ナルト世界へ蟹座転生【完結】 (ノイラーテム)
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第一部:中忍試験期
プロローグ


●ミスティックハント

 封印を解かれ、あるいは砕け散った。

いずれかの理由で神秘の存在が解き放たれ、集め直さねばならない。

そんな話を聞いたことは無いだろうか?

小説ならば水滸伝だとか、漫画ならば小天狗天丸などが古典と言うべきか。

 

「それであんたの代わりに集めて来いと?」

『不満でもあるのですか?』

 俺が確認すると、依頼主であるカミサマは尋ね返して来た。

あくまで自称なのと、小間使いが居ないと目標を見付けられないので断定はしないでおく。

天使だとか御狐さまみたいな使役神の、上の方くらいに思っておけば間違いはあるまい。

 

「いんや。こちとら既に死んだ身だ。それにゴールドセイントの力をもらってナルトの転生なんざ夢みたいなもんさ」

『それでは何が言いたいのですか?』

 いわゆる転生特典の一つ、もらえるのはゴ-ルドセイントの力だった。

さすがに光速では動けないが、その世界で上位の能力と属性をもらえるなら願ったり叶ったりだ。

八月後半生まれである俺の星座は、十二星座でも十三星座でも上位カーストだ。かなり強力な力だと言えるだろう。

しかも転生先はナルトの世界なのだから、気楽な人生かはともかく、面白い冒険はできそうである。

 

「なんで俺なのか? もう一つはナルトの世界なんてモノがあるのか? 当然の疑問だろう」

『ああ、それは前提が逆です』

 自称神様はクスリと笑うと、頷いて簡単に説明し始めた。

おそらくは似たような説明を何度かして居るのだろう。

 

『落ちた場所がたまたま物語の中だった。その中に送り込めるモノの中で、貴方は色々な意味で適性があるだけのことです』

「あー。ブツが入り込んだことで世界が確定したってことか。……俺が何人目なのかは聞かない方が良さそうだな」

 良くできましたと褒めて居るような顔をされた。

どうやらパラレルワールドの発生条件とか説明して、一発で判る奴は少ないらしい。

その上で何度も試しているのか、あるいは複数の人間を、複数の世界に送り込んでいるようだ。

(「たまたま俺が特別なんじゃなく、駒の一つってことか。まあその方がありえるよな」)

 沢山のパラレルワールドにブツが入り込んでしまった。

面倒過ぎてカミサマは自分でやる気が無い、あるいは迂闊に入り込んだらカミサマ自身も危険。

そう思えば何となく納得が出来る。そして成功した奴も居れば失敗した奴も居るのだろう。

 

 話を聞いてパニックになる奴は論外としても、ブツを掠め取ろうとする奴や、入り込んだ世界を滅茶苦茶にしない奴が選ばれているに違いない。

 

 納得したところで転生し、どんな人生を送ってやろうかと夢見てさえいたのだが……。

ちょっとした問題が一つだけ存在した。

てっきり俺の星座である乙女座、ズレても獅子座の力だと思っていた。

だがしかし……ナルト世界での影響か、あるいはカミサマの意図なのか、蟹座の力を有して居たのである。

 

●ミストブレイカー

 ゴールドセイント……聖闘士星矢の世界には、星座カーストというネタが存在した。

星座によって強いキャラ属性や、弱いキャラ属性が存在するのだ。

もちろん作品によって上下したり、フォローされたりするのだが……。

上位カーストだと思っていたところに、下位カーストだと知ればガッカリもするだろう。何しろ蟹座はLCの途中まで、魚座と最下位を争っていたのだ。

 

 だが俺はここで考えを改めることにする。

嘆いて居ても仕方が無いし、ナルト・ワールドに限ってはあながち悪い能力ではないのだ。

俺はいつまでも悩む方では無く、新しい情報に新しい考えを切り替えるタイプだしな。

 

(「穢土転生……どう考えてもこの世界を滅茶苦茶にするのは、この術だ」)

 そう考えれば蟹座の力である、冥府送りの積尸気冥界波は相性が良い。

もしかしたらゴールドセイントの力をくれるというのは建前で、死者対策能力をくれるという意味があったのかもしれない。

ブリーチの死神でも良い筈だが、あっちは死者を狩る力ではなく、あくまで任務ということなのか。それとも俺の脳内から情報を拾って、年代的に最初に反応した方でも選んだだけかもしれない。

 

(「まあ何すりゃ良いのかも判らんしな。ちょうど良い目標があると思っておくか」)

 もしそうなら説明が足りない様な気がするが、来れば一発で判るとも言える。

あえていうならば、蟹座の力で転生すると言われたら苦笑したかもしれない。

とはいえナルト・ワールド行きなら、鍛えれば上忍クラスの力と冥府送りの能力ならば悪くない。

 

 そう思って安心して居た所に、また面倒な問題が持ち上がった。

やはり気楽には生きていけないと言うことだろう。

とはいえ俺は飽きっぽい面もあるので、こういった問題がある方が楽しめるとも言える。

 

「セキ……セキや」

「はっ! 何の御用でしょうか?」

 セキというのは俺のコードネームだ。

申請する機会があったので関・志岐と適当に付けておいた。

忍としてそれなりの家出身であり、退魔師として悪霊払いの力を使えることから、トントン拍子に大名の警護役に就いて居たのだ。

出世街道は無理でも、悪くない地位だったのになあ……。

 

「お主も中忍試験に参加してみんか」

「はっ!? お待ちください。俺は警護役の一人でして忍務をおろそかにする訳には……」

 ナルトやサスケが挑む中忍試験へ、大名と来た時の事。

仕えていた大名が気まぐれに試験への参加を勧めて来たのだ。

このことから判るだろうが、俺はナルト達とおおよそ同世代で、力の秘匿をする為に中忍試験とかはスル-していた。

 

「お主の上司や同僚もおるから問題はあるまい。あの馬鹿のところの連中には負ける出ないぞ」

「……承知いたしました」

 問題大ありだよ! これから騒動が起きるんだよ!

そう言うわけにもいかず、大名様の提案に逆らう訳にもいかない。

 

 やれやれ。とか言うのかだって? そんな事を言う訳ないだろ。

せっかくもらったゴールドセイントの力だ、試しをしてみたいと思わない訳が無い! レア物を警護に付けているつもりの大名様もどうやらその気だったらしい。

 

 俺は死なない程度に、精々愉しむことにした。

他にも面倒はあるが、詳しいことは次回にして今は英気を養っておくことにしよう。

 




 と言う訳でナルト物を書いてみることにしました。
というか、黄金聖闘士の力でジャンプワールドへ転生物と言う感じです。

 星座カーストネタでは下位カーストな蟹座。
原作では不遇な立場ですが、よくよく考えれば強いよね。
というか強過ぎるから、一発KO系はキャンセルさせられて不遇な感じとも言えます。
その辺もあって、蟹座転生とか考えておりまして……。
ナルトなら相性ばっちりじゃね?
という軽い気持ちから、悩むよりも先に描いてしまえと初めてしまいました。
最初はアルデバランやシュラの力でダイの大冒険とか、もっと適当だったんですけどね。

/予定
 一話短めで中忍試験を十話。
中間の話は別任務ということですっ飛ばし、外伝を挟んで暁編を十話。
その後に、このストーリーのボスの元へ行く予定になります。

詳しいことは次回に説明すると思いますが、主人公の設定です。

名前:関・志岐(コードネーム)
経絡:水のチャクラ、陰の傾向(五行思想で言う死)
家系:そこそこの忍者の家系(正確には神仙術から鬼道、忍術へと流れた家系)
血継:なし
秘伝:あり。今は廃れた鬼道の家系(仙術より後の呪禁道)
戦法:忍術で情報を集め、まず成功しない呪禁道の確率を上昇させる

「呪禁道? あんな古臭いの使えないわよ。だって『死ね』と命令しても誰も死なないでしょ?」
「大蛇丸さまならば簡単なのではありませんか?」
「できなくはないけど、千本なり手裏剣でも投げた方が早いわね。あとは毒とか」
「それを凶器も使わずに実行するのが呪禁道ですか? しかし、それならば手に入れる意味は大きいのでは」
「問題なのは情報が全てと言う事よ。確実に呪い殺すには相手の全てを丸裸にする必要がある」
「ああ、なるほど。暗殺した方が早いですし、忍び相手にはまず無理ですね」


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一話

●ベンチマーク・テスト

 本来ならば実力を隠しておくべきなのだ。

しかし中忍試験は力試しに丁度良い。そして、たまに顔を合わせては挑発して来る連中が今回も居ると言うのが……。公私ともに大きく影響して居た。

俺も大名様も日頃からやる気まんまんで、いつか思い知らせてやろうとしていたのもあるだろう。

 

「大名様のお達しにより実績と人数に関しては免除しよう。だが予選突破は自力でやってもらう」

「お互い大変だなぁ」

 あとは宿舎に戻って対策でも立てようかと言うところで、大名様の行っていた『あいつら』がやって来た。

外見なんざ覚える必要もねえが、ゴ-グル女・ヘッドホン野郎・マスクオカマ(?)と微妙に三猿……見ざる猿・聞か猿・言わ猿ポイとだけ覚えておいてくれ。

 

「よう、根暗ヤロー。お前一人なんだって? オトモダチは居ねーのかよ」

「聞くだけ無駄だぜアニキ。根暗だから居るわけねーっての」

「……」

 こいつら三人はうちの大名様と仲の悪い国の、やっぱり俺と同じ様な警護役。

お互いにライバル視していると言う訳でもないが、主人に付き合う形で睨み合う間柄だ。

警護という役柄は同じでも、こいつらが物理守護特化で、俺が霊的守護特化と真っ向から属性が違うのも一因かもしれない。

 

 え、大名様同士は何で仲が悪いか?

元もと同じ国が、兄弟同士の乱いで分裂したって話だからな。

昔の事とはいえ付ける薬は無いさ。

 

(「別に馬鹿にされるのは良いんだ。だがよう、舐められるのだけは勘弁ならねえ」)

 いや、判っちゃいるんだ。

馬鹿はスルーしてしまうのが一番で、馬鹿に付き合う奴は馬鹿だってな。

忍者失格な理由と言うのは十分に判っちゃいる。

メンツなんか輪を掛けてどうでも良いが、気に入らない連中の風下にだけは立ちたくないものである。

 

 それに何だ。

仲が悪い国の警護役が弱いなんて思われると、何かと因縁付けられたり……。

忍を送りつけて面倒なことされるからな。中忍試験はその縮図とか誰か言ってた気がするぜ。

 

「無関係な喧嘩を売りに来るなんて随分と余裕だな。試験の傾向と対策は御済みですか? てめえらの実力じゃ予習抜きに突破できねえだろ?」

「はっ!? 予習が必要なのはてめえだろうが! この根暗野郎!」

 どっちも嘘じゃないが本当でも無い。

こいつらは万全に予定を立てて場を整えるタイプだし、俺の術は情報が多いほど成功し易くなる。

まあ警護役なんてそんなモノかもしれないが、本当の事を言われてカチンと来ない訳でも無いのだ。

忘れているかもしれないが俺達は中坊と言って良い年頃だ(俺は転生してるが)。ちょっとしたことで言い争いになる。

 

 しかしまあ、お互いに相手の事は判ってるしな。

第一の試験で落ちるような相手でも無いだろ。

第二の試験で殴り合うか、原作よりも増えてるんだし、予選があるからそこで殴り合う事になるんじゃねえかな。

ゴールドセイントの力をもらっている以上は負ける気なんかねえが、忍者に重要なのは戦闘力以外だしな。

 

●ベンチタイム

 第一の試験は原作通りに、ナルトが啖呵を切って終了。

この展開がある以上、余計な事をしなきゃテストの点は無関係だ(勉強は好きになれねえのもある)。ついでに連中も落ちる訳が無い。

連中も俺が霊を使って答案を読めると知っているので、こっちが落ちると思っている筈もねえ。

 

(「ってことは途中で仕掛けて来るな。本当なら天地の書を確かめりゃ済むんだが……」)

 本戦突破よりも俺優先とは泣けてくるね。

まあ俺と同じで予選突破なんか当たり前ってつもりかもしれねえがよ!

死面(デスマスク)に封じられし悪霊どもよ! 俺の目となり、耳と成りやがれ!」

 懐から予備の仮面を取り出し、封じておいた霊魂を解き放つ。

穢土転生に文句付けといて自分は良いのかって? んなことを気にしてられるかてーの! 

それになんだ、大蛇丸とかカブトに見られる事もあるとすれば、封じているシーンよりも、こうして使ってるシーンの方が良い。

同じ穴のムジナならば先を越される事を警戒しても、封印を警戒して殺しにはこねえだろう(だから火影x3の戦いには手を出さねーぜ!)。

 

(「……半径1kmに追尾して来る連中は居ねえ。だが、もうちょっと様子を見ないとな」)

 俺は一所で休める場所を探しながら、霊が見た光景を右目に映す。

情報が多過ぎると面倒なので、上からの俯瞰図程度だし、俺の周囲だけだ。

何処かで落ち付いた状況じゃねえと、遠距離探知とか情報の精査とかまだ難しいんだよなぁ。

(「ていうか右目で霊の視点で確認し、左目で自分の周囲を確認し、それらを精査しながら走るとか頭がいくつあっても足りねえよ!」)

 影分身を合体させた時に、瞬時に情報を理解できるナルトの方がおかしい。

基本は敵に向かって突撃して行くだけだから、不用な情報は捨てるようにしてるんだろうけどな。

 

「なかなか都合の良い場所なんかねーなあ。仕方ねえ、虎の子を使うか」

 身を隠せる場所で必要なモノが揃っている場所は、むしろ狙い易い。

だから程々が一番なんだが、それを把握できる経験の方が欠けていた。

何のかんのといっても、中忍試験に出た事自体は間違っていないようだ。

そんな事を考えながら、竹で作った水筒と巻き物を懐から取り出す。

「こいつに陰のチャクラを練り込んでっと。……お前らも行って来い!」

 水には既に俺のチャクラを練り込んであるので、下準備は終わって居る。

巻き物から死面(デスマスク)を数個召喚。

もちろん情報のリンク先はこの水、即席の水鏡ってやつだ。

 

 動きながら術を制御しない事、複数の視点を一度に確認しない。

それによって余裕を確保し、遠距離へ視点を伸ばして行く。

今は詳細情報も要らないし、そうなれば自分とのリンクも不用、同時に霊への攻撃を受けても問題無いって寸法だ。

 

「居る居る……」

 捜索周囲を広げたことで他のチームの影が見え隠れし始めた。

まずは感知系の能力外からで良い。忍者はチャクラを使う分だけ一般人より霊を見る才能がありやがるからな。

そういう奴は感受性が高い奴が多いし、得てして感知系に向くからな。

原作に登場するヤバイ奴だけ確認し、あの馬鹿どもを発見できれば恩の字だ。

「オレは地の書だし、天の書を持って居る奴居ないかねぇ。あの連中ならなおの事良いんだが」

 そう言いながら適当な相手を物色し、俺は動き始めた。




 と言う訳でサクサクと第一の試験突破。
アレは心理戦なので知ってると面白さが半減しますしね。
情報戦やるほどライバルが強い訳でも無いので。

/ライバル国のライバル達(仮)
 判り易い目標です。
見ざる言わざる聞かざるな三猿ベースで、探知・警護をやってる連中。
こいつらを蹴散らしながら本戦目指す感じですね。

/悪霊で探知
 デスマスクに封印しておき、そいつを使用。
動き回りながら使用する時と、止まって行う時で使い勝手が変わります。


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二話

●忍法、逃げ水

 水面に幽霊たちの視点を移しだし、リンクさせた対象を次々に変更。

即席の水鏡で情報を集め、ひとまずヤバイ連中や、原作組を避けて有象無象を狙う。

他の里の方が良かったが……木の葉の里のモブっぽい奴ら(俺が知らないだけ)が居たので、こいつらにしておくか。

 

「居たぞ! あの一人しか居ない奴だ!」

「多少腕が立っても三人で掛れば楽勝だ!」

 せっかくなので、手っ取り早く罠に掛ってもらおう。

 近隣の情報探査を終えた事もあり、誘き出す連中を選ぶのは容易い。

 

 相手の探査網に掛る様に走って見せると追い掛けて来た。

 

(「こちとら独りしか居ねーからな。足手まといは居ないが援護もねえと来た。そりゃ狙うわな」)

 なにしろこっちは大名様のコネでチームなしで一人きり。

腕効きという名前にランクがあることを知らない、調子に乗った連中なんかハメるなんざ簡単なもんよ。

一気に壊滅させて、目撃情報なんか露出させたくない。

情報秘匿は忍者の基本だが……外道な技が多いというのもある。

 

 色々仕込んで居る事もあり、俺の移動速度は早くない。

本気で走ればこいつらごとき放置できるが、罠だもんな。

 

「オレが先に仕掛ける! 何もさせるな!」

「おう!」

 先頭の奴が連続で印を組み、かなりのチャクラを練り込んで居た。

性質変化は風、印からするとまずは範囲攻撃で足を止める算段だろう。

 

 選択肢は悪くない。

……ただし、俺がその位置に居たらの話だ。

 

「風遁、嵐天刃の術!」

「くらえ! 火遁……?」

「幻術か! 逃がさん!」

 小さな龍巻が俺の居た位置を襲い、続けて火遁が放たれる。

だが俺の姿は止まらず、更に広範囲で威力の高い火球を受けても何の変化も無い。

もし隠れてやり過ごしても、ただでは済まない筈だ。

 

「っちっ! そこだ!?」

「へたくそ。俺はここだ此処! ははは!」

 俺の姿は変わらず、ただ位置が少し先。

反撃など考える事も無く、そのまま走り続けているだけだ。

待機していた三人目が手裏剣を投げつけて来るが、やはりタイムラグ抜きで僅か先に位置を修正する。

 

 用意周到に二枚目・三枚目はタイミングやコースを変えて居たらしいが、いずれも同じ。

その先に位置修正したり、横を薙ぐような軌道なのに当たることは無い。

 

「またか。幻術と判って居た筈だろう!」

「いや、声も足音もあそこからしたんだ。間違いない、オレはずっと見てた!」

「馬鹿な。分身の術じゃないんだぞ? 移動しながらそれほどの幻術だと!?」

 まあ普通はそうだろう。

使い方をしらなきゃ、オレでもそう思う。

古典というか伊賀の影丸を読んで覚えた術なんだけどな。

 

 水分を使った屈折現象で、位置を誤魔化す術が原典だ。

とはいえそのまま使ったのでは超能力ファンタジー物が混ざったナルト・ワールドでは危険だ。

水に練り込んだチャクラに陰の性質変化を施し、俺の情報を送り込んで再現性を高めてある。

 

「馬鹿どもには種明かしが必要ですかあ? まあ、そんな事する必要なんてねーけどな!」

「黙れ! 逃げるしかできない癖に!」

 普通はそうだろうな、お前らの常識ではな!

だがしかし、ここからが俺の能力の真骨頂だ。

本来ならばこんな奴らには必要ないが、未完成だから今の内に練習しておきたい。

 

●黄泉比良坂の向こうへ

 公認で何でもやっていい、またとない人体実験って奴だ。

力なき正義に意味はなく、力を持って秩序を保つことが重要だとか本家デスマスクも言ってたような気がするぜ。

 

「じゃあ反撃と行こうか。ちなみに俺からは一撃だけだ」

「なんだと!?」

「ハッタリだ! これだけ距離が離れているのにできるものか!」

 お前らの常識と一緒にすんなよ!

これでもお前らより何倍も苦労して、チャクラを練り込んだ触媒を用意してるんだ。

 

 俺は指一本を立てて嘲笑う様に立つ。

もちろんその間にも連中は攻撃を繰り返しているが、そんな場所を攻撃しても意味は無い。

そしてその種は今から行う攻撃の用意でもある……俺の準備は移動中に終えている訳だ。

 

「我が指し示す方角と季節は、北と冬。五行にて現す色は黒。それが象徴するのは死だ。そして……我が気は水気」

「北? それに水……?」

「しまった、誘いこまれた! 逃げろ!」

 その方角には俺が用意した罠がある。

そして連中は俺のチャクラを練り込んだ水を踏みつけて追いかけて来た。

 

 これで条件は揃った!

 

「訪れる死期を受け入れろ! 鬼道魂操術……積尸気冥界波!」

「うぎゃあ!?」

 指先より放った死の気(怨霊たち)により、ただの一撃で三人まとめてあの世送りにする。

ナルト・ワールドの技術で再現すんのは苦労したぜ……。

 

 それはそれとして、ポックリ逝った連中をさっさと縛り上げる。

山中家の秘術や六道の術がそうであるように、魂そのものは動かせる。

即死させたと言っても、あくまで状態を死に書き変え引き剥がしただけなのだ。チャクラの状態次第では体の方は生きている可能性がある。

 

「封印用にプチ比良坂を用意してるから大丈夫だと思うんだけどな……。このまま観察させてもらおうじゃないの」

 縛り上げるついでに巻物を回収し、生命状態を確認しておく。

すると肉体は死なずに植物人間状態で、心臓が血液を送り、肺が動いて居るのが判った。

 

 そこで術の補助に使った札を懐から取り出し、そのうちの一枚を破り捨てる。

そして札に書き込んだ連中の特徴の内、合致する男の前で詳細を調べる。

こいつがどの程度で息を吹き返すのか、それともチャクラが魂を結び付けるまで、眠る様に気絶し続けるのかを確認しておきたい。

 

「あー。もう起きて来やがるな。……これだと死体つーか魂を抜いた体をなんとかしねーと駄目だな。使い物になんねー」

 死ねと言っても聞く奴が居ないように、確実性が無いので触媒・情報・怨霊などを含めて二段三段の準備が居る。

その上、即死させても直ぐに蘇るのでは意味が無い。

いや、星矢の世界でも送り返されたら即復活したろう……と言えば、確かにその通りなのだが。

こんなところまで、原作通りの使い難い技である必要は無いと思うんだ。

 

「まあ口寄せのアレンジで、何処か封印の地に送り込むって感じか……まだまだ完成には遠いぜ」

 そして俺は息を吹き返した奴と交渉し、残りの二人を蘇らせる代わりに条件を飲ませた。

命と引き換えにダミー情報体を持って移動してもらう。

 

 俺が狙われて居なければ、生かして目撃者なんざ残さねえんだが。

それで俺の安全が買えるならば、未完成の術の情報なんざ、まあ安いもんだ。

それに、将来の勝ち組である木の葉と敵対してもしょーがないしな。




 と言う訳で二話目。
ナルト世界のルールで積尸気冥界波を使ってみました。

 いのが使う術や、六道が使う術みたいな感じですね。
当たったら魂を引き剥がし、何処かへ飛ばしてしまう。
送る先を指定し、持って行ってもらうのは怨霊の役目です。
この為、忍術というよりは、鬼(幽霊)にお願いする鬼道ということになります。

/必要な物
1:水・陰のチャクラを練り込んだ水を付着させ、こちらの伝達力を上げる
2:相手の情報を調べ、抵抗力を下げ、かつパワー型の怨霊にも判り易くしておく
4:魂を抜く術を仕掛ける
5:当たり難いパワー頑振りの怨霊を送り込み、指定した場所に送り込んでもらう
 ただし一般人はともかく、チャクラが豊富な忍者には、気絶の上位互換でしかない
(6:肉体も送り込み、本当の意味で即死させる)

 と言う感じのシステムになります。
六道だと引き剥がして、食ってしまって終わりですけどね。
あれが上忍よりも上だとしたら、主人公はまだ中忍に慣れるだろう……という修行度合いですので、遠い感じです。


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三話

●積尸気の完成

 死の気配を重ねて出来上がるのが積尸気。

その意味で、幾つかの条件を重ねて放つアレは積尸気冥界波として及第点ギリギリってとこだろう。

 

「まずは当初の目標は半分クリアっと。後は大名様からの忍務をこなさねえとなぁ」

 蟹座の聖闘士としての力を持っている。

そう断言する為には積尸気冥界波を使えることが必須条件だ。

神様からもらった任務の方はどうか判らないが、この力が必要ならば早めに獲得しておきたかった。

 

 まだまだレベル的には甘いが、ナルト・ワールドのルールで構築できたならば十分だぜ。

これから成長し、術の方も洗練すればいつか他の技込みでモノになるだろう。

後は光速の拳に至って、黄金聖闘士としての力を持っていると言えるようになれば完璧だな。

 

「さてと……俺と連中の忍務が似たような物だと判断すると、すこし考えもんか」

 大名様の命令は、兄弟喧嘩みたいな小国同士の争いで優位に立てと言うことだ。

人々の目に止まる戦いで華々しく活躍する必要も無いが、最低でも連中より良い成績である必要がある。

 

「連中……ここで落ちてくれねえかなあ。そんな訳ねえよなぁ」

 俺は二次予選突破して、向こうが落ちれば予選でリタイヤしても良いくらいだ。

しかし仮にも護衛チームの一つを任されるほどの相手が、危険人物と出逢わない限り、この程度の試験で落ちる筈も無い。

 

 同じことを考えてこっちの襲撃を考えて防御体制も整えてるだろうし、護衛能力があるだけに、狙って落とすのも難しい。

と言うことは、活躍など無用と知りつつ、本戦で戦う必要があると言うことだ。

 

「色んな意味で冥界波を使うのは無しってのがつらいな」

 どうみても外道な技なので、外聞が悪くなって墓穴を掘るだけだ。

しかも大蛇丸やカブトが見てると『計画の触りになる』という理由だけで殺されかねない。

「まあ実力だけでいくっきゃないか」

 とは言いながら、俺は笑っている事を自覚する。

隠れ続ける忍者らしくっていうより、NINJYAって感じで戦うのがナルト・ワールドだよな。

それにせっかく転生したんだ、一度くらいは本気で暴れて見たいもんだぜ。

 

●擬装情報

 書自体は簡単に揃ったが、色々あって面倒なんでその辺は割愛しとく。

最初に冥界波を試した連中のは被りの地の書だったが、他のチームの場所も把握してたしな。

原作と同じチームに俺、あの連中、それと良く知らない連中が居て三チーム・七名ほど増えて居た。

 

 流石に運命が変わるとよー判らんな。

判ってるのはこれから戦いになるって事だけだ。

 

(「へえ。我愛羅とリーの対戦がズレたな。リーの運命が変わって何か問題あったっけ?」)

 カカシが倒れるんで、五代目として綱手姫を探しに行く流れは変わらん筈だからな。

あえていうならサスケを追い掛ける時に人が増えるかどうか?

