戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ (風人Ⅱ)
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第一章/戦姫達の物語×忘却の仮面ライダー

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!」

 

 

──深い霧に覆われた深夜の海沿いの公園。昼間には大勢の人達が家族や友人、恋人との一時を楽しむ人気スポットとしてそれなりに有名なこの場所も、夜の闇に包まれる今はその見る影もない。

 

 

街灯の光が点滅し、公園内は不気味な静寂に包まれ、時間帯的にも当然の事ながら人気などありはしない。

 

 

そんな公園の中を、一人の女性が息を切らしながら必死の形相で何かから逃げるように走る姿があった。

 

 

髪や服が乱れるのも構わず、形振り構わずに逃げ続ける彼女の顔に宿るのは"恐怖"の感情のみ。

 

 

まるで悪鬼にでも追われているかのような様子で後ろを気にするように何度も背後を振り返り、公園の中を逃げ回った先で彼女が滑り込んだのは石造りのベンチの裏。

 

 

そして息切れした酸素を取り戻すかのように胸を抑え何度も深呼吸を繰り返すと、女性は恐る恐る石造りのベンチの穴の隙間から周囲を見回し、誰も追ってきていない事を確認して漸く安堵の溜め息を漏らした。

 

 

「はぁっ……はぁっ……何だったの……一体、"アレ"はっ……」

 

 

呼吸を整えて幾許かの落ち着きを取り戻しても、女性の内を占める疑問や混乱までもが消えてなくなった訳ではない。

 

 

──"アレ"はなんだ?何故自分が追われていた?

 

 

誰かが応えてくれる筈もない疑問を心の内で何度問うても、やはり返ってくるものは何もない。

 

 

思い出すだけでも心の底から震え上がる。しかし最早自分にはどうする事も出来ないのなら忘れてしまった方が楽になれるか、それも無理なら今から警察署にでも駆け込んで相談するしかないと未だ心に根付く恐怖を振り払うようにそう考え、女性は持参のバッグを乱雑に漁り、飲み残しの水で乾いた喉を潤そうと震える手でキャップを開けようとし、

 

 

 

 

 

──ペットボトルの中で揺れる水越しに、血のように赤い瞳を輝かせて自分の顔を覗き込む"悪鬼"の顔を見た。

 

 

「ッ!?い、いやぁあああああああああああっっ!!?」

 

 

『アヒッ、ヒッ……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァッ!!!』

 

 

開きかけのペットボトルの水を投げ出し、耳をつんざくような悲鳴を上げる女性。その声を聞いた悪鬼はまるで歓喜するかのように、狂った嗤い声と共に女性へと迫る。

 

 

恐怖で泣き叫び、腰が抜けたのか女性が身を起こす事もままならないまま地を這いずるように無様に逃げるしか出来ない中、悪鬼はそんな姿をも愉しむかのように不気味に嗤いながら口から夥しい量の涎を垂らし、その両手から生える凶悪な爪で女性の四肢を引き裂こうと勢いよく駆け寄り爪を振り上げ、そして……

 

 

 

 

「…………ぅっ…………っ…………え…………?」

 

 

 

 

……一瞬の後にはズタズタに引き裂かれていたであろう筈の女性の身に、いつまで経っても痛みが降り掛かる事はなかった。

 

 

最早此処までなのかと、絶望のあまり涙で濡れた目で痛みからも目を逸らそうとした女性は不思議に思い、恐る恐る背後に振り返ると、其処には……

 

 

 

 

 

 

『……ギ、ガッ……ギギギッ、ギギィッ……?!』

 

 

『……………………』

 

 

 

 

 

 

──彼女から少し離れた場所に、二つの影が蠢く姿があった。

 

 

一つは女性を襲おうとしていた筈が、何故かいつの間にか遠くに倒れて痛みに身悶える悪鬼の影。

 

 

そしてもう一つは、女性に背を向け、僅かに見える横顔から赤い瞳を輝かせているのが分かる特徴的なシルエットの影。

 

 

何が起きているのか分からぬまま女性が呆然と座り込む中、赤い瞳を持つ影は徐に身を起こす悪鬼を観察するように見つめ、ポツリと呟いた。

 

 

『既に正気はない、か……あのノイズとか言う化け物を際限なく喰らい続けて、果てに狂ったか……』

 

 

『ギギギギギィッ……!!!シャアァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

何処か哀れむようにも聞こえる赤い瞳の影の声も掻き消す程の雄叫びを上げ、自分の愉しみを邪魔した赤い瞳の影に怒りをぶつけるかのように襲い掛かる悪鬼。

 

 

だが、がむしゃらに両手の爪を振るうだけの悪鬼の荒削りな攻撃を赤い瞳の影は最小限の動きだけで軽々と回避し、同時に鋭い二の打ちのボディーブローを胴体へとカウンターで叩き込んで後退りさせ、最後に流麗なミドルキックを打ち込み悪鬼の身体を宙に浮かせ吹っ飛ばしていった。

 

 

『アグゥッ?!ギッ、ギギッ、ギギィッ……!』

 

 

『……これで、終わりだ』

 

 

受け身すらも取れず、地面に思い切り叩き付けられて悶え苦しむ悪鬼を見据えそう呟くと、赤い瞳の影は左腰に備え付けられているカードケースからカードを一枚取り出し、腰に巻かれているベルトのバックルから上部に露出してるスロットにカードを装填してバックルに戻すように掌の甲で押し込んだ。

 

 

『Final Code x……clear!』

 

 

バックルから鳴り響く電子音声と共に、赤い瞳の影が右足を悪鬼に向けて突き出した。直後、足の裏から放たれた蒼い光が悪鬼に直撃すると共に捕縛し、自分の全身を駆け巡る蒼い光を見て悪鬼が戸惑う中、赤い瞳の影は地面を軽く蹴り上げて跳躍すると共に空中で跳び蹴りの態勢を取り……

 

 

『──ハアッ!』

 

 

『イッ、ギッ……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?』

 

 

空中に浮いた赤い瞳の影の全身が蒼く発光し、直後にその身を蒼い閃光と化した跳び蹴りが悪鬼の身体を貫いたのだった。そして閃光から元の姿に戻った赤い瞳の影が悪鬼の背後に現れたと共に、悪鬼は断末魔の悲鳴を上げながら爆散し完全に消滅していった。

 

 

「ッ……な、なんなの……?」

 

 

その一連の流れを目にし、爆発の勢いから思わず顔を逸らしていた女性は呆然と赤い瞳の影を見つめていく。

 

 

……雲の隙間から差す月の光に照らされて輝く、蒼い仮面と黒のアンダースーツの上に纏われる蒼い装甲。

 

 

全身の至る所にXの意匠が施されるその姿を目に焼き付け、女性の脳裏にふと数週間前からネットで話題になっているとある都市伝説が過ぎった。

 

 

闇に潜む怪物から人知れず人々を守る、謎のヒーロー。

 

 

顔を隠す仮面を纏って怪物を倒し、バイクを駆って颯のように立ち去るその姿から人々が名付けた、その名は確か──

 

 

「──仮面……ライダー……?」

 

 

『…………』

 

 

月が照らす光の中で赤い瞳を輝かせる影……仮面ライダーを女性が呆然と見つめる中、仮面ライダーはそんな女性を一瞬一瞥するだけで特に何も語ろうとせず、そのまま背を向け何処かへと歩き去っていったのだった。

 

 

 

 

 



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第一章/戦姫達の物語×忘却の仮面ライダー①

 

 

―S.O.N.G.潜水艦本部―

 

 

──S.O.N.G.。それは超常災害対策機動部タスクフォース(Squad of Nexus Guardians)の略称であり、認定特異災害『ノイズ』に対応するため日本政府が設けた組織。

 

 

その活動内容は先史文明期の人類により作り出された人間のみを大群で襲撃し、触れた者を自分もろとも炭素の塊に転換してしまう特性を持つ異形の存在『ノイズ』、そのノイズの自然発生が終息した今、S.O.N.G.と敵対する錬金術師の組織がノイズを改良して運用する『アルカ・ノイズ』の殲滅は勿論のこと、『聖遺物』と呼ばれる世界各地の伝説に登場する超古代の異端技術の結晶の回収・保護を主な目的としている。

 

 

そんな彼等の本部となるのは、ここ政府が保有する埠頭の敷地内にて現在整備作業が行われる巨大な潜水艦であり、その艦の発令所のブリッジにて今、S.O.N.G.に所属する『シンフォギア』の装者達がとある議題で集められていた。

 

 

「──ノイズとは違う、謎の怪物……ですか?」

 

 

議題の内容を聞かされ、開口一番に疑問げにそう口を開いたのは、襟足が広がった栗色の髪のボブカットの少女……聖遺物『ガングニール』の装者である"立花 響"だった。

 

 

そんな彼女の疑問に同調するように響と共に集められた他の装者の少女達もそれぞれ訝しげな反応を浮かべる中、彼女達の前に立つ赤のカッターシャツとピンクのネクタイが特徴的な大柄の男性……このS.O.N.G.の司令官である"風鳴 弦十郎"は両腕を組んだまま静かに頷いた。

 

 

「うむ……昨夜未明、深夜の警察署に駆け込んだ女性から気になる証言を得たらしい。何でもノイズとは異なる姿の、血のように赤い眼をした正体不明の謎の怪物に突然襲われた、と」

 

 

「正体不明の謎の怪物……」

 

 

「ち、血のようなって……また随分物騒な特徴デスね……」

 

 

弦十郎から聞かされる正体不明の怪物の話の内容に、黒髪のツインテールの物静かな少女……聖遺物『シュルシャガナ』の装者である"月読 調"は険しげに眉を潜め、彼女の隣に立つ髪留めをした金髪の少女……聖遺物『イガリマ』の装者である"暁 切歌"はその不気味な特徴に気味が悪そうに顔を引き攣る。

 

 

そんな中、発令所にて情報処理を担当するオペレーターの二人の男女……"藤尭 朔也"と"友里 あおい"が弦十郎の話に補足説明を加えていく。

 

 

「念の為、女性の証言を元に昨夜彼女が被害に遭ったという公園周辺の索敵レーダーのデータを時間を遡って洗い直してみたのですが……」

 

 

「ノイズ、アルカ・ノイズの反応は勿論の事、それらしき不審な反応は特に感知されてませんでしたね……」

 

 

「だったら襲われた本人の勘違いだったんじゃないか?それっぽい覆面を被ってた暴漢だったとか。いきなり襲われて混乱してたってのもあるだろうし、暗がりじゃ相手の顔なんて良く見えないだろ?」

 

 

オペレーター二人の話から、襟足の左右を長く伸ばした銀髪の少女……聖遺物『イチイバル』の装者である"雪音 クリス"はそもそも怪物など存在せず、襲われた被害者のただの勘違いだったのではないかと指摘するが、その指摘に対し弦十郎の隣に立つ小柄な少女……S.O.N.G.の技術面を担当する"エルフナイン"が手元のパッドを操作しながら応える。

 

 

「その可能性もあるとは思うんですが、実はそれだけじゃなく、この件と何か関わりがあるんじゃないかと思われる噂がありまして……これなんですが……」

 

 

「……?何だこりゃ?」

 

 

「……『新たな都市伝説発見!人知れず怪物から人々を守る、影のヒーロー!』?」

 

 

エルフナインが見せる液晶画面を覗き込むと、其処にはとあるサイトのまとめで紹介される都市伝説のスレッドが映し出されていた。

 

 

淡々とした声音で調がタイトルを読み上げたそのまとめには、夜な夜な人を襲う怪物を謎のヒーローが駆け付けて颯爽と倒したという、まるで特撮ヒーローの中の話のような信じられない体験談が幾つも報告されており、その内容に怪訝な反応を浮かべる他の三人とは対照に、そのスレッドを目にした響が過敏に反応を示した。

 

 

「あ、それ知ってる!確か、『仮面ライダー』の話だよね?」

 

 

「……はあ?仮面ライダー?何だよそれ?」

 

 

「私も今朝学校で友達から聞いたんだよ。素顔を仮面で隠し、何処からともなく颯爽と現れて怪物を倒し、バイクに乗って颯のように去っていく謎のヒーロー!その姿から誰が呼んだか、仮面ライダー!……って」

 

 

「ほんとに何だそりゃ、アホらしい……もしかしなくてもその友達ってあのアニメ好きのお前の友達だろ?別に悪く言うつもりはねえけど、この手の眉唾物にまで手を出し始めたらいよいよ終わりだぞって伝えとけ」

 

 

「えー……私はそんなに悪くないと思うけどなぁ……」

 

 

身振り手振りで友達に教えてもらった仮面ライダーの噂を説明するも、そのあまりに荒唐無稽な内容に馬鹿馬鹿しげに溜め息を吐くクリスから呆れ気味に一蹴され若干気落ちする響だが、その話を聞いていたエルフナインは「いえ」と首を横に振った。

 

 

