私はそんな世界認めない (HTNN)
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第1-1話

私は孤児になった。

 

一人の天災が造り出したマルチパワードスーツ『IS』(インフィニット・ストラトス)

 

これにより、社会的パワーバランスが一変し、女尊男卑が当たり前となった。

 

私の父親は女尊男卑の犠牲となり、母親は女尊男卑から父親を守るために共に殺された。

 

残された私に出来るのは、細々と生きる事だけだった。

 

しかし、私は胸に誓った。

 

「私はそんな世界認めない」

 

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.

 

???「皆さん始めまして。このクラスの副担任をする事になりました、山田真耶と申します」

 

 

私はIS学園にいる。

 

ISの適性試験により適合反応が出て、入学する事となった。

 

当たり前の事だが、この学園には女子しか居ない。

 

...はずだった。

 

 

真耶「えっと...自己紹介が『あ』から始まって、今『お』の織斑君の番なんだよね...。その、してくれればいいなって...ご、ごめんね?したくないなら...」

 

 

私が目を向けると居るはずがない男子生徒の姿があった。

 

 

???「お、織斑一夏です!」

 

真耶「...えっと、他には?」

 

一夏「以上です!」

 

 

すると、一人の人物が織斑君の頭を叩いた。

 

 

???「自己紹介もまともにできんのか、馬鹿者」

 

一夏「げぇ!千冬姉!」

 

千冬「学校では織斑先生だ」

 

真耶「先生、もう会議は終わられたんですか?」

 

千冬「あぁ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けて悪かったな。諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物にするのが仕事だ」

 

 

織斑先生が自己紹介をすると女子生徒の歓声が響く。

 

 

千冬「はぁ...。よくもまぁ毎年、これだけ馬鹿共が集まる事だ。私の所だけに集まる様にしているのか?」

 

 

織斑先生の激励により、クラスは落ち着きを取り戻し自己紹介が続けられた。

 

やがて、私の番になり自己紹介する。

 

 

「時花茅(ときはな・かや)です。ISは初心者ですが、宜しくお願いします」

 

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休み時間。

 

私が予習しているとクラスが騒がしくなっていた。

 

織斑君と一人の女子生徒が何か言い争っている。

 

私は彼女を知っていた。

 

 

『セシリア・オルコット』

 

 

オルコットさんは、首席で入学したイギリスの代表候補生。

 

私も入学試験では普通科目ではトップの成績を出したが、IS関連の試験ではお世辞にも良いとは言えず、ISを重視しているこの学園では首席になれなかった。

 

私は、二人の言い争いを止めるために割り込む様に話に入った。

 

 

茅「初めまして、セシリア・オルコットさん」

 

セシリア「あらっ、貴女は時花茅さん。確か、普通科目で全教科トップの...」

 

茅「えぇ。でも、ISは素人なものでして、オルコットさんに首席を取られましたが...。もし宜しかったら、私にISを教えてくれませんか?」

 

セシリア「喜んで。私も貴女に興味がありましたの」

 

 

そして、休み時間終了のチャイムは鳴った。

 

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千冬「再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

 

織斑先生が授業の最中、突然言い出した。

 

 

千冬「クラス代表者とは、対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会への出席など...まぁ、クラス主と考えても貰って良い。自薦他薦は問わない。誰かいないか?」

 

 

それを聞いた女子達は、一同に織斑君を指名し始めた。

 

 

一夏「ちょ、ちょっと待った!俺はそんなのやら...」

 

茅「先生」

 

 

私は、立ち上がった。

 

 

千冬「なんだ、時花?誰かを推薦するのか?それとも自薦か?」

 

茅「私は織斑君をクラス代表者にする事に反対します」

 



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第1-2話

クラスの織斑ムードは吹き飛んだ。

 

 

千冬「...何故だ?」

 

茅「織斑君は参考書を失くし、ISの勉学で大きく遅れています。そこにクラス委員長の仕事を与えるのは酷な話だと思います」

 

 

私だから分かる。

 

この学園では、普通科目など二の次でISが全てなのだ。

 

普通の男子がIS学園に放り込まれて、この環境にすぐに適応する訳がない。

 

それに加えて、織斑君は参考書を一週間で覚えなければならないという強要をさせられている。

 

その織斑君にクラス委員長はどう考えても不可能だと感じていた。

 

 

千冬「ならば、どうする?お前が自薦するのか?」

 

茅「そ、それは...」

 

 

私がISを使いこなせるなら自薦したが、私はISに限っては初心者。

 

皆が推薦した織斑の代わりになり、皆の満足良く実力がある訳ではない。

 

 

セシリア「でしたら、私がなります!」

 

 

その言葉に、皆はオルコットさんの方を向いた。

 

 

セシリア「実力から行けば、私がクラス代表になるのは必然。大体、男がクラス代表だなんていい恥晒し...」

 

茅「オルコットさん!!」

 

 

私は勢いよく机を叩いて、オルコットさんの言葉を止めた。

 

 

茅「私は、織斑君が男だからという理由で止めた訳ではありません...。それだけは勘違いしないで下さい...」

 

 

クラスが静まり誰もが口を閉じていた。

 

 

千冬「では、クラス代表はIS勝負で決めて貰う。勝負は次の月曜、第三アリーナで行う。織斑、オルコット、時花はそれぞれ準備をしておくように」

 

 

茅「待って下さい!私はともかく、織斑君には負担にしかなりません!アナタは織斑君のお姉さんでしょ!それで良いんですか!?」

 

千冬「それはお前が決める事ではない。どうだ、織斑。お前は降りるのか?」

 

一夏「いや、ここで引いたら男じゃねぇ!この勝負、受けてやる!」

 

 

皆が歓声を上げる中、私の胸中には心配しかなかった。

 

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放課後。

 

 

茅「オルコットさん、さっきはごめんなさい...」

 

セシリア「時花さん、顔を上げてくださいませ。私も感情的になって、ついあんな事を...。下手したら代表候補生を降ろされるかもしれなかったのです」

 

 

オルコットさんは、私が織斑君に気に掛けているのを疑問に思っていた。

 

私は、織斑君が幼い頃に両親が居なくなった事をモンド・グロッソの織斑先生のインタビューで知っていた。

 

自分と似た境遇である事、そして織斑君の今の立場を考えると放ってはおけなかったと話した。

 

その話にオルコットさんは自分の話をした。

 

オルコットさんも両親を失い、努力で生きていた事を。

 

私は感じた。

 

この人も私と同じだと。

 

 

茅「オルコットさん。私にISを教えて下さい!クラス代表決定戦で負けたくないんです!」

 

セシリア「勿論ですわ。それと私の事はセシリアと呼んで下さいますか?茅さん」

 



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第1-3話

私はクラス代表決定戦までセシリアさんの指導でISを学んでいた。

 

私はISは嫌いだ。

 

私の両親を殺した元凶だったからだ。

 

しかし、皮肉にも私に適正反応が出てから避けては通れない道となった。

 

それでも織斑君をクラス代表にさせたくないのは私の意地。

 

織斑君をこのまま見捨てれば、きっと彼は壊れてしまう。

 

その行為は、私の両親を殺した者達と変わらない。

 

「私はそんな世界認めない」

 

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クラス代表決定戦当日。

 

 

千冬「遅い...!」

 

織斑先生は織斑君の専用機を待っていた。

 

しかし、運搬に時間が掛かり試合開始直前になっても姿を見せない。

 

 

千冬「時花、すまないが先に試合に出てもらう。大丈夫か?」

 

茅「分かりました」

 

 

元々、このクラス代表決定戦は『織斑君 vs セシリアさん』『私 vs セシリアさん』『織斑君 vs 私』の順番で行われるはずだった。

 

しかし、私にとって順番は関係ない。

 

私は訓練機を身に纏い、試合会場へと足を運んだ。

 

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結果は、私の負け。

 

それでも途中までは善戦していた。

 

セシリアさんとの訓練や模擬戦で、ISのコツを覚えた私は初心者より頭一つ飛び出た実力を手にしていた。

 

ただ、試合途中で頭痛に襲われた。

 

緊張感を高めたせいか、連日の訓練の疲れによるかは分からないが、私はこの頭痛が時間の経過の度に酷くなり、やむおえずリタイアした。

 

 

茅「すみません...織斑先生。私、織斑君の試合も棄権します...」

 

 

私は山田先生に肩を借りて、自室で寝込んだ。

 

織斑君に不戦勝を上げてしまったのが心残りだが、私はセシリアさんを信じて目を閉じた。

 

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.

 

私は、セシリアさんに起こされた。

 

なんでもクラス代表が決定したからパーティーを開くと言うのだ。

 

私はセシリアさんの表情から、セシリアさんが代表に決まった物だと思っていた。

 

 

「「「織斑一夏君の代表決定を祝してかんぱーい」」」

 

 

私は、その言葉に手のグラスを落とした。

 

 

茅「な...なんで...」

 

セシリア「どうしました?茅さん、顔色が悪いですわよ?」

 

茅「なんで!どうして!!セシリアさんがどうして負けたの!!」

 

 

私はセシリアさんに掴み掛かった。

 

そんな私を止める様に織斑先生が私を捕まえた。

 

 

千冬「落ち着け!オルコットは負けていない!」

 

 

私は、理解できなかった。

 

セシリアさんが勝ったなら、代表者はセシリアさんのはずだ。

 

 

セシリア「それは、私が辞退したからですわ」

 

 

セシリアさんは織斑君との試合で、織斑君の可能性を賭けてクラス代表を譲ったと言った。

 

私はセシリアさんを見て気付いてしまった。

 

彼女はもう信念に心を捧げた人間ではない。

 

一人の恋する乙女だと。

 

それは、セシリアさんが負ける事よりもはるかに辛い結果だった。

 

 

茅「すみません...。まだ体調が優れないので自室で寝ています...」

 

 

私は目から落ちる涙を背中で隠す様に、そう言って部屋を後にした。

 



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第2-1話

私の目覚めは最悪だった。

 

織斑君をクラス代表にさせてしまった事に自責の念を感じていた。

 

だからと言って、私は織斑君を見捨てたりはしない。

 

それは、私が『私』である事を捨てる事だから。

 

「私はそんな世界認めない」

 

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私は、オルコットさんに織斑君達とISの訓練を誘われていたが断った。

 

オルコットさんは皆に謝罪し、クラスに溶け込む事はできたが、私は違う。

 

私は『反織斑』と言う謂れのないレッテルを張られクラスで孤立していた。

 

そんな私が織斑君達と居ても迷惑を掛けるだけだ。

 

それでも、織斑君の様子が気になり隠れて訓練を覗いていた。

 

しかし、私が見た物は篠ノ之さんとオルコットさんが織斑君を取り合っている光景だった。

 

IS学園はエリート学園だ。

 

織斑君は今の状態でもギリギリなのに、ISの訓練もまともに出来ず、委員長の仕事まで押し付けられている。

 

 

「千冬様の弟だから大丈夫」

 

「世界でただ一人の男性操縦者だから大丈夫」

 

 

皆、口々にそう言う。

 

では、彼が壊れたらどうする?

 

私はそんな未来は許さない。

 

「私はそんな世界認めない」

 

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.

 

職員室。

 

 

千冬「何の用だ?時花」

 

茅「私を副委員長にして下さい。委員長の雑務は私がやります」

 

千冬「なぜ、そこまで織斑に肩入れする?」

 

茅「私は皆とは違います。彼に全てを押し付けません。これは私の意地です」

 

 

千冬は時花を見る。

 

彼女は、一夏に恋をしている訳ではない。

 

何故かは知らないが、彼女には一夏を放っておけない理由があるのだと感じた。

 

 

千冬「...分かった。今でも仕事は山積みだ。大丈夫か?」

 

茅「はいっ!」

 

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「知ってる?時花さん、副委員長になったんだって」

 

「今更、織斑君を味方に付けようって事かしら?」

 

「実際は、雑用押し付けられてるだけみたいよ」

 

 

ヒソヒソと話をしている。

 

織斑君が気に掛けて、私に声を掛けているが、

 

 

茅「織斑君は自分の事だけを優先して下さい」

 

 

と、織斑君に負担を掛けない様にしている。

 

そんな中、クラス対抗戦の日は刻々と近づいていた。

 

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.

 

茅「これが他のクラス代表者の情報です」

 

 

私は、織斑君にクラスの代表者達の情報をまとめたファイルを渡した。

 

 

一夏「あ、ありがとな!」

 

 

私は一組では嫌われているが、織斑君に負けて欲しいとは思っていない。

 

織斑君も少しずつだが、今の環境に慣れ始めている。

 

そんな織斑君が惨敗し自信を失ったら...と思うと私は怖くてたまらなかった。

 

 

茅「分からない事があったら、遠慮なく聞いてください。では...」

 

???「その情報古いよ!」

 

 

一人の人物が、私の前に立ちはだかった。

 

 



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第2-2話

一夏「お前、鈴か!?」

 

鈴音「そう!中国から来た凰鈴音よ」

 

 

クラスが騒ぎ出した。

 

彼女が二組の転校生だった。

 

 

茅「凰さんと言いましたね。情報が古いとはどういう事でしょうか?」

 

鈴音「私が今の二組のクラス代表って事よ!」

 

 

中国の代表候補生が二組のクラス代表と言う事に、またもクラスが騒ぎ出した。

 

 

千冬「何を騒いでる。授業の時間だ」

 

鈴音「あ...!じゃあ、また後でね、一夏!」

 

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.

 

私は、凰さんについて調べていた。

 

凰さんは、わずか一年で専用機持ちの中国代表候補生となった女子だった。

 

紛れもなく努力の天才であり、今の織斑君が勝てる可能性は万に一つもないと思った。

 

私は凰さんを詳しく調べたいと思っていた。

 

すると凰さんが泣きながら、とぼとぼ歩いて来た。

 

 

茅「どうしたのですか?こんな時間に」

 

鈴音「グスッ...アンタこそ、こんなに時間に何やってんの...」

 

 

ここは、寮の広間。

 

消灯時間も近い。

 

 

茅「私は副委員長としての雑務です。自室では同室者がうるさいので」

 

 

嘘は付いていない。

 

私の仕事は、常に動かなければ終わる事はない。

 

しかし、同室者が私に対して嫌悪しているため、作業道具を持って広間で行っている。

 

 

鈴音「『反織斑』とか言われてるけど、なんで一夏の事嫌いなの...?」

 

茅「私は、織斑君の事は嫌いではありません。嫌いならこんな事はしていません」

 

 

私は作業をしながら淡々と答えた。

 

 

鈴音「変なの...」

 

 

凰さんは私の隣に座り、少しずつ落ち着きを取り戻していった。

 

すると、ポツポツと話し始めた。

 

凰さんは織斑君のニュースを聞き、IS学園に編入して来た。

 

しかし、織斑君と会った凰さんは、織斑君が約束を忘れていた事にショックを受けていた。

 

 

鈴音「あいつ!絶対クラス対抗戦でボコボコにしてやるんだから!」

 

 

私は名案を思い付いた。

 

 

茅「凰さん、もし宜しかったらクラス対抗戦まで私とISの訓練をしませんか?」

 

鈴音「はぁ!?何言ってんの!?」

 

茅「私は、一夏君のためにアナタの情報が欲しい。対して凰さんは訓練の相手が欲しいのではないですか?二組のクラス代表とは言え、あまりクラスに馴染めてないのでしょう?」

 

鈴音「そ、それは...」

 

 

二組は編入してきた凰鈴音に代表の座を突然奪われ、不満を持つ者も少なくなかった。

 

凰鈴音に協力する者が二組に居るかどうかを考えると難しい事である。

 

 

茅「私はこれでも少しはISを手馴れています。初心者を相手にするよりはずっとマシだと思いますし、不満を感じたらすぐに止めても良いですよ」

 

鈴音「分かったわ...!頑張って、私から情報を引き出してみなさいよ!!」

 

 

私はこのチャンスを必ず生かそうと決意した。

 



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第2-3話

茅「織斑君、これを渡します」

 

一夏「何だこれ?」

 

茅「凰鈴音さんの戦闘データです」

 

一夏「ど、どうやってこんな物!?」

 

茅「これは昨日、私が彼女と戦った時のデータです」

 

 

クラス一同が騒ぎ出した。

 

 

セシリア「戦ったですって!?茅さん、それは本当ですの!?」

 

茅「えぇ、オルコットさん。残念ながら私は負けてしまいましたが、その時取れたデータを資料化した物です」

 

箒「お前!なぜ、二組に肩入れしている!!」

 

茅「凰さんの戦闘データを取るためです。クラス対抗戦まで、毎日お渡しますので参考にして下さい」

 

 

そう言って、私は席に戻った。

 

クラスの女子達はヒソヒソと話し合っている。

 

 

「時花さん、二組に肩入れしてるんだって」

 

「副委員長になったのも織斑君の情報流すためだよ」

 

「渡したデータも嘘っぱちに決まってるわ」

 

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放課後。

 

 

鈴音「来たわね!昨日は何か良いデータでも取れたかしら?」

 

茅「それは秘密です。今日は昨日と同じ様にいきません」

 

鈴音「...アンタ、自分の噂知ってる?一組を負けさせるために二組に加担してる裏切者って言われてるのよ」

 

茅「知ってますよ、私にとっては今更です。時間が惜しいので早く始めましょう」

 

鈴音「本当に変わってるわね...。いいわ、掛かって来なさい!!」

 

 

私は今日も全敗した。

 

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.

