絢瀬天と九人の物語 (ムッティ)
しおりを挟む

女子校に入学してみた。

明けましておめでとうございます、ムッティです。

『ラブライブ!サンシャイン!!』にハマったので、ノリと勢いで小説を書いてしまいました。

相も変わらず文才は無いですが、温かい目で読んでいただけると幸いです。


 「ここが浦の星かぁ・・・」

 

 正門の前に立ち、校舎を見上げる俺。

 

 静岡県沼津市の内浦湾の西に張り出した岬に所在する、全校生徒が百人にも満たない小さな私立高校・・・それがここ、浦の星である。

 

 俺は今日から、この高校の生徒になるのだ。さて・・・

 

 「とりあえず到着したけど・・・生徒会長さんはどこだろう?」

 

 キョロキョロと辺りを見回す。

 

 学校側からの連絡によると、正門の前で生徒会長さんが待ってくれているとのことだったが・・・それらしき姿は見当たらない。

 

 「・・・まぁ良いや。少し待ってみよう」

 

 「何を待ってみるの?」

 

 「うおっ!?」

 

 いきなり背後から声をかけられ、思わず飛び上がる。

 

 いつの間にか俺の後ろには、橙色の髪の女の子が立っていた。浦の星の制服を着ているので、ここの生徒だろう。

 

 「男の子がこんな所で何してるの?ここは女子校だよ?」

 

 首を傾げている女の子。

 

 浦の星の正式名称は、浦の星女学院高等学校・・・名前の通り、ここは女子校なのである。

 

 「いえ、それは重々承知していますが・・・実は俺、今日からこの高校の生徒になる身でして・・・」

 

 「・・・通報して良い?」

 

 「止めて!?」

 

 思わず叫んでしまう。いや、確かに『何言ってんだコイツ』ってなるだろうけども。

 

 男である俺が女子校の生徒になるのには、れっきとした理由があるのだ。

 

 「千歌ちゃん?どうしたの?」

 

 明らかに俺を警戒し始めた女の子の後ろから、別の女の子がひょっこり顔を覗かせる。

 

 グレーのボブカットの髪にウェーブの入った、活発そうな女の子だ。

 

 「あ、曜ちゃん!ここに怪しい男の子がいるの!」

 

 「えぇっ、不審者!?」

 

 橙色の髪の女の子の言葉を聞き、グレーの髪の女の子が俺を見て警戒する。

 

 あぁ、誤解が広がっていく・・・

 

 「違いますって!れっきとしたこの学校の生徒です!」

 

 「だからここは女子校だって!」

 

 「だからそれには理由があるんですって!」

 

 言い合う俺と橙色の髪の女の子。

 

 するとグレーの髪の女の子が、何かに気付いたような表情で俺を見た。

 

 「あれ?その制服・・・浦の星の制服に似てない?」

 

 「いや、似てるも何も浦の星の制服ですよ。男子用の制服だそうです」

 

 着ている制服を指差す俺。俺が入学するにあたって、学校側が急遽男子用の制服を用意してくれたらしい。

 

 その説明をしたところで、グレーの髪の女の子がハッとした表情を浮かべる。

 

 「あぁっ!?ひょっとして、君が例のテスト生!?」

 

 「あぁ、やっと分かってくれた・・・」

 

 ようやく事情を理解してくれたらしい。一方、橙色の髪の女の子は未だ首を傾げていた。

 

 「テスト生?」

 

 「ほら、浦の星は共学化を目指してるって説明があったじゃん!とりあえずテスト生として、四月から男子生徒が一人入学するって!」

 

 「あぁっ!?」

 

 どうやら思い出してくれたようだ。恐る恐るこっちを振り向く橙色の髪の女の子。

 

 「と、いうことは・・・本当に浦の星の生徒?」

 

 俺はその問いかけにニッコリ笑みを浮かべると、二人に背中を向けて歩き出した。

 

 「そのつもりでしたが、どうやら受け入れてはいただけないようですね。学校側に今起こったことを全てありのままに伝えて、テスト生の辞退を申し入れた上で海に身を投げようと思います。それではさようなら、来世でお会い出来ると良いですね」

 

 「「ちょっと待ってええええええええええっ!?」」

 

 必死に俺にしがみついてくる二人。

 

 「離せえええええっ!海が俺を待ってるんだあああああっ!」

 

 「ゴメンなさいいいいいっ!私の早とちりでしたあああああっ!お願いだから思い留まってえええええっ!」

 

 「私からもお願いいいいいっ!早まらないでえええええっ!」

 

 「止めるんじゃねえええええっ!」

 

 この後、周りから不審な目で見られたことは言うまでもないのであった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「すみませんでした!」

 

 「ごめんなさい!」

 

 「いえ、俺の方こそ申し訳ありませんでした・・・」

 

 何とか落ち着いた俺達は、お互いに深々と頭を下げていた。

 

 いやホント、入学初日から何やってんだ俺・・・

 

 「あ、自己紹介が遅れました・・・今日から浦の星でお世話になります、絢瀬天といいます。よろしくお願いします」

 

 「これはこれはご丁寧に・・・二年の高海千歌です」

 

 「同じく二年の渡辺曜です」

 

 自己紹介し合う俺達。やっぱり二人とも先輩だったか・・・

 

 「ところで高海先輩・・・その鉢巻き何ですか?」

 

 「あ、これ?」

 

 頭に巻いてある鉢巻きに触れる高海先輩。

 

 『スクールアイドル愛』と書かれた鉢巻きを付けて、この人は一体何をしているのだろうか・・・

 

 「実は私、新しく部活を立ち上げることにしたの」

 

 「スクールアイドル部ですか?」

 

 「そう、スクールアイドル部・・・って何で分かったの!?」

 

 「今の流れで分からない方がおかしいでしょ」

 

 「アハハ・・・はい、これがチラシだよ」

 

 そう言って紙を一枚渡してくれる渡辺先輩。スクールアイドル部かぁ・・・

 

 「部員って、高海先輩と渡辺先輩以外にいるんですか?」

 

 「あ、私は部員じゃないよ」

 

 首を横に振る渡辺先輩。

 

 「私は水泳部に入ってるから、スクールアイドル部には入ってないんだよね」

 

 「え、じゃあ部員って・・・」

 

 「私だけだよ」

 

 何故か胸を張る高海先輩。

 

 意外と大きいな・・・じゃなくて。

 

 「・・・生徒会の承認って貰ってます?」

 

 「貰ってないよ?」

 

 「・・・部活、立ち上げられてないじゃないですか」

 

 「最低でも五人必要だっていうから、五人集まってから申請しようかなって」

 

 「・・・申請もしてないのに、勧誘活動してるんですか?」

 

 「嫌だなぁ、申請する為に勧誘活動してるんだよ♪」

 

 能天気に笑っている高海先輩。これは生徒会にバレたらマズい案件なのでは・・・

 

 「あっ!あんなところに美少女がっ!スクールアイドルやりませんかっ!?」

 

 一方の高海先輩は、そんなことお構い無しに勧誘活動を続けていた。おいおい・・・

 

 「・・・渡辺先輩、止めなくて良いんですか?」

 

 「いやぁ・・・千歌ちゃん凄くやる気になってるし、良いかなぁって」

 

 「言っときますけど、多分もうすぐ生徒会長さんが来ますよ」

 

 「今すぐ止めなきゃ!?」

 

 慌てて走っていく渡辺先輩。

 

 仕方なくその後を追うと、高海先輩が二人組の女子を勧誘しているところだった。

 

 「大丈夫!悪いようにはしないから!」

 

 「いや、マルは・・・」

 

 茶髪のふわっとしたロングヘアの女の子が、困った様子で対応していた。

 

 その子の後ろには、赤髪の短いツーサイドアップの女の子が怯えたように隠れている。

 

 「千歌ちゃん、その辺にしとかないとマズいって!」

 

 「曜ちゃん、この子達凄く可愛いよ!絶対人気出るよ!」

 

 焦っている渡辺先輩とは対照的に、高海先輩は興奮状態だった。

 

 あれは人の話なんて聞いちゃいないな・・・

 

 「すみません、先輩がご迷惑をおかけしました」

 

 「マ、マルは大丈夫ずら・・・」

 

 「ずら?」

 

 「ハッ!?だ、大丈夫です!」

 

 慌てて言い直す茶髪の女の子。何だったんだろう?

 

 「ひょっとして、新入生?」

 

 「あ、はい。そうです」

 

 「じゃあ一緒だね。俺も新入生なんだ」

 

 「ずらっ!?」

 

 「ずら?」

 

 「ハッ!?」

 

 慌てて口を押さえる茶髪の女の子。どうやら『ずら』が口癖らしい。

 

 「ど、どうして男の子が・・・?」

 

 「ひょっとして、テスト生の人・・・?」

 

 赤髪の女の子が、茶髪の女の子の後ろから恐る恐る顔を出していた。

 

 「うん、そうだよ。よろしくね」

 

 「ぴぎっ!?」

 

 慌てて隠れてしまう赤髪の女の子。えっ・・・

 

 「あ、ゴメンね!ルビィちゃん、人見知りな上に男性恐怖症だから!」

 

 茶髪の女の子が慌てて説明してくれる。なるほど、つまり俺が消えるべきなのか・・・

 

 「ゴメンね、ルビィちゃんとやら・・・俺は今から屋上に行ってくるよ」

 

 「ちょっと待つずらあああああっ!?」

 

 茶髪の女の子が必死に止めてくる。最早『ずら』を隠す気も無いらしい。

 

 「屋上に行って何するつもりずら!?」

 

 「アイキャンフライ」

 

 「人は空を飛べないずら!」

 

 「君と出会った奇跡がこの胸に溢れてるから、きっと今は自由に空も飛べるはずだよ」

 

 「それはスピ●ツの曲ずらあああああっ!」

 

 「ねぇ二人とも、スクールアイドルやろうよ!」

 

 空気を読まない高海先輩が、俺達のやり取りを見てあたふたしていたルビィちゃんとやらの手を握った。

 

 その瞬間、ルビィちゃんとやらの顔が青くなる。

 

 「っ!?マズいずら!」

 

 「うおっ!?」

 

 茶髪の女の子が俺の頭を掴んで自分の胸に押し付け、両腕で俺の頭を抱いた。俺の顔が、大きくて柔らかいものに埋まっている。

 

 あぁ、幸せ・・・じゃなくて。

 

 「ちょ、いきなり何を・・・」

 

 「ぴぎゃああああああああああっ!?」

 

 ルビィちゃんとやらの叫び声が響いた。茶髪の女の子の腕に耳が塞がれているから、俺にはそこまで響かない・・・

 

 ってまさか!?

 

 「俺を庇って・・・!?」

 

 「ずらぁ・・・」

 

 ルビィちゃんとやらの『ばくおんぱ』を食らった茶髪の女の子は、一撃で瀕死状態になってしまったようだ。

 

 倒れそうになる茶髪の女の子を、慌てて抱き留める。

 

 「ちょ、大丈夫!?」

 

 「オ、オラはもうダメずら・・・ガクッ」

 

 「ず、ずら丸うううううっ!?」

 

 何かよく分かんないけど、頭に浮かんだあだ名を叫ぶ俺。すると・・・

 

 「キャアアアアアアアアアアッ!?」

 

 今度は側にあった桜の木の上から、女の子が降ってきた。そのまま見事に着地するが・・・

 

 「うぅ、足が・・・ぐえっ」

 

 着地の衝撃に襲われていた。その上、頭の上に鞄が落ちてきて見事にヒットする。

 

 「えっと・・・色々大丈夫?」

 

 高海先輩が女の子を心配していた。ってかアンタ、至近距離でルビィちゃんとやらの『ばくおんぱ』食らってよく無事だったな・・・

 

 そんなどうでもいいことに感心していると、その女の子が急に肩を震わせて笑い始めた。

 

 「クックックッ・・・ここはもしかして地上・・・?」

 

 「高海先輩、この人大丈夫じゃないみたいです。救急車呼んで下さい」

 

 「分かった。ちょっと待っててね」

 

 「私は正常よっ!?」

 

 ダークブルーの髪を揺らしながら叫ぶ女の子。いや、正常な人はあんなセリフ吐かないからね。

 

 「コホンっ。ここが地上ということは・・・貴女達は、下劣で下等な人間共ということですか?」

 

 「えいっ」

 

 「ギャアッ!?」

 

 足に軽くチョップしてやると、女の子は足を押さえて蹲った。どうやら先程の痛みが残っていたらしい。

 

 「何すんのよ!?セクハラで訴えるわよ!?」

 

 「初対面で下劣だの下等だの言うような奴は、女子としてカウントされません。それがこの世界のルールです」

 

 「無いでしょそんなルール!?」

 

 「それで?どちら様ですか?」

 

 そう尋ねると、女の子がニヒルな笑みを浮かべる。

 

 「フッ・・・私は堕天使ヨハネ・・・」

 

 「・・・善子ちゃん?」

 

 瀕死状態だったずら丸がガバッと起き上がり、女の子の顔を覗き込む。

 

 「やっぱり善子ちゃんだ!私、花丸だよ!幼稚園以来だね!」

 

 「は・・・花丸うううううっ!?」

 

 仰け反る女の子。どうやら二人は知り合いらしい。

 

 っていうか、ずら丸の本名は花丸っていうのか・・・

 

 「久しぶりだね!善子ちゃん!」

 

 「善子言うな!私はヨハネ!ヨハネなんだからね!」

 

 そう言って逃げていく自称・堕天使ヨハネ。ずら丸がその後を追い、その後をルビィちゃんとやらが追いかけていく。

 

 「どうしたの善子ちゃあああああん!?」

 

 「花丸ちゃん待ってえええええっ!」

 

 「来るなあああああっ!」

 

 「・・・何だったんだ?」

 

 多分あの子も新入生だろう。ずいぶん濃いメンツが集まったなぁ・・・

 

 「あの子達・・・後でスカウトに行こう!」

 

 「アハハ・・・」

 

 懲りない高海先輩に、苦笑している渡辺先輩。

 

 「高海先輩、まだ諦めてないんですか?」

 

 「勿論!だってあの子達、凄く可愛かったもん!」

 

 「まぁそれは認めますけど」

 

 ずら丸もルビィちゃんとやらも自称・堕天使ヨハネも、美少女なのは間違い無い。

 

 「あの子達がスクールアイドルになったら、絶対人気出るよ!」

 

 「・・・そんな単純な話でもないと思いますけど」

 

 俺が溜め息をついていると・・・

 

 「このチラシを配っているのは、貴女方ですの?」

 

 背後で声がする。振り向くと、美しい黒髪ロングの女の子が立っていた。

 

 手にはスクールアイドル部のチラシを持っている。

 

 「いつ何時、スクールアイドル部なるものがこの浦の星女学院にできたのです?」

 

 凛とした表情でこちらを見る女の子。

 

 立ち居振る舞いがとても綺麗で、俺は思わずその女の子に見惚れてしまった。

 

 「貴女も新入生?」

 

 「ち、違うよ千歌ちゃん!?その人は三年生だよ!?」

 

 呑気にそう声をかける高海先輩に、慌てて耳打ちする渡辺先輩。

 

 「しかもその人は・・・」

 

 「・・・ひょっとして、生徒会長さんですか?」

 

 もしかしてと思い尋ねてみると、女の子が優しい笑みを浮かべる。

 

 「えぇ、生徒会長の黒澤ダイヤと申します。絢瀬天さんですわね?」

 

 「あ、はい。絢瀬天です」

 

 「遅れてしまい申し訳ありません。生徒会の仕事に少々手間取ってしまいまして・・・」

 

 申し訳なさそうに頭を下げる生徒会長。

 

 「いえ、大丈夫です。そんなに待ってないですし」

 

 主に二人の先輩と、三人の同級生のおかげで。

 

 「すぐに生徒会室までご案内します。あぁ、それと・・・」

 

 先ほどの優しい笑みとは対照的に、怖い笑みを高海先輩と渡辺先輩に向ける。

 

 「貴女方も一緒に来て下さい。お話がありますので」

 

 「「は、はい・・・」」

 

 震えながら返事をする二人。恐るべし生徒会長・・・

 

 「では、参りましょうか」

 

 「はい。ほら高海先輩、渡辺先輩、行きますよ」

 

 「うぅ、曜ちゃ~ん・・・」

 

 「諦めよう、千歌ちゃん・・・」

 

 絶対に生徒会長を怒らせてはいけない・・・入学初日にして、早くも教訓を学んだ俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

今回は『ラブライブ!サンシャイン!!』の小説を書かせていただきました。

先月アニメを観て、今月映画を観に行って・・・

完全に新規のにわかファンです。

ノリと勢いで書いてみたは良いものの、果たしてどこまで続くことやら・・・

とりあえず、ヒロイン(未定)とイチャイチャするところまで書きたい願望。

それでは次回があることを願いまして・・・

以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人には意外な一面があったりする。

LiSAさんが歌う『ADAMAS』のサビ部分で、『シャイニーソード マイダイヤモンド』ってあるけど…

このフレーズを聴く度に鞠莉ちゃんとダイヤさんが思い浮かんで、自分が『ラブライブ!サンシャイン!!』にハマっていることを実感します。


 「・・・つまり設立の許可どころか、申請すらしていないにも関わらず勧誘活動を行なっていたと」

 

 「いやぁ・・・皆勧誘してたんで、ついでというか焦ったというか・・・」

 

 生徒会室にて、黒澤生徒会長の説教を受けている高海先輩。

 

 ちなみに渡辺先輩は手伝っていただけということで、早々にお咎め無しが決まった。

 

 「そして部員は貴女一人だけ・・・部の申請には、最低でも五人必要ということは知っていますわよね?」

 

 「だから勧誘してたんじゃないですか~♪」

 

 高海先輩の答えにイラッとしたのか、バンッと机を叩く会長。

 

 「・・・いったぁ」

 

 と思ったら、叩いた手を痛そうに擦っていた。え、ドジっ子?

 

 「・・・ぷっ」

 

 「笑える立場ですの!?」

 

 「ひぃ!?すいません!」

 

 噴き出した高海先輩だったが、会長に怒られて慌てて謝る。

 

 「とにかく、スクールアイドル部の設立は認められませんわ」

 

 「・・・そうですか。じゃあ、五人集めてまた来ます」

 

 一礼して去ろうとする高海先輩。その背中に、会長が非情な言葉を投げかけた。

 

 「それは別に構いませんけど・・・例えそれでも承認は致しかねますがね」

 

 「なっ!?どうしてですか!?」

 

 慌てて会長に詰め寄る高海先輩。会長は冷たい目で高海先輩を見ていた。

 

 「私が生徒会長でいるかぎり・・・スクールアイドル部は認めないからです!」

 

 「ええええええええええっ!?」

 

 悲鳴を上げる高海先輩。

 

 「そ、そんな横暴な!?」

 

 「落ち着いて千歌ちゃん!?」

 

 尚も会長に詰め寄ろうとする高海先輩を、後ろにいた渡辺先輩が必死に止める。

 

 「とりあえず一回戻ろう!失礼しました!」

 

 「ちょ、離して曜ちゃん!?」

 

 渡辺先輩は慌てて一礼すると、暴れる高海先輩を引きずって生徒会室を後にした。

 

 「・・・入学初日から見苦しい姿をお見せして、申し訳ありません」

 

 「大丈夫ですよ」

 

 苦笑しながら答える俺。

 

 「何だか少し・・・懐かしい光景でしたから」

 

 「懐かしい?」

 

 「いえ、こっちの話です」

 

 俺は会長に向き直り、改めて一礼する。

 

 「改めまして、絢瀬天です。これからお世話になります」

 

 「いえいえ、こちらこそ」

 

 優しい笑みを浮かべる会長。

 

 「さて・・・今さら確認するまでもないことですが、絢瀬さんはこの学校で唯一の男子生徒ということになります」

 

 会長が説明を始める。

 

 「最初に念を押しておきますが、不純な行動は絶対に許しません。それを肝に銘じておくように」

 

 「分かりました」

 

 要はセクハラとかするなってことか・・・まぁするつもりも無いので問題無い。

 

 え?自称・堕天使?堕天使は人間じゃないし、セクハラにならないから。

 

 「・・・まぁ、誰かと交際するのは絢瀬さんの自由ですので。校内で破廉恥な行動をしないかぎり、私が何か言うことはありませんわ。ですが学生という立場上、節度を持った交際をしていただかないと困りますわね」

 

 どうやら会長は、結構お堅い人物のようだ。

 

 ひょっとして、名家の令嬢とかなのではないだろうか・・・

 

 「まぁそこは気を付けていただくとして・・・とりあえず絢瀬さんには、生徒会に所属していただくことになります。そこで生徒会の仕事をしてもらいつつ、学校に慣れていただきたいのです。勿論、私も全力でサポートさせていただきますので」

 

 「心強いです」

 

 これは偽らざる本音だった。男子生徒が一人しかいない環境で、生徒会長のサポートがあるのは正直嬉しい。

 

 「とまぁ、説明することと言ったらこれぐらいなのですが・・・絢瀬さんの方から何か質問等はありますか?」

 

 「そうですねぇ・・・」

 

 今のところ、これといって気になることもない。強いて言うなら・・・

 

 「質問というか・・・お願いでも良いですか?」

 

 「何でしょう?」

 

 「出来たらで良いんですけど・・・苗字じゃなくて、名前で呼んでいただきたいなと」

 

 「はい?」

 

 首を傾げる会長。そりゃそういう反応するよね・・・

 

 「いえ、大した理由は無いんです。今までずっと周りから、名前で呼ばれることが多かったので・・・これから生徒会でお世話になるわけですし、出来ればそうしていただけると嬉しいかなぁって」

 

 本当に大した理由じゃないよな、コレ。そんなことを思っていると・・・

 

 「・・・フフッ」

 

 会長が急に笑い出す。あれ、何かおかしいこと言ったかな・・・

 

 「あぁ、ごめんなさい。恐る恐るといった感じでしたので、何をお願いされるのかと思ったら・・・そんなことで良いんですの?」

 

 会長はひとしきり笑うと、立ち上がって手を差し出してきた。

 

 「これからよろしくお願いしますわね・・・天さん」

 

 ニッコリと笑う会長。どうやら、思ったほどお堅い人では無かったらしい。

 

 俺は差し出された手を握った。

 

 「よろしくお願いします、会長」

 

 「ダイヤ、で結構ですわ」

 

 「え?」

 

 思わず驚いてしまう。まさか会長からそんなことを言われるとは・・・

 

 「あら、私だけ名前で呼ばせるつもりですの?」

 

 悪戯っぽく笑う会長。こんな表情もする人なんだな・・・

 

 「・・・まさか。よろしくお願いします、ダイヤさん」

 

 「よろしい」

 

 満足気な笑みを浮かべるダイヤさんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・落ち着かないなぁ」

 

 自分の席に座り、溜め息をつく俺。その原因は・・・

 

 「「「「「じ~っ・・・」」」」」

 

 クラスの女子達からの視線だった。

 

 ダイヤさんとの話が終わった後、入学式に出席したのだが・・・唯一の男子生徒ということで、その時点で周りからの注目を集めていた。

 

 そして入学式終了後、教室に移動してもこうして好奇の視線に晒されている。ある程度予想はしていたが、これは想像以上に気まずい。

 

 どうしたものかと頭を悩ませていると・・・

 

 「これ、食べるずら?」

 

 「あ、どうも・・・」

 

 左の席の女の子が、美味しそうな飴を差し出してくれる。俺はお礼を言いながらそれを受け取って・・・

 

 ずら?

 

 「え、ずら丸!?いつの間に!?」

 

 「今頃気付いたずら!?」

 

 俺の左隣の席に座っていたのは、俺をルビィちゃんとやらの『ばくおんぱ』から守ってくれたずら丸だった。

 

 「同じクラスだったんだ!?」

 

 「そもそも一クラスしかないずら」

 

 「あ、そうだった・・・」

 

 この学校は生徒数が少ないから、各学年一クラスずつしかないんだっけ・・・

 

 「っていうか、マルの名前はいつから『ずら丸』になったずら?」

 

 「いや、何となく思いついたあだ名なんだけど・・・花丸っていうんだっけ?」

 

 「うん、国木田花丸ずら」

 

 「そっか、よろしくずら丸」

 

 「無視ずら!?」

 

 何だろう、何故か『ずら丸』ってしっくりくるんだよね・・・

 

 「あ、俺は絢瀬天。天でいいからね」

 

 「じゃあ『そらまる』で・・・」

 

 「うん、それはダメ」

 

 何かよく分かんないけど、それは誰かと被ってる気がするのでダメだ。

 

 「あれ、ちょっと待って・・・一クラスしかないってことは、ルビィちゃんとやらと自称・堕天使も同じクラス?」

 

 「ルビィちゃんならここにいるずら」

 

 「ぴぎっ!?」

 

 後ろの席を指差すずら丸。そこには、縮こまって涙目で座っているルビィちゃんとやらの姿があった。

 

 「えーっと・・・よろしくね?」

 

 「ぴ、ぴぎぃ・・・」

 

 震えているルビィちゃんとやら。俺、嫌われてるのかな・・・

 

 「げ、元気出すずら!そのうち慣れるずら!」

 

 落ち込む俺を見て、ずら丸が慌てて励ましてくれる。良い奴だな、ずら丸・・・

 

 「あ、ちなみに善子ちゃんならあそこずら!」

 

 ずら丸が指差した方を見ると・・・今朝の痛々しい振る舞いとは打って変わって、優雅に笑みを浮かべて席に座っている自称・堕天使がいた。

 

 「・・・誰?」

 

 「一応善子ちゃんのはず・・・ずら」

 

 なるほど、黙っていれば美少女だな・・・

 

 そんなことを考えていると、先生が教室に入ってきた。

 

 「は~い、席に着いて下さいね~」

 

 のんびりとした口調で呼びかける先生。

 

 「コホンッ。新入生の皆さん、入学おめでとうございます。このクラスの担任を務めることになりました、赤城麻衣です。よろしくお願いします」

 

 ペコリと頭を下げる赤城先生。

 

 「それではまず、皆さんにも自己紹介をしてもらいたいと思います。とりあえず出席番号順で・・・絢瀬くん、お願い出来ますか?」

 

 「え、俺が出席番号一番ですか!?」

 

 何てこった・・・全然気付かなかった・・・

 

 「確かに入学式の列は先頭だったし、教室でも一番端の列の一番前の席だけど・・・まさか一番だったなんて・・・」

 

 「逆に何で気付かなかったずら!?」

 

 ずら丸のツッコミ。いやホント、何で気付かなかったんだろう・・・

 

 席を立ち上がって教壇に立つと、クラス中の視線が俺に突き刺さった。

 

 や、やり辛い・・・

 

 「・・・初めまして、絢瀬天です。この学校で唯一の男子ということで、色々とご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが・・・仲良くしてもらえると嬉しいです。よろしくお願いします」

 

 ペコリと頭を下げる。すると・・・

 

 「よろしくずら~!」

 

 ずら丸が笑顔で拍手してくれた。後ろにいるルビィちゃんとやらや、すまし顔をしていた自称・堕天使もおずおずと拍手してくれている。

 

 それをキッカケに、他の皆も笑みを浮かべて拍手してくれた。

 

 「よろしくね~!」

 

 「よっ、唯一の男子!」

 

 あっ、ヤバい泣きそう・・・皆が温かくて泣きそう・・・

 

 「良かったずらね、天くん」

 

 席に戻ると、ずら丸が笑顔で出迎えてくれた。天使や・・・

 

 「・・・ありがとう、ずら丸。ルビィちゃんとやらもありがとね」

 

 「・・・ぴぎっ」

 

 恐る恐る小さく頷くルビィちゃんとやら。

 

 自称・堕天使の方にも口パクで『ありがとう』と伝えると、照れたように顔をふいっと背けてしまった。素直じゃないだけで、本当は良い子なんだろうな・・・

 

 その後も自己紹介は続いていき、ずら丸やルビィちゃんとやらの自己紹介も終わった。

 

 そして・・・

 

 「フッ・・・堕天使ヨハネと契約して、貴女も私のリトルデーモンになってみない?」

 

 自称・堕天使が思いっきりやらかした。クラスの皆が唖然とする中、やらかしたと気付いた自称・堕天使の表情が強張る。

 

 「ピ・・・ピ~ンチッ!?」

 

 教室から逃走していていく自称・堕天使。

 

 「・・・リトルデーモンって何?」

 

 「・・・オラには分からないずら」

 

 「・・・ぴぎぃ」

 

 それを呆然と見送る俺、ずら丸、ルビィちゃんとやらなのだった。




どうも~、ムッティです。

ノリと勢いで書き始めたこの小説ですが、早くもお気に入りに登録してくださった方々がいらっしゃいます。

本当にありがとうございます。

執筆はある程度まで進んでいるので、今後も続けていきたいところです。

とりあえず早くヒロインを決めてイチャつかせたい。

その為に書いていると言っても過言ではないです←

皆さん、これからもこの作品をよろしくお願い致します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夢を語る人はいつだって眩しい。

sweet ARMSさんの『I swear』が頭から離れない今日この頃。

『デート・ア・ライブ』の主題歌といえば、やっぱりsweet ARMSさんですよね。


 「え、ルビィちゃんとやらはダイヤさんの妹なの!?」

 

 「う、うん・・・」

 

 小さく頷くルビイちゃんとやら。

 

 学校も終わり、俺はずら丸やルビィちゃんとやらと帰りのバスに乗っていた。

 

 「マジか・・・苗字が黒澤で名前も宝石繋がりだから、凄い偶然だなと思ったら・・・」

 

 「何で天くんはそこで気付かないずら・・・」

 

 呆れているずら丸。

 

 「黒澤家は旧網元の家系で、この辺りで一番の名家ずら」

 

 「あぁ、道理で・・・」

 

 それなら、ダイヤさんのあの立ち居振る舞いも納得だな・・・

 

 「それよりマルは、善子ちゃんが心配ずら」

 

 「あぁ、大丈夫かなあの子・・・」

 

 あの後、自称・堕天使は帰ってこなかった。恐らく戻り辛かったんだろうけど・・・

 

 唖然としていたクラスの皆も、結構心配していた。

 

 「明日あの子が来たら、ちゃんと話したいな。俺も仲良くなりたいし」

 

 「天くん・・・ありがとうずら。きっと善子ちゃんも喜ぶずら」

 

 笑みを浮かべるずら丸。

 

 そんな話をしているうちに、俺が降りる予定のバス停に到着した。俺は席を立つと、ずら丸とルビィちゃんとやらに手を振る。

 

 「じゃあ二人とも、また明日」

 

 「また明日ずら」

 

 ずら丸が手を振り返してくれる中、ルビィちゃんとやらは恐る恐る小さく頭を下げていた。

 

 俺が苦笑しながらバスを降りようとすると・・・

 

 「っ・・・あ、あのっ!」

 

 ルビィちゃんとやらが声を上げた。驚いて振り向くと、ルビィちゃんとやらが顔を真っ赤にしていた。

 

 「ま・・・また明日・・・」

 

 小さく手を振ってくれる。どうやら、ずいぶん勇気を出してくれたみたいだ。

 

 「うん、また明日ね」

 

 笑顔で手を振り返す。恥ずかしそうに小さく笑うルビィちゃんとやらなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・で、何してんですか貴女達は」

 

 「面目ない・・・」

 

 「ごめんなさい・・・」

 

 呆れた視線を向ける俺の前では、高海先輩と赤紫色のロングヘアの女の子がずぶ濡れで凍えていた。

 

 いやぁ、ビックリしたよね。ルビィちゃんとやらにほっこりしながらバスを降りて歩いてたら、すぐ側の海で凄い悲鳴と凄い水音がするんだもん。急いで駆けつけてみたら、高海先輩とこの女の子がプカプカ海に浮いてるし・・・

 

 しかも高海先輩はともかく、この女の子はスクール水着を着ている。エロいな・・・

 

 じゃなくて、どう見ても自分から海に入ろうとしていた感じだ。

 

 「まだ四月ですよ?沖縄じゃないんですから、そりゃあ寒さで凍えますって」

 

 「反省してます・・・」

 

 うなだれる女の子。呆れて溜め息をついていると、ふと女の子の近くに置いてある制服が目に入った。

 

 これって・・・

 

 「・・・ひょっとして、音ノ木坂の生徒さんですか?」

 

 「えっ・・・」

 

 驚いたような表情の女の子。

 

 「どうしてそれを・・・」

 

 「それ、音ノ木坂の制服ですよね?タイの色が青ってことは、一年生ですか?」

 

 「・・・今月から二年生。音ノ木坂は先月いっぱいで転校して、二年生に上がる今月からこの近くの高校に転入することになってて」

 

 「ねぇねぇ、音ノ木坂ってどこの学校?」

 

 俺の制服の袖を引っ張ってくる高海先輩。えっ・・・

 

 「高海先輩、スクールアイドルやろうとしてるのに知らないんですか?」

 

 「え?スクールアイドルと関係ある学校なの?」

 

 「超有名なスクールアイドルが在籍していた、東京の高校ですよ」

 

 「えぇっ!?東京!?」

 

 「そこに驚くんですか?」

 

 ダメだ、この人の判断基準が分からん。まぁそれは置いとくとして・・・

 

 「どうして海に入ろうとしてたんですか?」

 

 「・・・海の音が聞きたくて」

 

 「デジタル配信されてるんで、ダウンロードして聴いて下さい」

 

 「それ多分『海の声』よね?」

 

 「桐●健太さんのファンなんですね、分かります」

 

 「いや違うから。最後まで話聞いてくれる?」

 

 女の子は一通りツッコミを入れると、ポツポツと語り出した。

 

 「・・・私、ピアノで曲を作ってるの。でも、海の曲のイメージが浮かばなくて・・・」

 

 「それで海に潜って、音を聴こうとしていたと・・・」

 

 コクリと頷く女の子。一方、高海先輩は目を輝かせていた。

 

 「作曲してるの!?凄いね!」

 

 「・・・べ、別に凄いことじゃないけど」

 

 照れたように顔を背ける女の子。この感じ・・・

 

 「・・・似てるな」

 

 「似てる?」

 

 「いえ、こっちの話です」

 

 「ねぇねぇ、誰かスクールアイドル知ってる!?東京だと有名なアイドルたくさんいるでしょ!?」

 

 「・・・スクールアイドルって何?」

 

 「えぇっ!?スクールアイドル知らないの!?」

 

 驚愕のあまり叫ぶ高海先輩。おいおいマジか・・・

 

 「音ノ木坂の生徒なら、絶対に語り継がれているであろうスクールアイドルがいるはずなんですけど・・・」

 

 「私ずっとピアノばかりやってきたから、そういうの疎くて・・・スクールアイドルって有名なの?」

 

 「有名なんてもんじゃないよ!?ドーム大会が開かれるほど超人気なんだよ!?」

 

 興奮しながら語る高海先輩。ポケットからスマホを取り出し、画面を見せる。そこに映っていたのは・・・

 

 音ノ木坂の制服を着て踊る、九人組のスクールアイドルだった。

 

 「何で気付かないんですか、この鈍感オレンジヘッド」

 

 「今何で罵倒されたの私!?」

 

 「高海先輩、その人達の制服を見て気付きません?」

 

 「あ、この制服?可愛いよね~!」

 

 「スマホ壊して良いですか?」

 

 「急に攻撃的になったね!?ホントどうしたの!?」

 

 「この制服、音ノ木坂の・・・」

 

 「・・・あっ」

 

 女の子の指摘に、高海先輩がようやく気付く。

 

 そして女の子の近くに置かれた制服に目をやり、スマホの画面に目をやり、最後に俺を見る。

 

 「えっ、じゃあこの人達って・・・」

 

 「・・・かつて音ノ木坂に在籍していた人達です」

 

 「ええええええええええっ!?」

 

 高海先輩の絶叫。今さらですかそうですか。

 

 「じゃあこの子、この人達と同じ学校にいたってこと!?」

 

 「だから最初からそう言ってるでしょうが」

 

 「ねぇねぇ、どんな人達なの!?」

 

 「い、いや・・・会ったことないけど・・・」

 

 「もう卒業してますよ、その人達」

 

 「えぇ・・・何だぁ・・・」

 

 がっくりうなだれる高海先輩。いやいやいや・・・

 

 「っていうか、何でその人達のことは知ってるのに音ノ木坂は知らないんですか」

 

 「いやぁ、知ったのつい最近でさぁ・・・」

 

 苦笑する高海先輩。その場から立ち上がり、海へと視線を向ける。

 

 「・・・私ね、普通なの。普通星に生まれた普通星人で、どんなに変身しても普通なんだって・・・そう思ってた」

 

 寂しそうに笑う高海先輩。

 

 「それでも何かあるんじゃないかって期待してたんだけど、何もなくて・・・気付いたら高校生になってた」

 

 そこで言葉を切ると、おどけるように『ガオーッ!』とポーズをとる。

 

 「このままじゃ普通星人を通り越して、普通怪獣ちかちーになっちゃうううううっ!?」

 

 「うなじ削ぎましょうか?」

 

 「それ怪獣じゃなくて巨人の駆逐方法だよね!?っていうか駆逐しないでよ!?」

 

 高海先輩はツッコミを入れると、面白そうに笑って空を見上げた。

 

 「そんな風に思ってた時に、出会ったの・・・あの人達に」

 

 目を輝かせる高海先輩。

 

 「動画を見て『何じゃこりゃあああああっ!?』ってなって、気付いたら全部の曲を聴いてた。毎日動画を見て、曲を覚えて・・・そして思ったの。私も仲間と一緒に頑張ってみたい、この人達が目指したところを私も目指したい。私も・・・輝きたい、って」

 

 「それでスクールアイドルを・・・」

 

 気付くと、高海先輩の言葉に引き込まれてしまっていた。輝きたい、か・・・

 

 「・・・ありがとう」

 

 女の子が微笑みながら呟く。

 

 「今の話聞いてたら・・・何か、頑張れって言われた気がする。スクールアイドル、なれると良いわね」

 

 「うんっ!」

 

 女の子の言葉に、笑顔で頷く高海先輩。

 

 「あっ、自己紹介がまだだったね・・・私は高海千歌。あそこの丘にある、浦の星女学院っていう高校の二年生。そこの男の子は絢瀬天くんで、同じ高校の一年生なの」

 

 「えっ・・・女子校よね・・・?」

 

 「共学化に向けてのテスト生です」

 

 「あっ、なるほど・・・」

 

 高海先輩や渡辺先輩に出会った時のような失態を犯さないよう、端的な説明を考えといて良かった・・・

 

 「タイの色だけで音ノ木坂の学年が分かるみたいだし・・・ひょっとしたら、女子校好きの変態なんじゃないかって思っちゃった」

 

 「ちょっと海に身投げしてきますね」

 

 「わーっ!?ストップストップ!?」

 

 必死に俺を止める高海先輩。その様子にひとしきり笑った女の子が立ち上がる。

 

 「じゃあ明日から高海さんは同級生、絢瀬くんは後輩ってことになるわね」

 

 「「・・・え?」」

 

 同時にポカンとする俺達。そんな俺達を見て、悪戯っぽく笑う女の子なのだった。

 

 「私は桜内梨子。明日から浦の星女学院に転入する予定だから、よろしくね」




どうも~、ムッティです。

新成人の皆様、おめでとうございます。

これからは大人としての自覚を持って…なんて、そんな偉そうなことを言える立場ではないので言いません(笑)

お互い人生を楽しみましょうね(^^)

さっきニュースで見ましたが、東京都の豊島区では『アニメで祝う成人式』が行われたんだとか。

…豊島区で成人を迎えたかった(涙)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

損な役回りなど誰もやりたくはない。

両腕とも筋肉痛・・・

日頃の運動不足を痛感するわ・・・


 翌日・・・

 

 「あ、ずら丸とルビィちゃんとやら。おはよう」

 

 「おはようずらぁ・・・」

 

 「お・・・おはよう・・・」

 

 浦の星行きのバスに乗ると、ずら丸とルビィちゃんとやらが一番後ろの席に座っていた。

 

 「ずら丸はずいぶん眠そうだね?」

 

 「つい読書に夢中になって、夜更かししちゃったずら・・・」

 

 欠伸を噛み殺すずら丸。よほど眠いようだ。

 

 「学校に着くまで寝てたら?寄りかかっても良いよ?」

 

 「じゃあお言葉に甘えるずらぁ・・・」

 

 隣に座った瞬間、俺の右肩に頭をコテッと乗せるずら丸。そのまま俺の右半身に体重を預けてくる。

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 「・・・寝るの早いな」

 

 苦笑しながら、ずら丸の右隣に座っているルビィちゃんとやらの方を見ると・・・

 

 「ぴぎっ!?」

 

 視線が合い、慌てて逸らすルビィちゃんとやら。どうやらまだ慣れないらしい。

 

 ふとルビィちゃんとやらのバッグに目をやると、女の子の顔が写った缶バッジが付いていることに気付いた。あれって・・・

 

 「・・・もしかしてルビィちゃんとやら、スクールアイドル好きなの?」

 

 「ぴぎっ!?」

 

 ビクッと肩を震わせるルビィちゃんとやら。

 

 「ど、どうして・・・」

 

 「いや、その缶バッジ・・・小泉花陽ちゃんだよね?」

 

 「っ!?分かるの!?」

 

 「うん、μ'sのメンバーでしょ?」

 

 μ'sというのは、例の音ノ木坂に在籍していたスクールアイドルグループの名前だ。

 

 そのグループを結成していた九人の内の一人・・・それが缶バッジに写っている女の子、小泉花陽ちゃんなのである。

 

 「μ'sを知ってるの!?」

 

 「そりゃあ知ってるよ。有名なグループだもん」

 

 目を輝かせるルビィちゃんとやら。これは高海先輩と話が合いそうだ。

 

 「推しメンっている!?」

 

 「俺は東條希ちゃんかな。包容力のある感じが好きなんだよね」

 

 「分かる!大人の女性って感じがするよね!」

 

 「そうなんだよ。ルビィちゃんとやらは、花陽ちゃん推しなの?」

 

 「そうなの!可愛くて憧れてるんだ!」

 

 よほど好きなのか、表情が活き活きとしているルビィちゃんとやら。ちょっと引っ込み思案だけど、こういう一面もあるんだな・・・

 

 「絢瀬くんは、μ'sの曲で好きな曲ってある!?」

 

 「んー、やっぱり『Snow halation』かなー。っていうか、天で良いよ?俺も何だかんだ、ルビィちゃんとやらのこと名前で呼んじゃってるし」

 

 「い、良いの・・・?」

 

 「勿論。っていうか、俺もそろそろ普通にルビィちゃんって呼んで良い?『とやら』って付けるの大変で・・・」

 

 俺の言葉にポカンとしていたルビィちゃんとやらだったが、やがてクスクス笑い出す。

 

 「フフッ・・・最初から普通に呼んでくれて良かったのに」

 

 「いきなり下の名前で呼ぶのも図々しいかなって思ってさ」

 

 「その割には、ほぼ下の名前で呼んでたよね?」

 

 「・・・まぁ確かに」

 

 ルビィちゃんとやらはひとしきり笑うと、おずおずと手を差し出してきた。

 

 「えっと、昨日はちゃんと自己紹介できなかったけど・・・黒澤ルビィです。よろしくね・・・天くん」

 

 高海先輩に触れられただけで叫んでしまっていたこの子が、勇気を出して手を差し出してくれている。やはり少し怖いのか、若干手が震えていた。

 

この勇気に、俺はちゃんと応えないといけないな・・・

 

 「・・・改めまして、絢瀬天です。よろしくね・・・ルビィちゃん」

 

 差し出された手をそっと握り、握手を交わす。

 

 視線が合った俺達は、お互い照れ笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「この学校には、スクールアイドルは必要無いからですわ!」

 

 「だからどうしてですか!?」

 

 「・・・俺のほっこりした朝を返して下さい」

 

 げんなりしてしまう俺。

 

 ダイヤさんからの連絡で生徒会室へ行くと、ダイヤさんと高海先輩が顔を突き合わせて言い争いをしていた。渡辺先輩が、少し離れたところでおろおろしている。

 

 「渡辺先輩、何があったんですか?」

 

 「わ、私もスクールアイドル部に入ることにしたんだけど・・・申請書を出しに来たら却下されちゃって・・・」

 

 「・・・あぁ、なるほど」

 

 出来ればスルーしたいけど、渡辺先輩も困ってるみたいだし・・・俺が止めるしかないのか・・・

 

 俺は溜め息をつくと、二人の間に入った。

 

 「はいはい、そこまでにしましょうね」

 

 「絢瀬くん!?」

 

 「天さん!?」

 

 ようやく俺の存在に気付いたようで、驚いている二人。やれやれ・・・

 

 「とりあえず高海先輩、この件に関しては貴女が悪いです」

 

 「えぇっ!?何で!?」

 

 「渡辺先輩が入っても、部員は二人だけじゃないですか。最低でも五人必要だっていう話、忘れたわけじゃないでしょう?」

 

 「そ、それは・・・」

 

 「まずは部員を五人集めてから、申請書を提出しに来るべきです。そこで認められないと言われたら、その時いくらでも抗議したら良いでしょう。高海先輩は昨日、ダイヤさんのことを横暴だと言いましたけど・・・条件を満たせていないのに抗議している今の貴女の方が、よほど横暴だと俺は思います」

 

 「っ・・・」

 

 唇を噛む高海先輩。

 

 「それからダイヤさん、貴女も大概ですよ」

 

 「なっ!?私もですか!?」

 

 「当たり前じゃないですか」

 

 冷たい目でダイヤさんを見る俺。

 

 「『認めない』とか『必要無い』とか・・・具体的な理由も言わずに生徒のやりたいことを否定するなんて、それが生徒会長のやる事ですか?」

 

 「っ・・・それは・・・!」

 

 「まぁ今はいいです。高海先輩が申請条件を満たせていませんから。ですが、もしちゃんと条件を満たした上で申請に来たら・・・今みたいな態度は許されませんからね?」

 

 俯いてしまうダイヤさん。

 

 少し言い過ぎたかもしれないが、こういうことはハッキリさせておかないといけない。

 

 「・・・渡辺先輩、高海先輩を連れて行ってもらって良いですか?生徒会の仕事のことで、ダイヤさんから話があるみたいなので」

 

 「分かった。千歌ちゃん、行こう?」

 

 「うん・・・」

 

 渡辺先輩が高海先輩の手を引いて、生徒会室を出て行く。

 

 謝罪の意味を込めて軽く頭を下げると、渡辺先輩は苦笑しながら手を振ってくれた。高海先輩のアフターケアは、渡辺先輩に任せて良いだろう。

 

 問題は・・・

 

 「・・・申し訳ありませんでした」

 

 俯いたまま、小さな声で謝るダイヤさん。

 

 「生徒会長として、不適切な態度でしたわ・・・ですが、私は・・・」

 

 「・・・何か理由があるんでしょう?」

 

 「っ!?」

 

 驚いたように顔を上げるダイヤさん。

 

 「俺だって、ダイヤさんが何の理由も無くあんなこと言ってるなんて思ってませんよ。昨日知り合ったばかりですけど、それくらいは分かってるつもりです」

 

 この学校の生徒のことを、とても大事に思っている・・・そのことは、昨日話をさせてもらってよく分かった。

 

 スクールアイドルを否定するのは、きっと何かしらの理由があってのことだと思う。

 

 「無理に話せなんて言いませんけど、高海先輩の想いにはちゃんと向き合ってあげて下さい。じゃないと向き合ってもらえない高海先輩も、向き合うことをしないダイヤさんも・・・二人とも苦しい思いをしますから」

 

 「天さん・・・」

 

 「・・・なんて、ちょっと柄にもないこと言っちゃいましたね。さっきもキツい言い方をしてしまって、すみませんでした」

 

 少なくとも、先輩に対してとるべき態度ではなかったしな・・・

 

 頭を下げると、ダイヤさんが慌てていた。

 

 「そ、天さんが謝る必要はありませんわ!悪いのは私なのですから!」

 

 「ですよね。悪いのはダイヤさんですよね」

 

 「急に態度が変わりましたわね!?」

 

 「人の足元を見る男、それが俺です」

 

 「ただの最低な人間じゃないですか!?」

 

 「そうですけど。それが何か?」

 

 「開き直りも甚だしいですわよ!?」

 

 全力ツッコミにより、息切れしているダイヤさん。ようやく本調子に戻ったようだし、この辺にしておくか・・・

 

 「ところでダイヤさん、俺に何か用があったんじゃないですか?」

 

 「ハッ!?そうでしたわ!」

 

 ようやく本題を思い出したらしいダイヤさん。

 

 「実は今日から転入してくる生徒がいて、もうすぐ生徒会室に来る予定なのです。せっかくですので、天さんにも立ち会っていただこうと思いまして」

 

 「あぁ、桜内梨子さんですね」

 

 「えぇ、桜内梨子さん・・・って何で知ってますの!?」

 

 「実は・・・かくかくしかじか」

 

 「なるほど、そういった事情が・・・って通じるわけないでしょう!?それで通じるのはアニメやマンガの世界だけですわよ!?」

 

 「おぉ、見事なノリツッコミ」

 

 「させないで下さいます!?」

 

 そんなやり取りをしていると、生徒会室のドアをノックする音がした。

 

 「どうぞ」

 

 「失礼します」

 

 入ってきたのは、やはり桜内さんだった。緊張しているのか、少し表情が強張っている。

 

 「初めまして、桜内梨子です」

 

 「特技はピアノですよね」

 

 「そう、特技はピアノ・・・って絢瀬くん!?」

 

 「どうも」

 

 にこやかに手を振ってみる。桜内さんは唖然としていた。

 

 「な、何でここに・・・」

 

 「俺、生徒会長の下僕なんで」

 

 「下僕!?」

 

 「誤解を生む発言は止めて下さいます!?」

 

 ダイヤさんはツッコミを入れると、咳払いをしてから桜内先輩を見た。

 

 「コホンッ・・・初めまして、生徒会長の黒澤ダイヤですわ。天さんとはお知り合いのようですので紹介は省きますが、彼も生徒会の一員なのです」

 

 「そ、そうでしたか・・・」

 

 驚きながらも納得した様子の桜内さん。

 

 「これからよろしくお願いします、桜内さん・・・あ、桜内先輩か」

 

 「フフッ、どっちでも大丈夫よ。こちらこそよろしくね、絢瀬くん」

 

 「あ、できたら天って呼んで下さい。そっちの方が呼ばれ慣れてるので」

 

 「じゃあ天くんで。私のことも梨子で良いから」

 

 「了解です、梨子さん」

 

 「・・・コホンッ」

 

 再びダイヤさんの咳払いが入る。何故か少しモジモジしていた。

 

 「と、ところで桜内さん?貴女、音ノ木坂から転校してきたそうですわね?」

 

 「えぇ、そうですけど・・・」

 

 「音ノ木坂には有名なスクールアイドルグループがいたと噂に、あくまでも噂に聞いていますが・・・お会いしたことはありまして?」

 

 「いえ、残念ながらありません。私はずっとピアノしかやってこなかったので、そういったことには疎くて・・・スクールアイドルというのも、昨日初めて知ったくらいです」

 

 「そ、そうですか・・・」

 

 明らかに肩を落とすダイヤさん。あれ、もしかしてダイヤさん・・・

 

 「そ、それでは!いくつか注意事項を説明させていただきますわ!」

 

 慌てて切り替えるダイヤさんに、疑惑の眼差しを向ける俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

ようやく天とルビィちゃんの距離が少し縮まりましたね。

ちなみに天を希ちゃん推しにしたのは、作者が希ちゃん推しだからです(笑)

いやぁ、可愛いですよね希ちゃん。

しかも大きいし・・・何がとは言わないけど。

さて、梨子ちゃんも転入してきたわけですが・・・

果たして果南ちゃんと鞠莉ちゃんはいつ出せるのか・・・

早く出したいところですね。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

礼儀正しい人ほど怒ると怖い。

沼津に行ってみたいなぁ・・・

聖地巡礼とかやってみたい。


 「善子ちゃん、来なかったずら・・・」

 

 帰りのバスを待ちながら、肩を落とすずら丸。

 

 結局今日、自称・堕天使が学校に来ることは無かった。よほど昨日のことを引きずっているんだろうか・・・

 

 「連絡先って分かんないの?」

 

 「分からないずら。家は・・・変わってないなら覚えてるずら」

 

 「じゃあもう少し待ってみて、何日経っても来ないようなら家に行ってみようか。俺も付き合うからさ」

 

 「勿論ルビィも行くよ」

 

 「天くん、ルビィちゃん・・・」

 

 涙目のずら丸。俺はずら丸の頭を撫でた。

 

 「ホント優しいな、ずら丸は」

 

 「友達の心配をするのは当たり前ずら」

 

 そんな会話をしていると・・・

 

 「あっ、絢瀬くん・・・」

 

 「え?」

 

 不意に名前を呼ばれたので振り向くと、高海先輩と渡辺先輩がいた。二人もちょうど帰るところらしい。

 

 今朝のこともあって、高海先輩は気まずそうな顔をしている。俺は二人に歩み寄ると、頭を下げた。

 

 「高海先輩、今朝はキツい言い方をしてしまってすみませんでした。渡辺先輩も、不快な思いをさせてしまってすみません」

 

 「そんな!?」

 

 「頭上げてよ!?」

 

 慌てる高海先輩と渡辺先輩。

 

 「私がいけなかったんだよ!絢瀬くんの言う通り、ちゃんと五人集めてから申請書を出しに行くべきだったのに・・・ごめんなさい!」

 

 「あの場に最初からいた私が、千歌ちゃんと生徒会長の間に入らなきゃいけなかったんだよ!なのに嫌な役を絢瀬くんに押し付ける形になっちゃって・・・本当にごめん!」

 

 「ですよね。じゃあお二人が悪いということで」

 

 「「掌返し!?」」

 

 「冗談ですよ」

 

 思わず笑ってしまう俺。

 

 「これ以上は、お互い謝り続けることになりますから・・・この話はこれで終わりにしませんか?」

 

 「絢瀬くん・・・うん!」

 

 「そうしよっか!」

 

 笑みを浮かべる二人。良かった、どうやら一件落着のようだ。

 

 「天くん、先輩達とケンカでもしてたずら?」

 

 いつの間にか、ずら丸が俺の隣に立っていた。

 

 「まぁ色々あったんだよ、色々」

 

 「あっ、入学式の時の可愛い子!」

 

 高海先輩が顔を輝かせる。

 

 「こんにちは、国木田花丸っていいます」

 

 「私は高海千歌!よろしくね!」

 

 「渡辺曜であります!ヨーソロー!」

 

 ずら丸達が自己紹介しあう中、ルビィちゃんは俺の背中から顔を覗かせていた。

 

 「ぴ、ぴぎぃ・・・」

 

 「あっ、花丸ちゃんと一緒にいた子!」

 

 「ぴぎぃっ!?」

 

 俺の背中に隠れるルビィちゃん。あれ、これってずら丸の役割だった気が・・・

 

 「絢瀬くん、ずいぶん懐かれたね?」

 

 「まぁ色々あったんですよ、色々」

 

 渡辺先輩の言葉に、苦笑しながら返す俺。

 

 「あ、この子は黒澤ルビィちゃんです。ダイヤさんの妹なんですよ」

 

 「嘘!?」

 

 「ホントに!?」

 

 驚愕している二人。まぁ何と言うか、対照的な姉妹だもんなぁ・・・

 

 「花丸ちゃん、ルビィちゃん、スクールアイドルやってみない!?」

 

 「マルはちょっと・・・」

 

 「ぴぎぃ・・・」

 

 首を横に振る二人。高海先輩がうなだれる。

 

 「えぇ・・・絶対人気出るのにぃ・・・」

 

 「それより、高海先輩と渡辺先輩は作曲って出来るんですか?」

 

 俺はそこが気になっていた。高海先輩か渡辺先輩、どちらかが音楽をやっていたりするんだろうか・・・

 

 「作曲?出来ないよ?」

 

 「私も出来ないなぁ」

 

 「えっ・・・」

 

 呆然としてしまう俺。おいおい・・・

 

 「・・・どうするつもりなんですか?」

 

 「え?スクールアイドルって作曲できないとマズいの?」

 

 「・・・マジかぁ」

 

 俺は頭を抱えてしまった。どうやらこの二人は知らないらしい。

 

 「え、何?どういうこと?」

 

 「・・・スクールアイドルをやるということは、ラブライブを目指すわけですよね?」

 

 「そりゃあ当然だよ!」

 

 大きく頷く高海先輩。

 

 ラブライブというのは、スクールアイドルの頂点を決める大会のことだ。その規模は凄まじく、決勝はドームで行なわれるほどである。

 

 しかしそんなラブライブには、出場する為の絶対条件が存在するのだ。

 

 「・・・ラブライブで披露する曲は、オリジナルの曲じゃないといけないんですよ」

 

 「「・・・えっ」」

 

 「しかも予選から始まって決勝まで進んだ場合、当然一曲だけでは足りません。複数のオリジナルの曲が必要になります。厳密に言えば、オリジナルなら同じ曲を繰り返し披露しても問題はありませんが・・・同じパフォーマンスの繰り返しで勝ち進めるほど、ラブライブは甘くないです」

 

 俺の説明に、顔色が悪くなっていく高海先輩と渡辺先輩。

 

 「・・・つまり作曲が出来ないと、ラブライブに出場することも出来ないってこと?」

 

 「そういうことです」

 

 頷く俺。

 

 俺の背中に隠れているルビィちゃんも、うんうんと頷いていた。流石スクールアイドルが好きなだけあって、この条件を知っていたらしい。

 

 「そ、そんな・・・」

 

 「早くも夢が断たれた・・・」

 

 その場にへたり込む二人。アララ・・・

 

 「まぁでも、お二人が作曲出来なくても大丈夫じゃないですか?要は作曲出来る人を探せば良いわけですし」

 

 「そうは言ってもさぁ・・・浦の星に作曲が出来る人なんて・・・」

 

 「梨子さんがいるじゃないですか」

 

 「・・・え?」

 

 ポカンとしている高海先輩。

 

 「いや、桜内梨子さんですよ。今日二年生のクラスに転入してきた人です。昨日言ってたじゃないですか。ピアノで曲を作ってるって」

 

 「ああああああああああっ!?」

 

 叫ぶ高海先輩。完全に忘れてたなこの人・・・

 

 「そうだよ!桜内さんがスクールアイドル部に入ってくれたら解決するじゃん!」

 

 「でも千歌ちゃん、今日誘って断られてたよね?」

 

 「もう誘ってたんですか・・・」

 

 「いやぁ、可愛かったからつい・・・」

 

 頭を掻きながら苦笑する高海先輩。行動早いなこの人・・・

 

 「スクールアイドル部には入ってくれないとしても、曲だけでも依頼してみたらどうですか?まぁ梨子さんにも都合があるでしょうし、引き受けてくれるとはかぎりませんけど」

 

 「それ名案だよ!ありがとう絢瀬くん!」

 

 はしゃいでいた高海先輩だったが、ふと気付いたように俺を見た。

 

 「あれ?絢瀬くん、桜内さんのこと名前で呼んでるの?」

 

 「えぇ。俺のことは天で良いって言ったら、梨子さんも名前呼びで良いって」

 

 「えぇっ!?私は絢瀬くんからそんなこと言われてないんだけど!?」

 

 「私もだよ!?」

 

 「そうでしたっけ?」

 

 そういえば、何だかんだで二人には言ってなかった気がする・・・

 

 結局この後散々『不公平だ!』と言われ、二人とも俺のことを『天くん』と呼ぶようになった。

 

 そして俺も高海先輩を『千歌さん』、渡辺先輩を『曜さん』と呼ぶことになるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「で、また断られたんですか?」

 

 「そうなんだよねぇ・・・」

 

 溜め息をつく千歌さん。あれから数日間、千歌さんはひたすら梨子さんにアタックしているそうだが・・・

 

 答えはノー。梨子さん曰く、『そんな暇は無い』らしい。

 

 「もうちょっとな気がするんだけどねぇ・・・『ごめんなさい!』だったのが、『・・・ごめんなさい』に変わったし」

 

 「いや、単に迷惑してるだけでしょ。段々うざくなってきてるだけでしょ」

 

 「アハハ・・・やっぱり天くんもそう思う?」

 

 苦笑している曜さん。やはり千歌さんが鈍感なだけのようだ。

 

 「・・・貴女達」

 

 ダイヤさんがこめかみをピクピクさせている。

 

 「どうして生徒会室で雑談してますの!?」

 

 「花丸ちゃんから、天くんがここにいるって聞いたので」

 

 悪びれもせず答える千歌さん。

 

 放課後にダイヤさんと生徒会の事務作業をしていたところ、千歌さんと曜さんが生徒会室へ乱入してきたのだ。

 

 「天くんなら、何か良いアイデアがあるんじゃないかと思って」

 

 「天さんは生徒会の一員ですわよ!?巻き込むのはお止めなさい!」

 

 「まぁまぁ、とりあえず落ち着きましょう」

 

 苦笑しながらダイヤさんを宥める。

 

 「ちょっと休憩しましょうか。お茶でも淹れるので、千歌さんと曜さんも適当に座って下さい」

 

 「わーい!ありがとう!」

 

 「ヨーソロー!」

 

 「全く・・・天さんは甘すぎますわ」

 

 何とかダイヤさんが落ち着いたところで、俺はお茶の準備を始める。

 

 一方、千歌さんはダイヤさんにスクールアイドルへの情熱を訴えかけていた。

 

 「私はスクールアイドル部を作って、皆と一緒に輝いてみせます!」

 

 「ですから、まずは部員を五人揃えてから来て下さいと言っているでしょう?」

 

 「勿論です!今はまだ二人ですけど、『ユーズ』だって最初は三人だったんですから!」

 

 生徒会室の空気が凍った気がした。何故だろう、今ダイヤさんの方を見てはいけないような気がする。

 

 「知りませんか!?第二回ラブライブ優勝!音ノ木坂学院スクールアイドルグループ!その名も『ユーズ』!」

 

 いや、『ユーズ』って・・・マジですか千歌さん・・・

 

 「・・・千歌さん、あれ『ミューズ』って読むんですよ」

 

 「・・・えっ」

 

 俺の指摘に固まる千歌さん。

 

 「嘘・・・『ユーズ』じゃないの・・・?」

 

 「お黙らっしゃああああああああああいっ!」

 

 「「ひぃっ!?」」

 

 ダイヤさんの怒りが爆発した。千歌さんと曜さんが悲鳴を上げる。

 

 「言うに事欠いて名前を間違えるですって!?あぁん!?」

 

 ヤンキー化するダイヤさん。大和撫子はどこへ行ったんだ・・・

 

 「μ'sはスクールアイドル達にとっての伝説!聖域!聖典!宇宙にも等しき生命の源ですわよ!?その名前を間違えるとは片腹痛いですわ!」

 

 千歌さんに詰め寄るダイヤさん。

 

 ねぇ、やっぱりこの人スクールアイドル好きだよね?μ'sのファンだよね?

 

 「その浅い知識だと、たまたま見つけたから軽い気持ちで『マネをしてみよう』とか思ったのですね!?」

 

 「そ、そんなこと・・・!」

 

 「ならば問題です!μ'sが最初に九人で歌った曲は!?」

 

 「え、えーっと・・・」

 

 「第二回ラブライブ予選、μ'sがA-RISEと一緒にステージに選んだ場所は!?」

 

 「う、う~ん・・・」

 

 「第二回ラブライブ決勝、μ'sがアンコールで歌った曲は!?」

 

 「あ、それは知ってます!『僕らは今の中で』ですよね!?」

 

 「ではその『僕らは今の中で』の冒頭でスキップしている四名は!?」

 

 「えぇっ!?」

 

 「ぶっぶっぶー!ですわ!」

 

 再び千歌さんに詰め寄るダイヤさん。

 

 もう確定だよ。絶対μ'sのファンだよこの人。あまりの豹変ぶりに曜さんが引いてるよ。

 

 「こんなの基本中の基本ですわよ!?正解は・・・」

 

 「絢瀬絵里、東條希、星空凛、西木野真姫」

 

 「その通り・・・え?」

 

 驚いてこちらを振り向くダイヤさん。

 

 そんなダイヤさんをよそに、俺はお茶を注いだ湯呑みをテーブルに並べていく。

 

 「μ'sが最初に九人で歌った曲は、『僕らのLIVE 君とのLIFE』。通称『ぼららら』」

 

 ダイヤさんと一緒に食べようと思って持ってきた和菓子を皿に分けながら、ダイヤさんの問題に答えていく。

 

 「μ'sがA-RISEと一緒にステージに選んだのは、当時A-RISEが通っていた秋葉原UTXの屋上。ちなみにそこで披露した曲は、『ユメノトビラ』ですね」

 

 「あっ、私その曲大好き!」

 

 目を輝かせる千歌さん。

 

 「その曲を聴いて、スクールアイドルをやりたいって思ったの!」

 

 「あ、そうだったんですね」

 

 自分自身に悩んでいた千歌さんなら、確かに大きく心を揺さぶられてもおかしくない。それほど力の込められた歌詞が、この曲には詰まっている。

 

 「凄いね天くん・・・そんなスラスラ答えられるなんて・・・」

 

 「ダイヤさんの言う通り、これくらいは基本中の基本ですよ」

 

 唖然としている曜さんに、笑いながら答える俺。

 

 「μ'sに憧れてスクールアイドルをやるなら、もう少しμ'sのことを知っておいても損は無いと思いますよ?スクールアイドルとしてどういう軌跡を辿ったのか、参考になる点は色々あるでしょうし・・・はい、お茶の用意ができましたよ」

 

 「おぉ、美味しそうな和菓子!」

 

 「もらっちゃって良いの!?」

 

 「勿論。ほらダイヤさん、一緒に食べましょう」

 

 「え、えぇ・・・」

 

 俺の方を見ながら、呆然としているダイヤさんなのだった。




どうも~、ムッティです。

ふと気付きましたが、全然話が進んでないですね・・・

未だアニメ二話の途中くらいですもんね・・・

もっとサクサク進められたら良かったんですが・・・

あぁ、早くイチャつかせたい←

まぁその前に、早くヒロイン決めろって話ですよね(笑)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

足掻くことが出来る人は凄い。

観たい映画は多いけど、なかなか行く時間が無い…


 「んー、どうしたら桜内さんを説得できるかなぁ・・・」

 

 頭を悩ませている千歌さん。曜さんと別れた俺達は、二人で帰り道を歩いていた。

 

 「諦めてないんですね」

 

 「勿論!桜内さんもルビィちゃんも花丸ちゃんも、私は諦めないよ!」

 

 「三股ですね、分かります」

 

 「言い方が悪意に満ちてない!?」

 

 千歌さんのツッコミをスルーして、道路の向かい側に広がる海を眺める。夕陽で海がオレンジ色に染まっている光景は、何度見ても飽きないほど美しかった。

 

 と、浜辺に見覚えのある人物が立っていた。

 

 「あれ、梨子さん?」

 

 「あ、ホントだ」

 

 物憂げな表情で浜辺に佇んでいる梨子さん。絵になるなぁ・・・

 

 「おーい!桜内さーん!」

 

 大きな声で呼びかける千歌さん。

 

 こちらからは梨子さんの背中しか見えないが、明らかに肩を落としたのが分かった。よほど千歌さんにうんざりしているようだ。

 

 千歌さんが梨子さんの方へ走っていくので、俺もその後を追いかける。

 

 「あっ!もしかして、また海に入ろうとしてるの!?」

 

 梨子さんの元へ辿り着いた途端、梨子さんのスカートを捲り上げる千歌さん。

 

 「してないですっ!」

 

 「それなら良かった」

 

 慌ててスカートを戻す梨子さんと、笑みを浮かべる千歌さん。と、そこで梨子さんが俺の存在に気付いた。

 

 「天くん!?」

 

 「こんにちは、梨子さん」

 

 にこやかに挨拶する俺。梨子さんの顔が赤く染まっていく。

 

 「み、見た・・・?」

 

 「何をですか?」

 

 「いや、その・・・パ、パンツ・・・」

 

 「何のことでしょう?」

 

 「よ、良かった・・・見てないのね・・・」

 

 「『苗字が桜内だけに、パンツも桜色か・・・』なんて思ってませんよ?」

 

 「バッチリ見てるじゃない!?」

 

 両手で顔を覆う梨子さん。耳まで真っ赤に染まっている。

 

 「ちょっと天くん!?女の子のパンツ見るなんて最低だよ!?」

 

 「俺の目の前で梨子さんのスカート捲った人がそれを言います?」

 

 「うぅ・・・もうお嫁に行けない・・・」

 

 「何言ってるんですか。そのスカート丈の短さで、これまで誰にも見られてないなんて有り得ないでしょうに」

 

 「・・・ちょっと海に飛び込んでくるわね」

 

 「落ち着いて桜内さん!?天くんもトドメ刺さないでよ!?」

 

 千歌さんが必死に宥め、何とか落ち着きを取り戻す梨子さん。涙目になりながら千歌さんを睨んでいる。

 

 「元はと言えば、貴女のせいで・・・!」

 

 「すいませんでしたあああああっ!」

 

 「まぁまぁ。本人も反省しているようですし、この辺りで許してあげましょうよ」

 

 「何で他人事なの!?」

 

 俺に全力でツッコミを入れたことで力が抜けたのか、溜め息をつく梨子さん。

 

 「・・・こんなところまで追いかけてきても、答えは変わらないわよ」

 

 「桜内さん、答えを出すのが早すぎるよ!もうお嫁に行けないだなんて!」

 

 「違うわよ!?スクールアイドルの話!」

 

 「あ、そっちか」

 

 苦笑する千歌さん。

 

 「違う違う。通りがかっただけだよ」

 

 「千歌さん、ストーカーは皆そう言うんですよ」

 

 「誰がストーカー!?天くんもここまで一緒に帰ってきたじゃん!?」

 

 「俺は千歌さんの掌の上で踊らされたんですね・・・千歌さん、恐ろしい子・・・」

 

 「人の話聞いてくれる!?」

 

 「そういえば梨子さん、海の音聴けました?」

 

 「だから聞いてってば!?」

 

 ギャーギャーうるさい千歌さんをスルーして尋ねると、梨子さんは浮かない顔で首を横に振る。

 

 まだ聴けてないんだな・・・

 

 「ほら千歌さん、喚いてないで海の音が聴ける方法を考えて下さいよ」

 

 「誰のせいだと思ってるの!?」

 

 喚いていた千歌さんだったが、そこでふと何か思いついたような顔をする。

 

 「あっ!果南ちゃんがいるじゃん!」

 

 「え、誰ですか?」

 

 「私と曜ちゃんの幼馴染だよ。実家がダイビングショップやってるから、桜内さんもダイビングしてみたら良いんじゃないかな?海の音が聴けるかもしれないよ?」

 

 「なるほど・・・スク水で海に飛び込むよりは良い方法ですね」

 

 「それは忘れて!?」

 

 再び赤面する梨子さん。

 

 いや、あれは忘れられないな。衝撃的な初対面だったもの。

 

 「桜内さん、日曜日って空いてる?ダイビングしに行こうよ!」

 

 「・・・代わりにスクールアイドルやれ、とか言わない?」

 

 「アハハ、流石に言わないよ」

 

 千歌さんは笑うと、梨子さんの手を握った。

 

 「海の音、ちゃんと聴いてほしいの。桜内さんが作った海の曲、私も聴いてみたいし」

 

 「高海さん・・・」

 

 驚いている梨子さん。

 

 損得勘定関係無しに、人の為を思って行動できる・・・こういうところが、千歌さんの美点なんだろうな。

 

 「ねっ?行ってみよう?」

 

 「・・・じゃあ、お願いしようかしら」

 

 「そうこなくっちゃ!天くんも行くよね?」

 

 「俺はアレがアレなんでパスします」

 

 「そっかぁ、それなら仕方ない・・・ってならないよ!?アレがアレって何!?」

 

 「日曜日くらいゴロゴロさせて下さいよ」

 

 「何そのお父さんみたいなセリフ!?」

 

 そんなやり取りをしていると、梨子さんが笑みを浮かべながら俺の肩に手を置いた。

 

 「人のパンツ見ておいて、来ないなんて言わないわよねぇ・・・?」

 

 ちょ、痛いんだけど!?肩がミシミシいってるんだけど!?

 

 「よ、喜んで行かせていただきます・・・」

 

 「よろしい」

 

 笑顔で手を離す梨子さん。この人、怒らせたらアカン人や・・・

 

 「それじゃあ早速、果南ちゃんに連絡を・・・って、もうこんな時間!?」

 

 スマホを取り出した千歌さんが、時間を見て慌て始める。

 

 「急いで帰らなくちゃ!?果南ちゃんには後で連絡しておくから!じゃあまたね!」

 

 それだけ告げると、千歌さんは走って帰っていった。慌ただしい人だなぁ・・・

 

 「・・・変な人ね、高海さんって」

 

 「否定はできませんね」

 

 俺はそう言って笑うと、夕陽に染まる海を眺めた。

 

 「梨子さん、一つ聞いても良いですか?」

 

 「何?」

 

 「梨子さんが海の音を聴きたいのは・・・本当に曲作りの為だけですか?」

 

 「っ!?」

 

 息を呑む梨子さん。やっぱり・・・

 

 「海の曲を作りたいのは本当なんでしょうけど、果たしてそれだけなのかなって。他にも理由があって、それで必死になってるんじゃないのかなって・・・梨子さんの様子を見てたら、何となくそう思ったんですよね」

 

 「・・・察しが良いのね、天くんって」

 

 梨子さんは苦笑すると、ポツポツと話し始めた。

 

 「私ね、小さい頃からずっとピアノやってるんだけど・・・最近はいくらやっても上達しなくて、やる気も出なくて・・・それで環境を変えてみようと思って、東京からこっちに来たの」

 

 「そうだったんですか・・・」

 

 素直に凄いことだと思った。何かの為にそれまでの環境を変えるというのは、普通なかなか出来ることではない。

 

 「海の音が聴けたら変わるんじゃないか、変えられるんじゃないかって・・・そう思ったら、ちょっと焦っちゃって・・・」

 

 自嘲気味に笑う梨子さん。

 

 「みっともないわよね、不確かなものに縋ったりして・・・」

 

 「・・・良いじゃないですか、みっともなくたって」

 

 「え・・・?」

 

 驚いてこっちを見る梨子さんに、俺は笑みを向けた。

 

 「変わりたい、変えたいと願うのなら・・・どんなにみっともなくたって、全力で足掻くべきだと俺は思いますよ。それで変わるとは限りませんけど、足掻かなければ変わる可能性すら生まれませんから」

 

 「天くん・・・」

 

 「それに、ピアノに対してそこまで足掻けるっていうことは・・・梨子さんがピアノを大切に思っている、何よりの証じゃないですか」

 

 「っ・・・」

 

 「梨子さんは誇って良いと思います。自分はこんなにピアノが好きなんだ、こんなにピアノを大切に思ってるんだって・・・それはとても、素敵なことなんですから」

 

 梨子さんの目には涙が滲んでいた。それを拭おうともせず、俺の方をじっと見ている。

 

 「・・・そんなこと、初めて言われたわ」

 

 「マジですか・・・俺が梨子さんの初めてをもらっちゃいましたか・・・」

 

 「その言い方は誤解を招くから止めてくれる!?」

 

 「え、だって俺が梨子さんの初めてなんでしょ?」

 

 「絶対分かってて言ってるわよねぇ!?」

 

 「ナニソレ、イミワカンナイ」

 

 「誰のモノマネ!?」

 

 「さぁ、誰でしょう?」

 

 俺が笑うと、梨子さんも笑みを零しながら目元の涙を拭う。

 

 「変な人ね、天くんも・・・高海さん以上だわ」

 

 「・・・それはちょっと不名誉なんですけど」

 

 「フフッ、そんな嫌そうな顔しないの」

 

 梨子さんはクスクス笑うと、俺の顔を覗き込んだ。

 

 「・・・ありがとう、天くん。今の言葉、凄く嬉しかった」

 

 間近で見た梨子さんの笑顔は、夕陽と相まって凄く綺麗で・・・思わずドキッとしてしまう俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

今回は梨子ちゃんの回でした。

アニメ見てて思ったんですけど、ピアノの為に東京から内浦に引っ越して来るって凄くないですか?

梨子ちゃんも凄いけど、梨子ちゃんのご両親もよく賛成しましたよね。

まぁ一番驚いたのは、梨子ちゃんのお母さん役が水樹奈々さんだったことなんですけども…

あれはビックリでした(゜ロ゜)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

足掻いた人にしか見えないものがある。

今日から2月かぁ…


 迎えた日曜日・・・

 

 「初めまして、松浦果南です。よろしくね」

 

 青く長い髪をポニーテールに結った女性が、笑顔で挨拶してくれる。

 

 梨子さんと俺は千歌さんに連れられて、近くにある淡島のダイビングショップへとやって来ていた。ちなみに曜さんも一緒である。

 

 「初めまして、桜内梨子です」

 

 「絢瀬天です。よろしくお願いします」

 

 「おぉ、君が噂のテスト生だね?」

 

 俺をじっくりと眺め回す松浦さん。そして両手を広げ、笑みを浮かべてこう言った。

 

 「じゃあ早速・・・ハグしよっ?」

 

 「何だ、ただの痴女か」

 

 「誰が痴女よ!?」

 

 松浦さんのツッコミ。初対面の男にハグを要求するとか、何を考えてるんだこの人・・・

 

 「ほら、いいからハグしよっ!」

 

 「うおっ!?」

 

 真正面から勢いよく抱きつかれた。

 

 松浦さんの柔らかな身体の感触が俺の全身を包み、二つの大きな膨らみが俺の胸に押し付けられて『むにゅっ』と形を変える。

 

 「ちょ、何してるんですか!?」

 

 俺達の様子を見て赤面している梨子さん。

 

 「何って・・・ハグだよ?」

 

 「同性同士ならともかく、異性同士なんですからもっと恥じらいを持って下さい!っていうか、天くんは何でされるがままになってるの!?」

 

 「いや、何と言うか・・・幸せを噛み締めてます」

 

 「戻ってきなさい!」

 

 「アハハ、純情だねぇ」

 

 松浦さんが笑いながら俺から離れる。

 

 「えーっと、今日は四人ともダイビングするってことで良いんだっけ?」

 

 「あ、三人です。俺は見学なんで」

 

 「え、天くんやらないの!?」

 

 「えぇ、今回は遠慮しておきます」

 

 曜さんの問いに答える俺。

 

 ダイビングを経験しているであろう千歌さんと曜さんはともかく、梨子さんと俺は完全な未経験者だ。未経験者二人が同時に潜ってしまえば、千歌さん達に大きな負担をかけてしまうことになりかねない。

 

 今回の目的は梨子さんが海の音を聴くことなので、梨子さんさえ潜れれば問題無いのだ。梨子さん一人なら、千歌さん達の負担も大きくはないだろう。

 

 「ごめんね、天くん・・・」

 

 何となく理由を察した様子の梨子さんが、申し訳なさそうに謝ってくる。

 

 「私のワガママに付き合わせてるのに、待機させちゃって・・・」

 

 「気にしないで下さい。海の音、ちゃんと聴いてきて下さいね」

 

 「そのことだけど、ちょっといいかなん?」

 

 話に入ってくる松浦さん。っていうか、今の語尾は何だろう・・・

 

 「水中では、人間の耳に音は届きにくいの。だからイメージが大事だと思うよ」

 

 「イメージ?」

 

 「そう、水中の景色から海の音をイメージするの。想像力を働かせてね」

 

 「想像力・・・」

 

 考え込む梨子さん。海の音が聴けるかどうかは、梨子さんの想像力次第ってことか・・・

 

 「とりあえず、ダイビングスーツに着替えよっか。向こうに更衣室があるから」

 

 「よーし!潜るぞー!」

 

 「ヨーソロー!」

 

 元気よく走っていく千歌さんと曜さん。

 

 「じゃあ、私達も行こっか」

 

 「あ、はい。天くん、ちょっと待っててね」

 

 「ごゆっくり~」

 

 梨子さんにひらひら手を振る。と、松浦さんがこちらを振り返ってニヤリと笑った。

 

 「覗かないでね?絶対だよ?」

 

 「おっ、覗けっていうフリですか?」

 

 「・・・松浦さん?天くん?」

 

 「「すいませんでしたっ!」」

 

 梨子さんから放たれるプレッシャーに、反射的に謝ってしまう俺と松浦さんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・う~み~は~広い~な、大きい~な~♪」

 

 小型船の甲板に座り、口ずさみながら海を眺める俺。その様子を見た松浦さんが、面白そうにクスクス笑っている。

 

 「海が好きなの?」

 

 「いえ、好きっていうか・・・懐かしいんです」

 

 「懐かしい?」

 

 「えぇ、海には色々と思い出がありまして。楽しい思い出も・・・悲しい思い出も」

 

 過去のことを思い出して感傷に浸っていると、いきなり背中に衝撃を受けた。

 

 「隙ありっ!ハグっ!」

 

 「どんだけハグ好きなんですか・・・」

 

 ヤバいよこの人、自分がどれほどスタイルが良いか全く分かってないよ・・・

 

 こんなナイスバディなお姉さんにハグされたら、普通の男はコロッといっちゃうどころか野獣化してもおかしくないというのに・・・

 

 「心配しなくても、私がハグするのは女の子だけだよ?」

 

 「松浦さんの目には、俺が女の子に見えてるんですか?」

 

 「何言ってんの?そんなわけないじゃん。大丈夫?」

 

 「すみません、殴って良いですか?」

 

 「アハハ、怖い怖い」

 

 松浦さんは笑うと、俺の身体に回している腕に力を込めた。

 

 「実は君の話、ダイヤから聞いててさ」

 

 「ダイヤさんとお知り合いなんですか?」

 

 「知り合いっていうか、幼馴染だよ。学校でもクラスメイトだしね」

 

 「え、松浦さんって浦の星の生徒なんですか!?」

 

 「あれ?千歌から聞いてないの?」

 

 首を傾げる松浦さん。幼馴染としか聞いてないんだけど・・・

 

 「っていうか、高校生だったんですね・・・てっきり二十歳くらいかと・・・」

 

 「むっ・・・そんなに老けて見える?」

 

 「大人びて見えるって言ってもらえます?っていうか俺、松浦さんを学校で見かけたことないんですけど・・・」

 

 「あぁ、今休学中なんだよ。お父さんが骨折しちゃったもんだから、私が店を手伝わないといけなくてさ」

 

 「それは大変ですね・・・」

 

 凄いな・・・休学してまでお店を手伝ってるのか・・・

 

 「まぁその話は置いとくとして・・・休学中もダイヤとは連絡を取ってるんだけど、この間の電話で君の話題になってさ。ダイヤに説教したんだって?」

 

 「いや、説教というか何と言うか・・・」

 

 思わず苦い表情になる。一方、松浦さんは面白そうに笑っていた。

 

 「あのダイヤに物申せる人なんて、なかなかいないからね。『良い人が入ってきてくれた』って、ダイヤも喜んでたよ?」

 

 「・・・恐縮です」

 

 いやホント、我ながら先輩に失礼な態度を取ってしまったと思う。

 

 まぁああいう場だったし、言うべきことは言わなきゃいけないとは思ったけども。

 

 「ダイヤは君のことを、『信用に足る人だ』って凄く褒めてた。昔からダイヤの人を見る目は確かだし、だったら私も信用してハグしちゃおうと思って」

 

 「信用してくれるのはありがたいんですけど、その発想はおかしいですからね?」

 

 「まぁまぁ。私にとってハグは挨拶みたいなものだから」

 

 「何その海外の人みたいな考え方」

 

 思わずタメ口でツッコミを入れてしまった。大らかな人だなぁ・・・

 

 「そんなわけで、私はこれから君にどんどんハグするから。ちゃんと受け止めてね?」

 

 「自由人ですね、松浦さん・・・あ、松浦先輩か」

 

 「さっきから言おうと思ってたけど、果南で良いよ。ダイヤのことも名前で呼んでるんだし、私のことも名前で呼ぶこと。これは先輩命令だから」

 

 「パワハラで訴えますよ?」

 

 気付けば松浦さんに対して、あまり気を遣わなくなっていた。松浦さんの大らかな性格に、俺も影響されてるのかもしれないな・・・

 

 「その代わり、私も君のこと名前で呼ぶからね。よろしく、天」

 

 「・・・了解です、果南さん」

 

 満足そうに笑う果南さん。その時・・・

 

 「ぷはぁっ!」

 

 海に潜っていた曜さんが浮上してきて、甲板へと上がってきた。

 

 「お疲れ、曜。海の音は聴けそう?」

 

 「んー、難しいね。桜内さんも苦戦してるみたいだし・・・って、果南ちゃんはまた天くんにハグしてるの?」

 

 「天にはちゃんと許可もらってるよ」

 

 「そんな覚え一切ないんですけど」

 

 果南さんにツッコミを入れていると、千歌さんと梨子さんも浮上してきた。やはりイメージが難しいのか、梨子さんは浮かない顔をしている。

 

 「ダメ・・・景色は真っ暗だし、なかなかイメージが出来ない・・・」

 

 「今日の天気は曇りだしねぇ・・・」

 

 空を見上げる千歌さん。確かに、日の光が差さないのは痛いな・・・

 

 「やっぱり、私には無理なのかな・・・」

 

 弱気な梨子さん。

 

 「どんなに足掻いても、変えられないのかな・・・」

 

 「・・・諦めちゃダメ~なん~だ~♪」

 

 「天・・・?」

 

 果南さんが首を傾げる中、ふと頭に浮かんだ曲を口ずさむ。

 

 「その日が絶対来る~♪」

 

 「その曲って・・・」

 

 千歌さんは気付いたようだ。そう、あの曲だ。

 

 「君も感じて~るよ~ね~、始~まり~の鼓動~♪」

 

 「天くん・・・歌上手いね」

 

 「え、そこ?」

 

 曜さんの感心したようなセリフに、咄嗟に梨子さんがツッコミを入れる。

 

 「いや、確かに上手いんだけど・・・何の曲?」

 

 「μ'sの『START:DASH!!』っていう曲です」

 

 高坂穂乃果、南ことり、園田海未・・・まだ三人だったμ'sが、ファーストライブで披露した曲である。

 

 「まぁこの曲を歌っておいて、こんなことを言うのもアレなんですけど・・・『諦めちゃダメなんだ。その日が絶対来る』とか、ぶっちゃけただの綺麗事ですよね」

 

 「「「「えええええええええええええええ!?」」」」

 

 まさかの否定に、千歌さん・曜さん・梨子さん・果南さんが大きく仰け反る。

 

 「ちょ、天くん!?何てこと言うの!?」

 

 「だって思いません?諦めずに頑張ったら夢は必ず叶うとか、そんなのただの理想論じゃないですか。諦めずに頑張っても、夢を叶えられない人なんてたくさんいますよ」

 

 「いや、そうかもしれないけど!」

 

 あたふたしている四人が面白くて、俺は思わず笑ってしまった。

 

 「まぁでも・・・この曲の作詞を手掛けた人だって、そんなことは最初から分かってると思いますよ」

 

 「え・・・?」

 

 「諦めずに頑張ったって、夢は叶えられないかもしれない。でも・・・諦めてしまったら、叶えられる可能性すら無い」

 

 「っ・・・それ、この間天くんが言ってた・・・」

 

 梨子さんが気付く。覚えててくれたのか・・・

 

 「だから簡単に諦めるな。夢が叶う日が来る可能性は、諦めなかった人にしか無いんだから・・・勝手な解釈ですけど、俺はそういう意味でこの歌詞を捉えてます」

 

 「天くん・・・」

 

 「今日がダメなら、また来週チャレンジしてみましょう。今日は生憎の曇りですけど、来週は晴れてるかもしれません。それでもダメならもう一度チャレンジしたって良いし、違う方法を考えたって良いじゃないですか」

 

 俺は梨子さんに笑いかけた。

 

 「梨子さんが内浦に来て、まだたったの一週間ですよ?東京から引っ越してまでこっちに来たんですし、もう少し頑張ってみませんか?」

 

 「・・・どうして私なんかの為に、そこまで言ってくれるの?」

 

 不思議そうな表情の梨子さん。

 

 「この間も今日も、天くんは私の背中を押そうとしてくれてる・・・どうして・・・?」

 

 「んー、そうですねぇ・・・」

 

 苦笑いを浮かべる俺。

 

 「多分ですけど、足掻こうとしてる人を放っておけないんでしょうね。ホント厄介な性格にしてくれたよなぁ、あの人達・・・」

 

 「あの人達?」

 

 「いえ、こっちの話です」

 

 まぁそれは置いとくとして、とりあえず海の音だよな・・・

 

 「とにかく俺も、梨子さんに海の音を聴いてほしいんです。きっとそれが梨子さんにとっての、始まりの鼓動になるんでしょうから」

 

 「始まりの鼓動・・・」

 

 梨子さんは小さく呟くと、意を決したように顔を上げた。

 

 「私、もう一度やってみる!」

 

 「よーし、私達も行くよ!」

 

 「ヨーソロー!」

 

 再び海へ潜った梨子さんに続き、千歌さんと曜さんも海へ飛び込んでいった。

 

 「・・・凄いね、天」

 

 果南さんが微笑んでいる。

 

 「天の言葉で、諦めかけてた桜内さんがやる気になっちゃった」

 

 「大したことはしてませんよ」

 

 肩をすくめる俺。

 

 「上手くいかなくて弱気になってたんで、ほんの少し励ましただけです」

 

 「何言ってるの。それが大きいんじゃない」

 

 笑っている果南さん。

 

 「ああいう時にかけられる励ましの言葉って、凄く心に響くもんだよ。それをさらっと言っちゃうんだもん。ちょっと感心しちゃった」

 

 「果南さんに感心されてもなぁ・・・」

 

 「何でよ!?」

 

 そんなやり取りをしていると、突如として雲の切れ間から日が差した。日の光が海面を照らし、キラキラと眩く光っている。

 

 やがてその海面から、千歌さん・曜さん・梨子さんが浮上してきた。ここからは何を話しているのか聞こえないが、興奮したように笑いながら抱き合っている。

 

 「・・・聴けたみたいだね、海の音」

 

 「・・・ですね」

 

 笑い合う果南さんと俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

ようやく果南ちゃんを出せました。

果南ちゃんにハグされたいわぁ(願望)

あ、それから『START:DASH!!』についてですが…

作者に歌詞を否定する意思は一切ありません!

作者に歌詞を否定する意思は!一切!ありません!

大事なことなので二回言いました。

むしろ凄く良い歌詞・凄く良い曲だと思ってますし、個人的にも大好きな曲の一つです。

あくまでも『そういう解釈もあるよ』というお話ですので、悪しからず…

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

友達とはかけがえのないものである。

Aqoursの『WATER BLUE NEW WORLD』ってメッチャ良い曲ですよね。


 「え、曲作りの依頼を引き受けたんですか?」

 

 「うん、そうなの」

 

 頷く梨子さん。

 

 ダイビングの翌日・・・昼休みにばったり会った梨子さんの話に、俺は思わず驚いてしまった。

 

 「どういう心境の変化ですか?『そんな暇は無い』って断り続けてたんですよね?」

 

 「そうなんだけど・・・まぁ色々とね」

 

 梨子さんが小さく笑う。

 

 「今回は高海さんに色々お世話になったから、今度は私が力になれたらって思ったの。スクールアイドルの曲作りなんて初めてだけど、これも良い勉強になるだろうから」

 

 「なるほど・・・ってことは、梨子さんもスクールアイドルやるんですか?」

 

 「それは断ったわ。私がやるのは、あくまでも曲作りだけよ」

 

 肩をすくめる梨子さん。あ、そうなんだ・・・

 

 「そうですか・・・ちょっと残念ですね」

 

 「え、何が?」

 

 「梨子さん可愛いし、スクールアイドルの衣装とか似合うだろうなって思ってたんで」

 

 「なっ!?」

 

 梨子さんの顔が一気に赤くなる。ホント純情だなぁ・・・

 

 「せ、先輩をからかわないのっ!」

 

 「いや、本心ですって。華もありますし、きっとステージ映えするでしょうね」

 

 「も、もういいからっ!」

 

 耳まで真っ赤になった梨子さんが、強引に話題を打ち切る。

 

 まぁ梨子さんが決めたことだし、俺がとやかく言うことでもないよな。

 

 「そ、それで早速なんだけど!今日の放課後、高海さんの家で作詞をすることになったの。もし良かったら、天くんも一緒に来ない?」

 

 誘ってくれる梨子さん。俺としても、行けるなら行きたいところではあるが・・・

 

 「・・・すいません。今日の放課後はちょっと、お見舞いの予定がありまして」

 

 「お見舞い?誰の?」

 

 首を傾げる梨子さんに、苦笑いで答える俺なのだった。

 

 「クラスメイトですよ。自称・堕天使の、ね」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ここずら」

 

 緊張した面持ちのずら丸。

 

 俺・ずら丸・ルビィちゃんの三人は放課後、自称・堕天使が住んでいると思われるマンションの一室へとやって来ていた。

 

 ずら丸曰く、ここが自称・堕天使の家らしい。

 

 「表札もちゃんと『津島』になってるし、間違いないずらね」

 

 「え、あの子の苗字って『津島』なの?」

 

 「今さら!?」

 

 ルビィちゃんのツッコミ。『善子』っていう名前なのは知ってたけど、苗字の方は気にしてなかったなぁ・・・

 

 「とりあえず、インターホン押そうか」

 

 「ずら」

 

 ずら丸がインターホンを押す。すると・・・

 

 「はーい」

 

 ドアが開き、中から女性が出てきた。ダークブルーの髪にシニヨンを結った女性・・・あれ?

 

 「津島さん、メッチャ大人になってない?」

 

 「その人は善子ちゃんのお母さんずら」

 

 「マジで!?」

 

 メッチャ似てるなぁ・・・驚いていると、津島母が首を傾げた。

 

 「えーっと、どちら様ですか?」

 

 「あ、あのっ!私、国木田花丸です!覚えてますか?」

 

 「え・・・?」

 

 ずら丸の顔をじーっと見つめる津島母。次の瞬間、表情がパァッと明るくなった。

 

 「あぁっ、花丸ちゃん!?善子と幼稚園で一緒だった、あの花丸ちゃん!?」

 

 「そうです!お久しぶりです!」

 

 「久しぶりね~!ずいぶん大きくなっちゃって~!」

 

 嬉しそうに笑う津島母。

 

 「幼稚園の時から可愛かったけど、ますます可愛くなったわね~!」

 

 「そ、そんな・・・マルなんて・・・」

 

 照れているずら丸。と、津島母が俺の方に視線を向けてきた。

 

 「あら?ひょっとして、花丸ちゃんの彼氏くんかしら?」

 

 「か、彼氏っ!?」

 

 ずら丸の顔が真っ赤になる。何だかんだで、ずら丸も純情だなぁ・・・

 

 「ち、違いますっ!天くんはそんなんじゃ・・・!」

 

 「そっか、俺とは遊びだったのか・・・」

 

 「天くん!?何を言い出すずら!?」

 

 「朝のバスでは、俺に寄りかかって気持ち良さそうに寝てたのに・・・」

 

 「そ、それは天くんが『寄りかかって良いよ』って言ってくれたから・・・!」

 

 「俺を抱き寄せて、俺の顔を自分の胸に埋めさせてくれたのに・・・」

 

 「あ、あれはルビィちゃんの悲鳴から守る為で・・・!」

 

 「『恋人としてよろしくずら~!』って言ってくれたのに・・・」

 

 「それは言ってないずら!『恋人として』なんて言ってないずら!」

 

 「全てはずら丸の掌の上・・・俺は弄ばれてたのか・・・」

 

 「人聞きの悪いことを言わないでほしいずら!」

 

 「花丸ちゃん・・・悪い子に育っちゃって・・・」

 

 「善子ちゃんのお母さん!?何で信じてるずら!?」

 

 悪ノリに便乗してくる津島母。ノリが良いなぁ・・・

 

 「まぁ冗談はさておき・・・初めまして、絢瀬天といいます」

 

 「く、黒澤ルビィです・・・」

 

 「私達三人、浦の星で善子ちゃんと同じクラスなんです」

 

 「あら、そうだったの?」

 

 驚いていた津島母だったが、すぐに笑みを浮かべる。

 

 「初めまして、善子の母・津島善恵です。娘がいつもお世話に・・・って、あの子ずっと引きこもってたわね」

 

 溜め息をつく津島母。やはり重症らしいな・・・

 

 「あの、善子ちゃんの様子は・・・」

 

 「あぁ・・・うん」

 

 ずら丸の問いに、津島母は困ったように苦笑するのだった。

 

 「元気は元気なんだけど・・・」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 『やってしまったああああああああああっ!?』

 

 家に上がらせてもらった俺達が最初に聞いたのは、津島さんの叫び声だった。

 

 『何よ堕天使って!?ヨハネって何!?うわあああああん!?』

 

 「・・・まぁこんな感じなのよ」

 

 津島さんの部屋であろうドアを指差し、溜め息をつく善子母。

 

 なるほど、これは重症だな・・・

 

 「浦の星の入学式の日からあんな感じなんだけど・・・何か心当たり無い?」

 

 「その日はクラスの皆の前で、自己紹介をやったんですけど・・・」

 

 「あぁ、『堕天使ヨハネ』で自爆したのね・・・」

 

 一を聞いて十を知る・・・全てを悟った津島母が頭を抱えた。

 

 「あの子、中学の時もそれでやらかしちゃってね・・・高校では同じ失敗をしないようにって意気込んでたんだけど・・・」

 

 「その割には、キャラが凄く仕上がってましたけど・・・」

 

 「『堕天使ヨハネ』は、最早あの子にとってキャラじゃないのよ。幼い頃からの設定を引きずった結果、『堕天使ヨハネ』は津島善子の一部に昇華されてしまったの」

 

 「・・・マジですか」

 

 意図的に演じてるキャラじゃなかったのか・・・恐るべし津島善子・・・

 

 「とりあえず、声をかけてみても良いですか?」

 

 「勿論。どうぞ」

 

 津島母の了承をもらい、ずら丸が部屋のドアをノックする。

 

 「善子ちゃーん?」

 

 『っ!?その声は花丸!?』

 

 津島さんの驚いた声が聞こえる。

 

 『どうしてここにいるのよ!?』

 

 「様子を見に来たずら。ルビィちゃんと天くんもいるずら」

 

 「こ、こんにちは・・・」

 

 「どうも」

 

 『うげっ!?』

 

 呻き声を上げる津島さん。

 

 『わ、私を笑いに来たんでしょ!?冷やかしなら帰って!』

 

 「いや、そんなつもりじゃ・・・」

 

 『うるさい!良いから帰って!』

 

 明確な拒絶。これは何を言っても聞いてもらえなさそうだな・・・

 

 「・・・ずら丸、ルビィちゃん、とりあえず今日は帰ろう。元気なのは分かったし」

 

 「ずら・・・」

 

 「そうだね・・・」

 

 意気消沈している二人。顔さえ見せてもらえず、ショックを受けているようだ。

 

 「ごめんね、せっかく来てくれたのに・・・」

 

 「こちらこそ、突然お邪魔してすいませんでした。あ、それと・・・」

 

 申し訳なさそうな津島母に、俺はカバンの中から紙束を取り出して渡した。

 

 「これ、ノートのコピーです。先週分の授業に関しては、一通りまとめておきました。授業で使ったプリントも余分に貰っておいたので、後で渡してあげて下さい」

 

 「そんなことまで・・・本当にありがとう」

 

 恐縮しながら受け取る津島母。俺は部屋のドアに向かって声をかけた。

 

 「じゃあ津島さん、また来るから」

 

 『来なくていい!』

 

 にべもない返事だった。やれやれ・・・

 

 「それじゃ、お邪魔しました」

 

 「本当にごめんなさい・・・来てくれてありがとう」

 

 津島母に見送られ、津島家を後にする俺達。これは時間がかかりそうだな・・・

 

 「・・・全然話せなかったね」

 

 暗い表情のルビィちゃん。

 

 「良かれと思って来たけど・・・津島さんにとっては迷惑だったのかな・・・」

 

 「・・・顔も見せてくれないなんて、思ってもみなかったずら」

 

 涙目のずら丸。

 

 「マル、余計なことしちゃったのかな・・・」

 

 俯いて歩く二人。俺は溜め息をつくと、歩いている二人の間にあえて割り込んだ。

 

 そのまま右手でずら丸の手を、左手でルビィちゃんの手を握る。

 

 「ずらっ!?」

 

 「ぴぎっ!?」

 

 驚いている二人。そんなことはお構い無しに、俺は二人の手を引いて歩いた。

 

 「俯いたまま歩くと危ないよ。ちゃんと前を向いて歩かなきゃ」

 

 「天くん・・・」

 

 「まぁ確かに、ちゃんとした話は出来なかったけど・・・とりあえず元気なのは分かったし、ノートのコピーも渡せたんだから。今回はそれで良しとしようよ」

 

 「今回はって・・・本当にまた行くつもりなの・・・?」

 

 「勿論」

 

 ルビィちゃんの問いに頷く俺。

 

 「今週の授業のノートをまとめて、また来週お邪魔するよ。津島さんが登校できるようになった時、授業についていけないのは困るだろうから」

 

 「どうして善子ちゃんの為にそこまで・・・」

 

 「・・・大切な友達なんでしょ」

 

 「っ・・・」

 

 息を呑むずら丸。俺は苦笑いを浮かべた。

 

 「流石に俺だって、ただのクラスメイトの為にここまでしないよ。でもずら丸は俺の友達だし、困ってるのを放っておけないから」

 

 「じゃあ善子ちゃんの為じゃなくて、マルの為に・・・?」

 

 「そういうこと。まぁただでさえ一クラスしかないんだし、どうせなら誰も欠けてほしくないっていうのもあるけど」

 

 呆然としているずら丸。ルビィちゃんがニヤニヤしていた。

 

 「良いなぁ花丸ちゃん、大切に想ってくれる男の子がいて」

 

 「なっ!?ルビィちゃん!?」

 

 「あな~たと~、いる日~々が~、なににも代え~られ~ない~、た~い~せつ~♪」

 

 「天くん!?急にファ●モンの曲を歌わないでほしいずら!」

 

 顔を真っ赤にするずら丸。俺はひとしきり笑うと、握る手に優しく力を込めた。

 

 「せっかくだし、ケーキでも食べて行こっか。さっき良さそうなカフェあったよね」

 

 「賛成!ルビィもそのカフェ気になってたんだよね!」

 

 「マルも行くずら~!」

 

 今度は二人が俺の手を引く。苦笑しつつも、二人に手を引かれるがまま歩く俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

今回は善子ちゃん回…と思いきや、そうでもなかったっていう回でしたね(笑)

ちなみに善子ちゃんのお母さんの名前は、完全に独断で決めました。

多分こういう名前じゃね?みたいな。

あと言い忘れてましたが、2話で出てきたクラス担任の赤城麻衣先生…

オリキャラです、はい。

アニメでは、善子ちゃんの自己紹介の時にチラッと担任の先生が映ってましたよね?

あの先生とは全く別人の先生を、勝手に配置してしまいました。

イメージ的には、『艦これ』の赤城さんですね(そのまま)

今後出番がきっと多分恐らくメイビーあるはずなので、覚えておいていただけると幸いです。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人から必要とされるのは幸せなことである。

投稿間隔が空いてしまった・・・

頑張って投稿していかねば・・・


 翌日。

 

 「そんなわけで、梨子ちゃんもスクールアイドルやることになったんだよ!」

 

 「どんなわけですか」

 

 千歌さんにツッコミを入れる俺。

 

 いきなり一年生の教室に来て、何を言い出すのかと思ったら・・・

 

 「まさか千歌さん、梨子さんを脅迫したんじゃないでしょうね?」

 

 「天くんには私がどういう人間に見えてるの!?」

 

 「目的の為なら手段を選ばない極悪非道な人間」

 

 「私が天くんに何をしたっていうの!?」

 

 ギャーギャー騒いでいる千歌さんはスルーして、俺は梨子さんへと視線を移した。

 

 「梨子さん、良いんですか?」

 

 「うん、自分で決めたから」

 

 ニッコリ笑う梨子さん。

 

 「色々と思うところもあって、一緒にやらせてもらうことにしたの。やるからには一生懸命頑張るわ」

 

 「・・・そうですか」

 

 どうやら、本当に自分の意思で決めたらしい。

 

 どういう心境の変化があったかは分からないが、表情も明るいし心配は要らないだろう。

 

 「ってことは、これで部員が三人・・・あと二人ですね」

 

 「あと二人かぁ・・・集まるかなぁ・・・」

 

 自信無さげな曜さん。と、そこでふと俺の顔を覗き込んでくる。

 

 「どうかしました?」

 

 「いや・・・天くんが入部してくれたらなぁって」

 

 「「え?」」

 

 ポカーンとしている千歌さんと梨子さん。

 

 「何言ってるの曜ちゃん?天くんは生徒会役員だよ?」

 

 「生徒会役員でも、部活に所属することって可能だよね?」

 

 「可能ですね」

 

 「そうなの!?」

 

 曜さんの問いに答えると、千歌さんが目を見開いて身を乗り出してきた。

 

 「そりゃそうですよ。部活の兼任だって可能なんですから」

 

 「ハッ!?そういえばそうだった!?」

 

 「ちょ、ちょっと待って!?スクールアイドルって女子限定なんじゃ・・・」

 

 「アイドルとしてじゃなくて、マネージャーとして入部してもらえば良いじゃん」

 

 「その手があったわ!?」

 

 千歌さんや梨子さんも納得している。曜さんが目を輝かせて俺を見ていた。

 

 「天くん、スクールアイドル部に入らない!?」

 

 「オコトワリシマス」

 

 「即答!?」

 

 ショックを受けている曜さん。俺は溜め息をついて曜さんを見た。

 

 「部を立ち上げる為に、マネージャーで人数稼ぎをするのはいかがなものかと思いますよ?ただでさえスクールアイドル部に反対しているダイヤさんの心証は、より一層悪くなると思います」

 

 「うっ、確かに・・・」

 

 「部を立ち上げる為に必要な五人は、スクールアイドルとして活動するメンバーを集めるべきです。そもそもまだ活動さえしてないのに、マネージャーとか要らないでしょう」

 

 「お、仰る通りです・・・」

 

 「どうしてもマネージャーが欲しいなら、スクールアイドル部が正式に設立されてから探して下さい。分かりましたか?」

 

 「はい、すいませんでした・・・」

 

 いつの間にか、教室の床に正座している曜さん。

 

 いや、別にそこまでは求めてないんだけど・・・

 

 「ねぇ梨子ちゃん・・・天くんが生徒会長に見えるんだけど」

 

 「奇遇ね千歌ちゃん・・・私も同じことを思ったわ」

 

 何やらヒソヒソと話している千歌さんと梨子さん。俺は二人に笑みを向けた。

 

 「他人事みたいな顔してますけど、お二人も曜さんの意見に納得してましたよね?」

 

 「「すいませんでした!」」

 

 曜さんと並んで正座する二人。

 

 この後クラスメイト達から、『先輩に土下座させた男』として畏怖の視線を向けられる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「新しい理事長、ですか?」

 

 「えぇ、来週からお見えになるそうです」

 

 頷くダイヤさん。

 

 放課後に生徒会の仕事を片付けていた俺達は、一区切り付いたところで休憩していた。

 

 お茶を飲みながら雑談していた時、ダイヤさんがそんな話を切り出してきたのだった。

 

 「前任の理事長は三月で退職して、四月から新しい理事長が就任したのですが・・・何でも『日程の都合が付かない』とかで、まだ一度も学校に来ていないのです」

 

 「あぁ、そういえば会ってませんね」

 

 「全く、一体どんな人なのやら・・・」

 

 溜め息をつくダイヤさん。まぁ理事長が一度も学校に来ていないというのは、ちょっとよろしくないとは思う。

 

 「じゃあ、俺を呼んだのって新しい理事長なのかな・・・」

 

 「呼んだ?天さんは誰かに呼ばれて、浦の星に入学したのですか?」

 

 首を傾げるダイヤさん。あれ・・・?

 

 「ダイヤさん、俺が入学することになった経緯は聞いてないんですか?」

 

 「えぇ、何も・・・テスト生として天さんが入学することは聞かされましたが、何故天さんが選ばれたのかについては聞いていないのです」

 

 「マジですか・・・」

 

 それで良いのか浦の星・・・せめて生徒会長には経緯ぐらい説明しなさいよ・・・

 

 「・・・とりあえず説明しておきますね。そもそものキッカケは、俺が通っていた中学の理事長でした。理事長は浦の星の関係者の方と知り合いらしくて、浦の星の生徒数が減少していることについて相談を受けていたみたいなんです」

 

 「まぁ、かなり深刻な問題ですからね・・・それで?」

 

 「その問題の解決策について話し合っている中で、共学化という手段があるんじゃないかという話になったらしくて。まずはテスト生として男子生徒を受け入れてみて、様子を見てみようという結論に至ったようなんです。そこで白羽の矢が立ったのが、理事長と仲の良かった俺だったという感じですね」

 

 「あら、理事長さんと仲がよろしかったのですか?」

 

 「まぁ色々ありまして」

 

 苦笑する俺。実際、あの人には凄くお世話になったしな・・・

 

 「俺は理事長からテスト生の話を持ちかけられて、引き受けることを決めまして。それで俺がテスト生として、浦の星に入学することが決まったんです」

 

 「なるほど・・・ん?では先ほどの、『呼んだ』という話は一体?」

 

 首を傾げるダイヤさん。そう、そこが俺も気になっているところなのだ。

 

 「・・・実は俺、その関係者の方と一度も会ってないんです」

 

 「え・・・?」

 

 「それどころか、筆記試験や面接さえ受けてないんです」

 

 「はい!?」

 

 驚くダイヤさん。そりゃそうだよなぁ・・・

 

 「ちょ、ちょっと待って下さい!?いくらその理事長さんが推薦したとはいえ、それはおかしいでしょう!?筆記試験はともかく、面接は顔合わせの意味でも必要なのでは!?」

 

 「俺もそう思って、理事長に聞いたんですよ。そしたら理事長曰く、『関係者の方が天くんに来てほしいと言っている。試験なんて要らないらしい』とのことでして・・・」

 

 「・・・有り得ませんわ」

 

 頭を抱えるダイヤさん。

 

 「つまりそうまでして、天さんに来てもらいたかったいうことですか・・・それは確かに、『呼んだ』に近いですわね・・・」

 

 「でしょう?しかも試験免除を決められる権限を持っているということは、それこそ理事長ぐらいだと思ったんですけど・・・」

 

 「確かに・・・ですがその話が決まったのは、前理事長の就任期間中でしょう?新理事長は関係ないのでは?」

 

 「ですよねぇ・・・でも、前理事長ではないですよね?退職されたわけですし」

 

 「それは間違いありませんわ。私が天さんの話を聞いたのは前理事長からでしたが、自分が決めたわけではないとおっしゃっていましたから」

 

 「・・・謎ですね」

 

 「・・・謎ですわね」

 

 ダイヤさんと顔を見合わせる。関係者の方って、一体誰なんだ・・・

 

 「天さんの中学の理事長さんには、そのことについて聞かなかったのですか?」

 

 「聞きましたけど、『行けば分かる』って言われまして・・・」

 

 あの時の理事長の面白そうな笑み・・・絶対何か隠してるんだよなぁ・・・

 

 「ですが天さん、よくテスト生の話を引き受けましたね?今の話を聞くかぎり、色々と怪しげな点がありますが・・・」

 

 「試験免除に惹かれたので」

 

 「そこですの!?」

 

 「当然でしょう。入学が確約されてるんですよ?おかげで同級生達が受験に向けて勉強している中、これ見よがしに遊びまくることが出来ました」

 

 「もの凄く恨まれそうですわね!?」

 

 「ハハッ、まさか。皆はいつも笑顔で俺に、『くたばれ』『バルス』って話しかけてきてくれましたよ」

 

 「間違いなく恨まれてますわよねぇ!?」

 

 「冗談ですよ」

 

 俺は笑うと、急須に入っていたお茶を湯呑みに注いだ。

 

 「まぁ一番の理由は、理事長に頼まれたからですね。『嫌なら断ってくれて構わない』とは言われましたけど・・・俺で力になれるなら、是非とも引き受けたいと思ったので」

 

 「・・・理事長さんのこと、大切に思われているのですね」

 

 「えぇ、まぁ・・・」

 

 ダイヤさんに優しげな笑みを向けられ、少し照れ臭くなってしまった。どうにも気恥ずかしいな・・・

 

 「とりあえず、以上がテスト生になった経緯です。何か理事長のコネで入学したみたいで、話していてちょっと気が引けましたけど・・・」

 

 「気にする必要はありませんわ。倍率の高い超難関校ならともかく、浦の星は生徒数が減少している学校ですから。入学方法がコネだろうが、気にする人などいないでしょう」

 

 苦笑するダイヤさん。

 

 「それに・・・私はテスト生が天さんで良かったと、心から思っていますわ。天さんの中学の理事長さんと、浦の星の関係者の方とやらに感謝しなければなりませんわね」

 

 「ダイヤさん・・・心の底から愛してます」

 

 「そ、そういうセリフを軽々しく口にしてはいけませんっ!」

 

 赤面しながら怒るダイヤさん。そんなダイヤさんを見ながら、浦の星に来て良かったと思う俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

最近、『ラブライブ!サンシャイン!!』のBlu-rayを買い始めました。

収録されている特典映像に、Aqoursの声優さん達が出演しているのですが…

しゅかしゅーさん可愛すぎる( ´∀`)

あと、ありしゃ様が美しい(・∀・)ノ

着々とAqoursにのめり込んでいる今日この頃です(笑)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人に裏切られるのは辛いことである。

先に謝っておきます…

鞠莉ちゃん推しの方々、大変申し訳ありません…


 翌日・・・

 

 「緊張するなぁ・・・」

 

 理事長室の前でドキドキしている俺。今朝ダイヤさんから連絡があり、放課後に新理事長との顔合わせがあると告げられたのだ。

 

 一体どんな人なんだろう・・・

 

 「・・・よし」

 

 覚悟を決めてドアをノックする。

 

 「どうぞ~」

 

 中から女性の声がした。新理事長の声かな・・・?

 

 「し、失礼します・・・」

 

 恐る恐るドアを開け、理事長室へと足を踏み入れた瞬間だった。

 

 「シャイニー!」

 

 「うおっ!?」

 

 いきなりタックルをくらい、思わずその場に倒れ込んでしまう。

 

 「な、何事・・・?」

 

 痛みを堪えながら上体を起こすと、誰かが俺に抱きついていた。ブロンドのセミロングヘアを、三つ編みのカチューシャのように結っている女子だ。

 

 浦の星の制服を着ているので、この学校の生徒だと思うのだが・・・

 

 「天!お久しぶりデース!」

 

 顔をガバッと上げ、満面の笑みで俺を見つめる女子生徒。

 

 ん・・・?

 

 「えーっと・・・どちら様ですか?」

 

 「What!?覚えてないの!?」

 

 女性がショックを受けている。いや、俺の知り合いに金髪美少女なんて・・・

 

 一応いるけど、この人ではないはずだ。

 

 「ちょっと!?いきなり何をしているのですか!?」

 

 先に来ていたであろうダイヤさんが抗議する。よく見ると千歌さん、曜さん、梨子さんまでいるし・・・

 

 梨子さんは何故かジト目でこっちを見てるけど。

 

 「・・・天くんって、年上の女性に抱きつかれやすい体質なの?」

 

 「そんな体質だったら幸せなんですけどね。梨子さんも抱きつきます?」

 

 「抱きつきません!」

 

 そっぽを向いてしまう梨子さん。

 

 どうやらご機嫌斜めみたいなので放置して、俺に抱きついているパツキンのチャンネーへと目を向ける。

 

 「で、どちら様ですか?」

 

 「・・・本当に分からないの?」

 

 さっきまでの笑みから一転、寂しそうな表情で俺を見る女子。

 

 何だろう、もの凄い罪悪感に襲われてるんだけど・・・

 

 「鞠莉さん!いいから早く天さんから離れなさい!」

 

 怒っているダイヤさん・・・ん?

 

 「鞠莉・・・?」

 

 今ダイヤさんが呼んだ名前・・・それにこの独特の髪型・・・側頭部に数字の『6』のような形で髪を結ってある・・・

 

 あれ・・・?

 

 「えぇ!?鞠莉ちゃん!?小原鞠莉ちゃん!?」

 

 「Yes!やっと思い出してくれた!」

 

 嬉しそうに俺を抱き締める女子・・・小原鞠莉。おいおいマジか・・・

 

 「大きくなったね、天!」

 

 「鞠莉ちゃんの方こそ、すっかり大人の女性って感じになっちゃって」

 

 特に俺の身体に押し付けられている、この二つの大きく柔らかいモノ・・・ずら丸や果南さんより大きいのでは・・・

 

 「っていうか、何で鞠莉ちゃんがここに?」

 

 「フフッ、それはね・・・」

 

 「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

 俺と鞠莉ちゃんが話していると、ダイヤさんが慌てて割り込んでくる。

 

 「その話に入る前に、お二人の関係についてお聞きしたいのですが!?お二人はお知り合いなのですか!?」

 

 「えぇ、幼馴染です」

 

 ダイヤさんの質問に答える俺。

 

 「母親同士が友人関係で、小さい頃は家族ぐるみの付き合いをしてたんです。まぁ鞠莉ちゃん達が引っ越してからは、会う機会もなくて疎遠になってたんですけど」

 

 「最後に会ってから、もう十年近く経つもんねぇ・・・」

 

 しみじみとしている鞠莉ちゃん。時が経つのは早いなぁ・・・

 

 「っていうか鞠莉ちゃん、浦の星の制服着てるけど・・・まさか転校してきたの?」

 

 「No!私は元々、浦の星の生徒デース!」

 

 「マジで!?」

 

 「マジですわ」

 

 溜め息をつくダイヤさん。

 

 「留学の為に海外へ行っていたのですが、このタイミングで戻ってきたようです・・・理事長として」

 

 「ヘぇ・・・ん?」

 

 今ダイヤさん、何か凄いこと言わなかった?

 

 「・・・理事長が何ですって?」

 

 「例の新理事長というのは・・・鞠莉さんのことだそうです」

 

 「・・・ダイヤさんでも冗談を言う時ってあるんですね」

 

 「・・・冗談であってほしかったのですけどね」

 

 苦い顔のダイヤさんに対し、鞠莉ちゃんがドヤ顔で一枚の紙を見せてくる。

 

 「これが証拠デース!」

 

 「・・・嘘やん」

 

 それは鞠莉ちゃんが理事長に就任したことを証明する任命状だった。おいおい・・・

 

 「鞠莉ちゃん・・・今すぐ警察に出頭しよう」

 

 「Why!?」

 

 「小原家の力で前理事長を亡き者にするなんて・・・それで鞠莉ちゃんは満足なの?」

 

 「勝手に前理事長を殺さないで!?天は小原家を何だと思ってるの!?」

 

 「成金一族」

 

 「それは否定できないけども!」

 

 鞠莉ちゃんの父親はリゾートホテルチェーンを経営している富豪で、鞠莉ちゃんはいわゆる御嬢様というやつだ。

 

 昔からそうだったが、この人達は基本的にお金の力に頼ることが多い。普通なら有り得ない現役女子高生理事長が誕生したのも、恐らく小原家の財力によるものだろう。

 

 「どうせ小原家が浦の星に多額の寄付を納めてるとかで、学校の運営に顔が利くんでしょ?それで鞠莉ちゃんの理事長就任をゴリ押ししたってところじゃないの?」

 

 「・・・君のような勘のいいガキは嫌いだヨ」

 

 「どこの錬金術師?っていうか、嫌いならそろそろ離れてくんない?」

 

 「It`s joke!天のことは大好きデース!」

 

 俺の頬に頬ずりしてくる鞠莉ちゃん。スキンシップが激しいな・・・

 

 「それで?何で留学から戻ってきて、いきなり理事長になったりしたの?」

 

 「浦の星にスクールアイドルが誕生したって聞いて、ダイヤに邪魔されちゃ可哀想だから応援してあげようと思って」

 

 「本当ですか!?」

 

 嬉しそうな千歌さん。生徒会長であるダイヤさんに反対されていることもあって、理事長である鞠莉ちゃんの応援はかなり心強いんだろう。

 

 「Yes!デビューライブにはアキバドームを用意してみたわ!」

 

 「何やってんの!?」

 

 アキバドームといったら、ラブライブの決勝が行なわれるほどのステージだ。そこでデビューライブって・・・

 

 「そんな!?」

 

 「いきなり!?」

 

 「嘘でしょう!?」

 

 「き、奇跡だよ!」

 

 曜さん・梨子さん・ダイヤさんが絶句している中、顔を輝かせている千歌さん。そんな千歌さんを見て、鞠莉ちゃんは満面の笑みを浮かべ・・・

 

 「It`s joke!」

 

 「えぇっ!?」

 

 「「「「・・・ですよねー」」」」

 

 千歌さんがショックを受ける中、溜め息をつく俺・曜さん・梨子さん・ダイヤさん。

 

 小原家の財力なら、アキバドームだろうが貸し切りに出来るだろうからなぁ・・・一瞬本気かと思ったけど、流石にそれはないか・・・

 

 「実際に用意するステージは、もっと身近な場所デース!」

 

 「身近・・・?」

 

 「どこですか・・・?」

 

 曜さんと梨子さんの問いに、鞠莉ちゃんはウインクしながら答えるのだった。

 

 「フフッ、それはね・・・」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「ステージって・・・ここですか?」

 

 私達が鞠莉さんに連れられてきた場所は、浦の星の体育館だった。

 

 「Yes!ここが貴方達のデビューライブを開催する場所デース!」

 

 頷く鞠莉さん。

 

 「ここを満員にできたら、人数に関わらず部として承認してあげるわ」

 

 「なっ!?」

 

 「本当ですか!?」

 

 驚くダイヤさんに対して、千歌ちゃんは喜びを抑えきれないようだった。

 

 まぁ念願だったスクールアイドル部を設立できるかもしれないチャンスだし、喜ぶなという方が無理だとは思う。

 

 「鞠莉さん!?何を勝手に・・・」

 

 「理事長権限よ。ダイヤは黙ってて」

 

 「ぐっ・・・!」

 

 鞠莉さんを睨みつけるダイヤさん。この二人、何か因縁でもあるのかしら・・・

 

 「ただし、一つ条件があります」

 

 私達を見回す鞠莉さん。条件・・・?

 

 「もし満員にできなかったら・・・その時は解散してもらいます」

 

 「「「えぇっ!?」」」

 

 まさかの解散宣告に驚く私達。

 

 こんなに広い体育館を満員に・・・果たして私達に出来るだろうか・・・

 

 「嫌なら断ってくれて結構よ?どうする?」

 

 挑発的な態度をとる鞠莉さん。この人、本当に私達を応援する気があるのかしら・・・

 

 「・・・千歌ちゃん、どうする?」

 

 「やるしかないよ!他に手があるわけじゃないんだし!」

 

 鞠莉さんの挑発的な態度に燃えたのか、意気込んでいる千歌ちゃん。

 

 確かに千歌ちゃんの言う通り、他に手があるわけじゃない。やるしかないわね・・・

 

 「ヨーソロー!了解であります!」

 

 「頑張りましょう!」

 

 曜ちゃんと私も応える。それを見て、鞠莉さんはニッコリと笑った。

 

 「では、行なうということで良いかしら?」

 

 「はい、やります!」

 

 「よろしい」

 

 千歌ちゃんの返事に頷くと、鞠莉さんは天くんの方を見た。顔合わせが済んだので帰ろうとした天くんを、鞠莉さんはわざわざ引き止めてここへ連れてきたのだ。

 

 この二人は幼馴染らしいけど、それにしては距離が近すぎないかしら・・・さっきだって、鞠莉さんはずっと天くんにくっついたままだったし・・・

 

 って、何で私はそんなことを気にしているのかしら・・・

 

 「天、貴方にお願いがあるの」

 

 「お願い?」

 

 首を傾げる天くんに、鞠莉さんは微笑みながら口を開いた。

 

 「この子達のマネージャーになってちょうだい」

 

 「・・・は?」

 

 「ちょっと待って下さい!?」

 

 驚いている天くん。そこへダイヤさんが慌てて割り込んだ。

 

 「天さんは生徒会役員です!勝手に決められては困りますわ!」

 

 「生徒会の仕事は、毎日あるわけじゃないでしょう?それに生徒会役員でも、部活の兼任は可能なはずよ?他の生徒会役員達だって兼任してるじゃない」

 

 「それはそうですが・・・!」

 

 「鞠莉ちゃん、悪いけどそのお願いは断らせてもらうよ」

 

 苦笑しながら言う天くん。

 

 「そもそもスクールアイドル部は、まだ承認されてもいない部活でしょ?マネージャーなんて早いと思うけど?」

 

 そう、昨日も天くんはそう言っていた。確かにまだ私達は本格的な活動も出来ていないし、マネージャーなんて早いと思う。

 

 昨日は曜ちゃんに乗せられて、『天くんが入ってくれたら』なんて思ってしまったけれど・・・

 

 「それに俺、マネージャーの仕事なんて・・・」

 

 「出来ない、とは言わせないわよ」

 

 不敵な笑みを浮かべる鞠莉さん。

 

 「スクールアイドルのマネージャーなんて・・・天にはお手の物でしょう?」

 

 「っ!?」

 

 息を呑む天くん。スクールアイドルのマネージャーがお手の物・・・?

 

 「私が何も知らないと思った?私達は疎遠になってしまったけど、貴方のお母様と私のママは今でも連絡を取り合っているのよ?」

 

 「・・・あのお喋りクソババア」

 

 悪態をつく天くん。表情が歪んでいる。

 

 「この子達を、マネージャーとして支えてあげてほしいの。天なら出来るでしょ?」

 

 「出来ないよ」

 

 鞠莉さんの言葉をバッサリ切り捨てる天くん。

 

 「俺で力になれることがあるなら、協力したいとは思ってる。でもマネージャーにはならないし、スクールアイドル部に入る気も無い。鞠莉ちゃんの頼みでも、それは聞けない」

 

 明確な拒絶。鞠莉さんが溜め息をつく。

 

 「そう・・・それなら幼馴染の小原鞠莉としてではなく、理事長の小原鞠莉として貴方に命令するわ。この子達のマネージャーになりなさい。さもなくば、貴方を浦の星から追放します」

 

 「鞠莉さん!?何を言い出すのですか!?」

 

 ダイヤさんが鞠莉さんに食ってかかる。

 

 「理事長が一生徒に何かを強要するなど、あってはなりませんわ!そもそも、正当な理由もなく追放など出来るわけが・・・」

 

 「共学化を白紙に戻せば良い話よ。そうすれば天は、浦の星から出ていかざるをえなくなるわ。そして小原家は、浦の星の運営に顔が利く・・・それくらい十分に可能よ」

 

 「正気ですの貴女!?」

 

 「至って正気よ。そもそも、天を浦の星に呼んだのは私なんだから」

 

 「「なっ!?」」

 

 驚いている天くんとダイヤさん。鞠莉さんが天くんを呼んだ・・・?

 

 「天の中学の理事長さんから天を推薦された時、運命だと思ったわ。天がいれば、私の願いはきっと叶う・・・そう思ったわ」

 

 「願い・・・?」

 

 訝しげな天くんに対し、悲しそうに微笑みながら何も答えない鞠莉さん。

 

 一方、ダイヤさんはわなわなと身体を震わせていた。

 

 「鞠莉さん、貴女・・・最初から利用するつもりで、天さんを浦の星に呼んだというのですか・・・!」

 

 「・・・その通りよ」

 

 乾いた音が体育館に響く。ダイヤさんが鞠莉さんの頬を引っ叩いていた。

 

 「見損ないましたわッ!天さんは貴女の幼馴染なのでしょう!?その天さんを利用する為に呼んだですって!?恥を知りなさいッ!」

 

 「・・・天、貴方ずいぶんダイヤに好かれたのね。こんなダイヤ初めて見るわ」

 

 叩かれた頬を押さえ、天くんへと視線を移す鞠莉さん。

 

 「いくら蔑まれようと、私は要求を変えるつもりは無いわ。天、マネージャーになりなさい。私は本気よ」

 

 「鞠莉さん!?いくら何でもそんな無理矢理・・・」

 

 「そうですよ!私達だってそんなやり方は望んで・・・」

 

 「貴女達は黙ってて。天がマネージャーにならないと言うのなら、さっきのデビューライブの件も白紙にするわ。部の承認もしません」

 

 「そんな!?」

 

 千歌ちゃんと曜さんに冷たい眼差しを向ける鞠莉さんに、私も黙っていられなかった。

 

 こんな状況、天くんがあまりにも可哀想すぎる。やりたくもないマネージャーをやれと強要され、断れば学校からの追放及び私達を不利な状況に追い込むと脅されているのだ。

 

 こんなのって・・・

 

 「・・・分かりました」

 

 溜め息をつく天くん。

 

 「引き受けますよ・・・マネージャー」

 

 「天くん!?本当に良いの!?」

 

 「仕方ないでしょう。それ以外の選択肢が無いんですから」

 

 私の言葉に、天くんが苦笑する。

 

 「せっかく浦の星に来たのに、追放されたくありませんから。スクールアイドル部だって、ちゃんと立ち上げてほしいですし」

 

 「天くん・・・」

 

 千歌ちゃんと曜ちゃんも、悲痛な表情を浮かべていた。マネージャーになってほしいとは思ったけど、こんなやり方するなんて・・・

 

 「・・・感謝するわ、天」

 

 鞠莉さんが天くんに触れようと手を伸ばし・・・思いっきり弾かれた。

 

 「・・・触らないで下さい」

 

 「そ、天・・・?」

 

 鞠莉さんを見る天くんの目は、見たこともないほど冷たいものだった。その目に見つめられた鞠莉さんは、怯えたように一歩下がる。

 

 「マネージャーの件、確かに引き受けました。ただし条件があります」

 

 「な、何かしら・・・?」

 

 「まず一つ目・・・スクールアイドル部が設立された場合でも、スクールアイドル部への所属を強要しないこと。マネージャーとしての仕事はするつもりですが、スクールアイドル部に所属するつもりはありませんので。勿論設立されなかった場合は、マネージャーは辞めます。よろしいですね?」

 

 「え、えぇ・・・マネージャーの仕事をしてくれるなら、所属までは強要しないわ」

 

 天くんの言葉には、感情が全くこもっていなかった。まるで機械音声のようだ。

 

 「二つ目・・・生徒会の仕事の優先を許可すること。俺の所属はあくまでも生徒会ですので、そちらが最優先です。よろしいですね?」

 

 「え、えぇ・・・」

 

 鞠莉さんが恐る恐る頷く。今の天くんがよほど怖いらしい。

 

 「そして三つ目・・・貴女がどこまでこれまでの俺を知っているのか、俺も把握はしていませんが・・・」

 

 鞠莉さんを睨みつける天くん。

 

 「他の人達に、俺の情報は一切話さないこと・・・よろしいですね?」

 

 「わ、分かったわ・・・」

 

 「・・・では、マネージャーを引き受けます。不本意ではありますが」

 

 踵を返し、体育館の出口へと歩いていく天くん。

 

 「そ、天っ!」

 

 「人を気安く名前で呼ばないで下さい・・・小原理事長」

 

 名前を呼ぶ鞠莉さんに冷たく返した天くんは、忌々しそうに吐き捨てた。

 

 「俺は今、この学校に来てしまったことを・・・心の底から後悔してますよ」

 

 その言葉は、私達の胸に深く突き刺さるのだった。




どうも~、ムッティです。

さて、ようやく鞠莉ちゃんが登場しましたが…

すみません、いきなり横暴な態度をとっております…

しばらくは天が鞠莉ちゃんに冷たくなるかと思いますが、物語の都合上何卒ご理解下さいませ(>_<)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

支えてくれる人の存在は大きい。

『想いよひとつになれ』ってメッチャ良い曲ですよね。

アニメではサビの部分で善子ちゃんがウインクしてて、ハートをズッキュンされました。


 「・・・ハァ」

 

 俺は溜め息をつきながら、廊下を歩いていた。頭の中で、先ほどの小原理事長との会話が繰り返し流れている。

 

 「あの女・・・!」

 

 思い出す度に怒りがこみ上げてくる。

 

 なりふり構わず俺を脅し、千歌さん達のマネージャーを務めることを強要してくるなんて・・・流石は富豪の令嬢、権力を持っている者の脅しは一味違うようだ。

 

 だが・・・

 

 「・・・悲しそうだったな」

 

 あの悲しげな笑みが頭から離れない。恐らく、俺を脅してでもマネージャーにしたい理由があるのだろう。

 

 それでも、今回のことを許すことは出来ないが。

 

 「・・・もう訳が分かんない」

 

 頭の中がグチャグチャで、全く整理できない。とにかく今は帰って寝よう。

 

 そう思い、鞄を取りに教室へと戻ると・・・

 

 「あれ?天くん?」

 

 「ずら丸?」

 

 ずら丸が一人で席に座り、本を読んでいた。

 

 「帰ってなかったの?」

 

 「今日は図書委員会の仕事だったずら」

 

 「あぁ、図書室の受付か」

 

 図書委員会の生徒は当番制で、週に何度か図書室の受付をやっている。ずら丸もクラス代表として図書委員会に所属しており、今日がその当番の日だったらしい。

 

 「で、何で教室で本読んでんの?」

 

 「天くんと一緒に帰ろうと思って」

 

 微笑むずら丸。

 

 「当番が終わって教室に戻ってきたら、天くんの鞄が置いてあったから。天くんが戻ってくるのを、読書しながら待ってたずら」

 

 「マジか・・・結構待たせた?」

 

 「今来たところずら」

 

 「何そのデートの待ち合わせで男が言いそうなセリフ」

 

 「マルは女ずら」

 

 「知ってるわ」

 

 笑いながらツッコミを入れる。と、ずら丸が怪訝な表情で俺を見た。

 

 「・・・何かあったずら?」

 

 「え、何で?」

 

 「・・・酷い顔してるずら」

 

 「うわ、顔をディスられた。傷付くわぁ」

 

 「天くん」

 

 いつになく強い口調で、俺の名前を呼ぶずら丸。

 

 「無理して茶化すのは止めるずら。辛いのは天くんの方ずら」

 

 「・・・そうでもしなきゃやってられないよ」

 

 力なく席に座る俺。

 

 「頭の中がゴチャゴチャで、何も考えたくない・・・何かもう疲れたよ・・・」

 

 どうして小原理事長があんなことをしたのか・・・どうして俺がマネージャーをやらなければいけないのか・・・

 

 「何で・・・どうして・・・」

 

 「ダメずら」

 

 後ろからずら丸の声が聞こえたかと思うと、頭が柔らかいものに覆われる。

 

 俺はそこで初めてずら丸が俺の後ろに移動していたこと、そして後ろからずら丸に抱き締められていることに気付いた。

 

 「今は何も考えちゃダメずら。こういう時に深く考えちゃうと、どんどん良くない方に考えがいっちゃうずら」

 

 「ずら丸・・・」

 

 「今はただ、頭を空っぽにすること・・・マルに身を任せていれば良いずら」

 

 優しく抱き締めてくれるずら丸。ずら丸の温もりを感じ、心が安らいでいく。

 

 「・・・女の子なんだから、あんまり男にこういうことしない方が良いよ」

 

 「マルの男友達は天くんだけだから、他にこういうことする男の子なんていないずら。天くんだけの特権ずら」

 

 「・・・そっか。ありがたく受け取っとくよ」

 

 大人しくずら丸に身を任せる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「そんなことがあったずらね・・・」

 

 神妙な表情のずら丸。

 

 俺は帰りのバスの中で、ずら丸に事情を説明していた。あそこまでしてもらった以上、ずら丸に何も話さないのは良くないと思ったのだ。

 

 「理事長さんも酷いことするずら・・・」

 

 「・・・正直、かなりショックだったよ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「久しぶりに会えて嬉しかったし、向こうも純粋に喜んでくれてるんだと思ってた。でも実際は、俺を利用する為に浦の星に入学するように仕組んでたなんて・・・」

 

 「マネージャーを断れば、浦の星からの追放・・・それは断れないずらね」

 

 「いや、それだけで済むなら断ってたよ」

 

 「ずら!?」

 

 驚愕しているずら丸。

 

 「ど、どういうことずら!?」

 

 「別の学校に行くっていう選択肢があったってこと。ツテが無いわけじゃないから、受け入れてくれる学校なら見つけられると思うし」

 

 「じゃ、じゃあ何で・・・」

 

 「・・・スクールアイドル部の為、かな」

 

 もし俺が断れば、小原理事長はスクールアイドル部を認めないと言っていた。それでは千歌さんの夢が叶わないし、せっかく前向きになれた梨子さんの決意が無駄になってしまう。

 

 何より自分達のマネージャーを断ったせいで、俺が浦の星から追放されてしまったら・・・恐らくあの三人は、責任を感じてスクールアイドルを断念してしまうだろう。

 

 「せっかく見つけた目標を、こんなことで諦めてほしくないから。あの三人には、これからも真っ直ぐ突き進んでほしいし」

 

 「でも天くんが無理矢理マネージャーをやらされることに、先輩方が責任を感じてないとは思えないずら」

 

 「そこは先輩方とも話をするよ。さっきはちょっと冷静じゃなかったけど、ずら丸のおかげでずいぶん落ち着いたから」

 

 俺は笑いながら、隣に座るずら丸の頭を撫でた。

 

 「ありがとう。おかげで助かったよ」

 

 「マ、マルは当然のことをしただけずら・・・」

 

 ずら丸が顔を赤くしている。可愛い奴め。

 

 「・・・でも、天くんが浦の星に残ってくれて良かったずら」

 

 「え?」

 

 ずら丸の言葉に首を傾げる俺。ずら丸が優しく微笑む。

 

 「・・・せっかく仲良くなれたのに、離れちゃうのは寂しいずら」

 

 「っ・・・」

 

 思わずドキッとしてしまう。ニヤけるずら丸。

 

 「あれ、天くん顔が赤いずら。どうしたずら?」

 

 「ゆ、夕陽のせいだって!」

 

 「ふーん・・・まぁ、そういうことにしておいてあげるずら♪」

 

 くっ、コイツ・・・完全に気付いてるな・・・

 

 「フフッ、天くんの弱点発見ずら♪」

 

 「・・・ここにずら丸の愛読書があります」

 

 「ずら!?マルが鞄に入れてた本!?いつの間に!?」

 

 「そしてここにマッチがあります・・・春とはいえ、日が暮れると冷えるよね」

 

 「ごめんなさいずらあああああっ!?堪忍ずらあああああっ!?」

 

 フッ、勝った・・・俺をからかおうなんて百年早いわ。

 

 「うぅ・・・天くんは鬼ずら・・・」

 

 「失礼な。悪魔と呼んでもらおうか」

 

 「余計に酷くなったずら!?」

 

 そんなやり取りをしていると、俺が降りるバス停に到着した。自分の鞄を持ち、席を立ってずら丸の方を見る。

 

 「じゃあまた明日」

 

 「また明日ずら」

 

 手を振ってくれるずら丸。

 

 俺はバスを降りようとしたが・・・一度立ち止まり、もう一度ずら丸の方を見る。

 

 「今日は本当にありがとう・・・花丸と友達で良かった」

 

 初めて名前を呼んだ。

 

 俺の言葉に、花丸は目をぱちくりさせると・・・頬を赤く染め、照れ臭そうに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「んー・・・とりあえず明日、千歌さん達と話さないとなぁ・・・」

 

 帰り道を歩きながら、どう話を切り出すかを考える。

 

 あの人達、絶対気にしてるだろうしなぁ・・・

 

 「わんっ!」

 

 考えながら歩いていると、犬の鳴き声が聞こえた。思わず顔を上げると、こちらへ向かって大きな犬が駆け寄ってくるところだった。

 

 「おぉ、しいたけ。ただいま」

 

 「わんっ!」

 

 嬉しそうに身体を摺り寄せてくる犬・・・しいたけの頭を優しく撫でる。

 

 と、しいたけの後から一人の女性が駆け寄ってきた。

 

 「ちょっとしいたけ、急にどうした・・・って天じゃん!今帰り?」

 

 「えぇ。こんばんは、美渡さん」

 

 明るいブラウン系の短い髪の女性に挨拶する。

 

 彼女は高海美渡さんといって、しいたけが飼われている旅館『十千万』の娘さんだ。『十千万』は学校の行き帰りで必ず通る為、毎日しいたけを構っていたら美渡さんとも挨拶する仲になったのだ。

 

 「学校の方はどうよ?彼女できた?」

 

 「欲しいのは山々なんですけど、全然フラグが建たないんですよね」

 

 「えー、だって男子は天だけなんでしょ?他は全員女子なんだから、選びたい放題じゃん。選り取りみどりじゃん」

 

 「女子達にも選ぶ権利があるでしょう。こんな冴えない男を選ぶぐらいなら、他校のイケメンを狙いに行くんじゃないですか?」

 

 「そうかなぁ?天は割りとイケてると思うよ?」

 

 「美渡~?」

 

 美渡さんと話していると、美渡さんの後ろから違う女性が現れた。黒髪ロングのおっとりとした雰囲気の女性が、しいたけとじゃれている俺に気付く。

 

 「そろそろ夕飯・・・って、天くんじゃない!お帰りなさい」

 

 「こんばんは、志満さん」

 

 彼女は高海志満さん、美渡さんのお姉さんだ。美渡さんと同じく挨拶する仲で、よくおすそ分けをいただいたりする。マジ女神。

 

 「志満さんは今日もお綺麗ですね」

 

 「フフッ、天くんったら上手なんだから」

 

 「本心ですって。俺が大人だったら放っておかなかったでしょうね」

 

 「あら、じゃあ天くんは私を放っておくのかしら?」

 

 「志満さんがその気なら、喜んでアタックさせていただきます」

 

 「ちょっと天、私の前で志満姉を口説かないでくれる?」

 

 「まだ口説いてませんよ。MK5(マジで口説く5秒前)です」

 

 「言葉が古くない!?アンタ高校生よねぇ!?」

 

 美渡さんのツッコミ。面白い人だなぁ・・・

 

 「美渡さんって、俺の先輩に似てますね。ツッコミが上手なんでボケやすいです」

 

 「いや、そこで判断されても・・・その先輩も大変ね・・・」

 

 同情的な表情の美渡さん。

 

 失礼な、これでも千歌さんのことは敬っているというのに。

 

 「そうだ天くん、良かったら夕飯食べていかない?」

 

 「いえ、そこまで甘えてしまうわけには・・・」

 

 「今日のメニューは肉じゃがなんだけど、ちょっと作りすぎちゃって」

 

 「ご相伴に預からせていただきます」

 

 「急に態度が変わったわね・・・」

 

 呆れている美渡さん。だって前におすそ分けでいただいた肉じゃが、メッチャ美味しかったんだもん。

 

 「フフッ、じゃあどうぞ」

 

 「お邪魔します」

 

 志満さんに案内され、『十千万』の中へと足を踏み入れる。

 

 「千歌ちゃ~ん、ご飯よ~」

 

 志満さんが二階に向かって呼びかける・・・え?

 

 「・・・は~い」

 

 やがて元気の無い様子で階段を下りてきたのは・・・紛れも無く千歌さんだった。

 

 「ごめん志満姉、私あんまり食欲無くて・・・って天くん!?何でここに!?」

 

 「・・・チェンジで」

 

 「何が!?」

 

 千歌さんのツッコミが響くのだった。




どうも~、ムッティです。

前回の話に、多くの感想をいただきました!

本当にありがとうございます!

意外にも『こういう展開好きです』という感想が多くて驚きました。

鞠莉ちゃん推しの方々から呪われるんじゃないかと思い、ちょっとビクビクしてたのはここだけの話…

前回の話はちょっとシリアスでしたが、今回からはまた思いっきりボケていきたいと思います(笑)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

好きな人には好きって伝えるんだ。

タイトルは、Aqua Timezの『千の夜をこえて』から取りました。

あと、あいにゃさんが可愛すぎてヤバい。


 『十千万』の二階にある千歌さんの部屋で、千歌さんと俺は正座して向き合っていた。千歌さんからの連絡を受けたであろう曜さん・梨子さんも加わり、俺達四人はテーブルを囲む形で座っている。

 

 先ほどの一件もあり、部屋の中は重苦しい雰囲気で包まれて・・・

 

 「もぐもぐ・・・このクッキー・・・もぐもぐ・・・メッチャ・・・もぐもぐ・・・美味しい・・・もぐもぐ・・・流石は・・・もぐもぐ・・・志満さん・・・もぐもぐ・・・」

 

 「凄い勢いでクッキー食べてる!?」

 

 「口の中に物を入れた状態で喋らないのっ!」

 

 いなかった。

 

 梨子さんから注意されてしまったので、口の中のクッキーを紅茶で流し込む・・・うん、紅茶も美味しい。

 

 「ごめんなさい、お母さん」

 

 「誰がお母さんよ!?」

 

 「え、ママって呼んだ方が良いですか?」

 

 「そういう問題じゃないんだけど!?」

 

 「じゃあ間をとってオカンで」

 

 「だからそういう問題じゃないってば!?」

 

 ぜぇぜぇ息を切らしながらツッコミを入れてくれる梨子さん。

 

 「まぁ、疲れ切っている梨子さんは放置するとして・・・」

 

 「誰のせいよ!?」

 

 「それにしても、志満さんと美渡さんが千歌さんのお姉さんだったとは・・・」

 

 世の中狭いものである。知り合いのお姉さん達が、まさか学校の先輩の家族とは・・・

 

 「確かに苗字は『高海』だし、妹がいるとは聞いてたし、浦の星に通ってるとは聞いてたし、最近スクールアイドルにハマってるらしいとは聞いてたけど・・・まさかですね」

 

 「全然まさかじゃないよねぇ!?それ私しかいないよねぇ!?何で気付かないの!?」

 

 「いやぁ、鈍感なもので。すみません千歌さん・・・いや、義妹さん」

 

 「何で言い直したの!?」

 

 「俺が志満さんと結婚したら、美渡さんと千歌さんは俺の義妹になりますから」

 

 「こんな義兄さん嫌ああああああああああっ!?」

 

 梨子さんに続き、千歌さんもダウンして机に突っ伏す。仕方ないので、俺は右隣の曜さんに向き直った。

 

 「ところで曜さん、もう夜ですけど・・・ここに来てて良いんですか?バスが無くなって帰れなくなりません?」

 

 「あ、それは大丈夫。今日は千歌ちゃんの家に泊まらせてもらうから」

 

 大きめのリュックを持ち上げる曜さん。

 

 「千歌ちゃんから連絡もらって、大急ぎでお泊りの準備したんだよ。まさか千歌ちゃんの家に天くんが来るなんて、思ってもみなかったなぁ」

 

 「お騒がせしてすいません・・・梨子さんは大丈夫なんですか?」

 

 「うん。私の家は隣だから」

 

 「そうなんですか!?」

 

 マジか・・・っていうか、家の隣が旅館ってある意味凄いな・・・

 

 「それより、天くんこそ大丈夫なの?」

 

 机に突っ伏していた千歌さんが顔を上げる。

 

 「夕飯のこととか、家に連絡してる様には見えなかったけど・・・」

 

 「あ、一人暮らしなんで大丈夫です」

 

 「「「一人暮らし!?」」」

 

 三人の声がハモる。あれ、言ってなかったっけ?

 

 「俺、元々は家族と東京に住んでたんですよ。それが浦の星へ入学することになって、一人でこっちに引っ越してきたんです」

 

 「天くんも東京に住んでたの!?」

 

 「えぇ、一応」

 

 流石に梨子さん一家のように、家族で内浦に引っ越すことは出来なかったが。だから俺だけこっちに来たのだ。

 

 「だから志満さんからのおすそ分けって、ホントありがたいんですよね。一応料理は出来ますけど・・・人の作ってくれたものを食べられるって、凄く幸せなことですから」

 

 「天くん、これからはウチで夕飯食べていきなよ!」

 

 「私の家も大歓迎よ!いつでも来てくれて良いからね!」

 

 何故か涙目の千歌さんと梨子さん。あれ、同情されてる?

 

 「天くん、ウチにもご飯食べに来てね!」

 

 「いや、気持ちは嬉しいですけど・・・曜さんの家だと帰れなくなりますから」

 

 「お泊りでも大丈夫だよ!」

 

 「思春期の男子に対して、もう少し警戒心を持ってくれません?」

 

 呆れている俺に構わず、目を潤ませながら俺の手を握ってくる曜さん。いや、気持ちはメッチャ嬉しいんだけども。

 

 「まぁそれはさておき・・・とりあえず、マネージャーの件について話しましょうか」

 

 「「「っ・・・」」」

 

 俯く三人。やっぱり責任を感じているようだ。

 

 「まず最初に言っておきますが、俺がマネージャーをやるのは小原理事長に脅されたからです。悪いのは小原理事長であって、千歌さん達には何の非もありません。なので責任を感じる必要は無いですよ」

 

 「いや、でも・・・」

 

 「異論は認めません」

 

 千歌さんが申し訳なさそうに口を開くが、強引に遮る。

 

 「俺はスクールアイドルを目指す千歌さん達を応援してましたし、俺で力になれることがあるなら協力したいとも思ってました。スクールアイドル部に入ったり、マネージャーになったりするつもりはありませんでしたが・・・それでも、陰ながら支えていけたらって。だから『自分達がスクールアイドルをやろうとしたせいだ』なんて、絶対に思わないで下さい。そう思われることの方が、俺はよほど悲しいです」

 

 「天くん・・・」

 

 「・・・一つ、聞いても良いかしら?」

 

 梨子さんがおずおずと口を開く。

 

 「天くんならスクールアイドルのマネージャーなんてお手の物だって、あの時鞠莉さんが言ってたけど・・・どういう意味なのかな?」

 

 「・・・申し訳ないんですけど、今は話せません」

 

 「あ、言いたくないなら大丈夫よ!?無理に聞いたりしないから!」

 

 頭を下げる俺を見て、慌てる梨子さん。気を遣わせちゃったな・・・

 

 「・・・まぁとにかく。マネージャーをやることになったからには、精一杯やらせてもらいます。経緯が経緯なんで、正直複雑かとは思いますが・・・」

 

 「本当に良いの・・・?」

 

 曜さんが気遣わしげに俺を見ている。

 

 「あんなにマネージャーをやることを拒否してたのに・・・大丈夫なの?」

 

 「・・・曜さん」

 

 「何・・・?」

 

 「好きです」

 

 「うん・・・えぇっ!?」

 

 ビックリしている曜さん。顔がどんどん赤くなっていく。

 

 「きゅ、急にそんな・・・!」

 

 「あ、恋愛的な意味じゃないですよ。人としてです」

 

 「紛らわしいわっ!」

 

 勘違いが恥ずかしかったのか、耳まで真っ赤にしながら両手で顔を覆う曜さん。千歌さんと梨子さんが同情的な視線を送っている。

 

 「曜ちゃん、ドンマイ・・・」

 

 「天くん、今のは誰でも勘違いするわよ・・・」

 

 「そうですか?」

 

 まぁとりあえず、悶絶している曜さんは置いといて・・・

 

 「千歌さんのことも梨子さんのことも、俺は好きですよ。尊敬できる先輩だと思ってます。もしそう思ってなかったら、学校を追放されるとしてもマネージャーを引き受けたりしなかったでしょうね」

 

 さっき花丸にも言ったことだが、学校を追放されるだけなら俺はマネージャーを断っていた。それでもマネージャーを引き受けたのは、スクールアイドル部を立ち上げてほしかったから。

 

 それはつまり・・・尊敬できる先輩方に、夢を叶えてほしかったからだ。

 

 「俺がマネージャーをやりたくなかったのは、先輩方が嫌いだからじゃありません。まだ理由は言えませんけど、それでも・・・先輩方が好きだから、俺はマネージャーを引き受けたんです。それだけは覚えておいて下さい」

 

 「天くん・・・」

 

 涙目の千歌さん。俺は立ち上がると、三人に向かって頭を下げた。

 

 「さっきはちょっと感情的になって、場の空気を悪くしてしまってすみませんでした。マネージャーとして精一杯頑張りますので、これからよろしくお願いします」

 

 「っ・・・天くんっ!」

 

 「うおっ!?」

 

 勢いよく抱きついてくる千歌さん。思わずその場に倒れこんでしまう。

 

 「ごめんね・・・ひっぐ・・・ごめんね・・・!」

 

 「・・・はいはい、泣かないで下さい」

 

 苦笑しながら、泣いている千歌さんの頭を撫でる。

 

 「謝る必要なんか無いのに・・・千歌さんはお人好しですね」

 

 「・・・それは天くんもでしょ」

 

 優しい温もりに包まれる。梨子さんが後ろから俺を抱き締めていた。

 

 「天くんも謝る必要なんか無いのに・・・本当にお人好しなんだから・・・ぐすっ」

 

 「あれ、梨子さん泣いてます?」

 

 「泣いてないわよ・・・ぐすっ」

 

 確実に泣いてるじゃないですか・・・というツッコミは、流石に無粋だと思ったのでしなかった。

 

 「うわあああああんっ!天くうううううんっ!」

 

 「感情を微塵も隠す気の無い人が来た!?」

 

 俺、千歌さん、梨子さんをまとめて抱き締める曜さん。ちょ、苦しいんだけど・・・

 

 「皆で頑張ろうっ!スクールアイドル部を立ち上げようっ!」

 

 「ちょ、曜さん・・・分かったから落ち着いて・・・」

 

 「うわあああああんっ!」

 

 「・・・全然人の話聞いてないし」

 

 まぁ、不思議と悪い気はしてないけど。今は好きにさせておこう。

 

 「っていうか梨子さん、結局俺に抱きついてるじゃないですか。やっぱり俺、年上の女性に抱きつかれやすい体質なのかも」

 

 「か、勘違いしないでよね!?これはあくまで友愛的な意味でしてることだから!」

 

 「梨子ちゃん、今のは世間じゃツンデレって言われるセリフだよ?」

 

 「千歌ちゃん!?何よツンデレって!?私はデレてなんかないんだからね!?」

 

 「千歌さん聞きました?テンプレの台詞でしたよね?」

 

 「うん、やっぱり梨子ちゃんはツンデレなんだね」

 

 「だから違うってば!?」

 

 「うわあああああんっ!」

 

 最早カオスとも言うべき状況である。

 

 それでも・・・先輩方との距離が、少しだけ縮まったような気がした俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

さて、とりあえず天がマネージャーになりましたね。

千歌ちゃん達とは良い感じに仲が深まっていますが、果たして鞠莉ちゃんとはどうなるのか…

そして海の音を聴いて以来、出番の無い果南ちゃんの登場はいつになるのか…

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

縁は大切にすべきである。

昨日は暑かったのに、今日はメッチャ寒い…

気温の変化が激しすぎてついていけない…


 「あっ・・・天くん・・・ダメ・・・!」

 

 「そんなこと言っちゃって・・・梨子さんなら、もっとイケるでしょう・・・?」

 

 「ダメ・・・それ以上は・・・あっ・・・!」

 

 「よし、イキますね・・・!」

 

 「ああああああああああっ!?」

 

 悲鳴を上げる梨子さんに構わず、俺はただ力を込め・・・

 

 「痛い痛い痛い!?天くん待って!?ホントギブ!ギブだから!」

 

 「梨子さんの悲鳴が聞けるなら、俺はいくらでもこの背中を押しますよ」

 

 「ドS!鬼!悪魔!」

 

 「おっと、力加減をミスりました」

 

 「いやああああああああああっ!?」

 

 梨子さんの背中を押していた。

 

 マネージャーを引き受けてから数日、俺は千歌さん達の練習に付き合っていた。今は練習前の柔軟体操をしており、俺は梨子さんとペアを組んで身体をほぐしているのだった。

 

 「天くん、ホント容赦ないよね・・・私もやられたけど、痛かったなぁ・・・」

 

 「そうかな?私はそんなことなかったけど?」

 

 千歌さんと曜さんも、そんな会話をしながら柔軟体操をやっている。まぁ曜さんは水泳部だけあって、身体も柔らかかったしな。

 

 「さて、これぐらいにしておきますか」

 

 「ハァ・・・ハァ・・・」

 

 練習場所の砂浜に突っ伏し、息切れしている梨子さん。やれやれ・・・

 

 「大丈夫ですか?練習はこれからですよ?」

 

 「天くんのせいでしょうが!」

 

 「梨子さんの身体が硬いせいです。だから頭も固いんですよ」

 

 「うぐっ・・・」

 

 悔しそうな梨子さん。どうやら自覚はあるらしい。

 

 「俺の知り合いのピアノやってる人は、キチンと柔軟体操を続けて身体が柔らかくなりましたよ。まぁ未だに頭は固いままですけど」

 

 「じゃあ関係ないじゃない!?」

 

 「でも、ピアノはメッチャ上手くなりました」

 

 「ちゃんと柔軟体操やらなくちゃ!」

 

 チョロい梨子さん。

 

 まぁ上手くなったというより、前より楽しそうにピアノを弾くようになったっていう話なんだけどね。柔軟体操も関係無いし。

 

 「さて、ランニングいきますか」

 

 「おー!」

 

 「ヨーソロー!」

 

 千歌さんと曜さんが元気よく走り出し、その後を梨子さんと俺が追う。これがいつものランニングの陣形だった。

 

 「ライブ、絶対成功させるんだ!私達なら出来る!」

 

 息巻いている千歌さん。

 

 ライブの日まであまり時間も無いが、それまでに何とかスクールアイドルとしての形にはしたいところだ。会場を満員にできたとしても、パフォーマンスがダメなら小原理事長も納得しないだろう。

 

 そもそも、μ's大好きウーマンのダイヤさんがブチギレるだろうし・・・ん?μ's?

 

 「千歌さん、一つ聞いても良いですか?」

 

 「ん?何?」

 

 「グループの名前って決まってるんですか?」

 

 「・・・あっ」

 

 今『あっ』って言ったよこの人。完全に忘れてたパターンだよ。

 

 「ちゃんと決めた方が良いですよ。名前って結構重要ですから」

 

 「そうだよね・・・でも、どんな名前が良いかなぁ・・・」

 

 考え込む千歌さん。すると、曜さんが勢いよく手を上げた。

 

 「はいはーい!『制服少女隊』なんてどうかな!?」

 

 「無いかな」

 

 「無いわね」

 

 「無いですね」

 

 「えぇっ!?」

 

 全員から否定され、ショックを受ける曜さん。いや、まぁ何と言うか・・・

 

 「完全に曜さんの趣味が入ってますよね、それ」

 

 「良いじゃん!可愛いじゃん!」

 

 頬を膨らませる曜さん。

 

 曜さんは職業系の制服が大好きらしく、自分で作ったりもするんだとか。なのでライブの衣装は、曜さんが担当することになっている。

 

 「梨子ちゃんはどう?どんな名前が良いと思う?」

 

 「んー、そうねぇ・・・」

 

 千歌さんに尋ねられ、考え込む梨子さん。梨子さんならきっと、良いセンスのグループ名を考えてくれるだろう。

 

 「海で知り合った三人組ってことで、『スリーマーメイド』とか・・・」

 

 そんなことを考えていた時期が俺にもありました。

 

 「さぁ、そろそろペース上げましょうか」

 

 「「おー!」」

 

 「待って!?今の無し!無しだから!」

 

 顔を真っ赤にしてブンブン腕を振る梨子さん。やれやれ・・・

 

 「仕方ありません。言い出しっぺに決めてもらいましょうか」

 

 「え、天くんが決めてくれるの?」

 

 「脳天かち割りますよ、能天気オレンジヘッド」

 

 「メッチャ罵倒された!?私一応先輩だよねぇ!?」

 

 「早く考えないと、マジで『スリーマーメイド』にしますからね」

 

 「今すぐ考えなきゃ!?」

 

 「だからそれは無しだってば!?」

 

 ギャーギャー騒いでいる梨子さんは無視して、千歌さんが必死にグループ名を考える。と、曜さんが俺へと視線を向けてきた。

 

 「ちなみに、天くんはどんなグループ名が良いと思う?」

 

 「そうですねぇ・・・『シグナル』とかどうでしょう?」

 

 「お、ちょっとカッコ良いかも。ちなみに名前の由来は?」

 

 「イメージカラーですね。梨子さんがサクラピンク、千歌さんがオレンジ、曜さんがライトブルー・・・それぞれ赤・黄・青に近いですし、信号っぽいじゃないですか」

 

 「・・・うん、由来がちょっとアレかな。まぁ名前は悪くないと思うけど」

 

 「っていうか、私のイメージカラーはみかん色だから!オレンジじゃないから!」

 

 「そこに拘るんですか?」

 

 千歌さんのよく分からない拘りはさておき、他にも名前を考えてみる。

 

 「三人のイニシャルで考えるのはどうですか?千歌さんがC、曜さんがY、梨子さんがRだから・・・そう、例えば『CYaRon!』とか・・・」

 

 「「「それはダメ」」」

 

 「あれ?ダメでした?」

 

 結構良い名前だと思ったんだけど・・・

 

 「いや、良い名前だとは思うんだけどね・・・」

 

 「うん、良い名前なんだけど・・・何かダメな気がする」

 

 「上手く言えないんだけど・・・この三人のグループ名では無いわね」

 

 何故か微妙な表情をしている三人。まぁ皆がそう言うなら仕方ないか・・・

 

 「そういえば、μ'sはどうやって名前を決めたのかしら?」

 

 「ギリシア神話に登場する文芸の女神『ミューズ』が由来なんだって。『ミューズ』は九人の女神が存在するらしくて、そこから『μ's』っていう名前にしたみたい」

 

 「あれ?でもμ'sって、最初は三人だったんじゃなかったっけ?」

 

 「あっ、確かに・・・じゃあ何で『μ's』にしたんだろう?」

 

 ダイヤさんの問題に答えられなかったことがキッカケで、μ'sのことを熱心に調べるようになった千歌さんだったが・・・これは流石に分からないだろう。

 

「天くんは知ってる?」

 

「まだμ'sが三人だった頃、学校に投票箱を設けてグループ名を募集したみたいです。そこに投函されていた紙に『μ's』って書いてあって、それをグループ名にしたんだとか」

 

「・・・まさか本当に知ってるなんて」

 

唖然としている千歌さん。

 

「じゃあμ'sの名前を考えた人は、音ノ木坂の生徒ってこと?」

 

「そうです。後に判明したそうですが、投函したのは東條希さんだったんだとか」

 

「東條希さんって・・・え、μ'sのメンバーの!?」

 

「えぇ。まぁ投函したのは、彼女がμ'sに加入する前の話だそうですけど」

 

「そうなんだ・・・でも、何で『μ's』だったんだろう?」

 

「彼女には、九人になる未来が見えていたそうですよ。まぁ、嘘か本当かは分かりませんけど」

 

「そういえば希さんは、パワースポットや占いに傾倒していたってネットにも書いてあったっけ・・・それなら、本当に未来が見えたのかもしれないね!」

 

少し興奮気味な千歌さん。この人、μ'sの話の時はホントに熱くなるな・・・

 

 「で、名前どうします?」

 

 「あぁっ!?忘れてた!?」

 

 頭を抱える千歌さん。

 

 その後も皆で考えながらランニングしていたものの、結局良い案は思い浮かばず・・・俺達はスタート地点へと戻ってきていた。

 

 「ハァッ・・・ハァッ・・・何か・・・いつもより疲れた・・・」

 

 運動は得意なはずの曜さんが、珍しくしんどそうにしている。千歌さんと梨子さんも疲れたのか、砂浜に仰向けに倒れ込んだ。

 

 頭を使いながらランニングをすると、いつもより負荷が大きいようだ。

 

 「・・・よし、練習メニューに追加しよう」

 

 「「「鬼かっ!」」」

 

 三人から総ツッコミを受けたところで、俺はあるものを発見した。

 

 「ん・・・?」

 

 「天くん?どうしたの?」

 

 「いえ、何か書いてあるみたいで・・・」

 

 さっきまで俺達が柔軟体操をしていた辺りに、『Aqours』という落書きがしてあった。

 

 走り始めた時は、こんな落書きなど無かったはずだが・・・

 

 「私達がランニングしてる間に、誰かが書いたんじゃないかな?この辺の砂浜って、結構色んな落書きがあったりするし」

 

 「・・・そうですかね」

 

 曜さんはそう言うものの、俺はどこか釈然としなかった。

 

 そもそも落書きにしては字が綺麗過ぎるというのもあるが、どこかで見た字のような・・・

 

 「ところでこれ、何て読むのかしら?」

 

 首を傾げる梨子さん。俺の知るかぎりこんな英単語は無いはずなので、恐らく造語だとは思うのだが・・・

 

 「もしかして・・・アクア、ですかね?」

 

 「アクア・・・水ってこと?」

 

 「えぇ、多分。海辺ですし、水を基にした造語なんじゃないですか?」

 

 「・・・水かぁ」

 

 微笑む千歌さん。あ、この顔は・・・

 

 「ねぇ、この名前・・・」

 

 「良いんじゃないですか?」

 

 「まだ何も言ってないよ!?」

 

 「グループ名にどうか、っていう話ですよね?」

 

 「天くんってエスパーなの!?」

 

 「千歌さんが分かりやすいだけです」

 

 この人は本当に分かりやすい。考えていることが思いっきり顔に出るし。

 

 「これをグループ名にするの?誰が書いたか分からないのに?」

 

 「だから良いんだよ」

 

 梨子さんの言葉に、千歌さんが笑う。

 

 「名前を決めようとしている時に、この名前に出会った・・・それって、凄く大切なことなんじゃないかな?」

 

 「・・・そうですね」

 

 出会いというものは、偶然なのか必然なのか・・・そんなものはどちらでも良い。

 

 重要なのは、その縁を大切に出来るかどうか・・・そう考えている俺にとって、今の千歌さんの言葉はとても共感できるものだった。

 

 「賛成であります!」

 

 「このままじゃ、いつまでも決まりそうにないしね」

 

 曜さんと梨子さんも賛成のようだ。これで決まったな。

 

 「じゃあ決定ね!今から私達は、スクールアイドル『Aqours』だよ!」

 

 「「おー!」」

 

 盛り上がる三人。グループ名も決まり、これでますます気合いが入るだろう。

 

 「さて、休憩はここまでにしましょうか。次はステップの練習をしましょう」

 

 「えぇっ!?もう休憩終わり!?」

 

 「ご不満なら、永遠に休憩させてあげましょうか?」

 

 「遠回しの殺害予告じゃん!?最近の天くん、生徒会長より怖いんだけど!?」

 

 「いやいや、ダイヤさんは・・・あっ」

 

 思い出した。あの字、どこかで見たことがあると思ったら・・・

 

 思わず苦笑してしまう俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

ようやくグループ名が決まりました。

もっとサクッと終わらせる予定だったのですが、思ったより長くなってしまった…

早く善子ちゃんや果南ちゃんを出さねば…

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

借りは返すものである。

3月28日木曜日、日間ランキングで6位に入りました!

皆様、ありがとうございます!


 「・・・そうですか。ライブの準備は順調に進んでいるのですね」

 

 「えぇ、何とか」

 

 生徒会室でお茶を呑みながら、ダイヤさんと会話している俺。

 

 今日は生徒会の仕事があった為、マネージャーとしての仕事はお休みだ。

 

 「高海さん達は、今日も練習ですか?」

 

 「いえ、今日は宣伝活動ですね。沼津の駅前でチラシを配るそうですよ」

 

 スクールアイドル部の設立が承認される条件は、体育館を満員にすること・・・しかしそこには、一つの問題点があった。

 

 「この学校の生徒が全員集まったとしても、体育館は満員にはならない・・・私が言える立場ではありませんが、鞠莉さんも意地悪ですわね」

 

 溜め息をつくダイヤさん。

 

 そう、浦の星の全校生徒は百人にも満たない。体育館を満員にするには、外部のお客さんに来てもらうしかないのだ。

 

 小原理事長はそれを分かった上で、この条件を出したのだろう。本当に食えない人である。

 

 「ラブライブを目指す以上、学校の中だけで満足してはいられませんからね。それでこんな条件を出したんでしょうけど・・・気に入りませんね」

 

 千歌さん達はまだ、スクールアイドルを始めたばかりだ。

 

 それなのにもうライブをやらせ、満員に出来なければ解散しろだなんて・・・ハードルが高過ぎる。

 

 「あの人が何を考えているのか分かりませんが・・・人を何だと思ってるんですかね」

 

 「天さん・・・」

 

 気遣わしげにこちらを見るダイヤさん。

 

 小原理事長とのいざこざがあってから、ダイヤさんは本当に俺のことを心配してくれていた。『生徒会長として何も出来ず申し訳ない』と言って、土下座してきたほどである。

 

 勿論ダイヤさんは何も悪くないので、すぐに肩を掴んで頭を上げてもらったが。

 

 「・・・まぁ、今はそんなことを言っても仕方ないですね。とにかく体育館を満員にして、スクールアイドル部の設立を承認してもらわないと」

 

 苦笑する俺。

 

 とにかくやるしかない。今は恨み言を言うよりも、前を向いて頑張っていかないと。

 

 「グループ名が決まって、千歌さん達もますます気合いが入ってますから。素敵な名前を付けてくれた人に感謝しないと・・・ありがとうございます、ダイヤさん」

 

 「なっ!?」

 

 驚くダイヤさん。やっぱりか・・・

 

 「な、何のことか私にはさっぱり・・・」

 

 「いつも生徒会の仕事でダイヤさんの字を見ている俺が、分からないわけないでしょうに。砂浜の落書きにしては、ちょっと字が綺麗過ぎましたね」

 

 「・・・参りましたわ」

 

 がっくりと肩を落とすダイヤさん。

 

 「少し練習の様子を見に行ったら、ちょうどグループ名の話をしているのが聞こえたので・・・あ、あくまでも参考にと思って・・・」

 

 「千歌さんの性格を考えると、あの名前になる可能性が高いことは分かってたんじゃないですか?つまりダイヤさんにとって、あの名前は特別なものだったんでしょう?」

 

 「うぐっ・・・」

 

 どうやら図星らしい。まぁ本人が話したくなさそうだし、これ以上は深く聞かない方が良いだろう。

 

 「ちなみに、読みは『アクア』で合ってますか?」

 

 「・・・えぇ、そうです」

 

 頷くダイヤさん。

 

 「水を意味する『Aqua』と、複数形の所有代名詞『ours』を合わせた造語ですわ」

 

 「それで『Aqours』ですか・・・」

 

 『ours(私達のもの)』ということは、ダイヤさん以外にもこの名前を考えた人がいるってことなのかな・・・?

 

 「・・・まぁいずれにせよ、良い名前をいただきました。ありがとうございます」

 

 「あの、天さん・・・このことは、高海さん達には・・・」

 

 「分かってます。内緒にすれば良いんですよね?」

 

 言うつもりが無かったからこそ、ダイヤさんはこっそり落書きをするという方法をとったんだろう。ダイヤさんがそれを望むなら、わざわざ暴露したりするつもりは無い。

 

 「それにしても・・・ダイヤさんのおかげで、グループ名が『制服少女隊』や『スリーマーメイド』にならずに済みましたよ」

 

 「・・・どんなネーミングセンスしてますの?」

 

 呆れているダイヤさんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あら天くん、いらっしゃい」

 

 「こんにちは、善恵さん」

 

 生徒会の仕事を終えた俺は、津島さんの家へとやってきていた。目的は勿論、先週分のノートやプリントを届けることである。

 

 花丸やルビィちゃんも来たがっていたが、前回のこともあるので今回は俺一人で来ることにしたのだ。

 

 「来てくれてありがとう。本当に助かるわ」

 

 「いえいえ、大したことじゃないですから」

 

 これで津島さんが授業に遅れずに済むなら、お安い御用である。俺もノートをまとめた甲斐があるというものだ。

 

 「それじゃあ私は買い物に行ってくるから、留守番よろしくね」

 

 「了解です。荷物持ちは大丈夫ですか?」

 

 「フフッ、そんなに買う物は多くないから大丈夫よ。それじゃ、行ってくるわね」

 

 「行ってらっしゃーい」

 

 善恵さんを見送り、俺は津島家へと足を踏み入れる。さて・・・

 

 「善恵さんが帰ってくるまで、テレビでも見てようかな」

 

 「待たんかいいいいいいいいいいっ!」

 

 テレビをつけてソファに座った瞬間、津島さんが勢いよく自分の部屋から出てきた。

 

 「あ、津島さん。こんにちは」

 

 「あ、こんにちは・・・じゃないわよ!?あと、私のことはヨハネって呼びなさい!」

 

 「津島さん、もしくは善子ちゃんじゃダメなの?」

 

 「ダメに決まってるでしょ!?私は堕天使ヨハネよ!?」

 

 「じゃあよっちゃんで」

 

 「人の話聞いてた!?」

 

 ツッコミを入れまくるよっちゃん。キレの良いツッコミだなぁ・・・

 

 「っていうかアンタ、人の家で何してんのよ!?」

 

 「ソファに座ってテレビ見てる」

 

 「おかしいわよねぇ!?ここアンタの家じゃないわよねぇ!?」

 

 「よっちゃん・・・遂に自分の家さえ分からなくなったんだね・・・」

 

 「腹立つ!コイツ腹立つ!」

 

 「コラコラ、地団駄を踏まないの。下の部屋の人に迷惑だよ?」

 

 「誰のせいだと思ってんのよ!?」

 

 ムキーッと怒っているよっちゃん。やれやれ・・・

 

 「実は今日、津島家で夕飯をご馳走になる予定なんだよね」

 

 「ハァッ!?何で!?」

 

 「昨日善恵さんとラインしてたら、夕飯のお誘いを受けたんだよ」

 

 「ちょっと待って!?アンタいつから人の母親を名前で呼ぶようになったの!?いつラインの交換とかしたの!?」

 

 「実は・・・かくかくしかじか」

 

 「なるほど、そんなことが・・・って分かるかっ!それが通じるのはアニメやマンガの世界だけだわっ!」

 

 「おぉ、ダイヤさんと同じツッコミ」

 

 「ダイヤさんっていうのが誰かは知らないけど、私は今その人に果てしない同情の気持ちを抱いたわっ!」

 

 ツッコミすぎて息切れしているよっちゃん。大変だなぁ・・・

 

 「まぁとりあえず説明しとくと・・・この前俺達がここに来た日の夜、俺のところに善恵さんから電話がかかってきたんだよ。『せっかく来てくれたのにごめんなさい』って」

 

 「うぐっ・・・」

 

 バツの悪そうなよっちゃん。少しは申し訳ないと思っているらしい。

 

 「な、何でアンタの電話番号が分かって・・・」

 

 「ほら、クラスの連絡網ってあるじゃん?あの紙を見て俺に電話してきたみたい」

 

 「・・・あったわね、そんなの」

 

 忘れていた様子のよっちゃん。連絡網は入学初日に配布された為、初日しか学校に来ていないよっちゃんでもしっかり貰っていたようだ。

 

 「それで電話で話しているうちに、よっちゃんのことで色々と相談を受けたんだよ。部屋で怪しげなことをやってるっぽいとか、気になって覗こうとするんだけど全然部屋に入れてくれないとか・・・」

 

 「人のクラスメイトに何てこと相談してんのあの人!?」

 

 顔を真っ赤にして、両手で顔を覆うよっちゃん。自分のことを堕天使とか言っちゃう割に、そういうことを知られるのは恥ずかしいようだ。

 

 「そして何だかんだ馬が合った俺と善恵さんは、お互いのラインのIDを教え合ったのだった・・・続く」

 

 「今すぐ話しなさいっ!」

 

 「いや、後は特に無いんだよね。昨日ラインで『明日お邪魔しまゆゆ』って送ったら、『せっかくだし夕飯をご馳走しまゆゆ』って返ってきて今に至りまゆゆ」

 

 「語尾が気になって話が入ってこない!」

 

 「よっちゃん、人の話はちゃんと聞こうよ」

 

 「やっぱコイツ腹立つわ!」

 

 疲れ切ってしまったのか、壁にもたれかかるよっちゃん。仕方ないので、座る位置をずらしてソファのスペースを空けてあげる。

 

 「ほらよっちゃん、座りなよ。何か飲む?」

 

 「・・・冷蔵庫に麦茶が入ってるからよろしく」

 

 「あいよー」

 

 もうツッコミを入れる気力も無いらしく、力なくソファに座るよっちゃん。俺は冷蔵庫から麦茶を取り出し、適当なコップに注いでよっちゃんに差し出した。

 

 「へいお待ち」

 

 「・・・どうも」

 

 コップを受け取り、一気に麦茶を飲み干すよっちゃん。良い飲みっぷりである。

 

 「ぷはぁっ・・・あぁ、生き返る・・・」

 

 「全く・・・体力無いのに全力でツッコミ入れるからだよ」

 

 「誰のせいよ!?」

 

 「あ、気力が戻ったね」

 

 俺はそこで今日の目的を思い出し、鞄の中からクリアファイルを取り出した。

 

 「はいこれ。先週分の授業のノートとプリントが入ってるから」

 

 「あ、うん・・・」

 

 何とも言えない表情で受け取るよっちゃん。

 

 「・・・ねぇ、何でここまでしてくれるの?」

 

 「あれ?迷惑だった?」

 

 「いや、凄く助かるけどさ・・・」

 

 複雑そうに俺を見るよっちゃん。

 

 「前回もらったノート、本当に分かりやすくまとめられてた。あれって、黒板に書かれたことをただ写したものじゃないでしょ?その後でアンタが、私にも分かりやすいように色々手を加えてくれたのよね?」

 

 「色々ってほどじゃないよ。要点が分かりやすいようにまとめただけだし」

 

 「それでも、わざわざそこまでしてくれた。どうしてただのクラスメイトの為に、そこまでしてくれるの?」

 

 憂いを帯びたその表情に、俺は彼女の本質を見た気がした。

 

 自分のことを堕天使だと名乗るその豪胆さとは裏腹に、本当の彼女はとても臆病なんだと思う。誰よりも人の目を気にするし、人に対してなかなか心を開くことが出来ない。

 

 恐らくその理由は、自分に自信が無いから。今の質問には、『私にそこまでする価値があるの?』という意味合いもあるのだろう。

 

 まぁ、俺の答えは決まってるけど。

 

 「・・・花丸が、いつもよっちゃんの心配をしてるんだよ」

 

 「え・・・?」

 

 「『せっかく同じ学校になったのに』とか、『このまま学校に来なかったらどうしよう』とか・・・よっちゃんのこと、凄く気にかけてるんだよ」

 

 花丸は本当に心の優しい子だ。そんな俺の大切な友達に、寂しそうな顔をしてほしくない。

 

 だから俺は、よっちゃんを放っておけない。

 

 「つまり、花丸の為ってこと・・・?」

 

 「それが大きな理由かな。まぁ個人的に、よっちゃんには借りもあるから」

 

 「借り・・・?」

 

 首を傾げるよっちゃん。どうやら心当たりが無いようだ。

 

 「入学式の日、教室で自己紹介やったでしょ?」

 

 「ああああああああああっ!?思い出させないでええええええええええっ!?」

 

 「ていっ」

 

 「あうっ!?」

 

 やかましかったので、よっちゃんの頭にチョップをお見舞いして黙らせる。

 

 まぁよっちゃんの黒歴史確定自己紹介のことは置いといて・・・

 

 「俺が自己紹介した後、花丸やルビィちゃんとすぐに拍手してくれたじゃん。俺、あれに救われたんだよね」

 

 「いや、そんな大げさな・・・」

 

 「拍手してもらえない辛さは、よっちゃんが一番分かってるだろうに」

 

 「だからそれを思い出させないでよおおおおおおおおおおっ!?」

 

 頭を抱えるよっちゃん。どんだけ引きずってんだこの子・・・

 

 「女子校の中で唯一の男子っていうこともあって、周りの皆は凄く注目してくるわけだよ。その好奇の視線を向けられる中で、一番最初に自己紹介だからね。ものすごく緊張したし・・・皆が受け入れてくれるか、不安で仕方なかったよ」

 

 それでも、最初に花丸が拍手してくれて。ルビィちゃんとよっちゃんも続いてくれて。

 

 あの時は本当に、凄く救われた気持ちになった。

 

 「だからあの時のことは、本当に感謝してる・・・ありがとう、よっちゃん」

 

 「・・・べ、別に大したことはしてないわよ」

 

 素っ気無くそう言うよっちゃんだが、顔が赤くなっている。素直じゃないんだから・・・

 

 「そんなわけで、よっちゃんには大きな借りがあるんだよ。それを少しでも返せたらっていうのも、理由としてはあるかな」

 

 「ま、まぁそういうことなら・・・しょうがないから受け取ってあげるわ」

 

 「じゃあその対価として、来る度に夕飯をご馳走になるね」

 

 「借りを返す話はどこへいったのよ!?」

 

 「TS●TAYAで借りたCDを返す話?」

 

 「言ってないわよ!?」

 

 全力ツッコミのせいで、またしてもよっちゃんが力尽きそうになっていた。仕方ないからこの辺にしておこう。

 

 「まぁとりあえず、心の準備が出来たらまた学校に来てよ。花丸とかルビィちゃんは勿論、クラスの皆とか赤城先生も心配してるから」

 

 「・・・本当に?あの時のことを笑ったり、ドン引きしたりしてない?」

 

 「してないよ。むしろ『何で来なくなっちゃったのかな』とか、『仲良くなりたいね』って言ってるぐらいだし」

 

 実際、ウチのクラスは本当に良い人ばかりだ。俺も今では仲良くさせてもらってるし。

 

 「よっちゃんの心の準備が出来るまでは、俺が責任を持ってノートとかプリントを届けに来るから。いつ復帰しても授業についていけるように、ちゃんと勉強はしといてね」

 

 「・・・うん。分かった」

 

 小さく頷くよっちゃん。名前の通り、やっぱり善い子だな・・・

 

 「ヨハネよっ!」

 

 「人の心を読むの止めてくんない?」

 

 どんだけ堕天使ヨハネに拘るんだ・・・

 

 「・・・まぁでも、『よっちゃん』呼びは許してあげる」

 

 「え・・・?」

 

 よっちゃんが頬を赤らめ、髪の毛先をクルクルいじっている。

 

 「あ、あくまでも『ヨハネ』の『よっちゃん』だからね!?『善子』の『よっちゃん』は認めないからね!?」

 

 「両方とも『よっちゃん』だし、どっちでも良いんじゃ・・・」

 

 「良いのっ!そこは譲れないからねっ!」

 

 よく分からない拘りだけど・・・まぁ本人がそう言うんだから良いか。

 

 「了解。俺のことも天で良いからね」

 

 「フッ・・・では天、貴方を私のリトルデーモンに・・・」

 

 「あ、結構です」

 

 「何でよ!?」

 

 そんなやり取りをしている間に、窓の外はすっかり薄暗くなっていた。

 

 千歌さん達、チラシ配り終わったかなぁ・・・あっ。

 

 「よっちゃん、スクールアイドルって知ってる?」

 

 「何よ突然・・・まぁ知ってるけど」

 

 「実は浦の星でも、スクールアイドルをやろうっていう人達がいてさ。一応俺がマネージャーをやってるんだけど、今度ライブをやるんだよね」

 

 鞄の中からチラシを取り出して、よっちゃんに手渡す。

 

 「へぇ・・・天がマネージャーやってるのね」

 

 「色々あったんだよ・・・本当に色々・・・」

 

 「・・・アンタも苦労してるのね」

 

 同情してくれるよっちゃん。優しいなぁ・・・

 

 「ま、気が向いたら行ってあげるわ。本当に気が向いたらね」

 

 「よっちゃん・・・マジ善子だわ」

 

 「だからヨハネよっ!?」

 

 よっちゃんが堕天使ではなく、正真正銘の天使に見える俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

さて、前書きでも述べましたが・・・

3月28日木曜日、『絢瀬天と九人の物語』が日間ランキングで6位にランクインしました!

嬉しすぎてスクショしました(笑)

☆評価を付けて下さった皆様。

感想を書いて下さった皆様。

お気に入りに登録して下さった皆様。

そしてこの作品を読んで下さった皆様。

本当にありがとうございます。

これからも『絢瀬天と九人の物語』をよろしくお願い致します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

好きなことは全力でやるべきである。

最近タイトルに悩むことが多い…

ちょっと名言っぽいタイトル縛りをやってきたのが仇になったか…


 「・・・言い残したい言葉はありますか?」

 

 「すいませんでしたああああああああああっ!」

 

 全力で土下座している千歌さん。津島家で夕飯をご馳走になった翌日の放課後、俺は千歌さんの家にお邪魔していた。

 

 ライブで披露する曲の作詞を、千歌さんが担当することになっていたのだが・・・

 

 「作詞ノートって書いてありますけど、完全に白紙じゃないですか。何ですかこれ。千歌さんの頭の中と一緒じゃないですか」

 

 「人の頭が空っぽみたいに言わないでくれる!?」

 

 「ああん・・・?」

 

 「返す言葉もございません!」

 

 冷たい目を向けると、千歌さんが再び額を床に擦り付ける。その様子を見て、曜さんと梨子さんが引いていた。

 

 「ま、まぁまぁ天くん!ここは落ち着こう!ねっ!?」

 

 「そ、そうよ!まだ何とか間に合うわ!」

 

 「・・・ハァ」

 

 二人に宥められ、溜め息をつく俺。まぁ確かに、千歌さんを責めてる場合じゃないか・・・

 

 「とにかく作詞を終わらせましょう。千歌さん、イメージとかあります?」

 

 「μ'sのスノハレ!」

 

 「却下です」

 

 「えぇっ!?」

 

 ショックを受けている千歌さん。この人はホント・・・

 

 「スクールアイドルを始めたばかりで、スノハレみたいな曲を目指すのはハードルが高過ぎます。μ'sの楽曲で一、二を争うほどの名曲を舐めないで下さい」

 

 「うっ、確かに・・・」

 

 「まぁ、恋愛に関する曲を作るのは構いませんけど・・・それこそ、千歌さんの経験を基にして作詞すれば良いんじゃないですか?」

 

 「フッフッフッ・・・自慢じゃないけど、私の恋愛経験はゼロだよ!」

 

 「ライフもゼロにしてあげましょうか?」

 

 「遠回しの殺害予告止めて!?」

 

 ダメだこの人、完全にポンコツだわ・・・

 

 「曜さんとか梨子さんなら、恋愛経験ありそうですよね」

 

 「私?無い無い!」

 

 「私も無いわね」

 

 「・・・マジですか」

 

 これはテーマを恋愛じゃないものにすべきかもしれない。それにしても・・・

 

 「梨子さんに恋愛経験が無いのは意外ですね・・・」

 

 「え、そう?」

 

 「だって梨子さん美人だし、絶対モテるでしょう」

 

 「なっ!?」

 

 赤面する梨子さん。

 

 「そ、そういうことを真顔で言わないでっ!」

 

 「だって本心ですし。クラスに居たら、間違いなく男子達の注目の的でしょう。実際モテたんじゃないですか?」

 

 「そ、そんなこと言われても・・・本当にモテなかったわよ?ずっとピアノ一筋でやってきたから、恋愛にうつつを抜かしてる余裕も無かったし」

 

 「告白とかされなかったんですか?」

 

 「全然。中学までは共学の学校に通ってたけど、男子達にとって私は気軽に話せる友達って感じだったのかも。よく『付き合って下さい』って買い物に誘われたし」

 

 「・・・梨子さんって罪深い人ですね」

 

 「何で!?」

 

 千歌さんと曜さんも、何とも言えない表情で梨子さんを見ている。

 

 その『付き合って下さい』は、どう考えても告白だろうな・・・『買い物に付き合って下さい』なわけが無い。

 

 「ちなみに、買い物には付き合ったんですか?」

 

 「申し訳なかったんだけど、全部断ってたわ。ピアノのレッスンで忙しかったから」

 

 「うわぁ・・・」

 

 「そ、そんな露骨に引かなくても良いじゃない!私だって、友達からの買い物のお誘いを断るのは申し訳なかったわよ!」

 

 「いや、何と言うか・・・大丈夫です。梨子さんは知らない方が良いと思います」

 

 「え?」

 

 首を傾げる梨子さん。

 

 梨子さんに想いが届くことなく撃沈していった男子達の人生に、どうか幸多からんことを・・・

 

 「っていうか、曜さんも意外ですよね。モテそうなのに」

 

 「おっ、私のことも可愛いって言ってくれるの?」

 

 「当然じゃないですか。誰がどう見たって美少女でしょう」

 

 「っ・・・あ、ありがと・・・」

 

 頬を赤く染め、照れ臭そうに笑う曜さん。梨子さんと同じで、真正面から褒められることに弱いらしい。

 

 「でも残念ながら、梨子ちゃんと違って本当にそういう経験無いんだよね」

 

 「いや、だから私も無いんだってば」

 

 「被告人は静粛に」

 

 「誰が被告人よ!?」

 

 抗議してくる梨子さんは無視して、俺は曜さんと会話を続けた。

 

 「じゃあ逆に、好きな人とかいなかったんですか?」

 

 「んー、そもそも恋したことが無いんだよね。私も小さい頃から水泳一筋だったし」

 

 「なるほど・・・」

 

 「ねぇねぇ天くん、私は?私は可愛い?」

 

 「はいはい、可愛い可愛い」

 

 「何で子供をあやすみたいなノリなの!?」

 

 膨れっ面の千歌さん。

 

 まぁ実際、千歌さんもかなりの美少女だと思う。あまりにもフランク過ぎて、俺もこんなノリで接してしまっているけども。

 

 「でも、三人とも恋愛経験ゼロとなると・・・やっぱり、別のテーマで曲を作った方が良いかもしれませんね」

 

 「えー・・・あっ、じゃあμ'sのメンバーは恋をしてたのかな?」

 

 「どうしたんですか急に」

 

 「いや、だってスノハレみたいな曲を作れたんでしょ?それってつまり、μ'sの誰かが恋をしてたってことじゃないの?」

 

 目が爛々と輝いている千歌さん。本当にμ'sが好きなんだな・・・

 

 「・・・スノハレって、μ'sが全員で作詞した曲らしいですよ」

 

 「え、そうなの?」

 

 「えぇ。μ'sのメンバーが、色々なものに対する『大好き』という気持ちを込めた一曲・・・それが『Snow halation』です」

 

 「『大好き』という気持ち・・・」

 

 「それをテーマにするのも良いんじゃないですか?例えば・・・スクールアイドルが大好きっていう気持ちとか」

 

 「それだ!」

 

 勢いよく立ち上がる千歌さん。

 

 「それ良い!私達の最初の曲にピッタリなテーマだよ!」

 

 「千歌ちゃん、歌詞書けそう?」

 

 「うん!これなら書ける気がする!」

 

 千歌さんはペンを持つと、白紙のノートに勢いよく文字を書き始めた。書けば書くほど、どんどんのめり込んでいくのが分かる。

 

 「・・・凄い集中力ですね」

 

 「千歌ちゃんはやれば出来る子なんだよ」

 

 笑みを浮かべる曜さん。やれば出来る子、か・・・

 

 「・・・ホント、そっくりだな」

 

 「そっくり?」

 

 「いえ、何でもないです」

 

 適当に曜さんを誤魔化し、千歌さんの姿を眺める。

 

 「これほどスクールアイドルが大好きな人が、スクールアイドルを続けられなくなるなんて・・・そんなのおかしいですよね」

 

 「天くん・・・」

 

 「会場、絶対満員にしましょうね。小原理事長に、スクールアイドル部の設立を認めさせてやりましょう」

 

 「勿論!」

 

 「頑張りましょう!」

 

 「え、何?何の話?」

 

 「千歌さんのライフがゼロになるまでしごき続けようっていう話です」

 

 「それは勘弁してええええええええええっ!?」

 

 千歌さんの悲鳴が響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ありがとうございました!」

 

 笑顔で最後のお客さんを見送る俺。

 

 お客さんが見えなくなるまで手を振り、ホッと一息ついたところで・・・後ろからいつもの衝撃を受けた。

 

 「お疲れ様のハグ!」

 

 「はいはい、お疲れ様です」

 

 「むぅ・・・反応が冷たい」

 

 「毎回ハグされ続けたら、そりゃ慣れますって」

 

 不満そうな果南さんに、苦笑しながら返す俺。まぁ俺の目の前で、平気でダイビングスーツを脱ぐことに関しては未だに慣れないけども。

 

 下に水着を着ているとはいえ、惜しげもなくナイスバディをさらけ出されると・・・正直、目のやり場に困ってしまう。

 

 「やっぱり土日は、お客さんの数が多いんですね」

 

 「そうなんだよ。私だけじゃ手が回りきらないだろうから・・・ホント、天が手伝ってくれて助かってるよ」

 

 笑顔でそう言ってくれる果南さん。

 

 実は梨子さん達と海の音を聴きに行った日、果南さんからアルバイトの誘いを受けていたのだ。これから土日に来るお客さんの数が増えるので、手伝ってくれる人を探していたんだとか。

 

 その誘いを受けた俺は翌週から、果南さんの実家が営むダイビングショップで土日だけアルバイトをするようになったのだった。

 

 「アルバイト経験の無い素人で、ホントに大丈夫なんですか?」

 

 「大丈夫だって。っていうか、ホントにアルバイト経験無いの?接客とか上手いし、初めてとは思えないんだけど」

 

 「コミュニケーション能力には自信あるんで」

 

 「アハハ、なるほどね」

 

 果南さんは面白そうに笑うと、近くのウッドチェアに腰を下ろした。

 

 「そういえば、千歌達のライブって来週の日曜日でしょ?準備は大丈夫なの?」

 

 「えぇ。何とかなりそうです」

 

 あの後千歌さんはすぐに歌詞を書き終えたし、それを基に梨子さんもすぐに曲を作ってくれた。振り付けもこの土日に三人で考えると言っていたので、後は明日からその振り付けを基に練習するのみだ。

 

 ちなみに衣装は曜さんが制作を進めており、もう間もなく完成するとのことだった。

 

 「明日からの一週間は、ちょっとハードになりそうですけどね。俺も裏方としての仕事を進めていかないと」

 

 「裏方としての仕事?」

 

 「主に会場の設営ですね。スポットライトの位置とか、音響のチェックとかもしないといけませんし。まぁそれに関しては手伝ってくれる人もいるので、心配無いですけど」

 

 ちなみに手伝ってくれる人というのは、千歌さん達と同じクラスのよしみさん・いつきさん・むつさんの三人である。通称・よいつむトリオの三人は千歌さん達の良き理解者であり、今回のライブでの手伝いを申し出てくれたのだ。

 

 ライブの宣伝の為のビラ配りもしてくれていて、正直かなり助かっていたりする。

 

 「後は練習の監督ぐらいですね。ライブ前なので追い込みをかけたいところなんですけど、無理して本番に響いたら元も子もないですから。その辺りはこっちでちゃんと調整して、練習メニューを組もうと思います」

 

 「へぇ・・・しっかりマネージャーやってるんだね」

 

 感心している果南さん。

 

 「千歌達は運が良いね。こんなしっかりサポートしてくれるマネージャーがいてさ」

 

 「・・・まぁマネージャーをやることになったキッカケは、あまり褒められたものじゃないですけどね」

 

 「・・・鞠莉か」

 

 顔を顰める果南さん。

 

 俺も話を聞いて驚いたのだが、ダイヤさん・果南さん・小原理事長は小学生の時からの付き合いらしい。ダイヤさんと果南さんが通っていた小学校に、小原理事長が転入してきたんだそうだ。

 

 つまり俺が幼かった頃の小原家の引っ越し先は、内浦だったということになる。

 

 「ホント・・・相変わらず自分勝手なんだから」

 

 果南さんもダイヤさんから事情を聞いたらしく、俺のことを凄く心配してくれた。

 

 おまけに俺があの時の状況を話すと、『これから一緒に殴りに行こうか』とチャゲアスの名曲みたいなセリフを本気で言い出すほど怒っていた。まぁ何とか思い留まらせたけども。

 

 「まぁとにかく、ライブに向けて頑張らないといけませんね・・・そんなわけで果南さんには申し訳ないんですけど、来週の日曜日はお休みをいただきます」

 

 「了解。忙しいようなら、土曜日も休みで大丈夫だよ?来週の土日は天気が良くないっていう予報が出てるせいか、今のところお客さんの予約も多くないし」

 

 「いえ、大丈夫です。マネージャーの仕事に力を入れ過ぎて、生徒会の仕事やアルバイトを疎かにしたくないので」

 

 「天は真面目だねぇ・・・ダイヤに影響されてるんじゃない?」

 

 「ハハッ、そうかもしれませんね」

 

 思わず笑ってしまう俺。

 

 実際、ダイヤさんはとても真面目な人だ。生徒会長として責任を持って仕事をしているし、俺も見習わないといけない点がたくさんある。

 

 「ただ・・・ダイヤさんにはもう少し、肩の力を抜いてほしいんですけどね。ちょっと頑ななところがあるので」

 

 「ダイヤは昔からあんな感じだからね。黒澤家の名に恥じないようにって、肩肘張って生きてるところがあるから」

 

 「なるほど・・・俺の知り合いにも名家の娘がいますけど、確かにそういったところはありましたね」

 

 「へぇ、知り合いにそんな人がいるんだ?」

 

 「えぇ、まぁ」

 

 せっかくだし、今度電話して話を聞いてみようかな。似たような立場だからこそ、分かることがあるかもしれないし。

 

 「そういえばダイヤさんって、μ'sのファンなのに何で『スクールアイドル部は認めない』なんて言ってるんだろう・・・」

 

 ふと疑問を口にする俺。これはよいつむトリオの三人から聞いた話だが、これまでにも『スクールアイドルをやりたい』という生徒が少なからずいたらしい。

 

 ところがダイヤさんはそれを認めず、スクールアイドル関連の部活の設立を全て拒否してきたんだそうだ。一体何故なのか・・・

 

 と、果南さんが何やら思いつめたような表情をしていた。

 

 「果南さん?どうかしました?」

 

 「ううん、何でもないよ」

 

 すぐに笑みを浮かべる果南さんだったが、どこか笑顔がぎこちなかった。ダイヤさんについて、思い当たる節でもあるんだろうか・・・

 

 「さて、さっさと片付けちゃおうか。今日もウチで夕飯食べていきなよ。お母さんが天の為に、腕によりをかけて美味しいもの作って待ってるってさ」

 

 「ありがたくご馳走になります」

 

 果南さんの表情が気になったものの、深くは聞けない俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

何とこの作品が、またしても日間ランキングで7位に入りました!