「響さんの話、あながちただの噂話と切って捨てられないと思います。実際のところ、ここ数週間の間で昨夜の女性と同様の事件が幾つも報告されており、被害者が皆、口を揃えて証言してるんです……『ノイズじゃない謎の怪物に襲われ、仮面を身に付けた何者かに助けられた』、と」

 

 

「……って言われてもなぁ……それでこんな無茶苦茶な話を信じろって言われてもよ……」

 

 

「そもそもの話、その報告されてる被害っていうのが実は被害者側の悪戯って可能性もないデスか?このネットの掲示板とかを見て、誰かが最初にやり始めたから自分もやってみよう!なーんて流行りに乗って、ホントにやってしまった困ったちゃんな人達かもしれないデスよ?」

 

 

未だクリスが仮面ライダーの話を受け入れられず困ったように頭を掻く中、切歌が実は報告される被害そのものが被害者側の自作自演ではないかと推察するも、弦十郎は首を振ってそれを否定する。

 

 

「その可能性も最初に考えられたが、事情聴取を行った警官達の話では、被害者の中には実際に腕や足に何かに引っ掻かれたような深い傷を負った者も何人かいたらしい。……何より、被害者達の様子は皆普通ではなく、聴取を受ける間も何かに怯えているようだった。その様子からして、彼等が嘘を言っているようには見えなかったと」

 

 

「マ、マジでデスか……」

 

 

「……ただの悪戯にしても、その為だけに自分の体に傷を入れるなんて、普通だったら有り得ないよね……」

 

 

言葉を失う切歌の隣で、調は顎に手を添えて冷静に分析する。

 

 

もしも仮に今までの話が本当だと仮定すれば、今街にはノイズとは別に人を襲う怪物が潜み、その怪物を倒す謎の勢力が存在するということになる。

 

 

敬遠しがちな噂や都市伝説の内容から有り得ないと否定しそうになるも、それが仮に本当だとすれば確かに由々しき事態かもしれない。何せ自分達の預かり知れぬ所で人々の身に危険が降り掛かっているのだから。

 

 

「今のところ死傷者の報告は出ていないが、だからと言ってこのまま放置する事は出来ない。今後その被害が出る可能性もある以上、現在S.O.N.G.の方でも事件の調査を進めてはいるのだが……」

 

 

「情報が少ないのもあって、今のところ調査の方もかなり難航しているみたいですね……何分頼りとなる手掛かりが被害者の証言とネットの情報だけなのもそうですが、証拠も殆どなく、今までの事件が信憑性の薄い都市伝説レベルの話で留まっていた辺り、もしかすると件の怪物側にも証拠を隠滅する工作員のような存在がいるのではないかと……」

 

 

「人を襲って、しかも証拠も消し回ってんのかよ……やってる事のタチの悪さは錬金術師の連中とどっこいどっこいだな……」

 

 

「でも、だったら余計にほっとけないです!理由もなしに人を襲ってるなら、尚更……!」

 

 

正体が不明でもあっても、事実人が襲われて被害も出ているのは確かだ。ならば何であれ捨て置くことなんて出来ないと、拳を握り締めて力強い眼差しを向ける響に対し、弦十郎も同意の意を込め頷き返す。

 

 

「現状、手掛かりが少ないのは事実だが、かと言って何も掴めていない訳でもない。昨夜の怪物の被害に遭った女性だが、一夜明け、事件当時の記憶を落ち着いて思い出せるようになった彼女の口から気になる証言を得られた」

 

 

「女性の話では、怪物に襲われ掛けた所を例の仮面ライダーに助けられ、彼が怪物を見てこう口にしたそうです……『ノイズを食べ過ぎて、狂ったか』、と」

 

 

「ノイズを……食べる……?」

 

 

耳を疑う内容に、装者四人は目を見開き困惑してしまう。

 

 

ノイズとはその特性として、触れたものを炭素や塵に分解する危険な能力を持ち、シンフォギアのような特殊な兵装を持たなければ触れる事すら出来ない存在。

 

 

なのにそのノイズを喰らえるとなれば、それはノイズと同等か……いや、仮にもし食らった分強くなるとすれば、それはノイズ以上の脅威となりうるかもしれない。

 

 

想像していたよりも遥かに危険な存在である可能性が仄めかされ、装者達の間に改めて緊張が走る中、それが伝わったのか弦十郎も真剣な口調で発令を掛ける。

 

 

「真偽の程は分からないが、この証言が事実であればこのまま放っておく事は出来ない。よってS.O.N.G.は今後の方針としてこの謎の怪事件の真相を追うと共に、件の怪物の捕縛、又は撃破を視野に調査する事とする。尚、件の怪物については被害者の証言を元に、仮称として『ノイズイーター』、仮面ライダーと噂される謎の存在を『マスクドライダー』と称する事となった」

 

 

「ノイズイーターと、マスクドライダー……」

 

 

「うーん……私としては仮面ライダーの方がしっくり来るんだけどなぁ……」

 

 

「あー、分かるデス。何故か分かりませんがそっちの方がなんと言うかこう……キュピーン!と身が引き締まる感じがするデスよ」

 

 

「お前ら、緊張感が長続きしなさ過ぎだろ……」

 

 

今さっきまでノイズ喰いという未知の能力の敵の存在を知って緊張の面持ちだった筈なのに、早くもいつもの調子に戻り仮面ライダーの呼称について盛り上がる響と切歌にクリスも呆れ、調も似たような反応で溜め息を吐いてしまっている。

 

 

そして弦十郎もそんな様子にやれやれと肩を竦めるも、すぐにまた表情を引き締め話を進めていく。

 

 

「一先ず今回は此処までだ。相手の正体が掴めていない以上後手に回ざるを得ないが、気を逸らせても仕方がない。今後情報が入り次第君達にも報せ、場合によっては緊急で出撃してもらう場合もある。その時は宜しく頼んだ」

 

 

「分かりましたッ!……あ、ところで師匠、今の話って翼さんとマリアさんには……」

 

 

「あ、お二人には先に僕の方から伝えてあります。ただ、お二人にもまだお仕事があるらしいので、急に帰国するのは中々難しいかと……」

 

 

「あー、そっか……二人とも今は海の向こうだしね……」

 

 

残念そうに呟く響の脳裏に浮かぶのは、装者達の中でも年長組の二人……聖遺物『天羽々斬』の装者であり、弦十郎の姪である"風鳴 翼"と、聖遺物『アガートラム』の装者である"マリア・カデンツァヴナ・イヴ"の顔。

 

 

どちらも世界に誇るトップアーティストとして活動しており、現在も海外での活動に勤しむ彼女達にこちらの都合に合わせて直ぐに帰ってきてもらうのは確かに難しいだろう。

 

 

しかし欲を言えば二人の顔を見たかったなぁと後ろ髪を引かれながらも、とりあえずその場を解散となった響は他の装者の三人と共に本部を後にするのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

──同時刻、とあるビルの屋上にて二人の青年の姿があった。

 

 

一人は赤いジャンパーを羽織り、屋上の手すりに寄りかかりながら目付きの悪い眼差しでビルの真下を行き交う人々を見下ろす金髪のツンツン頭の男。

 

 

もう一人は青い革ジャンを着込み、屋上の手すりに背中から持たれ掛かりながら気怠げに空を見上げる青髪の青年。

 

 

一見普通の大学生にしか見えない二人組だが、ビルの上から街を見下ろしていた金髪の男は突然「チッ」と舌打ちし、何やらイライラした様子で青髪の青年に目を向けた。

 

 

「おい、そっちは何か掴んだかよ?例の件の犯人をよ」

 

 

「……うん?いーや、こっちもぜーんぜんダメ。事後処理のついでで色々捜してみたけど、それらしいもんは特になーんもナシ」

 

 

「またかよ……クッソ、もう何週間もこの調子だぞ!一体何人目だよこれで!」

 

 

青髪の青年からの報告を聞いて余計に苛立ちが増したのか、金髪の男は思わず手すりを蹴り付けて毒づき、そんな男の姿を横目に青髪の青年は自身の爪を弄りながら飄々とした口調で宥める。

 

 

「ま、焦ったとこでどーにもなんないでしょ。俺達に今出来んのは、野放しにした連中が強くなって戻ってくんのを待つ事ぐらいなんだし」

 

 

「だからっ、その野放しにした連中がドンドンドンドンやられてってるから焦ってんだろうがよ!ここまで作るのにどんだけ時間が掛かったと思ってんだ!やっぱ俺が言った通り、地道に餌を食わせて力付けさせんのが一番だったんじゃねえのか?!」

 

 

何処か適当な調子の青髪の青年の口振りに思わず凄んで食って掛かる金髪の男。だが青髪の青年はそんな男のガン飛ばしも何処吹く風と無視し爪を弄り続け、そんな青年の調子に金髪の男も余計にストレスが増すばかりで「あーッ!!」と頭を掻きむしるが、其処へ……

 

 

「──それではただ肥えるだけで、駒は駒としての域から脱せられない。最初に言ったハズだろう?俺達が欲しいのは『同士』であり、駒の製造はその過程でしかないと」

 

 

──そんな二人の下に、屋上の入り口の方からもう一人の男が悠然とした足取りで姿を現した。

 

 

黒のスーツを着込み、黒い髪をオールバックにし、インテリ眼鏡を掛けた瞳からは人間らしい暖かみを一切感じられず、その男の全身からただならぬオーラが滲み出ている。

 

 

恐らく男二人のリーダー的な存在なのか、オールバックの男の姿を捉えた途端、金髪の男は「ゲッ……」とあからさまに嫌そうな顔をし、青髪の青年は一瞬意外そうに目を見開くもすぐに微笑を浮かべた。

 

 

「なーんだ、デュレンも来たんだ。てっきり今回も何もせずに後ろでふんぞり返ってるだけだと思ってたよ」

 

 

「お前たちだけで順調に事が運んでいればそうするつもりだったさ。だが、そんな悠長な事を言っていられる状況ではなさそうだからな……」

 

 

「……チッ、また十八番の小言かよ……」

 

 

二人の顔を冷たく一瞥するデュレンと呼ばれた男に対し金髪の男はめんどくさそうに舌を打ち、青髪の青年は相変わらずだなぁと脳天的に笑いつつも、手すりの上で頬杖を着きながら彼自身が気になっていた疑問をデュレンに投げ掛けた。

 

 

「けど、そっちから来てくれたなら話が早いよ。聞きたい事もあったし……今回の件、デュレンは何が起こってるのかある程度掴めてるのかな?」

 

 

「さあな。まだ全貌の全てを掴めてる訳じゃない。だが、我々を完全に滅ぼせる存在は決してそう多くはない……その力を持たない『この物語』の主要人物である装者やその敵対勢力を候補から外すとするなら、答えは自ずと一つしかないだろう」

 

 

「……まさか……」

 

 

「おい……それってまさか、『アイツ』が実はまだ生きてたって言うんじゃないだろうな?!」

 

 

デュレンが言わんとしてることを汲み取ったのか、青髪の青年は今まで浮かべていた微笑を消し、金髪の男もあからさまに動揺を浮かべてデュレンへと詰め寄っていくが、デュレンは落ち着き払った雰囲気のままそんな男の横を素通りし淡々と語り続ける。

 

 

「今回の計画を始動する前に、必ず障害となるであろう奴を我々の手で罠に嵌め、この目で事の成り行きを見届け、確実に息の根を止め始末した……そう思い込んでいたが、どうやら我々の予想以上に、奴自身もしぶとかったという事かもしれないな」

 

 

「悠長なこと言ってる場合かよ……!どうすんだ?!奴が生きてたんじゃ、せっかく作った今までの駒も結局奴に消され回って計画の進めようがねえだろ?!」

 

 

それなのに何故そんなにも落ち着いていられるのかと、金髪の男は予想外の事態に焦りを露わにデュレンに食って掛かるが、それに対し青髪の青年は微笑を浮かべたまま軽く手を振って男を宥めた。

 

 

「まあまあ、落ち着きなよ。まだ可能性の話ってだけで、本当にそうと決まった訳でもないんだし。……けど、デュレンの方はそう思ってるってことは、これから何か事を起こそうと考えてわざわざ此処へ来たんでしょ?」

 

 

「無論だ。集めた駒を無為に消されるなどこちらにとって何一つ得などないからな。このまま手を拱くつもりもない……正体がなんであれ我々の障害となるなら、これを排除する……その為にも先ず、奴を炙り出さねばならない」

 

 

「炙り出すって……どうやってだよ……?」

 

 

何か考えがあると言うのか、金髪の男がデュレンに怪訝な眼差しを向けそう問うと、デュレンは無言のまま人差し指で空を指した。

 

 

「奴の目的が我々なら、奴が必ず食い付くであろう餌となる捨て駒を用意する。その為にも先に、捨て駒を釣る為の餌を用意しなければならないが、ここには丁度先の物語で既に使い終えたモノが幾つも転がっているからな。それを再利用させてもらうのさ……先ずは、ノイズからだ」

 

 

「ノイズって……あぁ、バビロニアのなんとかって奴から出てくる有象無象の方か……」

 

 

