やはり俺が“とある本丸鎮守府”の審神者兼提督で戦車道までやるとか多忙過ぎるだろう (BREAKERZ)
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特別回 本丸鎮守府のお正月

少し過ぎましたが、せっかくのお正月なので、投稿します。

続『刀剣乱舞~花丸~』第一話から流用します。ガルパンキャラは出ません。スミマセン。


1人でいることは良いことだと思ってた。煩わしい人間関係や、わざとらしい友情ゴッコに付き合う事が無かったからな。

本当に、一年前から大分変わったな・・・・。

 

 

 

~師走・本丸鎮守府~

 

師走は寒い。まだ降り積もった雪が残る本丸鎮守府の中庭に、『歴史修正主義者・時間遡行軍』と戦っている刀剣より生まれた付喪神・『刀剣男士』達と、世界の海に猛威を奮った『深海凄艦』と戦った『艦娘』達が集まった。

縁側に立って皆を見渡す俺、『本丸鎮守府』の審神者兼提督、比企谷八幡。俺の隣に立つ主お世話係の刀剣男士・へし切り長谷部とサポート役の燭台切光忠。艦娘で秘書艦の長門、秘書艦補佐・陸奥、サポート艦・大淀。

 

長門「提督」

 

八幡「ああ」

 

皆も集まり、長門に進められ俺は前に出る。

 

八幡「皆、おはよう」

 

刀・艦『おはようございます! 主(提督)!!』

 

皆元気に挨拶を返してくれる。さて次は長谷部の番だ。俺がそう思うと、長谷部が俺の前に出る。

 

長谷部「さて今日がなんの日か、分かるか?」

 

今剣「大晦日です!」

 

今剣が元気良く答え、長谷部が怒りを貯めるように押し殺した声をあげる。

 

長谷部「そうだ1年の締めの日、だから敢えて言わせてもらう」

 

それから長谷部の長い話が始まるが、マトモに聞いているヤツはほとんどいない。

俺も欠伸が出そうで、長門は渋面を作り、光忠と陸奥と大淀は苦笑いを浮かべていた。

 

長谷部「・・・・お前達は最近弛みすぎだ! 特にソコッ!!」

 

長谷部が怒鳴りながら指差す先には、キャンプ用の寝袋に入った『明石国行』が器用に立ったまま寝ている。根性の入った居眠りだな・・・・。

 

国俊・蛍丸「「国行!!」」

 

同じ来派の『愛染国俊』と『蛍丸』、国行の恋人の艦娘の『工作艦 明石』も起こそうと国行を揺する。

 

宗近「アッハッハ。いつも気を張っていても、善い事は無いぞ。時には緩ませる事も必要だ」

 

鶯丸「主も長谷部も茶を飲むか?」

 

ウチのご意見番の三日月宗近が縁側に腰掛け、孫娘のように可愛がっている三日月を膝の上に乗せながら鶯丸と茶を飲み、その傍らでは小狐丸が、前に俺がプレゼントした櫛で髪をすいていた。

 

八幡「いやお前らはいつでも緩みすぎだろ」

 

長谷部「まったくコイツらは・・・・! 良いかぁっ! 俺達には、いつ主から出陣や任務の命が下るか分からない! そして! いつ何時如何なる場合でもその命を遂行出きるよう! 常日頃から完璧な準備を・・・・!」

 

などと言っているが、清光は那珂の髪の毛を櫛ですき、安定と川内は大きな欠伸をして、神通は苦笑いを浮かべており。獅子王と鈴谷と熊野、鯰尾と時雨、夕立と骨喰、今剣と初春が雪だるまや雪ウサギ等を作り、宗近はまた茶を啜っていた。

あヤベっ、長谷部がキレる。

 

長谷部「って貴様らぁっ!!!」

 

光忠「まぁまぁ長谷部君・・・・」

 

大淀「今日は他にも言う事がありますし」

 

陸奥「ここは抑えて抑えて」

 

光忠と大淀と陸奥に宥められて、長谷部はコホンっ、と気を取り直して話を続ける。

 

長谷部「良いか、先日から言っていた各自の部屋の掃除は今日中に終わらせるように」

 

長門「我々艦娘の鎮守府は、出来てまだ1ヶ月ほどであり、先日業者が終わらせているから問題は無いが。今日はこの本丸の掃除を各自で手伝うように」

 

刀・艦『は~い!』

 

島風「提督! なんで本丸も業者に頼まなかったの?」

 

八幡「・・・・鎮守府の方で予算が無くなっちまったからだ」

 

俺がそう言うと、皆何とも言えない顔になっていた。

 

八幡「まあ取り敢えず。艦娘達は風呂場や調理場や廊下等を重点的に掃除してくれ」

 

長谷部「そして勿論! 主の部屋は、主お世話係であるこの俺が担当する!」

 

まあ男性の長谷部の方が気兼ね無いからな。

 

八幡「それじゃ、以上ってことで。皆がんばってくれ。解散」

 

 

 

ー刀・艦sideー

 

八幡と長谷部が掃除している執務室前では、前田・平野・五虎退、暁・響・雷・電が執務室前に積まれた段ボールを片付けていた。

主に鶴丸企画のイベントで使われた小道具や、八幡と清光と安定の通う大洗学園生徒会からの預かっている物だ。

五虎退が段ボールから小箱を取り出し開けると、中からパンチが飛び出し、五虎退の顔面に当たった。

 

五虎退「わぷっ!」

 

雷「五虎退君?!」

 

響「大丈夫かい?」

 

五虎退「ビ、ビックリしました・・・・」

 

前田「それにしても、色々な物が入っていますね」

 

前田が段ボールから毛糸玉を取りだし、段ボールの中の色々な物を見る。

 

暁「これどうするのよ?」

 

平野「主君は、取り敢えずもうしばらく置いておいて、折りを見て生徒会の方達に返すそうです」

 

???「失礼します」

 

段ボールの中身を整理している一同のいる踊り場に、聞きなれない声が響き、一同は声の方に顔を向けると。

 

雷「えっ? こんのすけ??」

 

こんのすけ?「わたくし、新たにこの本丸鎮守府に配属となった、こんのすけでございます!」

 

首を傾げる一同の横にある執務室の襖が開くと、見知ったこんのすけと八幡が出てきた。

 

こんのすけ「良いですか。私が居なくなっても、ちゃんと仕事をやるんですよ」

 

八幡「分かってる」

 

こんのすけ「ゴミも出すんですよ!」

 

八幡「分かってるっつの」

 

こんのすけ(新)「お勤めご苦労様でした」

 

八幡「ん。新しいこんのすけが来たか。よろしく頼む」

 

こんのすけ(旧)「おお、来られましたか」

 

電「こ、こんのすけ君が交代する事って有るのですか?」

 

八幡「俺もこの間はじめて知った」

 

こんのすけ(新)「本来はあまり無いのですが。本丸も鎮守府と合併して大きくなりましたので、特例でこちらのこんのすけが別の部署に入り、わたくしが後任として参りました! 我々も1務めクダギツネ。辞令があれば西へ東へ参ります!」

 

五虎退「そうなんですね・・・・」

 

八幡「(我々って、お前らみたいな謎の生物が他にもいるのかよ・・・・)」

 

こんのすけ(旧)「私は主様と小町様に付きっきりでしたが、この者は色んな方と話すのが好きなので、仲良くしてやって下さい」

 

こんのすけ(新)「好物は油揚げ! 煮たのも焼いたのも挟んだものも! どうぞよろしくお願いします!」

 

八幡「おう」

 

『よろしくお願いします!』

 

すると、階段から山姥切と叢雲が昇ってきた。

 

八幡「山姥切に叢雲。どうした?」

 

山姥切「主。新たな刀剣男士を顕現する予定だっただろう?」

 

叢雲「研ぎ部屋に来ないから来たのよ」

 

八幡「あぁそうだったな。悪い、新しく来たこんのすけをこれから皆に紹介するから、顕現は任せる」

 

八幡は札を山姥切に渡した。

 

八幡「こんのすけ」

 

こんのすけ(旧)「はい?」

 

八幡「あ、その、今までありがとな・・・・」

 

こんのすけ(旧)「フフッ、手の焼ける主様で大変でしたよ」

 

八幡「ああそうかい。じゃあな」

 

八幡はヒラヒラと手を振りながら、新たなこんのすけを肩に乗せて、階段を下りていった。

 

 

ー八幡sideー

 

普段から長谷部が掃除してくれているからすぐに終わり、新しいこんのすけを連れて廊下を歩くと、堀川と会った。

 

堀川「あ、主さん」

 

八幡「堀川、どうした?」

 

堀川「陸奥守さんが手伝って欲しい事があるから、大広間に来てくれって言ってました」

 

八幡「そうか、ちょうど良いな」

 

皆を集める手間が省けた。

 

 

さて、新しく来たこんのすけを紹介し終えると、陸奥守は2眼トイカメラでこんのすけを撮影していた。

 

陸奥守「ナハッ! エエぞ!」

 

八幡「おい陸奥。俺達はなんで大広間に集まったんだ?」

 

陸奥「吉行が今まで撮った写真を整理しようと、皆で集まったの」

 

清光「でもさらに増やしてどうするの?」

 

安定達と整理していた清光が愚痴る。

 

陸奥守「ナッハッハッ! 写真を見よったら、取りとうなってな!」

 

ハァ、本末転倒だろうが。

 

和泉守「しっかし、凄い量だな・・・・」

 

長門「今日中には片付かないかもな・・・・」

 

秋田「でもこの作業、楽しいです!」

 

薬研「こうして見るとこの1年、色々有ったな。この本丸も、本丸鎮守府になってさらに賑やかになった物だ」

 

愛宕「私達も毎日が楽しいわ」

 

俺は写真の1枚を手に取った。始めて大洗の制服を着た安定を挟んで、清光と三人で撮った写真だ。

 

八幡「ま、確かに色々有ったな」

 

吹雪「提督。こちらのアルバムに」

 

八幡「おう、サンキュー」

 

吹雪に渡されたアルバムに写真を入れる。

 

秋田「一兄ぃ見てください! 皆で海に行った時の写真です!」

 

一期「皆楽しそうだ」

 

八幡「お小夜と江雪のサーフィンはかなりシュールだったがな」

 

吹雪「えっ、そうなんですか?」

 

一期「写真とは良いものだ。こうやって私が顕現する前の事も知ることが出来る」

 

陸奥守「そうじゃそうじゃ。ワシはこれからも青葉と一緒にこじゃんと写真を撮るぜよ!」

 

一期一振がそう言うと、陸奥守は満足気に頷く。コイツ調子に乗りやがって、青葉も噛んでいるな。

 

一期「私もこれから、主や弟達や皆と、沢山の思い出が出来たら嬉しいです」

 

ウ~ム、イケメンだ・・・・。

 

陸奥守「良し! これが終わったらまた皆で何かやりたいんじゃが。何かええアイデアは無いぜよか主?」

 

八幡「イヤその前に写真整理しろよ」

 

陸奥守「まそう言わずにのぅ」

 

待て待てこんな話をすると、アイツが・・・・。

 

???「正月を祝うって言うのはどうだ?」

 

来ちゃったよ。襖の向こうで翔鶴と瑞鶴を連れて、本丸鎮守府のイベント企画部長、鶴丸国永が・・・・。

 

和泉守「正月? 人間みたいにか!?」

 

鶴丸「ああ。俺達は刀の付喪神だが、せっかく肉体を得たんだ、人間のように餅をついたり、みくじを引いたりする。どうだ? 楽しそうだろ?」

 

厚「それ良いな!」

 

乱「楽しそう!」

 

最上「提督! やろうよ!」

 

翔鶴「確かに楽しそうですね」

 

瑞鶴「鶴兄ぃにしてはマトモなイベントね」

 

長門「提督。如何しますか?」

 

・・・・仕方ない。

 

八幡「掃除もそろそろ終わる頃だしな。ま、掃除だけってのもアレだから、良いかもな」

 

陸奥守「良し! そうと決まったら早速準備じゃ!」

 

陸奥「他の皆にも伝えないとね」

 

???「兄者!」

 

あん? 誰だ?

 

???「おや。沢山いるね?」

 

声を追うと、見知らぬ刀剣男士が2振りもいた。

 

???「勝手に動き回ってはーーー」

 

八幡「新入りの刀剣男士か?」

 

???「ふ~ん。目の腐った男子、君が僕達の主なんだね」

 

???「話には聞いていたが、本当に凄い目だな・・・・。まるで幽鬼だ・・・・!」

 

八幡「ほっとけ。・・・・それでお前らは」

 

???「僕は『源氏の重宝』、『髭切』さ。そっちは弟のーーーえっと・・・・」

 

???「名前を覚えてくれ兄者!・・・・俺も同じく『源氏の重宝』、『膝丸』だ」

 

安定「髭切とか膝丸とか、変な名前・・・・」

 

川内「安定!」

 

確かに変な名前だな・・・・。

 

瑞鶴「アンタ、弟の名前を覚えて無いの?」

 

髭切「僕はあまり名前と言うのに頓着が無くてねぇ」

 

八幡「弟の名前は覚えておけよ・・・・」

 

膝丸「けっして仲が悪い訳ではないぞ! 俺達は平安時代の太刀、罪人で試し切りをした際、兄者は“髭まで切った事から『髭切』”、俺は“両膝まで切った事から『膝丸』”と名付けられた」

 

思いの外おっかない由来だった。

 

膝丸「だが、妖を斬ったり、持ち主が改名したりして、今まで名をいつくも変えてきたのだ」

 

八幡「それでか」

 

髭切「今はどんな名前だったけ?」

 

八幡「オイほんの十数秒前に名乗ったばっかだぞ」

 

膝丸「俺は膝丸だ兄者。ひ・ざ・ま・る!」

 

長門「大丈夫なのでしょうかこの兄弟?」

 

八幡「また一癖のあるのが顕現したな」

 

清光「主が一番一癖も二癖もあるけどね」

 

刀・艦『ウンウン』

 

五月蝿いよ。

 

獅子王「よお!」

 

庭から獅子王が声をかけてきた。そう言えば源氏なら獅子王とも面識があるかもな。

 

獅子王「新しい刀剣か? 俺はじっちゃ・・・・源頼正の刀だった、獅子王だ!」

 

髭切「ああ、鵺を倒したと言う御仁の」

 

獅子王「源氏にあった刀にであって嬉しいぜ!」

 

叢雲「あっ、いたいた」

 

山姥切「勝手に動くなと言っただろう」

 

おっ、山姥切と叢雲も来たか。

 

八幡「山姥切、叢雲、お疲れさん。顕現したのはこの二振りだな?」

 

山姥切「ああ」

 

叢雲「わたしも、これから掃除をするわ」

 

八幡「それじゃ、髭切と膝丸。取り敢えず本丸を案内するからついてこい。他の皆は正月の準備を頼む」

 

『はいっ!』

 

八幡「んじゃついてこい」

 

髭切・膝丸「「うん/ああ」」

 

 

 

 

それから髭切と膝丸を連れて本丸を歩き、餅つき用の臼を担ぐ蜻蛉切と岩融、杵をもつ御手杵と今剣を見つけ、髭切が臼を持ち上げようと悪戦苦闘したり。

左文字兄弟と蒼龍に飛龍と一緒に、髭切と膝丸がおみくじを書いたり。俺は扶桑や山城、一期と鯰尾と骨喰と『博多藤四郎』と一緒に、おみくじを折り畳む役。

酒飲みしている太郎太刀と次郎太刀と日本号と準鷹に怒鳴る長谷部がいたが、巻き込まれないようにスルーする。

石切丸と一緒に正月の祈祷をしてくれるよう、青江を説得し、飛鷹と睦月と如月の巫女服を眺めたりと、それなりに問題無く本丸を案内した。

 

 

ー刀・艦sideー

 

八幡が髭切と膝丸を案内しているその頃、本丸鎮守府の大食堂では、光忠、歌仙、鳳翔、間宮、本丸鎮守府の台所役が、おせち料理やもち米を作っていた。手伝いに小夜と大倶利伽羅と天龍と龍田もそこにいた。

歌仙がもち米を炊いていたかまどの蓋を開けると、炊きたてのもち米から湯気を上がり、香ばしい香りが立ち上る。

 

歌仙「ん~善い香りだ。これを餅つきをしようとしている岩融達の所へ・・・・」

 

ふと隣で大倶利伽羅が作っている雑煮の鍋の中身を見ると、醤油汁に入ったハゼが入っていた。

 

歌仙「おい。な、何をしている?!」

 

大倶利「なんだ・・・・?」

 

天龍・龍田「「???」」

 

歌仙「雑煮と言えば白味噌だろう!」

 

大倶利「雑煮と言えばハゼだ」

 

歌仙「白味噌で丸餅の方が雅じゃないか」

 

大倶利「醤油と角餅だ」

 

そう言うと二振りは火花を散らす。

 

歌仙「君とは相容れないようだな!」

 

大倶利「お互い様だ」

 

天龍「おいなんか目玉焼きは醤油かソースか、みたいな論争が始まったぞ」

 

龍田「どっちも美味しそうだと思うけどね」

 

呆れる天龍と、面白そうに微笑む龍田。

 

光忠「まあまあ、後で白味噌のも作るよ」

 

歌・大「「ふんっ!」」

 

光忠「アハハハ」

 

苦笑いを浮かべる光忠。

 

鳳翔「小夜君はどっちのお雑煮が良いですか?」

 

小夜「僕ですか? 僕は・・・・どちらも美味しそうなので、両方食べてみたいです・・・・」

 

間宮「大人ですね。小夜君は」

 

大食堂の台所で料理が作られている頃。

本丸の一室では、正月の祈祷用に祭壇が作られ、石切丸達が眺めている所に、陸奥守と陸奥が入ってきた。陸奥守の手にはビデオカメラが有った。

 

陸奥「良く出来てるわね」

 

青江「フフフ、ありがとう」

 

石切丸「陸奥守さん。それはなんだい?」

 

睦月「ビデオカメラですよ。活動映像が撮れるんです」

 

陸奥守「そうぜよ。ほれ、動いて見い」

 

陸奥守にそう言われ、青江は如月と社交ダンスを踊る。

 

石切丸「それはどこで手に入れたんだい?」

 

飛鷹「青葉さんから借りたのですか?」

 

陸奥守「酒を買い足す為によろず屋に行っての。ほいだらこれを見つけて、思わず買おてしもうたんじゃ!」

 

飛鷹「あぁ。長谷部さんが倒れている姿が想像できる・・・・」

 

睦月「陸奥さん・・・・」

 

陸奥「ゴメン。私が見つけた時にはもうすでに買われていたの・・・・」

 

ちなみに倒れた長谷部は島風と山城切と叢雲が介抱していた。

 

陸奥守「ワシャこれを使おて、この本丸鎮守府の事をこじゃんと記録するぜよ!」

 

石切丸「それは楽しそうだね」

 

陸奥守「そうじゃろうそうじゃろう!」

 

 

ー八幡sideー

 

髭切と膝丸の案内を終えて、二振りを宴会が始まる大広間に置いて、俺は大広間から少し離れた縁側に腰掛け、庭で正月を楽しむ皆を見ている。

和泉守と堀川が凧を上げ、それを吹雪と長門や獅子王と鈴谷が見上げ、石融が杵で臼の餅を叩き、蜻蛉切が餅に水を与え、今剣と初春が楽しそうに見ていた。

 

山伏「ホイホイホイホイ!!」

 

同田貫「ハイハイハイハイ!!」

 

別の臼では山伏と同田貫が何かな競技かと言わんばかり、高速で餅つきをやっていた。足利と羽黒が唖然と見ていたが。

 

八幡「・・・・・・・・・・・・」

 

俺はその光景を何かボォッ、と眺めていた。別に中二病が再発した訳じゃない。ただ、本当に眺めていただけだ。

少し前まで自他共に認めるエリートボッチだった俺が、いつの間にか歴史を守る審神者で、刀剣男士達の主となり、艦娘達の提督になった。

たった1年、目まぐるしく変わったな。

 

宗近「隣、善いか?」

 

八幡「宗近。ああ、良いぞ」

 

三日月宗近が俺の隣に腰掛けた、このじいさんは何でもお見通しみたいで少しやりづらいんだよな。

 

宗近「・・・・主は、まだ自分のことが嫌いなのか?」

 

以前、風邪をひいたときに話した事を宗近が切り出した。

 

八幡「・・・・ああ、大嫌いだ」

 

宗近「では、俺達の事も、嫌いなのか?」

 

八幡「・・・・・・・・いや、たぶん、好きだ。LIKEの方でな」

 

今口から出たのは、掛け値なしの俺の本音だ。コイツらと一緒にいて、面倒な事もあった。でもそれ以上に、楽しくて、幸せだと思う事がいっぱいあった。俺がそう言うと、宗近は優しく笑みを浮かべてくれた。

 

宗近「俺も主が大切だ。俺達刀剣に人間の肉体をくれた主が、時代に取り残され、放逐されそうだった艦娘達に、再び笑顔を与えた主がな。主にもっと皆を大切に思って欲しいと思う。主が俺達の主で良かった」

 

それは俺が言いたい言葉だ。自分を認めてくれた奴らに、こんなに素晴らしい奴らに出会えて、俺は本当に幸福だ。だから俺も、決意を新たに言う。

 

八幡「俺も、お前達と出会えてよかったよ」

 

そして小町に呼ばれ、宗近と一緒に大広間に戻った俺の目の前には、1年前には考えられなかったような、幸福な光景が広がっていた。

 

鳴狐と阿賀野が作ったお稲荷を見て、鳴狐のキツネとこんのすけが目をキラキラと輝かせ。

 

俺の御膳を持ってくる長谷部と、その御膳にイタズラしようとする鶴丸と、それを見て笑う島風と翔鶴。

 

お雑煮とゼンザイを黙々と食べる左文字兄弟と扶桑と山城。美味しそう食べる蒼龍と飛龍。

 

なぜか険悪な歌仙と大倶利羅の間に座った光忠が苦笑いを浮かべ、天龍が餅を詰まらせ、龍田が背中を叩き、赤城と加賀が幸せそうに正月料理を食べまくる。

 

別の部屋では、正月祭壇で祈祷する石切丸と青江、その後ろで藤四郎兄弟が座っており、如月と睦月と飛鷹が皆におみくじをあげたりしていた。

 

大盃で酒を飲む髭切とその兄を慌てて止めようとする膝丸。

 

髭切の様子を見て盛り上がる飲んべえ達。

 

清光「あっ、主やっと来た」

 

安定「主! これから髭切と膝丸が歌を歌うってさ!」

 

吹雪「提督! 早くこちらに!」

 

小町「お兄ちゃん! 皆待ってるよ!」 

 

俺の視界に映る、騒がしくも楽しく正月を満喫する、俺の大切な刀達と艦隊達、そして妹。

 

八幡「ああ。今行く」

 

いつもよりも輝いて見えるその光景に笑みを浮かべた俺は、宗近と共に皆の元に向かった。

 

霧島「それでは! 新しく我が本丸鎮守府に顕現した刀剣男士! 『太刀 髭切』様と! その弟の『太刀 膝丸』様によるデュエットソング! 曲名は『天と暦』! ではお二振り方! よろしくどうぞ!!」

 

髭・膝「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」

 

霧島が宣言すると、髭切と膝丸が歌が響いた。

 

八幡「(ああ。これが今の俺の、大切な場所なんだな・・・・)」

 

楽しそうに笑みを浮かべる皆を眺めながら、俺は笑みを浮かべた。

 




ずっとほったらかしにして、スミマセンでした。ちょっとこの小説を書く意欲が消滅していました。
消すつもりはありませんが、投稿は亀更新になります。勝手を言って申し訳ありません。また意欲が湧いたら書こうと思います。


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本丸鎮守府の審判者兼提督 比企谷八幡

明けましておめでとうございます!

年末中に呼んだ俺ガイルとガルパンのクロスを見てハマり、刀剣乱舞と艦隊コレクションのクロス作品に惚れ込んで作ってしまいました。


俺の名は比企谷八幡。『学園艦』にある『大洗学園』に入学する日に交通事故にあい、刀剣に宿る付喪神“刀剣男士”を顕現させる力を持つ『審神者』の力に目覚めた・・・・何この厨2能力?

しかも政府から歴史改変を目論む『歴史修正主義者 時間遡行軍』から歴史を守るようにと命令されるわ、さらに時々海から現れる深海凄艦と戦う『艦娘』達を指揮する『提督』として働かされるわで、もう過重労働じゃねぇの? まぁお蔭で給金はかなりの高額だけど・・・・オマケに刀剣男士と艦娘達の恋愛事情の相談にまで巻き込まれるとか、何これ最悪過ぎだろう・・・・。

 

 

 

ー八幡sideー

 

八幡「ふぁあ~朝か・・・・」

 

日差しが瞼に刺し込み、畳の匂いが鼻腔をくすぐる朝。俺、比企谷八幡は『審神者の執務室』を出て階段を降りると、二人の男子と会った。

 

???「おはよう“主”」

 

???「今日も朝から走り込みに行くの?」

 

八幡「あぁ、おはよう“清光”、“安定”」

 

俺の目の前に立つのは黒い髪にツリ目の赤い瞳に透き通る白い肌をした赤い和装袴姿の少年、幕末の京都で活躍した日本最後の剣客集団である“新選組”、その“一番隊組長 沖田総司”の“打刀 加州清光”と青みがかった黒髪をポニーテールに結わえた清光と対となる青い和装袴姿で、同じく沖田総司の愛刀“打刀 大和守安定”。本来刀剣である彼らは、高校デビューを失敗した俺が『審神者』としての力に目覚め、刀剣から顕現させた人の姿をした”刀剣男士“である。ちなみに俺が初めて顕現させた刀剣男子が目の前の加州清光なのだが、初めて会った時なんか・・・・。

 

清光【うわっ!スッゴい目が腐ってるね、アンタがおれの主なの?】

 

と結構嫌そうな顔をされた事は多分一生忘れんと思う。

 

安定「どうしたの主? いつにも増して目を腐らせて」

 

八幡「イヤな安定、初めて清光と会った時の頃を思い出してな・・・」

 

清光「あ、主もう良いじゃないのそんな昔の事・・・」

 

八幡「たった1年前だろうが。所でお前ら、今日も学校があるからな」

 

清光「うん」

 

安定「は~い」

 

清光と安定と別れ、顔を洗い、運動用ジャージに着替え外に出ると、俺を待っていたのか先客がいた。

 

???「主! 本日の走り込み、この長谷部がお供させていただきます!!」

 

八幡「朝からテンションたけぇな長谷部・・・」

 

暑苦しい忠義に少しげっそりしながらも、俺は灰色の短髪と精悍な顔つきに青いジャージを着た二十代位の青年と共にランニングを始めた。青年の名は“打刀 へし切長谷部”、第6天魔王と吟われた戦国武将“織田信長”の刀であったが、“へし切”と言う名を付けられ、更に直臣ではない黒田家に贈られたことを怒り、織田信長を嫌っている。刀剣男士として顕現してからは『審神者』である俺に本人曰く。

 

長谷部【全身全霊圧倒的責任感でお仕えします!】

 

と暑苦しい忠義を示してくれる。まぁ俺も最初はうっとおしいと思ったが、『主お世話係』として仕事を手伝ってくれるし、俺が学校に行っている間は本丸を任せているからあまり文句は言えん。

 

八幡「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・」

 

長谷部「主も走り込みの距離が段々長くなりましたね、体力が付いてきた証でしょう」

 

八幡「そうか? 1年間ランニングやってれば当然だろ? 特にここ、『本丸鎮守府』に居ればな・・・」

 

刀剣男士達が居る『本丸』の壁伝いに走っていた俺と長谷部は大きな日本家屋の本丸から、軍学校の宿舎がある軍港、『鎮守府』の敷地に入った。

 

???「あっ、おはようございます、“提督”に長谷部さん!」

 

俺と長谷部は鎮守府のグラウンドに付くと、同じように走り込みしていた少女に会った。

 

八幡「おはようさん、『吹雪』」

 

長谷部「おはよう」

 

茶色を帯びた黒髪を後ろに結わえた少女、“特型駆逐艦一番艦 吹雪”、かつて世界の海を荒らした謎の艦隊『深海凄艦』と戦う為に建造された『艦娘』の一人。

しかし現在は『深海凄艦』が現れる事が少なく、もっぱら艦娘達の任務は学園を載せた艦船『学園艦』の護衛や物質搬入や哨戒任務位しか無くなってしまったが、このまま廃らせておくのも勿体無いと考えた政府により、刀剣男士のいる『本丸』と艦娘がいる『鎮守府』を合併させた『本丸鎮守府』が生まれ、そして『審神者』である俺に艦娘を指揮する『提督』を任さた、と言うよりも押し付けられたんだよなぁ・・・と黄昏ている俺と並んで走る長谷部に吹雪の横を黄色い突風が追い越した。

 

八幡「ん? なんだ?」

 

吹雪「あっ『島風』ちゃん!」

 

島風「おう! 皆おっはよ~!」

 

黒いウサミミのカチューシャに超ミニスカートと露出の激しい格好をした中学生位の女の子『島風型駆逐艦 島風』。速さに自慢があるのか、俺が早朝の走り込みをしていると必ず現れては俺達の前を走るのが日課のようになっている。

それはいいのだが、せめて長谷部や吹雪のように運動用ジャージで来いよ! さっきからチラチラと超ミニスカートから見えそうで見えない絶対領域は思春期の少年には目に毒過ぎるんだよ! そんな俺の心境が分かったのか、吹雪は少しジト目に、長谷部は島風に向かって走り並ぶ。

 

長谷部「島風! 貴様、主より先に走るとはなんたる無礼だ!」

 

島風「おう! 長谷部っち、おっはよ~」

 

長谷部「おはようではない! いいかぁ! 俺とお前の主である比企谷八幡さまに対してお前と言う奴は日頃から・・・って話の最中に走り去るな貴様ーーーーーーーーっ!!!」

 

島風「長谷部っちおっそーーーーーーーーい」

 

長谷部「なんだと!? もう勘弁せん! 今日と言う今日こそ、叩斬ってくれるーーーーーーーーっ!!!」

 

長谷部のヤツ、島風と追いかけっこ始めてあっという間に遥か向こうに駆けていきやがった。

 

吹雪「提督・・・・」

 

八幡「ま、二人共腹が減ったら戻るだろう、そろそろ戻るぞ吹雪」

 

吹雪「はい・・・・」

 

俺と吹雪は切り上げて俺は本丸に、吹雪は鎮守府へと戻っていった。

 

 

***

 

朝風呂(鎮守府は室内風呂で本丸は露天風呂)でさっぱりすると長谷部が戻ってきて(島風には逃げられたらしい)、見事なスライディング土下座をかます長谷部をいさめて風呂に行かせると、執務室に戻って学校の制服に着替えた俺は朝メシ貰おうと本丸鎮守府の食堂に行く、すると食堂でマイエンジェルな妹、『比企谷小町』がいた。ちなみに本丸鎮守府の食堂は本丸と鎮守府の丁度間にある施設で、それぞれの施設への行き来にも使われている。

 

八幡「よっ小町」

 

小町「あっお兄ちゃんおはよう」

 

八幡「またこっちに来ていたのか? いくら“向こうと繋がっているから”ってそう頻繁に来て良い場所じゃないんだぞ。一応ここ政府や軍の施設なんだからな」

 

小町「良いじゃん、小町だってたまには鎮守府にいる艦娘の皆とおしゃべりしたいし、本丸でのんびりしたいんだから」

 

八幡「お前な、本丸鎮守府を憩いの場にしてんじゃねぇよ」

 

小町「そ・れ・に! お兄ちゃんの日頃どれだけ刀剣の皆さんや艦娘の皆さんに思われているか聞けるしさ、小町的にポイント高い!」

 

八幡「何のポイントだよ?」

 

???「まあまあ主、小町ちゃんは主を心配しているだけなんだから、そんなに邪険にすることないんじゃないかな?」

 

???「そうそ、俺らも小町が来んのは別に構わねぇよ」

 

八幡「“光忠”、“天龍”・・・・」

 

光忠「はい、主の朝ご飯持ってきたよ」

 

八幡「おうサンキュー」

 

俺に話しかけてきたのは、俺の朝食を持ってきてくれた、黒いジャージを着て高身長でサラサラとした黒髪に右目に眼帯を付けた伊達男、独眼竜と呼ばれた戦国武将“伊達政宗”の刀であった『太刀 燭台切光忠』と、光忠の身長を低くして女にしたような容姿で男口調で話す“光忠の恋人”、『天龍型軽巡洋艦一番艦 天龍』だ。光忠は伊達政宗がよく家臣や客人に料理を振る舞っていた為か、今では本丸鎮守府の台所番(光忠の他にもいる)として“食”を支えてくれる。天龍は食べる専門だが、食器並べ位の手伝いをしている。

 

八幡「んじゃいただくな」

 

光忠「はい召し上がれ。じゃ天ちゃん、僕達も台所に戻ろうか?」

 

天龍「あいよ光」

 

並び合って笑い合いながら台所に向かう刀艦カップル。

 

八幡「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・爆裂しろ」

 

小町「お兄ちゃん、みっともないからやめて。光忠さんと天龍さんがカップルになったのはお兄ちゃんのせいでも有るんだから」

 

八幡「分かってるから余計腹立つんだけどな・・・!」

 

小町「そう思うならお兄ちゃんも恋人作ったら?」

 

八幡「俺を養ってくれる女ならOKだ」

 

小町「小町的にポイント低いよお兄ちゃん、なんなら“足柄”さん辺りにでも・・・」

 

八幡「スマン、勘弁してくれ」

 

小町「即答?!」

 

なんて小町とバカ話しながら食事を終えていると、“俺と同じ制服”を着た清光と安定が恋仲である『川内型軽巡洋艦三番艦 那珂』と『川内型軽巡洋艦一番艦 川内』を連れてやって来た。

 

清光「主、小町ちゃん、そろそろ行こう」

 

八幡「へぇへぇ、また面倒くさい学校か・・・」

 

安定「文句言っちゃダメだよ、せっかく政府が学生である主に配慮してくれたんだから」

 

八幡「違うな安定、未成年の俺を政府の都合で働かせているのを世間にバレれば世論からパッシングを受けるのは間違い無しだ。だから学校生活の援助をすることで少しでも言い訳を作っておこうと言う汚い腹積もりだ」

 

清光「はいはい主のひねくれ思考はそのくらいにして早く行こうよ、遅刻したらまた風紀委員長がうるさいよ」

 

小町「すみません清光さん、安定さん、このゴミィちゃんがご面倒を掛けて・・・」

 

八幡「小町ちゃん、然り気無くお兄ちゃんをディスるのやめて」

 

清光と安定と小町と一緒に、俺は『審神者の執務室』に向かうと、刀剣男士達と艦娘達がこぞって見送りに来た。

 

???「主、勉強頑張れよ!」

 

???「勉学に励んで下さい、提督」

 

八幡「おう“兼定”、“長門”」

 

???「いってらっしゃい、主さん」

 

???「提督、気を付けて下さい!」

 

八幡「おう“堀川”、“吹雪”」

 

???「勉強に励むぜよ♪」

 

???「いってらっしゃ~い♪」

 

八幡「おう“陸奥守”、“陸奥”」

 

???「「頑張ってね主さん(提督)♪」」

 

八幡「おう“鯰尾”、“時雨”」

 

???「主、気を付けてくれ」

 

???「提督ファイトっぽい!」

 

八幡「おう“骨喰”、“夕立”」

 

???「主、お気を付けて」

 

???「いってらっしゃいませ」

 

八幡「おう“蜻蛉切”、“鳳翔”」

 

???「主・・・いってらっしゃい」

 

???「いってらっしゃいませ提督」

 

八幡「あぁ“お小夜”、“扶桑”」

 

???「今日は驚きのある学園生活になれば良いな主♪」

 

???「お気を付けて提督」

 

八幡「おう“鶴丸”、“翔鶴”」

 

???「大将、怪我すんなよ」

 

???「いってらっしゃ~い提督♪」

 

八幡「おう“薬研”、“愛宕”」

 

???「今日は善き日になると思うぞ主」

 

???「いってらっしゃい提督!」

 

???「いってらっしゃいませ、提督」

 

八幡「おう“宗近”、“三日月”、“高雄”」

 

見送りに来た奴らに挨拶している後ろで、長谷部が清光と安定に話しかけていた。

 

長谷部「良いか加州に大和守、俺達刀剣男士の中で加州は一番の古株で大和守は相棒だから連携が取れやすいし、主と外見年齢が同じだから主が学園生活する上で、主の“護衛役”として選ばれた以上、主の剣となり盾となり「もう、長谷部っち話なっが~い」うわっ! コラ島風! 話をしているのに横槍いれるな!!」

 

清光「分かってるよ長谷部、ちゃんと主の護衛はするって。じゃ、那珂ちゃん、いってくるよ」

 

那加「うん、いってらっしゃい清光くん♪」

 

川内「しっかりな、安定!」

 

安定「任せておいて、川内♪」

 

長谷部「いってらっしゃいませ、小町様」

 

島風「小町ちゃんもまた来てね~~」

 

小町「ありがとう長谷部さん、島風ちゃん!」

 

???「主、一つ“厄払いの祈祷”をやっておこうと思いますが・・・」

 

???「何か良くない事が有るかも知れないし・・・」

 

八幡「心配しなくて良いぜ、“石切丸”、“飛鷹”。清光、安定、小町、行くぞ」

 

そして俺達は『審神者の執務室』にある扉を開くと、いつもの『学園艦にある俺の家の部屋』に付いた。相変わらずまるで“ド○え○ん”の“○こ○も○ア”みたいな感じだ。

 

小町「んじゃお兄ちゃん、小町こっちだからまた放課後にね~。清光さん、安定さん、ろくでなしの兄を宜しくお願いしま~す」

 

だから小町ちゃん、何故君は兄を息を吐くように簡単にディスるの? お兄ちゃん泣きそう・・・。

それから少し歩くと、前方の女子寮から一人の女の子が出てきて学校に向かって行った。あの女の子って最近転校してきた・・・。

 

清光「主、あの娘・・・『西住みほ』だよね?」

 

八幡「あぁそうだな・・・」

 

安定「『西住みほ』って、“戦車道”の家元の娘のあの西住みほさん? 何で大洗に??」

 

清光「あぁ安定は西住さんが転校してきた時、遠征任務だったな」

 

『戦車道』。華道や茶道や舞踊のような乙女の嗜みとして乙女が戦車に乗って大砲を撃ち合って勝負するマイナーなスポーツだ。俺も男の子だから戦車に好きだから戦車道の試合を見ている。無論“去年の決勝戦”も。

 

八幡「(本来戦車道の名門『黒森峰女学院』にいる筈の彼女が“戦車道が無い”が無い大洗にいるって事は・・・)」

 

???「ちょっと! そこのアナタ! 目が腐ってるわよ! シャキッとしなさい!!」

 

八幡「ゲッ、“園先輩”」

 

園「ゲッとは何よ!? 普通科二年A組の比企谷八幡くん! 貴方のその目付きは風紀を乱すわ!! あと、同じく普通科二年A組の“加藤清光”くん! 貴方はまたマニキュアをして!! それに同じく普通科二年A組の“山本安定”くん! 貴方もその髪型、校則違反よ!!」

 

考え事をしている内に学園の門前に来ていた俺達は、『大洗学園風紀委員長 園みどり子先輩』に捕まっていた。風紀委員は全員が黒髪おかっぱ頭で見分けが付かないが、何故か風紀委員には見分けが付くらしい。

因みに“加藤清光”、“山本安定”、これは清光と安定の学校での偽名だ。もしも刀剣の事を知る人間がいても誤魔化せるようにだ。

 

清光「だって可愛くお洒落したいじゃん、園先輩」

 

安定「この髪型は生まれつきなんだよ、みどり子先輩」

 

園「言い訳無用よ!!」

 

八幡「清! 安! 逃げるぞ!」

 

吠える風紀委員から逃げるように退散する俺と清光と安定は教室に入ると件の“西住みほ”が居るのを確認した。

 

安定「(西住さん、まだクラスに馴染んでいないみたいだね)」

 

清光「(そりゃそうさ、いきなり転校してきてあっという間に友達を作れる程、彼女って器用な方じゃなさそうだしさ)」

 

八幡「(しかしあの程度で“ボッチ”を語るのは早いな。真のボッチとは孤高にして至高の存在で・・・)」

 

清・安「「(主、バカな思考を巡らせないでよね)」」

 

何でコイツらと言い、本丸鎮守府の奴らや小町と言い俺の考えが読めるの!? 先駆者か!? 脳量子波で読んでるのか!?

なんてバカな思考をしている内に席に付くと、清光は女子に囲まれながらファッション誌でのお洒落話に花を咲かせ、安定は剣道部の連中から大会の助っ人を頼まれていたりと、コイツら主の俺よりも学園生活を満喫してやがる・・・・。

 

ピンポンパンポン~♪

 

アナウンサー《生徒会から連絡~、生徒会から連絡~、普通科二年A組の比企谷八幡くん、加藤清光くん、山本安定くん、至急生徒会室にお越し下さ~い。繰り返します。普通科二年A組の比企谷八幡くん、加藤清光くん、山本安定くん、至急生徒会室にお越し下さ~い》

 

八・清・安「「「ッッ!!??」」」

 

校内放送で“生徒会”の単語を聞いた瞬間、俺と清光と安定はすぐに教室から嫌、学校からズラかろうとした。この学園で“生徒会”に呼び出されると言う事は、“録でもない厄介事”に巻き込まれると言う意味だからだ!

逃げようと教室のドアに手をかけた瞬間、俺の脳裏に学校へ向かう際に“鶴丸”と“宗近”が言っていた事がよぎった。

 

鶴丸【今日は驚きのある学園生活になれば良いな主♪】

 

宗近【今日は善き日になると思うぞ主】

 

こんな驚き願い下げだし、絶対に善き日にはならないぞ! 清光にしろ安定にしろ、今まで散々ばら振り回されたあの『魔王』の企みに満ちた笑みが浮かび上がったのか身震いしているし! 冗談じゃねぇ! 只でさえ忙しいのにあの『魔王』の悪巧みに付き合ってなんかいられるか!! ドアを開けてトンズラかまそうとしていた俺達の目の前に、“赤い髪をツインテールにした小柄な女子生徒”がいた。

 

八・清・定「「「げっ・・・・!」」」

 

その生徒を見た瞬間、俺達は理解した・・・理解してしまったのだ・・・『魔王』からは逃げられないと・・・・。

 

???「やぁやぁ比企谷ちゃんに加藤ちゃんに山本ちゃん。どこ行くのかなぁ~~?」

 

その『魔王』の企みに満ちた笑みを笑顔を見た時、俺は心の中で懺悔した。

 

八幡「(スマン“石切丸”に“飛鷹”・・・やっぱり“厄払いの祈祷”してもらえば良かったわ・・・・)」

 

魔王と書いて『生徒会長 角谷杏』に首根っこを捕まれ引き摺られる俺に付いてくる清光と安定の諦めた表情を眺めながら、俺は石切丸や飛鷹に祈祷をしてもらえば良かったと、心の底から後悔していた。

 

この後、学生でありながら政府直轄の『とある本丸鎮守府』の“審神者兼提督”として刀剣男士達と艦娘達と共に歴史と世界の海を守っている俺に、更なる面倒事が降りかかる事をこの時の俺は知る由もなかったーーーー。




こんな感じです、因みに大洗学園は共学で、男子生徒の制服は総武高校の制服(ブレザーの色は緑色)です。

小町の在籍している中学校は本来は無いですが、今作のオリジナル設定です。

刀剣男子と艦娘のカップリングはまだまだ増えます!

次回でガールズ&パンツァーの主人公チームの三人と、八幡と清光と安定が出会います。


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こうして彼は戦車道に参加する

ストーリーはガルパン沿いで行きます。


青春とは嘘であり、悪である。青春を謳歌せし者達は、常に自己と周囲を欺き、自らの取り巻く環境の全てを肯定的に捕らえ、青春の1ページとして思い出に刻もうとする。

 

例えば『学園艦』、“来るべき国際化社会の為に広い視野で大きく世界に羽ばたく人材の育成と、生徒の自主独立心を養い高度な学生自治を行うために、これからの教育は海上で行うべし”と唱われてはいるが、数年前まで世界の海で猛威を振るっていた『深海凄艦』が姿を消した事で海から脅威が無くなった事を世論にアピールする為に造られたシステムである。

 

そしてもう1つが『戦車道』。『深海凄艦』との戦闘では精々海岸で『深海凄艦』への防波堤代わりにしか役に立たなかった戦車には、国が開発・量産の為に莫大な費用が掛かっている。それを廃らせたくなかった人間達が、“乙女の嗜み”と謳い文句を付けて“戦争の兵器”を“競技用の玩具”にして、尚且つ女の子達の“戦争ごっこ”の小道具に仕立てあげた、つまり『学園艦』も『戦車道』も、“国家の見栄と虚栄心”の為に造られた政治的・軍事的プロパガンダに過ぎないのだ。

 

しかしそれに気づかない世の中の暢気なリア中共は学園艦に乗れば、「うわ~、海風がとても気持ち良い、最高~♪」とかほざき、戦車道をやる女子連中は、「やった当たった! ウチ等なら戦争やっても楽勝っしょ♪」と調子に乗った妄言をくっちゃべる。

 

そして彼等は忘れている。『深海凄艦』から我々を守ってくれた艦隊娘達を『無用の長物』扱いしている事を。誰が深海から我々を守ってくれたんだ。その“恩”すらも忘れて学園艦や戦車道に現を抜かしている。

 

結論から言おう。全艦娘よ! 学園艦のリア充共を撃滅せよ!! 戦車道に現を抜かしている暇が有るならリア充を撃て!!

 

 

 

???「アハハハハハハハハハハハハッッ!! やっぱ比企谷ちゃんって面白いね~~! ア~ハハハハハハハハハハハハッッ!!」

 

目の前で生徒会長の机に座り、俺の作文と言う名の黒歴史を心の底から面白そうに音読する赤い髪をツインテールにした小柄な女子生徒。何を隠そうこの人こそ、この『大洗学園生徒会会長 角谷杏』さん。見た目で言えば、『中学生位の駆逐艦クラス』の女の子だがこの姿に騙されてはいけない。

 

一応この人は俺より“年上の三年生”なのである。もう一度言おう、“年上の三年生”なのである!

 

しかもこの人はこの学園の理事長よりも強い権限を持ち、学園を裏から仕切っている『裏の支配者』なのだ。その権限で俺や清光や安定は何度この人の無茶振りに付き合わされて来たことか!

 

清光「(ボソボソ)ちょっと主、何やってんの・・・?」

 

安定「(ボソボソ)この会長に弱みを握られる事がどれだけ恐ろしい事か、主が一番良く知ってるのに・・・」

 

八幡「(ボソボソ)書いてる内についペンが進んで、止まらなくなってしまったんだ・・・」

 

後ろに控えている安定と清光からの耳に痛い呆れた苦言を聞きながら俺は内心頭を抱えた。マジでなんであんな事を書いたんだ、今すぐにでも長谷部に『装置』で過去に戻ってもらってあの時の俺を止めて来てくれと命じたい! まぁできないんだけどね・・・・。

 

???「比企谷くん、作文の題名は覚えている?」

 

八幡「え~と、『高校生活を振り返って』ですかね?」

 

???「それがどうして『学園艦』や『戦車道』に対する文句と、全艦娘さん達を巻き込んだテロ宣言になっちゃったの・・・?」

 

俺の答えに呆れたため息を吐いているこの三年生の先輩は『大洗学園生徒会副会長 小山柚子』先輩(三年生)。茶髪の髪をアップしてポニーテールにし、おっとりとした雰囲気をした先輩。隠れファンも多く、清光と安定が女子や男子から聞いた話では。

 

『お付き合いしたい三年女子ランキング』、『お嫁さんにしたい三年女子ランキング』、『甘えたい三年女子ランキング』、『お姉様と呼びたい三年女子ランキング』、『あの“膨らみ”に頭からダイブしたい三年女子ランキング』他多数。

 

これらのランキングで不動の1位に君臨する三年生のマドンナである。そのおっとりとした雰囲気に反した『空母艦クラス』の凶悪(胸悪?)なバストサイズをしているのも人気の一つだ。

 

???「おい貴様ら! 何だその気の抜けた態度は! 会長の話をちゃんと聞いているのか!?」

 

安定「あっ、“桃ちゃん先輩”」

 

清光「“桃ちゃん先輩”が吠えた」

 

桃ちゃん?「“桃ちゃん”と呼ぶな!加藤清光に山本安定!」

 

前髪を弄っていた清光と大きな欠伸をしていた安定に怒鳴っているのは、『大洗学園生徒会広報 河嶋桃』先輩(三年生)。黒髪に片眼鏡をした一見すると知的な美人なのだが、その実成績は下位の方で、かなりの“ヘタレ”なのではないかと清光と安定は見抜いている。

 

河嶋「比企谷! 貴様はコイツらの上官だろう!? 一体どういう教育をしているんだ!?」

 

八幡「ウチは基本放任主義なんで(あぁ五月蝿い・・・)」

 

清光と安定が“付喪神”である事は言えないので、生徒会には、この二人は俺の“部下”と言う事で通っているが、河嶋先輩はどうもこの二人といまいち反りが合わないのか良く俺に文句を言うが華麗に聞き流す。

フッ、1年前の俺なら河嶋先輩のようなタイプに怒鳴られれば内心ビビっていただろうが、残念ながら我が鎮守府には『怜悧冷徹に睨む空母艦』、『にこやかな笑みで薙刀を振り回す軽巡洋艦』、『恐怖の笑みを浮かべるクレイジーサイコレズの軽巡洋艦』、『迫力が半端無い嫁き遅れ間近の重巡洋艦』等と河嶋先輩など足元にも及ばない程の超怖い女性達がいるからな! ソイツらに比べたら河嶋先輩の怒鳴りなどまるで子犬が吠えているみたいな気分だ。

 

八幡「(長谷部にどやされてる時の刀剣の奴等もきっとこんな気分なんだろうな・・・)」

 

ギャイギャイと右耳から左耳へと聞き流している清光と安定に怒鳴る河嶋先輩を眺めていると、生徒会長が声を上げた。

 

角谷「まぁまぁもうその辺で良いだろう河嶋。所でさ比企谷ちゃん、何で呼び出されたか分かる?」

 

八幡「ん? その作文の事ではないんですか?」

 

角谷「まぁ私として面白いからこれはこれで有りなんだけどねぇ、生徒会長としては容認出来ないんだよねぇ」

 

八幡「分かりましたよ、書き直せば良いんですね・・・」

 

会長に近づいて作文<黒歴史>を取ろうとしたらヒラリとかわされる。

 

角谷「いやいやまさかそれで許されるとでも?」

 

ニヤリとした笑みを浮かべる会長を見て、俺と後ろにいる清光と安定も同じ気持ちだろう。

 

八・清・安「「「(あっ、面倒な悪企みを考えてる・・・)」」」

 

逃げても無駄だと言うのはこの一年ばかりの付き合いで理解しているのでほぼ諦め状態の俺は会長に話す。

 

八幡「何が目的ですか? 沖縄か北海道辺りに遊びに行きたいから護衛艦を寄越してくれですか? 艦娘達を連れてきて一緒に遊びたいんですか? それとも鎮守府を見せてくれですか? 最後以外なら何とかやってみますけど?」

 

俺がそう答えると会長と河嶋先輩と小山先輩が目線を合わせる。

 

角谷「まぁこの作文は面白そうだから出しただけだけど、本当に分からないの、 “比企谷提督”?」

 

八幡「・・・・・・・・・・・・」

 

この人が俺を“提督”と呼ぶ時は『大洗学園の生徒である比企谷八幡』ではなく、『鎮守府提督である比企谷八幡』に用がある時だけだ。学園艦の護衛艦をする艦娘達を指揮を行う『提督』の役職上、何度もこの人や他の学園艦の人達とうち合わせの話をするからである。勿論俺が『提督』である事は理事長や一部の教師陣と、生徒会の人達くらい、他の学園艦の人達も同様だ。

 

八幡「どういう事ですか? 『角谷杏大洗生徒会長』?」

 

そして俺が『提督』として気持ちを切り換えると、清光と安定の纏う雰囲気もピシッとした空気に変わる。

 

角谷「実はね、ーーーーーーーーーーーー」

 

八・清・安「「「っ!?」」」

 

角谷会長から放たれた言葉に俺だけでなく清光も安定も驚きを露にした。思わず目を鋭くした俺に河嶋先輩がびびって小山先輩の背中に隠れたが今は気にも止めなかった。

 

 

 

~数十分後~

 

八・清・安「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

午前の授業を免除してもらって生徒会室を後にした俺達三人は屋上に行き、俺は長谷部と“長門”に連絡を入れて、角谷先輩が言っていた事が事実か調査して貰い、待っている間に俺と清光と安定は屋上の床に座りながら、俺は来る途中に購入したMAXコーヒー(略してマッ缶)を飲み、清光は烏龍茶、安定は緑茶を飲んでいた。

 

清光「主・・・角谷会長が言っていた提案、どうするの?」

 

安定「そうだよね、もしも本当の事だったら・・・」

 

八幡「そんときは会長の“策”に乗るしかないな」

 

ドゴォーーーーーーーーーーーーン!

 

俺の携帯の着信音である戦車の大砲の砲音が鳴り響き、直ぐ様俺は電話に出ると長谷部と、長谷部と一緒にいる鎮守府で俺の『秘書艦』である『長門型1番艦戦艦 長門』と『秘書艦補佐』である『長門型2番艦戦艦 陸奥』からの報告を聞いていると、次第に俺の腸がグツグツと煮え、携帯を握る拳が強くなる。

 

安定「(ボソボソ)主の目付きが段々鋭くなってる・・・」

 

清光「(ボソボソ)これは会長の言っていた事が事実だったようね・・・」

 

俺は携帯を切ると、一度気持ちを落ち着かせようとまだ大分残っているMAXコーヒーをイッキ飲みする。

 

八幡「フゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・」

 

清光「主、一応聞くけどさ、どうだったの?」

 

八幡「『こんのすけ』にも確認を取ってもらった。どうやら本当のようだ・・・やってくれやがったな、あの“エリート気取りの陰険陰湿七三メガネ”が・・・!」

 

安定「で、主どうするの?」

 

八幡「ハァ、学園で“主”はやめろ清、安・・・」

 

清光「それじゃさ、どうするの“八さん”?」

 

清光、安定は『どんな判断を下しても、俺達は付いていくよ』と謂わんばかりの瞳で見つめる。少し前の俺ならこんな瞳をした奴等、信用しなかったろうが・・・この二人は、この二振りは、嫌・・・俺の“刀達”と“艦達”なら、信じられる!