 

連日、私は凰さんの戦闘データを解析して織斑君に渡している。

 

織斑君が私を信じてその資料を読み解いているか、クラスの進言ですぐに廃棄されてるかは私は知らない。

 

しかし、私にとって重要なのは織斑君の勝率を少しでも上げるために凰さんと戦い続ける事であり、余計な事を考えてる暇はなかった。

 

私は一度も勝てないが、少しずつ凰さんの癖や専用機の能力を覚え、訓練機であってもそこそこの善戦はできる様になっていた。

 

クラス対抗戦の二日前。

 

この日が最後の日だった。

 

 

鈴音「訓練機とはいえ、ここまで楽しませてくれるなんて。私も充分満足したわ」

 

茅「それは...どうも...」

 

 

私は焦っていた。

 

凰さんと善戦できるとはいえ、凰さんは未だ私に切り札を見せていない。

 

この日までにそれを知りたかったが、私では凰さんに切り札を使わせるまでの実力には届かなかった。

 

 

鈴音「私も負い目がない訳じゃない...。だから最後に、私の切り札『龍咆』を見せて上げる!」

 

 

私は、その言葉に身構えた。

 

一瞬、何が起こったかは分からなかった。

 

気が付けば、衝撃と同時に私は吹き飛ばされた。

 

 

「試合終了!勝者、凰鈴音!」

 

 

鈴音「クラス対抗戦、楽しみにしてるわ」

 

倒れた私を置いて、凰さんは戻って行った。

 



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第2-4話

クラス対抗戦当日。

 

1組 対 2組

 

凰鈴音は、この戦いを楽しみに待っていた。

 

時花茅が集めたデータで、織斑一夏がどこまで自分に対抗出来るのか期待があったからだ。

 

試合開始の合図が響いた。

 

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私は、クラス代表の試合をビデオカメラに撮るために観客席に居る。

 

始めは凰さんが織斑君を圧倒している試合展開だったが、織斑君が少しずつ押し返している形となっていた。

 

 

鈴音「中々やるわね!IS初心者と思えないくらい成長してるじゃない!」

 

一夏「そりゃ、どうも!」

 

 

始めは織斑一夏も女子生徒達の進言通りに、時花茅の資料をアテにはしていなかった。

 

しかし、セシリア・オルコットだけは違った。

 

セシリア・オルコットは時花茅の集めた資料を基に織斑一夏の訓練を行い、織斑一夏に凰鈴音の戦闘スタイル等を暗記して貰う様に言った。

 

その結果、試合開始時は凰鈴音の動きに翻弄されていたが、時間が経つに連れて時花茅の集めた資料が生きる形となり、今に至る。

 

 

鈴音「これならどうかしら!」

 

 

凰さんは、龍咆で織斑君を攻撃した。

 

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その攻撃で辺りに砂埃が舞った。

 

 

一夏「危ねぇ...」

 

 

織斑君は、その攻撃を紙一重で躱していた。

 

 

鈴音「まさか、初見で龍咆を避けるなんてね...」

 

一夏「時花のくれた資料に書いてあったんだ。お前の切り札は、見えない衝撃砲だってな」

 

 

凰鈴音は驚いた。

 

時花茅に対して龍咆は一度しか使わなかったが、その正体を短時間で見抜いて来るとは思わなかったからだ。

 

だが、時花茅は龍咆の正体までは掴めたが、その対抗策までは出す事が出来なかった。

 

しかし、凰鈴音はそんな事は知らない。

 

凰鈴音は、訓練機と知識だけで自分にあそこまで対抗してきた時花茅に対して高い評価を持っており、もしかしたら自分の知らない龍咆の弱点まで見つけているのではと思い、龍咆に頼る戦法は取らなかった。

 

それが功を奏し、謀らずも二人は近接戦を繰り返していた。

 

試合がヒートアップする中、アリーナのシールドを突き破って何かが侵入した。

 

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警報が鳴り響いた。

 

放送で避難命令が下され、観客の女子生徒は我先にと出口に向かった。

 

しかし、全ての出口がロックされており、誰一人として逃げる事は出来なかった。

 

しかし、私は不思議と落ち着いていた。

 

命が惜しくない訳ではないが、両親が殺されたあの日に比べればと思うとそこまでの恐怖がなかった。

 

私にできる事は席に座り、静かに待つ事だけだった。

 

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事件は終結した。

 

無人機が侵入し、その暴走を専用機のメンバー達が倒す事で解決したらしい。

 

しかし、戦いの最中で負傷した織斑君の事が気になり、私は保健室へ向かっていた。

 

その途中、保健室で騒ぎ声が聞こえた。

 

声の主は、篠ノ之さんとオルコットさんと凰さんだった。

 

私は身を隠して様子を見ていたが、彼女達は織斑君を巡って口論をしていた。

 

織斑君の様子も見たが、大した怪我もなく、その光景は織斑君にとっての日常だった。

 

それを確認し、私もいつもの日常に戻った。

 

副委員長として雑務を行う日常に。

 



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第3-1話

「ねぇ?あの噂聞いた?」

 

 

学年別タッグトーナメントの開催告知後に一つの噂が流れた。

 

 

「今月のトーナメントで勝つと、織斑君と付き合えるんだって!」

 

 

普段、噂話を気にしない私だが、この話に関しては怒りを覚えた。

 

私は、織斑君が誰と付き合おうと興味はない。

 

しかし、彼の意思を無視するばかりかトーナメントの賞品として扱い、士気を上げようとするのは許せなかった。

 

 

千冬「席につけ。HRを始める」

 

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真耶「今日はなんと、転校生を紹介します」

 

 

一人の生徒が教室に入って来た。

 

 

???「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。皆さん宜しくお願いします」

 

「「「お、男?」」」

 

シャルル「はい、こちらに僕と同じ境遇の方が居ると聞いて本国より転入を...」

 

 

クラスが歓声に包まれた。

 

 

千冬「騒ぐな。静かにしろ!」

 

 

織斑先生の一喝で皆は口を閉じた。

 

 

千冬「今日は二組と合同でIS実習を行う。各人は着替えて第二グラウンドに集合。それと織斑。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子同士だ。解散!」

 

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二組との合同実習。

 

山田先生が訓練機を身に着けて登場した。

 

織斑先生は、オルコットさん・凰さん vs 山田先生 の二対一を行うと言った。

 

 

セシリア「あの...二対一で?」

 

鈴音「いや、流石にそれは...」

 

千冬「安心しろ。今のお前達ならすぐ負ける」

 

 

オルコットさんと凰さんはその言葉にムッとした。

 

私もそれは言い過ぎだと感じた。

 

オルコットさんと凰さんは私も戦った事があるが、一度も勝った事がない。

 

二対一だけではなく『専用機二体』対『訓練機一体』だ。

 

普段の山田先生を見ているがドジで気が弱く、入学試験で自滅したと聞いていた。

 

私は山田先生のIS技術から大した事は得られないだろうと思っていた。

 

しかし、その考えはすぐに間違った物だと気付かされた。

 

私は、その試合に魅了された。

 

私が一度も勝てなかった彼女達を無傷で倒したのだから。

 

 

千冬「教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接する様に」

 

 

私はその言葉で我に返り、無意識に垂れていた涙を急いで拭いた。

 

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その日の夜。

 

 

一夏「はぁ~、男同士ってのは良いもんだな...」

 

シャルル「一夏はいつも放課後にISの特訓してるって聞いたけどそうなの?」

 

一夏「俺は他の皆から遅れてるからな」

 

シャルル「僕も加わって良いかな?専用機もあるから役に立てると思うんだ」

 

一夏「あぁ!ぜひ、頼む!」

 

シャルル「任せて!...でも一夏は凄いね、クラス委員長までやってるんだから。よく頑張ってると思うよ」

 

一夏「いや、クラス委員長の仕事は、俺はあまりやってないんだ。副委員長が居て、そのおかげで少し余裕があるんだ」

 

シャルル「副委員長?」

 

一夏「今日の合同実習でシャルルのグループに居た時花茅って子だよ」

 

 

僕は、一夏の聞いた彼女の特徴から一人の女子生徒を思い出した。

 



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第3-2話

時花茅。

 

グループ分けの際に、織斑先生に僕のグループに入りたいと志願した子だった。

 

織斑先生の計らいで時花茅は僕のグループに入ったが、他の女子生徒も同じ様に頼み込んでも取り合って貰えず、贔屓だと彼女は周りの女子生徒から大きく非難されていた。

 

後で聞いた話、時花茅は『反織斑』と呼ばれ、一夏のクラス委員長立候補に反対したり、クラス対抗戦で二組に寝返った裏切者と呼ばれていた。

 

 

「シャルル君も気を付けて!」

 

「何かあったら私達が助けるから!」

 

 

女子生徒達は僕の事を心配していたが、一夏の話を聞くと腑に落ちない点があった。

 

 

シャルル「あのさ...一夏は時花さんの噂って知ってる?」

 

一夏「噂?何の話だ?」

 

 

織斑一夏は、時花茅が『反織斑』と呼ばれている事は知らなかった。

 

時花茅が織斑一夏の代わりにクラスの雑務を行っている事は事実で、下手に織斑一夏の前でこの事を言うと余計なトラブルを起こしかねないと思い、皆は織斑一夏の聞こえない所でしか噂していなかったからだ。

 

 

シャルル「ごめん、なんでもない!ほら、明日も早いんだからもう寝よう!」

 

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翌日。

 

 

真耶「えっと...今日も嬉しいお知らせがあります。またクラスに一人、お友達が増えました。ドイツから来た転校生のラウラ・ボーデヴィッヒさんです」

 

 

教壇には、転校生が立って居た。

 

 

「どういう事?」

 

「二日連続で転校生だなんて」

 

「いくら何でも変じゃない?」

 

真耶「皆さん、お静かに!まだ自己紹介が終わってませんから...」

 

千冬「挨拶をしろ。ラウラ」

 

ラウラ「はい。教官」

 

 

転校生は織斑先生に挨拶をすると自己紹介を始めた。

 

 

ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 

転校生はそれしか言わなかった。

 

 

真耶「...あの。以上...ですか?」

 

ラウラ「以上だ」

 

 

すると転校生は織斑君に近づき、平手打ちを織斑君に与えた。

 

 

ラウラ「私は認めない!貴様があの人の弟であると...。認めるものか!!」

 

 

私は、このクラスにまた波乱の波が訪れた事を感じた。

 

.

.

.

 

放課後。

 

転校生のボーデヴィッヒさんがアリーナでトラブルを起こした。

 

私は、副委員長として事後処理のために動いていた。

 

処理は早急に片づけたが、またトラブルがあると面倒なので、私は織斑先生の元へ向かった。

 

ボーデヴィッヒさんが織斑君を敵視している理由は織斑先生に関係があると思い、話を聞こうと思ったからだ。

 

私は中庭で織斑先生を見つけたが、何か様子がおかしかった。

 

ボーデヴィッヒさんが織斑先生と言い争った後に走りだし、隠れていた織斑君が織斑先生と何か話をしていたからだ。

 

私は、一人になった織斑先生に話し掛けた。

 

 

茅「織斑先生」

 

千冬「今度は時花か。何の用だ?」

 

茅「ボーデヴィッヒさんが織斑君を敵視する理由について何かご存じありませんか?」

 

千冬「...なぜ、それを知りたい?」

 

茅「ボーデヴィッヒさんは今日アリーナで織斑君とトラブルを起こしました。その事後処理は私が行いましたが、これから先同じ事がないとも限りません。ボーデヴィッヒさんを事前に止めるのも私の仕事だと思い、こうして尋ねて来ました」

 

千冬「あのバカ...。分かった、話してやろう」

 

 

私は、織斑先生から第二回IS世界大会(モンド・グロッソ)での政府によって隠蔽された真実を聞き、それが起因でボーデヴィッヒさんが織斑君を敵視している事を知った。

 



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第3-3話

消灯前。

 

私は、いつもの様に寮の広間で一人作業をしていた。

 

そこに予期せぬ来客が現れた。

 

 

一夏「時花。大事な話がある」

 

茅「大事な話?」

 

一夏「ここじゃ出来ない話なんだ。俺の部屋に来てくれないか?」

 

 

私は織斑君に付いて行き、彼の部屋に入った。

 

そこに、沈んだ顔をしたデュノア君が居た。

 

 

一夏「時花!シャルを救いたいんだ!知恵を貸してくれ!!」

 

.

.

.

 

私は、織斑君からデュノア君の話を聞かされた。

 

彼女は、自社の窮地を救うために男装し、織斑君から男性操縦者のデータを盗みに来たスパイであり、このままでは本国に呼び戻されて牢獄行きになると話した。

 

私はその話を聞き、こう言った。

 

 

時花「助ける方法なんかありません」

 

 

織斑君とデュノアさんは驚いていたが、織斑君は私に反論する様にこう言った。

 

 

一夏「なんでだよ!三年あれば、シャルを救う方法は見つかるかもしれないのに!!」

 

時花「三年?何をもって三年と言っているのですか?」

 

一夏「IS学園特記事項、第二十一項。本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。シャルはここに居る間は安全なんだ!」

 

時花「織斑君、IS学園特記事項は絶対ではありません。彼女は、フランスの代表候補生でISの開発企業であるデュノア社のテストパイロットです。強制帰国を命じられたら従うしかありません。良くてあと一、二ヵ月しか時間がないのです」

 

 

私は、はっきりと二人に伝えた。

 

『織斑君を犠牲にデュノアさんを救う』か『デュノアさんを見捨てる』かの二択だと。

 

私は後者を勧めた。

 

織斑君は男性操縦者であり、希少価値は代表候補生よりも高い。

 

その織斑君がスパイにデータを取られて悪用された場合、織斑君だけでは責任が取れない話になる。

 

それに対して、デュノアさんは最初からスパイ目的で学園に編入して来た犯罪者だ。

 

今、自首すれば牢獄行きであろうと大した罪にはならない。

 

勿論、IS学園に復帰するのは不可能だが。

 

 

シャル「嫌だ...そんなの、嫌だよ...」

 

 

デュノアさんは私の言った結論にポロポロと涙を落とし始めた。

 

 

時花「デュノアさん、悪い事は言いません。早めに自首して刑を軽くするようにお願いする事をお勧めします。でも、アナタが織斑君のデータを盗もうと考えてるなら私は容赦しません。では、失礼します...」

 

部屋を出て行こうとする私に対して織斑君は諦めずに言って来た。

 

 

一夏「頼む...!シャルを救ってくれ...!!」

 

 

織斑君は、私に対して土下座していた。

 



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第3-4話

私の記憶が、フラッシュバックする。

 

女尊男卑の人達によって、父親を庇って死んだ母親とボロボロの父親。

 

幼い私はその光景を震えながら見ているしか出来なかった。

 

 

「私はどうなってもいい!娘だけは...娘だけは見逃してくれ!!」

 

 

両手両足を折られた父親が暴行者達に血反吐を吐きながら土下座していた。

 

そんな父親をあざ笑うかの様に、暴行者達は父親を容赦なく痛めつけた。

 

だが、どんなに痛めつけてもその姿勢を崩さなかった父親に恐怖し、暴行者達は不気味さを感じて、私に何もせずに帰って行った。

 

私は、その光景を忘れる事が出来なかった。

 

.

.

.

 

時花「や、止めて下さい...!」

 

 

私は、織斑君の土下座を直視出来なかった。

 

 

一夏「千冬姉にはもう迷惑を掛けたくないんだ...!頼れるのは、お前しかいないんだ!」

 

 

私は、その姿に逃げ出す事も織斑君の言葉に逆らう事も出来なくなっていた。

 

それでも頭の中では私の意思に関係なく、織斑君を傷付けずにデュノアさんを救う方法を模索し続けていた。

 

 

時花「...す、数日待って下さい。私が...何とかしますから...!」

 

 

私は、自分の頭の回転を初めて呪い、涙と鼻水で汚れた顔を隠しながら部屋から退出した。

 

.

.

.

 

私は、連日授業を休んでいる。

 

現存するISの手に入れられる情報、設計図等をかき集めてまとめていた。

 

昼は自室、夜は寮の共有トイレで寝ずに作業をしていた。

 

デュノアさんがいつ帰国を命じられるかは分からない。

 

もし、デュノアさんに何かがあったら織斑君がどれだけ傷付くのか。

 

「私はそんな世界認めない」

 

.

.

.