本当にありがたいことでございます(>_<)

いつもこの作品を読んで下さっている皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。

ありがとうございます。

そんな中、いよいよファーストライブが近付いてきましたね。

果たしてどうなるのか…

次回もお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一人じゃないというのは心強いものである。

最近『HAPPY PARTY TRAIN』をよく聴きます。

メッチャ良い曲ですよね。

センターの果南ちゃんも勿論良いんですけど、個人的には善子ちゃんのソロパートが好きです。

特に『思い~出は~、ポケットの~なか~♪』の部分が好き。

あの優しい歌声がたまらなく好き。

善子ちゃん、そしてあいきゃん最高。


 ライブ当日。

 

 雲ひとつない青空が広がり、まさに絶好のライブ日和・・・

 

 「天くん、現実を見よう?凄い雨降ってるから。雲ひとつない青空じゃなくて、雨雲しかない灰色の空が広がってるから」

 

 「人の心を読むの止めて下さい」

 

 紫髪の女の子・・・いつきさんのツッコミに、俺は大きな溜め息をついた。

 

 確かに予報では、週末の天気は良くないと言ってはいたが・・・ここまで酷いとは思わなかった。

 

 「いつきさん、ちょっと『雨止めえええええっ!』って叫んでもらって良いですか?」

 

 「いや、それで止むとは思えないんだけど・・・」

 

 「物は試しです。三、二、一・・・はいっ!」

 

 「あ、雨止めぇ!」

 

 「声が小さい!もう一度!」

 

 「雨止めーっ!」

 

 「もっと!もっと熱くなれよ!」

 

 「雨止えええええっ!」

 

 「・・・まぁ、止むわけないですよね」

 

 「急に冷静にならないでくれる!?もの凄く恥ずかしいんだけど!?」

 

 両手で顔を覆って恥ずかしがるいつきさん。やはりミラクルは起こせなかったようだ。

 

 「おーい、天くーん」

 

 茶髪をサイドテールにくくった女子・・・よしみさんがこちらへ歩いてくる。

 

 「照明と音響の準備は完了・・・って、何でいつきは耳まで真っ赤になってるの?」

 

 「そっとしておいてあげて下さい。羞恥心に悶えてるところなんです」

 

 「誰のせいだと思ってるの!?」

 

 いつきさんの抗議はスルーして、俺はよしみさんへと視線を向けた。

 

 「ありがとうございます。千歌さん達の様子はどうですか?」

 

 「今は振り付けのチェックをしてるけど・・・やっぱり緊張してるみたい。いつもより表情が硬いもん」

 

 「初ライブだもんね・・・大丈夫かな、千歌達・・・」

 

 心配そうなよしみさんといつきさん。ここはマネージャーの出番かな・・・

 

 「・・・さて、いきますか」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「本当にこんなに短くて大丈夫なの・・・?」

 

 本番用の衣装に身を包んだ私は、鏡の前で顔を引き攣らせていた。

 

 ピンク色の可愛らしい衣装ではあるんだけど、スカートが短い。いつもより太ももが露わになっていて、凄く恥ずかしい。

 

 「大丈夫!ステージに出ちゃえば忘れるよ!」

 

 水色の衣装に身を包んだ曜ちゃんが、そう言ってニッコリ笑う。

 

 いや、忘れちゃいけないと思う。晒しちゃいけないものを晒しそうだもの。

 

 「大丈夫だよ、梨子ちゃん。もう天くんには見られてるじゃん」

 

 「そういう問題じゃないわよねぇ!?っていうか思い出させないで!?」

 

 オレンジ色・・・もといみかん色の衣装に身を包んだ千歌ちゃんの言葉に、火が出そうなくらい顔が熱くなる。

 

 あの時のことを思い出しただけで、とてつもなく恥ずかしいわ・・・

 

 「っていうか、あれは千歌ちゃんのせいでしょ!?天くんの目の前でスカート捲ったりするから!」

 

 「アハハ、ゴメンゴメン」

 

 苦笑しながら謝る千歌ちゃんに、思わず溜め息をついてしまう。全くもう・・・

 

 「あ、そろそろ時間だね」

 

 曜ちゃんが時計を見て呟く。

 

 その瞬間、空気が張り詰めたような気がした。これからステージに立って、歌って踊る・・・そう考えるだけで緊張してしまった。

 

 そして何より、お客さんは来てくれているのか・・・もし満員に出来なければ、その時はAqoursを解散しなくてはいけない決まりになっている。

 

 「・・・嫌だよね」

 

 消え入りそうな声で呟く千歌ちゃん。

 

 「初めてのライブで解散なんて・・・そんなの嫌だよね」

 

 「千歌ちゃん・・・」

 

 心配そうな表情の曜ちゃん。

 

 スクールアイドルを始めて間もないけれど、私にとってAqoursは大切な場所になりつつあった。

 

 失いたくない、解散なんてしたくない・・・そう思えば思うほど、ステージに立つ勇気が無くなっていくのを感じた。

 

 「・・・怖いね」

 

 「・・・うん」

 

 足が震えている。こんな状態で、良いパフォーマンスなんて出来るわけ・・・

 

 

 

 『できる~!できる~!キミならできる~!』

 

 

 

 「「「!?」」」

 

 急に音楽が聴こえてきた。何この曲・・・

 

 

 

 『僕は~本気だ!キミは本気か!?』

 

 

 

 私達が呆気にとられていると、天くんがスマホを手に持って現れた。え、まさか・・・

 

 

 

 『できる~!できる~!キミなr・・・』

 

 

 

 「ピッ・・・あ、もしもし?よっちゃん?」

 

 「着信音だったのそれ!?」

 

 思わずツッコミを入れてしまう。

 

 今思い出したけど、それ松●修造さんの曲じゃない!元気応援SONGじゃない!

 

 「え、来てくれたの?よっちゃんマジ善子だわぁ・・・あぁ、はいはい。もうそろそろ始まるから、急いで体育館に来てね・・・うん、じゃあまた後で」

 

 天くんは通話を終えると、私達の方へと視線を向けた。

 

 「あ、お疲れ様です。準備できました?」

 

 「何か色々吹っ飛んじゃったんだけど!?あれ、私達どんな曲歌うんだっけ!?」

 

 「落ち着いて千歌ちゃん!?えーっと、確か・・・『できる~!できる~!キミならできる~!』」

 

 「いやそれ違う曲だから!曜ちゃんこそ落ち着いてよ!?」

 

 色々パニックになっている二人。とりあえず、私が落ち着かないと・・・

 

 「お、梨子さん衣装似合ってますね。やっぱり梨子さんは桜色・・・もといピンク色ですよね。苗字が桜内だけに」

 

 「ああああああああああっ!?」

 

 何であの時と同じようなセリフを言うのっ!?思い出しちゃうでしょうがあああああっ!?

 

 「あぁっ!?梨子ちゃんが耳まで真っ赤になってる!?」

 

 「落ち着いて梨子ちゃん!?『できる~!できる~!キミならできる~!』」

 

 「その曲はもういいから!」

 

 本番前とは思えないほどの騒ぎっぷりだった。そんな私達の様子を見て、天くんが溜め息をつく。

 

 「やれやれ・・・これじゃ本番が思いやられますね」

 

 「「「天くんのせいでしょうが!」」」

 

 三人同時にツッコミを入れる。全くもう・・・

 

 「・・・まぁ、緊張してるよりよっぽど良いですけどね」

 

 天くんが苦笑しながら言う。あれ、そういえば私達・・・

 

 「何か・・・緊張が消えてる?」

 

 「確かに・・・」

 

 ポカンとしている千歌ちゃんと曜ちゃん。

 

 気付いたら私も足の震えが止まっていた。さっきまで不安に押し潰されそうだったのに・・・

 

 一方、天くんは私達の着ている衣装をしげしげと眺めていた。

 

 「やっぱり衣装のクオリティ高いですね・・・流石は曜さん」

 

 「えへへ・・・そうかな?」

 

 「えぇ、メッチャ良いですよこれ。しかも三人とも、本当によく似合ってます」

 

 笑顔でそう言ってくれる天くん。何だか照れくさいけど、ちょっと嬉しい。

 

 「おーい!千歌ー!曜ー!梨子ー!」

 

 私達の名前を呼びながらやってきたのは、明るめの茶髪に白いカチューシャを付けた女の子・・・クラスメイトのむっちゃんだった。

 

 「そろそろ時間だからスタンバイ・・・って、天もいたんだ?」

 

 「今来たところです。むつさんは準備オッケーですか?」

 

 「バッチリだよ!照明は私とよしみに任せな!」

 

 ドンと胸を叩くむっちゃん。と、その後ろからよしみちゃんといつきちゃんも現れた。

 

 「そうそう、大船に乗ったつもりでいてよ!」

 

 「音響は私に任せてね!」

 

 「いつきさん、そう言いながらさっきみたいに叫ばないで下さいね?」

 

 「叫ばないよ!?っていうか、あれは天くんがやらせたんだからね!?」

 

 「ちょっと何言ってるか分からないです」

 

 「何で!?」

 

 天くんといつきちゃんのやり取りに、むっちゃんとよしみちゃんが爆笑していた。それにつられて、私達も思わず笑ってしまう。

 

 「じゃあ三人とも、頑張れ!」

 

 「私達がサポートするから!」

 

 「天くん、指示よろしくね!」

 

 「了解です。よろしくお願いします」

 

 三人が笑顔で手を振って出て行く。頑張れ、か・・・

 

 「・・・頑張ろう」

 

 笑みを浮かべ、両手を握り締める千歌ちゃん。

 

 「応援してくれる人がいるんだもん。全力で頑張らなきゃ!」

 

 その言葉に、曜ちゃんと私も笑みを浮かべる。今まさに、私達の心は一つだった。

 

 「それじゃ、円陣組もう!天くんも!」

 

 「いや、俺マネージャーなんですけど・・・」

 

 「ほらほら、早く!」

 

 曜ちゃんが天くんの腕を引っ張り、曜ちゃんと私の間に立たせた。時計回りに千歌ちゃん、曜ちゃん、天くん、私の並びで円陣を組む。

 

 「えーっと、手を重ねるんだっけ?」

 

 「普通はそうですけど・・・ちょっと変えましょうか」

 

 「変える?」

 

 天くんの言葉に首を傾げていると、天くんが曜ちゃんと私の手を優しく握った。

 

 「そ、天くん!?」

 

 「どうしたの!?」

 

 「・・・手を繋ぐと、お互いの温もりを感じられるじゃないですか」

 

 微笑む天くん。

 

 「お互いの温もりを感じられたら、一人じゃないって思えます。一人じゃないって思えたら・・・少しは安心できるでしょ?」

 

 「天くん・・・」

 

 どうやら、私達が不安がっていたのを分かっていたみたいね・・・

 

 ホント、天くんには敵わないわ・・・

 

 「・・・ナイスアイデアだよ、天くん」

 

 千歌ちゃんも微笑みながら、曜ちゃんと私の手を握る。私達はお互いの手を握り合い、笑みを浮かべた。

 

 「さぁ、行こう!今全力で、輝こう!」

 

 千歌ちゃんが声を張り上げる。私達は、この日の為に決めた掛け声を叫ぶのだった。

 

 「「「「Aqours!サンシャイン!」」」」




どうも~、ムッティです。

相も変わらず投稿が遅くてスミマセン…

そして物語のスピードが遅くてスミマセン…

まだアニメの3話さえ終わっていないというね…

もうちょいサクサク進めるはずだったのに、何故こうなった…

まぁこれからもマイペースに進めていきますので、読んでいただけると幸いです。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

手を差し伸べてくれる人は必ずいる。

遂に平成から令和になりましたね。

良い時代になると良いなぁ…


 「・・・想定以上に厳しいな」

 

 ステージ裏から観客席側へとやってきた俺は、その光景を見て思わず渋い表情になる。

 

 観客は満員どころか、数えられるほどの人数しかいなかった。花丸やルビィちゃん、よっちゃんは来てくれているが・・・

 

 っていうか、よっちゃん変装下手すぎじゃない?サングラスにマスクとか、バリバリの不審者だからメッチャ目立ってるんだけど。

 

 「満員には出来なかったみたいね」

 

 背後から声がする。俺が今一番会いたくない人の声だった。

 

 「・・・冷やかしに来たのなら帰って下さい」

 

 「違うわよ。見届けに来ただけ」

 

 俺の隣に立つ小原理事長。

 

 「スクールアイドルを始めたばかりで、このハードルは高過ぎたかしら・・・」

 

 「それを分かった上で、貴女はこの条件を出したんでしょう?後悔したいなら別の場所でお願いします。貴女に付き合っていられるほど暇ではないので」

 

 「・・・本格的に嫌われちゃったわね」

 

 「自業自得です」

 

 俺が吐き捨てるように言うと、小原理事長は寂しそうに笑った。

 

 そんな顔をされたところで、俺はこの人から受けた仕打ちを許すつもりなど無い。

 

 「・・・もう良いのよ、天。あの子達は体育館を満員にすることが出来なかった。スクールアイドル部は設立されないし、あの子達は解散することになる。もうマネージャーなんてやらなくて良いの」

 

 「・・・つくづく見下げ果てた人ですね」

 

 俺を脅してマネージャーをやらせたくせに、今度はマネージャーなんてやらなくて良いだなんて・・・

 

 俺は今、この人を心底軽蔑していた。

 

 「何もう『終わった』みたいな顔してるんですか?ライブはこれからなんですけど?」

 

 「勿論、ライブはやってもらって構わないわ。ただ満員にならなかった以上、あの子達の解散は決定した・・・これ以上、天が望まない仕事をする必要は無いの」

 

 「その望まない仕事を押し付けたのは、一体どこの誰でしたかね?まるで他人事みたいな言い方ですけど、自分のやったことを忘れたんですか?高校の理事長として、頭の中がお花畑なのはいかがなものかと思いますが?」

 

 容赦の無い言葉を浴び、俯いてしまう小原理事長。自分がやったことの重さを、これで少しは認識してもらえるだろう。

 

 「小原理事長、貴女はこう言いました。『ここを満員に出来たら、人数に関わらず部として承認してあげる』と」

 

 「・・・えぇ、言ったわね」

 

 「ですが・・・『ライブ開始時点で』とは言いませんでした」

 

 「え・・・?」

 

 ポカンとしている小原理事長。

 

 「それってどういう・・・」

 

 「要するに」

 

 俺は小原理事長の言葉を遮った。

 

 「このライブでここを満員に出来たら良いんでしょう?それならタイムリミットは、『ライブ開始時点』じゃなくて・・・『ライブ終了時点』じゃないですか」

 

 「っ・・・!」

 

 「つまりライブが終わるまでに、ここを満員にすることが出来れば・・・条件はクリアしたことになります。確かに今は満員ではありませんが、これからお客さんが来る可能性だってありますから」

 

 「天、貴方・・・」

 

 驚いている小原理事長。俺は小原理事長に冷たい視線を向けた。

 

 「ライブはこれからだって言ったでしょう。勝手に終わらせないで下さい」

 

 「で、でも・・・この悪天候の中、これから来る人なんて・・・」

 

 「いないって決め付けるのは止めてもらえます?それとも・・・可能性があるにも関わらず、貴女は約束を反故にするつもりなんですか?」

 

 小原理事長を睨みつける俺。

 

 「見届けに来たのなら、黙ってライブを見てろ。あの三人がどれほど頑張ってきたか、その目でしっかり確認しとけ」

 

 それだけ言うと、小原理事長からステージへと視線を移す。

 

 そしてインカムを通じて、よいつむトリオの三人に合図を出すのだった。

 

 「さて・・・始めましょうか」

 

 『『『了解!』』』

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《千歌視点》

 

 曜ちゃんや梨子ちゃんと手を繋ぎ、ステージに立っている私。

 

 天くんの言う通り、二人の温もりのおかげで少し安心できていた。私は一人じゃないんだ・・・

 

 「・・・来てくれてるかな?」

 

 小さな声で呟く曜ちゃん。

 

 「お客さん・・・来てくれてるかな?」

 

 私達の前には幕が下りている為、観客席の様子を窺うことは出来ない。

 

 幕の向こうにはお客さんがいるかもしれないし・・・いないかもしれない。

 

 「・・・大丈夫だよ」

 

 曜ちゃんの手を強く握る。

 

 「天くんも言ってたでしょ?『ライブ開始時点で満員じゃなくても諦めるな。タイムリミットはライブ終了時点だ』って」

 

 確かに鞠莉さんは、そこまで詳しく指定していたわけじゃない。

 

 でもまさか、そこを突くとは思わなかったなぁ・・・

 

 「・・・フフッ」

 

 面白そうに笑う梨子ちゃん。

 

 「ホント、抜け目が無いっていうか・・・案外ずる賢いのね、天くんって」

 

 「確かにね」

 

 私もつられて笑ってしまう。頼りになるマネージャーだよ、ホントに・・・

 

 「私達は、私達に出来る精一杯のパフォーマンスをしよう」

 

 「ヨーソロー!」

 

 「うん!」

 

 気合いが入ったところで、ステージの幕が上がる。観客席の光景が目に飛び込んできた。

 

 「あ・・・」

 

 小さな呟きが口から漏れる。残念ながら、お客さんは十人くらいしかいなかった。

 

 これじゃあ、満員には程遠い・・・

 

 「よっ、待ってました!」

 

 大きな声が会場に響く。視線を向けると、天くんが大きく手を叩いて拍手してくれていた。

 

 天くん・・・

 

 「見て見て花丸ちゃん!衣装凄く可愛いよ!」

 

 「キラキラしてるずら~!」

 

 ルビィちゃんと花丸ちゃんも来てくれている。他のお客さんも浦の星の生徒で、皆笑顔で拍手してくれていた。

 

 ただ一人だけ、サングラスとマスクをした不審な女の子がいるけど・・・あの子もビラを見て来てくれたのかな。

 

 「私達は、スクールアイドル・・・せーのっ!」

 

 「「「Aqoursです!」」」

 

 三人で自己紹介をする。

 

 ここにいる人達は、わざわざ私達のライブを見る為に足を運んでくれたんだ。だったら私達は、この人達に報いないといけない。

 

 「私達は、その輝きと!」

 

 「諦めない気持ちと!」

 

 「信じる力に憧れ、スクールアイドルを始めました!」

 

 今は下を向く時じゃない。前を向いてパフォーマンスをしなくちゃいけない。

 

 私達がこの人達に出来ることは、それくらいしかないんだから。

 

 「目標は・・・スクールアイドル、μ'sです!」

 

 そして最後まで諦めない。ライブが終わるその瞬間まで、絶対に諦めない。

 

 「聴いて下さい!『ダイスキだったらダイジョウブ!』!」

 

 私が作詞して、梨子ちゃんが作曲して、曜ちゃんが衣装を作った・・・私達の初めての曲、それが『ダイスキだったらダイジョウブ!』だ。

 

 あの日天くんから言われた、スクールアイドルが大好きだっていう気持ち・・・私はその気持ちを、この曲の歌詞に込めた。

 

 この曲の歌詞は、今の私の気持ちそのものだ。

 

 (楽しい・・・!)

 

 私の心は、喜びで満ち溢れていた。

 

 スクールアイドルとして、曜ちゃんや梨子ちゃんと一緒にステージで歌って踊っている・・・それが本当に嬉しいし、とても楽しい。

 

 曜ちゃんと梨子ちゃんも笑顔だし、お客さんも楽しんでくれているのが分かる。いよいよサビに入り、盛り上がりが最高潮に達しようとしていたその時・・・

 

 突如として音楽が途切れ、照明も消えた。

 

 「えっ・・・?」

 

 真っ暗になった会場で、私は呆然と立ち尽くしていた。

 

 そんな・・・どうして・・・

 

 「まさか・・・停電・・・?」

 

 「そんな・・・こんな時に・・・」

 

 曜ちゃんと梨子ちゃんも困惑している。

 

 (・・・やっぱり、私には無理なの?)

 

 普通星人の私が、スクールアイドルになって輝くなんて無理だったのかな・・・身の丈に合わない願いだったのかな・・・

 

 もう、諦めるしかないのかな・・・

 

 

 

 『諦めてしまったら、叶えられる可能性すらない』

 

 

 

 ふと頭の中に、天くんの言葉が浮かんだ。

 

 海の音を聴きに行った時、μ`sの『START:DASH!!』の歌詞について話していた時の言葉だ。

 

 

 

 『だから簡単に諦めるな。夢が叶う日が来る可能性は、諦めなかった人にしか無いんだから』

 

 

 

 「っ・・・」

 

 そうだ。諦めてる場合じゃない。最後まで諦めないって決めたんだ。

 

 「・・・気持ちが、つ~なが~り~そ~う~な~んだ~♪」

 

 アカペラで歌う。曲が流れなくても、歌うことは出来る。

 

 「・・・知らないこ~とば~かり、な~に~も~か~も~が~♪」

 

 「・・・それ~でも、きた~いで、足が~軽~い~よ~♪」

 

 曜ちゃんと梨子ちゃんも続いてくれる。これならまだ・・・

 

 「温度差な~んて、いつ~か~消~し~ちゃえって~ね~♪元気だよ・・・元気を出して・・・いく・・・よ・・・」

 

 もう限界だった。涙がこみ上げてきて、歌うことが出来ない。悔しくて、情けなくて、やるせなくて・・・心が折れる寸前だった。

 

 スクールアイドル部は設立することが出来ず、Aqoursは解散・・・おまけに最初で最後のステージはこの有り様だ。こんなのあんまりだ。

 

 もう、私には前を向くことなんて・・・

 

 

 

 「スイッチオン!」

 

 

 

 天くんの声が会場に響く。その瞬間、再びステージが照明で照らされた。

 

 「・・・え?」

 

 驚いていると、今度は会場のドアが勢いよく開かれた。

 

 「バカ千歌あああああっ!アンタ開始時間を間違えたでしょ!?」

 

 「美渡姉!?」

 

 レインコートを着た美渡姉が、大勢の人を連れて会場に入ってきた。

 

 何が起きているのか、訳が分からない私なのだった。




どうも~、ムッティです。

前書きでも述べましたが、元号が令和に変わりましたね。

自分は平成生まれなので、これが初めての改元なのですが…

何だか今一つ実感がありません(笑)

でもきっとそのうち、令和○年というのが当たり前に感じるようになるんでしょうね…

歳ってこうやってとっていくんですね(笑)

令和が良い時代になると良いなぁ…

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

準備しておくに越したことはない。

劇場版『響け!ユーフォニアム』を観に行きたい。


 「停電!?」

 

 驚いている小原理事長。

 

 曲の途中でいきなり発生した停電に、千歌さん達だけではなくお客さん達も困惑していた。

 

 「まぁ、この天気だもんなぁ・・・」

 

 俺は溜め息をつくと、インカムを通じてよいつむトリオの三人に指示を出した。

 

 「むつさんとよしみさん、一度照明のスイッチを切って下さい。切ったらそのまま待機でお願いします」

 

 『わ、分かった!』

 

 『了解!』

 

 「いつきさんも待機してて下さい。何とかしてきますんで」

 

 『何とか出来るの!?』

 

 「元気があれば何でも出来ます」

 

 『アント●オ猪木じゃん!?』

 

 いつきさんのツッコミはスルーして、俺は出口へと足を向けた。

 

 「天!?どこに行くつもり・・・キャッ!?」

 

 足がもつれ、転倒する小原理事長。何してんのこの人・・・

 

 「・・・暗いんですから、下手に動くと危ないですよ」

 

 小原理事長の手を掴み、思いっきり引き上げる。

 

 「あ、ありがと・・・」

 

 「時間も無いんで、このまま行きますね」

 

 「え、ちょ!?」

 

 小原理事長の手を掴んだまま、出口から外へと出て電気室へと向かう。そこには既に先客がいた。

 

 「遅いですわよ、天さん」

 

 「ダイヤ!?」

 

 そう、そこにいたのはダイヤさんだった。

 

 「すみません、このおっぱいお化けのせいで遅れました」

 

 「おっぱいお化けって何!?」

 

 「あぁ、なるほど・・・その無駄に大きい乳をもぎ取ってやりたいですわね」

 

 「ダイヤまで!?」

 

 ショックを受けている小原理事長。と、俺は陰に隠れているもう一人の存在に気付いた。

 

 「・・・果南さん?」

 

 「ぎくっ・・・」

 

 青い髪のポニーテールを揺らし、恐る恐るこちらを振り向く果南さん。

 

 「何で果南さんがここに?」

 

 「アハハ・・・この悪天候で今日はお店が休みになったから、ちょっとライブの様子を見ようかなぁって・・・」

 

 「会場を覗く様子が完全に不審者でしたので、ここまで連行してきたのですわ」

 

 「ちょ、誰が不審者よ!?れっきとしたこの学校の生徒なんだけど!?」

 

 「果南さんうるさいです。おっぱいが大きいからって、声まで大きくする必要は無いんですよ」

 

 「おっぱい関係なくない!?っていうか、完全にセクハラ発言だよねぇ!?」

 

 「ハグ魔に言われたくないです」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まる果南さん。と、果南さんと小原理事長の目が合った。

 

 「鞠莉・・・」

 

 「果南・・・」

 

 お互い複雑そうな表情を浮かべる。この二人、何かあったんだろうか・・・

 

 「時間もありませんし、早速取り掛かりますわよ」

 

 手を叩くダイヤさん。

 

 「早くこの発電機をセットして、電源を復活させるのですわ」

 

 「発電機って・・・何でそんなものがここに・・・?」

 

 「倉庫から引っ張り出してきたので」

 

 小原理事長の疑問に、しれっと答えるダイヤさん。

 

 「念の為に準備しておきたいと、天さんにお願いされましたからね」

 

 「天が・・・?」

 

 「まぁ予報でも、天気が悪いって言ってましたから。雷の影響で停電する恐れもあるので、念には念を入れて準備しておこうと思いまして」

 

 使うことはないだろうなんて思ってたけど、まさか本当に使うことになるとは・・・

 

 「ダイヤさんと二人でセットしようと思いましたけど・・・三人もいるなら大丈夫そうですね。というわけで、ここはお願いします」

 

 「天さんはどうするのですか?」

 

 「電源が復活したら、よいつむトリオの三人に指示を出さないといけないので。準備が出来たら、インカムで知らせてもらえますか?」

 

 「承知しました」

 

 「ダイヤさん・・・松嶋菜●子のモノマネしてる場合じゃないですよ」

 

 「家●婦のミタは意識してないですわよ!?」

 

 ダイヤさんの、ツッコミもスルーして、俺は会場へと戻る。そこで目にしたのは・・・

 

 「温度差な~んて、いつ~か~消~し~ちゃえって~ね~♪元気だよ・・・元気を出して・・・いく・・・よ・・・」

 

 泣きながらアカペラで歌う、千歌さんの姿だった。見るからに心が折れかかっている。

 

 「千歌さん・・・」

 

 無理も無い。初めてのライブが解散のリスクを伴ったものということで、余計にプレッシャーを感じていたはずだ。

 

 その上こんなハプニングまで起きてしまったのだから、誰だって泣きたくなるだろう。純粋な性格の千歌さんだけに、ダメージも人一倍なはずだ。

 

 「・・・何でああいう真っ直ぐな人にばかり、こういう試練が待ち受けてるのかなぁ」

 

 本当によく似てるというか・・・こんな試練に遭遇するところまで、似なくてもいいんだけど・・・

 

 と、ダイヤさんから連絡が入る。

 

 『天さん、準備完了ですわ』

 

 「了解です」

 

 さて・・・ちょっくら手を貸しましょうかね。

 

 「むつさん、よしみさん・・・スイッチオン!」

 

 『『ラジャー!』』

 

 再びステージが照明で照らされる。ステージ上の千歌さん達が呆然としている中、今度は会場に大きな声が響き渡った。

 

 「バカ千歌あああああっ!アンタ開始時間を間違えたでしょ!?」

 

 レインコートを着た美渡さんが、大勢の人を連れて会場に入ってくる。

 

 「美渡さん!」

 

 「あっ、天!」

 

 レインコートを脱ぎながら、こっちへ歩いてくる美渡さん。

 

 「遅くなってゴメン!開始時間を間違って知らされてたみたいで・・・」

 

 「どういうことですか?」

 

 「これよ、これ」

 

 美渡さんが一枚のビラを渡してくる。

 

 これって確か、千歌さんが自分達で配る為に作ったビラ・・・ん?

 

 「・・・ここに書いてある開始時間、三十分遅いんですけど」

 

 「そうなのよ!十五分前に行けば良いかなって思って来てみたら、もう始まってるっていうんだもん!ホント焦ったわよ!」

 

 なるほど・・・

 

 千歌さんが作ったビラの開始時間が間違っていたせいで、ライブ開始時点でお客さんが全然来ていなかったと・・・

 

 逆に来てくれていたお客さんは、かなり時間に余裕を持って来てくれていたと・・・

 

 うん、そういうことね。

 

 「すいません美渡さん、ちょっと妹さんのうなじ削いできますね」

 

 「巨人扱い!?気持ちは分かるけど落ち着いて!?」

 

 「駆逐してやる・・・この世から・・・一匹残らず・・・!」

 

 「いや、千歌は一人しかいないから!」

 

 美渡さんに全力で止められたので、仕方なく駆逐を諦める。

 

 あのオレンジヘッド、マジで覚えてろよ・・・

 

 「それにしても・・・埋まったね、会場」

 

 笑っている美渡さん。気付けば会場は満員になっており、どこもかしこも人で埋め尽くされていた。

 

 条件達成だな・・・

 

 「・・・Unbelievable」

 

 いつの間にか、小原理事長が近くに立っていた。満員になった会場を見て、眩しそうに目を細めている。

 

 「あの状態から、本当に満員になるなんて・・・」

 

 「・・・言ったでしょう。可能性はあるって」

 

 美渡さんへと視線を移す。

 

 「そもそも、シスコンの美渡さんが来てない時点でおかしいと思いましたよ」

 

 「誰がシスコンよ!?べ、別に千歌の為なんかじゃないんだからね!?」

 

 「はいはい、ツンデレ乙」

 

 「ツンデレちゃうわ!」

 

 「っていうか、志満さんはどうしたんですか?」

 

 「留守番してくれてるわよ。旅館を空けるわけにはいかないからね」

 

 「・・・・・」

 

 「『アンタが留守番してろよ・・・』みたいな目で見ないでくれる!?」

 

 「おぉ、以心伝心」

 

 「全然嬉しくないんだけど!?」

 

 ギャーギャー喚く美渡さんは無視して、小原理事長へと向き直る。

 

 「・・・条件はクリアしました。今さら約束を反故にしたりしませんよね?」

 

 「勿論よ。スクールアイドル部の設立を許可するわ」

 

 微笑む小原理事長。

 

 「やっぱり貴方は凄いわね、天・・・あの人の言う通りだわ」

 

 「・・・俺は何もしていません。買い被るのは止めて下さい」

 

 それだけ返すと、インカムを通じていつきさんに指示を出す。

 

 「いつきさん、曲を最初から流して下さい」

 

 『え、最初から!?続きからじゃなくて!?』

 

 「これだけの人が集まってくれたんです。もう一度初めからライブやりましょう」

 

 『・・・それもそうだね。了解!』

 

 『ダイスキだったらダイジョウブ』が最初から流れる。千歌さん達は驚いていたが、すぐに曲に合わせて歌い始めた。

 

 「うおおおおおっ!千歌あああああっ!」

 

 興奮して叫んでいる美渡さん。やっぱりシスコンじゃん。

 

 「・・・楽しそうね、あの子達」

 

 小原理事長が呟く。ステージ上で歌って踊る千歌さん、曜さん、梨子さん・・・三人とも活き活きとしていて、本当に楽しそうだ。

 

 それを眺める小原理事長の表情は・・・どこか懐かしそうで、どこか寂しそうなものだった。

 

 「・・・言うべきか迷いましたけど、一応言っておきますね」

 

 「天・・・?」

 

 「発電機のセット・・・手伝ってくれてありがとうございました」

 

 俺の言葉に一瞬ポカンとした後、小さく笑う小原理事長なのだった。




どうも~、ムッティです。

ここで一つ、この作品とは全く関係の無いお知らせをさせていただきますが…



『刀藤綺凛の兄の日常記』が復活しました!



…知らない人にとっては、『何の話?』ってなりますよね(笑)

学戦都市アスタリスクを原作とした、ハーメルンに投稿されているssでございます。

実は自分もアスタリスクが原作のssを投稿させていただいているのですが、以前コラボさせていただきまして。

作者の富嶽二十二景さん(以前の名前は綺凛・凛綺さん)がハーメルンに戻られて、以前の作品を再び投稿されているのです。

以前読んでいたという方、アスタリスクのssに興味があるという方は是非ともチェックしてみてはいかがでしょうか?



というわけで、ちょっと宣伝させていただきました(笑)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

試練を乗り越えた先に待っているものがある。

まだ5月なのにこの暑さ…

今年の夏はヤバい気がする…


 「ライブ凄かったよ天くん!衣装も曲も振り付けも良かったし、先輩方もキラキラしてて輝いてた!それから、それから・・・!」

 

 「アハハ・・・ありがとね、ルビィちゃん」

 

 興奮状態のルビィちゃんに、苦笑しながらそう返す俺。

 

 ライブが終わってお客さん達のお見送りをしていた俺に、ルビィちゃんがダッシュで駆け寄ってきたのだ。

 

 本当にスクールアイドルが好きなんだなぁ・・・

 

 「お疲れ様、天くん」

 

 ルビィちゃんの後ろでは、花丸が優しく微笑んでいた。

 

 「ライブ、凄く楽しかったずら」

 

 「そう言ってもらえると嬉しいよ。来てくれてありがとね、花丸」

 

 「フフッ、天くんの為ならどこでも行くずら」

 

 「・・・花丸が天使に見えるわぁ」

 

 花丸の頭を撫でる。

 

 「まだ結構雨が降ってるから、気を付けて帰ってね」

 

 「了解ずら!」

 

 「じゃあ、また明日ね!」

 

 手を振って帰っていく二人。さて・・・

 

 「花丸もルビィちゃんも行ったし、そろそろ出てきなよ・・・よっちゃん」

 

 「ぎくっ!?」

 

 扉の陰から、よっちゃんが恐る恐る顔を出す。

 

 「恐るべしリトルデーモン・・・隠していた我が魔力を感知するとは・・・」

 

 「扉の陰からシニヨンだけはみ出してたら、誰だって気付くわ」

 

 「うげっ!?」

 

 「っていうか、マスクとサングラス外したら?完全に不審者だよ?」

 

 「誰が不審者よっ!?」

 

 そうツッコミを入れつつも、マスクとサングラスを外すよっちゃん。素直や・・・

 

 「今日は来てくれてありがとね」

 

 「フッ・・・リトルデーモンの頼みを聞くのも、主である我の役目・・・堕天使ヨハネの慈悲深さに感謝するが良い」

 

 「わー、ヨハネ様慈悲深ーい」

 

 「棒読みっ!」

 

 正直、よっちゃんには本当に感謝している。まだ登校する決心がついていない中で、ライブの為にわざわざ学校まで足を運んでくれたのだから。

 

 「・・・学校に来るの、しんどくなかった?」

 

 「急に心配してんじゃないわよ」

 

 バシッと背中を叩かれる。

 

 「これぐらいどうってことないわよ。まぁ、クラスメイト達と会うのは・・・まだちょっと勇気が出ないけど」

 

 「・・・ゆっくりで良いから。焦らずにやっていこうね」

 

 「・・・うん。ありがと」

 

 小さく笑うよっちゃん。

 

 「天も今日はお疲れ。帰ったらゆっくり休みなさいよ」

 

 「分かったよ、母さん」

 

 「誰が母さんよ!?」

 

 「明日ノートとプリント持って行くから。いつものごとく、夕飯ご馳走になります」

 

 「相変わらずその流れなのね・・・了解。じゃあまた明日」

 

 よっちゃんも手を振りながら帰っていく。と、俺の背中がいつもの衝撃を受けた。

 

 「お疲れ様のハグ!」

 

 「・・・慣れって恐ろしいですね」

 

 最初の頃はあんなにドキドキしてたのに、今はもう完全に平常心だ。

 

 健全な思春期男子として、これはいかがなものだろうか・・・

 

 「次々に美少女と会話しちゃって・・・本命はどの子なの?」

 

 「果南さんってことにしといて下さい」

 

 「おっ、私を美少女の括りに入れてくれるの?」

 

 「誰がどう見たって美少女でしょ。果南さんの可愛さを舐めないで下さい」

 

 「な、何か恥ずかしいんだけど・・・」

 

 顔を赤らめる果南さん。

 

 最近分かったことだが、この人もストレートな言葉に弱い。褒め言葉には特に弱い。

 

 「そういえば、果南さんもありがとうございました。発電機のセットを手伝ってくれて」

 

 「どういたしまして。まぁ大したことはしてないけどね」

 

 笑う果南さん。

 

 「それにしても・・・このタイミングで鞠莉に会うとはね・・・」

 

 表情が暗くなる果南さん。やっぱり二人の間には、何かがあるようだ。

 

 「・・・元気出して、のハグ」

 

 「っ!?」

 

 偶にはこっちから果南さんにハグしてみる。果南さんの顔が真っ赤になっていた。

 

 「そ、天!?」

 

 「いつもハグしてる仲なんですから、そんなに恥ずかしがらなくても良いでしょう」

 

 「そ、そうだけどさぁ・・・男の子からハグされるなんて、経験無いから・・・!」

 

 「よし、果南さんの初めてゲット」

 

 「その言い方は誤解を招くから止めてくんない!?」

 

 「ちょっと何言ってるか分かんないです」

 

 「何でよ!?」

 

 どうやら少しは元気が出たようだ。やっぱり果南さんはこうでなくちゃ。

 

 「さて・・・こんなところをダイヤさんに見られたら『破廉恥ですわ!』って怒られそうなんで、そろそろ離れますね」

 

 「アハハ、確かに・・・」

 

 苦笑する果南さん。

 

 「でも・・・偶には相手の方からハグされるのも、悪くないかもね」

 

 「果南さんは基本的に、自分からハグしに行きますもんね」

 

 「そうなんだよ。だからまぁ・・・偶には、天からハグしてくれても良いよ?」

 

 少し恥ずかしそうに笑う果南さん。

 

 何だか今の果南さんは、『お姉さん』というより『女の子』っていう感じがして新鮮だな・・・

 

 「それじゃ、私も帰るね!」

 

 「えぇ。今日は来てくれてありがとうございました」

 

 帰っていく果南さんを見送る。これでお客さんはほとんど帰ったか・・・

 

 「・・・顔を出しに行くかな」

 

 ライブが終わってから、まだ千歌さん達のところに顔を出せていない。

 

 果たしてどんな様子なのか、少し気になっている俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《千歌視点》

 

 「・・・終わったね」

 

 「・・・うん」

 

 「・・・そうね」

 

 ステージ裏で、私達は椅子に座ってボーっとしていた。

 

 ライブが終わって、ステージ裏に戻ってきて、三人で号泣して・・・ひとしきり泣いたら、何だかドッと疲れが押し寄せてきたのだ。

 

 「満員だったね・・・」

 

 「うん、会場を埋められたね・・・」

 

 「条件クリア、よね・・・」

 

 これでスクールアイドル部の設立が認められる。これからもAqoursとして活動することが出来る。

 

 「これから始まるんだ・・・」

 

 ゆっくりと椅子から立ち上がる。

 

 「始められるんだ・・・スクールアイドル」

 

 また涙ぐんでしまいそうになる。ステージでも泣いたし、さっきも泣いたのに・・・

 

 「・・・千歌ちゃん」

 

 そっと隣に寄り添ってくれる曜ちゃん。

 

 「一緒に頑張ろうね」

 

 「曜ちゃん・・・」

 

 「曲作りは任せて」

 

 梨子ちゃんも隣に立ってくれる。

 

 「絶対に良い曲を作ってみせるから」

 

 「梨子ちゃん・・・」

 

 「だから千歌ちゃん・・・作詞は早めにお願いね?」

 

 「うっ・・・」

 

 「全ては千歌ちゃんにかかってるからね?」

 

 「止めてえええええっ!?プレッシャーかけないでえええええっ!?」

 

 思わず頭を抱えてしまう。そんな私を見て、曜ちゃんと梨子ちゃんが笑っていた。

 

 うぅ、意地悪・・・

 

 「勘違いしないことですわね」

 

 厳しい声がかけられる。振り向くと、ダイヤさんが立っていた。

 

 「今までのスクールアイドルの努力と、街の人達の善意があったからこそライブは成功した・・・それを忘れないように」

 

 「・・・分かってます」

 

 言われなくても分かってる。私達の実力なんてまだまだで、今は他のスクールアイドルには到底及ばない。

 

 そんなことは分かってる。

 

 「でも、ただ見てるだけじゃ始まらないって・・・上手く言えないけど、今しか無い瞬間だから・・・だから、輝きたい」

 

 ダイヤさんを真っ直ぐ見つめる。

 

 「だから全力で、スクールアイドルをやります。普通星人の私がようやく見付けた、心からやりたいことだから」

 

 「・・・そうですか」

 

 ダイヤさんはそれだけ言うと、踵を返して出て行った。

 

 「あんな言い方しなくても良いのに・・・」

 

 口を尖らせる曜ちゃん。

 

 「そんなに私達のことが気に入らないのかな・・・」

 

 「・・・多分、私達の為を思って言ってくれてるんじゃないかな」

 

 最初はただ、スクールアイドルが嫌いなんだと思ってたけど・・・

 

 μ'sのことをあんなによく知ってる人が、スクールアイドルを嫌いなわけがない。

 

 「何か、そんな気がするんだよね」

 

 「千歌さんって、そういう勘だけは無駄に鋭いですよね」

 

 「無駄って酷い・・・って天くん!?」

 

 いつの間にか、すぐ後ろに天くんが立っていた。い、いつの間に・・・

 

 「お疲れ様です」

 

 「いつからいたの!?」

 

 「『夢にときめけ!明日にきらめけ!』からですね」

 

 「そんな場面無かったよねぇ!?完全にルー●ーズじゃん!?川●先生じゃん!?」

 

 「あれ?『あきらめたらそこで試合終了ですよ・・・?』でしたっけ?」

 

 「それはスラ●ダンクの安●先生!野球からバスケになってるよ!?」

 

 「あ、曜さんと梨子さんもお疲れ様でした」

 

 「お疲れ~」

 

 「お疲れ様」

 

 「無視しないでくれる!?」

 

 ホントにこの子は・・・全くもう・・・

 

 「あ、さっき小原理事長とも話したんですけど・・・スクールアイドル部、正式に設立を認めてくれるそうです」

 

 「ホント?良かったぁ・・・」

 

 胸を撫で下ろす梨子ちゃん。

 

 まぁ約束を反故にされることはないとは思ってたけど、改めて聞くとやっぱりホッとする。

 

 「良いライブでしたよ。ファーストライブとしては上々だと思います」

 

 「色々ハプニングもあったけどね」

 

 苦笑する曜ちゃん。あ、ハプニングといえば・・・

 

 「天くんの『スイッチオン!』っていう声と同時に、また照明が点いたんだけど・・・あの時、天くんが何かしてくれたの?」

 

 「あぁ、ちょっと発電機をセットしてもらいまして」

 

 「発電機!?」

 

 「え、まさか停電になることを予測してたの!?」

 

 「えぇ。あくまでも万が一の為に用意してもらったんですけど・・・正解でしたね」

 

 苦笑する天くん。この子、ちょっと有能過ぎない・・・?

 

 「まぁ用意してくれたのもセットしてくれたのも、俺じゃないんですけどね」

 

 「え、じゃあ誰が・・・?」

 

 「あー・・・本人の為にも言わないでおきます」

 

 「えぇっ!?凄く気になるんだけど!?」

 

 何故か言葉を濁す天くん。本人の為ってどういう意味・・・?

 

 「まぁとにかく、何とかなって良かったです。ライブも成功して、スクールアイドル部も設立が認められる・・・最高の結果になりましたね」

 

 「うん、ありがとう・・・天くんのおかげだよ」

 

 「え?」

 

 驚いている天くんの手を、両手でそっと握る。

 

 「ライブの途中、何度も心が折れそうになった。でも折れそうになる度に、天くんの声が聞こえたんだ。だから頑張れた」

 

 「千歌さん・・・」

 

 「今回のライブだって、天くんの支えが無かったら成功してないもん。本当に感謝の気持ちでいっぱいだよ」

 

 練習メニューを考えてくれたり、作詞に悩んでた私にヒントをくれたり・・・

 

 いつだって天くんは、私達に寄り添ってくれた。会場の設営とかだって、誰よりも一生懸命やってくれてたってむっちゃん達から聞いてる。

 

 天くん無しで、今回の成功は有り得なかった。

 

 「支えてくれてありがとう、天くん」

 

 「ホント、天くんにはいつも助けられてるわね」

 

 「曜さん、梨子さん・・・」

 

 天くんと私の手に、曜ちゃんと梨子ちゃんの手が重ねられる。私は天くんを見た。

 

 「これからも、私達のマネージャーでいてくれる?」

 

 「・・・まぁ、そうしろって言われてますからね。あの忌々しい理事長から」

 

 溜め息をつく天くん。

 

 「でも・・・千歌さんや曜さん、梨子さんと一緒にいるのは楽しいですから。もう嫌々マネージャーをやってるわけじゃありませんよ」

 

 「天くん・・・」

 

 「ここからがスタートですから。練習もハードにするんで、覚悟して下さいね」

 

 「っ・・・うん!」

 

 私は笑顔で頷くと、勢いよく天くんの胸に飛び込んだ。

 

 「ちょ、千歌さん!?危ないですって!」

 

 「えへへ、何か無性に抱きつきたくなっちゃった」

 

 「あ、じゃあ私も!ヨーソロー!」

 

 「ちょ、曜さん!?倒れる!倒れるから!」

 

 「だ、だったら私も!えいっ!」

 

 「いや、梨子さんまで来ちゃったら・・・うわっ!?」

 

 三人分の重さに耐え切れなくなった天くんと共に、私達はそのまま床へと倒れ込んだ。

 

 私も曜ちゃんも梨子ちゃんも笑い、天くんはやれやれと言いたげに苦笑している。

 

 仲間達とこうして笑い合えることを、とても幸せに思う私なのだった。




どうも~、ムッティです。

この話で、アニメ一期の第三話まで終了したことになります。

次回からは第四話へと入っていきます。

ここ最近あまり出番のなかった、はなまるびぃの二人を存分に出していく…予定です(笑)

次回もお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自分の気持ちに蓋をしてしまうのは苦しい。

劇場版『響け!ユーフォニアム』を観てきました!

いやぁ…あれはヤバい。

絵は綺麗だし、ストーリーには引き込まれるし…

何より演奏シーンが圧巻すぎて鳥肌が立ちました。

またアニメ見たいなぁ…


 「じゃあ曜さんと俺で、ドアと窓を拭いていきましょうか」

 

 「ヨーソロー!」

 

 「千歌さんは棚拭きを、梨子さんは床拭きをお願いします」

 

 「オッケー!」

 

 「分かったわ」

 

 体育館の中にある一つの部屋を、手分けしながら掃除している俺達。

 

 ファーストライブで会場を満員にしたことで、小原理事長は約束通りスクールアイドル部の設立を承認してくれた。それと同時に部室として与えられたのが、今俺達が掃除しているこの部屋なのだが・・・

 

 長い間使われていなかったらしく、完全な物置部屋と化していたのだ。まずは掃除しないと使えないということで、こうしてせっせと掃除しているというわけである。

 

 「あの腐れ成金理事長・・・ホント覚えてろよ・・・」

 

 「アハハ・・・」

 

 恨み言を呟く俺に、曜さんが苦笑していた。

 

 ライブの時に発電機のセットを手伝ってくれたとはいえ、お礼なんて言うべきじゃなかったな・・・

 

 「曜さん、デ●ノート持ってません?小原理事長の名前を書き込みたいんですけど」

 

 「持ってるわけないじゃん!?何ちょっと物騒なこと言ってるの!?」

 

 「じゃあちょっとリュ●ク探してきて下さいよ。多分リンゴで釣れると思うんで」

 

 「死神を魚みたいに釣れるわけないでしょ!?っていうか、そもそもデスノ●トに触れなきゃ見えないよねぇ!?」

 

 「曜さんならいけますって。ヨーソローパワーで」

 

 「ヨーソローパワーって何!?」

 

 そんな会話をしているうちに、部室内の掃除を終えることが出来た。部室にあった荷物の整理も済ませてあるので、後は机や椅子等を再び配置するだけだ。

 

 「千歌さん、ホワイトボードお願いします」

 

 「はーい!」

 

 廊下に出してあったホワイトボードを引っ張ってくる千歌さん。と、何やら首を傾げている。

 

 「このホワイトボード、何か書いてあるよ?」

 

 「ホワイトボードに名前を書かれた人間は死ぬって?」

 

 「まだデス●ートのネタを引きずるの!?」

 

 千歌さんのツッコミを受けつつ、ホワイトボードに視線を向ける。確かにホワイトボードいっぱいに、消えかかった文字で何かが書かれていた。

 

 これは・・・

 

 「ひょっとして・・・曲の歌詞?」

 

 「そうみたいね」

 

 俺の肩越しにホワイトボードを覗きこんだ梨子さんが頷く。

 

 「でも、こんな歌詞の曲知らないわね・・・」

 

 「私も知らないなぁ・・・ひょっとして、オリジナルの曲だったりして」

 

 「誰かが作詞してたってこと?」

 

 「そうかもしれないわね」

 

 梨子さん達が話している中、俺はホワイトボードに書かれていた文字を見つめていた。

 

 この筆跡には見覚えがある。もし本当にあの人が書いたものだとしたら、色々と疑問に思っていたことにも説明がつくな・・・

 

 「天くん?どうしたの?」

 

 「いえ、何でもないです」

 

 梨子の問いに笑って返す俺。

 

 あくまでも推測でしかないし、俺が踏み込み過ぎるのも良くないだろうな・・・

 

 「千歌さん、ホワイトボードも拭いちゃって下さい」

 

 「え、文字が消えちゃうけど良いの?」

 

 「えぇ。このままじゃ使えないですし、汚れも目立ちますからね」

 

 「了解!」

 

 千歌さんがホワイトボードを拭いていき、文字が完全に消えてしまう。

 

 まぁ、今はこれで良いかな・・・

 

 「じゃあ梨子さんと俺で、机と椅子を運びましょうか」

 

 「えぇ、そうしましょう」

 

 「曜さん、運んできた机と椅子の表面を拭いてもらって良いですか?」

 

 「お任せあれ!」

 

 「あ、じゃあついでに●スノートも・・・」

 

 「それは任せないで!?」

 

 悲鳴を上げる曜さんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「失礼しまーす」

 

 段ボール箱を抱え、図書室へとやってきた俺達。受付に花丸が座っていた。

 

 「あれ?天くん?」

 

 「お、花丸じゃん。今日は当番の日?」

 

 「ずら」

 

 頷く花丸。と、俺の後ろから千歌さんがひょっこり顔を覗かせる。

 

 「おぉ、花丸ちゃん!」

 

 「こんにちは」

 

 「そしてルビィちゃん!」

 

 「ぴぎゃあっ!?」

 

 受付の側に置いてある送風機の陰に、しゃがんで隠れていたルビィちゃんを千歌さんが発見する。恐らく花丸と話している時に俺達がやって来たから、咄嗟に隠れようとしたんだろうけど・・・

 

 ルビィちゃん、そのしゃがみ方はあまりよろしくないと思う。スカートの中がバッチリ見えてるから。パンツ丸見えだから。

 

 「・・・天くん?」

 

 「そんな目で見ないで下さい。今のは不可抗力です」

 

 梨子さんが冷たい目でこっちを見ていた。理不尽や・・・

 

 「不可抗力といえば、梨子さんの時も・・・」

 

 「今すぐ記憶から消しなさい」

 

 「アッハイ」

 

 女帝・桜内梨子、ここに爆誕。俺は梨子さんには逆らえそうにないな・・・

 

 「あ、これ部室にあったんだけど・・・図書室の本じゃないかな?」

 

 段ボール箱を受付の机に置く曜さん。部室の荷物を整理していた時に見付けたので、ここまで持ってきたのだ。

 

 花丸が手に取ってチェックする。

 

 「あぁ、多分そうです。わざわざありがとうございまs・・・」

 

 「スクールアイドル部へようこそ!」

 

 「ずら!?」

 

 「ぴぎぃっ!?」

 

 強引に割り込んできた千歌さんが、花丸とルビィちゃんの手を握る。

 

 「正式に設立されたし、絶対悪いようにはしないから!二人が歌ったら絶対キラキラする!間違いない!」

 

 「アンタの対応が間違いだわ」

 

 「あたっ!?」

 

 千歌さんの頭を容赦なく引っ叩く。ホントにこの人は・・・

 

 「その辺にしておかないと、マジでしばきますよ?」

 

 「もうしばかれてるんですけど!?男の子が女の子を引っ叩くってどうなの!?」

 

 「男女平等です」

 

 「こういう場面で使う言葉じゃないと思うよ!?」

 

 「とにかく、強引な勧誘はダメです。二人とも戸惑ってるでしょう」

 

 「す、すみません・・・マル、そういうの苦手っていうか・・・」

 

 「ル、ルビィも・・・」

 

 恐縮しながら断る二人。千歌さんは残念そうに苦笑していた。

 

 「アハハ、そっかぁ・・・ゴメンね、つい・・・」

 

 「あっ、いえ・・・」

 

 どこか複雑そうな表情をしているルビィちゃん。そんなルビィちゃんを、花丸が心配そうに見つめている。

 

 あれ、もしかしてルビィちゃん・・・

 

 「千歌ちゃん、そろそろ帰ろう?」

 

 「あ、うん。そうだね」

 

 曜さんに声をかけられ、千歌さんが頷く。

 

 今日は部室の掃除に時間を費やしてしまったので、練習は休みにしようということになったのだ。

 

 「あ、千歌さん達は先に帰って下さい」

 

 「あれ?天くん帰らないの?」

 

 「えぇ。せっかくなので、ちょっと調べ物をしてから帰ります」

 

 「了解。じゃあまた明日!花丸ちゃんとルビィちゃんもまたね!」

 

 三人が図書室を出て行く。さて・・・

 

 「ルビィちゃん、俺の勘違いだったら申し訳ないんだけど・・・ひょっとして、スクールアイドルやりたいんじゃない?」

 

 「っ・・・!」

 

 息を呑むルビィちゃん。

 

 「ど、どうして・・・」

 

 「千歌さんの誘いを断った時の表情が・・・よく似てたから」

 

 「似てたって・・・誰に?」

 

 「俺の知り合い。その子は自分に自信が無くて、本当はやりたいのに『やりたい!』って言えなくて・・・凄く悩んでたんだよね」

 

 「・・・まるでルビィちゃんずらね」

 

 苦笑する花丸。

 

 「天くんはこう言ってるけど・・・ルビィちゃんはどう思ってるずら?」

 

 「・・・やってみたい気持ちはある」

 

 俯くルビィちゃん。

 

 「でも・・・お姉ちゃん、スクールアイドルが嫌いになっちゃったから。多分、反対されると思う」

 

 「ダイヤさんか・・・嫌いになっちゃったってことは、元々は好きだったの?」

 

 「うん。お姉ちゃん、昔はスクールアイドルが大好きで・・・一緒にμ'sのマネして、歌ったりしてたんだ。でも高校に入ってしばらく経った頃から、スクールアイドルが嫌いになっちゃったみたいで・・・」

 

 「嫌いに、ねぇ・・・」

 

 ダイヤさんが今でもスクールアイドル好きなのは間違いない。でも千歌さんをはじめ、スクールアイドルをやりたいと言った人達に頑なな態度をとってきたのも事実だ。

 

 その原因は、恐らく・・・

 

 「・・・本当はね、ルビィも嫌いにならなきゃいけないんだよ。スクールアイドル」

 

 悲しそうに言うルビィちゃん。

 

 「お姉ちゃんが嫌いっていうものを、好きなままじゃいけないんだけど・・・」

 

 「・・・嫌いになれないんでしょ?ルビィちゃん、スクールアイドル好きだもんね」

 

 「・・・うん」

 

 ルビィちゃんは俺の問いに頷くと、花丸の方を見た。

 

 「花丸ちゃんは興味無いの?スクールアイドル」

 

 「マル!?無い無い!運動苦手だし、オラとか言っちゃうし・・・」

 

 「・・・そっか。じゃあルビィも平気」

 

 力なく笑うルビィちゃんを、悲しそうな表情で見つめる花丸なのだった。




どうも~、ムッティです。

今回からアニメ一期の第四話へと入っていきます。

ここからはなまるびぃの二人の登場が多くなる…はず(笑)

相変わらず不定期の投稿にはなりますが、これからもこの作品をよろしくお願い致します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大切な人の背中は押してあげたいものである。

投稿間隔が空いてしまって申し訳ない・・・

今回は短めですが、よろしくお願いします。


 「ずらぁ・・・」

 

 帰りのバスの中で、俺にもたれかかってくる花丸。ちなみにルビィちゃんは用事があったらしく、一足先に帰ってしまった。

 

 「ルビィちゃん、絶対スクールアイドルやりたいずら。間違いないずら」

 

 「まぁそうだろうね」

 

 自分に自信が無いことと、ダイヤさんに反対されるだろうということ・・・この二つが原因で、ルビィちゃんは自分の気持ちに蓋をしてしまっている。

 

 でも・・・

 

 「多分ダイヤさんは・・・反対しないんじゃないかな」

 

 「どうしてそう思うずら?」

 

 「ルビィちゃんが自分で決めたことなら、それを尊重してくれる人だと思うから。あくまでも個人的な考えだけどね」

 

 そう考えると、問題はルビィちゃん自身がどうするか・・・一歩踏み出すことが出来るかどうかだと思う。

 

 でも今のルビィちゃんは、恐らくその選択をしないだろうな・・・

 

 「となると、俺達の選択肢は二つに限られるかな」

 

 「黙って見守るか、背中を押すか・・・ずらね」

 

 「そういうこと」

 

 まぁ、花丸が選ぶとしたら・・・

 

 「勿論、背中を押すずら」

 

 「言うと思ったよ」

 

 笑いあう俺達。

 

 出会ってからそんなに時間は経ってないけど、花丸が友達思いなのはよく知ってる。ここで動かないという選択肢を、花丸が選ぶわけがない。

 

 「でも背中を押すって言っても、強引過ぎるのは良くないよね・・・どうやってルビィちゃんの気持ちを動かすべきか・・・」

 

 「実は一つ、マルに考えがあるずら」

 

 「マジで!?」

 

 まさかもう方法を考えているとは・・・

 

 「天くん・・・マルをスクールアイドル部に入れてほしいずら」

 

 「・・・え?」

 

 唖然としてしまう俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「体験入部?」

 

 首を傾げる千歌さん。

 

 翌日の昼休み・・・俺は二年生の教室に出向き、千歌さん達に事情を説明していた。

 

 「えぇ、花丸とルビィちゃんがやってみたいって」

 

 「体験入部って、要はお試しってことだよね?自分に合ってたら入るし、合わなかったら入らないって感じかな?」

 

 「ですね。二人とも興味はあるみたいで、実際にやってみて判断したいらしいです」

 

 曜さんの問いに頷く俺。

 

 今朝ルビィちゃんにも話したところ、『花丸ちゃんがやるなら』ということでオッケーをもらっている。

 

 「き、奇跡だよ・・・!」

 

 目をキラキラ輝かせる千歌さん。

 

 「これで二人が入ってくれたら・・・!」

 

 「でも昨日、こういうのは苦手って言ってなかったかしら・・・?」

 

 首を傾げる梨子さん。

 

 「それが急にどうして・・・」

 

 「思春期だからです」

 

 「いや、それは別に関係ないんじゃ・・・」

 

 「思春期だからです」

 

 「わ、分かった!分かったから!」

 

 額がくっつくほど梨子さんに顔を近付けて、勢いで無理矢理押し通す。

 

 こういう時、勘の鋭い人って厄介だなぁ・・・

 

 「そういうわけで、今日の放課後は二人が体験入部に来ますから。後のことはよろしくお願いします」

 

 「あれ?天くんは?」

 

 「残念ながら、今日は生徒会なんですよ」

 

 ルビィちゃんのことは花丸に任せて、俺は別の仕事を請け負っている。

 

 さて・・・

 

 「果たしてどうなるかな・・・」

 

 「「「?」」」

 

 俺の呟きに首を傾げる三人なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ふぅ・・・今日の仕事はこれで終了ですわ」

 

 「お疲れ様です」

 

 息を吐くダイヤさん。

 

 生徒会の仕事も終わり、後は帰るだけなのだが・・・

 

 「ダイヤさん、この後少し時間ありますか?」

 

 「えぇ、大丈夫ですけれど・・・何か?」

 

 「これからデートしません?」

 

 「デ、デート!?」

 

 ダイヤさんの顔が赤くなる。

 

 「そ、そんな破廉恥な・・・!」

 

 「どんだけ初心なんですか・・・」

 

 ダイヤさんの恋愛経験はゼロということが判明した瞬間だった。

 

 「まぁデートっていうのは冗談で・・・実はダイヤさんにご相談がありまして」

 

 「じょ、冗談って・・・まぁ良いですけれど。それで、相談というのは?」

 

 「ルビィちゃんのことです」

 

 「ルビィの・・・?」

 

 首を傾げるダイヤさん。

 

 「えぇ。ルビィちゃんとは同じクラスっていうこともあって、仲良くさせてもらってるんです」

 

 「ルビィからも、天さんの話は聞いてますわ。あのルビィが男の人と仲良くしてるなんて、私も驚いたのですけれど・・・ハッ!?」

 

 そこで急に息を呑むダイヤさん。

 

 「ま、まさか天さん・・・私の愛する妹に手を出して・・・!?」

 

 「内浦の海に沈みたいんですか?」

 

 「怖いですわよ!?」

 

 このシスコン生徒会長・・・あんな天使みたいな子に手を出せるわけないでしょ。

 

 「とりあえず外に出ましょうか。見てほしいものもありますし」

 

 「見てほしいもの・・・?」

 

 訝しげなダイヤさんに、俺は笑みを向けるのだった。

 

 「えぇ、見てあげて下さい・・・愛する妹の頑張る姿を」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・どういうことですの?」

 

 驚いているダイヤさん。

 

 俺達は今、学校の屋上に来ているのだが・・・

 

 「ワン、ツー、スリー、フォー!」

 

 そこでは今、ルビィちゃんと花丸がダンスの練習をしているところだった。曜さんがカウントをとり、手を叩いている。

 

 「少しズレてるよ!テンポを意識して!」

 

 「はいっ!」

 

 「ずらっ!」

 

 真剣に練習している二人を、俺とダイヤさんは階段の陰から覗いていた。

 

 「何故ルビィがスクールアイドル部に・・・?」

 

 「体験入部ですよ」

 

 説明する俺。

 

 「ルビィちゃん、スクールアイドル好きじゃないですか。それで興味を持ってくれたみたいで、花丸と一緒に体験入部することになったんです」

 

 「ルビィが・・・スクールアイドル・・・」

 

 じっとルビィちゃんを見つめるダイヤさん。その表情は、どこか複雑そうだった。

 

 「・・・反対ですか?」

 

 「え・・・?」

 

 「ルビィちゃんがスクールアイドルをやること・・・ダイヤさんは反対ですか?」

 

 「私は・・・」

 

 俯くダイヤさん。やはりダイヤさんとしては、ルビィちゃんが心配なんだろう。

 

 「とりあえず、もう少し見てあげて下さい。ルビィちゃんの頑張ってる姿を」

 

 ダンスの練習に打ち込むルビィちゃんは、どこか活き活きとした様子だった。スクールアイドルとしての練習が出来ることに、楽しさを覚えているのかもしれない。

 

 そしてもう一人・・・

 

 「花丸ちゃん、良い感じだよ!その調子で頑張って!」

 

 「ずらっ!」

 

 「・・・楽しそうじゃん、花丸」

 

 笑顔で練習する花丸を見て、俺は口元を緩ませるのだった。




どうも~、ムッティです。

前書きでも述べましたが、投稿間隔が空いてしまって申し訳ございません・・・

なかなか執筆が進まなくて・・・

今後も投稿間隔が空いてしまうことがあるかと思いますが、温かい目で見守っていただけると幸いでございます。

ちなみに次の話は明日投稿しますので、お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

言葉にしなければ分からないことがある。

最近『未来の僕らは知ってるよ』と『MIRAI TICKET』をよく聴いてます。

Aqoursの曲の中でも、五本の指に入るくらい好きな二曲です。


 「おぉ・・・良い眺めですね」

 

 感嘆の声を上げる俺。

 

 俺達は今、淡島神社へと続く長い階段の途中にいた。少し開けたその場所からは、内浦の海を見渡すことが出来る。

 

 ちょうど夕陽に染まっており、オレンジ色の海がとても綺麗だった。

 

 「でしょう?私のお気に入りスポットですわ」

 

 ダイヤさんはそう言って笑うと、近くのベンチに腰を下ろした。

 

 「それにしても、ルビィは大丈夫でしょうか・・・こんなに長い階段を、ダッシュで上っていきましたが・・・」

 

 ここの階段ダッシュは、Aqoursにとって日々のトレーニングの一環となっている。前に果南さんからこの場所を教えてもらった俺が、トレーニングメニューに追加したのだ。

 

 まぁかなり長いので、途中で一息入れるようにはしているが。果南さんはこれを毎朝、しかも休憩無しでやっているらしい。

 

 小原理事長がおっぱいお化けなら、果南さんは体力お化けといったところだろうか。

 

 「大丈夫ですよ。千歌さん達が無理させないでしょうから」

 

 ダイヤさんの隣に座る俺。

 

 「それにルビィちゃん、意外に体力ありますからね。体育でやった持久走とか、割と良いタイム出してましたよ」

 

 むしろ心配なのは花丸の方だ。運動が苦手と公言するだけあって、体力があまり無い。途中でバテそうな気がする。

 

 「・・・そうですわね」

 

 浮かない表情のダイヤさん。

 

 「・・・ルビィは、本気でスクールアイドルをやるつもりなのでしょうか?」

 

 「もしルビィちゃんが『やりたい』と言ったら・・・ダイヤさんはどうするつもりなんですか?」

 

 「私は・・・」

 

 俯くダイヤさん。

 

 「私は・・・ルビィが本気なら、その気持ちを応援しますわ。あの子がスクールアイドルに憧れているのは、よく知っていますから」

 

 「・・・それはダイヤさんも同じでしょう?」

 

 「っ・・・」

 

 唇を噛むダイヤさん。やっぱりな・・・

 

 「ルビィちゃんが言ってました。高校に入ってしばらくして、ダイヤさんはスクールアイドルが嫌いになってしまったと・・・それを聞いて、何となく想像がつきました」

 

 俺は隣に座るダイヤさんへ視線を向けた。

 

 「ダイヤさん、貴女・・・スクールアイドルをやってましたよね?」

 

 「ッ!?」

 

 ダイヤさんが息を呑む。

 

 「ど、どうして・・・!?」

 

 「ダイヤさんが教えてくれたんじゃないですか」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「あの日ダイヤさんが浜辺に書いた、『Aqours』という名前・・・調べたらすぐ分かりましたよ。二年前、東京で行なわれたスクールアイドルのイベントに参加してますよね?出場グループ一覧に、『Aqours』の名前がありました」

 

 『Aqours』という名前には、ダイヤさんにとって思い入れがあるんだろうとは思ってはいたが・・・

 

 まさか自分がやっていたスクールアイドルグループの名前だったとはな・・・

 

 「担任の赤城先生にも聞いてみたんですけど、ちゃんと覚えてましたよ。二年前、浦の星でスクールアイドルをやっていた生徒がいたことを」

 

 「・・・天さんは既にご存知だったのですね」

 

 苦笑するダイヤさん。

 

 「その様子から察するに、他のメンバーが誰なのかも分かっているのでしょう?」

 

 「・・・果南さんと小原理事長ですね」

 

 俺の答えに、力なく頷くダイヤさん。

 

 部室のホワイトボードに書かれていた文字・・・恐らくあれは果南さんの字だ。バイトの時に果南さんが書く字は度々見ているから、すぐに果南さんの字だと分かった。

 

 そして小原理事長が留学したのは二年前・・・恐らくイベントが終わった後に留学したんだろう。スクールアイドル部に何かと目をかけるのも、自身が過去にスクールアイドルをやっていたのであれば説明がつく。

 

 「二年前、ダイヤさん達はスクールアイドルを始めた。でも何らかの理由で辞めざるをえなくなり、Aqoursは解散した。だからダイヤさんは、スクールアイドル関連のものを自分から遠ざけようとしたんでしょう?」

 

 それでも、心の底からスクールアイドルを嫌いになることなど出来なかった・・・μ'sについて楽しそうに語っていたのがその証拠だ。

 

 「スクールアイドルに関わる部の設立を承認してこなかったのは、その人達が傷付かないようにする為・・・スクールアイドルをやっていたからこそ、その大変さがダイヤさんには分かってたんですよね?どんな事情があったにせよ、辞める決断をするというのは・・・とても辛いことですから」

 

 「・・・敵いませんわね。察しが良すぎますわ」

 

 溜め息をつくダイヤさん。

 

 「そこまで分かっているのなら、私が何を心配しているか分かるでしょう?」

 

 「スクールアイドルをやることで、ルビィちゃんが辛い思いをしないか・・・ですね」

 

 「えぇ。あんな思いをするくらいなら、私は・・・」

 

 膝の上で拳を握るダイヤさんが、俺にはとても弱々しく見えた。

 

 誰かが傷付くことを恐れ、自分が嫌われてでも防ごうと必死になる・・・その行動は、ただただ『不器用』の一言に尽きる。いつもスマートに仕事をこなすダイヤさんとは大違いだ。

 

 でも恐らく、その『不器用』な姿こそが本当のダイヤさんなんだろう。人一倍優しいからこそ、人が傷付くのを黙ってみていられない・・・それが『不器用』な行動に繋がっている。

 

 まったく・・・

 

 「千歌さんがあの人に似てると思ったら、ダイヤさんはあの人ですか・・・」

 

 「あの人・・・?」

 

 「いえ、こっちの話です」

 

 まぁそれはさておき・・・俺がダイヤさんにかけられる言葉は一つだ。

 

 「ダイヤさん・・・あまりルビィちゃんを見くびらない方が良いですよ」

 

 「え・・・?」

 

 ポカンとしているダイヤさん。

 

 「それはどういう・・・?」

 

 「そのままの意味です。確かにルビィちゃんは極度の人見知りですし、気の弱いところだってありますけど・・・しっかりとした芯を持ってる子ですよ」

 

 「っ・・・」

 

 「スクールアイドルが大変だってことぐらい、スクールアイドルが大好きなルビィちゃんなら分かってるはずです。それでもルビィちゃんは、『やってみたい気持ちはある』と言いました。この意味が分かりますか?」

 

 それはつまり、『大変だとしてもやる覚悟はある』ということだ。千歌さんがゼロから始めたところを見ているルビィちゃんが、『スクールアイドルは楽だ』なんて思っているはずがないのだから。

 

 「ルビィちゃん、言ってましたよ。『お姉ちゃんが嫌いっていうものを、好きなままじゃいけない』って」

 

 「っ・・・ルビィが・・・?」

 

 「えぇ。それでも、やっぱりスクールアイドルを嫌いにはなれなかったみたいですけどね・・・ダイヤさんと同じで」

 

 こういうところは似てるよな・・・流石は姉妹というべきか。

 

 「要はダイヤさんに遠慮してるんです。ダイヤさんがやってほしくないだろうからやらない・・・それはダイヤさんが望んでいる答えじゃないでしょう?貴女がルビィちゃんに望むものは何ですか?」

 

 「私が・・・ルビィに望むもの・・・」

 

 ダイヤさんの瞳が揺れ動く。俺はダイヤさんを見据えた。

 

 「しっかりしろ、黒澤ダイヤ」

 

 「っ・・・!」

 

 俺に呼び捨て、しかもタメ口をきかれて驚くダイヤさん。先輩を相手に失礼だとは思うが、これだけはハッキリ伝えなくてはいけない。

 

 「妹に伝えたいこと、妹に望むこと・・・それをハッキリ言葉にしろ。言葉にしなくても分かるだなんて、そんなのはただの甘えだ。ルビィが望んでいるのは他の誰でもない、貴女の言葉なんだから」

 

 「天さん・・・」

 

 と、その時・・・

 

 「え、お姉ちゃん!?」

 

 驚く声が聞こえる。振り向くと、ルビィちゃん達が階段を下りてくるところだった。

 

 「ダイヤさん!?それに天くんも!?」

 

 「どうしてここに!?」

 

 千歌さん達も驚いている中、花丸がこちらへ不安げな視線を送ってくる。恐らくダイヤさんを説得できたかどうか、心配しているのだろうが・・・

 

 俺は花丸に笑みを向けると、千歌さん達へと視線を移した。

 

 「ワー、偶然デスネー」

 

 「棒読みっ!絶対偶然じゃないよねぇ!?」

 

 「バアアアアニングゥ!ラアアアアブ!」

 

 「何で艦●れの金●さん!?」

 

 「アレです。内浦に対する愛が溢れてしまったんです・・・メイビー」

 

 「急に!?しかも今メイビーって言ったよねぇ!?」

 

 「落ち着くネ、ブッキー」

 

 「誰がブッキー!?」

 

 ギャーギャーやかましい千歌さんはさておき、俺はルビィちゃんへ目をやった。

 

 「ルビィちゃん、ダイヤさんが話したいことがあるんだって」

 

 「お、お姉ちゃんが・・・?」

 

 恐る恐るダイヤさんを見るルビィちゃん。スクールアイドルをやることについて、反対されると思っているんだろう。

 

 「ルビィ・・・私は・・・」

 

 言葉に詰まるダイヤさん。俺はダイヤさんの背中に手を添えた。

 

 「・・・今ダイヤさんが、一番ルビィちゃんに言いたいことを言ってあげて下さい」

 

 「一番言いたいこと・・・」

 

 逡巡していたダイヤさんだったが、意を決してルビィちゃんを見つめた。

 

 「ルビィ・・・本気でスクールアイドルをやりたいのですか?」

 

 「っ・・・ルビィは・・・」

 

 「ダイヤさん、あの・・・!」

 

 「千歌さん」

 

 慌てて口を挟もうとした千歌さんを、花丸が制する。これはルビィちゃんが答えるべき質問だということを、花丸はよく分かっている。

 

 「ル、ルビィは・・・」

 

 戸惑っているルビィちゃん。仕方ないか・・・

 

 「焦らなくて良いよ・・・ルビィ」

 

 「え・・・?」

 

 俺はルビィに言葉をかけた。初めて呼び捨てにされたせいか、ポカンとしているルビィちゃん。

 

 「ダイヤさんの質問に、きちんと本心で答えてあげて。ダイヤさんが聞きたいのは、ルビィの本当の気持ちなんだよ」

 

 「本当の気持ち・・・」

 

 俯くルビィちゃん。そして、意を決したように顔を上げた。

 

 「お姉ちゃん、ルビィね・・・ルビィ、スクールアイドルがやりたい」

 

 そう言い切るルビィちゃんの表情は、とても真剣なものだった。

 

 「大変なのは分かってる。それでも・・・それでもやってみたい!千歌さん達と一緒に、ルビィも輝きたい!」

 

 「ルビィちゃん・・・」

 

 千歌さん達の目が潤む中、ダイヤさんはじっとルビィちゃんを見つめていた。ルビィちゃんもまた、ダイヤさんをじっと見つめている。

 

 そして・・・

 

 「・・・それなら、頑張りなさい」

 

 「っ・・・!」

 

 微笑むダイヤさん。ルビィちゃんが息を呑む。

 

 「い、良いの・・・?」

 

 「やってみたいのでしょう?ならやってみなさい。ルビィが心からやりたいと思うのであれば、私は応援しますわ」

 

 「っ・・・お姉ちゃん・・・!」

 

 ダイヤさんの胸に飛び込むルビィちゃん。それをダイヤさんが優しく抱き留めた。

 

 「ひっぐ・・・ぐすっ・・・!」

 

 「もう、ルビィったら・・・相変わらず泣き虫ですわね」

 

 「うぅ・・・だって・・・!」

 

 「・・・でも、大きくなりましたわね」

 

 ルビィちゃんの頭を撫でるダイヤさん。俺は二人の側をそっと離れ、花丸の隣へと移動した。

 

 「一件落着・・・ってところかな」

 

 「そうずらね。これでルビィちゃんの気持ちも晴れるずら」

 

 「だね・・・お疲れ、花丸」

 

 「天くんもお疲れ様ずら」

 

 笑みを浮かべ、拳を軽く合わせる俺達なのだった。




どうも~、ムッティです。

梅雨入りしたということで、雨の日が続いております。

梅雨入り前はメッチャ暑かったのに、何故急に寒くなるのか…

いや、個人的に暑い方より寒い方が好きだけども。

こうも急に気温が変わると、身体がついていかないぜ…

皆さんも身体に気を付けて下さい(>_<)

あ、ちなみに明日も投稿しますのでお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大切なのはやりたいかどうかである。

ポケモンの新作が楽しみすぎてヤバい。

ソードとシールド、どっちにしようかな・・・


 翌日・・・

 

 「ルビィちゃん、入部届け出したみたい。梨子さんからラインきたよ」

 

 「良かったずら」

 

 俺と花丸は、図書室でお喋りしていた。今日は花丸が当番の日なので、俺も普通に受付の椅子に座ってしまっている。

 

 「早速これから練習だって。ルビィちゃん、張り切ってるんじゃないかな」

 

 「天くんは行かなくて良いずら?」

 

 「残念ながら、今日も生徒会なのよね」

 

 ダイヤさんが所用で少し遅くなるとのことだったので、それまでの時間潰しにこうして図書室に来ているのだった。

 

 「花丸こそ、良かったの?」

 

 「何がずら?」

 

 「ルビィちゃんと一緒に、スクールアイドル部に入らなくて」

 

 「・・・オラには無理ずら」

 

 首を横に振る花丸。

 

 「オラとか言っちゃうし、運動は苦手だし・・・スクールアイドルに向いてないずら」

 

 「その割には、スクールアイドルの雑誌読んでるじゃん」

 

 「ずらっ!?」

 

 机の引き出しにしまってあった雑誌を取り出す俺。花丸がこういう雑誌をこっそり読んでいることを、俺は前から知っていた。

 

 「そ、それは・・・ルビィちゃんの好きなものを知ろうと思って・・・!」

 

 「あ、このページの端が折ってある」

 

 「ずらあああああっ!?」

 

 雑誌を取り戻そうとする花丸を避け、そのページを開く俺。そこには、ウエディングドレス姿の女の子が写っていた。

 

 「星空凛ちゃんか・・・μ'sの特集みたいだけど、何でこのページだけ折ってあるの?」

 

 「うぅ・・・それは・・・」

 

 「それは?」

 

 続きを促すと、花丸が観念したように口を開いた。

 

 「何か凄く・・・キラキラしてたから・・・」

 

 「・・・なるほど」

 

 これは確か、凛ちゃんがセンターを務めた『Love wing bell』の時か・・・

 

 「懐かしいな・・・」

 

 「天くん?」

 

 首を傾げる花丸。俺は花丸へと視線を向けた。

 

 「・・・凛ちゃんも、最初はスクールアイドルに向いてないって思ってたらしいよ」

 

 「え・・・?」

 

 「自分には女の子らしい服なんて似合わないからって。凄くコンプレックスを持ってたみたいなんだけど、それを乗り越えられたんだって」

 

 「ど、どうやって・・・」

 

 「同じμ'sのメンバーの小泉花陽ちゃんが、凛ちゃんの背中を押してくれたんだって。花陽ちゃんと凛ちゃんは小さい頃からの親友同士で、凛ちゃんにとって花陽ちゃんの存在は大きかったみたいだよ」

 

 驚いている花丸に、俺は笑みを向けた。

 

 「ちなみに花陽ちゃんがμ'sに入る時、背中を押したのは凛ちゃんなんだって。自分に自信が無かった花陽ちゃんを勇気付けて、μ's入りを後押ししたらしいよ。それにしても、この二人の関係・・・まるでどこかの誰かさん達だと思わない?」

 

 「っ・・・!」

 

 息を呑む花丸。

 

 「花丸はルビィちゃんの背中を押して、Aqours入りを後押しした。なら次は、ルビィちゃんが花丸の背中を押す番じゃないかな・・・ね、ルビィちゃん?」

 

 「ぴぎっ!?」

 

 「ずらっ!?」

 

 入り口の陰に隠れていたルビィちゃんが飛び上がり、それに花丸が驚いて飛び上がった。

 

 「ルビィちゃん!?いつの間に!?」

 

 「ア、アハハ・・・少し前に来たんだけど、二人が話してたからつい・・・」

 

 「花丸は気付いてなかったみたいだけど、ツインテールが丸見えだったよ。隠れるなら透明マント持ってこないと」

 

 「どこのハ●ー・ポ●ター!?そんなもの実在しないよ!?」

 

 「じゃあ黒澤家に代々伝わる古の術とか無いの?」

 

 「無いよ!?天くんは黒澤家を何だと思ってるの!?」

 

 「スクールアイドル大好き一族」

 

 「それは私とお姉ちゃんだけだからね!?」

 

 ルビィちゃんは一通りツッコミを入れると、花丸の方を見た。

 

 「花丸ちゃん、ルビィね・・・花丸ちゃんのことずっと見てた」

 

 「え・・・?」

 

 「ルビィに気を遣って体験入部してるんじゃないかって、ルビィの為に無理してるんじゃないかって・・・心配だったから」

 

 実際花丸がスクールアイドル部に体験入部したのは、ルビィちゃんをスクールアイドル部に入部させる為だ。そういう意味では、ルビィちゃんに気を遣ったというのは間違いじゃない。

 

 でも・・・

 

 「でも・・・花丸ちゃん、とっても嬉しそうだった。練習してる時も、皆でお話してる時も・・・それを見て気付いたの。花丸ちゃん、スクールアイドルが好きなんだって」

 

 「マルが・・・?」

 

 驚いている花丸。

 

 ルビィちゃんの言う通り、練習の時の花丸はとても楽しそうだった。運動は苦手という意識が強すぎて、自分では気付いてなかったのかもしれないけど。

 

 「花丸ちゃんと一緒にスクールアイドルが出来たらって、ずっと思ってた。一緒に頑張れたらって」

 

 「・・・それでも、マルには無理ずら。体力も無いし、向いてないずら」

 

 首を横に振り、俯く花丸。やれやれ・・・

 

 「マルがスクールアイドルなんて、そんな・・・」

 

 「ダメずら」

 

 後ろから花丸を抱き締める。小原理事長に脅されて落ち込んでいた時、花丸が俺にしてくれたみたいに。

 

 「そ、天くんっ!?」

 

 「そうやって自分を卑下して、『無理』とか『向いてない』とか言っちゃダメずら。自分の気持ちに正直になるずら」

 

 「・・・マルの真似しないでほしいずら」

 

 「意地っ張りな誰かさんへの罰ずら」

 

 「むぅ・・・」

 

 ジト目で見上げてくる花丸に、俺は笑みを浮かべた。

 

 「ルビィちゃんが正直な気持ちをぶつけてるんだから、花丸も正直な気持ちを言うべきだと思うよ。花丸はスクールアイドルをやりたいの?やりたくないの?」

 

 「・・・やってみたいずら」

 

 小さく呟く花丸。

 

 「でも・・・マルに出来るかな・・・」

 

 「一番大切なのは、出来るかどうかじゃない・・・やりたいかどうかでしょ」

 

 花丸を抱く腕に力を込める。

 

 「一緒に頑張ろう。俺もサポートするから」

 

 「天くん・・・」

 

 「花丸ちゃん」

 

 ルビィちゃんが花丸に手を差し出す。

 

 「ルビィ、スクールアイドルがやりたい。花丸ちゃんと一緒に」

 

 「ルビィちゃん・・・」

 

 花丸は笑みを浮かべると、ルビィちゃんの手を握った。

 

 「よろしくずら」

 

 「っ・・・うんっ!」

 

 涙を浮かべるルビィちゃん。良かった・・・

 

 「さて、じゃあ善は急げって言うし・・・入部届けを出しに行こうか」

 

 そう言って花丸から離れようとすると、腕を掴まれた。ルビィちゃんと握手している手と反対の手で、花丸が俺の腕を掴んでいる。

 

 「花丸・・・?」

 

 「・・・もう少しだけ。もう少しだけ、このままでいてほしいずら」

 

 耳まで真っ赤にしながら、小さな声で呟く花丸。ルビィちゃんがニヤニヤしている。

 

 「ひょっとして、ルビィはお邪魔だったかな?」

 

 「そ、そんなことはないずら!マルはただ・・・!」

 

 「失礼しまーす」

 

 花丸が慌てて言い訳しようとしていると、千歌さん・曜さん・梨子さんが図書室へと入ってきた。

 

 「あ、花丸ちゃん。ルビィちゃんはどこに・・・って天くん!?」

 

 「ちょっと!?何で花丸ちゃんを抱き締めてるの!?」

 

 「そういう関係なんです」

 

 「「「えぇっ!?」」」

 

 「天くん!?何言ってるずら!?」

 

 「抱き締めたり抱き締められたりする関係なんです」

 

 「言い方っ!間違ってないけど言い方を考えるずらっ!」

 

 「間違ってないの!?」

 

 「やっぱりそういう関係なの!?」

 

 「違うずらあああああっ!?違わないけど違うずらあああああっ!?」

 

 「どっちよ!?」

 

 ギャーギャー騒いでる四人。それを見て、ルビィちゃんがクスクス笑っていた。

 

 「フフッ、天くんも悪い人だね」

 

 「ルビィちゃんには負けるよ」

 

 笑いあう俺達。と、ルビィちゃんが微笑んだ。

 

 「・・・今回はありがとね、天くん。天くんのおかげで、お姉ちゃんにも花丸ちゃんにも本音が言えたよ」

 

 「ダイヤさんの件は花丸のおかげだし、花丸の件はルビィちゃんが頑張ったからだよ。俺は何もしてないから」

 

 「そんなことないよ。天くんがいなかったら、ルビィは踏み出せてなかったと思う。本当にありがとう」

 

 「ルビィちゃん・・・」

 

 屈託の無い笑顔を見せるルビィちゃん。俺はその笑みに、ダイヤさんの面影を見た気がした。

 

 やっぱり姉妹なんだな・・・

 

 「それとね・・・天くんに一つお願いがあるの」

 

 「お願い?」

 

 急にモジモジし始めるルビィちゃん。どうしたんだろう?

 

 「これからはルビィのこと、呼び捨てで呼んでほしいっていうか・・・ほら!花丸ちゃんのことも呼び捨てで呼んでるし、ルビィのこともそう呼んでほしいなって!」

 

 急に早口でまくし立てるルビィちゃん。顔が真っ赤である。

 

 「了解。じゃあ、改めてよろしくね・・・ルビィ」

 

 「っ・・・うんっ!」

 

 「天くん!早くこっちに来て誤解を解くずら!」

 

 花丸が焦っている。やれやれ・・・

 

 「誤解じゃないでしょ。事実なんだから」

 

 「その言い方が誤解を招いてるずら!」

 

 「それより千歌さん、花丸がスクールアイドル部に入りたいそうですよ」

 

 「えぇっ!?ホントに!?」

 

 「そ、それは・・・ホントずら」

 

 「やったあああああっ!?」

 

 「ヨーソローっ!」

 

 「ずらっ!?」

 

 花丸に抱きつく千歌さんと曜さん。と、梨子さんが俺達のところへやってくる。

 

 「それで?今回も天くんが暗躍してたわけ?」

 

 「いや、暗躍って・・・ひょっとして梨子さん、怒ってます?」

 

 「別にぃ?天くんが誰を抱き締めようが天くんの自由だしぃ?」

 

 「うわぁ・・・」

 

 めんどくさいなぁ、この人・・・何に怒ってるのか知らないけど。

 

 「ほら、拗ねてないで行きますよ。花丸の入部届けを出しに行かないと」

 

 「ちょ、手を引っ張らないでよ!?」

 

 「良いじゃないですか。俺と梨子さんだって抱き合った仲でしょ」

 

 「誤解を招く言い方しないでくれる!?」

 

 「ずらっ!?梨子さんとも抱き合ってたずらっ!?」

 

 「違うのよ花丸ちゃん!?あれはただのスキンシップで・・・!」

 

 「何か今の会話だけ聞いてると、天くんって女ったらしみたいだよね」

 

 「曜さん、人聞きの悪いこと言わないで下さい。デスノー●に名前書き込みますよ」

 

 「最後までそのネタ引きずるの!?」

 

 皆でわいわい騒ぎながら、図書室を後にする。

 

 新しくスクールアイドル部に加わった、引っ込み思案な仲良しコンビ・・・花丸とルビィがどんな姿を見せてくれるのか、今からとても楽しみな俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

今回でアニメ一期の第四話が終了となります。

次回からは第五話の内容に入っていきます。

遂に善子回・・・善子ちゃんの運命やいかに。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一歩を踏み出す為には勇気が必要である。

毎日暑くて辛い・・・

これからまだ暑くなるのかと思うと、ホント萎えるわ・・・


 「ランキングが上がらないよおおおおおっ!」

 

 部室に置かれたパソコンを前に、頭を抱える千歌さん。

 

 花丸とルビィが加わったのを機に、Aqoursはスクールアイドル専門のサイトに登録した。ここに登録すると、スクールアイドルを応援している人達の評価によってランク付けされるようになるのだ。

 

 このサイトに登録しているスクールアイドルの数は、およそ5000組。現在Aqoursは4768位なので、かなり下の方ということになる。

 

 「昨日が4856位で、今日が4768位・・・」

 

 「落ちてはいないけど・・・」

 

 梨子さんと曜さんも肩を落としている。思うように順位が上がらないことで、もどかしく思っているのだろう。

 

 「確かに人気は大事ですけど、まだ登録したばかりなんですから仕方ないですよ」

 

 俺は苦笑しつつ、お茶の準備を進めていた。

 

 「とりあえず一息つきましょう・・・はい、お茶と和菓子」

 

 「ずらあああああっ!」

 

 真っ先に花丸が和菓子を頬張る。

 

 花丸は美味しい食べ物に目が無い上、無限大の食欲を誇る大食い娘だったりする。その割りにはメッチャ小柄なんだけど、摂取した栄養は一体どこへいっているのだろうか・・・

 

 やっぱりおっp・・・

 

 「・・・天くん?」

 

 「すいませんでした」

 

 女帝の冷たい視線が飛んでくる。何で人の思考が分かるんだ・・・

 

 「ん、美味しい!」

 

 ルビィも目を輝かせながら和菓子を食べている。

 

 「天くんの差し入れてくれる和菓子は凄く美味しいって、お姉ちゃんからも聞いてたけど・・・どこのお店の和菓子なの?」

 

 「東京だよ。向こうに住んでた時、よく通ってた和菓子屋さんがあるんだ。こっちに来てからは、電話で注文して送ってもらってるんだけど」

 

 「えぇっ!?東京の和菓子!?」

 

 「早く食べなきゃ!」

 

 「二人ともがっつかないの!」

 

 急いで食べようとする千歌さんと曜さんを、梨子さんが嗜める。

 

 「でも天くん、よく和菓子を差し入れで振る舞ってくれるけど・・・こういうのって結構高いんじゃない?大丈夫?」

 

 「大丈夫ですよ」

 

 心配してくれる梨子さんに、笑いながら答える俺。

 

 「その和菓子屋の大将と奥さんには、昔からよくお世話になってまして。電話で注文すると、必ず注文した数より多く送ってくれるんですよ。ありがたいことなんですけど、一人じゃ食べ切れなくて・・・」

 

 「じゃあマルが全部食べてあげるずら!」

 

 「あっ、花丸ちゃんズルい!ルビィも食べる!」

 

 「食い意地を張らないの!」

 

 梨子さんに怒られる花丸とルビィ。

 

 「まぁそういうことなんで大丈夫です。大将と奥さんも、『周りから好評だ』って伝えたら凄く喜んでましたから。遠慮なく召し上がって下さい」

 

 「そういうことなら・・・ありがとう。遠慮なくいただくわ」

 

 微笑む梨子さん。一方、千歌さんは再びパソコンと睨めっこしていた。

 

 「むぅ・・・どうしたらランキング上がるかなぁ・・・」

 

 「んー・・・例えば、名前を奇抜なものにしてみるとか?」

 

 「今からでもスリーマーメイドにします?」

 

 「ぶふうううううっ!?」

 

 お茶を飲んでいた梨子さんが盛大に吹き出す。

 

 「ゴホッ、ゴホッ・・・そ、それは忘れてって言ったでしょ!?」

 

 「あ、今はファイブマーメイドですね」

 

 「そういうことじゃないから!」

 

 「じゃあ梨子さんだけ『ピンクマーメイド』を名乗りましょう。苗字が桜内だけに」

 

 「止めてええええええええええっ!?」

 

 顔を真っ赤にしながら俺の胸倉を掴み、盛大に身体を揺らしてくる梨子さん。そんなに恥ずかしいのかな?

 

 「いや違うから。恥ずかしがってるのは見られた時のことだから」

 

 俺の心を読んだであろう千歌さんのツッコミに、首を傾げる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「リア充に、私はなる!」

 

 「いや、そんな『海賊王に、俺はなる!』みたいに言われても・・・」

 

 堕天使の衣装に身を包んだよっちゃんに、呆れた視線を向ける俺。

 

 いつものごとくノートとプリントを届けに来た俺は、よっちゃんの部屋で突然訳の分からない宣言を聞かされていた。ちなみに善恵さんは夕飯の買出し中である。

 

 「あの悪夢の日から一ヵ月半・・・もう五月の半ばよ。そろそろ学校に行かないと、マジでヤバいわ」

 

 「そうだね。来週から中間試験もあるし」

 

 流石に中間試験を受けないのはちょっとマズい。

 

 赤城先生からも、『中間試験だけでも受けるように、絢瀬くんから津島さんに言ってもらえないかしら?』とお願いされたほどだ。

 

 「そこで私は覚悟を決めたわ・・・明日から学校に行く!」

 

 「・・・熱でもあるの?」

 

 「ちょ、顔が近いわよ!?」

 

 額と額をくっつけてみるが、熱は無いようだ。

 

 ということは、マジで言ってるのか・・・

 

 「よっちゃん、本当に大丈夫?無理はしなくて良いんだよ?」

 

 「・・・いつまでも甘えてちゃダメなのよ」

 

 小さな声で呟くよっちゃん。

 

 「そろそろ一歩踏み出さないと・・・私は変わらなきゃいけないのよ」

 

 「よっちゃん・・・」

 

 どうやらよっちゃんは本気らしい。なら俺も、よっちゃんの背中を押してあげないと。

 

 「・・・分かった。じゃあ明日は一緒に学校に行こう」

 

 「良いの・・・?」

 

 「勿論。よっちゃんのことはちゃんとサポートするから、安心して」

 

 「・・・うん。ありがと」

 

 微笑むよっちゃん。

 

 「フフッ、流石は我がリトルデーモン・・・褒めてつかわすぞ」

 

 「前言撤回。一人で何とかしろバカヨハネ」

 

 「すいませんでしたあああああっ!」

 

 その場で土下座するよっちゃんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

 「フフッ・・・今日も良い天気ね、天」

 

 「ソウダネ、ヨッチャン」

 

 優雅な女子高生として振舞うよっちゃんに、カタコトで返事をする俺。

 

 よっちゃんと俺は、学校へと続く坂道を上っているところだった。

 

 「ちょっと天、返事が不自然よ。それじゃ不審に思われるでしょうが」

 

 「いや、不自然にもなるって。よっちゃんの本性を知ってる身としては、その優雅なキャラが気持ち悪くて仕方ないんだけど」

 

 「酷い!?女の子に『気持ち悪い』とか言うんじゃないわよ!?」

 

 「『初対面で下劣だの下等だの言うような奴は、女子としてカウントされない』って、初めて会った時に言ったじゃん」

 

 「あのルールまだ適用されてたの!?」

 

 小声でひそひそと話し合っていると・・・

 

 「あ、天くん!」

 

 「おはよー!」

 

 クラスの女子達が声をかけてくれる。手を上げて応える俺。

 

 「おはy・・・」

 

 「おはよう♪」

 

 一瞬で優雅キャラの皮を被ったよっちゃんが、にこやかに女子達に笑いかける。

 

 「お、おはよう・・・」

 

 「えーっと、津島さん・・・だよね?」

 

 「えぇ、そうよ」

 

 戸惑う女子達に対し、笑みを浮かべて答えるよっちゃん。

 

 「今までずっと休んでいたんだけど、今日からまた学校に通えることになったの。これからよろしくね」

 

 「う、うん・・・」

 

 「よ、よろしく・・・」

 

 おずおずと答える女子達。

 

 よっちゃんは微笑むと、そのまま優雅な足取りで坂道を上っていく。

 

 「津島さん、雰囲気変わった・・・?」

 

 「あんな子だったっけ・・・?」

 

 「気にしないで。久しぶりの学校に浮かれてるだけだから」

 

 「そ、そうなんだ・・・」

 

 とりあえずそういうことにしておく。

 

 ちなみに言っておくと、クラスメイト達は皆あの自己紹介の時のことを覚えている。あんなにインパクトの強すぎる自己紹介、そうそうお目にかかれないし。

 

 それだけにあの優雅なキャラが逆に違和感バリバリだということに、よっちゃんは未だに気付いていないらしい。

 

 「そのうち素が出ると思うから、今は優しく見守ってあげて。っていうか、素が出ちゃっても温かい目で見守ってあげて」

 

 「わ、分かった・・・」

 

 「何か天くん、津島さんの保護者みたい・・・」

 

 そんな話をしていると、よっちゃんが途中でこちらを振り向いた。

 

 「天、何をしているの?早く行きましょう?」

 

 「はいはい・・・じゃ、よろしくね」

 

 「「り、了解・・・」」

 

 何とか二人の理解を得られたところで、小走りでよっちゃんに追い付く。

 

 「見た!?ねぇ見た!?私メッチャ自然に会話してたわよね!?」

 

 「ウン、ソウダネ」

 

 「いける!いけるわ!この調子なら上手くやれる!リア充になれる!」

 

 「頑張ッテ。応援シテルヨ」

 

 「ありがとう天!私頑張る!」

 

 俺がカタコトで返事をしていることにも気付かず、やる気に満ち溢れているよっちゃん。

 

 自分では自然だと思っているようだが、ここは不自然さを指摘すべきなのか・・・

 

 「さぁ、行くわよ天!私達の教室へ!」

 

 俺の手を掴み、満面の笑みで歩き出すよっちゃん。そんな楽しそうなよっちゃんを見ていたら、俺は何も言えなくなってしまった。

 

 「・・・まぁ良いか」

 

 よっちゃんが笑顔でいられるなら、それに越したことはない。

 

 俺は苦笑しつつ、よっちゃんに引っ張られるがままに歩き出すのだった。




どうも~、ムッティです。

梶裕貴さん、竹達彩奈さん、ご結婚おめでとうございます!

いやぁ、ビックリしました(゜ロ゜)

梶さんと竹達さんといえば、個人的には『ハイスクールD×D』を思い出しますね。

まさかイッセーと小猫ちゃんがねぇ…

本当におめでたいことですね(^^)

末永くお幸せに(・∀・)ノ

あ、次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自分を変えるというのは簡単ではない。

梅雨ってホントに憂鬱・・・

暑い上に雨とか最悪すぎる・・・


 「な、何がどうなっているずら・・・」

 

 「ぴぎぃ・・・」

 

 唖然としている花丸とルビィ。

 

 その視線の先では、よっちゃんがクラスメイト達とにこやかに会話していた。

 

 「善子ちゃん、キャラが全然違うずら・・・」

 

 「堕天使ヨハネは封印して、優雅な女子高生でいくらしいよ。『あの時みたいな過ちは犯さないわ!』って意気込んでたけど」

 

 「確かに似合ってるよね。津島さん美人だし」

 

 そんなことを言うルビィ。

 

 確かによっちゃんは美人だし、何も知らない人なら違和感も無くあのよっちゃんを受け入れるだろうな。

 

 「でも善子ちゃんの中で堕天使ヨハネは、自分の一部として昇華されてるはずずら。それを完全に封印できるとは思えないずら」

 

 「俺もそう思うんだよね・・・」

 

 そんな俺達の会話をよそに、よっちゃん達は楽しそうに談笑を続けていた。

 

 「ねぇねぇ、津島さんって趣味とか無いの?」

 

 「し、趣味・・・?」

 

 あ、よっちゃんが詰まった。ここで堕天使関連のことを口には出来ない・・・

 

 さて、どうする?

 

 「う、占いをちょっと・・・」

 

 「ホント!?」

 

 「すごーい!」

 

 色めきたつクラスメイト達。よっちゃん、占いなんて出来たのね・・・

 

 「私占ってくれる!?」

 

 「私も私も!」

 

 「良いよ!」

 

 笑顔で答えるよっちゃん。皆が盛り上がってくれたのが嬉しかったらしい。

 

 「今占ってあげるね!」

 

 よっちゃんはそう言うと・・・おもむろに黒い衣装に身を包み、魔法陣のようなものが書かれた布を床に広げ始めた。

 

 えっ・・・

 

 「これで良し!」

 

 シニヨンに黒い羽を刺し、蝋燭を取り出してクラスメイトに差し出すよっちゃん。

 

 「はい、火をつけてくれる?」

 

 「へっ?あ、うん・・・」

 

 よっちゃんから渡されたチャッカマンで、蝋燭に火をつけるクラスメイト。

 

 学校に何を持ってきてんのよっちゃん・・・

 

 「天界と魔界に蔓延る遍く精霊、煉獄に堕ちたる眷属達に告げます。ルシファー、アスモデウスの洗礼者・・・堕天使ヨハネと共に、堕天の時が来たのです!」

 

 「・・・どこが占い?」

 

 思わずツッコミを入れてしまう俺。よっちゃんは正気に戻ったのか、大量の冷や汗をかいていた。

 

 あーあ・・・

 

 「ピ・・・ピ~ンチッ!?」

 

 教室から逃走していく堕天使・・・あれ、何かデジャヴだわ。

 

 「皆さ~ん、席に着いて・・・って津島さん!やっと登校してきてくれたんですね!」

 

 「うわああああああああああんっ!」

 

 教室に入ってこようとした赤城先生を押し退け、ダッシュで逃げて行くよっちゃん。

 

 「ちょ、津島さん!?どこへ行くんですか!?」

 

 「赤城先生、ストップ」

 

 追いかけようとする赤城先生の肩を掴む俺。

 

 「絢瀬くん!?何があったんですか!?」

 

 「何も無いですよ。自爆テロがあっただけです」

 

 「重大事件が発生してるじゃないですか!?怪しげな黒い布と火のついた蝋燭があるのは何でですか!?」

 

 「犯人の遺品です。花丸、蝋燭の火消して」

 

 「了解ずら」

 

 蝋燭の火を吹き消す花丸。さて・・・

 

 「とりあえず犯人を捕まえてくるんで、先生はそれを使って占いでもやってて下さい」

 

 「占い!?これで占い!?」

 

 ツッコミを連発している赤城先生をスルーして、よっちゃんを捕獲すべく教室を飛び出した俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「どうして止めてくれなかったのよおおおおおっ!?」

 

 部室の机の下で体育座りをしながら、両手で顔を覆っているよっちゃん。

 

 あの後すぐによっちゃんを捕獲したものの、本人が教室に戻ることを頑なに拒否。

 

 仕方ないので保健室で預かってもらい、昼休みによっちゃんの気分転換を兼ねて部室に連れてきたのだった。

 

 「いやぁ、あんな物を持ってきてるとは思わなくて・・・」

 

 「私は中学の時まで、『自分は堕天使だ』と思ってた重度の中二病患者よ!?舐めんじゃないわよ!」

 

 「何で偉そうにしてるずら・・・」

 

 呆れている花丸。っていうか、重度の中二病患者っていう自覚はあるのね・・・

 

 「つまり、中学の頃の癖が抜け切ってないってこと?」

 

 「・・・そういうこと」

 

 ルビィの問いに頷くよっちゃん。

 

 「分かってるの、自分が堕天使のはずなんてないって・・・そもそもそんなもんいないんだし・・・」

 

 「だったらどうしてあんな物学校に持って来たの?」

 

 机の上に置かれた蝋燭や黒い布を見る梨子さん。

 

 「それはまぁ、ヨハネのアイデンティティみたいなもので・・・あれが無かったら、私は私でいられないっていうか・・・ハッ!?」

 

 ヨハネ化しかけたところで、ハッと我に返るよっちゃん。

 

 堕天使ヨハネは、本当によっちゃんの一部として昇華されているらしい。

 

 「・・・何か心が複雑な状態にあるということは、よく分かった気がするわ」

 

 溜め息をつく梨子さん。難儀だなぁ・・・

 

 「だね。実際今でも、ネットで占いやってるみたいだし」

 

 曜さんがパソコンを操作し、ある動画を再生する。

 

 そこに映っていたのは、堕天使の衣装に身を包んだよっちゃんだった。

 

 『フフッ、またヨハネと堕天しましょ・・・?』

 

 「うわあああああっ!?」

 

 慌ててパソコンを閉じるよっちゃん。あの無駄に凝った衣装は、これに使う為の物だったのね・・・

 

 「とにかくっ!私は普通の高校生になりたいのっ!」

 

 「普通になる理由は何があるんでしょうか?堕天使じゃダメなんでしょうか?」

 

 「蓮●かっ!『2位じゃダメなんでしょうか?』みたいに言わないでくれる!?」

 

 「んー、じゃあ俺のことを『お兄様』って呼んでみたら?」

 

 「それ『魔●科高校の劣等生』でしょうが!」

 

 「いや、妹の方だから優等生でしょ」

 

 「どっちでも良いわ!そもそもあの兄妹のどこが普通の高校生なのよ!?」

 

 「自分のことを『堕天使ヨハネ』とか名乗らないところだよ」

 

 「うわあああああん!?」

 

 机に突っ伏すよっちゃん。やれやれ・・・

 

 「そんなに普通の高校生になりたいの?」

 

 「なりたいに決まってるでしょ!?」

 

 涙目でずいっと俺に顔を近付けてくるよっちゃん。

 

 「天ぁ・・・何とかしてよぉ・・・!」

 

 「はいはい、泣かないの」

 

 よっちゃんの頬に手を当て、目元の涙を親指で優しく拭う。

 

 よっちゃんを普通の高校生にねぇ・・・

 

 「・・・可愛い」

 

 「え・・・?」

 

 ボソッと呟く声が聞こえる。振り向くと、千歌さんがパソコンに映し出されたよっちゃんをマジマジと見つめていた。

 

 「千歌さん・・・?」

 

 「これだ・・・これだよっ・・・!」

 

 千歌さんは勢いよく立ち上がると、よっちゃんの手を力強く握った。

 

 「津島善子ちゃん・・・いや、堕天使ヨハネちゃん!」

 

 目をキラキラ輝かせている千歌さん。あっ、これは・・・

 

 「スクールアイドル、やりませんか!?」

 

 「・・・え?」

 

 「・・・言うと思った」

 

 訳が分からないといった表情のよっちゃん。その隣で溜め息をつく俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

今回はちょっと短めでした。

果たしてよっちゃんは普通の高校生になれるのか・・・

個人的には●舫さんの有名な言葉を出せたので満足です(笑)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

追い込まれた人は何をしでかすか分からない。

あー、旅行に行きたい・・・

思いっきり羽を伸ばしたい・・・


 「こ、これで歌うの・・・?」

 

 モノクロの衣装に身を包んだ梨子さんが、しきりにスカートを気にしている。

 

 放課後、俺達は千歌さんの家へとやってきていた。何でも千歌さんが、ランキングを上げる為の良い考えを思いついたらしい。

 

 ホントかなぁ・・・

 

 「この前より短い・・・これでダンスしたら、流石に見えるわ・・・」

 

 「マジですか。じゃあちょっとダンスしてみて下さい」

 

 「話聞いてた!?見えるって言ってるでしょうが!」

 

 「良いじゃないですか。俺はもう見てるんですし」

 

 「あああああっ!?聞こえないっ!何も聞こえないっ!」

 

 しゃがみ込んで耳を塞ぐ梨子さん。やれやれ・・・

 

 「っていうか曜さん、よくこんな衣装ありましたね」

 

 「いやー、色々と試作品を作ってたんだよねー!花丸ちゃんとルビィちゃんも加わったし、次の衣装を考えてたら作業が捗っちゃってさー!」

 

 鏡の前で嬉々として衣装を眺めている曜さん。ホントに衣装が好きだな・・・

 

 「それで千歌さん、良い考えっていうのは・・・」

 

 「よくぞ聞いてくれました!」

 

 腕を組み、ふんぞり返る千歌さん。

 

 「ズバリ!Aqoursは堕天使アイドルでいこうと思います!」

 

 「地獄に堕ちろ、単細胞オレンジヘッド」

 

 「段々と罵倒が酷くなってきてるのは気のせい!?」

 

 「それだけ千歌さんへの信頼が無くなってきてる証拠です」

 

 「酷い!?」

 

 ショックを受けている千歌さん。いや、堕天使アイドルって・・・

 

 「それのどこが良い考えなんですか・・・」

 

 「調べてみたけど、堕天使アイドルっていなかったんだよ。結構インパクトあると思うし、良いんじゃないかな?」

 

 「・・・まぁインパクトはあるでしょうね」

 

 この前まで正統派アイドル路線だったのに、急に大きく路線を外れて堕天使アイドルだもんな・・・

 

 確かに、見てる方からすると衝撃は大きいと思う。

 

 「な、何か恥ずかしい・・・」

 

 「落ち着かないずら・・・」

 

 普段着ない衣装を着ているせいか、モジモジしているルビィと花丸。

 

 っていうか花丸、それ以上スカートを持ち上げないで。見えるから。ワ●メちゃんみたいになるから。

 

 「ほ、本当にこれで良いの・・・?」

 

 堕天使の衣装に身を包んだよっちゃんが、おずおずと尋ねる。

 

 あのよっちゃんでさえそんなことを言う時点で、俺達がいかに迷走しているかが分かるな・・・

 

 「これで良いんだよ!ステージ上で堕天使の魅力を皆で思いっきり振りまくの!」

 

 「堕天使の・・・魅力・・・」

 

 あっ、よっちゃんの心が揺れてる・・・

 

 「ハッ!?ダメダメ!そんなのドン引かれるに決まってるでしょ!?」

 

 おっ、正常な思考を取り戻したようだ。

 

 「大丈夫だよ!きっと大人気だよ!」

 

 「だ、大人気・・・ククッ・・・クククッ・・・」

 

 あぁ、完全に堕ちたな・・・ダメだこりゃ・・・

 

 「ハァ・・・私、ちょっとお手洗いに行ってくるわね」

 

 溜め息をついて、部屋から退出する梨子さん。梨子さん的には、あまり賛成できるアイデアではなかったようだ。

 

 「よーし!堕天使アイドルとして頑張るぞー!」

 

 「「おー!」」

 

 意気込む千歌さんと、ノリノリな曜さんとよっちゃん。花丸とルビィは苦笑しているところを見ると、梨子さん寄りの考えみたいだ。

 

 ここは一言言っておくべきか・・・

 

 「千歌さん、一つ忠告しておきますね」

 

 「忠告?」

 

 首を傾げる千歌さん。何のことか分かっていないらしい。

 

 「本当に堕天使アイドルとしてやっていきたいのなら、別に止めはしません。ですが、ただランキングを上げたいという理由でやろうとしているのなら・・・路線変更はオススメできません」

 

 「え、何で?」

 

 「意味が無いからです」

 

 バッサリ切り捨てる俺。

 

 「Aqoursは美少女揃いですから、堕天使アイドルも最初は人気が出るでしょう。恐らくランキングも上がります」

 

 「ホント!?じゃあ・・・」

 

 「ですが、それは一時的なものですよ。目新しさが無くなってしまえば、また元に戻るのがオチです。そしてまた目新しさを求めて、路線変更を繰り返す・・・そうなってしまったら、相当苦しくなるでしょうね」

 

 「そ、そんな・・・」

 

 「やるんだったら、最後まで貫く必要があります。今の路線を貫くのか、堕天使アイドルを貫くのか・・・目先のことだけ考えて動くと、後々痛い目を見ますよ」

 

 「うっ・・・」

 

 言葉に詰まる千歌さん。と、その時・・・

 

 「嫌ああああああああああっ!?」

 

 廊下から梨子さんの悲鳴が聞こえた。えっ、何事?

 

 「来ないでええええええええええっ!?」

 

 「わんわんっ!」

 

 「ちょ、しいたけ!?」

 

 しいたけから逃げる梨子さんと、しいたけを止めようとする美渡さんの姿が障子越しに映った。

 

 あー、梨子さんって犬が苦手なのか・・・

 

 「梨子ちゃん大丈夫!しいたけは大人s・・・うわっ!?」

 

 部屋の襖をぶち破り、梨子さんが部屋に飛び込んでくる。

 

 そして障子もぶち破り、窓から向かい側にある自分の家のベランダへとジャンプした。

 

 「梨子さん!?」

 

 慌てて窓へ駆け寄ると、梨子さんが空中で一回転しながらベランダに着地するところだった。

 

 何あの人、凄くない?

 

 「「「「「「「おぉ・・・!」」」」」」」

 

 思わず拍手する俺達。流石は女帝、そこに痺れる憧れる。

 

 「いったぁ・・・」

 

 着地の際にお尻を打ったらしく、梨子さんが痛そうにお尻を擦っている。

 

 「梨子さーん、大丈夫ですかー?」

 

 「大丈夫じゃないわよ!?何で私はこんな目に遭ってるの!?」

 

 「日頃の行いが悪いんですね、分かります」

 

 「喧嘩売ってる!?お尻も痛いし最悪よ!」

 

 「いや、お尻もそうですけど・・・もっと気にしなくちゃいけないことがあるでしょ」

 

 「気にしなくちゃいけないこと?」

 

 首を傾げている梨子さん。あー、気付いてないのか・・・

 

 「梨子さん、今どんな格好してます?」

 

 「どんなって・・・さっきの衣装を着てるけど?」

 

 「その衣装ってスカートですよね?」

 

 「そうだけど?」

 

 「さっきその衣装、スカートが短いって言ってましたよね?」

 

 「そうそう。これでダンスしたら、流石に見え・・・る・・・」

 

 梨子さんの顔がどんどん赤くなっていく。ようやく気付いたようだ。

 

 「そ、天くん・・・?」

 

 「何でしょう?」

 

 「ま、まさかとは思うけど・・・み、見てないわよね・・・?」

 

 恐る恐る尋ねてくる梨子さんを安心させるべく、俺はニッコリ笑った。

 

 「大丈夫ですよ。『今日は白かぁ・・・やっぱり梨子さんは清楚だなぁ・・・』なんて思ってませんから」

 

 「嫌ああああああああああっ!?」

 

 窓を開け、家の中に逃げていく梨子さん。耳まで真っ赤になっていた。

 

 「あっ、梨子ちゃんのメンタルがやられた・・・」

 

 「天くん、そこは見てないフリしなくちゃ・・・」

 

 「危ないマネをした梨子さんに対する、ちょっとした罰ですよ」

 

 しいたけを撫でながら答える俺。

 

 「とりあえず、梨子さんを回収してきますね。曜さんは千歌さん達の衣装を合わせてあげて下さい」

 

 「了解。梨子ちゃんは任せたよ」

 

 「任されました」

 

 衣装のことは曜さんに任せ、梨子さんを回収すべく桜内家へと向かう俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あら天くん、いらっしゃい」

 

 「こんにちは、奈々さん」

 

 『十千万』の隣にある桜内家を訪ねると、梨子さんのお母さんである桜内奈々さんが出迎えてくれる。

 

 桜内家には何度かお邪魔したことがあり、その度に奈々さんには良くしてもらっていた。

 

 「ごめんなさい、梨子は今いないのよ。千歌ちゃんの家に行くんですって」

 

 「その千歌さんの家から脱走したので、捕獲しに来たんです」

 

 「いや、脱走って・・・どこに?」

 

 「ここです。千歌さんの家の窓から、この家のベランダに飛び移ってました」

 

 「何してるのあの子!?」

 

 「いやぁ、信じられませんよね・・・あの跳躍力」

 

 「そこじゃないわよ!?」

 

 とりあえず家に上げてもらう。二階へと上がり、梨子さんの部屋の前に立つと・・・

 

 『うぅ・・・また見られた・・・もう本当にお嫁に行けない・・・』

 

 梨子さんの声が聞こえてくる。あー、ダメージ受けてるなぁ・・・

 

 「何か凄く落ち込んでるんだけど・・・何があったの?」

 

 「聞かないであげて下さい。本人の名誉の為に」

 

 「そこまで!?」

 

 とりあえずドアをノックしてみる。

 

 「ちわー、三河●でーす」

 

 『えぇっ!?天くんっ!?』

 

 部屋の中でドタバタ音がする。

 

 『ど、どうしてここにっ!?』

 

 「犯人に告ぐ。この部屋は完全に包囲されている。大人しく出てきなさい」

 

 『誰が犯人よ!?立てこもり犯みたいな扱いしないでくれる!?』

 

 「こんなことして・・・田舎のお袋さんが泣いてますよ」

 

 『田舎じゃなくてこの家にいるんだけど!?』

 

 「しくしく・・・梨子、罪を償って・・・しくしく・・・」

 

 『お母さん!?何でノッてるの!?』

 

 「ほら、千歌さん達のところに戻りましょう?皆待ってますから」

 

 『うぅ・・・』

 

 ドアがゆっくり開き、赤い顔をした梨子さんが出てきた。

 

 「全く・・・窓からジャンプした時は肝が冷えましたよ」

 

 「うっ・・・ごめんなさい・・・」

 

 「しいたけは大人しい犬ですから、落ち着いて接してあげれば大丈夫ですよ。まぁ身体が大きいんで、犬が苦手な人にとっては怖いかもしれませんけど」

 

 「うぅ・・・」

 

 涙目の梨子さん。よほど犬が怖いらしい。

 

 「とりあえず美渡さんに頼んで、しいたけは繋いでおいてもらいましたから。もう梨子さんを追いかけたり出来ませんよ」

 

 梨子さんの頭を撫でる。

 

 「あっ・・・」

 

 「俺も一緒にいますから、安心して下さい」

 

 「・・・うん」

 

 俯く梨子さん。耳まで赤くなっているのは何故だろう?

 

 「フフッ、梨子ったら照れちゃって♪」

 

 「ちょ、お母さん!?何言ってるの!?」

 

 「はいはい、邪魔者は退散するから。じゃあ天くん、梨子をよろしくね」

 

 「了解です」

 

 ニヤニヤしながら階段を下りていく奈々さん。良いキャラしてるなぁ・・・

 

 「さて、俺達も行きましょうか」

 

 先に階段を下りようとすると、梨子さんが俺の手を掴んだ。

 

 「梨子さん・・・?」

 

 「・・・手、握ってて良い?」

 

 「・・・どうぞ」

 

 梨子さんの手を握り返す。これで梨子さんが安心できるのなら、お安い御用だ。

 

 「あ、それから・・・さっき見たものは忘れなさい。良いわね?」

 

 「アッハイ」

 

 やはり女帝には逆らえない俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

この作品、完全に梨子ちゃんがラッキースケベ要員と化しているような・・・

いや、きっと気のせいだと信じたい←

ところで、梨子ちゃんのお母さんの名前ですが・・・

えぇ、そうです。中の声優さんのお名前です。

善子ちゃんのお母さんを『善恵』にしたので、『梨香』とか『梨奈』とか色々と考えたんですけどね。

選ばれたのは『奈々』様でした( ´∀`)

次話は明日投稿したいと思います。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

熱くなると周りが見えなくなるものである。

先に謝罪しておきます。

ダイヤさん推しの方々、大変申し訳ありません・・・


 翌日・・・

 

 『ハァイ♪伊豆のビーチから登場した待望のニューカマー、ヨハネよ。皆で一緒に・・・堕天しない?』

 

 『『『『『しない?』』』』』

 

 「・・・やってしまった」

 

 落ち込んでいる梨子さん。

 

 『とりあえずやってみよう』という千歌さんの号令により、堕天使アイドルっぽい感じでPR動画を撮影したのだが・・・

 

 「何というか・・・よっちゃん以外似合ってませんね、このキャラ」

 

 「そう?結構カッコ良くない?」

 

 ウキウキしている千歌さん。

 

 撮影した動画は既にネットにアップしており、俺達は部室でその反響を確かめているところだった。

 

 「えーっと、Aqoursの順位は・・・953位です」

 

 「嘘!?」

 

 「ホントに!?」

 

 慌ててパソコンに群がる皆。一気に上がったな・・・

 

 「コメントもたくさん来てますね。『ルビィちゃんと一緒に堕天する!』、『ルビィちゃん最高!』、『ルビィちゃんのミニスカートがとても良いです!』、『ルビィちゃんの笑顔が素敵すぎる!』、『ルビィちゃん、ハァハァ・・・』」

 

 「いやぁ、そんなぁ・・・」

 

 照れているルビィ。こうしてみると、ルビィの人気が凄いな・・・

 

 最後のコメントは通報して良いと思うけど。

 

 「まぁ確かに、このPR動画を見たらこうなるよなぁ・・・」

 

 俺はもう一つの動画を再生する。そこには・・・

 

 『ヨハネ様のリトルデーモン四号、黒澤ルビィです・・・一番小さい悪魔だけど・・・可愛がってね?』

 

 モジモジしながらポーズを決める、衣装に身を包んだルビィの姿があった。

 

 「・・・・・」

 

 「そ、天くん?何で無言でルビィの頭を撫でてるの?」

 

 「いや、何かもう可愛すぎて・・・俺の妹にならない?」

 

 「同い年だよねぇ!?」

 

 ヤバいわこの子、破壊力抜群だわ。ハートをズッキュンされたわ。

 

 一方千歌さんは、ランキングが上がったことにテンションが上がっていた。

 

 「凄いじゃん!堕天使アイドルいけるよ!」

 

 「フッ・・・堕天使ヨハネの力をもってすれば、これくらい造作も無いこと・・・」

 

 「オイそこの堕天使、普通の高校生になりたい願望はどこへいった?」

 

 「ハッ!?」

 

 正気に戻るよっちゃん。全く・・・

 

 「だから言ったでしょう。ランキングは上がるって」

 

 「うん、メッチャ上がったね!」

 

 「そしてこうも言ったはずです。それは一時的なものだと」

 

 千歌さんに釘を刺しておく。

 

 「このまま本格的に堕天使アイドルでやっていくのかは、よく考えた方が良いですよ。昨日も言いましたけど、目先のことだけ考えて動くと後々痛い目を見ますからね」

 

 「天くん・・・ルビィちゃんを撫でながら言われても、説得力が無いんだけど」

 

 「・・・やめられない、とまらない」

 

 「か●ぱえびせん!?」

 

 髪がサラサラで、撫でていてとても心地良い。

 

 これはヤバい・・・あっ。

 

 「ヤバいといえば・・・そろそろかな」

 

 「何が?」

 

 首を傾げるルビィ。その時、校内放送が流れた。

 

 『スクールアイドル部!今すぐ生徒会室に来なさい!』

 

 ダイヤさんの怒声が流れる。皆冷や汗ダラダラだった。

 

 「えーっと・・・天くん?」

 

 「PR動画、ダイヤさんもチェックしたみたいですね。正統派アイドルを好むダイヤさんからすれば、堕天使アイドルは邪道・・・まぁ怒るでしょうね」

 

 「それを先に言ってよ!?雷が落ちるの確定じゃん!?」

 

 「千歌さんのアホ毛を避雷針代わりに使えません?」

 

 「無理だよ!?」

 

 頭を抱える千歌さんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「Oh!Pretty bomber head!」

 

 「これのどこがプリティですの!?こういうものは破廉恥というのですわ!」

 

 PR動画を見て歓声を上げる小原理事長に対し、完全に激怒しているダイヤさん。

 

 案の定、俺達は生徒会室でダイヤさんに説教されていた。

 

 「いやぁ、そういう衣装というか・・・」

 

 「キャラというか・・・」

 

 「ああん!?」

 

 「「ヒィッ!?」」

 

 言い訳をする千歌さんと曜さんだったが、ダイヤさんに睨まれて悲鳴を上げる。

 

 だからよく考えろって言ったのに・・・

 

 「ルビィにこんな格好をさせて注目を浴びようなどと・・・!」

 

 「ごめんなさい、お姉ちゃん・・・」

 

 「・・・まぁ良いですわ」

 

 あ、ルビィが謝ったら怒りが収まった。やっぱりこの人シスコンなのね。

 

 「とにかく『キャラが立ってない』とか『個性が無いと人気が出ない』とか、そういう狙いでこんなことをするのはいただけませんわ」

 

 「良いぞー、ダイヤさん。もっと言ってやれー」

 

 「天くん!?どっちの味方なの!?」

 

 「黒澤ダイヤ先生ですが?」

 

 「まさかの先生呼び!?」

 

 「でも、一応順位は上がったし・・・」

 

 曜さんが少し食い下がると、ダイヤさんが溜め息をついた。

 

 「そんなもの一瞬に決まっているでしょう?今のランキングを見てみると良いですわ」

 

 パソコンを差し出すダイヤさん。パソコンを受け取り、サイトを開いてみると・・・

 

 「・・・1526位ですね」

 

 「嘘!?もうそんなに下がったの!?」

 

 「だから言ったでしょう?本気で目指すのならどうすればいいか、もう一度考えることですわね!」

 

 再び怒りがこみ上げてきたのか、口調が強くなるダイヤさん。

 

 「そもそも高校生にもなって『堕天使』だなんて、正気とは思えませんわ!」

 

 「っ・・・」

 

 唇を噛むよっちゃん。マズいな・・・

 

 「ダイヤさん、もうその辺で・・・」

 

 やんわり制止しようとするが、ダイヤさんは止まらなかった。

 

 「あまりにも痛々しいですわ!いい歳して何を考えているんですの!?」

 

 「分かりましたから、少し落ち着いて・・・」

 

 「このような幼稚な振る舞いをするなど、スクールアイドルの恥晒s・・・」

 

 

 

 「黙れって言ってんだろうがッ!」

 

 

 

 「っ!?」

 

 大声で怒鳴った瞬間、ダイヤさんがビックリして言葉を失った。千歌さん達や小原理事長でさえ驚いていた。

 

 「そ、天さん・・・?」

 

 「・・・生徒会長ともあろうお方が、言って良いことと悪いことの区別もつかないんですか?」

 

 ダイヤさんに冷ややかな視線を向ける俺。

 

 「・・・今回の件は、千歌さんを止められなかった自分に責任があります。それに関しては本当に申し訳ありませんでした」

 

 「そ、天くんのせいじゃないよっ!元はと言えば私がっ!」

 

 「下がってて下さい。邪魔です」

 

 慌てて割り込んでくる千歌さんを睨みつけ、後ろへと下がらせる。

 

 「ですが・・・『堕天使』そのものを否定される謂れはありません。『正気とは思えない』だの『痛々しい』だの『幼稚な振る舞い』だの・・・ずいぶん好き勝手に言ってくれるじゃないですか」

 

 ふつふつと怒りが湧き上がる中、ダイヤさんに怒りの言葉をぶつける。

 

 「おまけにさっき何を言いかけました?『恥晒し』?頑張ってスクールアイドル活動をしている人達に向かって、ずいぶんな言い様ですね?」

 

 「わ、私はただ・・・」

 

 「ただ、何ですか?まさか『貴女達の為を思って』とでも仰るつもりですか?だとしたら余計なお世話ですよ」

 

 「そ、天!少し落ち着いて・・・」

 

 「人を脅すことしか出来ないヤツはすっこんでろ」

 

 間に入ってこようとした小原理事長も黙らせる。俺はダイヤさんに詰め寄った。

 

 「そんなに人を馬鹿にして楽しいんですか?そうやって人を見下すことで、優越感に浸りたいんですか?」

 

 「ち、違いますわ!そんなつもりは・・・」

 

 「アンタにそんなつもりが無くてもッ!こっちはそうとしか受け取れねぇんだよッ!」

 

 「もう止めてッ!」

 

 背中に衝撃を受ける。よっちゃんが俺の背中に抱きついていた。

 

 「もう、いいからっ・・・十分だからっ・・・!」

 

 「っ・・・」

 

 泣いているのか、よっちゃんの身体は震えていた。それを感じ、頭がスーッと冷えていく。

 

 何をやってるんだ、俺は・・・

 

 「・・・ゴメン。もう大丈夫」

 

 身体に回されたよっちゃんの腕を優しく叩く。俺から離れるよっちゃん。

 

 やっぱり泣いてたか・・・

 

 「・・・ありがとう。おかげで頭が冷えたよ」

 

 「・・・柄にも無くブチギレてんじゃないわよ」

 

 目元の涙を拭うよっちゃん。

 

 「でも・・・ありがと」

 

 「・・・もう行こっか」

 

 俺はダイヤさんの方を振り向き、深々と頭を下げた。

 

 「・・・お騒がせして、申し訳ありませんでした」

 

 「天さん・・・」

 

 ダイヤさんは何か言いたそうにしていたが、俺はそれを無視して千歌さん達へと視線を移した。

 

 「千歌さん達も行きましょう。話は終わったみたいですし」

 

 「う、うん・・・」

 

 戸惑いながらも、気遣わしげにダイヤさんの方を見る千歌さん。

 

 俺はよっちゃんの手を引いて、生徒会室を後にするのだった。




どうも~、ムッティです。

前書きでも述べましたが・・・

ダイヤさん推しの方々、大変申し訳ありません・・・

いや、決してアンチではないんです(鞠莉ちゃんも含めて)

ちょっと喧嘩?をさせたかっただけなんです。

ダイヤさんとはこの後すぐ和解する予定ですので、どうかご安心を・・・

鞠莉ちゃんは・・・もう少し後になるかと思います。

ダイヤさん及び鞠莉ちゃん推しの方々、本当に申し訳ございません。

ちゃんと和解する予定ですので、今しばらくお待ちいただけると幸いでございます。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大切に想うからこそ言えない言葉がある。

完全に風邪をひいた・・・

まさかこの時期に風邪をひくとは・・・


 「・・・ハァ」

 

 屋上で寝転がりながら、溜め息をつく俺。

 

 少し一人になりたかったので、こうして屋上に出てきたのだが・・・やはり気分は晴れなかった。

 

 「何で怒鳴っちゃったかなぁ・・・」

 

 「ホントにね。らしくなかったわよ」

 

 独り言を呟くと、思わぬ返事が返ってきた。空しか映っていなかった俺の視界に、よっちゃんの顔が現れる。

 

 「意外だったわ。天でもあんなに怒ったりするのね」

 

 「人間だもの」

 

 「相田み●をかっ!」

 

 ツッコミを入れてくるよっちゃん。相変わらず、良いツッコミではあるんだけど・・・

 

 「よっちゃん」

 

 「何よ?」

 

 「そこに立ってると、スカートの中が丸見えだよ?」

 

 「ッ!?」

 

 慌てて俺から離れるよっちゃん。

 

 俺の顔の横に立っていた為、寝転がっている俺からはよっちゃんのスカートの中が丸見えだったのだ。

 

 「天のスケベっ!変態っ!」

 

 「いや、こっちとしても不可抗力だったんだけど・・・普通スカートで人の顔の横に立ったりしないでしょ」

 

 「うぐっ・・・」

 

 「流石は堕天使ヨハネ、衣装だけじゃなくて下着まで黒とは・・・」

 

 「言わんでいいっ!」

 

 よっちゃんから蹴りが飛んできたので、転がって避ける。そのまま上体だけ起こし、俺はよっちゃんと向き合った。

 

 「よっちゃんこそ、少しは元気出た?」

 

 「っ・・・」

 

 俯くよっちゃん。

 

 ダイヤさんの言葉に一番ショックを受けていたのは、他ならぬよっちゃんだ。堕天使をあそこまで否定されたのだから。

 

 「・・・おいで」

 

 「・・・ん」

 

 隣の地面をポンポン叩くと、よっちゃんが大人しくそこに座った。

 

 「怒っちゃった俺が言うのもどうかと思うけど・・・ダイヤさんのこと、悪く思わないであげてね。よっちゃんのことを否定するつもりは無かっただろうから」

 

 「・・・分かってる。っていうか、あれが一般的な反応よ。むしろ堕天使を受け入れてる天の方がおかしいわ」

 

 「友達のことを『おかしい』っていうの止めてくんない?」

 

 「事実でしょ」

 

 笑うよっちゃん。

 

 「でも・・・嬉しかった。受け入れてくれたことも、私の為に怒ってくれたことも・・・ホント、天には助けられてばかりね」

 

 よっちゃんはそう言うと、俺の肩に頭を乗せてきた。

 

 「・・・私、やっぱり堕天使は卒業する。普通の高校生になる」

 

 「・・・よっちゃんはそれで良いの?」

 

 「勿論。むしろ今回のことでスッキリしたわ。やっぱり高校生にもなって、堕天使なんて通じないもの」

 

 笑顔を見せるよっちゃん。その笑顔は、何だか寂しげなものだった。

 

 「スクールアイドルも止めておくわ。今回迷惑かけちゃったし、また迷惑かけちゃうのも申し訳ないから」

 

 「・・・そっか」

 

 本心ではないことは明らかだった。それでも、これはよっちゃんが選んだこと・・・そこに俺が口を挟むべきではない。

 

 俺はよっちゃんの頭を撫でた。

 

 「よっちゃんが笑顔でいられるなら・・・それが一番だから。堕天使とか関係無しに、俺はよっちゃんの友達だからね」

 

 「・・・うん」

 

 身を寄せてくるよっちゃん。

 

 「天に出会えて良かった・・・ありがとう」

 

 微笑むよっちゃん。

 

 俺達はしばらくの間、お互いに身を寄せ合いながら静かに時間を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「先程は見苦しいところをお見せして、申し訳ありませんでした」

 

 部室に戻った俺は、千歌さん達に対して深々と頭を下げていた。

 

 流石に熱くなりすぎたし、千歌さんに対しても失礼なことを言ったしな・・・

 

 「大丈夫だよ」

 

 千歌さんが微笑みながら、俺の頭を撫でてくる。

 

 「天くんが怒ったのは、津島さんの為でしょ?皆ちゃんと分かってるから」

 

 「そうだよ天くん。気にすることないよ」

 

 「だからほら、頭上げて。ねっ?」

 

 曜さんと梨子さんも声をかけてくれる。先輩方の優しさが心に沁みた。

 

 「・・・天くん」

 

 ルビィがおずおずと話しかけてくる。

 

 「その・・・お姉ちゃんのこと、嫌いにならないであげてほしいの。お姉ちゃんも、ちょっと熱くなっちゃっただけっていうか・・・津島さんのことを侮辱するつもりなんて、無かったと思うから」

 

 「・・・うん。分かってる」

 

 俺もさっき、よっちゃんに似たようなこと言ったしな。ダイヤさんに、よっちゃんを傷付ける意図は無かったはずだ。

 

 「ダイヤさんとも、一度ちゃんと話すから。心配かけてゴメンね、ルビィ」

 

 「うんっ!」

 

 ようやくルビィも笑顔を見せてくれた。と、花丸がキョロキョロと辺りを見回す。

 

 「ところで天くん、善子ちゃんはどこへ行ったずら?」

 

 「あぁ、よっちゃんなら帰ったよ」

 

 昨日から色々あって、よっちゃん的にも少し疲れてしまったらしい。気持ちの整理もしたいので、今日はもう帰るとのことだった。

 

 「もう堕天使は卒業するってさ。スクールアイドルもやめとくって」

 

 「えぇっ!?そんな!?」

 

 ショックを受けている千歌さん。一番熱心に誘ってたもんなぁ・・・

 

 「本人がそう言ってるんですから、仕方ないでしょう」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「堕天使だって、本当は卒業したくないんだと思います。でも、『普通の高校生になりたい』っていうのも本心でしょうし・・・」

 

 「どうして、堕天使だったのかな・・・?」

 

 ポツリと呟く曜さん。

 

 「どうしてあそこまで、堕天使に拘ってたのかな・・・?」

 

 「・・・マル、分かる気がします」

 

 花丸が口を開く。

 

 「ずっと、普通だったんだと思うんです。マル達と同じで、あまり目立たなくて・・・そういう時、思いませんか?『これが本当の自分なのかな?』って。『元々は天使みたいにキラキラしてて、何かの弾みでこうなっちゃってるんじゃないかな?』って」

 

 「・・・確かにそういう気持ち、あったかもしれない」

 

 梨子さんが呟く。

 

 『どうして自分はこうなのか』、『本当はもっと違う自分なんじゃないか』・・・俺もそう思ったことがたくさんあった。

 

 よっちゃんもそうなのかな・・・

 

 「幼稚園の頃の善子ちゃん、いつも言ってたんです。『私は本当は天使で、いつか羽が生えて天に帰るんだ』って。多分善子ちゃんもマルと一緒で、キラキラしたものに憧れてて・・・善子ちゃんにとっては、それが堕天使だったんだと思います」

 

 「憧れ、か・・・」

 

 自分の憧れたものに情熱を燃やし、全力でそれになりきる・・・俺の頭の中には、ある人の顔が浮かんでいた。

 

 「ホント・・・こっちに来てから、似たような人に出会うもんだな・・・」

 

 「天くん?どうかしたの?」

 

 「何でもないよ。こっちの話」

 

 ルビィの頭を優しく撫でる。今の花丸の話を聞くかぎり、このままではよっちゃんが笑顔でいられなくなってしまうだろう。

 

 さて、どうしたものか・・・

 

 「・・・やっぱり、諦められないよ」

 

 千歌さんが呟く。

 

 「私は津島さんと・・・いや、善子ちゃんと一緒にスクールアイドルがやりたい!」

 

 力強く言い切る千歌さん。全く、この人ときたら・・・

 

 「・・・流石ですね、リーダー」

 

 俺は苦笑しながら、ある決意を固めるのだった。




どうも~、ムッティです。

そろそろアニメ一期の第5話分の話が終わろうとしております。

もうずいぶん書いたような気がしていましたが、まだ一期の折り返しにすら届いていないという事実・・・

そして果南ちゃんが全然出ていないという事実・・・

第6話分の話で出せたら良いなぁ・・・

次話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大切に想うからこそ伝えたい言葉がある。

咳が止まらない・・・

久しぶりに風邪ひいたけど、やっぱり健康なのが一番だとつくづく思うわ・・・


 《善子視点》 

 

 「・・・これで良し」

 

 マンションのゴミ捨て場に段ボール箱を置きながら、私は小さく呟いた。

 

 この中には衣装を始め、堕天使関連のグッズが全て入っている。堕天使を卒業すると決めた私には、もう必要の無いものだ。

 

 「これで本当に卒業か・・・」

 

 本当は卒業なんてしたくない。でもこれ以上は、周りに迷惑をかけてしまう。

 

 ただでさえ今回、スクールアイドル部の皆に迷惑をかけてしまったのだ。それに・・・

 

 「天・・・」

 

 こんな私を受け入れてくれた、大切な友達の顔が浮かぶ。

 

 いつも穏やかで温厚なあの天が、私の為に生徒会長に対して本気で怒ってくれた。本当に嬉しかったけど・・・それと同時に、本当に申し訳なかった。

 

 天は生徒会長のことを、心から尊敬できる人だと言っていた。私がいつまでも堕天使を引きずっていたせいで、天は尊敬する生徒会長を怒鳴ってしまったのだ。

 

 これ以上天に迷惑をかけない為にも、堕天使は卒業しないといけない。私はこれからも、天とは友達でいたいから。

 

 「・・・バイバイ」

 

 小さく呟き、ゴミ捨て場を後にする。これで私は、堕天使を卒業・・・

 

 「本当にそれで良いの?」

 

 「っ!?」

 

 聞き覚えのある声に、慌てて視線を向ける。そこには・・・

 

 「天!?」

 

 私の大切な友達が立っていた。どうしてここに・・・

 

 「っていうかよっちゃん、ちゃんと分別した?捨てるにしてもちゃんと分別しないと、業者さんが困っちゃうよ?」

 

 「全部燃えるゴミだから大丈夫よ」

 

 「部屋にあったグッズの中に、明らかに燃えるゴミには出せないものもあった気がするんだけど?」

 

 「・・・火をつければ全部燃えんのよ」

 

 「シニヨン燃やすぞ中二病」

 

 「ごめんなさい」

 

 容赦の無いツッコミに、思わず謝ってしまう。

 

 「・・・何でアンタがここにいんのよ?」

 

 「善恵さんからラインきたんだよね。『善子が断捨離なう』って」

 

 「相変わらず人の母親と仲良しね・・・」

 

 そういえばこの間、『天くんが息子だったらなぁ・・・そうだ善子!天くんと結婚しなさい!そしたら天くんは私の息子になるわ!』とか言ってたわね・・・

 

 まぁ確かに、天が相手なら悪くないかも・・・って何考えてんのよ私!?

 

 「よっちゃん?何か顔が赤いけど大丈夫?」

 

 「な、何でもないわよ!それより何しに来たのよ!?」

 

 「いや、よっちゃんが堕天使を卒業する瞬間に立ち会おうかと思って。朝早くに来てスタンバってたんだよね」

 

 「・・・アンタねぇ」

 

 大方、私のことを心配してくれたんだろう。そんなことの為に、わざわざこんな時間にここまで来るなんて・・・

 

 ホント、バカなんだから・・・

 

 「・・・わざわざありがとね。私は大丈夫よ。もう堕天使は卒業するから」

 

 「・・・俺の目には、大丈夫そうには見えないけど」

 

 「っ・・・」

 

 見抜かれていた。こういう時の天は本当に鋭い。

 

 「俺はね、よっちゃん。よっちゃんの決めたことに、俺が口を挟むべきじゃないと思った。だから堕天使を卒業するって言った時、何も言わなかった。本当は卒業したくないんだって、分かってたのに」

 

 私から目を離さない天。

 

 「だからせめて、よっちゃんが堕天使を卒業するところに立ち会おうって。よっちゃんを一人にしたくなかったから、ここまで来た。でも・・・今のよっちゃんの顔を見て、やっぱり思ったよ。よっちゃんは堕天使を卒業すべきじゃない」

 

 「・・・ふざけないで」

 

 天を睨みつける。人の気持ちも知らないで・・・

 

 「私は普通の高校生になりたいの。ようやく・・・ようやく気持ちの整理をつけて、堕天使グッズを捨てにきたのに・・・何でそんなこと言うの?何で私の気持ちを踏みにじるようなことを言うのよ?」

 

 「じゃあよっちゃん・・・堕天使を卒業して、これから笑顔でいられる自信ある?」

 

 「っ・・・それは・・・」

 

 「・・・無いよね。やっぱり」

 

 寂しそうに笑う天。

 

 「言ったはずだよ、よっちゃん。よっちゃんが笑顔でいられるのが一番だって。大切な友達が、毎日を笑顔で過ごせないなんて・・・俺は嫌だから」

 

 「天・・・」

 

 「普通の高校生になりたいって気持ちを、否定してるわけじゃないよ。でも普通の高校生になることで、よっちゃんが笑顔でいられなくなるっていうなら・・・無理に堕天使を卒業してほしくない。そんな寂しそうなよっちゃん、見たくないから」

 

 「・・・バカ」

 

 天に歩み寄り、天の胸を叩く。

 

 「バカ、バカ、バカ・・・!」

 

 何度も胸を叩く。本当に、どうしてコイツはいつもいつも・・・!

 

 「何でそんな・・・私に優しくするのよぉ・・・!」

 

 天の胸に縋る。気付けば、涙が溢れて止まらなくなっていた。

 

 「何で・・・どうして・・・!」

 

 「・・・さっき言ったでしょ」

 

 優しい温もりに包まれる。天が私を抱き締めてくれていた。

 

 「よっちゃんは大切な友達だって。最初は花丸の友達だからとか、借りを返す為だとか言ってたけど・・・今はそれ以上に、よっちゃんの力になりたい気持ちが強いから」

 

 微笑む天。

 

 「堕天使ヨハネだって良いじゃん。それだってよっちゃんの・・・津島善子の一部なんだから。全部ひっくるめてよっちゃんだって、俺はそう思うよ」

 

 優しく頭を撫でられる。ホントにコイツは・・・

 

 「それに・・・そう思ってるのは俺だけじゃないよ」

 

 「え・・・?」

 

 「堕天使ヨハネちゃん!」

 

 大きな声が響き渡る。視線を向けると・・・堕天使の衣装を着たスクールアイドル部の五人が、笑顔で立っていた。

 

 「「「「「スクールアイドル部に入りませんか!?」」」」」

 

 「っ・・・」

 

 息を呑む私。アンタ達まで・・・

 

 「・・・良いの?変なこと言うわよ?」

 

 「良いよ」

 

 「時々、儀式とかするかもよ・・・?」

 

 「そのくらい我慢するわ」

 

 「リトルデーモンになれっていうかも・・・」

 

 「嫌だったら嫌だっていうずら」

 

 「ぴぎっ!」

 

 笑顔で頷いてくれる皆。と、私の背中に天の手が触れた。

 

 「思いっきり羽ばたくと良いよ。やりたいことをやったら良い。今のよっちゃんには、それが許されるんだから」

 

 「やりたいこと・・・」

 

 「憧れてるだけじゃなくて、今度は自分の手で掴みにいきなよ。ここで折れたら、堕天使ヨハネの名が泣くよ?」

 

 笑っている天。

 

 全く、そこまで言うのなら・・・やってやろうじゃない。

 

 「はい、これ」

 

 千歌さんが黒い羽を差し出す。これ、私の・・・

 

 「昨日部室に忘れていったよ。堕天使ヨハネのアイデンティティなんでしょ?」

 

 微笑む千歌さん。

 

 「一緒に頑張ろう?」

 

 「っ・・・うんっ!」

 

 手を伸ばし、黒い羽を掴む。そして頭のシニヨンに差した。

 

 「堕天使ヨハネ・・・ここに降臨っ!」

 

 「おぉ、この痛々しい感じ・・・まさによっちゃんって感じがするよ」

 

 「アンタ喧嘩売ってんの!?」

 

 「よっ、中二病患者」

 

 「やかましいわ!」

 

 そんなツッコミを入れながらも、気付けば自然と笑顔になっている私がいるのだった。




どうも~、ムッティです。

今回の話で、アニメ一期の第5話が終了・・・

ではありません。

次の話まで続きます。

それから第6話へ入っていこうと思いますので、よろしくお願い致します。

あと前書きでも述べましたが、思いっきり風邪をひきました。

皆さんも風邪にはお気を付け下さい。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心からの笑顔に勝るものはない。

今回の話で、アニメ一期第5話までの内容が終了となります。

そして今回の話で第30話目・・・

ノリと勢いで書き始めたこの物語だけど、我ながらよくここまで書いてきたなぁ・・・

それではいってみよー!


 放課後・・・

 

 「ふぅ・・・」

 

 生徒会室の前で、深く息を吐く俺。

 

 よっちゃんは正式にスクールアイドル部に加入することになり、早速千歌さん達と一緒に練習に励むことになった。

 

 俺は生徒会の仕事がある為ここに来たのだが・・・昨日ダイヤさんとあんなことがあったので、顔を合わせるのがとても気まずい。

 

 とはいえ、顔を出さないわけにもいかないからな・・・よし。

 

 「・・・失礼します」

 

 思い切ってドアを開ける。そこには、既に席について仕事をしているダイヤさんの姿があった。

 

 「あっ・・・」

 

 俺を見て驚くダイヤさん。

 

 どういった言葉をかけようか迷った俺だったが、机の上の書類の山を見て黙って席についた。

 

 「・・・今日はいつもより書類が多いですね」

 

 「そ、そうですわね・・・」

 

 「とりあえず、こっちを片付ければ良いですか?」

 

 「え、えぇ・・・お願いします」

 

 二人で黙々と仕事を進める。時折ダイヤさんがチラッとこちらを窺ってくるが、口を開くことはなかった。

 

 やがて書類が半分ほど片付いた頃・・・

 

 「あ、あの・・・天さん・・・」

 

 意を決したように、ダイヤさんが口を開いた。

 

 「昨日のことなのですが、その・・・」

 

 「ダイヤさん」

 

 恐らく謝ろうとしたダイヤさんの言葉を、俺は途中で遮った。

 

 「俺には・・・姉が二人いるんです」

 

 「はい・・・?」

 

 戸惑うダイヤさん。

 

 何の脈絡も無くいきなり関係無い話をされたら、誰だってこうなるよな・・・

 

 「上の姉は、高校時代に生徒会長をやっていまして。弟である俺の目から見ても、立派に生徒会長としての仕事を果たしていました。ただ・・・」

 

 「ただ・・・?」

 

 「・・・生徒会長だった頃の姉は、良くも悪くも真面目過ぎたんです」

 

 苦笑する俺。

 

 「不器用で頭が固くて、融通の利かないところがありまして・・・周りに頼らず、一人で突っ走ってしまうような人でした。『自分がやらないといけない』っていう使命感が強くて、俺も当時は側で見ててハラハラしてました」

 

 心の優しい副会長が支えてくれていなかったら、今頃姉は潰れていたかもしれない。彼女には本当に感謝している。

 

 「だから浦の星に来て、ダイヤさんと出会って驚きました。ダイヤさん、当時の姉にそっくりなんですもん」

 

 「わ、私がですか・・・?」

 

 「えぇ。真面目で不器用で頭が固くて・・・当時の姉を見ている気分です」

 

 「・・・素直に喜べませんわ」

 

 複雑そうなダイヤさん。まぁ『不器用』とか『頭が固い』とか言われてるしな・・・

 

 「だからですかね・・・何だかダイヤさんのこと、放っておけないんですよ。『側で支えないと』って思いますし・・・より感情が入ってしまうんです」

 

 俺は頭の中で、昨日のことを振り返っていた。

 

 「昨日、ダイヤさんが堕天使を否定した時・・・当時の姉と重なってしまったんです。学校の為に一生懸命頑張っていた人達のことを、姉が否定したことがあって・・・俺はそれがとても悲しくて、『何でそんなことを言うんだ』って怒りました。その人達は、俺にとって大切な人達で・・・だからこそ、姉が認めてくれなかったことが悲しくて。そんな姉とダイヤさんが重なって、ついあんなに怒ってしまいました」

 

 「天さん・・・」

 

 「ダイヤさんに対して、あそこまで怒る必要は無かった・・・よっちゃんの気持ちも考えたら、もっと穏便に済ますべきだった・・・結果として俺はダイヤさんを傷付け、よっちゃんを泣かせてしまいました。とてもじゃないですけど、姉のことを言えた義理ではありませんね」

 

 俺は椅子から立ち上がり、ダイヤさんに対して深く頭を下げた。

 

 「昨日は本当に申し訳ありませんでした」

 

 今の俺にはこれしか出来ない。ダイヤさんから罵倒されても仕方が無い。

 

 だが・・・

 

 「・・・頭を上げて下さい、天さん」

 

 柔らかな両手で頭を支えられ、そのまま元の位置へと戻される。

 

 「昨日家に帰ってから、ルビィに津島さんのことを聞きましたわ。私があの時、どれほど津島さんを傷付ける発言をしていたのか・・・ようやく気付きました」

 

 「ダイヤさん・・・」

 

 「おまけに熱くなりすぎて、スクールアイドル部を貶すような言葉まで言いかけてしまって・・・天さんが止めてくださって、本当に助かりましたわ」

 

 ダイヤさんは優しく微笑むと、今度は両手を俺の頬に添えた。

 

 「・・・天さんは、お姉様のことをとても大事に思われているのですね。だからこそ、そんなお姉様と重なる私を大事に思ってくださっている・・・本当に嬉しく思いますわ」

 

 ダイヤさんの額が、俺の額にコツンと触れた。

 

 「これからもどうか、私のことを支えて下さい。間違っていると思えば、遠慮なく怒っていただいて構いません。私は天さんのことを、心から信頼していますわ」

 

 「・・・優し過ぎますよ、ダイヤさん」

 

 「それはお互い様ですわ」

 

 面白そうに笑うダイヤさん。

 

 「私もルビィも、そしてスクールアイドル部の皆さんも・・・天さんの優しさに助けられた身ですから。これからも頼りにしてますわよ、天さん」

 

 「・・・ご期待に添えるよう頑張ります」

 

 「よろしい」

 

 笑顔で頷くダイヤさん。

 

 「さて、残りの書類を片付けてしまいましょう。早くしないと日が暮れてしまいますわ」

 

 「そうですね。さっさと終わらせちゃいましょうか」

 

 笑い合い、再び仕事を再開する俺達。

 

 「あ、ダイヤさん」

 

 「何ですの?」

 

 「確かにダイヤさんは姉に似てますけど・・・それを抜きにしても、俺はダイヤさんのことを大事に思ってますから。それは忘れないで下さいね」

 

 「っ・・・ズルいですわ・・・」

 

 何故か顔を赤くするダイヤさんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「お待たせしました」

 

 「遅いよ天くん!私はもうお腹ペコペコなんだから!」

 

 「私もお腹空いた!」

 

 お腹を押さえている千歌さんと曜さん。

 

 生徒会の仕事も終わり、俺はスクールアイドル部の皆と正門の前で合流していた。

 

 「でも善子ちゃん、本当に良いの?大勢で押しかけちゃって・・・」

 

 「ヨハネよ。呼んだのはお母さんなんだから、遠慮する必要なんて無いわよ」

 

 梨子さんの問いに、溜め息をつきながら答えるよっちゃん。実は今朝のやりとりの後、俺はよっちゃんの家にお邪魔して善恵さんに事情を説明していたのだ。

 

 よっちゃんがスクールアイドル部に入ると知った善恵さんの感激っぷりは尋常ではなく、よっちゃんと俺を抱き締めて号泣してしまうほどだった。

 

 その後『今夜はお祝いよ!』と高らかに宣言した善恵さんは、今夜の夕飯の席に俺とスクールアイドル部の皆を招待してくれた。

 

 そんなわけで俺達は、これから津島家で夕飯をご馳走になる予定なのだ。

 

 「全く、何がお祝いよ・・・たかだか部活に入っただけだっていうのに・・・」

 

 「いや、引きこもりの娘が部活に入ったら喜ぶでしょ。善恵さんはよっちゃんのこと、凄く心配してたんだよ?俺もよく相談に乗ってたもん」

 

 「何であの人は娘の同級生に相談してんのよ・・・」

 

 呆れているよっちゃん。

 

 まぁよっちゃんも、心配をかけてしまったことは申し訳なく思っているようだ。善恵さんが号泣してる時、よっちゃんもつられて泣いてたし。

 

 「今日の夕飯は豪華にするんだって、善恵さん張り切ってたっけ・・・食い意地を張るであろう花丸に、ほとんど食べられちゃう気がするけど」

 

 「天くんはマルを何だと思ってるずら!?」

 

 「胃袋ブラックホール娘」

 

 「否定出来ないのが辛いずら!」

 

 「だ、大丈夫だよ花丸ちゃん!花丸ちゃんはいくら食べてもスタイル良いもん!」

 

 「ル、ルビィちゃん・・・!」

 

 「そうだね。花丸は栄養がお腹周りじゃなくて、別の場所に行ってるもんね」

 

 「・・・花丸ちゃんはルビィの敵だね」

 

 「ルビィちゃん!?」

 

 瞳から光が消えたルビィの一言に、ショックを受けている花丸。

 

 やっぱりルビィ、気にしてたんだね・・・

 

 「私も花丸ちゃんに負けないくらい食べるよ!」

 

 「私も負けないからね!」

 

 「望むところずら!」

 

 「・・・何でルビィのには栄養が行かないんだろう」

 

 「げ、元気出してルビィちゃん!」

 

 千歌さんと曜さんが花丸と張り合い、梨子さんは落ち込んでいるルビィを必死に励ましている。

 

 賑やかだなぁ・・・

 

 「全く、騒がしいわね」

 

 いつの間にか、よっちゃんが俺の隣を歩いていた。

 

 「どうやら、私の静かな日常は終わりみたいね」

 

 「静かな日常(笑)」

 

 「何笑ってんのよ!?」

 

 「wwwww」

 

 「草を生やすなっ!」

 

 ムキーッと怒っているよっちゃん。相変わらず面白いなぁ・・・

 

 「まぁ、静かな時間を過ごすのも大切だと思うけどさ・・・こうやって皆でわいわいやってる時間も、悪くはないでしょ?」

 

 「・・・まぁね」

 

 照れたようにそっぽを向くよっちゃん。

 

 「こんな時間を過ごせるのも、その・・・アンタのおかげよ。ありがと」

 

 「あ、よっちゃんがデレた」

 

 「デ、デレてなんかないんだからっ!」

 

 おぉ、ツンデレのテンプレみたいなセリフ・・・よっちゃんはツンデレだったのね。

 

 「・・・よっちゃんの力になれたのなら、良かったよ」

 

 よっちゃんの頭を撫でる。

 

 「スクールアイドル、俺もサポートするから。一緒に頑張ろうね」

 

 「・・・うん」

 

 小さく笑いながら頷くよっちゃん。

 

 「期待してるよ。堕天使ヨハネ様」

 

 「・・・善子」

 

 「え・・・?」

 

 「・・・善子で良いわよ」

 

 顔を赤くしながら言うよっちゃん。嘘だろオイ・・・

 

 「名前で呼ばれるの、嫌がってなかったっけ・・・?」

 

 「・・・アンタには、名前で呼んでほしいなって思ったのよ。『ヨハネ』じゃなくて、『善子』って・・・私の大切な友達だから」

 

 耳まで真っ赤になっているよっちゃん。そっか・・・

 

 「・・・ありがとう、善子」

 

 「っ!」

 

 「これからもよろしくね、善子」

 

 「ちょ、何度も呼ばなくて良いから・・・!」

 

 「善子おおおおおっ!」

 

 「うにゃあああああっ!?」

 

 両手で顔を覆いながら、全力で走り去る善子。

 

 「え、善子ちゃん!?どうしたの!?」

 

 「ヨハネよおおおおおっ!」

 

 「ちょ、待ってよ善子ちゃん!?」

 

 「だからヨハネだってばあああああっ!」

 

 「善子ちゃあああああんっ!?」

 

 「ヨハネえええええっ!」

 

 千歌さん、曜さん、花丸が慌てて追いかけていく。やれやれ・・・

 

 「ほらルビィ、落ち込んでる場合じゃ無いよ」

 

 「ぴぎっ!?天くん!?」

 

 「梨子さんも早く。置いてかれちゃいますよ」

 

 「ちょ、天くん!?」

 

 ルビィと梨子さんの手を引き、笑みを浮かべながら善子達の後を追いかける。

 

 気付けばルビィも梨子さんも、千歌さんも曜さんも花丸も笑っていた。そしてもう一人・・・

 

 先頭を走る善子の笑顔は、今までで一番輝いて見えたのだった。




どうも~、ムッティです。

前書きでも述べましたが、今回の話でアニメ一期第5話までの内容が終了となります。

天があそこまで怒った理由は、姉の姿とダイヤさんの姿を重ねてしまったことが原因でした。

ダイヤさんが堕天使を否定して善子ちゃんを傷付けたことに対する怒りに、そのことがプラスされてブチギレに繋がってしまったわけですね。

感想でもいただきましたが、まだ高一になったばかりの天の精神的な未熟さが出た形と言えます。

いやホント、ダイヤさん推しの方々には大変申し訳ない展開となってしまいました・・・

和解したので許して下さい(土下座)

さて、そして『絢瀬天と九人の物語』が30話目を迎えました。

映画を見た興奮から、ノリと勢いで書き始めたのがこの作品でございます。

そんなこの作品がここまで続くことが出来たのは、ひとえにいつも読んでくださる皆様のおかげです。

皆様からの感想に、どれほどモチベーションが上がっていることか・・・

本当にありがとうございます。

お気に入り登録、☆評価をしてくださった方々もありがとうございます。

これからも『絢瀬天と九人の物語』をよろしくお願い致します。

次の話からは、アニメ一期第6話の内容に入っていきます。

まだ詳しくは言えませんが・・・あの人を出す予定です(誰だよ)

次の話もお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

高いハードルを越えるのは簡単ではない。

急に暑くなったな・・・

急激な気温の変化に、身体がついていかないわ・・・


 「そ、そうだよねー!」

 

 教室でクラスメイト達と会話している善子。

 

 学校に来るようになり、クラスメイト達と会話することも増えたのだが・・・

 

 「マ、マジムカつく、よねー!」

 

 まだ慣れていないせいか、もの凄くたどたどしい。大丈夫だろうか。

 

 「だよねー!ホント頭にきちゃってさー!」

 

 「いやー、マジないわー!」

 

 そんな善子の様子をクラスメイト達も分かっているので、たどたどしい様子に誰も触れたりはしない。

 

 善子に無理をさせない範囲で親睦を深めようと、こうして善子に話しかけてくれているのだ。

 

 良い人達だなぁ・・・

 

 「善子ちゃん、少しずつ普通に会話が出来るようになってきたずらね」

 

 少し安心した様子の花丸。

 

 「また堕天使キャラで暴走するんじゃないかって、最初は心配してたずら」

 

 「まぁそれで二回やらかしてるからね」

 

 もうやらかすことがないよう、クラスメイト達の前では堕天使キャラを出さないようにしたいらしい。堕天使キャラを捨てるつもりは無いが、普通の高校生にはなりたいんだそうだ。

 

 まぁ善子の今後を考えると、堕天使を抜きにした普通の会話も出来るようになった方が良いよな。

 

 「これからゆっくり慣れていけば良いんじゃないかな。無理に焦る必要も無いでしょ」

 

 「そうずらね」

 

 頷く花丸。と、そこへルビィが息を切らして飛び込んできた。

 

 「た、大変だよっ!」

 

 「ルビィちゃん!?どうしたずら!?」

 

 「学校が・・・学校が・・・!」

 

 「落ち着いて、ルビィ」

 

 ルビィの背中を擦り、ペットボトルの水を差し出す。それをゴクゴク飲んだルビィは、衝撃の一言を口にするのだった。

 

 「学校が・・・学校が無くなっちゃう!」

 

 「「・・・えっ!?」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「説明していただけますか、小原理事長」

 

 放課後に理事長室を訪れた俺は、目の前に座る小原理事長に冷たい視線を向けていた。

 

 「浦の星が廃校になるというのは本当ですか?」

 

 「・・・耳が早いわね」

 

 溜め息をつく小原理事長。

 

 「浦の星女学院は沼津の高校と統合し、廃校となる・・・正式に決まったわけではないけど、そういう方向で話が進んでいるのは事実よ」

 

 「・・・統廃合ですか」

 

 唇を噛む俺。

 

 ルビィは小原理事長とダイヤさんの会話を偶然聞いてしまったらしく、慌ててそれを俺達に伝えに来てくれたらしい。そして今の小原理事長の説明は、ルビィが教えてくれた内容と全く同じものだった。

 

 やっぱり事実だったか・・・

 

 「ずいぶん話が早いですね。共学化を目指す話はどこへいったんですか?」

 

 「・・・運営が水面下で調査した結果、来年浦の星への入学を希望している生徒は今年より少ないみたいなの。最悪の場合、入学する生徒が一人もいない可能性もあるそうよ」

 

 「・・・0ってことですか」

 

 「えぇ。共学化したところで、状況が良くなることはないだろうというのが運営の判断みたい。ただでさえ今年の入学者数は、運営の想定をはるかに下回っている・・・一気に統廃合の話が進んでも、おかしくはないわ」

 

 肩をすくめる小原理事長。

 

 「元々統廃合の話は二年前・・・私達が一年生の時からあったのよ。決して今に始まった話ではないの」

 

 「・・・それでスクールアイドルを始めて、学校の危機を救おうとしたんですか?」

 

 「ッ!?」

 

 驚きのあまり立ち上がる小原理事長。

 

 「ど、どうして天がそれを・・・!?」

 

 「貴女がダイヤさんや果南さんと共に、スクールアイドルをやっていたことは知っています。動機に関してはあくまでも予想でしたけど・・・どうやら当たったみたいですね」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「統廃合を阻止する為にスクールアイドルを始めたものの、何らかの理由で挫折して貴女達は解散した。そしてその二年後、今度は後輩達がスクールアイドルを始めた・・・貴女はそれを利用しようとしているんでしょう?統廃合を阻止する為に」

 

 冷ややかな目を向ける俺。

 

 「そして俺を脅し、マネージャーをやらせることにした。俺の過去を知っている貴女にとって、俺はさぞかし利用価値のある駒なんでしょうね」

 

 「天・・・」

 

 悲しげな表情の小原理事長。人を脅しておいて、よくもまぁそんな顔が出来るものだ。

 

 「スクールアイドルとして有名になることで学校をPRし、廃校を阻止する・・・五年前のμ'sは、それを見事に成功させました。貴女はそれをAqoursに求めようとしているようですが・・・そう上手くいくとは思わないことですね」

 

 強い口調で小原理事長に忠告する。

 

 「このまま浦の星が廃校になるのは、俺だって嫌です。ですが俺は、あの時のμ'sの役割をAqoursに求めようとは思いません。そもそもμ'sとAqoursでは、スクールアイドルを始めた動機が違います」

 

 μ'sがスクールアイドルを始めたのは、音ノ木坂の廃校を阻止する為。一方Aqoursがスクールアイドルを始めたのは、輝きたいという思いがあったから。

 

 最初から廃校阻止が目的で動いているならともかく、途中からそんな重荷を背負わせるのはあまりにも酷だ。最悪の場合、責任が重過ぎて潰れてしまうかもしれない。

 

 「貴女がどんな思惑で動こうが、それは貴女の自由です。ですが、それによってAqoursが不利な状況に追い込まれるようなら・・・俺も黙っているつもりはありませんので」

 

 一礼して踵を返し、出口へと足を向ける。

 

 「・・・大事に思っているのね、あの子達のこと」

 

 ドアに手をかけたところで、小原理事長から声をかけられる。

 

 「貴方は昔から不思議な子だったわね、天。人見知りだった私が、貴方に対してはいつもベッタリくっついてて。私のパパやママ、使用人の皆も貴方を気に入っていたわ」

 

 当時を懐かしんでいる小原理事長。

 

 「浦の星でもあの子達は勿論、ダイヤや果南だって貴方を信頼している。貴方なら、きっと・・・」

 

 そこまで言いかけて口を閉ざす小原理事長。俺は無言で理事長室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「私達が学校を救うんだよ!そして輝くの!あのμ'sのように!」

 

 「雷●八卦」

 

 「ぐはっ!?」

 

 テンションマックスの千歌さんの後頭部に、ハリセンをフルスイングで叩き込む。

 

 理事長室を後にした俺は、スクールアイドル部の部室へとやってきていた。

 

 「お、女の子を相手に容赦の無い攻撃・・・」

 

 「天くんが鬼・・・っていうか、カ●ドウに見えるのは気のせいかしら・・・」

 

 「ああん・・・?」

 

 「「ヒィッ!?」」

 

 悲鳴を上げる曜さんと梨子さん。俺は千歌さんへと視線を向けた。

 

 「そこで机に突っ伏してるオレンジヘッド、早く起きてもらって良いですか?」

 

 「誰のせいだと思ってるの!?」

 

 涙目でガバッと顔を上げる千歌さん。

 

 「今もの凄い衝撃だったよ!?ツッコミのレベルを超えてたよ!?」

 

 「人の虫の居所が悪い時に、人が望まないセリフ言うの止めてもらえます?さっきまでのシリアスな空気がぶち壊しな上に、小原理事長に食ってかかった俺がバカみたいなんですけど。このいたたまれない気持ちをどうしてくれるんですか」

 

 「知らないよ!?何があったの!?」

 

 全く、この人ときたら・・・

 

 「っていうか、何で浦の星が廃校になるかもしれないのにテンション高いんですか」

 

 「だってμ'sと同じ状況だよ!?これは私達が学校を救うしかないよ!」

 

 「アンタの脳内はお花畑か」

 

 ダメだこの人、何も分かってない。

 

 そんな簡単に学校の廃校危機を救えるなら、誰も苦労したりしないっていうのに・・・

 

 「で、何でそこの胃袋ブラックホール娘まで期待に満ち溢れた顔してんの?」

 

 「ずらぁ・・・!」

 

 目がキラキラしている花丸。ルビィが苦笑している。

 

 「ほら、統合先の学校って沼津でしょ?花丸ちゃん、沼津の学校に通えるのが嬉しいみたいで・・・」

 

 「あぁ、『未来ずら』症候群か・・・」

 

 どんな生活をしているのか知らないが、花丸は機械的・都会的と呼べるものには本当に目がない。

 

 この間も俺・花丸・ルビィの三人で沼津に行ったら、『未来ずら~っ!』を連呼していたし・・・

 

 ホントにどんな生活してんのこの子・・・

 

 「で、逆に何でそこの堕天使は落ち込んでんの?」

 

 「統廃合反対統廃合反対統廃合反対・・・」

 

 呪文のようにぶつぶつ呟いている善子。何か怖いんだけど・・・

 

 「ほら、善子ちゃんの家って沼津にあるでしょ?つまり善子ちゃんが通ってた中学も、沼津にあるわけで・・・」

 

 「あぁ・・・中学時代の黒歴史を知ってる人が、統合先の学校に進学してる可能性があるのね・・・」

 

 俺が納得していると、千歌さんが机をバンッと叩いた。

 

 「とにかく!廃校の危機が学校に迫っていると分かった以上、Aqoursは学校を救う為に行動します!」

 

 「・・・本気ですか?」

 

 千歌さんに尋ねる俺。

 

 「簡単なことじゃないですよ。そもそもただの一生徒に過ぎない俺達では、やれることにも限度があります。それでもやるつもりですか?」

 

 「勿論!」

 

 力強く言い切る千歌さん。

 

 「私、浦の星が好きだもん!やれることはやりたいんだよ!」

 

 「ヨーソロー!賛成であります!」

 

 「このまま何もしないっていうのも嫌だしね」

 

 「統廃合なんてさせるもんですか!私は断固として抗うわよ!」

 

 「まぁ確かに、この学校が無くなっちゃうのは寂しいずらね」

 

 「ルビィもこの学校が大好きだし、無くなってほしくないよ!」

 

 他の皆も同じ意見らしい。やれやれ、人の気も知らないで・・・

 

 「・・・それで?行動って何をするつもりなんですか?」

 

 「いやぁ、まだ何も考えてないんd・・・ごはぁっ!?」

 

 再び千歌さんにハリセンをぶちかます俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「学校を救う、ですか・・・」

 

 複雑そうな表情のダイヤさん。

 

 スクールアイドル部の練習後、俺はダイヤさんに呼ばれて生徒会室へやってきていた。話があるとのことだったが、恐らく統廃合のことだろう。

 

 「μ'sと同じことが、あの子達に出来るのでしょうか・・・」

 

 「・・・今の状態では厳しいでしょうね」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「そもそも浦の星は、音ノ木坂と比べて統廃合撤廃のハードルが高いと思います」

 

 「どうしてですの?」

 

 「立地条件が不利なんですよ」

 

 説明する俺。

 

 「音ノ木坂は東京にあるので、交通の便が良く通学しやすい環境にあります。それに対して浦の星がある場所は、沼津の中でも外れの方にある内浦ですから。交通の便はあまり良くないですし、通学しやすい環境とは言えない・・・これは大きなマイナスですよ」

 

 「確かに・・・内浦に住んでいるならともかく、外から来る人にとって良い環境とは言えませんわね・・・」

 

 「えぇ。とはいえ入学者数を増やすには、内浦の外に住んでいる人も呼び込まないといけません。となると・・・」

 

 「多少通学に不便しても、浦の星に入学したいと思わせる何かが無いといけない・・・つまり、浦の星に入学するメリットをPRする必要がありますわね・・・」

 

 「そうなりますね。通学が不便というデメリットを抱えている分、超えるべきハードルは音ノ木坂よりも高いと俺は思います」

 

 「・・・これは難問ですわ」

 

 頭を抱えるダイヤさん。

 

 「勿論、浦の星の良いところはたくさんありますが・・・外から来る人にとって、デメリットを超えるほどのメリットは何かと聞かれると・・・」

 

 「・・・答えに困りますよね」

 

 二人揃って溜め息をついてしまう。メリットかぁ・・・

 

 「まぁ、それはこれから考えるとして・・・もう一つ、別の話をしましょうか」

 

 気持ちを切り替えるように、ダイヤさんがパンッと手を叩く。

 

 「別の話というと?」

 

 「実は明日から、教育実習生の方がいらっしゃる予定なのです。そのことで少し、天さんにお願いしたいことがありまして」

 

 「・・・統廃合の話が進んでる中で、よく教育実習生を受け入れましたね」

 

 呆れる俺。そもそも統廃合の問題でバタバタしている中、やってくる教育実習生の方も可哀想だと思うんだけど・・・

 

 「私もそう思ったのですが・・・鞠莉さんが独断で決めてしまいまして」

 

 溜め息をつくダイヤさん。あの成金理事長・・・

 

 「何でもその教育実習生の方は、自ら浦の星を希望されたそうですよ」

 

 「へぇ・・・浦の星の卒業生の方ですか?」

 

 「いえ、母校は東京の方だそうです」

 

 「・・・何で浦の星を希望してるんですか?」

 

 「さぁ・・・不思議ですわね」

 

 首を傾げるダイヤさん。

 

 教育実習って、通常は母校でやることが多いはずだよな・・・東京に母校がある人が、何でよりによって浦の星での教育実習を希望してるんだ・・・?

 

 「まぁどんな理由があれ、この学校を希望してくださっているんですもの。私としても無下にしたくはありませんし、出来る限り力になって差し上げたいですわ」

 

 微笑むダイヤさん。ダイヤさんは優しいなぁ・・・

 

 「教育実習生の方の指導は赤城先生が担当されるそうですので、実習は一年生のクラスで行なわれることになります。ですので天さんには、教育実習生の方が溶け込みやすい環境を作ってあげてほしいのです」

 

 「つまりクラスの皆と打ち解けられるように、それとなく気を遣ってあげてほしいっていうことですか?」

 

 「そういうことです。赤城先生ともお話しさせていただきましたが、こういった役は天さんが適任だろうと仰っていました。お願い出来ますか?」

 

 「またあの人は・・・」

 

 ウチのクラスはフレンドリーな人がほとんどだし、俺が動かなくても大丈夫な気がするけど・・・

 

 まぁダイヤさんの頼みだし、断る理由も無いか。

 

 「分かりました。やってみます」

 

 頷く俺。

 

 まさか教育実習生があの人だとは・・・この時はまだ知る由も無いのだった。




どうも~、ムッティです。

今回の話から、アニメ一期の第6話の内容へと入っていきます。

本来の内容に、少しオリジナル要素を加える形となります。

最後の方に出てきた、教育実習生の存在がまさにそうなのですが・・・

皆さんご存知の、あの方です。

さらに皆さんも薄々・・・いや、もうガッツリ気付いているとは思いますが(笑)

前回の話で触れた、天のお姉さんについても明らかになります。

今後の展開をお楽しみに(・∀・)ノ

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誰にでも秘密にしていることはある。

映画『天気の子』を観に行きたい。

新海誠監督の最新作だし、物凄く気になってる。


 翌日・・・

 

 「そういうわけだから、皆よろしくね」

 

 「「「「「お~っ!」」」」」

 

 朝のホームルーム前、俺は教室でクラスの皆に事情を説明していた。

 

 流石はフレンドリー軍団なだけあって、皆快く返事をしてくれる。

 

 「教育実習生ってどんな人かな?」

 

 「イケメンだったりして!?」

 

 「キャーッ!」

 

 「いや、女性らしいよ」

 

 「えぇっ!?イケメンじゃないの!?」

 

 「でも待って!イケメン系女子っていう可能性があるわ!」

 

 「それなら良し!」

 

 「良いんだ・・・」

 

 っていうか、よくそんなテンション上げられるな・・・

 

 あそこで机に突っ伏してる堕天使とは大違いだわ。

 

 「知らない人が来る知らない人が来る知らない人が来る・・・」

 

 ヤバいな、善子・・・完全に病んでるじゃん・・・

 

 「ぴ、ぴぎぃ・・・こ、怖い人じゃないと良いなぁ・・・」

 

 涙目になっているルビィ。あぁ、ここにも人見知りが・・・

 

 「善子ちゃんもルビィちゃんも落ち着くずら」

 

 二人を宥める花丸。

 

 「こういう時は、教育実習生さんをじゃがいもだと思えば良いずら」

 

 「「「それは違うと思う」」」

 

 「ずら!?」

 

 俺・善子・ルビィが同時にツッコミを入れる。むしろこの場合、教育実習生さんが俺達をじゃがいもだと思うケースだよね・・・

 

 そんなやり取りをしていると、朝のホームルーム開始を告げるチャイムが鳴った。

 

 「は~い皆さん、席についてくださいね~」

 

 教室に入ってくる赤城先生。俺達が席に着くと、赤城先生が俺達を見回した。

 

 「皆さんご存知だとは思いますが、今日から教育実習生の方がこのクラスにやってきます。入ってきてくださ~い」

 

 「は、はいっ!」

 

 赤城先生の呼びかけに、上ずった返事が返ってくる。

 

 あれ、今の声って・・・

 

 「し、失礼しますっ!」

 

 教室のドアが開き、スーツ姿の女性が入ってくる。綺麗な青い髪を腰の辺りまで伸ばした、とても美しい女性・・・

 

 「えっ・・・」

 

 「天くん?」

 

 絶句してしまう俺。そんな俺を、隣の花丸が不思議そうに見つめていた。

 

 「それでは、自己紹介をお願いします」

 

 赤城先生に促され、女性が緊張した面持ちで俺達の前に立った。

 

 「は、初めまして!教育実習で浦の星女学院に参りました、園田海未と申します!よ、よろしくお願いしましゅっ!」

 

 「えっ・・・ええええええええええっ!?」

 

 『今噛んだでしょ』などとツッコミを入れる暇もなく、ルビィの絶叫が響き渡った。

 

 「そ、園田海未さんっ!?μ'sのメンバーのっ!?」

 

 「ずらっ!?」

 

 「嘘っ!?」

 

 それを聞き、花丸と善子が驚きの声を上げる。

 

 教室がざわつく中、青い髪の女性・・・園田海未さんは涙目になっていた。困ったように視線を彷徨わせていた彼女は、やがて彼女を見て固まっていた俺と目が合い・・・

 

 次の瞬間、目からドバーッと涙が溢れた。

 

 「そっ・・・天ああああああああああっ!」

 

 「げふっ!?」

 

 勢いよく抱きつかれ、ひっくり返りそうになるのをどうにか堪える。

 

 「会いたかったですううううううううううっ!天ああああああああああっ!」

 

 「ちょ、海未ちゃん!?落ち着いて!?」

 

 「うわああああああああああんっ!?」

 

 俺に抱きつき、号泣している海未ちゃん。

 

 赤城先生やクラスの皆が唖然としている中、俺は溜め息をつきながら海未ちゃんの頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・やってしまいました」

 

 机に突っ伏して落ち込んでいる海未ちゃん。

 

 放課後、俺は海未ちゃんを連れてスクールアイドル部の部室へとやってきていた。

 

 「あんな醜態を晒して・・・もう教育実習なんて出来ません・・・」

 

 「相変わらずメンタル弱いねぇ・・・」

 

 溜め息をつく俺。一方・・・

 

 「な、何でμ'sの園田海未さんがここにいるの!?」

 

 「教育実習生ってどういうこと!?お姉ちゃん知ってたの!?」

 

 「私も知りませんでしたわ!一体何がどうなってますの!?」

 

 ヒソヒソ話している千歌さん、ルビィ、ダイヤさん。

 

 μ's大好きトリオの三人は、海未ちゃんを興奮と戸惑いの入り混じった表情で見つめていた。

 

 「ほら海未ちゃん、あそこに海未ちゃんのファンがいるよ。ラブアローシュートで打ち抜いてあげなよ」

 

 「人が落ち込んでる時に黒歴史を持ち出すの止めてもらえます!?」

 

 「ちなみに推しは穂乃果ちゃん、花陽ちゃん、エリーチカだって」

 

 「私のファンじゃないじゃないですか!?」

 

 「えーっと、天くん・・・?」

 

 俺と海未ちゃんが会話していると、曜さんがおずおずと話しかけてきた。

 

 「一応聞いておきたいんだけど・・・そちらの女性は、μ'sの園田海未さんで合ってるんだよね・・・?」

 

 「そうですよ。恥ずかしがり屋のくせに、ステージ上ではメチャクチャ投げキッスしまくってた園田海未ちゃんです」

 

 「その紹介やめてもらえます!?」

 

 「じゃあ、ラブアローシューターの園田海未ちゃんです」

 

 「それもやめて下さい!」

 

 海未ちゃんはコホンッと咳払いをすると、曜さん達の方に向き直った。

 

 「改めまして・・・浦の星女学院に教育実習で参りました、園田海未と申します。高校時代はスクールアイドルグループ・μ'sの一員として活動していました。よろしくお願い致します」

 

 深々と頭を下げる海未ちゃん。

 

 今の自己紹介が、今朝のホームルームで出来てたら良かったのに・・・

 

 「や、やっぱり本物なんですね!」

 

 「あ、あのっ!サインしていただいても良いですか!?」

 

 「わ、私もお願いします!」

 

 「私で良ければ喜んで」

 

 差し出された色紙に、スラスラとサインを書いていく海未ちゃん。色紙なんてどこから持ってきたんだろう・・・

 

 「「「やったぁ!」」」

 

 サインを胸に抱え、大はしゃぎしている三人。ダイヤさんに関しては、もうスクールアイドル好きを隠す気すら無いようだ。

 

 「フフッ、凄い盛り上がりようね」

 

 小原理事長が笑いながらやってくる。

 

 「Surpriseは大成功といったところかしら?」

 

 「帰れ成金」

 

 「相変わらず辛辣ね!?」

 

 涙目の小原理事長。

 

 この人が関わっていることは間違いないので、ここで洗いざらい白状してもらうことにしよう。

 

 「で、どういうことですか?」

 

 「単純な話よ。彼女の方から、『浦の星女学院で教育実習をさせてもらえないか』という打診があったの」

 

 「・・・ホントなの?」

 

 「本当ですよ」

 

 俺の問いに頷く海未ちゃん。

 

 「私は本来、母校である音ノ木坂で教育実習を行うのが普通なのですが・・・やむをえない事情があって、音ノ木坂での教育実習は避けるべきと判断したのです」

 

 「あぁ、ひょっとしてμ'sが有名だから?」

 

 「それもあるのですが・・・それよりさらに重大な問題がありまして・・・」

 

 神妙な表情の海未ちゃん。そんなに重大な問題なんだろうか・・・

 

 「音ノ木坂は・・・生徒数が多すぎて、私の精神が持たないんです」

 

 「教師目指すのやめちまえ」

 

 「酷い!?」

 

 ショックを受けている海未ちゃん。心配して損したわ・・・

 

 「あれだけの観客を前に歌って踊ってた人が、今さら何『精神が持たない』とか言い始めちゃってんの?」

 

 「あれは九人いたからです!今の私は一人で教壇という名のステージに立ち、一人で授業という名のライブをしなければいけないんですよ!?」

 

 「何ちょっと上手いこと言ってんの?」

 

 っていうか、その道を選んだのは海未ちゃん自身だろうに・・・

 

 「で、生徒数の少ない浦の星を選んだと・・・」

 

 「それもありますが、やはり天がいるというのが大きいですね。理事長からの勧めもありましたし」

 

 「あぁ、あの人経由で打診したのね・・・」

 

 絶対面白がってるよね、あの人・・・

 

 と、俺の制服の裾を誰かが掴んだ。振り向くと、困惑した表情の梨子さんが立っていた。

 

 「ね、ねぇ天くん・・・?園田さんとずいぶん仲が良いみたいだけど・・・あのμ'sのメンバーである園田さんと、一体どういう関係なの・・・?」

 

 「そ、そうずら!何でμ'sのメンバーの人とそんなに親しいずら!?」

 

 「こっちはさっきから、それが気になって仕方ないんだけど!?」

 

 花丸と善子も尋ねてくる。ですよねぇ・・・

 

 「天、彼女達に何も説明していないんですか?」

 

 「いや、自分から言いふらすのも良くないと思って・・・特にここにいる皆は、μ'sのこと知ってるしさぁ・・・」

 

 「あぁ、なるほど・・・とはいえ、もう説明するしかないのでは?こんな状況になってしまいましたし」

 

 「そうだね。海未ちゃんが俺に黙ってここに来なかったら、こんな状況になってないし説明する必要も無かっただろうね」

 

 「すみませんでした」

 

 もの凄いスピードで頭を下げる海未ちゃん。やれやれ・・・

 

 俺は溜め息をつくと、皆の方へと向き直った。

 

 「俺と海未ちゃんがどういった関係なのか・・・それを説明する為にはまず、皆さんに俺の名前を思い出してもらう必要があります」

 

 「名前?」

 

 首を傾げる千歌さん。

 

 「名前って・・・天くんでしょ?」

 

 「千歌さん、俺のフルネームって覚えてます?」

 

 「あっ、バカにしてる!?」

 

 頬を膨らませる千歌さん。

 

 「私だってそれくらい覚えてるよ!『絢瀬』天くんでしょ!?」

 

 「正解です。よく言えました」

 

 千歌さんの頭を撫でる俺。千歌さんの顔がニヤける。

 

 「え、えへへ・・・」

 

 「おーい、千歌ちゃーん?」

 

 「はっ!?」

 

 曜さんの呼びかけで正気に戻る千歌さん。慌てて俺の手を払い除ける。

 

 「そ、そんなのに騙されないんだから!」

 

 「思いっきり騙されてたことは置いといて・・・ダイヤさん、μ'sの中で誰が一番好きなんでしたっけ?」

 

 「エリーチカですわ!アイドルと生徒会長の兼任・・・カッコ良いですわぁ・・・!」

 

 うっとりしているダイヤさん。本当に好きなんだなぁ・・・

 

 「じゃあ、エリーチカのフルネームは言えますか?」

 

 「当然ですわ!エリーチカのフルネームは、『絢瀬』絵里・・・え?」

 

 固まるダイヤさん。他の皆も気付いたのか、小原理事長以外は全員固まってしまった。

 

 「あ、絢瀬・・・?」

 

 「ダイヤさんには、前に言いましたよね。俺には姉が二人いて、上の姉は高校時代に生徒会長を務めていたと」

 

 「ま、まさかっ・・・!?」

 

 「そのまさかです」

 

 俺は苦笑しながら、今まで話すことのなかった事実を告げるのだった。

 

 「μ'sの絢瀬絵里は・・・俺の姉なんですよ」




どうも~、ムッティです。

遂にこの作品にも、μ'sのメンバーが登場する日がやってまいりました!

一人目は海未ちゃんですね。

教育実習生として登場させるというプランは、実は結構前から考えてました。

最初は希ちゃんにしようと思っていたのですが、『ラブライブ!サンシャイン!!』が『ラブライブ!』の五年後らしいんですよね・・・

それだと希ちゃんは既に社会人になってるはずなので、大学四年生になっているはずの海未ちゃんに変更したんです。

同い年の穂乃果ちゃんやことりちゃんも考えましたが、海未ちゃんが一番先生っぽいかなと思いまして。

そして遂に明らかになった事実・・・

いやぁ、まさか天が絵里ちゃんの弟だったとは・・・

・・・はい、皆さん気付いてましたよね(笑)

だって苗字が同じですもんね。

しかもこの間天が、『姉は高校の時に生徒会長だった』って言ってましたもんね。

感想でもたくさん『ハラショー』をいただきました(笑)

教育実習生も絵里ちゃんだろうと、皆さん思われていたかと思いますが・・・

ごめんなさい。絵里ちゃんはまだ登場しません。

希ちゃんと同じで社会人になっている、ということもあるのですが・・・

他にもちょっとした事情がありまして、それは後々明らかになるかと思います。

今後の展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人にはそれぞれの事情というものがある。

7月23日、日間ランキングで15位にランクインしました。

気が付けば、☆評価をしてくださった方が20人もいらっしゃるんですね・・・

本当にありがたいことです。

読者の皆様、いつもありがとうございます。

こんな作品ですが、これからもよろしくお願い致します。


 「エ、エリーチカが・・・!?」

 

 「そ、天くんの・・・!?」

 

 「お、お姉さん・・・!?」

 

 驚愕しているダイヤさん、ルビィ、千歌さん。他の皆も絶句していた。

 

 「う、嘘・・・!?」

 

 「嘘じゃないわ」

 

 善子の呟きに、小原理事長が口を開いた。

 

 「二人は姉弟よ。幼馴染の私が保証するわ」

 

 「私もμ'sのメンバーとして保証します」

 

 海未ちゃんも頷く。

 

 「というか、誰も気付かなかったんですか?苗字が同じなのに」

 

 「いやぁ、全く・・・」

 

 「たまたま同じだけかと・・・」

 

 呆然としながら答える曜さんと梨子さん。まぁ普通はそう思うよね・・・

 

 「じゃあ、天くんがμ'sについて詳しいのって・・・」

 

 「身内がμ'sのメンバーだからね」

 

 花丸の問いに、苦笑しながら答える俺。

 

 「それに俺、μ'sの活動はずっと近くで見てきたんだよ。学校同じだったし」

 

 「学校が同じ・・・?」

 

 首を傾げる千歌さん。

 

 「μ'sが活動してたのは五年前・・・天くんは小学五年生だったはずだよね?っていうか、そもそも音ノ木坂って女子校のはずじゃ・・・」

 

 「あっ・・・!?」

 

 梨子さんが何かに気付いたように声を上げた。

 

 「まさか天くん、中学まで音ノ木坂にいたの!?」

 

 「そういうことです」

 

 「梨子ちゃん、どういうこと?」

 

 「音ノ木坂って、幼稚園から大学院まで存在するのよ。中学までは共学で、女子校になるのは高校からなの」

 

 説明してくれる梨子さん。

 

 「だから男子生徒は中学までしか上がれなくて、高校は外部を受験する必要があるんだけど・・・天くんもその内の一人だったのね」

 

 「えぇ。なので俺が中三だった去年、高一だった梨子さんとどこかですれ違ってたかもしれませんね」

 

 まぁそれはさておき、話を続けることにする。

 

 「姉がμ'sのメンバーで、学校も同じ・・・μ'sの存在が身近にあった俺は、μ'sの活動をすぐ側で見てきました。だからμ'sのことは勿論、スクールアイドルやラブライブについてもよく知っているというわけです」

 

 「そうだったのですね・・・ん?」

 

 そこで首を傾げるダイヤさん。

 

 「そういえば天さん、前に仰ってましわよね?中学の理事長さんから、浦の星のテスト生の話を持ちかけられたと」

 

 「えぇ、言いましたね」

 

 「そして天さんは中学まで、音ノ木坂に通っていたと・・・」

 

 「そうですね」

 

 「つまり天さんの中学の理事長さんは、音ノ木坂の理事長さん・・・ということは、まさか・・・!」

 

 青ざめるダイヤさん。

 

 「μ'sのメンバーの一人・・・南ことりさんのお母様のことですの!?」

 

 「その通りです」

 

 頷く俺。あの人には、昔からお世話になってるんだよなぁ・・・

 

 「まぁまさか俺だけじゃなくて、海未ちゃんまでこっちに寄越すとは思ってませんでしたけど・・・小原理事長、あの人とどういう繋がりがあるんですか?」

 

 「フフッ、小原家のConnectionよ」

 

 「・・・何かもう怖いわ小原家」

 

 思わず呆れてしまう。何なんだ、この成金一族は・・・

 

 「まぁいいや・・・ところで海未ちゃん、教育実習ってどれくらいの期間なの?」

 

 「二、三週間といったところですけど・・・それが何か?」

 

 「いや、住む場所どうするの?まさか毎日東京と内浦を往復するわけじゃないよね?」

 

 「あぁ、それでしたら問題ありません。天の家に住みますので」

 

 「あぁ、なるほど。それなら問題ない・・・は?」

 

 ん?今何かスルーしてはいけないことを聞いた気がする・・・

 

 「聞き間違いかな・・・俺の家に住むって言った?」

 

 「言いましたよ。最初からそのつもりで来ましたし」

 

 「俺の意見は!?」

 

 「天が断るわけないじゃないですか。天と私の仲ですよ?」

 

 「まさかの決め付け!?っていうかどんな仲!?」

 

 「当時は空(天)と海(海未)コンビとして、よろしくしあった仲じゃないですか」

 

 「そのダサいコンビ名止めてくんない!?」

 

 「ダサいってなんですか!」

 

 ギャーギャー言い合う俺達を、皆がポカーンと眺めていた。

 

 「な、仲良いね・・・」

 

 「天くんがこんなにツッコミに回ってるところ、初めて見たかも・・・」

 

 「確かにそうね・・・」

 

 「あの天をツッコミに回すだなんて・・・」

 

 「園田海未さん、恐ろしい人ずら・・・」

 

 「ぴぎぃ・・・」

 

 よく聞こえないけど、凄く心外なことを言われている気がする。一方・・・

 

 「あの園田海未さんと、これから毎日会える・・・フフッ・・・フフフッ・・・!」

 

 不気味に笑っているダイヤさん。何あの人、怖いんだけど。

 

 「そういうわけだから天、教育実習生さんをよろしくデース♪」

 

 「黙れおっぱいお化け。もぎ取るぞ」

 

 「何を!?」

 

 「大体男と一緒に住むとか、海未ちゃんなら『ふしだらです!』とか『破廉恥です!』とか言うところじゃないの!?」

 

 「天は弟みたいなものなので大丈夫です」

 

 「ラブアローシューターが姉とか嫌だわ!」

 

 「それはやめて下さいって言ってるでしょうが!」

 

 再び言い合う俺達なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「それにしても、本当にビックリしたなぁ・・・」

 

 千歌ちゃんが呟く。千歌ちゃんと私は、バスを降りて帰り道を歩いていた。

 

 「まさかμ'sの園田海未さんに会えるなんて・・・しかも天くんのお姉さんが、あの絢瀬絵里さんだったとは・・・」

 

 「驚いたわよねぇ・・・」

 

 確かに衝撃だった。スクールアイドルを始めてからというもの、私もμ'sについて色々調べたので少しは詳しくなった自信がある。

 

 そのμ'sのメンバーに会えた上に、天くんのお姉さんもμ'sのメンバーであることが分かったのだ。まさかこんな形で関わることになるなんて、思ってもみなかった。

 

 「でも天くん、何で黙ってたんだろう?」

 

 「μ'sのファンである千歌ちゃん達に言ったら、大騒ぎになるからでしょ?」

 

 「うっ・・・否定できない・・・」

 

 千歌ちゃんが苦い顔をする中、私は別のことが気になっていた。

 

 「・・・本当に、身内がμ'sのメンバーっていうだけなのかな?」

 

 「え?」

 

 「天くんと園田さん、凄く仲良かったじゃない。あれは単なる知り合いっていうより、もっと関わりが深いような気がするのよね」

 

 それだけじゃない。前に鞠莉さんが言ってたセリフ・・・

 

 

 

 

 

 『スクールアイドルのマネージャーなんて・・・天にはお手の物でしょう?』

 

 

 

 

 

 「まさか・・・」

 

 ある可能性に思い至っていると、千歌ちゃんが顔を覗き込んできた。

 

 「梨子ちゃん・・・もしかして、嫉妬してる?」

 

 「はい!?」

 

 「なるほど、天くんと園田さんの仲の良さを見て妬いちゃったのかぁ・・・天くんも罪な男だねぇ」

 

 「ち、違うから!そんなんじゃないから!」

 

 「あ、照れてる!可愛い!」

 

 「違うって言ってるでしょ!?」

 

 逃げる千歌ちゃんを、顔を真っ赤にしながら追いかける私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ここが天の家ですか・・・?」

 

 「そうだよ」

 

 驚いている海未ちゃんに、苦笑しながら答える俺。

 

 俺が住んでいる家は、アパートやマンションではなく平屋建ての一軒家だ。千歌さんや梨子さんの家より、もう少し歩いたところにある。

 

 「浦の星にテスト生として入学することになった時、学校側が手配してくれたんだよ。前の住人が引っ越してから、しばらくの間誰も使ってなかったんだって。ここだったら家賃も払わなくて大丈夫だから、好きに使って良いってさ」

 

 「そ、そんな都合の良い話ってあります・・・?」

 

 「俺も最初は半信半疑だったんだけどさぁ・・・理事長があの人だって分かって、何か色々納得しちゃったよね」

 

 「あぁ、なるほど・・・」

 

 恐らく、手配してくれたのは小原理事長・・・というか小原家だろうな。

 

 小原家の力が働いているのなら、こんな都合の良い話があっても納得できてしまう。現役女子高生理事長を誕生させちゃうぐらいだし。

 

 「中も広いですね・・・ここで一人暮らししてるんですか?」

 

 「まぁね。なかなか贅沢だと自分でも思うよ」

 

 完全にファミリー向けの家だもんな、ここ・・・

 

 どう見ても一人暮らし向けの家ではない。俺と海未ちゃんの二人で住んでも、まだまだ余裕たっぷりだ。

 

 「でも安心しました。私はてっきり狭いアパートで、ひもじい思いをしながら暮らしているのではないかと・・・」

 

 「そんな生活を強要されてたら、とっくの昔に東京に帰ってるわ」

 

 思った以上に酷い想像をされていたらしい。やれやれ・・・

 

 「それでは、しばらくの間お世話になりますね」

 

 「はいはい・・・っていうか、そろそろ教えてくれても良いんじゃない?」

 

 「教える?何をですか?」

 

 「海未ちゃんが浦の星に来た本当の理由を、だよ」

 

 「っ・・・」

 

 息を呑む海未ちゃん。やっぱりか・・・

 

 「確かに海未ちゃんは緊張しやすいタイプだけど、『人が多いから』なんていう理由で音ノ木坂を避けたりしないでしょ。むしろ母校の方が安心するだろうし、縁もゆかりもない浦の星を選ぶ理由は無い。あるとすれば・・・俺に用があったんじゃないの?」

 

 「・・・その察しの良さ、相変わらずですね」

 

 溜め息をつく海未ちゃん。

 

 「確かに、そんな理由で浦の星に来たわけではありません。μ'sのメンバーである私が音ノ木坂に行くことで、混乱を招いてしまう恐れがあることを考慮したのもありますが・・・一番の理由は仰る通り、貴方に用があったからですよ」

 

 「わざわざ教育実習で来なくても、プライベートで来れば良いのに・・・」

 

 「私が一番見たかったのは、学校での天ですからね。貴方が浦の星でどのような学校生活を送っているのか、自分の目で確かめたかったんですよ」

 

 苦笑する海未ちゃん。

 

 「だって気になるじゃないですか。何しろ天は・・・絵里と大喧嘩してまで、浦の星にテスト生として入学する道を選んだんですから」

 

 「・・・それで南理事長に頼んで、浦の星で教育実習を受けさせてもらえるよう小原理事長に掛け合ったの?」

 

 「その通りです」

 

 頷く海未ちゃん。

 

 「浦の星に来て驚きましたよ。まさか天が・・・スクールアイドルグループのマネージャーをやっているだなんて」

 

 「っ・・・」

 

 「経緯は黒澤生徒会長に伺いましたが、小原理事長に脅されたそうですね。高海さん達の為に、仕方なくマネージャーを引き受けたのでしょう?」

 

 俺を見つめる海未ちゃん。俺は海未ちゃんの顔を見ることが出来なかった。

 

 「これでは、天も絵里も浮かばれません・・・私が小原理事長に直談判して、スクールアイドル部の立場を保障させます。ですから・・・」

 

 涙を浮かべ、俺の手を握る海未ちゃん。

 

 「帰って来て下さい、天・・・絵里も亜里沙も、μ'sの皆も・・・貴方の帰りを待っているんですよ」

 

 海未ちゃんの切実な願いに、何も返すことが出来ない俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

さて、天の立場が明らかになったわけですが・・・

ここで少し説明させていただきますと、この作品での音ノ木坂は幼稚園から大学院まで存在することになっています。

『え、じゃあ何で高校だけ廃校の危機に陥ったの?』

『中学まで共学なのに、高校から女子校ってマジ?』

等の疑問は勘弁してください(泣)

そういう設定なんです(泣)

まぁとにかく、実は天は音ノ木坂に通ってましたというお話でした。

さて、物語はどう動いていくのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真剣な気持ちには真剣に向き合うべきである。

凄く今さらですけど、逢田梨香子さんの『ORDINARY LOVE』ってメッチャ良い曲ですよね。

最近メッチャ聴いてます。


 翌日・・・

 

 「・・・ん・・・さん・・・天さんっ!」

 

 「へっ?」

 

 生徒会の仕事中、名前を呼ばれてハッと我に返る。顔を上げると、ダイヤさんが心配そうにこちらを見ていた。

 

 「大丈夫ですの?心ここにあらず、といった様子でしたが・・・」

 

 「あぁ、すみません・・・少しボーっとしてました」

 

 ダイヤさんに謝る俺。仕事に集中しないといけないのに・・・

 

 「・・・少し休憩しましょう。今お茶を淹れますわ」

 

 「あ、それなら俺が・・・」

 

 「私がやりますわ」

 

 腰を浮かせた俺を押し留めるダイヤさん。

 

 「いつも天さんに淹れていただいてますから。たまには私にやらせて下さいな」

 

 「・・・すみません。お願いします」

 

 大人しく椅子に座る俺。気を遣わせてしまったな・・・

 

 「はい、どうぞ」

 

 「ありがとうございます」

 

 ダイヤさんの淹れてくれたお茶を飲む。少し心が落ち着いた気がした。

 

 「そういえば今日、スクールアイドル部の方で何かあるのですか?ルビィから『今日は帰りが遅くなる』と連絡がありましたが・・・」

 

 「PVを作るそうですよ。内浦の良いところを紹介して、浦の星の入学希望者を増やそうとしてるみたいです」

 

 内浦のことをよく知らない人は多いだろうし、PVを作って内浦のことを知ってもらうというのは良いアイデアだと思う。

 

 内浦のことを知ってもらえれば、浦の星にも興味を持ってもらえるかもしれないし。

 

 「PVですか・・・よく思いつきましたわね」

 

 「海未ちゃんが助言したみたいですよ。当時のμ'sがやっていたことを、千歌さん達に教えたみたいです」

 

 「あぁ、なるほど」

 

 納得するダイヤさん。

 

 スクールアイドル部のメンバーと海未ちゃんの距離は、今日一日でだいぶ縮まっていた。花丸・ルビィ・善子は休み時間になると積極的に質問しに行っていたし、昼休みには千歌さん・曜さん・梨子さんも加わって一緒に昼ご飯を食べたりもした。

 

 海未ちゃんも皆が話しかけてきてくれるのが嬉しかったみたいで、嬉々として質問に答えたりμ'sとして活動していた頃の話をしたりしていた。

 

 「今日一日見てて思いましたけど、海未ちゃんは教師に向いてますね。生徒に対して真摯に向き合ってくれるところとか、海未ちゃんらしいなって思いますもん」

 

 メンタルの弱いところはあるけれど、真っ直ぐで誠実な人・・・それが海未ちゃんだ。きっと良い教師になってくれるだろう。

 

 「ホント・・・俺なんかに構ってないで、素直に音ノ木坂で教育実習を受けさせてもらえば良かったのに・・・」

 

 「・・・園田先生は、天さんを大切に思っていらっしゃるのだと思いますよ」

 

 「え・・・?」

 

 ダイヤさんが優しい表情で俺を見ていた。

 

 「園田先生だって、母校で教育実習を受けることを第一に考えていたと思います。それでも、あえて浦の星を選んだ・・・それは園田先生にとって、天さんの存在が大きかったからではないでしょうか」

 

 「ダイヤさん・・・まさか、海未ちゃんの嘘に気付いて・・・?」

 

 「μ'sは音ノ木坂を救う為に結成されたグループですわよ?それほど音ノ木坂を大切に思われている方が、あのような理由で母校での教育実習を避けるはずありませんわ」

 

 苦笑するダイヤさん。

 

 「それでも園田先生は、母校よりも天さんのいる浦の星を選んだのです。よほど天さんを大切に思っていないかぎり、そんな選択はしませんわ」

 

 「ダイヤさん・・・」

 

 「昨日園田先生と何を話されたのか、一体何があったのか・・・私には分かりません。私に言えることは唯一つ・・・園田先生の気持ちに向き合ってあげて下さい。天さんなら、それが出来るはずですわ」

 

 「・・・はい。ありがとうございます、ダイヤさん」

 

 ホント、この人には敵わないな・・・

 

 優しく微笑むダイヤさんを見て、心からそう思う俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「今日も疲れましたぁ・・・」

 

 ソファにぐでーんと寝そべる海未ちゃん。昨日来たばかりだというのに、もうすっかり我が家のように寛いでいる。

 

 「とても名家の娘とは思えないだらけっぷりだね・・・」

 

 「家でまで肩肘張った生活をしていたら、身体がもちませんから」

 

 苦笑する海未ちゃん。なるほど・・・

 

 そういえば、前に果南さんと名家の娘についての話をしたことがあったな・・・せっかくだし聞いてみるか。

 

 「名家の娘っていえば、ダイヤさんとルビィもそうなんだけどさ。ルビィはともかく、ダイヤさんは少し頑なというか・・・それこそ、肩肘張って生きてるところがある気がするんだよね」

 

 「あぁ、彼女はそういうタイプでしょうね」

 

 頷く海未ちゃん。

 

 「家の名に恥じない振る舞いを心がけないといけない・・・その気持ちは私もよく分かります。人前で肩の力を抜けないんですよね。だからこそ一人の時や、心を許せる人の前では肩の力を抜きたくなるんですよ」

 

 「あぁ、身体がリラックスを求めてるのね」

 

 「そういうことです。ですので人前で肩の力を抜くという生き方は、私も無理ですし彼女も無理でしょうね。勿論その分、リラックス出来る時間というものを大切にしていますのでご心配なく」

 

 「へぇ・・・」

 

 なるほどねぇ・・・今度果南さんにも教えてあげよう。

 

 「私が見た感じでは、ルビィと小原理事長・・・それと天、貴方の前でも黒澤生徒会長は肩の力を抜いていましたね」

 

 「え、ホント?」

 

 「えぇ。私は彼女と似たような立場ですから、見れば何となく分かります。天と話している時の彼女は、全体的に物腰が柔らかいといいますか・・・いつもの真面目で堅苦しい感じではなく、お茶目で柔和な感じの印象を受けました。心を許していない相手に、あの態度はとれないと思いますよ。それこそ、私達のような人間は特に」

 

 「そっか・・・それは嬉しいな」

 

 「むっ・・・」

 

 何故か少し不機嫌になった海未ちゃんが、後ろから俺に抱きついてくる。

 

 「私だって、天に心を許してるんですからね!」

 

 「はいはい、ありがとね」

 

 「軽くないですか!?」

 

 「アハハ、そんなことないよ」

 

 俺のお腹に回された海未ちゃんの両手に、自分の両手を重ねる。

 

 「・・・ありがとね、海未ちゃん。大事な教育実習の機会を、俺の為に使ってくれて」

 

 「天・・・」

 

 「でも・・・ゴメン。今は戻るつもりはない」

 

 昨日の海未ちゃんの願いには応えられない・・・俺はそのことを詫びた。

 

 「今はまだ、やらなきゃいけないことがある。小原理事長から脅されたとはいえ、今の俺はAqoursのマネージャーだから。最低限の責務は果たさないといけないんだよ」

 

 まだAqoursは始まったばかり・・・ここで彼女達を見捨てることは出来ないのだ。

 

 「それを果たしたら、帰って来てくれるんですか?」

 

 「・・・そのつもりでいるよ」

 

 「絵里とも仲直りしてくれるんですか?」

 

 「それは・・・あの人の態度次第かな」

 

 「・・・フフッ」

 

 小さく笑みを溢す海未ちゃん。

 

 「本当に・・・似てますね、貴方達は」

 

 「・・・俺はあんなに頭の固い人間じゃないつもりなんだけど」

 

 「いえ、天も十分頑固だと思います」

 

 「マジかぁ・・・」

 

 軽く凹んでいると、海未ちゃんがクスクス笑っていた。

 

 「フフッ、凹まないで下さいよ。天のそういうところ、私は好きなんですから」

 

 海未ちゃんはそう言うと、俺を抱き締める腕に力を込めた。

 

 「・・・待ってますからね、天」

 

 「・・・うん。ありがと」

 

 海未ちゃんの呟きに、小さく頷く俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

鈴木愛奈さん、ソロデビューおめでとうございます!

