丁稚雀《マスター》リライスの繁盛記 (ゆっくりいんⅡ)
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第一話 まさかこんな姿になろうとは……

 流行(イベント)に乗っかった形を勢いと思い付きで書きます。山ナシ谷ナシオチなしのギャグです、生暖かい目でご覧ください。
 目標は一日一回投稿です(無理じゃないかなあという顔)
ちなみに、イベントは昨日から始めました。ホント異聞帯長いし強い敵多すぎ……


マスター「慰安旅行とか言ってたけど、やっぱりトラブルあるじゃん。何? 私どっかの眼鏡な小学生みたいに、トラブルを引き起こす体質なの?」(やさぐれた瞳)

※注意
・主人公のぐだ子ことリライス(♀)、若干キャラ崩壊?
・現在開催中イベントのネタバレがあるかもしれません
 


 彼岸と此岸の狭間にあるお宿、閻魔亭。カルデア一行は形成されたこの特異点に、令シフトのテストも兼ねて正月の慰安旅行に訪れている。

 時間は宿屋に到着し、各人がそれぞれの部屋に案内された頃。マシュと二人のんびりしていたところに三人娘(人外ズ)が入ってきて、のんべんだらりとしているところから始まる。

「あ~、久々に本気で慰安って感じがする~……」

 人類最後のマスターと呼ばれる少女、リライス。人理を修復したと思ったら癖の強すぎる特異点に殺されかけまくったり、救った世界が異聞帯に滅ぼされて絶賛侵蝕中という「何このハードモード、何で死なないの私?」と、最近やさぐれがちである。

 が、ここに来てようやくまともな休暇が取れるとのことで、だらけながらも死に掛けた目に活力が戻ってきている。これには出来る後輩、マシュ・キリエライトも安堵の表情。

「お疲れ様です、先輩。ここ最近は異聞帯の攻略で余裕がなかったですからね……あ、お茶を入れましょうか?」

「おねがーい。マシュが淹れるお茶は何でも美味しいから~」

「ささ、マスター。待っている間はどうぞ私の隣に」

「あーダメだって清姫、この暖かさはダメになるー……」

「ふふ、マスターが寒くないよう、私(の温度を)ちょうどよく暖めておきました」

「……そーいや蛇って変温動物ですからねえ。妙なところで芸達者ですねあなた」

 心地良さそうに体重を預けてくっつくマスターと、幸せそうに受け止めている清姫を見て、対面の玉藻の前は呆れと関心を混ぜた目で二人を見ている。イチャイチャなら他所でやってくれません? と顔に書いてあるが、たれマスターと恋愛至上の清姫に通じるはずがない。

「ぬくい……多分乙女が見せちゃいけない顔してる私ー」

「ああ、たれてるマスターの顔……好き!!(いつもの)」

「何でもありなんですね、分かります」

 そんな感じでイチャイチャぐだぐだしていると、閻魔亭の女将である見た目はロリ、しかしてここにいる女性サーヴァント三人の料理の師匠である女性、紅閻魔がちょこちょこと擬音がつきそうな足取りで入ってくる。

「失礼するでち。皆さん、寛いで……いらっしゃるようでちね」

「あ、女将さん。本当にありがとうございまーす。お陰様でのんびりさせてもらってまーす」

「見れば分かるでち。まあ、気に入っていただけたようならなによりでち。でもリライス様、そのままだと綺麗なおべべが皺になるでちよ?」

 余計なお世話かもでちが、と言いつつ、乱れた服装を直してくれる。完全に世話焼き女房状態である。

 それからマシュが戻ってきて、人理修復や異聞帯について興味津々な女将に話しつつ過ごす。こんなに穏やかなのはいつ以来だろう、と遠い目になるリライスを見て、気付いた後輩とヤンデレは思わず泣きそうになる。

「しかし、これでトラブルを警戒してしまう悲しい私の性」

「大丈夫ですよ先輩、ここはシオンさんが『修正しなくてもいい特異点』と言っていましたし。早々事件は起きないでしょう」

「んーまあそうだよ」

「大変だチュン! 大変だチュン女将! 『カルデアの者』を名乗る人たちが、裏でお供え物の食べ物を食い荒らしているチュン!」

「な、なんでちと!?」

「「「「「……」」」」」

 従業員の雀と女将が焦る中、押し黙るカルデア女子メンツ。沈黙を破ったのは、マシュの見事としか言いようがない土下座だった。

「すいません先輩、ほんっとうに申し訳ないです……! 私が、フラグを立てるようなことを言うから……!」

「頭上げて、間違いなくマシュのせいじゃないから……ああ、また面倒事の予感がバリバリする」

「お労しや……旦那様《マスター》をこんな顔にした原因、速やかに焼き滅ぼさねば」

「清姫、気持ちはありがたいけど多分ゴルドルフ所長達だからね? 普通に味方だからね?」

 気の毒そうに見ている残り二人の視線も合わせて、地味に精神ダメージが蓄積していっている人類最後のマスター。休暇ってなんだっけ(白目)

「……っと、呆けてる場合じゃなし。雀さん、その人達は今どこに?」

「へ? う、裏の奉納殿ですチュン」

 死にそうなのからキリッとしたマスターの顔になったリライス(後ろで清姫が「好き!!」と言っているが、いつも通りなので全員スルー)に、(多分)戸惑った表情で場所を指刺すと、

「よし、ちょうど窓だね。マシュ、『弾いて!』」

「了解ですマスター! マシュっと!」

 指示を受けて即座に盾を構えたマシュが、シールドバッシュでマスターを外に弾き出す!!

「「えええええええ!!?」」

 女将と雀が驚いている中、リライスはスカートを抑えつつ重力に従って落ちていき、

「――旦那様(マスター)、受け止めます!」

 蛇に変化した清姫が、とぐろを巻いて受け止める。

「ん、ありがと清姫。変身、大分早くなったね」

「この姿を恐れないマスターのために、日々研鑽を怠っておりませんので」

「? 何で恐れるの? 寧ろ凄く綺麗な白蛇でしょ?」

「好き!!!!!」(圧倒的愛情)

「はいはいありがと。さて、急ごうか清姫。マシュ、玉藻、巴さん! 先に行ってるよ!」

「すぐに追いつきます先輩!」

「……最近の人間は豪胆なのでちね。牛若丸のような身軽さを思い出させるでち」

「いやいや、マスターが例外中の例外ですからね? あんな人早々いませんよ」

「私は義仲様が平家の兵に放った牛の大群を思い出します……」

 とんだ言われようである。慣れた様子で飛び降りつつマスターを追うマシュも大概だが。

「なーんか嫌な予感がするんだよね……気のせいだといいんだけど」

 一路、奉納殿へ急げや急げ。

 

 

 結論:気のせいじゃないし、間に合いませんでした。

「ちょ、ゴルドルフ所長、それ開けちゃダメなやつです!?」

「うおう何だ!? この声はリライスか!? 驚いた拍子に開けてしまったぞ!!」

「あああ藪蛇だったああ!!」

「マスター、しっかりしてくださいまし!」

 絶望して頭を抱える中、賽銭箱から目も眩むような光が立ち上がり――

 

 

「何がありました!? 清姫さん、先輩、先輩はどこですか!?」

「う、マシュさんですか……マスターなら、私の中に……!? 安珍様、安珍様はどこですか!?」

「落ち着いてください! 後その言い方だと、先輩を食べたように聞こえるんですが!?」

「安珍様は食べてしまいたいくらい愛おしいですが、幾ら私でもそんなことはしません!!」

「微妙に信頼できないですね!?」

 光が収まり、遅れて到着したマシュに問われ、共にいたマスターがおらずパニックになる清姫。若干危ない本音が漏れてるが、(今は)食べていないです。

「いたた……リライス貴様、この私をいきなり突き飛ばすとはどういう了見だ!?」

「あー、眩しかったチュン……仕方ないじゃないですか、条件反射で助けるために突き飛ばし――あれ、所長背が伸びましたチュン?」

「貴様私が気にしていることを堂々と言うな!? 29にもなってそんなもん期待したいけど出来ないわバーカバーカ!

 というかどこに行ったんだ貴様!? 声はすれども姿は見えず……ま、まさかあの箱に閉じ込められたのか!?」

「ボケてるのか本気なのか分からないこと言わないでくださいよ、空腹でお腹の代わりに視力が減ったんですかチュン? 目の前にいるじゃないですかチュン」

「いつも通り所長に対する口の利き方がなってないな貴様!? そしてその舐めた感じの語尾はなん――」

 立ち上がり、あっちこっちキョロキョロしていたゴルドルフが気付く。声が聞こえるのは自分の足元、そこにいたのは――

「なんですかチュン所長、そんな異界の神を見たみたいな顔して」

「貴様……まさか、リライスか?」

「他の何に見えるんですかチュン」

 と言いつつ何言ってんだという感じでこちらをつぶらな瞳で見上げる――オレンジの羽根を持った雀。

「……なあ諸君、あの光のせいで私の目がおかしくなったのか? 目の前に、あの憎たらしい小娘の声で話す雀が見えるのだが」

「え……? 新所長、それはどういう……先輩!? そちらの雀さんが先輩なのですか!?」

「信じ難いですが、間違いありません。私の安珍様センサーが、目の前の雀さんから反応していますので」

「た、確かに私の後輩センサーもそう感じられますが……」

「貴様ら便利だけどおっかないなもの持ってるな!? そんなんで慕われているとはいえ四六時中追っかけられるとか胃に穴が開きそうだぞ!?」

「何事も慣れですチュン所長。というか、マシュも清姫も冗談キツイチュンよ? この麗しの十代を捕まえて雀のようにカワイイなんて――」

 そこでリライスは気付く。起き上がる自分の足が妙に細く、顔に触れようとした手が妙にふわふわしていることに。

「……あー。今度はこういうパターンかチュン。で、所長。何をとち狂ってこんな呪いを掛けてくださりやがったんですチュン?」

「あっさり受け入れるな貴様!? そして雀の癖して目が怖いぞ!?」

「気のせいですチュン。あ、そっちの護衛(笑)のケルト組ですかチュン? 口周りに食べかすがべったり付いてるチュン」

「い、いや、これはだなマスター……」

「……面目次第もない」

 何やら弁解を試みるフィン・マックールと、潔く頭を下げるディルムッド・オディナ。雀に謝罪するという、かなりシュールな姿だが。

「な、何てことをしてくれたでちか……」

 そこに、雀達を引き連れた紅閻魔が到着した。開かれた奉納殿の箱、食い散らかされた料理の山を見て呆然としている。

 そこでやらかした面子を見て険しい顔になり、それに対してゴルドルフ所長が漢気溢れる返事をするのだが、長いのでカットし(「オイふざけるな!」)、女将の話を要約すると、

・奉納殿にある箱には、一年分の『感謝の気持ち』が詰められており、八百万の神々に捧げる予定だった。

・が、箱を開けたことで『感謝の気持ち』がどこかへ行ってしまった。

・やらかしたカルデア組が奉納期限の二週間で『感謝の気持ち』を集めなければ、確実に神罰が下るだろう。

 とのこと。

「……事情は分かった、しかし二週間で一年分のものをどうにかするのか……え、ムリじゃね?」

「そ、それは後で考えましょう新所長! それより、何故先輩がこんな、こんな」

 プルプル震えているマシュが、先輩雀を両掌の上に乗せ、

「こんなカワイイ姿になってしまったんですか!?」

「オイ後輩、ちょっとは心配しろチュン」

「も、勿論心配もしてますよ!」

「清姫、ジャッジチュン」

「嘘は吐いている気配はないです」

「チュン。ならよしチュン。……それで、紅閻魔様。何で私はこんな姿になってるチュン?」

「……多分でちが、見せしめとして神罰が下ったのだと思うでち。『次はお前達だぞ』という、神様からの警告でち。それが一番近くにいたリライスに降りかかったと思うのでち」