 

数日が経過し、私は就寝時間の前に織斑君の部屋を訪ねた。

 

 

一夏「時花...!お前今までどこに居たんだよ!それに、その姿...」

 

 

私は目にクマができて、髪の毛もボサボサ、服は汚れまみれだった。

 

 

時花「これをお渡しします...。デュノアさんに渡して下さい...」

 

それは一つのUSB。

 

私が、全身全霊を込めて作った自作のISの設計図が入っていた。

 

私を心配する織斑君をよそに一人で自室に戻り、久々の睡眠に身を委ねた。

 

.

.

.

 

次の日。

 

私は、学校に登校した。

 

本当は休んでいたかったが、私の欠席中にボーデヴィッヒさんがまた問題を起こしており、その事後処理をしなければならなかったからだ。

 

その日、とあるニュースが持ちきりになった。

 

 

『デュノア社!新型IS開発!!』

 

 

その話題に女子生徒達は騒ぎ、デュノアさんに詰め寄っていた。

 

休み時間。

 

デュノアさんが私に話し掛けて来た。

 

 

シャルル「あの...ありがとね、時花さん」

 

 

デュノアさんはお礼に言いに来ていた。

 

しかし、私はこう返した。

 

 

茅「礼なんかいらない。私は忙しいから話し掛けないで」

 

 

私は、ボーデヴィッヒさんの事後処理だけではなく、連日休んだ分のクラスの雑務も行わなければならない身であり、デュノアさんと話をする余裕すらなかった。

 

 

シャルル「でも...時花さんのおかげで僕は救われたんだから、何かお礼を...」

 

 

私はその言葉に怒りで我を忘れてデュノアさんの胸倉を掴み、壁に叩きつけた。

 

 

茅「勘違いするな!私はお前を助けた訳ではない!!二度と話し掛けるな!!」

 

 

私の突然の蛮行に女子生徒達が私を取り押さえたが、デュノアさんは私に恐怖し二度と話し掛けては来なかった。

 

 

その日、私に『反デュノア』と新たなレッテルが付けられたのは言うまでもなかった。

 



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第3-5話

放課後。

 

私を敵視する女子生徒達を置いて、寮に戻った。

 

そんな私に一人の人物が声を掛けてきた。

 

 

???「時花茅だな?」

 

 

ボーデヴィッヒさんだった。

 

 

茅「何の用ですか?」

 

ラウラ「お前にとってISとは何だ?」

 

 

私は迷わずに答えた。

 

 

茅「殺人兵器」

 

 

ISは兵器である。

 

皆が聞けば笑うだろうが、私は断言する。

 

そして、ISは女尊男卑を生み出した存在。

 

その影響で多くの人が犠牲になった。

 

だから、私にとってISとは殺人兵器である。

 

 

ラウラ「やはり、お前は他の奴とは違う様だな」

 

茅「用はそれだけですか?私は忙しいので手短に頼みます」

 

ラウラ「学年別タッグトーナメントで私と組まないか?」

 

 

学年別タッグトーナメント。

 

生徒同士がペアを組んでISで戦う二対二の競技である。

 

 

茅「何故、私と組みたいのですか?」

 

ラウラ「お前の噂は聞いている。『反織斑』と呼ばれてるそうだな。実力は知らんが、気構えが他の奴とはまったく違う。だから誘ったのだ」

 

 

彼女も私に対して誤解していると思ったが、これは利用出来ると感じた。

 

 

茅「アナタの目的は何ですか?『優勝者は男性操縦者と付き合える』と言う噂で、織斑君かデュノア君を狙っているのですか?」

 

ラウラ「馬鹿を言え。あんな噂や優勝に興味はない。織斑一夏を倒し、私の力を教官に認めさせるのが目的だ」

 

 

私には願ったり叶ったりの条件だった。

 

私は、先日のトラブルでオルコットさんと凰さんが出場出来なくなっている事を知っており、残る懸念はデュノアさんとボーデヴィッヒさんだけだった。

 

そのボーデヴィッヒさんを味方に付ければ、優勝する事も不可能ではないと思った。

 

 

茅「良いですよ。ただし条件があります。やるからには優勝を目指す事です」

 

ラウラ「変な奴だな。何故、優勝を狙う?一番興味がないと思っていたが」

 

茅「私にも譲れない意地があるんですよ」

 

 

私達が優勝すれば、あの噂は実現せず、織斑君に余計な負担を掛けさせない。

 

織斑君の意思を無視したこんな大会、誰にも優勝を譲らない。

 

「私はそんな世界認めない」

 

.

.

.

 

『時花茅とラウラ・ボーデヴィッヒがタッグを組んだ』

 

この噂は瞬く間に広がった。

 

一部では、『反織斑』が手を組んだとも呼ばれていた。

 

私は放課後、ボーデヴィッヒさんとISの連携練習を行い、空いた時間で私が集めた生徒の戦闘データを二人で読み解き、学年別タッグトーナメントに備えていた。

 

私達が手を組んだ際、互いに一つの条件を出し合った。

 

 

私は「優勝するまで手を抜かない事」

 

ボーデヴィッヒさんは「織斑君と戦う際、彼をボーデヴィッヒさんに任せて手を出さない事」

 

 

私は、ボーデヴィッヒさんが織斑君を恨むのは筋違いだと思ってはいるが、彼女の信念には高い評価を持っている。

 

だからこそ、互いの信念が生きる様にこの条件を了承した。

 

.

.

.

 

学年別タッグトーナメント開催日。

 

一回戦。

 

織斑一夏/シャルル・デュノア vs ラウラ・ボーデヴィッヒ/時花茅

 



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第3-6話

ラウラ「一戦目で当たるとはな...待つ手間が省けたものだ」

 

一夏「そりゃ、何よりだ。こっちも同じ気持ちだぜ」

 

 

試合が始まった。

 

.

.

.

 

私達の作戦は決まっていた。

 

ボーデヴィッヒさんが織斑君を倒すまで、私が相手のパートナーの動きを封殺する。

 

私は、デュノアさんの動きを徹底封殺する事だけに専念した。

 

 

千冬「...中々やるな」

 

 

千冬は、織斑・デュノアペアだけではなく、ボーデヴィッヒ・時花ペアにも高い評価を下していた。

 

 

真耶「そうですね。織斑君・デュノア君のコンビネーションは凄いですが、ボーデヴィッヒさん・時花さんは個々の役割に特化して動いています」

 

千冬「それだけではない。時花は一人でデュノアを倒せると最初から思っていない。あくまで織斑との連携を阻止するためだけに動いてる。その絶妙な調整は誰にでも出来る物ではない」

 

 

時花茅はこれまでの戦いで分かった事がある。

 

時花茅の実力では、専用機持ちの代表候補生には勝てないという事だった。

 

しかし、強い味方が居れば話が変わる。

 

そのアシストに特化すれば、時花茅は勝負に勝てなくても試合には勝てると考えていた。

 

また、織斑一夏のパートナーがシャルル・デュノアであった事も幸いした。

 

シャルル・デュノアは時花茅に対して負い目があり、全力を出せずにいた。

 

その想いの差が両者を拮抗までに追い詰めていた。

 

.

.

.

 

ボーデヴィッヒさんが織斑君を後少しで倒す直前だった。

 

私にまた頭痛が襲って来た。

 

 

茅「くっ...!なぜこんな時に...!」

 

 

私の異変に気付いたデュノアさんはチャンスだと思い、織斑君を助けに行こうとした。

 

 

茅「行かせるか...!」

 

 

私はこの頭痛に負けずに、デュノアさんを食い止めた。

 

しかし、頭痛はどんどんひどくなり、ボーデヴィッヒさんが織斑君を倒す前にデュノアさんの援護を許してしまった。

 

 

シャルル「一夏!助けに来たよ!」

 

一夏「シャル!時花はどうした?」

 

シャルル「分からない...。けど、チャンスだよ!今なら二人で戦える」

 

ラウラ「おい、時花!どうした!?返事をしろ!」

 

 

ボーデヴィッヒさんが私を呼んでいるが、私は意識を保つことでさえ精一杯であり動けずにいた。

 

ボーデヴィッヒさんは織斑君とデュノア君の連携に押され始めた。

 

私はデュノアさんに攻撃を仕掛けようと思ったが、そのたびに頭痛が増し、完全に身動きが取れなかった。

 

.

.

.

 

真耶「時花さん!聞こえますか!?大丈夫ですか!?」

 

 

山田先生は様子がおかしくなった私に通信機で声を掛けていたが、返事をする事が出来なかった。

 

 

真耶「返事はありません。織斑先生どうしますか?」

 

千冬「以前にも同じような事があった...。偶然とは思えん...試合を中止させるぞ!」

 

 

山田先生が試合中止を合図する直前だった。

 

ボーデヴィッヒさんの身にも異変が起きたのは。

 



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第3-7話

私の頭痛が治まると、目に映ったのは見覚えのない黒いISだった。

 

警報が鳴り、観客席のシャッターは閉まっていた。

 

私は通信機で織斑先生に状況を聞いた。

 

 

茅「先生...何があったんですか...」

 

千冬「VTシステムだ。ボーデヴィッヒの機体に仕込まれていたらしい。お前らはすぐ避難しろ」

 

 

VTシステム。

 

私がISの資料を調べていた時に目にしていた。

 

過去のモンド・グロッソの部門受賞者の動きをトレースするシステムだが、アラスカ条約で禁止されている物だった。

 

 

茅「ボーデヴィッヒさんはどうするんですか...!このままだと彼女は...」

 

千冬「今、教員部隊が向かっている!早く避難するんだ!!」

 

 

様子を見る限り、前のクラス対抗戦と同じだった。

 

セキュリティーが外部からロックされ、生徒は避難できず、増援部隊は突入に時間が掛かっている。

 

そんな中、織斑君はあの黒いISに零落白夜で突っ込んで行った。

 

しかし、黒いISは一撃で織斑君を切り倒し、織斑君のISは強制解除されて腕から血を流していた。

 

 

茅「織斑君!なんて無茶な事を...!」

 

一夏「あいつ...千冬姉と同じ居合を使いやがる...。あの技は千冬姉だけの物なんだ...」

 

 

その言葉で理解した。

 

あれは、織斑先生をベースとしたVTシステム。

 

つまり、使っている武器も織斑君と同じ『エネルギー無効化攻撃』を持つ物。

 

だから、織斑君の腕を傷付ける事が出来たのだと。

 

 

一夏「あいつは...俺が倒さなきゃダメなんだ...!!」

 

 

エネルギーが切れて、ISが展開出来ない織斑君はそう言った。

 

他の人が聞けば、馬鹿な意地だと思うだろう。

 

しかし、私は理解できる。

 

私もそんな馬鹿な意地を持って生きている人間だから。

 

 

茅「...デュノアさん。織斑君にエネルギーを分けて下さい。そうすれば、後一回は零落白夜を使えます」

 

デュノア「そ、それは出来るけど、良くて部分展開だよ!下手に突っ込んだら一夏が死んじゃう!!」

 

茅「私が囮になります。私が武器を抑え込んだら攻撃して下さい」

 

デュノア「そ、そんな!何で時花さんがそんな事を!!」

 

茅「これは、私の責任なんです!私が頭痛なんて起こさなければこんな事には...!!」

 

 

このままでは、織斑君とボーデヴィッヒさんは止まらない。

 

そうなれば、待つのは最悪の未来だけ。

 

「私はそんな世界認めない」

 

.

.

.

.

.

 

事件は収拾した。

 

私が黒いISの武器を封じる事で隙が生まれ、織斑君はボーデヴィッヒさんを救う事ができた。

 

だが、私は肩にあの武器を受けて重傷になった。

 

最初から無傷で止められると思ってはいない。

 

致命傷を受けなければ、私はどこを代償にしてでもあの武器を止めるつもりでいたからだ。

 

私は、面会謝絶の病室の中で、いつもの雑務を行っていた。

 



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第4-1話

学年別タッグトーナメントは大会自体が中止になり優勝チームはなしとなった。

 

私達の学年は合宿に備えて、多くの者が水着を買うなどの準備をしていた。

 

だが、私はこの傷がまだ完治に至らず、泳ぐどころか水着を着る事すら出来ない。

 

私は、皆が合宿を楽しみにしている間もいつもと変わらずにクラスの雑務を淡々と行っていた。

 

.

.

.

 

ラウラ「時花、少し良いか?」

 

 

ボーデヴィッヒさんが作業をしている私に話し掛けて来た。

 

 

茅「何ですか?手短にお願いします」

 

 

私は作業の手を止めず、耳と口だけで彼女と対話する事にした。

 

 

ラウラ「私は織斑一夏を嫁にしたい!どうすれば良いか教えてくれ!」

 

 

私はその言葉に手を止めた。

 

 

ラウラ「学年別タッグトーナメント前に作ったお前の資料は非常に役に立った!恋愛は情報収集が先決だと聞いてな、お前なら私に満足行く資料を作ってくれると思ったのだ!」

 

 

私の資料を評価したのは嬉しかったが、それ以上に悲しさが溢れた。

 

この人は、もう私の知っているボーデヴィッヒさんではない。

 

オルコットさんと同じで牙の抜けた恋する乙女だった。

 

 

茅「すみません...恋愛というのはデータだけでは測れないのです...。それに、ボーデヴィッヒさんが本当に織斑君の事を好きであるなら、私に頼らず自分の力で掴み取るべきだと思います...」

 

 

本当は問い詰めたかった。

 

私の知っているボーデヴィッヒさんは強さを求め続けた女性ではなかったのかと。

 

しかし、あの学年別タッグトーナメントでボーデヴィッヒさんの負担になってしまった私にそんな事を言う資格はなかった。

 

 

ラウラ「そうか、なるほど...。恋愛とは奥が深い物だな...」

 

 

そう言ってボーデヴィッヒさんは、織斑君を追い掛ける様に学園の外へと足を運んで行った。

 

私は、悲しみを忘れるために雑務を続けるしかなかった。

 

.

.

.

 

合宿。

 

私の部屋は山田先生と同室だった。

 

怪我人である私を他の生徒と一緒にするのは、私にとっても同室者にとっても良い影響ではないと思ってそのような部屋割りが行われた。

 

皆は海で楽しそうに遊んでいる。

 

 

真耶「時花さん、何かあったら遠慮なく言ってくださいね」

 

茅「わかりました」

 

 

私は潮風が傷口に触る事を恐れ、一人室内で外の景色を眺めていた。

 

本当なら雑務をしたかったが、雰囲気を壊しかねないし不快感を与えると思って雑務に関する物は何も持って来なかった。

 

でも、今だけは体も心も休ませよう。

 

私は波の音を音色にして眠りに付いた。

 



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第4-2話

私の安息は突如終わりを告げた。

 

 

千冬「時花。今、大丈夫か?」

 

茅「何ですか?織斑先生」

 

千冬「緊急事態だ。付いて来てくれ」

 

 

織斑先生に案内された室内に入る。

 

そこは旅館とは思えない物々しい雰囲気に包まれている。

 

 

茅「何があったんですか?」

 

千冬「アメリカとイスラエルで共同開発された軍用IS『銀の福音』が暴走した。学園上層部の通達により、我々が対処する事になった」

 

 

私は驚いた。

 

軍用機の暴走に加え、その対応を私達が行うと言う事に。

 

 

茅「何言ってるんですか!?第一、私はこの怪我でISすら動かせないんです!何で私がここに呼ばれたんですか!?」

 

千冬「それは...」

 

???「それは、私が指名したからだよ~」

 

 

私の後ろに一人の人物が笑いながら立って居た。

 

その人物は、私のとっての全ての元凶。

 

 

茅「篠ノ之束...!!」

 

.

.

.