 

八幡「清光、安定、やるぞ・・・『戦車道』!」

 

清・安「「(コクン)」」

 

二振りが頷くのを確認した俺は生徒会室へと向かった。

 

 

 

ー二年A組ー

 

さて『戦車道』をやる事を決めて、会長にこの事を報告すると。

 

角谷《それじゃぁさ、ちょっと『西住ちゃん』を生徒会室に連れて来てくれないかな? 比企谷ちゃん達と同じクラスの『西住みほ』さん、ヨロシクね♪ あと比企谷ちゃん達は“生徒会の仕事の手伝い”って事で午前の授業を免除したから♪》

 

と言われた。生徒会の仕事の手伝いでまかり通ってしまう辺り、この生徒会長の恐ろしさが分かるわ。そして昼休みに西住を探して教室に行くと、俺らが生徒会に呼ばれている間に、いつの間にか茶髪のロングで結構カワイイ系の女子と“扶桑”と“榛名”と少し似た感じの黒髪ロングの和風美人と話している西住みほがいた。

 

八幡「西住、ほんの少し前まで俺と同じボッチだったのに一体何が起きた・・・!?」

 

清光「あの子達って、沙織ちゃんに華さんだね」

 

八幡「流石は清光、女子生徒と顔見知りが多いな。んで俺らと同じクラス?」

 

安定「八さん、クラスメートの顔くらい覚えておきなよ・・・」

 

八幡「多忙の俺にクラスメートの顔を覚える余裕などない」

 

清光「あぁ、そうね・・・茶髪の子は『武部沙織』ちゃん。何度か男子にモテる方法とかファッションで話をしてるよ、かなり社交性も有るし気さくで明るいし、話しやすいし他の女子に聞いたけど、女子力も結構高いって言うし、何でモテないんだと不思議に思う女の子だよ」

 

八幡「ふーん、んでもう1人は?」

 

清光「黒髪の方は『五十鈴華』さん、何でも実家が“華道の家元”つまりお嬢様だね、少し世間知らずでずれていて天然な所はあるけど、物腰穏やかで礼儀正しい大和撫子な女の子だよ。確か沙織ちゃんとは幼なじみだって聞いたな」

 

安定「へぇ、“大和”さんや“扶桑”さんや“榛名”さんみたいな感じなんだ」

 

なるほど社交的な性格をした二人がまだクラスに馴染めていない西住を気遣って話しかけて、友人になったってことね。

 

安定「主、早く西住さんを呼んできなよ」

 

八幡「わーてるよ安定・・・・清光、ちょっと呼んでこい」

 

清光「えぇ、俺?」

 

当然だろう、日頃から女子と混じってファッション情報やらお洒落談義に花を咲かせているお前なら女子を呼び出す事なんて造作もないだろう、適材適所だ。

 

清・安「「まったくヘタレなんだから・・・・」」

 

八幡「ヘタレではない、適材適所だ」

 

呆れ顔で心外な事を言う二振りだな。

 

 

ーみほsideー

 

西住みほが武部沙織と五十鈴華と楽しく談笑していた。元々率先して人と話す性格でもないみほにとって自分に話しかけてくれた沙織と華には本当に感謝していた。

 

清光「西住さん、ちょっと良いかな?」

 

みほが沙織や華と談笑していると、自分の名を呼ばれたので隣に目を向けると。黒い髪にツリ目の赤い瞳をし、白い肌をし口元にホクロを付けた綺麗と言うより可愛い男の子がいた。

 

みほ「えっと、加藤清光くん?」

 

清光「あれ、俺の名前知ってるの? 参ったなぁ転校生が注目しちゃう程俺って可愛い?」

 

みほ「えっ・・・そのあの私、クラスの皆と友達になりたいからクラスの皆の名前を覚えていて・・・」

 

清光「えっそうなの? 凄い記憶力だね。それってさ、俺とも友達になりたいってこと?」

 

沙織「ちょっとちょっと清くん、あんまりみほを困らせないでよね。それに午前中何処行ってたの?」

 

グイグイくる清光に参っているみほに助け船を出す沙織。

 

清光「ゴメンゴメン沙織ちゃん。ちょっとからかっただけだよ♪ 午前中は用事が有ってね、先生からは許可を貰っているよ。それよりもさ西住さん、ちょっと俺に付き合ってくれない?」

 

みほ「えっ? 付き合うって・・・?」

 

沙織「えぇっ!? 清くん、みほに何をするの!? まさか、これまで多くの女子とお友達になってきたカワイイおしゃれ系男子の清くんに、遂にお付き合いしたい女の子が?!」

 

華「沙織さん、落ち着いてください。加藤さん、みほさんに何の御用でしょうか?」

 

はしゃぐ沙織を抑えながら、華は少し警戒しながら清光を見据える。

 

清光「そんなに睨まないでよ華さん、俺が、と言うよりも、あっちにいる人が用があるんだ・・・」

 

清光が親指を立てて、安定といる八幡を指差す。

 

沙織「安君に・・・えっと誰だっけ?」

 

みほ「比企谷八幡君だよね?」

 

清光「西住さんホントに記憶力良いね。沙織ちゃん一応クラスメートの顔くらいは覚えていてよ」

 

沙織「あっ、思い出した! 清君と安君の席の中間に座っているいつも歴史書を読んでたり、2つのiP○dで遊んでいる人だ!」

 

一応八幡の名誉の為に言うが、歴史書を読んでいるのは“刀剣達の歴史”や“艦娘達の歴史”を知る為に読み、2つのi○adは1つは“審神者の仕事用”として、もう1つは“提督の仕事用”として使っているのだ。

 

清光「まぁね、あの人女の子と話すの馴れてないからね、俺が呼びに来たってワケ、良いかな西住ちゃん?」

 

みほ「えっ・・・うん」

 

清光に連れられ、八幡達と廊下に向かうみほ。

 

沙織「華ってさ、なんで清くんと安くんをそんなに警戒するの? 清くんって良くおしゃれ話やモテる方法とか教えてくれるし、安くんも明るくて感じの良い子じゃん」

 

華「それは私も分かってはいます。あの人達が悪人ではない誠実な方達である事くらいは・・・」

 

沙織「じゃ何で警戒するの? 華がそういう態度取るなんて珍しいから気になるよ」

 

華「・・・・沙織さん、加藤さんと山本さんの“匂い”を嗅いだこと有りますか?」

 

沙織「“匂い”って、清くんも安くんもハーブの良い香りがしているけど・・・」

 

華「えぇ、それに比企谷八幡さんからも同じ香りがしています」

 

沙織「そう言えばあの三人っていつも一緒にいるよね~、男の子同士で同じ香りがする香水でも使ってるのかな?」

 

華「比企谷さんからはハーブの他に薄荷<ミント>の香りや、“鉄と油”の匂いが混じっています」

 

沙織「えっ、そうなの!? 華って嗅覚凄いよね・・・」

 

華「それに加藤さんと山本さんからは・・・」

 

沙織「ん?」

 

華「わずかに“鉄”の他に、“血”の匂いが混じった匂いがするんです」

 

五十鈴華。華道の家元故に嗅覚が鋭く、比企谷八幡と加藤清光こと加州清光、山本安定こと大和守安定の身体から発する匂いが、華の心に警戒を浮かべさせていた。

 

 

ー八幡sideー

 

八幡「単刀直入に言うぞ西住さん、生徒会からの要望を伝える。必修選択科目、『戦車道』にしてもらうから」

 

みほ「えっ!?」

 

西住が戸惑いを浮かべるのも無理ないな。この学園の必須科目は『茶道』、『書道』、『華道』、『弓道』、『合気道』、『香道』、『長刀道』、『仙道』、『忍道』と有り、『戦車道』は無かった。後半の何だ?というツッコミは無しだ。

 

みほ「ひ、比企谷くん、この学園って『戦車道』は無かった筈じゃ・・・」

 

八幡「何でも昔は有ったらしくてな、今年から復活させる事にしたようだ。だがウチの生徒会も戦車道の経験が無いからな、西住の実家はその道の“家元”だろう? つまり経験者だ。経験者の知識が必要だから協力してくれ」

 

みほ「で、でも比企谷君私・・・!」

 

八幡「さっき言った事一つ訂正するな、これは生徒会からの“要望”ではなく“命令”だ。悪いが拒否権は無い物と考えてくれ」

 

みほ「そ、そんな・・・・」

 

うわっ、西住の目が目に見えて分かるほど死んでいる。

 

清光「うわっ、始めて会った時の八さんと同じ目になってる・・・」

 

安定「へぇ、八さんってあんな死人のような目だったんだね・・・」

 

そこの打刀二振り、五月蝿いよ。

 

沙織「ちょっと比企谷君!!」

 

うわっ、何かさらに五月蝿くなりそうなのが来たよ・・・。

 

沙織「いくらフラれたからってみほに何をしたのよ!」

 

八幡「お前こそ何言ってんだ?」

 

清光「沙織ちゃんは何言ってんの?」

 

安定「沙織さん、何を言ってるの?」

 

俺と清光と安定にツッコまれた武部はキョトンとした。

 

沙織「えっ? みほをめぐって比企谷君と清君と安君による四角関係の修羅場が始まったんじゃないの?」

 

八・清・安「「「全然違うから・・・」」」

 

どこをどう見たら俺達が西住をめぐってそんな昼ドラよろしくみたいなドロドロ展開を起こしたと思うんだ? 第一清光には“那珂”がいるし、安定には“川内”がいるんだぞ。ん、俺? “年齢=彼女いない歴”ですがなにか?

 

華「だから言ったじゃないですか、そんな痴情の縺れを起こしているようには見えませんって」

 

五十鈴が呆れたように出てきた。サラッとコイツら盗み見してやがったな。

 

安定「西住さ~ん、正気に戻って~」

 

安定が茫然自失し立ち往生した西住の眼前で手を振ると西住は口から白い靄を出てきた。あれ魂か? 器用な事するなぁ・・・。

 

清光「西住ちゃん大丈夫? 保健室行ったら?」

 

みほ「うん・・・そうする・・・」

 

西住がフラフラとした足取りで保健室に向かった、瞳のハイライトさん仕事しろよ。

 

沙織「・・・・あっ! 私も急に具合が悪くなって来ちゃった!」

 

華「私も急に持病の癪が・・・!」

 

八・清・安「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

わざとらしく仮病を使うなコイツら。

 

八幡「先生には言っとくからお前らも保健室行ってこいよ」

 

沙織「ありがとうね比企谷! 華行くよ!」

 

華「はい、では失礼します」

 

俺にお礼を言って保健室に走っていく武部と五十鈴。病人なら静かに動けよ、仮病だってバレるぞ。俺にお礼を言うのは筋違いだろうがよ」

 

清光「八さん、声に出てるよ」

 

八幡「おっと・・・・」

 

安定「二人共、友達想いだよね」

 

清光「西住ちゃん、良い友達を持ったじゃん」

 

八幡「フン、清、安、教室に戻るぞ」

 

さてさて、これからどうなる事やら・・・・。

 




しばらくは刀剣と艦娘は出番無しです。


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やはり審神者の仕事も大変である

刀剣乱舞の方は『花丸』での出陣や騒動を織り混ぜます。時系列とかかなり無視しています。


河嶋《全校生徒に告ぐ、体育館に集合せよ、体育館に集合せよ・・・》

 

西住と武部と五十鈴が保健室に行って少しして、河嶋先輩からの放送が流れ、全校生徒は体育館へと集まり、ステージの前では風紀委員の生徒が壁を作るように列び、その後ろから生徒会の三人が現れた。俺と清光と安定は西住の様子が見えるように近くに座る。ストーカーではないからな断じて。

 

安定「八さん、会長が遂に始めるみたいだよ」

 

清光「これから大変だね」

 

八幡「ま、ウチの生徒会が何かやるのはこの学園の生徒なら最早慣れっこなモノだからな」

 

そして生徒会の巻き起こす面倒事に漏れなく巻き込まれるのはいつも俺達なんだよな。なんでさ・・・。

 

河嶋「静かに! それではこれから必修選択科目のオリエンテーションを開始する」

 

河嶋先輩が告げると、体育館の明かりが消えて、生徒会の三人の後ろのスクリーンにプロモーション映像が映し出される。

 

【戦車道入門】と力強く達筆で書かれた画面が映され、アナウンスが流れる。

 

アナウンス《戦車道。それは、伝統的文化であり、世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきました》

 

アナウンスを聞きながらチラッと西住のいる方を見ると、西住が項垂れていた。残念ながら西住、生徒会はお前を逃がすつもりは無いようだ。

 

アナウンス《伝説の有る、淑やかで慎ましく、そして凛々しい婦女子を育成する事を目指した、武芸でも有ります》

 

清光「(ボソボソ)“伝説”って、“淑やかで慎ましくて凛々しい婦女子”なんて、俺達は毎日のように見てるよ」

 

安定「(ボソボソ)“大和”さんとか“扶桑”さんとか“鳳翔”さんとか“間宮”さんとか“翔鶴”さんとか“千歳”さんとか、その手の女の人達は良く見ているからね」

 

八幡「(ボソボソ)別に戦車道でそんな大和撫子な乙女が生まれるとは思えんが・・・」

 

むしろ好戦的な漢のような乙女、“漢女”が生まれるのでは? “天龍”とか“木曾”みたいな・・・。チラッと見ると西住は更に項垂れ、武部は注目し、五十鈴は目を輝かせている。おい西住よ、お友達が生徒会の策略に取り込まれそうになってるぞ。

 

アナウンス《戦車道を学ぶ事は、女子としての道を“極める”事でもあります。鉄のように熱く強く、無限機動のようにカタカタと愛らしい、そして大砲のように情熱的で必殺命中!》

 

ドオオオオオオオオオンンっ!!

 

映像の中の戦車が大砲を放ち、体育館にいる生徒の大半がそれに驚いていた。艦娘達の演習を間近で見ている俺達には派手なBGMに聞こえる。まぁ俺は戦車の砲撃音も嫌いではないが・・・・。

 

アナウンス《戦車道を学べば、必ずや良き妻、良き母、良き職業婦人になれることでしょ。健康的で、優しく逞しい貴方は、多くの男性に好意をもって受け入れられる筈です》

 

戦車乗ってりゃ良妻賢母になれんのかよ? 周りを見ると男子生徒達は戦車を見ている奴から、欠伸をしている奴や寝ている奴がチラホラ見れるな。まぁ戦車道は女子の嗜みだから男子にはあまり興味が湧かないよな、本来は男の乗り物なのに。西住の奴、聞こえないフリをしようとしてるし、武部なんて顔を赤らめて食い入るように見てやがる。

 

清光「(ボソボソ)俺はどうせなら一緒にお洒落を楽しんだり、髪飾りとかを可愛くデコったりして楽しめる、明るい子が好きだけどなぁ」

 

安定「(ボソボソ)僕は一緒に戦闘を楽しめる好戦的な女の子が好きだから、戦車道をやる女の子は悪くないと思うよ」

 

八幡「(ボソボソ)お前ら良かったな、ストライクな女の子と恋仲になれて」

 

とっとと爆裂しやがれ・・・・!

 

アナウンス《さぁ!皆さんも是非、戦車道を学び、心身ともに健やかで美しい女性になりましょう!》

 

最後に【来たれ乙女達!】と又もや達筆で書かれた画面が映し出され、やっとプロモーション映像は終了した。するとステージで小さな爆発が起きて、会場が少しどよめく、派手過ぎだろうが。煙が晴れると生徒会三人衆が再び壇上に立つ。

 

沙織「はぁ~~~・・・///」

 

華「素敵ね・・・///」

 

みほ「・・・・・あっ・・・あぁっ・・・!」

 

武部は恍惚なため息を吐き、五十鈴は頬を赤らめ、西住は漸く顔をあげると、すっかりその気になっている友人二人に戸惑う。

 

八・清・安「「「(不憫な・・・)」」」

 

哀れみの目で見る俺達だが、壇上の河嶋先輩が演説をはじめる。

 

河嶋「実は、数年後に戦車道の世界大会が、日本で開催される事になった。その為、文科省から全国の高校大学に、戦車道に力を入れるよう要請があったのだ」

 

角谷「んで! ウチの学校も戦車道を復活させるからねぇ。あ、男子の皆は関係無い態度を取っちゃダメだよ~、何人かの男子生徒には戦車道の『マネージャー』をやってもらうからね~♪」(チラリ)

 

会長が一瞬チラリと俺達を見据えた。あぁ、『マネージャー』って俺達なのね・・・。

 

角谷「選択すると色々特典を与えちゃおうと思うんだ、副会長」

 

小山「成績優秀者には、『食堂の食券100枚』、『遅刻見逃し200日』、さらに『通常授業の三倍の単位』をあげます!」

 

『おお~~~~っ!!』

 

なるほど特典で部員を釣る作戦か、まぁ『食券』に『遅刻見逃し』に『三倍の単位』ともなれば、参加者はかなりの数が期待できるな。

 

安定「(ボソボソ)随分と思いきったね・・・」

 

清光「(ボソボソ)それだけ、あの会長達も必死って事でしょ」

 

八幡「・・・・・・・・」

 

角谷「と言う訳でよろしく~♪」

 

会長の一言で集会はこれにて解散となった。

 

 

ー八幡sideー

 

河嶋「断られただとぉーーーーーーーーっ!!??」

 

集会が解散された後、俺と清光と安定は生徒会室に行って西住の勧誘失敗を報告すると、予想通り河嶋先輩の怒号が響いた。あぁマジうるさい・・・・。

 

河嶋「貴様らはぁっ! 男が三人も揃って、人一人を勧誘する事すらできんのかぁっ!?」

 

清光「そんな事言われても、本人がやりたくないって感じなのに無理矢理やらせても戦力にはならないでしょう?」

 

安定「西住さん自身がやる気にならないとどうにもならないよ」

 

河嶋「貴様らはやる気があるというのかっ!? 西住が加入しなければ!」

 

角谷「カーシマ、少し黙って~」

 

河嶋「か、会長・・・」

 

再び怒鳴りそうになる河嶋先輩を会長が静めた。流石だ、あの先輩に任すと進む話も進まなくなるからな。そして会長は俺を見据える・・・ヤダ怖い、河嶋先輩よりも俺は会長の方が百倍恐い・・・。

 

角谷「比企谷ちゃん、西住ちゃんが入らないとウチは全国大会を勝ち抜ける?」

 

八幡「百%の確率で一回戦で惨敗して敗退ですね。身の程知らず共が一昨日来やがれですよ」

 

小山「そこまで言うの比企谷くん!?」

 

八幡「当然でしょ。ウチの学校には戦車道経験者ゼロ、戦術戦略を考え指揮する指揮官もいない。それ以前に大前提として戦車も無い。負ける要素の三段突きですよ」

 

河嶋「だから西住をこちらに引き入れろと言ったんだろうがっっ!!」

 

八幡「清光の言っていた通り、西住本人が戦車道をやる気概が無いなら入れても無駄ですよ。やる気の無い人間を引き入れたとしても、こう言ってはなんですが“邪魔”にしかなりません」

 

角谷「イヤ~、比企谷ちゃんも結構容赦ないね~」

 

八幡「俺も一応“部隊を指揮する立場の人間”ですから、こう言う事はシビアに考えないといけませんからね」

 

角谷「んじゃさ、比企谷ちゃんならどうする?」

 

俺の回答を楽しむように聞いてくる会長、この人も結構食えない人だよなぁ・・・。

 

八幡「ま、西住の友人となった武部と五十鈴は戦車道に興味を抱いたようですし、現状では明日の西住の行動次第としか言い様が有りませんね」

 

河嶋「それで西住が断ったらどうする!?」

 

八幡「そんときは生徒会に連れて来ますんで、今度は会長達が直々に勧誘の説得をしてください。俺達はこれで失礼します」

 

小山「ま、待って比企谷くん!」

 

河嶋「待て比企谷! 貴様そんな無責任な!!」

 

河嶋先輩が俺に掴みかかろうとしたが、俺に伸ばされた手は安定に掴まれ、更に俺を庇うように清光も立ち塞がる。

 

清光「(ギロンッ!)」

 

安定「(ギランっ!)」

 

河嶋「ひぃいっ!!」

 

清光と安定が敵を見るような鋭い視線で河嶋先輩を睨むと、先輩は直ぐに手を引っ込めて小山先輩に抱きつき怯える。まぁ相手は『壬生の狼』と異名を轟かせた新撰組 沖田総司の愛刀コンビ。河嶋先輩とじゃ『ニホンオオカミ2匹とチワワ』くらいの差はあるわな。

 

八幡「清光、安定・・・・」

 

清・安「「わかってるよ、八さん」」(スゥッ)

 

殺気を引っ込めた清光と安定を連れて俺は生徒会を出ていった。

 

 

ー生徒会メンバーsideー

 

角谷「イヤ~普段は大人しいし明るい良い子達だけど、流石は“鎮守府提督の護衛役”、加藤ちゃんも山本ちゃんも凄い迫力だったね~」

 

小山「でも会長、比企谷くん達を無理して戦車道のマネージャーにする事も無いと思いますよ。只でさえ比企谷くんは多忙なのに・・・」

 

びくびくと震えている河嶋を宥める小山。

 

角谷「まぁね、でも比企谷ちゃんはあぁ見えて他の学園艦の人達とも交流があるし、以外と観察眼もある上に結構俯瞰的かつ冷静に状況を見る目も持ってるし、めんどくさがり屋だけどちゃんと仕事はするし付き合いも良いからさ、西住ちゃんの良い“相談役”になってくれると思うんだよね~」

 

生徒会室の窓から、走り去る八幡と清光と安定を眺めながら、角谷杏子は意味深な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

ー八幡sideー

 

俺達は生徒会室を出て教室で西住を見かけると、かなり沈んだ顔をしていた。どうやらこっちも予想通り武部と五十鈴が戦車道に興味を持ち「一緒にやろう」と誘われたが、どうすれば良いか迷っているようだな。これが人間関係で一番面倒臭いところなんだよな。周りの人間は当人の気持ちを考えずに「楽しそうだから一緒にやろうよ」と誘われ、それを断ると「アイツ空気読めないよな」とか「つまんねぇヤツ」とか、友達面していた奴らは簡単に手のひら返しをしてハブられる。ホント面倒だよ。帰ろうと鞄に教科書を詰めようとすると『審神者用のタブレット』の画面が起動し、“ある文字”が表示された。

 

【要請連絡】

 

“政府からの要請”が表示され、俺は直ぐに取り出して読み上げる。俺の様子に気づいた清光と安定も気を引き締める。

 

清・安「「八さん」」

 

八幡「清、安、行くぞ」

 

清光と安定を連れて、俺達は大急ぎで学校を出ようとする。廊下で園先輩が「廊下を走らない!」と注意されたがそれどころではない、途中『仲の良さそうな一年生集団』と『妙なコスプレをした四人』とすれ違ったり、『バレーボールのユニフォームを着た四人』から「凄い脚力だ!」「あの三人、是非我がバレー部に!」等と聞こえたが知ったことじゃない。俺達は学校を出て家に向かう途中、俺は走りながらスマホで本丸にいる長谷部に連絡を入れた。

 

八幡「長谷部、聞こえるか?」

 

長谷部《主、政府からの要請ですか?》

 

八幡「あぁ、直ぐに今から言う“四振り”に“出陣準備”をするよう通達してくれ」

 

長谷部《“四振り”、ですか? 後の“二振り”は?》

 

八幡「清光、安定、学校帰りだが、行けるか?」

 

清光「全然余裕♪」

 

安定「最近“出陣”してないから腕がウズウズしているところだよ」

 

八幡「良し、長谷部。後の二振りは清光と安定だ。二振りの“戦闘服”の準備をしといてくれ。後の“四振り”はーーーーーーーー」

 

長谷部との連絡を終えた俺達は家に付く。

 

小町「あ、お兄ちゃんに清光さんに安定さんおかえり~」

 

家に入ると丁度帰ってきていた小町と鉢合わせする。

 

八幡「すまん小町、これから清光と安定は“出陣”だ」

 

小町「えぇ!?」

 

清光「ごめんね小町ちゃん!」

 

安定「今急いでいるから!」

 

小町「あっ、三人共待って!」

 

小町が俺達の後を追い、俺達は俺の部屋に入り、“向こう側が無い筈の襖”を開け、“本丸鎮守府の審神者の部屋”に到着すると、長谷部と長谷部の肩に乗った“一匹のキツネのような謎生物”が待っていた。

 

長谷部「おかえりなさいませ、主、小町さま。加州、大和守、主の護衛役ご苦労」

 

???「おかえりなさいませ、主さま」

 

八幡「おうただいま、長谷部に“こんのすけ”」

 

このキツネを二頭身くらいまでデフォルメされたぬいぐるみのような姿をして流暢に“人間の言葉を喋っている謎生物”は、“こんのすけ”。“務めクダギツネ”として『主お世話係』の長谷部と共に俺の仕事のサポートをしてくれているが、もっぱら小町の遊び相手が仕事だ。こんなの生み出すとか日本政府の脅威だわ。

 

長谷部「二振り共、“戦闘服”の用意は終わっているぞ」

 

長谷部は衣紋掛けに掛けられた清光と安定の“戦闘服”を見せた。

 

安定「ありがとう長谷部」

 

清光「助かるよ」

 

長谷部「礼は良い、“刀剣男士としての勤め”を果たせ。主、主の衣服も準備しております」

 

八幡「あぁ、だが俺は上着だけで良い。清光、安定、先に行ってるぞ」

 

俺はブレザーを脱いで“審神者の衣装”の上着を肩に羽織り、長谷部とこんのすけを両手で抱き持った小町を連れて『時空転移装置<通称時空門>』のある本丸の中庭に行くと、先に待っていた光忠と天龍と、既に集まっていた他の“刀剣男士”達が、“艦娘”とイチャコラしてやがった。

 

???「(キュッ)“髭切”さま、これで準備は万端ですよ」

 

???「うん。ありがとう“千歳”」

 

銀色の髪に凛々しい顔つきの艦娘『千歳型一番艦水上母艦 千歳』が淡い黄色の髪をした刀剣男士『太刀 髭切』の身だしなみを整えていた。

 

???「“膝丸”、まぁ気を付けなさいよ」

 

???「当然だ“千代田”、兄者の評判を落とす真似はしない」

 

薄緑色のアシンメトリーの髪型をした“髭切の弟”である刀剣男士『太刀 膝丸』と、茶色の肩口まで伸びた髪にバンダナをつけた千歳の妹である艦娘『千歳型二番艦水上母艦 千代田』と話をしていた。

 

髭切「そんなに気張らなくて良いよ。えっと・・・・」

 

膝丸「名前を覚えてくれ、兄者!」

 

千歳「髭切さま、膝丸さまです、膝丸さま」

 

髭切「あぁ、膝丸さまか」

 

膝丸「兄者! “さま”は付けなくて良いんだ!」

 

千代田「千歳姉ぇも膝丸に“さま”なんて付けなくて良いじゃない!」

 

相変わらずのやり取りだな。『源氏の重宝』とされていた髭切と膝丸は、平安時代を生きてきた刀剣男士だ。千年以上の間、妖<アヤカシ>を切ったり、持ち主が名前を改名した事も何度もあったようで、今は試し切りとして罪人を斬首した際、兄は髭まで切ってしまった事から“髭切”、弟は斬首した罪人の両膝まで切ってしまった事から“膝丸”とよばれ、その名で通っている。

髭切自身は名前に頓着が無いので何度も弟である膝丸をわざとなのか天然なのか忘れてしまい、その度に膝丸か千歳か千代田がツッコミを入れている。

 

???「よっしゃ! “獅子王”様の実力、見せてやるぜ!!」

 

???「張り切り過ぎてドジ踏まないようにね、“獅子王”♪」

 

師子王「ドジる訳ねぇだろうが、“鈴谷”!」

 

鈴谷「そう言うのをフラグって言うんだよ!」

 

気合いが入っている黄色い髪に黒いモフモフとした謎生物を肩にのせた俺様キャラが出ている刀剣男士『太刀 獅子王』。平安時代の末期に“老人でも扱える細く軽い太刀”のコンセプトで造られた刀だ。本人は背が低いのを気にしているが、おじいさんに優しいおじいちゃんっ子で、妖怪“鵺”を斬り倒した“源頼正”を“ジッチャン”と言っている。「ジッチャンの名に賭けて」なんて名セリフを言うが、何処の名探偵の孫だ。

そしてその獅子王の口喧嘩している薄緑色のセミロングの今時女子高生な雰囲気の艦娘『最上型三番艦重巡洋艦 鈴谷』である。まるで気心の知れた幼馴染み夫婦みたいに痴話喧嘩が絶えない二人だな。

 

???「それじゃ“武蔵”、行ってくるね」

 

???「あぁ“蛍丸”。しっかり励めよ」

 

インテリメガネを掛けて、褐色の肌に露出の激しい格好でグラマラスな肢体を晒すのは『大和型二番艦戦艦 武蔵』。そしてその武蔵と話をしているのは、黒い軍服に軍帽を被り、小さな身体に儚げな雰囲気漂う銀色の短髪に緑色の瞳をした刀剣男士『大太刀 蛍丸』。この二人、容姿が少し似ているのもあり、端から見ると“親子”か“姉弟”に見えるな。しかし、蛍丸はその華奢そうな見た目に反して実は成人男子をも余裕で投げ飛ばす事ができるパワーファイター。以前任務で負傷した武蔵を軽々と“お姫様抱っこ”してドックに運んだ姿は我が本丸鎮守府の語り草である。武蔵本人にとっては恥ずかしい黒歴史のようだがな。

ちなみに蛍丸の刀身には『八幡大菩薩』と彫られている為か、「俺には主さんが側にいてくれているから、どんな戦場に行っても余裕だよ♪」と言ってくれる。見た目もそこらの女の子よりも可愛い美少年だからついドキッとなってしまうので困ったモノだ。

 

小町「まったく、刀剣男士の皆さんは着々と相方の艦娘さん達と仲良くしているのに、ウチのゴミィちゃんと来たら・・・!」

 

八幡「小町ちゃん、お願いだからお兄ちゃんをディスらないで・・・」

 

こんのすけ「主さまも恋人を作れば、小町さまも文句は無いのですよ」

 

光忠「小町ちゃん、いつかは主を受け入れてくれる女性が現れるのを信じて気長に待とう」

 

天龍「ま、ウチのひねくれ者の提督を受け入れてくれるなんて、そんじょそこらの女じゃ無理だろうがよ♪」

 

長谷部「それに、主の奥方になるならば先ずは我々刀剣男子達や艦娘達が納得できる女性でなければなりません」

 

マイエンジェルとキツネ擬きが辛辣で、光忠がマジでオカン過ぎるし、天龍は随分と失礼な事を言いやがる。そして長谷部よ、お前はいつから『主お世話係』の他に『主の嫁の嫁姑係』も兼任するようになったんだ?

 

清光「主、準備完了だよ」

 

安定「いつでも行けるよ」

 

八幡「おう来たか、清光に安定」

 

表地が黒で裏地が赤のロングコートに赤い襟巻きを前に流し、ヒールが付いたブーツが特徴的な“戦闘服”を着た“加藤清光”イヤ“加州清光”と、新撰組の証である浅葱色のダンダラ羽織に和装袴姿をし、着物の下に紋付き長手甲を付け、白い襟巻きを後ろに流した“戦闘服”を着た“山本安定”イヤ“大和守安定”が中庭に来た。

 

光忠「二人共、学校から帰って来たばかりなのに出陣するのかい?」

 

安定「今日はちょっと込み入った事が有るからね、僕と清光も一緒に行ってとっとと片付けようって事だよ」

 

天龍「“込み入った事”? 昼間、長谷部とこんのすけ、長門と陸奥と“大淀”が何かバタバタしていたけど、それも関係しているのか?」

 

清光「まぁね、詳細は主に聞いて。それで主、今回は“どの時代”に行くの?」

 

俺は“政府からの要請”が送られたタブレットを操作し、読み上げる。

 

八幡「あぁ、今回の出陣先は、“1221年の墨俣”だ」

 

膝丸「“承久の乱”だな?」

 

八幡「そうだ膝丸。後鳥羽上皇が、鎌倉幕府の執権である北条義時を討伐するために起こし、“敗北した戦い”だ」

 

小町「じゃ“時間遡行軍”の目的は、“後鳥羽上皇を勝たせて北条義時を敗北させる事”なのかな?」

 

こんのすけ「おそらくそうでしょうね」

 

小町とこんのすけの予想は当たっているだろう。

 

八幡「出陣するのは、『打刀 加州清光』、『打刀 大和守安定』、『太刀 獅子王』、『太刀 髭切』、『太刀 膝丸』、『大太刀 蛍丸』の六振り。隊長は、膝丸だ!」

 

膝丸「なっ?! ちょっと待ってくれ主! 兄者を差し置いて、俺が総領でいいのか?!」

 

八幡「膝丸。お前と髭切は去年の暮れに顕現して、それから経験もそれなりに積んでいる。髭切も隊長を務めたんだ。お前も隊長を務めてみろ」

 

膝丸「しかし!」

 

髭切「イヤイヤ、隊長じゃないからって弟を斬ったりしないって♪」

 

千歳「髭切さま、洒落になっておりませんよ」

 

膝丸「あ、兄者・・・!」

 

千代田「そう言う意味で言ったんじゃないでしょ・・・!」

 

長谷部「続けるぞ。遡行軍の狙いは幕府軍を攻撃し弱らせて、北条義時を敗北させる事だろう」

 

光忠「墨俣は何度も行っているけど、なかなか手強い時間遡行軍が現れるからね」

 

八幡「気をつけて行くように」

 

那加「あっ! 間に合った!!」

 

川内「ちょっと待ってくれーーーー!」

 

八幡「ん? 那珂に川内?」

 

いざ出陣の時に“学園艦の護衛任務(昼間の部)”から帰投してきた那珂と川内が中庭に慌てて来た。

 

清光「那珂ちゃん!」

 

安定「川内!」

 

八幡「お前ら、任務報告はどうした?」

 

那加「後でやるよ、それよりも! 清光くん、見送りに来たよ!」

 

清光「ありがとう那珂ちゃん、帰ったら髪飾りのデコレーションの続きをやろうね♪」

 

那加「うん♪」

 

川内「安定! 思いっきり戦ってこい!」

 

安定「勿論! 久しぶりの殺し合いだからね!」

 

さて、こちらのカップル達も挨拶を済ませた事だし。

 

八幡「さぁ、“時空門”を起動させて、出陣だ!」

 

中庭の中央に置かれた歯車時計を乗せた台座、これが“時空門”だ。台座に付けられた“元号”、“年”、“場所”、“月”、“日”を設定して“転送”のボタンを押すとその時代にタイムスリップする事ができる、審神者である俺の許可が無いと使ってはならないタイムマシーン的な物だ。しかし、この転移装置は片道つまり“行くはできる”が、帰還する為には本丸への帰還用として、懐中時計の形をした“携帯型時代転移装置”を持たせる。

 

光忠「じゃぁみんな、頑張ってね♪」

 

小町「しっかりねーーーー!」

 

長谷部「健闘を祈る」

 

八幡「清光、安定、蛍丸、髭切、膝丸、獅子王、無事に帰ってこいよ」

 

出陣メンバー「「「「「「了解!(承知!)(はーい!)(応よ!)」」」」」」

 

光りに包まれた六振りは『承久三年 墨俣』へと転移していった。

 

長谷部「主・・・」

 

八幡「あぁ。長谷部、光忠、手が空いている刀剣男士の皆を食堂に集めてくれ、那珂、川内、天龍、千歳、千代田、鈴谷、武蔵、お前達も今手が空いている艦娘の皆を集めてくれ。話しておく事がある」

 

長谷・光「「承知しました/分かったよ」」

 

艦娘『了解』

 

長谷部と光忠は本丸へ、天龍達は鎮守府の方へ走っていった。

 

小町「お兄ちゃん、何かあったの?」

 

八幡「・・・・・・・・・・・・」

 

事情を知るこんのすけと違って、小町は首を傾げた。

 

八幡「あぁ、小町・・・もしかしたら俺達の学園艦の存亡に関わる事だ」

 

小町「えぇ!?」

 

俺の言葉に小町は驚き、俺はそのまま食堂へと向かった。




次回で西住と八幡達が和解できると良いなぁ~。


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やはり三日月宗近には敵わない

注意:この作品の比企谷八幡は、一年前から審神者として刀剣男子達と過ごし、半年前に艦娘達の提督として過ごして人間性が原作八幡よりも改良されています。


西暦1221年 承久三年。源氏の血筋が絶えたのを好機と見た後鳥羽上皇が鎌倉幕府の執権 北条義時を追伐するために兵を挙げた。そして、それを迎撃する為に北条方が陣を敷いている地点から少し離れた山に“奴ら”はいた。

 

どす黒いオーラを全身から放つ異形の怪物。太刀から打刀を携えた鎧武者の姿に幽鬼のような出で立ちから下半身が骨作りの怪物、小刀を食らえ宙を漂う魚の骨ような化け物。

この異形達こそ、“歴史修正主義者 時間遡行軍”である。彼らが何者であるかは現代の海の脅威と呼ばれた“深海凄艦”と同じく謎である。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

そして奴らは北条方の陣を襲撃するべく進行していた。

 

清光「オラオラオラーーーーー!!」

 

だが、遡行軍の背後から加州清光と大和守安定と獅子王が襲撃した!

 

『(コクン)・・・・・・・・』

 

遡行軍は頷き合うと二手に別れ、何体かは加州達を迎撃する。

 

清光「ハッ!」

 

『オオッ!』

 

獅子王「イヤァッ!」

 

『グオオッ!?』

 

獅子王「へっ、隙だらけだぜ!!」

 

加州とつばぜり合いとなった遡行者の背後を獅子王が斬りつけられ黒い霞となって消滅する。

 

『グウゥッ!』

 

安定「うわっ!」

 

安定の方は槍を持った遡行者の攻撃を受け止め捌き、距離を空ける。

 

安定「フフフ、さぁ戦闘の始まりだぁ!」

 

学校での“山本安定”を知る人間が見たら驚くほどの好戦的な笑みを浮かべて、遡行者と斬り結ぶ。

 

『っ!』

 

安定「首落ちて死ね!」

 

遡行者が突き技を繰り出すと安定は槍の切っ先をずらし、そのまま刀を滑らすように移動させて遡行者の首を斬り飛ばし、黒い霞となって消滅した。

 

 

ー蛍丸sideー

 

雑木林を突き進む二体の遡行者は小川に付くと、何匹もの蛍がキラキラと光りを放ちながら飛んでいた。

 

『『っ!?』』

 

立ち止まる遡行者達の前に、蛍に包まれながら身の丈以上の大太刀を構える蛍丸がいた。

 

『『っ!!』』

 

遡行者達は蛍丸に襲いかかるが、蛍丸はヒラリと跳び上がり。

 

「フッ!」

 

大太刀を軽々と振るい、まとめて斬り裂き、消滅させた。

 

蛍丸「逃がさないよ・・・」

 

静かにソッと呟く蛍丸は刀身に彫られた『八幡大明神』を撫でながら無邪気な笑みを浮かべる。

 

蛍丸「主さん、誉めてくれるかなぁ♪」

 

 

 

ー髭切・膝丸sideー

 

そしてここに、一際巨大な時間遡行者と切り結んでいる髭切と膝丸がいたが。

 

膝丸「兄者!」

 

髭切「ハアァッ!!」

 

『ガァアアアアアアアアアッッ!!』

 

膝丸の背後から髭切が斬りつけ、遡行者は消滅した。

 

膝丸「流石は兄者だ!」

 

髭切「イヤイヤ、君のお陰でもあるよ、えっと・・・?」

 

膝丸「兄者! 俺の名は膝丸だ! ひ・ざ・ま・る!!」

 

 

ー清光sideー

 

そして清光は最後に残った武家のような甲冑を纏う遡行者と対峙した。

 

『・・・・・・・・』

 

清光「・・・・・・・・」

 

ジリッ・・・・ダッ!

 

清光「フェイント! に見せかけて攻撃!」

 

『っ!!』

 

意表を突いた攻撃に見せて、正面突破の攻撃に僅かに反応がずれた遡行者は身体を真っ二つにされて、消滅した。

 

安定「清光ーーーーー!!」

 

清光「あぁ、安定。そっちはどう?」

 

安定「全然余裕♪ そっちは?」

 

清光「こっちも片付いた所さ。今膝丸が他に居ないか索敵しているよ」

 

安定「そっか、それじゃ何もないなら膝丸達にも教えておかないといけないよね?」

 

清光「主が戦車道をやることになった事をね」

 

 

 

~現代~

 

ー八幡sideー

 

さて清光達が“わんにゃんにゃんわんまつり”・・・ではなく、承久三年に行っている間に俺は食堂に集まった刀剣男士達(遠征&当番以外)と、艦娘達(学園艦の護衛任務と遠征以外)に事のあらましを伝える。それを聞いて刀剣男子達はムッとした顔になり、艦娘達に至っては不快そうに顔を歪めた。おそらくこの事態にあの“七三メガネ”が絡んでいる事に不快感が出たのだろう。何しろあの“陰険メガネ”こそが、艦娘達の事を「“深海”の脅威がほとんど無くなった今、艦娘など“無用の長物”ですよ」とほざき、艦娘を“お払い箱扱い”したヤツだからな、不快になってもしゃーないか。

 

長門「それで提督、角谷杏大洗生徒会長の“提案”ですが、上手くいくと思いますか?」

 

陸奥「あの“陰湿メガネ”の事だから何かやるんじゃないかしら?」

 

長門と陸奥の懸念も最もだ。あの“クソメガネ”が学生との約束を律儀に守るような“誠実な人間”ではないからな」

 

小町「イヤお兄ちゃんが言っても殆んど説得力無いよ」

 

こんのすけ「確かに主さまも結構誠実から離れた性格してますからね」

 

八幡「うるさいよ・・・・」

 

いつの間にか言葉に出ていたか。しかしウチのマイエンジェルな妹、小町ちゃんと狐のぬいぐるみ擬きのこんのすけは普段から俺をどう見てやがるんだ?

 

光忠「小町ちゃん、いくらその通りとは言えそんな風に言ってはいけないよ」

 

長谷部「こんのすけ! 貴様主を愚弄するか!? 主は確かに捻くれてネジくれている所は有るが、不器用な思いやりがあるお優しい方だぞ!!」

 

光忠と長谷部の優しさが今では俺の心をグッサグッサと刺しまくりやがる。

 

???「提督、踞ってどうしました?」

 

八幡「イヤな“大淀”、なんか心臓に“天下三名槍”が突き刺さったような痛みがな・・・・」

 

???「おい主! 俺達を巻き込むなよ!!」

 

???「主! 我らは主を刺してはいないですぞ!!」

 

???「いくら俺が刺すことしか能がないからって主を刺す事はねぇって!!」

 

俺を気遣ってくれた黒い長髪にメガネを掛けたこれぞ才女と言わんばかりの知的な少女は『大淀型一番艦軽巡洋艦 大淀』、普段は『サポート艦』として提督である俺の仕事のサポートをしてくれる。え?『秘書艦』は長門ではないのかって? 長門は主に俺が不在の間に鎮守府の纏め役で陸奥はその補佐。大淀は主に書類整理といった事務仕事で俺のサポートをしてくれている。

そして俺にブーイングを出したのはかなりの癖っ毛の群青色の髪を雑にハーフアップさせ、触覚のような髪が何本も出て、つなぎ服の上半身を脱いで白いランニングシャツを露にしている髭の大柄のオッサンは『槍 日本号』と小豆色の長髪を後ろに結わえ、黒い着物を着た武人の佇まいをした大柄の男は『槍 蜻蛉切』。そして最後に他の二人と違って大柄と言うよりも細長いと言って良い長身に緑のジャージを着た青年『槍 御手杵』、天下に轟く三振りの槍、『天下三名槍』の三振りだ。

 

八幡「冗談だよ、冗談」

 

???「提督のつまらない冗談は置いといて、それで私達はどうすれば?」

 

辛辣な事言うのは『正規航空母艦 加賀』だ。もう止めて、八幡の(心の)ライフは0よ! なんてバカな考えは置いて。

 

八幡「あぁ、取り敢えず艦娘達はその内訪問するであろう、それぞれの護衛対象の学園艦代表や戦車道の隊長達に話を通しておいてくれ」

 

艦娘達『了解』

 

???「なぁなぁ、大将!」

 

八幡「ん? 何だ“厚”?」

 

厚「俺達刀剣男子も何か協力できねぇかな?」

 

八幡「って言われてもな・・・・」

 

???「いっつも加州さんや大和守さんは主さまとの学園生活を楽しそうにはなしてるんだもん!ボク達も学校に行ってみたい!!」

 

???「“乱”くん、加州さんも大和守さんも護衛で行ってるんだよ」

 

乱「でも“最上”ちゃん!」

 

???「ほらほら“乱”、“最上”さんを困らせてはいけませんよ」

 

乱「“一兄”・・・」

 

一期「それにまだ主さまの話も終わってないんだから、ここはおさえて」

 

乱「は~い・・・」

 

『短刀 乱藤四郎』、ストロべリーブロンドの長髪にスカイブルーの瞳をした美少女に見えるが、正真正銘の“刀剣男士”だ。もう一度言おう、“刀剣男士”だ! 所謂男の娘系である。そして乱と隣合わせになっているのは『最上型一番艦重巡洋艦 最上』、こっちは元気はつらつとしたボクっ娘系女子である。しかしこの二人は付き合っているのだが、どっちが女でどっちが男だ?

 

八幡「(悪いな、“一期一振”・・・・)」

 

一期「(イエお気に為さらず、主さま)」

 

そして乱を諌めたのは、十数振りもいる“藤四郎兄弟”の一番上の兄で、唯一の太刀である刀剣男士『太刀 一期一振』。まるで少女漫画から出てきたような美男子だよ。

 

八幡「まぁ、刀剣男子の皆の要望は何とかするけどな」

 

光忠「問題は、“西住みほ”さんが戦車道に参加するかだね」

 

天龍「でもよ提督、その西住ってヤツがどうして戦車道から離れたんだ?」

 

八幡「それについては・・・“今剣”、さっき持って来てくれたモノを頼む」

 

今剣「はいあるじさま!」

 

俺に元気よく返事してくれたのは源氏の英雄である“源義経”の守り刀『短刀 今剣』だ。俺が顕現させた刀剣男士で三番目に顕現した古株だ。因みに二番目の刀剣男士はへし切り長谷部。最初の頃は審神者の俺と清光と長谷部と今剣、この一人と三振りだけで本丸の運営から生活調整まで、やること有りすぎててんてこ舞いだったな。後に“前田藤四郎”と“にっかり青江”と“蜂須賀虎徹”が顕現したらしたで、遡行軍との戦闘まであって、その時は本丸に小町を家事の助っ人として本丸に呼んでいたから刀剣達も小町を歓迎するんだよな・・・・。

 

今剣「あるじさま、じゅんびできました!」

 

八幡「おう、ありがとな今剣」

 

頭を撫でてやると今剣は嬉しそうにクゥ~と言わんばかりに目を細める・・・癒されるわ~。相棒の『薙刀 岩融』は豪快に笑っているし、長門なんて今剣に萌えてるし・・・・何か“藤四郎兄弟達”や“お小夜”のような短刀組や、“駆逐艦”達から“羨望の視線”を感じるが、皆も今剣を撫でたいのか?

 

小町「(ボソボソ)・・・・お兄ちゃん、どうせ増やすなら“お義姉ちゃん候補”にして、“お義兄ちゃん候補”は小町遠慮したいから・・・・」

 

何を言ってるんだ小町? 小町の“兄”は俺だけだろう?

 

小町「(ボソボソ)はぁ、ウチのお兄ちゃんが“ソッチの道”に行かないように、戦車道の人達に期待するしかないかなぁ・・・・?」

 

何か不吉な事をぶつぶつ呟く小町を一先ず置いて、俺は今剣が持ってきてくれたポータブルテレビで『去年の戦車道決勝戦』が録画されたDVDを再生させ、刀剣男子達と艦娘達も食い入るように画面を見たーーーーー。

 

 

 

ー30分後ー

 

『ただいま~』

 

長谷部「やはりあの時の西住みほの行動は間違っている!」

 

吹雪「でも“あんな事態”が起きたら私だって西住さんと同じ事をします!」

 

加賀「作戦行動中だったのよ、不足の事態が起こるのは戦場の常、それなのに感情的になった西住みほの失敗ね」

 

???「待てよ、じゃ見て見ぬふりするのが正しいのかよ!?」

 

『何これ?(何だこれ?)』

 

任務から戻ってきた清光達は、長谷部と吹雪、加賀と“国俊”の口論を見て首を傾げた。

 

八幡「おうお前ら、お疲れさんご苦労さん」

 

安定「主、一体何があったの?」

 

八幡「あぁ、昼間のあらましを皆に説明して、去年の決勝戦の映像を見せたんだが、“西住の行動”の賛否両論が起こってんだよ・・・」

 

清・安「「あぁ・・・」」

 

髭切「なるほど・・・」

 

膝丸「昼間の・・・」

 

獅子王「あらましを・・・」

 

蛍丸「皆に・・・」

 

「「「「プッ!」」」」

 

八幡「ん?」

 

何だ? どうして髭切と膝丸と獅子王と蛍丸は俺を見て噴いてんだ?・・・・まさか・・・・!

 

八幡「清光・・・安定・・・!」

 

清光「ゴメン主・・・」

 

安定「“あの作文”の事、獅子王達にも教えちゃった・・・」

 

マジかよ・・・・これ絶対後で皆にも知られるパターンじゃね?

 

???「大将、オチてる場合じゃないぜ。このままじゃまずい」

 

???「皆ヒートアップしちゃってるわね~」

 

絶望している俺に話しかけたのはメガネを掛けて白衣を着た黒髪の知性的美少年『短刀 薬研藤四郎』。長谷部と同じく第六天魔王 織田信長が本能寺で自刃する時に使った短刀で、“藤四郎兄弟”のブレインであり薬作りもできる。見た目は中学生位だが男前な性格の美少年である刀剣男士。そしてその薬研にしなだれるように抱きついているのは、『高雄型重巡洋艦二番艦 愛宕』。ゆるふわ金髪ロングにグラマラスな豊満ボディをした美女。ゆるふわ美女とクール美少年のおねショタカップルだ。

 

八幡「ん、分かってる薬研、愛宕。そろそろ皆議論が白熱してきて前後不覚状態になるな。さて、ここはウチの“御意見番”の出番だな・・・・ってことで頼むわ」

 

状況が引っ込みつかなくなる前に、議論をしている皆から少し離れた位置で茶を啜っている黄色いバンダナを頭に巻き、青い着物を着た美青年に話しかける。

 

???「おやおや主よ、この老体に働けと言うのか?」

 

八幡「こう言う時こそ年長者として纏めてくれよ、“三日月宗近”」

 

『太刀 三日月宗近』。天下に5つしかない名刀、『天下五剣』の一振りで“最も美しい刀”と誉れ高く、千年の歴史の荒波を駆け巡った刀剣男士達の中でも年長者の方。『天下五剣』の一振りに列せられるのも納得の実力を持っているが、性格はおおらかと呼べば聞こえは良いが実の所は“究極のマイペースジジィ”。内番の仕事はちゃんとしてくれるが、日がな一日縁側で茶を啜っているし、良く短刀組や駆逐艦組から世話を焼かれているし、同じく“三日月”の名前をしている『睦月型駆逐艦10番艦 三日月』から「お祖父様」と呼ばれて慕われ、さらに愛宕の姉である『高雄型重巡洋艦一番艦 高雄』(黒髪ボブカットで愛宕にも負けず劣らずのグラマラス美女)とも懇意な関係となっているリア充ジジィである。しかし、頼りになる事は間違い無いヤツだ。

 

三日月「お祖父様・・・」

 

高雄「宗近様・・・」

 

八幡「頼むわ、宗近」

 

宗近「フム・・・あいわかった」

 

孫娘のように可愛がっている三日月や殆んど嫁状態の高雄、そして審神者である俺からも頼まれ、ようやく重い腰を上げた宗近は議論を繰り広げる皆の間に割って入る。

 

宗近「皆少し落ち着け、少々頭に血が昇っているぞ」

 

刀剣『三日月宗近・・・』

 

艦娘『三日月様・・・』

 

宗近が入ってきて議論していた全員の視線が宗近に集まる。普段はのらりくらりのマイペースだが、こう言う時に皆を纏めあげる事ができるのが三日月宗近なんだよなぁ・・・。

 

宗近「吹雪達の言い分も理解できなくはないが、長谷部達の言う事も一理はある。しかし長谷部に加賀よ、大前提を忘れてはいまいか?」

 

『???』

 

三日月宗近の言い分に“西住みほ否定派”は首を傾げる。

 

宗近「良いか・・・戦車道は“競技”なのだ」

 

『っ!!』

 

宗近の言葉に俺も含んだ全員がハッ!となった。

 

 

 

~数時間後~

 

八幡「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ! ふっ!」

 

宗近「おやおや主よ、精が出るな」

 

八幡「宗近・・・・」

 

食堂での議論が終わり、皆と晩飯を食べ終えた俺は道場に来て木刀で素振りをしていると、宗近が現れた。

 

宗近「この本丸が本丸鎮守府に変わってから、主は自己の鍛練を行うようになったな?」

 

八幡「別に。また身体を壊して熱出してぶっ倒れて、長谷部達が五月蝿くならないように少し身体を鍛えようと思っただけだ」

 

宗近「フフフフフ、さようか」

 

コイツのこの“お見通し”と言わんばかりの目と態度がどうも苦手だ。ある意味、角谷先輩をさらに老獪にしたらこのジジィになるかもしれん。恐ろしや・・・。

 

八幡「んで何のようだよ? わざわざ茶化しにきたのか?」

 

宗近「イヤ何。先程の“主の作文”はなかなか面白かったのでな」

 

八幡「やっぱり茶化しに来やがったな?」

 

先程、宗近が皆を諌めた後で、清光と安定が俺が生徒会に脅された理由の作文を皆に聞かせたら、刀剣男子組は爆笑する者や苦笑いを浮かべる者、呆れ目で見る者と十人十色だったが、艦娘組からは。

 

【提督、幾ら何でも私達をテロリストにしないで下さい・・・!】

 

とか、わりかしマジで釘を刺されたわ・・・。

 

宗近「フフフフフ、主よ。西住みほをどのように説得するか模索中と言った所か?」

 

八幡「・・・・・・・・・・・・」

 

何で宗近は俺の悩みとか迷いとか直ぐに見抜いちゃうかな?