「けどアレ、確かこの物語の装者達が前の戦いで宝物庫を閉じたせいで使い物にならないんじゃなかったっけ?」

 

 

バビロニアの宝物庫。それは異世界に存在し、 無限とも言える広さを備えた武器格納庫にしてノイズのプラントでもある。

 

 

嘗て『フロンティア事変』と呼ばれる事件の終盤にて装者達の活躍により次元の入り口が閉ざされ、以降は特異災害としてそれまで人々の脅威の対象であったノイズの出現自体はなくなったものの、錬金術師と呼ばれる者達が新たに使役するアルカ・ノイズの出現により、この世界では未だに装者達とノイズの戦いが続いているというのが大まかな流れだ。

 

 

そんな経緯から、宝物庫を開ける事はほぼ不可能に近く、其処からどうやってノイズを引っ張ってくるつもりなのかと首を傾げる二人に対し、デュレンは眼鏡を抑えて何でもないように告げる。

 

 

「この物語のルールに沿った正規の方法では、確かに無理だろうな……だが、俺達は既にあらゆる物語から追放された身だ。わざわざそんなものを守る義理はない」

 

 

「……ああ……つまり、お得意の『改竄』ってことね」

 

 

「ったく、いいよなぁコイツは?世界のルールにまで干渉し放題でさ……俺もとっととその領域にまで上りたいぜ……」

 

 

不貞腐れるようにそう言いながら金髪の男は手すりに頬杖を付いてそっぽを向き、青髪の青年もそんな男の様子を横目にニヤニヤと爪弄り再び始める中、デュレンは手首を摩り鋭く細めた目付きで街を睨み付けていく。

 

 

「この物語も所詮、俺達からすればただの通過点に過ぎん……我々の目的を成就させる為にも、この物語には踏み台になってもらうとしよう……」

 

 

パキィッ!と、冷淡な言葉と共に無骨な指の節を鳴らすデュレン。

 

 

次の瞬間、まるで心臓の鼓動のような振動が世界に轟き、街の空に火花が走り、巨大な異次元の穴が開かれた。

 

 

そして其処から溢れ出ようとする殺戮の化身達の姿を一瞥する事も無く、デュレンは踵を返し、他の二人をその場に残し何処かへと歩き去っていったのだった。

 

 

 

 

 



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第一章/戦姫達の物語×忘却の仮面ライダー②

 

 

 

──街の上空に次元の穴が開かれる、少し前……

 

 

 

―お好み焼き屋『ふらわー』―

 

 

「──それじゃ皆は、今度はその都市伝説と事件を追う事になったってこと?」

 

 

S.O.N.G.の本部を後にした響達は、それぞれの家への帰路に付く道中で空腹気味な腹に何か入れてから帰ろうという話になり、彼女達の学校からさほど離れていない商店街の一角に建つ馴染みのある店、お好み焼き屋『ふらわー』に訪れていた。

 

 

注文したお好み焼きの芳ばしい匂いが鉄板の上から店中に漂う中、響達にそう疑問を投げ掛けたのは、響から連絡を受けて彼女たち四人と同じ席に同伴する黒髪ショートに後頭部に大きな白いリボンを結んだ少女……響の小学校時代からの幼馴染でS.O.N.G.の民間協力者でもある"小日向 未来"であり、彼女からの質問に対しクリスはテーブルの上に頬杖を着いたまま、もう片方の手で割り箸を器用に回しつつ不満げに口を尖らせていた。

 

 

「正直、あたしとしてはただの悪戯程度であって欲しいって感じだけどな……。ただでさえノイズだの錬金術師だのでてんてこ舞いだってのに、これ以上厄介事に増えられてたまるかよっ」

 

 

「……私もそう思いたいけど、実際に被害が出てる以上、司令の言う通り放置は出来ないと思います……あとクリス先輩、食事してる最中のテーブルの上で頬杖付くのはお行儀悪いです」

 

 

「うっ……う、うるせーな……わーってるよっ……」

 

 

自分の意見にそうであって欲しいと調に同意されつつ、同時に行儀の悪さを注意されてバツが悪そうに顔を逸らしながらも言われた通り頬杖を止め、飲み物を口に含んでいくクリス。

 

 

そんな彼女の乱暴な口調とは裏腹に素直な所に思わず苦笑いしつつ、響は箸で自分の皿のお好み焼きを切り分けながら未来に質問を投げ掛けた。

 

 

「それで私達も、少しでもその都市伝説や事件の情報を集めようと思ってるところなんだけど、未来は何か聞いた事ない?弓美から他にも噂話を聞かされたりとか」

 

 

「うーん……私も響と同じ話を聞かされたぐらいで、そういうのはあまり聞いた事がないかなぁ……」

 

 

「……そっかぁ……やっぱりそう簡単には行かないよねぇ……」

 

 

何せS.O.N.G.の優秀な諜報員ですらその足取りを未だ一切掴めていないのだから、普段は普通の学生でしかない自分達の手で簡単に見つけられるならそもそもこんな苦労はしていないだろう。

 

 

ならば一体どうしたものかと、頭を悩ませる響が難しい表情のまま椅子に背もたれ店の天井を仰ぐ中、よほど空腹だったのか、お好み焼きを一心不乱に口に詰め込んでいた切歌が突然ハイテンションに口を開いた。

 

 

「だったら此処はやっぱり、さっきアタシが提案した作戦を実行するしか手はないデスよ!」

 

 

「って、まだ言ってんのかよっ。それはさっき却下だって言ったろっ!」

 

 

「?切歌ちゃんの作戦って……?」

 

 

割り箸を手に挙手する切歌と間髪入れずにそれを一蹴するクリスのやり取りを聞き、先程合流したばかりの未来は何の話?と頭上に疑問符を浮かべる中、お茶を啜って一息吐いていた調が少し困った顔で代わりに説明し始める。

 

 

「此処へ来る前の道すがらで、皆で例の事件の謎の怪物とその怪物を倒すヒーロー……マスクドライダーをどうやって探そうかって話し合ってた時に、切ちゃんが作戦を一つ思い付いたんです。その作戦と言うのが……」

 

 

「ズバリ!『怪物に襲われるフリをして、影のヒーローをおびき寄せる作戦』デス!」

 

 

「……そ、そのまんまだね」

 

 

「さっきあたしもそう言った……」

 

 

中身がそのまま名前に出てしまってる作戦を自信満々に口にする切歌に未来も苦笑いを返すしかなく、彼女の隣に座るクリスも疲れた溜め息と共にお茶を啜りまともに相手にしようとしないが、切歌の方も退こうとせず、眉を八の字にして食い下がる。

 

 

「で、でもでも、怪物も仮面ライダーも何処にいるのか分からないならそれぐらいしか向こうから来てもらう手はありませんし、直接会って話せるならわざわざ話が通じるか分からない怪物より、人助けをしてて話が通じやすそうな仮面ライダーの方に来てもらうのが一番だと思うデスよっ」

 

 

「それは……一理あるとは思うけど……」

 

 

実際の所、怪物を発見して仮に捕えられたとしても話が通じない獣だったなら、怪物の身体の構造が判明する以外にその目的や出自などの得られる情報は限られてくるやもしれない。

 

 

ならば比較的話が通じそうで、且つ怪物の正体を知っていそうな仮面ライダーにこちらから会うとすれば怪物騒ぎを意図的に起こし、向こうから来てもらうのが安全面も考えて角が立たない方法だろうかと調が少し納得し掛ける中、その反応から手応えを感じ取った切歌が更に畳み掛ける。

 

 

「だからアタシ達で怪物に襲われるフリをして、仮面ライダーがノコノコやってきた所を皆で一斉にふん捕まえてやるんデスよ! 獅子は兎を食べるにも全力投球デース!」

 

 

「切ちゃん、それを言うなら獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くすだよ。兎は食べちゃダメ」

 

 

「だからそんな陳腐な作戦が上手くいく訳ないだろってっ。そこまでやって肝心のマスクドライダーが来なかったら、あたし等が馬鹿をみるだけじゃねぇか。大体、フリって事は偽物の怪物も用意する訳だろ?誰がやるんだよそんなの」

 

 

「勿論、其処はやっぱりリアリティーが大事デスからね。この役にはやはり普段からプリプリ怒りやすい、迫力ある演技が出来そうなクリス先輩にしか……」

 

 

「何で其処であたしなんだよッ?!ふざけんなぁッ!!」

 

 

誰がやるかそんなもんッ!!と偽物の怪物の配役についてテーブルから立ち上がったクリスと切歌が口論を始める中、そんな二人を宥めようと間に座る未来がオロオロしてしまうも、其処で響が先程から天井を仰いだまま何やら考え込んでいるのに気付き、首を傾げた。

 

 

「響?どうかした?」

 

 

「……へ?あ、ううん。別に大した事じゃないんだけど……仮面ライダーの正体って、どんな人なのかなぁって考えちゃって」

 

 

「……仮面ライダーの?」

 

 

「うん。だってほら、怪物を倒すだけなら襲われる人を助けたりする必要もないし、今までの事件で死傷者が誰一人出ていないって事は、それだけ仮面ライダーが一人で頑張ってたって事でしょ?ならきっと悪い人じゃなさそうだし、もし話し合えれば、怪物と戦う為に協力し合う事も出来るんじゃないかなって……」

 

 

もしもそうなれたならと、噂の仮面ライダーの姿を想像しそんな先の未来に思いを馳せる響。その横顔を見て相変わらずだなぁと微笑み、未来は瞼を伏せながら弾むような声音で応える。

 

 

「だったらそれを叶える為にも、先ずは仮面ライダーさんに会う所から始めないとね?」

 

 

「うーん……問題は其処なんだよねぇ……こうなったらいっそのこと、切歌ちゃんの作戦に本気で乗っかっちゃうっていう手も……」

 

 

「はああッ?!冗談じゃねえぞふざけんなッ!誰がなんて言おうとあたしはぜってぇーやらねぇからなッ?!そんな役も作戦もッ!」

 

 

「どうしてクリス先輩は其処まで嫌がるんデスかッ!ちょっと覆面被って、それっぽく振る舞ってアタシ達を襲ってくれればいいだけの簡単なお仕事デスよッ?!」

 

 

「その覆面を被るのが嫌だってさっきから何度も言ってんだろ馬鹿ッ!!」

 

 

「二人とも、そろそろその辺にしないと。お店にも迷惑が……」

 

 

未だに言い合いを続けようとする二人にいい加減調も店の迷惑を考えて止めに入ろうとし、それを見た響と未来も互いに顔を見合わせ苦笑いを浮かべながら調の加勢に加わり仲裁に入っていく。

 

 

これが彼女達の日常。数多くの過酷な戦いを乗り越える為の支えとなる守りたいモノ。

 

 

そんな何時もの風景が此処にある事、束の間の幸せに喜びを噛み締め、こうして今日も一日が終わるのだろうと漠然と誰もが信じて疑わずにいた中、

 

 

 

 

──その平穏を打ち壊すかのように、ノイズの出現を報せる避難警報のサイレンが前触れもなく街中に鳴り響いた。

 

 

「……ッ!コイツは……!」

 

 

「避難警報……!」

 

 

突然のサイレンに響達の間に緊張が走る中、彼女達が携帯する通信機にも緊急通信が入った。すぐさま通信をONにし応答すると、先程本部で別れたばかりの弦十郎の張り詰めた声が通話口から響く。

 

 

『緊急事態だッ!皆、すぐに本部に戻ってくれッ!』

 

 

「師匠!一体何が……!」

 

 

「アルカ・ノイズか?!それともまさか、例の怪物が……!」

 

 

『いや、そのどちらでもない。しかしまさか……いや、そんな事が……』

 

 

「「「「……?」」」」

 

 

何やら弦十郎の様子が可笑しい。その声には何処か動揺が滲み出ており、響達も怪訝な表情で首を傾げる中、直後に弦十郎の口から信じ難い一言が飛び出た。

 

 

『ノイズだ……アルカ・ノイズではない、ノイズが再び街に現れたッ!』

 

 

「「「「……なっ……」」」」

 

 

……それは本来、この世界で起こり得ない筈の事象の一つ。

 

 

そして同時に、それはこの世界の本来の流れが崩壊するカウントダウンの始まりを意味していた───。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

「ひっ、ひ……うわぁああああああああッ?!!」

 

 

「た、助けっ……ぎゃあァああああああああああッ?!!」

 

 

──大勢の人々が行き交っていた繁華街の中心区。其処は今、阿鼻叫喚の地獄と化して絶え間ない悲鳴が響き渡っていた。

 

 

逃げ惑う人々を執拗に追い、僅かでも触れた人間を自ら諸共炭素の塊と化し消滅する殺戮だけが目的の傀儡達。

 

 

──それがノイズ。この物語の中で永久に閉ざされていたハズの宝物庫の奥から再び姿を現した、人間を殺す為だけに存在する災厄そのものだった。

 

 

「──あーらら、惨いことしちゃって。相変わらず目的の為なら容赦しないよねー、デュレンはさ」

 

 