君麻呂の時や、そもそも本戦で大怪我する可能性もあるし、放っておこう。

 

 そして増えたチームの動向を見てると、可哀想に我愛羅から瞬殺を喰らってた。

あの腕前を見るとモブとは言わんがそこそこの腕前だったんだろうなあ。

できれば俺も、あいつらと戦いたかったぜ。

 

「ちゃんと逃げ出さずに来たのは褒めてやるぜ。いや、第二の試験を突破できたことが奇跡かな」

「良く言うぜ。まあここで落ちる奴に何言っても無駄か。とっとと始めようぜ」

 俺の相手は連中のうちの一人、イヤホン野郎だった。

こいつからすれば早速に俺を倒せるチャンスだし、負けたとしても俺の能力を見れるチャンスでもあるってことだよな。

 

 浮かれてやがるのはそのせいか?

仲間の為に人柱になってデータ稼ぐのは、まあ忍者らしいか。

 

「いいぜ、始めてやらあ! お前の敗北のな!」

「はっ。どこの中二病だよ! っていうか、判らんか」

 奴は早速ポケットから忍具を取り出して居た。

そして手を掲げる仕草からすると、煙球の類か。

(「丁度良い。この行動はスルーだ。連中の手の内、見せてもらうぜ」)

 俺は懐に手をやると、死面(デスマスク)に触れて怨霊に指示を出す。

やることは簡単、俺と同じ位置で見てる光景をリンクさせるだけだ。

怨霊に出来ないことは集中力が下がるが、色に左右されない怨霊の視覚を借りるだけなら簡単だからな。

 

 すると奴はイヤホンを片方ずらした。

飛び跳ねて迂回して居るのに、煙の中を正確に飛び込んで来る。

興味深いのは、ゴーグル女がレンズを入れ換えて眺めていることだ。

 

(「ははーん。あれってスコープドックの回転レンズみたいなもんか。そして……このパターンは封じ手だな」)

 イヤホン野郎はおそらく……俺の動きが出す音を記憶している。

外した時だけ集中力を高めて追いかけ、接近戦で片を付ければ、外の連中にバレ無い。

もちろん手裏剣を投げて牽制する手もあるが、こっちの攻撃を避けて動きながらだと当て難いしな。

 

 なら格闘戦に付き合ってやるぜ。高速で動く為に開発中の術でな!

 

「水遁、水喇叭の術!」

「あてずっぽうで狙ったところで、無駄だ無駄だ!」

 俺の動きを察知して、飛ばす水礫を避けて行く。

だがこっちの術は前フリに過ぎない。

周囲に水飛沫を飛ばし、チャクラを練り込んだままの水たまりを配置することだ。

 

 そして相手の放った牽制の手裏剣を避け、本命の拳をバックステップで回避。

次に足の裏へチャクラを練って、近くにあった水たまりの上に飛び去ることにした。

 

「終わりだ! 風遁、烈風掌!」

「どっちがだよ! 水遁、石切りの術!」

 奴は先ほどと同じ要領で、最後を拳では無く、出の早い風遁を使って来た。

煙で視覚を隠したまま、コンボの最後だけ変更するのは良い手だが俺には通じねえ!

 

 チャクラとチャクラを反発させて、水辺にサイドスイングで投げた石が飛ぶように駆ける。

水たまりの上から、水たまりの上へ。さっきの術は奴を油断させつつ、ここでの布石って訳だ。

高速過ぎて蹴りというか、体当たり気味になったが一撃で吹っ飛ばすことが出来た。

 

「勝者、関・志岐」

 審判である月光・ハヤテが静かに勝敗を告げる。

煙が晴れる頃には、ゴーグル女はマスクのオカマとの下位っを中断していた。

 

「まあ、こんなもんだ。運が無かったな」

「く……。だが、オレはともかく……オレ達が負けた訳じゃないぞ」

 速攻で片が付いたため、煙がまだ立ちこめている。

俺のつかったコンボをゴーグル女が見抜いたと知って、奴はニヤリと笑って崩れ落ちた。

 

(「くくっ……第一の試験官が言って居なかったか? 間違った情報を捕まされたら、その価値はねえんだよ」)

 奴は連中だけが知り、俺は知らないと思って居やがる。

だが怨霊の視覚を借りたことで、ゴーグル女が何をしていたのかハッキリと判った。

そして俺が合えて掴ませた情報を、真実だと思いこんだって事だ。




 と言う訳でサクサクと第二の試験、予選突破。
次で本戦の第一試合を突破する為の前フリを仕込んでおきます。

 まあ冥界波仕えて一区切り、高速移動の攻撃を覚えている最中。
それ以上のプロットではないのですが。

●『あの連中』の設定
1:天耳くんと天耳通
 音を意図的に聞き分ける為、普段はイヤホンで封印して居る。
普通は離れた場所に居る相手、違和感のする音、そういったモノを記憶する為のもの。
今回は煙で見え難い状況でも、詳細に動きを把握する為に使用して居る。

2:視姫と水晶眼
 ゴーグルを入れ換えて、様々な視覚を得る。
普段は視覚を遮ることで、即座にピントを合わせて調整する事が可能。
道具が凄いのではなく、タイムラグ無しで入れ換えられる使いの方が凄い感じ。

『封じ手』
 この三人は高い能力を普段は封じ、それを瞬間的に、意図的に強化する能力。
そして、それを活かすコンボの使い方に長けている。
天耳くんは格闘戦や長期戦での考え方で、近距離では風遁を攻撃に、遠距離では連絡・情報収集用に。
視姫は当然ながら遠距離・精密射撃のスナイプが得意。
ちなみに掴勝って来るのは、主人公のコードネームと同じ読み方だから気に食わない。
(どっちみち大名同士が仲悪いので、つっかかって来るのですが)
マスクのオカマは次回戦う予定なので記載せず。


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四話

●備えよ、常に

 予選を勝ち抜いたことで、次は準備期間と本戦だ。

楽観的な大名様は満足そうだが、侍たちの頭痛はまだ晴れて無い。

 

 なにしろ大名様からの忍務は連中……、仲の悪い大名のお抱え忍者よりも『良い成績』と言うことになる。途中でお流れになるのを知っている俺にとっては苦笑ものだが……。

試合の順番が妙に怪しかったからだ。

 

 まず第一試合で残っている内のオカママスクとの対戦が確定、三戦目あたりでゴーグル女と戦う可能があるのだ。二人残っている上に……。

トーナメント形式だが、負けても内容次第では中忍になれる。

……と何かの偶然で相手の方が成績が良くなり、大名様の機嫌が急落する場合もあるだろう。

試合順とか組み合わせが意図的に思える以上、可能性さえあれば何かしらの工作をして来る可能性だって零ではないのだ。

 

(「まあ気にしてもしゃーないな。白眼を使える日向が何も言わなかったし」

 していたとしても……回る順番で確率を変えた程度だろう。

大名同士の諍いが長引くのを嫌って、早めにぶつかりあう様に仕組んだってとこか。

 

「気にしても仕方無いし、対策練って準備だな」

 連中の傾向が『いつもは能力を封じておいて、局所的に強くなる』という、乙女座タイプだ。

オカママスクが口を隠している以上、溜めこんだ力を口から出すタイプだろう。

 

 俺は口を使った特殊能力と、それに相性の良い忍術を幾つかピックアップした。

まずはオーソドックスに毒霧、含み針、超音波や催眠術。

いずれも風遁と相性が良く、自分が使っても良いし、イヤホン野郎が使っていたから連携なのかもしれない。

 

(「マスクを付けて居るなら毒霧が怪しいな。眠り薬とかを吸い込まないようにしつつ、自分は毒霧で優位に立てる」)

 普段は薬物を通さないマスクを付けておいて、ここぞと言う時に外す訳だ。

鉄板だが強力だし、眠り薬を吸わないというのは警護役にとって重要な要素になりえる。

含み針の方はマスク付けなくてもできるので、むしろ含み針と思わせて置いて……という方がありえるだろう。

 

 問題は……毒霧が切り札だとするならば、予選でどうして含み針を使わなかったかということ。

オーソドックスな攻撃だけに、普通に使っても良いのだ。

あえて予選で針を使って見せて、本戦で毒霧をまく。そっちの方がフェイントとして使い易い。

 

「ありえるのは予想した全部を使えるから、優先度を落としたナニカを警戒させない為か」

 色のついた霧で警戒させて、超音波や催眠術が本命である。

あるいは避けたくらいじゃ駄目なレベルなだけかもしれない。毒霧は拡散してから痺れ薬になるくらい、強烈だとか。

 

「一番良いのは、やっこさんが普通に強いから使わなかったってことかな。その方がやり甲斐があって面白れえ」

 単純にどれでも良いくらいにオカマが強い。

色んな作品でオカマには二通りの役目しか無い。

単なる道化か、道化のフリをしたナニカだ。

 

 先にいっておくが魚座の黄金聖闘士はオカマじゃないからな。

 

(「しかし、そう考えるとしっくりくるな。毒霧や含み針を使う中距離専門キャラだと見せかけて、実は砂隠れみたいな中忍レベル」)

 いわゆる下忍頭だと思えば指示することで、色々と連携もやり易いだろう。

逆に下っ端でもいいんだが……この場合は速攻で終わるからいいか。

 

 と言う訳で俺は当日に備え、耳栓と毒気し薬の類を対策用に用意する事にした。

後は俺の能力そのものを磨くことで普通に勝ち、相手が中忍レベルの精鋭だったとしても勝てるようにするだけだ。

 

「術覚えるのは面倒だからなぁ。あいつらに合わせてなんか覚えてられねえ」

 だからこそ対策は道具類や、戦術で済ませておきたかった。

もっとも用意する内容が、奴ら対策にならない訳でもないだろうがな。

 

●再臨、蟹座の……

 ナルト世界の忍法は、幾つかの仕組みで動いている。

まずは格闘や手裏剣術などに、チャクラによる強化を組み合わせる体術。

分身や変化を含めた幻術、そして攻撃から補助まで様々な忍術。

 

 時空間忍術などの一部の例外を除いてこれらを基礎としている。

ここからチャクラの種類によって、火遁や水遁に枝分かれし、遁行ごとの性質で細かい変化が起きるのは言うまでも無いだろう。

 

 では水遁の性質とは何か?

元が水だけに自然界に大量に存在し、自分のチャクラで生み出すよりも操ることで何倍も効率が良い。物理的に加工し易く、そのイメージからチャクラも流し込み易いと、良い面はかなり多い。

 

 その反面、欠点もまた強烈だ。

威力が殆どないし、飛ばすとしても重量問題があり、更には持ち運び難いと弱点目白押しである。

特に威力が無いのは問題で、戦闘用に水遁を覚えるのはつい後回しにしがちだ。

だからこそ水遁使いは絡め手か、さもなく近接戦闘で直接殴る場合が多いと言える。

 

「水遁使いがまともに戦おうとすると、普通は大量に水が要るのがネックだな」

 中忍試験最大のネタは、やはり卑劣様の水遁に対してのコメントだろう。

水も無しに『このレベルの水遁を!?』という言葉は逆に聞こえるが、自分のチャクラだけでやると大変なのである。

あれはチャクラが無尽蔵に供給されるエドテン状態だから出来る技だ。

 

「これをなんとかしないと今後は頭打ちだな。それに……」

 有望な方法である口寄せは、『個』以外との契約は無理だが対策は幾つかある。

第一に、凍らせる染み込ませるかの方法で固形物にすれば、個になるから召喚できる。

第二に、水棲生物と契約して水を吐かせる。オーソドックスだが生物の方が見つかるか怪しい。

第三に、仙人化・エドテンとは言わないが、チャクラを大量に補給できるようにしておく。

 

「いつかアレを作るつもりなら、今から覚えるなら固形物との契約の方が良いな」

 問題なのは、どういう方法で固形物化するか。

凍らせると融けるのを待つしかないが俺は火遁が使えない。

染み込ませた場合は抜く手間が居るが、氷よりは管理がマシになるだけで、何を使うにしても重くなる。

最後に水を圧縮して固定化すると便利だが、維持するだけで膨大なチャクラが必要になる。

 

 氷はこの時点で排除。

次に試すべく、紙符で作成中の死面(デスマスク)を手に取って怨霊に幾つか命じて見た。

次にチャクラを練り込んだ水を竹筒から流し込み、ブヨブヨとした失敗作モドキができあがった。

 

 そして水を浮かばせる術を掛け、怨霊にリンクして、水喇叭を吐かせてみた。

 

「一応は可能だが紙でやると時間制限が厳しいな。しかも水喇叭を吐かせると一回で終わりやがる。割りに合わねえ」

 かくして我愛羅をヒントにしたファンネルは失敗。

製作中の死面(デスマスク)はブヨブヨになり、水を吐いて乾燥した部分もボロボロだ。

仮にもっと丈夫で耐久性のある素材を使ったとしても、攻撃に使うのでは回数的に意味が無い。

精々が、隠れている位置を誤魔化す為の囮にしか使えない。

 

「遠隔攻撃は性に合わねえわ。この手はやるとしても防御用かねぇ」

 次に怨霊での操作は止めておいて、単純に防壁用とか質量に意味が出て来るモノを選んだ。

今度は音の左近・右近が使った羅生門をヒントにし、やはり面作るのに使う粘土へ染み込ませる。

クナイを山ほど撃ち込んでも大丈夫なくらいに厚くして質量障壁を製作してみた。

 

 一見上手く言ったように見えるが……今度の問題は水を抜くと意味を為さないことだ。

山ほど撃ち込んでも大丈夫だったのに、水を抜くと数発しか止められなくなる。

これほどの質量を呼ぶ時は窮地の時なのに、強度が無いのでは意味が薄い。

もちろん水を補給しつつ、抜くまでは防壁になるなら意味はあるが(相手が火遁で無い限り)。

 

「やっぱ聖闘士は格闘で戦うのがらしい(・・・)よなあ。つーか本命はコレなんだが、欠点もやる前から判ってたからな」

 そして最後の手段、水をまとって見る。

我愛羅の砂や、砂の鎧のように周辺に配置。

問題なのは他者のオートではないので、自分のチャクラが常に減ることだ。

しかも砂の鎧と違って守りを厚くするためには圧縮が必要、チャクラがガンガン減っていくことになる。

 

「水で攻撃してるような余力はねえし、格闘戦前提として……全身を守るなんざ不意打ちを何とかする時だけでいいよな。もっと狭く重要な場所だけ……」

 急所である頭と胸、攻撃の為に必要な腕と脚。

そこだけに絞って一回だけに必要な水を減らし、使うチャクラを減らした上で、その余力で圧縮を掛けて見る。

不格好だった姿は、歪な軽装鎧を着た様な格好へと移行して行く。

 

 その姿は……。

ありし日の蟹座の聖闘士、デスマスクのようではないか。

 

「ククク……。そりゃモデルが居るんだからこうなるよな。一応はできたが……意味あるモノにするのは面倒そうだ」

 我愛羅の砂鎧と違って、水の性質は強度が無い。

だから圧縮の為にチャクラが必要で、長期戦は土台不利だ。

本戦の予選だけなら水の膜で周辺を覆い、毒霧や音波探知にだけ使えば良いのだが……。それ以上、何をするのか今一不明である。

 

 最初の目的は水分補給だったのに、消費チャクラを絞る為に水を減らしたのでは意味が無いのもあるだろう。

その辺も踏まえて本戦までにモノにするのは当然として、更なる改良が必要だろう。




 と言う訳で、修行とその後に続く能力の布石終わり。
蟹座の忍鎧衣をつくって、切り札として装備する事になります。
イメージ先行で水にしましたが、水のチャクラってサポート・防御用って感じですよね。
まあそれだけに、忍者の術としては攻撃用よりも相応しいのかもしれませんが。

●オカママスクの想定
 次回戦うオカママスクに対して、忍者らしく想定しています。
マスクを外したら、口紅塗った唇からブレスを吐いて来るイメージですね。
そのブレスが音波攻撃なのか、催眠なのか、それとも毒なのか……。というだけの差ですが。
あとはマスクで口元覆っているのがフェイントで、魔眼という可能性もゼロでは無いのですが……。
忍者モノでマスクは鉄板なので、普通に強いセンも残して考えています。
ゴーグル女は原作的に戦わないと知っているので放置予定。


●水分補給と蟹座の聖衣
 大量の水を用意しようぜ!
口寄せ! → できませーん!
手裏剣とかサスケやテンテン出してるじゃん! 無数の存在はできませーん!
じゃあ固めて個の集団で呼んでやるよ! → 今ここ

 出して何するんですか?
水遁のコストさげるだけなら、沢山のチャクラで嵩を増す方が早いですよね?
じゃあ自分を強化するのに使いましょう。
どうせチャクラを練り込んだ水を用意しますから。

水で防御 → 地・砂と違って水の強度は……
水で攻撃 → 火・雷と違って水の威力は……
水で加工 → 相性良いけど、何やるの?

 と言う訳で、蟹座のクロスを作って自分を強化する事にしました。
着ている間だけ新た能力やチャクラの最大放出量をアップ、でもチャクラが無茶苦茶減っていくという感じ。
我愛羅の砂の鎧がガチ防御だとするならば、活性化したチャクラで攻撃という感じですね。
ナルトが九尾のチャクラでやってたり、防御増えないけど雷遁なら同じことをシンプルに出来るんでしょうけど

 ちなみに鬼鮫あたりだと、苦労せずに同じ事が出来ると思います。

●内用の予定
 スケジュールは週に二・三回、時間は深夜2時か、朝。

五回:マスクとの戦闘
六回~九回:この葉崩し
十回:第一気の締め
 要望無ければここで掴んだヒントで頑張るんだと男坂エンド。
要望あれば第二期で暁編に移行し、黒幕というか問題解決に行く感じ


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五話

●パンドラの箱

 本戦は数試合増えたことで、微妙に変わって居た。

原作と違ってリーは無名の相手に勝利しているとか、試合数も多い。

ドスの方も他に余り者が多かったことで、サスケと我愛羅へ割り込もうとはしなかった。

 

 何の因果か本戦ではリーとドスが戦い、シカマルは最初からテマリと対戦だ。

予選で八門を開けて居なかったリーがドスを倒し、シカマルの方は試合数の関係で少し影が多い分だけチャクラが多かったが……やはり原作通りに敗北宣言。

俺とオカマとの戦い以外は、おおむねそんな感じで進行している。

 

 俺達の戦いと言うと……。

 

 声も無くお互いに動きだし、池へ割り込むオカママスク。

同時に俺は逆サイドから回り込むように移動しており、水喇叭の術で先制攻撃を掛けていた。

だが途中で飛沫が歪み、泡沫と化して撃ち落とされる。

 

「音波攻撃! けっ、カエルみたいに頬を膨らまさねえのかよ」

「そんなことしたら、わたしの美しさが台無しじゃない」

 奴はマスクを外し、怪しく光るルージュで投げキッス。

その動作から逃れる様に身を反らせると、何も無い場所で振動が弾ける。

お返しに水喇叭を放つと、今度は手を扇の様に使って口元を隠し、範囲の大きな波動で防御と同時に更なる攻撃を仕掛けて来やがった。

 

 俺は脇へ脇へ移動していたが、途中で立ち止まって池への迂回を止めた。

 

「……やるわね。もっと簡単に奇襲できるかと思ったのに」

「悪いね。あんたと似た様な奴を知って居てさ。気を抜く気はねえよ」

 オカママスクは予想通りに強かった。流石に中忍レベルでは無かったが。

大蛇丸のオカマ口調を知って居るし、色んな作品で強キャラだしな、気を抜いたらアホだ。

 

 能力的には予想より特殊能力強め、地力は低めとニアピンで済んだ。

だがしかし、完全に予想外だったことがある。

良く考えてみれば、能力傾向的にあり得た布石だった。俺が迂闊だったと言っても良い。

 

「強烈なのを行くわよ。どのくらい保つかしら?」

「さあな、そろそろこっちも奥の手を使うぜ。決めるならコレが最後の時間だと思っとけ!」

 オカママスクは口増えを吹く様なポ-ズで口元を露出し、連続で音波砲を放って来る。

喉に仕掛けられた、一見チョーカーに見える手術痕(・・・)

そして気味の悪いルージュが、それを増幅する。

 

 やはり音忍……つーか大蛇丸の手下か!

 

 人体改造しており普段の沈黙は、ソレを隠す為でもあったのだろう。

この時代にそこまでするのは音忍くらいだし、能力的にも合致して居る。

更に言えばこいつのオカマ的なスタイルや口調は、大蛇丸をリスペクトしていたのではないだろうか。ハッキリ言って、モブより強い程度だと思って油断して居た。

 

 俺は音波砲を避けるのに、普通よりも大きく移動。

石切りの術で高速移動をして、何とか見えない攻撃を回避する。

この術は布石が決まっており、移動先もその半径に固定される。

では想定する移動場所は何処か?