「な、なんと可愛らしく恐ろしい……つまり、神罰の内容とは?」

「『雀となって、この旅館から二度と出られない』でちかね……でも安心するでち、そうなったらウチで雇ってあげるでち」

「全然安心できないんだがねえ!? チクショウどうしてこうなった!?」

「寧ろどうしてこうなったのかこちらが聞きたいですチュン」

「あ、いや、それはだな……」

 オッサン言い訳中……

「……はあ。事情は分かりましたチュン。誰にだって失敗はありますし、今回は許しますチュン」

「おお、心が広い……じゃない! 何でそんなに偉そうなんだ貴様!?」

「別にお手伝いしなくてもいいですチュンよ? 私はもう雀になってるから困らないですチュンし」

「いやあリライス君はまさしく救いの女神だなあ! 帰ったら追加のお年玉をあげよう!」

「……嘘ではないみたいです、マスター」

「それ褒められてる気がしないですチュン」

 知り合いのまともな神様なんて、エレちゃんくらいしかいないからね仕方ないね。

「ケルト組もやらかしたとはいえ、所長を守ってくれたのは事実チュン。ここは大目に見ておくチュン」

「おお、流石だマスター! 君の懐の深さはアガルタのようだ!」

「地底世界に突き落とすチュンよ? ああ、ディルムッド」

「は、何でしょうか」

「テメーはダメだ」

「!? な、何故ですかマスター!?」

「真っ先に何の警戒もなく他人の物食い出した奴に慈悲があると思う?」

(せ、先輩の目が怖いです! 雀なのに!)

(雀ってあんな顔できるんですねえ。いや、感心してる場合じゃねーんですけど。語尾消えるくらい怒り心頭ですし)

(そんなマスターも素敵です!)

「令呪を持って命じる」

 

 

 自害せよランサー

 

 

「!!!??」

「……なんて、言わせないでねチュン? さて、あなたはどうするのかチュンディルムッド?」

「み、身を文字通り粉にしてでもやり遂げてみせます!!」

「うんうん、働き者なサーヴァントを持って、私は幸せだチュン」

(誰がどう見ても脅迫じゃないですかヤダー)

「……玉藻や清姫を従えるとかさぞ大変だろうと思ってたでちが、前言撤回でち。ますたーも大概だったでち」

 というわけで、御宿での丁稚奉公が始まります。




後書き
「あちらが人類最悪のマスターなら! こちらは人類最鳥のマスターで対抗するチュン!」
「先輩、喧嘩を売る相手が大きすぎるかと!」
「まずはメッセージで挨拶と感謝の言葉を送り、然る後にフレンド申請だチュン!」
(凄く敬意を払っています――!?)
 
ウチのマスターがすいませんでしたorz
 感想、評価お待ちしてます。モチベに繋がるので!(嘘は吐かないスタイル)
 
おまけ:ここのマシュは小動物が好き。




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第二羽 お仕事開始!

「とりあえず、片っ端から問題を片付けて、いるだろう元凶をぶっ飛ばすチュン」
「先輩、考え方がお宿の手伝いに相応しくないかと! いつも通りなら大体合ってる気はしますが!」
※まだオチを知りません


「先輩、私も従業員の皆様と同じ服装にしたのですが……どうですか?」
「ますたぁ、私もどうでしょうか?」
「GJ、素晴らしいチュン……」
※清姫の服装はマスター(作者)の妄想で補っています




 というわけで、『感謝の気持ち』を集めるために旅館で働くことになったカルデア一行。ケルト(脳筋)組は山へ食材狩りに、玉藻は紅女将の下で調理の手伝いに、残りの面々は掃除などの雑務を引き受ける形となった。

「先輩、せんぱーい? おかしいですね、先程こちらの雑巾掛けをお願いしたのですが……」

「こっちのお酒を猿長者様まで持っていってチュン!」

「了解ですチュン!」

「先輩!? 何で雀さんに混じって接客してるんですか!?」

「チュン、忙しいので手伝ってくれと言われたからついやってたチュン」

「チュン? ……あ、リライス様だチュン!」

「気付いていなかったのですか!?」

 と、雀になったマスターが従業員に混じって働くアクシデントもあったが(ちなみに紅女将曰く、「中々の接客すきるでち、感心するでち、チュチュン」とのこと)、一日働いて問題が出てきた。

「圧倒的客不足チュン……!」

「ですねえ。昔から居候状態の方が数人いるくらいですし、貰える『感謝の気持ち』も文字通り雀の涙ですよ」

「あんまりな事実に涙も出ないチュン」

「しかしこうなると、期日までに集めきるのが……」

「現状では不可能だろうな。あと宿を見て回ったのだが、規模の割に閉まっている施設や部屋が多すぎる。女将以外の従業員が雀九羽だけとはいえ、これは妙だ」

「ほっつき歩いているだけかと思ったら、ちゃんと仕事してたんでチュンね所長」

「貴様いちいち私を無能扱いしないと気が済まないのか!?」

「これでも敬意は持ってますチュン」

「普通に示せ! これでもとか言っている時点で自覚あるんだろうが!」

 いい加減所長がキレそうだが、リライスは気にせず話を進める。余談だが、隣に清姫がいるので嘘は言っていない、そして割といつもの光景である。

「とりあえず、お客が増えないことにはどうしようもないですね……とはいえ、他のお客様はしばらく来ていないとのことですし……」

「ふむ、ならこういうのはどうだろうか?」

 そこでフィオナが提案したのは、神や迷い人でなく縁を結んだサーヴァントを呼び寄せようとのことだった。これなら自発的に誘致が出来るし、自分達もいるのだから女将の許可さえ貰えれば招いても大丈夫だろうとの事。

平行して、閉鎖している客間・施設を修理・改装することにした。客が増えることを考えたら、今の数では足りなくなるだろうからだ。

 この提案を受けたリライスは、(多分)驚いた顔で、

「……フィン・マックール、顔自慢と部下弄りだけのキャラじゃなかったチュンね」

「ははは、手厳しいなマスター! 何、こういう時くらい知恵者としての力を見せなくてはね。

 それに、窮地に陥った女性に手を差し伸べるのは、騎士として当然の行いだろう?」

「うん、いつものフィンだチュン」

 とはいえ、方針は決まった。明日からは通常の雑務も交えつつ、改装のための資材集めと作業も行う必要がある。忙しくなりそうだ。

「あ、玉藻。女将に修繕の許可を貰うついでに、閻魔亭の図面がないか聞いて欲しいチュン」

「図面ですか? それは構いませんが……何にお使いするんですか?」

「そりゃ勿論、建築にだチュン」

「素人が見てどうにかなるんですかねえ……」

 

 

 明けて翌日、資材集めも一通り終わり。

「おはようございまチュ。皆ちゃん、揃っていまチュか?」

「「「「「「「「「「チュ~~~ン!」」」」」」」」」」

「フォ~~~ウ!」

「元気な挨拶、たいへん結構でち。……一人多くないでちか?」

「先輩、そちらは従業員の雀さん側ですよ!?」

 と、段々閻魔亭側に馴染んできているリライスだが、それはさておき。

「女将さんから許可も貰ったし、始めるチュン。全員、用意はいいチュンか?」

「「「「チューン!!」」」」

「好き!!(返事)」

「何でうつってるチュン。それと清姫、今はそれじゃないチュン。それと、サーヴァントだからといって安全確認は怠らないことチュン」

 てな感じで、改築作業が始まった。

「マスター、追加の材木持ってきました!」

「ありがとチュン、じゃあ邪魔にならない適当な……いや、指示するとこに置くチュン」

「先輩、ディルムッドさんが金槌で自分の指を叩きました!」

「唾つけとけば治るチュン」

「マスター!?」

 そんな感じで作業しつつ、約一時間後。

「あの客間を使えるようにしたでちか!?」

「はい、設計上は大丈夫なはずですチュン。古くなった部分の取替えと、清掃しかしてないですチュンが」

「いや、それで充分でち。まさかこんな短時間で仕上げるとは……リライス、お前様宮仕えの大工だったでちか?」

「そんな大袈裟なものじゃないですチュン。以前工事の監督経験がちょっとあっただけですチュン。

 それに私は指示を出しただけで、サーヴァントの皆の規格外な力による作業効率と、読めない部分を清姫が助けてくれたからですチュン」

 というより、古語でほとんど読めなかったのだが。清姫(補助役)がいなければマジで積んでいたかもしれない。本人は「ますたあのお役に立てるのが、私の何よりの喜びですから(ハート)」と、リライスを頭に乗せつつ大変嬉しそうである。

「……これは、あちきも考えを改めないといけまちぇんね。これならお客様が増えても」

「御免、宿泊をよろしいだろうか?」

 話している途中に、着流しを雅に着込んだ青年剣士――自称NOUMINの佐々木小次郎が入ってきた。

「いらっしゃいませでちお客様、歓迎するでち。……何だか血生臭い感じがしまチュね」

「大丈夫ですチュン、基本的に胡散臭くて暇があれば刀振ってる男でチュンが、聖女(物理)もいないし率先して面倒事は起こさないはずですチュン」

「ははは、その知っているような辛辣な物言い、そちらの雀殿はリライスを思い起こさせるでござるな」

「残念ながら本人でチュンよ、小次郎。その言い分だとカルデアの方でチュンね」

「――なんと。いやはや、つくづくそなたは奇々怪々な事象に巻き込まれるのだな。見ていて飽きないとはこのことか」

「面白がらせるためにこうなってる訳じゃないチュン。とはいえ、お客様なら歓迎するチュン」

「小次郎さん、いらっしゃいませ! 来てくれたのですね!」

「ほう、マシュもか。なるほど、怪異ではなく人の縁、か。女将、部屋を見繕ってくれるか?」

「……リライスが言っていたさぁヴぁんとでちゅね。そういうことなら構わないでち」

「お客様チュン! お荷物お持ちするチュン! そっちはお部屋の用意をするチュン!」

「合点だチュン!」

「先輩!? だからそっちは雀さん達の仕事ですよ!?」

「ますたぁ、私から離れないでくださいましね?」

「……は、つい条件反射で仕事に返事してたチュン」

「ははは、社畜は辛いでござるなあ」

「否定出来なくて悲しみに暮れそうだチュン」

「だ、大丈夫ですよ先輩! 皆で一緒に頑張りましょう!」

「ますたぁにはいつ如何なる時も私が憑いていますから、大丈夫ですよ(ハート)」

「……ありがとうだチュン、二人とも。そして清姫、字がおかしいチュン」

「何か悲しい空気を感じまチュが……とりあえず、お客様が来たのはいいことでち。では、追加の食材を用意するでちか」

「じゃあ私達も手伝いに行きますチュン。あと、ケルト(脳筋)組も連れていくチュン」

 

 

 という訳で、マシュ達に湧いて出てきた魔猿を頼みつつ、紅女将とケルト組、そしてリライスは一路御山に食材狩りに。

「ゴアアアァァァ!!」

「む!? 後ろから!?」

「チューン!」ゴズッ

「ゴギャアアアァァァ!?」

「ま、マスター!? 今のはマスターが!?」

「ボケッとするなチュン輝く貌! 怯んでいる内に倒すチュン!」

「! 了解!」

 

 