 

束「君が時花茅ちゃんだね~。噂は聞いてるよ~。普通科目では全教科満点なのに、ISじゃ全敗してるぼっちな優等生だってね~」

 

茅「それは...どうも...!!」

 

 

私は怒りに震えていた。

 

私の人生をめちゃくちゃに壊した人物が、今こうして目の前に立って居る。

 

この状況下で平常心を保てと言うのが無理なものだ。

 

 

千冬「束、余計な事は言うな!時花、お前には代表候補生の専用機のデータと福音の機体データを渡す。それを見て何か作戦をたてろ」

 

 

私は織斑先生に資料を渡され、急いで中身を読んだ。

 

その中に、見覚えがない専用機が一機あり、それを尋ねた。

 

 

茅「この紅椿という機体は誰の専用機なんですか?」

 

箒「それは、私の専用機だ」

 

束「今日はね~、箒ちゃんの誕生日なんだ~。だから束さんが誕生日プレゼントに専用機をあげたのだ!ブイブイ」

 

 

私は篠ノ之さんに詰め寄った。

 

 

茅「篠ノ之さん...アナタ、それで良いんですか...!!アナタの人生はコイツに壊されたんですよ!!そんな奴から専用機を貰って嬉しいんですか...!!」

 

箒「う、うるさい!お前には関係ないだろ!!これは私が決めた事だ!!」

 

 

篠ノ之さんは、ISによって一番人生を壊された人間だと思っていた。

 

私ですら彼女の境遇には同情していたのに、専用機一つであっさりと心変わり。

 

それが、私にはどうしても許せなかった。

 

 

千冬「時花!今は喧嘩している場合ではない!早くしろ!!」

 

束「まぁまぁ、ちーちゃん。世の中にはどんなに努力しても誰にも認められずに専用機すら貰えない可哀そうな子もいるんだし、大目に見てあげようよ~」

 

 

私の心には色々な感情が混ざり、今にもこの部屋を出て行きたい気分だった。

 

しかし、そんな事をすれば多くの人達が犠牲になる恐れがある。

 

私の感情一つで犠牲者を出すわけにはいかない。

 

「私はそんな世界認めない」

 



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第4-3話

私は結論を出した。

 

 

茅「このメンバーで福音に勝てる可能性はありません」

 

 

一同はざわついた。

 

私は、頭の中で何度も色んなシミュレーションを行った。

 

しかし、不確定要素が多すぎて『福音に勝つ未来』よりも『専用機を持つメンバー達が死ぬ未来』しか見えなかった。

 

 

千冬「諦めろと言いたいのか?」

 

茅「いいえ...。策がない訳ではありません。一つ目はISの開発者である篠ノ之博士が福音に停止命令を出す事です。これが一番安全かつ確実な方法です」

 

束「あ~無理無理~。さっきからやってるんだけどね~、全然止められないの~。理由はこの束さんにも分かんないけどね、テヘ」

 

千冬「...だそうだ。他にはないのか?」

 

茅「二つ目は、予備のISまたは誰かの専用機を織斑先生に使って貰い、山田先生の指揮のもとで福音と戦う事です...。しかし、これは良くて五分五分かと...」

 

束「それも無理だね~、予備のISなんか持ってないし、専用機をちーちゃん用にプログラミングし直すのは時間が掛かるんだ~。まぁ、凡人に言ってもそんな事分からないかな~」

 

 

私には分かる。

 

コイツは嘘しか言っていない。

 

コイツは停止命令を出すどころか、私達の様子を面白可笑しく眺めていただけだった。

 

それに加えて、国際指名手配されてる身でありながら、予備のISを一つも持っていないと言う言葉が信じられない。

 

コイツの目的は分からないが、この事件に関しては自分の手で解決しようとは塵にも思っていないらしい。

 

 

茅「...最後の策は、時間稼ぎです。代表候補生が福音を遠距離から攻撃し、住民を避難させる時間を稼ぐ事です。織斑君と篠ノ之さんは万が一の救護役として待機させるしか...」

 

 

その言葉に篠ノ之束は私をバカにする様に言い出した。

 

 

束「はァ~~~。いっくんが一目置いてるから少しは期待してたのに、思った以上の役立たずで負け犬思考だね~。そんな消極的な考えでよく生きてこれたね?」

 

茅「...じゃあ、アナタは他に良い手があると言いたいんですか?」

 

束「いっくんの白式と箒ちゃんの紅椿で福音をやっつけちゃうんだよ」

 

 

私の押し殺していた全ての感情が限界点を超えた。

 

 

茅「何考えてるんですか!!織斑君と篠ノ之さんを殺す気ですか!!」

 

束「あれあれ~?君は知らないのかな~?いっくんは、クラス対抗戦で無人機を倒したり、学年別タッグトーナメントではVTシステムのISを倒したんだよ~。それに加えて、私が作った最新のIS『紅椿』があればどんな相手でも楽勝だよ」

 

 

コイツが何故そんな事を知ってるかという疑問よりも、結果しか語らない言葉に激怒した。

 

織斑君はどちらの事件でも軽傷とはいえ負傷し、私は前の事件でこの重傷を背負った。

 

 

千冬「仕方ない。束、紅椿の調整をしろ。束の作戦を使う事にする」

 

茅「反対です!コイツはさっきから嘘しか言っていません!!織斑君と篠ノ之さんに何かあってからじゃ遅いんですよ!!考え直して下さい!!」

 

千冬「お前の気持ちは分かる。しかし、時間がないんだ。山田先生、時花を自室に戻らせてくれないか?」

 

 

そう言うと、山田先生は私の肩を支えて自室に案内しようとした。

 

私は部屋に出る直前、篠ノ之束を睨みつけてこう言った。

 

 

茅「織斑君に何かあったら、お前を殺してやる...!!」

 



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第4-4話

私は自室で祈るしか出来なかった。

 

作戦は成功しなくても良いから、二人には無事に帰ってきて欲しいと。

 

しかし、私が耳にした事実は残酷な物だった。

 

 

『作戦失敗。織斑一夏が福音の攻撃で海に落ち、意識不明の重体となった』

 

.

.

.

 

茅「篠ノ之束はどこだ!!」

 

 

私は勢いよく作戦本部となっている部屋を開けてそう言った。

 

私を見た教員達は驚いた。

 

 

茅「殺してやる!!出せ!篠ノ之束を出せ!!」

 

千冬「時花、落ち着け!ここに束は居ない!」

 

 

織斑先生は、錯乱する私を取り押さえた。

 

 

千冬「誰か時花を連れて行ってくれ。だが、手荒な事はするな。彼女の気持ちも皆分かるだろう...」

 

 

私は、教員と共に自室待機を命じられた。

 

私は泣いた。

 

周りに関係なく、顔も拭かずに大声で泣いた。

 

自分が無力だという事に泣き続けた。

 

.

.

.

 

私が自室で待機していると、外で騒がしい声がしていた。

 

専用機のメンバー達が独断で福音に挑むと騒いでいた。

 

私は、部屋を出て彼女達を止めた。

 

 

茅「皆さん、止めて下さい!そんな事をしても犠牲者を増やすだけです!!」

 

 

私は決死の思いで、彼女達の前に立ちふさがり、止めようとした。

 

しかし、ISを持たない私では彼女達を止める事は出来なかった。

 

.

.

.

 

私は、専用機のメンバー達が独断で福音に向かった事を、急いで織斑先生に伝えた。

 

教員達は、専用機のメンバー達に撤退を命令している。

 

私は彼女達に何事も起こる前に無事帰還する事だけを祈って、自室に戻ろうとしていた。

 

その時、廊下が騒がしくなっていた。

 

それは、意識不明だった織斑君が目を覚ましたという事だった。

 

私は安堵したが、織斑君は専用機のメンバー達が福音と戦っている事を知ると、自分もその場に行くと言い出していた。

 

今、専用機のメンバー達には教員達が撤退を命令している所だった。

 

そんな所に、重傷者の織斑君を向かわせたら最悪な結末を迎える。

 

私は、織斑君の前に立ちふさがった。

 

その手に包丁を持って。

 

.

.

.

 

織斑君の周りにいた女子は悲鳴を上げていた。

 

私はそんな悲鳴などお構いなしに言った。

 

 

茅「織斑君。自室に戻ってください。アナタはまだ動ける状態ではありません」

 

 

本当は、包丁一本でどうにか出来るとは思っていない。

 

それでも、私は織斑君を止めなければならない。

 

 

一夏「時花、そこを退いてくれ。俺は行かなくちゃいけないんだ」

 

 

私にも織斑君にも引けない意地がある。

 

だが、私は今回だけは毛頭引く気はなかった。

 

 

茅「退きません!もし、一歩でも進んだら刺しますよ!脅しじゃありません!!」

 

 

しかし、織斑君はISを展開し、包丁を持つ手を掴んですれ違い様に言った。

 

 

一夏「ごめん。時花」

 

 

その言葉だけを残して、織斑君は私を置いて居なくなってしまった。

 

残された私は、『人殺し』と皆の中傷を浴びながら泣き続けるしかなかった。

 



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第4-5話

『織斑君が福音を倒した』

 

皆は織斑君達を讃え、嬉しそうに詰め寄っていた。

 

私は、福音を倒した事よりも彼らが誰一人死なずに帰還できた事を内心ホッとした。

 

しかし、私は皆の輪に入る事は出来なかった。

 

私が決死の思いで織斑君を止めようとした行動は、織斑君を殺そうとしたと事実が湾曲化され、今まで以上に孤立化したからだ。

 

私は一人海岸に居た。

 

私の居場所はどこにもない。

 

私が一人で海を眺めていると、背後から声が聞こえた。

 

 

???「はろろ~ん、優等生さ~ん」

 

 

私は、姿を確認せずに声の主を殴りつけようとした。

 

しかし私の拳は当たらず、バランスを崩して転倒した。

 

 

茅「貴様...!!」

 

束「ほら~、束さんの言った通りでしょ?いっくんがみーんな解決してくれたよ。やっぱり束さんは天才なんだね。どっかの『人殺し』とは違ってさ~」

 

茅「今さら、何の用だ...!!私を笑いに来たのか...!!」

 

束「いっくんも皆にモテモテだし~、白式も二次移行したから~、君に伝えたい事があるんだ~」

 

 

私を嘲笑いながらに見下し、興味のなくなった玩具を見るような目でこう言った。

 

 

束「お前はもういらない」

 

.

.

.

 

茅「どういう意味だ...」

 

束「そっか~、凡人には束さんの言ってる事が理解出来ないんだね~。じゃあ、君にも分かるように言ってあげるね。『お前はもう用済みだからIS学園を辞めろ』」

 

茅「ふざけるな!誰がお前の言う事なんか聞くか!!」

 

 

私はコイツの言っている言葉の真意は分からないが、コイツの命令だけは身が裂けようとも従う気はなかった。

 

 

束「ふ~ん。束さんは今機嫌が良いからチャンスを与えたのに、君は本当に馬鹿だね~。今以上に酷い目に遭いたいなんてさ...」

 

 

篠ノ之束は笑いながら飛び去って消えた。

 

.

.

.

 

新学期。

 

合宿が終わり、いつもの日常に戻った。

 

私の怪我も完治し、ISの実技授業に参加出来る様になった。

 

しかし、ISを動かそうとしたが、何故か動かなかった。

 

その様子を見て織斑先生は言った。

 

 

千冬「...山田先生。済まないが、ここを頼む。私は時花と話したい事がある」

 

 

そう言って、織斑先生は私をとある一室に連れて来た。

 

そこには見覚えがある物があった。

 

入学試験のさいに使われた、ISの適正を調べる装置。

 

 

千冬「時花、これを触ってみてくれ」

 

 

私は織斑先生に言われるがままに、その装置に触れた。

 

しかし、反応がなかった。

 

 

千冬「...やはり」

 

茅「どういう事ですか?何が分かったんですか?」

 

千冬「お前のIS適正は完全に失われている」

 

 

私はISを動かせなくなったと宣告を受けた。

 



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第4-6話

茅「適正を失った...!?そんな事あるんですか...!?」

 

千冬「私が知る限りでは初めての事態だ。何か心当たりはないか?」

 

 

私には思い当たる事が一つだけあった。

 

合宿最後の篠ノ之束の話をした。

 

 

千冬「...一つ聞きたい。お前がISで頭痛を起こしたのは、クラス代表決定戦と学年別タッグトーナメントの二回だけか?」

 

茅「はい...。私はそんな持病もありません...」

 

千冬「恐らくだが、全て篠ノ之束の仕業だ。あいつは私、織斑一夏、篠ノ之箒に対しては甘いが、それ以外の人間はどうでも良いと思っている。お前の存在が邪魔になり、こんな手段に出たと仮定すれば全て納得いく」

 

 

私はISは嫌いだが、オルコットさん、凰さん、ボーデヴィッヒさんが私のために戦ってくれた時間と経験を無にした事に怒りを感じた。

 

 

千冬「これから、緊急職員会議を開く。これは私の責任だ...。私があのバカをもう少し注意深く見ていればこんな事には...!!」

 

 

私はこれからの自分の処遇を考えながら、織斑先生と職員室に向かった。

 

.

.

.

 

職員会議の意見は、完全に二手に分かれた。

 

『ISが使えなくなった生徒を置く意味はない』『他の生徒にまで被害が飛ぶ恐れがある』と私を自主退学させようとする意見。

 

『今回の一件は、時花茅本人に罪はない』『時花茅は今まで一組の副委員長として立派に働き、必要不可欠な存在である』と私の在学を許す意見。

 

 

結局、職員会議では結論が出ず、私の判断によって全てが決まる事になった。

 

私の答えは一つしかなかった。

 

.

.

.

.

.

 

千冬「HRを始める前に重要な話がある」

 

 

クラスは何事かと思い、織斑先生を見た。

 

 

千冬「このクラスの副委員長、時花茅はもうISを動かす事は出来ない。しかし、彼女に非はない。全て私の責任で起こった事態だ」

 

 

皆、私の方を見る。

 

私のIS適正が失われたのは、いつかバレる事になる。

 

この事態を即収拾させるため、織斑先生は皆にその事を発表した。

 

 

千冬「この一件は前例がなかったため、職員会議でも『自主退学させる』か『在学を許す』かは結論が出せなかった。最終的に彼女の希望で在学を許す事となったが、この件で彼女を責め立てるのは私が許さん。以上だ」

 

 

この事件はわずかな時間でIS学園に広まった。

 

私は、同学年だけではなく全生徒から異端の目で見られる様になった。

 

.

.

.

.

.

 

千冬「...これで良かったのか?お前は生徒だけではなく、教員にも敵視される。そうなれば、私でも庇いきれん」

 

茅「お気遣いありがとうございます。でも、これは私が選んだ道。私の身は私が守ります」

 

 

私は織斑先生にお礼を言って、いつもの寮の広間に足を運んだ。

 

例え私の歩む道が茨の道であっても、私は決して篠ノ之束に従わない。

 

「私はそんな世界認めない」

 



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第一章 あとがき

【時花茅(ときはなかや)】

 

幼い頃、女尊男卑に両親を殺され、孤児となった。

 

両親の死後、この世界を生み出した篠ノ之束に復讐する事を決意。

 

時花茅の復讐は『篠ノ之束を殺す事』ではなく『篠ノ之束が作ったこの世界を壊す事』である。

 

自身の過去から、ISによる犠牲者が出る事を心の底から恐怖している。

 

自らの信念『私はそんな世界認めない』という言葉と共に、人生を歩んで来た。

 

嫌いな事は『自身の信念・信条を、捨てる事・捨てた者』

(女子生徒が織斑一夏に恋する事に関しては反対・否定はしないが、IS学園生徒という立場でありながら自らの信念を捨ててまで恋愛に走るという行動に関しては許さない)

 

 

【時花茅視点の各人物評価】

 

(織斑一夏)

 

幼き頃に両親を失った事を知っており、IS学園に強制入学させられた事から篠ノ之束に人生を壊された一人と認識。

 

クラスの全員が彼を頼る中、自分だけは彼に頼る事はせず、織斑一夏の身体・心が壊れないように裏方として支えている。

 

 

(篠ノ之箒)

 

篠ノ之束に人生を壊された一番の被害者だと認識。

 

『篠ノ之束に対する憎悪』を唯一共感出来る人物と思っていたが、篠ノ之束から紅椿を受け取った事実から彼女への同情は捨てた。

 

 

(セシリア・オルコット)

 

女尊男卑という思考を除けば、『両親を失い、自分の力だけで生きてきた努力家』と言う共通点から親友になれる人物と評価した。

 

しかし、クラス代表決定戦以降は『恋する乙女』になり、彼女の中にあった信条が失ってしまった事で自らの意志で彼女を切り捨てた。

 

 

(凰鈴音)

 

『努力の天才』と言う点は評価していたが、彼女の信条は『織斑一夏に再会する』であったため、それが達成されている今の彼女とは友達としての関係は築かなかった。

 

 

(シャルロット・デュノア)

 

一番認めたくない存在。

 

自身の境遇を他人に同情させ、他人に全てを委ねた努力もせず信条もない人物と評価した。

 

 

(ラウラ・ボーデヴィッヒ)

 

織斑一夏を恨む点を除けば、信条と強さだけで高評価であり、学年別タッグトーナメントでは彼女に恥じないために全力を尽くしていた。

 

しかし、学年別タッグトーナメント以降は『恋する乙女』になり、信条を失った彼女を切り捨てた。

 

 

(織斑千冬)

 

IS実技者としては完璧な人物だと思っているが、織斑一夏に関して過度な要望・願望がある事からその点だけに関しては信用出来ないと評価した。

 

 

(山田真耶)

 

始めは、彼女の性格・IS試験での失態等から大した評価はしていなかったが、IS実技授業で訓練機で専用機二人を倒した事から評価を一転。

 

ドジな性格は受け入れてないが、頼るには値できる人物と評価した。

 

 

【各人物視点の時花茅評価】

 

(織斑一夏)

 

自分を助けるために副委員長を行っているのは知っており、自分も時花茅の助けになりたいと思うが、彼女にそれを拒絶されている。

 

彼女が『反織斑』と呼ばれているのは知らない。

 

 

(篠ノ之箒)

 

織斑一夏がクラス代表になる事を反対したり、二組に肩入れした事を恨んでいる。

 

紅椿の際に言われた時花茅の言葉を気にしていたが、織斑一夏と肩を並べるには仕方のない事だと自分に言い聞かせている。

 

 

(セシリア・オルコット)

 

自分と同じ境遇であり、他人を心配して自己犠牲になっている事は知っているが、クラス代表決定戦以降は時花茅に見放されてしまい、自分から積極的に接触出来ずにいる。

 

セシリア・オルコット自身は、彼女の事を信じて友達とは思っている。

 

 

(凰鈴音)

 

クラス対抗戦までの『友達』というよりは『同盟関係』のような仲。

 

時花茅に全勝はしているが高い評価を持ってる。

 

IS実技を除けばトップクラスだと思っている。

 

 

(シャルロット・デュノア)

 

自分の運命を助けてくれた人物だが、その代償として絶縁される結果となった。

 

時花茅に深い負い目があるが、彼女がシャルロット・デュノアを否定・拒絶している事から関係修復に至れない。

 

 

(ラウラ・ボーデヴィッヒ)

 

時花茅のISに対する考え、彼女の作成した資料などは高い評価を持っている。

 

しかし、ラウラ・ボーデヴィッヒの信条が無くなった事で疎遠される様になったが、自身は未だにその事に関しては気付いていない。

 

 

(織斑千冬)

 

昔の自分と重なる点が多くあり、放っておけない存在。

 

クラスメイトや篠ノ之束に敵意を持たれている事を知っているが、時花茅がそれを受け入れている所から悩みの種となっている。

 

 

(山田真耶)

 

織斑一夏よりも印象に残る生徒。

 

IS実技授業以降は自身を頼ってくれる点は嬉しかったが、未だに心に境界線を引かれているのを感じ、今一歩踏み出せないでいる。

 



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第5-1話

???「何の用かしら?」

 

彼女は『疑問』と書かれた扇子を手にして、私に問いかけた。

 

 

茅「私を生徒会に入れて下さい」

 

 

私は、生徒会長に生徒会入部を祈願した。

 

.