無抵抗の人々が何も出来ずに一方的に殺戮されていく。そんな無慈悲な光景をとあるビルの螺旋階段から静観しながら他人事のように呟くのは、ノイズを呼び出した張本人であるデュレンの仲間である青髪の青年だが、その表情には先程同様飄々とした笑みが張り付いている。

 

 

そんな彼の後ろで階段に腰を下ろす金髪の男も目の前の惨状に特に興味を移そうとはせず、膝の上に頬杖を立てて青年の口ぶりに鼻を鳴らして笑った。

 

 

「心にもない事を良く言うぜ。お前にとっちゃこれもどうでもいい細事、だろうよ?」

 

 

「まーねー。人が死ぬとこなんて飽きるほど見てきたし、今更心を揺らすほどの特別な何かなんて感じないさ。君だってそうだろ?」

 

 

「そりゃな。けど、俺としてはもうちょい控え目な作戦にしてもらいたかったぜ……こんな派手めに動いて、本当に大丈夫なんだろうな……?」

 

 

「ハッハハッ、君ってば本当に慎重派だよねぇー。見た目はそんなヤンキーっぽい外見なのにさぁ?」

 

 

「うるせぇなぁッ!俺はただ失敗すんのが嫌いってだけ──あ?」

 

 

ケラケラと笑う青髪の青年にムッとして怒鳴る金髪の男だが、その時、何処からともなく大気を切るブレードの音が聞こえてきた。

 

 

その音に釣られ二人が空に目を向けると、其処にはS.O.N.G.の潜水艦がある方角から飛来して現場上空に浮遊する機体……S.O.N.G.のヘリの姿があり、開かれたヘリのドアからS.O.N.G.の制服を身に付けた四人の少女達……S.O.N.G.と合流した響達が顔を覗かせ、ヘリの真下で人々を襲うノイズの姿を捉え目を見開いていた。

 

 

「ノイズ……!」

 

 

「マジかよ……何でアイツ等がまた湧いて出て来てんだっ?!」

 

 

先の通信で弦十郎からある程度の状況を聞かされたとは言え、やはり実際に自分の目で直接見るのとでは衝撃の度合いが違うのか、四人は二度と現れる筈のないノイズの出現を前に明らかな動揺を露わにしてしまう。

 

 

「い、一体どうなってるデスか……!もしかして、バビロニアの宝物庫がまた開いたって事デスかッ?!」

 

 

「でも、宝物庫を開くのに必要なソロモンの杖は、確かに宝物庫の中へ消えたハズ……」

 

 

『ソロモンの杖』、それはバビロニアの宝物庫を開く鍵であり、ノイズを任意に発生させる事が出来る能力を持つ聖遺物でもあった。

 

 

しかしその鍵も嘗てのフロンティア事変で消滅した筈であり、それは同時にバビロニアの宝物庫から生まれるノイズの発生も二度と起きない事を意味していた筈だった。

 

 

だが、ならばこのノイズ達は何処から現れたのか?

 

 

考えても分からない疑問が装者達の胸の内を占める中、それを最初に破ったのは、片手にまるで宝石のように輝く赤いペンダントを手にした響だった。

 

 

「何が起きてるのか分からなくても、今私達がやるべき事は変わらないよ……!行こう!みんなを助けないと!」

 

 

「……だな。考えたって分からないなら今は後回しだ。先ずは奴らを残らずぶっ潰す……!原因を探るのはその後だ!」

 

 

何処までもまっすぐな響の力強い言葉に触発され、幾許かの落ち着きを取り戻したクリスも彼女と同様の赤いペンダントを首元から外して握り締めると、同じく冷静さを取り戻した切歌と調もそれぞれペンダントを手に力強い眼差しで頷き返し、四人は一斉にヘリのドアから飛び降りた。そして……

 

 

 

 

 

「──Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 

「Killiter Ichaival tron……」

 

 

「Zeios igalima raizen tron……」

 

 

「Various shul shagana tron……」

 

 

 

 

 

空を舞う少女達の口から、それぞれ異なる詠と詞が美しい声音で紡がれる。

 

 

次の瞬間、彼女達の身体が橙色、赤色、緑色、桃色の眩い光に包まれ、まるで流星のように凄まじいスピードでノイズ達が入り乱れる地上へ急降下し、爆発じみた衝撃波で粉塵が舞い上がる程の地響きを轟かせながら戦場へと降り立った。

 

 

そして、突如空から落ちてきた星々を見て人々を襲っていたノイズ達も一斉に足を止めて振り返ると、視界を阻む粉塵がヘリの突風に煽られて掻き消され、まるでベールを剥がされるように少女達の姿が露わになっていく。

 

 

風に揺れる白いマフラーを靡かせ、白と橙色のナックルを両腕に纏い力強く拳を握る響。

 

 

赤いヘッドギアに覆われた銀色に煌めく髪を揺らし、無言のまま両手に握るマシンピストルの照準をノイズ達に狙い定めるクリス。

 

 

互いに肩を並べ、身の丈を軽く越える黒と緑の大鎌を手にする切歌と、ツインテールの部分に纏われる白とピンクの装甲の基部から分離したヨーヨー型の鋸を構える調。

 

 

それぞれがそれぞれの色を現すアンダースーツと装甲を纏い、文字通り『戦姫』へとその身を変えた四人のヘッドギアに、本部からの通信が届く。

 

 

『装者達の到着を確認!しかし、周辺にはまだ民間人の多くが取り残されています!』

 

 

『逃げ遅れた人々の避難誘導はこちらで行う!お前達は出来るだけ其処からノイズ達を遠ざけてくれ!頼んだぞ!』

 

 

「「「「了解ッ!」」」」

 

 

最優先事項は民間人の避難完了までノイズを一匹たりとも此処より先へ通さないこと。

 

 

弦十郎からの指示に力強く応えると共に、一歩前へ踏み出した勢いから地を蹴り上げて飛び出し、右拳を振りかざして先陣を切る響を筆頭に他の三人も後に続いていき、シンフォギアを身に纏った装者達とノイズ達の戦いが再び火蓋を切って落とされたのであった。

 

 

「あらら、先に装者達の方が釣れちゃったみたいだねー。どうしよっか?」

 

 

「どうもしねぇよ……どーせどっちかが釣れるまでの無限湧きだろうし、わざわざ俺らが手を貸すまでもねぇさね」

 

 

ほっとけほっとけと、金髪の男はそう言って駆け付けた装者達とノイズの戦いに目もくれず、後頭部に両手を回し階段の上に寝っ転がる。

 

 

そんな男の姿を見て青髪の青年も先程と変わらない微笑を浮かべると、けたたましい戦闘音が響き渡る戦場の方に目を向けていく。

 

 

「まあ確かに、こんだけ大騒ぎしてくれれば向こうから来てくれるのは間違いないだろうしねぇ……餌が欲しい駒はともかく、果たして『彼』は来てくれるのかなぁ?」

 

 

笑いながら装者達とノイズの戦いを見守りつつも、青髪の青年は着実にこの場所へと近づいてくる"禍々しい気配"を感じ取って更に口元の笑みを深めていき、これから起こるかもしれない『未知』に対して密かに胸を踊らせていくのであった。

 

 

 

 

 



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第一章/戦姫達の物語×忘却の仮面ライダー③

 

 

「はァああああああああァァッッ!!!!」

 

 

そして場所は戻り、ノイズ達が蔓延る戦場ではギアを身に纏った装者達が紡ぐ『歌』が鳴り渡り、徐々に戦闘力を上げてその勢いを増しながらノイズ達を蹴散らしていく姿があった。

 

 

本来なら欠片程度の力しか持たない聖遺物の力が戦姫達の歌で高まると共にその威力も増していき、ノイズが密集する地点に空から降下した響が地面に勢いよく拳を叩き付けた瞬間、拳の衝撃が橙色の凄まじいエネルギーの波動と化して拡散し、ノイズ達を飲み込んで木っ端微塵に消し飛ばしていく。

 

 

それに続くように、両手のマシンピストルの銃弾を周囲にばら撒くように五月雨撃つクリスの乱射、大鎌を大きく振るい、まるで芝を狩るかのような勢いで広範囲のノイズを纏めて斬り裂く切歌の斬撃、両足のブーツに内蔵された小型の車輪で滑走し、すれ違い様にツインテール部分の装甲に装着された円形の鋸で引き裂く調のヒット&アウェイの戦法が確実にノイズ達の数を減らしつつあった。

 

 

……が、直後に減らされた数を補填するかのように何処からともなく新たなノイズ達が出現していき、あっという間に装者達に撃破された数を上回り四人に再度襲い掛かっていく。

 

 

「ッ!倒しても倒しても、また次が現れるっ……!」

 

 

「ああもうっ、これじゃキリがないデスよッ!」

 

 

「いいから、口を動かすより手ぇ動かせ!まだまだ増えてきてんぞッ!」

 

 

自分達が倒すスピードよりも速くその数を増やし続けるノイズ達に対して思わず音を上げてしまう調と切歌に喝を入れつつ、クリスは両手の銃をマシンピストルから大型のガトリングガンに切り替えて周囲のノイズ達を薙ぎ払っていく。

 

 

「ハッ!たァああッ!やぁッ!」

 

 

一方で、先陣を切る響も軽快な立ち回りで首元のマフラーを靡かせながら次々とノイズ達に拳を叩き込んで撃破していき、霧散するノイズに目もくれず次へ次へと前に突き進んでいく。

 

 

が、不意に頭上から巨大な影が現れて辺りを覆い尽くし、空を見上げれば、其処にはビル一つ分程のサイズがあるであろう巨大なノイズが腕を振りかざす姿があり、そのまま周りのノイズ達ごと巻き込むように巨腕が振り下ろされ、凄まじい震動を起こしながら他のノイズ達もろとも押し潰されてしまったかに思われたが……

 

 

「──うおォおおおおおおおおおおッッ!!!」

 

 

……ノイズの巨腕に風穴が開かれ、其処から右腕のギアの形状をドリルのように変化させた響が腰部ユニットに装備するバーニアで加速して猛スピードで飛び出し、そのまま巨大なノイズの頭を回転するドリルで貫き撃破していったのだった。

 

 

そして、ガトリングガンを乱射させながらノイズの群れからある程度の距離を取ったクリスは背部のギアを徐々に変形させながら大型化させていき、背部に形成した固定式射出器に左右それぞれ3基、計6基の固有の形状の大型ミサイルを連装して生成させてゆく。

 

 

「いい加減ちょせえっ……!纏めて吹っ飛べェええええええッッ!!」

 

 

―MEGA DETH SYMPHONY―

 

 

数の減らないノイズ達に痺れを切らしたクリスの雄叫びと共に、6基の大型ミサイルが一斉に発射され空を翔ける。

 

 

そして飛翔中に大型ミサイルが分裂し、無数の散弾と化して地上を埋め尽くすノイズ達の頭上へとまるで雨のように広範囲に降り注ぎ、纏めてノイズ達を消滅させていったのだった。しかし……

 

 

「ううっ、また出てきたデスよっ……!」

 

 

「流石に、数が多過ぎる……」

 

 

クリスの広範囲攻撃のおかげで大部分を削り切ったかと思いきや、更に何処からともなく新たなノイズ達が現れて周囲を埋め尽くしていく。

 

 

その光景を前に調や切歌、一度下がった響の表情も苦いものに変わっていき、クリスも舌を打つと共にヘッドギアに内蔵された無線から本部へと呼び掛けた。

 

 

「オイ、どうなってんだよッ!たださえノイズが出たってだけでも異常なのに、この数は普通じゃねえだろッ!」

 

 

『原因はこちらでも現在解析中です……!しかしノイズの出現地点の反応は検知出来ていますが、何故かそれらしき発生源が何も……一体どうして……?』

 

 

本部の方でもノイズの異常発生の出処を掴めていないのか、オペレーターのあおいの声には戸惑いの色が滲み出ており、装者達の間でも困惑の感情が更に募る中、そんな四人の耳に司令官である弦十郎の声が届く。

 

 

『原因の詮索は今は後回しだ!現在民間人の避難誘導と負傷者の救助活動を同時に行っているが、崩落や炎上で建物内に取り残された人々や負傷者の数が想像以上に多い……!苦しい状況だとは思うが、避難救助が完了するまでどうにか持ち堪えてくれ!』

 

 

「っ、つってもなぁ……流石にこのままじゃジリ貧だぞっ……」

 

 

「せめて、イグナイトが使えていたら……」

 

 

自身の掌を見下ろし、調の脳裏を過ぎるのは先のパヴァリア光明結社との戦いの中で失われてしまったシンフォギアの決戦機能の一つ、『イグナイトモジュール』の力。

 

 

嘗てエルフナインの手により齎された聖遺物『魔剣ダイスレイフ』の欠片から作られ、今までの激戦の中で幾度となく自分達の助けとなってくれたその力も、先の事件での最終決戦の折に自分達のギアを強化させる為に燃え尽きて消滅してしまった。

 

 