個人的にあいにゃさんの歌声が凄く好きなので、これは本当に楽しみ!

っていうか、最近あいにゃさんに凄く惹かれている自分がいる・・・

だがしかし、そのあいにゃさんが演じている鞠莉ちゃんを悪役風にしてしまっている件について・・・

感想でも『和解してほしい』というお声をたくさんいただきました。

いずれ和解させますので、しばしお待ちを(>_<)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

有り得ないなんて事は有り得ない。

タイトルは『鋼の錬金術師』に登場するグリードのセリフから取りました。

有り得ないなんてことは有り得ない、なんてことは有り得ない・・・って無限ループしそうなセリフではありますが(笑)

まぁ要はどんなことでも起こり得るし、『絶対』は無いということですね。

ちなみに自分がハガレンの中で好きなキャラはランファンです。


 翌日・・・

 

 『以上、頑張ルビィ!こと黒澤ルビィがお伝えしました!』

 

 理事長室にて、千歌さん達が製作したPVを見ている俺達。

 

 これは・・・

 

 「よく伝わりますね・・・ルビィの可愛さが」

 

 「「「「「そっち!?」」」」」

 

 「いやぁ、そんなぁ・・・」

 

 照れているルビィ。いや、照れてる場合じゃないよルビィ・・・

 

 「海未ちゃん、どう思う?」

 

 「いや、どう思うと聞かれても・・・」

 

 返答に困る海未ちゃん。まぁそうだよね・・・

 

 「や、やっぱりイマイチ・・・?」

 

 「・・・良い出来映え、とは言えませんね」

 

 「・・・だよねぇ」

 

 俺の一言に、ガックリと肩を落とす千歌さん。自分でも分かっていたらしい。

 

 「なかなか上手くいかなくて・・・PVって難しいね」

 

 「経験者として、それは分かります」

 

 頷いている海未ちゃん。俺は小原理事長へ視線を移した。

 

 「小原理事長はどう思いますか?」

 

 「・・・すぴー・・・すぴー・・・」

 

 「”●砕”」

 

 「痛ぁっ!?」

 

 足を高く上げ、小原理事長の頭目掛けてかかとを振り下ろす。椅子から飛び上がり、頭を押さえながら痛みに悶える小原理事長。

 

 「ちょっと天!?何するのよ!?」

 

 「どうも、黒足の絢瀬です」

 

 「どこのサ●ジ!?理事長に暴力だなんて、普通なら退学ものよ!?」

 

 「出来るもんならやってみて下さいよ。俺を利用する為にこの学校に呼んだのは、一体誰でしたっけ?」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まる小原理事長。と、ここで千歌さんが抗議の声を上げる。

 

 「何で寝てるんですか!本気なんですから、ちゃんと見て下さい!」

 

 「・・・本気?」

 

 小原理事長の表情が変わった。今までのおちゃらけたものとは違う、冷たい表情だ。

 

 「・・・それでこの体たらくですか?」

 

 「ちょっと!?それは酷くないですか!?」

 

 「そうです!これだけ作るのがどれほど大変だったと思ってるんですか!」

 

 「努力の量と結果は比例しませんッ!」

 

 曜さんと梨子さんが反論するも、一言で黙らせる小原理事長。

 

 「大切なのは、このTownやSchoolの魅力をちゃんと理解しているかですッ!」

 

 「小原理事長、流石に言い過ぎなのでは・・・」

 

 「海未ちゃん」

 

 海未ちゃんが間に入ろうとするのを、手を掴んで引き止める。

 

 言い方は厳しいが、今回ばかりは小原理事長が正しい。確かにこのPVを作る為に、千歌さん達は一生懸命頑張ったんだと思う。

 

 それでも出来上がったPVは、内浦の魅力を伝えるには不十分と言わざるをえないものだった。『努力したからそれで良い』という話ではないのだ。

 

 「それってつまり・・・」

 

 「私達が理解していないということですか・・・?」

 

 「じゃあ理事長は、魅力が分かってるってこと・・・?」

 

 ルビィ・花丸・善子に対し、小原理事長は不敵な笑みを浮かべた。

 

 「少なくとも、貴女達よりはね・・・聞きたいですか?」

 

 「結構です」

 

 即座に断る千歌さん。

 

 「そういう大切なことは、自分で気付けなきゃ意味無いですから・・・皆、行こう」

 

 曜さん達を連れ、理事長室から出て行く千歌さん。俺も後に続こうとするが、海未ちゃんはその場から動こうとしなかった。

 

 「海未ちゃん?行かないの?」

 

 「先に行って下さい。私は小原理事長にお話がありますので」

 

 「・・・分かった。程々にね」

 

 海未ちゃんの心情を察した俺は、それだけ忠告して理事長室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《鞠莉視点》

 

 「それで?話って何かしら?」

 

 園田先生に尋ねる私。

 

 年齢は彼女の方が上だけれど、立場は私の方が上・・・彼女は理事長としての私に話があるようだし、それなら私も理事長として接するべきだ。

 

 ここは敬語を使わず、堂々としているべきだろう。

 

 「今のPVの件なら、私は間違ったことは言ってないつもり・・・」

 

 「・・・少し黙りなさい」

 

 「っ!?」

 

 底冷えするような低い声に、私はゾッとしてしまった。こちらを射抜くような鋭い眼光に、思わず身体が固まってしまう。

 

 「今の件についても言いたいことはありますが、天に止められてしまったので何も言わないでおきます。それより・・・話というのは天のことです」

 

 私を睨み付ける園田先生。

 

 「貴女が天を脅したことは、黒澤生徒会長から聞いています。本来であれば、私としても黙って見過ごすつもりなどありませんでしたが・・・天は引き続き、Aqoursを支えるつもりだと言っていました。それが天の意思である以上、私が出しゃばることは出来ません。ですが・・・」

 

 園田先生は私の目の前に立つと、執務用の机を思いっきり叩いた。大きな音に、身体がビクッと反応してしまう。

 

 「これ以上、天を傷付けたり苦しめたりするようであれば・・・私は勿論、μ'sのメンバー達が黙ってはいません。特に絵里が、どれほど天を大切に思っているか・・・幼馴染の貴女が、知らないはずありませんよね?」

 

 園田先生はそう言うと、踵を返して出口へと歩いていった。

 

 「貴女にどのような思惑があるのか知りませんが・・・天を脅してAqoursのマネージャーをやらせたことを、後悔する日が必ずやって来ます。その時に思い知るといいでしょう・・・自分のやったことが、どれほど罪深いことなのかを」

 

 それだけ言い残し、園田先生は理事長室から出て行った。その瞬間、何かから解放されたように身体の力が一気に抜ける。

 

 「後悔か・・・そんなもの・・・とっくにしてるわよっ・・・」

 

 涙で視界が滲む中、思わず本音を呟いてしまう私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「魅力かぁ・・・」

 

 部室の椅子に座り、考え事に耽る俺。

 

 千歌さん達は作戦会議をするとのことで、最早スクールアイドル部の溜まり場となっている千歌さんの家へと向かった。

 

 俺も誘われたのだが、少し一人で考えたかったので断ったのだ。

 

 「っていうか、海未ちゃん大丈夫かなぁ・・・」

 

 理事長室を出る時に顔を見たけど、完全に目が据わってたもんなぁ・・・

 

 あれは海未ちゃんがガチでキレている時にする目だ。あの目で睨まれたら最後、身体が固まって動かなくなってしまうのだ。

 

 ちなみにソースは俺。ガチでキレた時の海未ちゃんは、μ'sの中の誰よりも怖いのである。

 

 「・・・まぁ、大丈夫か」

 

 相手は仮にも理事長だし、海未ちゃんも少しは自重するだろう。それより、PVについて考えないと・・・

 

 そう思っていた時、体育館の方から音がすることに気付いた。

 

 「誰かいる・・・?」

 

 今日はどこの部も体育館を使っていないはずだけどな・・・

 

 部室を出て体育館を覗いてみると、体育館のステージ上で踊るダイヤさんの姿があった。

 

 「ダイヤさん・・・?」

 

 あのダイヤさんが、体育館のステージ上で踊っている。それにしても・・・

 

 「・・・凄いな」

 

 優雅で美しいダイヤさんの踊りに、俺は釘付けになっていた。

 

 『踊り』というより、これは『舞い』と言った方が良いかもしれない。見る者をここまで魅了するなんて・・・

 

 そのまま夢中になって見ていると、ダイヤさんが俺の存在に気付いた。

 

 「そ、天さんっ!?」

 

 みるみる顔が赤くなっていく。まさか見られているとは思わなかったらしい。

 

 「い、いつからそこに!?」

 

 「少し前からです。そこからずっと、ダイヤさんに見惚れてました」

 

 「み、見惚れっ・・・!?」

 

 耳まで真っ赤になるダイヤさん。可愛いなぁ・・・

 

 「凄いですね、ダイヤさん。思わず引き込まれちゃいましたよ」

 

 「ま、まぁダンスには少し自信があるので・・・」

 

 照れ笑いを浮かべるダイヤさん。

 

 「とはいえ、もう披露する機会もありませんから・・・」

 

 「ダイヤさん・・・」

 

 恐らく千歌さんならここで、『一緒にスクールアイドルやりませんか?』と声をかけるだろう。

 

 だが、それに対するダイヤさんの答えはノーだ。何故なら・・・

 

 「・・・果南さんや小原理事長と、また一緒にスクールアイドルをやりたいですか?」

 

 「っ・・・」

 

 唇を噛むダイヤさん。

 

 これがダイヤさんの答え・・・二人が一緒でなければ、スクールアイドルはやらない。この答えが覆ることはないだろう。

 

 だったら・・・

 

 「もし果南さんと小原理事長が、もう一度スクールアイドルをやると言ったら・・・ダイヤさんもやりますか?」

 

 「・・・有り得ませんわ」

 

 俯くダイヤさん。

 

 「鞠莉さんは乗り気のようですが・・・果南さんが再びスクールアイドルをやることはないでしょう。果南さんの意思は固いですから」

 

 「今はあの二人の意思はどうでもいいです」

 

 バッサリ切り捨てる俺。ダイヤさんが目を見開いて驚く。

 

 「俺が聞いているのは、ダイヤさんの意思です。もう一度聞きますが・・・あの二人がもう一度スクールアイドルをやると言ったら、ダイヤさんもやりますか?」

 

 「・・・やりますわ」

 

 目に涙を浮かべているダイヤさん。

 

 「私はもう一度・・・果南さんと鞠莉さんと・・・一緒にスクールアイドルがやりたいですわ・・・!」

 

 「・・・それが貴女の本音ですか」

 

 二年前、何故Aqoursが解散したのかは分からない。ただ現状から推測すると、恐らく原因は果南さんと小原理事長にある。

 

 何があったかは知らないが、ダイヤさんとしては解散なんてしたくなかったんだろうな・・・

 

 「・・・その思い、大切にして下さい」

 

 「え・・・?」

 

 呆然とするダイヤさんに、俺は微笑んだ。

 

 「ダイヤさんは、千歌さんがスクールアイドル部を設立すると宣言した時・・・ここまで来るなんて予想してましたか?」

 

 「・・・正直、無理だと思ってましたわ」

 

 「まぁ、普通はそう思いますよね」

 

 階段を上り、ステージに上がる俺。

 

 「でもここまで来た。曜さんや梨子さん、ルビィと花丸、それに善子・・・一緒に輝きを目指す仲間を集めて、ここまで来たんですよ」

 

 そう、ここまでの流れはまるで・・・

 

 「μ'sみたいだな・・・それが俺の感想です」

 

 「μ's・・・ですか?」

 

 「えぇ。最初は穂乃果ちゃんがスクールアイドルをやると宣言して、幼馴染のことりちゃんや海未ちゃんがそれに賛同して。そこから仲間が増えていき、μ'sになったんです。ラブライブで優勝するほどのグループになるなんて、あの時は想像もしてませんでした」

 

 いつだって彼女達は、俺の想像を遥かに超える活躍を見せてくれた。周りを巻き込み、スクールアイドルブームを巻き起こしたのだ。

 

 その中心にいたのは、紛れも無くリーダーの穂乃果ちゃんだった。

 

 「穂乃果ちゃんと千歌さんって、どことなく似てるところがあるというか・・・何かやってくれそうな雰囲気があるんですよね。その千歌さんが今、周りを巻き込みながらスクールアイドルをやっている・・・可能性はあると思いません?」

 

 「私達が、再び一緒にスクールアイドルをやれる可能性・・・ですか?」

 

 「えぇ。あの人のことですから、そのうちダイヤさん達をも巻き込むことになるでしょう。意思が固いという果南さんだって、心が動くこともあるかもしれません」

 

 「そんなこと・・・」

 

 「有り得ないと決め付けるのは勿体ないですよ」

 

 俺はダイヤさんを真っ直ぐ見つめた。

 

 「だからその気持ち、絶対に捨てないで下さい。今の果南さんと小原理事長を繋いでいるのは、ダイヤさんなんですから」

 

 「天さん・・・」

 

 俺はそれだけ言うとステージを降り、ダイヤさんに一礼して体育館を後にする。

 

 最後に見たダイヤさんの瞳は、大きく揺れ動いていたのだった。




どうも~、ムッティです。

暑い日が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

自分は暑くて死にそうになってます(´д`|||)

実は春夏秋冬の中で、夏が一番嫌いです。

とにかく暑いのが苦手でして・・・

逆に寒い方が好きなので、一番好きな季節は冬です。

好きな順でいうと、冬→秋→春→夏ですかね。

皆さんの好きな季節はいつでしょうか?

・・・作品と全く関係ない話でしたね(笑)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ここにしかない魅力がある。

映画『天気の子』を観てきました。

凄く良い映画でした。

物語も良いし画も綺麗だし、流石は新海監督だなと思いました。

とりあえず、陽菜ちゃんと夏美さんが可愛かった( ´∀`)


 翌朝・・・

 

 「・・・ん」

 

 鳴り響く目覚ましのアラームを止め、俺は上半身を起こした。

 

 「・・・眠い」

 

 欠伸をしながら、思いっきり身体を伸ばす。

 

 昨日は結局、この町や学校の魅力についての答えは出なかった。勿論良いところは思いつくのだが、外の人達に興味を持ってもらえるような魅力となると・・・

 

 「難しいなぁ・・・」

 

 溜め息をつきながら、隣の布団で寝ている海未ちゃんを眺める。すやすやと安らかな寝息を立て、穏やかに眠っていた。

 

 「・・・幸せそうだなぁ」

 

 苦笑しながら、海未ちゃんの頭を撫でる。ふと時計を見ると、3時半を過ぎていた。

 

 「・・・そろそろ起きないと」

 

 いつもより全然早い時間ではあるが、今日は早起きしないといけない理由があるのだ。俺は海未ちゃんの身体を優しく揺り動かした。

 

 「海未ちゃん、起きて」

 

 「んんぅ・・・」

 

 ゆっくりと目を開ける海未ちゃん。俺へと視線を向ける。

 

 「天ぁ・・・?」

 

 「おはよう、海未ちゃん。時間だよ」

 

 微笑む俺。

 

 「早く支度して、海に行こう?」

 

 「・・・海未は私ですが?」

 

 「そのボケ懐かしいね」

 

 俺が苦笑していると、海未ちゃんがハッとした表情を浮かべる。

 

 「もしかして・・・私は今、夜這いされているのでは!?」

 

 「“檸檬●弾”」

 

 「ギャアアアアアッ!?目がッ!?目があああああッ!?」

 

 海未ちゃんの顔の上でレモンを握り潰す俺。海未ちゃんの悲鳴が響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「うぅ、天ぁ・・・待って下さいよぉ・・・」

 

 しきりに目を擦りながら、俺の後をヨタヨタと追いかけてくる海未ちゃん。先ほどのレモンの果汁が、よほど目に染みたらしい。

 

 「早く歩きなよ、ムッツリスケベ」

 

 「ちょっと!?女子に向かって何てこと言うんですか!?」

 

 「『夜這い』とか想像してる時点で言い返せないでしょ」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まる海未ちゃん。

 

 「ほら、早く行くよ。集合時間に遅れちゃう」

 

 「あ、待って下さいってば!」

 

 小走りで俺の隣に並ぶ海未ちゃん。

 

 そのまま少し歩くと、『十千万』の前に千歌さんと梨子さんが立っているのが見えた。

 

 「あ、天くん!海未先生!」

 

 こちらに向かってブンブン手を振る千歌さん。朝早くから元気だなぁ・・・

 

 「おはようございます。お二人とも早いですね」

 

 「おかげで眠いけどねぇ・・・」

 

 欠伸を噛み殺す梨子さん。まぁ、まだ日も昇ってないしな・・・

 

 「千歌、海開きってこんなに朝早くからやるものなんですか?」

 

 「そうですよ」

 

 海未ちゃんの質問に、笑顔で答える千歌さん。

 

 今日は海開きということで、早朝からこの町の人達が集まって海辺のゴミ拾い等をやるらしい。毎年の恒例行事なんだそうだ。

 

 「さて、私達も行きましょうか!」

 

 「行ってらっしゃい。俺は『十千万』でもう一度寝てきます」

 

 「天くん!?何で行く気ゼロなの!?」

 

 「海を開く以前に、俺の目が開く時間じゃないんで」

 

 「何ちょっと上手いこと言ってるの!?」

 

 「「同じく」」

 

 「梨子ちゃん!?海未先生!?」

 

 朝からツッコミを連発する千歌さんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「「「おぉ・・・」」」

 

 感嘆の声を上げる俺・梨子さん・海未ちゃん。既に海辺には、たくさんの人達が集まってゴミ拾いをしていた。

 

 「この町、こんなに人がいたんだね・・・」

 

 「えぇ、驚きました・・・」

 

 海未ちゃんとそんな会話をしていると・・・

 

 「おはようのハグっ!」

 

 「うおっ!?」

 

 いきなり背後から抱きつかれる。こんなことをしてくる人を、俺は一人しか知らない。

 

 「おはようございます、果南さん」

 

 「おはよー!」

 

 果南さんは元気よく挨拶すると、そのまま俺をギュっと抱き締めてきた。

 

 「果南さん、いつもよりテンション高くないですか?」

 

 「だって海開きだよ?そりゃあテンションも上がるよ!」

 

 「本当に海が大好きですよね、果南さんって」

 

 苦笑していると、海未ちゃんが驚愕の表情でこっちを見ていた。

 

 「そ、天に抱きついて・・・まさか、天に恋人が・・・!?」

 

 「いや、違うんだけど」

 

 「初めまして、天の恋人の松浦果南です♪」

 

 「悪ノリするの止めてもらえます?海未ちゃんは果南さんと違って純粋なんで、冗談とかすぐ信じちゃうんですから」

 

 「ちょっと!?人が純粋じゃないみたいに言わないでよ!?」

 

 「こうしてはいられません!急いで皆に伝えないと!」

 

 「“檸●爆弾”」

 

 「ギャアアアアアッ!?目がッ!?目があああああッ!?」

 

 慌ててスマホを取り出した海未ちゃんの顔の前で、思いっきりレモンを握り潰した。再び悲鳴を上げる海未ちゃん。

 

 「よ、容赦ないわね・・・」

 

 「これくらいしないと、海未ちゃんは止められないんで」

 

 若干引き気味の梨子さんに対し、溜め息をつきながら答える俺。

 

 「そういえば、千歌さんはどこに行ったんですか?」

 

 「あそこで曜ちゃんとゴミ拾い始めてるわよ」

 

 梨子さんの指差した先では、千歌さんと曜さんが談笑しながらゴミ拾いをしていた。

 

 よく見るとむつさんやいつきさん、よしみさんもいる。

 

 「じゃあ、私も行ってくるわね」

 

 「行ってらっしゃい」

 

 千歌さん達のところへ歩いていく梨子さん。

 

 そんな梨子さんと入れ替わるように、ルビィとダイヤさんがこちらへ歩いてくる。

 

 「天くん、おはよう!」

 

 「おはようルビィ。ダイヤさんもおはようございます」

 

 「お、おはようございます・・・」

 

 おずおずと挨拶を返してくるダイヤさん。果南さんが首を傾げる。

 

 「どうしたのダイヤ?何かぎこちなくない?」

 

 「そ、そんなことありませんわ!」

 

 慌てて否定するダイヤさんだが、恐らく昨日のことが影響しているんだろう。動揺しているのが目に見えて分かる。

 

 「ダイヤさん・・・」

 

 「な、何ですの・・・?」

 

 「・・・おはようのハグ」

 

 「っ!?」

 

 ダイヤさんに近付き、軽くハグしてみる。硬直するダイヤさん。

 

 「そ、天くん!?何してるの!?」

 

 「何って・・・ハグ?」

 

 「何で!?」

 

 「そんな気分だったんだよ」

 

 「どんな気分!?」

 

 「あ、ダイヤだけズルい!天、私にもハグしてよ!」

 

 「ダイヤさんにハグしたい気分であって、果南さんにハグしたい気分じゃないんです」

 

 「酷い!?」

 

 「そ、天さん・・・」

 

 耳まで真っ赤になり、涙目でプルプル震えているダイヤさん。

 

 「は、恥ずかしいので・・・そ、そろそろ・・・」

 

 「・・・昨日は少し踏み込み過ぎてしまって、すみませんでした」

 

 「っ・・・」

 

 ルビィや果南さんに聞こえないよう、ダイヤさんの耳元で囁く俺。

 

 「それでも、ダイヤさんの本音が聞けて良かったです。ダイヤさん、なかなか自分の思いを打ち明けてくれないから」

 

 「天さん・・・」

 

 「もっと自分の思いをさらけ出しても良いんですからね。俺なんかで良ければ、いつでも聞かせてもらいますから」

 

 それだけ言うと、俺はダイヤさんから離れた。

 

 「よし、次はルビィとハグしようかな」

 

 「ぴぎっ!?何で!?」

 

 「そんな気分だから」

 

 「その言葉メッチャ便利だね!?」

 

 「ちょっと天!?私は!?」

 

 「すいません、気分じゃないんで」

 

 「何でよ!?」

 

 「・・・フフッ」

 

 口元を押さえ、面白そうに笑うダイヤさん。

 

 「やっぱり・・・天さんは天さんですわね」

 

 「お姉ちゃん?どうしたの?」

 

 「何でもありませんわ。さぁ果南さん、私達もそろそろ行きましょう?」

 

 「むぅ・・・ハグ・・・」

 

 俺からのハグが無いことに、若干不満そうな果南さん。

 

 ダイヤさんは苦笑すると、果南さんを引き寄せて抱き締めた。

 

 「わわっ、ダイヤ!?」

 

 「フフッ、天さんの代わりですわ」

 

 「どうしたのダイヤ!?何か今日変じゃない!?」

 

 「そんなことありませんわ」

 

 楽しそうに笑うダイヤさん。どうやら元に戻ったようだ。

 

 「では、私達は行きますわ。また後ほど」

 

 「行ってらっしゃい」

 

 果南さんの手を引いて、三年生組の方へと歩いていくダイヤさん。

 

 と、ふと立ち止まってこちらを振り返り・・・

 

 「えいっ!」

 

 「うおっ!?」

 

 勢いよく走ってきて、そのまま俺に抱きついてきた。慌てて受け止める俺。

 

 「ちょ、ダイヤさん!?」

 

 「・・・ありがとうございます、天さん」

 

 先ほどの俺と同じように、耳元で囁くダイヤさん。

 

 「お言葉通り、この思いは捨てないでおきますわ。いつの日か、叶うことを信じて」

 

 「・・・えぇ、そうして下さい」

 

 抱き締め返す俺。

 

 「その思いが叶うことを祈ってます」

 

 「フフッ、ありがとうございます」

 

 ダイヤさんは笑みを浮かべると、俺から離れて果南さんの手をとった。

 

 「さぁ果南さん、いきますわよ」

 

 「ちょ、待ってよ!?私も天とハグするのー!」

 

 果南さんの訴えも空しく、ダイヤさんは果南さんを引きずって去っていった。

 

 「・・・あんなお姉ちゃん、初めて見たかも」

 

 呆然としているルビィ。

 

 「何か・・・凄いね、天くんって」

 

 「変わったことは何もしてないよ」

 

 「むしろ変わったことしかしてないよねぇ!?」

 

 「ルビィ、そこはツッコミを入れても仕方ないですよ」

 

 いつの間にか復活した海未ちゃんが、苦笑しながら言う。

 

 「天は昔からこういう人ですから」

 

 「あれ?海未ちゃんどこ行ってたの?」

 

 「顔を洗いに行ってたんですよっ!誰かさんがレモン汁なんてかけるからっ!」

 

 「酷いことをするヤツがいたもんだね」

 

 「ア・ナ・タ・で・す・よ!」

 

 「いふぁいいふぁい(痛い痛い)」

 

 海未ちゃんに頬をつねられる。と、そこへ花丸と善子がやってきた。

 

 「おはようずら~」

 

 「おふぁふぉ~(おはよ~)」

 

 「朝から仲良しねぇ、アンタ達・・・」

 

 呆れている善子。

 

 「ほら、早くゴミ拾い始めましょ。天の分も道具もらっといたから」

 

 「おっ、ありがと」

 

 善子からゴミ拾い用のトングと袋、明かりとなる提灯をもらう。

 

 「さぁ、始めるわよ!」

 

 「やるずら~!」

 

 「いっぱい拾って綺麗にしようね!」

 

 「私も頑張っちゃいますよー!」

 

 ノリノリでゴミ拾いを始める四人。

 

 海辺に集まった人達は皆、それぞれ笑顔を見せながらゴミ拾いに勤しんでいる。面倒そうにしている人などおらず、皆楽しそうにしていた。

 

 これって・・・

 

 「フフッ、気付いたかしら?」

 

 背後から声がする。振り向くと、小原理事長が立っていた。

 

 「この町の魅力・・・もっといえば、この町に住んでいる人達の魅力。この光景を初めて見た時、私は感動したわ。『何て素敵な町なんだろう』ってね」

 

 「・・・分かります」

 

 俺は素直に頷いた。この町の魅力が、この光景に詰まっていると言っても過言ではない。

 

 「これを他の人達に伝えるには・・・」

 

 俺の頭の中で、ピンとくるものがあった。後はこれを、千歌さん達と一緒に形に出来れば・・・

 

 と、小原理事長がある方向をジッと見ていることに気付く。その方向には、二人でゴミ拾いをするダイヤさんと果南さんの姿があった。

 

 「・・・行かないんですか?」

 

 俺の問いに答えず、寂しそうに笑う小原理事長。ハァ・・・

 

 「えいっ」

 

 「きゃあっ!?」

 

 小原理事長の背中を思いっきり押す。前につんのめり、転びそうになる小原理事長。

 

 「な、何するの!?」

 

 「ウジウジしてないで早く行く。ほら、道具もあげるから」

 

 小原理事長の手に、トングや提灯を押し付ける。

 

 「で、でも・・・」

 

 「全く・・・普段は威勢がいいくせに、肝心な時にヘタレなところは変わりませんね」

 

 「ちょ、誰がヘタレよ!?」

 

 「いいから早く行って下さい。せっかくの機会を逃しますよ」

 

 今度は優しく背中を押す。覚悟を決めたのか、意を決した表情になる小原理事長。

 

 「・・・行ってくるわ」

 

 「逝ってらっしゃい」

 

 「何か字が違う気がするんだけど!?」

 

 「あの世に逝ってらっしゃい」

 

 「今『あの世』って言ったわよねぇ!?」

 

 ツッコミを連発する小原理事長。と、面白そうにクスッと笑う。

 

 「・・・ありがとう、天」

 

 それだけ言うと、小原理事長はダイヤさんと果南さんのところへと向かって行った。

 

 「・・・相変わらずお人好しですね」

 

 いつの間にか、納得がいかない表情の海未ちゃんが俺の側に立っていた。

 

 「自分を脅した相手の背中を押すなんて・・・」

 

 「・・・やっぱりあの人に、悲しそうな顔は似合わないからね」

 

 「ハァ・・・天は優しすぎます」

 

 溜め息をつく海未ちゃん。

 

 「まぁ、それが天の良いところなんですけどね」

 

 「ありがと」

 

 俺は苦笑すると、海未ちゃんにあるお願いをするのだった。

 

 「ところで海未ちゃん、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど・・・」




どうも~、ムッティです。

ようやく果南ちゃんが登場しました・・・

今までゴメンよ、果南ちゃん(涙)

さて、次の話でアニメ一期の六話までの話が終わる予定です。

相変わらず話をサクサク進められていませんが、お許し下さい(汗)

次の話は明日投稿します(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人の温かさは心に沁みるものである。

映画『ONE PIECE STAMPEDE』を観に行きたい・・・

でも暑いから外に出たくない・・・


 「準備は出来ましたか?」

 

 「オッケーだよ!」

 

 新しい衣装に身を包んだ千歌さんが、笑顔で頷く。

 

 俺達は浦の星の屋上で、Aqoursの新しいPVを撮影しようとしていた。

 

 「海未ちゃん、録画開始」

 

 「了解です」

 

 海未ちゃんがビデオカメラの録画ボタンを押す。

 

 「いつきさん、曲を流して下さい」

 

 『ラジャー!』

 

 インカムを通じて、音響担当のいつきさんに指示を出す。流れ始めた曲は、今回の為に作った新曲『夢で夜空を照らしたい』だ。

 

 海開きの日にこの町の魅力を感じた俺は、すぐに千歌さん達に相談した。そしてその魅力を伝える為、新曲を作ることを提案したのだ。

 

 千歌さん達も賛成してくれて、すぐに新曲の製作が始まった。作詞と作曲は千歌さんと梨子さん、衣装は曜さんとルビィ、振り付けは花丸と善子に担当してもらった。

 

 そしてもう一つ・・・このPVには欠かせないものがあった。

 

 「むつさん、よしみさん、お願いします」

 

 『よしきた!』

 

 『皆さーん!お願いしまーす!』

 

 曲がサビに入る前に、インカムを通じてむつさんとよしみさんに合図を出す。

 

 その瞬間・・・たくさんのスカイランタンが、一斉に空へと上っていった。

 

 「わぁ・・・!」

 

 目を輝かせている海未ちゃん。

 

 たくさんのスカイランタンをバックに、Aqoursが歌って踊る・・・この演出をどうしてもやりたかった。

 

 ちなみにこのスカイランタンは、町の人達が浦の星の近くで上げてくれている。『協力してほしい』とお願いしたところ、皆快く引き受けてくれたのだ。

 

 「凄いな・・・」

 

 想像以上の美しさに、俺も思わず見惚れてしまった。

 

 このスカイランタンの演出は、PVを華やかにする為もあるが・・・それ以上に、町の人達の温かさを表現したいという思いで考えたものだ。

 

 海開きの時の提灯が、良いヒントになったんだよな・・・

 

 「・・・綺麗ですね」

 

 「・・・うん」

 

 海未ちゃんと二人、幻想的な景色に見入る。

 

 放課後に撮影していることもあって、既に日は沈んでいる。しかし夕焼けの名残である赤さが残っており、まさに黄昏時だった。

 

 そこにスカイランタンの明りが合わさり、それをバックにAqoursがパフォーマンスをしている・・・これは良いPVになりそうだ。

 

 「『夢で夜空を照らしたい』ですか・・・良い曲が出来ましたね」

 

 「ホントにね。流石は千歌さんと梨子さんだよ」

 

 生まれ育った町に対する郷土愛と、町の人達への尊敬や感謝・・・それをテーマに、千歌さんは想いのこもった素晴らしい歌詞を書いてくれた。

 

 梨子さんもまた、その歌詞を基に心に沁み渡る良い曲を作ってくれた。本当に名曲だと思う。

 

 「フフッ・・・何だか私も、久しぶりに作詞がしたくなってしまいました。今度真姫を誘って、新しい曲でも作ってみましょうか」

 

 「『オコトワリシマス』って言われるんじゃない?」

 

 「じゃあ天も一緒に作詞しましょう。それなら真姫は絶対、『し、仕方ないわね・・・』って言ってくれます」

 

 「そうかなぁ?」

 

 「そうですよ」

 

 笑っている海未ちゃん。

 

 「『START:DASH!!』の時もそうだったじゃないですか。あれが私と天、そして真姫の三人で作った最初の曲でしたよね」

 

 「・・・そうだったね」

 

 「天が考えた『諦めちゃダメなんだ。その日が絶対来る』という歌詞に、当時の私は感銘を受けたものです」

 

 「恥ずかしいから止めて」

 

 口が裂けても千歌さん・曜さん・梨子さん・果南さんには言えない。あの歌詞を書いたのが俺だったなんて・・・

 

 「あ、真姫から『し、仕方ないわね・・・』って返事が来ました」

 

 「もう打診したの!?っていうか返信早くない!?」

 

 思わずツッコミを入れてしまう俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 翌日・・・

 

 「Great!良いPVね!」

 

 新しく撮影したPVを見て、グッと親指を立てる小原理事長。

 

 俺達は小原理事長にPVを見せる為、理事長室を訪れていた。

 

 「良かったぁ・・・!」

 

 「お墨付きをもらえたね!」

 

 ホッとした様子の皆。まぁその前のPVを、あれほど酷評されたもんな・・・

 

 「早速Uploadすると良いわ。きっと反響も大きいんじゃないかしら」

 

 「了解です!」

 

 「ありがとうございます!」

 

 部室に向かう為、急いで理事長室を出て行く皆。俺も出て行こうとしたのだが・・・

 

 「天」

 

 小原理事長に呼び止められた。

 

 「・・・海開きの時はありがとう。背中を押してくれて」

 

 「・・・ちゃんと話せたんですか?」

 

 「少しはね・・・まぁ、深い話は出来なかったけど」

 

 苦笑する小原理事長。

 

 「私はね、天・・・果南やダイヤと一緒に、またスクールアイドルがやりたいの。もう一度、あのかけがえのない時間を取り戻したいのよ」

 

 「・・・そうですか」

 

 どうやら小原理事長は、ダイヤさんと同じ気持ちらしい。

 

 しかし果南さんがそれを拒んでおり、ダイヤさんも果南さんの意思を尊重している。果南さんの意思が変わらないかぎり、三人が再びスクールアイドルをやれることはないだろう。

 

 誰か一人でも欠けてしまえば、スクールアイドルをやる意味が無くなってしまうのだから。

 

 「以前のAqoursに何があったのか知りませんが・・・貴女方三人は、肝心な気持ちを言葉にしない傾向があります。スクールアイドルを始める前に、まずは本音をぶつけ合うことから始めるべきだと思いますが」

 

 「・・・ホント、その通りね」

 

 寂しそうに笑う小原理事長。俺は無言で一礼し、理事長室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「いやぁ、良いPVが出来て良かった!」

 

 満足そうに笑う千歌さん。

 

 PVのアップロードを終えた俺達は、帰宅の途についていた。

 

 「そういえば天くん、海未先生はどうしたずら?」

 

 「今日は赤城先生と食事に行くんだって。あの二人、すっかり仲良くなったみたい」

 

 花丸の問いに答える俺。今日の夕飯は俺一人かぁ・・・どうしようかなぁ・・・

 

 「だったら天くん、今日はウチで晩御飯食べていったら?お母さん、今日の夕飯はカレーにするって・・・」

 

 「ご相伴に預からせていただきます」

 

 「食い気味できたわね!?」

 

 梨子さんの提案に全力で乗っかる。奈々さんも料理上手なんだよなぁ・・・

 

 「そういえば志満姉が、『最近天くんが夕飯食べに来てくれない・・・』って寂しがってたなぁ・・・」

 

 「すいません梨子さん、未来の嫁が待ってるんで『十千万』行きますね」

 

 「志満さんのこと好き過ぎない!?」

 

 「っていうか、未来の嫁って何!?私は認めないからね!?」

 

 「今度ミカン奢ります」

 

 「よろしくお義兄ちゃん!」

 

 「千歌ちゃんがミカンで買収された!?」

 

 曜さんのツッコミ。いやぁ、軽い義妹で助かったわ。

 

 「天、ウチの母親も待ってるわよ。いつでも大歓迎って言ってたわ」

 

 「マジで?また善恵さんのご飯も食べたいし、今度お邪魔しようかな」

 

 「ルビィもお母さんから、『また天くんを連れてきなさい』って言われてるんだよね。天くんが初めてウチに来て以来、お母さんは天くんのことを気に入ってるから」

 

 「黒澤家の夕飯は豪華だったなぁ・・・『またお邪魔します』って伝えといてくれる?」

 

 「私もママから、『今度はいつ天くんを連れてくるの?』って聞かれるんだよね」

 

 「曜さんの家も行きたいですね。また是非ともお邪魔させていただきます」

 

 「天くん、皆の家族からモテモテずらね」

 

 苦笑している花丸。思い返してみると、果南さんの家を含め色々なところで夕飯をご馳走になってる気がするな・・・

 

 「・・・やっぱり温かいですね、この町の人達は」

 

 改めてそう思う。

 

 東京から来た俺を歓迎してくれて、こうやって優しく受け入れてくれる・・・本当にありがたいことだ。

 

 「・・・私、ここには何も無いって思ってた」

 

 千歌さんがそんなことを呟く。

 

 「でも違った。今回PVを作って、町の人達の温かさに気付いて・・・この町は、こんなにも素敵な場所なんだって思えた」

 

 俺を見て微笑む千歌さん。

 

 「ありがとう。天くんのおかげで気付けたよ」

 

 「千歌さん・・・」

 

 「私達は、この場所から始めよう。スクールアイドルを・・・Aqoursを!」

 

 「うんっ!」

 

 「そうね!」

 

 「ずらっ!」

 

 「ぴぎっ!」

 

 「ギラン!」

 

 千歌さんの言葉に応える皆。良いグループになったもんだ・・・

 

 「よーし!今日は皆で晩御飯食べよう!志満姉に連絡しなくちゃ!」

 

 「えっ、大丈夫?志満さん大変じゃない?」

 

 「平気平気!志満姉なら何とかしてくれるって!」

 

 「おいそこのお気楽オレンジヘッド、志満さんに迷惑かけたらスキンヘッドにすんぞ」

 

 「天くん!?何で志満姉が絡むと人が変わるの!?」

 

 「愛してるの言葉じゃ足りないくらいに志満さんが好きだからです」

 

 「どこのR●keさん!?」

 

 「いつまでも志満さんの横で笑っていたいからです」

 

 「それはG●eeeeN!」

 

 「ほら、早く『十千万』に帰りますよ」

 

 「帰るって何!?天くんの家じゃないよねぇ!?」

 

 俺と千歌さんのやり取りに笑う皆。

 

 この場所から始まったAqoursが、これからどんな軌跡を辿るのか・・・とても楽しみな俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

今回の話で、アニメ一期の六話までの話が終了しました。

次回からは七話の話に入っていく予定です。

海未ちゃんは教育実習中なので、引き続き登場しますよ。

さらに他のμ'sのメンバーも登場する・・・かも(笑)

そして後半で明らかになりましたが、既に黒澤家や渡辺家にもお邪魔している天・・・

どんだけ夕飯をご馳走になってるんだって話ですよね(笑)

羨ましいぜ(゜言゜)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

チャンスは突然やってくるものである。

映画『ONE PIECE STAMPEDE』を観てきました!

激アツでした!バレット強すぎィ!


 「あっつ~い・・・」

 

 部室の椅子に座っている俺の後ろから、ぐでーんともたれかかってくる善子。

 

 七月に入り、内浦は少しずつ暑くなってきていた。

 

 「何言ってんの。本格的な夏はこれからだよ?」

 

 「何で夏なんて季節があるのよ・・・春の次は秋でいいじゃない・・・」

 

 「その意見には同意するけども」

 

 苦笑しながら善子の頭を撫でる。

 

 「それよりほら、これ見てみなよ」

 

 「ん?」

 

 パソコンの画面を指差す俺。そこには、この間のPVが映っていた。

 

 「やっぱり綺麗ねぇ、スカイランタン」

 

 「いや、それもそうなんだけど・・・再生回数を見てよ」

 

 「再生回数?」

 

 画面の下へと目を向ける善子。その瞬間、驚愕の表情を浮かべた。

 

 「嘘!?五万回!?」

 

 「ずらっ!?」

 

 「ホントに!?」

 

 俺達の会話を聞いていたのか、花丸とルビィが慌ててパソコンを覗き込む。

 

 「スカイランタンが綺麗だって、結構評判になってるんだよ。『夢で夜空を照らしたい』も好評らしくて、どんどん再生回数が増えてるみたい」

 

 「凄いずらぁ・・・!」

 

 目がキラキラしている花丸。こんなに再生回数が伸びたの、初めてだもんな・・・

 

 「天くん、ランキングはどう!?」

 

 「えーっとね・・・」

 

 ルビィに尋ねられ、ランキングをチェックする俺。すると・・・

 

 「・・・99位だね」

 

 「えぇっ!?」

 

 「まさかの100位以内!?」

 

 曜さんと梨子さんも急いで近寄ってくる。マジか・・・

 

 「キタ・・・キタキタキターっ!」

 

 テンションが上がっている千歌さん。

 

 「それって全国でってことでしょ!?5000以上いるスクールアイドルの中で、100位以内ってことでしょ!?私達凄くない!?」

 

 「一時的な盛り上がりかもしれないけど、それでも凄いわね!」

 

 梨子さんも少し興奮気味だ。

 

 確かに、この短期間でここまでランキングを伸ばしたのは凄い。ランキング上昇率は一位だし、今最も勢いのあるグループといえるだろう。

 

 「何かさぁ・・・このままいったら、ラブライブ優勝出来ちゃうかも・・・!」

 

 「調子に乗るな、自惚れオレンジヘッド」

 

 「その罵倒に慣れちゃった自分が怖い!?」

 

 溜め息をつく俺。ホントにお調子者なんだから・・・

 

 「ラブライブで優勝するということは、全国のスクールアイドルの頂点に立つということです。確かに99位は凄い順位ですけど、裏を返せば上にまだ98組のスクールアイドルがいるということなんですよ?」

 

 「うっ、確かに・・・」

 

 「100位以内に入っているスクールアイドルですから、当然実力は折り紙付き・・・ラブライブの決勝まで進んだことのあるグループもゴロゴロいます。そういったグループを超えないかぎり、ラブライブで優勝なんて出来ないということを忘れないで下さいね」

 

 「も、勿論です!」

 

 ビシッと背筋を正す千歌さん。

 

 「でもでも、可能性はゼロじゃないよね!?私達も100位以内に入ったんだから、ラブライブで優勝出来る可能性は上がったってことだよね!?」

 

 「・・・まぁ、そうですね」

 

 「やったー!」

 

 喜ぶ千歌さん。

 

 この人、本当に分かってるのかなぁ・・・ん?

 

 「メール・・・?」

 

 どうやら、新しいメールが届いたらしい。開いてみると・・・

 

 「東京スクールアイドルワールド運営委員会・・・?」

 

 俺の肩越しに、開かれたメールの差出人をチェックする曜さん。

 

 「東京スクールアイドルワールドって何?」

 

 「近年東京で開かれている、スクールアイドルのイベントですね。どうやら、Aqoursにもお誘いがかかったみたいです」

 

 「「「「「「ええええええええええっ!?」」」」」」

 

 ビックリしている皆。これは突然の展開だな・・・

 

 「開催日は、今週の日曜日ですね・・・どうします?」

 

 「行きます!」

 

 力強く宣言する千歌さん。言うと思った・・・

 

 「お金は大丈夫なんですか?」

 

 「お、お小遣い前借りで!」

 

 「全然大丈夫じゃないパターンですね」

 

 ダメだこの人、何も考えてないわ・・・

 

 「イベントは日曜日の朝から始まるそうなので、もし参加するなら前乗り・・・つまり土曜日に東京へ行って、一泊する必要があります。往復の交通費にプラスして、東京での宿泊代もかかるわけですが・・・本当に大丈夫ですか?」

 

 無言で汗をダラダラ流す千歌さん。はい、アウトー。

 

 「『オコトワリシマス』っと・・・」

 

 「わーっ!?」

 

 メールに返信しようとすると、千歌さんが慌ててパソコンを閉じた。

 

 「お、お金は何とかするからっ!」

 

 「・・・何とかなるんですか?」

 

 「うぅ・・・」

 

 涙目の千歌さん。流石に可哀想になったのか、曜さんと梨子さんが助け舟を出す。

 

 「ま、まぁまぁ!皆で出し合って何とかしようよ!」

 

 「そ、そうよ!こういう時こそ助け合いよ!」

 

 「曜ちゃん、梨子ちゃん・・・!」

 

 「正直に言って下さい。懐、潤ってますか?」

 

 「「・・・いえ、全く」」

 

 「二人とも!?」

 

 「ゴメンなさい、ルビィもちょっと・・・」

 

 「マルもそんなにお金は・・・」

 

 「堕天使グッズ買っちゃったから・・・」

 

 「皆も!?」

 

 全滅だった。そりゃそうか・・・

 

 「でも、東京のイベントだもんね・・・」

 

 ルビィが呟く。

 

 「参加、したいよね・・・」

 

 その言葉に、押し黙ってしまう皆。どうやら皆、気持ちは同じようだ。

 

 「・・・そんなに参加したいんですか?」

 

 「・・・したいよ」

 

 千歌さんが頷く。

 

 「Aqoursをアピールする、絶好の機会だもん。みすみす逃したくないよ」

 

 「・・・ハァ」

 

 溜め息をつく俺。こうなりそうな予感がしたんだよなぁ・・・

 

 「・・・往復の交通費だけなら、何とかなりますか?」

 

 「え・・・?」

 

 「東京での宿泊代が無ければ・・・何とかなりますか?」

 

 俺の問いに、皆が顔を見合わせた。

 

 「それなら何とかなるけど・・・」

 

 「でも、イベントって朝からなんでしょ?ここからじゃ、当日どんなに早く出発したって間に合わないわよ?参加するなら前乗りしないと・・・」

 

 曜さんと善子が戸惑いの表情を浮かべる。だが、俺には考えがあった。

 

 「大丈夫ですよ。心当たりはあります」

 

 「天ー?」

 

 海未ちゃんがふらっと部室に現れる。

 

 「仕事終わりました。そろそろ帰りましょう」

 

 「お、ナイスタイミング」

 

 「え?」

 

 首を傾げる海未ちゃん。俺は話を切り出した。

 

 「実は今週の日曜日、東京でスクールアイドルのイベントがあるんだけどさ。土曜日の夜、海未ちゃんの実家に千歌さん達を泊めてあげてほしいんだよね」

 

 「あぁ、良いですよ」

 

 「「「「「「軽っ!?」」」」」」

 

 ずっこける皆。

 

 「海未先生!?本当に良いずら!?」

 

 「構いませんよ。実家には連絡しておきます」

 

 「で、でも!流石に大人数で押しかけるのは迷惑なんじゃ!?」

 

 「全然大丈夫です。ウチはそういうの慣れてるので」

 

 さらっと答える海未ちゃんに、皆絶句していた。苦笑する俺。

 

 「海未ちゃんの家って、日本舞踊の家元なんですよ。家の広さでいえば、黒澤家くらいはあるので大丈夫です」

 

 「そうなんだ・・・」

 

 唖然としているルビィ。

 

 「そういうことなら、私も今週末は一緒に実家に帰ります。その方が千歌達も安心出来るでしょうし」

 

 「ありがとうございます!海未先生!」

 

 千歌さんが海未ちゃんに抱きつく。曜さん達も大喜びしていた。

 

 「やったー!これでイベントに参加できる!」

 

 「良かったですね」

 

 苦笑する俺。

 

 「頑張ってきて下さい。応援してます」

 

 「「「「「「「え・・・?」」」」」」」

 

 俺の言葉に、千歌さん達だけでなく海未ちゃんも固まる。

 

 「えーっと・・・天くん?」

 

 「何ですか?」

 

 おずおずと尋ねてくる千歌さんに、俺は首を傾げた。何だろう?

 

 「まさかとは思うけど・・・行かないつもり?」

 

 あぁ、なるほど・・・そういうことね。

 

 「いや、まさかも何も・・・行きませんよ?」

 

 「「「「「「「ええええええええええっ!?」」」」」」」

 

 皆の絶叫が響き渡るのだった。




どうも~、ムッティです。

今回の話から、アニメ一期の七話の内容へと入っていきます。

東京でのイベント編ですね。

早速天が東京に行かない宣言してますけど(笑)

果たしてどうなることやら・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人は人を思いやるものである。

Aqoursの4thシングル『未体験HORIZON』、メッチャ良い曲ですよね。

センターの花丸ちゃんが可愛すぎてヤバい。


 《曜視点》

 

 「よーし!頑張るぞー!」

 

 張り切っている千歌ちゃん。

 

 帰りのバスの中で、私達は東京で行なわれるイベントの話で盛り上がっていた。

 

 「μ'sのメンバーに会えたりして!?」

 

 「東京・・・未来ずらぁ・・・!」

 

 「ククッ・・・堕天使ヨハネ、東京に降臨ッ!」

 

 一年生の三人もテンションが上がっている。

 

 そんな中、梨子ちゃんだけが浮かない表情をしていた。

 

 「梨子ちゃん?どうしたの?」

 

 「・・・天くん、本当に行かないつもりなのかな?」

 

 その言葉に、皆の表情が曇る。

 

 当然天くんも行くものだと思っていた私達は、天くんの『行かない』という発言にショックを受けていた。

 

 「・・・仕方ないと思います。アルバイトも忙しいみたいですし」

 

 ルビィちゃんがそんなことを言う。

 

 天くんは今、土日に果南ちゃんのところのダイビングショップでアルバイトをしている。

 

 事前に『休みたい』と伝えているならともかく、いきなり『休ませてくれ』というのは申し訳ないから無理とのことだった。

 

 「・・・そうだね。果南ちゃんも忙しいだろうし、迷惑かけちゃうもんね」

 

 私がルビィちゃんの言葉に賛同すると、梨子ちゃんがポツリと呟いた。

 

 「・・・それだけなのかな?」

 

 「え・・・?」

 

 「私には、東京に行くことそのものを拒否してるように見えたけど・・・」

 

 「どういうことよ?」

 

 善子ちゃんが尋ねる。首を横に振る梨子ちゃん。

 

 「あくまでも、私がそう感じたっていうだけ・・・根拠があるわけじゃない。でも考えてみたら、私達って天くんについて知らないことが多くない?」

 

 「知らないことって?」

 

 「例えば・・・どうして浦の星に来たのか、とか」

 

 「っ・・・」

 

 そういえば、考えたことなかったな・・・

 

 「ルビィ、お姉ちゃんから聞きました。音ノ木坂の理事長さんの力になりたくて、浦の星のテスト生の話を引き受けたって」

 

 「そうだったずらね・・・」

 

 ルビィちゃんの話に、驚いている花丸ちゃん。

 

 しかし、梨子ちゃんは納得いかないという表情だった。

 

 「理事長の力になりたかったとはいえ、わざわざ東京を離れてまで内浦に来るかしら?高校生で一人暮らしなんて、ご家族も反対されただろうし・・・」

 

 「・・・確かに」

 

 つまり天くんは、その反対を押し切ってまで浦の星に来たということ・・・

 

 何か理由があるのかな・・・

 

 「・・・あれこれ考えても、仕方ないよ」

 

 千歌ちゃんが力なく笑う。

 

 「天くんが、『東京には行かない』って言ってるんだもん。だったらどんな理由があったとしても、私達はそれを強要しちゃいけないんだよ」

 

 「千歌ちゃん・・・」

 

 「だってそうでしょ?天くんが嫌がることを無理矢理やらせるなんて・・・鞠莉さんのやったことと同じだもん」

 

 「っ・・・」

 

 顔を伏せる私達。

 

 そうだった・・・あの時、天くんがどれほど傷付いたか・・・

 

 「天くんはいないけど、海未先生がいてくれるし心配ないよ。東京のイベントで結果を残して、天くんをビックリさせよう」

 

 そう言って笑う千歌ちゃん。

 

 「・・・そうね。それが今、私達に出来ることよね」

 

 「天くんの為に頑張ルビィ!」

 

 「マルも気合い入れるずら!」

 

 「ククッ・・・我がリトルデーモンの為に、一肌脱ごうではないか」

 

 皆の顔に笑顔が戻る。

 

 全く、天くんも罪な男だねぇ・・・こんな美少女達から、こんなにも大切に思われてるんだから。

 

 それにしても・・・

 

 「・・・知らないことが多い、か」

 

 天くんのことを、もっとよく知りたい・・・そう思う私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「んー、海未ちゃんの作るご飯は美味しいね」

 

 「フフッ、ありがとうございます」

 

 嬉しそうに笑う海未ちゃん。教育実習で来てからというもの、海未ちゃんはほとんど毎日ご飯を作ってくれていた。

 

 『Aqoursの親御さん達には負けていられません!私も天の胃袋を掴みます!』と、謎の対抗心を燃やしてはいたが・・・

 

 久しぶりに海未ちゃんの作るご飯が食べられて、俺としても嬉しかったりするのだった。

 

 「それより天・・・本当に良いのですか?」

 

 「ん?何が?」

 

 「東京のイベントの件です。Aqoursの皆に付き添ってあげなくて良いのですか?」

 

 「あぁ、そのことね」

 

 苦笑する俺。

 

 「言ったでしょ?土日は果南さんのところのバイトがあるって。いきなり『今週は休ませてほしい』なんて、果南さんに迷惑かけちゃうから無理だよ」

 

 「・・・私には、絵里と顔を合わせるのを避けているように見えるのですが」

 

 「・・・それが分かってるなら、聞かないでほしかったな」

 

 溜め息をつく俺。

 

 果南さんに迷惑をかけるというのも理由の一つではあるが、それ以上に・・・俺は今、絵里姉と顔を合わせたくなかった。

 

 「何故絵里を避けるのですか?確かに喧嘩してしまったかもしれませんが、天が内浦に来てもう三ヶ月も経つんですよ?いい加減、仲直りしても良いのでは?」

 

 「・・・海未ちゃんさ、教育実習に来る前に絵里姉と会った?」

 

 「え?えぇ、会いましたよ。『教育実習で浦の星に行くので、天の様子を見て来ます』と伝えましたけど」

 

 「それに対する反応は?」

 

 「・・・『ふーん』の一言でした」

 

 言い辛そうに顔を背ける海未ちゃん。やっぱり・・・

 

 「こっちに来てから絵里姉とは連絡とってないけど、亜里姉とは定期的に連絡とっててさ。聞いてもいないのに、絵里姉の様子を教えてくれるんだけど・・・俺の話は一切口に出さないみたい。亜里姉の方から俺の話題を振っても、『へぇ』とか『そう』としか言わないんだって」

 

 つまり絵里姉は、未だに俺に対して怒っているということだ。

 

 いや、あるいは見限られたのかもしれないな・・・

 

 「『もう』三ヶ月『も』経つんじゃなくて、『まだ』三ヶ月『しか』経ってないんだよ。絵里姉の怒りの持続時間を舐めちゃいけない。あの人がμ'sを認めて加入するまで、結構な時間がかかったことを忘れてないよね?」

 

 「・・・そういえばそうでしたね」

 

 溜め息をつく海未ちゃん。

 

 「本当に貴方達姉弟は・・・頑固にも程があります」

 

 「一緒にしないでくれる?」

 

 「一緒ですよ。天の頑固さも大概です」

 

 呆れている海未ちゃん。

 

 心外だな・・・絵里姉レベルではないと思うんだけど・・・

 

 「まぁとにかく・・・絵里姉の怒りが収まっていない以上、冷静な話し合いなんて出来ないだろうから。今は顔を合わせない方が良いんだよ」

 

 「・・・そうですか」

 

 残念そうな表情の海未ちゃん。

 

 「それなら絵里と会えなんて言いませんから、東京には一緒に来てもらえませんか?あの子達にとっては慣れない場所ですし、天がいてくれた方が心強いと思います」

 

 「・・・俺に頼ってどうすんの」

 

 首を横に振る俺。

 

 「俺はずっとAqoursのマネージャーを続けるつもりは無いから。小原理事長に脅されたとはいえ、千歌さん達の力にはなりたいから最低限の務めは果たすつもりだけど・・・俺なんかがいなくても、大丈夫なグループになってもらわないと困るんだよ」

 

 「天・・・」

 

 海未ちゃんが悲しそうな顔をする。

 

 「貴方がマネージャーという仕事を、そこまで頑なに拒否するのは・・・やはり私達、μ'sのせい・・・」

 

 「止めなよ」

 

 海未ちゃんの言葉を遮る俺。

 

 「誰のせいとかじゃない。俺が自分で決めたことだから・・・ご馳走様」

 

 俺はそれだけ言うと椅子から立ち上がり、リビングから出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 翌朝・・・

 

 「ふぅ・・・」

 

 淡島神社の階段を登り切り、一息つく俺。

 

 内浦に来てからというもの、毎朝ジョギングをするのが俺の日課になっていた。Aqoursの練習に付き合うにも体力が要るし、この町の風景を見ながら走るのも楽しいしな。

 

 「・・・東京か」

 

 昨日の海未ちゃんとの会話を思い出す。

 

 正直、今はあまり東京に戻りたくない。絵里姉のこともあるしな・・・

 

 そんなことを考えていた時だった。

 

 「おはようのハグっ!」

 

 「おっと」

 

 後ろから果南さんにハグされる。ホントにこの人は・・・

 

 「おはよう天!」

 

 「おはようございます。朝から元気ですね」

 

 「勿論!」

 

 笑顔の果南さん。この時間に淡島神社に来ると、結構な確率で果南さんと遭遇するのだ。

 

 まぁ果南さんもジョギングが日課だし、お互いジョギングコースは決まってるから当然といえば当然なんだけど。

 

 「天は何か考え事?」

 

 「まぁそんなところです」

 

 「ふぅん・・・東京のイベントのこと?」

 

 「っ!?」

 

 思わず驚いてしまう。何で果南さんがそのことを・・・

 

 「当たりみたいだね」

 

 苦笑する果南さん。

 

 「昨日千歌から、『東京のイベントに出ることになった』っていう連絡があったの。今週末なんだって?」

 

 「えぇ。俺は行かないので、バイトのことは大丈夫です」

 

 「・・・そのことなんだけどさ」

 

 いつになく真面目な表情の果南さん。

 

 「ついていってあげてほしいんだ、千歌達に」

 

 「え・・・?」

 

 「今週は予約が入ってるお客さんも多くないし、私一人でも何とか回せるからさ。こっちのことは心配しないで、天は東京に行って来てほしい」

 

 真剣な表情でそう言う果南さん。

 

 「どうして・・・」

 

 「・・・心配なんだよ、千歌達が」

 

 苦笑する果南さん。

 

 「ダイヤから聞いたけど、私達がスクールアイドルやってたこと知ってるんでしょ?二年前、東京のイベントに出たことも」

 

 「えぇ、まぁ・・・」

 

 「私さ・・・歌えなかったんだよね」

 

 果南さんはそう言うと、切なげに空を見上げた。

 

 「他に出てたスクールアイドル達のレベルの高さに、圧倒されちゃってさ・・・会場の空気にも呑まれちゃって、歌えなくて・・・それで打ちのめされて、スクールアイドルは辞めちゃったんだ」

 

 「・・・そうだったんですか」

 

 「情けないよね。『スクールアイドルとして活躍して、浦の星を廃校の危機から救うんだ!』なんて意気込んでたのに・・・このザマだもん」

 

 自嘲気味に笑う果南さん。

 

 「だからこそ、千歌達には同じ思いをしてほしくないの。堂々と胸を張って、自分達のパフォーマンスをして・・・笑顔で帰ってきてほしい」

 

 「果南さん・・・」

 

 「その為には、千歌達の側に天がいないとダメなんだよ。千歌達にとって、天の存在は凄く大きいから。天が側にいるのといないのとじゃ、気持ちが全然違うと思う」

 

 「・・・そうですかね」

 

 「そうだよ」

 

 頷く果南さん。

 

 「だから私からのお願い・・・千歌達と一緒に東京に行ってきてほしい。千歌達のことを、側で支えてあげてほしいの」

 

 果南さんのお願いに、俺は素直に頷くことが出来なかった。

 

 果南さんの顔を見ることが出来ず、俯いていると・・・

 

 「・・・ゴメンね、わがまま言って」

 

 果南さんに抱き寄せられる。

 

 いつもの力強いハグではなく、優しいハグだった。

 

 「千歌から聞いたんだ。天は東京に行きたくないんじゃないかって」

 

 「千歌さんが・・・?」

 

 「正確には、気付いたのは桜内さんみたいだけどね」

 

 梨子さんか・・・鋭いな、あの人・・・

 

 「だから千歌達は、無理に天を東京に連れて行かないって決めたんだって。嫌がることを強要されて傷付く天を、もう見たくないからって」

 

 「っ・・・」

 

 小原理事長の一件か・・・ずいぶん気を遣わせちゃったんだな・・・

 

 「それが分かっててこんなことを頼むなんて、我ながら最低だとは思うけど・・・それでも、これが私からのお願い。ダメかな?」

 

 「・・・ずるいですね、果南さんは」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「こんな時だけそんな真剣な顔で、そこまで真摯にお願いされたら・・・断れるわけないじゃないですか」

 

 「天・・・」

 

 「・・・分かりました。今週末のバイトはお休みさせていただいて、Aqoursの皆と一緒に東京のイベントに行ってきます」

 

 「・・・ありがとう」

 

 微笑む果南さん。

 

 「千歌達のこと、よろしくね」

 

 「了解です。その代わりといってはなんですけど・・・」

 

 「何?」

 

 首を傾げる果南さん。俺は果南さんに身体を委ねた。

 

 「もう少しだけで良いので・・・このままでいてもらっても良いですか?」

 

 「・・・フフッ、喜んで」

 

 果南さんは嬉しそうに笑うと、俺を抱き締める腕にギュっと力を込めるのだった。




どうも~、ムッティです。

いやぁ、果南ちゃんハンパねぇ・・・

これが年上の女性の包容力か・・・

というわけで、天も東京に行くことになりました。

果たして天、そしてAqoursの運命やいかに・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

気合いを入れ過ぎると空回りするものである。

久しぶりにカラオケ行きたいなぁ・・・

μ'sやAqoursの曲を思いっきり歌いたい・・・


 そして迎えた土曜日・・・

 

 「じゃーん!」

 

 「・・・一体何がどうしたの?」

 

 もの凄く奇抜な格好をしている千歌さんを見て、ドン引きしている梨子さん。

 

 東京に行くからって、気合い入りすぎだろ・・・

 

 「内浦から東京へ行くなんて、一大イベントだもん!お洒落しちゃった♪」

 

 「ピエロのコスプレにしか見えないんですけど」

 

 「酷い!?」

 

 ショックを受けている千歌さん。

 

 っていうかこれ、確実に美渡さんの入れ知恵だろうな・・・美渡さんが『十千万』の玄関口で、爆笑しているのが何よりの証拠だ。

 

 まぁ美渡さんのことは置いといて、問題なのは・・・

 

 「ちゃ、ちゃんとしてるかな・・・?」

 

 「こ、これで渋谷の険しい谷も大丈夫ずらか・・・?」

 

 仰々しい格好のルビィと花丸だった。

 

 花丸に関しては、ヘルメットを被ってつるはしとか持ってるし・・・お宝でも探しに行く気なんだろうか。

 

 「・・・ルビィも花丸も、普通の服に着替えてきなさい」

 

 「ぴぎぃっ!?」

 

 「で、でも渋谷の険しい谷が・・・!」

 

 「渋谷は険しくないし谷じゃないから。あとそこのピエロも着替えて下さい」

 

 「ピエロって言わないでくれる!?」

 

 そう言いつつも、ルビィや花丸と一緒に着替えに行く千歌さん。

 

 と、梨子さんが俺の袖をくいくいっと引っ張った。

 

 「天くん、本当に良いの?『東京には行かない』って言ってたのに・・・」

 

 「えぇ。果南さんが良いって言うので、お言葉に甘えようかなって」

 

 苦笑する俺。

 

 「ホント・・・ずるい人だよな」

 

 「ずるい?」

 

 「こっちの話です。それより・・・やっぱり梨子さんは、私服姿も可愛いですね」

 

 「なっ!?」

 

 顔が赤くなる梨子さん。

 

 「そ、そういうことを真顔で言わないでっ!」

 

 「本心なんですけど」

 

 「梨子、いい加減慣れた方が良いですよ」

 

 海未ちゃんが苦笑しながらやってくる。

 

 「天は人を褒めるのに、一切照れたりしませんから。むしろ褒められた方が照れてしまうんですよね」

 

 「海未ちゃんを褒めた記憶は一切無いけどね」

 

 「嘘でしょう!?『海未ちゃんは本当に可愛いね。俺のお嫁さんになってよ』って言ってくれたじゃないですか!?」

 

 「それは確実に言ってないわ」

 

 サラッと事実を捏造したよこの人・・・

 

 「ところで海未ちゃん、今までどこ行ってたの?」

 

 「ちょっと志満さんに挨拶してました」

 

 「おはよう天くん」

 

 海未ちゃんの後ろから、女神様が現れた。

 

 「おはようございます、志満さん。結婚して下さい」

 

 「いきなりプロポーズですか!?」

 

 「フフッ、そんなに私のことが好き?」

 

 「会いたくて会いたくて震えるくらい好きです」

 

 「西●カナじゃないですか!?」

 

 「ありがとう、凄く嬉しいわ。私も会えない時間にも愛しすぎて、目を閉じればいつでも天くんがいるくらい好きよ」

 

 「それも西野●ナですよねぇ!?」

 

 海未ちゃんのツッコミが響き渡る。

 

 と、着替え終わった千歌さん達が『十千万』から出てきた。普通の私服姿になっている。

 

 「結局、いつもの服になってしまったずら・・・」

 

 不安げな花丸。俺は花丸の頭を撫でた。

 

 「その服の方が似合ってるよ。花丸は可愛いんだから、服のチョイスさえ間違わなきゃ大丈夫だって」

 

 「か、可愛っ・・・!?」

 

 赤面する花丸。純粋だなぁ・・・

 

 「なるほど・・・海未先生の言った通りですね」

 

 「でしょう?ああやって素直に人を褒めることが出来るのは、天の良いところではあるのですが・・・無自覚にフラグを立てやすいのが問題でして」

 

 「・・・納得です」

 

 何やらヒソヒソ話し合っている梨子さんと海未ちゃん。よく聞こえないが、もの凄く心外なことを言われている気がする。

 

 「ねぇねぇ天くん、私は!?私は可愛い!?」

 

 「はいはい、可愛い可愛い・・・おっ、ルビィもその服の方がよく似合ってるじゃん」

 

 「えへへ、そうかな?」

 

 「何で私だけ扱いが違うの!?」

 

 抗議してくる千歌さんは放置して、ただただルビィを愛でる。

 

 ホント、この子を妹にしたくて仕方ないわぁ・・・

 

 「じゃあ、そろそろ車出すわね」

 

 「ありがとうございます、志満さん。ついでに美渡さんも」

 

 「ついでって何よ!?」

 

 美渡さんのツッコミ。

 

 曜さんや善子とは沼津駅で待ち合わせている為、俺達は志満さんと美渡さんに車で沼津駅まで送ってもらうことになっていた。

 

 「さて、沼津駅に向かいましょうか」

 

 俺がそう言ったところで、俺のスマホに着信が入った。

 

 

 

 『できる~!できる~!キミならできる~!』

 

 

 

 「まだ着信音それだったの!?」

 

 梨子さんのツッコミはスルーして、着信相手を確認すると・・・あれ、曜さん?

 

 「もしもし?」

 

 『もしもし天くん!?』

 

 「曜さん?どうしたんですか?」

 

 『お願いだから早く来て!これ以上は私の精神がもたない!』

 

 「え・・・?」

 

 切羽詰った様子の曜さんの声に、首を傾げる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ククッ・・・魔都にて堕天使ヨハネが、冥府よりリトルデーモンを召喚しましょう」

 

 「・・・何あれ」

 

 沼津駅に着いた俺達は、石像の前で堕天使ポーズを決める善子を見て呆れていた。

 

 いつもの堕天使の衣装だけでは飽き足らず、白塗りの顔に赤い付け爪とか・・・もうデ●モン閣下にしか見えない。

 

 「天くーんっ!」

 

 「うおっ!?」

 

 涙目で駆け寄ってきた曜さんが、俺に抱きついてくる。

 

 「もう限界だよ!善子ちゃんの隣にいるだけでもの凄く注目されるし、スマホでメッチャ撮影されるし!私の精神がもたないよ!」

 

 「・・・お疲れ様です」

 

 曜さんの頭を撫でる。

 

 皆からも曜さんに同情の視線が向けられる中、善子はさらに演説を続けていた。

 

 「私の名は・・・堕天使ヨハネッ!」

 

 「「「「「キャーッ!?」」」」」

 

 突然の叫びにビックリした周囲の人達が、一目散に逃げて行く。

 

 完全に怖がられてんじゃん、善子・・・

 

 「フッ・・・私の闇の力に恐れをなしたか。下劣で下等な人間共め」

 

 「“クラ●チ”」

 

 「ギャアッ!?」

 

 善子の背後から、首の関節をきめにかかる。

 

 「痛い痛い!ちょ、天!?ギブギブ!」

 

 「どうも、懸賞金一億三千万ベリーの“悪魔の子”です」

 

 「どこのロ●ンよ!?ホントにヤバいから!首がミシミシいってるから!」

 

 「アンタだけは・・・落とすッ!」

 

 「意識が落ちちゃうから止めて!?」

 

 「それだけで済むと良いね」

 

 「嫌ああああああああああっ!?」

 

 悲鳴を上げる善子なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「うぅ、首が痛い・・・」

 

 「自業自得だよ」

 

 涙目で首を擦る善子を、冷たい目で見る俺。

 

 志満さんと美渡さんに見送られた俺達は電車に乗り、東京へと向かっていた。出発する直前にむつさん・いつきさん・よしみさんも来てくれて、差し入れにのっぽパンをくれたのだった。

 

 ありがたいことだよな・・・

 

 「のっぽパン美味しいずら~!」

 

 「食べ過ぎないでね」

 

 美味しそうにのっぽパンを頬張る花丸に、念の為釘を刺しておく。

 

 花丸の場合、全てののっぽパンを食べ尽くしてしまいかねないからな・・・

 

 「東京に着いたらどこに行こっか!?」

 

 「私はメイドカフェに行ってみたいな!メイドさんの衣装が見たい!」

 

 「ルビィはスクールアイドルショップに行きたいです!」

 

 「すっかり観光気分だし・・・」

 

 溜め息をつく俺。梨子さんと海未ちゃんが苦笑している。

 

 「まぁまぁ、少しくらい良いじゃない」

 

 「そうですよ。せっかく東京に行くんですから」

 

 「・・・ハァ」

 

 これじゃ先が思いやられるな・・・

 

 「あ、私トランプ持ってきたんだった!皆でやらない!?」

 

 「よし、大富豪やりましょう。負けた人は罰ゲームで」

 

 「天くんが一番ノリノリじゃない!?」

 

 梨子さんのツッコミ。隣では海未ちゃんが苦笑している。

 

 「よーし!カード配っていくよー!」

 

 「フッ・・・このヨハネに勝負を挑もうとは、良い度胸ね」

 

 「いや、善子にだけは負ける気がしないんだけど」

 

 「何でよ!?」

 

 「だって善子、上条●麻さんばりの不幸体質じゃん」

 

 「その幻想をぶち殺すッ!」

 

 結果として不幸体質は幻想ではなく、本当に一度も勝つことの出来ない善子なのだった。




どうも~、ムッティです。

この間電車に乗っていたら、自分の斜め右前に座っていたおじいさんと、自分の斜め左前に座っていたおばさんが同じ駅で降りたんですね。

その瞬間、自分の正面に座っていたおじさんが大きな声で一言・・・



『あー、臭かったッ!』



どうやらこのおじさん、デリカシーというものをどこかに置いてきてしまったみたいです(笑)

まぁ電車に乗ってると、匂いが気になる人とかいますけども。

それにしたって、電車内で大声で叫ばなくても・・・

そして臭かったのは、おじいさんとおばさんのどちらだったのか・・・

そんなことが気になったのでした(笑)

全く関係ない話ですみません(笑)

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

旅行先ではついはしゃぎたくなるものである。

μ'sから、あの二人が登場します。


 「わぁ・・・!」

 

 目を輝かせる千歌さん・ルビィ・花丸。俺達は東京・秋葉原に到着していた。

 

 「見て見て!スクールアイドルの広告があるよ!」

 

 はしゃぐ千歌さん。一方・・・

 

 「クックックッ・・・ここがあまねく魔の者が闊歩すると言い伝えられる約束の地、魔都・東京ね」

 

 ドヤ顔でポーズを決めている善子。魔都って何やねん。

 

 「はいはい、はしゃぎすぎないの」

 

 釘を刺す俺。

 

 「とりあえず、勝手な行動はしないように・・・」

 

 「あっ、スクールアイドルショップ!」

 

 「ぴぎぃっ!」

 

 「人の話聞いてくれる!?」

 

 近くのスクールアイドルショップへと走っていく千歌さんとルビィ。

 

 何してんのあの人達・・・

 

 「すっかり夢中になってますね」

 

 「皆はしゃいでるなぁ」

 

 苦笑している海未ちゃんと曜さん・・・って、あれ?

 

 「気のせいかな・・・海未ちゃんと曜さん以外誰もいなくない?」

 

 「善子は近くに堕天使ショップがあるらしくて、そちらへ行きましたよ。花丸は秋葉原の街を巡りたいとのことで、付き添いの梨子と一緒に行ってしまいました」

 

 「・・・もう嫌だ」

 

 溜め息をつく俺。内浦に帰りたい・・・

 

 「まぁせっかくですし、観光するのも悪くないでしょう。私は先に実家へ戻ろうと思いますが、天と曜はどうしますか?」

 

 「私はちょっと寄りたいところがあるので」

 

 「・・・じゃあ俺も曜さんに付き合おうかな。ついでに全員回収していくよ」

 

 「了解です。ではまた後ほど」

 

 海未ちゃんはそう言うと、実家へと戻っていった。

 

 俺は曜さんへと視線を移す。

 

 「曜さん、寄りたいところってどこですか?俺で案内できるところなら、案内させてもらいますけど」

 

 「ホント!?」

 

 目を輝かせる曜さん。

 

 「さっきも言ったけど、メイドカフェに行きたいんだよね!」

 

 「やっぱり俺も海未ちゃんの実家に行ってます」

 

 「ちょっと!?」

 

 慌てて襟首を掴まれる。えぇ・・・

 

 「勘弁してくださいよ・・・それはちょっと勇気が必要ですって」

 

 「大丈夫だよ!『愛と勇気だけが友達さ』ってアン●ンマンも言ってるじゃん!」

 

 「いや、俺はアンパ●マンじゃないんで。愛と勇気以外にも友達いるんで」

 

 っていうかそれ、『アンパン●ンのマーチ』の歌詞だよね?ア●パンマン本人が言ってたわけじゃないよね?

 

 アンパンマ●にだって友達はたくさんいるわ。

 

 「お願い天くん!私一人じゃ勇気が出なくて入れないの!」

 

 「それが本音じゃないですか。曜さんも勇気が無いパターンじゃないですか」

 

 「天くん、お願いっ!」

 

 両手を合わせて、上目遣いでお願いしてくる曜さん。

 

 何か今、あの人と被ったな・・・髪色もちょっと似てるし・・・

 

 「・・・分かりましたよ」

 

 「やったぁ!」

 

 喜ぶ曜さん。そういや、あの人の頼みも断れなかったっけ・・・

 

 「それで?どこのメイドカフェに行くんですか?一口にメイドカフェと言っても、色々お店がありますけど」

 

 「フッフッフッ、そこは抜かりなく調査済みだよ!」

 

 胸を張る曜さん。大きいな・・・じゃなくて。

 

 「実は一軒、もの凄く気になってるお店があるんだよね!」

 

 「へぇ・・・そんなに有名なお店なんですか?」

 

 「うん!『伝説のメイド』って呼ばれてるメイドさんがいることで有名なお店なの!」

 

 「・・・マジかぁ」

 

 苦笑する俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「えーっと、この道がここだから・・・」

 

 「こっちですよ」

 

 「えっ、ホント!?」

 

 スマホと睨めっこしていた曜さんが、慌てて俺の後をついてくる。

 

 俺達は、『伝説のメイド』がいるメイドカフェを目指していた。

 

 「天くん、道詳しいね・・・ひょっとして、そのお店知ってるの?」

 

 「知ってますよ。行ったことありますし」

 

 「えぇっ!?」

 

 驚く曜さん。

 

 「じゃ、じゃあ!『伝説のメイド』に会ったことあるの!?」

 

 「ありますよ」

 

 「どんな人!?」

 

 「それは行ってのお楽しみです」

 

 「えぇっ!?凄く気になるんだけど!?」

 

 そんな会話をしているうちに、目的地に到着する。

 

 何だか懐かしく感じるな・・・

 

 「そういえば今日、『伝説のメイド』は出勤してるんですかね?」

 

 「ネットの口コミで調べたら、土日にいることが多いみたい。前は平日の方が多かったみたいだけどね」

 

 だろうな。当時は高校生だったから放課後にバイトしてたけど、今は大学が忙しいって言ってたし・・・

 

 「そういえば、最近新しいメイドさんが入ったみたいだよ。もの凄く可愛いメイドさんで、『伝説のメイド』もイチオシなんだって」

 

 「そうなんですか?」

 

 あの人がイチオシかぁ・・・どんな人なんだろう?

 

 「よし・・・!」

 

 扉の前に立ち、深呼吸を始める曜さん。

 

 「入る前に、まずは心の準備を・・・」

 

 「こんにちは~」

 

 「天くん!?」

 

 扉を開けて中に入る俺。すると・・・

 

 「いらっしゃいませ~♪」

 

 背中までかかる赤い髪を揺らしながら、一人のメイドさんが笑顔で駆け寄ってきた。

 

 えっ・・・

 

 「二名様でよろしいでしょう・・・か・・・」

 

 俺の顔を見て硬直するメイドさん。そんなメイドさんを、曜さんがキラキラした表情で見つめていた。

 

 「うわぁ、メイドさんだぁ・・・!可愛いなぁ・・・!」

 

 曜さんがまじまじと観察していることを気にもせず、ダラダラ汗をかきながら俺を見ているメイドさん。

 

 うん、とりあえず・・・

 

 「スイマセン、店を間違えました」

 

 「待って!?」

 

 踵を返して店を出ようとした俺の肩を、メイドさんがガシッと掴んだ。

 

 「違うの!これは違うの!」

 

 「何ガ違ウンデスカ?」

 

 「何でカタコトなのよ!?お願いだから事情を聞いて!?」

 

 「誰カト間違エテマセンカ?俺達ハ初対面ジャナイデスカ」

 

 「冗談でも他人のフリなんてしないでくれる!?天に他人のフリなんてされたら、私は本気で泣く自信あるわよ!?」

 

 既に涙目のメイドさん。一方、曜さんは困惑していた。

 

 「えーっと・・・天くん、このメイドさんと知り合いなの・・・?」

 

 「いえ、全く」

 

 「ちょっと!?」

 

 「真姫ちゃ~ん?」

 

 奥からもう一人のメイドさんがやってきた。ベージュ色の長い髪を、独特のサイドテールに結ったメイドさんだ。

 

 「騒がしいけど、何か問題でもあった・・・の・・・」

 

 やはり俺を見て固まるメイドさん。俺もそのメイドさんを見て固まってしまった。

 

 そして・・・

 

 「そっ・・・天くううううううううううんっ!」

 

 「ことりちゃああああああああああんっ!」

 

 「ええええええええええっ!?」

 

 お互いの元に駆け寄り、思いっきり抱き合う。曜さんがビックリしていた。

 

 「会いたかったよ天くんっ!」

 

 「俺もだよことりちゃんっ!」

 

 「・・・相変わらず仲良しね、アンタ達」

 

 ひしと抱き合う俺達を見て、赤髪のメイドさんが溜め息をつく。

 

 「全く・・・私にはそんなリアクションしてくれなかったくせに・・・」

 

 「天くん、真姫ちゃんがやきもち妬いてるよ」

 

 「アララ、ホントだね。全く、真姫ちゃんったら可愛いんだから」

 

 「べ、別にやきもちなんて妬いてないわよ!?」

 

 「ゴメンゴメン。ほら真姫ちゃん、ハグしよ?」

 

 「し、仕方ないわね・・・」

 

 と言いつつも、しっかり俺に抱きついてくる真姫ちゃん。曜さんが呆然としていた。

 

 「そ、天くん・・・そろそろ説明してくれると助かるんだけど・・・」

 

 あっ、完全に曜さんを置き去りにしてたわ・・・

 

 っていうか、この二人の顔にまだピンときてないのかな?

 

 「曜さん、今μ'sの画像って見れます?」

 

 「え?あ、うん。千歌ちゃんからもらったのがあるよ」

 

 そう言ってスマホを操作し、μ'sの画像を表示する曜さん。それを見た瞬間、曜さんが驚愕の表情を浮かべた。

 

 「えっ!?」

 

 スマホの画面と二人のメイドさんの顔を、ダラダラ汗を流しながら超高速で交互に見る。

 

 「ま、まさかっ・・・!?」

 

 「そのまさかです」

 

 苦笑する俺。

 

 「南ことりちゃんと、西木野真姫ちゃん・・・二人ともμ'sのメンバーですよ」

 

 「初めまして♪」

 

 「どうも」

 

 挨拶する二人に、完全に固まってしまう曜さんなのだった。




どうも~、ムッティです。

今回はμ'sから、ことまきペアが登場しました!

真姫ちゃんは五年経っているので、髪が伸びているという設定です。

ことりちゃんは・・・そのままで良いかなって(笑)

鞠莉ちゃんもそうですけど、あの独特のサイドテールは特徴的ですもんね。

さて、メイドカフェにて真姫ちゃんやことりちゃんと再会した天ですが・・・

果たしてどのような展開になっていくのか・・・

続きをお楽しみに(・∀・)ノ

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

知らない方が良いことでも気になるものである。

何か少しだけ暑さが和らいだ気がする。

早く涼しくならないかなぁ・・・


 《曜視点》 

 

 「はい天くん、あ~ん♪」

 

 「あ~ん・・・ん、美味しい!」

 

 「でしょでしょ!?私が考えた新作メニューなの!」

 

 「ホントに美味しいねコレ・・・しかもことりちゃんに食べさせてもらえたおかげで、尚更美味しく感じるよ」

 

 「もう、天くんったら♡」

 

 「・・・どこのバカップル?」

 

 「気にしたら負けよ。この二人はずっとこんな感じだから」

 

 溜め息をつく西木野さん。私達は今、メイドカフェの奥にある従業員用の控え室にお邪魔していた。

 

 南さんも西木野さんもちょうど休憩時間に入るところだったらしく、ここまで案内してくれたのだ。

 

 「ことりは天を溺愛してて、昔からメチャクチャ可愛がってるのよ。天もそんなことりにもの凄く懐いてるから、この二人が一緒にいる時の空間はいつも甘々ってわけ。知らない人が見たら、間違いなく恋人同士だと勘違いされるレベルね」

 

 「な、なるほど・・・」

 

 これで付き合ってないとか嘘でしょ・・・?

 

 今だって南さんと天くんは隣同士で座ってるけど、ピッタリくっついてるよ?ソファのスペースは全然余裕あるのに、お互いがお互いに寄り添い合ってるよ?

 

 これで本当に恋人同士じゃないの・・・?

 

 「何度も言うけど、気にしたら負けよ。この二人に関しては、『こういうものなんだ』って割り切らないと」

 

 諦めたような目をしている西木野さん。

 

 あっ、既に達観してらっしゃる・・・

 

 「いやぁ、それにしてもビックリしたよ」

 

 一通りイチャイチャして落ち着いたのか、天くんが西木野さんに視線を移す。

 

 「まさか真姫ちゃんが、メイドさんに憧れてたなんて」

 

 「違うわよ!?」

 

 慌てて否定する西木野さん。

 

 「人が足りなくて困ってるってことりが言うもんだから、仕方なく手伝ってあげてるだけよ!」

 

 「真姫ちゃんは普通のメイドカフェより、ツンデレカフェの方が向いてると思うよ」

 

 「人の話聞きなさいよ!?っていうかどういう意味よそれ!?」

 

 「だってツンデレって、真姫ちゃんの為にあるような言葉じゃん」

 

 「人をツンデレの代表格みたいに言わないでくれる!?」

 

 「いや、実際代表格でしょ」

 

 「ちょっと表出なさい!」

 

 ツッコミを連発する西木野さん。大変そうだなぁ・・・

 

 「まぁでも・・・新しく入ったもの凄く可愛いメイドさんっていうのが、真姫ちゃんだったことは納得だわ」

 

 笑っている天くん。

 

 「真姫ちゃん可愛いし、メイド服もよく似合ってるもん」

 

 「・・・ありがと」

 

 照れたようにふいっと顔を背ける西木野さん。確かに西木野さんは可愛い・・・というより、とても綺麗な女性だった。

 

 μ'sの写真では肩にかかるくらいだった髪も、今では背中にかかるくらいまで伸びている。

 

 「これだけ可愛いメイドさんなら、『伝説のメイド』がイチオシするのも頷けるよ・・・ねぇ、ミナリンスキーさん?」

 

 「フフッ、でしょ?」

 

 笑う南さん。噂の『伝説のメイド』とは、どうやら南さん・・・もといミナリンスキーさんのことらしい。

 

 まさか『伝説のメイド』がμ'sのメンバーだったなんて、夢にも思わなかったなぁ・・・

 

 「っていうか、こっちこそ驚いたわよ。天がスクールアイドル・・・Aqoursだっけ?そのマネージャーをやってるなんて」

 

 「そうそう!海未ちゃんから聞いた時はビックリしちゃった!」

 

 「・・・まぁ、色々あってね」

 

 天くんの表情に陰りが差した。鞠莉さんのことを思い出してるのかな・・・

 

 「そのAqoursがスクールアイドルのイベントに参加するから、天も東京に戻ってきたんでしょ?そういうことは前もって教えなさいよ」

 

 「そうだよ!それが分かってたら、私達だってちゃんと時間作ったのに・・・」

 

 「ゴメンゴメン」

 

 苦笑しながら謝る天くん。

 

 「スケジュール的に皆と会う時間は無いと思って、あえて何も言わなかったんだよ。だから海未ちゃんにも、『皆には何も言わないで』ってお願いしておいたんだ」

 

 「全く・・・海未は天の言うこと何でも聞いちゃうんだから・・・」

 

 やれやれと言いたげな西木野さん。と、南さんがおずおずと尋ねる。

 

 「『皆に』ってことは・・・その、絵里ちゃんにも・・・?」

 

 「・・・伝えてないよ。一応亜里姉には伝えたから、耳には入ってると思うけど」

 

 「絵里ちゃんから連絡は・・・?」

 

 「何も無いし、俺も会うつもりはないよ。仲裁役の亜里姉も、今週末は東京にいないみたいだしね」

 

 淡々と話す天くん。

 

 南さんの言う『絵里ちゃん』って、μ'sの絢瀬絵里さん・・・つまり天くんのお姉さんだよね?

 

 天くん、お姉さんと仲悪いのかな・・・

 

 「ホントにもう・・・天も絵里も頑固なんだから」

 

 呆れている西木野さん。

 

 「一度腹を割って話し合ってみなさいよ。本音をぶつけ合わなきゃ、理解出来るものも出来やしないわよ」

 

 「残念ながら、話し合った結果がこれなんだよ」

 

 西木野さんの言葉をバッサリ切り捨てる天くん。

 

 「もう一度話し合おうにも、お互いが冷静になれなきゃ同じことの繰り返しになっちゃうでしょ。今はその時じゃないんだよ」

 

 「天くん・・・」

 

 「ゴメンことりちゃん、お手洗い借りたいんだけど」

 

 「え?あぁ、どうぞ。廊下の突き当たりにあるよ」

 

 「ありがと」

 

 天くんは席を立つと、控え室から出て行った。南さんが申し訳なさそうに私を見る。

 

 「ゴメンね、雰囲気悪くしちゃって・・・」

 

 「い、いえ!そんな!」

 

 「もう、真姫ちゃんがあんなこと言うから・・・」

 

 「絵里の話を振ったのはことりでしょ」

 

 溜め息をつく西木野さん。私は思い切って尋ねてみることにした。

 

 「あの、天くんってお姉さん・・・絢瀬絵里さんと仲悪いんですか・・・?」

 

 私の質問に対し、困ったように笑う南さん。

 

 「そんなことないよ。二人はとっても仲の良い姉弟なの。ただ、今はちょっと姉弟喧嘩中で・・・」

 

 「姉弟喧嘩、ですか?」

 

 「うん、色々あってね・・・」

 

 言葉を濁した南さんだったが、そこへ西木野さんが口を挟んだ。

 

 「テスト生の話を受けるか断るかで揉めたのよ」

 

 「真姫ちゃん!?」

 

 「目の前でこんな話しちゃったんだから、今さら隠す必要も無いでしょ。それにこの子は、今の天と最も関わりが深い子の一人なのよ?天のことを知る権利があると思うわ」

 

 「そうかもしれないけど・・・」

 

 躊躇いを見せる南さん。私は西木野さんの言葉が気になっていた。

 

 「天くんとお姉さんとの間で、意見が対立したってことですか?」

 

 「まぁね」

 

 頷く西木野さん。

 

 「天と絵里のご両親は、仕事の関係でロシアに住んでるの。だから天は、絵里ともう一人の姉・・・亜里沙っていうんだけどね。三人で東京に住んでたのよ」

 

 そうだったんだ・・・全然知らなかった・・・

 

 「天が理事長からテスト生の話を打診された時、絵里は猛反対したの。絵里はこっちで就職が決まってたし、亜里沙も大学はこっちにあるから。つまり天がテスト生になって内浦へ行くことになっても、二人はついて行くことが出来ない・・・必然的に、天は一人暮らしをすることになるでしょ?絵里としては、それが嫌だったみたい」

 

 「・・・そうですよね」

 

 その反応が自然だと思う。

 

 ご両親がロシアにいるのなら、今はお姉さんが天くんの保護者みたいなもの・・・心配するのも当然だ。

 

 「それに天って、凄く勉強が出来るのよ。偏差値の高い超難関校でも、あの子だったら十分に合格出来る可能性があった。将来のことを考えたら、そういう高校を選ぶべきだって絵里は主張したんですって」

 

 その主張も間違っていないと思う。

 

 そういった選択肢があったのなら、お姉さんとしてはそっちを選んでほしいだろう。

 

 「それでも天は、テスト生の話を受ける意思を曲げなくて・・・それで絵里と大喧嘩になったのよ」

 

 苦笑する西木野さん。

 

 「その場にいた亜里沙から聞いたけど、かなり激しく言い合ったみたい。二人があんな大喧嘩をしたのは、五年前以来ですって」

 

 「五年前・・・?」

 

 「絵里がμ'sに加入する前に、ちょっと色々あってね・・・まぁそれは置いといて。そんなことがあって、二人は今距離を置いてるのよ」

 

 「そうだったんですね・・・」

 

 天くんが東京に行くことを拒んでいたのは、こういうことだったんだ・・・

 

 お姉さんと顔を合わせたくなかったから・・・

 

 「ウチのお母さん、未だに責任を感じてるんだよねぇ・・・」

 

 溜め息をつく南さん。

 

 「自分が天くんにテスト生の話を打診したせいで、二人の関係を拗れさせちゃったって・・・」

 

 「そういえば、音ノ木坂の理事長さんは南さんのお母さんなんですよね」

 

 「そうだよ。ウチのお母さんも、天くんのことは自分の息子みたいに可愛がってて・・・それだけに、二人が大喧嘩したって知った時はショックを受けてたなぁ・・・」

 

 悲しそうな表情の南さん。どうやら天くんとお姉さんの大喧嘩は、周りの人達に結構な影響を与えているようだ。

 

 そんな天くんにマネージャーをやってもらっている身としては、ちょっと申し訳ないな・・・

 

 「まぁこんな話をしておいて、こういうことを言うのもどうかと思うけど・・・貴女達が責任を感じる必要は無いのよ?」

 

 私の表情から心境を汲み取ってくれたのか、西木野さんが優しげな表情で私を見ていた。

 

 「これはあくまでも天と絵里の問題であって、誰が悪いとかそういう話じゃないの。天には天の意見があって、絵里には絵里の意見があった・・・それがぶつかり合ってこうなってるだけだから、誰にも責任なんて無いのよ」

 

 「真姫ちゃんの言う通りだよ。今は喧嘩中でも、きっとすぐ仲直りしてくれるって信じてる。あの二人の仲の良さは、私達がよく知ってるんだから」

 

 西木野さんと南さんはそう言ってくれたが、私は複雑な気持ちを拭えないのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ご馳走様。休憩時間中だったのに、何かゴメンね」

 

 「気にしないで。久々に天くんと会えて嬉しかったから」

 

 笑顔でそう言ってくれることりちゃん。

 

 千歌さん達も十分観光を楽しんだようで、『そろそろ合流しよう』と連絡が来たのだ。

 

 こっちはアンタ達を待ってたっていうのに・・・

 

 「内浦へは明日帰るのよね?夏休みにまた東京に戻ってきたりしないの?」

 

 「今のところ、予定は決めてないかな」

 

 真姫ちゃんの質問に、苦笑しながら答える俺。

 

 「逆に内浦に遊びに来なよ。少しは案内出来ると思うから」

 

 「えぇ・・・めんどくさいんだけど・・・」

 

 「そっかぁ・・・また真姫ちゃんと会いたいんだけどなぁ・・・」

 

 「し、仕方ないわね!そこまで言うなら遊びに行ってあげるわよ!」

 

 言葉とは裏腹に、口元が緩んでいる真姫ちゃん。ホント素直じゃないなぁ・・・

 

 「内浦って海が綺麗なんでしょ?私も新しい水着買って、泳ぎに行きたいなぁ」

 

 「露出多めの水着でお願いします」

 

 「欲望丸出し!?」

 

 曜さんのツッコミ。ことりちゃんが面白そうに笑っている。

 

 「もう、天くんのエッチ♡じゃあその時は、天くんがサンオイル塗ってくれる?」

 

 「はい喜んで!」

 

 「・・・西木野さん、この二人って」

 

 「気にしたら負けよ」

 

 曜さんと真姫ちゃんが何やら話している。仲良くなれたようで何よりだ。

 

 「じゃあ曜さん、そろそろ行きましょうか」

 

 「あ、うん」

 

 「天」

 

 真姫ちゃんに名前を呼ばれて振り向くと・・・そのまま優しく抱き締められた。

 

 「真姫ちゃん・・・?」

 

 「・・・また必ず会いに来なさいよ。私だって、天に会えないのは寂しいんだから」

 

 「真姫ちゃん・・・」

 

 「連絡くらい寄越しなさい。いつでも待ってるわ」

 

 「・・・ありがとう、真姫ちゃん」

 

 真姫ちゃんを強く抱き締め返す。

 

 そんな俺達を包み込むように、ことりちゃんが優しく抱き締めてくる。

 

 「私だって、天くんに会えないのは寂しいんだからね。それは皆も一緒だってことを、忘れないで」

 

 「ことりちゃん・・・」

 

 「私や真姫ちゃんは勿論、他の皆にもちゃんと連絡してあげて。皆待ってるから」

 

 「・・・うん、分かった」

 

 ことりちゃんと真姫ちゃんの温もりを感じ、心が温かくなる。

 

 こうやって自分のことを想ってくれる人がいるって、幸せなことだよな・・・

 

 「じゃあ、そろそろ行くね」

 

 「うん、行ってらっしゃい!」

 

 「イベント頑張りなさい。応援してるわ」

 

 「あ、ありがとうございます!」

 

 恐縮しながら頭を下げる曜さん。

 

 笑顔で手を振る二人に見送られ、俺達は千歌さん達との待ち合わせ場所へと歩き出した。

 

 「・・・幸せ者だね、天くんは」

 

 曜さんがそんなことを言う。

 

 「あんなにも大切に想ってくれる人達がいるんだもん。羨ましいな」

 

 「・・・えぇ、俺の自慢です」

 

 他の皆にも連絡しないとな・・・ずいぶん心配かけてるみたいだし。

 

 「・・・ねぇ、天くん」

 

 そんなことを考えていると、曜さんがおずおずと口を開いた。

 

 「何ですか?」

 

 「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・」

 

 「聞きたいこと?」

 

 首を傾げる俺。

 

 曜さんは口を開きかけたが、思い留まったように開きかけた口を閉じた。

 

 「・・・ううん。やっぱり何でもない!」

 

 笑顔でそう言う曜さん。

 

 どことなく悲しそうな表情をしている曜さんの様子が、少し気になる俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

今回はことまきペアとのお喋りタイムでした!

前回の話では、『ことりちゃんの登場は予想してたけど、真姫ちゃんの登場は予想外だった』という感想を多くいただきました。

まぁメイド真姫ちゃんを書きたかったのはあるんですが(笑)

実は天と絵里ちゃんの喧嘩について触れてもらう為でもありました。

ことりちゃんは優しいから気を遣って、天と絵里ちゃんの間にあったことについて触れないだろうなと思ったので。

とはいえ曜ちゃんが天の事情を知るシーンは書きたかったので、μ'sの中の誰がそれを話してくれそうか考えた結果が真姫ちゃんでした。

真姫ちゃんなら天にも曜ちゃんにも気を遣いつつ、事情をきちんと説明してくれるだろうなと。

あとは希ちゃんとにこちゃんも思い浮かびましたが、二人は社会人になっているはずなので。

真姫ちゃんが適任かな、と。

まぁ天と海未ちゃんの会話に真姫ちゃんの名前を出したので、早く登場させたかったというのもありますが(笑)

ちなみに何話か前の話を曜ちゃん視点で書いたのは、この話を書くにあたっての伏線だったりします。

まぁ伏線とはいいましたが、そんな大げさなものでもないですけどね(笑)

長々と説明してしまってすみません。

さて、これからどのような展開になっていくのか・・・

次回もお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

見下されて良い気分になる人などいない。

先に謝罪しておきます。

Saint Snowファンの方々、大変申し訳ございません。


 「えぇっ!?じゃあ曜ちゃん、南ことりさんと西木野真姫さんに会ったの!?」

 

 「うん。凄く綺麗で、メッチャ良い人達だったよ」

 

 「良いなぁ・・・!」

 

 曜さんを羨ましがる千歌さんとルビィ。

 

 合流した俺達は、海未ちゃんの実家へ行く前に神田明神へと向かっていた。千歌さんがどうしても行きたいのだそうだ。

 

 「ちょっと天くん!?どうして呼んでくれなかったの!?」

 

 「どこかの誰かさん達は、俺に何も言わずにいなくなっちゃったじゃないですか」

 

 「「「「「すいませんでした」」」」」

 

 千歌さん・梨子さん・花丸・ルビィ・善子が即座に謝る。全く・・・

 

 「まぁ、また機会があれば紹介しますよ」

 

 「絶対だよ!?絶対紹介してね!?」

 

 「ルビィも忘れないでね!?」

 

 「はいはい」

 

 そんな会話をしていると・・・懐かしい風景が目の前に現れた。

 

 「・・・変わらないなぁ」

 

 思わずそんなことを呟く。

 

 神田明神へと続く、長い石の階段・・・μ'sの皆はあの頃、何度も何度もここを駆け上ってたっけ・・・

 

 「これが、μ'sがいつも練習していたっていう階段・・・!」

 

 目を輝かせるルビィ。

 

 μ'sファンの間ではこの場所は有名で、『聖地』なんて呼ばれていたりするらしい。『仰々し過ぎる』って、μ'sの皆は苦笑いしてたけど。

 

 「ねぇ、ちょっと上って・・・」

 

 「先に行きますね」

 

 「ちょ、天くん!?」

 

 千歌さんが言い終わる前に、俺はもう階段を駆け上がり始めていた。

 

 この階段を見ていたら、身体が勝手に動いてしまったのだ。

 

 「天くん!?ちょっと待ってほしいずら!?」

 

 「っていうか早すぎない!?」

 

 花丸と善子の悲鳴が聞こえてくる。

 

 それはそうだ。μ'sの皆と一緒に、何度この階段を上ったことか・・・

 

 「よっ!」

 

 一番乗りで階段の上に到着する。

 

 目の前に広がる神田明神の境内に、何だかとても懐かしい気持ちになっていると・・・

 

 「ん?」

 

 何やら歌声が聴こえた。誰かが境内で歌ってる・・・?

 

 「やっと着いたぁ・・・」

 

 「結構キツいね・・・」

 

 皆が続々とやってくるが、俺の視線は一点に向けられていた。そこでは同じ制服を着た二人の女の子が、見事な歌唱力で歌を歌っているところだった。

 

 あの二人って・・・

 

 「凄い・・・」

 

 千歌さんが呟く。歌唱力もさることながら、二人のハモりがとても美しかった。

 

 やがて歌い終えた二人が、ゆっくりとこちらを振り向いた。

 

 「こんにちは」

 

 サイドテールに髪を括った女の子が、こちらに向けて会釈する。

 

 「こ、こんにちはっ!」

 

 緊張気味に応える千歌さん。それに対して・・・

 

 「まさか・・・天界勅使!?」

 

 「何言ってんの?」

 

 訳の分からないことを言いながら、俺の背中に隠れている善子。相変わらず人見知りなんだから・・・

 

 と、女の子が千歌さん達を見て何かに気付いた。

 

 「あら?貴女達もしかして、Aqoursの皆さん?」

 

 「えっ、どうして・・・」

 

 「この子、脳内に直接・・・!?」

 

 「善子、飴あげるからちょっと黙ってて」

 

 「子供扱い!?」

 

 「PV見ました。素晴らしかったです」

 

 微笑みながらそう言ってくれる女の子。千歌さんが嬉しそうに笑う。

 

 「ありがとうございます!」

 

 「もしかして・・・明日のイベントでいらしたんですか?」

 

 女の子の目が一瞬細められたのを、俺は見逃さなかった。

 

 あの目は・・・

 

 「あ、はい!」

 

 「・・・そうですか」

 

 女の子は微笑むと、俺へと視線を移した。

 

 「貴方は?Aqoursのどなたかの彼氏さんですか?」

 

 「「「「「「かっ、彼氏!?」」」」」」

 

 顔を赤くする皆。何照れてんのこの人達・・・

 

 「いえ、マネージャーです」

 

 「あら、マネージャーさんがいらっしゃるんですか?凄いですね」

 

 「大したことはしてませんけどね」

 

 淡々と答える俺。

 

 「貴女達の方が凄いと思いますよ・・・Saint Snowさん」

 

 「あら、私達のことをご存知で?」

 

 驚いた様子の女の子。俺は溜め息をついた。

 

 「これでも主要なスクールアイドルはチェックしているので。貴女が鹿角聖良さんで、お隣が鹿角理亞さん・・・北海道で姉妹ユニットとして活動されているそうですね」

 

 「えぇっ!?この二人スクールアイドルだったの!?」

 

 「少しは勉強して下さい、世間知らずオレンジヘッド」

 

 「相変わらず辛辣!?」

 

 全くこの人は・・・

 

 もっと他のスクールアイドルを見て、勉強しようという心構えは無いんだろうか・・・

 

 「貴女方も明日のイベントに参加する為に、北海道からいらしたんですよね?」

 

 「えぇ、先ほど到着したところでして」

 

 笑みを浮かべる聖良さん。

 

 「明日のイベント、お互い頑張りましょう。楽しみにしてます」

 

 そう言うと、聖良さんは一礼して歩き出した。

 

 その瞬間、理亞さんがこちらに向かって勢いよく走り出す。

 

 「「「「「「えぇっ!?」」」」」」

 

 動揺する皆。

 

 そしてこちらにギリギリまで近付いた瞬間、境内の地面に手をつき・・・その勢いで空中に跳んだ。

 

 「おぉ・・・」

 

 その身軽さに、思わず感嘆の声を上げる俺。理亞さんは空中で一回転すると、聖良さんの横にスタッと着地した。

 

 「・・・凄いですね」

 

 「・・・どうも」

 

 不敵な笑みを浮かべる理亞さん。いやぁ、何が凄いって・・・

 

 「よくスカートで跳びましたね・・・パンツ丸見えでしたけど」

 

 「「「「「「「そっち!?」」」」」」」

 

 「っ!?」

 

 聖良さんまでツッコミを入れてくる。

 

 一方の理亞さんは顔が一瞬で真っ赤になり、慌ててスカートを押さえ俺から距離をとった。

 

 「こ、この変態っ!」

 

 「スカートにも関わらず跳んで、人にパンツ見せつけた貴女に言われたくないです」

 

 「うぅ・・・」

 

 涙目の理亞さん。聖良さんがコホンッと咳払いをする。

 

 「えーっと・・・見苦しいものをお見せして、申し訳ありませんでした」

 

 「見苦しい!?私のパンツが見苦しいっていうの!?」

 

 「そ、そういう意味で言ったんじゃなくて!」

 

 「姉様のバカアアアアアッ!」

 

 「ちょ、理亞!?」

 

 走り去っていく理亞さんを、慌てて追いかけていく聖良さん。あーあ・・・

 

 「理亞さん・・・可哀想に・・・」

 

 「誰のせいだと思ってるずら!?」

 

 「本当にすまないと思っている(キリッ)」

 

 「絶対嘘ずらっ!」

 

 花丸のツッコミ。まぁ正直、俺は申し訳ないとは思っていなかった。

 

 聖良さんのあの目・・・あれは人を値踏みしている時の目だ。さらに俺がマネージャーだと名乗った時の反応・・・『お前達には必要ないだろう』という思いが見えた。

 

 そして何よりも、あの二人の不敵な笑み・・・自分達に絶対の自信がある一方で、明らかにこちらを見下している。

 

 「・・・気に食わないな」

 

 小さく呟く俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

さて、遂に登場しましたSaint Snowの二人・・・

ちょっと嫌なキャラみたいになってしまい、大変申し訳ありません。

実は個人的に最初、Saint Snowの二人は嫌なキャラだと思っていたんです(アニメ一期第八話での、Aqoursに対する言動から)

それが反映された形となってしまいました・・・

これから少しずつ仲良くなっていきますので、何卒御容赦下さいませ・・・

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

元気の無い人を見ると心配になるものである。

最近、欅坂46の『黒い羊』をメッチャ聴いてます。

メッセージ性の強い、心に響く曲ですよね。


 「こ、ここが海未先生の実家・・・」

 

 唖然としている千歌さん。

 

 武家屋敷のような趣のある古風な家を前に、皆思わず固まってしまっていた。

 

 「何だかウチと似てて、親近感が湧くなぁ」

 

 「黒澤家もこんな感じだもんね」

 

 ルビィとそんな会話をする。

 

 初めて黒澤家にお邪魔した時、『まるで園田家だな』って思ったっけなぁ・・・

 

 「とりあえず入りましょうか」

 

 そう言ってインターホンを押そうとすると、その前にドアが開いた。中から着物姿の女性が出てきて、俺達を見て首を傾げる。

 

 「あら?ウチに何か御用ですか?」

 

 「あ、えーっと・・・」

 

 「お久しぶりです、波未さん」

 

 頭を下げる俺。波未さんは俺を見ると、顔をパァッと輝かせた。

 

 「まぁ、天さん!お久しぶりです!」

 

 「お元気そうで何よりです。お変わりないですか?」

 

 「えぇ、おかげさまで。天さんもお元気そうで安心しました」

 

 波未さんと談笑していると、梨子さんに袖を引っ張られた。

 

 「そ、天くん・・・こちらの方は・・・?」

 

 「あぁ、すみません。こちらは園田波未さん、海未ちゃんのお母さんです」

 

 「初めまして」

 

 微笑みながら一礼する波未さん。相変わらず作法が綺麗だなぁ・・・

 

 「お、お母さん!?海未先生の!?」

 

 「お姉さんじゃなくて!?」

 

 「フフッ、そう言っていただけると嬉しいです」

 

 皆の驚きように、口元に手を当てて嬉しそうに笑う波未さん。

 

 まぁ確かに、波未さんと海未ちゃんって似てるもんなぁ・・・しかも波未さんは若く見えるし、俺も最初は海未ちゃんのお姉さんだと勘違いしたっけ・・・

 

 そんなことを思い出していると、家の中から海未ちゃんが出てきた。

 

 「お母様、何かあったのですか・・・って、皆もう着いてたんですね」

 

 「遅くなってゴメンね、海未ちゃん。ちゅんちゅんとイチャイチャしててさ」

 

 「ことりと会ったんですか!?あの子はまた抜け駆けを・・・!」

 

 「あと、ツンデレ姫と戯れてた」

 

 「真姫まで!?ズルいです!」

 

 「『ちゅんちゅん』と『ツンデレ姫』で通じるんだ・・・」

 

 呆れている曜さん。まぁμ'sのメンバーなら、大体ニュアンスで通じるからな。

 

 「海未、こちらの方々が浦の星の・・・?」

 

 「えぇ、そうです」

 

 「まぁ、いつもウチの海未がお世話になってます」

 

 「い、いえ!こちらこそ!」

 

 慌てて頭を下げる皆。俺も波未さんに一礼した。

 

 「すみません波未さん、大勢で押しかけてしまって・・・」

 

 「フフッ、天さんとそのお友達ならいつでも大歓迎です」

 

 ニッコリ笑う波未さん。

 

 「それでは、私は夕飯のお買い物に行ってきます。どうぞ自分の家だと思って、ゆっくり寛いで下さいね」

 

 「ありがとうございます」

 

 「海未、皆さんに家の中を案内して差し上げて」

 

 「はい、お母様」

 

 波未さんは微笑むと、そのまま買い物へと出かけていった。

 

 「いやぁ、波未さんは相変わらず綺麗だねぇ・・・結婚しよ」

 

 「出来ませんよ!?人妻ですからね!?」

 

 「アハハ、冗談だよ」

 

 「私でしたら結婚出来ますよ?」

 

 「・・・ごめんなさい」

 

 「ガチトーンで断るの止めてもらえます!?」

 

 「この二人、本当に仲良しずらね・・・」

 

 「「「「「確かに・・・」」」」」

 

 苦笑する花丸の言葉に、同じく苦笑しながら頷く皆なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「美味しかったずら~♪」

 

 幸せそうに寝そべる花丸。園田家で夕飯をご馳走になった俺達だったが、その豪華さに全員が大満足だった。

 

 流石は波未さん、料理も上手とか完璧すぎる。

 

 「俺、料理が得意な人と結婚するんだ・・・」

 

 「じゃあ私しかいませんね」

 

 「ちょっと何言ってるか分かんない」

 

 「何でですか!」

 

 全く、海未ちゃんときたら・・・

 

 「ところで海未ちゃん、俺は今夜どこで寝たら良いの?」

 

 海未ちゃんに尋ねる俺。俺達は今大部屋にいるのだが、ここはAqoursの皆に用意された場所だ。

 

 俺はどこか余っている部屋にでも・・・

 

 「ここですけど?」

 

 「寝言は寝て言え、ラブアローシューター」

 

 「その呼び方止めてもらえます!?」

 

 何言ってんのこの人。年頃の男女を同じ部屋で寝かせる気なの?

 

 「あのね海未ちゃん、皆の気持ちを考えよう?男と一緒に寝るなんて、皆嫌に決まってるでしょ?」

 

 「私は構わないよ?」

 

 「私も大丈夫だけど?」

 

 キョトンとした顔で言う千歌さんと曜さん。いやいやいや・・・

 

 「マルも平気ずら」

 

 「ルビィも天くんだったらオッケーだよ」

 

 花丸とルビィもそんなことを言い出す。いやいやいやいや・・・

 

 「ちょ、ちょっと恥ずかしいけど・・・まぁ天くんなら・・・」

 

 「クックックッ・・・我がリトルデーモンに添い寝をしてやるのも、主であるヨハネの使命・・・感謝するが良いぞ?」

 

 「また“ク●ッチ”されたい?」

 

 「すいませんでした!」

 

 梨子さんと善子まで・・・この人達の貞操観念はどうなってるんだ・・・

 

 「まぁ、天が嫌だというなら仕方ありません。私と一緒に私の部屋で寝ましょう。そして二人で、いつものように熱い夜を・・・!」

 

 「ここで寝ます」

 

 「ちょっと!?」

 

 海未ちゃんのツッコミ。『熱い』夜なんて過ごした覚えないわ。

 

 海未ちゃんに抱き枕代わりにされて、『暑い』夜を過ごした覚えならあるけど。

 

 「じゃあ私もここで寝ます!私だけ仲間外れは嫌です!」

 

 「よーし!皆で仲良く一緒に寝よー!」

 

 「「「「「おー!」」」」」

 

 テンションの上がっている皆。俺と梨子さんは顔を見合わせ、思わず苦笑してしまった。

 

 と、千歌さんが海未ちゃんの方を見る。

 

 「そういえば海未先生、ここから音ノ木坂って近いんですか?」

 

 「えぇ、近いですよ。私は徒歩で通学してましたし」

 

 「案内してもらえませんか!?」

 

 目をキラキラと輝かせている千歌さん。

 

 μ'sファンにとって、音ノ木坂は是非とも行きたい場所なんだろうな・・・

 

 「案内するのは構いませんが・・・今から行くんですか?もう夜ですし、お風呂にも入ってしまいましたよ?」

 

 「はい!行ってみたいです!」

 

 「ルビィも行きたい!」

 

 「賛成であります!」

 

 「大丈夫ずら・・・?東京の夜は物騒じゃないずらか・・・?」

 

 「ククッ、夜こそヨハネの活動時間・・・恐れるものなど何も無いわ!」

 

 「この辺りって夜になるとお化けが出るらしいよ」

 

 「ひぃっ!?」

 

 俺にしがみつく善子。メッチャ怖がってんじゃん・・・

 

 と、梨子さんが何やら浮かない顔をしていた。

 

 「梨子さん?どうしました?」

 

 「えっ?あっ、ううん・・・何でもない」

 

 慌てて笑顔を見せる梨子さん。

 

 「千歌ちゃん、ゴメン。私は遠慮しておくね」

 

 「梨子ちゃん・・・?」

 

 「先に寝てるから。皆で行ってきて」

 

 梨子さんはそう言うと立ち上がり、大部屋から出て行った。

 

 どうしたのかな・・・

 

 「・・・やっぱり俺達も寝ませんか?明日の朝は早いですし」

 

 「・・・そうしよっか」

 

 苦笑する千歌さん。音ノ木坂に行ってみたい気持ちはあるようだが、梨子さん抜きで行くつもりはないようだ。

 

 こういう仲間思いなところは、千歌さんの良いところだと思う。

 

 「とりあえず布団敷きましょう。寝る場所を確保しないと」

 

 「では、私は天の隣で」

 

 「あ、間に合ってます」

 

 「間に合ってるって何ですか!?」

 

 「ちょっと海未先生!リトルデーモンに添い寝するのはヨハネの役目よ!」

 

 「そこの堕天使もどきもちょっと黙って」

 

 「もどきって何よ!?」

 

 「しょうがないなー。天くん、私の隣に来ることを許してあげよう」

 

 「ピッチャー、第一球を投げました」

 

 「ふがっ!?」

 

 千歌さんの顔面に枕を叩き込む。一撃で沈む千歌さん。

 

 「天くんって、相手が女の子でも容赦ないよね・・・」

 

 「男女平等だからね」

 

 「こういう場面で使う言葉じゃないよねぇ!?」

 

 ルビィのツッコミ。海未ちゃんが苦笑している。

 

 「天は昔からそうでしたね・・・私達が相手でも容赦ありませんでした。ことりと花陽は例外でしたけど」

 

 「あの二人は天使だもん。それ以外は悪魔だけど」

 

 「誰が悪魔ですかっ!」

 

 「昔から、か・・・」

 

 何やら呟いている曜さん。

 

 憂いを帯びたその表情に、俺は曜さんのことが心配になるのだった。




どうも~、ムッティです。

今回は海未ちゃんのお母さんが登場しましたね。

アニメでは映画で一瞬だけ出てきましたが、果たして名前は何というのか・・・

この作品では、勝手にオリジナルの名前をつけてしまいました。

だいぶ迷いまして、最初は『すずこ』にしようかと思ってました(笑)

最終的に、海といえば波・・・じゃあ『波未(なみ)』で、となりました(笑)

名前を考えるって難しいですね。

さて、何やら曜ちゃんの元気がありませんが・・・

果たしてどうなるのか・・・

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心の優しい人ほど思い悩んでしまうものである。

雨が降っているのを見て、脳内でシドの『レイン』が再生される今日この頃。


 《曜視点》 

 

 「・・・ハァ」

 

 溜め息をつく私。何となく眠れなかった私は、大部屋を抜け出して中庭の縁側に腰掛けていた。

 

 ただぼんやりと空を眺めていると・・・

 

 「フフッ・・・内浦と違って、星はあまり見えないでしょう?」

 

 背後から声がする。慌てて振り向くと、海未先生が微笑みながら立っていた。

 

 「どうしてここに・・・?」

 

 「ふと目が覚めてしまったものですから。少し外の空気を吸おうかと思って出てきたのですが、先客がいて驚きました」

 

 笑う海未先生。

 

 多分、私がいないことに気付いて探しに来てくれたんだろうな・・・

 

 「隣、いいですか?」

 

 「あ、どうぞ・・・」

 

 私の隣に腰を下ろす海未先生。改めて思うけど、本当に綺麗な人だなぁ・・・

 

 「ん?どうかしましたか?」

 

 「あ、いえ・・・海未先生、彼氏とかいないのかなって」

 

 「か、彼氏!?」

 

 顔を赤くする海未先生。

 

 「な、何ですかいきなり!?」

 

 「いや、海未先生って美人じゃないですか。きっとモテるんだろうなって思って」

 

 「ま、真顔で褒めないで下さい・・・天じゃないんですから・・・」

 

 恥ずかしそうな海未先生。

 

 「彼氏なんて、今まで一度もいたことありませんよ・・・」

 

 「えっ、意外ですね・・・スクールアイドルとしても有名になったわけですし、てっきり学生時代からモテモテなのかと・・・」

 

 私が首を傾げていると、海未先生が溜め息をついた。

 

 「・・・正直な話、告白されたことは何度かありましたよ。全てお断りしましたけど」

 

 「どうしてですか?」

 

 「そもそも私、男性と話すことが苦手でして・・・」

 

 「えぇっ!?天くんとあんなに仲良く話してるじゃないですか!?」

 

 抱きついたりとかもしてるのに・・・弟みたいな存在だから大丈夫ってことなのかな?

 

 「・・・実は天とも、初対面の時はまともに話せなかったんですよ」

 

 苦笑する海未先生。

 

 「当時天は小学生で、私は高校生・・・それでも上手く話せなかったんです。どれだけ私が男性を苦手としているか、よく分かるでしょう?」

 

 「・・・確かに」

 

 それはちょっと重症な気がするなぁ・・・

 

 「じゃあ、どうして天くんと話せるようになったんですか?」

 

 「・・・そうですねぇ」

 

 海未先生はゆっくり空を見上げると、何を思い出したのかクスッと笑った。

 

 「・・・天が私に寄り添ってくれたから、ですかね」

 

 「え・・・?」

 

 「上手く話せない私を急かすこともせず、かと言って自分から強引に距離を詰めようとしてくることもない・・・ゆっくり時間をかけて私と向き合い、少しずつ距離を縮めようとしてくれました」

 

 微笑む海未先生。

 

 「私が落ち込んだ時は励ましてくれて、私が不安な気持ちになっている時は勇気づけてくれて・・・そんな天だからこそ、私も心を開くことが出来たんだと思います」

 

 「海未先生・・・」

 

 「前に私は、天のことを『弟みたいなもの』と言いましたが・・・正しくは『弟のようであり、それでいて自分と対等な存在』と言うべきでしょうか」

 

 「対等な存在・・・?」

 

 「年下ではあるけれど、子供だとは思っていないということです。自分と対等・・・信頼の置ける相手として見ているんですよ。これは私だけでなく、μ'sのメンバー全員に言えることですね」

 

 言い切る海未先生。言葉の端々に、天くんへの信頼が窺える。

 

 「曜は今日、ことりと真姫に会ったんでしょう?天への接し方を見て、何か感じませんでしたか?」

 

 「・・・二人とも、天くんのことを大切に想ってるんだなって感じました」

 

 南さんも西木野さんも、天くんに会えて本当に嬉しそうだった。

 

 確かにあの距離の近さは、信頼関係が無いと無理だと思う。

 

 「・・・天くんとμ'sの皆さんの関係って、何なんですか?メンバーの弟っていうだけじゃ、そこまでの信頼関係は築けないですよね?」

 

 「・・・天が話していない以上、私から話すことは出来ません」

 

 首を横に振る海未先生。

 

 「ですが天と貴女達が繋がり続けるかぎり、いずれは明らかになるでしょう。何せ天は、Aqoursのマネージャーなのですから」

 

 「マネージャー、か・・・」

 

 「曜?」

 

 首を傾げる海未先生に、私は自分の気持ちを正直に話すことにした。

 

 「私、ちょっと分からなくなっちゃって・・・このまま天くんに、マネージャーを続けてもらっても良いのか」

 

 「・・・天に不満がある、ということですか?」

 

 「違います!」

 

 慌てて否定する私。

 

 「天くんは本当に良い子です!鞠莉さんに脅されてマネージャーの役目を押し付けられたのに、私達のことを考えてしっかりサポートしてくれて!天くんがいてくれたから、私達はここまでくることが出来たんです!ただ・・・」

 

 「ただ・・・?」

 

 「・・・西木野さんと南さんに聞いたんです。テスト生の話を巡って、天くんがお姉さん・・・絢瀬絵里さんと大喧嘩してしまったこと」

 

 俯く私。

 

 「南さんが言ってました。二人はとっても仲の良い姉弟だって。その二人が、浦の星のテスト生の話で揉めたって知って・・・何だか申し訳ない気持ちになってしまって」

 

 ふいに涙が込み上げてくる。泣くつもりなんて無かったのに・・・

 

 「二人が仲直り出来るのなら・・・天くんは東京に戻って、お姉さんのところに帰った方が良いんじゃないかって。その方が、私達と一緒にいるよりも幸せなんじゃないかって・・・そう思ったんです」

 

 鞠莉さんに脅された時、天くんは言っていた。『この学校に来てしまったことを、心の底から後悔している』と。

 

 お姉さんと喧嘩してまで浦の星に来てくれたのに、あんな目に遭って・・・天くんの幸せを考えたら、私達と一緒にいない方が・・・

 

 「・・・ありがとうございます」

 

 背後から海未先生に優しく抱き締められる。

 

 「天のことを、そんなにも大切に想ってくれて・・・嬉しいです」

 

 「海未先生・・・」

 

 「全く、あの二人ときたら・・・いえ、恐らく話したのは真姫ですね?ことりは止めようとしたんでしょうけど、真姫に押し切られたのではありませんか?」

 

 あまりにも的確な予想に、思わず驚いてしまう私。

 

 そんな私の表情を見て、海未先生が苦笑いを浮かべる。

 

 「どうやら当たりみたいですね」

 

 「ど、どうして・・・」

 

 「長い付き合いですから。何となく分かりますよ」

 

 溜め息をつく海未先生。

 

 「まぁ流石にあの二人も、曜がここまで思い悩むとは思わなかったんでしょうね。気を遣わせてしまってすみません」

 

 「い、いえ!聞いたのは私ですから!」

 

 慌てて首を横に振る。

 

 海未先生は困ったように笑うと、私を抱き締める腕に力を込めた。

 

 「・・・正直、私も天に戻ってきてほしいと思っていました。浦の星での教育実習を希望したのも、天を連れて帰るつもりでいたからなんです」

 

 「そうだったんですか・・・」

 

 「まぁ、拒否されてしまいましたけどね」

 

 苦笑する海未先生。

 

 「『今の俺はAqoursのマネージャーだから』だそうです。今の貴女達を見捨てることは出来ないと、ハッキリ言われてしまいました」

 

 「っ・・・」

 

 天くん・・・私達の為にそこまで・・・

 

 「いくら天でも、義務感でここまで動くことは出来ませんよ。貴女達のことを大切に思っているからこそ、浦の星に残る道を選んでいる・・・そうでなければ、小原理事長に脅された時点で東京に戻ってきているはずです」

 

 それは天くんも言ってくれていた。私達のことが好きだから、脅されたとはいえマネージャーを引き受けたんだって。

 

 「天は自分の意思で浦の星へ行くことを選び、自分の意思で浦の星に残ることを選んだんです。曜が思い悩む必要は無いんですよ」

 

 「で、でも・・・そのせいでお姉さんと喧嘩を・・・」

 

 「大丈夫です。いずれ仲直りしますから」

 

 言い切る海未先生。

 

 「天も絵里も、少し素直じゃないところはありますが・・・お互いのことを大切に想っていますから。亜里沙も含め、あの姉弟の絆は深いですよ。側で見てきた私が言うんですから、間違いありません」

 

 「・・・本当ですか?」

 

 「本当です」

 

 海未先生が優しく微笑む。

 

 「それに・・・貴女達と一緒にいる時の天は、とても楽しそうでしたよ?あれで『一緒にいて幸せじゃない』なんて、そんなバカなことはありません。だからこそ天は、貴女達と一緒にいる道を選んだのではありませんか?」

 

 海未先生の言葉に、私は安堵していた。海未先生の目から見て、天くんが楽しそうに見えているのなら・・・それはきっと間違いじゃない。

 

 私達よりもずっと長く、天くんのことを近くで見てきた人なんだから。

 

 「さて、ずいぶん長く話し込んでしまいましたね・・・明日は朝早いんでしょう?早く寝て備えましょう」

 

 「・・・はいっ!」

 

 海未先生と一緒に立ち上がる。心のモヤモヤが少し晴れたような気がして、今ならよく眠れそうだ。

 

 「そうだ海未先生、同じ布団で一緒に寝ませんか?それならもっと安心して眠れるような気がします」

 

 「そ、それは少し恥ずかしい気が・・・」

 

 「海未先生・・・お願いっ!」

 

 「なっ!?ことりの入れ知恵ですか!?」

 

 「え?何の話ですか?」

 

 「・・・まさかの無自覚ですか。曜、恐ろしい子・・・!」

 

 ブツブツ呟いている海未先生に、首を傾げる私なのだった。




どうも~、ムッティです。

今回は、曜ちゃんと海未ちゃんのお話し回でした。

海未ちゃんのお姉さん感がハンパない(笑)

海未ちゃんがお姉ちゃんだったら、色々口うるさく言いながらも可愛がってくれそうな気がします。

ただ個人的にお姉ちゃんになってほしいのは、ことりちゃんですかね。

ことりちゃんの弟になって、天みたいに溺愛されたい(切実)

天、代われ(゜言゜)

さて、元気が無い人といえば・・・曜ちゃん以外にもう一人いましたね。

そんなわけで、次の話は梨子ちゃん回です。

明日投稿しますので、お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人から認めてもらえるのは嬉しいものである。

もうすぐ9月・・・

早く夏なんて終わってしまえ(゜言゜)


 「・・・ん」

 

 夜中、ふと目が覚めてしまう俺。何やら右腕が重いような・・・

 

 「ずらぁ・・・」

 

 花丸が俺の右腕に抱きつき、幸せそうに眠っていた。そういえば寝る場所をじゃんけんで決めた結果、花丸と梨子さんの間になったんだっけ・・・

 

 っていうか、俺の右腕が花丸の胸の谷間に挟み込まれてるんだけど。メッチャ柔らかい感触に包まれてるんだけど。

 

 「ムニャムニャ・・・もう食べられないずらぁ・・・」

 

 「・・・無防備だなぁ」

 

 思わず苦笑してしまう。一応俺も思春期の男子だということを、理解してもらいたいんだけど・・・

 

 花丸を起こさないよう、そっと右腕を抜いた時だった。

 

 「天くん・・・?」

 

 花丸とは反対側から声がした。

 

 そちらに顔を向けると、俺の方に顔を向けている梨子さんと目が合った。

 

 「梨子さん?起きてたんですか?」

 

 「うん、少し前に目が覚めちゃってね・・・それから眠れないの」

 

 苦笑する梨子さん。

 

 「しかも私が寝てる間に、あんなことになってるし。驚いちゃった」

 

 「あんなこと・・・?」

 

 首を傾げる俺。

 

 梨子さんが視線を向けた先を見ると・・・別々の布団で寝ていたはずの海未ちゃんと曜さんが、同じ布団で身を寄せ合って眠っていた。

 

 マジか・・・

 

 「千歌さんならともかく、曜さんはちょっと意外ですね・・・」

 

 「そうよね・・・あの二人、あんなに仲良かったかしら・・・?」

 

 梨子さんも首を傾げている。

 

 まぁ、仲が良いに越したことはないから良いけど。

 

 「海未ちゃんは人見知りですし、仲の良い人が増えるのは良いことです。梨子さんも海未ちゃんと仲良くしてあげて下さいね」

 

 「・・・何か天くん、海未先生の保護者みたいになってるわよ」

 

 「昔から海未ちゃんを知ってる身として、心配してるだけですよ」

 

 お互い布団に身を横たえながら向かい合い、他愛も無い話をする。

 

 気分転換も兼ねて少し話せば、梨子さんもまた眠れるかもしれないし。

 

 「大切に想ってるのね、海未先生のこと」

 

 「・・・そりゃあそうですよ」

 

 何となく照れ臭くなってしまう。

 

 「海未ちゃんも、ことりちゃんも、真姫ちゃんも・・・μ'sのメンバー全員が、俺にとってかけがえのない人達ですから」

 

 「フフッ・・・海未先生が聞いたら号泣しそうなセリフね」

 

 「オフレコでお願いします」

 

 こんなセリフ、なかなか面と向かって言えないからな・・・

 

 「・・・凄いわね、天くんは。そうやって言い切れるくらい、大切な人達と出会えたんだもの。きっと音ノ木坂で、良い時間を過ごしたのね」

 

 「梨子さん・・・?」

 

 梨子さんの表情が暗くなる。どうしたんだろう・・・?

 

 「・・・私、中学の頃にピアノの全国大会に行ったことがあってね。だから高校から入った音ノ木坂では、結構期待されてたの」

 

 「そうだったんですか・・・」

 

 音ノ木坂は、伝統的に音楽で有名な学校だ。

 

 その方面で腕を鳴らした学生が入ってくることも多く、梨子さんもその内の一人だったんだろう。

 

 「だから期待に応えなきゃって、いつも練習ばかりしてて・・・でも結局、大会では上手くいかなくてね。そのせいか、音ノ木坂に行くことに対して気が引けちゃって・・・」

 

 「・・・なるほど」

 

 それでさっき、千歌さんの提案を断ったのか・・・

 

 音ノ木坂にいた頃、苦しい思いをしたことを思い出してしまうから・・・

 

 「音ノ木坂が嫌いなわけじゃないのよ?ただ・・・期待に応えられなかった自分が情けないし、期待してくれた人達に申し訳ない・・・そんな気持ちになっちゃって」

 

 「梨子さん・・・」

 

 「だから、海未先生やμ'sの人達は凄いと思う。周りからの期待に応えて、廃校を阻止したんだもの。それどころか、スクールアイドルブームまで巻き起こしちゃって・・・千歌ちゃんや天くんに出会うまで知らなかったけど、本当に偉大な人達だと思うわ」

 

 微笑む梨子さん。

 

 「そして・・・その偉大な人達を、『かけがえのない人達』って言い切れる天くんもね」

 

 「いや、俺は別に・・・」

 

 「曜ちゃんが言ってたわよ?『南さんと西木野さんは、本当に天くんと仲が良かった』って。海未先生も天くんに心を許してるし、μ'sの人達にとって天くんの存在は大きいんでしょうね。偉大な人達の支えになっている天くんも、私から見たら凄い人よ」

 

 梨子さんはそう言うと、悲しげに目を伏せた。

 

 「私も期待に応えられてたら・・・もっと練習して、大会で上手くいってたら・・・少しは音ノ木坂の役に立てたのかな・・・」

 

 「・・・もしそうなっていたら、俺達が出会うことはなかったでしょうね」

 

 「え・・・?」

 

 驚く梨子さん。俺は梨子さんに微笑みかけた。

 

 「もし梨子さんが、音ノ木坂で順調にいっていたら・・・環境を変えてみようなんて思わなかったでしょう?浦の星に来ることもなく、俺達と出会うこともなかったはずです。少し言い方は悪いですが・・・梨子さんが音ノ木坂で上手くいかなかったから、俺達は出会えたんだと思います」

 

 「天くん・・・」

 

 「それとも・・・梨子さんは、俺達に出会わなければ良かったと思いますか?」

 

 「なっ!?そんなわけないじゃない!」

 

 「しーっ、皆が起きちゃいます」

 

 「あっ・・・」

 

 慌てて口を押さえる梨子さん。俺は思わず笑ってしまった。

 

 「・・・俺が言いたいのは、たらればの話をしても仕方ないってことです。過去のことは変えられないんですから」

 

 「それはそうだけど・・・」

 

 「それに苦しい思いをしたからこそ、今の梨子さん・・・Aqoursの桜内梨子がいるんじゃないですか。スクールアイドル、やってみてどうですか?」

 

 「・・・凄く楽しいわ。心からやりがいを感じてる」

 

 「そう思えるなら、梨子さんの歩んできた道は間違いじゃないですよ。期待に応えられずに苦しんだことも、何かを変えようとしてもがいたことも・・・無駄なことなんて何一つありません。全てが梨子さんの礎になってます」

 

 俺は梨子さんへと手を伸ばした。

 

 「梨子さんのしてきた努力が全て分かるだなんて、そんなおこがましいことは言えませんけど・・・その様子を見ていれば、一生懸命やってきたってことくらいは分かります。周囲の期待に応えようとして、必死に頑張ったんだろうなってことも・・・」

 

 梨子さんの頭を、優しく撫でる。

 

 「前にも言いましたけど、梨子さんはもっと胸を張っていいと思います。引け目とか、情けなさとか、申し訳なさとか・・・そういったものを感じるなとは言いません。ただ、もっと自分のことを褒めてあげて下さい。自分で思っている以上に、梨子さんは凄い人なんですよ。俺が保証します」

 

 「っ・・・」

 

 梨子さんの目から、一筋の涙が伝う。

 

 それを機に次々に涙が滴り落ち、梨子さんの枕を濡らしていった。

 

 「本当に・・・ずるいわね、天くんは・・・」

 

 ボロボロと涙を零す梨子さん。

 

 「あの時も、今も・・・私を泣かせにくるんだから・・・」

 

 「良いじゃないですか。嬉し涙なんですから」

 

 笑みを浮かべる俺。

 

 「俺には、梨子さんの心に寄り添うことしか出来ませんから・・・それで梨子さんが、少しでも元気になってくれるなら嬉しいです」

 

 「・・・十分すぎるくらいよ」

 

 泣きながら微笑む梨子さん。

 

 「なるほどね・・・だからμ'sの人達は、天くんのことを・・・」

 

 「梨子さん?」

 

 「フフッ・・・何でもないわ」

 

 梨子さんはそう言うと、おもむろに俺の布団に入ってきた。

 

 「ちょ、どうしたんですか!?」

 

 動揺する俺に何も言わず、抱きついてくる梨子さん。

 

 「お願いだから・・・少しだけ、このままでいさせて・・・」

 

 俺の胸に顔を埋める梨子さん。その肩は震えており、まだ泣いているのが分かった。

 

 「・・・俺で良ければ、喜んで」

 

 梨子さんの身体を、優しく抱き締める俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

今回は梨子ちゃん回となりました。

アニメでは千歌ちゃんと梨子ちゃんが話していましたが、この作品では千歌ちゃんに代わり天が梨子ちゃんと話しています。

何だか二人が良い感じになっていますが・・・

本当にヒロイン未定でお送りしております(笑)

果たしてヒロインは誰になるのか・・・

そろそろ絞った方が良いのかなぁとも思うのですが、これが決められないんですよねぇ・・・

どうか長い目で見ていただけると幸いです(笑)

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

運命とは不思議なものである。

最近、鈴木このみさんの『My Days』をよく聴いてます。

メッチャカッコいい曲( ´∀`)


 《梨子視点》 

 

 翌朝・・・

 

 「・・・んっ」

 

 目を覚ました私は、ぼんやりとした頭の中で状況を整理する。昨日の夜は海未先生の実家に泊まって、皆で一緒に寝たんだっけ・・・

 

 と、身体が妙に温かいことに気付いた。まるで何かに包まれているような・・・

 

 「っ!?」

 

 そういえば昨日の夜、天くんと抱き合って・・・!?

 

 慌てて上を見上げると・・・

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 安らかに寝息を立てる天くんの顔があった。そして私の顔が、ちょうど天くんの胸の位置に・・・

 

 つまり私は天くんに抱き締められて、天くんの胸に顔を埋めたまま一晩寝ていたというわけだ。

 

 「っ・・・!」

 

 耳まで真っ赤になっていくのを感じる。

 

 天くんの前でボロ泣きしたことはまだ良い。問題は自分から天くんの布団に潜り込んで、自分から天くんに抱きついて胸に顔を埋めてしまったことだ。

 

 何やってるの私!もしこの場にダイヤさんがいたら、『破廉恥ですわ!』って怒られてるところじゃない!

 

 でも・・・

 

 「・・・温かい」

 

 思わず呟いてしまう。

 

 やっぱり天くんも男の子なだけあって、身体つきがしっかりしていた。抱き締められていて、とても安心感を覚える。

 

 「・・・嬉しかったな」

 

 昨夜の記憶が甦ってくる。

 

 私が歩んでいる道は間違いじゃないと、苦しい思いをしたことも無駄じゃないと言ってくれた。もっと胸を張って良いと、私のことを凄い人だと言ってくれた。

 

 本当に本当に嬉しくて・・・涙が止まらなかった。

 

 「・・・天くん」

 

 天くんの顔を見上げる。

 

 穏やかな寝顔を見ていると、何だか可愛く思えてきて・・・とても愛おしく感じた。

 

 「・・・フフッ」

 

 私は小さく笑うと、再び天くんの胸に顔を埋めた。もう少しだけ、このままでも良いよね・・・

 

 そんなことを思いながら天くんに身体を委ね、意識を手放そうとした時・・・

 

 「あーっ!?」

 

 急に大声が聞こえて、慌てて顔を上げる。

 

 千歌ちゃんが驚愕の表情でこちらを見ていた。

 

 「天くん!?梨子ちゃん!?何してるの!?」

 

 「ち、違うの千歌ちゃん!これは・・・」

 

 「うゆ・・・?」

 

 「何の騒ぎずらぁ・・・?」

 

 「騒々しいわねぇ・・・」

 

 千歌ちゃんの大声で目覚めた一年生三人組が、眠そうに目を擦りながら起き上がる。

 

 そして私達の方を見て・・・

 

 「ぴぎっ!?」

 

 「ずらっ!?」

 

 「な、何してんのよアンタ達!?」

 

 顔を赤くして絶句する三人。

 

 慌てて弁解しようとすると、今度は曜ちゃんと海未先生が起き上がった。

 

 「んっ・・・何かあったの・・・?」

 

 「大変なんだよ曜ちゃん・・・って、何で海未先生と同じ布団で寝てるの!?」

 

 「えへへ、色々あって・・・って、えぇっ!?天くんと梨子ちゃんも同じ布団で寝てるの!?しかも抱き合ってるじゃん!?」

 

 「ふわぁ・・・朝から何を騒いでるんですか・・・?」

 

 「海未先生!天くんと梨子ちゃんが!」

 

 「え・・・?」

 

 こちらを見る海未先生。

 

 マ、マズい・・・!天くんを溺愛している海未先生が、こんな光景を見たら・・・!

 

 「・・・何か問題でも?」

 

 「「「「「「えぇっ!?」」」」」」

 

 全員驚きの声を上げる。意外と冷静な反応なのが怖いんだけど・・・

 

 「ちょ、海未先生!?天くんと梨子ちゃんが抱き合って寝てるんですよ!?」

 

 「・・・普通ですよね?」

 

 「普通じゃないわよ!?」

 

 善子ちゃんのツッコミ。寝起きで頭がボーっとしてるのかな・・・?

 

 「μ'sとして活動していた頃、こういった光景はよく見ましたからね。外泊する時は誰が天の隣で寝るか、皆でよく争ったものです」

 

 苦笑する海未先生。

 

 「かくいう私も、今は天と一緒に寝てますから。同じ布団で寝ることもありますし」

 

 「そ、そうなんですか・・・」

 

 「・・・ん」

 

 そんな会話をしていると、天くんの目がゆっくりと開いた。

 

 そのまま海未先生達の方へと視線を向ける。

 

 「おはよー・・・朝から騒々しいけど、何かあったの?」

 

 「原因は天くんずらっ!」

 

 「俺・・・?」

 

 花丸ちゃんのツッコミに、首を傾げる天くん。

 

 「それより花丸、人の腕を抱き枕にするのは良いんだけどさ・・・俺も思春期の男子だってことを忘れないでね?花丸の胸の谷間に腕が挟み込まれて、色々大変だったんだよ?」

 

 「ずらぁっ!?」

 

 耳まで真っ赤になる花丸ちゃん。そんなことがあったのね・・・

 

 「ちょ、花丸ちゃん!?」

 

 「アンタも破廉恥なことしてるじゃない!?」

 

 「・・・ずらぁ」

 

 「あぁっ!?花丸ちゃんが倒れた!?」

 

 何やら大変なことになっている中、天くんが私の方を見た。

 

 「おはようございます、梨子さん」

 

 「お、おはよう・・・」

 

 未だに天くんの腕に抱かれている私は、恥ずかしくてまともに天くんの顔を見れなかった。

 

 そんな私に天くんは優しく微笑み、耳元で小さく囁いた。

 

 「・・・少しはスッキリしましたか?」

 

 「っ・・・」

 

 ホントにこの子は・・・優しすぎるでしょ・・・

 

 「・・・えぇ。ありがとう、天くん」

 

 笑顔でそう返す私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「この道を歩くのも、何だか久々な気がするよ」

 

 「フフッ、そうですね」

 

 Aqoursの皆の後ろを、海未ちゃんと会話しながら歩く俺。

 

 イベント会場へと向かう前に、俺達はある場所へと向かっていた。

 

 「着いた・・・!」

 

 先頭を歩いていた千歌さんが立ち止まる。

 

 目の前には大きなスクリーン、そして白く巨大な建物・・・秋葉原UTXがそびえ立っていた。

 

 「・・・変わらないな、ここも」

 

 小さく呟く。ここに来ることを提案したのは、他でもない千歌さんだった。

 

 何でも高一の時、曜さんと二人で秋葉原を訪れたことがあったらしい。その際にこのスクリーンでμ'sの映像を見て、スクールアイドルをやりたいと思ったんだそうだ。

 

 千歌さんがスクールアイドルを目指すきっかけは聞いていたが、まさかこの場所だったとは・・・

 

 それを聞いた時は、海未ちゃんと顔を見合わせて驚いてしまった。

 

 「同じですね・・・穂乃果と」

 

 「・・・そうだね」

 

 穂乃果ちゃんも、このスクリーンでA-RISEの映像を見てスクールアイドルをやることを決めた人だもんな・・・

 

 そしてその五年後、このスクリーンでμ'sの映像を見てスクールアイドルをやりたいと思った千歌さん・・・

 

 これは運命なんだろうか・・・

 

 「そういえば、そろそろじゃないですか?」

 

 「ん?何が?」

 

 「ラブライブのエントリーですよ。時期的にそろそろだと思うのですが」

 

 「あぁ、確かに」

 

 ラブライブは半年に一度のペースで、春と秋にそれぞれ開催されている。予選のことを考えると、そろそろ秋の大会のエントリーが始まる頃なのだが・・・

 

 そんなことを海未ちゃんと話していると、突然音楽が鳴り響いた。スクリーンに『Love Live!』の文字が映し出され、その下に『ENTRY START!』の文字が浮かび上がる。

 

 「ラブライブ・・・」

 

 「遂に来たね・・・」

 

 スクリーンを見上げるルビィと曜さん。梨子さんが千歌さんへと視線を向ける。

 

 「どうするの?」

 

 「勿論出るよ!」

 

 力強く頷く千歌さん。

 

 「μ'sがそうだったように、学校を救ったように・・・私達もラブライブに出て、浦の星を救おう!」

 

 「フフッ、言うと思ったずら」

 

 「やってやろうじゃない」

 

 笑みを浮かべる花丸と善子。μ'sがそうだったように、か・・・

 

 「・・・どこまでもμ'sの背中を追いかけるんですね。千歌さんは」

 

 「天・・・?」

 

 海未ちゃんが首を傾げる中、千歌さんが前に出す。

 

 「よし、アレやろう!」

 

 その言葉に呼応し、Aqoursの皆が円陣を組む。曜さんがこちらへ視線を向ける。

 

 「ほら、天くんも一緒に!」

 

 「六人いたら十分でしょう。俺は遠慮しときます」

 

 「えぇっ!?ファーストライブの時はやってくれたじゃん!?」

 

 「曜さんが無理矢理やらせたんじゃないですか」

 

 「言い方が酷くない!?」

 

 「俺の初めてが、曜さんに奪われて・・・」

 

 「その言い方も止めて!?」

 

 「まぁ、円陣組むの初めてじゃなかったんですけどね」

 

 「今のやりとり何だったの!?」

 

 「まぁまぁ曜ちゃん、今回は六人でやりましょう?ね?」

 

 「むぅ・・・」

 

 梨子さんが宥めてくれるものの、膨れっ面になる曜さん。やれやれ・・・

 

 「さぁ、いこう!今、全力で輝こう!」

 

 「「「「「「Aqours!サンシャイン!」」」」」」

 

 六人の声が響き渡る。

 

 人数が増えたのもあるが、それ以上に・・・ファーストライブの時と比べて、力強さが増した気がした。良いグループになったなぁ・・・

 

 感慨に浸っていた俺は、海未ちゃんがこちらを気遣わしげに見つめていることに気が付かないのだった。




どうも〜、ムッティです。

この前久しぶりにカラオケに行きまして、μ'sやAqoursの曲を熱唱してきました。

μ'sはともかく、Aqoursはキーの高い曲が多いですね(>_<)

そんな中、精密採点DXを使ってみたのですが・・・

Aqoursの曲の中で一番得点が高かったのは、『HAPPY PARTY TRAIN』でした。

ちなみに二番が『MY舞☆TONIGHT』で、三番が『想いよひとつになれ』でした。

個人的に難しいと感じたのは、『勇気はどこに?君の胸に!』ですね。

特に二番が終わった後の『やり残したことなど〜』からが、ちょっとキーが高すぎて・・・

裏声を使うって難しい(>_<)

またカラオケに行って練習したいなぁ・・・

という、全く関係ない話をしてしまいました(笑)

次の話ではあの人が登場する予定です。

明日投稿しますので、お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誰しもが壁にぶつかるものである。

セブンイレブンで大量のチョコを買いました。

全てはAqoursのクリアファイルを手に入れる為・・・

おかげで全種類コンプリート出来ましたが、店員さんからは白い目で見られました。

解せぬ。


 「うぅ、こんなに人が多いなんて・・・」

 

 俺の腕にしがみつき、恐る恐る歩いている海未ちゃん。パフォーマンスの準備に向かった皆と別れた俺達は、イベントを鑑賞する為に客席へと向かっていた。

 

 マネージャーとはいえ、他のスクールアイドル達も使用する控え室には入れないからな。

 

 「どこかの誰かさん達がスクールアイドルブームを巻き起こして以来、スクールアイドルの人口は年々増加してるからね。必然的にスクールアイドルファンも増えて、こういうイベントはいつもお客さんでいっぱいになるんだよ」

 

 「く、詳しいですね・・・」

 

 「μ'sが解散してからも、こういうイベントにはよく連れて来られてたからねぇ・・・初代部長と二代目部長と三代目部長に」

 

 「あぁ、にこと花陽と亜里沙ですか」

 

 苦笑する海未ちゃん。あの三人は本当にスクールアイドルが好きだからなぁ・・・

 

 「まぁそのおかげで、最近のスクールアイドルのことも把握出来てるんだけどね。このイベントに参加するスクールアイドルも、ほとんど知ってるグループだったし」

 

 「いや、ほとんど知ってるって・・・凄くないですか?」

 

 「というより、割と有名なグループがたくさん参加してるんだよね」

 

 苦笑する俺。

 

 「何しろ、ラブライブの決勝まで進んだことのあるグループばかりだから」

 

 「えぇっ!?このイベント、そんなにレベルの高いものだったんですか!?」

 

 「気付くの遅くない?」

 

 俺が呆れていると・・・

 

 「あら?Aqoursのマネージャーさん?」

 

 ふいに声をかけられる。振り向くとSaint Snowの二人・・・鹿角姉妹が立っていた。

 

 「あぁ、おはようございます」

 

 「おはようございます」

 

 丁寧に挨拶を返してくれる聖良さん。一方理亞さんは聖良さんの陰に隠れ、こちらを睨み付けていた。

 

 「理亞さんもおはようございます」

 

 「・・・ふんっ」

 

 そっぽを向く理亞さん。聖良さんが困ったように笑う。

 

 「すみません・・・この子、昨日のことを根に持ってまして・・・」

 

 「あぁ、パンツの件ですか」

 

 「言わなくていいっ!」

 

 ガルルル・・・とこちらを威嚇してくる理亞さん。どうやら、本格的に警戒されてしまっているようだ。

 

 「天・・・また女の子のパンツを見てしまったんですか?」

 

 「だって理亞さんが見せつけてくるんだもん」

 

 「見せつけてないわよ!?」

 

 「スカートで跳んだら同じことでしょう」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まる理亞さん。と、聖良さんが海未ちゃんの顔を見て首を傾げる。

 

 「ところで、そちらの女性は?」

 

 「初めまして、天の彼j・・・」

 

 「正体バラすぞ(ボソッ)」

 

 「姉ですっ!」

 

 慌てて言い直す海未ちゃん。

 

 ちなみに今の海未ちゃんは伊達メガネとマスクをしており、髪型もポニーテールにしている。要は正体がバレないように変装しているのだ。

 

 こんなところにμ'sの園田海未がいると分かったら、大騒ぎになりそうだしな・・・スクールアイドルファンの中で、μ'sのことを知らない人なんていないだろうし。

 

 「お姉様でしたか。ずいぶん仲がよろしいんですね」

 

 「姉は人見知りなもので、こういった人混みが苦手なんですよ」

 

 ここは適当に誤魔化しておく。向こうも気付いてないみたいだし。

 

 「我々は客席でイベントを鑑賞させていただきますので。お二人も頑張って下さい」

 

 「あら、他所のスクールアイドルを応援して良いんですか?」

 

 「Aqoursのマネージャーをやっているからといって、他のスクールアイドルを敵視しているわけではありませんから。俺はスクールアイドル好きなので」

 

 「フフッ、ありがとうございます」

 

 笑みを浮かべる聖良さん。

 

 「それではまた・・・理亞、行きましょう」

 

 理亞さんを引き連れて去っていく聖良さん。去り際、理亞さんがこちらに向かって『アッカンベー』をしてきた。

 

 アララ、嫌われたもんだな・・・

 

 「・・・大丈夫ですか?」

 

 「大丈夫だよ。『アッカンベー』くらい可愛いもんだし」

 

 「いえ、そうではなくて・・・」

 

 心配そうに俺を見る海未ちゃん。

 

 「あの二人のこと、本当は好きじゃありませんよね・・・?」

 

 「・・・よく分かったね」

 

 素直に驚いてしまった。表面上は上手く取り繕ってたつもりだったんだけど・・・

 

 「丁寧な態度ではありましたが、ちょっと丁寧すぎましたね」

 

 苦笑する海未ちゃん。

 

 「普段の天を知っている身としては、少し冷淡な態度に感じましたよ。もっとも、普段の天を知らない人は気付かないでしょうけど」

 

 「よく見てるねぇ・・・」

 

 「これでも長い付き合いなんですから、それくらい分かりますよ。それに・・・五年前にもいたじゃないですか。天がああいう態度をとった人達が」

 

 「あぁ・・・そうだったね」

 

 当時のことを思い出して苦笑する。

 

 今でこそ仲良くなってはいるが、最初の印象は悪かったっけな・・・

 

 「懐かしいなぁ・・・って、そろそろ時間か。早くしないと始まっちゃう」

 

 「えぇ、急ぎましょう」

 

 「うん、急ぎたいから離れてくんない?」

 

 「それは無理です」

 

 「断言したよこの人・・・」

 

 俺が呆れていると、海未ちゃんがおずおずと尋ねてきた。

 

 「そういえば天、先ほどの話なのですが・・・今回のイベントには、かなりの実力者達が参加しているんですよね?Aqoursは、その・・・大丈夫でしょうか?」

 

 「・・・大丈夫、ではないだろうね」

 

 俺は首を横に振ると・・・あまり口にしたくない予想を言うのだった。

 

 「恐らく、Aqoursは・・・」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「お疲れ様でした」

 

 千歌さん達を労う俺。イベント終了後、俺と海未ちゃんは千歌さん達と合流していた。

 

 皆の表情は・・・どこか暗いものだった。

 

 「ダメだった・・・」

 

 「優勝どころか、入賞すら出来なかったずら・・・」

 

 落ち込むルビィと花丸。

 

 今回のイベントは、観客の投票で優勝グループを決めるというものだった。得票数が一番多かったグループが優勝、八位以内に入ったグループは入賞という形だ。

 

 残念ながらAqoursの名前は、八位までには呼ばれなかった。

 

 「でも声は出てましたし、ミスもこれまでで一番少なかったですよ?今までで一番良い出来だったのではありませんか?」

 

 皆のことを気遣い、フォローしようとする海未ちゃん。

 

 確かに俺の目から見ても、今までで一番良い出来だったとは思う。ただ・・・

 

 「・・・それでも、この結果なのよね」

 

 溜め息をつく善子。

 

 今までで一番の出来であっても、優勝どころか入賞すら出来ていない・・・その現実が、皆に重くのしかかっているのだ。

 

 「・・・私ね、Saint Snowを見た時に思ったの」

 

 曜さんが呟く。

 

 「これがトップレベルのスクールアイドルなんだって。このくらい出来なきゃダメなんだって。なのに・・・入賞すらしてなかった」

 

 そう、Saint Snowも入賞出来ていなかった。イベントのトップバッターとして登場した彼女達は、大いに会場を沸かせてイベントを盛り上げた。

 

 そのレベルはとても高く、入賞した他のグループと比べても遜色ないものだったと思う。Aqoursの出番はその次だったのだが・・・その前のSaint Snowが良すぎて、イマイチ盛り上がりに欠けてしまったほどだ。

 

 それほど良かったSaint Snowでさえ、入賞すらしていなかったのだ。

 

 「あの人達のレベルで無理なら、そのレベルさえに届いていない私達じゃ・・・」

 

 「でも・・・全力で頑張ったじゃん、私達」

 

 落ち込む曜さんに対し、笑いかける千歌さん。

 

 「海未先生も言ってくれたけど、今日が今までで一番良い出来だったと思う。周りはラブライブの決勝まで進んだことのある人達ばかりだし、入賞出来なくて当たり前だよ」

 

 「だけど、ラブライブの決勝に出ようと思ったら・・・今日出ていた人達くらい、上手くなきゃいけないってことでしょ・・・?」

 

 「それはそうだけど・・・でも、今はそんなこと考えても仕方ないよ」

 

 「千歌ちゃん・・・」

 

 あくまでも笑顔の千歌さん。全く、不器用なんだから・・・

 

 「・・・とりあえず、何か食べに行きませんか?お腹空いちゃって」

 

 「あ、賛成!私もお腹ペコペコ!」

 

 俺の提案に乗ってくる千歌さん。と、千歌さんのスマホが鳴った。

 

 「はい、高海ですけど・・・はい・・・はい・・・」

 

 何やら話し込む千歌さん。やがて電話を切ると、困ったような表情でこちらを見た。

 

 「さっきのイベントのスタッフさんが、渡したいものがあるから来てほしいって」

 

 「渡したいもの?」

 

 「うん。参加者全員に渡してるものらしいんだけど、渡しそびれちゃったんだってさ」

 

 「スマホ貸して下さい。『そっちが持ってこいやハゲ』って伝えとくんで」

 

 「喧嘩売る気満々!?女性スタッフさんだよ!?」

 

 「だから男女平等ですって」

 

 「だからこういう時に使うセリフじゃないって!?」

 

 千歌さんのツッコミ。ホント空気の読めないスタッフだな・・・

 

 「とりあえず行ってくるよ。天くんと海未先生は待ってて」

 

 「大丈夫ですか?私達もついていった方が・・・」

 

 「大丈夫ですよ。すぐ戻ってきますから」

 

 千歌さん達がイベント会場へと戻っていく。大丈夫かなぁ・・・

 

 「・・・皆、もの凄く落ち込んでましたね」

 

 海未ちゃんの表情も優れない。

 

 「その中でも、一番落ち込んでいたのは・・・」

 

 「大丈夫。分かってるから」

 

 海未ちゃんの言葉を遮る俺。あれで気付かないわけがない。

 

 「ホント・・・似てるよね」

 

 「・・・ですね」

 

 揃って溜め息をつく俺と海未ちゃんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「全く、これだから海未ちゃんは・・・」

 

 溜め息をつく俺。俺は今、迷子になった海未ちゃんを探していた。

 

 待っている間に、皆の分の飲み物を買いに行ってくれたのだが・・・先ほど泣きながら『助けて下さい!』と電話がかかってきたのだ。

 

 どうやら、帰り道が分からなくなってしまったらしい。

 

 「だから一緒に行こうって言ったのに・・・」

 

 そんな愚痴を呟きながら、海未ちゃんのことを探していると・・・

 

 「あら、またお会いしましたね」

 

 ある~日~、人混みの中~、Saint Snowさんに~、出会った~♪

 

 「チェンジで」

 

 「何がですか!?」

 

 聖良さんのツッコミ。熊さんより出会いたくない人達に出会ってしまった・・・

 

 「まぁいいや・・・お二人とも、ウチの姉を見ませんでしたか?」

 

 「な、何か凄く投げやりな感じですけど・・・お姉様は見てませんね。はぐれてしまったんですか?」

 

 「えぇ、どうやら迷子になってしまったみたいでして・・・電話で聞いたかぎりでは、どうやらこの辺にいるみたいなんですけど」

 

 「私達も探すの手伝いましょうか?」

 

 「あぁ、大丈夫です。多分すぐ捕獲出来ると思うので」

 

 「いや、捕獲って・・・」

 

 呆れている聖良さん。

 

 ふと聖良さんの陰に隠れる理亞さんへと視線を向けると・・・その目には涙が浮かんでいた。

 

 「えっ・・・泣くほど俺のこと嫌いですか?」

 

 「違うわよ!?」

 

 慌ててゴシゴシと目元を拭う理亞さん。聖良さんが苦笑している。

 

 「入賞出来なかったことが、よほど悔しかったみたいで」

 

 「姉様!余計なこと言わないで!」

 

 「あぁ、なるほど・・・」

 

 「何よ!?悪い!?」

 

 「いや、全然」

 

 首を横に振る俺。

 

 「それだけ理亞さんが、このイベントに本気で挑んでたっていうことでしょう?上から目線みたいになって申し訳ないですけど・・・立派だと思います」

 

 「っ・・・ふんっ」

 

 そっぽを向く理亞さん。

 

 「そんなの当たり前じゃない。お遊びで参加してるアンタ達とは違うのよ」

 

 「理亞」

 

 咎めるように声をかける聖良さん。だが、理亞さんは止まらなかった。

 

 「姉様だってあの子達に、『μ'sのようにラブライブを目指しているのだとしたら、諦めた方が良いかもしれません』って言ってたじゃない」

 

 「それは・・・」

 

 「・・・ずいぶんな言い方ですね」

 

 「「っ!?」」

 

 思わずドスの効いた声が出てしまう。それを聞いた鹿角姉妹が硬直してしまった。

 

 「お遊び?諦めた方が良い?貴女達がAqoursの何を知ってるんですか?」

 

 怒りがふつふつと湧き上がり、腸が煮えくり返る。

 

 「それがAqoursの為を思って言った言葉なら、話は別ですが・・・とてもそうは聞こえませんね。入賞出来なかったことが悔しくて、Aqoursに八つ当たりしたんですか?」

 

 「そ、そんなつもりは・・・」

 

 震えている聖良さん。理亞さんも再び涙目になっていた。

 

 「やっぱり俺は、貴女達のことがきr・・・」

 

 「ストップ」

 

 誰かに後ろから抱きつかれ、口を手で塞がれる。

 

 「それ以上は言っちゃダメよ、天くん」

 

 ウェーブのかかったセミロングヘアの女性が、優しく微笑んでいた。えっ・・・

 

 「なっ!?貴女はっ・・・!」

 

 その女性の顔を見た聖良さんが、驚愕の表情を浮かべる。その女性とは・・・

 

 「何でこんなところにいるの・・・あんじゅちゃん」

 

 「フフッ♪」

 

 A-RISEのメンバー・・・優木あんじゅその人なのだった。




どうも〜、ムッティです。

私事で大変恐縮ですが、本日誕生日を迎えました。

また一つ歳を重ねてしまった・・・

読者の皆様・・・いつもこの作品を読んでいただき、本当にありがとうございます。

この作品を書き続けることが出来るのも、ひとえに皆様の応援のおかげだと思っております。

こんな自分ではありますが、これからも応援していただけると幸いでございます。

これからもどうぞ、よろしくお願い致します。

さてさて、今回はA-RISEの優木あんじゅちゃんが登場したわけですが・・・

μ'sは勿論、A-RISEも出したかったんですよねー。

次の話では綺羅ツバサちゃんと藤堂英玲奈ちゃん、そして・・・

μ'sのあのメンバーも登場する予定です。

お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

避けては通れない道もある。

台風半端ないって!アイツ半端ないって!

メッチャ電車遅れるもん!運休するもん!

そんなんどうしようもできひんやん普通!

・・・ホント大変だったなぁ(遠い目)


 「ゆ、優木あんじゅ・・・!?」

 

 「嘘でしょ・・・!?」

 

 絶句している聖良さんと理亞さん。

 

 一方のあんじゅちゃんは、嬉しそうに俺に頬ずりをしていた。

 

 「天くん久しぶり~♪大きくなったわね~♪」

 

 「まぁ、成長期だからね」

 

 あんじゅちゃんの登場ですっかり毒気を抜かれた俺は、苦笑しながら返した。

 

 「あんじゅちゃんこそ・・・また一段と実ったんじゃない?」

 

 「フフッ、天くんのエッチ♡」

 

 そう言いながらも、俺の身体に二つの立派なモノを押し付けてくるあんじゅちゃん。

 

 いや、何というか・・・ご馳走様です。

 

 「っていうか、何であんじゅちゃんがここに?」

 

 「半日だけオフになったから、今日のイベントを見に来たの」

 

 笑うあんじゅちゃん。

 

 「どうしても見に来たかったのよね。天くんがマネージャーをやってるグループが出るっていうんだもの」

 

 「えっ、何でそれを・・・」

 

 「あっ!いたいた!」

 

 「あんじゅ!探したぞ!」

 

 こちらに向かってくる二つの影・・・って、あれ?

 

 「もう、急にいなくならないで・・・って天じゃない!久しぶりね!」

 

 ショートヘアの女性が笑顔で話しかけてくる。この人も相変わらずだなぁ・・・

 

 「久しぶり、ツバサちゃん・・・ハゲた?」

 

 「ハゲてないわっ!」

 

 全力でツッコミを入れてくる女性・・・綺羅ツバサちゃん。A-RISEのリーダーである。

 

 「っていうか、久しぶりに会って第一声がそれなの!?」

 

 「あぁ、ゴメン。聞き方が悪かったね・・・生え際後退した?」

 

 「オブラートに包んでるようで全然包んでないじゃない!?」

 

 「毛根死滅した?」

 

 「最早どストレート!?」

 

 「いや、何か前よりおでこが広くなった気がするんだけど・・・」

 

 「そんな疑いの眼差しで見ないでくれる!?本当にハゲてないから!」

 

 「ハハッ、相変わらず天は面白いな」

 

 ロングへアで切れ長の目の女性が、楽しそうに笑っている。

 

 「ツバサをそこまでイジることが出来るのは、天だけだろうな」

 

 「英玲奈ちゃんも久しぶり。ますますカッコ良くなったね」

 

 「・・・それは喜んで良いものなのか?」

 

 反応に困っている女性・・・藤堂英玲奈ちゃん。同じくA-RISEのメンバーである。

 

 「一応私も女なのだが・・・」

 

 「大丈夫。ちゃんと知ってるから」

 

 苦笑する俺。

 

 「こんな綺麗な人を、男と勘違いしたりしないよ」

 

 「なっ・・・お前はまたそういう恥ずかしいことを・・・!」

 

 「あら英玲奈、言葉とは裏腹にずいぶん嬉しそうじゃない」

 

 「ツバサ!?何を言ってるんだお前は!?」

 

 今度はツバサちゃんが英玲奈ちゃんをからかい、英玲奈ちゃんが顔を真っ赤にしている。

 

 相変わらず仲が良いなぁ・・・

 

 「綺羅ツバサと藤堂英玲奈まで・・・!?」

 

 「どうなってるの・・・!?」

 

 口をパクパクさせている聖良さんと理亞さん。まぁ無理もないか・・・

 

 「あら、この二人・・・確かSaint Snowよね?どうしてこっちを見て驚愕の表情を浮かべてるの?」

 

 「いや、普通はこうなるんだよ」

 

 ツバサちゃんの反応に呆れる俺。

 

 「それほどA-RISEは有名なんだから」

 

 A-RISE・・・第一回ラブライブ優勝グループであり、μ'sと共にスクールアイドルブームを巻き起こした存在だ。

 

 高校卒業後は芸能界に入り、正式にプロのアイドルとしてデビュー・・・今や大人気アイドルグループへと成長を遂げている。

 

 スクールアイドルの先駆者であり、スクールアイドルファンの間では『神』と呼ばれているグループなのだ。

 

 「マ、マネージャーさん!?貴方、A-RISEとどういう関係なんですか!?」

 

 「んー・・・犬猿の仲ですかね」

 

 「ちょっと!?」

 

 ツバサちゃんのツッコミ。

 

 「この場面で冗談言ったって通じないでしょ!?」

 

 「いやほら、出会った頃は仲良くなかったじゃん」

 

 「それは天が私達を敵視してたからでしょ!?」

 

 「うん、マジで気に食わなかった。特にツバサちゃん」

 

 「うわぁ・・・ハッキリ言われると凹むわぁ・・・」

 

 落ち込むツバサちゃん。

 

 言われてみると、今のSaint Snowは当時のA-RISEに似てるかもしれない。

 

 「安心しなよ、今は大好きだから」

 

 「えっ、ホント!?」

 

 「あんじゅちゃんのことが」

 

 「や~ん♡嬉しいわ♡」

 

 「うわああああん!?」

 

 「あぁっ!?ツバサがガチ泣きしてる!?」

 

 まるでコントのようなやり取りを繰り広げる俺達。すると・・・

 

 「ちょっとアンタ達!」

 

 聞き覚えのある声がする。声のした方を振り向くと・・・

 

 「勝手に行動してんじゃないわよ!どんだけ探したと思ってんの!?」

 

 「うぅ、天ぁ・・・天ぁ・・・」

 

 サングラスをかけた長い黒髪の女性と、その女性に手を引かれている海未ちゃんがいた。

 

 「あぁ、ごめんなさい。その代わり、ちゃんと天くんは発見しておいたわよ」

 

 「天あああああっ!」

 

 勢いよく抱きついてくる海未ちゃん。やれやれ・・・

 

 「よしよし、もう大丈夫だよ」

 

 「うぅ、怖かったですぅ・・・」

 

 「全く・・・相変わらずどっちが年上だか分かんないわね・・・」

 

 溜め息をつく女性。

 

 「まぁそれはさておき・・・久しぶりね、天」

 

 かけていたサングラスを外す女性。

 

 その顔を見た聖良さんが、またしても驚きの表情を浮かべた。

 

 「なっ・・・μ'sの・・・!?」

 

 「久しぶり、にこちゃん」

 

 目の前の女性・・・矢澤にこちゃんに挨拶する俺。

 

 まさかにこちゃんにまで会うことになるとは・・・

 

 「あれ?背縮んだ?」

 

 「縮むかっ!むしろ伸びたわっ!」

 

 「にこちゃん・・・そんな悲しい嘘は止めよう・・・?」

 

 「嘘じゃないわよ!?そんな憐れむような目で見ないでくれる!?」

 

 「大丈夫。小さくても需要はあるって」

 

 「それ身長の話よねぇ!?胸の話だったらしばくわよ!?」

 

 ツッコミを連発するにこちゃん。相変わらずイジりやすいなぁ・・・

 

 「っていうか、何でにこちゃんがここにいるの?」

 

 「ツバサ達と一緒に、今日のイベントを見に来たのよ」

 

 溜め息をつくにこちゃん。

 

 「昨日ことりと真姫から、『天に会った』っていう連絡が来てね。天がマネージャーを務めてるAqoursが、このイベントに出るっていうじゃない。どんなもんかと思って見に来たってわけ」

 

 「あぁ、だからあんじゅちゃんが知ってたのね」

 

 納得する俺。

 

 にこちゃんは大学を卒業後、A-RISEの所属事務所で働いている。その為かA-RISEの三人と仲良くなっており、プライベートでも遊びに行ったりする仲なんだとか。

 

 五年前まで、A-RISEの追っかけしてたっていうのに・・・

 

 「それでイベントが終わってこの辺りをうろついてたら、偶然海未を発見してね。話を聞いたら、天とはぐれたっていうじゃない。この辺りにいることは電話で伝えたっていうから、ちょっと周りを探してみようってことになったんだけど・・・」

 

 ツバサちゃん達を睨むにこちゃん。

 

 「コイツらが好き勝手に動くもんだから、いつの間にかはぐれちゃって・・・どうしようかと思ったわよ」

 

 「アハハ、ゴメンゴメン」

 

 苦笑しながら謝るツバサちゃん。

 

 なるほど、そういうことだったのね・・・

 

 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?」

 

 黙っていられなくなったのか、話に割り込んでくる理亞さん。

 

 「アンタ、A-RISEとどういう関係なわけ!?しかもμ'sの矢澤にこまで!」

 

 「μ'sのメンバーなら、ここにもう一人いるわよ」

 

 「ちょ、にこ!?」

 

 海未ちゃんの伊達メガネとマスクを外すにこちゃん。

 

 「そ、園田海未・・・!?」

 

 海未ちゃんの顔を見た理亞さんが固まる。

 

 聖良さんにいたっては、完全に絶句してしまっていた。

 

 「じゃあアンタ、園田海未の弟だったの!?」

 

 「あー・・・すいません。海未ちゃんが姉っていうのは嘘なんですよ」

 

 苦笑する俺。と、ここでにこちゃんが口を挟む。

 

 「この子の名前は絢瀬天・・・μ'sの絢瀬絵里の弟よ」

 

 「ハァッ!?」

 

 「ちょっとにこちゃん、勝手に人の素性をバラさないでよ」

 

 「今さらでしょ。私達やA-RISEとの関わりがバレてるんだから」

 

 「そうだけどさぁ・・・」

 

 今のカミングアウトで、鹿角姉妹は完全にフリーズしてしまっていた。

 

 まぁA-RISEやμ'sのメンバーが登場した挙句、絵里姉のことまで知ってしまったらこうなるか・・・

 

 「えーっと・・・まぁそんなわけです。姉がμ'sのメンバーなので、μ'sの皆とは関わりがありまして。ツバサちゃん達ともその流れで知り合ったんですよ」

 

 「あら、それだけじゃないわ」

 

 ニヤリと笑うツバサちゃん。

 

 「何と言っても天は、あのμ'sの・・・」

 

 「えいっ」

 

 「むぐっ!?」

 

 海未ちゃんが持っていたコーラのペットボトルを開け、ツバサちゃんの口に突っ込んだ。

 

 そのまま傾け、ツバサちゃんの口の中へとコーラを流し込む。

 

 「むぐぅっ!?」

 

 「すみませんね。今の何でもないんで忘れて下さい」

 

 「むぐぐぐぅっ!?」

 

 「あぁっ!?ツバサちゃんがコーラで死にかけてる!?」

 

 「勘弁してやってくれ天!このバカには後でちゃんと言い聞かせておくから!」

 

 あんじゅちゃんと英玲奈ちゃんが必死に止めてくるので、仕方なく止めてあげた。

 

 コーラから解放され、咳き込むツバサちゃん。

 

 「ゲホッ、ゲホッ・・・ちょっと天!?容赦なさすぎよ!?」

 

 「ああん・・・?」

 

 「すいませんでした!」

 

 俺の絶対零度の視線に、即座に土下座を敢行するツバサちゃん。

 

 鹿角姉妹が完全に引いているが、そんなことはどうでもいい。

 

 「まぁそれはさておき・・・先ほどのAqoursに対する侮辱、俺は絶対に忘れませんので。人を見下している暇があるのなら、自分自身を磨くことをオススメします。貴女方も入賞できていないという事実を、どうかお忘れなく」

 

 「っ・・・申し訳ありませんでした・・・」

 

 頭を下げる聖良さん。

 

 「理亞、行きましょう・・・」

 

 「う、うん・・・」

 

 その場を去っていく二人。やれやれ・・・

 

 「・・・ありがとね、あんじゅちゃん。危うく言い過ぎるところだったよ」

 

 「フフッ、どういたしまして」

 

 微笑むあんじゅちゃん。

 

 「まぁ、天くんが怒る気持ちは分かるけどね。頑張っている人に対して、あのセリフは酷いと思うわ」

 

 「天、何かあったのですか・・・?」

 

 「うん、まぁ色々とね」

 

 海未ちゃんの問いに、苦笑しながら答える俺。

 

 と、にこちゃんが溜め息をつく。

 

 「大方、あの二人がAqoursに対して何か言ったんでしょう?何を言ったのかは知らないけど・・・Aqoursのパフォーマンスが、他のグループより劣っていたのは事実よ」

 

 「ちょっとにこ、そんな言い方・・・!」

 

 「海未だって本当は気付いてるでしょ?フォローするだけが優しさじゃないのよ?」

 

 「それは・・・」

 

 「それに・・・天は分かってたんじゃないの?このイベントにAqoursが参加すれば、こういう結果になるだろうって」

 

 「・・・まぁね」

 

 にこちゃんの問いに、溜め息をつきながら頷く俺。

 

 「このイベントで、周りのレベルの高さを実感することになるだろうとは思ってたよ。今のAqoursのレベルじゃ、優勝どころか入賞さえ出来ないことも分かってた」

 

 「そんな・・・だったらどうして・・・!」

 

 「ラブライブを目指す以上、そこは絶対に理解してないといけないところだからね。スクールアイドルを続けていく上で、避けては通れない道なんだよ」

 

 「同感だな」

 

 頷く英玲奈ちゃん。

 

 「他のスクールアイドル達の実力と、それに対しての自分達の実力・・・それを把握出来ていないようでは、話にならないからな」

 

 「そうね。あと大事なのは、強い意思があるかどうかってところかしら」

 

 ツバサちゃんも口を挟んでくる。

 

 「今回Aqoursは、周りとの実力差を痛感したはずよ。もしこれで心が折れてしまったら・・・キツい言い方になってしまうけど、その程度の覚悟しかなかったってことよね」

 

 「そういうことになるね」

 

 苦笑する俺。でも・・・

 

 「もしAqoursの皆が、それでもスクールアイドルを続けるというのであれば・・・今より絶対に伸びる」

 

 「・・・信じてるのね。あの子達のこと」

 

 「勿論」

 

 にこちゃんの問いに、笑みを浮かべる俺。

 

 「こんなところで終わる人達じゃないよ。絶対に這い上がってくるから」

 

 「・・・変わらないわね。そういうところ」

 

 呆れたように、でもどこか嬉しそうに笑うにこちゃんなのだった。




どうも〜、ムッティです。

いやぁ・・・凄かったですね、台風。

皆さんは大丈夫でしたか?

よりによって月曜日に、通勤・通学の時間帯に多大なる影響を与えてましたもんね・・・

電車の運休や遅延で、駅は人で溢れかえってるし・・・

ようやく電車に乗れたと思ったら、ぎゅうぎゅう詰めで圧死しそうになるし・・・

どこへ行っても人、人、人ですよ。

本当に大変な目に遭いました(>_<)

やはり自然には勝てませんね・・・

さてさて・・・今回はツバサちゃんと英玲奈ちゃん、そしてにこちゃんも登場しました!

にこちゃんは芸能関係(裏方)の仕事とかやってそう・・・という勝手なイメージで、にこちゃんの職業を決めてしまいました(笑)

でもその方面に詳しい分、絶対有能なスタッフだと思うんですよね。

ゆくゆくはマネージャーとかやってそう。

さて、今回のイベントでスクールアイドルのレベルの高さを知ったAqours・・・

果たしてどうなるのか・・・

次回もお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

簡単には受け止められないこともある。

ことりちゃん、誕生日おめでとう!

1日遅れてゴメンね・・・


 「さて、そろそろ行くわよ」

 

 「えぇ・・・せっかく天くんと会えたのにぃ・・・」

 

 「文句言わない。これから仕事でしょうが」

 

 不満そうに俺に抱きつくあんじゅちゃんに、溜め息をつくにこちゃん。

 

 どうやらA-RISEはこれから仕事があるらしく、長居は出来ないとのことだった。

 

 芸能人も大変だなぁ・・・

 

 「こっちはマネージャーさんから、時間通りに連れてくるよう厳しく言われてるんだから。これで遅刻なんてしたら、怒られるのは私なのよ」

 

 「じゃあ遅刻しても大丈夫ね。怒られるのはにこなんだから」

 

 「しばくわよハゲ」

 

 「だからハゲじゃないわよ!?」

 

 ツバサちゃんのツッコミ。

 

 A-RISEの熱烈なファンだったにこちゃんが、こんなセリフを吐く日が来るとは・・・

 

 「ほらあんじゅ、気持ちは分かるが仕事に行くぞ」

 

 「うぅ・・・分かったわよぉ・・・」

 

 英玲奈ちゃんに宥められ、渋々従うあんじゅちゃん。

 

 「じゃあ天くん、またね・・・んっ」

 

 「っ!?」

 

 急に頬にキスされ、流石に俺もビックリしてしまう。

 

 「ちょ、あんじゅちゃん!?」

 

 「フフッ♡」

 

 俺から離れたあんじゅちゃんが、悪戯っぽく笑う。

 

 「頬じゃなくて、唇の方が良かったかしら?」

 

 「あんじゅさん!?何してるんですか!?」

 

 慌てて俺を後ろから抱き寄せ、あんじゅちゃんを睨みつける海未ちゃん。

 

 「天は渡しませんからね!?」

 

 「あら、嫉妬?海未ちゃんも可愛いわね」

 

 「あんじゅ、からかうのは止めなさい」

 

 やれやれ、と言いたげなツバサちゃん。

 

 「じゃあ天、また会いましょう」

 

 「今度はゆっくり話そう。お互い積もる話もあるだろうしな」

 

 「寂しくなったら、いつでも連絡ちょうだいね♪」

 

 「ありがとう。仕事頑張ってね」

 

 三人に手を振る俺。

 

 にこちゃんも三人の後に続こうとしたが、ふと足を止めた。

 

 「・・・Aqoursのこと、ちゃんと支えてあげなさいよ。今それが出来るのは、マネージャーである天しかいないんだから」

 

 「分かってる。ほったらかしにしておくつもりは無いよ」

 

 俺の言葉に、にこちゃんが小さく笑みを浮かべた。

 

 「私が認めた男が、『こんなところで終わる人達じゃない』って断言したんだもの。あの子達の成長を楽しみにしてるわ」

 

 それだけ言い残すと、手をひらひらと振って去っていくにこちゃん。

 

 かつてのツインテールではなく、長い黒髪をなびかせながら歩くその背中は・・・とても大きく見えた。

 

 「・・・大人だなぁ」

 

 「ですね」

 

 頷く海未ちゃん。

 

 「絵里や希とは、また違った感じの大人っぽさですよね」

 

 「うん、何と言うか・・・人生の先輩っていう感じがする」

 

 時には優しく、時には厳しく・・・

 

 にこちゃんには昔から、何かと目をかけてもらってたっけなぁ・・・

 

 「全く・・・普段はイジられキャラのくせに、何でこういう時だけ・・・」

 

 「フフッ・・・でも、そこがにこらしいですよね」

 

 二人でそんなことを言いながら苦笑していると・・・

 

 「ねぇ、あの人ってμ'sの・・・」

 

 「嘘!?園田海未!?」

 

 「えっ、じゃあ横にいる男の子って・・・」

 

 「まさか彼氏!?」

 

 周りがメッチャざわついていた。えっ・・・

 

 「・・・そういえば、にこに伊達メガネとマスクを取られたんでした」

 

 冷や汗をダラダラ流しながら呟く海未ちゃん。

 

 よし、にこちゃんはいつか絶対に泣かすとして・・・

 

 「とりあえず退散っ!」

 

 「ラジャーッ!」

 

 全力でその場から走り去る俺と海未ちゃんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ふぅ・・・」

 

 「危なかったですね・・・」

 

 ホッと一息つく俺達。

 

 全力ダッシュで逃走した俺達は、何とか最初にいた場所まで戻って来ることが出来たのだった。

 

 「そろそろ千歌さん達も戻って来ると思うんだけど・・・あっ」

 

 そんな話をしていると、千歌さん達がこちらへ向かってくるのが見えた。どうやら、ちょうど良いタイミングだったらしい。

 

 ただ・・・

 

 「・・・何か、元気無くない?」

 

 「ですね・・・さっきより暗いといいますか・・・」

 

 明らかに落ち込んだ表情の皆。どうしたんだろう?

 

 「お帰りなさい」

 

 「っ・・・」

 

 俺がそう声をかけた瞬間・・・ルビィが勢いよく俺に抱きついてきた。

 

 「おっと・・・ルビィ?」

 

 「・・・ひっぐ・・・うぅっ・・・」

 

 俺の胸に顔を埋めながら、泣きじゃくるルビィ。

 

 俺は戸惑いながらも、ルビィの頭を優しく撫でた。

 

 「何かあったんですか・・・?」

 

 「・・・これです」

 

 問いかける海未ちゃんに、千歌さんが一枚の紙を渡す。

 

 そこには、今回のイベントに参加したグループの名前が順位で並べて書いてあった。右側には得票数も書いてある。

 

 「Saint Snowは9位・・・入賞までもう少しだったのか・・・」

 

 手の届く位置にあったのに、掴むことが出来なかったわけか・・・気の強そうな理亞さんが泣いていたのも納得できる。

 

 それより問題なのは・・・

 

 「Aqoursは・・・最下位。得票数・・・0」

 

 「そんな・・・」

 

 絶句する海未ちゃん。つまりあの会場にいた観客の中で、Aqoursに投票した人はいなかったということか・・・

 

 俺と海未ちゃんはAqoursの身内になるから、あえて誰にも投票しなかったもんな・・・

 

 「0・・・だったの・・・」

 

 泣きながら言うルビィ。

 

 「ルビィ達に・・・ひっぐ・・・投票してくれた人は・・・えぐっ・・・誰もいなかったの・・・うぅっ・・・」

 

 「・・・そっか」

 

 そっとルビィを抱き締める。

 

 「我慢しなくて良いよ・・・気が済むまで泣いて良いから」

 

 「っ・・・うわあああああんっ!」

 

 大声で泣くルビィ。

 

 そんなルビィの様子を、他の皆も沈痛な面持ちで見つめていた。

 

 「・・・Saint Snowさんからも、言われちゃったの。『μ'sのようにラブライブを目指しているのなら、諦めた方が良いかもしれない』って」

 

 「『馬鹿にしないで。ラブライブは遊びじゃない』とも言われちゃったよね・・・」

 

 「っ・・・!」

 

 梨子さんと曜さんの言葉を聞いた海未ちゃんが、唇をぐっと噛む。

 

 「あの二人・・・そんなことを言ったのですか・・・!」

 

 怒りの表情を浮かべる海未ちゃん。

 

 「まだ遠くへは行ってないはず・・・!」

 

 「止めときな」

 

 海未ちゃんがあの二人を追いかける前に、釘を刺しておく。

 

 「天!?何故止めるのですか!?」

 

 「あの二人に対して怒った俺が、こんなことを言える立場じゃ無いのは分かってるけど・・・今はあの二人のことなんてどうでもいいよ」

 

 淡々と答える俺。

 

 「人を傷つける言葉を平気で言えるようなヤツらに、これ以上構っていたくないから。そんなヤツらに怒りをぶつけてる暇があるなら・・・俺は皆の側にいたい」

 

 「っ・・・天・・・」

 

 「・・・とりあえず、海未ちゃんの家に戻ろっか。荷物をまとめて内浦に帰ろう。早くしないと、帰るのが遅くなっちゃうから」

 

 「・・・分かりました」

 

 力なく頷く海未ちゃんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 「ようやく落ち着いたか・・・」

 

 俺の肩に寄りかかって眠るルビィを見て、ホッと一息つく俺。

 

 園田家を出た俺達は、電車に乗って内浦へと向かっていた。

 

 「ルビィちゃん、安心したような顔で眠ってるわね」

 

 通路を挟んで俺の隣に座っている梨子さんが、笑みを浮かべながら言う。

 

 「きっと天くんが側にいるからね」

 

 「そうですかね?」

 

 「そうよ。花丸ちゃんと善子ちゃんだって、さっきまで落ち込んでたのに今は穏やかな顔で眠ってるじゃない。天くんと一緒だから安心してるのよ」

 

 俺の向かいの席で身を寄せ合って眠る花丸と善子を見て、微笑む梨子さん。

 

 安心してる、か・・・

 

 「・・・それなら嬉しいですね」

 

 ルビィによって握られている手を、そっと握り返す。

 

 「一緒にいるだけで、人を安心させることが出来る・・・そんな存在になりたいって、ずっと思ってましたから」

 

 「え・・・?」

 

 「・・・フフッ」

 

 首を傾げる梨子さんに対し、俺の言葉を聞いていた海未ちゃんが小さく笑った。

 

 「それはひょっとして、希の影響ですか?」

 

 「・・・まぁね」

 

 照れ臭くなり、海未ちゃんから視線を外す俺。

 

 「天は希に懐いてましたもんね。ことり以上に」

 

 「み、南さん以上・・・?」

 

 「ちょっと曜さん、何でそんなにげんなりしてるんですか?」

 

 「いや、あの甘々な感じを見せつけられてるからさぁ・・・あれ以上ってことは、胸焼けどころじゃ済まないなぁと思って・・・」

 

 「大丈夫ですよ、曜」

 

 胸を押さえる曜さんに、海未ちゃんが苦笑しながら言う。

 

 「あそこまでの甘々空間になることはありませんから。安心して下さい」

 

 「でも、天くんが南さん以上に懐いてるんですよね?」

 

 「そうですが、天と希はああいう感じではないんですよ。会えば分かります」

 

 「は、はぁ・・・」

 

 よく分かっていない様子の曜さん。

 

 全く、海未ちゃんときたら・・・

 

 「東條希さんか・・・会ってみたいわね、千歌ちゃん」

 

 「・・・・・」

 

 「千歌ちゃん?」

 

 「・・・えっ?」

 

 梨子さんに話を振られたことに気付かない千歌さん。ようやく気付いたようで、バツの悪そうな顔をする。

 

 「ゴメン、聞いてなかった・・・」

 

 「千歌ちゃん・・・」

 

 心配そうな表情の梨子さん。

 

 「やっぱり千歌ちゃん、イベントの結果を気にして・・・」

 

 「ち、違うって!そんなんじゃないから!」

 

 慌てて笑みを浮かべ、取り繕おうとする千歌さん。

 

 と、ここで曜さんが真剣な表情で千歌さんに尋ねた。

 

 「じゃあ千歌ちゃんは・・・悔しくないの?」

 

 「「「っ・・・!」」」

 

 息を呑む俺・梨子さん・海未ちゃん。その質問は・・・

 

 「そ、そりゃあちょっとはね・・・でも、皆であそこに立てたんだもん!私は満足だよ!」

 

 無理矢理作ったような笑顔を見せる千歌さん。ホント、この人は・・・

 

 「千歌ちゃん・・・スクールアイドル、やめる?」

 

 「っ・・・」

 

 続けられた曜さんの問いに、答えられなくなってしまった千歌さん。

 

 いつもなら、勢いよく『やめない!』と答えているところだが・・・

 

 「・・・そこまでにしましょう、曜さん。これ以上はダメです」

 

 「・・・ゴメン」

 

 素直に引き下がる曜さん。

 

 重苦しい雰囲気に包まれ、電車に揺られる俺達なのだった。




どうも〜、ムッティです。

昨日9月12日は、ことりちゃんの誕生日でしたね!

改めておめでとう!