.

.

 

私が生徒会の仕事に慣れてきた頃、更識会長にお願いした。

 

 

茅「更識会長。織斑一夏君のIS戦闘指導をお願い出来ませんか?」

 

 

私の本心は、織斑君の負担を増やしたくないと思っている。

 

しかし、これまでの事件が篠ノ之束の仕業であれば、また事件が起こるだろうと確信していた。

 

私はもう織斑君を助ける事も止める事も出来ない。

 

私が織斑君のために出来るのはこれしかなかった。

 

.

.

.

.

.

 

学園祭。

 

私は、IS学園のセキュリティー係として働いていた。

 

一組の出し物は喫茶店だが、学園内で異端扱いされている私には『接客』も『裏方』も務まる事が出来ない。

 

それに加えて、篠ノ之束が再び事件を起こすのではないのかと思い、この部門に配属して貰える様に更識会長に頼んだ。

 

私はセキュリティーセンターで異常事態が発生してないかをくまなく見張り続けた。

 

.

.

.

 

不審者を見つけた。

 

その人物は、暗闇の更衣室で織斑君のロッカーに何かを行っていた。

 

普段、更衣室の監視カメラは生徒・教員がいる場合に限り停止しているが、この人物はそれに該当せず不審な行動を行い続けていた。

 

私は更識会長に連絡を取ったが、不通で繋がらなかった。

 

会長自身が企画したイベントに夢中なのだろうと結論付けた。

 

その企画は、織斑君と同室になる賞品の舞台劇である。

 

私は更識会長の『強さ』は認めていても、『会長としての責務を放棄している』『織斑君を賞品に学園祭を盛り上げる』という会長の行動や思考は大嫌いだった。

 

私はメッセージだけ残し、他のメンバーにこの場を任せて、独断で不審者の居る更衣室へ向かった。

 

.

.

.

 

私は、先手必勝で最大出力のスタンガンを不審者に与えた。

 

この人物が何者で何を目的にこのような行動を行っているかは分からない。

 

しかし、攻撃を加えるに充分な理由があり、私は問答無用で攻撃した。

 

 

???「がっ...!貴様、何しやがる...!!」

 

 

相手は気絶に至らなかったが、不意打ちで急所に打ち込んだおかげでかなりのダメージを与える事が出来た。

 

私がもう一撃与えようと踏み入った時だった。

 

不審者は、ISを展開した。

 

.

.

.

 

形勢は逆転した。

 

私は、逃げる事しか出来なくなり防戦一方となった。

 

 

???「ほらほらぁ、どうした!さっきの勢いはよぉ!!」

 

 

不審者は容赦なく更衣室内を攻撃し、辺りをメチャクチャにした。

 

私は致命傷だけを避けて室内を逃げ回っているが、時間の問題だと思った。

 

しかし、私が更衣室から逃げれば被害は拡大し、他の生徒にまで及ぶ可能性がある。

 

私は、更識会長か教員部隊が来るまで、この密室で耐え忍ぶしかなかった。

 



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第5-2話

私は、不審者のISに捕まり嬲られていた。

 

 

???「雑魚のくせに余計な手間掛けさせやがって...!」

 

 

私は、体力・逃げ道・武器・通信機の全てを失い、何一つ打てる手はなかった。

 

それでも不審者を一秒でも長く足止めするために、心だけは怯まずに強い眼光で不審者を睨み付けていた。

 

それが不審者の癇に障ったのか、私に止めの一撃を与えようとした時だった。

 

織斑君が姿を現した。

 

.

.

.

 

一夏「時花!」

 

???「おやおや、自分から姿を現してくれるとは。探す手間が省けたもの...」

 

一夏「その声...巻紙さんか!?アンタ、何してんだ!!」

 

 

不審者は、私を織斑君に投げ付けた。

 

織斑君は私を受け止めたが、勢いが強く二人とも壁に激突した。

 

 

巻紙「この機会に白式を頂きたいと思いまして...とっとと寄こしやがれよ!!」

 

 

その言葉に、織斑君は白式を展開させて不審者に応戦した。

 

.

.

.

.

.

 

学園祭は終了した。

 

あの後、更識会長が参戦し、織斑君と共に不審者を追い払った。

 

幸い、怪我人は私一人という形で事件は終結した。

 

私は、保健室で更識会長と二人で居る。

 

 

楯無「ISも使えないのに、単身で向かうなんて。本当に無茶する子ね、貴女は」

 

茅「本当にそう思ってるなら、私の連絡に出て下さい...」

 

楯無「う...!それに関しては申し訳ないと思ってるわ...」

 

 

更識会長は『反省』と書かれた扇子を広げた。

 

 

楯無「それと私の計らいで貴女を一人部屋にしたわ。その方が良いでしょう?」

 

 

更識会長は私の境遇を理解し、今回の一件を通して、生徒会長特権を使い、私の一人部屋を許した。

 

しかし、私は更識会長が嫌いだ。

 

そんな彼女に借りを作るのはゴメンだった。

 

私は懐からある物を取り出し、更識会長に手渡した。

 

 

茅「なら、更識会長。それを差し上げます...。私には必要のない物ですから...」

 

 

それは、織斑君の被っていた王冠だった。

 

私は戦いの最中、織斑君が落とした王冠を胸にしまっていた。

 

 

楯無「あらっ。それさえあれば、一夏君と同室になれるのよ。それをなぜ私に?」

 

 

私は実感した。

 

今の私では、ISに勝つ事は出来ない。

 

これから先、同じ事があれば私は織斑君の負担になり続けてしまう。

 

織斑君の隣には、常に強い人が居なければならない。

 

それは、更識会長しか該当しなかった。

 

 

茅「私の意地です...」

 

 

それしか言わなかった。

 

更識会長も『了解』と扇子を広げて、何も言わずに保健室を後にした。

 

.

.

.

 

私はまた負けた。

 

...それでも、私は諦めない。

 

ISに乗れなくても、篠ノ之束やISに敗北を許す訳にはいかない。

 

「私はそんな世界認めない」

 



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第5-3話

私は、全身包帯巻きで登校した。

 

亡国機業と名乗る不審者から受けた傷はかなりの重傷だったが、一人部屋を与えられてる分だけ余裕があった。

 

あの事件は秘密裏に処理され、私はISの暴走事故に巻き込まれたという形で事件は終わった。

 

しかし、何も知らない生徒は、

 

 

「時花茅がISを諦め切れずに無理に動かそうとした」

 

「織斑君のロッカーに爆弾を仕掛けて誤作動を起こした」

 

 

と噂をしていた。

 

私はそんな噂をよそにいつもの日常を過ごしていた。

 

.

.

.

 

休み時間。

 

私は、織斑先生に呼ばれた。

 

織斑先生に付いて行き、一室に案内された。

 

そこには、織斑君と山田先生が居た。

 

話を聞くと、織斑君とデュノアさんがIS用装備の護送任務の際に、戦闘トラブルが発生した。

 

大した怪我はなく大事にはならなかったが、一つ問題が発生した。

 

ISの量子変換が不調を起こして織斑君の武器、零落白夜を実体化させる事が不可能になった。

 

原因はまだ不明らしい。

 

 

茅「それと私が呼ばれた事と何の関係があるんですか?護衛であれば、更識会長の方が適任でしょう」

 

千冬「それは理解している。お前に頼むのは、織斑をしばらくお前の管理下に置いて欲しいと言う事だ。白式が完治するまでこの一件は出来る限り内密にしておきたい」

 

 

早い話、私は虫避け役に任命されたという事だった。

 

 

千冬「私はお前を信用しているが、強制ではない。どうする?」

 

 

言うまでもない。

 

 

茅「分かりました、一つ条件があります。白式の量子変換が不調になった原因、それが解明できたら私にも教えて下さい」

 

千冬「良いだろう。約束する」

 

.

.

.

 

放課後。

 

織斑君が女子生徒に囲まれてる中、私は織斑君を引っ張り出しこう言った。

 

 

茅「織斑君はこれからクラス委員としての大事な仕事があります。皆さん、退いて下さい」

 

 

私は織斑君を無理やり連れて、教室を後にした。

 

私は、織斑君を自室に連れ込んだ。

 

他の場所では女子生徒の目があり、何かの拍子で織斑君を連れて行かれる恐れがあったからだ。

 

私は部屋の鍵を掛けて誰も入れない様にした。

 

一方で織斑君は私の部屋を見て驚いていた。

 

私の部屋は、一組の副委員の仕事と生徒会の仕事の書類が山積みになっていたからだ。

 

私は比較的処理が簡単で間違ってもすぐに修正できそうな書類を織斑君に渡した。

 

 

茅「織斑君、この書類の処理をお願いします。クラス委員として連れ出しましたが、後々何を聞かれても良いように仕事だけは行って下さい」

 

 

私と織斑君は室内で雑務を淡々と行っていた。

 



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第5-4話

沈黙を嫌ってか、織斑君は私に話し掛けてきた。

 

 

一夏「時花は...いつもこんな沢山の仕事を抱えていたのか?」

 

茅「そうです。一組の仕事は減っていますが、生徒会の仕事も受けているので、一学期と大して変わっていません」

 

 

一組の仕事でもっとも多かったのは、専用機のメンバー達によるトラブル処理だった。

 

今は更識会長が織斑君の同室者である分、トラブルは減っているがそこまでの事は織斑君に伝えなかった。

 

 

一夏「前から聞きたかったんだ。時花はISを動かせなくなって怖くなかったのか?」

 

茅「...織斑君、アナタは何のためにISを使っていますか?」

 

一夏「俺は皆を守るためだ。クラスや学園、その他にも...」

 

 

織斑君の信念は『皆を守る事』

 

私は織斑君に恋愛感情は抱いていないが、信念を真っ直ぐに貫き頑張っている彼の姿は好きだった。

 

 

茅「私にも織斑君のように信念があります。私が怖いのはその信念を失う事。それ比べたらISが使えなくなる事なんて大した事ありませんよ」

 

 

私はそう答えた。

 

.

.

.

 

夕食の時間。

 

 

一夏「...本当に先に行って良いのか?」

 

茅「織斑君の仕事はもうありません。ご自由にどうぞ」

 

 

織斑君が部屋を出ると、待ち伏せしていた専用機のメンバー達に連れて行かれた。

 

私は織斑君の姿が見えなくなるのを確認すると、作業を止めて織斑先生のもとへ向かった。

 

茅「織斑先生、山田先生、失礼します」

 

千冬「時花か。丁度良い、例の件の原因が分かったので伝えようと思う」

 

真耶「搬入予定の試験装備の中に量子変化をより効率的に行うためのオプションがありました。それが暴走して、白式に影響を与えたと思います。幸い、影響は一時的だった様です」

 

千冬「...だそうだ。余計な手間を掛けさせて悪かったな」

 

茅「いえ。ところで、その試験装備のデータを貰う事は出来ますか?」

 

千冬「そう言うと思ってすでに用意してある」

 

 

私は山田先生からそれらをまとめた資料を受け取った。

 

織斑先生と山田先生は、襲撃犯の特定を調べていたが、今の私にはもう関係ない話だった。

 

私はそのデータを手にして退室した。

 

.

.

.

.

.

 

全学年合同タッグマッチの開催決定が決まった。

 

 

真耶「この度、各専用機持ちのレベルアップを計るために全学年合同のタッグマッチを行う事になりました」

 

千冬「各国でISの強奪が相次いでいる。そこで専用機持ちは選り練度を上げる必要がある。以上!」

 

 

専用機のメンバー達は織斑君をいかにタッグパートナーにするかを躍起になっていたが、私は事件の予感を感じていた。

 



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第5-5話

私は、織斑君の様子がおかしい事に気づいた。

 

織斑君は今まで面識がなかった生徒会長の妹、四組の更識さんにアプローチを掛けていた。

 

始めは今まで組んだ事のない専用機の人とタッグを組み、織斑君自身が新たな一歩を踏み出そうと決意したのかと思っていた。

 

しかし、織斑君は更識さんに何度断られてもひたすらアプローチを掛け続けていた。

 

織斑君が一人になった所で私は尋ねた。

 

 

茅「織斑君、なぜ更識さんに声を掛け続けているのですか?アナタなら一組・二組にいるメンバーでタッグは組めるでしょう?」

 

一夏「いや、その...簪さんの専用機を見てみたいからかな...」

 

 

私はすぐに嘘だと分かった。

 

 

茅「織斑君のその言葉には、アナタの意思が感じられません。悪戯で更識さんを傷付けようと思っているなら許しませんよ」

 

一夏「ご、ごめん!そんなつもりは...」

 

 

織斑君は恋心が分からない程の鈍感だが、意図して誰かを傷つけるような事をする人物ではなかった。

 

原因は一つしかないと思った。

 

 

茅「...更識会長ですか?」

 

 

織斑君の反応を見て、すぐに私は更識会長のもとへ向かった。

 

.

.

.

 

私は勢いよく部屋の扉を開けた。

 

 

楯無「あらあら、茅ちゃんどうしたの?そんなに怖い顔して」

 

茅「アナタが織斑君に命令したんですか!四組の更識さんとタッグを組むようにと...!!」

 

楯無「...どこで聞いたの、その話」

 

 

その時、息を切らして織斑君が追い付いて来た。

 

 

一夏「すみません、楯無さん...。口を滑らせたつもりはなかったんですが...」

 

楯無「何となく予想は付いてから大丈夫よ。一夏君は隠し事が下手だし、茅ちゃんは勘が鋭いしね」

 

 

更識会長は『許容範囲』と書かれた扇子を広げた。

 

 

茅「アナタは自分勝手すぎる!!織斑君と更識さんの意思を無視してこんな事...!!織斑君はアナタの玩具じゃないんですよ!!」

 

楯無「なら、一夏君の意思を尊重して今からパートナーを選ばせましょうか?もう手遅れだと思うけど。他のメンバーはタッグが決まっているし、下手をすれば織斑君に火の粉が飛んで来るかもしれないわよ」

 

 

更識会長の言う通りだった。

 

連日、織斑君が更識さんにアプローチをしているのは周知の事実で、更識さん以外の専用機のメンバー達は織斑君と組む事を諦め、別の専用機メンバー同士でタッグを組んでいた。

 

ここで、織斑君の自由選択を許せば暴動が起きかねない事態に発展する。

 

 

楯無「これは一夏君自身が望んだ事でもあるの。簪ちゃんの専用機は、一夏君の専用機の製作のために人員を削られ、未完成のまま凍結。一夏君は簪ちゃんを助ける義務があるのよ」

 

 

姑息で卑怯で卑劣な言い分だった。

 

更識さんの専用機が未完成で凍結したのは企業側のせいであって、織斑君のせいではない。

 

それを織斑君のせいに仕立て上げ、織斑君に罪悪感を与えて、自分の思い通りに動かそうとしている。

 

 

茅「最ッ低...!!」

 

 

私はこれ以上話すだけ無駄だと感じ、部屋から立ち去った。

 



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第5-6話

『織斑君のタッグパートナー、更識さんの専用機が出来上がった』

 

更識さんは織斑君や整備課の生徒達と一緒に製作途中だった専用機を協力して作り上げたと言う噂を耳にした。

 

大会開催前に間に合った事を皆は喜んでいるが、私には嫌な予感を払拭出来なかった。

 

.

