我、死二場所ヲ探s...あ、兎ちゃん (IS提督)
しおりを挟む

第一話

新年開けましておめでとうございます。
年明けの最初の投稿は新しい小説にしました。
もう1つの手掛けている小説と内容被らないようにしていきますが もしかしたら被ってしまうことが有るかもですが ご了承ください
それではどうぞ!


第一話

 

ある部屋に2人の男が居た

 

1人は中年で、もう1人は怪我をしたのであろう、右腕を吊った若い少年が...

 

そんな2人の男は向いながら話をしていた

 

中年「...戦争は終わった」

 

少年「....」

 

中年「俺達は戦いに勝ち 理想を実現し、忌々しい戦争に終止符を打った」

 

少年「...」

 

中年「だがな...俺達の戦いは、終戦をもって始まりを迎えた」

 

少年「....」

 

中年「...貴官が前居た部隊で行った作戦や、戦績等には目を通した」

 

少年「....」

 

中年「大した者だ...」

 

少年「....」

 

中年「...この戦績は『猛者』としか言い様が無い」

 

少年「....」

 

中年「...

この終戦を機に、貴官には違う任務に付いて貰いたい」

 

少年「...」

 

中年「貴官には 高等学校に通い 人を殺したことの無い人達と過ごし道徳心と倫理的な考えを身に付けて欲しい」

 

少年「...」

 

中年「コレが作戦指示書だ

...勿論、この街の警備任務にも付いて貰うし、有事の際は最前線で戦って貰う」

 

そう言うと中年の男性は懐から封筒を取り出し少年に渡す

 

少年「...」

 

中年「細かい事は後に確認してくれ」

 

中年「....」

 

少年「...」

 

少年「...この国は変わりましたね...」

 

中年「?」

 

少年「...此処に来るまでに何時間もバスを乗り、電車を乗って来ました

...窓の外の街中の風景は変わり

道を行く大人達は銃を持っている...

...こんなのは、俺が知っている自国じゃ無い...」

 

中年「...貴官の言う様に、ほとんどの帰還兵は同じ事を言うそうだ...

......貴官達の言う通りこの国は数年前とは違う

街中はテロリスト集団の巣が在る

勿論この区域も同様だ

 

...この国は今、病んで居るのだ」

 

少年「…」

 

中年「しかし、コレがこの国の『常識』になってしまった...

 

...我々は、今に順応しなければならない...」

 

中年「話が逸れたな」

 

少年「....」

 

中年「貴官は 今日から『香風』と言う家族の家にホームステイをして貰う

そこが今日から貴官の家になる

...貴官が目的地に着いた後に、香風家の情報を全て『水処理』してもらいたい...」

 

少年「.了解しましたが....」

 

中年「なに、心配は要らない その家の主人は『元傭兵』だ

我々の事にも理解がある」

 

少年「...了解しました」

 

中年「ソレと...

コレを君に返しておく」

 

そう言うと中年の男性は机の引き出しから何かを出し少年に渡した

 

少年「有難う御座います」

 

そう言いながら彼は受け取った『モノ』を後ろ側のズボンとシャツの間に挟めて有った物体に差し込み スライドを引き 本体を少しばかり弄り 起きていたハンマーを寝かせ、また ズボンとシャツの間に挟めた

 

中年「貴官は『コレ』を何処で...」

 

少年「....」

 

中年「貴官は 『現代軍』と戦ってたハズ...」

 

中年「あ、イヤ、忘れてくれ」

 

少年「...では、私はこれで」

 

中年「あぁ」

 

少年「左手で失礼します」

 

そう言い少年は左手で敬礼をし 外に出た

 

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

ーー

 

眩い光が 目を眩ませる...

どうやらそこそこの時間を 個々で消費した様だ

 

そんな事を思いながら 後ろ...先程出てきた場所を振り返る

 

「...来た時にも思ったが どう見ても『城』だよな…」

 

そう言いながら 封筒の中から時間を掛け地図を取り出す

 

「...解り辛い」

 

だが 地図を見たことによって 大まかな地点が解る...訳が無い

 

ふむ...、聞きに戻ろう

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

ーー

...どうやら 此処から『香風さん宅』まではそこそこ離れて居るらしい

 

なんで軍の地図って奴は分かりずらいのかねぇ...

 

まぁ、いいか 気を取り直して行きますか…

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

ーー

「....」

 

やべぇ...迷った

 

落ち着け...まずは 状況を整理しよう

 

..先ずは 位置を正確に把握しなければな

 

そう思いながら石橋の手摺にもたれ掛かり ポケットに左手を入れ 地図を引き抜く...が、掴み方と掴み所が悪く 地図を落としてしまった

 

「ハァ...」

 

ため息を付きながら地図を拾うべく腰を屈めた、その時

 

ヒュ~

 

タイミング悪く、どっからとも無く吹いてきた風に地図がさらわれ 川の中に落ちた...

 

「....

俺は何時、ギャグ漫画の登場人物になったんだよ…」

 

...いくら 現実逃避をしようが水に浸かってしまったのは事実

 

水処理用の用紙であるからに 今から必死こいて用紙を拾い上げても無駄である

 

...始末書覚悟でもう1回本部に戻ろうか…

 

???「えっと...大丈夫?」

 

「ん?」

 

???「地図を無くしちゃった様に見えたけど...

良かったら見る?」

 

いきなり声を掛けられ 固まって居ると 再び声を掛けられた

 

「え?...あぁ、助かります」

 

そう言いながら 声を掛けた主を確認する

 

茶髪を明るくした感じの髪の毛と全体的に明るく可愛らしい 元気な見た目の女性がそこに居た

 

???「ハイ、どうぞ!」

 

「...すみません...拝借します」

 

地図を借り 改めて地図を見るが…

 

当たり前だが 他人の地図に自分の目的地が乗っている訳ない

 

「すみません...少し お時間を貰っても

いいですか?」

 

???「?、大丈夫だよ」

 

「有難うございます」

 

許可を取ったので 今まで担いで居たバックを下ろし 中から、1度本部に戻った時に渡された 無線機を取り出す

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

ーー

周波数は...これで良し

 

『...田中から青木中佐、目標地点の住所を教えて下さい

どうぞ』

 

『..ズザ...青木から田中准尉、地図を見ろ

送れ』

 

『田中から青木中佐、地図をロスト

地図は風に吹かれ 川の中に落ちました

どうぞ』

 

『..ザザザ...青木から田中准尉、貴官は漫才師か?

少しばかり待ってて貰いたい

送れ』

 

『田中から青木中佐、了解しました

どうぞ』

 

『青木から田中准尉、目標地点の住所は、白兎二丁目4番18号...繰り返す、白兎町二丁目4番18号...

終わり』

ーー

ーーーー

ーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー

 

白兎町二丁目4番18号...

良し、覚えた...

 

白兎町...白兎町...白兎町...

 

心の中で何度も唱えながら地図をナゾる

 

近くにあった電柱に記されている住所から現在位置を特定し、何度も何度もルートをナゾる

 

「...すみません、有難う御座いまし...た?」

 

そう言い、地図を貸してくれた可愛い女性に地図を返す...筈なのだが...

 

???「無線機?」

 

「え、えぇ...珍しいですか?」

 

???「うん...今は皆コレを使ってるよ!」

 

そう言いながら女性はポケットから携帯電話(二つ折り)を出す

 

「...それも充分珍しいと思う...」

 

???「えへへ~

ソレもそうだね」

 

「...兎に角 助かりました」

 

そう言い地図を返し 頭の中から地図の記憶が消えない内に目的地に行くために歩き出す.....が

 

???「ちょっと待って!」

 

「?」

 

???「もし良かったら 付き添いした方が良いかな?」

 

「?」

 

???「腕、怪我してるでしょ?」

 

「....」

 

???「困ったら お互い様だよ!」

 

「もう困って無いので大丈夫です」

 

そう言い 可愛らしい少女を置いて目的地を目指すのだが…

 

???「私ね、今日からこの街で3年間暮らす事になったの」

 

「.....」

 

???「この街って本当に綺麗だよね!」

 

「...、...」

 

???「そう言えば 自己紹介がまだだったね」

 

「....」

 

ココア「私、ココアって言うの 宜しくね!」

 

「....」

 

ココア「君の名前も教えて貰っても良いかな?」

 

「.....」

 

ココア「オーイ! 私の声聴こえてる?」

 

「...何時まで 付いて来る気ですか?」

 

ココア「あっ、やっと反応した」

 

「...で、何時まで着いてくるんですか?」

 

ココア「私が良いって判断するまでだよ!」

 

「ハァ...」

 

ココア「で、貴方のお名前は?」

 

「...田中」

 

ココア「へぇ~、田中何君?」

 

「...俺の事は皆、田中と呼んでるので そう呼んでくれれば…」

 

ココア「え~、それじゃ他人みたいだよ~」

 

「イヤ、他人でしょ」

 

ココア「私のモットーは 『会って三秒で友達』なんだよ!」

 

「...友達って言っても他人じゃん」

 

ココア「あぅ...わ、私にとっては友達は家族、ファミリーと同じなんだよ?」

 

「....」

 

今、確信を持ったわ

コイツ(ココア)は アホの子だわ

 

「何故疑問形...

...まぁ、会って三秒で成った家族を家族として接する事は...無いな」

 

ココア「もー!もー!」

 

「...牛に成りたいんか?」

 

ココア「何でそんなに卑屈っぽいの!」

 

「何故って...そりゃぁ...」

 

ココア「?」

 

「...」

 

「...此処か」

 

ココア「え?」

 

「俺の目的地」

 

ココア「え、...あぁ、そうだったね!

ラビットハウス...兎の家!?

...喫茶店?!」

 

「そこで驚くのかよ…」

 

ココア「えへへ~

どんなお店かな?」

 

「直訳すると兎の家なんだから、店名通り 兎が沢山居るに決まってんだろ」

 

ココア「だよね!だよね!

私も同じ事を考えてたよ!」

 

「...あ、そう」

 

ココア「どうでも良さそう!?」

 

「別にどうでも良いし」

 

ココア「え~」

 

「...何がともあれ、有難う」

 

ココア「えへへ~」

 

「?」

 

ココア「コレで私と田中君は友達だね!」

 

「ハイ?」

 

ココア「敬語が無くなってるよ」

 

「...」

 

「....そりゃ、アンタがアホの子だからだろ」

 

ココア「え?そんな事無いよ?」

 

「...まぁいいか

じゃ、俺はコレで」

 

そう言い ドアノブに手を掛けた

 

ココア「待って!!」

 

「?」

 

ココア「...私も中に入って良いかな?」

 

「....」

 

「良いけど...自分の目的地は?」

 

ココア「実はさっきから 迷ってて...」

 

「自分が迷ってたのに 俺の心配をしたのかよ...」

 

ココア「で、でもね

私の目的地もここら辺のハズだよ!」

 

「...やっぱ アホの子だわ」

 

そう言いながら ドアノブに手を伸ばしドアを開けた

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話

第二話

 

カランカラン

 

???「ヒッ!?」

 

???「...い、いらっしゃいませ

...何名様で、でしょうか?」

 

「1人です」

 

ココア「もー!冗談キツいよ!

2名でお願いします!」

 

「ハァ、」

 

気を取り直して店内を隅々まで見渡す

....

...

..

.

アレ? 兎は?

 

ココア「兎~!兎~!」

 

???「...こ、此方の席にどうぞ」

 

「...?」

 

何故かビクついた店員に席を紹介され 席に付く

 

ココア「田中君!兎が居ないよ!」

 

「ハァ、見れば分かる

早く席に付け 店員さんが困ってる」

 

そう言いココアを席に付かせる

 

「何で同じ席?」

 

ココア「友達だったら当たり前でしょ?」

 

「あ、そう」

ーーーーーーーーーーーー

 

「ハァ...」

 

ココア「元気無いよ どうしたの?」

 

「兎が居ない...」

 

ココア「私よりショックを受けてる...」

 

???「...いらっしゃいませ

お、お待たせしました メニュー表です」

 

「有難うございます」

 

店員からメニュー表を受け取り 2部ある内の1部をココアに渡す

 

ココア「有難う~」

 

ココア「...う~んどれにしようかな~」

 

...コーヒーってこんなに種類があったっけ?

 

ココア「...アレ?もじゃもじゃ?」

 

そう言うとココアは店員の頭に乗っかって居る物体を指さした

 

???「コレですか? コレは兎のティッピーです」

 

「...」ピクッ

 

兎!?

 

ココア「じゃぁ、その兎!」

 

???「非売品です」

 

ココア「ヴェェァ!

....じゃぁ、せめてモフモフさせて...」

 

???「....コーヒー1杯で1回です」

 

「...」ピクピク

 

コーヒー1杯で1回か...