前か後ろか、それだけが問題だ。

俺自身が攻撃するならば当然前なのだが……。

 

「やっぱりそいつを避けるの難儀するぜ。アレを使うしかねえか」

「あんた……なんでその場所に居るの?」

 俺は奴との距離を詰める位置には移動しなかった。

余裕を持って後退し、時間の掛る術を取れる位置へ。

 

 ……前回、煙の中を見渡せる奴が俺の戦いを見て居やがったからな。

俺が近~中距離を得意としており、術の限界と予想して居れば当然、前に来ることを想定して撃ち込むよな。

接近させなければ勝ち、中距離で撃ち合うにしても人体改造して居る奴の方が有利。

ならば俺の選択肢は、以前ならば前方であった筈なのだ。

 

 その想定は基本正しい。

ただし、俺が掴ませた偽物の情報でなければの事。

数手分の有利差でしかないが、中忍戦に限っては好印象を得られる。

実際の話、数手分の有利をもらえるなら、幾らでも勝利なんぞもぎ取れるって寸法よ。

 

「忍法口寄せ……水傀儡の術!」

 俺は口寄せで四角い箱を呼び出した。

ソレは水で構成された立方体で、印を組むことで起動するゴーレム。

 

 更に言えば霊を組み込んだ自律タイプなのでオート。

事前に練り込んだチャクラの分量までは起動するのでお得感がある。

……影分身を口寄せ・逆口寄せ出来るんだから、六道戦のナルトみたいに、水分身のバリエーション呼んでも良いと気が付いたのはこないだだけどな。

 

「来いよ、キャンサー!」

「蟹の……人形?」

 ゴーレムではあるが形状にはこだわりたかったので、蟹の形状をしている。

というか聖衣(クロス)輸送用のパンドラの箱をイメージしたので、中に入れているのは蟹に決まってんだろ。

 

「てめえの攻撃はこいつを盾にして防ぐ。俺達はどっちも警護役だし文句はねえよな?」

「ズルイわ。最大出力で倒しても、水遁の材料にする気ね」

 そう、この術には三つの利点がある。

第一に、盾や囮として行動出来るゴーレム・分身体である事。

第二に、水鎧と同じ形状で固定して居るので、無事ならそのまま転用できること。

第三に、奴が言うように水遁の材料に出来ることだ。

 

 さっき奴が放った攻撃は、俺の移動先を前方だと推測して撃ち込んだが……。

このゴーレムが攻撃を行うか、逆に破壊されたら、どっちであっても周辺に大量の水が散布される。

そうなれば候補は沢山、高速移動先は判らない。

そして水遁は通常時こそ能力が弱めだが、水があると途端に強化されるので、長期戦や砲撃戦にも向くように成る。

 

 つまりは俺が負ける要素はどこにもなくなったってことだ。

 

「くっ……」

「お次は含み針のカートリッジか? それとも毒霧か? 好きな方を使えよ。無駄だがな」

 奴が首元のチョーカー(に見える手術痕)に手をやったので、俺は水のゴーレムに手を付けた。

そして中身の水に圧力を掛け水牢の術を準備する。

 

 それが何を意味するのかはともかく、意図は判ったのだろう。

針を飛ばしても毒をまいても、ゴーレムに当たった時点で確実に止まる。

強化する能力が粘性じゃなくて硬度や厚みだろうが、奴が無力化したことは確かだ。

 

「てめえの敗因は安易な改造に頼って、地力と判断力を磨かなかったことだな」

「……わたしの負けよ」

 もしチャクラによる強化でもっと威力が出せて居たら。

針は水なんざ無視して貫いたかもしれない。

あるいは判断力が高く、俺の移動先を読み切ったり、不意をついて眠らせればこいつの勝ちの可能性もあった。

だが、改造に寄って瞬時に放つ術を能力のせいで、そういった修練・改良よりも使いこなす努力の方に気を取られたのだろう。

 

 ……ただアッサリ負けを認めたのは気に掛るな。

木の葉崩しに関わってると見るべきか?

そういう意味では、真の切り札である水鎧を見せなくてホっとしたぜ。

 

●ちょっとした裏事情

 水のゴーレムは他にも作っているが、時空間忍術を封鎖される可能性を考えてそのままにしておくことにした。

とはいえ起動状態だと俺のチャクラを食うし、そのままにするだけでも仕込んで居るチャクラを消費する。

延々と水分身を出しっぱなしみたいなものなので、札を張って水の箱に封印。

 

「こいつを担ぐと、ますます聖闘士だな」

 ……とても、重いです。

そういやあ星矢が最初の頃に色々文句を言ってた気がするが、それも判るぜ。

何しろ水ってのは金属ほど重くは無いが、分量が比例して重くなるからな。箱の分まで合わせると相当な重量になる。

 

「まあ後で奇襲されて困るよりはいいか」

 格好といい重さといい、ずっとしておきたいものではない。

だが今後を考えればこの程度の対策はしておくべきだし、サスケと我愛羅の試合が始まるまでにやっておくべきことがあった。

 

 仲の悪い国の連中はあと一人で、俺は快勝。

大名様の機嫌が良くなったところで、あっちの国の情報。

特に忍者の雇い入れ状態を確認しに歩く。

侍頭や上役……は盗聴やスパイの可能性を考慮し、同僚に話題を向けたり、周辺国からそれとなく収集して居ておいた。

 

 潜入工作も裏もとって無いが、あっちの国は時代に逆行して軍力拡大を考えているらしい。

もちろん仲間や周辺国の想像に過ぎないので、もう少し現実的な路線で修正してみる。

ここで軍拡というよりも、ウチの国より上に行こうと考えているくらいの考えでは無いだろうか?

 

 対抗意識のある国がお互いの国力・軍事力が縮小して行く中で、傭兵を雇って一時的に強化する(長期の可能性もあるが)。

その上でこちらを圧倒し、国境紛争などを自分達の優位に進めようと言うのではないだろうか?

だとしたら三代目火影の言う通り、中忍試験は同盟国同士の力の縮図と言えるだろう。

 

(「だとするとヤバイな。俺が勝ったことでアテが外れたと言うか、保険を掛けて向こうは三人居るってのに勝ち切れてねぇ。無茶しやがるぞ」)

 最後の一人が勝ってアピールする場を残すにしろ、負けても中忍に選ばれるにせよ……。向こうの大名はかなり焦って居る筈だ。

出した予算の元も獲れないのが自業自得だが、この後の展開がある。

木の葉崩しが始まる以上、何らかの関わりがある可能性すらあった。

 

 大名の護衛って風影の護衛よりも警戒薄いだろうしな。

上忍なり戦闘力だけなら腕効きの連中が、数名だけでも重要な場所に潜りこめているってことになる。

 

(「だが、これで得心が言った。うちの大名様が俺の投入を決めたのも、向こうの大名に煽られたから。結果的に……誰かさんの陰謀って事だ」)

 何故、この両国がというのは関係無いだろう。

対立を煽り、戦力を限度一杯まで持ち込める国があるなら何処でも良かったはずだ。

もちろん国ごと乗っ取れるならば話は別だが、それも大国とかの話。

一人で小国を潰せる暁出身の大蛇丸が、辺境の小国乗っ取りなんぞに興味を咲くとはあまり思えない。

 

 ……まあ音の里とか、隠れ家とか、手駒厚めなら別だが。

いずれにせよ、降伏した奴も含めてあの連中はまた出て来るだろう。

最後の一人がどうかは別にして、向かって来るならば倒すほか無いのだから。

 




 と言う訳で主人公にとっての本戦と、チュートリル戦闘であった三人組の話題は解決です。
何故こうなったかは本編で語って居ますが、都合良く利用された感じですね。

●忍法口寄せ、水傀儡の術
 蟹型の水製ゴーレムです。
水分身の要領で形状を決定し、怨霊を封入。
チャクラを練って形状を保ち、運搬用の水箱ごと封印して終了。

 仙術チャクラの補給の時に、ナルトが影分身を戻して補給してたのを思い出した感じですね。
水分身も呼べるはずなのと、我愛羅みたいに普段からチャクラを練り込んだ媒介を所持するのは有効そうなので。
蟹型なのは単に趣味というか蟹座の能力を所持して居るからなのと、効率の良い大きさが聖闘士が背負うパンドラ箱と同じくらいの大きさだったから。
もちろん量が必要ならもっと呼べますし、相乗起爆札みたく連続で呼べます。

 その上で、水牢みたいに性質を変化させて防御用……だと言い張って居ます。

 ここまでは長期戦主体の護衛用・囮用の水分身みたいな感じ。
本命は蟹型で括ったイメージのまま、鎧にすることで能力を引き上げます。
ゴーレムの時は温存用ですが、ガンガンチャクラを使うので防御力はオマケ。
活性化を促す力とか、その他の性質変化を起こした鎧で短期決戦を行います。
やはり聖闘士は格闘してナンボですので。

 ともあれこれで蟹座の能力は殆ど再現できそうなので、あとはシンプル化と『自分だけの能力』ですね。
デスマスクは印なんて組まないでしょうから、略印とか片手印の習得、不用な術・能力を使わないくらいの強なるとか。
その上で、蟹座っぽく、かつデスマスクとかは使って無い、主人公が転生した事に意味ありそうな能力を探すのが、第二期(あれば)の目的になるでしょう。

●オマケ:本戦の差異
 本戦出場者と試合数が増えたことで、微妙に運命が変化。
ドスが我愛羅に挑んだのは余りものになって、かつサスケの相手が減ったら……という過程だったので、襲撃と帰り討ちは無し。
リーさんはタネさえ判って居れば勝ちそうなので、苦戦したかはともかく、勝ったと言う感じにしました。
ドスもリーさんとの戦いが予定されて居れば、余計に我愛羅に挑んだりはしないでしょうしね。
シカマルは何のかんのと似た様な感じですし、試合数と時間経過の関係で少しだけ余裕そう?
とは思いましたが、勝ち切れないと判断したら原作より有利でも降伏しそうなので変えてません。


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六話

●災禍の刻限

 陽が暮れれば、いよいよ木の葉崩しが始まる。

サスケと我愛羅の試合が始まる前に、俺は巻き物と煙草の吸殻を用意しておいた。

まずは巻き物を広げ、色々と書き込んで行く。

 

『鬼道魂操術、形代の術!」

 これは予め掛けておく封印術だ。

ただし効果を高めるために、状況を指定しておかなければならない。

詳細部分はジライヤが天照を封火法印を行った様に、属性も合わせないと行けないので、普通は難しい。

 

 ……原作知識と言う物が無ければのは話だがな。

 

 時刻は夕暮れ時より夜に掛けて。

備えるべき災いは不意の眠り、その因果は幻術。

災い引き受けるべきは契約せし霊、仮名セキ・シキ。避けるべきは我、関・志岐。

そんな風に人形へ偽りの名前を書き込み、自分はその時が来るのを身構えておく。

 

「これで良しと。……あとはうちの国に何も無ければいいんだがな」

 このままいけば大名様の命令は果たせるだろう。

だが向こうの国がこっちに仕掛けてきたり、木の葉崩しに協力したらどうなるか?

いや、仕掛けて来るなら撃退するまでだ。

問題なのは大蛇丸に唆されて、協力する場合だな。

 

 その後の流れは案の定な感じだったと言っておこう。

連中は音に付き、風と一緒に騙され参戦。

うちの国はと言うと……。

 

「セキ。お前は木の葉に協力せよ。戦力は少しでも多い方が良いだろう」

「はっ」

 幻術返しで上役を起こすと、政治的取引の為に貸し出されることになった。

大きな里である木の葉に貸しが作れる上に、向こうの国にダメージを出せるんだからそうなるよな。

上役の侍や上忍たちは大名様の護衛があるし、名目だけなら俺だけで十分ということだろう。

 

 とはいえレンタル戦力に重要な任務を任される筈が無い。

確執のある連中を取り押さえてこいとか、その辺だと思っていた。

 

 その予想は半分当たりで、半分ハズレだったと思っておこう。

 

「妖魔の封印?」

「この辺りを荒らした魔や、特殊な口寄せで置き去りにされた魔を封印しているとか」

 連中が向かったのは二代目火影が封印したと言う祠らしい。

近隣を荒らした魔や、送りつけられたテロ用の魔を封印したと言う話だが……。

 

「騒乱を大きくする為に開放しに向かったのだろう。混乱を助長するだけならば制御出来ずとも良いしな」

「……制御する術があると騙されてそうですが、自業自得ですな」

 自爆特攻のも迷惑だが、確執のおかげでうちの国のせいにされるまったく迷惑な話である。

もちろん貸し借りを減らす為にそういう流れにしている向くもあるだろうが、放っておくわけにも行くまい。

 

●楔の不在

 原作に無い流れに戸惑いつつも、何となく納得する自分が居た。

卑劣様とネットで渾名される二代目である。兵器用で用意したとか言われても信じてしまいそうだ。

 

「とはいえ卑劣様てのはネタであって、効率重視で外道な技を許容してるだけだからな。何かのキッカケがあったと思うんだが」

 ……エドテンとか開発した経緯って不明なんだよな。

便利なのは判るが、どうしてそんな事が可能だと思ったのか?

死なない様に努力するだけなら医療技術が未発達なのでまだありえるが、何故、いきなり死者の利用なのか。

 

「アンデッドを操る奴とか、ゾンビ的なパニックでも起きたのかねえ」

 だとしたら頷ける気はする。

渡来の吸血鬼が騒ぎを起こしたとか、死体を動かす様に見える寄生虫とか。

そういう実例が先にあって、『死者を動かせるなら便利に使えばいいじゃない』と考案したのではないだろうか?

 

「ソレが俺の『本来の目的』だったら楽ができるんだが……まあいい」

 そんなことを思いながら俺は簡単に準備を整えた。

煙草を解して水に漬け込み、チャクラでニコチンの効果を拡大。

大蛇丸が口寄せして居る蛇避けを作り、死者対策に桃の実を用意する。

桃の実は古来から生命の象徴であり、死者に対するモノとして定評があるので、その伝承を利用……できればいいなあ。

そのエキスを布に染み込ませ、ニコチン水も別の布に染み込ませる。

十種の神宝で言う、品々の比礼、蛇の比礼というやつだ。

 

 巻物に死者対策の文言を書き込んで行くが、こっちは厳密な指定対象が必要なのでこの場では完成できない。

現場で情報を集め、調整が必要なのだ。

鬼道や呪禁道が廃れて行くのは、この辺が原因でもある。

カブトが仕掛けた術の様に、大蛇丸の興味的に時間がサスケ戦後だろうとか………例え原作を知らずとも想像が付き易ければよいのだが。

 

 

 怨霊の案内を出し連中の後を追いかけて行く中で、見晴らしの良い……狙撃し易いポイントに差し掛ったところで防御用の術を掛ける。

同時に水傀儡の封印を解いて、本来の姿である水分身に戻しておいた。

だが…、そこまで入念な防御をしてなお……。

 

「っち。狙撃された。……良い腕だ。馬鹿正直なのが残念だが」

 千本が俺の胸に突き刺さって居る。

それでも生きて居られるのは忍鎧と掛けておいた術のおかげだが、他を抉る様に撃たれていたら怪しい所だ。

今頃は二発目、三発目を喰らって大ダメージだったかもしれない。

 

「毒を使ってないのは狙撃距離を伸ばす為かな。不向きな千本で良くやるぜ」

 もっとも不向きだからこそ気が付かなかったんだが。

っていうか……怨霊の探知に引っかからずに、水分身を無視していきなり本体なあ。

 

「ここまで難しい条件でいきなり狙えるって事は、こっちの警戒態勢を逆読みしてんのか。なら手段は限られてくるな」

 怨霊に見つかるのを避け、同時に水分身も見抜くことが出来る手段。

さらに狙撃能力を持っていると疑わしき相手は、ゴーグルを付けたあの女だ。

それを踏まえると、何をやってるのか想像が付く。

 

「霊視じゃあ水分身は見抜けねえ。ってことは熱源探知か」

 水分身は温度が低いし、霊も相当な低温だ。

それを考えれば俺を特定するのは難しくないし、俺が掛けた防御は水をまとうモノなので全体像が少し怪しくなる筈だ。

つまり逆探知か防御の術を掛けていると見抜いた上で、急所狙いの一発を撃ってきたって訳だな。

 

 ヒュウ♪ と俺は口笛を吹きながら、こいつの事を少しだけ見直した。

矢はともかく千本で狙撃するのは精密なチャクラ・コントロールが必要だし、この一発も逆探知か防御か理解する為の布石かもしれない。

既に移動して居るのは当然の事、次は限界まで練ったチャクラで少々の防御は突破するつもりだろう。

 

「いいねえ。忍者の戦ってのはこうじゃねえと。オカマが拍子抜けだったからな。気に入ったぜ」

 ゴーグル女が熱源探知で怨霊の視覚を回避し、イヤホン野郎がこっちの動きを聞き分けている。

遠間で狙撃し、近寄れば毒霧と風遁が待っているのだろう。

布石を打ちながらこっちを狙い、同時に他の誰か……奴らの上司あたりが封印の祠にでも向かっているのだろう。

 

 最適解過ぎてつまらない面もあるが、読み合いや、打開策を考えるのが楽しくなってくる。

そして散々考えた挙句に、ただの暴力で突破した時、連中はどういう顔をするだろうか?

準備も無しに?

いいや、その準備はまえもってして居るのさ!

 

「行くぜキャンサー! 忍法、陰陽甲の術!」

 水傀儡の術を蟹型に戻し、鎧として各部にまとっていく。

頭と胸の急所や、手足だけに水製の軽鎧がおおう。

この水鎧は練り上げたチャクラで性質変化させているが、今の段階では陽の気による活性化オンリー。

隠のチャクラは冥界波に使う為の増幅器にしかならない。

 

 しかも付けているだけで自分のチャクラがガンガン消費されていくので、長期戦にはまったく向かない。

だがしかし、これだけ活性化したチャクラと、流し込み易い対象があれば戦術が全く変わってくる。

 

「いくぜ。忍法水遁、石切りの術!」

 通常状態ではチャクラを練り込んだ水を布石に使わないと高速移動できない。

だが、この状態であれば着地と同時に地面に付着させ、付いた瞬間に反発を利用して高速移動が出来る。

もちろん付着と反発のタイミングはシビアだし、移動中は殆ど何もできない

現段階では高速移動するだけでも、物凄い欠点が生じる術なのだ。

 

 しかし、今回の様に見晴らしの良い場所で距離を詰めるだけならば問題無い。

ところどころバランスを崩しながらも何とか移動方向だけは制御し、奴らが足止めして居る場所まで向かっていく。

途中で射撃や風遁が跳んで来るが、想定する移動距離がケタ違いなので問題は無かった。

むしろ、移動するだけで消費して居るチャクラの方が問題だろう。

 

「いよう。決着を付けに来たぜ。……お二人さん」

「なっ!? もう着きやがっただと!」

「馬鹿ね。ここには三人……そんな早過ぎる」

 辿りついた段階でイヤホン野郎をぶちのめしておいた。

無双が死体と言うよりは、もし逃げられたら面倒というか、三人の中で一番体術が得意だからだ。

タイムリミット前に術を解かないとジリ貧になるので、奇襲できる間に倒しておいたのである。

 

 その判断はこの場においては正しかったが、後に後悔することになった。

逆口寄せで、ゴーグル女がどこかに飛ばされたのである。




 と言う訳で、木の葉落としに参戦。
確執のある国の忍者と戦うだけだよ……と言いながらガッツリとオリジナル路線に突入です。

●形代の術
 よくある人形に禍を移す術です
先行して作ると奪われた時に大変なので、事前に調整します
術者同士の力量も関係するので、何が起きるか書きこんで限定しないと、意味が無い事もあります

●蛇の比礼、品々の比礼
 比礼というのはスカーフみたいな装飾品です。
特殊効果のある布で我身を守りつつ、場合によっては手にまいて、変な物を触る時に防具代わりにしたりします。

●妖魔を封印した塚
 妖魔の一種じゃと九尾とか説明あったような気がしますが、他に出てこないので、みんなで封印して回った時代でもあったと仮定して居ます。
まあ妖怪とかじゃなくて、口寄せで呼ぶ大型生物や、仙界とかの関係なだけな気もしますが。

 とりあえず今回の目標を作らないといけなかったので、この塚を守りに行く感じですね。

●熱源感知
 霊は温度が低いそうなので、水分身も温度が低いと藻うのでバレバレなことにしました。
腕効きはその辺も気を付けるのでしょうが、主人公は経験が足らなかった感じで。
ただ事前に防御もおこなっているので、狙撃されても良い様にして居ます。
 その辺も読み合った上で、相手のゴーグル女は急所狙い。
防御があるのを見抜くと同時に、時間稼ぎに出ました。
対して主人公は時間制限のある未完成の術を使うことで、一気に距離を詰めた感じですね。

●陰陽甲の術
 黄金聖衣に至る前の未完成の術。
鎧と言うよりは、活性化のチャクラで運動を強化し、陰の力を内側に溜めておくもの。
この状態だとガンガンチャクラを使う代わりに、この状態で無いと使えない技がある。
(今回使った、連続石切りの術とか、次回使う攻撃用とか)
モデルは大蛇丸・大吾の呪印というか、聖衣的な能力ってなんとかできないかなあ。
そうだ! 活性化の為に常にチャクラを使うことにしよう。
と言う感じですね。


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七話

 とある場所に二人の忍が居た。

一人は年老いた上忍、もう一人は音の里からの援軍だ。

「逆口寄せに成功。まもなく視鬼を回収できるかと」

「ならば。次の準備に入れ」

 預か後にボンっと音を立て、戦闘態勢のままゴーグルを付けた女が二人の前に現れる。

「あ……? 此処は……?」

「お前にカミを降ろす。精神を整えよ」

「……」

 女は老人の言葉に首を傾げ、最後の一人は薄く笑っていた。

 

●拓かれる扉

 残り二人に軽く打撃戦で布石を打った後、残りのチャクラを考えて戦術を考えていた。

さすがに正面から戦うと、奇襲と違って一撃では倒せない。

次に誰を狙うのが効率的かと間合いと戦場を見渡したところで、ゴーグル女が消えたのだ。

 

「え? あたし一人で此処を抑えろっていうの?」

(「逆口寄せと思うが……こいつの反応的に、知らされて無かったポイな」)

 戸惑ったのは俺も同じだが、考え始めたのはこっちの方が早い。

何しろ着けているだけでガンガン消費する鎧を作成して居るのだ。

 

 ついでに言うと、この手のアイデアに関して、クールジャパンの時代に一通り使用されている。

大抵のネタに関しては、どこかで漫画やアニメになっているのだから、少し考えれば何故かは想像できた。

 

(「ヤベエ。急がねえとまずい」)

 可能性としては巫女による神降ろしか、血と生贄による召喚だ。

条件に合致する依り代として、巫女に降ろしてコントロールするのが前者。

血を捧げて力を取り戻させる。あるいは餌になりそうな人間を食わせる為に、眼前で殺すのだ。

事前に知らされて居ない事、捨て石にしか考えられて居ない可能性を考えると後者だろう。

 

 まあこいつらが足止めになろうが、餌になろうが知ったことじゃないが……。

力を取り戻させられるのだけは駄目だ。

相手は強力な口寄せ生物であるか、仙界産のナニカ。

まともに戦って勝てる相手とも思えない。

 

 大蛇丸のマンダや、ジライヤのガマ親分クラス。

もっと強ければ尾獣とか想像した方が良いだろう。

そんな奴を一人で相手取れとか、ロクなことにはならない。

 

「てめえに掛けている時間は無えな」

「はっ!? 何言ってんのよ、時間稼ぎくらいなら、あたし一人でも……」

 普通に戦えば確かに。

お互いに中忍レベルで、俺の方が一歩先を行っているくらいの差だものな。

ネジやサスケは強いが、奇襲も無しに、他の出場者を瞬殺できるかといえば微妙だ。

それが延々と遅滞戦術で逃げ回ったら、相手にも寄るが無理だろう(正直、キバやリーが逃げ回ったら不可能に近い)。

 

 だが今回は水鎧……蟹座の黄金聖衣をモチーフに力を蓄えた鎧を着ている。

加えてさっき殴り合って布石として、水のチャクラをまいているからな。

 

「アバヨ。積尸気冥界波!」

「うっ……」

 今の俺の実力だと冥界波を撃つのに段取りが居る。

いの(・・)みたいに大量のチャクラを練り込むか、六道のように掴む必要があるだろう。

だが今着ている水鎧は、チャクラを練り込んだ上に、触媒である水を打撃戦で触れさせる為の物だ。つまりチャージタイムも手順も不要ってとだ。

 

 とはいえ第二試験で使った時は未完成過ぎて、魂を一時的に抜いただけだ。

この位置から用意しているプチ比良坂まで封印できたか微妙だが、掛けている時間は無いので先を急ぐことにする。

 

●解放される魔

 今後どうなるか判らないので、一時的に水鎧を解いて元の箱に戻す。

祠の方に向かう訳だが……。見たくないモノが横たわって居る。

 

 見た感じで小さな山ほど在りそうな図体の大蛇。

この時点では、ただ混乱を大きくしたかったのか、大蛇丸の駒集めの一つなのか全く分からない。判るのはただ一つ……。

 

「制御に失敗してんな。つか最初からそのつもりだが、逃げる間が無かったのかねえ」

 のたうつ頭は何かを咥え、バリボリと喰らっている。

ゴーグル女は祠の方で血を流して倒れてるので、食われてるのは術者だろう。

上忍が指揮して儀式を実行し、ゴーグル女の血と生命を生贄に解放した逃げようとしたところを、食われたってとこかね?

