こうして、隣人は巻き込まれる(仮題) (着ぐるみピエロ)
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青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない
1話
この作品、オリ主入れるのくそむずいですね…。まあ、一つ一つ区切りがはっきりしてるのは助かるんですけど。
俺が書かなくてもあふれるくらい青ブタ作品増えろ(願望)
通学のために使う藤沢駅から、徒歩約十分。そこに俺、橋本俊の住んでいるマンションがある。通っている峰ヶ原高校からは近いとも言えない場所だが…まあ、住み心地はいいし、近くにスーパーとコンビニがそろっているわけだから、そこまで不満はない。七時半にセットした目覚まし時計が鳴る少し前に起き、けたたましい音が鳴り響く前に目覚ましを止める。昨日買っておいた食パンを一枚焼き、野菜ジュースと一緒に食べた後、ささっと髪と服装を整えて、玄関を出る。すると、ちょうどタイミングが重なったのか、隣の部屋から「お兄ちゃん、いってらっしゃい」の声とともに、いかにも眠そうな男が出てきた。そいつはこちらに気づいたのか、軽くあくびをしながら、こちらに向かって軽く手を挙げた。
「よ」
「……チッ」
俺は舌打ちをした。この俺の目の前にいる男は、梓川咲太という名前であり、隣人かつ同級生であるため、一年程前からずっと仲良くやっており、大抵は通学時間が同じなため、一緒に登校している。彼にはかえでという非常に可愛らしい妹がいて、一緒に二人で住んでいるのだが(この時点ですでに羨ましい)、今年で15歳になる彼女に反抗期は訪れておらず、むしろブラコンが悪化し、朝起きると自分の布団に潜り込んでいることがしばしばであるとかなんとか。先ほどは元気そうに咲田を送り出していたが、彼女は極度の人見知りであり、人前にはほとんど出れないし、外に出ているところなんて見たことがない。俺も咲太の家に通い続けて二か月かそこらで、ようやく挨拶してきてくれるようになったくらいだ。一年たった今では、普通におしゃべりできるようになっている。容姿は…まあ、兄妹だから咲太と似ている部分もあるが、大変愛くるしい感じであり、家ではいつもパンダのパジャマ姿をしている。そんなお兄ちゃん大好き妹に送り出されるのだ。到底許されることではないと思う。
「……なんだよ」
「いや、何でも」
俺がそう言うと、咲太はため息をつき、自宅へと戻っていった。数秒後、咲太の家から「駿さん!いってらっしゃい!」というかえでちゃんの声が聞こえてきた。
俺は咲太を許した。
その後、咲太と適当にだべりながら電車に乗って、奥のドア付近まで進んでいくと、
「うっす」
と、声をかけてくるイケメンがやってきた。名前は国見佑真。所属するバスケ部でレギュラーとして活躍している二年生。ちなみに彼女持ちだ。
彼女持ちである。
「「はあ……」」
「おいおい、人の顔を見るなりため息はないだろ」
「朝から国見のさわやかさは目に毒だ。憂鬱になる」
と、咲田が言い、
「そして、そのさわやかさを比べて、自分がみじめになってくる」
と俺が言う。
「まじか」
「「まじだ」」
そんな他愛ない日常会話をしていると、電車は走りだしていく。その後は、咲田が珍しく牧之原さん以外の女性に興味を持つようになったこと、そして、それが桜島麻衣先輩のことであり、裕真と二人で諦めとけと言ったこと、そして熱くバニーガールについて議論しているうちに学校に電車は学校前の駅に着いた。
学校までは踏み切りを越えてしまえば、すぐである。
学校までのちょっとした上り坂を三人でダラダラと歩いていると、ちょうど十メートルほど手前に先ほどまで噂をしていた桜島先輩が歩いていた。背筋をピンと伸ばし、前をまっすぐ向いて歩く姿はとても凛々しく見えたが、何故かその正しい姿勢が、どこか窮屈しているように見えた。
「なあ、お前ら、桜島先輩のこと見えてるよな」
「もち。コンタクトしてるし」
「俺もばっちり。両目とも2.0だからな」
俺と佑真は答えた。