あの力が残ってさえいればこのノイズの大群を相手でも……と、改めてイグナイトを失ってしまった痛手を此処にきて痛感する一同に対し、響は未だ闘志の衰えぬ眼差しでノイズ達を見据えて告げる。

 

 

「イグナイトがなくなっても、戦い様はまだある……!皆、S2CAでいこう!」

 

 

「え、S2CAデスか……!」

 

 

「バカ!奴らの発生原因も分かってない内から、そんな大技ここで使える訳ねぇだろッ!」

 

 

『S2CA』──正式名称は「Superb Song Combination Arts」

 

 

それは『絶唱』と呼ばれるシンフォギア装者の最強最大の攻撃であると同時に、使用した人間の肉体にとてつもない負荷を与え、下手をすれば命を落とす事も有り得る諸刃の剣の力を「他者と手を繋ぎ合う」特性を持つ響を中心に据える事によって威力を増幅させるばかりか、 パートナーの身体を蝕むバックファイアを抑制する効果も併せ持つ事が出来る連携攻撃。

 

 

その一撃必殺の威力はイグナイトに勝るとも劣らないが、欠点として詠唱によるチャージに時間が必要なこと、何より連携の中心に立たされる響の身への負担が大きい事であり、それを考えてまだこの局面で切るのは早いとクリスが一蹴しようとするも、響は彼女の心配を払うように明るげな笑顔を向ける。

 

 

「大丈夫。私だって此処まで訓練を重ねてきてるし、一度くらいなら平気だから。それより今はこの勢いを止めないと、このままだと後ろにいる人達が危ないよ……!」

 

 

事実、ノイズ達はその進行の勢いを緩めずに未だ多くの人々が取り残されている被災区域に向かおうとしている。

 

 

ここでS2CAを使っても確かに一時凌ぎにしかならないだろうが、その一時で一人でも多くの人が助かるかもしれない。

 

 

その為なら自分は大丈夫だと言い切る響の目を見て言葉に詰まり、僅かに逡巡する素振りを見せた後、「あーっ、ったくコイツはっ!」と頭を振ったクリスがガトリングガンを両手に響達の前に踏み出していく。

 

 

「だったら速く準備しろ……!それまでの時間があたしが稼いでやる!」

 

 

「クリスちゃん……!」

 

 

「感動してんなっ!いいからとっととしろっ!後輩共も、そのバカちゃんと見張っとけよっ!無茶をし出したら後ろから頭ぶん殴ってでも止めに入れっ!」

 

 

「了解……!」

 

 

「響さんのお世話ならお任せデース!」

 

 

S2CAを使うには最低でも二人以上の装者が必要となるが、この数を一気に削り切るとなれば三人分の装者でなければその威力を発揮出来ない。

 

 

ならば此処は範囲攻撃に長けた自分がそれまでの時間を稼ぐしかないと率先して前に出たクリスがノイズ達の目を引きつける中、響は自身の背後に回って準備に入る調と切歌に目を向けていく。

 

 

「S2CA・トライバースト……!切歌ちゃん、調ちゃん、いくよ!」

 

 

「任せるデス!」

 

 

「私達の絶唱を、響さんに束ねる……!」

 

 

力強い響の呼び掛けに頷き、二人が瞳を伏せて響の肩にそれぞれ片手を乗せていくと、響も二人の手の感覚が伝わると共に瞼を閉じ意識を集中させていく。そして……

 

 

 

 

「「「Gatrandis babel ziggurat edenal……Emustolronzen fine el baral zizzl……」」」

 

 

 

 

三人の口から、寸分違わぬメロディーで紡がれる詠唱。

 

 

何も知らない者が一度耳にすれば誰もが聴き惚れるであろうその美しい旋律とは裏腹に、切歌と調から流れる暴力的なエネルギーの波が響の中へと流れ込んでいく。

 

 

響の中でまるで濁流のように行き場のない力が外へ溢れ出ようと暴れ回るのを抑え、バラバラに違う方向へ向かおうとする不協和音の力を一つに繋ぎ、束ね合わせ、嵐が過ぎ去った後の川の流れのように美しい調律へと変えていくと、それは三人の身体から放出される虹色の柱という形となって現出され始めていた。

 

 

「「「Gatrandis babel ziggurat edenal……Emustolronzen fine el zizzl……」」」

 

 

「クッ……あと、少しッ……!」

 

 

S2CA発動までの準備が完了するまで、両手のガトリングガン、腰部からのミサイルを乱射しとにかくノイズ達の目を引きつけていくクリス。

 

 

そして、三つの絶唱の力を束ね合わせた響は右腕に力を収束させていき、脚幅を広げて構えを取ると共にクリスに呼び掛けた。

 

 

「クリスちゃんッ!」

 

 

「ッ!出来たかッ!」

 

 

乱射を続けたまま肩越しに聞こえた響の声を耳に、すぐさまその場から下がるクリス。そしてそれと同時に、響は右腕に束ねた虹色の光を渦のように回転させながら右拳を引いていく。

 

 

「セット!ハーモニクス──!!」

 

 

頭の中で想像するのは虹色の奔流を正面に放ってノイズ達を飲み込み、そのまま空へと打ち上げるイメージ。

 

 

S2CAはその強力な一撃から本来市街地向きの技ではないが、意図的に狙いを逸らせれば街への被害を回避する事が出来るハズ。

 

 

そのイメージを元に、雄々しい雄叫びと共に右腕を一気に振り抜き、そして……

 

 

 

 

 

 

──装者達とノイズ達の間で突如地面からドーム状の巨大な爆発が巻き起こり、ノイズ達だけでなく、装者達をも飲み込んでしまったのであった。

 

 

「なっ──グッ、うわァああああああああああああああああああッッ!!!?」

 

 

「「キャアァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」」

 

 

「な、何だっ……?!ぐぁああああああああああああッッ!!!!」

 

 

何の前触れもなく巻き起こった爆発を前に、力を放出する寸前だった響達もクリスも咄嗟に反応が出来ず爆発の中に呑まれてしまう。そして身を焼くような激痛と共に受け身も取れず、三人は爆発の中から飛び出し地面に叩き付けられてしまった。

 

 

「ぐうっ!……うぅっ……」

 

 

「ぁっ、ぐっ……お、お前らっ……無事かっ……?」

 

 

「ッ……な、何とか……」

 

 

「な……何だったんデスか、今のはっ……?」

 

 

突如発生した謎の爆発に困惑を隠せず、爆炎に焼かれたダメージが残る身体を引きずりながらも何とか身を起こし、四人は顔を上げて辺りを見渡していく。

 

 

其処には、今の爆発により発生した炎が街のあちこちで燃え盛り、先程まで周囲を埋め尽く程の数が跋扈していたノイズ達の死骸と思われる炭素の塊が辺り一面に転がっており、そして……

 

 

 

 

 

『──ァああああ……ハハッ、ハハハハッ!コイツァいい!まさかこんだけの餌が一気に喰らえるだなんて!ツキは俺に回ってきてるようだなぁああッ!』

 

 

 

 

 

──炎の向こうで、生き残りのノイズ達を片腕を振るっただけで次々と屠り、霧散するノイズの残滓を口から吸って吸収していく謎の異形の姿があったのだった。

 

 

「な……何だ、アイツ……?!」

 

 

「ノイズを……食べてる……?」

 

 

『……ああ……?』

 

 

突如現れた異形の姿を目にし、装者達も目を見開き驚愕する中、四人の視線に気付いた異形がゆっくりと装者達の方へと振り返り、背中しか見えなかったその姿を露わにしていく。

 

 

白く濁った体色に、何処か蜘蛛を連想させる外見をした禍々しい姿。

 

 

そして何より装者達の目を引いたのは、ノイズ達を吸収し終えたと共に不気味な輝きを放つ、その血のように赤い眼だった。

 

 

「赤い眼……も、もしかして、アレが例の怪事件の……?!」

 

 

「……ノイズ、イーター……!?」

 

 

ノイズを喰らう能力、血のように赤い眼と、事件の被害者から聴取した証言と合致するその特徴からあの異形が例の怪事件に出てくる正体不明の怪物……ノイズイーターである事を瞬時に理解する四人だが、一方のノイズイーターはまるで品定めするかのよう響達の顔を順に見回し、軽く鼻を鳴らした。

 

 

『なぁんだ、誰かと思えばシンフォギアの連中かぁ……性懲りも無く、また人の餌を横取りしようとしたのかよ』

 

 

「……?餌……横取りって……?」

 

 

「と、というかアイツ、普通に喋れるデスか?!」

 

 

妙な言い回しをするノイズイーターの言葉に調が小首を傾げる隣で、流暢に言葉を発するノイズイーターに驚きを浮かべる切歌だが、そんな反応を他所にノイズ達を一通り喰い終えたノイズイーターは首の骨を鳴らしながら装者達の方へと向き直っていく。

 

 

『けど、これはこれでちょうどいいか……?どれだけ喰って力が増しても、ノイズ相手ばかりじゃそれもどの程度のものか測り切れないしなぁ……』

 

 

何処か気だるげにそう呟き、ノイズイーターが一歩前へ踏み出した瞬間、

 

 

『──せっかくだ……練習台に使わせろよ、お前ら……』

 

 

──音もなく一瞬で装者達の間に現れると共に、そのまま目の前にいた切歌に強烈な前蹴りを叩き込み、彼女の身体を弾丸の如く勢いで蹴り飛ばしてしまったのだった。

 

 

「うぁあああああああッ?!」

 

 

「ッ?!き、切ちゃんッ!!」

 

 

「コイツっ、いつの間にっ……?!」

 

 

まるで瞬間移動でも使ったかのように、予備動作もなく装者達の懐に潜り込んだノイズイーターを見て動揺するも、反射的に両手のマシンピストルで狙いを定めたクリスがノイズイーターに発砲していく。

 

 

だが、ノイズイーターはその場に佇んだまま全身に銃弾を浴びせられてもビクともせず、グルリッと不気味に首を捻らせクリスに目を向けた。

 

 

『なんだァ……?次はお前が相手してくれるのかァ?』

 

 

「ッ!このっ……!!」

 

 

「うォおおおおおおおおおおッ!!!」

 

 

不気味な笑みと共に挑発するノイズイーターの背後から、バーニアで加速した響が拳を振りかざして殴り掛かる。

 

 

しかし、ノイズイーターは振り向きもせず僅かに上体を逸らして響の拳を避けながら素早い裏拳を響の顔面に打ち込み、更に顔を抑えて怯む響にラリアットを叩き込んで勢いよく振り回すと、そのまま攻勢に出ようとしていた調に目掛けて投げ飛ばし、二人を激突させてしまう。

 

 

「ぐぁあうぅっ!!」

 

 

「うぁああっ?!」

 

 

『ハハハッ!ハハハハァッ!読める、読める!読めるぞォ!お前達の動きが手に取る様に解るッ!これがそうか……!『物語』を超越した力ッ!俺は今、神すらも超える力を手に入れたんだァああああッ!!』

 

 

「くっ……!ワケ分かんねぇこと言ってんじゃねぇええッ!!」

 

 

―MEGA DETH PARTY―

 

 

両腕を広げ、まるで歌うように狂った叫び声を高らかに上げるノイズイーターの背中に目掛けて左右の腰部アーマーを展開し、内蔵の多連装射出器から追尾式小型ミサイルを一斉に発射するクリス。

 

 

そして小型ミサイルはそのままノイズイーターに次々と直撃して爆発を起こしていき、その姿を視認出来なくなる程の黒煙に覆われていくが、直後に黒煙の向こうから腕を伸ばした無傷のノイズイーターが勢いよく飛び出し、そのままクリスの首を掴んで彼女の身体を持ち上げていってしまう。

 

 

「ガッ……?!ァッ、ウッ……オ、マエッ……何なんだっ、一体ッ……?!」

 

 

『ヒヒヒッ……俺?俺が何かってぇ……?そうだよなぁ、分かるワケがないよなぁッ!お利口さんに物語のルールに沿って生きてるだけのお前らにはさァああッ?!』

 

 

「ぅ、くっ……クリス先輩ッ!」

 

 

―α式 百輪廻―

 

 

「こんのォおおおおッ!!」

 

 

―切・呪リeッTぉ―

 

 

ギリギリッ、と首を絞める力が徐々に増していくにつれて呼吸もままならなくなり、顔が青白くなっていくクリスを助け出そうと態勢を立て直した調と切歌の投擲攻撃が同時にノイズイーターに炸裂する。

 

 

だがやはり、ノイズイーターは身構える事もせずその身一つで無数の小型の鋸、三枚に分離してブーメランのように飛ばされた大鎌の刃も全て弾き返してしまい、クリスを乱雑に投げ捨てながら何かを掬い上げるように指を動かした瞬間、二人の足元から爆発が発生して調と切歌を纏めて吹っ飛ばしてしまった。

 

 

「「キャアァアアアアアアアアアアアッ!!!」」

 

 

「っ……し、調ちゃんっ……!切歌ちゃんっ!」

 

 

『オイオイ、オイオイどうしたんだよぉ?もっと抗ってみせろやァッ!ただのサンドバッグじゃつまんねえだろォォおおおおおおッ!!』

 

