機動戦士ガンダム0087~ウロボロスの軌跡~ (金国佐門)
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プロローグ
1~FLY IN THE SKY~


――UC0085 9/15 現地時間06時25分。

 

――アフリカ地区上空。

 

 地上から僅か300mを翔る三機の機体があった。それは、旧リベリア地区ニューモンロビア近郊にある連邦軍駐屯基地へと向かっていた。

 

 一機は円形状の戦闘機らしき機体。黒く塗装されたその特徴的なフォルムのボディは、日の出よりも僅かに早い朝焼けの青の中、闇に紛れるように鈍く輝き、空を滑るように飛行する。

 

 まるでUFOのような見た目だが、下部から長く伸びたガトリング砲の形だけが地球上の軍事兵器である事を主張していた。

 

 残る二機は輸送機だ。各自見分けが付くようにか、赤と黄色にそれぞれ塗装されている。その不可思議な形状でもっとも目を引くのは機体下部、抱えるように設置された巨大な四角い輸送用コンテナだろう。

 

 CB-X5ガンぺリー。コンテナの左右と前方から伸びるように生えた計三基の回転翼により揚力を得て浮上する。そして、機体上部中央に左右二基づつ取り付けられたジェットエンジンの推進力で移動する垂直離着陸(ヴィトール)機だ。

 

 三機の見据える先、地上に無数の光が飛び交っていた。まだ遠く、そこで動く何かは豆粒ほどにも見えない。だがそんな遠方で、確かに何かが光り輝いていた。そして、あがる黒煙。断続的に爆ぜては消える爆煙。それはまさに――。

 

「……小さな光が付いたり消えたりしてる……彗星かなぁ」

 

 赤いガンペリーのコクピット内、小さな声で男が呟く。若者の声だ。

 

「違うなぁ……彗星ならもっと、バーって動くもんな……」

 

 パイロットスーツのヘルメット。放射線対策か、それとも紫外線か、強い光に対するものかもしれない、青く色を塗られたバイザーに隔てられ顔はよく見えない。だがその内側からかろうじて見える表情は……だらしなく緩み、焦点の定まらない虚ろな瞳で虚空を眺めながら、わずかに開かれた口元からは、惨めにも泡と涎が垂れ流されていた。

 

「……うん、違うよ~アランく~ん。今見えてるそれが、“戦場”だよ~」

 

 隣に随伴する黄色いガンペリー。その積荷内から通信機を通して声がした。

 それは幼い少女を思わせる声。物静かでどこか儚げな、小声でポソポソと喋る特徴的な声だ。

 

 ガンペリーが抱える改良コンテナの中。仰向けに寝そべるような形で運ばれる超重武装の人型戦闘兵器。モビルスーツ。そのコクピット内。

 まるで小学生と見紛うほどの小柄で華奢なシルエットがあった。パイロットスーツ姿の少女だ。

 ヘルメットのバイザーに隠され顔はやはりよく見えない。少女は冷静にコクピット内の最終チェックを行っていた。

 

「あ……」

 

 その黄色いガンペリーのパイロットが小さく声を漏らす。

 

 徐々に近づきつつある戦場。やっと豆粒サイズでかろうじて人型に見える何か。恐らく連邦側であろう白いその機体が一機、轟音と共に爆ぜて散った。

 あがる黒煙の中、素早くスライドして動く黒い重厚なシルエット。ジオン残党のモビルスーツ、MS09ドムである。

 連邦のジムⅡが一機、ドムの主武装であるジャイアントバズの餌食になったのだ。

 

「動きが悪かったな。新米か?」

 

 ガンペリーに随伴していた円形戦闘機、そのコクピットから通信機を通し、ワイルドな渋みを帯びた中年男性の声がした。

 一方、黄色いガンペリーから届けられる音は、まだあどけない、少女と呼べるほどに若く幼い声だ。

 

「えぇっと……あのジム、ですか? なんか、爆発……した、みたいなん……ですけど?」

 

 そのコクピットにあったのは、小柄で華奢なスタイルの良い丸みを帯びたシルエット。

 怯えて泣きそうなほどに震える少女から発せられた声は、アイドルや歌手、旧世紀におけるアニメ全盛の極東アジアの島国であれば、声優(ボイスアクター)にでもなれそうなくらいに透き通った美しい声だった。

 

「救難シグナル出てる~?」

 

 それに応えるように、戦場にはまるでそぐわない陽気な少女の声が響き渡る。

 アランの操縦する赤いガンペリー、そのコンテナ内にある格納された二機のモビルスーツの内一機。コクピット内からだ。

 

「ない……みたいです」

「脱出の信号は~?」

「ありません……」

「あっちゃ~」

 

 自身のヘルメットを片手でペチンと叩きつつ、軽く舌を出しながら少女は笑う。

 

「そっか~、脱出できなかったか~。残念無念~」

 

 不自然なほどに、まるで悲壮感を感じさせないその声に、恐る恐るだがガンペリーの少女が問う。

 

「えっと、それってやっぱり……」

「うん? 死んじゃったんじゃない?」

 

 あっけらかんと少女はそれを口にした。

 

「ひぎぃぃぃ!」

 

 目の前に突きつけられた死と言う現実に、ガンペリーのコクピット内で悲鳴を上げる少女。

 

「落ち着きなってエリっち。当たらなければ死にはしないから~」

「だ、だって、あた、当たったら……どうなるんでしょぅ……」

「……それはね、お空のお星様になるんだよ」

 

 エリっちと呼ばれている少女の操縦する黄色いガンペリー。内部に格納された重モビルスーツ。そのコクピットから無慈悲にクールに、小柄な少女が小声で答えるのだった。

 

「いやぁぁぁ、お家帰してぇぇぇ」

「やれやれ、現地調達の新米とはいえ、軍とは思えんね」

 

 この部隊のリーダーであろう、円形戦闘機内で中年男性がぼやいた。

 

 そうこうしている内にも戦場は近づいていき――。

 

 白と黒の機体によるバズーカ砲の応酬。緑の機体が投げる小型爆弾が爆ぜ、白い機体は懸命に光線を撃って応戦する。

 先ほどまでは豆粒程度にすら見えなかったその姿が、形が、徐々に鮮明になってくる。今では親指の第一関節ほどのサイズにまで見える距離だ。

 そして、一機の白い機体が放った光の線が緑の機体胴部を貫き――次の瞬間、緑の機体が爆散して果てた。

 

「うひ、うへへっ……僕はねぇ~……」

 

 その光景を見て、死への恐怖によるものか両目から大量の涙を流し首を斜めに傾けた姿勢で脱力しながら、アランは引きつるような笑みを浮かべて現実から意識を乖離させる。

 

「おーいアランっち~。そろそろ目ぇ覚ませ~」

「……気絶し(ね)たら死ぬぞ~」

 

 少女達からの激励が飛んだ次の瞬間。飛翔する二機のガンペリーのちょうど間、虚空を切り裂く様に地上から120mm弾の群れが貫いた。

 

「ひぃぃ! こっち撃ってきましたよぉぉ」

 

 モビルスーツのスラスター出力による限界降下高度のせいとはいえ、やむなく慣行された低空飛行。当然、敵からも視認されやすく、見つかれば脅威として迎撃行動に出られる。当然の結果と言えた。

 

「大丈夫大丈夫~」

「……あの距離なら、そうそう当たるもんじゃない」

「も、もし当たったら?」

「当たり所しだいかなぁ~」

「こ、コクピットとか、当たっちゃったりしたら……?」

「その時はむしろラッキーだね~」

「……痛みとか感じる前に死ねるらしいよ」

 

 相変わらず冷淡なパイロット二人だった。

 

「いいいいやぁぁぁぁぁ」

「……エリっち、もし死んじゃっても、エリックやリチャードみたく、基地の裏庭に埋めてあげるからね」

「うん、エリち~は良い子だったからね。特別にダッツの棒を刺してあげる。二階級特進だよ~」

「……わぉ、ゴージャ~ス」

「あれ? でもダッツにアイスの棒ってあったっけ?」

「……スプーンがある」

「それだ~!」

「ざ、ザリガニ扱いは御免ですぅぅ~!」

 

 片やダウナー気味に。片や陽気でお気楽元気に。二人のモビルスーツパイロットがはしゃいでいた。

 

「嫌ならがんばれ~」

「……生~きろ~」

 

 それは、生死をかけた戦場とは不釣合いな、そして――。

 

――そんな戦場に駆り出された幼い少女とは思えない程に、どこか底冷えするような、不自然で異質な冷淡さだった。

 

「いやぁぁぁ、おかあさぁぁぁん!」

「ここから出してくださいよ~……出られないかなぁ……」

「うっかり気絶してつっこまないでね~」

「……ところでさ、一年戦争時にドムのスレッジハンマーでコクピットごと叩き割られて死んだ輸送機パイロットがいたらしいよ」

「ひ、ひぇぇぇ……と、ところで、スレッジハンマーってどんな武器なんです?」

「……素手」

「マニピュレーター!? 輸送機脆すぎぃぃ!」

「……まぁ、がんばって生きろって事」

「うぇへへへぇぁ~……もう死んでますけどねぇ~……」

「あ~、二人とも戸籍上はそうらしいね~」

「……ま、がんばれ」

 

 ちなみに、なぜ戦場に出たことも無いこんな新兵二人がガンペリーなどという撃墜されやすい機体で出撃させられているのか、そもそもなんでこんな部隊に所属させられているのか。それにはきちんと訳がある。

 

 ……のだが、今はまだ語るまい。

 

「目標戦域到着だ。お前ら、荷物降ろしてさっさと帰れ。投下開始!」

「……アランち~にエリっち、押すボタンわかるかい?」

「あわわ、えっとぉ」

「うへへへ!! ポチっとな!! しぇしぇしぇしぇ~!!」

 

 まずはアランの機体。半ばヤケクソ気味に押されたスイッチに反応し、赤いガンペリーの下部コンテナユニットが左右に開かれる。

 二機のモビルスーツが投下された。

 

「ひゃっほー」

「……ユマ・シラサワ。出ます」

 

 アラン機に格納された二機めから、初めて声が響く。大人びたクールで知的な、静かな女性の力強い声だ。

 相変わらずパイロットスーツのバイザーにより隠れて見えないが、コクピット内にあったのはスタイルの良い、大人としては比較的やや小柄なシルエットだった。

 コクピット内のレバーを力強く握りしめ、女性パイロットはペダルを大きく踏みしめる。

 バイザー内からかすかに覗くその口元に不敵な笑みが浮かぶ。

 それに反応するかのように、重武装なモビルスーツが中空で体を反転させ、激しくバーニアの噴射炎を吹かせながら一直線に戦場へと向かう。

 

「ひぃやっはぁぁぁぁ!! ユ・ニ・ヴァー・ス!!」

 

 直前とは打って変わったような奇声を発しながら、ユマ・シラサワ機はあっという間に飛び去って行った。

 

「相変わらずだね~」

「……棒を握ると性格変わる」

「いやん、エロエロしぃ~」

 

 続いて、スラスターから勢い良く青い噴射炎を吐き出しつつ、軽装のモビルスーツが宙を舞う。

 

「あ、忘れてた~、てへペロ。メアリー・スー。行っきま~す」

 

 メアリー機の機影も、あっという間に小さくなっていく。

 

「……あの~ジニー・メイ。早く出たいんだけど。まだ~?」

 

 未だに開かない格納ユニットにやきもきしながら超重武装モビルスーツパイロットの少女が不満の声をあげる。

 

「あわ、あわわ。こ、これですかぁ?」

 

 やっとスイッチを見つけたのか、赤いガンペリーも格納ユニットを開いて投下体勢に入る。

 

「……んだば、行って来るね~」

 

 スラスターの出力不足を警戒して付けられたパラシュートを開きながら、超重武装のモビルスーツが落下する。

 

「ご苦労、輸送隊緊急離脱。戦闘区域から全力で離脱しろ~」

「は、ひゃい!」

「……体が重い……こんな気持ちで飛ぶなんて初めてぇ……もう何もかもが怖ぁい! おがぁぢゃぁぁぁん!!」

 

 一人は恐怖に怯えながら、一人は発狂しかけながら、二人の操縦する二機のガンペリーは緩やかにUターンして戦域を離脱して行った。

そして投下されたモビルスーツ達の内二機。近距離と中間距離で戦闘を行う予定のメアリー機とユマ機をフォローすべく、円形の航空機はブースターを吹かせながら前線へと向かう。

 

「しかし、初陣かぁ」

 

 射程圏外から放たれる牽制の弾丸を踊るように回避しつつ、リーダーらしき中年の男がしみじみと口にした。

 

「……うん、ういういしいね」

「ありゃ、漏らしたな。賭けても良い」

「賭けにならないって~」

「……まぁ、初陣は誰だって漏らすよね」

「うんうん、初めてなら仕方ないよ~」

「願わくば、漏らしてでも生還して欲しいもんだ」

 

 遠く離れていくガンペリー二機を眺めつつ、前線部隊の三機は各自得意な戦闘フィールドへ向けて散開した。

 



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2~イグナイテッド~

 

 

 一機の機体が明けの空を駆け抜けていく。

 

 それは落下速度を落とすどころか、逆に利用して加速させるが如く、バーニアを吹かせながら流星と化して目標地点へと向かっていた。

 

 白基調に爽やかな蒼のラインで塗装されたモビルスーツ。

 

 後背部に一対のテールスタビライザーを増設させ、大型バックパックによる機動力強化を施されたジムⅡ。

 

 ジムⅡと断定したのは、胴体部がかろうじて同型機の物を流用しているからであり、他のパーツはそれこそ、様々な連邦軍機体部品の寄せ集め。まず、その頭部は明らかにジムスナイパーⅡのデザインだし、腕部はジムスナイパー系のボックス型サーベルユニットを搭載しているように見える。増設された二段階のフレアスカートアーマーに至っては完全にオリジナルだ。脚部は下に向かって広がった形状をしており、その構造だけでホバー走行仕様であろう事が予測できる。異様なフォルムだ。だがそれはもはや、完全な現地回収型の魔改造モンスターマシンである事を現しており、その性能はエース専用カスタムのオリジナルモビルスーツと言っても過言ではないレベルの名機であった。

 

 高機動強襲型ジムⅡアサルトバレット。

 

 それが、先ほどガンペリーから出撃したユマ・シラサワと名乗る女性が自ら駆る機体に名づけた名前であった。

 

 アサルトの名の通り強襲運用を目的とし、バレットの名の通り無数の弾丸をばらまくスタイルの傑作機。

 

 だが、当然こんな珍妙なガチャついた機体、正規の機体であるはずもなく。

 

 この部隊専用、というよりも、ユマ・シラサワ自身の手により、彼女専用に魔改造カスタマイズされた機体である事は疑いようも無かった。

 

 

「ひゃっはぁぁぁl! れっつぱーりぃぃ!!」

 

 

 機体コクピット内部に納まるのは、美しい曲線美をもってやや小柄で華奢なシルエット。

 

 スーツでボディラインを強調されたその体は、紛れも無く女性の物であった。

 

 発せられるその声も、その発言に似合わず、可愛らしい女性の声。

 