その後三人とも別クラスの俺たちは下駄箱の所で適当に分かれた。聞く気もそこまで起きない授業を淡々と眠気と格闘しながら受け続け、友人と昼休みをおしゃべりしながら過ごし、放課後、部活に行く友人たちに別れを告げ、下駄箱に向かおうとしたが、ふと思いついて、物理実験室の方に足をのばした。
「双葉ー、部員は増えたかー?」
俺がそう言いながら物理実験室のドアを開けると、そこには眼鏡をかけ、白衣を身に着けた女子生徒がこちらに心底迷惑そうな眼を向けていた。彼女の名前は双葉理央。ここ峰ヶ原高校の二年生であり、現在一人しかいない科学部の部員である。彼女の目の前にはビーカーとアルコールランプ、それに試験管やよく分からない器具が転がっている。そこまで広くないのに、やけに寂しい感じの物理実験室を見渡してみると、やはりというべきか、双葉以外に人は見当たらなかった。
「あ……今日もダメでしたか……」
「そのいかにも同情してます、みたいな顔はやめろ。心底腹が立つから。……用件はそれだけ?なら、さっさと帰って」
「そんな寂しこと言わんでくださいよっと」
俺はそう言いながら、双葉が立っている机の目の前に椅子を持ってきて座った。双葉は俺がここに居座ると分かったのか、机の棚からインスタントコーヒーの粉をとりだし、お湯を作り始める。
「でも、本当にどうすんの?そろそろ部活決まっている人も多いし、すでに手遅れな感じもするけど。一人はさすがにまずい気がするんだが……」
「別に……私一人でも困らない」
「ううん……まあ、本人がそう言うなら、俺は何も言えないが……」
「砂糖いる?」
「いや、ブラックで」
双葉はその言葉にうなずくと、ビーカーに入ったコーヒーを俺に差し出してきた。それを見た俺は、カバンの中からお菓子の袋を一つ取り出す。
「それは?」
「マシュマロ。この前、スルメを炙ってたくらいだ。コイツを炙っても構わんだろう?」
「橋本にしてはいい判断だね。ありがたくもらうよ」
「俺にしては、は余計だ」
俺はそう言うと、持っていた竹串の一本を双葉に渡す。
「そういやさ、咲太がとうとう牧之原さん以外の女性に興味を持つようになったんだよ」
「へえ」
「それがなんと、あの桜島麻衣先輩なんだよ」
「ふーん……、それで?梓川はその有名子役に夢中だと」
「いや、それならそれで面白いんだが、どうにもそんな感じじゃないんだよなあ……。気にしてるのはしてるんだけど、恋愛方面じゃあないっぽい」
「……?じゃあ、梓川と桜島先輩が個人的に何かあったとか?」
「そこまでは……ただ、今日は登校中に桜島先輩のことが見えてるかっていう妙な質問してくるし」
「まあ、梓川のことだ。どうせいかがわしいことでしょ」
「バニーガールについても聞いてきたな」
「やっぱり変態じゃないか……」
何となく、俺は咲太の株を下げた気がしなくもないが、そこは気にしないでいることにした。ふと、時計を見てみると、此処に来てからそろそろ15分は経とうとしている。部活を一応は真面目にこなしている双葉をいつまでもおしゃべりで拘束してはいけないと思い、俺は一気にコーヒーを飲み干し、席から立ちあがった。
「ごちそーさん。余ったマシュマロは適当に食べといていいから。また暇してたら来るよ」
「橋本が暇にならないことを、私は祈ってるよ」
「じゃあ、無理やり作るわ」
俺はそう言い、物理実験室のドアから出ようとした。
「あ、そうだ」
「なに」
「佑真はバニーガールが大好きらしいぞ。頑張れよ」
ドアを閉め、少し早歩きに物理実験室から遠ざかっていく。後ろから、死ねという声が聞こえた気がした。
その後、適当に本屋で立ち読みし、スーパーで買い物をして、俺は自分のマンションに入ろうとしていた。すると、ちょうど早足で峰ヶ原高校の制服を着た女子生徒がうちのマンションから出てきて、ぶつかってしまう。
「あ、すみません」
俺がすぐに頭を下げると、
「え、あ、いえ、こちらこそすみません」
と、少し驚いたような表情をして立ち去っていた。このマンションに峰ヶ原高校の女子生徒は住んでいない。誰だったんだろうと後ろを振り向くと、そこには先ほどまで話題にしていた桜島先輩の後ろ姿があった。
