戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ (風人Ⅱ)
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第一章/戦姫達の物語×忘却の仮面ライダー

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!」

 

 

──深い霧に覆われた深夜の海沿いの公園。昼間には大勢の人達が家族や友人、恋人との一時を楽しむ人気スポットとしてそれなりに有名なこの場所も、夜の闇に包まれる今はその見る影もない。

 

 

街灯の光が点滅し、公園内は不気味な静寂に包まれ、時間帯的にも当然の事ながら人気などありはしない。

 

 

そんな公園の中を、一人の女性が息を切らしながら必死の形相で何かから逃げるように走る姿があった。

 

 

髪や服が乱れるのも構わず、形振り構わずに逃げ続ける彼女の顔に宿るのは"恐怖"の感情のみ。

 

 

まるで悪鬼にでも追われているかのような様子で後ろを気にするように何度も背後を振り返り、公園の中を逃げ回った先で彼女が滑り込んだのは石造りのベンチの裏。

 

 

息切れした酸素を取り戻すかのように胸を抑え何度も深呼吸を繰り返すと、女性は恐る恐る石造りのベンチの穴の隙間から周囲を見回し、誰も追ってきていない事を確認して漸く安堵の溜め息を漏らした。

 

 

「はぁっ……はぁっ……何だったの……一体、"アレ"はっ……」

 

 

呼吸を整えて幾許かの落ち着きを取り戻しても、女性の内を占める疑問や混乱までもが消えてなくなった訳ではない。

 

 

──"アレ"はなんだ?何故自分が追われていた?

 

 

誰かが応えてくれる筈もない疑問を心の内で何度問うても、やはり返ってくるものは何もない。

 

 

思い出すだけでも心の底から震え上がる。しかし最早自分にはどうする事も出来ないのなら忘れてしまった方が楽になれるか、それも無理なら今から警察署にでも駆け込んで相談するしかないと未だ心に根付く恐怖を振り払うようにそう考え、女性は持参のバッグを乱雑に漁り、飲み残しの水で乾いた喉を潤そうと震える手でキャップを開けようとし、

 

 

 

 

 

──ペットボトルの中で揺れる水越しに、血のように赤い瞳を輝かせて自分の顔を覗き込む"悪鬼"の顔を見た。

 

 

「ッ!?い、いやぁあああああああああああっっ!!?」

 

 

『アヒッ、ヒッ……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァッ!!!』

 

 

開きかけのペットボトルの水を投げ出し、耳をつんざくような悲鳴を上げる女性。その声を聞いた悪鬼はまるで歓喜するかのように、狂った嗤い声と共に女性へと迫る。

 

 

恐怖で泣き叫び、腰が抜けたのか女性が身を起こす事もままならないまま地を這いずるように無様に逃げるしか出来ない中、悪鬼はそんな姿をも愉しむかのように不気味に嗤いながら口から夥しい量の涎を垂らし、その両手から生える凶悪な爪で女性の四肢を引き裂こうと勢いよく駆け寄り爪を振り上げ、そして……

 

 

 

 

「…………ぅっ…………っ…………え…………?」

 

 

 

 

……一瞬の後にはズタズタに引き裂かれていたであろう筈の女性の身に、いつまで経っても痛みが降り掛かる事はなかった。

 

 

最早此処までなのかと、絶望のあまり涙で濡れた目で痛みからも目を逸らそうとした女性は不思議に思い、恐る恐る背後に振り返ると、其処には……

 

 

 

 

 

 

『……ギ、ガッ……ギギギッ、ギギィッ……?!』

 

 

『……………………』

 

 

 

 

 

 

──彼女から少し離れた場所に、二つの影が蠢く姿があった。

 

 

一つは女性を襲おうとしていた筈が、何故かいつの間にか遠くに倒れて痛みに身悶える悪鬼の影。

 

 

そしてもう一つは、女性に背を向け、僅かに見える横顔から赤い瞳を輝かせているのが分かる特徴的なシルエットの影。

 

 

何が起きているのか分からぬまま女性が呆然と座り込む中、赤い瞳を持つ影は徐に身を起こす悪鬼を観察するように見つめ、ポツリと呟いた。

 

 

『既に正気はない、か……あのノイズとか言う化け物を際限なく喰らい続けて、果てに狂ったか……』

 

 

『ギギギギギィッ……!!!シャアァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

何処か哀れむようにも聞こえる赤い瞳の影の声も掻き消す程の雄叫びを上げ、自分の愉しみを邪魔した赤い瞳の影に怒りをぶつけるかのように襲い掛かる悪鬼。

 

 

だが、がむしゃらに両手の爪を振るうだけの悪鬼の荒削りな攻撃を赤い瞳の影は最小限の動きだけで軽々と回避し、同時に鋭い二の打ちのボディーブローを胴体へとカウンターで叩き込んで後退りさせ、最後に流麗なミドルキックを打ち込み悪鬼の身体を宙に浮かせ吹っ飛ばしていった。

 

 

『アグゥッ?!ギッ、ギギッ、ギギィッ……!』

 

 

『……これで、終わりだ』

 

 

受け身すらも取れず、地面に思い切り叩き付けられて悶え苦しむ悪鬼を見据えそう呟くと、赤い瞳の影は左腰に備え付けられているカードケースからカードを一枚取り出し、腰に巻かれているベルトのバックルから上部に露出してるスロットにカードを装填してバックルに戻すように掌で押し込んだ。

 

 

『Final Code x……clear!』

 

 

バックルから鳴り響く電子音声と共に、赤い瞳の影が右足を悪鬼に向けて突き出した。直後、足の裏から放たれた蒼い光が悪鬼に直撃すると共に捕縛し、自分の全身を駆け巡る蒼い光を見て悪鬼が戸惑う中、赤い瞳の影は地面を軽く蹴り上げて跳躍すると共に空中で跳び蹴りの態勢を取り……

 

 

『──ハアッ!』

 

 

『イッ、ギッ……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?』

 

 

空中に浮いた赤い瞳の影の全身が蒼く発光し、直後にその身を蒼い閃光と化した跳び蹴りが悪鬼の身体を貫いたのだった。そして閃光から元の姿に戻った赤い瞳の影が悪鬼の背後に現れたと共に、悪鬼は断末魔の悲鳴を上げながら爆散し完全に消滅していった。

 

 

「ッ……な、なんなの……?」

 

 

その一連の流れを目にし、爆発の勢いから思わず顔を逸らしていた女性は呆然と赤い瞳の影を見つめていく。

 

 

……雲の隙間から差す月の光に照らされて輝く、蒼い仮面と黒のアンダースーツの上に纏われる蒼い装甲。

 

 

全身の至る所にXの意匠が施されるその姿を目に焼き付け、女性の脳裏にふと数週間前からネットで話題になっているとある都市伝説が過ぎった。

 

 

闇に潜む怪物から人知れず人々を守る、謎のヒーロー。

 

 

顔を隠す仮面を纏って怪物を倒し、バイクを駆って颯のように立ち去るその姿から人々が名付けた、その名は確か──

 

 

「──仮面……ライダー……?」

 

 

『…………』

 

 

月が照らす光の中で赤い瞳を輝かせる影……仮面ライダーを女性が呆然と見つめる中、仮面ライダーはそんな女性を一瞬一瞥するだけで特に何も語ろうとせず、そのまま背を向け何処かへと歩き去っていったのだった。

 

 

 

 

 



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第一章/戦姫達の物語×忘却の仮面ライダー①

 

 

―S.O.N.G.潜水艦本部―

 

 

──S.O.N.G.。それは超常災害対策機動部タスクフォース(Squad of Nexus Guardians)の略称であり、認定特異災害『ノイズ』に対応するため日本政府が設けた組織。

 

 

その活動内容は先史文明期の人類により作り出された人間のみを大群で襲撃し、触れた者を自分もろとも炭素の塊に転換してしまう特性を持つ異形の存在『ノイズ』、そのノイズの自然発生が終息した今、S.O.N.G.と敵対する錬金術師の組織がノイズを改良して運用する『アルカ・ノイズ』の殲滅は勿論のこと、『聖遺物』と呼ばれる世界各地の伝説に登場する超古代の異端技術の結晶の回収・保護を主な目的としている。

 

 

そんな彼等の本部となるのは、ここ政府が保有する埠頭の敷地内にて現在整備作業が行われる巨大な潜水艦であり、その艦の発令所のブリッジにて今、S.O.N.G.に所属する『シンフォギア』の装者達がとある議題で集められていた。

 

 

「──ノイズとは違う、謎の怪物……ですか?」

 

 

議題の内容を聞かされ、開口一番に疑問げにそう口を開いたのは、襟足が広がった栗色の髪のボブカットの少女……聖遺物『ガングニール』の装者である"立花 響"だった。

 

 

そんな彼女の疑問に同調するように響と共に集められた他の装者の少女達もそれぞれ訝しげな反応を浮かべる中、彼女達の前に立つ赤のカッターシャツとピンクのネクタイが特徴的な大柄の男性……このS.O.N.G.の司令官である"風鳴 弦十郎"は両腕を組んだまま静かに頷いた。

 

 

「うむ……昨夜未明、深夜の警察署に駆け込んだ女性から気になる証言を得たらしい。何でもノイズとは異なる姿の、血のように赤い眼をした正体不明の謎の怪物に突然襲われた、と」

 

 

「正体不明の謎の怪物……」

 

 

「ち、血のようなって……また随分物騒な特徴デスね……」

 

 

弦十郎から聞かされる正体不明の怪物の話の内容に、黒髪のツインテールの物静かな少女……聖遺物『シュルシャガナ』の装者である"月読 調"は険しげに眉を潜め、彼女の隣に立つ髪留めをした金髪の少女……聖遺物『イガリマ』の装者である"暁 切歌"はその不気味な特徴に気味が悪そうに顔を引き攣る。

 

 

そんな中、発令所にて情報処理を担当するオペレーターの二人の男女……"藤尭 朔也"と"友里 あおい"が弦十郎の話に補足説明を加えていく。

 

 

「念の為、女性の証言を元に昨夜彼女が被害に遭ったという公園周辺の索敵レーダーのデータを時間を遡って洗い直してみたのですが……」

 

 

「ノイズ、アルカ・ノイズの反応は勿論の事、それらしき不審な反応は特に感知されてませんでしたね……」

 

 

「だったら襲われた本人の勘違いだったんじゃないか?それっぽい覆面を被ってた暴漢だったとか。いきなり襲われて混乱してたってのもあるだろうし、暗がりじゃ相手の顔なんて良く見えないだろ?」

 

 

オペレーター二人の話から、襟足の左右を長く伸ばした銀髪の少女……聖遺物『イチイバル』の装者である"雪音 クリス"はそもそも怪物など存在せず、襲われた被害者のただの勘違いだったのではないかと指摘するが、その指摘に対し弦十郎の隣に立つ小柄な少女……S.O.N.G.の技術面を担当する"エルフナイン"が手元のパッドを操作しながら応える。

 

 

「その可能性もあるとは思うんですが、実はそれだけじゃなく、この件と何か関わりがあるんじゃないかと思われる噂がありまして……これなんですが……」

 

 

「……?何だこりゃ?」

 

 

「……『新たな都市伝説発見!人知れず怪物から人々を守る、影のヒーロー!』?」

 

 

エルフナインが見せる液晶画面を覗き込むと、其処にはとあるサイトのまとめで紹介される都市伝説のスレッドが映し出されていた。

 

 

淡々とした声音で調がタイトルを読み上げたそのまとめには、夜な夜な人を襲う怪物を謎のヒーローが駆け付けて颯爽と倒したという、まるで特撮ヒーローの中の話のような信じられない体験談が幾つも報告されており、その内容に怪訝な反応を浮かべる他の三人とは対照に、そのスレッドを目にした響が過敏に反応を示した。

 

 

「あ、それ知ってる!確か、『仮面ライダー』の話だよね?」

 

 

「……はあ?仮面ライダー?何だよそれ?」

 

 

「私も今朝学校で友達から聞いたんだよ。素顔を仮面で隠し、何処からともなく颯爽と現れて怪物を倒し、バイクに乗って颯のように去っていく謎のヒーロー!その姿から誰が呼んだか、仮面ライダー!……って」

 

 

「ほんとに何だそりゃ、アホらしい……もしかしなくてもその友達ってあのアニメ好きのお前の友達だろ?別に悪く言うつもりはねえけど、この手の眉唾物にまで手を出し始めたらいよいよ終わりだぞって伝えとけ」

 

 

「えー……私はそんなに悪くないと思うけどなぁ……」

 

 

身振り手振りで友達に教えてもらった仮面ライダーの噂を説明するも、そのあまりに荒唐無稽な内容に馬鹿馬鹿しげに溜め息を吐くクリスから呆れ気味に一蹴され若干気落ちする響だが、その話を聞いていたエルフナインは「いえ」と首を横に振った。

 

 

「響さんの話、あながちただの噂話と切って捨てられないと思います。実際のところ、ここ数週間の間で昨夜の女性と同様の事件が幾つも報告されており、被害者が皆、口を揃えて証言してるんです……『ノイズじゃない謎の怪物に襲われ、仮面を身に付けた何者かに助けられた』、と」

 

 

「……って言われてもなぁ……それでこんな無茶苦茶な話を信じろって言われてもよ……」

 

 

「そもそもの話、その報告されてる被害っていうのが実は被害者側の悪戯って可能性もないデスか?このネットの掲示板とかを見て、誰かが最初にやり始めたから自分もやってみよう!なーんて流行りに乗って、ホントにやってしまった困ったちゃんな人達かもしれないデスよ?」

 

 

未だクリスが仮面ライダーの話を受け入れられず困ったように頭を掻く中、切歌が実は報告される被害そのものが被害者側の自作自演ではないかと推察するも、弦十郎は首を振ってそれを否定する。

 

 

「その可能性も最初に考えられたが、事情聴取を行った警官達の話では、被害者の中には実際に腕や足に何かに引っ掻かれたような深い傷を負った者も何人かいたらしい。……何より、被害者達の様子は皆普通ではなく、聴取を受ける間も何かに怯えているようだった。その様子からして、彼等が嘘を言っているようには見えなかったと」

 

 

「マ、マジでデスか……」

 

 

「……ただの悪戯にしても、その為だけに自分の体に傷を入れるなんて、普通だったら有り得ないよね……」

 

 

言葉を失う切歌の隣で、調は顎に手を添えて冷静に分析する。

 

 

もしも仮に今までの話が本当だと仮定すれば、今街にはノイズとは別に人を襲う怪物が潜み、その怪物を倒す謎の勢力が存在するということになる。

 

 

敬遠しがちな噂や都市伝説の内容から有り得ないと否定しそうになるも、それが仮に本当だとすれば確かに由々しき事態かもしれない。何せ自分達の預かり知れぬ所で人々の身に危険が降り掛かっているのだから。

 

 

「今のところ死傷者の報告は出ていないが、だからと言ってこのまま放置する事は出来ない。今後その被害が出る可能性もある以上、現在S.O.N.G.の方でも事件の調査を進めてはいるのだが……」

 

 

「情報が少ないのもあって、今のところ調査の方もかなり難航しているみたいですね……何分頼りとなる手掛かりが被害者の証言とネットの情報だけなのもそうですが、証拠も殆どなく、今までの事件が信憑性の薄い都市伝説レベルの話で留まっていた辺り、もしかすると件の怪物側にも証拠を隠滅する工作員のような存在がいるのではないかと……」

 

 

「人を襲って、しかも証拠も消し回ってんのかよ……やってる事のタチの悪さは錬金術師の連中とどっこいどっこいだな……」

 

 

「でも、だったら余計にほっとけないです!理由もなしに人を襲ってるなら、尚更……!」

 

 

正体が不明でもあっても、事実人が襲われて被害も出ているのは確かだ。ならば何であれ捨て置くことなんて出来ないと、拳を握り締めて力強い眼差しを向ける響に対し、弦十郎も同意の意を込め頷き返す。

 

 

「現状、手掛かりが少ないのは事実だが、かと言って何も掴めていない訳でもない。昨夜の怪物の被害に遭った女性だが、一夜明け、事件当時の記憶を落ち着いて思い出せるようになった彼女の口から気になる証言を得られた」

 

 

「女性の話では、怪物に襲われ掛けた所を例の仮面ライダーに助けられ、彼が怪物を見てこう口にしたそうです……『ノイズを食べ過ぎて、狂ったか』、と」

 

 

「ノイズを……食べる……?」

 

 

耳を疑う内容に、装者四人は目を見開き困惑してしまう。

 

 

ノイズとはその特性として、触れたものを炭素や塵に分解する危険な能力を持ち、シンフォギアのような特殊な兵装を持たなければ触れる事すら出来ない存在。

 

 

なのにそのノイズを喰らえるとなれば、それはノイズと同等か……いや、仮にもし食らった分強くなるとすれば、それはノイズ以上の脅威となりうるかもしれない。

 

 

想像していたよりも遥かに危険な存在である可能性が仄めかされ、装者達の間に改めて緊張が走る中、それが伝わったのか弦十郎も真剣な口調で発令を掛ける。

 

 

「真偽の程は分からないが、この証言が事実であればこのまま放っておく事は出来ない。よってS.O.N.G.は今後の方針としてこの謎の怪事件の真相を追うと共に、件の怪物の捕縛、又は撃破を視野に調査する事とする。尚、件の怪物については被害者の証言を元に、仮称として『ノイズイーター』、仮面ライダーと噂される謎の存在を『マスクドライダー』と称する事となった」

 

 

「ノイズイーターと、マスクドライダー……」

 

 

「うーん……私としては仮面ライダーの方がしっくり来るんだけどなぁ……」

 

 

「あー、分かるデス。何故か分かりませんがそっちの方がなんと言うかこう……キュピーン!と身が引き締まる感じがするデスよ」

 

 

「お前ら、緊張感が長続きしなさ過ぎだろ……」

 

 

今さっきまでノイズ喰いという未知の能力の敵の存在を知って緊張の面持ちだった筈なのに、早くもいつもの調子に戻り仮面ライダーの呼称について盛り上がる響と切歌にクリスも呆れ、調も似たような反応で溜め息を吐いてしまっている。

 

 

そして弦十郎もそんな様子にやれやれと肩を竦めるも、すぐにまた表情を引き締め話を進めていく。

 

 

「一先ず今回は此処までだ。相手の正体が掴めていない以上後手に回ざるを得ないが、気を逸らせても仕方がない。今後情報が入り次第君達にも報せ、場合によっては緊急で出撃してもらう場合もある。その時は宜しく頼んだ」

 

 

「分かりましたッ!……あ、ところで師匠、今の話って翼さんとマリアさんには……」

 

 

「あ、お二人には先に僕の方から伝えてあります。ただ、お二人にもまだお仕事があるらしいので、急に帰国するのは中々難しいかと……」

 

 

「あー、そっか……二人とも今は海の向こうだしね……」

 

 

残念そうに呟く響の脳裏に浮かぶのは、装者達の中でも年長組の二人……聖遺物『天羽々斬』の装者であり、弦十郎の姪である"風鳴 翼"と、聖遺物『アガートラム』の装者である"マリア・カデンツァヴナ・イヴ"の顔。

 

 

どちらも世界に誇るトップアーティストとして活動しており、現在も海外での活動に勤しむ彼女達にこちらの都合に合わせて直ぐに帰ってきてもらうのは確かに難しいだろう。

 

 

しかし欲を言えば二人の顔を見たかったなぁと後ろ髪を引かれながらも、とりあえずその場を解散となった響は他の装者の三人と共に本部を後にするのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

──同時刻、とあるビルの屋上にて二人の青年の姿があった。

 

 

一人は赤いジャンパーを羽織り、屋上の手すりに寄りかかりながら目付きの悪い眼差しでビルの真下を行き交う人々を見下ろす金髪のツンツン頭の男。

 

 

もう一人は青い革ジャンを着込み、屋上の手すりに背中から持たれ掛かりながら気怠げに空を見上げる青髪の青年。

 

 

一見普通の大学生にしか見えない二人組だが、ビルの上から街を見下ろしていた金髪の男は突然「チッ」と舌打ちし、何やらイライラした様子で青髪の青年に目を向けた。

 

 

「おい、そっちは何か掴んだかよ?例の件の犯人をよ」

 

 

「……うん?いーや、こっちもぜーんぜんダメ。事後処理のついでで色々捜してみたけど、それらしいもんは特になーんもナシ」

 

 

「またかよ……クッソ、もう何週間もこの調子だぞ!一体何人目だよこれで!」

 

 

青髪の青年からの報告を聞いて余計に苛立ちが増したのか、金髪の男は思わず手すりを蹴り付けて毒づき、そんな男の姿を横目に青髪の青年は自身の爪を弄りながら飄々とした口調で宥める。

 

 

「ま、焦ったとこでどーにもなんないでしょ。俺達に今出来んのは、野放しにした連中が強くなって戻ってくんのを待つ事ぐらいなんだし」

 

 

「だからっ、その野放しにした連中がドンドンドンドンやられてってるから焦ってんだろうがよ!ここまで作るのにどんだけ時間が掛かったと思ってんだ!やっぱ俺が言った通り、地道に餌を食わせて力付けさせんのが一番だったんじゃねえのか?!」

 

 

何処か適当な調子の青髪の青年の口振りに思わず凄んで食って掛かる金髪の男。だが青髪の青年はそんな男のガン飛ばしも何処吹く風と無視し爪を弄り続け、そんな青年の調子に金髪の男も余計にストレスが増すばかりで「あーッ!!」と頭を掻きむしるが、其処へ……

 

 

「──それではただ肥えるだけで、駒は駒としての域から脱せられない。最初に言ったハズだろう?俺達が欲しいのは『同士』であり、駒の製造はその過程でしかないと」

 

 

──そんな二人の下に、屋上の入り口の方からもう一人の男が悠然とした足取りで姿を現した。

 

 

黒のスーツを着込み、黒い髪をオールバックにし、インテリ眼鏡を掛けた瞳からは人間らしい暖かみを一切感じられず、その男の全身からただならぬオーラが滲み出ている。

 

 

恐らく男二人のリーダー的な存在なのか、オールバックの男の姿を捉えた途端、金髪の男は「ゲッ……」とあからさまに嫌そうな顔をし、青髪の青年は一瞬意外そうに目を見開くもすぐに微笑を浮かべた。

 

 

「なーんだ、デュレンも来たんだ。てっきり今回も何もせずに後ろでふんぞり返ってるだけだと思ってたよ」

 

 

「お前たちだけで順調に事が運んでいればそうするつもりだったさ。だが、そんな悠長な事を言っていられる状況ではなさそうだからな……」

 

 

「……チッ、また十八番の小言かよ……」

 

 

二人の顔を冷たく一瞥するデュレンと呼ばれた男に対し金髪の男はめんどくさそうに舌を打ち、青髪の青年は相変わらずだなぁと脳天的に笑いつつも、手すりの上で頬杖を着きながら彼自身が気になっていた疑問をデュレンに投げ掛けた。

 

 

「けど、そっちから来てくれたなら話が早いよ。聞きたい事もあったし……今回の件、デュレンは何が起こってるのかある程度掴めてるのかな?」

 

 

「さあな。まだ全貌の全てを掴めてる訳じゃない。だが、我々を完全に滅ぼせる存在は決してそう多くはない……その力を持たない『この物語』の主要人物である装者やその敵対勢力を候補から外すとするなら、答えは自ずと一つしかないだろう」

 

 

「……まさか……」

 

 

「おい……それってまさか、『アイツ』が実はまだ生きてたって言うんじゃないだろうな?!」

 

 

デュレンが言わんとしてることを汲み取ったのか、青髪の青年は今まで浮かべていた微笑を消し、金髪の男もあからさまに動揺を浮かべてデュレンへと詰め寄っていくが、デュレンは落ち着き払った雰囲気のままそんな男の横を素通りし淡々と語り続ける。

 

 

「今回の計画を始動する前に、必ず障害となるであろう奴を我々の手で罠に嵌め、この目で事の成り行きを見届け、確実に息の根を止め始末した……そう思い込んでいたが、どうやら我々の予想以上に、奴自身もしぶとかったという事かもしれないな」

 

 

「悠長なこと言ってる場合かよ……!どうすんだ?!奴が生きてたんじゃ、せっかく作った今までの駒も結局奴に消され回って計画の進めようがねえだろ?!」

 

 

それなのに何故そんなにも落ち着いていられるのかと、金髪の男は予想外の事態に焦りを露わにデュレンに食って掛かるが、それに対し青髪の青年は微笑を浮かべたまま軽く手を振って男を宥めた。

 

 

「まあまあ、落ち着きなよ。まだ可能性の話ってだけで、本当にそうと決まった訳でもないんだし。……けど、デュレンの方はそう思ってるってことは、これから何か事を起こそうと考えてわざわざ此処へ来たんでしょ?」

 

 

「無論だ。集めた駒を無為に消されるなどこちらにとって何一つ得などないからな。このまま手を拱くつもりもない……正体がなんであれ我々の障害となるなら、これを排除する……その為にも先ず、奴を炙り出さねばならない」

 

 

「炙り出すって……どうやってだよ……?」

 

 

何か考えがあると言うのか、金髪の男がデュレンに怪訝な眼差しを向けそう問うと、デュレンは無言のまま人差し指で空を指した。

 

 

「奴の目的が我々なら、奴が必ず食い付くであろう餌となる捨て駒を用意する。その為にも先に、捨て駒を釣る為の餌を用意しなければならないが、ここには丁度先の物語で既に使い終えたモノが幾つも転がっているからな。それを再利用させてもらうのさ……先ずは、ノイズからだ」

 

 

「ノイズって……あぁ、バビロニアのなんとかって奴から出てくる有象無象の方か……」

 

 

「けどアレ、確かこの物語の装者達が前の戦いで宝物庫を閉じたせいで使い物にならないんじゃなかったっけ?」

 

 

バビロニアの宝物庫。それは異世界に存在し、 無限とも言える広さを備えた武器格納庫にしてノイズのプラントでもある。

 

 

嘗て『フロンティア事変』と呼ばれる事件の終盤にて装者達の活躍により次元の入り口が閉ざされ、以降は特異災害としてそれまで人々の脅威の対象であったノイズの出現自体はなくなったものの、錬金術師と呼ばれる者達が新たに使役するアルカ・ノイズの出現により、この世界では未だに装者達とノイズの戦いが続いているというのが大まかな流れだ。

 

 

そんな経緯から、宝物庫を開ける事はほぼ不可能に近く、其処からどうやってノイズを引っ張ってくるつもりなのかと首を傾げる二人に対し、デュレンは眼鏡を抑えて何でもないように告げる。

 

 

「この物語のルールに沿った正規の方法では、確かに無理だろうな……だが、俺達は既にあらゆる物語から追放された身だ。わざわざそんなものを守る義理はない」

 

 

「……ああ……つまり、お得意の『改竄』ってことね」

 

 

「ったく、いいよなぁコイツは?世界のルールにまで干渉し放題でさ……俺もとっととその領域にまで上りたいぜ……」

 

 

不貞腐れるようにそう言いながら金髪の男は手すりに頬杖を付いてそっぽを向き、青髪の青年もそんな男の様子を横目にニヤニヤと爪弄り再び始める中、デュレンは手首を摩り鋭く細めた目付きで街を睨み付けていく。

 

 

「この物語も所詮、俺達からすればただの通過点に過ぎん……我々の目的を成就させる為にも、この物語には踏み台になってもらうとしよう……」

 

 

パキィッ!と、冷淡な言葉と共に無骨な指の節を鳴らすデュレン。

 

 

次の瞬間、まるで心臓の鼓動のような振動が世界に轟き、街の空に火花が走り、巨大な異次元の穴が開かれた。

 

 

そして其処から溢れ出ようとする殺戮の化身達の姿を一瞥する事も無く、デュレンは踵を返し、他の二人をその場に残し何処かへと歩き去っていったのだった。

 

 

 

 

 



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第一章/戦姫達の物語×忘却の仮面ライダー②

 

 

 

──街の上空に次元の穴が開かれる、少し前……

 

 

 

―お好み焼き屋『ふらわー』―

 

 

「──それじゃ皆は、今度はその都市伝説と事件を追う事になったってこと?」

 

 

S.O.N.G.の本部を後にした響達は、それぞれの家への帰路に付く道中で空腹気味な腹に何か入れてから帰ろうという話になり、彼女達の学校からさほど離れていない商店街の一角に建つ馴染みのある店、お好み焼き屋『ふらわー』に訪れていた。

 

 

注文したお好み焼きの芳ばしい匂いが鉄板の上から店中に漂う中、響達にそう疑問を投げ掛けたのは、響から連絡を受けて彼女たち四人と同じ席に同伴する黒髪ショートに後頭部に大きな白いリボンを結んだ少女……響の小学校時代からの幼馴染でS.O.N.G.の民間協力者でもある"小日向 未来"であり、彼女からの質問に対しクリスはテーブルの上に頬杖を着いたまま、もう片方の手で割り箸を器用に回しつつ不満げに口を尖らせていた。

 

 

「正直、あたしとしてはただの悪戯程度であって欲しいって感じだけどな……。ただでさえノイズだの錬金術師だのでてんてこ舞いだってのに、これ以上厄介事に増えられてたまるかよっ」

 

 

「……私もそう思いたいけど、実際に被害が出てる以上、司令の言う通り放置は出来ないと思います……あとクリス先輩、食事してる最中のテーブルの上で頬杖付くのはお行儀悪いです」

 

 

「うっ……う、うるせーな……わーってるよっ……」

 

 

自分の意見にそうであって欲しいと調に同意されつつ、同時に行儀の悪さを注意されてバツが悪そうに顔を逸らしながらも言われた通り頬杖を止め、飲み物を口に含んでいくクリス。

 

 

そんな彼女の乱暴な口調とは裏腹に素直な所に思わず苦笑いしつつ、響は箸で自分の皿のお好み焼きを切り分けながら未来に質問を投げ掛けた。

 

 

「それで私達も、少しでもその都市伝説や事件の情報を集めようと思ってるところなんだけど、未来は何か聞いた事ない?弓美から他にも噂話を聞かされたりとか」

 

 

「うーん……私も響と同じ話を聞かされたぐらいで、そういうのはあまり聞いた事がないかなぁ……」

 

 

「……そっかぁ……やっぱりそう簡単には行かないよねぇ……」

 

 

何せS.O.N.G.の優秀な諜報員ですらその足取りを未だ一切掴めていないのだから、普段は普通の学生でしかない自分達の手で簡単に見つけられるならそもそもこんな苦労はしていないだろう。

 

 

ならば一体どうしたものかと、頭を悩ませる響が難しい表情のまま椅子に背もたれ店の天井を仰ぐ中、よほど空腹だったのか、お好み焼きを一心不乱に口に詰め込んでいた切歌が突然ハイテンションに口を開いた。

 

 

「だったら此処はやっぱり、さっきアタシが提案した作戦を実行するしか手はないデスよ!」

 

 

「って、まだ言ってんのかよっ。それはさっき却下だって言ったろっ!」

 

 

「?切歌ちゃんの作戦って……?」

 

 

割り箸を手に挙手する切歌と間髪入れずにそれを一蹴するクリスのやり取りを聞き、先程合流したばかりの未来は何の話?と頭上に疑問符を浮かべる中、お茶を啜って一息吐いていた調が少し困った顔で代わりに説明し始める。

 

 

「此処へ来る前の道すがらで、皆で例の事件の謎の怪物とその怪物を倒すヒーロー……マスクドライダーをどうやって探そうかって話し合ってた時に、切ちゃんが作戦を一つ思い付いたんです。その作戦と言うのが……」

 

 

「ズバリ!『怪物に襲われるフリをして、影のヒーローをおびき寄せる作戦』デス!」

 

 

「……そ、そのまんまだね」

 

 

「さっきあたしもそう言った……」

 

 

中身がそのまま名前に出てしまってる作戦を自信満々に口にする切歌に未来も苦笑いを返すしかなく、彼女の隣に座るクリスも疲れた溜め息と共にお茶を啜りまともに相手にしようとしないが、切歌の方も退こうとせず、眉を八の字にして食い下がる。

 

 

「で、でもでも、怪物も仮面ライダーも何処にいるのか分からないならそれぐらいしか向こうから来てもらう手はありませんし、直接会って話せるならわざわざ話が通じるか分からない怪物より、人助けをしてて話が通じやすそうな仮面ライダーの方に来てもらうのが一番だと思うデスよっ」

 

 

「それは……一理あるとは思うけど……」

 

 

実際の所、怪物を発見して仮に捕えられたとしても話が通じない獣だったなら、怪物の身体の構造が判明する以外にその目的や出自などの得られる情報は限られてくるやもしれない。

 

 

ならば比較的話が通じそうで、且つ怪物の正体を知っていそうな仮面ライダーにこちらから会うとすれば怪物騒ぎを意図的に起こし、向こうから来てもらうのが安全面も考えて角が立たない方法だろうかと調が少し納得し掛ける中、その反応から手応えを感じ取った切歌が更に畳み掛ける。

 

 

「だからアタシ達で怪物に襲われるフリをして、仮面ライダーがノコノコやってきた所を皆で一斉にふん捕まえてやるんデスよ! 獅子は兎を食べるにも全力投球デース!」

 

 

「切ちゃん、それを言うなら獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くすだよ。兎は食べちゃダメ」

 

 

「だからそんな陳腐な作戦が上手くいく訳ないだろってっ。そこまでやって肝心のマスクドライダーが来なかったら、あたし等が馬鹿をみるだけじゃねぇか。大体、フリって事は偽物の怪物も用意する訳だろ?誰がやるんだよそんなの」

 

 

「勿論、其処はやっぱりリアリティーが大事デスからね。この役にはやはり普段からプリプリ怒りやすい、迫力ある演技が出来そうなクリス先輩にしか……」

 

 

「何で其処であたしなんだよッ?!ふざけんなぁッ!!」

 

 

誰がやるかそんなもんッ!!と偽物の怪物の配役についてテーブルから立ち上がったクリスと切歌が口論を始める中、そんな二人を宥めようと間に座る未来がオロオロしてしまうも、其処で響が先程から天井を仰いだまま何やら考え込んでいるのに気付き、首を傾げた。

 

 

「響?どうかした?」

 

 

「……へ?あ、ううん。別に大した事じゃないんだけど……仮面ライダーの正体って、どんな人なのかなぁって考えちゃって」

 

 

「……仮面ライダーの?」

 

 

「うん。だってほら、怪物を倒すだけなら襲われる人を助けたりする必要もないし、今までの事件で死傷者が誰一人出ていないって事は、それだけ仮面ライダーが一人で頑張ってたって事でしょ?ならきっと悪い人じゃなさそうだし、もし話し合えれば、怪物と戦う為に協力し合う事も出来るんじゃないかなって……」

 

 

もしもそうなれたならと、噂の仮面ライダーの姿を想像しそんな先の未来に思いを馳せる響。その横顔を見て相変わらずだなぁと微笑み、未来は瞼を伏せながら弾むような声音で応える。

 

 

「だったらそれを叶える為にも、先ずは仮面ライダーさんに会う所から始めないとね?」

 

 

「うーん……問題は其処なんだよねぇ……こうなったらいっそのこと、切歌ちゃんの作戦に本気で乗っかっちゃうっていう手も……」

 

 

「はああッ?!冗談じゃねえぞふざけんなッ!誰がなんて言おうとあたしはぜってぇーやらねぇからなッ?!そんな役も作戦もッ!」

 

 

「どうしてクリス先輩は其処まで嫌がるんデスかッ!ちょっと覆面被って、それっぽく振る舞ってアタシ達を襲ってくれればいいだけの簡単なお仕事デスよッ?!」

 

 

「その覆面を被るのが嫌だってさっきから何度も言ってんだろ馬鹿ッ!!」

 

 

「二人とも、そろそろその辺にしないと。お店にも迷惑が……」

 

 

未だに言い合いを続けようとする二人にいい加減調も店の迷惑を考えて止めに入ろうとし、それを見た響と未来も互いに顔を見合わせ苦笑いを浮かべながら調の加勢に加わり仲裁に入っていく。

 

 

これが彼女達の日常。数多くの過酷な戦いを乗り越える為の支えとなる守りたいモノ。

 

 

そんな何時もの風景が此処にある事、束の間の幸せに喜びを噛み締め、こうして今日も一日が終わるのだろうと漠然と誰もが信じて疑わずにいた中、

 

 

 

 

──その平穏を打ち壊すかのように、ノイズの出現を報せる避難警報のサイレンが前触れもなく街中に鳴り響いた。

 

 

「……ッ!コイツは……!」

 

 

「避難警報……!」

 

 

突然のサイレンに響達の間に緊張が走る中、彼女達が携帯する通信機にも緊急通信が入った。すぐさま通信をONにし応答すると、先程本部で別れたばかりの弦十郎の張り詰めた声が通話口から響く。

 

 

『緊急事態だッ!皆、すぐに本部に戻ってくれッ!』

 

 

「師匠!一体何が……!」

 

 

「アルカ・ノイズか?!それともまさか、例の怪物が……!」

 

 

『いや、そのどちらでもない。しかしまさか……いや、そんな事が……』

 

 

「「「「……?」」」」

 

 

何やら弦十郎の様子が可笑しい。その声には何処か動揺が滲み出ており、響達も怪訝な表情で首を傾げる中、直後に弦十郎の口から信じ難い一言が飛び出た。

 

 

『ノイズだ……アルカ・ノイズではない、ノイズが再び街に現れたッ!』

 

 

「「「「……なっ……」」」」

 

 

……それは本来、この世界で起こり得ない筈の事象の一つ。

 

 

そして同時に、それはこの世界の本来の流れが崩壊するカウントダウンの始まりを意味していた───。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

「ひっ、ひ……うわぁああああああああッ?!!」

 

 

「た、助けっ……ぎゃあァああああああああああッ?!!」

 

 

──大勢の人々が行き交っていた繁華街の中心区。其処は今、阿鼻叫喚の地獄と化して絶え間ない悲鳴が響き渡っていた。

 

 

逃げ惑う人々を執拗に追い、僅かでも触れた人間を自ら諸共炭素の塊と化し消滅する殺戮だけが目的の傀儡達。

 

 

──それがノイズ。この物語の中で永久に閉ざされていたハズの宝物庫の奥から再び姿を現した、人間を殺す為だけに存在する災厄そのものだった。

 

 

「──あーらら、惨いことしちゃって。相変わらず目的の為なら容赦しないよねー、デュレンはさ」

 

 

無抵抗の人々が何も出来ずに一方的に殺戮されていく。そんな無慈悲な光景をとあるビルの螺旋階段から静観しながら他人事のように呟くのは、ノイズを呼び出した張本人であるデュレンの仲間である青髪の青年だが、その表情には先程同様飄々とした笑みが張り付いている。

 

 

そんな彼の後ろで階段に腰を下ろす金髪の男も目の前の惨状に特に興味を移そうとはせず、膝の上に頬杖を立てて青年の口ぶりに鼻を鳴らして笑った。

 

 

「心にもない事を良く言うぜ。お前にとっちゃこれもどうでもいい細事、だろうよ?」

 

 

「まーねー。人が死ぬとこなんて飽きるほど見てきたし、今更心を揺らすほどの特別な何かなんて感じないさ。君だってそうだろ?」

 

 

「そりゃな。けど、俺としてはもうちょい控え目な作戦にしてもらいたかったぜ……こんな派手めに動いて、本当に大丈夫なんだろうな……?」

 

 

「ハッハハッ、君ってば本当に慎重派だよねぇー。見た目はそんなヤンキーっぽい外見なのにさぁ?」

 

 

「うるせぇなぁッ!俺はただ失敗すんのが嫌いってだけ──あ?」

 

 

ケラケラと笑う青髪の青年にムッとして怒鳴る金髪の男だが、その時、何処からともなく大気を切るブレードの音が聞こえてきた。

 

 

その音に釣られ二人が空に目を向けると、其処にはS.O.N.G.の潜水艦がある方角から飛来して現場上空に浮遊する機体……S.O.N.G.のヘリの姿があり、開かれたヘリのドアからS.O.N.G.の制服を身に付けた四人の少女達……S.O.N.G.と合流した響達が顔を覗かせ、ヘリの真下で人々を襲うノイズの姿を捉え目を見開いていた。

 

 

「ノイズ……!」

 

 

「マジかよ……何でアイツ等がまた湧いて出て来てんだっ?!」

 

 

先の通信で弦十郎からある程度の状況を聞かされたとは言え、やはり実際に自分の目で直接見るのとでは衝撃の度合いが違うのか、四人は二度と現れる筈のないノイズの出現を前に明らかな動揺を露わにしてしまう。

 

 

「い、一体どうなってるデスか……!もしかして、バビロニアの宝物庫がまた開いたって事デスかッ?!」

 

 

「でも、宝物庫を開くのに必要なソロモンの杖は、確かに宝物庫の中へ消えたハズ……」

 

 

『ソロモンの杖』、それはバビロニアの宝物庫を開く鍵であり、ノイズを任意に発生させる事が出来る能力を持つ聖遺物でもあった。

 

 

しかしその鍵も嘗てのフロンティア事変で消滅した筈であり、それは同時にバビロニアの宝物庫から生まれるノイズの発生も二度と起きない事を意味していた筈だった。

 

 

だが、ならばこのノイズ達は何処から現れたのか?