 パイロットスーツのヘルメットバイザーのせいで顔はよく見えないが、その外観、声質からは、美しい女性であろう事が想像される。

 

 だが、その運転はとても荒っぽく、正直お上品とは言い難い。

 

 

 しかしそれで正解なのだ。

 

 ここは社交場ではない。

 

 ましてや裏町のいかがわしい店やタピオカやスイーツで人気の名店などでもない――そう、戦場なのだから。

 

 彼女が駆る機体は、スラスターやバーニアを駆使し、急加速や急停止を繰り返しつつ、時には宙返り、バレルロール、側転などを織り交ぜたアクロバティックな動きで、踊るように宙を舞い、敵弾の集中砲火の雨をかいくぐりながら落下していく。

 

 最も、踊るように、と言えば聞こえはいいが、敵対射角から予想される被弾面積を最小限にしつつランダム機動により対象からの被弾を減らすその動きは、華麗に空を舞う……というより変態機動で荒ぶる奇妙な動きをしながら落下していく謎の機体にも見えなくは無いのだが……。

 

 いずれにせよ、ユマ・シラサワいわく。

 

「いかに無様に見えようと、当たらなきゃどうでもいいんです」だそうで。

 

 その証拠に、地上からそれを迎え撃つジオン軍残党の放つ豆鉄砲はまるで当たる様子を見せない。かすり傷一つ付けられないでいるのだ。

 

 

 そのデザインから、下半身が若干ずんぐりむっくりして鈍重そうなイメージをもたらす外見ではあるが、増設された無数のスラスターやバーニアにより超高機動と相当な運動性能の高さを実現しているようだ。

 

 

 そんな彼女の機体を迎え撃つのは、地上に立つ二機の緑色の機体。

 

 特徴的なフォルムの単眼モビルスーツ。

 

 ジオンと言えばアレ、とも言える名傑作機。

 

 一年戦争期では多くの連邦軍の戦闘機や戦艦を鉄塊に変えてくれた憎き敵。

 

 そう、形式番号MS-06。ザクである。

 

 

 地上から健気にも射程外への牽制射撃を行っているようだが、そんなものは当たるはずもない。

 いかに名機の傑作武器、ザクマシンガンと言えど、当たらなければ何とやら。

 

 哀れにも空しく、彼らの放つ火線は夜空を彩るだけのただの飾りと化していた。

 

 

 その中を、名前に負けぬ、まさに弾丸の如く突っ切って進む――アサルトバレット。

 

 

「うおおおおおおりゃあああああ!!」

 

 

 出撃前に一瞬だけ名乗りで呟いた一言。あの知的な女性の声と同じとはまるで思えないような、はしたない唸り声を上げると、彼女は操縦席に付けられた操縦桿(レバーハンドル)を強く握る。そしていつもそうするように、至って冷静にそれを動かした。

 

 連動するように機体の腕が動き、両手に構えた二丁の90mmマシンガンが掃射される。

 

 夜空を彩る火線が増え、のっぺりと暗いだけだった夜空が慌しく瞬き始める。

 

 ユマ・シラサワはまるで弾丸切れなど考慮していないような切れ間の無いフルバースト掃射で地上のザクへと休み無く攻撃を浴びせかける。

 

 実際、弾丸の残数など考えていない。

 

 弾切れの事を考えて死ぬくらいならば撃ち尽くして最大限、敵を減らしてから死ぬ。

 

 そんな覚悟を感じさせる特攻ではあるが、死ぬつもりも無ければ、何も考えていないわけでさえも無かった。

 

 現に対抗して放たれた火線に妨げられ、近づくにつれて当たりやすくなるはずの敵の攻撃が、逆に途切れ途切れになっていく。

 

 

 そう、死ぬのが怖いからだ。

 

 

 いかにジオンの軍人とは言え人は人だ。

 

 人間、死ぬのは嫌だし、ましては何の成果も上げられずに無駄死になんてたまったものじゃない。

 

 結果、返り討ちを恐れ、攻撃が阻害される。すると――。

 

 

「ほらほらどうしたぁー! 私が仕置き人(ブギーマン)だー!!」

 

 

 彼女は小刻みにペダルを踏みつつ、レバーをランダムに左右前後に動かす。

 

 それに合わせて機体は踊る。

 

 パイロットの操作通りに、機体に備え付けられたスラスターが不規則に噴射されるのだ。

 

 その結果、予想の付かない機動となって敵の弾丸が逸れて流れていく。

 

 

 この距離でまともに集中砲火を受けていたのであれば、マシンガンの豆鉄砲とは言え、2、3発程度の被弾は覚悟するべきはずだった。

 

 それを――。

 

 

「怖いなら戦場に出るなよぉ……。死を恐れた奴から死神はさぁ……。牙を剥くんだってばよぉッ!」

 

 

 決して豊富では無い弾丸を潤沢に放ち、自らの生存ラインを維持する。

 攻撃的防御。防御的攻撃。実に巧妙な生存術であった。

 

 

 そうこうしている内に目標地点へと到達が近づいていく。

 そろそろ落下速度を落とさなければ地面に激突して機体がもたない。

 

 ユマ・シラサワは急ブレーキを踏むように足下のペダルを全力で踏み込み、バーニアとブースターをフル稼働させた。

 

 空中でいきなり急静止するものだから、当然、敵の照準も一瞬合わなくなる。

 

 その隙に――。

 

 

「ヒャッハー! 汚物は消毒だー!!」

 

 

 片方のマシンガンを一機のザクに集中。もう片方は対攻撃用の牽制を続けながらだ。器用にやってのける。

 そして火線の集中で回避行動を余儀なくされたザクに向けてさらに――。

 

 

「シュート! 超エキサイティン!!」

 

 

 牽制で放たれたマシンガンで誘導された位置、移動後のわずかな硬直時間を狙って放たれたのは――。

 

 皮肉にも、それは本来ならばザクの武装として発案されたはずの武装。

 

 アサルトバレットの脚部に搭載された、鹵獲され魔改造の末に再利用された――両脚部フットミサイルの全弾掃射。

 

 それらは無慈悲にも、ザクの脚部に命中し、よろけさせ、肩に命中、転倒させ、残りの全てが背部、バックパックにあたる部分に集中的に被弾。

 

 当然、爆発。引火。誘爆のプロセスを得て――。

 

 

 哀れな一機のザクが爆散するのだった。

 

 

「はい、一丁あがり。汚ぇ花火~♪」

 

 

 まるでそれが自然とも言うように、無駄の無い動きで即座にフットミサイルの射出台座をパージ。機体を軽くしつつ着地する。

 

 

 迫る目前の戦場にはザクの他に、二機の異なるシルエットがあった。

 

 それはホバー走行をする、鈍重そうな見た目に反して素早い黒基調に紫のコントラストで闇夜を駆け抜ける重モビルスーツ。

 ジオンの名機と名高い、ツィマッド社の誇る傑作機。MS-09。ドムだ。

 

 さらにその後ろから駆け寄るは、トゲトゲしい見た目の青い陸戦型モビルスーツ。

 少数配備だったのか、見られることは案外稀だったとされるレア機。

 白兵戦に特化されたニッチなアイツ。MS07。グフだ。

 

 

 そんな、古式ゆかしい骨董品のような一年戦争の亡霊達が宵闇のパレードを行っているとあれば、亡霊狩りを行うのは連邦軍の義務とも言えた。

 

 

「いつまでも彷徨ってんじゃないよ! そんな旧式でさ!!」

 

 

 スラスターとバーニアを吹かせながら跳躍し、再度急浮上。

 

 落下速度を抑えつつも、戦場中央付近をめがけて接近しつつ弾丸を掃射する。

 

 敵も反撃を試みるも、鈍足なバズーカでは敵の運動性に追いつけない。

 空に逃げられ白兵武器は届かない。だからと言って追って宙を舞おうと、逆に餌食だ。

 援護のザクマシンガンは、不規則なスラスター操作によるアクロバティック機動によりむなしく空を裂くのみ。あんな動きをされちゃ、まともに照準なんて付けられるはずもない。

 

 さらに、ジオン軍機は歩行。一方アサルトバレットはホバーによる高速移動だ。

 唯一それに追いつけるはずのホバー走行の担い手も、それが重モビルスーツでは動きの切れに違いが出すぎる。

 

 そしてダメ押しの、跳躍しながらのスラスター&バーニアによる空中機動を含めた三次元機動だ。

 

 この時点で旧式にはもはや勝ち目は無かった。

 

 

 だが、それを救うべく、飛来したるは――。

 

 

 不恰好な板状戦闘機の上に乗りマシンガンを構える単眼のモビルスーツ。

 そう、サブフライトシステムに乗り襲いくるは、陸戦型ザク。

 

 

 だが、冷静にもユマ・シラサワは操縦管を握り、照準を絞り、マシンガンの最後の一滴を掃射した。

 

 狙うはサブフライトシステム。つまりはドダイのみ。

 

 

「足場さえ壊せばッ……!」

 

 

 必中とも言える集弾率で、あっという間に火を噴いて爆散するドダイ。

 

 足場を失い空を泳ぐ形になった陸戦ザクにはダメ押しの――。

 

 

「地獄で待ってな、ベイビー……。私は行かないけどね」

 

 

 すれ違い様に発射された腰部二連装ミサイルポッドの全弾掃射がコクピット装甲に直撃!

 

 

 そのままザクは地上へと落下し、爆散した。

 

 

 デッドウェイトである腰ミサイル射出装置も忘れずにパージし、これで中距離支援火器は撃ち尽くした。

 

 本来ならば仕事は終わり。

 

 

 だが、お代わり(アンコール)を求める亡者共がまだ三機も残っている。

 

 

 こいつらを放置しておくわけにもいかないし、逃げればむしろ危険度は増す。

 

 

 となれば、答えは一つ。

 

 

 

 軽くなった体を試すかのように、着地して即、側宙で跳躍しつつ逆さまの姿勢で、腕を薙ぐ。

 

 

 そこには、ヒートサーベルを振りかざし、今にも着地後の隙を狙わんとしていたグフの姿。

 

 グフの熱刃は空を裂き、青き機体は崩れ落ちるように倒れ、動かなくなった。

 

 

 

――何があったのかを説明せねばなるまい。

 

 

 

 まず、ユマ・シラサワは、敵の攻撃に対しカウンター様に腕を薙いだのだ。

 当然、敵の攻撃を回避すると同時に。敵のコクピット部分。つまりは胴部に向けて。

 

 

 そして、その一瞬だけ、碗部装甲上部に内臓されたボックスタイプのビームサーベルユニットを使用したのだ。

 

 

 そう、見ればアサルトバレットの右腕部装甲上部から、ビームサーベルが生えていた。

 

 

 グフは空を切り裂いたままの姿勢でほんの数瞬、固まっていた。

 

 

 その後、アサルトバレットが右腕を振るった。侍が敵を切った後に血ぶりを行うかの如く。次の瞬間――。

 

 

――まるで切られた事を理解した敵が倒れるが如く、数瞬後にグフは崩れ落ちるように倒れ、動かなくなった。

 

 

 コクピットを焼き払い、内部のパイロットを直接討ち取ったのだ。

 

 

 

「これで三機。私エースになっちゃうね」

 

 

 

 実際、一度の出撃で5機の機体を屠ればエースと言われている。

 

 

 その偉業を、ユマ・シラサワは成そうとしていた。

 

 

「ま、こんな骨董品崩れの雑魚亡霊相手なら、余裕ですけど」

 

 

 その姿はまさに、戦場に降り立った死神。

 

 

 それでも戦意を喪失せずに立ち向かうのだから、ジオン軍人の心意気という奴だけは評価できるのかもしれない。

 もっとも、行動が非道すぎてそれ以外は評価のしようも無いのだが。

 

 

 ドムとザクが散開し、左右から挟み撃ちにすべく移動する。

 

 最終的には前後の挟み撃ちに移行するつもりだろう。

 

 それを予測したユマ・シラサワは、バルカンで前面のドムを牽制しつつ、ホバー走行で滑るように動き出し、跳躍時の隙を見せない変則的なバーニア展開でトリプルアクセル、側宙(エアリアル)など、アクロバティックな動きで翻弄しながら敵の動きを牽制する。

 

 一見すると無意味で無駄な美しいだけの機動。だが当然、ここは戦場。ただの見世物であるはずがない。

 

 側宙や跳躍、緩急をつけた動きで、ホバー機動の弱点である慣性の法則による“移動先の先読み”を不可能にし、さらに照準をつけづらくして、なおかつ、回避運動を事前にの行っているのだ。

 

 これは、ボクサーがフットワークやダッキング、スウェイを繰り返すことで、攻撃を回避するために動き続け敵の照準を妨害しながら戦う戦術に等しい。

 

 この挙動により、比較的弾丸を当てやすいはずの近距離におけるザクマシンガンの弾丸でさえ、現在、やっと、三発程かすめた程度。その程度にしか被弾していない。

 

 そう、数百以上の弾幕の中を駆け抜けながら、この戦果なのだから、これは驚嘆に値する。

 

 そして120mm口径のザクマシンガン程度であれば、かすめた程度であれば被弾の数にも入らない。

 

 そうこうしている内に、見事にザクマシンガンは弾切れに追い詰める事に成功する。

 更に、ドムの放つ迫り来るバズーカ弾頭はバルカンにより冷静に撃墜し続け――。

 

 

――やがて、バズーカの弾丸も底を突いたのだろう。

 

 

 

 ザクとドムが、各々、ヒートホークとヒートサーベルを構えて襲いかかって来た。

 

 

 

――そして、それは一瞬の出来事だった。

 

 

 

 前後の挟撃に等しい左右からの同時攻撃。

 

 

 

 結論から言おう。

 

 

 

 征したのは当然、ユマ・シラサワ機だった。

 

 

 

――ザクとドム。二機の機体が同時に爆散する。

 

 

 

 そこにあったのは、一瞬の輝きと残される静寂のみであった。

 

 

 

――改めて説明しよう。何が起きたのかを。

 

 

 

 この一瞬に起きた出来事とはこうだ。

 

 襲い来るドムのサーベル。挟撃し、反対側から迫り来るザクのホーク。

 

 二体共に、敵の射撃武装は無し。腕部の一対のサーベルしか無いと、思い込んでいた。

 

 90ミリマシンガンは撃ちつくして捨てられ、バルカンもバズーカ対策で撃ち終え、ミサイルももはや見当たらない。

 

 ゆえに、白兵戦を挑んだ。

 

 だが、それこそが間違い。

 

 重大な固定概念による戦略ミス。

 

 もっと慎重になるべきだったのだ。

 

 

 彼らに残された選択は、逃げるか、彼女の持ちうる隠し武器が尽きるまで、中近距離で回避に専念する事。

 

 だが、緊急とは言え、グフの一撃でサーベルの保有を知ってしまえば、それが最後の武器だと思い込むのも無理からぬこと。

 

 

 ユマ・シラサワは、迫り来る二体の間で、両腕を広げて、コクピットめがけて同時に“それ”を発射しただけ。

 

 

 そう、流れるような動作で。まるでガンカタの如く、照準を付けずに、感覚だけで、二方向に同時に射撃を行い狙った部位へと命中させるという荒業を行ったのだ。

 