良いサービスだな

俺にもそのサービスを適用してもらうか

 

ココア「じゃぁ、3杯!」

 

「...あの、店員さん」

 

???「は、ハイ..,

な、なんでしょうか?」

 

「私にも そのサービスを提供して貰っても良いですか?」

 

???「へ?」

 

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

ーー

店員がカウンターに入ってから数分 ココアは 兎が待ち遠しいのかウズウズしていた

 

さて、そろそろ書類を渡すか…

 

早いうちが良いと思いカバンの中から茶封筒を取り出し立ち上がる

 

ココア「あれ?何処か行くの?」

 

「...」

 

ココアが声を掛けてきたが ソレに反応せずにカウンターに行き声を掛ける

 

「あの...」

 

???「ヒィッ!!」

 

「....」

 

???「な、何か用でしょうか?」

 

「今日から此処でお世話になる 田中です」

 

そう言い 胸ポケットから自己証明書である手帳を取り出し店員に渡した

 

???「ち、父から話はきいて居ます」

 

「...父 、という事は貴女は娘の『香風智乃』さん?」

 

チノ「はい...苗字呼びだと父と被るので 私の事は チ、チノと呼んでください」

 

「では、チノさん

御迷惑を掛けると思いますが、宜しくお願いします」

 

チノ「こちらこそお願いします...」

 

「早速で悪いのですが ご主人は何処に居るか教えて貰っても良いですか?」

 

チノ「ち、父は、今 急用で居ません...」

 

「...いつ頃に帰って来るか分かりますか?」

 

チノ「よ、夜になると思います...」

 

「...そうですか

わかりました」

ーーーーーーーーーーーー

ココア「田中君 ちゃんと渡し物を渡さないと駄目だよ」

 

「...」

 

ココア「駄目だよ?」

 

「...渡す相手が不在ならしょうが無いだろ...」

 

ココア「そっか、それは残念だね」

 

「まぁ、今日中に帰って来るから 問題ない」

 

チノ「お待たせしました

まずこちらのコーヒーが k...」

 

ココア「待って!」

 

チノ「?」

 

ココア「コーヒーの種類を当てるヤツやりたい!」

 

チノ「利きコーヒーですか?」

 

「できるのか?」

 

ココア「こう見えて私、パンの違いを見極める事が出来るんだよ!」

 

「コーヒーとパンじゃ、大違いもいい所だろ...」

 

ココア「じゃぁ、行くよ」

 

そう言いココアは目の前に置かれたカップを持ち、コーヒーを飲む

 

ココア「この味!コレがブルーマウンテンか~」

 

チノ「コロンビアです」

 

...イキナリ外してんじゃん

 

そう言いながら2杯目のカップに口を付ける

 

ココア「この酸味!キリマンジャロだね!」

 

チノ「それが ブルーマウンテンです...」

 

ココア「えぇと、コレが最後だね」

 

「....」

 

ココア「安心する~

コレ、インスタント...チノ「ウチのオリジナルブレンドです!」..アレ?」

 

「...イヤ、インスタントは無いわ」

 

ココア「....

で、でも 全部美味しい

だよね!田中君!」

 

涙ぐましいな...

 

そう思いながら 出されたコーヒーを飲む

 

「...今まで飲んできたコーヒーの中で1番美味い」

 

ココア「だよね!だよね!」

 

「...何でこんなに美味いコーヒーをインスタントと間違えるのか....訳が解らない」

 

ココア「あぅ!

そ、それよりも 3回モフモフする権利を手に入れたよ!」

 

チノ「...じゃぁ、どうぞ…」

 

不満気な声を出しながらもチノはココアにうさぎを渡す

 

ココア「有難う~

わぁ~!

モフモフ~!」

 

「....」

 

???『ノォ゛ーー!!』

 

「ん?」

 

ココア「アレ? 今、この子(兎)に拒絶された様な...」

 

チノ「気の所為です」

 

「....」

 

ココア「気の所為なのかなぁ..

それにしてもこの感触は癖になるなぁ」

 

チノ「あの、返してください…」

 

ココア「モフモフ~」

 

???『えぇい!!

早く離さんか!

この小娘が!!』

 

ココア「何かこの子にダンディな声で拒絶されたんだけど!?」

 

チノ「私の腹話術です...」

 

ココア「え?!」

 

チノ「早く、コーヒー飲んでください...」

 

...イヤイヤ 騙されんなよ…

 

明らかに声が出ていた音源は君が抱えてる兎だからね…

 

...まぁ、コイツ(ココア)だし 気付かなくても不思議じゃ無いわな

 

ココア「?田中君 どうしたの?」

 

「...イヤ、別に...」

 

ココア「兎..いる?」

 

「ん?あぁ、有難う

...良いですか?」

 

チノ「ど、どうぞ…」

 

ココアに礼を言い、チノにも許可を貰った所で 左手をココアに伸ばす

 

ココア「田中君 離すよ」

 

「あぁ、頼む」

 

兎を手に乗せ上手くバランスを取りながら 自分の太腿に兎を乗せる

 

「こりゃ、癒されるわ...」

 

ココア「でしょ!でしょ!」

 

「...何でアンタが自慢気なんだよ...」

 

ココア「えへへ~」

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

ーーーー

ーー

ココア「私、春からこの街の学校に通う事になったの」

 

チノ「はぁ...」

 

ココア「でも、下宿先を探してたら迷子になっちゃって」

 

チノ「下宿先?」

 

ココア「田中君の用事のついでに休憩しながら道を聞こうと思って」

 

ココア「『香風』さんって知ってる?

ここら辺のハズなんだけれど…」

 

「...え?」

 

ココア「え?」

 

チノ「香風は此処です

もう1人は 貴女ですね」

 

「...、

..マジで?」

 

ココア「アレ?もう1人って?」

 

「...俺も今日から此処で世話になるんだけれど」

 

ココア「えぇぇぇ!!?」

 

ココア「田中君の用事って私と同じだったの!?」

 

「...マジかよ」

 

コイツと一緒とか...先が思いやられるわ…

 

ココア「2人との出逢いは偶然を通り越して、奇跡だよ!!!」

 

チノ「私はチノです

...どうぞよろしくお願いします」

 

ココア「私はココアだよ

宜しくね!チノちゃん!」

 

チノ「宜しくです」

 

ココア「それで 早速なんだけれど

通う高校の方針で お世話になる家庭に御奉仕しなきゃなんだけれど…」

 

チノ「ウチで働くって事ですね」

 

ココア「そうそう!」

 

チノ「と言っても、家事は私1人でなんとかなってますし、お店の方も人手が足りてますので

何もしなくて結構です」

 

ココア「イキナリ要らない子宣言されちゃった...」

 

ココア「とりあえず、マスターさんに御挨拶したいんだけれど…」

 

チノ「...祖父は去年...」

 

ココア「そっか...今はチノちゃん1人で切り盛りしてるんだね…」

 

チノ「いえ、父も居ますし

バイトの子も...」

 

ココア「チノちゃん!」

 

そう言うとココアはチノに抱き着く

 

ココア「私を姉だと思って何でも言って!」

 

チノ「ぁ...」

 

ココア「だから、お姉ちゃんって呼んで」

 

...お前の場合、そっちがメインだろ

目がイキイキとしてるぞ…

 

チノ「じゃぁ、ココアさん...」

 

ココア「お姉ちゃんって呼んで!」

 

チノ「ココアさん」

 

ココア「お姉ちゃんって呼んで!」

 

チノ「ココアさん、早速働いて下さい」

 

ココア「任せて」

 

...ちょろ過ぎないか?

ーーーーーーーーーーーー

チノ「あ、あの田中さん...」

 

「...何ですか?」

 

チノ「今から、ココアさんを着衣室に連れて行くので ティッピーを預かって貰えません..か?」

 

「えぇ、全然問題無いですよ」

 

チノ「あ、有難うございます」

 

そう言い チノはティッピーをテーブルの上に置きココアを連れて2階へと上がって行った

 

「...」

 

「単刀直入に聞く」

 

ティッピー「」

 

「なぁ、ティッピー

...アンタ、喋れるだろ?」

 

ティッピー「」

 

「今、此処に俺達しか居ないし 俺はこう見えても『軍人』だから 口は固い」

 

ティッピー「」

 

「...まぁ、確かに今日初めて会った人間を信用するのは難しい事だけれどもな」

 

ティッピー「」

 

「もし、アンタの気が変わって何かを話す事があったら そん時は遠慮せずに話して欲しい」

 

ティッピー「」

 

「隠しているのは、結構辛い事だ」

 

ティッピー「」

 

相変わらず喋らないティッピーを横目にコーヒーを啜る

 

ドタッ!!バタッ!!

 

ココア「~!~~!」

 

???「~~~!!」

 

「...何か2階が五月蝿くないか?

ってか 揉めてる?」

 

ティッピー「」

 

「...申し訳無いんだが アンタは此処で待ってて貰えるか?

店番の意味も含めて」

 

ティッピー「」

 

「必要ないと思うけど 揉めてるって事は 用心しないとな...」

 

そう呟きスタッフオンリーと書かれたドアを開け階段を登った

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話

第三話

 

ココア救出の為2階に向かう。

 

相手を落ち着かせようとして居るココアの声が聞こえるが、はっきり言って相手を逆上させているだけの様な気がする...。

 

「....から....銃....ろして...!」

 

階段を登っている最中に、ココアの声が聞こえるレベルまでになった。

 

...どうやら敵は銃を所持して居る様だ。

 

田中は、銃を取り出し器用に左手を使い薬室中に弾薬が装填されている事を確認し、ハンマーを上げる。

 

銃を所持している敵の脅威は未知数の為、細心の注意を払い声のする部屋に向かう。

 

「お願い...許して...お願いします....。」

 

震える声を必至に振り絞って言葉にしているのか、覇気が無く弱々しい声がドア越しに聞こえてくる。

 

....状況は余り宜しくない様だな。

 

田中はスゥッと息を深く吸い、フゥと息を吐く。

 

吊っている右腕の手...指を使い扉のノブを回す。

この場合の敵への最も効果的な接敵方法は奇襲による制圧が最も効果的で在ろう。

 

ドアノブを回したドアを少し押しラッチボルトを溝から外す。

 

ラッチボルトが溝から外れたことを確認すると、田中はもう一度二度、深呼吸をし呼吸を整える。それと同時に突入への心構えを改めて作る。

 

ドンッ!!

 

利き足である右足を使い、文字通り田中はドアを蹴破った。

 

一瞬、ドアとは思えない程の重さを感じたがそれを気にしている暇は無く、正面の銃を構えて居る人物に銃を向ける。

 

「な!?...クソッ!?囮!?敵の増援か!!」

 

そう叫ぶ人物の印象は、第一に紫の下着であり、第二に女性...少女であった。

 

「銃をゆっくりと地面に置け。」

 

田中はゆっくりと、そしてドスの効いた声を出し敵に語りかける。

 

「煩い!黙れテロリスト!!」

 

「これが最後だ。銃を置け。」

 

指示に従わない敵に、田中は再度警告するが下着姿の少女は警告を聞かない所か、より一層銃を持つ手に力を入れている。

 

この様な様子を見る限り、下着姿の少女には『平和的解決』と言う概念が頭の中から飛んでなくなって居るらしい。

警告の無視。...残念だ。

 

何故、戦争のせいで荒廃したこの世の中を立ち直させる使命を帯びている若者同士が殺し合わねばならないのか?

 

何故、戦争は終わったのにも関わらず、今の世の中には武力が蔓延って居るのだろうか?

 

何故?テロリストが蔓延る?

何故?武力を行使する?

何故?テロ組織が出来上がる?

 

人が、特定の思考に囚われた人間が集まるから組織が形成される。

 

人の考えとは不安定で、少しでも輝いて居る様なことに人は魅了される。より良い世界を、世の中を実現する為に立ち上がる。

 

では何故?何故に武力行使という方法で立ち上がらんと欲す?

 

幾ら考えど、その先の答えが出る事は無いのだろう。

 

ならば、自分が行うべき行動は実に簡単である。

人が人を呼ぶので在れば、今此処で少女を排除しテロに加担する人間を少しでも減らす事!!

 

それが最善の方法であり、今現在で考えられる原因に最も有効な方法である。

 

田中は左手の人差し指に鉄槌の如く力を入れ"躊躇すること無く"引き金を引く。

 

カチャン!