 

 もちろん制御できると言われて渡された、制御用の術なりアイテムなりに意味が無かっただけの可能性もあるが。

 

「とりあえず何かないか探すか。このままだと他にも出てくんぞ」

 はっきりいって、それはまずい。

山ほど出てこられたのでは阻止任務そのものが失敗どころか、対処その物が難しくなってしまう。

最悪、人柱として封印の道具にでもされるのがオチだ。

 

 とはいえこのまま移動したのでは、追加の餌になるしかない。

霧隠れという程でも無いが周囲に水の膜を薄く張り、自分は少しだけ膜を厚めにしておく。

さっきゴーグル女が熱源感知を行ったが、蛇も熱源探知を持っているのを思い出したからだ。

 

「おっラッキー。まだ生きてるのか。なら儀式そのものは中断できるな」

 少しずつ血を流すことで、道を少しずつ広げて脱出する気だったのだろう。

気絶させられた状態でクナイを刺され、トドメは明確に下されていない。

食うだけなら簡単な筈なんだが……これを放置して、術者ねえ。

 

「熱源探知と熱源探知……まさかな」

 もしかしたらゴーグル女には、思ったよりも依り代としての適性があったのかもしれない。

古代の神様の中には、自分と似た様な特徴を持つ対象を、(かんなぎ)として降りる傾向にある。

片目の神が片目の男巫や巫女にという風に。

 

 もちろん特徴全てを兼ね備えるのは難しく、崇めている地方でもないとそういう人間を集めては居ない。ゴーグル女はたまたまその適性が幾つか合致して居たか、音忍だった場合は改造でもされていたのかも。

もっとも……活きの良い獲物を求めて、即座に動いた上忍を食っただけの可能性もあるが(後はさっき殴り合った時に、蛇避けの煙草の臭いでも移ったとか)。

 

「とりあえずは魂が離れるのを禁じておいて、傷を塞ぐか」

 いくら俺でも医療忍術までは覚えていない。

符を取り出して額に張りつけ、魂の移動を禁じておく。

布で乱暴に動脈周辺を縛りつけ、水のチャクラで溢れ出る勢いそのものを抑制。

あとは人工呼吸と一緒に陽のチャクラを練り込み、肉体の活性化に伴って血が吹き出ないことを確認したら終わりだ。

 

「これで良し。できれば俺が脱出するまで死ぬんじゃねえぞ」

 生贄が生贄で無くなってしまえば、捧げられたのはこれまでの血だけだ。

上忍が死んでるが、アレは大蛇が美味しく頂いたので他の連中には関係なくなる。

だが何らかの儀式が成立して居る以上、ここで死なれたら、祠の中に居る連中の養分になってしまう。

 

 ……ゴーグル女を抱いたまま移動して暫く、蛇が生贄を奪われたことに気が付いて追って来た。

体の一部が蠕動するのが見えるのだが、背中に無数の剣や槍を刺し、ちょっとした大岩まで載っているのに死んでいない。こりゃ普通の手段じゃ倒せそうにない。

 

「マズイな。流石に陽気を放り込んでるし、熱源対策しても気が付くか」

 あるいは本当に巫女の才能が合って、こいつとリンクし始めている可能性もある。

制御できるならば放置しても良いのだが、そんな訳は無いだろう。

もし可能だったとしても、呪物を提供した大蛇丸の手駒になりかねない。

 

「しかし……あの岩、道返しの岩とか言わねえよな」

 もし大蛇が全力で追いかけて来たら速攻だろう。

復活したばかりだからか、それとも岩に霊力でもあるのか、何とかギリギリを保って居る。

単に煙草の臭いで負うのが嫌だというなら、まあ良いんだ。

このまま逃げるだけだし、どこかで無理してでも距離を離すだけのこと。

 

 問題なのは、あの岩に霊力がある場合。

黄泉の境に在るという道返しの岩……道返之大神とは言わないが、仙界とかで、それなりの能力を持っているのかもしれない。

ソレを口寄せで呼び出し動きを止めた上で、五影クラス数人掛りの術で祠に封印したとか。

 

 その場合は幾つか問題が生じる。

あの岩が転がって落ちたら動きを取り戻して一環の終わりだし、あの岩をそのまま放置してると別の場所で不具合が続く可能性がある。

意味も無く霊力ある岩を所持し、急に使うとは思えない。

仙界か何処かの秘境にある岩でも持ってきたのだろうが、本来の場所に無いことで問題がある筈なのだ。

またあの岩を道返しの岩として見立てることで、冥府から境が無くなったと言う呪術を実行しようと思えば可能かもしれない。

そんな事が本当に可能なのかはともかく、放置したままだとロクな事にはならないだろう。

 

「ウゲ……このまま逃げる事もできねえのかよ。時間が無ねえ、戦力も無ねえ……」

 見れば視界の隅でナニカが動いて居た。

それは倒したはずのイヤホン野郎の死体であり、此処には居ないがオカママスクや……この辺で死んだ生物の死体も動き出すだろう。

やはりあの蛇は死者を操る力でもあるのかもしれない。

 

 時間が無い事に焦りつつ、俺は煙草を染み込ませた布をゴーグル女に巻き付けた。

そして肩に担ぎ直すと、どこかか適当に降ろす場所を求めて彷徨う。

いずれにせよ、ここで大きな打撃を与え、元いた世界にでも送り返さねばならない。




 と言う訳で封印された妖魔復活と言う感じです。
蟹座の鎧着てる状態なのでノン・チャージで冥界波撃てるため、オカママスクは一撃。
サクサクと内容を勧めて見ました。

 感覚的には大蛇丸が契約して居るマンダ見たいな感じ。
アレは爆発で死にますが、この大蛇は死体を操る能力がある様なので普通の方法では死にません。
(単純なパワーや脱皮能力が低かったり、毒ガスとか、乾燥させるガスとかは使えませんが)
とりあえず第一部のラスボスという感じですね。
音から派遣された忍者は案内役とか儀式用の術者ですが……良く考えたら、最初から出しておいて、こっちを真のボスにすれば良かった気もします。

●道返しの岩
 イナザギ様が黄泉から帰る時に、塞いだ岩のこと。
実際にその岩が原因かは不明だが、大蛇の動きを封印するのに使用されている。
 この岩をぶつけられたらエドテンは解除どころか、周囲では使用できなくなるかもしれない。
大蛇丸視点では可能性論として迷惑なのと、祠の封印が解除されて、中の連中が解放されたら混乱が助長されるよね……と言う感じです。


●死を禁じる
 死ななくなりますが、魂が固定されてるだけなので、肉体が腐ると死にます。
この状態で肉体の腐敗を止めると、尸解仙にでも成れるんじゃないですかね。
もっともナルト達の様な、生きたまま仙人モードになってる人(地仙)と違って、エネルギー無限ではありませんが。
 とはいえゴーグル女は魂の移動を禁じただけなので、ほっとくと血が足り無くなって死にます。
主人公も儀式を中断する為に助けただけなので、自分の命の危険を覚悟してチャクラ送り込まないでしょうし(動脈の破損を一時的に誤魔化して居るだけなので)。

 ちょっとした反省点。
気が付いたらオカルト伝奇ファンタジー系になってたり。
しかし黄金聖闘士の能力とかもらって、普通の相手に苦戦とかなあ……と中忍試験編をするときに思って、相手の中忍候補に無双する話題にしたのですが。
最初から派遣されて居た上忍を敵役として出しておいて、今は宙人だから苦戦するけど……としておいて、そいつを倒せば終わりにすれば良かった気もします。
今更そっちの方向に行くのは布石が足りないのですが。


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八話

●要領でも才能でもなく、ただ貫き通す意思を

 妖魔というものは、純粋にバケモノであることもあれば……。

自然界の現象が誤解され、そのままバケモノとして居付いてしまったものもあるとか。

大型獣や賢い獣などはその良くある例なのだが、……果たしてアレは何のだろうか。

 

 小高い丘ほどもある身の丈、周囲の死者を呼び覚ますほどの燐気。

もはや積尸気の塊とでも言うほかない存在。大蛇に見えて、大蛇では無いナニカ。

対峙する事等、可能なのだろうか?

 

「こりゃ普通の手段じゃ無理だわな。今こそ小宇宙(コスモ)を燃やす時ってところか」

 だが一つだけ問題がある。

そもそもチャクラと小宇宙の差ってなんだ?

チャクラを練るのと、小宇宙を燃やす差ってあるのか?

 

 なんとなく、チャクラと小宇宙は同じものじゃないかとは思うが、どうにも判らない。

こっちの世界に来て、小宇宙を感じた事なんかないからだ。

だからチャクラを練れているから良しとしていた。

セブンセンシズに至れなくとも、今は子供だから、今は未熟だから仕方ないと思っていた。

 

 先送りにしてきた、そのツケが今ここに問題を起こして居た。

もっと早くセブンセンシズに目覚めていたら、中忍試験なんて面倒は無かった筈だし、大蛇の妖魔なんぞに危機感を覚えては居ない。

 

「転生して気楽に生きて来たしっぺ返しかな。もうちょっと必死になって見れば良かった」

 それなりの名家だった為、それなりの才能があった。

後は前世の知識で体系化し、上手く組み込み、効率良く特訓すれば大抵何とかなった。

腕は立つし賢いとはいえ、さすがに子供へ上忍に任せる仕事なんか来ない。

今回みたいに試験に出ろというのは異例だが、中忍なら可能な仕事と言うのはあったけれど……。

やはりソレも、持ち前の要領の良さで何とかすることはできた。

 

 だが必死の努力なしには、最上級の力など身に付きはしない。

子供という年齢なんか言い訳にしからない。

だってイタチや大蛇丸は、澄ました顔で彼らなりの努力をしてきたからだ。

次元が違う彼らは、次元が違うなりの努力をして、それでも届かずに、諦めずに生きて居たのだ。

 

 だからここで詰まるのは、全て俺の責任だ。努力不足で肝心のところで失敗してしまった。

だが、逃げ出す事はできない。いや、正確にはしたくない。

転生して初めて、何とかしたい事態に出食わした。もちろん、ゴーグル女とか木の葉の里を助けたいという訳でも無い。

 

「頼むよカミサマ。もし俺のデスマスクの力をくれたならさ、一瞬だけで良い」

 セブンセンシズに至りたいと、初めて本気で思った。

当然それは、俺の事情だ。世界の為だとか、誰かの為でなく。

俺がスッキリする為に、やりたいことが出来たのだ。

 

「普通は妖魔の正体なんざ不明なのにさ……俺は、アレを知ってるぞ」

 だから何とかしたい。

力の限りを振るって、誰かのためではなく、自分の満足の為に解決したい。

そんな意地汚い俺の為に、神様が何とかしてくれるとは思えない。

 

 そう、俺の理由とは……。

生前に味わったトラウマがあるからだ。

もう二度とあんな思いはしたくない、同じ思いの人間と共感するのも嫌だ。

そのくらいなら先んじて解決したいし、偽善ではなく自分の為に此処でアレを倒してしまいたい。

 

 大地から延びる腕、身を乗り出す骸骨たち。

緑色の大蛇のようなナニカが、人々を襲う光景。

必死で避難して数日後に戻って見れば、死人が蘇って盆踊りでもやったのではないかという光景。現代にはありえなかった筈の出来ごと。

俺はその光景を排除する為に、此処で奴を倒す!

 

●組み合わせるのではなく、迸る思いと共に

 俺はなんとなく使って来たチャクラを、初めて目的のために使用する事にした。

以前と違いを言うならばそのくらいだ。それでセブンセンシズに目覚められるとは思わない。

だが、それで力が湧き出るのであれば、効率的でなくとも構わなかった。

 

 今までやってきたことが、チャクラに印やら自分の属性やらで味付けする事だった。

俺と言うフィルターを通して、生命エネルギーを忍術として機能させる。

だが今やって居ることは、アレを吹き飛ばす為に出来る限りの力を注ぎ、残る力があるならばその補助に使用して居るだけだ。

 

「少しでも速く! 少しでも威力を!」

 あいつの正体は知って居る。

どうやれば良いかの理屈は推測できる、その為の属性やら何やらは持って居る。

 

 問題なのは、まるで実力が足りて無いことだけだ。

 

「……その為に邪魔なら、全部取り除いてやらあ!」

 足りない。

まるで足りない。

だから注げるだけのチャクラを手足に集めた後は、奴の全身を取り除く為に余力を使う。

 

 あいつの本体は、全身を取り巻く燐気そのもの。

立ち登る燐気、いわば積尸気そのものを見た人間が誤解した姿。

それが奴の正体だ。どんなダメージを与えても倒せる筈が無い。

燐気が燃え続ける限り体は動くし、倒した相手の燐気を吸収して積尸気はますます積み上がる。

 

 だから俺の属性は丁度良い。

奴のコアである燐気に触れる属性を持って居る。

だがまるで足りない。奴の周囲に在る、今の奴を構成する肉体が邪魔なのだ。

 

 チャクラだけではスピードが足りないならば、体全体にチャクラを流して。

体が持たないならば、最低限の保護のために。

それでもスピードが足りないならば、邪魔な大気を切り裂く為に。

奴の肉体が阻み、威力が足りないならば……。

 

「もっと、もっとだ! 奴をぶっとばすだけの力を!」

 今までにやったことがないほどチャクラを練った。

それでも足りないと知って、駄目だと思う自分を叱り付けて過去の情景を思い出す。

あんな光景はもう見たくないからと、後ろ向きな覚悟で全力を振り絞った。

 

 明らかに自分の分を越え、中忍レベルを遥かに超える力を解き放つ。

やった……という達成感と、それでもまるで足りて無いと言う現実が相反して感じられる。

 

 頭の片隅に、ナルトが中忍試験で地面を掘ってネジに勝利した光景が思い出された。

あるいは我愛羅と戦い説得した時の……今どこかでやって居る光景が頭に浮かぶ。

俺も努力すれば何とかなるんじゃねえかなあ……そう思って……。

 

 思いっきりふっ飛ばされた。

 

『シャッ!』

「くそがっ!」

 大蛇のうねりは俺の全力を受け流し、力を吸収しながら反撃に出る。

堅い鱗は表面的な打撃を、中の肉が振動を無力化する。

サイズが大きいということはこういうことだ。

暴力が……大自然の化身の一つである、奴の純粋な暴力が俺を打ちのめす。

大自然に正面から歯向かって、勝てる者が居ないように。

 

 当然の話だが、必死になったからと言って何かが変わるって訳じゃない。

単にさっき俺が出した力は偶然……いや、努力して無かった俺が、努力した分だけ水準が上がっただけの話だ。

 

「けっ。10が11や12になったところで、100には勝てねえよな。判っちゃいるんだ……」

 俺は跳ね飛ばされてボコボコになりながら立ち上がる。

少年漫画の様で臭いと思いながら、立ち上がることにした。

こっちに転生して初めての怒り、意欲。に従おうと思ったのだ。

 

 それと共に死ぬのも悪くないなと……思う反面、どこか斜に構えた俺が居る。

無理だ、諦めろ、どうせ大自然に子供が叶いっこない……と考えを吹きこんで来る。

 

「うるせえよ。相手が大自然だなんて、ハナから……あ、ああ? ああ!?」

 俺はここに来て、初めて自分の勘違いを理解した。

奴の正体は最初から知って居ると言うのに、ソレから眼を背けて、馬鹿みたいに正面から立ち向かったのだ。

 

「ははっ。そうさ。相手が大自然なんだから、それなりの方法があるよな」

 アマゾンだって時間を掛ければ全部伐採できらあ。

俺のミスは相手に合わせた攻撃を持ちながら、奴に取って無用なガワに攻撃したことだ。

奴の正体はアレなのだから、ガワを幾ら破壊しても倒せるわけがない。

それに今まで積み上げた積尸気が、たちどころに修復するだろう。

 

 だから、奴の奴たる本質を倒せばよかったのだ。

俺の力は10が11や12になった程度、100には届かない。

デイダラみたいな周辺をクレーターに変えられる能力じゃないんだから、物理的に戦うべきではなかったのだ。

 

「はっ! たかが土石流。まとめて石っころに変えてやるぜ!」

 そう、奴の正体は土石流。

小高い丘の様な姿ではなく、山の一角、丘その物。

 

 いわゆる山津波の災害を、住民が大蛇として認識したのが奴だ。

 

 俺は郊外どころか山間に住んで居た。

寒村の出と言う訳ではなく、単に地価が安かったからと親が移り住んだだけだ。

企業が家を売るために道を切り拓き、市街にも直ぐに移動できるからと何の問題も無かった。

あえていうならば学校や商店に遠いくらいだが、良い自転車を買ってもらえたし、バイトで二輪を買う許可もあったからな。

 

 だが、とある日にそれは終わりを迎える。

そこで俺が死んだわけじゃないが、大雨の日に大変なことになったからだ。

土石流は家なんぞ簡単に呑み込み、押し流して行く。

転生前のことなんで場所なんざ細かく覚えちゃいないが、近代のはともかく昔の墓所は簡単に崩れて骨が出て来る。

その後はかなりトラウマになったことだけは思えちゃいるがな。

 

 だから俺はこいつを何とかしたいとガラにもなく思ったし、馬鹿みたいに突っ込んだ訳だ。

最初からこうしておけばよかったのに……。

っと、前は実力不足で使いこなせない技だったから、選択肢に無かったんだが。

 

「だが今の俺なら使いこなせる筈だ。積尸気……鬼蒼焔!」

 怨霊たちを、燐気を、積尸気を燃やす炎を俺は放った。




 と言う訳で小宇宙を燃やす展開を入れてみました。
セブンセンシズに目覚めさせようとしたのですが……。
今までの回を振りかえって、なんか要領よく頑張ってるけど、努力したイメージがありませんでしたので。
まずは燃やしてみる。その理由を作って見ると所からですね。
転生物なので過去にいくことないし、何処なのか思い出す必要も無いので、主人公の背景は今出してるくらいです。
山津波が大蛇の正体だと気が付く理由として使う予定はありましたが、闘う覚悟の理由にもした感じですね。

 ここで小宇宙かどうかは別にして、いままで方程式っぽく使ってたパターンとは別に、力を振り絞る使い方を覚えました。
今までが大蛇丸みたいな感じだとすれば、ジライヤ……ではなく綱手やナルトみたいな使い方になるでしょうか。
大蛇丸は魔法使いっぽく、綱手やナルトは闘気ぽく使ってたので、その辺からのイメージです。

 ともあれセブンセンシズにはまだ目覚めて居ませんが、ちょびっと強くなりました。
そして今までは使えても、使いこなせなかった鬼蒼焔(ロストキャンパス)を使用しております。

●山波大蛇:やまなみのおろち、やまつみのおろち、やまくずれのみこと
 連峰を為す山々から、丘その物が土石流として降って来る。
人はソレを荒神が大蛇として襲ってきたと恐れ、掘り返された土砂が骨を眼繰り返す姿から、死者を操ると想起した。
土石流そのものが本体ではなく、人々が恐れた燐気やイメージその物が本質である。
その為に大蛇としての妖魔として顕現した姿であっても、通常攻撃はあまり意味を為さない。
デイダラやイタチであれば、周辺ごと破壊できるであろうが。


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九話

●燃ゆる魂

 燐気あるいは積尸気を燃やす炎、積尸気鬼蒼炎。

俺は今まで使うことはできても、使いこなす事はできないでいた。

 

 燃料の様に自分の力でもある燐気を燃やす。

相反する力を混在させるのは難しく、それなのに成仏させることなどできず、精製油の様に物理的な燃焼も無い。

積尸気冥界波で魂を引き剥がせば別だが、冥界波が通じるなら最初からソレで良い。

 

 ゆえにこの技の修行には身が入らず、維持・威力・規模いずれも論外だ。

出力であるチャクラはともかく……制御に必要な集中力、継続に必要な根気。そういった必要なモノが足りて無かったのだ。

 

 だが今は違う!

 

「燃やし切ってやるし、無理だとしても何度も燃やしてやるぜ」

 何となく理解したことがある。

このナルト世界にセブンセンシズがあるとしたら、理想に至ろうと進み続ける力なのだろう。

 

「まあ勘違いかもしらねけどな。今は目覚めたようで気分が良い。嫌でも付き合ってもらう」

 進もうとしない者に力が備わる事も無いだろう。

あったとしても、使いこなせるとは思えない。転生したときに素質を神様からもらった筈なのに、至ったこともない自分の様に。

 

 今は10が11や12に成った程度の進歩でいい、いつか100に至ることを諦めさえしなければ。いつかこの世界のセブンセンシズ級の領域で力を振るう事も出来るかもしれない。

 

 問題があるとすれば……。

 

『ギィィ!? シィアアア!!」

「……そう来るよな。なにせ今のお前には自由に体があるんだからよ!」

 元が土石流であっても、その力をイメージが共通する大蛇に移して居るのだろう。

あるいはそこに住んで居た大きめの蛇が長い年月を経て吸収したのかもしれないが、十分に強い。

攻撃系の特殊能力を持つマンダほどで無いにしても、その辺の上忍よりは強い筈だ。

 

 だが勝機が無いわけでもない。

奴は自分が圧倒的に強いと言う自信があると同時に、俺相手には不死性が強いしない事を知ってしまっている。

 

 今までは燐気がある限り、例え火影が攻撃しても完全には死ななかった。

死ななければ蛇の再生力でいつか蘇る。燐気を使い過ぎたら生贄を喰って回復する。

そういうコンボでずっと暴れ回って居たのだろう。

 

 だが此処には俺が居る。

本質である燐気を燃やし尽くせる天敵が居ると知っているのだ。そりゃ急いで倒す方が良いと思うに違いない。

 

「なら鬼ごっこと行きますか? へへっ、良いぜ。毒牙なんかすてて掛って来いよ」

 無茶をすれば残りのチャクラでも戦えるかもしれない。

だが近くにゴーグル女が居る。

もし巫女の素質があった場合……アレを喰って強化とかされかねない。

こんなことならさっさと木の葉の里に逆口寄せで送り込めば良かった。

無茶すると本当に死に兼ねないとか、似合わねえ仏心なんざ出すんじゃなかったぜ。

 

「それにだ……ここまでボコボコにされたんだ。一度やり返さねえと気が済まねえ!」

 あいつの能力を把握しながら後退し、理解したところで反撃。

ひとまずの目標をそこに決めて、まずはゴーグル女から遠ざかることにした。

 

●命懸けの修行

 聖闘士っぽく戦いたいので手裏剣や起爆符なんぞもってない。

代わりに奴の燐気へ着火しながら移動……。

鬼蒼炎の練習を兼ねての攻撃だが、牽制と挑発ならこれで十分だろう。

 

 このレベルの相手で修業か……。

自分の力を更に高め、中忍どころか上忍を目指す修行だと思うしかねえな。

 

「鬼蒼炎は霊相手にゃ悪くねえが、普通の忍者相手には何か一手間必要……っとと。練習ついでに戦うにゃ厳しい相手だぜ」

 とはいえ余裕ぶってるわけにいかない。

なにしろ相手は大蛇、柔軟性に優れた筋肉の塊だ。

気を抜くと速攻で追いつかれるし、巻き疲れたら一巻の終わりである(飛雷針は覚えたいがまだ使えねェ)。

 

 小さく数発の牽制を、残り少ないチャクラに鞭打って、大きめのを一発。

嫌がらせだけじゃなく、不用意に近づこうものなら、ちゃんとダメージを与えられると主張しておく。

 

「なんだ。安心でき無くなってゾンビまで使うように成りやがったか。そうこねえとな」

 すると途中から燐気で蘇らせた死体たちを操って、こっちの動きを牽制に来やがった。

好都合なので放置して、体術や空間把握の訓練を兼ねて移動し続ける。

 

 難易度は上がるが、後で何とかし易くなったとも言えるだろう。

だからこそ今は燃やさず、邪魔する奴だけ蹴散らして、速攻で次の場所に移動する。

 

「エピソードGでデカブツ相手にしてるみたいだが……アレと比べるなら、まだマシなのかね」

 岡田版の漫画でアイオリア達がティターン神族やモンスターと戦っていたのを思い出す。

モンスターは当然の様に強いが、倒しても十二神がいつでも介入可能という状態だった。

その激戦に比べたら、優しいものではあるかもしれない。

 

 ゾンビ共も段々うっとおしくなって、移動の邪魔になって来たしこの辺が潮かね。

 

「水鎧をさっきのアレで遣っちまったのが痛いな。しかしまあ仕方ねえか」

 蟹座の聖衣を摸した水鎧。

それを着込めばチャクラも肉体も活性化するが、小宇宙(コスモ)を燃やそうとチャレンジした時に還元してしまった。

 

 通用しなかったが、相手の事を理解できたのはそれがキッカケだ。

それに鬼蒼炎を使いこなす事ができたのも、その結果なのだから、過去に戻ったとしてもやり直す事はないだろう。

 

「さてと。そろそろ十分に引き離したろ。修行も良いが逃げの一手つーのはどうもな」

 懐から温存しておいた兵糧丸を取り出して口にする。

これまで食わなかったのは単純に命懸けで修業したかったのと、大蛇を騙す為だ。

こっちが万全とは言わずとも、ピンピンしてたら警戒するからな。

 

「まずはお前が操る哀れな連中のお掃除時だな。……冥府に還れ、積尸気鬼蒼炎!」

 仕切り直しの第一手に、ゾンビやスケルトンたちをまとめて焼き払う。

練習用に抑えていた鬼蒼炎ではなく、ちゃんと技……忍術といえるレベルで一気に在庫処分だ。

 

 普通の忍者なら相手するだけで難しいゾンビに無双するのは気持ち良い……。

と言う訳では無く、奴が分散させた燐気を回収されない様に処分したのだ。

奴にとってゾンビ達は俺を追い詰める為の駒であり、同時に回復剤でもあったからこそ、大盤振る舞いで何体も蘇らせていたのだろう。

 

「どうよ? てめえの予備パーツが無くなった感想は。そろそろガチでやりあおうじゃねえの」

 前衛であり、囮であり、包囲網でもある。

だからこそ奴は沢山のゾンビを用意したが、それは同時に総量を減らす行為だ。

効率の良い道具だったのかもしれないが、焼き払ってしまえばゼロになる。その為に有効だと勘違いさせて、沢山作らせておいたのだ。

 

 レベル100でも倒すのに苦労する相手だったが、いまは70くらいで倒せるだろう。

霊を殴れるならば……という前提だが、火影でなくとも強力な上忍でも倒せるレベル。

相性が良い俺なら、レベル50とか60しかなくとも行けるかもしれない。

 

 ならば一時的にも上忍を越える威力を引き出せれば……。

十分な勝算ではなくとも勝てる相手に成ったということだ!