 

 それを可能にした兵装とは、アサルトバレットの両腕装甲前下部に一門づつ取り付けられた内臓型ビームガンユニット。

 

 

――通称、ハンドビームガン。

 

 

 本来はアバオアクー攻略作戦時にガンダム4号機が1550kwのジェネレーターでの試験運用を考えて作られたもの、とされている。

 ゆえに、スラスターや他のビームの出力とジェネレーターによる相関性のため、この機体では有効射程は低く、ほぼ近接戦闘用だった。

 

 

 だが、だからこそ、この瞬間に隠し武器として相手の油断を突き、不意を撃てた。

 

 

 マニュピレーターを掌打の形にして、その下部にある射出口から、それはわずかな狂いさえも無く、コクピットへと向けて吸い込まれるように放たれた。

 

 

 結果、ドムはサーベルを振り上げた姿勢のまま止まり。

 

 ザクはヒートホークを振り上げた姿勢のまま止まり。

 

 そのまま一瞬後に、爆散したのだ。

 

 

 照準に頼らない、感覚的なモーションと姿勢からの射撃。

 

 

 それは、この機体本来の目的である、格闘戦用追加モーションの実用性実験によるたまものであった。

 

 

 今までの側宙やトリプルアクセル、バレルロールなど様々な動きも、彼女達に求められていた任務の一つであった。

 

 細かい微細な操縦を求められるため嫌煙されていた複雑な動作。

 

 それを実験的に運用させ、使いこなせるように学習させつつ、後にデータを見て実用性から取捨選択を行う。

 

 そのために動きを管理するためのソフトウェアを現場で強化成長させつつも、実戦で試験運用させるための実験プログラム。

 

 

 それこそが、この部隊の存在意義の一つ。

 

 

 来るべきエース専用機同士の高次元の戦いについていくための、プログラムウェア開発。そのための実験プロジェクトである。

 

 

 上級者向きであるがゆえに量産機さえ乗りこなせない有象無象のパイロットには無用の長物。

 

 されど使いこなせれば戦術バリエーションを増やし、それは戦闘時の優位性に繋がり勝率と生存率を高める。

 

 実際、この機能により、落下から着地、それからのわずかな一瞬の戦闘時間でモビルスーツを五機撃墜というデータが取れた。

 

 ほんのわずかな戦闘で、それだけの働きを果たすという実証が、だ。

 

 

 これはもちろんパイロットであるユマ・シラサワのモーションに対する熟練度と実力も当然あるが、それを活かすべく開発された新モーションに救われている所も少なくは無かった。

 

 よって、ユマ・シラサワは確信する。自分が、これを乗りこなすにたる実力を持つ存在であると。

 

 そして、であれば、戦艦内でただ何もできずに巻き添えで屠られていくよりも、この小さな鉄の棺桶の方が、よほど安全性が高いのだ、と。

 

 

「ふふ、ふふふふふっ……」

 

 

 周囲の敵を殲滅させ、されどタンクには帰還用も含め、まだ若干の余裕がある。

 

 さらに、彼女の機体にはまだ、いくつかの隠し武器が内臓されていた。

 

 

 

「あーっはっはっはっは! さぁ、お次は!? デザートは!? まだまだお代わりもう一丁~!!」

 

 

 戦場の中心地へと高速ホバー走行で突き進んでいくアサルトバレット。

 

 

 そのパイロットの素顔は、メットのバイザーにより見えないが――。

 

 

 

――その瞳はどうやら、更なる獲物を求め、未だ輝いているようだった。

 

 

 



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3~BLAZING~

 

 

「相変わらずだね~、ユマっちは。頼りになるぅ~」

 

 スラスターを全開にして最前線へと向かいつつ、メアリー・スーと名乗った少女の駆る赤い機体は流星の如く空を行く。

 

「……さすが。伊達や酔狂で――クピット内――叫ん――いね」

 

 最前線へと進むにつれ、前線部隊への通信にノイズが混じり始める。

 

「おっと、霧が濃くなってきやがったな。ピクニックは終わりだ。暴れて来い」

「いえっさー。ほいじゃぁ、行っくよ~!」

 

 リーダーらしき中年の男の男の声に、メアリーと名乗る少女の声が応答する。

 紅い機体は、その声に答えるが如く、猛スピードで敵陣の中央へと猛進していく。

 その姿はまるで彗星そのもの。斜めに前進、落下しつつスラスターとブースターを器用に噴出して衝撃を和らげつつ、腹ばい姿勢に移行、落ちる速度による加速を利用しつつ、そのままホバースラスター移動で全速力。地を這うように直進、滑走する。

 

 余談ではあるが“霧が濃くなる”とは連邦のスラングで、ミノフスキー粒子が濃くなり、距離が離れすぎる事で通信が利きづらくなった際に用いられるスラングである。実際に霧が濃い訳ではない。

 

 それはさておき、ジニー・メイと名乗る少女が駆る超重装機体はいまだ空を舞っている最中であった。

 

 その姿はまさに蠢く闇。全身を黒で染め上げ、一部に紫と紅でコーディネートされた夜間迷彩とも言える漆黒のフォルム。

 

 特徴的なモノアイヘッドは紛れようもない、連邦のハイザックの頭部である。だがその背面部は紛れも無い。無数のスラスターを増設されてはいるものの、明らかにジムⅡのものであった。

 脚部は下方に向かうにつれ膨らんでおり、その重武装を運用するにたる無数の増加スラスターが積まれている事は目に見て明らかである。

 全身に無数の増加装甲を纏い、両肘間接部には小型シールド。両肩部にはハイザックのショルダーシールドをさらに増加装甲でいかつく彩ったものを備え、そして巨大なシールドを構えた、回避性能よりも防御性能に特化した超重装甲モビルスーツ。

 

 通称、フルアーマーハイザックカスタム。

 

 正式なコードネームではない上に、実質ハイザックを名乗ってよいかも微妙なカスタム機ではあるが、この現地改修した魔改造機を、彼女らはそう呼称していた。

 

 両肩部には二門の240mmキャノンを有し、実弾による長距離への支援砲撃が可能。

 そして、その手に持つは75mmスナイパーライフル。

 名機であるジムスナイパー2の武装から流用した。実弾仕様の狙撃ライフルである。

 

 さらに脚部には左右合わせて二門の三連装ミサイルポッド。

 そして連邦のモビルスーツ特有、おなじみのバルカンが、本来ならば左右に一門づつの所を二門づつ、上下に銃口を付けて四門同時掃射できるよう強化された60mmバルカン達である。

 

 他にも多数の隠し武器を保有する、現地改修のエース専用魔改造機たるワンオフの名機である。

 

 だが今は、パラシュートでギリギリ速度をやわらげつつ、全力でスラスターを噴出させつつ衝撃に備え、落下している状態である。

 これは敵からすれば的以外の何物でもない。

 

 当然の如く、射程距離外から迎撃が行われる。

 断続的に発せられるザクマシンガン。

 距離的にそうそう当たるものではない――はずなのだが、どうやら腕の良いパイロットがいるらしい。

 

「――来る、のはわかってるんだけどねぇ」

 

 のそのそと回避運動を行うジニーではあったが――。

 

「あ――」

 

――被弾。

 

 ジニー・メイ。彼女は運動系、特に回避機動の操縦が特に苦手なパイロットであった。

 

 しかし――。

 

 ぶつかったのは特別制の巨大盾。

 

 大破したジムガードカスタムが残した備品である大盾を流用し、そこに複合装甲(チョバムアーマー)、中空装甲(スペースドアーマー)による増設装甲を追加し、合間に耐ビームコートを施した重盾である。

 これに、さらにジムストライカー型などに使用されていた区画型増設の爆発反応装甲(ウェラブルアーマー)も増設している。

 

 装甲間に施された耐ビームコーティング処理は、かつてジムキャノン2の盾などに利用されていたもの。それを表面だけでなく増設した装甲の間にも施し、この多重ビームコート構造により、既存の装甲よりもはるかに長い時間ビームに耐える事が可能。そしてウェラブルアーマーと増設装甲、弾丸をそらす丸みを帯びた構造になっている事で対実弾性能も非常に高い。

 

 なお、この重装甲システム及び多重ビームコート処理は機体及び、機体増加装甲にも施されている。

 まさに生存性を最重視した防御性能である。

 

 だが、実はこの新機構の装甲システム、試験評価後に費用対効果の面で量産を見送られた“没”企画であったりする。

 

 ザクマシンガンの集中砲火を受け、盾に追加されたウェラブルアーマー、そのブロック構造である一区画が爆発する。

 そのダメージは和らげられるものの……。

 

「……あーあ、高いのに」

 

 シールドの内部装甲はほぼ無傷であるものの、爆散した増加部分の修理にはかなりの手間を資材を必要としてしまう。

 メカニックの苦労を考慮したジニー・メイは、最小限の動きで最適なポジションを取り――。

 

「こんにゃろめ~……」

 

 撃ってきた機体。つまり遠方の腕の良いザクへ向けて、一瞬の僅かな姿勢制御で体勢を補正し――。

 敵影が照準の中心に入った刹那のタイミングでトリガーを引く。

 

 弾丸は吸い込まれるように腹部を貫き、緑色の亡霊は爆散した。

 

「もういっちょ~……」

 

 両肩のキャノンも間髪いれずに発射。照準を行わず、直感だけの砲撃。しかし、弾丸はまたもや吸い込まれるように、撃破したザクの後方で支援砲撃を行っていたもう一機のザクの下腹部へと着弾。緑色の亡霊がもう一機、下半身を失い地面へと這いつくばる。

 

「……これで亡霊らしくなれたね」

 

――余裕で皮肉を口にする。

 

 ジニー・メイ。彼女は、遠距離からの砲撃戦、および狙撃を何よりも得意としているのだった。

 

 されど敵はまだまだいる。仲間を撃破した憎き仇とでも言うように、さらに別の機体がジニー機を捕捉し、迎撃の射撃を浴びせかける。

 

 これ以上高い装甲を傷つけまいと、回避のために姿勢制御を試みるが――。

 

「……げ」

 

 機体をそれた弾丸が逆にパラシュートへと着弾する。

 

 当然の如く、落下する機体。

 

 まだ着地には早すぎる高度である。この重さで、この距離から落下すれば、いかに重装甲であろうと、いやむしろ重装甲であればこそ、その重さに押し潰されかねない。

 

「……おのれ」

 

 しかしジニーは冷静に全体のブースターとスラスターを噴出する事で落下の衝撃を抑えようと試みる。

 重装甲に耐えうる運動性と機動性を確保すべく、中破した味方機の増加スタスターを多数流用して増設したこの機体。並大抵の出力ではない。

 

――が、足りない。

 このままでは機体が危ういと計器も悲鳴のようなアラームを鳴らしている。

 

「……それなら、奥の手だ」

 

 巨大シールド下部からブースターを吹かせ、器用に姿勢制御を行うジニー。

 

 なんとこのシールド、現地改修魔王ことユマ・シラサワと愉快なスタッフ達による変態技術で、その重さによる取り回しの難しさを考慮し、両側面と下部に補助ブースターとスラスターが増設されているのだ。

 緊急防御時の取り回しや、サイドステップ、ジャンプの補助、戦術としてはシールドバッシュなど、様々な用途で用いられる事を予想しての改修であった。

 ちなみに、スラスターの誘爆だけが懸念点として改善案を模索されているものの、開発者いわく「まぁ、裏側だから平気平気」との事。実に適当である。

 

「……おりゃ~」

 

 気の抜けるような掛け声のもと、なんとか全ブースター射出により、かろうじて着地に成功するジニー機。

 

「……死ぬかと思った」

 

 ようやく地に足ついたジニーは、即座に狙撃用の姿勢に入る。

 

「……おのれエリっちめ~。後でお仕置きだ~」

 

 これらは全て、予想外に前に出すぎた結果であった。

 そう、全てはガンペリーのパイロットが投下の操作を遅らせたためである。

 

 ぼやきながらも照準を行い、冷静に戦闘を続行するジニー。

 

 放たれる肩部キャノンの砲撃。滑るように避けるドム。しかし――。

 

「……残念、視えてるから」

 

 そのドムの進む先がまるで見えているかのように――続くスナイパーライフルの弾丸がドムの胴体部を貫いた。

 

「今のがエースかな……?」

 

 キャノンを囮に見事な狙撃を行ったジニーは――。

 

「基地の建物、邪魔だなぁ……」

 

 曲射砲撃で敵をあぶりだし――。

 

「……あの建物には誰もいないみたいだね」

 

 避けた機動後の隙を狙い――。

 

「……なら、いいよね」

 

 建物ごとザクの胴体を貫いて狙撃。撃破した。

 

「後は……うん、建物に人がいるね。任せた」

 

 建物などの障害物を射線にとり、射程外の敵を放置し、近場の敵へと目標を切り替え無視を決め込んだ敵に対しジニーメイは、軽く舌打ちを行った後、暇つぶしの曲射砲撃による嫌がらせを敢行するのであった。

 

 

 一方、メアリー・スーの駆る赤い機体は――地を這うように猛スピードで滑空していた。

 いつ当たってもおかしくない弾幕の中を駆け抜ける。

 迎撃の射線は射程内。だが、当たらない。赤い流星は流れる水の如く、するりと弾丸の雨をすり抜ける。

 風の如く、無数の弾幕の中をするりするりと駆け抜ける――まるで、敵の射線が視えているかの如く。

 

「ひゃっほ~ぅ! 選り取りみどり~!」

 

 眼前の基地内。格闘戦を行っている敵機三機の元へと急接近。敵機はジムⅡ二機と交戦していた。

――あっちゃあ、あれは部が悪いなぁ。メアリーはそう感じ取った。新型機であるジムⅡに対し、旧式のザクが二体にドムが一機。機 体の性能は圧倒的にこちらが上である。だが、兵の練度が圧倒的に足りていない。

 最前線に送られた士官候補生か? 楽な仕事とでも謳われたのだろう。メアリーはそう考えた。なぜなら二機のジムはあきらかに動きが悪い。相手がベテランである事を考慮しても鈍過ぎる。自分が到達するまで持ちこたえられるだろうか? 否。持ちこたえさせるのだ。間に合ってみせる。彼らを一人でも多く救う事こそが、与えられた任務なのだから。メアリーはそう思考しながら真紅の機体を駆り、戦場を進み行く。

 

 それは、鋭角の頭部を持つ機体だった。

 モノアイの頭部は旧ジオンのモビルスーツを思わせる。

 それもそのはず、この機体は元はといえばジオンが開発していた機体。

 それを連邦軍が接収し、開発と改修を重ねて生み出した傑作機。

 

 ガルバルディβ。ジオンのガルバルディを元に生み出された機体である。

 

 その無駄の無いスマートなシルエットは、高い運動性と機動性を有している事を現す。装甲の強度こそ他に劣るものの、当たらなければ問題なかろうと、今は主にエース機として扱われる機体である。

 

 が、当然これも魔改造機。脚部はホバー使用、全身に無数の追加増設されたスラスターにより機動性と運動性を強化されたワンオフ機である。

 

 高機動強襲陸戦型ガルバルディβ改。

 

 メアリー・スーの専用機としてカスタマイズされた現地改修型のガルバルディβである。

 

 全身のスタスターと背部ブースターを駆使し、地を這うように猛スピードで戦場へと向かう。

 敵機からの迎撃は次々と減っている。

 全ては、囮となってくれている円形戦闘機と、ジニー機の狙撃。そして雑魚掃除をこなしてくれているユマ機のおかげである。

 仲間の援護を最大限受けながらメアリーの機体は駆け抜ける。戦場の最前へ。救うべく友軍のいる地点へと。

 

 爆音が鳴り響く。どうやらジニーが上手くやってくれたようだ。迎撃の射線が途切れる。

 両手に持った90ミリ、信号弾の代わりに増設された頭頂部のバルカンを掃射しつつ滑空する。

 だがメアリーの銃撃は当たらない。

 回避されるまでもない。

 照準を合わせて撃とうにも、どうにも上手くいかないのだ。

 ロックオンされてから撃てば良い。わかってはいるのだが体の感覚で撃ってしまう。結果、当たらない。

 直感的にはどこにどう避けるのかは理解しているのだが、それを上手くフィードバックさせる事が出来ないのだ。

 

 ジニーのように姿勢の感覚と目視のサイトで合わせられれば何とでもなるのだが。

 よって、彼女。メアリー・スーは中距離から遠距離における射撃戦闘がつくづく苦手であった。

 ゆえにメアリーは常々、機体の性能だけではなく自身の感覚で射撃が行えるユマとジニーを羨んでいた。

 

 だが、他人を羨んでばかりもいられない。

 メアリーには、メアリーの得意なレンジがあるのだ。

 ならばその空間で暴れればいいだけだ。

 

 ユマとジニーが道を開いてくれた。

 ならば「私は自分の仕事をこなすのみ!」メアリーは敵機の至近距離への接近と同時に攻撃を仕掛ける!