 

宗近「まぁ、なるようになるにしかならぬな。ただ、主がどのような“やり方”をやったとしても、我らは主の“味方”で有り続ける。それだけは分かっていて欲しいな」

 

八幡「・・・・・・・・分かってるよ、ジィちゃん」

 

宗近「ウム。では俺はこれで失礼する。“小狐丸”との月見の約束が有るのでな」

 

俺の答えに宗近は満足そうに頷くと道場から去っていった。本当にあのジィちゃんには敵わないな・・・・。

 

 

ー小町sideー

 

道場の外では、清光と安定と小町、それに三日月と高雄がコッソリと中の様子を伺っていると、宗近が出てきた。

 

清光「三日月・・・」

 

安定「主は?」

 

宗近「主の事だ、いざとなれば自らを“悪者”と仕立てあげようとするだろう。加州、大和守、主の“助け船”を頼むぞ」

 

清光「了解」

 

安定「任せて」

 

宗近「ウムでは三日月、もう夜遅い。そろそろ寝るのが善いだろう」

 

三日月「うぅ~~。大丈夫ですぅ、三日月まだ起きられるですぅ・・・」

 

高雄「ウフフ、三日月ちゃん。もう眠そうですわよ?」

 

眠そうに目を擦る三日月に宗近と高雄が微笑ましく見つめる。

 

宗近「三日月よ、夜更かしは美容の大敵と呼ぶ。それに明日は“大洗学園艦の護衛任務”が入っているからな」

 

安定「あぁそうか、明日は三日月ちゃん達がウチの学園の護衛任務に付いてるんだな」

 

清光「それじゃ明日に備えて早く寝なくちゃね」

 

三日月「うぅ~~」

 

宗近「三日月、今夜はもう寝ると善い。高雄、三日月を頼む」

 

高雄「お任せ下さい、宗近様」

 

宗近と高雄は三日月を手を繋いでそのまま鎮守府の方へと歩いて行った。

 

小町「あぁして見ると最早親子だね、宗近さんと高雄さんと三日月ちゃんって」

 

清光「そうだね。三日月ちゃんも高雄さんなら良いって言ってたみたいだよ」

 

安定「もうさっさとケッコンしちゃえば良いのに三日月宗近も高雄さんもさ」

 

清光と那珂や安定と川内を含め、刀剣男士達と艦娘達の間で恋人関係になっている者達は少なくない。しかし、それ“以上の関係”になるためにはまだ“色々な手続き”が必要になっている為なかなか進まないでいた。

 

小町「ま、そこら辺の諸々の事情は、今は取り敢えず置いておくとして・・・清光さん、安定さん、お兄ちゃんの事宜しくお願いします。お兄ちゃん口には出さないけど、学園で清光さんと安定さんがいてくれる事、感謝してるんです」

 

清光「分かってるよ小町ちゃん」

 

安定「ウチの主が不器用なのは、この一年余りの付き合いでちゃんと理解しているからね」

 

清光と安定の言葉に、小町は一年前の兄の事故で審神者として覚醒した事に不謹慎だが、内心喜んでいた。

 

 

~翌日~

 

そしていつも通り俺と清光と安定は小町と中等部に行った小町と別れ、学園に行き、教室を眺めると西住と武部と五十鈴が話し合っていた。

 

安定「(ボソボソ)どうやら西住ちゃんは戦車道を選択しなかったっぽいね」

 

清光「(ボソボソ)どうする八さん?」

 

八幡「(ボソボソ)決まっているだろう」

 

俺は西住に近づく。

 

八幡「西住・・・・」

 

みほ「(ビクッ)ひ、比企谷くん・・・・」

 

お~お~、見に見えて俺に怯えてるわ。そう言えば初めて“五虎退”や“電”達と会った時もこんな風に怯えられてめっちゃ傷付いたことを思い出すな。そして西住が怯えるのを見て武部と五十鈴が俺に厳しい目を向ける。

 

沙織「あっ、生徒会の犬比企谷八幡!」

 

華「何の御用でしょうか?」

 

わぉ、完全に俺生徒会の仲間認定されてるよ。大変不本意だわ・・・・。

 

八幡「西住、選択科目は?」

 

沙織「みほは“香道”を選んだんだから、戦車道はやらないからね!」

 

八幡「あっそ、ならその事を生徒会の方にちゃんと言ってきた方が良いぜ」

 

華「何故みほさんが行かねばならないのですか? 比企谷さんが伝えれば良いのでは?」

 

八幡「生憎とそこまで生徒会に義理立てするつもりは無いんでね。断りたいんなら自分の足で生徒会に行って、自分の口から断って来て貰う」

 

みほ「・・・・・・・・・・・・」

 

沙織「ちょっとそれ横暴じゃない!?」

 

八幡「その横暴を罷り通らせるのがウチの生徒会だろうが」

 

華「ですが!」

 

みほ「良いよ、沙織さん、華さん。比企谷くん、私を生徒会に連れてって」

 

八幡「良いだろう」

 

西住が立ち上がると、武部と五十鈴も立ち上がる。

 

沙織「私達も行くからね!」

 

華「構いませんよね?」

 

みほ「沙織さん・・・華さん・・・ありがとう・・・!」

 

やれやれ少し前の俺なら内心小馬鹿にしていたような展開。女の子の友情って素晴らしいね~。

 

八幡「あぁ構わない。清、安、西住達を連れて行くぞ」

 

清・安「「了解」」

 

俺が先頭を歩き、西住と武部と五十鈴が俺の後ろを歩き、清光と安定が三人の後ろを歩いていた。

 

沙織「清くんも安くんも、みぽりんに戦車道をやれって言うの?」

 

清光「別に、やりたくない人間を無理矢理入れても仕方ないとは思うけどね」

 

華「では何故、生徒会に協力するのですか?」

 

安定「僕達は生徒会じゃなくて、八さんについているんだよ」

 

みほ「加藤くんと山本くんは、比企谷くんの味方なの?」

 

清光「そうだよ。学園の皆や学園艦の住人全員から嫌われようとも」

 

安定「僕達は八さんと一緒にいる」

 

清・安「「俺達/僕達は、八さんの味方だからね」」

 

後ろで清光と安定が何かはずいセリフを言っているようだが、取り敢えず聞き流して俺達は生徒会室を目指した。




刀剣男子達と艦娘達は三日月宗近と三日月(艦娘)を区別するため、刀剣男子は「三日月宗近」か「宗近」と呼び、艦娘は「三日月宗近さん」か「宗近様」と呼ぶ。三日月(艦娘)は「三日月ちゃん」か「三日月」と呼ばれている。


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比企谷八幡は西住みほに説教する

ここ大洗生徒会室では今緊迫した空気に包まれていた。

 

河嶋「これはどういう事だ?」

 

高圧的な態度の河嶋先輩が出したのは、西住の選択科目の用紙、そこには“香道”に○をつけていた。

 

角谷「なんで選択しないかなぁ?」

 

河嶋「我が校、他に戦車経験者は皆無です」

 

小山「終了です、我が校は終了ですぅ!!」

 

武部「勝手な事言わないでよ!」

 

五十鈴「そうです、やりたくないと言っているのに、無理にやらせる積もりなのですか?」

 

武部「みほは戦車やらないから!」

 

五十鈴「西住さんの事は諦めて下さい」

 

議論が白熱してますなぁ。まぁ俺と清光と安定は応接用のソファーに優雅に座りながら眺めているがね。するとつまんなさそうにしていた会長が口を開く。

 

角谷「んな事言ってるとアンタ達、この学校に居られなくしてやるよ?」

 

武部「おっ・・・・!」

 

五十鈴「脅すなんて卑怯です!」

 

河嶋「脅しじゃない、会長はいつだって本気だ」

 

角谷「そうそ」

 

小山「今の内に謝った方が良いと思うわよ、ね、ね」

 

武部「酷いよ!」

 

五十鈴「横暴過ぎます!」

 

河嶋「横暴は生徒会にーーーー」

 

お~お~、昨日の長谷部や吹雪達みたいに前後不覚状態になりそうだなぁ。それにしても西住のヤツ、なにも言わずに俯いてやがる。誰のために武部や五十鈴が生徒会と口論してると思ってんだ?

 

武部「ちょっと比企谷! 無関係な態度取ってないでアンタからも何か言ってよ!」

 

うわっ、飛び火したよ。

 

河嶋「待て武部! それは貴様卑怯だぞ!」

 

五十鈴「比企谷さん、貴方のご意見を聞かせて下さい」

 

河嶋「五十鈴! だから別に比企谷を出さずとも良いだろうが!!」

 

安定「(ボソボソ)うわ~桃ちゃん先輩、八さんが入って来るの拒みまくりだね」

 

清光「(ボソボソ)口には出さないけど、桃ちゃん先輩って八さんに苦手意識があるからね」

 

何、そうだったのか? 俺は別に河嶋先輩に嫌われることはしていないつもりなのだが・・・目付きのせいか? なら仕方ないな、この目付きは生まれつきだから。

 

八幡「ふぅ~・・・・んじゃ言わせて貰うけどよ。西住、お前はどうなんだ?」

 

みほ「えっ?」

 

八幡「さっきから聞いてるとしゃべってるのは武部と五十鈴だけだろう? 西住、俺は戦車道やりたくないなら自分の口から会長達に伝えさせる為に連れてきたんだ。お前の言葉を聞かせてほしいんだが?」

 

武部「ちょっと! みほは戦車道をやらないって言ってーーーー」

 

八幡「少し黙っててくれるか武部?」

 

武部「えっ?」

 

八幡「俺は西住に聞いているんだ、お前に聞いている訳じゃない」

 

ゴオゥ!

 

言わなきゃいけない事を言わずに黙り決めてる西住に少しイラついていたようだ。自分でも驚くほど静かに、そして重く呟く。何か河嶋先輩がビクついて小刻みに震えて、小山先輩も身体を強ばらせ、武部は押し黙ってしまったが、退屈そうにしていた会長は俺が動いた事を面白そうに眺め、五十鈴はかわらず毅然とした姿勢をしていた。どうしたんだ?

 

清光「(ボソボソ)うわ~ぉ、出た出た八さんの“司令官モード”・・・・」

 

安定「(ボソボソ)あぁなると八さんって無自覚に相手を威圧しちゃうんだよね・・・・」

 

何か清光と安定が何か言ってるがどうでも良い。

 

八幡「西住よ、お前はどうしたい? 本当にこのまま戦車道をやらないのか? それともやるのか? 俺は武部の口からでも、五十鈴の口から聞きたい訳じゃない・・・・西住みほ、お前の口から、お前の言葉から聞きたいんだ・・・」

 

みほ「・・・・・・・・わ、私は・・・・」

 

清・安「「(ボソボソ)八さん、それなんか口説き文句みたいだよ」」

 

五月蝿いよ。

 

みほ「・・・・・・・・すぅ~、あの!私!」

 

角谷「ん?」

 

みほ「戦車道! やります!!」

 

武・五「「ええええええええええっ!!」」

 

清・安「「あらま」」

 

小山「良かったぁ!」

 

角谷「ふふふ♪」

 

河嶋「フッ!」

 

八幡「・・・・それがお前の答えか、西住?」

 

みほ「・・・・はい!」

 

八幡「良し分かった。会長、ご覧の通りになりました」

 

角谷「うんうん、それじゃ明日からヨロシクね~♪」

 

そしてそのままお開きとなり、西住と武部と五十鈴は生徒会室から出て行った。

 

角谷「イヤ~、比企谷ちゃんには悪いことしたね~。何か憎まれ役やらせたみたいでさ」

 

八幡「構いませんよ、それで男子には『マネージャー』をやらせると言っていたようですが、そのマネージャーって」

 

角谷「勿の論、比企谷ちゃんと加藤ちゃんと山本ちゃん♪」

 

八・清・安「「「(ガクンッ)やっぱし・・・・」」」

 

角谷「明日から三人にも働いて貰うから、今日は帰って良いよ~♪」

 

八幡「解りましたよ。清、安、行くぞ・・・」

 

清・安「「は~い・・・」」

 

俺達も生徒会室を退室した。さてさて、明日は一体どうなる事やら・・・・。

 

 

ー角谷sideー

 

角谷「イヤ~久しぶりに見たね~、比企谷ちゃんの“司令官モード”♪」

 

小山「笑い事じゃないですよ会長。比企谷くんがあのモードになるとこっちは寿命が縮む思いなんですから。ほら桃ちゃんも腰を抜かしてないでしっかりして・・・!」

 

河嶋「柚子ちゃ~~ん・・・!」

 

角谷 「まぁ比企谷ちゃんがあのモードになるのはそうそう無いし、傍目で見てると結構面白いけどね~♪ それで、他の男子生徒の希望者は?」

 

小山「はい、比企谷くんと、加藤くんと山本くんを除くと7人くらいは集まりました」

 

角谷「じゃその子達には悪いけど入部お断りで♪」

 

小山「分かりました。ほら桃ちゃんも、比企谷提督はもう帰ったから落ち着いて・・・!」

 

河嶋「比企谷提督がこわいよ~~・・・!」

 

角谷「(ボソッ)頼りにしてるよ、比企谷提督♪」

 

 

 

ー八幡sideー

 

さて、学校から帰って来て制服から審神者服に着替えた俺は本丸鎮守府にて、今年最初の“刀剣男士の顕現”を始めようとした。何せ今年に入ってから、やれ学園艦の護衛艦のシフト調整、やれ“鶴丸”企画の艦娘達も巻き込んだドンチャン騒ぎ、やれ出陣だ、やれ遠征だで新たな刀剣男士を顕現させる時間が取れなかったからな。今回は二振りほど顕現させようと、俺はお札を持って研ぎ部屋に赴いた。

 

???「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

そして、台座に置かれた刀身にお札を乗せると刀身が光り輝き、そこから二人の刀剣男士が顕現した。

 

 

~本丸鎮守府・食堂~

 

長谷部「皆注目、新しく顕現した刀剣男士を紹介するぞ!」

 

食堂に集まった刀剣男士達と艦娘達に新たな刀剣男子を紹介した。

 

一人はサラサラした豊かな黒い長髪に側頭部に白銀色と紫の髪飾りを付けた線の細く、瞳は“江雪左文字”とように閉じられているような細目の美青年。現在は内番服である白いラインが入った青いジャージを着ている。

 

数珠丸「はじめまして、私は“数珠丸恒次”。『天下五剣』の一振りです。どうぞよろしくお願いいたします(ペコッ)」

 

ざわざわ・・・・!

 

川内「『天下五剣』って!」

 

神通「三日月宗近様と同じ!?」

 

那珂「うわ~、綺麗な人・・・!」

 

早速艦娘達がざわつき、刀剣達も『天下五剣』の登場にざわつく。しかし数珠丸って、「お前を殺す」ってある意味での生存フラグを建てそうなセリフが似合いそうだな。

 

長谷部「静かに! もう一振りの刀剣男子が顕現している。主、どうぞ」

 

八幡「サンキュー長谷部。それじゃもう一振り紹介するな」

 

俺の後ろから現れた刀剣男士は青いTシャツに黄色いラインが入った白いジャージ(長袖に短パン)を着て紺色で癖ッ毛の長髪の両サイドを一部小さな三つ編みにして羽飾りを付けた俺と同い年の伊達系美少年。

 

太鼓鐘「待たせたなぁー皆の衆! へへへ、なぁんてね、俺が噂の貞ちゃんだぜ!」

 

八幡「こいつは“太鼓鐘貞宗”。伊達政宗の次男坊、伊達忠宗が使っていた短刀だ」

 

天龍「えっ? 伊達政宗って事は・・・・」

 

光忠「貞ちゃん!」

 

鶴丸「貞坊!!」

 

太鼓鐘「光ちゃん! 鶴さん!」

 

やっぱり燭台切と“鶴丸”と知り合いか、ん?てことは・・・・。

 

太鼓鐘「伽羅も久しぶり! また会えて嬉しいぜ!!」

 

伽羅「あぁ・・・・」

 

なんと、あの『大倶利伽羅』が小さくだが笑った。

 

“鶴さん”と呼ばれたのは白い着物に白銀の髪に白い肌をした、まさに純白の鶴を思わせん刀剣男士『太刀 鶴丸国永』。平安の時代に打たれた刀剣で三日月と同じく年長者組に入り、伊達家だけでなく“織田信長”や他にも多くの持ち主を転々としてきたことも有る経験者なのだが、その性格は“驚き”が大好きなやんちゃ小僧。この“本丸鎮守府のイベント企画部長”として日々“新たな驚き”を求める刀剣男士。

 

そして“伽羅”と呼ばれたのは光忠や太鼓鐘と同じく“伊達家伝来”の刀剣男士『太刀 大倶利伽羅』。赤いラインが入った黒いジャージを着て、浅黒い肌に黒い短髪、無口でクールな佇まいの刀剣男士。「馴れ合うつもりは無い」と言ってる近寄りがたい雰囲気を出す無愛想ボッチ系だ。同じボッチ系としてそれなりに俺とも以外と話が合うヤツだ。

 

龍田「アラアラ~、倶利ちゃんが笑うなんて珍しい~。そんなに太鼓鐘くんが来てくれたのが嬉しいのかな~?」

 

伽羅「別に普通だろう・・・」

 

大倶利伽羅をからかっているのは天龍の妹で『天龍型軽巡洋二番艦 龍田』。紫のボブカットヘアでおっとり口調で話す美少女だが、その実、笑顔で威圧して薙刀を振り回す恐い性格の艦娘。天龍が外見の恐さなら龍田は内面の恐さと言っても良いくらいだ。天龍が光忠と付き合うようになり、龍田自身も大倶利伽羅と付き合うようになった。嫌、どちらかと言うと大倶利伽羅が龍田から強烈なモーションをかけられており、寄り切られそうになっていると言っても良いな。

 

八幡「さて、それじゃ太鼓鐘の事は光忠、鶴丸、大倶利伽羅に任せるとして、数珠丸の方は・・・“にっかり”、任せるぞ」

 

にっかり「おや主、僕に任せるのかい?」

 

八幡「分かってるんだよ、お前と数珠丸が同じ“青江守次”作の刀剣だってな」

 

にっかり「おやおや、主は人の秘密を探るのが好きだねぇ・・・」

 

八幡「・・・兎に角任せたからな」

 

数珠丸「ヨロシクお願いします兄弟」

 

にっかり「あぁ任せてくれ兄弟、今は学園艦の護衛任務で居ない“如月”くんと“睦月”くんにも後で紹介しよう」

 

数珠丸「それは楽しみですね」

 

数珠丸と会話しているのは緑色の長髪で片目を隠した数珠丸と同じジャージを着た刀剣男士『脇差 にっかり青江』。かつてにっかりと笑う女の霊を斬った事からそう呼ばれるようになり、何かしら金色のグッズを持っており、如何わしい物言いが好きな変人である。

 

鶴丸「あ、主悪い、俺は新しい“驚き企画”をまとめないといけないから、貞坊の事は光坊と伽羅坊に任せて良いか?」

 

八幡「また何かのイベント企画か? この前の花見といい、その前のホワイトデー企画やバレンタイン企画や節分やら、ホント飽きないな鶴丸は・・・」

 

鶴丸「フッフッフッフッフッフッ・・・主、人生には驚きが必要なんだぜ♪」

 

コイツを角谷会長に引き合わせたら火に油に成りかねんな・・・。

 

八幡「ハァ・・・光忠、大倶利伽羅、太鼓鐘、こう言ってるが・・・」

 

光忠「僕は構わないけど・・・」

 

伽羅「俺も構わん・・・」

 

太鼓鐘「鶴さんが何をするのか、スッゲェ楽しみだぜ!」

 

八幡「あっそ、天龍、龍田、鎮守府の方はお前らが案内してやってくれ」

 

天龍「応よ!」

 

龍田「は~い」

 

八幡「“翔鶴”、“瑞鶴”、鶴丸が無茶振りな企画出さないようにストッパー役を任せる」

 

翔鶴「はい提督、鶴丸様は私達にお任せください」

 

瑞鶴「アタシ達が止めても鶴兄は止まらないと思うけど・・・」

 

心強い事を言うのは鶴丸と同じ銀色の髪を長髪にし、赤いヘアバンドを付けたお淑やかな艦娘『翔鶴型航空母艦一番艦 翔鶴』、ほとんど諦めの境地にいるのは翔鶴の妹艦で薄灰色の髪を白いリボンでツインテールにした気の強そうな性格の艦娘『翔鶴型航空母艦二番艦 瑞鶴』。二人とも鶴丸と同じく名前に“鶴”が入っている為、鶴丸とは家族関係な付き合いだ、鶴丸と翔鶴が夫婦みたいなモノで、瑞鶴は嫁の妹と言った感じだ。

 

さて、数珠丸と太鼓鐘の紹介も終わり、その夜は二降りの“歓迎会”で夜遅くまでドンチャン騒ぎの宴が始まった事は言うまでも無い。

 

 

 

~翌日・大洗学園校庭~

 

八・清・安「「「ふあぁ~~・・・・」」」

 

ヤッベ、昨日は遅くまで騒いでいたから俺も清光も安定も寝不足だわ・・・。全くこんな状態なのに校庭の大型倉庫に集まれって、会長も人使いが荒い、何処のブラック企業だ? 倉庫についた俺達の目の前に十数人の女子生徒達がいた。

 

見るからにノリの良さそうな、見た感じ一年生と思わしき六人。何か軽いスィーツな考えで入部したって感じだな。

 

真田幸村の六文銭のハチマキを付けた女子、ドイツ将校の格好の女子、ストールを巻いた古代ローマ風の女子や、紋付き羽織を羽織った女子と、珍妙なコスプレをした四人組。仮想大会出場者か?

 

バレーボールのユニフォームを着た長身が三人に小柄が一人の凸凹チーム。何か「目指せ、バレー部復活!」とか叫んでるけど、何ゆえ戦車道に?

 

そして西住と武部と五十鈴、と何か西住達から離れた位置で西住に熱い視線を送るゆるふわヘアの女子・・・えっ? まさかあれか? “大井”と同じタイプか? 勘弁してくれよ、クレイジーサイコレズは“大井”だけでお腹いっぱいなんだぞ・・・。

 

かなりバラエティーに飛んだどころか宇宙までかっ飛んで行きそうな連中だな。あ、西住達が俺達に気づいた、西住は目を反らしたが武部と五十鈴は警戒心出してやがる。まぁ別に良いけどな。

 

清光「(ボソボソ)思ったより集まらなかったみたいだね・・・」

 

安定「(ボソボソ)さっき小山先輩から聞いたけど僕達と生徒会を入れても24人だって・・・」

 

八幡「(ボソボソ)こんな寄せ集めのガラクタ集団で何とかなるのか・・・?」

 

あぁやっべぇ、スッゲェ不安・・・。

 

河嶋「では、これより戦車道の授業を開始する」

 

???「あい! その前に良いですか!」

 

河嶋先輩が授業を開始しようとしたら一年生組から小柄な生徒が挙手した。

 

河嶋「何だ、阪口桂里奈」

 

桂里奈「どうして男子生徒の人がいるんですか!?」

 

阪口桂里奈と呼ばれた女子生徒の質問は西住達を除く全員の意見だった。河嶋先輩の前に会長が説明した。

 

角谷「その三人はマネージャーだよ。流石に男手が必要になるときが有るかもしれないからね」

 

桂里奈「なるほど! マネージャーさんですか!」

 

会長の説明にみんなが納得した。西住達は「やっぱり生徒会の犬か」と言わんばかりの視線をビシバシ叩きつけているが。

 

角谷「それじゃ紹介しないとねぇ~、と言う訳で自己紹介ヨロシク~♪」

 

八幡「・・・・普通科二年A組、比企谷八幡」

 

清光「同じく二年A組、加藤清光。オシャレの事にはそれなりに相談になれるよ♪」

 

安定「僕も二年A組、山本安定。剣道部の助っ人も兼任しているよ、ヨロシクね!」

 

「うわ~、美形な先輩だね・・・」

 

「でも一人、目が腐ってるよ」

 

「キャプテン! あの人、根性無さそうです!」

 

「あの目、まるで落ち武者のようだ・・・!」

 

悪かったな。どうせ俺は清光や安定と違って美形ではないよ、だがこの目付きを直せばそれなりに二枚目なんだぞ。直す気はないけどな。清光や長谷部や今剣のような古株の刀剣男士達が言うには、一年前より目はマシになったそうだが・・・。

 

秋山「あのところで戦車は、“ティーガー”ですか? それとも・・・!」

 

角谷「え~と、なんだったけな?」

 

西住を見ていたゆるふわヘアの質問に会長が適当に返し、倉庫の扉が開かれるとソコには・・・。

 

小型で錆びまみれなボロッボロの戦車が置かれていた。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

女子一同だけでなく俺と清光と安定もガッカリした顔色を浮かべる。

 

安定「ねぇ清光・・・」

 

清光「言わなくても良いよ安定・・・」

 

「なにこれ・・・・?」

 

「ボロボロ・・・・」

 

「あり得な~い・・・」

 

五十鈴「わびさびで宜しいんじゃ?」

 

武部「これはただの鉄錆び・・・」

 

俺も一年生組と同じだ。ぶっちゃけあり得な~い!って叫びたいよ。つうか五十鈴、武部のツッコミ通り“わびさび”どころか、“詫びたくなるほど錆びだらけ”な感じだぞ? これで“わびさび”が有るって言うなら、今すぐにでもこの場に“歌仙”を呼び出して、茶を点てて貰いたい気分だわ。みんながガッカリしている中、西住がボロボロの戦車に近づき戦車の状態を確認するように見つめる。

 

みほ「・・・・・・・・・・・」

 

さっきまでと目付きが違うな。なんやかんや言っても家元の人間、戦車を見て反射的に興味を持ったか・・・。

 

みほ「装甲も転輪も大丈夫そう、これなら行けるかも・・・!」

 

『おおおぉぉぉ~~~~!!』

 

やっぱり西住は家元の人間だな。

 

武部「こんなボロボロで何とかなるの?」

 

みほ「多分・・・」

 

武部「男と戦車は新しい方が良いって言うよ」

 

だったら武部よ、刀剣男子は古い奴等(宗近とか鶴丸とか)よりも清光達幕末組のような新しいタイプの方が良いって言いたいのか?

 

五十鈴「それを言うなら、女房と畳は・・・」

 

武部「同じようなモンよ。それにさ、1両しかないじゃん?」

 

小山「えっと、この人数だったら・・・」

 

河嶋「全部で5両必要です」

 

角谷「んじゃぁみんなで戦車探そっか!」

 

『ええええぇぇぇ・・・!!』

 

おいこの適当生徒会長、戦車探そうかって、ちょっとコンビニまで買い物に行こうかみたいな軽いノリで言いやがったよ。

 

「探すって・・・」

 

「どういう事ですか?」

 

河嶋「我が校においては、何年か前に戦車道は廃止になっている。だが、当時使用していた戦車が何処かにある筈だ。いや必ずある。明後日、戦車道の教官がお見えになるので、それまでに残り4両を見つけ出す事」

 

「して、一体何処に?」

 

角谷「イヤ~それが分からないから探すの」

 

適当過ぎだろう、手掛かり0って・・・・。

 

「何の手掛かりも無いんですか?」

 

角谷「無い!」

 

小山「アハハハ・・・・」

 

河嶋「では、捜索開始!」

 

開き直ってふんぞり返りやがったよこの生徒会長。小山先輩も流石に苦笑い浮かべてるし、河嶋先輩の号令でそれぞれ動き出した。この広報、完全に生徒会長のイエスマンだな。

 

武部「聞いてたのと何か話が違う、戦車道やってるとモテるんじゃ・・・・」

 

角谷「明日カッコいい教官来るから」

 

武部「えっ! 本当ですか!?」

 

角谷「ホントホント♪ 紹介すっから♪」

 

武部「~~! いってきま~す!!」

 

み・華「「・・・・・・・・・・・・・」」

 

八・清・安「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

西住と五十鈴だけでなく俺達も呆れる。武部、お前変な勧誘に騙されるなよ、おかしな生物と契約して魔法少女になろうなんて考えるなよ・・・。

 

角谷「さて、比企谷ちゃん達はどうする?」

 

八幡「どうする?って、まぁ俺達も探しておきますよ」

 

角谷「だったら何処かの班と一緒に行動してみたら?」

 

八幡「例えば?」

 

角谷「例えば、一年生組の4班とか」

 

八幡「あのノリと勢いには付いていけません」

 

“藤四郎兄弟達”や“電”達ならともかく、初対面でテンションの違う人間は勘弁。

 

角谷「んじゃバレーボール部の2班は?」

 

八幡「熱血体育会系は間に合ってますので・・・・」

 

イヤホント、“山伏”や“同田貫”とかで間に合ってますから・・・・・。

 

角谷「んじゃさ、歴史大好きな3班はどうかな? 比企谷ちゃんも加藤ちゃんも山本ちゃんも歴史に強いじゃん♪」

 

八幡「3班ってあの珍妙コスプレ集団ですか? 俺の日本史の知識はおさわり程度(ある程度ウソ)ですよ。清光も安定も幕末時代をちょっと知っている(沖田総司関連)レベルですし、あんなオタク&マニア組には敵いません」

 

しかもあの中の一人(黒髪のモジャモジャヘアに眼鏡を掛けたトランジスターグラマーな女子)、間違いない無く幕末時代のマニアだ。清光と安定がボロを出す可能性が有る。

 

角谷「それじゃ西住ちゃん達1班・・・」

 

八幡「さっきの西住達の様子見ました? 西住はさることながら、武部と五十鈴も俺達を警戒しまくってますよ。一緒に行ったら険悪ムード全開じゃないですか、そう言う会長達は動かないのですか?」

 

角谷「私達は指揮官としてこの場所でみんなを待つよ♪」

 

ようするに面倒事は下の者にやらせるのね、良い性格してるよウチの会長様は。

 

安定「(ボソボソ)ねぇ清光・・・」

 

清光「(ボソボソ)なに?」

 

安定「(ボソボソ)あのね、ヒソヒソヒソヒソ・・・」

 

清光「なるほどね、わかった。八さん! そろそろ行こうよ!」

 

八幡「おう、んじゃ会長、俺達はこれで。んで何処を探す?」

 

安定「森の方を行ってみようよ。宝物は森の中に有るって言うのが相場だしさ!」

 

八幡「あのな安定、お前変なテレビの見すぎじゃねぇのか?」

 

安定「そんな事無いよ! きっと戦車は森の中に有るよ!」

 

清光「ま、他にアテは無いし、行ってみようよ八さん」

 

八幡「清光まで・・・わかった行ってみるか」

 

安定「かくして、勇者八幡は森の中へ進んだ!」

 

イヤなんだよ安定そのモノローグ。つか俺が勇者なんて世界破滅するぞ。て言うかお供が剣士2名って、近接接近だけじゃねぇか、せめて僧侶だけでも加えようぜ。

 

なんて馬鹿話しながら俺達は森へ向かった。

 

 

 

 

 

~数分後~

 

八幡「何だこりゃ??」

 

???「ZZZ・・・ZZZ・・・ZZZ・・・ZZZ・・・」

 

俺と清光と安定は戦車を探して森を歩いていると、木漏れ日で横になって昼寝をしている女子生徒がいた。一年生位の小柄な背丈に五十鈴と同じ長い黒髪をして、顔には日除けの為か開いた本を被っている。寝息だけでも気持ち良く寝てるのが分かるわ。

 

清光「ねぇ八さん。確か今は選択授業中だよね?」

 

安定「なのにこの子こんな所で寝てるけど・・・」

 

八幡「大方サボりだろう、こちとら生徒会に目ぇ付けられて社畜ヨロシクな学生生活で苦労しているって言うのにいいご身分なこって・・・!」

 

清光「どうする? 起こす??」

 

安定「でもさ、無理矢理起こすのは気の毒だと思うよ」

 

八幡「ほっとくぞ、暇人に構っているほど俺らも暇じゃない」

 

俺達は寝ている暇人をそのまま放置して森の奥へ進んだがーーーーーー。

 

 

 

~十数分後~

 

八幡「迷った・・・」

 

森の奥へ進んだ俺はいつの間にか清光と安定とはぐれてしまっていた。勿論ケータイで連絡しようとしたが。

 

《現在電波が届いていないか、電源が入っていないため繋がりません》

 

この通りである。まったく、この事を長谷部に伝えてきつくお叱りをしてもらおうかと考えていると、視界に何かが入った。ソレに向かって歩いていくと。

 

八幡「マジかよ、安定の勘って本当に良く当たるな・・・」

 

目の前で見つけたのは古い戦車、確か『ドイツ戦車 Ⅳ号戦車』か。随分と古い戦車だな、第二次世界大戦でナチスの戦車だな。

 

みほ「比企谷くん・・・?」

 

八幡「あ? 西住?」

 

すると戦車の横に座っていたのか西住がいた。なんだよこの偶然、ん? 偶然か? まさかアイツら・・・・まぁとりあえず。

 

八幡「西住、まさかお前も迷子か?」

 

みほ「お前もって、まさか比企谷くんも?」

 

八幡「ハァ、お互いツイてねぇな。武部達と連絡とれるか?」

 

みほ「アハハ、実は携帯、寮に忘れちゃって・・・」

 

八幡「ケータイの意味ねぇじゃねぇかよ・・・」

 

みほ「ゴメンね、比企谷くんの方は?」

 

八幡「清光と安定に連絡したが、電源が入っていないのか通じない」

 

みほ「・・・・他に連絡できる人は?」

 

八幡「・・・・中学の方に妹がいるがまだ授業中だ。他に連絡できる奴は大洗には居ない、学園内で連絡を取れるのは清光と安定だけだ」

 

見える「えっ? 生徒会の人達は??」

 

八幡「あの人達は俺のケータイ番号なんか知らねぇよ」

 

それに教えてないし、学園艦の護衛艦の打ち合わせは殆んど生徒会室でやってるしな。

 

みほ「えっ? 比企谷くん、生徒会の人じゃないの?」

 

八幡「あぁ?」

 

ゴオゥ!

 

みほ「ひっ!!」

 

八幡「(シュン)おっとすまん、まったく心外で的外れな事言われてムカッと来ちまったマジですまん」

 

みほ「あ、こっちも、なんかゴメンね」

 

俺は西住から少し離れて腰掛ける、最終手段として護衛艦として来ている三日月達に連絡する事も考えとくか・・・。

 

みほ「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

八幡「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

お互い無言になるが、正直気まずい・・・・あぁ仕方がない。

 

八幡「なぁ西住・・・・」

 

みほ「な、なに?」

 

八幡「お前が戦車道をやりたくないって言ってたの、“去年の決勝戦の事”を気にしてたからか?」

 

みほ「っ! なんで、知ってるの?」

 

八幡「実は去年の決勝戦、俺も見ていたからな・・・・」

 

みほ「そう、なんだ・・・・」

 

そう俺は知っていた。西住の去年の決勝戦の起きた出来事を。

 

西住が去年までいた黒森峰は十連覇を目指して決勝戦でプラウダ学園とあたった、切り立った崖の道を行軍していた黒森峰チーム、西住は試合の勝敗を決める“フラッグ車”に乗っていた、しかしその日は生憎の雨で地面がぬかるんでおり、黒森峰の戦車1両が泥濘に転輪を取られ、崖から落ちて激流になっていた川に転落、西住は間髪いれずに転落した戦車に向かうが運悪くプラウダの戦車チームに見つかり、フラッグ車が攻撃されて黒森峰は敗退、記念すべき十連覇を逃してしまった。しかも敗退の原因は、“戦車道の家元である西住家の娘”が勝手な行動を起こした為だ。そんなスキャンダルをマスコミと言う名のマスゴミ連中が見逃す訳なく、西住はパッシングを受けてきた。

 

八幡「OG達やチームメイトからの非難、マスゴミからのパッシング、戦車道をやりたくない理由としては立派な理由になるな・・・」

 

みほ「うん、それにお母さんにも言われたんだ。“貴女は西住流にふさわしく無い”って・・・」

 

八幡「なるほど、実の親からもそんな事言われたら正にやりたくない理由の3連斬りだわな・・・・」

 

みほ「私、ただ“勝つだけの戦車道”がどうしても納得できなかった。でも、お母さんもお姉ちゃんもそんな私を“ダメな子”だと思ったんだなって思うと、戦車道が恐くなって・・・・」

 

八幡「・・・・何処の誰が“ダメな子”なんだよ?」

 

みほ「えっ?」

 

八幡「良いか西住、世の中にはな。“贋作”だって理由だけで弟に反発されている兄がいるし、“写し”だって理由でコンプレックス抱いてネガティブオンステージになっているヤツだっているんだぞ・・・!」

 

 

 

ー本丸鎮守府・虎撤の部屋ー

 

長曽根「へックシっ!!」

 

浦島「“長曽根”兄ちゃん、風邪? 大丈夫??」

 

浦風「風邪なら薬研くんからお薬を貰ってくるぞ?」

 

長曽根「あぁ大丈夫だ“浦島”、“浦風”・・・」

 

蜂須賀「“浦島”達に伝染すなよ、“贋作”!」

 

浜風「“蜂須賀”さん、そんな言い方は・・・!」

 

長曽根「気にしなくて良いぜ、“浜風”」

 

磯風「本当に大丈夫なのか“長曽根”?」

 

長曽根「あぁ、本当に大丈夫だぜ、“磯風”」

 

 

ー本丸鎮守府・中庭ー

 

山姥切「クシュンッ!」

 

叢雲「ちょっと“山姥切”、風邪でも引いたの?」

 

山姥切「イヤ、問題無い“叢雲”」

 

堀川「兄弟、ちょっと良いかな?」

 

叢雲「“堀川”?」

 

山姥切「どうした兄弟?」

 

堀川「うん、山伏兄弟が数珠丸さんとにっかりさん、それに“同田貫”さんと一緒に修行に行こうとしているから、僕も行こうと思ってね、兄弟もどうかな?」

 

叢雲「“山伏”と“同田貫”?! 本丸鎮守府の中でも修行&鍛練馬鹿コンビじゃない! て言うか“堀川”、“和泉守”と吹雪はどうしたの?」

 

堀川「“兼さん”は今日は“遠征”に行ってるし、吹雪ちゃんも“知波単”の護衛任務で出ているから大丈夫だよ」

 

山姥切「“写し”の俺なんかを連れていっても・・・」

 

堀川「そんな事言わないで兄弟! 僕も山伏兄弟も、兄弟の事を兄弟だって思っているんだから・・・!」

 

山姥切「しかし・・・・」

 

叢雲「あぁもう、めんどくさいわね! せっかくの兄弟からの誘いなんだから行って来なさいよ!」

 

山姥切「・・・・兄弟、構わないか?」

 

堀川「勿論だよ! 兄弟!!」

 

山姥切「わかった・・・」

 

叢雲「気をつけて行きなさいよ」

 

 

ー八幡sideー

 

八幡「だがな、ソイツらは自分の事をそんな風に言っても言われても、自分のやるべき事をちゃんと理解して、自分の成すべき事を成す立派な奴等だ。だから俺はソイツらを“贋作だ”とか“写しだ”とかで区別なんかしないし、ソイツらを“尊敬”している。ソイツらに比べたらお前の“ダメな子発言”なんて、今までエリート街道を歩いてきて挫折したお嬢様の愚痴みたいなモンだ・・・!」

 

みほ「・・・・・・・・・・・・」

 

はっ! しまった。

 

八幡「すまん、ちょっと熱くなってしまった」

 

みほ「ううん、ちょっと以外だったから・・・」

 

八幡「以外?」

 

みほ「比企谷くんって、加藤くんや山本くん以外の人達をそんな風に思っているなんて少し以外だなって」

 

八幡「フン、友人なんてあんまり多すぎると関係を保つのに気苦労が多くなるだけだ。ほんの一握りの友人が居ればそれだけで十分なんだよ」

 

まぁそう言いながら、現在は一握りで済まなくなってしまったが・・・。

 

みほ「そう言うモノかな?」

 

八幡「まぁ、俺の持論は取り敢えず置いといて・・・西住よ、お前自身はどう思っているんだ?」

 

みほ「え?」

 

八幡「あの時、あの決勝戦での事故の時、チームメイトよりも優勝を優先してれば良かったと思っているのか?」

 

みほ「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

八幡「多分だけど、チームメイトを見捨てて優勝を優先していたら、いや寧ろそうしていたら、今よりももっと辛かったと思うぜ」

 

みほ「今よりも辛い?」

 

八幡「西住ってさ、“自分よりも他人を優先してしまうタイプ”だと思う。そんな西住がチームメイトを見捨てていたら今よりも苦しんでいたと俺は思うぞ」

 

みほ「そう、かな・・・?」

 

八幡「俺が勝手に西住の性格を考えてみたんだがな。西住、お前自身はどう思っているんだ? お前はあの時に見捨てておけば良かったと思ってるのか? 助けなければ良かったと思ってるのか?」

 

みほ「・・・・・・・・(フルフル)」

 

西住は少し考えると無言で首を横に振る。一年前の俺なら西住の行動を理解出来なかっただろうな、他人の為に行動する人間なんていない、人間なんてみんな自分本意な生き物だって思っていたあの頃の俺よりも、少しはマシになったのかな?

 

八幡「だったらそれが“答え”だ西住。俺の知り合いの中には、大事な人を助けたくても助けられずに、心に傷を負った奴等も結構いる。だがお前は助けられた。それは誇っていい所で有り、後悔するものではないぞ」

 

池田屋事件で折れてしまった清光も、病で刀が振るえなくなった沖田総司に何もできなかった安定も、“土方歳三”を守れなかった“兼定”も“堀川”も、坂本龍馬を守れなかった“陸奥守吉行”も、源義経と“武蔵坊弁慶”を守れなかった今剣と“岩融”も、刀剣男士達の中には前の主を守る事ができなかったヤツがいるからな・・・。

 

八幡「これからもあの決勝戦の事を責める人間が現れるだろうよ。だが、ここにお前のやった行動を支持する人間が少しばかりだが、居るって事は理解しておけよな・・・・ん?」

 

みほ「(ポタポタ)・・・・・・・・」

 

ふと西住の方を見ると、何故か西住が顔を俯かせて泣いていた。えっ? なんで? どうして? ヤバくない? これ誰かに見られたら俺が西住を泣かしたと思われるんじゃね? ヤベーイ! マジヤベーイ!! 俺の心のハザードトリガーが叫ぶ!

 

八幡「あの、西住・・・さん?」

 

みほ「あっ、ゴメンね・・・何か・・・そんな風に言って貰えたの・・・初めてだったから・・・」

 

八幡「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

親や姉、チームメイトにマスコミ、色んな人達から責められてて相当辛かったようだな。

 

八幡「西住、泣きたいときは泣いておけよ。変に我慢していると逆に辛いだけなんだ・・・」

 

みほ「うっ、うぅっ・・・! 比企谷くん・・・」

 

八幡「ん?」

 

みほ「ありがとう・・・」

 

八幡「・・・・・・・おう」

 

この時、俺と西住の距離感が少しばかり縮んだ気がしたのは、多分気のせいではなかった・・・・。



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比企谷八幡の連絡先が増えた

注意:これからはキャラが多いので、セリフの前に名前を入れていきます。


みほ「えっ、加藤くんと山本くんが小学生の子達と追いかけっこ?」

 

八幡「あぁ、アイツらが通っている“剣道道場”って小学生から大学生、果ては成人している人達までいるからな。雪合戦していたガキんちょ達の雪玉が当たっちまって追いかけっこ始めやがったんだ(あの時は吹雪達や暁達もいたからマジで大変だったな・・・)」

 

みほ「それで、どうなったの?」

 

八幡「その追いかけっこしてみんなに迷惑掛けちまってな、全員揃ってお説教受けたんだ」

 

みほ「それはちょっと加藤くんと山本くんが災難だけど、何だか賑やかで楽しい話だね」

 

西住が泣き止み、場の空気を変えようと今年の冬休みに起きたちょっとした本丸鎮守府でのドタバタを話す。以外と西住の食いつきと反応は良かった。勿論本丸鎮守府の事は伏せ、“清光と安定が通っている剣道道場”と言うことにしている。

 

みほ「でも比企谷くん、何でそんなに加藤くん達が通っている道場に詳しいの?」

 

八幡「あぁ・・・その剣道道場、俺の実家の向かいにあってな、“ご近所付き合い”みたいなモンで清光達とも関わっていたんだよ」

 

ある程度の語弊はあるが嘘は言ってない。本当だよ、八幡ウソつかない。

 

みほ「そうなんだ「みほーーーーっ!!」沙織さん?」

 

西住が立ち上がり辺りを見ると、西住を探していた武部と五十鈴、それに西住を見ていたユルフワヘアがやって来た。

 

ユルフワ「西住殿! 大丈夫ですか!?」

 

沙織「もう、いつの間にかはぐれちゃってて慌てたよ・・・」

 

華「でも無事で何よりでした」

 

みほ「うん、心配掛けてゴメンね」

 

本当に心配していたようだなて言うかユルフワ、西住の事を西住殿って、何処の武士だ?

 

沙織「ん? あっ! 生徒会の犬比企谷八幡!!」

 

げっ、コッソリ立ち上がったら武部に見つかっちまった。誰にも気付かれない“八幡ステルス”が通用しないとは・・・!

 

沙織「何でアンタがここにいるのよ!」

 

華「みほさんに何かしたのですか?」

 

うわ~ぉ、予想通り武部と五十鈴は警戒心剥き出し。ユルフワは突然の武部と五十鈴の態度にオロオロしておる。

 

みほ「待って沙織さん、華さん。比企谷くんも加藤くんと山本くんとはぐれて偶然ここに来たんだよ」

 

沙織「だったら携帯で連絡すれば良いじゃん!」

 

みほ「それが加藤達、電話が通じなくね「あぁ西住、おそらくそれは少し違っている」えっ?」

 

俺は首を傾げる西住を一旦無視して目の前の木々を見る。

 

八幡「清! 安! 分かってンだよ! いい加減出てこい!!」

 

すると、目の前の木々から見知りまくった二人、イヤ二振りが現れた。

 

安定「あっれ~八さん、こんな所にいたんだ~?」

 

清光「突然居なくなっちゃったから心配したんだよ~!」

 

思いっきりの棒読みのセリフを吐く二振りに、俺は首に腕を回して締め上げる。

 

八幡「何が“居なくなっちゃたから”だ! テメェらわざと俺をここに誘導しやがったな!」

 

清&安「「イタイ、イタイ♪」」

 

沙織「どういう事みほ?」

 

華「比企谷さんに、何もされなかったのですか?」

 

みほ「ううん、むしろその逆だよ。比企谷くんのお陰で、ちょっと心に有った重いものが軽くなった気持ちになったんだ」

 

ユルフワ「えっ? 西住殿、何か心に病でも患っていたのですか?」

 

みほ「うん、ちょっとね」

 

八幡「西住・・・」

 

みほ「あっ!比企谷くん」

 

清光と安定をまるで猫の首根っこを掴むように持ち上げる。

 

八幡「すまねぇな。このアホたれコンビ、わざと携帯の電源をOFFにしてやがった」

 

みほ「えっ? そうだったの?」

 

八幡「オイ清光、安定。何でこんな真似したんだ?(ボソボソ)正直に言わないと、長谷部にこの事を伝えて『お叱りの刑 三時間コース』をしてもらうぞ・・・!」

 

安定「イヤ~森を散策してたら西住さんがこの戦車に近づいているのが見えたから」

 

清光「八さんと二人っきりさせて、少しでも二人の間にある“溝”を埋めようかなぁと思ったんだよね」

 

八幡「何?」

 

安定「だってさ、折角同じ戦車道をやるって言うのに、西住さん達とずっと険悪な雰囲気出てたら楽しくないよ」

 

清光「まぁ八さんも西住ちゃんも、こんな機会なければ腹割って話そうなんて絶対起きそうにないと思ってね」

 

コイツら、いらん気を回しやがって、わざわざ“索敵”まで使って西住を探したんだな・・・!

 

みほ「そうだね」

 

沙織「えっ? みほ??」

 

みほ「あの比企谷くん・・・」

 

八幡「あん?」

 

みほ「その、ね。加藤くんや山本くんが言い分も正しいと思うんだ。折角同じ戦車道をやるのにギスギスした雰囲気をしていたらダメだと思うから・・・(スッ)これから、よろしくお願いします!」

 

えっ? 西住さん? なにその手? えっ? もしかして俺と握手したいの? むかし「比企谷に触ったら変な病気が伝染されちゃう~!」ってクラスの女子達に拒絶された俺と握手したいのかよ?

 

安定「(ボソボソ)なにしてンの八さん!」

 

清光「(ボソボソ)女の子を待たせるもんじゃないよ!」

 

八幡「えっ? あぁ、わかった」

 

スッ

 

清&安「「ギャフン!」」

 

突然の首根っこを掴んでいた手を離されて地面に倒れる清光と安定に構うこと無く、俺は西住と握手した。

 

八幡「あぁ、その・・・西住、俺の方のこそ、その・・・なんだ、ヨロシクな・・・」

 

みほ「うん!」

 

何だ、西住ってこんな風に笑えんだな・・・結構可愛いとは思ってないぞ、“電達”や“今剣達”だって笑うと可愛いんだからな、西住だけが可愛い訳ではないからな!

 

沙織「ムウーーーーーーーーーーーー!!」

 

オイ、何か武部がむくれているぞ?

 

沙織「比企谷に清くんに安くん! 携帯貸して! 番号交換するから!!」

 

八&清&安「「「えっ?」」」

 

ちょいと武部さん、それってプライバシーの侵害ですよ?

 

沙織「みほがもう気にしてないのに、私が比企谷達を嫌ってたらなんか馬鹿みたいじゃん! それにまた同じ事が起きてもこれで連絡取れるでしょ!」

 

華「そうですね、私も比企谷さん達とは仲良くしたいと思いますし」

 

ユルフワ「ああの、でしたら私とも・・・!」

 

武部だけでなく、五十鈴とユルフワまで・・・ってその前に。

 

八幡「まぁ番号交換ならお前らが良いなら構わんが・・・ところでユルフワさん、アンタ誰?」

 

ユルフワ「あぁこれは失礼しました! 私“秋山優花里”です! よろしくお願いします!」

 

秋山優花里ね、なんか雰囲気的に“夕立”に似てるっぽいな。

 

 

ー本丸鎮守府・畑ー

 

その頃、本丸鎮守府で内番の畑仕事に勤しむ刀剣男士と艦娘がいた。

 

夕立「ヘックチっぽい!」

 

鯰尾「夕立ちゃん、大丈夫? て言うかクシャミにも“っぽい”って付けるんだね?」

 

時雨「大丈夫かい夕立?」

 

夕立「大丈夫だよ“鯰尾”くん、“時雨”!」

 

骨喰「夕立、調子が悪いなら休んでていい。畑仕事は俺と兄弟と“時雨”でやっておく」

 

夕立「大丈夫だよ“バミくん”! 今日はジャガイモがいっぱい取れたから、ジャガイモ料理がいっぱい食べられるっぽいよ!」

 

骨喰「だが・・・」

 

鯰尾「“骨喰”、夕立がやりたいって言ってるなら、やらせてあげよう」

 

時雨「もしも体調が悪そうになったら僕達で支えてあげよう」

 

骨喰「・・・・・・・分かった」

 

 

ー八幡sideー

 

俺と清光と安定の番号を交換した武部と五十鈴と秋山、それと今は携帯を持っていないから後で交換する事になった西住と一緒に『Ⅳ号戦車』の事を生徒会に報告し、運搬を“自動車部”に任せ、他に戦車が無いか捜索を続けた。

 

沙織「へぇ~、清くんと安くんって剣道やってたんだ。どうりで剣道部の助っ人を頼まれる訳だね」

 

清光「“剣道”と言うより“剣術”だね、ウチの道場って実戦形式の道場だから防具を使わないで木刀で手合わせしてるんだよ」

 

華「まぁ、それでは危ないのでは?」

 

安定「防具を纏えば心に甘えが生まれる。実際の戦闘では防具なんて無いからね、ウチの道場は常に実戦を意識した訓練をしてるんだよ」

 

優花里「実戦を意識した戦闘訓練ですか! それは凄いですね!」

 

清光「お陰で生傷が絶えなくて血とか結構流したりしてたんだよね」

 

華「なるほど、これで納得しました。加藤さんや山本さんから“血の匂い”がしていたのは訓練で出来た傷からの匂いだったのですね」

 

俺と西住との会話に聞き耳立てていたから上手く会話を立ててるな。ん?今何か五十鈴から変な単語がでたぞ?

 

八幡「どういう事だ西住?」

 

みほ「えっと、華さんって華道の家元で凄く嗅覚が鋭いんだって」

 

優花里「あのⅣ号戦車も五十鈴殿が“鉄と油の匂い”で探し当てたのです!」

 

マジ? 華道の家元って警察犬ばりに鼻が効くのかよ?

 

清光「匂いって、俺体臭には結構気を使っているのになぁ」

 

安定「八さんと同じ匂袋を持っているかね」

 

清光と安定が制服の懐から、それぞれ桜色と薄紅色の匂袋を取り出す、俺も懐から地味な黒色の匂袋を取り出す。

 

みほ「うわぁハーブの良い香り~♪」

 

優花里「本当ですね~♪」

 

華「匂いを嗅ぐだけで気分がスッキリしますわね~♪」

 

沙織「何処で買ったのこれ?」

 

清光「あぁこのハーブは俺達と同じ道場の門下生が趣味で育てたんだよ」

 

 

ー本丸鎮守府・畑ー

 

そして、ここは骨喰達から少し離れた畑で。

 

長谷部「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

島風「長谷部っち、またハーブ育ててるの?」

 

長谷部「あぁ島風か、審神者や提督と言った激務や学生として学業に励んでお疲れの主の為に、丹精込めて育てているのだ」

 

島風「薬研くんも手伝っているの?」

 

薬研「大将は日頃から結構疲れているからな。愛宕姐さんも手伝ってくれてるぜ」

 

愛宕「以外と楽しいわよ♪ 大淀さん達も対抗して薄荷を育てるようになったし♪」

 

長谷部「なにぃ! 本当か愛宕!? おのれ、大淀達に負けておれん!」

 

島風「おう、長谷部っちが燃えてる・・・!」

 

愛宕「メラメラね~」

 

薬研「折角育てたハーブまで燃やすなよ・・・」

 

 

ー八幡sideー

 

安定「ちなみに、この匂袋は八さんが作ったんだよ」

 

み&沙&華&優「「「「えぇっ!?」」」」

 

何だよお前ら、その“驚愕の真実”を目の当たりにした!みたいな顔は?

 

みほ「比企谷くんってお裁縫できるの?」

 

八幡「西住、お前って結構割りと言うのな? まぁ裁縫を覚えたのはほんの一年前にな、暇潰しがてら読んだ本に裁縫の事が載っていて、やってみたら以外と面白かったから覚えたんだよ」

 

それで刀剣男子達や艦娘達に“御守り”を作る習慣ができて、お陰で新たに顕現した刀剣男士達や着任した艦娘達に渡すようになったけどな。

 

沙織「それじゃさ、今度私達にも作ってよ!」

 

華「それは良いですね」

 

優花里「比企谷殿! 是非お願いします!」

 

八幡「オイコラお前らな何を勝手に、西住も何か言ってやれ・・・」

 

みほ「あの、私も欲しいかなぁ・・・」

 

八幡「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ブルータスいや西住、お前もか?

 

八幡「ハァ、まぁ気が向いたら作るわ・・・」

 

 

~翌日~

 

倉庫に集まった戦車道チームは、見つかった戦車を見てみる。

 

清光「ボロいね・・・」

 

安定「ボロボロだね・・・」

 

八幡「どれもこれも古いタイプの旧式だな・・・」

 

俺達はボロボロの5両の戦車を見る。

 

河嶋「『89式中戦車甲型』、 『三八t軽戦車』、『M3中戦車リー』、『Ⅲ号突撃砲F型』、それから『Ⅳ号中戦車D型』、 どう振り分けますか?」

 

角谷「見つけたモンが見つけた戦車に乗れば良いんじゃない?」

 

小山「そんな事でいいんですか?!」

 

河嶋「三八tは我々が、お前達<西住達>はⅣ号へ」

 

西住「えっ? あ、はい・・・」

 

河嶋「では、Ⅳ号をAチーム(西住達)、八九式をBチーム(バレー部チーム)、Ⅲ突をCチーム(歴女チーム)、M3をDチーム(1年生チーム)、三八tをEチーム(生徒会)。明日はいよいよ教官がお見えになる、粗相のないよう、綺麗にするのだぞ」

 

角谷「あっそうだ、比企谷ちゃんと加藤ちゃんに山本ちゃん」

 

「「「はい?」」」

 

角谷「これからマネージャーとして戦車道に参加するんだから、みんなとの連絡先を交換しておいてね~♪」

 

八・清・安「「「マジっすか・・・?」」」

 

河嶋「では各員、マネージャー達と番号交換を終えたら各々の戦車の清掃に入れ」

 

 

 

 

ーBチーム<バレー部チーム>ー

 

八幡「と言う訳で、連絡先の交換に来ました」

 

「うん! よろしく頼むぞ! 私はこのバレーボール部のキャプテンで二年生の『磯辺典子』。ポジションはセッターだ!」

 

バレー部チームの中で一番小柄な女子が前に出て元気良く挨拶した。えっ? この子、俺とタメなの?

 

磯辺「ん? お前達、何処かで見たような・・・?」

 

八幡「えっ? 気のせいではないでしょうか?」

 

「キャプテン! この人達この前俊足で学校を飛び出した人達ですよ!」

 

「「「あぁっ!」」」

 

何か千代田と容姿が少し似た女子が俺達を指差して指摘すると、他の連中も頷いた。

 

磯部「そうか、お前達あの時の走り込みしていた奴等か!」

 

八幡「えぇっと・・・・」

 

清光「八さん、多分この前<承久の乱>学校を走って帰って行った時の・・・」

 

あぁあの時か。そういえばバレーボールのユニフォーム着ていた連中が目に入っていたがコイツらだったのね。

 

磯辺「イヤーこうして会えるだなんて奇遇だなぁ、どうだ、お前達も是非バレーボール部に!」

 

「「「イヤ俺達(僕達)男ですから・・・」」」

 

勧誘してくる磯辺を押さえて他の部員の紹介が始まる。バレーボール部やりたいならなんで戦車道を選んだんだよ?