 

「セブンセンシズに到達すれば俺の勝ち、無理なら俺が負けるだけだ」

 俺は不意打ちで攻撃して来るだろうと踏んで、ギリギリでの回避を狙う。

普通の相手ならば避けられるだろうが、このレベルだとそうもいかない。

 

 奴は全身のバネを使って急加速。

噛みつかれない様にするのが精々で、チャクラを使って吸着。吹っ飛ばされないように張りついて、そのまま攻撃に移った。

 

「堅ってえ! だが至近距離だ!」

 チャクラを載せて殴りつけても奴の皮を破ることはできない。

だが試しただけで、本質は燐気を燃やす為だ。

遠距離からでも燃やせないことはないが、飛ばす為のチャクラすら惜しい!

 

 命懸けの鬼ごっこから反転、命懸けのチキンレースだ。

可能な限り接近し、余力のチャクラや、制御用のチャクラすら注ぎ込んで燃やし尽くしてやる。

 

 そう思った時、俺の行動を予想した奴の軌道が変わった。

 

「そうは問屋がおろさねえよ!」

 張りつくためのチャクラの性質を、反作用に切り替える。

吸着から反発へ、俺は無様に転がりながら巻き付きからからくも逃れた。

 

 心なしか反作用同士の切り替えも早くなった気がする。

今まではどっちか片方を上手く使えれば良いやという程度だったが、今は使いこなせなければ死んでしまう。

それと……やはり燐気の動きに敏感に成って居るのも大きいだろう。

似て非なる存在であるこいつとの戦いが、俺の成長に役立っているのだ。

 

「今度はこいつでどうだ! アクベンス! からの……鬼蒼炎!!」

 カカト落としをさっき殴った場所に浴びせて、反対側へもう片方の足を食らわせる。

吸着では無く蟹挟みの要領で取りつき、物理的にホールド。

そのまま鬼蒼炎で焼きながら、奴が反撃に出た瞬間に反発で脱出する。

 

 このまま水滴を穿つように、同じ場所を狙って皮を切り裂き、内部から燃やしてやる。

 

 このまま行けば倒せる。

倒せなくとも燐気での蘇生が不能なくらいまで追い込める。

そうなれば最悪、援軍呼んで倒せば良い。

 

 とはいえ慢心は禁物だ。

九死に一生を狙うのはいいが、それに頼り過ぎても駄目だ。

 

「燐気に頼り過ぎだし、反応しなくても良いくらいにしねえと、普通の相手と闘えねえ」

 つーか、こいつ頭は悪くない。

そのうち燐気を抑えて、生物部分だけ動かすとか……自然に出来るようになるんじゃあるまいか?

俺が急成長してるんだ、危機感覚えたこいつも成長してないとおかしい。

 

 結果から言うと俺の予想は半分当たりで、半分外れだった。

新しい力に目覚めたばかりの俺が、バケモノ相手に善戦して居る時点で気が付くべきだった。

こいつは俺と戦いながら、別の方向の努力をしていたってわけだ。




 と言う訳で、死なない大蛇との戦闘は終盤へ。
小宇宙に目覚めて、セブンセンシズへと目標を移した感じでしょうか。

 星矢でいえば十二宮突入前後。
粛清に来たアイオリアが片鱗を感じたり、ムウが修復時に問答した辺り。

 とはいえ相手が特訓みたいな感じで付き合ってくれるアルデバランみたいな善人ではないので、大蛇の方も色々と悪さをしています。
相手が忍者だったら主人公も直ぐに気が付いたのでしょうが、強力な野生生物としても十分強いので、幾つか読みを外している感じですね。
逆に言えば大蛇の方も、そっち方面に力を割いて居るので、強くなった……というかやる気を出したばかりの主人公が戦えているのすが。


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十話

 妖魔である大蛇と男の闘い。

圧倒的なのは大蛇だが、殴られた折りに浴びせられる蒼い炎は苦手なのか、攻め切れないで居る。

状況を打破しようと大蛇は、妖魔としての性質を利用し付近の屍を動かしていた。

それが失敗であったと、後に判明するのだが……。

 

 はたして、それは本当に失敗であっただろうか?

そして男が行った引き離す作戦は、本当に正解であったのだろうか?

 

●大掛りな罠

 大蛇との戦いは俺の方に天秤が傾きつつあった。

燐気を焼く炎を拳に灯して殴りつけ直接着火。

消耗は大きくなるが、たまに遠距離から牽制でも焼き払う。

……そこまでの段取りは同じなのだが、体のコントロールに成れ、新しい体術を取り入れたことで一層有利になったのだ。

 

 仕組みは単純、拳による居合いである。

アルデバランの様に組んだ腕で居合いとかは無理だが、拳の動きだけを最速化するのはできなくはない。

 

「光速の拳にゃ遠いが、こいつは悪くねえな!」

 相手には触るだけでもダメージが行く訳だし、体術の動きはシンプルで良い。

手は拳の居合いのみ、体と脚は大蛇との間合いの制御。

時々フェイントを入れると面白い様に連打が決まり、避けた皮膚に潜り込ませてから内部を焼く。

 

 これに対し大蛇の方は、大掛りなフェイントを掛けて来た。

これまでは自分の体を強化するか、付近に散らばる死体を操って牽制して居たのだが……。

 

 まったく同じ動きをしながら、燐気やチャクラの使い方だけを変えて来たのだ。

 

『……シャ!』

「ちっ! やっぱり燐気を抑えて……しまった、加速か!」

 奴は自分の強化にも使っている燐気を抑え、加速のみの強化に絞って居た。

俺は燐気の反応で先に動いて居たこともあり、やや反応が遅れてしまう。

だがそれだけなら予測して居たので、致命的には成らなかった。問題なのは全身のバネを溜めるのは勿論の事、チャクラだか燐気だか知らないが、加速用に振り絞ったのだ。

 

 しかもやってくるのはそれだけではない。

反発するチャクラを練って離れようとしたのだが、奴は吸着する性質に切り替えたのである。

 

「チクショウ。俺の真似かよ。……けっ、俺ができるんだ。てめえが出来ない訳はねえか……」

 張りついた状態で上下にバウンド。

ただそれだけの動きで俺は大きなダメージを食らった。

御丁寧に頭を振る時には吸着性質を解除し、一気に跳ね飛ばされた。

 

「やっぱこいつ頭いいな。燐気を抑えるだけじゃなくて、チャクラコントロールでフェイントまで掛けて来やがった」

 離れて戦えば、今みたいな攻撃は食らわなかったかもしれない。

だがこっちも奴にダメージを与えようと思ったら、接近したまま戦わないといけない。

 

 忍術や幻術抜きの体術勝負で、ただタイミングと使い方で上に行かれてしまった。

元から動物である奴は体術が強いのは当たり前だが、こうもアッサリとやられると腹も立たない。

 

「とはいえ、消耗してる今が最大のチャンスってのも確かなんだよな」

 これが体術だけでなく、他の力まで使ってきたらどれほどヤバイのか。

その事を感じつつも、後少しで倒せる所まで行っているからこそ、ここで逃げてはいけないと己を叱咤する。

だいたい今逃げていつ本気で戦うのか、逃げて呼んで来れる援軍のアテでもあるというのか。

 

 消耗を抑えるために忍術を使って来ないうちに、もっと強烈な……。

 

「……待てよ。なんでこいつ忍術使ってこねーの? まさか……」

 そりゃダメージ与えているし、累積すればかなりのもんだ。

それ以前の傷……封印が解けたばかりで、前の戦いの傷や消耗を引きずっているとばかり思っていた。

 

 実際に背中には無数の刀や槍が突き刺さり、大きな岩が動きを制約しているのだ。

今も何とか回避しているのも、そのお陰とも言える。

 

「もし忍術を使って来ないんじゃなくて、使えないんだとしたらどうだ? ……こりゃ一杯喰わされたかもしれねえ」

 圧倒的な燐気の大きさからして、こいつが『本体だった』のは確かだろう。

だが分身体を作りあげて、他の行動をやらせているとしたらどうだろう?

そっちに集中力やチャクラを割いて居るとか、単純に尻尾ならぬ本体を切り離して休眠する為に逃げているとか。

 

 だとしたら、ここで俺が優位に立って居るのは当たり前だ。

こいつは単純に、本体で予備が逃げるだけの時間稼ぎをしている。

もっと単純に、あのゴーグル女が巫女だとしたら、取り込んで強化する為に食いに行っている可能性がある……。

 

「ど畜生! 馬鹿にしやがって。俺にゃあダミーで十分ってことかよ!」

 牽制のつもりで鬼蒼炎を放つが、怒りで不必要なチャクラを練り込んでしまう。

奴にはダメージを与えられるが、俺が焦って居ると知って余裕そうな顔を浮かべていた。

そして悠然と尻尾を振り、動きの鈍った俺を打ちのめす。

 

「くそっ。何時からだ、何時から俺は騙されて居た。どこでリカバリーを掛ける……」

 大蛇丸あたりなら、似た様な事をするから警戒していたはずだ。

その意味で、俺はこいつを舐めていたのかもしれない。

 

 こいつは勝てても、確実ではないと考えた時点で温存を決めた。

無敵の筈の自分に手痛い攻撃を浴びせれる上に、封印が解けたばかりで万全ではないと考えるならば、確かにその取りだろう。

口寄せ生物でもマンダやがガマ親分とか格上の連中は、普通に頭が回るし忍術だって使えるのだ。

 

「口を効かないからって油断したつもりはねえが。こういうの戦術で勝って、戦略で負けるって言うのかねェ」

 俺は油断してはいないかったが、あくまで目の前に見える相手にだけだ。

最初から逃げを打ち、別方向に分体を動かして居るなんか思いもしない。

そもそも分体を作れるのならば、俺を二体掛りで倒す方が確実に思えたからだ。

 

 ……だか俺が鬼蒼炎で、奴が操るゾンビ共を焼き払うのを予想して居たらどうだろう?

完全な推測では無いとしても、分体ごと始末するほどの大規模忍術を使うとかくらいは予測はできそうだ。

数を増やしても全て倒される可能性がある、だから最初から生存を最優先にしている……と。

 

 この考えが思考誘導で、騙されている可能性はある。

だがそこまでするより、俺を一気に叩き潰す方が早い。

慎重に行動しているのを逆読みすれば、可能性としては逃げを打って居る方が高い。

 

「時間を掛けている暇はねーな。腹を括りますか」

 さっさとこいつをぶっ飛ばし、分体……というか新しい本体を始末する。

でないとチャクラどころか、動く体力すら無くなってしまうだろう。

 

●それは勝利なのか?

 あれだけ苦労して付かず離れずをして相手なのだが、いっそ掴まってしまうことにした。

怪我をして動きが鈍っているのと、速攻で倒す必要があるからだ。

限界が来たフリをして体力を温存し、チャクラは最低限の移動に使う。

 

 締めを喰らったら詰み、牙をまともに受けても似たようなもんだ。

ゆえに狙うはただ一か所、ヒントはナルトの第二試験!

 

『ッ!?』

「臭せえな! だがここなら十分だ! 鬼蒼炎を内側から食らいな!」

 噛み付きに来たところで、今までとは逆に口の中に飛び込む。

牙を逃れて口内の暗闇の中に移動し、燐気を燃やす炎で焼き払い始めた。

 

 これまでは外側だった故に、外皮はあるし払えば消えることもある。

だが体の中で有れば、消す事などできまい!!

 

「うっお!? がっうぐぐ。根競べだ、さっさと死ねよ!」

『ギィィィ!』

 奴は喉を可能な限り絞めつけつつ、俺を翻弄しようと頭をあちこちに振り回す。

ぶつかる度に俺にも強烈な衝撃が押し寄せるが、もしかしたら本当に苦しんでいるのかもしれない。

 

 だがチャクラは燐気を燃やす為に全力で奮っている。

防御のために使う力は残っておらず、分体を探しに行けるか本気で体力が心配になった。

 

「全部自分のせいとはいえ、酷でえ目にあった」

 やがて奴の内部から燐気を焼きつくし、ボロボロの体を引きずって外に出る。

苦戦していた相手だが、こうなってみるとあっけないもんだ。

もしこいつが保険とか考えずに、最初から全力で居たら倒されて居たのは俺だったかもしれない。

 

「これで死んだフリで近い場所に隠れてたら笑えるが……。間に合えばいいがね」

 念の為に柔らかい目玉から脳天に一発、トドメの一撃を入れてゴーグル女の元に向かう。

痛む体を引きずって、そこで見掛けたのは吐き気を催す光景だった。

 

 大少合わせて無数の蛇がゴーグル女にまとわり付き、その舌で表面を舐め取り、少しずつ噛みついて居た。

良く見ると肉はあまり抉られておらず、血を流させ毒を流し込むのが本命であるかのようだった。

なぜ一思いに喰らって無いのか、あるいは燐気で洗脳して宿主にしていないのか微妙に不明だったのだが……。

 

「そういや急増で作った蛇比礼を巻きつけてたか。ニコチンを手下に払わせてんのかね」

 血は儀式の続行と、自らへの捧げ物だろう。

毒は操る為なのか、動き出したら麻痺させるためなのか判らないが。

 

 ひとまず鬼蒼炎で周囲の燐気を焼き払う。

すると操られて居た無数の蛇は、野生を思い出したかのようにその場を離れて行く。

 

「……この光景、気絶つーか仮死してて良かったんじゃねーの? 俺ならごめんだね」

 そして蛇たちの中心にいた、比較的に大きな……骨だけの蛇がゴーグル女に巻き付いていた。

それは怪しく体を乗っ取ろうとしているかのようであり、恋人にしようと寄り添っているかのようでもあった。

 

「ひとまず、これでゲームセットだ。……勝負はお前の勝ちだよ」

 蛇にトドメを刺した上で、符を張って処理。

だが、これが本当に、新しい本体かどうかは判らない。

弱っている状態で更なる分体を作れるとは思えないが、ありえないとも限らない。

相手が蛇だけに生命力は強いと言うか、大蛇丸の実例を知っているだけに笑えなかった。

 

「この件は後処理をして回らねえと駄目だな。大名様に木の葉へ滞在して良いか聞かねえと」

 もしかしたら、もう逃げられたのかもしれない。

大丈夫だと思っていても核心は無い。

 

 丁度良い特訓だと浮かれて、戦略的には上を行かれた。

奴が最初から勝負に出たら負けて居た上に、更に予備があったら逃げられても居るのだ。

ハッキリいって、俺としては大失敗だったと言っても良い。

 

 こうして俺の中忍試験は終わりを告げたが……。

試合には勝ったが勝負には負けたと言う感じでスッキリしない。

奴が分身体を作って逃げたとみなし、探しに出た方が良いだろう。

 

「死者探しの死の旅に出た上で、ついでに封じる結界術でも作って見るかねェ。封神演技みたいなのは無理にしても」

 大蛇の上に乗って居た岩とか祠とか、研究するための材料はある。

協力を申し出た上での事後処理ならば、木の葉の方も嫌だとは言わないだろう。

それでなくとも火影が死んで大変になるのだ、面倒を押しつけられるならば文句を言わないに違いない。

 

 俺は新たな目標を見付け、修行の必要性を感じていた。

もし物語りにスタート地点を記すとしたら、俺の退魔行は此処から始まる。




 と言う訳で第一部完です。
途中から逃げを考慮して、戦略を練った妖魔に出し抜かれた感じですね。
一応勝ちはしたし間に合いはしたけど、スッキリしない勝利。
今後に主人公の修行意欲をかき立てつつ、第二部があれば第二部に続く流れでしょうか。

 その場合は中忍試験の結果を聞きながら、木の葉の里で結界術の作成。
死者対策で行動して、暁編で呼ばれる感じになります。


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外伝:封魔演技

●現地調査と交流会

 木の葉崩しが終わった後、俺は大名様と相談の上、里に残ることになった。

名目としては協力の続行であり、尻馬に乗って得た他国への優勢を持続する為だ。

解けかけた妖魔の封印の責任もあるしな。

 

 まず俺は協力しながら、情報やコネ作りに励む事にする。

紹介と言うか、不審者ではないと説明する為の交流会を上の人に頼んでおいた。

 

「すまねえが、花の注文いいか?」

「男の子が買いに来るなんて珍しいわね。もしかしてコレ?」

 最初に山中生花店を訪れ、いの(・・)に花を注文。

もちろん口説く為ではなく、スムーズな話題作りだ。

 

「あながち間違っちゃいねえが、交流会のだよ。荒れても何だろ? 色でも香りでも良いが、予め落ち付くようなのを置いときたい」

「……へェ。思ったよりも細かいのね」

 いのは最初、冗談まじりに恋愛話へ結び付けようとしていたが驚いたような、妙に感心した表情になる。

 

 そして興味を持ったのか、俺の意図通り、少しだけ突っ込んだ話題を振って来た。

 

「やっぱり珍しいわね。男の子って、そういうのまるで気にしない人が多いのに」

「うちは仙人崩れだからな。結界って程でもねえが話し難い空気よりは、落ち付いて話せる様に少しでも場を整えておこうと思ってさ」

 正確には今話していることが、重要な根回しだ。

他所者が相手に気を使っているという姿勢を見せ、話好きな女の子経由で前もって広めておく。

陰湿なタイプには逆効果だが、いのは陽性なので問題はないだろう。

 

 そして俺が仙術系(正確には鬼道だが)だと告げておくのも意味がある。

仙人の力を得た忍は段違いの強さを持つし、仙人崩れの家系であっても、それなりの秘伝忍術を持って居ると思ってくれるだろう。

今はそうなんだ……という認識だろうが、後で親の山中いのいち(・・・・)にでも聞いた時に、それなりのイメージに育つ筈。

 

 そう思って立ち去ろうとした時、驚いたことに、いのは次の質問に移った。

 

「仙人……ねえ。ちょっと良いかしら? 貴方も予選に居たわよね」

「あ、ああ……。俺に答えられる範囲でならいいぜ」

 正直、ビックリした。

仙術に関しては原作知識とあまり差はない。生前の知識は参考程度にしかならんしな。

ここで露骨なツッコミを受けては困るというか、根回しとして使うには失敗したかとすら思った。

 

 だが、まだだ。

中忍試験の予選くらいなら、俺の知識でリカバリーが効くぜ!

 

「私の術でサクラをコントロールしてたのに、抵抗されちゃったのよね。何故だか判らない?」

(「セーフ!」)

 良かった、これなら判る。

危なく色々失敗するところだった。

 

 とはいえ原作知識を交えて話すにしろ、それなりの理論にでっちあげねえとな。

 

「抵抗に関する理屈は二つしかねえ。術と抵抗力のどっちが上回ったか、だ。……見たところ、あの秘伝忍術はリスクと引き換えに相当な強制力を持っているよな」

「そうなのよね。一度は成功したと思ったんだけど……」

 原作においてのエピソードでは、細かく語られては居ない。

だがファンの間に置いて、サクラが何とか出来た理由が存在する。

 

 俺はそのネタを理論として組み換え、もっともらしく話を作る。

 

「と言うことは逆の方があり得る。……例えばサクラって子が『赤髪』の血を引いて居るとかな」

「赤髪? 確かにサクラは赤毛だけど……」

 原作に置いてもグレーゾーンで、特にそうだとは語られては居ない。

だが先述した通り、サクラがあの『赤髪』であるならば、ちゃんと理屈は通るとファンの間では語られている。

 

「よくある失われた家系の一つさ。赤髪は広く浅く吸収されたタイプで、火影の正妻になった者も居るくらいだが……とくに封印術へ適性がある」

 俺はそう言いながら、木の葉のマークを指差した。

 

『葉っぱの中に描かれた、渦巻の紋章』

 

 今は語られて居ない、うずまき一族の物だ。

もはや忘れられたレベルの話であり、かつ、聞こうと思って探せば聞ける。

もし気になって、いのが後で調査しても問題無い。

 

「そんな一族があるなんて初めて聞いたけど……。でもそうね、封印術かぁ」

 本当かどうかはともかくとして、いのは何となく納得したようだ。

そして複雑そうな顔をして居るのは、平凡なサクラに特殊能力っぽい力があるかもしれないのが原因だろう。

 

 良く言えば、認めた相手に素晴らしい能力があると認められること。

悪く言えば、相性の悪そうな相手にリスクのある術を使ってしまったということだ。

複雑な顔をするのも、当然と言えば当然か。

 

「ありがと。なんだかスッキリしたわ」

「このくらいならな。流石に対策まで聞かれると、直ぐには答えられねえが」

 そういってみたものの、店先にあった薔薇に目が止まる。

どこかの誰かを思い浮かべる花を見て、俺は苦笑して生花店を後にした。

 

●種まき

 思いもせぬ会話が、他者への協力という、余計な考えを呼び起こして居た。

そして最後に見た、あの薔薇だ。

 

「アフロディーテの技とか、こっちでも使えるのかねえ」

 そういって思わず首を傾げる。

妖魔との戦いではアルデバランの技をヒントに、拳による居合いを思い付いた。

 

 今も光速の拳を目指す為に修行している。

殴り合いの所作だけなら、相当なスピードを出せるとまで自負している。

 

 だが、花を使ってまで忍術を作るのは行き過ぎだと思ったのだ。

だいたい自由に成長させられる、木遁が希少とはいえ存在する世界である。

 

 そのままでは比較するにも力が足りないし、アレンジするにしては、多様性があり過ぎる。

武器やトラップに始まって、薬草や毒草と組み合わせるとか、研究する時間が幾らあっても足りないではないか。

 

「だが……他の黄金聖闘士の力を参考にするのも悪くはねえな。その中で、自分に合うのだけを取り入れればいい」

 水瓶座の氷は無理だが、山羊座の手刀や蠍座の指穿とかは問題無い。

むしろ格闘はそれ一本に絞って攻撃力を高めるならば、今からの修行にだって取り入れても良いくらいだ。

 

「何とかなりそうなのは雄牛・山羊・蠍……かー。どっちかというと下位カーストじゃねえか」

 獅子座とか乙女座とか使いたいものだが、残念ながら適性が無い。

乙女座の技とか凄いし思いつくのに、やるとしても可能なのは日向の連中くらいだろう。

 

 何故、他人の為に苦労して、自分が使いたい技を開発せねばならんのか。

まあ、三代目が五大の技を全て使えるので凄いと言われた様に、頑張れば実戦レベルかはともかく開発くらいはできるだろうか?