誕生日記念とかで、一話のみの特別編とか書いてみるのも面白そうですよね。

まぁそういうのを書くのは、もう少し話が進んでからになると思いますが・・・

鞠莉ちゃんとか未だに和解してませんし、まだ登場してないμ'sのメンバーもいますし・・・

とりあえず、早く三年生編に入りたいところです(>_<)

引き続きマイペースに投稿していきますので、これからもよろしくお願い致します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

思うところは人それぞれである。

アニメ『ポケットモンスター サン&ムーン』で、遂にサトシがポケモンリーグ優勝を果たしたらしい。

おめでたいことだけど、何でXYの時に優勝してくれなかったんだ・・・

あの時の作画が一番綺麗だったし、決勝戦のフルバトルはマジで激アツだったのに・・・

あと、セレナちゃんカムバック(´・ω・`)


 「何かこの海を見ると、『戻ってきた』って感じがするよ」

 

 「フフッ、すっかり内浦の人になってますね」

 

 海沿いを散歩している俺と海未ちゃん。

 

 無事に沼津駅に到着した俺達は、駅まで迎えに来てくれた志満さんと美渡さんの車でそれぞれの家へと帰った。

 

 帰宅後に何となく風に当たりたくなった俺が散歩に行こうとしたところ、海未ちゃんも行きたいと言うので一緒に外に出てきたのだった。

 

 「久しぶりの東京はどうでしたか?」

 

 「久しぶりって言っても、引っ越してまだ三ヶ月程度だけど・・・少し懐かしく感じたかな。『あぁ、こんなところだったな・・・』って感じちゃったよ」

 

 それだけ内浦の景色に慣れてしまったということだろう。

 

 そう考えると俺にとって、三ヶ月という期間は案外長かったのかもしれないな・・・

 

 「・・・私としては、それは少し寂しいですね」

 

 そっと俺との距離を詰め、手を握ってくる海未ちゃん。

 

 「確かに内浦は良い所ですが・・・」

 

 「分かってるよ」

 

 海未ちゃんの手を優しく握り返す。

 

 「俺にとって、東京が大切な場所なのは今も変わらないから。海未ちゃんや皆との思い出がたくさんあるし・・・姉さん達と一緒に暮らしてきた場所だからね」

 

 「天・・・」

 

 「次に東京に行く時は、今回は会えなかったμ'sのメンバーにも会いたいな。亜里姉とも会いたいし・・・可能であれば、絵里姉とも」

 

 「・・・会えますよ、きっと」

 

 微笑む海未ちゃん。

 

 「今度は連絡してあげて下さい。皆喜んで天に会いに来ますから」

 

 「・・・うん。そうするよ」

 

 ことりちゃんにも同じ事を言われたもんな・・・

 

 今度穂乃果ちゃん達に連絡してみよう。

 

 「それより、千歌達は大丈夫でしょうか・・・帰り際も意気消沈していましたが・・・」

 

 「・・・大丈夫、とは言えないかな」

 

 とはいえ、今はどんなに励ましても意味が無いと思う。まだ自分達の中で現実を受け止めきれていない以上、他の人の言葉に耳を傾けることなど出来ないだろう。

 

 まずは一晩、自分達の中で今回の結果とじっくり向き合ってもらおう。話はそれからだ。

 

 「明日、これからのことについて皆と話してみるよ。とりあえず今日は、考える時間をあげた方が良いと思う」

 

 「そうでしょうか・・・」

 

 心配そうな表情の海未ちゃん。恐らく、先ほどの千歌さんの様子が頭をよぎっているんだろう。

 

 曜さんは千歌さんの反骨心を煽る為に、よく『じゃあやめる?』というセリフを口にする。そうすると負けず嫌いな千歌さんは、『やめない!』と宣言してより一層やる気を出すのだ。

 

 ところが今回、曜さんに『やめる?』と聞かれた千歌さんは何も答えなかった。つまり今、千歌さんの心は折れそうになっているということだ。

 

 海未ちゃんとしては、そこが心配なところなんだと思う。

 

 「このまま『やめる』と言い出したら・・・」

 

 「その時はツバサちゃんも言ってたけど、『その程度の覚悟だった』ってことだよ」

 

 肩をすくめる俺。

 

 「でも・・・折れないよ。あの人は」

 

 「・・・そうですね。私も信じます」

 

 そんな会話をしていた時だった。

 

 「私は諦めないッ!」

 

 誰かの叫ぶ声が聞こえた。この声って・・・

 

 「必ず取り戻すのッ!あの時をッ!」

 

 小原理事長が涙を流しながら叫んでいるのが見えた。隣にはダイヤさんが立っている。

 

 そして・・・果南さんが二人に背を向けて、その場を立ち去るところだった。

 

 「・・・あんまり見ちゃいけない場面に遭遇しちゃったね」

 

 「・・・そのようですね」

 

 二人揃って溜め息をつく。こっちはこっちで大変そうだなぁ・・・

 

 「どうします?見なかったことにしますか?」

 

 「・・・海未ちゃんも人が悪いよね」

 

 恨みのこもった眼差しを向ける俺。

 

 「俺がそういうこと出来ない性格だって、分かってて聞くんだもん」

 

 「・・・今回に関しては、本当に見なかったことにしてほしいと思ってますよ」

 

 苦い表情の海未ちゃん。

 

 「天がどう思っているのかは分かりませんが・・・私は小原理事長を許していませんので。後の二人には申し訳ないですが、彼女をフォローする気が一切起きません」

 

 「海未ちゃんもなかなか言うようになったねぇ・・・」

 

 苦笑する俺。

 

 「悪いけど、俺は果南さんの後を追いかけるよ。海未ちゃんは・・・どうする?」

 

 「・・・人が悪いのは天も一緒じゃないですか」

 

 呆れている海未ちゃん。

 

 「天にそんな聞かれ方をして、『では先に帰ります』なんて言えるわけないでしょう。人の性格を分かってて聞くのは止めて下さい」

 

 「海未ちゃん、俺のこと好きだもんね」

 

 「大好きですけど。それが何か?」

 

 「恥ずかしがったりしないのね・・・」

 

 今度は俺が呆れる番だった。逆にこっちが恥ずかしくなるんだけど・・・

 

 「では私は、ダイヤと小原理事長のところへ行ってきます。先ほども言いましたが、フォローするつもりは一切ありませんからね」

 

 「何を言うかは任せるよ。海未ちゃんなら大丈夫だろうし」

 

 「ずいぶん信じてくれるじゃないですか」

 

 「いつだって信じてるよ。海未ちゃんのこと大好きだもん」

 

 「っ・・・ホントに人が悪いですね・・・」

 

 そう言いながらも、頬を赤く染める海未ちゃん。

 

 俺は小さく笑うと、果南さんの後を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《果南視点》

 

 「・・・ハァ」

 

 歩きながら溜め息をつく私。

 

 「諦めない、か・・・」

 

 キッカケはダイヤからの電話だった。妹のルビィちゃんが東京から帰ってきたらしいのだが、家に着いてダイヤの顔を見た瞬間に泣き出してしまったのだという。

 

 どうやらAqoursは、イベントで思うような結果を残すことが出来なかったらしい。だから私はダイヤと・・・鞠莉を呼び出した。

 

 鞠莉は浦の星の統廃合を阻止する為に、Aqoursを利用しようとしている。それを止めさせないと、千歌達が傷つくことになると思ったから。

 

 だけど・・・

 

 「・・・それだけじゃ、ないんだよね」

 

 鞠莉がAqoursを応援する理由・・・それは・・・

 

 「こんばんはのハグっ!」

 

 「うわっ!?」

 

 誰かがいきなり背後から抱きついてくる。この声は・・・

 

 「そ、天っ!?」

 

 「こんばんは。果南さん」

 

 笑みを浮かべている天。ど、どうしてここに・・・?

 

 「海未ちゃんと散歩してたら、果南さん達のシリアスな場面に遭遇したので追いかけてきたってところです」

 

 「心の声を読んで答えるの止めてくれない?」

 

 「果南さんは海未ちゃんと一緒で、すぐ顔に出るから分かりやすいんですよ」

 

 笑っている天。本当にこの子は・・・

 

 「・・・それで?私を慰めに来てくれたってわけ?」

 

 「甘えんなハグ魔」

 

 「まさかのトドメを刺しに来たの!?」

 

 「冗談ですよ」

 

 天は苦笑すると私から離れ、申し訳なさそうな表情になる。

 

 「・・・俺が果南さんのところに来たのは、謝罪する為です」

 

 「謝罪・・・?」

 

 「えぇ。東京のイベントでのことは、既に聞いてるんでしょう?だからダイヤさんや小原理事長と、今後のAqoursについての話をしてたんじゃないですか?」

 

 「・・・鋭いね」

 

 ダイヤも言っていたが、こういうことに関しての天の察しの良さは尋常じゃない。まるで全てを見透かされているようだ。

 

 「果南さん、言ってましたよね。千歌さん達には笑顔で帰ってきてほしいって。でも俺は、それを叶えることが出来ませんでした」

 

 悲しそうに笑う天。

 

 「いえ、それ以前に・・・イベントで結果が残せないことは、初めから分かっていました。今のAqoursには、それだけの実力がないということも・・・にも関わらず、俺はそれを果南さんには伝えなかった・・・何も言い訳出来ません」

 

 「天・・・」

 

 「結果としてAqoursはショックを受け、笑顔で内浦に帰ってくることは出来ませんでした。そしてそれが原因で、果南さんは小原理事長と喧嘩になってしまった・・・全て俺の責任です」

 

 天はそう言うと、私に向かって深々と頭を下げた。

 

 「すみませんでした」

 

 「・・・止めてよ」

 

 首を横に振る私。

 

 「鞠莉との喧嘩は私達の問題なんだから。天のせいじゃないよ。それに・・・私だって分かってたよ。千歌達が結果を残せないだろうってことは」

 

 これでも二年前、イベントに参加して周りのレベルの高さを実感した身だ。ライブやPVはチェックしていたけど・・・千歌達の今のレベルは、二年前の私達と大して変わらないと思う。

 

 それを分かっていながら、私は天に身勝手なお願いをしたのだ。

 

 「私達は歌えなかったけど・・・千歌達はちゃんとパフォーマンス出来たんでしょ?それはきっと、天が側にいてくれたからだと思う。それだけで十分役目を果たしてくれたんだから、天は謝る必要なんかないんだよ」

 

 あのお願いをした時、天は最初頷いてくれなかった。それはきっと、東京に行きたくないからだろうと思っていたけど・・・それだけじゃなかったんだと思う。

 

 千歌達が結果を残せないことが分かってたからこそ、簡単に頷くことが出来なかったんだろう。

 

 「・・・私の方こそゴメン。嫌な思いさせちゃったね」

 

 天に頭を上げさせ、正面から抱き締める。

 

 「千歌達を支えてくれてありがとう。それだけで十分だよ」

 

 「果南さん・・・」

 

 私に身を委ねてくれる天。

 

 さっきまで心の中がグチャグチャだったのに、天とこうして触れ合っていると心が落ち着いてくる。

 

 「ねぇ、天・・・千歌達は大丈夫かな・・・?」

 

 「・・・心配ですか?」

 

 「そりゃあね・・・心配にもなるよ」

 

 鞠莉が利用しようとしているのは気に食わないし、これ以上傷ついてほしくないとも思うけど・・・

 

 やっぱり千歌達には、スクールアイドルを続けてほしい。歌って踊るあの子達は、本当に楽しそうで・・・キラキラしてるから。

 

 「もし今回のことで、スクールアイドルをやめることになったら・・・」

 

 「ストップ」

 

 「っ・・・」

 

 私の唇に、天の人差し指が触れた。

 

 「そういうネガティブな発言は、果南さんらしくないですよ。果南さんの長所はポジティブなところでしょうに・・・あっ、おっぱいが大きいところもですね」

 

 「ちょ、だからそれセクハラ発言だってば!?」

 

 「否定しないところを見ると、自分でも大きいって思ってるんですね」

 

 「いや、まぁ少しは・・・って何を言わせるの!?」

 

 うぅ、天ってばエッチなんだから・・・

 

 天はひとしきり笑うと、優しく微笑んだ。

 

 「・・・千歌さんと曜さんのことは、幼馴染の果南さんがよく分かってるでしょう?梨子さんも善子も、花丸もルビィも・・・そんなに柔な人達じゃないですよ。少しは信じてあげて下さい」

 

 「・・・そうだよね」

 

 心配するあまり、あの子達を信じてあげられてなかった・・・それじゃダメだよね・・・

 

 「もう遅いですから、家まで送りますよ。行きましょう?」

 

 「・・・うん。ありがと」

 

 差し出された天の手を握る。触れた手の温もりに、少し胸が高鳴る私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《ダイヤ視点》

 

 「果南・・・」

 

 涙を流しながら、果南さんの去っていった方を見つめる鞠莉さん。私はそんな鞠莉さんに、何も言葉をかけられずにいました。

 

 鞠莉さんは浦の星の統廃合を阻止する為、Aqoursを利用しようとしています。ですが、それだけではありませんでした。

 

 鞠莉さんの真の目的は・・・

 

 「ダイヤや松浦さんと、もう一度スクールアイドルをやること・・・」

 

 「「っ!?」」

 

 驚く私達。海未先生が、冷たい表情で立っていました。

 

 「それが貴女の目的なのでしょう?小原理事長」

 

 「ど、どうしてそれを・・・」

 

 「貴女方が二年前にスクールアイドルをやっていたことは、赤城先生から聞いていました。何らかの理由で解散し、直後に貴女が留学したことも知っています。その事実を聞いた時、ピンときましたよ」

 

 冷たい眼差しを向ける海未先生。

 

 「何故留学から戻ってきたのか、何故スクールアイドル部を応援するのか・・・何故天を脅して、マネージャーをやらせているのか」

 

 「っ・・・」

 

 凛とした佇まいから放たれる威圧感に、私は言葉を発することが出来ませんでした。鞠莉さんも固まってしまっています。

 

 「二年前の解散は、貴女にとっては不本意なものだったのでしょう?受け入れざるをえなかったものの、貴女は納得などしていなかった。そして二年後・・・浦の星の統廃合の話が進んだことを知った貴女は、浦の星に戻ることを決めた」

 

 淡々と語る海未先生。

 

 「まずは浦の星の統廃合を阻止すべく、音ノ木坂の南理事長に相談した。その際に共学化のテスト生として天を推薦され、天を利用することに決めた。恐らく最初は、自分達のマネージャーをやらせるつもりだったのでしょう?」

 

 「っ・・・」

 

 何も言うことが出来ない鞠莉さん。

 

 どうやら海未先生の仰っていることは、概ね間違いなさそうですわね・・・

 

 「ですが、貴女も分かっていたはずです。またスクールアイドルをやろうと言ったところで、ダイヤや松浦さんが簡単には頷かないだろうということを。そんな時、スクールアイドル部を立ち上げようとしている後輩がいることを知った貴女は方針を変えた。三人で再び始めるのではなく、後輩が作るであろうグループに便乗してしまおうと」

 

 冷ややかな目で鞠莉さんを見る海未先生。

 

 「先にグループを作ってもらえれば、理事長として力を貸すことが可能になります。浦の星の統廃合を阻止する為に利用することも出来ますし、ダイヤと松浦さんを説得する時間だって稼ぐことが出来る・・・だから貴女は、千歌達のマネージャーをやるように天を脅したのでしょう?」

 

 「・・・鋭いわね」

 

 「少し考えれば、誰にでも分かることです」

 

 溜め息をつく海未先生。

 

 「私が気付いているのですから、当然天だって分かっています。それなのにあの子は、ダイヤや松浦さんと距離を縮めようとする貴女の背中を押すようなことまでして・・・お人好しにも程があります」

 

 そう語る海未先生は呆れた様子でしたが・・・その中にどこか、誇らしげな感じが混ざっているように思えました。

 

 「恐らく天は、貴女のことをそこまで恨んではいないでしょう。貴女から受けた仕打ちを許してはいないでしょうが、理由を察して理解はしているはずです。もっとも・・・私は未だに怒りが収まりませんけどね」

 

 鞠莉さんを鋭く睨みつける海未先生。

 

 「天を傷つけた貴女を、私は許すことが出来ません」

 

 「・・・本当に天を大切に想っているのね」

 

 「当然です」

 

 言い切る海未先生。

 

 海未先生は、どうしてそこまで天さんのことを・・・エリーチカの弟だから、という理由では説明がつきませんわね・・・

 

 「他のμ'sのメンバーも、私と同じことを言うでしょう。天の意向で、貴女のしでかしたことは他のμ'sのメンバーに伝えていませんが・・・もし事実を知れば、すぐにでも浦の星に乗り込んでくるでしょうね。私達にとって、貴女は決して許すことの出来ない存在なんですよ」

 

 「そんなこと分かってるわよッ!」

 

 耐え切れなくなったのか、鞠莉さんが叫びました。

 

 「μ'sのメンバーがどれほど天を大切に想っているかなんて、絵里を知ってる私が分からないはずないでしょ!?私がやってしまったことの重さもッ!どれほど天を傷つけてしまったのかもッ!十分すぎるほど感じてるわよッ!」

 

 その瞬間、乾いた音が鳴り響きました。海未先生が鞠莉さんの頬を引っ叩いたのです。

 

 「・・・ふざけないで下さい」

 

 海未先生の眼差しは・・・これ以上ないほど、冷たく鋭いものになっていました。

 

 嫌でも分かります。海未先生は今・・・ブチギレているということが。

 

 「μ'sのメンバーが、どれほど天を大切に想っているかが分かる?そんなはずないでしょう。天と十年近く会っていなかった貴女が、私達が共に過ごしてきた時間を知るはずがないのですから」

 

 鞠莉さんの胸倉を掴む海未先生。

 

 「やってしまったことの重さを感じている?だとしたら勘違いも甚だしいですね。貴女が想像してる以上に、天は傷ついていますよ」

 

 「う、海未先生っ!それ以上はダメですっ!」

 

 拳を握り締めた海未先生を見て、慌てて二人の間に入る私。

 

 海未先生は溜め息をつくと、鞠莉さんから手を離しました。

 

 「・・・ダイヤがいてくれて助かりました。危うく本気で殴るところでしたね」

 

 海未先生の言葉にゾッとする私。海未先生は再び鞠莉さんに視線を向けます。

 

 「貴女にとって、ダイヤや松浦さんと過ごす時間がどれほど大切だったのか・・・私は貴女ではないので分かりません。ですが・・・少しだけ理解は出来ていると思います。私にも思うところがありますので」

 

 海未先生はそう言うと、くるりと踵を返しました。

 

 「だからこそ忠告しておきますが・・・もう少し方法を考えなさい。貴女だって天のことを、大切に想っているのでしょう?その天を傷つけて、仮に大切な時間を取り戻すことが出来たとして・・・貴女は心の底から喜ぶことが出来るのですか?」

 

 「っ・・・」

 

 俯く鞠莉さん。目からは次々と涙が零れ落ちます。

 

 そんな鞠莉さんに背中を向けたまま、静かにその場を立ち去る海未先生なのでした。




どうも〜、ムッティです。

今回の話は、いつもより少し長めです。

ちょうど良い感じに区切れなかったぜ・・・

ちなみに次の話で、アニメ一期第八話の内容が終了します。

いよいよアニメ一期第九話、三年生編へと入っていくわけですね。

ダイヤさん、果南ちゃん、鞠莉ちゃんの運命やいかに・・・

そして天と鞠莉ちゃんは和解出来るのか・・・

絶賛執筆中ですので、お楽しみに(・∀・)ノ

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再スタートはいつだって切ることが出来る。

ヤバい。ポケモンがやりたくて仕方ない。

久々にXYとかORASとかSMとかやりたい。


 翌朝・・・

 

 「はっ・・・はっ・・・!」

 

 日課のランニングをしている俺。やっぱり内浦は走ってて気持ちが良いな・・・

 

 「・・・果南さん、大丈夫かな」

 

 ふとそんなことを呟く。

 

 昨夜家まで送り届けた時、Aqoursのことは『信じる』と言っていたが・・・小原理事長に関しては、やはりまだ複雑な思いを抱えているようだった。

 

 小原理事長といえば・・・

 

 「・・・あの人こそヤバそうだよなぁ」

 

 あの後家に帰ったら、海未ちゃんの機嫌が最悪だったのだ。何があったかは知らないが、恐らく小原理事長が海未ちゃんをブチギレさせる何かを言ってしまったんだろう。

 

 ムスッとした表情のまま抱きついてくる海未ちゃんをあやすのに、どれだけ苦労したことか・・・

 

 そして海未ちゃんがブチギレたのなら、小原理事長が何のダメージも無く済んでいるわけがない。精神的ダメージを負っているだろうし・・・海未ちゃんのことだから、思いっきり引っ叩いていることも考えられる。

 

 ブチギレた海未ちゃんの怖さを舐めてはいけない。

 

 「・・・ダイヤさんに、何があったのか聞いてみようかな」

 

 そんなことを考えながら、ふと海の方へ視線を向けると・・・

 

 「え・・・?」

 

 浜辺に千歌さんが立っていた。物憂げな表情で海を眺めている。

 

 スルーするのもアレなので、声をかけようとした瞬間・・・千歌さんが勢いよく海へと入っていった。

 

 「えぇっ!?」

 

 ビックリしてしまう俺。

 

 慌てて浜辺へと走るが、着いた時には千歌さんは完全に海に潜ってしまっていた。

 

 「っ・・・まさかあの人・・・!」

 

 嫌な予感がして、急いで俺も海に飛び込んだ瞬間・・・

 

 「ぷはぁっ!」

 

 千歌さんが海から出てくる。服はずぶ濡れ、腰から下は未だに海に浸かったままだ。

 

 「あー、気持ち良い!」

 

 「紛らわしいわっ!」

 

 「ごふっ!?」

 

 海水を手で掬い、千歌さんの顔面に叩きつける。マジで焦った・・・

 

 「げほっ・・・ごほっ・・・そ、天くん!?いきなり何するの!?」

 

 「カッとなってやりました。反省はしていません」

 

 「ふてぶてしいっ!?」

 

 ツッコミを入れつつ、手で海水を拭う千歌さん。

 

 「っていうか、何で天くんがここにいるの?」

 

 「ランニングしてたら、どっかのアホみかんが入水自殺を図ろうとしてたんで止めにきました」

 

 「コラッ!みかんをアホ呼ばわりしないのっ!」

 

 「そこにツッコミ入れます?俺がアホ呼ばわりしたのは千歌さんなんで大丈夫です」

 

 「そっかぁ、それなら大丈夫・・・じゃないよ!?何度も言うけど私先輩だよねぇ!?女の子だよねぇ!?」

 

 「当たり前じゃないですか。アホ過ぎて自分のことも分からなくなったんですか?」

 

 「辛辣過ぎィ!」

 

 千歌さんはツッコミを入れると、深く溜め息をついた。

 

 「そんなことするわけないじゃん。ちょっと海に潜りたくなっただけだよ」

 

 「服のまま潜るのは止めて下さい。もっと気をつけないと」

 

 「天くん・・・私のことを心配して・・・」

 

 「ただの水ならともかく海水なんですから、服がダメになっちゃうじゃないですか」

 

 「そっちの心配!?私のことは!?」

 

 「どうでもいいです」

 

 「酷い!?」

 

 ショックを受けている千歌さん。まぁ、冗談はさておき・・・

 

 「千歌さん、とりあえず隠した方が良いですよ」

 

 「え?何を?」

 

 「身体です。思いっきり透けてますけど」

 

 「透け・・・あぁっ!?」

 

 千歌さんは今、白いシャツを着ている。それが海水によって濡れ、肌にピッチリ張り付いた結果・・・下着がくっきりと浮き出てしまっていたのだ。

 

 しかも小柄な割りに大きい胸も、シャツが張り付いたことで強調されてしまっており・・・とてもエロい状態になっていた。

 

 慌てて両腕で隠す千歌さん。

 

 「ちょ、そういうことは早く言ってよ!?」

 

 「いや、あえて見せつけてるのかなって。痴女なのかなって」

 

 「誰が痴女!?私にそんな趣味はないから!」

 

 「派手なオレンジ色のブラを着けてるのに?」

 

 「色を言わないで!?それとオレンジ色じゃなくてみかん色だから!」

 

 「相変わらずそこにこだわりますね・・・」

 

 俺は呆れつつ、ランニングウェアの上着を脱いで千歌さんに着せた。

 

 「少し汗臭いかもですけど、我慢して下さいね」

 

 「あ、ありがと・・・でも、濡れちゃうよ?」

 

 「今さらでしょう。俺も海に浸かってますし」

 

 そう答えながらジッパーを上げる。これで良し・・・

 

 「それで?何で海に潜ったりしたんですか?」

 

 「いやぁ・・・何か見えないかなぁって」

 

 苦笑する千歌さん。

 

 「前に海の音を聴く為に、海に潜ったことがあったでしょ?だから今回も、何か見えないかなぁと思って」

 

 「・・・何か見えました?」

 

 「・・・何も見えなかった」

 

 千歌さんは首を横に振ると、広がっている曇天の空を見上げた。

 

 「でも・・・だからこそ、スクールアイドルを続けなきゃって思った。先にあるものが何なのか・・・このまま続けても0なのか、それとも1になるのか10になるのか・・・ここでやめたら、全部分からないままになっちゃうから」

 

 「千歌さん・・・」

 

 「だから私は、これからもスクールアイドルを続けるよ!」

 

 笑顔で宣言する千歌さん。

 

 「だってまだ0だもん。あれだけ皆で練習して、皆で歌も衣装もPVも作って。頑張って頑張って、皆に良い歌を聴いてほしいって・・・スクールアイドルとして輝きたいって・・・!」

 

 千歌さんの表情がどんどん歪んでいく。

 

 目には涙が浮かび、歯を食い縛り・・・ついには自らの拳で、自分の頭を叩き始めた。

 

 「なのに0だったんだよッ!?悔しいじゃんッ!周りのレベルが高いとかッ!そんなの関係ないんだよッ!」

 

 俯く千歌さん。涙がとめどなく流れている。

 

 「やっぱり私・・・悔しいんだよ・・・!」

 

 「・・・ホント、不器用な人ですね」

 

 千歌さんをそっと抱き締める。

 

 千歌さんが一番悔しがってることなんて、一目見てすぐに分かった。雰囲気を暗くしないよう無理に笑顔を作っていたことも、悔しさを押し殺して皆を励まそうとしていたことも。

 

 多分、その理由は・・・

 

 「『スクールアイドルをやろう』って皆を誘った自分が、悔しいからって皆の前で泣くわけにはいかない・・・そう思ったんですか?」

 

 「だって・・・だって・・・!」

 

 泣きじゃくる千歌さん。俺は千歌さんの頭を撫でた。

 

 「全く・・・美渡さんの言葉を借りるなら、本当にバカ千歌ですね」

 

 千歌さんを抱き締める腕に、ギュっと力を込める。

 

 「悔しかったら『悔しい』って言えば良いんです。泣きたかったら泣けば良いんです。仲間の前で強がってどうするんですか」

 

 「だって・・・!」

 

 「もっと仲間を頼って下さい。一人で抱え込んで、感情を押し殺して・・・それじゃただの独りよがりですよ」

 

 あやすように、千歌さんの背中を優しく叩く。

 

 「曜さんも、梨子さんも、花丸も、ルビィも、善子も・・・千歌さんの大切な仲間でしょう?千歌さんが皆を大切に想っているように、皆も千歌さんを大切に想ってるんですよ」

 

 そう、だからこそ・・・皆この場にやってきたのだ。

 

 「千歌ちゃーんっ!天くーんっ!」

 

 「っ!?」

 

 驚いている千歌さん。

 

 浜辺には、Aqoursのメンバーが全員集合していた。躊躇することなく海に入り、俺達のところへやってくる。

 

 「み、皆!?どうしてここに!?」

 

 「やっぱり千歌ちゃんと、ちゃんと話をするべきだと思って。朝早かったんだけど、皆に連絡したらすぐに来てくれたの」

 

 笑っている梨子さん。だがすぐにジト目になり、俺の方を睨んでくる。

 

 「ただし天くんは、連絡したのに返信してくれなかったけど」

 

 「あっ・・・そういえば、スマホ見てませんでしたね・・・」

 

 ま、まぁ結果オーライってことで・・・

 

 「しかも海で千歌ちゃんと抱き合ってるし・・・ホント手が早いんだから」

 

 「その言い方やめてくれません?まるで俺が女ったらしみたいじゃないですか」

 

 「合ってるじゃない」

 

 「合ってるじゃん」

 

 「合ってるずら」

 

 「合ってるよね」

 

 「合ってるわね」

 

 「よし、今日の練習メニューは淡島神社の階段ダッシュを五往復で」

 

 「「「「「すいませんでしたっ!」」」」」

 

 揃って頭を下げる五人。分かればよろしい。

 

 「・・・フフッ」

 

 小さく笑う千歌さん。少しは元気が出たらしい。

 

 「・・・やっと心から笑えましたね」

 

 千歌さんの目元の涙を、指でそっと拭う。

 

 「泣きたい時は泣いたら良いですけど・・・やっぱり千歌さんには、笑顔がよく似合いますよ」

 

 「っ・・・!」

 

 恥ずかしそうに俯く千歌さん。顔が赤くなっている。

 

 「そ、そういうことを真顔で言わないでよぉ・・・!」

 

 「千歌ちゃん、いい加減慣れた方が良いわよ。これが天くんなんだから」

 

 「そういう梨子ちゃんも、未だに慣れてないけどね」

 

 「ちょ、曜ちゃん!?」

 

 「やれやれ、これだから女ったらしは・・・」

 

 「善子のパンツの色はーっ!堕天使を意識した黒ーっ!」

 

 「うにゃああああああああああっ!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」

 

 「アハハ・・・流石の善子ちゃんも、天くんには敵わないんだね」

 

 「何だかんだ言いつつ、善子ちゃんは天くん大好きっ子ずら」

 

 「ヨハネよっ!あとずら丸は変なこと言わないっ!」

 

 ギャーギャー騒ぐ皆。俺は思わず笑ってしまった。

 

 「・・・やっぱり、似てるな」

 

 「天くん・・・?」

 

 首を傾げる千歌さん。俺は皆の顔を見回して、笑みを浮かべた。

 

 「確かに今は0かもしれません。それをいきなり100にすることは出来ないでしょう。だから・・・まずは1にするところから始めてみませんか?」

 

 「0から、1に・・・?」

 

 「えぇ。そもそもスクールアイドル部だって、最初は0からのスタートだったじゃないですか。部を立ち上げて、仲間が増えて・・・そして、東京のイベントに出ることが出来たんです」

 

 初めて千歌さんと出会った時には、そんな日が来るなんて想像もしていなかった・・・

 

 「だから、またここから始めるんです。新たなスタートを・・・もう一度、0からのスタートを切るんです」

 

 「0からのスタート・・・」

 

 やる気に満ち溢れた表情の皆。どうやら、覚悟は決まったようだ。

 

 「お遊びでやっているわけじゃないし、ラブライブを諦める必要も無い・・・Aqoursは本気なんだっていうところを、見せつけてやりましょう」

 

 「天くん・・・うんっ!」

 

 「ヨーソロー!」

 

 「やりましょう!」

 

 「ずらっ!」

 

 「頑張ルビィ!」

 

 「ギランッ!」

 

 笑みを浮かべる皆。その瞬間・・・曇天だった空に光が差した。

 

 「「「「「「わぁ・・・!」」」」」」

 

 嬉しそうに空を見上げる皆。

 

 そういや、五年前も似たようなことがあったっけ・・・

 

 「・・・懐かしいなぁ」

 

 眩しさに目を細めつつ、皆と一緒に空を見上げる俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

これにて、アニメ一期第八話までの内容が終了しました。

次からはいよいよ第九話の内容へと入っていきます。

色々と構想を練っていますので、お楽しみに(・∀・)ノ

さて、ここで日頃の感謝をお伝えしたいと思うのですが・・・

☆評価を見てみたら、何と40人もの方が付けて下さっていました!

あ、ありがたや・・・!

お気に入りの件数も500を超え、嬉しいかぎりです。

感想を書いて下さる方も多く、本当に励みになっております。

☆評価を付けて下さった方々・・・

お気に入りに登録して下さった方々・・・

いつも感想を書いて下さる方々・・・

そして、この作品を読んで下さっている方々・・・

本当にありがとうございます。

これからも『絢瀬天と九人の物語』をよろしくお願い致します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心からの懇願は相手の心を揺さぶる。

あ、ありのまま今起こったことを話すぜ・・・

昨日俺は☆評価を付けてくれた人の数が40人だと思っていたが、今日見たらいつの間にか50人になっていた・・・

何を言っているのか分からないと思うが、俺も何が起きたのか分からなかった・・・

嬉しすぎて頭がどうにかなりそうだった・・・

半分の人が☆10の最高評価だとか、9割以上の人が☆8以上の高評価だとか、本来俺が受け取っていい評価じゃ断じてない・・・

身に余る光栄を味わったぜ・・・



皆様、本当にありがとうございます。


 『えぇっ!?じゃあことりさんと真姫さん、にこさんとも会ってたの!?』

 

 「まぁね」

 

 『ずるいずるいずるいっ!私だって天と会いたかったのにぃっ!』

 

 電話越しに、悔しがっている女性の声が聞こえる。苦笑する俺。

 

 「仕方ないでしょ。亜里姉は東京にいなかったんだから」

 

 『うぅ、やっぱり旅行はキャンセルすればよかった・・・』

 

 「でも楽しかったんでしょ?」

 

 『楽しかった!』

 

 俺の問いに声を弾ませる女性・・・絢瀬亜里沙。俺のもう一人の姉であり、キャンパスライフを絶賛満喫中の大学二年生だ。

 

 俺が先週東京に行った時は、旅行に行っていた為に会うことが出来なかった。その旅行先でのお土産を送ってくれた為、近況報告も兼ねて俺の方から電話したのだ。

 

 「それなら良かった。雪穂ちゃんは元気?」

 

 『元気だけど、相変わらず真面目だよ。熱心に勉強するのもいいけど、もっとキャンパスライフを満喫すべきだと思うんだよね』

 

 「姉がちゃんらんぽらんだと、妹はしっかり者になるんだよ」

 

 『今サラッと穂乃果さんをディスらなかった!?』

 

 「同じようなちゃらんぽらんの姉がいる身として、雪穂ちゃんの気持ちはよく分かるわ」

 

 『私までディスられた!?』

 

 「まぁお土産を送ってくれたから、『ちゃらんぽらん』から『頭のネジが外れた子』に格上げしてあげるね」

 

 『それ格上げなの!?むしろ下がってない!?』

 

 亜里姉のツッコミ。

 

 雪穂ちゃんは穂乃果ちゃんの妹で、亜里姉にとって一番の親友だ。亜里姉と雪穂ちゃんは同じ大学に通っており、今回の旅行も二人で行ってきたらしい。

 

 「雪穂ちゃんにも連絡しないとね。雪穂ちゃんからもお土産送ってもらっちゃったし」

 

 『そうしてあげて。雪穂、天のこと凄く心配してたから』

 

 俺も雪穂ちゃんとは仲良くさせてもらっており、何かとお世話にもなっていた。

 

 内浦へ行くことが決まった時には、『母親かっ!』とツッコミを入れたくなるほど心配されたものである。

 

 「了解。後で連絡しとくよ」

 

 『よろしくね。それから・・・お姉ちゃんのことなんだけど』

 

 少し言い辛そうな亜里姉。

 

 俺に気を遣うくらいなら、絵里姉の話題なんて出さなきゃいいのに・・・

 

 「・・・元気にやってるの?」

 

 『・・・何だか最近、無理してるような気がして』

 

 亜里姉の声が暗くなる。

 

 『いつも通りに振舞ってはいるんだけど、少し元気が無いっていうか・・・疲れてるんじゃないかなって思うんだよね』

 

 「仕事が大変なんじゃないかな。社会人一年目で、慣れないことも多いだろうし」

 

 『・・・それだけじゃないって、天も分かるでしょ?』

 

 溜め息をつく亜里姉。

 

 『天がいなくなってから、お姉ちゃんはあまり笑わなくなっちゃってさ・・・雰囲気も少し暗くなったし、自分から話をすることも減っちゃって・・・その分、凄く仕事に打ち込んでるみたいだけど』

 

 絵里姉は大学を卒業後、公務員として区役所で勤務している。

 

 実に堅実で絵里姉らしいが、今の亜里姉の話だとまるで・・・

 

 『・・・μ'sに入る前のお姉ちゃんみたい、でしょ?』

 

 「っ・・・」

 

 読まれていたらしい。

 

 周りに心を開くことが出来ず、信頼出来る友達が希ちゃんしかいなかった頃・・・音ノ木坂が統廃合の危機に陥り、生徒会長としての責任感だけで行動していた頃・・・

 

 話を聞くかぎり、今の絵里姉はあの頃の絵里姉と似ているかもしれない。

 

 『・・・ねぇ、天』

 

 いつになく真面目で、それでいて切実な声で俺の名前を呼ぶ亜里姉。

 

 『天がどんな思いでテスト生の話を受けたのか、私には分からないけど・・・私は天に帰ってきてほしい。いつまでも三人で暮らすことは出来ないかもしれないけど、今はまだ三人で暮らしていたい。お姉ちゃんだってそれを望んだから、テスト生の話を受けることに反対したんだよ?』

 

 「・・・分かってるよ」

 

 呟く俺。

 

 「それでも、俺は・・・」

 

 『お願い、天・・・』

 

 涙声になる亜里姉。

 

 『天がいない生活は、私も寂しいんだよ・・・帰ってきてよ、天・・・』

 

 「・・・ゴメン、亜里姉」

 

 いたたまれなくなり、電話を切る俺。亜里姉の涙声が、耳から離れない。

 

 「天ー?」

 

 ちょうどその時、お風呂から上がった海未ちゃんがリビングに入ってきた。

 

 「先にお風呂をいただき・・・どうしたんですか?」

 

 暗い表情を浮かべる俺に気付き、心配そうに声をかけてくれる海未ちゃん。俺は海未ちゃんに視線を向けた。

 

 「・・・ねぇ、海未ちゃん。最後に絵里姉と会った時、どんな様子だった?」

 

 「どんな様子、とは?」

 

 「いつもより元気が無かったとか、疲れた様子だったとか・・・」

 

 「・・・亜里沙から聞いたんですね」

 

 溜め息をつく海未ちゃん。

 

 「天がいなくなってから、絵里が心配で何度か家にお邪魔しましたが・・・元気は無かったですね。いつも通りに振舞ってはいましたが、少し無理をしているという印象を受けました。特に最後に会った時は、疲労の色が見えたように思います」

 

 「・・・そっか」

 

 「・・・黙っていてすみませんでした」

 

 「海未ちゃんが謝る必要なんて無いよ。俺の方こそ、気を遣わせちゃってゴメンね」

 

 海未ちゃんに謝る俺。俺がこのことを知れば、『俺のせいでそうなった』と罪悪感を感じてしまうと思ったんだろう。

 

 絵里姉も知られたくないから隠そうとしたんだろうし、そんな絵里姉の気持ちも汲んでくれたんだと思う。

 

 「・・・亜里沙は、何と?」

 

 「・・・帰ってきてほしいって」

 

 「・・・どうするんですか?」

 

 「・・・どうしようかね」

 

 力なく椅子に体重を預ける俺。

 

 「Aqoursのことが心配ですか?」

 

 「それもある。俺がマネージャーを辞めたら、小原理事長が何をするか分からないし」

 

 「・・・あの女ですか」

 

 忌々しそうな表情の海未ちゃん。

 

 俺が言えることでもないけど、海未ちゃんってホント小原理事長が嫌いだよね・・・

 

 「まぁ、それを差し置いても・・・やらなきゃいけないことがあるから」

 

 「マネージャーとしての、最低限の責務というやつですね」

 

 「・・・それだけじゃないけどね」

 

 「え・・・?」

 

 首を傾げる海未ちゃん。まぁ、今はそれも置いといて・・・

 

 「絵里姉と喧嘩して、亜里姉を悲しませて・・・我ながら最低の弟だね、俺は」

 

 「天・・・」

 

 「あぁ、ゴメン・・・お風呂入ってくるね」

 

 これ以上海未ちゃんを暗い気持ちにさせないよう、椅子から立ち上がりリビングを出ようとすると・・・

 

 後ろから海未ちゃんに抱き締められた。

 

 「海未ちゃん・・・?」

 

 「・・・私は天に戻ってきてほしくて、浦の星に教育実習生としてやってきました。その気持ちは今も変わりません」

 

 俺を抱き締める腕に、ギュっと力を込める海未ちゃん。

 

 「ですが・・・後悔はしてほしくありません。内浦にやって来たことも、浦の星に入学したことも・・・Aqoursの皆と楽しそうに過ごす天を見て、私はそう思いました」

 

 「海未ちゃん・・・」

 

 「天が自分自身で選んだ道じゃないですか。だったら何があっても、前を向いて歩かないとダメでしょう。後ろばかり見て歩いているようでは、それこそ絵里や亜里沙に怒られてしまいますよ」

 

 「・・・そうだよね」

 

 海未ちゃんの言う通りだ。

 

 これは俺自身が選んだ道・・・絵里姉や亜里姉に反対されても、俺はこの道を選んだのだ。

 

 だったら、後ろを向いてちゃいけないよな・・・

 

 「・・・ありがとね、海未ちゃん」

 

 身体に回されている海未ちゃんの腕に、そっと手を置く俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

さて、前書きでは長々とポルナレフさんのセリフをパクっておりますが(笑)

改めて皆様、本当にありがとうございます。

身に余る光栄で大変恐縮ではありますが、本当に嬉しく思います。

これからも『絢瀬天と九人の物語』をよろしくお願い致します。



さて、今回からアニメ一期第九話の内容へと入っていきます。

まぁ今回は、天と亜里沙の会話で終わってしまっているのですが・・・

亜里沙から『帰ってきてほしい』と懇願された天・・・

姉の願いに、天はどのような決断を下すのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

チャンスは全力で掴みにいくべきである。

『ソードアート・オンライン』が観たい・・・

10月からまた放送が始まるし、前回までの話を見返したい・・・


 「花火大会ですか?」

 

 「うん。私達に出てほしいんだって」

 

 翌日・・・『十千万』のロビーにて、俺に説明してくれる曜さん。

 

 近々沼津で花火大会が開かれるそうなのだが、運営側から『参加してくれないか』という打診があったらしい。花火大会のステージで、パフォーマンスを披露してほしいのだそうだ。

 

 「沼津の花火大会っていったら、ここら辺じゃ一番のイベントなんだよ。そこからオファーが来たっていうのは、私達にとってはチャンスだと思う」

 

 「ふぁふふぁふぉふぃっふぇふぉふぁうふぃふぁふぃふぃふぁんふふぁふぇ」

 

 「花丸、のっぽパン食べながら話すの止めて。何かの呪文みたいになってるから」

 

 「ゴックン・・・Aqoursを知ってもらうには一番ずらね」

 

 「それが言いたかったのね・・・」

 

 呆れる俺。っていうか、相変わらずよく食べるな・・・

 

 「でも、今からじゃあんまり練習時間無いよね」

 

 ルビィがそんなことを言う。

 

 花火大会の開催日は、およそ二週間後らしい。今から曲や衣装を作って、振り付けも考えると・・・

 

 かなりタイトなスケジュールになるだろうな。

 

 「私は、今は練習を優先した方が良いと思うけど・・・」

 

 遠慮がちに意見を出す梨子さん。

 

 梨子さんとしても出たいのは山々だろうけど、無理をしてまで出るべきではないという考えなんだろう。

 

 「天くんはどう思う?」

 

 「個人的な意見を言わせてもらうなら、出るべきだと思いますよ」

 

 素直な意見を述べる俺。

 

 「曜さんの言う通り、今回のオファーはAqoursにとってチャンスだと思います。タイトなスケジュールになることは間違いないですけど、不可能ではないですから。やらずに後悔するくらいならばやって後悔したい生涯。蛹はいつか希望を胸にso fly」

 

 「途中から『sa●agi』の歌詞よねぇ!?『銀●』のエンディングテーマよねぇ!?」

 

 「梨子さん、よく知ってましたね・・・」

 

 俺が不覚にも感動を覚えていると、曜さんが千歌さんに視線を向けた。

 

 「千歌ちゃんはどう思う?」

 

 「私は出たいかな!」

 

 屈託の無い笑みを浮かべる千歌さん。

 

 「今の私達の全力を見てもらって、それでダメだったらまた頑張る。それを繰り返すしかないんじゃないかな」

 

 「千歌さん・・・」

 

 どうやら東京のイベントをキッカケに、千歌さんは一皮剥けたようだ。迷いが無くなったし、良い意味で吹っ切れている。

 

 「ヨーソロー!賛成であります!」

 

 「ギランッ!」

 

 「あ、善子いたの?」

 

 「最初からいたわよ!」

 

 善子のツッコミ。どうやらずっと長椅子に寝そべっていたらしい。

 

 「ふぉふぃふぉふぁん、ふぁふぇふふふふぃふふぁ」

 

 「花丸、ボッシュート」

 

 「ずらぁっ!?マルののっぽパンがぁっ!?」

 

 「ちょっとずら丸!『善子ちゃん、影薄過ぎずら』なんて酷いじゃない!」

 

 「何で善子は普通に理解出来てんの・・・はむっ」

 

 「ずらあああああっ!?」

 

 花丸からボッシュートしたのっぽパンをかじる。何これ美味くね?

 

 「天くん!?何で食べちゃうずら!?」

 

 「そこにのっぽパンがあるから」

 

 「某登山家の名言をパクるのは止めるずら!」

 

 「っていうか、普通に間接キスなんじゃ・・・」

 

 ルビィがちょっと恥ずかしそうに何かを言っているが、花丸がギャーギャーうるさいのでよく聞こえなかった。

 

 全く、花丸のヤツめ・・・

 

 「マルののっぽパンを返すずら!」

 

 「それよりずら丸!ちょっと表出なさい!ヨハネの堕天使奥義で・・・」

 

 「えいっ」

 

 「むぐぅっ!?」

 

 「ずらああああああああああっ!?」

 

 善子の口にのっぽパンを突っ込む俺。

 

 悲鳴を上げる花丸なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 翌朝・・・

 

 「ここの階段はしんどいなぁ・・・」

 

 日課のランニングコースに含まれている、淡島神社の階段を上る俺。

 

 神田明神の比ではない長さの階段を、何とか上り終えようとした時・・・

 

 「復学届、提出したのね」

 

 聞き覚えのある声が聞こえ、思わず足を止める。今の声って・・・

 

 「まぁね」

 

 またしても聞き覚えのある声だ。

 

 側にあった木の陰に隠れ、恐る恐る様子を窺ってみると・・・神社の前で、小原理事長と果南さんが会話しているところだった。

 

 「やっと逃げるのを諦めた?」

 

 「勘違いしないで。学校を休んでいたのは、怪我をしたお父さんの代わりに店を手伝う為・・・スクールアイドルは関係無い」

 

 小原理事長の問いに、冷たく返す果南さん。

 

 そういや、そろそろ果南さんのお父さんが復帰出来そうなんだっけ・・・近々復学出来そうだって、アルバイトの時に果南さんが言ってたよな・・・

 

 「それに復学しても、スクールアイドルはやらないから」

 

 「私の知っている果南は、どんな失敗をしても笑顔で次に向かって走り出していた。成功するまで諦めなかった」

 

 果南さんに語りかける小原理事長。

 

 もしかしなくても、二年前の東京のイベントで果南さんが歌えなかったことを言ってるんだろう。

 

 「だからもう一度スクールアイドルをやれって?高校卒業まで一年も無いのに?」

 

 「それだけあれば十分じゃない。それに、今は後輩だっているんだから」

 

 「止めて」

 

 小原理事長を睨みつける果南さん。

 

 「千歌達は必死で頑張ってるの。利用するような真似は許さない」

 

 「果南・・・」

 

 「・・・もう止めて。どうして留学から戻ってきたの?」

 

 悲しそうな表情を浮かべる果南さん。

 

 「私は・・・戻ってきてほしくなかった」

 

 「っ・・・ホント、相変わらず果南は頑固ね・・・」

 

 笑みを浮かべる小原理事長だったが、強がっていることは明白だった。

 

 そしてそんな小原理事長の様子に、果南さんが気付かないはずもなく・・・

 

 「もう・・・貴女の顔、見たくないの」

 

 トドメの一言を放つ。絶句して何も言えない小原理事長に背を向け、階段を下りていく果南さん。

 

 今のはキツい一言だったな・・・

 

 「・・・もう隠れる必要は無いわよ」

 

 沈黙の後、俺が隠れている方に視線を向ける小原理事長。

 

 「いるんでしょう?天」

 

 どうやらバレていたようだ。仕方なく出て行く俺。

 

 「乙女の会話を盗み聞きするなんて、悪い子ね」

 

 「乙女(笑)」

 

 「何で笑ってるのよ!?」

 

 「いや、どこに乙女がいるのかなって」

 

 「目の前にいるでしょうが!」

 

 「・・・ハッ」

 

 「鼻で笑われた!?」

 

 ショックを受けている小原理事長。冗談はこれくらいにして・・・

 

 「ずいぶんキツい一撃をもらいましたね。ダメージ大きいんじゃないですか?」

 

 「・・・まぁね。とはいえ、私に文句を言う資格なんて無いわ」

 

 寂しそうな表情の小原理事長。

 

 「貴方を脅した上、あの子達を利用したんだもの。当然の報いよ」

 

 「全くもってその通りですね。ざまぁみやがれ」

 

 「まさかの追い討ち!?少しはフォローするところじゃないの!?」

 

 「被害者が加害者をフォローできるとでも?」

 

 「すいませんでした」

 

 素直でよろしい。まぁそれはさておき・・・

 

 「小原理事長、一つ聞きたいんですけど・・・二年前の東京のイベントで、果南さんが歌えなかったっていうのは本当なんですか?」

 

 「・・・よく知ってるわね」

 

 溜め息をつく小原理事長。

 

 「本当よ。歌うこともせず、踊ることもせず・・・ステージの上で固まっていたわ。会場の雰囲気に呑まれてしまったんでしょうね」

 

 「呑まれた、ねぇ・・・」

 

 果南さんの性格を考えると、とてもそうは思えない。ましてや一人ではなく、ダイヤさんと小原理事長も一緒だったのだ。

 

 それで挫折してスクールアイドルをやめるなんて、どうしても信じられないんだよなぁ・・・

 

 「それで?これからどうするつもりなんですか?」

 

 「決まってるじゃない。意地でも果南にスクールアイドルをやらせるわ」

 

 覚悟を決めた表情の小原理事長。

 

 「一筋縄でいかないことなんて、最初から分かってたもの。こんなところで諦めるくらいなら、留学から帰ってきたりしないわ」

 

 「・・・言うと思いましたよ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 果南さんも頑固だけど、この人も大概だよな・・・

 

 「まぁ・・・精々悔いの無いように頑張って下さい」

 

 「そうするわ。ありがとう」

 

 小さく笑う小原理事長。

 

 「・・・相変わらず優しいわね。昔と全然変わってない」

 

 「・・・失礼します」

 

 くるりと背を向け、階段を下りる俺。

 

 この人が相手だと、どうにも調子が狂ってしまう。

 

 「・・・さて」

 

 ポケットからスマホを取り出し、ある人物へと電話をかける。

 

 数回コールした後、その人物は電話に出てくれた。

 

 『もしもし?天?』

 

 「おはようにこちゃん。朝早くにゴメンね」

 

 そう、電話の相手はにこちゃんだ。起きててくれて良かった・・・

 

 『全然構わないけど、珍しいじゃない。天が電話してくるなんて』

 

 「色々あってね」

 

 俺は苦笑すると、早速本題に入るのだった。

 

 「にこちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ・・・」




どうも〜、ムッティです。

そういえば、全然触れませんでしたけど・・・

梨子ちゃん、ルビィちゃん、誕生日おめでとう!

っていうか、二人の誕生日近いな(゜ロ゜)

誕生日記念とかで、短編を書いてみるのも面白そうですよね。

まぁその前に、もっと早く本編を進めろよっていう話なんですが(笑)

さてさて、天はにこちゃんに何を聞いたのか・・・

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誰も報われないことほど悲しいことは無い。

カモネギの進化形が『ネギガナイト』って・・・

つまり『ネギが無いと』ってか・・・

ただの駄洒落やん・・・面白いけども。


 「かんぱ~い!」

 

 「「かんぱ~い!」」

 

 長い銀髪の女性の音頭に続き、ビールジョッキを合わせる海未ちゃんと赤城先生。

 

 俺は溜め息をついた。

 

 「ウチは居酒屋じゃないんですけど」

 

 「気にしないで絢瀬くん!居酒屋じゃなくても私達は気にしないわ!」

 

 「人の家であることを気にしてもらえます?」

 

 赤城先生にツッコミを入れる俺。

 

 海未ちゃんと仲良くなった赤城先生は、遂に家にまで呑みに来るようになっていた。

 

 そしてもう一人・・・

 

 「フフッ、良いじゃない。私達と絢瀬くんの仲でしょ?」

 

 「いや、貴女に関しては大して接点も無いんですけど・・・鶴見先生」

 

 柔らかく微笑む銀髪の女性・・・鶴見翔子先生。三年生のクラス担任を務めている先生だ。

 

 一年生である俺は、挨拶程度しか交わしたことが無い。

 

 「酷い!?私とは遊びだったのね!?」

 

 「いや、遊んでるのは貴女でしょ」

 

 「あの夜のことを忘れたっていうの!?」

 

 「脳天かち割りますよ白髪頭」

 

 「白髪じゃないですぅ!銀髪ですぅ!」

 

 「そ、天・・・相手は一応先生ですよ・・・?」

 

 恐る恐る声をかけてくる海未ちゃん。

 

 一方、赤城先生は笑っていた。

 

 「大丈夫よ、海未ちゃん。翔子ちゃんはそういうの気にしない人だから」

 

 「フフッ、まぁね」

 

 クスクス笑っている鶴見先生。

 

 「絢瀬くんは面白いわね。そうやって遠慮なくきてくれる子、私大好きなの」

 

 よく分からないが、どうやら気に入られてしまったらしい。

 

 嬉しいような、嬉しくないような・・・

 

 「私のことは、気軽に『翔子ちゃん』って呼んでね」

 

 「いや、仮にも先生を相手にちゃん付けはマズいでしょう」

 

 「じゃあ『翔子先生』で」

 

 「・・・まぁそれなら」

 

 「あっ、ずるい!絢瀬くん、私のことも『麻衣先生』でいいのよ!?」

 

 「何で張り合ってるんですか貴女は」

 

 「だって私、絢瀬くんの担任なのよ!?翔子ちゃんに先を越されるなんて悔しいじゃない!」

 

 「・・・赤城先生って、案外子供っぽいところあるんですね」

 

 「そうなのよ。いつもは大人の女性って感じなのにね」

 

 「いや、貴女も大概ですけどね」

 

 「酷い!?」

 

 ショックを受けている翔子先生。

 

 まぁ親しみやすくて、俺は好きだけども。

 

 「じゃあ俺のことも天で・・・」

 

 「オッケー天くん!」

 

 「了解よ天くん!」

 

 「順応早っ!?」

 

 な、何だこのノリの軽さは・・・

 

 「こういう人達なんですよ。まぁおかげで、私も親しくなれましたけど」

 

 苦笑している海未ちゃん。

 

 人見知りの海未ちゃんが家に呼ぶほど親しくなっている理由が、ようやく分かった気がした。

 

 「麻衣ちゃんのクラスは良いわねぇ・・・天くんもいるし、本当に明るくて良い子達がたくさんいるもの」

 

 「あら、翔子ちゃんのクラスだってそうじゃない。それに来週から、果南ちゃんも復学するんでしょ?」

 

 「そうなのよ。今から楽しみだわ」

 

 微笑む翔子先生。

 

 そっか・・・果南さん、来週から学校に来るのか・・・

 

 「翔子先生、ちょっと聞きたいんですけど」

 

 「フフッ、何でも聞いてちょうだい!」

 

 胸を張る翔子先生。

 

 おぉ、なかなか立派な・・・じゃなくて。

 

 「小原理事長のことなんですけど」

 

 「あぁ、鞠莉ちゃんね。何?スリーサイズ?」

 

 「違います」

 

 「B87/W60/H84よ」

 

 「違うって言ってるでしょうが!っていうか何で把握してんの!?」

 

 「自分のクラスの子のスリーサイズくらい把握してるわ」

 

 「当たり前みたいに言わないでもらえます!?」

 

 っていうかあの人、B87もあるのか・・・

 

 道理で大きいと思ったら・・・

 

 「・・・むぅ」

 

 「海未ちゃん、痛いんだけど・・・」

 

 海未ちゃんが背後から渾身の力で俺を抱き締めてくる。表情が明らかに不機嫌だ。

 

 「あの女・・・」

 

 「いや、良く思ってないのは知ってるけどさ・・・」

 

 「生意気なんですよ・・・B87だなんて」

 

 「あ、そっち?」

 

 ただ単純に嫉妬しているだけらしい。

 

 俺は再び翔子先生に視線を向けた。

 

 「俺が聞きたいのは留学の件です。小原理事長は二年前、スクールアイドルをやめた後に留学したそうですが・・・前々からそういう話はあったんですか?」

 

 「あったわよ。でもあの子、留学の話が来る度に断っててね・・・」

 

 当時を懐かしむように語る翔子先生。

 

 「『自分はスクールアイドルだから』って、頑として首を縦に振らなかったの。でもスクールアイドルをやめた後は、留学することを決めて・・・まさか理事長になって戻ってくるなんて、あの頃は想像もしてなかったわ」

 

 苦笑する翔子先生。

 

 「果南ちゃんやダイヤちゃんと、上手くいかなくなっちゃったのかしらね・・・留学する直前、三人の仲はギクシャクしてたわ。戻ってきてからも、鞠莉ちゃんとダイヤちゃんは仲が良いって感じじゃないし」

 

 「あの頃はあんなに仲良しだったのにねぇ・・・」

 

 寂しそうに呟く麻衣先生。なるほどねぇ・・・

 

 「ちなみになんですけど・・・東京のイベントがあった頃、小原理事長って怪我とかしてませんでした?」

 

 「あぁ、そういえばしてたわね。何か足を痛めちゃったみたいで、テーピングしてたけど・・・え、何で知ってるの?」

 

 「独自の情報網があるんで」

 

 「何それ怖い」

 

 「翔子先生が合コンで失敗しまくってることも把握済みです」

 

 「嘘でしょ!?どれだけ凄い情報網なの!?」

 

 「まぁ、麻衣先生が酔っ払って暴露してたのを聞いただけなんですけど」

 

 「ちょ、天くん!?その話はダメ・・・」

 

 「麻衣ちゃ~ん?ちょっとお話ししましょうね~?」

 

 「嫌ああああああああああっ!?」

 

 麻衣先生の悲鳴が聞こえる中、俺は頭の中で情報を整理していた。

 

 歌えなかった果南さん、足を怪我していた小原理事長、留学の話を断り続けていた・・・

 

 「・・・何となく見えたな」

 

 「天・・・?」

 

 首を傾げている海未ちゃん。

 

 今朝にこちゃんから聞いた情報も含め、俺の中で全てが繋がったような気がした。

 

 もしこれが事実なら・・・

 

 「・・・千歌さん以上に不器用だな、あの人」

 

 もっと違う方法だってあっただろうに・・・これでは誰も報われない。

 

 「あ、そういえば・・・」

 

 「痛い痛いっ!翔子ちゃんギブ!ギブだからっ!」

 

 麻衣先生にサソリ固めを極めながら、翔子先生が何かを思い出す。

 

 「二年前、あの子達が東京のイベントに出た後だったかな?また留学の話がきたから、鞠莉ちゃんに打診したら案の定断られたんだけど・・・その時の断り方が、いつもとちょっと違ったのよね」

 

 「違った?」

 

 「えぇ。あの時も最初は、『自分はスクールアイドル』だからって言ってたんだけど・・・その後、『親友が心配だから』って」

 

 「っ・・・」

 

 「果南ちゃんかダイヤちゃんのことだと思うんだけど、心配って何の話だろうって思ったのよね。何が心配なんだろうって」

 

 今の翔子先生の言葉で、俺は全てを察してしまった。

 

 つまりこれは・・・

 

 「・・・すれ違い、か」

 

 これは流石にいたたまれないな・・・

 

 「全く・・・本当に誰も報われないな・・・」

 

 深い溜め息を零す俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

さてさて、今回はオリキャラである鶴見翔子先生が登場しました。

モチーフキャラは『艦これ』の翔鶴さんです。

名前も翔鶴さんを基に考えました。

性格はちょっと違うかもしれませんけどね。

っていうか、書いていて気付いたのですが・・・

『麻衣』と『翔子』って、完全に『青ブタ』ですよね(笑)

全く意図してませんでしたけど(笑)



さてさて、何やら天は察したようですが・・・

果たして天はどのような行動をとるのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人を想っての行動が人を苦しめることもある。

映画『HELLO WORLD』を観てきました。

一行さんが可愛すぎて辛い(´・ω・`)


 日曜日・・・

 

 「んー、美味しい!」

 

 ダイビングショップのアルバイトを終えた俺は、松浦家で夕食をご馳走になっていた。

 

 「流石は西華さん、やっぱり料理上手ですね」

 

 「フフッ、嬉しいこと言ってくれるじゃないか」

 

 笑っている女性・・・松浦西華さん。果南さんのお母さんである。

 

 「最近は夕飯を食べに来てくれなかったもんだから、少し寂しかったんだぞ?」

 

 「すいません。同居人を一人にするのも可哀想なので」

 

 ちなみにその同居人は、今日も麻衣先生や翔子先生と一緒に食事に行っている。まぁ教育実習も来週で終わるし、それまで『ガンガン呑みに行こう』みたいなノリなんだろう。

 

 俺も誘われたが、久しぶりに西華さんの手料理が食べたかったので遠慮しておいた。

 

 「全く、お母さんったら張り切っちゃって・・・」

 

 溜め息をつく果南さん。

 

 「天が来る時だけ、いつも夕飯が豪勢なんだよね・・・」

 

 「そりゃそうさ」

 

 笑顔で答える西華さん。

 

 「何と言っても、アタシの息子になるかもしれない男だからね」

 

 「ぶふぅぅぅぅぅっ!?」

 

 飲んでいたお茶を盛大に吹き出す果南さん。

 

 「ゲホッ・・・ゴホッ・・・い、いきなり何言ってんの!?」

 

 「いや、だって天は果南の旦那候補だろう?もしアンタ達が結婚したら、天はアタシの息子になるじゃないか」

 

 「け、結婚っ!?」

 

 果南さんの顔が真っ赤になる。

 

 「な、何でそんな話になってるの!?」

 

 「アンタがハグする男なんて、天しかいないじゃないか。お父さんだって、『天だったら果南を嫁にやってもいい』って言ってたし」

 

 「あ、あの人は・・・また勝手なことを・・・!」

 

 あっ、果南さんが怒った・・・

 

 果南さんのお父さん、絶対タダでは済まないな・・・

 

 「天、果南を嫁にもらう気は無いかい?我が娘ながら、果南はとても魅力のある女だと私は思うんだけど?」

 

 「ちょ、お母さん!?」

 

 「確かに、果南さんとの結婚は魅力的ですね」

 

 「そ、天・・・恥ずかしいよ・・・」

 

 「果南さんと結婚したら西華さんが義理のお母さんになるわけですし、いつでもこの美味しい手料理を食べられますもんね」

 

 「そっち!?私の魅力じゃないじゃん!?」

 

 「誰も果南さんが魅力的なんて言ってませんよ。果南さんとの結婚が魅力的だって言ったじゃないですか」

 

 「っ!天のバカっ!」

 

 ぷいっとそっぽを向いてしまう果南さん。

 

 おぉ、いつもはお姉さんな果南さんが子供っぽい・・・何か新鮮だなぁ・・・

 

 「ちょっと天、アンタの嫁が不機嫌になっちゃったじゃないか」

 

 「サラッと嫁発言するの止めてくれません?」

 

 こうやって外堀って埋められていくんだね・・・

 

 とまぁ、それはさておき・・・

 

 「まぁ真面目に答えると、果南さんはとても魅力的な女性だと俺も思いますよ。美人でスタイル抜群なのは勿論のこと、性格も良いですし。元気で明るくて、それでいて優しくて・・・果南さんと結婚できる男は、間違いなく幸せ者ですね」

 

 「っ・・・」

 

 そっぽを向いたままの果南さんだが、耳が真っ赤になっていた。

 

 そんな様子を、ニヤニヤしながら眺めている西華さん。

 

 「ほほう、つまり天は果南に不満は無いと?」

 

 「あるわけないでしょう。でも、果南さんには選ぶ権利がありますから。っていうか選びたい放題でしょうから、俺なんかよりもっと良い人がいると思いますけど」

 

 「って天は言ってるけど、果南的にはどうなんだい?」

 

 「・・・ノーコメントで」

 

 「えー?天はこんなにぶっちゃけたのにー?」

 

 「う、うるさいなぁ!いいでしょ別に!」

 

 顔を真っ赤にして叫ぶ果南さん。

 

 「ただ、その・・・天は自分を卑下し過ぎじゃないかな。天は十分良い男だと・・・私は思うよ?」

 

 「何この人可愛いんですけど」

 

 「ちょ、急にハグしてこないでよ!?」

 

 思わず果南さんにハグしてしまう俺。

 

 恥ずかしそうにモジモジしながらそんなことを言われたら、誰だってこうしたくなるだろう。

 

 「フフッ・・・やっぱりお似合いだよ、アンタ達」

 

 笑っている西華さん。

 

 「さてと・・・邪魔者は一時退散して、ちょっと食後のデザートを作ってくるよ。それまで二人でイチャイチャしてな」

 

 「よ、余計な気を回さなくて良いから!」

 

 果南さんの抗議もどこ吹く風で、西華さんはキッチンへ行ってしまった。

 

 後に残されたのは顔を真っ赤にしている果南さんと、そんな果南さんにハグしている俺だけだ。

 

 「・・・さて、ご飯食べよ」

 

 「嘘でしょ!?今までのやり取りは何だったの!?」

 

 「え、イチャイチャしたかったんですか?」

 

 「そ、そんなわけないじゃんっ!もう知らないっ!」

 

 再びプイッと顔を背けてしまう果南さん。

 

 感情の起伏が激しいなぁ・・・

 

 「ところで果南さん、明日から復学するらしいですね」

 

 「えっ、何で知ってるの!?」

 

 「麻衣先生と翔子先生に教えてもらいましたけど」

 

 「ちょっと待って!?いつの間に名前で呼ぶほど親しくなったの!?」

 

 「・・・色々あったんですよ。色々」

 

 この間の呑み会は二人とも酔い潰れて、結局ウチに泊まっていったもんな・・・

 

 生徒の家で酔い潰れて泊まっていく教師・・・色々ヤバくね?

 

 「それより復学の件ですけど、前もって教えといて下さいよ」

 

 「アハハ、ゴメンゴメン。ビックリさせようと思ってさぁ」

 

 笑っている果南さん。

 

 「天や皆の驚いた顔が見たかったのに、まさか既にネタバレされてたとはねぇ」

 

 「ダイヤさんには言ってあるんですか?」

 

 「うん。っていうか、ダイヤにしか言ってないんだけどね」

 

 「小原理事長にも言ってないんですか?」

 

 「・・・理事長なんだし、言わなくても分かるでしょ」

 

 声のトーンが落ちる果南さん。

 

 「この間、ちょっと顔を合わせる機会があってね。復学について話をしたんだけど、もう知ってたよ。流石は理事長だよね」

 

 すいません、実はその現場にいました・・・とは言わなかった。

 

 その現場にいて会話を聞いた上で、あえてこの質問をしたからな。

 

 「・・・言わなくても分かる、ですか」

 

 「天・・・?」

 

 首を傾げる果南さんに、俺は一言だけ言っておくことにした。

 

 「前にダイヤさんにも言ったんですけど・・・言葉にしなくても分かるだなんて、そんなのはただの甘えですよ」

 

 「っ・・・」

 

 「・・・まぁ部外者である俺が踏み込むのも野暮ですから、これ以上は何も言いませんけどね」

 

 それだけ言い、黙々とご飯を食べ進める俺。

 

 果南さんはしばらく黙っていたが、やがてポツリと呟いた。

 

 「私は・・・間違ってたのかな・・・」

 

 「・・・どうでしょうね」

 

 俺には果南さんを批判する権利は無いし、そもそもこの件に関しては何が正解だったのか明言出来ない。

 

 何故なら・・・

 

 「果南さんの行動は全て・・・小原理事長を想ってのことだったんでしょう?それに対して、俺は『間違いだった』とは言いたくありません」

 

 「っ!?」

 

 息を呑む果南さん。どうやら、俺が知っているとは思わなかったらしい。

 

 「ただ小原理事長も、半端な覚悟で浦の星に戻ってきたわけではないと思います。そんな彼女の気持ちを受け入れるのか、それとも突き放すのか・・・それはもう一度考えてあげて下さい。小原理事長の為にも・・・果南さんの為にも」

 

 俺の言葉に、何も返すことが出来ない果南さんなのだった。




どうも〜、ムッティです。

今回は果南ちゃんのお母さんが出てきましたね。

アニメには登場しなかったので、個人的なイメージで描いてしまった・・・

イメージ的には、ポケモンサンムーンのライチさんみたいな感じですかね。

方角の入った名前って案外難しくて、『西 名前 女の子』でググった結果が西華(さいか)でした。

どうやら、天と果南がくっつくことを期待しているご様子・・・

果たしてどうなるのか・・・

そして果南ちゃんと鞠莉ちゃん、二人の運命やいかに・・・

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

なりふり構っていられない時もある。

映画『HELLO WORLD』を観てから、OKAMOTO'Sの『新世界』とOfficial髭男dismの『イエスタデイ』をメッチャ聴いてます。

もう一度観に行きたいなぁ・・・


 翌日・・・

 

 「えぇっ!?果南ちゃん、今日から復学するの!?」

 

 「みたいですよ」

 

 朝のホームルーム前、俺は二年生の教室のベランダで千歌さん・曜さん・梨子さんと話をしていた。

 

 果南さんの幼馴染である千歌さんと曜さんも、復学については知らされていなかったようだ。

 

 「全然知らなかった・・・何で教えてくれなかったのかな・・・」

 

 「驚いた顔が見たかったんですって」

 

 「そんな理由!?」

 

 曜さんのツッコミ。

 

 まぁある意味、果南さんらしいかもしれないな・・・

 

 「・・・また喧嘩にならないといいけど」

 

 「天くん?」

 

 俺の呟きに首を傾げる梨子さん。

 

 その時、上から何かが降ってきた。

 

 「「「え?」」」

 

 制服だった。浦の星のものではなく、恐らく衣装用の制服だろう。俺達の目の前を、ヒラリヒラリと落ちていく。

 

 俺・千歌さん・梨子さんの声がハモる中、曜さんの目がキラッと光り・・・

 

 「制服ううううううううううっ!」

 

 勢いよく飛びついた。ベランダから身を放り投げる形で。

 

 「「ダメええええええええええっ!?」」

 

 咄嗟に曜さんの足を掴む千歌さんと梨子さん。そのおかげで、曜さんはベランダから落ちずに済んだ。

 

 「何やってんだアンタ!?バカなの!?死にたいの!?」

 

 「・・・あっ」

 

 我に返った曜さん。

 

 危ねぇ、マジで心臓止まるかと思った・・・

 

 「ゴ、ゴメン・・・制服を見たから、つい反射的に・・・」

 

 「どんな病気!?頭冷やせバカ曜!」

 

 最早タメ口で罵倒していたが、気にしている余裕も無かった。

 

 と、千歌さんと梨子さんがプルプル痙攣している。

 

 「ちょ、ヤバい・・・曜ちゃん重い・・・!」

 

 「千歌ちゃん!?その言葉は結構グサッとくるんだけど!?」

 

 「曜さん、体重何キロあるんですか?」

 

 「えーっとね・・・って何言わせようとしてるの!?女の子に体重を聞かないのっ!」

 

 「とりあえず、胸についてる二つの重りを取ったら軽くなるんじゃないですか?」

 

 「あぁ、なるほど・・・って取れないよ!?しかも何気にセクハラ発言だよねぇ!?」

 

 「も、もう無理・・・天くん、手伝って・・・!」

 

 歯を食い縛っている梨子さん。

 

 俺としても手伝いたいのは山々なのだが・・・

 

 「いや、俺はあまり曜さんの方を見ない方が良いかなって」

 

 「え、何で?」

 

 「・・・色々と丸見えなんで」

 

 「っ!?」

 

 そう、千歌さんと梨子さんは曜さんのふくらはぎの辺りを持っている。

 

 逆さ吊り状態になっている曜さんのスカートは必然的に捲りあがり、パンツが丸見えの状態になっているのだ。

 

 しかも上も捲れているので、ブラに包まれた胸まで見えている状況である。

 

 「うわあああああっ!?今の私完全に痴女じゃん!?朝の学校で色々丸出し状態とか、ただの変態じゃん!?」

 

 「女子校で良かったですね。共学だったら男子生徒にも見られてましたよ」

 

 「ここにも男子生徒が一名いるんですけど!?この状況をどう思われます!?」

 

 「御馳走様です」

 

 「嫌ああああああああああっ!?」

 

 悲鳴を上げる曜さん。ジタバタ暴れ始める。

 

 「ちょ、曜ちゃん!?本当にヤバいから!腕が結構限界だから!」

 

 「もうなりふり構ってられないわ!天くん、曜ちゃんのあられもない姿を見ても良いから手伝って!」

 

 「ちょ、梨子ちゃん!?」

 

 「我慢して曜ちゃん!今は羞恥心より、曜ちゃんの安全の方が大事よ!」

 

 「流石は梨子ちゃん!何度も天くんにパンツ見られただけのことはあるね!」

 

 「千歌ちゃん!?後でしばくわよ!?」

 

 「コラコラ、余計な話をしてる場合じゃないでしょう。早く曜さんを助けないと」

 

 「「「誰のせいだと思ってるのっ!」」」

 

 何故か三人から怒られた。解せぬ。

 

 「まぁそういうわけなんで、我慢して下さい曜さん」

 

 「うぅ、背に腹は代えられないのかっ・・・!」

 

 諦めた様子の曜さん。

 

 俺は曜さんを引き上げる為にベランダから身を乗り出し、下着丸見え状態になっている曜さんの両太ももを掴んだ。

 

 「ひゃんっ!?」

 

 「そこの露出狂、変な声出さない」

 

 「誰が露出狂!?っていうか、どこ触ってんの!?」

 

 「千歌さんと梨子さんがふくらはぎ持ってるんですから、太ももを持つしかないでしょう・・・はい、引き上げますよ」

 

 曜さんの身体を少しずつ引き上げていく。

 

 っていうか、太もも柔らかいな・・・膝枕とかしてもらったら気持ち良さそう・・・

 

 「あっ・・・んっ・・・」

 

 「・・・朝の学校でどんな声出してるんですか」

 

 「し、仕方ないでしょ!?天くんが変なところ触るから・・・あんっ」

 

 「ちょ、ホント止めて。何か色々ヤバそうだから」

 

 何とか半分ほど引き上げることに成功したので、今度は曜さんの腰に手を回して思いっきり引き上げる。

 

 ようやく完全に引き上げることに成功したが、曜さんは耳まで真っ赤になってベランダの端っこに座り込んでしまった。

 

 「うぅ、天くんに至近距離で下着を見られた・・・しかも身体をじっくり触られて、辱められた・・・私、もうお嫁にいけない・・・」

 

 「じゃあ一生独身ですね」

 

 「そこは『責任取ります』っていうところじゃないの!?」

 

 「え、俺と結婚したいんですか?」

 

 「っ!天くんのバカっ!」

 

 ぷいっと顔を背ける曜さん。

 

 あれ、昨日も似たようなことがあったような・・・

 

 「し、死ぬかと思った・・・」

 

 「まだ腕がプルプルしてるわ・・・」

 

 その一方で、ゼェゼェ息を切らしている千歌さんと梨子さん。お疲れ様です。

 

 「ところで曜さん、その制服見せてもらっていいですか?」

 

 「あっ、そういえば・・・」

 

 握り締めていた制服に目をやる曜さん。

 

 やはり衣装用の制服・・・ということは、恐らくスクールアイドル用・・・

 

 それが上から落ちてきたということは・・・

 

 「この上って、確か三年生の教室ですよね?」

 

 「そうだよ。でも、何で制服が?」

 

 首を傾げている千歌さん。俺は何となく想像が出来てしまった。

 

 「・・・絶対揉めてるよなぁ」

 

 思わず溜め息をついてしまう。

 

 恐らく小原理事長が復学した果南さんに、再びスクールアイドルの件を持ち出したんだろう。その際に制服を果南さんに見せ、怒った果南さんが制服をベランダから投げ捨てた・・・

 

 うん、こんなところだろうな。

 

 「今頃教室では、喧嘩になってるんだろうなぁ・・・」

 

 「天くん、さっきから何の話をしてるの?」

 

 「まるでダメな女達、略してマダオ達をどうしようかなって」

 

 「ホントに何の話をしてるの!?」

 

 梨子さんのツッコミ。

 

 まぁ、とりあえず様子を見に行ってみるか・・・

 

 「ちょっと三年生の教室に行ってきます。多分騒ぎになってると思うんで」

 

 「よく分かんないけど・・・私も行くよ!」

 

 「私も行くわ。何が起きてるか知りたいし」

 

 「制服を捨てるなんて許せない!抗議しに行くであります!」

 

 「千歌さん、梨子さん、露出狂の曜さん・・・」

 

 「その呼び方やめてくれる!?」

 

 「鮮やかな水色の下着を身につけている曜さん・・・」

 

 「長いっ!っていうか今すぐ忘れてっ!」

 

 「意外と胸が大きい曜さん・・・」

 

 「うわああああああああああっ!?」

 

 顔を真っ赤にして悶絶している曜さん。

 

 さて、この人は放っておいて早く行こうっと。

 

 「鬼だ・・・」

 

 「悪魔ね・・・」

 

 何故かドン引きしている千歌さんと梨子さんなのだった。




どうも〜、ムッティです。

虹ヶ咲のセンターの子可愛くないですか(唐突)

上原歩夢ちゃん、でしたよね?

あのふんわりした柔らかい雰囲気が好き(^^)

あと気になったのは、桜坂しずくちゃんと朝香果林ちゃんですね。

これからは、虹ヶ咲もちゃんとチェックせねば・・・

さてさて、曜ちゃんがあられもない姿を晒したところで・・・

三年生の教室に向かった天は、果たしてどのような行動をとるのか・・・

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

優しさだけでは解決できないこともある。

『未体験Horizon』良い曲すぎません?

何回聴いても飽きないので、ヘビロテして聴いてます。


 「離してっ!離せって言ってるのっ!」

 

 「離さないっ!」

 

 階段で上の階に上がった途端、果南さんと小原理事長の言い争う声が聞こえた。案の定揉めているらしく、教室の前に人だかりができている。

 

 と、教室の前で花丸・ルビィ・善子が中の様子を窺っているのが見えた。

 

 「ちょっと失礼」

 

 「ぐえっ!?」

 

 「あっ、天くん!」

 

 善子の背中に飛び乗り、中の様子を窺う。そこでは・・・

 

 「強情も大概にしておきなさいっ!たった一度の失敗をいつまで引きずってるのっ!」

 

 「うるさいっ!大体、今さらスクールアイドルなんてやるわけないでしょ!?私達もう三年生なんだよ!?」

 

 しがみつく小原理事長を、必死に引き剥がそうとする果南さんの姿があった。

 

 うん、思った以上に揉めてたな・・・

 

 「二人ともお止めなさいっ!皆見てますわよ!?」

 

 「ダイヤも何とか言ってよっ!果南を説得してっ!」

 

 「止めなさいっ!いくら粘っても、果南さんが再びスクールアイドルを始めることはありませんわっ!」

 

 何とか止めようとしているダイヤさん。こういう時、間に挟まれる人って大変なんだよなぁ・・・

 

 亜里姉、いつもゴメンね・・・

 

 「どうして!?あの時の失敗はそんなに引きずること!?千歌っち達だって再スタートを切ろうとしてるのにっ!」

 

 「千歌達とは違うのっ!」

 

 なおも言い合う二人。どうやら、簡単に収まりそうもないらしい。

 

 「どうしよっかなぁ・・・」

 

 「どうしましょうねぇ・・・」

 

 「・・・何してるんですか貴女」

 

 いつの間にか、俺の隣に翔子先生が立っていた。

 

 困ったような表情で、果南さんと小原理事長の喧嘩を見ている。

 

 「騒ぎに気付いて駆けつけたんだけど、どうしたものかと思ってねぇ・・・」

 

 「いや、止めに行って下さいよ。仮にも担任でしょう、仮にも」

 

 「『仮にも』じゃなくて、れっきとした担任なんだけど・・・お姉さん、怖くて足がすくんじゃうわ」

 

 「・・・ハッ」

 

 「鼻で笑われた!?」

 

 「『お姉さん』が聞いて呆れるわ。人の家で酔い潰れた挙句、布団の上で思いっきり吐いt・・・」

 

 「ごめんなさい布団は弁償させていただきますのでどうかお許しを」

 

 即座に土下座を敢行する翔子先生。やれやれ・・・

 

 「ところで天くん・・・そろそろ津島さんの背中から降りてあげたら?津島さん、涙目でプルプルしながら耐えてるわよ?」

 

 「大丈夫です。堕天使ヨハネの辞書に不可能の文字は無いんで」

 

 「どこのナポレオンよ!?ホントにそろそろ限界なんだけど!?」

 

 「そう言いつつも、俺を落とさないように必死で耐えてくれるところホント好き」

 

 「だったら早く降りてよ!?」

 

 「えー、結構乗り心地良いのに」

 

 「降りてくれてら何でも言うこと聞いてあげるから!」

 

 「すぐ降ります」

 

 「素直っ!?」

 

 迅速に善子の背中から降りる。これで良し・・・

 

 「クックックッ・・・これで何でも言うこと聞いてくれるんだよねぇ・・・?」

 

 「うっ・・・エ、エッチなのはダメだからねっ!」

 

 「・・・ハッ」

 

 「腹立つ!コイツ腹立つ!」

 

 地団太を踏む善子。小娘が何を言っているのやら・・・

 

 「さて、善子イジりはさておき・・・そろそろ止めないとマズいですね」

 

 果南さんと小原理事長の喧嘩はヒートアップしており、このままだと殴り合いになりかねない。

 

 なかなか喧嘩を止めない二人に、仲裁しようとしているダイヤさんも苛立っている様子・・・このままだと、ダイヤさんまで参戦してしまいそうだ。

 

 「あー、もうっ!私がガツンと言って止めてくるっ!」

 

 「ステイ」

 

 「ぐえっ!?」

 

 イライラした様子で止めに行こうとする千歌さんを、首根っこを掴んで引き止める。

 

 「ゲホッ・・・ゴホッ・・・な、何するの天くん!?」

 

 「千歌さんが鼓膜が破れそうなほどの大声で、『いい加減にしろおおおおおおおおおおっ!』って叫ぶ未来が見えたんで止めました」

 

 「何で分かったの!?」

 

 「見聞色の覇気を鍛えすぎたせいで、少し先の未来が見えてしまうんですよ」

 

 「どこのカタ●リさん!?」

 

 「まぁ冗談はさておき、そんな力技じゃ二人の喧嘩は止められませんよ。俺が行くんで、千歌さん達はここにいて下さい」

 

 「大丈夫?止められるの?」

 

 「まぁ見てて下さいよ」

 

 千歌さん達にそう告げて教室の中へと入っていくと、周りの皆が俺に視線を向けた。

 

 ダイヤさんも俺が近付いていることに気付く中、果南さんと小原理事長は気付かずに喧嘩を続けている。

 

 「私はスクールアイドルなんてやらないッ!何度言えば分かるのッ!」

 

 「何度だって言ってやるわよッ!一緒にスクールアイドルをやりなさいッ!」

 

 俺は激しく口論する二人の顔の前に、ゆっくりと手を伸ばし・・・

 

 「“檸檬●弾”」

 

 「「ギャアアアアアアアアアアッ!?」」

 

 手に持っていたレモンを握り潰した。レモン汁が目を直撃し、悶える二人。

 

 「目がっ!目があああああっ!?」

 

 「何っ!?何が起きたのっ!?」

 

 転げ回る二人。俺は千歌さん達の方を振り返った。

 

 「ほら、力技を使わずに止められたでしょ?」

 

 「「「「「「「思いっきり力技じゃん!?」」」」」」」

 

 千歌さん・曜さん・梨子さん・花丸・ルビィ・善子・翔子先生から一斉にツッコミを入れられる。

 

 あれ、おかしいな・・・

 

 「・・・相変わらず、天さんの行動は予想外過ぎますわ」

 

 「いやぁ、それほどでも」

 

 「褒めてませんわよ!?」

 

 ダイヤさんのツッコミ。と、ここで俺の両肩に後ろから手が置かれた。

 

 「そ~ら~・・・?」

 

 「何するデース・・・?」

 

 明らかに怒っている果南さんと小原理事長。やれやれ・・・

 

 「別に喧嘩するなとはいいませんけど、外でやってもらえます?教室でやられると、こういうことになるんで」

 

 「「・・・あっ」」

 

 ここで二人が、ようやく周りの人だかりに気付く。

 

 「しかも果南さん、衣装用の制服を外に投げ捨てましたよね?曜さんがお怒りですよ」

 

 「あれ捨てたの果南ちゃんなの!?信じられない!」

 

 「ゴ、ゴメン・・・つい・・・」

 

 「おかげで曜さんは死にそうになるわ、露出に目覚めるわで大変だったんですよ?」

 

 「何があったの!?」

 

 「露出には目覚めてないからっ!誤解を招く発言は止めてくれる!?」

 

 果南さんと曜さんのツッコミはスルーして、俺は小原理事長へと視線を向けた。

 

 「悔いの無いようにとは言いましたけど、やり方が強引過ぎます。ご自分が理事長という立場であることを、もう少し弁えて下さい」

 

 「・・・Sorry.熱くなりすぎたわ」

 

 「果南さんも。いつもの貴女だったら、もう少し冷静に対応出来たでしょう。復学初日から何問題起こしてくれちゃってるんですか」

 

 「・・・ゴメン。ちょっと冷静じゃなかった」

 

 うなだれる小原理事長と果南さん。ようやく頭が冷えたか・・・

 

 「ほらリバース先生、後は貴女が対処して下さい」

 

 「その呼び方止めてくれる!?」

 

 「じゃあゲr・・・」

 

 「すみません本当に勘弁して下さい」

 

 即座に土下座する姿に、最早教師としての威厳は欠片も無かった。全く・・・

 

 「・・・後処理は頼みましたよ。クラスの雰囲気が気まずくならないよう、翔子先生が上手くやって下さいね」

 

 「・・・任せて。ありがとう、天くん」

 

 教室を出て翔子先生とすれ違う際、短く会話を交わす。後のことは、翔子先生に任せておけば大丈夫だろう。

 

 「さて、我々は教室に戻りましょうか」

 

 「あ、うん・・・」

 

 「天さんっ!」

 

 周りの皆がそれぞれ戻っていく中、ダイヤさんが俺を追いかけてきた。

 

 「あの・・・ありがとうございました」

 

 「大したことはしてませんよ」

 

 首を横に振る俺。

 

 「ただあの二人の問題は、そろそろ看過出来なくなってきましたね。首を突っ込むつもりはありませんでしたが・・・止むをえません」

 

 「天さん・・・?」

 

 首を傾げるダイヤさん。俺はダイヤさんに視線を向けた。

 

 「ダイヤさん、今日の放課後なんですけど・・・果南さんと小原理事長を連れて、スクールアイドル部の部室に来て下さい。少しお話ししましょう」

 

 「っ・・・それは・・・」

 

 躊躇うダイヤさん。

 

 そうじゃないかとは思っていたが、やはりダイヤさんは・・・

 

 「・・・果南さんの行動の理由を知ってるんですね」

 

 「っ!?」

 

 息を呑むダイヤさん。図星か・・・

 

 「ど、どうして・・・!?」

 

 「続きは放課後に話しましょう」

 

 くるりと踵を返す俺。

 

 「ダイヤさん、優しいところは貴女の長所だと思いますけど・・・あの二人を仲直りさせたいなら、優しいだけじゃダメですよ」

 

 「っ・・・」

 

 俯くダイヤさん。

 

 俺はそれ以上何も言わず、教室へと戻るのだった。




どうも〜、ムッティです。

今さらですが、『MUSIC FAIR』のAqoursが『未体験HORIZON』を披露した回を見ました。

センターのきんちゃんが良かったのは勿論なのですが・・・

あいきゃんヤバくない?可愛くない?

そして歌もダンスも上手くない?完璧じゃない?

ちょっとハートを撃ち抜かれました(笑)

元々あの優しい歌声が好きだったけど、最初の『さぁどこへ?見渡してみなよ』の部分がもう神だった。

やっぱりあの歌声好きだわぁ・・・

さて、果南ちゃんと鞠莉ちゃんの喧嘩を止めた天・・・

果たして二人を仲直りさせることは出来るのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

素直な気持ちはなかなか口に出せない。

虹ヶ咲の『TOKIMEKI Runners』にハマりました。

メッチャ良い曲。


 「正直に答えて!何か事情があるんでしょ!?」

 

 「だからそんなの無いって!何度も言ってるでしょ!?」

 

 「・・・どうしてこうなった」

 

 目の前で勃発している千歌さんと果南さんの喧嘩を眺めながら、溜め息をつく俺。話し合いをする前に、千歌さん達にも事情を説明したのが裏目に出てしまったようだ。

 

 事情を聞いた千歌さんと曜さんは揃って、『果南ちゃんがたった一度の失敗で諦めるわけが無い』と納得のいかない様子を見せた。そして放課後、スクールアイドル部の部室へとやってきた果南さんを千歌さんが問い詰めたのだ。

 

 その結果がこれである。

 

 「曜さん、貴女の幼馴染は何で二人とも血の気が多いんですか」

 

 「いや、私に言われても・・・」

 

 「もうっ!何で果南ちゃんはそんなに頑固なのっ!」

 

 「千歌に言われたくないよっ!もう私のことは放っておいてっ!」

 

 部室を飛び出していく果南さん。あーあ・・・

 

 「果南ちゃん!?待っt・・・」

 

 「よっ」

 

 「ぐえっ!?」

 

 果南さんを追いかけようとした千歌さんの前に足を出す。

 

 俺の足に引っかかった千歌さんは盛大に転び、勢いよく床に倒れ込んだ。

 

 「ちょ、天くん!?何するの!?」

 

 「アンタが何してくれてるんですか。冷静に話し合おうと思ったのに、これじゃ全部パーでしょうが」

 

 「だってだって!果南ちゃんが意地っ張りなんだもん!」

 

 「アンタも大概だわ」

 

 俺が呆れていると、小原理事長が溜め息をついた。

 

 「・・・本当に果南はもう、スクールアイドルをやらないつもりなのね」

 

 「だから言ったでしょう」

 

 厳しい表情のダイヤさん。

 

 「いくら粘ったところで、果南さんが再びスクールアイドルを始めることは無いと」

 

 そこまで言うと、ダイヤさんは俯いてしまった。

 

 「・・・もう諦めましょう、鞠莉さん。失った時間は戻ってこないのですから」

 

 「ダイヤ・・・」

 

 今にも泣き出しそうな小原理事長。この表情・・・

 

 

 

 

 

 『うぅ、天ぁ・・・』

 

 『泣かないでよ鞠莉ちゃん・・・』

 

 『だってぇ・・・』

 

 『もう・・・じゃあどうしても助けてほしくなったら、俺を呼んでよ。俺が鞠莉ちゃんを助けに行くから』

 

 『ぐすっ・・・ホント?』

 

 『うん、約束するから。ねっ?』

 

 『っ・・・天ぁっ!』

 

 『うわっ!?もう、鞠莉ちゃんの方がお姉ちゃんでしょ?』

 

 『絵里と亜里沙だって、天に抱きついてるじゃない!』

 

 『あぁ、まぁあの二人はねぇ・・・』

 

 『マリーも天とギューしたいのっ!ダメ?』

 

 『・・・しょうがないなぁ』

 

 『えへへ♪やったぁ♪』

 

 

 

 

 

 「・・・何で思い出すのかなぁ」

 

 「天くん?」

 

 首を傾げるルビィ。俺は頭を軽く振ると、ダイヤさんに視線を向けた。

 

 「・・・ダイヤさん、いつまで真実を隠し続けるつもりですか?」

 

 「天さん・・・」

 

 「果南さんは歌えなかったんじゃない・・・あえて歌わなかったんでしょう?」

 

 「っ!?」

 

 俺のその言葉に、ダイヤさんが驚愕の表情を浮かべる。

 

 「な、何故それを!?」

 

 「・・・正解ですか」

 

 やっぱりな・・・

 

 と、小原理事長が慌てて間に入ってくる。

 

 「ちょ、ちょっと待って!?一体どういうこと!?歌えなかったんじゃなくて、あえて歌わなかった!?」

 

 「えぇ、そうですよ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「そもそもおかしいと思ったんですよ。果南さんは、ハードルが高ければ高いほど燃えるタイプの人間です。そんな人が、周りのレベルの高さを知って萎縮してしまうはずがありません。ましてや一人ではなく、ダイヤさんと小原理事長が一緒だったんですよ?ステージ上で歌えなくなるわけないじゃないですか」

 

 「じゃ、じゃあっ!何で歌わなかったのっ!?」

 

 「言ったでしょう?『あえて』と」

 

 千歌さんの問いに答えるべく、俺は小原理事長へと視線を移した。

 

 「小原理事長・・・二年前の東京でのイベントの際、貴女は足を痛めていたそうですね」

 

 「っ!?何で知ってるの!?」

 

 「μ'sの矢澤にこちゃん、知ってますよね?彼女はスクールアイドルが大好きで、μ'sが解散した後もスクールアイドルを追いかけ続けてたんですよ。二年前の東京でのイベントも、しっかりチェックしてたようです」

 

 にこちゃんとの電話を思い出す俺。

 

 

 

 

 

 『にこちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ・・・今回Aqoursが参加したイベント、二年前にも行ってたりする?』

 

 『あぁ、東京スクールアイドルワールドでしょ?毎年行ってるわよ』

 

 『その時のことって覚えてる?例えば・・・Aqoursっていう名前のスクールアイドルがいた、とか』

 

 『えーっと、ちょっと待って・・・あった、二年前のイベントのパンフレット。Aqoursは・・・あっ、この子達!』

 

 『覚えてるの?』

 

 『覚えてるわよ!ステージに立ったのに歌わなかったんだもの!三人とも凄く可愛かったのに・・・勿体無いわよねぇ』

 

 『その時、何か気になったこととか無かった?』

 

 『・・・そういえばステージから袖にはける時、金髪の子がちょっと足を引きずってたわね。あれは多分、足を痛めてたんじゃないかしら』

 

 『足を・・・?』

 

 『あと、センターの青髪の子だけど・・・ちょっと表情が気になったわね』

 

 『表情?』

 

 『上手く言えないんだけど、何かこう・・・覚悟を決めた、みたいな?』

 

 『・・・緊張した様子だった、とかは?』

 

 『見た感じ、全然そんなこと無さそうだったわ。終始険しい表情ではあったけど、緊張してるっていう感じでは無かったわね』

 

 『・・・覚悟を決めた、か』

 

 

 

 

 

 「二年前、貴女はイベントの前に足を痛めていた。貴女の性格を考えると、無理してステージに上がろうとしたんでしょう?だから果南さんは、貴女に無理をさせない為にあえて歌わなかったんですよ」

 

 「果南が・・・私の為に・・・?」

 

 信じられないといった表情の小原理事長。

 

 「でも、だったら・・・何でスクールアイドルをやめようだなんて・・・」

 

 「それも貴女の為ですよ」

 

 説明する俺。

 

 「スクールアイドルをやっていた頃から、貴女には留学の話があったんでしょう?でも貴女は、それを断り続けた。『自分はスクールアイドルだから』と言って」

 

 「っ!?どうしてそれを!?」

 

 「翔子先生から聞きました。それを知った果南さんは、スクールアイドル活動より貴女の将来のことを考えたんでしょうね。だからこそスクールアイドル活動を終わらせ、貴女を自由にしようとしたんだと思います」

 

 「そんな・・・」

 

 息を呑む小原理事長。俺は再びダイヤさんへと視線を移した。

 

 「とまぁ、これが俺の推測なんですが・・・違いますか?ダイヤさん?」

 

 「・・・天さんには敵いませんわね」

 

 大きく溜め息をつくダイヤさん。

 

 「仰る通りですわ。果南さんが歌わなかった理由も、スクールアイドルをやめた理由も・・・天さんの推測通りです」

 

 「っ・・・!」

 

 小原理事長が部室を飛び出そうとするが、その前にダイヤさんが立ち塞がった。

 

 「どこへ行くつもりですの?」

 

 「ぶん殴るッ!そんなこと、一言も相談せずに・・・!」

 

 「お止めなさい。果南さんはずっと貴女のことを見てきたのですよ」

 

 小原理事長を諭すダイヤさん。

 

 「果南さんは、誰よりも貴女のことを大切に想っているのです」

 

 「っ・・・」

 

 小原理事長の目から、涙が溢れ出す。

 

 「果南っ・・・」

 

 泣き崩れる小原理事長。

 

 皆が沈痛な面持ちで小原理事長を見つめる中・・・俺は小原理事長の前に立った。

 

 「・・・立って下さい。小原理事長」

 

 「天・・・?」

 

 「果南さんをぶん殴るんでしょう?だったら泣いてる場合じゃありませんよ」

 

 「ちょ、天さん!?」

 

 慌てるダイヤさん。

 

 「何を仰っているのですか!?」

 

 「果南さんが小原理事長を大切に想っていることは、よく分かりました。ですが、果南さんのとった行動が正しかったかどうかは別問題です」

 

 淡々と答える俺。

 

 「部外者である俺には、正しかったかどうかを決める権利はありません。ですが当事者である小原理事長は、果南さんの行動に対して怒りを覚えています。つまり小原理事長にとって、果南さんの行動は正しくなかったということ・・・ステージをパーにされた上にスクールアイドルをやめさせられたわけですから、殴る権利くらいあると思いますけど」

 

 「それはそうかもしれませんが・・・!」

 

 「っていうか、もうまどろっこしいです。殴り合いの喧嘩で決着つけましょう」

 

 「それが本音ですか!?」

 

 「分かりやすくて良いじゃないですか。立っていた者こそ勝者なんですから」

 

 「ボクシングじゃありませんわよ!?」

 

 「天って、割と過激な思考してるわよね・・・」

 

 「ちょっと恐ろしいずら・・・」

 

 善子と花丸がヒソヒソ話している。失敬な、これでも平和主義者なのに。

 

 「まぁ冗談はさておき・・・本音をぶつけ合わないと解決出来そうにないですから、いい加減腹割って話し合いましょうよ」

 

 俺はしゃがみ、小原理事長と目線を合わせた。

 

 「貴女も果南さんも、自分の主張をぶつけ合っているようには見えますけど・・・全ての本音を曝け出してないじゃないですか」

 

 「全ての本音・・・」

 

 「果南さんは小原理事長が大切だということや、スクールアイドルをやめた本当の理由を語ろうとしないし・・・貴女だって、留学を断った本当の理由を隠したままでしょう?」

 

 「っ!?」

 

 息を呑む小原理事長。

 

 「ど、どうして・・・!?」

 

 「さぁ、どうしてでしょうね」

 

 俺は小原理事長の頭にポンッと手を置いた。

 

 「いい加減、お互い素直になりましょうよ。そうじゃなきゃ、貴女達はずっとすれ違ったままになってしまう・・・それで良いんですか?」

 

 「・・・そんなの嫌」

 

 俯く小原理事長。

 

 「私は・・・果南と仲直りがしたい・・・!」

 

 「鞠莉さん・・・」

 

 涙を浮かべているダイヤさん。俺は小原理事長の頭を撫でた。

 

 「全く・・・最初からそう言えば良かったのに」

 

 「天・・・」

 

 「・・・まぁ、約束ですから。ちゃんと果たしますよ」

 

 立ち上がる俺。

 

 「果南さんを連れてきます。待ってて下さい」

 

 それだけ言い残し、俺は部室を出た。

 

 さて、果南さんを探すとしますか・・・

 

 「・・・本当にお人好しですね」

 

 聞き慣れた声がする。

 

 「貴方は昔から、本当に変わりませんね・・・天」

 

 「盗み聞きなんて趣味が悪いよ・・・海未ちゃん」

 

 険しい表情の海未ちゃんが、部室の外に立っていた。恐らく、先程までの会話は全て聞かれていたんだろう。

 

 と、海未ちゃんが溜め息をついた。

 

 「・・・松浦さんでしたら、屋上の方に走っていきましたよ」

 

 「あれ?止めないの?」

 

 「・・・私が止めないことなんて、分かっていたでしょう」

 

 呆れている海未ちゃん。

 

 「あんな話を聞いた後で天を止めるほど、私も薄情ではないつもりですよ」

 

 「・・・五年前の穂乃果ちゃんとことりちゃんを重ねた?」

 

 「・・・本当に人が悪いですね」

 

 「ゴメンゴメン。俺もそうだったから」

 

 苦笑しながら謝る俺。

 

 「あの時は穂乃果ちゃんが素直な気持ちをぶつけたから、ことりちゃんも音ノ木坂に残ってμ'sを続ける道を選んでくれたけど・・・もし穂乃果ちゃんが自分の気持ちを押し殺したままだったら、果南さんと小原理事長みたいになってたかもしれないね」

 

 「ですね。間に挟まれたダイヤの気持ちが、私にはよく分かります」

 

 「当時の海未ちゃんは、ダイヤさんと似たような立ち位置だったもんねぇ・・・」

 

 当時のことをしみじみと振り返る俺達。

 

 「それで?天は三年生三人を、Aqoursに入れようとしているのですか?」

 

 「まぁね。あの三人が入ってくれたら、きっとAqoursは今よりもっと良いグループになれる・・・俺の勘がそう言ってる」

 

 「希ですか貴方は」

 

 「それに・・・」

 

 海未ちゃんのツッコミをスルーし、俺は部室の方へと視線を向けた。

 

 「あの三人が入ってくれたら・・・もう俺は必要無いでしょ」

 

 「っ・・・天、貴方まさか・・・」

 

 「はいそれ以上言わない」

 

 「むぐっ!?」

 

 俺は海未ちゃんの口を塞いだ。

 

 「・・・果南さんのところに行ってくる。居場所を教えてくれてありがとね」

 

 俺はそう言うと海未ちゃんから離れ、屋上へと向かうのだった。




どうも〜、ムッティです。

最近虹ヶ咲にハマってます。ヤバいです。

『TOKIMEKI Runners』のMVが見たくて、CD買っちゃいましたもん。

センターの歩夢ちゃんは勿論のこと、しずくちゃんメチャクチャ可愛くないですか?

あと、果林ちゃんがエロい。

MV見たら、せつ菜ちゃんと彼方ちゃんも気になっちゃうし・・・

恐るべし虹ヶ咲・・・



さてさて、やっと鞠莉ちゃんが真相を知りましたね。

そして天は鞠莉ちゃんとの約束を思い出し、力になることを決意。

果たして天は、果南ちゃんとどのような話をするのか?

そして『もう俺は必要ないでしょ』という発言の真意は?

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去は変えられなくても未来は変えられる。

『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』アニメ化してほしいなー。


 屋上へ上ると、果南さんが仰向けに寝転んで空を見ていた。

 

 あれ、前に俺もここであんなことやってた気がする・・・

 

 「・・・落ち着きましたか?」

 

 「・・・うん」

 

 空を見上げたまま返事をする果南さん。

 

 「・・・ゴメン。今日は天に迷惑かけてばっかりだね」

 

 「いえ、千歌さんについては俺のせいでもあるので・・・すみません」

 

 「良いの。元はと言えば私が悪いんだから」

 

 溜め息をつく果南さん。

 

 「・・・天はさ、知ってるんでしょ?私が何で歌わなかったのかも、何でスクールアイドルをやめたのかも」

 

 「あくまでも推測でしたけどね。さっきダイヤさんからお墨付きをいただきました」

 

 「アハハ、そっか」

 

 小さく笑う果南さん。

 

 「昨日の夕飯の時、そうじゃないかとは思ったけど・・・やっぱりか。ホント、天には敵わないね」

 

 「・・・小原理事長の足の怪我は、そんなに酷かったんですか?」

 

 「うん、本番直前も凄く痛そうにしててさ・・・本人は『大丈夫』って言ってたけど、あのままパフォーマンスしてたら事故になってたかもしれない」

 

 果南さんの表情が曇る。

 

 「ダンスの振り付けとかフォーメーションは、私が担当してたんだ。それで東京でのイベント用に、結構難易度の高いやつを考えてて・・・それを練習し続けた結果、鞠莉は足を痛めちゃったの」

 

 「・・・そうだったんですね」

 

 恐らく果南さんは、小原理事長が怪我をしてしまったのは自分のせいだと思ったんだろう。

 

 だからこそ小原理事長の身を案じて、『歌わない』という決断をしたんだろうな・・・

 

 「鞠莉は元々、スクールアイドルには乗り気じゃなくてね・・・そんな鞠莉を強引に引き込んだ挙句、怪我までさせちゃって・・・自分が凄く嫌になった」

 

 果南さんの声のトーンが落ちる。

 

 「そんな時、鞠莉と翔子先生が話してるのを聞いちゃったの。翔子先生は鞠莉に留学の話をしてたんだけど、鞠莉は断っててさ・・・『自分はスクールアイドルだから』って。笑っちゃうよね。最初は全然乗り気じゃなかったくせに」

 

 言葉とは裏腹に、果南さんの顔に笑みは浮かんでいなかった。

 

 「その時に思ったの。『私は鞠莉の足を引っ張ってるんだ』って。強引にスクールアイドルをやらせた上に怪我させて、挙句の果てに留学の話まで断らせて・・・私は鞠莉から、未来の色々な可能性を奪ってたんだよ」

 

 「果南さん・・・」

 

 「だからスクールアイドルをやめて、Aqoursを解散させた。ダイヤにも事情を説明して、協力してもらって・・・ダイヤにまで辛い思いさせちゃって、最低だよね私」

 

 自嘲気味に笑う果南さん。

 

 「その後鞠莉は留学することになって、ホッとしてたのに・・・帰ってきちゃってさ。何で帰って来たんだかっ・・・」

 

 果南さんの目に涙が浮かぶ。

 

 「またスクールアイドルをやろうなんて・・・そんなこと出来るわけないじゃん・・・だって、そんなことしたらっ・・・」

 

 「・・・二年前の繰り返しになる、ですか?」

 

 「っ・・・」

 

 腕で目を覆う果南さん。

 

 流れた涙が、屋上の石床に落ちて染みをつくる。

 

 「もう嫌なの・・・私のせいで鞠莉が傷つくところを見たくない・・・足を引っ張りたくない・・・!」

 

 果南さんの悲痛な叫びが屋上に響く。

 

 果南さんの中にも、もう一度スクールアイドルをやりたい気持ちはあるんだろう。でも小原理事長のことを大切に想うあまり、その気持ちに蓋をして小原理事長を遠ざけようとしている。

 

 ホント、不器用な人だよな・・・

 

 「・・・昔々、あるところに一人の女の子がいました」

 

 ポツリポツリと語り始める俺。

 

 「ある時女の子の通う学校が、生徒不足により統廃合の危機に陥ってしまいました。女の子は幼馴染の二人、そして知り合いの男の子一人と学校を救うべく動き出しました」

 

 「天・・・?」

 

 不思議そうに話を聞いている果南さん。

 

 「女の子は決断したのです。学校の知名度を上げ、入学希望者を増やす為には・・・スクールアイドルしか無いと」

 

 なおも語り続ける俺。

 

 「彼女達はひたむきに活動を続け、徐々に仲間が増え・・・遂に揃ったのです。ギリシア神話の文芸の女神『ミューズ』の名にふさわしい、九人の少女達が」

 

 「っ!?それって・・・」

 

 息を呑む果南さん。俺は話を続けた。

 

 「しかしある時・・・女の子はラブライブを目指すことに熱中しすぎるあまり、周りが見えなくなってしまいました。実は幼馴染の一人に、留学の話が持ち上がっていたのです。女の子がそれを知ったのは、既に留学の話が決まった後のことでした」

 

 「っ・・・」

 

 「女の子は幼馴染に対して怒りました。『どうして言ってくれなかったのか』と。幼馴染は泣きながらこう言い返しました。『本当は一番に話したかった』と。周りが見えなくなるほど熱中している女の子に、幼馴染は気を遣ってしまい話を打ち明けられなかったのです」

 

 黙って話を聞く果南さん。恐らく、自分と小原理事長の姿を重ねているんだろう。

 

 「自分はどうすべきなのか、女の子は悩みました。そして留学に出発する日・・・女の子は飛行機に乗ろうとする幼馴染を抱き締め、自分の偽りの無い本音をぶつけました。『私は貴女とスクールアイドルがやりたい』と。幼馴染は泣きながら頷き、留学をやめスクールアイドルを続ける道を選びました。実は幼馴染も、本当はそれを望んでいたのです。こうして二人は仲間達の下に戻り、笑顔でスクールアイドルを続けるのでした・・・」

 

 語り終えた俺は、深く息を吐いた。

 

 「これが第二回ラブライブで優勝したアイドルグループ、μ'sのリーダー・・・高坂穂乃果ちゃんと、その幼馴染・・・南ことりちゃんの間にあった出来事です。もし穂乃果ちゃんが、自分の本当の気持ちをことりちゃんにぶつけなかったら・・・ことりちゃんは自分の気持ちを押し殺したまま留学したでしょうし、今のμ'sは無かったでしょうね」

 

 「・・・何か、凄い話を聞いちゃったんだけど」

 

 「果南さんだから話したんですよ。他の皆にはオフレコでお願いします」

 

 苦笑する俺。

 

 「この話に、果南さんと小原理事長を当てはめるなら・・・果南さんがことりちゃんで、小原理事長が穂乃果ちゃんってところですか」

 

 「えっ・・・逆じゃないの?」

 

 「いえ、逆じゃないです」

 

 首を横に振る俺。

 

 「ことりちゃんは穂乃果ちゃんを大切に想っていたからこそ、留学の話を切り出せなかった。そして果南さんも、小原理事長を大切に想っていたからこそ本当のことを言えなかったわけでしょう?ことりちゃんと果南さんの違いは、自分の気持ちに素直になったかなってないかですよ」

 

 「・・・悪かったね。素直じゃなくて」

 

 「一方穂乃果ちゃんは自分の気持ちをぶつけ、小原理事長も自分の意思は果南さんに伝えています。穂乃果ちゃんと小原理事長の違いは・・・タイミングですね」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「小原理事長も、二年前の段階で素直になるべきでしたね・・・だから果南さんに誤解されたまま、留学へ行くことになってしまったわけですから」

 

 「誤解・・・?」

 

 「さっき果南さんが言ってたじゃないですか。小原理事長が留学の話を断る際、『自分はスクールアイドルだから』と言ってたって」

 

 「・・・それの何が誤解なの?」

 

 「翔子先生が言ってたんです。東京でのイベントの後、留学の話を持ちかけた時・・・最初は『自分はスクールアイドルだから』と言っていた小原理事長が、『親友のことが心配だから』とも口にしていたって」

 

 「っ!?」

 

 息を呑む果南さん。

 

 「それって・・・まさか・・・」

 

 「小原理事長は、本気で果南さんが『歌えなかった』と思っていました。そんな果南さんのことを放っておけるほど、彼女にとって貴女の存在は小さくないですよ」

 

 苦笑する俺。

 

 「小原理事長は、果南さんのことを心配していたんですよ。自分がスクールアイドルだからとか、そういうんじゃなくて・・・ただ単純に、貴女を置いて留学に行きたくなかったんでしょう」

 

 「そんな・・・」

 

 「東京でのイベントの前にも、留学の話を断っていたそうですけど・・・それも多分、果南さんやダイヤさんと離れたくなかっただけ。言い方は悪いですけど、最初はスクールアイドルのことだってどうでもよかったんだと思います。果南さんやダイヤさんと、一緒の時間が過ごせたら・・・あの人にとっては、それで良かったんでしょうね」

 

 果南さんの目に涙が溜まっていく。

 

 「だったら・・・だったらどうして・・・」

 

 「言ってくれなかったのか、ですか?それは果南さんも同じでしょう」

 

 「っ・・・」

 

 「二年前、貴女達はすれ違ってしまったんですよ。お互いを大切に想うあまり、本当の気持ちを言えなかった・・・その結果が今です」

 

 「鞠莉っ・・・」

 

 泣きじゃくる果南さん。やれやれ・・・

 

 「・・・立って下さい、果南さん」

 

 小原理事長に言ったのと、同じ言葉を果南さんにもかける。

 

 「確かに二年前、貴女達はすれ違ってしまいました。過去の行動を変えることは出来ませんけど・・・これからの行動を変えることは出来るんですから」

 

 「ぐすっ・・・変える・・・?」

 

 「えぇ。今度こそ果南さんの本当の気持ちを、小原理事長にぶつけるんです。同じように小原理事長も、本当の気持ちを果南さんにぶつけてくるでしょう。ひょっとしたら、また喧嘩になるかもしれません」

 

 果南さんに向かって手を差し出す。

 

 「それでも・・・貴女達はそこから始めるべきだと思います。ちゃんと言葉にして、自分の気持ちを伝えて下さい。昨日も言いましたけど、言葉にしなくても分かるというのはただの甘えですよ」

 

 「天・・・」

 

 「果南さんはこのままで良いんですか?このまま小原理事長と仲直り出来ず、浦の星を卒業することになってしまって・・・後悔しませんか?」

 

 「・・・嫌だ」

 

 首を横に振る果南さん。

 

 「そうなったら私・・・絶対後悔する」

 

 「果南さん・・・」

 

 「私は・・・鞠莉と仲直りしたい」

 

 そう言って顔を上げた果南さんは、覚悟を決めた表情をしていた。

 

 全く・・・

 

 「ほら、早く立って下さい」

 

 「分かってるよ」

 

 俺の手を掴む果南さん。俺は勢いよく果南さんを引っ張り上げた。

 

 「小原理事長、果南さんのこと『ぶん殴る』って言ってましたよ」

 

 「うげっ・・・マジかぁ・・・」

 

 「甘んじて受け入れて下さい。そして殴り返して下さい」

 

 「まさかの殴り合いをオススメ!?」

 

 「それぐらいの気持ちで行けってことですよ」

 

 俺は小さく笑うと、両手を広げた。

 

 「・・・ほら、頑張れのハグ」

 

 「っ・・・!」

 

 俺の胸に飛び込んでくる果南さん。

 

 「・・・ありがとう、天」

 

 「・・・ちゃんと仲直りして下さいね」

 

 「うんっ」

 

 笑って頷く果南さん。

 

 「小原理事長は、まだ部室にいます。行ってあげて下さい」

 

 「天は行かないの?」

 

 「お互いの気持ちをぶつけ合うのに、俺は邪魔でしょう。ちゃんと二人で話し合って来て下さい」

 

 「・・・うん。分かった」

 

 俺から離れる果南さん。

 

 「じゃあ、行ってくるね!」

 

 「行ってらっしゃい」

 

 笑顔で部室へと向かう果南さんを、手を振って見送る。

 

 今の果南さんと小原理事長なら、きっと大丈夫だろう。お互いに本音をぶつけ合って、ちゃんと仲直り出来るはずだ。

 

 「・・・ふぅ」

 

 俺は息を吐くと、屋上からの景色を眺めた。

 

 やっぱり良いところだよなぁ・・・

 

 「良い景色ですね」

 

 背後から海未ちゃんの声がする。

 

 「内浦は本当に良いところだと、私も思います」

 

 「全く・・・果南さんとの会話も聞いてたの?」

 

 「すみません。心配だったもので」

 

 ちょっと申し訳なさそうな海未ちゃん。やれやれ・・・

 

 「・・・これで果南さんと小原理事長は仲直り出来る。ダイヤさんも含め、三人はまたスクールアイドルを始める。きっとAqoursに入ってくれると思うよ」

 

 あの三人には、スクールアイドルとしての経験や知識がある。きっと千歌さん達の力になってくれるだろう。

 

 「これで九人・・・μ'sと一緒だね」

 

 「違いますよ」

 

 首を横に振る海未ちゃん。

 

 「μ'sは十人です・・・貴方を含めて」

 

 「・・・ありがと」

 

 小さく笑う俺。そんな俺を、海未ちゃんが心配そうに見つめていた。

 

 「・・・本気ですか?」

 

 「・・・まぁね」

 

 何が、とは聞かなかった。

 

 さっきの会話で、俺がどうするつもりなのか・・・長い付き合いの海未ちゃんなら、絶対に分かっているはずだから。

 

 「どうして・・・」

 

 「・・・今、海未ちゃんが言ったことが全てだよ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「μ'sは十人、Aqoursは九人・・・海未ちゃんなら、分からないはずないよね?」

 

 「天・・・」

 

 「マネージャーとして、最低限の責務は果たしたつもりだよ。もう俺に出来ることは無い・・・いや、俺にしか出来ないことは無い。後は皆でやっていけるだろうから」

 

 俺はそう言うと、海未ちゃんへと視線を向け・・・力なく笑うのだった。

 

 「俺は・・・Aqoursのマネージャーを辞める」




どうも〜、ムッティです。

『TOKIMEKI Runners』を聴きまくり、MVを何度も見返す今日この頃です。

そんな中、一つ気になることが・・・

天王寺璃奈ちゃん、何で顔隠してるん?(今さら)

メッチャ目立ちますよねアレ。

とりあえず、早く虹ヶ咲をアニメ化してほしい(切実)



さて、ようやく果南ちゃんも自分の気持ちに素直になりました。

やっと果南ちゃんと鞠莉ちゃんが仲直り出来そう・・・

というところで、天から驚きの発言が・・・

果たしてどうなってしまうのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雨降って地固まる。

少しずつ気温も下がって、段々と過ごしやすくなってきた感じがする・・・

忌々しい夏よ、さらば。


 《鞠莉視点》

 

 「・・・ふぅ」

 

 天井を見上げ、深く息を吐く私。私はスクールアイドル部の部室で、ダイヤと二人で果南が来るのを待っていた。

 

 千歌っち達が気を遣ってくれて、ここを私達だけにしてくれたのだ。本当に良い後輩に恵まれたと思う。

 

 「果南さんは・・・来るでしょうか?」

 

 「来る」

 

 ダイヤの問いに、ハッキリと答える私。

 

 「私は天を信じるわ」

 

 頭の中に、先ほどの天の優しげな顔が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 『・・・最初からそう言えば良かったのに』

 

 

 

 

 

 本当にその通りだ。最初から天に事情を説明して協力をお願いしていたら、きっと天は力を貸してくれただろう。

 

 何せ自分を脅した、こんな最低な女の為に動いてくれる優しい人なのだから。

 

 「・・・謝らないとね」

 

 果南と仲直りすることが出来たら、ちゃんと天に謝ろう。

 

 『酷いことをしてごめんなさい』って。『また昔みたいに仲良くしてほしい』って。

 

 都合の良いことを言っている自覚はあるけど、それでも・・・私は天と一緒にいたいから。

 

 そんなことを考えていた時だった。

 

 「っ・・・」

 

 部室のドアが開き、果南が入ってきた。覚悟を決めた表情をしている。

 

 「鞠莉・・・ダイヤもいたんだね」

 

 「果南・・・」

 

 「果南さん・・・」

 

 空気が張り詰める。緊張してしまい、なかなか口を開くことが出来ない。

 

 そんな中、一つ深呼吸をした果南は・・・私達に対して頭を下げた。

 

 「・・・ゴメン」

 

 「え・・・?」

 

 「果南・・・さん・・・?」

 

 呆気にとられてしまう私とダイヤ。

 

 あの果南が、私達に対して頭を下げて謝っている。

 

 「・・・私が悪かった」

 

 ゆっくりと頭を上げた果南は、ポツリポツリと語り始めた。

 

 「もう聞いたと思うけど・・・二年前、私は『歌えなかった』んじゃなくて『歌わなかった』の。鞠莉の足の怪我が悪化しないように、パフォーマンス中にアクシデントが起きないように・・・『歌わない』ことを選んだ」

 

 「果南・・・」

 

 「東京から帰ってきた後、鞠莉が翔子先生と留学の話をしてるのを聞いちゃったの。『自分はスクールアイドルだから』って断る鞠莉を見て・・・申し訳なくなっちゃって」

 

 俯く果南。

 

 「鞠莉は元々、スクールアイドルに興味無かったでしょ?それを私が強引に引き込んでさ・・・怪我させた上に留学まで断らせて、自分が本当に嫌になった。私は鞠莉から、未来の色々な可能性を奪ってるんだって」

 

 「そんなこと・・・」

 

 「だからダイヤに事情を話して、スクールアイドルをやめることにした。Aqoursを解散して、鞠莉を自由にしてあげないといけないって。あの時は、それが正しいんだって信じてた。でも・・・」

 

 果南の目に涙が溜まっていく。

 

 「私は・・・間違ってた。『鞠莉の為』だなんて言いながら、その鞠莉と何も話さずに勝手に動いて・・・結果として鞠莉を傷つけてた。鞠莉の為を思うなら、ちゃんと話をすべきだったのに・・・」

 

 「っ・・・」

 

 私も込み上げてくるものがあった。泣くまいと必死に堪える。

 

 「・・・天から聞いた。鞠莉は私が本当に『歌えなかった』と思って、凄く心配してくれてたんでしょ?それで留学の話を断ろうとしてたんだよね?」

 

 「・・・天の鋭さには敵わないわね」

 

 分かっているんだろうとは思っていたけど・・・本当に脱帽だわ。

 

 「私がちゃんと言葉にしてたら・・・」

 

 「Stop」

 

 なおも反省の言葉を続けようとする果南の口を、手で優しく塞いだ。

 

 「それは私も同じよ。二年前、自分の素直な気持ちを言葉にして伝えていたら・・・こんなことにはなっていなかったでしょうね」

 

 「鞠莉・・・」

 

 「・・・謝るのは私の方よ、果南。貴女に辛い思いをさせて、気を遣わせてしまったのは私のせい。だから・・・ごめんなさい」

 

 果南に対して頭を下げる。

 

 果南は驚いたような表情を見せた後・・・小さく笑った。

 

 「フフッ・・・あの鞠莉が頭を下げるなんてね」

 

 「それは果南も同じでしょう?私だってビックリしたわよ」

 

 「私達、お互いに頭を下げて謝ることなんてなかったもんね」

 

 「フフッ、確かに」

 

 私も笑みを浮かべる。と・・・

 

 「じゃあ、仲直りの証として・・・」

 

 両腕を広げる果南。

 

 「ハグ、しよ・・・?」

 

 笑っている果南。その目には・・・涙が滲んでいた。

 

 「っ・・・!」

 

 限界だった。

 

 勢いよく果南の胸に飛び込んだ私は、堪えきれずに声を上げて泣いた。私を受け止めてくれた果南も、子供のように泣きじゃくっている。

 

 二年の時を経て、ようやく・・・ようやく私達は、仲直りすることが出来たのだ。

 

 「・・・全く」

 

 抱き合いながら号泣する私達を、包み込むように抱き締めてくれるダイヤ。

 

 「お二人とも、子供みたいですわよ」

 

 「・・・そういうダイヤだって泣いてるじゃない」

 

 「・・・これは汗ですわ」

 

 苦しい言い訳だった。明らかに目が真っ赤になっている。

 

 「・・・ダイヤ、ゴメン」

 

 ダイヤにも謝る果南。

 

 「私のせいで、ダイヤにも辛い思いを・・・」

 

 「・・・ブッブー、ですわ」

 

 果南の口を塞ぐダイヤ。

 

 「私も果南さんに協力した身・・・いわば共犯ですわ。ですから、果南さんが謝ることなど無いのです」

 

 「ダイヤ・・・」

 

 「・・・ゴメンなさい、鞠莉さん。私も貴女に謝らなければいけませんわね」

 

 「・・・もう良いのよ、ダイヤ」

 

 首を横に振る私。

 

 「私の方こそゴメンなさい・・・ダイヤの気持ちも知らないで、苦しめるようなことばかりして・・・」

 

 「・・・良いのです」

 

 ダイヤの身体が震えている。

 

 「もう、良いのです・・・お二人が仲直りして下さっただけで・・・私は・・・私は、本当に嬉しいのですから・・・!」

 

 「ダイヤっ・・・」

 

 「っ・・・!」

 

 とめどなく涙が溢れてくる。私も果南もダイヤも、再び声を上げて泣き始めた。

 

 流した涙が、これまでのわだかまりを溶かしてくれるようだった。

 

 「・・・鞠莉、涙で顔がグチャグチャだよ?」

 

 「果南もでしょ。人のこと言えないじゃない」

 

 「おやめなさい。二人とも同じくらい酷い顔ですわよ」

 

 「いや、一番酷い顔してるのダイヤだから」

 

 「確かに」

 

 「ぴぎゃっ!?」

 

 思いっきり泣いて、少しだけスッキリした後・・・お互いのグチャグチャになった顔を見て、私達は笑い合った。

 

 こんなに泣いたのは、いつ以来かしら・・・

 

 「・・・またスクールアイドルやりましょ。失敗したままじゃ終われないもの」

 

 「・・・しょうがないなぁ。リベンジに付き合ってあげるよ」

 

 「そもそも果南さんが歌わなかったから失敗した件について」

 

 「ちょ、ダイヤ!?それを言っちゃう!?」

 

 「仕方ないので私もやりますわ。今こそ果南さんの敵討ちを果たしましょう」

 

 「勝手に殺さないでくれる!?私死んでないんだけど!?」

 

 「フフッ、決まりね♪」

 

 こうして私達は、新たな一歩を踏み出すのだった。




どうも〜、ムッティです。

季節が秋に移り変わりつつある中、早くも食欲が止まりません(笑)

『食欲の秋』とは言いますが、ちょっと早いような気が・・・

太らないように気を付けねば・・・

さて、遂に果南ちゃんと鞠莉ちゃんが仲直りしましたね。

ダイヤさんも含め、再びスクールアイドルをやることを決意しました。

しかし忘れてはならないのが、天の『マネージャーを辞める』発言・・・

果たしてどうなってしまうのか・・・

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

明確な拒絶は人を傷付けるものである。

また台風が来るのかぁ・・・

勘弁してほしいんだけどなぁ・・・


 《鞠莉視点》

 

 「ようこそ、Aqoursへ!」

 

 満面の笑みで私達を迎えてくれる千歌っち。

 

 あの後、私達はAqoursの皆に頭を下げて謝った。私達の喧嘩に巻き込んだ上に、私は皆のことを利用するような形をとってしまったのだ。

 

 怒られることを覚悟していたが、皆は笑って許してくれた。それどころか、『一緒にスクールアイドルをやらないか』と誘ってくれたのだ。

 

 Aqoursへの加入をお願いしようとしていた私達にとって、願ったり叶ったりの提案だった。

 

 「千歌、さっきはゴメンね・・・」

 

 「気にしないで。私の方こそゴメン」

 

 果南の謝罪に対して、苦笑しながら答える千歌っち。

 

 「これから一緒に頑張ろうね、果南ちゃん」

 

 「っ・・・千歌ぁっ!」

 

 「うわぁ!?ちょ、果南ちゃん苦しいよぉ!」

 

 「あっ、ずるい!私もハグするー!」

 

 千歌っちにハグする果南に曜も加わり、楽しそうに笑い合っている。

 

 「ひっぐ・・・ぐすっ・・・!」

 

 「もう、泣き過ぎですわよルビィ」

 

 「だって・・・お姉ちゃんと一緒に、スクールアイドルがやれるなんて・・・!」

 

 「・・・貴女にも色々心配をかけましたわね」

 

 嬉し泣きするルビィを、ダイヤがそっと抱き締める。

 

 「一緒に頑張りましょう」

 

 「っ・・・うんっ!」

 

 「全く、ルビィは泣き虫ね・・・ひっぐ・・・」

 

 「善子ちゃんの方が泣いてるずら・・・ぐすっ・・・」

 

 花丸と善子がもらい泣きしていた。と、梨子が私の方に歩み寄ってくる。

 

 「鞠莉さんも一緒に頑張りましょう、と言いたいところですが・・・」

 

 強い眼差しを私に向ける梨子。

 

 「その前に、言いたいことがあります」

 

 「・・・天のことね」

 

 私の言葉に、梨子が頷く。

 

 「私達を利用しようとしたのは構いません。こうしてスクールアイドルとして活動出来るようになりましたし、統廃合を阻止したい気持ちは同じですから。でも・・・天くんのことは話が別です」

 

 「・・・その通りだわ」

 

 果南やダイヤとの時間を取り戻したい・・・自らの私欲の為に、私は天を脅して傷つけたのだ。

 

 決して許されることではない。

 

 「天くんに謝って下さい。彼の許しが無いかぎり、貴女だけはAqoursに入れることは出来ません」

 

 「梨子ちゃん・・・」

 

 千歌っちも他の皆も、複雑な表情で私と梨子の方を見ていた。

 

 梨子の意見は正しいし、皆も同じ意見のようだ。勿論、私も。

 

 「分かってる。天にはちゃんと謝るつもりよ。簡単には許してくれないかもしれないけど・・・許してくれるまで何度も謝るわ」

 

 それは最初から決めていたことだ。既に覚悟は出来ている。

 

 私の答えに満足したのか、梨子は小さく笑った。

 

 「それが聞ければ十分です。私達からも、鞠莉さんを許してくれるよう天くんにお願いしますから」

 

 「私も一緒に謝るよ。私にも責任あるし」

 

 「私もですわ。天さんには色々とご迷惑をおかけしましたし」

 

 「梨子・・・果南・・・ダイヤ・・・」

 

 周りを見ると、皆も優しく微笑んでいた。

 

 ホント・・・恵まれてるわね、私は。

 

 「・・・ありがとう、皆」

 

 お礼の言葉を口にした時・・・部室のドアが開き、天が中に入ってきた。

 

 「っ・・・天・・・」

 

 「・・・どうやら、仲直りは出来たみたいですね」

 

 笑みを浮かべる天。

 

 「もうすれ違わないで下さいね」

 

 「分かってる」

 

 頷く果南。

 

 「自分の気持ちは、ちゃんと言葉にして伝えるべきだって・・・天に教わったから」

 

 「・・・それなら良かったです」

 

 安心した様子の天。私は緊張しながらも、天の目の前に立った。

 

 「天・・・ごめんなさい」

 

 深々と頭を下げる。

 

 「私は、貴方を傷つけてしまった・・・マネージャーをやりたくないと言った貴方を脅して、自分の為に無理矢理貴方にマネージャーをやらせてしまった・・・何も言い訳出来ないわ」

 

 「小原理事長・・・」

 

 「・・・私は、果南やダイヤと一緒にスクールアイドルがやりたい。千歌っち達と一緒に、Aqoursとして活動したい。それを許してほしいの」

 

 自分の願いを口にする。天の顔を見るのが怖くて、顔を上げることが出来ない。

 

 「都合の良いことを言ってるのは分かってる。それでも私は・・・皆と一緒にスクールアイドルをやりたい」

 

 天は今、どんな気持ちで聞いているのか・・・怖くてたまらなかった。

 

 「・・・お願いします。許して下さい」

 

 「良いですよ」

 

 「・・・え?」

 

 思わず顔を上げてしまう。そこには、穏やかな表情を浮かべている天がいた。

 

 「い、今・・・何て言ったの・・・?」

 

 「良いですよ、って言いましたけど」

 

 「な、何で・・・?」

 

 「いや、何でって・・・貴女が謝ってきたんでしょうが」

 

 呆れている天。

 

 「・・・まぁ確かに、あの時はとてつもなくショックでしたよ。貴女に対して怒りが収まりませんでしたし、だからこそ冷たく接してきました」

 

 苦笑する天。

 

 「でも・・・何だかんだ言いつつ、貴女を嫌いになりきれませんでした。事情も分かって、貴女の行動の理由も知って・・・いつの間にか怒りも収まって、貴女に対して理解を示している自分がいたんです」

 

 「天・・・」

 

 本当にこの子は・・・どこまで優しいのかしら・・・

 

 「小原理事長、果南さん、ダイヤさん・・・貴女達三人がAqoursに入ってくれたら、Aqoursは今よりもっと良いグループになれます。三人の願いも叶うし、千歌さん達もスクールアイドルとして成長出来ますから」

 

 笑みを浮かべる天。

 

 「だからこそ、俺は三人にAqoursに入ってほしいと思ってました」

 

 「じゃ、じゃあ・・・本当に良いの・・・?」

 

 「勿論です」

 

 頷く天。

 

 「とはいえ、それを決めるのは千歌さん達なわけですけど」

 

 「私達はウェルカムだよ!」

 

 満面の笑みで頷く千歌っち。他の皆も笑顔で頷いてくれる。

 

 「良かったね!鞠莉!」

 

 「晴れて再びスクールアイドルですわ!」

 

 果南とダイヤも喜んでくれる。

 

 これで・・・これでようやく・・・

 

 「・・・良かった」

 

 そう呟いた天は・・・何故か寂しそうな顔をしていた。

 

 「これで俺も・・・安心してマネージャーを辞められます」

 

 時が止まった。

 

 天の呟きを聞き、皆が一斉に固まってしまう。私は固まってしまった口を動かし、何とか喉から声を絞り出した。

 

 「い、今・・・な、何て・・・?」

 

 「Aqoursのマネージャーを辞める、と言ったんです」

 

 ハッキリ告げる天。

 

 「どうして、なんて聞かないで下さいね。俺は最初に言ったはずですよ。『マネージャーはやらない』と」

 

 「っ・・・」

 

 「小原理事長に『マネージャーにならないと言うのなら、スクールアイドル部は承認しない』と脅されたので、やむをえず引き受けただけです。千歌さん達の目標を、俺のせいで潰したくなかったですから」

 

 淡々と答える天。

 

 「まぁさっきも言った通り、脅されたことに関してはもう良いです。許しますし、貴女方がAqoursに加わってくれることを嬉しく思います。ですが・・・それとマネージャーの件は別の話です」

 

 天はそう言うと、私の目を真っ直ぐに見た。

 

 「マネージャーとして、最低限の責務は果たしたつもりです。果南さんやダイヤさんと一緒にスクールアイドルをやるという、貴女の目的も果たされた今・・・もう俺に利用価値は無いでしょう?そろそろ自由にしていただきたいのですが?」

 

 そう告げる天の目は、恐ろしく冷たかった。私が天を脅したあの時と、全く同じ目をしている。

 

 私は悟ってしまった。確かに天は、私の愚かな行動を許してくれたのかもしれない。

 

 でも・・・あの時閉じてしまった心を、完全に開いてくれたわけでは無いのだと。

 

 「・・・どうして?」

 

 梨子が呟く。

 

 「どうしてそんなこと言うの?確かに最初は、鞠莉さんに脅されて仕方なく引き受けたのかもしれないけど・・・天くん言ってくれたわよね?『私達と一緒にいるのは楽しい』って。『もう嫌々マネージャーをやってるわけじゃない』って。なのにどうして・・・どうしてそんなこと言うの!?あの時の言葉は嘘だったの!?」

 

 「落ち着いて梨子ちゃん!」

 

 「答えてよ天くんッ!」

 

 天に詰め寄ろうとする梨子を、曜が必死に止める。

 

 「・・・嘘じゃありません。皆と一緒にいるのは楽しいですし、嫌々マネージャーをやっていたつもりもありません」

 

 「だったらッ・・・!」

 

 「だからこそ、ですよ」

 

 力なく笑う天。

 

 「だからこそ俺は・・・Aqoursの一員にはなれないんです」

 

 「え・・・?」

 

 意味が分かっていない様子の梨子。他の皆も同じ様子だった。

 

 「・・・スクールアイドルのマネージャーは、アイドルのことを一番近くで支えなくてはいけない存在です。グループのマネージャーであれば、そのグループの一員として皆を支えていく責任があります」

 

 「・・・それが何だって言うの?」

 

 「俺はAqoursにとって、そういう存在にはなれないと言ってるんですよ」

 

 「そんなことないずらっ!」

 

 花丸が慌てて話に割って入る。

 

 「天くんはいつだってマル達の背中を押してくれたし、寄り添ってくれたずら!」

 

 「そ、そうだよ!天くんがいなかったら、今頃ルビィはここにいなかったよ!?」

 

 ルビィも花丸に同意するが・・・天は首を横に振った。

 

 「違うんだよ、二人とも。そう言ってくれるのは凄く嬉しいんだけど、問題なのは俺の気持ちの方なんだよ」

 

 「気持ち・・・?」

 

 首を傾げるダイヤ。天は一つ息を吐くと、私達にハッキリと告げた。

 

 「俺は・・・Aqoursにとって、そういう存在になるつもりは無いんです」

 

 「ッ!?」

 

 全員絶句してしまう。

 

 あの天が、Aqoursを拒絶している・・・?

 

 「ふざけんじゃないわよッ!」

 

 天の胸ぐらを掴む善子。

 

 「そういう存在になるつもりは無い!?だったら何で私に優しくしたのよ!?何で私をAqoursに引き込んだのよ!?最初から放っておけば良かったじゃない!」

 

 「ちょ、止めなよ!」

 

 「離しなさいよッ!」

 

 激高する善子を抑える果南。その様子を、天は悲しげな表情で見つめていた。

 

 「・・・ゴメン」

 

 「何を・・・謝ってんのよっ・・・!」

 

 善子の目から涙が零れる。辛そうに顔を背ける天。

 

 「・・・俺はこれ以上、Aqoursのマネージャーを続けられない。もうマネージャーはやらないって、あの時決めたから」

 

 天は顔を上げると、再び私に視線を移した。

 

 「・・・そういうわけなので、マネージャーは辞めさせていただきます。もう俺にしか出来ないことはありませんし、スクールアイドル経験のある三人が入るんです。十分にやっていけるでしょう」

 

 「天・・・」

 

 引き止めたかった。『続けてほしい』と言いたかった。

 

 でも・・・そもそもの原因を作ってしまった私に、天を引き止める権利なんて無い。

 

 「・・・今までありがとうございました。短い間でしたけど、楽しかったです」

 

 そう言って部室から出て行こうとする天の前に、梨子が立ち塞がった。

 

 次の瞬間、部室内に乾いた音が響く。

 

 「ちょっと!?」

 

 「何してますの!?」

 

 慌てる果南とダイヤ。梨子が天に思いっきりビンタしたのだ。

 

 「っ・・・」

 

 涙を浮かべながら、何も言わず天を睨みつける梨子。

 

 天は叩かれた頬を押さえると、梨子の方を見て力なく笑った。

 

 「・・・ピアニストなんですから、手は大切にしないと。怪我したらどうするんですか」

 

 「っ・・・天くんの・・・バカっ・・・」

 

 両手で顔を覆い、肩を震わせる梨子。天は何も言わず、黙って梨子の横を通り過ぎた。

 

 その時・・・

 

 「天くん」

 

 ずっと黙っていた千歌っちが、初めて口を開いた。

 

 「私達じゃ、ダメだった?」

 

 天に問いかける千歌っち。

 

 「私達じゃ、天くんにとっての特別にはなれなかった?」

 

 天は何も答えない。背中を向けている為、表情を窺うことも出来なかった。

 

 「私達じゃ・・・ダメだったのかなぁっ・・・!」

 

 「っ・・・」

 

 千歌っちは、ただ静かに涙を流していた。寂しそうに笑みを浮かべながら、目からはとめどなく涙が溢れている。

 

 「・・・俺は、Aqoursの十人目にはなれません」

 

 天の答えは変わらなかった。

 

 「俺にとっての特別は・・・あの人達だけです」

 

 天はそれだけ言い残すと、静かに部室を出て行ったのだった。




どうも〜、ムッティです。

さて、三年生組が仲直りしたのも束の間・・・

再び波乱の展開となりましたね。

果たしてこれからどうなってしまうのか・・・



さてさて、ここでヒロインに関してお話しておこうと思います。

皆様も知っての通り、この作品のヒロインは現在未定です。

話を書いているうちに決まるでしょ、なんて思っていたのですが・・・

皆が可愛すぎて全然決まりません(´・ω・`)

恐らくアニメ一期の内容をやっている間は、決まらないかと思われます。

一期でAqoursのメンバー達との仲を深め、二期で決めていけたらなと・・・

あっ、『問題の先送りじゃん』とか思いました!?

その通りですっ!どーん

いやホント、気長にお待ちいただけると幸いです(土下座)

『もうこのままハーレムエンドな気がする』という感想もいただくのですが、Aqoursのメンバーの中から一人を選ぶという方針は変わっていませんので。

そこは変えずにいきたい・・・多分(ボソッ)



そんなわけで皆様、どうかこれからも『絢瀬天と九人の物語』をよろしくお願い致します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誰にでも大切にしていることがある。

台風半端ないって!(二度目)

皆さんは大丈夫でしたか?


 《梨子視点》 

 

 天くんが出て行った後の部室は、重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

 涙を流す千歌ちゃんの側に曜ちゃんが寄り添い、俯いて肩を震わせる善子ちゃんの背中に花丸ちゃんが手を添えている。

 

 落ち込むルビィちゃんをダイヤさんが抱き寄せ、唇を噛む鞠莉さんの頭を果南さんが撫でている中・・・私は右手を押さえ、黙って俯いていた。

 

 生まれて初めて人を叩いてしまった・・・叩いた時の感触が、未だに右手に残っている。

 

 そしてもう一つ・・・天くんの言葉が、耳から離れなかった。

 

 

 

 

 

 『・・・ピアニストなんですから、手は大切にしないと。怪我したらどうするんですか』

 

 

 

 

 

 それを聞いた瞬間、感情に身を任せて叩いてしまったことを激しく後悔した。

 

 あの言葉は、間違いなく私を心配しての言葉だった。天くんは叩かれたにも関わらず、私の手のことを心配してくれたのだ。

 

 それなのに・・・

 

 「・・・最低だわ、私」

 

 自己嫌悪に陥り、涙を堪えきれずにいると・・・

 

 「・・・失礼します」

 

 海未先生が部室に入ってくる。そして私達を見て、大きく溜め息をついた。

 

 「やっぱりこうなりましたか・・・」

 

 「やっぱりって・・・どういうことですか?」

 

 曜ちゃんの問いに、海未先生は悲しげな表情を浮かべた。

 

 「先ほど、天が言っていたんです・・・Aqoursのマネージャーを辞める、と」

 

 「っ・・・」

 

 「気になって様子を見に来たのですが・・・案の定でしたね」

 

 「・・・海未先生、教えて下さい」

 

 ダイヤさんが真っ直ぐ海未先生を見つめる。

 

 「天さんはこう言っていました。『俺はAqoursの十人目にはなれません。俺にとっての特別は・・・あの人達だけです』と。海未先生であれば、どういう意味なのかご存知なのではありませんか?」

 

 「・・・えぇ、知っています」

 

 頷く海未先生。

 

 「ですが、知っているのは私だけではありません・・・そうですよね?小原理事長?」

 

 「っ・・・」

 

 俯く鞠莉さん。皆の視線が鞠莉さんに向けられる。

 

 「鞠莉、どういうこと?」

 

 「・・・どうして私が、天をマネージャーにしようとしたと思う?」

 

 果南さんの問いに、ポツリポツリと語り始める鞠莉さん。

 

 「それは天に、マネージャーとしての経験があるのを知っていたからよ・・・有名なスクールアイドルグループの、ね」

 

 「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

 

 全員が息を呑む。まさか・・・!?

 

 「・・・察したようね」

 

 力なく笑う鞠莉さん。

 

 「天はね・・・スクールアイドルグループ・μ'sのマネージャーをやっていたのよ」

 

 驚きすぎて声が出なかった。天くんが、μ'sのマネージャー・・・?

 

 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?」

 

 善子ちゃんが慌てて口を挟む。

 

 「μ'sが活動してたのって、五年前の話でしょ!?五年前っていったら、天はまだ小学五年生だったはずよ!?それでマネージャーって・・・」

 

 「事実ですよ」

 

 海未先生が答える。

 

 「確かに天は五年前、私達μ'sのマネージャーを務めていました。リーダーである穂乃果から正式に任されていましたし、私達も天をマネージャーとして認めていましたから」

 

 皆絶句してしまう。その様子を見て、苦笑する海未先生。

 

 「まぁ普通、そういう反応になりますよね。ですが、紛れも無い事実なんです」

 

 懐かしそうに当時を振り返る海未先生。

 

 「天は元々、穂乃果の知り合いだったんです。穂乃果の家は和菓子屋をやっているのですが、天はそのお店の常連客でして。店番の際に何度も顔を合わせるうちに、親しくなっていったそうです」

 

 「えっ・・・じゃあ、天くんがよく差し入れで振る舞ってくれる和菓子って・・・」

 

 「穂乃果の実家の和菓子屋『穂むら』の和菓子ですね」

 

 「「ぴぎゃあっ!?」」

 

 黒澤姉妹が同時に悲鳴を上げる。まさかμ'sのリーダーさんの実家の和菓子だったとは・・・

 

 「私とことりも穂乃果の家に遊びに行くことが多かったので、天と顔を合わせる機会は多かったですね。もっとも、ことりがすぐ仲良くなったのに対して・・・私は少々時間がかかりましたが」

 

 「ア、アハハ・・・」

 

 何故か遠い目をしている海未先生と、何故か苦笑いしている曜ちゃん。

 

 何かあったのかしら・・・?

 

 「まぁそれはさておき・・・音ノ木坂が統廃合の危機に陥った時、穂乃果はスクールアイドルとして音ノ木坂をPRすることを決めました。その時に声をかけたのが、私とことり・・・そして天でした。穂乃果は天のことをとても買っていて、『マネージャーは天くんが良い!』と言って聞かなかったんです」

 

 「そういうことだったんだ・・・」

 

 納得している様子の果南さん。どうしたのかしら・・・?

 

 「天は二つ返事で引き受けてくれて、私達のことを懸命にサポートしてくれました。練習メニューを考えてくれたり、ファーストライブを開催する為に動いてくれたり・・・まぁ我々のファーストライブは、お世辞にも『大成功だった』とは言えなかったのですが」

 

 苦笑する海未先生。

 

 「まぁそれも置いておくとして・・・頑張って活動を続けていた私達に、少しずつ仲間が増えていきました。花陽、凛、真姫、にこ、絵里、希・・・私達と彼女達を繋げてくれたのも、実は天だったんです」

 

 「繋げてくれた・・・?」

 

 「姉である絵里は勿論、他の皆も天の知り合いだったんですよ」

 

 首を傾げる花丸ちゃんに、笑いながら説明する海未先生。

 

 「その縁が私達を繋いでくれた・・・天がいなかったら、私たちが揃うことは無かったかもしれませんね」

 

 天くんがいたから、あの九人が揃った・・・凄い事実を聞いてしまった気がする。

 

 「だからこそ天は・・・μ'sの『十人目のメンバー』なんです。ステージに上がるのは九人でも、実際のμ'sは十人だったんですよ」

 

 「っ・・・」

 

 つまり天くんの言っていた『あの人達』というのは、μ'sのこと・・・

 

 じゃあ、『Aqoursの十人目にはなれない』っていうのは・・・

 

 「『自分はμ'sの十人目だから、Aqoursの十人目にはなれない』・・・そういう意味だっていうことですか・・・?」

 

 「・・・その通りです」

 

 力なく頷く海未先生。

 

 「五年前・・・当時高校三年生だった三人の卒業に伴い、私達μ'sは解散という道を選びました。一人でも欠けてしまえば、それはもうμ'sではないと思ったからです。そしてその後、スクールアイドルを続けることもありませんでした」

 

 「μ'sが特別だったから、ですか・・・?」

 

 「えぇ。私達にとってはμ'sが全てであり、あの十人での活動が全てだったんです。だからこそ、μ'sを解散した後にスクールアイドルを続けようとは思いませんでした」

 

 私の問いに、微笑みながら頷く海未先生。

 

 「ですが・・・そういった決断こそが、天を苦しめてしまったんです」

 

 「どういうことですか・・・?」

 

 俯く海未先生に尋ねるルビィちゃん。苦しめてしまった・・・?

 

 「・・・μ'sを解散する時、一番悲しんでいたのは天でした。当時から大人びていたあの子が、あの時だけは人目もはばからず号泣していたんです。それだけあの子は、μ'sに対して全身全霊で向き合ってくれていましたから」

 

 海未先生の目が潤む。

 

 「その後、天が今後について語ることはありませんでしたが・・・μ's解散後、天の姉である亜里沙がスクールアイドルをやることになりまして。穂乃果の妹である雪穂と一緒に、天に『私達のマネージャーをやってくれないか』とお願いしたそうなんです。ですが・・・」

 

 「・・・断られたのですね?」

 

 ダイヤさんの問いに、海未先生が頷く。

 

 「『俺はμ'sの一員として終わりたい』・・・そう言っていたそうです。そこで私達は、初めて気が付きました・・・私達の決断が、天をμ'sに縛り付けてしまったのだと」

 

 表情を歪める海未先生。

 

 「私達は、天には今後もスクールアイドルに携わってほしいと思っていました。私達が望んでいたのは、スクールアイドルの発展・・・天にはμ'sで得た経験を生かし、他のスクールアイドルをマネージャーとして支えてあげてほしかったんです。ですが天は、最後までμ'sであることに拘ったんです・・・私達のように」

 

 私の中で、今までの疑問が氷解していくのを感じた。

 

 つまり天くんが、あれだけAqoursのマネージャーになることを拒否していたのは・・・最後までμ'sのマネージャーでありたかったから。

 

 それは天くんにとって何よりも大事なことで、何よりも誇りに思っていたことだったんだ・・・

 

 「私、何てことを・・・」

 

 両手で顔を覆う鞠莉さん。

 

 「天の心を傷付けただけじゃなくて・・・天の誇りまで踏み躙っていたのね・・・」

 

 「・・・言ったはずですよ。『後悔する日が必ずやって来る』と」

 

 鞠莉さんを見つめる海未先生。

 

 「自分のやったことがどれほど罪深いことなのか、これで分かったでしょう。そしてそのような目に遭ってもなお、あの子は貴女の力になろうとした・・・幼馴染である貴女が、あの子の優しさを分かってあげなくてどうするんですか」

 

 「っ・・・天っ・・・!」

 

 泣き崩れる鞠莉さん。皆沈痛な表情を浮かべていた。

 

 天くん・・・

 

 「・・・もう、天くんを自由にしてあげた方が良いのかな」

 

 今まで黙って話を聞いていた千歌ちゃんが、弱々しい声で呟いた。

 

 「このままマネージャーを辞めてもらった方が、天くんの為になるのかな・・・」

 

 「千歌ちゃん・・・」

 

 千歌ちゃんの言葉に、全員何も言えずにいた。

 

 天くんは、最後までμ'sのマネージャーであることを望んでいた。にも関わらず、私達は彼に自分達のマネージャーをやらせてしまった。

 

 これ以上は、天くんをさらに傷付けることになるんじゃないか・・・そんな思いがどうしても拭えない。

 

 「・・・私からは何も言えません」

 

 首を横に振る海未先生。

 

 「天が今マネージャーをやっているのは、私達μ'sではなく・・・貴女達Aqoursですから。苦しい思いをさせてしまって、大変申し訳ないのですが・・・貴女達は天にどうしてほしいのか、よく考えてみて下さい」

 

 「天くんに、どうしてほしいのか・・・」

 

 色々な思いが入り混じり、頭の中がグチャグチャだった。他の皆も同じようで、表情が歪んでいる。

 

 結局、私達はその場で結論を出すことが出来なかったのだった。




どうも〜、ムッティです。

さてさて、本編が何やらシリアスなことになっていますが・・・

ここでちょっと補足をさせていただきます。

海未ちゃんが語っていましたが、この物語ではμ's解散後に誰もスクールアイドルを続けておりません。

実際はどうだったんでしょうね・・・

アニメでμ'sを続けるかどうかの話になった時、穂乃果ちゃんは『スクールアイドルは続けるつもり』みたいなことを言ってましたし・・・

真姫ちゃんはにこちゃんに、『スクールアイドルは続ける!約束するわよ!』って言ってましたし・・・

でも映画では『μ'sは特別』という感じで、その後もスクールアイドルを続けるという感じではなくて・・・

実際どうだったのかは分かりませんが、とりあえずこの作品ではそういう設定にさせていただきました。

ご理解いただけると幸いです。



っていうか、天ってμ'sのマネージャーだったんですね・・・はい、皆さん気付いてましたね(笑)

メッチャ匂わせてましたもんね(笑)

そんなわけで、μ'sの十人目であることが発覚した天・・・

果たしてAqoursの皆はどうするのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

正解が無い問題ほど難しいものは無い。

最近スクスタを始めました。

センターは希ちゃんにしているのですが・・・

彼方ちゃん可愛すぎません?


 《善子視点》 

 

 「善子ちゃん、大丈夫ずら?」

 

 「・・・大丈夫よ。もう落ち着いたわ」

 

 心配してくれるずら丸に、返事をする私。

 

 あの後『今日はもう帰ろう』ということになり、私は自分の家へと戻ってきていた。ずら丸は私を心配してくれたのか、『今日は善子ちゃんの家に泊まるずら』と言ってついてきたのだ。

 

 全く・・・

 

 「・・・ゴメンね、心配かけて」

 

 「善子ちゃん・・・素直過ぎて気持ち悪いずら」

 

 「ちょっと!?」

 

 コ、コイツ・・・まるで天みたいなことを・・・

 

 「っ・・・」

 

 天のことを思い出し、また泣きそうになってしまう。

 

 我ながら重症ね・・・

 

 「・・・やっぱり大丈夫じゃないずらね」

 

 頭を撫でてくれるずら丸。

 

 「泣きたい時は泣いたら良いずら。我慢するのは良くないずら」

 

 「・・・ずら丸は平気なの?」

 

 「平気・・・ではないずらね」

 

 苦笑するずら丸。

 

 「正直マルも落ち込んでて、一人になりたくなくて・・・誰かと一緒にいたかったずら」

 

 「・・・ゴメン。無神経なこと聞いた」

 

 「大丈夫ずら」

 

 ずら丸はそう言うと、私の肩にもたれかかってきた。

 

 「・・・マルね、自分にはスクールアイドルなんて無理だと思ってたずら」

 

 「え・・・?」

 

 「自分のこと『オラ』って言っちゃう時もあるし、いつも語尾には『ずら』ってついちゃうし・・・スクールアイドルなんて向いてないって思ってたずら」

 

 「ずら丸・・・」

 

 知らなかった。そんな風に思ってたなんて・・・

 

 「でも・・・実は密かに憧れてたこと、天くんには見抜かれてたずら」

 

 笑うずら丸。

 

 「自分のことを卑下して、『無理』とか『向いてない』とか言っちゃダメだって。一番大切なのは出来るかどうかじゃなくて、やりたいかどうかだって・・・マルはその言葉に背中を押されて、Aqoursに入ったずら」

 

 「・・・Aqoursに入って、良かったって思う?」

 

 「思うずら」

 

 迷うことなく言い切るずら丸。

 

 「練習は大変だけど、毎日凄く充実してるずら。天くんがいなかったら、きっとマルはこんな日々を過ごせなかった・・・だから天くんには、本当に感謝してるずら」

 

 「・・・私だって、天には感謝してるわよ」

 

 ずら丸の言葉を聞き、私も自分の本音を呟く。

 

 「こんな私を受け入れてくれて、支えてくれて・・・天がいなかったら、今も学校に行けないままだったかもしれない。本当に感謝してるの」

 

 「・・・だからあの時、あんなに怒ったずらか?」

 

 「っ・・・」

 

 そう、私はあの時・・・私達を一番近くで支える存在にはなれない、と言った天に怒った。

 

 だって・・・

 

 「・・・ショックだったのよ。私を一番近くで支えてくれたアイツが、それを否定するようなことを言うんだもの」

 

 またしても涙が滲む。

 

 「ずっと支えてくれるんだって思ってた。でも、天はその気が無いって・・・今まで私を支えてくれてたのも、ただの義務感だったんじゃないかって・・・今までのことを、全部否定されたような気がして・・・」

 

 涙が溢れた。どんだけ泣くのよ私・・・

 

 「・・・それは違うと思うずら」

 

 優しい口調で語るずら丸。

 

 「天くんが義務感で動いていただけなら・・・ダイヤさんが堕天使を否定した時、怒ったりしなかったはずずら」

 

 「っ・・・」

 

 そうだ、あの時・・・堕天使を否定した生徒会長に対して、天は本気で怒ってくれた。

 

 他でも無い、私の為に・・・

 

 「マルの時もそう・・・ただの義務感っていうだけでは説明出来ないほど、天くんはいつも親身になって接してくれたずら。だから天くんのこれまでの行動は全部、本気でマル達のことを想ってしてくれたことだって・・・マルはそう信じてるずら」

 

 微笑むずら丸。

 

 「だから善子ちゃんも、天くんのことを信じてあげるずら」

 

 「・・・そうよね」

 

 ずら丸の言う通りだ。何で私は疑ってしまったんだろう・・・

 

 天はいつだって、私の味方でいてくれたのに・・・

 

 「・・・ありがとね、ずら丸」

 

 「善子ちゃん・・・ホント素直過ぎて気持ち悪いずら」

 

 「ちょっと!?また『気持ち悪い』って言ったわね!?」

 

 「冗談ずら」

 

 面白そうに笑うずら丸。

 

 全く、コイツときたら・・・

 

 「じゃあ、今の素直な善子ちゃんに聞くけど・・・天くんがマネージャーを辞めちゃって、本当に良いずらか?」

 

 「・・・良くないに決まってるじゃない」

 

 そんなの当たり前だ。天がいなくなるなんて嫌だもの。

 

 「でも・・・海未先生の話を聞いたら、天の気持ちを尊重すべきなんじゃないかって思っちゃって・・・」

 

 「・・・正直、マルもそう思ったずら」

 

 俯くずら丸。

 

 「天くんが『μ'sの一員として終わりたい』って思ってるなら、そうさせてあげるべきなんじゃないかって・・・でもマル、マネージャーは天くんにやってほしいずら・・・」

 

 「・・・私だって同じ気持ちよ」

 

 ずら丸に寄りかかる私。

 

 「どうすべきなのか、どうするのが正解なのか・・・分からないわ」

 

 「多分、この問題に正解は無いずら。天くんとマル達、どちらの意思を取るか・・・それだけずら」

 

 「・・・難しい問題ね」

 

 身体を寄せ合い、頭を悩ませる私とずら丸なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《ダイヤ視点》

 

 「お姉ちゃん、大丈夫・・・?」

 

 「・・・何だかドッと疲れましたわ」

 

 自分の部屋のベッドに倒れ込む私。

 

 今日は色々なことがありすぎて、正直もうクタクタですわ・・・

 

 「・・・よしよし」

 

 「・・・どうしましたの?」

 

 何故か私の頭を撫でてくるルビィ。

 

 「頭を撫でられたら、少しは元気が出るかなって・・・ルビィもよく天くんに頭を撫でられるんだけど、何だか嬉しくて元気が出るんだ」

 

 微笑みながらそんなことを言うルビィ。

 

 天さんが・・・

 

 「お姉ちゃんもそうなんじゃない?海開きの時、思いっきりハグしてたもんね」

 

 「っ!?」

 

 顔が一気に熱くなるのを感じる。

 

 そういえばあの時、私は何と破廉恥なことを・・・!

 

 「ぴぎゃああああああああああっ!?」

 

 「ぴぎぃっ!?お、落ち着いてお姉ちゃん!?」

 

 ルビィに宥められ、何とか平静を取り戻した私。

 

 穴があったら入りたいですわ・・・

 

 「・・・フフッ」

 

 笑みを零すルビィ。

 

 「な、何ですの・・・?」

 

 「お姉ちゃんっていつもは大人の女性って感じだけど、天くんのことになると年相応の女の子になるなぁって思って」

 

 「なっ・・・か、からかうのはお止めなさいっ!」

 

 「はーい」

 

 クスクス笑っているルビィ。

 

 くっ、ルビィに笑われる日が来るとは・・・

 

 「でも・・・不思議だよね、天くんって」

 

 「え・・・?」

 

 「ルビィ、男の人ってちょっと苦手だけど・・・天くんは一緒にいて、凄く落ち着くんだ。安心出来るっていうか、素のままの自分でいられるっていうか・・・お姉ちゃんもそうなんじゃない?」

 

 「・・・そう、ですわね」

 

 小さく頷く私。

 

 「天さんの前だと、つい砕けた感じになってしまうというか・・・ありのままの自分でいられる感じがしますわね」

 

 いつからだったでしょう、天さんに心を許すようになったのは・・・

 

 本当にいつの間にか、気付いたらすぐ側に天さんがいて・・・

 

 「・・・そう、だから不思議なの」

 

 私の考えを読み取ったかのように、ルビィが頷く。

 

 「でも、それはきっと・・・天くんがルビィ達の心に寄り添ってくれてるから、なんじゃないかな」

 

 「心に、寄り添う・・・」

 

 言われてみるとそうかもしれません。

 

 いつだって天さんは、私の身を案じてくれて・・・私の為に動いてくれました。

 

 「・・・ルビィ、最初はお姉ちゃんに遠慮してた。お姉ちゃんはルビィに、スクールアイドルをやってほしくないだろうなって。だから本当はやってみたい気持ちがあったけど、そんな自分の気持ちに蓋をしてた」

 

 「ルビィ・・・」

 

 「でも天くんはルビィに、お姉ちゃんとお話しする機会を作ってくれて・・・自分の本当の気持ちを伝えられるように、後押ししてくれた」

 

 胸の前でギュっと手を組むルビィ。

 

 「天くんには、本当に感謝してるんだ。もしあの時、お姉ちゃんと向き合ってなかったら・・・今のルビィはいないから。だから・・・」

 

 目に涙を浮かべるルビィ。

 

 「ルビィは、天くんに・・・マネージャーを辞めてほしくない。これからもずっと、ルビィ達を支えていてほしいって・・・そう思うの」

 

 「・・・分かっていますわ」

 

 そっとルビィを抱き寄せる私。

 

 「貴女が天さんのことを大切に想っているのは、よく分かっているつもりですわ。何故なら・・・私もそうですから」

 

 ルビィの頭を撫でる私。

 

 「天さんはいつだって、本気で私と向き合ってくれましたから。私が間違ったことを言った時は叱ってくれて、私が落ち込んでいた時は励ましてくれて・・・私にとっては、それが凄く嬉しかったのです」

 

 私にとってのそういう存在は、今までは果南さんや鞠莉さんでした。

 

 ですが例の一件で疎遠になってしまい、私の周りにそういった存在はいなくなってしまった・・・

 

 だからこそ、天さんの存在は私にとって本当に大きかったのです。

 

 「貴女の言う通りですわ、ルビィ・・・天さんは本当に、私の心に寄り添って下さっていたのですね・・・」

 

 「お姉ちゃん・・・」

 

 「私もAqoursとして活動させていただくことになった以上、やはりマネージャーは天さんが良い・・・いいえ、天さんでなければダメですわ」

 

 改めて強く思います。私は天さんと一緒にやっていきたいのだと。

 

 ですが・・・

 

 「でも・・・天くんは、μ'sのことが・・・」

 

 「・・・えぇ、そこですわね」

 

 そう、天さんは『μ'sの一員として終わりたい』という強い思いを持っています。

 

 それを私達のワガママで『Aqoursの一員になってほしい』というのは、果たして正しいことなのでしょうか・・・

 

 「天くんの意思は尊重したいけど、天くんにマネージャーを続けてほしい・・・矛盾してるよね」

 

 「仕方ありませんわ。それが私達の素直な気持ちなのですから」

 

 溜め息をつく私。

 

 「まぁ、それはこれから考えるとして・・・鞠莉さんは大丈夫でしょうか・・・」

 

 帰り際の鞠莉さんは、今までに無いくらい酷い顔をしていました。

 

 まぁ無理もありません。ただでさえご自分の行いを後悔していたのに、あのような話を聞いてしまえば・・・

 

 鞠莉さんの性格上、激しい自己嫌悪に陥っていそうですわね・・・

 

 「果南さんが側についてるんだよね?」

 

 「えぇ。ですから、多少は安心出来ますが・・・」

 

 「それでも不安だよね・・・」

 

 果南さんは果南さんで落ち込んでいるでしょうから、果たしてどうなっているか・・・

 

 不安が拭えない私とルビィなのでした。




どうも〜、ムッティです。

前書きでも述べましたが、最近スクスタを始めました。

今のところセンターは希ちゃんで、その両脇をエリーチカと彼方ちゃんで固めてます。

彼方ちゃんが可愛すぎてヤバい(´・ω・`)

さらにストーリーを進めるにつれて、上がっていく難易度・・・

そして増えていくスクショの数←

何だかんだ楽しんでる今日この頃です。



さてさて・・・今回は善子ちゃんと花丸ちゃん、そしてダイヤさんとルビィちゃんの想いにスポットを当ててみました。

次回は果南ちゃんと鞠莉ちゃんにスポットを当てる予定です。

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

気持ちを伝えないことには何も始まらない。

よくよく考えてみると、鞠莉ちゃんってハーフですよね?

お父さんがイタリア系アメリカ人ってことは、お母さんは日本人ですよね?

お母さん映画に出てきましたけど、明らかに日本人じゃない気がするのですが・・・


 《果南視点》

 

 「鞠莉、大丈夫?」

 

 「・・・・・」

 

 「お腹空いてない?何か食べる?」

 

 「・・・・・」

 

 「・・・ハァ」

 

 思わず溜め息をついてしまう私。

 

 憔悴しきった鞠莉を放っておけず、とりあえず私の家に連れてきたけど・・・体育座りして顔を伏せたまま動かず、何も喋らない状態が続いていた。

 

 こんな鞠莉、初めて見た・・・

 

 「・・・よっと」

 

 仕方ないので、鞠莉の隣に腰を下ろす。

 

 今は私が側についててあげないとね・・・

 

 「・・・久しぶりだよね。こうやって二人で過ごすの」

 

 鞠莉が留学して以来、二年も会っていなかったのだ。

 

 鞠莉が帰ってきた後も、ギクシャクしててこんな風に二人でゆっくりすることも無かったし・・・

 

 「仲直り出来て良かった・・・天に感謝しないとね」

 

 「っ・・・」

 

 天の名前を出した瞬間、鞠莉の身体がピクッと反応する。

 

 やれやれ・・・

 

 「・・・天ってさ、一緒にいて凄く安心出来るよね。不思議と心が安らぐっていうか、気持ちが落ち着くっていうか・・・それを本能的に感じ取ったのか、初対面の時に思いっきりハグしちゃってさぁ」

 

 いくらハグ大好きな私でも、普通初対面の男の子にいきなりハグしたりはしない。それが何故か天には、不思議とハグしたくなったのだ。

 

 前もってダイヤから話を聞いていたとはいえ、あれは自分でも驚いたなぁ・・・

 

 「まぁ一緒の時間を過ごして、天の人となりに触れてみて納得したけどね。天って昔からああいう感じだったの?」

 

 「・・・そうよ」

 

 今まで一言も喋らなかった鞠莉が、初めて口を開いた。

 

 「誰からも愛される子だったわ。私は勿論、パパもママも使用人の皆も・・・天のことを気に入ってた。特にママは天のことを溺愛してて、『将来は鞠莉と結婚してもらいマース!』って言ってたくらいよ」

 

 「・・・マジか」

 

 鞠莉のお母さんって、結構厳しい人なんだよねぇ・・・

 

 あの人にそこまで気に入られてるとか、ヤバすぎでしょ天・・・

 

 「鞠莉のお母さんと天のお母さんは、連絡を取り合ってるんだっけ?」

 

 「えぇ、あの二人は大の仲良しなの。だから絵里がスクールアイドルとして活動してたことも、天がマネージャーをやってたことも・・・私はママから聞いてたわ」

 

 顔を上げ、天井を見上げる鞠莉。

 

 「・・・ゴメンなさい、果南。貴女にはもう一つ、謝らないといけないことがあるの」

 

 「え・・・?」

 

 「二年前、果南とダイヤに『スクールアイドルをやらないか』って誘われた時・・・嘘ついちゃった。『興味無い』なんて言ったけど・・・本当はちょっと興味があったの」

 

 「えぇっ!?」

 

 思わず驚いてしまう。

 

 「ど、どういうこと!?」

 

 「ママに絵里と天の話を聞いてから、μ'sのライブ映像を見てみたの。凄くキラキラしてて・・・気付いたら引き込まれてた。あの絵里がキラキラしてる姿を見たら・・・涙が出るくらい感動しちゃったわ。その時に思ったの。『スクールアイドルって凄い!』って」

 

 微笑む鞠莉。

 

 「だから実際、スクールアイドルには興味があったの。でも・・・μ'sを見てしまった後で、『自分もやりたい!』とは思えなかった。私じゃ、あそこまではキラキラ出来ないって思ったから」

 

 「鞠莉・・・」

 

 「だから最初は断った。でも、果南やダイヤに熱心に誘われて・・・二人と一緒の時間が過ごせるなら、悪くないなって思ったの。μ'sみたいになれなくても、果南やダイヤと一緒にいられるなら・・・私はそれで良いと思った。だからスクールアイドルになることを決めたのよ」

 

 申し訳なさそうに私を見る鞠莉。

 

 「嘘をついた上に、身勝手な理由で話を引き受けて・・・本当にゴメンなさい」

 

 謝ってくる鞠莉。

 

 私はそんな鞠莉を見つめ、意を決して思いっきり・・・

 

 「“檸●爆弾”」

 

 「ギャアアアアアアアアアアッ!?」

 

 鞠莉の目の前でレモンを握り潰した。

 

 「目がっ!?目があああああっ!?」

 

 「うわぁ・・・気持ちメッチャ分かるわぁ・・・」

 

 「分かってるなら止めなさいよ!?」

 

 「気分爽快だねぇ、コレ」

 

 「そっち!?私じゃなくて天の気持ち!?」

 

 「私も今度からレモン持ち歩こうかな」

 

 「止めなさい!理事長権限でレモンの持ち込みを禁止してやるんだから!」

 

 「前代未聞だよね。レモンの持ち込みが禁止された学校って」

 

 「そもそも、現役女子高生が理事長やってる時点で前代未聞じゃない!」

 

 「・・・確かに」

 

 あれ、浦の星って結構変わってる?

 

 まぁそれはさておき・・・

 

 「今さらそんなことで謝らないの。私が無理矢理鞠莉を引き込んだことに変わりないんだし、嘘ついたとかどんな理由で引き受けたとかどうでもいいから」

 

 「いや、どうでもよくはないんじゃ・・・」

 

 「・・・・・」

 

 「ゴメンなさい無言でレモンを取り出さないで下さい」

 

 速攻で土下座する鞠莉。私は思わず苦笑してしまった。

 

 「全く・・・天の言った通りだったね」

 

 「え・・・?」

 

 「天が言ってたよ。私やダイヤと一緒の時間が過ごせたら、鞠莉にとってはそれで良かったんだろうって」

 

 「っ・・・天が・・・?」

 

 「うん。十年近く会ってなかったっていう割には、鞠莉のことを理解してるような感じだったよ。流石は幼馴染だよね」

 

 微笑む私。

 

 「過去の行動を変えることは出来ないけど、これからの行動を変えることは出来る・・・これも天が言ってた言葉。鞠莉が天にしてしまったことを、無かったことには出来ないけど・・・これからの行動は、鞠莉次第なんじゃないかな」

 

 「私、次第・・・」

 

 「・・・私はね、天にマネージャーを辞めてほしくないよ。天と一緒に、Aqoursとしてやっていきたいなって思う。鞠莉はどう思ってるの?」

 

 「私は・・・」

 

 鞠莉の目に涙が浮かぶ。

 

 「私も・・・天と一緒にやりたい。でも・・・」

 

 「・・・続けてほしい、って言えない?」

 

 私の問いに、力なく頷く鞠莉。

 

 「私は、あの子の誇りを踏み躙った・・・その私が、どの面下げてそんなこと言えるのよ・・・」

 

 「・・・どんな面を下げてでも、言うしか無いんじゃないかな」

 

 「え・・・?」

 

 「だって、それが鞠莉の本当の気持ちなんでしょ?だったらどんなにみっともなくたって、言葉にして正直に伝えなくちゃ。まずはそこから始めるべきなんじゃないかな」

 

 これも私が天に言われたこと・・・

 

 この言葉に背中を押され、私は鞠莉に正直な気持ちを打ち明けることが出来た。そのおかげで鞠莉と仲直り出来て、今こうして二人でいる。

 

 天が私の背中を押してくれたように、私も鞠莉の背中を押してあげないとね・・・

 

 「まぁ後は・・・天の気持ち次第だよね。『μ'sの一員として終わりたい』と思ってる天が、果たしてこれからもAqoursのマネージャーをやってくれるかどうか・・・」

 

 私達に出来るのは、気持ちを伝えることだけ・・・最終的に決めるのは天だ。

 

 天のあの様子からして、よほどμ'sの人達のことを大切に想っているんだろう。

 

 「全く・・・羨ましいね。μ'sの人達が」

 

 あの天にあそこまで想われているなんて・・・ちょっと妬けちゃうかも。

 

 「・・・それは逆も言えることよ」

 

 鞠莉が呟く。

 

 「天がμ'sの皆を想っているように、μ'sの皆も天のことを想ってる。特に・・・」

 

 「鞠莉・・・?」

 

 首を傾げる私。

 

 鞠莉は深く息を吐くと、意を決したかのように顔を上げた。

 

 「・・・実はね、果南。私、もう一つ隠してたことがあるの」

 

 そう言って語り始める鞠莉。

 

 その話を聞き、驚きのあまり目を見開く私なのだった。




どうも〜、ムッティです。

さてさて、今回は果南ちゃんと鞠莉ちゃんの回でした。

鞠莉ちゃんが『スクールアイドルに興味はあった』と語っていましたが、これはこの作品のオリジナル設定になります。

まぁ鞠莉ちゃんと絵里ちゃんを幼馴染にしている時点で、色々設定も変わりますよね(笑)

そして最後、鞠莉ちゃんが何やら気になる発言をしていましたが・・・

果たしてその内容とは・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

何年経っても変わらない想いがある。

ソードアート・オンラインのオープニング曲である、戸松遥さんの『Resolution』がカッコ良すぎる・・・

『courage』も良かったけど、『Resolution』も良いわぁ・・・


 《曜視点》

 

 「・・・・・」

 

 「・・・・・」

 

 (き、気まずい・・・!)

 

 無言で佇む千歌ちゃんと梨子ちゃんを前に、私は何も言葉を発せずにいた。

 

 二人とも凄く落ち込んでいたので、『今日は三人で千歌ちゃんの家でお泊り会しよう』と提案したところまでは良かったのだが・・・千歌ちゃんの部屋の空気が、まるでお通夜のようだった。

 

 とりあえず、何か話題を・・・

 

 「・・・私達、どうすべきなのかな」

 

 ポツリと呟く千歌ちゃん。

 

 「天くんに、どんなことを言えば良いのかな・・・」

 

 (いきなりその話題を切り出したあああああっ!?)

 

 関係無い話をしつつ、さりげなくその話に持っていくつもりだったのにいいいいいっ!

 

 前フリも無くいきなりぶっこんじゃったよ!?それはダメだって千歌ちゃん!?

 

 「・・・分からない。多分、正解なんて無いのよ」

 

 「・・・だよね」

 

 (そして会話終わったあああああっ!?)

 

 ちょっと梨子ちゃん!?そこはもっと話を広げてくれない!?

 

 またお通夜に逆戻りだよおおおおおっ!

 

 (うぅ、何で私こんなに気を遣ってるのかなぁ・・・)

 

 それもこれも全部天くんのせいだ!天くんがあんなシリアスな展開にするから!

 

 でも・・・

 

 「・・・やっぱり嫌だよね。天くんがマネージャーじゃなくなるなんて」

 

 「曜ちゃん・・・?」

 

 気付けば本音を口にしていた。

 

 やっぱり私は、天くんにマネージャーを続けてもらいたいんだ・・・

 

 「ファーストライブの時も、内浦をPRする為のPVを撮った時も、東京のイベントの時も・・・どんな時でも、天くんは私達のことを支えてくれた。心が折れそうになったこともあったけど、天くんが励ましてくれたから乗り越えられた。辛い時も苦しい時も、いつだって天くんが寄り添ってくれた・・・もう天くんはAqoursにとって、欠けてはならない存在なんだよ」

 

 私だけじゃない。

 

 千歌ちゃんも梨子ちゃんも、花丸ちゃんもルビィちゃんも善子ちゃんも、ダイヤさんも果南ちゃんも鞠莉さんも・・・

 

 皆、天くんのことが大好きなんだ。

 

 「千歌ちゃんと梨子ちゃんだって、同じ気持ちでしょ?天くんにマネージャー辞めてほしくないでしょ?」

 

 「・・・そんなの当たり前じゃない」

 

 呟く梨子ちゃん。

 

 「私が悩んだり、落ち込んだりしてた時・・・天くんはいつだって私のことを肯定してくれたし、いつだって味方でいてくれた。それがどんなに嬉しかったか・・・天くんの存在は、私にとってとても大きいの。だからこれからも支えていてほしいし、マネージャーを辞めてほしくなんてない。でも・・・」

 

 「・・・だからこそ、どうしたら良いか分かんないよね」

 

 梨子ちゃんの言葉の続きを、千歌ちゃんが引き取る。

 

 「天くんは、Aqoursのマネージャーを続けることを望んでない。天くんにとっての特別はμ'sであって、Aqoursじゃないんだよ」

 

 「千歌ちゃん・・・」

 

 「『μ'sの一員として終わりたい』って言ってる天くんに、『Aqoursの一員になってくれ』って言うのは・・・ちょっと酷なんじゃないかな」

 

 俯く千歌ちゃん。

 

 「天くんは鞠莉さんに脅されて、自分の気持ちに反してマネージャーをやってくれてたんだよ?もう脅されることも無くなった今、天くんにもう一度気持ちに反したことをお願いするのは・・・」

 

 「・・・Aqoursの一員になったら、μ'sの一員じゃなくなっちゃうのかな?」

 

 「え・・・?」

 

 私の言葉に、千歌ちゃんが首を傾げる。

 

 「どういうこと・・・?」

 

 「だってそうでしょ?Aqoursの一員になったって、天くんがμ'sの一員であることには変わりないじゃん。違う?」

 

 「違わないけど・・・」

 

 「多分・・・気持ちの問題なんじゃないかしら」

 

 おずおずと口を挟む梨子ちゃん。

 

 「海未先生達にとってμ'sが全てであったように、きっと天くんにとってもμ'sが全てなのよ。だからこそ、μ'sの一員として終わりたい・・・ううん、μ'sだけの一員として終わりたいって思ってるんじゃないかしら?」

 

 「・・・それは思ってそう。天くんって、そういう意思は固いもんね」

 

 思わず苦笑してしまう私。

 

 「でもさ・・・それなら私達だって負けられないじゃん」

 

 「え・・・?」

 

 「私達は天くんにマネージャーを辞めてほしくなくて、天くんはマネージャーを辞めたいと思ってる・・・天くんが私達に自分の意思をぶつけてくれた以上、私達も天くんに自分達の意思をぶつけなきゃダメなんじゃないかな?」

 

 「意思を・・・」

 

 「ぶつける・・・」

 

 「果南ちゃんと鞠莉さんもそうだったじゃん。ちゃんとお互いに思いを伝え合わなかったから、すれ違っちゃった・・・天くんは思いを伝えてくれたんだから、私達も思いを伝えなくちゃダメだと思う」

 

 私の言葉に、二人が目を丸くしていた。

 

 「・・・何か意外。曜ちゃんって意外と熱いのね」

 

 「今度から修造さんって呼んで良い?」

 

 「修造さんではないよ!?あそこまで熱くないからね!?」

 

 「・・・フフッ」

 

 千歌ちゃんが笑う。

 

 「・・・そうだよね。ちゃんと気持ちは伝えないとね」

 

 「・・・そうね。後悔だけはしたくないもの」

 

 梨子ちゃんも微笑みながら頷く。二人とも・・・

 

 「よーし!そうと決まれば、早速皆にも連絡しなくちゃ!」

 

 「大丈夫かしら?皆まだ気持ちの整理がついてないんじゃ・・・」

 

 「大丈夫!きっと皆気持ちは一緒だよ!」

 

 良かった、二人とも元気が出たみたい・・・

 

 「全く・・・君は本当に幸せ者だよ。天くん」

 

 笑みを浮かべつつ、小さく呟く私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・ふぅ」

 

 家のベランダに出て、夜空を見上げている俺。

 

 たくさんの星が瞬いている空は、目を奪われるほど綺麗だった。

 

 「やっぱり・・・良い所だな、内浦は」

 

 「同感です」

 

 背後から声がする。海未ちゃんがベランダに出てきて、俺の隣に並んだ。

 

 「こんなに綺麗な星空、東京ではなかなか見られませんから」

 

 「確かにね」

 

 笑いながら答える俺。

 

 「でも、μ'sのファーストライブの前日・・・神田明神で、凄く綺麗な星空を見たよね。穂乃果ちゃんとことりちゃんと、海未ちゃんと俺の四人で」

 

 「そういえばそうでしたね・・・懐かしいです」

 

 微笑む海未ちゃん。

 

 「ファーストライブ・・・お世辞にも『大成功』とはいえないものでしたよね」

 

 「・・・いや、大成功だったよ」

 

 俺は首を横に振った。

 

 「花陽ちゃんに凛ちゃんに真姫ちゃん、にこちゃんに希ちゃんに絵里姉・・・後でμ'sに入ることになるメンバーが、全員揃ってたもん。あのライブがあったから、全員が繋がることが出来たんだと思う。そう考えたら大成功でしょ」

 

 「・・・フフッ、そうですね」

 

 面白そうに笑う海未ちゃん。

 

 「貴方は昔からそうでしたね、天。穂乃果が底抜けの明るさで私達のことを引っ張ってくれたのに対し、天は底抜けの優しさで私達の心に寄り添ってくれて・・・タイプは違えど、私達にとっては二人とも太陽みたいな存在でした」

 

 「・・・穂乃果ちゃんが太陽なのは同意するけど、俺は違うでしょ」

 

 「違いませんよ」

 

 首を横に振る海未ちゃん。

 

 「自己評価が低いのは、天の悪い癖です。貴方が思っている以上に、私達にとって貴方の存在は大きいんですからね?」

 

 「・・・ありがと」

 

 嬉しい言葉ではあるけど、少し照れ臭いな・・・

 

 「そしてそれは、私達μ'sだけじゃない・・・Aqoursの皆も同じです。彼女達にとって、天の存在は大きいんですよ。今日話してみて、改めてよく分かりました」

 

 俺に視線を向ける海未ちゃん。

 

 「Aqoursのマネージャーを辞めるという決意は・・・変わりませんか?」

 

 「・・・変わらないよ」

 

 ハッキリ答える俺。

 

 「『μ'sの一員として終わりたい』っていう気持ちは・・・あの頃からずっと変わらない」

 

 「天・・・」

 

 「海未ちゃん達が、μ'sを解散した後スクールアイドルをやらなかったように・・・俺も他のスクールアイドルのマネージャーをやる気にはなれなかった。俺にとっても、μ'sが全てだったから」

 

 空を見上げる俺。

 

 「だからこそ、亜里姉と雪穂ちゃんのお願いも断った。スクールアイドルのマネージャーは、そのスクールアイドルの心に寄り添える人がやるべき仕事だと思ったから。『μ'sの一員として終わりたい』と思っている俺には出来ないし、やるべきじゃない・・・Aqoursのマネージャーもね」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「Aqoursのマネージャーは、Aqoursの一員として頑張れる人・・・Aqoursに身も心も捧げられる人がやるべきなんだよ。成り行き上、今までは俺がやってたけど・・・本来であれば、俺なんかがやっちゃいけない仕事だった。中途半端な気持ちじゃ、一生懸命やってる皆に失礼だからね」

 

 「・・・だからこそ、天は一生懸命やっていたのではありませんか?」

 

 「勿論やってたよ。俺に出来ることは、ちゃんとやってきたっていう自負はある」

 

 頷く俺。

 

 「でも・・・心は変わらなかった。Aqoursのマネージャーをやってても、『μ'sの一員として終わりたい』っていう気持ちはずっとあった。そんな気持ちを抱えたまま、Aqoursのマネージャーを続けることは出来ないよ」

 

 だってそれは・・・皆を裏切っているのと同じことだから。

 

 「だから俺は、Aqoursのマネージャーを辞める。そして・・・浦の星も出て行くよ」

 

 「っ・・・転校する、ということですか・・・?」

 

 「そういうこと」

 

 Aqoursのマネージャーを辞める日が来たら、その時は浦の星も出て行く・・・それは以前から決めていたことだ。

 

 マネージャーを辞める以上、俺はもうAqoursに関わるべきではないのだから。

 

 「夏休みに入ったら、一度東京に帰ろうと思う。その時に南理事長に会って、転校について相談するつもりだよ。テスト生としてあの人に推薦されている以上、ちゃんと話はしておかないといけないから」

 

 「・・・本気、なのですか?」

 

 「勿論。っていうか、海未ちゃんも俺が東京に戻ることを望んでなかったっけ?」

 

 「それはそうですが・・・」

 

 複雑そうな海未ちゃん。

 

 海未ちゃん自身もAqoursの皆と関わって、色々と心境の変化があったのかな・・・

 

 「それに・・・そろそろ絵里姉をどうにかしないと。これ以上は亜里姉が可哀想だし」

 

 「・・・仲直り出来るんですか?」

 

 「・・・すぐには無理だろうね」

 

 俺が帰ったからといって、あの喧嘩が無かったことになるわけではない。

 

 絵里姉の態度が変わることは無いだろう。

 

 「まぁ、それは帰ってから考えるよ。亜里姉とも相談したいし」

 

 俺はそう答えると、ベランダからリビングへと戻った。

 

 ふと、机の上に置いておったチラシに目が行く。

 

 「・・・沼津の花火大会、か」

 

 Aqoursが出演する予定のイベント・・・確か夏休みに入る直前だったよな・・・

 

 「そういえば、海未ちゃんもそろそろ教育実習が終わるんだよね?」

 

 「えぇ、一学期の終業式の日が最後ですね」

 

 同じくリビングに戻ってきた海未ちゃんが頷く。

 

 大学に行かなければならない都合上、終業式の翌日には東京に帰らなければいけないらしい。

 

 海未ちゃんとの生活も、もう残り僅かなんだな・・・

 

 「・・・これ、一緒に行こっか」

 

 「え?」

 

 驚いている海未ちゃん。

 

 「いや、その・・・良いんですか?」

 

 「何が?」

 

 「いえ、天が誘ってくれるなんて・・・珍しいなと思いまして」

 

 「あぁ、行きたくないなら別に・・・」

 

 「行かせていただきますっ!」

 

 慌てて答える海未ちゃん。

 

 「こうしてはいられません!早速準備をしなくては!」

 

 「早くない?まだ日にちあるよ?」

 

 「何言ってるんですか!乙女の準備は時間がかかるものなんです!」

 

 「あ、そう・・・」

 

 「あぁ、楽しみです!どんな浴衣を着て行きましょうか!」

 

 ルンルン気分で奥の部屋に入っていく海未ちゃん。

 

 浮かれてるなぁ・・・

 

 「・・・ま、いっか」

 

 俺は苦笑すると、椅子に座って花火大会のチラシを眺めた。

 

 Aqours、か・・・

 

 

 

 

 

 『私達じゃ・・・ダメだったのかなぁっ・・・!』

 

 

 

 

 

 「っ・・・」

 

 千歌さんの言葉が頭の中で響く。千歌さん、泣いてたよな・・・

 

 善子のことも泣かせちゃったし、ルビィと花丸にも悲しい思いをさせたことだろう。

 

 ダイヤさんと果南さんも心配そうに俺のこと見てたし、曜さんも凄く気遣わしげな表情だった。

 

 小原理事長も辛そうに唇を噛んでたし、梨子さんにはビンタまでされてしまった。

 

 叩かれた頬以上に、とても心が痛かったけど・・・多分、梨子さんの方が心を痛めてたと思う。

 

 叩いた手にも影響が無いと良いけど・・・

 

 「・・・花火大会、間に合うかな」

 

 Aqoursにとってせっかくのチャンスを、俺のせいで棒に振るようなことになったら・・・嫌だな。

 

 「・・・よし。Aqoursのマネージャーとして、最後の仕事といこうか」

 

 俺はあることを決め、紙とペンを用意した。

 

 そしてスマホを取り出し、あの人に電話をかけてみるのだった。

 

 「あ、もしもし真姫ちゃん?ちょっと相談したいことがあるんだけど・・・」




どうも〜、ムッティです。

またソードアート・オンラインのアニメが始まりましたね。

オープニングのアリスの主人公感ハンパない(笑)

そしてファナティオさん・・・エロい( ´∀`)

まさかオープニングにあんなシーンがあるとは思わなかった(*^ー゚)b グッジョブ!!

もう一度原作読み直したいなぁ・・・



さてさて、どうやら二年生組が動き出したようですね。

しかし天は何と、浦の星を出ていこうとしている様子・・・

そして何やら真姫ちゃんに連絡していましたが、一体何をするつもりなのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大切なものほど簡単に諦められない。

映画『空の青さを知る人よ』を観てきました。

良い映画だった・・・


 《梨子視点》

 

 翌日・・・

 

 「えぇっ!?天くんが東京に帰った!?」

 

 「えぇ、私も驚きました」

 

 困惑した表情の海未先生。

 

 放課後、私達はスクールアイドル部の部室に集まったのだが・・・そこで海未先生から、驚愕の事実を聞かされたのだった。

 

 「昨日の夜、誰かと電話していたようなのですが・・・終わった後、急に『明日は学校を休んで東京に行ってくる』と言い出しまして・・・一応『体調不良の為』ということにしてありますので、このことは内密にお願いします」

 

 「それで今日、天くんは学校を休んでるんだね・・・」

 

 納得しているルビィちゃん。

 

 今日は天くんに、私達の気持ちを伝えようと思ったのに・・・

 

 「東京のどこへ行く、とは言ってなかったんですか?」

 

 「それが『内緒』の一点張りでして・・・うぅ、私と天の仲だというのに・・・」

 

 「海未先生、本当に天のこと好きよね・・・」

 

 果南さんの質問に落ち込みながら答える海未先生を見て、善子ちゃんが呆れていた。

 

 「今日中には帰ってきますの?」

 

 「・・・先ほど連絡が来たのですが、今日は東京に泊まるそうです。『明日も学校を休むから、休みの連絡よろしく』とのことでした」

 

 「・・・そうですか」

 

 明らかに落ち込んでいるダイヤさん。花丸ちゃんも俯いている。

 

 「もしかして天くん、このまま帰らないつもりなんじゃ・・・」

 

 「・・・確かに昨日の夜、『浦の星を出て行く』とは言ってました」

 

 「そんな・・・!」

 

 「嘘でしょ・・・?」

 

 千歌ちゃんと曜ちゃんが、信じられないという表情を浮かべる。

 

 「ですがそれは、音ノ木坂の南理事長にも相談すると言ってましたし・・・このまま帰って来ないということは無いと思いますが・・・」

 

 「天・・・」

 

 悲痛な表情を浮かべる鞠莉さん。天くん、東京で何をしてるのかしら・・・

 

 心配になる私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 翌朝・・・

 

 「・・・ん」

 

 目覚める俺。何やら身体が温かかった。

 

 まるで誰かに抱き締められているような・・・

 

 「海未ちゃ・・・ん?」

 

 いや、俺の身体に当たっているこの二つの柔らかいモノ・・・海未ちゃんより大きいな。

 

 視線を向けてみると・・・

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 穏やかに寝息を立てている真姫ちゃんの顔があった。

 

 あぁ、そういえば昨日は真姫ちゃんの家に泊まったんだっけ・・・

 

 「・・・懐かしいな」

 

 小さく笑いながら、真姫ちゃんの頭を撫でる。

 

 こんな風に真姫ちゃんと一緒に寝るのは、ずいぶん久しぶりな気がする。

 

 「んっ・・・天ぁ・・・?」

 

 真姫ちゃんの目がゆっくり開いていく。

 

 「あ、起こしちゃった・・・ゴメンね、真姫ちゃん」

 

 「ふわぁ・・・構わないわよ。いい時間だし」

 

 時計の方に視線を移す真姫ちゃん。時刻は既に九時を回っていた。

 

 「アララ、結構寝てたんだね・・・」

 

 「昨日は夜遅かったし、しょうがないわよ」

 

 そう、昨日は真姫ちゃんと遅くまで作業をしていた。

 

 ようやく終わった頃には日付がとうに変わっており、俺達はベッドに潜った瞬間に寝てしまったのだった。

 

 「凄い今さらなんだけど、一緒にベッド使わせてもらっちゃってゴメンね。布団を借りようと思ってたんだけど・・・」

 

 「本当に今さらね・・・」

 

 呆れている真姫ちゃん。

 

 「そんな気を遣わなくていいのよ。私と天の仲じゃない」

 

 「いや、俺も思春期の男子だからさぁ・・・こんな綺麗なお姉さんと一緒に寝たら、何しちゃうか分かんないじゃん?」

 

 「フフッ、その時は責任とって結婚してもらうから大丈夫よ」

 

 「よっしゃ、西木野家の財産で毎日遊んで暮らせるぜ」

 

 「ヒモになる気満々!?」

 

 真姫ちゃんのツッコミ。まぁ冗談はこれくらいにして・・・

 

 「さて、そろそろ起きよっか」

 

 「・・・もう少しこのままで」

 

 俺をギュっと抱き締める真姫ちゃん。

 

 「今日中に内浦に戻っちゃうんでしょ?次はいつ会えるか分かんないから・・・」

 

 「すぐ会えるって」

 

 笑いながら真姫ちゃんの頭を撫でる。

 

 「全く・・・相変わらず真姫ちゃんは可愛いんだから」

 

 他の人がいるとちょっとツンツンするくせに、二人きりになると急に素直になる・・・

 

 真姫ちゃんは昔からこういう性格なのだ。

 

 「・・・ありがとね、真姫ちゃん。急なお願いを聞いてくれて」

 

 「私が天の頼みを断るわけないでしょ」

 

 微笑む真姫ちゃん。

 

 「っていうか、昨日も今日も学校休んじゃって大丈夫なの?」

 

 「もう期末テストは終わってるから大丈夫。後は海未ちゃんが上手く言っといてくれるでしょ」

 

 「・・・海未も大変ね」

 

 呆れている真姫ちゃん。

 

 海未ちゃんには、帰ったら何かお礼をしないとなぁ・・・

 

 「仕方ないじゃん。真姫ちゃんが『電話じゃまどろっこしい』って言うんだもん」

 

 「だって直接会った方が早いじゃない。私だって、まさか学校を休んでまでこっちに来るとは思わなかったわよ」

 

 「俺の行動力を舐めないでほしいわ」

 

 「今回に関しては、威張って言えることじゃないわよ」

 

 ジト目の真姫ちゃん。と、どちらからともなく吹き出す。

 

 「フフッ・・・まぁ結果的に良いモノも出来たし、良かったわね」

 

 「おかげさまでね。ホント真姫ちゃん大好き」

 

 「っ・・・ふ、不意打ちは反則っ!」

 

 顔を赤くする真姫ちゃんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《千歌視点》

 

 「ハァ・・・」

 

 溜め息をつく私。海未先生の言った通り、天くんは今日も学校を休んでいた。

 

 もしかして、本当に帰って来ないつもりなんじゃ・・・

 

 「天くん・・・」

 

 自分達の気持ちも伝えられずにお別れなんて、そんなのは絶対に嫌だ。

 

 とはいえ、本人と会えないことには・・・

 

 「ただいまぁ・・・」

 

 「あら千歌ちゃん、お帰りなさい」

 

 落ち込みながら帰宅すると、居間では志満姉が美味しそうにおやつを食べていた。

 

 「ん~、やっぱり美味しいわ~♪」

 

 「志満姉、何食べてるの?」

 

 聞きながらテーブルの上を見ると、『東京ば●奈』の箱が置いてあった。

 

 あれ・・・?

 

 「私が東京行った時に買ってきたやつ、まだ残ってたの?」

 

 「あぁ、あれはもう食べ切っちゃったわよ」

 

 笑っている志満姉。

 

 志満姉は『東京●な奈』が大好きで、私が東京に行った時も『絶対に買ってきて!』と念を押されたほどである。

 

 それを食べ切ってしまったのなら、ここにあるのは一体・・・

 

 「さっき天くんが来て、お土産に持ってきてくれたのよ」

 

 「っ!?天くんが来たの!?」

 

 「えぇ。天くん、昨日から東京に行ってたんでしょう?『志満さんの大好物だって聞いたので買ってきました』ですって。もう天くんホント好き~♡」

 

 頬に手を当て、身体をくねらせている志満姉。

 

 帰って来てるってことは、今家に行けば天くんに会える・・・

 

 

 

 

 

 『・・・俺は、Aqoursの十人目にはなれません』

 

 

 

 

 

 「っ・・・」

 

 あの時の天くんの言葉が頭をよぎった。

 

 天くんに何を言えば良いんだろう・・・どうやって気持ちを伝えたら・・・

 

 「あっ、そういえば・・・」

 

 志満姉が机の下から、手紙用の封筒を取り出した。

 

 「これ、天くんが千歌ちゃんに渡してくれって」

 

 「天くんが・・・?」

 

 おずおずと封筒を受け取る私。

 

 開けてみると、中には一枚のCDと二枚の紙が入っていた。

 

 「何これ・・・?」

 

 とりあえず、一枚目の紙を見てみると・・・

 

 「っ・・・これって・・・!」

 

 そこに書いてあったのは、歌詞だった。丁寧な文字で、紙いっぱいに書き込まれてある。

 

 曲名の横には、『作詞:絢瀬天』と書かれており・・・

 

 「えぇっ!?」

 

 その下の文字を見て、思わず大声を上げてしまう。

 

 「作曲・・・西木野真姫・・・!?」

 

 μ'sのメンバーの一人、西木野真姫さんの名前が書かれていた。

 

 じゃあもしかして、このCDには・・・

 

 「天くんと、西木野さんが作った曲が入ってる・・・?」

 

 でも、どうしてこれを私に・・・?