 

しかし、銃からは弾が出る事が無く代わりに出てきたのは金属を力強く叩く音のみであった。

 

ミスファイヤ、である。

 

「....」

 

ミスファイヤ...ではあるが、此処で慌てる必要は無い。

いや、実際問題は内心で慌てては居るがそれを敵に悟らせる程、戦闘に余裕がない訳では無い。

 

「なっ?!」

 

近距離での命のやり取りをして居る中での致命的なアクシデントであるミスファイアを起こしたのにも関わらず、依然として冷静な態度で居る田中に、下着姿の少女は驚きを隠す事が出来ずに居た。

 

カチャン!

 

「うぁッ!!」

 

不自然とも言える田中の不気味さに気を取られて居る間に少女の耳に金属の叩かれる音が再度、聞こえて来た。

 

またしても不発。

 

間髪入れずにもう一度田中は引き金を引くが結果は変わらず不発。

 

「...フ」

 

敵である田中に戦闘能力無いと確信したのか下着姿の少女が笑う。

 

少女の手の中にある銃の銃口が田中に向き....

 

「ウッ!!」

 

バタン!!

 

物凄い音と共に少女の体が倒れ込む。

 

 

 

 

 

「?!?!!!!!!?..カハッ!!」

 

今の一瞬に少女は何をされて、何故、自分の体が横たわって居るのかが理解できなかった。

 

一瞬の間に視界が遮られ、顔面へ2発の重い衝撃...。訓練により体に染み付いている筈の受け身を満足に取ることが出来ないほどの強烈な投げ技....。そして状況を理解する間も無く首に、痛く呼吸すらも、ままならなくなる程の重圧...。

 

状況を把握出来る頃には、少女の体は投げられた事に対する衝撃と首に掛かる重圧の為、動かす事が出来ず、もがく事しか出来なかった。

 

「ウッ!!....カハッ!!.....!!」

 

さらに、首元に乗っている足に体重を掛けて意識を刈り取ろうとする田中に対して、負けんとばかりに抵抗して来る少女。

 

 

 

 

 

...苦しめて殺すよりも、一瞬で殺った方がコイツの為か。

 

酸欠のせいで、苦しそうにして居る少女を直ぐ近くで見続けた田中は余りの惨さを目の辺りにし、背中側に括りつけていたナイフを鞘から抜き大きく振りかぶった。

 

....来世は強く、そして幸運に生きろよ。

 

なんの躊躇も無くナイフを振り下ろす。

 

「ウグ...!アッ!!」

 

ナイフは少女の眼下まで迫る。

 

 

 

 

もうダメだ!

 

少女は固く目を閉じ、直後に起こるであろう事に身も心も恐怖に支配される。

 

...しかし、幾ら待てど自分自身の想像していた未来が自分自身を襲うことは無かった。

コレが走馬灯という奴なのか、或いは痛みを感じる事無く死んでしまったのか...。

 

ガンッ!と音がして幻想的な意識が現実に戻る。それと同時に少女は先程まで体にあった拘束が解け、四肢、そして呼吸が自由になった事を酸欠の為、ぼんやりとした感覚であったが理解した。

 

テロリスト集団は?!

 

少女は状況を確認する為に勢いよく"起き上がる事が出来た"。

"起き上がる事が出来た"とは、当たり前の動作でこれが出来なければ地面に足を付いては歩く事は愚か先程まで自分の命を刈り取ろうとしていた敵と交戦する事すら叶わない事である。

そんな当たり前の事にすら、少女は感動していた。

敵は銃を撃つことが出来なかったが、銃を持っている自分を...戦力的には圧倒的であった自分を圧倒的な何かで上回り、一瞬で無力化した。

ただでさえ、敵は今さっきまで自分の命を本気で奪おうとしていたのに....。

あの様な状況で何も起こらずに何事も無かった様に"起き上がる事出来た"

このような理由を含め、彼女がこの様な当たり前の事で感動する事は可笑しい事では無い。

 

「リゼさん!大丈夫ですか!?」

 

「チノ?」

 

少女...もとい、リゼが

 

「」

 

「ティ、ティッピー?」

 

少女が周りを見ると、そこには店主の娘で実質的なカフェタイムのオーナーであるチノの頭の上に常に乗っている兎が青ざめた様子で敵に説教?をしていた。

 

兎が『青ざめて説教』とは、また不思議な行動ではあるが、それ以外にティッピーに適用する言葉は存在しなかった。

 

続く



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話

長いような短いような連休が終わりますね。
私は一日以外は、ぐーたらに過ごしました。
やらねばならない事が沢山あるのに……。
ともかく、第四話をどうぞ!


第4話

 

「こ、この方は見ての通り、此処でバイトをやっているリゼさんです。リゼさん……この方達はココアさんと、田中さんです」

 

 チノは、ココアと田中をリゼと呼ばれている少女に紹介し、その後にリゼにココア達の事を紹介した。

 

「よろしくな! ココアと……田中」

 

 リゼはココアと田中に挨拶をするが、ココアには明るい声で話しかけたが、その反対に田中には暗く後ろめたい事があるような声色で声を掛ける。

 しかし、それもその筈である。今さっきまで、自身を殺そうとしていた相手に対して、普通に接する事は無理である。

 

「よろしくね! リゼちゃん!」

「あぁ! よろしく頼む! ココア! それと……田中もな」

「え? あぁと、よろしくお願いします」

 

 まさかこの空気の中で、リゼから言葉を掛けられるとは思っていなかった田中は、一瞬ではあるが不意を付かれた様な反応をしてしまう。 

 

「とりあえず、私はここで失礼する」

 

 2階から聞こえてきていた物音の問題が無いと分かった田中は、留守を任せていた本来の場所に戻るために、一応ではあるがリゼ・ココア・チノに声を掛ける。

 

「あ、あぁ。そうだな……。その、あのだな。突然で、何を言っているのか分からないと思うのだが……。お前に、お願いしたいことがあるのだが……」

 

 女性陣に対して背中を向け、吊っていない方の手である左手で扉のノブを捻ろうとしていた田中に、リゼが何かを伝えたそうな声を出した。

 その声を聴いた田中は、一瞬ドアノブを捻る手を止め、田中に声を掛けたリゼに声を掛ける。

 

「……そんなあられの無い様な下着姿でお願い事ってことは、今夜の『お誘い』って事で問題ないかい?」

「ふぇ!?」

 

 いきなりのセクハラ的な返しをした為、田中の予想に反した人物……ココアが意外にも反応し、顔を赤く染めていた。

 

「た、田中君!? 一体何を!?」

「今夜のお誘いってなんの事ですか?」

 

 チノにとっては聞きなれない単語なのであろうか、夜のお誘いの事を赤くなっているココアに質問する。

 

「おや、まさかアンタが反応するとは思わなんだ……。んで、リゼさん。一体どうします?」

 

 挑発するように、そしてセクハラに対する相手の反応を楽しむかの様な意地の悪い質問を、田中はケラケラと乾いた笑い声を上げながら聞いていた。それはまるで、リゼの恥ずかしがる姿を楽しもうとして居る様に見る事が出来る。

 

「あぁ、そうだな……。私を甘く見るなよ童貞。お前なんか私に掛れば骨抜きだ。今夜は寝られると思うなよ」

「リゼちゃんも!?」

「童貞? お爺ちゃん、童貞って何ですか?」

 

 そんな田中の意図を感じ取ったのだろうか。リゼは口角をにやりと上げると、田中の放った言葉に挑発的な返しをした。

 更に田中の口元がニヤける。中々帰ってくることの無い返し方をされた事による、一種の友人と話す時の様な楽しさを田中は感じていた。

 

「ほぉ……。そこまでの自身が在るならば、今夜はさぞかし激しい夜になるのでしょうな」

「あぁ! 激しすぎて、一生忘れる事の無い夜になるだろうよ」

「激しい夜……? コ、ココアさん……激しい夜ってどういう事なのですか? そ、それに、一生忘れられないって一体何を?」

「もー! 二人とも、その話は禁止!」

 

 あまりにも居た堪れなくなってのであろう。田中とリゼの話を辞めさせる為に、大きな声を出して二人の会話に割って入った。

 田中から始まった悪ふざけは、ココアを巻き込み、そして純粋無垢なチノにまで被害を被っているが、その状況に対してのリゼの反応は嫌悪感を出すわけでもなく、恥ずかしがっている様子も見受けられない。

 そんなリゼをココアは不思議に思ったのだろう。ココアがリゼに質問をする。

 

「なんでリゼちゃんも、そんな話をチノちゃんの前でできるの!?」

「わ、私が聞いては駄目な内容だったのですか?」

 

 チノからしては、田中とリゼが話している事の内容はチンプンカンプンで在るが、ココアからすれば二人が話している会話は教育上とても良いモノとは言えない。

 それに加えて、リゼは女子である。ココア自身も中学生時代には、学友とその様な会話は何度かしたことがあったが、それは同性の場合で在った。異性とその様な会話をすることは考えた事も無ければ、ましては初対面同士の人間が、純粋無垢な年ごろの少女の前で、この様な破廉恥な会話をすることは想像する事が出来ない。

 

「なんでって……。そりゃ、軍人同士ともなれば、下世話な会話が始まってもおかしくはないだろう? ……まぁ、全員が全員とはいかないが、大体の場合はこんな感じだな」

 

 何かおかしな会話をしていたか? とリゼは一瞬不思議におもったが、目の前にいる明るい少女が軍人について余り知っていないだろうと結論づける事で、一人で会話について慌てていた行動について自信を納得させる。

 

「へ? 軍人? リゼちゃんと田中君が?」

「あぁ、と言っても私はまだ正式には軍人ではなく、軍人になる為の教育を受けている最中だ。ほら、この前新しくできた制度の『第一期予備兵力補填計画』って奴だよ」

「なるほど……。って事は田中君も、第一期予備兵力補充計画の人?」

 

 ココアのその言葉に、一瞬ではあったが田中の顔が歪む。苦痛にも、哀れみにも、悲しみにも見える事が出来る表情を、一瞬だけではあったが表情に滲みでていた。

 その一瞬をリゼは見逃さなかった。

 

「あのだなココア。田中は……。田中は現役の軍人だ……。それも実戦を経験している……」

「え?」

 

 恐怖に染まった様な声をココアが上げるが、この反応は今現在のこの国では全く不思議な事ではなく、むしろココアの様な反応が至極全うな反応である。

 軍人……つまり兵士は『人殺しの犯罪者で在る。兵士は多くの命を奪い、奪った命の数を自慢の数字としている』と、ココアが中学校に上がる位の時から学校で教え込まれてきた。

 危険な存在。その危険な存在が、自身の目の前に居る。今さっきまで、リゼの一件でパニックになっていたが、目の前の男はリゼの事を本気で殺そうとしていた……。もし目の前でリゼが撃たれてしまっていたら……。目の前の男は、その奪った命をも自慢の材料として扱うのだろうか? いや、それだけでは無いかもしれない。リゼだけの命では足りず、目の前にいる自分と、そしてチノの命まで奪っていた可能性も無きにしろあらず……。

 

 先ほどまでのココアとは、打って変わった雰囲気を醸し出す。

 

「や、野蛮人……」

「……」

 ココアの言葉に、虫の居所が悪くなる田中。ココアは無意識の内に漏れてしまった言葉を、ココア自身が自分の言葉を国や否、健康そうであった顔色から一瞬にして血の気が引いた顔色に変わった。

 

「ごめんなさい! そう言うつもりじゃ……」

 

 すぐにココアは謝罪の言葉を口にしたが、田中は前触れもなく口元をニヤっとさせると同時に、先ほどまで、リゼと下世話な会話をしていた雰囲気は何処に行ったのだろうか。先ほどまでの雰囲気とはまた違った雰囲気を醸しながら、田中は口を開いた。

 

「野蛮人?……まぁ、その言い方はあながち間違ってはいないな。あぁそうさ。俺は紛れもない野蛮人だ。それだけじゃないぞ! 俺の首元にある階級章……これが見えるか? これが一体何を表していると思う?」

「た……田中君?」

 

 突然と早口で喋りだす田中に、ココアは付いていく事が出来なかった。付いていくことが出来ないというのは、何も話しに付いていく事が出来ないというだけではなかった。そもそもとして、従軍経験の無いココアがこの様な話を聞いた所で理解できない事は、ココア自身も分かりきっていた。ココアが付いていけないと感じた場所とは『目の前にいる男と、自分達との温度差』である。厳密に言ってしまうと、温度差という表現は正しくない。

 何か、乾ききった……固い土の様な。兎にも角にも、目の前に居る男は、普通とはかけ離れた。そんな感覚がした。

 

「あぁ、そうだ! これは如何に多くの人間を殺したかを物語っている物だ。そもそも俺みたいな一兵卒は、戦場で武功を上げなければ、短期間でここまで上がる事は不可能だからな! アンタらの言う『奪った命の数を自慢の数字としている』だったか? そうさ! 一番の自慢さ! 夜になると毎日毎日、語り合ったものさ! どの様に敵を殺したか! 敵がどのような命乞いをしてきたか! 少年兵を何人殺したか! 女性兵士をどんな辱めに合わせたか! どの様な拷問を、苦痛を与えたか! そうだ! そうだよ! 俺達は、いや俺は野蛮人の殺人者だ! 人殺しだ! ……あぁ、そうだよ。俺は罪に問われないだけで、人殺しだ」

 

 一気に捲し立てる様に一通り喋り終わった田中は、先ほどまでとは違い、覇気が一切無くなり、項垂れているかのような印象をココアを初めとするリゼ、チノに与えていた。

 この話の発端を作ってしまったリゼと、心に無い事を言ってしまったココアは二人して目線を下に向け、田中を見ないようにしていた。正確には『見ないように』していた訳ではない。田中の事を見れないと言うのが本当の所であった。

 学校で習う倫理の授業で聞くよりも詳しい内容ではなかったが、一人の兵士の言葉は生々しく、そして悲しみにあふれていた。

 

「すまない……こんな話をするつもりじゃ無かったんだ……。忘れてくれ。……本当に済まない」

 

 そういって田中は、改めて部屋を出る為にドアノブに手をかけ扉を開ける。

 

「た、田中君……」

 

 戸惑った声でココアは田中を呼ぶが、田中は一切の反応を見せずに部屋から出ていく。

 その背中は、悲しみに満ちている……その様な感覚をココア達は感じた。




面白いと感じていただけましたら、お気に入り登録をしていただけると幸いです。
ではまた、次回にお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話

どうも。IS提督です。
今回は、行を開けずに執筆いたしました。
読みにくかったら、教えて頂けると幸いです。
それでは第5話を、お楽しみください!