「驚きました、マスター。雑魚とはいえ、いつの間にそんな力を手に入れたのですか?」

「別に身に着けたんじゃなくて、この姿のお陰チュン。他の雀達に聞いたら魔獣くらい、連係プレイで倒せる力はあるらしいから、いけると思っただけチュン」

「な!? まさかぶっつけ本番だったのですか!?」

「んな訳ないチュン、事前に確かめたチュン」

「ははは、戦術面だけでなく戦略面でも頼りになってきたなマスター! さしずめ美しき女傑と言ったところか!」

「後で覚えてろチュンフィン」

「……確かに呪いとはいえ、神気が宿っているから理屈では成立しまチュが……思い切りが良すぎでち」

夕飯は豪華になりました。

 

おまけ

「生サーモンうまうまチュン。女将さんの料理は絶品だチュン」

「見かけは雀さんですが、食べ物は人間準拠なんですね先輩」

「チュン。だからマシュがミミズ取ってこようとしたら全力で止めたじゃないかチュン」

「すいません、水差しも用意するつもりでした!」

「完全にペット扱いじゃねえかチュン」

「私は飼うより飼われる派ですわ安珍様」

「聞いてねえチュン」

 

 

 




後書き
 リライスの口が悪いのはデフォ。例外はマシュと清姫くらい。
追記
 ゴルドルフ所長は不憫枠(ツッコミ役)


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第三羽 恥を知れい

 パタパタ
「うーん、やっぱり上手く飛べないチュン。グラインドが限界チュンね」
「先輩は普段が人間なので、羽根の身体に慣れてないのかもしれませんね。代わりに落下しても大丈夫になりましたが」
「マシュがいきなり窓から放り投げた時は、鳥類なことも忘れて死ぬかと思ったチュン」
「すいません、先輩ならぶっつけ本番でも大体いける過去があったのでつい!」
「何でも出来るわけじゃないチュンよ。……この後輩、悪気ないのが性質悪いチュンね。
 まあ結局……走った方が速いチュン」ピューン
「先輩、見た目はポッ○みたいなのに速度はドー○ーみたいですよ!?」
「もうちょいマシな例えなかったのかチュン。私の首は一つだチュンよ」


「先輩、行きますよー。それ!」

「チューン――チュ!? あぶな、ギリギリだったチュン!?」

「すいません先輩、ちょっと高く投げすぎました!」

「安珍様の危機と聞いて!」

「いや天井掠っただけだチュン、気持ちはありがたいけど持ち場のやってくれチュン清姫」

「( ´・ω・`)ハーイ……」

 落ち込んで帰る清姫も可愛い、じゃなくて。二人が何をしているかというと、窓拭きである。梯子がないと届かない高い場所をリライス、それ以外をマシュがやっているのだが、

「それにしても、私が投げて先輩が滑空しながら窓拭きをするやり方は正解ですね。効率が違います」

「最初は雀虐待と思われたり、力加減を間違えて天井からバウンドする羽目になったりしたチュンけどね」

「先輩に怪我がなくて何よりです!」

「いやちょっとは反省しろチュン後輩」

 余談だが天井に激突しても、ゴム鞠のように跳ね返って互いにノーダメージという謎現象が起きている。呪いでなった雀の身体だが、色々謎過ぎて考えるのはやめた。

「しかし、上手く飛べないものチュンねえ。あとで他の雀達に教わるのがいいかもチュン」

「私はお手玉みたいで楽しいから構いませんが」

「先輩を玩具にするなチュン、BBかチュンお前は」

「そんな意地悪な事はしないので大丈夫ですよ!」

(あれクラスはシャレにならんチュン)

「でもそうですね、折角雀さんになったのですし、空を飛んでみた――」

 とか話していると、衝撃と一緒に雀達が空を舞っていた。

「何事ですか!?」

「衝撃で空へ……なるほど、そこからアルトリアの魔力放出と同じ要領で上がれば……いけるかチュン?」

「先輩、そこで閃いた! って顔してる場合じゃないと思いますが!?」

 この後、暴れる客の一人、虎名主を止めるために二人は現場に向かうのだが、

「人間、人間喰わせろオオォォォ……!」

「なりまチェン! 今まで何のために我慢してきたでちか!?」

「女将さん、助けに来たチュン!」

「オオオォォ……? ニン、ゲン? ニンゲンノ、ニオイガスル、スズメ……?」

「先輩、辛うじて人間カウントされているようですよ!」

「れっきとした人間だチュン」

「……そこの雀、喰わせろぉ! 左利きの人間の、右足の小指ヲォ!!」

「久々に左利きなのを後悔したチュン」

 この後、マシュと女将の二人で滅茶苦茶ボコボコにした。

 

 

「一大事チュン、一大事チュン!」

「この声は……雀の従業員さんですね! 先輩は私の頭に乗ってます!」

「語尾で判断してるのかチュン後輩。明らかに声質が違うチュン」

 なお、ぐだ子の声優は決まっていない。リヨ? あれはいいから。

「リライス、マシュ、丁度いいところに! 一緒に来て欲しいチュン、奉納殿にあの野鳥(ヤロウ)が現われたチュン! このままだと閻魔亭が全壊するチュン!」

「雀さんがそう言うだけの一大事ですか……どうしますか、先輩?」

「……ネタの予感はするチュンけど、お世話になってるし、とりあえず行ってみるチュン。私達で対処し切れそうになかったら、令呪を使って誰か呼ぶチュン」

「あ、雀さんの姿でも令呪は使えるんですね」

「出来なきゃディルムッドに自害(脅迫)なんてしないチュン」

「先輩、ディルムッドさんは色々トラウマのある方ですし、その、穏便に……」

「だからやったんだチュン」

「先輩!?」

 この先輩、雀だけど目がマジである。

「早くしてくれチュン! このままじゃ時間の問題だチュン!」

「わ、分かりました! 先輩行きま、痛い、痛いです!?」

「あ、ごめんチュンマシュ。まだ爪の力加減が難しいチュン」

「夫婦漫才してる場合じゃないチュン!」

「私女チュンよ? 一回ダヴィンチちゃんに生や(両性具有に)されそうになったチュンが」

「それ初耳なんですが先輩!?」

 ちなみに、割と本気で提案されたとのこと。無論、全力で断った。

 

 

『クエエエエエエエェェェェェ……!!』コケー!!

「来たチュン、先生お願いしますチュン!」

「……確かに、これは雀さん達にとって天敵? なのかもしれませんが……マスター、どうしま」

「何故か殺意の波動に包まれそうだチュン」

「先輩!? 変なとこだけ雀さんと似てきてませんか!?

 ああ、ダメです! マスターが前線に出るのは危険ですから!?」

「大丈夫チュン、この間の食材狩りで戦闘力は証明されてるチュン」

「それでも危ないですから!? というか(シールダー)の存在意義が危ないので守らせてください!!」

 すったもんだの末、マシュが天敵()を上手くしばいた。その日の夕食はから揚げが追加されたそうな。

 

 

「もてなすチュン、盛大にもてなすチュン!」

「よくやってくれたチュンマシュ!」

「だから先輩、何で雀さん(そっち)側にいるんですか!?」

「雀の本能かもしれないチュン」

「本格的に戻れなくなりそうなので来てください!」

「ははは、マシュも苦労しているでござるなあ」

「大変だチュンね」

「いや、お主のせいだからなマスター? あと、いつの間に某の頭上に乗っていたのか、ちと尋ねてみたいのだが」

「細かいこと気にすると禿げるチュン、小次郎。あ、逃げても斬らないで欲しいチュン」

「小次郎さん、燕返しならぬ雀返しはダメですよ!?」

「飛べない鳥に振るう刀はござらんよ」

「豚みたいに言うなチュン。というか飛べたらやるのかチュン」

 無論冗談でござるよ、とお茶で濁されてしまった。あと、マスターはマシュの頭上(定位置)に戻されました。

「そういえば二人とも、『雀の幸』は貯めているかチュン?」

「薪割りや掃除をしている時に、いつの間にか溜まっているあれですか?」

「それチュン。雀の幸は謂わばウチらからの『感謝の気持ち』を形にしたものだチュン。さっきのも合わせてもりもり溜まってるチュン」

「もりもり」

「もりチュン」

「フォウフォウ」

「チュン。だから日頃の感謝も兼ねて、盛大にもてなしてるチュン。あ、リライスお饅頭いるかチュン」

「いただくチュン」

「先輩、改めて見ると羽でお饅頭を千切るって、器用なことしますね……」

「ちょっと食べにくいチュン」

「あ、じゃあ私が食べさせてあげますね! はい、アーンしてください」

「だからそれペットの扱いだチュン」

 とか言いつつ、マシュに食べさせてもらってもっきゅもっきゅしているリライスである。

「それにしても、皆さん博識ですね? 難しい話もご存知というか……

 あ、すいません! 別に変な意味があるわけでは!」

「チュン、大丈夫ですチュン。ウチが博識なのは雀十傑の中で最も頭の回転が速い雀、金庫番の『五官』だからチュン。

 他の雀達も『秦広』、『初江』、『宋帝』、、『変成』、『泰山』、『平等』、『都市』、『五動転輪』。

 と、それぞれ親元からお名前をお預かりしているチュン」

「その名前は、地獄の裁判官である十王のお名前ですね。皆さんはそのご子息なのですか?」

「違うチュン、ただの従者だチュン。でも紅女将は閻魔大王の娘だチュン」

「閻魔大王の娘……え、マジかチュン。だから舌を斬るとか言われてたのかチュン」

「心配するとこそこですか先輩!?」

 そこから、このお宿の成り立ちや紅女将に関連する御伽話などを聞いた。その中に気になるワードもあったが、

「そ、そういえば獄卒の偉い方が一人、従者を欲しがってたチュン! リライス、もしここにずっといることになったら、その人にお仕えするといいチュン!」

(露骨に誤魔化したチュンね。まあ、無理に聞き出そうとしても無理だチュン)「考えとくチュン。ちなみに、なんて名前の方だチュン?」

「鬼神の『鬼○』様だチュン!」

「その名前はまずいんじゃ……!?」

「地獄に行ってもワーカーホリックになりそうチュン……というか、閻魔大王が孫だけじゃなく娘にも甘い可能性が出てきたチュン」

 後日、風の噂から耳にした件の鬼神が、「地獄に来たときは歓迎しますよ」と口にし、偶然それを知った某冥界の女王が焦りだしたとかなんとか。

 

 

「客間は全て解放、お客様も増えてきて中々の繁盛ぶりだチュン」

「たった一日で客間が全て解放されるのは驚きでちた……リライス、お前様本当に宮大工でも何でもないのでちか?」

「私も正直見くびっていましたねえ。サーヴァントの力添えがあったとはいえ、この速度は異常ですよ」

「チュン、物事を限界まで詰めて効率化しただけだチュン、難しいことじゃないチュン。とりあえず次は……」

「大浴場、だな。そもそも我々は温泉を求めての慰安旅行が目的だったしな」

「所長はお肌つるっつるにして、金の卵に間違えられるのを目指してましたチュンね」

「そんな意味の分からんことせんわ! というか貴様、遠まわしに私のこと太っていると言っているよな!?」

「寧ろ痩せてると思ってるんですかチュン。まあ所長は旅館の宣伝にも一役買ってくださったですし、解放されたら一番風呂は譲りますチュン」

「何、それは本当……いやいや違う、女将ならともかく何故お前に許可を貰わなければならんのだ!?」

「じゃあ所長が前線に立って温泉の問題を解決しますかチュン?」

「戦闘経験もろくにない私に戦えというのか!? 温泉からは嫌な気配がするし、普通に死ぬわ!」

「いっそ清々しいくらい戦力外宣言してますねえ」

「嘘を吐かないのはいいことです」

 開き直りで所長の評価が上がった。

「嬉しくないわ!」

「ええと、五官さん。その、温泉にはどんな問題があるんですか?」

「チュン、あっちこっちぶっ壊れてるチュン。それもあの羅刹が暴れたせいだチュン」

 以下雀と途中で加わった猿長者曰く、

・件の『羅刹』が酒と美少年と美少女に酔い、悪逆の限りを尽くした。

・紅女将と雀達が追い払ったが、温泉に残留思念が残っており、居座っているとのこと。

・残留思念は同じクラス・武器の『強い相手』に倒されないと納得しないらしく、

『相性の問題で負けただけだから、ぜーんぜん悔しくないですー!』

『私は私が納得するまで温泉で美男美女を求め続けるのです! さもしい現実なんていーやーだー!!』

 などと喚いているとのこと。

「……あの、それって……」

「………………はあ」

 リライス、心当たりがありすぎて思わず溜息。

「……とりあえず、ディルムッドに戦闘準備させるチュン」

 