 

 

考えても分からない疑問が装者達の胸の内を占める中、それを最初に破ったのは、片手にまるで宝石のように輝く赤いペンダントを手にした響だった。

 

 

「何が起きてるのか分からなくても、今私達がやるべき事は変わらないよ……!行こう!みんなを助けないと!」

 

 

「……だな。考えたって分からないなら今は後回しだ。先ずは奴らを残らずぶっ潰す……!原因を探るのはその後だ!」

 

 

何処までもまっすぐな響の力強い言葉に触発され、幾許かの落ち着きを取り戻したクリスも彼女と同様の赤いペンダントを首元から外して握り締めると、同じく冷静さを取り戻した切歌と調もそれぞれペンダントを手に力強い眼差しで頷き返し、四人は一斉にヘリのドアから飛び降りた。そして……

 

 

 

 

 

「──Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 

「Killiter Ichaival tron……」

 

 

「Zeios igalima raizen tron……」

 

 

「Various shul shagana tron……」

 

 

 

 

 

空を舞う少女達の口から、それぞれ異なる詠と詞が美しい声音で紡がれる。

 

 

次の瞬間、彼女達の身体が橙色、赤色、緑色、桃色の眩い光に包まれ、まるで流星のように凄まじいスピードでノイズ達が入り乱れる地上へ急降下し、爆発じみた衝撃波で粉塵が舞い上がる程の地響きを轟かせながら戦場へと降り立った。

 

 

そして、突如空から落ちてきた星々を見て人々を襲っていたノイズ達も一斉に足を止めて振り返ると、視界を阻む粉塵がヘリの突風に煽られて掻き消され、まるでベールを剥がされるように少女達の姿が露わになっていく。

 

 

風に揺れる白いマフラーを靡かせ、白と橙色のナックルを両腕に纏い力強く拳を握る響。

 

 

赤いヘッドギアに覆われた銀色に煌めく髪を揺らし、無言のまま両手に握るマシンピストルの照準をノイズ達に狙い定めるクリス。

 

 

互いに肩を並べ、身の丈を軽く越える黒と緑の大鎌を手にする切歌と、ツインテールの部分に纏われる白とピンクの装甲の基部から分離したヨーヨー型の鋸を構える調。

 

 

それぞれがそれぞれの色を現すアンダースーツと装甲を纏い、文字通り『戦姫』へとその身を変えた四人のヘッドギアに、本部からの通信が届く。

 

 

『装者達の到着を確認!しかし、周辺にはまだ民間人の多くが取り残されています!』

 

 

『逃げ遅れた人々の避難誘導はこちらで行う!お前達は出来るだけ其処からノイズ達を遠ざけてくれ!頼んだぞ!』

 

 

「「「「了解ッ!」」」」

 

 

最優先事項は民間人の避難完了までノイズを一匹たりとも此処より先へ通さないこと。

 

 

弦十郎からの指示に力強く応えると共に、一歩前へ踏み出した勢いから地を蹴り上げて飛び出し、右拳を振りかざして先陣を切る響を筆頭に他の三人も後に続いていき、シンフォギアを身に纏った装者達とノイズ達の戦いが再び火蓋を切って落とされたのであった。

 

 

「あらら、先に装者達の方が釣れちゃったみたいだねー。どうしよっか?」

 

 

「どうもしねぇよ……どーせどっちかが釣れるまでの無限湧きだろうし、わざわざ俺らが手を貸すまでもねぇさね」

 

 

ほっとけほっとけと、金髪の男はそう言って駆け付けた装者達とノイズの戦いに目もくれず、後頭部に両手を回し階段の上に寝っ転がる。

 

 

そんな男の姿を見て青髪の青年も先程と変わらない微笑を浮かべると、けたたましい戦闘音が響き渡る戦場の方に目を向けていく。

 

 

「まあ確かに、こんだけ大騒ぎしてくれれば向こうから来てくれるのは間違いないだろうしねぇ……餌が欲しい駒はともかく、果たして『彼』は来てくれるのかなぁ?」

 

 

笑いながら装者達とノイズの戦いを見守りつつも、青髪の青年は着実にこの場所へと近づいてくる"禍々しい気配"を感じ取って更に口元の笑みを深めていき、これから起こるかもしれない『未知』に対して密かに胸を踊らせていくのであった。

 

 

 

 

 



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第一章/戦姫達の物語×忘却の仮面ライダー③

 

 

「はァああああああああァァッッ!!!!」

 

 

そして場所は戻り、ノイズ達が蔓延る戦場ではギアを身に纏った装者達が紡ぐ『歌』が鳴り渡り、徐々に戦闘力を上げてその勢いを増しながらノイズ達を蹴散らしていく姿があった。

 

 

本来なら欠片程度の力しか持たない聖遺物の力が戦姫達の歌で高まると共にその威力も増していき、ノイズが密集する地点に空から降下した響が地面に勢いよく拳を叩き付けた瞬間、拳の衝撃が橙色の凄まじいエネルギーの波動と化して拡散し、ノイズ達を飲み込んで木っ端微塵に消し飛ばしていく。

 

 

それに続くように、両手のマシンピストルの銃弾を周囲にばら撒くように五月雨撃つクリスの乱射、大鎌を大きく振るい、まるで芝を狩るかのような勢いで広範囲のノイズを纏めて斬り裂く切歌の斬撃、両足のブーツに内蔵された小型の車輪で滑走し、すれ違い様にツインテール部分の装甲に装着された円形の鋸で引き裂く調のヒット&アウェイの戦法が確実にノイズ達の数を減らしつつあった。

 

 

……が、直後に減らされた数を補填するかのように何処からともなく新たなノイズ達が出現していき、あっという間に装者達に撃破された数を上回り四人に再度襲い掛かっていく。

 

 

「ッ!倒しても倒しても、また次が現れるっ……!」

 

 

「ああもうっ、これじゃキリがないデスよッ!」

 

 

「いいから、口を動かすより手ぇ動かせ!まだまだ増えてきてんぞッ!」

 

 

自分達が倒すスピードよりも速くその数を増やし続けるノイズ達に対して思わず音を上げてしまう調と切歌に喝を入れつつ、クリスは両手の銃をマシンピストルから大型のガトリングガンに切り替えて周囲のノイズ達を薙ぎ払っていく。

 

 

「ハッ!たァああッ!やぁッ!」

 

 

一方で、先陣を切る響も軽快な立ち回りで首元のマフラーを靡かせながら次々とノイズ達に拳を叩き込んで撃破していき、霧散するノイズに目もくれず次へ次へと前に突き進んでいく。

 

 

が、不意に頭上から巨大な影が現れて辺りを覆い尽くし、空を見上げれば、其処にはビル一つ分程のサイズがあるであろう巨大なノイズが腕を振りかざす姿があり、そのまま周りのノイズ達ごと巻き込むように巨腕が振り下ろされ、凄まじい震動を起こしながら他のノイズ達もろとも押し潰されてしまったかに思われたが……

 

 

「──うおォおおおおおおおおおおッッ!!!」

 

 

……ノイズの巨腕に風穴が開かれ、其処から右腕のギアの形状をドリルのように変化させた響が腰部ユニットに装備するバーニアで加速して猛スピードで飛び出し、そのまま巨大なノイズの頭を回転するドリルで貫き撃破していったのだった。

 

 

そして、ガトリングガンを乱射させながらノイズの群れからある程度の距離を取ったクリスは背部のギアを徐々に変形させながら大型化させていき、背部に形成した固定式射出器に左右それぞれ3基、計6基の固有の形状の大型ミサイルを連装して生成させてゆく。

 

 

「いい加減ちょせえっ……!纏めて吹っ飛べェええええええッッ!!」

 

 

―MEGA DETH SYMPHONY―

 

 

数の減らないノイズ達に痺れを切らしたクリスの雄叫びと共に、6基の大型ミサイルが一斉に発射され空を翔ける。

 

 

そして飛翔中に大型ミサイルが分裂し、無数の散弾と化して地上を埋め尽くすノイズ達の頭上へとまるで雨のように広範囲に降り注ぎ、纏めてノイズ達を消滅させていったのだった。しかし……

 

 

「ううっ、また出てきたデスよっ……!」

 

 

「流石に、数が多過ぎる……」

 

 

クリスの広範囲攻撃のおかげで大部分を削り切ったかと思いきや、更に何処からともなく新たなノイズ達が現れて周囲を埋め尽くしていく。

 

 

その光景を前に調や切歌、一度下がった響の表情も苦いものに変わっていき、クリスも舌を打つと共にヘッドギアに内蔵された無線から本部へと呼び掛けた。

 

 

「オイ、どうなってんだよッ!たださえノイズが出たってだけでも異常なのに、この数は普通じゃねえだろッ!」

 

 

『原因はこちらでも現在解析中です……!しかしノイズの出現地点の反応は検知出来ていますが、何故かそれらしき発生源が何も……一体どうして……?』

 

 

本部の方でもノイズの異常発生の出処を掴めていないのか、オペレーターのあおいの声には戸惑いの色が滲み出ており、装者達の間でも困惑の感情が更に募る中、そんな四人の耳に司令官である弦十郎の声が届く。

 

 

『原因の詮索は今は後回しだ!現在民間人の避難誘導と負傷者の救助活動を同時に行っているが、崩落や炎上で建物内に取り残された人々や負傷者の数が想像以上に多い……!苦しい状況だとは思うが、避難救助が完了するまでどうにか持ち堪えてくれ!』

 

 

「っ、つってもなぁ……流石にこのままじゃジリ貧だぞっ……」

 

 

「せめて、イグナイトが使えていたら……」

 

 

自身の掌を見下ろし、調の脳裏を過ぎるのは先のパヴァリア光明結社との戦いの中で失われてしまったシンフォギアの決戦機能の一つ、『イグナイトモジュール』の力。

 

 

嘗てエルフナインの手により齎された聖遺物『魔剣ダイスレイフ』の欠片から作られ、今までの激戦の中で幾度となく自分達の助けとなってくれたその力も、先の事件での最終決戦の折に自分達のギアを強化させる為に燃え尽きて消滅してしまった。

 

 

あの力が残ってさえいればこのノイズの大群を相手でも……と、改めてイグナイトを失ってしまった痛手を此処にきて痛感する一同に対し、響は未だ闘志の衰えぬ眼差しでノイズ達を見据えて告げる。

 

 

「イグナイトがなくなっても、戦い様はまだある……!皆、S2CAでいこう!」

 

 

「え、S2CAデスか……!」

 

 

「バカ!奴らの発生原因も分かってない内から、そんな大技ここで使える訳ねぇだろッ!」

 

 

『S2CA』──正式名称は「Superb Song Combination Arts」

 

 

それは『絶唱』と呼ばれるシンフォギア装者の最強最大の攻撃であると同時に、使用した人間の肉体にとてつもない負荷を与え、下手をすれば命を落とす事も有り得る諸刃の剣の力を「他者と手を繋ぎ合う」特性を持つ響を中心に据える事によって威力を増幅させるばかりか、 パートナーの身体を蝕むバックファイアを抑制する効果も併せ持つ事が出来る連携攻撃。

 

 

その一撃必殺の威力はイグナイトに勝るとも劣らないが、欠点として詠唱によるチャージに時間が必要なこと、何より連携の中心に立たされる響の身への負担が大きい事であり、それを考えてまだこの局面で切るのは早いとクリスが一蹴しようとするも、響は彼女の心配を払うように明るげな笑顔を向ける。

 

 

「大丈夫。私だって此処まで訓練を重ねてきてるし、一度くらいなら平気だから。それより今はこの勢いを止めないと、このままだと後ろにいる人達が危ないよ……!」

 

 

事実、ノイズ達はその進行の勢いを緩めずに未だ多くの人々が取り残されている被災区域に向かおうとしている。

 

 

ここでS2CAを使っても確かに一時凌ぎにしかならないだろうが、その一時で一人でも多くの人が助かるかもしれない。

 

 

その為なら自分は大丈夫だと言い切る響の目を見て言葉に詰まり、僅かに逡巡する素振りを見せた後、「あーっ、ったくコイツはっ!」と頭を振ったクリスがガトリングガンを両手に響達の前に踏み出していく。

 

 

「だったら速く準備しろ……!それまでの時間があたしが稼いでやる!」

 

 

「クリスちゃん……!」

 

 

「感動してんなっ!いいからとっととしろっ!後輩共も、そのバカちゃんと見張っとけよっ!無茶をし出したら後ろから頭ぶん殴ってでも止めに入れっ!」

 

 

「了解……!」

 

 

「響さんのお世話ならお任せデース!」

 

 

S2CAを使うには最低でも二人以上の装者が必要となるが、この数を一気に削り切るとなれば三人分の装者でなければその威力を発揮出来ない。

 

 

ならば此処は範囲攻撃に長けた自分がそれまでの時間を稼ぐしかないと率先して前に出たクリスがノイズ達の目を引きつける中、響は自身の背後に回って準備に入る調と切歌に目を向けていく。

 

 

「S2CA・トライバースト……!切歌ちゃん、調ちゃん、いくよ!」

 

 

「任せるデス!」

 

 

「私達の絶唱を、響さんに束ねる……!」

 

 

力強い響の呼び掛けに頷き、二人が瞳を伏せて響の肩にそれぞれ片手を乗せていくと、響も二人の手の感覚が伝わると共に瞼を閉じ意識を集中させていく。そして……

 

 

 

 

「「「Gatrandis babel ziggurat edenal……Emustolronzen fine el baral zizzl……」」」

 

 

 

 

三人の口から、寸分違わぬメロディーで紡がれる詠唱。

 

 

何も知らない者が一度耳にすれば誰もが聴き惚れるであろうその美しい旋律とは裏腹に、切歌と調から流れる暴力的なエネルギーの波が響の中へと流れ込んでいく。

 

 

響の中でまるで濁流のように行き場のない力が外へ溢れ出ようと暴れ回るのを抑え、バラバラに違う方向へ向かおうとする不協和音の力を一つに繋ぎ、束ね合わせ、嵐が過ぎ去った後の川の流れのように美しい調律へと変えていくと、それは三人の身体から放出される虹色の柱という形となって現出され始めていた。

 

 

「「「Gatrandis babel ziggurat edenal……Emustolronzen fine el zizzl……」」」

 

 

「クッ……あと、少しッ……!」

 

 

S2CA発動までの準備が完了するまで、両手のガトリングガン、腰部からのミサイルを乱射しとにかくノイズ達の目を引きつけていくクリス。

 

 

そして、三つの絶唱の力を束ね合わせた響は右腕に力を収束させていき、脚幅を広げて構えを取ると共にクリスに呼び掛けた。

 

 

「クリスちゃんッ!」

 

 

「ッ!出来たかッ!」

 

 

乱射を続けたまま肩越しに聞こえた響の声を耳に、すぐさまその場から下がるクリス。そしてそれと同時に、響は右腕に束ねた虹色の光を渦のように回転させながら右拳を引いていく。

 

 

「セット!ハーモニクス──!!」

 

 

頭の中で想像するのは虹色の奔流を正面に放ってノイズ達を飲み込み、そのまま空へと打ち上げるイメージ。

 

 

S2CAはその強力な一撃から本来市街地向きの技ではないが、意図的に狙いを逸らせれば街への被害を回避する事が出来るハズ。

 

 

そのイメージを元に、雄々しい雄叫びと共に右腕を一気に振り抜き、そして……

 

 

 

 

 

 

──装者達とノイズ達の間で突如地面からドーム状の巨大な爆発が巻き起こり、ノイズ達だけでなく、装者達をも飲み込んでしまったのであった。

 

 

「なっ──グッ、うわァああああああああああああああああああッッ!!!?」

 

 

「「キャアァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」」

 

 

「な、何だっ……?!ぐぁああああああああああああッッ!!!!」

 

 

何の前触れもなく巻き起こった爆発を前に、力を放出する寸前だった響達もクリスも咄嗟に反応が出来ず爆発の中に呑まれてしまう。そして身を焼くような激痛と共に受け身も取れず、三人は爆発の中から飛び出し地面に叩き付けられてしまった。

 

 

「ぐうっ!……うぅっ……」

 

 

「ぁっ、ぐっ……お、お前らっ……無事かっ……?」

 

 

「ッ……な、何とか……」

 

 

「な……何だったんデスか、今のはっ……?」

 

 

突如発生した謎の爆発に困惑を隠せず、爆炎に焼かれたダメージが残る身体を引きずりながらも何とか身を起こし、四人は顔を上げて辺りを見渡していく。

 

 

其処には、今の爆発により発生した炎が街のあちこちで燃え盛り、先程まで周囲を埋め尽く程の数が跋扈していたノイズ達の死骸と思われる炭素の塊が辺り一面に転がっており、そして……

 

 

 

 

 

『──ァああああ……ハハッ、ハハハハッ!コイツァいい!まさかこんだけの餌が一気に喰らえるだなんて!ツキは俺に回ってきてるようだなぁああッ!』

 

 

 

 

 

──炎の向こうで、生き残りのノイズ達を片腕を振るっただけで次々と屠り、霧散するノイズの残滓を口から吸って吸収していく謎の異形の姿があったのだった。

 

 

「な……何だ、アイツ……?!」

 

 

「ノイズを……食べてる……?」

 

 

『……ああ……?』

 

 

突如現れた異形の姿を目にし、装者達も目を見開き驚愕する中、四人の視線に気付いた異形がゆっくりと装者達の方へと振り返り、背中しか見えなかったその姿を露わにしていく。

 

 

白く濁った体色に、何処か蜘蛛を連想させる外見をした禍々しい姿。

 

 

そして何より装者達の目を引いたのは、ノイズ達を吸収し終えたと共に不気味な輝きを放つ、その血のように赤い眼だった。

 

 

「赤い眼……も、もしかして、アレが例の怪事件の……?!」

 

 

「……ノイズ、イーター……!?」

 

 

ノイズを喰らう能力、血のように赤い眼と、事件の被害者から聴取した証言と合致するその特徴からあの異形が例の怪事件に出てくる正体不明の怪物……ノイズイーターである事を瞬時に理解する四人だが、一方のノイズイーターはまるで品定めするかのよう響達の顔を順に見回し、軽く鼻を鳴らした。

 

 

『なぁんだ、誰かと思えばシンフォギアの連中かぁ……性懲りも無く、また人の餌を横取りしようとしたのかよ』

 

 

「……?餌……横取りって……?」

 

 

「と、というかアイツ、普通に喋れるデスか?!」

 

 

妙な言い回しをするノイズイーターの言葉に調が小首を傾げる隣で、流暢に言葉を発するノイズイーターに驚きを浮かべる切歌だが、そんな反応を他所にノイズ達を一通り喰い終えたノイズイーターは首の骨を鳴らしながら装者達の方へと向き直っていく。

 

 

『けど、これはこれでちょうどいいか……?どれだけ喰って力が増しても、ノイズ相手ばかりじゃそれもどの程度のものか測り切れないしなぁ……』

 

 

何処か気だるげにそう呟き、ノイズイーターが一歩前へ踏み出した瞬間、

 

 

『──せっかくだ……練習台に使わせろよ、お前ら……』

 

 

──音もなく一瞬で装者達の間に現れると共に、そのまま目の前にいた切歌に強烈な前蹴りを叩き込み、彼女の身体を弾丸の如く勢いで蹴り飛ばしてしまったのだった。

 

 

「うぁあああああああッ?!」

 

 

「ッ?!き、切ちゃんッ!!」

 

 

「コイツっ、いつの間にっ……?!」

 

 

まるで瞬間移動でも使ったかのように、予備動作もなく装者達の懐に潜り込んだノイズイーターを見て動揺するも、反射的に両手のマシンピストルで狙いを定めたクリスがノイズイーターに発砲していく。

 

 

だが、ノイズイーターはその場に佇んだまま全身に銃弾を浴びせられてもビクともせず、グルリッと不気味に首を捻らせクリスに目を向けた。

 

 

『なんだァ……?次はお前が相手してくれるのかァ?』

 

 

「ッ!このっ……!!」

 

 

「うォおおおおおおおおおおッ!!!」

 

 

不気味な笑みと共に挑発するノイズイーターの背後から、バーニアで加速した響が拳を振りかざして殴り掛かる。

 

 

しかし、ノイズイーターは振り向きもせず僅かに上体を逸らして響の拳を避けながら素早い裏拳を響の顔面に打ち込み、更に顔を抑えて怯む響にラリアットを叩き込んで勢いよく振り回すと、そのまま攻勢に出ようとしていた調に目掛けて投げ飛ばし、二人を激突させてしまう。

 

 

「ぐぁあうぅっ!!」

 

 

「うぁああっ?!」

 

 

『ハハハッ!ハハハハァッ!読める、読める!読めるぞォ!お前達の動きが手に取る様に解るッ!これがそうか……!『物語』を超越した力ッ!俺は今、神すらも超える力を手に入れたんだァああああッ!!』

 

 

「くっ……!ワケ分かんねぇこと言ってんじゃねぇええッ!!」

 

 

―MEGA DETH PARTY―

 

 

両腕を広げ、まるで歌うように狂った叫び声を高らかに上げるノイズイーターの背中に目掛けて左右の腰部アーマーを展開し、内蔵の多連装射出器から追尾式小型ミサイルを一斉に発射するクリス。

 

 

そして小型ミサイルはそのままノイズイーターに次々と直撃して爆発を起こしていき、その姿を視認出来なくなる程の黒煙に覆われていくが、直後に黒煙の向こうから腕を伸ばした無傷のノイズイーターが勢いよく飛び出し、そのままクリスの首を掴んで彼女の身体を持ち上げていってしまう。

 

 

「ガッ……?!ァッ、ウッ……オ、マエッ……何なんだっ、一体ッ……?!」

 

 

『ヒヒヒッ……俺?俺が何かってぇ……?そうだよなぁ、分かるワケがないよなぁッ!お利口さんに物語のルールに沿って生きてるだけのお前らにはさァああッ?!』

 

 

「ぅ、くっ……クリス先輩ッ!」

 

 

―α式 百輪廻―

 

 

「こんのォおおおおッ!!」

 

 

―切・呪リeッTぉ―

 

 

ギリギリッ、と首を絞める力が徐々に増していくにつれて呼吸もままならなくなり、顔が青白くなっていくクリスを助け出そうと態勢を立て直した調と切歌の投擲攻撃が同時にノイズイーターに炸裂する。

 

 

だがやはり、ノイズイーターは身構える事もせずその身一つで無数の小型の鋸、三枚に分離してブーメランのように飛ばされた大鎌の刃も全て弾き返してしまい、クリスを乱雑に投げ捨てながら何かを掬い上げるように指を動かした瞬間、二人の足元から爆発が発生して調と切歌を纏めて吹っ飛ばしてしまった。

 

 

「「キャアァアアアアアアアアアアアッ!!!」」

 

 

「っ……し、調ちゃんっ……!切歌ちゃんっ!」

 

 

『オイオイ、オイオイどうしたんだよぉ?もっと抗ってみせろやァッ!ただのサンドバッグじゃつまんねえだろォォおおおおおおッ!!』

 

 

爆風と共に吹き飛ばされる調と切歌を見て身を起こそうとする響の声を掻き消すように、ノイズイーターが狂気に満ちた雄叫びを上げながら力を溜めた右腕を荒々しく振るった瞬間、雷状のエネルギー波が四人を襲い、立て続けに発生した爆発が装者達を飲み込んでしまったのだった。

 

 

「「「「ウァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」」」」

 

 

「……へぇ。思ってたより力を付けてるみたいだねぇ」

 

 

「みてぇだなぁ……けど、ありゃダメだ。馬鹿みてぇーに喰い過ぎたのか、狂い出す一歩手間じゃねえか。あれじゃマジで捨て駒ぐらいしか使い道がねーよ」

 

 

装者達を一切寄せ付けない戦闘力を見せ付けるノイズイーターに、付近の建物の螺旋階段から静観する青髪の青年が関心を示すも、金髪の男の方はあのノイズイーターを『失敗』と見切りを付けて完全に興味が失せたように再び寝転がってしまう。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

―S.O.N.G.潜水艦本部―

 

 

「──クソッ……!何なんだあの化け物はッ?!」

 

 

一方その頃、S.O.N.G.の本部では突如現れたノイズイーターと装者達の戦いをモニターから見守っていたが、とてつもない猛威を振るうノイズイーターの力の前に為す術がない装者達の姿を見て弦十郎も思わずデスクに拳を叩き付けてしまう中、装者達の状態を測るオペレーター組から切羽詰まった声が上がる。

 

 

「装者達のバイタル、危険域に突入……!」

 

 

「このままでは危険です……!司令ッ!」

 

 

「ッ……やむを得ん……!装者達の回収を急がせろッ!救助部隊の突入を──!」

 

 

『……ま、待って下さいっ……!』

 

 

「?!」

 

 

手遅れになってしまう前に装者達を急ぎ回収すべく指示を出そうとした弦十郎だが、それを遮るように止めに入った静止の声に本部の職員達の目がモニターに向けられていく。其処には……

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

「──まだ……まだやれます……!此処で、引く訳には行かないっ……!」

 

 

全身傷と泥だらけになり、ボロボロになった身体をそれでもふらつきながら起こして立ち上がる響と、そんな彼女の姿に続くようにクリス、調、切歌も力が入らない身体を強引に起こしていく姿があった。

 

 

『……へぇえ……?あんだけやられて、まだ立てるだけの力が残ってたかよ?』

 

 

『待てお前達っ……!無茶は止すんだッ!その相手は危険過ぎるッ!一度撤退して態勢を立て直すんだッ!』

 

 

「っ、聞けません……!私達の後ろには、まだ大勢の人達が残ってるんですっ!此処で私達が退いたら……!」

 

 

そうだ。此処で自分達が退けば、今も逃げ遅れた人達や救助を待つ負傷者達にまで危害が及ぶかもしれない。その危険性がある以上、こんな所で身を引く訳にはいかないと再起する装者達の姿を目にし、ノイズイーターは肩を揺らして不気味に笑い、

 

 

『そうだ、そうだよ!そうでなくっちゃ面白味がないッ!ほぉらァっ……皆を守る為に気張ってみせろやァああああああッ!!』

 

 

人々を守る為に立ち上がるその姿を嘲笑い、地面を踏み付けた衝撃で装者達の周りに爆発が巻き起こる。それに対して響達も一度目の爆発から反応して咄嗟に散開しノイズイーターへの接近を試みようとするが、それも無駄だと言わんばかりに再び腕を振るい放たれた雷状のエネルギー波がクリス、調、切歌を纏めて飲み込み、爆発を発生させて地面に叩き付けてしまう。

 

 

「ぐぁあぁぁっ!!」

 

 

「うぅっ……!!」

 

 

「あうぅっ!!」

 

 

『ハッハハハハッ!馬鹿が!考えも無しに突っ込んで俺に勝てるとでも……うん?あと一人は……?』

 

 

倒れ込む三人の姿を見回し愉快げに笑うノイズイーターだが、其処にあと一人、響の姿だけがない事に気付いて首を傾げた、その時……

 

 

「──どォおおりゃあァァああああああああああああッッ!!!」

 

 

『!』

 

 

爆発により発生した黒煙に覆われる空の向こうから、煙を切り裂いた響が猛スピードでノイズイーターに目掛けて急降下で迫る。

 

 

振りかざすその右腕はギアをドリル状に変形させ、バーニアで最大まで加速した一撃はノイズイーターの反応速度を超え、その胸に強烈な刃を叩き込んだ。が……

 

 

『……なんだァ、それは?』

 

 

「ッ?!なっ──うぁぐううっ?!」

 

 

完全に不意を突き、全力を乗せた確かな一撃。しかし、その胸に打ち込まれたドリルはまるで厚い岩盤に阻まれたように手応えがなく、何事も無かったかのように自分を見下ろすノイズイーターを見て驚愕のあまり声も上げられない響の顔に、ノイズイーターの裏拳が直撃して他の三人の下へと殴り飛ばされてしまった。

 

 

「ひ、響さんっ……!」

 

 

「うぁ……ぐっ……ぅっ……!」

 

 

『ハァアア……つまらねぇ、つまらねぇなぁ……此処まで人を期待させといて、その結果がこれかァ?あぁ?』

 

 

心底ガッカリだと、肩を落として首を振るノイズイーターが煽るようにそう告げるも、響達は悔しげに唇を噛み締めて立ち上がろうとしても力が入らないのかその場に再び倒れ込んでしまい、その姿を見て、ノイズイーターも今度こそ興味を失せたように右手を掲げていく。

 

 

『だったら此処までだ……。練習台にもならねぇサンドバッグなんざ、ノイズだけで事足りるからなァ……餌を刈り取るだけのお前らの存在なんて、必要ねぇ……!』

 

 

「クッソッ……ぐぅっ……!」

 

 

「うぅっ……!」

 

 

ノイズイーターが掲げる右手に膨大なエネルギーが蓄積されていき、発光していく。

 

 

その様子を目にし響達もどうにか再起を試みようとしてもやはりその場から動く事が叶わず、そして、

 

 

『じゃあなァ、シンフォギア……お前達の『物語』も、これで終わりだァッ!!』

 

 

「「「「……ッ!!」」」」

 

 

凄まじいエネルギーが蓄積され、禍々しい光を身に纏うノイズイーターの右手が響達に向けて振り下ろされる。

 

 

最早その一撃を避ける事も、防ぐ余力も残されていない響達は目を閉じて痛みから目を逸らすしかなく、本部で見守る弦十郎達も届かぬ叫び声を上げる事しか出来ない中、狂気に満ちた笑みを深めるノイズイーターの一撃が遂に装者達に襲い掛かろうとした、その時……

 

 

 

 

 

───建物が崩落して積み重なった瓦礫の山をジャンプ台代わりに飛び越え、空を駆け抜けるかのように一台の蒼いマシンが何処からともなく現れた。

 

 

『ッ?!なんっ──ガハァアアッ?!』

 

 

「……え……?」

 

 

「な、何事デスかっ……?」

 

 

突如乱入してきた蒼いマシンを見てノイズイーターが一瞬動きを止めた瞬間、蒼いマシンはそのままノイズイーターに目掛けて突撃し、響達に向けて振り下ろされようとしていた攻撃を阻止したのである。

 

 

響達も突然鳴り響いたエンジン音から思わず目を開け、いきなり現れノイズイーターを跳ね飛ばした蒼いマシンを唖然とした表情で見つめる中、地面に上手く着地した蒼いマシンの搭乗者はバイクを止め、徐に頭に被るヘルメットを取り外していく。

 

 

「──見付けたぞ……」

 

 

ヘルメットを外し、乱入者が開口一番に口にしたのはそんな無機質な一言だった。

 

 

体格からして性別は男か。灰黒い薄汚れたロングコートに、ボロボロの黒のジーンズという見窄らしい格好。

 

 

ヘルメットを脱いだ顔は何故かフードを被っているせいで良く見えないが、僅かにチラつく黒髪、そして何よりもノイズイーターをまっすぐ見据えて離さない真紫の瞳の鋭い眼光を一身に受け、ノイズイーターもただならぬ何かを感じたのか僅かに声を震わせた。

 

 

『だ……誰だお前……いきなり出てきて、何なんだッ?!』

 

 

「…………」

 

 

動揺が収まらぬまま乱入者の男に疑問を投げ掛けるも、男は無言を貫く。

 

 

しかしゆっくりとコートを翻すと、男の腹部にはバックルの上部からスロット部分が露出された蒼いベルトが巻かれており、ベルトの左腰に備え付けられたホルダーからカードを一枚取り出した。

 

 

「……?あれは……?」

 

 

「カード……?おい、そんなモンで何を……!」

 

 

あのノイズイーターはただの人間が太刀打ち出来る相手ではない。

 

 

あの男が何者で、何をするつもりかは知らないが、誰であれこのままむざむざ殺されるのを見逃す訳にはいかないとクリスも止めに入るが、男はその声が聞こえているのかいないのか、無言のまま取り出したカードを徐に構え、そして……

 

 

「……変身」

 

 

『Code x…clear!』

 

 

カードをバックル上部のスロットに装填し、掌でバックルに押し戻すと共に電子音声が鳴り響く。

 

 

直後、男の全身を青いラインの入った黒のライダースーツを身に纏い、更に男の周りに出現した無数の蒼い装甲が一度に装着されていき、全く別の姿へと変身していったのであった。

 

 

「なっ……!」

 

 

「へ、へへ……変身しちゃったデスよっ?!」

 

 

「……仮面の、戦士……?もしかして、アレが都市伝説の……?」

 

 

「……仮面、ライダー……?」

 

 

黒のラインが走る丸みを帯びた蒼いボディと仮面ライダーファイズに近い青のラインが入ったレッグ、仮面ライダーカブトとアクセルトライアルを足して二で割ったような仮面に赤い複眼を持ち、ボディの様々な箇所にXの意匠が用いられた戦士。

 

 

変身した男のその姿を見て驚愕するクリスと切歌の横で、調がその異質な形貌と赤い複眼が輝く仮面から都市伝説や噂話と照らし合わせて推察し、響が呆然とその戦士の名……仮面ライダーの名を口にする中、その様子を螺旋階段から静観する男達の様子も一変していた。

 

 

「どうやら、デュレンの予想は的中だったみたいだねぇ……」

 

 

「……野郎……ホントに生きてやがったっ……!」

 

 

変身した男の姿を見て、今まで顔に貼り付けていた飄々とした笑みを消す青髪の青年の隣で、いつの間にか手すりに身を乗り出した金髪の男が忌々しげに顔を歪めて仮面の戦士となった男を睨み付けていく。

 

 

そして、そんな三者三様の視線を浴びる仮面の戦士へと変身した男はジャリッと砂を踏み鳴らすと、僅かに響達の方に顔を向ける。

 

 

『……後は任せろ……』

 

 

「……え?」

 

 

ボソッと、風が吹けば掻き消えてしまいそうなほど小さな声。

 

 

あまりの小ささに他の装者達もノイズイーターも聞き取れていないが、唯一その声を拾えた響が反応し思わず聞き返すも、既にノイズイーターに意識を向けた戦士……仮面ライダーは手首を軽くスナップさせ、右手でノイズイーターを指差す。

 

 

『……さぁ、顧みろ……お前が歩んできた物語を……』

 

 

赤い複眼でノイズイーターを捉え、流暢でない無機質な声音で静かにそう告げると共に仮面ライダーはゆっくりと前へ踏み出し、一歩ずつ徐にノイズイーターへと近付いていくのであった。

 

 

 

 

 



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第一章/戦姫達の物語×忘却の仮面ライダー④

 

 

『顧みろ、だと……?急に出てきておいてっ、カッコつけたこと吐かしてんじゃねえッ!!』

 

 

変身して迫る仮面ライダーを前に幾許かの冷静さを取り戻したのか、ノイズイーターは土壇場で邪魔をされた憤りがフツフツと湧き上がり、力を凝縮した両腕を突き出して仮面ライダーに目掛け光弾を乱射していく。

 

 

だが、仮面ライダーは僅かに首を左右に逸らしただけで光弾を避けながら一息で肉薄し、ノイズイーターの胸部に素早い二の打ちを叩き込んで後退りさせると、更に怒りが増したノイズイーターが荒々しげに振りかざした拳を軽く掻い潜って背後に回り込み、ノイズイーターの背中に裏拳を打ち込み怯ませた。

 

 

『グッ?!テ、テメェッ!』

 

 

まるで自分の一挙一動を先読みしてるかのように手玉に取って翻弄する仮面ライダーの立ち回りに苛立ちが募り、拳を振るうノイズイーターの動きが目に見えて力任せに乱雑なモノに変わっていくが、仮面ライダーも冷静にノイズイーターの攻撃を捌きながらカウンターを主体とした動きで圧倒していく。

 

 

そして鋭い横蹴りを突き刺してノイズイーターを強引に後退させると、仮面ライダーのベルトのバックル部分から両脚に向かって突然青白い光がスーツの上のラインを走り、光が両脚に到達したと同時に仮面ライダーが左足で地面を軽く蹴り上げた瞬間、まるで縮地でも使ったかのように宙に浮き、右足を振り上げた姿勢でノイズイーターの眼前にまで一気に距離を詰めた。

 

 

『な、なにィ?!ガッ?!』

 

 

驚く間もなく、仮面ライダーが振り抜いた光を纏う右足が蒼い線を宙に描きながらノイズイーターのこめかみに叩き込まれ、ノイズイーターを横殴りに吹っ飛ばす。

 

 

更にそれだけで終わらず、着地と同時に今度はバックルから両腕に向かって青白い光がラインを走り、光を纏った拳を振りかざしながら追撃しノイズイーターにストレートを叩き込んだ。

 

 

そして吹っ飛ばされるノイズイーターを追尾しながら更に高速の連続ラッシュを打ち込み続けていき、トドメに全力で振りかぶった一撃を叩き込み、ノイズイーターの身体をきりもみ回転させながら勢いよく殴り飛ばしていったのだった。

 

 

『ガァアアアアアアッ?!』

 

 

「こ、攻撃が通じてるデスよ?!」

 

 

「何なんだ……アイツ……」

 

 

「…………」

 

 

先程の戦いではギアを用いた攻撃が一切通じなかった筈の相手に、何故か仮面ライダーの攻撃が通じる状況を前にクリス達は困惑を露わにし、響も無言のまま二人の戦いをジッと見つめる中、仮面ライダーに追い詰められて地面を転がるノイズイーターも顔を抑え、ダメージを受ける自分の身体に混乱を極めた様子で頭を振っていく。

 

 

『こン、なっ……!こんな事が有り得てたまるかっ……!お、俺は物語を超越した力を手に入れたんだぞっ?!なのに、何でお前なんかにィいいッ!!』

 

 

『……俺を知らないという事は、お前もこの世界の中で作られた個体か……となると、得られる情報も今までと同様変わり映えしないか……』

 

 

『……なにっ……?』

 

 

奇妙な言い回しをする仮面ライダーの発言に首を傾げるノイズイーター。だが仮面ライダーは感情の機微を変えることなく、空手のままノイズイーターへと近付いていく。

 

 

『俺も、お前も、この世界にとってはただの「異物」でしかない……本来あるべき世界の流れを逸脱し、歪める存在はいずれ排他される……それがお前にとっての、この俺だ……』

 

 

『ッ……何だそりゃっ……意味が分かんねぇんだよォッ!!』

 

 

全く意図が掴めない発言に更に苛立ちを募らせ、ノイズイーターは思わず頭を掻き毟りながら再び仮面ライダーに殴り掛かる。

 

 

それに対して仮面ライダーも即座に身体の重心を横にズラしノイズイーターの突き出す拳を避けると、そのまま相手の手首を片手で掴んで引き寄せながら鳩尾に目掛けて膝蹴りを突き刺し、ノイズイーターが腹を抱えて怯んだ隙にその場で身を捻らせながら跳躍、流麗な後ろ回し蹴りをノイズイーターの頭へと叩き込んで蹴り飛ばしていった。

 

 

『ウグァアアッ!』

 

 

『……もう止めておけ。この場にあのノイズなんて化け物が異常発生したのも、恐らく餌に釣られたお前に俺が食いつくと見越しての意図的なモノ……使い捨ての囮に使われたんだ、お前は……』

 

 

「ッ!それって、つまり……?」

 

 

『ッ……おと、り……だと……?この……オレがっ……?』

 

 

この状況は偶発的でなく、誰かの意図で作られた作為的なモノだった。

 

 

その内容に彼の言葉の意味を早くに理解した調や響達も衝撃で目を見開き、ノイズイーターも困惑と戸惑いを露に自身の両手を見下ろしていく中、仮面ライダーは改めてノイズイーターと向き直っていく。

 

 

『使い捨ての駒として扱われた今、仮にこの場を切り抜けられたとしても、お前を待つのはこの状況を作った奴らに死ぬまで使い潰される未来だけだ……だから、そうなる前に──』

 

 

「……?あの人……」

 

 

今の今まで無機質的な口調だった仮面ライダーの声が、何処か不安を帯びているように一瞬震えたような気がする。

 

 

その微妙な変化に気付いた響が仮面ライダーに怪訝な眼差しを向けるが、その時、頭を両手で抱えるノイズイーターの身体が突然ワナワナと震え出し……

 

 

『……る、せ……うるせぇ…………うるせぇっ、うるせェっ、ウルセェっ、ウルセェエエエエエエエッッ!!!!どいつもこいつも俺をっ、何処まで俺を馬鹿にすりゃ気が済むんだァアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

『……!』

 

 

天を仰ぎ、地を震わせる程の激昴の雄叫びを上げた瞬間、ノイズイーターの全身から凄まじいエネルギー波が放出されて周囲に無数のスパークを撒き散らしていき、ノイズイーターが佇む地面が徐々に軋んで陥没し始めていた。

 

 

「グッ……!こ、今度は一体なんなんだよッ?!」

 

 

「うううっ……ま、前が何も見えないデスよっー!」

 

 

『ッ……これはっ……』

 

 

『アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

凄まじいエネルギーの嵐に装者達も視界不良で何も見えない中、嵐を巻き起こす発生源のノイズイーターはその血のような眼を輝かせながら獣の如く咆哮を上げ続けていくと、突然その右腕が変化をし始めて徐々に変容していき、まるで機械を腕に埋め込まれたかのような禍々しい形状をした砲撃型の腕へと変わっていったのであった。

 

 

「?!腕の形が、変わった……?!」

 

 

『ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!死ねェッ!!死ね死ね死ね死ね死ね死ねェッ!!俺を否定する奴はみんなっ、お前らみんな死んじまえよォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!』

 

 

『ッ!』

 

 

突如変容したノイズイーターの右腕の砲撃を見て調が驚きの声を上げるのを他所に、ノイズイーターは狂った雄叫びを上げながら仮面ライダーに突き付けた銃口から高出力のエネルギー弾を放って襲い掛かった。

 

 

それを見て仮面ライダーも咄嗟に上空へと空高く跳んでエネルギー弾を回避し、そのままノイズイーターの頭上を飛び越えながら背後へと着地すると共に、振り向きざまに放った拳で再攻撃を仕掛けようとしていたノイズイーターの顔を殴り飛ばし砲撃の手を強引に中断させようとするが……

 

 

『グゥッ!ギッ、ギィッ……コロスっ……コロスコロスコロスゥウウウウウウウウウウウウウウッッ!!』

 

 

『ッ!クッ……!』

 

 

「な、何か様子が変わってない?!うわわっ?!」

 

 

「あぶねっ?!あ、アイツ、急に手当り次第かよっ?!」

 

 

仮面ライダーに殴られても殆どダメージを受けてる様子もなく、右腕の砲撃を乱雑に振るいながらエネルギー弾を見境なく乱射するノイズイーターの変貌ぶりに混乱してしまう響達だが、仮面ライダーは飛来するエネルギー弾を手刀で払い除け、ノイズイーターの変容した右腕を見つめながら頭の中で思考していく。

 

 

『(形状変化……ノイズ達を一気に喰らった事で急成長したのか……?いや、だとしても此処までの目に見える変化は今まで戦ってきた奴らには一度も……)』

 

 