第5話

 田中は先ほどまでの少女達がいた部屋を出た所で、言葉には言い表す事の出来ない胸糞の悪さを感じていた。

だが田中には、その不愉快を対処する術も、道理もなかった。ココアに言われた事は実際問題として事実で在り、その事に関する事実は自身の中で、しっかりと受け止めなければならない問題で在る。……いや、自身の中では受け止めていたと思っていた。

 しかし、実際問題として、ココアに言われた事に、苛立ちといった怒りを覚えてしまった。つまりは、現実を……自身の罪を理解して受け入れていると思っていたのは、所詮『つもり』だったという事である。

(悔しい。とにかく、悔しいの一言だ……)

 田中は自身の心の中で、その思いに支配されていた。その感情に支配されたまま、自身の飲みかけたコーヒーが在る席まで足を進める。ふとテーブルに目線を向けると、ココア達のいた部屋に置いてきた筈のティッピーが、テーブルの上に居た。

「……私達は間違っていたのでしょうか?」

 田中が、椅子に座りながら、絞り出す様な声で問いかけたその問いに、ティッピーは答えない。

しかし、田中の思いを受け止めたかの様に、ティッピーは田中の元まで移動し、彼の膝の上に飛び降り、膝の上から、彼の目を見上げる様にして覗き込んでいた。ゆっくりと負傷していない腕でティッピーを抱き上げ、自身の胸で抱く。その姿は、まるで聖書を抱き、懺悔をしている様にも見る事が出来た。

 それから、数分もしないうちに『staff only』の看板が下げられている扉が、音を立てて開いた。扉の中からは、田中と出会ったばかりの時の様な元気が見られないココアと、その後ろから少しオドオドした様子のチノ、最後に、その二人の様子を見て困った様子のリゼが見守るように入ってきた。

「田中君!」

 ホールの中に入って来るや否や、ココアは田中を呼び、走って彼の座っている席へと駆けた。

「さっきは本当にごめんなさい! 私、本当にそんなつもりじゃなくて! えっとね……、その、なんて言ったら良いのか……」

(あぁ、この子は優しいな……。自分とは全く違うや……)

田中は目の前で、自身に対して謝っているココアを見て、そう感じた。ココアが田中に対して抱いた感情は、この国で生きている人間からしたら正常な感情で在る。人を殺したのだから……。人殺しは良い事ではない。禁忌である。それは誰もが知って居る事。禁忌を犯した者を、忌み嫌う事は当然である。その様な人間を、人間扱いしない人間も当然いる。事実、田中は、此処に来るまでの間にも、その様な扱いを受けた。

 しかし、目の前に居る少女は、その様な人間に対しても、人間として接してくれようとしている。……それが何よりも田中にとっては辛かった。人間扱いされずに『人殺し』と蔑まれる事も辛かったが、同じ世代の人間に、同情にも取る事が出来る『理解・寄り添い』は、それ以上に辛く、田中自身の精神を抉る。

「……制服、似合ってるね」

(やめてくれ……。そんな目で見ないでくれよ……。そんな目で見られると、余計に自分自身が惨めになる……)心の中で、苦しい声がする。

(余計に自分が……)

「淡いピンクか。うん、とても似合っている」

 話の話題を変える為に、田中はココアの制服について話す。

「えへへ……、そうかな? そうであったら嬉しいな!」

 言葉の語尾に元気が出てきたココアは、その場でクルっと回り、少しだけスカートを遠心力でフワリと広げながら、笑顔で田中の顔を覗き見た。その様子からして、田中の機嫌をうかがっている事は明らかであったが、田中はその事に気付かないふりをして言葉を紡いだ。

「本当だよ。それよりも、チノさん達の所に行って、今後の予定を聞いといた方が良いんじゃないのかい?」

 田中は、カウンターの奥でココアと田中を心配そうに見ているチノとリゼを顎で指し、再度ココアの顔を見た。田中の顔は優しく微笑んでいる様に、ココアは見て取る事が出来たが、同時に、偽物の表情にも取る事の出来た。

「う、うん。そうだね……。そうした方がいいよね! 見ててね、田中君! お姉ちゃんはバリバリ働くよ!」

 そう言うとココアは、田中の元を駆け足で去り、チノとリゼが居るカウンターの奥へと移動した。

「……フゥ」(……俺は、なんて卑怯な人間なのだろうか!)

 ため息を漏らした後に、田中は再度、自責の念を抱いていた。

(ココアの申し訳ないと言う気持ちから、自身が『辛いから』という身勝手な理由で、勇気あるココアの行動から逃げてしまった……! 俺は一体、何をやっているんだ! 自分勝手にも程があるだろう!)

 ギリッ! と奥歯が音を立て、口の中には歯医者で歯を削った時に感じる独特で不快な味や、風味が支配した。田中は、その不快な味を口内から消すために、冷めてぬるくなったコーヒーを口一杯に含め、流し込む。……丁度その時、入り口が開き、30代の女性の客が店内に入ってきた。

「いらっしゃいませ!」

 元気よくココアが来店した客に声を掛ける。

「あら? 新しい顔ね? 新人さん?」

「はい! ココアと言います! よろしくお願いします!」

「そう。よろしくね。エスプレッソをお願いするわ」

 ココアと客が一通りの会話をし、女性客が注文をココアに言い渡して席に着こうとした際に、田中の事を見つけ、睨みつけるような視線を向けた。その顔には、この国の人間が兵士に向ける、軽蔑の感情が含まれている事を、田中は一瞬の間で在ったが感じ取った。

 その後も、その女性客は田中が居る席に視線を向けては、在る一種の珍しいモノを見ている様な目で田中を覗き込んでは、目線を外しを繰り返し行っていた。

 その視線に気付きながらも田中は、依然としてティッピーを抱きしめながらコーヒーを口に運んでいた。

 口内の不愉快な味は無くなり、不愉快な視線を送ってくる女性客はいるが、ココアやチノ、リゼの仕事をしている雑音のおかげか、田中は今この瞬間に居心地の良さを感じていた。ウトウトと眠気が襲ってきたが、それもまた一種の心地よさではあった。しかし、それも束の間の休息で在った。

「お待たせしました! エスプレッソです!」

 ココアが出来上がったコーヒーを女性客の元まで運び、女性客がココアに礼を言い、口元に近づけ香りを嗅いだ。

「んー。いつ来ても此処のエスプレッソはいい香りだわ」

 わざとらしい大きな声を出しながら、女性客は更に言葉を紡ぐ。

「あら? でも今日のエスプレッソは、いつもより香りが悪いわね? ……うん。味もいつもより数段悪いわ! ……えぇっと、ココアさんでしたっけ? 何故、味が悪くなったかわかるかしら?」

「え? えぇっと、それは……」

 女性客からの急な質問に、質問の意図を理解する事が出来ないココアは、答えに躓き、近くにいる田中に助けを求める様に視線を泳がせ、次にチノやリゼが居るカウンターに目線を向ける。

「あぁ、ごめんなさいね。ココアさん。貴女は色々と世の中に慣れていないわよね。ごめんなさいね。教えてあげるわ」

「えっと? 何を……ですか?」

 女性客はニヤリと口元をゆがめさせると同時に、何かに勝ち誇った様な表情を浮かべ、ヒステリックに近い様な口調で、なおかつ嫌味ったらしいく言い放つ。

「今此処に、とっても臭い人間が居るからなのよ。臭いったらありゃしない。戦争に行った人間は皆そう! 特に少年兵は、残酷で、人間としての欠陥……、あら? 私に何か用かしら?」

 田中は、女性客がココアに話をしている最中に勢い良く立ち上がり、無言で女性客を睨みつける。その眼は充血しており、薄っすらとでは在るが、涙が溜まっている様子であったが、彼の眼には、怒りでも無く、憎しみや悲しみでは無い、しかし、確かな何かの感情を目に宿していた。

「こ、これだから嫌ね、少年兵は。礼儀も知らないし、人間としての教養もなって居ないわ。あー、嫌だわ。人殺しなんだから、そのまま戦場で死んでしまえばよかったんだわ。だって、貴方には、この健全な社会では何にも役に立つことが出来ないものね。……いえ違うわ、何も役に立てないから、少年兵になったのだったわね」

 嫌味を言う女性客の元に、1歩2歩と田中は足を進めるが、フッと肩の力が抜ける感覚を感じ、歩みを止めた後に、女性客とは反対側にある、外へと繋がるドアに歩みを進め、扉を開けて外に出た。

 ドアの閉まる音と、鈴の音が店内に響き渡る。

その音がまるで、田中の心の中の心境を表している様にココアは感じた。田中に対する感情とは別に、彼女は目の前にいる女性客に対して、何とも言い表す事の出来ない感情を抱いた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話

第6話

 

(俺は、こんな人間達を守る為に命を懸けていたのか……)

 唯々、何の目的も無く、走る事もしなければ、綺麗な石造りの街を見る訳でも無く。唯々、歩く。歩き、歩き、歩き続けた先にある……小さいが、桜が咲き乱れている公園に、田中は足を進めた。

 一面に咲き乱れる桜を見ながら、田中は遊歩道から外れた草むらの上に立つと、足の力が急に抜けた様に座り込み、桜の木を見上げる。ピンク色の綺麗な桜が視界一杯に飛び込んできたと同時に、少し強めの風が田中の真正面から吹き込む。風の吹くままに上半身を揺らし、地面へ背中を横たえた。身体を横たえた衝撃が右肩の怪我を痛めつけるが、フゥ……と重苦しい息を吐き、最後に頭を地面につける。

 何も考えずにボーっと過ごす。生産性も無い無駄な時間では在るが、この行為は、自身の頭に上った何かを落ち着ける事が出来る。只唯一の行為で在る事を田中は知っている。

 落ち着いてくると同時に、鳥の音や、風によって温かく軋む木々の音、周りにいる兎の気配、そして公園に居る人々の話声。

 ……自然が存在する。自分があり、そして全てが存在する。自身がいなければ、世界は存在しない。

 目を瞑り、浅く息を吸い、浅く吐き出す。それを数回繰り返していく内に、次第に呼吸が深くなり、じんわりピリピリと身体が温かくなっていく感覚が全身に広がっていく。その感覚を途切れさせない様に意識をしながら、草木の香りを嗅ぐ。しかし、直ぐに落ち着いた心が荒れていくのを、彼は感じた。

 この精神の落ち着かせ方を自身に教えてくれた人物は『国の為・国民の為』と言って散っていった……。命を代償に我々、少年兵や、国民を守ろうとして勇敢にも、そして無謀にも散っていった。唯々『人を守りたい』との思いを胸に抱いて……。 しかし、その国民が少年兵を差別し、存在を否定する! 彼らの様な人間を否定し、汚れたもモノの様に扱う! 一体何の為に我々少年兵は戦い、そして散っていったのか!? 何の為に! 何の為に……! 何故、銃後の人間は、最前線で戦っていた人間を苦しめる!?

(戦争行為は決して許されるわけじゃない! けれども、命を懸けて守ろうとした人達を蔑んで良い訳でも無かろうに!)