 

爆風と共に吹き飛ばされる調と切歌を見て身を起こそうとする響の声を掻き消すように、ノイズイーターが狂気に満ちた雄叫びを上げながら力を溜めた右腕を荒々しく振るった瞬間、雷状のエネルギー波が四人を襲い、立て続けに発生した爆発が装者達を飲み込んでしまったのだった。

 

 

「「「「ウァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」」」」

 

 

「……へぇ。思ってたより力を付けてるみたいだねぇ」

 

 

「みてぇだなぁ……けど、ありゃダメだ。馬鹿みてぇーに喰い過ぎたのか、狂い出す一歩手間じゃねえか。あれじゃマジで捨て駒ぐらいしか使い道がねーよ」

 

 

装者達を一切寄せ付けない戦闘力を見せ付けるノイズイーターに、付近の建物の螺旋階段から静観する青髪の青年が関心を示すも、金髪の男の方はあのノイズイーターを『失敗』と見切りを付けて完全に興味が失せたように再び寝転がってしまう。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

―S.O.N.G.潜水艦本部―

 

 

「──クソッ……!何なんだあの化け物はッ?!」

 

 

一方その頃、S.O.N.G.の本部では突如現れたノイズイーターと装者達の戦いをモニターから見守っていたが、とてつもない猛威を振るうノイズイーターの力の前に為す術がない装者達の姿を見て弦十郎も思わずデスクに拳を叩き付けてしまう中、装者達の状態を測るオペレーター組から切羽詰まった声が上がる。

 

 

「装者達のバイタル、危険域に突入……!」

 

 

「このままでは危険です……!司令ッ!」

 

 

「ッ……やむを得ん……!装者達の回収を急がせろッ!救助部隊の突入を──!」

 

 

『……ま、待って下さいっ……!』

 

 

「?!」

 

 

手遅れになってしまう前に装者達を急ぎ回収すべく指示を出そうとした弦十郎だが、それを遮るように止めに入った静止の声に本部の職員達の目がモニターに向けられていく。其処には……

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

「──まだ……まだやれます……!此処で、引く訳には行かないっ……!」

 

 

全身傷と泥だらけになり、ボロボロになった身体をそれでもふらつきながら起こして立ち上がる響と、そんな彼女の姿に続くようにクリス、調、切歌も力が入らない身体を強引に起こしていく姿があった。

 

 

『……へぇえ……?あんだけやられて、まだ立てるだけの力が残ってたかよ?』

 

 

『待てお前達っ……!無茶は止すんだッ!その相手は危険過ぎるッ!一度撤退して態勢を立て直すんだッ!』

 

 

「っ、聞けません……!私達の後ろには、まだ大勢の人達が残ってるんですっ!此処で私達が退いたら……!」

 

 

そうだ。此処で自分達が退けば、今も逃げ遅れた人達や救助を待つ負傷者達にまで危害が及ぶかもしれない。その危険性がある以上、こんな所で身を引く訳にはいかないと再起する装者達の姿を目にし、ノイズイーターは肩を揺らして不気味に笑い、

 

 

『そうだ、そうだよ!そうでなくっちゃ面白味がないッ!ほぉらァっ……皆を守る為に気張ってみせろやァああああああッ!!』

 

 

人々を守る為に立ち上がるその姿を嘲笑い、地面を踏み付けた衝撃で装者達の周りに爆発が巻き起こる。それに対して響達も一度目の爆発から反応して咄嗟に散開しノイズイーターへの接近を試みようとするが、それも無駄だと言わんばかりに再び腕を振るい放たれた雷状のエネルギー波がクリス、調、切歌を纏めて飲み込み、爆発を発生させて地面に叩き付けてしまう。

 

 

「ぐぁあぁぁっ!!」

 

 

「うぅっ……!!」

 

 

「あうぅっ!!」

 

 

『ハッハハハハッ!馬鹿が!考えも無しに突っ込んで俺に勝てるとでも……うん?あと一人は……?』

 

 

倒れ込む三人の姿を見回し愉快げに笑うノイズイーターだが、其処にあと一人、響の姿だけがない事に気付いて首を傾げた、その時……

 

 

「──どォおおりゃあァァああああああああああああッッ!!!」

 

 

『!』

 

 

爆発により発生した黒煙に覆われる空の向こうから、煙を切り裂いた響が猛スピードでノイズイーターに目掛けて急降下で迫る。

 

 

振りかざすその右腕はギアをドリル状に変形させ、バーニアで最大まで加速した一撃はノイズイーターの反応速度を超え、その胸に強烈な刃を叩き込んだ。が……

 

 

『……なんだァ、それは?』

 

 

「ッ?!なっ──うぁぐううっ?!」

 

 

完全に不意を突き、全力を乗せた確かな一撃。しかし、その胸に打ち込まれたドリルはまるで厚い岩盤に阻まれたように手応えがなく、まるで何事も無かったかのように自分を見下ろすノイズイーターを見て驚愕のあまり声も上げられない響の顔に、ノイズイーターの裏拳が直撃して他の三人の下へと殴り飛ばされてしまった。

 

 

「ひ、響さんっ……!」

 

 

「うぁ……ぐっ……ぅっ……!」

 

 

『ハァアア……つまらねぇ、つまらねぇなぁ……此処まで人を期待させといて、その結果がこれかァ?あぁ?』

 

 

心底ガッカリだと、肩を落として首を振るノイズイーターが煽るようにそう告げるも、響達は悔しげに唇を噛み締めて立ち上がろうとしても力が入らないのかその場に再び倒れ込んでしまい、その姿を見て、ノイズイーターも今度こそ興味を失せたように右手を掲げていく。

 

 

『だったら此処までだ……。練習台にもならねぇサンドバッグなんざ、ノイズだけで事足りるからなァ……餌を刈り取るだけのお前らの存在なんて、必要ねぇ……!』

 

 

「クッソッ……ぐぅっ……!」

 

 

「うぅっ……!」

 

 

ノイズイーターが掲げる右手に膨大なエネルギーが蓄積されていき、発光していく。

 

 

その様子を目にし響達もどうにか再起を試みようとしてもやはりその場から動く事が叶わず、そして、

 

 

『じゃあなァ、シンフォギア……お前達の『物語』も、これで終わりだァッ!!』

 

 

「「「「……ッ!!」」」」

 

 

凄まじいエネルギーが蓄積され、禍々しい光を身に纏うノイズイーターの右手が響達に向けて振り下ろされる。

 

 

最早その一撃を避ける事も、防ぐ余力も残されていない響達は目を閉じて痛みから目を逸らすしかなく、本部で見守る弦十郎達も届かぬ叫び声を上げる事しか出来ない中、狂気に満ちた笑みを深めるノイズイーターの一撃が遂に装者達に襲い掛かろうとした、その時……

 

 

 

 

 

───建物が崩落して積み重なった瓦礫の山をジャンプ台代わりに飛び越え、空を駆け抜けるかのように一台の蒼いマシンが何処からともなく現れた。

 

 

『ッ?!なんっ──ガハァアアッ?!』

 

 

「……え……?」

 

 

「な、何事デスかっ……?」

 

 

突如乱入してきた蒼いマシンを見てノイズイーターが一瞬動きを止めた瞬間、蒼いマシンはそのままノイズイーターに目掛けて突撃し、響達に向けて振り下ろされようとしていた攻撃を阻止したのである。

 

 

響達も突然鳴り響いたエンジン音から思わず目を開け、いきなり現れノイズイーターを跳ね飛ばした蒼いマシンを唖然とした表情で見つめる中、地面に上手く着地した蒼いマシンの搭乗者はバイクを止め、徐に頭に被るヘルメットを取り外していく。

 

 

「──見付けたぞ……」

 

 

ヘルメットを外し、乱入者が開口一番に口にしたのはそんな無機質な一言だった。

 

 

体格からして性別は男か。灰黒い薄汚れたロングコートに、ボロボロの黒のジーンズという見窄らしい格好。

 

 

ヘルメットを脱いだ顔は何故かフードを被っているせいで良く見えないが、僅かにチラつく黒髪、そして何よりもノイズイーターをまっすぐ見据えて離さない真紫の瞳の鋭い眼光を一身に受け、ノイズイーターもただならぬ何かを感じたのか僅かに声を震わせた。

 

 

『だ……誰だお前……いきなり出てきて、何なんだッ?!』

 

 

「…………」

 

 

動揺が収まらぬまま乱入者の男に疑問を投げ掛けるも、男は無言を貫く。

 

 

しかしゆっくりとコートを翻すと、男の腹部にはバックルの上部からスロット部分が露出された蒼いベルトが巻かれており、ベルトの左腰に備え付けられたホルダーからカードを一枚取り出した。

 

 

「……?あれは……?」

 

 

「カード……?おい、そんなモンで何を……!」

 

 

あのノイズイーターはただの人間が太刀打ち出来る相手ではない。

 

 

あの男が何者で、何をするつもりかは知らないが、誰であれこのままむざむざ殺されるのを見逃す訳にはいかないとクリスも止めに入るが、男はその声が聞こえているのかいないのか、無言のまま取り出したカードを徐に構え、そして……

 

 

「……変身」

 

 

『Code x…clear!』

 

 

カードをバックル上部のスロットに装填し、掌の甲でバックルに押し戻すと共に電子音声が鳴り響く。

 

 

直後、男の全身を青いラインの入った黒のライダースーツを身に纏い、更に男の周りに出現した無数の蒼い装甲が一度に装着されていき、全く別の姿へと変身していったのであった。

 

 

「なっ……!」

 

 

「へ、へへ……変身しちゃったデスよーっ?!」

 

 

「……仮面の、戦士……?もしかして、アレが都市伝説の……?」

 

 

「……仮面、ライダー……?」

 

 

黒のラインが走る丸みを帯びた蒼いボディと仮面ライダーファイズに近い青のラインが入ったレッグ、仮面ライダーカブトとアクセルトライアルを足して二で割ったような仮面に赤い複眼を持ち、ボディの様々な箇所にXの意匠が用いられた戦士。

 

 

変身した男のその姿を見て驚愕するクリスと切歌の横で、調がその異質な形貌と赤い複眼が輝く仮面から都市伝説や噂話と照らし合わせて推察し、響が呆然とその戦士の名……仮面ライダーの名を口にする中、その様子を螺旋階段から静観する男達の様子も一変していた。

 

 

「どうやら、デュレンの予想は的中だったみたいだねぇ……」

 

 

「……野郎……ホントに生きてやがったっ……!」

 

 

変身した男の姿を見て、今まで顔に貼り付けていた飄々とした笑みを消す青髪の青年の隣で、いつの間にか手すりに身を乗り出した金髪の男が忌々しげに顔を歪めて仮面の戦士となった男を睨み付けていく。

 

 

そして、そんな三者三様の視線を浴びる仮面の戦士へと変身した男はジャリッと砂を踏み鳴らすと、僅かに響達の方に顔を向ける。

 

 

『……後は任せろ……』

 

 

「……え?」

 

 

ボソッと、風が吹けば掻き消えてしまいそうなほど小さな声。

 

 

あまりの小ささに他の装者達もノイズイーターも聞き取れていないが、唯一その声を拾えた響が反応し思わず聞き返すも、既にノイズイーターに意識を向けた戦士……仮面ライダーは手首を軽くスナップさせ、右手でノイズイーターを指差す。

 

 

『……さぁ、顧みろ……お前が歩んできた物語を……』

 

 

赤い複眼でノイズイーターを捉え、流暢でない無機質な声音で静かにそう告げると共に仮面ライダーはゆっくりと前へ踏み出し、一歩ずつ徐にノイズイーターへと近付いていくのであった。

 

 

 

 

 



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第一章/戦姫達の物語×忘却の仮面ライダー④

 

 

『顧みろ、だと……?急に出てきておいてっ、カッコつけたこと吐かしてんじゃねえッ!!』

 

 

変身して迫る仮面ライダーを前に幾許かの冷静さを取り戻したのか、ノイズイーターは土壇場で邪魔をされた憤りがフツフツと湧き上がり、力を凝縮した両腕を突き出して仮面ライダーに目掛け光弾を乱射していく。

 

 

だが、仮面ライダーは僅かに首を左右に逸らしただけで光弾を避けながら一息で肉薄し、ノイズイーターの胸部に素早い二の打ちを叩き込んで後退りさせると、更に怒りが増したノイズイーターが荒々しげに振りかざした拳を軽く掻い潜って背後に回り込み、ノイズイーターの背中に裏拳を打ち込み怯ませた。

 

 

『グッ?!テ、テメェッ!』

 

 

まるで自分の一挙一動を先読みしてるかのように手玉に取って翻弄する仮面ライダーの立ち回りに苛立ちが募り、拳を振るうノイズイーターの動きが目に見えて力任せに乱雑なモノに変わっていくが、仮面ライダーも冷静にノイズイーターの攻撃を捌きながらカウンターを主体とした動きで圧倒していく。

 

 

