を委ねろ。

 お前なら、それが出来る筈だ」

「……ゲッターに……委ねる」

 

 修次は瞼を閉じ、ヘルメットの男ーーゴウのゲッター線と自身のゲッター線を感じた。

 

 そんな修次の脳裏に100年前のインベーダーとの戦いが過る。

 

「これがーーゲッターのーー」

「そうだ。そして、このブラックゲッターは月面戦争から二十数年後に竜馬の残した最初で最後のゲッターロボでもある」

 

 宇宙でインベーダーと戦う真ゲッターロボと真ドラゴン。

 

 そして、惑星をも破壊するゲッタートマホークで生じた裂け目へとシャインスパークで突っ込む六人。

 

 待っていたのは無限に繰り広げられる戦い。

 

 竜馬達、古参はその戦いへと身を置き、ゴウ達は元の世界へと戻った。

 

 そして、復興する町を眺めながら、早乙女の娘にして弁慶の養女であるケイこと元気と身を寄せ合うゴウ。

 

 だが、運命は残酷である。

 

 大量のゲッター線を浴びて産まれたゴウは老いる事もなく、歳を取り、老いていくケイやガイを看取った。

 

 そうして、ゴウとケイの間に産まれたのが、修次の父である人物だった。

 

「ーーっ!?」

 

 意外な事実に修次は驚きを隠せない。

 

 つまり、目の前のゴウと修次は血縁関係にあるのだ。

 

 流石の修次もこの事実には拒絶を示し、元のコックピットの風景に戻る。

 

「お前はーーゴウは俺のじいさんなのか?」

「そうなる。そのお前にブラックゲッターが訪れたのはゲッターの意思だ」

「だが、俺のくそったれな親父はそれを拒んだと」

 

 修次は自嘲気味に笑うとゴウに尋ねた。

 

「俺は何をすれば良い?」

「インベーダーの脅威は最早ない。

 お前はお前の思う通りに進め。

 その先にゲッターの導きがある」

「ふざけるな!」

 

 ゴウの言葉に修次は叫ぶ。

 

 当然である。ゴウの言葉には矛盾があるのだから。

 

「ゲッターに身を委ねろだの、俺自身で決めろだのーー結局、俺に何をさせてえんだ!」

「それがゲッターに選ばれたお前の課題だ。

 ブラックゲッターをどの様に使うかはお前次第だ」

 

 ゴウはそう告げると修次に背を向け、トンとブラックゲッターから飛び降りる。

 

「待て!」

 

 修次はコックピットから離れ、ブラックゲッターの口元から顔を覗かせるが、その時にはゴウは既にバイクに跨がり、遠くへと去って行った。

 

「くそっ!」

 

 修次はガンとハッチの端を叩くとコックピットに戻り、再び深い溜め息を漏らす。

 

「……ゲッター。お前は俺にどうさせたいんだ?」



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第八話"ジャパニーズマフィアの交渉術"

 修次はブラックゲッターから降りると遅れてやって来たアドレナ達と合流する。

 

「ツキオカ!」

 

 アドレナが駆け寄り、修次に抱き着くと修次は何とも言えぬ表情をした。

 

「……すまないが、離れてくれないか?」

「あっと!すまないな!

 嬉しくて、つい……」

「……嬉しい、だと?」

 

 そのアドレナの言葉に修次は静かな怒りを感じると彼女を強引に引き剥がし、マウントGに破壊された町並みへと振り返らせる。

 

「……お前にはこの惨状が解らないのか?」

「あ」

「おいそれと嬉しいなんて言葉は使うんじゃない。

 あのガキなんかを見てみろ。母親と右足持ってかれているんだぞ?」

 

 修次はそう告げるとシュンとして俯くアドレナから視線を外し、周りを見渡す。

 

 マウントGが残した傷痕は大きい。

 

 焼け爛れた皮膚を引き摺る女性。

 

 目や口から出血し、腸がはみ出した男性の屍。

 

 焼け焦げたアスファルトと瓦礫の上で独り泣く少女。

 

 そこはまさに地獄絵図であった。

 

「うちでも保護するが、お前のところでも保護しろ。これは俺達の失態だからな」

「……ああ。解った」

 

 修次にそう言われ、アドレナは真剣な表情で頷く。

 

 そこには先程までの少女の様な微笑みはなく、一人の戦士としての顔があった。

 

「だがな、ツキオカ。今回の発端は私達ーー米軍の生き残りのミスだ。

 そちらで見て貰う必要はない」

「……そうか」

「そう言う訳でブラックゲッターは此方で回収する」

 

 その言葉に修次は眉を潜めたが、すぐにアドレナに銃を突き付けられている事に気付く。

 

「出来れば、こんな真似はしたくなかった」

 

 アドレナは残念そうにそう言うと修次から距離を取る。

 

「ブラックゲッターは我々が改修したんだ。

 それにプラズマ駆動エンジンの取り換えも此方にしか出来ない」

「……アドレナ」

「これは命令だ。ブラックゲッターを差し出せ」

 