 

「『河西忍』です、1年生です。アタッカーを務めています」

 

「『近藤妙子』、サーブが得意です!同じく1年生です! 気合い入れて頑張ります!」

 

「『佐々木まき絵』です! ブロックが得意です! 1年生ですが、根性はあります!」

 

嫌だからなんでお前ら戦車道を選んだの? にしても河西にしろ近藤にしろ佐々木にしろ、三人とも女子にしては中々の高身長だな。て言うか近藤と佐々木! お前らそのプロポーションで“1年生”だと?! 千歳や千代田に匹敵するぞオイ! 河西は・・・・・・まぁファッションモデルばりのスラッとした凛々しい美しさが有るな。

 

清光「(ボソボソ)何か、“山伏”と仲良くなれそうだねこの子達・・・」

 

安定「(ボソボソ)そうだね・・・」

 

コイツらと“山伏”を会わせたら絶対めんどくさい事になるな。

 

 

ーCチーム(歴女チーム)ー

 

歴女チームに行く前に清光と安定に言っておかなくてならない事が有る。

 

八幡「(ボソボソ)良いか清光に安定。向こうにはどうやら幕末が好きな歴女がいるようだ。くれぐれもボロを出すなよ」

 

清光「大丈夫だよ八さん」

 

安定「僕達だって伊達に一年間も学生生活してないんだから」

 

おいそれフラグじゃねぇだろうな? なんて言いながらも俺達は歴女チームと会った。赤いスカーフ巻いてるのや、軍帽を被ってるの、真田六文銭のハチマキしているのや紋付を羽織っていたりと、やっぱり端から見るとコスプレ集団にしか見えん。

 

「私は『カエサル』!」

 

「我が名は『エルヴィン』だ!」

 

「我こそは『左衛門佐』!」

 

「『おりょう』ぜよ!」

 

はい、いきなり変化球どころか魔球が飛んできました。

 

八幡「イヤ、お前らの本名を教えて欲しいんだが・・・」

 

カエサル「何を言う比企谷! これは我等がソウルメームだ!」

 

八幡「なにそれ?」

 

エルヴィン「ウム、それは我等が魂に刻まれたの名。お前達もそうだろう?」

 

「「「は???」」」

 

左衛門佐「“八幡大明神”に憧れてそのソウルメームを持ったのだな比企谷は。清光や安定など古風な名もそうだろう?」

 

やめて! むかし中二病患っていたときに「“八幡大明神”の化身だ!」って思い込んでいた黒歴史が甦りそう! ん? 付喪神である刀剣男士を顕現させる事が出来る審神者なんだから似たようなモンだろうって? ソレはソレ、これはこれ。

 

八幡「一応言っておくが、俺も清光も安定も本名だぞ」

 

カエサル「なんだとぉ!?」

 

おりょう「なんとうらやましいぜよ・・・!」

 

歴女チームがうらやましそうに見る。まぁウソは言ってない、俺は間違いなく本名だし、清光も安定も偽名なのは姓だけで、名前は偽っていないんだからな。

 

安定「あのさ、おりょうさんって、もしかして坂本龍馬が好きなの?」

 

清光「その紋付、坂本龍馬のだよね?」

 

おりょう「ウムそうぜよ、もしや加藤と山本もか!?」

 

清光「イヤ~俺と安定は“新撰組派”だから・・・」

 

安定「ついでに沖田総司のファンだから・・・」

 

おりょう「フッ、坂本龍馬の宿敵とは、なんと言う運命のイタズラぜよ・・・!」

 

ちょっと目を離してる間にコイツらは・・・。

 

八幡「(ボソボソ)お前ら、何してンだ?」

 

清光「(ボソボソ)ちょっと幕末のファンと思っちゃったらついね・・・」

 

安定「(ボソボソ)おりょうちゃん、僕と清光が沖田総司の愛刀だって知ったらどうなるかな?」

 

清光「(ボソボソ)それに『陸奥守』や『兼さん』に『堀川』、『長曾根さん』を知ったらどうなるンだろう?」

 

八幡「(ボソボソ)そりゃぁ・・・・狂喜乱舞するんじゃねぇか?」

 

戦国時代ファンの左衛門佐が伊達組の光忠達とかに会った時もそうなるかもな。

 

ちなみに『打刀 陸奥守吉行』は坂本龍馬の愛刀、『兼さん』こと『打刀 和泉守兼定』と『脇差 堀川国広』は新撰組副長 土方歳三が差していた刀で、『長曾根虎徹』は新撰組局長 近藤勇の愛刀だ。

 

その後、何とか連絡先の交換を終えた俺達は次に向かった。

 

 

ーDチーム(1年生チーム)ー

 

「加藤先輩、そのマニキュア可愛い!」

 

清光「ありがとっ♪ 良かったら『梓ちゃん』達もやってみる? 俺けっこうマニキュア持ってるから貸しちゃうよ♪」

 

「本当ですか?!」

 

「うわぁ~いっぱいある!」

 

「どれにしよっかな~!」

 

「紗希ちゃんはどれが良い?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

連絡先を聞こうとしたら、いつの間にかこうなってしまった・・・。

 

安定「流石は清光、あっという間に1年生チームと仲良くなったね・・・」

 

八幡「お洒落に興味津々な年頃の女の子達の心を掴むのに、清光は本当に頼りなるな・・・」

 

清光がマニキュアを入れたポシェットから色とりどりのマニキュアを出すと、1年生達は1つ1つ持って自分に合う色を探していた。

 

清光「『梓ちゃん』は赤が似合いそうだね、『あゆみちゃん』は青、『優季ちゃん』は緑、『あやちゃん』は黄色で、『桂利奈ちゃん』はピンク、『紗希ちゃん』は白が似合いそう」

 

「おぉ! まるで戦隊ヒーローみたい!」

 

八幡「あぁ~え~と、盛り上がっているところ悪いンだが・・・マネージャーの比企谷八幡だ。嫌だと思うがこれからの為に連絡先を交換してもらいたい」

 

『は~~い!』

 

1年生チームが元良く挨拶して、それぞれ自己紹介をした後に連絡先を交換して、マニキュアを塗り始めた。

 

このチームのリーダーポジションの『澤梓』。ボーイッシュで黒髪ロングの『山郷あゆみ』。太め眉をした『宇津木優季』。ツインテールにメガネの『大野あや』。一番小柄な『坂口桂利奈』。無口でボーッとしている『丸山紗希』か、藤四郎兄弟とは違った意味で喧しいチームになりそうだ。

 

清光「見て見て八さん、安定! みんな可愛いくなったでしょ?」

 

清光がドヤッと得意げに1年生チームを前に出すと、爪にマニキュアを塗った1年生チームが、爪を見せるようなポージングをしていた。

 

安定「ウン、ミンナトッテモカワイイヨ・・・」

 

八幡「アァ、スゴクカワイイトオモウゾ・・・」

 

1年生チーム『やったぁ!!』

 

俺と安定が心を殺したコメントをすると、1年生チームは大はしゃぎし、清光もウンウンと頷いていた・・・アイツ等の相手は清光に任せた方が善いな・・・。

 

 

ーEチーム(生徒会チーム)ー

 

ついにこの時が来た、イヤ来てしまったか・・・!

 

角谷「アレアレ? 比企谷ちゃ~ん、そんな死地に赴く兵士のような顔してどうしたのかな~?」

 

小山「比企谷くん、気持ちは分からなくもないけど、これも戦車道で必要だと思うから・・・」

 

河嶋「会長の連絡先が得られるのだ。ありがたいと思え」

 

この生徒会の三人である。1年の頃、交通事故に遇ってそれから審神者としての能力に目覚め、本丸の運営やらで2ヶ月遅く学校に入学した俺と、その俺の護衛として編入した清光、そのさらに1ヶ月後に編入した安定を巻き込んでいつも横暴な仕事に付き合わせ、さらに半年前鎮守府提督となったらますますめんどくさい事に巻き込んできたこの生徒会(主に会長)だ。連絡先を教えるだなんてリスクが高い気がしてならない。

 

八幡「(ボソボソ)一応言っておきますけど、これは“プライベート用”としての番号ですから、“仕事”での連絡で使わないでくださいよ・・・!」

 

角谷「(ボソボソ)大丈夫大丈夫♪分かってるよ♪」

 

本当に分かってるのか?と疑問は有るが、角谷会長との連絡先を交換する。清光も安定も半眼で苦笑いを浮かべていた。

 

八幡「小山先輩、無理だとは思いますが、会長のストッパー役。よろしくお願いします・・・」

 

小山「善処してみるね・・・」

 

苦笑いを浮かべる小山先輩と番号を交換する。まぁ俺も3年生のマドンナである小山先輩の番号が分かったから良いけど。

 

八幡「さて、これで終わりかな・・・」

 

河嶋「おい比企谷、私の連絡先はどうした?」

 

八幡「えっ? 河嶋先輩、俺の連絡先知りたいンですか?」

 

俺に苦手意識が有るって聞いたからスルーしてたんだが。

 

河嶋「会長と小山が交換したしな、私とも交換しろ」

 

八幡「はいはい・・・」

 

角谷「(ボソボソ)河嶋のヤツ、比企谷ちゃんと番号交換したいって言えば良いのにな」

 

小山「(ボソボソ)“苦手意識”は有っても、桃ちゃんって比企谷くんの事を嫌っていませんしね」

 

何か聞こえたが無視しよう。あっ、そうだ。

 

八幡「会長、実は頼みが有るんですが・・・」

 

角谷「ん? 何々?」

 

八幡「実は明日、清光と安定の剣道道場の門下生がこっちに来るんですが、戦車を見てみたいと言ってて、見学させてくれませんか?」

 

河嶋「オイ比企谷、部外者を校内に「良いよ~♪」よろしいのですか会長?」

 

角谷「比企谷ちゃん達には普段から無茶振りさせてるからね~、これくらいのサービスはしてあげないと♪」

 

八幡「(ペコッ)ありがとうございます」

 

清&安「「(ペコッ)ありがとうございます!」」

 

何故こんな事になったのか、話は昨夜に遡るーーーーーーーー。

 

 

~昨夜の本丸鎮守府・提督室~

 

学校から帰った俺は鎮守府の『提督室』で、この日の『護衛艦の任務報告』、『遠征の報告書』、『鎮守府の台所事情』についてやらで、仕事をこなしていた。因みに服装は白い軍服に軍帽を被った提督服を着ている。

 

八幡「(コキコキっ)あぁ~やっと終わったか・・・」

 

長門「お疲れ様です、提督」

 

八幡「よし、じゃ次は本丸の方へ行ってくる」

 

陸奥「まだ有るの?」

 

八幡「本丸の方でも俺の判子を必要とする書類が来ててな。大淀、鎮守府の方でも書類が来ていたらまとめておいてくれ・・・」

 

大淀「了解しました、提督」

 

提督室を出て角を曲がると、加賀と出会った。

 

加賀「提督、これから本丸ですか?」

 

八幡「あぁ、明後日には戦車道の教官が来るから、早く終わらせないとな」

 

加賀「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

八幡「ん? どうした加賀?」

 

加賀「イエ、提督。お気をつけて」

 

八幡「おう」

 

何か言いたげな顔をした加賀が気になったが、今は本丸の方へ向かう事にした。

 

 

 

ー本丸鎮守府・風呂場ー

 

長谷部が少し片付けていてくれて直ぐに終わり、俺は夕食を済ませ(なんかジャガイモ料理が多かった気がするが)、すっかり夜遅くなった風呂場で、ゆっくりとお湯に浸かっていた。

 

八幡「ふぅ~、疲れたぁ~。所で山姥切、何でお前らも居るんだ? こんな時間に風呂にいるなんて珍しいな」

 

俺の隣にいるのは、普段は大きめの布で自分を隠している『打刀 山姥切国広』。山姥は切った『打刀 山姥切長義』の“写し”として作られた刀剣で、“写し”である事にコンプレックスを抱いている性格の刀剣男士だ。艦娘達からは“隠れイケメン”として結構人気があるヤツだ。

 

山姥切「実は今日、兄弟達と同田貫と数珠丸やにっかりと、山で修行してきたんだが・・・・」

 

八幡「なに? お前、良く無事だったな・・・」

 

山姥切「あぁ、最初は獣道を走り、崖を素手で登り、滝行では山伏兄弟が滝の上から丸太を投げてきて死ぬかと思った・・・そして極めつけは」

 

八幡「極めつけは?」

 

山姥切「帰りの山中で迷ってしまってようやく戻ってきた所だ・・・」

 

本当に良く無事だったな・・・!

 

山伏「かっかっかっかっかっかっかっかっ! これまた、修行!」

 

同田貫「ふんっ、ふんっ、ふんっ、ふんっ・・・!」

 

風呂近くの床で腹筋している水色の短髪に刺青が入った筋骨隆々の身体をした大柄の刀剣男士『太刀 山伏国広』、「すべてを笑い飛ばせるほど強くなる!」事を心情にし、日夜鍛練をし、時には山籠りまでしてしまうのが悪い癖で、仏の道にも精通した刀剣男士だ。

そして隣で腕立て伏せをしている黒髪に灰色のメッシュが入り、顔から左頬まで大きな傷が走り、身体には切り傷を幾つもつけた刀剣男士『打刀 同田貫正国』、質実剛健で常に鍛練を欠かさないのだが、女にどうも苦手意識がいるようで艦娘達ともあまり交友を持たないようだ。筋肉マッチョの鍛練模様なんて暑苦しすぎだ、なるべく視界に入れないようにしよう。

 

にっかり「フフフフフ、気持ちがいいね」

 

八幡「にっかり、お前は何を洗っているんだ?」

 

大きな桶に溢れんばかりの泡を立てているにっかりを半眼で見ていると、山姥切と反対側に腰を落としている刀剣男士は『脇差 堀川国広』。普段は相棒の刀剣男士『打刀 和泉守兼定』のフォロー役をしているが、今回の遠征で吉行と蜻蛉切と平野と前田と石切丸、そして隊長の兼定が出ているからお留守番だ。ちなみに山伏と山姥切と堀川は兄弟関係で『国広兄弟』と呼ばれている。

 

堀川「主さんもお疲れのようですね」

 

八幡「まぁな、戦車道の方でもようやく戦車が見つかってな・・・」

 

堀川「戦車道、ですか・・・・」

 

八幡「どうした堀川?」

 

堀川「えぇ、実は他の刀剣男士のみんなも、戦車道に興味を持っちゃったみたいで・・・」

 

八幡「何・・・?」

 

山姥切「この間、主に見せてもらった戦車道の決勝戦を見てから、みんな戦車道の映像を“博多”のパソコンの動画で見てな。自分たちも戦車を間近で見たいと言う者達が増えたんだ・・・」

 

八幡「ふむ・・・」

 

アイツ等もいつも本丸で内番やったり、稽古したり、鎮守府で艦娘達と遊んだりしてるだけじゃ退屈か。そういえば前に乱が、清光と安定だけ俺と学校生活して楽しそうって愚痴っていたな。

 

八幡「分かった。明日一応会長に、お前達を見学者として来られないか頼んでみる」

 

堀川「良いんですか?」

 

八幡「“一応”って言っただろう。明日帰ってきて結果を言うから、それまでみんなには黙っていろよ」

 

堀川「はい」

 

山姥切「承知した」

 

 

 

~現在~

 

八幡「さて、俺らも西住達と戦車を洗うか」

 

清光「俺汚れるの嫌なんだけどな・・・・」

 

安定「ごねても仕方ないよ清光」

 

校庭のトイレで運動着に着替えた俺達は西住達と戦車をピカピカにするために、戦車へと向かった。




さて、次回で西住達戦車道チームが清光&安定以外の刀剣男子と出会うようにしたいです。


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戦車と刀剣が出会った

今回、八幡が本丸鎮守府提督である事を知る人物が出ます。


“戦車を洗車する”、なんて下らない駄洒落を考えながら、戦車道マネージャーに任命された俺達は、人数が少ないBチーム(バレー部)を清光が、Cチーム(歴女チーム)を安定が、そして1人で洗車している小山先輩のEチーム(生徒会)は俺が、この分担で戦車を洗っていた。

 

小山「比企谷くんゴメンね、会長も桃ちゃんも手伝ってくれないから・・・・」

 

八幡「別に気にすること無いですよ、これも一応マネージャーとしての仕事ですから」

 

俺はなるべく小山先輩を視界に入れないようにする。

 

何故ならば今の小山先輩は、“白いビキニの水着姿”だからだ! 前から制服越しでもスタイル良いとは思っていたが、まさかここまでの破壊力とは! 白い布に包まれた瑞々しい二つの高級メロンは、男ならば軽蔑されようがその瞳に焼き付け、脳内フィルターに永久保存したくなる魔性の魅力を放っている! 普段から刺激の強い格好をした長門や陸奥、小山先輩以上の魔性の魅力を放つ双乳を持った愛宕と高雄、露出の激しい格好ならば武蔵や島風や潜水艦組で慣れていなければ、俺も虜になっていただろうな。恐ろしや、平常心、平常心・・・。

 

角谷「あぁ比企谷ちゃん、こっちはもう良いから他のみんなの方を手伝ってきて~」

 

八幡「へいへい・・・」

 

小山「会長も桃ちゃんも、少しは手伝って下さいよ~!」

 

小山先輩の不憫な声を背に俺は他のチームの方へ向かう。少し残念とは思ってないぞ。

 

佐々木「加藤先輩、ここはこんな感じですか?」

 

清光「う~ん、もう少し磨いた方が良いかもね」

 

左門佐「くらえ山本! 水攻めじゃ!」

 

安定「ちょっと、門佐ちゃんやめてよ♪」

 

清光も安定もなんやかんやで他のチームと仲良くしているな。

 

梓「あっ、比企谷先輩!」

 

八幡「1年生チーム、どんな案配だ?」

 

あゆみ「折角加藤先輩にお洒落してもらった爪が台無しですよ~!」

 

八幡「そうか、まぁ気にするな。清光にまたデコってもらえ」

 

あや「良いんですか?!」

 

八幡「清光は自分も他人もデコるのが好きだからな。むしろ喜ぶと思うぞ」

 

1年生ズ『分かりました!』

 

八幡「それじゃ頑張ってくれ」

 

1年生ズ『は~~い!』

 

さて西住達の方は・・・。

 

???「比企谷さ~~~~~~ん・・・!」

 

八幡「うおっ!『妖怪 濡れ女』っ!?」

 

み・沙・優「「「プッ!」」」

 

八幡「西住、なんだあれ?」

 

みほ「フフフフ、華さんだよ」

 

華「比企谷さん酷いです、いきなり妖怪だなんて~・・・!」

 

恐い恐い! 濡れた髪が身体に張り付いて迫力有りすぎだわ!

 

八幡「五十鈴はなんでこんな事になってんだ?」

 

優花里「はい! 武部殿が遊び半分で水を掛けたらこうなったであります!」

 

八幡「お前は一体何をしてるんだ?」

 

沙織「ちょっとしたお遊びだよぉ」

 

コイツらは少し目を離すとすぐ脱線するな。なんて事が有ったが流石は西住、戦車や中の機材の洗い方が一つ一つ丁寧で、Ⅳ号も段々キレイになっていった。

 

角谷「比企谷ちゃ~ん、タブレット(審神者用と提督用の二つ)が鳴ってるよ~」

 

八幡「っ!」

 

シュバッ!(二つのタブレットを持っている会長に向かって飛び上がる)

 

ガッ!(タブレットを回収する)

 

シュタッ!(会長と河嶋の後ろにヒラリと着地する)

 

大洗戦車道一同『おおぉ~~~~!!』

 

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ・・・!

 

会長からタブレットを回収した俺は後ろの西住達の拍手に気にも止めず、タブレットを操作する。

 

八幡「・・・・・・・・・・・・会長、少し外れます」

 

角谷「うんいいよ~~」

 

会長から許可を貰った俺は、二つのタブレットとスマホを持ってその場を少し離れた。

 

みほ「あの会長、八幡くんは?」

 

角谷「あぁ、マネージャーとして色々頼んであるから、多分それ関連だと思うから気にしないで~、みんなは洗車を続けて~」

 

清光「さぁさ、みんな気にせず続けよう!」

 

安定「戦車を洗車しちゃおうね!」

 

角谷「お、山本ちゃんウマイね~座布団1枚!」

 

安定「へへ~! 光栄の至り~!」

 

小山「(ボソボソ)“仕事”の連絡かな?」

 

河嶋「(ボソボソ)おそらくな」

 

それから十数分後、長谷部からの連絡(兼定達遠征組の帰還報告)と、長門からの連絡(ただの書類内容の確認連絡)を終えた俺は再び洗車活動に参加し、夕暮れには洗車を終えた。

 

河嶋「よし良いだろう。後の整備は“自動車部”の部員に今晩中にやらせる。それでは、本日は解散!」

 

ワイワイ、ガヤガヤ・・・

 

清光「あ~ぁ、早くシャワー浴びて帰りたい」

 

安定「八さん、今日はもう帰る?」

 

八幡「・・・清、安、今日は寄るところが有るからもう少し付き合え」

 

清・安「「了解」」

 

学校のシャワー室で身体を洗い、制服に着替えた俺達はそのまま『せんしゃ倶楽部』と言う模型店に来ていた。

 

清光「模型店って事は・・・」

 

安定「また陸奥守さんに、“蒸気船の模型を買ってきてくれ”って頼まれたの?」

 

八幡「あぁさっきの長谷部からの連絡で一緒に居たようでな。ついでに頼まれたんだよ」

 

『打刀 陸奥守吉行』、新しい物が大好きな坂本龍馬の愛刀、土佐弁を喋り、刀の他に拳銃を扱う特異の刀剣男士。明朗活発な性格は前の主の影響。新しい物が好きな癖に蒸気船にはこだわりを持ったヤツ。

 

安定「また陸奥さんに壊されたのかな?」

 

清光「あぁ見えて陸奥さんって、結構ヤキモチ焼きだよね~」

 

そうあれは今年の春先ーーーーーーーー。

 

陸奥守【まっちょくれ陸奥! 何も壊さんでも!】

 

陸奥【ウフフフフフ、もう吉行ったら♪ 私と言う者(戦艦)が有りながらこんな蒸気船に浮気するだなんて・・・】

 

陸奥守【う、浮気じゃと!? 話をきいちょくれ! わしのこれは、あれじゃ! “海が好き!”とか、“山が好き!”っと言った“LIKE”の方じゃ! わしの“LOVE”は陸奥だけじゃ! わしは陸奥一筋じゃ!!】

 

陸奥【(テレテレ)あら嬉しいわ♪ 私も吉行(&提督と姉さん)に“LOVE”を抱いているわよ】

 

陸奥守【ほうじゃろ、ほうじゃろ・・・!】

 

陸奥【(テレテレ)じゃソレに免じて・・・】

 

陸奥守【うんうん・・・!】

 

陸奥【二、三隻で許して上げる】(真顔になる)

 

ガシャンッ!×3

 

陸奥守【ンノォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!】

 

なんて事が有ったからな、それで陸奥守は陸奥を警戒して『万屋』で買う事を諦めて俺が買って行く事になった。

 

八幡「全く陸奥守のヤツも懲りねぇな」

 

清光「ま、それが陸奥守の良いところと思おうよ」

 

安定「あ、八さん、これじゃないかな?」

 

店内で模型売り場の棚から、陸奥守に頼まれた模型を見つけた。本来この店は戦車専門店だから船の模型とかは限られたスペースにしかないから探しやすい。俺達は会計を済ませ、さぁ帰ろうとしていると。

 

沙織「戦車ってどれも同じに見える・・・」

 

優花里「全然違いますぅ! 全然違うんですぅ!」

 

八・清・安「「「っ!?」」」

 

なんか聞き覚えのある声にビクッとなり、そちらに顔を向けると・・・。

 

優花里「どの子もみんな、個性と言うか特徴があって、動かす人によっても変わりますし!」

 

華「華道と同じなんですね」

 

沙織「うんうん、女の子だってみんなそれぞれの良さがあるしね! 目指せ、モテ道!」

 

みほ「話が噛み合ってるような、ないような・・・」

 

混ざる訳ではないが、戦艦も刀剣もみんな同じようで違うものな・・・ってか、なんで西住達がここにいるんだよ!

 

清光「(ヒソヒソ)そりゃ戦車道やってるんだから来たんじゃない?」

 

安定「(ヒソヒソ)どうするの八さん?」

 

八幡「ここは見つからないようにコッソリと・・・」

 

みほ「あれ? 比企谷くん達?」

 

とか言ってる内に西住に見つかりました、はいお約束ですよね。

 

沙織「あれ?本当だ! 三人ともどうしたの?」

 

華「皆さんも戦車を見に来たのですか?」

 

安定「あぁ、その僕達は・・・・!」

 

言い淀んでいた安定は本売り場で“ある雑誌”を持って見せた。

 

安定「これ! この『特集! 本丸鎮守府』を買いに来たんだよ!」

 

安定の手には本丸鎮守府の鎮守府の部分だけデカデカと表紙を飾った雑誌を見せた。

 

優花里「うわ~それ私も欲しかったんですよ! 艦娘さん達の事も載ってますしね!」

 

秋山が安定から本を借りてパラパラとページを捲った。

 

沙織「本丸鎮守府ってさ、私達のいる学園艦を護衛してくれる艦娘さん達の本拠地なんだよね?」

 

華「艦娘さんなら遠くで見た事がありましたが、私達の学園艦の護衛に付いてくれているのは可愛らしい女の子でしたね」

 

優花里「はい! 確か駆逐艦が4隻で、『三日月』、『弥生』、『文月』、『皐月』ですね!」

 

みほ「黒森峰だと空母の『赤城』、『加賀』、巡洋艦の『鈴谷』、『熊野』だったよ」

 

優花里「艦隊って6隻で任務に入るのに、何故4隻なのでしょうか?」

 

八幡「学園艦が世に出た当時、まだ深海凄艦が要るかもしれないと懸念され、秋山の言うとおり6隻で護衛をしていたが、“深海凄艦がいなくなった”と囁かれるようになってしまった現代では、艦娘達を6隻も使うのは“物質と資材の無駄だ”って言われるようになって、数を減らして4隻になり、大洗のような小さい学園艦には小回りが効く駆逐艦が、黒森峰のような大型には艦載機が使える空母や速さのある巡洋艦が護衛に付くようになったんだよ」

 

優花里「そうなのですか! 比企谷殿は博識ですね!」

 

安定「(ボソボソ)八さん・・・・!」

 

おっと、思わず喋っちまった気を付けよ。

 

優花里「それにしても本丸鎮守府の提督は取材に応じない謎の多い人物と呼ばれているのですが、きっと、鍛えられた“屈強でマッチョな軍人”さんなのですね!」

 

沙織「えぇ~“ミステリアスなイケメン”だと良いなぁ」

 

華「もしや“経験豊富な老軍人”かもしれませんね」

 

みほ「一体どんな人なんだろうね・・・」

 

八幡「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

清&安「「ククククククククっ!(必死に笑いを堪えている)」」

 

こんな人ですが何か?ってツッコミたいのを堪える俺に気付かず、秋山はとある艦娘のページを開く。

 

優花里「やはり艦娘では『戦艦 長門』ですね! 凛々しい佇まいに提督の秘書艦を任される程の艦娘なんですよ! 凄いです!」

 

清光(良く兼さんと喧嘩するけど・・・・)

 

安定(カワイイ動物大好きだけど・・・・)

 

八幡(最近では幼い駆逐艦達だけではなく、今剣達のような幼い短刀組にメッチャ甘い、ロリコン&シャタコン属性も持った艦娘だけどな・・・・)

 

みほ「私は、赤城さんかな? 黒森峰にいた頃から護衛してくれているし、沈着冷静な凄い人って感じがしていたよ・・・・」

 

清光(訓練の時は結構スポ根系だけどね・・・・)

 

安定(物凄い大食い女子だけど・・・・)

 

八幡(良くつまみ食いしては“歌仙”に怒られている“底なしのハングリークリーチャー”だがな・・・・)

 

 

ー本丸鎮守府・食堂ー

 

歌仙「赤城くん! またつまみ食いなんかして! つまみ食いは雅じゃないぞ!」

 

赤城「(モグモグ)だって、歌仙さんや燭台切さんや鳳翔や間宮さんの手料理スゴく美味しいですからついこの手が・・・・!」

 

歌仙「そう言ってくれるのは嬉しいが、限度を守ってくれ! 加賀くんも協力しないでくれ!」

 

加賀「(ムグムグムグムグムグムグ)」

 

 

ー八幡sideー

 

なんか流れ的に俺らも一緒になってしまい、秋山は戦車のシミュレーションゲームをやり、武部と五十鈴と清光と安定も眺めていた。

 

優花里「よっ! はっ!」

 

華「アクティブで楽しそうです」

 

沙織「でも顔はケガしたくないな・・・・」

 

清光「そうだね、皆女の子なんだから、ケガとかしたら大変だよね」

 

安定「嫁入り前で傷物になっちゃうよ」

 

華「それは意味が違うのでは?」

 

優花里「大丈夫です! 試合では実弾も使いますけど、十分安全に配慮されてますから!」

 

そんな秋山達から離れた位置にいる西住と俺。

 

八幡「西住、お前はやらないのか?」

 

みほ「うん・・・・まだちょっと・・・・」

 

フム、まだ去年の事を完全に消化できてないか。すると後ろに吊るされたテレビのニュースから気になる単語が出た。

 

キャスター《次は戦車道の話題です。高校生大会で昨年MVPに選ばれて、国際強化選手となった“西住まほ”選手にインタビューしてみました》

 

西住と少し似た感じの目付きの鋭い女子が映し出された。

 

八幡「おい西住、あの人って」

 

みほ「うん、私の“お姉ちゃん”・・・・」

 

やっぱり、“学園艦の護衛の打ち合わせ”で何度か顔を合わせた事が合ったが・・・・。

 

インタビュアー《戦車道の勝利の秘訣とは何ですか?》

 

まほ《諦めない事。そして、どんな状況でも、逃げ出さない事ですね》

 

みほ「っ!」

 

カメラ目線で放った姉の言葉。西住本人からすれば、“逃げ出した事を責められた気分”だろうな。

別に俺は“逃げる事”は否定しない。不利な状況や状態で任務を行えば自分だけではなく周りの皆も危険に晒す事になるからな、時には“勇気ある撤退”も行うべきだと思う。

 

みほ「・・・・・・・・・・・・・・」

 

みほ以外『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

顔を俯かせる西住。俺はゲームを終えた武部達と清光達と顔を見合わせる。

 

沙織「そうだ! これからみほの部屋遊びに行っても良い!?」

 

みほ「えっ?!」

 

華「私もお邪魔したいです」

 

みほ「あっ・・・・うん////」

 

能天気な恋愛脳<スウィーツ>だと思っていたが、以外に武部や人の気持ちや場の空気を読むムードメーカーの素質があるな。

 

優花里「(おずおず)あのぅ~・・・」

 

華「秋山さんもどうですか?」

 

優花里「あっ! ありがとうございます!」

 

みほ「比企谷くん、加藤くん、山本くんもどうかな?」

 

はいやっぱり俺らも巻き込まれると思っていたが、そうは問屋が卸さない。

 

八幡「あのな西住、女子の部屋に男子を簡単に入れるだなんて無用心(ドスッ!×2)ゲフッ!」

 

逃げようとする俺の腹部に清光と安定の肘鉄がお見舞いされた、地味に痛い・・・!

 

清光「(ボソボソ)ちょっと八さん! 何トンズラかまそうとしてるのさ!」

 

安定「(ボソボソ)こんな機会見逃すなんて小町ちゃんに知られたら一生“ゴミぃちゃん”だよ!」

 

お前らな、主に対して肘鉄は酷いぞ・・・! ん? スマホを入れたポケットから着信の振動が。見てみると、『着信 長門』と表示されていた。清光と安定も俺の横から見て頷き合う。

 

八幡「悪い西住、電話が来たから少し外れる」

 

みほ「えっ、うん・・・」

 

マジメな顔になった俺に面食らった西住達を清光と安定に任せ、俺は長門から電話に出て少し会話をした後に戻った。

 

八幡「済まない西住、ちょっと用事が出来た。俺達はこれで失礼する」

 

みほ「う、うん、気にしないで。また明日」

 

八幡「あぁ、また明日。清、安、行くぞ」

 

清&安「「うん」」

 

俺達は西住達に軽く会釈して『せんしゃ倶楽部』を後にした。

 

 

ーみほsideー

 

みほ「・・・・・・・・」

 

沙織「なんて言うかさ、比企谷達って私達に隠し事してると思わない?」

 

華「えぇ以前から比企谷さんと加藤さんと山本さんには友人以上の何かを感じます」

 

優花里「西住殿?」

 

みほ「(比企谷くん達、何を隠しているのかな?)」

 

西住達は八幡達と自分たちとの間に有る“壁”の存在に懸念を抱いていた。

 

 

 

 

ー本丸鎮守府・食堂ー

 

最近ウチの食堂で集合が入るのが多くなった今日この頃、学校から帰った俺は刀剣男士達と艦娘達を集めた。

 

八幡「あぁ、刀剣男士の皆に伝えておく事が有る・・・」

 

刀剣男士達(清光&安定除く)『???』

 

八幡「明日、戦車道の教官が来るのだが、お前達刀剣男士を、“見学者”として来て良いと許可を貰ってきた!」

 

今剣「(挙手する)あるじさま! それってぼくたちがあるじさまのがっこうにいってよいってことですか?!」

 

八幡「あぁ、そういうこった」

 

刀剣男士(若い衆)『・・・・・・・・・・・』

 

八幡&刀剣(大人組)『・・・・・・・・・・・』

 

艦娘達『・・・・・・・・・・・』

 

俺と清光と安定と、刀剣男士の大人組と艦娘達が衝撃に備えて耳を塞ぐ。

 

刀剣男士(若い衆)『ィやったあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!』

 

びりびりびりびりびりびり!!

 

うぉ~鼓膜に響く・・・・!

 

厚「大将! 俺達みんなで行って良いのか?!」

 

乱「ねぇねぇ主さま! 戦車道の子達ってどんな子達なのっ!? 可愛いのっ!?」

 

秋田「主様! 本物の戦車って大きいんですか?!」

 

岩融「なぁ主! 戦車ってのは強いのか?!」

 

日本号「戦車の戦いを見ながら一杯飲むぞ!」

 

次郎太刀「呑め呑めぇっ!!」

 

あぁたくっコイツらは・・・・!

 

長谷部「静かにせんかっ! まだ主の話は終わってないのだぞ!!」

 

長門「全員落ち着けーーーーーーっ!!」

 

長谷部と長門の怒号が響き、他の艦娘達も刀剣達を押さえた。

 

 

~十分後~

 

 

さて、刀剣達も落ち着いた事で話を続ける。

 

八幡「先ずは厚、刀剣達はそんなに大勢で行くことはないぞ」

 

厚「えぇっ?! 何でだよ大将・・・!」

 

八幡「この本丸も刀剣男士が増えたが、内番の仕事やその手伝いだけじゃなくて、掃除に草むしり、庭の手入れに皿洗いや洗濯物畳みやら、やることが一杯あるし、政府から出陣要請が来たときに備えて留守番が必要だろう?」

 

安定「あまり僕達刀剣男士が大洗の子達と接触するのは不味いしね」

 

清光「何しろ戦車道のチームの中に、幕末時代と戦国時代の歴史マニアがいるからね、俺達の事を察してしまうかもしれないし」

 

八幡「それに今回はあくまで教官が来て練習するだけだから、大勢で行く事もない。今回はそうだな・・・」

 

俺は少し悩むと、指を三本立てる。

 

八幡「生徒である清光と安定を抜いて、今回は三振りで良いだろう」

 

刀剣『えぇええええええええええっ!!』

 

八幡「ええじゃねぇよ、言っただろう今回はあくまで身内でやる練習だから、わざわざお前達が全員で行く事無いんだよ」

 

渋々となる若い刀剣男子達を宥めるのに苦労するよ。

 

小町「所でさお兄ちゃん、艦娘の皆さんはどうするの?」

 

小町が艦娘達に変わって聞いてくるが。

 

八幡「残念ながら艦娘達は見学できねぇよ」

 

安定「こんな特集号が組まれているんじゃね・・・」

 

安定が取り出したのは鎮守府の光景がデカデカと張られ、『特集! 本丸鎮守府』と大きく書かれた雑誌を見せた。

 

長門「あっ、それは・・・!」

 

陸奥「この間取材に来た人達のね・・・」

 

大淀「確かに、その雑誌には私達の名前や顔写真からインタビューまで載ってますしね・・・」

 

小町「と言う事はお兄ちゃんの事も?」

 

長門「いえ、その日提督は学校でしたし、学生である提督を雑誌に載せる訳にはいきませんからね。それで本丸鎮守府の提督は正体不明の“謎の提督”と呼ばれるようになったのです・・・」

 

お陰で本丸鎮守府提督は、“マッチョ”とか“イケメン”とか“経験豊富な老軍人”とかと囁かれるようになっちまったけどな・・・!

 

八幡「と言う訳で、残念ながら艦娘達は戦車道の見学を諦めて貰う!」

 

艦娘のほぼ大半『ブー!ブー!ブー!ブー!ブー!ブー!』

 

艦娘達のほぼ大半がブーイングを出すが、こればかりは仕方ない。何とか刀剣男子達士が宥めて抑える。

 

八幡「さて、明日の見学者なのだが、希望者は・・・・」

 

ものすごい勢いで手を上げる刀剣男士達に呆れながら肩を下ろすが、こうなる事は予想済みだ。

 

八幡「それじゃクジ引きで決めるぞ、当たった三振りが明日の見学者、一回だけだぞ。取り替えも変更も無しだからな!」

 

そして一振りずつクジを引いて、当たらなくて落胆するもの、地団駄を踏むもの、肩を下げるもの、残念と苦笑いを浮かべるもの、興味無しのものと十人十色だったが、三振りの刀剣男子達も前に出て、八幡に○が付いたクジをを見せた。

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

八幡「お前達か、まぁ大丈夫だろう。それじゃ先ずやってもらう事は、俺の呼び方だ」

 

刀&艦『???』

 

八幡「良いか、俺は大洗では“ごく普通の目が腐った男子高校生”で通っているんだ」

 

清光&安定「「目が腐った高校生は、“ごく普通”じゃないでしょう」」

 

五月蝿い打刀二振りの言葉を華麗に無視する。

 

八幡「兎に角な、そんな平凡な俺を“主”だの、“主様”だのと呼ばれて、変な勘繰りされたらこれからの俺の学園生活にも支障をきたしかねない」

 

あの生徒会と言うよりも会長に目を付けられた時点で支障出まくりのような気がするが・・・・。

 

小町「まぁ普通に考えたら、お兄ちゃんみたいなヒネくれた屁理屈屋のボッチが、美男子&美少年揃いの刀剣男士の皆さんに“主様”なんて呼ばれてたら、何か弱味を握ってそう言わせているとしか思えないよね~」

 

マイエンジェルシスター・小町は何故こうも俺に辛辣なんだ? やべお兄ちゃん泣きそう・・・・!

 

長谷部「しかし、それでは加州と大和守は学園で主をどう呼んでいるのだ?」

 

清光「あぁ“比企谷”とか、“八幡”って呼び捨てにするわけにはいかないし、“比企谷さん”や“八幡さん”じゃ他人行儀だし・・・」

 

安定「かと言って“比企谷くん”や“八幡くん”じゃ馴れ馴れし過ぎるからね。だから間をとってこう呼んでいるんだ・・・」

 

清光と安定がすぅ~と息を吸って。

 

清&安「「八さ~~~~ん♪」」

 

八幡「なんだよ」

 

刀艦『っっっ!!!???』

 

清光と安定の言い放った呼び名に刀剣&艦隊は驚愕する。そして長谷部が清光と安定に迫る。

 

長谷部「加州! 大和守! 貴様ら主をそんな風に呼んでいるのかっ!!?? なんと羨ましくて! 羨ましい!! 羨ましいぃぃっ!!!」

 

おお~い、長谷部がなんか変な嫉妬を燃やしているぞ。

 

光忠「僕だったら、“八ちゃん”って呼ぼうかな?」

 

鶴丸「それなら俺は“八坊”かぁ?」

 

獅子王「んじゃ俺は“はっつぁん”って呼ぶぜ!」

 

鯰尾「僕は“八兄さん”ですね♪ 骨喰はなんて呼ぶ?」

 

骨喰「“八兄”と呼ぶ・・・・」

 

八幡「分かってると思うけど、もしそんな呼び名したらお前らは絶対に見学には行かせないからな」

 

全く変な呼び名を増やすなっての。

 

夕立「夕立は“八くん”って呼ぶっぽーい! 吹雪ちゃんは?」

 

吹雪「えぇっ!? いきなり振られても・・・・・・その、“八ちゃん”に・・・」

 

長門&加賀「「(ギロリっ!)」」

 

吹雪&夕立「「ヒイィッ!」」

 

夕立と吹雪まで悪ノリしようとしたが、空かさず長門と加賀にものすごい目付きで睨まれて黙った。ファインプレーだぜ、長門、加賀!

 

八幡「まぁ“お前たち”に限って変な呼び名はしないと思うが、一応俺の呼び方には気をつけておいてくれ」

 

三振り「「「(コクン)」」」

 

さてはて明日がどうなることやら・・・・。

 

 

ー本丸鎮守府・提督室ー

 

八幡「それで調査の方は?」

 

長門「はい、大淀が纏めてくれていました。こちらです」

 

今この提督室には俺と秘書艦の長門と陸奥と大淀だけだった。以前から頼んでいた“調査の報告”に目を走らせる。

 

八幡「野郎、中々周到だな」

 

陸奥「提督、私達はこのまま“調査”を続ける?」

 

八幡「あぁそうしてくれ、“もしも”の事態に備えてな」

 

俺の言葉に長門達は力強く頷いた。

 

 

 

 

ー翌日ー

 

清光「八さん急いで!」

 

安定「遅刻しちゃうよ!」

 

八幡「分かってるよ。たくっお前らな、朝っぱらから手合わせなんてやってんなよな・・・!」

 

翌朝、俺は日課の鍛練を終えて朝食を済ませると、道場で清光と安定が手合わせに熱が入り時間を忘れ、遅刻しそうになっていた。

 

八幡「ん? 西住??」

 

前を見ると、西住が“黒い長髪の女子”に肩を貸してヨロヨロと登校しているのが見えた。

 

八幡「何やってんだ西住?」

 

みほ「あ、比企谷くん達、おはよう・・・・」

 

???「辛い・・・・」

 

なんだ??

 

???「生きているのが辛い・・・・これが夢の中なら、良いのに・・・・」

 

その気持ち良く分かるぞ。

 

???「朝は何故来るのだろう・・・・? 来なければ良いのに・・・・!」

 

本ッッッ当に良く分かるぞ、その気持ち!!

 

清&安「「(ジト目)八さん・・・」」

 

八幡「(咳払い)んん! それで西住はどうしてそうなった?」

 

みほ「なんかほうっておけなくて・・・・」

 

全く本当に世話が焼ける、仕方ない。

 

八幡「・・・・西住、変われ、俺がソイツを運ぶ」

 

みほ「(ヨロヨロ)えっ? そんなの悪いよ・・・」

 

清光「そんな状態で何言ってるのさ?」

 

安定「ほらほら」

 

俺が女子生徒を背負い、俺と女子生徒の鞄を清光と安定がそれぞれ持って西住と登校する。

 

???「ZZZzzzZZZzzzZZZzzzZZZzzz」

 

おいコイツ人に運ばれておきながら呑気に寝てやがるぞ。なんて図太い神経してやがるんだ・・・! なんて考えていると、校門に付き、こわいこわい風紀委員長がいた。

 

園「“冷泉麻子”さん! これで連続245日の遅刻よ!」

 

風紀委員長の声に起きた、どうやら俺が背負っている女子は“冷泉麻子”と言う名前らしい。しかし245日って、コイツは8ヶ月近くも連続で寝坊で遅刻してんのかよ!? ある意味“国行”もビックリするわっ!

 

麻子「良い寝心地だった・・・」

 

八幡「そりゃどうも・・・」

 

こっちは女子と密着できて嬉しい!・・・なんてコイツにはそんな気は残念ながら、まっっっったく抱かなかったけどな・・・! 正直冷泉よりボリュームがある女子に抱きつかれてきた経験があるからな。

 

園「成績が良いからってこんなに遅刻ばかりして、留年しても知らないよ!」

 

麻子「・・・・・・・・」

 

みほ「えっと、大丈夫ですか?」

 

ヨロヨロと俺の背中から下りた冷泉を気づかう西住。

 

園「西住さんに比企谷くんに加藤くんに山本くん。もし途中で冷泉さんを見かけても、今度から先に登校するように、それに貴方達3人は冷泉さん程じゃないけど、注意人物扱いだからね!」

 

俺と清光と安定を見て言う園先輩。そんなに俺達風紀委員に目をつけられる事してないのになぁ・・・。

 

みほ「・・・・はい」

 

八・清・安『・・・・は~い』

 

麻子「・・・・“そど子”」

 

園「(ジロリ)何か言った?」

 

麻子「(フイ)別に・・・・」

 

なんかこの二人、加賀と瑞鶴みたいだな。しかし“そど子”か、“園みどり子”を略したって訳ね、上手い!っと、風紀委員長に睨まれる前に俺達は校舎に向かった。

 

麻子「悪かったな・・・名前・・・・」

 

八幡「あん?」

 

麻子「借りが出来たからな・・・・」

 

八幡「・・・・2年A組の比企谷八幡」

 

清光「俺は加藤清光」

 

安定「僕は山本安定」

 

みほ「私、西住みほです」

 

麻子「冷泉麻子だ。この借りはいずれ返す・・・」

 

聞きようによっては捨て台詞に聞こえる事を言う冷泉は、フラフラと校舎に向かっていった。本当に大丈夫かね?

 

 

 

* * *

 

 

戦車倉庫の前で教官を待っていた俺達と西住たち戦車道チームの目の前に、輸送機から降下された10式戦車が教員用駐車場に降りてきて、次いでに学園長のフェラーリにぶつかり横転させ、とどめに横転したフェラーリを轢いてペシャンコにしやがった。なんだ? ウチの学園長に怨みでも有るのか?

 

安定「(ボソボソ)八さん、今連絡が来たよ」

 

八幡「(ボソボソ)分かった。清光は出迎えに行ってきてくれ」

 

清光「(コクン)」

 

清光がその場を離れると、10式戦車から黒い短髪にした凛々しい雰囲気の20代位のカッコいい系の女性軍人が現れた。

 

教官「こんにちはー!」

 

戦車道一同『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

八幡「まぁ、会長の言うとおりカッコいいな・・・」

 

安定「うん、確かにカッコいいね・・・」

 

八・安「「カッコいい“女の人”だわ・・・」」

 

あまりにもダイナミックな道場をした女性軍人に、一同唖然となっていたが、すぐに整列し、俺と安定はなるべく目立たないように西住達の隣に並ぶ。

 

沙織「騙された・・・・」

 

華「でも、素敵そうな方ですよね?」

 

武部よ、変なセールスとかには気を付けろよ。

 

河嶋「特別講師の戦車教導隊『蝶野亜美1尉』だ」

 

蝶野「ヨロシクね! 戦車道ははじめての人が多いと聞いていますが、一緒に頑張りましょう! あれっ?」

 

蝶野教官は西住に気づいて近づく。

 

蝶野「西住師範の御嬢様じゃ御座いません?」

 

みほ「っ!」

 

蝶野「師範にはお世話になっているんです。御姉様もお元気?」

 

みほ「あっ・・・・はい」

 

蝶野教官の言葉に西住は顔を俯かせ、他のメンバーがざわつく。あ~ぁ、西住はあんまり目立ちたく無かったのにな・・・。

 

蝶野「西住流って言うのはね、戦車道の流派の中でも最も由緒ある流派なの」

 

沙織「(挙手する)教官! 教官はやっぱりモテるんですか!?」

 

西住を気遣ってか、モテ道とやらの為か、武部が挙手して質問する。ある意味お前ってブレないのな・・・。

 

蝶野「えっ・・・モテると言うより、狙った的を外したことは無いわ。撃破率は120%よ!」

 

戦車道一同『おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーー!!』

 

イヤ、答えになってねぇからなソレ!

 

蝶野「他に聞きたい事・・・っっっ!!??」

 

蝶野1尉が俺を見て、目を見開いてギョッとする。何度か軍に出向した時に顔を合わせていた筈だか、まぁ今は提督服を着てないから気付いてなかったようだな。

 

八幡「・・・・・・・・・・・・」

 

蝶野「えっ? えっ?? ええぇっ!?」

 

小山「ち、蝶野教官! この男子生徒達は、ウチの学校の生徒なんです!」

 

河嶋「そこの腐った目をした男子は戦車道のマネージャーです」

 

蝶野「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

戸惑っている蝶野教官に小山先輩と河嶋先輩が慌てて説明したが、蝶野教官は唖然となっていた。

 

八幡「“はじめまして”、『大洗学園の比企谷八幡』です。男子が戦車道に関わっているなんて奇異だと思いますが、宜しくお願いします」

 

安定「同じくマネージャーの山本安定です。もう一人はもうすぐ“見学者”を連れてきますから」

 

蝶野「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

何とも言えない顔で固くなってしまった教官の姿にいよいよ西住達も不審がりそうになり、小山先輩と河嶋先輩がどう対処するか焦り、会長だけは事態を面白そうにニタニタと笑って眺めてやがる。

 

清光「八さーーーーーーん! 連れてきたよ!」

 

八幡「おう、来たか見学者達・・・!」

 

武部「ちょっと比企谷、見学者って誰を・・・」

 

一同が清光のいる方に目を向けると、清光の後ろにいる“三人”に視線が集まった。

 

一人はパッツンの月白色をしたスーパーロングヘアーをした細目の美青年。

 

一人は薄桃色の髪をカールやウェーブで流したり、後頭部へ結ったりした、左目が青で右目が緑のオッドアイをした憂い顔の美青年。

 

最後に青い髪を不揃いに結わえ、三白眼をした他の二人の腰くらいの背丈をした小柄な少年。

 

戦車道一同&蝶野『・・・・・・・・・・・・』

 

ポーッとしている一同に構わず、俺は“三人”もとい“三振り”を紹介した。

 

八幡「彼らは清光と安定と同じ剣道道場の門下生の兄弟で、名前は・・・・『左門兄弟』です!」

 

江雪「(会釈)はじめまして、長男の『左門 江雪』です」

 

宗三「(会釈)次男の『左門 宗三』と言います。本日はお招き頂きありがとうございます」

 

小夜「(会釈)三男、『左門 小夜』・・・・」

 

そう、今回『見学者の権利』を手に入れたのは別名『不幸三兄弟』こと『左文字兄弟』。『太刀 江雪左文字』、『打刀 宗三左文字』、『短刀 小夜左文字』の三振りである。

 

武部「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

なんか無言になった武部が顔を俯かせ、ザッザッと俺に近づき両手で俺の両肩を掴んだ。

 

武部「・・・・りがとう・・・・!」

 

八幡「なんだ武部?」

 

武部「ありがとう比企谷・・・・! 私、貴方が戦車道のマネージャーで良かったって、いま本気でそう思うよ・・・・!!」

 

顔を上げた武部のその顔には希望に満ち溢れ、その瞳からは一筋の涙が小さく流れていた。

 

八幡「あぁ、まぁなんだ・・・・そう言ってくれるとありがたい・・・良かったな武部・・・」

 

武部、お前って本当にブレないのな・・・・。




はい、大洗戦車道チームと初邂逅した刀剣男士は、作者も結構お気に入りの左文字兄弟です。お小夜が可愛い!


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そして比企谷八幡は戦車に乗せられる

注意:戦車の戦闘描写はかなりいい加減に作る事になります。


ー本丸鎮守府・海岸ー

 

本丸鎮守府の海岸に佇む美しい二人の艦娘。

真っ白い肌に美しい黒い長髪と緋色の瞳に儚げな雰囲気をした、提督である比企谷八幡より少し年上の容姿をし、改造巫女服を着た艦娘『扶桑型一番艦 扶桑』。

姉の扶桑と同じ容姿と緋色の瞳と巫女服だが、髪型がボブカットにされた『扶桑型二番艦 山城』。

 

扶桑・山城「「・・・・・・・・・・・・・・」」

 

蒼龍「扶桑さん、山城さん・・・・?」

 

扶桑「あぁ、蒼龍さん・・・・」

 

山城「貴女も心配して・・・・?」

 

二人に近づいたのは、青みがかった瞳と髪を短いツインテールにし、緑色の着物に暗緑色のミニスカート風の袴を着た艦娘『蒼龍型一番艦正規空母 蒼龍』。

 

蒼龍「えぇ、左文字兄弟の皆さんが無事に帰って来てくれる事を祈りにきて・・・・」

 

扶桑「そうですか、では少し海を眺めていましょう・・・・」

 

大洗に向かった左文字兄弟の安否を案じる三人。

 

扶桑(お小夜・・・・)

 

山城(宗三さま・・・・)

 

蒼龍(江雪さま・・・・)

 

 

 

ー大洗学園・戦車倉庫前ー

 

『太刀 江雪左文字』。戦う事を忌み悲しんで“和睦の道”を求める刀剣男士。しかし一度戦場に立てば勇ましく戦い刀剣男子として“使命”を蔑ろにしない覚悟を持った戦士だ。

 

『打刀 宗三左文字』。長谷部や薬研と同じく第六天魔王 織田信長の刀剣だった。だが刀剣として使われる事が無く、籠の鳥状態だった刀剣男士。

 

『短刀 小夜左文字』。山賊に前の主の女性を殺すのに使われ、その主の息子が山賊に復讐する際に使われ、紆余曲折を得て足利将軍家の支流の武家細川家に使えた刀剣男士。

 

会長からの見学者の許可で戦車を見に来た三振りの内、江雪と宗三は女子生徒達に囲まれていた。

 

武部「あの! お二人は清くんイヤ、加藤くん達と同じ剣道道場の門下生なんですよね!?」

 

江雪「そうですよ」

 

佐衛門佐「では、お二人も剣術を嗜んでおられるのか!?」

 

宗三「えぇ」

 

あや「江雪さん、髪キレイですね!」

 

江雪「ありがとうございます」

 

近藤「宗三さんは目の色が左右違うんですね?」

 

宗三「はい、オッドアイですよ」

 

流石は江雪と宗三、キャイキャイ迫る女子達を軽くあしらってやがる。

 

みほ「あの、比企谷くん」

 

八幡「ん? なんだ西住?」

 

みほ「その子・・・・」

 

俺の後ろを指差す西住の指先を辿ると、いつの間にか“お小夜”が俺の後ろに隠れていた。

 

八幡「お小夜・・・・?」

 

小夜「・・・・・・・・・・・・」

 

どうやら知らない人ばかりでどう接したら良いか分からず、戸惑っているな。元々お小夜はあんまり人と接したり話したりするのが苦手な『コミュ障ぼっち』だからな。兄の江雪や宗三以外だと同じく細川家に使えていた“歌仙兼定”くらいにしか心を許していないからな・・・・仕方ない。

 

八幡「お小夜・・・・」

 

小夜「ある・・・・・・・八さん」

 

おぉ、お小夜に“八さん”って呼ばれるなんてなんか新鮮で良いなぁ。なんて感慨に耽るのは置いておいて、腰を落としてお小夜の目線に合わせ、お小夜の頭を撫でる。

 

八幡「(小夜の頭を撫でながら)大丈夫だお小夜。西住達はいきなり吠えたり噛みついたりしないからな」

 

角谷「比企谷ちゃ~ん、まるで私達を猛犬の集団みたいに言わないでくれるかな~?」

 

根気よく躾れば大人しくなる猛犬よりも質が悪そうな会長の戯れ言を華麗にスルー。安定もお小夜に近づく。

 

安定「大丈夫だよ、みんな本当に良い子達ばかりだから、ね」

 

お小夜「うん・・・・」

 

ようやく俺の後ろから出たお小夜に会長が近づく。会長が背丈で相手を見下ろすなんて珍しい光景だな。

 

角谷「やぁやぁ、“お小夜くん”でいいかな?」

 

小夜「・・・・・・・・・・・・」

 

清光「会長。“お小夜”って言うのは、小夜が呼んで良いって言った相手だけが呼べる名前なんですよ」

 

角谷「そっかゴメンね。じゃ“小夜くん”で良い?」

 

小夜「(コクン)・・・・」

 

角谷「それじゃお近づきの印にこれどうぞ♪」

 

会長がお小夜に向けて干し芋を渡した。ウチの会長って暇さえあれば干し芋を頬張っているよな。

 

小夜「(戸惑い)・・・・・・・」

 

八・江・宗「「「(コクン・・・)」」」

 

お小夜は干し芋を見て戸惑いながら、俺と江雪達を見る。俺も江雪達もにこやかに頷くと、お小夜は会長から干し芋を貰った。

 

小夜「ありがとう、ございます・・・・」

 

角谷「うんうん、戦車を見るの初めて?」

 

小夜「はい・・・・」

 

角谷「それじゃ今日は戦車を動かしたりするから楽しんでね♪ あぁ勿論お兄さん達もね♪」

 

江雪「はい」

 

宗三「楽しみにしております」

 

角谷「イヤ~それにしても、“細目”の江雪さん、“オッドアイ”の宗三さん、“三白眼”の小夜くん、“つり目”の加藤ちゃん、“タレ目”の山本ちゃん、“腐眼”の比企谷ちゃん。見事に特徴的な目の形をした人達が揃ったね~♪」

 

確かに特徴的な目ですね、しかもみんな生まれつきこの目ですから。アーイ、バッチリミナ~♪

 

角谷「西住ちゃん、小夜くん達に戦車とか見せてあげて」

 

みほ「えっ? 私?」

 

小夜「その、宜しくお願いします・・・・」(ペコ)

 

みほ「あっ、イエ、こちらこそ・・・・」(ペコ)

 

河嶋「お前達、教官が見えておるのだぞ」

 

蝶野「えっ? あ、えっ??」

 

しかし、蝶野教官自身はようやく俺<本丸鎮守府提督>がいたショックから立ち直っていた。

 

小山「あの、蝶野教官?」

 

蝶野「あぁ、少し位ならOKよ! 色々な人達に戦車を知ってもらうのは良いことだわ!」

 

教官から許可を貰い、西住達は自分たちの戦車を左文字兄弟に見せていった。みんなから少し離れた俺に蝶野教官が近づき耳打ちをする。

 

蝶野「(ボソボソ)少しお話が有ります・・・」

 

八幡「(ボソボソ)ここでは何ですから向こうで」

 

西住達が戦車を物珍しそうに眺める江雪と宗三、キラキラとした瞳で戦車を見つめるお小夜に気を取られている内に、俺と蝶野教官は倉庫の裏手に回った。

 

みほ「あれっ? 比企谷くん??」

 

清光「どうしたの西住ちゃん?」

 

みほ「えっと、比企谷くんがどこかに・・・。それに教官も・・・」

 

安定「あぁ八さんと教官、厠にでもいったんじゃないかな? それよりもさ、小夜達にどういう戦車なのか教えてあげようよ♪」

 

みほ「う、うん・・・」

 

 

 

ー戦車倉庫・裏手ー

 

蝶野「色々質問がありますが、何故貴方がここに?」

 

八幡「さっきも言ったでしょう。俺は“大洗学園の生徒”だと・・・」

 

蝶野「貴方が学生である事は知っていましたが、まさかこの学園に在籍していただなんて・・・」

 

ハァとため息をついた蝶野1尉は、頭を抑えるように手を置いた。まぁ“初めて戦車道を始める素人チームの教官として赴いたら、本丸鎮守府の提督がいた!”だなんて、どこの三流バラエティー番組の企画なんだよって思いたくもなるわな。

 

八幡「この学園にいる間は、俺の事は“1生徒として”接してください。勿論、鎮守府の事は伏せておいてください」

 

蝶野「了解しました。軍の方でも貴方が提督である事は1尉以上の階級を持った人間しか知らない事ですし、各学園艦の学園長や責任者、それに一部の生徒達<生徒会や戦車道の隊長クラス>しか知り得ない情報ですからね」

 

その情報統制に“穴”が有ると思うのは俺だけでしょうかね?