 

 というわけで、荒れ果てた温泉浴場へとやってきたのだが。

『美少年はどこだあ~~~~……美少女は』

「オイそこの腐れ剣豪、こっち向けチュン」

『!? こ、この私好みの美少女ボイスは!? まさかリラ』

「雀流奥義の三、『しんそく』!」

『ごぼはぁ!? よ、容赦なさ過ぎじゃないリライ』

「おう黙れチュンサル女、今のお前に名前を呼ばせる気はないチュン」

『サル!? 流石に酷くないですかマジで!? というか前より荒んでない色々と!?』

「うるせえチュン、こちとら救った筈の世界が滅ぼされてやってらんねえだチュン、精神崩壊してないだけマシだチュン」

「マスター、おいたわしや……!」

 ディルムッドが何か涙してるが、それはともかく。

「それより、女将さん達に迷惑だけじゃなく温泉まで潰すとかどういう了見だチュン。下総での感動を返せチュンマジで。

 ……つーわけでディルムッド、正体とかどうでもいいから遠慮なくぶっ殺すチュン」

「……マスター、もしやあれは」

「名前を言うか負けでもしたら、カルデアにありもしないお前の女性遍歴をばら撒いてやるチュン」

「同じ二刀流の剣士なれど手加減はしないぞ! さあ来い地獄を作った羅刹よ!」

『ちょっと怖すぎじゃないリラ「あ”?」あと地獄じゃないです、ここは天国ですー!!』

「自分から地獄にしといて何言ってるんだチュン」

 この後、ディルムッド決死の覚悟によって易々と煩悩塗れの剣豪は斬られた。そして大浴場は、翌日には使えるようになったとさ。 




後書き
 毎日投稿、無理でしたorz
「サブタイトル、サル女だけじゃなく自分にも刺さってるチュンね」
 やめてえ!


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第三・五羽 勝てばいいんだよ、勝てば

 時系列は割と滅茶苦茶です。閑話挟むタイミングを間違えたので……
 
 
「なあリライス、何故あの蛇に私は懐かれていると思う? 先程も温泉を共にしたんだが」
「惚れられるようなことでもしたんじゃないですかチュン」
「縁起でもないこと言うな!? 身に覚えのないことで貞操の危機とか冗談じゃないわ!」


「ごめんくださいなー」

「! 先輩、お客様です! 焦らず騒がず、気配を消して向かいましょう!」

「アサシンか清姫の真似事でもしてるのかチュン、マシュ」

「呼びましたか旦那様(マスター)!?」

「読んだけど呼んでねえチュン」

「つまり私を求める声は確かだったのですね! 好き!!!(溢れる想い)」

「うん、いつも通りで安心だチュン」

 とりあえず、清姫には丁重に別仕事へ戻ってもらい、入口へと向かう。

「あら、こんにちはマシュ! 素敵なところで働いているのね! 頭に可愛らしい子も乗せて!」

「ふうん、これが東洋のホテルなのね。マシュも可愛い相棒を連れて行く良さが分かったのかしら」

(マリーさんとアナスタシアさんの珍しいコンビです! あと先輩がナチュラルにマスコット扱いですね!)

(もうペット枠でも文句言わないチュン)

(大丈夫です、私がかい、面倒を見ます!)

(今飼うって言いそうになってなかったかチュン)

 などと念話で会話(コント)しつつ。

「いらっしゃいませチュン、マリーにアナスタシア。お荷物預かりしますチュン」

「まあ、もしかしてマスターなの!? 随分愛らしい姿になっているのね!」

「それ普段は可愛くないって言われてるのかチュン」

「そんなことないわ、いつものあなたも大変魅力的よ」

「ストレートに褒められて赤面しそうチュン」

「先輩、顔色が変わっていませんが」

「雀だからしゃーなしチュン。……ところでカドック、両手に華だチュンね」

「茨みたいに絡みついてくる類だけどな……というかリライス、その姿は魔術か何かか?」

「んなわけねえチュン、所長のやらかしで呪いのとばっちり受けた結果だチュン」

「……お前も大変だな」

「いつぞやの特異点で、魔法少女にされた時よりはマシだチュン」

「……」

 黙っちゃうカドック君、そこまでか。ちなみになった本人曰く、「羞恥心で死ぬかと思った。あと映像に残したドクターは絶対許さない、殴るために復活しろ」とのこと。

「それにしても、異聞帯で拾い上げた時から変わらないしけっ面が、一段と暗くなってるチュンね。マリー側のお供達がいないからチュン?」

「ほっとけ、顔は元々だ。この天然皇女二人を同時に相手するのは想像以上に大変なんだぞ……荷物だってバカみたいに多いし」

「馬車一台くらいはあるチュンね」

「先輩、これ重いです!?」

「頑張れチュン後輩。ほらケルト組、あとついでに所長。お客様の荷物を運ぶチュン」

「ついでで私にも命令するな! 貴様の上官だからな!? あと私は頭脳労働担当だ!」

「んなこと言ってるから痩せないんだチュン」

「極寒の雪山で放置されたら、脂肪(蓄え)が無ければ死ぬわ! だから敢えて貯蓄してるんだ!」

「異聞帯以外で放置された経験あるのかチュン……?」

 結構壮絶な人生を送っているらしい。お陰で周囲の目線が生温かいものになり、「ヤメロォそんな目で私を見るな!?」と、叫ぶ羽目になるゴルドルフ所長だった。

 

 

「あら、ここってもしかしてお大尽部屋(スイートルーム)?」

「そうだチュン、折角なのでご招待したチュン。客間は別チュンが」

「いつの間に解放したんでちゅか、リライス……」

「露天風呂解放してる時に平行でやってたですチュン。今は遊技場と第二厨房、あとエステルームもやってるですチュン」

「……お前様、やっぱり宮大工か何かじゃないのでちか?」

「ただの凡百マスターですチュン」

 紅女将が疑惑の視線を向けるが、そんなもの気にするキャラではないマスターリライス(雀)。「お前のような凡百がいてたまるか……」と後ろから怨嗟込みのセリフも聞こえるが、華麗にスルー。

「じゃあここでゲイシャさんを呼んだり、あれよこれよなシュチニクリンなことが出来るのかしら!?」

「割と俗っぽいなこの皇女!?」

「王族だって一皮剥けば人間ですチュン。あと、当館ではそういうのは受け付けてないですチュン、京都行けチュン」

「( ´・ω・`)ソンナー」

「当たり前だろ、何を期待していたんだお前は……」

「でも、いい景色ねココは! 風光明媚とはこういうのを言うのかしら!」

「……それもそうね。あら?」

「ウッキー、ウキキ」

「あら、可愛いおサルさんね!」

「東洋のサルは人懐っこいと聞いたけど、本当のようね。ふふ、こっちにいらっしゃいな」

「おいアナスタシア、ここは神代に近い旅館だぞ? 不用意にちかづ」

 べしゃ

「「「「「「あ」」」」」」

「……」

 忠告は遅かった。アナスタシアの綺麗な白肌に、泥団子がぶつけられてしまう。

 ウキキー! と喜ぶサルたちに向け、彼女は真顔のまま泥を払い、

「あ、アナスタシア、落ち着いて、ね? おサルさんは私がきつーく、注意しておくから?」

「先輩、いつもニコニコにじり寄るマリーさんが慌てています……!?」

「神話生物みたいに言うなチュンマ――」

 ガシッ

「チュン?」

 ニギニギ

「あー柔肌チュン」

 グイッ

「グエッチュン」

「せいっ!!」

「チューーン!?」

「「「「「「投げたあ!!?」」」」」」

 綺麗なアンダースローで投じられたリライス(雀)は、泥をぶつけた魔猿に一直線で跳んでいき、

「ウキーキ、ゴゲアアアアァァァァァ!!?」

 きりもみ回転をしながら吹っ飛び、カメラに映せない顔でピクピクしていた。

「な、なんという威力……! しかしマスターが強化されてるとはいえ、アンダースローであの威力は一体」

「宝石を使ったのよ」

「モッタイナーイ!? そして大人げなーい!? というか問答無用で宝石飲み込ませたのか君!?」

「アナスタシア、もう充分でしょ!? その子雀の姿だけどマスターなのよ!?」

「大丈夫よ、宝石で肉体強化したから」

「先輩、ご無事ですかー!?」

「あービックリしたチュン」

「なんと!? 無傷とは驚きですが無事で何よりです! さあ今度は離れないよう、私の胸の中に」

 スイー

「え」

 パシッ

「あ、これ無限ループかチュン」

「無限じゃないわリライス、あのサル達を全滅させたら終わりよ」

「あと何回だチュンそれ……『重力』か何かの魔術なんだろうけど、当たり前のように抜け出せないチュン」

「受けた屈辱は億倍にして返すのが我が家の家訓。自慢じゃないけど私、姉に雪球をぶつけられた時は石をつめて投げ返したわ」

「本当に自慢することじゃないネそれ!?」

「カドック、アナスタシアを止めて!?」

「無理だってマリー王妃、ああなったアイツを止められるなら、僕が方法を知りたいよ……」

 その後、魔猿達が全滅するまでリライスは投げ付けられました。

「……見かけによらず、やんちゃなお嬢さんでち。綺麗なおべべが乱れて台無ちでちよ。

 そしてリライス、お前様やたらと頑丈でちね……」

「自分でもビックリですチュン」

 

 

 その日の夜。

「……なあリライス、何で布団が三つ並べられてるんだ?」

「え、カドック一緒に寝るってアナスタシアから聞いたチュンよ?」

「そんなこと言ってない!? お前も少しは疑問に持てよ!?」

「夜這いだの同衾だのされてるから、今更だチュン」

「お前に期待した僕が馬鹿だったよ! これ以上心労を増やさないでくれ!」

 この後滅茶苦茶交渉した(カドックが)。なお、皇女にからかわれていただけな模様。

 

 

 

「いえーーーーい、みんな見てるー? 一番荊珂ちゃん、歌いまーす!」

 恋はドラクル♪

「……妙に再現度高いチュンね、モノマネの才能あるんじゃないかチュン」

「うふふ、案外酔って才能が開花したかもしれませんわね?」

「暗殺者としてはありなのかチュンねあれ。ところでアン」

「はい? 何ですかマスター?」

「何で私、膝の上に乗せられてるチュン?」

「いやーだって、マスターがこんな可愛らしい姿になってるなんて、愛でるしかないですよね?」

「おーフワッフワだ、本当に雀なんだねマスター」

「撫でるなチュン抱き寄せるなチュン、私はぬいぐるみじゃないチュン、丁重に扱うチュン」

「でも、悪い気はしないのでは?」

「それとこれとは話が別チュン」

「こしょこしょ」

「チュン!? 羽根の付け根をくすぐるなチュン!?」

「ここがいいんですのー?」

「よくねえチュン無理矢理抑えつけるなチュン!? 清姫ー、助けてチュン!」

「お呼びですか旦那様(マスター)! 不埒者は燃えなさい!」

「ちょ、清姫さんさっき芸に使った火龍を向けないでください!?」

「あぶ、あつ!? 宿が燃えるよ!?」

 この後無事に救出されてめっちゃモフモフされた、清姫に。

 