『怒り』と言う言葉では済ます事の出来ない感情を、沸々と煮えたぎらせていた田中であったが、瞬間的に、それも無意識に田中は上半身を勢い良く起こす。急激に体を起こしたことにより、またしても右肩が痛むが、ズボンのベルトの左腰に通しているホルスターから銃を抜き、周囲を確認する。

 小さな2人の女の子が自身の背中側から、膝を抱えながら自身を見ていた。

「お兄さん大丈夫ですか?」

 2人の内の1人の女の子が、田中に心配そうな言葉を掛けた。赤毛の二つのオサゲを拵えている、少しオットリとした女の子が更に言葉を田中にかける。

「何か辛いことがあったの?」

「いえ、何もありません」

 目頭に熱い液体が溜まる感覚がした。溜まった液体を流さない様に、ゆっくりと目を閉じる。

「じゃあ、兄さんはこんな所で、何で寝転んでたんだ? それになんだか雰囲気が普通の人とは違う様な気がする!」

 最初に話しかけてきた少女ではない……紺色の短い髪形をした少女が、好奇心を含んでいる声色で田中に質問を投げかける。

 田中は、熱い液体が引いた目をゆっくりと開け、目の前の少女の目を見る。

「そうですね……。私が私で在る為と、私は決して一人じゃないって事を確認していたのですよ」

「私が私で在る為?」

「決して一人じゃない事? ……それが何で寝転んでいた原因になるんだ?」

 二人の少女は田中の言っている意味が分からないのか、首を傾げながらブツクサと彼の言った言葉を繰り返し呟く。少女達は何度も互いの顔を見合わせ、首を傾げる。あぁでも無い、こうでも無い。次第に少女達は互いに呟き合う事を止め、田中に視線を向ける。

「それが寝転んでいた理由? 兄さんのいう事は、ちょっと意味が分からないよ!」

 紺色の髪の少女が不服そうに田中に抗議する。しかし、彼は理解して欲しくて発言した言葉ではなかった為に少女の言葉を聞くと、何も言葉を発する事無く再度、地面へと寝転んだ。

『あ……』

 少女二人の声がハモる。田中は被っていた帽子を頭から顔にずらし、日差しが出てき始めた為に、瞼を閉じても入り込んで来た光を遮断した。本当の事を言えば、田中は目の前に居る少女達とは関わりたくなかった。理由と言う理由は田中自身の感情。これが本能的になモノなのか……、兎に角、目の前の少女達とは関わりたくなく、一種の不安に似た、怒りの様な感情が体の内から沸々と沸いて出てきたからである。

 関わりたくないのであれば、公園から出てしまえば良い事ではあるが、立つ気力が湧かない為、田中は再び、寝転び帽子で目隠しを作った次第であった。

「なぁ、兄さんって軍人だよな? その銃って本物?」

「……」

「なぁなぁ! 聞いてるのかよ? おーい! 反応してくれよ!」

紺色の髪の少女が話しかけるが、話しかけられた田中は身動き一つ取らずに、寝ているのか起きているのかも分からない反応をするばかりであった。

 「なぁ! 起きてくれよー!」

 次第に田中の反応に痺れを切らしたのか、紺色の髪の少女が寝転んでいる田中の身体をゆすり始めた。

「痛い! ちょっ! 肩! 肩! 起きる! 起きるから、揺さぶるのは止めてくれ!」

「何やってるの!? マヤちゃん!?」

 揺さぶられた事により、肩の傷が痛みだした為、田中は少女達に取っていた態度を止め、再び上半身を起こし少女達と対面する。

「それで? 私の身体を揺らした君は?」

 右肩を押さえながら、先程とは違う意味の熱い液体を目頭に貯めた田中は、自身を揺らした少女について声を掛ける。

「えっと……その、ごめんな、兄さん。私は『条河 麻耶(ジョウガ マヤ)』気軽にマヤってよんでくれよ!」

「条河?」

 目の前の、紺色の髪の少女の苗字を呟いた田中の声色が、先程のモノとは変わり、信じられないモノを見たかの様なモノへと変わっていた。

「偽名じゃないぞ! 確かに、ここら辺では珍しい苗字かもしれないけれど、決して嘘じゃないぞ! 信用がないなら……ほら! 生徒手帳!」

 田中の反応に不満を感じたのか、マヤと名乗った少女が持って居たカバンの中に手を突っ込むと、小さな顔写真付きの手帳を彼に強引に見せた。

「わかった! 分かってますよ! 別に君の名前を疑った訳じゃありませんよ! ってか、痛い! 痛い! 右肩を触るなぁ! 本当に!」

「あ、ごめん……」

 田中の声を聞いたマヤは、素早く彼から離れると、生徒手帳をカバンにしまいながら、申し訳なさそうに声を発した。

「あ、いや、そんなに落ち込まないで下さい。別に怒こっているわけでは無いんです。只、本当に怪我をして居て痛いので、そこだけは勘弁してくれたらなと……さてと、ちょうど良い時間ですね。では、私はこれで」

 そこまで言い終わると田中は腕時計の時間を確認し、スッと立ち上がると、公園の出入り口に向かって歩みを進めた。

「お兄さん!」

 田中が公園を出る寸前で、赤毛の髪の少女が大きな声を出して引き留める。

「な、何かあっても、余り自分を追い詰めないで下さい! 辛い様なら相談に乗ります!」

「有り難うございます。ただ、今はまだ大丈夫ですよ」

 そういうと、田中は今度こそ公園から出ていった。

 

 田中が公園から出ていき、幾らも時間が経たない内に、赤毛の少女は顔を赤く染め上げ、隣にいた少女に話しかけていた。

「どうしよう! マヤちゃん! 私、変な子に思われちゃったかな!?」

「そんな事は無いと思うけれど……。でも何時もと違って、最初に声を掛けた時と、最後のアレ、ちょっと積極的かなって思った。どうしたんだ?」

 『積極的だった』と言われ、一層赤くなる少女であったが、赤面しながらも先ほどの少年の姿を思い出しながら、少女は言葉を紡ぐ。

「なんでだろう……? でも何か放っておいたら危ないような……、脆いような、なんだか放っておけなくって……」

 そんな友人である、赤毛の少女を横目で見ながら、紺色の髪の少女……マヤは空を見上げながら思った。

(放っておけない所……。どこか、兄貴に似ている気がする……。兄貴は今、何をしているのかな?)と。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話

独自の法律(設定)が御座います。
未成年の飲酒喫煙を助長する趣旨はございませんので、ご了承ください。
それでは第7話を楽しんで頂ければ幸いです。


第7話

 

「大丈夫かな? 田中君……」

 少し暗く重い雰囲気をまとっているラビットハウスの中で、田中が座っていた椅子に腰を掛けながらココアが心配の念を言葉に出した。

「大丈夫だとは思うんだが……。」

 ココアの心配そうな言葉を聞き、カウンターにいるリゼが反応する。その声色はココアと同じで幾らか心配している様にも感じる事が出来た。

「そうかな……。大丈夫だといいんだけれど……。あの時の田中君、チョット心配だよ……」

「……」

 ラビットハウスの空気が静まる。とても冷たく、肌を刺すような冷たさが心に刺さる様な空気が内面を締め付ける。

(薄々感じていた事だが、コイツはかなりのお人よしだな……)

 出会って直ぐの、それも国民に嫌われている人間の事をまるで、自分の事の様に気に掛ける事の出来るココアを見て、リゼは感心していた。自分では到底その様な事は出来ない……と。

「ねぇ、リゼちゃん」

 ココアがリゼに声を掛ける。その声に反応するようにリゼは声を出そうとした瞬間、ラビットハウスの扉が、綺麗な鈴の音と共に開く。

「田中君! ……と、誰!?」

 ココアが先程までの話題の中心にいた人物の帰りに、若干の安堵が籠った声を出したが、直ぐに田中の後にラビットハウスの出入り口に入ってきた人物に驚きの声を上げる。

「わ、私の父です……」

 ココアの声に反応する様に、チノがカウンターからココアに人物の紹介をすると同時に、先ほどのココアの反応に対して、今度はリゼが注意の言葉をココアに掛ける。

「ココア。さっきの人が此処のマスターだったからよかったものの、もしもラビットハウスにまったく関係の無いお客さんだった場合、失礼に当たるから気を付けないとダメだぞ」

「あ……、ごめんなさい」

 どこか厳しく、それでいて優しい注意の声に、ココアはハッ! と何かに気が付いた様な仕草を取った後に、チノとリゼから説明にあったラビットハウスのマスターであり、チノの父親である人物に謝罪を述べる。

「あぁ、気にしなくていいよ。えっと、君がココア君だね? 元気にやってくれている様でよかったよ」

「はい! えっと、これからよろしくお願いします!」

「あぁ、歓迎するよ。今日から此処は、自分の家だと思って過ごすと良い」

 元気なココアの声に満足したのか、マスターは微笑みながらココアに歓迎の言葉を声に出した。

「さて、じゃぁ今度は君の番だよ。田中君」

ココアの自己紹介の後に今度は田中に自己紹介をするように促した。

「田中って知ってますよね……。というか、私に関する資料は一通り目を通したと先程まで言って居たじゃありませんか……」

「まぁそんな減るモノでも無いモノだろうに、何をもったいぶっているのかな?」

 メンドクサイ……。そう思ったが、どうやらマスターは田中が自己紹介をしない限り、自分を解放しない。とでもいう様な雰囲気を作る。その空気に観念したのか、田中は自己紹介をする。

「田中です。……田中……。田中、田中忠義(たなか ただよし)です。私も今日からお世話になります。よろしくお願いいたします」

「……」

「よろしく頼むよ。……さて、そろそろバータイムになるから今日のバイトは此処までだね」

そう言うとマスターは、カウンターの壁際についてあるレバーを動かし照明の明かりを調節した。先程までの明るく、クラッシックな雰囲気の空間から、暗く、クラッシックでムードのある、しかし、喫茶店の独特な雰囲気を崩す事無く、大人な空間をマスターは作り出した。

「さて、チノとココア君とリゼ君はお疲れ様。田中君は少しここで待って欲しい。リゼ君も着替えが終わって1時間程したら此処に来てもらってもいいかな? 勿論、一時間分の給料は出すよ。その後も少し田中君と待っていて欲しいのだけれども、構わないかな?」

「はい。大丈夫です」

 マスターの言葉に頷き了解の意を示すリゼを横目に見ながら、田中はカウンター席に腰を落ち着ける。

「何か飲むかい? おごるよ?」

 ギシ、ギシと彼女達が階段を上る音に耳を傾けながら、マスターが忠義に注文を聞く。

「有り難うございます。しかし、私はこの様に洒落たメニューを見たことが無く、何を頼めば良いかわかりません。何かお勧めはありますか?」

 メニュー表を見た田中は、初めて見るメニューの名前に対して全く一切の想像をする事が出来ずに、お手上げだと言わんばかりにメニューから視線を外す。

「では昨日仕入れたばかりのウイスキーなんてどうかな?」

「オススメをお願いした手前ではありますが、私は未成年ですよ? 良い歳した大人……それも子供を持つ親が、未成年飲酒を進めても良いモノか疑問ですね」

 何を言って居るのか。と呆れた様な口調で、田中はマスターの提案を断るが、依然としてマスターはグラスに水晶の様な濁りの一切ない氷を入れ、ウイスキーをトッ、トッ、トッと注ぎ、田中の前に置く。

「君達が国民から嫌われている理由……。その疑問の回答も含めて……。それは多国籍軍に所属しているから……だろ?」

「……」

 マスターの口から出た言葉を聞いた田中は、目の前に置かれたグラスを左手で掴み、口元に運ぶ。

 度数の強いアルコール特有の熱さが口の中を支配し、ワンテンポ遅れてウイスキー特有の香しいスモーキーな風味と甘みが鼻から抜ける。

「この国を守る為には『それしか』方法が無かった……といった所で、この国の人間は誰も分かってはくれません。自衛隊とは待遇が違いすぎますよ……」

 酒がもたらす潤滑油としての効果なのか、ポツリと田中が口を開く。

「……」

 しかし、田中が口を開いたのは、この一言だけで在り、その後は何も言葉を口にしなくなった。

 不意な沈黙がラビットハウスを支配するが、酒もあってか、普段であれば空気を悪くするような沈黙が苦手な田中にとっても、この沈黙は不思議と不快ではなかった。

 一口、また一口と、ゆっくりとしたペースでウイスキーを口に運び、人差し指でグラスの中をかき回し、アルコールを調節する。カラカラと高いグラスの音が、胸の芯を躍らせるかの様な感覚に陥らせる。アルコールが回り、自身の心拍を全身で感じる。