 

 思いつくが自分には向かない。

そんな事実に目を背けながらも、脳裏の片隅に残り続けた。

 

 頭を振って追い出そうとしたが……結局、これが後の行動に影響を与えたのである。

 

「せっかくだし、教えてもらったら?」

「で、でも……私……あんまり戦うの好きじゃないし……」

 会話した縁か単に気に入ってくれたのか、ヒントを教えたことで、いのが俺を推して来た。

相手はさっき脳裏を掠めた、日向ヒナタだ。

 

 ネジの方じゃないだけマシというか、あのレベルの天才に話すアドバイスなんてねえよ。

 

「そんなに傷付けるのが嫌いなら、護るための技でも覚えたらどうだよ? この際、攻撃系のはまた今度にして」

「……護るための?」

 何故、思いつけてしまうのか。

アドバイスの必要性から逃げる為では無く、ヒナタの強化をショートカットする方法を思いつけてしまった。自分で使えないのに、他人の事になるとスラスラ思いつくのがアホらしい。

 

 まあ、さっき考えてた、黄金聖闘士の技を再現するネタのせいだけどな。

特に乙女座と日向って、相性良さそうだし。

 

「回天とは言わねえがチャクラを載せた掌で弾くとか、簡単な術に上乗せして撃ち落とすとか」

「良さそうじゃない。やってみたら?」

「うん。そ、そのくらいなら……日向流にもあるし……」

 アニメやゲームに出てたから、何となくアレンジし易い。

八卦空掌とか、守護八卦六十四掌とか。そういうのを先に覚えてしまえばいいって寸法だ。

 

「相手の体みたいに正確に見抜かなくていい。場の乱れを狙って大きくするんだ。ソレで十分に威力が減衰する」

「ええと、場所や時間を分割して……チャクラ濃度の高い場所を……?」

 使い易ければタイミングでも何でもいいが、六十四に分割して迎撃する。

普通の六十四掌は攻撃の為のタイミングとか、相手の配置を見抜くモノと思える。

コンボで次の場所に移動させて押し込むことで、態勢を崩し防御を崩し、最終的に追い込む為の技でもあるのだろう。

 

 それに対して迫る攻撃を止めるために、守りの結界を敷く。

六十四に分割した中で、FPS的に、自分や仲間に届く攻撃だけを防ぎ切る。

完全に無理ならば無理と判った段階で、どこの守りを厚くするかを決めて何度も放って撃ち落とせばいい。

 

(「やろうと思えば回天だって、シャカとは言わねえが、綱手やサクラみたいな蓄え方を学べば可能そうではあるよな」)

 あまり口出しし過ぎて原作と離れ過ぎるのも問題だ。

テマリとシカマルの仲とか藪蛇怖いしな。

だが詳しく語られてない事をショートカットするのは問題なさそうに思える。

 

 後はそれを身に付ける段階で、コツっぽいのを伝えたり、後から決断する事を今の内に奮起させるのはアリかもしれない。

柔歩獅なんちゃらは使っても無いので口出せないが、守護八卦なら見てる範囲で十分だ。

介入するほどの理由はないが、仲良くなっておけばこっちの情報収集にも役立ってくれるだろう。

 

●ネクスト・ジェネレーション

 その日は最後にテンテンと話をして終了。

……なんか女の子とばかり話している様だが、一応、男性陣とも話しているぜ。

 

 とはいえキバやシノは独立独歩なタイプだし、シカマルはやる気がない(話そのものは面白そうに聞いていたが)。

ナルトやサスケ達はチョウジと共に入院中であることも踏まえて、基本的にはここで語るほどの事が無かったと言っても良い。

 

 逆に原作とは違って無事なリーとは、体術に関してかなり突っ込んだ話をするかと思っていた。

だが話よりも実戦練習の方が好きなタイプなので、また今度、手合わせしてみようという事で終了。

機会があれば延々と殴り合いながら、高速を越えた光速を共に目指す仲になるかもしれない。

 

「口寄せから口寄せに繋ぐの?」

「ああ。予め印を付けたモノを投げることで、弾かれても次に繋げる」

 パチンコ玉とかで十分なのだが、持ってないのでコインを使う。

 

 指で弾きながら適当に散らし、その内の一枚を指差してみる。

 

「こいつへ起爆札を送るとか、今直ぐは無理だろうが、自分自身を逆口寄せで送り込むとかな」

「そういえば聞いたことあるわね。名前までは知らないけど、時空間忍術の奥義だって」

 飛雷針なんぞ簡単に使えてはたまらないので、確かに奥義ではあるだろう。

きっと火影だけが仕えたという伝説の奥義として伝わって居るに違いない。

 

 だがむしろ脅威なのは、互乗起爆札みたいな、奥義ではないのに強力な技だ。

やはり考案した卑劣様こと二代目は、相当な術者だと言えるだろう。

 

「キーは暗器にした花とか折り紙とかでも良いけどな。後は結界術にするのも定番か」

「言われてみれば今更だけど、面白い組み合わせではあるわね」

 アフロディーテの技を思い出しながら、花の周囲に水のチャクラで霧を作ったり、強化した花そのもので斬り割いたり。

最後に意味はないが、四方に散った花弁をチャクラで繋いで、即席の結界モドキを作って見た。

 

 他人の術をネタにしてるので、手柄を奪ったみたいで心苦しくはある。

だが話のネタとしては十分だし、原作メンバーを強くすることで、後の暁編とか戦争編が楽になるなら良いんじゃなかろうか。

 

 とはいえここで得たコネを利用して、少しずつ情報を集めて行く。

その事自体は悪くない様に思えた。

木の葉周辺で何が起きているのか、妖魔が暴れてるなら何とかする必要もあるからな。

 

 その一方で、コツとして教えた代わりに、教えられたこともあった。

 

「結界か」

 この日、話をして思い至ったのは結界術だ。

山中家が関わって居る木の葉への出入りに関する結界。

日向家の……特にヒナタが覚える守護八卦六十四掌。

そして先ほどテンテンと話した時に出た、投げつけたモノで結界を築くと言う物だ。

 

(「待って居るだけじゃなくて、対妖魔用の結界とかあっても良いかもな。……死人対策に限定するなら警戒されないし、穢土転生にも流用できるだろう」)

 退魔という響きは中二病ならずとも恰好良いと思える。

さっきはキバ用になにも思いつかなかったが、古来には犬の鳴き声に退魔の力が宿ると言う。

四人衆との戦いが終わるまで口出しをしない方が良さそうだが、ちょっとした話をしても良いかもしれない。

 

「アイデアを話すか、死蔵して無駄にするか。……惜しいちゃ惜しいよな」

 最初は他人に教えるとか、それも原作で他の人間が考えた事を横取りする気はなかった。

しかし、今後に大きな事件が起きるのであれば、出来る事をしないのは努力を怠って居るのではないかと思えて来る。

この間の戦いで苦戦したのも、小宇宙(コスモ)の修行を中途半端で済ませて居たことが原因だった。

 

(「それに……。死人対策の結界とか、コツを教えるとか……教皇セージを思い出すぜ」)

 ロストキャンパスで出て来た教皇セージは、元蟹座の黄金聖闘士だ。

彼とその弟子であるマニゴルドのお陰で、蟹座の地位は随分と復権した。

原作が始まるまでにシオンと老師が色々と教えて居た様に、セージも兄と一緒に色々と教えていたらしい。

 

 木の葉の連中に協力することを、セージの件に絡めて納得させている自分を感じる。

だが自分だけで動くのではなく、修行をしながら、彼らに関わるのも面白いのではないかと……思えて来たのも間違いはなかった。




 という訳で、事後譚として少しずつ木の葉に関わっていく感じです。
第一部は極力関わらずに済ませて来ましたが、『それではナルト二次の意味が無いじゃん』ということで、外伝では試験的に関わってみます。

●主人公の今後
 作中に在る通り、光速の拳を目指しながら退魔結界を組んで見る。
その間に自分はあまり動かずに、原作の子達が修行しながら行動する流れとなります。
まあ他の黄金聖闘士の技とか主人公がバンバン使うのも変だし、でも再現してみたい。

 だからこそ、他の子たちが行動するのはどうだろう? と思ったのもありますね。
一番やってみたいのは山羊座の手刀で銘刀の名前を付けるとか、ダイの大冒険のアバン先生のノリで忍者の教師とかしたいことなのですが。
まったく関係ないキャラ・ネタを出すのもどうかと思うので、今回は他の星座で行ってみます。


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外伝:封魔演技2

 木の葉の里で、二人の少女が訓練をしている。

その姿は特に珍しいモノではなく……。

片方が飛び道具で攻め、もう片方が防るというのもやはり珍しくは無い。

 

 投げているのがテンテンというだけならば、見慣れた者ならば納得し易いだろう。

珍しいとすれば、訓練相手が日向・ヒナタということだ。

 

 そこでは新種の投擲武器を用意したテンテンと、掌にチャクラを多量に宿したヒナタの特訓が行われていた。

 

「流石に日向の本家ね。でも……これはどうかしら!」

「っ!」

 分銅のようにサイズの違う手裏剣に始まって、金属の性質が違うモノが雨のように降り注ぐ。

更にそれだけではなく、手首の返しや踏み込みで重さを加え、果てはチャクラを載せてと投擲方法も多岐に渡る。

同じ飛び方に見せて威力が異なり、あるいは到達速度に千差万別の差があった。

 

「そこです!」

 それに対する防御も掌による打撃に始まって、付随するチャクラに振動、放った衝撃波によるものまで様々だ。

通常レベルの防御であれば、捌くどことか肉を抉りかねない攻撃を容易く弾いている。

 

 その攻防は凄まじく、当たればズドンとクナイが軋み、弾けばズバンと衝撃で異様な音がするほどだ。

 

「これで最後! でも、これまでの様にはいかないわよ!」

 そこから更にヒートアップする。

テンテンは体をひねりながらジャンプして、今まで二倍するスナップを付け足した。

 

 二倍の回転力に掛けることの二倍の落下速度!

そして二倍のチャクラによって、合計八倍……とは行かないものの相当に強烈な一撃で在る。

 

「守護八卦十六掌!」

「まだまだ忍法、七星剣の術!」

 だが、それは全て囮だ。

ヒナタが動作に入った瞬間……。

落下中に組まれた印が、落ちている手裏剣のうち幾つかをチャクラで繋ぐ!

 

「ここです! 柔歩五獣拳、鶴翼掌!」

 強化されたヒナタのチャクラが掌から極大化する。

翼の様に拡がって、手刀の通る先にあるチャクラの流れを寸断して行く。

 

 全てを食らい尽くす獅子の拳にには及ばないものの、防御用としては十分だろう。

チャクラの連結を切り裂いて、手裏剣をただのオブジェに変えた。

 

●検討会

 その様子を見ていた俺達は、検討会を始めた。

車座になって適当に座り、おのおの感想を言ったり、提案や駄目出しを行う。

交流会とかで仲良くなったり提案したついでに、こういった試みを最近やって居る。

 

 今回はテンテンとヒナタの組み合わせだったが、日によって別の組み合わせもあり得た。

ぶっちゃけ隠すのが前提の秘術以外は、見せても構わない表芸も同然である。

格好付けて見せないよりも、見せ合って質を高めた方が良い。

 

「随分良くなったんじゃない? 相手がネジさんじゃないからリラックスしてるのもあるけど」

「何度目かの対戦だしな。それはそれとして、秋道が復帰したらまた変わってくるだろ。純粋な力ってのは侮れないもんだ」

 いの(・・)が話しかけて来るが、チョウジの件を出すと嬉しそうな顔をする。

 

 ムードメーカーで面倒見の良い彼女はこういった会をすると積極的に話しかけて来る。

仲良くなった相手に協力し、昔から仲の良い相手にも心を配る。

これが彼女の良さであり、『後』に繋がる才能の一端なのかもしれない。

 

(「心伝……なんだっけ? スゲー人数の他心通ができるようになるんだよな」)

 いのは忍界大戦において、上忍である彼女の父でも不可能なレベルでテレパシーが可能になる。

その能力で連合軍の連絡を取り持つ重要な役目を担うのだが、相当な適性だと言えるだろう。

 

(「血統半分、環境半分とはよく言ったもんだ」)

 教育学に置いて、血や体質などの生まれは才能の半分。

育った家庭や性格が、残り半分の才能を決めると言う。

 

 これは教育だけではなく、忍術にも言える事なのかもしれない。

後にサスケが開眼する万華鏡車輪眼も、最初は天照と火具槌の攻撃系二本立てだ。

彼の生き様を考えれば妥当な気がするし、イタチが色々と偽って来たことから月読になるのも理解できる。

本当に環境が忍術に影響を与えるかは別にして、面白い流れではあると思った。

 

「へっ。良くわかってんじゃねーか。チョウジは結構やるぜ」

「性格や能力差ってのも重要だしな。一人の天才が10人分居ても、多分、同じ罠に引っ掛かる」

 当然のことながらチョウジの話を出すと、仲の良いシカマルも乗って来る。

ここに居ないからこそ弁護したくなるのだろうし、実際にチョウジも戦い方次第で強いのだから、言いたくもなるだろう。

 

 そしてシカマルはシカマルで性格が掴めて来た。

やる気の無い原作通りの性格だが、知識……というか考え方的なネタは積極的に関わるし、なんのかんのといって仲間の事には関わる密度が高い。

将棋に似てるチェスを教えたら直ぐに覚えたし、……さっきの対戦とかも、見て無いようで見ている筈だ。

 

「あっちはそろそろ冷静さと最適化の段階か? こいつで隠し条件付けて試合したら面白いかもな」

「サイの目? あーなるほどねえ」

 俺がサイコロを取り出すと、シカマルはニヤリと考え始めた。

テンテンとヒナタが有利になったり不利になったりする状況の中で、現時点で試せる物を考え始めたのだろう。

 

「罠を張る為に全部を当ててはいけない、全てを防御してはいけない。あるいは……」

「さっきの連結みたいなのを最初から狙うってやつだな? 他にも怪我人が居るから絶対に反らせてはいけないとか、起爆札や毒があるから近くに落とせばいいとか」

 俺が一つ考えて提案している間に、シカマルは二つも三つも考えついたようだ。

普段からこういうことを考えている様にも見えないし、原作通り頭の回転が早いのだろう。

 

 最初からこんな感じで行動してれば、相当な切れ者軍師として名前が売れただろう。

しかしやる気は無いがイザという時はフル回転する性格なので、逆に言えば急に湧いて出る問題の対処が上手くなるとも言える。

 

 こういってはなんだが、こないだ思いついた『原作キャラを強化する』というアイデアは面白いが、下手に介入してもマイナスになりそうではある。

 

「なんだ。俺って必要なくね? まあオッサン連中に呼び出し食らってるし、ちょうど良いっちゃいいんだがよ」

「何やらかしたんだよ? つーか、オレにばっか押しつけんな」

 俺は笑って懐からちょっとした石を取り出した。

そいつをシカマルの方に放り投げ里の方に向かう。

 

「埋め合わせにそいつをやるよ。小さいから武器にはできねーが、チャクラ刀の材料だから練習くらいはできるぜ」

「……っていうとアスマが普段使ってるアレか? ちっ。バイト代としてどうなのかねえ」

 文句を言いながらもシカマルは面白そうに石を懐に入れる。

強さよりも面白い使い方、そういう意味でシカマルには絶好の玩具だろう。

 

 新しい玩具に取りかかる為、さっき言って居たサイコロに対応したアイデアを適当に紙に書き連ね始めた。

 

●介入によるビリヤード

 仲良くなるのは良いが、他に影響しない筈も無い。

判り易い範囲で言えば、いのと仲良くなれば、子煩悩な父親に詰問されることもある。

 

 もちろん口説く気なんかないので、いのいち(・・・・)自体の怒りは構わない。

問題なのは、侵入者を調べる上役として警戒して居る場合だ。

 

「とりあえずカバー情報を上書きしてっと。……いや、二重にプロテクト掛けとくか」

 原作を思い出しながら、記憶を探られても困らない対応をしておく事にした。

怨霊経由で陰遁を使用し、自分に自己催眠以上の術を掛けておく。

 

 内容は言って居る事に矛盾が無いようにする為だ。

アイデアとか原作を知って居ましたとか言える筈が無いし……。

将来の忍界大戦を語らないのであれば、現在の協力的な姿勢が奇妙になって来る。

 

「流石に一目惚れとか言い訳にもならんしな。返って洗いざらい記憶を探られかねん」

 とりあえず敵対して居る国の話や、木の葉に関するエピソードを少し弄って追加。

 

 ソレに蓋をするように忙しくしたり、興味を覚えて面白半分で提案してるくらいが良いだろう。

相手は真剣だから後ろめたいとか、自分が強くなる為に過程を見て居るくらいが安全か。

例えばガイ先生の父親の話を、霧隠れ経由で聞いて凄いと思っているが……迂闊に本人達に聞いて良い気楽な話ではないと遠慮して居るとか。

 

 軽く探ったらもっと表面的なデータ。

本気で侵入すると、こういった偽の記憶が判明する様にしておく。

ダミーなので細かいところまで弄っても良いのだが、肝心なのは原作知識とか言うパワーワードを知られないことだ。

余計なことはせずに、整合性や自然さだけを重視しておく。

 

「まあ国同士の付き合いで協力してる。ってことにしとけば深くは聞かれないんだろうけどな」

 問題なのは浅い付き合いは、浅い付き合いにしかならないということだ。

 

 妖魔の噂があるならば聞いておきたいし、後の暁編や戦争編に関わるなら今から知り合っておく方が良い。

この手のことは後回しにして良いことはない。

 

「あとは面倒が終わったら……新術や結界ってどんなのにすっかな」

 暁編や戦争編に関わるとして、どんな術を作るのが良いのだろう。

 

 黄金聖闘士級の体術を目指すのは当然として、厄介な出来事なのだから対策はしておきたい。

迂闊に穢土転生や口寄せを封じたら、味方の得意技を封じることにもなりかねない。

何かの漫画で『結界を新しく作るのは、細心の注意が必要』とか言って居たが、本当にそうだと実感するのだった。




と言う訳で、前回の続きです。
原作キャラと仲良くなる……というか、違和感なく登場させて、その影響を出してみる。
その影響が将来にも関わってきそう……というところまでやってみました。

 第一部でやらなかったので、『原作がナルトである必要が無い』というのを徐々に解決。
そろそろ第一部の残りを片付けつつ、『伏線付きの敵』第一部よりも『もっと判り易い戦闘』を試したいと思います。


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外伝、封魔演技3

●任務の受諾

 木の葉の里はフル回転だった。

正確には上忍率いる大人達だけで構成した、質の高い臨時編成班が四方八方へ。

 

 全ては木の葉崩しで起きた穴を埋め、力が劣化したと言う噂を打ち消す為だ。

 

 普段は班を率いている筈の上忍が居ない。

場合によっては子供の下忍の中でも、腕効きや特化型が引き抜かれて居なくなっている。

ガイ班ではネジまで呼ばれているので、テンテンとリーが残っているのは、当然と言えば当然かもしれない。

 

「同じ術や薬物が白と黒を兼ねることがある。毒物だと……」

「動物毒・植物毒・鉱物毒の三種。それぞれ効能が違うでしょ? 判ってるって」

 里に居るのだから少しは働けと、ちょっとした任務を押しつけられた。

メンバーとして腕は立つので、テンテンとリーを連れて行け……。

と言われたのだが、まあ中忍としての適性を見つつ、俺が信用のおける相手なのか監視する要員でもあるのだろう。

 

 とはいえ二人にはそういうつもりは無さそうで、ほどほどの付き合いのままである。

申し渡された任務は、獣が怪しい動きを見せているので対処、忍者の仕業かどうか確認……というものなので問題はないとも言えるが。

 

「でも、こういう使い方は思いつかなかったかも。略印とか省略できるのは知ってたんだけど」

「慣れれば一発で書架から連動させられる。覚えといて損はないよ」

 せっかくなのでテンテンに口寄せで口寄せを呼ぶテクニックを教えておいた。

棚Aの何番目の巻き物を呼び、そこに封印して居る薬物や器具を簡単に呼ぶ方法である。

 

 それに略印を組み合わせることで、瞬間的に施薬や応急手当てが可能になる。

現代で言うと、関数とかマクロの指定だと思えば、知っている者には判り易いかもしれない。

 

 医療忍術を覚えたくても適性が無く、時空間忍術に適性の在ったテンテンだけに興味深く話を聞いて居る。

応急手当が戦場で即座にできるだけでも違ってくるし、やはり本人の憧れている分野に関われると言うのは大きな意欲を湧かせるのだろう。

 

「ねえ。これだけ出来るように成るなら、リーの特訓とかできないの?」

「できなくはないが……。言えることがあるとすれば、マイト・ガイは凄い奴だってことくらいだ」

 無意味にガイを褒めた訳ではない。

二人の師であり率いている彼の話題を出す事で、会話を円滑にすること。

そして説明の段取りを大幅に省く為だ。

 

「そうですよね! やはりガイ先生は凄い人です!」

「ちょっと……今のそういう話じゃないでしょ。ガイ先生でも駄目だから、もう無理って事?」

 指摘した様に大抵の特訓はガイが既に施して居る。

あのマダラが右に出る者は居ないという漢の指導である、俺なんかが口出しして強くなるような余地はない。

 

「影舞踊のような忍体術の中に、俺の知ってる仙体術系の基本はもう入ってるって事だよ。テンテンには餃子や寿司の方が判り易いか。四手で作るとしたら、まずは三手、究極的には一手を目指すってやつだ」

 縮地や居合いの中には幾つかのコツが含まれている。

目効きを誤魔化す。必要なアクションを飛ばす。抑えつけた状態からの急加速などなど。

これらを複合化することで、一見、目には見えない程の動きを演出して居る訳だ。

 

 具体的に言うと斜めに転がるような移動方法や、相手の移動に先行して割り込んだり……もうやってるんだよな。

これにチャクラ・コントロールを付け足す訳だが、それも八門を開けるんだから教えることなんかない。

 

 本当にマイト・ガイは凄い奴だと言う他あるまい。

 

「だから体術に関して言えば、緩急を付けるとか意表を突くとかのコツくらいだ」

「……その辺りは苦手なんですよね。努力しようとはして居るんですが」

 高速で動けるのにワザとゆっくり動いたり、後の先を取ってカウンターを掛けたり。

そういうのは苦手なのは知って居るし……。実は苦手でないのも知っている。

どこまでいっても直球だが、酒乱のケがあってパターンが変わるとか簡単に説明できる物でも無いが。

 

「体術は……でしょ? 少しでも忍術とか幻術が使えれば、凄い強くなると思うんだけどなあ」

「いちおう、山中のおやじさんに頼んでは居るぞ? リーが承諾するなら、秘伝忍術を使って秘密の特訓をやってくれって」

 八門を開ける下忍というだけで、相当なアドバンテージを持って居る。

今まで才能が無いと思って居たリーが凄かっただけに、テンテンが期待して居るのは仕方無い。

 