 

「翁を代表して一芸仕る。呪腕、首を出せい!!」

「やっぱりこうなったかー!? 初代様ー、その一芸は場が冷めてしまいまする!」

「呪腕さん、ここは任せるチュン」

「り、リライス殿?」

「何用か、契約者」

「じいじ、こういうのはどうチュン」(こしょこしょ)

「……承知した。では契約者リライス、

 

 

 首を出せい!!」

 スパン

 

「しょ、初代様ーーーーーーー!!?」

「せ、せんぱーーーーーーい!?」

「……」

 後に残るは、首のない(マスター)の死体、

「ふ、紙一重だったチュン」

 ……ではなく、リライスが限界まで顔を伏せて見えないようにしていただけである。

「「「「「「おおーーー!!!」」」」」」パチパチパチパチ

 会場からは万雷の喝采、もとい拍手。青褪めてるハサン勢とマシュの元に戻ってくるリライス。

「あれ、マシュとハサンの皆にはウケが悪かったチュンね?」

「ウケとか以前に心臓に悪いですよ先輩!?」

「そうですぞリライス殿!? 私など首と心臓と肝が吹き飛ぶかと思いましたぞ!?」

「ほう。神託を望むか、呪腕の」

「そそそそんなことはありません初代様!」

 この後ゴルドルフ所長にめっちゃ怒られた。

「所長に説教されるとか、一生の不覚ですチュン」

「どういう意味だ貴様!? 私は常識的かつ当然のことを言ってるまでだ!!」

「魔術師が『常識的』とか『当然』なんて、世も末ですチュンね」

「末どころか終わりかけてるわ!」

「所長、その返しは笑えないです!」

 

 

 料理人が足りないと言われたので。

「行くぞオリジナル、レシピの貯蔵は十分か」

「上等ですよオラァ! 生意気キャットなんか私の調理力でチョチョイのチョイです!」

「いやどう考えてもキャットが上チュン」

「キャットでちね」

「私もキャットさんです」

「ちょっと、紅先生だけじゃなくマスターまで!? ま、マシュさんはそんなことでないですよね!?」

「私はお二方どちらの料理も素晴らしいと思います!」

「気を遣われてるぅ! しかも清姫さんが反応してないから嘘じゃないとか逆に辛いー!」

「大丈夫です玉藻さん、今はキャットさんが上でも、研鑽を積めばいつかは越えられます! 私と一緒に頑張りましょう!」

「うわーん、巴さんそれトドメですーチクショー!!」

「あ、玉藻さん!? わ、私何か言ってしまいましたか」

「純真さと事実でノックダウンされましたと私は思います、ますたぁ」

「天然恐るべしチュン」

「お前様の腕は分かったでち、よろしくでち」

「なんと、紅女将の教えを直々に受けられるとは何たる幸運! 感謝するぞご主人!」

「しかもちゃっかり認められてるチュン、キャット」

 

 

おまけ

「着いたのだわ。ここがあの女のホテルね」

「……というかここが地獄なの!? 施設も充実しててサービス満点とか、勝ち目ないじゃない!?」

「こ、ここはあの子と約束した以上、冥界に来てもガッカリしないようしっかりリサーチを」

「いつしたんだチュンそんな約束。あとここ地獄じゃなくて迷い家だチュン、冥界の一歩手前だチュン」

「わひゃあ!? りりりリライス、いつからそこに――え、リライスの魂を持った雀……?」

「ようこそチュンエレちゃん、この格好は故あって」

「か、可愛いのだわー……」ナデナデ

「聞けチュン」

 

 




後書き
 アナスタシアの泥団子(Verリライス):猿達はライフが0になる。
 巴様は天然鬼、間違いな――
「作者様、その投稿遅れ(二枚舌)は許しまちぇん!」
 え、女将様ちょっとま――ビチュン!?


 ……


『感想・評価・誤字訂正お待ちしてます。遅れてスイマセンデシタ』


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第四羽 賠償するため宝をやろう

「やだ、スカサハがこんな可愛く見えるなんて信じられない……なんなの、この気持ち……!?」
「あの淫乱女王、女もいけるのかチュン」
「ケルトの英雄は大体どっちもいけるぞ」
「マジかチュン師匠、フェルグスの兄貴はともかく、クーのアニキも……?」
「ああ、もち」「変なこと吹き込んでんじゃねえよバ、師匠!」
「オイ今BBAと言いかけたか?」
 この後滅茶苦茶死に掛けた(アニキが)
 
 
「ところでイベントとっくの昔に終わってまチュが、弁明はありまチュか?」
 毎日投稿とか余裕やろと思ってた自分が浅はかでしたorz
 
 


 旅館も大分繁盛し始めたある日のこと。

「先日のヘルズキッチンは中々ハードでした……ですが、料理への苦手意識は克服できたと思います!」

「苦手意識以前にトラウマ刻まれたと思うチュンが、ウチの後輩は精神面も頑丈だチュン。……ん?」

「あれは……紅女将さんと、どなたでしょうか?」

「……分かんないけど、胡散臭い感じの匂いがプンプンするチュン」

 翁の能面を付けた人物? にリライスの経験則から来る直感が囁く、あれはろくでもねえ奴だと。

 とはいえ、お客様だろう相手を無碍には出来ない。とりあえず挨拶しようと思うが、

「……待て。……近付くな、殺される、ぞ」

「あ、虎名主さん……?」

「この間は容赦なくボコってすまなかったですチュン」

「……構わ、ない。……アレは、ぼ、暴走した、俺が、悪い」

「先輩、危ないかと思ったけど凄く常識的な人です!」

「久しぶりに見た気がするチュン」

「……静かに、しろ」

「「アッハイ」」

 叱られて二人? も虎名主の横に伏せ、女将と相手の会話に聞き耳を立てる。その後虎名主からの話も聞いたことを要約すると、

・話している老人は竹取の翁と言い、五百年前に宿泊した際持参物の『五つの宝』(竹取物語に出てくるアレ)を盗まれた。

・犯人は未だ見つかっておらず、宿側が責任を負うため借金を背負うことになった。

・借金の額は莫大で、毎年利息分を払うのが精一杯。また物取りを防げなかった評判が広まり、以来閻魔亭の客は激減したらしい。

 とのこと。これを聞いて激怒したのは、意外にもゴルドルフ所長である。

「道理でおかしいと思ったわ! ここの帳簿を見させてもらったが、元旦の不自然な出費は借金の利息のせいか!

 というか何故私を呼ばなかった!? 盗難の責をホテル側が負うなど、いつの時代の話だ!?」

「そりゃ神代のルールのままですよここ、隠れ里で彼岸寄りなんですから」

「さらっと恐ろしい事実だなそれ!?」

「そもそも盗難自体あったのが五百年前だチュン」

「紅女将、私達には内緒にしていたのですね……」

「嘘を吐いているわけじゃないから、清姫も分からなかったチュンね。

 まあ、私達は極論『感謝の気持ち』さえどうにかすれば問題ないチュンが……それだと後味が悪いチュン」

「はい、紅女将さんにはお世話になっていますし、このままでは済ませられませんね! ……しかし、どうしましょうか?」

「すぐ思い付くのは借金の返済、あとは五つの宝を見つけるか代用物を用意するチュンね。前者も後者もキツイチュンが……」

「五百年前だし、証拠が残っている確率はかなり低いだろうな。だが、代用物を用意するのはバツグンにイケ美さんなアイディアだ」

「竹取物語に出てくる、五つの難題の宝ですね。しかし、そんな簡単に見つかるでしょうか……?」

「勿論、普通なら簡単には見つからないだろうさ。しかし、今はそれらを持っていそうな人がいるじゃないか? そう、サーヴァントがね」

「「「「あ」」」」

「そうでした、サーヴァントの皆さんなら情報、あるいはそのものを持っているかもしれません……!」

「……そう考えると、一番現実的なプランチュンね。では今後は宝を集めつつ、並行して改装も続けていくチュン」

「改築も続けるのですか? 目的が決まった以上、あまり意味が無いと思いますが……」

「いや巴殿、そちらも重要だろう。設計図を女将殿からお借りしているのだから、当時の状況を再現すれば見えるものもあるかもしれない」

「な、なるほど。さすが知恵の騎士、フィン・マックール殿。私には及びもつきませんでした」

「普段からそれくらい頭捻ってれば、残念なイケメン扱いされなくて済むんだけどチュン」

「ははは。いざという時に頼れる男であることこそ、美男子の条件なのさ」

「普段からやれって言ってるんだチュン。……とりあえず、行動開始だチュンね」

 

 

 宝集め中……

「ぐっさんと三蔵ちゃんからは問題なくゲット、エリちゃんからも素材はちょろっと拝借したから、残りは二つで順調すぎるくらいだチュンね。

 改築の方は残り天守閣だけで、着手は始めてるから今日中には終わりそうだチュン。……巴が鐘撞き銅を設置したのはよく分からんチュンが、女将さんと同じく嫌な予感しかしないチュン」

「頑張ってるようでちね、リライス」

「女将さん、お疲れ様ですチュン。休憩ですかチュン?」

「ちょっと見回りでち。お前様達が改装してくれたので、あちきも見ておくべきでちから」

「……ちょっとは休憩入れましょうチュン」

「そっくりそのままお返ししまチュ。お前様が休んでるとこ、あまり見ないでちよ」

「戦争真っ只中のアメリカ大陸横断に比べれば、休憩ある分楽ですチュン」

 どっちもどっちである。

「では折角でチュし、私がお茶を入れて差し上げまチュ。休みの時くらいゆっくりしているべきでち」

「女将さんとゆっくりお話出来るなら、喜んで休ませてもらうチュン」

「……本気で言ってるみたいですチュンね。あちきなんかとお話しがしたいなんて、変わった人ですチュン」

「話し合って相手を知るのは重要なことですチュン。女将さんのことももっと知って、仲良くなりたいんですチュン」

「……マシュや清姫が人たらしと言っていた理由が分かりますチュンね。じゃあ、話してあげるでち。閻魔亭が今より大きかった時とか、あちしについても」

「改装した今より閻魔亭は大きかったんでチュンか?」

「そうでちよ、鶴の間という部屋がありまちて、とても華やかなものだったでち。

 その部屋はお夕という腕のいい機織職人が専属で働いていたのでちが、『人間に私の姿を見られた! もうお嫁に行けないからその人間に嫁ぎに行きます!』と言って、辞表叩きつけていきましたチュン」

「鶴の恩返しって結婚エンドだったんでチュンか……?」

 割とありそうな事案である。玉藻曰くイケモンの母親も狐との話もあるし。

 続いて聞くのは、紅女将の話。地獄の成り立ち、迷い家へ迷い込んで直ぐに亡くなり、地獄の獄卒となって奪衣婆にこき使われたり、働きが認められて閻魔亭を任されるようになったこと、現世で人に捕まった時、等々。

「……ありきたりでチュンが……大変だったんでチュンね、女将さん」

「そんなことないでち、私は十分に恵まれてるでち。死後とはいえ、こんな立派なお宿を閻魔様に任されたのでちから。

 寧ろ、お前様の方が今現在大変なのでちから、それに比べたらどうってことはないでち」

(死んじゃったのに、こういうのは報われるんって言うんでチュンかね……)