 

 基地の中央。最前線ではジムⅡ二機が戦っていた。敵は旧式。されどベテラン三機。

 この部隊のトップエースであろう、若干動きの良いジムⅡはドム相手に善戦していた。しかしその脇腹へと、迂回したザクのヒートホークが迫る。

 

 武装は共に近接兵装のみ。ジムⅡはビームサーベル。ドムはヒートサーベル。ザクはヒートホーク。

 お互いに射撃武器は撃ち尽くしていた。マシンガンも、バルカンも撃ちつくしたジムⅡ。ジャイアントバズもマシンガンもクラッカーもフットミサイルも撃ちつくしたドムとザク。その二機が戦っていた。

 

 ヒートサーベルによる一撃をビームサーベルで受け止めるジムⅡ。

 超高熱同士が弾き合い、鍔迫り合いのように停止する二機。

 その横腹を突きザクのヒートホークが迫る。

 もう一機のジムⅡは別のザクと互角の白兵戦をこなしており、助けに入る余裕は無し。

 

――そこへ。

 

「あらよっと」

 

 颯爽と駆けつけたメアリー機。蹴り飛ばすように放たれた脚部。その爪先先端から伸びるビームダガーがコクピットを正確に焼き払い、無人となったザクはそのまま機能を停止してその場に倒れ伏す。

 

 マルチプルビームエッジユニット。

 メアリー・スーの機体に増設された十にも及ぶビームダガー射出口である。

 本来であれば、ジムガードカスタムなどの両腕前甲部に取り付けられていたボックスタイプビーム白兵ユニットを流用した武装である。

 両脚部の爪先、かかと、さらに膝部の装甲先端と肘部の装甲先端から、両肩部からも一箇所づつ、各部位からビームダガーを出せるように改良したもの。

 これにより、本来であれば牽制か、衝撃による内部パイロットへの補助攻撃に過ぎなかった格闘モーションを、ビームサーベルと同等の一撃必殺兵装へと昇華する事に成功したのだ。

 出力が短めのダガーサイズになっているのは、背部バックパックまで貫いて誘爆させないためである。

 ゆえに、ザクはコクピットと内部のパイロットを焼き払われ、爆散する事無く機能停止に陥ったのだ。

 

 そして、目の前でヒートサーベルの二撃目をかろうじて回避するジムⅡに対し体当たりを敢行するドム。直撃を受けて体勢を崩し、ビームサーベルを放した丸腰のジムⅡへと、とどめのサーベル攻撃を行うドム。それを蹴り飛ばしジムⅡを救うはメアリー・スーの駆るガルバルディβ。

 

 ゆらりとメアリー機を向くドム。ヒートサーベルを返し、身構える。

 対するメアリー機は。ジムⅡを背に、無手のボクシングスタイルで構える。

 

 一触即発の空気が周囲に満ちる。次の瞬間――。

 

 ヒートサーベルの一閃!

 

 だが、斬りかかるドムの腕をマニピュレーターで横から押すようにして反らし、直撃を避け――突き上げる肘! 肘先端から照射されたビームダガー! 切り裂かれたドムの右腕が宙を舞う。

 

 同時に繰り出された膝蹴りはドムの下腹部を真下から突き上げる!

 

 当然、膝からもビームダガー! 脚部メイン間接を破壊され崩れ落ちるように倒れるドム。

 

 そこへダメ押しの八極モーション! 肘が胴体部中央へと突き刺さる。

 

 同時にビームダガーが生え、コクピットを焼き払う!

 コクピット内のパイロットを焼き殺されたドムは機能を停止する。

 

「動きが見えるんだよね~。残念」

 

「お、俺も助けてくれぇ~」

 

 情けない声をあげるは、未だ格闘戦中のジムⅡである。

 

「それくらい自分で倒しなよ~、まったく~」

 

 言いながらも、一瞬で接近し、脇腹へとフリッカージャブ一閃。

 右腕先端上部装甲から射出されたビームダガーによるコクピットへの一撃で残るザクも完全に沈黙。

 

 敵機殲滅。友軍機の生き残りは見事救出されるのであった。

 

「ったく、こんなのに苦戦してたの~? 引くわ~」

 

 メアリー・スー。射撃は全然だが、その回避性能と格闘戦は他の追随を許さない。

 

「っと、終わったみてぇだな」

 

 円形戦闘機が空に現れる。そして、何と人型形態に変形し、到着する。

 円形型のフォルムを残るモノアイの大型モビルスーツ……いや、可変モビルアーマーである。

 

 高機動強襲型アッシマー。

 

 これまた、魔改造現地改修が施されたアッシマーである。

 出力の関係上、ビームライフルの使用をやめる代わりに姿勢制御バーニア、増設スラスターによる高い機動性と運動性を確保した機体である。。

 ライフルの代わりに、主に実弾の90mmジャイアントガトリングガンを使用する。

 

「うん、ロニーの出番は無かったみたいだね」

「おいおい、ちゃんと囮になってやっただろうがぁ」

 

 メアリーの言葉に、ロニーと呼ばれた男。この部隊のリーダーであろう、中年男性の声が答える。

 

「え~? 結局迎撃沢山来たからあんま意味なかったよ~」

「このやろぉ、じゃあ俺が先にいって喰っちまってもよかったってのかぁ~?」

「いやぁ~ん、それはやぁだぁ~!」

「だろぉ?」

「けど、結局は間に合わなかったんでしょ?」

「ん……まぁな」

「やっぱその機体。遅いね」

「うるせぇ。お前の機体が早すぎんだよぉ」

「ひゃっはぁぁぁ!! 汚物は消毒だぁぁぁ!!」

 

 敵機を求めて最前線まで躍り出たのであろう、ユマ・シラサワ機も合流する。

 

「あ、ユマっちも来た」

「さて、これで全滅かな?」

「みてぇだな」

「それじゃぁ~、任務完了かな?」

「そういう事になるな」

「よっしゃぁ! 楽勝~!」

 

 はしゃぐメアリー。

 

「それじゃ、艦長に報告しねぇとな」

 

 広域無線を使用すべく、機体を降りるロニーと呼ばれた中年男。

 

「任務完了。了解」

 

 バーサークモードから解放されるユマ・シラサワ。

 

 そして――。

 

「……おーい。誰か回収してよ~……歩いてそっちいくの、時間かかるんだよ~……」

 

 ロングレンジの遠方距離から、届かない嘆きの声をあげるジニーの姿があるのだった。

 

 



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4~哀戦士~

 

「もー、汗でぐっちょぐちょだよ~」

 

 旧リベリア地区ニューモンロビア近郊、連邦軍駐屯基地。

 ぼやきながら廊下を歩む少女の姿があった。

 

 少女とは言っても、身に纏っているのは連邦軍の制服だ。

 それはつまり、少女が正規の軍人である事を示していた。

 

 幼い顔立ちに、透き通るような白い肌、宝石のように美しい青の瞳を持つ少女だ。

 身長はコーカソイド系にしてはかなり小柄。肩まで伸ばした輝くような金の髪はワンサイドアップに纏められており、何より目を引きつけるのはその胸元だ。トランジスタグラマーとでも称するべきか。見た目にそぐわない豊満なバストの持ち主で、制服の胸の部分が張り裂けんばかりにパッツンパッツンなのだ。

 

「あ~、早くシャワー浴びたい~……」

 

 少女は休憩ルームに入るやいなや、備え付けのテーブルに座ると、制服の胸元をはしたなく開く。

 跳ね上がるように、汗で塗れた白いシャツからあふれんばかりに巨大に実った果実のような胸がプルンと揺れる。

 

「こら、メアリー。はしたないでしょ」

「しょうがないじゃんユマっち~。暑いんだもーん」

「まったく……」

 

 彼女こそがメアリー・スー。あの高機動モビルスーツで派手な立ち回りをみせたパイロットだ。

 

 そして――。

 

 メアリーの後を追うように現れたのはきっちり整えられたボブカットが特徴的な女性。

 瞳と髪色は濃い茶色で、肌色はやや色白なモンゴロイドカラー。彼女も身に纏っているのは連邦軍の制服だ。

 日系スペースノイド特有のやや小柄な体躯に、年齢よりかなり若く見られがちな童顔。

 眼鏡をかけたその姿は知的にも見えない事はないが、どちらかというとメカニックに見える、という意見がもっぱらであった。

 

「ユマっちも胸元開けちゃおうよ~。パイロットなんてみんなやってるよ~」

「それは男子の話でしょ? しかも上が見てないとこでだけね。きちんとした場所でやったら怒られるよ」

「ちぇ~。でも、それなら今は良いよね?」

「まぁ、今なら……パイロットスーツは蒸れるし……しょうがないのかなぁ」

 

 両手を腰に当てて首を傾げる眼鏡の女性。

 彼女こそがユマ・シラサワ。

 中距離戦闘における射撃戦と白兵戦で踊るように敵を撃破したアサルトバレットのパイロットである。

 

 じんわりと、その眼鏡が汗で曇りはじめる。

 

「それより……あっははは! ユマっち眼鏡! それじゃ見えないでしょ~」

「うん、超見づらい……」

「ぷっ! あっはははは!」

「って、しょうがないでしょ。暑いんだから……」

 

 眼鏡をはずし、制服のポケットから取り出したハンカチで眼鏡の曇りを取るユマ・シラサワ。

 眼鏡をはずすと可愛らしい顔が姿を現す。

 

「ユマっち。絶対眼鏡無い方がいいって」

「コンタクトは嫌いなの」

「もったいないなぁ」

「ほら、シャワー行くよ」

「は~い」

 

 テーブルから立ち上がるメアリー。

 そこへ。

 

「……ねぇ、シャワーの前にさ」

 

 ユマの袖をちょこんと引っぱる小柄な姿。

 

 裾の長い連邦軍制服を身にまとった小柄な少女の姿。

 どうやら彼女ほど小柄な少女に合う制服は無かったようだ。

 

 腰まで伸びた長い黒髪をツーサイドアップにまとめた、小学生と見間違える程に小さな、やせ細った体躯の少女だ。

 肌は比較的白に近い。瞳は黒。顔立ちは日系に多い幼い顔立ち。

 可愛らしい声でポソポソと小声で喋るその姿は小動物のように可愛らしく、保護欲をかきたてる。

 

「ん? どうしたのジニー」

「……何か飲まない? 喉渇いた」

 

 彼女こそがジニー・メイ。

 あのフルアーマー機のパイロットであり、見事な遠距離砲撃と狙撃をこなしたパイロットである。

 

「あぁ、飲み物買ってくるから。ここで待ってて」

「……うい」

「ありがと~」

 

 大股を開きつつテーブルに座りなおすメアリー。

 隣の席にちょこんと座り込むジニー。

 

「あ~、涼しい」

 

 だらしなくもメアリーは胸元を開けて、パタパタと手で扇ぐ。

 

「……相変わらずバインバインだね」

「ふっふふ~ん。うらやましい?」

「……当然でしょ」

「そう? あっても邪魔なだけなんだけどなー」

「……妬ましい。持たざる者の苦しみを知らぬ者め」

「え~? ジニーはまだ成長期じゃーん。これからだよ~」

「……私もう十七だよ? 未来なんてないよ」

「でもジニーはちっちゃくて可愛らしいじゃん。ぺったんこでも可愛いと思うよ」

「……その小さいのとぺったんこなのがコンプレックスなんだけど?」

「私だってこのおっきいのがコンプレックスだよ~。この肉誰か取って~」

「……おのれ、私がもぎとってやる」

「ちょ、きゃー、揉まないで~」

 

 常時ローテンションなジニー・メイ。

 一方、まるで真逆にハイテンションなメアリー・スー。

 その性格だけでなく、胸の大きさも正反対。

 されど背丈はそれほど変わらない。

 二人は大の仲良しであった。

 

「何やってんだか」

 

 飲み物を持ってきたユマ・シラサワがじっとりとした視線で二人を睨む。

 

「……あ~、染みるわ~」

「冷た~い! 美味し~い!」

 

 二人は基地の販売機で売っていたスポーツドリンクをグビグビと飲み干す。

 そこへ――。

 

「よう」

「あ、ロニー」

 

 現れたのは、コーカソイド系の白い肌の中年男性だ。

 茶色い髪をオールバックにまとめた堀の深い顔立ち。

 その刻まれたしわは、それだけ長い年月、戦場を駆け抜けた経験と豊富な知識を示していた。

 まさにベテランの貫禄である。

 が、彼は軍人らしからぬ、決して厳しく無い、むしろフランクな口調でやんわりと叱責する。

 

「おいおいメアリー。なんて格好してやがるんだ。しまえしまえ。その胸」

 

 ロニーと呼ばれた中年男性が制服の胸元を閉めるようジェスチャーでうながす。

 

「うぇ~? 暑いんだけど~」

「ひとまずこれからブリーフィングだ。ここでな。なんかブリーフィングルームが砲撃喰らってグチャグチャらしくてな」

「うぇ~? じゃあシャワーは~?」

「後にしろ」

「え~……? 臭いのやなんだけど~」

「我慢しろっ」

「はぁ~い」

 

 そうこうしている内に。

 士官服に身を包んだ白人女性と、連邦制服を着込んだ若い男性二人が現れる。

 

「当基地の基地司令を務めている。ジュディ・グレイ大尉だ」

 

 長い金の髪をなびかせながら、基地指令が敬礼する。

 その瞳は海のような青さで静かなる強い意思を内に秘めているように見えた。

 各々、連邦式の敬礼で返し、挨拶を済ませる。

 