 アドレナは銃を突き付け、修次を威嚇する。

 

 そんなアドレナに修次はおかしそうに肩を震わせて笑う。

 

「何がおかしい?」

「いや、すまん。お前があまりにも下らない命令をするもんでな?」

「なに?」

「ブラックゲッターはそちらの好きにしろ。俺達には不要だ」

 

 その言葉に今度はアドレナが眉を潜めた。

 

「構わないのか?」

「ああ。お前の言う通り、ブラックゲッターはそちらでしか整備出来ない。

 月岡組もーーいや、日本の極道だけでは保管するだけで手一杯だろう」

「……そうか」

「だがな、アドレナよ?その次はどうする?

 お前達は自分達の生活で手一杯だと言うのに難民や負傷者も受け入れたとなれば、生活用品なんかに困るだろう?」

「それはーー」

「だから、取り引きと行こう」

「取り引き?」

 

 アドレナがおうむ返しに尋ねると修次は笑みを浮かべたまま頷く。

 

「確かに此方にはブラックゲッターの整備は確かに出来ない。

 だが、医療器具や日用品には充実している」

「……ふむ」

「それに加えて、難民も此方で少なからず、受け入れよう」

「見返りは?」

「緊急を有する際のブラックゲッターの使用だ」

 

 修次の提案にアドレナはしばし考え込むと、すぐに首を左右に振って溜め息を吐く。

 

「ならば、難民の件も此方で命令するだけだ。

 立場が解ってない様だが、ツキオカの命は今、私が握っているんだぞ?」

「いいや。お前に俺は殺せない」

「確かにツキオカには義理がある。だがーー」

「勘違いするな。恩義がどうとかじゃない。

 お前達で言うジャパニーズマフィアだからって事だ」

 

 修次はそう言うと不敵な笑みを浮かべ、アドレナを見据える。

 

「殺られたら殺り返す。それがヤクザもののやり方だ。

 そんな事になって見ろ。難民の受け入れどころか、月岡組とのタマの取り合いだ。

 そんなところを真下みたいな奴がまた狙って来たら、どうする?」

 

 その言葉にアドレナは迷う。

 

 そんなアドレナに修次は更に続けた。

 

「ブラックゲッターはな。

 流竜馬ーーかつてのパイロットが独学で改造した専用機だ。並みの奴には当然、動かせん。

 ゲッター線で知識を得た俺を除いてな?」

「……私を脅すのか?」

「言ったろう?やられたら、やり返すのが、ジャパニーズマフィアだってな?」

 

 そう言うと修次はアドレナに答えを求める。

 

「さあ、選べ。命令か交渉か、それとも戦争かをな?」

 

 その言葉にアドレナはもう一度溜め息を吐くと銃を下ろす。

 

「降参だ。私達はツキオカの所属するマフィアと交渉しよう」

 

 アドレナがそう言うと修次は米軍が持ってきたバイクに跨がる。

 

「交渉は後日、改めてやるぞ」

「此処じゃ駄目なのか?」

「難民の受け入れとなると義親父の許可が必要だからな。

 流石に若頭の俺だけの力じゃ無理だ」

「解った。此方の医療品が無くなる前に頼む」

「ああ。任せて置け」

 

 修次はそう言うとバイクに乗って、その場を後にした。

 

「いいんですか、リーダー?」

 

 そんなアドレナに米兵の一人が尋ねる。

 

「何がだ?」

「ジャパニーズマフィアと手を組むんですよ?」

「そうだな。普通ならマフィアと連携するなど、あってはならない事だ」

「解っているのなら良いのですが、指揮にも関わります。

 申し上げ難いのですが、あまり、あの男に心を赦すのは如何なものかと……」

 

 そう言われ、アドレナは周囲の仲間を見る。

 

 その目には確かに迷いや侮蔑のものがあった。

 

 なので、アドレナははっきりと告げる。

 

「異議のある者は前へ出ろ。但し、ツキオカの提案を覆せると言う答えを持つ者だけだ。

 それ以外は大戦士シュワルツの名の元に沈黙し、私に続け」

 

 その言葉に誰も前に出ようとはしない。

 

 そんな仲間にアドレナは諭す。

 

「確かに他のマフィアなら、一ヶ月位経って此方が衰弱した頃を見計らってから多額の請求なりして来るだろう。

 だが、ツキオカ達は違う筈だ。

 それは先のジャパニーズマフィアを見て、皆、解っているだろう?」

 

 アドレナはそう言うと仲間の肩に触れる。

 

「我々にはブラックゲッターがある以上、交渉はされる。

 それでも、もしもツキオカ達が約束を破ったり、多額の請求などをしてきたのなら、私は皆の慰みものになろう」

 

 その言葉に異議を唱える者はおらず、代わりに彼女を崇拝する者や獰猛な眼で見る者が現れる。

 