 とはいえ苦労したガイが自分のコツを伝えてなお、あの子は使えないと言うのだから他に理由があると見るべきだろう。

チャクラが無い訳ではない、残る可能性は……。

 

「山中さんに? 心転身の術みたいなのでしょうか?」

「そいつのバリエーションで他人の体を借りて術を使うとか、体を一時的に交換する術があるかって聞いたんだよ。単純にセンスの問題ならそれでカタが付く」

「え? どういうこと?」

 二人の疑問も当然なので、簡単に説明しておくことにした。

長いので紙に書き、判り易くしておく。

 

●性質と忍術の習得

 任務の為にやってる準備の手を止めて、紙に幾つか書き連ねた。

 

「大前提の確認な。上忍はたいてい二つの性質変化を持つと言う」

 書いて行くのは火影の名前、そしてもう二つ。

初代、二代目、三代目。そしてはたけ(・・・)・カカシと上忍だ。

 

「次に火影クラスになると五大性質変化を使える。レシピごとコピーすることで、はたけ(・・・)・カカシも可能になる」

「そうよね。基本的に上手くなれば忍術は使えるように成る訳だし」

「……っ」

 自分の考えが肯定されたテンテンは上機嫌だが、反対にリーはうつむいてしまった。

このレベルの話は、何度もガイと論議して居るのだろう。

 

 それでも出来ないと考えるべきだし……。

口出しするのであれば、その先も考えてから言わなければならない。

だからこそ、テンテンが切り出すまで、言うかどうか迷っていたのだが。

 

「チャクラ・コントロールは『基本的に』技術だ。リーが使えないのは、それ以外の部分に問題がある」

「そうです。ボクは……ボクは本当に忍術が使えないんです」

「え……?」

 震えるリーと、驚くテンテン。

それはそうだろう。切実な本人と、あくまで興味本位の他人との差である。

 

「上手くチャクラを練り合わせることができないんです。まさしくノーセンスだと言われました」

「それって本当に致命的じゃない……」

 仲の良い同じ班員といえど、そうそう全てを語りはしない。

ましてや欠点になる部分である。ちょっとした機会がある程度では喋る筈も無いだろう。

 

「一番問題なのは体質に問題があるのか、本人の感覚に問題があるのか判らないって事だな。だから山中のおやじさんに頼んだ」

 ここで体質と感覚という言葉を紙に付け加える。

 

 体質の問題と言うのは、体の方に正確な伝達機能が無いということ。

自分は火のチャクラを練ろうと指示を出して印を組んで居るのに、体は風のチャクラを練り始めている場合。

ナルトが大蛇丸に五行封印を食らって、上手く練れない時とかがこれに相応する。

 

 逆に感覚の問題と言うのは、火のチャクラを目的に組んで練ろうとしても、上手くイメージできないこと。

火も風も同じに感じられて、ナルトが自分と九尾のチャクラを混線して感じていたような感覚誤差だ。

 

「そっか。他の人がリーの体を使って練れないなら体の問題、練れるなら感性の問題ってことよね」

「そういう事だ。今まではどっちか判らなかったが、憑依系の秘伝忍術にそんな術があるなら不可能じゃない」

 チャクラそのものは有る。

体から出せないとか、まとわりついて離れない訳でも無い。

だからどんな問題であるかさえ判れば、対策は可能だと言うことだ。

 

「そこで秘伝忍術の行使をお願いしたわけですね。それこそ部外秘の」

「それもあるが……問題のある禁術の可能性もある。記憶の一部を消されたり、他人の感性と混ざるのが嫌なら、止めておいた方が良い」

 だが重ねて言うが、普通の範囲で可能なことは既にガイが頼みこんで居る筈だ。

 

 山中家の秘術に存在するとしても、おいそれと他人には見せられない。

それが隠し技というだけならば、まだ記憶の一部を消されるだけで済む。

秘術の貴重な実験体になるということで、感謝すらされるかもしれない。

 

 より問題があるとしたら、感性が混ざって本来のリーではなくなることだろう。

 

「感性が混ざる……ですか?」

「秘伝忍術だけに適性者が少ないとする。仮にいの(・・)だけが可能だったとして、女言葉で話すリーだとか、花が好きなリーになる可能性は捨てきれないってことさ」

「女言葉のリーって……まるでオカマじゃない」

 そのオカマ……大蛇丸が他人の体を平然と使ってるから、思いつけた裏技だけどな。

 

 そういった色々な問題に目を背けるならば、リーが術を使える可能性は高まるだろう。

体と感性のどちらに問題があると判れば、誤差を含めて特訓をすれば良い。

仮に火のチャクラを練ろうとして風になるのであれば、最初からそうだと思って訓練することで片が付くからだ。

 

「最初の調査で問題を把握するとか、最初の特殊訓練でコツを掴めれば問題はないけどな。伝説の三人の一人、千手・綱手なら肉体感覚をコントロールするくらいは可能だろうし」

「確かに綱手さまなら可能そうよね。でも問題が大きそうねえ……」

「……うう……」

 これが右と左、上下の誤差であろうとも問題が判明すれば簡単だ。

綱手はその辺を切り替える技を持っていたし、修正するとか、強制的に従わせる術を作れないことはないだろう。

 

「まあ結論を急ぐ必要はないさ。そもそも山中家に伝わってるとも限らないし、おやじさんが許可出すとも限らんしな。……ただ影響出るか出ないかって話じゃなくて、どの程度で済むかって事を覚えといてくれ」

 問題は大蛇丸が不屍転生する時に、影響を考慮して居ることだろう。

山中家の術は別物だと考えることもできるが、心を操る術だけに覚悟しておいた方が良い。

元の記憶や人格をコピーしておいて、上書きする手も無いではないが、それほど確実とも思えないしな。

 

 そういえば何かの漫画で、人格交換して超人になる話を思い出した。

知性と感性系の姉が、体力とチャクラ全開の妹と体を交換し合うのだ。

途中からボス視点で『こんな法力のバケモノと戦えるか』と避けられるのは流石に笑った。

もしリーの体を使って、いのなり他の誰かが自由自在に術を使用できたら、物凄い超人になるのだろうが……それは既にリーではないよな。

 

●黄金の拳

 暗めの話になって来たので、そろそろ任務の話題に戻すとしよう。

それに絡めて、俺の狙いも混ぜておきたいしな。

 

「そんな訳で。俺としては任務をこなしながら、今の能力をもっと磨く方を勧めたい」

「もっと磨く? それは望む所ですが……」

「でもそんな事できるの? できないから困ってるんだと思うけど」

 これまでの話はリーが忍術を覚えられか、それとも不可能かの話だった。

しかしながら強くなるだけなら、戦闘センスに磨きを掛けるだけでも良い筈だ。

 

 実際に原作ではそうして居るし、今は原作よりも負傷が少ないだけ運が良いとも言える。

今の内に色々なコツや戦闘方法を覚えておけば、このまま運が良いままなら原作以上に強くなる可能性はあった。

 

「やってない訓練があるだろ? 普段からチャクラを全開にした格闘とかな。別に八門を開けろとは言わんさ」

「チャクラの出し入れや使い方に慣れておくと言うことですか? それなら、まあ」

 それだけでは半分なので、首を振っておく。

怪訝に思われる前に、簡単な例を提示しておこう。

 

「うずまき・ナルト。あれはチャクラがあり過ぎて困ってるタイプだが、あのくらいのパワーやスピードを出したいもんだ」

「ナルトくんほどの……。確かに」

 我らが原作主人公のナルトで知られているのは、影分身と大量のチャクラ、そして変化のセンスだけだ。

口寄せの事は知られて居ないし、まだコントロール出来ている訳でも無い。

 

「普通に戦うなら一瞬だけでいいんだ。ステップ一つか、パンチ一発」

「まあ奇襲するなら忍びよる一歩だけか、当たった時の一発だけで良いわよね」

「……正直、そこまで高速で全開に出来るか判り居ませんが……言いたいことは判ります」

 高密度のチャクラを纏って、究極の一撃。

まあそこまでやるのは無理にしても、超高速の動きだとか、高威力の一撃が瞬時に出せればそれだけで強くなれる。

 

 ナルトの凄さは九尾から借りれば無限に続くことだが、この場は一瞬に限るので問題はない。

僅か一瞬だけの無敵を身に着け、あとはソレを使いこなせばいい。

そうすれば八門を開くまでの過程がガイのように瞬時に出来るようになるだろうし、解放後に独特の技を出せるように成るだろう。

 

「相性もあるし……そうだな。俺は高速を目指すから、お前さんは威力を目指しちゃどうよ。銘刀の切れ味を持つ手刀なり、蹴りとかな」

「そうですね……それも面白いかもしれません」

 さりげなく黄金聖闘士の技を吹きこんでおく。

山羊座の聖剣や牡牛座の一撃なら丁度良い指針に成り得る。

 

 というか忍術や幻術が使えない理由が、感覚の差だとすると正確なチャクラ・コントロールは難しいだろう。

むしろ最強の一撃の為に、一気に解放したり、一か所に集める方が向くと思えた。

 

「せっかく任務で一緒なんだ、暫く組手でもしようぜ」

「望む所です!」

 先ほど心を操る術を使えば、忍術が使えるかもしれないと言った時は乗り気ではなかったように見える。

 

 今は逆に目に炎を灯している様に思えた。

もしかしたら俺の言葉に動かされた訳では無く、ガイが八門を開いた時のイメージを想像して居るのかもしれない。

だが練習相手になってくれるなら丁度良いだろうさ。




 と言う訳でリーさん達と一緒に任務に出ながら特訓する事になります。
作中でも言ってますが、テンテンがエクセル関数的な巻き物の使い方。
リーさんが黄金戦闘法ですね。

●君の名は
 リーさんと人格交換か憑依して、他の人が使えば忍術できるんじゃないでしょうかね?
できないなら体質に問題があり、できるなら感覚に問題があるので矯正すれば良いという、大蛇丸的な考え方です。
雷 ≧ 風・陽 > 土の優先順で覚えられれば、かなり強いとは思うのですが、タダリーさんぽくはないよねと。

●黄金戦闘法とかシャドウスキル的な話
 居合いとか縮地的なコツは、既にガイ画教えているという前提です。
その上でハンターxハンターのオーラ攻防コントロールみたいな訓練で、瞬間的なパワーかスピード出せれば良いじゃないという考え方。
原作でのナルトが九尾に影響されてる時、凄い威力だしてるんでエクスカリバーやグレートホーンとかは可能層に思えるのですよね。
ガイの朝孔雀とか昼虎にしても、通常モードで似た技があって、その上位互換というか八門開いて上乗せする技なのでしょうし。

 まあ違うとしても、主人公が光速の拳を目指す上で、良い練習相手として覚醒してもらう感じです。
(意表を突く酔拳とか、ワザとゆっくり動く様な戦術を覚えるだけの方が早そうですが、リーさんには難しそうなのもあります)


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外伝:封魔演技4

 鍋の上を米が舞い、卵が黄金色に染め上げる。

塩コショウの他に醤油が香りを付けて行く。

これでニンニクなりパンチの効いたものが入って居れば理想的だが、任務中ゆえ入って居ないのが残念でならない。

 

「凄いですね。……いえ、テンテンの料理が凄いのは前々から知ってましたが」

 作って居るのがテンテンとあって、腕前が良いのはリーにも想像出来る。

不思議なのは調味料の器が何処にもないことだ。

 

「もしかして、これも口寄せの応用なのですか?」

「そうよ。単純化した印と紋様を組み合わせてるの……あんまり自信ないけどね」

 リーは最初、テンテンがどうして謙遜するのか判らなかった。

瞬間的な時空間忍術で調味料の器を持って来るなど、今までは出来なかったことだ。

巻物を用意すれば別だろうが、それを使って居る様子は見えない。十分に凄いと……。

 

「これを見れば判る?」

「……あ! このボトルにはラベルがありません! しかも……重さが同じ?」

 ボン! と煙を立てて呼びだされた調味料ボトル。

それは中が見えないタイプのプラスチック製で、ラベルはなく、重さも同じ様に調整されている。

 

「まだまだ始めたばかりだし、混線して砂糖とか使ってたらごめんね」

「いえ、料理してもらえているのです。お食事を頂ける以上は感謝して食べるのが当然です」

 テンテンはリーの答えに思わず微妙な顔をした。

そこは何でも美味しく食べます。だろうとか思いつつ、女心など気にしないのが男の子というものだ。

 

 むしろ時空間忍術の特訓に、料理を使おうなどと考えるもう一人の方が珍しいとも言える。

交流会で花を用意したのも彼だということなので、他愛の無いことに気を使うタイプなのだろう。

良く言えば気が付くと言えるし、悪く言えば余計なことを気にするとも言える。

 

「それはそれとして、あんた何やってんの? 偶に二人でその奇妙なポーズやってるわよね」

「これは体で文字を描いて居るんです。少しでもチャクラのイメージが出来るようにです!」

 リーは様々な動物のポーズを試して居た。

言われてみればネズミや牛、虎に龍と十二支の様なポーズに見えない事も無い。

 

 普通は手で行う印を、体全体で表現しようとしているのだろうか。

そこまで大げさな印を組めば、もしかしたらリーにも忍術が可能になるかもしれない。

だがソレに意味はあるのだろうか?

 

「もしかしたら、もしかするかもしれないけどさ。それじゃあ素早く術が放てないんじゃない?」

 術を放つ時、一つの段階ごとにバランスよく印とチャクラを練る必要がある。

 

 印は省略する事も削ることもできるが、概ね三つ。

強力な術の場合は追加で印が増えるし、術者が未熟な場合は補う為の補助印が必要になる。

 

 手はチャクラの噴出孔が集まっており、またイメージし易いので印を組み易い。

だからこそ高速で術を放てるのだ。

例えリーが忍術を使えるように成っても、体で文字を描くのは時間がかかる上に、バランス良く組むと言うことは、全体に掛る時間が大きくなってしまわないだろうか。

 

「それは良いのです。一回でも使えれば十分な強化系なら十分です」

「あーまあ。それならそれでありか」

 印を組む場合、術の性質・チャクラの種類、術の形態。

この三つが最低限必要だが、自分を強化するだけならば形態に関しては省くこともできる。

よく息吹に載せて放って居るのは、飛ばす為の印が不要になるからだ。

熟達の達人である二代目は省略を重視し、印一つでも術が使えたらしい。

 

 そしてチャクラにはそれぞれ基礎性質と言う物があり、地ならば体が丈夫になる。

他に雷ならば体が活性化することだが、これを変質させて相手を痺れさせるなど、特殊な変化をさせなければこれも省略が可能だ。

徹底して省略し、先行して強化おくだけでも意味があるかもしれない。

 

『土遁で強化です! ババーン! 忍法、硬身功の術!』

『雷遁で強化です! ハア! 忍法、神行法の術!』

 テンテンはその時の光景を想像してみた。

体が丈夫になるだけ、足がもっと早くなるだけ。

リーでも出来そうな術で、チャクラでひたすら強化する。

 

 普通なら三文字、強化ならば二文字で行けるとして、リーは削れないだろうから三文字のまま。

そこから精度を上げる補助の印と、チャクラを増やす為の印で五文字。

五画のポージングで印を描くと、リーが超人になるのだ。

 

「あは。あはは……」

 もちろん奇襲にはまったく向かない。

仮に八門を開いても怪我しないとか、物凄い強化が出来るとして……。

どう考えてもシュールであり、乾いた笑いしか浮かばないテンテンであった。

 

●任務の裏取り

 俺がキャンプ地に戻ると、リーは星命点を描くポーズで練習。

テンテンはそれを見ながら苦笑していた。

 

 まあキグナスの白鳥音頭とかネタにしかならんし、気持ちは判る。

だが体で印を組んで術が発動するならば、最初のイメージを掴めるということだ。

後は段々と慣らして、普通に印を組めば良いだろう。

 

「現地の情報を仕入れて来たぜ」

「それだけにしては随分と掛ったわね。何してたの?」

 目的の場所周辺の地図と、目標の情報を資料として並べた。

テンテンの疑問ももっともなので、簡単に説明しておく。

 

「自分で班長する時は情報の裏を取る必要があるんだと。まあ時間かけたおかげで、判って来た事もある」

「ということは獣退治で終わらない可能性があると言うことですか?」

 リーの言葉に頷いて、俺は資料……。

聞きこんで来た噂や、周辺の産業を書いたメモを何枚か並べておく。

 

「対象の森が、程度こそ低いが霊地ってのが気になる」

「ボス争いに負けたのではないですか?」

「資料見る限り、開発が進んだってだけかもしれないけどね」

 そこは時代の動きに取り残された場所だった。

今は霊地だが森が開発される過程で力を失い、そのうち元霊地と呼ばれることになり下がるだろう。

 

 とはいえ木の葉の里にほど近い位置場所ではある。

前の件で妖魔の残滓があるならば、復活の為に目指すのは此処だ。

 

 だからこそ幾つか提示された任務の中から選んだのだし、監視するにしても、利用するにしても丁度良い。

何か適当な理由を付けて、ここを隔離して見守り続けるのも良いだろう。

それこそ離れているからペインの襲撃に合う事も無いし、暁や忍界大戦に向けて準備もできる。

 

「俺もその辺だとは思うけどな。数日監視を兼ねて獣捜索、特定したら対峙する準備といこう」

「「了解」」

 今のところ他に考える余地はない。

現実的な路線で網を張りつつ、ただの獣だったら始末して終わりだ。

中忍としてリーダーの能力がある事を示して、任務終了といこう。

 

 そして更なる調査の過程で不審人物が浮かび上がる。

まったく面倒な事になったと思いつつ、妖魔の事件を自分の手で終わらせられると笑う自分がそこに居た。

 




と言う訳で、テンテンとリーさんのプチ強化と前回の事件を終わらせる話です。
テンテンは大蛇丸とカブトがペアでやったり、サスケが二部でやった様な略印での口寄せ練習。
リーさんは黄金聖闘士風の……というか別の漫画でも存在する、体を使って文字を描く印の使い方を試して居ます。

 体を使った印に関して言えば作中でも述べてますが、手の方が早いので普通は本当はあまり意味はありません。
ただリーさんは時間かかるけど一つでも強化の術が戦闘前に使えれば、怪我し難くなったり、特殊な付与した燃える拳とかできるんじゃない? と言う感じですね。
それ自体に意味はなくとも、チャクラの流れを理解すれば、後に手で普通に印が組めるようになるかもしれませんし。

 最後に次回に戦闘して、外伝を終わらせに掛る感じで。


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外伝、封魔演技5

●目標の選定

「狂犬ですか?」

「まるで猪かと思うほどタフな奴らしいわ」

 獣退治の依頼に向けて、最初に核心情報を掴んだのはテンテンだった。

 

 いわく、森の中で猟師が遭遇し、弾丸を数発撃ち込んでも倒せなかったらしい。

森の中だから全部当たったかは不明だが、一・二発は確実だろう。

それでも倒せないのだから、犬の耐久性ではない。

 

「その猟師、よく森の中で逃げられたな」

「それがね……」

 犬が持つ最大の武器は嗅覚だ。

移動が困難な森の中で追われると、一般人ではどうしようもない。

偶然ニオイの強い植物でも生えているかしないと、逃げられる物ではない。

 

「真っ直ぐにしか突っ込んで来なかったらしいのよ。それもあって、最初は猪かと思ったんだって」

「なるほど……まさしく狂犬ですね」

 タフネスで直進しかしない野犬。

とうてい正気ではなく、発狂しているとしか思えない。

 

「狂犬病ってわけじゃないが、他にそういう個体が居るか気になるな。単純に凶暴化しただけならいいが」

 対処が簡単なのは、群から追い出されたり、負傷により凶暴化した場合だ。

一般人には対処が難しくとも、忍者にはそうでもない。

場所を特定し、遠距離から足を止めてトドメを刺せばいい。

 

「感染つーか、類似の例が存在して居ると厄介だからな」

「この場合は犬以外も調査しないとね」

 目の前の一匹を倒して油断するのは愚か者のすることだ。

 

「病気なのか、垂れながされた薬液だろうが、犬神憑きの呪術だろうが意味は同じだ。元凶を突きとめて根絶する」

 この際だが原因究明に関しては二の次で良い。

倒してしまえば問題無い。陰謀ならば暴けばいい。

 

●封水法印

 問題なのは、今後も同様の出来事が起きるかどうかだ。

倒したと思った瞬間に囲まれるとか、帰還中に呼び戻されるとかアホ過ぎる。

 

 

「当然ですね。依頼書にある獣退治だけして帰還するのはどうかと思います」

 子供の使いではないのだから、依頼書通りに獣退治して帰還するのは論外だ。

 

 子供だけで構成された下忍が、使い走りを済ませて来たのと大して変わらない。

班長であり、小隊内のリーダーでもある中忍としては、別の判断を下さざるを得ない。

 

 よって目的は、問題の根絶そのものに設定する。

 

「別に正義感でも使命感でも良いんだけど、実際にどうするの? 具体的な手段とか予防策とか」

 テンテンの言う事も正しい。

基本的には任務を額面上だけではなく、完全に遂行するのが忍びとして正しい在り方だ。

それはそれとして、問題が起きた時にどう対処するのかは考えておかねばならない。

 

 表面上の任務達成に意味が無い様に、無意味な、犠牲を伴う任務達成にも意味はない。

 

「まず調査エリアな。陰謀は別として……。狂犬とやらに思考的な動きができていないなら、同心円状に被害と感染が起きている筈だ」

「その被害の延長に感染がないかのチェックですね」

 地図を取り出すと、リーやテンテンともども情報を上書きして行く。

すると書き足されたのは、わりと近くのエリアに数か所だ。

 

 考え方は三つ。

一つ目は感染能力が無い。

二つ目は初期段階化、感染能力はあっても薄い。

三つ目はそう思わせて、別の場所で事件が起きている(感染が潜伏期だけの場合もこちらに含む)。

 

「一応は……問題なさそうですね」

「陰謀だったり、症状が見えて無いだけの場合は?」

「暫く様子見て、怪しい様なら中間報告。見栄張ってパンデミックってのは願い下げだ」

 子供の使いではないのだから、獣退治だけは論外。

同時に成績稼ぎを狙って、潜在的な危険性を無視するのも論外。

重要視すべきは問題の根絶であり、成績などではない。

 

「ひとまず感染初期と仮定して、ただの発狂なら杞憂だったってところで良いだろう。念の為にこいつを渡しとく」

「何の術を書き込んだ巻き物なの?」

 用意したのは封印用の巻き物だ。

チャクラを練り込んで起動させると、特定の術が発動する。

例としては、ジライヤが天照の残滓を封印するのに使った、封火法印が近いか。

 

「水のチャクラで影響度が伝達するのをのを止める術だ。噛みつき・飛沫・その他もろもろ、基本的には液体での経由が危険だからな」

「言われてみれば病原菌とかその辺が原因で感染するわね」

 噛みついたら即座に感染という強度鳴ら無理だが、それ以外ならば封印できる。

予め感染源と方法が判って居れば、指定する事でもう少し強度を上げられるが、今のところこれが原因だ。

天照の残滓みたいに、事後で原因だけが不明みたいな感じでな。

 

「初期症状の個体が居たら、場合によっては使って見てくれ。ソレで止まるなら問題無い」

「了解。でも、そんな吸血鬼みたいなのと出逢いたくはないわね」

 俺も出逢いたくはないが、そういう場合に備えて書いておいた巻き物である。

 

 もし、妖魔が生き残って居た場合。

妖魔が万全ならば燐気だけで黄泉返りできる筈だが、そうならもっと被害が増えている筈だ。

ゆえに噛みついた相手を殺し、伝染して動かし、同時に口から燐気を回収しているのではないか?