.

.

 

消灯前。

 

更識さんが泣きながら廊下を走って行った。

 

私はこの事態をすでに予想していた。

 

織斑君と更識会長が同室なのを知れば、織斑君が自分の意思ではなく更識会長の意思で更識さんと巡り合わせたと知るのは当たり前の事だと思っていた。

 

私は、開けっ放しの更識さんの部屋に入った。

 

更識さんは暗い部屋の中、床に屈して泣いて、私の存在に気付いていなかった。

 

そんな彼女に私は声を掛けた。

 

 

茅「更識さん」

 

簪「だ、誰...!?」

 

 

更識さんは驚いて、私の方を向く。

 

 

簪「一組の時花さん...?」

 

 

私は傷付いている更識さんに追い打ちを掛ける様に言った。

 

 

茅「明日のタッグトーナメント、棄権して」

 

.

.

.

 

簪「え...?」

 

茅「明日のタッグトーナメント、必ず織斑君を中心に何かが起こる。アナタは日本代表候補生だけど専用機は完成したばかりでテスト稼働も満足にしていない。何かが起こってからじゃ遅いの。だから棄権して」

 

簪「い、いや...!皆と約束したの...!!」

 

 

更識さんは、織斑君に裏切られた悲しみと私に対する恐怖で震えながらそう答えた。

 

 

茅「アナタは織斑君を信じる事が出来るの?織斑君は自分の意思でアナタを選んだわけじゃない。更識会長の命令で仕方なくアナタを選んだのよ」

 

簪「違う...!違う...!」

 

茅「違わない!!」

 

 

私は、心では分かっていても言葉で一生懸命否定する更識さんに現実を叩きつけた。

 

 

茅「明日、アナタはこの部屋から出なくて良い。どうせ大会は中止になるし、織斑君には私から説明して上げる」

 

 

そう言って、私は泣き続ける更識さんを置いて部屋から退出した。

 

.

.

.

.

.

 

タッグトーナメント開催日。

 

織斑君は更識さんを探して奔走していた。

 

私は織斑君の前に立ちはだかった。

 

 

一夏「時花。簪を知らないか?探しても居ないんだよ」

 

茅「更識さんは棄権するようです」

 

 

その言葉に織斑君は驚いた。

 

 

一夏「どうして!?専用機も完成したのに!」

 

茅「更識さんは気付いてしまったんですよ。織斑君の意思ではなく、更識会長の意思で作られたタッグだと」

 

一夏「なっ...!?」

 

茅「だから私が棄権を勧めたんです。織斑先生も言っていたでしょう、不完全な力など無い方が良いと...」

 

一夏「お前...!」

 

 

その時、地響きが起こった。

 

私の予想は裏切らなかった。

 



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第5-7話

一夏「な、なんだ!?」

 

茅「襲撃者でしょう。無人機か亡国機業かは分かりませんが、どっちであれ大会は中止です」

 

 

慌てる織斑君に、私は分かりやすい様に説明した。

 

 

一夏「くそっ!!」

 

 

織斑君はアリーナに走り出した。

 

.

.

.

 

襲撃者は無人機だった。

 

私はコクピットの入口からやや遠い所でその戦いを見ている。

 

形勢は、専用機のメンバー達が不利だった。

 

その時、一人の少女が走ってくる音が聞こえた。

 

それは、更識さんだった。

 

 

茅「...何しに来たの?」

 

簪「わ、私も戦いに...!」

 

茅「私、言ったよね?アナタの専用機は完成したばかりで、まともに戦えるかは分からない。弱い人は足手まといになるだけ。そんな人は居ても邪魔なだけなの」

 

簪「それでも私は...!」

 

茅「日本代表候補生だから?教員に出動を命令されたから?自分の専用機を作ってくれた人達に申し訳ないと思ってるから?」

 

簪「違う!!」

 

 

更識さんは私の言葉を全て否定した。

 

 

簪「私が...私が一夏君を助けたいから...!!」

 

 

更識さんは私に怯まずそう答えた。

 

私は黙って道を開けた。

 

更識さんはそれと同時にISを展開して、戦場へ飛び出した。

 

 

...それでいい。

 

更識さんの意思は更識さんで決める事だ。

 

他人の意思で作られた意思など脆い物。

 

「私はそんな世界認めない」

 

.

.

.

.

.

 

事件は収拾した。

 

更識会長が重傷を負った以外の問題はなかった。

 

私は更識さんが保健室から退出するのを見て、更識会長のお見舞いに来た。

 

 

楯無「...あら、意外なお客さんね。てっきり、嫌われているのかと思ったわ」

 

茅「大嫌いですよ。でも、アナタには一度お見舞いされた借りがあるので返しに来ただけです」

 

 

私は花束を置いてすぐ帰ろうとした。

 

 

楯無「簪ちゃんの事...私が間違ってみたいね。全部聞いたわ」

 

茅「そうですか...」

 

楯無「...機嫌が良さそうね。良い事でもあったのかしら?」

 

茅「さぁ...。そうだとしても、アナタには関係ない事です」

 

 

私は顔を隠す様にして保健室を後にした。

 

.

.

.

.

.

 

真耶「やはり、無人機の発展機。コアは未登録。回収できたのは二つです」

 

千冬「政府には全て破壊したと伝えろ」

 

真耶「ですが...!それでは学園を危機にさらす事になります!」

 

千冬「おいおい、私を誰だと思っている。学園の一つや二つ、守ってやるさ。...それより、最後のアレの正体は掴めたか?」

 

真耶「はい...。でも、これは偶然でしょうか?」

 

 

無人機が停止する直前。

 

無人機のアームが代表候補生を襲った。

 

しかし、その攻撃が代表候補生に当たる寸前にそのアームが消え去る現象が起きた。

 

 

千冬「ISの量子分解...。まさか、な...」

 

 

一つの疑問を残して、この事件は幕を下りた。

 



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第6-1話

修学旅行。

 

新幹線の中で私達の学年が楽しそうに騒いでる。

 

私は一人窓際の席で目的地の地図を見ながら過ごしていた。

 

.

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.

 

真耶「皆さん良いですか?この後は各班ごとに自由行動になりますからね」

 

千冬「夕方の寺院の拝観は集団行動だ。その時間までには現地に集合する事。分かったな?では、解散!」

 

 

私は自分の班のメンバーにこう言った。

 

 

茅「皆さん、私は別行動をします。何か聞かれても全て責任を押し付けて構いません。では失礼します」

 

 

私はそう言い残し、地図を片手に去って行った。

 

.

.

.

 

私には確信があった。

 

この修学旅行でも必ず事件が起こる。

 

問題は、時間と相手だった。

 

前回のタッグトーナメントは私の予想反して早く事件が発生した。

 

それが、偶然なのか相手の都合なのかは私には分からない。

 

私は地図を片手に、戦場にしても問題ない場所を探し、その地理を調べようと急いでいた。

 

次に相手である。

 

無人機か亡国機業または別の誰かが来るかも分からない。

 

しかし、無人機の可能性は低いと推察していた。

 

無人機を街中で使えば世界が大きく動く恐れがある。

 

とすれば、亡国機業がやって来る可能性が高い。

 

亡国機業の襲撃はいわばアクシデント。

 

白式を狙うために隠密で事を済ませるため潜っていたが、私の奇襲を受けてやむおえずISを展開する形となった。

 

しかし、今は修学旅行でIS学園による守りはない。

 

この千載一遇のチャンスに白式を狙わないわけがない。

 

だが、亡国機業の狙いは専用機であり、ISを動かせない私を狙うのかと言うと普通はありえない話である。

 

だが、私には分かる。

 

私と戦った巻紙という女。

 

あの女は専用機を持っていない私でも殺しに来るだろうと。

 

巻紙は直情的で味方の命令すら反抗していた。

 

私から傷を背負わされた事にプライドが傷付けられたまま、私にはもう何もしないと言う事はありえない。

 

彼女には『時花茅を自分の手で殺す』と言う信念があるはずだから。

 

.

.

.

.

.

 

夕暮れ時。

 

私はこの森林の中で静かに待っていた。

 

 

???「よぉ、久しぶりだなぁ」

 

 

私がその声に振り替えると、ISの姿が見えた。

 

顔は見えないが、ISと声には覚えがあった。

 

私は通信機を出し、助けを呼ぶ素振りを見せた。

 

 

巻紙「無駄だ。今、エムとスコールが他の専用機を相手にしてる。お前を助けに来る奴なんか誰もいねぇよ!!」

 

 

私はその言葉を聞いて走り出した。

 

 

巻紙「逃がすかよ!今度こそ殺してやる!!」

 

 

今回は、逃げるつもりも助けを呼ぶ気も最初からなかった。

 

負ければ今度こそ確実に死ぬ。

 

しかし、私はもうISに負けたくない、篠ノ之束の世界に縛られたくない。

 

「私はそんな世界認めない」

 



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第6-2話

篠ノ之束はエムの素顔を見てこう言った

 

 

束「この子の専用機なら作ってあげても良いよ~。ただし、条件があるけどね~」

 

スコール「条件?」

 

 

篠ノ之束と亡国機業の幹部スコールは荒れたレストランで話し合っていた。

 

亡国機業は篠ノ之束にISを作らせようとしたが話し合いは決裂し、力づくで捕えようとしたが返り討ちにあった。

 

 

束「IS学園にいる時花茅って子を殺して欲しいんだ~」

 

スコール「時花茅...?誰ですか?」

 

束「ISも動かせない可哀そうなぼっちの一年生の女の子だよ~、簡単でしょ?」

 

 

巻紙と名乗っていたオータムはその言葉に激高した。

 

ISも動かせない一人の少女が自分に対して傷跡を残した事に。

 

 

オータム「スコール!俺がやる!必ず、そいつを殺す!!」

 

スコール「あら、オータム。珍しくやる気ね」

 

オータム「あいつはこの手で殺さないと気が済まないんだよ...!!」

 

その様子を篠ノ之束は笑いながら見ていた。

 

.

.

.

.

.

 

オータム「どこに隠れてやがる!出てきやがれ!!」

 

 

辺りは砂煙に包まれている。

 

私は、この砂煙に隠れて身を隠している。

 

だが、私はISのハイパーセンサーをそれで封じれるとは思っていなかった。

 

私は対ハイパーセンサー用の煙幕装置を幾重にも設置し、砂煙に乗じて発動させていた。

 

ハイパーセンサーを完全に無効化はできないが、私の姿を一時的に遮断する事だけ出来る。

 

私はこの日のために、対IS用の武器を作っていた。

 

そして、次の攻撃がもっとも重要である。

 

これが失敗すれば、私はこの場を切り抜けてもいずれは殺される。

 

私の勝利は、コイツに勝つ事ではなく、ある物を奪い取る事なのだ。

 

私は、敵のISに二丁拳銃を向けた。

 

.

.

.

 

オータム「...!?...なんだ!?」

 

 

私の攻撃は成功した。

 

相手のISの飛行ユニットのパーツは量子分解を起こし、部分的に展開出来なくなった。

 

私は白式の量子変換が誤作動を起こした事件の資料から、この武器を生み出す事に成功した。

 

そして、廃棄されたISパーツで実験を行い続けて、先日のタッグトーナメントで無人機のアームパーツの量子分解に成功した。

 

この武器もまだ未完成で効果は一時的なものであるが、私の目的は相手の移動手段を削る事だった。

 

オータムは私から攻撃を受けた事で手加減する事をやめ、私に銃撃を浴びせた。

 

しかし、私は無傷だった。

 

私の周りにバリアーが貼られていたからだ。

 

 

オータム「ぜ、絶対防御!?貴様、ISを使えないじゃないのか!!」

 

 

これは絶対防御ではなかった。

 

正確には、絶対防御をベースに作られているが防げるのはあくまで射撃・レーザーの類だけである。

 

対遠距離防御に特化し、対近接防御は急所を守る以外は役に立たない物だった。

 

私は弱者の皮を捨て、オータムに反撃を開始した。

 



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第6-3話

千冬「ハイパーセンサーを阻害する煙幕に疑似絶対防御装置だと?」

 

茅「はい、私が設計しました。これを作って貰えませんか?」

 

千冬「何を考えている。まさか、ISと戦う気じゃないだろうな?」

 

茅「...いえ、これは逃げるための道具です。今年はIS絡みの事件が多く発生しています。せめて、自分の身は自分で守れるくらいの力が欲しいんです...」

 

真耶「良いんじゃないでしょうか、織斑先生。特に殺傷能力もなさそうですし」

 

千冬「...分かった。倉持技研に頼んで作って貰う。だが、ISと戦おうとは絶対思うなよ」

 

茅「はい...分かりました」

 

 

私は攻撃器具を裏で作り、防御器具を織斑先生と山田先生を騙して倉持技研に作って貰った。

 

私の中に罪悪感はあるが、もう手段を選んでいる暇はなかった。

 

このまま何もしなければ、私はいつか殺される。

 

「私はそんな世界認めない」

 

.

.

.

.

.

 

私は最後の武器を出し、相手のISに向かった。

 

オータムは専用機アラクネの手足で私を串刺しにしようと攻撃を与えた。

 

私の急所は近接攻撃でも防御装置で守られているが、それ以外は生身である。

 

私は多くの傷を負ったが、相手の胸部のISを量子分解させて、一本の小刀を突き刺した。

 

私の切り札はこの小刀だった。

 

この小刀は零落白夜を解析して生み出した武器。

 

私の二丁拳銃は、ISパーツを量子分解できても絶対防御までは分解出来なかった。

 

そのため、絶対防御を貫く一撃必殺の武器が必要不可欠だった。

 

それが、零落白夜と同質性能を持つこの小刀。

 

これは零落白夜同様に燃費が悪く、使える回数は限られ、ISパーツを壊す力すらなかった。

 

だが私は、これまでの戦闘経験を生かし、この二つの武器を活用してオータムに致命傷を与えた。

 

私はオータムの息の根を止め、ある物を奪い取った。

 

私はフラフラにながらも人里になんとか下り、そこで力尽きて倒れた。

 

.

.

.

.

.

 

時花茅は病院の一室で寝ている。

 

そこの病室に向かって一人の人物が歩を進めていた。

 

 

千冬「止まれ」

 

 

その人物は歩を止めて、織斑千冬の方に振り向いた。

 

 

千冬「やはり、貴様か。束」

 

束「はろろ~ん、ちーちゃん。こんばんわ~」

 

千冬「何しに来た?」

 

束「お散歩だよ~。束さんは夜の暗い病院で肝試しするのが趣味なんだ~」

 

千冬「時花を殺しに来たのか?」

 

 

その言葉に篠ノ之束は表情を変えた。

 

 

束「ちーちゃん。アイツは危険な存在なんだよ。生身でISを倒すとは私も思わなかった。だから今殺すのが一番なんだよ」

 

千冬「そんな事はさせん。私は時花の教師だ、時花を守る義務がある」

 

束「...アイツはちーちゃんにそっくりだから放っておけないんだよね。じゃあ、今回はちーちゃんに免じて見逃してあげる。...でもね、いつか私はアイツを殺すよ、絶対に」

 

 

そう言い残し、篠ノ之束は闇の中に消えた。

 



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第6-4話

私が病室で目を覚ますと、目の前に織斑先生が居た。

 

私はびっくりして、自分の鞄を手で抱え込んだ。

 

 

千冬「もう遅い、中身は全部見たぞ」

 

 

私は鞄を開けたが、中身はすでになかった。

 

 

千冬「この先の森林で女性死体が見つかった。調べたところ、学園祭の時にお前を襲った人物だと判明した。...お前がやったのか?」

 

茅「...はい」

 

千冬「なぜ、ISと戦った!お前なら逃げる方法はいくらでも思い付くだろ!!」

 

茅「私の意地です...」

 

 

織斑先生は懐から私の作った銃と刀を出した。

 

 

千冬「こんな危険な武器まで作って...そんなに力を取り戻したかったのか!!」

 

茅「違います!!それだけは...断じて違います...!!」

 

 

私はISに乗れなくなった事に未練はない。

 

それだけは断言できる。

 

 

千冬「お前は何を隠している?何がお前をそうまでさせているんだ?」

 

 

私はもう隠し通すのは無理だと思い、全てを話した。

 

私の両親が女尊男卑の犠牲になった事。

 

その世界を生み出した篠ノ之束に対して復讐を誓っている事。

 

そのために自分の人生の全てを捧げている事。

 

 

千冬「...そうか」

 

 

時花茅がなぜ織斑一夏に恋心もなく肩入れしているのか。

 

時花茅がなぜ死ぬ物狂いでISと戦おうとしているのか。

 

織斑千冬は時花茅の過去を知り、全てを理解した。

 

 

千冬「...お前は人を殺してまで何をしようとした?」

 

茅「私は...ISコアを破壊する武器を作るつもりでした...」

 

 

時花茅の今回の目的はその一点だった。

 

例え、IS量子分解・絶対防御破壊の武器を手にしても、ISコアを破壊しなければ意味がない。

 

そのための資料となるISコアがどうしても欲しかった。

 

だが、IS学園がISコアを破壊する理由でISコアを貸すはずもなく、ISを動かせなくなった時花茅は企業代表も国家代表にもなれず、訓練機すら借りる事も出来なかった。

 

残る方法は、無人機を倒して手に入れるか、誰かを殺して奪い取るかの二択だった。

 

出来れば前者であって欲しかったが、今の時花茅の武器では無人機を倒す事は出来ず、自分の手を汚してでも誰かから奪い取る方法しかなかった。

 

苦渋の末選んだのが、亡国機業のオータムの殺害だった。

 

 

茅「お願いです...!私には、あのISコアが必要なんです...!!」

 

 

次、いつ同じチャンスがあるかすら分からない。

 

そして、同じ戦い方でISコアを奪えるかすらも分からない。

 

私は泣いて織斑先生に頼んだ。

 

 

千冬「はぁ~...。一番優等生だと思っていたお前が、一番大馬鹿だったとはな...。良いだろう、このISコアは好きにして構わん。ただし、お前がこれから何かを行う際は必ず私達に言う事だ」

 

茅「ありがとうございます...!」

 

千冬「それと、防御器具と二丁拳銃は持っても構わんが、この小刀は没収だ。コイツはお前には早すぎる」

 

 

織斑先生は、私に一回ゲンコツして病室から出て行った。

 

.