「こちらはヘンリー・リー少尉とアレクセイ・ドレクサス中尉だ」

 

 基地指令の左右に立つ、赤髪の白人男性と、黒髪オールバックの黒人男性が軽く会釈する。

 ヘンリー・リーと紹介された赤髪の若者の目は、涙によるものか、赤く腫れているようだった。

 

「今回は危険をかえりみず、救難信号に応じてくれた事に感謝する。君たちの支援が無ければこの駐屯地は落とされていた。感謝しても足りないくらいだ」

 

 深く頭を下げる基地指令と二人。

 

「まぁ、一人は残念な事になっちまったみてぇだがな……」

「ミリィ・プラム少尉の事か……あれは――」

「――何で遅れてきたんだよ……!」

 

 拳をきつく握り震わせながら、ヘンリー少尉がくぐもった声で小さく叫ぶ。

 

「死んだんだぞ!! お前らが遅いから!!」

 

 その目には涙が湛えられており、失った仲間が彼にとっていかに大切であったかがうかがわれた。

 

「そんな事言われたってさぁ~。私たちだって充分急いだんですけどぉ~。新兵のガンペリーまで出してさ。あれ以上どうやって早く来いって言うのさ!」

「おいメアリー、やめとけって」

「止めないでロニー! こっちは危険を冒して最善手で出たんだよ? それで死んだって言うんならさ、そいつの腕がそれだけ未熟だったって事でしょ!」

「なんだとてめぇ……!」

「こっちだって危うく新兵失うかもしれなかったんだからね! それを一方的に被害者面しないでよ! うっとおしい!」

「この野郎!!」

「やめないか! ヘンリー少尉!」

「だって……! あいつは、ミリィは……!」

「すまないな。こいつとミリィは……」

「あぁ、こっちも悪かったよ。メアリー、謝りなさい」

「嫌だ」

「メアリーっ!」

「知らない人が何人死んだ所で知ったこっちゃないもん! 誰だって世界の裏側で何人死のうと気にしないで生きてるでしょ? それと同じだよ」

「貴様ぁっ!!」

 

 拳を振り上げて殴りかかるヘンリー。

 その腕を掴んで止めたのはアレクセイ中尉だった。

 

「……やめろ。この子の言い分にも、もっともな所はある」

「どこがですか!!」

「彼女たちが最善の手段で来たのは本当だろう。脆弱な支援航空輸送機の使用であちらの兵に危険を冒させたのも事実だ」

「それでも!」

「彼女の言うとおりだ。ミリィを失ったのは、我々の力の至らなさだ。それを彼女に当たるというのは筋違いというものだ。違うか?」

 

 振り上げた拳を下ろし、ヘンリーはただただ静かに涙を零す。

 

「俺たちは彼女らに助けられたんだ。彼女らの救援が無ければ俺たちも死んでいたんだ。感謝こそすれども、恨む立場ではないだろう」

 

 その言葉を聞き、さも当然とばかりに、そら見た事かと胸を張るメアリー。

 そこへ――。

 

「だが……それでもだ」

 

 静かにメアリーに近づき、アレクセイは静かに、平手打ちでメアリーを修正する。

 静かな休憩室に、大きな破裂音が鳴り響いた。

 

「君の言い分に、相応しくない部分があったのも確かだ。ここは戦場だ。子供の来るところじゃない。だが、子供ながらにしてここまで来たという事は君も兵士だと言う事だ。胸に刻んで慎みなさい」

「痛ったぁい~、ぶった~!」

「メアリー、ジニー、それとユマ。先にシャワーを浴びてきなさい」

「……了解」

「わかりました」

「っべぇ~っだ!」

 

 憤るメアリーを引っ張るように、ユマとジニーは三人でシャワー室へと去ってゆく。

 その後姿を眺めながら、ジュディは小さく呟いた。

 

「あんな子供に戦争をさせるなんて……」

「あいつらは特別製なんだよ。すまんな」

「特別製って……それはまさか」

「まぁ、機密事項なんだ。察してくれ」

 

 機密事項、子供が戦場に出ている現実。

 二つの異様で事情を察した基地指令は話を変えるように今は亡き一人の英雄。

 散って逝った部下について語り始める。

 

「ミリィ少尉はな。ここではナンバー2の腕前だったんだ。特に白兵戦は彼女の十八番でな。この基地内に彼女の右に出る者はいなかった」

「あの馬鹿……いくら弾薬が尽きたからって」

「指令も止めたんだがな。あいつは優しかったから」

「弾切れで膠着し始めた時、敵は基地を狙い始めた……基地にはメカニックとかさ、非戦闘員もいるから……」

「近づきさえすれば、行けると思ったんだろうな」

「新兵ゆえの判断ミス、焦りって奴か」

「そもそも、今回の襲撃がイレギュラーだったんだよ!! 『ジオン残党などジムⅡの敵じゃない』なんて言ってもよぉ……」

 

 ヘンリー少尉は拳を震わせて憤り、行き場のない怒りを拳に乗せてテーブルへと叩きつける。

 

「たった三機で、あんだけの数相手に……どうしろってんだよ!」

 

 涙を零し、髪を振り乱しながらヘンリーは起きてしまった最悪の出来事を嘆いた。

 

「せめてもう一個小隊いさえすりゃ、あん程度の残党どもなんざ……くそ!!」

「……敵の動きも手練れだった。早朝の奇襲。少ない兵を用いての陽動。今回の落ち度は明らかに……」

「手練れか……って事は、十中八九アイツらなんだろうな。ここら一体で暴れまわっているっていう海賊どもは」

 

 海賊。この駐屯基地が出来上がった理由でもある、ジオン残党部隊の仮呼称である。

 

――別名、アンデッド。

 

 連邦の補給部隊や駐屯基地を襲撃しては、補給物資と場合によってはモビルスーツさえ鹵獲して兵を補充する。

 場合によっては、敵の手によって蘇った元味方モビルスーツとさえやりあうはめになる。ゆえにアンデッド。

 母艦は同様に鹵獲した潜水艦とも噂され、海岸から兵を送り込んで物資を奪う。まさに海賊。

 

「舐めていた。数の配備も、兵の熟練度も、武装も……全部甘かったんだ」

「……今なら、ティターンズの言う事もわかる気がするぜ……徹底的に、ジオンの残党なんざ、全力で駆逐すべきなんだ!!」

 

 怒りに震えながらヘンリー少尉は涙を零す。

 

「……それなのに、何が軍備縮小だ! 世論は間違ってる! 戦場をまるで見ていねぇ! くそ……俺たち兵士だって、人間なんだぜ……?」

「すまねぇな。俺たちがもう少し早く着けていれば」

「言うな、全部上層部の判断が悪い。君たちは悪くないさ」

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

 基地指令であるジュディの言葉に安堵するロニー。

 

「じゃあ、俺もシャワー浴びてくるわ。股ぐらが蒸れてしょうがねぇ」

「私もだ。胸元が蒸れてしょうがない」

 

 シャワー室に向かう二人の姿を見送りながら、ヘンリーが毒づく。

 

「機密事項ね……あのガキ。どんだけ特別なお立場なのか知んねぇけどよ……遊び気分で戦場に来られちゃたまらねぇぜ……」

「いや、そうじゃないだろ。よく考えてみろ、少なくともあいつらは俺たちよりモビルスーツを上手く扱えてる。遊びじゃあんな動きはできないはずだ。あの少女達はもしかしたら……」

「もしかしたら?」

「ニュータイプ……」

「……へ? それって、時々戦場に現れるって言う、エスパーみたいなエースの……? 眉唾でしょう?」

「実在したって事だろ。じゃなきゃあんな動き。説明がつかねぇよ。それに、聞いた事がある。連邦の怪しい研究の噂」

「怪しい研究?」

「強化人間。ニュータイプを人工的に作り出そうって話らしい」

「それ、都市伝説とかモグラ放送の奴でしょう? あんなんジオン残党の捏造なんじゃ」

「じゃあ、あの動きをお前、どう説明する」

 

 戦場での異様な動きを思い出し、ヘンリーは言葉を詰まらせる。

 

「あんな幼い少女がだ。あの異常な動きだぞ? それをどう説明する」

 

 思い浮かんだ驚愕の事実に、ヘンリーは悲鳴のような小さな声をあげる。

 

「……強化、されてるって言うんですか? あんなガキ共が……」

「噂じゃ非合法のありとあらゆる薬物で薬漬けにされてるって話らしい……」

「……あんな……小さな子供が」

「もし、そうだとしたら……嫌な時代だと思わないか」

 

 二人は、少女達が去っていったシャワールームに視線を向けたまま、ただ黙り込む事しかできないのであった。

 

 



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5~StarRingChild~

 

「も~、何ぃ? あの言い草~。私たちは助けに来てあげたんだよ~? プンプン」

 

 シャワールームにあったのは、メアリー、ジニー、ユマ・シラサワの三名の姿。

 

「しっつれいしちゃうよね~! 私たちだって危険な中、がんばったってのにさ~」

 

 苛立ちながら、バシャバシャと水を体に当て汗を流すメアリー。

 その華奢な肩も、くびれたウエストも、丸みを帯びたヒップも、水に塗れて艶かしい色気を発している。

 まだあどけない子供のようにも見えるシルエットも、少女を過ぎて大人になりはじめているような、ほのかな色気を感じさせるスタイルだ。

 何より、豊満に実った果実のような巨大な二つのバストは、彼女が女性である事を象徴し、その手を動かすたびに大きく揺れて弾むのだった。

 

「……でも、しょうがないよ」

 

 憤るメアリーを、ジニーが静かに諭す。

 バシャバシャと豪快に水を浴びて体を洗うメアリーとは対照的に、ジニーは静かに体を洗う。

 わずかにくびれたウエスト、小さいながらも滑らかな曲線美を描くシルエットのお尻、平坦な中にもわずかに張り出した小さなふくらみと、その先端にある桜色の突起は見紛うはずも無く、柔らかで女性的な魅力を帯びていた。

 

「……たぶん、二人は恋人とかだったんだよ」

「うぇぇ!? あの二人がぁ!?」

「……いや、たぶん違う。その想像はきっと違う」

「ふぇ? あの赤髪の人と、黒人の男の人、でしょ?」

 

 ジニーの言葉に対し、やや喰い気味に、興奮した面持ちで問うメアリー。

 

「……どうしてそうなる」

「いや、普通そうなるでしょっ」

「死んじゃったミリィって人と、ヘンリーさんだね」

「……そう」

 

 なぜか同性愛説をかたくなに主張するメアリーの思考を、ユマ・シラサワがかろうじて修正する。

 平均よりやや下回るがツンと張り出した柔らかな膨らみ、しっかりとくびれたウエスト、柔らかく張り出したヒップ。

 シックスパックに割れた腹筋と、鍛えこまれた体中の筋肉、特に、女性にしてはガッチリとし過ぎた肩が玉に瑕ではあるが、健康的な美しい美として見れば、一つの芸術とも言える美しい体つきである。

 

「ふ~ん、だったらなんだって言うのさ~。恋人だとそんな悲しいものなの~?」

 

 シャワーの水を、口に溢れさせ、うがいをしながら返答を待つメアリー。

 

「……そればっかりは、よほど特別な大切な人とかが出来ない限り理解するのは難しいかもね」

「メアリーは、そうね。家族がいないものね」

「まぁ、施設に来る前の記憶がないからさ~、そういうのはよくわからないけど、みんなの事は大切だよ?」

「……じゃあ、その私達がもし敵に落とされたら、って考えてみて」

「う~……それは、何かやだ」

「……でしょ? 大切な人を失うのはさ、やっぱ誰だって嫌なんだよ」

「う~……だからって暴力はよくないっ」

「……軍人の悪い癖だね。叩けば治ると思ってる。私たちを古びた家電製品か何かと勘違いしてるんだよ」

「もうね。本当、それだよねっ」

 

 シャワーをひねる音共に、仕切りの開く音が鳴る。

 

「私はもうあがるから、二人はゆっくりしてきて」

「は~い」

 

 ユマ・シラサワがシャワーを終え、二人きりとなる。

 

「何となく、想像はできたけどさ」

「……うん」

「私たちってさ。もしかして、おかしいのかな?」

「……そうかもしれない」

 

 頭からシャワーを浴び、髪を洗いながら、ジニーは静かに口を開く。

 

「……私は薬で心が抑えられてる。だから恐怖も悲しみも余り感じない……メアリーの場合は、ハイな方向で、けどたぶん、同じ感じだよね」

「うん!」

「……たぶんなんだけどね。普通の人はきっと、死ぬのが怖いんだよ」

「そうなの?」

「……そう、幸せな人達はきっとね。戦うのが怖いものなんだよ」

「ふ~ん」

 

 バシャバシャと陰部にシャワーを当て、泡に直接水を当てて体を洗うメアリー。

 一方、体にシャワーをあてがいながら、手で洗い落とすように水を流すジニー。

 しばし、無言の時間が二人の間に流れる。

 

「……それにしてもさ、さっきの。何で避けなかったの?」

「あ~、あれ? う~ん何ていうかさ、不意を突かれたっていうか……殺意も敵意も無かったんだよね……それで攻撃として反応できなかった」

「……そっか」

 

 二人はゆったりと体を洗った後に、シャワールームを後にするのだった。

 

 

 その頃、大き目のTシャツにズボン姿で廊下を歩む姿があった。

 シャワーを浴びたばかりのユマ・シラサワである。

 火照った体を覚ましつつ、休憩室へと向かう。

 

 彼女は一人、その事実に心を痛め、恐怖していた。

 

――戦場で、また一人、命が散ったのだ。

 それは私だったかもしれないし。

 次こそは、私なのかもしれない――と。

 

 震えてくる体を抑えるように、両肩を抱きしめるようにして震える。

 

 扉が開くと、そこにあるのは平和な日常。

 

 休憩室でコーヒーを飲み語らう制服姿の二人。

 目元を覆い隠すまでに長く伸ばした長い前髪に、肩まで伸びた茶髪の女性。

 眉毛を隠す程度まで伸ばした前髪に、襟足やや長めの黒髪の男性。

 先ほどの作戦でガンペリーを操縦してくれた、同じチームのエリカ・ムスターマン伍長とアラン・スミシー伍長である。

 

「アラン、それにエリカ」

「あ、ユマ曹長」

「ユマさん、お疲れ様ッス」

 

 敬礼で挨拶する二人に、同じように敬礼で返すユマ。

 

「貴方達もシャワー、浴びてきたらいいのに」

「いえ、私たちはその、お先に……母艦で浴びさせてもらいましたから」

 

 その言葉に、二人の状況を察するユマ。

 

「初陣、大変だったでしょ」

「は……はい」

「……うぅ……」

 

 二人の表情に、彼らがなぜシャワーを浴びてこなければならなかったのを理解する。

 

「怖かったよね。戦場」

「うぅ、ユマさん」

「曹長……!」

 

 その言葉に、先ほどの恐怖を思い出したのか、震える二人。

 

「……私だって、怖かったもの」

 

 戦場を思い出し。震えるユマ。

 