あの突然変異は仮面ライダーにとっても初めて出くわすケースなのか、今までにない変化を遂げたノイズイーターを見て内心困惑するも、正面から迫るエネルギー弾を見てすぐに我に返り、咄嗟に左に避けながら左腰のホルダーに指を掛けていく。

 

 

『(いや、今は考えるのは後回しだ……ともかくまた狂い出した以上、もう俺の言葉も届く事はない……こうなれば俺の手で……ッ?!)』

 

 

これ以上被害が広がる前に奴を倒すしかないと覚悟を改め左腰のホルダーを開こうとした仮面ライダーだが、その時、何かに反応を示して何故か急にその場に踏み止まり、ノイズイーターから放たれるエネルギー弾を両腕で防御し動かなくなってしまった。

 

 

「!マスクドライダーが……!」

 

 

「え?!」

 

 

『アヒッ、ヒヒッ……!ヒハハハハハハハハハハッ!!!死ね死ね死ね死ねェッ!!!今度こそ死んじまえよォォおおおおおおおおおおおおッッ!!!!』

 

 

『……ッ……!』

 

 

乱れ狂いながら無差別にエネルギー弾を乱射するノイズイーターの攻撃を避け続ける装者達も、何故か突然回避も切り払う事すらもせずガード一択で踏み止まる仮面ライダーを見て怪訝な反応を浮かべる中、ノイズイーターは卑しい笑みと共にその姿を見て無差別に放っていたエネルギー弾の狙いを仮面ライダーへの一点に絞り、エネルギー弾の集中砲火を浴びせていく。

 

 

それにより仮面ライダーも更にダメージが増して全身が傷付きボロボロの姿に変わり果てていくも、何故かそれでも仮面ライダーはその場から動かず防御のみで耐え続けていた。

 

 

「な、何だかあっちも様子が変デスよ?!」

 

 

「何やってんだアイツっ……!このままじゃ一方的にやられちまうぞっ?!」

 

 

「…………?」

 

 

攻撃を受ける度に装甲が削られ傷付いていくというのに反撃に転じようとしない仮面ライダーを見て装者達も焦燥感を募らせる中、クリス達と共にその様子を見守っていた響がある事に気付く。

 

 

ノイズイーターのエネルギー弾の嵐を一身に受け続ける仮面ライダーが、防御を取りながら何度か自身の背後へと目を見遣っているのだ。

 

 

その視線の先を追って響も振り向いていくと、其処には仮面ライダーの遥か後方の建物の一角に積み重なる瓦礫の山があり、その瓦礫の山を目を凝らしジッと凝視していくと、瓦礫の一角が音を立てて崩れ穴ができ、その向こうで何かが僅かに蠢いているのが見えた。

 

 

「──ッ!もしかして……!」

 

 

「?!響さん?!」

 

 

「お、おい!何する気だお前?!」

 

 

何かに気付いた響が突然地を蹴って飛び出し、瓦礫の山に目掛けて一直線に走り出す。

 

 

いきなり飛び出した響を見てクリス達も驚き慌てて呼び止めようとするが、響はそれを振り払い瓦礫の山へと躊躇なく飛び込んでいき、数泊の間を置いた後、瓦礫の山が突然内側から弾け飛んで吹っ飛ばされていった。

 

 

そして、瓦礫が取り除かれて周囲に漂う粉塵の向こうには拳を突き出す響の姿があり、その背後には……

 

 

 

 

 

「──ぅっ……ぅぅっ……」

 

 

「お父さんっ……!お父さんっ!しっかりしてっ……!」

 

 

 

 

 

「ッ!あれは……?!」

 

 

「負傷者……?!瓦礫の中に取り残されてたのか?!」

 

 

そう、響の背後には頭から血を流して倒れる負傷者の男性と、その男性の息子と思われる土まみれの幼い男の子が涙目で父親の傍に寄り添う姿があったのだ。

 

 

恐らく、ノイズ達が出現した際に避難しようとした矢先に建物の崩落に巻き込まれ二人諸共瓦礫に埋もれてしまっていたのか、それを見たクリス達もすぐさま負傷者達の下へと駆け付け、響が残りの瓦礫を取り除く間にクリスと切歌が負傷者の男性を、調が男の子を抱き抱えて救出し、急ぎ全員でその場から離れながら響が仮面ライダーに向けて呼び掛けた。

 

 

「仮面ライダーさんっ!この人達は大丈夫、二人とも無事ですっ!」

 

 

『──ッ!』

 

 

二人を安全地帯にまで運ぶ響の声が届き、男性と子供の安否を伝えられた仮面ライダーはすぐさま次に放たれてきたエネルギー弾を手刀で払い除け、前傾姿勢でエネルギー弾の嵐の中を素早く掻い潜りながら一気にノイズイーターとの距離を詰めていく。

 

 

そして、ノイズイーターに肉薄すると共にその右腕の銃口を掴んで上に逸らし、再びバックルから走らせた青白い光を右手に纏わせ、拳を握り締めた仮面ライダーの一撃がノイズイーターの顔面にめり込み殴り飛ばしていった。

 

 

『アグゥウウッ?!グッ、ギッ……チ、クショォオオオオッ……ナンデダヨッ、ナンデェエエエエエエエエエエッッ……!!!!』

 

 

『…………』

 

 

仮面ライダーに殴られた顔を抑え、まるでこの世の全てを憎むかのように呪詛の呻き声を漏らすノイズイーターだが、仮面ライダーの方は既にその声に耳を傾けるつもりもなく、ボロボロに傷付いた腕の汚れを手で払いつつ左腰のカードホルダーからカードを一枚取り出し、バックルから立ち起こしたスロットに装填して掌でバックルに押し戻していった。

 

 

『Code slash…clear!』

 

 

電子音声が鳴り響いた瞬間、仮面ライダーの蒼い装甲が分離して新たに朱色のアーマーへ変わっていき、再び仮面ライダーに身に纏わられると共に複眼の色も赤から緑色へと変化し、両手に二本の黄金の剣が出現していく。

 

 

全ての変身シーケンスを完了し、黄色くシャープなラインが特徴の朱い鎧に緑色の複眼、両手に黄金に輝く双剣を逆手に持った姿へと変わった仮面ライダーを見て、響達は目を見開き再び驚愕の表情を浮かべた。

 

 

「色が変わったデスよ?!」

 

 

「あれは……もしかして私達のギアと同じ、変容(リビルド)……?」

 

 

『グゥウウウウッ……ガァアアアアアッ!!』

 

 

新たな姿に変貌した仮面ライダーに装者達が各々反応を示す中、ノイズイーターも警戒心を露わに唸り声を上げ、砲撃の銃口を仮面ライダーに突き付けてエネルギーを再充填しようとするが、それよりも速く先程とは比にならない速度で仮面ライダーが距離を詰め、素早く振り上げた左手の刃がノイズイーターの砲撃の銃口を斬り裂いた。

 

 

『ッ?!ナ、ニッ?!グァアアッ?!』

 

 

『ハッ……!ハァアアッ!』

 

 

銃口を斬り裂かれた自身の右腕を見てノイズイーターが動揺する中、仮面ライダーは続けざまに両手の双剣を目にも止まらぬ速さで振り翳していき、朱色の雷光を纏う斬撃がノイズイーターの身体を何度も切り刻んで怯ませ、トドメに放った後ろ回し蹴りでノイズイーターを蹴り飛ばし、ゴロゴロと異形の身体が勢いよく地面を転がっていく。

 

 

『ガァッ!ァッ……ウ、ソダッ……コンナハズッ……?!』

 

 

一気に形成を逆転され、信じられないと頭を振るノイズイーターを見据えたまま仮面ライダーは両手に持つ双剣を片手に束ねると、空いた手で左腰のホルダーからカードを一枚再び取り出し、バックルのスロットに装填して掌で押し込んでいった。

 

 

『Final Code x……clear!』

 

 

再度鳴り響く電子音声と共に、両手に持ち直した双剣の刃に朱色の雷光が火花を撒き散らして纏われていく。

 

 

そして仮面ライダーは腰を徐に落として双剣を身構えると、右手に持つ片手剣をノイズイーターに向けて勢いよく投擲し、投げられた剣はブーメランのように高速回転しながら朱色の光の軌跡を宙に描きノイズイーターへ一直線に突き進んでいった。

 

 

『ゥ、グッ……マ、ダダッ……コンナトコロデっ、オワレルカァアアアアアアアアアアッ!!』

 

 

しかし、ノイズイーターも抵抗を諦めない。銃口を潰されて使い物にならなくなった右腕で片手剣を空へ弾き飛ばし、そのまま左腕に力を溜め光弾を放とうとするが、それに対し仮面ライダーは落ち着き払った動作で右腕を中空に掲げながらノイズイーターに掌を翳し……

 

 

『いいや──これで終わりだ……』

 

 

仮面ライダーの右手の掌が朱色に発光した瞬間、空へと打ち上げられた片手剣が突然空中で停止し、刃の切っ先を独りでにノイズイーターに向けたと共に剣が分身をし始めていき、あっという間に空を無数の刃が埋め尽くしていったのだった。

 

 

『ナ、ナンダトォッ?!イッ──ギャアァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!?』

 

 

無数の刃が覆い尽くす空を見上げ驚愕と共に後退りするノイズイーターの頭上へと、空から一斉に黄金の刃が暴雨の如く降り注ぎ、その肉体を絶え間なく切り刻んでいく。

 

 

それと同時に仮面ライダーも残ったもう片方の剣を順手に持ち替えながらその身を朱い閃光と化して猛スピードで飛び出し、上空から降り注ぐ黄金の刃の雨の間を素早くすり抜けてノイズイーターに飛び掛かると共に、すれ違いざまにXを描くように朱い斬撃を叩き込んでノイズイーターの背後に姿を現した。

 

 

『ァッ──!!!?コン、ナ……バ、カッ…………!!!?』

 

 

『……それがお前のエンドマークだ……』

 

 

『ガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーアアァァッッ!!!?』

 

 

朱い火花を撒き散らしながら空から返ってきた片手剣を仮面ライダーがノールックで手にした瞬間、それと同時にノイズイーターの身体から無数のスパークが噴き出し、直後に巨大な爆発を巻き起こしながら断末魔の悲鳴を上げて完全に消滅していったのであった。

 

 

「ッ……ノイズイーターを、倒した……?」

 

 

「終わった、のか?……はぁああっ……何だったんだ一体っ……」

 

 

「うう……もうクタクタデスよっ……」

 

 

あの難敵だったノイズイーターを倒した仮面ライダーの力にも驚きだが、今はそれ以上にこの局面を乗り切れた事への安堵から溜め息と共に緊張感から解放されていくクリス達。

 

 

一方で仮面ライダーもノイズイーターが爆散した跡の炎を暫しジッと見つめた後、そのまま踵を返しながら元の蒼い姿へと戻り、自分が乗ってきたバイクの下へと向かおうとするが……

 

 

「ま、待って下さい!」

 

 

『……?』

 

 

ノイズイーターを撃破して立ち去ろうとした仮面ライダーを呼び止める声が聞こえ、仮面ライダーが訝しげに振り返ると、其処には傷付いた身体で駆け寄ってくる響の姿があり、仮面ライダーの前で足を止めて息も絶え絶えに口を開いた。

 

 

「あ、あのっ……さっきは助けて頂いて、ありがとうございました!おかげで負傷者の方々も助ける事が出来て、本当に助かりました!」

 

 

『…………』

 

 

活発な笑顔で一礼と共に、自分達や先程の親子を助けてくれた事への感謝をの言葉を口にする響。一方でそんな彼女に対し、仮面ライダーはジッと響の顔を見つめたまま何も語ろうとせず、マスクのせいで表情が読めない仮面ライダーに響の方も若干やり難そうになりながらも言葉を続けていく。

 

 

「ええ、と……そ、それで何ですけど、良ければさっきの怪物の事とか、仮面ライダーさん自身の事とか、もっとお話を聞く事って出来ませんか……?私達も、色々と話したい事が──ッ!」

 

 

あのノイズイーターの正体や仮面ライダー自身の事、街で今起こっている事件の事を何か知っているなら話を聞かせてもらえないかと願い出ようとする響だが、その時彼女やクリス達の下に通信が届き、回線を開くと、それは本部にいる弦十郎からの通信だった。

 

 

『お前達、全員無事か?!』

 

 

「師匠……!はい、私達は大丈夫です!現場に取り残されてた負傷者の人達も、今さっき近くの救助の人達にお願いして運んでもらいましたから」

 

 

『そうかっ、良かった……。突然発生した謎のジャミングのせいでモニターも通信も途絶えてしまった時は、一時はどうなる事かと思ったが……』

 

 

「……え?」

 

 

「ジャミング……?」

 

 

どういう事だ?と、装者達が互いに顔を見合わせ不思議そうに首を傾げる中、彼女達の口にしたジャミングというワードに仮面ライダーはピクっと反応を示し、僅かに考える素振りを見せた後、そのまま自身のマシンに乗ってエンジンを掛けていく。

 

 

「!ま、待って下さい、仮面ライダーさんっ!まだ聞きたい事が……!」

 

 

『何?仮面ライダーだとっ?マスクドライダーが其処にいるのかっ?!』

 

 

弦十郎の驚きの声が通信から聞こえるが、それより今は彼を引き止めなければと仮面ライダーを慌てて呼び止める響。するとそれに対し、仮面ライダーは僅かに響の方に顔を向け……

 

 

『……俺も……さっきは助かった……』

 

 

「……え?」

 

 

漸く口を開いた仮面ライダーが告げたのは、短い感謝の言葉。

 

 

そんな思わぬ一言に思わず響も呆気に取られる中、仮面ライダーはそれだけ伝えるとマシンを発進させて何処かへと走り去っていき、残された響は遠ざかる背中に虚しく手を伸ばし、呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「──で、どう思う?やっぱアレ、彼って事で間違いないのかなぁ」

 

 

──場所は変わり、ノイズの出現によって今は人気のない路地では、先程の場所を後にした金髪の男と青髪の青年が何処かへ歩く姿があった。

 

 

ノイズ達が暴れ回ったせいで至る所に破壊の痕跡が残る街並みを眺めながら、後頭部に両手を回す青髪の青年は呑気な口調で先程ノイズイーターを倒した仮面ライダーの正体について正面を歩く金髪の男にそんな疑問を投げ掛けるが、金髪の男は明らかに苛立ちを露わにした足取りで先を歩いて何も答えず、目の前に転がる破片を乱雑に蹴り飛ばしていく。

 

 

「クッソッ、マジで生きてたとか笑えねえぞこりゃっ……。どうすんだよっ、これじゃ俺らの計画もホントに潰され兼ねねぇぞっ……!」

 

 

「ホントびっくりだよねー。アレでまだ生きてたって言うんだし、これじゃ苦労して罠に掛けたのが水の泡だよ」

 

 

やれやれー、と青髪の青年は肩を竦めて露骨にガッカリし、金髪の男も焦りを露わにした様子で街を歩く足取りにも何処か余裕がなくなり始めていた。其処へ……

 

 

「──なに、まだ気を落とすのは早いかもしれんぞ」

 

 

「「……ッ!」」

 

 

何処からともなく冷たい声が響き、驚く二人がその声の主を探して辺りを見渡すと、路地の裏の方から革靴の音を鳴らして一人の男……デュレンがゆっくりと闇の中から姿を現した。

 

 

「デュレン……?!お前まで来てたのかよっ?!」

 

 

「当然だろう。何せ我々の計画の根幹に関わる事態なのだから、この目で直接確かめる必要がある……それに念の為、裏工作の必要もあったからな……」

 

 

「?裏工作?」

 

 

「こっちの話だ」

 

 

お前達には関係ないと、短く返し切って捨てるデュレン。その仲間内にまで必要以上の事を語ろうとしない口ぶりに金髪の男も内心疑心感を覚えながらも、今はそれどころではないかと自分を諌めて溜め息を吐き、デュレンにジト目を向けて問い掛ける。

 

 

「んで?さっきの、気が早いみたいな言い口はどういう意味なんだよ?実際問題、奴が生きてたんなら結構な一大事だろ、コレ」

 

 

「……奴が生きていた、だけの話なら確かにその通りだろう。だが、恐らく今の奴は──」

 

 

口元を手で覆い、デュレンの脳裏に蘇るのは先程戦場でノイズイーターを相手に戦っていた仮面ライダーの戦闘スタイル。

 

 

一挙一動、『以前の奴』を知っていれば何もかもが違い過ぎるその戦いぶりに一つの推測が頭を過ぎり、クッ、と声を殺して笑うデュレンの表情に嬉々とした笑みが浮かび上がる。

 

 

「──どうやら、ツキはまだ俺達の方にあるかもしれんな……」

 

 

「「……?」」

 

 

口元を覆う手で笑みを隠しながらそう告げるデュレンの言葉に、二人も訝しげに眉を顰めるが、デュレンはそんな二人を他所に歩き出していき、僅かに口端を吊り上げ不敵な笑みを浮かべながら自分達が破壊に導いた街並みの間を過ぎ去っていくのであった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「…………」

 

 

ノイズの異常発生、そしてノイズイーター撃破から数時間が経ち、黄昏時の空がよく見える海岸にて、仮面ライダーから元の姿に戻った青年がバイクを脇に停め、海へ沈むように消えていく夕陽を無言のまま見つめる姿があった。

 

 

「…………」

 

 

フードで顔を隠したその横顔からは表情は一切読めない。だが、僅かに俯いて自身の右手を見下ろし、ジッと己の掌を見つめるその様は何処か物悲しげに見える。

 

 

「……シンフォ……ギア……か……」

 

 

拙い口調で声に出し、頭に思い起こすのは先程の戦場で出会った少女達の姿と美しい歌。

 

 

何度口にしても、その音を耳にするだけで胸の内を締め付けるような感覚に襲われながらも、青年は顔を上げて海の向こうの夕陽を見つめ、戦場で聴いた歌のメロディーを思い出しながら小さく口ずさんでいく。

 

 

「……〜♪……〜♪……」

 

 

風が吹けば飛ぶような、波の音が響けば簡単に搔き消せるようなか細い歌声。

 

 

戦場で彼女達が歌っていたような力強さなどないが、それでも青年は歌い続ける。

 

 

誰に届く事はないと分かっていても、誰かに聴かせ、求めるように小さく、か細く、沈む夕陽を見つめて歌い続けていた───。

 

 

 

 

 

第一章/戦姫達の物語×忘却の仮面ライダー END

 

 

 

 



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第二章/邂逅×存在を赦されない存在

 

―S.O.N.G.潜水艦本部―

 

 

──ノイズの謎の大量発生、そしてノイズイーターの出現から三日経ったその日、響達は学校終わりに弦十郎からの招集を受けてS.O.N.G.本部の発令所に集められていた。

 

 

「皆、よく集まってくれた。早速ブリーフィングを始めたいと思うが、その前に先日の一件はご苦労だったな。皆の奮闘のおかげで取り残された人々や怪我人を救う事が出来た。改めて感謝したい」

 

 

「……でも、結局ノイズイーターには歯が立たなかった」

 

 

「そうデスね……彼処で仮面ライダーが来てくれてなかったから、アタシ達もやられてたかもしれないデスよ……」

 

 

先日の一件での響達の活躍を労う弦十郎だが、調と切歌、響とクリスも何処か浮かない様子で元気がない。

 

 

その原因はやはり、先の戦いでノイズイーターを相手に手も足も出せなかった事を未だ気にしているのだろう。

 

 

四人のそんな心境を察し、弦十郎は何か考えるように一度瞼を伏せた後、響達の顔を見回して言葉を続けていく。

 

 

「確かに前回は不測の事態も相まって、ノイズイーターに遅れを取る事になった……。だが、何も敵に打ち勝つ事だけが全てじゃない。未知の敵を相手に民間人を守り切り、戦い抜けただけでも上々だ」

 

 

「そうですね……それにこれまで足取りを一切掴めなかったノイズイーターや、マスクドライダーの情報を得られたのは大きな進歩と言えます。皆さんにお話する以前から既に調査を進めてはいましたが、調査部の方も難航している様子でしたから……」

 

 

だからそう気を落とさないで欲しいと響達を励ます弦十郎とエルフナイン。そんな二人の気遣いに気落ちしていた響達の表情も僅かながら和らいでいく中、気を取り直したクリスが気になっていた疑問の一つを二人に投げ掛ける。

 

 

「それで、あれから結局何か分かったのか?ノイズがいきなり現れた事とか、あのマスクドライダーがそれっぽく言ってた黒幕の件とか」

 

 

「うむ。実はその件について一つ、気になる情報を掴んだ……エルフナイン君」

 

 

「はい。先ずは皆さん、これを見て頂けますか」

 

 

弦十郎に促され、エルフナインはその手に持つパッドの画面を響達に見せていく。

 

 

其処に映し出されているのは、三日前にノイズが出現した街の一角を映す監視カメラの映像。

 

 

大勢の人々が街を行き交う中、何も無いハズの街の上空に突如無数の火花が走り、直後に異次元の穴が開かれて無数のノイズが大量に現れる瞬間が捉えられていたのだ。

 

 

「これは三日前、市内の監視カメラがノイズ出現の瞬間を捉えた映像だ。この映像から様々な解析を重ねった結果、どうやら先のノイズの出現はこれまでのパターンとは全く異なるもの……つまり、ソロモンの杖や錬金術師達がアルカ・ノイズ召喚の際に用いる道具などを一切介していない方法でこちらに現れていた事が分かった」

 

 

「これまでにない出現パターンって……」

 

 

「で、でも、バビロニアの宝物庫は閉じられている訳デスし、ソロモンの杖も使わずに出てくるなんて有り得るんデスか?」

 

 

そう、そもそも錬金術師が特殊な装備を用いて呼び出すアルカ・ノイズならともかく、門を封印されているバビロニアの宝物庫から鍵であるソロモンの杖も無しにノイズを呼び出す事など可能なのか。

 

 

仮に可能だとするなら、嘗て死に物狂いでノイズを封印したと思っていた自分達の戦いは無駄だったのか?

 

 

そんな不安を覚える切歌からの疑問に対し、エルフナインはパッドを操作しながら話を続けていく。

 

 

「其処までの解明には未だ至ってはいませんが……でも一つだけ分かるのは、この次元の穴を開く際に用いられたエネルギーは聖遺物に由来する物ではない、という事です」

 

 

「聖遺物は使われてない?」

 

 

「ならもしかして、哲学兵装か?」

 

 

『哲学兵装』、それは長い時を経て積み重なったコトバノチカラが宿り、ソレそのものの在り方を捻じ曲げる想念が力と化したモノである。

 

 

例を上げるとすれば、響達が以前に関わった事件の発端となったツタンカーメンは呪いの力を持つという迷信を多くの人が信じ込み、長い年月の間に信念が積層した事で死の呪いを撒き散らす哲学兵装と化してしまった。

 

 

聖遺物に由来するエネルギーでないなら、もしや哲学兵装が原因で宝物庫が開かれたのか?と疑問を口にするクリスだが、エルフナインは「いえ」と首を横に振った。

 

 

「此処で使われたエネルギーは、聖遺物や哲学兵装、そのどれとも異なる全く別の物でした。過去のあらゆるデータベースのデータと照合してみても、合致しない謎の力……もしかしたらコレは、この地球上には存在しない未知の力が作用してバビロニアの宝物庫が開かれたのではないかと思われます」

 

 

「地球上には存在しないエネルギー……?」

 

 

「地球にはないって、じゃあええっと……もしかして宇宙からの力、だったりとか?」

 

 

「お前なぁ……適当な事言う前にちゃんと考えて──」

 

 

「いいえ、響さんの言ってる事もあながち間違いとは言い難いと思います」

 

 

「マジかよ?!」

 

 

「な、ならホントに、コズミックなパワーのせいでバビロニアの宝物庫が開いたって事デスか?!」

 

 

首を捻る響の発言にクリスが呆れて一蹴しようとするも、エルフナインからのまさかの肯定に切歌や調までも驚きを浮かべてしまうが、そんな一同の反応に弦十郎も苦笑と共に補足を加えていく。

 

 

「宇宙から、と言うと語弊があるが、この世界には存在しないという意味では確かに間違いとは言い難いかもしれん。バビロニアの宝物庫を開いた力の正体は、我々の世界に存在しないモノ……恐らく、異世界から来訪した何者かによる干渉を受けたのかもしれない」

 

 

「?いせ、かい……ですか?」

 

 

弦十郎から補足説明を受けるも、突然出てきた異世界というワードに響達も怪訝な反応を浮かべて揃って首を傾げてしまう。

 

 

そんな四人にエルフナインがパッドを再び操作して画面を見せていくと、其処には先日の戦闘で四人が戦ったノイズイーターのデータが映し出されていた。

 

 

「これは、先日の戦闘で得たノイズイーターのデータです。あの事件以降、彼等の正体を探る為に連日解析を進めていたのですが……」

 

 

そう言いながらエルフナインは更にパッドを操作して画面を進めていくが、ノイズイーターを解析する為にデータを読み込もうとした瞬間、突然『DATA ERROR』の文字が出て止まってしまった。

 

 

「……今お見せした通り、ノイズイーターのデータを解析しようとしても、これ以上はエラーが発生して進める事が出来ませんでした。他の方法やアプローチを変えてみても結果は同様……そして検証に検証を重ねた結果、僕達は一つの結論に至ったんです。恐らくノイズイーターとは、この世界に存在するシンフォギアや聖遺物等を含めた技術を受け付けない特殊な存在……つまり、この世界のルールとは全く異なる並行世界からきた存在ではないかと」

 

 

「へ、へいこう……せかい……?」

 

 

「所謂パラレルワールドのようなものだ。この世界と似ているようで、全く違う歴史を歩んだもしもの世界といったな」

 

 

「……うう、分かったような、分からないような……」

 

 

「だああッ!へーこー世界だの何だのの話は今はどうだっていいんだよッ!ようするに、バビロニアの宝物庫が開いたのはそのノイズイーターの仕業って事でいいんだろッ?!」

 

 

頭上に?の数を増やして未だ理解が追い付かずゲンナリとする響に痺れを切らし、クリスが要約してノイズ出現の原因がそのノイズイーターにある事を纏め強引に話を進めるも、弦十郎とエルフナインは何処か難しげな顔を浮かべてしまう。

 

 

「半分は正解だが、もう半分はまだそうとは言い切れないかもしれん」

 

 

「先日の戦闘の際、突如発生したジャミングによりマスクドライダーが出現して以降のモニターが不可能になった為、現場に居合わせた皆さんの証言を元に聴取を取らせて頂きましたが、その時のマスクドライダーの話では、あの時現れたノイズイーターは彼を釣る為の餌だったという話でした……という事は、あのノイズイーターの裏にはまだ黒幕がいる可能性が高い」

 

 

「……つまり、バビロニアの宝物庫を開けたのはその黒幕の仕業で、その力は私達の世界に存在しない未知の物かもしれない、ということ……?」

 

 

エルフナインの説明を聞き、真っ先に答えに辿り着いた調がそう答えると、エルフナインはそれに頷き返し、弦十郎は腕を組んで眉間に皺を寄せながら険しげな表情になる。

 

 

「恐らく、例のジャミングを発生させたのもその黒幕側による妨害工作だろう。目的が何なのかは未だ不明だが、タイミング的にマスクドライダーを狙ったものか……いずれにせよ、マスクドライダーがノイズイーターを撃退した事を見てもその二つの勢力が敵対関係にあるのは明白だろうな」

 

 

「ですがデータが解析出来ない以上、これ以上の情報を探る事は僕達だけの力では困難かと思われます……このまま解析が出来なければ、ノイズイーターの対策を取る事も叶いません……」

 

 

「そんな……それじゃ、アタシ達はノイズイーターと戦う手段はないって事デスか?!」

 

 

ノイズイーターの対策が取れなければ、次にまた奴等が現れても自分達はノイズイーターに太刀打ちする術がなくまともに戦う事も出来ない。

 

 

それでは一体どうすればいいのか……。戸惑う響達に対し、弦十郎は組んだ腕を解いて言葉を紡ぐ。

 

 

「確かにこのままでは対策の打ちようがないのは事実だが、何も手がないという訳ではない。先程も言ったように、ノイズイーターは別世界から来訪した存在かと思われる。つまりはそのノイズイーターを倒したマスクドライダーも同様の存在であり、彼は奴らに対抗する術を持っているという事になる。となれば……」

 

 

「……!仮面ライダーさんに協力してもらえれば、私達もノイズイーターと戦えるようになるかもしれない、って事ですね!」

 

 

弦十郎が言わんとしてる事を察した響が真っ先に反応すると、弦十郎とエルフナインも静かに頷き返す。だが、それに関してクリスは若干心配を帯びた表情で溜め息混じりに口を開いた。

 

 

「けどよ、ホントにアイツを信用しても大丈夫なのか……?正直正体が分かんねぇってとこじゃノイズイーターとそう変わんないし、戦ってる敵が同じだからってあたし等の味方になってくれるとも限んないだろ?」

 

 

「そ、そんな事ないよ!前の戦いの時だって私達を助けてくれたし、逃げ遅れた人達も身を呈して守ってくれたんだよ?だから話せればきっと、協力する事だって……」

 

 

「確かに、悪い人って事はないと思うけど……」

 

 

「でも、それならどうして何も言わずに帰っちゃったんでしょうね……何か事情を知ってるなら、ちゃんと話してくれても良いと思うデスよ」

 

 

「それは……」

 

 

そう、切歌の言う通り、自分達に協力してくれる気があるなら前回の時点で事情を聞かせてくれても良かった筈なのに、仮面ライダーはそのまま去ってしまった。

 

 

因みに本部の方ではあの後、仮面ライダーを追跡しようと反応を追い掛けたものの途中で消滅し、後を辿る事は出来なかったようだ。

 

 

恐らく仮面ライダー側が追跡対策の為に何か仕掛けを行ったのかと思われるが、其処までして他人との接触を避けようとするのは何か理由があるのか?

 

 

それすらも分からないが為に仮面ライダーへの疑心感を募らせるクリス達に響も言葉を濁らせる中、弦十郎もそれに関しては否定せず重々しく頷いた。

 

 

「確かに、向こうの素性も分からない内から無警戒で接触するのは早計だろうが、彼が唯一この状況を打開してくれる貴重な情報源である事も確かだ。下手にこちらが身構えて向こうに警戒心を与えるのは得策ではないが……どちらにせよ、先ずは彼と直接会って話す事が重要だ」

 

 

「けど、マスクドライダーの居場所も分からないのにどうやって……」

 

 

本部が追跡を試みても失敗してしまった以上、仮面ライダーが今何処にいるのかも分からない。仮に会えるとすればノイズイーターが再び現れた戦場でしか確実な方法はないが、一体どうするつもりなのか。

 

 

調が訝しげにそう問い掛けようとした瞬間、オペレーターの藤尭が不意に弦十郎に呼び掛けた。

 

 

「司令!発見しました!」

 

 

「む、漸くか。だがちょうどいい、モニターを回してくれ!」

 

 

「「「「?」」」」

 

 

二人の不可解なやり取りに響達が首を傾げる中、弦十郎の指示と共に発令所のモニターに映像が映し出された。

 

 

それは市内の大通りの様子を映す監視カメラの映像であり、大勢の人々が行き交う中、街中のベンチに背もたれて腰を下ろす人物がズームアップされていく。

 

 

灰黒い薄汚れたロングコートに、ボロボロの黒のジーンズという見窄らしい格好。

 

 

顔を隠すようにフードを深く被ったその姿は間違いなく、先日の戦闘の最中にも現れた仮面ライダーに変身した青年の姿だった。

 

 

「アイツは……?!」

 

 

「仮面ライダーさん?!」

 

 

「やはりか……。君達から聞かされたマスクドライダーの特徴を元にこの数日間、市内の監視カメラを張って捜索し続けていたが、漸く足取りを掴めたようだな」

 

 

「ほんと、大変でしたよ……何十もあるカメラを二十四時間体制で交代しながら見張り続けるの……」

 

 

「とか言いながら、二日目の夜中辺りで眠りこけてたのは何処の誰だったかしら?」

 

 

「ちょっ……!その事は司令の前では黙っててくれって口止めしただろぉ?!」

 

 

職務中に居眠りしてしまった件を、ジト目を向ける友里にバラされ慌てふためく藤尭。

 

 

そんな二人の会話に弦十郎も呆れて肩を竦めつつ、モニターに映し出される青年に目を向けていく。

 

 

「ともかくマスクドライダーの居場所は判明した。ただ、此処からどう彼に接触するべきか……交渉のテーブルに着いてもらう為にも、あまり事を荒立てる真似はしたくはないが……」

 

 

何せ今現在、彼だけが唯一のノイズイーターに対抗する術を知る情報源だ。

 

 

此処で自分達が彼とのファーストコンタクトを見誤れば、ノイズイーターに太刀打ちする術を失い、これから先起こるかもしれないノイズイーターの事件を防ぐ事が出来なくなってしまう。

 

 

故に慎重に事を進めなければならないが、一体自分達はどう出るべきか。

 

 

弦十郎が思考に思考を重ねて考える中、そんな彼の背後で何やら考え込んでいた響が顔を上げ、一歩前に踏み出した。

 

 

「あの、師匠!仮面ライダーさんとの交渉、私達に行かせてもらえませんか!」

 

 

「!何だと?」

 

 

「おまっ、急に何言い出すんだよ?!」

 

 

仮面ライダーとの交渉をいきなり申し出た響に弦十郎も戸惑い、クリス達も驚愕してしまうが、響はそんな一同の反応に構わず、胸に手を当てて弦十郎の目をまっすぐ見つめていく。

 

 

「私、前の戦いの後に仮面ライダーさんとちょっとだけ話せたんですけど、あの人は正面から向き合ってちゃんと話す事が出来れば、きっと私達の気持ちを汲んで応えてくれる……そういう優しい人だって、確かにそう思えたんです」

 

 

最初にもしかしたらと思ったのは、仮面ライダーが戦闘の中でノイズイーターに戦いを止めるように呼び掛けた時、声が僅かに不安を帯びてるかのように震えていたのに気付いたのがきっかけだった。

 

 

恐らく彼は、例え相手が敵であったとしても分かり合える可能性があるならそれを捨てない。

 

 

別れ際に自分に感謝の言葉を伝えた時に、きっとそんな人なのだと確信を持ち、だからこそもう一度会って彼と話がしたいと思った。

 

 

「戦う目的が同じなら、話し合えば分かり合える。手を取り合えないなんて事はないと思うんです。だから、私が……!」

 

 

「ううむ……響君の言いたい事は分かるが……しかし……」

 

 

響の気持ちを尊重してやりたい部分はあるが、今は自分達にとっても今後に関わる大事な局面なのもまた事実だ。

 

 

そう簡単に責任を委ねられる問題でもない以上、一体どうしたものかと悩む弦十郎の隣でエルフナインは顎に手を添えながら何やら思考した後、視線を上げて響達の顔を見回していく。

 

 

「そうですね……此処は響さん達に任せるというのも手かもしれません」

 

 

「本当に?!」

 

 

「エルフナイン君?!しかし……」

 

 

「確かに、失敗が許されない交渉を任せるのはリスクもありますが、彼と直接面識があるのはこの中でも響さん達だけです。顔見知りの人間が相手なら少なくともファーストコンタクトに失敗する事は先ずないでしょうし、響さんに対して悪印象を抱いていないのなら警戒心を持たれる事もないかと思います」

 

 

ただし、とエルフナインは一拍置く。

 

 

「先程も言ったように、マスクドライダーは未だ正体が分からない部分が多い相手ですから、何がきっかけで決裂が起きるかも分かりません……ですので皆さんには、いざと言う時の為にこちらから指示を送れる通信機を身に付けていて下さい。万が一皆さんが交渉に失敗した場合、こちらからリカバリー出来るようにフォローしますので……それなら問題ありませんよね?」

 

 

「……ふむ。交渉が成功する可能性が僅かでも上がるなら、賭けに乗るのもアリか……分かった。だがくれぐれも慎重に頼むぞ?今の状況を打破する為にも、彼から齎される情報だけが頼りだからな」

 

 

「了解です!」

 

 

「了解」

 

 

「うう、何だかとてつもなく責任重大な任務を任されちゃったデスよ〜……」

 

 

「ったく、相変わらず一人で突っ走りやがってコイツはっ……」

 

 

ちょっとはこっちの意見も聞きやがれ、と頭を抑えて愚痴をこぼすクリスだが、何だかかんだ言いながらも響が率先してこうなる事を分かっていたのか、口ではそう言いつつ彼女の表情に其処までの悪感情の色はない。

 

 

その辺を響も察し、後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべてクリスに謝ると、モニターに映る青年に決意を秘めた眼差しを向けていくのであった。

 

 

 

 

 



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第二章/邂逅×存在を赦されない存在①

 

―繁華街―

 

 

「………………」

 

 

それから数十分後、市内では監視カメラに映っていた映像と変わらず大勢の人々が行き交い賑やかな風景が広がっていた。

 

 

そんな中、市内にある一つのベンチの上ではフードを深く被った青年が何をする訳でもなく座り込み、顔を俯かせて無言のまま身動き一つも取らないでいた、その時……

 

 

「──あの……仮面ライダーさん、ですよね?」

 

 

「……?」

 

 

不意に目の前から誰かから声を掛けられ、青年はピクッと僅かに反応を示しながら徐に顔を上げていく。其処には、何処となく緊張した面持ちで青年の前に立つ少女と、その背後には少女と同じ制服姿の三人の少女達……響達の姿があり、青年は響達を見て小首を傾げた。

 

 

「お前達は……」

 

 

「どうも……」

 

 

「まさか顔を忘れた、なんて言い出さないだろうな?この前の戦場でガッツリ会ってたんだ、忘れたとは言わせねーぞ」

 

 

「ちょ、クリス先輩……!もう少し抑え気味に抑え気味に……!」

 

 

腰に手を当てて若干高圧的な口振りになるクリスに切歌が慌ててしまう中、青年は頭上に疑問符を浮かべて四人の顔を一人一人見回し、響の顔を見て何かを思い出したように僅かに息を拒んだ。

 

 

「お前達は……そうか……三日前の戦場にいた……」

 

 

「あっ、思い出してくれました?あの時は助けて頂いて、本当にありがとうございました!」

 

 

自分達の顔を思い出した青年に、響は快活な笑顔を浮かべ改めて前の戦いの件について感謝の言葉を口にする。

 

 

そして青年もそんな響の顔をジッと見つめた後、周囲を見渡して近くの店の前の天井に取り付けられた監視カメラに目を向けていく。

 

 

「成る程……監視カメラの映像で俺の居場所を探り当てたんだな……」

 

 

「えっ?そ、そんな事まで分かるんデスかっ?」

 

 

「……お前達が、あのノイズとかいう化け物と戦ってた事は以前から知っていたからな……その時の迅速な対応から、恐らく市内のカメラから街の様子を探ってるんじゃないかと予想はしてた……実際に当たってたのは自分でも驚きだが……」

 

 

「あっ!」

 

 

(切ちゃん……)

 

 

(馬鹿!余計な情報を与えてどうすんだ!)

 

 

これでは仮に交渉に失敗してしまった場合、彼の後を追跡するとしても監視カメラで追う事は出来なくなるかもしれない。思わず口を抑える切歌のポカで余計に失敗出来なくなりクリス達の緊張が増す中、青年はそんな空気も露知らず言葉を紡ぐ。

 

 

「それで、此処へは何しに?俺に何か用か……?」

 

 

「え、えっと……私達、仮面ライダーさんに会ってもう一度話がしたくて此処まで来たんです。仮面ライダーさん自身の事とか、あのノイズイーターの事とか、色々お話を聞かせて欲しくて……」

 

 

「ノイズイーター……ああ、そうか……お前達は奴らの事をそう呼んでるんだな……確かに、アレの醜態はそう呼ぶのが相応しいか……」

 

 

「「「「……?」」」」

 

 

ノイズイーターの呼称を聞き、何かに納得するように頷く青年の反応に響達は揃って首を傾げ怪訝な反応を浮かべていく。そして青年も暫し思考する素振りを見せた後、不意にベンチから腰を上げて立ち上がった。

 

 

「分かった……だが此処だと人も多く、会話を掻き消されるかもしれない……話は場所を移してからにしよう」

 

 

「え……あ、あの、話を聞かせてもらえるんですか?」

 

 

「……?その為に来たと言っていたのはそっちだろう……?違うのか……?」

 

 

「あ、いえっ!違わない事はないですけど……!」

 

 

「この間は何も言わずにいなくなったから、てっきり私達の事も警戒して話したがらなかったんじゃないかと思ってたから……」

 

 

故に想像よりもすんなり話に応じてくれた事に響達も逆に戸惑ってしまう中、青年は無表情のままそんな四人の顔をジッと見つめると、僅かに俯いて口を開く。

 

 

「成る程……気付かない内に誤解を与えてしまってたようだな……すまない……。あの時は"見られている"可能性を考えて、あまりあの場に長居が出来なかったんだ……」

 

 

「?見られてるって、誰にだよ?」

 

 

「……それも含めて話す……先ずは場所を移そう……」

 

 

話はそれからだと、青年は人混みの間をすり抜けて先へと進んでいき、響達も互いに顔を見合わせた後、青年の後を追って走り出していくのだった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

そして数分後。響達は青年と共に近くに見えた適当なカフェに入り、テラスのテーブルを囲むように席に着いてから軽い自己紹介を済ませた後、注文を聞きに来たウェイトレスに飲み物を注文していく。

 

 

「私、カフェラテで!」

 

 

「私も同じ物を」

 

 

「アタシはモカでお願いするデース!」

 

 

「あたしは普通の珈琲でいい。……そっちは?何頼む?」

 

 

「……俺は……」

 

 

クリスに促され、青年は手元のメニュー欄に目を落とすと、何やら懐をガサガサと漁り出した。そんな青年の様子を見て響達も小首を傾げると、青年は小さく溜め息を吐いて響達に向け首を横に振った。

 

 

「俺はいい……お前達だけで頼むといい……」

 

 

「え、でも……」

 

 

「気にするな。俺はこれだけで十分だ……」

 

 

そう言って、青年はウェイトレスが運んできた水の入ったコップを手に取って揺らし、注文を承ったウェイトレスが去っていった後に調と切歌は顔を近づけてコソコソと小声で話し出す。

 

 

(もしかして、あまりお金がなかったのかな……)

 

 

(どーデスかね……案外ただのケチんぼだったりするかもデスよ?)