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真耶「...どうでしたか?」

 

千冬「大丈夫だ。生徒を守るのは我々の役目...。山田先生、すまないがこのISコアを学園に保管しておいてくれないか?」

 

 

山田真耶は織斑千冬に言われて、ISコアを預り学園に戻って行った。

 

 

千冬「...復讐か」

 

 

一人になった織斑千冬は没収した小刀を見て、そう呟いた。

 



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第二章 あとがき

【時花茅(ときはなかや)】

 

IS適正を失い、全生徒から異端扱いされる。

 

教員も時花茅を要注意人物と扱い、可能であれば学園を自主退学させたいと思っている。

 

自らの身を守るために生徒会に入部し、一組の副委員と並行して生徒会書記として働いている。

 

普通科目はトップの成績を維持し、IS筆記の成績も入学当初と比べて格段に上がっている。

 

しかし、IS実技に関しては適正を失って以降、0点扱いとなり総合点では学年トップではない。

 

 

【時花茅の開発器具】

 

(対IS用:二丁拳銃)

 

白式の量子変換事件から、ISパーツと量子変換の関連性を徹底解析し、生み出した武器。

 

攻撃速度と攻撃範囲に優れているが、効果は一時的なものであり、分解範囲も狭く、絶対防御も壊す事は出来ない。

 

 

(対IS用:小刀)

 

二丁拳銃の弱点を補佐するために生み出した、小型の零落白夜。

 

零落白夜と同じで燃費が激しく短時間しか使えないが、絶対防御を貫きIS操縦者を殺す事ができる武器。

 

対絶対防御と対人間に特化したもので、ISパーツに対しての破壊能力は低い。

 

 

(対IS用:煙幕装置)

 

対ハイパーセンサーに設計した道具。

 

煙幕で姿を隠すのと対象者の体温感知を一時的に狂わせる物で、ハイパーセンサー自体を壊す物ではない。

 

屋外では、効果時間はかなり短い。

 

武器を作る事に専念したかったので、設計図だけを倉持技研に渡し作成して貰った。

 

 

(対IS用:絶対防御発生器)

 

形状はリストバンド。

 

射撃、レーザーなどの遠距離攻撃を無効化する絶対防御を発生させる。

 

近距離攻撃に対しては、頭部・心臓などの生命に関わる部位だけに発生させる事ができる。

 

効果時間はかなり短く、ISの絶対防御同様にエネルギー無効化攻撃で破られる。

 

武器を作る事に専念したかったので、設計図だけを倉持技研に渡し作成して貰った。

 

 

【時花茅視点の各人物評価】

 

(更識楯無)

 

『強さ』は学園最強と認めるが、その他の行動・思考においては最低な人間と考えている。

 

生徒会に入ったのも『時花茅がIS学園にとって不可欠な存在になるため』であり、『生徒会長に守って貰うため』ではない。

 

 

(更識簪)

 

専用機を自分の力だけで作ろうとする信念は認めていたが、更識楯無の手でその信念を壊された事を知り、更識簪の信念を取り戻させるために接触した。

 

更識簪を認めたわけではないが、『信念はあっても力がない人間』『力はあっても信念がない人間』が戦場に居ても邪魔な存在になると言うのは時花茅自身の体験から理解しており、戦場で戦える人間かどうかを測っていた。

 

 

【各人物視点の時花茅評価】

 

(更識楯無)

 

生徒会書記として優秀ではあると評価しているが、自分に対して容赦なく意見を言う事、自分の思い通りに動かない事から扱いにくい人物と思っている。

 

時花茅が更識楯無を嫌っている事は知っているが、更識楯無は時花茅を嫌いと言うわけではない。

 

 

(更識簪)

 

自分のイメージの中にある『恐怖の更識楯無』と酷似している人物。

 

更識楯無と和解後は、時花茅が『恐怖の象徴』であり、今でも話し掛けられない。

 



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第7-1話

茅「断固反対します!!」

 

 

私は生徒会役員の会議に参加している。

 

会議内容は次のIS学園のイベント、秋の大運動会で優勝したチームには身体測定で織斑君に担当をして貰うと言う事だった。

 

 

茅「大体、女子生徒の身体測定を織斑君が行う事がすでに問題です!保護者から苦情が殺到するに決まっています!!」

 

楯無「でもね...茅ちゃん!運動会の優勝したチームにはもう賞品を出すって宣伝しちゃったの!今更なしなんて...」

 

 

毎回、毎回、余計な仕事を増やす人だと私は怒鳴った。

 

 

茅「織斑君にそんな事を強要させるくらいなら私がやります!」

 

楯無「ま、待って!そんな事したら暴動が起きるわよ!」

 

 

暴動が起きようが、クーデターが起きようが構わない。

 

更識会長の暴走を止め、織斑君に余計な負担を掛けさせないのは私の役目だ。

 

 

楯無「わ、分かったわ!じゃあ、来年のクラス分けで優先的に織斑君と同じクラスになれる権利ってのはどう?これなら問題ないでしょ!」

 

茅「...分かりました。それくらいなら了承します」

 

 

今日の生徒会の会議は終わった。

 

私は会議室を後にして織斑先生の所へ向かった。

 

.

.

.

 

千冬「遅かったな。何かあったのか?」

 

時花「何でもありません。早く始めましょう」

 

 

私は織斑先生と山田先生の監視下で、オータムから奪ったISコアで実験を行っている。

 

それは、いかに早くISコアを破壊できるかの実験である。

 

私は、電磁波、量子分解、エネルギー無効化など、様々な実験を行ってISコアの発生信号をデータ化している。

 

いつもの様に実験を繰り返していると、突然のシステムダウンが発生した。

 

.

.

.

 

私は織斑先生にとある一室に案内された。

 

話によると、IS学園は外部からのハッキングを受けたらしい。

 

山田先生、更識さんの指揮で専用機のメンバー達がISコアネットワーク経由の電脳ダイブを行うと言う事だった。

 

 

千冬「時花、丁度良い機会だ。ISコアネットワークの電脳ダイブはめったに見られる物ではない。しっかりと目に焼き付けろ」

 

茅「はい!」

 

 

私は作戦に参加出来ないが、織斑先生の計らいでこの場に居る事を許可された。

 

織斑先生は更識会長と共に侵入者排除へ向かって行った。

 

.

.

.

 

事件は解決した。

 

IS学園に侵入した特殊部隊は、更識会長と織斑先生の手で鎮圧された。

 

専用機のメンバー達が電脳世界に閉じ込められるトラブルが発生したが専用機を修理して戻ってきた織斑君が専用機のメンバー達を救出し、敵のハッキングから学園を救った。

 

しかし、私は気付いていなかった。

 

このハッキングは侵入者とは関係ない別の人物の手で行われていた事に。

 



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第7-2話

私は一足早く退室し、自室に戻ろうとしていた。

 

私の手には貴重な電脳ダイブの資料と織斑先生の戦闘データがある。

 

私が中庭を歩いてると、一人の人物が私の前に立ちはだかった。

 

 

茅「ボーデヴィッヒさん...?」

 

???「私の名前は、クロエ・クロニクル。束様の敵である貴女を排除します」

 

 

その言葉で、私は二丁拳銃を取り出し先制攻撃をした。

 

私の二丁拳銃は、前回戦ったよりも攻撃力を上げ、絶対防御は壊せなくても相手に強い衝撃を与えるまで強化していた。

 

しかし、クロエ・クロニクルと名乗った女性は私の攻撃を簡単に避け、宙に舞った。

 

 

クロエ「遅い...」

 

 

白い亜空間が私を飲み込んだ。

 

.

.

.

 

今まで見た事も受けた事もない攻撃だった。

 

私は、右も左も下も上も分からなくなった。

 

しかし、この状況で無暗に動いても意味はない。

 

私は情報を集めるために防御に神経を尖らせた。

 

 

カァン!!

 

 

私の喉元に一本の剣が刺さった。

 

しかし、私の防御装置に阻まれたのを知るとすぐに引っ込み姿を消した。

 

この攻撃で私は勝機が見えた。

 

まず、相手には遠距離武器がないという事。

 

遠距離武器があれば、私に位置を悟られる事なく安全地帯から防御装置が切れるまで攻撃を続ければ良い。

 

また近距離攻撃なら、オータムのようにISそのもので容赦なく攻撃を加え続ければ私を倒す事が可能だ。

 

これらの事をしなかったのは、彼女のISは何らかの理由でISで攻撃出来ず、剣を用いた近距離攻撃しか出来ないと判断した。

 

それに加えて、自身の実態がないのであれば剣を引っ込めずに連撃すれば良い。

 

以上の事から、彼女の姿は見えなくても、こちらから攻撃を与える事が出来ると結論付けた。

 

私は次の攻撃に備えて全神経を張り巡らせた。

 

.

.

.

 

クロエ・クロニクルは驚いた。

 

背後から攻撃を仕掛けたはずなのに、攻撃を当てたと同時に時花茅の両手の銃がクロエ・クロニクルに向けられて発砲されたからだ。

 

普通の人間であれば直撃だったが、クロエ・クロニクルにはハイパーセンサーと同一の能力を持つ越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)が埋め込まれており、その力で攻撃を躱した。

 

しかし、勝負はこれで決したも同然だった。

 

このまま放っておけば、時花茅は出血死する。

 

しかし、確実に殺すためにあと一撃を入れようとした所だった。

 

 

千冬「そこまでだ」

 

 

クロエ・クロニクルの手は織斑千冬に捕まれ、時花茅を囲っていた白い亜空間は姿を消した。

 

 

千冬「生体同期型ISか。そこまで完成させていたとはな...」

 

クロエ「くっ...!」

 

千冬「やめておけ。お前の戦闘力では私に勝てん。今なら見逃してやる」

 

 

クロエ・クロニクルは織斑先生の声に怯み、空に飛んで消えて行った。

 

 

千冬「目を離すとすぐこれだ。よくもまぁ、生体同期型ISと戦って生きていたもんだ」

 

茅「せ、生体同期型IS...?」

 

千冬「後で話してやる。今はその傷を治しに行くぞ」

 

 

私は織斑先生に担がれて保健室に向かった。

 



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第7-3話

私は車椅子で登校した。

 

私はクロエ・クロニクルに脇腹を剣で刺されて重傷を負ったが、手当てが早かった事が幸いし、出血を除けば命に影響する事はなかった。

 

しかし、授業に参加する事は出来ても、秋の大運動会には参加出来なくなった。

 

皆のヒソヒソ話をよそに、私は生体同期型ISへの対抗手段を考えていた。

 

.

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.

.

 

とある一室。

 

二人の会話が行われていた。

 

 

クロエ「...申し訳ありません、束様。時花茅を殺し損ねました」

 

束「大丈夫だよ、くーちゃん~。束さんは怒ってないからさ~」

 

 

篠ノ之束は、頭を下げるクロエ・クロニクルを慰めていた。

 

 

束「やっぱり、ちーちゃんが邪魔だよね~。何とかしなきゃ...」

 

 

篠ノ之束は、ある作戦を実行する事を決意した。

 

.

.

.

 

スコール「それで、何の用ですか?篠ノ之博士」

 

 

篠ノ之束は亡国機業とコンタクトを取り、レストランで再び会っていた。

 

 

束「次のIS学園の大運動会で、IS学園に襲撃して欲しいんだ」

 

 

篠ノ之束は笑顔でそう言った。

 

 

スコール「悪いですが、お断りさせて貰います。我々はエムのISを貴女に改良して貰った事には感謝していますが、オータムという戦力を失って以降、かなり動き辛い立場になっているのです」

 

束「そう言うと思って、ほらぁ~」

 

 

篠ノ之束は、数体の無人機をスコールに見せた。

 

 

束「これ、ぜーんぶ貸してあげる。だからさ、お願い~。それに、マドっちもちーちゃんと決着付けたいでしょ?その取り計らいもしてあげるよ~」

 

マドカ「織斑千冬...!!」

 

 

エムと呼ばれていた織斑マドカはその言葉に拳を握りしめていた。

 

 

スコール「なぜそこまで私達に協力しようとするのですか?」

 

束「束さんの気まぐれだよ~。もし嫌だっていうなら、無人機持って帰っちゃうからね~」

 

 

スコールは考えた。

 

オータムを失って以降、自分達の立場はかなり危うくなっている。

 

IS学園を表立って襲撃するのはかなりの危険だが、オータムの欠けた穴を埋める以上の無人機という戦力に加えて篠ノ之束の積極的な協力を得られる事を考えると千載一遇のチャンスだと考えた。

 

 

スコール「分かりました。ただし、決行時刻や作戦等は私が全て考えます。エム、貴女は篠ノ之博士にISを調整して貰いなさい」

 

 

織斑マドカは篠ノ之束に引っ張られように連れて行かれ、スコールはIS学園の襲撃計画を立て始めた。

 

 

篠ノ之束は織斑マドカのISを調整しながらぽつりと呟いた。

 

 

束「今度こそ、殺してあげるね...」

 

 

刻々とその時間は近づいていた。

 



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第7-4話

秋の大運動会。

 

女子生徒達は『次学年で織斑君と同じクラスになれる特権』を得るために盛り上がっていた。

 

私の傷は治りかけていたが激しい運動ができず、前回同様にセキュリティー担当として働いていた。

 

運動会が中盤に入った頃だった。

 

地響きが発生し、空にはスコールと名乗るISと無人機が宙に存在していた。

 

.

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千冬「数が多すぎる!私達も行くぞ!!」

 

真耶「はいっ!!」

 

 

織斑千冬と山田真耶は武装し、運動広場に向かおうとしていた。

 

その途中、二人を阻む影があった。

 

 

マドカ「織斑千冬...。今こそ決着を付けるぞ...!!」

 

 

そこには、黒騎士と言う名のISを身に纏った織斑マドカが居た。

 

 

千冬「...山田先生、先に行っててくれ。コイツは私が狙いのようだ」

 

 

山田真耶は織斑千冬を置いて先に運動場へ向かい、織斑千冬と織斑マドカは死闘を始めた。

 

.

.

.

 

織斑千冬は苦戦していた。

 

織斑千冬は以前、生身でアメリカ特殊部隊のISを倒していたが、今度の敵は違う。

 

織斑マドカは専用機を所持している事もそうだが、ISに関してはかなりの実力者であり、篠ノ之束が連日メンテナンスを繰り返し行った事で格段にパワーアップしていた。

 

 

マドカ「織斑千冬...。この程度か?少し失望したぞ..」

 

 

二人の戦いの最中、一人の人物が姿を現した。

 

 

束「やっほ~、ちーちゃん」

 

千冬「束...!なぜ、貴様がここに...!!」

 

束「織斑千冬と織斑マドカの決着、束さんがわざわざお膳立てしてあげたんだよ~。だから、特等席で見届けたいんだよね~」

 

千冬「...まさか、この事件は貴様の仕業か!!」

 

束「ふふ、気付くのがちょっと遅かったみたいだね~。でも、もう手遅れだよ...」

 

 

織斑千冬は今回の事件の真の目的に気づいた。

 

それは、織斑千冬を足止めして時花茅を抹殺する事だった。

 

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.