そして鋭い横蹴りを突き刺してノイズイーターを強引に後退させると、仮面ライダーのベルトのバックル部分から両脚に向かって突然青白い光がスーツの上のラインを走り、光が両脚に到達したと同時に仮面ライダーが左足で地面を軽く蹴り上げた瞬間、まるで縮地でも使ったかのように宙に浮き、右足を振り上げた姿勢でノイズイーターの眼前にまで一気に距離を詰めた。

 

 

『な、なにィ?!ガッ?!』

 

 

驚く間もなく、仮面ライダーが振り抜いた光を纏う右足が蒼い線を宙に描きながらノイズイーターのこめかみに叩き込まれ、ノイズイーターを横殴りに吹っ飛ばす。

 

 

更にそれだけで終わらず、着地と同時に今度はバックルから両腕に向かって青白い光がラインを走り、光を纏った拳を振りかざしながら追撃しノイズイーターにストレートを叩き込んだ。

 

 

そして吹っ飛ばされるノイズイーターを追尾しながら更に高速の連続ラッシュを打ち込み続けていき、トドメに全力で振りかぶった一撃を叩き込み、ノイズイーターの身体をきりもみ回転させながら勢いよく殴り飛ばしていったのだった。

 

 

『ガァアアアアアアッ?!』

 

 

「こ、攻撃が通じてるデスよ?!」

 

 

「何なんだ……アイツ……」

 

 

「…………」

 

 

先程の戦いではギアを用いた攻撃が一切通じなかった筈の相手に、何故か仮面ライダーの攻撃が通じる状況を前にクリス達は困惑を露わにし、響も無言のまま二人の戦いをジッと見つめる中、仮面ライダーに追い詰められて地面を転がるノイズイーターも顔を抑え、ダメージを受ける自分の身体に混乱を極めた様子で頭を振っていく。

 

 

『こン、なっ……!こんな事が有り得てまるかっ……!お、俺は物語を超越した力を手に入れたんだぞっ?!なのに、何でお前なんかにィいいッ!!』

 

 

『……俺を知らないという事は、お前もこの世界の中で作られた個体か……となると、得られる情報も今までと同様変わり映えしないか……』

 

 

『……なにっ……?』

 

 

奇妙な言い回しをする仮面ライダーの発言に首を傾げるノイズイーター。だが仮面ライダーは感情の機微を変えることなく、空手のままノイズイーターへと近付いていく。

 

 

『俺も、お前も、この世界にとってはただの「異物」でしかない……本来あるべき世界の流れを逸脱し、歪める存在はいずれ排他される……それがお前にとっての、この俺だ……』

 

 

『ッ……何だそりゃっ……意味が分かんねぇんだよォッ!!』

 

 

全く意図が掴めない発言に更に苛立ちを募らせ、ノイズイーターは思わず頭を掻き毟りながら再び仮面ライダーに殴り掛かる。

 

 

それに対して仮面ライダーも即座に身体の重心をズラしノイズイーターの突き出す拳を避けると、そのまま相手の手首を片手で掴んで引き寄せながら鳩尾に目掛けて膝蹴りを突き刺し、ノイズイーターが腹を抱えて怯んだ隙にその場で身を捻らせながら跳躍、流麗な後ろ回し蹴りをノイズイーターの頭へと叩き込んで蹴り飛ばしていった。

 

 

『ウグァアアッ!』

 

 

『……もう止めておけ。この場にあのノイズなんて化け物が異常発生したのも、恐らく餌に釣られたお前に俺が食いつくと見越しての意図的なモノ……使い捨ての囮に使われたんだ、お前は……』

 

 

「ッ!それって、つまり……?」

 

 

『ッ……おと、り……だと……?この……オレがっ……?』

 

 

この状況は偶発的でなく、誰かの意図で作られた作為的なモノだった。

 

 

その内容に彼の言葉の意味を早くに理解した調や響達も衝撃で目を見開き、ノイズイーターも困惑と戸惑いを露に自身の両手を見下ろしていく中、仮面ライダーは改めてノイズイーターと向き直っていく。

 

 

『使い捨ての駒として扱われた今、仮にこの場を切り抜けられたとしても、お前を待つのはこの状況を作った奴らに死ぬまで使い潰される未来だけだ……だから、そうなる前に──』

 

 

「……?あの人……」

 

 

今の今まで無機質的な口調だった仮面ライダーの声が、何処か不安を帯びているように一瞬震えたような気がする。

 

 

その微妙な変化に気付いた響が仮面ライダーに怪訝な眼差しを向けるが、その時、頭を両手で抱えるノイズイーターの身体が突然ワナワナと震え出し……

 

 

『……る、せ……うるせぇ…………うるせぇっ、うるせェっ、ウルセェっ、ウルセェエエエエエエエッッ!!!!どいつもこいつも俺をっ、何処まで俺を馬鹿にすりゃ気が済むんだァアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

『……!』

 

 

天を仰ぎ、地を震わせる程の激昴の雄叫びを上げた瞬間、ノイズイーターの全身から凄まじいエネルギー波が放出されて周囲に無数のスパークを撒き散らしていき、ノイズイーターが佇む地面が徐々に軋んで陥没し始めていた。

 

 

「グッ……!こ、今度は一体なんなんだよッ?!」

 

 

「うううっ……ま、前が何も見えないデスよっー!」

 

 

『ッ……これはっ……』

 

 

『アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

凄まじいエネルギーの嵐に装者達も視界不良で何も見えない中、嵐を巻き起こす発生源のノイズイーターはその血のような眼を輝かせながら獣の如く咆哮を上げ続けていくと、突然その右腕が変化をし始めて徐々に変容していき、まるで機械を腕に埋め込まれたかのような禍々しい形状をした砲撃型の腕へと変わっていったのであった。

 

 

「?!腕の形が、変わった……?!」

 

 

『ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!死ねェッ!!死ね死ね死ね死ね死ね死ねェッ!!俺を否定する奴はみんなっ、お前らみんな死んじまえよォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!』

 

 

『ッ!』

 

 

突如変容したノイズイーターの右腕の砲撃を見て調が驚きの声を上げるのを他所に、ノイズイーターは狂った雄叫びを上げながら仮面ライダーに突き付けた銃口から高出力のエネルギー弾を放って襲い掛かった。

 

 

それを見て仮面ライダーも咄嗟に上空へと空高く跳んでエネルギー弾を回避し、そのままノイズイーターの頭上を飛び越えながら背後へと着地すると共に、振り向きざまに放った拳で再攻撃を仕掛けようとしていたノイズイーターの顔を殴り飛ばし砲撃の手を強引に中断させようとするが……

 

 

『グゥッ!ギッ、ギィッ……コロスっ……コロスコロスコロスゥウウウウウウウウウウウウウウッッ!!』

 

 

『ッ!クッ……!』

 

 

「な、何か様子が変わってない?!うわわっ?!」

 

 

「あぶねっ?!あ、アイツ、急に手当り次第かよっ?!」

 

 

仮面ライダーに殴られても殆どダメージを受けてる様子もなく、右腕の砲撃を乱雑に振るいながらエネルギー弾を見境なく乱射するノイズイーターの変貌ぶりに混乱してしまう響達だが、仮面ライダーは飛来するエネルギー弾を手刀で払い除け、ノイズイーターの変容した右腕を見つめながら頭の中で思考していく。

 

 

『(形状変化……ノイズ達を一気に喰らった事で急成長したのか……?いや、だとしても此処までの目に見える変化は今まで戦ってきた奴らには一度も……)』

 

 

あの突然変異は仮面ライダーにとっても初めて出くわすケースなのか、今までにない変化を遂げたノイズイーターを見て内心困惑するも、正面から迫るエネルギー弾を見てすぐに我に返り、咄嗟に左に避けながら左腰のホルダーに指を掛けていく。

 

 

『(いや、今は考えるのは後回しだ……ともかくまた狂い出した以上、もう俺の言葉も届く事はない……こうなれば俺の手で……ッ?!)』

 

 

これ以上被害が広がる前に奴を倒すしかないと覚悟を改め左腰のホルダーを開こうとした仮面ライダーだが、その時、何かに反応を示して何故か急にその場に踏み止まり、ノイズイーターから放たれるエネルギー弾を両腕で防御し動かなくなってしまった。

 

 

「!マスクドライダーが……!」

 

 

「え?!」

 

 

『アヒッ、ヒヒッ……!ヒハハハハハハハハハハッ!!!死ね死ね死ね死ねェッ!!!今度こそ死んじまえよォォおおおおおおおおおおおおッッ!!!!』

 

 

『……ッ……!』

 

 

乱れ狂いながら無差別にエネルギー弾を乱射するノイズイーターの攻撃を避け続ける装者達も、何故か突然回避も切り払う事すらもせずガード一択で踏み止まる仮面ライダーを見て怪訝な反応を浮かべる中、ノイズイーターは卑しい笑みと共にその姿を見て無差別に放っていたエネルギー弾の狙いを仮面ライダーへの一点に絞り、エネルギー弾の集中砲火を浴びせていく。

 

 

それにより仮面ライダーも更にダメージが増して全身が傷付きボロボロの姿に変わり果てていくも、何故かそれでも仮面ライダーはその場から動かず防御のみで耐え続けていた。

 

 

「な、何だかあっちも様子が変デスよ?!」

 

 

「何やってんだアイツっ……!このままじゃ一方的にやられちまうぞっ?!」

 

 

「…………?」

 

 

攻撃を受ける度に装甲が削られ傷付いていくというのに反撃に転じようとしない仮面ライダーを見て装者達も焦燥感を募らせる中、クリス達と共にその様子を見守っていた響がある事に気付く。

 

 

ノイズイーターのエネルギー弾の嵐を一身に受け続ける仮面ライダーが、防御を取りながら何度か自身の背後へと目を見遣っているのだ。

 

 

その視線の先を追って響も振り向いていくと、其処には仮面ライダーの遥か後方の建物の一角に積み重なる瓦礫の山があり、その瓦礫の山を目を凝らしジッと凝視していくと、瓦礫の一角が音を立てて崩れ穴ができ、その向こうで何かが僅かに蠢いているのが見えた。

 

 

「──ッ!もしかして……!」

 

 

「?!響さん?!」

 

 

「お、おい!何する気だお前?!」

 

 

何かに気付いた響が突然地を蹴って飛び出し、瓦礫の山に目掛けて一直線に走り出す。

 

 

いきなり飛び出した響を見てクリス達も驚き慌てて呼び止めようとするが、響はそれを振り払い瓦礫の山へと躊躇なく飛び込んでいき、数泊の間を置いた後、瓦礫の山が突然内側から弾け飛んで吹っ飛ばされていった。

 

 

そして、瓦礫が取り除かれて周囲に漂う粉塵の向こうには拳を突き出す響の姿があり、その背後には……

 

 

 

 

 

「──ぅっ……ぅぅっ……」

 

 

「お父さんっ……!お父さんっ!しっかりしてっ……!」

 

 

 

 

 

「ッ!あれは……?!」

 

 

「負傷者……?!瓦礫の中に取り残されてたのか?!」

 

 

そう、響の背後には頭から血を流して倒れる負傷者の男性と、その男性の息子と思われる土まみれの幼い男の子が涙目で父親の傍に寄り添う姿があったのだ。

 

 

恐らく、ノイズ達が出現さた際に避難しようとした矢先に建物の崩落に巻き込まれ二人諸共瓦礫に埋もれてしまっていたのか、それを見たクリス達もすぐさま負傷者達の下へと駆け付け、響が残りの瓦礫を取り除く間にクリスと切歌が負傷者の男性を、調が男の子を抱き抱えて救出し、急ぎ全員でその場から離れながら響が仮面ライダーに向けて呼び掛けた。

 

 

「仮面ライダーさんっ!この人達は大丈夫、二人とも無事ですっ!」

 

 

『──ッ!』

 

 

二人を安全地帯にまで運ぶ響の声が届き、男性と子供の安否を伝えられた仮面ライダーはすぐさま次に放たれてきたエネルギー弾を手刀で払い除け、前傾姿勢でエネルギー弾の嵐の中を素早く掻い潜りながら一気にノイズイーターとの距離を詰めていく。

 

 

そして、ノイズイーターに肉薄すると共にその右腕の銃口を掴んで上に逸らし、再びバックルから走らせた青白い光を右手に纏わせ、拳を握り締めた仮面ライダーの一撃がノイズイーターの顔面にめり込み殴り飛ばしていった。

 

 

『アグゥウウッ?!グッ、ギッ……チ、クショォオオオオッ……ナンデダヨッ、ナンデェエエエエエエエエエエッッ……!!!!』

 

 

『…………』

 

 

仮面ライダーに殴られた顔を抑え、まるでこの世の全てを憎むかのように呪詛の呻き声を漏らすノイズイーターだが、仮面ライダーの方は既にその声に耳を傾けるつもりもなく、ボロボロに傷付いた腕の汚れを手で払いつつ左腰のカードホルダーからカードを一枚取り出し、バックルから立ち起こしたスロットに装填して掌の甲でバックルに押し戻していった。