 流石に口にはしない。彼女の眼を見れば分かる、これまでのことを本当に幸福なことだと思っているのが分かるからだ。

「じゃあ、次はリライスの話を聞かせてほしいでち。世界を救ったお話はどんなものでちかね?」

「現在進行形で再び滅びかけてますがチュンね……」

 この先のことを考えると憂鬱で仕方ないが、それはともかくリライスは話し始める。カルデア・特異点での出会いと別れ、魔術王を名乗るビーストとの戦い、亜種特異点、(しょうもない)各種イベント(微小特異点)、そして異文帯(ロストベルト)、サーヴァントとの交流etc……

「ざっくりですが、これが私達の今までの軌跡ですチュンね……って、女将さん?」

「う、グスッ……本当に、大変だったんでチュンね。リライス、ここまで腐らずに頑張って、偉いでちね……」

「ええぇ……あ、女将さん撫でるの上手ですチュンね」

「何なら毛繕いもしてあげまチュよ?」

「女将さんまで雀扱いじゃないですかチュン」

 ガチで涙組まれた上に、抱き寄せられて撫で撫でされ始めた。何でやねんと思うが、気持ちいいからそのままにしておいた。

「……でも、そんな中で清姫を受け入れまちたね。つがいが女同士、お前様も別にそういう趣味はないのに……釣り橋効果ってやつでちか?」

「んー、まあそういうところがあるのも否定はしないですチュン」

 どこかから複雑怪奇な感情の視線を感じるが、とりあえずスルーしておく雀リライス。

「……でも、一番は清姫がまっすぐに愛情を向けてきてくれたからだチュン。きっかけは私が安珍の生まれ変わりだからで、実際は違ったとしても――受け入れて、一緒に居たいなって思ったんですチュン」

「……お熱いでちね、清姫も幸せ者でち。料理の腕が思ったより上がっていたのも、お前様の存在が大きいですチュンね。

 じゃあ、マシュはどうですチュン? あの子はお前様を慕っていまチュが」

「慕ってくれるのは嬉しいけど、可愛い後輩に傷ついては欲しくないですチュンね。でも、自分のエゴでマシュの決意を歪めたり、かるんじたりはしたくないですチュン。だからこれからも今までも、未熟な二人三脚で乗り越えていきますチュン」

「……強いでちね、お前様は。普通の人間なら、とっくの昔に心が折れてもおかしくないでち」

「大分やさぐれはしましたチュンけどね。気付いたら成人迎えてたとか笑えないですチュン」

 マスターリライス、去年の暮れに二十歳になりました。

マスタ(旦那様)ーーーー!!」

 と、撫でられていたら清姫が突如部屋に飛び込んできた。

「チュン? 清姫?」

 

 

「愛  して  まーす!!!」

 

 

「ぬおわチュン!?」

 マッハで飛んできた清姫がリライスをホールド。なお、女将さんはいつの間にか離れていた。お陰で一人と一羽で部屋の中をゴロゴロである。

「おおお、清姫苦しいチュン……」

「ああ、貴方様にそんなに想われていたなんて、清姫は幸せすぎて死んでしまいそうです! 式はいつ挙げましょうか!?」

「ちょ、色々飛ばしすぎだチュン清姫。あ、マシュ助けてくれチュ」

「うぐ、ぐす、先輩……私、もっともっと頑張りますから! 先輩を全部から守れる最高の後輩になります!」

「いや、それ以上頑張ったら大変なことになるムギューーーチュン」

「微笑ましいでちね」

 紅女将が自愛の笑みで混沌と化した場所を見ていると、

「あ、こちらにいましたかマスタ――ってなんですかこのカオスな状況!? そして清姫さんさっきまで裏山に居たのでは!? 令呪もなしに瞬間移動とか(キャスター)の立場がないんですけど!?」

「もうこの状況も玉藻の立場もツッコミはなしですチュン。というか清姫がどうかしたんですかチュン?」

「いえ、清姫さんにメドゥーサさんとアナさん、あと千代女さんが襲われたと話を聞いたので」

「え!?」

「……清姫、どういうことでちか?」

「わ、私にはとんと身に覚えが……」

「……玉藻、それはいつ起こった話ですチュン?」

「さっき襲われたという千代女さんの話は、ほんの五分前ですね」

「……あー、何となく分かりましたチュン。女将さん、裁判はもうちょい待って欲しいですチュン」

「? リライス、心当たりがあるんでちか?」

「まあ何となく、やらかしてる奴は心当たりが……というか鐘付き憧関連で考えれば自ずと分かりますチュン」

 その後、調べてみたら巴が作り出した清姫のシャドウサーヴァントが犯人だった。

 巴の弁明曰く、

「龍の首の玉を手に入れるには本物の龍から取るのが一番と思い、清姫さんのシャドウサーヴァントを生み出しました!」

「ドヤ顔で清姫と蛇系サーヴァントに被害多めのことやるんじゃねえチュン雀流奥義『つばさでうつ』!!」

「ぐっほあ!? 翼で撃たれただけなのにかなり痛い!?」

「マスター、私が傷つくのをそんなに気にしてくださるなんて……好き!!」

「ええ……清姫さん、それでいいんですか?」

 

 

おまけ

「さあ、最初っから飛ばしていくわよ!」

 

 恋はドラクル♪

 

「う、相変わらず凄まじいですね……雀さん達は楽しそうですが……先輩?」

「ヤッベエ、エリちゃんこんなにイケてたのかチュン……ヒューヒュー、もっとやれチュン!」

「先輩!? お気持ちは分かりませんが、部屋が吹き飛ぶ前に止めましょう!? それと今褒めると、戻った時に悲惨なことになると思います!」

 この後滅茶苦茶頑張って止めた(マシュが)。

 

おまけ2

「ははは、相変わらずマスター殿は苦労しておられるな」

「笑い話じゃねえチュン小次郎。というか何で同じ風呂に入ってるんだチュン、私メ、女だチュンよ」

「恥もなく入ってきたのはそちらだろうよ。それより感性まで雀寄りになっていないか?」

「フォウフォフォウ」(訳:全部終わるころには手遅れになっているかもしれないね)

「不吉なこと言うなチュン。とりあえず、あと一個がどこに手掛かりがないので煮詰まっているチュンが……小次郎、何か知らないですかチュン」

「力になりたいところだが、棒切れ侍の拙者にはとんと見当が付かぬなあ。出来ることといえば、この燕の子安貝を持って祈るくら――」

「雀流奥義、『みずかけ』!」

「ははは、その程度では効かぬ――ぬぐお!? 予想以上の威力!?」

「フォウフォウ」(訳:別の意味でも人外じみてきてるってはっきりわかんだね)




後書き
 長らくお待たせしました(開幕土下座)
 とりあえず、五つの宝は幾つかスキップしました。三蔵とかぐっさん先輩の話は、そのまんまになりそうなので……
 なお、リライスが成人なのはこの作品だけの話です。懐古の蜘蛛イベントがあれば、飲むかもしれませんね(自棄酒しそうだけど)。
 もう一、二羽で終わると思います。皆さん忘れ去ってると思いますが、けじめのためにも最後まで書ききります。
 では、次回もよろしくお願いします。
 


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第五羽 虚言の代償は

「竹取の翁……小次郎曰く『かぐや姫の物語上、翁は宝を持っているはずがない』、チュンか。まあ伝説通りだった試しなんてほぼないけど……気にはなるチュンね。
 それに、女将さんと話してた翁の気配……どうも嫌な予感というか、悪意を感じるチュンね」
「先輩、五つの宝が揃いましたね! これで竹取の翁さんに渡せば……」
「解決する……で済めばいいけどチュン。フィン、ちょっと相談があるチュン」
「ん? なんだいマスター、逢引の誘いならいつでも歓迎だが」
「寝言はせめて元に戻ってから言えチュン、雀口説くとかどんだけだチュン。
 で、これからなんだけどチュン……」





「約束の日になりましたな、紅殿。ではまず負債の利息分である1000億QP、耳を揃えて払っていただきましょうか」

「……申し訳ありまちぇん、竹取の翁様。今この宿にそれだけの支払いは出来ないでち。約束通り閻魔亭はお渡ししまチュ、そしてあちしはどうなってもいいので、雀達に手は……」

「そういう訳にはいきませんな、こちらは散々待たされたのですから。女将と閻魔亭だけではとても足りませぬ故、雀達も――」

「その話、ちょーっと待って欲しいチュン」

「……? どなたですかな?」

「私は今この宿でお世話になっているリライスと申すものですチュン。こちらは仲間のサーヴァント……英霊のみんなですチュン、お見知りおきを。

 話は以前聞かせてもらいましたチュン、竹取の翁様。五百年前に『五つの宝』をなくされたんですチュンね?」

「……リライス、どこでそれを聞いたでちか?」

 フィンの肩に乗っているリライスを驚いた顔で見る紅女将だが、敢えてそれに答えることはしない。真っ直ぐに、目の前の翁へ視線を向けている。

「……ええ、その通り。だからこそ閻魔亭に責を負ってもらうため、心苦しいですが宝を見つけるまで負債という形で譲歩したのです」

(心苦しい……ね)

 仮面越しで表情は見えないが、後ろに控える清姫の反応から、おおよそ見えてくるリライス。が、それは今追求するところではない。

「それでしたらお喜びください、翁殿。我々がリライス主導の下、五つの宝を用意いたしましたとも!」

「!? そ、そんなこともしてたのでちか!?」

「……ほう、それはそれは、事実なら大変喜ばしいことですな。しかし、私が求めているのは『姫との思い出が詰まった』五つの宝でしてな。代わりのものでは申し訳ありませんが、納得できませんなあ」

「……っ」

 翁からの言葉に、マシュが顔を歪ませる。自分達の努力は無駄だった、そう言われているような気がしたからだ。

(……二つ目)

 一方、リライスは静かに心の中で『何か』を数えながら、フィンに会話を任せて成り行きを見守る。

「ええ、ええ、そうでしょうとも。麗しきかぐや姫との思い出が詰まった宝、そこには余人では計りきれない価値が詰まっていましょう。私も麗しき妻との大切な日々を覚えているがゆえ、痛いほどそのお気持ちは分かりますとも。

 なので、我々が用意した宝は(・・・・・・・・・・・)貴公の宝を取り戻すためのものです(・・・・・・・・・・・・・・・・)

「……何? それは、どういうことですかな?」

「簡単に言えば、触媒ですよ。五百年前に失われた宝と同様のもの、そして同じ状況(・・・・)を作り出してしまえば――未だ神秘が色濃く残る閻魔亭、試してみる価値はあると思いませんかな?」

「! ま、まさか――」

「さて、参りましょうかご老体、女将殿。失ったものを取り戻しに」

(……そして、茶番劇の終わりに、ね)

 

 

「こ、ここは……!」

「……まさかこの『鳳の間』も再建していたとは、驚いたでち」

「場所こそ無くなっていたチュンが、設計図には書いてあったのでその通り『再現』しましたチュン」

 場所は移り、リライス達が最後に再建した客間、『鳳の間』。ここは当時、竹取の翁が宿泊していた部屋であり。『事件当時の状況』を完璧に再現している。

 内装は他の客間と大きな差はない。違うのは部屋の隅にある巾着袋であり、恐らくこれが翁の荷物だろう。

「五百年前のあの時と全く同じ光景……で、ではこの中には――」

「ええ、求めてやまなかった『五つの宝』が入っているでしょう。お喜びください翁殿、貴方の願いはようやく叶いますとも」

「……」

 無駄に爽やかイケメンスマイルでフィンが促すも、翁は額から汗を流すだけで、何故か動く様子はない。

「おや、如何なされました? 念願の姫との思い出の品がその手に戻ってくるのですよ? 何を躊躇することがありましょうか?」

「……ええい、開ける! 開ければいいのだろう!」

 そうして『何故か』、破れかぶれな叫び声をあげて袋を開け――、

「ハ……ハハハハハハハ!!」

 中身を確認した翁は、人を小馬鹿にした笑い声を上げ、フィンの方に振り返る。袋に入った、『リライス達が用意した五つの宝』を見せびらかして。

「なぁにが『五つの宝』を取り戻しただ、笑わせおって! そんなもの、|最初から用意していないのだから入っている訳がないだろう《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》!」