 

 

(お前らなぁっ、無駄話してないで今は目の前に集中しろっ!)

 

 

((うっ……はい……))

 

 

クリスに注意され、若干渋々ながらも定位置に戻る切歌と調。そんな中、響がちびちびと何処か大事そうに水を飲む青年に気になっていた最初の疑問を投げ掛けた。

 

 

「あの、それで早速なんですけど、仮面ライダーさんの事って聞かせてもらってもいいですか?名前とか、あの姿の事とか!」

 

 

「お、おい……!其処はもうちょい慎重に……!」

 

 

「……名前……」

 

 

駆け引きとか無しにガンガン質問を投げ掛ける響の飛ばしっぷりにクリスも慌てて抑えようとするが、響からの質問を受けた青年は逡巡するように俯いた後、意を決した様子で徐にフードを脱いでいく。

 

 

露わになったその素顔は中性的な顔立ちをしており、細く切れ長な真紫の瞳、フードを脱いだ拍子に揺れる長く黒い髪が特に目を引き付ける。

 

 

何処か触れれば散ってしまいそうな儚さを抱かせる青年の素顔を目にした響達も一瞬目を奪われる中、青年は若干たどたどしい口調で口を開いていく。

 

 

「名前は……多分、黒月蓮夜だ……年は18……だったと思う……」

 

 

「黒月、蓮夜さん……?でも、多分とか、思うって?」

 

 

「…………」

 

 

自分の事の筈なのに、何故か自信なさげに己の事を話す青年……"黒月 蓮夜"の口ぶりに疑問を覚える響からの質問に対し、蓮夜は言い難そうに目を逸らした後、一度目を伏せてから響の目を見据えていく。

 

 

「……持っていた僅かな荷物からそう名乗ってるだけで、実際にそれが本当に俺の名前なのかは分からないんだ……自分自身の事は、何も……」

 

 

「自分の事が分からないって……」

 

 

「まさか……」

 

 

蓮夜の話から何かを悟った調とクリスがハッとなり、それに対して蓮夜も数拍の間を置いてから重々しく頷いた。

 

 

「記憶喪失、という奴なのだろうな……自分の名前は疎か、記憶を失う以前の事が何も思い出せない……。だから、俺が何者なのかは俺自身にも良く分からないんだ……すまない……」

 

 

自分は記憶喪失で、自分自身が何者なのかも覚えていない。申し訳なさそうに謝る蓮夜からの衝撃的な話に響達も驚きで一瞬固まってしまうが、先に我に返ったクリスが目を細めて蓮夜を睨み付けていく。

 

 

「記憶喪失って、そんな話をいきなり信じろってのか?単にそっちが話したくない事を隠したいが為に、都合の良い事を言って誤魔化そうってんじゃないだろうな?」

 

 

「ちょ、クリスちゃん……!そんな言い方しなくても──!」

 

 

「良いからお前は黙ってろ……!コイツの話が信頼出来るかどうかはあたし等の判断に掛かってるんだ、一度助けられたからって無条件で何でもかんでも鵜呑みにする訳にはいかねぇんだよっ」

 

 

現に響は既に蓮夜を半分味方だと踏んでるし、切歌と調にその判断を任せるにはまだ歳若いし、荷が重過ぎる。

 

 

故にこの場では自分のみが彼が信頼に足る相手か見極めなければならないと、クリスが蓮夜を見つめる目を更に鋭くさせる中、蓮夜は僅かに俯き、自分の手を見下ろしていく。

 

 

「そうだな……自分でも突拍子のない話だとは思うが、言葉で伝える以外に信じてもらえる方法がない……だから、最終的な判断はそちらに任せる……俺の話が信用に足らなければ、このまま去ってもらっても構わない……」

 

 

「…………」

 

 

他に信じてもらう方法がない以上、嘘か真かの判断を委ねる事ぐらいしか誠意を見せられないと目を見つめ返してくる蓮夜に対し、クリスも暫しジッと蓮夜の目を見つめると、やがて溜め息と共に頬杖を突いて目を逸らした。

 

 

「まあいい……そっちがその気なら、取り敢えず話を聞いてからでも遅くはないだろうしな……」

 

 

「……俺の話を信じてくれるのか?」

 

 

「一先ずは、だ。別にそっちの話を鵜呑みにした訳じゃねえから、勘違いするな」

 

 

「ク、クリスちゃん!もう……蓮夜さんもすみませんっ、クリスちゃんも悪気がある訳じゃなくて……!」

 

 

「いや、分かってる……寧ろ正体不明の相手が素性を明かせない以上、警戒を覚えるのも無理はないだろうからな……」

 

 

だからクリスの反応も当然だと語る蓮夜に、クリスも目を細めてそれ以上の追求はせず口を閉ざす。そんな若干ピリ付く空気の中、調が控え目な挙手と共に蓮夜に問い掛ける。

 

 

「あの、さっきの……記憶がないって話でしたけど、一体何時からそんな事に?」

 

 

「何時から……そう、だな……覚えている限りだと、数週間ほど前になるか……見知らぬ路地の裏に何故かボロボロの格好で倒れていて、目覚めた時には何故か自分の事も、それ以前の記憶の事も思い出せなくなっていた……」

 

 

「数週間前……」

 

 

(都市伝説や噂が流れ始めた時期とは、一応は合致するな……)

 

 

となると、やはり彼が件の噂の仮面ライダーである事は間違いなさそうだが、そもそも何故記憶喪失の蓮夜がそんな力を持っていてノイズイーター達と戦っているのか。四人のその疑問を感じ取ったのか、蓮夜は懐から一枚のカード……仮面ライダーの絵が描かれたカードをテーブルの上に置いて話を続けていく。

 

 

「手元に残っていたのは僅かな荷物と、このカードと腰に巻いていたベルトだけだった……最初は俺自身も、記憶を失った事や自分が何者なのかも分からず混乱していたが、奴らを止めなければいけないという事だけは分かって、これまでもあの姿になって戦い続けていた……そして奴らと戦い続けていく中で、少しずつではあるがこの力の事や、奴らの事を思い出せるようになっていった……」

 

 

「思い出せ……じゃあ、やっぱり蓮夜さんはノイズイーターの事を知ってるんですね?」

 

 

僅かに身を乗り出す響からの問いに、蓮夜も小さく頷くと共にテーブルの上のカードに目を落としていく。

 

 

「俺が変身していたあの姿は、『クロス』……そしてお前達がノイズイーターと呼ぶあの怪物の名は、『イレイザー』……物語から追放された、存在を許されざる者が変わり果てた姿だ……」

 

 

「クロス……イレイザー……」

 

 

「そのクロスってのは、一体何なんだよ?あたし等のシンフォギア……とは違うんだろ?」

 

 

蓮夜の口から告げられた仮面ライダーとノイズイーターの本当の名前……『クロス』と『イレイザー』の名を聞いて響達の表情が真剣味を帯びる中、クリスがクロスについての説明を求めると、蓮夜は懐から変身に使っていたベルトを取り出していく。

 

 

「俺もまだ、其処まで詳しい事は思い出せてない……ただこのベルトとカードを使えば超人的な力を得られる事や、これが奴らに対抗出来る唯一の力である事……そして、俺がこの世界の人間ではないという事だけは思い出せた……」

 

 

「この世界の、人間じゃない?」

 

 

「……もしかして……貴方は並行世界の……?」

 

 

意味深な蓮夜の言葉に響が訝しげに小首を傾げると、調はふと先程の本部での弦十郎達との会話を思い出し、目の前にいる蓮夜が並行世界の存在なのではないかと察して問い掛ける。

 

 

それに対し蓮夜も数拍の間を置いた後、肯定の意味を込め頷き返し、響達は目を開いて息を呑んだ。

 

 

「記憶を失ってから暫くの間ずっと、何処か周囲との差異、違和感のような感覚が拭えなかった……そう感じる理由も分からないまま何故か奴らの気配を感じ取る事が出来て、戦わなければならないという衝動のままに変身して戦い、モヤが掛かっていた記憶が少しずつ蘇って、分かった……俺は元々奴らを追い掛けてこの世界に訪れ、そして何者かに襲われて記憶を失った……恐らく、イレイザー達の手によって……」

 

 

「イレイザーって……さっき言ってた奴の事か」

 

 

「存在を許されざる者って、言ってたデスよね。あれってどういう意味デスか?」

 

 

蓮夜が記憶を失った原因……それがさっき彼も言っていたイレイザーと呼ばれる怪物にあるかもしれないと話す彼に、切歌は先程蓮夜が口にしてた『存在を許されざる者』というワードが気になって更に追求すると、蓮夜は水を口に含んで口内の渇きを潤してから話を続ける。

 

 

「言葉通りの意味だ……物語から何かしらの理由で存在を許されなくなった者の成れの果て……奴らは元々、その世界を生きるただの人間と変わりはなかった……だが、世界のあるべき流れやルールから逸脱し、物語を歪める危険性を持ったが為に追放者の烙印を押され、醜い異形の存在となって故郷である物語を追われた存在……それが奴らの正体だ」

 

 

「?ええっと、つまり……?」

 

 

「まさか……奴らの正体は、元は人間だってのか?!」

 

 

「え?!」

 

 

いきなり話が難解になり響や切歌が置いてけぼりを食らう中、蓮夜の話を聞いて信じられない様子で声を荒らげるクリスの言葉に驚愕を浮かべると、蓮夜は瞼を伏せて小さく頷き返した。

 

 

「でも、世界から追放って、誰がそんな事を……」

 

 

「誰か、なんて明確な存在はいない……いや、強いて言えば、お前達が生きるこの世界そのものがそう決めたと言うべきか……さっきも説明したように、世界には本来そうあるべき流れというものが存在する……この世界で言えば、お前達がノイズを倒し、平穏を守るといったな……しかし……」

 

 

カランッと、蓮夜の飲む水の中の氷が音を立てる。その音に響達も一瞬釣られコップに目を向けると、蓮夜もジッとコップを見つめて話を続けていく。

 

 

「……その主軸となる流れを直接的にしろ間接的にしろ歪める、或いは致命的な支障を来たすと判断された者は世界にとって不必要とされ、容赦なく物語から追放される……その瞬間から、自分が生まれ育った世界や人々は仮初の現実……フィクションとされ、戻る事は許されなくなる……それがイレイザーと呼ばれる者達の末路だ」

 

 

「そんな……」

 

 

「あ、あんまりデスよそんなのっ!世界の都合で問答無用で追放とか、理不尽にも程があるデスっ!」

 

 

その話が本当だとすれば、イレイザーもまた世界の都合で居場所を追われた被害者と言う事になる。あまりにも理にかなわない話に調や切歌、響も納得がいかない様子でイレイザー側に肩入れしてしまう中、クリスは腕を組んで冷静に聞き返す。

 

 

「けど、だったら何で世界から追放された筈のノイズイーター……イレイザーがまたこっち側に戻って来てるんだよ?」

 

 

「あ、確かに……それは、どうして?」

 

 

「……物語から追放されたとしても、戻って来られる方法が決してない訳じゃない……追放された先の外にも、彼らにとって新たな現実となる世界が存在し、其処で堅実に生きて烙印された罪を償えばイレイザーから人間に戻り、元の世界に帰る事が出来る……だが、中には謂れのない罪だと受け入れられない者、手にした力を悪用しようと画作して強引に物語の中に戻って来る者もいる……」

 

 

説明の最中、響達が注文した飲み物を運んでウェイトレスがやって来る。だが蓮夜の話に集中し切っていた為に軽い会釈の応対しか出来ず、飲み物がテーブルの上に並び終わったのを見計らい、蓮夜は話の続きを語っていく。

 

 

「しかし、強引に物語の中に戻ってきたとしてもそれで話が済む訳じゃない。不正な方法で戻ってきた事が物語にバレれば再び追放され、今度こそ二度と戻って来られなくなる……そうならないように、奴らは身を隠しながら少しずつ物語を自分の都合の良いように書き換えていき、最終的に自分の存在が許される世界に作り替える……それが奴らの能力、『改竄』の力だ」

 

 

「……改竄?」

 

 

新たに出てきたワードに四人の頭上に疑問符が並ぶ。

 

 

「改竄とは、本来その世界の歴史や流れでは決して起こり得ない事象を人為的に引き起こし、物語を歪める力……例えるなら、既に存在する本に後から勝手に文字を書き加え、気に入らない話を自分好みに変えるというルール違反みたいなものだ……本の主人公が全く別のキャラクターに変わっていたり、結ばれるヒロインが違う、物語の内容が変わって登場人物が次々と命を落とす……そうやって徐々に世界全体に気付かれない程度の違和感を広げていき、やがては物語そのものを乗っ取る事こそが、奴らの狙いだ……」

 

 

「んな馬鹿な……」

 

 

「それってつまり、歴史改変?まるでサイエンス・フィクションみたい……」

 

 

「え、えーっと……?」

 

 

「うう……何か話が滅茶苦茶過ぎて頭がオーバーヒートしそうデスよぅ……」

 

 

イレイザーの本当の力。その驚異的な能力にクリスと調も目を見開き驚愕を禁じ得ない一方で、響と切歌もスケールの大きい内容に理解が追い付かず頭から湯気を立ち上らせてしまっている。

 

 

すると蓮夜もそんな二人の反応を見て説明が適切でなかったかと思考し、もっと分かりやすく説明する為に話を噛み砕こうと試みる。

 

 

「例えば、この前のノイズの出現が最も分かりやすい例かもしれないな……アレはこの世界で起きた以前の事件で封じられ、本来なら二度と現れない筈だった……だが、物語のルールに縛られないイレイザー達にとってはそれも関係ない……扉を開く為に必要な鍵もいらず、閉じられた次元の向こうから再びノイズ達を呼び出す……改竄の力を行使すれば、奴らにとってそれも造作もないという事だ……」

 

 

「改竄の力でノイズを呼び出す……つまりそれが、前回のノイズ発生の真相……」

 

 

「そ、そんなのインチキ過ぎデスよ!チートじゃないデスか!チートッ!」

 

 

ソロモンの杖も必要がなく、イレイザーは己自身の改竄の力のみでバビロニアの宝物庫を自在に開く事が出来る。

 

 

そんなあまりにもな出鱈目さに切歌が思わず異を唱えると、蓮夜も目を伏せて両手の指を絡めるように組んでいく。

 

 

「だが、奴らの力も其処まで使い勝手が良い訳じゃない……あまりにも分かりやすい、或いは大規模な改竄は世界に探知されやすくなる……そうなれば奴らも為す術もなく追放されるしかない為、あまり無茶はして来ないとは思うが、中にはそれも承知の上で力を行使する者……もしくは、世界を御する程の強大な力を持ったイレイザーもいる……恐らく、先日の事件でノイズを出現させたのはそういった連中の仕業だろうな……」

 

 

「何だそりゃ、追放すら跳ね除ける奴もいるって事かよっ……!ますますインチキ度が増してんじゃねーかっ!んなのに出張られたら、どんだけの被害がっ……!」

 

 

「いや、単純にこの世界を乗っ取るだけのつもりなら、もっと早く進行が進んでる筈だ……なのにそうしないという事は、他に何か別の目的……多分、仲間を集めてるんじゃないかと思う……」

 

 

「な、仲間集め、デスか?」

 

 

「……そういえば確か、この間のイレイザーと戦っていた時に、貴方は『この世界の中で作られた個体』って言ってたけど……」

 

 

三日前の戦場で、蓮夜がイレイザーに対して告げたあの時の言葉を思い出して調がそう問い掛けると、蓮夜は小さく頷いて答える。

 

 

「お前達がノイズイーターと呼んでいる連中は、恐らく他の世界から来たイレイザー達がこの世界の人間を元に人為的に生み出した、人工型のイレイザー……ようするに養殖された個体なんだろう……そして生まれたばかりの連中にノイズを喰らわせ、手っ取り早く力を付けさせようとしてる……あの赤い眼も、きっとその影響によるものなんだろうな……」

 

 

「ノイズを食らうイレイザー……それがノイズイーターの正体……」

 

 

「けど、仲間なんか集めてどうするつもりなんだよ?改竄なんて力を持ってるんなら、誰にも気付かれないよう裏でコソコソ隠れながらちょっとずつ世界を書き換えてくってだけで十分だろうに、なんでわざわざ……」

 

 

クリスの言う通り、仲間を作って数を増やせばその分目撃される危険性も増える。

 

 

それなら寧ろ数が少ない方が逆に動き回りやすいのではないか?と疑問を口にする彼女に対し、蓮夜は水を含んで話を続ける。

 

 

「真っ先に考え付く理由としては、恐らく自分達の改竄の力をより強固なモノにする為じゃないかと思う……少ない人数なら確かに発見され難いが、その分、物語を完全に乗っ取るまでにそれなりに時間も掛かる……逆にイレイザーの数が多ければ、一斉に力を行使して一度の改竄のみで物語を乗っ取る事が出来るからな……最もこれもあくまで俺の予想でしかない為、奴らの本当の目的は未だ検討が付かないのだが……」

 

 

どっちにしろ、前回の事件でノイズを呼び出したイレイザーがこの街の何処かで今なおノイズイーターを作り出しているのは先ず間違いない。

 

 

そう言い切る蓮夜の言葉に一同も口を結んで無言になる中、響がスカートの裾をキュッと握り締めて口を開いた。

 

 

「……正直、私はイレイザーの事とか、改竄の力とか、何となくでしか理解出来てない部分が多いですけど……でも、イレイザーが放っておくには危険な存在だって事は分かりました。なら、蓮夜さんと私達が手を取り合って協力すれば、イレイザーを倒す事も、被害を事前に防ぐ事だって……!」

 

 

これまでの説明で、イレイザーの危険性やその力の脅威は理解出来た。しかし、それも自分達が力を合わせれば何とかなる筈だと、改めて蓮夜に協力を持ち掛けようとする響。

 

 

だが、蓮夜はそれに対し何処か複雑げな表情を浮かべた後、再び無表情となって響の目を見つめ返す。

 

 

「すまないが、お前達と一緒にイレイザーと戦う事は出来ない……」

 

 

「え……ど、どうしてですか?」

 

 

「……さっきも説明したように、イレイザーは既に世界のルールから逸脱した存在だ……本の中の登場人物が本の外の読者を傷付けられないように、物語のルールの中を生きるお前達が、物語の外に追放されたイレイザーを傷付け、滅ぼす事は出来ない……現にお前達も、既にそれを先の戦いで実感している筈だ……」

 

 

「……あ……」

 

 

蓮夜に言われ、響達は三日前の戦闘でイレイザーに傷一つ付けられず、攻撃の手応えも得られなかった事を思い出し、そんな四人の反応を見て蓮夜もテーブルの上に置かれたクロスのカードに目を向けていく。

 

 

「俺はこのカードとベルトのおかげか、イレイザーによる改竄の影響を受けず、奴らを倒す事は出来る……しかし、この世界の人間であるお前達はそうはいかない……奴らがお前達を明確な敵と認識して改竄の力を用いれば、自分でも気付かない内に記憶や人生も操作され、全くの別の人間にされるか、或いは存在そのものがなかった事にされるか……何れにせよ、そんな危険の伴う戦いにお前達を関わらせる訳にはいかない……」

 

 

「で、でも、蓮夜さんはイレイザーについて詳しいんですよね?だったら、その対策も何か……!」

 

 

イレイザーに詳しい蓮夜なら奴らと戦える術も、改竄を防ぐ術も知っているかもしれないと考え、その方法を教えて貰えないか頼もうとする響だが、蓮夜は無言のまま首を横に振っていく。

 

 

「奴らの改竄を未然に防ぐ術はない……いや、記憶を失う前の俺ならその方法を知っていたかもしれないが、残念ながら今の俺にはそれも知る由もない……だから今の俺に出来るのは、このまま奴らを倒しながらイレイザーを作り出している黒幕を追う事と、これ以上お前達が事件に足を踏み入れないように警告する事だけ……それを伝える為に、こうしてお前達と話そうと思ってたんだ……」

 

 

「……そんな……」

 

 

蓮夜が自分達の話に応えてくれた真意を聞かされ、響は肩を落として落ち込んでしまい、クリスも両腕を組みながら目を細めて蓮夜を睨み付ける。

 

 

「ようするに、あたし等は足を引っ張るだけだから余計な首を突っ込むな……そう言いたいのかよ?」

 

 

「……お前達はこの世界を守る守護者……つまりこの物語にとって重要な要となる存在だ……そんなお前達の身に何かがあれば、この世界は一瞬で奴らの手に落ちる事になる……それを避ける為にも、お前達を奴らに近付けない事がベストな方法なんだ……」

 

 

「っ……ふざけんなっ!人様の世界が他所から来た連中に好き勝手に荒らされてるってのに、それをただ黙って指を咥えて見てろってのかっ?!冗談じゃねえぞっ!」

 

 

「クリス先輩、落ち着いて……!」

 

 

そんなの納得いくか!と、実質戦力外通告をされたも同然の蓮夜の言葉にクリスも憤って身を乗り出し、周囲の奇異の視線を集める彼女を落ち着かせようと調達が宥める。

 

 

蓮夜もそんなクリスの怒りを受け止めて何も言わず、ただ無表情のまま話の続きを語っていく。

 

 

「勿論、理由はそれだけじゃない……先日のあのノイズの異常発生も、それに引き寄せられたイレイザーを餌に俺を誘き出す為の黒幕側が仕込んだ囮……恐らく、俺が生きている事を確かめる為のものだ……あの時お前達が言っていたジャミングが黒幕の手によるモノなら、俺が生きている事は向こうにもきっと既に知れ渡ってる……となれば、俺を消す為に様々な刺客が今後送り込まれて来るかもしれない……その危険性も考慮して、俺達は一緒にいるべきじゃない……」

 

 

「ッ……でも、それなら尚更……!」

 

 

「それに其処の少女が言っていたように、俺も奴らもこの世界にとって部外者……本来在ってはならない異物だ……何も思い出せず、分からない状況下で互いに無遠慮に接触し続ければ、お前達にどんな影響を及ぼすかも分からない……それを避ける為にも、俺達は必要以上に干渉し合うべきじゃない……」

 

 

決して彼女達を蔑ろにしてる訳じゃない。しかし彼女達がこの物語にとって重要な役目を補う存在である以上、イレイザーへの対策も無しにこれ以上この件に関わらせる訳にはいかない。

 

 

そもそもこれは他所の世界から来た部外者である自分達の問題だ。これ以上は関係ない彼女達を巻き込む訳にはいかないと、水を飲み終えた蓮夜は店の近くの時計台の時間を確認し、徐に椅子から立ち上がっていく。

 

 

「表立った協力は出来ないが、イレイザーについての情報はそちらが求めれば提供するつもりだ……だが、何があっても奴らと戦おうとはしないでくれ……他に方法がない以上、奴らの始末は俺が必ず片をつける……これ以上、この世界の人間やお前達にも迷惑を掛けないように努力すると、約束する……」

 

 

「蓮夜さん……」

 

 

「……大して力になれず、すまない……だが、話す事が出来て良かった……それじゃ……」

 

 

何処か申し訳なさそうに響達に謝罪すると共に別れを告げ、蓮夜はフードを被り直しながらその場を後にし人混みの中へと消えていく。

 

 

それを見て響も一瞬蓮夜を呼び止めようとして手を伸ばすが、引き止めてから何と言えば良いか分からず躊躇してしまい、結局遠ざかるその背中を黙って見送る事しか出来なかったのだった。

 

 

 

 

 



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第二章/邂逅×存在を赦されない存在②

 

 

「──奴が記憶を失ってる……だって?」

 

 

とある廃屋内。元は何かの工場だったのか、長らく放置された錆まみれの機械が多く見られる屋内にて、デュレンにより金髪の男と青髪の青年が集められ、彼から齎された情報……自分達が敵対している蓮夜に関わる情報を聞き、金髪の男は怪訝な反応でデュレンにそう聞き返していた。

 

 

「そうだ。先日の戦いを観察した際、奴の戦闘スタイルが目に見えて変わっているのが分かった……恐らく、我々が以前奴を罠に嵌めた際に一命こそ取り留めたものの、代わりにこれまでの記憶を失う事になったのだろうよ」

 

 

「うーん……って言われてもさ、デュレンがそう言ってるだけで実際そうなのかなんて分からないでしょう?まあ確かに、彼と何度か交戦経験があるのはこの中でデュレンが一番多いけど……」

 

 

「確かにな……大体、記憶を失ってるからってソレが何になるんだよ?奴の力が厄介なままなのは確かだし、実際に奴のせいでこれまで何人も駒を消されちまってんだぞっ?」

 

 

記憶を失ったせいで戦えなくなったのならまだしも、蓮夜はそれでも変身して自分達の駒であるイレイザーを倒している。どっちにしろ自分達にとって驚異でしかないのは変わりないではないかと吐き捨てる金髪の男に、デュレンは両手をポケットに突っ込んだまま淡々と語る。

 

 

「記憶を失っただけとは言え、それは奴にとって死活問題なのに変わりはない。忘れたか?奴が変身するクロスの力の本質は繋がり……『他者との絆』をその身に具現化し、己の力とするだけでなく、奴と繋がりを得た人間にまで我々と戦える力を恩恵として与える……」

 

 

「知ってるよっ。そのせいで本来、フィクションの連中には倒されねぇっていう俺達の強味も打ち崩されちまうし、だから計画を動かす前に奴と装者共が合流しないように先に潰そうと話になったんだろっ?それが何の……」

 

 

「……分からないか?記憶を失ってる今、奴は嘗ての仲間の記憶も失い、これまでの繋がりも絶たれた事になる……つまり今の奴は、俺達と戦った時よりも遥かに弱体化しているという事だ」

 

 

真剣味を帯びた口調のデュレンにそう言われ、彼の話を半ば聞き流そうとしていた二人の表情も僅かに変わる。仮にもしデュレンの話が本当だと仮定すれば、今の蓮夜は確かに自分達にとって大した驚異になり得ないかもしれない。しかし……

 

 

「けど、奴がマジで記憶を失ってるって確証は本当にあんのか?もしかしたら向こうも俺達の事を欺く為に、わざと記憶がない素振りを見せてこっちを釣り上げようだなんて考えてるかもしれないだろ?」

 

 

「ハハッ、相変わらず用心深いねぇー……でも、僕も同意見かな。まだ一度しか彼の戦いを見てない訳だし、もう少し様子を見てから判断するべきじゃない?」

 

 

「分かっている、その為の次の一手を既に用意済みだ。先の使い捨ての駒とは違い、奴の力を測るのに適当な駒をな……アスカ、お前は其処で奴の力を見極めろ」

 

 

「ハアッ?!何で俺なんだよッ?!お前の方が奴の事に詳しいんだから、お前が直接確かめてくりゃいいじゃねえかッ?!」

 

 

「そうしたいのは山々だが、俺は欠けた駒を補充する為に色々と動かなければならないのでな……俺の代わりとなると、後は慎重派のお前ぐらいしか適任はいない」

 

 

お前の目なら奴の一挙一動を見逃す事もないだろうと、見透かすように語るデュレンに金髪の男……アスカも嫌悪感を露わに顔を歪め、舌打ちと共に頭を掻きながら廃屋を後にしていく。

 

 

「ハハッ、口では何だかんだ言いながらも仕事はちゃんと全うするよねー、アスカって」

 

 

「後は命令に忠順であってくれれば話も早く助かるんだがな……まあいい、俺は新たな駒集めに戻る。お前は引き続き、S.O.N.G.の動向を見張れ……奴と装者共が合流すると踏めば、即座に潰しても構わん」

 

 

「りょーかい……っと、そうだった。一つ伝え忘れた事があったんだけど、この間の彼に倒されたイレイザーの事で興味深い発見があったんだよ」

 

 

「……発見?」

 

 

アスカに続いて廃屋を後にしようとするも、青髪の青年の台詞に怪訝な反応を浮かべて振り返るデュレン。

 

 

そして、青髪の青年が語った内容……三日前の戦場で蓮夜が倒したイレイザーの変容を聞き、デュレンは僅かに口端を吊り上げた。

 

 

「ほう、窮地に追いやられたイレイザーが進化を……」

 

 

「混じりっ気のない僕らの時に比べたら微々たる変化だったけど、それでもこれまでに比べれば目に見えて分かる変化だ。ノイズを喰らったイレイザーに短期間で力を付けさせて、僕達とは異なる進化の可能性を探る……正直前例のない試みだから失敗で終わるんじゃないかと危惧したけど、此処に来てやっと日の目が見えて来たんじゃない?」

 

 

「……そうだな。しかしその話が本当だとすれば、進化の引き金となるのは──」

 

 

顎に手を添え、深く考え込むデュレンの脳裏に過ぎるのは嘗て相対した蓮夜の顔。暫し思考した後、廃屋の入り口に顔を向けて目を細めていく。

 

 

「もしかすると、少しばかり計画の進行に修正が必要になるやもしれんな……」

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

「──それじゃあ、結局その仮面ライダーさん……蓮夜さんって人と協力を取り付ける事は出来なかったの?」

 

 

「……うん……」

 

 

一方その頃、蓮夜と別れた響達は本部に帰還した後、協力こそ取り付けられなかったが蓮夜から齎された情報を整理する為に一先ず今日は解散という事になった。

 

 

その後、四人は本部で皆の帰りを待っていた未来を加えて行き付けのクレープ屋に寄ろうという話になり、その道中で蓮夜との交渉の経緯を未来に説明する中、クリスが掌に拳を打ち付けた。

 

 

「クソッ!アイツ、あたし等の事を足手纏いみたいに扱いやがって……!今思い出しても腹が立つ!」

 

 

「ま、まあまあ……でも、私もその人の言ってる事はあながち間違ってるとも思えないかな。対抗策もない状態で皆が戦って、それで怪我をするなんてあって欲しくないし……」

 

 

「それは……確かに……」

 

 

「正直、今イレイザーと戦うのはギアも無しにノイズと戦うみたいなもんデスしね……戦える方法も無しに、またあんなのと戦うのはアタシも気が引けるデスよ……」

 

 

「そんな事は言われなくても分かってんだよ!けど……あー、クッソッ……!」

 

 

イレイザーと交戦してその危険性を身をもって実感したし、蓮夜が自分達をこの件から遠ざけようとする気持ちは分かる。

 

 

だが、今まで自分達が必死に守ってきたこの世界がイレイザーの手によって明日にでも乗っ取られるかもしれないと聞かされたのに、戦う手段がないから手を引けと言われて簡単に引き下げれるほど大人にはなれない。

 

 

故にクリスも蓮夜への怒りと言うよりも、何も出来ない事に対しての苛立ちを抑えられない意味合いの方が大きく、切歌と調も口では納得してるように呟きつつも実際の所は内心割り切れてないのが本心だったりする。

 

 

そんなクリス達の様子に未来も複雑げな顔を浮かべる中、隣を歩く響は浮かない様子で肩を落としており、顔を上げて空を仰いでいく。

 

 

「私……蓮夜さんと話せればきっと協力出来るって思ってたけど、もしかして考えが甘かったのかなぁ……」

 

 

「響……さっきも言ったけど、その蓮夜さんって人も響達の身を案じて事件から手を引くように言っただけで、別に協力が嫌で断った訳じゃないんでしょ?実際、直接協力は出来ないけど情報提供はするって聞いたし……」

 

 

「それは分かってるんだけど……でも……」

 

 

イレイザーに太刀打ちする術がない以上、蓮夜が言うように自分達が事件から手を引くのは妥当な判断だ。

 

 

それは弦十郎達も理解してるのか、本部に戻った後のブリーフィングでは一先ず情報の整理の為にあの場では解散となったものの、仮にこのまま対抗策が見つからなかった時は……と、直接口には出さなかったがそんな雰囲気を醸し出していた。

 

 

無論そうせざるを得ない事は頭では理解しているのだが、それでも自分が望んでいたのとは違う現状に響も未だに納得し切れず気落ちしており、そんな響の様子を見た切歌は不意に拳を掲げて叫び出した。

 

 

「まぁ、もう終わった事デスし、今日はこれ以上あれこれ考えてもしょーがないデスよ。こーゆーモヤモヤっとした時は、甘い物でも食べて気分を変えるのが一番デース!」

 

 

「……そうだね。気分転換は大事」

 

 

「つっても、正直今はそんな気分にもなれねえんだけどな……」

 

 

「まーまーっ。とにかくGOデスよGO!ほらほら、お二人も早くー!」

 

 

「あ、うん。私達もいこ。ね、響?」

 

 

「……うん、そだね」

 

 

気落ちする皆を励まそうと敢えて明るげに振るう切歌の気遣いを悟ったのか、真っ先に同調した調に背中を押されながら半ば不本意げなクリスも仕方なさそうに先へと進んでいき、そんな三人を見た未来に促され響も若干ぎこちなくも笑って頷き返し、皆と共に目的地のクレープ屋へ向かう足取りを速めていくが……

 

 

「──さっきの店員さんって、新しく入った人かなぁ?」

 

 

「結構カッコよかったよねー!私、あの店通っちゃおうかなぁ〜」

 

 

「……?何か、今日はやけに人多くないか?」

 

 

「デスね……というか、この辺じゃあまり見掛けない他校の生徒までいるデスよ?」

 

 

クレープ屋に向かう道中、何やら何時もに比べて響達と同じリディアンの生徒やここら辺ではあまり見ない制服の他校の女子生徒と行き交い、クリス達は頭上に疑問符を浮かべる。

 

 

そして漸くクレープ屋の前に辿り着くと、其処にはやはり黄色い悲鳴と共にクレープを持って店から出てくる女子生徒達の姿があり、その姿を見送りながら小首を傾げつつ、五人が取り敢えずクレープ屋に入っていくと、其処には──

 

 

 

 

 

「──いらっしゃいませ。ご注文は何に致しますか」

 

 

 

 

 

「「「「………………」」」」

 

 

 

 

 

──其処には響達も見覚えのある顔……というか、先程別れたばかりの筈の蓮夜が何故か店のショーケースの向こうに、クレープ屋の店員の格好で真顔のまま佇む姿があったのだった。

 

 

「……って、れ、蓮夜さぁんッ?!」

 

 

「?……ああ、誰かと思えばお前達だったか。奇遇だな、まさかこんな所で会えるとは……」

 

 

「き、奇遇だなって、お前っ、こんな所で何してんだよっ?!」

 

 

「何、と言われても……見ての通り、此処でバイトをさせてもらってるんだが……」

 

 

「バイト……?」

 

 

両腕を軽く広げ、自身の格好を指し包み隠さずそう告げる蓮夜に響達は唖然とした表情を浮かべている一方で、未来は響達と蓮夜の顔を交互に見比べながら若干状況に付いていけず困惑しており、そんな未来の存在に気付いた蓮夜は訝しげに首を傾げた。

 

 

「初めて見る顔もいるな……お前達の友人か……?」

 

 

「え……あ、は、はいっ。小日向未来って言います。えっと……もしかして、貴方が黒月蓮夜さん、ですか?」

 

 

「?俺の事を知ってるのか……?」

 

 

「あ、はい。実は私、民間協力者って言う体で響達に協力してるんです。それで、蓮夜さんの事も一通り皆から話を聞いてて……」

 

 

「成る程……民間の協力者なのか……確かに学業をこなしながらノイズと戦うなんて並大抵の苦労ではないだろうからな……良い友人を持ってるじゃないか……」

 

 

「え、えーっと……そ、それ程でも〜……」

 

 

「言ってる場合かッ!ってかそんな事より聞きたいのは、何でお前がこんなとこでバイトなんかしてるって話だッ!イレイザーを作ってる黒幕を追ってたんじゃねーのかよッ?!」

 

 

そう、今知りたいのはそれだ。先程の交渉の際にイレイザーの件は任せて自分達には手を引けと言っておきながら、何故こんな所でクレープ屋の店員なぞやっているのか。

 

 

勢いよく問い質すクリスからの質問に対し、蓮夜は真顔のまま小さく頷き返す。

 

 

「勿論、イレイザーや黒幕の捜索は今も続けてる……たださっきも言ったように、俺はこの世界の人間じゃないから身寄りもなく、金銭も大して持ち合わせがなかったからな……最初の頃はその事にも気付かずひたすらに奴らと戦い続けていたんだが、所持金が底を尽き、飲まず食わずで過ごすのも流石に限度が来て、遂に行き倒れてしまったんだ……其処へたまたま通りがかった此処の店の店主に救われて、事情を説明したら此処で働かせてもらえるようになった、という事情があってこうなった……」

 

 

「い、行き倒れたデスか……」

 

 

「何ていうか……影のヒーローも世知辛いんだね……」

 

 

思いのほか現実的且つ納得のいく理由に切歌と調も何とも言えない表情になり、クリスは呆れて物も言えないと頭を抑えて溜め息を吐いてしまう中、店の奥から店員の格好をした一人の女性が顔を出した。

 

 

「あれ、どうかした蓮夜君?何かトラブル?」

 

 

「ああ、店長……いや、たまたま顔見知りが来たから少し話し込んでるだけで、大した事は何も……」

 

 

「顔見知り?あ、もしかして、蓮夜君が記憶を失う前の知り合いとか……!」

 

 

「いや、そういう訳ではないんだ……此処に来る前に知り合ったというだけで、特別何か親しいという訳じゃ……」

 

 

「そうなの?そっかぁ、てっきり蓮夜君を知ってる人が漸く現れたのかと思ったけど……あ、すみませんね?いきなり出てきて話に割り込んじゃって」

 

 

「あ、い、いえ!全然気にしてないですから!」

 

 

「そう?なら良かった……あ、因みに彼、人付き合いとか結構不器用なとこがあるけど、根はホントにいい子だから、どうか仲良くしてあげて下さいね?」

 

 

そう言って響達に微笑み掛け、店長はその場を蓮夜に任せ再び作業の為に店の奥に戻っていき、その背中を見送りながら蓮夜はたどたどしい口調で語る。

 

 

「今の人がこの店の店長でな……素性も分からない俺の話を信じて雇ってくれただけでなく、行く宛がないなら暫く自分の家に住み込んでもいいと言ってくれたんだが、流石に其処まで世話になる訳にはいかないと断った……いざという時、俺の問題に巻き込まれないとも限らないからな……」

 

 

「……蓮夜さん……」

 

 

苦笑いを浮かべる蓮夜のその言葉に、響は眉間に皺を寄せ複雑な表情を浮かべてしまうが、蓮夜はそれに気付かずに真顔に戻って響達の方に向き直った。

 

 

「まあ、俺の話は置いておくとして……それより、注文はどうする?今ならオススメはイチゴ系、ガトーショコラ系も人気だと店長も言っていたから、その辺のメニューの味は保証するぞ……」

 

 

「注文って……もしかして、蓮夜さんがクレープを焼くんですか?」

 

 

「大丈夫なのかよ……下手に注文してゲテモンが出てきたりとかしないだろうなっ……?」

 

 

「任せて欲しい。店長に教えを乞いて基礎から徹底的に叩き込んでもらい、お墨付きも貰ってる……商売をやる以上、顧客の期待を裏切るような物は出せないからな……必ず満足させてみせると約束する……」

 

 

「ムム、この多くのクレープを食べ尽くしてきたアタシを前に其処まで言い切るとは、これはクレープ覇者のアタシへの挑戦と受け取ったデスよ!」

 

 

「いや一人で勝手に盛り上がってんじゃねえよ、なんだクレープ覇者って」

 

 

ビシィッ!と、蓮夜を指差しながら良く分からないテンションでノリノリになる切歌に冷静なツッコミを入れるクリス。

 

 

そんな二人を横目に調は溜め息を吐きながら無言で財布を取り出し、既に響と未来と共に自分達の分のクレープを先に選び始めていたのであった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

それから数十分後。結論から言えばあの後、蓮夜が作ったクレープは自称舌が肥えてる切歌や響達にご満悦だった。

 

 

寧ろ、甘さのバランスが良く考えられたクレープの出来に彼女達から賞賛を貰い、切歌やクリスも「悔しいっ……!でもおかわり!」と満足させる事ができ、彼女達が去って閉店時間が過ぎた店の片付けを行う蓮夜も、表情こそ真顔のままだったが内心ではホッと胸を撫で下ろしていた。

 

 

(……店長直々に仕込まれて自信があったとは言え、実際に食べてもらうとなるとあんなにも緊張を覚えるものなんだな……記憶を失ってから初めて理解した……)

 

 

無論それだけじゃない。自分が苦労して作った物を美味いと言って褒めてもらえるのは、あんなにも心満ちる感情を覚える物なんだなと実感して小さく微笑み、その余韻を胸に蓮夜がダンボールを抱えて店の片付けを進めていくと、その時……

 

 

「──あの、蓮夜さん!」

 

 

「……?」

 

 

店の後片付けを行っていた中、後ろから不意に声を掛けられてダンボールを抱えたまま振り返る。其処には、夕日の日射しが差し込む店の入り口の前に立つ一人の少女……クリス達と共に帰った筈の響の姿があった。

 

 

「お前は……確か仲間達と一緒に帰った筈じゃ……」

 

 

「未来達には先に帰ってもらいました……私やっぱり、蓮夜さんともっとちゃんと話がしたくて……」

 

 

「…………」

 

 

そう語る響の目を見て彼女が言わんとしてる事を察したのか、蓮夜は口を閉ざし、響に背を向けながら抱えたダンボールを片付けて作業を続けていく。

 

 

「もうすぐ日も暮れる……ノイズと戦ってるお前には要らぬ心配かもしれないが、女子高生が一人で夜道を歩くのはあまり宜しくない……暗くなる前に帰った方が──」

 

 

「お願いします!イレイザーに対抗する為に、私達と一緒に戦ってもらえませんか!」

 

 

「…………」

 

 

帰宅を促して遠回しに話を切り上げようとするも、向こうもそれを悟ったのかこれ以上ないほど一直線に再度協力を申し出られてしまった。

 

 

先手を打とうとするもそれも封じられ、蓮夜は瞼を伏せて溜め息を漏らすと、響の方に振り返って困ったように語る。

 

 

「その話は昼間にもした筈だろう……?イレイザーに対抗する手段を持ち合わせていないお前達を奴らと戦わせる訳にはいかない……危険が伴う以上、無謀な真似をさせる事は出来ないと……」