 

 

『Code slash…clear!』

 

 

電子音声が鳴り響いた瞬間、仮面ライダーの蒼い装甲が分離して新たに朱色のアーマーへ変わっていき、再び仮面ライダーに身に纏わられると共に複眼の色も赤から緑色へと変化し、両手に二本の黄金の剣が出現していく。

 

 

全ての変身シーケンスを完了し、黄色くシャープなラインが特徴の朱い鎧に緑色の複眼、両手に黄金に輝く双剣を逆手に持った姿へと変わった仮面ライダーを見て、響達は目を見開き再び驚愕の表情を浮かべた。

 

 

「色が変わったデスよ?!」

 

 

「あれは……もしかして私達のギアと同じ、変容(リビルド)……?」

 

 

『グゥウウウウッ……ガァアアアアアッ!!』

 

 

新たな姿に変貌した仮面ライダーに装者達が各々反応を示す中、ノイズイーターも警戒心を露わに唸り声を上げ、砲撃の銃口を仮面ライダーに突き付けてエネルギーを再充填しようとするが、それよりも速く先程とは比にならない速度で仮面ライダーが距離を詰め、素早く振り上げた左手の刃がノイズイーターの砲撃の銃口を斬り裂いた。

 

 

『ッ?!ナ、ニッ?!グァアアッ?!』

 

 

『ハッ……!ハァアアッ!』

 

 

銃口を斬り裂かれた自身の右腕を見てノイズイーターが動揺する中、仮面ライダーは続けざまに両手の双剣を目にも止まらぬ速さで振り翳していき、朱色の雷光を纏う斬撃がノイズイーターの身体を何度も切り刻んで怯ませ、トドメに放った後ろ回し蹴りでノイズイーターを蹴り飛ばし、ゴロゴロと異形の身体が勢いよく地面を転がっていく。

 

 

『ガァッ!ァッ……ウ、ソダッ……コンナハズッ……?!』

 

 

一気に形成を逆転され、信じられないと頭を振るノイズイーターを見据えたまま仮面ライダーは両手に持つ双剣を片手に束ねると、空いた手で左腰のホルダーからカードを一枚再び取り出し、バックルのスロットに装填して掌の甲で押し込んでいった。

 

 

『Final Code x……clear!』

 

 

再度鳴り響く電子音声と共に、両手に持ち直した双剣の刃に朱色の雷光が火花を撒き散らして纏われていく。

 

 

そして仮面ライダーは腰を徐に落として双剣を身構えると、右手に持つ片手剣をノイズイーターに向けて勢いよく投擲し、投げられた剣はブーメランのように高速回転しながら朱色の光の軌跡を宙に描きノイズイーターへ一直線に突き進んでいった。

 

 

『ゥ、グッ……マ、ダダッ……コンナトコロデっ、オワレルカァアアアアアアアアアアッ!!』

 

 

しかし、ノイズイーターも抵抗を諦めない。銃口を潰されて使い物にならなくなった右腕で片手剣を空へ弾き飛ばし、そのまま左腕に力を溜め光弾を放とうとするが、それに対し仮面ライダーは落ち着き払った動作で右腕を中空に掲げながらノイズイーターに掌を翳し……

 

 

『いいや──これで終わりだ……』

 

 

仮面ライダーの右手の掌が朱色に発光した瞬間、空へと打ち上げられた片手剣が突然空中で停止し、刃の切っ先を独りでにノイズイーターに向けたと共に剣が分身をし始めていき、あっという間に空を無数の刃が埋め尽くしていったのだった。

 

 

『ナ、ナンダトォッ?!イッ──ギャアァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!?』

 

 

無数の刃が覆い尽くす空を見上げ驚愕と共に後退りするノイズイーターの頭上へと、空から一斉に黄金の刃が暴雨の如く降り注ぎ、その肉体を絶え間なく切り刻んでいく。

 

 

それと同時に仮面ライダーも残ったもう片方の剣を順手に持ち替えながらその身を朱い閃光と化して猛スピードで飛び出し、上空から降り注ぐ黄金の刃の雨の間を素早くすり抜けてノイズイーターに飛び掛かると共に、すれ違いざまにXを描くように朱い斬撃を叩き込んでノイズイーターの背後に姿を現した。

 

 

『ァッ──!!!?コン、ナ……バ、カッ…………!!!?』

 

 

『……それがお前のエンドマークだ……』

 

 

『ガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーアアァァッッ!!!?』

 

 

朱い火花を撒き散らしながら空から返ってきた片手剣を仮面ライダーがノールックで手にした瞬間、それと同時にノイズイーターの身体から無数のスパークが噴き出し、直後に巨大な爆発を巻き起こしながら断末魔の悲鳴を上げて完全に消滅していったのであった。

 

 

「ッ……ノイズイーターを、倒した……?」

 

 

「終わった、のか?……はぁああっ……何だったんだ一体っ……」

 

 

「うう……もうクタクタデスよっ……」

 

 

あの難敵だったノイズイーターを倒した仮面ライダーの力にも驚きだが、今はそれ以上にこの局面を乗り切れた事への安堵から溜め息と共に緊張感から解放されていくクリス達。

 

 

一方で仮面ライダーもノイズイーターが爆散した跡の炎を暫しジッと見つめた後、そのまま踵を返しながら元の蒼い姿へと戻り、自分が乗ってきたバイクの下へと向かおうとするが……

 

 

「ま、待って下さい!」

 

 

『……?』

 

 

ノイズイーターを撃破して立ち去ろうとした仮面ライダーを呼び止める声が聞こえ、仮面ライダーが訝しげに振り返ると、其処には傷付いた身体で駆け寄ってくる響の姿があり、仮面ライダーの前で足を止めて息も絶え絶えに口を開いた。

 

 

「あ、あのっ……さっきは助けて頂いて、ありがとうございました!おかげで負傷者の方々も助ける事が出来て、本当に助かりました!」

 

 

『…………』

 

 

活発な笑顔で一礼と共に、自分達や先程の親子を助けてくれた事への感謝をの言葉口にする響。一方でそんな彼女に対し、仮面ライダーはジッと響の顔を見つめたまま何も語ろうとせず、マスクのせいで表情が読めない仮面ライダーに響の方も若干やり難そうになりながらも言葉を続けていく。

 

 

「ええ、と……そ、それで何ですけど、良ければさっきの怪物の事とか、仮面ライダーさん自身の事とか、もっとお話を聞く事って出来ませんか……?私達も、色々と話したい事が──ッ!」

 

 

あのノイズイーターの正体や仮面ライダー自身の事、街で今起こっている事件の事を何か知っているなら話を聞かせてもらえないかと願い出ようとする響だが、その時彼女やクリス達の下に通信が届き、回線を開くと、それは本部にいる弦十郎からの通信だった。

 

 

『お前達、全員無事か?!』

 

 

「師匠……!はい、私達は大丈夫です!現場に取り残されてた負傷者の人達も、今さっき近くの救助の人達にお願いして運んでもらいましたから」

 

 

『そうかっ、良かった……。突然発生した謎のジャミングのせいでモニターも通信も途絶えてしまった時は、一時はどうなる事かと思ったが……』

 

 

「……え?」

 

 

「ジャミング……?」

 

 

どういう事だ?と、装者達が互いに顔を見合わせ不思議そうに首を傾げる中、彼女達の口にしたジャミングというワードに仮面ライダーはピクっと反応を示し、僅かに考える素振りを見せた後、そのまま自身のマシンに乗ってエンジンを掛けていく。

 

 

「!ま、待って下さい、仮面ライダーさんっ!まだ聞きたい事が……!」

 

 

『何?仮面ライダーだとっ?マスクドライダーが其処にいるのかっ?!』

 

 

弦十郎の驚きの声が通信から聞こえるが、それより今は彼を引き止めなければと仮面ライダーを慌てて呼び止める響。するとそれに対し、仮面ライダーは僅かに響の方に顔を向け……

 

 

『……俺も……さっきは助かった……』

 

 

「……え?」

 

 

漸く口を開いた仮面ライダーが告げたのは、短い感謝の言葉。

 

 

そんな思わぬ一言に思わず響も呆気に取られる中、仮面ライダーはそれだけ伝えるとマシンを発進させて何処かへと走り去っていき、残された響は遠ざかる背中に虚しく手を伸ばし、呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「──で、どう思う?やっぱアレ、彼って事で間違いないのかなぁ」

 

 

──場所は変わり、ノイズの出現によって今は人気のない路地では、先程の場所を後にした金髪の男と青髪の青年が何処かへ歩く姿があった。

 

 

ノイズ達が暴れ回ったせいで至る所に破壊の痕跡が残る街並みを眺めながら、後頭部に両手を回す青髪の青年は呑気な口調で先程ノイズイーターを倒した仮面ライダーの正体について正面を歩く金髪の男にそんな疑問を投げ掛けるが、金髪の男は明らかに苛立ちを露わにした足取りで先を歩いて何も答えず、目の前に転がる破片を乱雑に蹴り飛ばしていく。

 

 

「クッソッ、マジで生きてたとか笑えねえぞこりゃっ……。どうすんだよっ、これじゃ俺らの計画もホントに潰され兼ねねぇぞっ……!」

 

 

「ホントびっくりだよねー。アレでまだ生きてたって言うんだし、これじゃ苦労して罠に掛けたのが水の泡だよ」

 

 

やれやれー、と青髪の青年は肩を竦めて露骨にガッカリし、金髪の男も焦りを露わにした様子で街を歩く足取りにも何処か余裕がなくなり始めていた。其処へ……

 

 

「──なに、まだ気を落とすのは早いかもしれんぞ」

 

 

「「……ッ!」」

 

 

何処からともなく冷たい声が響き、驚く二人がその声の主を探して辺りを見渡すと、路地の裏の方から革靴の音を鳴らして一人の男……デュレンがゆっくりと闇の中から姿を現した。

 

 

「デュレン……?!お前まで来てたのかよっ?!」

 

 

「当然だろう。何せ我々の計画の根幹に関わる事態なのだから、この目で直接確かめる必要がある……それに念の為、裏工作の必要もあったからな……」

 

 

「?裏工作?」

 

 

「こっちの話だ」

 

 

お前達には関係ないと、短く返し切って捨てるデュレン。その仲間内にまで必要以上の事を語ろうとしない口ぶりに金髪の男も内心疑心感を覚えながらも、今はそれどころではないかと自分の諌めて溜め息を吐き、デュレンにジト目を向けて問い掛ける。

 

 

「んで?さっきの、気が早いみたいな言い口はどういう意味なんだよ?実際問題、奴が生きてたんなら結構な一大事だろ、コレ」

 

 

「……奴が生きていた、だけの話なら確かにその通りだろう。だが、恐らく今の奴は──」

 

 

口元を手で覆い、デュレンの脳裏に蘇るのは先程戦場でノイズイーターを相手に戦っていた仮面ライダーの戦闘スタイル。

 

 

一挙一動、『以前の奴』を知っていれば何もかもが違い過ぎるその戦いぶりに一つの推測が頭を過ぎり、クッ、と声を殺して笑うデュレンの表情に嬉々とした笑みが浮かび上がる。

 

 

「──どうやら、ツキはまだ俺達の方にあるかもしれんな……」

 

 

「「……?」」

 

 

口元を覆う手で笑みを隠しながらそう告げるデュレンの言葉に、二人も訝しげに眉を顰めるが、デュレンはそんな二人を他所に歩き出していき、僅かに口端を吊り上げ不敵な笑みを浮かべながら自分達が破壊に導いた街並みの間を過ぎ去っていくのであった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「…………」

 

 

ノイズの異常発生、そしてノイズイーター撃破から数時間が経ち、黄昏時の空がよく見える海岸にて、仮面ライダーから元の姿に戻った青年がバイクを脇に停め、海へ沈むように消えていく夕陽を無言のまま見つめる姿があった。

 

 

「…………」

 

 

フードで顔を隠したその横顔からは表情は一切読めない。だが、僅かに俯いて自身の右手を見下ろし、ジッと己の掌を見つめるその様は何処か物悲しげに見える。

 

 

「……シンフォ……ギア……か……」

 

 

拙い口調で声に出し、頭に思い起こすのは先程の戦場で出会った少女達の姿と美しい歌。

 

 

何度口にしても、その音を耳にするだけで胸の内を締め付けるような感覚に襲われながらも、青年は顔を上げて海の向こうの夕陽を見つめ、戦場で聴いた歌のメロディーを思い出しながら小さく口ずさんでいく。

 

 

「……〜♪……〜♪……」

 

 

風が吹けば飛ぶような、波の音が響けば簡単に搔き消せるようなか細い歌声。

 

 

戦場で彼女達が歌っていたような力強さなどないが、それでも青年は歌い続ける。

 

 

誰に届く事はないと分かっていても、誰かに聴かせ、求めるように小さく、か細く、沈む夕陽を見つめて歌い続けていた───。

 

 

 

 

 

第一章/戦姫達の物語×忘却の仮面ライダー END

 

 

 

 



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