 

八幡「では宜しく頼みますよ。後、敬語は不要ですからね、『蝶野教官』」

 

蝶野「了解しま・・・イエ分かったわ、『比企谷くん』」

 

 

 

 

俺と『蝶野教官』は西住達の方へ戻っていき、再び整列する西住達と俺達の後ろに左文字兄弟が並んだ。

 

秋山「(挙手する)教官! 本日はどのような練習を行うのでしょうか!?」

 

蝶野「そうね! 『本格戦闘の練習試合』、さっそくやってみましょう!」

 

ざわざわ、ざわざわ・・・・

 

小山「えっ?! あの、いきなりですか!?」

 

蝶野「大丈夫よ! 何事も実戦実戦♪」

 

なんてアバウトな・・・・あ、まさかこの人、山伏と同じ体育会系か? あ、そういや山伏と言えば、この間数珠丸達と修行に出て“デートをすっぽかした”って吹雪から聞いたな。

 

 

ー本丸鎮守府・鎮守府教室ー

 

睦月「(ヒソヒソ)ねぇ如月ちゃん。足柄さん、ここのところ何か不機嫌じゃないかな?」

 

如月「(ヒソヒソ)この間山伏さんとのデート、すっぽかされたらしいわよ「ズガンッ!」キャウンッ!」

 

如月の頭にチョークが命中して椅子から倒れる。

 

足柄「な~にを無駄話をしているのかしら~? 如月~~睦月~??」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・!

 

如月「(すぐに立ち上がり敬礼)イエ!何でも有りません!!」

 

睦月「(同じく立ち上がり敬礼する)授業中に大変失礼したしました!」

 

他の艦娘達もビクビクしながら授業を受けた。

 

 

ー八幡sideー

 

『妙高型三番艦重巡洋艦 足柄』。“飢えた狼”と異名を持つ戦闘狂であったが、容姿で言えば黒髪ロングで、攻撃的なスレンダーボディ(出るところはちゃんとふくやかに出ている)の大人の女性。最近は“嫁ぎ遅れ”を気にする艦娘の先生役。そして山伏国広と善い仲の関係なのだが、あの修行バカの山伏が相手だから中々進展しないようだ。

 

しかし・・・『先生』、『黒髪ロング』、『ナイスバティ』、『男前な性格』、『嫁ぎ遅れ』。この単語を並べると、なぜか俺は足柄を放っておけ無く、何度か山伏との仲の進展を手伝っている・・・・ホントに何故だろうか? なんて考えていると蝶野教官が話を続けた。

 

蝶野「戦車なんてバァーと動かして、ダァーと操作してドォーンと撃てば良いんだから!」

 

八幡(オイ、教導隊! なんでこんなアバウトどころか感覚系人間を教官にしやがった!?)

 

後で直訴してやる!と心の中で決めていると、蝶野教官は地図を拡げた。

 

蝶野「それじゃ、それぞれのスタート地点に向かってね」

 

そして戦車道チームは各々の戦車に向かう。

 

清光「(ボソボソ)八さん、大丈夫かなこれ?」

 

安定「(ボソボソ)何か嫌な予感がする・・・・」

 

江雪「実戦形式で修行とは、中々思いきりましたね」

 

宗三「初めて戦車に乗る少女達は操作できるでしょうか?」

 

小夜「(干し芋を頬張る)ムグムグムグムグ」

 

清光達の声を聞きながら、俺は先ずDチーム(一年生)を見る。

 

優季「ど~やって動かすのこれぇ?」

 

桂里奈「知ってそうな友達に聞いてみよっか?」

 

あや「ネットで聞いた方が早いんじゃない?」

 

・・・・・・・・・・・・Bチーム(バレー部チーム)。

 

典子「ここで頑張ればバレー部は復活する! あの廃部を告知された屈辱を忘れるな!! ファイトォォ」

 

バレー部『オォーーーーーーッ!!』

 

・・・・・・・・・・・・Cチーム(歴女チーム)。

 

左衛門佐「初陣だーーーーーー!」

 

おりょう「“車懸りの陣”でいきますかねぇ・・・」

 

エルヴィン「ここは“パンツァーカイル”で」

 

カエサル「1両しかないじゃん・・・」

 

あぁうん、駄目だわこりゃ。もう不安しかない・・・。

 

蝶野「はい! みんな早く乗り込んで!!」

 

パンパンと手を叩いて急かす蝶野教官。

 

河嶋「我々も乗り込みますか?」

 

角谷「うん・・・・あっ、そうだ」

 

小山「会長??」

 

なんだ? なんで会長は俺に近づいてきてんだ?

 

角谷「比企谷ちゃん、一緒に乗ろう♪」

 

・・・・・・・・・・・・はい?

 

八幡「カイチョウ、イッタイナニヲイッテンスカ・・・・?」

 

ついに頭が沸いたんですか? だったら今すぐ戦車になんて乗らずに救急車に乗ってください、付き添いますよ。ついでにサボりますから。

 

角谷「どうせ見てても暇でしょう? だったら一緒に乗れば良いじゃん♪」

 

八幡「あのですね、俺は男ですよ。戦車道は乙女の武術なんですよ・・・」

 

角谷「練習なんだからそんなに固く考えなくても良いんだよ♪」

 

八幡「イヤでもですね。教官さんも・・・・」

 

蝶野「構わないわよ♪」

 

うおぉい蝶野1尉! 学園長のフェラーリ潰したこと、上層部に報告してやろうかっ!?

 

角谷「ささ、教官からの許可も貰ったし、比企谷ちゃんも乗ろう乗ろう♪」

 

いつの間にか俺の首根っこ掴んだ会長に引きずられる。えっ? まさかの拒否権認メズ?

 

清光「八さんしっかりね~~♪」

 

安定「頑張ってね~~♪」

 

江雪「(祈り手を作り)ご武運を・・・・」

 

宗三「僕達はここでしっかり見守っていますよ」

 

小夜「気をつけて・・・・」

 

八幡「お前らまで何言ってンだ助けろよ! 清光! 安定! 江雪! 宗三! オイお小夜!!」

 

お助け~~!と手を伸ばし、助けを求める俺の声は空しく響いた。

 

 

 

 

小山「ホントにゴメンね比企谷くん・・・・」

 

八幡「もういいです、もう諦めました・・・」

 

流石は気遣い上手の小山先輩。その優しさに思わず涙が出てきますわ。ついでにその豊満な胸部に泣きついてもいいですか? いやセクハラではなく、純粋に泣きつきたいんです・・・・。

 

角谷「ウンウン、人間諦めが肝心だよ比企谷ちゃん。かーしまー」

 

河嶋「はっ!」

 

河嶋先輩が四つん這いになり、それを台にして会長が戦車に乗り込む。オイオイいくら会長の背丈じゃ戦車にあがれないからって河嶋先輩身体張りすぎだろう。

 

小山「しかし、いきなり試合なんて大丈夫ですか?」

 

河嶋「比企谷・・・」

 

八幡「言っときますけど、俺は戦車に乗ってる置物にしておいて下さいよ」

 

小山「(ヒソヒソ)でも比企谷くんが指揮とかしてくれたらこっちも助かるんだけど・・・」

 

八幡「(ヒソヒソ)俺は提督になってまだ半年位しか経ってない“新米”ですよ。しかも勝手が違う戦車の指揮なんてできません」

 

角谷「まぁどうにかなるから♪」

 

乗り込もうとする会長を尻目に、俺は倉庫に置かれていた“モノ”を見つける。まだ使えるな、一応念のために持っていくか・・・。そして各チームが戦車に乗り、蝶野教官が指示を飛ばす。

 

蝶野「じゃ、各チームそれぞれ役割を決めてくれる? 三名のチームは、“車長”と“砲手”、“操縦手”。4名はそれに加え、“装填手”。5名は“通信手”ね!」

 

と言う事は生徒会チームは4名だから“車長”と“砲手”と“操縦手”と“装填手”ですか・・・。

 

角谷「んじゃが河嶋が“砲手”で、小山が“操縦手”、私は“車長”兼“通信手”でもやろうか」

 

河嶋「会長、では比企谷は?」

 

角谷「んー、“装填手”でもやってもらおうかな? どうかな比企谷ちゃん」

 

比企谷「了解しましたよ・・・」

 

小山「比企谷くん、本当にゴメンね・・・・」

 

八幡「俺の事よりも、小山先輩はマニュアルを読んでおいて下さい」

 

もはや投げやりな俺に西住が話しかける。

 

みほ「比企谷くんも大変だね・・・」

 

八幡「おう西住、いやもう悟りの境地に入りそうだ。そっちは誰が役割やるか決めたか?」

 

みほ「うん、沙織さんが車長で、華さんが操縦手、秋山さんが砲手で、私は装填手」

 

八幡「そうか、まぁ西住・・・・」

 

みほ「ん?」

 

八幡「こんな事言われても仕方ないとは思うが、気楽にやれよ」

 

みほ「うん、ありがとう」

 

乗り込んでは見たものの、狭いし暑苦しい、しかも近くに女子がいるから動いて密着しそうで気が気でない。

 

蝶野《それでは、全戦車、パンツァーフォー!!》

 

とは言われたが、マニュアルを読み終えた小山先輩がたどたどしく操縦して発進した。

 

 

 

 

小夜「(キラキラ)兄さま、戦車が動いています・・・!」

 

江雪「これほど大きく、力強そうな車が女性の手で動くとは、時代の流れを感じますね」

 

宗三「本来は戦の道具を競技にするとは、これも人の業でしょうね」

 

安定「見送ったけど、清光良かったの? 主を行かせて?」

 

清光「ま、大丈夫でしょ。主もやる気になればやる気になるだろうし」

 

蝶野「貴方達」

 

清光「何ですか?」

 

蝶野「戦車の活躍を見たいなら見晴らし良いところに行きましょう」

 

刀剣一同『コクン』

 

 

 

 

河嶋「会長、快調に進んでいます」

 

角谷「(干し芋頬張り)座布団1枚!」

 

小山「(おそるおそる操縦に集中)」

 

八幡(ガタガタ揺れてケツが痛い・・・・)

 

そしてようやくスタート地点に到着した。

 

小山「はぁ・・・・」

 

八幡「お疲れ様です、小山先輩」

 

小山「ありがとうね、比企谷くん」

 

本当にこの人は苦労性だな・・・・。

 

蝶野《みんな、スタート地点に付いたようね! ルールは簡単、“全ての車両を動けなくするだけ”。つまり、ガンガン前進して、バンバン撃って、やっつければ良いだけ! わかった?》

 

角谷「イヤ~随分ザックリっすね♪」

 

八幡&小山「「会長に言われたくないんじゃ(ないですか)・・・?」」

 

思わず小山先輩とハモってツッコミを入れてしまったが、ザックリと言うかアバウトと言うか・・・。

 

蝶野《戦車道は礼に始まって、礼に終わるの。一同、礼!》

 

生徒会&八幡『宜しくお願いします!』

 

蝶野《それでは、試合開始!》

 

蝶野教官の号令で試合が始まった。さてはてどうなる事やら。

 

角谷「比企谷ちゃん? 作戦は?」

 

八幡「・・・・ノーコメント」

 

小山「比企谷くん・・・・」

 

八幡「俺はあくまでマネージャーです。現場の戦車の行動は現場に任せますよ」

 

河嶋「(小さく挙手)では会長、ここは取り敢えず前進して周囲を散策しながら西住が乗るⅣ号車を探す事を提案します」

 

角谷「うん、それじゃそれで良いかぁ」

 

まぁ妥当だな、他チームを地図でこちらが要る地点はバレているのだから動いた方が良い。

 

八幡(西住達が要る地点の近くに大きな橋が有るな、それに見晴らしも良い。一応拾ったモノを用意しておくか・・・)

 

 

~数分後~

 

河嶋「回り込めぇ!!」

 

いつの間にか俺達Eチームと他の三両は西住達のいるⅣ号を潰しに向かっていた。ついでに俺達の後ろをDチーム(一年生チーム)が付いてきた。

 

八幡(経験者であり家元である西住を先に潰したいと考えるのは当然だが、ただ闇雲に向かっていって勝てるかねぇ?)

 

すると、橋の上で立ち往生しているⅣ号車を見つけた。その後方に三突<バレー部>と八九式<歴女>がいたから多分あの2両に追いたてられてここに来てしまったって所か・・・。

 

八幡(さて、逃げ場の無い橋の上でどう切り抜ける? 西住みほ・・・?)

 

そして事態は以外な展開を見せた。Ⅳ号車の動きがまるで違っていた。たどたどしさがなく、まるで熟練者のような動きだ。五十鈴にあんな才能が有ったのか?

 

 

ー清光sideー

 

清光「流れが変わったね」

 

安定「うん、なんか西住さん達の動きがよくなった」

 

清光と安定、そして左文字兄弟も、双眼鏡で眺めながら、試合の流れが変わった事を感じていた。

 

 

ー八幡sideー

 

それからはあっという間に戦況が変わった。まずCチームがⅣ号車から放たれた砲弾でやられ、行動不能の旗が上がったのを皮切りに、Bチームが撃破された。

 

河嶋「フッフッフッここがお前らの死に場所だ!」

 

危ない笑みを浮かべた河嶋先輩が小物感溢れるセリフを吐いて引き金を引こうとした・・・・嫌な予感。

 

八幡「小山先輩バックッ!!」

 

小山「は、はい!」

 

怒鳴り声をあげた俺に驚いた小山先輩が急いでバックすると、こちらが放った砲弾は全く的外れな所に飛び、西住達の砲弾はギリギリかすった。

 

八幡「小山先輩、このまま距離を空けて下さい」

 

河嶋「オイ比企谷! 勝手に指示を「少し静かにしてください河嶋先輩(ゴォウッ!)」(ビクッ!) はい! 失礼いたしました!!」

 

小山「桃ちゃん、今の比企谷くんには逆らわない方が良いよ・・・・」

 

河嶋「(ガタガタガタガタ)も、桃ちゃんと呼ぶな・・・・!」

 

角谷(おぉ~、比企谷ちゃん“司令官モード発動”♪)

 

俺は横でガタガタ震える河嶋先輩を無視して、少し指を舐めて湿らせ、風の流れをみる。

 

ボォンッ!

 

その間、俺達の後方にいたDチームが砲撃を受けていないのに何故か旗が上がり退場していた。後で知ったが西住流にビビって逃げようとしたが、泥濘に転輪が捕まり、無理に動かそうとしてキャタピラが切れて、オーバーヒートして自爆したらしい。

 

八幡「・・・・・・・・・・・・」

 

風の流れを見た俺は持ってきたモノを取り出す。

 

角谷「比企谷ちゃんなにそれ? “発煙筒”??」

 

蝶野《DチームM3! Cチーム三号突撃砲! B八九式! 行動不能!》

 

八幡「(発煙筒に火を付けようとする) 小山先輩、俺が“これ”を投げたら、西住達の方に突っ込んで下さい」

 

小山「えっ、うん・・・・」

 

さて西住、何しろ俺は“素人”なんでね、ズルい手を使わせて貰う・・・!

 

 

ーみほsideー

 

みほ「ん? 比企谷くん??」

 

優花里が次の攻撃を発射しようとしているのを確認したみほは三八tを見ると、比企谷がⅣ号車に向けて“何か”を投げ、それはⅣ号車の車体に当たり足元に落ちる。するとーーーーーー。

 

プッシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ・・・・。

 

なんと大量の煙が巻き上がった!

 

沙織「えっ!? なにこれ?!」

 

優花里「これって、発煙筒の煙ですか?!」

 

華「煙が窓から・・・・ケホッケホッ・・・・!」

 

麻子「ケムイ・・・・」

 

巻き上がった煙は戦車のスリットから中に入り込み、西住達の視界を塞ぐ。

 

みほ(八幡くんの狙いって・・・まさか?!)

 

西住は八幡の思惑を察した。

 

みほ「急いで橋から脱出を・・・!」

 

グワシャンッ!!

 

指示を出そうとした西住達の戦車に何かがぶつかり、大きく揺れた。

 

みほ「まさか!?」

 

みほが外に顔を出すと、目の前に三八tがいた。どうやらコチラが煙に慌てている間に接近していたようだ。三八tから目の腐った男子、比企谷八幡が顔を出す。

 

みほ「比企谷くん・・・・!」

 

 

ー八幡sideー

 

八幡「よぉ西住、煙に巻かれた気分はどうだ?」

 

みほ「比企谷くん、戦場道では発煙筒は使わないよ」

 

あらそうなの? やだわ~そんな事全然知らなかった~(すっとぼけ)。

 

八幡「そうなのか、んでどうする? 何しろこちとらの砲手はノーコンだからこんな0距離まで接線したんだがな」

 

河嶋「誰がノーコンだっ!?」

 

足元の先輩は無視。

 

八幡「流石にこの局面で勝ちに行くか?」

 

みほ「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

西住が少し迷いがちに目を伏せるが、すぐに顔を上げる。

 

みほ「コチラも砲撃はすぐに出来るよ」

 

八幡「それじゃ試してみるか? 秋山と河嶋先輩、どっちの引き金が早いか。西部劇みたいな早撃ち勝負でもするか?」

 

俺の言葉に西住は手を上げる。

 

みほ「比企谷くん、私から提案が有るんだけど・・・」

 

八幡「それは俺と同じかもな。よし、同時に言うぞ」

 

西住が頷くのを確認した俺は西住と声を重ねる。

 

八・み「「引き分けにしないか?(かな?)」」

 

全く同じセリフを吐いた俺達はフッと笑う、どうやら交渉成立のようだ。一応会長達にも聞いておく。

 

八幡「会長、そう言う事になりました」

 

角谷「うん良いよ~」

 

会長は快く了承し、小山先輩も了承、河嶋先輩は不満気だが会長が了承したから渋々了承。西住の方を見るとアチラも了承したようだ。

 

八幡「(通信機を取る)蝶野教官、と言う事になりました」

 

蝶野《了解よ。それじゃこの試合は、AチームとEチームの引き分け! 回収班を派遣するので、行動不能の戦車はその場に置いてきて》

 

蝶野教官との通信を切ると、Ⅳ号車から武部達が出てくる。

 

沙織「もう! 比企谷ズッコイよ!」

 

華「いつの間に発煙筒を持ってきたのですか?」

 

優花里「(目をキラキラ)発煙筒を使って撹乱させて突撃だなんて、意表を突かれましたよ比企谷殿!!」

 

麻子「ケムかった・・・」

 

八幡「悪い悪い。つか、何でここに冷泉がいるんだ?」

 

Ⅳ号車から今朝会った小柄の黒髪女子である冷泉麻子が降りてきた。

 

沙織「えっ? 比企谷、麻子の事知ってるの??」

 

八幡「今朝死にかけながら登校しようとしていたからおぶってやったんだよ」

 

沙織「もう麻子! 人に迷惑掛けちゃダメでしょ!」

 

麻子「悪かったと思っている・・・」

 

八幡「武部は冷泉と知り合いなのか? つか何で冷泉が要るんだよ?」

 

沙織「麻子とは幼なじみなの。それで麻子ってば授業サボってお昼寝していたから私達の方で保護して、砲撃で気絶した華の代わりに操縦手をやっててくれたの」

 

今朝の女子が知り合いの幼なじみって、世間とは狭いね~。しかしなるほど、途中でⅣ号車の動きが良くなったのはそう言う事か・・・ん?

 

八幡「ちょっと待て。戦車の運転が出来るって、冷泉は戦車道経験者なのか?」

 

優花里「冷泉殿はマニュアルを読んで直ぐに操縦をモノにしたんですよ!」

 

沙織「麻子は学年首席だからね~」

 

マジかよ、そういえば園先輩も“成績優秀”って言ってたな。人は見かけによらないとはまさにこの事・・・! ん? お前が言うなって? 失礼な・・・。

 

 

ー角谷sideー

 

八幡が西住達と談笑している間、三八tの生徒会はーーーーーー。

 

河嶋「フッ、やはり彼女と比企谷に戦車道を受講させたのは正しかった」

 

角谷「作戦通りだね♪」

 

小山「これで上手く行くと良いですけど・・・」

 

 

ー八幡sideー

 

清光「八さん、お帰り~」

 

安定「どうだった初めての戦車は?」

 

ズビシッ! ズビシッ!

 

清・安定「「おぉ~~~~・・・!」」

 

戻った俺に近づいた清光と安定に俺は問答無用の脳天チョップを叩き込んだ。

 

八幡「テメェ等、人<主>を見放しやがって。脳天チョップの刑だ・・・!」

 

次の標的に宗三にも脳天チョップをしようとするがーーーーーー。

 

宗三「ヒラリ・・・」

 

ヒラリとかわされる。

 

八幡「(ジリジリ)おい宗三、大人しくチョップされろ」

 

宗三「(ジリジリ)慎んで、お断りします」

 

八幡「フッ!」

 

宗三「ヒラリ、ハラリ、ホロォリ・・・」

 

チョップを繰り出す俺の攻撃をヒラリハラリとかわす宗三。

 

みほ「比企谷くん、なんか楽しそうだね」

 

沙織「比企谷って私達に対する態度と、宗三さん達に対する態度が少し違くない?」

 

華「そうですね、まるで十年来の親友と接するみたいです」

 

優花里「男の友情ですね!」

 

麻子「眠い・・・」

 

角谷「ハイハイ比企谷ちゃん、ジャレてないで整列してね~♪」

 

会長に言われて整列する、本丸に帰ったら覚えてろよ。

 

蝶野「みんなグッジョブ、ベリーナイスっ! 初めてでこれだけガンガン動かせれば上出来よ! 特にAチーム! 良くやったわね!」

 

西住達『(テレテレ)』

 

蝶野「Eチームも最後は面白い一手だったわ!」

 

角谷「まぁ、あれは比企谷ちゃんの作戦だったんですけどね」

 

蝶野「そう、比企谷くんの・・・」

 

蝶野教官、俺の方をあまり見ないで下さい。

 

蝶野「後は日々、走行訓練と砲撃訓練に励むように、分からない事が有ったら、いつでもメールしてね」

 

河嶋「一同、礼!」

 

大洗戦車道『ありがとうございました!!』

 

一同が礼をし、蝶野教官が敬礼で返した。

 

角谷「それじゃ比企谷ちゃん、蝶野教官と左文兄弟さん達をお見送りしてね~。私達はお風呂に行ってるから~」

 

八幡「分かりました」

 

角谷「(ヒソヒソ)色々話しておいてね」

 

八幡「(ヒソヒソ)了解・・・」

 

会長なりの気遣いか・・・。西住達が解散し、俺は清光と安定、それに左文字兄弟と共に蝶野教官を見送ろうとした。

 

蝶野「今回の模擬戦で、戦車道をどう思われましたか?」

 

八幡「・・・・・・・やっぱり“競技の世界”だなって思いましたね、まぁ悪くないですが」

 

蝶野「そうですか・・・・もうすぐ全国大会。貴方もメンバーとして参加するんですよね?」

 

八幡「ま、一応マネージャーですからね」

 

蝶野「私も“審判”として参加しますが、公私混同はしないつもりです」

 

八幡「それで良いですよ。俺もあくまで“大洗学園の1生徒 比企谷八幡”として参加しますから」

 

蝶野「それを聞いて安心しました」

 

蝶野教官、蝶野1尉は顔を引き締め、姿勢を正し、俺に敬礼する、俺も顔と姿勢を正して敬礼で返し清光達も敬礼する。

 

蝶野「では、失礼したします。“比企谷八幡提督”」

 

八幡「お疲れ様でした、“蝶野亜美1等陸尉”」

 

蝶野教官は10式戦車と共に再び輸送機に乗り込み、大洗を去った。

 

江雪「では主、私達も本丸に戻っております」

 

八幡「あぁ、どうだった初めて見る戦車は?」

 

江雪「興味深いモノでした。戦の道具を恐れずに、楽しむ少女達の姿は微笑ましかったです」

 

宗三「しかし、彼女達のこれからを思うと些か心配ですが・・・・」

 

小夜「・・・・・・・・・・・・」

 

八幡「お小夜、どうだった?」

 

小夜「戦車、凄かったです・・・・」

 

八幡「そうか、なら良い」

 

俺達は江雪達を見送り。その後、自動車部の連中に差し入れ<MAXコーヒー&甘い菓子>を渡して、本丸に帰ろうと学校を出ようとすると西住達と鉢合わせた。

 

八幡「おう西住、お疲れさん」

 

みほ「比企谷くん達もお疲れ様。えっと、小夜くん達は?」

 

八幡「あぁ、あいつ等ならさっき帰ったぞ」

 

沙織「えぇっ! もう帰っちゃたの?! 私まだ江雪さんと宗三さんの番号教えて貰ってないのに!」

 

安定「沙織さん、一応言っておくけど、江雪も宗三も彼女持ちだよ」

 

沙織「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

清光「ついでに小夜も彼女持ち♪」

 

沙織「ガーーーーーーーーーーン」

 

江雪や宗三だけではなく、“見た目は年下”のお小夜まで恋人持ちだったのがこたえたようだな。

 

優花里「そうだ聞いてください比企谷殿! 私“装填手”になりました!」

 

八幡「そうなのか? しかし装填手って体力がいるんじゃないか? 砲弾って重いしな」

 

優花里「(力こぶつくるように)大丈夫です! 鍛えてますから!!」

 

お前は清めの音を叩き込む鬼戦士か?

 

八幡「それじゃ砲撃手は?」

 

華「私がやります」

 

八幡「五十鈴が? ちょっと以外だな」

 

華「砲撃をした時の振動と音が、快感でした・・・!」

 

安定「華さん、変な感覚に目覚めてない??」

 

俺も同意。

 

沙織「そして私が通信手で、麻子が操縦手になったんだよ!」

 

清光「あぁ、沙織ちゃんメール打つの早そうだもんね」

 

八幡「それは理由になるのか? しかし冷泉、参加するとは思わなかったぞ」

 

俺が言うのもなんだが面倒くさそうなの嫌いそうなのに。

 

麻子「単位が必要だからな・・・・」

 

八幡「あぁ、なんか切実だな・・・・」

 

麻子「あぁ切実だ・・・・」

 

みほ「それでね、私が車長になったんだけど・・・・」

 

八・清・安「「「やっぱり」」」

 

みほ「えぇっ! そんな簡単に納得しちゃうの?!」

 

八幡「イヤ西住以外いないだろう」

 

清光&安定「「ウンウン」」

 

優花里「比企谷殿達もそう思いますよね!!」

 

八幡「あぁ・・・っ!」

 

秋山に相づちを打っていると、スマホが震えてので確認すると、【要請連絡】が表示されていた。

 

八幡「・・・・清、安、直ぐに帰るぞ」

 

清光&安定「「了解」」

 

八幡「西住、悪いが俺達はこれでお暇する」

 

みほ「う、うん・・・」

 

八幡「また明日・・・・」

 

清光「じゃあね」

 

安定「みんなあんまり寄り道しないでね」

 

 

ーみほsideー

 

比企谷達を見送った西住達、しかし西住達は比企谷の真剣な眼差しが気になっていた。

 

沙織「比企谷って、スマホやタブレットが鳴ると凄い真面目な顔になるよね?」

 

華「はい、それに加藤さんや山本さんもですね」

 

優花里「何か有ったのでしょうか?」

 

麻子「さぁな、それよりも沙織、これから何処に行くんだ?」

 

沙織「行ってからのお楽しみだよ、みぽりん行こう♪」

 

みほ「そう、だね・・・・」

 

西住は比企谷達の帰っていった方を気にしていたが、直ぐに武部達と共に買い物に出掛けた。

 

 




次回、八幡にLOVEな女子が現れるかも?


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善い思い出は大切にするべきだと思う

『続刀剣乱舞花丸 第四話』の前半を入れます。


初の戦車道も終わり、後は本丸鎮守府で“間宮”の甘味でも食べながら仕事でもやろうかと思っていたが、現実は甘味のように甘くない。えぇ分かっておりますよ。政府からの【要請連絡】で、急いで本丸に帰った俺は、早速出陣メンバーを選んで送り終えたので本丸の縁側に腰かける。

 

八幡「やれやれ、ようやく人心地つける・・・・」

 

一期「お疲れ様です主」

 

薬研「大将、疲れたんなら疲労回復に効く薬があるぜ」

 

八幡「薬研、大丈夫なんだろうなその薬?」

 

薬研「大丈夫だ、ちゃんと陸奥守に実験を手伝ってもらったからな」

 

八幡「じゃいま陸奥の膝枕でウンウン唸っているのは何処の陸奥守だ?」

 

縁側の後ろの部屋を指差すと、陸奥守が陸奥に膝枕してもらいながらウ~ンウ~ンと唸っている姿があった。

 

薬研「・・・・大丈夫だ、最終的に成功したからな」

 

八幡「とりあえず遠慮する」

 

鳴狐(キツネ)『主どの、鳴狐がお稲荷を作りました。是非どうぞ』

 

鳴狐(本体)「(コクコク)」

 

子狐丸「主<ぬし>様、主様の好きなMAXコーヒーも持ってきました」

 

八幡「ありがとな、“鳴狐にキツネ”、“子狐丸”」

 

俺にお稲荷をくれたのは『藤四郎兄弟』の一振り『打刀 鳴狐』、灰色の短髪に口には顔を守る甲冑を付け、“人付き合いが苦手”故にあまり喋らない性格をした刀剣男士。お供の狐は鳴狐が好き以外の感情表現をして貰っている。パッと見ると狐が喋っているように見えるが、鳴狐が腹話術で喋っていてそれを見て周囲が驚くのが密かな楽しみにしている。

 

そしてマイフェイバリットドリンクであるMAXコーヒー<マッ缶>を持ってきたのは、灰色の艶の有る髪に獣耳のような癖ッ毛の長髪をした刀剣男士『太刀 子狐丸』。名前は子狐なのに188センチの長身に肩幅ががっしりした体格の妖狐のような妖やしい雰囲気があるが性格は紳士なヤツだ。

 

さて折角だ、鳴狐のお稲荷を食べるか。

 

八幡「ハグッ・・・・」

 

薬研「大将・・・?」

 

八幡「おい鳴狐、このお稲荷の中身が“チャーハン”なんだか・・・・・『阿賀野』か?」

 

阿賀野「ピンポ~ン! 提督さんするど~い!」

 

鳴狐の背中から黒いロングに肩だしセーラー、紅色のスカートに白い長手袋、左足だけ片足ニーソのメリハリの効いたプロポーションをした能天気でマイペースなアホの娘艦娘『阿賀野型1番艦軽巡洋艦 阿賀野』。アダルトな見た目と違って内面は幼く、本人は“面倒味が良いお姉さん”のつもりで、人付き合いが苦手な鳴狐といつの間にか一緒にいる事が多くなった。

 

八幡「お稲荷の中身がチャーハンって、パンチが効きすぎだろうが。せめて五目ご飯にしてくれ・・・!」

 

阿賀野「えぇ、美味しいと思うんだけどな~」

 

八幡「チャーハンの油と油揚げの汁が混ざって妙な味わいになってるぞ・・・! せめてもう少しチャーハンの油を抜いてくれ・・・!」

 

子狐丸「主様、飲み物を」

 

八幡「(ゴキュゴキュ・・・)サンキュー子狐丸・・・」

 

子狐丸「そう言えば加州と大和守は如何したのでしょう?」

 

八幡「あぁ、今頃左文字兄弟と一緒に戦車の感想をみんなに教えているんだろう」

 

一期「私達もこれから加州さん達から聞いて来ますね」

 

八幡「おぉ、俺もちょっと鎮守府で仕事したら戻るわ・・・」

 

薬研「俺も少し薬の後片付けをしたらそっちに行く」

 

 

* * *

 

 

一期達や薬研と一端別れた俺は鎮守府の方へ向かい、書類仕事をこなしていると、プライベート用のスマホが鳴り出た。

 

八幡「はい、こちら比企谷八幡ですけど?」

 

角谷《あっ、比企谷ちゃん? 私、私!》

 

八幡「・・・・・・・・・・・生憎と“私”と言う名前の人物には心当たりがないのですが?」

 

角谷《ハッハッハッハッ、比企谷ちゃんってば冗談が上手いね~♪》

 

イヤわりとマジで心当たりが無かったらどれだけ良かったかなぁ。

 

八幡「それで何ですか会長?」

 

角谷《うん、実はね。比企谷ちゃんから見てうちの戦車道チームどうかなぁ?》

 

八幡「・・・・・・・・バレー部チームは勢いだけ、歴女チームは素人感丸出し、一年生チームはノリが軽過ぎ、生徒会チームは狙った的に当たらない上に河嶋先輩は自分の策を過信しがち、正直一回戦でも勝てたら御の字ですね。唯一西住が戦車道にもっと本気で取り組んでくれれば何とかなるかもしれませんが・・・」

 

角谷《やっぱり今のままじゃ勝てないかぁ。それでさ、比企谷ちゃんの“本丸鎮守府提督”としての人脈で、何かウチのプラスになるような練習相手を見つけてくれないかなぁ?》

 

八幡「・・・一応心当たりが幾つか有りますから、連絡を取って見ます」

 

角谷《うん、よろしくね~♪》

 

ピッ!

 

八幡「(書類仕事中)」

 

大淀「提督」

 

八幡「あぁ大淀、書類はこれで終わりだな?」

 

大淀「はい、それで戦車道の練習相手はどうしますか?」

 

八幡「う~ん、出来ることなら『4強』と呼ばれる連中が理想的だな」

 

大淀「いきなり『4強』と戦って大丈夫でしょうか?」

 

八幡「実力差を思い知るには丁度良いだろ。だけど『黒森峰』と『プラウダ』が相手をするには、西住はまだ去年の事を消化しきれていないし・・・・とすれば『サンダース』か、『聖グロリアーナ』か・・・・良し、あの人にしよう」

 

俺はスマホを持って『ある人物』に連絡を取った。一応『提督』としてではなく、『プライベート』ととして。

 

 

 

ー???sideー

 

とある学院のバルコニーで優雅に紅茶を飲む三人の女子生徒達がいた。その女子生徒達の一人に女子生徒が電話を持って近づく。

 

モブ生徒「ーーーーー様、お電話が入っています」

 

???「お茶の時間に連絡を寄越すだなんで随分無粋ね、一体誰かしら?」

 

モブ生徒「はい、“比企谷 八幡”と言えば直ぐに分かると言っていましたが・・・」

 

???「ッッ!!」

 

モブ生徒の言葉にその少女は紅茶を持ったまま器用にワタワタする。ちなみに紅茶は1滴も溢さなかった。

 

モブ生徒「ーーーーー様???」

 

モブ生徒はその少女の態度に首を傾げ、他の二人は苦笑いを浮かべていた。

 

???「そ、そうなの! じ、じゃ電話は受けとります。下がっていなさい・・・!」

 

モブ生徒は訳が分からないと言わんばかりだが、他の二人からも退室を促されたので退室した。すると女子生徒は少し身なりを整えて深呼吸してから電話に出た。

 

???「お久しぶりね、『比企谷提督<アドミラル>』」

 

八幡《お久しぶりです、『ダージリンさん』》

 

ダージリン「貴方から連絡を寄越すだなんで珍しいわね。何時もなら大淀さんを通してから連絡に入るのに」

 

八幡《そうですね、何しろ俺は“お茶の時間に連絡を寄越す無粋な人間”ですから》

 

ダージリン「あ、あら、聞いておられたの・・・??」

 

八幡《はい・・・まぁその事は別に良いですけど、一つ頼みたい事がありまして》

 

ダージリン「何かしら?」

 

八幡《実は俺が在籍している大洗学園でこの度戦車道が復活したんです》

 

ダージリン「大洗学園の戦車道、復活なされたとは聞いてはいたけど、それで何故アドミラルが??」

 

八幡《えぇ、実は俺はその大洗戦車道のマネージャーをする事になったんです》

 

ダージリン「(ピクッ)あらそうなの、大洗戦車道のマネージャーに・・・・!」

 

「「(ビクビクビクビクビクビクビクビク・・・!)」」

 

全身から“羨ましいオーラ”を出しまくっている女子生徒に他の二人は戦慄する。

 

八幡《それで今度の日曜日に練習試合を申し込みたいんですが・・・・》

 

ダージリン「私達を選んだのは何故かしら?」

 

八幡《・・・・正直に言って、ウチの戦車道は経験者1名を除いてド素人の集まりでしてね。色々と未熟な所が多いんですよ。貴女達との試合で、戦車道の“戦術”や“戦略”を学ばせて貰いたいと思いまして》

 

ダージリン「他の学園に頼むのは?」

 

八幡《実はその経験者1名は、西住流の妹さんでして・・・・》

 

ダージリン「成る程、『黒森峰』や『プラウダ』と相手をするわけにはいかないと。でも、それなら『サンダース』は?」

 

八幡《アソコは“戦術”や“戦略”が少し大雑把な所が有りますから。その点、ソチラならこちらにとっても大きな勉強になると思うので》

 

ダージリン「そう言って貰えて光栄だけど、こちらにメリットが無いわね」

 

八幡《その妹さん、中々の傑物だと思いますよ》

 

ダージリン「あら? 貴方がそこまで言うほど?」

 

八幡《えぇ、貴女のお眼鏡にかなうと思います》

 

ダージリン「興味深いけど、それだけじゃね・・・・」

 

八幡《他に何か条件が必要ですか?》

 

ダージリン「条件、そうね・・・・・・・・アドミラル、一つ聞きたいのだけど?」

 

八幡《はい?》

 

ダージリン「貴方まさか、その戦車道メンバの人達ーに、貴方の“プライベートナンバー”を教えたりしているのかしら?」

 

八幡《??? えぇ一応教えていますけど》

 

ダージリン「そ、それじゃ、試合の申し込みを受ける条件として、わ、私にも貴方のプライベートナンバーとメールアドレスを教えてくれるなら、引き受けるわ・・・!」

 

八幡《・・・・・・・・・・・・まぁ、良いですけど》

 

ダージリン「何でそんなに間が有ったの? でも取り敢えず、引き受けたわ。それじゃ次の日曜日に」

 

八幡《はい、よろしくお願いしますダージリンさん。失礼します》

 

ピッ!

 

 

ダージリン「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

『ダージリン』と言う名の女子生徒は上機嫌に鼻歌を歌いながら優雅に紅茶を飲む。

 

???「ご機嫌ですね」

 

???「今度の日曜日に試合を受けたようですが?」

 

ダージリン「えぇそうよ『アッサム』、『オレンジペコ』。大洗戦車道チームとの練習試合が入ったわ。“まほさんの妹さん”が要るようよ、楽しみね♪」

 

アッサム「『ダージリン様』にとっては、試合や“西住まほさんの妹さん”よりも・・・・」

 

ペコ「比企谷アドミラルのプライベートナンバーが分かる事の方が重要に見えますね・・・・」

 

苦笑いを浮かべるアッサムとオレンジペコにダージリンと呼ばれた少女は悠然と微笑む。

 

ダージリン「当然よ。何しろ“ライバル”は強敵ばかりなのだから、こちらでもそれなりに“手札”が無いと勝負にならないわ」

 

アッサム「そう言えば、“あの方達”遅いですわね。お茶の時間には直ぐに来るのに・・・・」

 

ペコ「この先の海域の周辺を警戒していますから、それが終わったら来ると言っていました」

 

オレンジペコが言い終わると、バルコニーに“四人の艦娘”がやって来たーーーーーー。

 

 

ー本丸鎮守府・提督室ー

 

八幡「さて、連絡は終えたし、俺は本丸に方に戻るな」

 

大淀「はい、お疲れ様でした提督」

 

八幡「新しい刀剣男士を顕現させてくる」

 

大淀「まぁ新しい仲間が増えるのですね! 鎮守府の方も、もうすぐ新しい艦娘が着任しますから楽しみです」

 

八幡「そうか、それは楽しみだ」

 

俺は提督室を出て本丸の方へ向かった。

 

 

ー30分後 本丸鎮守府・左文字兄弟の部屋ー

 

新しく顕現した刀剣男士を連れて行くと、左文字兄弟の部屋から皆の声が聞こえた。

 

扶桑「お小夜。どうでしたか、はじめて見た戦車は?」

 

小夜「すごく大きくて砲音とか凄かったです・・・」

 

正座した扶桑の膝の上に座るお小夜や、山城と蒼龍と並んでいる宗三と江雪と、川内と那珂と一緒にいる清光と安定に吹雪と睦月に夕立(改)がいるな。

 

八幡「おぉいたいた。宗三、少し良いか? おい、早く来いよ」

 

???「ヒック!」

 

俺が連れてきたのは、黒紫の乱れた風の長髪をポニーテールにした紫目の少年、今は内番衣装の紫の表地に黒の裏地に金の柄が入ったオシャレパーカー。しかし、下はゼッケンが入った半袖短パンの体操着、しかも体操着のゼッケンには自分の名前が入った残念オシャレの上に、その手には『甘酒』を持っており顔に朱が入り酔っているのが分かる。

 

???「たくっ、なんだよ・・・?」

 

八幡「紹介するな、今さっき顕現した刀剣男士だ」

 

夕立「へぇ、新しい刀剣男士っぽい?」

 

睦月「提督、その人の名前は何て言うのですか?」

 

???「(甘酒を飲み)ゴキュゴキュ、プハッ・・・!」

 

安定「甘酒を飲んで酔っぱらってるのかな?」

 

川内「なんか、日本号さんや“次郎の姐<あね>さん”みたいなヤツだな・・・・?」

 

八幡「宗三とは前の主が同じだろう?」

 

宗三「おや・・・!」

 

???「ん・・・・あぁっ! お前! 宗三! 宗三左文字かっ!?」

 

宗三「久しぶりですね」

 

山城「宗三様と同じと言う事は、貴方も織田信長公の刀剣だったのですか?」

 

???「おうっ、そうだぜ!俺は『短刀 不動行光』!」

 

八幡「織田信長が、近侍であった『森蘭丸』に与えた短刀だ」

 

不動「そう!そして俺は信長公が大層愛した一品なんだ! どのくらいかと言うと・・・」

 

不動は上機嫌に右足の膝を出してパンッと叩く。

 

不動「ヒック、酔うと膝を叩いて歌って自慢するほどだな! これって相当の事だろう?」

 

小夜「そうなんですね・・・・」

 

不動「(ずう~ん)だけど、そんな信長様どころか、蘭丸の命すら守れなかった『ダメ刀』だけどな・・・・」

 

わぉ、不動の気持ちが目に見えて落ちやがった。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

他の皆もなんとも言えない顔になったが、廊下から島風を背中にぶら下げた長谷部と、愛宕にべったりとひっつかれた薬研が来た。

 

長谷部「主、新しい刀剣男士が来たと聞きましたが?」

 

薬研「どんなヤツなんだ?」

 

八幡「おう長谷部に薬研。織田の刀が来たぞ」

 

長・薬「「?!」」

 

小走りで来た長谷部と薬研が不動と邂逅した。

 

不動「(薬研を指差し)あっ、薬研・・・藤四郎?」

 

薬研「不動、行光? お前もこの本丸鎮守府に来たんだな?」

 

不動「(長谷部を指差し)んで、こっちは?」

 

薬研「知らないか? 長谷部は織田信長から黒田に・・・」

 

長谷部「ゴホンッ! 俺の名前はへし切長谷部。この本丸に2番目に「黒田!」ん?」

 

不動「お前、信長様の直臣でもないヤツに下げ渡されたのか? しかも“へし切”って、ぷっ! 変な名前!」

 

長谷部「(カチン)なにぃっ!? 主! なんなのですかコイツは!?」

 

うわぉ、飛び火した。

 

八幡「イヤ俺に言われてもな・・・」

 

島風「でもさ、長谷部っちの“へし切”って、その織田信長さんが付けた名前なんだよ~」

 

不動「へぇ~、信長様に・・・」

 

長谷部「あんな男の事はどうでも良い。名前を聞くのも不愉快だ」

 

不動「(カチン)何だとっ!?」

 

長谷部「良いか、もうお前の主は織田信長ではない。こちらにいる比企谷八幡様だ。この本丸鎮守府に来たからには、今の主の為に務めを果たせ!」

 

不動「俺が大切なのは信長様だっ!」

 

長谷部&不動「「(メンチ切り合い)ウギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギっっ!!」」

 

愛宕「アラアラ~」

 

薬研「まぁまぁ! 落ち着けって!」

 

島風「長谷部っち、どうどう!」

 

吹雪「不動さんもおさえて下さい!」

 

清光「これは・・・」

 

那珂「先が思いやられそうだね・・・」

 

本当にそう思う。しかし不動行光か、眼鏡を掛けてツッコミを教えれば立派なツッコミ担当(短刀?)になりそうだな。イヤそんな事したら眼鏡の方が本体になってしまうな。ん? 俺は何を言ってるんだ??

 

 

* * *

 

翌日、戦車道倉庫に来た俺と清光と安定は愕然となった。

 

八・清・安「「「・・・・・・・・・・・・・何だこれ???」」」

 

先ずバレー部の三九式は白いペンキでデカデカと『バレー部復活!』と力強く書かれ、さらにバレーボールのステッカーまで貼られていた。だからなんで戦車道やるんだよ? 部員集めろよ。

 

歴女チームの三突だなんて、赤やサンドイエローやら段だら模様やエンブレムが装飾されて、それぞれの歴女達が持っていたのか、旗が四本立てられている。何だこりゃ? 去年獅子王がやった『超刀剣男士』みたいにゴテゴテな感じになってるぞ。流石に清光も安定も苦笑い浮かべてるし。

 

一年生チームのM3リーはピンク一色だと? 戦隊ヒーローのマシンでももうちょっと色を付けてるぞ。

 

そして極めつけは生徒会チームの38(t)、金ぴかじゃねぇか。機動戦士の百○か? ア○ツキか? 蜂須賀とにっかりが喜びそうなセンスですね。

 

もはや改造なんてレベルじゃねぇ、魔改造戦車軍団だ。デコトラの集団だ・・・。

ハッ! まさか西住達のⅣ号戦車もこんな風に?・・・・おぉぅ。いつも通りのⅣ号戦車がそこに雄々しく鎮座していた・・・!

 

優花里「比企谷殿ーーーーーー!!」

 

感激している俺に秋山が駆け寄る。

 

八幡「秋山! Ⅳ号戦を守ってくれたかっ!?」

 

優香里「(敬礼し)はい! 不肖この秋山優花里! Ⅳ号戦車の“外装だけ”は守り抜きました!!」

 

八幡「良くやってくれた! 秋山!!」

 

俺は思わず秋山を抱き締めた。

 

優花里「わわわわわっ! ひ、比企谷殿・・・・!」

 

清光&安定「「(口笛吹く)ヒュ~♪ヒュ~♪八さんだいた~ん♪」」

 

八幡「おっとスマン、あまりにも他の戦車の惨状につい、な・・・・」

 

優花里「(八幡の手を取り)分かります! 分かりますとも!! せっかくの三突式と三九式とM3リーと38tが、こんな変わり果てた姿になっただなんて、あんまりですよね・・・・!」

 

俺と秋山は他のメンバーを見ると。

 

おりょう「カッコいいぜよ」

 

カエサル「支配者の風格だな」

 

左門佐「ウム」

 

エルヴィン「私はアフリカ軍団仕様が良かったのだが」

 

磯辺「これで自分達の戦車が直ぐに分かるようになった♪」

 

梓「やっぱピンクだよね~♪」

 

あや「カワイイ~♪」

 

角谷「良いね、この勢いでやっちゃおうか?」

 

河嶋「ハッ! 今から比企谷の聞いておきます」

 

小山「えっ? なんですか??」

 

八幡「・・・・・・・・・・・・秋山、本当に、本当に良くやってくれた・・・!」

 

優花里「はい、比企谷殿・・・・!」

 

俺と秋山は熱く手を握り締め合う。この惨状からⅣ号戦車を守り抜いた秋山には、“軍曹”の地位をあげたい・・・・!

 

みほ「比企谷くんに優花里さん、なんか仲良くなったね・・・」

 

清光「まぁ気持ちは分からなくもないけど・・・・」

 

安定「西住さんはどう思う? この惨状・・・?」

 

みほ「黒森峰にはこういうの無かったから、新鮮だなぁって思うよ」

 

清光「西住ちゃん、順応性高いね・・・・」

 

河嶋「おい比企谷、何を遊んでいる? 会長がお呼びだ」

 

八幡「へいへいそれじゃな西住、練習頑張れよ・・・」

 

みほ「うん、比企谷くんも頑張ってね」

 

すみませんダージリンさん、どうやら次の日曜日では“珍妙戦車軍団”が相手になりそうです。あぁもう、あっち<本丸>もこっち<戦車道>も先が本当に思いやられる・・・!

 

 

* * *

 

ー夜 本丸鎮守府・廊下ー

 

それからは戦車道の練習が始まり、俺と清光と安定は主に練習後のタオルやドリンク、練習風景の記録と、それなりにマネージャーとしての仕事を終えて。本丸鎮守府に戻り書類仕事を終わらせ、風呂に入ってさぁ寝ようとある部屋を通り過ぎようとするとーーーーーー。

 

不動「良いじゃねえか教えろよ。俺が『ダメ刀』だから話せねぇって言うのか~?」

 

次郎「アタシも聞きた~い!」

 

準鷹「話の肴に聞かせろよ~!」

 

障子を少し開けて中を見ると、不動と長谷部がまるで居酒屋のようなテーブルと椅子がある部屋で、『太郎太刀』と『大和』、『次郎太刀』と『準鷹』、日本号と『瑞穂』と飲んでいた。つか次郎太刀と準鷹はまるで居酒屋の女将みたいに立ってやがる。

 

長谷部「・・・・“長政様”は、善い方だった」

 

“長政”、豊臣秀吉の大軍師『黒田官兵衛』の息子である『黒田長政』か・・・・。

 

長谷部「付喪神にあの世が有るならば付いて行きたかった。だができない、我々<刀剣男士と艦娘>は人間よりも長くこの世に残る。だから忘れる事にした・・・・」

 

日本号「そうかよ・・・」

 

瑞穂「長く生きると言う事は、その分多くの出会いと別れを経験する事ですからね・・・」

 

長谷部「勿論、一番は今の主である八幡様だからな「(ぼふっ)か~か~・・・」・・・・わざわざ答えてやったのに・・・! 寝ているとはどういう事だーーーーーー!!」

 

不動は勿論、次郎太刀と準鷹も立ったまま器用に寝てやがる・・・。

 

八幡「(障子を開ける)たくっ、なにしてんだか・・・」

 

長谷部「あ、主!? い、いつからそこに!?」

 

太郎「主でしたら、長谷部殿が黒田長政さまの事を話していた時に居られましたよ」

 

大和「提督、お疲れ様です」

 

八幡「おう。ところで長谷部、不動を部屋に送るから手伝ってくれ」

 

長谷部「は、はい主!」

 

八幡「太郎太刀、大和、次郎太刀と準鷹をよろしくな。日本号も酒はほどほどにしておけよ。瑞穂、日本号が飲み過ぎないようにちゃんと押さえておけよ」

 

太郎「承知しました」

 

大和「提督、おやすみなさいませ」

 

日本号「じゃな~」

 

瑞穂「日本号さん、今日はもうほどほどに・・・」

 

俺は長谷部と不動に肩を貸しながら不動を部屋まで運んだ。

 

八幡「長谷部・・・・」

 

長谷部「は、はい?」

 

八幡「黒田長政の事、忘れる事ないだろう?」

 

長谷部「っ!」

 

八幡「この本丸には、前の主との思い出を大切にしているヤツが大勢いるだろう? 清光に安定、和泉守に堀川、長曾祢に陸奥守、今剣に岩融、光忠に大倶利、前の主との思い出が今の自分を形作っていると言っても良い。お前が黒田長政を善いヤツだった事を忘れる事は、黒田家での思い出を捨てるのも同じだ」

 

長谷部「・・・・・・・・・・・・」

 

八幡「“嫌な思い出”を忘れたいと思うのは別に構わない。だが、黒田家での思い出が、“善い思い出”ならその思い出を大切にしてやれよ。きっと、不動もそうなんだろうからよ」

 

長谷部「不動も、ですか?」

 

八幡「あぁ、お前や宗三にとって織田信長は傲慢なヤツだっただろうけど、不動にとっては自分を大切にしてくれた恩人だから、その人の事を大切に思っているんだ」

 

長谷部「しかし、それでは今の主や刀剣男士としての務めが・・・・」

 

八幡「俺の事は別に良いさ。しかし、刀剣男士としての務めを蔑ろにするのは確かに良くない。だから長谷部、お前が不動に教えてやれ」

 

長谷部「俺が・・・・?」

 

八幡「あぁ、自分の事を『ダメ刀』だと思っているコイツに、ここにいる皆が“仲間”だって事をな」

 

 

* * *

 

そして翌日、学校にいる時に【要請連絡】が入り、織田信長の居城『安土城』に隊長を鶴丸にして、長谷部と宗三と薬研と次郎太刀、そして不動を出陣させ。放課後で戦車道の練習を終えたみんなに会長達が連絡した。

 

河嶋「えぇ~急では有るが、今度の日曜日に練習試合を行う事になった」

 

『ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』

 

まぁみんなの反応は妥当だよな。

 

河嶋「相手は『聖グロリアーナ女学院』」

 

ざわざわとなる一同の中で秋山が俯いていた。

 

沙織「どうしたの?」

 

優里花「『聖グロリアーナ女学院』は、全国大会で準優勝した強豪です・・・・」

 

華「準優勝っ!?」

 

河嶋「日曜日は、学校へ朝6時に集合!」

 

さらにみんながざわつく中、冷泉が顔を青くした。

 

麻子「やめる・・・・!」

 

華「はい?」

 

麻子「やっぱり戦車道やめる・・・・!」

 

華「もうですかっ!?」

 

八幡「おい冷泉、気持ちは分からなくもないがな」

 

沙織「麻子は朝が弱いんだよ。低血圧だから・・・・」

 

なるほど。だから朝はまるでゾンビみたいだったんだな。冷泉が立ち去ろうとしたが、そうはさせんと首根っこを捕まえる。

 

八幡「どこに行く冷泉?」

 

みほ「待ってください!」

 

麻子「離してくれ、6時は無理だ・・・・」

 

優花里「モーニングコールさせていただきます!」

 

華「ウチまでお迎いに行きますから!」

 

イヤそこまで甘やかすなよ・・・。

 

麻子「朝だぞ・・・! 人間が朝の6時に、起きれるかっ!