「……竹取の翁様。それは、どういうことでちか?」

「――あっ」

「……案外あっさりと白状したチュンね。この後の舌戦くらいは予想してたチュンが」

 紅女将の詰問に、やらかした声を上げる竹取の翁。完全に白状してるのと同じ状況に、リライスは呆れの溜息を吐いた。

「ち、ちが、これは、そう、違うものなのでつい、妙なことを口走ってしまったのです。そうでしょう、猿長者殿? あなたも確かに、宝があるのを見ていたのですから」

「ええ、そうですとも。この眼で確かに――」

「嘘、ですわね」

「……!」

(……三つ目)

「……清姫に嘘は通じないチュンよ」

「ぐ、何を根拠に」

「では、宝がどんなものか仰っていただけますかな? 形状、年数、入手した経緯、姫との思い出。それほど大事になさっていたものなら、簡単に語れるでしょう?」

「う、ぐ……」

「もう積んでいるチュンよ、竹取の翁。フィンやキャスター達の見立てで、お前と猿長者が共犯――いや、同一者による狂言だっていうのは分かってたから、後は自白待ちだったチュン。猿蟹合戦の怨霊」

「!?」

「つまり、今までの盗難事件は全て嘘……?」

「……それは、本当でちか猿長者様、翁様。何故、こんなことを……」

「……」

 猿長者と竹取の翁は俯き、何も口にしない。と思ったら急に顔を上げ、

「……ああああああぁぁぁぁクソ、クソ、クソがあぁ!! もう少しで馬鹿な女将と雀どもを陥れられたっていうのに、ガキの遊びにマジで邪魔しやがってえ!! 腹が立つったらありゃしねえ!!」

 一頻り豹変したように喚き上げてから猿長者と竹取の翁は一つとなり、部屋から逃亡――

「ところがぎっちょん、そう簡単には逃がさないんですよねえ。『水天日光天照八野鎮石』!!」

 玉藻が宝具名を告げると、鳳の間はたちまち異界の結界と化した。無論相手を害する訳ではなく、逃がさないためのもの。貼り続ける限り、猿長者に逃げ道はない。

「て、てめえ!!」

「マスター、よろしいですね?」

「うん、出番だチュン清姫。

 令呪を持って命じる」

 

 

『嘘つきを、焼き払え』

 

 

 冷徹な声で告げると、清姫の身体が炎の大蛇――嘘つき絶対焼き殺すガールとなる。

『承りました、マスター。これより逃げようとした大嘘付きを捕らえます。

 『転身火傷三昧』!!』

 大蛇がとぐろを巻き、猿長者を包み燃え上がる。逃がさないと、一遍の隙間もない状態で。

「ぐぎゃああああああぁぁぁぁ!?」

 息も出来ぬまま全身が焼き尽くされ、絶叫を上げる猿長者。玉藻の宝具、令呪のバックアップが合わさり、炎は絶えることなく嘘つきを焼き続ける。

「アッチ、アッチアッチ!? マスター、勢いの余り尻尾に飛び火したのですが!?」

「いや自分でどうにかしろチュン」

「そんな殺生な!?」

「いやそんなことより、このままだと猿長者様が死んでしまうでちよ!?」

 などと話していたら、清姫の龍化は解かれ、結界も消えてなくなる。後に残るは、ウェルダンに焼き上がった猿が一匹、ピクピク動いているので辛うじて生きているようだ。

マスター(旦那様)、お望み通り灰化一歩手前で止めておきました♪」

「おー、えらいえらい。(言ってないのに伝わっているあたり)流石清姫チュンね」

「そんなストレートに褒めるなんて……好き!!」(歓喜)

 虫の息な猿長者の前で、いつもの寸劇を始める二人がいる中、他の者達が状況に追いつけないでいると、

「虎ぁ、蛇ぃ……! 何ボサッとしてる、一つに戻れぇ……! 早くしろ、死んじまうだろうがぁ……!」

「……」

「……まあ、そうなるわよねえ。ごめんね、紅ちゃん」

 掠れ声で猿長者が二人を呼び寄せ、その存在が徐々に薄まっていき、

「――なんて、させると思ったチュン? エミヤ!」

 リライスが声を上げると、どこからか銃弾と化した歪な形状の剣――メディアの宝具、破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)が三人の肩に突き刺さる。

「ぐがぁ……!」

「ぐっ……!」

「いったぁ!? なによ、こ、れ……!?」

「おい、何してるんだノロマぁ……そんな短刀一本、刺さったところでどうってことないだろうがぁ……!」

「まあ、威力はたいしたことないチュンね。その代わり、お前らの繋がりは断たせてもらった(・・・・・・・・・・・・・・・・)チュンが」

「!? そんな、デタラメこかしやが」

「え、やだ、どういうことこれ!? 戻れないんだけど!? それどころかこれ……」

「……縁が、切れ、た……?」

「そーいうことだチュン。これでお前らは三位一体――猿、虎、蛇の要素から鵺かチュンね?――から、バラバラの個体になったチュンね」

「……大した戦略眼だな、マスター。糧としている力を得るために奉納殿へ逃亡する相手を結界の中に閉じ込め、『感謝の気持ち』の加護を絶った中で相手に攻撃。そして共犯者であり同一対の二人が合体する前に繋がりを絶ち、完封状態にする、か。

 ……ここまでピタリと嵌るとは、魔術師としてはともかく一流の策士を名乗ってもいいんじゃないか?」

「買い被りだチュン、重ねた推論がたまたま当たった結果、上手くいっただけだチュン。エルメロイ先生ならもっと確実に封殺するチュン」

 後ろから表れたエミヤ(オルタ)の賞賛にそう返しながら、

「さて、チェックメイトかチュンね。女将さん、後の沙汰は任せていいですチュンか?」

「……リライス、後で話を聞かせて欲しいでちよ」

「もちろん、喜んでチュン」

 その言葉に紅女将は頷くと、瀕死の猿長者に近付き、

「……猿長者様、沙汰は追って伝えるでち。ですがその前に一つ、聞きたいでち。何故、こんなことをしたのでちか? 弁明があるなら、聞くでち」

「…………」

 女将の言葉に顔を上げ、しばし無言で見上げた後、

「は……ははは、ぎゃははははははは!!」

 掠れた、しかし確かな嘲りをこめて開き直りの笑い声を上げる猿長者。

「どうして、どうしてだってえ? そんなもん簡単だろうが……楽しいからだよ! 

 コロッと騙されて苦悩する女将、必死に盛り立てようとする雀ども、寂れていくお宿! こんなどうしようもなく絶望していく姿なんてよお――見ていてこれ以上なく滑稽で、笑えるだろお!!?」

 狂ったように笑い続ける猿長者。彼は言う、お前が追い詰めらていく姿は、最高に笑えたと。

「……あい分かりまちた。では、己の非を認め、尚且つ弁明も必要ないと?」

「ハッ、騙されてた側が言うことでもねえよなあ!? ああ惜しかった、惜しかったぜ! こいつらさえ現れなければ、俺様の計画は完璧――」

「……つまんないチュンね、お前」

「……あ? オイコラ雀モドキ、何て言った?」

 殺意を向ける相手に全く怯むことなく、雀の顔でも分かるつまらなそうな瞳を向けるリライス。彼女は怯むことなく、言葉を続ける。

「つまんない、って言ったのよ。主義も思想もなく、ただ相手が苦しめばいいという自己満足。方法も稚拙で、失敗すれば他人を罵倒し、自分のせいだと微塵も思わない。

 ……新宿やセイレムで『悪人』は見てきたけど、お前はあいつ等の足元にも及ばないチュン。やってることなんて、『悪人の猿真似』がいいところね」

「猿真似だと……テメエこのクソガキ!? ふざけるな、ふざけんじゃねえぞ!」

「リライス、そこまでにするでち! ……猿長者、沙汰は追って地獄で伝える。与えた分の苦しみだけで済むと思わぬ方がいいぞ」

「オイ待てふざけるな、訂正しろ! 俺が、俺のやったことが人間程度の猿真似だと!? そんなことが……!」

「……聞いてるかも怪しいでちね。色々言いたいことはありまチュが……これにて」

「一件落着、チュンね」

「いや先輩、私何も分かってないんですが!?」

 この後詰め寄る後輩に滅茶苦茶説明した。

 

 

「では女将さん、お世話になりましたチュン」

「こちらこそ、何から何まで助けられて頭が上がらないでち。来年も是非当閻魔亭をご利用くださいでち」

「最後は完全にリライスの独壇場だったな……とはいえよくやった! あとは帰るだけだが……」

「……所長。カルデアに連絡は取ったんですチュン?」

「……あっ。ちょ、ちょっと待っておれ! 通信機、通信機……」

「……しっかりしてくださいチュン」

「ええいうるさい急かすな!」

(言えない、森の中で通信機を落としたなどと……!)

「チュン? 通信機ってこれのことチュン」

「何? まさか拾ってくれたのか!?」

「ゴルドルフ新所長? まさか落としていたのですか!?」

「あ」

「……何で隠してるんだチュン所長」

「落し物したらキチンと受付に伝えて欲しいですチュン、子供じゃないんだからチュン」

「す、雀に諭される二十九歳の冬だった……!」

『もしもし、もしもーし! やっと連絡着きました、何があったんですか!?』

「あーシオン、所長が通信機を落とすっていうしょうもないミスをやらかしたチュン。詳しいことは帰ってから話すチュン」

『おや、その声はリライス……雀!?』

「もうその反応飽きたチュン、はよレイシフトしてくれチュン」

『大変気になる事態なんですが、まあいいでしょう。時間なのでレイシフトを行いますよー!』

 そうして、カルデアの面々が光に包まれ、閻魔亭従業員一同に見送られながら消えていく――

「……チュン?」

「……リライス、何でお前様だけ残ってるのでち?」

「あー……もしかして、雀の姿になってレイシフトの適正数値が変わったのかもしれないチュンね」

「てきせーすうち?」

「女将さんに分かりやすく言うと、本人確認の手形渡されて違う奴じゃねえか! って言われて追い返される感じですチュン」

「……お前様も最後まで大変でちね。とりあえず、迎えが来るまでゆっくりするでち」

「お世話になりまチュ……チュン? 女将さん、お客様ですチュン」

「ごめんください。こちらに私が物資とともに送った猿達が来ていると思ったのですが……」

「! ま、さか……リライス、ちょっと待ってるでち!」

 その後の話は、敢えてここでは語らず。ただ最後に、女将さんの願いは成就したとだけ言っておこう。

 数日後、大慌てのマシュと清姫に迎えられて何とか帰れました。なお、その間に無事人間の姿に戻れたそうな。

 え、レイシフトならすぐに実行できるだろ? あんな大掛かりな装置がホイホイ使えるわけないだろ!(多分)

 

 

 そして帰還してシオンからの第一声。

「お帰りなさいリライス。とりあえず異常がないか(非常に興味深いので)、解剖(検査)してもいいですか?」

「不穏なものをバリバリ感じるんで近寄らないで貰えますか」

 この後滅茶苦茶丸め込んで、メディカルチェックは別の人にやってもらった。

 

 

おまけ

「あ、そうだ女将さん。五つの宝はそちらに差し上げます。閻魔亭の復興資金にするなり、飾るなり好きにしちゃってください」

「チュ!? いやお前様、こんな高価なものポンと渡していいんでちか!?」

「まあ確かに神秘的にも単純な貴金属としてもすごい価値ですけど……持ってるとこいつらが厄ネタを引っ張ってくる気がするんで」

「何か実感のある言葉でちね……」

「体験済みです」(白目)

 話し合いの結果、来年に来た際の宿泊費前払いということで落ち着いた。

 

 

 




後書き
 はい、というわけで雀の御宿繁盛記、これにて終了でございます。途中ぐだったりラストがまさかの戦闘なしでしたが、如何でしたでしょうか?
 ちなみに今回先読みできたのはリライス曰く、「いつもは攻められる側だけど、今回は準備が出来たから戦闘になる前に終わらせられた」とのことです。ウチのカルデアマスターは純真さを代償に悪知恵を身につけているようです()
 それでは、この話はここまでで。その内Fate関連の話もまた書くかもしれません。さーて、これで心置きなく大奥イベントを(謎の銃声)
 ……嘘です放置してる別作品の更新やっていきます! 特に緋で始まってアで終わるやつを!
 ではでは最後に、ここまで付き合っていただいた皆さん、大分完結まで時間がかかってしまいましたが、読んでいただきありがとうございました!
 