 

 

「それは、分かってますけど……」

 

 

「分かっているなら、納得は無理でも理解はしてくれ……これがお前達や、この世界を守る為にも一番の最善の方法なんだ……」

 

 

だからどうか諦めて欲しいと改めて響の頼みを断わり、蓮夜は今度こそ話を切り上げて片付け作業に戻ろうとするが、響はギュッとバッグの持ち手を握る手に力を込めた。

 

 

「──確かに、その方法なら私達は危険な目に遭わないし、安全も保証されるかもしれない……でも……けどそれじゃ、蓮夜さんが独りっきりのままじゃないですか……」

 

 

「……?俺……?」

 

 

響の思わぬ発言に怪訝な反応と共に振り返る蓮夜に対し、響はそんな蓮夜の目をまっすぐ見つめ返しながら告げる。

 

 

「さっき皆で話してた時もそうだったけど、蓮夜さんの顔、何ていうか……寂しそうっていうか、悲しそうに見える事が時々あるんです……私も昔、色々あったせいかそういうのが分かるっていうか、感じ取れちゃうっていうか……だからずっと気になってて、放っておけなくて……」

 

 

「…………」

 

 

何か辛い過去を思い返してるのか、暗い影を落としてそう告げる響の顔をジッと見つめると、蓮夜も自分の顔を手で触れて物憂い表情を浮かべた

 

 

「寂しそう……悲しそう、か……確かに、あながち間違ってるとは言い切れないかもしれない……」

 

 

「え?」

 

 

自嘲気味に笑う蓮夜の言葉に響が頭上に疑問符を浮かべて思わず聞き返すと、蓮夜はダンボール運びを再開しながら話を続けていく。

 

 

「自分でも理由は良く分からなかったんだが……何というか、記憶を失ってからずっと、胸に穴が空いたような感覚が拭えなかったんだ……何か大事な物が自分から抜け落ちたようで、落ち着かなくて……時々理由もなく泣き出したくなるような時もあって、自分でも困惑を覚える事も多々あったが……多分、あれは悲しかったんだ……記憶を無くした事もそうだが……恐らく、大事な人達の事を思い出せないのが……」

 

 

「大事な人達……家族とか、友達とか、ですか?」

 

 

「……其処までは分からないが、多分そうなのかもしれない……その人達の事を思い出そうとしても、出来なくて……こんなにも悲しく、切なくなる……だからきっと、記憶を無くす前の俺は余程大事で、大好きだったんだと思う……その人達の事が……」

 

 

顔も名前も思い出せない誰かの事を此処まで想えるのも、きっと過去の自分がそれだけその人達の事を大事に想っていたのだろうと、何処か羨むように微笑んで俯く蓮夜。その横顔を見て、響は僅かに逡巡する素振りを見せた後、何かを思い付いたようにハッとなった。

 

 

「そうだ……もしかしたらソレ、エルフナインちゃん……えっと、私達の仲間に相談すれば何とかなるかもしれないです!難しい事は良く分かんないんですけど、そういうのに詳しくて私達も何度も助けられた事があるし、蓮夜さんが無くした記憶も取り戻せるかも!」

 

 

そうなれば、イレイザーへの対策も何か思い出せるようになり、自分達も一緒に戦えるようになるかもしれない。

 

 

我ながら名案を思い付いたと喜びを露わにする響だが、それを聞いた蓮夜は少し考える仕草を見せるものの、直後に目を伏せて首を横に振ってしまう。

 

 

「え、ど、どうしてっ?」

 

 

「……もう少し前なら、その提案に乗ってたとは思う……だが、今は俺もイレイザー側に生きてると知られてしまってる。となれば、奴らも俺とお前達が合流する事を良しとせず今も警戒してるかもしれないし、お前達の拠点も見張られている可能性がある……其処で俺が出入りしている事が知られれば、奴らがどんな手を使ってくるか想像に難くない……」

 

 

「で、でも、そうなった時こそ一緒に戦えば!蓮夜さんがいれば、イレイザーを倒す事も出来る訳ですし!」

 

 

だからきっと大丈夫だと、前向きな笑顔と共に語る響。しかし蓮夜はそんな響の笑顔を見て一瞬複雑げに表情を歪めながら俯いた後、改めて響の目を見つめながら口を開いた。

 

 

「立花響、だったか……お前には、家族や友人……その身を削ってでも、守りたいと思える大切な存在はいるか……?」

 

 

「……?えっと、はい、それは勿論!お母さんやおばあちゃん、お父さんとか……未来やクリスちゃん、切歌ちゃんに調ちゃん、今は海外にいる翼さんとマリアさん、師匠やエルフナインちゃん、S.O.N.G.の皆さんも……みんな私の大切な家族で、友達で、仲間です!」

 

 

「……そうか……ならもし、その大切な人達の命が失われてしまった時……その時、お前ならどうする……?」

 

 

「……え……」

 

 

彼女達の命が失われたら……。そんな考えたくもない問いを突き付けられた瞬間に響は声を詰まらせて思わず黙ってしまう中、そんな響の反応を予想していたように蓮夜も物憂い表情で話を続けていく。

 

 

「お前達が今までどんな敵と戦ってきたかは俺には分からないが……少なくとも、お前が戦おうとしているイレイザー達はそのどの敵よりも厄介で、残忍である事だけは言い切れる……今はまだ脅威対象外として見てるかもしれないが、奴らが一度お前達を障害と判断すれば、どんな手を使ってでも潰そうとする筈だ……お前の家族や、さっき一緒にいたお前の友人の命を改竄の力で奪う事になっても、奴らは一切躊躇しない……その筆を軽く振るうだけで、奴らは簡単に人の命を奪う事が出来るからな……」

 

 

「お母さん達や……未来達をっ……?」

 

 

本にたったの一文を書き記すようなそんな簡単な感覚で、自分の大切な家族や親友達の命が奪われるかもしれない。

 

 

考えもしなかったその可能性を仄めかされ響も一言も声を発せず口を閉ざす中、蓮夜も意地の悪い問いを投げ掛けた事に対して申し訳なさそうに瞼を伏せるも、それでも響に事の重大さをしっかり伝える為に語り続ける。

 

 

「俺が頑なにお前達との協力関係を拒むのは、その危険性を孕んでいると思ったからだ……奴らがそんな手段を取るようになれば、改竄を防ぐ術を持たない俺にもどうする事も出来ない……失われるかもしれない命に責任を負う事も出来ない以上、安易に頷く訳にはいかない……大切な何かを失う事の辛さは、俺も少なからずは分かるから……」

 

 

「……蓮夜さん……」

 

 

イレイザーの冷酷さや残忍さを、何より大切な物を失う事への悲しみを理解しているが為に、響達の大切な人達にも危害が及ぶ事を考慮して協力関係の提案を簡単に受け入れる訳にはいかない。

 

 

何処か沈痛の面持ちで視線を逸らしながらそう告げる蓮夜の顔を見てその心情を察し、響もそれ以上は何も言えなくなってしまう中、不意に響の携帯に着信が入る。

 

 

蓮夜に一言断りを入れてから携帯に出ると、弦十郎の緊張に張り詰めた声が届いた。

 

 

『響君、緊急出動だ!ノイズがまた市街区に現れた!』

 

 

「ノイズ……!」

 

 

弦十郎からの連絡を聞き、響の顔が強ばる。アルカ・ノイズでない通常のノイズという事は、恐らくまたイレイザーによる差し金か。

 

 

S.O.N.G.から送られるヘリが降下する合流地点を聞かされながらそう考え、携帯を切り響が蓮夜の方に振り返ると、其処には既に蓮夜の姿はなく彼が着ていたエプロンだけがいつの間にかショーケースの上に脱ぎ捨てられていた。

 

 

「蓮夜さん……っ……!」

 

 

恐らくイレイザーの気配を察知して先に現場に向かったのか、誰もいない店内を見回した響も急いで店を飛び出し、弦十郎が指定したヘリの合流ポイントへと駆け出していくのであった。

 

 

 

 

 



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第二章/邂逅×存在を赦されない存在③

 

 

「ツォラアアアアアアッ!!」

 

 

「はぁああああッ!!」

 

 

「デーースッ!!」

 

 

市街区の中心部。再び出現したノイズ達の猛威により街は戦火に包まれ、燃え盛る炎から立ち上る黒煙が茜色の空を黒く染め上げていた。

 

 

だが、今回は前回と違い現場にいち早く駆け付けたクリス、切歌、調の奮闘によって被害は最小限に留められており、クリスが乱射するガトリングガンが火を噴いて次々とノイズを蜂の巣にし、切歌と調の阿吽の呼吸のコンビネーションによってノイズは確実にその数を減らしつつあった。

 

 

「コイツで四十!前ん時に比べて随分と数は少ねぇが……!」

 

 

「きっとすぐ近くに、ノイズを呼び出したイレイザーがいるハズ……」

 

 

「今度は何企んでるか知らないデスけど、これ以上アタシ達の世界で好き勝手はさせないデスよ!」

 

 

蓮夜にはイレイザーとの戦闘を避けるように言われているが、ノイズが出てきて人々を襲うのなら自分達が戦わない訳にはいかない。

 

 

例え直接戦って勝てないにしても、せめてイレイザーの目的だけでも阻止する為、三人はそれぞれの得物を振るって戦場を舞うように駆け抜け、ノイズ達を次々と蹴散らしていく。

 

 

そして、次第に数も残り少なくなったノイズ達を纏めて撃破し、周囲の安全を確認したクリス達が一息吐いて一箇所に集まろうとした、その時……

 

 

「──やはり、ノイズ程度では長くは持ちませんでしたか……」

 

 

「「?!」」

 

 

「誰だ?!」

 

 

何処からともなく不意に聞こえてきた謎の声に、クリス達は驚きと共に瞬時に互いに背中を合わせてアームドギアを構え、警戒を露わにする。

 

 

すると其処へ、半壊した建物の物陰から一人の人物……外見的に二十代前半程の歳若い黒髪の青年が現れ、クリス達の前に歩み出ていった。

 

 

「人?どうしてこんな所に……」

 

 

「もしかして逃げ遅れたデスか?だったら今の内に早く──」

 

 

「待て!」

 

 

「「……え?」」

 

 

逃げ遅れた民間人かと思い、青年に近付こうとした切歌と調を呼び止め、クリスは両手に構えたマシンピストルの銃口を青年に突き付けた。

 

 

「ク、クリス先輩っ?」

 

 

「お前、普通の人間じゃねえだろ……一体何モンだ?」

 

 

「ほう?この姿のままで私の正体に勘付くとは、随分と鼻が良いようだ……それとも、そういった匂いが嗅ぎ分けられる生き方でもしてきたのでしょうかね、貴女は?」

 

 

「んだとッ!」

 

 

クスッ、と顎に手を添え嘲笑を浮かべる青年の言葉を聞き険しい顔付きになるクリス。そんな二人のやり取りに切歌と調が戸惑う中、青年の姿が突如歪み出し、徐々にその身が変貌して赤い瞳のコウモリのような姿をした紫色の異形……バットイレイザーへと変化していった。

 

 

「?!す、姿が変わったデスよ?!」

 

 

『生体反応のパターンが変化!これは……先日現れたノイズイーターと同じ反応です!』

 

 

『という事は奴もイレイザー……人間に擬態出来るタイプか!』

 

 

イレイザーが元々人間である事は蓮夜から聞かされていたが、こうして直接人間から姿を変える瞬間を目にして驚きを露わにするクリス達とS.O.N.G.の面々の反応を他所に、バットイレイザーは徐に歩み出していく。

 

 

『困るんですよ。折角の雑兵を狩り尽くされては私の目的にも支障を来たす……私の狙いに貴女がた装者は含まれてはいないのだから、大人しくしていて欲しいものです』

 

 

「貴方の、狙い?」

 

 

「目的って何デスか!また何か良からぬ事を企んで……」

 

 

『ハッハハハッ、私が律儀に答えるとお思いで?何とも可愛らしい事ですが……生憎、貴女達に費やす時間は私にはないのですよ……』

 

 

スっと、バットイレイザーの雰囲気が不意に冷たく変わる。その変化を肌で感じ取ったクリス達が思わずそれぞれのアームドギアを構えていくと、バットイレイザーは両腕の羽根を広げるように身構えながら態勢を低くし、

 

 

『私の邪魔をするのであれば何者であれ容赦はしない……奴が来る前に、貴女達を先に片付けるとしましょうかッ!』

 

 

ダァンッ!と、勢いよく地を蹴り上げて飛び出したバットイレイザーの身体が豪速球の如く勢いでクリス達に迫る。

 

 

それを目にした三人も慌てて散開してバットイレイザーの突撃を回避し、クリスが振り向き様に両手のマシンピストルを乱射してバットイレイザーを背後から狙い撃つが、バットイレイザーは両腕の羽根を広げながら上空へと空高く飛翔し、そのままクリスの弾を振り払いながら再度空からの突撃を仕掛けてクリス達に襲い掛かっていく。

 

 

「くうっ!そ、空が飛べるなんて反則デスよッ!」

 

 

『お前たち、此処は一旦引くんだっ!イレイザーへの対抗策も無しに奴と戦うのは危険過ぎるっ!』

 

 

「それは分かってるけど……!」

 

 

「このまま奴をほっとけば街にも被害が出ちまうかもしれないだろっ!せめてアイツが駆け付けるまでは……!」

 

 

奴の目的が何であれ、ノイズを利用して此処まで街を破壊したバットイレイザーを放置して撤退するなど危険過ぎる。

 

 

奴が再び街を襲う可能性もある以上、此処で自分達が退く訳にはいかないと通信越しに撤退指示を出す弦十郎の命令を振り払い、せめて蓮夜が駆け付けるまでの時間稼ぎの為、猛スピードで滑空しながら何度も向かって来るバットイレイザーの突撃を切歌と調と共に必死に回避しながら、クリスは左右の腰部アーマーを展開していく。

 

 

「ちょこまかちょこまか飛び回りやがってっ……!コイツでも食らってろォッ!!」

 

 

―MEGA DETH PARTY―

 

 

装甲に内蔵された射出器から一斉に追尾型の小形ミサイルを放出し、バットイレイザーに目掛けて放つクリス。

 

 

無論イレイザーに通用する事はないだろうが、少なくともミサイルが直撃して発生する爆煙で奴の視界を一瞬でも奪う事は出来る。

 

 

その隙にバラけて三方から攻める戦法を仕掛けようとする三人だが、迫り来る小型ミサイル群を目にしたバットイレイザーは僅かにほくそ笑んだ瞬間、突如滑空したまま勢いよくドリルのように回転し、その羽根から無数の真空波を放って小型ミサイル群を斬り裂き爆散させ、更に爆煙の中から立て続けに真空波が飛び出し三人に襲い掛かった。

 

 

「何っ?!うっ、ウグァアアアアッ!!」

 

 

「うわぁああああッ?!」

 

 

「あうぅッ!!」

 

 

爆煙の中から飛び出してきた真空波を見て思わず動きを止めてしまうクリス達に、立て続けに真空波がモロに直撃して三人を纏めて吹っ飛ばしてしまい、地面にユラリと着地したバットイレイザーは倒れるクリス達の姿を見回し不気味に嗤っていく。

 

 

『無駄な事を……貴女達と私では根本的なルールの違いがある。貴女達に私を傷付ける術などないのですよ、始めからねぇ』

 

 

「くっ……くそッ……この、化け物が……ッ!」

 

 

クツクツと肩を揺らして嗤うバットイレイザーに、地面に倒れ伏したまま毒づき何とか立ち上がろうとするクリスだが、バットイレイザーはそんなクリスに一瞬で肉薄すると共に彼女を容赦なく蹴り飛ばし、建物の壁に叩き付けてしまう。

 

 

「がはぁっ!!」

 

 

「ク、クリス先輩っ……!」

 

 

『さて、先ずはその鬱陶しい飛び道具使いの貴女から潰させてもらいましょうか……』

 

 

「や、止めろデスよッ!!」

 

 

醜い異形の手から伸びる鋭利な爪をチラつかせてクリスに迫るバットイレイザーを見て慌てて起き上がり、阻もうとする切歌と調だが、それを見越していたかのように二人の足元から突如ノイズ達が現れ、切歌と調の身体に巻き付き動きを封じてしまう。

 

 

「ノイズ……?!」

 

 

「ま、まだこんなに残ってたデスか?!う、ううっ!」

 

 

「お、お前らっ……!」

 

 

『なに、命までは取りませんよ。私が直接貴女達を手に掛けては、物語側に私の存在がバレてしまいますからね……まあ最も、それも命さえ取らなければ他は何をしても構わないという事なのですが』

 

 

ニヤァッと下劣な嗤みを浮かべると共に、バットイレイザーは壁に背もたれて座り込むクリスに悠然とした足取りで歩み寄っていく。

 

 

『先ずは抵抗出来ないようにその手足から引き裂くとしましょうか?嗚呼、この一方的に蹂躙する感覚……やはりたまりませんねぇ!否が応にも高揚せざるを得ないですからァッ!!』

 

 

「「クリス先輩ッ!!」」

 

 

「くっ!」

 

 

恍惚の笑みを浮かべながら勢いよく飛び出し、バットイレイザーは両手の爪を振りかざしてクリスへと襲い掛かる。

 

 

迫り来る異形を見てクリスも咄嗟に両手に握るマシンピストルを突き付けて近づけまいと抵抗するが、バットイレイザーは赤い弾丸をその身一つで弾きながら構わずクリスに突っ込んで爪を振るい、振り下ろされる凶爪を前にクリスは両腕を交差させて思わず目を背けるが、

 

 

……何故か、彼女の身に痛みが降り掛かる事はなかった。

 

 

(…………?なん、だ……?)

 

 

何時まで経っても予想してた痛みに襲われず、顔を背けたクリスは恐る恐る目を開けて目の前に視線を戻していく。すると其処には、ギラリッと妖しげに光る爪先がクリスの目と鼻の先で寸止められており、そして……

 

 

 

 

 

『──お前、はっ……!』

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

──バットイレイザーの手首を掴み、クリスを切り裂こうと振り下ろされた爪を止めるフードを被った青年……蓮夜がいつの間にか傍に佇む姿があり、突如現れた蓮夜を見て目を見開くバットイレイザーに蹴りを打ち込み後退りさせていった。

 

 

「れ、蓮夜さん!」

 

 

「お前……!」

 

 

『グッ……き、貴様……!』

 

 

「……相手を一方的に蹂躙するのがそんなに好みか……なら、好きなだけ味あわせてやる……」

 

 

蹴られた箇所を抑えて睨み付けてくるバットイレイザーを見据え、淡々とそう告げると共に蓮夜はあらかじめ手にしていたカードを腰に巻いたベルトのスロットにセットし、掌でスロットをバックルに押し戻した。

 

 

「変身……」

 

 

『Code x…clear!』

 

 

バックルからの電子音声と共に、蒼い無数の粒子がベルトから舞って蓮夜の身体を覆いながら黒のアンダースーツを形成し、更に蓮夜の周囲に出現した蒼のアーマーが一斉に身体に纏われていく。

 

 

全ての行程を完了し、その姿を蒼い戦士……『仮面ライダークロス』に変身した蓮夜を目の当たりにしたバットイレイザーは驚きから目を見開くも、次第にその顔に不敵な笑みを浮かべていく。

 

 

『漸く姿を現しましたか、クロス……随分と待ち侘びましたよ、この時を……!』

 

 

『……待ち侘びた?まさか、また俺を誘き寄せる為だけにこんな騒ぎを起こしたのか……?』

 

 

『ええ、それが私に与えられた役目でしてねぇ……。貴方が私達の気配を感じ取れる事も聞かされていますよ。なのでこうして時間潰しに街を破壊しながら、貴方が来るのを待っていたという訳です。目印が派手な分、此処まで道に迷う事もなかったでしょう?フフフッ』

 

 

悪びれもせず、バットイレイザーは破壊された街並みを指すように片手を広げながら愉快げに微笑む。

 

 

クロスはそんなバットイレイザーの話を聞いている内に仮面の下で眉間に皺を寄せていくと、周囲を見回して傷付いたクリス達、ノイズに襲われて炭素の塊となった人々、怪我を負って苦しげに地面に横たわる怪我人達の姿を視界に捉え、右手の拳を無意識に強く握り締めながら鋭い眼差しでバットイレイザーを睨み付けた。

 

 

『……どうやらお前に温情を掛ける必要はなさそうだ……自身の快楽の為に、無関係な人間を巻き込んだ落とし前は付けてもらうぞ……』

 

 

『ハハッ、如何にもヒーローが言いそうな癪に障る台詞ですねぇ……では、その言葉を有言実行出来るか見せてもらいましょうかァッ!!』

 

 

そう言って耳障りな嘲笑と共に、両腕の羽根を広げてバットイレイザーがクロスに飛び掛かる。

 

 

それを見たクロスも体当たりが当たる寸前に頭から倒れる勢いで後ろへ飛び退くと、真上を過ぎ去ろうとしたバットイレイザーにサマーソルトキックを叩き込んで打ち落とし、そのまま両手を地面に付きバク転の要領で態勢を立て直しながらすぐさま地上に落とされたバットイレイザーに突っ込み拳を飛ばすが、バットイレイザーも素早く身を起こしてクロスの拳を両手で受け止めてしまう。

 

 

『お前達の裏にいる連中の居場所も、此処で全て吐いてもらう……!』

 

 

『出来るものならやってみるといい!最も私も口が堅いのでねぇ、そう簡単にはいきませんよぉ!』

 

 

受け止めたクロスの拳を払い除け、バットイレイザーは身を翻しながら両手の爪を振るいクロスに襲い掛かるが、クロスもバットイレイザーの爪、足払いを避けながら反撃の肘打ちを相手の胸に叩き込んで後退させると、怯んだ隙を逃さず畳み掛けて攻勢に出ていくのであった。

 

 

「……蓮夜さん……やっぱり強い……」

 

 

「クッソッ……結局アイツに頼るしかねぇってのかっ……」

 

 

クロスがバットイレイザーの相手を引き受けている隙に、身体に纒わり付くノイズ達を駆除した切歌と調は一進一退の攻防を繰り広げるクロス達の戦いを関心の目で見守り、クリスも脇腹を抑えながら身を起こしバットイレイザーと戦うクロスを悔しさを滲ませた表情で見つめる中、其処へ……

 

 

「──みんなぁー!!」

 

 

「「「……!」」」

 

 

不意に聞き慣れた声が三人の耳に届き、声がした方へと振り返ると、其処にはギアを身に纏った響がクリス達の下へ駆け寄って来る姿があった。

 

 

「響さん!」

 

 

「おせぇーぞ!何やってたんだ今まで!」

 

 

「ご、ごめんっ。ヘリが途中でノイズに落とされちゃったから、パイロットさん達を安全な場所まで運んでたら遅れちゃって……それで、皆は大丈夫?状況は?」

 

 

「ノイズの方はアタシ達で何とかなったデスよ。でもノイズを呼び出したイレイザーと戦う事になって、その後に……」

 

 

そう言いながら切歌が視線を向けた先にはバットイレイザーと交戦するクロスの姿があり、クロスを瞳に捉えた響は複雑げに眉間に皺を寄せた。

 

 

(蓮夜さん……やっぱり一人でイレイザーと戦うつもりで……)

 

 

『ハァッ……!ハッ!』

 

 

『ガフゥッ!お、のれぇええッ!』

 

 

そんな響の心境も露知らず、クロスはキレの鋭い身のこなしから放つ打撃の手数で徐々にバットイレイザーを押していき、トドメに放った横蹴りでバットイレイザーを勢いよく蹴り飛ばす。

 

 

だが、地面を滑るように倒れながらも身を起こしたバットイレイザーは忌々しげに唸りながら正面切っての肉弾戦は分が悪いと踏んだか、両腕の羽根を拡げて再度飛翔すると低空滑空で何度もクロスに体当たりしていき、それに対しクロスも飛び退いて避けながら左腰のホルダーからカードを一枚取り出した。

 

 

『素早いな……だったらこっちもコレだ……!』

 

 

『Code slash…clear!』

 

 

バックルにカードを装填して再度電子音声を鳴らし、直後にクロスの蒼い装甲がパージして朱い装甲に変化し、再度クロスに纏われて仮面と複眼の色が変わり、両手に黄金色の双剣が握られる。

 

 

それは先のノイズイーターとの戦いでもクロスが変身した双剣使いの姿……機動力と感覚に特化した形態である『仮面ライダークロス・タイプスラッシュ』にタイプチェンジし、両手に握る黄金色の双剣、スパークスラッシュを手の中で回転させながら構えた。

 

 

「あれは、この間の……」

 

 

『ハッ、色が変わった程度で何がっ!』

 

 

タイプスラッシュに変化したクロスを見て調が反応する中、バットイレイザーは姿を変えたクロスを鼻で笑いながら方向転換して構わずクロスに再度突撃を仕掛ける。

 

 

だが、クロスは正面から迫るバットイレイザーを見据えたまま徐に腰を落とすと、思い切り地面を蹴り上げた瞬間に残像のように消え、バットイレイザーの頭上に双剣を振りかざしながら一瞬で姿を現した。

 

 

『ッ?!何っ?!』

 

 

『ハァアッ!!』

 

 

『ガッ、ァアアアアアアアッ?!』

 

 

移動する軌跡すら見えず一瞬で肉薄したクロスを見て吃驚するバットイレイザーの両肩を、まるで雷鳴のように振り下ろされたクロスのスパークスラッシュの刃が斬り裂いて激痛を走らせる。

 

 

それによりバランスを崩したバットイレイザーはそのまま地上に墜落して何度も地面を転がっていき、それとは対照に悠然と地に着地したクロスは徐に身を起こして倒れ伏すバットイレイザーを見据えていく。

 

 

『グッ、グゥウッ……!これがクロスのっ、貴方の力ですかっ……』

 

 

『……此処までだ。これ以上続けた所でお前に勝機はない……お前が知っている全てを吐いてもらうぞ……』

 

 

斬り裂かれた肩を片手で抑え、僅かに上体を起こすバットイレイザーから黒幕の情報を聞き出す為に歩み寄ろうとするクロス。しかし……

 

 

『……フ、フフッ……クククククククッ……』

 

 

……バットイレイザーの肩が震え、劣勢に陥っているにも関わらず何故か不気味な笑い声を漏らしていた。

 

 

『……何がそんなに可笑しい?』

 

 

『フフフッ……いえ、ただ話に聞いていた通りだと思い、つい笑みがこぼれてしまいましてねぇ。今の貴方は嘗ての貴方とは違う……記憶だけでなく、力の大部分も失ってしまっているというのは本当のようだ』

 

 

「!アイツ、まさか……」

 

 

「も、もしかして、蓮夜さんが記憶喪失だってバレちゃってるデスか!?」

 

 

クロスが記憶を失っている事を突き付けるバットイレイザーの言葉に響達もどよめき思わず互いに顔を見合わせてしまうが、当のクロスは特に反応を返す事もなく淡々と切り捨てる。

 

 

『お前との無駄話に付き合う気はない……そんな事よりも答えろ。お前達を裏で操っている連中は何処だ、一体何が目的でこの物語を狙う?』

 

 

『フッフフフッ、もう勝ったつもりでいる気ですか?何をそんなに急いているのか知りませんが……勝負はまだ此処からですよォおおッ!!』

 

 

バシュウゥッ!と、愉悦に満ちた雄叫びと共にバットイレイザーが掲げた右手からエネルギー弾が放たれる。

 

 

しかしそれはクロスや響達を狙ったものでなく、戦場から僅かに離れた場所の物陰で蠢く影……ノイズ達の目を盗んで逃げ延びようとしていた一般人達を狙ってのものだった。

 

 

「あ、危ないッ!!」

 

 

「?!う、うわぁああああああああああッ!!」

 

 

『ッ!』

 

 

それを見て響達も慌てて飛び出すが、あまりに距離が開き過ぎて彼女達の足では間に合わないと悟ったクロスはすぐさまその身を朱い閃光と化しながら素早く一般人達の前に先回りし、片手のスパークスラッシュでエネルギー弾を弾いて彼らを守ると、悲鳴と共に逃げていく一般人達の安否を確かめてバットイレイザーを鋭く睨み付けた。

 

 

『貴様っ……!』

 

 

『ハハッ、此処に来て僅かでも可笑しいとは思いませんでしたか?前回の時と違い、今回はやけにノイズ達の数が少なく勢いも弱いと。それも当然……こうなる事を予期して、ちゃんと保険を用意しておいたんですよォおおッ!!』

 

 

高らかに叫び、天を仰いだバットイレイザーの口から光弾が打ち上げられ、空を翔ける。

 

 

直後、光弾は遥か空で分裂して無数の散弾と化し、怪我で動けない人々や逃げ遅れた一般人を意図的に狙って街へと降り注いでいったのだった。

 

 

「あ、あの野郎ッ!」

 

 

「ッ!皆ッ!」

 

 

『チッ!』

 

 

無数の光弾の狙いに気付いた響達は咄嗟に散開して近くの怪我人や物陰に身を隠していた人々を抱え、光弾が着弾して巻き起こる爆発を背に急いでその場から離れていき、クロスもタイプスラッシュの機動力を全力で駆使して光弾の大半を次々と叩き切り人々を救っていくも、一人ではカバーし切れない程の数の光弾を前に次第にクロスの顔も険しくなっていく。

 

 

『ハハハハハハハッ!!どうしましたかぁッ?!動きが目に見えて鈍くなって来てますよぉッ!!ホラホラホラァッ!!』

 

 

『っ、クッ……!』

 

 

そんなクロスの奮闘を嘲笑い、休まる暇も与えまいと立て続けに一般人や怪我を負って動けない人々を狙った悪質な攻撃を嬉々として行うバットイレイザー。

 

 

その悪辣さにクロスも仮面の下で顔を歪めながらも必死に駆け回って光弾を切り払っていくが、バットイレイザーが指摘した通り徐々に募る疲弊から光弾を追う身体が追い付かなくなりつつあり、このままではジリ貧になると感じ取ったクロスは次の光弾を切り払うと共に一息でバットイレイザーへと迫り、スパークスラッシュでバットイレイザーをすれ違い様に斬り裂いた。が……

 

 

『ガァアアアアッ!……なーんてねぇ』

 

 

『ッ!何……?!』

 

 

全力で振るったクロスの双剣に斬り裂かれて苦痛の悲鳴を上げていたバットイレイザーの身体が、無数のコウモリに変化し一斉に羽ばたいていってしまう。

 

 

それを見てクロスが動揺を浮かべる中、無数のコウモリは上空で一つになるように集まると、バットイレイザーの姿を形作ってほくそ笑んだ。

 

 

『私の力があの程度だと思いましたか?ざぁんねん、貴方の力を測る為だけに本気を出す訳がないでしょう?今まで貴方が倒してきた連中とは違うのですよ、私はねぇッ!!』

 

 

そう言って優位に立っているつもりでいたクロスを滑稽だと言わんばかりに嘲笑すると共に、バットイレイザーの手から再びエネルギー弾が放たれた。

 

 

その標的となるのは、今正に近くの会社の入り口から逃げようとしていた一般の社員達であり、それを目にしたクロスはすぐに素早く飛び出して光弾の前に回り込むと同時に両手の双剣でエネルギー弾を弾き返そうとするが、先程とは比べ物にならないエネルギー量に弾く事も叶わず、爆発した光弾の威力に吹っ飛ばされてガラス張りの窓に叩き付けられてしまった。

 

 

『ガッ、ハッ……!』

 

 

「ひ、ひぃいいいいっ?!」

 

 

「は、早く逃げろっ!急げぇっ!」

 

 

無数のガラス片と共に力無く地面に倒れるクロスに怯え、急いでその場から逃げ出していく社員達。

 

 

そしてバットイレイザーは倒れるクロスの前に着地すると、自分達を守ってくれた筈のクロスに目もくれず走り去る社員達の背中を見つめて鼻を鳴らした。

 

 

『愚かしいですねぇ……何をそんなに必死に守る必要があるのか理解に苦しみますよ。所詮アレも貴方とは関わりのない異世界の人間、我々からしてみれば仮初の現実を生きるフィクション如きに過ぎない……そんなものを守る為に身を削らなければならないとは、ヒーローとは本当に難儀な生き物ですねぇ』

 

 

全く同情しますよ、と口元に手を添えて馬鹿にするように嗤うバットイレイザーだが、それを聞いたクロスは近くに転がるスパークスラッシュを手に取り、徐に顔を上げて口を開いた。

 

 

『っ……俺、は……お前の言うヒーローなんて呼ばれるような、そんな大層な人間なんかじゃないっ……』

 

 

『……ああ?』

 

 

そう言って背中からガラス片を落としながらふらつく身体を起こしていくクロスの反論に、バットイレイザーは訝しげに眉を顰め、クロスは覚束無い足で地を踏み締めながら逃げ遅れた民間人を守る為に今も奔走する響達を見つめて言葉を続けていく。

 

 

『本当にヒーローと呼ばれるべきなのは、誰かの為に身を張る事を恐れない、アイツらのような人間だ……俺はただ、自分が知っているから戦ってるだけだ……唯一俺に残された役目を……大切な何かを失う、悲しみや辛さをっ……』

 

 

「……!蓮夜さん……」

 

 

助け出した人々の避難を促す中で、風に乗って聞こえてきた彼の言葉を耳にし響が思わずクロスの方に振り返るが、クロスはそれに気付かぬまま傷付いた腕でバットイレイザーに向けて双剣を身構えていく。

 

 

『お前達の暴挙を見過ごせば、また俺のように大切な何かを失う苦しみを味わう人間を生み出すと知っているっ……それが我慢出来ないから戦うっ……もうこれ以上、誰かの人生(モノガタリ)をお前達のような連中に侵させてたまるかっ……!』

 

 

『……ハッ、ようするにくだらない感傷ですか?それなら尚のこと救い難い。だったらこの場にいる全員を救ってみせるといい……貴方一人の力で為せるのならねぇええッ!!』

 

 

クロスの戦う理由を馬鹿馬鹿しげに一蹴し、ならば救ってみせろとバットイレイザーが再び放ったエネルギー弾が先程クロスが身を呈して庇った社員達の背中に目掛けて襲い掛かる。

 

 

それを見て慌てて飛び出そうとするクロスだが、先のダメージが想像以上に響いているのか一瞬足に力が入らずスタートダッシュが遅れてしまい、その間にもエネルギー弾が社員達に迫り最早直撃は免れられないかと思われた、その時……

 

 

―ARTHEMIS SPIRAL―

 

 

──社員達の背中にエネルギー弾が当たる寸前、真横から矢の形状をしたミサイルが猛スピードでブチ当たり、エネルギー弾を撃ち抜いてかき消したのだった。

 

 

『!』

 

 

『何?!』

 

 

その光景を目の当たりにしたクロスとバットイレイザーも驚愕で目を見開き、エネルギー弾を落とした今の矢が放たれてきた方へと振り向く。

 

 

其処にはアームドギアをロングボウの形状に変形させ、矢を放った態勢で佇むクリスの姿があり、動揺するバットイレイザーに向けてクリスはしてやったりと不敵に笑って見せた。

 

 

「ハッ、生憎だったなぁコウモリ野郎。さっきの仕返しだ、気に入ってくれたかよ?」

 

 

『ッ……!貴様ぁっ、フィクション風情が私の邪魔を──!』

 

 

「「はぁああああああああッ!!」」

 

 

―切・呪リeッTぉ―

 

 

―α式 百輪廻―

 

 

自分の邪魔をしたクリスに怒りを露わにし、拳を握り締めてバットイレイザーが思わず歩み出ようとした瞬間、其処へブーメランの如く飛ばされた大鎌の刃と無数の小型の鋸が飛来してバットイレイザーの足を止めていき、クリスの前に切歌と調が飛び出しアームドギアを身構えた。

 

 

「これ以上、貴方の好き勝手にはさせない……!」

 

 

「アタシ達を舐めて掛かったこと、後悔させてやるデスっ!」

 

 

『……そうですか……死よりも恐ろしい目に遭いたいと……ならば、望み通りにしてあげますよォッ!!』

 

 

『待てっ……!グッ!』

 

 

怒りに震えるように息を深く吸い込み、最早容赦はすまいとクリス達に目掛けて羽根を広げながら滑空して襲い掛かっていくバットイレイザー。

 

 

それを止めようとクロスも後を追おうとするが、急に身体を動かしたせいで痛みが走り思わずその場に膝を付いてしまう中、そんなクロスに響が駆け寄り身体を抱き起こしていく。

 

 

「しっかりして下さい蓮夜さんっ!大丈夫ですか……!」

 

 

『ッ……俺の事はいいっ……それより早くお前の仲間達を止めて、民間人と一緒に此処を離れるんだ……!イレイザーとは戦いを避けるように言っただろう……!』

 

 

「…………」

 

 

このままではクリス達の身が危険だと焦燥を露わにこの場からの避難を促すクロスだが、それに対し響は僅かに考える素振りを見せた後、クロスの目を見つめ返しフルフルと首を横に振った。

 

 

「すみません……やっぱり私、蓮夜さんだけに戦わせる事は出来ません」

 

 

『……何……?』

 

 

響からの思わぬ返答に戸惑うクロス。響はそんなクロスの前に出ると、ギアを纏った右手を握り締めて拳を形作っていく。

 

 

「蓮夜さんの言う通り、イレイザーを倒す方法を持たない私達じゃアイツには勝てないかもしれない。でも、だから戦わないって選択肢を簡単には取りたくないんです……!自分や自分の身の周りの人達を守る為にって言い訳して、蓮夜さん一人に重荷を背負わせて逃げ出したら……きっと、そんな自分を許せずにこの先も後悔し続けると思うから……」

 

 

『…………』

 

 

「例え出来ない事が多くても、せめて限られた中で出来る事をしたい……自分に胸を張れない後悔はしたくない……今は蓮夜さんも、この世界を生きる一人の人間だから……力になりたいんです」

 

 

それが今後悔しない為の自分の選択なのだと、クロスに顔を向けて微笑み、マフラーを靡かせながらクリス達と戦うバットイレイザーに目掛けて駆け出していく響。

 

 

その背中を止めようと思わず手を伸ばし掛けるが、何故か彼女を呼び止める言葉が出て来ず、中空で止めた手の平をジッと見つめていく。

 

 

(自分に胸を張れない、後悔をしない為に……)

 

 

その言葉に何か感じ入る物を得たのか、クロスはゆっくりと拳を握り締め、何か意を決したように顔を上げてふらつきながらも身を起こしていくのであった。

 

 

 

 

 



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第二章/邂逅×存在を赦されない存在④

 

 

「ちょせぇええッ!!」

 

 

バババババァッ!と、クリスの両手に握る大型ガトリングガンの銃口が火を噴き、バットイレイザーの身体に無数の銃弾が浴びせられていく。

 

 

しかし、バットイレイザーは両腕の羽根で自身を覆ってクリスの放つ銃撃を受け止め、そのまま勢いよく羽根を広げて凄まじい突風を発生させると共に銃弾を跳ね返すだけでなく、クリスをも強風で吹っ飛ばしてしまった。

 

 

「グッ、うぁああッ?!」

 

 

「まだッ!」

 

 

「てぇやああああああッ!!」

 

 

風で吹き飛ばされるクリスと入れ替わるように、今度は調と切歌がそれぞれの得物を手に左右に散開してバットイレイザーへと飛び掛り、左から調のツインテール部分の装甲に備わる円形の鋸が、右から切歌が大きく振りかぶった大鎌の刃が挟み撃ちをする形で襲い掛かるが、バットイレイザーはそれらをも左右に伸ばした腕で難なく受け止めてしまう。

 

 

「くうッ!」

 

 

「こんのぉおおッ!」

 

 

『姦しい……!雑魚が私の手を煩わせるなァあッ!!』

 

 

「うあぅッ?!」

 

 

「がはぁッ!」

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

左右から挟み込む二人の得物を力づくで払い除け、まるで踊るように身を翻したバットイレイザーの素早い蹴りが調と切歌の腹を蹴り飛ばして弾丸の如く吹っ飛ばす。

 

 

其処へ背後から右の拳を振りかざす響が雄々しい雄叫びと共にバットイレイザーに殴り掛かるが、それもバットイレイザーに振り向き様に片手で受け止められてしまい、それでも残った左拳で続けて殴り掛かるもやはり受け止められ、響の顔が険しげに歪む。

 

 

『まだ分からないかっ……!貴女たち如きでは私の身体に傷一つ付けられない、足掻いた所で無駄な抵抗にしかならないとッ!!』

 

 

「ッ……だとしてもっ、目の前で傷付けられる誰かに背中を向けて逃げ出すなんて私には出来ないっ! 倒せる可能性が例え0でも、この手を伸ばして救える命があるのなら守り切るっ!その為の拳っ、その為のシンフォギアなんだッ!!」

 

 

『囀るなッ!!筆を振るえば消える命如きがぁッ!!』

 

 

未だ闘志を絶やさない瞳で力強く叫ぶ響の言葉を煩わしいと吐き捨て、バットイレイザーは容赦ない前蹴りで響の腹を蹴り飛ばしてしまう。

 

 

「ぐぁうっ!」と苦悶の声を漏らして吹っ飛ばされる響を追走し、バットイレイザーがその鋭い爪で響の身体を引き裂こうと振りかざすが、それを阻むように真横から黄金に煌めく剣……クロスが伸ばしたスパークスラッシュの刃がいきなり割って入り、バットイレイザーの爪を受け止めた。

 

 

『ッ!クロスゥッ!』

 

 

『ぜぇえああッ!!』

 

 

左手の剣でバットイレイザーの爪を受け止めたまま、右手に握るスパークスラッシュを振るってバットイレイザーに斬り掛かるクロス。

 

 

だがバットイレイザーも咄嗟に身を引いて紙一重で斬撃をかわしながら後退し、それを逃すまいと追い掛けるクロスの双剣と目にも止まらぬ速さで両手の爪で打ち合っていくが、徐々にクロスの方が剣を振るう速さで上回っていき、爪を弾かれて仰け反るバットイレイザーの隙を突きクロスがすかさず双剣で相手の喉を狙うも、バットイレイザーは寸前の所でその身を再び無数のコウモリと化してクロスの一撃から逃れてしまう。