 カラン! カラン! とドアの開く音がすると同時に、マスターが入ってきた人物に声を掛ける。

「遅かったな」

「ちょっとばかし用があってな。……タカヒロ、例のアレを開けてくれ」

ドア近くにあるハンガーに上着を掛けながら、親しい友人に声を掛ける様な口ぶりで注文をする。

「悪いな。お前が望む品は、少し前に開封したよ」

「冗談は止めろよ。俺は、自分の好きなモノに対する冗談を好かない事は、お前が一番よく知っているだろ」

 コツ、コツ、コツ、とレザーソールの革靴特有の音を鳴らしながら、左目の眼帯を掛け、少し残念そうな厳つい顔をした50代ほどの男性が田中の真後ろに立った。

「ほう? タカヒロの話を理解すると、俺の楽しみを奪ったのは、貴様か?」

「……オススメをお願いしたら、良い酒が出てきただけです。これがまさか貴方の楽しみだったとは、思いませんでした。申し訳ありません。お詫び申し上げます」

 少々ドスの聞いた声で、男が田中に問いかけるが、田中は後ろに居る男を見る事無く、予め用意していた様な言葉を口にする。

「これから常連になるであろう客を、余り虐めないで欲しいものだな」

「何言ってんだ。ちょっとしたレクリエーションだろ?」

「とてもじゃないがその様には、見えなかったぞ。そうだな……。俺には、厄介な客が、イチャモンを付けている様にしか見えなかったな。……お客様、他のお客様にご迷惑をおかけする様なら、立ち退きをお願いします。ってな」

口元をニヤリと吊り上げながら、接客業をする人間のお決まりのセリフを男性に投げる。

「冗談キツイぞ、タカヒロ。そう思わないか? 田中准尉?」

「閣下の趣味に関する冗談は、噂通り、どうやら冗談とはとられないようですね。……それと、お初にお目にかかります。閣下。第963大隊所属の田中忠義准尉です」

「あぁ、よろしく頼む」

 閣下と呼ばれた男性は、フンと息を漏らすと田中から一席開けた左の席に腰を下ろす。

「それで? 俺のうわさってどんなんだ? ……タカヒロ、俺にも准尉と同じ奴をくれ。……で? 一体どういった噂が流れてるんだ? 遠慮など無用だ。流れている通りの言葉で言え」

 自身に対しての噂が気になるのか、田中の挨拶を簡単に済ませ、若干そわそわとした様な雰囲気を漂わせながら、噂の実態を田中から聞き出そうとしていた。

「招致致しました……。噂と言いましても、何も悪い事が出回っている訳ではありません」

「ほう」

 悪い噂ではない。の言葉を聞いた瞬間、緊張の糸はほどけたのか、肩に入っていた力が抜けた事を田中は見て取れた。それと同時に、どんな類の噂が流れているのかが気になってやまない様子で在った。

「主に下士官の間で流れている噂ではあるのですが……その……」

「先ほども言ったが、そのまま俺に伝えろ」

「……第一に『娘が大好きな親バカ』で在る。という事であります」

「え? は?!」

「ブフゥッ!?」

「おい! タカヒロ!? 何笑ってるんだ!」

 田中が放った一言で、どんな噂なのかを身構えていた閣下は予想外の類の噂に、一瞬ではあるが、訳が分からないといった様に疑問符を浮かべると同時に、マスターが思いっきり噴き出す。

「詳細は、いつも厳しい教育を娘に施しているが、実際は娘に厳しい指導をした日の夜は、必ず夕食に閣下お手製のデザートを作って機嫌を窺がう。また夜には、娘の部屋の前を何往復もした後に、厳しく指導した事を懺悔する。またその翌日には……」

「もう良い! もう良いから!」

「しかし、閣下に対する噂は、まだまだございます。まだ第一の噂です。他は……例えば……」

「本当に良いから! やめて! お願い、やめて! タカヒロも笑ってないで何か言ってくれ!」

 顔を真っ赤にして田中の言葉を遮り、マスターに助けを求める閣下の姿は、見る人が見れば、その厳つい顔や雰囲気からのギャップでやられ、黄色い声を十二分に受けるであろうが、今現在その場に居るのは、彼の旧知の中であろうマスターのタカヒロと、彼の部下である田中だけで在る為、その様な黄色い声が聞こえてくる状況ではなかった。

「全く、しょうがない奴だな……。田中君一つ言っておこう」

「はい?」

 旧友の仲である閣下を見かねてか、マスターが田中に噂に関しての情報を口にする。

「それは、噂ではなく本当の事だよ。下士官の人達にも噂ではないと訂正しておいた方が良いね」

「タカヒロォ!!」

 

 

 

 

 

 

「で? 今日はそんな与太話をする為に、わざわざ前もって連絡して来たのか?」

「そんな訳ないだろう。今のは、アイスブレイクだ」

「その割には、割と本気で切れてただろう?」

「お、おい。その話は済んだ事だろ!?」

「そう、熱くなるなよ。冗談だ。……田中君、今日の事は酒の席での事、としておいてくれるかな?」

「勿論です」

 先ほどの熱が下がりきらないままではありながら、それでも、その後の会話には、互いが互いを信頼しきっているという事がヒシヒシと伝わってくる。その後の会話だけではない。マスターが閣下をからかっている時も、どこか思いやりを感じるような言い回しや、声色……。その全てが、互いに信頼し合っている事を窺がえる事が出来る。

「……本題に入る」

 そう言いながら、閣下はいつの間にか足元に置いてあったアタッシュケース2つを、カウンターの上に置いた。

「このアタッシュケースを開く前に、貴様にこれを渡す」

 そう言うと閣下は茶封筒を胸内ポケットから取り出すと、それをそのまま田中に渡した。

「閣下、これは一体……?」

「自分で開けて確認してみろ」

 ぶっきら棒に言い放たれ、不思議に思いながらも封筒の封を開け、中身を確認する。

「これは……」

 封筒の中に入っていたのは、数個の階級章であった。この階級章が意味する事は、降格か昇進である。例外として、現在の階級章が必要になった際にも階級章を受け取る事が在るが、今回の場合に関しては、田中自身はその例外に当てはまる事は無い。ましては、不祥事を起こした記憶の無い田中に当てはまる事とするならば……。

「昇進……でしょうか?」

「それ以外ありえないだろ。……現時刻をもって、貴官を少尉に命ずる」

「有り難うございます」

「ったく、堅苦しいのは止めだ! タカヒロ、もう一杯だ。あと裁縫道具も持ってきてくれ」

「今ですか?」

「当たり前だろ。俺は現時刻をもってと言ったはずだが?」

 そう言い終えると、閣下はカウンターの上に置いてあるアタッシュケース2つを田中の前にずらして置いた。

「これは俺からの昇進祝いだ。今日からお前は士官だ。身に付ける物もそれなりにする必要がある。……それに報告によれば、お前が使っている銃はガタが来てるそうじゃないか?」

 閣下の目線が、田中の拵えている銃に向く。田中は今まで使っていた銃を抜くと、カウンターの上にコトッと静かに置く。弾倉を抜き、スライドを引いて薬室に入っている弾丸を抜き取る。その様子を確認すると閣下は銃を手に取り、銃を分解する。

「……」

 一通り内部を確認すると、閣下は銃を組み立て直して、カウンターに銃を置いた。

「お待たせしました」

 銃をカウンターに置くと同時に、マスターがタイミングを計ったかの様に、ウイスキーロックをカウンターに置いた。

「田中君、これを」

「有り難うございます」

 マスターから裁縫道具を受け取った田中は、階級章を交換する為に上着を脱ぎ、作業を始めた。

「タカヒロ、マッチとシガーカッター貸してくれ」

「あぁ、これでいいか? ……いつものは、どうしたんだ?」

「あぁ、あれか? 女房がな……」

 そこまで言うと、マスターは何かを察した様に、やれやれと言った仕草をした後に、自分の作業を再開した。

 田中がせっせと階級章を縫い付けていると、閣下がプカプカと葉巻に火をつけて煙を楽しむ。マスターは自身に酒を注ぎ、それを仰ぎながら田中と閣下の様子を眺める。

 それぞれが自分の為に時間を費やしながら、会話の無い空間を己のしたい事をして満喫する。

「あれ? 親父? なんだ、来てたのか?」

「リゼ?! お前なんでここに?! もうとっくにバイトの時間は終わってるハズじゃ?!」

「あぁ、それは俺が呼び止めていたからだ」

「タカヒロォ!」

 今回は、先程の様な友情の欠片を感じさせない純粋な叫び声がラビットハウスの中を支配した。

「あんまりはしゃぐなよ……。それと親父……母さんとの約束を早々に破ったのか?」

「ち、違うぞリゼ! これは、そう! 田中少尉の為に着火してやったんだ! ほら少尉! 上手く着火したぞ!」

「むぐぅ!」

 閣下の口に咥えられている葉巻に、リゼは視線を落とす。その視線を感じた閣下は加えていた葉巻を、急いで強引に田中の口に咥えさせる。

「あぁ! 少尉! 貴官は裁縫が苦手なんだな? リゼ! 少尉の階級章を縫い直してやってくれ!」

「あっ……!」

 そう言うと閣下は田中の上着を奪い取り、リゼに投げ渡す様な勢いで渡す。

「親父……情けないぞ」

「あぁ! そういえば優秀な教官を欲してたよな? ここに優秀な少尉が居るぞ! どうだ! 成り立てホヤホヤの少尉だぞ! 少尉なら引き受けてくれるそうだ!」

「んん!?」

「ほう。本当か?田中?」

 聞きなれない言葉が田中の耳に入ってくる。『父親』『教官』……。

「ん?!」

(やばい!?)

 冷や汗が滝の様に流れ出す田中を見ながら、リゼが何かを企んだ顔をして田中に近づき、耳打ちする。

『上官の娘だからって理由で、他の人間は私に指導したがらないが、遠慮するなよ。一般的な兵力補充員が受けている様な、甘ったるい訓練は絶対にするな……断ったら分かってるな?』

「親父! 田中が引き受けてくれるそうだ!」

 そう言うとリゼは田中から離れて父親である閣下にそう言う。リゼが閣下にそう言った次の瞬間には、今度は閣下が田中の近くに来て耳打ちをする。

『貴様、リゼに何かあったら貴様を事故死に見せかけて処刑するからな。覚悟しておけよ』

「じゃぁ、リゼ! 俺は先に帰ってるからな! 絶対に後から来るんだぞ!」

 キャラ崩壊も限度があるという言葉が今一番似合うであろう男が、ラビットハウスの玄関から元気よく飛び出していく。……スキップでもしてそうなテンションで……。

「タカヒロさん。一つだけ噂について修正する事が在りました」

「なんだい?」

「『娘に厳しい』では無く『娘に甘々』という様に訂正します」

「……その方が正しいね」

「奥様の尻に敷かれてるも、追加します」

「・・・・・・程々にね」

 