おまけのおまけ 今回の大奥イベントについて
「初めましてリライス様、私殺生院――」
「帰れクソ尼and大淫婦、何重もの意味でお呼びじゃないから」
「先輩!?」
「まあ、そのような酷い言葉をいきなりぶつけるなんて……私、悲しみの余り滾ってしまいます」
「Fu○k」




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短編 愛し方、愛され方とは

 大奥イベント終了&カーマ召喚記念ということで。前回雀になったリライスさん続投です。
 依代が依代なのとキャラが好み過ぎて衝動を抑えられんかった(性癖暴露状態)
 カーマメイン以外にもいくつか話を入れる予定です。
※注意:大奥イベントのネタバレを(多分)含みます。




「私は愛の神にして愛欲の魔人、カーマ/マーラ。どんな欲望もダメさも受け入れ、愛してあげます。人間なんて大嫌いですけど」

 心底面倒臭そうに、しかし無限の包容力を持って彼女――女神カーマは手を伸ばす。それが自分の役割だからと、若干やさぐれた顔で。

「あーうん、なるほど。嫌だけど愛する、かあ」

 ああいう表情に心当たりはあるので、状況を無視して思わず共感してしまうリライス。自分だって人理救済、異聞帯の排除を好き好んでやっているわけではないのだ、代われるものなら是非とも代わって欲しい。

 その間に素敵な出会いや思い出はあったが、それはそれ。「最近先輩の目の濁り頻度が!?」などと後輩は心配しているけど、こちとら現在進行形でただの一般人なのだから仕方ないと思う。しかも代わってくれそうな人材は軒並み敵になったしねF○CK!!

 閑話休題(考えないようにしよう)

「ねえカーマ、一つ聞きたいんだけどさ」

「……徳川化が進んでるこの状況で、よく普通に喋れますね。まあいいですよ、一つと言わず答えられることなら何でも答えちゃいます」

「それはありがたいけど、大したことじゃないよ。貴方は全てを愛するって言ったけど、」

 

 

 カーマ(アナタ)のことは、誰が愛してあげるの?

 

 

「……………………は?」

 余りにも予想外だったのか、ポカンとした顔で間抜けな声を上げてしまうカーマ。自覚があったのかすぐにいつもの面倒臭げな表情に戻り、

「……バカなことを言うんですね、リライス。私は愛を与える女神であって、与えられるものではありません。そもそも、神の恋愛なんてクッソ面倒臭いしろくでもないものですよ?」

「あーうん、それは分かる」

 狩猟の恋愛脳(スイーツ)女神とかうっかり美の女神とかそこのパールヴァティーを見つつ(「ちょっとマスターさん!?」とか叫ばれてるが無視)、確かにめんどうくせーしヤベーけどと前置きして、

「それでも、あなたを愛してくれる人はいると思うよ?」

「……そういうのは自殺志願者(物好き)って言うんですよ。あといらないです、さっき言ったとおり人間とか大嫌いなんで。

 もう質問ないですか? ないですね。じゃあ、さっさと私に愛されちゃってください」

「うぐ……流石に、余裕無くなってきたかも……」

「マスター、大丈夫!?」

 これは戦いの最中、きっかけにもならないリライスの純粋な疑問。結末への道筋が変わる訳ではない、ないが。

 

 

 その後の顛末は同じ。ビーストⅢ/Lの幼体は、完全な羽化を果たす前に討伐され。

 性悪クソエロ尼(カーマ談)によって、カルデアとの縁を結ぶ羽目になった。

 とりあえずパールヴァティーへの嫌がらせを遠慮なくできるという前向きな理由を支えに、でもやっぱりやる気ないけど仕方なく召喚に備えるカーマ。そこでふと、決戦前にカルデアのマスターと交わした言葉を思い出す。

(私を愛する存在は必ずいる……ですか。猛毒に頭から突っ込むような物好きさんは、あなたなんですかねリライス?)

 

 

 それから数日後、場所はいつもの召喚部屋。ゴルドルフ新所長の悲鳴をBGMに(「これだからレイシフトなんかだいっきらいなんだーーー!!」とか叫びながら走り続けている)、召喚システムが起動され――

「……あー、呼ばれちゃいましたか。じゃあ改めて自己紹介しますね。

 私はカーマ、愛の神ですけど恋愛相談は期待しないでくださいね。破滅したいなら別ですけど。

 あと、嫌いなものはパールヴァティーです」

「それは知ってるよ。でも、こんなあっさり召喚に応じてくれるとは思わなかったな」

「縁が結ばれた以上、抵抗しても呼ばれますからね。面倒臭いのでさっさと諦めて来ることにしました」

「なるほど、らしいね。ともあれ改めてよろしく、カーマ。それにしても、その姿で来たんだね」

 召喚されたサーヴァント、カーマの姿は最初に出会った時と同じ、少女の姿である。どの形態でもこれだけは変わらない、死んだ魚のようなやさぐれ顔でリライスを見上げながら、

「成長するにはこの姿が一番だと思ったので。気分の問題だから変わるかもしれませんが」

「成長?」

「ええ、成長です。ほら、春日局さんがドヤ顔で言ってたじゃないですか。お前の愛には見守り、成長させる愛がねえだろうがーって。なのでそれを学び、成長するためにもこの姿でいようかと。そうすればより多くの愛し方(ニーズ)に応えられるでしょうし」

「言い方に大分悪意を感じるけど、まあ言ってたね。……あれ、それって止めた方がいいのかな?」

「これを止めると私の存在意義が死ぬので無理ですね、令呪でも無理なので速やかに諦めてください。

 もう一つはアレですね、マスターさんとの約束を果たしに来ました」

「ほえ? 私?」

「何とぼけた顔してるんですか、あんまりうつけすぎると愛して堕落させてあげちゃいますからね。

 まあそれは置いといて――言ったじゃないですか、私のこと愛してくれるって」

「……え、私そんなこと言ったっけ?」

「私を愛する人もいるって、マスターさんのことでしょう? それとも私は生理的に無理ですか」

「いや、寧ろ姿形含めて好みですけど」

「素直ですね、バカなんですか? では殺生院キアラのことは」

「何か知らんけど殺意がマックスマシマシで沸いてくるんだよね」

「じゃあ何も問題ないですね。おめでとうございます、マスターさんは女神から愛される権利(めんどうくさいもの)を押し付けられました。わーぱちぱち」

「自分の愛をそう言い切っちゃうのね」

「自覚はありますから、どっかの恋愛脳夫婦と違って。

 まあそんなわけで――面倒だけど覚悟してください(よろしくお願いします)ね、マスターさん?」

「はーい、まあお互い妥協点を探していこうか。よろしくね、カーマ」

 幼い姿ながら妖艶に微笑むカーマに、リライスは苦笑で応える。多分また一騒動あるんだろうなあと予感がしながら。

「……慣れてますね、マスターさん。ひょっとして女を惚れさせては捨てる達人ですか、きゃーこわーい」

「私女だからね、そんな経験ないからね? まあ、面倒臭いのに好かれるのなんていつものことだし」

「その清姫さん(筆頭)がこっちに猛スピードで来てますけど」

「あ、ヤバ」

 ちょっと待ってて。そう言い残して清姫の説得(ガチ)に向かうリライスの背を見ながら、

「……私の事は後回しですかそうですか。まあいいですけどね、嫌われものだし性格悪いのは自覚してますから」

 そう呟く顔は、微かに拗ねているようなものだったそうな。

 

 

 清姫の説得(ガチ)を終えて。

「ところでマスターさん。マスターさんは抑止力の代行者だったりします?」

「え、何急に。私ただの人類最後のマスターだよ?」

「ただのを付けるのはおかしいと思いますけど。いえ、人理救済とか異聞帯捻じ伏せたりしてきたじゃないですか」

「したねえ、もうしたくないなあ……」

「ガチトーンなのは流石に引きますね、まあいいですけど。で、毎度毎度都合のいい対抗策があるじゃないですか。私の件だったら、信綱さんの用意した花札とか」

「ああ、あるねえ。正直、そんなものあるの!? と思うことはある」

「そして終わったら疑問をポイ捨てなんですね、怠惰ですね。

 まあそんなこんなで毎回対抗策なんてものが都合良くあるのは、世界を吹っ飛ばされたら抑止だかアラヤだかの力が間接的にリライスさんへ働きかけてるのかなーって」

「まあ毎度都合いいなとは思うけど……仮にあったとして、証明のしようがあるかなあ」

「ないでしょうね、まああくまで仮説だからお気になさらず」

「だよね、寧ろあるならはっきり教えて欲しいし。で、それがどうしたの?」

「いや、抑止力に『諦めない心』の補正があるなら、それを失くせば簡単に堕ちるかなーって」

「それさらっと世界崩壊案件な件」

「いいじゃないですか、私にも愛を与えて一緒に堕ちましょうよ。あなたはもう頑張らなくて良くなる、私は役目を果たせて未知のものをもらえる、ほらWin-Winですよ」

「凄く魅力的な話だけど、そこに堕ちたらダメなのは流石に分かる」

「魅力的って言ってる時点で、マスターさんのダメ人間具合が分かりますね」

「正直、自分でもなんで防げてるのか不思議でならない」

「それも抑止力の後押しなんじゃないですか?」

「もうなんでも抑止力って付ければいいことになるね。深く考えるとマジでダメになるというか、死にたくなるけど」

「その時は死すら忘却する愛の世界に連れてってあげますね」

「愛って怖いなあ」

 

 

 




あとがき
 愛って何? 搾り取られるか過剰摂取させられるものです(ビースト論)
 というわけでやっつけですが、カーマ召喚編『アナタを愛する人は?』如何でしたでしょうか。
 はい、まだ育ててないのでWiki見てから書いてみました。多分キャラ違うかもしれませんが、許してくだせえ。今回の大奥イベント、メイン終わった時点で周回の必要ないからカーマさん育ててないのよ……
カーマ「私が大好きと言っておきながら、看過できないレベルのトロさですね。まあそんなところも愛してあげます」
 あ待ってカーマさん、あなたに溺れると続きが書けな――(何かに溺れる音)
メモ(読んでいただきありがとうございました。感想とか誤字脱字報告・評価いただけると嬉しいです)


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