 

 

「ま、またコウモリになったデスよっ!」

 

 

『ッ……!』

 

 

あの姿になられてはこちらも攻撃しようがない。

 

 

コウモリの大群となって散らばるバットイレイザーの勢いに圧されて切歌や他の装者達も腕で顔を庇うしか出来ない中、クロスは何かを探すかのように忙しなくコウモリの大群を見回すと、大群の中に一箇所だけ多くのコウモリ達が密集する部分を見付け、その奥に他のコウモリ達に守られるように囲まれる一体のコウモリ……他の黒い体色の個体と違い、赤みがかった紫色のコウモリの姿を捉えた。

 

 

『……アレか……!赤い銃使い!あの辺一帯を飛ぶコウモリを高い火力で纏めて吹き飛ばせないか!』

 

 

「はあッ?!何だよ急に?!っつーか、あたし等の攻撃は奴に通じねぇって──!」

 

 

『ダメージは通らなくてもノックバックは通る!いいから急げ、頼む!』

 

 

「ッ……!あークソッ、こうなりゃヤケだぁッ!!」

 

 

クロスに言われるがまま、彼が指差す地点に目掛けて腰部アーマーから立て続けにミサイルを射出し、続けて両腕のガトリングガンでミサイルを撃ち抜き故意に爆発を起こすクリス。

 

 

それにより凄まじい勢いで巻き起こった爆風がコウモリ達の大半を攫って吹っ飛ばし、周りに纏わり付いていた他のコウモリ達を剥がされた紫色のコウモリに目掛けてクロスが素早く疾走し、両手のスパークスラッシュを構えた。

 

 

『?!な、何ぃッ?!』

 

 

『デェエアッ!!』

 

 

爆風に怯んでいた隙に迫るクロスを見て慌てて逃げ出そうとする紫色のコウモリに接近し、クロスは双剣による斬撃を次々と叩き込んで紫色のコウモリを吹っ飛ばした。

 

 

そして紫色のコウモリが地面に叩き付けられるようにゴロゴロと転がると共に、その姿が無数のコウモリに化けていた筈のバットイレイザーへと変化し、周囲を飛び回っていた他のコウモリ達もまるで幻のように消滅していった。

 

 

「コ、コウモリが消えた?」

 

 

『グッ!な、何故私をっ……?!『本体』が別にいると気付いたっ?!』

 

 

『……俺がお前達の気配を追える事は、さっきお前自身も口にしていた筈だぞ。最初に今の能力を目にした時も、あのコウモリの大群からお前の気配を察知する事は出来なかった……其処から推察して、お前がまだ何か隠しているだろうと考え付くのは当然だ……』

 

 

だから二度目は注意深く観察してお前の気配を探り、本体が別にいた事に辿り着いたのだと語り、クロスは右手の剣をバットイレイザーに突き付ける。

 

 

『こうしてタネを明かした今、あの能力ももう通じない……覚悟してもらうぞ……』

 

 

『ぐううううぅっ……!頭に乗るなぁッ!!』

 

 

最早後はないと突き付けるクロスの宣告に激昴しながら、乱雑に振るった右腕から無数の光弾をばら撒くように放つバットイレイザー。

 

 

それを見てクロスも咄嗟にその場から飛び退き光弾を回避し、その隙にバットイレイザーは体勢を立て直す為に上空に逃げようと両腕の羽根を羽ばたかせ宙に浮くが……

 

 

「逃がさないッ!!」

 

 

『……なあ?!』

 

 

そうはさせまいと、響がすぐさまバットイレイザーに飛び掛かって両足にしがみついた。そして両腰のバーニアの噴出口を真上に向けて全力で火を噴き、バットイレイザーが飛び立てないように地上へと徐々に引きず落とそうとしていた。

 

 

『き、貴様ァッ!!放せぇッ!!』

 

 

「調ッ!!」

 

 

「うん!」

 

 

バットイレイザーが両足にしがみつく響を必死に振り落とそうとする中、その隙に切歌と調が互いにアイコンタクトを送り、バットイレイザーの頭上へと跳び上がる。

 

 

そして空中で調のアームドギアのヨーヨーを切歌のアームドギアの鎌の柄の先に接続し、巨大な刃が付いた車輪状に変化させ、勢いよく回転させながらバットイレイザーに目掛けて突撃していく。

 

 

―禁合β式・Zあ破刃惨無uうNN―

 

 

『んなっ──グッ、ぬぅああああああッ!!』

 

 

「うわわっ!」

 

 

切歌と調のユニゾン技である刃の付いた車輪がバットイレイザーに直撃し、バットイレイザーの身体を車輪の回転で切り刻みながら吹っ飛ばしていったのだった。

 

 

無論ダメージ自体はないだろうが、仕切り直しを阻まれたバットイレイザーはそのまま仰け反るように吹き飛び、響も慌てて両手を離して何とか体勢を整え着地する中、其処へすかさずクロスが超速度で接近してすれ違い様にバットイレイザーの左腕をスパークスラッシュで切り捨てた。

 

 

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!わ、私のっ、私の腕がァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?』

 

 

地面に思いっきり叩き付けられながらも、左腕を切り落とされた痛みの方が勝って片腕を抑え悶え苦しむバットイレイザー。

 

 

そして地面に着地したクロスは踵を返してバットイレイザーに歩み寄り、スパークスラッシュの切っ先を首元に突き付けて淡々と告げる。

 

 

『片腕の羽根を失えば、もう飛ぶ事も叶わないだろう……これで本当に詰みだ……』

 

 

『ギィイイッ!!きっ、さまぁアアアアアアッ……!!』

 

 

『命まで取られたくなければ素直に答えろ……お前に指示を送った連中は何者で、何が目的だ……奴らは今何処で何をしている……?』

 

 

返答次第ではこちらも容赦はしないと、剣の切っ先をより首元に突き付けながら脅しを掛けるクロス。

 

 

その様子を響達も不安と心配が入り交じったような表情で見守る中、バットイレイザーは憎悪の眼差しでクロスの顔を睨み付けて叫ぶ。

 

 

『許、さないっ……許さないっ……許さない許さない許さないッ!!貴様如きが私のっ、私が漸く手に入れた羽根をよくもォっ!!貴様なんかにィイイイイイイイイッッ!!』

 

 

『……お前の許しなんて必要ない。それより、俺の質問に──?』

 

 

バットイレイザーの恨み節も無視して再度質問を投げ掛けようとするクロスだが、その時、足元に妙な揺れを感じて訝しげに下を見る。

 

 

足の裏に感じる地震のような振動。其処には足元に転がる瓦礫が小刻みに震え、破片が幾つも宙に浮いては粉々に砕け散るという異常な光景があった。

 

 

『これは……?』

 

 

『あぐっ、ギッ……ギギィッ……ガギッ……!!ギィィアアアアアアアアアアアアアッッ……!!!!』

 

 

「──ッ!蓮夜さん危ないッ!逃げてッ!」

 

 

『!』

 

 

その異常にクロスが僅かに目を見張る中、背後から悲鳴にも似た響の叫び声が聞こえて思わず顔を上げると、目の前で倒れるバットイレイザーの身体から突如エネルギーが溢れ、凄まじい勢いで衝撃波が放たれた。

 

 

それに対してクロスも咄嗟に両腕を交差させ衝撃波を受け止めるも、それ以上は踏み止まる事が出来ず吹っ飛ばされてしまい、何とか空中で体勢を立て直して着地しバットイレイザーを見据えると、衝撃波を放ったバットイレイザーの身体から無数の火花が撒き散り、不気味なオーラが立ち上っていた。

 

 

『っ、アレは……』

 

 

「あ、あれって確か、この前のノイズイーターの時と同じ……?!」

 

 

「姿が変わる奴か?!」

 

 

『ゥエエエアガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』

 

 

獣のような咆哮を上げてエネルギーの嵐を巻き起こすバットイレイザーのその姿から、三日前に彼等が戦ったノイズイーターの変貌を思い出してクロス達が嫌な予感を覚える中、バットイレイザーの身体がメキメキッ!と嫌な音を立てて膨張していき、目に見えて骨格が変わっていくのが分かる。

 

 

身体全体が筋肉質な巨大な姿に変化し、クロスに斬られた筈の左腕が生えて生成された禍々しい姿……。

 

 

赤い瞳が不気味に輝き、白い吐息を吐き出しながら異常な姿に変貌したバットイレイザーは徐に身を起こし、クロスだけを赤い眼で捉え真っ直ぐ見据えていく。

 

 

『ゴ、ロ……ジテヤルゥウウウウウウッ……!!!!キサマダケハァアアッ……ワタシノテデェエエエエエエッ……!!!!クロスゥウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーウウウゥゥッッッッ!!!!!!』

 

 

「れ、蓮夜さんッ!!」

 

 

『ッ!』

 

 

ズシンッ!!と重々しく地を踏み締め、憎悪の込められた雄叫びと共にクロスに目掛けバットイレイザーが勢いよく突っ込んでいく。

 

 

猛スピードで迫るその様はまるで10トントラックを彷彿とさせ、まともに受ければこちらが危ないと悟ったクロスが咄嗟に左へと跳んでバットイレイザーの突進を回避すると、バットイレイザーはそのまま方向転換も出来ず建物に突っ込んで壁を破壊するだけでなく、その凄まじいパワーを物語るかのように建物そのものを崩壊させてしまった。

 

 

「な、何だよあの馬鹿力はっ?!」

 

 

「ビルが一撃でペシャンコになったデスよっ?!」

 

 

(ッ……また形状が変わった……どういう事だ?何故今までになかった変化がこうも立て続けにっ?)

 

 

『ウゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!』

 

 

建物を一撃で粉砕してみせたバットイレイザーの強靭な力を目の当たりにして響達の間で動揺が広がり、クロスも先日のノイズイーターに続いて急激にパワーアップしたバットイレイザーの変化に困惑を露わにする中、建物が崩れて舞い上がる粉塵の中から勢いよくバットイレイザーが飛び出し、再びクロスに向かって突進を仕掛けてくる。

 

 

思考に浸っていたクロスは我に返り慌てて身を翻しバットイレイザーの突進を回避すると、左腰のカードホルダーを開いて一枚のカードを取り出す。

 

 

(っ……奴は目に見えて理性を失っている……これ以上の問答は無意味にしかならないか……仕方がない……)

 

 

一目で最早正気ではないと分かる様子で暴れ回り、発狂するバットイレイザーから情報を聞き出すのは不可能であると見切りを付けたクロスは腰のバックルから立ち上げたスロットにカードを装填し、掌でスロットを押し戻した。

 

 

『Code Blaster…clear!』

 

 

ベルトから電子音声が響くと同時に、クロスの纏う装甲がパージされて宙に浮き、朱色から青く角張った分厚い装甲に変化してクロスに纏われ、複眼の色も黄色に変化すると共に右手に青白く輝く銃剣が出現して握られていく。

 

 

再度変わったその姿は、装甲が青く角張った重装甲の鎧と黄色の複眼、右手には青白く輝く銃剣、ウェーブブラスターを手にした姿……高火力と防御力を兼ね備えたパワータイプの形態である『仮面ライダークロス・タイプブラスター』へとタイプチェンジし、バットイレイザーに向けてゆっくりと歩き出していく。

 

 

「また姿が変わった……?」

 

 

「アイツ、まだあんなの隠し持ってたのかよ……!」

 

 

『グウゥゥゥゥゥッ……!!ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!』

 

 

新たに未知の形態へと姿を変えたクロスを見て装者達は目を見張り、バットイレイザーは獣のような唸りから大地を揺るがす程の雄叫びを上げ、クロスに向かって構わず突進して拳を振りかざした。

 

 

が、クロスは振り下ろされた拳を防御も回避もせずにその分厚い装甲だけで受け止め、ズザザザザザァッ!と僅かに後退る足で踏み止まる。

 

 

そして右手に握るウェーブブラスターの銃口をバットイレイザーの脇腹に突き付けて引き金を引き、放たれた銃弾でバットイレイザーを二十メートル先の建物まで吹っ飛ばし壁に叩き付けていった。

 

 

「イレイザーを一発で吹き飛ばした……!」

 

 

『グァアアッ!!?ガッ……ァアアッ……!!?』

 

 

あの巨体を銃の一撃だけで吹っ飛ばしたクロスの力を見て響達も驚きを浮かべ、バットイレイザーも脇腹に走る激痛に顔を歪めながらも何とか身を起こそうとする中、クロスはウェーブブラスターの銃身のパーツを三枚の羽根のように外側に展開して砲撃形態に変形させていき、バットイレイザーに照準を定めながら左腰のホルダーから取り出したカードをバックルに装填していく。

 

 

『Final code x…clear!』

 

 

『ウ、グゥウッ……グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時に、ウェーブブラスターの銃身周りの三枚のパーツが回転し出し、銃口に青白い光の粒子が収束して徐々に巨大なエネルギー弾を形成していく。

 

 

それを見てバットイレイザーも本能的に危険を察知したのか、クロスが銃口に収束する光弾のエネルギー量を肌で感じて一瞬怯み掛けるも、それを振り払うように咆哮を上げながらまるで暴走トラックの如く勢いで駆け出しクロスに両手の爪で襲い掛かる。

 

 

そして、迫り来るバットイレイザーを前にクロスは動じる様子もなくウェーブブラスターの標準を定めたまま静かに引き金を引き、銃口から勢いよく放たれたエネルギー弾が大気を切り裂いてバットイレイザーの胸を撃ち貫き、巨大なXの記号を刻み込んだ。

 

 

『ッ!!!?ガッ……ァッ……!!!?』

 

 

『……それがお前のエンドマークだ』

 

 

『ウグァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアアァァァッッッ!!!!?』

 

 

銃剣を持つ腕を徐に下ろしたクロスが静かにそう呟いた瞬間、バットイレイザーは悲痛な断末魔を上げて身体の内側から爆発を起こし、跡形も残さず完全に消滅していったのであった。

 

 

「や、やったデス!イレイザーを倒したデスよ!」

 

 

「良かった……今回も何とかなったね」

 

 

「……まあ、あたし等は殆ど裏方だったけどな……」

 

 

爆散したバットイレイザーの撃破を見届け、飛び跳ねて喜ぶ切歌と安堵の溜め息を漏らす調の後ろで、クリスはそう言いながら険しげに眉を顰めクロスを見つめていく。

 

 

そしてクロスはそんな視線にも気付かないまま通常形態の蒼い姿に戻ると、バットイレイザーが爆発した跡の炎を見下ろしながら仮面の下で目を細めた。

 

 

(漸く掴めると思った手掛かりも無くなり、また振り出しか……一体なんなんだ、あれは……ノイズを喰らった事と何か関係があるのか……?)

 

 

自分の知らないイレイザーの謎の進化。いや、どちらかと言えば暴走と呼ぶに近いあの変貌の原因も分からず、新たに情報を得られなかった事も含めて増える謎にモヤモヤばかりが募るクロスの背後から、響が歩み寄って声を掛けた。

 

 

「蓮夜さん、あの……」

 

 

『…………』

 

 

恐る恐る声を掛けられて僅かに振り返るも、クロスはそれ以上は何も答えず無言で口を開かない。やはり、自分達が忠告を聞かずバットイレイザーと戦った事で怒らせてしまったのだろうかと暗い表情で俯いてしまう響に対し、クロスはそんな響から視線を逸らし、

 

 

『……さっきはまた助けられたな……お前達がいなければ、俺も今頃危なかったと思う……』

 

 

「!蓮夜さん……」

 

 

『ただ、あんな無茶はこれっきりにして欲しい……今回はどうにかなったが、次もまた同じように上手くいく保証はない……もっと大勢の人達を救いたいと願うなら、自分の身も大事にしてくれ……』

 

 

「うっ……す、すみません……」

 

 

感謝の言葉を口にされて一瞬顔色が明るくなるも、直後に釘を刺されてげんなりと肩を落としてしまう響。

 

 

そしてクロスもそんな彼女の姿を横目に仮面の下で苦笑いを浮かべると、そのままその場を立ち去ろうと前を向いて歩き出していくが、その背中を見て響は僅かに逡巡する素振りを見せた後、クロスの背に向けて叫び出す。

 

 

「蓮夜さん!こんな事言ったら怒られるかもしれないけど、やっぱり私、蓮夜さんと手を取り合うのを諦め切れないです……!」

 

 

『…………』

 

 

「今は一緒に戦えないかもしれないけど、でも……もしもその方法が見つかった時は、また一緒に戦ってくれますか……?」

 

 

何処か不安を帯びたような声でそう問い掛ける響。クロスはそんな響の言葉に足を止めて一瞬何かを言い掛けるも、それを呑み込むように口を詰んで俯き、何も言わずに再び歩き出して何処かへと去っていってしまう。そんな中……

 

 

「──目障りだな……あの小娘……」

 

 

遠ざかっていく背中を無言で見つめる響が物憂げな表情を浮かべる中、その様子を崩壊したビルの物影から事の成り行きを見届けていた一人の男……アスカはクロスと、そのクロスを見つめる響を交互に見て険しげに眉を顰め、誰にも気付かれぬように静かにその場から立ち去っていくのであった。

 

 

 

 

 



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第二章/邂逅×存在を赦されない存在⑤

 

―S.O.N.G.潜水艦本部―

 

 

あれから数十分後。苦戦を強いられながらも何とかバットイレイザーを撃破し、助力を借りた蓮夜とも別れて一先ずS.O.N.G.の本部に戻った響達。その後、戦闘で負った傷を治療し終えた後に発令所に集められた四人は、弦十郎の口から先の戦闘でのブリーフィングに加え、撤退指示を無視して戦闘を続行した件についてもしっかりとお灸を据えられる羽目になった。

 

 

「──うう……司令のお説教、長過ぎてもうへとへとデスよ~……」

 

 

「まぁ、先に命令破ったのはこっちだから文句言える立場じゃないがな……アイツが駆け付けた後も成り行きとは言え、結局そのまま戦い続けちまったし……」

 

 

「…………」

 

 

やれやれ、とクリスは両手を後頭部に回して疲れたように溜め息を吐き、弦十郎の説教を終えて家に帰ろうと艦内の通路を歩く一行。

 

 

そんな中、クリスと切歌の後ろを歩く響はボーッとした様子で何処か覇気がなく、隣を歩いていた調はそれに気付いて不思議そうに響の顔を覗き込んでいく。

 

 

「響さん……?どうかしましたか?」

 

 

「……え?な、何が?別に何でもないよ、うん!」

 

 

調に顔を覗き込まれて漸く我に返ったのか、慌てて両手を振りながら笑って誤魔化そうとする響。しかし、普段の響を見慣れている三人からしてみれば明らかに無理して笑顔を作っているのが見て取れて分かり、クリスは肩を竦めて溜め息を吐きながら響にジト目を向けていく。

 

 

「お前、もしかしなくてもまだアイツのこと気にしてんだろ?」

 

 

「へ?え、えーっとー……」

 

 

「やっぱりな……。ったく、あたしが言うのもなんだが、いつまでもアイツの事ばっか考えてたってしょうがねぇだろ?いい加減切り替えねぇと、そんなんじゃまた帰ってからアイツに心配されんぞ」

 

 

恐らく今も響の帰りを待っているであろう、彼女のルームメイトである未来の事をチラつかせてそう忠告するクリス。本人もそれを自覚しているのか、未来の事を持ち出された響は「うっ……」と言葉を詰まらせながら頬を掻き、目を泳がせていく。

 

 

「そ、それは分かってるんだけど……でも、私達がこうしてる間にも蓮夜さんは一人でイレイザーや事件の黒幕の事を今も追ってるのかなって、一度考えたら色々気になりだしちゃって、つい……」

 

 

「それこそお前が気にしたってだろ……まぁ、住むとこも無けりゃ飯もままならないって話聞いた後じゃ、不安になんのも分からなくもないけどよ」

 

 

そんな生活をしていて本当にイレイザー達の目的を止められるのだろうかと、若干呆れた様子のクリスの言葉に切歌も顎に人差し指を当てながら考える素振りを見せる。

 

 

「そういえば蓮夜さんって、普段何処で寝泊まりしてるんデスかね?こっちに身寄りはないって言ってたデスけど……」

 

 

「うーん……多分安い所の宿を使ってるか、ネットカフェ……もしかして、野宿……?」

 

 

「……何か急に不安になってきたな……アイツ、イレイザーをどうにかする前に自分が先に野垂れ死んだりとかしないだろうなっ?」

 

 

「そ、それは流石にっ……」

 

 

ない、と言い切りたい所だが、如何せん彼の私生活を知らないが為に響も断言が出来ず言い淀んでしまい、また別の意味で一同が蓮夜への不安と心配を覚える中、其処へ……

 

 

「──皆さぁーん!ちょっと待って下さい!」

 

 

「……え?」

 

 

発令所の方から、何やら慌ただしい様子でエルフナインがやって来た。不意に呼び止められた響達が足を止めて振り返ると、一同に追い付いたエルフナインは胸を抑えて呼吸を整えていく。

 

 

「良かった、皆さんが帰る前に間に合ってっ……」

 

 

「エルフナインちゃん?」

 

 

「どうしたんデスか、そんなに慌てて?」

 

 

一体何事?、とエルフナインのただならぬ様子に響達が頭上に疑問符を浮かべると、呼吸を整え幾許か落ち着きを取り戻したエルフナインは手に持っていたタブレットの画面を響達に見せていく。

 

 

「実は、今さっきS.O.N.G.宛に匿名でメールが届いたんですっ。文脈から推測するに、恐らく例のマスクドライダー……黒月蓮夜さんからの」

 

 

「え?」

 

 

「蓮夜さんから?!」

 

 

噂をすれば何とやら。一同が話題にしていた件の蓮夜からのメールが届いたと聞かされた響達は目を剥いて驚きを露わにし、エルフナインの下に集まってタブレットの画面を覗き込んでいく。其処には……

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

「──蓮夜さんからの協力の依頼?」

 

 

立花響と小日向未来がルームシェアする学生寮の一室。

 

 

本部から戻った響は、彼女の帰りを待っていた未来に早速エルフナインに見せてもらった蓮夜からのメールの内容を知らせ、それを聞いて怪訝な口調で返す未来に対し響は何処か浮かれた様子で頷き返した。

 

 

「そっ。『前回に続いてまたイレイザーが街を襲ったのは自分のせいだから、その責任を取りたい』って、イレイザーを探す為にS.O.N.G.の力を借りたいって要請が来たんだって。……まぁ、表立って一緒に動くのはお互いに危険だから、情報でのやり取りが主になるのは変わらないんだけど……」

 

 

「そうなんだ……あれ?でも蓮夜さん、S.O.N.G.に連絡する方法って知ってたの?」

 

 

「あ、うん。それもさっきエルフナインちゃんから聞いたんだけど、実は昼間に私達と話して別れた後、師匠の指示でお店の近くで見張りをしてた調査部の人から情報交換の為の連絡手段を渡してたんだって」

 

 

「……流石……相変わらず抜け目ないね……」

 

 

しっかり蓮夜と連絡が出来るように密かに手を回していた弦十郎達の手際の良さに感心を覚える未来。それに対し響も苦笑いを浮かべて頷くと、彼女が容れてくれたココアのカップを両手で包みながら話を続けていく。

 

 

「でも、これでちょっとは蓮夜さんと手を取り合える未来に一歩近づけたのかなって。そう考えたら、いつか一緒に戦えるようになれるのも夢じゃないのかな……」

 

 

誰かを守る為に戦う者同士、きっと手を取り合って分かり合えると思っていた自分の考えは甘かったのか?一度はそう考えてしまう事もあったが、こうして蓮夜が自ら協力を申し出てくれたのは、もしかしたら今日の戦いで彼の心を動かすきっかけとなる何かを示す事が出来たからなのか……。

 

 

確かな理由は分からないが、それでもコレが自分が望んだ未来に一歩近付ける前進になるかもしれないと前向きに捉える響の横顔を見つめ、未来は瞳を伏せながら穏やかに微笑んだ。

 

 

「そうかもね……私も、響達と蓮夜さんがそうなれるように応援してる。だから響も、この機会をちゃんと次に繋げられるように頑張らないと、ね?」

 

 

「うん、未来が応援してくれるなら百人力だよ~!」

 

 

やっぱり未来は私の陽だまりだと、自分の背中を後押ししてくれる彼女に元気良く抱き着く響に、未来もハイハイと受け流しつつも満更でもない様子で微笑む。

 

 

そしてその後、二人は夕食を終えて明日の学校の準備を済ませた後、共に寝台に就き、響は隣で眠る未来の顔を見て笑みを浮かべながら見慣れた天井を見つめていく。

 

 

(未来も応援してくれるって言ってくれてるんだ……何時までも悩んでいるより、未来が言ってたようにこのチャンスを次に繋げられるように頑張らないと……)

 

 

親友が背中を押してくれてるのだから、何時までも気落ちしている訳にはいかないと気持ちを改め、決意を新たに響は目を伏せて眠りに付いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

──直後に自身と未来の間に走った、ノイズのような謎の現象に気付かぬまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「……ん……んん……」

 

 

──翌日の朝。カーテンの隙間から射し込む陽の光に当てられ、響は僅かに眩しそうに顔を歪めながらも徐に目を開き、若干気だるげにベッドから上半身を起こしていく。

 

 

「んー……よく寝たぁ~……未来~、起きてるぅー……?」

 

 

腕を上に大きく伸びをし、隣に眠る未来に目を向けて声を掛ける響。だが……

 

 

「……あれ、未来……?」

 

 

呼び掛ける声に応える返事はなく、響が目を落とした隣には、いつの間にか未来の姿はなくなっていた。

 

 

頭上に疑問符を浮かべて辺りを見回し、もしや自分が寝てる間に二段ベッドの下の方に移ったのかと思い下のベッドを覗き込んでみても、其処にも誰もおらず空っぽだった。

 

 

「あれぇー……?未来ー?」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「──おっかしいなぁー……今日は一緒に登校しようって言ってたのに……」

 

 

響達が通うリディアンに向かう朝の通学路。他の生徒達が学院に向かう姿がチラホラ見られる中、彼女達に混じって一人学校に向かう響は訝しげに首を捻っていた。

 

 

あの後、もしや先に起きてるのではないかと思い部屋中を隈無く探し回ってみたものの、未来の姿は何処にも無く、彼女の通学用のカバンも部屋にはなかった。

 

 

だとすれば、やはり先に部屋を出て学校に向かったのかと思われるが……

 

 

(何か予定があったのかな?日直とか……いや、でも今日は未来の当番じゃないし……あれ?)

 

 

未来が先に出ていった理由を考えて響が頭を悩ませる中、その時、前を歩く登校中の生徒達の中に見覚えのある後ろ姿を見付け、足の爪先を立てて背伸びをし人混みの向こうを覗き見る。其処には……

 

 

「──あっははっ。えー、ほんとに~?」

 

 

「あ……未来っ!」

 

 

そう、響が見付けたのは、人混みの向こうに他の生徒達と楽しげに会話をしながら歩く女子生徒……朝には部屋に姿のなかった未来だったのだ。

 

 

彼女の姿を見付けた響はぱあっと明るい笑顔を浮かべると共に一目散に走り出し、生徒達の間をすり抜け未来の下へと駆け寄っていく。

 

 

「未来ー!おーい、待ってよ未来ー!!」

 

 

「……え?」

 

 

大声で呼び止められ、一緒に登校していたらしき他の女子生徒達と共に足を止めて振り返る未来に追い付き、響は手を膝に付き呼吸を整えながら口を開く。

 

 

「もぉー、酷いよ未来っー。何も言わずに先に行っちゃうなんてさっー。一緒に学校に行こうって約束してたでしょっ?」

 

 

「…………」

 

 

「先に出るならせめて一声くらい掛けてくれても…………?未来?」

 

 

一緒に登校すると約束してた筈だったのに、置いてかれてしまった事に対し愚痴をこぼす響だが、目の前に立つ未来の様子が何処か可笑しい。

 

 

何故か戸惑いを露わにした瞳で響を見つめ、周りの生徒達と何度も顔を見合わせている。

 

 

そんな彼女の様子を見て響も訝しげに眉を顰める中、未来は響に目を向けて恐る恐る口を開き、

 

 

「えっ、と……ごめんなさい……確か、"立花さん"だよね?何の話をしてるのかさっぱり分からないんだけど……私に、何か用事?」

 

 

「…………え…………?」

 

 

……まるで赤の他人に向けるようなよそよそしい眼差しと共に、困惑を露わにした表情でそう口にした親友である筈の彼女の思わぬ言葉に響は目を剥いて絶句し、呆然と立ち尽くしてしまうのであった──。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「──!何だ……?」

 

 

同時刻。クレープ屋のバイトで店で作業を行っていた蓮夜は、クレープに使う材料の準備中に何かを感じ取ったかのように顔を上げ、怪訝な表情で周りを見回していた。

 

 

(今の、感覚は……まさか……?)

 

 

突然感知した不可解な感覚と、それに呼応するかのように胸でざわつく嫌な予感。

 

 

理由は分からないが、此処で無視すれば『取り返しのつかない何かに繋がる』という確かな確信が胸中を過ぎり、蓮夜は僅かに思考する素振りを見せた後、何かを決意した表情で顔を上げながらエプロンを外し、店長の下へと急いで走り出していくのだった。

 

 

 

 

 

 

第二章/邂逅×存在を赦されない存在 E■■

 

 

 

 

 

 

 

 

『ERROR.』

 

 

『LOADING....』

 

 

 

 

 

 

 

 

第二章/かⅲ逅×存在を♯¥$@

 

 

 

 

 

 

 

 

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だ▲二§/*@こ☆?ẅ♪♭※Σゝ●⊿

 

 

 

 

 

 

 

 

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『ERROR.』

 

 

『ERROR.』

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■/■■×■■■■■■■■■■ END

 

 

 

 

 



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登場人物&設定一覧(随時更新予定)

 

黒月蓮夜

 

性別:男

 

年齢:18(自己申告)

 

容姿:黒の長髪に切れ長の真紫の瞳。

 

 

解説:仮面ライダークロスに変身する記憶喪失の青年。

 

 

立花響達が暮らすシンフォギアの世界とはまた別の世界の住人であり、記憶を失う前は響達の世界に現れたイレイザーを追って来たのだと思われるが、何らかの理由でそれまでの記憶を全て失ってしまっている。

 

 

性格は一見物静かで何処となく冷たそうに見えるが、実際は記憶喪失の影響で感情表現が乏しいだけであり、わりと素直で他人想い。しかし偶にズレた発言や行動をしたりと何処か天然な面も。

 

 

異なる世界から訪れた為、響達の世界では行く宛もなく家無し金無しのホームレスのような生活を送っているが、今は所持金が底を尽いて行き倒れた所を救ってくれたクレープ屋の店長のご好意により、アルバイトとして雇わせてもらっている。

 

 

記憶を失ってから唯一残った『イレイザーを止めなければならない』という使命感、そして自分のような大切な何かを失う人間をこれ以上増やしたくないという一心から手元に残されたベルトとカードを使い、仮面ライダークロスとして人知れず都市伝説の怪物と戦い続けている。

 

 

 

 

仮面ライダークロス

 

 

解説:黒月蓮夜が変身ベルト、クロスベルトと変身カードを用いる事で変身する蒼と黒がメインカラーの仮面ライダーだが、その力の正体や出自は不明。

 

 

全ライダーの中でも平均的な強さを持ち、オールマイティに戦う事が出来る。

 

 

外見は黒のラインが入った丸みを帯びた蒼いボディとファイズに近い蒼のラインが入ったレッグ、カブトとアクセルトライアルを足して二で割ったような仮面と赤い複眼を持ち、ボディの様々な箇所にはXの意匠が用いられてる。

 

 

 

クロスベルト

 

 

解説:記憶を失って倒れていた蓮夜が意識を取り戻した際に手にしていた、クロスに変身する為の蒼いベルト。

 

 

ゼロノスベルトとマッハドライバー炎を足して二で割ったような外見をしており、変身時や必殺技発動時にもマッハドライバー炎と同様のギミックでバックル右部分を上げてカードを装填する為のスロットを露出させ、カードを装填した後にスロットを押し戻す事でその効果を発揮する事が出来る。

 

 

 

初期フォーム一覧

 

 

 

タイプスタンダード

 

 

解説:クロスの基本形態。手足に伸びたラインに光を通して瞬間的に身体能力を増加させる事が可能であり、パンチ力やキック力、跳躍力を一時的に強化する事も出来る。

 

 

必殺技は右足に収束させた蒼のエネルギーポインターを敵に放って捕縛し、全身を蒼い閃光へと変化させて捕えた敵にライダーキックを放つ『ライダーブレイク』

 

 

 

 

タイプスラッシュ

 

 

解説:近接戦闘と機動力に特化したフォーム。外見はシャープなラインが特徴の朱い鎧と緑の複眼、武器は金色のラインが走った双剣、『スパークスラッシュ』を用いて戦う。

 

 

必殺技は高速移動で生み出した分身で相手の目を欺きながらスパークスラッシュで連続で斬り裂き、トドメに渾身の刃を叩き込む『ライトニングスレイド』と、分身したスパークスラッシュの刃を相手に向けて雨の如く降り注がせる『スラッシュレイン』

 

 

 

 

タイプブラスター

 

 

解説:火力とパワー、防御力に特化したクロスの遠距離射撃形態。外見は青く角張った分厚い装甲と黄色い複眼が特徴であり、通常弾と砲撃を使い分ける事が出来る青白い銃剣、ウェーブブラスターを用いた射撃を得意とする。

 

 

必殺技は通常形態時に用いる一秒間に385発撃ち込む『ストライク・ブラスト』と、砲撃形態時に用いる収束したエネルギー弾、或いは砲撃を発射する『レイジング・ブラスト』

 

 

 

 

イレイザー

 

 

解説:物語から何かしらの理由、罪を問われて存在を許されなくなった者の成れ果て。

 

 

物語を追われた事で世界のルールに縛られないという性質を持っており、響達の操るシンフォギアは勿論、その他の世界の武器や能力でも傷付ける事が出来ない。

 

 

また、個体差はあれど物語を改竄する能力を持っており、人間の記憶や性格、歴史そのものを弄って全く別の物語に変えてしまう恐ろしい能力を持つ。

 

 

ただし、本来の物語の流れでそうなる筈がない登場人物の生死や物語の根底を揺るがすなどあまりに分かりやすい改竄は"世界"に探知されやすくなり、見付かれば為す術なく再び追放されるか、最悪その場で存在ごと消される可能性がある為、無茶な改竄を行う事は多くない。

 

 

唯一の例外としてクロスのベルトを持つ蓮夜は改竄の影響を受けずにイレイザーを倒す事が出来るが、その関連性は不明。

 

 

イレイザーの中にもクラスが存在しており、動物の姿を形取るイレイザーは下級、其処から更に進化し異なる姿へと変貌した者を上級と位置付けされているが、本作にて登場する純粋なイレイザーは上級に位置する三人だけとなっている。

 

 

 

 

デュレン

 

 

解説:上級イレイザーの三人グループのリーダー格である男。

 

 

外見は黒い髪をオールバックに纏め、インテリアの眼鏡を掛けて黒いスーツを着込んでいるが、人間の温かみを感じさせない冷徹さから仲間の一人であるアスカからもあまり信用されていない。

 

 

シンフォギアの世界で暗躍を進める首謀者であり、仲間の二人と共に新たなイレイザーの進化を探りつつ、自分達の手駒となる存在を求めている。

 

 

また、記憶を失う前の蓮夜と何かしら関わりがあるらしい。

 

 

 

 

アスカ

 

 

解説:上級イレイザーの一人である、赤いジャンパーを羽織った金髪のツンツン頭が特徴の男。

 

 

ヤンキーのような見た目通り口調は乱暴だが、計画の始動前に始末したと思われた蓮夜の生存に誰よりも焦りを浮かべたりなど、見掛けに寄らず慎重派な模様。

 

 

 

イグニスイレイザー

 

 

アスカが変身する神話型と呼ばれる上級イレイザー。

 

 

仮面ライダーウィザードの敵幹部であるフェニックスに酷似した紅の身体とパイルバンカーのような杭が肘の部分から突き出た巨大な右腕を持ち、ビルすら一撃で倒壊させる程の強靱なパワーとクロスの必殺技すら弾く絶対的な防御力を誇る。

 

 

 

クレン

 

 

解説:上級イレイザーの一人である、青の革ジャンを着込んだ青い髪が特徴の青年。

 

 

飄々とした性格から掴み所のなく、普段は気怠そうにしているが、その裏では人知れず計画を進めていたりと抜け目がなく、デュレンに続いて底が見えない。

 

 

 

 

ノイズイーター

 

 

解説:数週間前から街で噂される『血のように赤い眼を持つ怪物』の都市伝説と、実際の事件の証言からS.O.N.G.が呼称する赤眼のイレイザー。

 

 

その正体はデュレン達がシンフォギアの世界の人間を人工的にイレイザーに変質させ、その上でノイズを喰らわせて短期間で力を付けさせようと試みるイレイザーの亜種。

 

 

ノイズを喰らえば喰らった分だけ力を増していき、その影響で瞳の色も禍々しい赤色に変質するようだが、ノイズを喰らい過ぎれば徐々に理性も失われて暴走する危険性が高まる模様(アスカ曰く、暴走すれば捨て駒にしか使い道がないらしい

 

 

しかし、戦いの中で追い詰められ感情を昂らせた際に謎の急激なパワーアップを果たしたりなど、その力の全貌は未だ謎が多い。

 

 

 

 

 



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第三章/改竄×断ち切られた繋がり

 

―リディアン音楽院―

 

 

私立リディアン音楽院高等科。響たち装者が普段通う学校であり、その名の通り音楽教育を中心としたカリキュラムで、私立芸術系ながら学費は安いらしい。

 

 

元々はシンフォギア装者の選出、ならびに音楽と生体から得られる様々な実験データの計測も秘密裏に行なっていた施設だったが、後にそれらの機能は停止されて今は普通の学園として運営されており、ノイズを始めとする数々の熾烈な戦いに身を投じる響達にとって、この学園に通う事は平穏な日常を噛み締められる大切な場所の一つでもある。

 

 

 

 

──その筈だった……

 

 

 

 

「……待ってっ、ねぇ待ってよっ!クリスちゃんってばっ!!」

 

 

「だあああーっ!!いい加減しつけーぞお前っ?!つーか気安く名前呼ぶなって言ってんだろっ!!」

 

 

早歩きでそんな怒号を上げながら学園の廊下を歩くのは、何やら迷惑そうに険しい顔を浮かべるクリスだ。ズンズンと何かを振り切ろうと歩くスピードを速めてチラッと振り返る先には、そんなクリスを何処か必死な形相で追い掛け回す響の姿があり、響はどうにかクリスに追い付いて彼女の手を後ろから掴んだ。

 

 

「なっ……!こんのっ、離せってっ!」

 

 

「良いから私の話聞いてっ!皆の様子が可笑しいんだよっ!未来も、調ちゃんも切歌ちゃんもっ……!友達も皆、私の事を覚えてないのっ!コレって絶対に可笑しい──!」

 

 

「可笑しいのはおめーだろっ?!ってかそもそも、お前一体誰なんだよっ?!」

 

 

「……っ?!」

 

 

混乱した様子で泣き縋るかのようにクリスの手を掴むも、知らない赤の他人に向けるかのような目付きで睨みながらハッキリとそう告げたクリスの言葉に響は絶句し、徐に彼女から手を離しながら後退りしてしまう。

 

 

「も、もしかして……クリスちゃんも、私のこと……?」

 

 

「ああっ……?だから何の話だよさっきからっ?遠慮無しに人の腕取りやがってっ……大体何なんだよお前?お前にあたしの名前なんか名乗った覚えねーぞ?」

 

 

「……っ……!」

 

 

いってぇなーと、思いのほか響が掴む手の力が強過ぎたのか手首を摩りながら不審げな眼差しを向けるクリスからの質問に対し、響は動揺を露わにした瞳を震わせて後退りすると、そのまま背を向けて逃げるようにその場から走り出した。

 

 

「あ、おいコラっ?!待てよオイっ!逃げんなっ!」

 

 

(ッ……どうして……一体何が、どうなって……?!)

 

 

後ろから呼び止めるクリスの声に応じる余裕もなく、治まらない動揺を抱えたまま響はすれ違う生徒達にぶつかりそうになるのも目もくれず踊り場の階段を駆け下りていき、自分のクラスがある階に降りて漸く足を止め、トボトボと意気消沈した足取りで自分のクラスに戻り扉を開けていく。

 

 

「それでねー?……あ」

 

 

「…………」

 

 

響が扉を開けてクラスの中に足を踏み入れた瞬間、今し方まで賑わっていた筈のクラス急に静かになり、冷ややかな空気が流れる。クラスメイトの全員が全員、響を一瞥した後に気まずげに目を逸らしたり、あからさまに関わり合いたくないが為に席を立ってクラスから退出したりなど、明らかに響という存在を疎んじて避けているのが手に取れて分かった。

 

 

(この感じ、空気……あの時と……同じだ……)

 

 

その光景に、空気に響は嫌というほど身に覚えがあった。

 

 

それは数年前、彼女と同じシンフォギア装者である風鳴翼と当時のガングニールの装者だった"天羽 奏"の二人が組むツインボーカルユニット、『ツヴァイウィング』のライブ会場に観客として居合わせた時、会場に突如現れたノイズと、それを迎え討つ装者との戦闘に巻き込まれ、生死をさ迷う大怪我を負った事がきっかけだった。

 

 

あの時はどうにか一命を取り留めたものの、事件でただ一人が生き残ったことで死者の遺族から生じた妬みが社会現象となり、居宅の物的被害に及ぶほどの迫害や、響本人は学校内でのいじめを受ける事になった。

 

 

結果、そのせいで家族はバラバラになり、自身も辛い思いをずっとしてきた。

 

 

それでも、奏が遺してくれた「生きることを諦めない」という言葉を糧にそんな苦難を乗り越え、リディアンに入学して多くの仲間を作り、家族の絆も取り戻してあの過去を乗り越えた筈だったのだ。なのに……

 

 

「……未来、あのさ」

 

 

「……あ」

 

 

ふらふらと、何処か覚束無い足取りで席に着く未来の下に歩み寄る響だが、いつも陽だまりのような笑顔を浮かべて自分を受け入れてくれる彼女の姿は其処にはなく、未来は他の生徒達と同様に気まずげに視線を泳がせて響と目を合わそうとせず、教室の外から慌てて手招きする別の友達を視界の端に捉えて席から立ち上がる。

 

 

「ご、ごめんね立花さんっ。私、用事があるから……それじゃ……!」

 

 

「み、未来っ……!」

 

 

そう言って未来は逃げるように響の横を通り過ぎ、教室の外で待つ友達と一緒に何処かへ行ってしまう。その背中を止めようと一瞬手を伸ばし掛けるが、先程のクリスのように未来に拒否される事を恐れて中空で手を止めてしまい、やがて腕を下ろした響は力無く俯き、自分の席に座り込んで腕の中に顔を埋めてしまう。

 

 

(……どう、して……未来も、クリスちゃん達も、皆もっ……何で急にこんな事にっ……)

 

 

つい昨日まで一緒に笑い合っていた筈の親友、仲間や友達が前触れもなく自分の事を避け出したり、自分の名前や顔を忘れるなど有り得るハズがない。

 

 

きっと何か理由がある筈だと、この事態に至った原因が何なのかを必死に思考して洗い出そうとするが……

 

 

(……あれ……なんで……思い、出せない……?ううん、そんな筈ない……!こうなった原因を私は知ってる、聞いてるハズ!……でも、誰に……?)