続く




感想を頂けると、大変嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話

 穴の中にいた他の仲間は、皆身体を晒した瞬間に文字通りの肉片になったり、良くて体に数か所穴をあけて倒れ込んでいた。
「なぁ、俺たちは帰れるんだよな! なぁ! なぁ!」
 敵の砲弾の嵐の中、砲弾と共に突撃してくる敵に対して、スコップでおよそ1.5m掘っただけの穴の中から、砲撃と砲撃のほんのわずかな時間の中で、穴から身を乗り出し、ボルトアクションライフルを発砲している戦友に、私は怒りをぶつけた。
「帰れる! と言いたい所だが、敵が多……」
 言い終わる前に、身を乗り出していた戦友の身体が少し後方に傾き足元から崩れる。
「おい! おい! 大丈夫か!? 死……死んだ? あぁ! あぁ!」
 私は半ば発狂した様な声を上げ、パニックに陥った。
 死。私を包み込んでいる環境は痛々しい程の死で在った。
「案ずるな。敵の弾丸がヘルメットの横を掠めていっただけだ。っと言っても、結構頭に響くな」
 そう言うと戦友は左手でグリップとトリガーを握り、右手で銃身を支えた。いわゆる戦友は一般の構え方とは逆の構え。左利きでの構えで、照準を合わせ発砲した。
 左利き。これが戦友の数ある特徴の内の一つ目の特徴である。
「死にたくないなら砲撃の間に敵に向かって攻撃しろ! 敵さんは、味方からの攻撃が激しいのにも拘わらず、突っ走って来やがる!」
「どうして! どうしてそんな事……!」
 私は先ほどの戦友の姿をみて、恐ろしくなり(最初から恐ろしかったが)頭を抱えながら、涙を流し戦友に聞いた。
「昔の中国で、同じような作戦を行った記録が残ってる! 死刑囚を敵大軍の前で自殺させたってやつだ! 実際にそれを見せられた敵は戦意を喪失したらしい!」
「だからって! だからってこんなのは! こんなのは!」
 私は兎に角、現実から逃げたかった。この穴の外にも同じような穴がいくつもあるが、外の爆発音等の為、他の穴との連絡を取る事が出来なかった。
 この穴にも、私と戦友のみ。もし仮に砲弾等で死ななくても、攻撃が止んだ後、敵に捕まって、死ぬよりも恐ろしい拷問が待っていると考えると、今のこの戦いを生き残る必要性が感じられなかった。
「……ッ!」
 いっそ死ぬなら。と、せめて尊厳のある死に方をしたい! そう思って、まだ無事であったサイドアームであるM1911コルト・ガバメントの銃口を顎の下にくっつけて……。
「父さん! いま行きます! 母さん! しーちゃん! ごめんなさい!」
 父親、母親、妹の顔を思い浮かべ引き金を引こうとした瞬間、自分の頭に重い衝撃が加わり銃口が自身の顎から外れた瞬間に弾が発射された。
「うあぁぁぁぁー!?」
 何が起こったか分からず、パニックになり情けない声が出たが、直ぐに衝撃を感じた方向を見ると銃床で私の頭を突いた姿勢の戦友がいた。
「そんな事してる暇が在ったら、仲間の弾薬を集めてくれ! 弾が付きかけてる! 出来ればこの銃のタイプは内臓式マガジンだから、クリップに弾を装填した状態にして渡して欲しい!」
 そう言いながら戦友は、再度敵に向かって発砲して、左手で起用に右側についているボルトを操作していた。
 私は急いで弾薬を漁り(この時の仲間の身体を動かした時の、無力で鈍く重い仲間の身体を動かした経験は一生忘れる事は出来ないでしょう)言われるがままクリップに装填して戦友に渡した。
 渡す度に戦友は礼の言葉を述べ、その弾薬をマガジンと薬室に上から差し込み、ボルトを操作し、クリップが空を舞って行った。

架空書籍『英雄の友達』より引用


暗くムードの良い店内で、田中は先ほど閣下から強引に詰め込まれた葉巻を旨そうに吹かしながら、階級章を軍服に取り付けていた。

「……私に貸せ!」

 そんな様子を横目に、リゼはマスターが差し出したノンアルコールのカクテルを片手にしていたのだが、どうにも田中の縫い方にイラつく事が在ったのか、少しばかり強引に田中の元から軍服を奪い取った。

「あっ! チョット……。 何を?!」

 突然の出来事にビックリする田中をリゼは気にも留めない様子で軍服に縫い付けかけている針を外し、そこまで縫い付けていた糸を切っていく。その様子を見ながら田中は、あぁ……。という声を漏らすが、その様子すらリゼにとっては不快感を感じたらしく、鼻をフンと鳴らした。

「お前の縫い方を見ていてイラついただけだ。 そもそも軍人がまともに階級章すらも縫えないとは何事だ?!」

「いや……、片手でそこまで縫えたのなら、上出来じゃ?」

 田中の言葉に一瞬ハッとした様な顔をした後に、再び階級章に向かい直す。

「だけど、いつ田中君は右腕を負傷したんだい? 戦場では、特に目立った怪我はしていなかったと聞いているけれど」

「……」

 田中とリゼの会話にマスターが入り込むが、彼はグイっとグラスを口に付けると、そこから先は苦虫を嚙み潰した様な表情を浮かべ何とも言えなくなった。

「何か言えない事情でもあるみたいだね……。」

「言えない訳ではありませんが、言いたくないだけです」

「それを称して、言えない事情って事だね」

 田中とマスターのやり取りを横目で気にしながらも、リゼは階級章を丁寧に縫い付けていく。一定のリズムで、一切の無駄のない手つきは、彼女の几帳面な性格を表しているかの如くであった。

 しばらくの間、沈黙がラビットハウスを支配したが、それはラビットハウスの居住区からきたチノによって破られた。

「お取込み中に申し訳ありません。……た、田中さん少しよろしいですか?」

 少しばかり深刻な顔つきをしたチノがオドオドとしながら田中に話しかける。

「……? ……!? 逢引きか……駆け落ち……、……貴女となら何処へでも逃げられますよ」

 チノに呼ばれた田中は、一瞬不思議そうな顔をしたが、直ぐにハッとすると同時に、コチラもまた、深刻な声色で返事をする。すると同時に、パシンッ! と、乾いた音が、田中の二の腕を音源としてラビットハウスに広がった。

「あ、アンタ……、せめて顔面の方がましだろッ! 普通に考えて患部の近くを叩くか!?」

「馬鹿! そういうのは、まだチノには早すぎるだろ! だいたい、中学生には早すぎる! もう酒が回ってるのか?!」

「じょ、冗談じゃないっすか~。いや、割と本気で捉えて欲しい気持ちは無い事は無いですが……」

 左手で右肩付近をさすりながら、田中はチノの後について行き、部屋から出ていく。

「……」

 リゼは田中の後ろ姿をじっと見つめ、田中の背中がドアが閉まった事で見えなくなった所で、少し大きめのため息をついた。

「お疲れのようだね、リゼくん。 アルコールは入っていないよ」

 そういいながら、マスターはリゼに甘いノンアルコールカクテルをそっと出す。

「これは……」

 目の前に出されたドリンクの理由を少し疑問に思ったリゼを他所に、マスターは彼女に背中を向けグラスに酒を入れると、それを少し下品にグイッ! とグラスを傾け酒を飲む。

「君の考えている事に関して、少しだけなら答えられるかもしれない」

 グラスを従業員用のカウンターに置くと同時に、マスターがポツリと呟いた。

「え?」

「最初の時の忠義君と、今の忠義君との性格の違いに追いつかない。ってところかな」

「……それもあります」

 何かを含んだ言い方をするリゼの方を向き直したマスターは、もう一度、従業員用のカウンターの上に置いた飲みかけの酒を、今度はチビリと飲んだ後に口を開く。

「彼は……。いや彼らは、この国の人々に対して愛ゆえの憎しみを持って居ると解釈をすれば良い……いや、彼らは誰も憎んでない。だれも憎まず、憎まれている」

「どう言う事ですか?」

「リゼ君は、彼らがこの町に降り立った時の事を知っているだろう?」

 目を瞑り、ゆっくりと息を吐き出すようにマスターは続ける。

「彼らは初め、誇らしい気分で輸送機から降りてきた事だろう」

「……」

 一体何を言い出すのだろうか? とリゼはマスターの話しに疑問を持ちながらも、目の前にあるノンアルコールカクテルを傾けながら次の言葉を静かに待った。

「当時の……、いや現在もそうではあるが、この国に居る限りは国外にいる敵に対して攻撃する事が出来ない。だから彼ら彼女らは自国を捨て、多少の違いはあれど、同じような境遇にある人達が寄り添って作り上げた国に自身を捧げ、激戦を潜り抜けてきた」

 そこまで話すと再度、酒の入っているグラスを傾けチビリと液体を飲み込む。

「それがどうした? とでも言いたそうな顔をしているね……。大丈夫だ。話の本命は此処からだよ。……実際問題として、忠義君達、多国籍軍の活躍が今回の終戦……、そうだね、マスコミのいう所の終戦については最も貢献している。しかしながら、多国籍軍の損害は今回の戦争に参加した国の中でも一番多くの戦死者と戦争後遺症者を出している。そんな彼らが自分の生まれた地に戻って来た時に抱く気持ちは想像できるかい?」

「それは……、えぇっと……歓迎される……ですか?」

 急に話を振られたリゼは一瞬だけ焦り、戸惑ったが、直ぐに口を開きマスターを関心させた。

「そうだね。ふつうはどんな事が在ったにせよ、戦争を終わらせて自国を戦争の火から守った英雄だからね。事実、様々な国の軍隊からは多国籍軍は英雄的な扱いを受けていたそうだ。その証拠に、多国籍軍の多くの兵士は様々な国から何らかの勲章を授与されたみたいだしね。」

「だけれども……、だけれども国に帰ってきた時の国民の気持ちは違った……」

 消え入りそうな声ではあったが、どこか力強い事を出しながらリゼが俯きながら言葉を絞り出した。

 彼女の頭を占めていたのは、今日の昼間、忠義に対して差別発言をした女性。多国籍軍がこの国の土を踏んだ時には、目を瞑りたくなる様な罵詈雑言が多国籍軍に投げかけられた。

 彼女の考えている事を察したのか、マスターは一回だけ頷いて話を続けた。

「多国籍軍の兵士がそれぞれの配属先に移動できる様になるまでに3か月以上も掛った。その間に、沢山の兵士が兵舎に押し掛けるデモ隊からのヘイトスピーチによって、心を病み、自殺してしまったとの話を聞く」

「都市伝説の範囲で……。その類のうわさ話を聞いた事が在ります。勿論、デモ活動が頻繁に行われていて、その度に兵舎が移動していた事も知って居ました。初めは、敵襲に対する警戒かと思って居ましたが、3回程の移動が在ってから、そんな噂を聞くようになったので……」

「噂は、やはり噂だね。」

「? しかし、実際はそうだったという事で……」

「我々は、いつからか噂の持つ力を忘れていたという事さ。これは一つの真理だよ」

「すみません。……仰っている事の意味が分からないのですが……」

 そこまでリゼが話した所で生活部と仕事場を繋ぐドアが開き、話が途切れる。

「……どうしたんですか? 空気思いですけど?」

「あぁ、気にしなくても大丈夫だ……。それとリゼ君。本性を晒せる場所というモノは、ある意味、安心できる場所という事だよ。それも、随分忘れられている」

「……サン=テグジュペリの引用ですか? しかし、その話の内容は……」

「忠義君。その先は彼女に考えさせてあげて欲しい」

忠義の言葉に不思議そうな顔をするリゼに彼は説明をする。

「星の王子さまと言う本を知りません? 聖書の次に読まれていると言われている本なのですが……っと、それどころじゃありません。リゼさん送っていきます。」

「え?」

「先ほど閣下から『娘を連れて帰ってくれ』との電話がありました。マスター申し訳ないのですが、会計は帰ってきてからでよろしいでしょうか?」

「最初にも言ったが、2人の分は私からのおごりだよ。気にしなくても大丈夫だ。それと忠義君、そんな装備じゃ丸腰も同然じゃないか。何か他の装備も在るなら取ってきた方が良いよ。なんせリゼ君は要人の娘なのだからね」

「しかし、まだナイフ一つ何も持って来ていないのです」

 肩をすくめて、やれやれと言った仕草をする忠義にマスターがカギを投げる。

「君の部屋は階段を上って右側の右奥だよ。衣服も装備も大方そろっている筈だ」

「承知致しました。有り難うございます」

そう言うとすぐに忠義は再度ドアを潜り、階段を上がっていった。

「マスター……。さっきの言葉の意味は……」

「それは、リゼ君が一人で考えてごらん。答えを知っているで在ろう忠義君にも聞かずに。そうしたら、また一つ大人になれるよ」

ドアが閉まり、忠義が確実に階段を上がっていった事を確認した後に、リゼは先ほどのマスターの言葉の意味を確かめる為に言葉を発したが、期待していた回答が返って事かった事に少し落胆していた。

それから少しの時間が経ち、忠義の足音が再び下に降りてきた。

「な、ななな何を考えて居るんですか!!」

「田中君ダメー!」

「痛った! これは痛った! ってか、あんた最初はそんな暴力的な性格じゃなかっただろ! さては猫を被ってたな!」

すぐ隣からチノココア、忠義の順で声が聞こえた事で、クスッとマスターが笑い、それにつられてリゼも笑う。

「あぁ、チノにとっても心地の良い場所になったのか……。それにココア君も」

 マスター……タカヒロの顔つきが・声が父親になったのをリゼは見逃さなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話