翌日、少し早めに登校準備ができてしまった俺は、咲太と一緒に登校するために彼の家のインターホンを押した。
少し待っても反応がないため、
「咲太ー!まだかー!?」
と少し大きめに声を出してみると、
「お兄ちゃんはまだ支度中なので、入って待っててください」
と家の中から声が聞こえてきたので、言われるがままに、俺は咲太の家の中に入る。
「お邪魔しまーす」
「えと、い、いらっしゃい、駿さん」
と、少し噛みながら、パンダのパジャマ姿で玄関で出迎えてくれたのは咲太の妹であるかえでちゃんだった。
「おはよう、かえでちゃん。ちゃんと元気にしてる?風邪とか引いてない?お兄ちゃんに何か変なことされてない?」
「はい!かえではちゃんと元気ですし、お兄ちゃんはかえでにとって、最高のお兄ちゃんです!でも……」
そう言って、かえでちゃんは少し暗い顔をした。
「でも?」
「昨日、お兄ちゃんが勝手に家にきれいな女性の方を連れて帰ってきたんです……。しかも、お兄ちゃんはその人の前で服まで脱いで……」
「よし分かった。犯罪者は後で警察まで届けておくから、かえでちゃんは安心してくれ」
俺がかえでちゃんにそう言うと、シャツを途中まで着た咲太が飛び出してきた。
「おい!待て!誤解だ!」
「うるせえブタ箱野郎。今までお前の変態発言には目をつむってきたが、流石に今回ばかりは許されねえ」
「違う!昨日は麻衣さんが家に来ただけで……」
「あの有名人の前で自分の裸をさらしたのか!?なおさら問題じゃねえか!しかも名前呼びとか、昨日の今日だぞ!?」
「しかもお兄ちゃんは、その人のバニーガールの衣装をかえでに着せようとしたんです!」
「はいギルティ。友達やめるわ。かえでちゃん、こんなやつ忘れて、家で一緒に暮らそ、な?」
俺は、そう言いながらかえでちゃんの目を手で隠し、咲太が見えないようにする。
「だから違うって言ってるだろ。後、さらっと人の妹と同棲しようとするな」
「大丈夫です!どんなお兄ちゃんになっても、かえではお兄ちゃんを愛する自信があります!」
「かえで、お兄ちゃんはかえでが味方なのか敵なのか分からなくなってきたぞ……」
「かえではいつでもお兄ちゃんの味方です!」
「そうか……」
そう言った咲太の顔は、少し疲れていた。
咲太の家で一騒動あった後、俺と咲太はゆっくりと駅に向かって歩いていた。
「それで、実際のところはどうなんだ?俺は昨日マンションの玄関で桜島先輩とすれ違ったから、本当にお前の家に行ったのは予想がつくが、もうそんなに進展してるのか?」
咲太はいつも一人でいるが、別に空気が読めないわけではない。むしろ、一人でいることでクラスの空気を乱さないように配慮しているくらいだ。俺とも今普通に話しているように、会話は苦手ではない。だからと言って、あの桜島先輩と接点を持てるほど積極的に人と交流するタイプでもないので、如何にして家に一緒に行くほどの間柄になったのかは気になっていた。
しかし、咲太は俺の質問に答えようとせず、むしろ何か考え込み始めた。
「……駿、お前、さっき麻衣さんとマンションの玄関ですれ違ったって言ったか?」
「ああ、うん。すれ違った、というよりはあっちが早歩きで来たからぶつかっちまったんだけどな」
「それ……本当に麻衣さんだったか?」
「ん?ああ、大体夕方の5時半くらいだったかな。あんな有名な先輩だし、見間違いはないとは思うぞ」
「そうか……」
咲太はそう言うと、立ち止まって考え込み、「駿なら……まあ、大丈夫か」と小声で言って、こちらの方を向いた。
「なんだよ。そんなスキャンダル的なことなのか?お前が言いたくないんなら、別に無理に言わんでもいいぞ」
「いや、むしろ協力してほしいくらいだ」
「協力?」
「ああ」
相談、とかならまだわかるが、協力というのはどうにも違和感があった。どこからか、そのワードに対し、ひしひしと嫌な感じがしてくる。
「……どうやら、麻衣さんは思春期症候群を患ってるらしい」
「……うげえ」
俺の嫌な予感は、見事に的中した。
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