?」

 

清光「イヤ起きれるでしょ・・・」

 

安定「ウチの八さんだって去年から6時前には起きて早朝ランキングとかやってるんだよ・・・」

 

麻子「比企谷さん、仲間だと思っていたのに・・・!」

 

何だその裏切り者と謂わんばかりの目は? 西住達も以外そうに見てんじゃねぇ。

 

安定「て言うか、6時って言うのは集合時間だから、起きるのは5時くらいじゃないと駄目じゃないかな?」

 

おい冷泉がぶっ倒れそうになったぞ。どんだけ朝苦手なんだ?

 

麻子「人には出来る事と出来ない事がある。短い間だったが世話になった」

 

格好付けているが、ようは早起きできないだけだろう。逃がすか。

 

沙織「麻子が居なくなったら誰が運転するのよ!」

 

清光「それにこのままじゃ単位ヤバイんでしょ?」

 

麻子「ぐっ・・・」

 

八幡「進級できなくなって留年になっても良いのか? 来年から西住達の事を“先輩”と呼ぶ事になるぞ? 試しに武部の事を“沙織先輩”って呼んでみるか?」

 

麻子「さ、お、りせん・・・!」

 

お~お~、苦しそうに呼ぼうとしてやがる。同級生を“先輩”と呼ぶなんて屈辱だろう、しかも武部を。

 

沙織「ハァ・・・それにさ、ちゃんと卒業しないとおばあちゃん滅茶苦茶怒るよ」

 

麻子「オバァ・・・・!」(ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ)

 

おいおい冷泉がすげぇビビってるぞ。そんなに怖いばあちゃんなのか? 去年の春に入院していた俺と“同室の婆さん”も結構恐かったけどあれ位なのか?

 

麻子「・・・・・・・・わかった、やる。比企谷さん達にも“借り”が有るしな・・・」

 

八幡「ん? “借り”??」

 

麻子「この前背負って学校まで送って貰ったからな」

 

あぁあれか、以外と律儀な処も有るんだな。ん? 俺のスマホが振るえていたので取り出すと【本丸】と表示されていた。

 

八幡「(冷泉をパスする)清光、安定」

 

清光&安定「「(冷泉キャッチ)あいよ」」

 

麻子「おい、私はバスケットボールのボールじゃないぞ・・・・」

 

冷泉の言葉を華麗にスルーして西住達から少し離れてスマホに出る。

 

八幡「俺だどうした?・・・・何?それで・・・・あぁ・・・あぁ・・・分かった直ぐに戻る」

 

連絡を切ると俺は会長達に近づく。

 

八幡「すみません会長、俺達は早退させて頂きます」

 

角谷「うん良いよ~。これから聖グロリアーナ戦にむけての会議だけど、内容は後で小山がメールするから♪」

 

八幡「小山先輩、お手数ですがよろしくお願いします」

 

小山「うん、任せて」

 

俺は会長達に会釈すると清光と安定を連れて本丸の方へ向かった。

 

 

ー角谷sideー

 

みほ「あの会長・・・」

 

角谷「気にしないで西住ちゃん。比企谷ちゃん達って以外と多忙なだけなんだよ。さ、私達は会議会議♪」

 

以前から良く早退をする比企谷達に西住は、イヤ西住達戦車道チームは首を傾げていた。

 

小山「(ヒソヒソ)そろそろみんな不審がるよ・・・」

 

河嶋「(ヒソヒソ)仕方あるまい、比企谷達の、比企谷の“もう一つの顔”は秘匿にしなければならないのだからな・・・!」

 

角谷(う~~ん。比企谷ちゃんが『本丸鎮守府提督』だってみんなが知ったらどうなるだろうな~?)

 

 

ー八幡sideー

 

安定「(走りながら)主、なにが有ったの?」

 

八幡「さっき本丸鎮守府の方で嵐が通りすぎてな、運が悪い事に何故か不動のヤツが離れ小島にいたんだ」

 

清光「えっ! 不動は無事なの?!」

 

八幡「長谷部が助けたそうだがな。とりあえず戻るぞ」

 

本丸鎮守府に戻り玄関の方へ向かうと、ソコに刀剣男士達や艦娘達の他に小町がいた。

 

小町「あっお兄ちゃん」

 

八幡「小町、不動は?」

 

小町「うん、今長谷部さん達が連れて来るって」

 

八幡「そうか・・・・」

 

なんて話していると不動と長谷部、宗三と江雪とお小夜と獅子王が帰って来た。

 

不動「あっ・・・・」

 

『おかえりなさ~~い!』

 

不動「(面食らい)た、ただいま・・・」

 

八幡「不動・・・」

 

不動「あ、その・・・・」

 

八幡「(頭に手を乗せる)無事で何よりだ」

 

不動「あっ・・・・!」

 

面食らった不動に他のみんなが集まる。

 

光忠「(不動にタオルをかける)ほら早く拭いて」

 

太鼓鐘「風呂、用意しといたぜ!」

 

天龍「着替えも持ってきたぜ」

 

太郎太刀「無事で何よりです」

 

次郎太刀「早く上がりなよ♪」

 

準鷹「温かい甘酒も準備しといたぜ♪」

 

大和「肴も作りますよ」

 

日本号「さぁっ祝い酒だ! 今夜は呑むぞ! はははははははははははははははははははっ!!」

 

瑞穂「日本号さんはいつも飲んでいるでしょうに?」

 

長谷部「貴様ら少しは自重を「俺も飲むかな?」あ、主っ!?」

 

俺も飲むと言ったら長谷部だけでなく他のみんなも仰天したように見る。

 

八幡「甘酒なら未成年の俺でも飲めるだろう? 不動、早く上がって風呂入って来い。俺も今度の日曜日に戦車道の練習試合があるから必勝祈願に飲む」

 

不動「あ、あぁ・・・」

 

不動は急いで風呂に向かった。すると、戦車道の練習試合と聞いて、何人かの刀剣男士達が連れてけと謂わんばかりの目線を送る。

 

八幡「・・・・今回は“四振り”位連れていくから、くじ引きをやって選抜しておけよ・・・」

 

刀剣男士(一部)『は~~~~い!!』

 

小町「お兄ちゃ~~ん♪」

 

八幡「なんだ?」

 

小町「小町も行って良いかな?」

 

八幡「小町も戦車道に興味を持ったのか? 大和撫子目指したいのか?」

 

小町「違うよ。大体“大和撫子”って、大和さんとか鳳翔さんとか、間宮さんとか翔鶴さんを見習えば十分だよ」

 

八幡「じゃなんでだよ?」

 

小町「それはまぁせっかくだし、未来の先輩<お義姉ちゃん候補>の皆さんを応援<品定め>しようと思っているんだよ! 小町的にポイント高い!」

 

八幡「・・・・仕方ねぇな」

 

やれやれ、小町が何か企んでいそうだが仕方ない。今度のグロリアーナとの練習試合、面倒な事にならなきゃ良いけど・・・・。

 

清光「主、主・・・・」

 

八幡「あん?」

 

清光「グロリアーナって事は、“あの人達”がいるんだよね? “護衛艦”として・・・・」

 

八幡「あっ・・・・」

 

安定「主、大変だよ当日・・・・」

 

ヤバい、超不安しかない・・・・。

 

 

 

ー夜・本丸鎮守府縁側ー

 

不動「(縁側に腰掛け)・・・・・・・・・・・・」

 

長谷部「まだ起きていたのか?」

 

不動「なんか目が覚めちゃってよ。この本丸鎮守府は、本当に善いヤツらばかりなんだな。こんな『ダメ刀』の俺でもさ、暖かく迎えてくれて、主も俺と一緒に飲んでくれてさ・・・・!」

 

長谷部「・・・・あの男<織田信長>が死んだのは、別にお前のせいではない。人は生まれたらいつかは死ぬ。織田信長も例外じゃなかったと言うだけだ」

 

不動「くっ・・・・!」

 

長谷部「俺は下げ渡された身だ。だが刀剣男士としての使命を果たすことで、あの男の歴史も守っている。皮肉なモノだな・・・・」

 

不動「つまり歴史を守れば、信長様の為になるって事なのか?」

 

長谷部「ま、そうだな」

 

不動「なぁ」

 

長谷部「ん?」

 

不動「信長様位、今の主の事好きになれるかな?」

 

長谷部「それはお前次第だ」

 

不動「なぁ主の、比企谷八幡の事、もっと教えてくれないか?」

 

長谷部「フッ、ウチの主は、ひねくれていて屁理屈屋で、お前と同じ位不器用だが優しく、俺達や艦娘達の事を大切に思ってくれている。だから学生としてだけでなく、本丸で審神者を、鎮守府で提督を、多忙極まる激務をこなしているのだ。そんな主だからこそ、みんな主を慕っているし、お支えしたいと思っているのだ」

 

不動「俺の事も、大切にしてくれるかな?」

 

長谷部「大切じゃなきゃ一緒に飲もうなんて言わんよ。主はな」

 

不動「・・・そうか」

 

その時の不動には、にこやかな笑みが浮かんでいた。

 




次回、聖グロリアーナとの練習試合! 出てくる艦娘と応援に来る刀剣男士(四振り)にご期待ください。


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伊達と英国がやって来た。

ー本丸鎮守府・審神者<八幡>の部屋ー

 

「ふぁ~ぁ、昨日は良く眠れたぜ。甘酒の効果か?」

 

仕事が終えて不動と甘酒を飲み交わした後、ポカポカと身体が温まり、心地いい気分で眠りについた翌日の朝5時、俺は寝間着から制服に着替える。今日は戦車道の強豪『聖グロリアーナ』との練習試合、折角の日曜日は“五虎退”達や“暁”達と遊びながら日曜朝のヒーロータイムを楽しみたいものだ。なんて考えていると審神者の部屋の襖が開き、清光と安定、それと見送りに来た他の刀剣男士達や艦娘達。

 

清光「八さ~ん、そろそろ行こうよ」

 

安定「こっちは準備完了だよ」

 

八幡「おう、んじゃ行くか。長谷部、長門、陸奥、大淀、留守の間は本丸鎮守府を任せる」

 

長谷部「お任せください主」

 

長門「提督、お気を付けて」

 

陸奥「戦車道の試合、私達も後でネットで見るわね♪」

 

大淀「(ペコッ)行ってらっしゃいませ提督」

 

八幡「他のみんなも長谷部達を上手くフォローしてくれよ」

 

刀剣男士・艦娘『承知/は~い!』

 

みんなに見送られ、俺と清光と安定は『本丸鎮守府』と『大洗学園艦』を繋ぐ襖を通って、審神者の部屋から大洗に行き、家を出て、学園に向かう。

 

清光「そう言えば八さん。昨日小山先輩から連絡は来た?」

 

八幡「あぁ、取り敢えず西住が隊長をやる事になったみたいだ」

 

安定「やっぱりね。でももしも西住さんが隊長をやらなかったらどうなっていたの?」

 

八幡「河嶋先輩が隊長を・・・・」

 

清・安「「あぁそれじゃ負けてたね」」

 

コイツらも河嶋先輩の事は嫌ってはいないが、いかんせんあの人、自分が思っているほど頭脳戦に長けていないからなぁ。

 

八幡「あと、なんか今回の親善試合で勝ったら、会長から『干し芋3日分』が貰えるんだと」

 

清光「うわっ、要らない・・・・」

 

安定「“勝ったら”って事は“負けたら”どうなるの? なんか凄く嫌な予感がするんだけど?」

 

八幡「(肩を落とす)・・・・・・・・・・・・・・・」

 

清光「主?」

 

八幡「負けたら大納涼祭りで『あんこう踊り』を披露するんだと・・・・」

 

清・安「「うっわ~~・・・・」」

 

清光と安定も肩を落として露骨に嫌そうな顔色を浮かべた。『あんこう踊り』は女子にとっても男子にとっても嫌なモノだからな。まぁ見ている男子達は、“女子の格好”に大喜びするけど・・・・。

 

ドゴーーーーーーーンッ!!

 

なんて駄弁っていると俺のスマホ(プライベート用)から着信音を鳴り響き(仕事中はバイブレーション)、画面に【武部 沙織】と表示されたので出てみると。

 

八幡「はいもしもし?」

 

沙織《あぁ、比企谷?! 大変なの!!》

 

八幡「どうした?」

 

沙織《麻子が起きないの!!》

 

やっぱりな、昨日の今日で早起きできるとは思わなかったが、まさか本当に寝坊するとは。清光と安定も察したのか呆れ顔を浮かべている。

 

八幡「冷泉の家はどこだ? 直ぐに向かう・・・・」

 

 

ー数分後・大洗冷泉家ー

 

沙織「うぅ~ん! もう麻子起きてよ! 試合なんだからぁっ!!」

 

一階建てで立て札に『冷泉』と書かれた古い家についた俺達は「失礼しま~す」と一応言って家の中に入り、部屋を見ると、うつ伏せで掛け布団にしがみつく冷泉と、必死に掛け布団を引っ張りながら冷泉を起こす武部がいた。つか冷泉の布団の前に置かれた大量の目覚まし時計、一応起きる努力だけはしていたか・・・・あくまでも努力だけは・・・・。

 

八幡「朝から大変だな武部も・・・・」

 

清光「以外と貧乏クジ引くタイプなのかな沙織ちゃんって・・・・?」

 

安定「ここまでされて起きない冷泉さんも、呆れるの通り越して凄いって感心するなぁ・・・・」

 

麻子「眠い・・・・」

 

沙織「単位は良いのッ!?」

 

麻子「良くない・・・・」

 

沙織「だったら起きてよ!」

 

麻子「不可能なモノは不可能だ・・・・」

 

ここまでされても起きないとは、冷泉のヤツ以外と根性有るな、悪い意味で・・・・。

 

八幡「(ため息)安定・・・・」

 

安定「うん。沙織さん、少し離れて」

 

沙織「う、うん・・・・」

 

武部が離れて俺の隣に移動したのを確認した安定は、清光とに目配せすると清光は頷き、冷泉の敷き布団を掴み、安定は冷泉がしがみついている掛け布団を掴む。

 

安定「(沖田譲りの・・・・)冴えた一撃!!」

 

麻子「ッッッ!!??」

 

安定が掛け布団を引っ張ると冷泉の身体は掛け布団ごと宙を舞い、清光が空かさず敷き布団と枕を片付ける。

 

ボスッ!

 

麻子「ううぅぅ・・・・」

 

しかし、冷泉は掛け布団にしがみつきそのまま手巻き寿司のようにくるまった。

 

沙織「もう麻子! いい加減に起きなさいよっ!!」

 

八幡「イヤ武部、これで良い、むしろこれが良いんだよ」

 

沙織「えっ???」

 

八幡「清光、安定」

 

清・安「「あいよ」」

 

清光と安定がくるまった冷泉を抱える。

 

八幡「よし、このまま冷泉を連れて行くぞ。武部、冷泉の制服を持ってきてくれ」

 

沙織「分かった!」

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

八幡「おい誰だ、こんな朝早くからビューグルを鳴らしている愉快なヤツは??」

 

俺達は窓を開けて冷泉家の庭を見ると、秋山がビューグルを鳴らしていた。

 

優花里「皆さん、おはようございます!」

 

八幡「秋山?・・・・ん?」

 

なんか車道からガタガタと聞きなれた音が聞こえているのだか?

 

ガタガタガタガタガタガタ・・・・ドオォーーーーーーーンッ!!

 

突然目の前にⅣ号戦車が現れると、砲撃音(空砲)を鳴らした。オイオイ、こんな朝早くからそんな過激なモーニングコールしてるんじゃねぇよ! ご近所の人達も起きただろうが!

 

みほ「すみません! 空砲です!」

 

Ⅳ号から西住が出てきた。

 

麻子「んん??」

 

おぉ、冷泉かぼちぼちだが目を覚ました。

 

みほ・秋山「「おはようございまーす!」」

 

八・清・安・武『お、おはよう・・・・』

 

それから俺達は冷泉を連れてⅣ号に乗って移動した。ご近所の人達も戦車に好意的な態度だ、いやむしろ戦車道頑張れって激励する人もいる、しかし・・・・。

 

八幡「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

Ⅳ号の車内に入った俺の目に映るのは、まるで女子の部屋みたいにデコられたⅣ号車内だった。

 

清光「快適に過ごしたくてデコったの?」

 

武部「うん! だって狭いしガタガタ揺れてお尻痛いし、なんか寂しいじゃない?」

 

安定「まぁそうだね・・・・」

 

八幡「おい秋山・・・・?」

 

優花里「申し訳ありません比企谷殿、内装までは守りきれませんでした・・・・!」

 

秋山が申し訳無さそうにしていたが、まぁ乗るのはコイツ等なんだから、外装は兎も角、内装は好きにしても良いかな・・・・。

 

優花里「歯磨いてください!」

 

華「顔も洗ってくださいね」

 

沙織「終わったら制服に着替えて、朝ごはんも有るからね、おにぎり作ってきたから! あっ! 比企谷と清くんと安くんは麻子の着替えを覗かないようにね!!」

 

八・清・安「「「へいへい」」」

 

言われんでも覗かんわ。あっ、そうだ。

 

八幡「冷泉、やる・・・・」

 

俺はマッ缶を冷泉に渡した。

 

麻子「これは?」

 

八幡「マイ・フェイバリット・ドリンク、マッ缶こと、MAXコーヒーだ。寝惚け眼には丁度良い」

 

麻子「・・・・貰っとく」

 

そして俺達は学園艦の艦橋に付くと、他のチームの戦車や一般車と並ぶ。

 

武部「久しぶりの陸だぁ♪ アウトレットで買い物したいなぁ」

 

華「試合が終わってからですね」

 

武部「えぇ~、昔は学校がみんな陸に有ったんでしょう? 良いなぁ、私その時代に生まれたかったよ・・・・」

 

優花里「私は海の上が良いです! 気持ちいいし、星も良く見えるし!」

 

八幡「だいたいその時代ならまだ『深海凄艦』がいて、海の上は戦争状態だったんだぜ?」

 

武部「あっそうか。戦争はイヤだなぁ」

 

みほ「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

華「西住さんはまだ大洗の町、歩いた事が無いんですよね?」

 

みほ「あっ、うん」

 

武部「後で案内するね♪」

 

みほ「ありがとう」

 

武部達が久しぶりに大洗の本土がある陸に上陸する事ではしゃぐ中、静かにマッ缶を飲んでいた冷泉が俺に近づく。

 

麻子「なかなかイケる。おかわり・・・・」

 

八幡「今は無い。また後でな」

 

麻子「分かった・・・・」

 

冷泉がまたウトウトし始めたが、もうほっとく。

 

八幡「(ヒソヒソ)そう言えば今日応援に来るのは誰だ?」

 

清光「(ヒソヒソ)後で小町ちゃんが連れてくるから、後のお楽しみだって」

 

八幡「(ヒソヒソ)なんか嫌な予感がするんだが?」

 

安定「(ヒソヒソ)大丈夫だよ。今度の応援組も」

 

みほ「比企谷くん達どうしたの?」

 

八幡「あぁ今回の連中試合に、清光達の剣術道場の門下生達が来るってさ」

 

沙織「えっ? 江雪さんと宗三さんと小夜くんが来るの?」

 

八幡「イヤ、今回は江雪達じゃない。別のヤツらだ」

 

沙織「その人達が戦車で戦う私の勇姿に一目惚れしちゃったらどうしよう~~!」

 

華「戦車に乗っていては姿は見えないのですから一目惚れは無いと思いますが?」

 

五十鈴のツッコミが耳に入らず、武部はまだ見ぬ応援組<刀剣男士>との恋が生まれるのではと、期待に(けっこうなサイズの)胸を膨らませていた。

 

 

* * *

 

陸に付き、艦橋から出て行く戦車道チームの上に影が差す。上を見上げると大洗学園艦を上回る大きさの学園艦が現れた。

 

沙織「デカっ!?」

 

八幡「聖グロリアーナの学園艦だ」

 

華「では、彼処に見えるあれが聖グロリアーナ学院の戦車ですか?」

 

みほ「うん・・・・」

 

安定「ウチの学園艦よりも大きいね」

 

清光「流石はお嬢様学園って感じ?」

 

学園艦の外部通路から見える戦車。ウチと違って良い戦車使ってそうだな・・・・。

 

 

 

ー大淀商店街ー

 

【祝 聖グロリアーナ女学院 大洗学園 戦車道親善試合開催】

 

と横断幕が張られた商店街に来た俺達はそのまま試合が行われるフィールドに移動した。

 

アナウンサー《ピンポンパ~ン。本日、戦車道の親善試合が、午前8時より開催されます。競技が行われる場所は、立ち入り禁止となっているので、皆様ご協力お願いします。なお、アウトレット他、見学席を設けておりますので、応援のお越しの方はこちらもご利用下さい》

 

八幡「さぁて、もうすぐ始まるが・・・・」

 

小町「お兄ちゃーーーーーーん」

 

試合が始まるまでまだ時間が有り、暇していた俺達に、元気良く手を振ってやって来たのは我が魂の妹である比企谷小町だった。

 

八幡「おう小町、こっちだ」

 

みほ「比企谷くん、この子は?」

 

八幡「あぁコイツは妹の比企谷小町。中等部の3年生だ」

 

沙織「へぇ~比企谷の妹!」

 

華「可愛らしい妹さんですね」

 

小町「はじめまして先輩の皆さん! 比企谷小町です! いつも兄が皆さんにご迷惑をかけております!(うわ~、皆さん可愛い系から綺麗系までいる! 艦娘の皆さんも美人揃いだけど負けてない!)」

 

麻子「比企谷さんと違って礼儀正しいな・・・・」

 

八幡「だろう? 自慢の妹だ」

 

清光「出たよ八さんのシスコン」

 

安定「そう言うセリフを他の皆にも言えれば良いのに」

 

八幡「清光、安定、五月蝿いぞ。所で小町、応援組はどうした?」

 

小町「あれ? さっきまで居たんだけど?」

 

誰が来たのか半分不安を感じる俺の耳に聞きなれた声が入ってきた。

 

???「コイツは驚きだ!!」

 

???「金ピカだーーーーーー!!」

 

???「二人とも、はしゃぎ過ぎだよ」

 

???「・・・・・・オイ、応援に来たんだろ?」

 

オイオイマジかよ? 他の三振りは兎も角、よりにもよって“アイツ”がいるのかよ? しかもウチの珍妙戦車軍団に興味を持ちやがった・・・・!

 

みほ「比企谷くん、あの人達は?」

 

八幡「江雪たち左門兄弟と同じ、清光と安定が通っている剣道道場の門下生だよ。応援に来てくれたんだ」

 

沙織「えぇーーーっ!! 江雪さんや宗三さんでも思ったけど、清くんと安くんの通っている剣道道場って、イケメンが多いのっ!? 」

 

八幡「あぁそうだな、まぁイケメンが多いっちゃ多いな」

 

沙織「江雪さんや宗三さんのような儚げ風の美形とはまた違った伊達系の爽やかイケメンっ! あぁ戦車道をやってて良かったっ!」

 

麻子「沙織、うるさい・・・・」

 

華「ですが確かに、伊達男って感じな人達ですわね」

 

みほ「うん、そうだね」

 

他の戦車道メンバーも応援に来た刀剣男士達に注目する。刀剣男士達も横に整列した。

 

八幡「んじゃ自己紹介させて貰うな。はいどうぞ」

 

光忠「はじめまして、僕は『庄子光忠<ショウジ ミツタダ>』。今回大洗戦車道チームの応援に来ました。よろしくね♪」

 

太鼓鐘「へへへ、俺『小鐘貞雄<コガネ サダオ>』! 気軽に『貞ちゃん』でも構わないぜ♪」

 

鶴丸「『鶴岡国永<ツルオカ クニナガ>』だ。俺を驚かせるなんて凄い戦車だな♪」(ウィンク♪)

 

伽羅「・・・・・・・・・・・・」

 

八幡「おい・・・・」

 

光忠「伽羅ちゃん・・・・」

 

伽羅「・・・・『小栗伽羅人<オグリ カラト>』だ。コイツらに付き合って来ただけだから、馴れ合うつもりは無い・・・・」

 

今回の応援組は『燭台切光忠(眼帯は前髪で隠した)』と『太鼓鐘貞宗』、『鶴丸国永』と『大倶俐伽羅』か。本丸鎮守府の伊達組が来たのね。本名を隠すためにかなりもじった名前にしたな。しかし、太鼓鐘と鶴丸は来たがると思っていたし、光忠も付き合いが良いから来るとは思ってはいたが、まさか大倶俐伽羅まで来るなんてな。そう言えば正月に雑煮の事で歌仙と喧嘩して、なんかギスギスした雰囲気をしてたな。なまじ社交性が有る歌仙と馴れ合い嫌いの大倶俐伽羅とじゃ相性が悪いからな・・・・。

 

 

 

ー本丸鎮守府・茶室ー

 

瑞鶴「うぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ・・・!」

 

暁「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ・・・!」

 

雷「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ・・・!」

 

電「ううううううううううううう・・・!」

 

響「(平然)・・・・・・・・・・・・・・」

 

翔鶴「(苦笑いを浮かべる)」

 

鶯丸「(にこやかに微笑む)」

 

歌仙「君達、辛いなら無理に正座せず、足を崩しても善いんだよ・・・」

 

暁「だ、大丈夫よ! ちゃんと正座して茶道をやるのも、い、一人前の淑女<レディ>としての大切なたちなみ、嗜みなんだから・・・!」

 

雷「わ、私だって! 正座して茶道をできるようになって見せるわ・・・!」

 

電「い、電もなのです。頑張るのです・・・!」

 

翔鶴「瑞鶴、あまり無理をしなくても・・・」

 

瑞鶴「し、翔鶴姉ぇだって、正座してできるんだから、私だってできるわ・・・!(聞いた話だと、一航戦の赤城さんや加賀だって出来るんだもの、負けてられないわ!!)」

 

響「(平然)・・・・・・・・・・・・・・・」

 

鶯丸「響? 君は大丈夫か?」

 

響「うん、鶯丸さん。大丈夫だよ」

 

歌仙「(苦笑)そこまで言うなら始めようか。それじゃ茶道の作法を教えるよ」

 

一方、茶室の外では・・・・。

 

天龍「アイツらなにやってンだ?」

 

龍田「一人前の淑女<レディ>を目指して、茶道を覚えるんだって歌仙さんに頼んだらしいよ。翔鶴さんと鶯丸さんもお手本として呼ばれたみたい」

 

天龍「ふ~ん、俺は茶道なんてお上品なのは性に合わねぇわ。龍田、道場で手合わせしようぜ。今日は光も貞も伽羅もいねぇから相手をしてくれ」

 

龍田「うん良いよ♪」

 

 

 

ー八幡sideー

 

そしてやっぱりと言うかなんと言うか、戦車道チームに囲まれる伊達組。

 

光忠「これお口に合えば良いけど、差し入れに作ってきた“ずんだ餅”だよ。みんなで食べてね」

 

みほ「あ、これはどうもありがとうございます。えっと“ずんだ餅”って・・・・?」

 

八幡「宮城県を中心に南東北に広がっている郷土菓子だ。すりつぶした枝豆を餡にして乗せた餅で、他にも白玉団子に乗せたずんだの団子もある。光忠達は東北にいた事が有るから作ってきたんだよ」

 

華「まぁ、お豆の香りがとても香ばしいですね・・・・」

 

麻子「うまそうだな・・・・?」

 

八幡「光忠が作ってきたもんだ。不味いって事は絶対にない」

 

光忠「ありがとう八さん」

 

優花里「これは庄子さんが作ってきたのですね!」

 

沙織「イケメンで料理できて、剣道やってるから強い上に性格も良好。完璧じゃないっ!」

 

光忠「はははは、ありがとう」

 

流石は光忠だ、あっという間に仲良くなりやがった。他の三振りは?

 

磯部「君運動神経良さそうだね! 我がバレー部に参加しない?」

 

太鼓鐘「バレーボールか良いな! 前にビーチバレーしたことあるけどバレーボールもやってみたいぜ!」

 

梓「鶴岡さんってその髪の毛自前なんですか?」

 

鶴丸「おう、それにしてもピンク色の戦車には驚いたぜ! 俺を驚かせるなんてやるなぁ!」

 

伽羅「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

左衛門佐「無言の佇まい、きっとただ者ではないな?」

 

カエサル「おそらく名の通った強者だな」

 

まぁなんとか受け入れられてはいるな。

 

アナウンサー《間もなく、試合開始の時刻です。選手以外の方達はご退場ください》

 

清光「あ、八さん。そろそろ行こう」

 

八幡「おう」

 

みほ「比企谷くん・・・・」

 

八幡「ん?」

 

みほ「その・・・・見ててね!」

 

八幡「あぁ、見ててやるよ」

 

俺はヒラヒラと手を振りながら、清光達と見学席に向かった。

 

 

ー見学席近くー

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・!!

 

西住達と離れ、見学席に向かおうとしていると、学園艦が有る港から、ものすごい地鳴りが迫って来た。

 

小町「あぁあれは・・・・」

 

清光「八さん、来ちゃったよ・・・・」

 

安定「聖グロリアーナの“護衛艦”だから、来るとは思っていたけど・・・・」

 

太鼓鐘「なんだなんだ??」

 

鶴丸「あぁ貞坊はまだ会ってなかったな・・・・?」

 

光忠「これは間違い無く“彼女”だね(苦笑)・・・・」

 

伽羅「(ため息)五月蝿いのが来た・・・・」

 

みんな思い思いに意見を言うと土煙を上げながらソイツはやって来た。

 

???「テーーーーーーイーーーーーートーーーーーークーーーーーーっ!!!」

 

土煙から跳び上がったソイツは、俺に抱きついた。

 

???「バーニングゥゥ! ラァァァァァァァァァブッ!!」

 

ムギュッ!!

 

八幡「ふごっ!!??」

 

抱きつかれた俺は倒れないように踏ん張る。そして俺に抱きついたソイツは、両サイドにシニョンを結った茶色いロングヘアー、西洋風にアレンジしミニスカートにした巫女装束の衣服、俺より二~三歳くらい年上の女性、イヤ“艦娘”。

 

八幡「こ、“金剛”・・・・!」

 

金剛「スリスリスリスリスリスリスリスリ! ンン~~♪提督~~❤ 会いたかったデ~~ス❤❤」

 

そう、俺に盛大に抱きついたコイツは『金剛型一番艦高速戦艦 金剛』。英国帰りの艦娘で、同じく英国風の聖グロリアーナの護衛艦として任務に励んでいる。

最近護衛任務や学校とかですれ違っていたりしたので、ほぼ久しぶりに会えたモノだから、過激なスキンシップもいつよりも(比較的に)激しい方だ。しかも、抱きついた金剛の身体から紅茶の良い香りや、俺の顔を挟んだかなり自己主張の激しいバストとか、俺の腰をガッチリホールドしたスラッとした太ももの感触が刺激的だ。なまじ金剛ってスタイル抜群で美人だし、柔らかいし良い匂いが・・・・ハッ、いかんいかん!

 

八幡「いい加減に、しろっ!」

 

金剛「Oh!」

 

なんとか自制心をフル稼働して金剛を引き剥がした。運良く他の見学者達は戦車道の試合が始まるのを今か今かと夢中になって気付いていなかったが・・・・しかし大型ディスプレイで観戦って結構大掛かりだな・・・・。

 

金剛「提督~久しぶりに会ったんだからもうちょっとスキンシップさせてほしいネ~」

 

八幡「お前のスキンシップは思春期男子には刺激が強過ぎるんだよ」

 

金剛「む~、でも諦めませーン。提督のHeartを掴むのは私デ~~ス!!」(ゴオォウッ!!)

 

背中からなにやら気合いの炎をバーニングさせている金剛に俺も小町達も半眼で呆れる。

 

太鼓鐘「なぁ八さん。この人も艦娘なんだよな?」

 

八幡「なんだ太鼓鐘はまだ会ってなかったんだな?」

 

金剛「ん? Oh! YOUがニューフェイスの刀剣男士デスネー!? はじめましてデース!」

 

太鼓鐘「おう! 俺は太鼓鐘貞宗! ヨロシクな!!」

 

金剛「元気の良いBOYネ! でも元気の良さなら私だって負けないネ!」

 

金剛はまるで戦隊ヒーローの名乗りのようなポーズを取る。

 

金剛「金剛型一番艦! 英国で生まれた帰国子女! 金剛デ~ス!」

 

ドオォンッ!

 

比叡「同じく二番艦! 恋も戦いも負けません! 『比叡』です!」

 

ドオォンッ!

 

榛名「同じく三番艦! 『榛名』、全力で参ります!」

 

ドオォンッ!

 

霧島「同じく四番艦! 艦隊の頭脳、『霧島』!」

 

ドオォンッ!

 

比・榛・霧『我ら、金剛型四姉妹!』

 

金剛「デ~ス!」

 

ドコッ!ドコッ!ドコッ!ドッゴーーーーーーンッ!!

 

何故かコイツ等の背中から砲撃をする大砲と、色鮮やかな煙が立っているのが見えるんだ? て言うか・・・・。

 

八幡「比叡、榛名、霧島、お前らまでなにしてんだ?」

 

榛名「それが、私達を久しぶりに提督に会わせようと、三日月ちゃん達が後押ししてくれて」

 

霧島「ご厚意に甘えようと思い、やって来ました」

 

清光「そもそも比叡さん達はいつの間に来ていたの?」

 

比叡「(金剛とハイタッチ) それはもちろん! 皆さんが金剛お姉様に注目している間に、こっそり、迅速に来ました!」

 

八幡「そんな事をするための高速戦艦じゃねぇだろうが・・・・」

 

『金剛型二番艦高速戦艦 比叡』。姉の金剛に百合な感情を抱く、灰色がかった茶髪のセミショートをした元気溢れるアホの娘。ちなみにバストサイズは姉妹の中で一番慎ましいサイズ。

 

『金剛型三番艦高速戦艦 榛名』。灰色がかった黒髪ロングで性格は控えめ、良く俺の仕事を手伝ってくれるし疲れた時は膝枕とかマッサージとかしてくれる大和撫子。バストサイズは長女と互角。

 

『金剛型四番艦高速戦艦 霧島』。黒髪ボブカットに緑色のフレームでオーバル型の眼鏡を着用した、四姉妹の中では(比較的に)沈着冷静な頭脳役。そして実は四姉妹1のバストサイズをした隠れ巨乳。

 

こんな喧しく常時ハイテンションで、勢い任せなところが有るが、赤城や加賀と言った一航戦と同じエースチームなんだよな・・・・。

 

光忠「アハハハハ、金剛ちゃん達は相変わらず元気だね・・・・」

 

伽羅「こう言うのは騒々しいと言うんだ・・・・」

 

鶴丸「ま、アイツらが元気なのは良いことだぜ♪」

 

金剛「oh! 燭台切に鶴丸に大倶俐伽羅! 三振りがいたとは!?」

 

榛名「でも大倶俐伽羅さんが来るだなんて珍しいですね」

 

伽羅「付き合いで来ただけだ」

 

安定「それはそうとさ、金剛さん達って聖グロリアーナの護衛艦を担当しているんだよね?」

 

清光「と言う事は向こうの戦車道チームとも知り合いなの?」

 

霧島「えぇ、ダージリンさん達とは良く任務の合間に紅茶の時間を共に過ごしています」

 

八幡「お前ら任務中になにしてんだ?」

 

小町(う~ん、金剛さんの過激なスキンシップにも揺らがないとは我がお兄ちゃんながら我慢強いなぁ、榛名さんももっと積極的になってくれれば良いけど・・・・ハァ、艦娘の皆さんにもLOVEの感情を抱かれているのに気付かないとは、本当にゴミぃちゃんなんだから・・・・!)

 

 

ーみほsideー

 

整列した戦車とそれぞれの車長達の前に、聖グロリアーナ女学院戦車隊、『チャーチル歩兵戦車Mk.Ⅶ』を中心に『マチルダ歩兵戦車Mk.Ⅲ』が4両でやって来た。

チャーチルから赤い軍服に白い肌に青い瞳、プラチナブロンドの髪を三つ編みにして後ろに纏めて、見るからにお嬢様と言わんばかりの品の良さそうな少女『グロリアーナ戦車道隊長 ダージリン』が降りてきた。

 

河嶋「本日は急な申し込みにも関わらず、試合を受けていただき感謝する」

 

ダージリン「構いません事よ。ところで、そちらのマネージャーの方は?」

 

河嶋「マネージャーとは、どちらのマネージャーだ? タレ目か? ツリ目か? 腐眼か??」

 

ダージリン「腐眼の方ですわ。お会いしたいと思っていたので」

 

優花里「(ヒソヒソ)腐眼と言う事は比企谷殿の事ですよね? 何でグロリアーナのダージリンさんが比企谷殿に??」

 

沙織「(ヒソヒソ)もしかして比企谷って向こうの隊長さんと恋人関係だったりして!?」

 

華「(ヒソヒソ)沙織さん、落ち着いてください」

 

河嶋「あいにくマネージャー達はもう見学席に行った」

 

ダージリン「そうですの・・・ハァ、2・3ヶ月ぶりですのに相も変わらずつれないお方・・・・それにしても、個性的な戦車ですわね?」

 

河嶋「なっ!?」

 

ダージリン「ですが、私達はどんな相手にも全力を尽くしますの。『サンダース』や『プラウダ』のように“下品な戦い方”は致しませんわ。騎士道精神でお互い頑張りましょう」

 

明らかに見下した態度のダージリンに河嶋はムカッとした態度になる。

 

審判「それではこれより! 聖グロリアーナ女学院対大洗学園の試合を始める! 一同礼!!」

 

『ペコッ』

 

戦車道の試合が始まった。

 

 

ー八幡sideー

 

さて、いつまでも三日月達にだけ護衛任務をやらせておく訳にはいかないので、金剛四姉妹を護衛任務に戻らせ、俺と小町、清光と安定、光忠と太鼓鐘、鶴丸と大倶俐伽羅は大型ディスプレイで試合を観戦する。

それぞれ所定の位置に付いた両校の戦車5両の画面を固唾を飲んで見つめる。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

審判《試合開始!!》

 

審判の号令で試合が始まった。はてさて、この試合で西住が隊長としての実力と、“強豪”と呼ばれる聖グロリアーナとの実力の差を知ることができるかな?

 




次回、『本丸鎮守府イベント企画部長』と『あんこう踊り』が出会う。


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試合が終わり、八幡は巻き込まれる

お久しぶりです。


ー安定sideー

 

僕達が所属する大洗戦車道チームが戦車道の強豪『聖グロリアーナ』と練習試合を行ったけど・・・・。

 

安定「負けちゃったか・・・・」

 

小町「負けたの・・・・?」

 

鶴丸「負けたな・・・・」

 

光忠「負けちゃったね・・・・」

 

太鼓鐘「負けちまったのかよ・・・・?」

 

大倶利「あぁ、負けだ・・・・」

 

今回の練習試合内容は殲滅戦。参加している相手戦車を全滅させた方が勝ちと言うルール。

 

最初は進軍するグロリアーナに向けて西住ちゃん達の乗るⅣ号が攻撃してグロリアーナの戦車隊を味方のいる地点に誘き寄せたけど、安直な囮作戦が通用せず、高台からバラバラに撃っていたチームの大洗の左右から囲むように展開したグロリアーナは悠然と攻めて行き、すっかりパニックになった大洗チームは浮き足立ってしまい。

 

しかも一年生チームは砲弾が飛び交っている状況なのにM3リーから逃げ出してしまった。無人となったM3リーは攻撃を受けて撃破された証である白旗が飛び出して脱落。加賀さん辺りが見たら「無様ね」って言いそうだな。

 

生徒会チームの三八はキャタピラの履帯が外れて運転不能状態になり高台の窪みに嵌まってしまい動けなくなった。

 

撤退する西住さん達Ⅳ号の後を歴女チームのⅢ突とバレー部の八九式が続いた。

 

市街地に戦場を移した、地形を知る大洗の市街地を利用してⅢ突がマチルダを撃破、駐車場のエレベーターに隠れたと思って待ち構えていたマチルダを機械式駐車場から出てきた八九式が撃破。

 

しかし、隠れて移動していたⅢ突は、付けていた旗のせいで居場所がバレてしまい砲撃されてⅢ突は撃破され、撃破したと思っていたマチルダが生きており、反撃されて八九式も撃破された。

 

それから西住さん達が乗るⅣ号は4両の戦車に追い回されていた。決められた住宅地に逃げたⅣ号を追撃し、砲撃で家が壊されたり、移動中の事故でお店が壊されても「これで新築できる!」「縁起良いなぁ!」「家にも突っこまねぇかな?」なんて言う地域住民の人達の逞しさには苦笑いを浮かべた。

 

工事の為に通行止めになった路地に追い詰められたⅣ号を3両のマチルダとダージリンさん達が乗るチャーチルが迫ってきた。

 

4両からの砲撃が始まる直前、履帯を直した生徒会チームの三八がⅣ号とマチルダ&チャーチルの間に入り、ゼロ距離から砲撃したのだが、ゼロ距離であるにも関わらず、三八の砲撃は外れてしまった。桃ちゃん先輩、ここで外しますか? 主もノーコンだって言ってたけどまさかここまでとは・・・・。そして4両からタコ殴りのように砲弾を浴びて八九も脱落。

 

だけどお陰で西住さん達は逃げる事ができ、更には逃げる際にマチルダ1両を撃破に成功した。Ⅳ号はそのまま回り込んで十字路の角から現れたマチルダを撃破。そして退散すると見せかけて反転して更にもう1両撃破。

 

西住さん、日頃は結構抜けた感じが有るのに戦車道だとこうも変わるんだなと感心していると、チャーチルが現れ砲撃するも、チャーチルを撃破出来ず直ぐに後退、逃げると見せかけてチャーチルの右側部に回り込んだⅣ号がすれ違いざまに砲撃を当てるが、チャーチルもワンテンポ遅れて砲撃をⅣ号車に当てた。砲撃が炸裂し煙が巻き上がり、煙が晴れると、白旗が上がったのは、Ⅳ号車だった。

 

アナウンス《大洗学園チーム、全車両走行不能、よって聖グロリアーナ女学院の勝利!》

 

アナウンスが流れると同時に、主と清光は席を外した。

 

八幡「少し抜ける。清光、一緒に来てくれ、“索敵”よろしく頼む」

 

清光「了~解」

 

安定「主、厳しくしないでね」

 

八幡「善処しておく」

 

主は清光を連れて、“あの子達”を探しに行った。さてと、僕は他のみんなが戻ってきたらちゃんと労って置かないとね。

 

 

ー八幡sideー

 

清光の“索敵”を使って見つけたのは、M3リーから逃げ出した一年生チームだ。木の上に登っていたのか、コイツら以外とアグレッシブな所有るな。見上げるとスカートの中身が見えそうだから見上げないように顔を伏せる。

 

八幡「おいお前ら試合は終わったぞ、早く降りてこい」

 

清光「いつまでもそんな所にいられないよ~」

 

一年生チーム(紗希以外)『ひ、比企谷先輩・・・! 加藤先輩・・・!』

 

一年生チームはおずおずと降りてきた。

 

梓「何でここに?」

 

清光「一応八さんも俺もマネージャーだからね、戦車から離れたみんなを探していたんだよ」

 

八幡「さて、戻るぞ」

 

一年生チームと清光と共に皆の所に戻ろうとする俺。

 

一同『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

いつもやかましい一年生チームが終始無言のまま歩いているが。

 

梓「あの・・・・比企谷先輩・・・・」

 

八幡「あん?」

 

優希「何も言わないんですか?」

 

フム、どうやら“逃げ出した事を咎められる”と思っていたようだな。

 

八幡「あのな、お前らは初心者だ。戦車道を始めてまだ1ヶ月も経っていないひよっこ以下の卵だ。ウチの戦車チームから戦車から逃げ出すチームが現れるのは予測できてたんだよ」

 

あゆみ「酷い・・・・」

 

あや「そりゃ逃げ出した私達が悪いけど・・・・」

 

桂利奈「そこまで言わなくても・・・・」

 

紗希「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

清光「最後まで聞いてあげてよみんな、八さんはみんなを責めるつもりは無いんだからさ」

 

清光がやんわりとフォローしてくれる。

 

八幡「・・・・良いか、そんなお前らが始めて戦車道の試合をやって、砲撃音や振動に脅えるのは仕方ない事だ。今まで経験したこと無い上に、乗っているのは兵器だからビビってしまうのは当然の事だ。だが、“戦車から抜け出した”のはダメだ」

 

一年生チーム(紗希以外)『えっ?』

 

八幡「お前らが抜け出した時、グロリアーナは砲撃を止めてくれていたか? M3リーが白旗を挙げた時、グロリアーナはさらに攻撃をしたか?」

 

一年生チーム『(・・・・・・・・・・・・ふるふる)』

 

首を横に振る一年生チーム。

 

八幡「戦車道は“戦争”じゃない“競技”だ。白旗が挙がってリタイアした戦車には誰も攻撃しないし、戦車道の戦車の砲弾は攻撃力を押さえられているし、戦車自体も特殊コーティングされているから砲撃を受けても爆発したりしない。むしろ戦車が走り回る中を生身で移動する方が危険だし、最悪砲弾が当たってしまう可能性も有る。だからお前らが咎められる所が有るとしたらソコだ」

 

一年生チーム『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

八幡「たとえ恐くても、逃げ出したくなってもな。試合中は戦車からは絶対に離れるな。もしお前らに何か有ったら、西住達チームメイトの皆が心配するからな」

 

清光「勿論、俺と安定、当然八さんも心配するよ」

 

桂利奈「比企谷先輩も、ですか?」

 

おい何でお前ら俺をジーーーと見ているんだよ?

 

八幡「まぁ・・・・心配しない事も無いな」

 

清光「はい、八さんの捻デレが入りました~」

 

八幡「誰が捻デレだ? まぁなんだ、まだ戦車道を続けるつもりなら、それだけは分かっておけよ」

 

一年生チーム『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

一年生チームが少し顔を伏せてお互いにを見て頷く。

 

梓「あの、比企谷先輩、加藤先輩」

 

あゆみ「逃げ出してしまって・・・・」

 

八幡「その台詞を言う相手は、俺じゃないだろう?」

 

清光「俺達はあくまでマネージャーだからね」

 

そう、コイツらが謝罪しなければならない人間は俺達ではない。

 

優希「西住先輩、許してくれるかな・・・・?」

 

八幡「西住は許してくれるだろう。だが、河嶋先輩がギャーギャー五月蝿いだろうが、まぁその辺は覚悟はしておけよ」

 

一年生チーム『はいっ!』

 

さて、これで後はダージリンさんとの約束の代物を渡せば終わりだな。

 

 

 

* * *

 

一年生チームと途中で別れた俺達は、駐車場で戦車が運搬されるのを見ていた安定達と西住達と合流する。安定達から渡されたタオルで西住達が顔や制服についた汚れを拭いていた。しかし秋山、運搬される傷だらけの戦車を恍惚と見つめているが、ダメージを負った戦車に見惚れるとかマニアだな・・・・。

 

西住「比企谷くん」

 

八幡「お疲れさん西住、武部に五十鈴に秋山に冷泉もお疲れさん。4両も相手取るなんて大活躍だったな」

 

西住「でも負けちゃったし・・・・」

 

八幡「これは練習試合なんだ、そこまで深刻にならなくても良いだろう? 今回は良い勉強になったしな」

 

沙織「勉強って?」

 

八幡「先ずは歴女チーム、旗のお陰で敵に居場所がバレてしまい撃破された」

 

優花里「おぉ! これで旗を外す理由になった訳ですね!」

 

八幡「バレー部チームは一度砲撃が当たっただけで撃破したと油断したから返り討ちに合い撃破された」

 

華「油断大敵と言う事ですね」

 

八幡「生徒会チームは・・・・河嶋先輩に砲撃練習を徹底させるべきだな」

 

冷泉「確かにな」

 

八幡「一年生チームは、先ずは度胸を付けないとな」

 

沙織「みんな始めてだったんだし仕方ないよ・・・・」

 

八幡「ま、今回の試合の反省点はこれくらいだな西住?」

 

みほ「うん、そうだね」

 

西住達と反省会をしていると、聖グロリアーナの制服を着た女子三人が近づいた。しかしグロリアーナの軍服が赤い色って、ライバル感がすごいな、何の彗星だ ・・・・?

 

ダージリン「お久しぶりね、“比企谷八幡さん”?」

 

八幡「お久しぶりですね、ダージリンさん。オレンジペコにアッサムさんも久しぶりだな」

 

オレンジペコ「お久しぶりです、“比企谷さん”」

 

アッサム「こうして会うのは2ヶ月ぶりでしょうか?」

 

プラチナブロンドの髪を三つ編みにして後ろに纏めた令嬢風の少女は聖グロリアーナの戦車隊隊長“ダージリン”さん。

 

茶髪の髪を両サイドに小さく三つ編みにして輪っかのように纏めた小柄な小動物のような少女は、ダージリンさんの懐刀とも呼ばれている“オレンジペコ”。次代の聖グロリアーナの隊長と呼ばれている。

 

ダージリンさんと同じくプラチナブロンドの長髪に大きな黒いリボンがチャームポイントの少女は“アッサム”。この二人はダージリンさんが乗るチャーチルの『装填手』と『砲手』だ。

 

聖グロリアーナ戦車道のメンバーは紅茶の名前で呼び合っている。

 

聖グロリアーナの護衛艦として任務についている金剛四姉妹とも仲が良い。護衛艦の打ち合わせで聖グロリアーナの学園艦に赴いた際はティータイムでマックスコーヒーを飲ませてもらっている。どうやら俺が本丸鎮守府提督である事は黙っていてくれるらしいな。

 

ダージリン「(ヒソヒソ)所で、比企谷提督<アドミラル>。約束の例のモノは?」

 

八幡「少々お待ちを・・・・」

 

懐からメモ帳とペンを取り出して、メモ帳に約束のモノを書き込み、そのページを引き剥がしてダージリンさんに渡す。

 

八幡「どうぞ」

 

ダージリン「(スマホ操作)・・・・・・・・」

 

ドゴーーーーーーン!

 

優花里「おぉ! これはティーガーの砲撃音ですね!?」

 

八幡「(スマホ取り出し)もしもし? お約束のモノですがどうでしょう?」

 

ダージリン「えぇ確かに♪」

 

みほ「あの、加藤くん。あれって??」

 

清光「あぁ、実は今日のグロリアーナとの練習試合、八さんがグロリアーナに申し込んでね。受ける代わりに八さんの番号とメアドを教える事を条件にされていたんだよ」

 

安定「で、今ダージリンさんに教えたって訳」

 

沙織「えぇっ!? 番号とメアド交換って!? グロリアーナの隊長さんと!?」

 

優花里「聖グロリアーナのダージリンさんと連絡先を交換だなんて! 比企谷殿は凄いです!」

 

華「比企谷さん、以外と交友関係が幅広いのですね?」

 

麻子「眠い・・・・」

 

満足気に頷いたダージリンさんは西住達の方へ目を向ける。

 

ダージリン「貴女が隊長さんですわね?」

 

みほ「あ、はい」

 

ダージリン「貴女、お名前は?」

 

みほ「(目を伏せ)あっ・・・・西住、みほです」

 

ダージリン「もしかして『西住流』の? 随分“お姉さん<まほさん>”とは違うのね」

 

みほ「えっと、その・・・・」

 

八幡「ダージリンさん、西住達はこれから汚れとか落とさないといけないので今日の所はこの辺で・・・・」

 

ダージリン「あらそうね、ごめんあそばせ。直ぐに身綺麗にしたいのは当然ですわね。では比企谷さんに大洗の皆さん、失礼したしますわ」

 

ダージリンさんはオレンジペコとアッサムを連れて去っていった。

 

角谷「いや~負けちゃったね~ドンマイ♪」

 

狙いすましたかのように出てくるなこの生徒会。

 

河嶋「約束通りやって貰おうか、あんこう踊り」

 

みほチーム『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

八&清&安『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

伊達組『???』

 

西住達がお通夜みたいな雰囲気に。俺達は同情の視線になり、鶴丸達は首を傾げていた。

 

角谷「まぁまぁこう言うのは連帯責任だから♪」

 

河嶋「ええぇぇぇぇっっ!!??」

 

小山「会長、まさか!?」

 

角谷「うん♪ それじゃやっちゃおうか♪」

 

みほ「ひ、比企谷くん・・・・」

 

八幡「(遠い目で)西住、皆・・・・見届けてやるからな」

 

沙織「そんなの見届けて欲しくないわよ~~~!」

 

ドンマイとしか言いようが無い・・・・。

 

 

~数分後~

 

《アアアン♪ アン♪ アアアン♪ アン♪ アアアン♪ アアアン♪ アン♪ アン♪ アン♪ あの子会いたやあの海越えて♪ あたまの灯は愛の証♪・・・・》

 

鶴丸「これが『あんこう踊り』かっ!? コイツは本当に驚きだぜ!!」

 

太鼓鐘「スッゲェーーーーーーーーッ!!」

 

光忠&大倶利「「(プルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプルプル)」」

 

小町「うっわ~~~~・・・・」

 

八&清&安「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

予想通りあんこう踊りを見て鶴丸と太鼓鐘は目を光らせ、光忠と伽羅は必死に笑いを堪え、小町は半眼で同情の視線を向けて、俺と清光と安定は心を殺した目で西住達の踊りを見届けた。

 

『あんこう踊り』が何故あんなにも嫌がられているのか、それは・・・・あんこうの被り物を頭に付け、“ピンクの全身タイツを着て踊る”からだ。女性陣は身体のラインがピッチリと出る上に踊り事態もマヌケだから恥ずかしいんだろうな。まぁ男子は揺れる胸やお尻が拝める事ができるから役得だろうけど。

 

そして現在、西住と武部と五十鈴は羞恥で赤くなっていた(西住はさらに目を回していた)、秋山と冷泉は平然としている、あの二人メンタル強いな。会長は楽しそうにし、河嶋先輩と小山先輩は無表情で踊っていた。良くやるな生徒会・・・・。

 

 

 

 

* * *

 

鶴丸「凄い驚きを見せて貰ったぜ!」

 

太鼓鐘「あぁ! 楽しそうな踊りだったな!」

 

みほ「あぁあの! その事は・・・・!」

 

沙織「お願いします! さっき見たものは忘れてください!!」

 

華「後生ですから・・・・!」

 

踊りを見終わった後、まだ出航まで時間が有り、せっかくだから光忠達と大洗の町の観光と本丸鎮守府にいる皆へのお土産を買おうとブラブラしていた俺達は(小町はクラスメート達と買い物に行った)、同じように買い物に来た西住達とバッタリ出会いそのまま一緒に歩いた。鶴丸と太鼓鐘は『あんこう踊り』を称賛したが、西住達は勘弁してほしいと言わんばかりだった。

 

沙織「あんな格好をイケメンの皆さんに見られたなんて! もう私お嫁に行けないよーーーー!!」

 

そして武部はいつも通りの武部であった。

 

安定「所で優花里さん、麻子さんはどうしたの?」

 

優花里「はい! 何でもお婆さんに顔を見せに行ったらしいです! 行かないと殺されるとか・・・・」

 

八幡「どんだけ恐い婆ちゃんなんだよ?」

 

清光「そう言えばさ、華さんはなんで戦車道をやるの?」

 

華「え?」

 

八幡「そういえば聞いて無かったな。秋山は戦車が好きだから、武部はモテる為、冷泉は単位の為、西住はまぁ生徒会からの命令だったからだが、五十鈴が戦車道をやる理由を知らないな・・・・?」

 

華「実は私・・・・「待って華さん」加藤さん?」

 

五十鈴の話を遮った清光の雰囲気が変わった、清光だけでなく、安定に光忠に伽羅、鶴丸と太鼓鐘も静かになる。

 

八幡「どうしたお前ら・・・・・・・・」

 

聞こうとして俺も気付いた、“誰か”が俺達、いや俺を睨んでいると。

 

???「テメェ! お嬢に何をしてんだぁーーーーーーーー!!!」

 

前方の人力車を引いていた“車夫”が俺に襲いかかってきた。えっ? なにこれ??