 

 

そうだ、自分は確かに知っている筈なのだ。

 

 

未来達があんな風に変わってしまったと思われる原因を、その元凶を、ある人から教えられて。

 

 

……だのに、どんなに思い出そうとしてもまるで『靄』が掛かったかのようにそれらの記憶を何故か思い出す事が出来ない。

 

 

知っている筈なのに思い出せない、そのもどかしさにも似た気持ち悪さに辛そうに頭を抱え、響は唇を噛み締めてしまう。

 

 

(駄目だ……何も思い出せないっ……どうしてっ?一体、私に何が起きてるのっ……?)

 

 

未来やクリス達は自分の事を覚えておらず、自分の記憶も霧が掛かっているかのように肝心な事を思い出せないなど、明らかに普通じゃない状況に響も沈痛の表情を浮かべてしまうが、その時ふと、何かを思い付いたように勢いよく席から立ち上がった。

 

 

(そうだ……本部に行けば、師匠やエルフナインちゃん達が何か知ってるかも……!)

 

 

きっと弦十郎達ならこの異変に気付いて何か掴めているかもしれない。そう信じて思い立った響は鞄を手に取ると、S.O.N.G.の本部に向かう為に教室を飛び出していった。

 

 

「──へぇ……まだ元の記憶が残ってたんだぁ、あの子」

 

 

──その様子を学園の外から見つめる怪しい影……校門から出てきた響を見て面白そうに笑い、踵を返してそのまま何処かへと転移するように姿を消した青髪の青年の存在に気付かずに。

 

 

 

 

 



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第三章/改竄×断ち切られた繋がり①

 

 

「──そうか、やはり先日の戦闘で現れたアルカ・ノイズの出処は未だ分からず終いか……」

 

 

「はい。現段階での調査の結果では、恐らく錬金術師が何かしらの目的でばら蒔いた可能性が高いと思われますが……それにしたって、何故何もない街中に何の前触れもなく……」

 

 

S.O.N.G.の本部である潜水艦が停る埠頭の敷地内。艦の停泊中は表向きではダミーカンパニーの名前で港を使用しており、その間に多数の整備員やスタッフが潜水艦の補給と整備の為に今も忙しなく動き回っている。

 

 

そんな中、敷地内を共に歩く弦十郎とエルフナインは艦に向かう道すがら、先日の戦闘で起こったバットイレイザーの事件……否、"アルカ・ノイズの出現"について話し合いを行っており、エルフナインの見解を一通り聞いた弦十郎は「ふむ……」と顎に手を添え何やら考え込んだ後、エルフナインの顔を見つめ小さく頷いた。

 

 

「何れにせよ、アルカ・ノイズを発生させた犯人の正体と目的が読めない以上、まだ気を抜く訳にはいかなそうだ。警戒態勢を怠らず何が起きてもいいように備えておかなくてはな」

 

 

「そうですね。僕も調査報告書を見直して、気になる点が他にないか洗い出しておきます。クリスさん達にも朝方に連絡して本部に集まってもらえるようにお願いしていますから、其処で今後の事も──」

 

 

「──違うんですっ!お願いだから話を聞いて下さいっ!」

 

 

「だから、関係者以外の立ち入りは許可出来ないんですって!」

 

 

「……うん?」

 

 

アルカ・ノイズの謎の発生と今後の対策について弦十郎達が話し合いを進める中、遠くから何やら揉める声が聞こえ振り向く。すると其処には、出入り口のゲートにてリディアンの制服を着た女子生徒が二人の警備員に取り押さえられる姿があり、騒ぎが気になった弦十郎は警備員達の下に近付いていく。

 

 

「どうした、何かあったのか?」

 

 

「あ、司令……!実はこの娘が無断で敷地内に侵入しようとしてたので引き止めようとしたのですが、強引に中へ入ろうとして……」

 

 

「ッ……!師匠っ!」

 

 

「……?師匠?」

 

 

「司令?何かありましたか?」

 

 

警備員達に取り押さえられる女子生徒……響が弦十郎の顔を見て安堵の吐息を吐くも、弦十郎は彼女が口にした師匠という呼び方に訝しげに小首を傾げてしまい、更に其処へ弦十郎を追ってきたエルフナインを見て響の表情が柔らかくなる。

 

 

「エルフナインちゃんも!良かったっ、二人が来てくれて……!」

 

 

「え?どうして僕の名前を?」

 

 

「その制服はリディアンの……という事は、もしやクリス君達の友人か何かか?」

 

 

「え……ま、まさか、二人まで私の事をっ……?」

 

 

学校でのクリス達と同様、自分の顔を見て初対面の人間に出会ったような反応を見せる弦十郎とエルフナインを見てショックを隠せない響だが、其処でハッと何かを思い出したように自分の首元に手を伸した。

 

 

「そうだ……!コレ!私の事を覚えてなくても、コレさえ見てくれれば……え……?」

 

 

そう言って、響は首に掛けたギアのペンダントを弦十郎達に見せようとするが……伸ばした手は何故か空を切り、思わず首元に目を向けると、其処には朝に忘れず身に付けていた筈のギアのペンダントがいつの間にか何処かへと消えてしまっていたのだ。

 

 

「な、何でっ?!私、ちゃんとガ……ガ、ン……あ、あれっ……?」

 

 

驚愕と共に制服のポケットも慌てて漁り、ペンダントを探しながら自分のギアの名を弦十郎達に告げようとするも、何故かその名前を思い出す事が出来ない。

 

 

……いや、それどころかそのペンダントが一体何だったか、そもそもそれが何の為のモノだったか……。

 

 

今の今まで覚えていた筈の事が突然思い出せなくなり、響は戸惑いを露わに更に混乱してしまうが、弦十郎達はそんな響の様子を見ても意味が分からないと頭上に疑問符を浮かべるばかりだった。

 

 

「よく分からんが……此処は関係ない人間が立ち入るには些か危険な場所だ。それに君、その制服を着ているという事はリディアンの生徒だろう?この時間帯ならそろそろ授業が始まってる頃だが、学校はどうしたんだ?サボリはいかんぞぉ、サボリは」

 

 

「いや司令っ、それより一般人がこの場所へ立ち入った事を問題視すべきでは……」

 

 

「なに、別に不味いモノを見られたって訳でもないんだ。俺達がこの場で注意して、この娘が外で口外しなければさほど問題にはならんだろう。そういう訳だから女子生徒君、敷地内に勝手に入った事は俺達も大目に見るから、君も此処での事は無闇に人に話さないでいてくれると助かるんだが……」

 

 

「…………」

 

 

勝手に侵入した件を目を瞑る代わりに此処での事を他言無用にして欲しいと穏便に頼む弦十郎だが、そんな弦十郎の言葉が聞こえている様子もなく響は表情を隠すように前髪で顔を隠して俯いており、ただ無言のままゆっくりと頭を下げていく。

 

 

「すみません、でした……私の勘違いだったみたいです……それじゃ……」

 

 

「お、おい」

 

 

そう言いながら踵を返し、響はまるで幽霊のように覚束無い足取りで来た道を引き返していく。その様子を見て流石に心配になり思わず引き止めようとする弦十郎の声も聞こえていないのか、響は一度も振り返る事なくその場を後にしていき、そんな響の背中を見送りながら弦十郎も何処か腑に落ちない様子で頭を搔いてしまうのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「……つまり、立花響に関する物語を書き換えた、と?」

 

 

とある市内に存在するバーの席。酒気の仄かな匂いが店内に漂う中、店のカウンター席でグラスに入った酒を傾けながらデュレンがアスカに投げ掛けたのは、今の響の身に起きている現状……彼女自身やその周囲の人間の記憶が改変されている件についてであり、それに対しアスカもグラスの酒を揺らしながら淡々と答えていく。

 

 

「アイツはクロスの周りをうろちょろしてやがったからな、あのまま奴に付いて回られてたらマジで装者達と手を組み兼ねない……そうなる前に手を打っておいたのさ」

 

 

「……成る程……だが立花響はこの物語における主人公だ。そんな重要なキーパーソンに手を出すのなら、一言相談を寄越せ……今のところ問題はないようだが、貴様が下手な手を打っていればどうなっていた事か……」

 

 

「わーってるよっ、だから念の為に保険も用意して今回の改竄に及んだって何度も言ってんだろっ。毎度毎度小言が多いんだよ、お前はっ」

 

 

釘を刺すように横目で睨み付けてくるデュレンに対し鬱陶しげに手を振り、アスカは酒が入ったグラスを一気に飲み干していく。そしてデュレンもそんなアスカを見て軽く鼻を鳴らしながら自身も酒を口にしていくと、二人の背後から青髪の青年が現れて飄々とした笑みで声を掛けた。

 

 

「あーらら、真っ昼間から酒浸りなんて悪いなぁ。酒臭い男はモテないよー?」

 

 

「クレンか……」

 

 

「うーるせーよっ。こっちは一働きしてきた後なんだ、ちっとの酒ぐらい味わわせろっ」

 

 

「カリカリしてるねぇ。ま、君とデュレンが二人で飲んでて場の空気が和む訳もないか」

 

 

ケラケラと笑いながらそんなアスカの隣の席に徐に座り、青髪の青年……クレンはバーテンダーに軽い飲み物を注文すると、デュレンがグラスを置きながらクレンに向けて口を開く。

 

 

「それで、立花響の今の様子はどうなっている?」

 

 

「ちゃんと改竄の影響はあるようだよ。彼女の周りの人間と、立花響との関係性は完全にリセットされている。ただ、彼女自身はまだ改竄前の記憶が残ってるようだ……やっぱり僕達の知らない所で彼と交流があったのか、改竄の進行は他よりもだいぶ遅れているみたいだね」

 

 

「そら見ろよ、あのままあのガキを放置してたら奴以外にも厄介な敵が増えてたって事だろう?早い内に対処してて正解だった訳だ」

 

 

「俺が問題視してるのは貴様の独断行動についてだ。幾ら結果がマシだろうと、その過程で足が付けば今までの蓄積とこれからの動向すら無意味になり兼ねないと何度も……」

 

 

「あーっ、もういい分かったってっ!俺が悪うござんしたよっ!」

 

 

再び始まろうとしたデュレンの小言を遮るようにわざとらしく声を大きめにそう叫ぶと、アスカはグラスを置いて席から立ち上がり店の入り口に向けて歩き出していく。

 

 

「ったく……ただまぁ、此処まで分かりやすい異変は奴も既に勘付いてる筈だ……そろそろ次の手の準備を始めとくとするか」

 

 

「働き者だねぇ。まあ今回は君が主導の改竄だし、僕達は適当に酒のつまみにでもさせて楽しませてもらうよ」

 

 

「チッ、自分は無関係だからって余裕かましやがって……ところでデュレン。もし仮に奴と戦う事になったら、別にやっちまっても構わねぇんだよなぁ?」

 

 

「……貴様の勝手にすればいい。わざわざ俺の許しを得る必要もないだろう」

 

 

「そーかよ……なら後から文句つけて来ても俺は知らねぇからな」

 

 

今の内に忠告しなかった事を咎めるなよと、アスカはそのまま二人に背を向けて店を出ていく。そしてそんなアスカを見送ったクレンは注文して出てきた飲み物のグラスを手に取ると、デュレンを横目に口を開いていく。

 

 

「いいのかい?彼は現状で唯一イレイザーを追い詰められる相手だ。前回僕が教えた、ノイズ喰らいのイレイザーの進化の条件が君の予想通りだとしたら……」

 

 

「……確かに奴を利用する手もあるが、それは同時に俺達の計画が破綻する危険性をも抱えねばならない事になる。わざわざそんなリスクのある手段に拘るよりも、もっと手堅い方法で研究を進める方がより効率的だろう」

 

 

そう言いながらデュレンは脇に置いてあるタブレットを手にし、画面に触れる。直後、タブレットの画面にノイズが走って幾つかの映像が表示されていくのを見て、デュレンは僅かに目を細めていく。

 

 

「この戦姫達の物語に拘らずとも、研究と実験を進めるだけなら他の物語でもこなせる……それまで奴らには、この物語の中で好きなだけ英雄気分を堪能させておけばいい……」

 

 

 

 

 



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第三章/改竄×断ち切られた繋がり②

 

―噴水公園―

 

 

──視界が繰り返し何度も点滅し、まともに前が見えない。

 

 

頭に鈍い痛みが走り、自分の中身が少しずつ違う『何か』に塗り替えられていくのが分かる。

 

 

「ぅっ……くっ……頭、がっ……」

 

 

覚束無い足取りで弦十郎達と別れて宛もなく街をさ迷い、響がその足で辿り着いたのは学校帰りに仲間達と共に良く買い食いなどして寄り道に使っていた公園だった。

 

 

ふらふらと見るからに危うい足取りで公園内を歩き、すれ違う人々も気になって思わず目線で追ってしまっているのにも気付かず、公園の噴水の近くまでやって来た響は足を止めると、近くのベンチに力なく座り込んでしまう。

 

 

(ッ……ダメだ……やっぱり、どんどん記憶が薄れ始めてるんだ……私ももう、さっきの人達の顔がっ……)

 

 

頭を抑えながらつい先程までの記憶を思い返そうとするも、別れてそう時間が経っていない筈の弦十郎達の顔でさえもう思い出す事が出来ない。

 

 

恐らくこれも、自分がある人から聞いた元凶の仕業である事だけはまだ覚えてる。

 

 

しかし、いずれこの記憶すらも忘却し、時が訪れれば自分も為す術もなく未来達のように別人に変わってしまうのだろうか。そうなれば、未来達を元に戻す事も……

 

 

(……それだけは、ダメだっ……でも、記憶を無くしてる今の皆を頼る事は出来ない……何とか、私だけでもこの異変を止めて……でも、どうやって……?)

 

 

自分にはその力があった筈だ。誰かを守る為の力。自分の大切な約束を、大切な人達を守る為の力が。

 

 

……だが、胸元にあった筈のソレは今は何処にもなく、胸に手を伸ばしても掴むモノはなく空を切るだけだった。

 

 

(っ……今の私には、何も出来ないの……?未来達を助けて元に戻す事も、この異変を解決する事も……私だけじゃ……)

 

 

今まで自分を傍で支えていてくれた親友も、共に戦う仲間も、誰かを救う為に力を貸してくれていた輝きも今の自分は持たないと自覚した途端、響の心の内から薄暗い感情が溢れ出し、それに呼応するかのように頭に痛みが更に酷くなる。

 

 

「イッ、たっ……!ア、タマがっ……割れるっ……痛いっ……ァッ……!」

 

 

自分を嘲笑うかのように不快なノイズが脳裏を過ぎる。

 

 

自分の目に映る全てを塗り潰さんとばかりに、視界が点滅して砂嵐が走る。

 

 

それは忘却へのカウントダウンを意味するのか、それとも次の一瞬には何もかも忘れてしまう予兆なのか。

 

 

ただ分かるのは、今の自分には受け入れ難いその運命から逃れる術がない事だけ。

 

 

何も出来ず、ただ何者かの悪意に蝕まれる事を受け入れるしかない無力感と悔しさのあまり、響の目頭に熱いモノが込み上げて来る。

 

 

(いやだ……いやだっ……!!忘れたくないっ……!!忘れたくなんかないっ!!大切な親友をっ、大切な人達との記憶をっ……!!こんな簡単にっ……渡したくなんかないっ!!)

 

 

仲間達との思い出を、記憶を、繋がりを奪われたくなどない。たまるものか。

 

 

見えない何かに必死に抗うように強くそう想い、しかし、それで痛みが和らぐ事はない。

 

 

寧ろ抗えば抗う程にノイズの酷さが増していき、身に覚えのない"別の記憶と感情"が頭の中に流れ込んで来る。

 

 

──自分は孤独だ。心配してくれる人なんて誰もいない。

 

 

ノイズを憎め。奴らの存在が自分の全てを奪ったんだ。

 

 

繋がりなんて必要ない。そんなものを期待した所で、自分に手を伸ばしてくれる人間なんて……

 

 

(違う……違うっ!これは私の記憶じゃないっ!私の本心じゃないっ!私の中に入って来ないでぇっ!!)

 

 

まるで囁くように内から溢れ出てくる、薄暗い声なき声をこれ以上聞くまいと耳を塞いで頭を振り、必死に拒絶するあまり思わずベンチから立ち上がって逃げるように走り出してしまう。

 

 

だが急に立ち上がったせいで足が縺れてしまい、そのまま前のめりに倒れてしまいそうになる響を、真横から突然飛び出してきた誰かが寸前の所で抱き留めた。

 

 

「っ……大丈夫かっ……?」

 

 

「ぅっ……へ、へいきですっ……すみません……ありがとうございま──」

 

 

辛そうに顔を俯かせながらも、助けてくれた誰かに謝罪とお礼を口にして徐に身を離すと、その人物の顔を見上げたと共に、響は目を見開き息を呑んだ。

 

 

顔を上げて最初に視界に飛び込んできたのは、まるで宝石を彷彿とさせるような真紫の瞳。

 

 

額から汗を流し、何処か息が上がってるように肩を僅かに揺らす黒髪の青年の顔を見た瞬間、知らない筈なのに、何故か良く分からない強烈な既視感を感じた。

 

 

「あなた、は……確か……」

 

 

「…………」

 

 

思わず口から溢れたその言葉を聞き、青年……蓮夜は何かを察したように眉を潜め、一瞬哀しげに目を伏せる。しかしすぐに真顔に戻り、響の目をまっすぐ見据えながら重々しく口を開いた。

 

 

「ずっと探してたんだ、お前を……幾つか質問をする前に、一つだけ聞かせてくれ……お前は今、何処まで元の記憶が残ってる……?」

 

 

「え……」

 

 

傍から聞けば、突拍子のない発言にしか聞こえない蓮夜の問い掛け。だが、それが何を意味するか理解出来た響は思わず声を漏らし、気付けば、あれほど自分を苦しめていたノイズや薄暗い声はいつの間にか収まっていた。

 

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

「──黒月蓮夜、さん……?」

 

 

「ああ。昨日、お前やお前の仲間達と出逢った時にそう名乗って、戦場でも何度か成り行きで一緒に戦った事がある……覚えているか?」

 

 

「……すみません……何となくそんな事があったような気はするんですけど、その辺りの記憶も今は朧げで……」

 

 

「……そうか……もう其処まで奴らの改竄が及んで……いや、それでも記憶が残っているだけまだマシかもしれないな……」

 

 

その後、何とか落ち着きを取り戻した響は蓮夜とベンチに並んで座り、今の自分や未来達の身に起きている異常事態……イレイザーによる改竄や、彼女が忘れ掛けていたシンフォギアやS.O.N.G.、お互いが出逢ってからの経緯について話を聞かされていた。

 

 

元の記憶の名残りが残っていたおかげか、普通なら有り得ないと切って捨てられるような話をすんなり受け入れる事が出来た響だが、彼女の今の状態を聞かされた蓮夜は口元を手で覆いながら何やら熟考し、響はそんな蓮夜の横顔を見つめて恐る恐る問い掛ける。

 

 

「あの……それでつまり、私の記憶がどんどん薄れ始めて違うものに変わり出してるのも、未来達が可笑しくなってるのも、そのイレイザーっていう怪人の力のせい……って事なんですよね……?」

 

 

「……そうだ……俺もその異変を感じ取って色々調べてみたが、昨日のイレイザーとの戦いはアルカ・ノイズの発生という事にされていて、もっと以前の事件も別の内容にすり替わっていた……それでこの物語が改竄に晒されていると知ってお前達の様子を確かめに行ったら、リディアン……だったか?お前が通う学園の校門で生徒に話を聞いたら、お前が急に早退したと聞いてずっと探し回ってたんだ……急いでたあまり後ろ姿がよく似た女子生徒に声を掛けて、警官に職務質問をされたりと要らぬ時間を食ってしまったりはしたが……」

 

 

住居不定の身での職質は流石に焦ってしまったと、此処に辿り着くまでにあったトラブルを若干落ち込みながら語る蓮夜に思わず苦笑してしまう響だが、僅かに目を逸らして何か考える素振りを見せた後、何やら暗い表情を浮かべて俯いてしまう。

 

 

「でも今までの話を聞くと、私達がこうなってるのはイレイザーが私達の事を脅威と見なしたから、って事なんですよね……」

 

 

「……そうなるな……そして予想通り、奴らはお前達を潰す為に改竄を施し、ご丁寧に自分達に関する情報だけでなく俺とお前達の繋がりまで消した……恐らく大なり小なり、向こうも俺達の関係性に気付いていたのかもしれない」

 

 

「……だとしたら、やっぱり私のせいなのかな、それ……私が蓮夜さんの忠告をちゃんと聞かなかったから、私だけじゃなく未来達まで……」

 

 

「それは違う」

 

 

蓮夜が危惧した通り、自分だけでなく未来達にまで被害が及んでるのは自分が彼と協力する事に拘り過ぎたせいかもしれないと責任を感じる響に、蓮夜がハッキリと否定する。その思わぬ言葉に響が驚いて思わず蓮夜の顔を見ると、蓮夜は真剣な眼差しで響の目を見つめながら言葉を続けていく。

 

 

「俺もお前も、確かに奴らに対する警戒が足りていなかったかもしれないし、他に上手い方法があったかもしれないが、少なくともお前が協力を持ち掛けてくれた事は間違っていない。俺も昨日の戦いのように、奴らが未だに大勢の無関係な人間を巻き込む事を厭わないと分かった以上、その被害を少しでも抑える為にS.O.N.G.との協力は必然になると思ってた……だから昨日もお前達の司令である風鳴弦十郎とも情報を交わしながら、奴らに悟られないように水面下で少しずつ対策を講じていこうと話を進めてたんだ」

 

 

「……そうだったんだ……」

 

 

ならば尚のこと、自分が余計なお節介を焼く必要なんてなかったのではないか?

 

 

記憶を弄られている影響か、或いは親友や仲間達がああなってしまったショックを未だに引きずっているからか、何時もよりも消極的な思考から抜け出せない響の心情を察し、蓮夜はそんな響の横顔を見つめて僅かに考える素振りを見せると、両手の指を絡めるように握り合わせていく。

 

 

「そのきっかけを作ってくれたのは、お前だ……最初にお前が歩み寄ってくれたから、俺もそうするべきだと迷う事なく決断する事が出来たんだ……だから決して、一緒に戦って欲しいと言ってくれたお前を疎んじた事は一度もないし、そう言って手を差し伸べてくれた事にも、感謝してる……」

 

 

「……蓮夜さん」

 

 

「寧ろ、俺はお前達に謝らないといけない……この世界の住人であるお前達や、無関係な人間をこれ以上巻き込まないように努力すると口では言いながら、結局お前達の力も借りないと被害を最小限に抑える事も叶わず、今もお前や仲間達が改竄に晒されてるのに食い止められなかった……本当に、すまない……」

 

 

「そ、そんなっ!頭を上げて下さいっ!私はぜんぜん気にしてませんからっ……!」

 

 

自らの力の足らなさを謝罪し頭を下げる蓮夜に響も慌ててしまい、止めに入る。そして促されるまま申し訳なさそうに頭を上げる蓮夜の顔を暫し見つめた後、響は突然小さく噴き出し顔を背けてしまう。

 

 

「?どうかしたか……?」

 

 

「あははっ、いえ……私、てっきり蓮夜さんってもっと気難しい人なのかなって思ってたんですけど、何ていうか……案外素直っていうか、実は思ってたより純粋な人なのかなって思ったら、つい可笑しくなっちゃって」

 

 

「……気難しい、か……確かに、店長にもよく表情が固いと注意されて叱られる事がある……俺としては普通にしているつもりなんだが、どうにも俺が思っているより無愛想に見えるらしい……慣れない頃はそれでよく顧客を怖がらせてしまう事も少なくはなかったし、仮にもしそれで気分を害した事があったなら、すまない……」

 

 

「いえいえ、そんな事ないですよ、大丈夫!あ……でも今ちょっと思い出したけど、カフェで蓮夜さんと話し終えた後で、確かクリスちゃんがぷりぷりはしてたかも?」

 

 

「……そう、だったか……いや、自分でも固すぎたのではと思ったが、初対面で、しかも真面目な話をしながら愛想を振り撒くのもどうかと……しかし、そうか……だとしたら申し訳ない事をしてしまったな……」

 

 

「あ、で、でも、一応クリスちゃんも蓮夜さんの言い分には納得してましたし、あまり気にしなくても大丈夫ですよ、きっと!」

 

 

「そう、だろうか……そう言ってもらえると助かるが……」

 

 

余程自分の愛想の悪さを気にしているのか、僅かに目尻を下げて安堵するように微笑む蓮夜に釣られ、響も柔らかな笑顔と共に声に出して笑う。その横顔を見て、蓮夜は微笑を浮かべたまま安心したように口を開いた。

 

 

「やっと少しだけ、調子が戻ってきたみたいだな……」

 

 

「……へ?」

 

 

「いや……初めて戦場で会った時、そうやって笑っている顔が印象に残ってたからな……だからこうして改めて見ると、やっぱりお前は笑ってる時の顔が一番似合うと思う……」

 

 

「そ、そうですかね?あははっ、何だか照れちゃうな……」

 

 

「ああ。特に一番輝いて見えたのは、仲間達と一緒にいた時だった……だから、それを取り返さないとな……」

 

 

「……え?」

 

 

穏やかな口調が不意に真剣なものに変わり、ベンチから徐に腰を上げる蓮夜を呆然と見上げる響。そんな彼女と向き直り、蓮夜は再び言葉を続けていく。

 

 

「今のこの世界は、イレイザーによる改竄を受けて誤った歴史を歩んでる……だがその改竄を行ったイレイザーを倒しさえすれば、改竄された歴史は消え去り、元に戻る。そうすれば……」

 

 

「……未来達が……記憶を書き換えられた皆が、元に戻る……?」

 

 

つまりはまだ、未来達を救う手立てがあるという事。目を見開いて呆然と呟く響の言葉に蓮夜は無言のまま頷き返し、それを見て、響もベンチから勢いよく立ち上がった。

 

 

「だったらっ、だったら私にも手伝わせて下さいっ!未来達を助けられるんなら、私も何か……!」

 

 

「いや、今のお前を戦いの場に連れていく事は出来ない……シンフォギアも消えて戦う術がない以上、戦場に居合わせるのは返って危険だ。お前は此処に残っておいた方がいい」

 

 

「うっ……それ、は……そうかもしれないけど……でも……」

 

 

蓮夜の言う事も最もだし、未来達を助けたいのもそうだが、もし今此処で蓮夜と離れ離れになってしまえばまた先程のように記憶の改竄に苛まれてしまうのではないか。

 

 

蓮夜と再会したおかげか今はその影響も収まってるようだが、また独りになればあの苦しみに襲われるのではないかと思うと恐怖と不安が押し寄せて暗い表情を浮かべてしまい、そんな響の様子を見て彼女の心境を察した蓮夜は俯き僅かに思考すると、ズボンのポケットから一枚のカードを取り出し、響の手を取ってソレを握らせていく。

 

 

「?これって……」

 

 

「御守り……と呼ぶには心許ないかもしれないが、持っていて欲しい。例え離れていても、ちゃんと繋がっている……俺なりの、その証だ……」

 

 

語気を強めてハッキリとそう断言する蓮夜の『繋がり』という言葉を聞き、響は彼に手渡された何も描かれていないブランクカードをジッと見つめ、両手で大事そうにカードを握り締めながら蓮夜の顔に視線を向けると、蓮夜は小さく頷いてそのまま公園の出口に向かって歩き出していくが、途中でふと足を止め、響の方に振り返った。

 

 

「……少しだけ待っていてくれ。必ず、奪われたお前の繋がりを取り戻してみせる……約束する」

 

 

「……蓮夜さん……」

 

 

彼なりの励ましのつもりなのか、響の中の不安を少しでも和らげようと不器用ながらも微笑み、蓮夜は今度こそ立ち止まらず元凶のイレイザーを探しに公園を後にしていく。

 

 

そして響も手の中のカードを握り締める力を強めてその背中を見送る中、その背後には……

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

 

響から少し離れた場所にある雑木林の中。其処にはフードで顔を隠した何やら妖しげな風貌の男が遠巻きに響を見つめる姿があり、男は響を見据えたまま彼女に悟られぬようにゆっくりと木の影の中へと移動し、そのまま何処かへと姿を消してしまったのであった……。

 

 

 

 

 

 



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第三章/改竄×断ち切られた繋がり③

 

市内の繁華街。信号の音が鳴り渡るスクランブル交差点では外回り中のサラリーマンやショッピングを楽しむ若者など多くの人々が行き交い、近くのデパートの壁に取り付けられた大画面には、海外で活躍する風鳴翼のステージでの盛り上がりの様子を彼女のファンである番組出演者が熱く語る特集番組が流れている。

 

 

そんな街の風景を後目に、響と別れて改竄を行った犯人であるイレイザーを探す為に街に出た蓮夜はとある路地の裏に訪れてその場に屈み、何かを探るかのようにジッと何もない地面を見つめていた。

 

 

(……気配は此処で途切れている……こうもあからさまに痕跡を残してるという事は、やはり俺を誘ってるつもりなのか……)

 

 

顔を上げると、路地の奥は暗闇に覆われていて此処からでは何も見えない。追ってきた気配……イレイザーの痕跡が此処で途切れているという事は、恐らく此処で人間態に戻りこの先に続く場所に潜んでいるのだろうか。

 

 

(この先には確か古い市街区があったか……成る程、人を寄せ付けないという意味では持ってこいの場所だな……)

 

 

人に聞いた話だが、十年以上前この街には表通りの繁華街とは別に、あちらより以前に活気づいていた大型のモール街があったと聞く。

 

 

しかし、ちょうど特異災害として確認されたばかりの頃のノイズが現れて猛威を振るい、政府側もまだノイズに対抗する術を確立していなかった事もあってまともに太刀打ち出来ず、街は著しい被害を受けてしまったらしい。

 

 

その後、政府はノイズの情報を隠蔽する為に人体に危険な有毒ガスの漏洩を理由にモール街を放棄し、まだ発展途上だった表通りの街に開発計画を集中して建て直したと聞くが、それも噂や憶測が入り交じっていて何処まで本当かは分からない。

 

 

ただ政府が一向に復興再開発を行わない事から噂を鵜呑みにする人間も多く、破棄された旧モール街に寄り付くのは素行の悪い不良達や行き場を失ったホームレスぐらいしかいないらしい。

 

 

(……もしかすると、奴らはそういった場所に集まる人間を使ってイレイザーを生み出してるのか……?)

 

 

ノイズによって棄てられた街に集った人間をイレイザーにし、ノイズを喰らわせて理性を犯す力を付けさせる……。

 

 

……何とも趣味の悪いと、想像するだけでも気分を害して不快げに眉を顰め、蓮夜は徐に身を起こして立ち上がっていく。

 

 

(とにかく、この先に犯人がいる可能性は高いが、こんなわざとらしく痕跡があるのはどう考えても怪しい……罠、と考えるのが妥当だが……)

 

 

この先に何が待ち受けてるか分からない。リスクを考慮して一度引き返す手もあるが、そうなると罠に気付かれた事を知ったイレイザーに逃げられる可能性もある。そうなれば次に発見出来るまでに一体どれだけの時間を要する分からないし、響の今の過酷な状況を考えると不必要に時間を掛ける真似は避けたい。

 

 

……ならば答えは一つしかないと、蓮夜はゆっくりと路地の奥へと進み出し、そのまま闇の中に溶けるように姿を消していった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―旧モール街―

 

 

寂れた廃ビル群が何処までも広がる旧モール街。ノイズの被害を物語るかのように当時の傷跡がそのまま残されてる建物や、不良達がこの場所で好き放題に荒らした落書きの跡などが多く見られるが、今は人気は一切なく寂れた風が瓦礫を揺らして鳴らす不気味な音が反響し、まるで怪物の叫び声のような怪奇音が街中に響き渡る。

 

 

そんな音を耳に、一際目立つビルの跡地の中で山のように盛り上がる瓦礫の上に腰を下ろす金髪の男……アスカは薄暗い闇の中で、何かを待つように顔を俯かせていた。

 

 

「…………。よう、やっと来たかよ」

 

 

ニヤリと口端を吊り上げ、徐に顔を上げたアスカがビルの入り口に目を向ける。すると其処には、ジャリッと地面に散乱するガラス片を踏み鳴らし、光が差し込む入り口からビルの中へと足を踏み入れる青年……蓮夜の姿があり、蓮夜も瓦礫の山の上に座り込むアスカを見付けて険しげに目を細めた。

 

 

「お前だな、此処までの足跡を残していたイレイザーは……」

 

 

「へぇ、ご丁寧に俺の臭いを嗅いで此処まで辿り着いたのかよ?ハハッ、まるで犬っころみてーだなぁ」

 

 

「……否定しないのなら肯定と受け取らせてもらうぞ……これ以上、この狂った物語を長続きさせる気はないからな……」

 

 

鼻を鳴らして挑発するように笑うアスカの話にも聞く耳を持たず、目の前の男をイレイザーと認定し何処からか取り出したクロスベルトを腰に巻き付けていく蓮夜。それを見て、アスカも重い腰を上げて立ち上がりながら瓦礫の山を降りていき、蓮夜と対峙してスっと目を細めていく。

 

 

「記憶を失っててもソレか、相変わらず俺達を潰す事にご執心みてぇだな……そういうところがムカついてたぜ、前からな」

 

 

「……?何の話だ?」

 

 

「ハッ、何だよそんな事まで忘れちまったのか?悲しいねぇ。アイツほどでないにしろ、俺もテメェとは何度もやり合って煮え湯を呑まされてきたってのによぉ」

 

 

肩を竦めてわざとらしく悲しそうな反応を見せるアスカに対し、蓮夜は訝しげに眉を顰める。だが、彼の口振りから何かを察したかのようにハッとなり、僅かに身を乗り出し口を開いた。

 

 

「お前、まさか……記憶を失う前の俺の事を知ってるのか……!」

 

 

「知ってるも何も、此処まで話してりゃ察しが付くもんじゃねえか?それなりによ」

 

 

「……何だと?」

 

 

どういう意味だ?と蓮夜が思わず聞き返す。アスカはそんな蓮夜の問いに対しニタリと笑みを深め、右手を広げながら飄々とした口調で告げる。

 

 

「俺達なんだよ、お前が記憶を失った原因は……この手で一度、お前を殺したが故にな」

 

 

「……なっ……」

 

 

あっさりと、本当に大した事がないように簡単にそう答えたアスカに対し、蓮夜は衝撃を隠し切れない様子で目を見開き驚愕してしまうが、アスカはそんな蓮夜の反応も他所に軽い口調で話を続けていく。

 

 

「本当に何も覚えちゃいねぇか……いいぜ、なら教えてやる。記憶を無くす前のお前は、この物語の中でイレイザーを作り出す俺達の計画を嗅ぎ付けてこの物語にやって来たんだよ。そしてそれを予見していた俺達の罠にまんまとハマり、孤立無援となったお前を仕留めた筈だった……だって言うのに、まさかアレで生きてたとは思いもしなかったよ。無駄にしぶてぇって噂はマジだったようだなぁ」

 

 

「……そうか……つまり、この物語の中でイレイザーが生み出されてるのもお前達の仕業かっ……」

 

 

自分が記憶を失った元凶、そしてこの物語の中で作られたイレイザーの出処が目の前の男とその仲間達の手によるモノだと分かり、蓮夜は敵意を剥き出しにアスカを睨み付けながら更に疑問を投げ掛ける。

 

 

「だったら何故今更になって、この世界の物語を改竄した……!イレイザーを生み出す事と、アイツに関わる物語を改竄する事に何の関係がある?!」

 

 

「関係?別にんな大層な理由なんかねえよ……ま、強いて言えば、テメェらに組まれるとめんどくせぇからってのが一番の理由かもな」

 

 

「……何……?」

 

 

今回の改竄は蓮夜と響達が手を組まれるのを阻止する為の物。アスカはそう語りながら地面に散乱するガラスを踏み鳴らしてブラブラと歩き出し、天井を仰いで気だるそうに言葉を続けていく。

 

 

「『戦姫絶唱シンフォギア』……あの立花響はこの物語の主人公でな。奴はこれまでの戦いの中で敵対していた連中と手を束ね、あらゆる逆境や難敵を幾度となく打ち倒してきた……。そんな奴がお前に目ぇ付けたとなりゃ、俺らにとって面倒事になるのは目に見えてる。だから真っ先にその芽を潰させてもらったってだけの話だ」

 

 

「っ……それが……そんな事の為にアイツだけでなく、周りの人間の人生を故意に歪めたというのか、お前達は……!」

 

 

「人?ハッ、違うねぇ!俺達にとっちゃあのガキも、この物語の住人も全部フィクション!非現実上のキャラクターだ!この手で筆を振るえば、簡単に記憶も人生も書き換えられるモノを同じ人間だなんて思える訳がねえだろ?俺達にとっての人間ってのはな、テメェらがイレイザーと呼んで身勝手に追い出した連中の事を指すんだよッ!」

 

 

突然語気を強めて声を荒らげ、アスカは忌々しげに蓮夜を指差して叫ぶ。

 

 

「それにこっちからしてみりゃ、何より度し難いのはテメェの方なんだよ!イレイザーと見なせばその手で容赦なく幾つもの命を屠ってきた……!自分がさも正しい側だと正義面して、テメェが倒してきた連中の願いを尽く踏み躙ったっ!」

 

 

「何が願いだ……!無関係な人間の命を危険に晒しておいてどの口でほざく!何よりお前達が行ってる改竄は大勢の人間の物語を歪める行為だ!そんな事をしなくても、物語の外の現実で罪を償えば……!」

 

 

「それが度し難いつってんだよっ!ただ普通に生きてただけで、ある日突然手前の物差しで身に覚えのねぇ罪を押し付けられた上に勝手に人を追い出しておいて、何で一方的に俺達の側が悪いと決め付けられなきゃなんねぇんだっ?!それが世界の決めた事っつーなら、そんなクソみてぇなルールの世界に従う義理なんざねぇっ!だから決めたんだ!俺達から何もかもを奪った世界をこの手で壊して、犯して、俺達が嘗て失った物語を取り戻すってなぁっ!」

 

 

「……その為にこの世界の人間をイレイザーにしたのか……自分達の復讐の為に……!」

 

 

記憶を失ってから、これまで自分が倒してきたイレイザーを思い出す。その元となった人間達をもそうやって自分達の復讐の為に利用したのかと問い詰める蓮夜だが、それに対しアスカは馬鹿馬鹿しげに笑ってみせた。

 

 

「早とちりするなよ。奴等は別に俺らが騙した訳でも、無理矢理にイレイザーにした訳でもねぇ。奴等の方からそう望んだからああなったのさ」

 

 

「っ!何だとっ……?」

 

 

「ハッ、意外だったか?だがこの世界じゃ別にそう不思議な事でもねぇのさ。この物語にはノイズに人生を狂わされ、居場所を失った人間なんざごまんといる。この廃れた街にもそういった連中が良く集まってたからな。そんな連中にイレイザーの事を教えて、誘いを持ち掛けたら二つ返事で頷いたぜ?」

 

 

「……彼等は……自分からイレイザーに……?」

 

 

アスカ達の甘言に乗せられた訳でも無理矢理にでもなく、彼等は自ら進んでイレイザーになる事を受け入れた。その事実に衝撃を受ける蓮夜を見据えながら、アスカは両手を広げて高らかに語り続ける。

 

 

「この物語じゃ幾度となく世界が危機に陥り、その度に装者共が世界を救って来たが、それが必ずしも万人にとっての救いとは限らねぇって訳だ。最初から希望も何も持たない連中からしてみれば、終わり損ねた、寧ろ余計な真似をしてくれたと受け取る連中だっている……そんな奴らに俺らから機会に与えてやったのさ。世界を書き換えられる力を、嘗て夢見て挫折した希望を叶える術を。そういった連中の中から新たな同志を見付け出す事こそ、俺達の計画の一つって訳だ」

 

 

「……それで生み出したのがあのノイズ喰らいのイレイザー達か……あんな正気すら持たない獣同然の個体を作り出して何になる?いやそもそも、前の二度の戦いで見せたあの異常な進化は一体──」

 

 

「さてなぁ。其処まで話してやる義理はねぇさ。寧ろ此処まで話してやっただけ十分サービスしてやっただろ」

 

 

あんな到底まともな進化体とは思えないノイズイーターを作り出した真意を聞き出そうとする蓮夜の疑問をはぐらかし、アスカは改めて蓮夜と向き直りながら徐に右手を中空に掲げていくと、その手から火の粉が立ち上り出していく。

 

 

「それに、どうせそんなもん知った所で全部無駄になる……テメェは此処で、今度こそ俺の手で始末するんだからなぁッ!!」

 