 

 その答えは、次の紙に書いてあった。

 

 

 

 

 

 『これがAqoursのマネージャーとして、俺に出来る最後の仕事です。花火大会、頑張って下さい』

 

 

 

 

 

 「っ・・・」

 

 沼津の花火大会・・・今の状態では、もう間に合わないかなと思ってたけど・・・

 

 天くん、動いてくれてたんだね・・・

 

 「フフッ・・・天くんらしいや」

 

 目に涙が浮かぶ。

 

 全く、ホント頼りになるマネージャーだよ・・・

 

 「・・・やっぱり、諦められないよ」

 

 改めて思う。天くんはAqoursに絶対必要な存在だ。

 

 天くんにとって、μ'sが特別であるように・・・私達にとって、天くんは特別な存在なんだ。

 

 「絶対に諦めない。天くんも・・・花火大会も」

 

 涙を拭い、決意を固める。

 

 私はスマホを取り出すと、隣の家にいるであろう梨子ちゃんに電話をかけるのだった。

 

 「あ、もしもし梨子ちゃん!?今すぐ私の家に来て!早く!」




どうも〜、ムッティです。

スクスタのストーリー、最後までクリアしました。

いやぁ、良かったわぁ・・・

今回スクスタを通じて、完全に虹ヶ咲にハマってしまいました(笑)

アニメ化してほしいなぁ・・・



さてさて、本編では動きがありましたね。

天は東京へ行き、真姫ちゃんと曲作りをしていたようです。

出来上がった曲を渡された千歌ちゃんは、改めて自身の気持ちを確認。

天も花火大会も諦めないことを決めるのだった

To be continued・・・



何かまとめみたいになりましたね(笑)

果たしてこれからどうなってしまうのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

迷いがあると心は晴れないものである。

最近になって、Every Little Thingの『fragile』をよく聴いてます。

来月公開される映画『フラグタイム』の主題歌として、伊藤美来さんと宮本侑芽さんがこの曲をカバーしてるんですよね。

改めて聴いてみて、やっぱり良い曲だなと思いました。


 「・・・言い残した言葉はありますか?」

 

 「すいませんでした」

 

 海未ちゃんに土下座して謝る俺。

 

 東京から家に帰ってきてまったりしていたら、帰宅した海未ちゃんが俺を見て怒りのオーラを出し始めてしまったのだ。

 

 事情を説明したものの、海未ちゃんの怒りは収まらず今に至っている。

 

 「どれほど心配したと思っているんですか?」

 

 「心配かけてすいません」

 

 「麻衣さんや学校に嘘をつくのが、どれほど大変だったと思ってるんですか?」

 

 「迷惑かけてすいません」

 

 「『すいません』しか言えないんですか貴方は」

 

 「それしか言えなくてすいません」

 

 海未ちゃんにガチで怒られるの、久しぶりだなぁ・・・

 

 まぁ俺が悪いんだけども。

 

 「全く・・・」

 

 溜め息をつく海未ちゃん。

 

 「・・・まぁ、天が何の理由も無くこんなことをするとは思っていませんでしたけど。せめて私には、ちゃんと理由を説明してほしかったです」

 

 「返す言葉もございません」

 

 まぁ確かに、海未ちゃんには説明しておくべきだったかもな・・・

 

 「それで?曲作りは上手くいったんですか?」

 

 「うん、真姫ちゃんが凄く良い曲を作ってくれたよ」

 

 俺が思い描いていたもの・・・いや、それ以上の出来映えだった。

 

 流石は真姫ちゃん、本当に頼りになるわ。

 

 「あの歌詞にピッタリな曲調だし、花火大会にも合ってるんじゃないかな。きっと良いステージになると思うよ」

 

 「・・・ずるいです」

 

 「え・・・?」

 

 「ずるいですっ!私も天や真姫と一緒に曲を作りたかったですぅ!μ'sの曲作りは、私達三人でやってたじゃないですかぁっ!」

 

 「あー、そうだったねぇ・・・」

 

 作詞が俺と海未ちゃんで、作曲が真姫ちゃん・・・μ'sの曲作りは、基本的にこの三人でやっていたのだ。

 

 「私だけ除け者なんて酷いですっ!何で誘ってくれなかったんですか!?」

 

 「いや、歌詞はもう出来上がってたからさぁ・・・」

 

 「うぅ・・・」

 

 涙目の海未ちゃん。

 

 「そんなにすぐ歌詞が出来上がってたんですか?」

 

 「まぁ、題材が題材だったからね」

 

 「何を題材にしたんですか?」

 

 「それは花火大会までのお楽しみ」

 

 「そんなぁっ!?」

 

 ガックリうなだれる海未ちゃんを見て、俺は思わず笑ってしまった。

 

 「まぁ、本当に楽しみにしててよ。きっと良いステージになるからさ」

 

 「・・・花火大会、間に合うんでしょうか?」

 

 不安そうな海未ちゃん。

 

 「天がマネージャーを辞めると宣言してから、皆もの凄く落ち込んでるんですよ?あれでは花火大会どころでは・・・」

 

 「だから曲を作ったんだよ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「衣装は曜さんとルビィが先行して作り始めてたし、ダイヤさんが加わったことで三年生の分もすぐに出来上がるでしょ。振り付けやフォーメーションも果南さんや小原理事長がいるから、花丸と善子の負担は相当軽くなっただろうし。後は曲さえ出来てしまえば、花火大会には間に合うはず・・・だから俺と真姫ちゃんで作ったんだよ。今の千歌さんと梨子さんじゃ、すぐに作るのは難しいだろうから」

 

 「・・・何だかんだ言って、Aqoursのことを考えていたんですね」

 

 「当たり前でしょ。『もうマネージャー辞めるんで関係ありません』って思えるほど、浅い付き合いはしてないからね」

 

 苦笑する俺。

 

 「・・・Aqoursのマネージャーとして、中途半端には終わりたくないから。九人での初ステージを見届けて、正式にマネージャーは辞めるよ」

 

 「・・・そうですか」

 

 複雑そうな表情の海未ちゃん。

 

 「・・・天がそう決めたのなら、私は何も言いません」

 

 「・・・ありがと」

 

 俺はゆっくり立ち上がると、海未ちゃんの頭を撫でた。

 

 「あ、そうそう・・・花火大会、真姫ちゃんも来るって」

 

 「ええええええええええっ!?」

 

 今日一番の大声を上げる海未ちゃん。

 

 「ちょ、何でですか!?」

 

 「自分の作った曲がどんな形で披露されるのか、気になるから見たいんだってさ。真姫ちゃんにも見てほしいって思ってたから、ちょうど良かったよ」

 

 「私とのデートはどうなるんですか!?」

 

 「何でデートってことになってるのか、説明求む」

 

 「男女が二人きりで出かけるんですよ!?これはもうデートでしょう!?」

 

 「じゃあデートじゃないわ。男一人に女二人だもん」

 

 「うわあああああん!?」

 

 奥の部屋へと走っていく海未ちゃん。やれやれ・・・

 

 「・・・これで良かったんだよな」

 

 独り言を呟く。

 

 「俺にとってμ'sは特別・・・『μ'sの一員として終わりたい』という気持ちは、あの頃からずっと変わってない」

 

 だからこそ、亜里姉や雪穂ちゃんのお願いも断った。

 

 それなのに・・・

 

 「・・・何でモヤモヤしてんだろ」

 

 Aqoursのマネージャーを辞めると宣言してから、皆の悲しそうな表情を見てから・・・どうにも心がスッキリしなかった。皆と過ごした日々を思い出しては、『これで良いんだろうか』という思いがよぎる。

 

 「・・・これで良いんだ」

 

 自分にそう言い聞かせていると、スマホに通知が届いた。

 

 チェックしてみると、千歌さんからメッセージが届いていた。

 

 

 

 

 

 『素敵な曲をありがとう!もし花火大会に来なかったら、志満姉にチクるからね!』

 

 

 

 

 

 「・・・ハハッ、それは困るな」

 

 思わず苦笑してしまう俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「ひっぐ・・・えぐっ・・・」

 

 「ちょっとダイヤ、泣きすぎだって・・・ぐすっ」

 

 「果南も泣いてマース・・・うぅ・・・」

 

 千歌ちゃんの部屋で泣いているダイヤさん・果南さん・鞠莉さん。

 

 その理由は・・・

 

 「良い曲だね、これ・・・」

 

 「そりゃあこの人達も泣くわ・・・」

 

 ルビィちゃんと善子ちゃんがしみじみと呟く。

 

 私達は今、天くんと西木野真姫さんが作ってくれた曲を聴いていた。本当に良い曲だし、特に天くんが書いたこの歌詞・・・

 

 ダイヤさん達にとっては、心に沁みるものだと思う。

 

 「これ、西木野さんの歌声だよね?凄く良い・・・」

 

 「引き込まれるずらぁ・・・」

 

 聴き入っている曜ちゃんと花丸ちゃん。

 

 確かに、西木野さんの歌声は素晴らしいものだった。流石はμ'sの作曲担当、作る音楽も歌声も素敵だわ・・・

 

 「花火大会は、この曲でいこうと思う」

 

 千歌ちゃんが真剣な表情で話を切り出す。

 

 「天くんが私達の為に動いてくれて、こんな素敵な曲を作ってくれたんだもん。私達に出来るのは、この曲にふさわしいパフォーマンスをすることじゃないかな」

 

 「千歌ちゃん・・・」

 

 今の千歌ちゃんには、落ち込んだり迷ったりしているような感じは一切ない。覚悟を決めた顔をしていた。

 

 「賛成であります!」

 

 「マルもずら!」

 

 「頑張ルビィ!」

 

 「ククッ、このヨハネにも異論は無い」

 

 次々に賛成する皆。

 

 千歌ちゃんは笑顔で頷くと、三年生達の方を見る。

 

 「果南ちゃん、ダイヤさん、鞠莉さん・・・力を貸してくれる?」

 

 「当然でしょ」

 

 涙を拭う果南さん。

 

 「もう私達はAqoursの一員なんだから。ね、二人とも?」

 

 「勿論ですわ。良いステージにする為に、私達も全力を尽くしましょう」

 

 「Yes!久々のステージ、ワクワクするわね!」

 

 ダイヤさんと鞠莉さんも笑顔で頷いてくれる。

 

 スクールアイドルとしての経験がある人達がいてくれると、本当に頼もしいわね・・・

 

 「曜さん、ルビィ、衣装の方はどうなっていますの?」

 

 「私達の分はほとんど出来てます。後はダイヤさん達の分ですね」

 

 「私もお手伝いします。三人で分担してやりましょう」

 

 「それならすぐ仕上がりそうだね!」

 

 「花丸ちゃん、善子ちゃん、振り付けとフォーメーションどうする?」

 

 「ヨハネよ。振り付けは私とずら丸で、『こういう感じにしよう』っていう大まかな方向性は考えてるわ」

 

 「じゃあ私と果南で、フォーメーションを考えようかしら。後でお互いの出来上がったものを見て、すり合わせていきましょう」

 

 「了解ずら!」

 

 それぞれ話し合いが進んでいく。これなら花火大会に間に合いそうだ。

 

 「梨子ちゃん、私達は運営側との話し合いに専念しよう。当日の流れを把握したいし、段取りもしておかないと」

 

 「そうね」

 

 頷く私。本来であれば、天くんがやってくれていたであろう仕事だけど・・・

 

 天くんはもう・・・

 

 「・・・諦めちゃダメだよ」

 

 表情を見て察したのか、私の手を優しく握る千歌ちゃん。

 

 「まだ私達、天くんに何も伝えられてないんだから。諦めるのは早いよ」

 

 「千歌ちゃん・・・」

 

 「花火大会のステージを成功させて、その後・・・天くんにちゃんと伝えよう?『私達には、天くんが必要なんだ』って」

 

 「っ・・・うんっ!」

 

 涙をこらえ、笑顔で頷く。そうよね、簡単に諦めちゃダメよね・・・

 

 「夢が叶う日が来る可能性は・・・諦めなかった人にしか無いんだから」

 

 前に天くんに言われた言葉を思い出し、気持ちを奮い立たせる私なのだった。




どうも〜、ムッティです。

いやぁ・・・花火大会引っ張りすぎじゃね?←

ここまで引っ張ると、逆に花火大会での話を書くのが難しいんだけど・・・

誰だよ!ここまで引っ張ったヤツは!

・・・ゴメンなさい、私です(´・ω・`)

はい、そんなわけで次回は花火大会です。

果たしてAqoursのステージは成功するのか?

そして天を引き留めることは出来るのか?

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人はギャップに弱いものである。

青森に行ってきました。

大間のマグロが美味しかった。


 「ようこそ沼津へ」

 

 「・・・思ったより遠かったわ」

 

 少し疲れた様子の真姫ちゃん。

 

 花火大会当日、俺は沼津駅まで真姫ちゃんを迎えに来ていた。

 

 「ここから天の家まで、まだ距離があるんでしょ?もう足がクタクタで、歩ける気がしないんだけど・・・」

 

 「うわぁ、昔はあんなに歌って踊ってたのに・・・歳を取るって怖いね」

 

 「人をおばさんみたいに言わないでくれる!?まだ二十一なんだけど!?」

 

 「冗談だよ。お疲れ」

 

 苦笑する俺。

 

 「ちゃんと車を手配しといたから、心配しないで」

 

 「車・・・?」

 

 首を傾げる真姫ちゃんに、俺は後ろに停まっている車を指差した。

 

 運転席の窓から美渡さんが顔を出し、こちらに向かって笑いながら手を振っている。

 

 「・・・誰?」

 

 「Aqoursのリーダー、高海千歌さんのお姉さん。車を出してくれるっていうから、お言葉に甘えてお願いしちゃった」

 

 「相変わらず年上の女に好かれるわね、アンタ・・・」

 

 呆れている真姫ちゃん。

 

 「海未はどうしたの?」

 

 「家で浴衣の準備してるよ。真姫ちゃんも早く行こう?」

 

 俺はそう言うと真姫ちゃんの荷物を持ち、美渡さんの車へと向かった。

 

 俺達が近付いてくるのを見て、美渡さんが車から降りてくる。

 

 「おぉ、この人が天の彼女さん?」

 

 「かのっ・・・!?」

 

 顔を赤くする真姫ちゃん。やれやれ・・・

 

 「はいはい、からかわないの。真姫ちゃんは美渡さんと違って純粋なんですから」

 

 「人が純粋じゃないみたいな言い方しないでくれる!?」

 

 「真姫ちゃんの純粋さを舐めないで下さい。真姫ちゃんは高校生の時まで、サンタクロースの存在を信じていた稀有な子なんですから」

 

 「ちょっと!?その話は止めなさいよ!?」

 

 「・・・自分がいかに汚れた人間なのか、思い知ったわ」

 

 「何で涙ぐみながら頭を撫でるんですかっ!」

 

 ツッコミを連発する真姫ちゃん。

 

 ちなみに真姫ちゃんがサンタクロースの真実を知ったのは、高校三年生の時だ。真姫ちゃんのご両親が『流石にこのままではマズい』と思ったらしく、真実を打ち明けたんだとか。

 

 あの時の真姫ちゃん、見ていられないほど落ち込んでたっけなぁ・・・

 

 「それにしても、本当に美人だねぇ・・・海未ちゃんもそうだけど、何で天の近くには美女か美少女しかいないの?」

 

 「日頃の行いが良いからでしょうね」

 

 「どの口がそんなこと言うわけ!?」

 

 「こんな品行方正な人間、そうそういないでしょ」

 

 「品行方正の意味を辞書で調べてから言ってくれる!?」

 

 「・・・フフッ」

 

 俺と美渡さんのやり取りを見て、真姫ちゃんが笑いを零す。

 

 「真姫ちゃん?どうかした?」

 

 「いや、何て言うか・・・どこへ行っても、天は天なんだなって」

 

 微笑む真姫ちゃん。

 

 「こっちでも上手くやれてるみたいで、ちょっと安心したわ」

 

 「天はもう、すっかり溶け込んでるからねぇ」

 

 笑っている美渡さん。

 

 「四月に来たばかりとは思えないくらい、内浦に馴染んでるもん。何て言うか、昔からの知り合いみたいな感覚だよ」

 

 「失礼な。そんなに歳は取ってないですよ」

 

 「私だってそうだわっ!」

 

 「ダウト」

 

 「しばき倒すわよ!?」

 

 「フフッ・・・本当に変わらないわね」

 

 俺と美渡さんのじゃれあいを、微笑みながら見つめる真姫ちゃんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「遅いですよ真姫!早く早く!」

 

 「ちょ、海未!?引っ張らないでよ!?」

 

 奥の部屋から出てきた海未ちゃんが、到着したばかりの真姫ちゃんを引きずって奥の部屋へと入っていく。

 

 どんだけ花火大会が楽しみなんだ・・・

 

 「私達はこれから浴衣に着替えますので、絶対に中を覗かないで下さいね!」

 

 「そして俺に覗かれた海未ちゃんと真姫ちゃんは、鶴になって飛んでいくんだね」

 

 「『鶴の恩返し』じゃないですよ!?とにかくリビングで待ってて下さい!」

 

 「ちょ、少し休みたいんだけど・・・」

 

 真姫ちゃんの訴えも虚しく、ドアを閉める海未ちゃん。

 

 真姫ちゃん、ドンマイ・・・

 

 「美渡さん、上がって下さい」

 

 「いや、放っておいて大丈夫なの・・・?」

 

 「大丈夫ですよ。真姫ちゃんのライフがゼロになるだけなんで」

 

 「全然大丈夫じゃなくない!?」

 

 ツッコミを入れつつ、家に上がる美渡さん。

 

 海未ちゃんと真姫ちゃんが着替えた後、また沼津まで車で送ってもらうことになっているのだ。

 

 「適当に座って下さい。今麦茶出すんで」

 

 「おっ、サンキュー!」

 

 ソファに腰掛ける美渡さん。俺はコップに麦茶を注いだ。

 

 「っていうか、天はこんなにゆっくりしてて大丈夫なの?千歌はもう、とっくに会場に向かったけど?」

 

 「・・・後のことは運営側がやってくれるので、本番で俺に出来ることは無いんです。行っても何もすることが無いので」

 

 「ふぅん・・・そっか」

 

 麦茶の入ったコップを美渡さんに渡す俺。

 

 美渡さんはそれを受け取ると、一気に飲み干した。

 

 「ふぅ・・・ねぇ、天」

 

 「何ですか?」

 

 「千歌達と何かあったでしょ」

 

 「っ・・・」

 

 どうやら気付かれていたらしい。美渡さんが苦笑している。

 

 「この間、千歌のヤツ凄く落ち込んでたんだよ。それでちょっと心配してたんだけど、急に花火大会に向けて頑張り始めてさ。他のAqoursのメンバーもウチに来たりしてたんだけど、天だけは一回も来なかったじゃん?だから何かあったんだろうなって」

 

 「・・・まぁ、気付かないわけないですよね」

 

 今まで度々来ていたのに、急に来なくなったら普通は勘付くか・・・

 

 「実は色々ありまして・・・」

 

 「ストップ」

 

 説明しようとした俺を、美渡さんが遮った。

 

 「何があったかを聞くつもりは無いよ。天と千歌達の問題に、私が出しゃばるべきじゃないと思うから」

 

 「美渡さん・・・」

 

 「まぁ本来であれば、『ウチの妹を凹ませたのはテメェかあああああっ!』って殴り掛かってるところだけどね」

 

 「思いっきり出しゃばってるじゃないですか」

 

 思わずツッコミを入れてしまう。言ってることが違うんだけど・・・

 

 「とはいえ、私だって天のことを少しは知ってるつもりだよ。千歌達を大切に想ってくれてることは、これまでの行動を見てれば分かるしさ」

 

 笑っている美渡さん。

 

 「だからまぁ、一つだけ言わせてほしいんだけど・・・後悔しないようにね」

 

 「っ・・・」

 

 「はいっ!この話はおしまいっ!」

 

 パンッと手を叩き、コップを俺に差し出す美渡さん。

 

 「麦茶もう一杯!」

 

 「・・・はいはい」

 

 苦笑しながらコップを受け取る俺。

 

 普段は子供みたいなノリのくせに、こういう時だけ大人なのはズルいよな・・・

 

 そんなことを思いつつ、麦茶を注いでいる時だった。

 

 「すみません、お待たせしました」

 

 「あぁ、疲れた・・・」

 

 海未ちゃんと真姫ちゃんの声がする。どうやら浴衣に着替え終えたようだ。

 

 「思ったより早かっ・・・たね・・・」

 

 振り向いた俺は、二人の姿を見て固まってしまった。

 

 何故なら・・・

 

 「おぉっ・・・!」

 

 感嘆の声を上げる美渡さん。

 

 青と赤の浴衣に身を包んだ海未ちゃんと真姫ちゃんは・・・目を奪われるほど美しかった。

 

 本当に浴衣がよく似合っている。二人の顔は見慣れているはずなのに、何だかドキドキしてしまっていた。

 

 「天?」

 

 「どうしたの?」

 

 固まっている俺を不思議に思ったのか、海未ちゃんと真姫ちゃんが首を傾げている。

 

 俺は固まった口を必死に動かした。

 

 「いや、その・・・ゴメン、見惚れてた」

 

 「「っ!?」」

 

 ボンッと二人の顔が赤くなる。

 

 その様子を見て、美渡さんがニヤニヤしていた。

 

 「いやぁ、若いねぇ」

 

 「若くない人は黙ってて下さい」

 

 「ちょ、私だってまだ若いんだけど!?」

 

 美渡さんの抗議はスルーして、俺は二人に向き直った。

 

 「えーっと、その・・・二人ともメッチャ綺麗。よく似合ってるよ」

 

 「あ、ありがとうございます・・・」

 

 「な、何か照れるんだけど・・・」

 

 恥ずかしそうに俯く二人。

 

 そういう反応されると、こっちも余計に照れるんだけど・・・

 

 「っていうか、ずいぶん早かったね?」

 

 「慣れてますから。真姫の着付けも私がやりましたし」

 

 「あまりの早技に、全然ついていけなかったわ・・・完全に化け物ね」

 

 「化け物って何ですか!」

 

 「そうだよ真姫ちゃん。せめて怪物って言ってあげないと」

 

 「一緒ですよねぇ!?真姫も天も私を何だと思ってるんですか!?」

 

 「・・・アンタ達、ホント仲良しね」

 

 真姫ちゃんと俺のイジりに、涙目で抗議する海未ちゃん。

 

 それを見て、呆れた様子で苦笑する美渡さんなのだった。




どうも〜、ムッティです。

浴衣って良いですよね(唐突)

特に海未ちゃんの浴衣姿・・・マジで似合いすぎててヤバいです。

何かこの作品では『天のことが好きすぎる残念な子』みたいな扱いになってますけど、作者は海未ちゃん大好きです(・ω・)ノ

浴衣姿の海未ちゃんと一緒に、夏祭りに行きたいだけの人生だった・・・

さてさて、次回はいよいよライブ・・・

果たしてどうなるのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

届けたい想いがある。

スクスタがメッチャ楽しい。

まだまだ初心者だけど(´・ω・`)


 「わぁ・・・!」

 

 目を輝かせている海未ちゃん。

 

 流石はこの辺りで一番のイベントというだけあって、会場は多くの人で賑わっていた。

 

 屋台もたくさん並んでおり、焼きそばやたこ焼き等の美味しそうな匂いが漂っている。

 

 「片っ端から制覇しましょう!」

 

 「子供か」

 

 呆れている真姫ちゃん。

 

 「っていうか、海未って人の多いところ苦手じゃなかった?」

 

 「それを気にしないくらい、屋台に心を奪われてるんだろうね」

 

 「穂乃果じゃないんだから・・・」

 

 溜め息をつく真姫ちゃん。

 

 確かに今の海未ちゃんって、穂乃果ちゃんに似てるかも・・・

 

 「それで?Aqoursのステージはいつなの?」

 

 「あと一時間くらいで始まる予定だよ。それまではゆっくりしてても大丈夫」

 

 「でも、席を確保しておかないといけないんじゃない?」

 

 「それなんだけど・・・」

 

 俺は苦笑しつつ、ポケットからチケットを取り出した。

 

 「実は美渡さんから、花火大会の有料観覧席のチケットを渡されたんだよね。しかも一番良い席で、ステージも花火も間近で見られるらしいよ」

 

 「嘘でしょ!?よくそんなチケット手に入ったわね!?」

 

 「・・・まぁ、入手経路の予想はつくけどね」

 

 十中八九、小原家のコネだろう。美渡さんは千歌さんから、俺に渡してくれって頼まれたって言ってたし・・・

 

 『絶対に見に来い』っていうメッセージなんだろうな。

 

 「・・・言われなくても行くっての」

 

 「天?」

 

 「天!真姫!早く行きますよ!」

 

 少し先で、海未ちゃんがブンブン手を振っている。やれやれ・・・

 

 「行こっか」

 

 「えぇ」

 

 俺と真姫ちゃんは苦笑すると、先を行く海未ちゃんの後を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「んー、焼きそば美味しいですぅ!」

 

 席に座り、焼きそばを頬張る海未ちゃん。

 

 屋台を巡り色々と買い物をした俺達は、観覧席へと移動していた。

 

 っていうかここ、本当に特等席だな・・・

 

 「はい真姫ちゃん、あーん」

 

 「あーん・・・ん、美味しいわね」

 

 「屋台で買う食べ物って、何か美味しく感じるよね」

 

 「ちょ、ずるいですよ天!私にも『あーん』して下さい!」

 

 「はいはい」

 

 苦笑しながら、海未ちゃんの口元にたこ焼きを持っていく。

 

 と、俺の視界が真っ暗になった。背後から誰かに目隠しされたらしい。

 

 「だ~れだ♪」

 

 その声を聞いた瞬間、冷や汗が止まらなくなる。

 

 あっ、ヤバい・・・

 

 「ま、麻衣先生・・・?」

 

 「ピ~ンポ~ン♪」

 

 目隠しが外された瞬間、俺の首に麻衣先生の腕が回される。

 

 「どこかの誰かさんに体調不良と嘘をつかれ、今日まで学校を休まれ、とっても心配していたのにも関わらず、美女二人を侍らせている場面を目撃して、怒り心頭のクラス担任・・・その名も赤城麻衣先生で~す♪」

 

 「本当にすいませんでしたあああああっ!」

 

 全力で謝罪する。

 

 俺はAqoursの皆と顔を合わせたくなくて、東京から帰って来た後も学校を休んでいた。

 

 麻衣先生には申し訳ないと思いながらも、体調不良という嘘をつき続けたのだ。

 

 「体調不良じゃなかったのかな~?美女二人とイチャイチャ出来る元気があるなら、学校くらい来れるんじゃないかな~?」

 

 「ちょ、麻衣先生・・・首が絞まって・・・」

 

 「先生悲しいな~?教え子がこんなに悪い子だったなんてショックだな~?」

 

 「あっ、ヤバい・・・意識が・・・」

 

 「ちょ、天!?」

 

 「麻衣さん、勘弁してあげて下さいっ!」

 

 「・・・冗談よ」

 

 力を抜く麻衣先生。

 

 し、死ぬかと思った・・・

 

 「っていうか、最初から事情は知ってたわ。花丸ちゃんにルビィちゃん、善子ちゃんに吐かs・・・教えてもらったから」

 

 「今何か物騒なこと言いかけましたよねぇ!?」

 

 「それで事態を把握して、海未ちゃんを問い詰めたの。三秒で吐かせたわ」

 

 「そこは言い直さないんだ!?そして海未ちゃん吐くの早くない!?」

 

 「す、すみません・・・もう隠しても無駄だと思いまして・・・」

 

 「全く、海未ちゃんは天くんに甘いんだから・・・」

 

 麻衣先生は溜め息をつくと、そのまま後ろから俺を抱き締めてくる。

 

 「・・・最初から正直に言ってよ。私はそんなに信用出来ない?」

 

 「いえ、そんなことは・・・」

 

 「もっと私を頼りなさい。分かった?」

 

 「・・・はい、すみませんでした」

 

 「よろしい」

 

 優しく頭を撫でられる。

 

 「クラスの皆も、天くんのこと心配してるんだから。ちゃんと顔見せに来てね」

 

 「分かりました」

 

 そういや、何度も連絡もらってたっけ・・・悪いことしたな・・・

 

 「・・・ホント、年上の女に好かれるわね」

 

 「まぁまぁ。大目に見てあげて下さいよ」

 

 ちょっと不機嫌そうな真姫ちゃんを、海未ちゃんが苦笑しながら宥めてくれている。

 

 「全く、真姫はすぐ嫉妬するんですから」

 

 「なっ!?別に嫉妬なんてしてないわよ!?」

 

 「そこが真姫ちゃんの可愛いところだけどね」

 

 「う、うるさいっ!そんな言葉に騙されないんだからねっ!」

 

 「大好きだよ、真姫ちゃん」

 

 「っ・・・うぅ・・・」

 

 涙目の真姫ちゃん。耳まで真っ赤になっている。

 

 「ちょっと天くん、この可愛い生き物は何?」

 

 「西木野真姫ちゃんです。メイドさんをやってるんですよ」

 

 「ちょ、天!?それは言わなくていいから!」

 

 「えぇっ!?真姫がメイド!?」

 

 「た、ただのバイトだから!ことりに頼まれただけだから!」

 

 「西木野さん、赤城家の専属メイドになりませんか?」

 

 「嫌ですよ!?オコトワリシマス!」

 

 「おっ、やっぱり本家の『オコトワリシマス』は違うね」

 

 「本家って何!?」

 

 「麻衣ちゃ~ん!」

 

 聞き覚えのある声がする。

 

 振り向くと、翔子先生がこちらへ向かってくるところだった。

 

 「遅くなってゴメンなさい・・・って天くん!?会いたかった~!」

 

 「No!べ~つ~に~」

 

 「げふっ!?」

 

 抱きつこうとしてくる翔子先生を避ける。盛大にずっこける翔子先生。

 

 「ちょっと!?そこは『Yes!き~み~に~』でしょ!?」

 

 「A●Bはそうかもしれませんが、AYSは違うんで」

 

 「AYSって何!?」

 

 「A・YA・SEの略です」

 

 「略す必要あった!?」

 

 「っていうか、何で先生方がここにいるんですか?」

 

 「え?鞠莉ちゃんから『色々とご迷惑をおかけしたお詫びです』って、観覧席のチケットをもらったからだけど?」

 

 「どんだけ席確保してんのあの人・・・」

 

 呆れる俺。

 

 その時、周りの明りがフッと消えた。

 

 「おっ、遂に始まるみたいね」

 

 「ちょ、私暗いの苦手なんだけど!?」

 

 「じゃあ何で来たんですか貴女・・・」

 

 俺にしがみつく翔子先生に呆れていると・・・

 

 「皆さん!こんばんは!」

 

 千歌さんの声が、マイクを通して響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《千歌視点》

 

 「皆さん、こんばんは!」

 

 声を張り上げる私。

 

 「私達は、浦の星女学院スクールアイドル・・・せーのっ!」

 

 「「「「「「「「「Aqoursですっ!」」」」」」」」」

 

 九人で自己紹介した瞬間、ステージが眩い光に照らされる。

 

 観覧席の人達からは、私達が暗闇の中に浮かび上がっているように見えるだろう。

 

 「僭越ではありますが・・・この花火大会を盛り上げるべく、私達Aqoursが一曲披露させていただきたいと思います!」

 

 たくさんの拍手が聞こえてくる。こちらからではよく見えないが、かなりのお客さんがいるんだろう。

 

 問題は・・・

 

 「天くん・・・」

 

 隣の梨子ちゃんが小さく呟く。

 

 美渡姉からは『会場まで車で送り届けて、チケットも渡した』と連絡をもらったけど・・・来てくれてるかな・・・

 

 「・・・大丈夫」

 

 曜ちゃんが私の手を握った。

 

 「きっと来てくれてる。信じよう?」

 

 微笑む曜ちゃん。

 

 私も笑みを浮かべて小さく頷くと、再び観覧席の方を向いた。

 

 「今日披露する曲は・・・私達の大切な人が作ってくれた曲です!」

 

 「その人は、いつでも私達を支えてくれました!」

 

 私に続き、声を張り上げる曜ちゃん。

 

 「どんなに心が折れそうな時でも、その人のおかげで乗り越えることが出来ました!」

 

 「いつでも私達の味方をしてくれて、いつでも私達を励ましてくれました!」

 

 泣きそうな表情で叫ぶ梨子ちゃん。

 

 「その人がいなかったら・・・今の私達はいません!」

 

 「不安な時は寄り添ってくれる、とても優しい人です!」

 

 凛とした表情のルビィちゃん。

 

 「いつも勇気をくれるその人には、本当に感謝しています!」

 

 「そっと背中を押してくれる、頼れる人です!」

 

 微笑んでいる花丸ちゃん。

 

 「その人に出会えて、本当に良かったと思っています!」

 

 「いつもいつもボケるから、ツッコミが本当に大変だけど!」

 

 苦笑している善子ちゃん。

 

 「それでも・・・その人の優しさに、私は救われました!」

 

 「ちょっとエッチだし、よく人をおちょくってくるけど!」

 

 笑っている果南ちゃん。

 

 「その人と一緒にいると、本当に安心することが出来ます!」

 

 「人を思いやることの出来る、本当に心の優しい人です!」

 

 穏やかな笑みを浮かべるダイヤさん。

 

 「あの人の前では、ありのままの自分でいられます!」

 

 「昔から本当に変わらない・・・人を包み込んでくれる人です!」

 

 力強く叫ぶ鞠莉さん。

 

 「皆から愛される・・・私も大好きな人です!」

 

 「そんな私達にとって大切な人が、私達の為に作ってくれた曲・・・初めて聴いた時、思わず涙が出てしまいました」

 

 歌詞が三年生の三人に、そして私達の気持ちにシンクロして・・・

 

 皆で聴く前に梨子ちゃんと二人で聴いたのだが、二人揃って泣いてしまった。

 

 「この曲には、その人の心がこもっています!」

 

 「だから私達も、心をこめて歌いたいと思います!」

 

 「その人に、私達の気持ちが届くように!」

 

 「日頃の感謝の気持ちを!」

 

 「その人のことが大好きだっていう気持ちを!」

 

 「私達にとって、かけがえのない人なんだっていう気持ちを!」

 

 「その人が作ってくれた曲にのせて!」

 

 「私達なりに精一杯頑張って!」

 

 「その人に届くと信じて・・・歌います!」

 

 鞠莉さんがそう叫ぶのと同時に、それぞれが開始位置に移動する。

 

 そして・・・

 

 「それでは・・・聴いて下さい!」

 

 「「「「「「「「「未熟DREAMER!」」」」」」」」」

 

 曲が流れ出すのだった。




どうも〜、ムッティです。

さてさて、前回は触れませんでしたが・・・

この作品では、真姫ちゃんがサンタさんの真実を知っております(笑)

アニメで真姫ちゃんがサンタさんを信じていることが判明した時、可愛さのあまり悶えたのは良い思い出(笑)

この作品で五年後の真姫ちゃんを登場させるにあたって、この部分はどうすべきか悩みましたが・・・

真実を知ってもらうことにしました(泣)

ゴメンよ真姫ちゃん(泣)

さて、Aqoursの想いは天に届くのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

想いのこもった言葉は心に響くものである。

スクスタで新しいイベント始まったけど・・・

UR果南ちゃんが出ないよおおおおおっ!


 「ぐすっ・・・うぅ・・・」

 

 「いつまで泣いてんのよ・・・」

 

 「ひっぐ・・・だってぇ・・・」

 

 泣きじゃくる海未ちゃんの背中を、呆れながらも擦ってあげている真姫ちゃん。

 

 ライブも花火も終わり、周りのお客さん達は立ち上がって帰宅の途につこうとしていた。

 

 「・・・良いステージだったわね、翔子ちゃん」

 

 「えぇ・・・ぐすっ」

 

 涙ぐむ翔子先生の頭を、優しく撫でている麻衣先生。

 

 二年前のAqoursを知っている二人としては、今日のライブは感慨深いものがあったんだろう。

 

 「今は帰る人が多いし、動かない方が良さそうね」

 

 辺りを見回す真姫ちゃん。

 

 「周りがもう少し落ち着いてから帰りましょう、天・・・天?」

 

 俺の様子に気付き、首を傾げる真姫ちゃん。俺はステージの方をじっと見つめていた。

 

 今は誰も立っていないし、暗闇に包まれているが・・・先ほどまでのライブを思い出していたのだ。

 

 本当に良いライブだった。初めてとは思えないほど、九人の息がピッタリ合っていて・・・

 

 何より、皆の想いが伝わってくるライブだった。

 

 「・・・全く」

 

 小さく呟く俺。

 

 「ホント・・・勘弁してほしいよ」

 

 「天、貴方・・・」

 

 驚いている真姫ちゃん。俺の目からは、涙が溢れていた。

 

 「こんなライブ見せられたら・・・決心が鈍っちゃうじゃん」

 

 俯く俺。涙が滴り落ちる。

 

 「こんなことなら、曲なんて作らなきゃ良かった・・・」

 

 「・・・天」

 

 海未ちゃんにそっと抱き寄せられる。

 

 「もしAqoursの一員になることが、μ'sに対する裏切りだと考えているのなら・・・それは違いますよ」

 

 優しく頭を撫でられる。

 

 「たとえ貴方が、Aqoursの一員になろうとも・・・貴方がμ'sの一員であることに、何も変わりないのですから」

 

 「海未ちゃん・・・」

 

 「全く・・・海未から事情は聞いていたけど、そんなに悩んでたのね」

 

 俺達を包み込むように、優しく抱き締める真姫ちゃん。

 

 「天は間違いなく、μ'sの・・・私達の大事な仲間よ。どんなことがあっても、それは絶対に変わらない。私達の絆は永遠だもの」

 

 「真姫ちゃん・・・」

 

 「もし天の中に、『Aqoursの皆と一緒に頑張りたい』っていう気持ちがあるなら・・・素直にその気持ちに従いなさい。じゃないと、後で絶対に後悔するわよ」

 

 「おぉ、素直じゃない人が言うと説得力がありますね」

 

 「何ですって!?ラブアローシューターに言われたくないんだけど!?」

 

 「ちょ、人の黒歴史を持ち出すの止めてくれます!?このツンデレメイド!」

 

 「アンタもそれを持ち出すの止めなさいよ!?」

 

 「・・・ハハッ」

 

 思わず笑ってしまう。

 

 本当に・・・変わらないな、二人とも。

 

 「海未ちゃん、真姫ちゃん・・・ありがと。大好き」

 

 「っ!?」

 

 「ま、またそういうことを照れもせずにっ・・・!」

 

 顔を真っ赤にする二人。

 

 こういうところも変わらないなぁ・・・

 

 「ちょっと行ってくるよ・・・皆のところに」

 

 「えぇ、行ってらっしゃい」

 

 「ちゃんと話してきなさい」

 

 笑顔で送り出してくれる二人。

 

 「天くん、皆によろしくね」

 

 「良いライブだったって伝えといてね」

 

 「了解です」

 

 翔子先生と麻衣先生の言葉に頷く。

 

 「じゃ、行ってきます!」

 

 俺はそう言うと、Aqoursの皆のところへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「・・・終わったね、ライブ」

 

 「・・・うん」

 

 千歌ちゃんの言葉に頷く私。

 

 ライブ終了後、私達はステージ裏の待機スペースにいた。衣装も着たまま、皆それぞれ椅子に座ってぐったりしている。

 

 「き、緊張したぁ・・・」

 

 「いっぱい人がいたずらぁ・・・」

 

 「しばらく立ち上がれないかも・・・」

 

 緊張状態が解け、椅子にもたれかかるルビィちゃん・花丸ちゃん・善子ちゃん。

 

 「ライブなんて久しぶりだったねぇ・・・」

 

 「何だか懐かしかったですわね・・・」

 

 感慨深そうな果南さんとダイヤさん。一方、鞠莉さんは俯いていた。

 

 「鞠莉さん、大丈夫ですか?」

 

 「平気よ。ありがとう」

 

 気遣って声をかける曜ちゃんに、笑みを浮かべる鞠莉さん。

 

 「ライブは本当に楽しかったんだけど・・・私達の想い、天に届いたのかなって」

 

 「っ・・・」

 

 そう、そこが一番の問題だ。

 

 私達なりに精一杯、想いを込めたつもりだけど・・・天くん、ちゃんと見てくれたかな・・・

 

 「・・・会いに行きましょう」

 

 「え・・・?」

 

 立ち上がる私を、千歌ちゃんが驚いたように見つめる。

 

 「ライブにも想いは込めたけど・・・本人に会って、ちゃんと言葉にして伝えたいの。天くんが学校に来るのを待つより、私達の方から行った方が良いと思う」

 

 「梨子ちゃん・・・」

 

 あの日以来、天くんは学校を休んでいる。私達もライブの準備に追われていて、天くんに会うことが出来なかった。

 

 そのライブが終わった今・・・ちゃんと天くんに会いに行くべきだと思う。

 

 「・・・そうだね。よし、会いに行こう!」

 

 勢いよく立ち上がる千歌ちゃん。

 

 「天くんのところへ!全速前進、ヨーソロー!」

 

 「クックックッ・・・このヨハネが特別に、我がリトルデーモンの下へ召喚されてやろうではないか」

 

 「しばらく立ち上がれないって言ってたくせに、もう立ち上がってるずら」

 

 「やっぱり善子ちゃん、天くん大好きっ子だよね」

 

 「う、うるさいっ!」

 

 「待つのは性に合わないからね。こっちから行ってやろうじゃん」

 

 「ほら鞠莉さん、行きますわよ」

 

 「・・・えぇ、行きましょう!」

 

 「行くぜ、東北」

 

 次々と皆が立ち上がって・・・ん?

 

 「ちょっと待って。何か最後の人おかしくなかった?」

 

 「最後の人?」

 

 「そういえば、『行くぜ、東北』って・・・」

 

 「ちょっと、誰よそんなセリフ言ったの?」

 

 「今はボケるタイミングじゃなかったずら」

 

 「そうだよ。割と真面目な雰囲気だったのに」

 

 「まぁまぁ。今はそれを気にしてる場合じゃないでしょ?」

 

 「そうですわ。唐突なボケに惑わされてはいけません」

 

 「早く天のところへ行きましょう」

 

 「そうだ。京都、行こう」

 

 「ちょ、また!?いい加減に・・・」

 

 思わず声のした方を振り向いた私は、固まってしまった。他の皆もその方向を見て驚いている。

 

 そこには・・・

 

 「んー、美味い」

 

 椅子に座ってチョコバナナを食べている天くんがいた。

 

 「な・・・」

 

 「な・・・?」

 

 「何でいるのよおおおおおおおおおおっ!?」

 

 「うおっ!?ビックリしたぁ・・・」

 

 「ビックリしたいのこっちだから!何やってるの!?」

 

 「チョコバナナ食べてます」

 

 「そういうことじゃなくて!そもそもいつからいたの!?」

 

 「『・・・終わったね、ライブ』からです」

 

 「最初からじゃない!?何で声かけてくれなかったの!?」

 

 「チョコバナナ食べてたんで」

 

 「私達よりチョコバナナを優先したの!?」

 

 「当然でしょうが!暑さでチョコが溶けて垂れたらどうしてくれるんですか!」

 

 「何で私が怒られてるの!?」

 

 マズい!?完全に天くんワールドに引きずりこまれてる!?

 

 「あ、そうだ。ライブお疲れ様でした」

 

 「何その『ついでに言っておこう』みたいな感じ!?」

 

 「差し入れでたこ焼き買ってきたんで、良かったら食べて下さい」

 

 「えっ!?ホント!?」

 

 「お腹空いたずら!」

 

 「千歌ちゃんと花丸ちゃんは食いつかないのっ!」

 

 「とまぁ、おふざけはこの辺にして・・・」

 

 チョコバナナを食べ終えた天くんは椅子から立ち上がり、私達を見回した。

 

 「九人での初ステージ・・・良かったですよ」

 

 「っ・・・」

 

 どうやら、ちゃんと見ていてくれたらしい。

 

 「やっぱり三年生の三人が加わって、グループとして安定しましたね。Aqoursはこの形でいくのが、一番良いんじゃないでしょうか」

 

 笑みを浮かべる天くん。

 

 「細かいところはともかく、全体的に良かったと思います。大成功と言って良いです」

 

 「・・・ありがとう」

 

 微笑む千歌ちゃん。

 

 「天くんがプレゼントしてくれた曲のおかげだよ。本当に感謝してる」

 

 「真姫ちゃんが作曲してくれたおかげですよ。俺の想像以上に良い曲を作ってくれたので、歌詞が生きました」

 

 「勿論、曲自体も凄く良かったけど・・・あの歌詞が、凄く心に刺さったんだ。特に三年生の皆には、ね」

 

 「本当にね」

 

 笑っている果南さん。

 

 「あの歌詞の題材、どう考えても私達だよね?」

 

 「えぇ、その通りです」

 

 頷く天くん。

 

 「三人のすれ違いを題材にするのも、どうかと思ったんですが・・・もう一度Aqoursとしてやっていく以上、向き合う必要があるかと思いまして」

 

 「えぇ、感謝していますわ」

 

 ダイヤさんが穏やかな笑みを浮かべる。

 

 「あのような素晴らしい曲になったんですもの。私達のすれ違いが、無駄なものにならずに済みましたわ」

 

 「そう言っていただけるとありがたいです」

 

 笑う天くん。

 

 「ありがたいと言えば・・・嬉しかったですよ、ライブが始まる前の言葉」

 

 「・・・ちゃんと聞いてくれた?」

 

 「勿論。っていうか善子、俺ボケまくってるつもり無いんだけど」

 

 「どの口がそんなこと言うの!?」

 

 「あと果南さん、『ちょっとエッチ』ってどういうことですか。まるで人が常日頃からセクハラしてるみたいじゃないですか」

 

 「いや、普通にセクハラ発言してるよねぇ!?」

 

 「記憶にございません」

 

 「政治家!?」

 

 「全く、これだからおっぱいが大きい人は・・・」

 

 「それだよ!?それがセクハラ発言なんだよ!?」

 

 「ちょっと何言ってるか分かんないです」

 

 「何でよ!?」

 

 「っていうか、現在進行形でボケまくってるでしょうが!」

 

 果南さんと善子ちゃんのツッコミ。大変そうだなぁ・・・

 

 「・・・まぁとにかく、嬉しかったです。ありがとうございました」

 

 一礼する天くん。私は一歩前に進み出た。

 

 「この間は・・・叩いちゃってゴメンなさい」

 

 謝る私。

 

 「私達はこれからも、天くんにマネージャーをやってほしいと思ってる。天くんにとって、μ'sが特別な存在であるように・・・私達にとって、天くんは特別な存在だから」

 

 私は天くんに頭を下げた。

 

 「お願いします。これからも、私達のマネージャーをやって下さい」

 

 「梨子さん・・・」

 

 複雑そうな表情の天くん。

 

 と、花丸ちゃんとルビィちゃんが側にやって来る。

 

 「天くんがいてくれないと、ルビィ寂しいよ・・・」

 

 「マルもずら。天くんに側にいてほしいずら」

 

 「ルビィ・・・花丸・・・」

 

 「・・・私だって同じよ」

 

 俯く善子ちゃん。

 

 「天がいないなんて・・・そんなの嫌。これからも支えてよ・・・」

 

 「善子・・・」

 

 「・・・皆同じ気持ちなんだよ」

 

 切ない表情で訴えかける果南さん。

 

 「皆、天のおかげで今ここにいるんだもん。本当に感謝してる・・・だからこそ、天がいないなんて考えられないの」

 

 「その通りですわ」

 

 泣きそうな表情のダイヤさん。

 

 「天さんのおかげで、もう一度果南さんや鞠莉さんとスクールアイドルをやれることになったのです。素晴らしい後輩達と一緒に、スクールアイドルをやれることになったのです。そこに天さんがいないなんて・・・私は絶対に嫌ですわ」

 

 「果南さん・・・ダイヤさん・・・」

 

 「お願いだよ、天くんっ・・・」

 

 目に涙を浮かべている曜ちゃん。

 

 「これからも・・・一緒に頑張ろうよっ・・・」

 

 「曜さん・・・」

 

 「ゴメンなさい、天・・・」

 

 涙を流している鞠莉さん。

 

 「貴方の過去を知りながら、私は貴方を利用しようとした・・・本当にゴメンなさい」

 

 「小原理事長・・・」

 

 「その私が、こんなワガママを言えた義理じゃないのは分かってる。それでも・・・」

 

 深々と頭を下げる鞠莉さん。

 

 「私はっ・・・天と一緒にいたいっ・・・!」

 

 「・・・これが、私達の心からの気持ち」

 

 真剣な表情の千歌ちゃん。

 

 「『μ'sの一員として終わりたい』っていう天くんの気持ちを、無視するような形になっちゃって本当に申し訳ないんだけど・・・それでも、これが私達の本心なんだ」

 

 「千歌さん・・・」

 

 「皆、天くんのことが大好きなの。かけがえのない人だと思ってるの。だからっ・・・」

 

 千歌ちゃんの目から、涙が溢れ出す。

 

 「これからもっ・・・一緒にいてよっ・・・!」

 

 「っ・・・」

 

 天くんの頬を、一筋の涙が伝った。

 

 千歌ちゃんも曜ちゃんも、花丸ちゃんもルビィちゃんも、善子ちゃんも果南さんも、ダイヤさんも鞠莉さんも、そして私も・・・涙が止まらなかった。

 

 やがて少し落ち着いた頃・・・天くんがポツリと呟いた。

 

 「・・・良いんですか?」

 

 「え・・・?」

 

 「・・・本当に、俺で良いんですか?」

 

 震える声で問う天くん。

 

 「当たり前じゃん。天くんじゃなきゃダメなんだよ」

 

 「・・・Aqoursの十人目になる覚悟、出来てませんよ?」

 

 「それでも良いよ」

 

 「・・・μ'sの十人目だと思ってますよ?」

 

 「それでも大丈夫ずら」

 

 「・・・Aqoursより、μ'sの方が特別だと思ってますよ?」

 

 「過ごした時間が違うもん。ちゃんと分かってるよ」

 

 「・・・ボケ倒しますよ?」

 

 「じゃあツッコミ倒してやるわよ」

 

 「・・・セクハラ発言しますよ?」

 

 「本当に嫌だったら、ツッコミ入れたりしないよ」

 

 「・・・またブチギレるかもしれませんよ?」

 

 「意味も無く怒ったりしない人だということは、よく分かっているつもりですわ」

 

 「・・・利用価値なんてありませんよ?」

 

 「一緒にいられるだけで、天は十分に価値のある人よ」

 

 「天くん」

 

 呼びかける私。

 

 「私達のマネージャーとして、仲間として・・・一緒にいてくれる?」

 

 「っ・・・はいっ」

 

 涙を流しながら、微笑んで頷く天くん。

 

 「マネージャー・・・やらせてもらいます」

 

 「っ・・・」

 

 我慢の限界だった。

 

 涙腺が崩壊した私は、勢いよく天くんの胸に飛び込んだ。

 

 「うわああああああああああんっ!」

 

 「梨子さん、泣き過ぎですって・・・」

 

 苦笑しながら頭を撫でてくれる天くん。

 

 と、そこへ・・・

 

 「天くううううううううううんっ!」

 

 「ヨーソロおおおおおおおおおおっ!」

 

 「ずらああああああああああっ!」

 

 「ぴぎいいいいいいいいいいっ!」

 

 「天ああああああああああっ!」

 

 「ハグううううううううううっ!」

 

 「ぴぎゃああああああああああっ!」

 

 「シャイニいいいいいいいいいいっ!」

 

 「ちょ、全員来たら潰れるからああああああああああっ!?」

 

 号泣しながら抱きついてくる九人の重みに潰され、悲鳴を上げる天くんなのだった。




どうも〜、ムッティです。

相変わらずスクスタにハマってます(・ω・)ノ

現在のセンターはことりちゃんで、両脇を梨子ちゃんと花陽ちゃんが固める形です。

ことりちゃん可愛すぎヤバい( ´∀`)

果たしてどこまで進められるのか・・・

さてさて、本編では天がAqoursのマネージャーを続けることを決めました。

これでアニメ一期の第九話は終了・・・と思いきや、もう一話くらい挟んで第十話の内容に入りたいと思います。

早く合宿編に入りたいなぁ・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

離れていても繋がっているものがある。

遂にポケモンの発売日ですね!

皆さんはソードとシールド、どちらを買う予定でしょうか?


 『・・・そっか。内浦に残るんだね』

 

 残念そうな声の亜里姉。

 

 あの後家に帰ってきた俺は、亜里姉に『帰らない』ということを伝える為に電話をかけた。

 

 Aqoursのマネージャーを続けると決めた以上、東京に帰るわけにはいかないからな・・・

 

 「ゴメン、亜里姉・・・」

 

 『ううん、私の方こそゴメン・・・この間の電話で、わがまま言っちゃって』

 

 苦笑している亜里姉。

 

 『天が帰って来ないのは残念だけど・・・理由を聞いて、ちょっと安心した』

 

 「え・・・?」

 

 『μ'sが解散してから、天はスクールアイドルに関わろうとしなくなったから・・・正直心配してたの。私と雪穂がマネージャーを頼んだ時も、断られちゃったし』

 

 「・・・ゴメン」

 

 『あ、責める気なんて全く無いの!今回天がAqoursのマネージャーになったって知って、本当に嬉しかったんだ。天がまたスクールアイドルに関わるんだって』

 

 「亜里姉・・・」

 

 『Aqoursの動画、私もチェックしてるんだ。今回の九人での初ステージも、アップされる予定なんでしょ?天と真姫さんが作った曲を歌うAqours・・・早く見たいなぁ』

 

 「うん。凄く良いから、楽しみにしてて」

 

 笑みを浮かべる俺。

 

 「それと・・・夏休みに入ったら、一度そっちに顔出すよ」

 

 『えっ、それって・・・』

 

 「そろそろ、ちゃんと話そうと思うんだ・・・絵里姉と」

 

 『っ!』

 

 息を呑む亜里姉。

 

 『ほ、本当に・・・?』

 

 「うん」

 

 苦笑する俺。

 

 「とりあえず一学期が終わるわけだし、成績とかの報告も兼ねて会いに行くよ。ラブライブもあるから、いつ行けるかはまだ分からないけど」

 

 そう、この夏休みにはラブライブが開催される。Aqoursも参加する以上、この夏休みはハードな練習をすることになるだろう。

 

 まずはしっかり予選を突破すること・・・アキバドームのステージには、決勝に進んだグループしか立てないのだから。

 

 「まぁ一番カッコ良いのは、決勝に進んで東京に行くことなんだけどね」

 

 『フフッ、そうなると良いね』

 

 笑っている亜里姉。

 

 『じゃあ、会えるの楽しみにしてるからね』

 

 「うん、またね」

 

 電話を切る俺。

 

 と、海未ちゃんと真姫ちゃんがリビングに入ってきた。

 

 「お風呂いただきました」

 

 「全く・・・見事に酔い潰れたわね」

 

 リビングの床に転がる麻衣先生と翔子先生を見て、呆れている真姫ちゃん。

 

 花火大会が終わった後、海未ちゃんが麻衣先生と翔子先生をウチに誘ったらしい。

 

 俺がAqoursの皆と別れて家に帰ってきた時には、二人とも既に出来上がってたっけ・・・

 

 「そういえば、海未ちゃんはいつも酔い潰れないよね」

 

 「そもそもそんなに呑みませんから。付き合い程度には呑みますけど」

 

 「へぇ・・・真姫ちゃんは?」

 

 「私、これぐらいじゃ潰れないから」

 

 「あ、酒豪だったのね・・・」

 

 真姫ちゃんの意外な一面を見たな・・・

 

 「天、誰かと電話していたのですか?」

 

 「あぁ、亜里姉だよ。『Aqoursのマネージャーをやるから、東京には帰れない』って伝えたんだ」

 

 「・・・そうですか」

 

 「・・・海未ちゃんの気持ちは、ここに来た頃と変わらない?」

 

 「いえ・・・少し変わりましたかね」

 

 微笑む海未ちゃん。

 

 「最初はただ、天に帰ってきてほしいと思っていましたが・・・Aqoursの皆と触れ合って、天がマネージャーとして頑張る姿を見て・・・応援したいと思うようになりました」

 

 「海未ちゃん・・・」

 

 「勿論、近くに天がいないのは寂しいですが・・・離れていても、私達の心は繋がっていますから」

 

 「ずいぶん変わったわね、海未」

 

 笑っている真姫ちゃん。

 

 「浦の星に教育実習に行くことになった時は、『絶対に天を連れ戻してみせます!』って宣言してたのに」

 

 「あ、あれはもう忘れて下さい!」

 

 「フフッ・・・まぁ、私も海未と同じ気持ちよ。頑張ってね、天」

 

 「うん。ありがと、真姫ちゃん」

 

 俺は椅子から立ち上がると、二人の下へ歩み寄り・・・そのまま抱きついた。

 

 「天?」

 

 「どうしたの?」

 

 「・・・何となく、こうしたいなって」

 

 俺の言葉に、二人は顔を見合わせ・・・同時に笑みを浮かべた。

 

 「フフッ、天は甘えん坊ですね」

 

 「・・・それは否定できないかな」

 

 「まぁ、そこが天の可愛いところなんだけどね」

 

 笑いながら俺の背中に手を回す真姫ちゃん。

 

 「海未も言ってたけど・・・離れていても、私達の心は繋がってる。それを忘れないで」

 

 「・・・うん」

 

 「そしてこれも忘れないで下さい」

 

 海未ちゃんの額と俺の額が触れ合う。

 

 「どんな時でも、私達は天の味方です。助けが必要になった時は呼んで下さい。どこにいても、何をしていても・・・必ず駆けつけますから」

 

 「・・・ありがと」

 

 二人の身体に回している腕に、ギュっと力を込める。

 

 「・・・もう少しだけ、このままでいて良い?」

 

 「えぇ、勿論」

 

 「天の気が済むまで、いつまでも」

 

 優しく微笑み、そっと俺を抱き締めてくれる真姫ちゃんと海未ちゃんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「お世話になりまじだああああああああああっ!」

 

 「海未ぢゃああああああああああんっ!」

 

 「私達のごど、忘れないでねええええええええええっ!」

 

 「今生の別れか」

 

 号泣しながら抱き合う海未ちゃん・麻衣先生・翔子先生に、呆れながらツッコミを入れる俺。

 

 花火大会から数日が経過した昨日、浦の星女学院は一学期の終業を迎えた。

 

 それに伴い海未ちゃんの教育実習も終了し、俺達は今日東京へ帰る海未ちゃんを駅まで見送りに来たのだった。

 

 「どんだけ仲良くなってんのよ・・・」

 

 溜め息をつく真姫ちゃん。

 

 花火大会の日にこちらへ来て以来、今日まで真姫ちゃんも内浦に滞在していた。

 

 最初から海未ちゃんと一緒に東京に帰るつもりだったらしい。

 

 「真姫さん、色々とありがとうございました」

 

 「こちらこそありがとう。楽しかったわ」

 

 お礼を言う梨子さんに微笑む真姫ちゃん。ここ数日、真姫ちゃんにもAqoursの練習を見てもらっていたのだ。

 

 皆が真姫ちゃんに色々と質問する中、特に熱心に質問をしていたのが梨子さんだった。お互いピアノ経験者で作曲担当ということもあり、色々と聞きたいことがあったらしい。

 

 ちなみに千歌さん・ルビィ・ダイヤさんのスクールアイドル大好きトリオは、ちゃっかり真姫ちゃんからサインをもらって大喜びしていた。

 

 「貴女達は、これからもっと伸びるわ。私も応援してるから、頑張ってね」

 

 「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」

 

 「ぐすっ・・・伸びるのは当然です」

 

 涙をハンカチで拭い、顔を上げる海未ちゃん。

 

 「何と言っても、天がマネージャーを務めるのですから」

 

 「フフッ、そうね。伸びる以外有り得ないわね」

 

 「何ハードル上げてくれちゃってんの?」

 

 全く、この人達は・・・と、小原理事長が神妙な表情で前に進み出る。

 

 「あの、園田先生・・・今回は本当に・・・」

 

 「ストップ」

 

 謝罪しようとした小原理事長を、海未ちゃんが制止する。

 

 「天は貴女を許し、自らAqoursのマネージャーになる道を選んだ・・・その事実が全てです。そもそも、貴女が私に謝る理由など無いでしょう」

 

 「でも私は、園田先生が大切に想っている天を傷付けて・・・」

 

 「それなら貴女が謝るべきは、私ではなく天でしょう。そして貴女は天に謝り、許しを得た・・・ですから、私に謝る必要などありません」

 

 溜め息をつく海未ちゃん。

 

 「謝るべきなのは私の方です。感情に身を任せ、貴女を叩いてしまった・・・怒っていたとはいえ、アレは流石にやり過ぎました。申し訳ありません」

 

 「そ、そんな!」

 

 逆に謝られてしまい、慌てる小原理事長。

 

 「悪かったのは私の方で・・・!」

 

 「・・・もう良いんですよ」

 

 海未ちゃんはそう言うと、小原理事長に近付き・・・そっと抱き締めた。

 

 「もうこれ以上、自分を責めるのは止めなさい。仲間達と一緒に、前を向いて進んで良いんですよ」

 

 「っ・・・」

 

 小原理事長の目から、涙が零れ落ちる。

 

 「天のこと、頼みましたよ・・・鞠莉」

 

 「っ・・・はい、海未先生っ・・・!」

 

 海未ちゃんの腕の中で泣きじゃくる小原理事長。ちゃんと和解できたようだ。

 

 「・・・鞠莉も律儀よね。μ'sのメンバー全員に謝るつもりかしら?」

 

 苦笑する真姫ちゃん。

 

 実は小原理事長、真姫ちゃんにも自分のやったことを打ち明けて謝罪していたらしい。

 

 後で真姫ちゃんからその話を聞いた時は、海未ちゃんと二人で驚いたっけなぁ・・・

 

 「あの人なりのケジメ、なんじゃないかな。そこまでする必要無いのに・・・」

 

 「そう思うなら、天が言ってあげたら良いじゃない」

 

 「・・・俺が何か言ったところで、あの人は自分の意思を曲げたりしないよ。そういう性格だからね」

 

 「・・・鞠莉のこと、ずいぶん理解してるのね」

 

 「あ、妬いた?」

 

 「・・・少しだけ」

 

 「真姫ちゃんが可愛すぎて辛い」

 

 「ちょ、抱きつかないでよ!?」

 

 「あ、じゃあ止め・・・」

 

 「し、仕方ないから許してあげる!」

 

 「安定のチョロ可愛さ」

 

 「さっきから何イチャイチャしてるんですかっ!」

 

 真姫ちゃんとじゃれ合っていると、海未ちゃんが怒った表情でこちらに迫ってくる。

 

 「天は私との別れが寂しくないんですか!?」

 

 「静岡と東京じゃん。いつでも会えるって」

 

 「薄情すぎません!?今まで一つ屋根の下で暮らしていたというのに!」

 

 「一つ屋根の下じゃ無くなっても、空は繋がってるから」

 

 「何ですかその某ドラマみたいなセリフは!?」

 

 「み~ん~な~そ~ら~の~し~た~♪」

 

 「絢●!?」

 

 「とまぁ、冗談はさておき・・・」

 

 俺は苦笑すると、海未ちゃんを優しく抱き締めた。

 

 「・・・ありがとね、海未ちゃん。俺の為に内浦まで来てくれて」

 

 「天・・・」

 

 「久しぶりに海未ちゃんと一緒の時間が過ごせて、本当に楽しかったよ。海未ちゃんは絶対良い先生になれる。俺も海未ちゃんに負けないように、Aqoursのマネージャー頑張るからね」

 

 「・・・もう、天はズルいですね」

 

 抱き締め返してくる海未ちゃん。

 

 「私も楽しかったです。ありがとうございました」

 

 「・・・絵里姉のこと、よろしくね。俺も夏休み中に会いに行くから」

 

 「勿論です。大切な仲間ですから」

 

 「っていうか、帰って来る時は連絡しなさいよ。皆待ってるんだから」

 

 「うん。ありがとね」

 

 真姫ちゃんの言葉に頷く俺。

 

 久しぶりに、穂乃果ちゃん達にも会いたいな・・・

 

 「あっ、電車来たわよ」

 

 「・・・もうそんな時間ですか」

 

 名残惜しそうな海未ちゃん。こちらを振り向き、寂しそうな笑みを浮かべる。

 

 「麻衣さん、翔子さん・・・本当にありがとうございました」

 

 「うぅ・・・こちらこそありがとね・・・」

 

 「またいつでも遊びに来てね・・・ぐすっ」

 

 泣きじゃくっている麻衣先生と翔子先生。

 

 「千歌、曜、梨子、花丸、ルビィ、善子、ダイヤ、果南、鞠莉・・・ラブライブ、頑張って下さいね」

 

 「はいっ!」

 

 「ヨーソロー!」

 

 「頑張ります!」

 

 「お世話になりました!」

 

 「また会いましょう!」

 

 「ヨハネよっ!またねっ!」

 

 「お身体に気を付けて」

 

 「今度ウチのお店にも来て下さいね!」

 

 「ありがとうございました!」

 

 元気よく返事をする皆。

 

 「天・・・応援してますからね」

 

 「ありがとう、海未ちゃん」

 

 笑みを浮かべる俺。電車がホームに到着し、ドアが開く。

 

 「じゃあ天、またね」

 

 「うん。真姫ちゃんも色々ありがとう」

 

 電車に乗り込む真姫ちゃんに手を振る俺。続いて海未ちゃんが電車に乗り込む。

 

 「あっ・・・そうでした」

 

 「海未?」

 

 何か呟いた海未ちゃんに、首を傾げる真姫ちゃん。

 

 海未ちゃんは真姫ちゃんに荷物を預けると、電車を降りて俺に駆け寄り・・・

 

 「・・・んっ」

 

 「っ!?」

 

 俺の頬にキスをした。

 

 「「「「「「「「「「ええええええええええっ!?」」」」」」」」」」

 

 「「おぉっ・・・!」」

 

 驚いているAqoursの皆と真姫ちゃん。

 

 麻衣先生と翔子さんだけ、感心したような表情でこちらを見ていた。

 

 「え、ちょ・・・海未ちゃん!?」

 

 「フフッ」

 

 悪戯っぽく笑う海未ちゃん。

 

 「あんじゅさんに負けていられないので、私もやってみました」

 

 颯爽と駆け戻り、電車に乗り込む海未ちゃん。

 

 「色々とお世話になったお礼です。また会いましょうね、天」

 

 「ちょ、海未!?アンタ何やって・・・」

 

 ドアが閉まり、真姫ちゃんの声が途絶える。

 

 笑顔の海未ちゃんと騒いでいる真姫ちゃんを乗せ、電車は駅を出発していった。

 

 「やるわねぇ、海未ちゃん」

 

 「見てるこっちがキュンとしちゃったわ」

 

 ニヤニヤしている麻衣先生と翔子先生。全く・・・

 

 「・・・やってくれるね、海未ちゃんは」

 

 思わず苦笑してしまう。

 

 あの海未ちゃんに、頬にキスされる日が来るなんて・・・初対面の時からは考えられないな・・・

 

 「うわぁ・・・」

 

 「だ、大胆だねぇ・・・」

 

 「全く・・・これだから天くんは・・・」

 

 ちょっと顔を赤くしている千歌さんと曜さんに、不機嫌な表情で呟いている梨子さん。

 

 「ず、ずらぁ・・・」

 

 「ぴ、ぴぎぃ・・・」

 

 「仲良しのレベルを超えてるわね・・・」

 

 絶句している花丸とルビィに、呆れている善子。

 

 「キ、キス・・・!?」

 

 「ア、 アハハ・・・ちょっとビックリしたかも・・・」

 

 「流石は海未先生デース♪」

 

 困惑しているダイヤさんと果南さんに、ちょっと楽しそうな様子の小原理事長。

 

 それぞれ反応が違って面白いな・・・

 

 「・・・さて、行きましょうか」

 

 「うんっ!」

 

 元気よく返事をした千歌さんを先頭に、皆がぞろぞろと後に続く。

 

 俺も後に続いていたが、ふと電車が走っていった方に目をやった。

 

 「天くん?」

 

 「どうしたの?」

 

 俺が立ち止まったことに気付いた麻衣先生と翔子先生が、声をかけてくれる。

 

 「いや・・・本当に帰っちゃったんだなって」

 

 正直、ちょっと寂しかった。海未ちゃんとの生活、楽しかったしな・・・

 

 「・・・寂しい気持ちは分かるけど、天くんは一人じゃないのよ」

 

 麻衣先生が微笑み、前方を指差す。そこには・・・

 

 「おーい!天くーん!」

 

 「何してるのー?」

 

 「置いていっちゃうわよー!」

 

 「早く来るずらー!」

 

 「お昼ご飯、皆で一緒に食べよう!」

 

 「お腹すいたし、アンタも来なさいよー!」

 

 「その後は練習ですわよー!」

 

 「みっちりやるよー!」

 

 「頼むわよ、マネージャー!」

 

 皆が笑顔で俺を呼んでいた。皆・・・

 

 「ほら、行ってらっしゃい。皆が呼んでるわよ」

 

 笑いながら俺の背中を押す翔子先生。

 

 そうだよな、寂しがってる暇なんてないよな・・・

 

 「・・・そうですね。行ってきます!」

 

 笑みを浮かべ、皆のところへ駆け出す俺。

 

 μ'sに続く、新しい仲間達・・・Aqoursとのこれからに、期待を膨らませる俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

遂に第九話の内容が終わり、次回からはいよいよ第十話の内容へと入っていきます。

海未ちゃんと鞠莉ちゃんは和解しましたが、天と鞠莉ちゃんの和解シーンはまだですからね。

早く書きたいと思っています。

そして一つ、皆さんにお聞きしたいことがあるのですが・・・

この作品、いつも0時に投稿してるじゃないですか?

・・・どう思います?(今さら)

0時投稿も別に深い意味は無くて、『まぁ日付が変わるタイミングで良いか』みたいな軽いノリで始めてるんですが・・・

『寝てて更新に気付きませんでした』といった意見もいただいたので、『皆さんはどう思ってるんだろう?』とちょっと気になった次第です。

まぁそんなこんなで、今後もマイペースに投稿していきたいと思います。

引き続き読んでいただけたら幸いです。

これからもこの作品をよろしくお願い致します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いつもと様子が違うと気になるものである。

スクスタの『Snow halation』で、花陽ちゃんのポジションに果林ちゃんを配置したら可愛すぎてヤバかった。

サビの『Snow halation』の部分で抜かれた時の、果林ちゃんのあの可愛さといったら・・・

ヤバい、虹ヶ咲では果林ちゃん推しになるかも。


 「あ~、快適・・・」

 

 冷房の効いたリビングで、ソファに寝そべっている俺。

 

 外は三十度を超える真夏日らしいが、家から出なければそんなことは関係無い。

 

 夏休みに入ったから、学校に行く必要も無いしな。

 

 「さて、ちょっと昼寝でもしようかなぁ・・・」

 

 ゆっくりと目を閉じたその時・・・

 

 『できる~!できる~!君ならできる~!』

 

 よりによって、日本で一番熱い人の歌が流れ始めた。

 

 言わずと知れた、俺のスマホの着信音である。

 

 「誰だよ・・・」

 

 若干イラッとしながらスマホを見ると、ダイヤさんからだった。

 

 どうしたんだろう?

 

 「ピッ・・・もしもし?」

 

 『今どこにいるのですかああああああああああっ!』

 

 「うおっ!?」

 

 大声にビックリしてしまう俺。

 

 「ちょ、ダイヤさん?どうしたんですか?」

 

 『どうしたもこうしたもありませんわ!今どこにいますの!?』

 

 「いや、家ですけど」

 

 『今日はAqoursのミーティングを行なうので、十二時に部室に集合という話だったはずでしょう!?』

 

 「・・・聞いてませんけど?」

 

 『・・・はい?』

 

 「ですから、聞いてませんけど?」

 

 俺の記憶が正しければ、そんな話を聞いた覚えは一切無い。

 

 昨日海未ちゃんと真姫ちゃんが東京に帰った後、皆で『夏休みはラブライブがあるから頑張ろう』とは話し合ったけど・・・

 

 『・・・千歌さん、天さんに伝えていないのですか?』

 

 『・・・あっ』

 

 『何をしているのですか貴女はああああああああああっ!』

 

 『ゴメンなさああああああああああいっ!』

 

 電話越しに千歌さんの悲鳴が聞こえる。

 

 え、何がどうなってんの?

 

 『もしもし?天?』

 

 「あ、果南さん」

 

 今度は果南さんの声が聞こえた。

 

 『ゴメンね。何が何だか分からないでしょ?』

 

 「とりあえず、千歌さんが何かやらかしたってことは分かりました」

 

 『アハハ、その通り』

 

 苦笑している果南さん。

 

 『昨日の夜に千歌とダイヤが電話して、今日ミーティングをやろうって決めたらしいんだ。私と鞠莉にはダイヤが、花丸ちゃんと善子ちゃんにはルビィちゃんが、曜と梨子ちゃんと天には千歌が連絡するはずだったらしいんだけど・・・天にだけ連絡するの忘れてたみたいだね』

 

 「何サラッとハブってくれちゃってるんですか、あのアホみかん」

 

 『天くんじゃなきゃダメなんだよ』というあの言葉は、一体何だったのか・・・

 

 「よし、東京に帰ろう」

 

 『ちょっと!?それは勘弁してよ!?』

 

 「か~え~ろ~うか~、もうか~えろ~うよ~♪」

 

 『木山●策じゃん!?』

 

 「か~え~り~た~くな~ったよ~♪」

 

 『それはいきも●がかりだよねぇ!?お願いだから思い留まって!?』

 

 必死に説得してくる果南さん。

 

 仕方ない、果南さんに免じて帰るの止めよう。

 

 「まぁ、一割の冗談はさておき・・・」

 

 『九割は本気だったの!?』

 

 「ぶっちゃけた話、暑いから外に出たくないんですよね」

 

 『ホントにぶっちゃけたね!?まぁ確かに暑いけどさぁ!』

 

 「そういうわけなんで、こっち来てもらって良いですか?」

 

 『こっちって?』

 

 聞き返してくる果南さんに、苦笑しながら答える俺なのだった。

 

 「決まってるじゃないですか・・・俺の家ですよ」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ぴぎぃ・・・」

 

 「ずらぁ・・・」

 

 「ヨハァ・・・」

 

 扇風機の前で涼む一年生トリオ。

 

 あの電話の後、Aqoursの皆はすぐにウチへとやってきた。よほど外が暑かったらしく、冷房の効いたリビングで皆ぐったりしながら休んでいる。

 

 そんな中・・・

 

 「全くっ!貴女という人はっ!」

 

 「うぅ・・・すみませんでしたぁ・・・」

 

 正座をさせられ、ダイヤさんのお説教を受けている千歌さん。

 

 やれやれ・・・

 

 「ダイヤさん、その辺にしてあげて下さい。だいぶ反省してるみたいですし」

 

 「・・・天さんがそう仰るのでしたら」

 

 「天くううううううううううんっ!」

 

 勢いよく抱きついてくる千歌さん。

 

 「流石は天くん!心が広いよ!」

 

 「高海先輩、暑苦しいので離れていただけますか?」

 

 「まさかの他人行儀!?」

 

 「何を仰っているのですか?元々ではありませんか」

 

 「ごめんなさあああああいっ!今後は気を付けますから、いつも通りに接して下さあああああいっ!」

 

 泣きついてくる千歌さん。

 

 全く、この人ときたら・・・

 

 「はいはい、泣かないの。今度から気を付けましょうね」

 

 「ぐすっ・・・うん・・・」

 

 「なるほど・・・こういった反省のさせ方もあるのですね」

 

 「ちょっとダイヤ、アレは怖いから見習わないでくれる?」

 

 感心しているダイヤさんにツッコミを入れる果南さん。

 

 ダイヤさんにコレをやられたら、確かに怖いかもしれない・・・

 

 「ところで、ミーティングは始めないんですか?」

 

 「ハッ!?そうでしたわ!」

 

 「ホワイトボードならそこにあるんで、適当に使って下さい」

 

 「あぁ、それはどうも・・・って、何故家にホワイトボードが!?」

 

 「ホワイトボード用のペンもそこに揃ってますんで」

 

 「準備良すぎません!?」

 

 ダイヤさんはツッコミを入れながらも、手早くミーティングの準備を始める。

 

 「コホンッ!さて、いよいよ今日から夏休みですが・・・夏休みといえば?」

 

 「海!」

 

 「パパが帰って来る!」

 

 「お婆ちゃんの家!」

 

 「夏コミ!」

 

 「ブッブーッ!ですわっ!」

 

 千歌さん・曜さん・花丸・善子の答えに怒るダイヤさん。

 

 答えバラバラやん・・・

 

 「ちょっと、何で分からないんですか?」

 

 「天さんの仰る通りですわ!貴女達それでもスクールアイドルですの!?」

 

 「夏休みといえば・・・夏祭りに決まってるじゃないですか!」

 

 「違いますわよ!?」

 

 「あー、彼女が欲しい・・・浴衣を着た彼女と夏祭り行きたい・・・」

 

 「花火大会の時、浴衣姿の海未先生や真姫さんと一緒だったはずでは!?」

 

 「あの二人は彼女じゃないでしょうが!そんなことも分からないなんて、ダイヤさんは本当にスクールアイドルなんですか!?」

 

 「スクールアイドル関係あります!?何故私は怒られているのですか!?」

 

 「はいはい、話が進まないから静かにしようね」

 

 梨子さんに手を引っ張られ、無理矢理隣に座らされた。

 

 解せぬ。

 

 「コホンッ!夏休みといえば・・・はい、ルビィ!」

 

 「ラブライブっ!」

 

 「正解ですわ!流石我が妹!可愛いでちゅね~!よくできまちたね~!」

 

 「頑張ルビィ!」

 

 イチャイチャしている黒澤姉妹。全員苦笑いである。

 

 「・・・何この姉妹コント」

 

 「コント言うなっ!」

 

 「ちょっとダイヤさん、ダイヤさんまでボケたらコントが成立しませんって」

 

 「ボケてませんわよ!?そもそもコントではありません!」

 

 ダイヤさんは善子と俺にツッコミを入れると、ホワイトボードに大きな模造紙を貼り出した。

 

 あんな大きな模造紙、どこにしまってあったんだろう・・・

 

 「夏といえばラブライブ!その大会が開かれる季節なのです!そこでラブライブ予選突破を目指して、Aqoursはこの特訓を行います!」

 

 バンッとホワイトボードを叩くダイヤさん。

 

 模造紙には『夏合宿の日程』と書かれており、下には特訓メニューが記入してあった。

 

 「え、遠泳十キロ・・・?」

 

 「ランニング十五キロ・・・?」

 

 「こんなの無理だよぉ・・・」

 

 あまりにもとち狂ったメニューに、花丸・善子・千歌さんが呻き声を上げる中・・・

 

 「ま、何とかなりそうね」

 

 「「「えぇっ!?」」」

 

 ここにもとち狂った三年生がいた。

 

 「果南さん、本気で言ってます?」

 

 「え、本気だけど?」

 

 「ハァ・・・だからゴリラって呼ばれるんですよ」

 

 「ちょ、何の話!?私ゴリラって呼ばれてるの!?」

 

 「某アプリゲームをプレイしている人達からは、そう呼ばれてるんですよ」

 

 「某アプリゲームって何!?」

 

 「『果南 ゴリラ』でググったら分かります」

 

 「怖くてググれないんだけど!?」

 

 「とにかく!このメニューをこなせば間違いありませんわ!」

 

 尚も力説するダイヤさん。

 

 「これはμ'sの合宿のメニューと同じなのですわ!つまりこれをこなせば、我々もラブライブで優勝間違いなし!」

 

 「えぇっ!?」

 

 「天くん、ホントなの!?」

 

 「そんなわけないでしょう」

 

 「ぴぎゃっ!?」

 

 曜さんの問いを否定した俺に、ダイヤさんが悲鳴を上げる。

 

 「で、ですがっ!私は確かに海未先生から聞きましたわよ!?」

 

 「・・・やっぱり犯人は海未ちゃんですか」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「このメニュー、五年前の夏合宿で海未ちゃんが提案したものなんですよね・・・まぁそのメニューを書いた紙は、俺がビリッビリに破きましたけど」

 

 「何故ですの!?」

 

 「このメニューをこなせる人は、ラブライブじゃなくてトライアスロンを目指すべきですから。そういうわけなんでゴr・・・果南さん、頑張って下さいね」

 

 「今ゴリラって言いかけたよねぇ!?っていうか目指さないから!」

 

 涙目の果南さん。

 

 ゴリライジりはこの辺にしておこう。

 

 「まぁとにかく、μ'sはこんなメニューやってません。俺がちゃんと現実的なメニューを考えましたから」

 

 「良かったぁ・・・」

 

 胸を撫で下ろす千歌さん。

 

 と、ここで曜さんが声を上げる。

 

 「あっ・・・千歌ちゃんと果南ちゃん、夏休みっていえば・・・海の家は?」

 

 「あぁっ!?」

 

 「忘れてた!?」

 

 悲鳴を上げる千歌さんと果南さん。

 

 海の家・・・?

 

 「何の話ですか?」

 

 「いやぁ、自治会で出してる海の家があるんだけど・・・私達、そこを手伝うように言われてるんだよねぇ」

 

 「そんな!?特訓はどうするんですの!?」

 

 今度はダイヤさんが悲鳴を上げる。

 

 海の家を手伝わないといけないとなると、練習時間が限られてくるよな・・・

 

 「じゃあ昼は全員で海の家を手伝って、涼しいMorning&Eveningに練習するっていうのはどうかしら?」

 

 「あ、小原理事長いたんですね」

 

 「最初からいたわよ!?」

 

 涙目の小原理事長。

 

 全然発言しないから忘れてたわ・・・

 

 「それ賛成ずら!」

 

 「しかし、それでは練習時間が・・・!」

 

 「じゃあ、ウチで合宿しない?」

 

 今度は千歌さんが提案する。

 

 「志満姉に頼んで一部屋借りれば、皆泊まれるでしょ?」

 

 「あ、それ良い!千歌ちゃんの家なら、目の前が海だもんね!」

 

 「移動が無い分、早朝と夕方に時間とって練習出来るね」

 

 曜さんと果南さんが賛成する。

 

 「でも、急に皆で泊まりに行って大丈夫ずらか?」

 

 「大丈夫!何とかなるよ!」

 

 「おいアホみかん、志満さんに迷惑かけたらどうなるか・・・分かってるよな?」

 

 「相変わらず志満姉のこと大好きだね!?」

 

 「未来の嫁なんで」

 

 「け、結婚する気満々だね・・・っていうか、天くんもウチに泊まるでしょ?」

 

 「いや、俺の家は近いんで別に・・・」

 

 「志満姉の手料理が食べられるよ?」

 

 「お世話になります」

 

 「意見変えるの早っ!?」

 

 フッフッフッ、志満さんと一つ屋根の下・・・

 

 と、小原理事長がこっちを見ていることに気付いた。

 

 「小原理事長?どうしたんですか?」

 

 「っ・・・な、何でもありまセーン!」

 

 慌てて笑みを浮かべる小原理事長。どうしたんだろう・・・?

 

 っていうか、未だにこの人との距離感が掴めないんだよなぁ・・・

 

 何となく隣を見ると、今度は梨子さんが何か考え込んでいた。

 

 「梨子さん?どうかしました?」

 

 「っ・・・ううん、何でもない」

 

 すぐに笑みを浮かべる梨子さん。こっちも何か悩み事だろうか・・・

 

 和気藹々と合宿について話し合っている皆をよそに、小原理事長と梨子さんの変わった様子が気になる俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

ポケモンの新作を買いました(唐突)

ソードとシールドのどちらにしようか悩んだ末、ソードを購入しました。

ザシアンがカッコ良かったんや・・・

まぁまだプレイしてないんですけどね(´・ω・`)

何やかんやで時間が無かった・・・

しかも今日から旅行なので、まだプレイ出来そうにないっていうね。

まぁもうしばらく、御三家の中で誰を選ぶのか悩んでいようと思います。



さてさて、本編は遂に合宿編に突入!

そして鞠莉ちゃんと梨子ちゃんの様子が・・・

梨子ちゃんの悩みに関しては皆さんもご存知だと思いますが、果たして鞠莉ちゃんはどうしたのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

強みは活かすべきである。

大阪・京都へ旅行に行ってきました。

良いところだったなぁ・・・


 《果南視点》

 

 「それでは明日の朝四時、海の家に集合ということで!」

 

 「・・・ダイヤさんって、時々アホになるよね」

 

 「アハハ・・・否定出来ないかも」

 

 やる気に満ち溢れたダイヤを見て、苦笑しながらヒソヒソ話している天とルビィちゃん。

 

 いや、朝四時って・・・

 

 「無理に決まってるよね、鞠莉?」

 

 隣の鞠莉に話を振るが、返事が返ってこない。

 

 鞠莉は複雑そうな表情で、ルビィちゃんと談笑している天をジッと見ていた。

 

 「・・・天が気になるの?」

 

 「っ!?」

 

 耳元で囁くと、鞠莉がビクッとしてこっちを見た。

 

 やれやれ・・・

 

 「天と話したいんでしょ?見てないで行っておいでよ」

 

 「・・・何か、距離感が掴めなくて」

 

 寂しそうに笑う鞠莉。

 

 「ずっと距離があったから、すぐには縮められないっていうか・・・多分天も同じだと思う。未だに『小原理事長』呼びだもの」

 

 「鞠莉・・・」

 

 そういえば、天はまだ鞠莉のことを『小原理事長』って呼んでたっけ・・・

 

 昔は『鞠莉ちゃん』って呼んでたらしいけど・・・

 

 「これから少しずつ、距離を縮めていけたら・・・天と仲間になれたんだもの。今はそれだけで十分よ」

 

 そう言って笑う鞠莉だったが、強がっているのが見え見えだった。

 

 全く・・・

 

 「・・・だったら、この合宿で少しでも距離を縮めなきゃね」

 

 「え・・・?」

 

 「焦る必要は無いけど、せっかくのチャンスなんだもん。これを逃す手は無いよ」

 

 「・・・そうね。頑張ってみるわ」

 

 微笑む鞠莉。

 

 二人の間だけ距離があるのは、こっちも見てて寂しいからね・・・

 

 「・・・さて、私も一肌脱ぎますか」

 

 小さく呟く私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 翌朝・・・

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 気持ち良く熟睡している俺。すると・・・

 

 

 

 『ピーンポーン』

 

 

 

 「・・・ん?」

 

 インターホンの音で目が覚める。

 

 むくりと身体を起こして時計を見ると、時刻は五時を過ぎたところだった。

 

 「誰だよ・・・こんなに朝早く・・・」

 

 眠りを妨げられて若干イラッとしていると、再びインターホンが鳴った。

 

 

 

 『ピーンポーン』

 

 

 

 「はいはい、出れば良いんでしょ・・・」

 

 欠伸をしながら玄関に向かい、ドアを開ける。

 

 「どちら様でs・・・」

 

 「天くううううううううううん!」

 

 「ごふっ!?」

 

 花丸が猛烈な勢いで抱きついてきた。

 

 な、何事・・・?

 

 「ちょ、花丸!?どうした!?」

 

 「どうしたもこうしたもないずら!」

 

 涙目の花丸。

 

 「今日は朝四時に海の家に集合のはずなのに、何で誰も来ないずら!?」

 

 「ホントに四時に行ったんだ・・・」

 

 呆れる俺。

 

 誰も真に受けてないと思ってたのに・・・

 

 「マルは三時半から待ってたのに、一時間経っても誰も来なかったずら!あまりにも寂しかったから、天くんを迎えに来たずら!」

 

 「可愛すぎか」

 

 思わず花丸を抱き締めてしまう。

 

 何だろう、今の花丸がメチャクチャ愛おしい。

 

 「とりあえず入って。皆が来るまでゆっくりしていきなよ」

 

 「ずらぁ・・・」

 

 花丸の手を引いて家に入れつつ、ダイヤさんをしばくことと決意する俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「今度ふざけたマネしたら内浦の海に沈めんぞ、この前髪パッツン堅物ですわ女」

 

 「うぅ・・・申し訳ありませんでした・・・」

 

 砂浜で涙目になりながら正座しているダイヤさん。結局全員揃ったのは、朝九時のことだった。

 

 しれっと一番最後にやってきたダイヤさんの頭に全力で『雷鳴●卦』を叩き込んだ俺は、そのままダイヤさんを正座させて説教タイムに入ったのだった。

 

 「っていうか、朝四時って言った張本人が何で一番最後に来てるんですか」

 

 「合宿が楽しみすぎて、昨晩はなかなか寝ることが出来なくて・・・目が覚めたらあんな時間に・・・」

 

 「遠足前の小学生か」

 

 このポンコツ生徒会長め・・・

 

 「ま、まぁまぁ天くん!もうその辺にしてあげるずら!」

 

 花丸が慌ててフォローに入る。

 

 ちなみにあの後、花丸はウチでもう一眠りしていた。一緒に朝ご飯も食べたので、すっかり元気モードである。

 

 「・・・まぁ花丸に免じて、この辺にしておくとして。他の皆は?」

 

 「あそこずら」

 

 指を差す花丸。そこには・・・

 

 「おりゃあっ!」

 

 「とりゃあっ!」

 

 「よっ!」

 

 「それっ!」

 

 「あ~、気持ち良い~・・・」

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 海に飛び込んでいる千歌さんと曜さん、ビーチバレーをしている果南さんと小原理事長、浮き輪に乗ってプカプカ浮いているルビィ、ビーチパラソルの下に寝そべって爆睡している善子の姿があった。

 

 「・・・見事に遊んでるわね」

 

 「・・・本当にあのメニューやらせようかな」

 

 「それは勘弁して!?」

 

 悲鳴を上げる梨子さんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「さぁ、気合い入れていきましょう」

 

 「「「「「「お、おー・・・」」」」」」

 

 砂浜に突っ伏した状態で手を上げる千歌さん・曜さん・ルビィ・善子・果南さん・小原理事長。

 

 全員『●鳴八卦』を叩き込まれた後である。

 

 「容赦ないわね・・・」

 

 「怖いずら・・・」

 

 「恐ろしいですわ・・・」

 

 こちらに畏怖の視線を向ける梨子さん・花丸・ダイヤさん。

 

 そんなことはまるで気にせず、俺は辺りを見渡した。

 

 「ところで、海の家ってどこですか?」

 

 「あそこだよ」

 

 千歌さんが指差した方を見ると・・・ボロボロの木造の建物があった。

 

 どう見ても寂れた感じが否めない。

 

 「・・・さて、壊しますか」

 

 「ストップううううううううううっ!?」

 

 慌てて俺を羽交い絞めにする曜さん。

 

 「あれ、何で止めるんですか?」

 

 「止めるに決まってるでしょ!?何で壊そうとしてるの!?」

 

 「え、だって解体の手伝いでしょ?」

 

 「いや違うから!営業の手伝いだから!」

 

 「こんな店に客なんて来るわけないでしょうが!」

 

 「それを呼び込むのか私達の仕事でしょうが!」

 

 「俺達にどうしろと!?曜さんがストリップショーでもしてくれるんですか!?」

 

 「嫌だよ!?それじゃ完全にいかがわしいお店じゃん!?」

 

 「根性見せろよ露出狂!」

 

 「まだそれ引きずるの!?違うって言ってるでしょうが!」

 

 「はいはい、そこまで」

 

 ギャーギャー言い合う俺と曜さんの間に、果南さんが割って入る。

 

 「とりあえず、どうしたら客を呼び込めるか考えよう。エッチな方法は無しで」

 

 「じゃあ無理です」

 

 「諦めるの早っ!?他に方法は無いの!?」

 

 「んー、店に来てくれた人に百万円を渡すとか?」

 

 「まさかの賄賂!?そのお金はどこから!?」

 

 「小原理事長が何とかしてくれるでしょ」

 

 「いや無理だから!」

 

 小原理事長のツッコミ。

 

 チッ、無理か・・・

 

 「っていうか、問題は隣の店ですよね」

 

 視線を向ける俺。そこには、とてもお洒落なカフェのような海の家があった。

 

 建物も新しく飾りも華やかで、多くのお客さんで賑わっている。

 

 「この二つが並んでたら、そりゃ皆隣に行くでしょ」

 

 「アハハ・・・確かに・・・」

 

 苦笑する梨子さん。

 

 さて、どうしたものか・・・

 

 「・・・勝算が無いわけじゃないんですけどね」

 

 「えっ、ホント!?」

 

 驚く千歌さん。

 

 何だかんだ言いつつ、可能性はあると俺は考えていた。

 

 何故なら・・・

 

 「えぇ。こっちの店には、あっちの店に無いものがありますからね」

 

 「えっ?何かあった?」

 

 首を傾げる善子。

 

 やれやれ、気付いてないのか・・・

 

 「皆スクールアイドルじゃん。スクールアイドルがやってる海の家なんて、話題性抜群でしょ。上手くいけば、Aqoursの知名度アップにも繋がるだろうし」

 

 「それですわ!」

 

 顔を輝かせるダイヤさん。

 

 「その点を上手く活かすことが出来れば、こちらにも勝機はあるはず・・・!」

 

 「でしょうね」

 

 頷く俺。

 

 「まぁそもそも、これほどの美少女が九人もいるんですから。俺だったら、絶対こっちの店に来ますよ」

 

 「「「「「「「「「っ・・・」」」」」」」」」

 

 何故か顔を赤くする九人なのだった。




どうも〜、ムッティです。

前書きでも述べましたが、大阪・京都へ旅行に行ってきました!

大阪ではたこ焼きをメチャクチャ食べ、USJでアトラクションに乗りまくり・・・

京都では観光名所を巡りつつ、紅葉を見てました。

特に良いなぁと思ったのは、京都の宇治ですね。

旅行の最終日にふらっと立ち寄ったんですが、のどかで本当に良い所でした。

『響け!ユーフォニアム』の舞台にもなった場所ということで、作品の中にも出てきた『宇治橋』とかを見てちょっとテンション上がってました(笑)

今度はゆっくり宇治を楽しみたいなぁ・・・



さてさて、本編では遂に合宿が始まりましたね。

果たして天と鞠莉ちゃんの距離は縮まるのか・・・

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

何事もほどほどが一番である。

もう12月なんですねぇ・・・

2019年も終わるのかぁ・・・


 「曜ちゃん、ヨキソバ一つ!」

 

 「ヨーソロー!」

 

 「天くん、かき氷のイチゴとメロンを一つずつ!」

 

 「了解です」

 

 千歌さんと梨子さんからオーダーを聞き、迅速に対応していく曜さんと俺。

 

 俺達がやっている海の家は今、隣の店に負けないくらい繁盛していた。

 

 「まさかこんなにお客さんが来るなんて・・・」

 

 「想像以上でしたね」

 

 曜さんの言葉に苦笑する俺。

 

 そもそも最初は知り合いを呼ぼうということで、浦の星の生徒達に片っ端から連絡したのが始まりだった。

 

 そして来てくれた皆が他校の生徒にも声をかけてくれて、そこからこの海の家の存在が広まっていったのだ。

 

 人の力って凄いな・・・

 

 「今は果南ちゃんが、外で宣伝してくれてるんだよね?」

 

 「えぇ。効果は絶大でしょうね」

 

 今日の果南さんは水着姿、しかもビキニだ。あの抜群のプロポーションを晒した状態でビラ配りをしてくれているので、目を引くこと間違い無しである。

 

 『エッチな方法はダメ』と言っていた果南さんだが、これは大丈夫らしい。

 

 まぁあの人、俺の前でも平気でダイビングスーツ脱ぐしな・・・

 

 

 

 『是非お立ち寄り下さーい!』

 

 『美味しい食べ物もあるずr・・・ありまーす!』

 

 

 

 外からルビィと花丸の声が聞こえてくる。二人には今、店の前で声がけをしてもらっていた。

 

 可愛らしい女の子二人が店の前に立っていたら、気になって来てくれる人もきっといることだろう。

 

 「ヨキソバをお一つですね?かしこまりました」

 

 「お待たせしました!かき氷のブルーハワイ味です!」

 

 「ありがとうございました!またお越し下さいませ!」

 

 笑顔で接客している梨子さん・千歌さん・ダイヤさん。おかげで客受けは非常に好評のようだ。

 

 そして・・・

 

 「とりゃあっ!」

 

 鉄板の上の麺に、勢いよくソースを投入する曜さん。

 

 曜さんの料理スキルはなかなかのもので、曜さんの作るオムソバ・・・通称『ヨキソバ』は、この海の家の看板メニューになっていた。

 

 曜さんってホント器用だよな・・・

 

 「曜さん、パーカーとか羽織った方が良くないですか?」

 

 「いや、暑いから大丈夫。それにソースが跳ねたら汚れちゃうし」

 

 「そうかもしれないですけど・・・油が跳ねたら火傷しません?」

 

 今の曜さんは水着姿なので、かなり肌の露出が多いのだ。

 

 果南さんも勿論そうだが、曜さんのスタイルもかなり良い。胸は大きいし、腰はくびれてるし・・・

 

 健康的で色気のある身体を、俺の隣で惜しげもなく晒しているのだ。

 

 「おっ、心配してくれるの?」

 

 「言えない・・・曜さんの身体がエロすぎて、目のやり場に困るなんて言えない・・・(当たり前じゃないですか!俺にとって曜さんは大切な人なんですよ!?)」

 

 「いや建前と本音が逆うううううっ!?心の声がダダ漏れなんですけど!?」

 

 「曜さんの水着姿ってエロいですよね」

 

 「もう本音を隠す気も無いの!?」

 

 ツッコミ連発の曜さん。

 

 「全く・・・『その水着似合ってますね』くらい言えないの?」

 

 「いや、似合ってるのなんて当たり前でしょう。曜さんは何を着たって似合いますよ。メチャクチャ可愛いんですから」

 

 「・・・そういうことを照れもせずに言えるんだから、天くんはズルいよ」

 

 頬を赤く染める曜さん。どうしたんだろう?

 

 「クックックッ・・・」

 

 後ろの方で善子の笑い声が聞こえる。

 

 確かアイツは、たこ焼き担当だったはず・・・

 

 「善子、たこ焼きは出来t・・・」

 

 善子の方を振り向いた俺は、思わず固まってしまった。

 

 善子の手元の鉄板には、たこ焼きとはまるで違う黒の球体がいくつも並んでいたのだ。

 

 「堕天使の涙、降臨ッ!」

 

 「オッケー、今すぐ泣かせるわ」

 

 「ぐえっ!?」

 

 背後から善子に関節技を極めにかかる。

 

 何やってんだコイツは・・・

 

 「ちょ、天!?いきなり何すんのよ!?」

 

 「俺『たこ焼きを作って』って言ったよね?何で暗黒物質を生成してんの?」

 

 「暗黒物質・・・ダークマターってことね!?その名前も捨てがたいわ!」

 

 「人の話聞けや」

 

 ダメだこの子、完全に自分の世界に入っちゃってる・・・

 

 と、曜さんが引き攣った表情で『堕天使の涙』とやらを見つめていた。

 

 「へ、へぇ・・・善子ちゃんのたこ焼きって独特だね・・・」

 

 「いや、独特っていうかもうたこ焼きじゃないでしょ」

 

 「フフッ、食べてみる?」

 

 俺のツッコミはスルーした善子は、『堕天使の涙』に竹串を刺した。

 

 その瞬間、中から赤い液体が溢れ出てくる。

 

 「ひぃっ!?」

 

 「あー・・・」

 

 悲鳴を上げた曜さんが、俺の腕にしがみつく。

 

 なるほど、コレの正体が分かってしまった・・・

 

 「曜さん、コレ食べない方が良いですよ」

 

 「だ、だよね!じゃあ遠慮しt・・・」

 

 「えいっ」

 

 「むぐっ!?」

 

 曜さんの口に『堕天使の涙』を突っ込む善子。

 

 突っ込まれた曜さんの顔はどんどん赤くなっていき、そして・・・

 

 「ギャアアアアアッ!?辛いいいいいっ!?」

 

 その場で悶え苦しむ曜さん。

 

 あぁ、やっぱり・・・

 

 「フフッ、そんなに美味しかった?」

 

 「シャラップ」

 

 「むごぉっ!?」

 

 善子の口に出来上がったかき氷をぶち込み、曜さんにペットボトルの水を手渡す。

 

 曜さんはひったくるように受け取ると、そのまま水を一気飲みした。

 

 「ごく・・・ごく・・・ごく・・・ぷはぁっ!し、死ぬかと思った・・・」

 

 「ご愁傷様です」

 

 「あ、頭が・・・」

 

 アイスクリーム頭痛に悶える善子に、俺は呆れた視線を向けた。

 

 「善子、ハバネロ入れすぎ。売り物にならないって」

 

 「あの赤い液体はハバネロだったの!?」

 

 衝撃を受けている曜さん。実は善子は極度の辛党であり、ハバネロ大好き人間なのだ。

 

 津島家で夕飯をご馳走になっていた頃、色々なものにハバネロをぶっかけて食べる善子を見てドン引きしたのはここだけの話だ。

 

 善恵さんも遠い目をしてたっけな・・・

 

 「何でよ!?ピリ辛ぐらいでしょ!?」

 

 「どこがピリ辛!?私死にかけたよ!?」

 

 「善子は辛いものに舌が慣れすぎてるんで、これでもピリ辛レベルにしか感じないんですよ。要は味覚がぶっ壊れてるんです」

 

 「善子ちゃん・・・恐ろしい子・・・!」

 

 「ヨハネよっ!」

 

 「フッフッフッ・・・」

 

 俺達が騒いでいると、今度は小原理事長の笑い声が聞こえてきた。

 

 うわぁ、嫌な予感しかしない・・・

 

 「小原理事長、何を作って・・・」

 

 「Unbelievable・・・『シャイ煮』、complete・・・!」

 

 「・・・もう嫌だこの人」

 

 まるで魔女のように鍋をかき回している小原理事長を見て、俺はもうツッコミを入れる気さえ起きなかった。

 

 十中八九、イレギュラーメニューだろうな・・・

 

 「出来たわ天!『シャイ煮』よ!」

 

 「『シャイニー』とかけてるみたいですけど、何も上手くないですからね?」

 

 「さぁ、食べて食べて!天の胃袋を掴んじゃうわ!」

 

 「むしろ胃がK.O.されそうなんですけど」

 

 この人お嬢様だから、料理とかしてこなかったんだろうな・・・

 

 恐る恐る『シャイ煮』を一口食べてみると・・・

 

 「そ、天・・・?」

 

 「大丈夫・・・?」

 

 「・・・美味しい」

 

 「「えぇっ!?」」

 

 驚く善子と曜さん。

 

 何か普通に美味しいんだけど・・・

 

 「フッフッフッ・・・『シャイ煮』は私が世界から集めたspecialな食材で作った、究極の料理デース!」

 

 ドヤ顔で胸を張る小原理事長。

 

 制服の上からでも分かるくらい大きかったけど、水着になると本当に大きいことが改めて分かるな・・・

 

 「・・・天、視線がいやらしいわよ」

 

 「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか」

 

 「何でえな●かずき?私にはそんな視線向けてこないくせに・・・」

 

 「え、向けてほしいの?」

 

 「そ、そんなわけないでしょバカ!」

 

 顔を赤くしてそっぽを向いてしまう善子。

 

 理不尽だなぁ・・・

 

 「・・・天くんって、乙女心が分かってるのか分かってないのかハッキリしないよね」

 

 呆れたように溜め息をつく曜さん。

 

 俺が何をしたというのか・・・

 

 「ところで小原理事長、『シャイ煮』の中にちょいちょい高級そうな食材が見えるんですけど・・・いくらしたんですか?」

 

 「んー・・・十万円くらい?」

 

 「高過ぎるわっ!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 再び『雷鳴八●』を叩き込む。

 

 全く、これだから成金一族は・・・

 

 「とりあえず作業に戻りましょう。曜さんは引き続き『ヨキソバ』を作って下さい。善子はちゃんとたこ焼きを作ること。ハバネロは没収するから」

 

 「ヨーソロー!」

 

 「そんなぁっ!?」

 

 「それから小原理事長、『シャイ煮』は却下です。俺はちょっと食材の買い出しに行ってくるんで、代わりにかき氷作りをお願いします」

 

 「うぅ・・・分かったわ・・・」

 

 うなだれている小原理事長。

 

 「・・・やっぱり、『小原理事長』よね」

 

 何かを小さく呟いた小原理事長は、少しだけ寂しそうな表情をしていたのだった。




どうも〜、ムッティです。

この間『THE カラオケ★バトル』に、きんちゃんが出てましたね。

・・・歌上手すぎない?

上手いのは知ってたけど、改めて聴くとメチャクチャ上手いですよね。

あいきゃんといいあいにゃといい、何故こんなに歌が上手いのか(´・ω・`)

個人的にあいきゃん・あいにゃ・きんちゃんの三人で歌うところを見てみたいわぁ・・・



さてさて、今回は海の家の回でしたね。

曜ちゃんとイチャイチャ(?)してたり、善子ちゃんをしばいたり・・・

そんな中、やっぱり鞠莉ちゃんがちょっと寂しそう・・・

果たしてこれからどうなっていくのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

忘れてと言われることほど忘れられない。

スクスタでフォレストフェアリーの衣装を着たエリーチカが、SAOのリーファに激似な件について。

そして何と言ってもエロい。


 「あっ、天さん・・・それ以上は・・・!」

 

 「ダメですよ、ダイヤさん。ちゃんとほぐしておかないと、後で痛い思いをすることになるんですから」

 

 「そ、そうかもしれませんが・・・あんっ・・・!」

 

 「ダイヤさんは敏感ですね・・・それじゃ、そろそろイキますよ」

 

 「あっ、ちょっと待って・・・はああああああああああんっ!?」

 

 「・・・この会話だけ聞くと、いかがわしいことしてるみたいだよね」

 

 俺のマッサージを受けているダイヤさんを見て、果南さんが苦笑する。

 

 海の家の手伝いからのトレーニングを終えた俺達は、お風呂に入った後千歌さんの部屋に集まっていた。残念ながら部屋は全て埋まっていたらしく、借りることが出来なかったらしい。

 

 なので合宿中は、皆で千歌さんの部屋に泊まることになったのだ。

 

 「そう聞こえてしまう果南さんの方がいかがわしいんですよ」

 

 「なっ!?天に言われたくないんだけど!?」

 

 「失敬な。俺は心の清らかな人間ですよ」

 

 「どこが!?」

 

 「果南さんに豊満な胸を何度も押し付けられてるのに、一度も襲ったことないじゃないですか」

 

 「誤解を招く言い方止めてくれる!?ハグしてるだけだから!」

 

 「結果的に同じことでしょ」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まる果南さん。

 

 俺は溜め息をつくと、部屋を見渡した。

 

 「それにしても、果南さんは元気ですね・・・他の皆は屍になってるのに」

 

 そう、この部屋で元気なのは果南さんと俺だけ・・・他の皆は床やベッドに倒れ込み、ぐったりとしている。

 

 「つ、疲れたぁ・・・」

 

 「海の家で働いてからの練習とか、キツ過ぎる・・・」

 

 千歌さんと曜さんの表情が死んでいた。

 

 体育会系の曜さんがぐったりしているくらいだし、だいぶキツかったんだろうな・・・

 

 「しっかりして下さい。海未ちゃんが考案したメニューより、全然楽だったでしょ」

 

 「いや、アレに比べたらマシだったとは思うけど・・・それでもキツいって」

 

 「この練習メニューを、μ'sはきっちりこなしてましたよ」

 

 「頑張らなきゃ!」

 

 急にやる気を出す千歌さん。チョロいな。

 

 「ほらダイヤさん、マッサージ終わりましたよ」

 

 「うぅ・・・ありがとうございました・・・」

 

 うつ伏せのまま動かないダイヤさん。

 

 相当疲れたんだな・・・

 

 「あとマッサージ受けてない人います?」

 

 「あ、私まだ受けてないんだけど」

 

 「元気な人は対象外です」

 

 「何でよ!?」

 

 「あとゴリラも対象外です」

 

 「そろそろ泣いていい!?」

 

 涙目の果南さん。やれやれ・・・

 

 「っていうか千歌さん、俺はどこで寝たら良いんですか?」

 

 「え?ここだけど?」

 

 「・・・言うと思った」

 

 海未ちゃんの実家でのこともあったから、まさかとは思ったけど・・・

 

 「今回は果南さんもダイヤさんも小原理事長もいるんですよ?三人の気持ちも考えてですね・・・」

 

 「私は全然構わないけど?」

 

 「わ、私も・・・少し恥ずかしいですが、天さんでしたら・・・」

 

 「マリーも勿論OKよ♪」

 

 「わー、貞操観念の欠片もなーい」

 

 俺、この人達の将来が本気で心配になってきた・・・

 

 「っていうか俺、志満さんと一緒に寝たいんですけど」

 

 「どんだけ志満姉好きなの!?結婚前の男女が一緒に寝るなんて破廉恥だよ!?」

 

 「そのセリフをそっくりそのまま返すわっ!」

 

 「ぐほぉっ!?」

 

 千歌さんの鳩尾に枕を叩き込む俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「うぅ、天くんってホント容赦ないよね・・・」

 

 「男女平等がモットーなんで」

 

 「だからこういう場面で使う言葉じゃないって!?」

 

 鳩尾を擦りながらツッコミを入れる千歌さん。

 

 俺達は皆の分の飲み物を運ぶ為、階段を下りて一階のキッチンに向かおうとしていた。

 

 すると・・・

 

 「あら、天くん」

 

 「え、奈々さん?」

 

 玄関口に奈々さんが立っていた。

 

 どうしたんだろう?

 

 「こんばんは。どうしてここに?」

 

 「煮物を作り過ぎちゃったから、お裾分けに来たのよ。今日から梨子がお世話になってるし、そのお礼も兼ねてね」

 

 「わーい!梨子ちゃんのお母さんが作った煮物、美味しくて大好き!」

 

 「あら千歌ちゃん、嬉しいこと言ってくれるわね」

 

 喜ぶ千歌さんを見て、嬉しそうに笑う奈々さん。

 

 と、ちょうどキッチンから志満さんが袋を持って出てきた。

 

 「お待たせしました。良かったらこれ・・・って、天くんと千歌ちゃんもいたのね」

 

 「えぇ、志満さんに夜這いしようと思って」

 

 「本人の前でそういうこと言っちゃうんだ!?」

 

 「フフッ、天くんってば積極的なんだから♡」

 

 「何で志満姉は満更でもない感じなの!?」

 

 「ちょっと天くん、夜這いならウチの梨子にしてちょうだい」

 

 「梨子ちゃんのお母さん!?それで良いの!?」

 

 「そうですか?じゃあ遠慮なく」

 

 「させないからね!?」

 

 「あらあら千歌ちゃん、もしかして自分が夜這いされたいの?」

 

 「どこからそういう結論になったの!?」

 

 「梨子、これは思わぬライバルが出現したわよ・・・!」

 

 「勝手にライバル認定されてる!?」

 

 「千歌さん・・・気持ちは嬉しいんですけど、ゴメンなさい・・・」

 

 「何で勝手にフラれてるの私!?」

 

 ツッコミを連発しすぎて、ゼェゼェ言っている千歌さん。

 

 大変だなぁ・・・

 

 「ところで天くん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・」

 

 真面目な表情になる奈々さん。

 

 「ピアノコンクールについて、梨子から何か聞いてない?」

 

 「ピアノコンクール?」

 

 「えぇ。近いうちにあるみたいで、梨子にも案内が来てたんだけど・・・あの子、出るとも出ないとも言ってなくて」

 

 「いや、梨子さんからそんな話は聞いてないですけど・・・千歌さん聞いてます?」

 

 「私も聞いてないなぁ・・・」

 

 「そう・・・じゃああの子、出ないつもりなのかしら・・・」

 

 考え込む奈々さん。しかしすぐに笑みを浮かべる。

 

 「変なこと聞いてゴメンなさい。忘れてちょうだい」

 

 「え、えぇ・・・」

 

 「それじゃ、私は帰るわ。梨子のことよろしくね」

 

 「あ、これどうぞ。煮物のお礼です」

 

 「あら、ありがとう志満ちゃん。ありがたくいただくわね」

 

 奈々さんは志満さんから袋を受け取ると、手を振りながら出て行った。

 

 「ピアノコンクールかぁ・・・梨子ちゃん、一言も言ってなかったよね・・・」

 

 「・・・千歌さん、志満さん、ちょっと出てきます。すぐ戻りますんで」

 

 「え?」

 

 「天くん?」

 

 首を傾げる二人をよそに、俺は玄関を出て奈々さんを追った。

 

 「奈々さん!」

 

 「天くん?」

 

 俺に呼び止められ、驚いてこちらを振り向く奈々さん。

 

 「どうしたの?」

 

 「いえ、ちょっと聞きたいことがあって・・・」

 

 奈々さんと向き合った俺は、思い切って気になることを聞いてみるのだった。

 

 「教えてほしいんです・・・音ノ木坂時代の梨子さんについて」




どうも〜、ムッティです。

相変わらずスクスタにハマっております。

UR果林ちゃんが欲しい(´・ω・`)

もう虹ヶ咲は完全に果林ちゃん推しになってる自分がいます(笑)

虹ヶ咲、アニメ化しないかなぁ・・・



さてさて、本編では梨子ちゃんにピアノコンクールの案内が届いていたことが判明。

天が奈々さんに梨子ちゃんについての話を聞くようですね。

次の話では少々オリジナルの設定が出てくる予定ですので、お楽しみに(・∀・)ノ

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

物事には意外な真実が隠れていたりする。

ここで一句。

『冬の朝 布団の中から 出られない』

この季節は、朝起きるのが辛いんだよなぁ・・・


 「はい、お茶どうぞ」

 

 「ありがとうございます」

 

 奈々さんからコップを受け取る俺。

 

 俺は奈々さんに招かれ、桜内家にお邪魔していた。

 

 「・・・音ノ木坂時代の梨子について、だったわね」

 

 俺の真向かいの椅子に腰を下ろす奈々さん。

 

 「えぇ。音ノ木坂時代は、ピアノコンクールで上手くいかなかったって聞いてますけど・・・」

 

 「・・・そうね。上手くはいってなかったわ」

 

 溜め息をつく奈々さん。

 

 「中学の頃までは、いつも楽しそうにピアノを弾いてたの。全国大会に出たこともあったから、音ノ木坂では結構期待されてたみたい」

 

 それは梨子さんも言ってたっけ・・・

 

 だからこそ、期待に応えられなかったことが申し訳ないって・・・

 

 「その期待が重かったのかしらね・・・音ノ木坂に入ってから、梨子はあまり笑わなくなったわ。ピアノを弾く時も凄く必死な感じで、全然楽しそうじゃなかった」

 

 「そうだったんですか・・・」

 

 「えぇ。その影響もあったのか、コンクールでも思うような成績を残せなくて・・・『次こそは』って、また必死にピアノを弾いて・・・その繰り返しだったわ」

 

 何となく、その光景が目に浮かぶようだった。

 

 梨子さんは本当に真面目だから、いつも自分を追い込んでたんだろうな・・・

 

 「そんなことが続いた時、あるコンクールに出たんだけど・・・梨子、弾かなかったの」

 

 「弾かなかった・・・?」

 

 「えぇ。ピアノの前に座って、鍵盤に手を置いたところで動かなくなってね。しばらくそのままでいたかと思ったら、立ち上がって観客席に向かってお辞儀して・・・そのまま舞台袖にはけていったわ。あの時は、観客席がざわついたわよ」

 

 苦笑する奈々さん。

 

 そんなことがあったのか・・・

 

 「あの子曰く、『弾けなかった』らしいわ。『今まで自分がどんな風にピアノを弾いていたのか、分からなくなった』って」

 

 「・・・そこまで追い詰められてたってことですか」

 

 多分、プレッシャーに押し潰されてしまったんだろうな・・・

 

 「あの子のそんな姿を見るのは、私も辛くてね・・・『環境を変えてみたら?』って、あの子に勧めたのよ」

 

 「え、奈々さんの勧めだったんですか?」

 

 「えぇ。そしたらちょうど、梨子も同じことを考えてたみたいでね。内浦への引っ越しと、浦の星女学院への転校が決まったのよ」

 

 そうだったのか・・・ん?

 

 「そういえば、何で引っ越し先が内浦だったんですか?何か縁があったとか?」

 

 「フフッ、やっぱり気になるわよね」

 

 面白そうに笑う奈々さん。

 

 「実は私、音ノ木坂の理事長さんと知り合いなの」

 

 「えぇっ!?」

 

 嘘だろオイ!?奈々さんと南理事長が知り合い!?

 

 「それで相談してみたら、浦の星女学院を勧められたのよ。『知り合いが理事長に就任する予定だから、紹介出来るわよ』って。まぁその知り合いっていうのが、現役女子高生だとは思わなかったけど」

 

 苦笑する奈々さん。

 

 「あと、こうも言ってたわ。『私が実の息子のように可愛がってる子も入るから、何かあったらその子を頼りなさい』って」

 

 「じゃあ奈々さん、最初から俺のこと知ってたんですか!?」

 

 「まぁね。『ついでにあの子をよろしくね』って頼まれたもの」

 

 「・・・あの年増理事長」

 

 よし、今度会ったら絶対しばこう・・・

 

 「まぁ私が動くまでもなく、梨子は天くんと仲良くなってたけどね。おかげで梨子は笑うことが多くなったし、毎日楽しそうだもの。天くんのおかげよ」

 

 「俺は何もしてませんよ。千歌さん達の影響でしょう」

 

 「・・・天くんは本当に謙虚ね。彼女に聞いてた通りだわ」

 

 微笑む奈々さん。

 

 「私、『その子はそんなに信頼出来る子なの?』って聞いたのよ。そしたら彼女、何て答えたと思う?」

 

 「・・・何て答えたんですか?」

 

 「『娘を嫁にあげたいと思えるくらい信頼してるわ』ですって」

 

 「あの人はまたそういうことを・・・」

 

 「『そうすれば、天くんは本当に私の息子になるもの』とも言ってたわね」

 

 「娘を何だと思ってんのあの人」

 

 まぁことりちゃんと結婚出来るなら、俺としては本望だけども。

 

 「確かに、千歌ちゃん達の影響も大きいと思うわ。でもそれ以上に、天くんの存在が凄く大きいと思うの」

 

 笑う奈々さん。

 

 「天くんと一緒にいる時の梨子、本当に楽しそうだもの。今まで女の子の友達はいたけど、男の子とここまで打ち解けてる姿は見たこと無いわ」

 

 「・・・まぁ、無自覚にフッてたみたいですからね」

 

 当の本人は『モテなかった』とか言ってたけど・・・本当に罪深い人だと思う。

 

 「天くんと接してみて、彼女の言ってたことがよく分かったわ。本当にありがとう」

 

 「よして下さいよ。本当に大したことはしてないんですから」

 

 「フフッ、じゃあそういうことにしておくわ」

 

 クスクス笑っている奈々さん。

 

 「今まで黙っててゴメンなさいね。彼女から『しばらく秘密にしておいて』って言われてたから」

 

 「・・・まぁ良いです。それより、ピアノコンクールのことですね」

 

 「そうね・・・多分あの子、出ないつもりなんだと思うわ」

 

 天井を見上げる奈々さん。

 

 「今のあの子にとっては、スクールアイドルの方が大事なんでしょうし・・・あの時のことも、まだ引きずってるんじゃないかしら」

 

 「・・・奈々さんは、出てほしいと思いますか?」

 

 「んー、そうねぇ・・・」

 

 奈々さんは考え込むと・・・少し寂しそうな笑みを浮かべた。

 

 「コンクールに拘るつもりは無いけど・・・私はただ、あの子が楽しそうにピアノを弾く姿を見たい。それだけよ」

 

 「奈々さん・・・」

 

 奈々さんの切実な願いを聞き、何も返すことが出来ない俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「奈々さんと南理事長が知り合いだったとは・・・」

 

 俺は砂浜に続く石段に座り、夜の海を眺めていた。

 

 月の光が海に反射し、昼間には見ることが出来ない景色が広がっている。

 

 「ピアノコンクールかぁ・・・」

 

 ネットで調べてみたところ、何とラブライブの予備予選と同じ日だった。

 

 梨子さん、ピアノコンテストよりラブライブを優先させるつもりなのかな・・・

 

 もしそうなら、Aqoursとしてはありがたい話なんだろうけど・・・

 

 「・・・本当にそれで良いのかな」

 

 梨子さんが内浦に来たのは環境を変えることが目的であり、それはピアノと向き合う為だったはずだ。

 

 それほどピアノと真剣に向き合ってきた梨子さんが、ピアノよりスクールアイドルを優先しようとしている。

 

 果たしてそれは、梨子さんにとって良い選択なんだろうか・・・

 

 「こんな所にいたんだ」

 

 考え事をしていると、頭上から声がした。

 

 見上げると、二つの大きな山が・・・

 

 「・・・デカいな」

 

 「セクハラ発言禁止」

 

 山の間から顔を覗かせた果南さんが、呆れたように言う。

 

 「千歌の部屋に戻らないの?皆もう寝ちゃったよ?」

 

 「いや、寝るの早くないですか?まだ九時ですよ?」

 

 「よっぽど疲れたんだろうね。もう爆睡してたよ」

 

 苦笑する果南さん。

 

 まぁ体力に余裕があったの、果南さんくらいだもんな・・・

 

 「隣、良い?」

 

 「どうぞ」

 

 俺の隣に腰を下ろす果南さん。

 

 髪を下ろしているせいか、いつもと少し違う印象を受けてドキッとしてしまう。

 

 「ん?どうかした?」

 

 「いや、何でも・・・」

 

 果南さんの問いに言葉を濁す俺。

 

 果南さんは不思議そうに首を傾げると、目の前に広がる海を見つめた。

 

 「・・・ねぇ、天」

 

 「何ですか?」

 

 「鞠莉のこと・・・どう思ってる?」

 

 「・・・そうですねぇ」

 

 いつかは聞いてくるんじゃないかと思っていた。

 

 俺と小原理事長の間に微妙な距離があることは、果南さんなら気付いているだろうから。

 

 「嫌いではないですよ。イマイチ距離感が掴めないんで、どう接していいか分かりませんけどね」

 

 「・・・鞠莉が天を脅したこと、まだ引きずってる?」

 

 「・・・そうだと思います」

 

 正直に答える。ここで言葉を濁すことはしない。

 

 「勿論、許したつもりではいるんですけど・・・脅された時、本当にショックだったんですよ。昔は本当に仲良しだったのに、久しぶりに会ったらあんな風に脅されて・・・正直心のどこかで、小原理事長を信じきれていない自分がいます」

 

 「・・・無理もないよ。鞠莉はそれだけのことをしたんだから」

 

 溜め息をつく果南さん。

 

 「ただ、私は天のことも鞠莉のことも大好きだからさ。二人の間に距離があるのが、見ててちょっと悲しいっていうか・・・いたたまれない気持ちになるんだよね」

 

 「・・・すいません」

 

 「あ、天を責めるつもりなんてないよ?さっきも言ったけど、そうなっちゃうのも無理ないだろうし」

 

 果南さんはそう言うと、俺に視線を向けてきた。

 

 「・・・実はね、天。天がAqoursのマネージャーを辞めるって言った時、私は鞠莉からある話を聞いたの」

 

 「ある話・・・?」

 

 「うん、私も聞いてビックリしちゃった。『え、そうだったの!?』って」

 

 「何ですかその気になるフリは。教えて下さいよ」

 

 「うん、実はね・・・」

 

 果南さんはそう言うと、小原理事長から聞いたという話を聞かせてくれた。

 

 それを聞いた俺は、驚きのあまり呆然としてしまうのだった。




どうも〜、ムッティです。

さてさて、今回は天が奈々さんや果南ちゃんとお話していましたが・・・

奈々さんが南理事長の知り合いというのは、言わずもがなオリジナル設定です。

内浦への引っ越しや浦の星への転入理由を考えた時に、『そういうことにしてしまおう』と思いまして。

実際、何で引っ越し先が内浦だったんでしょうね?

ご存知の方、教えて下さい(´・ω・`)

あとは梨子ちゃんがコンクールでピアノを弾けなかった時の心境や、奈々さんの梨子ちゃんに対する思い・・・

これもあくまで想像ですので、悪しからず・・・

そして出てきた、果南ちゃんが鞠莉ちゃんから聞いたという話・・・

一体何の話なのか・・・

申し訳ありませんが、あと少しだけ引っ張ります(>_<)

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人に相談するのも大切なことである。

スクスタで新曲を解放する為、虹ヶ咲メンバーの絆レベル上げに勤しむ日々。

果林ちゃん・せつ菜ちゃん・しずくちゃんをクリアし、今は彼方ちゃんの絆レベル上げに奮闘中。

早くコンプリートせねば・・・


 翌日・・・

 

 「・・・ん・・・くん・・・天くんっ!」

 

 「えっ?」

 

 千歌さんに呼びかけられ、ハッとする俺。

 

 千歌さんが心配そうに俺を見ていた。

 

 「大丈夫?何か様子がおかしいけど・・・」

 

 「あぁ、すみません・・・少しボーっとしちゃって・・・」

 

 「えぇっ!?もしかして熱中症!?」

 

 「いや、ちょっと考え事を・・・」

 

 「大変ですダイヤさんっ!天くんが熱中症かもしれませんっ!」

 

 「何ですって!?」

 

 「人の話聞けや」

 

 「それはブーメランだよ、天くん」

 

 呆れている曜さん。

 

 「気分転換に、少し休憩してきなよ。今はお店も落ち着いてるし、私達だけで回せるだろうからさ」

 

 「・・・すみません。お言葉に甘えさせてもらいます」

 

 俺は曜さんに頭を下げると、店の奥にある休憩スペースに移動した。

 

 ここには畳が敷かれており、横になって休むことも出来るようになっている。

 

 「・・・ハァ」

 

 俺は溜め息をつきつつ、仰向けに寝転がる。

 

 昨夜果南さんと話をしてからというもの、どうしても色々と考えてしまうのだ。

 

 もしあの話が本当なら・・・

 

 「どうしたもんかなぁ・・・」

 

 「何が?」

 

 「うおっ!?」

 

 急に顔を覗き込んできた梨子さんに、思わずビックリしてしまう俺。

 

 「ど、どうしたんですか?」

 

 「客足が落ち着いたから、私も休憩して良いって」

 

 梨子さんは俺のすぐ側に座ると、ポンポンッと自分の太ももを叩いた。

 

 「・・・マッサージしろと?」

 

 「違うわよ!?膝枕してあげるって言ってるのっ!」

 

 「・・・いくら払えと?」

 

 「お金なんて取らないわよ!?いいから早く来なさいっ!」

 

 「・・・失礼します」

 

 今の梨子さんは水着の上にパーカーを羽織っているだけなので、完全な生足状態だ。

 

 その白く綺麗な太ももの上に、ゆっくりと自分の頭を乗せる。

 

 おぉ、スベスベ・・・しかも柔らかい・・・

 

 「う、うぅ・・・」

 

 「自分から来いって言っといて、何でちょっと恥ずかしそうなんですか」

 

 「いや、その・・・男の子に膝枕するなんて、初めてだから・・・」

 

 「じゃあ何で『膝枕してあげる』なんて言い出したんですか・・・」

 

 呆れる俺。

 

 耳を真っ赤にしてまですることないだろうに・・・

 

 「・・・天くん、悩んでるみたいだったから」

 

 「っ・・・」

 

 気付かれてたのか・・・

 

 流石は梨子さん、鋭いな・・・

 

 「だから、少しリラックスした方が良いんじゃないかと思って・・・」

 

 「・・・あのですね、梨子さん。梨子さんみたいな美少女に膝枕されて、ドキドキしない男なんていませんって。リラックスどころか、メッチャ緊張してるんですけど」

 

 俺の言葉にポカーンとしていた梨子さんだったが、やがてクスクス笑い始めた。

 

 「フフッ、天くんも緊張してるんだ?」

 

 「そりゃあまぁ・・・」

 

 「じゃあお互い様だね」

 

 梨子さんは笑いながらそう言うと、俺の頭を優しく撫でた。

 

 「・・・天くんって私と少し似てるから、こういう時心配になるのよね」

 

 「似てる?俺と梨子さんが?」

 

 「うん。天くんって、悩み事を一人で抱え込んじゃうタイプでしょ?私もそういうタイプだから、何か放っておけなくて・・・」

 

 確かにそうかもしれない。

 

 あんまり周りに相談しようとしないかも・・・

 

 「それなのに天くんって、他人の悩み事に関しては相談に乗ろうとするじゃない?自分の悩み事は話さないくせに」

 

 「・・・悪かったですね」

 

 「ホントよ。天くんの悪い癖」

 

 俺の頭を撫で続ける梨子さん。

 

 「私は天くんに悩みを聞いてもらって、優しい言葉をかけてもらった。そのおかげで凄く救われたの」

 

 「いや、そんな大袈裟な・・・」

 

 「そんなことないわよ。本当に心が軽くなったもの」

 

 微笑む梨子さん。

 

 「だから私も、少しでも天くんの力になれたらって思う。無理に悩みを話せとは言わないけど・・・せめて側に寄り添えたらって」

 

 「梨子さん・・・」

 

 梨子さんの優しさが心に沁みた。

 

 幸せ者だな、俺は・・・

 

 「・・・一つ、聞いても良いですか?」

 

 「何?」

 

 「昔は仲良しだった人と距離ができて、そこからまた昔みたいに仲良しな関係に戻りたい時・・・梨子さんだったらどうしますか?」

 

 「んー、そうねぇ・・・」

 

 考え込む梨子さん。

 

 「答えになってないかもしれないけど・・・新しい関係を築こうとする、かな」

 

 「新しい関係?」

 

 「えぇ。昔の自分と今の自分って、やっぱりちょっと違ったりするでしょ?どんなに変わってないって思っても、人は常に変化する生き物なんだから」

 

 「まぁ確かに・・・」

 

 「だからこそ、昔と全く同じ関係になることは出来ないと思うの。昔の自分と昔の相手だからこそ、その時の関係が築けたんだろうし・・・でもそれなら、今の自分と今の相手だからこそ築ける関係があると思わない?」

 

 「・・・なるほど」

 

 今の自分と今の相手だからこそ築ける関係、か・・・

 

 「それなら私は、その関係を築きたいかな。また新しく、その人と関係を築いていきたい・・・答えになってるかな?」

 

 「・・・えぇ、十分です」

 

 今の話のおかげで、自分がどうしたいのかよく分かった。

 

 これから何をすべきなのかも。

 

 「ありがとうございます。何とかなりそうです」

 

 「そう?良かった」

 

 笑う梨子さん。

 

 この際なので、俺はもう一つ梨子さんに尋ねてみることにした。

 

 「梨子さん、もう一つ良いですか?」

 

 「何?」

 

 「ピアノコンクール、どうするつもりですか?」

 

 「えぇっ!?」

 

 驚愕している梨子さん。

 

 「な、何で知ってるの!?」

 

 「昨日奈々さんから、梨子さんにピアノコンクールの案内が来てることを聞きまして。梨子さんが出るとも出ないとも言わないって、奈々さん心配してましたよ」

 

 「お母さん・・・余計なことを・・・」

 

 梨子さんが大きな溜め息をつく。

 

 「・・・天くんのことだから、もうコンクールについて調べてるんでしょ?私がどうするつもりなのか、予想がつくんじゃない?」

 

 「ラブライブの予備予選と重なるから出ない、ですか?」

 

 「大正解」

 

 苦笑する梨子さん。

 

 「確かに、初めて知らせが届いた時は戸惑ったわ。チャンスがあったらもう一度っていう気持ちもあったし」

 

 「じゃあ何で・・・」

 

 「・・・今の私の居場所は、ここだから」

 

 笑みを浮かべる梨子さん。

 

 「今の私の目標は、今までで一番の曲を作って予選を突破すること。ピアノコンクールで良い結果を残すことよりも、そっちの方が大切なの」

 

 「梨子さん・・・」

 

 「心配かけちゃってゴメンね。そういうわけだから、安心してちょうだい」

 

 笑顔で俺の頭を撫でてくれる梨子さんに、俺はどこか複雑な思いを抱くのだった。




どうも〜、ムッティです。

12月に入り、ますます冷え込んできましたね・・・

余談ですが、最近になってマフラーの素晴らしさに気付きました(今さら)

今まで首が少し圧迫される感じがして、ちょっと苦手だったんですよね。

ところが旅行に行った時、USJでハリー・ポッターのマフラーを買って巻いてみたところ・・・

『何これメッチャ暖かい!最高じゃん!』

という衝撃を受けたんです(本当に今さら)

今では毎朝マフラーを着用しております。

皆さんも外に出る時は暖かい格好で、風邪をひかないようお気を付け下さい。



さてさて、本編では天が梨子ちゃんに膝枕されるという羨ましい展開になっていますが・・・

自分がどうしたいか気付いた天は、果たしてこの後どう動くのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

次の話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

何度でもやり直すことは出来る。

UR希ちゃん欲しいなぁ・・・

頑張ってイベントポイント稼いでるけど、届くかなぁ・・・


 「ふぅ・・・」

 

 お風呂から上がった俺は、少し夜風に当たりたくて外に出ていた。

 

 昨日と同じように石段に座り、海を眺める。

 

 「今日もハードな一日だったなぁ・・・」

 

 相変わらず海の家は大繁盛だったし、練習もみっちり行なった。

 

 当然皆疲れており、千歌さんの部屋で屍と化している。

 

 「・・・皆、大丈夫かな」

 

 今は頑張らないといけない時ではあるが、オーバーワークで身体を壊してしまっては元も子もない。

 

 マネージャーとして、皆の体調には十分に気を配らないと・・・

 

 「大丈夫よ」

 

 頭上からそんな声がしたかと思うと、俺の身体にパーカーがかけられた。

 

 見上げると、昨日より巨大な山が二つ・・・

 

 「・・・あぁ、小原理事長ですか」

 

 「今どこを見て判断したの!?」

 

 山の間から小原理事長の顔が現れた。やっぱり・・・

 

 「流石はB87・・・存在感がハンパないですね」

 

 「ちょっと!?何で私のサイズ知ってるの!?」

 

 「翔子先生が教えてくれました」

 

 「まさかの担任がバラしてた!?っていうかあの人も何で知ってるのよ!?」

 

 「『自分のクラスの子のスリーサイズくらい把握してるわ』だそうです」

 

 「ただの変態じゃない!?」

 

 「それについては同感です」

 

 あぁ、分かってくれる人がいて良かった・・・

 

 「っていうか、このパーカーは?」

 

 「私のよ。薄着のままじゃ湯冷めしちゃうと思って」

 

 「・・・わざわざ持って来てくれたんですか?」

 

 「果南から『天が外に出て行った』って聞いたから・・・迷惑だったかしら?」

 

 「・・・いえ、ありがとうございます」

 

 「・・・どういたしまして」

 

 何となく気まずい雰囲気が流れる。

 

 小原理事長がAqoursに加入してから、こうして二人っきりになることもなかったしな・・・

 

 「・・・せっかく来たんですし、座ったらどうですか?夜風が気持ち良いですよ」

 

 「・・・じゃあ、そうさせてもらおうかしら」

 

 おずおずと俺の隣に腰掛ける小原理事長。

 

 二人並んで、夜の海を眺める。

 

 「・・・そういえば、ご両親はお元気ですか?」

 

 「えぇ、元気よ。パパは相変わらず仕事で忙しくしているし、ママは・・・相変わらず口うるさいわ」

 

 「厳しい人ですもんねぇ・・・貴女が留学先から浦の星に帰って来たって聞いた時、『よくあの人が許したな』と思いましたよ」

 

 「許してくれてないわよ。半ば強引に帰って来たの」

 

 「・・・よく連れ戻されませんでしたね」

 

 「パパが説得してくれたみたい。おかげで助かったわ」

 

 溜め息をつく小原理事長。

 

 なるほど、そういうことだったのか・・・

 

 「・・・俺も似たようなもんです。絵里姉と喧嘩してこっちに来ましたから」

 

 「それを聞いて驚いたわよ。天と絵里でも喧嘩することってあるのね」

 

 「滅多に無いですけどね。俺が覚えているかぎり、これが二度目です」

 

 「二度目?一度目はいつだったの?」

 

 「五年前です。μ'sのマネージャーをしていた頃、まだμ'sに加入する前の絵里姉と喧嘩しまして」

 

 「へぇ・・・喧嘩の原因は何だったの?」

 

 「端的に言えば、絵里姉がμ'sを認めなかったことですね」

 

 「へっ?」

 

 驚いている小原理事長。

 

 その顔を見て、俺は思わず笑ってしまった。

 

 「そんなに驚きます?」

 

 「だ、だって・・・絵里がμ'sを認めなかったって・・・」

 

 「まぁ当時の絵里姉は、ガッチガチの石頭でしたからね・・・今もですけど」

 

 苦笑する俺。

 

 「絵里姉にとって、スクールアイドルはただの遊びにしか見えなかったみたいです。それでμ'sを侮辱して・・・だから一時期、俺と絵里姉の関係は最悪でしたね」

 

 今でこそ笑いながら振り返ることの出来る話だが、当時はホントに笑えないほど酷かったっけな・・・

 

 「まぁ結局、絵里姉はμ'sを認めて自分も加入したんですけどね。それで俺達も仲直り出来たんですよ」

 

 「そうだったのね・・・」

 

 呆然としている小原理事長。

 

 俺と絵里姉の喧嘩を見たことがないこの人からすれば、ちょっと信じられないような話なんだろうな・・・

 

 「ちなみにこれは、後から絵里姉から聞いたんですけど・・・当時の絵里姉は、μ'sに嫉妬してたらしいです」

 

 「嫉妬?」

 

 「えぇ。当時の絵里姉は生徒会長として、音ノ木坂を廃校にしない為に必死で頑張っていました。それなのに自分の味方だと思っていた俺が、μ'sに肩入れしているのを見てやきもちを妬いてたんですって」

 

 「・・・何その子供みたいな理由」

 

 呆れている小原理事長。

 

 まぁ確かに、ちょっと子供っぽいよな・・・

 

 「・・・でも、ちょっと『絵里姉っぽいな』って思いました。周りから『お堅い人』っていう印象を持たれてたみたいですけど、本当の絵里姉は甘えん坊で寂しがりやな普通の女の子でしたから」

 

 だからこそ絵里姉は、俺が内浦へ行くことに反対した。

 

 『出て行ってほしくない』『一緒に暮らしたい』という思いがあったからこそ、絶対に応援なんてしてくれないだろう。

 

 そう思っていたけど・・・

 

 「・・・小原理事長」

 

 俺は小原理事長へと視線を向けた。

 

 「貴女・・・絵里姉と会っていたみたいですね」

 

 「っ!?」

 

 息を呑む小原理事長。

 

 「ど、どうして・・・」

 

 「・・・昨日の夜、果南さんから聞きましたよ。俺がAqoursのマネージャーを辞めると宣言した日の夜、貴女から聞いたっていう話を」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「絵里姉に何を頼まれたのか、教えてもらって良いですか?」

 

 「・・・果南から聞いたんでしょ?」

 

 「貴女から聞きたいんです。他でもない、貴女の口から」

 

 ジッと小原理事長を見つめる俺。

 

 観念したのか、小原理事長が深い溜め息をついた。

 

 「・・・天が浦の星に来ることが決まってすぐの頃、南理事長と会う機会があってね。その時、南理事長が絵里を連れてきてたのよ」

 

 ポツポツと語り出す小原理事長。

 

 「久しぶりの再会を喜んだ後、絵里から聞いたの。浦の星のテスト生の話を巡って、天と喧嘩しちゃったって。凄く申し訳なくなって、何度も絵里に謝ったわ。絵里は『鞠莉のせいじゃない』って言ってくれたけど・・・それでも、本当に申し訳なく思った」

 

 俯く小原理事長。

 

 「その時、絵里に説明したの。浦の星の存続の為に、私がもう一度スクールアイドルをやる為に・・・どうしても天の力を借りたいんだって。それを聞いた絵里は、私にあるお願いをしてきたわ」

 

 小原理事長は意を決したように顔を上げ、俺の顔を見つめた。

 

 「天を・・・マネージャーにしてほしい、って」

 

 「っ・・・」

 

 果南さんから聞いた通りだった。

 

 あの絵里姉が・・・

 

 「『天は本当に優秀なマネージャーだから、絶対に鞠莉の力になってくれる』って。『天にもう一度、スクールアイドルに携わる機会を与えてほしい』って。あの時の私には、どうして絵里がそんなお願いをするのか分からなかったけど・・・私にとっては願ってもない話だったから、勿論OKしたわ」

 

 そう言って笑みを浮かべた小原理事長だったが、すぐに暗い表情に変わった。

 

 「でも・・・浦の星で再会した天は、頑なにマネージャーになることを拒否した。私にはその理由が分からなくて、内心ちょっと焦ってたの。このままだと、絵里の願いを叶えてあげられないと思った私は・・・最低の行動をとった」

 

 「・・・俺を脅して無理矢理言うことを聞かせる、ですか」

 

 俺の言葉に、小原理事長が力なく頷く。

 

 自分自身の目的を果たす為だけなら、俺に話して協力を求めることも出来たはずだ。

 

 だが絵里姉のお願いを俺に話すわけにもいかず、焦ってとった行動が脅しだったんだろう。

 

 「海未先生から天の話を聞いた時、全て合点がいったわ。どうして絵里があんなお願いをしたのか、どうして天がマネージャーになることを拒否したのか・・・あの時自分がとった行動を、死ぬほど後悔した」

 

 小原理事長の目に涙が滲む。

 

 「どうして私は、あんな行動しかとれなかったんだろうって。絵里のお願いについては伏せたまま、自分の目的だけを話して協力を仰ぐことだって出来たのに・・・あの時の私は、天にマネージャーを引き受けてもらうことしか考えてなかった。愚かよね・・・」

 

 「小原理事長・・・」

 

 「こんな私が、『もう一度天と距離を縮めたい』だなんて・・・そんなことを望む資格も無いのに・・・!」

 

 肩を震わせる小原理事長。涙が次々と石段に滴り落ちる。

 

 「・・・ハァ」

 

 俺は大きな溜め息をつくと、ゆっくり立ち上がった。

 

 「・・・よいしょ」

 

 「・・・えっ?」

 

 小原理事長をお姫様抱っこする。

 

 お、案外軽いなこの人・・・

 

 「そ、天・・・?」

 

 突然のことに困惑している小原理事長をよそに、俺は波打ち際まで近付いた。

 

 そしてそのまま海へと入っていく。

 

 「え、ちょっと!?」

 

 慌てる小原理事長を無視し、腰が浸かる辺りまで進む。

 

 そして・・・

 

 「おらぁっ!」

 

 「キャアアアアアアアアアアッ!?」

 

 小原理事長をぶん投げた。

 

 盛大に水飛沫を上げて落ちる小原理事長。

 

 「ゲホッ・・・ゴホッ・・・ちょ、何するのよ!?」

 

 「いや、涙を洗い流してあげようかと」

 

 「方法が酷すぎない!?」

 

 「貴女だって最低な方法をとったでしょうが」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まる小原理事長。やれやれ・・・

 

 「貴女は昔から変わりませんね。思い切りは良いくせに、失敗すると今みたいにうじうじして引きずって・・・ハッキリ言ってめんどくさいです」

 

 「ホントにハッキリ言ったわね!?オブラートに包むとか無いの!?」

 

 「貴女にはオブラートが無くても、ビブラートがあるでしょ」

 

 「全然上手くないわよ!?」

 

 ツッコミ連発の小原理事長。少しは元気が出たらしい。

 

 「脅しの件については、『許す』と言ったはずです。何を今さら後悔してくれちゃってるんですか」

 

 「で、でも・・・!」

 

 「それに・・・ちょっと安心しました」

 

 「え・・・?」

 

 呆然とする小原理事長に、俺は笑みを浮かべた。

 

 「・・・脅された時、思ったんです。貴女は最初から、力ずくで言うことを聞かせるつもりだったんだって。俺のことも、利用価値のある駒くらいにしか思ってないんだって」

 

 「天・・・」

 

 「俺を大事に思ってくれてることは、花火大会の時に伝えてもらいましたけど・・・それでも、脅された時のことを引きずっていたところがあったんです。だからこそ、貴女とどう接したら良いのか分からなくて・・・」

 

 でも、悩む必要なんて無かった。この人は本当に昔と変わっていない。

 

 あの頃のままの、どこまでも純粋で不器用な人だった。

 

 「貴女はただ、『助けて』の一言が言えなかっただけ・・・絵里姉の願いを叶えようとするあまり、その一言が言えなかっただけ・・・それだけだったんですよね」

 

 「っ・・・」

 

 「利用するつもりは無くて、ただ力を貸してほしかっただけ・・・それがずいぶん大ごとになっちゃいましたね」

 

 「・・・そんなつもりが無かったにせよ、結果的にそうなってしまったんだもの。何の言い訳にもならないわ」

 

 「そうやって潔く自分の非を認める割には、うじうじ引きずるんだよなぁ・・・ホントめんどくさい」

 

 「だから直球すぎるんだってば!?」

 

 「ストレートに言わないと、自分の気持ちが相手に伝わらないでしょ。特に・・・鞠莉ちゃんみたいな人には」

 

 「どういう意味・・・えっ?」

 

 ツッコミを入れかけたところで、驚いて固まる鞠莉ちゃん。

 

 「い、今・・・名前を・・・」

 

 「・・・ゴメン、鞠莉ちゃん」

 

 俺は鞠莉ちゃんに謝った。

 

 「ずっと勘違いしてて・・・冷たく当たって・・・本当にゴメン」

 

 俺の態度で、どれほど彼女を傷つけただろうか・・・

 

 本当は誰よりも傷つきやすい彼女が、よく泣かなかったなと思う。

 

 「また、もう一度・・・俺と仲良くしてくれる?」

 

 手を差し出す俺。

 

 鞠莉ちゃんの目に、みるみる涙が浮かんでいく。

 

 「ほ、本気なの・・・?」

 

 「・・・うん」

 

 頷く俺。

 

 「ここからもう一度、新しい関係を築いていきたいなって。昔のこととか、これまでのことを無かったことにするんじゃなくて・・・全てを受け入れた上で、もう一度鞠莉ちゃんとぉっ!?」

 

 最後まで言えなかった。

 

 鞠莉ちゃんが勢いよく、俺の胸に飛び込んできたからだ。

 

 「・・・最後まで言わせてよ」

 

 「・・・限界だったんだもん」

 

 俺を強く抱き締め、肩を震わせる鞠莉ちゃん。

 

 「ごめんなさい・・・本当にごめんなさい、天・・・!」

 

 「・・・もう良いんだよ、鞠莉ちゃん」

 

 鞠莉ちゃんを抱き締め、優しく頭を撫でる。

 

 「ここからまた始めよう。ずいぶんすれ違っちゃったけど・・・またこうして繋がれたんだもん。これからよろしくね、鞠莉ちゃん」

 

 「っ・・・うんっ・・・!」

 

 鞠莉ちゃんは頷くと、堪えきれなくなり声を上げて泣き続けた。

 

 俺は鞠莉ちゃんが泣き止むまで、ずっと鞠莉ちゃんを抱き締め続けるのだった。




どうも〜、ムッティです。

ようやく・・・ようやく天と鞠莉ちゃんが和解したぞおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!

鞠莉ちゃん初登場の回に、いきなり溝が出来るというまさかの展開・・・

あの回を投稿したのが、3月13日のことでした。

そして今回の投稿日が、12月13日・・・

ちょうど九ヶ月間、天と鞠莉ちゃんの間には深い溝があったのです。

・・・和解まで長かったなぁ( ;∀;)

ここからは二人をメッチャ仲良くさせていく方針ですので、お楽しみに(・∀・)ノ

さてさて・・・鞠莉ちゃん問題が解決したところで、次は梨子ちゃん問題ですね。

果たして天はどう動くのか・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

思いのこもった曲は聴く人の心を打つ。

祝・虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会アニメ化!


 「・・・ん」

 

 ふと目が覚める。外が暗いので、恐らくまだ夜中だろう。

 

 もう一度寝ようとしたところで、ベッドで寝ていたはずの千歌さんが椅子に座っていることに気付いた。

 

 「・・・千歌さん?」

 

 「あ、天くん・・・起こしちゃった?」

 

 「いえ、何か目が覚めちゃって・・・」

 

 小声で会話する俺達。

 

 と、千歌さんが苦笑しながら俺の方を見る。

 

 「それにしても・・・何か違和感のある光景だね」

 

 「あぁ、これですか」

 

 苦笑しながら、俺を抱き枕にして寝ている鞠莉ちゃんを見る。

 

 あの後仲睦まじく部屋に戻った俺達を見て、皆もの凄くビックリしていた。

 

 まぁ今まで距離のあった二人が、身体を寄せ合って帰って来たらそりゃビックリするよな・・・

 

 「俺としては懐かしいですけどね。小さい頃の鞠莉ちゃんは、いつもこんな風に俺にベッタリくっついてましたから」

 

 「私の中だと、二人の間に距離があるイメージが強くてさぁ・・・目の前の光景が信じられないよ」

 

 「すぐに慣れますよ」

 

 笑みを浮かべ、鞠莉ちゃんの頭を撫でる。

 

 「・・・やっと仲直り出来たんです。もう手を離したりしません」

 

 「・・・そっか」

 

 微笑む千歌さん。

 

 「ところで、千歌さんも目が覚めちゃったんですか?」

 

 「あぁ、うん・・・ちょっとね」

 

 困ったように笑う千歌さん。

 

 「もう一度寝ようとしたんだけど・・・梨子ちゃんのこと考え始めたら、何か寝れなくなっちゃって」

 

 「・・・ピアノコンクールですか」

 

 あれから千歌さんとは、そのことについて何度か話をしていた。

 

 奈々さんから聞いた話や、ピアノコンクールの日とラブライブ予備予選の日が重なること・・・

 

 梨子さんが言っていたことも、千歌さんには全て話してある。

 

 「私ね、考えたんだけど・・・やっぱり梨子ちゃんは、ピアノコンクールに出るべきだと思う。たとえラブライブの予備予選に出られなくても」

 

 いつになく真面目な表情で語る千歌さん。

 

 「でも・・・梨子ちゃんは、ピアノよりもスクールアイドルを優先しようとしてる。そんな梨子ちゃんに、どうやって私の気持ちを伝えたら良いのか・・・」

 

 悩む千歌さん。どうやって、か・・・

 

 「・・・そういえば、ピアノを弾く梨子さんをちゃんと見たことってないですよね」

 

 「あぁ、確かに・・・前にちょっとだけ見たことはあるけど・・・」

 

 「・・・じゃあ見せてもらいましょうか」

 

 「え?」

 

 首を傾げる千歌さん。

 

 俺は鞠莉ちゃんを起こさないように抜け出すと、寝ている梨子さんの耳元にそっと顔を近付け・・・

 

 「・・・わんっ」

 

 「ひぃっ!?」

 

 飛び起きる梨子さん。慌てて辺りをキョロキョロと見回す。

 

 「・・・あれ?」

 

 「・・・自分でやっといてアレですけど、上手くいきすぎて引きますね」

 

 「どんだけ犬が怖いの梨子ちゃん・・・」

 

 呆れる俺と千歌さん。

 

 「天くん?千歌ちゃん?今犬の鳴き声がしなかった?」

 

 「気のせいです」

 

 「いや、でも確かに・・・」

 

 「気のせいです」

 

 「わ、分かったってば!」

 

 鼻がくっつくほど顔を近付けて、強引に押し切る。

 

 「さぁ、梨子さんが起きたところで・・・行きますか」

 

 「え、どこに?」

 

 千歌さんの質問に、俺は笑みを浮かべて答えるのだった。

 

 「決まってるじゃないですか・・・夜中にピアノを弾いても大丈夫な場所ですよ」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・ここ、天くんの家だよね?」

 

 「そうですよ」

 

 戸惑いながら尋ねてくる梨子さんに、頷いて答える俺。

 

 俺・千歌さん・梨子さんの三人は、俺の家へとやって来ていた。

 

 「・・・ここが夜中にピアノを弾いても大丈夫な場所?」

 

 「・・・そもそもピアノなんてあったっけ?」

 

 「まぁまぁ、とりあえず上がって下さい」

 

 二人を家の中に招き入れる俺。

 

 玄関から入ってすぐ右手にある部屋のドアを開け、中の電気を点ける。

 

 「じゃーん」

 

 「えぇっ!?」

 

 「嘘!?」

 

 部屋の中央を見てビックリしている二人。

 

 そこには、グランドピアノが鎮座していた。

 

 「ちょ、天くん!?どういうこと!?」

 

 「んー、話すとちょっと長いんですけど・・・」

 

 苦笑する俺。

 

 「鞠莉ちゃんから聞いた話によると、この家を建てた人って鞠莉ちゃんのお父さんの知り合いなんですって。その人はピアニストで、このグランドピアノもその人の物だったみたいです」

 

 グランドピアノに手を添える俺。

 

 「でもその人、海外に引っ越すことになったらしくて。その時に鞠莉ちゃんのお父さんが、この家を土地ごと買い取ったんですって。当時の小原家は淡島のホテルに住んでたそうなんですけど、こっちにも家があった方が便利だろうって考えたみたいですよ。まぁ結局、使うことはほとんど無かったみたいですけど」

 

 「流石は大富豪・・・考えることが庶民とは違うね・・・」

 

 唖然としている千歌さん。

 

 確かに、なかなか理解出来ない考えだよな・・・

 

 「まぁその人も引っ越し先が海外っていうことで、家で使ってた物のほとんどを置いていったそうなんですよ。その中の一つが、このグランドピアノっていうわけです」

 

 「こ、こんな高価な物を・・・」

 

 表情が引き攣っている梨子さん。

 

 きっとその人もボンボンだったんだろうな・・・

 

 「まぁ、俺としてはラッキーでしたけどね。家具や電化製品が揃ってるんで、生活するのに困りませんし」

 

 「あ、確かに・・・でも、ちゃんと使えてるの?長年使われてなかったんでしょ?」

 

 「その辺りは小原家の方でチェックしてくれたみたいで、全然問題ありませんでした。入居前の清掃も小原家の方でやってくれたらしくて、隅々まで綺麗になってましたよ」

 

 「・・・至れり尽くせりね」

 

 どこか呆れている梨子さん。

 

 ホント小原家凄いよな・・・

 

 「ちなみにこの部屋、ちゃんと防音対策が施されてるそうですよ。ここなら思いっきりピアノを弾いても大丈夫です」

 

 「ちなみに聞くけど、このピアノの調律は・・・」

 

 「それも小原家がやってたみたいです。この前真姫ちゃんが来た時に弾いてもらったんですけど、『完璧の一言に尽きるわ』ですって」

 

 「・・・もう何も言えないわ」

 

 溜め息をつく梨子さん。

 

 俺は苦笑すると、ピアノの前に置いてある椅子を引いた。

 

 「梨子さん、どうぞ」

 

 「ほ、本当に弾くの・・・?」

 

 「ここまできて何言ってるんですか。家から楽譜だって持って来てくれたのに」

 

 「こ、これは・・・」

 

 手に持っている楽譜をギュっと握り締める梨子さん。

 

 「・・・それ、海の曲ですよね?」

 

 「っ!?な、何で分かるの!?」

 

 「海の音を聴いてから、頑張って作曲してることは奈々さんから聞いてましたからね」

 

 「もう、お母さんったら・・・」

 

 恥ずかしそうに俯く梨子さん。

 

 そんな梨子さんの背中に、千歌さんがそっと手を添える。

 

 「私も聴いてみたいな。梨子ちゃんが作った海の曲」

 

 「・・・あんまり良い曲じゃないよ?」

 

 「お願い!少しだけで良いから!」

 

 必死に頼み込む千歌さん。

 

 梨子さんは溜め息をつくと、俺が引いた椅子に腰掛けた。

 

 「・・・少しだけだからね」

 

 「梨子さん・・・真姫ちゃんのツンデレがうつりました?」

 

 「誰がツンデレよ!?」

 

 「あぁ、すみません。元々でしたね」

 

 「しばくわよ!?」

 

 俺を睨みつつ、楽譜を立て掛ける梨子さん。

 

 楽譜の一番上に曲名が書かれていた。

 

 「『海に還るもの』ですか・・・良い曲名ですね」

 

 「・・・別に」

 

 「今の時期にそのネタは止めた方が良いですよ」

 

 「何の話!?」

 

 ツッコミを入れつつ、鍵盤に両手を置こうとする梨子さん。

 

 しかし、その直前で一瞬手が止まってしまう。

 

 「・・・大丈夫ですよ」

 

 梨子さんの手に、そっと自分の手を重ねる俺。

 

 「上手く弾こうとか、そんなこと考えなくて良いんです。梨子さんの好きなように弾いて下さい」

 

 「天くん・・・」

 

 「っていうか、何ちょっと緊張してるんですか。俺達の仲でしょうに」

 

 「・・・フフッ、どんな仲よ」

 

 クスッと笑う梨子さん。緊張もほぐれたのか、ゆっくりと鍵盤に手を置く。

 

 そして深く息を吸い込み・・・弾き始めた。

 

 「わぁ・・・!」

 

 顔を輝かせる千歌さん。

 

 梨子さんの奏でる音は綺麗で美しく、聴いているだけでとても心地良かった。

 

 優しくて、それでいて力強くて・・・まるで『桜内梨子』という人そのものが、音に表れているようだ。

 

 それに・・・

 

 「・・・良い曲ですね」

 

 「・・・うん」

 

 頷く千歌さん。

 

 梨子さんは『あんまり良い曲じゃない』なんて言っていたが、とんでもない。聴く人の心を魅了する、素晴らしい曲だ。

 

 この曲を作るのに、梨子さんがどれほど苦悩してきたか・・・それを知っているだけに、余計心に響くものがあった。

 

 そっと目を閉じ、梨子さんの作り出す世界に浸る俺と千歌さんなのだった。




どうも〜、ムッティです。

実は先日、この作品の読者の方から支援絵というものをいただきました!

まさかそのようなものをいただける日が来るとは・・・

ありがたや・・・

まず一枚目がこちら。


【挿絵表示】


ルビィちゃん超可愛いんですけどおおおおお!

ルビィちゃんが可愛すぎて辛たん(´・ω・`)

そして二枚目がこちら。


【挿絵表示】


曜ちゃんの水着姿キタアアアアアッ!

ヤバい、超可愛い!

っていうか、二枚ともメッチャ上手くないですか?

絵のセンスが逢田画伯にさえ及ばないムッティからすると、上手すぎて言葉も出ないんですが(´・ω・`)

『ことりちゃん大好き』さん、本当にありがとうございました!



さてさて、本編では梨子ちゃんがピアノを弾いていましたね。

天の家にまさかのグランドピアノがある設定になっていますが、特に深い意味はありません(笑)

『夜中に学校が開いてるっておかしくね?』

『学校まで自転車で走ってたけど、いつもバス通学だしそこそこ距離あるよね?大変じゃね?』

という、どうでもいい細かいことが気になってしまっただけなので(笑)

梨子ちゃんの演奏を聴いた天と千歌ちゃんは、果たしてどうするのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人の心は複雑なものである。

相も変わらずスクスタにハマっている今日この頃・・・

フレンド枠が余っている方がいらっしゃいましたら、是非フレンド登録よろしくお願いします(土下座)


 「はい、どうぞ」

 

 「ありがとう」

 

 「いただきます」

 

 麦茶の入ったコップを、千歌さんと梨子さんに差し出す俺。

 

 演奏を終えた梨子さんを労うべく、俺達はリビングに移動していた。

 

 「・・・凄く良い曲だった」

 

 ポツリと呟く千歌さん。

 

 「何て言うか・・・梨子ちゃんがいっぱい詰まってた」

 

 「千歌ちゃん・・・」

 

 自分の作った曲を褒められて、少し嬉しそうな梨子さん。

 

 一方、千歌さんは何か言いたそうな表情をしている。

 

 「あのね、梨子ちゃん・・・」

 

 「ん?何?」

 

 「その・・・」

 

 言いよどむ千歌さん。

 

 俺は千歌さんの背中にそっと手を添えた。

 

 「・・・落ち着いて。焦らなくて大丈夫ですよ」

 

 「・・・うん」

 

 千歌さんは一度深呼吸をすると、梨子さんを真剣な眼差しで見つめた。

 

 「・・・ピアノコンクール、出てほしい」

 

 「っ・・・」

 

 梨子さんは息を呑むと、少し悲しげに目を伏せた。

 

 「・・・私が一緒じゃ、嫌?」

 

 「違うよっ!」

 

 大きな声を上げる千歌さん。

 

 「一緒が良いに決まってるよっ!でもっ・・・!」

 

 「落ち着けアホみかん」

 

 「あたっ!?」

 

 頭にチョップをお見舞いする。やれやれ・・・

 

 「ちょ、天くん!?何するの!?」

 

 「チョップです」

 

 「それは見れば分かるよ!?何でそんなことするのかって聞いてるんだけど!?」

 

 「千歌さんのアホ毛が目障りだったんで」

 

 「そんな理由!?」

 

 「まぁ冗談はさておき・・・落ち着けって言ってるでしょうが」

 

 千歌さんを宥める俺。

 

 「すぐ感情的にならないの。どうして梨子さんにピアノコンクールに出てほしいのか、梨子さんに伝わるように話して下さい」

 

 「っ・・・ゴメン」

 

 千歌さんは一言謝ると、再び深呼吸した。

 

 「・・・思い出したの。梨子ちゃんをスクールアイドルに誘った時のこと」

 

 ポツリポツリと語り出す千歌さん。

 

 「スクールアイドルを一緒に続けて、梨子ちゃんの中の何かが変わって・・・またピアノに前向きに取り組めたら、凄く素敵だなって。私、そう思ってたなって」

 

 「千歌ちゃん・・・」

 

 「梨子ちゃんがAqoursを大切に思ってくれて、ラブライブを優先しようとしてくれて・・・凄く嬉しかった。私だって、梨子ちゃんと一緒に予備予選に出たい。でも・・・」

 

 悲しそうに笑みを浮かべる千歌さん。

 

 「梨子ちゃんにとってピアノは、同じくらい大切なものだったんじゃないの?」

 

 「っ・・・」

 

 「その気持ちに・・・答えを出してあげて」

 

 梨子さんに手を差し伸べる千歌さん。

 

 「私、待ってるから。どこにも行かないって、ここで皆と一緒に待ってるって約束するから。だから・・・!」

 

 千歌さんが言い終える前に、梨子さんが思いっきり千歌さんを抱き締める。

 

 梨子さんの目には、涙が浮かんでいた。

 

 「ホント・・・変な人・・・」

 

 涙声の梨子さん。

 

 千歌さんの目にも、みるみる涙が滲んでいく。

 

 「でも・・・大好き」

 

 千歌さんを抱き締める腕に、ギュっと力を込める梨子さん。

 

 「・・・ありがとう、千歌ちゃん。私、ピアノコンクール出るよ」

 

 「っ・・・」

 

 堪えきれなくなったのか、千歌さんの目から次々と涙が溢れる。

 

 「梨子ちゃんっ・・・!」

 

 梨子さんの胸に顔を埋め、泣き出す千歌さん。

 

 千歌さんだって本当は、梨子さんと一緒にステージに立ちたいはずだ。それでも梨子さんの為を思い、ピアノコンクールに送り出す決意を固めた。

 

 流石、Aqoursのリーダーだな・・・

 

 「・・・梨子さん」

 

 呼びかける俺。

 

 「梨子さんの弾くピアノは、温かくて優しくて・・・聴いてくれる人達の心に絶対響きます。俺が保証しますよ」

 

 「天くん・・・」

 

 「梨子さんが心を込めて作ったあの曲を、胸を張って披露してきて下さい。『これが私の作った曲なんだ』って」

 

 俺は梨子さんの頭を撫でた。

 

 「梨子さんは一人じゃありませんよ。梨子さんのことを、心から応援している仲間達がいる・・・それを忘れないで下さいね」

 

 「っ・・・ありがとう・・・」

 

 泣きながら微笑む梨子さん。

 

 「Aqoursのこと・・・頼むわね」

 

 「勿論です。マネージャーですから」

 

 笑みを浮かべる俺。

 

 「予備予選は必ず突破します。次のステージには梨子さんも出てもらいますから、楽しみにしてて下さい」

 

 「フフッ・・・期待してるわ」

 

 俺に寄りかかってくる梨子さん。

 

 「私も頑張るから。応援しててね」

 

 「えぇ、勿論」

 

 梨子さんと千歌さんを、包み込むように抱き締める俺。

 

 俺達はしばらくの間、三人で身を寄せ合って過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ふぅ・・・」

 

 再び千歌さんの部屋へと戻ってきた俺。

 

 眠っている鞠莉ちゃんを起こさないよう、そっと布団に入り込む。

 

 と、鞠莉ちゃんの目がパッチリ開いた。

 

 「お帰りなさい」

 

 「・・・起きてたんかい」

 

 「千歌っちや梨子と一緒に部屋を出て行った時から、ずっと起きてたわよ」

 

 鞠莉ちゃんは小さく笑うと、ギュっと俺に抱きついてきた。

 

 「こんな魅力的な女の子を差し置いて、他の女の子と夜のデートに行くなんて・・・天は浮気者デース」

 

 「デートじゃないし、自分で『魅力的』とか言っちゃうのはどうなのよ?」

 

 「あら、マリーは魅力的じゃないの?」

 

 「おっぱいが大きいところに関しては魅力的かな」

 

 「フフッ、天のエッチ♡」

 

 あからさまに豊満な胸を押し付けてくる鞠莉ちゃん。

 

 うん、ご馳走様です。

 

 「それで、二人はどうしたの?」

 

 「外に出てちょっと汗かいたから、もう一度お風呂に入ることにしたんだよ。まだ帰って来てないところをみると、俺の方が先に上がったみたいだね」

 

 合宿中のお風呂は、志満さんのご厚意で大浴場を使わせてもらっている。

 

 今の時間は誰も入っておらず、男湯は貸切状態だった。

 

 女湯の方も同じだろうし、あの二人はもうしばらくお風呂を満喫してくるだろうな。

 

 「鞠莉ちゃんも入ってきたら?お風呂好きでしょ?」

 

 「んー、そうね・・・天も一緒に入るなら行くわよ」

 

 「オッケー、身体の隅々まで洗ってあげるよ」

 

 「いやん♡天ってばホントにエッチなんだから♡」

 

 腰をくねらせる鞠莉ちゃん。

 

 こんな風にまた、鞠莉ちゃんと冗談を言い合えるようになるとはな・・・

 

 「・・・フフッ」

 

 鞠莉ちゃんは笑みを浮かべると、俺の胸に顔を埋めた。

 

 「何だか懐かしいわね・・・昔に戻ったみたい」

 

 「・・・うん」

 

 鞠莉ちゃんの頭を優しく撫でる俺。

 

 「改めて・・・これからよろしくね、鞠莉ちゃん」

 

 「・・・鞠莉」

 

 「え・・・?」

 

 「鞠莉って呼んでちょうだい。ちゃん付けじゃなくて、呼び捨てで」

 

 微笑む鞠莉ちゃん。

 

 「天、言ってくれたわよね。『新しい関係を築いていきたい』って。その初めの一歩として、呼び捨てにしてほしいの」

 

 「いや、でも鞠莉ちゃんの方が年上だし・・・」

 

 「・・・昔も同じこと言ってたじゃない」

 

 ジト目で俺を見る鞠莉ちゃん。

 

 「私は最初から『呼び捨てでいい』って言ってたのに、『年上だから』っていう理由で頑なに拒まれて・・・妥協点がちゃん付けだったのよね」

 

 「ハハハ、昔ノコトナンテ覚エテナイヨ」

 

 「誤魔化さないの」

 

 俺の頬をつねる鞠莉ちゃん。

 

 「それとも、さっきの言葉は嘘だったのかしら?」

 

 「いや、勿論本心だけどさ・・・」

 

 「だったら・・・お願い」

 

 上目遣いで俺を見る鞠莉ちゃん。

 

 うわぁ、その目はズルいなぁ・・・

 

 「分かったよ・・・鞠莉」

 

 「っ・・・」

 

 一瞬で耳まで赤くなる鞠莉。やれやれ・・・

 

 「自分から言い出したくせに、何で恥ずかしがってんの」

 

 「・・・うるさい」

 

 鞠莉はそう言うと、再び俺の胸に顔を埋めた。

 

 「・・・これからよろしくね、天」

 

 「・・・こっちこそよろしく、鞠莉」

 

 鞠莉を優しく抱き締める俺。

 

 俺達はそのまま、再び意識を手放すのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「ふぅ・・・サッパリしたね」

 

 「良いお湯だったわね」

 

 千歌ちゃんとそんな会話をしながら、千歌ちゃんの部屋へと戻る。

 

 眠っている皆を起こさないよう、そっと自分の布団に戻ろうとしていると・・・

 

 「梨子ちゃん、見て見て」

 

 千歌ちゃんが指を差す。

 

 そこには・・・同じ布団で抱き合って眠る、天くんと鞠莉さんの姿があった。

 

 全く、天くんったら・・・

 

 「・・・さっきまで私達のこと抱き締めてたのに、もう別の女の子を抱き締めてるのね」

 

 「あ、梨子ちゃんが嫉妬してる」

 

 「そ、そんなんじゃないからっ!」

 

 「しーっ、皆が起きちゃうよ」

 

 「あっ・・・」

 

 慌てて口を押さえる私。

 

 「・・・でもさ、良かったよね」

 

 微笑ましそうに二人を眺める千歌ちゃん。

 

 「あの二人、ずっと距離があったから。仲直り出来たみたいで、何かホッとしたよ」

 

 「・・・そうね」

 

 幸せそうに寝ている二人を眺める私。

 

 確かにこの二人の間には、ずっと距離があった。

 

 それが縮まって仲良くなったのだから、本当に喜ばしいことだと思う。

 

 「喜ばしいこと・・・なのよね」

 

 「梨子ちゃん?」

 

 首を傾げる千歌ちゃん。

 

 何故かは分からないけど・・・何となく、胸の奥がモヤモヤしていた。

 

 何でだろう・・・?

 

 「・・・何でもないわ。私達も寝よっか」

 

 「うん。おやすみ」

 

 「おやすみなさい」

 

 千歌ちゃんがベッドに入るのを見届け、私も布団に入る。

 

 「・・・気のせいよね」

 

 胸のモヤモヤを無視して、目を閉じる私なのだった。




どうも〜、ムッティです。

今回の話で、アニメ一期第十話までの内容が終わりましたね。

梨子ちゃんがピアノコンクールへの出場を決め、天が鞠莉ちゃんを呼び捨てにするようになりました。

そして梨子ちゃんは、天と鞠莉ちゃんを見て何やらモヤモヤしている様子・・・

果たしてこのモヤモヤの正体とは・・・

次回からは十一話の内容に入っていきたいと思います。

個人的に描きたいシーンもあるので、早く執筆を進めたいところです(>_<)

とりあえず、年内に十一話の内容が終わると良いなぁ(希望的観測)

頑張って投稿していきますので、皆様どうぞよろしくお願い致します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【黒澤ダイヤ】いつかきっと・・・

新年、明けましておめでとうございます!

1月1日はダイヤさんの誕生日ということで、それを記念して短編を書いてみました!

本編とは時系列も話の流れも違いますので、予めご了承下さい。

それではいってみよー!


 「えっ、ダイヤさんの誕生日って元旦なの!?」

 

 「そうだよ」

 

 俺の問いに頷くルビィ。

 

 俺・ルビィ・花丸・善子の一年生組は、俺の家に集まって冬休みの宿題を片付けているところだった。

 

 「マジか・・・元旦が誕生日って珍しいね」

 

 「ホントよね・・・もしかしてダイヤ達のご両親は、そこまで計算してヤッたのかしら?」

 

 「女の子が『ヤッた』とか言うんじゃありません。っていうか生々しいわ」

 

 「やった?お父さんとお母さんが何かやったの?」

 

 「ルビィ知らないの?子供っていうのはね・・・」

 

 「“檸●爆弾”の代わりに“蜜柑爆弾”」

 

 「ギャアアアアアッ!?目がッ!?目がアアアアアッ!?」

 

 「善子ちゃあああああんっ!?」

 

 炬燵の上に置かれた蜜柑を、善子の目の前で握り潰す。

 

 千歌さんに見つかったら怒られそうな行為だが、緊急事態だったので仕方ない。

 

 「気にしないで、ルビィ。何でもないから」

 

 「今の光景を見て『気にするな』っていう方が無理だよ!?」

 

 「いいからいいから。そこで転がってる心の穢れた堕天使なんか無視して、ルビィは心の清らかなまま成長してね」

 

 「何で慈愛に満ちた表情でルビィの頭を撫でてるの!?」

 

 ルビィのツッコミ。この子は俺が守らないと・・・

 

 「うぅ、目がぁ・・・」

 

 「自業自得ずら」

 

 目を擦る善子を見て、花丸が呆れている。

 

 「でも元旦っていうことは、マル達は直接お祝い出来ないずらね・・・」

 

 「冬休み中だし、お正月はAqoursの練習も休みだしねぇ・・・」

 

 「んー、どうにか直接お祝いしたいけど・・・あっ」

 

 「天くん?どうしたの?」

 

 首を傾げるルビィ。

 

 俺は三人に、あることを提案するのだった。

 

 「皆、大晦日の予定って空いてる?もし空いてるなら・・・」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「うわぁ、人がいっぱい・・・」

 

 人の多さに唖然としている千歌さん。大晦日の夜、俺達は神社へとやって来ていた。

 

 境内は多くの人で賑わっており、俺達と同じく年が明ける瞬間を今か今かと待っている。

 

 「うふふ、天くぅん・・・」

 

 「ちょ、梨子さん!?」

 

 背後から梨子さんが抱きついてくる。

 

 顔は赤くなっており、目もトロンとしていた。

 

 「天くんも甘酒呑む~?美味しいわよ~?」

 

 「酔ってるんですか!?しかも甘酒で!?」

 

 「梨子ちゃん、さっきから結構なペースで呑んでたからねぇ・・・」

 

 呆れている曜さん。いや、気付いてたなら止めろや。

 

 「何なら、私が口移しで呑ませてあげようか~?」

 

 「是非お願いします」

 

 「ちょっと天!?何で欲望に忠実になってるの!?」

 

 「そうよ天!言ってくれれば私がやってあげるのに!」

 

 「鞠莉!?何言ってんの!?」

 

 果南さんのツッコミ。

 

 ダイヤさんが呆れながらこっちを見ている。

 

 「全く、皆さんはしゃぎすぎですわよ?もっと節度を持って・・・」

 

 「あっ、曜ちゃん!屋台出てるよ!」

 

 「ホントだ!行ってみよう!」

 

 「食べ物の屋台もあるずら!」

 

 「『激辛たこ焼き』!?興味をそそられるわ!」

 

 「花丸ちゃん!?善子ちゃん!?待ってぇ!」

 

 「人の話を聞きなさあああああいっ!」

 

 ダイヤさんの絶叫も虚しく、千歌さん・曜さん・花丸・善子・ルビィが屋台の方へと走って行ってしまう。

 

 おいおい・・・

 

 「アハハ、行っちゃったね・・・」

 

 苦笑する果南さん。

 

 「私と鞠莉が監督してるから、天とダイヤはどこかに座ってゆっくりしてて。すぐに戻ってくるからさ」

 

 「ついでにこの酔っ払いも回収していきマース」

 

 「ちょ、私は天くんと一緒が良いのぉ!」

 

 俺から梨子さんを引き剥がす鞠莉。

 

 うわぁ、容赦ないなぁ・・・

 

 「・・・ダイヤのこと、お願いね」

 

 「っ・・・了解」

 

 さりげなく耳元で囁かれ、思わず苦笑してしまう。

 

 あぁ、そういうことね・・・

 

 「じゃ、ちょっと行ってくるね」

 

 果南さんはそう言うと、俺に向かって軽くウインクしてきた。

 

 この人もそういうつもりだったのね・・・

 

 「・・・行ってしまいましたわね」

 

 溜め息をつくダイヤさん。

 

 「全く、勝手な行動ばかり・・・」

 

 「まぁまぁ、良いじゃないですか」

 

 苦笑しながらダイヤさんを宥める俺。

 

 「そこのベンチ空いてますし、座って皆を待ちましょうか」

 

 「・・・そうですわね」

 

 二人でベンチに腰掛ける。

 

 こうして見てみると、本当に人が多いな・・・

 

 「・・・フフッ」

 

 「ダイヤさん?」

 

 境内の様子を眺めていると、不意にダイヤさんが笑った。

 

 どうしたんだろう?

 

 「あぁ、すみません。楽しくてつい」

 

 微笑むダイヤさん。

 

 「友人と一緒に、賑やかに年越しの瞬間を待つなんて初めてなものですから・・・何だか新鮮な気持ちですわ」

 

 「・・・楽しんでもらえてるようで、ホッとしました」

 

 笑う俺。

 

 「ダイヤさんの場合、もっと静かに過ごしたいんじゃないかと思ってたんで・・・」

 

 「静かな時間も良いですけれど・・・こういう時間も嫌いではありませんわ」

 

 笑みを浮かべながら、屋台ではしゃいでいる皆の方を見つめるダイヤさん。

 

 「・・・ありがとうございます、天さん」

 

 「え・・・?」

 

 「ルビィから聞きましたわ。私の誕生日を祝う為に、わざわざ皆を集めてくださったんでしょう?」

 

 「・・・バレてましたか」

 

 全くもう・・・ルビィは何で話しちゃうかなぁ・・・

 

 「元旦が誕生日だと、友達からは直接お祝いしてもらえないもので・・・内心少し寂しかったりもしたのですが、天さんのおかげで良い誕生日が迎えられそうですわ」

 

 「・・・それなら良かったです」

 

 そう言ってもらえるだけで、行動した甲斐があったというものだ。

 

 俺はバッグの中からある物を取り出した。

 

 「日付が変わるまで、まだ少し時間はありますけど・・・これ、先に渡しておきますね」

 

 「これは・・・もしかして、誕生日プレゼントですか?」

 

 「えぇ、気に入ってもらえると良いんですけど・・・」

 

 「フフッ、ありがとうございます」

 

 嬉しそうにプレゼントを受け取るダイヤさん。

 

 「空けてもよろしいですか?」

 

 「・・・何かちょっと恥ずかしいんですけど」

 

 「中身が気になって仕方ありませんの。お願いします、天さん」

 

 「・・・どうぞ」

 

 俺が躊躇いながら頷くと、ダイヤさんがプレゼントを開けた。

 

 その中身を見て、ダイヤさんが驚いたように目を見開く。

 

 「マフラー・・・えっ、もしかして手編みですか!?」

 

 「えぇ、まぁ・・・売ってる物と比べたら、あまり良い物じゃないかもですけど」

 

 「とんでもない!凄く上手に出来てますわ!」

 

 目を輝かせ、赤いマフラーを眺めているダイヤさん。

 

 「天さん、編み物がお上手なのですね・・・どなたかに教わったのですか?」

 

 「えぇ、ことりちゃんに」

 

 μ'sのマネージャーをやっていた頃から、ことりちゃんにはよく編み物を教わっていた。

 

 ことりちゃん、こういうの本当に上手かったもんなぁ・・・

 

 と、ダイヤさんが上目遣いでこっちを見てくる。

 

 「あの・・・巻いていただいても、よろしいですか?」

 

 「え、えぇ・・・」

 

 少し緊張しながら、ダイヤさんの首にマフラーを巻いていく。

 

 巻き終えると、ダイヤさんが首元に巻かれたマフラーをギュっと握った。

 

 「・・・ありがとうございます、天さん。大事にしますわね」

 

 頬を赤く染め、少し照れたようにはにかむダイヤさんを見て・・・俺は思わずドキッとしてしまっていた。

 

 すると・・・

 

 

 

 ゴーン・・・ゴーン・・・

 

 

 

 「除夜の鐘が鳴っている、ということは・・・」

 

 「年、明けましたね・・・」

 

 いつの間にか、年が明けてしまったようだ。

 

 俺達はゆっくりと顔を見合わせ・・・同時に笑みを零した。

 

 「明けましておめでとうございます、天さん」

 

 「明けましておめでとうございます、ダイヤさん」

 

 何だか呆気なく年が明けてしまったが・・・こういうのも悪くはないかもな。

 

 「お誕生日、おめでとうございます」

 

 「ありがとうございます」

 

 俺の祝福に、笑顔で応えてくれるダイヤさん。

 

 「素晴らしい誕生日プレゼントも頂くことが出来て、私は幸せですわ」

 

 「そう言ってもらえて何よりです・・・へくしゅんっ!」

 

 思わずくしゃみが出る。やっぱり冷えるな・・・

 

 「大丈夫ですの?」

 

 「大丈夫です。やっぱり真冬の夜は寒いですね」

 

 苦笑しながらそう返すと、ダイヤさんはマフラーを外して俺に近付き・・・俺の首にマフラーを巻き始めた。

 

 「ちょ、ダイヤさん!?」

 

 「・・・これで良し、と」

 

 俺の首に半分ほど巻いたところで、残りを自分の首に巻くダイヤさん。

 

 俺とダイヤさんは、同じマフラーで繋がっている状態になった。

 

 「フフッ、これで少しは暖かいでしょう?」

 

 微笑むダイヤさん。

 

 同じマフラーを巻いているので、俺達は自然と密着する形になっていた。

 

 ヤバい、ドキドキが止まらない・・・

 

 「・・・こういうことすると、男は勘違いしちゃいますよ」

 

 「それならご心配なく。天さん以外にするつもりはありませんので」

 

 「いや、俺も男なんですけど」

 

 「フフッ、分かっていますわ」

 

 クスクス笑うダイヤさん。

 

 「天さんでしたら、勘違いしていただいても構いませんから・・・というより、勘違いではないのですけれど」

 

 「えっ、今何て・・・」

 

 「おーい、天くーん!ダイヤさーん!」

 

 俺が聞き返そうとしたところで、千歌さんの元気な声が響き渡った。

 

 「あけおめー!ことよろー!」

 

 「ダイヤさーん!誕生日おめでとうございまーす!」

 

 「んー、焼きそば美味しいずらー!」

 

 「ちょっと!?このたこ焼き全然激辛じゃないわよ!?」

 

 「善子ちゃん!?もうタバスコかけるの止めなよ!?」

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 「梨子!?こんなところで寝ないで!?」

 

 「アハハ、皆ホント自由だねぇ」

 

 騒いでいる皆。何やってんのあの人達・・・

 

 「・・・フフッ」

 

 ダイヤさんは楽しそうに笑うと、ベンチから立ち上がって俺の手を握った。

 

 「行きましょう、天さん。皆さんが待っていますわ」

 

 「・・・えぇ。そうしましょうか」

 

 俺はダイヤさんの手を握り返し、一緒に歩き始めた。

 

 結局、さっきの言葉については聞き返せなかったけど・・・今はその方が良いのかもしれない。

 

 でも、いつかきっと・・・

 

 「今年もよろしくお願いします、ダイヤさん」

 

 「こちらこそよろしくお願い致します、天さん」

 

 手を繋ぎ、マフラーに繋がれながら・・・笑い合う俺とダイヤさんなのだった。




どうも〜、ムッティです。

改めまして、新年明けましておめでとうございます!

昨年は『絢瀬天と九人の物語』を応援していただき、本当にありがとうございました。

引き続き頑張って投稿していきますので、今年も『絢瀬天と九人の物語』をよろしくお願い致します。



さてさて、本日1月1日はダイヤさんの誕生日ですね!

改めて思いますけど、元旦が誕生日って珍しいですよね・・・

そういえば、自分の中学時代の同級生にも一人だけいたなぁ・・・

同級生よ、誕生日おめでとう(唐突な祝福)

まぁそれはさておき、ダイヤさんの誕生日を記念して初めて短編を書いてみました!

いかがだったでしょうか?

この話での天とダイヤさんは、何やら両想いのようでしたが・・・

あくまでもこの話は本編と関係ないので、ダイヤさんがヒロインになったわけではありません。

相変わらず本編はヒロイン未定です(笑)

・・・今年中に決まると良いな(遠い目)



ちなみに本編の方は明日投稿します!

いよいよアニメ一期の十一話に突入しますよ!

全く、『2019年内に十一話まで終わらせたい』って言ってたの誰だよ!

・・・すみませんでした(土下座)

そんなわけで、明日の投稿もお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!

ダイヤさん、お誕生日おめでとう\(^o^)/


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

穴を埋めるのは大変である。

2020年かぁ・・・

良い一年にしたいなぁ・・・


 「しっかりね!」

 

 「お互いに!」

 

 固い握手を交わす千歌さんと梨子さん。

 

 ピアノコンクールに出場することになった梨子さんを見送るべく、俺達は沼津駅へとやって来ていた。

 

 「梨子ちゃん、頑張ルビィ!」

 

 「東京に負けてはダメですわよ!」

 

 黒澤姉妹が熱のこもったエールを送る。

 

 梨子さんがピアノコンクールへの出場を決めたあの日、梨子さんは他の皆にも事情を説明していた。

 

 皆は凄く驚いていたが、梨子さんの決意を聞いて快く送り出してくれたのだった。

 

 「梨子ちゃん、そろそろ電車の時間みたい」

 

 時計をチェックしていた曜さんが、梨子さんに知らせる。

 

 「あ、ホントだ・・・そろそろ行かなくちゃ」

 

 「チャオ、梨子」

 

 「気を付けてね」

 

 「ファイトずら」

 

 「主として、リトルデーモンの武運を祈ってるわ」

 

 「フフッ、ありがとう」

 

 笑みを浮かべる梨子さん。

 

 俺は一歩前に進み出ると、梨子さんに手を差し出した。

 

 「ピアノコンクール、楽しんできて下さい」

 

 「『頑張ってきて下さい』じゃなくて?」

 

 「梨子さんが作った曲を、多くの人に聴いてもらえるんですよ?頑張るより前に、楽しまなきゃ損でしょう」

 

 「・・・フフッ、天くんらしいわね」

 

 梨子さんは面白そうにクスクス笑うと、俺の手をギュっと握った。

 

 「ありがとう、天くん。楽しんでくるわね」

 

 「えぇ、いってらっしゃい」

 

 俺の手を離し、改札を通ってホームへと向かう梨子さん。

 

 「梨子ちゃん!」

 

 千歌さんが大きな声で呼びかける。

 

 「次のステージは、絶対に皆で歌おうね!」

 

 「えぇ、勿論!」

 

 梨子さんはニッコリ笑うと、勢いよくホームへと駆け出していった。

 

 「さぁ、練習しに行きますわよ!」

 

 手をパンッと叩くダイヤさん。

 

 合宿も終わり、今は学校がAqoursの練習場所になっている。

 

 今日もしっかり練習しないとな・・・

 

 「梨子ちゃんの為にも、予備予選で負けるわけにはいかないからね!」

 

 「んー、気合いが入りマース!」

 

 燃えている果南さんと鞠莉。

 

 学校へ向かおうとする皆の後に続こうとしていると、曜さんがその場から動かないことに気付いた。

 

 「曜さん?どうかしました?」

 

 「いや、千歌ちゃんが・・・」

 

 指を差す曜さん。

 

 そこには、梨子さんが去った方向を見つめる千歌さんの姿があった。

 

 「いつまで感傷に浸ってんですか」

 

 「あたっ!?」

 

 千歌さんの頭にチョップをお見舞いする。

 

 「次のステージは皆で歌うんでしょう?立ち止まってる暇は無いですよ」

 

 「天くん・・・」

 

 「梨子さんに負けないように、俺達も頑張りましょう」

 

 「うんっ!」

 

 千歌さんは元気よく頷くと、走って皆の後を追っていった。

 

 やれやれ・・・

 

 「さて、俺達も行きましょうか」

 

 「・・・・・」

 

 「曜さん?」

 

 「あ、うん!行こっか!」

 

 慌てて笑顔を見せる曜さん。

 

 何か様子がおかしいな・・・

 

 「出発進行!ヨーソロー!」

 

 「あ、ちょっと!」

 

 俺の手を掴み、元気よく引っ張っていく曜さん。

 

 何だかそれが空元気な気がして、少し心配になる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「さぁ、しっかり磨くのですわ!」

 

 「“竜の●爪”」

 

 「ぴぎゃあああああっ!?頭が割れますわあああああっ!?」

 

 俺に頭を掴まれ、悲鳴を上げるダイヤさん。

 

 学校にやって来た俺達は、何故かプール掃除をするハメになっていた。

 

 「何で俺達がプール掃除をしないといけないのか、きちんと説明していただけませんかねぇ・・・?」

 

 「ちょ、天さんっ!?頭がっ!頭がミシミシいってますわっ!」

 

 「それは良かった。少しは柔らかくなりそうですね」

 

 「嫌ああああああああああっ!?」

 

 「も、もうその辺で止めてあげてえええええっ!?」

 

 ルビィが慌てて止めに入ってきたので、俺は仕方なく手を離した。

 

 「うぅ、痛かったですわぁ・・・」

 

 「自業自得よ」

 

 涙目で頭を擦るダイヤさんを見て、鞠莉が呆れていた。

 

 「『夏休みに入ったら、プール掃除を何とかしろ』って言っといたのに」

 

 「“竜の鉤●”」

 

 「ギャアアアアアッ!?頭が割れるうううううっ!?」

 

 今度は鞠莉の頭を鷲掴みにする。

 

 「生徒会長に仕事を押し付けるなんて、理事長としてどうなんですかねぇ・・・?」

 

 「ゴメンなさあああああいっ!」

 

 「これで分かったでしょう?正義は必ず勝つのですわ!」

 

 「誰が正義ですって・・・?」

 

 「ぴぎゃあああああっ!?」

 

 「お姉ちゃあああああんっ!?」

 

 「・・・理事長と生徒会長が、普通にしばかれてるんだけど」

 

 「・・・この学校を支配してるのって、案外天だったりして」

 

 善子と果南さんが、表情を引き攣らせながらヒソヒソ会話していた。

 

 ここからだと聞こえないが、何か失礼なことを言われている気がする。

 

 「そこの堕天使(笑)とゴリラに告ぐ。口より先に手を動かしなさい」

 

 「(笑)って何よ!?」

 

 「ゴリラじゃないもんっ!」

 

 二人の抗議はサラッとスルーして、俺は目の前の生徒会長と理事長を冷たい眼差しで見つめた。

 

 「・・・この後の練習、二人だけ特別メニューをやってもらうんで。覚悟しといて下さいね・・・?」

 

 「「ひぃっ!?」」

 

 抱き合って身体を震わせる二人。

 

 この罪は身をもって償ってもらうことにしよう。

 

 「ハァ・・・何でプール掃除なんてやらないといけないのか・・・」

 

 「ダメだよ天くん!気合いを入れないと!」

 

 背後から曜さんの声がする。

 

 何だ、元気そうじゃん・・・

 

 「いや、気合いなんて入るわけ・・・何ですかその格好」

 

 「ヨーソロー!」

 

 ビシッと敬礼する曜さん。

 

 白い制服に身を包んだ曜さんは、まさしく船乗りの格好をしていた。

 

 「プール掃除といえばデッキブラシ、デッキブラシといえば甲板磨き、甲板磨きといえば船乗り!ということで、船乗りのコスプレをしてみました!」

 

 「・・・相変わらず衣装大好きですね」

 

 「どうかな!?似合うかな!?」

 

 「曜さんはメチャクチャ可愛いんだから、何を着ても似合うって前にも言ったでしょ」

 

 「・・・相変わらず真顔で恥ずかしいこと言うよね」

 

 頬を赤らめる曜さん。

 

 と、後ろから鞠莉が抱きついてきた。

 

 「ちょっと天!?私というものがありながら、何で曜を口説いてるの!?」

 

 「口説いてないわ。ってか、いつから鞠莉は俺の彼女になったの?」

 

 「そんな!?あの夜のことを忘れたの!?」

 

 「どの夜やねん」

 

 「あんなに情熱的に私を求めてくれたじゃない!」

 

 「うわ、とうとう頭がイカれて・・・あ、元々か」

 

 「ちょっと!?」

 

 「・・・貴方達、本当に仲良くなりましたわね」

 

 呆れているダイヤさん。

 

 「一体何がありましたの・・・?」

 

 「色々あったのよ。ね、天?」

 

 「・・・あったねぇ、色々」

 

 嬉しそうに頬ずりしてくる鞠莉に、苦笑しながら返す俺。

 

 まぁ、鞠莉が楽しそうならそれで良いか・・・

 

 「さて、さっさとプール掃除を終わらせますかね」

 

 俺は鞠莉から離れると、プールへと降りた。

 

 すると・・・

 

 「うわああああああああああっ!?」

 

 「ぐはぁっ!?」

 

 「ずらぁっ!?」

 

 後ろから滑ってきた千歌さんに追突され、目の前にいた花丸にぶつかって倒れこんでしまった。

 

 「ゴ、ゴメン天くん!ヌルヌル滑るから止まれなくて・・・」

 

 「ふぁふぉふぃふぁん、ふっふぉふぁふ(アホみかん、ぶっ飛ばす)」

 

 「あんっ・・・そ、そこで喋らないでほしいずらぁ・・・」

 

 顔を真っ赤にしている花丸。

 

 花丸の上に倒れこんだ俺は、花丸の胸に顔を埋めている状態になっていた。

 

 「ちょっと天さん!?何を破廉恥なことをしているのですか!?」

 

 「ふぃふふぇふぃふぁ。ふぃふぉふぇふふぉ(失礼な。事故ですよ)」

 

 「んあっ・・・そ、天くん・・・そろそろ退いてほしいずらぁ・・・」

 

 「ふぉっふぇー(オッケー)」

 

 顔を上げる俺。

 

 あー、助かった・・・

 

 「ありがとう、花丸・・・善子だったらアウトだったよ」

 

 「どういう意味よ!?」

 

 「そのままの意味ですが何か?」

 

 「ぶっ飛ばすッ!」

 

 そのまま始まった鬼ごっこは全員を巻き込んでしまい、結局プール掃除には結構な時間がかかってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あー、疲れた・・・」

 

 「だらしないなぁ、善子。もっとシャキッとしなよ」

 

 「疲労の原因の半分はアンタだわっ!」

 

 善子のツッコミ。

 

 プール掃除を終えた俺達は、練習をする為に屋上へやって来ていた。

 

 「っていうか、何でアンタはピンピンしてるわけ!?」

 

 「鬼ごっこ程度でへばってるようじゃ、まだまだだよ善子」

 

 「そうだよ善子ちゃん。もっと身体を鍛えなきゃダメだよ?」

 

 「ヨハネよっ!っていうかゴリラは黙ってなさい!」

 

 「だからゴリラじゃないってば!?」

 

 「うるさいですよ果南さん。バナナあげるんで静かにして下さい」

 

 「ぐすっ・・・かなん、おうちかえりたい」

 

 「げ、元気出して果南ちゃん!」

 

 涙目で体育座りしながらバナナを頬張る果南さんを、千歌さんが必死に励ます。

 

 と、ダイヤさんが大きくパンパンッと手を鳴らした。

 

 「さぁ、練習を始めますわよ!それぞれ所定の位置について下さい!」

 

 「「「「「「「はーい!」」」」」」」

 

 全員がそれぞれ自分の位置へと移動する。

 

 既に予備予選用の曲は完成しており、フォーメーションや振り付けも決まっていた。

 

 後は練習を繰り返して、本番で良いパフォーマンスが出来るよう備えるのみである。

 

 「じゃあ、曲を流しますね」

 

 全員が位置についたのを確認し、曲を流そうとした俺だったのだが・・・

 

 そこであることに気付いてしまった。

 

 「・・・あれ?」

 

 「天くん?」

 

 「どうしたずら?」

 

 ルビィと花丸が、不思議そうに尋ねてくる。

 

 「いや、今頃になって気付いたんだけどさ・・・」

 

 苦笑する俺。

 

 「梨子さんのポジション、どうしよう?」

 

 「「「「「「「「あっ・・・」」」」」」」」

 

 考えたら当たり前のことなのだが、梨子さんが参加しないということはポジションが一つ空くことになる。

 

 今回は千歌さんと梨子さんのダブルセンターということもあり、今のままでは見栄えが悪くなってしまうのだ。

 

 「どうしましょう・・・全体的にフォーメーションを変えますか?」

 

 「いや、丸々変えるのはキツいと思う。本番まで時間も無いし」

 

 ダイヤさんの提案に、首を横に振る果南さん。

 

 となると、残された手段は・・・

 

 「誰かが梨子さんのポジションに入る・・・しかないかな」

 

 「そうね。それが最善策だと思うわ」

 

 賛成してくれる鞠莉。

 

 「問題は、誰が梨子のポジションに入るかだけど・・・」

 

 「・・・適任者は一人だろうね」

 

 俺は苦笑すると、その適任者へと視線を向けた。

 

 「曜さん、お願い出来ますか?」

 

 「えぇっ!?私!?」

 

 驚いている曜さん。いやいやいや・・・

 

 「千歌さんとダブルセンターをやれる人なんて、曜さんか梨子さんしかいませんよ。急な変更で負担は大きいかと思いますけど、俺もサポートしますから」

 

 「う、うん・・・まぁ、私で良いなら・・・」

 

 遠慮がちに頷く曜さん。

 

 そんな曜さんの手を、千歌さんが力強く握る。

 

 「曜ちゃん!一緒に頑張ろうね!」

 

 「う、うん・・・」

 

 「決まりですね。とはいえ、フォーメーションの微調整は必要でしょう。九人を想定したフォーメーションを八人でやると、所々見栄えの悪い部分が出てくるでしょうし」

 

 「それもそうだね。その辺りもしっかり決めていかないと」

 

 「では早急に決めてしまいましょう。本番まで時間がありませんわ」

 

 「OK!燃えてきたわ!」

 

 皆で再度フォーメーションを確認し、修正すべき部分を洗い出していく。

 

 そんな中・・・

 

 「・・・ダブルセンター、か」

 

 どこか浮かない表情でそう呟く曜さんなのだった。




どうも〜、ムッティです。

今回からアニメ一期の十一話の内容に入っていきます。

投稿を始めてから一年経つのに、未だアニメ一期の内容さえ終わらないっていう(´・ω・`)

まぁこれからもマイペースに投稿していきますので、変わらず応援していただけると幸いです。

おかげさまで72人もの方が☆評価を付けて下さり、毎回感想もいただくことが出来て本当に嬉しい限りです(^^)

皆さん、本当にありがとうございます!

これからも『絢瀬天と九人の物語』をよろしくお願い致します!