 

サッ!

 

スッ

 

ドゴッ!! ドガッ!!

 

バタンッ!!

 

ギリギリギリギリギリギリ・・・・。

 

???「(地面をタップ)イデデデデデデデデデデデデデデデデデデ・・・・!!」

 

みほ達『・・・・・・・・・・・・・・・』

 

一瞬の出来事に西住達は唖然となっている。まぁ解説すると。

 

サッ!(清光と安定が俺と車夫の間に入り俺を庇う)

 

スッ(鶴丸と太鼓鐘が西住達の前に出る)

 

ドゴッ!! ドガッ!(襲いかかってきた車夫の腹部に膝蹴りをし、流れるような動きでとどめの踵落としをキメる伽羅)

 

バタンッ!!(伽羅の踵落としで地面に撃沈する車夫)

 

ギリギリギリギリギリギリ・・・・。(倒れた車夫の背中に馬乗りし腕を極める光忠)

 

とまぁこんな感じだな、伽羅は腰から護身用として持ってきた小太刀の木刀を車夫の顔の横の地面に突き立てる。

 

伽羅「一体なんの積もりだお前?」

 

光忠「いきなり襲いかかって来るだなんて、礼を失しているね?」

 

安定「ウチの八さんに何してくれようとしたのかな?」

 

清光「答えてもらうよ」

 

八幡「お前ら落ち着けって」

 

返答次第では叩きのめすと言わんばかりに冷徹に車夫を睨む刀剣達を落ち着かせる。

 

華「新三郎??」

 

一同『えっ??』

 

八幡「五十鈴、知り合いか??」

 

華「はい、私の実家で奉公している新三郎です」

 

“奉公”って、今時そんな古風な言葉を現代人の口から聞くとは思わなかった・・・・。

 

 

~新三郎に説明中~

 

新三郎「(土下座して)申し訳ございません!! お嬢のご学友に対して大変失礼を!!!」

 

太鼓鐘「なんでいきなりをこんな事をしたんだよ?」

 

新三郎「ヘェ! 今さっきお嬢をお見かけした時、見知らぬ男達に囲まれ、お嬢がしつこいナンパに合っているのではないかと思い違いをしやして!」

 

華「それで何故比企谷さんだけを襲ったのです?」

 

新三郎「ヘェ! 確かに見た感じ、目付きの悪いただの学生ですが、ソコの兄さんがこちら男衆の皆さんの頭<カシラ>であると睨んでつい・・・・」

 

鶴丸「(ヒソヒソ)そそっかしいが見る目があるな」

 

光忠「(ヒソヒソ)ホントだね」

 

???「新三郎がご迷惑をお掛けして、申し訳ありません」

 

人力車から和傘を持ち着物を着た上品なご婦人が降りてきた。ん? 誰かに似ているな・・・・。

 

華「お母様」

 

一同『えっ?』

 

百合「(ペコッ)はじめまして、五十鈴華の母の『五十鈴百合』と申します」

 

上品にお辞儀をする五十鈴のお母さんに俺達も慌ててお辞儀をする。

 

百合「こちらの皆さんは?」

 

華「同じクラスの武部さんと西住さん、比企谷さんと加藤さんと山本さん、クラスは違いますが友人の秋山さん。加藤さんと山本さんの剣道仲間の鶴岡さんと庄子さんと小栗さんと小鐘さんです」

 

みほ&沙織「「こんにちは」」

 

八&刀剣『(ペコッ)』

 

優花里「私はクラスは違いますが、戦車道の授業で・・・・」

 

百合「“戦車道”・・・・?」

 

おい、五十鈴母の雰囲気が不穏になって目付きも鋭くなったぞ? それに気付かず秋山は話す。

 

優花里「はい! 今日試合だったんです!」

 

百合「華さん、どういう事?」

 

華「お母様・・・・」

 

優花里「あっ!」

 

秋山は自分が失言したと自覚したがもう後の祭り。五十鈴母は五十鈴の手を取り、匂いを嗅ぐ。

 

百合「(スンスン)鉄と油の匂い、貴女まさか戦車道を!?」

 

華「・・・・・・・・・・・・はい」

 

八&刀剣『(軍用犬か?)』

 

百合「花を生ける繊細な手で、戦車に触れるなんて・・・・・・・・あっ!」

 

華「お母様!!」

 

新三郎「奥様!!」

 

八幡「(あぁ、これ俺達も巻き込まれるな)」

 

白目を剥いて気絶した五十鈴母を介護しながら、俺は嫌な予感を感じずにはいられなかった。

 

 

* * *

 

五十鈴母を介護しながら、とりあえず五十鈴の実家に向かった俺達、刀剣男士の本丸と同じく古き良き日本家屋、と言うよりもこれはもはや武家屋敷だろう? 五十鈴が“お嬢”と呼ばれるのも納得だわ。そして五十鈴の実家の客間で待つ西住達と俺達・・・・なんで俺達も巻き込まれたの?

 

優花里「すみません、私が口を滑らしたばっかりに・・・・」

 

華「そんな、私がちゃんと母に話しておかなかったのが、いけなかったんです・・・・」

 

何とも重い空気の中、五十鈴の後ろの襖を開けて新三郎さんが出てきた。

 

新三郎「お嬢、奥様が目を覚まされました。お話が有るそうです」

 

華「私、もう戻らないと・・・・」

 

新三郎「お嬢!!」

 

華「お母様には申し訳無いけれど・・・・」

 

新三郎「差し出がましいようですが。お嬢のお気持ち、ちゃんと奥様にお伝えした方が宜しいと思います!!」

 

華「・・・・・・・・・・・・」

 

八幡「行ってこい五十鈴」

 

華「比企谷さん・・・・?」

 

八幡「今回の試合で、お前が如何に優秀な砲手であるかはここにいる皆が知っている。母親との間に“溝”を作ったままじゃ、今後の戦車道活動にも悪影響が出る」

 

光忠「それにお母さんとこんな形で別れるなんて悲しいよ」

 

華「・・・・・・・・はい」

 

 

 

* * *

 

五十鈴がお母さんのいる寝室に向かうと何故か武部と秋山、安定と鶴丸と太鼓鐘が後を付け寝室の襖に耳を立てた。

 

みほ「(ヒソヒソ)良いのかな?」

 

安定「(ヒソヒソ)だって気になるしさ」

 

沙織「(ヒソヒソ)偵察よ偵察」

 

襖の向こうから声が聞こえた。

 

華「申し訳ありません」

 

百合「どうしてなの? 華道が嫌になったの?」

 

華「そんな事は・・・・」

 

百合「じゃ、何か不満でも?」

 

華「そうじゃないんです・・・・」

 

百合「だったらどうして!?」

 

華「私、生けても生けても何かが足りないような気がするのです」

 

百合「そんな事ないわ。貴女の花は可憐で清楚、五十鈴流そのものよ!」

 

華「でも私は・・・・もっと力強い花を生けたいんです!」

 

成る程な。流派通りの生け花ではなく、力強い生け花を生けたい。その為に戦車道で力強さを学びたかったのか。

 

百合「・・・・・・・・」

 

うっわ~、五十鈴母が絶句しているのが声だけでも解る。

 

華「お母様・・・・」

 

百合「素直で優しい貴女は、何処へ行ってしまったの? これも戦車道のせいなの?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・あ?

 

百合「戦車なんて、野蛮で不恰好で、うるさいだけじゃない・・・・! 戦車なんてみんな鉄屑になってしまえば良いんだわ・・・・!」

 

優花里「(ピクッ)鉄屑・・・・?!」

 

沙織「ちょっと落ち着いて・・・・!」

 

優花里「しかし・・・・えっ?」

 

みほ「秋山さん?」

 

優花里「ひ、比企谷殿・・・・!」

 

み・沙「「えっ?・・・・あっ」」

 

ゴオオオォォォォウッ!!

 

光忠「(ヒソヒソ)うわ~、主が本気でキレてるね」

 

太鼓鐘「(ヒソヒソ)加州に大和守もだよ・・・・」

 

伽羅「(ヒソヒソ)ここまでキレた主は、あの陰湿野郎と会合した時以来だな」

 

何か言っている連中を無視して、俺と清光と安定は襖を乱雑に開けた。

 

八幡「ちょっと失礼しますよ・・・・」

 

百合・華「「(ビクッ!?)」」

 

新三郎「き、『鬼神と狼』・・・・?!」

 

少し五月蝿いがお構い無く俺達は五十鈴の近くに正座する。

 

百合「あの、一体何なんですか・・・・?」

 

八幡「人様のご家庭の事情に口出しするのは礼を失していますが、少しだけ話を指せていただきます。確かに華道の家元である五十鈴さんのお母さんから言わせれば、戦車は野蛮で騒音を巻き散らかす迷惑な物かも知れません。ですが、戦車道をやっている人達はみんな真面目にひたむきに頑張っている人達なんです。先ほどの五十鈴さんのお母さんの言いようでは、その人達を侮辱したような物言いは我満できません・・・・!」

 

百合「ぶ、侮辱って、貴方に華道の何が・・・・!」

 

八幡「確かに俺は華道の事はずぶのド素人です。ですが、ご息女が華道も戦車道も、中途半端な気持ちで取り組んではいない事は分かります」

 

華「比企谷さん・・・・」

 

八幡「何故戦車道をやっているのか、それはご息女が自分なりに自分の華道の事を考えての行動でしょう? 自分の納得できない生け方をするのが華道なんですか? ご息女が戦車道から学ぼうとしたんです、自分なりの華道を見つける為に。親なのにそれを理解出来ないんですか!?」

 

百合「っ!!」

 

思わず手を振り上げて俺をひっぱたこうとする五十鈴母だが。

 

百合「っ!?」

 

しかし、その手を止めた人間がいた、俺の後ろから動こうとした清光と安定でもなければ、襖にいた光忠達でもない、いつの間にか動いていた鶴丸だ。

 

鶴丸「ここでそれをやっちゃいけませんよ奥さん」

 

鶴丸は優しく五十鈴母の手を下ろすと、俺の隣に座る。

 

鶴丸「少し言い過ぎだぜ、八さん?」

 

八幡「(ため息)悪い・・・・」

 

鶴丸「奥さん。ご息女に戦車道をやってほしくないお気持ちは分かります。でも、俺はご息女よりも年を食っているので言わせてもらいますが、若い内から学べる物はいっぱい学んでいくと善いと思います」

 

良く言うわ、五十鈴達どころか目の前にいる五十鈴母よりも年食っている年長者が・・・・。

 

鶴丸「子供の時間ってのはあっという間に過ぎてしまいます。でもだからこそ、子供達が色々な物に触れて、学び、成長していくのを見守ってやるのも、大人の務めじゃないですか?」

 

百合「・・・・・・・・・・・・」

 

五十鈴母も黙って聞いている。今の鶴丸からは見た目の若い好青年ではない、長い時を経験した年配者の風格が出ている。

 

百合「しかし、花を生ける手を戦車道で汚すのは・・・・」

 

八幡「だったら見せてもらえば良いだけですよね?」

 

百合「えっ?」

 

八幡「(華に目を向け)五十鈴さん、アンタは華道を蔑ろにする気はないんだよな?」

 

華「(コクン)もちろんです」

 

俺の問いに五十鈴は毅然とした態度で頷いた。前から思ってたけど、五十鈴って肝が据わっているな。十分大和撫子だわ。

 

八幡「なら見せてやれよ。自分が求める“力強さ”ってモノが見つかったんなら、それを華道で表現して、お母さんに見てもらえば良い」

 

華「・・・・・・・・お母様、私は戦車道を止めるつもりはありません。ですが、華道も止めるつもりもありません。必ず表現して見せます。私の華道を」

 

百合「・・・・・・・・良いでしょう。ですが、それを表現できるまで、この家の敷居を跨ぐ事は許しません」

 

新三郎「奥様!」

 

百合「新三郎は黙っていなさい! 比企谷八幡さん、でよろしいかしら?」

 

八幡「はい」

 

百合「もしも華さんが私の納得できる花を生ける事が出来ないときは、貴方にも責任を取っ手もらいます」

 

まぁ焚き付けた以上そうなるよな。

 

八幡「解りました」

 

百合「(頷き、後ろを向く)では、お行きなさい」

 

華「お母様・・・・」

 

百合「華さん、私が納得できる花を生けてみなさいな」

 

華「はい、必ず。失礼します」

 

五十鈴と俺達は部屋を出て西住達と合流する。

 

華「帰りましょうか?」

 

みほ「でも・・・・」

 

華「いつかお母様を納得させられる花を生ける事が出来れば、きっと分かって貰えます」

 

みほ「あっ・・・・」

 

ホント、毅然としているな。

 

新三郎「(涙目)お嬢!」

 

華「笑いなさい新三郎。これは新しい門出なんだから。私頑張るわ」

 

新三郎「はいッ! うぅっ!」

 

みほ「五十鈴さん」

 

華「はい?」

 

みほ「私も、頑張る」

 

華「ウフフ」

 

西住達はそのまま新三郎さんが引く人力車で学園艦に戻り、俺達は土産を買う為に五十鈴の家の前で別れた。

 

百合「あの・・・・」

 

すると五十鈴母がやって来て俺達に話しかけてきた。

 

八幡「なんでしょうか?」

 

百合「・・・・・・・・華さんの事、よろしくお願いいたします」

 

綺麗にお辞儀をする五十鈴母、なんだかんだ言っても、我が子が心配なんだな、俺達もお辞儀を返した。

 

八幡「俺も出来る限りお嬢さんの力になります」

 

百合「はい・・・・!」

 

そして俺達は急いで土産を買い、学園艦に戻り西住達(冷泉もいた)と合流した。鶴丸達は別ルートから学園艦に入り、俺の家から本丸鎮守府に帰還した。

 

安定「みんなお疲れさま!」

 

沙織「もう出航ギリギリじゃない!」

 

清光「ゴメンゴメン。お土産選びに手間取っちゃってさ」

 

一年生チームもいて俺にお辞儀した。どうやら西住達にちゃんと謝罪したようだな。

 

華「あの比企谷さん・・・・」

 

八幡「ん?」

 

華「(ペコッ)ありがとうございました。母を説得してくださって」

 

八幡「別に説得ってほどの事じゃねえし、それに言っただろ? 今後の戦車道活動にも悪影響が出るって、ただそれだけだ」

 

沙織「素直じゃないわね・・・・」

 

梓「武部先輩、比企谷先輩のこの態度は捻くれたデレ態度で『捻デレ』って言うんですよ」

 

優花里「ほぉ~、『捻デレ』ですか?」

 

麻子「妙にピッタリだな」

 

八幡「変な単語浸透させんな。それよりも西住、それは・・・・?」

 

西住の手に持った紅茶のティーセットが有った。

 

みほ「うん、聖グロリアーナのダージリンさんから貰ったの・・・・」

 

聖グロリアーナは好敵手と認めた相手に紅茶を送ると言うが、どうやら西住はダージリンさんのお眼鏡にかなったみたいだな。

 

 

 

 

ーダージリンsideー

 

優雅に紅茶を飲んでいたダージリン達に、装備を外した金剛四姉妹が近づいた。

 

金剛「ヘイ、ダージリン! 大洗のガール達に紅茶をプレゼントしたそうネ?」

 

ダージリン「えぇ、あの子<西住みほ>のお姉さんよりも楽しめたわ。それにアドミラルの番号も分かったし、今日は最高の日だったわ」

 

金剛「へぇ~提督の番号を、中々やりマスネ?」

 

ダージリン「金剛さんなら知っていると思うけれど」

 

ダージリン&金剛「「『イギリス人は恋愛と戦争では、手段を選ばない』」」

 

お互いに不敵な笑みを浮かべるダージリンと金剛。

 

金剛「ワタシ達の提督のハート、簡単に撃ち抜けると思わない事ネ」

 

ダージリン「ウフフフフフフ、簡単に撃ち抜けないなら、それはそれで燃えるわね」

 

ダージリン&金剛「「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」」

 

お互いに牽制し合うように笑い合う二人をオレンジペコとアッサム、妹達は苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

ー八幡sideー

 

八幡「なんじゃこりゃ・・・・??」

 

本丸鎮守府に戻った俺は、仕事は直ぐに終わらせ“新しい刀剣男士”を顕現させたので、みんなに紹介しようと食堂に赴くと、食堂のド真ん中に大きなステージが作られていた。

 

鶴丸「よーし、これで準備は良いな!」

 

翔鶴「鶴丸さま、これはなんのステージでしょうか?」

 

鶴丸「おお、今日の戦車道の試合の後に見た驚きの踊りを皆に披露しようと思ってな! 所で瑞鶴はどうしたんだ? さっきから足を押さえて動き辛そうだが?」

 

瑞鶴「(椅子に座り)あ、ああぁ・・・・!」

 

鶯丸「気にしなくて良いぞ鶴丸、馴れない事<茶道>をやって足が痙攣を起こしているだけだ」

 

八幡「おい、なにしてんだお前ら?」

 

鶴丸「おぉ主!」

 

翔鶴「お疲れ様です提督。あら? そちらの方は?」

 

翔鶴が俺の後ろにいる刀剣男士を見る。

 

人ならざるモノ感を漂わせる雰囲気をした細身で、獅子王よりも小柄な美少年。烏の翼のような特徴的な髪型をし、黒曜石のような瞳をし、目の下に黒い点を化粧し、瞼と唇に化粧を施している妖しい雰囲気を纏った眉ナシ、戦装束は緋色と黒の水干風の和装を纏い足元は裸足。

 

八幡「さっき新しく顕現した刀剣男士、『太刀 小烏丸』だ」

 

小烏丸「我が名は小烏丸」

 

瑞鶴「(ヨレヨレ)へぇ~小烏丸さん。獅子王よりも小柄ね」

 

翔鶴「瑞鶴、初対面の方に失礼よ」

 

小烏丸「見た目で相手を計ってはならぬぞ、我は今の形の日本刀が生まれ出づる時代の剣。言わばここにいる刀剣の“父”も同然よ。父と崇めても良いぞ」

 

鶴丸「そうなのか主?」

 

八幡「調べてみたら、一説には日本の刀が日本刀となる成立過程の一振りと記されていてな。あながち父と言うのも間違ってない」

 

小烏丸「さよう、故に我を父と呼ぶが良い」

 

翔鶴「鶴丸様達のお父様は随分お若いのですね?」

 

瑞鶴「それ言ったらお爺ちゃん<三日月宗近様>も若い外見だけどね」

 

ホントにな、刀剣男士達は見た目と中身のギャップが凄すぎるんだよな。

 

小烏丸「所で、これから何がはじまるのだ?」

 

鶴丸「おう! これから俺と光坊と貞坊と伽羅坊、加州と大和守で『あんこう踊り』を披露するんだよ!」

 

なん・・・・だと・・・・!?

 

鶴丸「踊りは俺達がやるから、歌の方は主が歌うんだぜ!」

 

八幡「ちょっと待て鶴丸! なんで俺があんこう踊りの歌を歌うんだ!? お断りだぞ!」

 

鶴丸「そう言うなって主。せっかく面白い驚きを皆にも見せてあげようぜ!」

 

鶯丸「みんなも楽しみにしているぞ」

 

鶯丸が食堂の入り口を見ると、本丸鎮守府のみんなが集まっていた。

 

秋田「主様、『あんこう踊り』ってどういう踊りなんですか?」

 

五虎退「僕、すごく楽しみです・・・・」

 

蛍丸「主さんは歌う役なんだよね?」

 

愛染「なぁなぁ主さん!」

 

今剣「あるじさま!」

 

鶴丸「(ニヤリ)さぁどうする主?」

 

おのれ鶴丸! 俺の『心の癒し(男の子の部)』を使いやがって!

 

前田「大丈夫ですか? 暁さん、雷さん、電さん」

 

平野「ゆっくり歩いてください」

 

何故か暁と雷と電が平野と前田の王子様コンビに連れられているが。

 

八幡「響、何が有ったんだ?」

 

響「馴れない事をやって足が痙攣を起こしただけだよ」

 

コイツらもかよ? 俺の『心の癒し(女の子の部)』に一体なにが?

 

清光「主、もう自棄でやっちゃおうよ・・・・」

 

安定「格好はあんこうの被り物だけで許してくれるそうだし・・・・」

 

伽羅「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

あんこうの被り物を被った清光と安定と伽羅が死人の目になってやがる。光忠は苦笑いを浮かべ、鶴丸と太鼓鐘はノリノリだ。

 

八幡「こうなりゃもうヤケクソだ・・・・!」

 

そして、俺達は大洗名物(迷物?)『あんこう踊り』を披露した。

 

八幡「アアアン♪ アン♪ アアアン♪ アン♪ アアアン♪ アアアン♪ アン♪ アン♪ アン♪ あの子会いたやあの海越えて♪ あたまの灯は愛の証♪ 燃やして焦がしてゆーらゆら♪ 燃やして焦がしてゆーらゆら♪ こっち来てアンアン♪ 逃げないでアンアン♪ 波に揺られてアンアンアン♪」

 

刀剣&艦娘『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!!!!』

 

ノリノリの鶴丸と太鼓鐘とちゃんと付き合っている光忠を抜いて、完全に心を殺して死んだ目になった俺の歌と、同じような目になった清光と安定と伽羅の踊りに刀剣男士達と艦娘に爆ウケした、特に天龍&龍田と歌仙は伽羅の踊りがツボに入ったようだな。

 

後にこの『あんこう踊り』が、我が本丸鎮守府のブームになった時はこの世の終わりを感じた。

 

もうすぐ戦車道の公式全国大会、はてさて、どうなる事やら?

 

 




次回で西住姉とその忠犬登場。


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八幡は喧嘩を売る

今回、八幡にフラグが立つガルパンキャラと新しい艦娘と刀剣男士達出ます。


聖グロリアーナとの練習試合も終わり、その夜に『あんこう踊り』を披露して本丸鎮守府が大爆笑に包まれ、俺にとっては新たな、清光と安定と伽羅には現世に顕現して初めての黒歴史が刻まれた(鶴丸と太鼓鐘と光忠は楽しんでいたが)その翌日。来週に『戦車道の全国大会の抽選会』、そして再来週にその一回戦を控えた大洗学園ではこれから聖グロリアーナ戦での敗北から学んだ事を活かそうとしていた。とりあえずカラーリングは元に戻した、あんな金ピカやピンク一色やごちゃごちゃカラーや『バレー部復活!』なんて悪目立ちするだけだ。

 

まずは一年生チーム、また戦車から逃げないように砲音や振動、被弾時の衝撃にも堪えられるように訓練を行う。本人達も反省を踏まえて乗り気で取り組んでいる、根は素直な奴等だな。ちなみに逃げた時の動画見ていた加賀や何人かの艦娘や刀剣男士らは口を揃えて。『無様な・・・・』と辛口コメントがあったが。

 

歴女チームは旗を取る事にした、せっかく車体の低いⅢ突も、旗のせいで居所がバレたら元も子もないからな。カエサル達が『我等の生き様がぁ!!』と最後まで渋っていたが問答無用だ。

 

会長達『生徒会チーム』。とりあえず河嶋先輩に砲撃訓練と小山先輩は運転訓練、会長は干し芋食ってるだけだが大丈夫か? 河嶋先輩が「何で私が砲撃訓練をせねばならんのだ!!」と喚いていたが。試合での失態忘れたのかなこの人は? ちょっとムカついたので睨んだら直ぐに小山先輩の後ろに隠れやがった。小山先輩がやらせておくと言ったのでこれ以上の追求は不問としよう。

 

西住達のチームはほとんど心配ないな。冷泉の天才的な運転技術、五十鈴も母親との約束の事も有ってより意欲的に取り組んでいるし、元々積極的だった秋山も問題無し、チームのムードメーカーとして武部の存在も大きい、車長である西住も普段はヌケているのに戦車道をやっているときはキリッとした感じになり、素人戦車道チームを上手く纏めている。

 

そして現在俺は昼休み、清光と安定と共に昼飯を食おうと教室を出たのだが、食堂は満員、屋上も結構人がいる、体育館は五月蝿いし、生徒会室に行ったら会長に何を命令されるか分かったものじゃない、仕方無いので日にあまり当たらない裏庭でメシを食べていたのだが・・・・。

 

磯辺「比企谷! 私達バレーボール部のコーチをやってくれ!」

 

河・佐・近「「「お願いします!」」」

 

八幡「・・・・・・・・なんでこうなった??」

 

安・清「「さぁ???」」

 

おかしい、本当になんでこうなった? 順を追って思い出してみよう・・・・。

 

・俺達は確か昼飯(日によって光忠、歌仙、鳳翔が代わりばんこで作ってくれる)を取ろうと裏庭に来た。そしたらバレーの練習をしているバレー部に出くわす。

 

・昼飯を食い終わった安定と清光が食後の運動にバレー部と試合をし、そして俺も巻き込まれた。バレー部VS八清安トリオで試合をする。

 

・最初はバレー部が優勢だったが艦娘達とビーチバレーで培った経験で清光と安定が攻勢に出て、俺はトス役をやりながらバレー部の動きを観察し、弱点等を攻めて勝利する。

 

・悔しがるバレー部にとりあえず観察して気付いたそれぞれの弱点を教える俺。練習をしながらそれぞれの弱点を教えられて、おぉー!と納得する磯辺達。

 

そしていつの間にか『バレー部コーチ』をしてくれと頼まれた。ただでさえ戦車道のマネージャーまでやらされて多忙なのにこれ以上やることが増えたら身が持たんわ!

 

八幡「イヤな磯辺、俺こう見えて戦車道のマネージャーやら結構多忙でな、コーチ役なんてムリだぞ」

 

磯辺「そんな事云わずに! 朝と昼休みと放課後の練習の時だけで良いから!」

 

八幡「オイコラ、朝昼放課後って、丸々1日だろうが? それに放課後って、お前ら戦車道の後にバレーの練習までやってんのかよ?」

 

なんで戦車道をやってンのかなぁ?

 

磯辺「(頭を下げ)頼む比企谷!」

 

河・佐・近「「「(同じく頭を下げ)お願いします! 比企谷先輩!!」」」

 

頭を下げる磯辺とバレー部一年組。

 

八幡「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

清光「やって上げたら八さん?」

 

安定「ここまでお願いされて邪険に扱うのも悪いしさ」

 

八幡「(ため息)たまに昼休みに付き合ってやる」

 

バレー部「(パァ!)ありがとうございます! 比企谷コーチ!!」

 

コーチは止めろ。予鈴が鳴ったので解散しようとしたのだが、おいバレー部! その格好で授業出ようとするな! せめて運動着から制服に着替えろ!!

 

 

~放課後~

 

兎にも角にも授業が終わり、戦車道の訓練も滞りなく終わり、【要請連絡】もなかったのでバレー部の放課後練習にも付き合い、その際練習でサーブが上手くなった近藤の頭を思わず撫でたら、凄い勢いでひかれた。暁達や藤四郎兄弟達にやるような感じでやってしまった・・・・。

 

近藤「////////」

 

清光「(ボソボソ)うわ~、妙子ちゃん顔真っ赤か」

 

安定「(ボソボソ)小町ちゃんに連絡しなきゃ、“主が年下の女の子を落とした”っと♪」

 

何か騒がしいが無視する。そして磯辺達の方も問題無い、バレーボールも戦車道も両立出来ているようだ。今回で俺達との距離感がかなり縮まった気がしないでもないが。

 

 

* * *

 

さてと、学校が終わりバレー部の練習にもそれなりに付き合った俺達は鎮守府に戻り、俺は提督服に着替え書類の片付けていた。艦娘の仕事は『学園艦の護衛』だけではない、『海上自衛隊と協力して領海侵犯をしてきた船の調査』、『タンカーやコンテナ貨物船の護衛』等が有り、任務に付いていた艦娘達からの報告書の確認(俺がいない時は大淀がやってくれるので俺は軽く読んだ後に判子を押すだけ)を終えると、長門と陸奥が新しく着任した艦娘を連れてきた。

 

長門「提督、阿賀野の“姉妹艦達”が着任しました」

 

八幡「ようやく来たか。長門、陸奥、ご苦労さん」

 

陸奥「それじゃ皆、自己紹介よろしくね」

 

この本丸鎮守府にやって来る艦娘は基本他の基地に配属されており、そこからこの本丸鎮守府に異動してくる。基地によっては艦娘が冷遇扱いされている基地も有るようだが。

 

そして新しい三人の艦娘が前に出る、阿賀野と同じく高校生のようなルックスで上は白地に紺色の前留式ノースリーブセーラー服を着用し、首周りは余裕で広く、丈が短くヘソが見える、錨が刺繍されたネクタイを付けて、両手には肘まで届く手袋をつけており、短く朱色のスカートを着ている艦娘。

 

「阿賀野型軽巡二番艦、能代。着任しました。よろしくどうぞ!」

 

「軽巡矢矧、着任したわ。提督、最後まで頑張っていきましょう!」

 

「ぴゃん♪ 阿賀野型軽巡四番艦、酒匂です! 司令、よろしくね!」

 

最初に自己紹介したのは『阿賀野型軽巡洋艦二番艦 能代』。赤みがかった茶髪で太い三つ編みを左右に作っている美少女だ。

 

次に自己紹介したのは膝くらいある長い黒髪をポニーテールにした『大和』に似た容姿をした『阿賀野型軽巡洋艦三番艦 矢矧』。

 

最後に紹介したのは『阿賀野型軽巡洋艦四番艦 酒匂』。 薄鼠色のショートボブ+アホ毛に薄茶色のタレ目が特徴的だ。胸部装甲は姉妹で一番スレンダーだな。

 

長女の阿賀野に負けず劣らずのメリハリの効いたプロポーション(四番艦は除く)をしているな。すると『提督室』の扉が乱雑に開かれる。

 

阿賀野「能代! 矢矧! 酒匂! ようやく来たね!!」

 

能・矢・酒「「「阿賀野姉ぇ!!」」」

 

長女の阿賀野参戦! あぁ賑やかになるな・・・・。長門達もため息付いたり苦笑いを浮かべたいた。

 

能代「阿賀野姉ぇ、提督や皆さんにご迷惑とかかけてない?」

 

矢矧「手紙で近況報告は受けていたけど、他の艦娘の皆と刀剣男士の皆さんに失礼な事とかしていない?」

 

妹達に迷惑かけている事を前提で心配される姉ってどうなんだよ?

 

阿賀野「そんな事無いよ! お姉ちゃんはみんなに頼られるお姉ちゃんなんだからね!」

 

酒匂「阿賀野姉ぇの手紙の通りだね! ここの司令って本当に目が腐っているよ♪」

 

オイコラ待てコラ、阿賀野は俺の事をどう手紙に書いているのかゆっくり聞く必要が有るんだが?

 

阿賀野「提督! 妹達は私が案内するよ!」

 

八幡「あぁ分かった。本丸の方も任せるぞ」

 

阿賀野「任せて! さぁみんなお姉ちゃんに付いて来て! 鳴狐にもみんなを紹介するから!」

 

矢矧「“鳴狐”って、阿賀野姉ぇがお世話している(?)刀剣男士の人?」

 

能代「それは是非ともご挨拶に行かないと(阿賀野姉ぇがご面倒をかけている謝罪も含めて)」

 

酒匂「阿賀野姉ぇ! 連れてって連れてって!」

 

そして阿賀野達は提督室を出ていった。

 

陸奥「何かまた賑やかになりそうね・・・・」

 

長門「まぁ阿賀野の面倒を見ていた鳴狐も、これで少しは楽ができるかもしれんな」

 

大淀「ですね・・・・」

 

八幡「さてと。鎮守府の書類も終わったし、今度は本丸の方に行ってくるわ」

 

長門「はい、提督。お疲れ様でした」

 

陸奥・大淀「「お疲れ様でした」」

 

八幡「おう、また後でな」

 

 

* * *

 

俺は今度は本丸での研ぎ部屋にいた。

 

八幡「それじゃ山姥切、叢雲、新しい刀剣男士を顕現させるぞ?」

 

山姥切「あぁ」

 

叢雲「今回は誰が顕現するんだか?」

 

審神者の仕事も片付き、研ぎ部屋に来た俺は、丁度部屋の前で出会った山姥切国広と、『吹雪型五番艦駆逐艦 叢雲』を連れて、新たな刀剣男士を顕現させる。

台座に置かれた二振りの刀剣に、一枚ずつ札を置くと、刀剣が光り輝き、“二人の男性”が顕現した。

 

癖のある長い黒髪に赤い瞳をし、長身痩躯の強面で威圧感のあるワイルドな見た目の刀剣男士。

 

同じく癖のある黄土色の髪に赤い瞳、現代ヤンキーのような見た目のこれまたワイルドな容貌の刀剣男士。

 

あれ? 頭文字Yな人を顕現させたのか? 山姥切と叢雲も同意なのか首を傾げると、黒髪の方がボソボソと小さな声で自己紹介を始めた。

 

「『天下五剣』が一振り、『大典太光世』だ・・・・」

 

「『ソハヤノツルキ』 ウツスナリ・・・・坂上宝剣の“写し”だ。よろしく頼むぜ!」

 

なんと! 新たな刀剣男士は『天下五剣』の『太刀 大典太光世』かよ!? ソハヤノツルキって確か『太刀』だったな、しかも“写し”って・・・・チラッと山姥切を見るとパチクリさせていた。

 

ソハヤ「よぉ兄弟! 一緒に顕現できて嬉しいぜ!」

 

大典太「あぁ・・・・」

 

どうやらソハヤノツルキと大典太は兄弟刀のようだな、後で調べよう。

 

八幡「俺はこの本丸鎮守府の審神者兼提督の比企谷八幡だ。よろしく頼む大典太、ソハヤノツルキ」

 

ソハヤ「おう! 任せておけ主!」

 

大典太「よろしく頼む主・・・・」

 

八幡「あぁ。山姥切、叢雲、お前らも挨拶しろよ」

 

叢雲「分かっているわよ。私は艦娘の叢雲、コイツは刀剣男士の山姥切国広よ」

 

山姥切「(ソハヤノツルキを見る)・・・・・・・・」

 

ソハヤ「ん? どうした?」

 

山姥切「お前も“写し”、なのか?」

 

ソハヤ「あぁ“写し”だ! ヘヘッ」

 

山姥切「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

同じ“写し”でも、“写し”である事にコンプレックス抱いているネガティブ思考の山姥切と、明るくポジティブ思考のソハヤノツルキは違うようだな。

 

八幡「さて、この本丸鎮守府や他の刀剣男士や艦娘にも紹介するぞ。大典太、ソハヤノツルキ。ついてこい」

 

ソハヤ「おぉ! 他の刀剣男士達にも会えるのか!? 楽しみだな兄弟!?」

 

大典太「イヤ、俺が行ったらみんなが恐れる・・・・」

 

ソハヤ「んな事ねぇって! さぁさ行こうぜ!」

 

俺は大典太光世とソハヤノツルキを連れて、部屋を出ていった。

 

 

ー山姥切sideー

 

山姥切「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

叢雲「山姥切・・・・」

 

山姥切「アイツは・・・・ソハヤノツルキは、自分が“写し”である事を堂々と言っていた・・・・」

 

叢雲「そうね・・・・」

 

山姥切「何故あんな風な態度を取れるんだ?」

 

叢雲「さぁね、私も提督も皆も、アンタが“写し”だろうが何だろうが別に気にしないけど、ソハヤノツルキもそうなんじゃない?」

 

山姥切「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

~数日後~

 

俺と清光と安定は『戦車道全国大会 抽選会場』の外で『戦車喫茶 ルクレール』にて、抽選会に参加した西住、武部、五十鈴、秋山、冷泉を待っていた。いくらマネージャーとは言え女子がいっぱいいる会場に男子が入っていくのは気まずいからな。

清光と安定がケーキに夢中になっている間、俺は練乳(店員さんが戸惑っていた)をたっぷり入れたコーヒーを飲みながら、タブレット(提督用と審神者用)で仕事をしている。何かこの一年ですっかり社畜のような精神が生まれたような気がする・・・・。おかしい、俺の将来設計は“専業主婦”の筈、こんな休日のサラリーマンみたいな事、俺の人生であり得ない・・・・まぁこの一年で貯金の額が“多い6桁”になったのは将来的に吉だが、その貯金は親に管理されているんだよなぁ、学校卒業しても長谷部か、大淀が管理しそうだな。

 

ポロロ~~ン♪♪

 

西住達を待っている俺達の耳にカンテレの音が聴こえたので目を向けると。

 

八幡「ん?・・・・・・・・ゲッ!」

 

見たことのあるチューリップハットと長い灰色がかった黒髪をした同い年の女子が後ろにいて、俺は苦虫を噛み潰した顔になった。

 

???「やぁ八幡、こんな所で君に出会うだなんて、数奇な運命を感じるね」

 

八幡「俺としては、運命は運命でも“不運な運命”を感じるわ」

 

目の前にいる女子は『継続高校戦車道チームの隊長 ミカ』出会った。継続高校は貧しい学校だが、戦車道は盛んに行われており、護衛艦の打ち合わせで寄った時にこのミカに出会ってしまった。その時。

 

ミカ【君は面白いね、何か“秘めたるモノ”を隠している。君を中心にまるで桜舞う涼やかな風が吹いているよ・・・・】

 

なんて訳の解らん中二病なセリフを言い、何かしら絡んで来る。この間なんて何処をどうして来たのか“本丸鎮守府にやって来て”、刀剣男士達の事を隠す為にてんやわんやになった程だ。

 

八幡「んで? 何でお前がここにいるんだ? 抽選会はどうした?」

 

ミカ「それなら“ミッコ”と“アミ”がやってくれているから大丈夫だよ」

 

コイツ、面倒事をチームメイトに任せやがったな。

 

清光「八さん、西住ちゃん達が出てきたよ」

 

安定「(携帯を操作しながら)電話で呼ぶね」

 

ミカ「さてと、それじゃ私も退散するよ。“ミッコ”と“アミ”が探しに来るからね」

 

八幡「あぁ、それじゃなミカさん」

 

ミカ「呼び捨てでも全然構わないのだけどね」

 

八幡「・・・・・・・・じゃあな“ミカさん”」

 

ミカ「やれやれ、連れないなぁ・・・・」

 

そう言って颯爽と去っていきやがった。あっ、しかも伝票を俺に押し付けやがった! クソッ! 今度会ったら払わせてやる!

 

 

~数分後~

 

西住達と合流し、西住達は俺達の隣のテーブルに座った。

 

カチッ、ドーーーーーン!!

 

店員の呼び出しボタンが戦車の形をしており、ボタンを押すと砲撃音が鳴り響く仕掛けだ。芸が細かいなこの喫茶店。西住達が店員へ注文を終えると注文ボタンに目を向ける。

 

沙織「このボタン主砲の音になってるんだ?」

 

優花里「この音は90式ですね」

 

華「流石戦車喫茶ですね?」

 

店中から砲撃音が鳴り響いて少し五月蝿いがな。

 

沙織「あぁ~~、この音を聴くともはやちょっと快感な自分が恐い♪」

 

清光「沙織ちゃん、ちょっと危ないンじゃない?」

 

俺もそう思う。テーブルの隣の小さな通路からラジコンのドラゴンワゴンが戦車の形をしたケーキを持ってきた。本当に細かいなこの喫茶店・・・・。

 

八幡「それで一回戦の相手は何処になったんだ?」

 

優花里「はい、『サンダース大学付属高校』です」

 

八幡「・・・・西住、お前ってくじ運悪いな」

 

みほ「やっぱり比企谷君もそう思う?」

 

八幡「一回戦で『4強』にぶつかるだなんて、不運以外のなんなんだよ?」

 

沙織「『4強』って?」

 

華「サンダース付属の他にも強豪があるのですか?」

 

首を傾げる武部と五十鈴、冷泉はケーキの方が重要なのかあまり興味無さげだが説明する。

 

八幡「まぁ“4強”って言うのは、五十鈴の言うとおり優勝候補達だな。

M4シャーマン戦車を大量に使ってアメリカ軍宜しくな物量戦で正面戦術を駆使する『サンダース大学付属高校』。

重装甲の戦車を使った浸透強襲戦術でじわじわと侵攻して相手を撃破するのを得意とする、この間練習試合をやった『聖グロリアーナ女学院』。

ソビエト製の戦車を使い局地戦を得意とする去年の優勝校『プラウダ高校』。

そして言わずもがな、去年は悪天候のせいで優勝を逃したが、実力的には優勝候補No.1と言える『黒森峰女学園』。

まぁ概ねこの辺りが優勝候補の“4強”と呼ばれる戦車道高校だな」

 

優花里「(キラキラキラキラキラキラキラキラ)」

 

八幡「ん? なんだ秋山??」

 

何で俺をそんなキラキラした目で見つめるんだ?

 

優花里「凄いです比企谷殿! 待っている間に優勝候補の高校の事を調べていただなんて、マネージャーの鑑です!」

 

まぁ何度か“仕事”の打ち合わせで行った事有るからな。

 

優花里「サンダース付属は凄いリッチな学校で、戦車の保有台数が全国一なんです! チーム数も一軍から三軍まで有って」

 

安定「うわっ、物量戦で来られたら負け確定だね・・・・」

 

清光「“数は力”とは良く言ったもんだね・・・・」

 

みほ「でも、公式戦の一回戦は“戦車の数は10両まで”って限定されているから、砲弾の総数も決まっているし」

 

沙織「でも“10両”って、ウチの倍じゃん! それは勝てないんじゃ・・・・」

 

みほ「・・・・・・・・」

 

麻子「単位は・・・・?」

 

沙織「負けたら貰えないんじゃない?」

 

麻子「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

オイ冷泉が無表情でケーキをフォークで突き刺したぞ、何か猟奇的な雰囲気を感じたのは俺だけか?

 

沙織「それより、全国大会ってTV中継されるんでしょ? ファンレターとか来ちゃったらどうしよ~♪」

 

清光「沙織ちゃんって本当にブレないな・・・・」

 

安定「ある意味尊敬しちゃうよ・・・・」

 

華「それに生中継は決勝だけですよ」

 

沙織「じゃ、決勝行けるよう頑張ろう!」

 

暢気言ってるように見えるが、お陰で少し重くなっていた空気が和らいだ。武部って本当にムードメーカーの素質が有るな・・・・・・・・何でモテないのだろう?

 

???「副隊長・・・・?」

 

みほ「っ!」

 

ん? 聞いたことが無い声が聴こえたが?? ちょっと目を向けると、『黒森峰女学園』の軍服を着た二人の女子がいた。一人は西住に良く似た顔立ちの女子と、灰色の長髪をした気の強そうな女子だ。

 

???「あぁ、“元”でしたね」

 

長髪の女子が含みの有る上に棘の有る言葉を出して小馬鹿にした態度を取っていた。

 

???「・・・・・・・・」

 

みほ「お姉ちゃん・・・・」

 

沙・華・優・麻『あっ・・・・!』

 

西住の姉にして現黒森峰戦車道チームの戦車長、西住流戦車道正当後継者、『西住まほ』か。何度か“仕事”で黒森峰に赴いた時に会った事がある。

 

まほ「まだ戦車道をやっているとは思わなかった」

 

みほ「・・・・・・・・・・・・」

 

優花里「お言葉ですが! “あの試合”での、みほさんの判断は間違ってませんでした!」

 

???「部外者は口を挟まないでほしいわね」

 

優花里「・・・・スミマセン」

 

西住を庇おうとして秋山が立ち上がったが、西住姉の隣にいた女子に一喝されて引っ込む。おい秋山負けるなよ・・・・。

 

八幡「(ボソボソ)所で西住まほさんの隣にいるの誰?」

 

清光「(スマホで調べ)『逸見エリカ』、黒森峰女学園の二年生で現戦車道副隊長。彼女の前は西住ちゃんが副隊長だったようだよ」

 

なるほど、西住への辛辣な態度はそういう事か。

 

まほ「行こう」

 

エリカ「はい、隊長」

 

去ろうとする黒森峰隊長と副隊長、すると副隊長さんが西住達に目を向ける。

 

エリカ「一回戦はサンダース付属と当たるんでしょ? 無様な戦い方をして、西住流の名を汚さない事ね」

 

みほ「あっ・・・・」

 

清光・安定「「・・・・・・・・・・・・」」

 

オイオイ、清と安の目付きが鋭くなったぞ、あまりにも高圧的副隊長さんに武部と五十鈴も立ち上がる。

 

沙織「何よその言い方!!」

 

華「あまりにも失礼じゃ・・・・!」

 

エリカ「貴女達こそ戦車道に対して失礼じゃない? 無銘校の癖に。この大会はね、戦車道のイメージダウンになるような学校は、参加しないのが“暗黙のルール”よ」

 

んなルールが有ったのか? 今度“茶会でじいさん”に聴いてみよう。

 

麻子「『強豪校が有利になるように、示し合わせて作った暗黙のルール』とやらで負けたら恥ずかしいな」

 

エリカ「っ!」

 

まほ「・・・・・・・・・・・・」

 

お~お~、冷泉のクールな言葉に現副隊長さんの目付きが不快そうになったわ。それにしても・・・・。

 

八幡「さっきからケーキが不味くなるんですけど? 『繰り上げ副隊長さん』」

 

エリカ「(ピクッ!)何ですって?」

 

みほ「比企谷くん?」

 

まほ「っ!?・・・・・・・・」

 

みほ「お姉ちゃん・・・・?(何で比企谷くんを見てあんなに驚いているんだろう??)」

 

八幡「ここはケーキを楽しむ喫茶店だぞ? そんな所で聴くに絶えない嫌みのオンパレードを聞かされて、こっちの気分が悪くなったじゃねぇか」

 

エリカ「何貴方は? 関係無いでしょう?」

 

八幡「“関係無い”って事は無いな、俺はそこの西住さん達のクラスメート兼戦車道マネージャーなんでね」

 

まほ「っっ!!??・・・・・・・・」

 

何か西住姉がさっきから無表情に俺を見ているが、ここは無視しよう。

 

エリカ「“マネージャー”? フン、無銘校は人手不足なのね、男を戦車道に関わらせるだなんて、とんだお笑いだわ!」

 

清光「聞いた安定? “男が戦車道に関わるのはお笑い”だってさ」

 

安定「今の時代、男子バスケや男子サッカーには異姓のマネージャーがいるのは不思議じゃないのに、戦車道では男子マネージャーがいるのは変な事なのかなぁ?」

 

清光「古い考えだよねぇ~、何そのカビの生えた男女差別。黒森峰の『成り上がり副隊長さん』は頭が戦車の装甲位に固いのか、それとも錆だらけの廃れた脳ミソなんじゃないの??」

 

エリカ「(ピクピクピクピクピクピク!!)」

 

わお、清と安の挑発に副隊長さんのコメカミがピクピクとしている。こんな“挑発”に簡単に釣れるとは。

 

エリカ「さっきから言っている『繰り上げ副隊長』とか『成り上がり副隊長』ってどういう意味かしら?」

 

八幡「あん? 西住がいなくなったお陰で空席になった副隊長の椅子に座ることができた『ラッキー副隊長さん』に変えてやろうか? 良かったな、苦もなく重役ポジションに座れて超マジラッキーだったな」

 

エリカ「ッ! 何ですって!!」

 

まほ「やめろエリカ」

 

エリカ「ですが隊長!」

 

俺に掴み掛かろうとした副隊長さんを西住姉が止めた。良かったなラッキー副隊長さん、西住姉が止めなかったら“逆手に持ったフォークを潜ませた”清光と安定にどんな目に合わされていた事か・・・・。

 

まほ「私は君の能力を見込んで副隊長を任せた。自分を信じろ」

 

エリカ「隊長・・・・はい!」

 

チッ、流石のカリスマ性だな西住まほさん。すると西住まほさんが俺のいる席に近づき。

 

まほ「(ペコッ)我が隊の副隊長の態度で、不愉快な想いをさせてしまい、大変申し訳ありません」

 

みほ「っっ!!??」

 

沙・華・優「「「っっ!!??」」」

 

エリカ「っっっっ!!!???」

 

麻子「・・・・・・・・・・・・」

 

西住や武部達が驚き、副隊長さんに至っては“信じられないモノ”を見てしまったような驚愕した様相を浮かべた。まぁ『黒森峰戦車道隊長が一般の男子に頭を下げた』だなんて、事情を知らない人間から言わせれば驚くのは当然か、冷泉は黙々とケーキを頬張っていたが。俺も立ち上がって西住姉と対面する。

 

八幡「別に気にしませんよ。でも『戦車道は礼に始まり、礼に終わる』と言うなら、公共の場での礼を失した態度と言動は、改めさせて下さいね」

 

まほ「はい、以後気を付けさせます」

 

八幡「後、妹さんの言葉にちゃんと耳を傾けてくださいね」

 

まほ「・・・・・・・・・・・・」

 

八幡「西住」

 

みほ「えっ?」

 

八幡「“あの時の事”、ちゃんと姉ちゃんに伝えろよ」

 

西住が立ち上がり、姉に向かって顔を上げる。

 

みほ「・・・・お姉ちゃん」

 

まほ「みほ・・・・」

 

みほ「私、あの時の事、後悔していないよ」

 

まほ「・・・・・・・・・・・・」

 

みほ「あの時、みんなの事を見捨てていたら、きっと私は今よりも後悔していたと思うから・・・・だから私、後悔していないよ!」

 

まほ「・・・・そうか、分かった。エリカ、行くぞ」

 

エリカ「えっ!? あっ! えぇ!? は、はい!」

 

そう言って西住姉は茫然自失していた副隊長さんを連れて去っていった。さて、西住姉さんにメールを打っておこう。

 

沙織「ハッ! ちょっと比企谷! なんだったのアレ!?」

 

八幡「アレとは?」

 

優花里「西住殿のお姉さんが頭を下げた事ですよ!」

 

八幡「公共の場で無礼な態度を取った後輩の非礼を詫びただけだろ?」

 

華「確かに失礼な態度を取っていましたものね」

 

麻子「後輩の尻拭いをしたと言う訳か・・・・」

 

みほ「でも比企谷くん、逸見さんにあんな言い方は無いと思うよ、逸見さんが副隊長になれたのは・・・・」

 

八幡「そんな事分かっている。ラッキーとか繰り上げでなれるほど、王者黒森峰の副隊長の地位は簡単じゃないってことくらいはな」

 

みほ「それじゃどうして?」

 

八幡「別に、あの副隊長の“逸木”さんの態度にムカッとしただけだ」

 

みほ「比企谷くん、“逸見”さんだよ・・・・」

 

八幡「それに西住、お前だってあんな高圧的な言い方されて少しは反抗しろよ、あの手のヤツは会話で抵抗しないと付け上がるぞ」

 

みほ「私は、別に気にしないから」

 

清光「西住ちゃんが良くても、八さんや沙織ちゃん達、それに俺や安定が許さないよ」

 

安定「あんな言い方されて凄い腹が立つ」

 

沙織「そうだよ! みほ!」

 

麻子「だが比企谷さん達の言い分であの副隊長が殴りかかりそうな雰囲気だったぞ?」

 

優花里「そうなったら、大会出場が・・・・!」

 

八幡「まぁ向こうの隊長さんが止めたし、それにもしも殴りかかってきたら、清と安がちゃんと止めてくれるからな」

 

清光「勿論だよ八さん」

 

安定「任せておいて」

 

華「加藤さんと山本さんは何故フォークを逆手に構えているのでしょう?」

 

みほ(逸見さん、もしかしたら命拾いしたかも・・・・)

 

 

 

ーまほsideー

 

エリカ「た、隊長・・・・私のせいで隊長にとんだ恥を・・・・!」

 

まほ「気にしなくて良い」

 

エリカ「しかし! 隊長があんな一般生徒と!」

 

まほ「彼とは以前から面識が有る」

 

エリカ「えっ!? め、面識って何時からですか!?」

 

まほ「去年の、冬の初めくらいだったな」

 

エリカ「去年から・・・・」

 

まほ「あぁ、今度エリカにも改めて紹介する」

 

エリカ(隊長とどういう関係なのか、根掘り葉掘り聞いてやるッ!!)

 

まほ(みほのあの様子から見ると、彼の、比企谷提督の事を知っているのだろうか?)