 

セキュリティーセンターでは、私とクロエ・クロニクルが対峙していた。

 

私はこの事態をすでに予測していた。

 

前の戦いで、クロエ・クロニクルの言動から篠ノ之束の従者である事を察し、彼女が再び私を殺しに来るだろうと。

 

しかし、私の回りには織斑先生が居て、普通の手段では織斑先生に守られる結果に終わる。

 

だが、何らかの手段で織斑先生を行動不能にすれば、その隙を付いてクロエ・クロニクルが殺しに来るだろうと分かっていた。

 

私は亡国機業が襲来した瞬間でも、亡国機業がISコアを取り戻しに来る事はありえても、専用機強奪を無視してオータムの仇を取りに来るとは思わなかった。

 

だが、無人機を確認した時に篠ノ之束が必ず裏にいるとすぐに分かった。

 

そして、篠ノ之束を慕っているクロエ・クロニクルが、私の抹殺を失敗した事を後悔してないはずがないと思っていた。

 

クロエ・クロニクルの信念は『篠ノ之束の役に立つ事』

 

私はクロエ・クロニクルと篠ノ之束の関係は詳しく知らないが、クロエ・クロニクルの信念だけは理解していた。

 

だからこそ、この状況は必然であると私は感じていた。

 

だが、これ以上篠ノ之束の思い通りにはさせない。

 

「私はそんな世界認めない」

 



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第7-5話

千冬「事情が変わった。殺す気で行くぞ」

 

 

織斑マドカはその言葉がハッタリではないとすぐに分かった。

 

織斑千冬の覇気がこれまでと違う事を感じ、織斑マドカも本気で戦う事にした。

 

形勢は五分五分になった。

 

実力は織斑千冬が一枚上手だが、織斑マドカには絶対防御があるので致命傷を与えられない。

 

対して、織斑マドカは攻めきれないでいた。

 

拮抗が破れた一瞬、勝負が付いた。

 

織斑マドカの急所に一本の刀が突き刺さった。

 

 

千冬「本当はこんな物、使いたくなかったんだがな...」

 

 

それは、時花茅から没収した零落白夜と同質能力を持つ小刀だった。

 

決着は付いたが、その結果に篠ノ之束は怒りを露わにした。

 

 

束「どうして...!!どうして、ちーちゃんがそんな物使うの!!」

 

 

篠ノ之束は、時花茅の武器で決着が着いた事に腹を立てた。

 

 

千冬「悪いな。お前が時花をどんな手段を使ってでも殺そうとする様に、私も時花をどんな手段を使ってでも守らなくてはならないんだ」

 

 

篠ノ之束は織斑マドカを見捨てて、どこかに飛び去って行った。

 

織斑千冬はその後を追いかけるように、時花茅のいるセキュリティーセンターに向かった。

 

.

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.

 

私の回りが白い亜空間に飲み込まれた。

 

これは前回同様、クロエ・クロニクルのIS能力。

 

周囲を幻影化させて、相手を惑わす能力だった。

 

だが、私はその攻撃と同時に片足を思いっきり床に叩きつける。

 

それと同時にその幻影は破られた。

 

 

クロエ「...!!」

 

 

クロエ・クロニクルは想像だにしなかった事態に驚きを隠せなかった。

 

再び幻影を作ろうとしているが、それは出来ない。

 

クロエ・クロニクルのIS能力は大気をIS量子変換によって幻影化させる事を突き止めた私は、その大気に存在するIS量子を量子分解する防御器具を生み出した。

 

その器具は靴に仕込んであり、私が床を思いっきり叩くと発動する。

 

その結果、私の靴から大気にIS量子分解の成分が舞い散り、ISによる全ての展開が一時的に不可能となる。

 

クロエ・クロニクルは刀を取り出し、私に対峙した。

 

クロエ・クロニクルは金色の瞳で私を見ている。

 

彼女の瞳はハイパーセンサー同様の能力を持つ物であり、肉弾戦であろうと私程度の攻撃は避けられてしまうのは前回の戦いで知っていた。

 

私はこの瞬間に次なる武器、閃光弾を使った。

 

.

.

.

 

クロエ・クロニクルはその光を受け、悶え始めた。

 

これは彼女の瞳に激痛を与える物。

 

私は織斑先生からクロエ・クロニクルとボーデヴィッヒさんの関係と二人の瞳が同一の性質である事を聞き、織斑先生とボーデヴィッヒさんの協力でこの閃光弾を生み出した。

 

クロエ・クロニクルは視界を失い、私の攻撃から身を守るために空を飛んだが、天井にぶつかり逃げる事が出来なかった。

 

私の今回の武器は、全て室内戦に特化した物。

 

屋外であれば、大気中にあるIS量子を一瞬しか無効化できず、閃光弾は太陽光のせいで効果が薄い。

 

それに加えて、クロエ・クロニクルの行動を大きく制限出来るこの地下のセキュリティーセンターこそが、私がクロエ・クロニクルに勝てる唯一の場所だった。

 

私はクロエ・クロニクルの足をひっぱり、腹部に思いっきり足蹴りを打ち込んだ。

 



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第7-6話

私の攻撃でクロエ・クロニクルは完全に身動きが取れなくなった。

 

私の靴は床を思いっきり叩けば周囲にIS量子を分解させる成分を発生させるが、人体に攻撃を加えれば相手にその成分を直接打ち込む事が出来る。

 

生体同期型ISであるクロエ・クロニクルに直接IS量子分解を打ち込んだ事で全身にダメージを与える事に成功した。

 

その代償として、前回クロエ・クロニクルから受けた傷が開き、私も身動きが取れなかったが勝敗は決した。

 

 

束「くーちゃん!!」

 

 

篠ノ之束がセキュリティーセンタに到着し、クロエ・クロニクルの様子を見て叫んだ。

 

 

クロエ「ごめんなさい...束様...。失敗しました...」

 

 

篠ノ之束は激高し、私に攻撃を仕掛けた。

 

その攻撃は零落白夜同様に絶対防御を貫通し、私を殺そうとする物。

 

空気中にあるIS量子分解する成分はすでに効果を失い、私は身動きが取れず、その攻撃を受けるしか道がなかった。

 

セキュリティーセンターの中で鮮血が飛び散った。

 

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私への攻撃は急所を外していた。

 

織斑先生が私を庇って攻撃を受けたからだ。

 

 

茅「織斑先生!!」

 

 

織斑先生は、私を庇い篠ノ之束の攻撃を急所に受けた。

 

教員部隊がセキュリティーセンターに向かってる事に篠ノ之束が気づくと、瀕死のクロエ・クロニクルを抱えて逃げ出した。

 

私は織斑先生に必死に呼びかけたが、溢れる血を止める事が出来ず、救援を待つしか出来なかった。

 

 

千冬「...いいんだ。これは全て私の責任...。そのせいでお前が...」

 

茅「違います!先生は何も悪くない!!」

 

 

私は織斑先生に言い続けた。

 

私の人生が壊れたのは、篠ノ之束のせいであり、織斑先生のせいではないと。

 

織斑先生は私にだけ聞こえる様に言った。

 

 

千冬「...白騎士は私だ」

 

 

織斑先生はそう言い残して、救援部隊に運ばれて行った。

 

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白騎士。

 

かつて、篠ノ之束と共に世界へISの力を証明した正体不明のIS。

 

政府も長年正体を探っていたが、未だに掴めずに謎になっていた。

 

それは、私の復讐相手でもあった。

 

私はこの学園に来てからも白騎士の正体を探ったが皆目見当が付かずだった。

 

私は白騎士に対する復讐心と織斑先生への心配で延々と気持ちが混乱するしかなかった。

 

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次の日。

 

HRが始まった。

 

 

一夏「山田先生!千冬姉は大丈夫なんですか!!」

 

 

皆が知りたがっていた事実を織斑君は真っ先に聞いた。

 

 

真耶「その事で...皆さんに大事なお知らせがあります...」

 

 

クラスは沈黙になり、山田先生の言葉を聞いた。

 

 

真耶「織斑先生は...お亡くなりになりました...」

 



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第7-7話

私は部屋に閉じ籠っていた。

 

一組の雑務も生徒会の仕事もどうでもよくなっていた。

 

部屋の扉が空き、山田先生が入ってきた。

 

 

真耶「...すみません、時花さん。大至急来て貰えませんか...」

 

 

私の頭の中では、何の理由で呼ばれたかすでに分かっていた。

 

.

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.

 

「時花茅さん。貴女には今日付けで学園を辞めて貰いたい」

 

 

普通の生徒なら驚いただろうが、私は予想していた。

 

織斑先生が亡き今、山田先生だけでは私の在校を許可するのは難しかった。

 

それに加えて、篠ノ之束が私を殺そうとして織斑先生が身代わりに死んだ事件は世界中に広まった。

 

これ以上、私をIS学園に置くのは危険だと判断し、強制追放するのは当然の事だと思っていた。

 

 

茅「...分かりました」

 

 

私は全ての荷物をまとめて学園を去ろうとしていた。

 

私を見送るのは山田先生しか居なかった。

 

もはや、私にとってどうでも良い事。

 

恐らく、二~三日もすれば私は誰かに殺される。

 

織斑先生を信望していた者か篠ノ之束の手によって。

 

 

真耶「時花さん...。これをお渡しします。織斑先生からの手紙です。もしもの時に備えて私が預かっていました」

 

 

私は山田先生からその手紙を受け取り、IS学園を去った。

 

.

.

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その手紙には、自分が白騎士である事、篠ノ之束を止められなかった事、その結果として時花茅の人生を壊してしまった事に対して懺悔している言葉が書かれていた。

 

私は白騎士を恨んでいたはずなのに涙が止まらなかった。

 

織斑先生が私に必死で償いをしようと努力していた事は事実だったからだ。

 

最後の文章に、一つの住所が書いてあった。

 

...織斑先生は私に道を残してくれた。

 

こんな所で泣き続けて死を待つなんて、私の信念はその程度の物だったのか...

 

私の信念...それは...

 

「私はそんな世界認めない」

 

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記者会見。

 

シャッターと歓声が辺りを響く。

 

 

「この度は新型ISの開発おめでとうございます!」

 

 

ヒカルノ「あ、いや...。これはISではなく...」

 

 

私はヒカルノ所長からマイクを奪って言った。

 

 

茅「皆さん、我々が開発したのは新型のISではありません」

 

 

辺りが大きく騒ぎ出した。

 

 

「ISではない!?では、それは何ですか!?」

 

茅「はい、これは...」

 

 

その時、壁が大きく崩れた。

 

篠ノ之束が武装して現れた。

 

 

束「このパクり野郎!!くーちゃんの仇!今、殺してやる!!」

 

 

篠ノ之束はミサイルを当たり構わず発射した。

 

周囲は大騒ぎになり、我先に逃げ出そうとした。

 

私は『ある機体』を展開し、全てのミサイルを全て量子分解させた。

 

 

束「なにっ!?」

 

 

驚いている篠ノ之束に対してISコア停止結界を張り、篠ノ之束の全ての装甲を剥がした。

 

間髪いれずに量子構築を行い、篠ノ之束を檻に閉じ込めた。

 

 

束「出せー!!ここから出しやがれーー!!」

 

 

一同は驚いた。

 

あの篠ノ之束の攻撃を無効化し、瞬時に生け捕りにしたからだ。

 

 

ヒカルノ「皆さんー!これが私達の開発した新世界を支える機体です!」

 

「質問です!ISより強い兵器を生み出したって事ですか?」

 

茅「この機体は人間を傷付けません。武器も搭載できませんし、人の悪意を感知すると動かなくなります。今の攻撃もISにしか使用できません」

 

「なぜ、そのような事をしたんですか?」

 

茅「私はIS学園でIS絡みの事件を多く体験しました。今でも傷跡が沢山残っています」

 

 

私は衣類で隠していた自身の傷跡を一部見せて事件の生々しさを語った。

 

 

茅「そして、この機体は男女関係なく全ての人が動かせます」

 

 

その言葉に一同は騒ぎ出した。

 

 

「それで、その機体の名前は!?」

 

茅「この機体...その名は、インフィニット・ユニバース!!」

 

 

記者は急いで新聞社に連絡し始めた。

 

ついに、ISの時代が終止符を打つと。

 

 

しかし、私は知っている。

 

人間に悪意がある限り、どんな物でも凶器へと変える。

 

私はインフィニット・ユニバースを決して悪用させない。

 

「私はそんな世界認めない」

 



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最終章 あとがき

【時花茅(ときはなかや)】

 

篠ノ之束が織斑一夏のために用意した『捨て駒』

 

多くの孤児の中でもっとも上記の役割に適した人物にIS適正を与えて利用しようとした。

 

 

【篠ノ之束のレポート】

 

①対象者は、代表候補生でもなく企業代表でもなく簡単に切り捨てられる人物である事。

 

②対象者は、織斑一夏を裏方でサポートする人物であり、織斑一夏に対して恋愛感情を持たない事。

 

③対象者は、織斑一夏がIS学園で周囲と良好な関係を築いた後に処分する事。

 

④対象者は、事項3に該当した場合、IS適正を剥奪し、即時に抹殺する事。

 

⑤抹殺方法は問わない。

 

 

【時花茅の戦闘スタイル】

 

基本スタイルは、情報解析能力を生かした『長期戦防御型スタイル』

 

元々は攻撃に適したタイプではなかったが、IS適正を失って以降は『短期戦一撃必殺スタイル』を習得。

 

相手の行動前に一撃必殺を打ち込み、瞬時に相手を倒す戦術を学んだ。

 

この戦法が失敗した場合は、相手の情報と弱点を調べた上で『カウンター一撃必殺スタイル』に切り替えて戦っている。

 

 

【時花茅の開発器具】

 

(対IS用:二丁拳銃)

 

小刀を没収された後に改良。

 

絶対防御も壊せず、相手を殺傷させる事は出来ないが、攻撃速度の上昇に加えてIS量子分解の範囲を広げる事に成功し、攻撃した相手に対して衝撃を与えるまで改良した。

 

 

(対IS用:シューズ)

 

靴の中に一定量のIS量子分解の成分が蓄えられている。

 

床を力強く叩く事で周囲にIS量子分解の成分を空中散布させる。

 

人体に攻撃を加える事で、相手にIS量子分解の成分を体内に直接打ち込む事が出来る。

 

空中散布は、屋外では効果は一瞬、室内では一定時間保つ事ができるが、敵味方問わずの無差別なので使用には注意が必要。

 

攻撃に関しては、対生体同期型ISに特化しており、絶対防御も一瞬だけ貫通する。

 

 

(対クロエ・クロニクル用:閃光弾)

 

ナノマシンを一時的に異常化させる。

 

織斑千冬とラウラ・ボーデヴィッヒの協力で完成。

 

最終的には閃光弾として使い、相手の視覚を奪って激痛を起こさせる。

 

屋外では太陽光の影響で効果が薄いが、太陽光が存在しない地下では威力が存分に発揮される。

 

攻撃は一瞬なので、相手が眼を閉じていたり、裸眼以外の状態だと失敗する可能性が高くなる。

 

 

(インフィニット・ユニバース)

 

IS学園追放後に、倉持技研で開発して完成させた機体。

 

倉持技研は織斑千冬の紹介と時花茅のこれまでの設計図・発明品に興味を抱き就職を許可。

 

全ての人間が活用する事が出来るが、人間の悪意を反応すると緊急停止する。

 

時花茅がこれまで発明した器具が改良化され、搭載されている。

 

また、ISコアは破壊できないが、ISコアを停止させる結界を張る事ができる。

 

織斑千冬の死後は他人を傷付ける事を恐れ、相手がISだろうと操縦者を傷付けずに束縛する方面に考えを置き、殺傷攻撃は一切行う事が出来ない様に設計した。

 

倉持技研は完成品だと思っているが、時花茅は今でも改良を重ね続けている。

 

 

【修学旅行後の時花茅と織斑千冬】

 

織斑千冬は時花茅の過去を知った後、彼女に償いをするために行動していた。

 

オータム殺害は正当防衛として扱ったがその罪を被り、時花茅の実験を他の教員の反対の中で許可し、時花茅の要望を叶えられる様に努力していた。

 

時花茅もその動きは知っていたが、なぜ織斑千冬がそこまで自分に尽くしてくれたのかは最後の手紙を読むまで分からなかった。

 

 

【IS学園追放後の時花茅と篠ノ之束】

 

時花茅は、IS学園追放後、倉持技研に就職して住み込み生活を行っていた。

 

織斑千冬の死後、二丁拳銃・小刀・靴による対人攻撃が拒絶反応で使えなくなり、これまで作った防御用の器具の性能上昇に特化して行動していた。

 

一方、篠ノ之束はクロエ・クロニクルの生命維持を行い続けるために自身の拠点から離れる事が出来なくなり、時花茅に対して織斑千冬信望者を使って攻撃を行い続けていたが、信望者では時花茅の防御を崩す事が出来なかった。

 

インフィニット・ユニバース完成と同時にクロエ・クロニクルが死亡し、篠ノ之束は時花茅に直接攻め込んだが、インフィニット・ユニバースの手で捕縛され、刑務所行きとなった。

 

インフィニット・ユニバースの操縦方法はISと対して変わらなかったので、IS学園にも多少の影響はあったが、IU学園として改名して操縦者の育成を行う方針になった。

 



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