「そんな、ユマ曹長ほどなら、もう楽勝って感じだったじゃないですか」

「そうそう、何か叫んでたし」

「……違うよ」

 

 二人の言葉を遮り、否定する。

 

「怖いから、ああいった違う自分を演じるんだよ」

 

 その身を抱くように両腕を抱き、ユマは続ける。

 

「怖いから強気の自分を装うんだよ。私はそんなに強くない」

 

 そして、震え始める。

 

「私はあの二人みたいに強くは無いよ……戦場はいつだって怖い。けどね。だからこそ、私は戦を楽しむ戦闘狂なんだ……って。暗示をかけてるだけなんだよ」

「じゃあ、どうしてパイロットなんか……」

「なんでだろうね……帰還後は震えてる事も多いのに」

 

 しばし言葉を選んだ後に語りだす。

 

「怖いならメカニックに戻ればいいのにさ……それでもやるのはたぶん……私の腕があれば戦艦や地上よりも安全って、信じちゃってるからなのかもね。理不尽に何もせず、巻き添えで艦ごとやられるくらいなら……って。あと、やっぱり後はモビルスーツが好き、だからなのかもね」

 

 自販機で紅茶を手にし、二人のいるテーブルに座るユマ。

 

「今回の作戦、ごめんね。いきなり巻き込んじゃって」

「いえ、艦長命令でしたし」

「それでも、艦長に代わって謝るよ」

 

 先ほどの戦闘は唐突なものだった。

 本来ならば補給物資の輸送隊に過ぎない彼ら。

 母艦であるへビィ・フォーク級陸上戦艦ルティーヤは、あの時、次なる基地への補給を載せて進んでいる最中に突如の救難信号を受けたのだ。

 

 それは、近隣のジオン残党を探索するべく作られた駐屯地からだった。

 

 そこに明け方、夜襲がかけられたのだと言う。

 

 敵の機影を発見、囲まれてる。との暗号通信だった。

 

 補給も少なく、隊の戦力も足りない様子。

 

 場所は残党襲撃の噂が多数ある地域。

 捜索隊が偶然機影を見つけるも何度も、撤退された、という報告がなされた地域だ。

 

 恐らく、分散していた小隊が集まりつつある地区だったのだろう。

 

 最悪、ここに駐屯地が作られる事さえ敵の想定内だったのかもしれない。

 

 なぜなら、敵の狙いは、こちらの物資の強奪なのだから。

 

 物資を強奪し、海へと逃げる狡猾なジオン残党の部隊。

 

 嫌な予感だけがした。

 

 盛り上がった山場により、足場が悪くて母艦の動きじゃ到底間に合わない。

 

 そこへ、最善の案として、新兵を利用したガンペリーでの輸送、出撃が提案されたのだ。

 

 

「無茶な命令に付き合ってくれてありがとう。おかげで、何人もの命が救えたんだよ」

「いえ、そんな……」

「……どうせ俺らには、ここで生きる以外に道はもう無いんだし」

 

 二人は半ば諦めの表情で虚空を見つめるのだった。

 

 

 そして、同時刻――。

 

 湯上りで、タンクトップにショートパンツという出で立ちで、廊下を歩むメアリーとジニーの姿があった。

 

 そこへ偶然通りがかったのは――。

 

 オールバックの黒髪がトレードマークのアレクセイ・ドレクサス中尉だった。

 

「さっきは悪かったな」

 

 にこやかに、大人の対応として握手を求めるアレクセイだったが。

 

 メアリーは無言で足を蹴り上げた。

 

「んごっ!?」

 

 その足は、アレクセイの股座の中央にある急所へと見事に叩きつけられる。

 

「さっきのお返し。これでチャラね」

 

 ドヤ顔で返すメアリー。

 

「お前なぁ……っ」

 

 かよわい女子の蹴りとは言え、男子の急所に叩き込まれてはたまらない。

 股間を押さえながらすごむアレクセイ。

 それに対し――。

 

「あと、貴方間違ってるから」

「あ?」

 

 アレクセイはその言葉に疑問浮かべるしかない。

 

「私は確かに兵士だけど軍人じゃないから」

「……どういう事だ」

 

 痛みも引いて、冷静に尋ねるアレクセイ。

 

「簡単な事だよ……。私たちはね。備品なの」

「備品?」

「そう、だから私たちを壊したら、怒られるのは貴方達だからね」

「それはどういう……」

「……まぁ、そういう事。ユマちーはともかくとして、私たちはモビルスーツの付属品なんだよ」

 

 アレクセイはその言葉に、先ほどの強化の噂と相まって、口を閉ざす事しかできない。

 

「……そんなのって」

「……ま、それ以上は知らないほうが良いよ。それじゃ」

 

 メアリーとジニーは、ペコリとお辞儀して去っていくのだった。

 

 

――それと、時を同じくして。

 ゆるやかに連邦軍キャリフォルニアベースの基地に降り立つ艦の姿があった。

 

 艦から降り立つ無数の軍人の中に、その姿はあった。

 アジア系宇宙移民独特の肌の色。黒い髪。

 長い前髪に隠されてはいるが、額には傷がある。

 それは顔にも――額に傷のある、鋭い目つきの男だった。

 高い身長に筋肉質の体を持つ美丈夫。

 どこか影を背負った憂いを帯びた瞳で、男は周囲を見渡すと呟いた。

 

 

「地球か……相変わらず、生臭いな」

 

 

 そして、階段のステップを進む。

 

 

 リュー・フェイウォン大尉。

 

 

 彼こそが、この物語の主人公。

 

 

 これは、全てをなくした男が再び大切な者を手に入れて――。

 

 

――また……失うまでの物語である。

 

 



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解説
登場人物「メアリー・スー」


メアリー・スー

階級:少尉

16歳(女性)

 

 やや幼い顔立ちに、透き通るような白い肌、肩まで伸ばした輝くような金の髪、宝石のように美しい碧の瞳を持った少女。

 身長はコーカソイド系にしてはやや小柄。見た目にそぐわない豊満なバストの持ち主。

 明るく元気で無邪気な性格をしており、RIP隊のムードメーカー。

 基本的に髪型はワンサイドアップにしている事が多い。

 ちょい足しマニアで、持ち物には大量のスパイスなどが含まれる。

 好きな食べ物は肉類全般。嫌いな食べ物は虫類や爬虫類、雑草っぽい草など。

 好きなスパイスはフライドガーリック。(だが、絶対必須なスパイスとしてカレー粉と塩を上げている)

 

 連邦軍のニュータイプ研で施術を受けた強化人間であり、主に肉体(フィジカル)面や、思考速度と反射速度を薬で強化されている。

 近接戦のスペシャリストで、モビルスーツに乗りさえすれば白兵戦で負ける事はまず無い。

 一方、射撃の成績が悪く、彼女が乗る機体は常に、超加速で敵陣に乗り込み、白兵戦で敵を倒すタイプにカスタマイズされている。

 

 生身の白兵戦は苦手。体の使い方が素人レベルなのと、胸が邪魔なため、らしい。

 避け続けるなら得意だが、背丈の問題でパワーが足りないため、攻撃力が足らないようだ。

 ナイフや銃火器を持たせれば白兵戦でも一般兵よりは遥かに強い。が、比較的非力なため重火器を持てない。

 

 反射性と回避性能は高く、強化され付与された擬似ニュータイプ能力により狙撃なども避ける事が可能。

 

 強化の副産物として、将棋やチェスの天才となっており、他人の行う30手先までなら予測可能。

 その能力を生かし、把握できる射程圏内の行動を全て読み、超高速で最適解の行動をとり、近接戦のアドバンテージを取る。

 だが、射程外からの素早い強襲などのイレギュラーには若干弱い。

(もっとも、それさえも、ほとんど擬似ニュータイプ能力で克服されているが)

 

 幼少期に被験体としてニュータイプ研に集められた孤児の一人。

 強化施術の副作用により過去の記憶を失っているが、精神は比較的安定している。

 

 コードネームは『ラビット』。

 

 このコードネームは研究所時代からのもので、記憶は研究所での施術以降のものしか持っておらず、本名も不明なためコードネームで呼ばれ続けていた。

 

 名前は偽名であり、軍に登録された際に偽造戸籍を取得するために付けられた。

 

 あまり有名では無いものの、一部敵兵からは『ヴォーパルバニー』として恐れられている。

 

 

  ウサギのエンブレムに気をつけろ。うかつに近寄ると首を刎ねられるぞ。

   いやいや、たかがメインカメラがやられた所で……。

    馬鹿野郎。コクピット内のお前の首が消し飛ぶって言ってんだよ。

 

 

 

 

 



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登場人物「ジニー・メイ」

ジニー・メイ

階級:少尉

17歳(女性)

 

 腰まで伸びた黒髪をツーサイドアップにまとめた、小学生と見間違える程に小柄でやせ細った体躯の少女。

 コーカソイドと日系の遺伝子を持つスペースノイドで、肌は比較的白に近い。瞳は黒。顔立ちは日系に多い幼い顔立ち。

 

 性格は大人しく、小声でポソポソと不機嫌そうに喋る。

 サイド6リボーコロニー出身。連邦の軍事に関わる兵器会社の幹部の父と開発者の母を持つ。

 

 連邦軍のニュータイプ研で施術を受けたニュータイプ候補の被験者であり、施術を受けた強化人間。

 努力の結果、狙撃の達人となり、その実力を見込まれて研究所に連れて行かれた過去を持つ。

 

 本名はステファニー・マクガーレン。(現在では行方不明の末、死亡扱いされている)

 

 親の事故死や親戚の裏切りにより他サイドのコロニーに捨てられ、思春期をスラムで育つ。

 そのため栄養が足りずに背丈が成長しきれなかった。

 非合法の児童買春斡旋業者に拾われ、地球の物好きに買われて地球へと不法に降りたつ。

 その後、屋敷から逃げ延びたり、地球に住む親戚に拾われたり紆余曲折だらけの人生の末、軍にスカウトされる。

 

 数秒後の敵の位置を何となく察知できる能力を持つ。

 また、ニュータイプ特有の直感を多数有する。

 (一年戦争末期にサイド6へのジオン軍侵入やケンプファーの強襲、ザクの出撃など、直感的に感じとって危険区域から逃げたり警告をするなど、すでに覚醒のきざしを見せ始めていた)

 

 中距離から遠距離戦に長けており、射撃と狙撃のスペシャリスト。

 反面、素早いパイロット操作が苦手で、直感で理解はできても回避行動にフィードバックできないという弱点を持つ。

 モビルスーツに乗っていない時でも射撃戦のエキスパートであり、特に狙撃を得意とする。

 

 モノアイフェチであり、ジム系のデザインを好むメカニックとはよく口論している。

 

 中二病臭いコードネームを付ける悪癖があり、RIP隊のパイロット全員にコードネームがあるのは大体この子のせい。

 趣味も中二臭く、私服がゴスロリ服だったり甘ロリ系の派手な服だったりする。

 趣味は狙撃、幼少期は気孔と瞑想、ホットヨガにはまっていた時期もある。

 狙撃以外の特技は合気道、ブラジリアン柔術、コマンドサンボなど。これは強化後に兵士としての白兵戦用に学んだもの。

 

 家系を遡ると、遠い親戚に旧世紀の世界大戦で有名だった、とあるフィンランド人の狙撃手がいる。

 

 幼少時代から直感が優れており、霊能力者気取りのオカルト少女だった。片目に眼帯といった個性的な私服ファッションもその頃から。

 

コードネームはカトブレパス。

 

   その瞳に睨まれた者に未来は無い。

 

 

 



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登場人物「他メインキャラクター」

リュー・フェイウォン

階級:大尉

29歳(男性)

 

 物語の主人公。頬や額に傷がある、高い身長に筋肉質の体を持つ美丈夫。どこか影を背負った表情をしている事が多い。

 彼のいる所、必ず多くの死人が出る。しかも一人で生き延びる。そのため『疫病神(ビッグトラブル)』の異名を持つ。

 中華系移民のスペースノイドで、趣味は瞑想、武道全般。特技は占い。幼い頃から中国武術、瞑想、気孔などを行っていた。

 サイド5の生き残りで、開戦時期もおぼろげに予測はしていたが、誰にも信じてもらえなかった。

 

 一年戦争時はその直感で何度も救おうとしてきたが信じてもらえずに助けられずに来た過去を持つ。

 

 代々易者の家系で占いの技術も高い。コールドリーディングではなく直感で占うタイプのものを得意とする。

 

 両親は、気孔、中国武術(太極拳と形意拳、八卦掌と八極拳、心意六合八方拳の融合)、占いをまとめた『仙道』というオリジナルの独自流派を立て生計を立てていた。(出身コロニーでは一時期流行っていた)

 

 自然覚醒のニュータイプであり、危険察知能力や未来予測、感情察知能力が異様に高い。

 

 どの距離での戦闘もバランスよくこなせるが、RIP隊でのランクは下の方。

 ただし、回避能力が異様なため、勝てなくても負ける事は無い。

 

 コードネームはウロボロス。

 ジニーに名づけられるが、中二病臭さに若干引いている。

 

 

   ――これは、大切な物を手にした男が、全てを失うまでの物語。

 

 

 

ユマ・シラサワ

階級:曹長

27歳(女性)

 

 日系スペースノイド特有のやや小柄な体躯に、きっちり整えられたボブカットが特徴的な女性。

 瞳と髪色は濃い茶色で、肌色はやや色白なモンゴロイドカラー。年齢よりかなり若く見られるタイプ。性格はいたって真面目。

 パイロットスーツ以外では、眼鏡に白衣といった姿を好む。実はかなり鍛え込んでおり、筋肉質で着やせするタイプ。

 ロナウドいわく「エロい腹筋」をしており、筋肉質である事を恥じている。

 努力家だが努力を見られる事を恥じる傾向があり、黒いタンクトップ姿でこっそりトレーニングしている姿も稀に見かけられる。

 整備服姿でいる所もよく見かけられ、実際、見た目だけではなくメカニックや整備兵としての腕前もかなりのもの。

 

 サイド6の日系移民コロニーの出身。

 

 平和な世界であったがゆえ、格好良いモビルスーツに憧れる。

 武器マニアにしてモビルスーツマニアで、ジオンの会社を吸収合併したアナハイムに入りたがったものの、エース仕様の突飛な企画、量産に向かない企画ばかりを持ち込み、モビルスーツ愛を暑く説いた結果、書類選考で不採用となった。

 

 一年戦争のエースが好きでアムロ・レイになら「あった瞬間全裸になって告白したい」と言い張る程の熱愛ぶりで、国が発表した無数のエース達に憧れを抱いており、とある握手サイン会では失神&失禁した事もあるほど。

 

 昔はやぼったい眼鏡おさげのオタク娘だったらしい。軍入りを志してからは体をめっちゃ鍛え、今に至る。

 

 マシンガンやライフルなどの中距離射撃戦を得意とする。バズーカなどの重火器も好む。

 白兵戦はそれほど得意ではないと言ってはいるが、オールドタイプとしては破格の回避テクニックや運動センスにより、エースレベルの実力を持つ。

 

 モビルスーツ戦外における白兵戦では、チーム1の徒手格闘能力を誇る。

 

 暇があれば筋トレか、モビルスーツの最適改造案、改修企画を練ったりしている。

 『現地改修魔王』の異名を持ち、とんでもない魔改造を施すため、機体開発部からはめっぽう嫌われている。

 

 コードネームはバジリスク。

 

  そいつの圏内(テリトリー)に近づくな! 彫像(スクラップ)にされるぞ!