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

距離が近い人だからこそ気を遣う。

今年の箱根駅伝は凄いな・・・

続々と区間新が出るじゃないか・・・


 「ワン、ツー、スリー、フォー・・・」

 

 果南さんのカウントに合わせて、二人でフォーメーションを確認しながら踊る千歌さんと曜さん。

 

 しかし・・・

 

 「あっ!?」

 

 「うわっ!?」

 

 途中でお互いがぶつかってしまう。

 

 練習を始めてからというもの、どうにも上手くいかない状態が続いていた。

 

 「これで十回目ですわね・・・」

 

 「曜だったら合うと思ったんだけど・・・」

 

 困った表情のダイヤさんと果南さん。

 

 これはなかなか難しいな・・・

 

 「私が悪いの!同じところで遅れちゃって・・・」

 

 「違うよ!私が歩幅を曜ちゃんに合わせられなくて・・・」

 

 「ストップ」

 

 曜さんと千歌さんの間に入る俺。

 

 「どっちが悪いとか、そういう問題じゃないですから。まだ始めたばかりですし、上手くいかなくて当然です」

 

 「天くん・・・」

 

 「焦らなくて大丈夫ですから、ゆっくりやりましょう。繰り返しやっているうちに、身体で覚えられるはずです」

 

 「うん、頑張る!」

 

 「ヨーソロー!」

 

 気合いを入れ直し、再び位置につく二人。

 

 「・・・流石ね、マネージャー」

 

 隣にやってきた鞠莉が、微笑みながら小さな声で話しかけてくる。

 

 「焦り気味の二人を、あっという間に落ち着かせちゃうなんて」

 

 「・・・落ち着いてたら良いんだけどね」

 

 「え?」

 

 首を傾げる鞠莉。

 

 俺は溜め息をつきつつ、練習に集中しながらもどこかぎこちない曜さんを見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ワン、ツー、スリー、フォー・・・」

 

 コンビニの駐車場の隅で練習している千歌さんと曜さん。

 

 学校での練習が終わり、俺達は近くのコンビニにやって来ていた。

 

 三年生組は学校に残ってやる事があるらしく、居るのは俺達一年生組と二年生の二人だけである。

 

 「あっ、ゴメン・・・」

 

 「ううん、こっちこそ・・・」

 

 またしても二人の身体がぶつかる。

 

 なかなか息が合わないな・・・

 

 「そ~らくんっ」

 

 「うおっ!?」

 

 二人の練習を眺めていると、頬に冷たい物が当たった。

 

 驚いて振り向くと、花丸がアイスを持って立っていた。

 

 「はいこれ、マルと半分こずら」

 

 「・・・あぁ、明日は雪か」

 

 「マルがアイスをあげるのがそんなに珍しいずらか!?」

 

 「いや、だって食い意地を張るスクールアイドルランキングNo.2の花丸だよ?」

 

 「そんな不名誉な称号は要らないずら!っていうかNo.1は誰ずら!?」

 

 「白米大好き娘」

 

 「誰ずら!?」

 

 「アハハ、いつか紹介するよ。アイスありがと」

 

 花丸からアイスをもらいつつ、再び二人の練習に目を向ける。

 

 「結構苦戦してるわね・・・」

 

 「二人とも大変そう・・・」

 

 善子とルビィもやって来て、二人の練習を心配そうに見つめていた。

 

 「果南も言ってたけど、あの二人なら合うと思ってたわ。普段から仲も良いし、息ピッタリって感じじゃない」

 

 「だからこそ、じゃないかな」

 

 善子の言葉に答える俺。

 

 「『距離が近い人には気を遣わない』ってよく言うけどさ・・・俺は逆だと思うんだよ」

 

 「逆って言うと?」

 

 「距離が近い人だからこそ、気を遣うんじゃないかってこと。例えば深刻な悩み事を抱えていたとして、それをすぐに家族や友達に話そうって思える?『心配をかけたくない』って思ったりしない?」

 

 「それは・・・そうかも」

 

 「あの二人も、多分そうなんだと思う。お互いに『負担をかけたくない』っていう気持ちがあるから、遠慮し合ってどうしても息が合わない・・・そんな気がする」

 

 「相変わらず、人をよく見てるわね・・・」

 

 驚き半分、呆れ半分といった様子の善子。

 

 「だから天も、お姉さんと喧嘩しちゃったの?」

 

 「何聞いてくれちゃってるずらこの似非堕天使いいいいいっ!」

 

 「ごはぁっ!?」

 

 「天くん気にしないで!何でもないからね!」

 

 善子の顎に花丸の頭突きがクリーンヒットする中、ルビィが慌てて取り繕う。

 

 俺は思わず苦笑してしまった。

 

 「アハハ、気を遣わせちゃってゴメン・・・っていうか、知ってたんだね」

 

 「う、うん・・・実は曜ちゃんから聞いてて・・・」

 

 「え、何で曜さんが知ってんの?」

 

 「東京に行った時、真姫さんと南ことりさんに聞いたんだって」

 

 「・・・なるほどね」

 

 確かにあの時、絵里姉の話題になったもんな・・・

 

 恐らく俺がトイレに行った時に、気になった曜さんが二人に聞いたんだろう。

 

 ことりちゃんが積極的に話すとは思えないし、話したのは多分真姫ちゃんだろうな・・・

 

 つまりあの後、曜さんの元気が無かったのはそれが原因だったのね・・・

 

 「・・・何か、色々と合点がいったわ」

 

 「天くん?」

 

 「あぁ、何でもない。こっちの話」

 

 笑う俺。

 

 「・・・俺と絵里姉の場合は逆だよ。気を遣うどころか、お互いにワガママを言い合っただけ。その結果どっちも折れなくて、今に至る・・・って、最近まではそう思ってたんだけどね」

 

 鞠莉の話を聞くかぎり、絵里姉は鞠莉に俺のことをお願いしていたみたいだしな・・・

 

 あれだけ内浦行きに反対していたのに、陰でそんなことをしていたなんて・・・

 

 「・・・ホント、よく分かんないわ」

 

 そんなことをぼやきつつ、千歌さんと曜さんの練習を見ていると・・・

 

 「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト・・・よし、これなら大丈夫!」

 

 「凄い!流石は曜ちゃん!」

 

 ようやく動きが揃い、喜んでいる二人。

 

 「おぉ、天界的合致!」

 

 「天界は関係ないずら」

 

 「でも凄い!ちゃんと揃ってたよ!」

 

 善子・花丸・ルビィも喜ぶ中、俺は素直に喜ぶことが出来なかった。

 

 今の動きって・・・

 

 

 

 『さ~よな~らと~言え~ばき~みの~♪』

 

 

 

 「あっ、電話だ」

 

 「着信音がまさかの『オレンジ』!?」

 

 ポケットからスマホを取り出す千歌さんに、思わずツッコミを入れてしまう俺。

 

 「え、そんなに驚く?」

 

 「だって千歌さん、いつも『オレンジ』って言葉を嫌がるじゃないですか!」

 

 「嫌がってはいないよ!?『ミカン』『ミカン色』を、『オレンジ』『オレンジ色』と一緒にされるのが嫌なの!」

 

 「『ミカン』と『オレンジ』の違いはともかく、『ミカン色』と『オレンジ色』の違いが俺には分からない!」

 

 「何言ってるの!?全然違うでしょうが!」

 

 「ち、千歌ちゃん!早く電話に出ないと!」

 

 「あっ、そうだった!」

 

 曜さんに言われ、慌てて電話に出る千歌さん。

 

 「もしもし・・・あっ、梨子ちゃん!」

 

 どうやら電話は梨子さんからのようだ。

 

 千歌さんは一通り話し終えると、スマホをスピーカーモードにしてこちらへ向けた。

 

 「ちょっと待ってね・・・はい、花丸ちゃん」

 

 「ずらっ!?えーっと・・・もすもす?」

 

 「ひねもす?」

 

 『どこのウサ耳博士よ!?』

 

 「ずらぁっ!?」

 

 梨子さんのツッコミに驚き、俺の背中に隠れる花丸。

 

 やれやれ・・・

 

 「よう・・・五年ぶりだな・・・」

 

 『エレンかっ!今朝会ったでしょうが!』

 

 「落ち着いて下さい、リコ班長」

 

 『それ駐屯兵団の人だから!っていうか誰のせいよ!?』

 

 相変わらずツッコミがキレッキレだった。

 

 流石は梨子さんである。

 

 「で、久しぶりのシャバはどうですか?」

 

 『私は刑務所を出所した元囚人かっ!そもそもついこの間も東京に来たじゃない!』

 

 「あぁ、そういえばそうでしたね」

 

 そう言われてみると、別に久しぶりの東京でもないのか・・・

 

 『・・・フフッ』

 

 電話越しに、梨子さんの笑い声が聞こえる。

 

 「梨子さん?どうかしました?」

 

 『いや、天くんはいつも通りだなって』

 

 クスクス笑っている梨子さん。

 

 『皆がいなくて、少し寂しいなって思ってたんだけど・・・何だか元気が出たわ』

 

 「・・・言ったでしょう、一人じゃないって」

 

 笑みを浮かべる俺。

 

 「離れていても、皆ちゃんと梨子さんを応援してますから。ね、皆?」

 

 「勿論!」

 

 「梨子ちゃん、ファイト!」

 

 「堕天使パワーを送ってあげるわ!」

 

 「それは要らないと思うずら」

 

 「何でよ!?」

 

 ワイワイ騒ぐ俺達。

 

 そんな俺達を、少し離れたところで曜さんが微笑みながら見ていた。

 

 「ほら曜さんも。梨子さんにエールを送ってあげて下さい」

 

 「えぇっ!?えーっと・・・」

 

 突然のことに慌てる曜さん。

 

 その時、千歌さんのスマホからピーピー音が鳴った。

 

 「あぁっ!?電池切れそう!」

 

 「アホ毛で充電すれば良いじゃないですか」

 

 「出来るかっ!梨子ちゃんゴメン!そろそろ切るね!」

 

 『うん、じゃあまたね』

 

 梨子さんとの電話が切れる。

 

 千歌さんは笑みを浮かべると、スマホを胸に抱えた。

 

 「・・・良かった、喜んでるみたいで」

 

 「ですね。皆の声が聞けて、安心したんじゃないですか?」

 

 「それも勿論あると思うけど・・・多分、一番は天くんのおかげじゃないかな」

 

 「俺ですか?」

 

 思わず首を傾げる。何かやったっけ?

 

 「うん。梨子ちゃん、天くんと話してる時凄く楽しそうだもん」

 

 「え、そうですか?」

 

 「ハァ・・・天くんは乙女の気持ちが分かってないねぇ・・・」

 

 「乙女(笑)」

 

 「何で笑ってるの!?」

 

 「いやwww千歌さんがwww乙女ってwww」

 

 「ムキーッ!もう怒ったぞー!」

 

 「行きなさい千歌!やっちゃえ!」

 

 「うわ善子、『ヤッちゃえ』なんてサイテー」

 

 「そういう意味じゃないわよ!?」

 

 「善子ちゃん、それは流石に私でも引くよ・・・」

 

 「花丸ちゃん、善子ちゃんは何かイケないことを言っちゃったの?」

 

 「ルビィちゃんは気にしないでほしいずら。善子ちゃんの心が穢れてるだけの話ずら」

 

 「違うって言ってるでしょうがあああああっ!っていうかヨハネよおおおおおっ!」

 

 「ア、アハハ・・・」

 

 苦笑する曜さん。

 

 その笑みはやはり、いつもより寂しげに見えた。

 

 「・・・何とかしないとな」

 

 それを見て、小さく呟く俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

果林ちゃん可愛くないですか(唐突)

スクスタで新しいストーリーが配信されたのですが、お勉強が出来ない果林ちゃん可愛い( ´∀`)

あんなに大人びているのに、『勉強したくない』と駄々をこねるのが子供っぽくて・・・

そのギャップにやられました(笑)

ニジガクの推しメンは、果林ちゃんで決定かな。

早くアニメ見たいなぁ・・・



さてさて、本編ではやはり曜ちゃんの様子が気になりますね。

果たして天はどう動くのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

これからもこの作品をよろしくお願い致します!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自分を犠牲にする人を見るのは悲しい。

青山学院大学、総合優勝おめでとう!

やっぱり青学は強かった!


 《曜視点》 

 

 「ハァ・・・」

 

 皆と別れ、溜め息をつきながら帰り道を歩く私。

 

 心のモヤモヤが晴れず、気が重い状態が続いていた。

 

 「ホント・・・自分が嫌になる」

 

 憂鬱な気分になりながらも、家に辿り着き玄関のドアを開けた。

 

 「ただいまぁ・・・」

 

 「お帰りなさい、曜さん。ご飯にします?お風呂にします?」

 

 「んー、とりあえずお風呂で・・・え?」

 

 曜『さん』?しかもこの声って・・・

 

 慌てて声のした方を見ると、そこには・・・

 

 「そ、天くんんんんんんんんんん!?」

 

 「どうも~」

 

 にこやかに手を振る天くん。

 

 え、何!?どういうこと!?

 

 「何で天くんが私の家に来てるの!?」

 

 「そこに曜さんの家があるからです」

 

 「そんな某登山家みたいな回答は求めてないよ!?っていうか、私達さっき別れたばかりだよねぇ!?」

 

 「いや、別れたって・・・そもそも俺達付き合ってないでしょ」

 

 「その『別れた』じゃなくて!何で私より天くんの方が家に着くの早いの!?」

 

 「空間移動使ったんで」

 

 「何善子ちゃんみたいなこと言い出してるの!?」

 

 「帰って来て早々、何騒いでるの?」

 

 天くんの後ろから、私のママが呆れた様子でやって来た。

 

 「ちょ、ママ!?天くんが来てるんだけど!?」

 

 「当たり前でしょ?天は今日、ウチに泊まるんだから」

 

 「えぇっ!?」

 

 驚く私。何でそんな話になってるの!?

 

 「私聞いてないんだけど!?」

 

 「あぁ、すいません。曜さんと別れてから決まった話なんで」

 

 「どういうこと!?」

 

 「さっき天から電話もらったのよ。『今日夕飯ご馳走になっても良いですか?』って」

 

 説明してくれるママ。

 

 「それに対して、私はこう答えたの・・・『どうせなら泊まっていきなさい』ってね」

 

 「何で!?」

 

 「だって私と天の仲だも~ん」

 

 「「ね~♪」」

 

 「どんだけ仲良くなってんの!?」

 

 お、恐るべし天くん・・・

 

 流石は『母親キラー』の異名を持つ子・・・

 

 「そしたらさっきのコンビニまで、車で迎えに来てくれたんですよ。いやぁ、やっぱり星さんは優しいなぁ」

 

 「アハハ、天の為なら火の中水の中よ」

 

 「それで私より早かったのね・・・」

 

 それなら、私も乗せてもらえば良かったなぁ・・・

 

 「っていうか、何でお泊まり?前は夕飯食べた後、ママが車で送ってたよね?」

 

 「曜に夜這いしてもらう為に決まってるじゃない」

 

 「何で母親が娘を襲わせようとしてるの!?」

 

 「アンタ達が結婚すれば、天が私の息子になるから」

 

 「完全に私欲じゃん!?」

 

 「俺はもう星さんのこと、本当の母親のように思ってますよ」

 

 「我が息子よっ!」

 

 「母上っ!」

 

 「・・・何かもう、ツッコミに疲れた」

 

 お互いの手を握り見つめ合う二人に、私はもうツッコミを入れる気力も無かった。

 

 ツッコミ役って大変なんだなぁ・・・

 

 「とりあえず、私はお風呂に入るね・・・」

 

 「あ、じゃあ三人で入る?」

 

 「入るわけないでしょうが!」

 

 「曜さん、背中流しますよ」

 

 「何で天くんは乗り気なの!?」

 

 結局ツッコミを入れるハメになる私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「いやぁ、相変わらず星さんの料理は美味しいですね」

 

 「アハハ、ありがと。遠慮せずにどんどん食べて」

 

 笑顔でそう言ってくれる星さん。

 

 曜さんのお母さんである渡辺星さんとは、以前夕飯をご馳走になってから親しくさせてもらっていた。

 

 ウエーブのかかったグレーの髪が肩にかかるまで伸びており、その若々しさに最初は曜さんのお姉さんだと勘違いしたほどだ。

 

 「ついでに、曜のことも食べちゃって良いからね」

 

 「ぶふぉっ!?ちょ、ママ!?何言ってんの!?」

 

 「安心して下さい。今夜美味しくいただきます」

 

 「私は何も安心出来ないわっ!」

 

 顔を真っ赤にしながら自分の肩を抱き、俺から距離を取る曜さん。

 

 どうやら警戒させてしまったようだ。

 

 「ねぇねぇ、天は曜のことどう思ってるの?好き?」

 

 「ちょ、何を聞いてくれちゃってんの!?」

 

 「大好きですよ」

 

 「ふぇっ!?」

 

 「人として」

 

 「だから紛らわしいってば!?」

 

 両手で顔を覆う曜さん。耳まで真っ赤になっている。

 

 「どんなところが好き?」

 

 「明るくて元気で、それでいて心の優しいところですかね。一緒に居て楽しいですし、凄く居心地が良いです」

 

 「だってさ曜、良かったね」

 

 「う、うるさいっ!」

 

 「後は何と言っても美少女ですよね。スタイルも良いですし」

 

 「も、もう良いからっ!」

 

 これ以上ないほど顔を赤くし、涙目になっている曜さん。

 

 星さんがニヤニヤしている。

 

 「よし、明日はお赤飯でも炊こうかな」

 

 「余計なことしないでええええええええええっ!?」

 

 曜さんの絶叫が響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「曜さん、機嫌直して下さいよ」

 

 「ふんっ!天くんのバカっ!」

 

 ふて腐れたようにベッドにうつ伏せになり、枕に顔を埋めている曜さん。

 

 夕食後、俺達は曜さんの部屋にやって来ていた。お風呂にも入ったので、後は寝るだけである。

 

 「っていうか、年頃の男女を同じ部屋で寝かせるってどういうつもりなの!?」

 

 「それを言ったら、東京に行った時も合宿の時も同じ部屋で寝たじゃないですか」

 

 「どっちも皆が一緒だったじゃん!今回は二人きりじゃん!」

 

 「ですね。じゃあ俺、そろそろ寝ますんで」

 

 「早っ!?天くんは私のこと意識したりしないの!?」

 

 「・・・ハッ」

 

 「腹立つ!この子腹立つ!」

 

 バンバン布団を叩く曜さん。

 

 情緒不安定だなぁ・・・

 

 「まぁ冗談はさておき・・・ちょっと曜さんに聞きたいことがあるんですけど」

 

 「ど、どうしたの急に・・・いきなり真剣な表情になったけど」

 

 「・・・曜さんってレズなんですか?」

 

 「うらぁっ!」

 

 「ごふっ!?」

 

 俺の顔面に曜さんの枕が命中する。

 

 「真面目な顔してどんな質問してんの!?」

 

 「いや、あくまでも俺の予想なんですけど・・・曜さん、千歌さんと仲の良い梨子さんに嫉妬してません?つまり曜さんは、千歌さんが好きなんじゃないかなって・・・そういう意味で」

 

 「違うわ!確かに千歌ちゃんのことは好きだけど、友達としての『好き』だわ!」

 

 「へー」

 

 「一ミリも信じてない!?」

 

 ショックを受けている曜さん。やれやれ・・・

 

 「まぁ、それがあくまでも多分恐らく仮に本当だとして・・・」

 

 「どんだけ信じてないの!?間違いなく本当だから!」

 

 「はいはい・・・で、実際どうなんですか?嫉妬してるんですか?」

 

 「・・・遠慮なく聞いてくるね」

 

 「曜さんみたいに周りに遠慮しがちなタイプの人は、変に濁しながら聞くと誤魔化しながら答えますから。ズバッと踏み込んで聞くのが良いって学んだんですよ」

 

 「何を学んじゃってるの君は・・・」

 

 曜さんは溜め息をつくと、観念したように話し始めた。

 

 「・・・天くんの言う通り、嫉妬してるんだろうね。ホント、自分の心の汚さが嫌になっちゃうよ」

 

 「・・・曜さんって、ホント千歌さんが好きなんですね」

 

 「アハハ、そうだね」

 

 小さく笑う曜さん。

 

 「・・・私ね、昔から『千歌ちゃんと一緒に何かやりたい』ってずっと思ってて。でもなかなか、一緒に何かをやることが出来なくて・・・だから千歌ちゃんが『一緒にスクールアイドルやろう』って誘ってくれた時は、凄く嬉しかったんだ」

 

 笑みを浮かべ、天井を見上げる曜さん。

 

 「でもすぐに梨子ちゃんが入って、二人で歌を作るようになって・・・気付いたら、皆も一緒になってて・・・それで思ったの。もしかして千歌ちゃん、私と二人は嫌だったのかなぁって」

 

 「・・・どうしてそう思うんですか?」

 

 「私、『要領が良い』って思われることが多くて。そういう子と一緒は、やりにくいのかなぁって・・・そんな風に思っちゃって」

 

 寂しそうに笑う曜さん。

 

 あぁもう、ホントにこの人は・・・

 

 「・・・重なるんだよなぁ」

 

 「重なる?」

 

 「あぁ、こっちの話です。それより・・・」

 

 俺は立ち上がると、曜さんの枕を拾い上げ・・・

 

 「“雷●八卦”!」

 

 「ごはぁっ!?」

 

 フルスイングで枕を曜さんの頭に叩き込んだ。

 

 勢いよくベッドに倒れこむ曜さん。

 

 「ちょ、何するの!?」

 

 「いや、ちょっと『渡辺曜をしばきたい症候群』の症状が出たんで」

 

 「何その私に害しかない病気!?」

 

 「まぁそれはともかく・・・とりあえずそこに正座して下さい」

 

 「な、何で・・・」

 

 「良いから正座しろやバカ曜!」

 

 「は、はいっ!」

 

 慌てて正座する曜さん。

 

 「ハァ・・・千歌さんのことが好きっていう割に、千歌さんのこと何も分かってないよアンタ」

 

 「むっ・・・これでも幼馴染だし、よく分かってるつもりだけど・・・」

 

 「分かってたらこんなことで悩まないわ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 最早タメ口だが、そんなことはどうでもいい。

 

 「そもそも、曜さんの要領が良いわけないでしょ。制服を見た瞬間にベランダから身を投げるようなバカなんだから」

 

 「うぐっ・・・」

 

 「しかも俺の前で下着を丸出しにするアホなんだから」

 

 「うぐぐっ・・・」

 

 「そしてドジでマヌケなんだから」

 

 「最後の付け足し要らなくない!?『バカ』『アホ』『ドジ』『マヌケ』を揃えたかっただけだよねぇ!?」

 

 「黙って聞けやバカ曜!」

 

 「はいいいいいっ!」

 

 背筋がピーンと伸びる曜さん。やれやれ・・・

 

 「・・・要領が良いように見えるだけで、本当は人一倍努力してることぐらい知ってるよ。バカにすんな」

 

 「っ・・・」

 

 「それを出会って数ヶ月の俺が知ってるのに、幼馴染の千歌さんが知らないわけないでしょ。『やりにくい』なんて思うわけないでしょうが」

 

 曜さんを睨みつける俺。

 

 「千歌さんを舐めんな。幼馴染のアンタが理解してなくてどうすんだよ」

 

 「・・・ゴメン」

 

 俯く曜さん。

 

 俺は溜め息をつくと、曜さんの隣に腰を下ろした。

 

 「・・・今日の最後の練習、梨子さんの歩幅でやってたでしょ」

 

 「っ!?何で・・・」

 

 「いつも練習見てるんだから、分からないわけないでしょ」

 

 千歌さんは梨子さんの歩幅に慣れてしまっていた為、なかなか曜さんに合わせることが出来なかった。

 

 だから曜さんは自分の歩幅を捨て、梨子さんの歩幅を再現することで千歌さんに合わせた。

 

 最後に二人がピッタリ合ったのはその為だ。

 

 「あれじゃ曜さんが報われないでしょうが。どっちかが犠牲になるダブルセンターなんて、見てて悲しいですよ」

 

 「でも、合わせる為にはああするしか・・・」

 

 「言ったでしょ、サポートするって」

 

 曜さんの頭を撫でる俺。

 

 「千歌さんと曜さんの、新しい形を作りましょう。二人にしか出来ない形が、きっとありますから」

 

 「天くん・・・」

 

 「それに・・・そう思ってるのは多分、俺だけじゃないですよ」

 

 「え・・・?」

 

 

 

 『曜ちゃあああああんっ!』

 

 

 

 曜さんが首をかしげた瞬間・・・外から千歌さんの声がした。

 

 おいおい・・・

 

 「千歌ちゃん!?え、天くんが呼んだの!?」

 

 「いや、全く・・・奇跡的な偶然に、俺も心底驚いてるところです」

 

 まさかこんなタイミングでご本人登場とは・・・

 

 凄いなあの人・・・

 

 

 

 『曜ちゃあああああんっ!』

 

 

 

 「ほら、呼んでますよ」

 

 曜さんの背中を押す俺。

 

 「行って下さい。そして話をしてきて下さい。今の曜さんには、一番必要なことでしょうから」

 

 「天くん・・・うん、行ってくる!」

 

 「行ってらっしゃい」

 

 部屋を飛び出す曜さんを、笑みを浮かべて見送る俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

年が明けたということで、母方の親戚が集まる新年会に行ってきました。

従姉妹達と話をしている中、米津玄師さんの話になったんですが・・・



従姉妹「米津玄師って凄いよね。『Lemon』も大ヒットしたし、米津玄師の作った『パプリカ』も凄い人気じゃん」

俺「確かにねぇ」



それを聞いていたおばあちゃんが、会話に入ってきたんですが・・・



おばあちゃん「えっ、米津さんって農家の人なの?」



いや違ううううううっ!?Σ(゜Д゜)

『Lemon』も『パプリカ』も曲のタイトルうううううっ!?Σ(゜Д゜)

笑いに包まれた新年会なのでした(笑)



さてさて、本編では天が曜ちゃんの家にお泊まりするというまさかの展開(笑)

ちなみに曜ちゃんママですが、名前はいつも通り勝手につけました。

渡辺 星(せい)さんです。

確かアニメでチラッと出たはずですが、容姿も性格も勝手に決めてしまいましたので悪しからず・・・

最後に千歌ちゃんが登場しましたが、果たして曜ちゃんのモヤモヤは晴れるのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

改まってお礼を言われると照れ臭い。

久しぶりにカラオケに行きました!

やっぱり歌うって楽しいですね(^^)


 《曜視点》 

 

 「千歌ちゃんっ!」

 

 「曜ちゃんっ!」

 

 急いで外に出ると、千歌ちゃんが笑顔で立っていた。

 

 びっしょりと汗をかいており、側には自転車が置いてある。

 

 「もしかして、自転車でここまで来たの・・・?」

 

 「アハハ・・・バス終わってたし、美渡姉達も忙しそうだったから・・・」

 

 苦笑する千歌ちゃん。

 

 千歌ちゃんの家から私の家までは、それなりに距離がある。

 

 それを自転車で・・・

 

 「どうして・・・」

 

 「練習しようと思って」

 

 微笑む千歌ちゃん。

 

 「色々考えたんだけど・・・やっぱり曜ちゃん、自分のステップでダンスした方が良いと思うんだ。梨子ちゃんの動きじゃなくて、曜ちゃん自身の動きでやった方が良いよ」

 

 「っ・・・」

 

 千歌ちゃん、気付いてたんだ・・・

 

 「合わせるんじゃなくて、一から作り直そう?曜ちゃんと私の二人でさ」

 

 そう言って笑う千歌ちゃん。私の頭の中に、さっきの天くんのセリフが思い浮かんだ。

 

 

 

 『千歌さんと曜さんの、新しい形を作りましょう。二人にしか出来ない形が、きっとありますから』

 

 

 

 『それに・・・そう思ってるのは多分、俺だけじゃないですよ』

 

 

 

 千歌ちゃんが私のことを考えてくれてることに、天くんは気付いてたんだ・・・

 

 それなのに、私は・・・

 

 「何で・・・何で私の為に・・・」

 

 「何でって・・・そんなの、曜ちゃんと一緒にやりたいからに決まってるじゃん」

 

 笑いながら言う千歌ちゃん。

 

 「・・・私さ、昔から曜ちゃんの誘いを断ってばかりだったじゃん。やりたいことも見つからなくて、せっかく曜ちゃんが誘ってくれても遠慮しちゃってさ・・・凄く申し訳なく思ってたんだ」

 

 苦笑する千歌ちゃん。

 

 そんな風に思ってたんだ・・・

 

 「そんな私にも、スクールアイドルっていうやりたいことができて・・・曜ちゃんも一緒にやるって言ってくれて、本当に嬉しかったの。だからスクールアイドルは、絶対曜ちゃんと一緒にやり遂げたいんだ」

 

 「っ・・・!」

 

 涙が込み上げてきた。

 

 天くんの言う通りだ・・・私は千歌ちゃんのこと、何も分かってなかった・・・

 

 「私、バカだ・・・バカ曜だ・・・!」

 

 「バカ曜?」

 

 首を傾げる千歌ちゃん。

 

 私は我慢が出来ず、思いっきり千歌ちゃんに抱きついた。

 

 「うわぁっ!?ちょ、私汗だくだから汚れるよ?」

 

 「良いのっ!」

 

 「風邪引くよ?」

 

 「良いのっ!」

 

 「恥ずかしいって!」

 

 「良いのっ!」

 

 「もう、何?何で泣いてるの?」

 

 「良いのっ!」

 

 力いっぱい千歌ちゃんを抱き締めて泣く私。

 

 そんな私の頭を、千歌ちゃんが苦笑しながら撫でてくれていた。

 

 すると・・・

 

 「ちょっと曜?何玄関先で騒いで・・・」

 

 ママが玄関のドアを開けて顔を覗かせ・・・

 

 私と千歌ちゃんが抱き合っている様子を見て固まってしまった。

 

 「あっ、ママ・・・これは・・・」

 

 「あー・・・曜はそっちだったのね」

 

 「ちょ、違うから!そういうのじゃないから!」

 

 「大丈夫、ママは応援してるから。愛の形は人それぞれよ」

 

 「全然大丈夫じゃないよねぇ!?絶対勘違いしてるよねぇ!?」

 

 「千歌ちゃん、曜を幸せにしてあげてね・・・あ、曜が幸せにしてあげる方?」

 

 「だから違うって言ってるでしょうがああああああああああっ!?」

 

 絶叫する私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・無事に解決したみたいです」

 

 『それなら良かった』

 

 電話越しに、梨子さんの安心した声が聞こえる。

 

 ベランダから二人の様子を窺っていたところ、机の上に置いてあった曜さんのスマホに梨子さんから着信が入ったのだ。

 

 曜さんが自分のポジションに入ることを聞き、様子が気になって電話したらしい。

 

 『上手くいってないって聞いたから、ちょっと心配だったんだけど・・・』

 

 「誰から聞いたんですか?」

 

 『鞠莉さんよ。さっき電話がかかってきて、私からも何かアドバイスしてあげてくれって言われたの』

 

 「・・・なるほどねぇ」

 

 さてはアイツ、最初から見抜いてたな・・・

 

 素直になれずにすれ違った身として、曜さんに同じ思いをしてほしくなかったんだろう。

 

 「・・・ホント、鞠莉らしいわ」

 

 『・・・そういえば天くん、鞠莉さんのこと呼び捨てにするようになったわよね』

 

 「あぁ、本人がそうしろって言うんで」

 

 『ふぅん・・・』

 

 何故かちょっと不機嫌そうな声の梨子さん。

 

 どうしたんだろう?

 

 「ところで、今日から練習は始めてるんですか?」

 

 『一応ね。今日は慣らしで弾いた程度だけど、明日から本格的な追い込みをやるわ』

 

 東京ではホテルに泊まることになる為、練習はスタジオを借りてやるのだそうだ。

 

 ちなみに東京には奈々さんが前乗りしており、昨日のうちにホテルとスタジオの手続きを完了させたらしい。

 

 まるで梨子さんのマネージャーみたいだな・・・

 

 「追い込みすぎて身体を壊したら元も子も無いんで、無理だけはしないで下さいね」

 

 『心配してくれてありがとう。気をつけるわ』

 

 苦笑する梨子さん。

 

 『あっ、そろそろ戻らないと・・・じゃあ天くん、おやすみ』

 

 「おやすみなさい」

 

 電話が切れる。

 

 ピアノコンクール、上手くいくと良いんだけど・・・

 

 星さんに必死に弁明している曜さんを見下ろしつつ、梨子さんを案じる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 「・・・いの一番に寝やがりましたね、この人」

 

 「アハハ、疲れたんだよ」

 

 熟睡している千歌さんを見て、呆れる俺と苦笑する曜さん。

 

 結局あの後、千歌さんも曜さんの家に泊まることになったのだ。

 

 千歌さんは俺がいることにビックリしていたが、事情を聞いて『天くんらしいや』と言って笑っていた。

 

 「ところで、星さんの誤解は解けたんですか?」

 

 「・・・全然」

 

 ガックリうなだれる曜さん。

 

 「千歌ちゃんと一緒にお風呂入る時も、『二人だけの時間を楽しんでね!』って・・・もう何を言っても通じないよ・・・」

 

 「アハハ、ドンマイです」

 

 苦笑する俺。

 

 曜さんは知らないことだが、実は星さんは誤解などしていない。ただ単純に悪ノリして、曜さんの反応を面白がっているだけだ。

 

 まぁ俺としても面白いので、曜さんに本当のことを言うつもりは無いが。

 

 「さて、俺達もそろそろ寝ますか」

 

 「そうだね・・・あっ」

 

 「どうしました?」

 

 「いや、そういえば・・・布団が一つしか無いなって」

 

 「・・・あっ」

 

 そういえば、千歌さんが寝てるのって俺の布団じゃん・・・

 

 千歌さんは『曜ちゃんのベッドで一緒に寝る!』って言ってたから、他に布団は無いんだよな・・・

 

 「ハァ・・・仕方ないんで、俺は床で寝ます」

 

 「あれ、意外だね?天くんなら、千歌ちゃんを叩き起こすかと思ったのに」

 

 「・・・まぁ一応、今回のMVPなんで」

 

 千歌さんの頭を撫でる俺。

 

 本当に良いタイミングで来てくれたし、曜さんに必要な言葉もかけてくれたしな・・・

 

 流石、頼りになるリーダーだよ。

 

 「フフッ・・・天くんって、意外と千歌ちゃんを大事に想ってるよね」

 

 「意外とは失礼ですね。常に大事にしてるじゃないですか」

 

 「どこが!?頭とかメッチャ引っ叩いてるよねぇ!?」

 

 「愛情表現です」

 

 「歪んでない!?」

 

 曜さんのツッコミ。

 

 全く、失礼な人だなぁ・・・

 

 「まぁとにかく、俺は床で寝ますんで。座布団だけもらって良いですか?」

 

 「ハァ・・・お客さんを床で寝かせられるわけないでしょ?」

 

 曜さんは溜め息をつくと、自分が寝ているベッドの掛け布団をめくった。

 

 「ほら、こっちおいでよ」

 

 「え、まさかの夜のお誘い?」

 

 「違うわっ!一緒に寝ようって言ってるのっ!」

 

 「やっぱり夜のお誘いじゃないですか」

 

 「『寝る』ってそっちの意味じゃないよ!?いいからこっち来なさい!」

 

 「・・・失礼します」

 

 お言葉に甘え、曜さんのベッドにお邪魔する。

 

 そこまで大きなベッドではないので、二人で寝ると当然お互いの身体が触れ合ってしまう。

 

 「うぅ・・・」

 

 「・・・Aqoursって、羞恥プレイが好きな人の集まりなんですか?」

 

 「どんなグループ!?そんなわけないでしょ!?」

 

 この前の梨子さんといい、今回の曜さんといい・・・

 

 恥ずかしくなることが分かってるにも関わらず、こういうことやるんだもんなぁ・・・

 

 「っていうか天くん、さっきは鼻で笑ってたくせに意識してるじゃん」

 

 「・・・俺も一応男ですからね。こんな美少女と一緒のベッドに寝てたら、意識ぐらいしますよ」

 

 「ふぅん、そうなんだぁ♪」

 

 ニヤニヤしている曜さん。

 

 殴りたい、この笑顔・・・・

 

 「・・・はいはい、もう寝ますよ。明日も練習があるんですから」

 

 曜さんに背を向けて寝ようとすると・・・背中から優しく抱き締められた。

 

 「・・・今日はありがとね、天くん」

 

 耳元で曜さんの声がする。

 

 「私のことを心配して、わざわざ家にまで来てくれて・・・本当にありがとう」

 

 「・・・星さんの手料理が食べたかっただけです」

 

 「フフッ、素直じゃないなぁ」

 

 曜さんはクスクス笑うと、俺の身体に回している腕にキュッと力を込めた。

 

 「天くんが悩みを聞いてくれて、怒ってくれて、寄り添ってくれて・・・凄く嬉しかった。おかげでスッキリしたよ」

 

 「・・・大したことはしてませんよ。千歌さんのおかげです」

 

 「確かに、千歌ちゃんと話ができたことも大きかったけど・・・一番はやっぱり、天くんのおかげだから」

 

 曜さんはそう言って俺を離すと、俺の身体を自分の方に向けさせた。

 

 「ちょ、何を・・・」

 

 「ありがとう、天くん」

 

 「・・・どういたしまして」

 

 見つめられながらお礼を言われ、思わず視線を逸らしてしまう。

 

 こうやってお礼を言われると、どうにもむず痒いな・・・

 

 「全く、今日の曜さんは最後まで変ですね・・・」

 

 「・・・曜」

 

 「え・・・?」

 

 「曜で良いよ。敬語も使わなくて良いから」

 

 「何言ってるんですか?仮にも先輩でしょ貴女。仮にも」

 

 「仮じゃなくて本当に先輩なんだけど・・・天くんって私を怒ってくれる時、タメ口になるじゃん。『バカ曜』って呼び捨てにされるし、そっちの方が良いなって」

 

 「うわぁ・・・『バカ曜』って呼ばれたいとか、ただのドMじゃないですか・・・」

 

 「違うわっ!普通に曜って呼んでほしいのっ!」

 

 「いや、今更変えなくても・・・」

 

 「ふぅん・・・鞠莉さんは変えたのに、私は変えてくれないんだぁ・・・」

 

 「めんどくさいなこの人!?」

 

 膨れっ面になる曜さん。

 

 何でこういう時だけ強引なんだ・・・

 

 「ハァ・・・分かったよ、曜」

 

 「フフッ、合格」

 

 嬉しそうに微笑む曜なのだった。




どうも〜、ムッティです。

続・新年会の話。

伯母さんと従姉妹が、今日の夕飯について話していると・・・



伯母『今日の夕飯、何にしようか?』

従姉妹『んー、麺類にする?お父さん麺類好きだし』

伯母『あー、麺類ねぇ・・・そういえばお父さん、ボラギノール好きだよね』

従姉妹『ボラギノールが好き!?え、ボラギノールに好きとかあるの!?』

伯母『うん。外食する時はよく食べるみたい』

従姉妹『食べる!?ボラギノールを!?』

伯母『いや、普通に食べるでしょ?美味しいし』

従姉妹『お母さんも食べたことあるの!?え、二人揃って痔なの!?』

伯母『は?何言ってるの?』

従姉妹『いや、だってボラギノールって痔の薬でしょ!?』

伯母『あっ・・・ごめん、ボラギノールじゃないわ。カルボナーラだったわ』

従姉妹『どんな間違い!?』



新年会は再び笑いに包まれたのでした(笑)



さてさて、本編では曜ちゃんのモヤモヤが晴れたみたいです。

しかも天が、曜ちゃんを呼び捨てにすることになるという・・・

同じベッドで寝てるし・・・

けしからんヤツめ(゜言゜)

そんな天は梨子ちゃんを心配しているようですが、果たしてどうなるのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

何事にも切っ掛けがある。

あぁ、正月休みが終わってしまう・・・


 翌日・・・

 

 「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト・・・おぉ、揃ってるじゃん!」

 

 「良い感じですわ!」

 

 果南さんとダイヤさんが、千歌さんと曜の動きを賞賛する。

 

 昨日の夜、何度も練習した成果が出たようだ。

 

 「えへへ、やったね曜ちゃん!」

 

 「うんっ!」

 

 嬉しそうにハイタッチする二人。

 

 良かった良かった・・・

 

 「フフッ、微笑ましい顔しちゃって」

 

 後ろから鞠莉が抱きついてくる。

 

 「ウチの敏腕マネージャーが、今回も動いてくれたのかしら?」

 

 「さぁ、どうだろうね」

 

 はぐらかす俺。

 

 「どこぞの鋭いお嬢様が、梨子さんにまで根回ししたおかげじゃないの?」

 

 「あら、知ってたのね」

 

 いたずらっぽく舌を出す鞠莉。

 

 「天も曜の様子に気付いてるだろうし、動いてくれるとは思ったんだけどね。念の為、私も動いておこうと思って」

 

 「お気遣いどうも。今度はもっと率先して動いてくれると助かるんだけど」

 

 「それは天に任せるわ。私はいつまでも貴方の影よ」

 

 「何その黒子みたいなセリフ。俺は火神じゃないんだけど」

 

 「コラーッ!」

 

 そんな会話をしていると、曜がこっちを指差して叫んだ。

 

 「人が一生懸命練習してる時に、二人でイチャイチャしないのっ!」

 

 「いや、曜と千歌さんのイチャイチャには負けるわ」

 

 「誤解を招く発言は止めてくれる!?」

 

 「え、今『曜』って呼び捨てにした・・・?」

 

 「しかもタメ口・・・?」

 

 驚いている皆。

 

 俺の後ろでは、鞠莉が頬を膨らませていた。

 

 「ちょっと天!?どういうことなの!?」

 

 「見ての通りデース」

 

 「私の真似は止めてくれる!?それより、どういうことか説明してちょうだい!」

 

 「色々あったんだよ、色々」

 

 「その色々を教えろって言ってるのっ!」

 

 「んー・・・曜にベッドの上で抱きつかれて、そのまま・・・ね?」

 

 「「「「「「「ええええええええええっ!?」」」」」」」

 

 「ちょっとおおおおおおおおおおっ!?」

 

 皆が驚愕している中、慌てて詰め寄ってくる曜。

 

 「何で最後を意味深にするの!?何も無かったでしょうが!」

 

 「あぁ、俺とは何も無かったよね・・・俺とは」

 

 「何その強調の仕方!?」

 

 「曜は千歌さんと一緒にお風呂に入って、そのまま・・・ね?」

 

 「わざとだよねぇ!?絶対確信犯だよねぇ!?」

 

 曜が俺の胸ぐらを掴んで揺らす中、果南さんが千歌さんに詰め寄っていた。

 

 「千歌!?今の話は本当なの!?」

 

 「うん、曜ちゃんと一緒にお風呂に入ったよ!気持ち良かった!」

 

 「気持ち良かった!?」

 

 「果南ちゃん深読みしないで!?お風呂が気持ち良かったんだよね、千歌ちゃん!?」

 

 「うん!あと曜ちゃんに身体を洗ってもらって、凄くスッキリした!」

 

 「スッキリした!?」

 

 「だから深読み止めて!?背中を流しただけだから!」

 

 「あと曜が、千歌さんを情熱的に抱き締めたりとかね」

 

 「天くんんんんんんんんんん!?余計なこと言わないでくれる!?」

 

 「そうそう、アレはビックリしたよ!ずっと『良いのっ!良いのっ!』って・・・」

 

 「千歌ちゃんんんんんんんんんん!?その言い方は誤解されるってば!?」

 

 曜が悲鳴をあげる中、皆ドン引きしていた。

 

 「曜・・・いつの間にそういう方向に・・・」

 

 「果南ちゃん!?違うからね!?」

 

 「安心しなさい曜。愛の形は人それぞれよ」

 

 「鞠莉ちゃん!?ママと同じこと言わないでくれる!?」

 

 「曜さん・・・私達は温かく見守っていますわ・・・」

 

 「ダイヤさん!?そう言いながら何で距離をとるんですか!?」

 

 「ねぇねぇ、『そういう方向』って何?」

 

 「ルビィは知っちゃダメよ」

 

 「マル達と一緒に大人しく離れるずら」

 

 「だから違うってばああああああああああっ!?」

 

 「まぁそういうわけなんで、皆さんこれからも温かく曜を見守ってあげて下さいね」

 

 「「「「「「はーい」」」」」」

 

 「・・・もう帰りたい」

 

 「曜ちゃん?何で落ち込んでるの?」

 

 首を傾げる千歌さん。

 

 どうやら無自覚で曜を追い込んでいたらしい。

 

 「ほら曜、何落ち込んでんの。練習やるよ」

 

 「元凶は天くんでしょうが!」

 

 ウガーッと威嚇してくる曜に苦笑していると、俺のスマホにメールが届いた。

 

 「ん?何だろう・・・おっ、予備予選の順番が決まったみたいですよ」

 

 「えっ、ホント!?」

 

 「えぇ、割と早い順番ですね。恐らくですけど、午前中には回ってくるんじゃないかと思います」

 

 「午前中ですか・・・となると、尚更前日までに完璧にしておきませんと・・・」

 

 顎に手をやるダイヤさん。

 

 午前中かぁ・・・ん?

 

 「千歌さん、梨子さんのピアノコンクールって、午後からでしたよね?」

 

 「え?あ、うん。だから梨子ちゃんの出番は、夕方くらいになりそうって言ってたよ」

 

 「夕方・・・」

 

 Aqoursの出番は午前中に終わって、梨子さんの出番は夕方頃か・・・

 

 「・・・よし」

 

 「天くん?」

 

 千歌さんが首を傾げる中、俺は皆の顔を見渡すのだった。

 

 「ちょっと相談したいことがあるんですけど・・・」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「・・・ふぅ」

 

 練習を終え、椅子にもたれかかる私。

 

 明日はいよいよピアノコンクールということで、今日は最後の追い込みをしていたのだ。

 

 「お疲れ様」

 

 目の前にペットボトルの水が差し出される。

 

 私は笑顔でそれを受け取った。

 

 「ありがとうございます、真姫さん」

 

 「どういたしまして」

 

 微笑む真姫さん。

 

 最後にどうしても真姫さんの意見を聞きたくて、忙しい中をわざわざ来てもらったのだ。

 

 「すみません、お時間を作っていただいて・・・」

 

 「構わないわよ。私も梨子が弾くピアノを聴いてみたかったし」

 

 笑う真姫さん。

 

 「それに、梨子のことは天からも頼まれてるから」

 

 「えっ、天くんが!?」

 

 「えぇ。『ピアノ経験者としてアドバイスを求められるかもしれないから、その時はよろしくね』って」

 

 「・・・もう、天くんったら」

 

 流石は私達のマネージャー、その辺りもフォローしてくれていたようだ。

 

 「ところで梨子、この後って時間あるかしら?」

 

 「え?えぇ、特に予定は無いですけど」

 

 「もし良かったら、一緒に夕食を食べない?この辺りに美味しいお店があるのよ」

 

 「私で良ければ喜んで」

 

 「フフッ、決まりね」

 

 笑みを浮かべる真姫さん。

 

 その時、真姫さんのスマホが鳴った。

 

 「あら、誰かしら・・・って、もう着いたの?早いわねぇ」

 

 「どうかしたんですか?」

 

 「実は今日の夕食、あと二人来る予定でね。もうお店に着いちゃったんですって」

 

 苦笑する真姫さんなのだった。

 

 「私達も早く行きましょう。一人はともかく、もう一人は待たせると怒られちゃうわ」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「梨子!」

 

 「海未先生!」

 

 真姫さんとお店に行くと、お店の前で待っていた海未先生が笑顔でハグしてくれた。

 

 「お久しぶり・・・というほどでもありませんが、また会えて嬉しいです」

 

 「私もです。お元気そうで」

 

 「や~ん♡可愛い~♡」

 

 「うわっ!?」

 

 海未先生の隣にいた人に、いきなり抱きつかれる。

 

 えっ、何!?

 

 「ことり、初対面でいきなり抱きつくのは止めなさい。梨子が戸惑っているでしょう」

 

 「アハハ、ゴメンゴメン。可愛かったからつい」

 

 「『ことり』って・・・もしかして、南ことりさんですか!?」

 

 「はい、南ことりです♪」

 

 笑顔で自己紹介してくれる女性・・・南ことりさん。

 

 この人が・・・

 

 「っていうかアンタ達、来るの早いわよ」

 

 呆れている真姫さん。

 

 「待ち合わせの時間まで、まだ十五分もあるじゃない」

 

 「何を言っているのですか、真姫。五分前行動は常識ですよ」

 

 「いや、だからまだ十五分もあるんだってば。しかも海未から『着きました』っていう連絡来たの、三十分前だったでしょうが」

 

 「何を言っているのですか、真姫。三十分前行動は常識ですよ」

 

 「さっきより時間延びてるじゃない!?それで待たせると怒るんだから、理不尽にも程があるわよ!?この黒歴史ポエマー!」

 

 「ちょ、言ってはならないことを言いましたね!?このサンタクロース信者!」

 

 「アンタもそれ持ち出すの止めなさいよ!?もう真実知ってるから!」

 

 「二人とも相変わらずだね・・・」

 

 苦笑する南さん。

 

 「梨子ちゃん、私達は先に中に入ろう?」

 

 「は、はい・・・」

 

 ギャーギャー喚く二人をよそに、先にお店の中に入る私達なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「そっかぁ、天くんはマネージャーとして頑張ってるんだね」

 

 「えぇ、本当に支えてもらってます」

 

 食事をしつつ、ことりさんと会話する私。

 

 最初は『南さん』と呼んでいたのだが、『海未ちゃんと真姫ちゃんは名前呼びなのに、私だけ苗字呼びは嫌だ』と言って拗ねてしまったのだ。

 

 なのでそこから名前呼びに変更したのである。

 

 「あぁ、何か天くんに会いたくなってきちゃった・・・今から内浦行ってくる!」

 

 「落ち着きなさい、天依存症患者」

 

 隣に座っていた真姫さんが、呆れたようにことりさんの肩を掴む。

 

 「全く・・・ことりは本当に天を溺愛してるんだから・・・」

 

 「それは貴女も同じでしょう、真姫」

 

 「いや、海未ちゃんも大概だよね」

 

 三人は顔を見合わせると、おかしそうに笑い出した。

 

 仲が良いなぁ・・・

 

 「皆さん、天くんのことが本当に大好きなんですね」

 

 「勿論!」

 

 笑顔で頷くことりさん。

 

 「天くんが内浦へ行くって知った時は、私も一緒について行こうと思ったもん!」

 

 「あぁ、あの時は大変でしたね・・・本気で行く気でしたもんね・・・」

 

 「挙句の果てには大学まで辞めようとして・・・止めるの大変だったわ・・・」

 

 遠い目をしている海未先生と真姫さん。

 

 そ、そんなことがあったのね・・・

 

 「でも、どうしてそんなに天くんのことを・・・?」

 

 「んー、そうだねぇ・・・」

 

 ことりさんは宙を見上げると・・・柔らかい笑みを浮かべた。

 

 「・・・救われたから、かな」

 

 「救われた・・・?」

 

 「昔から私、人に遠慮しちゃうところがあってね。幼馴染の穂乃果ちゃんや海未ちゃんにさえ、ちょっと遠慮しちゃったりして・・・それで一度、μ'sを辞める寸前までいっちゃったことがあるの」

 

 「えぇっ!?」

 

 驚く私。

 

 それって結構な事件なんじゃ・・・

 

 「穂乃果ちゃんとも喧嘩しちゃって、そのまま喧嘩別れしちゃいそうだったんだけどね・・・そんな時、初めて天くんに怒られちゃって」

 

 苦笑することりさん。

 

 「『本当の気持ちに蓋をしたまま過ごしたって、辛い思いをするのはことりちゃんなんだよ!?』って。『そんな辛そうなことりちゃんを見るのは、俺も辛いんだよ!』って。あの時は泣いちゃったなぁ」

 

 「そうだったんですね・・・」

 

 「うん。その後穂乃果ちゃんとは仲直り出来て、μ'sも辞めずに済んで・・・だから天くんには、本当に感謝してるんだ」

 

 笑みを浮かべることりさん。

 

 「その一件があってからは、遠慮しすぎることも無くなったっていうか・・・特に天くんの存在が今まで以上に大きくなって、天くんの前ではありのままの自分でいられるようになったんだよね」

 

 「ありのまま過ぎて、見てるこっちは胸焼けしそうですけどね・・・」

 

 「あの甘々空間は、誰も入り込めないものね・・・」

 

 「アハハ・・・」

 

 げんなりした海未先生と真姫さんを見て、苦笑してしまう私。

 

 曜ちゃんからも聞いてはいたけど、よほど凄いらしわね・・・

 

 「そういえば梨子ちゃん、曜ちゃんは元気でやってる?」

 

 「曜ちゃんですか?えぇ、元気ですよ」

 

 「それなら良いんだけど・・・あの子、私と同じ匂いがするんだよね。人に遠慮しがちっていうか・・・」

 

 「あー・・・確かに、そういうところはあるかもしれませんね」

 

 「あっ、曜といえば・・・」

 

 海未先生は何かを思い出したようで、真姫さんとことりさんに呆れた視線を向けた。

 

 「二人とも、曜に天と絵里が喧嘩していることを話したでしょう。可哀想に、曜はそのことで思い悩んでいましたよ?」

 

 「えぇっ、ホント!?」

 

 「それは悪いことしたわね・・・」

 

 「まぁ私の方でフォローはしておいたので、大丈夫だとは思いますが・・・」

 

 「あっ、それなら大丈夫だと思います」

 

 慌てて言葉を挟む私。

 

 「実は私達、曜ちゃんから天くんとお姉さんの件を聞いたんですけど・・・その時に曜ちゃん、『絶対に仲直りするって海未先生が言ってたから大丈夫』って笑顔で言ってましたから。特に悩んでいる様子も無かったので」

 

 「そうでしたか・・・それなら良かったです」

 

 ホッとした様子の海未先生。

 

 「ですが確かに、曜はことりに似て遠慮がちなところがありますからね。それが原因で思い悩むことが無いと良いのですが・・・」

 

 「天くんが側にいるんだから大丈夫だよ。もしそうなっても、私の時みたいにちゃんと曜ちゃんを支えてくれるはずだよ」

 

 「そうね。それで曜がことりみたいに、天とイチャイチャしてなきゃ良いけど・・・」

 

 「やっぱり内浦行ってくる!」

 

 「落ち着きなさいことり!?急にどうしたのですか!?」

 

 「天くんとイチャイチャするのは私の特権なのっ!」

 

 「いつからアンタの特権になったのよ!?」

 

 騒ぐ三人を見て、思わず笑ってしまう私。

 

 ホントに愛されてるわね、天くんは・・・

 

 「っ・・・」

 

 何故かまたモヤモヤしてしまった。

 

 何なのかしら、この感じ・・・

 

 「梨子?どうしたのですか?」

 

 「い、いえっ!皆、今頃どうしてるかなぁと思いまして!」

 

 慌てて誤魔化す私。

 

 「そうね。予備予選も明日だものね」

 

 真姫さんはそう言って微笑むと、私の方を見た。

 

 「梨子は仲間を信じて、明日はコンクールに集中しなさい。私達も応援に行くから」

 

 「梨子の演奏、楽しみにしてますね」

 

 「梨子ちゃん、ファイト!」

 

 「あ、ありがとうございます!」

 

 真姫さんの言う通り、今は仲間を信じてコンクールに集中しないと・・・

 

 気持ちを入れ直す私なのだった。




どうも〜、ムッティです。

英語が話せるようになりたい(唐突)

この前駅のホームで電車を待っていたら、外国人の女の子三人に話しかけられまして・・・

どの電車に乗れば目的地に行けるのか分からず、自分に聞いてきたみたいで・・・

その時は英語が話せる人と一緒にいたので助かったのですが、『英語を理解して話せるようになりたい』と思いました(´・ω・`)

2020年は、改めて英語を学んでみようかな・・・



さてさて、本編では曜ちゃんがあらぬ誤解を受けましたが(笑)

梨子ちゃんがμ'sのメンバー三人と食事してましたね。

ここでの会話から分かると思いますが、天が曜ちゃんと重ねていたのはことりちゃんでした。

・・・はい、気付いてましたよね(笑)

感想でも『ことりちゃんですよね?』という声を多くいただきましたもんね(笑)

そして梨子ちゃん、またしてもモヤモヤしている模様・・・

果たしてピアノコンクールはどうなるのか・・・

そして予備予選はどうなるのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

どこにいても同じ明日を信じてる。

自己最長記録、7日連続投稿!

これは2020年、幸先の良いスタートが切れたのでは・・・


 《千歌視点》 

 

 「うぅ、緊張してきたぁ・・・」

 

 「ずらぁ・・・」

 

 表情が強張っているルビィちゃんと花丸ちゃん。

 

 遂に迎えた、ラブライブ予備予選当日・・・私達は、ステージ裏でスタンバイしていた。

 

 「フッ、情けないリトルデーモン達・・・このヨハネがついているというのに・・・」

 

 「そんなこと言いながら善子、足が震えてマース」

 

 「む、武者震いってやつよ!っていうかヨハネっ!」

 

 「ま、全く・・・こ、これしきのことで・・・き、緊張するなど・・・」

 

 「落ち着きなよダイヤ・・・」

 

 皆がそんなやり取りをしている中・・・私は曜ちゃんと顔を見合わせた。

 

 「曜ちゃん、頑張ろうね!」

 

 「うん!練習の成果を見せよう!」

 

 お互いの拳を合わせる。

 

 梨子ちゃんの為にも、絶対に負けるわけには・・・

 

 「はいはい、気負わないの」

 

 「イタタタタタッ!?髪が抜けるうううううっ!?」

 

 後ろから天くんに思いっきりアホ毛を掴まれた。

 

 「天くん!?何でここに!?」

 

 「客席で見るんじゃなかったの!?」

 

 「関係者はステージ裏に来ても良いっていうから、様子を見に来たんだよ」

 

 曜ちゃんと善子ちゃんの問いに答える天くん。

 

 「それに・・・渡したい物もあったし」

 

 「渡したい物?」

 

 私達が首を傾げていると、天くんが持っていた袋の中からシュシュを取り出した。

 

 「わぁ、可愛い!」

 

 「それどうしたずら!?」

 

 「実はこれ、梨子さんから皆へのプレゼントなんだよ」

 

 笑いながら答える天くん。

 

 「東京から送ってくれたんだけど、『本番前に皆に渡してほしい』って。色違いのシュシュが九個入ってたよ」

 

 天くんはそう言うと、袋の中のシュシュを私達に配り始めた。

 

 「千歌さんがオレ・・・ミカン色で、曜がライトブルーね」

 

 「今オレンジって言いかけたでしょ!?でもありがとう!」

 

 「ヨーソロー!」

 

 「花丸がイエロー、ルビィがピンク、善子がホワイトね」

 

 「やったずら!」

 

 「可愛いっ!」

 

 「フッ、褒めてつかわす」

 

 「ボッシュート」

 

 「わあああああっ!?嘘ですごめんなさい!ありがとうございます!」

 

 「やれやれ・・・ダイヤさんがレッド、果南さんがエメラルドグリーン、鞠莉がヴァイオレットね」

 

 「ありがとうございます」

 

 「梨子ちゃんに感謝しないとね」

 

 「フフッ、そうね」

 

 全員の手にシュシュが行き渡る。

 

 「あれ?天くんのは?」

 

 「もう付けてますよ」

 

 そう言って右手を上げる天くん。

 

 その手首には、虹色のシュシュが着けられていた。

 

 「おぉ、虹色ずら!」

 

 「天くんが虹色って、ちょっと意外かも」

 

 「スカイブルーとかだと思ってたわ」

 

 「俺も意外だったんだけどね」

 

 花丸ちゃん・ルビィちゃん・善子ちゃんの言葉に苦笑する天くん。

 

 「梨子さんが、『天くんは皆の架け橋だから』って」

 

 「Wow!それでRainbowなのね!」

 

 「そういう理由なら、確かに天にピッタリかも」

 

 「フフッ、なかなか粋な理由ですわね」

 

 納得している鞠莉ちゃん・果南ちゃん・ダイヤさん。

 

 天くんは笑うと、私達全員の顔を見渡した。

 

 「梨子さんも今日、サクラピンクのシュシュを着けて本番に臨むそうです。俺達もこのシュシュを着けて、梨子さんの分まで頑張りましょう」

 

 「「「「「「「「おーっ!」」」」」」」」

 

 私達はそれぞれ、もらったシュシュを自分の手首に着けた。

 

 何だか、梨子ちゃんが側にいてくれてるみたい・・・

 

 「・・・ありがとう、天くん。おかげで緊張せずに済みそう」

 

 「お礼なら後で梨子さんに言って下さい。俺は渡しただけですよ」

 

 笑みを浮かべる天くん。

 

 良いタイミングで来てくれて、皆の緊張をほぐしてくれて・・・

 

 ホント、良いマネージャーに恵まれたよ・・・

 

 「よし、円陣組もっか!」

 

 「よし来た!」

 

 「気合い入れよう!」

 

 私を中心に、皆が輪になる。

 

 あっ、そういえば・・・

 

 「天くんは・・・入ってくれる?」

 

 「・・・ここで『入らない』なんて言ったら、皆の士気が下がるでしょ」

 

 苦笑する天くん。

 

 「入りますよ。Aqoursのマネージャーなんですから」

 

 「天くん・・・」

 

 「フフッ、そうこなくっちゃ!」

 

 曜ちゃんはそう言って笑うと、天くんの手を引っ張って自分と果南ちゃんの間に天くんを入れた。

 

 「それじゃあ皆、手を出して」

 

 私が手を出すと、その上に次々と皆の手が重ねられる。

 

 全員出した手は右手・・・梨子ちゃんからもらったシュシュを着けた方の手だ。

 

 「さぁ、行こう!ラブライブに向けて!私達の第一歩に向けて!今、全力で輝こう!」

 

 声を張り上げる私。

 

 

 

 「Aqours~っ!」

 

 「「「「「「「「「サ~ンシャイ~ン!」」」」」」」」」

 

 

 

 皆の手が頭上へと上げられる。

 

 心を一つにした私達は、いよいよ自分達の出番を迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「天!こっちこっち!」

 

 「はいはい」

 

 美渡さんに手招きされ、隣の席に座る俺。

 

 さて・・・

 

 「星さん、応援の準備は出来てますか?」

 

 「勿論だよ!曜に声援を送らなきゃ!」

 

 「善恵さん、録画の準備は大丈夫ですか?」

 

 「バッチリよ!善子の勇姿をしっかり撮らないと!」

 

 「西華さん、気合い入ってますか?」

 

 「当然じゃないか!果南に負けないくらい気合い入ってるよ!」

 

 「よし、応援するぞーっ!」

 

 「「「おーっ!」」」

 

 「アンタ何でメンバーのお母さん達とそんなに仲良くなってんの!?」

 

 美渡さんのツッコミ。

 

 いや、何でって・・・

 

 「愚問ですよ、美渡さん・・・マネージャーだからです」

 

 「答えになってないんだけど!?」

 

 「まぁまぁ、細かいことは良いじゃない美渡ちゃん」

 

 「そうよ美渡ちゃん。今は応援に集中しましょう」

 

 「気合い入れな美渡。ここから先は戦争だよ」

 

 「何か最後物騒なこと言いませんでした!?ってか曜ちゃんのお母さんはともかく、後のお二人は初対面ですよねぇ!?何でそんなにフレンドリーなんですか!?」

 

 「甘いですよ、美渡さん。それを言ったら、この三人が顔を合わせるのは今日が初めてなんですから」

 

 「嘘でしょ!?それでこのノリ!?」

 

 愕然としている美渡さん。

 

 まぁそれには理由があるんだけどね。

 

 「実は少し前から、メンバーの母親によるグループラインをやってるんですよ。俺も参加してるんですけど」

 

 「何でアンタも参加してんのよ!?」

 

 「グループを立ち上げたのが俺だからです」

 

 「まさかの発起人!?」

 

 「まぁそんなわけで、そこで交流してきたからこそ皆仲良しなんですよ」

 

 「「「「ね~♪」」」」

 

 「・・・頭痛くなってきた」

 

 頭を抱える美渡さん。

 

 奈々さんを始め、今日来ることが出来なかったお母さん達の分まで応援せねば・・・

 

 「っていうか、何で俺の嫁が来てないんですか」

 

 「サラッと『俺の嫁』呼ばわりしてるし・・・残念ながら志満姉は・・・」

 

 「旅館の仕事があるからお留守番でしょ。グループラインで連絡来ましたよ」

 

 「志満姉もグループライン参加してるんだ!?」

 

 「当然でしょう・・・あっ、そろそろ始まりますね」

 

 会場が暗くなり、ステージが照らされる。

 

 Aqoursの八人がステージ上でスタンバイしており、後は曲が流れるのを待つのみの状態だった。

 

 そして・・・

 

 

 

 「お~も~い~よひとつになれ~♪」

 

 

 

 千歌さんが歌い出す。

 

 Aqoursの新曲『想いよひとつになれ』だ。

 

 

 

 「こ~の~と~きを待っていた~♪」

 

 

 

 周りの皆が、ピアノを弾いているかのように踊る。

 

 そして・・・

 

 「うおおおおおっ!千歌あああああっ!」

 

 「曜最高おおおおおっ!」

 

 「善子おおおおおっ!可愛いわよおおおおおっ!」

 

 「良いぞ果南んんんんんっ!」

 

 最初の静かな曲調から盛り上がった途端、皆が大きな声で声援を送る。

 

 ダンスも揃っているので今のところ大丈夫そうだが、問題なのは・・・

 

 

 

 「な~に~か~をつかむことで~♪」

 

 

 

 ここだ。千歌さんと曜が何度も失敗したところ・・・

 

 

 

 「な~に~か~をあきらめない~♪」

 

 

 

 「よしっ!」

 

 無事に成功し、思わず声が出てしまう。

 

 ホッとしていると、ステージ上で踊る曜と目が合い・・・『どうだ!』と言わんばかりにウインクされた。

 

 「・・・ハハッ、流石だわ」

 

 俺は苦笑しつつ、曜に向かって親指を立てるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「いやぁ、最高だった!」

 

 テンションマックスの美渡さん。

 

 パフォーマンス終了後、Aqoursの皆には観客達から惜しみない拍手が送られていた。

 

 「曜、輝いてたなぁ・・・!」

 

 「うぅ、善子・・・立派になって・・・!」

 

 「やるじゃないか、果南!」

 

 星さん・善恵さん・西華さんも感動している。

 

 本当に良いパフォーマンスだった。

 

 「・・・よし」

 

 Aqoursのパフォーマンスは見届けることが出来た。

 

 後は・・・

 

 「天、すぐに車持ってくるから。会場の前で待ってて」

 

 「お願いします、星さん」

 

 「んっ?」

 

 席を立つ星さんを、不思議そうに眺める美渡さん。

 

 一方、西華さんが俺に手提げバッグを渡してくれる。

 

 「天、これ途中で食べな。向こうに着いたら時間も無いだろうし」

 

 「おぉ、お弁当ですか?ありがとうございます、西華さん」

 

 「んんっ?」

 

 よく分かっていない美渡さん。

 

 席から立ち上がる俺に、善恵さんが親指を立てた。

 

 「行ってらっしゃい、天くん。気を付けてね」

 

 「ありがとうございます、善恵さん。行って来ます」

 

 「ちょ、ちょっと待って!?」

 

 慌てて間に入ってくる美渡さん。

 

 「さっきから何を話してるの!?」

 

 「あぁ、美渡さんには言ってませんでしたね」

 

 苦笑する俺。

 

 「実はこれから、東京に行くんですよ」

 

 「東京!?何で!?」

 

 美渡さんの問いに、笑みを浮かべて答える俺なのだった。

 

 「決まってるじゃないですか・・・俺がAqoursのマネージャーだから、ですよ」




どうも〜、ムッティです。

年が明けてから、早いもので1週間が経とうとしていますね。

仕事や学校が始まった方も多いのではないでしょうか?

休み明けはどうしてもしんどいかと思いますが、気合いを入れて頑張りましょうp(^-^)q

・・・行きたくないなぁ←



さてさて、前書きでも述べましたが・・・

何とムッティ史上最長記録、7日連続投稿を達成しました!わーい!

・・・調子に乗ってすいませんでした(土下座)

毎日のように投稿されている方もいらっしゃいますし、大した記録じゃないですね(´・ω・`)

そんな連続投稿ですが、とりあえず今回で止まりそうです。

理由は単純、正月休みが終わってしまったからです(´・ω・`)

なのでまたマイペースな投稿になるかと思いますが、御容赦下さいませ(>_<)



そして本編では、遂に予備予選当日を迎えましたね!

梨子ちゃんからもらったシュシュを着け、無事にパフォーマンスを終えたAqours・・・

そんな中、天は東京へ行く模様・・・

果たしてその目的とは・・・

あ、ちなみにシュシュの色なんですが・・・

善子ちゃんのシュシュって、あれ何色なんですかね?

担当カラーは白だけど、サイリウムとかは青系のものが使われているとは聞いたことあるんですが・・・

とりあえずこの作品では、メンバーの担当カラーにしておきました。

にわかファンでスミマセン(>_<)

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

頼りになるのはいつだって仲間である。

μ'sのあのメンバーが初登場します!

誰なのか楽しみにしておくにゃ!←


 《梨子視点》 

 

 「梨子、しっかりね」

 

 「はいっ!」

 

 真姫さんの言葉に頷く私。

 

 私達は今、ピアノコンクールの会場のロビーにいた。

 

 これから本番を迎える私を、真姫さん・海未先生・ことりさんが激励しに来てくれたのだ。

 

 「私達は客席から応援してるから。頑張ってね、梨子ちゃん」

 

 「ありがとうございます」

 

 ことりさんにお礼を言う私。

 

 すると、海未先生が前に進み出た。

 

 「行ってらっしゃい、梨子・・・楽しんで来て下さいね」

 

 「っ・・・」

 

 その言葉を聞いた途端、私の頭に天くんの顔が浮かんだ。

 

 そんな私の表情を見て、面白そうに笑う海未先生。

 

 「フフッ・・・天にも同じことを言われたのではありませんか?」

 

 「っ・・・どうしてそれを・・・?」

 

 「私達も、同じことを言われてきましたから」

 

 苦笑する海未先生。

 

 「本番前に緊張していると、『楽しんで来てね』『こんな経験は今しか出来ないよ』って。その言葉に、ずいぶんと勇気づけられたものです」

 

 「分かる分かる。天くんの言葉を聞くと、不思議と勇気が湧いてくるんだよね」

 

 「当時の私達にとっては、あれほど強い味方もいなかったわね」

 

 海未先生の言葉に頷くことりさんと真姫さん。

 

 私も天くんの言葉に救われてきた身として、その気持ちが良く分かった。

 

 「梨子~?」

 

 名前を呼ばれて振り向くと、お母さんがこっちへ歩いてくるところだった。

 

 「そろそろ時間・・・ってあら、海未ちゃんと真姫ちゃんじゃない!」

 

 「こんにちは」

 

 「どうも」

 

 笑顔で挨拶を交わす三人。

 

 海未先生も真姫さんも、内浦にいた時にお母さんとは顔を合わせていた。

 

 「わざわざ応援に来てくれたのね!嬉しいわぁ・・・ってことりちゃん!?」

 

 「ご無沙汰してます、奈々さん」

 

 笑顔で一礼することりさん。

 

 そういえば、ウチのお母さんとことりさんのお母さんって知り合いなのよね・・・

 

 私はことりさんとは会ったことが無かったけど、どうやらお母さんは会ったことがあるようだ。

 

 「しばらく見ない間に、また一段と可愛く・・・いや、綺麗になったっていうべきかしら?ますますお母さんそっくりになっちゃって」

 

 「フフッ、ありがとうございます」

 

 「お母さんの学生時代と同じで、周りの男達が放っておかないんじゃない?彼氏の一人や二人いるでしょ?」

 

 「ちょ、お母さん!?そんな質問・・・」

 

 「私は天くん一筋なので、彼氏がいたことはありません♪」

 

 「ちょっと聞いた梨子!?強力なライバル出現よ!?」

 

 「わ、私は別に・・・!」

 

 「天一筋と言うなら、私もですよ。ことりだけではありません」

 

 「海未ちゃんも!?」

 

 「そ、天は渡しませんからねっ!」

 

 「真姫ちゃんまで!?大変よ梨子!これはもう戦争よ!?」

 

 「だから私は・・・!」

 

 どうしようもなく胸がモヤモヤしてしまった。

 

 もう、こんな時に・・・!

 

 「っていうか、そろそろ時間なんでしょ!?早く行かないと!」

 

 「あっ、そうだったわね」

 

 ようやく本来の用件を思い出したお母さん。

 

 「控え室までは私も付き添うから。海未ちゃん、真姫ちゃん、ことりちゃん、すぐに戻って来るから待っててくれる?一緒にコンクールを見ましょう」

 

 「分かりました。梨子、行ってらっしゃい」

 

 「応援してるわよ」

 

 「ファイト!」

 

 「は、はいっ!」

 

 私は三人に一礼すると、控え室に向けて歩き出した。

 

 全く、お母さんったら・・・

 

 「・・・天くん」

 

 胸がモヤモヤしつつも、何故だか無性に天くんに会いたくなる私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「相変わらず人が多いなぁ・・・」

 

 周りを見渡し、苦笑する俺。

 

 星さんに車で駅まで送ってもらった俺は、新幹線に乗って東京駅へとやって来ていた。

 

 今回はあまり時間も無かったので、お金はかかるが新幹線を利用したのだ。

 

 果南さんのところでアルバイトしてて良かった・・・

 

 「さて、待ち合わせ場所はこの辺りなんだけど・・・」

 

 「天くううううううううううんっ!」

 

 「ごふっ!?」

 

 辺りを見回していると、全速力で走ってきた女性に思いっきり抱きつかれた。

 

 凄まじい衝撃だった・・・

 

 「会いたかったにゃああああああああああっ!」

 

 「はいはい、俺もだよ」

 

 苦笑しつつ、女性の頭を撫でる俺。

 

 「久しぶり、凛ちゃん」

 

 「久しぶりにゃ!」

 

 満面の笑みを浮かべる女性・・・星空凛ちゃん。

 

 言わずもがな、μ'sのメンバーである。

 

 「今回は急に頼み事しちゃってゴメンね」

 

 「全然問題ないにゃ!大学も夏休みに入ったから暇してたにゃ!」

 

 「なら良いんだけど・・・っていうか、ちゃんと進級出来た?」

 

 「かよちんのおかげでバッチリにゃ!」

 

 グッと親指を立てる凛ちゃん。

 

 現在大学三年生の凛ちゃんは、花陽ちゃんと同じ大学に通っている。

 

 勉強面で色々と苦労している凛ちゃんは、花陽ちゃんにずいぶんと助けられているらしい。

 

 花陽ちゃんも大変だなぁ・・・

 

 「それより、時間の方は大丈夫なのかにゃ?」

 

 「あっ、そうだった・・・じゃあ凛ちゃん、目的地までよろしく」

 

 「任せるにゃ!」

 

 ドンッと胸を叩く凛ちゃん。

 

 凛ちゃんはバイクの免許を取得しており、自分のバイクも持っている。

 

 今回は凛ちゃんにお願いして、駅から目的地までバイクに乗せてもらうことになっていた。

 

 「フルスピードでぶっ飛ばすにゃ!」

 

 「うん、お願いだから安全運転でよろしく」

 

 「フッ・・・そんなもの、ゴミ箱に捨ててやったにゃ」

 

 「今すぐ拾って来いバカ猫」

 

 「辛辣!?」

 

 「ってか、その語尾はいつまで続けるの?」

 

 「これは凛のアイデンティティにゃ!これが無くなったら凛じゃないにゃ!」

 

 「うわぁ・・・凛ちゃん、よく『アイデンティティ』なんて言葉知ってたね」

 

 「そっち!?凛だってそれぐらい知ってるにゃ!」

 

 「はいはい、偉い偉い」

 

 「子供扱いは止めてほしいにゃ!?」

 

 ギャーギャー・・・いや、ニャーニャー騒ぐ凛ちゃん。

 

 相変わらず面白いなぁ・・・

 

 「ぬぐぐぐ・・・昔は凛と同じくらいの身長だったのに、今じゃ完全に見下ろされてるにゃ・・・!」

 

 「・・・ハッ」

 

 「にゃあああああっ!腹立つにゃあああああっ!」

 

 地団太を踏む凛ちゃん。

 

 まぁそういう凛ちゃんも、μ'sの頃よりだいぶ大人っぽくなっている。

 

 ショートヘアだった髪は肩にかかるくらいまで伸びており、今日はそれをポニーテールに結ってあった。

 

 見た目は十分女子大生である。

 

 「・・・フフッ」

 

 急に笑い出す凛ちゃん。

 

 どうしたんだろう?

 

 「・・・元気そうで安心したにゃ。絵里ちゃんと喧嘩したせいか、内浦に行く前の天くんは元気無かったから」

 

 「凛ちゃん・・・」

 

 どうやら、ずいぶん心配させてしまっていたらしい。

 

 申し訳ないことをしたな・・・

 

 「・・・ゴメンね、凛ちゃん」

 

 「お詫びに今度、内浦での話を聞かせるにゃ。根掘り葉掘り聞くから覚悟するにゃ」

 

 「・・・了解。たっぷり話してあげるよ」

 

 「フフッ、約束にゃ」

 

 凛ちゃんはそう言って笑うと、俺の手を握って歩き出すのだった。

 

 「それじゃあ、キッチリ送り届けてあげるにゃ・・・ピアノコンクールの会場まで!」




どうも〜、ムッティです。

さてさて、今回はμ'sの星空凛ちゃんが登場しましたね。

大学三年生となった凛ちゃんですが、語尾に『にゃ』をつけるのは相変わらずのようです。

ちなみに髪型ですが、前にTwitterで見たイラストを参考にさせていただきました。

ポニテ凛ちゃん、可愛かったんだよなぁ・・・

あとロングヘアー凛ちゃんもあったんですけど、あれも可愛かったなぁ・・・

っていうか、凛ちゃんのお母さんも可愛いんだよなぁ・・・←

劇場版でチラッと出てきましたけど、可愛すぎません?

この作品でも出せたら良いなぁ・・・

さて、天はどうやらピアノコンクールの会場へと向かう模様・・・

次の話では、何と梨子が・・・おっと、誰か来たようだ。

明日投稿予定ですので、お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

これが恋と知ってしまったんだ。

前回の話で凛ちゃんを『大学二年生』と表記しましたが、正しくは『大学三年生』でした。

海未ちゃんが大学四年生なので、一学年下の凛ちゃんは大学三年生のはずですよね・・・

修正しておきました。すみません。

ちなみにタイトルは、乃木坂46の『今、話したい誰かがいる』の歌詞から取りました。

果たして、このタイトルの意味とは・・・


 《梨子視点》 

 

 「すぅ・・・はぁ・・・」

 

 椅子に座り、深呼吸を繰り返す私。

 

 既にコンクールは始まっており、私は自分の控え室で出番を待っていた。

 

 「・・・大丈夫」

 

 サクラピンクのシュシュを着けた右手首を、左手でギュっと握る。

 

 「私は一人じゃない・・・」

 

 緊張している自分を、奮い立たせるように呟く。

 

 そう、私は一人じゃない。天くんもそう言って・・・

 

 「っ・・・」

 

 天くんの顔が思い浮かぶ。

 

 天くん、今頃何してるのかな・・・

 

 「っ・・・ダメダメ!」

 

 首をブンブン横に振る。

 

 天くんのことを思い出すと、寂しさが募って無性に会いたくなってしまう。

 

 今は本番に向けて、集中しないと・・・

 

 「しっかりしなさい、私。心を落ち着かせるのよ」

 

 「そうそう、人前でパンツを晒さないように気を付けないと」

 

 「嫌なこと思い出させないでよ!?二回も天くんに見られて、死ぬほど恥ずかしかったんだから!」

 

 「一回目は桜色、二回目は白・・・三回目は何色でしょうね?」

 

 「遠回しに今日の下着の色を聞くの止めてくれる!?っていうかいい加減に・・・」

 

 そこまでツッコミを入れたところで、私はハッとした。

 

 私、今誰と会話を・・・っていうかこの声って・・・

 

 恐る恐る後ろを振り向くと、そこには・・・

 

 「お疲れ様です、梨子さん」

 

 天くんがニッコリ笑って立っていた。

 

 う、嘘でしょ・・・?

 

 「・・・夢?」

 

 「えいっ」

 

 「むぐっ!?」

 

 思いっきり両頬を引っ張られる。

 

 しっかり感触がある・・・夢じゃない・・・!

 

 「おぉ、柔らかい・・・ちょっとクセになるかも」

 

 「ふぁ、ふぁふぁふぃふぇ!(は、離して!)」

 

 「はいはい」

 

 大人しく離してくれる天くん。

 

 私は両頬を擦りつつ、未だ信じられない気持ちで天くんを見つめた。

 

 「な、何でここにいるの!?」

 

 「空間移動を使いました」

 

 「何その善子ちゃんみたいなセリフ!?」

 

 「いや、空間移動=善子っていう共通の認識は何なんですか?」

 

 呆れている天くん。

 

 だって何か善子ちゃんっぽいし・・・

 

 「って、そんなことはどうでもいいの!」

 

 「うわ、酷い・・・善子のことを『どうでもいい』だなんて・・・」

 

 「善子ちゃんのことじゃないわよ!?それより話を逸らさないで!」

 

 ここで天くんワールドに引き込まれるわけにはいかない。

 

 とりあえず、現状を把握しないと・・・

 

 「そもそも予備予選はどうしたの!?」

 

 「バッチリ見届けてきましたとも。凄く良いパフォーマンスでしたし、あれなら問題無く通過出来ると思いますよ」

 

 「ホント!?良かったぁ・・・じゃなくて!じゃあ何でここにいるの!?」

 

 「Aqoursの出番が終わってすぐ、会場を出て新幹線に乗ったんですよ。おかげで梨子さんの出番が来る前に、会場に着くことが出来ました」

 

 笑っている天くん。

 

 「ホント・・・駅まで送ってくれた星さんと、会場まで送ってくれた凛ちゃんには感謝しないと」

 

 「星さん?凛ちゃん?」

 

 「曜のお母さんと、μ'sの星空凛ちゃんです」

 

 「えぇっ!?今、曜ちゃんのこと呼び捨てにした!?」

 

 「食いつくところはそこですか・・・まぁ色々ありまして、本人から『呼び捨てにしてほしい』と言われたんです」

 

 「・・・そうなんだ」

 

 またしてもモヤッとしてしまう。

 

 本当にもう・・・

 

 「っていうか、いつ控え室に入ったの?そもそも関係者以外立ち入り禁止よ?」

 

 「梨子さん、一度控え室を出ましたよね?驚かせようと思って、あの時に入らせてもらいました。ちなみにここに来る前に奈々さんに会って、関係者用のパスを借りたので何の問題も無く入って来れましたよ」

 

 「お母さん・・・」

 

 頭を抱える私。

 

 何で勝手にパスを貸しちゃうかなぁ・・・

 

 「・・・どうして来てくれたの?」

 

 「え・・・?」

 

 「どうしてわざわざ・・・ここまで来てくれたの?」

 

 天くんはAqoursのマネージャーだ。

 

 本来であれば、予備予選を一番に優先しなければいけないはずなのに・・・

 

 いくらAqoursの出番を見届けたとはいえ、マネージャーとして皆の側にいてあげるべきなのに・・・

 

 どうして私なんかのところに・・・

 

 「どうしてって・・・そんなの決まってるじゃないですか」

 

 あっけらかんと答える天くん。

 

 「俺がAqoursのマネージャーだからですよ」

 

 「だから、それならAqoursを優先すべきで・・・!」

 

 「いるじゃないですか」

 

 「え・・・?」

 

 「いや、だから・・・いるじゃないですか。俺の目の前に、Aqoursのメンバーがもう一人」

 

 私を指差す天くん。

 

 「俺はAqoursのマネージャーですから。Aqoursのメンバー全員をサポートするのが、俺の仕事です」

 

 当然と言わんばかりの表情を見せる天くん。

 

 「メンバーの一人が、東京で頑張ってるんですよ?そりゃ来るに決まってるでしょう。サポートは全然出来ませんでしたけど、せめて応援ぐらいはと思いまして」

 

 苦笑する天くん。

 

 「当然皆にも話をして、ちゃんと了解を得てますよ。『私達の分まで応援してきてくれ』ですって」

 

 屈託の無い笑みで語る天くんを、私はただ呆然と見つめていた。

 

 じゃあ天くんは、最初から応援に来てくれるつもりだったってこと・・・?

 

 他でもない、私の為に・・・?

 

 「それで・・・来てくれたの・・・?」

 

 震える声でそう尋ねた。

 

 「東京までわざわざ・・・新幹線に乗ってまで・・・?」

 

 「梨子さんを応援する為ですもん。大した出費でも無いですよ」

 

 微笑む天くん。

 

 「それに・・・約束したじゃないですか」

 

 「約束・・・?」

 

 「ピアノコンクールに出ることを決めた時、梨子さん俺に言いましたよね?『Aqoursのこと・・・頼むわね』って。俺はこう答えたはずですよ。『勿論です。マネージャーですから』って」

 

 「っ・・・!」

 

 「その『Aqours』に、貴女も入ってるじゃないですか。俺は最初からそのつもりで、ああいう風に答えたんですよ?」

 

 悪戯っぽく笑う天くん。

 

 「どうにかして、両方を見届ける方法を考えてたんですよね。いやぁ、Aqoursの出番が午前中で本当にラッキーでした。おかげで梨子さんの出番に間に合ってぇっ!?」

 

 限界だった。

 

 笑顔で話している天くんに、私は思いっきり抱きついた。

 

 嬉しくて嬉しくて・・・涙が止まらなかった。

 

 「ちょ、梨子さん!?何で泣いてるんですか!?」

 

 慌てている天くん。

 

 

 

 

 

 私は気付いてしまった。

 

 

 

 もしかしたら、薄々は気付いていたのかもしれない。

 

 

 

 気付かないフリをして、目を逸らしていたのかもしれない。

 

 

 

 それでも・・・たった今、自分の気持ちを確かに認識してしまった。

 

 

 

 

 

 私は・・・天くんのことが好きなのだと。

 

 

 

 

 

 この心の優しい男の子に・・・恋をしているのだと。

 

 

 

 

 

 誰よりも私に寄り添ってくれる、誰よりも私の味方でいてくれる彼に・・・惚れてしまったのだと。

 

 

 

 

 

 今ならハッキリと分かる。

 

 

 

 天くんと鞠莉さんが一緒に寝ているところを見た時や、天くんについて楽しそうに話す真姫さん達を見た時・・・

 

 

 

 あの時に感じたモヤモヤは、嫉妬だったんだ・・・

 

 

 

 皆に嫉妬してしまうくらい、私は天くんに想いを寄せていたのね・・・

 

 

 

 

 

 「ありがとう・・・来てくれて・・・本当に・・・ありがとう・・・!」

 

 「・・・どういたしまして」

 

 優しく微笑み、私を抱き締めてくれる天くん。

 

 天くんと抱き合うのは初めてじゃないのに、胸のドキドキが止まらない。

 

 天くんの温もりに包まれながら、今までで一番の幸せを感じる私なのだった。




エンダアアアアアアアアアアイヤアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!

・・・いや、別に結ばれたわけでは無いんですけど(笑)

どうも〜、ムッティです。

さてさて、遂に梨子ちゃんが自分の気持ちに気付きました!

正真正銘、ガチヒロイン候補の誕生です!

・・・いや、他の皆もれっきとしたヒロイン候補ですけどね(笑)

今回天への気持ちに気付いた梨子ちゃんですが、正式なヒロインに決まったわけではありません。

他の皆も天に対して、多かれ少なかれ好意を抱いてますからね。

それが恋になるかはともかく、他のメンバーもまだまだヒロインになる可能性があります。

この先ヒロインが梨子ちゃんになるのか、それとも他の子がヒロインになるのか・・・

それを決めるのは・・・未来の自分です( ̄ー ̄)ドヤ

・・・すみません、優柔不断なせいで決まってないだけです(土下座)

この先物語を進めていく上で、『梨子ちゃんが良いな』と思えば梨子ちゃんにしますし・・・

『他の子が良いな』と思えば他の子にしますし・・・

それは本当に分からないので、皆さんにはこれからもこの作品にお付き合いいただけると幸いです。

いやホント・・・見捨てないで下さい(土下座)

さて、いよいよピアノコンクール本番・・・

果たして梨子ちゃんは、良い演奏が出来るのでしょうか・・・

次の話は明日投稿予定です!

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心は通じ合えるものである。

学戦都市アスタリスクの最新巻を読みました・・・

メッチャ面白かったあああああっ!!!!!

ユリスがっ!ユリスがあああああっ!!!!!

ホント早く続き読みたい(´・ω・`)


 《梨子視点》 

 

 「大丈夫!?目が腫れてたりしない!?」

 

 「若干赤いですけど、客席からは分からないと思いますよ?」

 

 「もう、天くんのせいよ!?あんなに私を泣かせるんだから!」

 

 「梨子さんが勝手に泣いたんでしょうが!ってか大声で誤解を招く発言しないでもらえます!?スタッフさん方の視線が痛いんですけど!?」

 

 ギャーギャー言い合いながら、会場の通路を歩く私と天くん。

 

 あの後すぐ、スタッフさんが私を呼びにやって来たのだ。

 

 いよいよ私の出番が迫っていた。

 

 「っていうか、そろそろステージ裏なんだけど・・・ついてきて大丈夫なの?」

 

 「ここまでは大丈夫ですけど・・・ここから先はダメみたいですね」

 

 立ち止まる天くん。

 

 私達の少し先には、ステージ裏に入ることが出来るドアがあった。

 

 その前には警備員さんが立っており、コンクール出場者と思われる女の子を通していた。

 

 「あの先はコンクールの出場者しか入れないんですって。だから俺が付き添えるのはここまでです」

 

 天くんはそう言うと、自分の右手を上げ・・・私に虹色のシュシュを見せた。

 

 私があげたやつ、着けてくれたんだ・・・

 

 「何度も言いますけど、梨子さんは一人じゃありませんから。俺も皆も、心は梨子さんと共にありますからね」

 

 「・・・うん、ありがとう」

 

 私も右手を上げ、サクラピンクのシュシュを見せた。

 

 今なら心から実感できる・・・私は一人じゃない。

 

 「頑張ってくるから。見ててね」

 

 「勿論です。梨子さんの勇姿、しっかりと目に焼き付けておきます」

 

 笑みを浮かべる天くん。

 

 ここで私は、あることを思い出した。

 

 「あ、そういえば・・・曜ちゃんのこと、呼び捨てにしてるのよね?」

 

 「え?えぇ、そうですけど・・・」

 

 「だったら、私のことも呼び捨てにしてくれるわよね?」

 

 「はい!?」

 

 「勿論敬語は無しで。タメ口で話してくれるわよね?」

 

 「ちょ、梨子さん!?」

 

 「梨子、でしょ?」

 

 「いや、梨子s・・・」

 

 「梨・子!」

 

 「・・・梨子」

 

 「それで良し♪」

 

 満面の笑みを浮かべる私。

 

 鞠莉さんや曜ちゃんが呼び捨てにされている今、これ以上遅れるわけにはいかないものね・・・

 

 「やれやれ・・・何で皆そんなに強引なのか・・・」

 

 「フフッ、天くんの強引さがうつったのかもね」

 

 「失礼な。『強引』という言葉から最も離れている男だというのに」

 

 「どこが!?」

 

 どうやら自覚は無いらしい。全く、これだから天くんは・・・

 

 私が呆れていると、天くんのスマホが鳴った。

 

 「あれ、誰だろう・・・おぉ、ナイスタイミング」

 

 「え?」

 

 首を傾げる私。天くんは笑みを浮かべると、電話に出てスピーカーモードに切り替えた。

 

 「もしもし?」

 

 『もしもし!?天くん!?』

 

 「千歌ちゃん!?」

 

 『あっ、その声は梨子ちゃん!二人が一緒にいるってことは、まだ梨子ちゃんの出番は来てないってこと!?』

 

 「えぇ、ちょうどこれから出番なんですよ」

 

 『おぉ、ナイスタイミング!』

 

 天くんと同じセリフを言う千歌ちゃん。

 

 『梨子ちゃんのこと考えてたら、居ても立っても居られなくて・・・でも今から直接電話したら迷惑かなと思って、梨子ちゃんに会いに行った天くんに電話したんだけど・・・一緒にいてくれて本当に良かった!』

 

 『梨子ちゃーん!』

 

 「曜ちゃん!?」

 

 今度は曜ちゃんの声が聞こえてくる。

 

 『頑張って梨子ちゃん!応援してるよ!』

 

 『梨子ちゃん!ファイトずら!』

 

 『頑張ルビィ!』

 

 『負けんじゃないわよ!』

 

 『緊張していませんか!?あっ、シュシュをくださってありがとうございました!それから・・・』

 

 『長いよダイヤ・・・梨子ちゃん、全力でピアノ弾いてきてね!』

 

 『内浦から応援してマース!』

 

 「皆・・・」

 

 皆からの温かい声援に、また涙が出そうになる。

 

 『梨子ちゃん』

 

 優しく呼びかけてくれる千歌ちゃん。

 

 『梨子ちゃんなら大丈夫。自信持って弾いてきて』

 

 「っ・・・ありがとう、千歌ちゃん!」

 

 涙を堪え、力強く答える私。緊張も不安も、もう一切無かった。

 

 仲間達が応援してくれている・・・そのことが、私の心に勇気を与えてくれていた。

 

 「桜内さん!スタンバイお願いします!」

 

 スタッフさんに呼ばれた。そろそろ行かなくちゃ・・・

 

 「皆、ありがとう!頑張ってくるからね!」

 

 私は皆にお礼を言うと、天くんと向き合った。

 

 「行ってくるね、天くん」

 

 「あ、その前に・・・」

 

 天くんはそう言うと・・・右手を私の前に突き出した。

 

 「円陣は出来ないけど・・・掛け声だけでも」

 

 「・・・フフッ、ありがとう」

 

 私は笑うと、天くんの右手に自分の右手を重ねた。

 

 「じゃあ千歌さん、今日二回目ですけどお願いします」

 

 『オッケー!任せて!』

 

 千歌ちゃんの息を吸う音が聞こえた。

 

 そして・・・

 

 

 

 『Aqours~!』

 

 

 

 「「『『『『『『『『サ~ンシャイ~ン!』』』』』』』』」」

 

 

 

 その時の私の目には・・・右手を頭上高く上げる皆の姿が、確かに映ったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「天くううううううううううんっ!」

 

 「ことりちゃああああああああああんっ!」

 

 「アンタ達、時と場所を考えなさいよ・・・」

 

 ひしと抱き合うことりちゃんと俺を見て、呆れている真姫ちゃん。

 

 梨子を見送った俺は客席へと移動し、皆と合流していた。

 

 「ずるいですよことり!天、私ともハグしましょう!」

 

 「オコトワリシマス」

 

 「そんなぁっ!?」

 

 「っていうか私のモノマネ止めてくれる!?」

 

 「にゃはははっ!メッチャ似てるにゃ!」

 

 「爆笑してんじゃないわよ凛!?」

 

 「あらあら、本当に仲が良いのねぇ」

 

 笑っている奈々さん。

 

 「ところで天くん、梨子の反応はどうだった?驚いてた?」

 

 「えぇ、ビックリしてました」

 

 笑みを浮かべる俺。

 

 ピアノコンクールを見に来ることは、事前に奈々さんや真姫ちゃん達に知らせていた。

 

 その上であえて梨子には伏せておいてもらい、サプライズで登場して驚かせようという作戦だったのだ。

 

 「梨子はもう大丈夫です。きっと梨子らしい演奏を聴かせてくれると思いますよ」

 

 「それなら良かった・・・え?」

 

 驚いている奈々さん。

 

 「天くん、今・・・梨子のこと呼び捨てにした・・・?」

 

 「本人がそうしろって言うんですよ。急にどうしたんでしょうね?」

 

 「よくやったわ梨子!流石は私の娘ね!」

 

 「はい?」

 

 何故かガッツポーズしている奈々さん。

 

 どうしたんだろう?

 

 「天くん!?私というものがありながらっ!」

 

 「どういうことですか天っ!」

 

 「イミワカンナイッ!」

 

 「急にどうしたの!?」

 

 凄い剣幕で詰め寄ってくることりちゃん・海未ちゃん・真姫ちゃん。

 

 一体俺が何をしたというのか・・・

 

 「やれやれ、天くんも罪な男だにゃ」

 

 呆れたように溜め息をつく凛ちゃん。

 

 いや、罪な男って・・・その言い方だと、まるで俺が女ったらしみたいじゃないか。

 

 「女ったらしだよね」

 

 「女ったらしですね」

 

 「女ったらしね」

 

 「女ったらしだにゃ」

 

 「何で人の心が読めるの!?」

 

 何なのこの人達、怖いんだけど・・・

 

 俺が恐怖を覚えていると、会場にアナウンスが流れた。

 

 『続きまして・・・浦の星女学院高等学校二年、桜内梨子さん』

 

 「っ・・・」

 

 遂に梨子の出番がやって来た。

 

 桜色のドレスに身を包んだ梨子が、凛とした表情で舞台袖から現れる。

 

 「梨子・・・」

 

 心配そうな表情で見つめる奈々さん。

 

 恐らく、以前のピアノコンクールのことを思い出しているんだろう。

 

 「大丈夫ですよ、奈々さん」

 

 微笑む俺。

 

 「Aqoursの桜内梨子は・・・以前とは一味違いますから」

 

 「天くん・・・そうね、信じてるわ」

 

 奈々さんはそう言って笑うと、再び梨子の方に視線を向けた。

 

 梨子は椅子に座ると、ゆっくりとピアノの鍵盤に手を置き・・・力強く弾き始めた。

 

 「凄い・・・」

 

 ことりちゃんが驚いたように呟く。

 

 初めて聴かせてもらった時にも感じたことだが、梨子の奏でる音は本当に綺麗で美しかった。

 

 優しくて、それでいて力強くて・・・いつまでも聴いていたいと思えるものだった。

 

 「これが梨子の弾くピアノ・・・」

 

 「凄いにゃ・・・」

 

 感心している海未ちゃんと凛ちゃん。

 

 口には出さないが、俺も梨子の演奏に感銘を受けていた。

 

 初めて聴かせてもらった時よりも、さらに心に響くものがあるというか・・・

 

 「・・・フフッ」

 

 笑みを零す真姫ちゃん。

 

 「今日の梨子、ノッてるわね」

 

 「ノッてる?」

 

 「えぇ。心の底から演奏を楽しんでるわ」

 

 微笑む真姫ちゃん。

 

 確かに今の梨子は、笑みを浮かべながらピアノを弾いていた。

 

 梨子の想いや感情が音に乗っている分、聴いている人の心により一層響くんだ・・・

 

 「・・・ハハッ、流石だわ」

 

 俺も笑みが零れた。

 

 やがて梨子の演奏が終わりを迎え、会場が静寂に包まれる。

 

 梨子はゆっくりと椅子から立ち上がると、客席に向かって深々と一礼した。

 

 その瞬間・・・会場中から盛大な拍手が沸き起こった。

 

 「凄いよ梨子ちゃんっ!」

 

 「素晴らしかったですっ!」

 

 「凛は感動したにゃ!」

 

 「良い演奏だったわ!」

 

 ことりちゃん・海未ちゃん・凛ちゃん・真姫ちゃんも惜しみない拍手を送る中・・・奈々さんは立ち上がり、涙ぐみながらステージ上の梨子を見つめていた。

 

 俺も立ち上がり、奈々さんに寄り添う。

 

 「良かったですね、奈々さん」

 

 「っ・・・えぇ、本当に・・・」

 

 涙を拭う奈々さん。

 

 「ありがとう、天くん・・・貴方のおかげよ」

 

 「俺は何もしてませんよ。梨子の努力の賜物です」

 

 笑みを浮かべながらステージ上へ視線を向けると、ふいに梨子と視線が合った。

 

 微笑み合い、どちらからともなく右手を上げる俺達。

 

 今この瞬間・・・俺と梨子の心は、確かに通じ合ったのだった。




どうも〜、ムッティです。

さてさて、天への恋心を自覚してしまった梨子ちゃんですが・・・

早速天に呼び捨て&タメ口を迫ってますね(笑)

積極的だなぁ、梨子ちゃん・・・

そんな天はというと、相変わらずことりちゃんとイチャイチャしているという・・・

くたばっちまえ(゜言゜)

さて、次の話は明日投稿する予定です!

μ'sのあのメンバーも登場する予定ですので、お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

喧嘩するほど仲が良い。

凛ちゃんに続いて、μ'sのあのメンバーが登場します!

カードがそう告げてるんや!←


 「感動したよ梨子ちゃん!」

 

 「えぇ、素晴らしい演奏でした!」

 

 「ありがとうございます」

 

 ことりちゃんと海未ちゃんに絶賛され、照れ笑いを浮かべる梨子。

 

 ピアノコンクールも終わり、俺達は梨子と合流していた。

 

 「練習の時よりさらに良くなってたわ。流石ね」

 

 「真姫さんに意見をいただいたおかげです。ありがとうございました」

 

 真姫ちゃんに褒められ、嬉しそうな梨子。

 

 すると・・・

 

 「本当に凄かったにゃ!」

 

 「うわっ!?」

 

 凛ちゃんが目をキラキラさせながら、梨子の手を握りブンブン振る。

 

 「凛はすっかり梨子ちゃんのファンになってしまったにゃ!」

 

 「えーっと・・・どちら様でしょう?」

 

 「μ'sの星空凛よ」

 

 「えぇっ!?」

 

 「よろしくにゃ!」

 

 真姫ちゃんの紹介に驚く梨子。

 

 ってか今ここに、μ'sのメンバーの半分が集まってるのか・・・

 

 「ほら、天くんも何か言うにゃ!」

 

 「うおっ!?」

 

 凛ちゃんに思いっきり背中を叩かれる。

 

 俺は苦笑しながら梨子の前に立った。

 

 「・・・お疲れ様」

 

 「・・・うん」

 

 微笑む梨子。

 

 俺も微笑むと・・・梨子を優しく抱き寄せた。

 

 「ちょ、天くん!?」

 

 「・・・良かった」

 

 「え・・・?」

 

 「今までの梨子の努力が、報われたような気がして・・・良かったなって思ったし、凄く嬉しかった」

 

 「天くん・・・」

 

 「梨子の演奏が聴けて良かった・・・本当にお疲れ様」

 

 「っ・・・」

 

 俺の胸に顔を埋める梨子。

 

 「ありがとう・・・天くんのおかげよ」

 

 抱き合う俺達。

 

 感動の余韻に浸っていると・・・

 

 「むぅ・・・天くんの浮気者・・・」

 

 「ぐぬぬぬ・・・羨ましい・・・」

 

 「くっ・・・やるわね、梨子・・・」

 

 何故か三つの鋭い視線を感じた。

 

 どうしたんだろう?

 

 「・・・本当に罪な男だにゃ」

 

 溜め息をつく凛ちゃん。

 

 俺が何をしたというのか・・・

 

 「梨子、お疲れ様・・・って、あらあら・・・」

 

 こちらへとやってきた奈々さんが、抱き合う俺達を見てニヤニヤしていた。

 

 「こんなところでイチャイチャしちゃって・・・お熱いわねぇ」

 

 「なっ!?イチャイチャなんてしてないからっ!」

 

 梨子は顔を真っ赤にして、勢いよく俺から離れた。

 

 梨子は恥ずかしがり屋だなぁ・・・

 

 「天くん、今夜は私達と一緒にホテルに泊まる?ツインルームだからベッドは二つしか無いけど、梨子と同じベッドで寝れば問題無いわよね?」

 

 「大アリよ!?何で年頃の男女を同じベッドで寝かせようとするの!?」

 

 「あら、海未ちゃんの家でも千歌ちゃんの家でも同じ部屋で寝泊まりしたんでしょ?しかも海未ちゃんの家では、同じ布団で寝てたって聞いたわよ?」

 

 「ちょ、誰に聞いたのそれ!?」

 

 「名前は言えないけど、みかんをこよなく愛する女の子からの情報提供よ」

 

 「千歌ちゃああああああああああんっ!?」

 

 あのアホみかん・・・帰ったら絶対しばく。

 

 「ダメですよ奈々さん!天くんはウチに泊まるんですから!」

 

 「何を言っているんですかことり!天はウチに泊まるんです!」

 

 「天、ウチに来なさい。コスプレ中毒者と顔芸女の家になんて泊まったら、何されるか分からないわよ」

 

 「真姫ちゃんの言うことなんてイミワカンナイ!」

 

 「天は真姫の誘いなんてオコトワリシマス!」

 

 「アンタ達今すぐ表に出なさいっ!売られた喧嘩は買ってやろうじゃないのっ!」

 

 「はいはい、三人とも落ち着くにゃ」

 

 「猫人間は黙ってて!」

 

 「ラーメンホリックは黙ってて下さい!」

 

 「貧乳は黙ってなさい!」

 

 「全員今すぐ土下座して謝るにゃああああああああああっ!」

 

 「やかましいわ」

 

 「ちゅんっ!?」

 

 「はうっ!?」

 

 「ヴェエッ!?」

 

 「にゃっ!?」

 

 全員の頭にチョップをお見舞いする。

 

 やれやれ、変わってないなこの子達・・・

 

 「二十歳を超えた女子大生四人が、くだらない理由で喧嘩しないの。分かった?」

 

 「「「「はい、すみませんでした・・・」」」」

 

 「あのμ'sの人達を、一瞬で黙らせるなんて・・・天くん、恐ろしい子・・・」

 

 若干引き気味の梨子。

 

 恐ろしいとは失礼な・・・

 

 「でも天くん、本当に泊まる場所はどうするつもりなの?もう夜だし、流石に今から内浦に帰るわけじゃないでしょ?」

 

 「まぁね。っていうか、数日はこっちにいるつもりだよ。やりたいこともあるし」

 

 「やりたいことって?」

 

 「まぁ・・・色々ね」

 

 言葉を濁す俺。

 

 「その間に泊まる場所は、もう決まってるんだよね」

 

 「えぇっ!?」

 

 「そんなぁっ!?」

 

 「何でよ!?」

 

 ショックを受ける三人。

 

 それを見て、思わず苦笑してしまう俺なのだった。

 

 「仕方ないでしょ・・・誰よりも先に誘われたんだから」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「今日はありがとね、凛ちゃん」

 

 「天くんの為なら、凛はどこにでも駆けつけるにゃ」

 

 お礼を言う俺に、笑いながら返す凛ちゃん。

 

 俺は凛ちゃんのバイクで、再び東京駅まで送ってもらったのだった。

 

 「でも、本当にここで良いのかにゃ?」

 

 「うん、車で迎えに来てくれるみたいだから大丈夫。それにこれを持ったままじゃ、バイクには乗れないからさ」

 

 俺の手元には、着替え等が入っている荷物があった。

 

 会場へ向かう際、邪魔なので駅のコインロッカーに預けておいたのだ。

 

 凛ちゃんに駅まで送ってもらったのは、これを取りに来る為だった。

 

 「むぅ・・・凛も車の免許取ろうかな・・・」

 

 「そういえば凛ちゃん、車の免許持ってないよね。バイクの免許は持ってるのに」

 

 「凛はバイクで走って、風を感じるのが好きなんだにゃ。車はいくら走っても、全然風を感じないにゃ」

 

 「あぁ、なるほど・・・」

 

 「車は運転するより、助手席に座ってる方が楽しいにゃ。かよちんの運転する車の助手席に座って、爆睡するのが凛のお気に入りにゃ」

 

 「いや寝るんかい」

 

 花陽ちゃんのことだし、そんな凛ちゃんを微笑みながら見守ってそう・・・

 

 「そういえばかよちん、天くんに凄く会いたがってたにゃ。せっかく東京に来たんだし、顔を見せてあげてほしいにゃ」

 

 「そうするよ。ちょうど良い機会だし、俺も久しぶりに会いたいから」

 

 「ホントかにゃ!?かよちん凄く喜ぶにゃ!」

 

 嬉しそうな凛ちゃん。すると・・・

 

 「“わしわしMAX”!」

 

 「にゃあっ!?」

 

 いきなり背後から胸を揉まれ、悲鳴を上げる凛ちゃん。

 

 うわぁ・・・久々に見たな、『わしわしMAX』・・・

 

 「おー、凛ちゃん成長したねぇ・・・Bはあるんやない?」

 

 「えっ、何で分かって・・・じゃなくて!?いきなり何するにゃ!?」

 

 「フフッ、ゴメンゴメン」

 

 笑いながら凛ちゃんから離れる女性。

 

 紫の長い髪の女性は、俺を見て優しく微笑んだ。

 

 「久しぶりやね、天くん」

 

 「久しぶり、希ちゃん」

 

 微笑み返す俺。

 

 彼女は東條希ちゃん・・・μ'sのメンバーの一人である。

 

 「ゴメンね、わざわざ駅まで迎えに来てもらっちゃって・・・」

 

 「気にせんでええよ。ウチと天くんの仲やろ?」

 

 笑う希ちゃん。

 

 そう、車で迎えに来てくれる人というのは希ちゃんのことだ。

 

 そして俺が泊まる場所というのは、希ちゃんの家なのである。

 

 「それにしても、何で希ちゃんの家に泊まることになったのかにゃ?」

 

 「実はこの間真姫ちゃんと話した時に、Aqoursの桜内梨子ちゃんがピアノコンクールの為に東京に来ることを聞いてな」

 

 凛ちゃんの問いに答える希ちゃん。

 

 「天くんのことだから、絶対見に来るだろうと思って・・・そうすると泊まる場所が必要になるはずだから、天くんに連絡して『ウチに泊まりなよ』って誘ったんよ」

 

 「なるほど・・・そういうことだったのかにゃ」

 

 「うん。真姫ちゃんから聞いた話じゃ、ことりちゃんと海未ちゃんも見に来るみたいだったし・・・どう考えても、天くん争奪戦が勃発するやろ?その前に、ウチが天くんをもらっちゃえと思って」

 

 「策士にゃ!?ここに策士がいるにゃ!?」

 

 「フフッ、どんなもんや」

 

 ドヤ顔をしている希ちゃん。

 

 やれやれ・・・

 

 「まぁ、俺としてもありがたい提案だったよ」

 

 苦笑する俺。

 

 「泊まる場所を確保できたし・・・希ちゃんに会いたかったから」

 

 「っ・・・」

 

 急に顔が赤くなる希ちゃん。

 

 どうしたんだろう?

 

 「全く・・・天くんは本当に女ったらしだにゃ」

 

 やれやれといった様子で、苦笑しながら呟く凛ちゃんなのだった。




どうも〜、ムッティです。

何と『ことりちゃん大好き』さんから、またしても支援絵をいただきました!

早速紹介させていただきたいと思います!



まずは一枚目・・・


【挿絵表示】


梨子ちゃあああああんっ!!!!!

遂に天への恋心を自覚した梨子ちゃん・・・

果たしてこのままヒロインになるのか・・・



続いて二枚目・・・


【挿絵表示】


ことりちゃあああああんっ!!!!!

相変わらず天とラブラブなことりちゃん・・・

今後も梨子ちゃんを嫉妬させそうです(笑)



そして三枚目・・・


【挿絵表示】


真姫ちゃあああああんっ!!!!!

人前ではツンツンしながらも、二人きりになると天にデレデレな真姫ちゃん・・・

相変わらずチョロ可愛いですよね(笑)



いやぁ、梨子ちゃんもことりちゃんも真姫ちゃんも可愛い!

っていうかホント上手いですよね(゜ロ゜)

この画力を分けてほしい(´・ω・`)

『ことりちゃん大好き』さん、本当にありがとうございました!



さてさて、本編では遂に希ちゃんが登場染ましたね。

ムッティのμ'sの推しメンです(・∀・)ノ

実は最初、希ちゃんを天のお嫁さんとして登場させる構想があったのはここだけの話(笑)

天は音ノ木坂にテスト生として入学し、μ'sのマネージャーをやることになる・・・

それがきっかけで希と恋に落ち、やがて結婚・・・

教師となった天は浦の星に赴任し、スクールアイドル部の顧問になる・・・

μ'sのマネージャーをやった経験を生かし、スクールアイドル部の顧問としてAqoursを支える・・・

嫁である希や、他のμ'sのメンバー達にも協力してもらう・・・

みたいなストーリーも考えてました(笑)

でもやっぱりサンシャインの小説を書く以上、Aqoursがヒロインの話を書きたいなと思ったのでボツになりました(´・ω・`)

天の姉を希ちゃんにする案も考えたのですが、一度嫁として考えた希ちゃんを姉にするのもどうかと思って・・・

μ'sの中で、一番お姉さんっぽい絵里ちゃんが姉になりました。

希ちゃんの次に好きなキャラですし、のぞえりは至高だと思ってるんで( ̄ー ̄)



希ちゃんの家に泊まることになった天・・・

数日は東京に滞在するとのことですが、果たしてどうなるのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

包容力のある人は素敵である。

花陽ちゃん、誕生日おめでとう!

本当はダイヤさんに続いて、誕生日記念の番外編を書こうかと思ったのですが・・・

花陽ちゃん、まだ本編に出てきてないじゃん・・・ということで止めました(´・ω・`)

ゴメンよ、花陽ちゃん・・・


 「そっかぁ・・・ラブライブの予備予選、今日やったんやね」

 

 「そうなんだよ。レベルの高いグループが結構いて、驚いちゃった」

 

 希ちゃんの家で夕飯を食べつつ、ラブライブの話をしている俺達。

 

 希ちゃんは高校時代と変わらず、マンションで一人暮らしをしている。

 

 相変わらずご両親は仕事が忙しいそうで、なかなか会えないようだ。

 

 「んっ、この肉じゃが美味しい!希ちゃん、また料理の腕が上がったんじゃない?」

 

 「ホント?実は最近、休日は料理教室に通ってるんだ。まだまだ天くんには及ばないけど、少しでも上達したいからね」

 

 「いや、俺も人並みにしか出来ないって」

 

 「謙遜せんでもええって。あのにこっちから免許皆伝をもらってるんやから」

 

 笑いながら言う希ちゃん。

 

 実は俺に料理を教えてくれたのは、他ならぬにこちゃんだったりする。

 

 μ'sの中で一番料理スキルの高いにこちゃんは、俺に一から料理の基礎を叩きこんでくれたのだ。

 

 おかげで今一人暮らしをしていても、自炊で困ることはほとんど無い。

 

 まさしくにこちゃん様々である。

 

 「っていうか、何で急に料理教室に・・・ハッ!?まさか男ができたとか!?」

 

 「フフッ、だったらどうする?」

 

 「うぅっ・・・希ちゃん、幸せになるんだよ・・・」

 

 「まさかのガチ泣き!?」

 

 寂しいけど、仲間として希ちゃんの幸せを願わないといけないよなぁ・・・

 

 「冗談やって!?彼氏なんていたことないよ!?」

 

 「嬉しくて嬉しくて言葉にできない」

 

 「小●和正!?」

 

 良かったぁ・・・

 

 いや、喜んで良いのか分かんないけど。

 

 「え、じゃあ何で料理教室に?」

 

 俺が尋ねると、希ちゃんは恥ずかしそうに俯いてしまった。

 

 「いや、その・・・天くんに『美味しい』って言ってもらいたくて・・・」

 

 「貴女に会えて本当に良かった」

 

 「それも小田●正やん!?」

 

 勢いよく希ちゃんに抱きつく俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「こうやって一緒に寝るの、久しぶりやね」

 

 「何で俺の周りの女子達って、男と一緒に寝ることに躊躇いが無いのか・・・」

 

 同じベッドの上で希ちゃんにくっつかれ、溜め息をつく俺。

 

 まぁ希ちゃんの家に泊まることが決まった時点で、こうなるとは思ってたけどね。

 

 「男と一緒に寝ることじゃなくて、天くんと一緒に寝ることに躊躇いが無いだけだよ。皆それくらい、天くんのことが大好きってことやね」

 

 「いや、その気持ちは凄くありがたいんだけどさ・・・何度も言うけど、俺も男だからね?襲われても知らないよ?」

 

 「フフッ・・・ちゃんと責任を取ってくれるなら、襲ってくれてもええよ?」

 

 「女の子がそういうこと言わないの。特に希ちゃんは、自分の身体が凶器だってことをもう少し自覚して」

 

 「ほほう?どの辺が凶器なん?」

 

 そう言いながら、豊満な胸をこれでもかと押し付けてくる希ちゃん。

 

 うわ、この子絶対分かってるわ・・・

 

 ってか、高校時代よりもさらに大きくなってるだと・・・?

 

 「チクショウ、初代おっぱいお化けめ・・・」

 

 「懐かしいね、その二つ名」

 

 クスクス笑う希ちゃん。

 

 元々『おっぱいお化け』というのは、希ちゃんを指し示す言葉だったのだ。

 

 言うなれば、鞠莉は二代目なのである。

 

 「ウチを『初代』って呼んだということは、Aqoursに二代目がおるんやね?もしかして、小原鞠莉ちゃん?」

 

 「・・・流石はセクハラ親父、見抜いてたか」

 

 「良いモノ持ってるよねぇ。後は松浦果南ちゃんと、国木田花丸ちゃんかな?」

 

 「どんだけ見抜いてんの!?ってかどこに注目してんの!?」

 

 ダメだこの子、完全に変態だよ!ド変態親父だよ!

 

 「ってか希ちゃん、ずいぶんAqoursに詳しいね?」

 

 「ウチだけやなくて、μ'sのメンバーは全員Aqoursに注目してるからね。何といっても、ウチらの仲間がマネージャーやってるグループやもん」

 

 笑みを浮かべる希ちゃん。

 

 「『天くんがまたスクールアイドルに携わってる』って、皆喜んだんやから」

 

 「・・・色々あったんだけどね」

 

 苦笑する俺。

 

 ホント、思い返せば色々あったなぁ・・・

 

 「正直、今でもちょっと思うよ。『俺がAqoursのマネージャーで良いのかな』って」

 

 「どうして?」

 

 「・・・俺はまだ、Aqoursの十人目だとは思えてないから。皆が『それでも良い』って言ってくれたから、マネージャーをやらせてもらってるけど」

 

 それでも、やっぱり思ってしまう。

 

 Aqoursの十人目だと思えていない奴が、仲間としてマネージャーをやってて良いのかと・・・

 

 「・・・天くんは、Aqoursの皆の側にいたくないの?」

 

 「・・・いたいよ」

 

 希ちゃんの問いに答える俺。

 

 「皆と一緒にいたい。目標に向かって歩み続ける皆に、出来る限りのサポートをしてあげたい・・・そう思うよ」

 

 「・・・そっか」

 

 希ちゃんはそう言うと、優しく俺を抱き締めてくれた。

 

 「なら、それが答えやん」

 

 「え・・・?」

 

 「天くんは、Aqoursの皆と一緒にいたいと思ってる。Aqoursの皆も、天くんと一緒にいたいと思ってくれてるんやろ?だったら答えは出てるやん」

 

 微笑む希ちゃん。

 

 「Aqoursのマネージャーには、天くんが相応しい・・・むしろ天くん以外の人には務まらないと思うよ?」

 

 「希ちゃん・・・」

 

 「だからもっと自信持って。天くんの力は凄いんやから。それは誰よりもその力に助けられてきたウチらが、胸を張って保証する」

 

 「・・・どんだけ胸が自慢なの?」

 

 「そういう意味やないよ!?」

 

 「冗談だって」

 

 俺は笑いながら、希ちゃんに身を寄せた。

 

 「・・・ありがとね、希ちゃん」

 

 希ちゃんは昔からそうだ。

 

 人が悩んだり苦しんだりしてる時に、その人が一番欲しい言葉をかけてくれる。

 

 不安を取り除くような、安心するような言葉をかけてくれる。

 

 だからこそ俺も、希ちゃんみたいな人になりたいと思ったのだ。

 

 「ホント・・・希ちゃんには敵わないな」

 

 「フフッ、それはお互い様やね」

 

 頭を撫でてくれる希ちゃん。

 

 「ウチも天くんには敵わないと思ってるから」

 

 「え?どこが?」

 

 「さぁ?どこやろうね?」

 

 クスクス笑いながらはぐらかす希ちゃん。

 

 こういうところも相変わらずだな・・・

 

 「ところで天くん、明日はどうする予定なん?」

 

 「とりあえず挨拶回りかな。前回東京に来た時は、そんな時間も無かったから」

 

 「そうやね。ウチとも会ってくれなかったもんね」

 

 「あれ、怒ってる?」

 

 「別に?」

 

 笑顔の希ちゃん。

 

 何か笑顔が怖いんだけど・・・

 

 「一人で回るつもりなん?」

 

 「そのつもりだったんだけど、梨子も一緒に行きたいって。ついでに皆に、梨子を紹介しておこうかなと」

 

 「なるほど。ウチが仕事に行ってる間、天くんはデートなんやね」

 

 「やっぱり怒ってるよねぇ!?」

 

 「別に?」

 

 もうこの笑顔には騙されない。

 

 絶対に怒ってるわこの子。

 

 「・・・早く帰って来てね。こうやって希ちゃんとも一緒に過ごしたいからさ」

 

 「待っててな天くん!すぐ帰って来るから!」

 

 あれ、希ちゃんってこんなにチョロかったっけ・・・

 

 真姫ちゃん並みなんだけど・・・

 

 「じゃあ、そろそろ寝よっか・・・おやすみ、希ちゃん」

 

 「おやすみ、天くん」

 

 希ちゃんはそう言うと、俺を抱き締めながら目を閉じた。どうやら、抱き枕にする気満々らしい。

 

 苦笑しつつも希ちゃんに身を委ね、ゆっくり目を閉じる俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

今回は天と希ちゃんのイチャイチャ回でした・・・

天、場所代われ(゜言゜)

推しメンでもあるので、ちょっとこういう話を書きたかったんですよね(笑)



そしてここで感謝の言葉を・・・

『絢瀬天と九人の物語』ですが、何と感想が500件に到達しました\(^o^)/

いつも感想を書いて下さる皆さん、本当にありがとうございます!

感想をいただけるのって、個人的に凄く嬉しいんです。

読者の方々が話を読んで、どう思ったのかが分かるのが嬉しいというか・・・

ありがたいことに好意的な感想をたくさんいただいており、とても励みになっています(^^)

時々批判的なご意見をいただくこともありますが・・・

それはそれで見方の一つですし、『そういう風に捉えられたんだな』と参考にさせていただいております。

皆さん、いつも本当にありがとうございます。

これからも気が向きましたら、感想を書いていただけると幸いです(^^)



さてさて、次回はμ'sのあのメンバーが登場します!

最近ちょっとμ's祭りみたいになってきてますね(笑)

是非お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人は面影を重ねてしまうものである。

投稿間隔が空いてしまって申し訳ない・・・

いつの間にか2月になっていたんだ・・・


 翌日・・・

 

 「あぁ、緊張する・・・!」

 

 「落ち着きなよ」

 

 そわそわしている梨子を見て、思わず笑ってしまう俺。

 

 仕事へと向かう希ちゃんを見送った俺は、梨子が借りているスタジオへとやってきていた。

 

 今日はラブライブ予備予選の結果発表がある為、梨子はずっとそわそわしているのだ。

 

 「発表までまだ時間があるし、今から緊張してたら身体がもたないよ」

 

 「・・・天くんは落ち着いてるわね」

 

 「μ'sのマネージャーをやってた頃、嫌というほど経験したからね」

 

 苦笑する俺。

 

 「もう俺達に出来ることは何も無いし、後はなるようにしかならないから。開き直ることも大事だって、あの時身を持って学んだよ」

 

 「・・・それもそうね。そわそわしても仕方ないか」

 

 気持ちを落ち着かせるように、深呼吸を繰り返す梨子。

 

 「すぅ・・・はぁ・・・」

 

 「ヒッヒッフー・・・ヒッヒッフー・・・」

 

 「いやそれラマーズ法よねぇ!?私は妊婦じゃないわよ!?」

 

 「あれ?出産間近じゃなかったっけ?」

 

 「違うわ!そもそも誰の子を身ごもるのよ!?」

 

 「俺しかいないじゃん」

 

 「ふぇっ!?」

 

 何故か急に顔を赤くする梨子。

 

 あれ?どうしたんだろう?

 

 「き、急にそんな・・・いきなり言われても・・・」

 

 「おーい?梨子?」

 

 「わ、私にだって・・・心の準備ってものが・・・」

 

 「もしもーし?聞こえてる?」

 

 「で、でも・・・天くんが望むなら・・・」

 

 「えいっ」

 

 「あたっ!?」

 

 梨子の頭にチョップをお見舞いする。

 

 「ちょっと!?いきなり何するのよ!?」

 

 「あ、戻ってきた」

 

 完全に心ここにあらずといった感じで、何か色々考え事してたもんなぁ・・・

 

 そんなに予備予選の結果が心配なんだろうか・・・

 

 「まぁとにかく、ここにいると余計に結果が気になるだろうからさ。もうすぐ約束の時間だし、そろそろ外に出ない?」

 

 「・・・そうね。気分転換も兼ねて、外の空気を吸いに行きましょうか」

 

 深く息を吐き、立ち上がる梨子。

 

 実は昨日凛ちゃんと、この近くのカフェでお茶をする約束をしていたのだ。

 

 昨日の演奏を聴いてすっかり梨子のファンになった凛ちゃんは、梨子と色々な話をしてみたいらしい。

 

 「そういえば、凛ちゃんが梨子に紹介したい人がいるんだってさ。今日連れてくるって言ってたよ」

 

 「紹介したい人?誰かしら?」

 

 「会うまで内緒って言ってたけど・・・あの人しかいないだろうね」

 

 「え・・・?」

 

 首を傾げている梨子。

 

 「天くん、心当たりあるの?」

 

 「勿論。凛ちゃんといったらあの人だもん」

 

 「むぅ・・・」

 

 何故か頬を膨らませている梨子。

 

 「ん?どうしたの?」

 

 「・・・凛さんのこと、理解してるんだなぁって」

 

 「え?もしかして妬いてる?」

 

 「べっつにぃ?」

 

 ぷいっとそっぽを向く梨子。

 

 やれやれ・・・

 

 「心配しなくても、今の俺はAqoursのマネージャーだから。ほら、早く行くよ」

 

 梨子の手を引いて歩き出す。

 

 全く、梨子は心配性なんだから・・・

 

 「そういうことじゃないんだけど・・・まぁ、今はそれで良いわ」

 

 梨子は苦笑しながら何かを呟くと、俺の手をギュっと握り返すのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「天くううううううううううんっ!」

 

 「俺は“みがわり”を使った!」

 

 「キャアッ!?」

 

 俺の身代わりの梨子が現れた!

 

 俺に代わって身代わりの梨子が攻撃を受けた!

 

 「ちょ、何で急に私の後ろに隠れるのよ!?」

 

 「凛ちゃんの“すてみタックル”のヤバさを舐めちゃいけない。俺のHPが一撃で持っていかれるからね」

 

 「それをもろに受けた私の身にもなってくれる!?」

 

 「大丈夫。女の子が相手だと、凛ちゃんの攻撃力は半減するから」

 

 「どんな特性!?」

 

 「おぉ、梨子ちゃん細い!肌もスベスベにゃ!」

 

 「凛さん!?変なところ触らないで下さい!」

 

 「凛ちゃ~ん!」

 

 待ち合わせしていたお店の前でそんなやり取りをしていると、凛ちゃんの後ろから一人の女性が走ってくる。

 

 女性は俺達のところに辿り着くと、苦しそうに両膝に手をついた。

 

 「ハァッ・・・ハァッ・・・もう、急に走り出さないでよぉ!」

 

 「にゃはは、身体が勝手に動いちゃったんだにゃ」

 

 「全くもう・・・」

 

 ようやく落ち着いたのか、ゆっくりと息を吐く女性。

 

 そして顔を上げ、俺の方を見て優しく微笑む。

 

 「久しぶり、天くん」

 

 「久しぶり、花陽ちゃん」

 

 俺も笑みを浮かべる。

 

 一方、梨子は驚きの表情を浮かべていた。

 

 「えっ、もしかして・・・μ'sの小泉花陽さん!?」

 

 「あぁっ!?Aqoursの桜内梨子さんですよね!?」

 

 「えぇっ!?」

 

 急に花陽ちゃんにガシッと手を握られ、動揺している梨子。

 

 「まさか本物に会えるなんて・・・感激です!」

 

 「え、えーっと・・・」

 

 キラキラした目で見つめられ、リアクションに困っている梨子。

 

 まさかμ'sのメンバーからこんな反応をされるなんて、想像もしてなかっただろうな・・・

 

 「花陽ちゃん、ホントにスクールアイドル大好きだよね」

 

 「当然だよ!」

 

 力説する花陽ちゃん。

 

 「しかもAqoursは、今凄く勢いのあるグループの一つなんだよ!?そんなグループの人に会えるなんて・・・奇跡だよ!」

 

 「・・・何か今、花陽ちゃんと千歌さんが重なって見えたわ」

 

 「奇遇ね天くん。私も全く同じことを思ったわ」

 

 苦笑する梨子。

 

 「っていうか梨子、よく花陽ちゃんのこと分かったね?」

 

 「ほら、ルビィちゃんが鞄に缶バッジ付けてるから」

 

 「あぁ、なるほど・・・ルビィは花陽ちゃんのファンだもんね」

 

 納得する俺。一方、花陽ちゃんは驚きの表情を浮かべていた。

 

 「えっ、ルビィちゃんって・・・まさか、Aqoursの黒澤ルビィさんのこと!?」

 

 「そうそう。ルビィはμ'sのことが大好きで、推しメンが花陽ちゃんなんだよ。花陽ちゃんのことが好き過ぎて、鞄に花陽ちゃんの缶バッジ付けてるくらいだし」

 

 「うぅ・・・生きてて良かった・・・!」

 

 「そこまで!?」

 

 泣いている花陽ちゃんにツッコミを入れる梨子。

 

 花陽ちゃんは相変わらずだなぁ・・・

 

 「ねぇねぇ天くん、Aqoursに凛を推してくれてる子はいないのかにゃ?」

 

 「あぁ、花丸が凛ちゃん推しだよ。『Love wing bell』の時の凛ちゃんの写真を、食い入るように見てたもん」

 

 「ホントかにゃ!?」

 

 「良かったね、凛ちゃん!」

 

 「うん!メッチャ嬉しいにゃ!」

 

 手を繋ぎ、嬉しそうに笑い合う花陽ちゃんと凛ちゃん。

 

 俺にはそんな二人の姿が、ルビィと花丸に重なって見えた。

 

 「・・・俺もすっかりAqoursに染まったなぁ」

 

 苦笑しながら呟く俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「んー、このケーキ美味しい♪」

 

 幸せそうな表情でケーキを頬張る花陽さん。

 

 お店に入った私達は、まったりとティータイムを過ごしていた。

 

 「ほら天くん、これ美味しいよ!あ~ん♪」

 

 「あ~ん・・・ん、ホントに美味しいね」

 

 「でしょでしょ!?」

 

 「こっちのケーキも美味しいよ。あ~ん」

 

 「あ~ん・・・んー、美味しい!」

 

 「・・・この二人ってカップルなんですか?」

 

 「全く違うけど、気にしたら負けにゃ」

 

 苦笑する凛さん。

 

 「ことりちゃんみたいにベタベタくっつくわけじゃないけど、天くんとの距離の近さではかよちんも負けてないにゃ。かよちんは天くんをもの凄く可愛がってるし、そんなかよちんに天くんもよく懐いてるんだにゃ」

 

 「・・・そういえば前に、ことりさんと花陽さんを『天使だ』って言ってましたね」

 

 カップルでも無いのに、ここまで距離が近いなんて・・・

 

 もっと私も積極的に行くべきかしら・・・

 

 「そうそう天くん、時間があったら穂乃果ちゃんに会いに行ってあげて。天くんにもの凄く会いたがってたから」

 

 「ホントに?ちょうどこの後『穂むら』に行く予定だから、そこで会えると良いな」

 

 嬉しそうに笑う天くん。

 

 「っていうか、穂乃果ちゃん大学卒業出来るの?海未ちゃんに聞いたけど、単位ギリギリらしいじゃん」

 

 「まぁ最初の頃、にこちゃんや凛ちゃんと一緒に遊び呆けてたからねぇ・・・」

 

 「うっ・・・」

 

 花陽さんにジト目で見つめられ、気まずそうに顔を逸らす凛さん。

 

 「同じ大学に私達がいたから、何とか勉強を教えられたけど・・・そうじゃなかったら留年してたかもね」

 

 「えっ!?」

 

 驚く私。

 

 「μ'sの皆さんって、皆同じ大学に通われてるんですか!?」

 

 「正確に言うと、ことりちゃんと真姫ちゃん以外は皆同じ大学だよ」

 

 答えてくれる花陽さん。

 

 「ことりちゃんは服飾系の大学、真姫ちゃんは医大にそれぞれ進学したの。それ以外の皆は、音ノ木坂大学に進学したんだよ」

 

 「それぞれ学部や学科は違うけど、キャンパスは一緒だからよく会ってるんだにゃ」

 

 「そうだったんですか・・・」

 

 九人中七人が同じ大学って、ある意味凄いわね・・・

 

 「まぁにこちゃん・希ちゃん・絵里ちゃんは卒業しちゃったから、残ってるのは私達と穂乃果ちゃん・海未ちゃんだけなんだけどね」

 

 苦笑する花陽さん。

 

 「穂乃果ちゃんと海未ちゃんが卒業したら、とうとう私達だけになるのかぁ・・・寂しくなるね、凛ちゃん」

 

 「大丈夫にゃ。穂乃果ちゃんはきっと留年してくれるにゃ」

 

 「うん、縁起でも無いことをサラッと言うの止めよう?」

 

 「いや、穂乃果ちゃんなら有り得るよね」

 

 「天くんまで何てこと言うの!?」

 

 花陽さんのツッコミ。

 

 あれ?穂乃果さんってμ'sのリーダーよね?

 

 何でこんなに信用されてないのかしら・・・

 

 「まぁ穂乃果ちゃんはともかく、まだ雪穂ちゃんと亜里姉がいるんだしさ。そう寂しがることもないって」

 

 笑いながら言う天くん。

 

 確か雪穂さんって、穂乃果さんの妹さんなのよね・・・

 

 そして亜里沙さんが、天くんの二番目のお姉さんだったかしら?

 

 「あっ、亜里沙ちゃんといえば・・・」

 

 少し言いにくそうに口ごもる花陽さん。

 

 「天くん・・・亜里沙ちゃんから、絵里ちゃんのこと聞いてる・・・?」

 

 「絵里姉のこと・・・?」

 

 首を傾げる天くん。

 

 そんな天くんに、花陽さんは心配そうな表情で告げるのだった。

 

 「絵里ちゃん、体調を崩しちゃったみたいで・・・寝込んでるんだって」




どうも〜、ムッティです。

アニメ一期十一話の内容も終わり、いよいよ十二話の内容へと移るわけですが・・・

遂に白米大好き娘こと、小泉花陽ちゃんが登場しました\(^o^)/

案の定、天との距離の近さが・・・(笑)

そして何やら、絵里ちゃんは体調を崩している模様・・・

果たして天はどうするのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

受けた恩は忘れないものである。

は〜しり抜〜け〜た〜♪想〜い〜が〜♪

こ〜ころを染めてまっかっか〜♪

な〜み〜だ〜♪飛〜んで〜った〜♪

優木せつ菜ちゃんの『MELODY』にハマっている今日この頃です。


 《梨子視点》 

 

 「うぅ、暑いし疲れたにゃあ・・・天くん、おんぶ~」

 

 「立って歩け。前へ進め。あんたには立派な足がついてるじゃないか」

 

 「どこのハガレン!?いいからおんぶするにゃ!」

 

 「うわっ!?ちょ、いきなり飛び乗ってこないでくれる!?」

 

 「にゃはは♪女子大生の身体の感触を、背中でたっぷり味わうといいにゃ♪」

 

 「凛ちゃんに味わえるほどの胸なんか無いでしょ」

 

 「おりゃあっ!」

 

 「ぐえっ!?」

 

 凛さんに首を絞められる天くん。

 

 その光景を見て、私の隣を歩いている花陽さんがおかしそうに笑っていた。

 

 「フフッ、あの二人は相変わらずだなぁ」

 

 「昔からあんな感じなんですか?」

 

 「うん、二人とも凄く仲が良いの。天くんは昔から大人びてたけど、凛ちゃんと一緒の時はあんな風にはしゃいだりもして・・・凛ちゃんも天くんと一緒だと楽しいみたいで、『天くんとは波長が合う』って言ってたよ」

 

 「波長ですか・・・」

 

 私は天くんにとって、『波長が合う』相手になれてるのかなぁ・・・

 

 そんなことを考えていると、花陽さんがクスッと笑いを零した。

 

 「梨子ちゃんって、天くんのこと好きでしょ?」

 

 「ふぇっ!?」

 

 唐突な質問に、思わず変な声を出してしまう私。

 

 「な、ななな何を・・・!」

 

 「分かりやすいなぁ」

 

 苦笑している花陽さん。

 

 「天くんを見る時の梨子ちゃん、完全に恋する乙女の表情してるよ?」

 

 「えぇっ!?じゃあ天くんにも気付かれて・・・」

 

 「あ、それは大丈夫。天くんって人の感情の機微に鋭いくせに、自分に向けられる好意に関してはビックリするくらい鈍感だから」

 

 「・・・ですよねぇ」

 

 天くん攻略は大変そうだわ・・・

 

 溜め息をつくと、花陽さんがクスクス笑っていた。

 

 「フフッ、よっぽど天くんに惚れちゃったんだね」

 

 「えぇ、まぁ・・・それに気付いたのは、昨日のことなんですけど」

 

 苦笑する私。

 

 「花陽さんは、天くんのことどう思ってるんですか?」

 

 「あ、もしかして恋のライバルだと思われてる?」

 

 「い、いえ!そういうつもりじゃ・・・」

 

 「冗談だよ」

 

 からかうように笑う花陽さん。

 

 「天くんのことは大好きだよ。大切な仲間だし・・・恩人でもあるから」

 

 「恩人・・・?」

 

 「私と凛ちゃんは、天くんと小学校の頃からの付き合いでね。私達が小六の時、天くんが小一だったんだけど・・・その頃から天くん、私のことを凄く励ましてくれたんだ」

 

 昔を思い出しているのか、空を見上げる花陽さん。

 

 「私って自分に自信が無くて、ついネガティブになっちゃうんだけど・・・天くんはいつも私に、『花陽ちゃんは可愛いよ』『もっと自信持って』って言ってくれたの。当時の私にとっては、それが本当に心強かったんだ」

 

 嬉しそうに笑う花陽さん。

 

 「μ'sに入る時もそう・・・自分に自信が無くて、なかなか一歩を踏み出せなくてね。そこで背中を押してくれたのも天くんや凛ちゃん、それに真姫ちゃんだったんだ。あの時背中を押してもらえてなかったら、私がμ'sに入ることは無かったと思う」

 

 「そうだったんですか・・・」

 

 天くんは当時から、色々な人の背中を押してあげていたのね・・・

 

 「μ'sに入ってからも、天くんにはたくさん支えてもらったし・・・天くんがいなかったら、今の私は絶対にいないから。感謝してもしきれないよ」

 

 「・・・それで恩人なんですね」

 

 「うん。だから天くんのことは大好きだけど、恋してるわけじゃないの。梨子ちゃんのライバルではないから、安心して」

 

 柔和な笑みを浮かべる花陽さん。

 

 この人はきっと、天くんの幸せを心から願ってるんだろうな・・・

 

 「あ、でも・・・天くんが私を求めてくれるなら、話は別だよ?」

 

 「えぇっ!?恋じゃないって言ったじゃないですか!?」

 

 「だって天くんに『花陽ちゃんしかいないんだ!』って言われたら・・・キャーッ♡天くんの為だったら、私どんなことでもしちゃうよぉ♡」

 

 頬に手を当て、身体をクネクネさせている花陽さん。

 

 背中にかかるほどのロングヘア、服を押し上げハッキリと存在を主張している大きな胸、そしてこの包容力・・・

 

 ヤバい、天くんの好みにドンピシャじゃない・・・!

 

 「クッ、私も頑張らないと・・・!」

 

 「フフッ、だったらまずは絵里ちゃんに認められないとね。絵里ちゃんのブラコンぶりは凄まじいから」

 

 「絵里さん、ですか・・・」

 

 そこで私は、凛さんをおぶって前を歩く天くんに視線を向けた。

 

 「絵里さん、体調を崩して寝込んでるんですよね?天くん、絵里さんの所に行ってあげなくて良いのかな・・・」

 

 「多分、内心ではメチャクチャ心配してると思うよ」

 

 花陽さんも天くんに視線を向ける。

 

 「でも、今は行かない方が良いと思ってるんじゃないかな」

 

 「喧嘩してるから、ですか?」

 

 「うん。多分絵里ちゃんのことだから、天くんがお見舞いに行っても意地を張って追い返そうとすると思うんだよね。本当はメチャクチャ嬉しいだろうけど」

 

 苦笑する花陽さん。

 

 「そうすると、かえって絵里ちゃんの気が休まらないだろうから。天くんもそれを分かった上で、行くのを遠慮してるんだろうね。まぁ本心では行きたいんだろうけど」

 

 「・・・天くんも素直じゃないですね」

 

 「あの姉弟は昔からそうなの。凛ちゃんがああやって天くんにベッタリ絡んでるのも、天くんの気を少しでも紛れさせようとしてるからなんだよ。大好きな天くんが凛ちゃんとベタベタしてるからって、あんまり嫉妬とかしないであげてね」

 

 「し、してませんからっ!」

 

 「フフッ、梨子ちゃんは面白いなぁ♪」

 

 顔を赤くする私を見て、面白そうに笑う花陽さんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「到着にゃ~!」

 

 「凛ちゃん重い。早く降りて」

 

 「コラッ!女の子に『重い』とか言っちゃダメにゃ!」

 

 「・・・ハッ」

 

 「にゃあああああっ!また鼻で笑ったにゃあああああっ!」

 

 憤慨している凛ちゃんを無理矢理降ろし、俺は目の前のお店・・・『穂むら』に目をやった。

 

 こうしてお店に来るのは久しぶりだなぁ・・・

 

 「何かこのお店を見ると落ち着くわ」

 

 「確かに。風情があるよね」

 

 花陽ちゃんも頷く。

 

 一方、梨子は何故か緊張していた。

 

 「こ、ここが『穂むら』・・・」

 

 「何で緊張してんの?」

 

 「だってここ、高坂穂乃果さんの実家なんでしょ!?いくらスクールアイドルに疎い私でも、μ'sのリーダーの実家に来たら流石に緊張するわよ!」

 

 「こんにちは~」

 

 「人の話聞いてくれる!?」

 

 梨子が何か喚いていたがスルーして、お店のドアを開けて中に入る。

 

 中では若い女性が店番をしていた。

 

 「いらっしゃいまs・・・えぇっ!?天くん!?」

 

 「久しぶり、雪穂ちゃん」

 

 笑みを浮かべる俺。

 

 赤みがかった茶髪の女性・・・高坂雪穂ちゃんが、驚愕の表情で俺のことを見つめていた。

 

 「え、何で天くんがここに!?」

 

 「ちょっと東京に来たから、挨拶しておこうと思って。元気そうで良かった」

 

 「それはこっちのセリフだよバカアアアアアッ!」

 

 「えぇっ!?」

 

 雪穂ちゃんに凄い剣幕で詰め寄られる。

 

 何!?何事!?

 

 「内浦に行ったら毎日連絡しろって言ったでしょうが!何で連絡してこないの!?」

 

 「彼女かっ!毎日は無理だわっ!」

 

 「心配して亜里沙に聞いたら、『天とは定期的に連絡とってるよ~』って聞かされてさ!何で私とは定期的に連絡とってくれないわけ!?私も天くんの姉だよ!?」

 

 「いや違うよねぇ!?穂乃果ちゃんの妹であって、俺の姉ではないよねぇ!?」

 

 「じゃあお姉ちゃんをあげるから、今すぐ結婚してきなさい!そしたら天くんは、高坂家の人間になるから!」

 

 「そしたら雪穂ちゃん、俺の義妹になるんだけど!?」

 

 「・・・それも悪くないかも」

 

 「見境なし!?」

 

 全くこの人ときたら、ホント過保護なんだから・・・

 

 と、雪穂ちゃんが笑みを零した。

 

 「全く・・・変わらないなぁ、天くんは」

 

 そのまま雪穂ちゃんに抱き寄せられ、優しく抱き締められる。

 

 「元気そうで良かった。真面目に心配してたんだからね」

 

 「・・・ゴメン」

 

 雪穂ちゃんには全然連絡して無かったもんな・・・

 

 今さらながら、申し訳なさが募る。

 

 「フフッ・・・相変わらず雪穂ちゃんは、天くんのお姉さんやってるね」

 

 「絵里ちゃんや亜里沙ちゃんに負けず劣らずのブラコンにゃ」

 

 「花陽さんと凛さん!こんにちは!」

 

 笑みを浮かべた雪穂ちゃんは、後ろに立っている梨子を見て首を傾げた。

 

 「あれ?貴女は・・・」

 

 「は、初めまして!桜内梨子といいます!」

 

 「あぁっ!?Aqoursの!?」

 

 「えっ?雪穂ちゃん、Aqoursを知ってるの?」

 

 「当然じゃん!天くんがマネージャーやってるって聞いてから、ずっとチェックしてるもん!まぁ、私達はマネージャーを断られちゃったけど・・・」

 

 「ホントすいませんでした・・・」

 

 「あっ、責めてるわけじゃなくてね!天くんがまたスクールアイドルに携わってることが、純粋に嬉しかったんだ。亜里沙も喜んでたし」

 

 笑う雪穂ちゃん。

 

 あの当時は二人からマネージャーを頼まれて、頑なに断ってたからなぁ・・・ホント申し訳ない。

 

 「でも、どうしてAqoursの子がここに・・・ハッ!?まさか天くんの彼女!?」

 

 「違うわ。梨子はピアノコンクールに参加する為に東京に来てて、俺はその応援で来たんだよ。そのピアノコンクールが昨日終わったから、今日は挨拶回りしてるんだ」

 

 「あぁ、なるほど」

 

 納得している雪穂ちゃん。

 

 一方、梨子は何故かムスッとしていた。

 

 「即座に否定しなくても良いじゃない・・・」

 

 「まぁまぁ梨子ちゃん」

 

 花陽ちゃんが苦笑しながら梨子を宥めている。

 

 何かあったのかな?

 

 「本当に鈍感な男だにゃ・・・」

 

 何故か呆れている凛ちゃん。

 

 え、俺何かやらかした?

 

 「でも残念だなぁ・・・お姉ちゃん、今いないんだよね」

 

 「えっ、捕まったの?」

 

 「違うわ!何でそういう発想になるの!?」

 

 「いや、別に・・・」

 

 「あの人のモノマネは止めなさい!とにかくお姉ちゃんは捕まってないから!」

 

 「じゃあ高飛びしたの?」

 

 「それも違うよ!?何も罪は犯してないよ!?」

 

 「逃亡先はどこ?レバノン?」

 

 「だから違うってば!?その話題も危ないから触れちゃダメ!」

 

 ツッコミを連発する雪穂ちゃん。

 

 相変わらず面白いなぁ・・・

 

 「お姉ちゃんは今、ちょっと一人旅に行っててね。まだ帰って来ないんだ」

 

 「いや、穂乃果ちゃんが一人旅って・・・大丈夫なの?」

 

 「私も不安だったんだけど、本人が行く気満々でさぁ・・・」

 

 溜め息をつく雪穂ちゃん。

 

 見知らぬ土地で迷子になってなきゃいいけど・・・

 

 ニューヨークに行った時も大変だったしなぁ・・・

 

 「穂乃果ちゃん・・・君のことは忘れない」

 

 「うぅ、穂乃果ちゃん・・・さようなら」

 

 「凛は穂乃果ちゃんとの思い出を抱えて生きていくにゃ・・・」

 

 「お姉ちゃん・・・私もいずれはそっちに行くからね・・・」

 

 「穂乃果さんってμ'sのリーダーよねぇ!?何でこんなに信用されてないの!?」

 

 梨子のツッコミが響き渡るのだった。




どうも〜、ムッティです。

『立って歩け。前へ進め。あんたには立派な足がついてるじゃないか』

・・・名言や(゜ロ゜)

ハガレンって名言多いですよね。

ちなみに自分の好きな名言は、ウィンリィのお父さんが言った『偽善で結構!!やらない善よりやる偽善だ!』です。



それはさておき、今回は雪穂ちゃんが登場しました!

完全に天のお姉さんになっています(笑)

そして残念ながら、穂乃果ちゃんはまだ登場しません!

実は穂乃果ちゃんの初登場のタイミングは、自分の中で決めてあるんです。

そんなに後にはならないので、お待ちいただけると幸いです。



そしてここで支援絵紹介!

今回も『ことりちゃん大好き』さんから支援絵をいただきました!

まず一枚目がこちら・・・


【挿絵表示】


希ちゃああああああああああんっ!

ヤバい、大きい!(何が、とは言わない)

何か体育の先生っぽいですよね。

こんな体育の先生がいたら、ガン見しますね(どこを、とは言わない)

出来れば体育より保健(これ以上は読めない)



コホンっ!そして二枚目・・・


【挿絵表示】


穂乃果ちゃあああああんっ!

希ちゃああああああああああんっ!

ヤバい、エロい!(ド直球)

そして希ちゃん・・・デカいな(何が、とは言わない)

やっぱり水着姿って素敵やん(・ω・)



『ことりちゃん大好き』さん、ありがとうございました!

実はもう一枚支援絵をいただいているのですが、それはまた別のタイミングでご紹介させていただきたいと思います。

お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【松浦果南】これからも・・・

本日は果南ちゃんの誕生日\(^o^)/

そんなわけで、果南ちゃんがメインの番外編を書いてみました(^^)

せっかくの番外編ということで、スペシャルゲストも登場させてみましたよ(・∀・)ノ

それではいってみよー(`・ω・´)ゞ


 「ねぇ天、二月十日って何の日か知ってる?」

 

 唐突に尋ねてくる鞠莉。

 

 二月に入り寒い日が続く中、今日もAqoursは学校の屋上に集まり練習を始めようとしていた。

 

 今はウォーミングアップの為に、二人一組で柔軟体操をやっているところである。

 

 「勿論知ってるよ。誕生日でしょ?」

 

 「Great!流石は天ね!」

 

 「川口●奈さんの」

 

 「そっち!?」

 

 「急に大河ドラマの代役が決まって大変だろうけど、頑張ってほしいよね」

 

 「それは同感だけども!もっと身近に誕生日の子がいるでしょうが!」

 

 「冗談だって。果南さんの誕生日でしょ?」

 

 鞠莉の背中を押しつつ、少し離れたところにいる果南さんへと視線を向ける。

 

 果南さんは善子とペアを組んでおり、容赦なく善子の背中を押していた。

 

 「イタタタタッ!?もう無理っ!ギブだからっ!」

 

 「ダメだよ善子ちゃん、しっかり身体をほぐさないと」

 

 「ヨハネよっ!?っていうか、少しは手加減しなさいよゴリラ!」

 

 「アレレ~?手ガ滑ッチャッタナ~?」

 

 「ギャアアアアアッ!?」

 

 悲鳴を上げる善子。やれやれ・・・

 

 「果南さんへの誕生日プレゼント、バナナの詰め合わせとかどう?」

 

 「果南さんの誕生日が、天さんの命日になりますわよ」

 

 「命が惜しいなら止めるずら」

 

 隣で柔軟体操をしているダイヤさんと花丸が呆れていた。

 

 名案だと思ったのに・・・

 

 「フッフッフ・・・私にGood ideaがあるわ!」

 

 鞠莉はそう言うと胸の谷間に手を突っ込み、二枚の紙切れを取り出した。

 

 「天と果南の為に用意したの。ありがたく受け取りなさい」

 

 「うん、その前に『どこにしまってんの?』っていうツッコミを入れさせてくれる?」

 

 そう言いつつ、鞠莉から紙切れを受け取る俺。

 

 背後からダイヤさんと花丸が覗く中、そこに書いてある文字を読んで驚く俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「わぁ・・・!」

 

 目を輝かせている果南さん。

 

 果南さんの誕生日である二月十日、果南さんと俺は二人で遊園地へとやって来ていた。

 

 鞠莉からもらった二枚の紙切れは、この遊園地のフリーパスだったのだ。

 

 「見て見て天!楽しそうなアトラクションがいっぱいあるよ!?」

 

 「そうですね。まずは大人しめなアトラクションから・・・」

 

 「よし、まずはジェットコースターに乗ろう!」

 

 「人の話聞いてます?」

 

 ダメだこの人、完全に浮かれてるわ・・・

 

 

 

 

 

 『果南は遊園地とか大好きだから、誘ったら絶対食いつくわよ。まぁ天からのお誘いなら、たとえ遊園地じゃなくても食いつくでしょうけど』

 

 

 

 

 

 鞠莉の言葉を思い出す。

 

 ちなみにこの遊園地の建設には、小原家も関わっているのだとか。

 

 だからフリーパスとか用意出来たのね・・・

 

 「むぅ・・・」

 

 そんなことを考えていると、果南さんが不機嫌そうな顔をして俺を睨んでいた。

 

 「果南さん?どうかしました?」

 

 「目の前に私がいるのに、他の女のこと考えてたでしょ」

 

 「何ですかその嫉妬してる彼女みたいなセリフ」

 

 ってか何で分かるの?

 

 そういうのって分かるもんなの?

 

 「分かるもんなのっ!」

 

 「人の心を読むの止めてもらえます?」

 

 「とにかくっ!今は私だけを見ることっ!分かった!?」

 

 「・・・了解です」

 

 『だから彼女かっ!』というツッコミはあえて放棄し、俺は果南さんの手を握った。

 

 「ふぇっ!?そ、天!?」

 

 「人が多いですし、はぐれたら困るでしょう。それに・・・こうしていれば、嫌でも果南さんのことしか見られませんから」

 

 「・・・『嫌でも』は余計だし」

 

 そう呟きつつ、顔を赤くして俺の手を握り返す果南さんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「だ、大丈夫・・・?」

 

 「も、もうダメ・・・」

 

 グロッキー状態の俺。

 

 俺は今、ベンチで果南さんに膝枕されながら横になっていた。

 

 「全く、この程度で乗り物酔いしちゃうなんて・・・」

 

 「・・・ジェットコースターに十回ぐらい乗った後、コーヒーカップでベイ●レードばりにスピンさせたのは誰でしたっけ?」

 

 「き、記憶にございません・・・」

 

 「吐くつもりが無いなら、俺が吐きますね・・・おえっ」

 

 「わあああああっ!?すいませんでしたあああああっ!?」

 

 慌てて謝る果南さん。

 

 全く、この人ときたら・・・

 

 「あぁ、何か飲みたいなぁ・・・」

 

 「待ってて天!今飲み物を買って来るから!」

 

 ダッシュで飲み物を買いに行く果南さん。

 

 やれやれ、あの人ときたら・・・

 

 「君、大丈夫~?顔色が優れないみたいだけど~・・・」

 

 そのままベンチで横になっていると、見知らぬお姉さんが心配して声をかけてくれた。

 

 ゆるふわロングヘアで、おっとりした感じのお姉さんである。

 

 「えぇ、大丈夫です。ちょっと乗り物に酔っちゃって・・・」

 

 「あぁ、なるほど~・・・じゃあ、これをあげるね~」

 

 そう言ってお姉さんは、俺にコーラのペットボトルを差し出してきた。

 

 「乗り物酔いにはコーラがオススメだよ~。炭酸に含まれる成分が自律神経を整えてくれるし、カフェインには感覚の乱れを抑えてくれる作用があるの~」

 

 「へぇ、そうなんですね・・・って、もらっちゃって良いんですか?」

 

 「良いよ~。あげちゃう~」

 

 「すみません。いただきます」

 

 俺はお姉さんからペットボトルを受け取ると、コーラを口に流し込んだ。

 

 炭酸の爽快感で、ちょっと気分が良くなったかも・・・

 

 「ありがとうございます。助かりました」

 

 「どういたしまして~。でも君にとっては、美人な彼女さんに膝枕されてる方が幸せだったかな~?」

 

 「アハハ・・・見てたんですね」

 

 どうやらバッチリ目撃されていたらしい。

 

 それで果南さんが席を外したタイミングで、俺に声をかけてくれたのか・・・

 

 「まぁ果南さん・・・あの女性は、彼女じゃないんですけどね」

 

 「えっ、そうなの~?膝枕までしてたのに~?」

 

 「あれくらいのスキンシップは、あの人にとって普通ですから」

 

 「へ~、そうなんだ~」

 

 苦笑しているお姉さん。

 

 「・・・普通好きでもない男の子に、膝枕なんてしないと思うけどな~」

 

 「ん?何か言いました?」

 

 「何でもな~い」

 

 笑って誤魔化すお姉さん。

 

 どうしたんだろう?

 

 「よ〜し。彼方ちゃんが君に、とっておきの情報を教えてあげる~」

 

 「とっておきの情報?」

 

 「その通り~」

 

 胸を張るお姉さん。

 

 おぉ、大きい・・・じゃなくて。

 

 「実はここの観覧車、結構有名なんだよ~」

 

 「観覧車、ですか?」

 

 「そうそう〜。何でもここの観覧車に一緒に乗った男女は、必ず結ばれるんだって~」

 

 「・・・観覧車に一緒に乗るくらいですし、その段階でもう結構良い感じになってるはずですよね?結ばれてもおかしくないと思いますけど」

 

 「まぁそうなんだけど~。でも、素敵だよね~」

 

 微笑むお姉さん。

 

 「特に夜に乗るのがオススメらしいよ~。夜景が綺麗なんだってさ~」

 

 「へぇ・・・それは見てみたいですね」

 

 「フフッ、是非乗ってみてね~。じゃあ、彼方ちゃんはそろそろ行くから~。良い一日を過ごしてね~」

 

 手を振って去っていくお姉さん。

 

 観覧車かぁ・・・

 

 「・・・誘ってみるかな」

 

 小さく呟く俺なのだった。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《果南視点》

 

 「おぉ・・・夜景が綺麗ですね」

 

 「そ、そうだね・・・」

 

 「果南さん?どうしたんですか?」

 

 「ど、どうもしないよ!?」

 

 「ならいいですけど・・・」

 

 首を傾げている天。

 

 辺りがすっかり暗くなった頃、天と私は観覧車に乗っていた。

 

 そろそろ帰ろうかという時に、天が『最後に観覧車に乗っていきませんか?』と誘ってくれたのだ。

 

 ゴンドラの中で天と二人きりという状況に、私はもの凄く緊張していた。

 

 (うぅ、鞠莉のせいだ・・・鞠莉があんなこと言うから・・・!)

 

 

 

 

 

 『あの遊園地の観覧車に一緒に乗った男女は、必ず結ばれるらしいわよ。夜景も綺麗みたいだし、夜に二人で乗ったら良い雰囲気になるのは間違いないわ。だから果南、必ず天を観覧車に誘いなさい。そして頂上に着いたら、二人で熱いKissを・・・キャーッ♡』

 

 

 

 

 

 (キャーッ♡じゃないでしょおおおおおっ!?)

 

 頭を抱える私。

 

 だから観覧車には乗らずに帰ろうと思ったのに、まさか天から誘われるなんて・・・

 

 まぁ、天はそんなこと知らないだろうけどさぁ・・・

 

 「果南さん、ホントにどうしたんですか?」

 

 「な、何でもないってば!?それより体調は大丈夫なの!?」

 

 「強引に話題を変えましたね・・・もう大丈夫ですよ。コーラパワーで全快です」

 

 「コーラパワー・・・?」

 

 「あぁ、こっちの話ですよ」

 

 笑う天。

 

 そういえば私が飲み物を買って戻ったら、天がペットボトルのコーラを持ってたんだよね・・・

 

 『それどうしたの?』って聞いたら、『親切な人からの贈り物です』とか言ってたけど・・・

 

 「そういえば果南さん、知ってます?」

 

 「何?」

 

 「この観覧車に一緒に乗った男女は、必ず結ばれるらしいですよ」

 

 「知ってたああああああああああっ!?」

 

 「うおっ!?」

 

 ビックリしている天。

 

 いや、ビックリしたいのこっちだから!

 

 「知ってたの!?知ってて私を誘ったの!?」

 

 「え、果南さんも知ってたんですか?」

 

 「だから意識しちゃって緊張してたんでしょうが!逆に何で天は平然としてるの!?」

 

 「私、緊張しないので」

 

 「何で『ド●ターX』みたいに言ったの!?」

 

 「余の辞書に『緊張』の文字は無い」

 

 「今度はナポレオン!?」

 

 「まぁ冗談はさておき・・・俺だって意識はしてましたよ」

 

 照れ臭そうに笑う天。

 

 「でも、ちゃんとコレを渡したかったので・・・どうしても、二人きりになれる場所に来たかったんです」

 

 天はそう言うと、バッグから小さな箱を取り出した。

 

 コレって・・・

 

 「誕生日おめでとうございます、果南さん」

 

 「・・・もしかして、誕生日プレゼント?」

 

 「勿論です。ちゃんと用意してたんですから」

 

 差し出された箱を受け取る。

 

 この遊園地のフリーパスがプレゼントだと思ってたから、他にももらえるなんて考えてもみなかった・・・

 

 「・・・開けても良い?」

 

 「どうぞ」

 

 恐る恐る箱を開ける。

 

 そこに入っていたのは、エメラルドグリーンのリボンだった。

 

 「色々と悩んだんですけど、果南さんといえばポニーテールの印象が強かったので。色も果南さんカラーを選んでみました」

 

 「嬉しい!ありがとう、天!」

 

 天からのプレゼントに、つい笑みが零れてしまう。

 

 私は一度ヘアゴムを外し、結ってあった髪を下ろした。

 

 「早速着けてみる!」

 

 「あ、俺が着けましょうか?」

 

 「えっ、出来るの!?」

 

 驚く私をよそに、天は慣れた手つきで私の髪を梳いていく。

 

 そしてリボンを手に取り、あっという間にポニーテールに結ってしまった。

 

 「はい、出来ました」

 

 「な、何でそんなに手慣れてるの・・・?」

 

 「俺の姉を誰だと思ってるんですか?」

 

 「あっ・・・そういえばそうだね」

 

 天のお姉さんの絢瀬絵里さんも、ポニーテールにしてることが多かったっけ・・・

 

 「よく絵里姉にやらされてたんで、ポニーテールの結び方には慣れてるんです。後はことりちゃんとか、鞠莉のヘアスタイルぐらいなら出来ますよ」

 

 「いや、『ぐらい』って・・・十分過ぎるでしょ」

 

 あんな独特なヘアスタイル、私だってどうやってるか分かんないのに・・・

 

 「まぁそれはさておき・・・良く似合ってますよ」

 

 「ホント?鏡が無いから、自分じゃ見れないんだけど・・・」

 

 「じゃあ写真撮りましょうか。それなら見れますし」

 

 「おっ、ナイスアイデア!」

 

 ポケットからスマホを取り出す私。

 

 「せっかくだし、天も一緒に写ろうよ」

 

 「いや、果南さんを撮るのが目的でしたよね?」

 

 「いいのっ!いいから一緒に写ろっ!」

 

 私は天の隣に移動すると、正面にスマホを掲げた。

 

 「ほら、もっとくっつかないと!」

 

 「急に大胆になったな、この人・・・」

 

 呆れている天。

 

 ふと外の景色を見ると、ちょうど頂上に差し掛かるところだった。

 

 よし・・・

 

 「いくよー!はい、チーズ!」

 

 そう言った瞬間、私は天に顔を近づけ・・・

 

 

 

 

 

 頬にキスをした。

 

 

 

 

 

 「っ!?」

 

 ビックリしている天。

 

 パシャッという音がして、無事に写真を撮り終える。

 

 「ちょ、果南さん!?急に何を!?」

 

 「アハハ、ビックリした?」

 

 「心臓が止まるかと思いましたよ!?」

 

 慌てふためいている天。

 

 フフッ、本当に意識はしてくれてるみたいだね・・・

 

 「いやぁ、観覧車の頂上でキスってカップルの定番じゃん?ロマンチックだし、一度やってみたかったんだよね」

 

 「普通マウス・トゥー・マウスでは!?」

 

 「あ、じゃあそっちもやる?」

 

 「やらないわっ!そういうのは本当に好きな人としなさいっ!」

 

 「アハハ、だから頬で妥協したんじゃない」

 

 笑う私。やれやれ・・・

 

 (全く・・・そもそも好きでもない男の子が相手なら、たとえ頬にでもキスしたりしないんだけどなぁ・・・)

 

 天は本当に鈍感だ。

 

 私が膝枕してあげても、それが私にとっての普通だと思ってるくらいだし・・・

 

 (まぁでも・・・そんな天を、私は好きになったんだけどさ)

 

 思わず苦笑してしまう。

 

 この男の子を振り向かせるのは、なかなか大変そうだ。

 

 「全く・・・果南さんは自由なんだから」

 

 苦笑している天。

 

 「まぁ、果南さんらしいですけどね。果南さんのそういうところ、俺は好きですよ」

 

 「っ・・・」

 

 顔がカァッと赤くなるのを感じる。

 

 ホントにもう・・・

 

 何でそういうことをサラッと言えちゃうかなぁ・・・

 

 「ん?どうかしました?」

 

 「な、何でもないっ!」

 

 天の腕に抱きつき、顔を隠すように縮こまる。

 

 「やれやれ・・・あっ、果南さん」

 

 「な、何・・・?」

 

 おずおずと顔を上げると、そこには・・・

 

 優しい笑みを浮かべた天の顔があった。

 

 「これからも、よろしくお願いしますね」

 

 「っ・・・うんっ!」

 

 額をコツンと合わせ、笑い合う私達。

 

 その日以降、私のスマホの待ち受けは天とのツーショット写真になった。

 

 そこには、驚いた表情をしている天と・・・

 

 愛おしそうに天の頬にキスをする、私の姿が写っていたのだった。




どうも〜、ムッティです。

果南ちゃん、誕生日おめでとう\(^o^)/

あと川●春奈さん、おめでとうございます(本当に今日がお誕生日だそうです)

今回は果南ちゃんがメインの番外編ということで、ちょっと甘い回にしてみました。

いかがだったでしょうか?

果南ちゃんは完全に天に恋しており、天も果南ちゃんが気になっているような節がありましたね。

果たしてこの後、二人は結ばれるのか・・・

そしてスペシャルゲストとして、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会から近江彼方ちゃんが登場しました!

あの間延びした口調を表現するのが難しかった(´・ω・`)

最初は果林ちゃんにしようかと思ったのですが、コーラのくだりは彼方ちゃんの方が良いかなと思いまして・・・

彼方ちゃんは料理が得意だから、その辺詳しいんじゃないか・・・という安直な考えですけど(笑)

番外編は本編と全く関係無いので、こういった自由なことが出来て面白いですね(^^)

来月は花丸ちゃんが誕生日を迎えるので、花丸ちゃんがメインの番外編を書けたら書きたいと思います。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

助けられたことは覚えているものである。

スクスタで真姫ちゃんと梨子ちゃんが連弾してる絵を見て、尊すぎてスクショしました。

まきりこ(りこまき?)も良いですね!


 《梨子視点》 

 

 「天くううううううううううんっ!」

 

 「秋穂さああああああああああんっ!」

 

 茶髪の女性と抱き合う天くん。

 

 雪穂さんに案内されて高坂家の居間にお邪魔していたところ、この女性がやって来たのだ。

 

 この人も穂乃果さんと同じで、雪穂さんのお姉さんなのかしら・・・

 

 「全く・・・お母さんも天くんもはしゃいじゃって・・・」

 

 「お母さん!?」

 

 「うん、ウチのお母さん」

 

 雪穂さんの紹介に、驚きのあまり固まってしまう私。

 

 嘘でしょ!?若すぎない!?

 

 「あら、花陽ちゃんに凛ちゃん!いらっしゃい!」

 

 「こんにちは」

 

 「お邪魔してます」

 

 挨拶する花陽さんと凛さん。

 

 と、雪穂さんのお母さんが私を見た。

 

 「あら、貴女どこかで・・・」

 

 「ほらお母さん、Aqoursの・・・」

 

 「あぁっ!?天くんがマネージャーやってるグループの子!?」

 

 雪穂さんの説明で、雪穂さんのお母さんが大声を上げる。

 

 「は、初めまして!桜内梨子です!」

 

 「や~ん♡可愛い~♡」

 

 「お母さん、年齢を考えよう?気持ち悪いよ?」

 

 「失礼ね!?いくつになっても私は女よ!?」

 

 雪穂さんのお母さんはツッコミを入れると、改めて私の方を見た。

 

 「初めまして、高坂秋穂です。ウチの息子がいつもお世話になってます」

 

 「息子!?」

 

 「えぇ、天くんは私の息子同然よ。何だったら、穂乃果か雪穂を嫁にもらってほしいと思ってるわ」

 

 「えぇっ!?」

 

 「だってさ、雪穂ちゃん。俺と結婚する?」

 

 「私は構わないけど?」

 

 「ダメええええええええええっ!?」

 

 思わず天くんを抱き寄せてしまう。

 

 「ちょ、梨子!?」

 

 「ウ、ウチの天くんは渡しませんからねっ!」

 

 「フフッ、冗談よ・・・一割は」

 

 「九割本気じゃないですか!?」

 

 確かにこの人、目が本気だ・・・

 

 油断ならないわ・・・!

 

 「・・・ねぇ、何で梨子はこんなに必死なの?」

 

 「それは私達には言えないかな」

 

 「何で気付かないにゃ・・・」

 

 「あぁ、なるほど・・・梨子ちゃんも大変だねぇ」

 

 花陽さんが苦笑し、凛さんが溜め息をつく。

 

 雪穂さんも気付いたらしく、私に同情的な視線を送っていた。

 

 うぅ、難しい戦いに身を投じてしまったわ・・・

 

 「あ、そうそう・・・秋穂さん、いつも和菓子ありがとうございます」

 

 「いえいえ。こちらこそ、いつも注文してくれてありがとね」

 

 「『穂むら』の和菓子は日本一だと思ってるんで。大将にも挨拶したいんですけど、今大丈夫ですかね?」

 

 「えぇ、大丈夫よ。一緒に行きましょうか」

 

 「お願いします・・・ちょっと行ってくるね」

 

 「あ、うん」

 

 雪穂さんのお母さんに連れられ、居間を出て行く天くん。

 

 と、雪穂さんがずいっと私に顔を近付けてきた。

 

 「そっかぁ、梨子ちゃんは天くんに惚れちゃったかぁ」

 

 「うぅ、はい・・・」

 

 顔を赤くして頷く私。

 

 会ったばかりの雪穂さんにも見破られるなんて・・・

 

 「ひょっとして、他のAqoursの皆も?」

 

 「んー、どうでしょう・・・好意は抱いてると思いますけど・・・」

 

 何しろ皆、一度は天くんに助けられている身だ。天くんに惚れていても不思議ではないと思う。

 

 特に曜ちゃんと鞠莉さんは、先輩だけど天くんに呼び捨てにさせてるくらいだし・・・

 

 鞠莉さんなんて、スキンシップが激しいものね・・・

 

 「天くんはおっぱい星人だから、おっぱいが大きい子に惹かれやすいにゃ。μ'sの中でも、一番大きい希ちゃんにもの凄く懐いてるし」

 

 「・・・今すぐ鞠莉さんを消すべきかしら」

 

 「落ち着いて梨子ちゃん!?目が怖いよ!?」

 

 花陽さんに宥められる。

 

 いけない、つい思考が危ない方向に・・・

 

 「にゃはは・・・梨子ちゃんは天くんにゾッコンだにゃ」

 

 苦笑する凛さん。

 

 「まぁ、気持ちは分かるにゃ。凛も天くんにはずいぶん助けられたにゃ」

 

 「凛さんもですか?」

 

 「うん、たくさん助けてもらったにゃ」

 

 微笑みながら頷く凛さん。

 

 「凛ね、ずっと自分にコンプレックスを抱いてたんだ。小学生の時、中性的な容姿を男子にからかわれたりして・・・それ以来、『女の子らしい服は自分には似合わない』って抵抗を持つようになったにゃ」

 

 凛さんはそう言うと、天井を見上げた。

 

 「でも天くんは、そんな凛のコンプレックスを粉々に破壊してくれたにゃ。『誰が何と言おうと、凛ちゃんは可愛い女の子だよ』って。『自分のことが信じられないなら、俺の言葉を信じてほしい』って・・・あんな真っ直ぐな目でそんなこと言われたら、もう天くんを信じるしかないにゃ」

 

 「凛さん・・・」

 

 「μ'sに入ってから、悩んだり苦しんだりすることもあったけど・・・いつも天くんの言葉に励まされて、背中を押されて進むことが出来たにゃ。天くんがいなかったら、今の凛はいないにゃ」

 

 微笑む凛さん。

 

 「凛が一番尊敬する人は、間違いなく天くんにゃ。だから梨子ちゃんは、本当に良い人を好きになったと思うにゃ。自信持って良いにゃ」

 

 「・・・ありがとうございます」

 

 何だか凄く勇気づけられた。

 

 改めて、『天くんを好きになって良かった』と思えた。

 

 「だからこそ梨子ちゃん、覚悟するにゃ・・・ライバルは多いにゃ」

 

 「うっ・・・」

 

 「昨日分かったと思うけど、μ'sの中でことりちゃん・海未ちゃん・真姫ちゃんの三人は天くんガチ勢にゃ。かよちんと希ちゃんは『天くんに求められたら応える』ことを公言している、ある意味ガチ勢より厄介な存在にゃ」

 

 「いや、厄介って・・・私はただ、天くんが大好きなだけなのになぁ・・・」

 

 溜め息をつく花陽さん。

 

 いや、厄介なことこの上ないんですけど・・・

 

 「凛に関しては心配しなくても大丈夫にゃ。天くんのことは大好きだけど、今の関係が一番良いと思ってるし・・・あと、穂乃果ちゃんも大丈夫にゃ」

 

 「えっ、何で言い切れるんですか?」

 

 「んー、何と言うか・・・あの二人の関係は、ちょっと特別なんだにゃ」

 

 笑う凛さん。

 

 「穂乃果ちゃんは天くんのことを、本当に対等な存在として見てるっていうか・・・勿論凛達もそうなんだけど、穂乃果ちゃんはより一層そんな感じなんだにゃ」

 

 「そうそう。穂乃果ちゃんって、誰よりも天くんを信頼してるっていうか・・・逆に天くんも、穂乃果ちゃんに絶大な信頼を寄せてるもんね」

 

 「・・・さっきの会話を聞くかぎり、信頼なんて微塵も感じなかったんですけど」

 

 「アハハ・・・まぁ普段はね」

 

 苦笑する雪穂さん。

 

 「でも何だかんだで、いざという時に天くんが頼るのはお姉ちゃんなんじゃないかな。当時もそうだったもん」

 

 「逆に穂乃果ちゃんも、何かあったら天くんを頼ってたにゃ」

 

 「あの二人の信頼関係は、私達から見ても特別なものだったよね」

 

 「信頼関係・・・」

 

 そういえば天くんって、穂乃果さんに頼まれてμ'sのマネージャーをやることになったのよね・・・

 

 当時小学五年生だった天くんに、どうして穂乃果さんはマネージャーを頼んだのかしら・・・?

 

 「まぁそんなわけで、あの二人の関係はちょっと特別なんだにゃ。凛達からすると、あの二人が男女の仲になることが想像出来ないというか・・・まぁ梨子ちゃんも実際、穂乃果ちゃんに会ってみたら分かると思うにゃ」

 

 笑いながらそう言う凛さん。

 

 今の私には、その言葉の意味がよく分からないけど・・・

 

 穂乃果さんに会ってみたい気持ちが強くなる私なのだった。




どうも〜、ムッティです。

ここで恒例の支援絵紹介タイム!

今回も『ことりちゃん大好き』さんからいただきました!

今回いただいた支援絵はこちら!


【挿絵表示】


か、かよちんんんんんんんんんん!

やっぱり可愛い( ´∀`)

五年経ったかよちんも、きっと綺麗なんだろうなぁ・・・

『ことりちゃん大好き』さん、ありがとうございました!



そしてもう一つ。

☆評価を付けて下さった方が、80人になりました!

ありがたいことだと思っております。

☆評価を付けて下さった方々・・・

お気に入りに登録して下さった方々・・・

感想を書いて下さる方々・・・

そしていつもこの作品を読んで下さる方々・・・

たくさんの方々の応援に支えられ、この作品を書くことが出来ています。

皆様、本当にありがとうございます。

これからも『絢瀬天と九人の物語』をよろしくお願い致します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心配してくれる人がいるというのはありがたいことである。

μ'sの新曲『A song for You!You?You!!』が神曲過ぎてヤバい・・・

アニメーションPVを見て、感動のあまり泣きそうになりました(T-T)

ちなみに絵里ちゃんのソロパートの際、背景で『Я』の文字がくるくる回っていましたが・・・

あれが横になった時に一瞬『天』に見えてしまい、『おぉっ!』となってしまったのはここだけの話(笑)


 「おっ、遂に発表の時間だね」

 

 「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー・・・」

 

 「何でラマーズ法!?」

 

 梨子にツッコミを入れる花陽ちゃん。

 

 いよいよラブライブ予備予選の結果発表の時間になり、俺はスマホでサイトをチェックしていた。

 

 「落ち着いて、梨子ちゃん」

 

 苦笑しながら、梨子の背中を擦る雪穂ちゃん。

 

 「きっと大丈夫だから。仲間を信じてあげて」

 

 「雪穂さん・・・はいっ!」

 

 笑みを浮かべる梨子。

 

 何かあの二人、距離が近くなったような・・・

 

 俺が大将に挨拶に行ってる間に、何かあったのかな?

 

 「あっ、発表されてるにゃ!」

 

 俺の背後からスマホを覗きこんでいた凛ちゃんが、大きな声を上げる。

 

 スマホの画面には、予備予選合格グループの名前が載っていた。

 

 「『イーズーエクスプレス』、『グリーンティーズ』、『ミーナーナ』・・・『Aqours』!」

 

 「あったにゃあああああっ!」

 

 「やったあああああっ!」

 

 「良かったあああああっ!」

 

 喜ぶ凛ちゃん・花陽ちゃん・雪穂ちゃん。

 

 あぁ、良かった・・・

 

 「天くんんんんんんんんんんっ!」

 

 「うわっ!?」

 

 勢いよく抱きついてくる梨子。

 

 その目には涙が浮かんでいた。

 

 「やったわっ!予備予選を突破したわよっ!」

 

 「・・・うん、良かった」

 

 梨子の頭を撫でる俺。

 

 「千歌さん達に電話してあげて。今頃皆も喜んでるだろうから」

 

 「うんっ!」

 

 梨子は嬉しそうに頷くと、スマホを取り出して千歌さんに電話をかけ始めた。

 

 本当に良かったな・・・

 

 「フフッ、ホッとした顔しちゃって」

 

 さりげなく側に近寄ってくる花陽ちゃん。

 

 「天くん、梨子ちゃんのこと大切に想ってるんだね」

 

 「・・・急にどうしたの?」

 

 「梨子ちゃん、予備予選に参加しないでピアノコンクールに出場したんでしょ?これでもしAqoursが予備予選に落ちてたら、梨子ちゃんはピアノコンクールに出場したことを後悔してしまったかもしれない・・・だからAqoursが予備予選を突破して、尚更ホッとしてるんだよね?」

 

 「・・・花陽ちゃんには分かっちゃうかぁ」

 

 苦笑する俺。

 

 普段はおっとりしてるのに、こういう時は鋭いんだよなぁ・・・

 

 「・・・予備予選を優先させようとした梨子に、心変わりさせるキッカケを作っちゃったのは俺だから。これでもし梨子が傷つくようなことがあったら、俺は梨子に顔向け出来ないなと思ってさ」

 

 「全く・・・天くんは変わらないね」

 

 花陽ちゃんは苦笑すると、俺の身体にもたれかかってきた。

 

 「責任感が強いのは良いけど、一人で抱え込み過ぎ。最終的に決断したのは梨子ちゃんなんだから、天くんが責任を感じる必要なんて無いんだよ。梨子ちゃんだって、同じこと言うと思うよ?」

 

 「いや、でも・・・」

 

 「まぁ私がそう言ったところで、天くんの考えが変わることは無いだろうけど・・・ホント、天くんって絵里ちゃんにそっくりだよね」

 

 「・・・俺、あんなに石頭かなぁ」

 

 「フフッ、せめて『芯がある』って言ってあげなよ」

 

 おかしそうに笑う花陽ちゃん。

 

 「とにかく、Aqoursは無事に予備予選を突破したんだから。おめでとう、良かったね」

 

 「花陽ちゃん・・・うん、ありがとう」

 

 「ちょっと待ってね、千歌ちゃん・・・ほら天くん、皆に何か言ってあげて!天くんからの言葉を、皆待ってるよ!」

 

 「はいはい」

 

 テンションMAXの梨子に苦笑しつつ、梨子からスマホを受け取る俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「秋穂さん、お邪魔しました」

 

 「いえいえ。またいつでも遊びにいらっしゃい」

 

 笑みを浮かべる秋穂さん。

 

 俺達は『穂むら』を後にし、帰路に着こうとしていた。

 

 「和菓子が食べたくなったら、遠慮なく言ってね。天くんにはサービスしちゃうから」

 

 「秋穂さん・・・愛してます」

 

 「ダ、ダメよ天くん・・・私にはあの人が・・・キャッ♡」

 

 「ワー、オ母サン可愛イナー」

 

 「雪穂!?何でカタコトなのよ!?」

 

 秋穂さんのツッコミ。

 

 あぁ、雪穂ちゃんが遠い目をしてる・・・

 

 「むぅ・・・この母親キラー・・・」

 

 梨子が不機嫌そうに何かを呟いていた。

 

 何か梨子、感情の起伏が激しくなってない?

 

 「誰のせいだと思ってるにゃ」

 

 「何で凛ちゃんは俺の心が読めるの?」

 

 呆れている凛ちゃんにツッコミを入れる。

 

 っていうか、俺のせいなの?

 

 「間違いなく天くんのせいだよ」

 

 「花陽ちゃんまで読心術を!?」

 

 何なのこの人達、メッチャ怖いんですけど・・・

 

 「アハハ・・・梨子ちゃん、応援してるからね」

 

 「・・・頑張ります」

 

 苦笑する雪穂ちゃんの言葉に、肩を落とす梨子。

 

 何かあったのかな?

 

 「雪穂ちゃん、亜里姉のことよろしくね」

 

 「うん、任せて」

 

 笑顔で頷く雪穂ちゃん。

 

 「っていうか、亜里沙には会っていかないの?」

 

 「本当は会うつもりだったんだけど・・・絵里姉が体調を崩してるんじゃ、亜里姉もバタバタしてるだろうから。次の機会にしようかなって」

 

 「・・・そっか」

 

 雪穂ちゃんはそう言うと、俺のことを抱き締めてきた。

 

 「雪穂ちゃん・・・?」

 

 「・・・今度はちゃんと連絡してよね。天くんがいなくて、私も凄く寂しいんだから」

 

 「雪穂ちゃん・・・」

 

 「あと、早く絵里さんと仲直りすること。亜里沙も寂しがってるからさ」

 

 「・・・うん。分かった」

 

 頷く俺。

 

 何か俺、色々な人に心配かけてるな・・・

 

 「ゴメンね、雪穂ちゃん・・・」

 

 「謝らないの」

 

 雪穂ちゃんの額が、俺の額にコツンと当たる。

 

 「言ったでしょ?私は天くんの姉だって。姉が弟を心配するのは当たり前なんだから」

 

 「・・・そっか」

 

 微笑む俺。

 

 「ありがと・・・『雪姉』」

 

 「はうっ!?」

 

 急に雪穂ちゃんが鼻血を噴き出し、そのまま倒れ込んだ。

 

 「ちょ、雪穂ちゃん!?大丈夫!?」

 

 「ゆ、ゆゆゆ・・・雪姉・・・フフッ・・・フフフッ・・・!」

 

 「雪穂ちゃん!?しっかりして!?」

 

 「大丈夫よ、天くん」

 

 秋穂さんが雪穂ちゃんの両脚をガッチリ掴んだ。

 

 「後はこっちで処理しておくわ」

 

 「処理って何ですか!?」

 

 「じゃあまたね。いつでも待ってるから」

 

 「ちょ、秋穂さん!?」

 

 秋穂さんはにこやかに手を振ると、雪穂ちゃんを引きずって中に戻っていった。

 

 「行っちゃった・・・雪穂ちゃん、大丈夫かな・・・?」

 

 「大丈夫にゃ。ちょっと心にクリティカルヒットしただけにゃ」

 

 「雪穂さんを一撃でK.O.するなんて・・・天くん、恐ろしい子・・・」

 

 「私も天くんに『かよ姉』って呼ばれてみたいなぁ・・・」

 

 「何の話!?」

 

 ツッコミを入れる俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

前書きでも述べましたが、μ'sの新曲『A song for You!You?You!!』メッチャ良い曲ですよね!

個人的に、『お互いの〜未〜来〜♪』のところの希ちゃんに心を撃ち抜かれました。

そしてやっぱりのぞえりは至高や・・・

とりあえず、絶対にCDを買おうと決めた今日この頃でした。



さて、Aqoursは無事に予備予選を通過しましたね。

そういえば前回触れていませんでしたが、穂乃果ちゃんと雪穂ちゃんのお母さんの名前は『秋穂』にしてみました。

勝手に決めた名前ですので、悪しからず・・・

最近ちょっと話の進みが遅い気がするので、もうちょっとサクサク進められるように頑張りたいと思います。

次の話は明日投稿予定です。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

向き合わないといけない時は必ずやって来る。

μ'sの新曲のPVを何度も見返す今日この頃。

ヤバい、真姫ちゃん可愛い。


 「送ってくれてありがとね、天くん」

 

 「どういたしまして」

 

 梨子の言葉に、笑みを浮かべる俺。

 

 花陽ちゃんや凛ちゃんと別れた俺達は、梨子が泊まっているホテルへとやって来ていた。

 

 「今日は楽しかったわ。花陽さんに凛さん、雪穂さんにも会えたし」

 

 「なかなか個性的だったでしょ?」

 

 「フフッ、ホントにね」

 

 クスクス笑う梨子。

 

 「でも皆、本当に天くんのことを大切に想ってるのね。羨ましいわ」

 

 「・・・仲間だからね」

 

 照れ笑いを浮かべる俺。

 

 「ホント・・・良い仲間に恵まれたと思うよ」

 

 穂乃果ちゃんにも会いたかったなぁ・・・

 

 まぁ、次は会えるかな。

 

 「じゃあ明日は、夕方頃に内浦に帰ろうか」

 

 「私はそれで大丈夫だけど・・・本当に良いの?」

 

 「何が?」

 

 「その・・・お姉さんと会わなくて」

 

 「あぁ、そのことね」

 

 苦笑する俺。

 

 どうやら心配をかけていたらしい。

 

 「本当は今回、会いに行こうかと思ってたんだけどね・・・体調を崩してるんじゃ、俺が行くのは良くないと思うから」

 

 「でも、お姉さんは喜ぶんじゃ・・・」

 

 「・・・喜んでくれたら良いんだけどね」

 

 絵里姉の場合、人に弱っているところを見せたがらないからなぁ・・・

 

 特に絶賛喧嘩中の俺が相手じゃ、なおさら意固地になるだろう。

 

 体調が悪い今、気が休まらなくなるような状況にするのは良くない。

 

 「・・・会いに行くのは次の機会にするよ。俺が行ったところで、今の絵里姉にしてあげられることもないから」

 

 「天くん・・・」

 

 心配そうに俺を見る梨子。

 

 その時・・・

 

 「天・・・?」

 

 「え・・・?」

 

 突然声をかけられ、振り向く俺。

 

 そこに立っていたのは・・・

 

 「あ、亜里姉!?」

 

 「やっぱり天だああああああああああっ!」

 

 「ごふっ!?」

 

 「そ、天くんんんんんんんんんんっ!?」

 

 亜里姉のとっしん!

 

 急所に当たった!

 

 「天っ!天っ!天っ!」

 

 「ちょ、落ち着いて亜里姉!?」

 

 亜里姉のほっぺすりすり!

 

 天はまひして技がでにくくなった!

 

 「落ち着けっつってんだろうがああああああああああっ!」

 

 「ぐはっ!?」

 

 天のインファイト!

 

 急所に当たった!

 

 亜里姉はたおれた!

 

 「ふぅ・・・何とか倒したわ」

 

 「何で倒してるのよ!?『亜里姉』ってことは天くんのお姉さんよねぇ!?」

 

 「倒したっていいじゃないか。うざいんだもの」

 

 「相田●つをの名言をパクらないのっ!」

 

 「まぁ冗談はさておき・・・亜里姉はこれぐらいじゃビクともしないから大丈夫」

 

 「いえーい!」

 

 「嘘でしょ!?」

 

 早くも復活している亜里姉。

 

 まぁちゃんと加減もしたしな。

 

 「天ああああああああああっ!」

 

 「はいはい」

 

 抱きついてくる亜里姉の頭を、苦笑しながら優しく撫でる。

 

 やっぱりこのプラチナブロンドの髪、いつ見ても綺麗だよなぁ・・・

 

 「もうっ!東京に来てるなら連絡してよ!?会いたかったんだよ!?」

 

 「ゴメンゴメン。急に来ることになったもんだから」

 

 「全くもう・・・んっ?」

 

 梨子に気付く亜里姉。

 

 次の瞬間、顔がパァッと輝く。

 

 「もしかして、Aqoursの桜内梨子ちゃん!?」

 

 「は、はい・・・」

 

 「ハラショオオオオオッ!」

 

 「キャッ!?」

 

 梨子に勢いよく抱きつく亜里姉。

 

 「こんな所で会えるなんて!サインもらって良い!?」

 

 「サ、サイン!?私の!?」

 

 「勿論!今ちょっと色紙を・・・」

 

 「落ち着けや」

 

 「ごふっ!?」

 

 天のからてチョップ!

 

 急所に当たった!

 

 亜里姉はたおれた!

 

 「やれやれ、手のかかる姉だな」

 

 「こ、これが絢瀬家の日常なの・・・?」

 

 ドン引きしている梨子。

 

 いや、別に日常ではないんだけど・・・

 

 「ほら亜里姉、早く起きて」

 

 「ふっかーつ!」

 

 「・・・私には理解できない」

 

 頭を抱えている梨子。

 

 まぁ梨子のことはさておき・・・

 

 「ところで亜里姉、何でこんな所にいるの?」

 

 「夕飯の買い出しに来たんだよ。まさか天に会えるとは思わなかったなぁ」

 

 「・・・まさかとは思うけど、亜里姉が夕飯を作ってるわけじゃないよね?」

 

 「え?最近は私が作ってるけど?」

 

 「・・・絵里姉が体調を崩した原因は、亜里姉の料理だな」

 

 「酷い!?」

 

 ショックを受ける亜里姉。

 

 亜里姉、料理苦手だもんなぁ・・・

 

 「俺は忘れない。炭化した魚が食卓に出た日のことを」

 

 「あ、あれはちょっと焼き過ぎちゃって・・・」

 

 「俺は忘れない。甘いおにぎりを食べさせられた日のことを」

 

 「さ、砂糖と塩を間違えちゃって・・・」

 

 「俺は忘r・・・」

 

 「もう勘弁してええええええええええっ!?」

 

 泣きながら土下座する亜里姉。

 

 やっと自分の非を認めたな・・・

 

 「で?今度は何をやらかしたの?」

 

 「何もやらかしてないの!お姉ちゃんが体調を崩してるのは、ちょっと夏風邪をひいちゃったからなの!」

 

 「へー」

 

 「信頼ゼロ!?」

 

 まぁ、冗談はこれくらいにしておいて・・・

 

 「花陽ちゃんから、『寝込んでる』って聞いたけど・・・そんなに体調悪いの?」

 

 「・・・うん。横になってないとしんどいんだと思う」

 

 暗い表情の亜里姉。

 

 「仕事の方が忙しいみたいで、ここ最近は帰って来るのも遅かったんだよ。疲れが溜まって夏風邪をひいた挙句、それをこじらせちゃった感じかな」

 

 「そっか・・・」

 

 絵里姉のことだから、また必要以上に頑張ってしまったんだろう。

 

 ホント、昔から変わらないな・・・

 

 「後はまぁ・・・ストレスじゃないかな」

 

 「ストレス?」

 

 「・・・職場の方で、あまり上手くいってないみたい。家に帰って来てお酒呑んで酔いが回ると、ポロッとそういう愚痴を零すことがあって。ずっと我慢してきた反動が、今来てるんじゃないかと思う」

 

 「・・・もしそうなら、俺にも責任があるかな」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「自分の意見を押し通して、家を出たのは俺だから・・・それも絵里姉にとって、ストレスになったんだろうね」

 

 「天・・・」

 

 心配そうな表情の亜里姉。

 

 すると・・・

 

 「・・・行ってあげて」

 

 「え・・・?」

 

 今まで黙って話を聞いていた梨子が、俺を見てそう言った。

 

 「お姉さんのことが心配なんでしょ?だったら行ってあげて」

 

 「・・・さっきも言ったけど、俺に出来ることなんてないから。行っても意味無いよ」

 

 「いいから行きなさいッ!」

 

 「っ!?」

 

 強い口調で叫ぶ梨子。

 

 その剣幕に、俺はビックリしてしまった。

 

 「り、梨子・・・?」

 

 「天くんに今出来ることがあるとすれば、お姉さんの所へ行くことでしょうがッ!そんなこと、私に言われなくたって天くんなら分かるでしょ!?」

 

 「いや、でも・・・」

 

 「『でも』じゃないのッ!」

 

 俺を睨みつける梨子。

 

 「色々と理由をつけてはいるけど、本当はお姉さんと顔を合わせるのが怖いだけでしょ!?だからお姉さんの所に行きたくないんでしょ!?」

 

 「っ・・・」

 

 一番痛いところを突かれてしまった。

 

 梨子には見抜かれてたか・・・

 

 「いつまでも逃げてないで、いい加減向き合いなさいッ!今向き合わなかったら、絶対後悔するわよ!?」

 

 梨子は怒っているわけじゃない。

 

 俺の為を思って、あえて強い言葉で叱咤激励してくれている。

 

 俺がどうすべきか迷っていると、亜里姉が手を差し出した。

 

 「・・・はい、これ」

 

 「これって・・・」

 

 亜里姉が手に持っていたのは・・・絢瀬家の鍵だった。

 

 「・・・これ、俺が家を出る時に置いていったやつだよね?」

 

 「うん。いつか天に返そうと思って、ずっと持ってたんだ」

 

 微笑む亜里姉。

 

 「お姉ちゃんね、最近ずっと寝言で天の名前呼んでるの。身体が弱ってるから心も弱って、つい心の声が漏れちゃうんだろうね。だから・・・行ってあげて、天。お姉ちゃん、天のこと待ってるよ」

 

 その言葉を聞いて、俺の心は決まった。

 

 亜里姉から渡された鍵を、強く握り締める俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

μ'sの新曲を題材にした話を書きたい(唐突)

μ'sが現役でやっている頃の話というか、天との絡みを書きつつ新曲が生まれた時の物語を書いてみたいです。

アニメーションPVのフルバージョンを見ることが出来たら、勢いで書いちゃうかも(笑)

それはそれで面白いかもしれませんね。



さてさて、本編では遂に亜里沙ちゃんが登場しました!