 そんな仲間にアドレナは毅然とした態度で接した。

 

 その姿はカリスマ的な物であったと言う。



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第九話"本音"

 修次は辰三と安田と共に修造の元へと向かうとアドレナとのやり取りを話す。

 

「……ふむ。難民の受け入れと援助か」

「はい」

 

 修造に修次は頷く。

 

「こう言っちゃなんですが、兄貴は少し肩入れし過ぎじゃないですか?」

「失礼を承知で言わせて貰いますが、自分もタツの意見と同じです。

 それに自分達は任侠を重んじているとは言え、ヤクザです。

 見返りを求めるにしてもデメリットが大きくて問題があるのでは?」

 

 その言葉に修造は辰三と安田を睨む。

 

「テメエら、いつから兄貴分の修次に意見出来る程、エラくなったと勘違いしてんだ?」

「ひっ!」

「ーーっ!?」

 

 修造の威圧感に蛇に睨まれた蛙の如く、辰三と安田は固まる。

 

 そんな二人を見てから修造は視線を修次へと戻す。

 

「ーーとは言え、二人の意見にも一理ある。

 俺の見立てでも、その辺りはもう少し値踏みしても良いかも知れん。

 疲弊するギリギリまで泳がせても良いだろう」

「……自分も、そう思います」

 

 修次が同意すると修造は何か言いたげな彼を見て、笑う。

 

「そう思っているってんなら、そんな複雑そうな顔をするのは止めろ」

「……すみません」

「言いたい事があるなら言ってみろ。

 俺の跡を継ぐお前までダンマリ決め込む必要はない」

「ですが……」

「俺は本音で話せっつってんだ」

 

 修次は修造のその言葉に黙り込むとポツリと呟く。

 

「今回の難民の一件は俺に非があります」

「ーーっ!?何を言ってんすか、兄貴!?」

 

 思わず、前に出ようとした辰三を安田が慌てて止める。

 

 それでも辰三は兄貴分の修次に向かって叫ぶ。

 

「兄貴は何も悪くないでしょ!?

 米軍からハジキ返して、ロボットも止めたじゃないですか!!」

「だが、俺は予期していた。それが自分のシマか、そうじゃないかってだけだ」

 

 辰三に修次はそう告げると修造を見据える。

 

「義親父。罰はなんなりと……」

「感情的でさりげなく、仁義を飾った言葉だ。だが、俺にはそれがお前の本音には聞こえねえな?」

「では、なんと答えれば?」

「言った筈だぞ。お前の本音を聞かせろと……」

 

 その言葉に修次は戸惑う。

 

 そんな修次を見て、修造は笑った。

 

「仁義を飾る必要も堅気を言い訳にする必要もねえ。

 俺はただ、お前が望んでいる事を聞きてえんだ」

「自分はーー」

 

 そこまで言い掛け、修次は意を決して発言する。

 

「俺は自分みたいな親兄弟をなくしたガキを作りたくありません。出来る事なら全員助けたい。

 でも、俺には腐っても月岡組の筆頭若頭と言う肩書きがあります。

 そんな俺がおいそれと人助けなど、出来る訳がありません」

「それがお前の本音か……なら、して来い」

 

「「「……え?」」」

 

 一瞬、何を言われたのか、辰三や安田も含め、修次は目を丸くする。

 

 そんな修次を見て、修造はしてやったりと言う顔をした。

 

「お前の発言はヤクザとしちゃあ、確かに甘い。

 だがな、誰かが誰かを助けたいなんてのに理由なんざ、いらねえ」

「……で、ですが、義親父。それでは月岡組の面子がーー」

「組にとって親の命令は絶対だ。

 それを解ってて面子がどうのを言うんだろうな、安田?」

「い、いえ!滅相もありません!」

「解ってんなら黙ってろ。それにお前達、さっきから任侠とは言え、腐ってもヤクザだとかだ抜かしてたな?」

 

 そう言うと修造はガンとデスクを片足で踏み、その膝に肘をついて修次達に叫ぶ。

 

「テメエら、揃いも揃って月岡組の看板を汚す気か、馬鹿共!

 俺が親な内はヤクザを名乗る前に任侠を語れ!」

「「は、はい!」」

「返事する暇があるなら、とっとと行って来い!

 これは月岡組組長・月岡修造直々の命令だ!

 解ったら、人を集めて、怪我人やら孤児を早く助けに行きやがれ!」

 

 その叫びに辰三と安田が慌てて出て行く。

 

 そんな二人を見送ってから修次はデスクから足を下ろして椅子に座り直す修造に頭を下げる。

 

「ありがとうございます、義親父」

「礼はいい。お前もさっさと行け」

「はい。行って来ます」

 

 修次は再度、一礼すると部屋を後にした。

 

 そんな修次を見送ってから、修造は独り苦笑する。

 

「俺も甘くなったもんだ。そろそろ、修次の奴に跡を継がせるかな?」



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