能代、矢矧、酒匂、大典田、ソハヤのカップリングをお楽しみに。


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山姥切国広は大いに悩む

沙織「それにしても何だったの、あの黒森峰の副隊長さん!」

 

華「イヤな感じでしたわ」

 

武部と五十鈴がここまで個人を悪く感じるとは、相当あの副隊長の態度が気に入らなかったんだな。

 

八幡「副隊長はあんなでも、黒森峰女学園は優勝候補No.1の強豪だからな。大会に出場するならいずれぶつかるだろうよ」

 

優花里「それにしても比企谷殿があんなに食ってかかるとは以外でした」

 

八幡「まぁな、おかげで黒森峰の副隊長さんの性格が少し分かったがな」

 

沙織「性格??」

 

華「先ほどのやり取りで解ったのですか?」

 

八幡「あぁ、俺達が『繰り上げ』だの『成り上がり』だの『ラッキー副隊長』だのと呼ばれて、かなり腹を立てていただろう?」

 

沙織「うん、凄く気にしているって感じだったね」

 

八幡「多分本人も内心、[自分は西住みほがいなくなったお陰で副隊長になれただけ]って、本心では気にしているんだよ」

 

みほ「えっ? そんな事無いと思うけど・・・・」

 

安定「西住さんはそう思っても、あの副隊長さんはそうは思っていないんじゃないかな? じゃなきゃあんなに簡単に僕達の挑発に反応しないよ」

 

優花里「しかし、先ほど西住殿のお姉さんが諌めましたけど?」

 

清光「あの手のプライドの高そうなタカビーちゃんは、そう簡単に消化できていないよ」

 

八幡「それにこんな公共の場で感情的になって手が出そうになるって事は・・・・」

 

安定「直ぐにムキになって冷静さを欠きやすいって事だね?」

 

華「と申しますと?」

 

八幡「頭に血が昇って冷静さを欠きやすいと言う事は、指示を出す車長としては致命的な弱点になる。しかも彼女は間違い無く西住を意識している」

 

みほ「えっ? 私を??」

 

八幡「当然だろ? あの様子なら副隊長さんは西住のお姉さんを尊敬している。尊敬する隊長の妹で自分と同い年で自分の前の副隊長、戦車道を辞めた筈の“ライバル”が再び戻って来て意識しない方がおかしいぞ」

 

優花里「おおぉっ、あの短いやり取りや挑発行為で黒森峰の副隊長の性格と弱点を分析していたんですね」

 

沙織「何か、比企谷って敵に回したくないなぁ・・・・」

 

華「こちらの弱味をエグく突いて来そうですね・・・・」

 

オイコラ、お前らも淑女ならもう少し言動に気を使え。

 

みほ「逸見さんが、私をライバルって・・・・」

 

西住が困ったように顔を俯かせた、西住はこう言うライバル視される競い合いがあまり好きじゃなさそうだから反応に困っているんだな。

 

華「ケーキ、もう1つ頼みましょうか?」

 

麻子「(挙手)もう2つ頼んでも良いか?」

 

五十鈴が追加注文しようとすると冷泉が便乗してきた。つうかコイツ、あんな場面でちゃっかりケーキを間食してたのかよ? マイペースさなら宗近達平安の刀剣達に匹敵するかもな・・・・。

 

安定「八さん。僕達も(本丸鎮守府の)皆にお土産でも買っておこう」

 

八幡「そうだな。それじゃ“ホール”で何個か買っておくか」

 

沙織「えぇ?! ケーキをホールで何個もって、比企谷、お金大丈夫なの?!」

 

八幡「あぁ問題無いぞ」

 

優花里「比企谷殿って、もしやリッチなのですか?」

 

八幡「そんなんじゃねぇよ」

 

清光(昨日お給料が出たからって頻発しちゃってまぁ・・・・)

 

これでも本丸鎮守府で審判者兼提督をやっているからな。ケーキをホールで10個買っても余裕の給金が出ているんだよ。

 

 

* * *

 

それから俺達は連絡船に乗って大洗の学園艦に向かっていたが、俺は『西住まほさん』に連絡を取っていた(清光と安定は誰か来ないように見張り役)。

 

八幡「先ほどはどうも西住まほさん」

 

まほ《先ほどは我が隊の副隊長が無礼な態度を取ってしまい誠に申し訳ありませんでした・・・・》

 

八幡「イエ、こちらも少々態度が悪かったですから。それとそちらの副隊長は俺の事を知らないようですね?」

 

まほ《はい、比企谷提督の事は軍務上の秘匿として考え話さないように言われています。しかしグロリアーナのオレンジペコとアッサムは知っているようですが?》

 

八幡「あぁそれは・・・・まぁ気にしないでください・・・・」

 

言えん。金剛四姉妹が口を滑らしてしまったからだなんて、恥ずかしくてとても言えん。

 

まほ《そちらでは貴方の“仕事”の事を知っているのは?》

 

八幡「大洗では学園長を含めた一部の教師陣と生徒会だけですね。妹さんも知りませんよ」

 

まほ《そうですか・・・・それでみほは、その・・・・》

 

八幡「・・・・最初は乗り気じゃなかったですけど、今はそれなりに楽しそうに戦車道をしている感じですよ」

 

まほ《楽しそうに、ですか・・・・》

 

声の感じから“黒森峰戦車道隊長”ではなく、“西住みほの姉”としての西住まほだと分かった。平然としていたが、やはり妹が心配のようだ、同じく妹のいる身としては良く分かる。

 

八幡「安心してください。妹さんは思っているよりもずっとタフな性格していますよ」

 

まほ《・・・・比企谷提督。ご迷惑を承知でお願いがあります。みほの事、見守ってあげてください》

 

八幡「まぁ一応マネージャーですからね、出来る限りの事はします。こちらの事は気にしないで下さい、そちらも戦車道の試合、頑張ってください」

 

まほ《心配は無用です。一回戦で負ける事はありません》

 

うわぉ、『黒森峰戦車道の隊長モード』に切り替わった。つか一回戦ごとき勝つなんて当然ってか? 王者の貫禄有り過ぎだろう。姉妹揃って戦車道の事になるとキャラが変わるなぁ。

通話を切り、黒森峰の一回戦の相手を見ると、『知波単学園』と表示されていた。

 

八幡(あっ、こりゃ“西さん”達には悪いが、黒森峰は難なく通過するな・・・・)

 

『聖グロリアーナ』や、去年の優勝校『プラウダ学園』もそれぞれのブロックに上手く振り分けられているな。

 

麻子【強豪校が有利になるように、示し合わせて作った“暗黙のルール”】

 

八幡(冷泉が言っていたように、強豪校である黒森峰やグロリアーナやプラウダやサンダースが有利になるように振り分けられているような組み合わせだ。順当に行けばベスト4に入るのは常に4強。これはまだまだマイナーである戦車道のイメージアップの為の策謀が入っている可能性大だな。仕方ない、こちらも少し裏技を使うか・・・・)

 

俺はスマホを操作し、鎮守府にいる大淀に連絡を入れた。

 

八幡「あぁ大淀、俺だ。明日の他の学園艦との航路の打ち合わせだが・・・・」

 

 

 

 

* * *

 

 

学園艦に戻った俺達は西住達と別れ、本丸鎮守府に戻り、清光と安定も部屋に戻り、俺は本丸で書類仕事を終えて、長谷部と光忠とこんのすけと、鎮守府から来た長門と陸奥と大淀で“資金と予算”の話し合いをしていた。

 

八幡「そうか、それなりにやりくりはしているからまだ大丈夫なんだな?」

 

光忠「うん。ウチは鎮守府とも合併しているから、それなりに色を付けて貰っているからね」

 

こんのすけ「しかし、いつまで持つか分かりません。主さま、早急に対策を練った方が宜しいかと・・・・」

 

八幡「(ため息)だよな・・・・」

 

長谷部「くっ、申し訳ありません主。この長谷部が付いていながら・・・・!」

 

長谷部が苦い顔を浮かべて、資金が入った“がま口財布”を握りしめていた。がまちゃんがペッタンコだ。

 

八幡「まぁ仕方ねぇな。卯月<4月>の花見で結構な買い物をしちまったしな」

 

陸奥「かなり散財しっちゃたからね」

 

長門「主に次郎太刀と準鷹と日本号の為にな」

 

大淀「でも、素敵な思い出になりましたね」

 

俺達は本丸鎮守府の審判者の執務室の窓から見える、丘の上の大きな樹を眺めた。

今年の弥生<3月>の初め、それまでずっと枯れ木のような姿だったあの樹を、本丸鎮守府の刀剣男士や艦娘達の間で「何の樹なのか?」と話題となり、桜でも梅でもない、欅でもなければ檜でもない、ただの枯れ木ではないかと囁かれた。

皆は桜が良いと言い、桜の花を咲かせて欲しいと枯れ木だった樹に願掛けをするために安定が「薄紅色の短冊に願いを書いて、樹にお願いしてみよう。一振り一隻100枚ね」と言い出して、全員で書き出した。

そして皆の願いと気持ちが込められた薄紅色の短冊を吊るされた樹は、薄紅色の短冊が風に揺れ、まるで桜が満開に咲いたように美しかった。

短冊の中には『結婚!』とか『山伏さん、姉さんを貰ってください・・・・!』『夜戦!夜戦!夜戦!』『速きこと島風の如く!』『アイドル那珂ちゃん!』『提督と薬研君が私に甘えてくれますように❤』『提督にバーニングラブ!』『金剛お姉様とムフフ』『可愛い短刀がもっと来ますように』『胸を大きく・・・・』等が有ったような気がするが、深く考えないようにする。

それはさておいて、本当に願いが叶ったのか、樹に“桜の蕾”が芽吹いた時は流石に驚いた。そしてそれを見て鶯丸が呟いた。

 

鶯丸【誰かが言っていた。見たことがない木を見たら、それは『万葉桜』かも知れないと、一万年に一度だけ桜が咲く・・・奇跡の樹。それを見た者はどんな願いも叶うという】

 

そしてあの樹は『万葉桜』と呼ばれ、本丸鎮守府の名物となり、本格的に満開に咲いた卯月では、俺と清光と安定に小町も春休みでもあったため、毎日のように花見に宴会が繰り広げられた。

その際、『大太刀 次郎太刀』と『飛鷹型軽空母二番艦 準鷹』に『槍 日本号』と言った、我が本丸鎮守府の『飲んべえ代表』、別名『アル中軍団』が酒を飲み尽くしてしまい黒いオーラを纏って倒れた、慌てた何人かの刀剣と艦娘が生活必需品が売られている『万屋』に行って酒を買おうとしたが。何故か、酒ではなく鮭だったり、化粧用品だったり弁当だったり玩具だったりカメラだったりお洒落サングラスだったり、酒じゃない物を無駄に大量に買ってきてしまい散財したのである。

 

八幡「まぁ一応上の方に話は通してあるから、資金と予算の方は今は保留と言う事で良いだろう」

 

長谷部「はい・・・・」

 

長門「早く決まると良いのですが・・・・」

 

こんのすけ「では主さま、刀剣男士の顕現に参りましょう」

 

八幡「あぁ。長谷部、光忠。お前達も仕事に戻って良いぞ。長門、陸奥、大淀、皆も鎮守府に戻って良いぞ。あ、後お土産のケーキは皆に均等に渡しておいてくれよ」

 

『(コクン)はい』

 

全員が頷いたので、俺はこんのすけを連れだって研ぎ部屋に向かおうとした。

 

八幡(ん、山姥切に清光? なにしてんだ?)

 

丘の上の樹のふもとに座っている山姥切に清光が近づいている姿が映ったが、後で聞いてみようと思ったので研ぎ部屋に向かった。

 

 

ー清光sideー

 

清光「どうしたの山姥切?」

 

山姥切「加州・・・・」

 

学校から帰った俺は、縁側で同じように任務から帰投してきた那珂ちゃんの髪を櫛で梳いていた。ちなみに安定は川内ちゃんと万屋に買い物に行った。すると近くで丘の上の樹を眺めている叢雲ちゃんを見かけたので話しかけると、昼間にソハヤノツルキと何か話をしてからずっと山姥切が丘の上の樹にもたれながら上の空状態になっているらしい。

 

叢雲【あのバカ<山姥切>、この間顕現したソハヤノツルキが自分と同じ“写し”なのに、その事を気にしていないからずっとソハヤノツルキを見ていたのよ。それで今日、私が任務<学園艦の護衛>から帰って来て見れば、あぁなっていたのよ。まったく心配させっ・・・・べ、別に山姥切の事なんかまったく心配なんかしてないわよ! アイツがいつもよりブルーになっていると鬱陶しいだけだから!!///////】

 

な~んて、誰も何も聞いてないのに、顔を赤らめてツンデレ台詞を出す叢雲ちゃんの言葉をにこやかに聞き流して、刀剣男士同士なら話しやすいだろうと俺が山姥切に近づき、話しかけ山姥切の隣に腰を下ろす。

 

清光「当ててやろうか? ソハヤノツルキでしょ?」

 

山姥切「・・・・・・・・」

 

清光「皆から聞いたけど、ソハヤノツルキは内番の仕事を率先してやってくれているし、鍛練にも付き合ったり、飲み付き合いも良いし、面倒見も良くて頼れる兄貴分って感じで艦娘の皆とも直ぐに打ち解けて、評判が良いみたいだね?」

 

山姥切「あぁ、ソハヤノツルキも俺と同じ“写し”だ。しかし俺とは何が違うのか、それが分からなかった」

 

清光「それでソハヤノツルキを観察していたの?」

 

山姥切「あぁそれで思いきって聞いてみたんだ、何故お前は“写し”である事を気にせずにいられるんだって・・・・」

 

清光「それで?」

 

山姥切「ソハヤノツルキは・・・・」

 

ソハヤ【別に気にしてない訳じゃないぜ。だけどそんな事気にしたって仕方がないだろう。俺は生まれた時から“写し”なんだし、なら前を向くしかねぇじゃねぇか? “写し”から始まっても良いじゃねぇか。問題はその後だ、生きた証が物語るよ。お前<山姥切国広>の物語を造りな。きっと“お前だからこそ出来る事”がある筈だぜ!】

 

清光「へぇ~カッコいい事言うね?」

 

山姥切「それで少し考えていたんだ。“俺だから出来る事”と言うのは、一体なんなんだろうっとな」

 

清光「それで上の空状態だったて訳ね?」

 

山姥切「・・・・・・・・」

 

清光「あのさ山姥切、これはちょっと前に主が言っていたんだけどさ」

 

山姥切「主が?」

 

清光「うん、戦車道を始める前に戦車を探して西住みほちゃんと話をしていた時にね」

 

八幡【自分のやるべき事をちゃんと理解して、自分の成すべき事を成そうとしている立派な奴等だ。だから俺はソイツらを“贋作だ”とか“写しだ”とか区別しないし、ソイツらを“尊敬”している】

 

山姥切「主が、俺を尊敬している・・・・?」

 

清光「うん、主は俺達の事を大切にしてくれて、尊敬してくれている。山姥切はさ、“自分だから出来る事”が分からないって言うけど、山姥切って結構俺や安定の相談相手になってくれているじゃん」

 

山姥切「何?」

 

清光「俺と安定は“主の護衛役”って本丸鎮守府で最重要任務に付いているけど、やっぱり出陣回数が激減している事にちょっと悩んでいた時、山姥切はこう言ってくれたでしょ?」

 

ほぼ一日中主と一緒にいられる上に、主と一緒に学校生活まで送っているくせに贅沢な事を言っているって事は分かっているけど、刀剣男士としてやっぱり出陣が少なくなるのは、刀剣男士としての務めを果たせないから悩んでいたんだよね。

 

山姥切【加州と大和守は、主が“一番一緒にいて安心できる刀剣男士”だ。加州がいたから今の主がいる。大和守がいたから主は今を楽しめている。お前達二振りが、一番主と近しい刀剣だから、主の護衛役を任されているんだ】

 

清光「あの時、俺達って主に愛されているって思って、嬉しかった。山姥切は皆から一歩離れた距離から皆の事を見ている。そんな山姥切だから、本人が気づいていない事にも気づく事ができるでしょ? それにさ、去年阿津賀志山での出陣で、過去に捕らわれていた今剣を叱咤したでしょ? 安定に聞いたよ。山姥切は皆の事を陰ながら見ているから助言が上手いんだよ」

 

山姥切「俺が、皆の事見ているか・・・・」

 

山姥切が顔を上げると同時に一陣のそよ風が吹いて、山姥切のフードのように被った布を捲った。すると綺麗な金髪と端正な顔立ちをした『本丸鎮守府の隠れイケメン』、山姥切国広の素顔が見えた。

 

山姥切「あっ・・・・!」

 

布を取った素顔を晒したくない山姥切が、慌てて布を被り直そうとする。

 

清光「えぇ何で被り直すの? 羨ましい位キレイなのに~」

 

山姥切「キ、キレイとか言うな!!」

 

このように『本丸鎮守府の隠れイケメン』と呼ばれる程の美形なのに、“写し”だからと布で自分の素顔を隠すんだよね、それでキレイって言われると照れているのか、恥ずかしいのか直ぐに隠したがる。

 

清光「やっと山姥切らしくなったじゃん♪」

 

山姥切「あっ・・・・」

 

清光「ほら、山姥切が落ち込んでいると、向こうの艦娘ちゃんが心配しちゃうよ」

 

俺が指差す先には、那珂ちゃんに背中を押されながら向かってくる叢雲ちゃんがいた。

 

山姥切「叢雲・・・・心配をかけた」

 

叢雲「べ、別に心配なんかしてないわよ! ほら! 提督が皆に食堂に集まれって言ってたから行くわよ!」

 

山姥切「あぁ」

 

そのまま手を繋ぎ合って本丸に戻っていった。すると那珂ちゃんがモジモジした感じで俺に近づく。

 

那珂「清光く~~ん❤」

 

清光「分かってるよ、はい那珂ちゃん」

 

俺も那珂ちゃんと手を繋いで本丸鎮守府に戻った。うん、やっぱり那珂ちゃんとこうしていると、何か落ち着くな。

 

 

 

ー八幡sideー

 

さてと、本丸鎮守府・食堂に集まった皆に新たな刀剣男士を紹介する。

 

八幡「喜べ藤四郎兄弟。新しい兄弟達が来たぞ」

 

後藤「よ! 後藤藤四郎だ! 今にでっかくなってやるからな!」

 

信濃「俺、信濃藤四郎。藤四郎兄弟の中でも秘蔵っ子だよ。宜しくね!」

 

ツリ目に明るい茶髪に紫色のメッシュが入った刀剣男士、『短刀 後藤藤四郎』。

 

赤い短髪に明るい雰囲気のある刀剣男士、『短刀 信濃藤四郎』。

 

鯰尾「後藤! 久しぶりだな!」

 

後藤「鯰尾! また会えて嬉しいぜ! ここでも宜しくな!」

 

信濃「沢山兄弟達が居ると聞いていたから、兄弟達に会えて凄く嬉しいよ!」

 

乱「こちらこそ♪」

 

八幡「今日は遅いし、本丸鎮守府の案内は明日だな。一期一振、任せて良いか?」

 

一期「はい主。私も弟達と一緒にいたいですしね」

 

我が本丸鎮守府でも兄弟の数が多い粟田口吉光作の藤四郎兄弟。ちなみに鳴狐も粟田口だが、正確には粟田口国吉作であるため、藤四郎兄弟には含まれない。

 

長門「(後藤&信濃を注視中)」

 

陸奥(あ、姉さんのショタコンセンサーが反応してる・・・・)

 

和泉守「おい、そこのショタコン。新しく来た新入りを早速色目で見るな」

 

長門「な!? だ、誰が色目で見ているか!!」

 

和泉守「イヤ完全に後藤と信濃を色目で見てただろ?」

 

長門「そ、そんな事は無い!」

 

和泉守と長門が騒いでいるが、巻き込まれたら面倒だし無視しよう。

 

鳴狐(キツネ)「(ボソボソ)小町様、これで新しいAWT48のメンバーが揃いました」

 

小町「(ボソボソ)うんうん、後藤君と信濃君にも歌や踊りを教えないとね~♪ 宜しく頼むよ鳴狐マネージャー」

 

鳴狐(本体)「(ボソボソ)お任せください、小町社長」

 

なんか小町と鳴狐が不穏な事を喋っているが、とりあえず気にしないでおこう。明日は色々忙しいからな、早く寝るか。

 

 

 

~翌日~

 

安定「良いのかなぁ? サンダース付属に来ちゃって」

 

清光「あくまでサンダースの学園艦の航路スケジュールの確認だし、そのついでに偵察もやるだけだよ」

 

八幡「清、安、ブツブツ行ってないで行くぞ。大淀、サンダースの学園長との会議までの時間は?」

 

大淀「はい、二時間後に予定しております」

 

現在俺は、護衛役である清光と安定、秘書艦(代理)である大淀を連れて、サンダース大学付属高校のある学園艦に来ていた。

学園艦の護衛艦である艦娘達の司令官である俺は、定期的に他の学園艦に赴いて航路のスケジュール会議を行っている。あくまで軍務で仕事だから学校側からも了承を得ている。本来ならサンダース付属との会議はもう少し先だが、今回戦線道の一回戦での相手でもあるから予定を早めて赴いた。一応表向きは『来客』と言う事なので、それを証明するネームプレートを付ける。

 

大淀「提督、“まだ二時間”の時間が有ります。私は待合室で待っていますから、提督と加州さんと大和守さんは自由行動をしてきて下さい。時間が来たら連絡します」

 

八幡「分かった。苦労をかける・・・・」

 

大淀「イエ、お気になさらないで下さい」

 

優しく微笑む大洗。無理にサンダースとの会議を早めてくれた大淀には苦労をかけているな、本当に頭が下がるわ・・・・。

 

 

* * *

 

さてと、大淀の行為に報いる為にも、サンダース付属の戦車道チームの情報を集めないとな。とりあえず戦車道の格納庫に向かおうとしているが、サンダース付属はリッチ校なだけに学園艦も大きく広い、部外者だと地図無しで歩いていると迷子になってしまうな。

 

清光「ここがサンダース付属の戦車か」

 

安定「すごい数の戦車だね。八さん、何て戦車なの?」

 

八幡「これは『M1シャーマン』だな。流石はお金持ち学校、機甲大隊一個分(約50両)もある」

 

ようやく戦車道の格納庫に来た俺達はサンダースの戦車の数に圧倒されていた。50両もあると不備が有っても直ぐに修理・補修ができるから常にベストな状態で試合に挑めるな。

 

八幡(ん? あのシャーマンの近くにあるのは、“通信傍受機”か? 正々堂々と試合に挑むサンダースに似つかわしくない物が置かれていると言う事は・・・・?)

 

???「どうしてよタカシ~! どうして私の気持ちに気づいてくれないのよ~!」

 

なんか近くで山伏とのデートをすっぽかされて、やけ酒を飲んで泥酔している足柄のような声が聞こえたが・・・・。

 

安定「八さん、アソコ、アソコ・・・・」

 

安定が指差す方を見ると、赤みかかった茶髪に小さなツインテールにした少女がシャーマンの近くで泣きじゃくっている少女がいた。

 

???「タカシ~~~!」

 

サンダース付属の戦車道チームのパンツァージャケットを着た少女がいた。確か彼女はサンダースの『アリサ』だったけ? 本名なのかニックネームなのか分からんな。

 

アリサ「・・・・ハッ!」

 

八・清・安「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

アリサさんはようやく俺達の存在に気づいたのか、唖然として俺達を見つめて、俺達もなんとも言えない顔でアリサさんを見ていた。見てはならないモノを見たしまった気分・・・・。

 

アリサ「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

八・清・安「「「・・・・・・・・・・・・・」」」

 

お互いに無言のまま動かないでいた。どうすんだよこの空気・・・・。

 

アリサ「・・・・し・・・・」

 

八・清・安「「「“し”・・・・??」」」

 

アリサ「し、侵入者!? 不審人物! 不法侵入者!!」

 

アリサさんが慌ててがなりたてた、まぁ女子校に男性がいたら当然こんな反応だわな。

 

???「何をしているんだいアリサ?」

 

すると戦車道格納庫に、灰色のボーイッシュなベリーショートのイケメンフェイスの女子が現れアリサさんの隣に付いた。何だ? この天龍と木曾のようなおっぱいの付いたイケメン系女子は?

 

アリサ「ナ、“ナオミ”! 不法侵入者よ! 今すぐ隊長に連絡して!」

 

ナオミ「落ち着きなよアリサ、彼らの胸に『来客』のネームプレートが刺してあるだろう?」

 

『ナオミ』、そうか彼女がサンダースの名砲手のナオミか、実力的には高校生戦車道でかなり名前が通っている女子だな。

 

アリサ「ホントだ。でも何でウチの戦車格納庫に来ているのよ?」

 

八幡「あぁ、それはその・・・・」

 

不味いな、「貴女達の戦車の偵察に来たんです♪」なんて言える訳無いし、清光も安定もどうしょうかと困り顔だ。何も言わない俺達にアリサさんとナオミさんが訝しそうに見つめている。

 

八幡「じ、実は・・・・」

 

???「ウワオォッ!! 八幡ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

ドスン! ボニュン!

 

八幡「うおぉっ!?」

 

背中から陽気な声が響くのと同時に何かが背中に突撃した衝撃と、とてつもなく柔らかく弾力に溢れた優しい感触が背中に当たっていた。

 

八幡「ケ、“ケイ”さん?」

 

ケイ「YES! ひっさしぶりね八幡! 中々こっちに来てくれないから寂しかったわ!!」

 

俺の背中に突撃してきたのは、ウェーブがかかった金髪ロングに、パンツァージャケットの下のタンクトップから見える深い谷間と、これぞアメリカンドリームと言わんばかりのメリハリが効いたナイスバディをした陽的な明るい美女(一応日本人)、『サンダース大学付属高校戦車道隊長 ケイ』さんだ。太陽のように明るさとポジティブな雰囲気でメンバーをまとめる隊長だ(一応日本人)。

 

八幡「お久しぶりですねケイさん。相変わらず元気(&ナイスな感触)ですね・・・・」

 

ケイ「まぁね! 清光も安定も久しぶり!」

 

相も変わらず狙っているのか、天然なのか、俺の背中にもたれながらも、そのナイスなバストを押しつけながら清光と安定にも挨拶するケイさん。あの、嬉しい感触だけど離れてくれませんかね?

 

清光「久しぶりケイさん♪(やれやれ、小町ちゃんのお義姉さん候補のご登場だ)」

 

安定「また会えて嬉しいですよ(八さん、あんまりデレデレしないでね)」

 

目線で何か言っている。清光の言葉の意味は解らんから兎も角。安定よ、甘く見るなよ。ケイさんのボディアタックでデレデレするならとっくに金剛のスキンシップで骨抜きになっとるわ。

 

アリサ・ナオミ「「(ポカーン・・・・・・・・)」」

 

おっと目の前にいた二人が突然の展開に目を白黒にして呆気にとられていた。

 

八幡「ケイさん。チームメイトの二人が唖然としてますよ」

 

ケイ「OH! そうだった。アリサ、ナオミ、紹介するわね。こちらの二人は加藤清光に山本安定。そしてこちらの彼は、私のボーイフレンドの比企谷八幡よ♪」

 

オイ! 何か爆弾発言が来たぞ!

 

アリサ「えっ? ええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!! こんなゾンビ映画に出てきそうな腐った目の男が! た、隊長のボーイフレンドーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!???」

 

ナオミ「(口笛)ヒュ~~♪♪」

 

ナオミさんは冷やかすように口笛を吹き、アリサさんは失礼な事を叫んで両膝を付いて項垂れた。

 

アリサ「そ、そんな・・・・そりゃ隊長は確かに美人だし、胸も大きいし、本当に日本人か?(一応日本人だけど)って思うくらいスタイルも抜群に良いし、性格も良好だし、ファンも多いけどナオミと同じ女の子のファンばかりで男の影なんて全く無いと思っていたのに・・・・! ただでさえ色々恵まれていているのにさらに彼氏までいるなんて、どんだけリア充なのよ・・・・!!」

 

何か、色々と現隊長に対してコンプレックスがあるようだな未来のサンダース隊長は。何か親近感湧くわ。

 

八幡「あの、アリサさんで良いですか? 言っとくけど、ケイさんが言っている“ボーイフレンド”って言うのは“男友達”と言う意味でのボーイフレンドなんすよ」

 

アリサ「えっ? そうなの?」

 

ナオミ「それは少し残念だね。隊長の恋人がどんな人なのか興味有ったのに」

 

嘘は言っていない、ボーイフレンドは直訳すると男友達って意味だから間違ってはいない筈だ。

 

ケイ「(ボソボソ)私は両方の意味を込めてボーイフレンドって言ったんだけどな~」

 

清光「(ボソボソ)すみませんケイさん、ウチの八さんは人の好意に本当に鈍感でして・・・・」

 

安定「(ボソボソ)年齢=恋人いない歴が影響してるんです・・・・」

 

オイコラ、何か凄く失礼だぞお前ら。

 

ケイ「ノープログレムよ! “的”が攻略の難しい難攻不落な強敵の方が、私って燃えるから!」

 

あのケイさん、“的”ってなんですか? “的”って?? 何か得たいの知れない寒気がするんですけど??

 

 

 



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サンダース付属はオープンである

ナオミ「それで、その隊長のボーイフレンドはどうしてウチの戦車倉庫に来たのかな?」

 

ナオミさんが至極もっともな質問をしてきやがった。チッ、ケイが現れてなぁなぁな感じでうやむやには出来なかったか・・・・。

 

ケイ「あぁそれは私が八幡に最近会えてないから、丁度サンダースに来ていたので戦車倉庫に来て欲しいって連絡したからなのよ」(パチクリ!)

 

ケイがソッと俺に向かってウィンクした。どうやら学園長から俺<本丸鎮守府提督>が航路の打ち合わせに来ている事を聞かされていたようだな。

 

清光「そうなんですよ。んで俺と安定もサンダースの戦車が見たいって言ったから、八さんが連れてってくれたんです」

 

安定「そしたら八さん、サンダースの学園艦が大きくて広いから迷子になっちゃってたんです」

 

清光と安定がケイさんの話に合わせたか。じゃ俺も。

 

八幡「えぇ実はそうなんです」

 

アリサ「ふーん、でも一応部外者は立ち入り禁止だから、とっとと帰ってよ」

 

八幡「(ムッ)そんなツンケンな態度だと、意中の人は気づいてくれないかもな・・・・」

 

アリサ「なっ!!」

 

アリサさんの態度にムカついたからさっきの事をチラつかせると、慌てて俺の口を塞いだ。

 

アリサ「(ボソボソ)さ、さっきの事は隊長達には黙っておいてよ!」

 

八幡「はいはい、分かってますよ(黒笑)」

 

こんな面白いネタ<弱味>、そう簡単に喋りはしませんって・・・・ん? ポケットの携帯が振るえている、確認してみると大淀からのメールだった。

 

大淀[提督、間も無くサンダース学園長との会合です。直ぐにお戻りください]

 

八幡(もうそんな時間か・・・・了解っと)

 

八幡「すみませんケイさん、そろそろ俺達はお暇させて貰います・・・・」

 

ケイ「OH! 残念。せっかくだからサンダース戦車道チームのブリーフィングを見て行ってほしかったわ」

 

八幡(それは残念だが仕方ない)

 

八幡「それでは失礼します。清、安、行くぞ」

 

清・安「「あいよ」」

 

俺は清光と安定を連れだって、会議場所へと移動した。今度はちゃんとケイさん達に道を教えて貰ったからな。同じ轍は踏まん。

 

 

ーアリサsideー

 

アリサ「隊長。いくらボーイフレンドだからって、部外者、それも男を入れるだなんて・・・・」

 

ナオミ「良いんじゃないか? 隊長がボーイフレンドに会おうとするのは」

 

アリサ「アイツが他の学校の偵察だったらどうするのよ?」

 

ナオミ「ふむ、隊長。彼はどこの学校の生徒ですか?」

 

ケイ「ん? 大洗学園よ♪」

 

アリサ「大洗って・・・・ウチの一回戦の相手じゃないですか!?」

 

ケイ「ノープログレムよ! 例え偵察、私達は負けないから♪」

 

ウィンクする隊長の言葉にナオミは同意するように頷くけど、やっぱり“アレ”は必要ね・・・・。

 

 

ー八幡sideー

 

八幡「では、この航路でよろしいですね?」

 

サンダース学園長「えぇ、燃料と資材などはまだ余裕がありますからな」

 

八幡「分かりました。護衛の艦娘は以下のメンバー、阿賀野、能代、矢矧、酒匂ですが、そちらとしてはどうでしょうか?」

 

サンダース学園長「はい、護衛艦の艦娘もそれで良いです」

 

八幡「では、本日の会合はこれくらいと言う事で?」

 

サンダース学園長「わざわざお越し頂いて恐縮です、比企谷提督。お見送りをしましょうか?」

 

八幡「いえ、御校の生徒達に見られるのは避けたいので・・・・」

 

サンダース学園長「あぁそうですね。ではここで、本日はありがとうございました」

 

八幡「こちらこそ」

 

サンダース学園長との会合も終わり、サンダース学園長と握手をかわして、俺は大洗と清光と安定を連れて学園長室を退室し少し歩く・・・・さてと。

 

八幡「はぁ~~。肩が凝るわ・・・・」(カクンカクン)

 

ようやく肩から力を抜くことが出来る俺は肩を鳴らしながら気を緩めた。

 

大淀「お疲れ様でした提督」

 

清光「かなり気取った感じだったね~」

 

安定「最初の辺りは大淀さんが代わりに話し合いをしてもらっていた置物見たいな感じだったのに、成長したよね」

 

八幡「大淀ありがとうな。あと清、安、五月蝿いぞ」

 

労う大淀と違って清光と安定はからかいやがって。

 

大淀「では提督、私は一足先に連絡船に戻っていますので、ケイ戦車道隊長にご挨拶をしてきてください」

 

八幡「えっ? なんでだよ??」

 

大淀「な・ん・で・も・で・す」

 

はて、何故大淀さんは笑顔なのに圧が出ているんでしょうか?

 

八幡「(大淀を見送り)仕方ない、清、安。ケイさんに一応挨拶に行くぞ」

 

清・安「「は~い」」

 

俺達は再び戦車倉庫に向かっていたが、なんか騒がしいなと思って角を曲がると、何かフワフワした毛玉が突撃してきた。

 

ドゴッ!

 

八幡「ぐおぁ!?」

 

???「うわっ!」

 

清・安「「主っ!?」」

 

角から現れた毛玉とぶつかり、尻餅を付いた俺は同じように尻餅を付いた毛玉を見る。あれ? このユルフワの毛玉、見たことある。と言うか・・・・。

 

八幡「こんな所でなにしてんだ、秋山?」

 

優花里「あれ? 比企谷殿? 加藤殿に山本殿? 何故お三方がここに?」

 

質問を質問で返すなよな、人殺しのサガを持った手フェチの殺人鬼みたいな台詞を吐きそうになったぜ。

 

安定「優花里さん、何でここに?」

 

サンダースモブ生徒1「侵入者を探せっ!」

 

サンダースモブ生徒2「戦車道のブリーフィングに忍び込むとは、舐めたことしてくれる!!」

 

清・安「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

八幡「・・・・・・・・・・・・秋山?」

 

優花里「ア、アハハハハハ・・・・」

 

半眼になる俺達の視線から目を逸らしながら、乾いた笑い声を上げる秋山。

 

八幡「(ため息)たくっ、とりあえず逃げるぞ」

 

清光「優花里ちゃん、ついてきて」

 

安定「ほら急いで」

 

優花里「うわうわ!」

 

秋山を連れて俺達はコッソリと逃げる。メールで大淀に連絡を取っておく。

 

 

* * *

 

優花里「ひ、比企谷殿。何故に連絡船があるのですか?」

 

八幡「細かい事は気にすんな。とりあえずお前は倉庫にでも隠れていろ」

 

連絡船についた俺達は、秋山を倉庫に放り込んでそのままサンダースの学園艦から離れた(大淀は秋山を連れてくる前に連絡を入れて秋山に見つからないように隠れてもらっていた)。

 

秋山を隠したので一応ケイさんに連絡を送っておくか。

 

八幡「すみませんケイさん。挨拶に行こうと思ったんですが、何か忙しそうだったので挨拶をしないで帰ってしまい・・・・」

 

ケイ《ドントウォーリー! こっちもバタバタしちゃって挨拶しないでソーリーね。次は戦車道一回戦で会いましょう!》

 

八幡「一応言っておきますけど、俺は相手チームのマネージャーですけど?」

 

ケイ《ノープログレム! 戦車道はスポーツマンシップで執り行うスポーツだからね! 敵とか味方とか細かい事は気にしなくてオールオーケーよ!》

 

う~む、この大雑把な所が良い所と思って良いのか? 副隊長のアリサさん、苦労してそうだな。

 

ケイ《所で八幡、聖グロリアーナのダージリンにプライベートナンバーを教えたそうね?》

 

八幡「・・・・・・・・ハテ? イッタイナンノコトヤラ??」

 

ケイ《この間ダージリンが自慢気に話してくれていたのよ》

 

ちょっとダージリンさん? 少々口が軽いんじゃないんですか?

 

ケイ《ダージリンにだけに教えるなんて不公平よ八幡?》

 

八幡「はあ・・・・」

 

ケイ《だ・か・ら♪ 私にも教えてくれないかしら?》

 

八幡「・・・・・・・・まぁ、ダージリンさんにだけに教えてケイさんには教えないって言うのは少し失礼ですからね、今度の一回戦の時に教えます」

 

ケイ《イエス! サンキュー八幡! チュッ♥》

 

なんか最後にキスするような音が聴こえたが、気のせいと言う事にしよう・・・・。

 

 

~大洗学園艦~

 

大洗に戻った俺達はそのまま秋山の家に送りに行く。大淀には連絡船の手続きやらしてもらい、丁度放課後を迎えた小町に連絡を入れて大淀を迎えに来てもらった。

 

八幡「悪いな小町」

 

小町「良いよお兄ちゃん。それよりも優花里さんをちゃんと送るんだよ。この気遣い、小町的にポイント高い!」

 

大淀「ポイント高いですよ小町さん」

 

だからなんのポイントだよ? 大淀はそのまま小町と一緒に本丸鎮守府に戻ってもらい、俺は別の場所で待たせてある秋山と清光と安定と合流して秋山の家に向かう。

 

八幡「それで秋山、なんだってお前はサンダースに来ていたんだ?」

 

優花里「いや~そのですね、西住殿に少しでもサンダースの情報を教えれる事ができれば、西住殿の作戦立案の役に立てると思ったので、コンビニの定期便に忍び込んでコッソリ入手したサンダース制服を着て戦車道の作戦会議に潜入したのですが、ちょっと失敗しまして・・・・」

 

コンビニの物資運搬の定期便に忍び込んで潜入って、以外と行動力があるなコイツ。定期便の警備体勢の見直しも必要だな。

 

清光「でも今日って学校あったんじゃない? そっちはどうしたの?」

 

優花里「あぁ~、それはでありますね・・・・」

 

安定「無断欠席、サボったの?」

 

優花里「まぁ、平たく言えば・・・・そうであります」

 

八幡「お前な・・・・」

 

優花里「あぁでも! 比企谷殿達だって学校をサボっているじゃないですか!」

 

八幡「一緒にすんな。俺達はちゃんと学校から許可を貰っているんだよ」

 

優花里「ええぇぇっ!?」

 

安定「僕達の方は捨て置いて、何でまた西住さんの為にそこまで?」

 

優花里「あ、はい。実は先日学園艦に戻る連絡船で、生徒会の人達に、“絶対に勝て”と言われて、西住殿が困っていたのでそれで・・・・」

 

安定「それでサンダース潜入したって、優里花さんも無茶するなぁ」

 

清光「もし捕まったら大変な事になっていたよ」

 

八幡「最悪、監禁&拷問も有り得たかもな」

 

優花里「ええぇぇ! そんなぁ!?」

 

八幡「まぁそれは半分冗談として」

 

優花里「半分っ!?」

 

まぁケイさんの性格上拷問はないだろうがな。なんてバカな会話を繰り広げている間に、秋山の家である『秋山理髪店』へと到着した俺達。

 

優花里「比企谷殿、私は二階から入っていきます。両親にも黙って行っていたので・・・・」

 

八幡「分かった。俺らは正面から行くな」

 

秋山を見送ると俺達は理髪店に入っていった。

 

八幡「すみませ~ん、秋山優花里さんはご在宅でしょうか?」

 

???「っ!?」

 

何か、店主らしい眼鏡をかけたパンチパーマをした男の人が俺を睨んだ。えっ? 何ですか?

 

秋山(父)「どうも、優花里の父です」

 

八幡「あっ、これはどうも。秋山優花里さんの所属する戦車道のマネージャーの比企谷八幡と言います」

 

秋山(父)「(ピクッ)ほぉ~、そのマネージャーさんがウチの娘に一体何の用ですか?」

 

あの秋山のお父さん、何で殺気を放ちながらハサミを構えてらっしゃるのですかな?

 

清・安「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

それと俺の後ろからも秋山のお父さんに向けて殺気が飛んでいるのですが、これは振り向かずとも分かる。間違いなく清光と安定だな。

 

清・安「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

秋山(父)「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

あのお三方、何で殺気を放ちながらメンチ切り合っているのですか? 間に挟まれた俺は生きた心地がしないのですが・・・・。

 

???「もうあなた、せっかく来てくれた優花里のお友達に失礼じゃない・・・・」

 

すると秋山の面影がある女性、おそらく秋山のお母さんが秋山のお父さんを宥める。

 

秋山(父)「だけどおまえ、こんな目付きの悪いヤツとマニキュアをしているヤツや長髪なんてチャラい髪型したヤツが優花里の友達だと思うのか??」

 

悪ぅ~ござんしたね、目付きが悪くて。

 

秋山(母)「もうあなたったら目付きで人を判断したらダメでしょ? さっき来た子達と同じように優花里のお友達よ」

 

八幡「えっ? さっき来た子達??」

 

秋山(母)「えぇ、上がっていって、優花里ももうすぐ帰って来るから」

 

秋山のお母さんに勧められて家に上がる俺達、清光と安定は秋山のお父さんと相変わらず睨み合って火花を散らせていたが・・・・。

 

秋山(母)「ここが優花里の部屋よ。さっき来た子達もいるからね」

 

八幡「はぁ・・・・」

 

曖昧に返事した俺達は秋山の部屋に入ると、もはや見慣れた四人がいた、西住と武部と五十鈴と冷泉だ。

 

みほ「ひ、比企谷くん・・・・?」

 

八幡「あ、西住・・・・?」

 

秋山のお母さんが部屋から離れ、俺達は秋山の部屋に入ると、西住と武部、五十鈴と冷泉がいた。それにしても秋山の部屋って戦車のプラモやポスター、戦車関連グッズでいっぱいだな。まだ艦娘達の部屋の方がお洒落しているぜ。

 

八幡「んで? 西住達は何で秋山の家に?」

 

みほ「優花里さんが今日学校を休んでいて、携帯にも出なかったから心配で・・・・」

 

沙織「そう言う比企谷に清くんと安くんもどうしたの? 小町ちゃんに聞いたら三人とも今日は風邪気味だから休むって聞いていたけど?」

 

華「風邪はもう良いのですか?」

 

まぁサンダースの学園長と航路スケジュールの打ち合わせに行っていました、だなんて言える訳ないよな。

 

優花里「あれ? 西住殿達?」

 

沙織「ゆかりんっ!?」

 

麻子「なんで窓から入ってきた?」

 

とか言っている間に秋山が窓から入ってきた。

 

優花里「皆さんどうしたんですか?」

 

みほ「秋山さんこそ」

 

華「連絡が無いので心配して・・・・」

 

優花里「すみません、電源を切ってました」

 

沙織「つーか! なんで玄関から入ってこないのよ!」

 

優花里「いや~、比企谷殿達と一緒に帰宅したら父が心配すると思ったので・・・・」

 

確かにさっき秋山がいない状況でも、秋山の親父さん凄い殺気を出していたからな。秋山と一緒に帰って来たらマジで血の雨が降っていたかもしれん。俺の血か、親父さんの血かは分からないが・・・・。

 

優花里「でも丁度良かったです! 是非! 見ていただきたい物が有るんです!」

 

USBメモリを出した秋山はそれをテレビに繋げて再生すると、『実録! 突撃!! サンダース☆付属高校』と表示された映像が流れた。

 

華「こんな映像が有るんですね」

 

沙織「何処で手に入れたの?」

 

優花里「フフ~、実はサンダースに潜入して帰りの連絡船の中で自分で編集しました!」

 

コイツ連絡船の中でそんな事してたのか、どうりで大人しいと思った。

 

優花里「テロップもまだ仮なんですけどね」

 

清光「いやそう言う問題じゃないでしょう?」

 

サンダースの制服に着替えようとした映像の時は俺達男衆は目を背けた、俺達は紳士だぜ。

映像が流れると、サンダース戦車道チームのブリーフィングが開かれていた。秋山って社交的だな、あっという間にサンダースに溶け込んでやがる。映像の中のケイさんとアリサさんとナオミさんが制服で現れた。

 

アリサ【では一回戦出場車両を発表する。ファイアフライ1両、シャーマンA1 76ミリ砲搭載1両、75ミリ砲搭載8両】

 

優花里【(ヒソヒソ)容赦ないようです・・・・】

 

ホント容赦ねぇわ・・・・。

 

ケイ【じゃ次はフラッグ車を決めるよ! OK!?】

 

サンダース隊員達【イエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェイッッ!!!】

 

なんだこのレッツパーリィーしそうな雰囲気は? 光忠達伊達組も溶け込めそうだな。

 

優花里【(ヒソヒソ)随時とノリが良いですね。こんな所までアメリカ式です】

 

サンダース隊員達【おおぉ~~!】

 

優花里【フラッグ車が決まったようです】

 

アリサ【何か質問は?】

 

優花里【はいっ! 小隊編成はどうしますか!?】

 

ケイ【おぉ良い質問ね。今回は完全な二個小隊は組めないから、3両で1小隊の1個中隊にするわ!】

 

優花里【フラッグ車のディフェンスは?】

 

ケイ【ナッシング!】

 

優花里【敵には三突がいるのですけど?】

 

オイ秋山、こっちの戦力を相手に教えるな、不自然だろう。

 

ケイ【大丈夫。1両でも全滅させられるわ!】

 

サンダース隊員達【おおぉ~~!】

 

ナオミ【見慣れない顔ね?】

 

優花里【えっ?!】

 

ざわざわ・・・・。

 

アリサ【所属と階級は?】

 

優花里【えっ、あのー、第六機甲師団オッドボール三等軍曹であります!】

 

秋山・・・・実はおまえってアホだろう。

 

ケイ【ぷっ・・・・!】

 

ナオミ【偽物だーーーー!!】

 

優花里【うわーーーーーーーーーーー!!】

 

一目散に逃げ出す秋山。

 

アリサ【待ちなさい! 追えーー!!】

 

ブリーフィングルームから通路に出る秋山。

 

優花里【ハァハァハァ、有力な情報を入手しました! これでレポート終わります! うわっ!】

 

八幡【ぐおぁ!?】

 

清・安【【主っ!?】】

 

なるほど、ここで俺達と出くわしたって訳ね。画像が消えてエンドロールが流れた。

 

麻子「なんと言う無茶を・・・・」

 

優花里「頑張りました!」

 

みほ「比企谷くん達はどうしてサンダースにいたの?」

 

八幡「あぁ、実は俺達も偵察しようと思ってな、会長に許可を貰ってサンダースに行っていたんだ」

 

安定「それである程度に戦車の事が分かったから帰ろうとしたら」

 

清光「優里花ちゃんと会ったって訳」

 

華「皆さんも無茶をしますね」

 

優花里「それで比企谷殿達の乗ってきた連絡船で帰って来たのであります」

 

沙織「でも良いの? こんな事して・・・・」

 

優花里「試合前の偵察行為は承認されています! 西住殿、オフラインレベルの仮編集ですが、参考に為さってください」

 

みほ「ありがとう。秋山さんのおかげでフラッグ車も分かったし、頑張って戦術建ててみる!」

 

沙織「無事で良かったよゆかりん」

 

麻子「ケガは無いのか?」

 

華「ドキドキしました」

 

清光「今度から偵察行くときは俺達マネージャー組にも声をかけてよ」

 

安定「僕達も協力するから。ね、八さん?」

 

八幡「ま、秋山1人で無茶させるよりは安心できるな」

 

秋山が感激したような顔になる。

 

優花里「・・・・心配していただいて恐縮です。西住殿達もわざわざ家に来ていただいて・・・・」

 

華「いいえ、おかげで秋山さんの部屋も見れましたし」

 

色気の無い部屋だがな。

 

優花里「あの、部屋に来てくれたのは皆さんが初めてです。私、ずっと戦車が友達だったので・・・・」

 

八幡「それ言ったら俺も去年までずっとぼっちだったぞ」

 

みほ「えっ? そうだったの?」

 

麻子「てっきり加藤さんや山本さんとずっと一緒にいたと思っていたが・・・・」

 

清光「俺と安定が八さんと一緒になったのは去年の頃だったからね」

 

沙織「ここにアルバムがあるけどさ、ほとんど戦車写真だね」

 

優花里「あっ・・・・」

 

おい武部、無断で人のアルバムを見るなよな。と言いつつ俺も覗いてみると。

 

八幡「・・・・おい秋山、なんでパンチパーマになってんだ?」

 

写真の中の幼い秋山がパンチパーマになっていた。

 

優花里「癖毛が嫌だったし、父がしてるのを見てカッコいいと思いまして。中学からはパーマ禁止だったので元に戻したんですけど」

 

八幡「友達できなかったの、戦車じゃなくてこのパンチパーマのせいだろう・・・・」

 

沙・清・安「「「うんうん・・・・」」」

 

優花里「えっ?」

 

秋山って以外と結構アホだな。

 

麻子「何にせよ、一回戦を突破しなければな・・・・」

 

華「頑張りましょう!」

 

沙織「一番頑張んなきゃいけないのは麻子でしょう?」

 

麻子「何で?」

 

安定「忘れたの冷泉さん・・・・」

 

清光「明日から、朝練が始まるよ」

 

麻子「・・・・・・・・・・・・えっ?」

 

冷泉が絶望の表情を浮かべる。

 

麻子「ひ、比企谷さん、マネージャーとして起こしに来てくれ・・・・!!」

 

八幡「お前な・・・・」

 

沙織「麻子! 比企谷達に迷惑かけちゃダメじゃない!!」

 

麻子「私がいなければ戦車が動かないぞ!? それでも良いのか!?」

 

コイツ、自分で自分を人質に取りやがった。ふてぶてしいヤツ。

 

八幡「(ため息)分かった分かった、起こしに行ってやる」

 

みほ「比企谷くん、大丈夫なの?」

 

八幡「大丈夫だ。清光と安定もいるし、万一遅刻しそうになったら簀巻きにして学校に連行する」

 

優花里「なんだかんだ言って比企谷殿は面倒見が良いですね」

 

華「ですが、麻子さんに不埒な真似はしないでくださいね」

 

沙織「そうだよ! 私も手伝うけど、麻子にエッチな事しちゃダメだからね!」

 

何を言ってんだか、清光と安定は彼女持ちだし、俺もイエスロリータって訳ではないからそんな事は絶対しないわ・・・・多分。

 

 

* * *

 

秋山の家を出て(その際また秋山の親父さんが清光と安定とまた睨み合った)、西住達と別れてすぐに政府からの【出陣要請】が送られ、内容を見て長谷部に連絡を取り、急いで本丸鎮守府に戻った俺達は、審神者の執務室に事前に選抜していた出陣メンバーの刀剣男士を集めた。

 

八幡「もう長谷部から聞いていると思うが、『永禄八年』にて『時間遡行軍』が動いているとの事だ。時代は1565年 6月17日、室町幕府第13代将軍足利義輝らが討たれた『永禄の変』、または『永禄の改変』が起こった時代だ」

 

こんのすけ「今回向かう時代は、その『永禄の変』が終わって“1ヶ月”が過ぎた時です」

 

宗近「はて? “永禄の変が始まる前”や“永禄の変の真っ只中”ではなく、“永禄の変が終わった後”に現れるとは、なにやらキナ臭いな?」

 

出陣メンバーの三日月宗近が思案顔で呟く、正直俺も腑に落ちない。今までの『時間遡行軍』の行動パターンからして、『永禄の変』を改変するために現れるなら兎も角、『永禄の変』が終わった時間軸に現れるのは不自然だ。

 

八幡「確かに色々気になる点があるが、それも含めて『永禄の変』が起こった京の都の調査をしてくれ。出陣メンバーは、『太刀 三日月宗近』」

 

宗近「あいわかった」

 

八幡「『太刀 髭切』」

 

髭切「承知したよ」

 

八幡「『太刀 膝丸』」

 

膝丸「了解だ」

 

八幡「『太刀 大典太光世』」

 

大典太「(コクン)・・・・」

 

八幡「『脇差 骨喰藤四郎』」

 

骨喰「分かった・・・・」

 

八幡「そして隊長は、『打刀 山姥切国広』」

 

山姥切「全く・・・・俺に何を期待しているのやら・・・・」

 

八幡「俺にソレを期待するのがそもそも間違っているぞ山姥切」

 

清光「イヤ主がそれ言っちゃったらダメでしょ?」

 

安定「そうそう」

 

清光と安定のツッコミはスルー。

 

八幡「宗近と大典太と骨喰は、『足利の宝剣』として二条御所にいたからな。それに骨喰は将軍足利義輝が最後まで使っていた脇差だ」

 

骨喰「しかし主、俺には記憶が無い。炎に呑まれ焼かれた記憶しか無いんだ・・・・」

 

八幡「あぁそうだったな。だったら、記憶探しも兼ねて今回の任務に付いてくれよ」

 

骨喰「記憶探しか・・・・分かった」

 

八幡「宗近はどうだ?」

 

宗近「フム、懐かしい京の都の案内なら出来るだろう。大典太はどうだ?」

 

大典太「俺の使い道は誰かが病で倒れた時のみ、強い霊力を恐れてご大層な倉にしまわれていただけの刀だ」

 

なるほど、霊刀として扱われていたのか。大典太が厩舎で馬の世話をすると馬達が怯えるって長谷部から聞いていたが、強い霊力のせいだったのか。

 

安定「でも病が治る刀なんて凄いよ! 僕にもそんな霊力があったら・・・・」

 

八幡「安定・・・・」

 

安定「あぁゴメン・・・・」

 

自分にもそんな霊力があったら病床の沖田総司を助けられたかもと言わんばかりの顔をする安定。まったく、んなしょげた顔するなよな。

 

清光「それよりもさ、今は主に刀として使ってもらって、自分の意思で動いたり喋ったりしてるんだからさ。倉に籠る事もないでしょ?」

 

大典太「・・・・・・・・」

 

清光の言葉に大典太が少し困り顔で黙るが・・・・ん? なんだこのドンヨリとした空気は? 山姥切から出ているぞ?

 

山姥切「『天下五剣』の三日月宗近と大典太光世、『足利宝剣』である骨喰藤四郎、『源氏の重宝』の髭切と膝丸、いずれも名だたる名刀ばかり・・・・なのに俺は・・・・写し・・・・」

 

すん・・・・と擬音が聴こえるほどに落ち込む山姥切、あぁ山姥切のネガティブコンプレックスが始まった。

 

八幡「(山姥切の頭を叩く)ほれ山姥切隊長、落ちてる場合じゃねぇぞ。出陣だ、出陣」

 

山姥切「あぁ・・・・」

 

出陣メンバーが執務室を出ていき、今は俺と清光と安定、長谷部とこんのすけだけになった。

 

長谷部「しかし主、太刀が四降りに打刀と脇差が一降りずつ、ずいぶん偏った編成ですね?」

 

清光「それに大典太はこの間顕現したばかりだよ、何が起こるか分からないキナ臭い場所に出陣させるなんて、ちょっと危険なんじゃない?」

 

八幡「だが、“永禄八年”の京の都を知ってるのはアイツらだけだ。それに宗近や山姥切や骨喰がいる、そうそう遅れを取る事は無いだろう。それに、あのマイペースな宗近や髭切と膝丸の手綱役、山姥切や骨喰だけじゃ手が足りないだろう?」

 

安定「あぁ、なるほどね・・・・」

 

究極のマイペースである宗近は勿論、髭切、膝丸も兄者である髭切ほどじゃないが結構マイペースな性格だからな、普段からマイペースな兄弟の鯰尾と構ってちゃんな子犬系女子の夕立と恋人として付き合っている骨喰や、以外とみんなを見ている山姥切がいるなら、大典太も安心できるかもな、何か大典太って“コミュ障ぼっち”って感じがあるし・・・・。

 

 

 

~十数分後~

 

『時空門』のある中庭に来た俺達は、丁度来た出陣メンバーとそれぞれの付き人達が集まった。

 

青い平安装束を着た三日月宗近と、その後に付いてきた高雄と艦娘の三日月。

 

髭切は白で膝丸は黒のスーツのような装束を着て、その後に千歳と千代田が。

 

骨喰は貴公子のような洋服を着て夕立(改)が隣り合わせに来て、その二人の後ろを鯰尾と時雨、それと付き添いであろう吹雪と睦月が。

 

大典太には兄弟刀のソハヤノツルキが一緒に来た。

 

そして隊長の山姥切は戦装束のスーツにいつもの薄汚れた布を巻き付け、叢雲と一緒に来た。

 

八幡「さて、今回は何が起こるか分からないからな。それぞれどんな事態になっても臨機応変に対応してくれ」

 

山姥切達『承知』

 

八幡「それと大典太。渡しておく物がある」

 

大典太「???」

 

俺は大典太の髪と同じ紺色のお守りに雷が好きな大典太用に、稲妻の模様と『刀剣御守』と刺繍したお守りを大典太に渡した。

 

八幡「これは審神者である俺の力を込めたお守りだ。他のみんなも持っている。今回の任務は色々と不明瞭な点が多いからな、何か有ってもお前を守ってくれる筈だ、持っていけ」

 

大典太「これを俺に?」

 

八幡「お前だけじゃないぞ。当然山姥切達も持っている」

 

大典太が山姥切達を向くと、それぞれのお守りを出した。

 

宗近「これらは全て主のお手製だ。主が我ら皆が無事に帰ってくるように想いを込めて作ったのだ」

 

大典太「・・・・主が?」

 

清光「最初の頃は馴れないせいか、よく自分の指を刺して血塗れのお守りを何個も作ったんだよ」

 

安定「今じゃすっかり玄人の領域に入っちゃったけどね」

 

八幡「その内ソハヤノツルキの分も作る」

 

ソハヤ「ソイツは楽しみだな! 良かったな兄弟!」

 

大典太「・・・・あぁ、主」

 

八幡「ん?」

 

大典太「必ず折れずに戻る」

 

八幡「あぁ。山姥切、宗近、骨喰、髭切、膝丸、大典太、出陣だ」

 

『応!』

 

山姥切が時空門を起動させ、6降りが光に包まれる。

 

三日月「お爺様! いってらしゃい!」

 

高雄「(ニコッ)」

 

宗近「ウムいってくるぞ」

 

元気良く手を振る三日月と笑顔で見送る高雄に小さく手を振る宗近。

 

千歳「髭切様、お気をつけて」

 

千代田「膝丸! ヘマしまいようにね!」

 

髭切「いってくるよ千歳」

 

膝丸「俺と兄者ならばヘマなどしないぞ千代田!」

 

千歳と千代田ににこやかに会話をする髭切と膝丸。

 

ソハヤ「兄弟! 初陣を飾れよ!」

 

大典太「あぁ・・・・」

 

兄弟からの激励に頷く大典太。

 

夕立「ばみ君! ファイトっぽい!」

 

骨喰「あぁ」

 

大きく手を振る夕立に、骨喰も微笑んで答える。

 

叢雲「山姥切、隊長としてしっかりとね!」

 

山姥切「写しの俺でも、隊長としての責務は分かっている。心配するな叢雲」

 

叢雲「べ、別に心配なんかしてないから!//////」

 

はい叢雲のツンデレ入りました。

 

八幡「全員、気をつけて行けよ!」

 

山姥切達『(コクン)』

 

俺の言葉に頷く刀剣達は“永禄八年”へと向かった。

 

足利義輝亡き後の京の都、ソコに骨喰を待ち受ける存在がいたことを、俺は帰還したみんなから聞いたのは、サンダースとの一回戦が始まる前日だった。

 




今回の出陣は、『刀剣乱舞 活劇』から抜粋しました。


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