タフ過ぎてヤバい(笑)

そして天は覚悟を決めた模様・・・

果たしてどうなるのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

これからもこの作品をよろしくお願い致します!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

喧嘩した相手と会うのは気まずいものである。

もう2月も終わるんですねぇ・・・


 「・・・ここに来るのも、久しぶりだな」

 

 呟く俺。

 

 俺は今、絵里姉と亜里姉が住むマンションへとやって来ていた。

 

 つい数ヶ月前までは、俺も住んでいた場所・・・

 

 「・・・緊張するな」

 

 この家を出てからというもの、絵里姉とは一度も会っていない。

 

 それどころか電話で話したり、ラインでやりとりしたことも無い。

 

 その絵里姉と、俺は今から顔を合わせようとしているのだ。

 

 「・・・よし」

 

 意を決し、亜里姉に渡された家の鍵を取り出す。

 

 震える手で鍵穴に差し込み、ゆっくりとひねった。

 

 ガチャッという音と共に鍵が開き、恐る恐るドアを開ける。

 

 「ただ・・・失礼します」

 

 『ただいま』と言うことを躊躇ってしまい、慌てて言い直しながら中に入る。

 

 中は静まり返っており、本当に人がいるのか疑わしいレベルだった。

 

 「寝てるのかな・・・?」

 

 首を傾げつつ、ゆっくりと廊下を進む。

 

 たった数ヶ月離れていただけなのに、家の中がとても懐かしく感じられた。

 

 感傷に浸りつつ歩いていると、洗面所の方で音がした。

 

 ドキドキしつつ、洗面所のドアの前に立つ。このドアの向こうに、絵里姉がいるんだ・・・

 

 俺は震える手でドアの取っ手に手をかけ、そして・・・勢いよくドアを開けた。

 

 「絵里姉ッ!」

 

 「えっ・・・?」

 

 そこにいたのは、間違いなく絵里姉だった。

 

 普段はポニーテールにしている金髪を下ろし、滴る水をタオルで拭いて・・・

 

 あっ・・・

 

 「そ、天・・・?」

 

 絵里姉の白い肌が、みるみるうちに赤く染まっていく。

 

 大きな胸、くびれた腰、しなやかな太もも・・・全てが露わになっており、完全に生まれたままの姿だった。

 

 「・・・失礼しました~」

 

 ゆっくりとドアを閉める。

 

 さて・・・帰ろう。

 

 「待たんかいいいいいいいいいいっ!」

 

 ドアの隙間から伸びてきた絵里姉の手に、襟首を掴まれる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・で?」

 

 「大変申し訳ございませんでした」

 

 ソファに座る絵里姉に見下ろされ、土下座して謝る俺。

 

 俺達は今、リビングへと移動してきていた。

 

 「まさかウチの弟に、姉の裸を覗く趣味があったとは思わなかったわ」

 

 「ご馳走様でした」

 

 「まさかの感謝!?そこは否定しなさいよ!?」

 

 「絵里姉、立派になったね」

 

 「私の方が年上よねぇ!?誰目線なの!?」

 

 「元気そうで安心したわ。それじゃ」

 

 「だから待ちなさいってば!?」

 

 ソファから立ち上がろうとした絵里姉だったが、足元がふらついて倒れそうになった。

 

 慌てて支える俺。

 

 「・・・体調を崩してるって聞いたけど、ホントにしんどそうだね」

 

 「・・・どうってことないわよ」

 

 俺から離れ、再びソファに座る絵里姉。

 

 そのまま俺を睨みつける。

 

 「・・・何しに来たのよ。この家を出て行ったくせに」

 

 「・・・何してるんだろうね、ホント」

 

 溜め息をつく俺。

 

 こうなることは分かってたのに・・・

 

 「まぁとりあえず・・・夕飯でも作ろっか」

 

 「は・・・?」

 

 「冷蔵庫は・・・うわぁ、グチャグチャ・・・ちゃんと整理しなよ、亜里姉・・・」

 

 「ちょ、何してるのよ!?」

 

 「何って・・・夕飯作ろうとしてるんだけど?」

 

 「アンタ本当に何しに来たのよ!?」

 

 絵里姉のツッコミ。やれやれ・・・

 

 「ちゃんと栄養のあるもの食べなきゃ、いつまで経っても体調良くならないよ?とりあえず何か作るから、横になって休んでな」

 

 「勝手なことしないで!今さら何を・・・」

 

 「先に言っておくけど、俺は謝りに来たわけじゃないから」

 

 準備を進めつつ、冷たく言い放つ俺。

 

 「俺はあの時の自分の判断を、間違ってたとは思わない。内浦へ行って良かったと思ってるし、浦の星に入って良かったと思ってる」

 

 「っ・・・」

 

 「でも絵里姉だって、自分が間違ってるとは思ってないでしょ?だったら話し合ったところで、何の意味も無い。この話は平行線のまま終わるよ」

 

 「・・・じゃあ何でここに来たのよ」

 

 尋ねてくる絵里姉。

 

 やっぱり言葉にしなきゃ伝わらないか・・・

 

 「・・・弟が姉の心配をするのは当然でしょ」

 

 「っ・・・」

 

 「喧嘩してたって、体調を崩してるって聞いたらそりゃ心配になるよ。弟なんだから当たり前じゃん」

 

 「・・・だったらッ!」

 

 怒りで表情を歪める絵里姉。

 

 「だったらッ!どうしてこの家を出て行ったのよッ!?どうして私の言うことも聞かずにッ!浦の星のテスト生の話を引き受けたりしたのよッ!?」

 

 俺に詰め寄り、胸ぐらを掴む絵里姉。

 

 「どうして私をっ・・・置いていったのよぉっ・・・!」

 

 絵里姉の頬を涙が伝う。

 

 足に力が入らなくなったのか、またしても倒れそうになる絵里姉をそっと支える。

 

 「・・・言ったでしょ。今のままじゃ平行線で終わるんだから、話し合ったって何の意味も無いって」

 

 俺は絵里姉を抱きかかえると、ソファまで運んで横に寝かせた。

 

 「・・・夕飯ができたら起こすから。それまでゆっくり寝てなよ」

 

 絵里姉の身体に、近くに置いてあったタオルケットをかける。

 

 絵里姉はそれを掴むと、頭まで勢いよく引っ張って顔を隠した。

 

 「ひっぐ・・・ぐすっ・・・」

 

 絵里姉のすすり泣く声が聞こえる。

 

 俺は黙ってキッチンへ戻ると、黙々と夕飯作りを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「ハラショー!このお肉美味しいー!」

 

 「ちょっと亜里沙!?それ私の肉でしょうが!」

 

 「アハハ・・・」

 

 苦笑する私。

 

 私は今、亜里沙さんと一緒に焼肉を食べにやって来ていた。

 

 そしてこの場には、もう一人の人物がいる。

 

 「ほら、梨子も食べなさい。いい感じに焼けたわよ」

 

 「ありがとうございます、にこさん」

 

 お皿にお肉をのせてくれるにこさんに、お礼を言う私。

 

 あのμ'sのメンバー、矢澤にこさんが私の目の前に座っていた。

 

 「しっかしまぁ、天がまた東京に帰って来てたとはね・・・何でアイツ連絡を寄越さないのよ・・・」

 

 「ホントですよ!言ってくれればすぐにでも会いに行ったのに!」

 

 頬を膨らませている亜里沙さん。

 

 「にこさんだって、あんなに天に会いたがってましたもんね!」

 

 「わ、私は別に・・・まぁ、会いたかったけど」

 

 急に頬を赤らめ、恥ずかしそうに呟くにこさん。

 

 むっ、もしやにこさん・・・

 

 「『天くんのことが好きなのかな・・・?』とか思ってるでしょ」

 

 「えぇっ!?何で分かったんですか!?」

 

 「思いっきり顔に出てるわよ」

 

 呆れているにこさん。

 

 「言っとくけど、私は天に恋愛感情を抱いたことは無いわよ。ことりや海未、真姫みたいなガチ勢じゃないからね」

 

 「じゃあ厄介勢ですか?」

 

 「・・・なるほど、凛の入れ知恵ね」

 

 溜め息をつくにこさん。

 

 「花陽や希とも違うわよ。っていうか、あの二人もガチ勢みたいなもんでしょ。『求められれば応える』って、多少なりとも恋愛感情が無いと応えられるわけないじゃない」

 

 「た、確かに・・・」

 

 つまり、μ'sの半分以上が敵っていうこと・・・?

 

 「・・・道は険しいんですね」

 

 「まだ何も聞いてないけど、アンタが天に惚れたってことはよく分かったわ」

 

 「えぇっ!?梨子ちゃん、天のことが好きなの!?」

 

 「何でこの流れで気付かなかったのよ・・・」

 

 再び溜め息をつくにこさん。

 

 「じゃあにこさんにとって、天くんってどんな存在なんですか?」

 

 「んー、そうねぇ・・・」

 

 考え込むにこさんだったが、やがてクスッと笑みを零した。

 

 「・・・光、かしら」

 

 「光・・・?」

 

 「そう、光。一人ぼっちだった時も、嫌になるくらい落ち込んでいた時も・・・どんな時でも、天は私を照らしてくれた。いつだって手を差し伸べてくれた。だから私は、心の底から天を信じることが出来るわ」

 

 微笑むにこさん。

 

 「だからこそ、私は光を・・・天を守りたい。恋してるわけじゃないけど、あの子の為なら私は何でも出来るわよ」

 

 「っ・・・」

 

 息を呑む私。

 

 そこまで天くんのことを・・・

 

 「だからこそ、これだけは覚えておきなさい」

 

 真顔で私を見るにこさん。

 

 「アンタ達Aqoursのメンバーが、もし天を傷付けるようなマネをしたら・・・私は絶対に許さないから」

 

 「・・・肝に銘じます」

 

 思わず冷や汗が出る。にこさんの目が、言葉の本気度を物語っていた。

 

 鞠莉さん、殺されるんじゃないかしら・・・

 

 「ちょっとにこさん、梨子ちゃんが怖がってるじゃないですか。止めてあげて下さい」

 

 「初対面はガツンとかますくらいがちょうど良いのよ。舐められちゃいけないの」

 

 「あっ、お肉も~らいっ♪」

 

 「亜里沙ああああああああああっ!」

 

 亜里沙さんには思いっきり舐められていた。

 

 凄いわね亜里沙さん・・・

 

 「気にしないでね、梨子ちゃん。にこさんはこう見えて優しい人だから」

 

 「は、はい・・・」

 

 「ちょっと!?『こう見えて』ってどういう意味よ!?」

 

 「そのままの意味です。今のにこさん、メッチャ怖いですからね?」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まるにこさん。

 

 にこさんをやり込めるなんて、凄いわね亜里沙さん・・・

 

「っていうか亜里沙さん、今さらですけど帰らなくて良いんですか?そもそも夕飯の買い出しをしに来たんじゃ・・・」

 

 「夕飯は天に任せておけば大丈夫だよ。さっき天にも『私は焼肉食べに行くから、お姉ちゃんの夕飯よろしく』ってラインしといた」

 

 笑う亜里沙さん。

 

 「久々にお姉ちゃんと会うわけだし、しばらくは二人っきりにしてあげたいからね」

 

 「天くん、大丈夫ですかね・・・?」

 

 「梨子ちゃんが喝を入れてくれたんだもん。大丈夫だよ」

 

 微笑む亜里沙さん。

 

 「・・・ありがとね、梨子ちゃん。天の背中を押してくれて」

 

 「い、いえ・・・私も強く言い過ぎちゃったというか・・・」

 

 「あれくらいがちょうど良かったんだよ。そうじゃなきゃ、天もなかなか覚悟が決まらなかっただろうし」

 

 「天や絵里のことをよく知ってる分、私達は強く言えなかったからね」

 

 苦笑するにこさん。

 

 「あの二人に必要なのは、ちょっとしたキッカケなのよね。それさえあれば、後は自然と仲直り出来ると思うんだけど」

 

 「そのキッカケを梨子ちゃんが作ってくれたし、何とかなりますよ。二人ともお互いを想い合ってるんですから」

 

 笑いながらそう言う亜里沙さん。

 

 「・・・亜里沙さんは信じてるんですね。天くんのことも、お姉さんのことも」

 

 「勿論」

 

 亜里沙さんはそう言い切ると、柔らかな笑みを浮かべるのだった。

 

 「私の自慢の弟と、自慢のお姉ちゃんだもん」




どうも〜、ムッティです。

世間では『鬼滅の刃』とコロナウイルスが流行っていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

自分は風邪をひいてしまい、体調不良の日々を過ごしていました(´・ω・`)

最初は『え、まさかコロナ!?いやインフル!?』と焦りましたが、病院に行ったらただの風邪だったという・・・

皆さんも気を付けて下さいね(お前が言うな)



さてさて、遂に絵里ちゃん登場です!

・・・いきなり全裸でしたけど(笑)

アレです。天はそういう星の下に生まれたんです。

・・・チクショウ(゜言゜)

果たして二人は仲直り出来るのか・・・

次の話は明日投稿予定です。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

弱っている時は優しさが身に染みるものである。

LiSAさんの『紅蓮華』ってカッコいいですよね。

あっ、LiSAさんといえば・・・

LiSAさん、鈴木達央さん、ご結婚おめでとうございます!(今さら)


 《絵里視点》 

 

 「どうして私の言うことが聞けないのッ!」

 

 怒鳴る私。

 

 私と天はリビングで、天の進路について激しく口論していた。

 

 「この家を出て一人暮らし!?そんなの認められるわけないでしょうがッ!」

 

 「絵里姉の許可なんか要らないんだよッ!」

 

 怒鳴り返してくる天。

 

 いつも温厚でマイペースな天にしては、とても珍しい光景だ。

 

 「親からの許可が出てるのに、姉から許可をもらう必要なんて無いだろッ!」

 

 私達の両親は、仕事の都合でロシアに住んでいる。

 

 両親は天の一人暮らしにOKを出したらしく、私は焦っていた。

 

 「理事長に持ち掛けられたからって、静岡の高校に行かなくても良いじゃないッ!せめて家から通える範囲で・・・」

 

 「もう決めたことなんだよッ!」

 

 声を荒げる天。

 

 「自分の道は自分で決めるッ!絵里姉みたいに自分の気持ちを押し殺して、使命感だけで生きていくなんて嫌なんだよッ!」

 

 「っ・・・」

 

 その一言は、私の心に深く突き刺さった。

 

 色々と思い当たる節があったのだ。

 

 「・・・絵里姉は、μ'sで何を学んだんだよ」

 

 私を睨みつける天。

 

 「絵里姉が生徒会長として、音ノ木坂の廃校を阻止しようとしてた時・・・何で理事長がそれを止めてたのか、あの時分かったんじゃないのかよ」

 

 それは私が、自分を犠牲にしようとしてたから・・・

 

 でも、それでも私は・・・!

 

 「これじゃあ、五年前と何も変わらない。そんなこと、絵里姉だって分かって・・・」

 

 乾いた音がリビングに響いた。

 

 気付けば私は、天の頬を引っ叩いていた。

 

 「分かったようなこと言わないでッ!天に私の何が分かるのよッ!」

 

 違う、こんなことが言いたいんじゃない・・・!

 

 私はただ・・・!

 

 「・・・分かりたくないよ。今の絵里姉の気持ちなんて」

 

 頬を押さえた天は、そのまま私に背を向けて歩いていく。

 

 待って天、行かないで・・・お願いだから、私を・・・

 

 私を置いていかないで・・・!

 

 

 

 

 

 「嫌あああああっ!?」

 

 「うわっ!?」

 

 飛び起きる私。どうやら夢を見ていたようだ。

 

 「ビックリしたぁ・・・急にどうしたの?」

 

 聞き慣れた声がする。

 

 天が私を見て、心配そうな表情を浮かべて・・・

 

 えっ、天?

 

 「な、何で天がここに・・・?」

 

 「・・・寝ぼけてるの?」

 

 呆れている天を見て、段々と記憶が甦ってくる。

 

 そうだ、天が急に帰って来て・・・泣きながら怒った私を、ソファまで運んでくれて・・・

 

 私はそのまま、泣き疲れて寝てしまったのね・・・

 

 「ちょうど今起こそうと思ったんだよ。夕飯出来たけど、食べられる?」

 

 「・・・少しだけなら」

 

 そう言って立ち上がる。

 

 少し足元がふらついたところを、天が優しく支えてくれた。

 

 「ほら、肩貸すから」

 

 「平気だってば」

 

 「体調が悪い時まで強がらないの」

 

 天は半ば強引に私に肩を貸すと、そのまま椅子に座らせてくれた。

 

 テーブルの上には、蓋をされた鍋が置いてある。

 

 「冷蔵庫の中に、ちゃんとした食材があまり無かったんだよね・・・亜里姉にちゃんと言っておかないと」

 

 溜め息をつきつつ、鍋の蓋を開ける天。

 

 そこには、美味しそうな雑炊が入っていた。

 

 「栄養が取れて、なおかつ身体に優しい料理といったらこれかなって」

 

 苦笑しつつ、お皿に雑炊を取り分けてくれる天。

 

 天の手料理を食べるのなんて、ずいぶん久しぶりね・・・

 

 前は毎日食べていたのに・・・

 

 「はい、召し上がれ」

 

 「・・・いただきます」

 

 スプーンで雑炊をすくい、一口食べる。

 

 雑炊の旨味が、口の中に広がると共に・・・何だかとても懐かしい味がした。

 

 「どう?美味しい?」

 

 「・・・天の味がする」

 

 「いや、どんな味・・・絵里姉?」

 

 気が付くと、私の目からは涙が流れていた。

 

 久しぶりに天の手料理を食べて、懐かしくなってしまったからかもしれない。

 

 「え、ちょ・・・何で泣いてるの?」

 

 「な、泣いてないわよっ!」

 

 慌てて目元を拭う。

 

 それでも、涙が溢れて止まらなかった。

 

 「何で・・・何で涙が・・・」

 

 「・・・もう良いから」

 

 涙を拭い続ける私の手を、天がそっと握った。

 

 「・・・泣きたい時くらい泣きなよ。ただでさえ絵里姉は、そういうの我慢しちゃうんだから」

 

 「天・・・」

 

 泣きながら天を見る私。

 

 天は微笑むと、私を優しく抱き締めて・・・耳元で囁いた。

 

 「『全部受け止めてあげるから、今は思いっきり泣きなさい』」

 

 「っ・・・」

 

 その言葉を聞き、私の頭の中であの時の光景がフラッシュバックした。

 

 μ'sの解散が決まったあの日・・・駅のホームで皆が泣き始める中、天は堪えるように唇を噛んでいた。

 

 そんな天を私は抱き締めて、今の言葉を天に言ったのだ。

 

 それを聞いた天は嗚咽を漏らし、私の胸で号泣した。

 

 そんな天を抱き締めながら、私も涙を流し続けて・・・

 

 「うっ・・・うぅっ・・・うああああああああああっ!」

 

 もう堪えきれなかった。

 

 私の涙腺は崩壊し、止めどなく涙が流れ出す。

 

 そんな私を、天は優しく抱き締めてくれていた。

 

 「天っ!天ぁっ!」

 

 「はいはい」

 

 頭を撫でてくれる天。

 

 「俺はちゃんとここにいるから、安心して」

 

 「うぅっ・・・ぐすっ・・・ひっぐ・・・」

 

 泣きじゃくる私。

 

 これじゃ、どっちが年上か分からないわね・・・

 

 「全く・・・昔から甘えん坊だね、絵里姉は」

 

 苦笑しながらも、優しく背中を擦ってくれる天なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・そんなことがあったんやね」

 

 神妙な顔で俺の話を聞く希ちゃん。

 

 希ちゃんの家に戻って来た俺は、帰って来た希ちゃんに先程までのことを話していた。

 

 「良かったん?エリチの側にいてあげなくて」

 

 「今日はもう遅いし、亜里姉が側にいてくれてるから」

 

 あの後絵里姉は、泣き疲れたのか再び眠ってしまった。

 

 ベッドまで運んであげたところで亜里姉が帰って来た為、後のことは亜里姉に任せたのだ。

 

 「明日内浦に帰る前に、また顔を出しに行くよ。一晩経てば、絵里姉も落ち着いてるだろうから」

 

 「そうしてあげて。エリチもきっと喜ぶだろうから」

 

 そんな話をしていると、俺のスマホに着信が入った。

 

 相手は・・・千歌さん?

 

 「ピッ・・・おかけになった電話番号は、現在使われておりません」

 

 『えっ、天くんの番号変わってる・・・って騙されるかあああああっ!』

 

 「チッ、いけると思ったのに」

 

 『まさかの舌打ち!?』

 

 千歌さんのツッコミ。

 

 夜なのに元気だなぁ・・・

 

 「どうしたんですか千歌さん?用件を五文字で簡潔に説明して下さい」

 

 『無理だよ!?五文字で何を説明出来るの!?』

 

 「千歌、危篤」

 

 『いや確かに五文字だけども!勝手に人を危篤にしないでくれる!?』

 

 「まぁ冗談はさておき・・・どうしたんですか?」

 

 千歌さんに尋ねる俺。

 

 何かあったのかな・・・?

 

 『実は私達、明後日東京に行こうと思って』

 

 「東京に?ずいぶん急ですね?」

 

 『・・・見つけたいんだ』

 

 いつになく真剣な声の千歌さん。

 

 『μ'sと私達のどこが違うのか、μ'sがどうして音ノ木坂を救えたのか、何が凄かったのか・・・それをこの目で見て、皆で考えたいの』

 

 「・・・なるほど」

 

 どうやら千歌さんなりに、色々と考えて決断したらしい。

 

 それなら・・・

 

 「良いんじゃないですか。俺達は明日帰る予定でしたけど、一日延ばしますよ」

 

 『ゴメンね、急にこんなこと言い出して・・・』

 

 「今に始まったことじゃないでしょ」

 

 『うぐっ・・・』

 

 言葉に詰まる千歌さん。

 

 どうやら自覚はあるらしい。

 

 「・・・リーダーが決めたことですから。付き合いますよ」

 

 『天くん・・・』

 

 「とりあえず、詳しく決まったらまた連絡下さい」

 

 『うん!ありがとう!』

 

 電話が切れる。

 

 ホントに急なんだから・・・

 

 「今の電話、もしかしてAqoursのリーダーから?」

 

 「うん。明後日東京に来るんだってさ」

 

 希ちゃんの質問に、肩をすくめて答える俺。

 

 「全く・・・あの人には振り回されっぱなしだよ」

 

 「・・・フフッ」

 

 クスクス笑う希ちゃん。

 

 どうしたんだろう?

 

 「今の天くんの対応、まるで穂乃果ちゃんを相手にしてるみたいやったね」

 

 「・・・何か似てるんだよね、あの二人って」

 

 苦笑する俺。

 

 「穂乃果ちゃんも千歌さんも、周りを巻き込んで行動するっていうか」

 

 「あぁ、あの感じか」

 

 納得する希ちゃん。

 

 「でも最終的に、巻き込まれた方も惹き付けられるっていうか・・・それだけ魅力がある人ってことやね」

 

 「・・・そうなんだろうね」

 

 人を惹き付けるカリスマ性・・・

 

 それを持っている二人は、リーダーとしての資質があるんだろう。

 

 「やれやれ・・・騒がしくなりそうだなぁ」

 

 苦笑しながら呟く俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

ボードを外した璃奈ちゃん可愛くないですか(唐突)

スクスタでボードOFF機能が出来たので、ボードOFFでライブをやってみたのですが・・・

メッチャ可愛いんですけど(゜ロ゜)

アニメだとどうなるのかなぁ・・・



さてさて、絵里ちゃんは精神的にだいぶ参ってしまっている模様・・・

果たして天はどうするのか・・・

そしていよいよ千歌ちゃん達が東京に来ることになりました!

ようやく出番がやって来ます(笑)

梨子ちゃんばかり目立っていたので、そろそろ他のメンバーも目立たせないと・・・

ヒロインレースはまだ分かりませんよ!

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【国木田花丸】いつか絶対に・・・

花丸ちゃん、誕生日おめでとう!

誕生日回がダイヤさん・果南ちゃん・花丸ちゃんときたので、今回はAZALEA絡みの話にしてみました。

それではいってみよー!


 「AZALEAの新曲ですか?」

 

 「うん、作詞をお願いできないかな?」

 

 両手を合わせる果南さん。

 

 生徒会室に呼び出された俺は、果南さんとダイヤさんからAZALEAの新曲について相談を受けていた。

 

 ちなみにAZALEAというのは、果南さん・ダイヤさん・花丸の三人で結成されたグループ内ユニットである。

 

 「今回は花丸さんの誕生日記念ということで、花丸さんのことをよく理解している天さんに作詞していただきたいのです」

 

 説明してくれるダイヤさん。

 

 三月にAZALEAでライブをやりたいという話は、前から聞いていたが・・・

 

 どうやら三月四日の花丸の誕生日を記念して、サプライズで花丸をセンターにした新曲を作りたいようだ。

 

 「それは構いませんけど・・・花丸のことだったら、俺よりもルビィや善子の方が詳しいんじゃないですか?」

 

 「勿論二人にも相談してみたんだけど、二人とも『天が適任だろう』ってさ」

 

 笑う果南さん。

 

 「それに天が作詞してくれたら、花丸ちゃんは絶対に喜ぶと思うんだ」

 

 「そうですかね?ルビィと善子がやった方が喜ぶと思いますけど」

 

 「ハァ・・・花丸さんの気持ちに、全く気付いていませんわね・・・」

 

 溜め息をつくダイヤさん。

 

 どうしたんだろう?

 

 「とにかく、作詞は天さんにやっていただきますので」

 

 「え、決定事項なんですか!?」

 

 「当然です。天さんの口からは、『はい』か『YES』しか聞きたくありません」

 

 「まさかの拒否権無し!?」

 

 「へ・ん・じ・は?」

 

 「は、はい・・・」

 

 「よろしい♪」

 

 「果南さぁん・・・ダイヤさんが怖いですぅ・・・」

 

 「よしよし、こっちおいで。ハグしよ?」

 

 震えながら果南さんに抱きつく。

 

 そんな俺を優しく抱き締め、頭を撫でてくれる果南さん。

 

 こうして俺は、AZALEAの新曲の作詞を担当することになったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・どうしようかなぁ」

 

 バス停で帰りのバスを待ちながら、溜め息をつく俺。

 

 AZALEAの新曲の作詞を引き受けてから、色々と考えていたのだが・・・

 

 なかなかイメージが湧いてこないのだ。

 

 「よし、花丸でイメージしてみるか・・・本が好き?」

 

 「確かに本は大好きずら」

 

 「いや、それだとインパクトが無いか・・・大食いとか?」

 

 「ひ、否定出来ないのが辛いずら・・・」

 

 「んー、花丸の特徴・・・おっぱいが大きい?」

 

 「エ、エッチずらっ!」

 

 「うおっ!?」

 

 いきなりの大声に驚く俺。

 

 いつの間にか、俺の隣に花丸が立っていた。

 

 「ビックリしたぁ・・・あれ、何で顔が真っ赤なの?」

 

 「天くんのせいずらっ!天くんが変なこと言うからっ!」

 

 「え、何か言ったっけ?」

 

 「まさかの無自覚!?」

 

 よく分かんないけど、珍しく動揺してるなぁ・・・

 

 何でだろう?

 

 「っていうか、図書委員の仕事は終わったの?」

 

 「うん、さっき終わったずら」

 

 頷く花丸。

 

 今日の放課後はAqoursの練習が休みだったので、花丸は図書委員の仕事をしていたのだ。

 

 「ところで天くんは、何でこんな時間まで残ってたずら?」

 

 「・・・ちょっと考え事をしてたんだよ。そしたら煮詰まっちゃってさ」

 

 本当のことは言えないので、適当にはぐらかす。

 

 嘘は言ってない、うん。

 

 「そういう時は、気分転換した方が良いずら。狭い所に閉じこもって考えずに、思い切って外に出掛けてみるとか」

 

 アドバイスしてくれる花丸。

 

 出掛けてみる、か・・・それは名案かもしれないな。

 

 「よし・・・花丸、俺とデートしてくれる?」

 

 「え・・・ええええええええええっ!?」

 

 顔を真っ赤にして叫ぶ花丸なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「未来ずらぁ・・・!」

 

 目をキラキラさせながら、辺りを見回す花丸。

 

 花丸の誕生日当日、俺達は東京へとやって来ていた。

 

 「もう何度も東京に来てるのに、相変わらずその反応だよね」

 

 「東京は何度来てもわくわくするずら!まるで未来都市ずら!」

 

 「いや、未来でも何でもないから。現在だから」

 

 この子は本当に、家でどんな生活を送っているのか・・・

 

 「でも花丸、本当に東京で良かったの?」

 

 尋ねる俺。

 

 デートの場所に東京を選んだのは、他ならぬ花丸自身だった。

 

 それも遊園地や水族館等が目当てなわけでもなく、『ただ東京を散策したい』らしい。

 

 「勿論ずら」

 

 笑顔で頷く花丸。

 

 「マルは東京に来ることが出来て満足ずら。それに・・・」

 

 「それに?」

 

 「・・・天くんと一緒なら、マルはどこでも楽しいずら」

 

 「っ・・・」

 

 照れ臭そうに笑いながら言う花丸に、思わずドキッとしてしまう俺。

 

 「あぁ、もう・・・反則でしょ・・・」

 

 「反則?」

 

 「・・・何でもない」

 

 俺はそう言うと、花丸の手を握った。

 

 「ずらっ!?そ、天くんっ!?」

 

 「・・・東京は人が多いし、逸れたりしたら困るから。ただでさえ花丸は、目を離すとすぐどっかに行っちゃうし」

 

 「人を子供みたいに言わないでほしいずら!?」

 

 「それにほら・・・一応デートだし」

 

 「っ・・・」

 

 俺の一言に、花丸の顔がボンッと赤く染まる。

 

 恥ずかしそうに俯きながらも、俺の手を握り返す花丸なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「美味しいずらあああああっ!」

 

 幸せそうにハンバーガーを頬張る花丸。

 

 東京を散策していた俺達は、少し遅めのお昼ご飯を食べていた。

 

 「もぐもぐもぐ・・・あっ、もう無くなっちゃったずら」

 

 「食べるペース早過ぎない?もうちょっとゆっくり・・・」

 

 「追加で買ってくるずら!」

 

 「人の話聞けや」

 

 俺の心配もどこ吹く風で、いそいそとハンバーガーを追加で買いに行く花丸。

 

 全く、胃袋ブラックホール娘め・・・

 

 「・・・フフッ」

 

 俺が呆れていると、隣の席に座っていた女の子がおかしそうにクスクス笑っていた。

 

 花丸、笑われてるぞ・・・

 

 「すみません、騒がしくて・・・」

 

 「あっ!?私の方こそ、笑っちゃってゴメンなさい!」

 

 慌てて謝る女の子。

 

 ライトピンクのミディアムヘアをハーフアップにし、右サイドを三つ編みお団子でまとめるという独特なヘアスタイルをしている。

 

 高校生くらいかな?

 

 「夢中でハンバーガーを食べてるところが、何か可愛いなぁって・・・」

 

 「あの子は食べることが大好きなんですよ」

 

 苦笑する俺。

 

 「それでいて全く太らないもんですから、友達からは『理不尽よっ!』って怒られるくらいでして」

 

 「フフッ、そうなんですね」

 

 笑う女の子。

 

 「でも、二人ともずいぶん仲良しですよね・・・もしかしてカップルさんですか?」

 

 「アハハ、残念ながら違うんです。まぁ仲良しではあるんですけど」

 

 「そうなんですか?意外ですね」

 

 驚いている女の子。

 

 「私はてっきり、デートしてるカップルさんだと思ってました」

 

 「あ、デート中ではあるんですけど」

 

 「どういうことですか!?」

 

 女の子のツッコミ。

 

 まぁそういう反応になるよなぁ・・・

 

 「実はあの子、今日誕生日なんですよ。それでこうして東京に来たんですけど・・・俺もあの子のことを、もっと知りたいなと思いまして」

 

 それも花丸をデートに誘った理由の一つだった。

 

 花丸と一緒に過ごすことで、もっと花丸のことを知る・・・

 

 そうすれば、新曲の歌詞のイメージも浮かんでくるのではないかと思ったのだ。

 

 「・・・大切に想ってるんですね、彼女のこと」

 

 微笑む女の子。

 

 「貴方は何だか、私の幼馴染に似てる気がします」

 

 「幼馴染、ですか?」

 

 「えぇ。その子、私のことを凄く大切にしてくれて・・・私の為に、一生懸命になってくれる子なんです」

 

 「そうなんですか・・・素敵な人ですね」

 

 「フフッ、ありがとうございます」

 

 嬉しそうな女の子。

 

 「だからこそ私は、あの子のことが大好きなんです。だから彼女もきっと・・・貴方のことが大好きだと思いますよ」

 

 「・・・もしそうなら、嬉しいですね」

 

 微笑む俺。すると・・・

 

 「天く~ん!」

 

 花丸の声が聞こえた。

 

 どうやらハンバーガーを買ってきたらしい。

 

 「おかえり。ハンバーガーは買えt・・・って何それ!?」

 

 トレーの上が、ハンバーガーでぎっしり覆われていた。

 

 一体何個買ったんだ・・・

 

 「代償として、福沢諭吉先生を一人失ったずら・・・でもマルの辞書に、『後悔』の文字は無いずら!」

 

 「今すぐ辞書に書き込めバカ丸!」

 

 「マルの名前は花丸ずら!」

 

 「フフッ・・・本当に仲良しだなぁ」

 

 ギャーギャー騒ぐ俺達を、微笑ましそうに見つめる女の子なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あ~、楽しかったずら~!」

 

 笑顔の花丸。

 

 俺達は帰りの電車に乗り、内浦へと向かっていた。

 

 「東京を散策出来たし、ハンバーガーはたくさん食べられたし・・・マルは満足ずら」

 

 「全く、相変わらず食べ過ぎなんだよ・・・」

 

 溜め息をつく俺。

 

 アレを完食するとか、ホントどんな胃袋してるんだよ・・・

 

 あの女の子も流石に引いてたし・・・

 

 「・・・ありがとね、天くん」

 

 微笑む花丸。

 

 「天くんのおかげで、良い誕生日が過ごせたずら」

 

 「・・・それなら良かった」

 

 全く・・・この笑顔は本当に反則だよなぁ・・・

 

 「マル、どっちかと言うとインドア派だけど・・・こうやって電車に乗って遠出するのも、たまには良いずらね」

 

 外の景色を眺める花丸。

 

 「この世界にはマルが行ったことの無い、知らない場所がたくさんあるずら。想像するだけでわくわくするずら」

 

 「・・・その気持ち、分かる気がするな」

 

 行ったことの無い場所が、まだまだたくさんある・・・

 

 どんな場所なのか想像するだけで、何だかとてもわくわくするものだ。

 

 「わくわくって言えば・・・スクールアイドルもそうずらね」

 

 思い出したように呟く花丸。

 

 「スクールアイドルになって、今まで知らなかった景色を知って・・・『今度はどんな景色に出会えるんだろう』って考えると、凄くわくわくするずら。何だか似てるずら」

 

 「なるほど・・・そう意味で言うとスクールアイドルって、見たことのない景色を探す旅人みたいな存在なのかもしれないね」

 

 「おぉ、まさにそれが言いたかったずら!」

 

 拍手する花丸。

 

 俺は頭の中で、新曲のイメージが出来上がっていくのを感じた。

 

 花丸が題材というわけではないけれど、それでもこれなら・・・

 

 「・・・イケる気がする」

 

 「ずら?」

 

 首を傾げる花丸。

 

 そもそも、花丸を主体に考え過ぎていたのかもしれない。

 

 AZALEAの新曲なわけだし、果南さんやダイヤさんのことも考えないと・・・

 

 花丸が知ったら、きっと同じことを言うんだろうな・・・

 

 「やれやれ・・・花丸に助けられちゃったな」

 

 「天くん?どうしたずら?」

 

 「何でもないよ」

 

 俺は笑って誤魔化すと、隣の席に座る花丸の肩を抱き寄せた。

 

 「ずらっ!?天くん!?」

 

 「・・・いつもありがとう、花丸」

 

 顔を真っ赤にして慌てる花丸に、俺は感謝の言葉を告げた。

 

 「浦の星に来て、花丸に出会えて・・・本当に良かった」

 

 「天くん・・・」

 

 「改めて、誕生日おめでとう。誕生日プレゼントは、もう少し待ってもらって良い?必ず良いものを作るから」

 

 「・・・うん、待ってるずら」

 

 俺の肩に頭をのせる花丸。

 

 「フフッ・・・こうしてると、いつものバスの中みたいずら」

 

 「花丸、いつも俺の肩を枕にして寝てるもんね」

 

 「つい寝心地が良くて・・・天くんは魔性の男ずら」

 

 「いや、凄い心外なんだけど・・・」

 

 「一体何人の女の子をオトしてきたずら?」

 

 「一人もオトしてないわっ!」

 

 「全く・・・マルをオトした責任は、ちゃんととってほしいずら」

 

 何かを呟く花丸。

 

 どうしたんだろう?

 

 「・・・ねぇ、天くん」

 

 「ん?」

 

 「これからもずっと・・・マルの側にいてね?」

 

 「・・・勿論。約束するよ」

 

 笑い合う俺達。

 

 俺達はそのまま手を握り合い、身を寄せ合って眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《花丸視点》

 

 「天さあああああんっ!」

 

 「うわっ!?」

 

 天くんに勢いよく抱きつくダイヤさん。

 

 今日行なわれたAZALEAのライブは、大盛況で幕を閉じた。

 

 ステージ裏へと下がったマル達を待っていたのは、笑顔の天くんだった。

 

 「ちょ、ダイヤさん!?」

 

 「最高ですわ!やっぱりライブは楽しいですわね!」

 

 「アハハ・・・テンション上がりすぎて、ダイヤが壊れてるね・・・」

 

 苦笑する果南ちゃん。むぅ・・・

 

 「ダイヤさん、そろそろ離れるずら!」

 

 マルは天くんからダイヤさんを引き剥がすと、そのまま天くんに抱きついた。

 

 「ダイヤさんに天くんは渡さないずら!」

 

 「は、花丸さん・・・ずいぶん積極的になりましたわね・・・」

 

 驚いているダイヤさん。

 

 天くんをオトす為には、積極的にならないといけないということを学んだのだ。

 

 「果南さん、何で花丸はこんなにムキになってるんですか?」

 

 「何で天は気付かないかなぁ・・・」

 

 溜め息をつく果南ちゃん。

 

 うぅ、道は険しいずら・・・

 

 「ところで三人とも、新曲はどうだった?」

 

 「メッチャ良かった!」

 

 「素晴らしかったですわ!」

 

 絶賛する二人。

 

 天くんが作ってくれたAZALEAの新曲『Amazing Travel DNA』は、ファンの皆にも大好評の一曲だった。

 

 何より、マル達自身が気に入っていた。

 

 「・・・素敵な曲をありがとう、天くん」

 

 微笑むマル。

 

 「最高の誕生日プレゼントずら」

 

 「それなら良かった」

 

 マルの頭を撫でてくれる天くん。

 

 まさかマルの為に、新曲の歌詞を考えてくれていたなんて・・・

 

 頼んでくれた果南ちゃんとダイヤさんにも、感謝しなくっちゃ。

 

 「果南ちゃん、ダイヤさん・・・ギューッ!」

 

 「わわっ!?」

 

 「花丸さん!?」

 

 天くんも巻き込んで、二人に抱きつくマル。

 

 本当に、良い仲間に恵まれたずら。

 

 「何か花丸、果南さんとダイヤさんの妹みたい」

 

 苦笑する天くん。

 

 「ダイヤさんが長女、果南さんが次女、花丸が三女ってところですかね」

 

 「ちょ、何で私がダイヤの下なのさ!?」

 

 「むしろ何でダイヤさんの上だと思ったんですか」

 

 「ふふん、私が長女なのは当然のことですわ!」

 

 「しっかりしているように見えて、実は抜けている・・・長女の鏡ですね」

 

 「え、もしかして貶されてます!?」

 

 「ハハハ、何ノコトヤラ」

 

 「何でカタコトなんですの!?」

 

 「アハハ、それなら納得かな」

 

 「お黙りなさいゴリラ!」

 

 「ダイヤまでゴリラ呼び!?いい加減泣くよ!?」

 

 「はいはい、もうその辺で。そろそろ控え室に戻りましょう」

 

 果南ちゃんとダイヤさんの背中を押して、先に進ませる天くん。

 

 「花丸も行くよ」

 

 「ずら」

 

 マルは天くんの隣に並ぶと、そのまま腕に抱きついた。

 

 「花丸?胸が当たってるんだけど・・・」

 

 「フフッ、当ててるずら♪」

 

 「・・・鞠莉みたいなこと言ってるし」

 

 溜め息をつく天くん。

 

 天くんはマルの気持ちに気付いてはいない。

 

 でも、いつか絶対に振り向かせてみせる・・・

 

 「天くん、これからもよろしくずら♪」

 

 「っ・・・うん、よろしく」

 

 何故か顔を赤くする天くんを見ながら、心の中で誓うマルなのだった。




どうも〜、ムッティです。

今回は花丸ちゃんの誕生日回でした。

いかがだったでしょうか?

天に振り向いてもらおうとする花丸ちゃんが健気すぎて・・・

天が羨ましい(血涙)

さらに今回の番外編も、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会から上原歩夢ちゃんに登場してもらいました!

歩夢ちゃん可愛いですよね。

歩夢ちゃんも三月一日が誕生日だったそうです。

おめでとう(^^)

そして今回はAZALEAの新曲、『Amazing Travel DNA』が出来上がるまでの話にしてみました。

『Amazing Travel DNA』、良い曲ですよねー。

スクスタで何回プレイしたことか・・・

ここまでAZALEAの三人の誕生日回を書きましたが、果たして本編のヒロインレースに三人は絡んでくるのでしょうか・・・

これからの展開をお楽しみに(・ω・)ノ



そしてここでお礼を・・・

この度、『絢瀬天と九人の物語』が100話を突破しました!

たくさんのお祝いコメント、本当にありがとうございます(^^)

・・・お祝いコメントを見るまで、100話到達に気付かなかったのはここだけの話(笑)

いやぁ、まさか100話も書けるとは・・・

そして100話も書いたのに、まだ一期の内容さえ終わっていないとは(´・ω・`)

もっとサクサク進めないとなぁ・・・

改めまして皆様、たくさんのお祝いコメントをありがとうございました!

これからも『絢瀬天と九人の物語』をよろしくお願い致します!

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【園田海未】特別な貴方へ・・・

3月15日は海未ちゃんの誕生日!

というわけで、μ'sメンバーでは初となる番外編を書いてみました!

それではいってみよー!


 「天、起きて下さい。朝ですよ」

 

 穏やかな声が聞こえるのと同時に、優しく身体を揺すられる。

 

 ゆっくりと目を開くと、そこには・・・

 

 「おはようございます、天」

 

 柔らかく微笑む海未ちゃんがいた。

 

 エプロンを着けているところを見ると、朝ご飯を作ってくれていたのだろう。

 

 俺はそんな海未ちゃんに微笑み返すと・・・

 

 再び目を閉じた。

 

 「ちょっと!?何でまた寝ようとするんですか!?」

 

 「んー、眠い・・・あと五年寝かせて・・・」

 

 「どれだけ寝る気なんですか!?いいから起きなさいっ!」

 

 力ずくで布団を剥ぎ取られた。

 

 三月の半ばとはいえ、朝は相変わらず冷える。

 

 布団という防具を取られた俺は、寒さで身体を震わせた。

 

 「全く・・・ウチの鬼嫁は今日も鬼畜だなぁ・・・」

 

 「誰が鬼嫁ですかっ!寝坊しそうな夫を助けようとする、優しい妻じゃないですかっ!」

 

 「・・・ハッ」

 

 「鼻で笑うの止めてもらえます!?」

 

 人の布団を奪っておいて優しい妻だなんて・・・片腹痛いわ。

 

 「仕方ない・・・鬼嫁がうるさいから起きるか・・・」

 

 「何で上から目線なんですかっ!」

 

 ギャーギャー騒がしい海未ちゃんを無視し、ベッドから起き上がる。

 

 あっ・・・

 

 「そうだ・・・海未ちゃん」

 

 「ふんっ!鬼嫁に何か用ですか?」

 

 完全にへそを曲げてしまった海未ちゃん。

 

 やれやれ・・・

 

 「誕生日おめでとう。大好きだよ」

 

 「っ!?」

 

 ボンッと顔が赤くなる海未ちゃん。

 

 相変わらず耐性が無いなぁ・・・

 

 「そ、そういうことをサラッと言わないで下さい!恥ずかしいですから!」

 

 「愛してるよ、海未ちゃん」

 

 「・・・うぅ」

 

 耳まで真っ赤な海未ちゃん。

 

 俺の嫁は、今日も最高に可愛いのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「忘れ物はありませんか?ハンカチとティッシュは持ちましたか?」

 

 「俺は子供か」

 

 呆れる俺。

 

 仕事に向かう俺を、海未ちゃんが玄関まで見送りに来てくれていた。

 

 「心配しなくても、忘れ物なんかしないって」

 

 「そう言ってお弁当を忘れていった日のことを、私はずっと覚えてますからね」

 

 「その節は大変ご迷惑をおかけしました」

 

 あの時は、海未ちゃんがわざわざ職場に来て届けてくれたっけなぁ・・・

 

 「あれからというもの、俺は職場で羨望の眼差しを向けられるようになったよ」

 

 「え、どうしてですか?」

 

 「『あんな綺麗な嫁さんがいて羨ましい』って。皆海未ちゃんに見惚れてたもん」

 

 「そ、そんな・・・恥ずかしいです・・・」

 

 困りながらも、頬を赤く染める海未ちゃん。

 

 振り返ってみると、大学時代もそうだったなぁ・・・

 

 海未ちゃんが俺の通う大学まで迎えに来てくれた時、『あんな綺麗な彼女がいて羨ましい』ってよく言われたもんなぁ・・・

 

 「・・・ハハッ」

 

 「天?どうしたんですか?」

 

 「海未ちゃんはずっと、俺の自慢でいてくれてるんだなぁって・・・ありがとね」

 

 「な、何ですか急に・・・」

 

 照れたように俯く海未ちゃん。

 

 「・・・今日は早く帰って来て下さいね。待ってますから」

 

 「うん、なるべく早く帰るよ」

 

 愛する嫁の誕生日だし、早く帰ってきてお祝いしてあげたいもんな・・・

 

 「じゃあ行ってくるね、海未ちゃん」

 

 「あっ・・・」

 

 声を上げる海未ちゃん。

 

 何故か恥ずかしそうにもじもじしている。

 

 「その・・・『ちゃん』は・・・」

 

 「ん?何?」

 

 「な、何でもありません!行ってらっしゃい!」

 

 慌てて笑顔で手を振る海未ちゃんに、何となく違和感を覚える俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《海未視点》

 

 「ハァ・・・」

 

 「ちょっと、何で今日の主役がそんなにテンション低いのよ」

 

 溜め息をつく私に、真姫が呆れています。

 

 今日は私の誕生日ということで、真姫とことりがランチに誘ってくれたのです。

 

 「いえ、少し悩みがありまして・・・」

 

 「悩み?もしかして、天くんと上手くいってないの?」

 

 「そんなことありません!」

 

 ことりの質問に、思わず大きな声を上げてしまう私。

 

 「私達はラブラブです!毎日イチャイチャしてます!」

 

 「そんな全力で惚気ないでくれる?胸焼けしそうなんだけど」

 

 「アハハ・・・まぁ新婚だもんね」

 

 苦い顔をする真姫に、苦笑することり。

 

 私と天が結婚したのは昨年のこと・・・天が二十二歳、私が二十八歳の時でした。

 

 天の大学卒業と同時に籍を入れ、私達は晴れて夫婦となったのです。

 

 もうすぐ結婚して一年が経ちますが、私達の仲の良さに変わりはありません。

 

 ですが・・・

 

 「・・・一つだけ、どうしても気になることがあるんです」

 

 「・・・話してみなさいよ。力になれるかもしれないし」

 

 私を気遣った真姫が、悩みを話すよう促します。

 

 私は意を決して口を開きました。

 

 「その、天が・・・」

 

 「天が・・・?」

 

 「私のことを・・・」

 

 「海未ちゃんのことを・・・?」

 

 「・・・呼び捨てにしてくれないんです」

 

 「ことり、帰りましょうか」

 

 「そうだね、真姫ちゃん」

 

 「待って下さい!?」

 

 席を立とうとする二人を、慌てて引き止める私。

 

 「どうして急に帰ろうとするんですか!?」

 

 「惚気るなって言ったでしょうが。こっちは胸焼けで食事どころじゃないのよ」

 

 「惚気てなかったじゃないですか!?」

 

 「今のが惚気じゃないって思ってるなら、海未ちゃんの頭はおかしいんじゃないかな」

 

 「ことり!?辛辣過ぎません!?」

 

 あのことりまで毒を吐くなんて・・・!

 

 「私は真剣に悩んでるんです!二人とも真面目に聞いて下さい!」

 

 「真面目にって言われてもねぇ・・・」

 

 呆れている真姫。

 

 「大体、天は昔から私達のことをちゃん付けで呼んでるじゃない。何で今さらそんなことで悩んでるのよ?」

 

 「私は天の妻になったんですよ!?呼び捨てにしてくれても良いじゃないですか!」

 

 「いや、私に言われても・・・」

 

 「っていうかそもそも、何で付き合い始めた時に言わなかったの?」

 

 「そ、それは・・・」

 

 ことりの問いかけに、口ごもってしまう私。

 

 私と天がお付き合いを始めたのは、天が高校を卒業してすぐのことでした。

 

 根気強く天へのアプローチを続けた私は、遂に天に振り向いてもらうことに成功。

 

 真姫やことりを始めとした、手強いライバル達との勝負を制することが出来たのです。

 

 当時は幸せ過ぎて、呼び名のことなんて気にしてもいませんでしたっけ・・・

 

 「と、とにかくっ!どうしたら天に呼び捨てにしてもらえるでしょうか!?」

 

 「天に直接言う。以上」

 

 「右に同じ」

 

 「それが出来たら苦労してないんですよおおおおおおおおおおっ!?」

 

 テーブルに突っ伏す私。

 

 人の苦労も知らないで・・・!

 

 「何で出来ないのよ?理由でもあるの?」

 

 「今さら『呼び捨てにしてほしい』ってお願いするのが恥ずかしいんですよ!長い付き合いなんですからそれくらい察して下さい!」

 

 「私は察してたけど、『くだらないなぁ』って思ったからスルーしてたの」

 

 「今日のことりはどうしてそんなに毒舌なんですか!?」

 

 「海未ちゃんがうじうじしてるからだよ」

 

 溜め息をつくことり。

 

 「海未ちゃん・・・何かを得ようとするなら、それと同等の代価が必要なんだよ?」

 

 「ことり、貴女最近『鋼の●金術師』読みました?」

 

 「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

 

 「やっぱり読んでますよねぇ!?」

 

 「とにかくっ!天くんに呼び捨てにしてほしいなら、恥ずかしさなんて我慢しなきゃ。自分の気持ちは、ちゃんと言葉にした方が良いよ」

 

 寂しそうに笑うことり。

 

 「・・・私は結局、天くんに自分の気持ちを伝えられなかったから」

 

 「ことり・・・」

 

 「天くんと海未ちゃんが結ばれたことは、本当に嬉しく思ってるよ。でも・・・自分の気持ちを伝えられなかったことについては、今でも後悔してる。どんな結果になっても、ちゃんと伝えておけば良かったって」

 

 ことりはそう言うと、私を見つめてきました。

 

 「だから海未ちゃんも、後悔だけはしないようにね。『後』で『悔』やんだって、もう遅いんだから」

 

 「すみません、ことり・・・貴女の気持ちも考えずに・・・」

 

 「謝らないの」

 

 私の手を握ることり。

 

 「罪悪感を感じてる暇があるなら、天くんと結ばれた幸せを噛み締めてほしい・・・あの時もそう言ったでしょ?」

 

 そうでした・・・・

 

 天と結ばれた日、謝る私にことりはそう言ってくれましたね・・・

 

 「全く・・・ずいぶん話が大げさになっちゃったじゃない」

 

 苦笑する真姫。

 

 「海未もいつまでもうじうじしてないで、天にハッキリ言いなさい。あの子はちゃんと受け止めてくれるわよ」

 

 「真姫・・・」

 

 「っていうか、私も天に呼び捨てにされたいわね・・・お願いしてみようかしら?」

 

 「あっ、じゃあ私もお願いしようかな。それぐらいなら許される気がする」

 

 「私を差し置いて許すわけないでしょうがああああああああああっ!?」

 

 全力でツッコミを入れる私なのでした。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「そっか、真姫ちゃんもことりちゃんも元気にしてるんだね」

 

 「えぇ、相変わらずでした」

 

 夕食後、ソファに並んで座って談笑する俺と海未ちゃん。

 

 今日は早く帰って来られたので、夕食は俺が作った。

 

 いつも海未ちゃんに任せちゃってるし、こういう時ぐらいは俺がやらないとな。

 

 「絵里姉とは定期的に会うけど、他の皆とは結婚式以来会ってないもんなぁ・・・会いたいなぁ・・・」

 

 「むぅ・・・」

 

 俺がそう言うと、海未ちゃんが不機嫌そうな顔で俺に抱き付いてくる。

 

 「私だけでは不満ですか?」

 

 「アララ、嫉妬しちゃって・・・このこの~」

 

 「頬をつつかないで下さい!」

 

 怒った顔も可愛い俺の嫁。

 

 「アハハ、海未ちゃんは可愛いなぁ」

 

 「・・・下さい」

 

 「え?」

 

 「・・・呼んで下さい」

 

 「何て?」

 

 「『海未』って呼んで下さいっ!」

 

 顔を真っ赤にして叫ぶ海未ちゃん。

 

 きゅ、急にどうした・・・?

 

 「えーっと・・・呼び捨てにしてほしい、ってこと?」

 

 俺が問いかけると、恥ずかしそうにコクリと頷く海未ちゃん。

 

 「い、今さらなお願いなのは分かっていますが・・・何と言うか、その・・・」

 

 言い淀む海未ちゃん。やがて意を決したように口を開く。

 

 「恐らく私は・・・特別感が欲しいんです。『天の妻は私なんだ』と思える、そんな特別感が・・・欲張りだとは分かっています。それでも、私は・・・」

 

 「・・・海未ちゃん」

 

 海未ちゃんを抱き寄せる俺。

 

 恥ずかしがり屋の海未ちゃんのことだから、きっと勇気を振り絞ってくれたんだろう。

 

 それなら、ここから先は俺の番だ。

 

 「・・・俺さ、凄く嬉しかったんだよね。初めて海未ちゃんのことを、『海未ちゃん』って呼べた時が」

 

 昔を思い出す俺。

 

 男性と話すことに慣れていなかった海未ちゃんは、最初は俺ともあまり話してはくれなかった。

 

 俺も最初は『園田さん』と呼んでいたし、少しずつ話せるようになってからも『海未さん』と呼んでいた。

 

 でも、ある時・・・

 

 「海未ちゃん、自分から言ってくれたよね。『私のことも、皆と同じようにちゃん付けで呼んで下さい』って。そう言われた時、本当に嬉しかったんだ。海未ちゃんから認められたような気がして」

 

 「天・・・」

 

 「それからは、もっともっと距離が縮まって・・・今はこうして、海未ちゃんと夫婦になれた。だから俺にとって、海未ちゃんに対してのちゃん付けは・・・他の誰よりも特別なものだったんだよ」

 

 海未ちゃんを抱き締める腕に力を込める。

 

 「話したことなかったけど、キチンと伝えておけば良かったね・・・ゴメン」

 

 「そ、天は悪くありませんっ!元はと言えば私が・・・」

 

 「・・・『海未』」

 

 「っ・・・」

 

 初めて呼び捨てにしてみる。

 

 俺にとって特別な、愛する人の名前を・・・

 

 「『特別感が欲しい』かぁ・・・初めて会った時は、まさかそんなことを言われる日が来るなんて思わなかったよ」

 

 「あ、あの時のことは忘れて下さい!」

 

 「無理。嫁との出会いを忘れるなんて有り得ない」

 

 「うぅ・・・」

 

 涙目の海未。

 

 こういう恥ずかしがり屋なところも可愛いなぁ・・・

 

 「・・・いつもありがとう、海未」

 

 感謝の言葉を伝える俺。

 

 「これからも・・・俺と一緒に歩んでくれる?」

 

 「っ・・・勿論です。いつまでも天と共にあります」

 

 涙を浮かべ微笑む海未。

 

 やがてどちらからともなく顔が近付き・・・唇を重ねる俺達なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《海未視点》

 

 「・・・ん」

 

 ふと目が覚めてしまいました。

 

 ゆっくりと目を開けると、窓の外がほんの少し明るくなっています。

 

 早朝でしょうか・・・

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 隣を見ると、天が安らかに寝息を立てて眠っていました。

 

 お互いの気持ちを再確認した私達は、良い雰囲気になってそのまま・・・

 

 「っ・・・」

 

 一気に顔が熱くなります。

 

 何も身に着けていない身体を隠すように、慌てて布団を被り直しました。

 

 うぅ、恥ずかしいです・・・

 

 「んぅ・・・海未・・・」

 

 「っ!?」

 

 天の手が私の背中に回り、抱き寄せられてしまいました。

 

 服を着ていない分、ダイレクトに天を感じてしまいます。

 

 うぅ、顔から火が出そうなほど恥ずかしいです・・・

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 どうやら天は眠ったままのようです。

 

 私の名前を呼んだということは、私の夢を見てくれているのでしょうか?

 

 もしそうなら・・・

 

 「フフッ・・・愛されてますね、私」

 

 そう思うと、どうしようもないくらいの嬉しさがこみ上げてきます。

 

 好きな人に想われるというのは、やはり幸せなことですね・・・

 

 「・・・天」

 

 天の背中に手を回す私。

 

 昨日天は、私に『ちゃん付けで呼んで欲しい』と言われたことが嬉しかったと言ってくれましたが・・・それは私もだったんです。

 

 周りの皆がちゃん付けで呼ばれる中、私はずっとさん付けで・・・それがどうしようもなくモヤモヤして。

 

 だから初めて天が『海未ちゃん』って呼んでくれた時、本当に嬉しかったんです。

 

 今思えば、あのモヤモヤは嫉妬で・・・あの時から私は、天のことが好きだったんでしょうね・・・

 

 「本当に・・・ありがとうございます」

 

 私を選んでくれて、特別だと言ってくれて・・・

 

 今、私は本当に幸せです。

 

 「・・・愛してます、天」

 

 天の胸に顔を埋め、天の温もりに包まれながら・・・再び眠りにつく私なのでした。




どうも〜、海未ちゃんのソロ曲『勇気のReason』が大好きなムッティです。

良い曲ですよねぇ・・・まぁそれはさておき。

海未ちゃん、お誕生日おめでとう!

今回は海未ちゃんの誕生日回ということで、天と海未ちゃんが結婚した設定にしてみました。

嫁が海未ちゃんとか羨ましすぎる(´・ω・`)

来月はAqoursの曜ちゃんとμ'sの真姫ちゃんが誕生日を迎えるので、また誕生日回を書きたいと思います。

っていうか、本編を全然更新できなくてすみません(汗)

最近ちょっと忙しくて、花丸ちゃんと海未ちゃんの誕生日回を書くのが精一杯でした(涙)

少しずつ執筆はしてますので、近く投稿する予定です。

お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

不器用な優しさは胸を打つものである。

スクスタのUR彼方ちゃんが可愛すぎてヤバい。

『次は彼方ちゃんの番で〜す♪』って自分の口を指差す絵が可愛すぎて・・・

サイドエピソードを何度見返したことか・・・

『口を開けろ〜♪』って可愛すぎか(´・ω・`)


 翌日・・・

 

 「到着っと」

 

 梨子が借りているスタジオへとやって来た俺。

 

 昨日は梨子のおかげで絵里姉と向き合えたので、そのお礼を言おうと思ってやって来たのだ。

 

 奈々さんに連絡したら、スタジオで私物の片付けをしてるって言ってたけど・・・

 

 「失礼しま~す」

 

 「えっ、天くん!?」

 

 俺を見て驚く梨子。

 

 両手に大量の本を抱えていた。

 

 「おはよう、梨子」

 

 「ど、どうして天くんがここに!?」

 

 何故か慌てている梨子。

 

 どうしたんだろう?

 

 「いや、梨子に会いに来たんだけど・・・片付け手伝おうか?」

 

 「そ、それは大丈夫・・・きゃあっ!?」

 

 「梨子!?」

 

 よろめいて倒れる梨子。

 

 抱えていた本が床に散らばる。

 

 「うぅ、いったぁ・・・」

 

 「大丈夫!?」

 

 「な、何とか・・・」

 

 痛そうにお尻を擦る梨子。

 

 そんな梨子を心配して駆け寄った俺だったが、ふと床に散らばる本に目をやると・・・

 

 

 

 『カベドン!~色々なシチュエーションでのカベドン~』

 

 『カベクイ!~これでオチない人はいない~』

 

 

 

 「・・・梨子ってこういうの好きなんだね」

 

 「み、見ないでえええええっ!?」

 

 素早く本を拾い集め、慌てて隠す梨子。

 

 「ち、違うの!ちょっと興味本位っていうか!」

 

 「『【速報】梨子の意外な趣味が発覚』」

 

 「止めてええええええええええっ!?」

 

 Aqoursにグループラインを送ろうとする俺を、必死に止める梨子なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「うぅ・・・下着を見られた時より恥ずかしいわ・・・」

 

 「じゃあここで下着を見せてもらおうか」

 

 「何が『じゃあ』なの!?嫌に決まってるでしょ!?」

 

 梨子のツッコミ。

 

 スタジオを出た俺達は、絵里姉と亜里姉のところに向かっていた。

 

 「それは残念。ピンクの下着が見たかったのに」

 

 「ちょ、何で今日の下着の色を知ってるのよ!?」

 

 「かまをかけたら見事に引っかかった人がこちら」

 

 「この変態いいいいいっ!」

 

 顔を真っ赤にして攻撃してくる梨子。

 

 危ないなぁ・・・

 

 「アハハ、相変わらず梨子は面白いね」

 

 「私はちっとも面白くありませんっ!」

 

 ぷいっとそっぽを向く梨子。

 

 アララ、怒っちゃった・・・

 

 「ゴメンゴメン。ってか、まだ梨子に言いたいこと言えてなかったわ」

 

 「言いたいこと・・・?」

 

 「うん・・・ありがとね、梨子」

 

 改めてお礼を言う俺。

 

 「梨子のおかげで、絵里姉と向き合えたよ。まだ仲直り出来たわけじゃないけど、久しぶりに会話も出来たし・・・ホント、ありがとう」

 

 「お、お礼なんて止めてよ・・・」

 

 少し恥ずかしそうに笑う梨子。

 

 「でもまぁ・・・天くんの力になれたなら、良かったわ。いつも助けてもらってる分、私も天くんの力になりたいって思ってるから」

 

 笑顔でそう言ってくれる梨子に、不覚にもドキッとしてしまった。

 

 こういう時の笑顔、ホント反則だわ・・・

 

 「ん?どうしたの?」

 

 「な、何でもないよ」

 

 慌てて誤魔化す俺。

 

 「それよりほら、着いたよ」

 

 目の前のマンションを指差す俺。

 

 それを見た梨子の表情が、緊張で強張る。

 

 「ほ、本当に私もお邪魔していいの・・・?」

 

 「え、今さら?」

 

 「だって天くんの実家でしょ!?しかもμ'sの絢瀬絵里さんがいるなんて・・・あぁ、何か急に心臓が痛くなってきた・・・」

 

 「いや、そこまで緊張しなくても・・・」

 

 呆れる俺。

 

 大袈裟だなぁ・・・

 

 「ほら、行こう」

 

 「ちょ、天くん!?」

 

 梨子の手を引っ張り、マンションの中へと入っていく。

 

 部屋の前でインターホンを押すと、すぐに亜里姉が出てきた。

 

 「天ああああああああああっ!」

 

 「はいはい、おはよう亜里姉」

 

 抱きついてくる亜里姉を受け止める。

 

 朝からテンション高いなぁ・・・

 

 「あっ、おはよう梨子ちゃん!昨日は焼肉に付き合ってくれてありがとね!」

 

 「い、いえ!こちらこそ!」

 

 「梨子から聞いたけど、にこちゃんも呼んだんだって?俺も会いたかったんだけど」

 

 「にこさんも会いたがってたよ。帰る前に連絡してみたら?」

 

 「・・・いつまで玄関先で話してるのよ」

 

 呆れたような声が響く。

 

 亜里姉の後ろに、絵里姉が立っていた。

 

 「ちょ、お姉ちゃん!?寝てなきゃダメだって!?」

 

 「大丈夫よ。昨日より少し体調も良くなったし、問題無いわ」

 

 絵里姉はそう言うと、俺に視線を向けた。

 

 「・・・昨日はゴメンなさい。見苦しい姿を見せたわね」

 

 「絵里姉の見苦しい姿なんて、昨日どころか何度も見てきてるわ」

 

 「いつも見苦しいみたいな言い方止めなさいよ!?」

 

 絵里姉のツッコミ。

 

 亜里姉がクスクス笑っている。

 

 「とりあえず上がって。今お茶出すから」

 

 「「亜里姉(亜里沙)は絶対キッチンには立たせません」」

 

 「まさかのハモり!?」

 

 ショックを受ける亜里姉なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「改めまして、絢瀬絵里です。いつも天がお世話になってます」

 

 「さ、桜内梨子ですっ!よろしくお願いしますっ!」

 

 慌てて自己紹介する私。

 

 私と絵里さんは今、絢瀬家のリビングで向かい合って座っていた。

 

 天くんは『私だってお茶くらい淹れられるもんっ!』とキッチンへ向かった亜里沙さんを心配して、様子を見に行っているところだ。

 

 「そんなに緊張しないで。私まで緊張してきちゃうわ」

 

 苦笑する絵里さん。

 

 長くて綺麗な金色の髪、透き通るように白い肌、吸い込まれそうな碧い瞳、美しすぎる顔立ち・・・

 

 今まで私が出会ってきた人達の中でも、一・二を争うほどの美女だ。

 

 この人が伝説のスクールアイドルグループ・μ'sのメンバーの一人、絢瀬絵里さんなのね・・・

 

 「あ、あの・・・身体の方は大丈夫なんですか?」

 

 「えぇ、大丈夫よ。まだ本調子とは言えないけれど、だいぶ良くなったわ」

 

 微笑む絵里さん。

 

 「昨日までは、起きてるのが辛くて寝込んでたんだけど・・・今朝起きたら予想以上に回復してたの。自分でもビックリしてるわ」

 

 「それって、もしかして天くんの影響が・・・?」

 

 「・・・そうかもしれないわね」

 

 溜め息をつく絵里さん。

 

 「久しぶりに天に会って、天の手料理を食べて、みっともないくらい泣いて・・・それで回復するなんて、本当に単純な姉よね」

 

 「・・・少し分かるような気がします」

 

 ポツリと呟く私。

 

 「天くんって、人を元気にする力があるっていうか・・・私も落ち込んだり悩んだりした時、何度も救われましたから」

 

 「・・・フフッ」

 

 私の言葉を聞き、絵里さんが笑みを零した。

 

 「それを聞いて安心したわ。どうやらウチの弟は、Aqoursでも愛されてるみたいね」

 

 「あ、愛っ・・・!?」

 

 カァッと顔が熱くなっていくのを感じる。

 

 「そ、そんな・・・私が天くんを『愛してる』だなんて・・・!」

 

 「いえ、そんなことは一言も言っていないのだけれど」

 

 「で、でも・・・確かに天くんのことは好きっていうか・・・!」

 

 「聞いてもいないのにぶっちゃけたわね」

 

 「不束者ですがよろしくお願いします、お義姉さん!」

 

 「落ち着きなさい」

 

 「あたっ!?」

 

 頭にチョップをお見舞いされる。

 

 うぅ、痛い・・・

 

 「とりあえず、貴女が天に惚れてるってことは分かったわ」

 

 「えぇっ!?何で分かったんですか!?」

 

 「今すぐ頭のネジを探して来なさい。多分その辺に落ちてるから」

 

 呆れている絵里さん。

 

 「全く、あの子はまた女の子をオトして・・・まぁ、それだけ天が愛されてるってことなんだろうけど」

 

 「それは間違いありません」

 

 頷く私。

 

 「私を含め、Aqoursのメンバー全員が天くんを大切に想っています。天くんがいなかったら、今の私達は・・・Aqoursは無かったでしょうから」

 

 「・・・μ'sと同じね」

 

 絵里さんはそう言って笑うと、真剣な表情で私を見た。

 

 「これからも天のことを、よろしくお願いします」

 

 そう言って頭を下げる絵里さんを見て、私は何だか複雑な気持ちになってしまった。

 

 今の絵里さんの様子を見ていれば、絵里さんの天くんへの愛情が痛いほど伝わってくる。

 

 それなのに・・・

 

 「・・・どうして、天くんと喧嘩してしまったんですか?」

 

 呟く私。

 

 「・・・絵里さんは、天くんの内浦行きに反対していたんですよね?それなのにどうして、鞠莉さんに天くんのことをお願いしたんですか?今だって私に頭を下げてまで、天くんのことをお願いして・・・どうしてですか?」

 

 「そう・・・鞠莉は全て話したのね・・・」

 

 物憂げに窓の外を眺める絵里さん。

 

 「一言で言うのなら・・・罪滅ぼし、かしら」

 

 「罪滅ぼし・・・?」

 

 「えぇ。あの子を縛り付けてしまったことに対しての、ね」

 

 溜め息をつく絵里さん。

 

 「私達の両親はロシアに住んでいて、私は天や亜里沙と三人で暮らしてきたわ。一番上の姉として、あの子達の面倒を見る・・・それが私の責任だと思ってた。まぁ実際は、あの子達に助けられることの方が多かったけどね」

 

 苦笑する絵里さん。

 

 「私にとって、天と亜里沙はかけがえのない存在なの。両親が側にいない今、私にとっての家族はあの子達だけ・・・心から愛しているわ。あの子達がいない生活なんて、私にはどうしても考えられなかった」

 

 「絵里さん・・・」

 

 「だから天が『内浦へ行く』って言った時、私は必死で反対したわ。『高校生で一人暮らしなんて早い』とか、『将来を考えたら行くべきじゃない』とか色々言ったけれど・・・そんなのはただの建前だった」

 

 絵里さんはそう言うと、自嘲気味に笑った。

 

 「本当はただ、私が天と離れたくなかっただけ・・・そんな自分勝手な理由で、私はあの子の進もうとした道を全面否定したの。我ながら最低の姉だと思うわ」

 

 「そ、そんなことは・・・」

 

 「いいえ、私が間違っていたのよ」

 

 キッパリと言い切る絵里さん。

 

 「後になって、激しい自己嫌悪に陥ったわ。どうして私は、天を応援してあげることが出来なかったんだろうって」

 

 俯く絵里さんに、私は何も言葉をかけてあげられなかった。

 

 絵里さんは、ずっと後悔していたのね・・・

 

 「その後すぐ、私達が喧嘩したことを聞きつけた南理事長から連絡があってね。浦の星の新理事長が、『どうしても天に来てほしい』って言ってるっていう話を聞いたの。それで私は、どうしても話が聞きたくて『新理事長に会わせてほしい』ってお願いしたのだけれど・・・まさか鞠莉のことだとは思わなかったわ」

 

 「ですよねぇ・・・」

 

 思わず苦笑してしまう私。

 

 何かもう慣れちゃったけど、普通に考えて現役女子高生理事長っておかしいわよね。

 

 労働基準法とかどうなってるのかしら・・・

 

 「実際に鞠莉と会って、鞠莉の願いを知った私は・・・チャンスだと思った」

 

 「チャンス・・・?」

 

 「えぇ。鞠莉にお願いすれば、天の進みたい道に進ませてあげることが出来る。それと同時に・・・μ'sからも解放してあげられる」

 

 唇を噛む絵里さん。

 

 「知っているのでしょう?天がμ'sのマネージャーだったことも、μ'sが解散してからスクールアイドルに関わらなくなったことも」

 

 「え、えぇ・・・」

 

 「・・・それがずっと気がかりだったの。μ'sのマネージャーという立場に縛られて、スクールアイドルと関わることを避けてるんじゃないかって。だから鞠莉に、天をマネージャーにしてもらうようお願いしたの」

 

 絵里さんは私を見ると、優しく微笑んだ。

 

 「Aqoursのことは、私もチェックさせてもらってるわ。海未や真姫からも話は聞いてるし・・・天が楽しく過ごせているみたいで、私もホッとしているの」

 

 「・・・本当に大事に想われてるんですね。天くんのこと」

 

 「当然じゃない。家族だもの」

 

 笑う絵里さん。

 

 それならどうして・・・

 

 「・・・どうして天くんに言わないんですか?本当は応援してるってことを」

 

 「・・・今さら何て言えば良いのか、分からないのよ」

 

 寂しそうに笑う絵里さん。

 

 「あれだけ反対して、引っ叩いたりしたのに・・・『貴方を応援してる』なんて、そんな都合の良いこと言えないわよ。だから私は、陰ながら天を応援しようって決めたの」

 

 「でも、それじゃ天くんに誤解されたままなんじゃ・・・」

 

 「良いのよそれで」

 

 自分に言い聞かせるように呟く絵里さん。

 

 「たとえ天に嫌われても・・・あの子が元気でいてくれるなら、私はそれで良いの」

 

 そう言って笑う絵里さんの姿に、心が痛くなる私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・っていうのが、お姉ちゃんの本音みたいだよ?」

 

 亜里姉に話を振られるも、何も返すことが出来ない俺。

 

 俺達はリビングへと繋がる扉の前で、今の絵里姉と梨子の会話を全て聞いていた。

 

 「・・・あのバカ姉」

 

 声を振り絞って呟く。

 

 どんだけ不器用なんだよ・・・

 

 「ホント、不器用にも程があるよね」

 

 苦笑する亜里姉。

 

 「何でもテキパキとスマートにこなす、仕事の出来るクールな女性。それが周りのお姉ちゃんに対する印象なんだろうけど・・・」

 

 「・・・実は不器用でおっちょこちょいで、強がりのくせに甘えん坊なただの女の子。それが絵里姉の本当の姿なんだよね」

 

 そんなこと、十分過ぎるほど分かってたはずなのに・・・

 

 「バカだな、俺・・・絵里姉のこと言えないわ」

 

 「フフッ、二人揃ってバカなんだから」

 

 亜里姉はそう言って笑うと、俺のことを優しく抱き締めてくれた。

 

 「お互いがお互いのことを想い合っているのに、素直になれなくてすれ違っちゃって。お姉ちゃんは、天に対する本当の気持ちを言わないし・・・天だってお姉ちゃんに、内浦行きを決めた本当の理由を話してないでしょ?」

 

 「っ・・・亜里姉、まさか最初から・・・」

 

 「うん、知ってたよ」

 

 微笑む亜里姉。

 

 「そうなんじゃないかとは思ってたけど、南理事長から話を聞いて確信したよ。そういうことなら、私に相談してほしかったな」

 

 「・・・ゴメン」

 

 「ダメ。謝っても許さない」

 

 俺を抱き締める腕に、キュッと力を込める亜里姉。

 

 「ちゃんとお姉ちゃんと仲直りしてきなさい。そしたら許してあげるから。ね?」

 

 「・・・うん。ありがとう、亜里姉」

 

 亜里姉の優しさが身に染みる俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

前書きでも述べましたが、彼方ちゃんが可愛すぎてヤバいです。

くっ、ニジガクの推しは果林ちゃんで決まったと思ったのに・・・

心が揺れてしまうじゃないか(´・ω・`)

これはμ'sの『のぞえり』みたく、ニジガクは『かなかり』が至高になるのでは・・・

いや、『かりかな』?

まぁいずれにせよ、私はこの二人が大好きです(一人に絞れない浮気者がこちら)



さてさて、本編では遂に絵里ちゃんの気持ちが明らかに・・・

絵里ちゃんの本心を知った天は、果たしてどうするのでしょうか?

そして長らく出番の無い他のAqoursメンバーはいつ登場するのか(笑)

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

姉は弟を想い、弟は姉を想う。

μ'sの新曲『A song for You! You? You!!』のMVヤバくないですか!?

感動して鳥肌が立ってしまった(T-T)

やっぱりμ'sは凄いわ・・・


 「全く・・・何であの子は自分だけ外食しに行っちゃうのかしら・・・」

 

 「亜里姉は自由奔放だからねぇ」

 

 絵里姉の愚痴に苦笑する俺。

 

 そろそろ夕飯の支度をしようというところで、亜里姉は梨子を連れて外食しに行ってしまったのだ。

 

 本人曰く、雪穂ちゃんから誘われたとのことだったが・・・

 

 「・・・嘘だろうな」

 

 絵里姉に聞こえないよう、独り言を呟く。

 

 俺と絵里姉を二人きりにする為に、わざわざ梨子を連れて外に出てくれたんだろう。

 

 普段はべったり甘えてくるくせに、こういう時は気を利かせてくれるんだよなぁ・・・

 

 「ホント・・・我ながら良い姉をもったよ」

 

 「天?何か言った?」

 

 「何でもないよ」

 

 笑って誤魔化しつつ、テーブルの上に料理を並べていく。

 

 「はい、夕飯出来たよ」

 

 「ハラショー!ボルシチじゃない!」

 

 顔をパァッと輝かせる絵里姉。

 

 絵里姉はボルシチが大好物なのである。

 

 「久しぶりに作ったから、上手く出来てるか分かんないけど・・・」

 

 「んー、美味しい!」

 

 「食べるの早いなオイ」

 

 呆れてしまう俺。

 

 まぁ、美味しいなら良いけどさ・・・

 

 「・・・何だか懐かしいわね」

 

 しみじみと呟く絵里姉。

 

 「天が内浦へ行って、まだ四ヶ月なのに・・・ずいぶん久しぶりな感じがするわ」

 

 「絵里姉・・・」

 

 「明日内浦に帰るんでしょう?わざわざお見舞いに来てくれてありがとう。もう大丈夫だから、私のことは心配しないで」

 

 そう言って笑う絵里姉の姿が、俺には強がっているように見えた。

 

 やれやれ・・・

 

 「・・・心配しないわけないでしょ」

 

 ポツリと呟く俺。

 

 「内浦に行ってからも、絵里姉のことを忘れた日なんて無かったよ。あんな風に喧嘩した手前、会いに行けなかったし連絡も出来なかったけど・・・それでも、絵里姉のことが凄く心配だった」

 

 「天・・・」

 

 「ねぇ、絵里姉・・・」

 

 俺は絵里姉に問いかけた。

 

 「今の仕事・・・楽しい?」

 

 「っ・・・」

 

 「・・・だよね」

 

 息を呑む絵里姉に、苦笑する俺。

 

 何も言葉を発さなくても、今の反応でよく分かる。

 

 「そりゃ楽しいわけないよね・・・本当にやりたい仕事じゃないんだから」

 

 「ど、どうしてそれを・・・」

 

 「側にいて気付かないわけないでしょ。俺と亜里姉を舐めないでほしいな」

 

 絵里姉には、興味を持っていた仕事がいくつかあったのだ。

 

 でも絵里姉はそれらを全て諦め、公務員の道を選んだ。

 

 理由は簡単・・・俺と亜里姉がいたからだ。

 

 「家から通えるから、俺と亜里姉を置いていかずに済む・・・収入も安定してるし、両親からの仕送りが無くても俺達を養える・・・だから公務員になったんでしょ?万が一にも家から通えない所に配属されたり、収入が不安定な状況になることを避ける為に」

 

 本当にやりたい仕事に就けなかった人など、この世の中にはたくさんいる。

 

 しかし、絵里姉は『就けなかった』のではない。『就かなかった』のだ。

 

 「他の企業からも内定を貰ってたのに、全部辞退したことも知ってる。全ては俺と亜里姉の為・・・これからも三人で暮らしていく為、でしょ?」

 

 「・・・どうして?」

 

 わなわなと震えている絵里姉。

 

 「どうしてそれが分かってて、天はこの家を出て行ったのよ・・・私は必死で、今の三人での生活を守ろうとしたのに・・・どうして・・・」

 

 「・・・だからこそ、だよ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「だからこそ、俺はこの家を出て行くべきだと思った・・・絵里姉の足枷になるのは、死んでもゴメンだから」

 

 「っ・・・」

 

 「絵里姉の気持ちを犠牲にした上での生活なんて、喜べるわけないでしょ。絵里姉が俺の幸せを願ってくれてるように・・・俺だって絵里姉の幸せを願ってるんだよ」

 

 当然だ。絵里姉は大切な家族なのだから。

 

 「五年前もそう・・・絵里姉は自分を犠牲にして、音ノ木坂を守ろうとしてた。あの時も言ったはずだよ。『そんな絵里姉は見たくない。もっと自分を大事にしてくれ』って」

 

 「天・・・」

 

 「だから俺は、この家を出て行こうと思った。俺がいなくなれば、絵里姉は自由になれると思ったから。浦の星のテスト生の話が来た時は、何かの運命かと思ったよ」

 

 だからこそ俺は、南理事長の話に乗った。

 

 南理事長の力になりたいという気持ちは嘘じゃないし、音ノ木坂のように廃校の危機に陥った学校の力になれたらという思いもあったが・・・

 

 家を出て行くことを考えていた俺にとって、浦の星のテスト生の話は渡りに船だったのだ。

 

 「私の為・・・だったの・・・?」

 

 口元を手で押さえ、信じられないという表情を浮かべる絵里姉。

 

 「それで・・・内浦行きを決めたっていうの・・・?」

 

 「そうだよ」

 

 頷く俺。

 

 「それで絵里姉が、自分の好きなように生きられるっていうのなら・・・俺はそれで良いと思った。だから引き受けたんだよ」

 

 「そんな・・・どうして私の為にそこまで・・・」

 

 「そんなの決まってるでしょ」

 

 絵里姉の綺麗な碧眼を、しっかりと見据える。

 

 「絵里姉のことが・・・大好きだからだよ」

 

 「っ・・・」

 

 「絵里姉のことが大切だから・・・幸せになってほしいから・・・だから・・・」

 

 俺の胸に、絵里姉が勢いよく飛び込んでくる。

 

 力いっぱい俺を抱き締める絵里姉。

 

 「バカ・・・バカバカバカッ!天のバカッ!」

 

 叫ぶ絵里姉。目から止めどなく涙が溢れている。

 

 「大バカよッ!不器用なのはどっちよッ!?人のこと言えないじゃないッ!」

 

 「・・・ゴメン」

 

 「ホントに・・・バカっ・・・!」

 

 俺を抱き締め、号泣する絵里姉。

 

 「でも・・・私もバカだったわ」

 

 「絵里姉・・・」

 

 「天や亜里沙に、そんな思いをさせてたなんて・・・全然気付かなかったどころか、天を否定するようなことまで言って・・・姉として最低ね、私」

 

 俺の胸に顔を埋める絵里姉。

 

 「ゴメンなさい・・・本当に・・・ゴメンなさい・・・!」

 

 「っ・・・」

 

 目から涙が零れ落ちる。

 

 泣くつもりじゃなかったんだけどなぁ・・・

 

 「私、置いて行かれたくなくて・・・お父さんとお母さんだけじゃなくて、天まで私から離れていくのが怖くて・・・それであの時、天を引っ叩いて・・・!」

 

 「・・・もういいから」

 

 絵里姉をギュっと抱き締める。

 

 絵里姉の身体が、前よりも小さく感じられた。

 

 「俺がちゃんと、絵里姉に自分の気持ちを伝えてたら・・・『好きなように生きてほしい』って、ちゃんと言えてたら・・・そしたら・・・」

 

 言葉が続かなかった。

 

 涙が止まらず、上手く言葉を話せない。

 

 「ぐすっ・・・ホント、私達って不器用よね」

 

 泣きながら微笑む絵里姉。

 

 「本当に似た者同士・・・似た者姉弟ね」

 

 「・・・うん」

 

 「でも・・・だからこそ、私は貴方が愛おしいわ」

 

 お互いの額が触れ合う。

 

 「足枷なわけないじゃない・・・天と亜里沙を守る為なら、私は何でも出来る。それほど大切な存在がいて・・・私は本当に幸せよ」

 

 「っ・・・」

 

 「大好きよ、天・・・心の底から愛してるわ」

 

 我慢の限界だった。

 

 俺は絵里姉の胸で、声を上げて号泣するのだった。

 

 あの日・・・μ'sの解散が決まった時のように。




どうも〜、ムッティです。

久しぶりの投稿ですみません(>_<)



今回遂に、天と絵里ちゃんが仲直りを果たしました!

喧嘩したことが明らかになって以来、仲直りするまでにだいぶ時間を要しましたが・・・

これからは、元の仲良し姉弟に戻ることでしょう。

あ、それともう1つ・・・

作者に公務員を否定する意思は一切ありません!

作者に!公務員を!否定する意思は!一切!ありません!

声を大にして言いたい(´・ω・`)

公務員に否定的な印象を受ける話になってしまった感じがあるかと思いますが、本当にそんなつもりは無いんです。

絵里ちゃんは自分の望んだ仕事に就かなかった、という流れの話を書きたかっただけでして・・・

全国の公務員の皆様、大変申し訳ありません。

作者は公務員の皆様を大変尊敬しております。

毎日のお仕事、お疲れ様です(`・ω・´)ゞ



さてさて、天と絵里ちゃんが仲直りしたところで・・・

そろそろAqoursの皆を登場させたい(´・ω・`)

梨子ちゃん以外のメンバーが最後に登場したのが、ずいぶん前のような気がする・・・

何ならμ'sのメンバーの方が出番が多い気がする・・・

・・・が、頑張ります(震え声)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人は温もりを求めるものである。

3月は全然投稿出来なかったなぁ・・・

4月はもう少し頑張りたい(´・ω・`)


 「亜里姉、今日は希ちゃんの家に泊まるってさ。梨子も一緒みたい」

 

 「あの子は本当に自由ねぇ・・・」

 

 呆れている絵里姉。

 

 絵里姉の強い希望で、俺は今晩この家に泊まることになっていた。

 

 それを希ちゃんに伝える為に電話したところ、何と亜里姉と梨子が一緒だったのだ。

 

 亜里姉は俺達の仲直りをとても喜んでくれたのだが、『今日は家に帰らない』と言い出した。

 

 亜里姉曰く、『寂しい思いをさせた分、今日は天がお姉ちゃんを甘やかしなさい』とのことだった。

 

 それを聞いた希ちゃんの提案で、二人は希ちゃんの家に泊まることになったのだった。

 

 「ところで絵里姉・・・そろそろ離れてくんない?」

 

 「嫌よ」

 

 俺の腕にギュっとしがみつく絵里姉。

 

 さっきからずっとこんな感じなんだよなぁ・・・

 

 「いや、そろそろお風呂に入りたいんだけど・・・」

 

 「じゃあ一緒に入るわ」

 

 「それは止めて下さい。俺の理性が飛びます」

 

 今だって絵里姉の柔らかい胸が腕に押し付けられて、ちょっと危ない感じなのに・・・

 

 「あら、私は構わないわよ?」

 

 「いや、俺が構うんだけど。俺達姉弟なんだけど」

 

 「姉弟の前に、女と男じゃない」

 

 「ちょ、ホント止めて。そうやって俺の理性を崩そうとしないで」

 

 「フフッ、相変わらず天は可愛いわね」

 

 悪戯っぽく笑う絵里姉。

 

 くっ、人を弄びやがって・・・

 

 「でも相変わらず、理性が強いわねぇ・・・天に惚れている女の子達は、攻略に難航しそうだわ」

 

 「いや、そんな奇特な人達いないでしょ。俺モテないし」

 

 「・・・無自覚って恐ろしいわね」

 

 溜め息をつく絵里姉。

 

 何かもの凄く心外なことを言われている気がする。

 

 「それより絵里姉、本当に体調は大丈夫なの?」

 

 「えぇ、だいぶ良くなったわ。これなら仕事にも復帰出来そうよ」

 

 そう言って笑う絵里姉だったが、どこか乗り気では無さそうだった。

 

 仕事、あんまり上手くいってないみたいだしな・・・

 

 「ねぇ、絵里姉・・・仕事、辞めたら?」

 

 「っ・・・」

 

 「今の絵里姉には休息が必要だよ。ここで一度立ち止まって、リフレッシュした方が良いと思うな」

 

 「そ、そんなこと言ったって・・・仕事を辞めたらお金が・・・」

 

 「生活費は毎月送られてきてるでしょ?今は親に甘えても良いんじゃない?」

 

 俯く絵里姉。

 

 俺はそっと絵里姉の手を握った。

 

 「これから絵里姉がどうしていきたいのか、よく考えた方が良いと思う。絵里姉の人生なんだもん。一度立ち止まって、ゆっくりして・・・それから今後を考えたって、バチは当たらないんじゃないかな。今まで一生懸命頑張ってきたんだから」

 

 「天・・・」

 

 「内浦にも遊びに来てよ。Aqoursの皆も、絵里姉に会えたら喜ぶだろうし・・・特にダイヤさんなんて、感激のあまり気絶するんじゃないかな」

 

 「・・・フフッ、何よそれ」

 

 クスクス笑う絵里姉。

 

 「・・・少し考えてみるわ。ありがとう、天」

 

 俺に寄りかかってくる絵里姉。

 

 「ホント、貴方には助けられてばかりね・・・五年前もそうだったけど」

 

 「絵里姉は石頭だから。誰かが言ってあげないとね」

 

 「天だって石頭でしょうが!同類よ同類!」

 

 「絵里姉と一緒にしないでくれる!?俺は絵里姉ほど石頭じゃないから!」

 

 「十分すぎるほど石頭でしょうが!」

 

 ギャーギャー言い合う俺と絵里姉だったが、やがてお互い顔を見合わせ吹き出した。

 

 「フフッ・・・こんなやりとりも久しぶりね」

 

 「そうだねぇ・・・」

 

 笑っている絵里姉が無性に愛おしくなり、思わずギュっと抱き締めてしまう。

 

 「あら、相変わらず天は甘えん坊ね」

 

 「・・・姉に甘えるのは、弟の特権だから」

 

 「フフッ・・・じゃあそんな弟を甘やかすのは、姉の特権ね」

 

 抱き締め返してくれる絵里姉。

 

 変わらない温もりに、心が安らぐ俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「やれやれ、ようやく仲直りしましたね」

 

 「フフッ、一安心やね」

 

 そう言って笑い合う亜里沙さんと、紫髪の女性・・・東條希さん。

 

 亜里沙さんに連れられて外へ出た私は、仕事帰りの希さんと遭遇。

 

 そのまま希さんの家へと連れて行かれ、夕飯をご馳走になっていた。

 

 そこへ天くんから希さんへ電話があり、絵里さんと仲直りしたことが分かったのだ。

 

 「亜里沙さん、本当に家に帰らなくて良いんですか?」

 

 「うん。せっかく仲直りしたんだし、積もる話も色々あると思うから。それに・・・」

 

 「それに?」

 

 「今頃お姉ちゃん、天にベッタリだと思うんだよね。二人っきりにしておいた方が、気兼ねなく甘えられるかなって」

 

 「それは間違いないやろうね」

 

 頷く希さん。

 

 「エリチは超がつくほどのブラコンやから。喧嘩してた四ヶ月分、たっぷり天くんに甘えてるんやない?」

 

 「そ、そうなんですか?私の中の絵里さんのイメージって、もっとこうクールビューティーみたいな感じなんですけど・・・」

 

 「「それは絶対に無い」」

 

 「断言!?そしてまさかのハモり!?」

 

 「お姉ちゃんって仕事は出来るけど、プライベートではポンコツなところあるから。あとメチャクチャ甘えん坊だから」

 

 「せやね。あと暗いところが苦手で、涙目で抱きついてきたりとか」

 

 「そうそう。見た目は大人、頭脳は子供みたいな?」

 

 「コ●ンくんの逆バージョン!?」

 

 絵里さん、暴露されてますよ!

 

 妹さんとお仲間にメッチャ暴露されてますよ!

 

 「まぁ、そこがエリチの可愛いところなんやけどね」

 

 微笑む希さん。

 

 「今頃エリチ、天くんにべったりくっついてるだろうし・・・一緒にお風呂とか入ってるかもしれないね」

 

 「いや、流石にそれは無いんじゃ・・・」

 

 「え、ウチは昨日一緒に入ったよ?」

 

 「えぇっ!?」

 

 「お互い身体を隅々まで洗いっこして・・・キャッ♡」

 

 「なっ、ななな何ですって!?」

 

 「フフッ、冗談♪」

 

 面白そうに笑う希さん。

 

 「梨子ちゃん、分かりやすく動揺してたねぇ・・・よっぽど天くんが好きなんやね」

 

 「ちょ、えっ!?何で分かるんですか!?」

 

 「凛ちゃん・花陽ちゃん・にこっちから報告は受けてるよ」

 

 「まさかの情報筒抜け!?」

 

 あ、あの人達・・・!

 

 「やれやれ、天くんも罪な男やねぇ・・・」

 

 「えぇ、我が弟ながら恐ろしいですよ・・・」

 

 溜め息をつく希さんと亜里沙さん。

 

 「・・・まぁ、惚れちゃう気持ちは分かるかな。多分梨子ちゃんも、天くんに救われたクチやろ?」

 

 「え、えぇ・・・まぁ色々と・・・」

 

 「やっぱり」

 

 苦笑する希さん。

 

 「天くんってホント、色んな人に手を差し伸べてくれるから・・・あれは本当にズルいなって、ウチも思うよ」

 

 「ひょっとして、希さんも天くんに・・・?」

 

 「まぁね」

 

 天井を見上げる希さん。

 

 「最初はエリチの弟ってことで、ウチにとっても弟みたいな存在だったんだけど・・・μ'sとして一緒に活動するようになって、たくさん支えてもらって・・・いつの間にかウチの中で、弟っていう感覚じゃなくなってて。そんな時に手を差し伸べられたら・・・分かるやろ?」

 

 頬を赤く染め、照れ臭そうに笑う希さん。

 

 えっ・・・

 

 「もしかして希さん、天くんのことが・・・!?」

 

 「フフッ、どうやろうね?」

 

 笑ってはぐらかす希さん。

 

 「梨子ちゃんが本当に天くんに惚れてるなら、積極的に天くんの心を掴みに行った方が良いと思うよ?そうじゃないと、隙を突いて横から掻っ攫っていこうとする子がいるかもしれないし・・・ウチみたいに、ね♪」

 

 「くっ、油断大敵ってことですか・・・!」

 

 「希さん、梨子ちゃんを煽らないであげて下さいよ」

 

 呆れている亜里沙さん。

 

 「あと、簡単に天を渡すつもりはありませんからね」

 

 「まさかの亜里沙さんもブラコン!?」

 

 「あれ?言ってなかったっけ?」

 

 「そして否定もしない!?」

 

 「だってブラコンだもん」

 

 「清々しいほど断言しましたね!?」

 

 お、恐るべし絢瀬姉妹・・・!

 

 絵里さんも亜里沙さんも敵だっていうの・・・!?

 

 「まぁ、天が選んだ相手なら文句は無いけどね」

 

 苦笑する亜里沙さん。

 

 「あの子の人を見る目は確かだから。あの天が選んだ人ってことは、それほどの魅力がある人ってことだろうし」

 

 「じゃあもしウチが選ばれたら、亜里沙ちゃんのこと『お義姉さん』って呼ぶね♪」

 

 「違和感しか無いので却下です」

 

 「酷い!?」

 

 「でも天っておっぱい星人だから、希さんを選ぶ可能性はありそうですよね・・・」

 

 「おっぱいが理由で選ばれたくないんやけど!?」

 

 「・・・希さんはここで消しておくべきかしら」

 

 「何か梨子ちゃんが物騒なこと言ってる!?」

 

 「私だってB80あるのよおおおおおおおおおおっ!」

 

 「サラッと自分のサイズ暴露した!?落ち着いて梨子ちゃん!?」

 

 希さんに宥められる私なのだった。




どうも〜、ムッティです。

3月も終わり、4月に突入しましたね。

段々と暖かくなっていき、やがて夏を迎えるのかと思うと・・・

今から憂鬱です(´・ω・`)

夏なんて滅んでしまえ(゜言゜)

まぁそれはさておき、皆さん体調は大丈夫ですか?

相変わらずコロナが猛威をふるっているので、身体には十分お気を付け下さい。

自分も体調に気を付けながら、出来るだけこの作品を更新出来るよう頑張ります。

今月は曜ちゃんと真姫ちゃんの誕生日回も投稿する予定ですので、お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仲間とのふれあいは楽しい。

春の陽気により、つい眠くなってしまう今日この頃・・・

眠気なんかには負けないッ!どーん

・・・スヤァ(。-ω-)zzz


 翌日・・・

 

 「天あああああっ!」

 

 勢いよく抱きついてくる鞠莉。

 

 内浦からやって来たAqoursの皆を、俺は東京駅まで出迎えにやって来ていた。

 

 「久しぶり!会いたかったわ!」

 

 「いや、久しぶりって・・・たかだか数日ぶりでしょ」

 

 「こっちの世界ではそうだけど、現実ではもう三ヶ月近く経ってるじゃない!」

 

 「メタ発言止めて」

 

 「フフッ、天~♪」

 

 甘えてくる鞠莉。

 

 俺は苦笑すると、鞠莉を優しく抱き締めて頭を撫でた。

 

 「そ、天・・・?」

 

 「ん?どうしたの?」

 

 「いや、凄く嬉しいんだけど・・・どうしたの?ずいぶんサービスが良いわね?」

 

 「あぁ、何ていうか・・・金髪の色白女性を、凄く甘やかしたい気分なんだよね」

 

 「どんな気分!?しかも対象がピンポイントすぎない!?」

 

 「ほれほれ~♪甘やかさせろ~♪」

 

 「あ~ん♡ダメになっちゃう~♡」

 

 「公衆の面前で何をイチャイチャしてますの!?」

 

 怒るダイヤさん。

 

 「男女が人前でそんなにくっつくなんて!破廉恥ですわよ!?」

 

 「ダイヤさんだって海開きの時、俺に思いっきり抱きついてきたじゃないですか」

 

 「ぴぎゃあああああっ!?」

 

 「お姉ちゃん!?落ち着いて!?」

 

 顔を真っ赤にして絶叫するダイヤさんを、ルビィが必死に宥めている。

 

 大変だなぁ・・・

 

 「誰のせいだと思ってるずら」

 

 「おぉ花丸、先月は誕生日おめでとう」

 

 「天くんもそういう発言止めるずら!今この世界は夏ずら!」

 

 「いや、アンタも『この世界』とか言うんじゃないわよ」

 

 呆れている善子。

 

 「っていうか天、アンタ連絡くらい寄越しなさいよ。こっちはアンタの動向が気になって仕方がなかったんだから」

 

 「え、善子って俺のストーカーだったの?」

 

 「違うわ!」

 

 「皆心配してたんだよ」

 

 苦笑する果南さん。

 

 「梨子ちゃんから、天が喧嘩中のお姉さんに会いに行ったっていう連絡があってさ。まさかそんなことになってると思わなかったから、皆ビックリしちゃって。天からは一度もそんな連絡無かったからね」

 

 「・・・何で梨子は話しちゃうかなぁ」

 

 皆には後で報告しようと思ってたのに・・・

 

 「えーっと、心配かけてすみません。実は絵里姉とは昨日・・・」

 

 「それも梨子ちゃんから聞いたよ。仲直りしたんでしょ?」

 

 「アイツ引っ叩く」

 

 「止めたげて!?」

 

 「っていうか天くん、梨子ちゃんのこと呼び捨てにした?」

 

 首を傾げる曜。

 

 あぁ、そういえば知らないんだっけ・・・

 

 「実は梨子から『呼び捨てにしてほしい』って言われて、そうなったんだよね」

 

 「むぅ・・・最初はマリーだけだったのに・・・」

 

 「ほれほれ~♪」

 

 「あ~ん♡」

 

 頬を膨らませる鞠莉だったが、甘やかすとすぐに機嫌が直った。

 

 あれ、何かチョロい女になってない?

 

 「ところで天くん、梨子ちゃんは?」

 

 キョロキョロと辺りを見渡す千歌さん。

 

 梨子とも連絡を取り、この場所で待ち合わせていたのだが・・・

 

 「さっき連絡があって、少し遅れるみたいです。片付けが大変なんですって」

 

 「片付け?」

 

 首を傾げる千歌さん。

 

 すると・・・

 

 「キャアッ!?」

 

 近くで悲鳴が上がった。

 

 あれ、今の声って・・・

 

 「梨子?」

 

 振り向くと、梨子がコインロッカーの側で散らばった本を拾っていた。

 

 「あっ、梨子ちゃん!」

 

 「ち、千歌ちゃん!?」

 

 キョドる梨子。

 

 もしかしてあの本って・・・

 

 「大丈夫?それ何の本?」

 

 「キャアアアアアッ!?」

 

 「ちょ、梨子ちゃん!?」

 

 覗きこもうとする千歌さんの目を、慌てて両手で隠す梨子。

 

 梨子の肩越しに覗いてみると・・・案の定『壁ドン』『壁クイ』系だった。

 

 「あー、やっぱり・・・」

 

 「ちょ、天くん!?これはその・・・」

 

 「大丈夫ですよ桜内さん、何も見てませんから」

 

 「何で急に他人行儀!?」

 

 「趣味は人それぞれですよね、えぇ。僕はちゃんと理解してますよ」

 

 「止めて!?何か泣きそうだから止めて!?」

 

 既に涙目の梨子。

 

 仕方が無いので、本を手早くまとめてコインロッカーに押し込む。

 

 「これで良し・・・梨子、そろそろ千歌さんを離してあげて」

 

 「あっ!?ゴメン千歌ちゃん!?」

 

 「も~、梨子ちゃん酷いよ~!」

 

 目にパンダみたいな痕が残っている千歌さん。

 

 何この人、面白いんだけど。

 

 「それにしても・・・やっと全員揃ったね」

 

 俺達を見回し、笑みを浮かべる千歌さん。

 

 「梨子ちゃん・・・お帰り」

 

 「っ・・・ただいま、千歌ちゃん」

 

 抱き合う二人。

 

 やっぱり、九人揃ってこそのAqoursだよな・・・

 

 「九人じゃないわ」

 

 俺の心を読んだかのように、鞠莉が微笑む。

 

 「Aqoursは十人よ・・・まぁ、私達が勝手にそう思ってるだけなんだけどね」

 

 「鞠莉・・・」

 

 「そんな顔しないの」

 

 俺の頬に手を添える鞠莉。

 

 「天は自分のことを、Aqoursの十人目だとは思えていない・・・それはちゃんと分かってる。それを分かってて、私達は貴方にマネージャーをお願いしたんだから」

 

 「最初は『お願い』ではなく『脅し』でしたけどね」

 

 「ちょ、ダイヤ!?それ蒸し返しちゃう!?」

 

 「事実ではありませんか」

 

 鞠莉の反応が面白かったのか、クスクス笑っているダイヤさん。

 

 「天さん、気にする必要はありませんわよ。鞠莉さんの仰る通り、私達が勝手にそう思っているだけ・・・天さんが考えを改める必要はありませんわ」

 

 「ダイヤさん・・・」

 

 「私達の側にいて、支えてくれてるんだもん。それだけで十分すぎるくらいだよ」

 

 抱きついてくる果南さん。

 

 「そんなわけだから天、私とハグしよ?」

 

 「・・・ギュー」

 

 「わわっ!?今日はずいぶん積極的だね?」

 

 果南さんを抱き締める。

 

 今度は甘やかすんじゃなくて、甘えたくなってしまった・・・

 

 「ちょ、ズルいわよ果南!?」

 

 「鞠莉はいっぱい甘やかしてもらったでしょ?今度は私が天を甘やかすのっ!」

 

 「天くん、次は私とハグしよっ!」

 

 「その次はマルずら!」

 

 「じゃ、じゃあルビィも天くんとハグする!」

 

 「ルビィまで!?で、では私も・・・」

 

 「フッ、甘えん坊なリトルデーモン・・・ヨハネが甘やかしてあげても良いわよ?」

 

 「あ、間に合ってるんで大丈夫です」

 

 「間に合ってるって何!?私だけ仲間外れにするんじゃないわよ!?」

 

 「ちょっと皆!?私の天くんに何してるの!?」

 

 「梨子ちゃん!?さらっととんでもないこと言ってない!?」

 

 皆との交流を、心から楽しいと感じる俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

ようやく梨子ちゃん以外のAqoursメンバーが、再登場を果たしました。

ここしばらく、梨子ちゃんやμ'sメンバーの出番が圧倒的に多かったですもんね・・・

ここからはAqoursメンバーが通常通り出る予定ですので、お楽しみに(・∀・)ノ

っていうか、早く12話の内容を終わらせて次に行きたい(´・ω・`)

頑張って進めねば・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【渡辺曜】負けないからね!

曜ちゃん、誕生日おめでとう!

そんなわけで、今回は曜ちゃんの誕生日回です。

それではいってみヨーソロー(`・ω・´)ゞ


 「えっ、曜の誕生日って四月なんですか!?」

 

 「そうだよ。知らなかった?」

 

 首を傾げる果南さん。

 

 ダイビングショップのアルバイトを終えた俺は、休憩しつつ果南さんと談笑していた。

 

 「意外ですね・・・てっきり七月とか八月だと思ってました」

 

 「アハハ、まぁ夏生まれっぽいよね」

 

 笑う果南さん。

 

 四月といえば今月、しかも十七日って・・・

 

 「もうすぐじゃん・・・プレゼントどうしましょう?」

 

 「天の気持ちがこもった物だったら、曜はきっと喜んでくれると思うよ?」

 

 「マジですか。じゃあメッチャ際どい水着をあげます」

 

 「それ気持ちじゃなくて下心こもってるよねぇ!?」

 

 「失礼な。曜のエロい姿が見たいだけですよ」

 

 「それを下心と呼ぶんでしょうが!」

 

 「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」

 

 「サンボ●スターかっ!」

 

 「まぁ冗談はさておき、本当にどうしようかな・・・」

 

 曜へのプレゼントに悩んでいると・・・

 

 

 

 

 

 『新しい日々をつなぐのは~、新しい君と僕なのさ~♪』

 

 

 

 

 

 「ピッ・・・もしもし?」

 

 「タイムリーすぎない!?いつの間にサン●マスターが着信音になったの!?」

 

 果南さんのツッコミ。

 

 ギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ・・・発情期ですかコノヤロー。

 

 『もっ、もしもし!?天くん!?』

 

 「曜?」

 

 電話の相手は曜だった。

 

 何故か声が裏返っており、緊張しているのが電話越しでも伝わってくる。

 

 『あ、あの・・・その・・・わっ、私とデートしないっ!?』

 

 「・・・は?」

 

 呆気にとられてしまう俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「とりゃーっ!」

 

 曜の投げたボールが綺麗に転がっていき、多くのピンを弾き飛ばす。

 

 「あっ、一本だけ残った!?ストライクだと思ったのに!?」

 

 「・・・何でボウリング?」

 

 呆れる俺。

 

 曜の誕生日当日、俺達は二人でボウリング場へとやって来ていた。

 

 あんな緊張した様子でデートに誘ってきたかと思えば・・・

 

 「いやぁ、久々にやりたかったんだよ・・・ねっ!」

 

 曜の二投目が、残った一本のピンを倒す。

 

 おっ、スペアだ・・・

 

 「そっか、ヤリたかったのか」

 

 「気のせいかな!?何か意味合いが違う気がするんだけど!?」

 

 「だったら最初から誘ってくれれば良かったのに・・・ホテルに」

 

 「やっぱりかっ!やっぱりそっちの意味かっ!」

 

 「っていうか久々って何?俺達はそんなことしてないはずだけど」

 

 「だからそっちの意味じゃないんだってば!?ボウリングが久々なのっ!」

 

 「まさか曜、過去に別の男と・・・?」

 

 「人の話聞いてくれる!?私は処j・・・み、未経験だからっ!」

 

 「あっ、言い直した」

 

 「う、うるさいなぁっ!それより次、天くんの番だよっ!」

 

 ボールを手渡してくる曜。

 

 そういえば俺も、ボウリングなんて久々だな・・・

 

 「よし、いっちょやりますか」

 

 「うん、やる気になってくれたのは良いんだけどさ・・・あのプレーヤー名は何?」

 

 呆れたようにスクリーンを見上げる曜。

 

 ボウリング場で使用申し込みをする際、スクリーンに表示されるプレーヤー名を決めることが出来るのだが・・・

 

 

 

 

 

 『プレーヤー名:ドラゲナイ2』

 

 

 

 

 

 「え、カッコ良くない?」

 

 「どこが!?っていうか完全にセカオワだよねぇ!?」

 

 「セカオワ?あぁ、SEKAI N○ ○WARIね」

 

 「いや伏せ字おかしくない!?そもそもなんで2なの!?」

 

 「1は曜だから」

 

 「え、私のプレーヤー名『ドラゲナイ1』になってるの!?」

 

 「うん。テキトーに決めて良いっていうから、テキトーに決めちゃった」

 

 「テキトーすぎない!?」

 

 どうやら曜は不服らしい。

 

 良いセンスだと思ったんだけどなぁ・・・

 

 「まぁ良いや・・・それより天くん、私と勝負しない?」

 

 「勝負?」

 

 俺が首を傾げると、曜が不敵な笑みを浮かべた。

 

 「うん。これから5ゲームやって、先に3ゲーム取った方の勝ちでどう?負けた方は勝った方の言うことを、1つだけ何でも聞くっていうことで」

 

 「ほほう・・・つまり俺が勝った場合、曜にあんなことやこんなことが出来ると?」

 

 「うっ・・・エ、エッチなのはダメっ!」

 

 「えー・・・気乗りしないなぁ・・・」

 

 「露骨にテンション下げるの止めてくれる!?」

 

 「いや、だってさぁ・・・」

 

 「それとも・・・勝つ自信が無いの?」

 

 曜がニヤリと笑いながら挑発してくる。

 

 ハッ、そんな安い挑発に乗るわけ・・・

 

 「そんなわけあるかあああああっ!」

 

 「メッチャ乗ってる!?」

 

 俺は勢いよくボールをぶん投げると、全てのピンをぶっ倒した。

 

 「嘘!?いきなりストライク!?」

 

 「舐めんなよ!?こちとらエリーチカ先生のボウリング講座受講者だぞ!」

 

 「何その講座!?っていうかエリーチカ先生ってお姉さんだよねぇ!?」

 

 「エリーチカ先生から免許皆伝をもらった実力、とくと思い知るが良いっ!」

 

 そう言って俺は、曜にボールを差し出した。

 

 「ほら、早く投げろ。『ドラゲナイ1』」

 

 「そのプレーヤー名で呼ばないでくれる!?」

 

 「まぁスペアしか取れないようじゃ、俺には勝てないだろうけど」

 

 「カッチーン・・・上等だよっ!『ドラゲナイ2』じゃ『ドラゲナイ1』には勝てないことを証明してやろうじゃんっ!」

 

 俺と曜の仁義なき戦いの火蓋が切られたのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「つ、疲れた・・・」

 

 「ど、同意であります・・・」

 

 ソファに突っ伏す俺と曜。

 

 ボウリングを終えた俺達は、俺の家へとやって来ていた。

 

 何故なら・・・

 

 「チクショウ、負けた・・・」

 

 「接戦だったけどね・・・私が勝ったんだから、言うこと聞いてよ?」

 

 「好きにしなよ・・・っていうか、ホントにそんなことで良いの?」

 

 「勿論」

 

 頷く曜。

 

 激しい勝負の末に勝利を収めた曜は、俺に『今日は天くんの家に泊めさせてほしい』とお願いしてきたのだ。

 

 「天くんは私の家に泊まったことがあるのに、私が天くんの家に泊まったことが無いのは不公平だと思って。勝負に勝とうが負けようが、今日は最初から天くんの家に泊まるつもりだったんだよね」

 

 「いや、不公平って・・・」

 

 呆れる俺。

 

 「そもそも年頃の娘が、男の家に泊まるなんて親御さんが・・・って、星さんなら普通にオッケーしそう」

 

 「アハハ、ご名答・・・」

 

 苦笑する曜。

 

 あの人は本当に大らかというか、そういうこと気にしないというか・・・

 

 奈々さんや西華さんとかもそうだもんなぁ・・・

 

 「まぁとりあえず、汗もかいたしお風呂に入りますか・・・曜、先に入ってきなよ」

 

 「いや、天くんの家だし天くんが先の方が・・・」

 

 「・・・もしかして、『私の浸かった湯船に天くんが入るとか嫌だ。きっといかがわしい妄想をするに違いない』とか思ってる?」

 

 「思ってないよ!?何その被害妄想!?」

 

 「じゃあ俺が先に・・・って、そうすると『天くんの浸かった湯船に入るとか嫌だ。気持ち悪い』とか思われそうだな・・・」

 

 「何でそんなにネガティブなの!?」

 

 結局、曜が先に入ることになるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《曜視点》

 

 「おぉ、今日は満月だね」

 

 「ホントだ・・・綺麗」

 

 空を見上げる私達。

 

 夕飯を済ませ一息ついた私達は、縁側に腰掛けて月を眺めていた。

 

 「やっぱり曜、料理上手だよね。手際が良いもん」

 

 「天くんこそ。凄く慣れてるなって思ったよ」

 

 お互いを褒め合う。

 

 今日の夕飯は二人で作ったのだが、驚くほどやりやすかった。

 

 息が合うというか、凄くスムーズに進んだし・・・何より、一緒に作っていてとても楽しかった。

 

 まるで新婚夫婦みたいな・・・

 

 「っ・・・」

 

 「曜?顔赤いけど大丈夫?」

 

 「だ、大丈夫!何でもない!」

 

 慌てて誤魔化す。

 

 うぅ、私ってば何考えてんだろ・・・

 

 「楽しかったし、また一緒に料理しようね」

 

 そう言って微笑む天くん。

 

 その笑顔は反則だなぁ・・・

 

 「勿論!」

 

 笑顔で頷く私。

 

 今度は何を作ろうかなぁ・・・

 

 「あっ・・・そういえば、今日は何で俺を誘ってくれたの?」

 

 尋ねてくる天くん。

 

 「最初に『デートしない?』って誘われた時は、ちょっとビックリしたよ」

 

 「そ、それは言葉の綾っていうか・・・迷惑だった?」

 

 「まさか。俺は凄く嬉しかったけど、誕生日を過ごす相手が俺で良いのかなって」

 

 「・・・天くんじゃなきゃダメだったんだよ」

 

 「ん?何て?」

 

 「な、何でもないっ!」

 

 本当のことなんて言えるわけがない・・・

 

 

 

 

 

 初めて好きになった男の子に、誕生日を祝ってもらいたかったからなんて・・・

 

 

 

 

 

 「ほ、ほらっ!天くんはAqoursのマネージャーなわけだから!メンバーの誕生日を祝う義務があるんだよ!」

 

 「どんな義務やねん」

 

 呆れている天くん。

 

 うぅ、こんなことが言いたいわけじゃないのに・・・

 

 「・・・まぁ、ちゃんとお祝いさせてもらうけどさ」

 

 苦笑しながらそう言うと、天くんが小さな箱を取り出した。

 

 「はいコレ、誕生日プレゼント」

 

 「えぇっ!?」

 

 驚く私。

 

 そんなもの用意してくれてたんだ・・・

 

 「も、もらっていいの・・・?」

 

 「あ、要らないなら別に・・・」

 

 「要る要るっ!メッチャ欲しいっ!」

 

 慌ててプレゼントを受け取る。

 

 「あ、開けていい・・・?」

 

 「どうぞ」

 

 震える手で箱を開ける。

 

 中に入っていたのは・・・

 

 「これ・・・ミサンガ?」

 

 「うん、俺の手作り」

 

 「手作り!?」

 

 ライトブルーを基調としたミサンガだった。

 

 色が凄く綺麗なのは勿論のこと、とてもしっかりとした出来映えだ。

 

 これが手作りだなんて・・・

 

 「天くん、ホントにこういうの上手だね・・・」

 

 「それほどでもないよ。もっと早く曜の誕生日を知ってたら、ちゃんとした物をプレゼント出来たんだけど・・・ゴメンね」

 

 「そんなことないよ!?メッチャ嬉しい!ありがとう!」

 

 本当に嬉しかった。

 

 天くんが私の為に作ってくれたんだし、嬉しくないわけがない。

 

 「ねぇ、付けてもらって良い?」

 

 「勿論。どこに付ける?」

 

 「んー・・・どこが良いのかな?」

 

 首を捻る私。

 

 すると天くんが、そっとミサンガを手に持った。

 

 「曜、利き足ってどっち?」

 

 「え、右だけど・・・」

 

 「じゃあ右足出して」

 

 天くんに言われるがままに、右足を天くんの前に出す。

 

 すると天くんは、私の右足首にミサンガを結び始めた。

 

 「勝負運を上げたい時は、利き足にミサンガを付けると良いんだって。ラブライブもそうだけど、曜の勝負事が上手くいくことを願ってここに付けよう」

 

 「勝負運・・・」

 

 「それと色なんだけど・・・基調になってる水色には、『美しさ・爽やかさ・笑顔』の意味があるみたい。曜のイメージカラーだから選んだんだけど、意味的にも曜にピッタリの色だよね」

 

 「っ・・・」

 

 顔がカァッと熱くなるのを感じる。

 

 もう、何でそうやってサラッと恥ずかしいことが言えるのかなぁ・・・

 

 「曜はAqoursのムードメーカーだから。これからもその笑顔で、皆を明るく照らしてほしい。Aqoursがラブライブで優勝する為には、曜の力が必要不可欠なんだよ」

 

 天くんはミサンガを結び終えると、私に微笑みかけた。

 

 「いつもありがとう。これからもよろしくね」

 

 「っ・・・うんっ!」

 

 我慢出来ず、勢いよく天くんに抱きつく。

 

 ヤバい、嬉しくて泣きそう・・・

 

 「おっと・・・もう、曜は甘えん坊だなぁ」

 

 「良いのっ!誕生日なんだから、もっと私を甘やかしなさいっ!」

 

 「はいはい」

 

 苦笑しながら抱き締めてくれる天くん。

 

 私の気持ちは、まだ天くんには伝えられない。

 

 でも、いつか必ず伝えるんだ・・・

 

 「ねぇ、天くん・・・私、負けないからね!」

 

 「うん。期待してる」

 

 笑顔を見せる天くん。

 

 負けないっていうのは、ラブライブもそうだけど・・・

 

 「・・・恋の争いも、ね」

 

 「曜?何か言った?」

 

 「何でもないっ!」

 

 笑みを浮かべ、天くんの胸に顔を埋める。

 

 大好きな人の温もりに包まれ、幸せを感じる私なのだった。




どうも〜、ムッティです。

今回は曜ちゃんの誕生日回でした!

改めて曜ちゃん、誕生日おめでとう!

何だかんだ言いつつ、天と曜ちゃんって良いコンビですよね。

空(天)と太陽(曜)みたいな?

海未ちゃんが嫉妬しそうですけど(笑)

ちなみに『ドラゲナイ1』や『ドラゲナイ2』は、以前自分が友達とボウリングへ行った時に登録したプレーヤー名です(笑)

あの時は4人だったから、『ドラゲナイ4』まであったなぁ・・・

それからミサンガの意味ですが・・・合ってます?

完全にネット情報ですので、悪しからず・・・

っていうか、投稿間隔が空いてしまってスミマセン(´・ω・`)

曜ちゃんと真姫ちゃんの誕生日回を書いていたら、本編を書く時間がありませんでした(>_<)

早く本編進めないと・・・

ちなみに真姫ちゃんの次の誕生日回は、6月9日の希ちゃんを予定しております。

その4日後の6月13日が、鞠莉ちゃんの誕生日ですね。

それまでの間になるべく本編を進めたいと思いますので、お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!

全速前進!ヨーソロー!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【西木野真姫】貴方に出会えて・・・

真姫ちゃん、誕生日おめでとう!

というわけで、今回は真姫ちゃんの誕生日回です!

イミワカンナイっ!←


 「天、起きて」

 

 「ん・・・?」

 

 身体を優しく揺すられ、ゆっくりと目を開ける。

 

 顔立ちの整った赤髪の美女が、俺の顔を覗き込んでいた。

 

 「着いたわよ」

 

 「えっ、もう?早くない?」

 

 「アンタが爆睡してたからでしょ」

 

 呆れている美女。

 

 「東京駅から新幹線に乗って三時間半・・・よくもまぁそんなに爆睡出来たものね」

 

 「アハハ、ゴメンゴメン」

 

 苦笑しながら謝る俺。

 

 「こういう乗り物に乗ると、つい眠くなっちゃうっていうか・・・大好きな人が隣にいてくれたから、尚更安心して眠れたよ。ありがとね」

 

 「な、何よそれ!?イミワカンナイっ!」

 

 頬を赤く染め、恥ずかしそうに髪の毛先をくるくる弄る美女。

 

 昔と違ってずいぶん髪が長くなったけど、この癖はずっと変わらないなぁ・・・

 

 「・・・ハハッ」

 

 「わ、笑うんじゃないわよ!?」

 

 「あぁ、ゴメン。やっぱり俺の彼女は可愛いなぁって」

 

 「っ・・・も、もう知らないっ!」

 

 顔を真っ赤にして、ぷいっとそっぽを向いてしまう美女。

 

 やれやれ・・・

 

 「さて、行こうか。終点だし、早く降りないと迷惑かけちゃうよ?」

 

 「アンタが爆睡してたせいで遅くなったんでしょうが!」

 

 「アハハ、確かに」

 

 俺は笑いながらそう言うと、美女の手を優しく握った。

 

 「起こしてくれてありがとう・・・真姫」

 

 「っ・・・全く、世話の焼ける彼氏なんだから・・・」

 

 手を握り返してくる美女・・・西木野真姫。

 

 伝説のスクールアイドルグループ・μ'sの一員である彼女は・・・

 

 現在、俺の恋人になっているのであった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「わぁ・・・!」

 

 目の前の光景に、驚いている真姫。

 

 「辺り一面、桜だらけじゃない・・・!」

 

 「凄いでしょ?」

 

 笑みを浮かべる俺。

 

 俺達は今、青森県弘前市の弘前公園へとやって来ていた。

 

 『弘前の桜』といえばかなり有名だが、真姫はまだ一度も見たことが無かったらしい。

 

 そこで今回、二人で弘前まで旅行に来たのだ。

 

 「『桜なんてどこで見たって一緒でしょ』とか言ってたどこかの誰かさん、今どんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」

 

 「う、うるさいわね!いいでしょ別に!」

 

 「『三時間半も新幹線に乗るの!?イミワカンナイ!』とか言ってたどこかの誰かさん、今どんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」

 

 「あぁもう、私が悪かったわよ!ごめんなさい!」

 

 「よろしい」

 

 しっかり謝罪の言葉が聞けたので、この辺にしておいてあげよう。

 

 「この公園広いから、お花見ポイントがたくさんあるんだよ。ゆっくり見て回ろう?」

 

 「えぇ・・・あんまり歩きたくないんだけど・・・」

 

 「じゃあおんぶしてあげようか?」

 

 「それはそれで嫌なんだけど!?こんな人が多いところで恥ずかしいでしょうが!」

 

 「ワガママだなぁ・・・ほら、行こう?」

 

 真姫の手を握って歩く。

 

 このワガママお姫様は、俺が引っ張ってあげないと動かないから困るんだよなぁ・・・

 

 「ちょ、ちょっと・・・!」

 

 そう言いながらも、手を握り返してついてくる真姫。

 

 どうやら、最初から手を握られるのを待っていたらしい。

 

 ホント素直じゃないんだから・・・

 

 「それにしても、真姫と旅行に来るなんて久しぶりだよね・・・いつ以来だっけ?」

 

 「そうねぇ・・・天が大学四年生の時以来だから、三年ぶりってところかしら?」

 

 「おっ、よく覚えてるね」

 

 「た、たまたまよっ!」

 

 顔を赤くする真姫。

 

 俺の高校卒業を機に付き合い始めた俺達は、今年で交際七周年を迎えていた。

 

 俺も今年で二十五歳になるし、真姫は・・・

 

 「遂に三十路か・・・おめでとう、真姫」

 

 「三十路って言われた後に祝福されても嬉しくないんだけど!?」

 

 真姫のツッコミ。

 

 真姫は今日、四月十九日でめでたく三十歳になった。

 

 今回の旅行は、真姫の誕生日お祝い旅行でもあるのだ。

 

 「ふんっ!どうせもう若くないわよっ!」

 

 「拗ねないの。年齢なんて気にならないくらい、真姫は綺麗だよ」

 

 真姫の手を強く握る。

 

 「それに三十歳なんてまだまだ若いでしょ。『若くない』なんて言わないの」

 

 「・・・ふん」

 

 あっ、ちょっと機嫌直った・・・

 

 頬が赤く染まっているのが良い証拠だ。

 

 「ほら、ここの景色見てみなよ。凄いから」

 

 「えっ?」

 

 川にかかる橋の上で立ち止まる俺達。

 

 向こうまでずっと続く川の両脇は、たくさんの桜の木で彩られていた。

 

 さらに川の水面には、鏡のようにクッキリと桜が映っており・・・

 

 とても美しい眺めだった。

 

 「うわぁ・・・!」

 

 感嘆の声を上げる真姫。

 

 どうやら喜んでもらえたようだ。

 

 「でも、本番はこれからなんだよね」

 

 「本番?」

 

 首を傾げる真姫。

 

 この景色もとても素晴らしいのだが、お楽しみはこれからなのだ。

 

 「弘前公園の桜って、夜になるとライトアップされるんだよ。それが本当に綺麗でさぁ・・・また夜になったら来よう。きっとビックリすると思うよ」

 

 「そ、そうなの?それは見てみたいわね・・・」

 

 興味を示す真姫。

 

 あの景色は絶景だし、是非とも真姫に見てもらいたい。

 

 そして・・・

 

 「・・・上手くいくと良いな」

 

 「天?何か言った?」

 

 「何でもないよ」

 

 笑って誤魔化す俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「うぅ、寒い・・・」

 

 身体を震わせる真姫。

 

 俺達は一度旅館へ行きチェックインを済ませ、再び弘前公園を訪れていた。

 

 もう四月とはいえ、日が沈んで夜になればだいぶ冷える。

 

 本州最北端に位置する青森県ともなれば尚更だ。

 

 「大丈夫?」

 

 「まぁ何とか・・・それに・・・」

 

 そう言って、俺の腕に抱きついてくる真姫。

 

 「・・・これで少しは温かくなるから」

 

 「・・・それなら良いけど」

 

 真姫にくっつかれて、内心ドキッとしてしまう。

 

 こうやってさりげなく甘えてくるの、ホントズルいよなぁ・・・

 

 「天?どうしたの?」

 

 「な、何でもない・・・」

 

 ドキドキしつつ、真姫と二人で歩き始める。

 

 辺りは多くの人々で賑わっており、皆それぞれ夜桜を楽しんでいた。

 

 「本当に綺麗ね・・・」

 

 感嘆の声を上げる真姫。

 

 辺り一面に咲いた桜はライトアップされ、昼に見たものとはまた一味違う光景がそこにあった。

 

 ホント、凄いよなぁ・・・

 

 「あっ、真姫。あれ見てみなよ」

 

 「え?」

 

 俺が指差した先には少し開けた場所があり、そこも多くの桜の木が立っていた。

 

 その中の二本の桜の木の枝が、ハート型を描くように組み合わさっている。

 

 そこだけくっきりとハートの形に見えるのだ。

 

 「えっ、凄くない!?何あれ!?」

 

 「有名な花見スポットみたい。せっかくだし、アレをバックに写真撮ろうよ」

 

 「ヴェエッ!?は、恥ずかしいからちょっと・・・」

 

 「すみません、シャッター押してもらって良いですか?」

 

 「えぇ、良いですよ」

 

 「人の話聞きなさいよ!?」

 

 真姫のツッコミをスルーし、手を引いてこちらへ引き寄せる。

 

 シャッターを押してくれるという女性は、俺達の様子を微笑ましそうに眺めていた。

 

 「フフッ、カップルさんですか?」

 

 「えぇ、もう七年の付き合いになります」

 

 「そうなんですか?素敵ですね」

 

 ニッコリ笑う女性。

 

 ダークブラウンのロングヘアをお嬢様結びにして、赤いリボンで纏めている。

 

 よく見るとメッチャ美人じゃん・・・

 

 「・・・天?」

 

 「大丈夫、俺は真姫一筋だから」

 

 「まだ何も言ってないんだけど・・・」

 

 呆れている真姫。

 

 女性はクスクス笑うと、俺が渡したスマホを構えた。

 

 「それじゃあ撮りますね。お二人とも、思いっきりくっついちゃって下さい」

 

 「はーい」

 

 「ちょ、ちょっと!?」

 

 思いっきり真姫を抱き寄せる。

 

 真姫は動揺しながらも、諦めたのかすんなり俺に身を委ねてくれた。

 

 「それではいきます。はい、チーズ!」

 

 掛け声と共に、パシャッという音がする。

 

 女性が笑顔で俺にスマホを差し出してきた。

 

 「はい、オッケーです。我ながら上手に撮れたと思いますよ」

 

 「ありがとうございます。助かりました」

 

 「いえいえ。それでは私はこれで・・・全く、かすみさんと璃奈さんったらどこに行っちゃったんだろう?」

 

 一礼して去っていく女性。

 

 最後に何か呟いてたけど、何だったんだろう?

 

 何かキョロキョロ辺りを見回してるし・・・

 

 「写真、どんな感じ?」

 

 「えーっとね・・・おぉ、バッチリじゃん!」

 

 真姫と二人で、撮ってもらった写真を眺める。

 

 背景のハートをバックに、仲睦まじく写る二人の姿がそこにあった。

 

 「その・・・後で私にも送ってね?」

 

 少し恥ずかしそうに頼んでくる真姫に、再びドキッとしてしまう俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ここって、昼間に来た場所よね?」

 

 「うん、凄く景色の良かった場所だね」

 

 真姫の問いに頷く俺。

 

 俺達は今、昼間にも訪れた川にかかる橋にやって来ていた。

 

 「昼も凄かったけど、夜の景色はまた格別なんだよ。行ってみよう」

 

 「あっ、ちょっと!?」

 

 真姫の手を引いて橋を渡る。

 

 そして橋の中央で立ち止まり、川の方へと視線を向けた。

 

 「格別って、そんなに違うもの・・・なの・・・」

 

 目の前の光景に絶句している真姫。

 

 川沿いに咲く桜の木がライトアップされ、まるで桜そのものが光り輝いているようだった。

 

 そして川の水面には、そんな光り輝く桜が映し出されており・・・

 

 まさに絶景と言って良い、幻想的な風景がそこにはあった。

 

 「・・・凄いでしょ?」

 

 微笑む俺。

 

 「初めてこの景色を見た時、俺本当に感動しちゃってさ。次は絶対真姫と一緒に見に来たいって、そう思ったんだ」

 

 「天・・・」

 

 「この景色を、真姫と一緒に見られて良かった。一緒に来てくれてありがとう」

 

 そう言うと俺は、着ているコートのポケットから小さな箱を取り出した。

 

 それを見た真姫が、驚いたように目を見開く。

 

 「そ、それって・・・!?」

 

 「本当は、もっと早くに渡したかったんだけど・・・七年も待たせちゃってゴメンね」

 

 ゆっくりと箱を開く。

 

 そこに入っていたのは、銀色に光り輝く指輪だった。

 

 「真姫・・・いや、西木野真姫さん。貴女のことが大好きです。俺と結婚して下さい」

 

 「っ・・・」

 

 心臓をバクバクさせながら、真姫からの返事を待っていると・・・

 

 真姫の目から、大粒の涙が溢れ出した。

 

 「・・・バカ」

 

 溢れる涙を拭おうともせず、真姫が微笑む。

 

 「こんな景色をバックにプロポーズなんて・・・カッコつけすぎなのよ。天のくせに」

 

 「いや、『くせに』って酷くない?これでも色々と考えたんだけど・・・」

 

 「考えすぎよ、バカ」

 

 俺の胸に顔を埋める真姫。

 

 「前にも言ったじゃない・・・私が天の頼みを断るわけないでしょ」

 

 「っ・・・それって・・・」

 

 真姫は顔を上げると、嬉しそうに微笑んだ。

 

 「はい・・・喜んで」

 

 「っ・・・」

 

 真姫を抱き締める。

 

 愛おしすぎてどうにかなりそうだった。

 

 「ちょっと、苦しいんだけど・・・」

 

 「あぁゴメン、『西木野真姫を抱き締めたい症候群』の症状が出ちゃって・・・」

 

 「どんな病気!?」

 

 「まぁ治す気は無いんだけどね」

 

 「無いの!?」

 

 「当たり前じゃん。それとも・・・俺に抱き締められるのは嫌?」

 

 「・・・バカ」

 

 「ちょっと、人のこと『バカ』って言い過ぎ」

 

 「照れ隠しよ。それくらい察しなさい」

 

 「理不尽だなぁ・・・」

 

 「その理不尽な女に、アンタは今プロポーズしたのよ」

 

 おかしそうにクスクス笑う真姫。

 

 「私のこと、大好きなんでしょ?」

 

 「うん、大好き」

 

 「・・・相変わらず照れずに言うわね」

 

 真姫は肩をすくめつつ、俺の頬に手を添えた。

 

 「でも・・・私も貴方が大好きよ」

 

 「真姫・・・」

 

 「愛してるわ、天・・・世界の誰よりも、貴方を愛してる」

 

 「・・・俺も愛してるよ、真姫」

 

 お互いに顔を近づけ、深い口づけを交わす。

 

 ライトアップされた桜の木々が、俺達を祝福するかのように光り輝いているのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《真姫視点》

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 「また爆睡してるし・・・」

 

 隣で眠る天を見ながら、呆れている私。

 

 楽しかった旅行も終わり、今は新幹線に乗って東京へと戻っている途中だ。

 

 「それにしても・・・ホントによく寝るわね」

 

 まぁ確かに、昨日の夜は寝るの遅かったもんね・・・

 

 旅館に戻って祝杯を挙げて、そのまま二人で・・・

 

 「っ・・・」

 

 昨夜の情事を思い出し、思わず顔が赤くなってしまう。

 

 隣の部屋の人に、声とか聞かれてないといいんだけど・・・

 

 「全く・・・あんなに激しくするから・・・」

 

 恨みのこもった目で天を見つめる。

 

 まぁスヤスヤと眠る天の顔を見たら、怒る気も失せてしまうのだけれど。

 

 「・・・フフッ」

 

 ふと自分の左手を見て、自然と笑みが零れる。

 

 薬指には、昨日天からもらった指輪がはめられていた。

 

 天からのプロポーズを思い出し、つい顔が緩んでしまう。

 

 「・・・嬉しかったなぁ」

 

 思えば初めて出会った頃から、天は私に壁を作ることなく接してくれた。

 

 そんな天だから、人付き合いが苦手だった私も心を開くことが出来たんだろう。

 

 おかげでμ'sの皆にも出会えて、かけがえのない仲間や思い出を得られて・・・

 

 今の私があるのは、間違いなく天のおかげだ。

 

 「・・・ありがとね、天」

 

 天の肩に、そっと自分の頭をのせる。

 

 「貴方に出会えて、本当に良かった・・・私は今、凄く幸せよ」

 

 私はこの人の彼女・・・いや、お嫁さんなんだ・・・

 

 そう思うだけでドキドキするし、何とも言えない幸福感に包まれる。

 

 それくらい、私は天にベタ惚れなんだと実感した。

 

 「・・・大好き」

 

 天にもたれかかって体重を預け、天の右手を指輪のはめられた左手でそっと握る。

 

 そのまま目を閉じた私は、幸せを噛み締めながら眠りにつくのだった。




どうも〜、ムッティです。

今回は真姫ちゃんの誕生日回でした!

舞台は青森県弘前市でしたね。

自分も昨年初めて弘前公園を訪れ、桜を見たのですが・・・

凄かった!もう一度言うけど凄かった!

アレは本当に生で見る価値のある風景です。

本当は今年も行くはずだったのに、コロナの影響で行けなくなるっていうね・・・

おのれコロナめ(゜言゜)

来年は行きたいなぁ・・・

ちなみに今回、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会より桜坂しずくちゃんがサラッと登場しております。

しずくちゃんも可愛いんですよねぇ(>_<)



さてさて、ここで恒例の支援絵紹介!

今回もことりちゃん大好きさんから支援絵をいただいたので、ご紹介させていただきます!


【挿絵表示】


すげええええええええええっ!?Σ(゜Д゜)

完全にAqoursじゃん!

Brightest Melodyじゃん!

いやぁ、相変わらず上手いわぁ・・・

ことりちゃん大好きさん、いつもありがとうございます!



さて、次回からは本編に戻ります。

絵里ちゃんと仲直りした天は、東京へとやって来たAqoursの皆と再会・・・

果たしてAqoursは、μ'sとの違いを見つけることが出来るのか・・・

次回をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

答えは自分で探すものである。

相変わらずスクスタにハマっております。

今のベストチームのセンターは虹ヶ咲の果林ちゃんで、両脇をμ'sの絵里ちゃんとAqoursの梨子ちゃんが固める布陣です。

他にも果南ちゃんや希ちゃん等・・・

ヤバい、おっぱい星人であることがバレてしまう(今さら)


 「えぇっ!?別行動!?」

 

 「えぇ、すみません」

 

 千歌さんに謝る俺。

 

 俺は今回、Aqoursの皆とは一緒に行動出来ないのだ。

 

 「実は今日、人と会う約束をしてるんです。なので『μ'sとの違いを探せ!Aqoursの東京弾丸ツアー』には参加出来ないんですよ」

 

 「いつの間にそんなタイトルついたの!?」

 

 「それに・・・会うんでしょう?Saint Snowの二人と」

 

 いつの間にか千歌さんは、Saint Snowの鹿角聖良さんと連絡先を交換していたらしい。

 

 ちょうどSaint Snowの二人も東京に来ているらしく、会う約束をしているんだとか。

 

 「俺、あの人達に会いたくないんで。俺の代わりに、皆でブロッコリーを投げつけといてください」

 

 「そんなことしないよ!?っていうか何でブロッコリー!?」

 

 「聖良さんの苦手なものらしいんで」

 

 「何で知ってるの!?」

 

 「ネットで調べました。Saint Snowの情報は、一通り把握済みです」

 

 「完全にSaint Snowのこと気になってるよねぇ!?」

 

 「敵の情報を知っておくのは基本でしょうに・・・まぁそんなわけで、俺は別行動をとらせてもらいます」

 

 「えぇ、そんなぁ・・・」

 

 「嫌ー!マリーは天と一緒が良いのー!」

 

 不満げな千歌さんと、俺にしがみつく鞠莉。

 

 苦笑しながら鞠莉の頭をポンポン叩く。

 

 「じゃあお詫びに、一つだけヒント」

 

 「ヒント・・・?」

 

 首を傾げる曜。俺は笑みを浮かべた。

 

 「答えはいたってシンプルだから。難しく考え過ぎないように」

 

 「っ・・・もしかして天くん、答えを知ってるの!?」

 

 「さぁ、どうだろうね」

 

 俺は笑ってはぐらかすと、皆に向けて手を振るのだった。

 

 「行ってらっしゃい。自分達の目指すべき道を、見つけておいで」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《千歌視点》

 

 「お久しぶりです!」

 

 「お元気そうで何よりです」

 

 握手を交わす私と聖良さん。

 

 私達は今、秋葉原UTXの一室にお邪魔していた。この部屋はゲストルームになっており、学園関係者じゃなくても利用可能らしい。

 

 聖良さん達はA-RISEのファンらしく、東京を訪れる際はA-RISEの母校でもあるこの場所を訪れるのが恒例なんだそうだ。

 

 「予備予選突破、おめでとうございます」

 

 「そちらこそ、おめでとうございます」

 

 お互いを祝福する梨子ちゃんと聖良さん。

 

 Saint Snowもまた、ラブライブの予備予選を突破していた。

 

 動画でその時のパフォーマンスを見たけど、相変わらずカッコ良かったなぁ・・・

 

 「とはいえ、動画の再生回数はそちらの方が上なので・・・私達もうかうかしてはいられませんね」

 

 「いえいえ!」

 

 「それほどでも!」

 

 謙遜する曜ちゃんとルビィちゃんだったが、明らかに顔が緩んでいる。

 

 二人とも、気を緩めてる場合じゃないよ・・・

 

 「でも・・・決勝では勝ちますけどね」

 

 「っ・・・」

 

 聖良さんの強気の発言に、その場の空気がピリッとなる。

 

 ここは私も、リーダーとしてビシッと・・・

 

 「鬼は~外っ!」

 

 「キャアアアアアアアアアアッ!?」

 

 「ちょ、何してるのよ!?」

 

 鞠莉ちゃんが聖良さんにブロッコリーを投げつけていた。

 

 慌てて間に入る理亞ちゃん。

 

 「何で節分気分!?季節が違うでしょうが!」

 

 「今年の節分の時、マリー海外にいたのよ。だから豆まきしてないの」

 

 「知らないわよ!?っていうかそれ、豆じゃなくてブロッコリーでしょうが!姉様はブロッコリーが苦手なのよ!?」

 

 「知ってるわよ。だからぶつけようと思って」

 

 「まさかの確信犯!?っていうか食べ物を粗末にするんじゃないわよ!?」

 

 「大丈夫よ。それ食品サンプルだから」

 

 「逆に何でブロッコリーの食品サンプル持ってるのよ!?」

 

 理亞ちゃん怒涛の連続ツッコミ。

 

 一方の聖良さんはというと、理亞ちゃんの背中に隠れてぷるぷる震えていた。

 

 そんなにブロッコリー苦手なんだ・・・

 

 「鞠莉さん!?突然何をしているのですか!?」

 

 「だって天に頼まれたんだもん」

 

 「あんなもの冗談に決まっているでしょう!?何故真に受けているのですか!?」

 

 「冗談?この食品サンプル、天にもらったんだけど・・・」

 

 「天さんんんんんんんんんんっ!?」

 

 黒幕はまさかの天くんだった。

 

 本気だったんだ・・・

 

 「と、とにかくっ!お話を聞かせていただけませんか!?」

 

 「あぁ、μ'sとの違いについてですね・・・」

 

 ようやく落ち着いたのか、理亞ちゃんの後ろから出てくる聖良さん。

 

 何かげっそりしてるけど、大丈夫かなぁ・・・

 

 「コホンっ・・・皆さんがμ'sに憧れてスクールアイドルを始めたように、私達もA-RISEに憧れてスクールアイドルを始めました。だから私達も、考えたことはあります。A-RISEやμ'sの何が凄いのか、私達と何が違うのか・・・」

 

 「・・・答えは出ましたか?」

 

 「・・・残念ながら」

 

 首を横に振る聖良さん。

 

 「だから、勝つしかない・・・勝って追いついて、同じ景色を見るしかない・・・そう思いました」

 

 「・・・勝ちたいですか?」

 

 「え・・・?」

 

 「ラブライブ、勝ちたいですか?」

 

 素直な質問をぶつけてみる。

 

 聖良さんの隣で、理亞ちゃんが呆れた顔をしていた。

 

 「姉様、この子バカ?」

 

 「鬼は~・・・」

 

 「ヒィッ!?」

 

 「ストップうううううっ!?今のは私が悪かったから、おもむろにブロッコリー投げつけようとしないで!?姉様が怯えてるから!」

 

 慌てて鞠莉ちゃんを止める理亞ちゃん。

 

 鞠莉ちゃんも容赦ないなぁ・・・

 

 「・・・勝ちたいからこそ、ラブライブに出場するのよ。A-RISEやμ'sだって、そうだったはずよ」

 

 「あら、それはどうかしら?」

 

 「っ!?」

 

 聞き覚えの無い声がする。

 

 振り向くと、そこに立っていたのは・・・

 

 「き、綺羅ツバサさん!?」

 

 「あら、私のこと知ってるの?嬉しいわ」

 

 「「ピギャアッ!?」」

 

 ルビィちゃんとダイヤさんが悲鳴を上げる。

 

 あのA-RISEのメンバー、綺羅ツバサさんがにこやかに手を振っていた。

 

 ほ、本物・・・!?

 

 「ど、どうしてここに・・・!?」

 

 「時々顔を出しに来てるのよ。卒業生として、母校を気にかけるのは当然でしょ?」

 

 理亞ちゃんの質問に答える綺羅さん。

 

 「先月ぶりね、Saint Snowのお二人さん。まさか貴女達が、Aqoursと会ってるなんて思ってもみなかったわ」

 

 「っ・・・」

 

 「それとAqoursの皆さん、初めまして。A-RISEの綺羅ツバサよ。よろしくね」

 

 綺羅さんは笑顔で挨拶すると、誰かを探すように辺りを見回した。

 

 「あら、天はいないみたいね・・・まぁあの子の性格上、Saint Snowに会いたくなかったんでしょうね。あの子は基本的に人に対して優しいけど、気に入らない相手に対してはとことん冷たいもの」

 

 苦笑する綺羅さん。

 

 えっ、今天くんの名前を・・・

 

 「天くんを知ってるんですか!?」

 

 「勿論。私達の最大のライバル、μ'sのマネージャーだもの。よく知ってるわ」

 

 「えぇっ!?」

 

 「アイツがμ'sのマネージャー!?」

 

 衝撃を受けている聖良さんと理亞ちゃん。

 

 そういえば二人とも、そのことを知らないんだっけ・・・

 

 「ところで、さっきの話なんだけど・・・ちょっと違うわよ」

 

 理亞ちゃんの方を見る綺羅さん。

 

 「確かに私達A-RISEは、勝ちたくてラブライブに出場してた。それは紛れも無い事実ね。でも・・・μ'sは違ったわ」

 

 「・・・勝ちたくなかったっていうの?」

 

 「それも違う。勿論優勝を目指していた以上、彼女達にも『勝ちたい』という思いはあったでしょうね。ただ・・・それだけじゃなかったのよ」

 

 「それだけじゃなかった・・・?」

 

 「これ以上の答えは、自分で見つけなさい。一つだけヒントをあげるなら・・・勝ちたいだけじゃなかったから、μ'sはラブライブで優勝することが出来たのよ。私達A-RISEを破って、ね」

 

 綺羅さんの意味深な発言に、疑問の表情を浮かべる私達。

 

 どういうことだろう・・・?

 

 「まぁそういう意味で言えば、Aqoursの皆には大きなアドバンテージがあるわよ。何と言っても、あの天がマネージャーなんだもの」

 

 微笑む綺羅さん。

 

 「μ'sの先頭に立って皆を引っ張っていたのは、リーダーの穂乃果だったけど・・・メンバーの隣に寄り添い、支えていたのはマネージャーの天だったわ。そして今、天は貴女達のマネージャーをやっている・・・あの子を惹きつける何かが、貴女達にあったということでしょうね」

 

 「惹きつける、何か・・・」

 

 そんなこと、考えてもみなかった。

 

 私達がお願いをして、マネージャーをやってもらっているけど・・・

 

 私達を見て、天くんは何かを感じてくれているのかな・・・?

 

 「あぁ、そういえば・・・そろそろ、今年のラブライブ決勝大会の会場が発表される時間じゃないかしら?」

 

 時計を見て、思い出したように呟く綺羅さん。

 

 「毎年、ここの大型スクリーンで発表になるのが恒例になってるのよ。見に行ってみたらどうかしら?」

 

 ウインクする綺羅さんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「うわぁ・・・」

 

 「凄い人ずら・・・」

 

 驚いている善子ちゃんと花丸ちゃん。

 

 大型スクリーンの前では、既に多くの人が集まって発表の瞬間を待っていた。

 

 「あっ!」

 

 声を上げる千歌ちゃん。

 

 大型スクリーンに、『Love Live!FINAL STAGE』の文字が映し出される。

 

 そして次に映し出された文字は・・・

 

 「AKIBA DOME・・・」

 

 「本当にあの会場でやるんだ・・・」

 

 呟く鞠莉ちゃんと果南ちゃん。

 

 つまり決勝まで進むことが出来たら、あの広大なステージに立つことが出来る・・・

 

 「・・・ちょっと、想像出来ないな」

 

 千歌ちゃんの口から、珍しく弱気な言葉が漏れる。

 

 他の皆も不安そうで、どこか自信無さげな表情をしていた。

 

 今の私達に、あのステージに立てるだけの実力があるのか・・・

 

 

 

 

 

 『自分達の目指すべき道を、見つけておいで』

 

 

 

 

 

 「っ・・・」

 

 天くんの言葉が思い浮かぶ。

 

 ダメダメ、何を弱気になってるの私!

 

 私には・・・私達には、誰よりも頼りになる味方がいるでしょうが!

 

 自分の頬を叩き、気合いを入れ直す。

 

 「ねぇ!音ノ木坂、行ってみない?」

 

 「えっ?」

 

 私の言葉に、驚きの表情を浮かべる千歌ちゃん。

 

 「良いの・・・?」

 

 「うん」

 

 笑顔で頷く私。

 

 コンクールで自分らしくピアノを弾けたおかげか、私の中で気持ちが前向きになっていた。

 

 「今はちょっと行ってみたい。自分がどんな気持ちになるか、確かめてみたいの」

 

 「梨子ちゃん・・・」

 

 「皆は?どう?」

 

 皆に問いかける私。

 

 「賛成であります!」

 

 「良いんじゃない?見れば何か思うことがあるかもしれないし」

 

 笑顔で頷いてくれる曜ちゃんと果南ちゃん。

 

 「音ノ木坂・・・」

 

 「μ'sの・・・」

 

 「「母校!?」」

 

 興奮状態のルビィちゃんとダイヤさん。

 

 本当にμ'sが好きなのね・・・

 

 「フフッ、元気が出たみたいね」

 

 綺羅さんが笑いながらやってくる。

 

 「発表された瞬間は、皆表情が曇ってたから心配したけど・・・貴女がAqoursの精神的支柱なのかしら?桜内梨子さん?」

 

 「いいえ、違います」

 

 綺羅さんの問いに、首を横に振る私。

 

 「私は支えられている側です。私を・・・私達を支えてくれている人は、離れていても私達を支えてくれてるんですよ」

 

 「なるほど・・・敵わないわね、あの子には」

 

 呆れているようで、どこか嬉しそうな綺羅さん。

 

 どうやら綺羅さんにも、思うところがあるらしい。

 

 「ところで綺羅さん、Saint Snowのお二人は・・・」

 

 「あぁ、あの二人なら帰ったわよ。『アキバドームで会いましょう』ですって」

 

 「っ・・・それは負けられませんね・・・!」

 

 燃えている千歌ちゃん。

 

 そんなこと言われたら、こっちも嫌でもやる気が漲ってきちゃうわね・・・!

 

 「よーし!音ノ木坂に行くよー!」

 

 「綺羅さん、色々ありがとうございました」

 

 「こちらこそ。会えて良かったわ」

 

 微笑む綺羅さん。

 

 「応援してるわ。頑張ってね」

 

 「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」

 

 私達は綺羅さんに一礼すると、音ノ木坂に向かって歩き出すのだった。




どうも〜、ムッティです。

希ちゃん可愛すぎません?(唐突)

スクスタのストーリーを見返していて、改めてそう思いました。

やっぱり自分は希ちゃん推しです( ̄ー ̄)

あと、果林ちゃんのセレブリティ・ブルー衣装が可愛すぎる(浮気者)

セレブリティ・ブルー衣装の果林ちゃんをセンターに、フォレストフェアリー衣装の絵里ちゃんとプレリュードブロッサム衣装の梨子ちゃんが両脇を固める・・・

素敵やん(恍惚)

これからもスクスタやっていくぞー!

・・・投稿もちゃんとせねば(´・ω・`)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お世話になった人には頭が上がらないものである。

今さらですが、そろそろ鬼滅の刃を読もうかと思ってます(まだ読んでない人)


 「・・・懐かしいな」

 

 廊下を歩きながら、小さく独り言を呟く。

 

 俺は今、音ノ木坂学院へとやって来ていた。

 

 こうやって高等部の校舎を歩いていると、あの頃のことを思い出すな・・・

 

 

 

 

 

 『今日も練習に行くにゃー!』

 

 『ちょ、凛ちゃん!?走ったら危ないよ!?』

 

 『花陽!?アンタも走るんじゃないわよ!?』

 

 『全く、困った一年生達ですね・・・』

 

 『フフッ、元気があって良いんじゃないかな?』

 

 『元気なのは良いのだけれど、廊下は走らないでほしいわね・・・』

 

 『全く、子供なんだから・・・』

 

 『まぁまぁ、放課後で人も少ないし大丈夫やない?』

 

 

 

 

 

 練習場所の屋上へと向かう皆の後ろ姿を、今でも鮮明に思い出せる。

 

 そして・・・

 

 

 

 

 

 『ほら天くん!早く行こう!』

 

 

 

 

 

 笑顔で俺の手を引く、サイドテールの少女。今頃何してるのかなぁ・・・

 

 そんなことを考えながら歩いていると、目的地である部屋の前へと着いた。

 

 一つ息を吐き、ドアをノックする。

 

 「どうぞ~」

 

 「失礼します」

 

 返事が返ってきたので、ドアを開けて中に入る。

 

 すると・・・

 

 「天くううううううううううんっ!」

 

 「むぐっ!?」

 

 一瞬にして視界が塞がれ、顔が柔らかい感触に包まれた。

 

 「会いたかったわー!寂しくて死んじゃうかと思ったわよ!」

 

 「ふぉふぉふぉふふぁふぃふぇふふぁふぁふぁふぁふぁ(どこのウサギですか貴女は)」

 

 「あんっ♡そんなところで喋っちゃダメっ♡」

 

 「ふぉふぇふぃふぉふふぃふぉふぉ?(俺にどうしろと?)」

 

 「んあっ♡フフッ、ゴメンなさい♪」

 

 ようやく解放され、俺を抱き締めていた女性の姿を確認できた。

 

 ベージュ色の長い髪、独特なサイドテール・・・ことりちゃんによく似た美女である。

 

 「お久しぶりです、南理事長」

 

 「むぅ・・・その呼び方は嫌!」

 

 「子供ですか貴女は」

 

 「嫌なものは嫌なのっ!名前で呼んでっ!」

 

 「はいはい、分かりましたよ・・・」

 

 俺は溜め息をつくと、女性に一礼した。

 

 「お久しぶりです・・・ひなさん」

 

 「えぇ、久しぶり」

 

 笑う女性・・・南ひなさん。

 

 ことりちゃんのお母さんであり、音ノ木坂学院の理事長である。

 

 俺に浦の星のテスト生の話を持ちかけてきた張本人だ。

 

 「天くんったら、全然連絡くれないんだもの。心配してたのよ?」

 

 「いや、定期的に連絡してましたよね?浦の星でのことを報告する為に」

 

 「一ヶ月に一度だけじゃない!本当なら毎日ほしいわよ!」

 

 「何を彼女みたいなこと言ってるんですか」

 

 「そ、そんな・・・彼女だなんて・・・キャッ♡」

 

 「照れないで下さい。あと、もう少し自分の歳を考えて下さい」

 

 ことりちゃんが今年で二十二歳だから、恐らく四十~五十歳のはずなんだけど・・・

 

 二十代~三十代にしか見えないのが恐ろしい。

 

 スタイルも良いし、ことりちゃんと並んでも親子ではなく姉妹に見えてしまうほどだ。

 

 「フフッ、まぁ彼女の座はことりに譲るわ」

 

 「自分の娘を何だと思ってるんですか」

 

 「ゆくゆくはことりが天くんのお嫁さんになって、私は天くんのお義母さんになるの!まさに完璧な将来設計ね!」

 

 「俺とことりちゃんの気持ちが無視されている件について」

 

 「あら、ことりじゃ不満かしら?」

 

 「まさか。俺は幸せですけど、ことりちゃんにも相手を選ぶ権利があるでしょうに」

 

 「まだ気付いてないのね・・・まぁ天くんらしいけど」

 

 ひなさんは何故か溜め息をつくと、柔らかい笑みを俺に向けるのだった。

 

 「それはさておき・・・お帰りなさい、天くん。浦の星での話、たっぷり聞かせてもらえるかしら?」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「そう・・・色々あったのね」

 

 「えぇ、まぁ」

 

 お茶を飲みながら頷く俺。

 

 俺は内浦での生活について、ひなさんに一通りのことを話し終えていた。

 

 「それにしても、奈々ったら事情を話しちゃって・・・」

 

 「むしろ何で隠してたんですか貴女は」

 

 「その方が面白そうだったんだも~ん♪」

 

 「歳を考えろオバさん」

 

 「辛辣!?」

 

 ショックを受けるひなさん。

 

 全く、この人ときたら・・・

 

 「っていうか、ひなさんと奈々さんってどういう関係なんですか?」

 

 「学生時代の先輩と後輩よ。卒業してからも交流があってね」

 

 肩をすくめるひなさん。

 

 「だから奈々の娘さんが音ノ木坂に入ってきた時は、私も嬉しかったんだけど・・・彼女には、ずいぶん苦しい思いをさせてしまったみたいね。奈々から話を聞くまで、私は気付くことが出来なかったわ」

 

 「・・・そういうのを表に出さずに、抱え込んじゃう人ですからね」

 

 きっと梨子は周りに気を遣って、元気に振る舞っていたんだろう。

 

 周りの人に頼ることもなく、一人でもがき苦しんでいたんだろうな・・・

 

 「だからこそ、天くんには感謝してるわ。彼女を救ってくれたんだもの」

 

 「いや、救ったなんて大げさな・・・」

 

 「あら、奈々はそう言ってたわよ?ピアノコンクールが上手くいったのも、天くんのおかげだって感謝してたもの」

 

 「梨子の努力の賜物ですよ。俺は何もしてませんから」

 

 「相変わらず謙虚ねぇ・・・まぁ、そういうことにしておきましょうか」

 

 苦笑するひなさん。

 

 「内浦でも楽しくやってるみたいで、安心したわ。絵里ちゃんとも仲直り出来たみたいだし、本当に良かった」

 

 「ご心配をおかけしてすみません」

 

 「良いのよ。喧嘩の原因を作ってしまったのは、他でもない私なんだから・・・本当にごめんなさいね」

 

 謝るひなさん。

 

 そんなひなさんに、俺は聞いてみたいことがあった。

 

 「そもそも、どうしてひなさんは俺をテスト生に推薦したんですか?他にも良い生徒はいたでしょうに」

 

 「・・・天くんが一番適任だと思ったのよ」

 

 窓の外を眺めるひなさん。

 

 「μ'sの皆を繋ぎ、支え、音ノ木坂の廃校阻止に尽力してくれた天くんなら・・・同じように廃校の危機に直面している浦の星の、力になってくれるんじゃないかって。そう思って、鞠莉ちゃんに天くんを推薦したの。まさか幼馴染とは思わなかったけどね」

 

 「ひなさんと鞠莉はどういう関係なんですか?鞠莉は小原家のコネクションだって言ってましたけど」

 

 「鞠莉ちゃんのお父さんとウチの旦那って、昔からの友人なのよ。私が音ノ木坂の理事長だっていうことを知った鞠莉ちゃんが、お父さんを通じてコンタクトをとってきてね。それ以来、色々とアドバイスを求められるようになったの」

 

 「・・・相変わらず凄い行動力だな」

 

 そうやって自分から積極的に行動を起こせるのが、鞠莉の凄いところだと思う。

 

 流石は経営者の娘といったところか・・・

 

 「でも、天くんをテスト生に推薦して正解だったわ」

 

 笑みを浮かべるひなさん。

 

 「Aqoursのことは、私もチェックさせてもらってるけど・・・皆本当に活き活きしてる。きっと良いマネージャーがいてくれるからね」

 

 「さぁ、どうでしょうね?」

 

 肩をすくめる俺。

 

 「果たして俺は、彼女達にとって良いマネージャーなのかどうか・・・」

 

 「フフッ、それなら本人達に聞いてみると良いわ。私には答えが分かる気がするけどね」

 

 ひなさんはそう言うと、柔らかく微笑んだ。

 

 「彼女達の力になってあげて。それはきっと、天くんにしか出来ないことだから」

 

 「・・・仰せのままに」

 

 俺の返事に、満足そうに笑うひなさんなのだった。




どうも〜、ムッティです。

今回はことりちゃんママが登場しましたね。

娘の名前が『ことり』なので、『ひな』という名前にしてみました。

漢字にしようか迷いましたが、娘が平仮名なのでそのまま平仮名にしました。

っていうか・・・若すぎません?(今さら)

しかもことりちゃんそっくりだし・・・

ホントμ'sやAqoursメンバーのママ達って、若くて綺麗ですよねー。

『ママライブ!』と『ママライブ!サンシャイン!!』やらないかな←

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去があるから今がある。

何か急に暑くなったな・・・

これから夏が来るのかと思うと、ホントに萎えるわ(´・ω・`)


 「身体には気を付けるのよ。何かあったらすぐに連絡すること。それから・・・」

 

 「俺は貴女の子供ですか」

 

 呆れる俺。

 

 ひなさんとの話を終えた俺は、音ノ木坂を後にしようとしていた。

 

 校門まで見送ってくれるということでひなさんもついてきたのだが、まるで母親かのような世話の焼きようだった。

 

 「何言ってるの!貴女は私の息子じゃない!」

 

 「いや、貴女が何言ってるんですか」

 

 「え、だってことりと結婚してるでしょ?」

 

 「してないわ。妄想と現実を混ぜないで下さい」

 

 「グララララ・・・じゃあ俺の息子になれ!」

 

 「どこの白ひげですか。マンガと現実も混ぜないの」

 

 そんな会話をしながら歩き、校門が見えた時だった。

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 「ん?」

 

 何故かAqoursの皆が、音ノ木坂に向かってお辞儀をしていた。

 

 こんなところで何してるんだろう・・・?

 

 「ふぅ・・・え、天くん!?」

 

 頭を上げた千歌さんが俺に気付く。

 

 「こんなところで何してるの!?」

 

 「不審な行為をしている千歌さんを通報すべきか悩んでました」

 

 「止めて!?」

 

 「天ああああああああああっ!」

 

 「はいはい、鞠莉はホントに甘えん坊なんだから」

 

 「それよりも天さん!何故鞠莉さんにブロッコリーの食品サンプルを渡したのですか!?色々と大変だったのですよ!?」

 

 「あ、ダイヤさんも要ります?」

 

 「結構ですわ!」

 

 「マ、マルはちょっと欲しいかも・・・じゅるり」

 

 「・・・うん、花丸にだけは絶対渡さないわ」

 

 「天くんも来れば良かったのに。A-RISEの綺羅ツバサさんもいたんだよ?」

 

 「マジで?あんじゅちゃんと英玲奈ちゃんは?」

 

 「いや、一人だけだったけど」

 

 「じゃあいいや」

 

 「嘘でしょ!?まさかの興味無し!?」

 

 「分かってないなぁ、曜。ツバサちゃんしかいないA-RISEなんて、たこが入ってない上にソースやマヨネーズさえかかってないたこ焼きみたいなもんだよ?」

 

 「そこまで言う!?」

 

 「アハハ・・・あの綺羅さんをそこまで言える人なんて、天くらいしかいないんじゃないかなん?」

 

 「果南さん、前から言おうと思ってたんですけど・・・その語尾、正直寒いですよ」

 

 「酷い!?」

 

 「クックックッ、流石はリトルデーモン・・・その素直な姿勢は嫌いじゃないわ」

 

 「いや、善子が一番寒いから」

 

 「どういう意味よ!?」

 

 「っていうか天くん、A-RISEと知り合いだったなんて聞いてないよ!?どうして教えてくれなかったの!?」

 

 「相変わらずルビィはスクールアイドル大好きだね・・・だって聞かれなかったもん」

 

 「ねぇ、天くん・・・A-RISEの皆さんとは、どういう関係なのかしら・・・?」

 

 「ちょ、梨子!?近い近い!?っていうか目が怖いんだけど!?」

 

 「・・・フフッ」

 

 俺達のやり取りを聞いて笑うひなさん。

 

 「本当に仲が良いのね・・・何だかμ'sを見てるみたいだわ」

 

 「えぇっ!?μ'sの南ことりさん!?」

 

 「いや、私が見た南さんより大人っぽいような・・・」

 

 「フフッ、初めまして。南ことりの母親です」

 

 「「「「「「「えぇっ!?」」」」」」」

 

 梨子と鞠莉以外の皆が驚きの声を上げる。

 

 まぁそういう反応になるよね・・・

 

 「お久しぶりです、ひなさん」

 

 一礼する鞠莉。

 

 「久しぶり、鞠莉ちゃん。すっかり天くんとラブラブね」

 

 「はい♡私は天の女ですから♡」

 

 「違うわ」

 

 腕を組んでくる鞠莉に、呆れながらツッコミを入れる。

 

 何言ってるのこの子・・・

 

 「それは聞き捨てならないわね、鞠莉ちゃん」

 

 「そうだよ、鞠莉。簡単に人の女を名乗るなんて・・・」

 

 「天くんの女は、ウチのことりなんだから」

 

 「アンタもかい」

 

 もう嫌だこの人達、話が通じないんだけど・・・

 

 「でも良かったわね、鞠莉ちゃん。最初の頃は『天に嫌われました・・・』って、泣きながら私のところに電話してきてたものね」

 

 「ちょ、ひなさん!?その話は・・・」

 

 「『どうやったら天と仲直り出来ると思いますか?』とか、『天と距離を縮める為にはどうすれば良いですかね?』とか・・・」

 

 「止めてええええええええええっ!?」

 

 顔を真っ赤にして止めに入る鞠莉。

 

 「鞠莉、そんな相談してたの?」

 

 「うぅ、恥ずかしい・・・」

 

 果南さんの問いに、両手で顔を覆う鞠莉。

 

 そんな鞠莉がちょっと愛しくなってしまい、優しく頭を撫でる。

 

 「・・・色々ゴメンね、鞠莉。ありがとう」

 

 「・・・うん」

 

 珍しくしおらしい鞠莉。

 

 頬を赤く染め、されるがままに頭を撫でられている。

 

 「フフッ、良かった・・・ちょっと安心したわ」

 

 ひなさんはそう言って微笑むと、今度は梨子へと視線を移した。

 

 「貴女も久しぶりね、桜内さん」

 

 「お、お久しぶりです・・・南理事長・・・」

 

 緊張した様子の梨子。

 

 ひなさんが苦笑している。

 

 「そんなに緊張しなくても良いじゃない。今の私と貴女は、理事長と生徒の関係じゃないんだから」

 

 「そ、それはそうなんですが・・・」

 

 「・・・ねぇ、聞かせてもらえるかしら?」

 

 真剣な、それでいてどこか不安そうな顔のひなさん。

 

 「音ノ木坂に入ったこと・・・後悔してる?」

 

 「・・・いいえ」

 

 首を横に振る梨子。

 

 「今日ここに来て、分かったんです。私、この学校が大好きだったんだって」

 

 「桜内さん・・・」

 

 「だから後悔なんてしてません。苦しいことも、辛かったこともあったけど・・・それでも、その全てが私の礎になってるから」

 

 梨子は俺に視線を向け、柔らかく微笑んだ。

 

 「あの時、天くんが言ってくれた言葉・・・今凄く実感出来てるよ。ありがとう」

 

 「梨子・・・」

 

 「桜内さん・・・貴女は今、幸せ?」

 

 「はいっ!」

 

 迷い無く、笑顔で頷く梨子。

 

 「かけがえのない仲間に巡り会えて、大きな目標も出来て・・・充実した日々を送ることが出来ています。皆と過ごす日々は、私にとっての宝物です」

 

 「っ・・・そう・・・」

 

 微笑むひなさん。

 

 その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

 

 「え、南理事長!?どうして泣いてるんですか!?」

 

 「何でもないのよ、何でも・・・」

 

 目元の涙を拭い、笑顔を見せるひなさん。

 

 「それより、もう『南理事長』は止めてちょうだい。後輩の娘に理事長って呼ばれるのは、ちょっと寂しいわ」

 

 「じゃ、じゃあ何とお呼びすれば・・・」

 

 「名前で呼んでくれたら良いのよ。私も梨子ちゃんって呼ぶから。ね?」

 

 「わ、分かりました・・・ひなさん」

 

 「よろしい♪」

 

 ひなさんは満足そうに笑うと、Aqoursの皆を見渡した。

 

 「私は他校の理事長だから、貴女達に偉そうなことは言えないけど・・・後悔することのないように、今を全力で駆け抜けなさい」

 

 「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」

 

 力強く返事をする皆。

 

 頼もしいなぁ・・・

 

 「さぁ、そろそろ内浦に帰りましょうか。遅くなりすぎてもいけませんし」

 

 「それもそうだね・・・あっ」

 

 「どうしました?」

 

 「いや、さっき音ノ木坂の生徒さんがμ'sについて教えてくれたんだけど・・・いつの間にかいなくなっちゃったなぁって」

 

 「そういえばそうですわね・・・」

 

 キョロキョロと辺りを見回すダイヤさん。

 

 「さっきまで側にいたのに、急に消えてしまうなんて・・・」

 

 「もしかして・・・幽霊ずら?」

 

 「ぴぎぃっ!?」

 

 「ちょ、ずら丸!?変なこと言うんじゃないわよ!?」

 

 「アハハ・・・ひょっとして、音ノ木坂の精霊みたいな?」

 

 「いや、そんなバカな・・・」

 

 「はいはい、その辺にしておきましょう」

 

 手を叩いて話を止める俺。

 

 「とりあえず駅に向かいましょうか。ひなさん、色々ありがとうございました」

 

 「こちらこそ、天くんと久しぶりに会えて良かったわ。また顔を見せに来るのよ?」

 

 「えぇ、分かりました」

 

 「Aqoursの皆も、また遊びに来てね。今度は校内を案内してあげるわ」

 

 「ありがとうございます!」

 

 「また来ます!」

 

 ひなさんは俺達に向かって手を振ると、校舎へと戻っていった。

 

 「さぁ、私達も行こう!」

 

 「ヨーソロー!」

 

 音ノ木坂を後にし、駅へ向かって歩き始める皆。

 

 俺は皆の背中を見つめながら、ボソリと呟いた。

 

 「・・・μ'sについて話してたんだね?音ノ木坂の精霊さん?」

 

 「アハハ、すっかり霊的な扱いをされてたね」

 

 ベージュ色の髪の女の子が、校門の陰から顔を覗かせる。

 

 「いおりちゃんが隠れるからでしょ。何で隠れたの?」

 

 「いつの間にか姿が消えてるって、何かカッコ良くない?」

 

 「相変わらずバカだね」

 

 「相変わらず辛辣だね!?」

 

 ショックを受ける女の子・・・水瀬いおりちゃん。

 

 音ノ木坂の高等部の三年生で、現在のアイドル研究部の部長を務めている子だ。

 

 亜里姉や雪穂ちゃんが三年生だった時の一年生で、二人と仲が良かったこともあり俺もよく知っていた。

 

 「校門の陰にいおりちゃんがいるのを見た時は、何事かと思ったよ。こっちに向かって『しーっ!』ってジェスチャーしてくるし・・・ひなさんも苦笑いしてたけど」

 

 「うぅ、理事長に『変な子だ』って思われたかな・・・」

 

 「それは元々でしょ」

 

 「酷い!?」

 

 やれやれ、いおりちゃんも変わらないなぁ・・・

 

 「それにしても、あの子達がAqoursか・・・天くんがマネージャーをやるなんて、よほどあの子達に惹かれたんだね」

 

 「・・・それは否定出来ないかな」

 

 最初こそ、μ'sへの想いからマネージャーを辞めようとしたが・・・

 

 それでも続けることを決めたのは、俺がAqoursに惹かれているからなんだろうな・・・

 

 「おーい、天くーん!早く行こうよー!」

 

 少し離れた先で、千歌さんが大きな声で呼びかけてきた。

 

 そろそろ行かないとな・・・

 

 「今行きまーす!」

 

 俺は返事をすると、いおりちゃんに視線を向けた。

 

 「じゃあいおりちゃん、またね」

 

 「うん。今度私にも、内浦での話を聞かせてね」

 

 「勿論。行ってきます」

 

 「行ってらっしゃい!」

 

 微笑むいおりちゃん。

 

 俺も微笑むと、急いで皆の後を追いかけるのだった。




どうも〜、ムッティです。

今回は新キャラ、水瀬いおりちゃんが登場しました!

『いのり』ちゃんじゃありません、『いおり』ちゃんです( ̄ー ̄)

音ノ木坂を訪れたAqoursにμ'sのことを教えてくれるが、忽然と姿を消してしまうという謎の存在・・・

『妖精』『ことりちゃんか花陽ちゃんの子供』等、様々な推測がされているようですが・・・

アイドル研究部の部長にしてみました(笑)

っていうか、モブキャラで『CV:水瀬いのり』って凄くないですか?

ラブライブは脇役の声優さんが豪華すぎるわ・・・

いおりちゃんは今後も出番がある予定ですので、是非お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

離れていても心は繋がっている。

ソードアート・オンラインのアインクラッド編、懐かしいなぁ・・・

久々に見直したいなぁ・・・


 「天ああああああああああっ!」

 

 「天くんんんんんんんんんんっ!」

 

 勢いよく抱きついてくる亜里姉と雪穂ちゃん。

 

 内浦へ帰る俺達を、わざわざ見送りに来てくれたらしい。

 

 そしてそれは二人だけではなく・・・

 

 「貴女が黒澤ダイヤさんね?天から聞いているわ。私のことを応援してくれて、本当にありがとう」

 

 「ほ、本物のエリーチカ・・・!?」

 

 微笑む絵里姉を前に、完全に固まっているダイヤさん。

 

 「フフッ、黒澤ルビィちゃんだよね?推しメンが私だなんて嬉しいな♪」

 

 「は、ははは花陽ちゃんんんんん!?」

 

 笑みを浮かべる花陽ちゃんを前に、緊張でガチガチになっているルビィ。

 

 「国木田花丸ちゃんだよね!?凛の写真を見て『キラキラしてる』って言ってくれた子だよね!?会えて嬉しいにゃー!」

 

 「オ、オラ・・・じゃなくて!マ、マルも会えて嬉しいずら・・・です!」

 

 凛ちゃんに手をブンブン振られ、どもりすぎて上手く言葉を発せていない花丸。

 

 「曜ちゃん久しぶりー!元気にしてた?」

 

 「は、はいっ!南さんと西木野さんもお元気そうで!」

 

 「フフッ、そんなに固くならなくても良いじゃない。っていうか、下の名前で呼んでくれて良いのよ?」

 

 「そうだよ曜ちゃん!」

 

 「じゃ、じゃあ・・・ことりさんと真姫さんで・・・」

 

 「照れてる曜ちゃん可愛いいいいいいいいいい!」

 

 「うわぁっ!?」

 

 ことりちゃんや真姫ちゃんと再会を果たす曜。

 

 「鞠莉!本当にすみませんでした!私は貴女の事情も知らずに、数々の無礼を働いてしまいました!」

 

 「あ、頭を上げて下さい海未先生!そもそも私が悪かったんですし・・・」

 

 「あの時のお返しとして、今すぐ私を殴って下さい!お願いします!」

 

 「その前に人の話を聞いてもらえます!?」

 

 「海未先生は相変わらずねぇ・・・」

 

 鞠莉の事情を知った海未ちゃんの土下座に慌てる鞠莉と、呆れている善子。

 

 「“わしわしMAX”!」

 

 「キャアッ!?」

 

 「おぉ、なかなかの大きさ・・・ウチの見込み通りやね♪」

 

 「全然嬉しくないんですけど!?」

 

 希ちゃんに胸を揉まれながらも、必死に抵抗している果南さん。

 

 「いい?スクールアイドルっていうのはね・・・」

 

 「ふむふむ、なるほど・・・」

 

 にこちゃんにスクールアイドルについて説かれ、真剣に聞いている千歌さん。

 

 「・・・何この騒がしい集団」

 

 「アハハ・・・」

 

 俺の溜め息に、梨子が苦笑していた。

 

 やれやれ・・・

 

 「それにしても・・・μ'sがここまで揃うなんて、久しぶりじゃない?」

 

 「確かにね。何人かで集まることはあっても、全員が集まることは滅多に無いもの」

 

 「今回も穂乃果ちゃんがいないもんね」

 

 頷く真姫ちゃんと花陽ちゃん。

 

 穂乃果ちゃんもいたら、全員揃ったんだけど・・・

 

 「あ、電車の時間が近付いてきたね」

 

 曜が声を上げる。

 

 もうそんな時間か・・・

 

 「・・・天くん」

 

 皆と別れることに寂しさを感じていると、希ちゃんに優しく抱き締められた。

 

 「希ちゃん・・・?」

 

 「フフッ・・・天くんが元気で過ごせるように、希パワーを注入してあげる」

 

 「・・・それは有り難いな」

 

 希ちゃんの背中に手を回す。

 

 相変わらず、希ちゃんの側にいると安心するな・・・

 

 「それならことりもっ!」

 

 「私もやりますっ!」

 

 「凛も天くんに抱きつくにゃー!」

 

 「し、仕方ないわね・・・私もやってあげるわよ」

 

 「フフッ、じゃあ私も♪」

 

 「にこに抱き締めてもらえることを光栄に思いなさい」

 

 他の皆も、順番に俺のことを抱き締めてくれる。

 

 こうやって皆と触れ合っていると、昔のことを思い出すなぁ・・・

 

 「・・・天」

 

 絵里姉からも抱き締められる。

 

 「・・・行ってらっしゃい」

 

 「・・・行ってきます」

 

 短く言葉を交わす。

 

 絵里姉とはもう、散々お互いの想いをぶつけ合った。

 

 多くを語らなくても、お互いの想いは理解し合っている。

 

 俺は絵里姉から離れ、皆の顔を見渡した。

 

 「ことりちゃん、服飾の勉強頑張って。また裁縫教えてね」

 

 「うん!次会った時に教えてあげるね!」

 

 「海未ちゃん、絶対に教師になってね。海未ちゃんはきっと良い教師になれるから」

 

 「フフッ、ありがとうございます」

 

 「真姫ちゃん、メイドに夢中になり過ぎないようにね?」

 

 「大きなお世話よ!?夢中になんてなってないから!」

 

 「でも真姫ちゃんのメイド姿、本当に可愛くて好きなんだよなぁ・・・」

 

 「メイド王に私はなるわ!」

 

 「メイド王って何さ・・・凛ちゃんはもっと勉強に励むこと。花陽ちゃんに迷惑かけたらダメだからね?」

 

 「うっ・・・善処するにゃ・・・」

 

 「やれやれ・・・花陽ちゃん、凛ちゃんのことよろしくね」

 

 「任せて。留年させないように、責任を持って勉強を教えるから」

 

 「頼んだよ。にこちゃん、あんじゅちゃんと英玲奈ちゃんによろしく」

 

 「ナチュラルにツバサを外してきたわね・・・あの子そろそろ泣くわよ?」

 

 「冗談だって。ツバサちゃんに『身体は大事にしろ』って言っといて。母校を気にかけるのは良いけど、過密スケジュールなんだから休息をとることも大事だよ」

 

 「相変わらず、人のことよく見てるわね・・・了解。しっかり伝えとくわ」

 

 「よろしく。希ちゃん、泊めてくれてありがとう。楽しかったよ」

 

 「ウチも楽しかったよ。また泊まりに来てな」

 

 「勿論。今度は俺が希ちゃんに料理を作るね」

 

 「フフッ、それは楽しみやなぁ♪」

 

 「期待してて。雪穂ちゃん、穂乃果ちゃんによろしくね」

 

 「オッケー。帰ってきたら伝えとくよ」

 

 「あと、亜里姉のことよろしく。アホだけど見捨てないであげて」

 

 「了解。アホだけど何とか面倒みるよ」

 

 「まさかのアホ呼ばわり!?二人とも酷くない!?」

 

 「事実でしょ。でも・・・ありがとね、亜里姉」

 

 亜里姉を優しく抱き締める。

 

 「絵里姉と仲直り出来たのは、亜里姉のおかげだよ。心配かけてゴメンね」

 

 「フフッ・・・ちゃんと仲直り出来たから、許してあげる」

 

 抱き締め返してくる亜里姉。

 

 そんな俺達を包み込むように、絵里姉が抱き締めてくる。

 

 「・・・離れていても、私達は家族よ。それを忘れないでね」

 

 「・・・うん、ありがとう」

 

 絵里姉の背中に手を回す。

 

 「絵里姉、身体には気を付けて。ただでさえ一度体調を崩してるんだから」

 

 「えぇ、もう無茶はしないわ。大事な弟と妹に、心配をかけたくないもの」

 

 「次に無茶したら、亜里姉の手料理を口の中にぶっ込むからね」

 

 「全力で気を付けるわっ!」

 

 「何か私の扱い酷くない!?」

 

 涙目の亜里姉。

 

 失礼な、こんなに丁重に扱っているというのに・・・

 

 「鞠莉、天のことよろしくね」

 

 「Of course!天は私に任せて!」

 

 「鞠莉、暑いんだけど・・・」

 

 「アハハ・・・相変わらず鞠莉は天が好きだね」

 

 俺の腕に抱きつきながら、絵里姉に笑顔を見せる鞠莉。

 

 そんな鞠莉を見て、亜里姉が苦笑している。

 

 すると・・・

 

 「むぅ・・・」

 

 何故か反対の腕に、梨子が頬を膨らませながら抱きついてきた。

 

 「梨子?どうした?」

 

 「・・・別に」

 

 「フフッ・・・頑張ってね、梨子」

 

 「っ・・・はいっ!」

 

 絵里姉の言葉に笑みを浮かべる梨子。

 

 一体どうしたんだろう?

 

 「やっぱり私も内浦に行くうううううっ!」

 

 「ことりちゃん!?ちょっと落ち着くにゃ!?」

 

 「私も行きますっ!やはり天には私がついていないとっ!」

 

 「海未ちゃん!?だ、誰か助けてぇっ!?」

 

 「もしもしパパ?内浦に引っ越すからお金出して?」

 

 「真姫まで何してんのよ!?これだから金持ちはっ!」

 

 「フフッ、やっぱり天くんは愛されてるんやね♪」

 

 μ'sの面々も何やら騒いでいた。

 

 何かあったのかな?

 

 「あ、あのっ!」

 

 千歌さんが声を上げた。

 

 意を決した表情で、μ'sの皆のことを見ている。

 

 「一つ聞きたいんですけど・・・μ'sの皆さんは、どうしてラブライブで優勝することが出来たんだと思いますか?」

 

 いつになく真剣な千歌さんの問いに、一番最初に答えたのは・・・

 

 「それは勿論、にこが魅力的だったからよ!」

 

 「黙れ矢澤」

 

 「相変わらず辛辣ね天!?しかもまさかの苗字呼び!?」

 

 全く、ホントに空気読めないんだから・・・

 

 「・・・さぁ、どうしてかしらね」

 

 苦笑する絵里姉。

 

 「私達も理由は分からないわ。勿論努力はしていたけれど、それはA-RISEや他の皆にも言えることでしょうし」

 

 「そうですね。私達だけが努力をしていたわけではありませんから」

 

 「どっちかっていうと、私達はやりたいことを自由にやってた感じだよね」

 

 「それは言えてるね。本当に楽しかったもん」

 

 微笑んでいる海未ちゃん・ことりちゃん・花陽ちゃん。

 

 「そもそも、リーダーの穂乃果がそういうタイプだったじゃない」

 

 「確かに、穂乃果ちゃんは本当に自由だったにゃ」

 

 「色々振り回されたりもしたわね」

 

 呆れながら苦笑する真姫ちゃん・凛ちゃん・にこちゃん。

 

 「フフッ、答えになってないかもしれないけど・・・全力で楽しんだから、かな?」

 

 「全力で、楽しむ・・・」

 

 希ちゃんの言葉を繰り返す千歌さん。

 

 少しはヒントになったかな?

 

 「あの、もう一つだけ・・・天くんが私達のマネージャーをやってること、皆さんはどう思ってますか?」

 

 「っ・・・」

 

 思わず驚いてしまう。

 

 もしかして千歌さん、気にしてくれてたのか・・・?

 

 「私達が複雑な思いを抱いてるんじゃないか・・・そう思ってる?」

 

 絵里姉の問いに、千歌さんが恐る恐る頷く。

 

 そんな千歌さんに、絵里姉は柔らかな笑みを浮かべた。

 

 「そんなわけないじゃない。天がまたスクールアイドルと関わるようになって、とても嬉しく思ってるわ。貴女達には本当に感謝しているのよ」

 

 「絵里さん・・・」

 

 「ただし、もし天を傷付けるような真似をしたら・・・ねっ?」

 

 「ヒィッ!?」

 

 μ'sの皆、それに亜里姉と雪穂ちゃんが怖い笑みを浮かべていた。

 

 それを見て震え上がるAqoursの皆。

 

 やれやれ、過保護なんだから・・・

 

 「はいはい、そろそろ電車の時間ですよ。早く行きましょう」

 

 「それもそうね・・・皆さん、ありがとうございました!」

 

 「失礼します!」

 

 Aqoursの皆が一礼し、改札を抜けてホームへと向かう。

 

 俺も後に続こうとしたところで、後ろを振り返った。

 

 「それじゃ・・・行ってきます!」

 

 「行ってらっしゃい!」

 

 「連絡はマメに寄越しなさいよ!」

 

 笑顔で手を振り見送ってくれる皆に、同じく笑顔で手を振り返す俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

さてさて、今回はμ'sが集合しましたね!

・・・リーダーいないけど(´・ω・`)

穂乃果ちゃんも間もなく登場させる予定ですので、お楽しみに(・∀・)ノ

っていうか、皆さんからの感想で知ったんですが・・・

水瀬いおりちゃんという名前の子が、アイマスにいるんですね(゜ロ゜)

しかもCVが釘宮さん・・・千歌ちゃんママやないかーい!

アイマスは見てないので、全然知りませんでした(>_<)

『水瀬いのりを一文字変えれば良くね?』という安易な考え方で名前を決めた結果がこれか・・・

まぁ気にしない気にしない(笑)

もうすぐアニメ一期第十二話の内容も終わりますし、早いところアニメ一期の内容を終わらせたいところです(>_<)

頑張って書くぞー!

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

昔は昔、今は今である。

やっぱりのぞえりは至高( ̄ー ̄)

・・・と、『A song for You! You? You!!』のMVを見返して思うムッティなのであった。


 「なるほど、学校説明会への応募人数が0だったのね・・・」

 

 「そうなのよ・・・」

 

 憂鬱そうな表情の鞠莉。

 

 帰りの電車の中、俺は今回皆が東京に来た理由について話を聞いていた。

 

 どうやら九月に学校説明会を開くことにしたみたいなのだが、応募人数がまさかの0だったらしい。

 

 予備予選を突破し、その時の動画の再生回数が伸びていたにも関わらずこの結果・・・

 

 まぁショックを受けるのも無理は無いだろう。

 

 「それで東京に来て、μ'sとの違いを探そうとしたと・・・」

 

 「そういうこと。でもμ'sの何が凄いのか、私達とどこが違うのか・・・ハッキリとは分からなかったかな」

 

 肩をすくめる果南さん。

 

 どうやら、思うような答えは得られなかったらしい。

 

 「Saint Snowの二人は、何か言ってました?」

 

 「『勝つしかない』ってさ。『勝って追いついて、同じ景色を見るしかない』って・・・そう言ってたよ」

 

 「果南さん、あの子達バカ?」

 

 「何その理亞ちゃんそっくりな発言!?辛辣すぎない!?」

 

 「え、アイツそんなこと言ったんですか?腹立つわぁ・・・後でSaint Snowの動画のコメント欄を炎上させておきますね」

 

 「止めて!?天なら本当にやりそうで怖いんだけど!?」

 

 必死に止めてくる果南さん。

 

 チッ、鹿角理亞め・・・覚えてろよ・・・

 

 「ハァ・・・どうやらSaint Snowは、完全にA-RISEファンみたいですね・・・」

 

 「そういえば、A-RISEに憧れてスクールアイドルを始めたって言ってたよ」

 

 「やっぱりですか・・・道理で当時のツバサちゃんにそっくりだと思いましたよ。あのブロッコリー嫌い女」

 

 「呼び方が酷い!?」

 

 果南さんのツッコミ。

 

 鹿角理亞も気に食わないが、鹿角聖良はもっと気に食わない。

 

 それは恐らく、俺が彼女を当時のツバサちゃんと重ねているからなんだろうな・・・

 

 「俺あの当時、ツバサちゃんのこと嫌いだったんですよね。あの自信満々な態度が傲岸不遜に見えるし、余裕綽々っていう感じが鼻につくし、無駄におでこが広いし・・・」

 

 「最後のは別に良くない!?」

 

 「『坊主憎けりゃおでこまで憎い』って言うでしょ」

 

 「『おでこ』じゃなくて『袈裟』だよねぇ!?」

 

 「まぁそんなわけで、本当に気に食わなかったんですよね。ツバサちゃんだけじゃなくて、英玲奈ちゃんのこともですけど」

 

 「あれ?優木あんじゅさんは?」

 

 「おっぱいが大きいので許しました」

 

 「判断基準そこ!?」

 

 まぁそれは冗談で、あんじゅちゃんのことも最初は気に食わなかった。

 

 ただあんじゅちゃんは大らかな性格だし、柔らかい雰囲気もあって三人の中で一番早く和解出来たのだ。

 

 「当時のA-RISEは、とにかく勝つことに拘っていたというか・・・『自分達なら勝てて当然だ』って思ってるような感じだったんですよ。それが他のスクールアイドル達を見下してるように見えて、俺はどうしても好きになれなかったんですよね」

 

 「へぇ・・・でも今は仲が良いんでしょ?よく仲良くなれたね?」

 

 「μ'sに負けてから、A-RISEも少し考え方が変わったみたいですよ。それに俺も、A-RISEのことを誤解してましたし」

 

 毎日のハードな練習に、ライブによって得た多くの経験、スクールアイドルの先駆者としての自負・・・

 

 決して他のスクールアイドルを見下していたわけではなく、『負けない』と思えるだけのものを積み重ねてきたという自覚があってこそのあの態度だった・・・

 

 それを知ってからはA-RISEへの印象も変わったし、三人と話をすることも増えて自然と仲良くなっていったのだ。

 

 「まぁSaint Snowに関しては、誤解してるとは思えませんけどね。ラブライブへの本気度は認めますけど、自惚れてるとしか思えません」

 

 「手厳しいねぇ・・・まぁ私も、Saint Snowの二人みたいには思えないけどさ」

 

 苦笑する果南さん。

 

 「何かあの二人、一年の頃の私みたいなんだよね。勝つことしか考えてなくて、グイグイ前に進もうとして・・・そのせいで、鞠莉に怪我させちゃってさ・・・」

 

 「果南・・・」

 

 表情を歪める鞠莉。やれやれ・・・

 

 「果南さん・・・おっぱい揉んで良いですか?」

 

 「嘘でしょ!?この流れで唐突なセクハラ発言!?」

 

 「さっき希ちゃんに揉まれてたし、俺も良いかなって」

 

 「良いわけあるかっ!」

 

 「そうよ天!果南のおっぱいは私のものなのよ!?」

 

 「鞠莉!?何言ってんの!?」

 

 「おっぱいなら私のを揉みなさい!好きにして良いから!」

 

 「マジで?じゃあ早速・・・」

 

 「ダメに決まってるでしょ!?」

 

 果南さんに止められてしまう。

 

 あぁ、二つのメロンが・・・

 

 「とまぁ、1%の冗談はさておき・・・」

 

 「99%は本気だったの!?」

 

 「人の話を聞きなさい」

 

 「むぐっ!?」

 

 目の前に座る果南さんの両頬を、両手でガシッと挟みこむ。

 

 「いつまでも過去の失敗を引きずってウジウジしないの。後悔したって過去はやり直せないし、自分の失敗した事実が消えることはないんですから」

 

 「天・・・」

 

 「それに果南さんが自分を責めることを、鞠莉は望んでないですよ。本当に鞠莉のことを想うなら、鞠莉に申し訳ないっていう気持ちがあるのなら・・・今の鞠莉を大切にしてあげて下さい」

 

 「鞠莉を、大切に・・・」

 

 「簡単な話じゃないですか・・・おっぱい揉ませれば良いんですから」

 

 「結局そこに辿り着くの!?」

 

 「あっ、何か足の古傷が痛んできたわ・・・果南のおっぱい揉んだら治るかも・・・」

 

 「嘘つけえええええっ!?」

 

 「何か俺も足が痛いな・・・果南さんのおっぱい揉んだら治るかも・・・」

 

 「天は関係ないよねぇ!?っていうか、二人ともおっぱい揉みたいだけでしょうが!」

 

 「「Of course!」」

 

 「英語でハモった!?」

 

 果南さんの怒涛のツッコミ。

 

 段々ツッコミのレベルが上がってる気がするな・・・

 

 「アハハ、やっぱり果南さんはそうじゃないと。俺は元気な果南さんが好きですよ」

 

 「っ・・・もう、サラッと恥ずかしいこと言うんだから・・・」

 

 「フフッ、それが天デース♪」

 

 「鞠莉、最近果南さん以上のハグ魔になってない?」

 

 笑いながら俺に抱きつく鞠莉の頭を、苦笑しながら優しく撫でる。

 

 本当に、昔と変わらず甘えん坊なんだから・・・

 

 「ねぇ天、前から言おうと思ってたんだけど・・・私も呼び捨てにしてくれない?」

 

 「え・・・?」

 

 「鞠莉のことは呼び捨てでタメ口なのに、私のことはさん付けで敬語じゃん?それがちょっと違和感あるっていうか・・・私も呼び捨てとタメ口の方が良いな」

 

 「・・・良いんですか?」

 

 「勿論」

 

 頷く果南さん。

 

 本人にこう言われたら、断るのも野暮だよな・・・

 

 「・・・分かった。よろしく、果南」

 

 「っ・・・まだちょっと恥ずかしいけど、悪くないかも・・・」

 

 照れたようにはにかむ果南。

 

 そんな様子を見て、鞠莉が膨れっ面になっていた。

 

 「もうっ!果南まで呼び捨てにするなんてっ!」

 

 「ほれほれ~♪」

 

 「あ~ん♡」

 

 「・・・鞠莉が完全に転がされてる」

 

 呆れている果南。

 

 幼馴染がチョロすぎる件について。

 

 「アハハ、まぁそれはさておき・・・皆よく寝てるねぇ」

 

 スヤスヤ眠る他のメンバー達を見て、思わず苦笑してしまう。

 

 壁にもたれかかって眠るダイヤさんと、その肩にもたれかかって眠るルビィ。

 

 その二人の対面の席では、花丸と善子が寄り添い合って眠っていた。

 

 別の席では曜と梨子が、こちらも寄り添い合って眠っている。

 

 そしてその対面の席に座る千歌さんも・・・

 

 「あ、千歌さんは起きてるみたい・・・」

 

 「ホントだ・・・難しい顔して窓の外眺めてるね・・・」

 

 「何か考え事かしら?」

 

 ひそひそと話し合う俺達。

 

 現に千歌さんは真剣な表情をしており、窓の外を眺めながら物思いに耽っているようだった。

 

 「・・・多分、まだ考えてるんじゃないかな。μ'sとAqoursの違いを」

 

 「最後にヒントもらってたもんね・・・っていうか、天は答えを知ってるの?」

 

 「勿論。これでも両方のグループのマネージャーだからね」

 

 笑う俺。

 

 「とはいえ、自分達で気付かないと意味が無いから。教えるつもりはないよ」

 

 「むぅ、天のケチ!」

 

 「鞠莉だって内浦の魅力について、千歌さん達に教えなかったでしょ」

 

 「そ、それは千歌っちが断ったから!」

 

 そんなやり取りをしているうちに、電車が次の駅に止まった。

 

 この駅って・・・

 

 「・・・懐かしいな」

 

 独り言を呟く。

 

 思い出すのは五年前・・・μ'sが解散を決めた、あの日のことだ。

 

 あの日、この駅のプラットホームで俺達は・・・

 

 

 

 

 

 『全部受け止めてあげるから、今は思いっきり泣きなさい』

 

 

 

 

 

 「っ・・・」

 

 絵里姉の言葉を思い出し、涙ぐみそうになってしまう。

 

 感傷的な気分から何とか抜け出そうと、窓の外に目をやった時だった。

 

 「っ!?」

 

 窓の外に広がっている、夕陽色に染まった海・・・

 

 その海の砂浜に、一人の女性が佇んでいるのが見えた。

 

 遠目に見えるだけだし、海を眺めているので後姿しか見えない。

 

 それでも、俺には確信があった。

 

 あの人は・・・

 

 「天?」

 

 俺の様子に気付いたのか、首を傾げている果南。

 

 俺は勢いよく立ち上がると、急いで電車のドアへと向かった。

 

 「ちょ、天!?」

 

 「どうしたの!?」

 

 「えっ、天くん!?」

 

 果南と鞠莉の声に気付いたのか、千歌さんがこちらを見て驚いている。

 

 眠っていた他の皆も起き出したようだ。

 

 「ゴメンっ!俺はちょっと寄り道して帰るからっ!皆は先に帰っててっ!」

 

 それだけ言い残して電車を降りた俺は、プラットホームを全力で駆けるのだった。




どうも〜、ムッティです。

私はアンチSaint Snowではありません(唐突)

いや、今のところSaint Snowがだいぶ不遇な扱いを受けているので・・・

いずれ天とはちゃんと和解させます。

そしてサラッと天に呼び捨て&タメ口を要求する果南ちゃん(゜ロ゜)

これで残りは、千歌ちゃんとダイヤさんの二人ですか・・・

いずれは皆呼び捨て&タメ口にするつもりですが、どのタイミングになるかはお楽しみということで(・ω・)ノ

さてさて、最後に天が見た女性とは一体・・・

次回をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目の前に僕らの道がある。

絶賛『鬼滅の刃』にハマってます。

こんなに面白い作品なのに、何で今まで読んでこなかったんだろう(´・ω・`)

あともう少しで原作が読み終わるので、そしたらアニメを観ようと思います。


 電車を降りて駅を出た俺は、窓から見えた砂浜へとやって来ていた。

 

 そこにはまだ、あの女性が佇んでいた。

 

 オレンジブラウンのロングヘアを風に靡かせ、夕陽に染まった海を眺めている。

 

 やっぱり・・・

 

 「・・・懐かしいよね、この場所」

 

 「っ!?」

 

 ビクッとしてこちらを振り返る女性。

 

 その表情が驚愕に染まる。

 

 「えぇっ!?天くん!?」

 

 「久しぶり・・・穂乃果ちゃん」

 

 そう、この女性こそ高坂穂乃果ちゃん・・・μ'sのリーダーである。

 

 「な、何でここにいるの!?」

 

 「実はここ何日か、東京に戻ってたんだよ。今日内浦に帰るんだけど、途中で穂乃果ちゃんを見かけたから挨拶しとこうと思って」

 

 「東京に戻ってたの!?」

 

 「うん。穂乃果ちゃん以外の皆と会ってたよ」

 

 「ずるいよ!?前もって言ってくれれば、私だって東京に残ってたのに!」

 

 「アハハ、ゴメンゴメン。それにしても・・・生きてたんだね」

 

 「何その驚いた顔!?そりゃ生きてるよ!?」

 

 「いや、一人で旅行に行ったっていうからさぁ・・・もう帰って来ないと思ってたよ」

 

 「何で!?私そんなに信用されて無いの!?」

 

 「五年前、ニューヨーク、迷子」

 

 「その節は大変申し訳ございませんでしたあああああっ!」

 

 全力で土下座する穂乃果ちゃん。

 

 いやぁ、あの時は大変だったなぁ・・・

 

 「ん?天くん、今『皆と会ってた』って・・・ひょっとして、絵里ちゃんも?」

 

 「あぁ、うん・・・無事に仲直り出来たよ」

 

 「ホントに!?良かったぁ!」

 

 ホッとした様子の穂乃果ちゃん。

 

 俺と絵里姉が喧嘩した時、誰よりも心配してくれてたもんな・・・

 

 「色々心配かけちゃってゴメンね」

 

 「ううん、仲直り出来たなら良いの」

 

 そう言って微笑む穂乃果ちゃん。

 

 この五年の成長に加え、サイドテールにしていた髪を下ろした穂乃果ちゃんは・・・グッと大人っぽくなっていた。

 

 微笑んだ表情がとても綺麗で、思わずドキッとしてしまう。

 

 「天くん?どうしたの?」

 

 「いや、何と言うか・・・成長したね、穂乃果ちゃん」

 

 「年下に言われるセリフじゃなくない!?」

 

 穂乃果ちゃんのツッコミ。

 

 いや、まぁそうなんだけども。

 

 「ところで穂乃果ちゃん・・・どうしてここに?」

 

 「帰る途中で、何となくここの景色を見たくなって・・・寄り道しちゃった」

 

 苦笑しつつ、再び海へと視線を向ける穂乃果ちゃん。

 

 俺達にとって、ここは忘れられない場所だった。

 

 何故なら・・・

 

 「・・・μ'sの解散を決めた場所、だもんね」

 

 「・・・うん」

 

 五年前、μ'sは岐路に立たされていた。

 

 絵里姉・希ちゃん・にこちゃんの卒業を機に解散するのか、それとも残りのメンバーで続けていくのか・・・

 

 三年生三人は、次の年も学校に残る俺達に選択を委ねてくれた。

 

 穂乃果ちゃん・ことりちゃん・海未ちゃん・真姫ちゃん・凛ちゃん・花陽ちゃんは熟考し、全員が同じ答えを出した。

 

 すなわち、『μ'sを解散する』という答えを・・・

 

 「あの時、天くんは一切口を出さなかったよね。天くんもμ'sのメンバーなんだし、天くんの答えも聞きたかったのに」

 

 「俺の答えなら、あの時言ったでしょ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「『俺は皆の意見に従う』って。こういうのは、実際にステージに立つ皆の気持ちが尊重されるべきだと思ったから」

 

 「・・・正直な話、天くんはどうしたかったの??μ'sを続けたかった?」

 

 「いや、それを今言っても・・・」

 

 「知りたいの。お願い」

 

 真っ直ぐな目で俺を見つめる穂乃果ちゃん。

 

 これは言い逃れ出来ないな・・・

 

 「・・・考えてなかった、っていうのが正直なところかな」

 

 「え・・・?」

 

 意味が分からない、といった様子の穂乃果ちゃん。

 

 「ど、どういうこと・・・?」

 

 「自分がどうしたいのかを考える前に・・・分かっちゃったから」

 

 海を眺める俺。

 

 「きっと皆は・・・解散を選ぶだろうなって」

 

 「っ!?」

 

 息を呑む穂乃果ちゃん。

 

 「『誰か一人でも欠けたら、それはもうμ'sじゃない』・・・きっと皆、そう言うんだろうなって」

 

 「ど、どうして・・・」

 

 「これでもマネージャーだから。それぐらい分かるよ」

 

 苦笑する俺。

 

 「それに・・・俺もそう思ったから。だからあの時、何も言わなかったんだよ」

 

 それと同時に、心に決めたことがある。

 

 μ'sが解散するというなら・・・俺はもう、スクールアイドルのマネージャーはやらない。

 

 最後までμ'sの・・・皆のマネージャーでいよう。

 

 あの時、自分の中でそう決めたのだ。

 

 「・・・そのはずだったんだけどなぁ」

 

 鞠莉に脅されてAqoursのマネージャーをやることになり、今は自分の意思でAqoursのマネージャーになっている。

 

 五年前の俺が聞いたら、何と言うことやら・・・

 

 「穂乃果ちゃん・・・人生っていうのは、何が起きるか分からないものなんだよ」

 

 「急にどうしたの!?」

 

 「人生を舐めてそうな穂乃果ちゃんに、教えてあげようと思って」

 

 「舐めてないよ!?天くんは私を何だと思ってるの!?」

 

 「アホの子」

 

 「『天●の子』みたいな言い方しないでくれる!?」

 

 「冗談だって。アホ乃果ちゃん」

 

 「喧嘩売ってる!?」

 

 「お~い!天く~ん!」

 

 ギャーギャー騒いでいる穂乃果ちゃんを宥めていると、千歌さんがこちらへ向かって走ってきた。

 

 他の皆も後ろに続いている。

 

 「えっ、何してんの?」

 

 「こっちのセリフだわっ!」

 

 善子のツッコミ。

 

 「何で急に電車を降りたのよ!?ビックリするでしょうが!」

 

 「そうずら!善子ちゃんは半泣きだったずら!」

 

 「『天、どこ行っちゃったのかなぁ・・・』って涙目で心配してたんだよ!?」

 

 「ずらまルビィ!?余計なことは言うの止めなさいよ!?」

 

 「アハハ、ゴメンゴメン」

 

 苦笑しながら善子の頭を撫でる。

 

 「もう、善子ってば可愛いんだから」

 

 「か、可愛いとか言うなぁっ!」

 

 「そうよ天!そういうのはマリーに言いなさい!」

 

 「おっぱい揉んで良いなら言うわ」

 

 「OK!好きなだけ揉みしだきなさい!」

 

 「だからダメだってば!?」

 

 「ぶっぶー!ですわ!」

 

 果南とダイヤさんに止められてしまう。

 

 チッ・・・

 

 「全く、天くんってホントにエッチだよね・・・」

 

 「露出狂に言われたくないわ」

 

 「ちょ、まだそれ引きずるの!?違うって言ってるでしょうが!」

 

 「朝の学校で水色の下着を晒してたくせに」

 

 「止めてええええええええええっ!?」

 

 「あぁっ!?曜ちゃんが海に飛び込もうとしてる!?」

 

 「落ち着いて曜ちゃん!?」

 

 必死に曜を止める梨子と千歌さん。

 

 「やれやれ、騒がしい人達だなぁ」

 

 「「「「「「「「「天(くん)(さん)のせいでしょうが!」」」」」」」」」

 

 「アハハ、皆仲良しだねぇ」

 

 楽しそうに笑っている穂乃果ちゃん。

 

 そんな穂乃果ちゃんを見て、千歌さんがピシッと固まってしまう。

 

 「も、もしかして・・・高坂穂乃果さん!?」

 

 「そうだよ!初めまして!」

 

 「「「「「「「「えぇっ!?」」」」」」」」

 

 驚いている皆。

 

 いやいやいや・・・

 

 「気付いてなかったの?」

 

 「だ、だって雰囲気が違うからっ!」

 

 「ま、まさかでしたわ・・・!」

 

 緊張で震えているルビィとダイヤさん。

 

 まぁ確かに、五年前の姿しか知らないんじゃ無理もないか・・・

 

 μ'sの中で一番見た目が変わってるの、穂乃果ちゃんだもんなぁ・・・

 

 「・・・この子達がAqoursなんだね」

 

 微笑む穂乃果ちゃん。

 

 「何だか凄くキラキラしてる・・・天くんが惹かれるのも、分かる気がするよ」

 

 「・・・そうでしょ?」

 

 微笑み返す俺。

 

 「最高の仲間達だって・・・そう思ってるよ」

 

 「・・・そっか」

 

 穂乃果ちゃんはそう言って笑うと、真っ直ぐに俺の目を見つめてきた。

 

 「ねぇ、天くん・・・今の天くんは、μ'sの十人目?それとも、Aqoursの十人目?」

 

 試すような穂乃果ちゃんの問いかけ。

 

 他の皆が心配そうに俺を見ているが・・・

 

 「そんなの・・・両方に決まってるでしょ」

 

 俺の答えは決まっていた。

 

 「俺はこれからもずっと、μ'sの一員だよ。それと同時に、Aqoursの一員でもある。μ'sの皆のことも、Aqoursの皆のことも・・・俺は十人目として、全力で支えるよ」

 

 「それで良し!」

 

 穂乃果ちゃんは満足気な笑みを浮かべると、皆のことを見回した。

 

 「スクールアイドル、全力で楽しんでね!応援してるから!」

 

 「「「「「「「「「は、はいっ!」」」」」」」」」

 

 緊張した面持ちで返事をする皆。

 

 その反応に穂乃果ちゃんはクスクス笑うと、心を落ち着かせるかのように深呼吸をした。

 

 そして・・・

 

 「だって~可能性~感じたんだ~♪そうだ~スス~メ~♪」

 

 「っ・・・」

 

 この歌って・・・

 

 「後悔~したくない~目の前に~♪」

 

 「・・・僕らの~道がある~♪」

 

 穂乃果ちゃんに続き、最後の歌詞を口ずさむ。

 

 『ススメ→トゥモロウ』か・・・

 

 「天くんは天くんの進みたい道を、全力で駆け抜けたら良いよ」

 

 笑みを浮かべ、拳を突き出す穂乃果ちゃん。

 

 「私はそれを、全力で応援してるから」

 

 「ありがとう」

 

 穂乃果ちゃんと拳を合わせる俺。

 

 「・・・頑張ってね、マネージャー」

 

 「・・・頑張るよ、リーダー」

 

 それだけ言葉を交わし、穂乃果ちゃんはその場を去って行った。

 

 全く、こういう時だけカッコ良いんだから・・・

 

 「素敵な歌声だったずら・・・」

 

 「えぇ、本当に・・・」

 

 うっとりしている花丸と梨子。

 

 「あれがμ'sのリーダー・・・」

 

 「何と言うか、オーラがあったね・・・」

 

 呆然としている曜と果南。

 

 「・・・どうしてあの人がリーダーなのか、分かる気がするわ」

 

 「・・・綺羅ツバサもそうだったけど、カリスマ性を感じるわね」

 

 感嘆の声を上げる善子と鞠莉。

 

 「ほ、穂乃果さんに会えるなんて・・・!」

 

 「我が生涯に、一片の悔い無し・・・!」

 

 感極まっているルビィとダイヤさん。

 

 そんな中千歌さんは、去っていく穂乃果ちゃんの背中を真剣に見つめていた。

 

 「・・・良かったんですか?色々聞きたいこともあったでしょうに」

 

 「・・・良いんだよ」

 

 静かに答える千歌さん。

 

 「それに、何となく分かったから・・・μ'sの、何が凄かったのか」

 

 吹っ切れたような表情の千歌さん。

 

 「多分、比べたらダメなんだよ。追いかけちゃダメなんだよ。μ'sも、ラブライブも、輝きも・・・」

 

 「・・・私もそう思う」

 

 静かに頷く梨子。

 

 「μ'sの人達に会って、当時の話を聞かせてもらって・・・それで思ったの。一番になりたいとか、誰かに勝ちたいとか・・・μ'sって、そうじゃなかったんじゃないかなって」

 

 「・・・うん」

 

 微笑む千歌さん。

 

 「μ'sの凄いところって・・・何も無いところを、何も無い場所を、思いっきり走ったことだと思う。皆の夢を叶える為に、自由に真っ直ぐに・・・だから飛べたんだ!」

 

 千歌さんはそう言うと、俺達の方を振り向いた。

 

 「μ'sみたいに輝くってことは、μ'sの背中を追いかけることじゃない・・・自由に走るってことなんじゃないかな。全身全霊、何にも囚われずに、自分達の気持ちに従って!」

 

 「自由に・・・!」

 

 「Run and run・・・!」

 

 「自分達で決めて、自分達の足で・・・!」

 

 やる気に満ち溢れている果南・鞠莉・ダイヤさん。

 

 「何かワクワクするずら!」

 

 「フフッ、そうだね!」

 

 「全速前進であります!」

 

 顔を輝かせている花丸・ルビィ・曜。

 

 「自由に走ったらバラバラになっちゃわない?」

 

 「どこに向かって走るの?」

 

 千歌さんに尋ねる善子と梨子。

 

 その問いに、千歌さんは迷わずに答えた。

 

 「私は・・・0を1にしたい。あの時のままで・・・終わりたくない」

 

 「千歌さん・・・」

 

 あの日、俺が千歌さんに言った言葉・・・

 

 あの時の悔しさを、千歌さんは未だに忘れてはいないんだろう。

 

 そしてそれは・・・千歌さんだけじゃない。

 

 「ルビィも!」

 

 「マルもずら!」

 

 「あの時の悔しさ、晴らしてやろうじゃない!」

 

 「えぇ、やりましょう!」

 

 「何か燃えてきた!」

 

 ルビィ、花丸、善子、梨子、曜・・・

 

 千歌さんと共に悔しさを味わったメンバーが、やってやろうと息巻いている。

 

 「これで本当に一つにまとまれそうな気がするね!」

 

 「フフッ、遅すぎですわ♪」

 

 「皆シャイなんだから♡」

 

 果南、ダイヤさん、鞠莉の三年生組も気合い十分だ。

 

 皆の言葉を聞いて笑みを浮かべた千歌さんは、俺へと視線を向けた。

 

 「これが、私達の出した答え・・・どうかな?」

 

 「満点です」

 

 微笑む俺。

 

 「これで『μ'sを追い抜く』とか言ってたら、東京湾に沈めてましたね」

 

 「怖っ!?そんなことするつもりだったの!?」

 

 「いやぁ、そんなことにならなくて良かったぁ・・・チッ」

 

 「舌打ち!?今舌打ちしたよねぇ!?」

 

 ギャーギャー喚く千歌さん。

 

 相変わらずうるさいなぁ・・・

 

 「フフッ、それより天くん・・・さっきの言葉は本当?」

 

 悪い笑みを浮かべながら、俺の腕に抱きついてくる梨子。

 

 「Aqoursの十人目になってくれるって、私には聞こえたんだけど?」

 

 「っ・・・いや、それは・・・」

 

 「マリーの耳にもハッキリ届いたわよ」

 

 ニヤニヤしながら、もう片方の腕に抱きついてくる鞠莉。

 

 「どうなのかしら?天?」

 

 「ぐっ・・・」

 

 言葉に詰まる俺。

 

 他の皆も、ニヤニヤしながら俺のことを見ている。

 

 あぁもう、コイツらときたら・・・!