「リゼさんの方は準備はできましたか?」

 そう言いながら、田中は生活区とバーを繋ぐ扉を開けながら言葉を発する。

「私の方は大丈夫だが......、さっきのココアの声は一体何なんだ?」

 コートを着ながらリゼは田中に声をかける。その声には、若干の呆れが混じっている様に感じる。

 事実、リゼは先ほどの下ネタを含んだ会話を交わした事から、田中が何かココアに対してセクハラを働いたのでないのか? と考えていた。

「......いや? 別に? 何も」

「言葉が詰まってるぞ? 変態」

 冷ややかな言葉と目線でリゼは田中に言う。しかし当の田中は、そんなリゼを見ると口角を斜め上に上げた。

「いいですかリゼさん。今の状態は、我々の世界ではご褒美ってやつですよ」

「ヒッ!」

 田中の言葉に、一瞬ではあるがリゼの背筋が下から電気が流れたかの様な寒気が走る。

「とまぁ、冗談はここら辺にして、いい加減帰らないと、あなたの所の怖ーい閣下に私が叱られてしまいますからね」

 そう言いながらクツクツと笑う田中に釣られてか、バーカウンターにいたマスターも同じようにクツクツと笑い出した。

「そうだね、忠義君。早くリゼ君を家に送り届けないと、シバキ上げられちゃうかもね」

 マスターがそう言うと、田中は左肩に背負っていたボルトアクションの銃の位置をジャンプする様に調整し、外につながるドアを開けた。

「じゃあ行ってきます。頂いた飲み物のお代は、帰ってきたら払います」

「いや、最初にも言ったれども、これは私からの奢りだよ」

 そう言うと田中は軽く頭をさげリゼにアイコンタクトを送り、外に向けて足を進める。

「忠義君、これをもって行きなさい」

 そう言うとマスターが田中に何かを放り投げた。

「おぉっと! ......携帯電話ですか。ありがとうございます」

「私の使っている携帯だから、私宛に誰かから電話がかかってくるかも知れないけど、とりあえずは持っておいてほしい」

「? わかりました。ありがとうございます」

 そう言うと田中は、開けていた扉から外に出た。

 田中から外に出て、続いてリゼが外に出る。

 リゼが外に出たのを確認して、歩き出す。それにならってリゼも歩き出した。

 田中とリゼが歩き出して暫くの時間が流れる。その間の会話は無言であったが、田中は特に無言の空気は気にしない様であったが、反対にリゼは気にしているのか、何か話題を探そうと必死に頭を回転させていた。

「こっちだ......。こっちからの方が近い」

 そう言いリゼが指さしたのは、公園の入り口であった。

「そうなんですね。わかりました。そっちから行きましょう」

 田中はそういうと、リゼが指を刺した方向に歩を進める。

 リゼは、田中が公園の中に入っていくのを確認すると同時に(やってしまった)という思いが出てきた。

 実際問題、リゼが指さした公園からの帰路は近道でも何でもない。近道どころか、距離的には若干遠くなる。しかし、リゼは考え無しとも取れる様にこの道を提案した。

 気になる田中の戦歴。リゼ自身、噂程度では田中達の様な兵士達の話は訓練時などで様々な所で聞いていた。しかし、目の前にはその話の元になっている人物がいる。

「なぁ、田中」

 遂に無言の空気に耐え切れなくなったのか、リゼは田中に対して重そうな口を開いた。

「お前は、なんで軍隊に入る流れになったんだ? 私たちの様な学生は徴兵されるわけないだろうに」

 リゼの素朴なぎもんでもあった事を聞く。

 リゼも田中も今は高校生であり、本人の希望があれば、予備隊にも職業軍人として働く事ができるが、戦争が始まったのは凡そ4年前。リゼも田中も中学生の時に戦争が始勃発した。

 先進国であれば、中学生で戦争に行く国はないだろう......と考えての発言だった。

「あれですよ。戦争が始まってから、半年ぐらい経った時に、全国で一斉のテスト受けたの覚えていますか?」

 田中の言葉に、少し古い記憶を思い出す為に腕を組み、唸りながらリゼは考える。

「それって確か......10月位に全国で一斉に行われたテストか?」

 思い出したかのように、懐かしい感覚と共にリゼの頭の中から出てきた記憶を口にだす。

「多分それですね」

「そのテストが一体何なんだ? 確かに、あのテストの前後は教員たちがピリピリとした雰囲気を出していた気がするが......」

 さらに詳しく出てくるリゼの記憶を聞く田中の顔は、先ほどラビットハウスにいた時と違い、表情自体はラビットハウスにいた時みたいに、道化の様な少しふざけた表情を貼り付けていたが、雰囲気は微かではあるが真面目な、若干ピりついた空気を身にまとっていた。

「私たちは、そのテストに引っかかったんですよ」

 そういう田中の声色は、重いとは感じないようではあったが何故だか聞く人の背筋を伸ばすくらいの重さがあった。

「それって......」

 りぜが何かに気が付きそうではあるが、もう一つ何かが足りないよな理解の声を漏らす。

「あのテストは......なんて言えば良いですかね? うーん......今後の国の未来を動かす人間と、将来なんの役にも立たない人間を選別する為のテスト? みたいなヤツと前線では言われていました」

 田中は、斜め上を見上げながら若干自虐気味な言葉を吐く。

「そんな言い方......」

「ですが実際に優秀な人材は、国内に残りました......。見てくださいリゼさん。星が綺麗ですね」

 リゼが田中に次の言葉を掛けようといした瞬間に、彼は空を見上げながら呟く。

 夜空には満天の星空が広がっており、空一面が星の絨毯の様にも感じられた。

「常に身の回りにあるものでも、毎日見ているつもりでも、案外見てないんですよね」

 田中が呟く。リゼもその言葉に賛同し、無言で一回頷いた。

「だからって言うのは可笑しな話ですし、若干話の流れを止めちゃいましたけど、私個人の意見としては、貴女が軍人になる事には反対です」

 何を言う! という言葉はリゼの口からは出てこななかった。なぜならば、田中が矢継ぎ早に次の言葉を話していたからである。

「貴女はこの国の未来を託された人達のうちの一人なんですよ。こんなこと言っても貴女にはまだ理解できないと思います。しかし......」

『しかし』の後の言葉は続かなかった。

 その原因は、リゼが田中を力強く押し倒したからである。

「どうしたんですか? 人気もない所で、そういう気分になっちゃいました?」

 右肩に走る鈍いような、しかし鋭いような痛みに耐えながら、田中はいたって普段と同じように口を開く。

 そんな冗談を言っている場合ではない......とはリゼの口から出ることはなかった。

 何故ならば、リゼの左後ろから甲高い小さな爆発音が2発、3発と聞こえてきたからである。

 甲高い小さな爆発音の後に、少し遅れて何かがドサッと落ちる音がした。

「いつからだ? ったく後方は安全は幻想か何かなのか?」

 リゼは顔を上げ漏れる様に呟く田中を見ると、左手にまだうっすらと白煙が上がっているであろう拳銃を握っていた。

 その姿を確認すると、リゼは急いで体を右に捻り、ドサッと何かが落ちたであろう方向を確認する。

「これは一体......!?」

 リゼの視線の先には、黒い戦闘服に身を包み、その体の直ぐ傍には、最新型とは言えないが高性能なアサルトライフルが転がっている。

「さぁ、早く立ってください」

 そういうと田中は自身の体半分を覆っていたリゼの体を、ポンポンと2回ほど優しく撫でる様に叩き、立つ事を促す。

 田中は立つと同時に、後ろに倒れている兵士に向かって再度発砲し、兵士が上げる呻き声が聞こえなくなる事を確認した後に、左肩にかけていた銃の位置を治す。

「お、おい」

 倒れている兵士に発砲したことにリゼは驚きの余り声を出すが、田中はその行為事態を気に止めていない。

「走れますか?」

 リゼが答える前に田中は倒れた衝撃で地面に投げ出されたボルト式の銃を拾い、そのまま彼女の腕をつかみ走り出す。

 彼らが走り出した事が合図だったのか、四方八方から破裂音が響く。

 何か隠れる場所はないか? 敵はどこに居て何人いるのか? を田中は周囲を見回す。

 しかし周りを見渡した所で周囲には月明りと街灯が照らす明かりしかなく、周りの状況は今さっきまで田中達が雑談を行っていた景色と一行に変わらなかった。

「りぜさん立って走ってください!」

 田中の言葉と同時に立ち上がり、勢いよくリゼは走り出す。

 田中達が走り出した瞬間、四方向から一斉にカツカツとコツコツの音が混じった様な音......サイレンサーを装着した銃の銃声が聞こえる。

 田中は走りながらも、銃声が聞こえてきた方向に対して2、3発ほど撃ち返すが銃撃が弱まる事がなく、見当違いの箇所に撃ってしまったのではないかという気持ちが彼の中に生まれた。

 どこに敵がいるかわからないが、とにかく走って逃げ続けるが一行に銃声が鳴りやむ事はない。

「りぜさん! 近くに兵士が駐屯している場所はありますか?!」

 田中の叫び声にも聞こえる声に、リゼは必死になって近くの情報を思い出す。

「近くに兵士が駐屯している箇所はない! ......が着いてこい! 籠城するに打ってつけの場所ならある!」

 そういうとリゼは田中の少し前に出た後、左に向かって走る。

「この公園の中央広場に噴水がある! その中なら少し離れているが、この銃弾を凌ぐ事ができるはずだ!」

 リゼは父親が『もしもの時にはこの場所を利用しろ』と言っていたいくつかの場所の内の一つを思い出し、その場所であれば現状を直接打破する事はできないにしろ、その後の行動を起こす為の行為を行う事ができると考えた。

「それはありがたい!」

 そう言いながら田中は上半身を捻り後方に1発と左右に2発ずつ、最後に正面に2発の計5発の銃弾を放ち、いまだ見えない敵に応戦する。

銃から排出された薬莢が街灯に照らされて、黒くくすんだ色を映し出しながら地面に吸い込まれる。

走りながらではあるが、地面へと落ちた薬莢が不自然に転がる音を放った事を田中は聞き取る。

敵が後方から追いかけている......。

田中は銃声が四方向から聞こえてくる中ではあったが、不自然なその音を聞き取ると同時にその方向に銃口を向けて引き金を3回ほど引く。

銃口から放たれた弾丸は大き目のマズルフラッシュに後押しされる様に銃口初速650m/sを持ち照準先に飛翔する。

大きい何かが転がる音が聞こえるが、田中はそこに気を取られることなく、さらに後方の別方向に引き金を引き続ける。

 走りながらであり、見えない敵に対して引き金を引いている為、弾が自身達を狙っている敵に命中する可能性は限りなく低い。

 しかし、それでも田中は銃の引き金を引き続けることを止めずに引き金を引き続ける。何度も何度の引き金を引き続けていると、田中が握っていた銃のスライドが後退したままで再度全身をしない状態で固まる。

 瞬間的に田中は自身の背筋に得体のしれない悪寒を一瞬ではあるが感じた。左手に握られた銃の銃口を空に向ける様にして銃の状態を素早く確認する。薬莢にスライドに排出された薬莢が引っかかっていない事を確認すると、引き金にかけていた人差し指で器用にマガジンリリースボタンを押し込みマガジンを自重で落下させる。

それと同時に、アドレナリンが出てるとはいえ痛む右肩の訴えを意識しないように、背中側に収納しているマガジンを引き抜き銃に挿入する。マガジンの挿入と同時にスライドリリースボタンを操作し、弾薬を役室に送り込む。

それまで特に後方ばかりに注意していた田中だが、不意に前方に注意が逸れると同時に前方に向けても弾丸を放った。

 チラッと見えた黒い影が前方でヨロりと姿勢を崩すが、すぐに立ち直る度同時に、カツカツカツと独特な発射音を立てて弾丸を放つ。

「クソ! やはりこのままじゃこちらが押し負けちまう!」

 ......

 ......

 ......。

 




「お嬢様、お怪我はありませんか!?」
 そう言いながら援軍として駆け付けた白布ベースに赤い十字架があしらわれた腕章を腕に巻いたが兵士が毛布を片手に抱えながら近寄る。
「あ、あぁ。私は大丈夫だが......」
 そう答える私の目線は先ほどまで火力不足でありながら敵と超接近戦を繰り広げていた少年が、血まみれになりながら石造りの壁にもたれかかっていた。
「衛生兵が言うには、一見血まみれに見えますが、それは敵の返り血を浴びているだけであり、大きな傷といえるのは顔の右側に打撲があるだけです。ぐったりとしている理由としては、右肩の痛みをとる際に使用した鎮静剤の影響である為、問題はないとのことです」
 そう言いながら兵士は私の体に毛布を掛けると同時にポケットから細長く包装されているものを私に手渡すと同時に、座って安静にするように言葉を掛けた。
 私はその言葉に従いながら手渡されたものを確認し、それが甘いチョコレートバーであることを確認すると同時に袋を開け、噛り付いた。
 チョコレートバーを半分近く食べた時にふと壁にもたれかかった田中に近づく兵士の影を見つけた。遠くからであるため、兵士の詳細は分からなかったが、その兵士のの雰囲気からするに田中と近しい年齢であり、つまりは私と近しい年齢である事が分かった。
 その兵士は二言三言田中と会話をすると、ポケットから煙草を取り出して火をつけ田中の口にくわえる。田中は顔を上げることなく煙草をくわえると煙草の煙を吸い吐き出した。
 煙草を咥えさせた兵士は、田中が煙草を吸うのを確認すると自身も煙草を咥え火をつけて、どさりと腰を地面に据えた。 


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。