 

 そんな状況に備えてゾンビ映画とか、陰陽師系の漫画を参考に組み上げた術だと言える。

もちろん今回みたいに、ただの狂犬病である可能性が高い場合でも使えると思っていたのもあるがね。




と言う訳で行動絞って、敵の特定。
次回は乗り込んで、普通に戦闘と言う感じです。

 本当は今回で戦闘の前半、後半と外伝のシメを次回にしようかと持ったのですが
月末進行の煽りで短く終わった感じですね。


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外伝:封魔演技6

●狂犬獲り物帳

 当て物は最初に気が付いた時では無く、証拠を集め切ってからが本番。

獲り物は相手に気がついた時では無く、逃げ道を塞いでからが本番だ。

 

 では退魔物はどうかというと、相手の切り札に対策してからが本番では無いのだ。

それは第一歩、敵の本質なり、黒幕なりが判ってからが本番だと言えるだろう。

 

 先に温度変化を探知する術を掛け、霊に周辺の燐気を監視させてから任務を開始。

目に見える範囲の外で、何かが起きているモノとして行動を始めた。

 

「リーはバックアップ、テンテンは封印用の陣だ」

「「了解!」」

 例の狂犬とやらが見つかったのので、早速向かったのだが……。

見付けたのは推測よりも小さく、暫くして、もっと強力な相手が居た。

 

 察するまでも無く、強い方が感染の強い『親』であり、小さい方が『子』であろう。

笑えるのは野犬の方が強く、熊の方が弱いということか。

サイズが大きいから感染度が弱いとか、生命力にあふれてるから燐気に汚染されて無いとかなら楽なんだが。

 

「まずは、これでも食らいなさい!」

 最初にテンテンが七本のクナイを投げつける。

複数のクナイが地面や犬に突き刺さるが、それらをチャクラで繋ぐ前に反撃に噛みついて来た。

 

「テンテン、危ない!」

 聞きしに勝る生命力(?)だが、リーが割って入って迎撃に成功する。

蹴り飛ばした獣は他愛なく吹っ飛ぶが、負傷など無いかのように即座に立ちあがって来た。

 

「ありがと! 忍法、七星剣の術!」

 七本のクナイがチャクラ連結され、法陣を描くと第一段階の終了だ。

次にワイヤーが張り巡らされてクナイが瓢と化し、物理的な補助を担う。

その間に俺が練って居た術を起動し、テンテンと共同で発動すれば基本形ができあがる。

 

「こっちもいいぜ!」

「いくわよ!」

 俺とテンテンで印を組み、巻き物の上に血を垂らす。

指先で触れた瞬間に文字が増殖、法陣が起動した。

 

「封邪法印!」

「封水法印!」

 それはクナイで作った即席の陣を作り変え、周囲に結界を築いた。

チャクラによる連結と、ワイヤーによる束縛が複雑な束縛を始めて行く。

 

「……っ。何の反応も無い様ですが? このままだと千切って脱出されかねませんよ」

「そりゃ影響度を抑える術だからな。ここから捕縛作業だよ」

 一歩下がって周囲を確認するリーに、俺は簡単に答えた。

水による影響を抑え、邪気でもある燐気を抑えることで相手の能力を制限して居るだけだ。

 

 そして予め作っておいた水分身を口寄せで呼び寄せる。

 

「忍法、水牢の術!」

 水分身を捕縛用の術に切り替え、そのまま影響が強い方を完全固定した。

水を介しての影響を抑える結界の中で、水の中に閉じ込めることで暴れる為の力も伝達できなくする。

まあ犬のサイズだからこそ、完全に覆えているってのもあるがな。

 

「こっちは終わったぞ。そっちは?」

「駄目。瓢くらいじゃ直ぐに千切られちゃうわ」

 流石に相手が熊だ。

狂犬病であろうと、ゾンビ化であろうと、サイズはそのままパワーに繋がる。

ワイヤーを繋げたクナイを何本も突き刺して居たが、固定の為に反対側を突き立てた樹や岩ごと引きずって居た。

 

 毛皮には油があるので獣にとって、ワイヤーによる圧迫如き意味はない。

だが、間接の向きを無視するのは、いくらアドレナリンを分泌しても無理な相談だ。

暴れ回って気が付かないことはあっても、最初から無理な方向に動かそうとする筈が無い。

 

「凄いですね……。熊が強いのは知って居ましたが、凶暴化するとここまでとは」

「うーん、どうだろ。どう考えても狂犬病とか追い詰められての狂乱には見えないのよね」

 最低でも薬物や特殊なチャクラによる強化。

悪くすれば、こないだの妖魔によるゾンビ化が原因だろう。

 

 残念なことに、できれば当たって欲しくない予想の方が当たるモノである。

事件はただの狂犬病に収まらず、妖魔の事件である可能性が高まった。

前回の不始末なので俺がやるしかないが、物は考え様である。

 

 リーやテンテンと組んでるのも、監視役ではなく一緒に修行する仲間だと思えば話が変わる。

高速移動をきわめて光速の拳を目指すなら、リーとの訓練はかなり意味がある。

同じ様に鬼道や呪禁道から仙道に至るのを目指すなら、テンテンと時空間忍術を訓練するのにかなり意味があった。

 

(「今回の件を俺の役に立つ……かはともかく、将来に活かすのはアリっちゃアリだな」)

 ペインとの戦いや忍界戦争に役立つ準備をする為に、今回の事件を利用すればいいのだ。

そうすれば俺がここで払う努力も無駄にはならないし、将来的に、木の葉の役に立つだろう。

 

「で、どうするの? 何も思いつかないとか言わないでよ」

「悪ぃ悪ぃ。考えをまとめるのに時間が掛っちまった」

 正確には嘘をつかず、可能な限り誘導する理屈を思い付くのに時間が掛ったと言うべきか。

俺は肩をすくめて苦笑しつつ、水牢で封じている方を指差す。

 

「可能性として口寄せの達人が探して来たレア物か、穢土転生を参考に作った獣型兵器って線が高い。その対処は確実にしておく」

 妖魔が傷付いており、霊地の確保を目指して居るなら、俺一人でも時間を掛ければなんとかなる。

だがその辺を説明して確実な始末を付けるよりも、サンプルを持ち帰って、木の葉に脅威を伝える方が良いだろう。

 

「第一にコイツを封印して木の葉に持ち替えることを優先する。第二に確実な始末だが、その間に伏兵や『本体』とかが来られちゃ台無しだ」

「そうですね。これを尖兵とした『本隊』が木の葉を目指して居ても困ります」

 本来であれば、『本体』を探す方が遥かに重要だ。

だが、ここに分室なり分社を置いて、捜索しながら口寄せや穢土転生の封印方法を研究してもらう方が良い。

ゆえに話を誘導しておくことにした。

 

「今度は俺がバックアップをやる。リーはあいつの始末、テンテンはこいつの封印を頼む」

「「了解!」」

 俺は温度探知の術や、霊での探知を使って周囲の警戒に入った。

同時に封印の巻き物を幾つか用意して、テンテンに次々渡して行く。

 

 色んな武具を使いこなす事もあり、テンテンには方術師の才能があるだろう。

その場に応じた装備を用意し、才能そのものは、作戦に合わせてメンバーの方を都合すれば良いのだ。

 

「封印を始めるわよ! 暴れるからお願い」

「問題ありません!」

 テンテンが最初の巻き物を広げ、強制封印の準備に入った。

周辺に文字が広がり始めるが、脅威だと察したのか、『子』である熊が『親』である野犬を助けようともがく。

 

「あの位置から見えて無い筈なのに、良く判るわね」

「あー。連中は多分、目じゃなくて気配で物を見てる。集団で一つの生物化してんな」

 妖魔の一部であるならば、燐気の流れで動いていると見るべきか。

 

 もっとも形があるから誤解し易いが、スライムの大きい部分と小さい部分と言う方が早い。

だから全体像として考えるならば、大きなパーツがピンチだから、小さなパーツを動かして救出しに行こうとしているのだろう。

もちろん『本体』が別にいるのであれば、回収に向かって来ているか、逃げている可能性が高いだろう。

 

「吹き荒れてください。ボクのチャクラ!」

 リーが体を使った印を描く。

今回のお試しは風の付与で、四角の体文字でポージングを決める。

 

「はぁ! 木の葉疾風!」

 リーが僅かに右手を動かすと、熊の周辺が断裂した。

毛皮と厚い脂肪に阻まれて切り割かれないが、かなりの威力と言えるだろう。

 

「もしかして風遁を本当に使えようろうになったの?」

「いんにゃ。ただの風圧。どっちかといえば思いこみを誘発する隠遁の一種だな」

 あんな体文字に意味があるとは思えない。

テンテンはそう言いたそうな顔で尋ねて来るが、残念ながら別の意味が存在した。

 

 リーは思い込みが激しく、催眠による刷り込みは、自分に都合の良い方向ならば覚え易い方だ。

そこで幾つかの技を教える時に、プラシーボ効果レベルで覚えてもらったと言う訳だ。

 

 ソレで本当に効果があるのは、単にリーの修練が凄いだけ。

今はまだ使えないと言う、リーの思い込みが激しかっただけとも言える。

 

「マイト・ガイが使うとかいう技に似て無いか? 多分、リー自身が何時か付かて見たいと思ってたんだよ」

「……そういえば朝孔雀に似てるわね」

 数十発のパンチが孔雀の様に衝撃波を造り出す技……だっけ?

そこまでの数は撃てないが、一発くらいは今のままでも再現できるというところだろう。

 

 バンバンと次々撃ち込んで相手を固定しつつ、トドメを刺すなんて無理だ。

だがしかし、体術だけで牽制技が放てるようになったのならば、十分に意味があるだろう。

何しろ、リーはこれまで、その手の技が使えなかったからだ。

 

「うおおお! 木の葉旋風・改!」

 リーは高速で接近すると、蹴りを放ってヒット&ウェイで離れて行く。

これまではその場に留まって、他の技に繋げていたが、少しバリエーションが違った。

 

「木の葉旋風! 烈風! 疾風!」

 再び接近して、今度は連携技につなぐ。

回し蹴りを浴びせた後、踏み留まって裏拳。

そして駒の様に三回転した後は、再び風圧を零距離から浴びせて僅かに相手を交代させる。

 

 そこから再び移動を始め、次の移動ポイントまで離れて様子を窺って居た。

 

「あれ、なんであのまま攻めないのかしら?」

「そりゃ、こっちの封印を窺ってるんだろ? 本命はあくまでこいつの封印だしな」

 さっきまでバックアップを頼んで居た縁と、こっちが指示を出して居ることもあって様子見したのだろう。

 

 他者への配慮が、自身の強みを消すタイプも居る。

だがガンガン飛び込んで無茶をするケがあり、慌てる面もあるリーはむしろ様子見をした方が良い。

 

 ネジやサスケの様な例が身近に居たから、同じことをやっても無駄だと、『先の先』を取って常に動き続けて来た。

しかしリーはむしろ『後の先』を重要視し、『先の先』と使い分ける方が良いのではないだろうか。

様子を見てからでも十分に間に合う超人的なスピードを持ち、逆に車輪眼や白眼のような洞察眼を持たない事がそれを裏付けている。

 

「それよりもこっちを片付けるぞ。最後まで気を抜くなよ」

「判ってるわよ。……縛! 縛々縛律令!」

 封印用の巻き物を数本投げつけると、宙を舞って野犬に絡み付く。

奴も暴れて逃げようとするが、水牢の中でロクに身動きが取れない。

 

 一本目が水ごと奴を封印して、水で駄目になる前に次の巻き物が効果を発揮し始める。

数本の巻き物を使った連続封印術で、徐々に力を減じて封じ込めに成功した。

 

「急々如律令! ……どんなものかしら?」

「お疲れさん。暫く休んでてくれ。俺はこのままバックアップを続ける」

 緊張の糸が切れたテンテンは、汗を拭きながら笑いかけて来る。

俺は巻き物を確実に確保した後、懐にしまうまで周辺を見張り続けた。

 

「……こいつを抱えたまま数日ってのもゾっとしねえな。大封印庫を作って逆口寄せで送る方が楽だな」

「そんなに必要になるかな? ……あー、でもそうでもないか。使う相手は使ってくるもんね」

 最初は首を振りかけたテンテンだが、穢土転生の事が頭を掠めたのだろう。

これまで無敵と思われた三代目が、命を掛けて封印せねばならない状況である。

話半分にでも聞けば、真面目に考えざるを得ない。

 

(「しかし大封印庫か。悪くねーな」)

 忍界大戦でも封印した五影級エドテンをカブトが回収しに向かったはずだ。

そう言う時に、封印した巻き物を送り届ける場所があれば確実な戦果になる。

 

(「味方も使うから結界は迂闊に敷けねえし、どうやって術を組むとか課題が大き過ぎる。だが大封印庫なら口寄せで済むのも良い」)

 今回の件で報告書を出す時に、大封印庫を建設する提案もしてみよう。

労力は大きくないし、仮に言いだしっぺがやれと言われても、俺ならプチ比良坂を作ったりもしたしな。

 

 念頭に合ったのはナルト・ワールドでの出来事がメインだったが、良く考えれば類似の例は沢山ある。

ジャンプの漫画でも封神演技とか、少女小説だとタロット・シリーズあたりか。

探せば他にも色々あるだろうし、厄介な口寄せ生物込みで封印庫というアイデアは悪くない様に思われた。

 

 そう考えながら見守るうちに、リーが熊を倒した様だ。

俺は如実に表れた温度変化や、燐気の反応を見ながら新しい計画を考えるのだった。




 と言う訳で、妖魔事件にケリをつけつつ、今後に備える感じになります。

 前回の妖魔対策は失敗だった!
と考えるのではなく、今後に色々作る理由にする感じですね。
その上で、作るのは大封印庫。
封神演技の封神塔や、タロットシリーズの会堂が近い例です。

 相手は簡単に逃走復活できるので、封印専用の場所を造る。
そして今までよりも簡単な封印術とその転送先を作れば、ペインや忍界大戦が楽になるかもしれません。
仮初の不死者・口寄せ生物が現われる → 封印術用の巻き物を召喚、大封印庫へ。
と言う感じで。

 リーさんの強化プランは一周回って、何もしない。
リーさんがスイッチ入れ換え難いなら、暗示で切り替えるだけでいいじゃない。
順調に鍛えて居れば、シャドウスキルやマスターアジア並みに成れるかも……。
という程度の物ですね。
やはり忍術使うリーさんよりは、限界突破を目指す方がリーさんぽいと思います。
我愛羅戦でも、六門に到達して朝孔雀使えたら勝てたよね? と気もしますし(一尾から目を背けつつ)。


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外伝:封魔演技7

●事件の後片付け

 監視網に奇妙な温度変化が見られた。

妙に温度の低い個体がおり、こいつが動くたびに熱が残留する。

 

 一見良く判らない光景だが、これが霊やゾンビの仕業ならば心当たりがある。

死体はそもそも血が通って居ないので、温度が低い。

 

 だから他の手段で死体を強制的に何かを動かすと、死体そのものではなく、作用させたエネルギーが不自然に熱量を残留させるのである。

 

「何なのアレ?」

「まるで蛇みたいな動きですが」

「んー。あの病気か術を受けた被検体だろうな。知能が少し残ってるが、狂気を受けてるわけだ」

 心当たりはあった物の、正直に口にするのも憚られる。

俺の失敗を隠すつもりはないが、上級ゾンビですと言って信じてもらえるかどうか。

 

(「状況を考えると、状態の良い死体に憑依? つーか妖魔の影響受けて活動してるってレベルか。なら、ここで倒せば問題ねぇ」)

 増殖した犬や熊の肉体を使って、獲物を探させる程度の知能がある。

そして直進しかできない犬と違って、障害物に接近すれば判る程度の能力もあった。

 

 逃がせば問題だが、隠れている本体を見付けた以上は始末するだけ。

 

「念の為に小動物や昆虫みたいな機動性があると予想しておく。小回りされる事を前提に罠に嵌めるぜ」

「じゃあ私は結界造りね」

 小動物や昆虫は体感時間が短く、人間の判断速度よりも反応が早い。

よく虫を叩こうとして失敗するのは、人間が一つの行動をしている間に、複数回の判断と複雑な機動を掛けられるからだ。

一つのダイナミックなアクションよりも、小回り重視で数回分の機動をされたら止めようがない。

 

 よって選択可能な作戦は多くない。

罠の中に追い込むか、罠を張って居ると気が付かせずに時間まで拘束するかだ。

だからキーはテンテンが仕掛ける結界ということになる。

 

「それで頼む。俺がオフェンスで行くから、リーはテンテンのガードと、可能な範囲で俺のアシストも頼むわ」

「了解です。二人に接近させません」

 とはいえ相手に知能が発生して居るならば、油断でき無い。

せっかく感染能力が低いうちに見付けたのに、逃げ出されたら意味が無いのだ。

 

 程ほどに相手を追い詰めつつ、噛みつかれてこちらが追い込まれない様にするべきだろう。

 

「これでも、食らいやがれ!」

「っ速い! これほどとは流石です」

 俺は疑似的な光速の拳を放つ。

リーは感心してくれるが、残念ながら未完成だ。

 

 予めチャクラで空気抵抗の無い空間を造り、その中を拳圧で打ち抜くだけの技である。

白眼か車輪眼が使えたら初動の段階で避けられてしまうし、現に動死体も反応して居る。

チャクラを使ってまで放つのであれば、嵐遁で光そのものを放った方が早いだろう(俺は使えないけど)。

 

「やっぱり小回りがスゲーな。後の先を極めるってのはこんな感じなのかねぇ」

「参考にしたい所ですが、ちょっとボクには無理ですね」

 人ならざる目を持ち、その魂が強制的に肉体を操って居る。

まさに人間には不可能な神経伝達速度であり、小回りの速さで言えば、人間など比較にもならない。

 

(「魂が肉体を強制的に操る……か。暁の不死コンビの秘密とか、案外、こう言う感じなのかもな」)

 肉体をただの器と見て、一定のルールによって強制的に操作する。

ちょっとした味方の問題だが、研究するには面白い課題だろう。

 

 カブトが中忍試験の終わりで死体を操ったが、アレをもう少し高度にした感じだと思えば実現は難しくなさそうだ。

リスクはあるが他人の体だし、自分を不死化する場合でも、試そうとする奴は寿命とか強さを求めてるだろう。

 

「お次は探知対策をしながらやってみるか」

「今度はそれほどでもありませんが、抜き手も見せないのは良いですね」

 次に試すのは、いわゆる『無拍子』だ。

居合いの最終進化系であり、動作を最小限に最適化しつつ、相手から見える『動きの起こり』を可能な限り隠す。

いわゆる『目の付けどころ』を誤魔化し、技そのものを判り難くする事で、動作を判り難くしているのだ。

後は頭で考えずに放てるまで修練すれば、完全な無拍子に至ることが出来るだろう。

 

 しかし、これも奴は避けることに成功した。

動き始めが遅かった分だけ掠ったが、それでめお直撃には程遠い。

 

「肉眼で見てるんじゃないのかな……ならこういうのはどうだ?」

「……? なんでソレが当たるんですか? さっきの方がよっぽど速いのに」

 今度は水のチャクラで温度変化を可能な限り隠してみた。

同時にチャクラの密度も調整する事で、温度変化やチャクラの動きによる探知を無効化したのだ。

 

 余計な事をしている分だけ動きが遅いのだが、不思議なことに、これがヒットしている。

 

「おそらくだが、白眼や車輪眼みたいな感じで温度かチャクラを見ながら判断してるのかもな。案外、目も見えて無いのかもしれねえ」

「言われてみれば、顔が血だらけを通り越してのっぺらぼうですね。ぶつかり続けた結果と言うことですか」

 ここまでくると、後は答え合わせに近い。

死体で技の練習をする気はないので、最後に水のチャクラによる攻撃を仕掛けて終わりにした。

 

 水喇叭の術に反応したのを確認。

後はテンテンの作りあげた結界に追いこんで、封印すれば任務も終わりである。

 

●八式大封印

 数日経過して表面上は何も無いので、依頼終了と経過観察の旨を書にしたためる。

本来であれば直接渡すべきだが、木の葉の里に近いので問題はないとのことだ。

 

「いちおう大丈夫だと思うが、俺は暫く様子をみとく。こいつを木の葉に提出しといてくれ」

「はいはい。何かあったら戻ってくるから、直ぐに知らせなさいよね」

 テンテンに書類というか巻き物を渡し、もう一本企画書を渡しておいた。

 

 内容自体は妖魔退治の時の経験や、今回みた疑似的な不死者の問題。そして穢土転生。

将来の災禍に備え、封印庫や封印術の研究機関を作成するというもの。

 

 その実験地として、今回の任務で来ている霊地が距離的にも丁度良いだろうと企画書を造っておいたわけだ。

表向きは木の葉崩しで使われた穢土転生や、大蛇丸が口寄せした無数の大蛇を理由にして居る。

 

(「まあ理由にこじつけるまでもなく、目的そのものが穢土転生での忍界大戦対策だから嘘じゃねえよな」)

 口寄せ対策にしても万全にしておけば、ペインの畜生道対策にもなるが。

 

 ただ研究機関としてはキッカケも、研究対象も判り易い方が良い。

この二本の対策を軸として、他にも研究をしたい場合は、派生して行く形をとればいいだろう。

同盟国にはここで研究した情報や封印式を提供するが、一般公開しない。

このことで同盟を申し込むメリットを作れるとか、そういうのも説得する材料になるんじゃなかろうか。

 

(「封印用の巻き物を口寄せするだけでも違うよな。補助式を書いといて、後は基本情報を練り込むだけのやつ」)

 巻き物の中央に印と情報を追加して、速攻で完成させる術というのは利便性が高い。

大蛇丸やサスケなんかはワンタッチで召喚型を使って居るし、ジライヤは天照の厄介な影響を封印して居た。

 

 起爆札のように最初から完成させないから武器としては使えないが、追加情報によって封印の質が高められるのは大きい。

部隊で情報を集め特性を書き込み、可能ならば体の一部や、外見の姿を写し取れば確実だろう。

砂で何とか言うオババが、サソリのクグツを封印したのも、最初からクグツ用の術式だったわけだし情報が多い方が確実性が上がるのは確かだ。

 

 そういった形式を研究し、封印物を納める場所を作りあげる。

できるならば、結界・巻き物・術式改良によって精度を高めることが出来れば理想的だろう。

妖魔事件で回収したあの石っころに何かの効果があるなら、研究してみるのも良いかもな。

 

(「……俺をこの世界に送り込んだカミサマの目的が判らんが、当面の目標はこの辺かな」)

 あの石だとか不死者どもの回収だったら、封印庫から勝手に持って行くだろう。

みなの記憶が消えた所で、いつの間にか天界に移動してるわけだ。

 

 もちろん他の目的で送り込まれた可能性はある。

だが何をすれば良いのか判らないので、当面は目の前の課題に対処するしかない。

疑似的な不死者が暁に居るのは確かだし、忍界大戦まで続くことを考えると、自分探しの旅に出る気は起きねからなぁ。

 

(「どの程度役に立つかは別にして、暁相手の被害くらいは減らしたいもんだな」)

 こうして俺は木の葉の里の近くでやることを見付けた。




 と言う訳で、外伝が終了。

 暁編や忍界戦争編があった場合、封印術を用意した段階でスタートと言う感じになります。
もっとも収まる方向に影響はありそうですので、小規模化した上で後は原作と同じ……だと書く意味が薄いのも確か。
現在は第一部が終わっただけですが、暁編を書かずに第一部完で終わりそうな気もします。

●反省点
 最初から光速の拳メインで戦う強キャラの方が良かった気がします。
その上で切り札を冥界波にしておけば、強敵が出て来た時に、「アレを使うぜ!」と判り易い流れに出来たかなと。
 あとは光速の拳をどう再現するかとか難易度が高いので
最初から超高速の拳で戦う体術キャラで、限界突破した強さの方が楽で、かつ面白かったんじゃないかな。

 あとはオリジナルのライバル出すなら暁編で。
中忍試験編はサクサクと雑魚倒して終わり。
なんて考えたせいで、ちょっと戦いがショボかったですね。
やはり強敵を最初から出しておくか、原作キャラと絡んだ方が判り易くて良かったのかと。

 とはいえ反省ばかりしても仕方無いので
この辺は経験として回収しておいて、第二部なり次回作に活かしたいと思います。


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