 

ゴォオオオォォォ……ッッッ!!!!!と、アスカの感情の昂りに呼応するかのようにその全身から突如勢いよく炎が噴き出し、凄まじい熱風が吹き荒れた。

 

 

そのあまりの熱量にアスカの近くに転がる瓦礫が一瞬の内に灰となって焼却し、天井や壁に大きく亀裂が走って軋み、音を立てて崩れ落ちていく。

 

 

「ッ!これはっ……?!」

 

 

嵐が如く吹き荒れる熱暴風に思わず両腕で顔を庇う蓮夜の顔が驚愕で歪み、全身の鳥肌が総立した。

 

 

今まで戦ってきたイレイザーや進化したノイズイーターの暴力的なソレとは力の質も量も違う、とてつもなく強大で圧倒的なまでのプレッシャーがこの空間を一瞬で支配して呑み込んでいく。

 

 

力を解放した余波だけで既に圧倒的な力の差を感じ取った蓮夜が思わず後退りしてしまう中、業火にその身を包まれるアスカの姿が徐々に露わになっていく。

 

 

まるで炎のように捻れた四本の角を頭から生やし、外見は何処か仮面ライダーウィザードの敵幹部であるフェニックスを彷彿とさせる造形をした深紅に染まった体色をしているが、何より目立つのはその巨大な右腕。

 

 

異形に変貌したアスカの身の丈を超す程の大きさを誇り、複雑な金色の紋様が刻まれた紅い腕の肘の部分からはパイルバンカーのような巨大な杭が伸びている。

 

 

身体から溢れる残り火を払い退けるアスカが変貌した紅の魔神を目にし、蓮夜は一瞬の驚愕の後に険しい表情を浮かべてアスカを睨み付けた。

 

 

「上級クラスのイレイザーっ……『神話型』か……!」

 

 

『……ほう?その辺の知識はまだ残ってたようだな?そう、イレイザーには基本的に二種類が存在する。イレイザーとして目覚めたばかりの姿である『下級』クラスと、其処から力を付けて伝説や伝承の物語に由来する力と姿を手に入れた『上級』クラス……別名、『神話型』……その内の一人がこの俺だ』

 

 

「ッ……!」

 

 

エコーが掛かった自信に満ちた強気な口調と共に、親指で自身を指差す紅の魔神……アスカがその姿を変えたイグニスイレイザーと対峙するだけで、戦慄が身体を突き抜ける。

 

 

上級、神話型を名乗るに相応しく、これまで戦ってきたどのイレイザー達とも違う威圧感を肌で感じ、今の自分では勝てないと、身体が『逃げろ』と必死に訴え掛けるが……脳裏に過ぎった響の苦しむ姿を思い返し、後ろに引き掛けた足を踏み止まらせて左腰のカードケースからクロスのカードを取り出した。

 

 

「神話型だろうが何だろうが関係ない……アイツの物語を……仲間達との繋がりを返してもらうぞ……!変身ッ!」

 

 

『Code x……clear!』

 

 

バックルにカードを装填して電子音声を鳴らし、クロスに変身して手首を軽くスナップさせる蓮夜。そして変身したクロスを前に、イグニスイレイザーはクツクツと笑いながら調子を確かめるように右肩を軽く回していく。

 

 

『やれるもんならやってみろよ。前回はデュレンの野郎に美味しい所を掻っ攫われたが、今回は違う……今度は俺の手で、テメェの息の根を止めてやる……!』

 

 

『ッ!ハァアアッ!!』

 

 

掛かってこいと、人差し指でジェスチャーするイグニスイレイザーの挑発に応じるようにクロスは自身のバックルから左脚に向けて蒼い光を走らせる。そして光が左脚まで伸びたラインを通って足の裏に到達したと同時に軽く地面を蹴り上げ、瞬間的に強化された跳躍力で一気にイグニスイレイザーへと飛び掛かり、全力を込めた右拳をイグニスイレイザーの顔面に目掛けて叩き込んでいった。が……

 

 

『──んだよ。それで終わりか?』

 

 

『ッ?!クッ―バキィイイイイインッッ!!―がはァああッ?!』

 

 

イグニスイレイザーは顔面にクロスの拳を打ち込まれてもビクともしない所か、平然とクロスを見つめながら軽い動作でクロスの腕を払い除けただけでなく、左腕でクロスを横殴りに殴り飛ばしてしまったのだった。

 

 

そのまま勢いよく真横に吹っ飛び、クロスはノーバウンドで壁に叩き付けられて地面に倒れてしまうが、即座に身を起こしながら今度は両腕と両足に光を走らせ、一息でイグニスイレイザーに肉薄し瞬間強化した拳で高速のラッシュを叩き込んでいく。

 

 

だが、どれだけ強くイグニスイレイザーの身体に拳を打ち込んでも甲高い金属音が鳴り渡るばかりで手応えを一切得られず、逆に胸に拳を打ち込んだ右腕をイグニスイレイザーに掴まれ、そのまま手首を捻られてしまった。

 

 

『ぐうぅっ?!』

 

 

『なんだよ、まさかこの程度なのか?ったく……ガッカリさせてんじゃねぇよォッ!!』

 

 

紅蓮の炎がイグニスイレイザーの巨大な右腕に集い、拳に纏いながらクロスの右腕を払い除ける。そして腕を払われ仰け反るクロスの胸に目掛けて炎を纏う巨腕の一撃を叩き込み、クロスを勢いよく殴り飛ばしてしまうのだった。

 

 

『ぐぁああああああああッッ?!!ぅっ、ぐぅっ……!!やはり真っ向からじゃ太刀打ち出来ないかっ……!!』

 

 

だったら……!と、ゴロゴロと地面を転がりながらも何とか身を起こし、拳を叩き込まれて赤く染まる胸の装甲を抑えながらクロスは新たに取り出したカードをバックルに装填していく。

 

 

『Code Blaster……clear!』

 

 

『……ほーう?』

 

 

電子音声が鳴り響くと共に、クロスはタイプブラスターへと姿を変えながら目の前に出現したウェーブブラスターを素早く手に取る。

 

 

そしてイグニスイレイザーもタイプチェンジしたクロスを興味深そうに見つめる中、クロスは更に新たなカードを取り出しバックルに装填した。

 

 

『Final Code x……clear!』

 

 

『……今ある最大火力で一気にケリを付けるっ……!!ハァアアッ!!』

 

 

再び鳴り響く電子音声と共にウェーブブラスターの銃口に膨大なエネルギーを収束させながら狙いを定め、イグニスイレイザーに向けて引き金を引き、最大火力を込めた巨大な砲撃を放つ。

 

 

それに対してイグニスイレイザーは迫り来る砲撃を前にしても何故かただ佇むだけで身動き一つ取らず、そのまま砲撃の直撃と共に発生した巨大な爆発の中に呑み込まれていったのだった。

 

 

『ッ……どうだ、これでっ……』

 

 

 

 

 

 

『──まぁ、悪かねぇーんじゃねえか?俺に効くかは別としてな』

 

 

 

 

 

『……ッ!!?』

 

 

砲撃の直撃を確認してウェーブブラスターを下ろし一息吐こうとしたクロスだが、目の前から聞こえたつまらなさそうな声に驚愕し、弾かれたように顔を上げる。

 

 

すると其処には、炎の中から悠々とした足取りで姿を現す紅の魔神……クロスの最大の一撃を受けながら全くの無傷のイグニスイレイザーが、胸の汚れを手で軽く払い平然としている姿があったのだった。

 

 

『なっ……通じていないっ……?!』

 

 

『ハッ、今更そんな技で俺の身体を傷付けられると思ったのか?記憶を失う前ならともかく、今のテメェが俺に敵う筈がねぇだろォおおッ!!』

 

 

『クッ!』

 

 

螺旋を描いて収束する業火を左手に集め、クロスに向けてイグニスイレイザーが巨大な火炎弾を乱雑に撃ち放つ。

 

 

それを目にしてクロスも咄嗟にウェーブブラスターを乱射して火炎弾を撃ち落とそうとするが、クロスの銃弾が撃ち込まれたと同時に火炎弾が分かたれて無数の炎弾となって散らばり、クロスを包囲するように周囲を取り囲んでしまう。

 

 

『ッ?!何っ……?!』

 

 

『……爆ぜてなくなれ』

 

 

『グッ……!!!?うッ、グァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!?』

 

 

一瞬の内に逃げ場が失われ、周りを囲む炎弾達を見回して動揺するクロスに向けて徐に左手を伸ばし、イグニスイレイザーが拳を握り締める。

 

 

直後、それを合図にクロスを包囲する炎弾達が立て続けに起爆して爆発を巻き起こしていき、クロスは悲痛な叫びと共に巨大な爆炎の中に呑まれてしまうのだった。

 

 

 

 

 



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第三章/改竄×断ち切られた繋がり④

 

───同時刻。クロスとイグニスイレイザーが激闘を繰り広げるその頃、蓮夜と別れて公園を後にした響は一人帰路に付いて住宅街を歩いていたが、道中でふと足を止め、何かが気になる様子で来た道を振り返っていく。

 

 

「蓮夜さん……一人で大丈夫かな……」

 

 

先程は彼に説得されて一度は引き下がったものの、やはり自分の為に蓮夜が一人で戦っている事が気掛かりなのか、響は心配を帯びた表情を浮かべてペンダントを失った胸に手を当てながら徐に拳を握り締めていく。

 

 

「……やっぱり、私も何か手伝いを……でも、今の私に何が……?」

 

 

やはり蓮夜一人に事態の解決を任せてただ待つなんて我慢出来ない。

 

 

しかしシンフォギアを失っている今、自分にイレイザーと戦う術がないのも確かだし、今の自分ではきっと足手纏いにしかならないだろう。

 

 

……だけど、それでも、それでも今の自分に出来る何かをしたい。

 

 

悩むように瞳を伏せ、胸に拳を当てながらそう考えると、目を開けた響は僅かな迷いを滲ませる足取りで一歩踏み出そうとした、その時……

 

 

 

 

 

「──お前が……立花響、か?」

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

 

響が来た道を引き返そうとしたその時、背後から不意に声が聞こえた。驚きと共に振り返ると、其処には木の影から徐に姿を現す謎の人物……先程の公園で蓮夜とのやり取りを覗き見ていたフードの男の姿があった。

 

 

「?えっと……あなたは?」

 

 

「…………お前が…………何で…………お前だけ…………」

 

 

「え?」

 

 

ボソボソっと、フードの男は顔を俯かせ何やら小声で囁いているが、あまりに声が小さく、距離もそれなりに開いている為に上手く聞き取る事が出来ない。

 

 

そのため思わず訝しげに聞き返してしまう響だが、それに対しフードの男は何やらワナワナと身体を震わせながら顔を上げていき……

 

 

 

 

 

「──どうして、お前が…………なんで、なんで、なんでっ…………なんで生き残ったのがお前なんだァああああッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

「……え……?」

 

 

 

 

 

フードの下から見えたのは、響を捉えて離さない憎しみと哀しみが入り交じったような妖しげに輝く"赤い瞳"。

 

 

突然の激昴を上げるフードの男のその瞳を見て響も何故か直感的に嫌な予感を感じ取り思わず後退りする中、フードの男の身体が禍々しいオーラに包まれて徐々にその姿を変えていき、カエルのような姿をした白と黒緑色の異形……フロッグイレイザーへと変貌していったのである。

 

 

「ッ?!イ、イレイザー……?!何で此処に?!」

 

 

『お前がっ……お前でさえなかったらァァああああああああああああああああッッッッ!!!!』

 

 

フードの男が突如姿を変えたフロッグイレイザーに驚愕してしまう響に対し、フロッグイレイザーは支離滅裂な発言を繰り返して凄まじい殺気を放ちながら響へと問答無用で襲い掛かり、それを見た響も慌てて背中を向けてフロッグイレイザーから逃げ出していくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

『Code slash……clear!』

 

 

『グッ……!!ぜぇええぁああああああッッ!!!!』

 

 

一方その頃、場所は戻ってクロスとイグニスイレイザーが戦いを繰り広げる廃ビル内では劣勢に陥るクロスがタイプスラッシュへと姿を変え、両手に出現したスパークスラッシュを身構え、その身を閃光と化しイグニスイレイザーへと挑み掛かっていた。

 

 

目にも止まらぬ速さでビル内を縦横無尽に駆け巡りながら、イグニスイレイザーの首筋や関節部などの急所を集中的に切り刻んでいくが、それに気付いたイグニスイレイザーは鼻を鳴らしてほくそ笑んだ。

 

 

『成る程、真っ向からじゃ勝てねぇから脆い部分を狙って弱点を探ろうって腹つもりか……が、甘ぇええッッ!!』

 

 

『──ッ?!がはァァああああああッッッ!!!?』

 

 

そう言いながらイグニスイレイザーは右腕の巨腕で拳を形作り、背後から首筋を狙って再度斬り掛かろうとしたクロスの気配を察知して振り向き様に右ストレートを振り抜き、完全にクロスを捉えたその一撃はクロスの腹に思い切り叩き込まれて派手に殴り飛ばしてしまったのだった。

 

 

柱を破壊しながら吹っ飛ばされて瓦礫と共に地面を転がり倒れ込むクロス。イグニスイレイザーはそんなクロスへと悠然と歩み寄り、自身の紅の身体を親指で軽くなぞりながら余裕に満ちた口調で語る。

 

 

『生憎、俺の身体はくまなく固く柔軟だ。幾ら悪足掻きしようが、テメェが想像してるような弱点なんざハナから俺には存在しねぇんだよ』

 

 

『ッ……ぐっ……!』

 

 

ハッキリとそう断言するイグニスイレイザーの絶望的な言葉に、ふらつきながら双剣を構え直すクロスも仮面の下で苦虫を噛み潰したような顔を浮かべてしまう。

 

 

最大火力で真っ向から挑んでも傷一つ付けられず、弱点を見付けようとしてもそれらしきモノが存在しなかったのは直接奴の身体に刃を叩き込んだ時の手応えだけで分かってしまった。

 

 

今の自分の力で奴に挑むには力不足に過ぎる。それを否が応でも理解させられてしまうが、だとしても、此処で自分が引けば響の繋がりを取り戻せないのもまた事実。

 

 

ならば勝機が無くともどうにか見出すしか手はないと必死に思考を巡らせるクロスだが、その時、何か遠くから嫌な気配を感じ取って思わず動きを止めてしまう。

 

 

『?なんだ……この気配は……?』

 

 

『あ?……ッ!まさか……!』

 

 

思わずポツリと声に出して気配が感じる方へと振り向くクロスの呟きを聞き、イグニスイレイザーも最初は訝しげに首を傾げるが、直後に何かを察した様子で慌ててクロスが顔を向ける先へと意識を集中させ、忌々しげに舌打ちした。

 

 

(あの野郎っ……あんだけ釘を刺しておいたのに先走りやがったな……!)

 

 

『この気配は……イレイザー……?しかし何故…………ッ?!まさかっ?!』

 

 

クロスが察したのは、目の前のイグニスイレイザーとは別の新たなイレイザーの気配。

 

 

何故もう一つのイレイザーの気配が……?と怪訝な表情を浮かべてしまうクロスだったが、僅かな思考の後に、此処に辿り着くまでに引っ掛かりを覚えていた疑問が線と線で繋がっていき、其処で一つの可能性に辿り着いたクロスが何かに気付いたようにハッとなるが、それを目にしたイグニスイレイザーが舌打ちと共にクロスへと巨腕を振りかざして襲い掛かり、クロスは寸前の所で拳を回避しながらイグニスイレイザーを睨み付けた。

 

 

『貴様っ、最初からコレが狙いだったのか……!』

 

 

『……さあな。何の話だ?』

 

 

『惚けるなっ!今回の改竄はお前の手による物じゃないっ!別のイレイザーに改竄の力を使わせて隠し、お前自身は此処で俺を足止めする為の囮だったんだろうっ?!』

 

 

そう、思えば此処に辿り着くまでに不審な点は幾つもあった。

 

 

この場所に至るまでにあからさまに残されていた痕跡、そもそも街から離れたこの場所にわざわざ自分を誘い込んだのも今にして思えば疑問だった。

 

 

つまり、この戦い自体がイグニスイレイザー達の仕掛けた罠。

 

 

改竄の力を使ったイレイザーから唯一対抗策を持つ自分を遠ざけるのが目的だったのだと気付いたクロスの指摘に対し、イグニスイレイザーは僅かに沈黙するも最早言い逃れは出来ないと悟ったのか、三度目の舌打ちをしながら面倒そうに溜め息を吐いた。

 

 

『此処まで勘付かれたからにゃ、これ以上シラを切るだけ無駄か……』

 

 

『なら……!』

 

 

『……そうだよ。今回の件を指示したのは確かに俺だが、別に俺が直接手を下したって訳じゃねぇ。改竄自体は手駒にやらせて、俺自身はテメェを釣る為のデコイって訳だ』

 

 

最早隠し通すのは無理だと分かったからか、イグニスイレイザーは開き直った様にそう語りながらクロスが感知するもう一つのイレイザーの気配がある方向を指さしていく。

 

 

『お前とあの立花響が何かしらの関係を築いてるのは見て取れて分かってたからな……其処であのガキの身に異常が起きれば、お前が顔見知りの人間の為に動くのは目に見えていた。だからそれを利用させてもらったんだよ。お前は事態解決の為にどんな僅かな手掛かりでも欲しがる筈だ。その為に痕跡を残し、此処まで誘導してお前をあのガキから遠ざけた……本当ならお前を始末した後で、あのガキも改竄で自然に消すつもりだったんだがな……肝心なとこで人選を見誤ったようだぜ、俺も』

 

 

『消す……だと……?まさか、お前達は俺だけじゃなくアイツまでっ……!』

 

 

『当然だろ。お前も知ってる筈だよな?奴はイレイザーの改竄を受けながらも、その進行は他より遅れてる……お前と少なからず繋がりを持ってしまったが為に、その影響が奴にも出始めてんだ。そんな奴を生かしておく訳にはいかねぇ……だから俺達の脅威に成る前に、あの小娘も消す。奴の存在をこの物語から抹消した上で、な』

 

 

『……ッ!!』

 

 

奴等は自分だけでなく、響までも消そうとしている。

 

 

つまり、今自分が感じ取っているイレイザーの気配は……。

 

 

其処まで思考するより早く、クロスはすぐさまその場から文字通り閃光の如く駆け出し、急ぎ響の救出に向かおうとするが……

 

 

 

 

──それを予見していたかのように、イグニスイレイザーが意図も容易くクロスの前に飛び出しながらその巨腕を素早く伸ばしていた。

 

 

『ッ?!なっ……ガッ、ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッッ?!!!』

 

 

『これでも俺は慎重派でなぁッ!!そんな俺が何でテメェにベラベラ計画を喋ったか、分かるかァアアッ?!』

 

 

ガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!と、クロスの頭を巨腕で鷲掴んだイグニスイレイザーは背中から炎のブースターを噴出し、猛スピードで飛び出しながらクロスの頭をビルの壁にめり込ませ勢いよく引きずり回していき、そのまま廃ビルの壁を突き破って外へと飛び出しクロスを乱雑に投げ捨ててしまった。

 

 

地面に打ち付けられたクロスの仮面はボロボロに傷付き、複眼も割れて痛ましい姿へと変わり果て、身を起こす事もままならないその惨い姿を見据えながらイグニスイレイザーは巨腕の掌に炎を宿していく。

 

 

『これは俺なりの意思表示だ……テメェは此処で俺が必ず殺す。絶対に逃がしはしねぇ。俺達の復讐を果たす為にも、今度こそ此処に墓石を建てやがれ……黒月蓮夜ぁ……!』

 

 

『うああァッ……ぐぅっ……ァッ……!!』

 

 

炎に包まれる掌を固く握り締め、イグニスイレイザーは改めてこの場でクロスを完全に始末する事を宣告する。

 

 

割れた複眼の間から血粒を落としながら、その言葉に宿る決意の強さから奴が本気で自分の命を奪おうとしている事を感じ取ったクロスはどうにか震える身体を起こしてこの場から離脱し響の下に向かおうとするが、震える腕に力が入らず再び倒れ込んでしまう。

 

 

そして、その間にもクロスの真上に跳躍したイグニスイレイザーが倒れるクロスの背中に目掛けて落下し、そのまま背中を勢いよく踏み付けたと同時にクロスの身体が巨大なクレーターの中へと沈んでいき、黄昏色に染まろうとしている旧市街地にクロスの悲痛な雄叫びが木霊したのであった。

 

 

 

 

 

第三章/改竄×断ち切られた繋がり END

 

 

 

 



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第四章/蘇る聖拳×束ねられた絆

 

 

イレイザー達が仕掛けた罠により絶体絶命の窮地に陥ったクロスと響。

 

 

イグニスイレイザーの圧倒的な戦闘力の前にクロスが手も足も出せず一方的に嬲られる中、響も突如現れたフロッグイレイザーの襲撃に遭い必死に街中を逃げ回っていた。

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!何でっ、どうしてイレイザーが私をっ……?!」

 

 

イレイザーの改竄の影響を受けてシンフォギアも使えない自分が何故狙われているのか。困惑を隠し切れぬままとにかくがむしゃらで走り続ける響だが、フロッグイレイザーは驚異的な跳躍力で高層ビルの壁を素早く飛び跳ねながらそんな響に一気に追い付いてしまい、そのままビルの壁を蹴り上げ響へと飛び掛かった。

 

 

『死ねェェえええええええええええええッッ!!!』

 

 

「ッ?!うわっ、あっ!」

 

 

凶悪な異形の手を振りかざして背後から襲い掛かるフロッグイレイザーを見て響は慌てて走るスピードを速めようとするが、足の爪先を地面に引っ掛けて前のめりにバランスを崩してしまい、転ける響の頭の上をフロッグイレイザーの手が紙一重で通過して隣のビルの壁を木端微塵に粉砕していった。

 

 

そして粉塵が周囲一帯に立ち込める中、響は地面を転がりながらも何とかフロッグイレイザーから離れると、尻もちを付いたまま赤い眼をギロリッとこちらに向けるフロッグイレイザーを見上げ、戸惑い気味に口を開いた。

 

 

「あ、貴方は一体っ……どうして私を襲うの?!」

 

 

『……どう、して……?決まってるだろ……そんなのっ……!』

 

 

「えっ?」

 

 

疑問を投げ掛ける響の問いに対し、フロッグイレイザーはそう言いながらワナワナと身体を震わせて拳を強く握り締めていき、響を睨み付けて声を大に荒々しく叫び出す。

 

 

『俺はっ、俺はあの日に全てを失ったっ!!家族を全員っ、何かもっ!!なのに何故っ、何故お前はのうのうと生きて幸せそうに笑っているんだっ?!妻とあの子はあのライブ会場で死んだのにっ、何故お前だけが助かってぇええええええッッ!!!!』

 

 

「ッ!ライブ……会場……?」

 

 

ありったけの憎悪が込められた支離滅裂な雄叫びを上げるフロッグイレイザーのその言葉に、響は目を見開き、同時に何かを察したかのように息を拒んだ。

 

 

あのライブ会場……数年前に自身が巻き込まれて死の淵をさ迷ったあの事件の事を指し、ただ一人あの事件から生き延びた自分の事を憎んでいるという事は、その口振りからして恐らくこのイレイザーの元となった人間はあの事件で家族を失った遺族。

 

 

加えてこのタイミングで自分を襲ってきたという事は、つまり……

 

 

「もしかして……貴方が未来や、皆を……私が憎くてっ……?」

 

 

『許せないっ……!許さないっ、許されないっ!!俺は全てを失ったのにっ、あの子達は帰って来なかったのにっ……!!何故お前ばかりが幸福なんだっ?!どうしてこんな世界になってもお前に手を差し伸べる人間が現れるっ?!そんな不平等がまかり通ってなるものかァァああああああッッ!!!!』

 

 

「っ、くっ!」

 

 

皆の中から自分に関する記憶が消えたのはこのイレイザーによる仕業なのか。戸惑いを帯びた声音で響が問い質そうとするも、フロッグイレイザーはやはり依然として錯乱し話が通じず、響に問答無用で再び襲い掛かって来た。

 

 

それを見て会話は不可能だと悟った響は咄嗟に真横に飛び退き再び全速力で逃げ出していくが、フロッグイレイザーはそんな響に目掛けて口から連続で水弾を乱射する。

 

 

壁に着弾して飛び散る水しぶきを見て響も慌てて鞄で頭を庇いながら路地の裏へと逃げ込むが、フロッグイレイザーもそれを追って素早く路地の裏へと飛び込み、逃げる響の背中に向かって口から水弾を放ち追撃を続けていくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「──それで、そのシーンでの主人公サイドの逆転っぷりが凄いのよ。今までの伏線を一気に回収してのあの攻勢っぷりがまた気持ちがいいの何のってー!……ふぁああ」

 

 

「成る程、そのアニメに熱中し過ぎてまた寝不足って訳ね……。弓美らしいと言えばらしいけど」

 

 

「ですがあまり夜更かしするのは感心致しませんわよ?寝不足はお肌の天敵と言いますから」

 

 

「…………」

 

 

同じ頃、下校時刻となり学院を終えたリディアンの生徒達が帰路に付く中、未来も友人の生徒達に遊びに誘われ共に下校していた。しかし、その表情は何処か優れてなく暗い顔を俯かせており、彼女に話を振ろうとした友人の生徒もその様子に気付き小首を傾げた。

 

 

「ヒナ?何か元気ないよ?どうかした?」

 

 

「……え?あ、ううん。ただ少し、気になる事があるって言うか……」

 

 

「気になること?」

 

 

?と、要領を得ない未来の発言に友人達も頭の上に疑問符を並べると、未来は視線を足元に向けたまま鞄を持つ手を落ち着きなく動かしながら言葉を続けていく。

 

 

「何ていうか、その……私たちって、本当に『こんな』だったかなって……何か、大事な事を忘れてるっていうか……足りない、っていうか……」

 

 

「?忘れてるって……別に何時も通りじゃない?特に可笑しなとこはないと思うけど」

 

 

「そうですわね……放課後は何時もこの四人で下校してましたし、可笑しな点はないと思いますが……」

 

 

この普段通りに思える日常に違和感がある。何処か落ち着かない様子でそう語る未来の言葉に友人達は互いに顔を見合わせて怪訝な表情を浮かべ、そんな友人達の反応を見て未来は釈然としないのか暗い顔のまま俯いてしまう。

 

 

「ヒナ、もしかしてどっか具合悪い?何か顔色もあんまよくないし……今日は先に帰って休んだ方が良いんじゃない?」

 

 

「……そう、かな……そうなのかも……ごめん、折角誘ってくれたのに……」

 

 

「良いって良いって、体調が悪いならあたし等の事なんかより自分のこと優先しないと。遊びに行くのはまた今度でも出来るしね」

 

 

「そうですよ。今はご自身のお体を労わって上げてください、小日向さん」

 

 

「うん……ありがとう、皆……」

 

 

自分を気遣って優しい言葉を掛けてくれる友人達の厚意に感謝し、三人と別れて先に寮へと戻る事にした未来。

 

 

そしてひとり帰路に付く並木通りの照明灯の光が点灯し始める中、下校する他の生徒達とすれ違う際に二人の女子生徒が談笑しながら一緒に帰る姿を何故か自然と目で追い掛けていき、同時に鈍い痛みが胸に走って締め付けていく。

 

 

(まただ……何なんだろう、これ……あの子達みたいな人達の姿を見ると、無性に胸が痛くなる……)

 

 

恐らく親友同士なのか、仲つむまじく笑い合うあの少女達の姿を見ているだけで理由の分からない痛みが胸に飛来し、何か大事な物が欠けたような喪失感を覚える。

 

 

そんな身に覚えのない感覚に戸惑いを隠せない未来だが、その事に対して何故か不快感は感じない。

 

 

寧ろ、その感情を覚えるのが当然で、自分は今こんな事をしている場合ではないのだという謎の焦燥感に駆られる。

 

 

一体この感情は何なのか……。言葉にし難いが故に答えも出せずより一層悩んでしまうが、やはり友人達が言うように今日の自分は疲れているのだろうか。

 

 

(やっぱり皆の言う通り体調が悪いのかな……今日はもう早く帰って休んだ方がいいのかも……)

 

 

どれだけ考えてもこのモヤモヤとした感情の正体が分からず終いで気疲れしてしまい、友人達に言われた通り今日は早めに休もうと溜め息をこぼし寮に向かう足取りを速めていくが、その時、ドォオンッ!!と何かが破裂するような音が何処からか鳴り響いた。

 

 

「っ?!え?な、何っ?」

 

 

突然の大きな音に思わず肩をビクッと震わせて未来が辺りを見回す。すると、遠方に見える建物の向こう側からいきなり水弾が勢いよく打ち上がって空で破裂し、水しぶきが雨のように街へ降り注ぐ光景が視界に映った。

 

 

「あれって……?」

 

 

空に打ち上がった謎の水弾を目撃して驚きで目を丸くし、呆然と立ち尽くしてしまう未来。だが、次第にその表情が険しくなっていき、それと共に何故か彼処に行かなくてはならないという衝動に駆られ、気付けばまるで何かに弾かれたように走り出していたのだった。

 

 

 

 

 



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第四章/蘇る聖拳×束ねられた絆①

 

 

『──どォーしたァアッ?!さっきまでの威勢の良さは何処行ったんだよ、ええッ?!』

 

 

『グッ……!!がはァああああああッ!!?』

 

 

場所は戻り、旧モール街ではイグニスイレイザーの猛攻の前にクロスが苦戦を強いられ、一方的に痛め付けられる姿があった。凄まじいパワーで振るわれる巨腕の一撃一撃の余波だけで建物の壁が次々と粉砕されていき、肩を掠めただけでも装甲の一部が大きく削り取られる。

 

 

真っ向から立ち向かうにはあまりにも力の差があり過ぎるイグニスイレイザーを前にひたすら防戦に徹するしかなく、隙を見て戦線を離脱しようとしてもタイプスラッシュを上回る機動力で回り込まれ逆に殴り飛ばされてしまう。

 

 

逃走すらも叶わず、防戦一方でこれ以上の致命傷を避けるように立ち回る事しか出来ないクロスも仮面の下で苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも何とかこの状況を打開しようと考え、とにかく距離を取ろうと朱い閃光と化して街中を素早く駆け回り続けるが、それを予想していたかのようにクロスが逃走した先の頭上で待ち構えていたイグニスイレイザーが拳を握り締めた右腕をハンマーの如く振り下ろし、クロスの後頭部を思い切り殴り付け地上に叩き落としてしまった。

 

 

『がぁあうっ!!ぐぁっ、ぁ……頭がっ……!』

 

 

『ボーッとしてる場合かよォおおおおおおッ!!』

 

 

『ッ?!』

 

 

凄まじい力で後頭部を殴り付けられ、意識が揺らぎ眩暈を覚えるクロスの頭上からイグニスイレイザーが怒号と共に紅蓮の炎を纏った右足を突き出して急降下で迫る。

 

 

それに気付きクロスも慌ててその場から飛び退きイグニスイレイザーの蹴りを辛うじて回避するも、滑り込むように地面に着地したイグニスイレイザーが左手に形成した紅い光球をクロスの腹部に押し当てた瞬間、光球が爆発を起こしてクロスを吹っ飛ばし、後方のビルの壁に叩き付けてしまったのだった。

 

 

『ぐあぅううっ!!グッ……クッ、ソッ……!!』

 

 

『ハッ、無様な姿だなぁオイ。昔はあんだけ俺達の事を苦しめてくれたってのに、今やソレも見る影もなしか……』

 

 

叩き付けられた壁から剥がれるように倒れ、地面に両手を付くクロスの姿を見て拍子抜けしたように溜め息を漏らすイグニスイレイザー。

 

 

そして左手を振るって残り火を払いつつ、イグニスイレイザーはクロスを見据えながら巨腕の拳を握り締めていく。

 

 

『けど、だからってこっちも容赦はしねぇぞ。テメェの力の恐ろしさは俺たち自身嫌ってほど身をもって知ってるからな……テメェとの因縁も、此処で俺が幕を引いてやるよォッ!!』

 

 

『ッ……!』

 

 

ゴゥウウッ!!と、イグニスイレイザーの全身から凄まじい殺気と共に勢いよく業火が噴き出し、未だ高まり続けるエネルギー量のあまり轟音を轟かせて地面が陥没していく。

 

 

そのとてつもない熱気は離れていても装甲から白い蒸気が立ち上る程であり、加えて恐らく、あれだけの強大な力を放出していながら未だ全力でない事は確かだろう。

 

 

『(今の俺の力じゃ、逆立ちしても奴には勝てないという事かっ……それに急がないと、アイツがっ……)』

 

 

絶体絶命の窮地に追いやられるこの状況下で脳裏に思い起こすのは、あの公園のベンチで話した響の哀しげな横顔。

 

 

それを思い出すだけで圧倒的な力を前に半ば萎縮し掛けていた闘志が蘇り、クロスは拳を握り締めてふらつきながらも身を起こしていく。

 

 

『へぇ?まだやる気かよ、そんなボロボロの状態で』

 

 

『ッ……諦めるつもりは毛頭ない……言った筈だぞ、アイツの繋がりを返してもらうと……!』

 

 

今は奴に勝てなくても構わない。

 

 

だが、せめて奴らに奪われた響の物語を取り戻すまで死ぬ訳にはいかないと、クロスは傷付いた身体を奮い立たせて左腰のホルダーから取り出したカードをバックルから露出させたスロットに装填し、掌でスロットを押し戻した。

 

 

『Code Blaster…clear!』

 

 

鳴り響く電子音声と共に、クロスは再度タイプブラスターに姿を変えて右手に出現したウェーブブラスターを力強く握り締めるが、イグニスイレイザーはタイプチェンジしたクロスを見て馬鹿馬鹿しげに鼻を鳴らし首を振っていく。

 

 

『何をするかと思えば、またそれか?んなもん俺には通じねぇってまだ分かんねぇのかよ?』

 

 

『……どうかな……とも限らないぞ……?』

 

 

『あ?』

 

 

『Final Code x…clear!』

 

 

不敵に微笑みながらクロスは新たにカードを取り出しバックルに装填する。そして電子音声が鳴り響いた直後、クロスはバックルからスロットを露出させてカードを差し込み直し、再びスロットを掌の底でバックルに押し込んでいく。

 

 

『Final Code x…clear!』

 

 

(!二段重ね……?)

 

 

そう、クロスは必殺技発動の為のカードであるファイナルコードを二度使用し、それに伴いクロスの全身から緑色の閃光が雷の如く放出され無数のスパークを激しく撒き散らしていく。

 

 

その光景は先程イグニスイレイザーが目にしたソレの比ではなく、クロスから放たれるスパークが周囲を駆け走ってビルの壁や地面を大きく抉り取っていく様が凄まじい威力を物語っている。しかし……

 

 

『グッ、アァッ……!!ぐぅううっ!!』

 

 

それはクロス自身にも制御出来ない程の強大な力なのか、バチィッ、バチィイイイッ!と、クロスから放たれる無数のスパークは周囲だけでなく、クロス自身にさえ牙を剥き彼の身体を傷付けていたのである。

 

 

スパークが曲解してクロスの身体を外側から傷付けるだけでなく、身体の内側から溢れ出た雷が装甲を徐々に欠いてズタズタに引き裂いていく。

 

 

それでも尚、クロスは痛みに歯を食い縛りながらウェーブブラスターを重々しく構えていき、銃口に荒れ狂う無数のスパークを充填してイグニスイレイザーに何とか狙いを定め、額から汗を伝わせながら挑発するように笑う。

 

 

『来るなら来いっ……但し、今度はさっきのように行くと思わない事だ……!』

 

 

『……ハッ、面白ぇじゃねえか。そのザマで何処までやれるか、俺が試してやるよォッ!』

 

 

炎が螺旋を描き、イグニスイレイザーの右腕に凄まじいエネルギーが収束されていく。

 

 

それに対しクロスもスパークの充填で揺れる銃口を修正しながらイグニスイレイザーに狙いを固定しつつ引き金に指を掛け、そして……

 

 

『──Heat cannot be separated from fire, or beauty from The Eternal.(熱さと火は切り離すことできない。美しさと神も)……灰塵に還れ、その存在ごとなァァああああああああああああっっ!!!』

 

 

『ハァアアアアッッ!!!』

 

 

僅かな詠唱を口にすると共に、イグニスイレイザーが勢いよく突き出した右腕から発生した爆発から巨大な火炎放射が放たれ、それを迎え撃つ様に撃ち出したクロスの緑色の砲撃が二人の中心で耳を劈くような激突音と共にぶつかり合っていったのである。

 

 

凄まじい衝撃と共に衝突した砲撃と火炎放射が互いを押し退けようとするように、一進一退を繰り返す。

 

 

一見互角に見える拮抗。

 

 

しかしそれも一瞬の事であり、イグニスイレイザーが放出する火炎放射は徐々にクロスの砲撃を押し返し始めていき、クロスの顔が険しく歪んでいく。

 

 

『そらどうしたァああッ!!さっきのようには行かないんじゃなかったのかァああッ?!』

 

 

『ゥッ……クッ……ぐうううっ……!!』

 

 

苦痛に顔を歪めるクロスとは対称に、イグニスイレイザーはまだまだ余裕だと言わんばかりに火炎放射の威力を更に強め、地面を焼き尽くしながらクロスの砲撃を押し返す勢いが増していく。

 

 

その度にクロスの足が地面を滑るように徐々に後退りしていき、何とか足を踏み留まらせて耐えるも火炎放射の勢いは止められず、遂にクロスの目前にまで迫り……

 

 

 

 

『残念だったなぁ……コイツで仕舞いだァァああああああああああああああああッッッ!!!!』

 

 

『……ッ!!うぐっ……くっ……ウァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!?』

 

 

 

 

最後のダメ押しとばかりに炎に込められた力が更に勢いを増してクロスの砲撃を一瞬で打ち消し、同時にクロスを飲み込んでしまったのであった。

 

 

そして、クロスを飲み込んだ火炎放射はそのまま後方のビルの壁を幾つも突き破っていき、最後に着弾した遥か彼方の山の大部分を消し飛ばした瞬間、巨大な爆発と衝撃波を巻き起こしていった。

 

 

『……フンッ、あっけねぇーもんだな……あんだけ俺達を追い詰めた奴の最期がコレかよ……』

 

 

大爆発から発生した空を覆うキノコ雲を見据え、イグニスイレイザーから人間態の姿に戻りながら何処かつまらなさそうに目を細めるアスカ。

 

 

そして、アスカは火炎放射が破壊した焼け跡を辿って徐に足を進めていくと、道中でビルの瓦礫に混じって転がる見覚えのある破片……見るも無残な姿に変わり果てた血痕がこびり付くクロスの仮面の残骸を発見し、邪魔なビルの瓦礫を足で払いながら、クロスの仮面の残骸を掴んで持ち上げていく。

 

 

「しぶとく生き残ってるんじゃねえかと思ったが、この有り様じゃ先ず助かりはしねぇか……」

 

 

バリィッ!と、クロスの仮面の残骸を掴む手に力を込めて完全に残骸を破壊してしまい、粉末状になった破片を手の平からこぼしながらアスカは未だ空に浮かぶキノコ雲を見つめていく。

 

 

「恨みたけりゃあの世で存分に恨め。俺達はテメェの屍を超えて、俺達の物語をこの手に取り戻す……その行く末を指をくわえて見てるんだな」

 

 

これで自分達を邪魔する障害なくなった。クロスの死亡を確認し、後は裏方に引っ込んで手駒のイレイザーに任せておけば大丈夫だろうと踵を返し、アスカは静かにその場を後にしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

──その影には……

 

 

 

 

「───ッ……悪いが……まだ、そのつもりはないっ……」

 

 

 

──アスカの死角となる物陰の壁に付いた手を滑らせて赤い血の跡を塗り、ふらつきながらも身を起こす一人の青年……額から大量に血を流し、服も焼き焦げてボロボロに変わり果てた蓮夜の健在の姿があった。

 

 

荒い呼吸を繰り返しアスカの背中が遠ざかるのを物陰から覗いて確かめると、安堵の溜め息を吐いたと同時に苦痛で顔を歪め、服の袖の隙間から血が伝う左腕を抑えながら壁に背中を付いたままズルズルとその場に座り込んでしまう。

 

 

(上手くいくかどうかギリギリだったが、何とか成功してくれたかっ……ゥッ……)

 

 

息をする度に身体が軋むような痛みに苛まれながら、空を仰いで溜め息を漏らす蓮夜の脳裏を過ぎるのは、先程の土壇場で成功した自身の賭け。

 

 

──あのイグニスイレイザーとの真っ向勝負。奴との圧倒的な力の差からして、どう足掻いても自分に勝ち目がないのは分かり切っていた。

 

 

故に賭けたのは、イグニスイレイザーとの撃ち合いに"敗北したその後"。

 

 

イグニスイレイザーとの撃ち合いに敗北してあの火炎放射に飲み込まれる寸前、相手に悟られぬように予めベルトにセットしていたカードを装填して素早くタイプスラッシュとなり、身体からパージしたブラスターの装甲を盾にして火炎放射を僅かに受け止めた隙に、タイプスラッシュの機動力であの場から離脱するという寸法だった。

 

 

……それでも唯一誤算だったのは、イグニスイレイザーの火炎放射の威力がタイプブラスターの装甲の強度を上回り、タイプスラッシュの機動力を持ってしても回避が間に合い切れなかったこと。

 

 

後僅かでも遅れていれば今頃どうなっていたか……。火炎放射を掠めただけで重度の火傷を負った自身の右足を見下ろしながら最悪の事態を想像して寒気を覚えつつ、蓮夜は激痛を堪えて起き上がり、前を見据えていく。

 

 

(ッ……これ以上、お前達に奪わせはしないっ……アイツや、他の誰かの大切なモノを……これ以上はっ……!)

 

 

自身が背中を付いて座り込んでいた壁にこびり付く夥しい量の血に見向きもせず、蓮夜は響を襲うイレイザーの気配を探り、彼女を助けに向かう為に火傷を負った右足を引きずりながら街へと急いで戻っていくのであった。

 

 

 

 

 



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