 

 

 

ロナウド・D・ヴェイカー

階級:大尉

36歳(男性)

 RIP隊のモビルスーツ隊小隊長。好きなものは酒、タバコ、女という典型的なおっさん。

 陽気な人物で、常に部隊を堅苦しくないものすべく心がけている。気楽に楽しくがモットー。

 コーカソイド系のスペースノイドで、ルウム戦役以降、人員が不足し始めた際に連邦軍に入隊した叩き上げ。

 

 喧嘩殺法の使い手で、一言で言うならば『卑怯な戦術』『トリッキーな戦法』を得意とする。

 ゲリラ戦などトラップを利用した戦術や、超近距離では、間接を極めるようにした投げ飛ばしでバランスを崩してマシンガンを抜き撃ちしてコクピットを射抜く。コクピットに打撃などで衝撃を与えてパイロットを直に負傷させるなど、泥臭い戦術を好んで使用する。

 

 熟練した戦術、狙撃、白兵、中距離戦闘、全てにバランスよく強い。

 もちろん、モビルスーツに頼らない白兵戦も得意としている。

 

 全てにおいてバランスよく強いのだが、メアリー、ジニー、ユマ達の得意ジャンルにおいては彼女たちよりも下だったりする。

 

 愛称はロニー。コードネームはマンティコア。

 

 一年戦争時代ではエース級の実力者だったが、ある事件でティターンズ上官を殴り飛ばし懲罰部隊に送られる。

 同僚の知り合いがより高い階級であったため、かろうじてその場で銃殺刑にはされず、最前線送りとなる。

 

 マンティコア隊と呼ばれるその隊は、第二のファントムスイープ隊として最前線に送られ続けた。

 ジオン残党掃討戦の最前線で、秘匿部隊として表に名の上がらない友軍として活躍を続ける。

 実質戦果も数えられる事は無く、使い捨てとして扱われていたようだ。

 

 ちなみに余談ではあるが、こうした最前線の懲罰部隊に、エースレベルのパイロットは分散して配置された。

 作戦勝利のためには最低限役立ってもらえるよう、戦力は確保したい、だがエースが複数存在し、生き残りやすくなってしまっては懲罰にならない。何よりエース部隊を作ることを連邦が恐れたからである。

 また、ティターンズとしては、スペースノイドに戦果を上げられ昇進されても厄介だからでもある。

 こうして、訳ありで上層部から睨まれた者が死地として送り込まれたのがマンティコア隊である。

 

 その数少ない生き残りで、隊のリーダーだったため、ジニーから『マンティコア』のコードネームを名づけられる。

 

 ちなみにマンティコア隊は懲罰部隊にもかかわらず戦果を出しすぎたため、ティターンズ高官に嫉妬され、生き残りはエース候補として他部署に飛ばされ再度分散された。

 

 その後、さらなる閑職として、お守り部隊となるRIP隊の小隊長として配属される事となる。

 しばらくゆっくり休め、という意味だろうと解し、バカンス気分で気楽に過ごしている。

 



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用語「RIP隊」

RIP隊

 連邦軍所属の遊撃部隊であり、ニュータイプ研の強化人間試験運用部隊も兼ねている。また、新武装の試験運用部隊でもある。

 RIPの意味は『レストインピース(安らかに眠れ)』であり、特殊遊撃部隊という名目の閑職である。

 通称リップ隊。一言でまとめると、エースと強化人間ばかりの窓際部隊。ティターンズに睨まれたエースの墓場。

 

 主に後方支援または、兵站輸送の護衛など。直接戦果に繋がらない戦場へと送られる事が多い。

 一年戦争の一部エースや、ニュータイプ候補、強化人間などで結成されている。

 

 なぜこんな部隊が成立しているかと言うと、全員がティターンズに睨まれており、かつ何らかのコネがあるためである。

 主にスペースノイドで結成されており、派手に暴れて昇進されないよう僻地へと飛ばされる事が多い。

 アースノイドであってもティターンズ将校に睨まれた場合、ここに送られる事がある。

 普通ならば最前線の懲罰部隊に送られる所だが、何らかのコネや政治的事情などによって守られている。

 

 基本的にはピクニックレベルのお仕事(ただしエース目線においてのみ)が多いが、いざと言う時には死地へと送られる予定になっている。

 

 上記複数の意味を持って「やすらかに眠れ(永遠に眠り続けろ)」という名前を付けられている。

 

 

 実は、強化人間とニュータイプ候補の二名を鍛え上げるべく、できるだけ確実に実戦での経験を積ませるための部隊でもある。

 

 15歳で脅威の戦闘を行ったエース、アムロ・レイは実戦で己を磨いていった。

 ジオンはパイロット経験の浅い十代の少女をニュータイプとして研究していたとも、それが件のエースと互角の勝負をしたとの噂もある。

 感度の高い思春期において、戦場で経験を積ませるほどニュータイプとしての覚醒が速いという一部俗説から、ニュータイプや強化人間といえども使い捨てにするのではなく、実戦で勝って生き残らせることこそが結果を残すには重要ではないかと考えた。

 実戦経験は早いに越したことは無いが、生き延びなければ成長には繋がらない、ゆえに慎重にエースを育て上げる。

 そのための試験部隊であり、次代は『特別な強い兵士』こそが、新たな戦場の主流になるとの予想から生まれたものである。

 

 さらに特殊な教育型コンピュータを用いて、エース専用の特殊な体さばきなど、身体運用モーションにおけるAMBACの効率実験および、使用パターンなどを覚えさせることで、エースのみが使いこなせる究極のプログラム作成、及び実験のためのプロジェクトも兼ねている。

 

 上記プロジェクトの内、ほとんどは基本的に表向き伏せられており、何のために存在しているのかわからない窓際部隊と思われている。

 一見楽な仕事ばかりさせられているように見えるため、バカンス隊、ピクニック部隊、子守隊とも揶揄されている。

 そのため、財界のお偉いさんの娘が乗っているとか、様々な噂が流れている。

 

 もちろん、何らかの特務部隊のカバーである可能性を直感的に見抜いている者もいる。

 

 そういった様々な思惑により子守部隊として、かつ厄介なエースを追放する閑職としても機能しているのがRIP隊である。

 

 

 

 

 



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搭乗機体

登場予定のオリジナル機体です。


高機動強襲陸戦型ガルバルディβ改

 メアリーの専用機としてカスタマイズされた現地改修型のガルバルディβ。

 射撃の苦手なメアリーのために、様々な格闘戦モーションに適した白兵戦特化の魔改造が施されている。

 至近距離までの移動中に必要な牽制攻撃用に、比較的当てやすい連射系の実弾武器が選ばれている。

 また、実弾武器ばかりなのは、その分スラスターを増やして機動性と運動性を高めるためでもある。

 鹵獲した機体や中破した味方機体の残骸から姿勢制御スラスター、増設スラスター、追加のブースターなどを調達し、増設している。

 ジェネレーターのみ、アッシマー用の高出力のものを調達して使用できるように改造が施されている。

 上空戦も含めた三次元機動、うつぶせのまま地面スレスレを飛行する推力、擬似ホバー移動などを実現している。

 上級者(エース)向けの格闘戦における機体運用試験データを取る事を目的としている。

 

武装

 

頭頂部60mmバルカン一門

 信号弾発射口のあった部位に頭部バルカンを一門設置。

 ケンプファーのようなうつ伏せのまま推力飛行する際の牽制、ミサイル迎撃に用いる。

 武術モーションの低姿勢状態などで近接格闘距離の対象へ撃つことで目くらましやかく乱などにも使える。

 

頭部60mmバルカン二門

 ガンダムやジム系のバルカンを頭部の左右に増設し、近接戦までの移動と、格闘戦時の牽制などに使用する。

 

90mmマシンガン×2

 ジム系の実弾マシンガンを流用。

 近接するまでの間、両手で持ちながら掃射して牽制する。

 敵近接戦闘ゾーンに入るか、弾切れ次第放棄、後で余裕があれば回収する。

 

マルチプルビームエッジユニット×10

 ジムガードカスタムなどで使用されているボックスタイプのビームダガー(両腕前甲部に取り付けたもの)ユニットを流用。

 各部位からビームダガーを出せるように改良したもの。

 脚部の爪先、かかと、さらに膝部の装甲先端と肘部装甲の先端からは曲げた際に、左右肩部からも一箇所づつ、それぞれ行動の阻害にならないよう、オンオフで切り替えて使用する。

 これにより、本来ならば牽制や補助行動であった蹴りモーションや肩からの体当たりなどがビームサーベルと同等の一撃必殺の武器へと昇華されている。

 短めのダガーサイズでの出力になっているのは、ジェネレーターの出力関係によるものだけでなく、動きの邪魔にならない事、なにより、背部バックパックまで貫いて誘爆させないためである。

 

ビームパタ×2

 ジムスナイパーカスタムの両椀部装甲先端に取り付けられた内臓型のボックスタイプビームサーベルユニットを移植したもの。

 銃を捨ててサーベルの柄を手に持つまでの動作が一瞬とはいえ隙になる、との事で増設された。

 出し続けていると活動に制限がかかるため、オンオフの切り替えが重要。

 

ビームクォータースタッフ

 まっすぐに伸びた長い柄の両先端からビームサーベルを発生可能な試験用武器。

 エース専用格闘モーションの杖術スタイル、神道夢想流杖術の手の内で滑らせて打ち込むモーションに適応しており、柄の握り手を器用に滑らして持ち手の幅を変えながら打つことで遠近両用の格闘戦が行え、ロングレンジ、ミドルレンジ、ショートレンジにまで対応できる。

 棒術モーションで旋回させるなど、対多人数戦用のモーションなども適応されている。

 ストライカー系のツインビームスピアを使用したパイロットから出た不満点を解消するために開発された。

 なお、リミッター機能によりサーベル部分が自機に当たりそうな行動を行う際は、危険領域まで動く直前にサーベルが一時的にオフになる。

 

 

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フルアーマーハイザックカスタム

 ジニー専用機として現地改修の魔改造が施されたハイザックカスタム。

 射撃に特化しており回避の苦手なジニー用に装甲が強化された中距離射撃戦と後方支援、狙撃に特化された機体。

 エース及びニュータイプ用に、狙撃機と後方支援機の開発試験運用データを取る事を目的としている。

 ジム2をベースにアッシマー用の強力なジェネレーターを使用し、ジムキャノン2の装甲や、頭部内の機構をジムスナイパー2のバイザー内機能である精密狙撃用センサーと高倍率カメラに換装し、ハイザックの頭部装甲をガワとして使用している。

 よって実質ハイザックと呼べるかどうかは非常に怪しい。

 狙撃モード解除をすると、装甲内部でスライドし、普通のモノアイを適用させるという器用な変態的改造処理がされている。

 中破した味方機の増加スタスター等を流用し増設する事で、重装甲にも耐えうる運動性と機動性を確保した。

 さらにチョバムアーマー(複合装甲)、スペースドアーマー(中空装甲)、リアクティブアーマー(爆発反応装甲)の三種を駆使した重装甲を追加している。

 ミルフィーユ式耐ビームコーティング(ジムキャノン2の盾などに利用されていた耐ビームコーティング処理を表面だけでなく増設した装甲の間にも施す)を試作として施しており、通常よりも若干ビームへの耐性が高い。(それでも数秒で溶ける)

 重装甲重武装だが、ジムキャノン2程度の運動性と機動力はギリギリ確保する事に成功している。

 

武装

頭部60mmバルカン4門

 左右に二門づつ上下に銃口を付け、4連掃射できるようにしたおなじみのバルカン。

 大破して残されていたジムヘッドのバルカン部分を流用。

 

肩部

240mm実弾キャノン二門

 大破したガンキャノン系のパーツを流用したもの。長距離支援砲撃が可能。

 

メイン

75mm実弾スナイパーライフル

 ジムスナイパー2の武装。倉庫に眠っていた余剰兵器をコネで頂いて有効活用している。実弾仕様の狙撃ライフル。

 

サブ

90mmマシンガン

 ジム系のマシンガンを改修し、下部に増設グレネードを追加したもの。

 中近距離の牽制と迎撃に使用する。背中の盾裏に設置してある。

 

脚部ミサイルポッド×2

 ハイザックの武装を流用した三連装ミサイルポッド。あると意外と便利。

 

増設武装

ビームベイオネット

 ライフル下部とマシンガン側面部に増設されている。先端からビームサーベルを展開できる。不意の近接戦闘時に有効。

 

グレネードランチャー

 マシンガン下部に増設されたグレネード。マシンガンで倒しきれない敵や戦艦、要塞攻略などに。

 

閃光グレネード

 大盾と盾の裏に3個づつ収納されている。マニピュレーターで投擲して使用する。あると安心。

 

隠し武装

アクシデント・ナンバー1

 下腹部下部前方に増設されたビーム射出口。エネルギーCAP式のビームスプレーガンを内臓させ、発射させられるように作成されている。現地改修魔王と天才メカニックコンビの変態技術により、装甲が開閉するようになっている。

 射程も威力もビームスプレーガン程度であり、本来のものと同様にシングル、バースト、レンジの三種使用が可能。

 万が一近接された時に、前面の敵を牽制、または撃破する。

 命中させると何となく気持ちが良いらしい。だがその分装甲がもろい。股間は弱点。はっきりわかんだね。

 

アクシデント・ナンバー2

 ガンキャノン系のハンドグレネード(ヒートナッツ)を下腹部最下部やや後方に格納したもの。

 落下させるために格納装甲を開いて射出すると、同時にスイッチが自動的に入る仕組みになっており、全力後退のブースト推力飛行時に落としたり、全力推進ジャンプ時に落とすなど、使い方次第では不意の大打撃を与えうる隠し武器。通称ビッグシット。

 

アクシデント・ナンバー3

 後背下部に取り付けられたスモークディスチャージャー。弾数は3。

 逃げるときなどに使用する、後方へと煙幕を射出させる。暴徒鎮圧の対人用に催涙効果も付与されている。

 ナンバー2との併用で煙幕と同時に落とし、牽制射撃で移動を妨げ爆破するという戦術も可能。通称スカンクボム。

 

両腕部小型シールド×2

 複合&中空装甲による増加装甲が施されており、表面にも間にも多重でビームコート処理がなされている。

 ジム2ストライカー用の余剰パーツを流用しているため、一部ルナチタニウム製。

 丸みを帯びた構造で弾丸をそらす形になっている。

 

両肩部シールド

 両肩にハイザックの肩シールドを二つ、複合装甲、中空装甲による増加装甲、間と表面には多重でビームコートが施され、丸みを帯びた構造で弾丸をそらす形になっている。さらに外周部ウェラブルアーマーが追加されている。重いが硬い。

 

現地回収型増設追加装甲式へヴィガーディアンシールド

 大破したジムガードカスタムが残した備品を流用し、複合装甲、中空装甲による増設装甲を追加し、合間にミルフィーユ構造式耐ビームコートを施し、さらにジムストライカーなどに使用された外周部ウェラブルアーマー(増設爆発反応装甲)も増設した大型の重盾。

 現地改修魔王達の変態技術により、ちゃんと丸みを帯びた構造で弾丸をそらす形になっている。

 重さによる取り回しの難しさを考慮し、側面にスラスター、補助ブースターが増設されており、パージするまでは本体の電力によるスラスターやブースターの運用が可能となっている。(ビームサーベルのように盾の持ち手から電力が供給される仕組み)

 緊急防御時の取外しや、サイドステップなどの補助にも、戦術としてシールドバッシュも可能。

 スラスターの誘爆だけが懸念点として改善案を模索されている。開発者いわく「裏側だから平気平気」

 

現地改修型増設追加装甲式シールド

 主に背中に取り付けており、メインの盾が破壊された時に使用する保険の盾。

 ジム系の最新式シールドを装甲増設&多重ビームコートしたもの。やっぱり丸みを帯びた構造で弾丸をそらす形になっている。

 背後からの攻撃に対する増加装甲にもなりうる。

 

 

 

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高機動強襲型ジムⅡアサルトバレット

 

 ユマ専用機にカスタマイズされたジムⅡ。

 フルアーマーガンダム7号機で取れたデータを生かすべくオーガスタ研で研究開発された。

 オールドタイプのエースのために試作されたモビルスーツ試験機。

 本機は、モビルスーツにおける拡散メガ粒子砲の有用性及び、オールドタイプエースパイロットへの高機動機としての試験機を兼ねており、いくつかの現地改修を得て試験した結果による、パイロットからの要望をフルに取り込んだ傑作機となっている。

 装甲など、主な構造はジム2のものを流用しているものの、ジェネレーターには高出力のアッシマーのものを魔改造の末ねじ込み、サブジェネレーター、テールスタビライザー、バックパック、スラスターなどはガンダム7号機に使用されていたものとほぼ同等の余剰パーツ(若干の失敗作として使用されなかったもの)を思い切って改修して使用。

 また、生産ライン上で余っていた予備のパーツ、主にジムカスタムのもの等、比較的最新かつ高性能のものをいくつか流用し、アポジモーターや姿勢制御バーニア、スラスターなどを改造して増設している。

 また、テールスタビライザーは左右に一対、扇形に開くような改良された形状で取り付けられている。

 さらに、ガンダム6号機用に使用されていた脚部ホバーユニットの予備パーツを使用し、ホバー走行を可能としている。

 結果、全体的に運動性と機動力を高め、高機動型に改造されている。

 

 頭部デザインは「余剰パーツで適当に作らせるから好きなの選んで」と言われた結果、ユマの趣味でジムスナイパー2の余剰パーツが流用されている。理由は「これが一番かっこいいから」との事。ちなみに、狙撃用バイザーの中身は不要なため抜いておりただの飾りとなっている。

 

 若干装甲を減らして軽量化も施してあるが、そもそもサブジェネレーターが増設装甲扱いのパーツ部分に内臓されており、本来の使用法とは異なり取外し不可なように改修設計されているいるため、全武装装備中のみ動きが若干鈍る。

 だが一部武装を弾切れにしてパージする事で最終的には機動性を高められるようになっている。

 

 また、ホバー移動の弱点を克服するために、特製のフィギュアスケートモーションを使用し、ホバーによる移動中の撹乱戦術および三次元機動を実現している。

 エース向けのトリッキーな動作、アクロバットモーションなどの併用により、三次元機動中の動きをさらに予測不能にしている。

 

武装

頭部バルカン

 60mm頭部バルカンを二門。いつものアレ。

 

ビームパタ

 ジムスナイパーカスタムで試験運用された両椀装甲上部に内臓されたボックスタイプのビームサーベルユニット。

 武器変更の無駄な時間をできる限り減らしたいらしい。

 

ハンドビームガン

 両腕装甲前下部に一門づつ取り付けられた内臓型ビームガンユニット。

 アバオアクー攻略作戦時にガンダム4号機の1550kwのジェネレーターで試験運用されたもの。

 スラスターや他のビームの出力とジェネレーター関係のため、有効射程は低く、近接戦闘用。

 掌を開いて発射すると見た目なんか格好良いと好評。スタイリッシュらしい。

 

90mmジャイアントガトリングガン

 ガンダム五号機に使用されていたとされる両手で持って使用する大型ガトリングガン。

 生産ライン上で予備に余っていたパーツを頂戴して作成された。

 装弾数3000発、ケースレス弾を使用し毎秒50発の連射が可能。

 左腰にドラムマガジンを装着し、給弾ベルトで本体に接続する。

 バレルの焼きとめ防止のため。5秒のトリガーリミッターが施されている。

 全弾発射後はパージし、後で可能な限り回収する。

 

90mmマシンガン×2

 背部ラックに設置してあるジムマシンガン二丁。使用後は破棄して、戦闘後にできるだけ回収する。

 

グレネード

 マシンガン下部に増設されたグレネード射出口。まずは撃ちつくせ。それからだ。

 

腰部二連装ミサイルポッド

 ミサイルを発射後、パージする。これもできるだけ後で回収する。

 

フットミサイル

 連邦式の4連装ミサイルポッドを脚部に取り付けられるようにしたもの。

 なるべく早めにぶっぱなしてデッドウェイトを軽減させるのが使用のコツ。

 後でやっぱり回収する。ハイザックの武装を改造して流用。

 

リアクティブフレアスカートアーマー

 増設した二段目の増設スカートアーマー。

 さらに一番下の段のスカートアーマーは稼動式に魔改造して長さも増設する事で防御力を高めている。

 

淑女のたしなみ

 リアクティブフレアスカートアーマーに内臓させたハンドグレネードを4個、アーマーごとパージして爆破する。

 ボタン一つで落とす際に自動的にスイッチが押され一斉投下できるよう加工されている。

 主に近接戦を仕掛けられた際に逃げながらばら巻きつつ後方へ撤退して使用する。隠し兵装の一つ。

 または上方へと推力飛行上昇しながらばら撒くなど。通称スカートクラッカー。

 パージしたアーマーは後でできるだけ回収すること。

 

胸部拡散ビーム二門

 胸部の左右に一門づつ内臓されたもの。ビームスプレーガンの銃口と機材を流用、改造して取り付けてある。

 前面の敵に武器を構える余裕が無い時の目くらまし用だが、ジムのビームスプレーガン拡散モードレベルの火力はある。

 余談だが、リックドムⅡの出力1219kw(0080~0083)時点で、すでに拡散ビームは最低限の攻撃威力を持つことに成功している。

 

リトルブラザー

 下腹部前方下部から放出される、高出力かつロングサイズのビームサーベル。

 腕を動かす時間的余裕が無い時、かつ不意の近接戦闘状態や鍔迫り合いといった極限状況において前面へと不意打ちが行える。

 高出力かつロングでビッグなモノゆえに、長時間の使用はできない。オンオフ切り替えて緊急時のみ使用すべし。

 ジェネレーター出力が足りていればビームライフル級の射撃兵器にして欲しかったとの事だが、現時点では無理。

 

スカンクショット二門

 左右テールスタビライザーの間にある後背部装甲に取り付けられた射出口。

 ジムスナイパーカスタムが使っていた二連ビームガンを流用したユニットで、射出口の構造と設定をスプレーガンの拡散モード時のものとして改良が施されており、常に拡散モードのビームを二門同時に射出できるようになっている。後ろを取られた時などの緊急時に噴射する。

 後背部装甲の稼動域を増やす事で、ある程度の射角変更も可能。

 テールスタビライザーやバックパックを巻き込まないよう拡散射出時の角度調節が行われている。

 

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高機動強襲型アッシマー

ロナウド専用にカスタマイズが施されたアッシマー。

現地改修により、ビームライフルの使用をやめる代わりに姿勢制御バーニア、増設スラスターによる高い機動性と運動性を確保。

ダブルビームソード二刀流と90mmジャイアントガトリングガンを使用する。

 

武装

90mmジャイアントガトリングガン

 ユマ機の物と同じ。どちらかというと、ユマ機が紛失した時用のスペアを使わせてもらっている。

 

ダブルビームサーベル×2

 先端から普通のビームサーベル、柄後頭からはビームダガーを発生させる事ができる。

 オンオフ切り替えが可能で、都市格闘戦用シラットをベースにしたダブルスティックモーションや逆手ナイフモーションで使用する事により、二刀流によるハイレベルな近接戦を可能としている。

 上記複雑な動きに対応すべく、自滅防止用の誤作動キャンセル機能が制御コンピューターに組み込まれている。

 これは自身の機体を破壊しうるモーション時に、危険な領域に放出されているサーベルやダガーが各自、自動的にオフにされるといった機能である。

 よって、このサーベルによる自害はできない。

 

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乗り換え(予定機)

 

高機動強襲型ギャプランER

 0087年中盤以降のメアリー専用機。

 強化人間にしか乗りこなせない厄介な性能に対して上からの評判が悪かった上に、一般兵でも乗れるようデチューン命令が来た事に憤慨したオーガスタ研から譲り受けた先行量産型ギャプランのプロト機(試験運用に使われた)のフレームに量産機レベルに改修が施されたものをベース、ギャプラン用の余剰パーツを用いて、高機動強襲型ガルバルディβの武装や増設スラスターなども分解して組み込んで現地改修されたもの。

 量産されたギャプランよりも高機動、運動性重視。半面、操作性最悪の性能となっており、性能の限界まで出し尽くさないと本領を発揮できないどころか機体に振り回される。

 また、パイロットの安全を度外視した設計のため、耐G用ヘビーパイロットスーツを着用しなければ強化人間でも耐え切れない。

 戦闘後は目が充血して紅く染まっているため味方からさえ『血涙のバニー』『殺戮狂兎(ヴォーパル・バニー)』のあだ名が付けられ恐れられる事に。

 

フルアーマーマラサイカスタム

 0087年中盤以降のジニー専用機。

 武装にジムスナイパーⅢのものが追加され、増加スラスターなども最新型でエース仕様の物に一新された。

 中身はマラサイ。実弾だけでなく、ビームスナイパーライフルも同時に持ち運び、使用できるようになっている。

 武装や装甲はフルアーマーハイザックのものを流用している。

 

高機動強襲型ジムスナイパーⅢバレットマスター

 0087年中盤以降のユマ専用機。

 装甲をマラサイのものに強化しており、中身と頭部はジムスナイパーⅢのデータを元に製造されたものに変更されている。

 武装は高機動強襲型ジムⅡアサルトバレットの物を流用。

 

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乗り換え(予定機2)

 

ギャプランER

 宇宙編以降のロナウドの専用機。

 メアリーのギャプランを宇宙用に再改修し、マイルドにデチューンしたもの。

 武装も白兵戦のみではなく、射撃武器などをバランスよく追加している。

 

 

 

ニュータイプ専用高機動強襲型可変モビルスーツ『ヴォーパル・ハウンド』

 ニュータイプ専用高機動強襲型可変モビルスーツとして生産された先行量産型試作機プロト・ハウンドだったが……。

「猟犬どころか、はねっかえりのじゃじゃ馬じゃないか」

「縛ってしまいたいところだが、それじゃあ狩りには出せませんしなぁ」

「困ったものですな」

「はっはっは」

 といった茶番があったらしい。

 そんな感じであざ笑われ、せっかくのニュータイプ用改修部分を全て没案にされた挙句、平凡なエース(という矛盾した謎言語)にも使いやすいよう機体をデチューンするよう決定がされた。

 挙句、ハウンドドックの名称のはずだったが、縛り付けてバインドドッグにするべきだ、と迷走した末、はねっかえりだからバウンドドックでいかがでしょう、と名づけられ笑われた。

 憤慨したオーガスタ研は再度、自分たちの正当性を認めさせるべく、RIP隊に設計図とフレーム、装甲などが送られる事となる。

 その結果生み出された怪物機。

 装甲などの変化による軽量化、および多くの最新式スラスターなどをふんだんに増設した贅沢な機体。

 射撃が苦手なメアリーのために格闘戦用にカスタマイズされており、余分なビーム射撃兵器をオミットする事で、スラスターなどの増設や出力強化により機動性と運動性をさらに向上させている。

 やはりパイロットの安全を度外視しており、耐G用ヘビースーツを着た強化人間にしか使いこなせない。

 武装はメアリー専用機のものを乗せ変えて使用。

 

トワイライトデスティニー

 とある研究所から鹵獲奪取したモビルスーツ。

 ペイルライダー計画とGP計画の機体ノウハウを用いて極秘裏に開発されたアナハイムの特殊機体だったが、エゥーゴに届けられる前にティターンズに気づかれ、エゥーゴとの繋がりを否定するために基地ごとデータは破棄され、無かった事にされた。

だが何とか奪取に成功していたRIP隊がNT研に届け、NT研が研究開発していたタナトスシステムの運用試験を兼ねてRIPが身元不明の機体として鹵獲機扱いで使用する事になり、フェイウォンの専用機となる。

搭載されていたブラックボックスにはプロトタイプのバイオセンサーが取り付けられている。

 

タナトスシステム

 N研が極秘に開発していたエグザムやハデス計画を元にしたデータで動く特殊な準サイコミュ。

 ニュータイプが乗り込むと強力な力を発揮し、パイロットの性能を最大限に引き上げる。

 何度やっても上手くいかなかったが、鹵獲したトワイライトデスティニーによりなぜか完成してしまう。

 

ヒュプノス計画

 演算能力の高いニュータイプ『眠り姫』をスリープ状態にさせ、その頭脳や脳波を用いたシステムを使用してサポートする事で、タナトスシステムを動かすためのプロジェクト。

 エグザムとハデスを基盤としたニュータイプ強化用小型サイコミュ&特殊戦闘用プログラム。

 

 

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乗り換え(予定機3)

 

ヴォーパルハウンド・ヒュプノスドライブ試験搭載型

 “ある人物の死”により壊れた心を安定させるために再強化されたメアリーが駆る専用型試験MS。

 

 タナトスシステムの強化人間用改修プログラムである、ヒュプノスドライブを搭載している。これはトワイライトデスティニーを奪取した際に得た予備パーツのブラックボックスに入っていたバイオセンサーによって偶然運用に成功したもの。

 ヒュプノスドライブにより、ベルセルクモード(過去のトラウマを思い出させ狂気によりパイロットの能力を限界以上まで高める)の発動が可能となっている。

 また、サイコミュシステムの運用により実現された、先端にビームダガーを取り付けたサイコミュ式10連ヒートロッド(有線ビームアーム)により周囲に対するオールレンジ範囲格闘攻撃を可能とした。

 増加装甲の設置により追加されたサブジェネレーターで出力を高めた結果、さらに増設されたスラスターや、バーニアは、さらなる高機動と運動性をもたらし、パイロットの生存性を試すかのように驚異的な動きを行えるよう強化されている。

 

 10連ヒートロッドは後背部にフェニックスの尾のように垂れ流しにされており、地上での運用は考えられていない。

 試作された上記サイコミュ兵器は、インコムなどの試作として生まれた原型を用いている。

 

 



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