 

 「何!?俺が十人目になっちゃ悪いの!?」

 

 「フフッ、誰もそんなこと言ってないでしょ?」

 

 優しく俺の頭を撫でてくれる千歌さん。

 

 「ありがとう、天くん・・・ようこそ、Aqoursへ」

 

 「やったあああああっ!」

 

 「天くんがAqoursに入ったあああああっ!」

 

 「ずらあああああっ!」

 

 歓声を上げる曜、ルビィ、花丸。

 

 「全く、はしゃいじゃって・・・ぐすっ」

 

 「あれ?善子ちゃん泣いてる?」

 

 「ヨハネよっ!泣いてないわよゴリラっ!」

 

 「ゴリラじゃないもん!果南だもん!」

 

 「はいはい、落ち着いて下さいな」

 

 「「前髪パッツン堅物ですわ女は黙ってて!」」

 

 「戦争ですわああああああああああっ!」

 

 ギャーギャー言い合っている善子、果南、ダイヤさん。

 

 あの人達何してんだろ・・・

 

 「・・・ありがとう、天」

 

 小さな声で呟く鞠莉。肩がわずかに震えている。

 

 「本当に・・・ありがとう・・・!」

 

 「・・・泣かないの」

 

 鞠莉にギュっと身体を寄せる俺。

 

 多分鞠莉は、今でも自分のしたことを後悔してるんだろうな・・・

 

 「これからも一緒に頑張ろう。ね?」

 

 「っ・・・うん!」

 

 涙を拭い、笑顔を見せる鞠莉。

 

 と、もう片方の腕を抱き締める力が強くなった。

 

 振り向くと、梨子が頬を膨らませてこっちを見ている。

 

 「もうっ!イチャイチャするの禁止っ!」

 

 「いや、何で怒ってんの?」

 

 「フフッ・・・やっぱりそういうことなのね、梨子」

 

 笑みを浮かべる鞠莉。

 

 あれ、何か笑顔が怖いような・・・

 

 「簡単には渡さないわよ・・・?」

 

 「上等・・・!」

 

 あれ、何かバチバチしてる?何で?

 

 「よーし!天くんも正式にAqoursに加入したことだし、円陣組もう!」

 

 声を上げる千歌さん。

 

 俺も梨子と鞠莉の間に入り、円陣に加わる。

 

 そしてそれぞれが手を重ねたところで・・・

 

 「あっ・・・ちょっと良いですか?」

 

 「ん?どうしたの?」

 

 俺の制止に首を傾げる千歌さん。

 

 俺の頭の中には、あるイメージが浮かんでいた。

 

 「指、こうしません?」

 

 右手の親指と人差し指に力を入れ、Lの逆のような形を作る。

 

 「これを皆で繋げば、0の形になるでしょ?そして手を上に上げる時は、人差し指を上にして・・・」

 

 「あっ!?」

 

 「0から1へ!?」

 

 曜と梨子が気付き、驚きの声を上げる。

 

 0から1へ・・・そこへ向かって走ろうとしている俺達にとって、これはピッタリだと思う。

 

 「天くんナイスアイディア!それでいこう!」

 

 笑みを浮かべる千歌さん。

 

 俺達はそれぞれの指を繋ぎ、0の形を作った。

 

 「0から1へ・・・今、全力で輝こう!」

 

 千歌さんが声を張り上げる。

 

 そして・・・

 

 「Aqours~!」

 

 「「「「「「「「「「サ~ンシャイ~ン!」」」」」」」」」」

 

 天高く、皆で人差し指を突き上げる。

 

 

 

 

 

 ここはμ'sが解散することを決めた場所・・・

 

 

 

 

 

 だからこそ、どうしても切ない気持ちになってしまっていた。

 

 

 

 

 

 でも今日、新しい思い出が出来た。

 

 

 

 

 

 俺がAqoursに入った場所・・・

 

 

 

 

 

 皆が一つになれた場所・・・

 

 

 

 

 

 自分達の、進むべき道を決めた場所・・・

 

 

 

 

 

 俺にとって、この場所が特別である理由が増えた。

 

 

 

 

 

 悲しくて寂しい理由だけではなく、前向きな嬉しい理由が・・・

 

 

 

 

 

 「よし、じゃあ帰ろう!内浦に!」

 

 踵を返し、歩き出す千歌さん。

 

 小さいようでいて、皆を引っ張る大きな背中・・・

 

 その背中が、穂乃果ちゃんの影と重なって見えた俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

今回は遂にμ'sのリーダー、高坂穂乃果ちゃんが登場しました!

外見のイメージ的には、映画で登場した『未来の穂乃果ちゃんでは?』と言われていた女性に近い感じです。

あれは本当に未来の穂乃果ちゃんだったのかな?

それと今回の話で、アニメ一期第十二話の内容は終了となります。

いやぁ・・・長かった(´・ω・`)

絵里ちゃんとの仲直りとか色々描いた結果、メッチャ時間かかった・・・

まだ第十三話があるのに・・・

6月に入ったし、希ちゃんと鞠莉ちゃんの誕生日回も描かなきゃ・・・

・・・が、頑張りまゆゆ(震え声)

あ、まゆゆといえば・・・



渡辺麻友さん、長い間お疲れ様でした。

突然の芸能界引退ということでビックリしましたが、体調面で問題があったんですね・・・

これまで突っ走ってきた分、今はお身体を大切になさって下さい。

これからの人生のご多幸をお祈りしています。



という個人的な思いを述べさせていただいたところで・・・

恒例の支援絵紹介のコーナー!

ことりちゃん大好きさんが、新しい支援絵を送って下さいました!

それがこちら!



【挿絵表示】




のぞえりだあああああっ!!!!!

ヤバい!可愛すぎる!

やっぱりのぞえりは至高です( ̄ー ̄)

そして今回、遂にリーダーの穂乃果ちゃんが登場したということで・・・

以前いただきました、こちらの支援絵もご紹介します!




【挿絵表示】




μ'sだよ!全員集合!

いや、これはヤバい!

μ's全員いるとか・・・ヤバい!(語彙力)

ことりちゃん大好きさん、本当にありがとうございました!

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【東條希】一番の幸せは・・・

0時投稿出来なくてすいませんでした(土下座)

何とか6月9日が終わる前に投稿出来たぜ・・・

それでは希ちゃんの誕生日回、張り切っていってみよー!


 「天くん、起きて」

 

 「んぅ・・・」

 

 身体を優しく揺すられる。

 

 俺は起きたくなくて、瞼を閉じたままにしていた。

 

 「もうちょっと寝かせて・・・」

 

 「ダーメ♡」

 

 「んむっ!?」

 

 顔の上に、重量感のある柔らかいものが乗せられる。

 

 あっ、何か幸せな感触・・・

 

 じゃなくて、鼻と口が塞がれて息が出来ない。

 

 「ぶはぁっ!?」

 

 「あんっ♡」

 

 急いで飛び起きて息をする。

 

 あぁ、死ぬかと思った・・・

 

 「ちょっと希、起こし方が手荒過ぎない?」

 

 「にししっ、起きない天くんが悪いんだよ」

 

 悪戯っぽく笑う希。

 

 「ところで天くん、ウチのおっぱいで目覚めた感想は?」

 

 「幸せだったけど、やっぱり揉むのが一番だわ」

 

 「もうっ、エッチ♡」

 

 大きな胸を両腕で隠す希。

 

 高校生の時からかなりの大きさを誇っていたその胸は、当時よりさらに成長していた。

 

 本当にありがとうございます。

 

 「フフッ、天くんは相変わらずおっぱいが好きやね♪」

 

 「アハハ、それは否定できないかな」

 

 俺はそう言って笑うと、希の身体を抱き寄せた。

 

 「まぁ、俺が一番好きなのは希だけど」

 

 「フフッ、知ってる」

 

 俺に身体を委ねてくれる希。

 

 「ウチが一番好きなのも天くんやから」

 

 「知ってる」

 

 俺達は笑い合うと、そのまま顔を近付けてキスをした。

 

 朝から幸せを噛み締める俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「それにしても、内浦は良い所やね」

 

 「俺も本当にそう思う」

 

 手を繋ぎ、海辺を散歩する俺達。

 

 休みの日は、こうして二人で散歩するのが決まりになっているのだ。

 

 「フフッ、こっちに引っ越して来て良かった」

 

 笑顔の希。

 

 今年の三月に東京の大学を卒業した俺は、四月から沼津で働き始めていた。

 

 希はそんな俺についてきてくれて、俺達は今内浦で一緒に暮らしている。

 

 ちなみに家は、俺が内浦で一人暮らしをしていた時に住んでいたあの平屋だ。

 

 本来は小原家の所有物だが、鞠莉に相談したところ快く貸してもらえることになった。

 

 しかも『マリーと天の仲じゃない』の一言で家賃はタダ・・・

 

 本当に鞠莉には頭が上がらない。

 

 「それにしても、希って行動力あるよね・・・まさかあんなスッパリ仕事辞めるとは思わなかったわ」

 

 呆れる俺。

 

 実は俺は最初、一人で内浦に引っ越して来ようと思っていた。

 

 希には仕事があるし、それを辞めさせるつもりもなかった。

 

 ところが俺が沼津での就職を考えていることを知った希が、『仕事を辞めて天くんについていく』と宣言。

 

 引き止める俺だったが、『天くんはウチと離れたいの・・・?』と涙目になる希を前にあえなく撃沈。

 

 二人で内浦で暮らすことが決まったのだ。

 

 「天くんは浮気性やからね。目を離したら他の女のところに行きそうやし」

 

 「まさかの信頼度ゼロ?俺は希一筋なんだけど」

 

 「じゃあ聞くけど、志満さんから『今夜どう?』って誘われたらどうする?」

 

 「・・・オ、オコトワリシマス!」

 

 「間があったしカタコトだし信用できません」

 

 ジト目で睨む希。

 

 クッ、まさか女神である志満さんの名前を出してくるとは・・・

 

 真姫ちゃんの真似じゃ騙せなかったか・・・

 

 ちなみに家が近いこともあり、高海家の皆さんには今でもお世話になっている。

 

 志満さんは若女将として旅館を切り盛りしているし、美渡さんも会社員としてバリバリ働いている。

 

 千歌さんは志満さんの手伝いをしており、よく俺に『志満姉が厳しいんだよぉ・・・』と愚痴を零していた。

 

 まぁ言葉とは裏腹に充実した表情をしているので、何だかんだで今の仕事が楽しいんだろうな。

 

 「それに・・・仕事より、好きな人と一緒にいることの方が大事やから」

 

 「希・・・」

 

 希の両親は共働きなので、子供の頃は寂しい思いをしたという話は聞いていた。

 

 現に高校の時に一人暮らしをしていた希は、俺の目から見てもどこか寂しそうだった。

 

 そんな希の力になりたいと、あの時強く思ったことをよく覚えている。

 

 「・・・一人になんかしないから」

 

 「天くん・・・?」

 

 希の手を握る手に、ギュっと力を込める。

 

 「これからもずっと一緒だから。ね?」

 

 「・・・もう、天くんはズルいなぁ」

 

 笑みを浮かべる希。

 

 「全く・・・天くんに惚れそうや」

 

 「え、惚れてるから付き合ってるんじゃないの?」

 

 「そうなんやけど・・・もう惚れてるけど、それでも惚れそうなんよ」

 

 「イミワカンナイ」

 

 「相変わらず真姫ちゃんのモノマネ好きやね・・・」

 

 呆れている希。

 

 俺達は結婚しておらず、あくまでも同棲中のカップルだ。

 

 勿論お互いに結婚するつもりでいるが、今はまだその時期ではないと思っている。

 

 俺もまだ社会人一年目だしな・・・

 

 「真姫ちゃんかぁ・・・久しぶりに会いたいなぁ・・・」

 

 「・・・むぅ」

 

 ジト目で俺の腕に抱きつく希。

 

 「ウチとのデート中に他の女の子に会いたいだなんて、ええ度胸やね?」

 

 「あ、嫉妬した?」

 

 「・・・ふんっ」

 

 ぷいっとそっぽを向く希。

 

 大人な希がこういう一面を見せてくれると、愛されていることを実感できて嬉しくなるんだよな・・・

 

 いや、当の本人は怒ってるんだけども。

 

 「ゴメンゴメン。どうしたら許してくれる?」

 

 「・・・ん」

 

 目を閉じて唇を突き出す希。

 

 全く、俺の彼女は本当に可愛いんだから・・・

 

 俺は苦笑すると、希の唇に自分の唇を重ねるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「わぁ・・・!」

 

 目を輝かせている希。

 

 俺達の目の前には、夕陽に染まった内浦の海が広がっていた。

 

 「綺麗・・・」

 

 「でしょ?」

 

 笑う俺。

 

 俺達が今いるのは、淡島神社へと続く階段の途中の開けた場所だ。

 

 浦の星時代にダイヤさんから教えてもらったこの場所は、今でも俺のお気に入りスポットである。

 

 「そういえばこの階段、Aqoursの練習でよく使ってたんだっけ?」

 

 「そうそう。結構キツいんだけど、体力強化にはもってこいだったよ」

 

 苦笑する俺。

 

 まだAqoursが千歌さんと曜と梨子だけだった頃は、ここまで辿り着くのがやっとだったっけ・・・

 

 俺も含め、皆でよくそこのベンチでぐったりしてたなぁ・・・

 

 この階段を涼しい顔で駆け上っていく果南は、本当に体力お化けだと思う。

 

 「・・・フフッ」

 

 「希・・・?」

 

 急に笑う希に、首を傾げる俺。

 

 どうしたんだろう?

 

 「いや、楽しそうな顔してるなぁって思って。当時のことを思い出してたんやろ?」

 

 「・・・まぁね」

 

 千歌さん、曜、梨子、花丸、ルビィ、善子、ダイヤさん、果南、鞠莉・・・

 

 Aqoursとして過ごした日々は、一生忘れられない大切な宝物だ。

 

 勿論μ'sもそうだが、Aqoursも俺にとってかけがえのないものなのである。

 

 「・・・だから内浦に来たかったんよ」

 

 「え・・・?」

 

 柔らかく微笑む希。

 

 「天くんがここで何を見て、何を感じて過ごしていたのか・・・ウチは知らなかったから。ここに来て、天くんと一緒に過ごしてみたら分かるかなって・・・そう思ったんよ」

 

 「それで俺についてきてくれたの・・・?」

 

 「勿論、天くんと離れたくなかったっていうのが一番の理由だよ?でも、それも理由の一つだったんよ」

 

 希はそう言うと、照れたようにはにかんだ。

 

 「大好きな人のことやもん・・・知りたくなるのは当然やろ?」

 

 「っ・・・」

 

 急に愛しさが込み上げてきて、希をギュッと抱き締める。

 

 腕の中の温もりが、どうしようもなく愛おしかった。

 

 「フフッ、天くんは甘えん坊やね」

 

 「大好きな人が相手やもん・・・甘えたくなるのは当然やろ?」

 

 「ウチのモノマネせんといて」

 

 苦笑しつつも、俺を抱き締め返してくれる希。

 

 そんな希に、俺はどうしても聞きたいことがあった。

 

 「・・・ねぇ、希」

 

 「ん?なぁに?」

 

 「今日のデート、いつも通りだったけど・・・良かったの?今日は希の誕生日なのに」

 

 六月九日・・・つまり今日は希の誕生日なのだ。

 

 俺は何か特別なことをしようと思っていたのだが、希の希望は『いつも通りのデートが良い』だった。

 

 二人で散歩をしながら、Aqours時代の思い出の場所を巡ったり・・・

 

 希が望んだのは特別なことではなく、あくまでも普通のことなのだ。

 

 「当たり前やん」

 

 微笑む希。

 

 「大好きな人と一緒に、穏やかな一日を過ごす・・・こんな幸せなこと、他に無いと思う。ウチにとっては、それが何よりの幸せなんよ」

 

 「・・・分かるわぁ」

 

 「おっ、分かってくれる?」

 

 「もう惚れてるけど惚れそうな気持ち・・・今なら良く分かるわぁ」

 

 「あ、そっち?」

 

 希のツッコミ。

 

 俺は笑うと、希を抱く腕に力を込めた。

 

 「希・・・誕生日おめでとう」

 

 「フフッ、ありがとう」

 

 「こんな俺に着いてきてくれて、本当にありがとう・・・心の底から愛してる」

 

 「・・・ウチも愛してるよ、天くん」

 

 お互いの視線が合い、どちらからともなく顔が近付き・・・その距離がゼロになる。

 

 目の前の愛しい存在を、絶対に離さない・・・心に強く誓う俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《希視点》

 

 翌日・・・

 

 「ふんふんふ~ん♪」

 

 鼻歌を歌いながら、朝ご飯の支度をするウチ。

 

 その時、スマホのアラーム音が鳴った。

 

 「あっ・・・そろそろ天くんを起こさないと」

 

 アラームを止めて寝室へと向かう。

 

 そこでは、天くんが幸せそうな表情で眠っていた。

 

 「フフッ・・・気持ち良さそうやね」

 

 寝ている天くんの側に座り、寝顔を見つめながら頭を撫でる。

 

 「全く・・・普段は穏やかなのに、何で夜になると獣になるんや・・・」

 

 昨夜のことを思い出し、思わず顔が熱くなってしまう。

 

 相変わらずおっぱい大好きやし、これ以上大きくなったらどうしてくれるんや・・・

 

 「・・・まぁ、天くんが喜んでくれるなら良いかな」

 

 そんな風に思えてしまうあたり、自分がいかに天くんに惚れているかが分かる。

 

 最初は弟みたいな存在だと思ってたのに・・・

 

 

 

 

 

 『希ちゃんのワガママだったら、俺は何でも叶えてあげたい。そう思えるほど、俺にとって希ちゃんは大切な存在なんだよ』

 

 

 

 

 

 μ'sとして活動していた頃、天くんから言われた言葉だ。

 

 ウチが皆に遠慮していることに気付いた天くんが、屈託の無い笑みを浮かべてかけてくれた言葉・・・

 

 本当に嬉しかった。

 

 ウチのことを、そこまで想ってくれていることが。

 

 「・・・ウチにとっても、天くんは大切な存在だよ」

 

 仕事は好きだった。

 

 でも天くんが再び内浦へ行こうとしていることを知った時、迷い無く辞めることを決めた。

 

 好きな仕事を辞めてついて行きたいと思えるほど、天くんのことが大好きやから。

 

 天くんと一緒にいられるなら、ウチはもう何も要らない。

 

 天くんと何でもない一日を過ごすことが、ウチにとって一番の幸せなんやから。

 

 「・・・ありがとう、天くん」

 

 ウチを誰よりも大切にしてくれて、誰よりも愛してくれて・・・

 

 本当にありがとう。

 

 「いつかちゃんと・・・ウチを天くんのお嫁さんにしてね」

 

 天くんの頬に手を添え、顔をゆっくり近付ける。

 

 そして・・・

 

 「・・・大好き」

 

 重ね合わせた唇から感じられる温もりが、何よりも愛おしく感じるウチなのだった。




どうも〜、ムッティです。

希ちゃん、お誕生日おめでとう\(^o^)/

いやぁ、間に合わないかと思ったわぁ・・・

執筆する時間が無くてどうなることかと思いましたが、無事に書き上げることが出来てホッとしております。

それにしても天の野郎、希ちゃんとイチャイチャしやがって・・・

ギルティ(゜言゜)

希ちゃんと結婚したいだけの人生だった(涙)



さてさて、恒例の支援絵紹介のコーナー!

ことりちゃん大好きさんが、新しい支援絵を描いて下さいました!

まずはこちら・・・


【挿絵表示】


希ちゃあああああんっ!!!!!

ムッティの推しメンっ!

本日の主役っ!

最高に可愛いです。

そしてこちら・・・


【挿絵表示】


絢瀬姉妹キタアアアアアッ!!!!!

以前リクエストを求められたので、絵里ちゃん&亜里沙ちゃんをリクエストさせていただいたのですが・・・

まさか本当に描いていただけるとは・・・

ことりちゃん大好きさん、本当にありがとうございます!



そして4日後の6月13日は、Aqoursの小原鞠莉ちゃんの誕生日ですね!

・・・何にも書けてないや(汗)

が、頑張ります(震え声)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【小原鞠莉】何年経っても・・・

希ちゃんに引き続き、鞠莉ちゃんの誕生日回も0時投稿出来なくてすみません(土下座)

誕生日が終わる前に間に合って良かったぁ・・・

それではいってみよー!


 「たこ焼きが食べたい」

 

 「はい?」

 

 鞠莉の呟きが耳に入り、思わず聞き返してしまう俺。

 

 俺と鞠莉は今、俺の家でのんびり過ごしていた。

 

 Aqoursの放課後レッスンを終えて帰宅したところ、いきなり鞠莉が俺の家に押しかけてきたのだ。

 

 「たこ焼きが食べたい」

 

 「いきなりだな・・・」

 

 呆れる俺。

 

 思い返してみると、今日の鞠莉はどこか変だった。

 

 上の空というか、心ここにあらずというか・・・

 

 俺の家に押しかけてきてからも、ずっと俺の太ももに頭を乗せて寝転がってるし・・・

 

 「じゃあ・・・食べに行く?」

 

 「っ!」

 

 鞠莉の頭を撫でながらそう答えると、鞠莉がガバッと飛び起きた。

 

 「いいの!?」

 

 「うん。俺も食べたいし」

 

 確か花丸が、美味しいたこ焼き屋さんを知ってるって言ってたな・・・

 

 早速電話して聞いてみるか。

 

 「決まりね!それじゃ行きましょう!大阪に!」

 

 「オッケー・・・ん?」

 

 ちょっと待って?この子今何て言った?

 

 「こうしちゃいられないわ!早速準備しなくちゃ!」

 

 「ねぇ鞠莉、今大阪って・・・」

 

 「出発は明日の朝よ!天も準備しておいてね!」

 

 「いや、大阪って・・・」

 

 「また明日ね、天!Good night!」

 

 「人の話を聞けえええええっ!?」

 

 俺のツッコミも虚しく、勢いよく家を飛び出して行く鞠莉。

 

 「・・・何なのあの子」

 

 ポツンと取り残される俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 翌日・・・

 

 「小原鞠莉が~?大阪に~?キタアアアアアアアアアアッ!」

 

 「ネタが古いな・・・」

 

 やたらテンションの高い鞠莉を、呆れながら眺めている俺。

 

 まさか本当に大阪に来ることになるとは・・・

 

 いきなりヘリに乗せられるこっちの身にもなってほしい。

 

 「そもそも、今日って平日だよね?普通に学校あるよね?」

 

 「理事長権限で公欠扱いにするから大丈夫よ」

 

 「職権濫用じゃん!?」

 

 さっきスマホを見たら、ダイヤさんからえらい数の着信が入ってたんだけど・・・

 

 ラインでも『無事ですか天さん!?』『鞠莉さんの暴走に巻き込まれていませんか!?』ってきてるんだけど・・・

 

 すみませんダイヤさん、ガッツリ巻き込まれてます。

 

 「まぁまぁ、良いじゃない。今日はマリーのBirthdayなんだから♪」

 

 「誕生日だからって何でも許されるわけじゃないからね?」

 

 そう、今日は鞠莉の誕生日なのだ。

 

 せっかくの誕生日だっていうのに、俺と二人で大阪にいて良いんだろうか・・・

 

 「せっかく学校をサボったんだもの!今日はとことん楽しむわよ!」

 

 「『サボった』って言っちゃったよ・・・」

 

 「ほら天、早く行きましょう!」

 

 俺の手を握り、元気よく歩き出す鞠莉。

 

 やれやれ・・・

 

 「・・・まぁ、たまにはこういうのも良いかな」

 

 「おっ、ようやく乗り気になったのかしら?」

 

 「まぁね」

 

 鞠莉の手を握り返す俺。

 

 「せっかくのデートだし、楽しまなきゃ損でしょ。可愛い女の子が相手なら尚更ね」

 

 「デ、デート・・・しかも可愛いって・・・」

 

 何故か顔を赤くしている鞠莉。

 

 「鞠莉?どうかした?」

 

 「な、何でもないっ!早く行きましょうっ!」

 

 慌てて歩き出す鞠莉に、首を傾げる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「Wow!Delicious!」

 

 美味しそうにたこ焼きを頬張る鞠莉。

 

 道頓堀へとやって来た俺達は、たこ焼きの食べ歩きをしていた。

 

 「はい天、あ~ん♪」

 

 「あ~ん・・・ん、美味しい!」

 

 「でしょ?さっきのお店のたこ焼きとは、少し違うわよね」

 

 「確かに・・・お店によって違うものなんだねぇ」

 

 この辺り一帯のたこ焼き屋さんを片っ端から巡っているが、お店によって少し違うたこ焼きが出てくるので全然飽きなかった。

 

 流石はたこ焼きの本場、恐るべし・・・

 

 「ふぅ・・・そろそろお腹いっぱいになってきたわ」

 

 「満足した?」

 

 「Yes!大満足デース!」

 

 「そりゃ良かった」

 

 苦笑する俺。

 

 「それじゃ、そろそろ内浦に帰ろっか」

 

 「えっ?今日は帰らないわよ?」

 

 「えっ?」

 

 「えっ?」

 

 首を傾げている鞠莉。

 

 いやいやいや・・・

 

 「あれ、聞き間違いかな・・・今日は帰らないって聞こえたんだけど・・・」

 

 「えぇ、だって今日は大阪に泊まる予定だし」

 

 「初耳なんだけど!?」

 

 「今初めて言ったもの」

 

 悪びれずに答える鞠莉。

 

 「さぁ、今日はとことん大阪を楽しむわよ!まずはスリー天閣へ行きましょう!」

 

 「通天閣ね。ツーって数字の2っていう意味じゃないから」

 

 「フフッ、ナイスツッコミ!」

 

 楽しそうに笑いながら、俺の手を引いて歩き出す鞠莉。

 

 まぁ、鞠莉が楽しいならそれで良いか・・・

 

 そう思ってしまうほどには、鞠莉に対して甘い俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あー、疲れた・・・」

 

 ホテルのベッドに横たわる俺。

 

 宣言通り、鞠莉は一日中大阪を楽しんでいた。

 

 通天閣だけではなく、大阪城やアベノハルカスにも行ったし・・・

 

 完全に観光旅行だよね、これ。

 

 「それにしても・・・このホテル、もの凄く豪華だな・・・」

 

 「フフッ、当然よ」

 

 ちょうどバスルームから出てきた鞠莉が、俺の呟きを聞いてクスクス笑う。

 

 「だってここ、ウチの系列のホテルだもの」

 

 「マジか・・・これだから成金一族は・・・」

 

 「だから料金はタダよ」

 

 「成金万歳!」

 

 「清々しいほどの掌返しね・・・」

 

 呆れている鞠莉。

 

 いやぁ、持つべきものは金持ちの幼馴染だね!

 

 「・・・フフッ、まぁ天らしいけど」

 

 鞠莉はそう言って笑みを零すと、俺の隣に腰掛けた。

 

 バスローブ一枚だけという姿に加え、お風呂上りの濡れた髪を下ろしている鞠莉・・・

 

 大人の色気を醸し出した、一人の女性がそこにはいた。

 

 「ん?どうしたの天?」

 

 「・・・綺麗になったよね、鞠莉」

 

 「っ・・・」

 

 頬を赤らめる鞠莉。

 

 「ど、どうしたの急に・・・?」

 

 「いや、改めて思っただけだよ。俺の幼馴染は本当に美人だなって」

 

 「・・・うぅ」

 

 顔を真っ赤にして俯く鞠莉。

 

 こういうところは変わってないなぁ・・・

 

 「じ、じゃあ・・・」

 

 鞠莉は意を決したように顔を上げると、そのまま俺を押し倒してきた。

 

 「うわっ!?ちょ、鞠莉!?」

 

 仰向けに倒れた俺の上に、鞠莉が馬乗りになっている。

 

 鞠莉は俺の肩に両手を置くと、衝撃的な言葉を口にした。

 

 

 

 

 

 「マ、マリーのこと・・・抱いてくれる・・・?」

 

 

 

 

 

 「・・・はい?」

 

 え、ちょ・・・この子今何て言った?

 

 まさかとは思うが、『抱く』って・・・

 

 「ハグっていう意味じゃないわよ。セッk・・・」

 

 「ストップうううううっ!?それ以上はストップうううううっ!?」

 

 危ねぇ!?もう少しでNGワード出るところだったよ!?

 

 「落ち着いて鞠莉!?自分が何を言ってるか分かってんの!?」

 

 「マリーの身体じゃ不満かしら・・・?」

 

 「むしろ不満が無いから困ってるんだけど!?」

 

 こんなスタイル抜群の身体に、不満なんてあるわけないでしょうがあああああっ!

 

 さっきから大きな双丘の谷間がガッツリ見えてるし、こっちは理性を保つのに必死なんだよおおおおおっ!

 

 「それなら良いじゃない・・・マリーの身体、天の好きにして良いのよ・・・?」

 

 甘い声で囁く鞠莉。

 

 あぁ、俺の理性が削られていく・・・

 

 「・・・ハァ」

 

 俺は溜め息を一つ零すと、鞠莉の頬に手を添えた。

 

 「ねぇ、鞠莉・・・何をそんなに焦ってるの?」

 

 「っ・・・べ、別に焦ってなんて・・・!」

 

 「嘘」

 

 鞠莉の頬を抓る俺。

 

 「いつもの余裕な態度じゃないし、何より・・・身体が震えてるよ」

 

 「っ・・・」

 

 俺と鞠莉の身体は密着している為、鞠莉の身体の震えはすぐに分かった。

 

 多分鞠莉は、心の準備が出来ていなかったのだ。

 

 「・・・離れたくないの」

 

 「え・・・?」

 

 「もう二度と・・・天と離れたくないの」

 

 鞠莉の目に、みるみる涙が浮かんでいく。

 

 「離れるって・・・俺は鞠莉から離れたりしないよ?」

 

 「・・・そんなの嘘」

 

 首を横に振る鞠莉。

 

 「天の周りには、可愛くて魅力的な女の子がたくさんいる。Aqoursの皆もそうだし、μ'sの皆もそう・・・特にμ'sの皆は、マリーが知らない天をたくさん知ってる。天と心が通じ合ってる。マリーはそれが・・・たまらなく悔しい」

 

 俺の顔に、鞠莉の涙が次々と零れ落ちてくる。

 

 「もしあの時、引っ越してなかったら・・・天と離れ離れになってなかったら・・・天の隣に立っていたのは、マリーだったのに・・・そんな考え方をしてしまう自分が、本当に嫌になる・・・!」

 

 「鞠莉・・・」

 

 「ごめんなさい、天・・・こんな心の醜い女で、本当にごめんなさい・・・!」

 

 泣きじゃくる鞠莉。

 

 もしかしたらこの旅行も、空いた時間を埋めようとして・・・

 

 「・・・鞠莉」

 

 俺は身体を起こすと、鞠莉を優しく抱き締めた。

 

 「さっきも言ったでしょ?鞠莉は綺麗だよ。外見も・・・内面もね」

 

 ゆっくりと頭を撫でる。

 

 「鞠莉の心の優しさは、よく分かってるつもりだよ。自分が悪役になってまで、絵里姉の願いを叶えようとしてくれるような人だもん。そんな人の心が、醜いわけないでしょ」

 

 「天・・・」

 

 「ありがたいことに、確かに俺の周りには可愛くて魅力的な女の子がたくさんいるよ。でも鞠莉だって、その中の一人なんだよ?」

 

 笑みを浮かべる俺。

 

 「μ'sの皆と過ごした時間は、確かに鞠莉の知らないことだろうけど・・・逆に俺と鞠莉が過ごした時間は、μ'sの皆も知らないことだしさ。俺の小さい頃のことなんて、鞠莉しか知らないことじゃん」

 

 「マリーしか・・・知らないこと・・・」

 

 「それに・・・もし鞠莉が引っ越してなかったら、鞠莉は果南やダイヤさんに出会えなかったんじゃないかな?」

 

 「っ・・・」

 

 鞠莉にとって、かけがえのない親友である二人・・・

 

 あの時引っ越していなかったら、きっと出会うことは無かっただろう。

 

 三人がスクールアイドルをやることも無かったし、俺が浦の星へ来ることも無かった・・・

 

 全ての行動には、絶対に意味があるのだ。

 

 「こうやって鞠莉と再会出来て、繋がることが出来た・・・俺はそれが凄く嬉しい」

 

 鞠莉を抱く腕に力を込める。

 

 「また出会ってくれてありがとう、鞠莉・・・大好きだよ」

 

 「っ・・・天っ・・・!」

 

 泣きじゃくる鞠莉。

 

 背中をポンポン叩いてあやしていると、しばらくして鞠莉が俺の身体を離した。

 

 「落ち着いた?」

 

 「えぇ・・・ごめんなさい、みっともないところ見せちゃって」

 

 「幼馴染でしょ。水臭いこと言わないの」

 

 「フフッ・・・ありがと」

 

 小さく笑う鞠莉。

 

 やっぱり鞠莉には、笑顔がよく似合う。

 

 「それより天・・・マリーを抱かなくて良かったの?童貞卒業のチャンスだったのに」

 

 「それなぁ・・・惜しいことをしたかもしれないなぁ・・・」

 

 「あーあ、マリーの初めてをあげようと思ったのになぁ」

 

 「・・・ちょっとタイムマシン探してくるわ」

 

 「真面目な顔して何言ってるの!?」

 

 鞠莉のツッコミ。

 

 あぁ、勿体無いことをしてしまった・・・

 

 「全くもう・・・そんなにマリーの初めてが欲しかったの?」

 

 「当たり前やん」

 

 「何で関西弁なのよ・・・仕方ないわね」

 

 鞠莉はそう言うと、俺の頬に両手を添えた。

 

 「初めてじゃないけど・・・これで我慢してちょうだい」

 

 「いや、何言って・・・っ!?」

 

 「んっ・・・」

 

 鞠莉の唇が俺の唇を塞ぎ、それ以上言葉を紡げなくなってしまう。

 

 こ、これって・・・

 

 「フフッ、ご馳走様♡」

 

 唇を離し、ペロッと舐める鞠莉。

 

 突然の出来事に頭が追いつかず、意識が遠のいていく。

 

 「ちょ、天!?大丈夫!?」

 

 慌てて受け止めてくれる鞠莉。

 

 豊満な胸の谷間に顔を埋め、柔らかい幸せな感触を感じながら意識を失う俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《鞠莉視点》

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 「フフッ、気持ち良さそうに寝ちゃって・・・」

 

 天の頭を撫でる私。

 

 いきなり気絶した時はビックリしたけど・・・

 

 「・・・マリーのこと、意識してくれてるってことかしら」

 

 先ほどまで天の唇と重なっていた自分の唇に触れる。

 

 さっき私・・・天とキス、したのよね・・・?

 

 「っ・・・」

 

 今になって恥ずかしくなってきた。

 

 顔が熱くなっていくのを感じる。

 

 「・・・初めてじゃないのに」

 

 そう、私にとってはこれがセカンドキスだった。

 

 私のファーストキスは、かれこれ十年ほど前に遡る。

 

 「天、覚えてるかしら・・・?」

 

 当時のことを思い出す。

 

 

 

 

 

 『ほら鞠莉ちゃん、そんなに泣かないで』

 

 『うぅ・・・天と離れたくない・・・』

 

 引っ越す直前、私は寂しくて天に抱きついて泣いていた。

 

 もう天に会えないのかと思うと、辛くて辛くてたまらなかった。

 

 『また会えるって。ねっ?』

 

 『・・・じゃあ誓って』

 

 『え・・・?』

 

 『また絶対会えるって、天とマリーはずっと仲良しだって・・・今ここで誓って』

 

 『えっと・・・どうすれば良いの?』

 

 困惑している天。

 

 私の答えは決まっていた。

 

 『チューして』

 

 『は・・・?』

 

 『結婚式ではチューをして、永遠の愛を誓うんだって。天もマリーにチューして』

 

 ここで私と天がチューしたら、私達は永遠の愛を誓うことになる・・・

 

 つまり離れていても、二人の絆が変わらない何よりの証になる。

 

 『いや、それは違うんじゃ・・・』

 

 『いいから。それとも、天はマリーとチューしたくないの・・・?』

 

 涙目で天を見つめる私。

 

 天は迷っていたが、私の無言の視線に折れたようだ。

 

 『分かったよ・・・んっ』

 

 『んっ・・・』

 

 二人の唇が重なる。

 

 『・・・また会おうね、鞠莉ちゃん』

 

 『・・・うん、約束』

 

 少し恥ずかしくて、お互い照れたように笑う。

 

 寂しさでいっぱいだった私の心が、天の温かさでいっぱいになった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 「・・・懐かしいわね」

 

 引っ越す直前、天と交わしたやり取りを思い出す。

 

 あれが私のファーストキスだったなぁ・・・

 

 「・・・フフッ、天は罪な男デース」

 

 思わず笑みが零れる。

 

 この誰よりも心の優しい男の子に、私は生まれて初めて恋をしたのだ。

 

 そしてその恋心は、十年経っても変わることは無かった。

 

 昔も今も・・・私は天のことが大好きなのである。

 

 「こんなに惚れさせて、ファーストキスとセカンドキスまであげたんだもの・・・責任は取ってもらわなくちゃね♡」

 

 少し焦ってしまい、天の前で情けない姿を見せてしまったけれど・・・

 

 天は全てを受け止め、そして受け入れてくれた。

 

 改めて思う・・・この人を好きになって良かった、と。

 

 「全く・・・どれだけ惚れさせたら気が済むんだか・・・」

 

 天の隣に寝そべり、同じ布団にくるまる。

 

 ダイヤに見られたら、『破廉恥ですわ!』って怒られそうだけど・・・

 

 「今日は私の誕生日だもの・・・これぐらいは許されるわよね」

 

 天の頭を抱き寄せ、胸元に掻き抱く。

 

 天はおっぱい大好きだし、目が覚めたら喜んでくれるかしら・・・

 

 「お休みなさい、天・・・」

 

 目を閉じ、呟く私。

 

 「心から、愛してるわ・・・」

 

 大好きな人の温もりを感じ、幸せを感じながら意識を手放す私なのだった。




チャオ♪ムッティです。

鞠莉ちゃん、お誕生日おめでとう!

いやぁ、ギリギリ間に合って良かったぁ・・・

ちなみに今回の大阪旅行の内容は、昨年自分が行った大阪旅行の内容が基になっています(笑)

たこ焼き美味しかったなぁ・・・

また是非とも行きたいですね!

さてさて、次の誕生日回は7月13日の善子ちゃんですね。

その次が7月22日のにこちゃんとなっております。

その間に、アニメ一期の内容が終わると良いんだけど・・・

残るは第13話だけですもんね。

頑張って進めなければ・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!

シャイニー☆


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【津島善子】一番の味方

善子ちゃん、誕生日おめでとう!

またしても0時投稿出来なかった・・・

まぁ何とか誕生日には間に合ったぜ(´・ω・`)

それではいってみよー!


 「善子ちゃん、遅いずらねぇ・・・」

 

 教室の時計を眺め、心配そうな表情を浮かべる花丸。

 

 朝のホームルームがあと三分で始まるというのに、善子は登校していなかった。

 

 「善子ちゃん、今日誕生日だもんね・・・早くお祝いしてあげたいなぁ・・・」

 

 呟くルビィ。

 

 そう、本日七月十三日は善子の誕生日なのだ。

 

 善子を祝福すべく、俺と花丸とルビィは少し前からプレゼント等の準備を進めていた。

 

 「でも珍しいよね。善子って厨二病の割にクソがつくほど真面目だから、いつも早めに登校してきてるのに」

 

 「褒めてるのか貶してるのか分からないずら」

 

 呆れている花丸。

 

 「でも、確かに珍しいずらね・・・いつも通りの運の悪さで、登校中に事故に遭ったのかもしれないずら」

 

 「花丸ちゃん、サラッと縁起でも無いこと言うの止めよう?」

 

 「誕生日が命日になるとは・・・合掌」

 

 「天くんまで何てこと言うの!?」

 

 ルビィのツッコミ。

 

 その時、朝のホームルーム開始を告げるチャイムが鳴った。

 

 「は~い、席について下さいね~」

 

 「必殺!“マシュマロ星”!」

 

 「ぎゃあっ!?」

 

 教室に入って来た麻衣先生に、パチンコでマシュマロを飛ばす。

 

 チッ、外したか・・・

 

 「ちょ、天くん!?いきなり何するの!?」

 

 「大した理由はありません。麻衣先生を始末したいだけです」

 

 「まさかの処刑宣告!?私が何をしたって言うの!?」

 

 「いえ、このままだと善子が遅刻扱いになりそうなので」

 

 「あぁ、善子ちゃんなら今日は欠席よ?風邪を引いちゃったんですって」

 

 「そっちかああああああああああっ!?」

 

 「誕生日に風邪を引いちゃうなんて・・・」

 

 「相変わらず不運過ぎるずら・・・」

 

 頭を抱える俺・ルビィ・花丸なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《善子視点》

 

 「ゴホッ・・・ゴホッ・・・」

 

 ベッドに横たわりながら、咳き込む私。

 

 「うぅ・・・不幸だわ・・・」

 

 まさか風邪を引いてしまうなんて・・・

 

 しかも誕生日に・・・

 

 「くっ、無理してでも学校に行くべきだったかしら・・・」

 

 本当は体調不良を隠して登校しようとしたのだが、お母さんにバレて首に一撃を食らい気絶。

 

 目が覚めたらベッドの中だったのである。

 

 あんな簡単に人を気絶させるなんて、我が母親ながら恐ろしいわね・・・

 

 「・・・寂しいなぁ」

 

 思わず本音が漏れる。

 

 本当なら、Aqoursの皆やクラスメイト達が祝福してくれただろうに・・・

 

 それに・・・

 

 「・・・天」

 

 思い浮かぶのは、いつもこんな私の味方でいてくれる人の顔・・・

 

 いつも私を支えてくれる人の顔だった。

 

 「・・・会いたいなぁ」

 

 体調が悪いせいか、いつになく気弱になってしまっている自分がいる。

 

 全く、情けないわね私・・・

 

 「とりあえず寝ないと・・・早く風邪を治さなくちゃ」

 

 「そうそう、睡眠は大事だからね」

 

 「分かってるわよ。でも眠れそうにないのよね・・・」

 

 「ちょっと待ってて。今クロロホルム持って来る」

 

 「物騒すぎるわ!何考えてん・・・のよ・・・」

 

 勢いよく振り返った私は、思わず固まってしまった。

 

 そこにいたのは・・・

 

 「お邪魔してま~す」

 

 笑顔で立っている天だった。

 

 「そ、天あああああっ!?」

 

 「おはよう、善子」

 

 「あ、おはよう・・・じゃなくて!何でアンタがここにいんのよ!?」

 

 「お見舞いに来たんだよ。これ、果物の詰め合わせね」

 

 「あっ、ありがとう・・・じゃなくて!学校はどうしたのよ!?」

 

 「『ルフィの兄』った」

 

 「普通に『サボ』ったって言いなさいよ!?」

 

 「あぁ、ゴメンゴメン・・・これだと『エース』ったにもなっちゃうよね」

 

 「謝るとこが違うわ!」

 

 「大丈夫だって。麻衣先生にはちゃんと『サボります』って言ってきたから」

 

 「どこが大丈夫なの!?」

 

 「だって麻衣先生が『了解!後は私が何とかしておくわ!』って言ってたし」

 

 「バカなのあの人!?」

 

 思わず頭を抱えてしまう。

 

 教師のくせに何考えてるのよ・・・

 

 「ゴホッ!ゴホッ!」

 

 「ほらほら、無理しないの」

 

 「誰のせいよ!?」

 

 天はツッコミをスルーし、私の身体を支えてベッドに寝かせてくれた。

 

 「・・・私なら大丈夫だから、早く帰りなさい。風邪がうつるわよ」

 

 「善子は相変わらず優しいよね」

 

 笑いながら私の頭を撫でる天。

 

 「心配してくれてありがと。俺が善子の側にいたいだけだから、気にしないで」

 

 「っ・・・」

 

 顔が赤くなるのを感じる。

 

 何でそういうセリフをサラッと言えるのよ・・・

 

 「あと善恵さんから、『ちょっと出掛けてくるから善子の看病よろしく!』って言われてるんだよね」

 

 「何してんのあの人!?」

 

 恐らく天がお見舞いに来たから、『二人きりにしてあげなくちゃ♪』とか余計な気を回したんだろう。

 

 こんな無防備な状態の娘を、同い年の男と二人きりにするなんて・・・

 

 「そういうわけだから、何かあったら遠慮なく言ってね」

 

 そんなことを欠片も意識してなさそうな天に、少しムッとしてしまう。

 

 「・・・じゃあ、お願いしようかしら」

 

 天に意識させるべく、私はあることをお願いするのだった。

 

 「少し汗かいちゃったから・・・私の身体、拭いてくれない?」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「い、良いわよ・・・」

 

 善子に後ろを向いているように言われた俺は、その言葉で再び善子の方を振り向く。

 

 上半身裸になった善子が、ベッドにうつ伏せになって寝ていた。

 

 「・・・露出狂二号の誕生か」

 

 「誰が露出狂よ!?」

 

 「同級生の男子の前で上半身裸になってる時点で、何も言い返せないでしょ」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まる善子。

 

 やれやれ・・・

 

 「それじゃ、身体拭いてくね」

 

 「お、お願いします・・・」

 

 耳まで真っ赤になっている善子をよそに、お湯に浸したタオルを絞る。

 

 っていうか、普通に横乳とか見えてるんだけど・・・

 

 善子は巨乳ではないけど、そこそこのモノを持ってるんだよなぁ・・・

 

 そんなことを思いつつ、タオルで善子の背中を拭いていく。

 

 「んっ・・・」

 

 くすぐったそうな声を上げる善子。

 

 善子の背中は白くて綺麗で、とてもスベスベしていた。

 

 自分のことを堕天使とか言ってても、やっぱり女の子なんだなぁ・・・

 

 「どう?かゆいところとか無い?」

 

 「大丈夫・・・思ったより気持ち良いわ、コレ・・・」

 

 脱力している善子。

 

 ゆっくり丁寧に拭いていき、やがて背中全体を拭き終わった。

 

 「終わったよ。次は前を拭くから仰向けになってね」

 

 「オッケー・・・ってアホかっ!何ナチュラルに誘導してんのよ!?」

 

 「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」

 

 「どこの錬金術師よ!?」

 

 ツッコミを入れながら、ガバッと身体を起こす善子。

 

 あっ・・・

 

 「ん?どうしたの?何で急に固まって・・・」

 

 そこまで言いかけたところで、善子も気付いたようだ。

 

 何も隠されてない善子の胸が、俺の目の前に曝け出されているということに。

 

 「っ・・・キャアアアアアアアアアアッ!?」

 

 善子の悲鳴が響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「よしよし、恥ずかしかったね」

 

 「誰のせいよ!?」

 

 「善子のせいでしょ」

 

 「うぅ・・・」

 

 俺に頭を撫でられつつ、布団にくるまって涙目になっている善子。

 

 俺に胸を見られたことが、相当恥ずかしかったらしい。

 

 「とりあえず言っておくね・・・ごちそう様でした」

 

 「何が!?」

 

 「まさか目の前で生乳を見られるとは・・・ありがたや・・・」

 

 「拝まないでくれる!?」

 

 「そこそこのモノをお持ちですね」

 

 「そこそこって何よ!?褒められてるの!?貶されてるの!?」

 

 「大きさなんて関係ないんだよ。大事なのは美しさなんだから」

 

 「おっぱい星人に言われても欠片も説得力ないわっ!」

 

 ゼェゼェ喘いでいる善子。

 

 ちょっとツッコミさせ過ぎたかな・・・

 

 「はいはい、とりあえず落ち着こうね」

 

 善子の背中を優しく擦る。

 

 「それだけ元気なら、風邪なんてすぐ治るって。善子がいないとつまんないし、早く元気になってね」

 

 「・・・うん」

 

 コクリと頷く善子。

 

 「ねぇ、天・・・何で学校をサボってまで、私のお見舞いに来てくれたの?」

 

 「・・・『私にそこまでの価値があるのか』って?」

 

 「っ・・・」

 

 どうやら自分に自信が無いところは変わっていないらしい。

 

 やれやれ・・・

 

 「・・・バーカ」

 

 そっと善子を抱き寄せる。

 

 「そこまでの価値があると思うから、わざわざ学校サボってまで会いに来てるんだよ。少しは察してよ」

 

 「天・・・」

 

 「俺にとっては学校の授業よりも、善子の方が大事なの。まぁこんなこと言うと、麻衣先生に怒られ・・・いや、あの人なら『キャーッ!天くんってば大胆♡』とか言いそう」

 

 「あぁ、言いそうね・・・」

 

 二人揃って苦笑してしまう。

 

 全く、良い担任に恵まれたもんだ・・・

 

 「あっ、そうだ」

 

 俺はあることを思い出し、鞄の中からある物を取り出す。

 

 「はいコレ、誕生日プレゼント」

 

 「えっ・・・用意してくれてたの・・・?」

 

 「当たり前でしょ」

 

 俺が苦笑しながら渡すと、善子がおずおずと受け取った。

 

 「・・・嬉しい」

 

 「いや、まだ開けてもいないじゃん」

 

 「中身がどうとかじゃなくて・・・天からもらえたことが嬉しいの」

 

 善子はそう言うと、いつになく柔らかな微笑みを浮かべた。

 

 「ありがとう、天」

 

 「っ・・・」

 

 いつもとは違う穏やかな笑みに、思わずドキッとしてしまう俺。

 

 善子って、こんな大人っぽい表情もするんだな・・・

 

 「天?顔が赤いけどどうしたの?」

 

 「な、何でもない・・・」

 

 「え、もしかして私の風邪がうつった!?」

 

 「あー・・・そうかもしれない」

 

 「ちょ、だから早く帰りなさいって言ったのに!熱あるんじゃないの!?」

 

 「ちょ、近い近い!?」

 

 おでこをくっつけてくる善子。

 

 どうしよう、ドキドキが止まらない・・・

 

 「あぁ、もうっ!」

 

 「ちょ、天!?何で急に抱きついてくるの!?」

 

 「何でも良いからっ!しばらくこのままでっ!」

 

 これ以上赤くなった顔を見られないよう、力強く善子を抱き締める俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《善子視点》

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 気持ち良さそうに眠っている天。

 

 やれやれ・・・

 

 「何でこの状態で寝ちゃうのかしら・・・」

 

 呆れる私。

 

 今の私は天に抱き締められた状態で、ベッドに横になっていた。

 

 要は二人で同じベッドに寝ている状態だ。

 

 しかも密着状態で。

 

 「・・・まぁ、良いか」

 

 こんな風に思えるのも、相手が天だからだろう。

 

 全く・・・

 

 「ホントに変わった男よね・・・私が惚れた男は」

 

 こんな私を受け入れてくれて、一番の味方になってくれた・・・

 

 そんな誰よりも頼りになる男を、私は好きになってしまったのだ。

 

 「クックックッ、このヨハネの心を奪うなんて・・・いけないリトルデーモンね」

 

 天の頭を優しく撫でる。

 

 目の前の存在が誰よりも愛おしくて、この温もりが何よりも心地良かった。

 

 「全く・・・責任は取ってもらうんだからね」

 

 思い返してみれば、天には恥ずかしい姿をたくさん見られている。

 

 情けないところもたくさん見せたし、さっきは胸まで見られたし・・・

 

 「・・・まぁ、天にだったら良いかな」

 

 そんな風に思えてしまうあたり、いかに天に惚れているかが分かる。

 

 どうやら私は、堕天使以上に天にゾッコンのようだ。

 

 「・・・何か、また眠くなってきちゃった」

 

 瞼が重く感じる。

 

 気持ち良さそうに眠る天に、影響されちゃったのかしら・・・

 

 「ちょうど良い抱き枕もあるし・・・もう一眠りしようかしら」

 

 天の背中に手を回し、抱きつきながら目を閉じる。

 

 「・・・お休みなさい、天」

 

 小さく呟き、意識を手放す。

 

 「・・・大好きよ」

 

 翌日、風邪が治った私は元気に学校に登校した。

 

 私の首からは、銀色のロケットペンダントが下げられていた。

 

 中には写真が入れられるようになっており、そこには・・・

 

 楽しそうに笑い合う、私と天のツーショット写真が入っていたのだった。




どうも〜、ムッティです。

今回は善子ちゃんの誕生日回でした!

書き終えてから気付きましたが、堕天使要素がほぼ無いっていうね・・・

ドンマイ!←

っていうか前回の鞠莉ちゃんの誕生日回から、ちょうど一ヶ月投稿が無いっていうね・・・

すいませんでした(土下座)

いやホント、最近やたら忙しいんですよ(言い訳)

暇な時を見つけて少しずつ書いてるんで、どうか気長にお待ちいただけると幸いです(>_<)

早くにこちゃんの誕生日回も書き始めねば・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!

ギランッ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏の暑さはハンパない。

最近Trysailの曲をよく聴きます。

特によく聴くのが『Free Turn』ですね。

劇場版『ハイスクール・フリート』を思い出して、メッチャテンション上がります(^^)


 「ルビィ、今のところの移動はもう少し早く!」

 

 「はいっ!」

 

 「善子はさらに気持ち急いで!」

 

 「承知!空間移動を使うわ!」

 

 「あぁ・・・確かに善子みたいなセリフだわ」

 

 「何で遠い目をしてるの!?」

 

 東京から帰って来てからというもの、Aqoursは毎日練習に励んでいた。

 

 予備予選を突破した今、次に挑むのは地区予選だ。

 

 それを突破すると、いよいよ決勝・・・あのアキバドームのステージに立つことが出来る。

 

 地区予選の日がすぐそこまで迫っている中、全員今まで以上に気合いが入っていた。

 

 「よし、そろそろ休憩にしようか」

 

 俺の言葉を機に、皆がぐったりとその場に座り込む。

 

 「暑すぎずらぁ・・・」

 

 「今日も真夏日だもんねぇ・・・」

 

 溜め息をつく花丸とルビィ。

 

 この炎天下の中、屋上で練習はキツいよなぁ・・・

 

 「お疲れ。二人とも水分とって」

 

 「ありがとうずら!」

 

 「感謝すルビィ!」

 

 俺がペットボトルの水を手渡すと、二人とも笑顔で受け取ってくれる。

 

 疲れた表情はしているが、その中に充実感が感じられた。

 

 良い傾向だな・・・

 

 「あぁ、疲れた・・・」

 

 この炎天下の中、真っ黒なマントを着込み寝そべっている善子。

 

 ものすごい汗かいてるんだけど、大丈夫なんだろうか・・・

 

 「善子、黒い服は止めた方が良いって。熱を吸収するから余計にしんどくなるよ」

 

 「黒は堕天使のアイデンティティ・・・黒が無くては、生きていけないわ・・・」

 

 「死にそうになってるヤツが何言ってんの?」

 

 「これで死ぬなら・・・本望よ・・・ガクッ」

 

 「ザオ●ク」

 

 「アバババババッ!?」

 

 仰向けに寝ている善子の顔に向かって、ペットボトルの水をぶちまけてやった。

 

 「ちょ、何するのよ!?」

 

 「蘇生してあげました」

 

 「方法が荒くない!?」

 

 「方法は荒いけど、汗をかいた顔の洗いが出来たから良いじゃん」

 

 「全然上手くないわよ!?」

 

 ギャーギャー喚く善子。

 

 これだけ元気なら大丈夫だな。

 

 「はい、千歌ちゃんもお水」

 

 「ありがと!」

 

 曜からペットボトルの水を受け取る千歌さん。

 

 それを空に向けてかざし、眩しそうに目を細める。

 

 「私、夏好きだなぁ・・・何か熱くなれる!」

 

 「うわぁ・・・今度から話しかけないでもらって良いですか?」

 

 「何で!?」

 

 「夏なんて暑いだけじゃないですか。四季の中で最も要らない季節じゃないですか。好きになれる理由が分からないんですけど」

 

 「そこまで言う!?どんだけ夏嫌いなの!?」

 

 「あ、ちょっと近付かないで下さい・・・千歌だけに」

 

 「だから全然上手くないって!?」

 

 千歌さんまでギャーギャー喚き始める。

 

 暑苦しいなぁ、もう・・・

 

 「天ってば、夏嫌いは変わってないのねぇ・・・」

 

 呆れている鞠莉。

 

 「昔からそうだったけど、夏になると外に出るのを嫌がっちゃって・・・マリーは外で遊びたかったのに・・・」

 

 「鞠莉の白くて綺麗な肌を、太陽の下に晒して日焼けさせたくないんだよ・・・鞠莉のことが大事だから」

 

 「あ~ん、天大好き~♡マリーと一緒に、涼しい部屋で夏を過ごしましょ~♡」

 

 「あれ、鞠莉ってあんなにチョロかったっけ・・・」

 

 「完全に天さんの掌の上ですわね・・・」

 

 呆れている果南とダイヤさん。

 

 失礼な、まるで俺が鞠莉を弄んでるみたいに・・・

 

 「フフッ・・・涼しい部屋で、マリーと熱くて気持ち良いことしましょ♡」

 

 「今すぐ行こうか」

 

 「ダメに決まってるでしょ!?」

 

 何故か慌てて俺を抱き寄せる梨子。

 

 「そ、天くんは渡さないんだからっ!」

 

 「あら~?梨子はナニを想像したのかしら~?」

 

 ニヤニヤしている鞠莉。

 

 あっ、この子遊んでる・・・

 

 「っていうか梨子、そんなに密着されると暑いってば」

 

 「わ、私は暑くないもんっ!」

 

 「いや、メッチャ汗かいてるけど・・・」

 

 「あっ!?汗臭かった!?」

 

 「いや、むしろ凄く良い匂いがしてるんだけどさ・・・」

 

 どうして女の子って、こうも良い匂いがするんだろうか・・・

 

 「・・・じゃあ良いじゃない。もう少しこうしてても」

 

 背後から俺のお腹に手を回し、抱き締める力を強くする梨子。

 

 東京から帰って来てから・・・というか東京にいる時から、どうも梨子が距離を詰めてくる気がする。

 

 身体的接触が増えたというか・・・甘えたいお年頃なのかな?

 

 まぁ背中に二つの柔らかな感触が感じられて、俺としては万々歳なんだけども。

 

 「天くんって、鋭いのか鈍いのか分かんないよね・・・」

 

 何故か溜め息をつく曜。

 

 よく聞こえなかったが、何かバカにされた気がするな・・・

 

 「皆ー!今日のアイスは曜が奢ってくれるってー!」

 

 「ちょっと!?そんなこと一言も言ってないでしょうが!」

 

 「アハハ、まぁいつも通り一人百円ずつ出そうよ。十人で合計千円になるしさ」

 

 「じゃんけんで負けた一人が、そのお金で皆の食べたいアイスを買ってくるデース♪」

 

 「まぁ、負ける人は大体決まっているのですが・・・」

 

 「ちょ、こっち見ないでくれる!?」

 

 「善子ちゃんの運の無さも相変わらずずら」

 

 「流石は堕天使、運まで堕ちてるなんて・・・」

 

 「善子言うなっ!ずら丸も天も失礼なこと言うんじゃないわよ!?」

 

 ムキーッと怒る善子なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・何でいつも負けるのかしら」

 

 「堕天使だから」

 

 「関係なくない!?」

 

 善子のツッコミ。

 

 俺と善子は今、近くのコンビニにアイスを買いにやって来ていた。

 

 案の定善子はじゃんけんで負け、アイスを買いに行く係になってしまったのだ。

 

 「お会計が1,268円になります♪」

 

 「ちょ、高いアイス頼んだの誰よ!?」

 

 「まぁまぁ、これくらい良いじゃん・・・あっ、ハーゲンダ●ツにはスプーン付けてもらえますか?」

 

 「かしこまりました♪」

 

 「犯人アンタかあああああっ!?」

 

 「アハハ、オーバーした分はちゃんと払うって」

 

 苦笑しながら会計を済ませ、コンビニの外へと出る。

 

 ホントに暑いなぁ・・・

 

 「善子、早く学校に戻ろう。干乾びて死んじゃう」

 

 「だったら何で毎回コンビニまでついてくるのよ・・・」

 

 「この炎天下の中、善子一人に行かせるのは可哀想でしょ。しかも十人分のアイスなんて、結構な重さになるんだから」

 

 「・・・ホントにお人好しなんだから」

 

 呆れている善子。

 

 ちょっと頬が赤い気がするけど、この暑さのせいかな?

 

 「それにしても、未だに学校説明会への参加希望者が0とはねぇ・・・」

 

 「まぁ焦っても仕方ないでしょ。劇的に増えるものでも無いだろうし」

 

 善子の言葉に苦笑する俺。

 

 予備予選の時のライブ映像の再生回数は、あれからかなり伸びていた。

 

 にも関わらず、学校説明会への参加希望者は全く増えていない。

 

 やっぱり浦の星が超えるべきハードルは、音ノ木坂よりも高いようだ。

 

 「地区予選でも良いパフォーマンスが出来たら、結果も変わるかもしれないしさ。今は目の前のことに集中しよう」

 

 「・・・それもそうね」

 

 頷く善子。

 

 そんな会話をしながら歩いていると・・・

 

 「浦の星女学院・・・この辺りのはずなんだけど・・・」

 

 「見当たらないねぇ・・・」

 

 少し先で、女性二人がスマホと睨めっこをしていた。

 

 この距離だと声がよく聞こえないが、恐らく道に迷っているんだろう。

 

 「ゆけっ!善子!」

 

 「私はポ●モンかっ!何で私に行かせようとするのよ!?」

 

 「人見知りだから」

 

 「これを機に克服しろと!?方法がスパルタ過ぎない!?」

 

 「いや、人見知りの善子がテンパる様子を見たいだけ」

 

 「最低かっ!私は行かないからねっ!」

 

 「うわ、困ってる人を見捨てるなんて最低だね」

 

 「アンタが言うなっ!」

 

 ガルルルル・・・とこちらを威嚇してくる善子。

 

 仕方ないので、俺は女性達の近くへと歩み寄った。

 

 「すみません、何かお困りで・・・えっ?」

 

 そこまで言いかけたところで、俺は思わず声を上げてしまった。

 

 何故なら・・・

 

 「あぁ、すみません。ちょっと道が・・・えっ?」

 

 「あっ!?」

 

 顔を上げて俺を見るなり、驚いて目を見開く二人。

 

 二人とも帽子を被っていたので、遠くからではよく顔が見えなかったのだが・・・

 

 「絵里姉!?亜里姉!?」

 

 「「天ああああああああああっ!」」

 

 「ごふっ!?」

 

 絵里姉と亜里姉が、勢いよく俺に抱きついてくる。

 

 な、何で二人がこんなところにいるんだ・・・?

 

 「会いたかったわ天!会いたくて会いたくて震えてたわ!」

 

 「どこの西野●ナ!?」

 

 「会いたかった~♪YES!そ~ら~に~♪」

 

 「それはA●Bだよねぇ!?」

 

 「このボケる感じ・・・やっぱり姉弟ね、この三人」

 

 呆れている善子なのだった。




どうも〜、ムッティです。

いやぁ、Trysail良いですよねぇ(前書きの続き)

ちなみにどこかで言ったような気がしますが、天の名前の由来はTrysailのメンバー・雨宮天さんです。

いやまぁ由来っていうか、『天』と書いて『そら』と読む名前が良いなぁと思いまして・・・

男性にも女性にも使える名前ですし、主人公の名前として使わせていただきました。

ちなみに皆さん、Trysailの中だと誰推しでしょうか?

自分は凄く迷いますが・・・麻倉ももさんかな?

可愛いのは勿論のこと、あの甘い声が好き(^^)

メッチャ甘やかされたい!

頭をよしよしされながら甘い言葉を囁かれたい!

・・・私は何を言っているのだろう(´・ω・`)



さてさて、久しぶりに本編が始まりましたが・・・

何と絵里ちゃんと亜里沙ちゃんが内浦に来ました!

早速天にベッタリですが、果たしてどうなるのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【矢澤にこ】口には出せないけど・・・

またしても0時投稿出来なかった・・・

今回はにこちゃんの誕生日回です。

それではいくにこ!←


 「にこ~、朝だよ~」

 

 「ん~・・・」

 

 気持ち良さそうに眠るにこの身体を、優しく揺する。

 

 にこの瞼がゆっくりと開き、にこの顔を覗き込んでいる俺と目が合った。

 

 「天ぁ・・・?」

 

 「おはよう、にこ。起きる時間だよ」

 

 「・・・あと五分」

 

 「“檸檬●弾”」

 

 「ギャアアアアアッ!?目がッ!?目があああああッ!?」

 

 にこの瞼を手で無理矢理開け、レモンを思いっきり握り潰す。

 

 大量のレモン汁が目に入ったにこが、悲鳴を上げながらのた打ち回っていた。

 

 「おはよう、にこ。誕生日おめでとう」

 

 「祝福するならもっと優しく起こしなさいよ!?メッチャ目が痛いんだけど!?」

 

 「ドンマイ」

 

 「誰のせいだと思ってんの!?」

 

 「にこが起きないせいでしょ」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まるにこ。

 

 やれやれ・・・

 

 「あと、そろそろ身体を隠したら?」

 

 「身体?何の話・・・っ!?」

 

 そこでにこもようやく気付いたらしい。

 

 自分が全裸だということに。

 

 「キャアッ!?」

 

 「いや、そんなに恥ずかしがる?もう何度も見てるんだし、昨日の夜だって・・・」

 

 「そういう問題じゃないわよ!?」

 

 慌てて布団で身体を隠すにこ。

 

 顔が真っ赤になっている。

 

 「アハハ、俺の嫁は相変わらず乙女だなぁ」

 

 「うっさい!早く出てけバカ旦那!」

 

 「はいはい。もう朝ご飯の準備出来てるからね」

 

 笑いながら部屋を出る俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「お兄様、今日の夕飯のメニューはお決まりですか?」

 

 長い黒髪をサイドテールに結った女性が、隣を歩きながら尋ねてくる。

 

 彼女は矢澤こころちゃん、矢澤家の次女である。

 

 「勿論。今日はにこの誕生日だし、にこの好物をフルコースで出すつもりだよ」

 

 「フフッ、お姉様が喜びそうですね」

 

 クスクス笑うこころちゃん。

 

 μ'sが活動していた当時は小学生だった彼女も、今では大学四年生になっていた。

 

 今日は大学の講義が無いということで、こうして夕飯の買い出しに付き合ってくれているのだ。

 

 「いやぁ、お兄は良い旦那さんだねぇ」

 

 肩にかかるくらいまで伸びた茶髪を、同じくサイドテールに結った女性がニヤニヤしながらそう言う。

 

 矢澤ここあちゃん、矢澤家の三女である。

 

 「こんな旦那さんがいるなんて、お姉が羨ましいなぁ」

 

 「ここあちゃんはモテるんだし、男なんて選び放題でしょ」

 

 「いや、全然モテないって。そもそも大学に良い男もいないしねぇ」

 

 溜め息をつくここあちゃん。

 

 こころちゃんの双子の妹である彼女も、今では大学四年生になりこころちゃんと同じ大学に通っている。

 

 ここあちゃんも今日は大学の講義が無いとのことで、俺に付き合ってくれていた。

 

 「それにしても、お姉とお兄が結婚してもう一年かぁ・・・相変わらず仲良いよね」

 

 「当然。夫婦の営みもバッチリだぜ」

 

 「お、お兄様・・・そういった話はあまりされない方がよろしいかと・・・」

 

 顔を赤くしているこころちゃん。

 

 俺とにこが結婚したのは一年前・・・俺が大学を卒業したのと同時に籍を入れ、俺達は晴れて夫婦となった。

 

 その頃には既にバリバリ働いていたにこには当然、仕事を辞めて専業主婦になるという考えは無かった。

 

 そこで逆に俺が就職せず、専業主夫を務めることになったのだ。

 

 それと同時に矢澤家に引っ越し、今では矢澤ファミリーの一員となっている。

 

 「あれぇ?お兄は『夫婦の営み』としか言ってないのに・・・こころったら、何で顔を赤くしてるのかなぁ?」

 

 「だ、だって『夫婦の営み』といったら・・・!」

 

 「こころちゃん・・・俺の知らない間に、君の心は汚れてしまったんだね・・・」

 

 「お兄様!?」

 

 「俺はあくまでも『夫婦としての関係はバッチリ』って言ったつもりだったのに・・・」

 

 「えぇっ!?」

 

 「アタシもそう捉えてたのになぁ・・・」

 

 「嘘でしょう!?」

 

 「「うん、嘘」」

 

 「息ぴったりですかっ!」

 

 こころちゃんのツッコミ。

 

 いやぁ、こころちゃんは面白いなぁ。

 

 「フッフッフッ、お兄も悪よのぅ・・・」

 

 「いやいや、ここあちゃんほどでは・・・」

 

 「も、もう知りませんっ!」

 

 ぷいっと顔を背けてしまうこころちゃん。

 

 あー、いじけちゃった・・・

 

 「アハハ、ゴメンゴメン」

 

 苦笑しながら謝り、こころちゃんの手を取る。

 

 「ほら、早く行こう?」

 

 「っ・・・全くもう、お兄様ったら・・・」

 

 「あっ、ズルい!アタシも!」

 

 「はいはい」

 

 もう片方の手をここあちゃんと繋ぎ、三人で歩き出す。

 

 「さて、愛する妻の誕生日を盛大に祝うとしますか」

 

 「なお、その愛する妻の妹二人と手を繋いでいる模様」

 

 「全然やましくないもん。だって家族だもん」

 

 「妻の妹と不倫・・・ありそうな話だよねぇ」

 

 「不倫とか無い無い。俺は多目的トイレに女性を呼び出すなんてマネしないから」

 

 「お兄様!?誰のことをおっしゃっているのですか!?」

 

 「えっ、こころちゃん知らないの?ネット見ろ!」

 

 「そのネタもダメです!」

 

 「センテンススプリング!」

 

 「それは別の人ですよねぇ!?」

 

 ツッコミが止まらないこころちゃんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「にこ、誕生日おめでとう!」

 

 「おめでとうございます、お姉様!」

 

 「お姉、おめでとう!」

 

 「おめでと~」

 

 「あ、ありがと・・・」

 

 少し照れ臭そうにお礼を言うにこ。

 

 にこが仕事から帰って来たところで、俺達はにこの誕生日を盛大に祝っていた。

 

 「それにしても、お母様がいないのは残念ですね・・・」

 

 「仕方ないよ。琴乃さんは忙しいもん」

 

 にこの母親にして俺の義母でもある矢澤琴乃さんは、現在仕事で出張中だ。

 

 にこの誕生日に、家に居られないと知った時の琴乃さんの荒れっぷりといったら・・・

 

 遅くまでヤケ酒に付き合わされたっけなぁ・・・

 

 「全く、にこは愛されてるねぇ・・・」

 

 「な、何よ急に・・・」

 

 「俺も愛してるよ、にこ」

 

 「っ・・・み、皆の前でそういうこと言わないのっ!」

 

 「アハハ、お姉ったら顔真っ赤じゃん!」

 

 「うっさいここあ!」

 

 「お姉様、少しは素直になられた方がよろしいですよ?」

 

 「こころ!?」

 

 「にこ姉はツンデレだもんね」

 

 「虎太郎まで!?」

 

 矢澤家の長男である虎太郎くんにまでイジられ、ショックを受けているにこ。

 

 「アハハ、虎太郎くんも言うようになったねぇ・・・あっ、ご飯おかわり要る?」

 

 「お願い、天兄」

 

 茶碗を差し出してくる虎太郎くん。

 

 今年の四月から大学生になった虎太郎くんは、矢澤家の中で一番の長身になっていた。

 

 出会った当時は幼稚園児だったのに、時が経つのは早いなぁ・・・

 

 「オッケー。どんどんご飯を食べて、北●晶みたいな男になってね」

 

 「いや、あの人女だから。そこは佐々木●介で良くない?」

 

 「おぉ、流石は矢澤家の人間・・・ツッコミがキレキレだわ」

 

 「いつも天と一緒にいたら、自然にツッコミ力も上がるわ」

 

 溜め息をつくにこ。

 

 「天、私にもご飯のおかわりくれる?」

 

 「25,252円になります」

 

 「有料!?しかもメッチャ高くない!?」

 

 「『にっこにっこにー』だけにね」

 

 「別に上手くないわよ!?」

 

 「アハハ、冗談冗談」

 

 「全く、相変わらずボケ倒すんだから・・・」

 

 呆れているにこ。

 

 一方、他の三人は笑っていた。

 

 「フフッ、これがホントの夫婦漫才ってヤツですね」

 

 「誰が夫婦漫才よ!?」

 

 「いやぁ、息ピッタリ!流石は夫婦!」

 

 「ここで褒められても嬉しくないわっ!」

 

 「にこ姉、仕事辞めて天兄と芸人を目指したら?」

 

 「無理に決まってるでしょうが!」

 

 「そうだよ虎太郎くん、俺は社長に恫喝されるとか嫌だからね?」

 

 「アンタはどこの会社の話してんのよ!?」

 

 「あっ・・・お前ら、テープ回してへんやろな?」

 

 「止めなさい!?それは危ないわよ!?」

 

 「危ない?反社の人間でもいた?」

 

 「そのネタが危ないって言ってんのよ!?」

 

 ツッコミを入れすぎて、ゼェゼェ息切れしているにこ。

 

 面白いなぁ・・・

 

 「流石は俺の嫁、ツッコミのスキルが違うわ」

 

 「誰のせいで鍛えられたと思ってんのよ!?」

 

 「・・・本当にお似合いの二人だよね」

 

 「「確かに」」

 

 虎太郎くんの呟きに、笑いながら頷くこころちゃんとここあちゃんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《にこ視点》

 

 「天~、お風呂空いたわよ~」

 

 お風呂から上がった私は、キッチンにいる天に声をかけた。

 

 「オッケー、今入るよ」

 

 笑顔で返事をする天。

 

 夕飯の後片付けも終わったというのに、天は何やらキッチンで作業をしていた。

 

 「何してるの?」

 

 「明日の皆のお弁当の準備。今日の余り物とか使えそうだし、今のうちに小分けにして準備しておこうと思って」

 

 手際よく作業している天。

 

 天は毎朝、私達五人のお弁当を作ってくれている。

 

 おまけに家事全般を全てこなしてくれているので、こっちとしては本当に大助かりなのだが・・・

 

 「・・・ねぇ、天」

 

 「ん?」

 

 「専業主夫・・・大変じゃない?」

 

 私が今の仕事を続けられるよう、天は今の役目を引き受けてくれた。

 

 本当にありがたいと思うのと同時に・・・天に対しての申し訳無さもあった。

 

 「もし天が負担を感じてるなら、その・・・」

 

 「・・・にこ」

 

 天に抱き寄せられる。

 

 私の身体が、天の腕の中にすっぽりと収まった。

 

 「負担なんて感じてないよ」

 

 微笑む天。

 

 「仕事をしてる時のにこ、凄く活き活きしてる。そんなにこを見られるのが俺は嬉しいし、そんなにこの力になれるならいくらでもなりたいと思う」

 

 「天・・・」

 

 「こころちゃんもここあちゃんも、虎太郎くんも琴乃さんも・・・今の俺にとって本当の家族だから。家族の為に頑張るのは当然でしょ?」

 

 天に頭を撫でられる。

 

 「俺は今、凄く幸せだよ。にこと一緒になれて、矢澤家の一員になれて・・・良かったなって、心からそう思う。だからにこは、今の仕事を思いっきり頑張ってほしい。それが俺の願いだよ」

 

 「・・・変わらないわね、アンタ」

 

 天の背中に手を回す。

 

 本当に天は、昔と全然変わらない。

 

 「全く、底なしのお人好しなんだから・・・」

 

 この優しさに、私はどれほど救われただろう・・・

 

 天がいなかったら、きっと今の私はいない。

 

 照れ臭くて、なかなか口には出せないけど・・・本当に感謝していた。

 

 「・・・お風呂」

 

 「え?あぁ、うん。今入るよ」

 

 「・・・私も一緒に入る」

 

 「はい?」

 

 首を傾げている天の手を引き、お風呂場へと向かう私。

 

 「さぁ、行くわよ」

 

 「ちょ、にこは今上がったばかりじゃ・・・」

 

 「もう一度入りたい気分なの。夫婦水入らずで、裸の付き合いといこうじゃない」

 

 「いや、俺に裸見られて良いの?」

 

 「良いに決まってるでしょ。夫婦なんだから」

 

 「朝はメッチャ恥ずかしがってたじゃん」

 

 「私、過去は振り返らないから」

 

 「今朝の話だよねぇ!?」

 

 「うっさい!良いから行くわよ!」

 

 本当はメチャクチャ恥ずかしいけど・・・

 

 感謝の言葉を口に出来ないのなら、行動で示すしかない。

 

 「この宇宙No.1嫁のにこが、アンタの背中を流してあげるわ!光栄に思いなさい!」

 

 「いや、気持ちは嬉しいんだけどさぁ・・・愛する嫁の裸を前に、理性を保てる気がしないんだけど・・・」

 

 「・・・良いわよ」

 

 「え・・・?」

 

 キョトンとする天に、私は顔を赤くしながらもハッキリと告げた。

 

 「・・・天の好きにして良いから」

 

 「っ・・・」

 

 天の顔も赤くなる。

 

 私の誕生日の夜は、まだまだ終わりそうにないのだった。




にっこにっこにー!ムッティです。

にこちゃんの誕生日回、いかがでしたか?

本編には登場していませんが、今回はこころちゃん・ここあちゃん・虎太郎くんも登場させてみました!

キャラや年齢は想像で描いておりますので、悪しからず・・・

ちなみに今回、こころちゃんとここあちゃんは双子設定です。

アニメでは違っていましたが、元々は双子設定らしいですね。

大きくなった二人のイラストをネットで見ましたが、メッチャ可愛かったなぁ( ´∀`)

それとにこちゃんママの名前ですが、琴乃さんにしてみました。

由来は勿論、声優さんの名前です( ̄ー ̄)



さてさて、恒例の支援絵紹介タイム!

ことりちゃん大好きさんから、こちらの支援絵をいただきました!


【挿絵表示】


にこちゃんキタアアアアアッ!!!!!

『僕たちはひとつの光』の時のにこちゃんですね。

相変わらず上手すぎや・・・

ことりちゃん大好きさん、いつもありがとうございます(^^)



次回の誕生日回は、8月1日の千歌ちゃんを予定しております。

その次が、8月3日の穂乃果ちゃんですね。

・・・誕生日回、間に合うかな(´・ω・`)

が、頑張ります((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【高海千歌】願わくば・・・

何か最近、誕生日回を23時に投稿する流れになってるような気がする・・・

いや違うの、本当はちゃんと0時に投稿したいの(´・ω・`)

まぁそれはさておき・・・

千歌ちゃんの誕生日回、いってみよー!


 「アルバイト、ですか?」

 

 「うん、お願い出来ないかな?」

 

 両手を合わせる千歌さん。

 

 もうすぐ七月が終わろうとしている中、俺は千歌さんから『十千万』でアルバイトしてほしいとお願いされていた。

 

 「八月一日なんだけど、観光ツアーのお客さんで部屋が満室になっちゃったの。お母さんは東京に行ってていないし、志満姉だけじゃ手が足りなくて・・・美渡姉と私も手伝うんだけど、力仕事もあるから男手が欲しいっていう話になったんだよね」

 

 「なるほど、そういうことですか」

 

 それは確かに大変そうだな・・・

 

 高海三姉妹だけで回せるかどうか・・・

 

 「一日から二日にかけて、力を貸してもらえないかな?勿論バイト代は弾むし、ご飯はウチでご馳走するからさ」

 

 「んー、どうしようかなぁ・・・」

 

 「あと志満姉が、『天くんに来てもらえたら嬉しいわ』って・・・」

 

 「行きます」

 

 「急に即答!?今『どうしようかなぁ・・・』って言ってたよねぇ!?」

 

 「嫁のピンチに駆けつけない夫がどこにいるんですかっ!」

 

 「サラッと人の姉を『嫁』呼ばわりしないでくれる!?」

 

 「絢瀬志満・・・良い響きですよね」

 

 「人の話聞いてる!?」

 

 「あ、高海天も良いですね」

 

 「だから人の話を聞いてってば!?」

 

 ギャーギャー騒いでいる千歌さん。

 

 全く、これだからアホみかんは・・・

 

 「っていうか、八月一日って千歌さんの誕生日じゃないですか。せっかくの誕生日なのに、旅館の手伝いで潰しちゃって良いんですか?」

 

 「仕方ないでしょ。こういう状況なんだから」

 

 苦笑する千歌さん。

 

 「それに私、『十千万』好きだから。私で力になれるなら、精一杯頑張りたいんだ」

 

 「・・・相変わらずですね、貴女も」

 

 口ではそう言いながらも、密かに感心してしまう俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「天くん、こっち手伝ってもらっていいかしら?」

 

 「はい喜んで!」

 

 「天く~ん、こっち手伝って~」

 

 「自分でやって下さい」

 

 「この扱いの差は何!?」

 

 千歌さんのツッコミ。

 

 八月一日、俺はアルバイトの為『十千万』へとやって来ていた。

 

 「当たり前じゃないですか。嫁を大事にしない夫がどこにいるんですか」

 

 「本当に志満姉のこと好きだよね・・・」

 

 「どうしようもなく溢れ出す想いを伝えると、やっぱ大好きしか出てこないです」

 

 「どっかで聞いたことのある歌詞なんだけど!?」

 

 「まぁあのグループで一番ファンキーだった人は、嫁は嫁でも他人の嫁を寝取ってましたけどね」

 

 「その話題に触れるのは止めたげて!?」

 

 必死に止めてくる千歌さん。

 

 志満さんがクスクス笑っている。

 

 「あらあら、仲が良いわね。天くんは私と千歌ちゃん、どっちが好きなのかしら?」

 

 「申し訳ございませんが、千歌さんのこともあるので・・・俺の心の内を今ここでしゃべることは、千歌さんを傷つけることになると思いますので・・・申し訳ございません」

 

 「それ絶対『志満姉の方が好き』って言ってるよねぇ!?っていうか、その質問と回答も最近どっかで聞いたんだけど!?」

 

 「ずいぶん不倫系のネタに詳しいですね」

 

 「天くんに言われたくないわっ!」

 

 「アハハ、相変わらず漫才やってるねぇ」

 

 美渡さんがゲラゲラ笑いながらこちらへやって来る。

 

 「アンタ達、実は結構お似合いのカップルなんじゃない?」

 

 「誰がカップルですか。美渡さんは他人のことより、ガサツな自分のことを好きになってくれる相手を見つけた方が良いですよ」

 

 「誰がガサツじゃゴラァ!」

 

 「カ、カップル・・・」

 

 何故か顔を赤くしている千歌さんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あぁ、極楽ぅ・・・」

 

 温泉に浸かる俺。

 

 一日の仕事も終わった頃には、すっかり夜遅い時間になっていた。

 

 アルバイトは明日、お客さんが全員チェックアウトするまで続くことになっている。

 

 なので今日は、『十千万』に泊めてもらうことになっていた。

 

 「しかしまぁ、旅館の仕事って大変だなぁ・・・」

 

 この仕事を毎日やっている志満さんは、本当に凄いと思う。

 

 俺が改めて志満さんに敬意を抱いていると・・・

 

 「お風呂だ~っ!」

 

 目の前の扉が勢いよく開き、そこには・・・

 

 全裸の千歌さんが立っていた。

 

 「「・・・え?」」

 

 俺と千歌さんの目が合い、お互い硬直する。

 

 いつもとは違い下ろしている髪、意外に大きめな胸、案外スタイルの良い身体・・・

 

 「・・・千歌さんって、実は結構ナイスバディなんですね」

 

 「キャアアアアアアアアアアッ!?」

 

 顔を真っ赤にして、慌てて身体を隠す千歌さん。

 

 「な、ななな何で天くんがここにいるの!?」

 

 「何でって、美渡さんが大浴場に入って良いって言うから・・・もうお客さんが入れる時間帯を過ぎてますし」

 

 「ここ女湯だよ!?男湯は隣だから!」

 

 「いや、ちゃんと男湯の暖簾をくぐりましたけど」

 

 『アハハハハッ!』

 

 竹でできた壁の向こうから、美渡さんの笑い声が聞こえてくる。

 

 「美渡姉!?そこにいるの!?」

 

 『いやぁ、大成功!』

 

 爆笑している美渡さん。

 

 『天が入る前に暖簾を逆にしておいて、入った後に戻したんだよねー!千歌と鉢合わせするように仕向けたんだけど、上手く行き過ぎてビックリだわ!』

 

 「何してくれちゃってんの!?」

 

 千歌さんのツッコミ。

 

 やってくれたな、あの人・・・

 

 『千歌!私からの誕生日プレゼント、しっかり受け取りなよ!』

 

 「これのどこか誕生日プレゼントなの!?」

 

 『ニシシ、それじゃあ後はお二人で♪』

 

 「ちょ、美渡姉!?」

 

 向こうで扉が開く音がして、美渡さんの声が聞こえなくなる。

 

 逃げたな・・・

 

 「うぅ、美渡姉のバカァ・・・」

 

 「千歌さんもそんなところに蹲ってないで、お湯に浸かったらどうですか?」

 

 「何で天くんは平然としてるの!?ここ一応女湯だよ!?」

 

 「他の人が入ってこないなら、どっちだって良いでしょ」

 

 「全然良くないよ!?」

 

 「とにかく、いつまでもそうしてるわけにはいかないでしょ。後ろ向いててあげますから、早くお湯に浸かって下さい」

 

 「うぅ・・・」

 

 俺が後ろを向くと、諦めたのか千歌さんが温泉に入ってくる音が聞こえた。

 

 「も、もう良いよ・・・」

 

 千歌さんに声をかけられ、再び顔を千歌さんの方へと戻す。

 

 この温泉は乳白色なので、浸かってしまえばお互いの身体が見えることはないのだ。

 

 「み、見苦しいものをお見せしました・・・」

 

 「御馳走様でした」

 

 「御馳走様って何!?」

 

 「おかげでしばらくは困らないと思います」

 

 「何に!?」

 

 ツッコミを連発する千歌さんだったが、やがてクスッと笑みを零した。

 

 「・・・フフッ」

 

 「急に笑うの止めてもらえます?気持ち悪いんで」

 

 「ホント辛辣だね・・・まぁ、天くんらしいけど」

 

 苦笑する千歌さん。

 

 「何て言うか、思い出しちゃってさ・・・初めて出会った時から、天くんとはこんな感じだったなぁって」

 

 「・・・そう言えばそうでしたね」

 

 浦の星にやって来た俺を、千歌さんが不審者と勘違いして・・・

 

 今にして思えば、あの出会いが全ての始まりだった。

 

 「・・・一度しか言わないんで、よく聞いて下さいね」

 

 「天くん?」

 

 首を傾げる千歌さん。

 

 せっかくの誕生日なんだから、日頃なかなか照れ臭くて言えない気持ちを言ってみるのも良いだろう。

 

 「内浦に来て、浦の星に入って・・・千歌さんに出会えて良かった」

 

 「っ・・・」

 

 「今、俺がここで充実した日々を過ごせているのは・・・あの日、千歌さんに出会えたからです。千歌さんがいつも明るく、元気に俺の手を引いてくれたから・・・俺はここまで来ることが出来ました。本当に感謝してます」

 

 千歌さんが驚きで目を見開く中、俺は笑みを浮かべた。

 

 「誕生日、おめでとうございます。これからもよろしくお願いしますね・・・リーダー」

 

 千歌さんが俯き、肩をわなわなと震わせている。

 

 そして・・・

 

 「天くんんんんんんんんんんっ!」

 

 「ごふっ!?」

 

 勢いよく抱きついてきた。

 

 「嬉しいよ天くんっ!そんな風に思ってくれてたなんてっ!」

 

 「ちょ、千歌さん!?俺達二人とも素っ裸なんですよ!?そんな状態で抱きついたら・・・!」

 

 「私は気にしないもんっ!」

 

 「さっき悲鳴上げて蹲ってませんでした!?」

 

 千歌さんの身体の感触がダイレクトに伝わってきて、本当に色々ヤバいっ!

 

 このままだと俺の理性が消し飛ぶっ!

 

 「ちょっと千歌ちゃん?もう少し静かに・・・」

 

 突然扉が開き、千歌さんを注意しようとした志満さんが俺達を見て固まった。

 

 「ち、違うんです志満さんっ!これは・・・」

 

 「・・・【悲報】夫と妹が不倫していた件について」

 

 「止めて!?」

 

 スマホを取り出す志満さんを、慌てて制止する俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《千歌視点》

 

 翌朝・・・

 

 「ふわぁ・・・」

 

 ベッドから起き上がり、大きな欠伸をする。

 

 ふと横を見ると、隣に敷いた布団で天くんがスヤスヤと眠っていた。

 

 「フフッ、よく寝てるなぁ・・・」

 

 客室がいっぱいで泊まる場所が無かったので、昨夜は私の部屋で寝てもらったのだ。

 

 美渡姉の策略に嵌まるわ、天くんに裸を見られるわ、志満姉に勘違いされるわ・・・

 

 ホント散々だったなぁ・・・

 

 「・・・ま、いっか」

 

 昨日の天くんの言葉を思い出し、思わず顔が綻んでしまう。

 

 『出会えて良かった』と言ってくれたことが、どうしようもなく嬉しかった。

 

 「そんなの・・・私も一緒だよ」

 

 あの日天くんに出会えたから、今の私がいる・・・

 

 天くんがいなかったら、きっと私はここまで来られなかった。

 

 だからこそ、天くんには本当に感謝しているのだ。

 

 「全く・・・天くんは罪深い男の子だよ、ホント」

 

 Aqoursのメンバーは多かれ少なかれ、天くんに好意を寄せている。

 

 梨子ちゃんや鞠莉ちゃんなんて、本当に分かりやすいアピールをしているほどだ。

 

 そして私も例に漏れず・・・天くんのことを想っていた。

 

 「・・・こんな気持ち、初めてだな」

 

 今まで恋なんてしたことなかったけど・・・

 

 私は天くんに対して、生まれて初めての恋心を抱いていた。

 

 それを察した美渡姉が、美渡姉なりに気を利かせてあんなことをしたんだろうけど・・・

 

 流石にアレはやり過ぎだと思う。

 

 「・・・まぁ、そのおかげで昨日の言葉が聞けたんだけどさ」

 

 それに免じて、昨日のことは許してあげることにする。

 

 私はベッドを抜け出すと、天くんの枕元に座り込んだ。

 

 「・・・いつもありがとう、天くん」

 

 天くんの頭を撫でる。

 

 「これからもずっと・・・私を支えてね」

 

 願わくば、いつまでも天くんと一緒にいたい・・・

 

 心からそう思う私なのだった。




どうも〜、ムッティです。

今日から8月に入りましたね。

梅雨も明け、いよいよ夏本番・・・

テンション下がるわぁ(´д`|||)

まぁそれはさておき千歌ちゃん、誕生日おめでとう\(^o^)/

あと、不倫ネタをぶっ込みまくってゴメン(笑)

何だかんだ、天と千歌ちゃんも良いコンビだと思うんですよね。

完全にボケとツッコミですし(笑)

果たしてAqoursのリーダーは、本編でヒロインになれるのか・・・

リーダーといえば、二日後はμ'sのリーダーである穂乃果ちゃんの誕生日ですね。

・・・誕生日回、全然書けてねぇや(´・ω・`)

が、頑張ります(震え声)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【高坂穂乃果】素直な気持ちを・・・

な〜つよ終〜わ〜れ〜(切実)

それはさておき、今回は穂乃果ちゃんの誕生日回です!

それではいってみよー!


 「んー・・・今日も良い天気だなぁ・・・」

 

 玄関から外に出た俺は、空を見上げながら身体を伸ばしていた。

 

 すると・・・

 

 「おはようございます、天」

 

 不意に声をかけられる。

 

 ランニングウェア姿の海未ちゃんが、こちらに向かって走ってくるところだった。

 

 「おはよう、海未ちゃん。毎朝よくランニング続けられるね」

 

 「日課ですから。天こそ毎朝早いですね」

 

 「仕込みがあるからね」

 

 他愛も無い会話をする俺達。

 

 「穂乃果は・・・まだ寝てそうですね」

 

 「うん、まだ熟睡してたよ」

 

 俺が苦笑しながら言うと、海未ちゃんが溜め息をついた。

 

 「穂乃果も起きないといけない時間でしょうに・・・叩き起こした方が良いのでは?」

 

 「まぁお店が開くまでまだ時間あるし、大丈夫でしょ」

 

 「ハァ・・・天は穂乃果に甘すぎます。もう少し厳しくした方が良いと思いますよ?」

 

 「海未ちゃんが厳しくしてくれるし、俺は甘くても良いでしょ」

 

 「天だけでなく、ことりも甘いのでダメです。全然相殺出来てません」

 

 「大丈夫。その分雪穂ちゃんが厳しいから」

 

 そんな会話をしていると・・・

 

 『いつまで寝てるのお姉ちゃんっ!いい加減起きなさいっ!』

 

 『ギャアアアアアッ!?』

 

 雪穂ちゃんの大声と、穂乃果の悲鳴が聞こえてきた。

 

 あぁ、やっぱり・・・

 

 「ほらね?」

 

 「流石は雪穂です」

 

 感心している海未ちゃん。

 

 「天もあれくらいやってしまって良いと思います」

 

 「俺には無理かなぁ・・・」

 

 苦笑しながら答える俺なのだった。

 

 「何と言っても・・・愛する妻だもん」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「うぅ、雪穂に苛められたぁ・・・」

 

 「よしよし、こっちおいで」

 

 涙目の穂乃果を優しく抱き締める。

 

 俺達は今、『穂むら』の開店準備をしていた。

 

 「えへへ、やっぱり天くんは温かいなぁ」

 

 「母親の前で、よく平然と甘えられるわねぇ・・・」

 

 俺の胸元に顔を埋める穂乃果を見て、秋穂さんが呆れていた。

 

 「全く、見てるこっちが恥ずかしいわ・・・」

 

 「夫婦なんだから良いじゃん!」

 

 「はいはい」

 

 溜め息をつく秋穂さん。

 

 俺と穂乃果が結婚したのは、今から一年半ほど前のことだ。

 

 俺の大学卒業と同時に結婚した俺達は、穂乃果の実家での暮らしをスタートさせた。

 

 それと同時に、俺は『穂むら』に就職。

 

 義父となった大将に弟子入りし、和菓子職人となる為に日々修行をさせてもらっている。

 

 穂乃果も『穂むら』での仕事を秋穂さんから本格的に教わり始めており、ゆくゆくは二人で『穂むら』を継ぎたいと考えていた。

 

 「さて、そろそろ大将の手伝いに行ってくるかな」

 

 「お願いね、天くん。ほら穂乃果、天くんから離れなさい」

 

 「僕は嫌だ!」

 

 「何で不●和音!?」

 

 「殴れば良いさ!」

 

 「ホントに殴って良いかしら!?」

 

 「穂乃果、また後で。ね?」

 

 「うぅ・・・」

 

 名残惜しそうに俺から離れる穂乃果。

 

 俺は穂乃果に顔を近付けると・・・そのまま穂乃果の唇を奪った。

 

 「っ!?」

 

 「御馳走様。今日も一日頑張ろうね」

 

 「う、うん・・・」

 

 「・・・天くんの方が大胆だったわね」

 

 顔を真っ赤にする穂乃果と、苦笑する秋穂さんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「今日も疲れたぁ・・・」

 

 「そうだねぇ・・・」

 

 穂乃果と二人揃って、ベッドに横たわっている俺。

 

 お店の仕事も終わり、俺達はまったりと自分達の時間を過ごしていた。

 

 「それにしても、天くんもすっかりこの家に馴染んでるよね」

 

 「それは自分でも思うわ」

 

 元々大将や秋穂さん、雪穂ちゃんとは仲良くさせてもらってたけど・・・

 

 今では心から皆を『家族』と呼ぶことが出来る。

 

 俺はもうすっかり、高坂家の一員になったようだ。

 

 「・・・フフッ」

 

 「穂乃果?」

 

 突然笑みを零した穂乃果に、首を傾げる俺。

 

 「天くんが家族になるなんて、あの頃は想像もしてなかったよ」

 

 「確かにねぇ・・・」

 

 あの穂乃果と結婚することになるなんて、当時は思ってもみなかった。

 

 俺と穂乃果は、そういう関係になることは無いだろうと思っていたから。

 

 「俺達が初めて会った時のこと、覚えてる?」

 

 「勿論覚えてるよ」

 

 笑う穂乃果。

 

 「私が店番してた時に、まだ小さかった天くんが一人でお店に入ってきてさ。目をキラキラさせながらウチの和菓子を見つめてて・・・可愛かったなぁ」

 

 「アハハ、初めて見る和菓子に感動しちゃって」

 

 苦笑する俺。

 

 その時に穂乃果が試食させてくれて、その美味しさにまた感動して・・・

 

 その日以来度々店を訪れるようになって、穂乃果や高坂家の皆と仲良くなって・・・

 

 ことりちゃんや海未ちゃんにも出会えたんだよな・・・

 

 「今にして思えば・・・あの日穂乃果と出会えたことが、全ての始まりだったような気がするよ」

 

 「・・・私もそう思う。あの日天くんと出会えたから、今の私があるんだなって」

 

 俺の手をギュッと握る穂乃果。

 

 「μ'sとして駆け抜けることが出来たのも、天くんのおかげだもん」

 

 「・・・それは違うよ」

 

 穂乃果の手を握り返す。

 

 「μ'sが駆け抜けることが出来たのは・・・穂乃果が先頭を走ってくれたから。だからこそ皆、迷わずに全力で走れたんだよ」

 

 「天くん・・・」

 

 「・・・ありがとね、穂乃果」

 

 穂乃果を優しく抱き締める。

 

 「穂乃果に出会えて良かった。あの時の経験は、穂乃果と出会えてなかったら絶対に経験出来なかったことだから」

 

 微笑む俺。

 

 「出会ってくれてありがとう。穂乃果に出会えて、夫婦になれて・・・俺は幸せだよ」

 

 「っ・・」

 

 穂乃果の顔が真っ赤になる。

 

 「もう・・・天くんはズルいよぉ・・・」

 

 「せっかくの誕生日なんだもん。素直な気持ちを伝えなきゃね」

 

 そう、今日は穂乃果の誕生日なのだ。

 

 素直な気持ちを口にするのは恥ずかしいが、こういう時くらいは素直にならないと。

 

 「素直に、か・・・」

 

 穂乃果は小さく呟くと、俺の上に馬乗りになってきた。

 

 「ほ、穂乃果・・・?」

 

 「素直になって良いんだよね・・・?」

 

 「え?あ、うん・・・」

 

 「だったら・・・えいっ」

 

 穂乃果に唇を奪われる。

 

 あまりの速さについていけない。

 

 「ぷはっ・・・ちょ、穂乃果!?」

 

 「天くん・・・今夜は寝かさないからね・・・?」

 

 「え、ちょ・・・」

 

 「覚悟おおおおおおおおおおっ!」

 

 「うわぁっ!?」

 

 この日の夜、全然眠れなかったことは言うまでもないのであった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《穂乃果視点》

 

 翌朝・・・

 

 「・・・ちょっとハッスルし過ぎた」

 

 うつ伏せの状態で固まっている私。

 

 うぅ、腰が痛い・・・

 

 「私はまぁ良いとして・・・天くん大丈夫かなぁ・・・」

 

 隣で気絶している天くんに目をやる。

 

 流石にやり過ぎたかな・・・

 

 「・・・ま、いっか」

 

 苦笑しながら天くんの顔を眺めていると、昨日天くんが言ってくれた言葉が蘇った。

 

 

 

 

 

 『μ'sが駆け抜けることが出来たのは・・・穂乃果が先頭を走ってくれたから。だからこそ皆、迷わずに全力で走れたんだよ』

 

 

 

 

 

 「私が先頭を走れたのは・・・天くんのおかげなんだよ」

 

 呟く私。

 

 「いつでも天くんが私を支えてくれたから、いつでも天くんが皆に寄り添ってくれたから・・・だから私は先頭を走れたし、皆も全力で走れたんだよ」

 

 μ'sが駆け抜けることが出来たのは、天くんのおかげだ。

 

 でもそれを本人に言っても、昨夜のように『そんなことない』と否定することだろう。

 

 本当に謙虚な人だと思う。

 

 「・・・まぁ、そこが天くんの良いところなんだけどさ」

 

 天くんの頭を撫でる私。

 

 「私の方こそありがとう、天くん」

 

 昨夜彼に伝えられなかった言葉を、今ここで口に出す。

 

 「私も天くんに出会えて、夫婦になれて・・・本当に幸せだよ」

 

 「・・・それは良かった」

 

 「っ!?」

 

 天くんの目が開き、穏やかな微笑を浮かべていた。

 

 「お、起きてるなら言ってよ!?」

 

 「アハハ、おかげで嬉しい言葉が聞けたよ」

 

 天くんはそう言うと、私を抱き締めた。

 

 「・・・大好きだよ、穂乃果」

 

 「・・・私も大好きだよ、天くん」

 

 天くんの腕の中で、幸せを噛み締める私なのだった。




どうも〜、ムッティです。

穂乃果ちゃん、誕生日おめでとう\(^o^)/

ラブライブといったら、やっぱり穂乃果ちゃんのイメージが強いですね。

何といっても、μ'sのリーダーですから。

穂乃果ちゃんに『ファイトだよっ!』って言われたいだけの人生だった・・・

さてさて、これで8月の誕生日回は終了ですね。

1日が千歌ちゃんで、3日が穂乃果ちゃん・・・

誕生日回、よく間に合ったぜ・・・(涙)

次回は9月12日のことりちゃんですね。

その次が19日の梨子ちゃん、21日のルビィちゃん・・・

メッチャ続くやん(´・ω・`)

それまでに本編を進めねば・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

家族というものは特別である。

りきゃこ&せつ菜ちゃん、誕生日おめでとう\(^o^)/


 「ハラショー!ここが浦女なんだね!」

 

 目をキラキラ輝かせている亜里姉。

 

 俺と善子は絵里姉と亜里姉を連れ、学校へと戻って来ていた。

 

 今はAqoursの皆と、図書室で休憩中である。

 

 「うぅっ・・・まさかエリーチカのサインをいただける日が来るなんてっ・・・!」

 

 「な、何も泣かなくても・・・」

 

 絵里姉のサインが描かれた色紙を握り締め、号泣しているダイヤさん。

 

 そんなダイヤさんを見て、絵里姉が若干引いていた。

 

 「お姉ちゃん、東京で絵里さんのサインをもらわなかったことを凄く後悔してたんだ。『緊張し過ぎてお願いするのを忘れた』って」

 

 「分かる!私も穂乃果さんのサインもらうの忘れて、あの後凄く後悔したもん!」

 

 ルビィの説明に頷く千歌さん。

 

 二人とも既に絵里姉のサインをもらっており、ダイヤさんと同じく色紙を大事そうに抱えていた。

 

 「天くん、また穂乃果さんや他のμ'sの皆さんに会わせて!お願い!」

 

 「えー、どうしようかなぁ・・・」

 

 「天くん、お願いすルビィ!」

 

 「オッケー、ルビィには会わせてあげるよ」

 

 「やったぁ!」

 

 「ちょっと!?何でルビィちゃんには甘いの!?」

 

 「天使だからです」

 

 「じゃあ女神の志満姉とデートさせてあげるから!」

 

 「今すぐ全員内浦に呼びます」

 

 「落ち着きなさい」

 

 俺の頭に亜里姉のチョップが入った。

 

 「そんなことしたら、迷惑がかかるでしょ?」

 

 「そ、そうだよ天!皆さん忙しいだろうし、来てくれるわけ・・・」

 

 「穂乃果さん達大学生組は夏休み中だから良いとして、にこさんと希さんは社会人なんだから。急に仕事を早退したら、職場の人達に迷惑がかかるでしょ?」

 

 「そっちですか!?来ることを前提に話が進んでません!?」

 

 「え、当たり前でしょ?」

 

 果南のツッコミに、キョトンとした顔で首を傾げる亜里姉。

 

 「あの天が呼んでるんだよ?講義中だろうが仕事中だろうが、飛んで駆けつけるに決まってるじゃない」

 

 「ちょっと亜里沙、何を言ってるのよ」

 

 「あっ、絵里さん・・・良かった、否定してくれr・・・」

 

 「そんなの当たり前のこと、今さら言わなくても良いじゃない」

 

 「まさかの全肯定だったあああああっ!?」

 

 「果南うるさい。さっきから何をそんなにツッコミ入れてんの?」

 

 「天のせいでしょうが!どんだけ愛されてんの!?」

 

 「え、嫉妬してる?」

 

 「違うわ!」

 

 何かよく分からないが、果南がギャーギャー騒いでいた。

 

 発情期ですかコノヤロー。

 

 「っていうか、何で二人が内浦にいるの?」

 

 「天が『遊びに来なよ』って言うから来ちゃった♡」

 

 「お姉ちゃんが『天に会いに行く』って言うから、付き添いで来ちゃった♡」

 

 「キモッ」

 

 「「ちょっと!?」」

 

 絵里姉と亜里姉のダブルツッコミ。

 

 いい歳して♡マークとか・・・雪穂ちゃんが秋穂さんに辛辣だった理由が分かったわ。

 

 「まぁ良いや・・・せっかく元スクールアイドルが二人いることだし、有効に利用させてもらおうかな」

 

 「え、今この子『利用』って言った?実の姉を『利用する』って宣言した?」

 

 「練習再開しましょう。都合の良い手駒が二つ増えたんで」

 

 「今『手駒』って言ったわよねぇ!?さっきから扱いが酷くない!?」

 

 「鞠莉、今すぐ絵里姉と亜里姉の練習着を用意して」

 

 「OK!すぐに家の者に用意させるわ!」

 

 「そこで小原家の力を使わないでくれる!?」

 

 「エリーチカに練習を見てもらえる・・・フフッ・・・フフフッ・・・!」

 

 「何か笑ってる子がいる!?怖いんだけど!?」

 

 「千歌さん、曜、果南、そこの金髪ポニーテール連行して」

 

 「「「アイアイサー!」」」

 

 「ちょ、止め・・・キャアアアアアッ!?」

 

 「ア、アハハ・・・」

 

 連行されていく絵里姉を見て、亜里姉が苦笑している。

 

 「全く、天ってば強引なんだから・・・」

 

 「デスクワーク続きで身体も鈍ってただろうし、たまには運動させないとね」

 

 肩をすくめる俺。

 

 「とはいえ病み上がりだし、無茶させるつもりは無いよ。適度に運動させて、後は見学しててもらうから」

 

 「ちゃんと考えてくれてたんだ?」

 

 「当然でしょ。また倒れられたら困るからね」

 

 溜め息をつく俺。

 

 そんな俺を見て、亜里姉がニヤニヤしている。

 

 「いやぁ、天がお姉ちゃん想いで嬉しいなぁ♪」

 

 「亜里姉はずいぶん元気みたいだし、ハードなメニューでもこなせるよね?」

 

 「えっ」

 

 「花丸、ルビィ、善子、連行よろしく」

 

 「「「アイアイサー!」」」

 

 「いやああああああああああっ!?」

 

 一年生三人組に連行されていく亜里姉。

 

 これで良し、と。

 

 「い、良いの・・・?」

 

 一人残った梨子が、若干引きながらこっちを見ていた。

 

 「良いの良いの。どうせウチに泊まるんだろうし、たっぷりコキ使わないと」

 

 苦笑する俺。

 

 「Aqoursにとっても良い機会でしょ?スクールアイドルの先輩二人に、練習を見てもらえるわけだし」

 

 「それはまぁ、確かに・・・」

 

 「それに・・・久しぶりに見てみたくて。二人のダンスを」

 

 「フフッ・・・何だかんだ言って、天くんもお姉さん達のこと好きよね」

 

 「・・・からかわないでよ」

 

 クスクス笑う梨子に対し、気まずくなって顔を逸らす俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「も、もうダメ・・・」

 

 「あ、足が・・・」

 

 ソファに突っ伏し、ピクピク震えている絵里姉と亜里姉。

 

 練習も終わり、俺は二人を連れて家に帰って来ていた。

 

 「・・・これが老いるってことなんだね」

 

 「ちょっと!?お姉ちゃんはともかく、私はまだ二十歳だよ!?」

 

 「『ともかく』って何よ!?私だってまだ二十二だからね!?」

 

 「はいはい、体力の衰えた人達は黙っててね」

 

 「「うぐっ・・・」」

 

 言葉に詰まる二人。

 

 やれやれ・・・

 

 「まぁ、ダンスのキレに関しては健在だったけどね。千歌さん達にとっても良い刺激になっただろうし、良い練習になったんじゃないかな」

 

 「そういえば、そろそろ地区予選が近いんだっけ?突破出来そう?」

 

 「・・・ハッキリ言って、難しいだろうね」

 

 「っ・・・」

 

 俺の冷淡とも取れる発言に、亜里姉が息を呑む。

 

 「ど、どうして・・・」

 

 「一人一人のレベルは、最初の頃と比べたら格段に上がってるよ。過去にスクールアイドル経験のある三年生三人が入ったことで、グループとしての安定感も出てきた。それでも・・・決勝に進むには、まだ足りないかな」

 

 「・・・そうね。私もそう思うわ」

 

 絵里姉が静かに頷く。

 

 「ラブライブも年々レベルが上がって、予備予選から実力のあるグループがひしめいてる状況よ。それを勝ち上がって地区予選に進んでくるグループは、当然かなりのレベルに達しているわ。今のAqoursが、他のレベルが高いグループに勝てるかどうか・・・」

 

 「何しろ三年生が加入したのは、ここ一ヶ月の話だからね。今の体制になってまだ日が浅いし、グループとしてまだまだ熟してはいないから」

 

 勿論、可能性が無いわけじゃない。

 

 素晴らしいパフォーマンスを見せて、決勝に進む可能性だってある。

 

 いつだってAqoursは、奇跡を起こしてきたのだから。

 

 「皆が諦めないかぎり、俺も諦めずに皆を支えるよ。μ'sっていう諦めの悪い人達に感化されたせいで、俺も諦めが悪くなっちゃったから」

 

 「天の諦めが悪いのは元々でしょうが!私達のせいにしないでくれる!?」

 

 「ほら、そもそもリーダーが『諦める』っていうことを知らない人じゃん」

 

 「それは否定出来ないけども!」

 

 「俺の頭が固いのも、絵里姉のせいだからね」

 

 「だから人のせいにしないで!?」

 

 「私から言わせると、二人とも似た者同士だと思うけどなぁ」

 

 「「アンタにだけは言われたくない」」

 

 「何でそこだけハモるの!?」

 

 亜里姉のツッコミ。

 

 ふと三人で顔を見合わせ、思わず吹き出してしまう。

 

 「フフッ・・・何か久しぶりね、この感じ」

 

 「天が内浦に引っ越してから、こういうの無かったもんね」

 

 「いっそ二人とも、内浦に引っ越してくれば?亜里姉が大学辞めれば済む話じゃん」

 

 「軽い感じでとんでもないこと言うの止めてくれる!?辞めないからね!?」

 

 「亜里沙・・・家族より大学を選ぶのね・・・」

 

 「何でお姉ちゃんは本気にしてるの!?」

 

 「【悲報】姉が家族を蔑ろにしている件について」

 

 「炎上しそうな呟き止めて!?」

 

 「アハハ、まぁ冗談はさておき・・・そろそろ寝ようか」

 

 明日も朝から練習だし、早く休んでおかないとな・・・

 

 「ねぇ、久しぶりに川の字に寝ない?」

 

 「賛成!じゃあ真ん中は天ね!」

 

 「いや、一番小さい亜里姉が真ん中で良いんじゃない?」

 

 「くっ・・・身長を抜かしたからってそんな嫌味を・・・」

 

 「・・・ハッ」

 

 「腹立つ!この子腹立つ!」

 

 「はいはい、いいから寝るわよ」

 

 苦笑する絵里姉。

 

 久しぶりに過ごす姉弟三人での時間に、居心地の良さを感じる俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

祝・三船栞子ちゃん虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会加入\(^o^)/

いやぁ、まさか栞子ちゃんが加入するとは・・・

しかも栞子ちゃんのソロ曲、メッチャ良い曲なんですよね。

スクスタでプレイしまくってます。

っていうか、栞子ちゃんのお姉さんの薫子さんメッチャ美人じゃない?

しかも声優は日笠陽子さん・・・

ラブライブあるあるですけど、脇役の声優さんメッチャ豪華ですよね。

流石はラブライブ\(^o^)/

早くニジガクのアニメ見たいなぁ・・・



さてさて、案の定絢瀬姉妹は天の家にお泊まりする模様・・・

絵里ちゃんや亜里沙ちゃんと川の字に寝たいだけの人生だった(´・ω・`)

ちなみに今は、アニメ一期第十三話の内容を書いているのですが・・・

すみません、アニメとはちょっと違う流れになるかと思います。

と言うのも、第十三話はちょっと賛否両論あったお話だったので・・・

自分も否定的なつもりはないんですが、ちょっと『ん?』と思うところもあり・・・

そんなわけで、ちょっと話の流れを変えようかと思います。

まぁ既によいつむトリオの登場を省いたので、『あれ?』と思った方もいらっしゃったのではないでしょうか。

例のくだりは丸々カットしましたので、悪しからず・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

身内を褒められて悪い気はしない。

ここで一句・・・



夏終われ

そしてそのまま

消えちまえ



夏よ滅びろ(゜言゜)


 翌日・・・

 

 「花丸、少し遅れてるよ!気持ち早く!」

 

 「はいずらっ!」

 

 「曜は逆に少し早い!周りに合わせて!」

 

 「了解!」

 

 「あとゴリラ、元気良すぎ!もうちょっと抑えて!」

 

 「ゴリラ言うなっ!元気良く踊るのが私の持ち味なのっ!」

 

 「いや、元気良すぎて腕メッチャ大振りになってるから。隣で踊ってるダイヤさんの命が危険に晒されてるから」

 

 「し、心臓に悪いですわ・・・」

 

 「そこまで!?」

 

 「もう、果南はもう少し周りを見た方が良いわよ?」

 

 「B87も人のこと言えないでしょ」

 

 「バストサイズで呼ばないでくれる!?」

 

 「動きが激しすぎて、さっきからルビィとぶつかりそうで怖いんだよ。もうちょい抑えめで頼むわ」

 

 「こ、怖かったよぉ・・・ぐすっ・・・」

 

 「ル、ルビィ!?I'm sorry!」

 

 「全く、三年生なんだからしっかりしてもらわないと・・・」

 

 「あ、堕天使もどきが何か言ってる」

 

 「『もどき』じゃないもんっ!立派な堕天使だもんっ!」

 

 「もう、皆だらしないなぁ」

 

 「一番だらしないリーダーが何言ってるんですか」

 

 「えぇっ!?私ちゃんとやってたよ!?」

 

 「えぇ、ちゃんとやってましたね・・・寝坊して練習に遅れたこと以外は」

 

 「すいませんでしたあああああっ!」

 

 「だから昨日『早く寝た方が良いよ』って言ったのに・・・」

 

 「うぅ、梨子ちゃん・・・今日は早く寝るね・・・」

 

 「はいはい、気を付けようね」

 

 和気藹々と練習に励むAqoursの皆。

 

 天も含め、メンバー同士の仲が良いグループなのだと感じる。

 

 何より、天がとても楽しそうにしているのが印象的だった。

 

 「・・・懐かしいね」

 

 私の隣で練習を見ている亜里沙が呟く。

 

 「μ'sのマネージャーをやってた頃の天みたい・・・」

 

 「・・・えぇ、そうね」

 

 頷く私。

 

 あの頃の光景が蘇ってくる。

 

 

 

 

 

 『花陽ちゃん、ちょっとズレてる!周りと合わせることを意識して!』

 

 『は、はいっ!』

 

 『凛ちゃん、今の部分は慌てないで!落ち着いて踊れば大丈夫だから!』

 

 『わ、分かったにゃ!』

 

 『ふふん、花陽も凛もまだまだね!』

 

 『まだまだなのは、にこちゃんの胸の方だけどね』

 

 『しばき倒すわよ!?』

 

 『天・・・貴方は今、胸の小さい女性を敵に回しましたね・・・』

 

 『胸の大きさに関わらず、俺は海未ちゃんのことが大好きだよ』

 

 『私も大好きです天あああああっ!』

 

 『アンタはチョロすぎんのよ!?都合の良い女かっ!』

 

 『そうだよ海未ちゃん!ことりだって天くんのこと大好きなんだから!』

 

 『ここにも似たような子がいた!?』

 

 『ことりちゃあああああんっ!』

 

 『天くうううううんっ!』

 

 『ここで甘々空間作り出すの止めなさいっ!』

 

 『天、良い子だからこっちに来なさい。お小遣いあげるから』

 

 『マジで!?真姫ちゃん大好き!』

 

 『アンタはお金で釣らないのっ!天もホイホイついて行かないっ!』

 

 『天くん、ウチはお金持ってないけど・・・大きいおっぱいなら持ってるよ?』

 

 『やっぱり希ちゃんが一番だと思うんだ(キリッ)』

 

 『何キメ顔してんのよ!?このエロガキ!』

 

 『にこ・・・私の可愛い弟に、何を言ってくれているのかしら・・・?』

 

 『ヒィッ!?ここにブラコンがいることを忘れてたぁっ!?』

 

 『アハハ、やっぱり天くんは面白いなぁ』

 

 『ちょっと穂乃果!?笑ってないで助けなさいよ!?』

 

 

 

 

 

 「・・・あの頃は、本当に楽しかったわね」

 

 「お姉ちゃん・・・」

 

 気遣わしげにこちらを見つめる亜里沙。

 

 すると・・・

 

 「おっ、頑張ってるねぇ」

 

 「皆、お疲れ!」

 

 「お母さん!?」

 

 「ママ!?」

 

 屋上に現れた二人の女性を見て、果南と曜が驚いた声を上げる。

 

 どうやら二人のお母さんのようだ。

 

 「何でここにいるの!?」

 

 「差し入れを持って来たのさ。ほら、スポーツドリンク」

 

 「アイスもあるから、皆食べてね!」

 

 「わーい!」

 

 「ありがとうございます!」

 

 歓声を上げて駆け寄るAqoursの皆。

 

 ふと天の方を見ると、果南と曜のお母さん達と談笑していた。

 

 「ありがとうございます。助かります」

 

 「いいよお礼なんて。アタシ達と天の仲じゃないか」

 

 「そうそう、娘達もお世話になってるし・・・曜、ちゃんと天に対して夜のお世話してあげてる?」

 

 「ぶふぅっ!?」

 

 飲んでいたスポーツドリンクを盛大に吹き出す曜。

 

 「な、何言ってるの!?そんなことするわけないでしょうが!」

 

 「ハァ、全く・・・これだから制服バカは・・・」

 

 「娘に対する扱い酷くない!?」

 

 「果南、アンタはちゃんとヤッてるよね?」

 

 「昼間から何言ってんの!?そんなわけないでしょ!?」

 

 「ハァ、全く・・・これだからゴリラは・・・」

 

 「遂に実の母親にまでゴリラ扱いされた!?」

 

 「星さんも西華さんも安心して下さい。そのうち二人まとめて美味しくいただきます」

 

 「天くん!?まさかの二股宣言!?」

 

 「それなら良し!」

 

 「それを聞いて安心したよ」

 

 「何が良いの!?何が安心なの!?」

 

 曜と果南のツッコミが止まらない。

 

 メンバーの母親まで味方につけるなんて・・・

 

 天、恐ろしい子・・・!

 

 「あれ・・・?」

 

 私と亜里沙の存在に気付いた果南のお母さんが、不思議そうに首を傾げている。

 

 「天、あの二人は・・・?」

 

 「あ、そういえばまだ紹介してませんでしたね・・・二人とも俺の姉です」

 

 「姉!?あの美女二人が!?」

 

 「こんにちは♪」

 

 「初めまして。弟がいつもお世話になっています」

 

 亜里沙と二人で挨拶をする。

 

 そんな私達を、しげしげと見つめる曜のお母さん。

 

 「ひょっとして、曜達が憧れてるμ'sのメンバーの・・・?」

 

 「あ、はい。絢瀬絵里といいます」

 

 「やっぱり!?」

 

 「ひゃあっ!?」

 

 いきなり手を掴まれる。

 

 何!?何事!?

 

 「ちょっと曜!?本物のμ'sのメンバーがいるんだけど!?」

 

 「ちょっとママ!?いきなり失礼でしょ!?すみません絵里さん、ママは最近μ'sの動画を観ることにハマってて・・・」

 

 「うわぁ、本物だぁ!」

 

 「人の話聞いてくれる!?絵里さんから離れなさい!」

 

 「好きなものに対して、急に見境が無くなるこの感じ・・・やっぱり親子だなぁ」

 

 「天くんはそこで納得しないでくれる!?全然嬉しくないんだけど!?」

 

 曜のツッコミ。

 

 曜もこんな風になることがあるのかしら・・・?

 

 「ってことは、アンタが亜里沙ちゃんか。天から話は聞いてるよ」

 

 「はい、絢瀬亜里沙です♪天はどんな話をしてるんですか?」

 

 「アホの子だって」

 

 「酷い!?」

 

 果南のお母さんの言葉に、ショックを受けている亜里沙。

 

 「ちょっと天!?どういうこと!?」

 

 「いやぁ、酷い話もあったもんだね」

 

 「何で他人事なの!?」

 

 「全く、姉の顔が見てみたいわ」

 

 「目の前にいるでしょうが!」

 

 相変わらずおちょくられる亜里沙。

 

 完全に天に遊ばれてるわね・・・

 

 「天く~ん!アイス溶けちゃうよ~!」

 

 「今行きます。ほら、曜と果南も早く行くよ」

 

 「ちょ、手を引っ張らないでよ!?」

 

 「もう、強引なんだから・・・」

 

 曜と果南の手を引き、千歌達のところへ行く天。

 

 手を引かれている二人も、苦笑しているが嫌がってはいなかった。

 

 むしろ何だか楽しそうというか・・・

 

 「相変わらず仲良しだねぇ」

 

 笑っている果南のお母さん。

 

 「果南と天、早くくっつかないかなぁ・・・」

 

 「何言ってるの西華ちゃん!天とくっつくのは曜だからね!」

 

 「それは聞き捨てならないね、星。天は渡さないよ?」

 

 「こっちのセリフだわ!」

 

 何故かお母さん同士でバチバチやっていた。

 

 「二人とも何言ってるんですか!?天は渡しませんからね!?」

 

 「「アホの子は黙ってて!」」

 

 「何でそこでハモるんですか!?」

 

 ショックを受ける亜里沙に、思わず同情してしまう。

 

 それにしても天ったら、メンバーのお母さんにホント好かれてるわね・・・

 

 こういうところも、μ's時代と変わらないわ・・・

 

 「お二人とも、ずいぶん天を気に入っていらっしゃるんですね」

 

 「当然じゃん!」

 

 頷く曜のお母さん。

 

 「あんな良い子なかなかいないよ。今まで男の影さえ無かった曜が、初めて家に連れて来たぐらいだし・・・最初は本当にビックリしたわ」

 

 「アタシもだよ。果南から『お店のアルバイトに来てほしい男の子がいる』って聞いた時は、思わず自分の耳を疑ったもんさ」

 

 同調する果南のお母さん。

 

 「自分からアタシに紹介するなんて、よっぽど気に入ってるんだろうなとは思ったけど・・・実際に天に会ってみて納得したよ。『あぁ、果南が気に入るわけだ』ってね」

 

 「そうそう、天には不思議な魅力があるよね。初対面だったのに、気が付いたら仲良くなってたもん」

 

 笑っている曜のお母さん。

 

 確かにあの子は、人の懐に入るのが上手いのよね・・・

 

 「それに曜も、ずいぶん天に心を許してるみたいだしね。今までは口を開けば『千歌ちゃん』だったけど、最近じゃ天のことも同じぐらい話してるもん」

 

 「果南もさ。いくらハグ大好きとはいえ、男にハグなんてしなかったのに・・・天には隙あらばハグしてるからね。それに・・・」

 

 果南のお母さんが、ダイヤや鞠莉と談笑している果南に視線を向けた。

 

 「・・・果南がああやって笑っていられるのは、天のおかげだから。本人も天には恩義を感じてるみたいだし、少なからず好意を抱いてはいると思うんだ。だからまぁ、くっついてくれたら嬉しいなぁって」

 

 「曜もそうだよ。いつも親身になって寄り添ってくれて、間違ったことを言った時は叱ってくれて・・・そんな天を凄く信頼してるし、天に対しての想いっていうのはあるんじゃないかな。あの二人がくっついてくれたら、私としては嬉しいんだけどね」

 

 「フフッ、天も罪な男だねぇ」

 

 「アハハ、それは言えるね!」

 

 面白そうに笑う二人。

 

 自分の可愛い娘を、天に任せようとしている・・・

 

 それだけで、二人がいかに天を信頼しているかが窺えた。

 

 「・・・変わらないなぁ、天は」

 

 どこか嬉しそうな亜里沙。

 

 大切な弟を褒められて、悪い気のする姉などいない・・・

 

 亜里沙同様、嬉しく思う私なのだった。




どうも〜、ムッティです。

最近暑すぎて、本当に死にそうです(´д`|||)

さらには猛暑の中、マスクを付けなければならないという地獄・・・

キツいわぁ・・・(´・ω・`)

早く夏終われ・・・

そしてコロナも収まれ・・・

皆さんも熱中症、そしてコロナにお気を付け下さい(>_<)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人から愛されるというのは幸せなことである。

最近、Da-iCEさんの『DREAMIN'ON』をメッチャ聴いてます。

ONE PIECEの新OPでもあるこの曲・・・メッチャカッコ良くないですか?

YouTubeにご本人達のダンス動画がアップされてましたけど、キレッキレで本当にカッコ良くて・・・

個人的には、花村想太さんのあの高い歌声にすっかりハマってしまいました。

今度他の曲も聴いてみようかな。


 《絵里視点》 

 

 「美味っ!これ美味っ!」

 

 「フフッ、たくさん食べてね」

 

 美味しそうに料理を食べる天を見て、嬉しそうに笑う梨子のお母さん。

 

 私達は今、桜内家で夕食をご馳走になっていた。

 

 「亜里沙ちゃんと絵里ちゃんも、いっぱい食べてね」

 

 「ありがとうございます!」

 

 「すみません、初対面でいきなり夕飯をご馳走になってしまって・・・」

 

 「そんなこと気にしないの。天くんは私の息子みたいなものだし、それなら二人も私の娘みたいなものでしょ」

 

 「そうですよ、お義姉さん!」

 

 「梨子!?何ちゃっかり『お義姉さん』呼びしてるの!?」

 

 「この子ったら東京から帰って来てから、天のことになると急にポンコツになっちゃうんです・・・すみません」

 

 隣に座る梨子を見て溜め息をつき、私に頭を下げる善子。

 

 夕食の席には、善子と善子のお母さんも同席していた。

 

 「ちょっと善子ちゃん!?誰がポンコツですって!?」

 

 「アンタよ。あと善子じゃなくてヨハネ」

 

 「私のどこがポンコツだって言うの!?」

 

 「気付いてない時点で立派なポンコツじゃない」

 

 「容赦ないほどの毒舌ぶりね!?」

 

 ショックを受けている梨子。

 

 自分のことを『堕天使ヨハネ』なんて名乗る割に、意外と常識人なのね善子・・・

 

 「ヨハネです」

 

 「貴女人の心が読めるの!?」

 

 どれだけ『善子』って呼ばれたくないのかしら・・・

 

 「ちょっと善子、アンタも梨子ちゃんを見習ってもっとアピールしなさいよ。このままだと天くん取られちゃうわよ?」

 

 「娘の色恋沙汰に首突っ込むんじゃないわよ。あとヨハネ」

 

 母親からの言葉に、溜め息をつく善子。

 

 「今さらアピールも何も無いでしょ。私のみっともないところは、もう全部天に見られちゃってるんだから」

 

 「善子?さっきから何話してんの?」

 

 「何でもないわ。それより天、口元にご飯粒ついてるわよ・・・はい、取れた」

 

 「ありがと」

 

 あれ!?何かこの二人良い感じ!?

 

 「ナイスよ善子!流石は私の娘!」

 

 「ヨハネだってば。何がナイスよ」

 

 「ぐぬぬぬ・・・悔しいけど、今のは流石だったわ善子ちゃん・・・」

 

 「だからヨハネだって。ホントにどうしちゃったのよアンタ・・・」

 

 呆れている善子。

 

 「ご馳走様でした。洗い物は私がやります」

 

 「手伝うよ、善子。梨子、食器はどこにしまえば良い?」

 

 「あ、えっとね・・・」

 

 三人がキッチンへと消える。

 

 そのその光景を見て、善子のお母さんが微笑んでいた。

 

 「フフッ、善子も変わったわね・・・天くんに感謝しなくっちゃ」

 

 「天に、ですか?」

 

 「えぇ、あの子を変えてくれたのは天くんだもの」

 

 笑う善子のお母さん。

 

 「善子はああ見えて人見知りだから、自分の殻に閉じこもりがちでね・・・でも天くんは、そんなあの子を殻から引っ張り出してくれた。母親である私にさえ出来なかったことを、天くんはいとも簡単にやってのけてくれたわ」

 

 「天が・・・」

 

 「だからこそ、善子は天くんに心を許してるのよ。私達が『善子』って呼ぶと『ヨハネ』って言い返してくるくせに、天くんには何も言い返さなかったでしょ?」

 

 「あっ・・・」

 

 そう言われてみれば、天にだけは『ヨハネ』って言わなかったような・・・

 

 「善子の方から天くんに、『善子って呼んでほしい』って言ったんですって。今までのあの子だったら、考えられないようなお願いだけど・・・自分からそんなことを言い出すなんて、よっぽど天くんに心を許したのね」

 

 どこか嬉しそうな善子のお母さん。

 

 「あの子が天くんに、恋をしているかまでは分からないけど・・・母親としては、あの二人がくっついてくれたらって思うのよね。天くんだったら、安心して善子のことを任せられるし」

 

 「フフッ、その気持ち分かるわ」

 

 笑顔で頷く梨子のお母さん。

 

 「私も天くんだったら、安心して梨子のことを任せられるもの。まぁ実際、梨子は天くんにハートを撃ち抜かれちゃったみたいだし」

 

 「梨子ちゃん、天と何かあったんですか?」

 

 「善子ちゃんと同じで、あの子も天くんに救われてるのよ」

 

 亜里沙の問いに答える梨子のお母さん。

 

 「あの子も元々は、絵里ちゃんや亜里沙ちゃんと同じで音ノ木坂の生徒だったんだけど・・・思うようにピアノが弾けなくなって、浦の星に転校したの」

 

 「えっ、そうだったんですか!?」

 

 「えぇ。でも内浦に引っ越して来て、あの子は本当に明るくなったわ。前みたいに、楽しくピアノを弾くようになった。それは勿論、千歌ちゃん達に出会えたおかげでもあるけど・・・一番は、天くんが梨子に寄り添ってくれたからだと思う」

 

 微笑む梨子のお母さん。

 

 「あれだけ親身になってくれて、否定していた自分を全力で肯定してくれたら・・・惚れちゃってもおかしくないわよね。だからこそ母親としては、あの子の恋が実ってくれることを願ってるのよ」

 

 「・・・やっぱりここでも、天は天だったんだ」

 

 嬉しそうに呟く亜里沙。

 

 私も同じ気持ちだった。

 

 「それにやっぱり、天くんみたいな子が息子に欲しいもの」

 

 「分かるわ。何ならもう息子みたいに思ってるし」

 

 「そうそう。Aqoursのお母さん達は、皆同じ気持ちなんじゃないかしら」

 

 「フフッ、間違いないわね」

 

 楽しそうに話す二人。

 

 どうやら、マダム・キラーぶりも相変わらずのようだった。

 

 「・・・愛されてるわね、あの子」

 

 自然と笑みが零れる私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《絵里視点》

 

 「あぁ、極楽・・・」

 

 「年寄り臭いわよ、亜里沙」

 

 苦笑する私。

 

 私達は今、千歌の実家である『十千万』の温泉に浸かっていた。

 

 「フフッ、気に入ってもらえたなら嬉しいわ」

 

 「すみません、突然お邪魔してしまって・・・」

 

 「遠慮しないで良いのよ。天くんの身内は、私達の身内みたいなものなんだから」

 

 ニコニコしている志満さん。

 

 桜内家を出て帰ろうとした時、天のスマホに千歌から着信が入ったのだ。

 

 何でも新曲の歌詞について相談したかったらしく、だったら直接会おうということで高海家にお邪魔することになった。

 

 そこで初めて千歌の家が旅館だということを知った私達は、志満さんと美渡さんの勧めで温泉に入らせてもらうことになったのだ。

 

 「それにこの時間はお客さんも来ないから、ゆっくり浸かってもらって大丈夫よ」

 

 「そうそう、いつもアタシ達が使ってる時間だしね」

 

 笑っている美渡さん。

 

 「それにしても・・・本当にスタイル抜群だね」

 

 「な、何ですか急に・・・」

 

 「いや、女から見ても惚れ惚れするような身体してるなって・・・えいっ」

 

 「ひゃんっ!?ど、どこ触ってるんですか!?」

 

 「おぉ、大きくて柔らかい・・・Fか」

 

 「揉むだけで分かるんですか!?」

 

 「美渡さん正解!μ's時代はEだったんですけど、さらに成長してるんですよね」

 

 「亜里沙!?私のプライバシーはどこへいったの!?」

 

 「マジかぁ・・・っていうか、亜里沙ちゃんもスタイル良いよね」

 

 「いえいえ、お姉ちゃんと比べたら全然ですよ」

 

 「いやいや、十分過ぎるくらい良いって・・・えいっ」

 

 「あんっ♡」

 

 「ふむふむ・・・Dか」

 

 「おぉ、正解!」

 

 「どんな特技ですか!?」

 

 へ、変態だわ!

 

 ここにとんでもない変態がいるわ!

 

 「美渡、その辺でおしまいにしなさいね?」

 

 「アハハ、ゴメンゴメン」

 

 志満さんの言葉に苦笑する美渡さん。

 

 「それにしても、ホント天はどういう星の下に生まれてきたんだろうねぇ・・・こんな美女二人が姉で、海未ちゃんや真姫ちゃんみたいな美女達に大事に想われて・・・しかもAqoursという美少女グループと大の仲良しとか・・・」

 

 「そんなの、天くんが良い子だからに決まってるじゃない」

 

 微笑む志満さん。

 

 「『類は友を呼ぶ』って言うでしょ?天くんが良い子だから、周りに集まってる子達も良い子ばかりなのよ。その良い子達が偶然、美女か美少女なだけじゃないかしら」

 

 「いや、その偶然が凄い奇跡だと思うんだけど。ここまでくるともう、天文学的な数字だと思うんだけど」

 

 「『天』くんだけに?」

 

 「何も上手くないからね!?」

 

 「「アハハ・・・」」

 

 苦笑する私と亜里沙。

 

 まぁ確かに、天の周りに可愛い子が多いのは間違いない。

 

 μ'sの時からそうだったわけだし・・・

 

 「流石は私の未来の旦那様、やっぱりスケールが違うわ」

 

 「未来の旦那様!?」

 

 「どういうことですか!?」

 

 「あー・・・天は志満姉にもの凄く懐いてて、会う度にプロポーズしてんのよ」

 

 溜め息をつきながら説明してくれる美渡さん。

 

 「志満姉も満更でもない態度とるし・・・お互い本気じゃないでしょうに・・・」

 

 「あら、それは心外ね」

 

 笑う志満さん。

 

 「天くんが本気で結婚したいと言ってくれるのなら、私は応えるつもりよ?」

 

 「はい!?」

 

 「一緒にいて凄く楽しいし、私のことを大切にしてくれそうだし・・・美渡や千歌ちゃんとも仲が良いじゃない。結婚相手として申し分ないと思ってるわ」

 

 「ちょ、嘘でしょ!?」

 

 「フフッ、甘いわね美渡。貴女が思ってる以上に、私は天くんのことが大好きなのよ?」

 

 クスクス笑っている志満さん。

 

 こ、こんなところに思わぬ伏兵が・・・!

 

 「そういうわけだから、絵里ちゃんや亜里沙ちゃんを『お義姉さん』って呼ぶ日が来るかもしれないわね」

 

 「そ、そんなの認めませんからねっ!」

 

 グルルル・・・と唸る亜里沙。

 

 全く、天ったらどこまで人タラシなの・・・

 

 「というか、美渡だって天くんのこと好きでしょうに」

 

 「す、好きって・・・まぁ好きだけどさ・・・」

 

 「えぇっ!?美渡さんまで!?」

 

 「いや、恋愛的な意味じゃないよ!?」

 

 慌てて否定する美渡さん。

 

 「絵里ちゃん達がいるのに、こんなことを言うのもどうかと思うけど・・・アタシは天のこと、弟みたいに思ってるんだよね。身内感覚っていうかさ・・・」

 

 「フフッ、二人は仲が良いものね」

 

 「・・・まぁ、アタシはそう思ってるけど」

 

 恥ずかしそうに俯く美渡さん。

 

 天のこと、大切に想ってくれてるのね・・・

 

 「だからこそアタシは、天と千歌がくっつかないかなぁって思ってるんだよね。そうすれば、晴れて天はアタシの義弟になるし」

 

 「あら、義兄じゃダメなの?」

 

 「だから何で志満姉が結婚する気満々なの!?」

 

 「うぅ、まさか妹が幸せを邪魔するなんて・・・お姉ちゃん悲しいわ・・・」

 

 「あれ!?アタシ悪者扱い!?」

 

 「・・・仲の良い姉妹ねぇ」

 

 茶番を繰り広げる二人を見て、思わず苦笑してしまう私。

 

 すると私の側に、亜里沙がスッと近付いてきた。

 

 「ねぇ、お姉ちゃん・・・天、愛されてるね」

 

 「・・・えぇ、本当に」

 

 Aqoursのメンバーだけでなく、その家族からも愛されている・・・

 

 そんな天を、姉として誇らしく思う私なのだった。

 

 「全く、あの子は本当に人たらしなんだから・・・」




どうも〜、ムッティです。

今回も絢瀬姉妹が、Aqoursメンバーの家族から天の話を聞いております。

それにしても、天はどれだけ愛されているのやら(´・ω・`)

そして誰とくっつくのでしょうか?

ヒロインレースからも目が離せません。

ちなみに今回、絵里ちゃんと亜里沙ちゃんのカップ数の話が出ましたが・・・

あくまでも勝手に決めたカップ数ですので、悪しからず・・・

ちなみにエリチより胸が大きい希ちゃんは、現在Gカップという設定です(聞いてない)

さてさて、果たしてこれからどのような展開になっていくのか・・・

お楽しみに(・ω・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仲間がいるというのは幸せなことである。

Little Glee Monsterさん、本当に凄いわ・・・

他のガオラーさん達に失礼なので自分のことをガオラーとは名乗れませんが、すっかり好きになってしまいました。

皆さん本当に歌が上手ですが、個人的にはアサヒさん推しです。

歌声もそうですが、楽しそうに歌う姿がとても素敵だなと思いました。

もっとリトグリの曲を聴こうと決めた今日この頃です。


 「くしゅんっ!」

 

 「大丈夫?」

 

 心配してくれる千歌さん。

 

 俺達は今、千歌さんの家で新曲の歌詞について話し合っているところだった。

 

 「大丈夫ですよ。誰かが噂でもしてるんじゃないですか?」

 

 「志満姉達かな?絵里さん達と一緒にお風呂入ってるみたいだし」

 

 「あっ、何か身体が冷えてきた気がする・・・お風呂お借りしますね」

 

 「ちょっと!?完全に覗く気だよねぇ!?」

 

 「ハァ・・・千歌さん、人を覗き魔扱いするの止めてもらえますか?」

 

 「あ、ゴメン・・・そうだよね、天くんはそんなことしn・・・」

 

 「一緒に入るに決まってるじゃないですか」

 

 「余計に悪いわっ!」

 

 「ごふっ!?」

 

 思いっきり頭を引っ叩かれる。

 

 「全く、天くんは本当にエッチなんだから・・・」

 

 「男は皆そうですよ。さっきから千歌さんの胸の谷間がチラチラ見えているにも関わらず、鋼のような理性で手を出さない俺はまともな部類だと自負してます」

 

 「胸を見てる時点でアウトだからね!?」

 

 慌てて胸元を隠す千歌さん。

 

 だったらそんな胸元の緩い服着なきゃ良いのに・・・

 

 「ほら、遊んでないで作詞しましょうよ」

 

 「誰のせいだと思ってるのっ!」

 

 唸る千歌さん。

 

 やれやれ・・・

 

 「それで?何か閃きました?」

 

 「アハハ、ビックリするくらい何も閃かないんだよね」

 

 「うらぁっ!」

 

 「グハァッ!?」

 

 今度は俺が千歌さんの頭を引っ叩く。

 

 全く、このアホミカンめ・・・

 

 「立てよド三流。俺達とお前の格の違いってやつを見せてやる」

 

 「どこのエ●ワードさん!?」

 

 「かかってこいよ、アホの錬金術師」

 

 「そんな不名誉な二つ名は要らないよ!?」

 

 千歌さんは一通りツッコミを入れると、大きな溜め息をついた。

 

 「ハァ・・・考えれば考えるほど、頭がグチャグチャになるよぉ・・・」

 

 「いや、そんなに難しく考えなくても・・・」

 

 「ねぇ、天くんはどうやって作詞してたの?」

 

 尋ねてくる千歌さん。

 

 「『未熟DREAMER』とか凄く良い歌詞だったし、μ'sの曲も作詞してたって聞いたし・・・実は前から気になってたんだよね」

 

 「どうやって、と聞かれても・・・」

 

 答えに困る俺。

 

 「特に変わったことはしてませんよ。まずはテーマを決めて、そこから膨らませていくというか・・・『未熟DREAMER』は三年生の一件があったんで、それを基に作詞した感じでしたけど」

 

 「テーマかぁ・・・」

 

 「何かテーマにしたいこととか無いんですか?」

 

 「それがまとまらなくてさぁ・・・」

 

 机に突っ伏す千歌さん。

 

 「何かこう・・・気持ちを上手く言葉にできないっていうか・・・」

 

 「あぁ、小田●正現象ですか」

 

 「どんな現象!?確かに『言葉にできない』って曲を歌ってるけども!」

 

 「とりあえず、考えてることを教えてもらって良いですか?どんなに曖昧でも良いですから、まずは俺に伝えてみて下さい」

 

 「う、うん・・・」

 

 おずおずと口を開く千歌さん。

 

 「・・・新曲はね、前向きな明るい曲にしたいんだ」

 

 「前向きな明るい曲、ですか?」

 

 「うん。皆が一つになれるような、そんな曲にしたいの」

 

 微笑む千歌さん。

 

 「だってこの曲は・・・Aqoursが十人になってから、初めて歌う曲だもん」

 

 「っ・・・」

 

 千歌さん、そんな風に考えてくれてたのか・・・

 

 「天くんがAqoursに入ってくれた時、思ったんだ。『これで全員揃ったな』って。『ここからが本当のスタートだな』って」

 

 「千歌さん・・・」

 

 「だから今回の曲は、皆で前を向いて進めるような・・・未来に向かって歩いて行けるような、そんな曲にしたいんだ」

 

 そう言ってニッコリ笑う千歌さんに、俺は不覚にもドキッとしてしまった。

 

 こういうことをハッキリ言えるなんて、本当にズルい人だよな・・・

 

 「どうしたの天くん?何か顔が赤くない?」

 

 「夕陽のせいです」

 

 「いや、もう夜なんだけど・・・」

 

 「じゃあ月のせいです」

 

 「月の光は赤くないよ!?」

 

 「何当たり前のこと言ってるんですか?頭おかしくなりました?」

 

 「腹立つ!この子腹立つ!」

 

 机をバンバン叩く千歌さん。

 

 やれやれ・・・

 

 「まぁ、千歌さんの頭がおかしいのは置いといて・・・」

 

 「置かないでよ!?そもそもおかしくないから!」

 

 「今の千歌さんの話を聞いて、ちょっと思い浮かんだんですけど・・・」

 

 ギャーギャー騒ぐ千歌さんを無視して、ノートを開く俺。

 

 シャーペンを持ち、思いついた歌詞を書き連ねていく。

 

 「こういうのどうですか?」

 

 「どれどれ・・・おぉ、良いね!」

 

 「でしょ?イメージ的にはこんな感じで・・・」

 

 「なるほど・・・じゃあこんな歌詞はどうかな?」

 

 「あ、良いですねそれ。採用しましょう」

 

 「やった!じゃあこんなのはどう?」

 

 「オッケーです。もしくはこんな感じで・・・」

 

 千歌さんと二人で、新曲の作詞に励む俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《絵里視点》

 

 「ふぅ・・・」

 

 ベランダに置いてあるベンチに腰掛け、空を見上げる私。

 

 満天の星が輝く夜空は、とても綺麗だった。

 

 「東京じゃ、こんなの見られないわね・・・」

 

 「でしょ?」

 

 背後から声がしたかと思うと、私の肩に薄手のブランケットがかけられた。

 

 「夏とはいえ、夜に外にいると湯冷めしちゃうよ?」

 

 「ありがとう」

 

 私の隣に腰掛ける天にお礼を言う。

 

 我が弟ながら、相変わらず気が利くわね・・・

 

 「亜里沙は?」

 

 「速攻で寝ちゃったよ」

 

 苦笑する天。

 

 「幸せそうな顔しちゃってさ・・・どんな夢を見てるんだか」

 

 「・・・嬉しかったのよ、きっと」

 

 微笑む私。

 

 「今日会った人達は皆、天のことを凄く褒めてた。弟があんなに褒められたら、姉としては嬉しいもの」

 

 「・・・そっか」

 

 照れ臭そうに笑う天。

 

 「それならまぁ・・・良かったかな」

 

 「えぇ。『ウチの娘を救ってくれた』って、皆感謝してたわよ?」

 

 「そんな大層なことはしてないよ。俺は俺のやりたいようにやっただけだし」

 

 「・・・相変わらずね」

 

 苦笑する私。

 

 天が『やりたいようにやった』結果、μ'sもAqoursも救われてるんだけど・・・

 

 本人に『救った』という実感は無いらしい。

 

 「『ウチの娘とくっついてほしい』とも言ってたわよ?」

 

 「アハハ、そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど・・・あれだけ可愛くて魅力的な女の子達だし、他にもっと良い男がいるでしょ。俺じゃ釣り合わないよ」

 

 「・・・本当に相変わらずね」

 

 自己評価が著しく低いのは、天の昔からの悪い癖だ。

 

 もっと自分に自信を持っても良いのに・・・

 

 「気になる子とかいないの?例えば・・・鞠莉とか」

 

 「いや、何でそこで鞠莉が出てくるの?」

 

 「だって幼馴染だし、昔から凄く仲良かったじゃない」

 

 「まぁ仲は良いけど・・・あくまで幼馴染としてだよ?まぁすっかりスタイル抜群の美女になっちゃったから、ちょっと意識はするけどさ・・・」

 

 「ふぅん・・・じゃあダイヤは?天の好きそうな『大人の女性』って感じだけど」

 

 「お姉さん、かな。ダイヤさんは絵里姉に似てるところがあって、初めて会った時から他人とは思えないというか・・・支えたいと思う人だね」

 

 「ふむふむ・・・果南は?よくハグしてるらしいけど」

 

 「果南はハグ魔だからねぇ・・・まぁ美少女にハグしてもらえるわけだし、俺としては役得だと思ってるよ。バイトでもお世話になってるし、頼れるお姉さんって感じかな」

 

 「なるほど・・・善子はどうなの?天には『ヨハネ』って言い返さないそうじゃない」

 

 「まぁ善子の方から『名前で呼んで』って言われてるからね。それだけ信頼してもらってるってことだろうし、ありがたく思ってるけど・・・一言で言うと相方かな?どんなボケでも拾ってツッコミ入れてくれるし」

 

 「いや、芸人じゃないんだから・・・まぁそれは置いといて、花丸はどう?練習でも結構気にかけていたような気がするけど」

 

 「花丸がAqoursに入る時、『サポートする』って約束したからね。俺が落ち込んだ時とか、花丸が励ましてくれたりしたし・・・信頼出来る友達だと思ってるよ」

 

 「へぇ・・・ならルビィは?花丸と同じくらい、ルビィのことも気にかけていたような気がしたけど」

 

 「まぁルビィも、俺が引き込んだみたいなところがあるから・・・それに何か、ルビィのことは放っておけないんだよね。同級生だけど、妹みたいな感じかな?」

 

 「妹ねぇ・・・じゃあ曜は?仲は凄く良さそうだったけど」

 

 「曜は人と壁を作らない分、俺も絡みやすいからそう見えるのかもね。まぁ実際仲は良いし、良い意味で年上って感じがしないというか・・・悪友みたいな?」

 

 「いや、悪友って・・・それなら千歌はどうなのよ?さん付けしてる割には、もの凄くフランクに接してるように見えるけど」

 

 「穂乃果ちゃんと同じ。以上」

 

 「簡潔!?でも分かりやすい!?」

 

 「アハハ・・・まぁでも、千歌さんはやっぱり凄い人だと思うよ。いざって時に頼れる人だと思うし・・・『この人について行こう』って思えるリーダーだよ、あの人は」

 

 「・・・そう。じゃあ最後に、梨子はどうなの?この間東京に来たのも、ピアノ発表会に出場する梨子を応援する為だったって聞いたわよ?」

 

 「まぁね。それも俺がそうさせたみたいなところがあったし、ずっと苦しんできたことも聞いてたから・・・まぁ結果的に、俺が梨子に助けられちゃったんだけど」

 

 「どういうこと?」

 

 「絵里姉と会う決心がつかない俺に、喝を入れてくれたのが梨子だったんだよ。おかげで決心がついて、絵里姉に会えて仲直りも出来て・・・本当に感謝してる。梨子には色々助けられてるし、俺にとっては・・・恩人かな」

 

 「・・・そうだったのね」

 

 今度私からも、改めてお礼を言った方が良いかしら・・・

 

 それにしても・・・

 

 「・・・良い仲間に巡り会えたわね」

 

 「・・・うん」

 

 頷き、星空を見上げる天。

 

 「内浦に来て、本当に良かったと思う。Aqoursの皆は勿論、ここで出会った人達は皆良い人達ばかりで・・・俺はこの町が、本当に好きだよ」

 

 そう語る天の顔は、とても活き活きしてして・・・家を出る前より、何だか大人びて見えた。

 

 どうやら今回の内浦行きは、天を成長させてくれたようだ。

 

 「フフッ・・・そう」

 

 私は小さく笑うと、天の肩に寄りかかった。

 

 「・・・それを聞いて安心したわ。楽しく過ごせているなら良かった」

 

 「ゴメンね、色々と心配かけて・・・」

 

 「謝らないの」

 

 天の腕にギュッと抱きつく。

 

 「私は天のお姉ちゃんなんだから。弟の心配くらいさせてよ」

 

 「・・・ありがと」

 

 お互いに身を寄せ合い、星空を眺める私達なのだった。




どうも〜、ムッティです。

私事ではありますが、9月6日に誕生日を迎えました!どーん

いやぁ、また1つ歳を重ねてしまった・・・

皆様、いつも応援ありがとうございます。

これからもムッティをよろしくお願い致します。



さてさて、誕生日といえば・・・

もうすぐ9月12日、ことりちゃんの誕生日ですね!

現在誕生日回を執筆中ですが、甘々にすべく頑張っております( ´∀`)

お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【南ことり】貴方がいてくれたから・・・

ことりちゃん、誕生日おめでとう!

甘々な誕生日回・・・になっているかは分かりませんが、イチャイチャはさせました(笑)

それではいってみよー!


 「・・・ん」

 

 目が覚める俺。

 

 カーテンの隙間から光が差し込んでいるところをみると、どうやらもう朝のようだ。

 

 俺は起き上がろうとして、布団に手をかけて・・・

 

 むにっ。

 

 「やんっ♡」

 

 何か柔らかいものを掴んだ。

 

 マシュマロのようなその感触が心地良くて、思わずにぎにぎしてしまう。

 

 「んっ・・・あっ・・・あんっ♡」

 

 「ん?」

 

 何やら声が聞こえる。

 

 そっと布団をめくってみると・・・

 

 「おはよう、天くん♡」

 

 女神のような美女が、俺に微笑みながら挨拶してくれる。

 

 おぉ・・・

 

 「おはよう、ことり。今日も綺麗だね」

 

 「フフッ、ありがと。天くんもカッコ良いよ」

 

 そんなことを言ってくれることり。

 

 女神や・・・

 

 「それはそうと天くん・・・ことりのおっぱい、そんなに気持ち良い?」

 

 「え?」

 

 その言葉を聞いて、ようやく自分の掴んでいるものを確認する。

 

 今のことりは全裸であり、俺が掴んでいたのは・・・ことりのおっぱいだった。

 

 「あー・・・道理でいつまでも揉んでいたい感触だと思った・・・」

 

 「もうっ、天くんのエッチ♡」

 

 そう言いつつ、揉まれるがままになっていることり。

 

 揉んでる俺が言うのもアレだが、心が広いなぁ・・・

 

 「あぁ、これはヤバい・・・邪な気持ちになるわ・・・」

 

 「フフッ、じゃあ・・・昨日の夜の続き、しちゃう?」

 

 「・・・お願いします」

 

 「了解♡」

 

 ことりはそう言うと、勢いよく布団に潜り込んだ。

 

 「キャッ♡天くんってば、朝から元気なんだから♡」

 

 そう言って笑うことりに、何も言えずに苦笑する俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「はい天くん、あ~ん♡」

 

 「あ~ん」

 

 「・・・見せつけてくれるわねぇ」

 

 苦笑するひなさん。

 

 俺達は今、三人で朝食を食べていた。

 

 「流石は新婚夫婦・・・って、結婚する前からこんな感じだったわね」

 

 「だってことりと天くんの仲だもん♪」

 

 俺の腕に抱きつくことり。

 

 俺とことりが結婚したのは、今から半年前・・・

 

 俺が高校を卒業したのと同時に交際をスタートさせ、大学を卒業したのと同時にゴールインした。

 

 そして結婚と同時に南家へ引っ越し、ことりやひなさんと三人で暮らしているのだ。

 

 「仲が良いのは結構だけど・・・夜はもう少し静かにしてくれないかしら?誰かさんの喘ぎ声が、私の部屋まで聞こえるんだけど?」

 

 「っ!?」

 

 ボンッとことりの顔が真っ赤に染まる。

 

 まぁあれだけ大きい声で喘いでたら、そりゃ普通に聞こえるよなぁ・・・

 

 「全く、いやらしい娘になっちゃって・・・」

 

 「そ、天くんのせいだもんっ!天くんががっついてくるからっ!」

 

 「ことりの身体がエロいのが悪い」

 

 「エ、エロっ・・・!?」

 

 「あら、そんなにエロいの?」

 

 「えぇ、それはもう・・・男の理性を崩壊させる、悪い身体の持ち主ですよ」

 

 「あらあら、我が娘ながら恐ろしいわね・・・」

 

 「も、もうっ!二人ともその辺にしてっ!」

 

 涙目のことり。

 

 よっぽど恥ずかしいらしい。

 

 「これ以上ことりを苛めるなら、もう天くんの相手してあげないっ!」

 

 「あら、じゃあ私が天くんの相手をしようかしら。毎晩あんな声を聞かされるものだから、私もそういう気分になっちゃって・・・」

 

 「是非お願いします」

 

 「ダメええええええええええっ!?」

 

 慌てて止めに入ることりなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ことり、いい加減機嫌直してよ」

 

 「ふんっ!」

 

 ぷいっとそっぽを向くことり。

 

 俺達は今、二人でアキバドームへとやって来ていた。

 

 今日はラブライブの決勝が行なわれる日であり、ドームは大勢のスクールアイドルファンで埋め尽くされていた。

 

 「天くんなんて知らないもんっ!」

 

 「好きだよ、ことり」

 

 「そ、そんな言葉に騙されないんだから!」

 

 「大好きだよ、ことり」

 

 「う、うぅ・・・」

 

 「愛してるよ、ことり」

 

 「私も愛してるうううううっ!」

 

 勢いよく抱きついてくることり。

 

 ウチの嫁がチョロ可愛い件について。

 

 「それにしても・・・相変わらず凄い人気だね、スクールアイドル」

 

 「最初にどこかの誰かさん達が、スクールアイドルブームを巻き起こしたからね。今じゃ凄まじい人気だよ」

 

 苦笑する俺。

 

 その『どこかの誰かさん達』の中の一人が、客席にいるなんて・・・

 

 ここに集まったスクールアイドルファンの皆は、想像もしてないだろうな・・・

 

 「天くん、よく決勝のチケット取れたね?凄い倍率だって聞いたけど・・・」

 

 「あぁ、ツバサちゃんを脅s・・・お願いしたらくれたよ」

 

 「何か今物騒なこと言いかけなかった!?」

 

 「いやいや、『チケットくれなきゃ週刊誌にデマを流す』なんて脅してないって」

 

 「完全に脅してるよねぇ!?何してるの!?」

 

 「いやぁ、持つべきものは権力を持った友達だよね」

 

 「最低な発言してるけど大丈夫!?」

 

 ことりのツッコミ。

 

 A-RISEはラブライブの初代王者であり、スクールアイドルの先駆者とも呼ばれている存在だ。

 

 その上今ではプロのトップアイドルグループになっているので、運営にかけあってチケットを手に入れるなど容易いことなのである。

 

 流石はツバサちゃん、毛根は腐ってもトップアイドルなだけはある。

 

 「それにしても・・・アキバドームか」

 

 前方のステージを見て、懐かしい気持ちになる。

 

 あれからもう何年経つっけ・・・

 

 「・・・もしかして、Aqoursの皆を思い出してた?」

 

 「・・・うん」

 

 千歌さん、曜、梨子、花丸、ルビィ、善子、ダイヤさん、果南、鞠莉・・・

 

 今でも連絡を取り合っている、かけがえのない仲間達の顔が思い浮かんだ。

 

 「・・・ことりとのデート中に、他の女の子のこと考えるの禁止」

 

 嫉妬の言葉とは裏腹に、俺の肩に頭を乗せることり。

 

 「・・・今度、内浦まで旅行に行こっか。ことりも皆に会いたいし」

 

 「・・・ありがと」

 

 ことりの腰に手を回し、優しく抱き寄せる。

 

 ホント、良い嫁を持ったよ・・・

 

 「よし、今日は思う存分楽しもうか!」

 

 「うんっ!いっぱい応援しよっ!」

 

 「よっしゃー!応援するぞー!」

 

 「千歌さん、はしゃぎ過ぎですわっ!ステージが始まるまでは抑えませんとっ!」

 

 「そう言うお姉ちゃんこそ、テンションの高さが隠し切れてないよね」

 

 「何を言ってますのルビィっ!私はいつも通りですわっ!」

 

 「すみません、ちょっと近付かないでもらって良いですか?」

 

 「あああああっ!?最愛の妹が反抗期突入ですわあああああっ!?」

 

 「・・・・・」

 

 「ア、アハハ・・・」

 

 背後から聞こえる声に無言になる俺と、苦笑していることり。

 

 人が懐かしさに浸ってるところを、思いっきりぶち壊してくれやがって・・・

 

 「歯を食い縛れよ、最強・・・!」

 

 「え、天くん!?」

 

 「天さん!?何故ここに!?」

 

 「俺の最弱は・・・ちっとばっか響くぞおおおおおおおおおおっ!」

 

 「ちょ、どこの上条さん・・・ギャアアアアアッ!?」

 

 「イヤアアアアアアアアアアッ!?」

 

 全力で千歌さんとダイヤさんをしばく俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あ、頭が・・・」

 

 「い、痛いですわ・・・」

 

 呻いている千歌さんとダイヤさん。

 

 ラブライブの決勝も終わり、俺達は会場の外へと出てきていた。

 

 「いやぁ、ラブライブも年々レベルが高くなってるねぇ」

 

 「ホントだよね!どのグループが優勝してもおかしくなかったよ!」

 

 ルビィと盛り上がっている俺。

 

 一体どこまで進化するんだ、ラブライブ・・・

 

 「っていうか、よく決勝のチケット取れたね?」

 

 「千歌ちゃんが奇跡的に引き当てたんだよ。しかも三枚も・・・凄くない?」

 

 「何でそんなに運が良いんだろう・・・日頃の行いはアホみたいに悪いのに」

 

 「ちょっと!?それは聞き捨てならないんだけど!?」

 

 「あぁ、すみません・・・『みたい』じゃなくて本当にアホでしたね」

 

 「喧嘩売ってる!?」

 

 「全く・・・天さんも千歌さんも、子供みたいな言い合いはお止めなさい」

 

 「「残念お嬢様は黙ってて下さい」」

 

 「その喧嘩まとめて買い上げてやりますわあああああっ!」

 

 「アハハ・・・」

 

 苦笑しているルビィ。

 

 一方、ことりはクスクス笑っていた。

 

 「フフッ、皆相変わらず仲良しだね・・・ちょっと妬いちゃうかも」

 

 「ねぇ、今のセリフ聞いた?俺、嫁に愛され過ぎて幸せなんだけど」

 

 「出たよ、天くんの惚気自慢・・・」

 

 「幸せなのは結構なのですが、聞いているこちらは胸焼けが酷くて・・・」

 

 「お姉ちゃん、天くんに電話で一時間以上聞かされてたもんね・・・その後ぐったりして、すぐ寝込んじゃったけど」

 

 あぁ、そういえばダイヤさんに電話で話したっけ・・・

 

 『新婚生活はいかがですか?』って聞かれたから、ありのままを話したんだけどなぁ・・・

 

 「っていうか皆、電車の時間大丈夫?」

 

 「あぁっ!?」

 

 「ぴぎぃっ!?」

 

 「すっかり忘れてましたわ!?」

 

 時計を見て慌てる三人。

 

 やれやれ・・・

 

 「じゃあ天くん、またね!」

 

 「ことりさんも、またお会いしましょう!」

 

 「今度ゆっくりお話しようね!」

 

 「うん、またね」

 

 「気を付けて帰ってね!」

 

 こちらに手を振り、慌てて走っていく三人。

 

 変わらないなぁ・・・

 

 「・・・フフッ」

 

 笑みを零すことり。

 

 「やっぱり仲良しだね、Aqoursの皆と」

 

 「・・・まぁ、仲間だからね」

 

 皆と共に過ごした時間は、俺にとっての宝物だ。

 

 μ'sもそうだし、Aqoursもそう・・・

 

 皆かけがえのない仲間達なのである。

 

 「・・・ただ、ことりは別だけど」

 

 「えぇっ!?ことりだけ仲間外れ!?」

 

 「いや、そうじゃなくて・・・」

 

 俺は苦笑しつつ、ことりの頭を撫でた。

 

 「勿論、ことりも大切な仲間だけど・・・愛する妻だから。他の皆とは少し違う、特別な存在なんだよ」

 

 「っ・・・」

 

 「誕生日おめでとう、ことり・・・愛してるよ」

 

 そう、今日はことりの誕生日なのだ。

 

 この後はディナーの予約もしてあり、お祝いする準備はバッチリである。

 

 「・・・ずるいなぁ、天くんは」

 

 ことりはそう言って呟くと、俺の腕に抱きついてきた。

 

 「私も愛してるよ、天くん・・・これからもずっと、ことりの側にいてね?」

 

 「勿論」

 

 笑い合う俺達。

 

 やがてどちらからともなく顔が近付き・・・その距離がゼロになる。

 

 唇に触れる柔らかな感触に、幸せを噛み締める俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《ことり視点》

 

 「ふんふんふ~ん♪」

 

 「上機嫌だね、ことり」

 

 鼻歌を歌う私を見て、天くんが笑っている。

 

 今夜は私の誕生日ということで、何と天くんが高級ホテルを予約してくれていたのだ。

 

 「だって凄く良いホテルなんだもん!よくこんなところ予約できたね?」

 

 「だってここ、ホテルオハラの系列ホテルだもん」

 

 「えぇっ!そうなの!?」

 

 「うん、鞠莉に頼んで予約させてもらったんだ」

 

 「あ、鞠莉ちゃんのことは脅してないんだね・・・」

 

 「ハハハ、俺は人を脅したことなんて一度も無いヨ」

 

 「嘘だよねぇ!?ツバサさんのことは脅してたよねぇ!?」

 

 「いやぁ、持つべきものはお金持ちの幼馴染だよね」

 

 「だから発言が最低だってば!?」

 

 全く、天くんったら・・・

 

 「あ、鞠莉といえば・・・」

 

 何かを思い出した様子の天くん。

 

 「どうしたの?」

 

 「あぁ、いや・・・昔、色々あってさ」

 

 苦笑する天くん。

 

 「詳細は省くけど、鞠莉と果南が喧嘩してた時期があってさ。それもお互いのことを想い合った結果のことだったから、見てる方は何だかいたたまれなくて・・・」

 

 「へぇ、そんなことがあったんだ?」

 

 「そうなんだよ。お互い素直じゃなかったっていうか・・・そんな二人を見てたら、ことりと穂乃果ちゃんの喧嘩を思い出したんだよね」

 

 「あぁ、あの時の・・・」

 

 高校時代、私のところに留学の話が持ち上がった。

 

 それを受けるべきか穂乃果ちゃんに相談したかったけど、あの当時の穂乃果ちゃんはラブライブに出ようと必死で・・・

 

 結果として留学することが決まった後の報告になってしまい、それが原因で私は穂乃果ちゃんと喧嘩してしまったのだ。

 

 「あの時はことりも穂乃果ちゃんも、自分の気持ちに素直になって仲直りも出来たけど・・・あの二人はどっちも素直になれなくて、仲直りするのに二年もかかったんだよ」

 

 「そうだったんだね・・・」

 

 他人事じゃない。

 

 下手をすれば、私達もそうなっていたかもしれない。

 

 でも、そうならなかったのは・・・

 

 「・・・天くんがいてくれたから」

 

 「え・・・?」

 

 「あの時、天くんがいてくれたから・・・私は思い留まることが出来たんだよ」

 

 

 

 

 

 『本当の気持ちに蓋をしたまま過ごしたって、辛い思いをするのはことりちゃんなんだよ!?そんな辛そうなことりちゃんを見るのは、俺も辛いんだよッ!』

 

 

 

 

 

 当時の記憶は、未だに鮮明に思い出せる。

 

 あの天くんが、顔を歪めて泣き叫ぶその姿に・・・私も涙が止まらなくなっていた。

 

 

 

 

 

 『俺、ことりちゃんの笑顔が好きなんだよ・・・でも、そんな辛そうな顔で笑ってほしくない・・・行かないでよ、ことりちゃん・・・!』

 

 

 

 

 

 そう言って私の手を掴む天くんを・・・気付けば思いっきり抱き締めていた。

 

 その後穂乃果ちゃんも来てくれて、私達は仲直りすることが出来たのだ。

 

 「あの時、天くんが来てくれなかったら・・・穂乃果ちゃんに会う前に、飛行機に乗ってたかもしれない。天くんの気持ちを聞いてなかったら、素直になれてなかったかもしれない。だから・・・」

 

 私は天くんに近付くと、思いっきり抱き締めた。

 

 あの時と違い、身長は抜かされてしまったけど・・・

 

 あの時に感じた温もりが、確かにそこにあった。

 

 「ありがとう、天くん・・・大好き」

 

 「・・・俺も大好きだよ、ことり」

 

 抱き締め返してくれる天くん。

 

 あぁ・・・私、幸せだなぁ・・・

 

 「ねぇ、天くん・・・誕生日プレゼント、欲しいんだけど」

 

 「あれ?さっきネックレスあげたよね?」

 

 「・・・赤ちゃん、欲しいな♡」

 

 「っ・・・」

 

 耳元でそう囁くと、天くんの顔がカァッと赤くなる。

 

 その反応に我慢出来なくなった私は、勢いよく天くんの唇を奪い・・・

 

 そのまま二人で、ベッドへと倒れ込むのだった。




チュンチュン♪ムッティです。

改めてことりちゃん、誕生日おめでとう!

そして天、お前はギルティだ(゜言゜)

ことりちゃんとイチャイチャしやがって・・・

まぁ書いたの自分ですけど(´・ω・`)

何とかことりちゃんの誕生日回を書き上げたものの、一週間後の19日は梨子ちゃんの誕生日・・・

その二日後の21日はルビィちゃんの誕生日・・・

・・・間に合うかなぁ(遠い目)

書きたい気持ちはメチャメチャ強いので、頑張って書き上げます!

お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【桜内梨子】ありがとう

梨子ちゃん、誕生日おめでとう!

0時投稿出来なくてすいませんでした(土下座)

それではいってみよー!


 《梨子視点》

 

 「天くんに告白しようと思います!」

 

 「「へー」」

 

 「興味無し!?」

 

 千歌ちゃんと曜ちゃんの反応にショックを受ける私。

 

 ある日のお昼休み、私達三人は部室でお昼ご飯を食べていた。

 

 「ちょっと!?少しは興味持ってよ!?」

 

 「そりゃ興味も無くなるよ」

 

 溜め息をつく千歌ちゃん。

 

 「だって梨子ちゃん、そうやって宣言しても結局告白しないじゃん」

 

 「うっ・・・」

 

 言葉に詰まる私。

 

 そう、私が告白を決意したのは今日が初めてではない。

 

 ずいぶん前から決意はしていたのだが・・・

 

 「これまで何度も告白を断念してきたもんねぇ・・・」

 

 呆れている曜ちゃん。

 

 「『今日はお化粧のノリが悪い』から始まり、『前髪が決まらない』『少し汗をかいた』とか・・・挙句の果てには、『星座占いで一位じゃなかった』『黒猫が横切った』とか言い始めてさぁ・・・」

 

 「し、仕方ないじゃない!完璧なコンディションで告白したいんだもん!」

 

 「『天くんが忙しそう』っていう理由もあったよね」

 

 「タ、タイミングを大事にした方が良いかなって・・・」

 

 「そういうのめんどいから、早く告って玉砕してくれない?」

 

 「何てこと言うの曜ちゃん!?しかも何で玉砕前提なの!?」

 

 「じゃあ私が天くんに言ってあげるよ。『梨子ちゃんが天くんのこと好きらしいから、その幻想をぶち殺してあげて』って」

 

 「どこの上条さん!?そして何で千歌ちゃんも私の恋を終わらせようとするの!?」

 

 「私だって彼氏いたこと無いのに、梨子ちゃんに先を越されたくないなって」

 

 「あれ!?千歌ちゃんってこんなゲスい子だったっけ!?」

 

 「まぁ冗談はこれぐらいにして・・・そろそろ覚悟を決めなよ、梨子ちゃん」

 

 溜め息をつく曜ちゃん。

 

 「Aqoursメンバーは皆、梨子ちゃんの恋を応援してるけどさぁ・・・ライバルは多いし、ハッキリ言って強敵だよ?」

 

 「うっ・・・」

 

 言葉に詰まる私。

 

 曜ちゃんの言うライバルとは、恐らくμ'sメンバーのことだろう。

 

 ガチ勢と言われることりさん・海未先生・真姫さんは勿論のこと、厄介勢と言われる花陽さんと希さんもいる。

 

 全員かなりの美女であり、世の男性陣が絶対に放っておかないであろう存在・・・

 

 まさかそんな人達が皆、天くんのことを狙っているなんて・・・

 

 「・・・よし、豊胸手術を受けてくるわ」

 

 「あっ、梨子ちゃんの頭のネジが外れた・・・」

 

 「天くんのことになると、ホント緩くなっちゃうんだから・・・」

 

 溜め息をつきつつ、私の襟首を掴む千歌ちゃんと曜ちゃん。

 

 「とりあえず、まずは天くんをデートに誘うところから始めない?もうすぐ梨子ちゃんの誕生日だし、『一緒に出掛けよう』って言えば天くんならオッケーしてくれるでしょ」

 

 「『いや、梨子と二人はちょっと・・・』とか言われないかしら・・・?」

 

 「何でそんなにネガティブなの!?」

 

 「実は私、ホロホロの実の能力者なの・・・」

 

 「どこのペ●ーナさん!?」

 

 「あぁ、どうせならメロメロの実が食べたかった・・・」

 

 「海賊女帝にでもなりたいの!?」

 

 「あ、スベスベの実も悪くないかも・・・」

 

 「確かにアル●ダさんは美女になったけども!」

 

 「私は美女になりたい・・・」

 

 「『私は貝になりたい』みたいに言われても困るんだけど!?っていうか、梨子ちゃんは十分美女だってば!?」

 

 「あー、もうめんどくさい!梨子ちゃんスマホ貸して!」

 

 「ちょ、曜ちゃん!?何するの!?」

 

 「『愛しの天くんへ。私と情熱的なデートをしてくれませんか?』っと・・・」

 

 「ナイス曜ちゃん!」

 

 「止めてええええええええええっ!?」

 

 全力で止める私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「なるほど・・・梨子らしくない文面だと思ったけど、曜の仕業だったのね・・・」

 

 「うぅ、恥ずかしい・・・」

 

 顔を真っ赤にして恥らっている梨子。

 

 梨子の誕生日当日、俺達は二人で東京へとやって来ていた。

 

 真姫ちゃんがピアノコンクールに出場することになり、梨子がそれを見に行きたいと言い出したのだ。

 

 「それにしても、曜ったらふざけ過ぎでしょ。『愛しの天くん』だの『情熱的なデート』だの・・・梨子みたいな可愛い女の子にそんな誘われ方したら、普通は勘違いしてもおかしくないっていうのに」

 

 「・・・逆に何で天くんは勘違いしてくれないのかしら」

 

 「ん?何か言った?」

 

 「何でもないわ・・・ハァ」

 

 何故か溜め息をついている梨子。

 

 曜のヤツ、梨子に迷惑かけやがって・・・

 

 帰ったらお仕置きしてやろうかな。

 

 「それにしても、真姫ちゃんがコンクールに出場するなんて珍しいな・・・『医大生は忙しいのよ』とか言って、進学してからはこういう大会に参加してなかったはずだけど」

 

 「ほら、私が出場したコンクールを真姫さんも見に来てくれたじゃない?その時の演奏を聴いて『刺激を受けた』って言ってくれて、コンクールへの出場を決めたんですって」

 

 「あぁ、なるほど。そういうことだったのね」

 

 「えぇ。それで事前に連絡をくれて、『梨子に聴いてほしい』って招待してくれたの」

 

 嬉しそうに話す梨子。

 

 自分の誕生日だというのに、誘いを断らず律儀に知り合いの応援に来るなんて・・・

 

 「・・・良い女だね、梨子って」

 

 「っ!?ど、どうしたの急に!?」

 

 「いや、前々から思ってはいたけど・・・改めてそう思ったよ」

 

 「や、止めてよ・・・恥ずかしいじゃない・・・」

 

 耳まで真っ赤にして、困ったような表情で俯く梨子。

 

 可愛すぎかオイ。

 

 「あっ、そろそろ始まるわよ!演奏は静かに聴かなくちゃ!」

 

 「はいはい」

 

 慌てて話を終わらせようとする梨子を見て、思わず苦笑してしまう俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「素晴らしい演奏でした!」

 

 「フフッ、ありがとう」

 

 顔を輝かせている梨子に、笑みを浮かべる真姫ちゃん。

 

 コンクールも終わり、俺達は真姫ちゃんに会いに来ていた。

 

 「やっぱり真姫さんは凄いです!あんなに人を惹きつける演奏が出来るなんて!」

 

 「そ、そんなことないわよ・・・」

 

 少し俯き、髪の毛先を弄り出す真姫ちゃん。

 

 あ、照れてるな・・・

 

 「そんなことあるって。俺は真姫ちゃんが弾くピアノ、凄く好きだよ」

 

 「待ってて天!日本一のピアノ奏者になってみせるから!」

 

 「急に意欲的になりましたね!?」

 

 梨子のツッコミ。

 

 相変わらずチョロ可愛いな・・・

 

 「真姫ちゃ~ん?」

 

 真姫ちゃんそっくりな女性が、笑顔でこちらへやって来る。

 

 「お疲れ様・・・って天くん!?」

 

 「お久しぶりです、美姫さん」

 

 「久しぶり~っ!」

 

 「むぐっ!?」

 

 勢いよく抱き締められ、豊満な胸に顔が押し付けられる。

 

 あぁ、幸せ・・・じゃなくて呼吸が出来ない・・・

 

 「ちょ、何してるのよ!?」

 

 「あら、真姫ちゃんったら嫉妬してるの?可愛い~♡」

 

 「いいから早く天を離しなさい!」

 

 「フフッ、は~い♪」

 

 「ぷはぁっ!?」

 

 ようやく解放され、息が出来るようになる。

 

 死ぬかと思った・・・

 

 「ごめんなさいね、天くん。久しぶりに会えたのが嬉しくて」

 

 「いえ、幸せだったので大丈夫です」

 

 「あら、相変わらずおっぱいが好きなの?」

 

 「大好きです」

 

 「どんな会話してんのよ!?」

 

 慌てて真姫ちゃんに抱き寄せられる。

 

 一方、梨子は困惑していた。

 

 「えーっと・・・真姫さんのお姉さんですか?」

 

 「・・・母親よ」

 

 「えぇっ!?」

 

 「初めまして、西木野美姫です♪」

 

 微笑む美姫さん。

 

 ホントに真姫ちゃんそっくりの美女というか・・・

 

 真姫ちゃんも髪が伸びたし、ますます美姫さんに似たよなぁ・・・

 

 「は、初めまして・・・桜内梨子といいます・・・」

 

 「あぁ、Aqoursの・・・もしかして、天くんの彼女!?」

 

 「そうです」

 

 「違うでしょうが!」

 

 梨子の頭を思いっきりはたく真姫ちゃん。

 

 ナイスツッコミ。

 

 「梨子、こんなところでボケなくても・・・」

 

 「・・・そうよね。どうせ天くんは勘違いしないものね」

 

 何故か落ち込んでいる梨子。

 

 今日の梨子、何かおかしくない・・・?

 

 「ねぇ真姫ちゃん、もしかしてこの子・・・」

 

 「・・・お察しの通りよ」

 

 「あぁ、やっぱり・・・変わらないわねぇ、天くん」

 

 苦笑している美姫さんと、溜め息をついている真姫ちゃん。

 

 何話してるのかな?

 

 「あー、久しぶりのコンクールで疲れたわね・・・悪いけど、私は帰って休ませてもらうわ。行きましょう、ママ」

 

 「はいはい。それじゃ天くん、また会いましょうね」

 

 「えぇ、またご挨拶に伺います」

 

 一礼する俺。

 

 美姫さんは俺に笑みを向けると、真姫ちゃんの側へと駆け寄った。

 

 「良いの真姫ちゃん?恋のライバルを、天くんと二人きりにさせちゃうなんて」

 

 「・・・せっかくの誕生日に、わざわざ私の演奏を聴きに来てくれたんだもの。今日は梨子に譲るわ」

 

 「フフッ、やっさしー♪」

 

 小声なので聞こえないが、何かを話しながら仲睦まじく帰路に着く二人なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「いや~、やっぱり真姫ちゃんが弾くピアノは素敵だよね」

 

 「そ、そうね・・・」

 

 天くんの言葉に相槌を打つ私。

 

 私達は今、内浦へと帰る電車の中にいた。

 

 「どうしたの梨子?何か表情が固くない?」

 

 「そ、そんなことないわよ?」

 

 「そう?ならいいけど・・・」

 

 不思議そうな表情の天くん。

 

 一方の私は、これから自分がしようとしていることに不安しかなかった。

 

 (が、頑張らなくちゃ・・・勇気を出して告白しなくちゃ・・・!)

 

 私は今、これまでの人生の中で一番緊張していた。

 

 手の震えが止まらない・・・

 

 (ちゃんと天くんに伝えるんだ・・・『貴方のことが好きです』って・・・)

 

 天くんはどんな反応をするだろうか・・・

 

 想像するのがとても怖い。

 

 (それでも・・・ハッキリ伝えないと)

 

 意を決して天くんに視線を向け、口を開こうとしたその時・・・

 

 窓の外を見つめる天くんの表情が、とても寂しげなものであることに気が付いた。

 

 私も窓の外へと目を向けてみると・・・

 

 「あっ・・・」

 

 とある駅のホームだった。

 

 前に天くんが穂乃果さんを見つけて、慌てて電車を降りていった駅だ。

 

 後で天くんに聞いたが、この駅は・・・

 

 「・・・μ'sが解散を決めた日に訪れた駅、よね?」

 

 「・・・うん」

 

 この駅の近くにある浜辺で、μ'sは解散することを決めたそうだ。

 

 この駅を通過する度に当時を思い出すんだって、前に天くんが教えてくれたっけ・・・

 

 「駅で電車を待つ間、もの凄く寂しい気持ちが押し寄せてきて・・・皆で抱き合って、人目も憚らずに号泣したんだよね」

 

 苦笑する天くん。

 

 「俺が今までで一番泣いたのは、間違いなくあの時だよ。子供みたいにわんわん泣いてさ・・・まぁ小五だったから、『みたい』じゃなくてホントに子供だったんだけど」

 

 「天くん・・・」

 

 「あの時、改めて気付いたんだ。俺にとって、μ'sがどれほど大切だったか・・・だからこそ、『μ'sの一員で終わりたい』って思ってたけど・・・梨子達に出会った」

 

 微笑む天くん。

 

 「今度はAqoursでマネージャーをやることになって、最初は葛藤もあったけど・・・今は良かったと思ってる。マネージャーを辞めようとした時、梨子達が引き止めてくれたおかげだよ・・・ありがとう」

 

 「っ・・・」

 

 気が付いたら、思いっきり天くんを抱き締めていた。

 

 天くんの背中に手を回し、力いっぱい抱き締める。

 

 「梨子・・・?」

 

 「・・・『ありがとう』はこっちのセリフよ」

 

 呟く私。

 

 「私は天くんに救ってもらって、今ここにいる。私だけじゃなくて、皆そう・・・私達を繋いでくれたのは、間違いなく天くんなのよ」

 

 「梨子・・・」

 

 「だから・・・ありがとう、天くん」

 

 天くんへの想いが、ドッと胸から溢れてくる。

 

 天くんがとても愛おしくて、ずっとこうしていたい。

 

 きっと今なら、自分の気持ちを素直に言葉に出来るだろう。

 

 でも・・・

 

 「・・・私達、頑張るから。統廃合を阻止して、ラブライブで優勝してみせる。だからこれからも、私達のことを支えてね」

 

 「・・・勿論」

 

 私の背中に天くんの手が回され、優しく抱き締められる。

 

 「俺はμ'sの十人目であり・・・Aqoursの十人目だから。皆の力になってみせるよ」

 

 天くんの温もりを感じ、心が温かくなっていくのが分かる。

 

 この温もりを感じることが出来たら、今はそれで良い・・・

 

 自分の気持ちを伝えられなくても。

 

 「・・・ありがとう」

 

 私が天くんに伝えたい言葉は、こうして伝えられたんだから。

 

 気持ちを伝えるのは、もう少し後・・・

 

 きっといつか、そのタイミングがやってくる。

 

 その時は・・・

 

 (絶対に伝えるから・・・『大好きです』って)

 

 心に誓う私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 翌日・・・

 

 「そんなわけで、告白はしませんでした!」

 

 「「へー」」

 

 「だから興味持ってってば!?」

 

 部室で昨日の報告をした私を待っていたのは、千歌ちゃんと曜ちゃんのとてつもなく冷たい反応だった。

 

 「どうせ告白しないとは思ってたけど・・・」

 

 「改めて聞くと、梨子ちゃんのヘタレっぷりが分かるよね・・・」

 

 「ヘタレって言わないでくれる!?『今じゃないな』って思っただけだから!」

 

 「そこは『今でしょ!』って思わなくちゃ」

 

 「懐かしい流行語ね!?」

 

 「今度からヘタレ内さんって呼んで良い?」

 

 「良いわけないでしょ!?」

 

 「全く、これだからヘタレ子ちゃんは・・・」

 

 「今度は苗字じゃなくて名前の方!?」

 

 「失礼しまーす」

 

 私がツッコミを連発していると、部室に天くんが入ってきた。

 

 「あれ?どうしたの天くん?」

 

 「いや、梨子に呼ばれたんだよね」

 

 曜ちゃんの質問に答える天くん。

 

 そう、天くんを呼んだのは私だった。

 

 それにはちゃんとした理由があって・・・

 

 「実は今日、天くんにお弁当を持ってきたのよ」

 

 「お弁当?」

 

 「えぇ、私の手作りよ」

 

 「マジで!?」

 

 驚いている天くん。

 

 フッフッフッ、感動して言葉も出ないかしら・・・

 

 「梨子って料理出来たの!?」

 

 「そっち!?私だって料理くらい出来るわよ!?」

 

 「いや、だって中の人・・・」

 

 「ストップうううううっ!?『中の人』とかNGワードだから!」

 

 あ、危ない・・・

 

 この子は何を言い出すのかしら・・・

 

 「そ、それよりお弁当よ!ほら、食べて食べて!」

 

 「じゃあ遠慮なく・・・」

 

 お弁当のフタを開ける天くん。

 

 そこには・・・

 

 「ふふん、どう?ハンバーグ弁当よ?」

 

 「・・・スーパーで買った出来合いのやつ?」

 

 「違うわよ!?昨日ちゃんと自分で作ったんだから!」

 

 「いや、だって中の人・・・」

 

 「だからそれはNGワードだって言ってるでしょうがあああああっ!?」

 

 「落ち着きなよ、先生」

 

 「そうだよ画伯、ヒートアップし過ぎだって」

 

 「二人も『先生』とか『画伯』とか止めてくれる!?」

 

 「ちょっと、静かにしなよボトラー」

 

 「絶対分かってるわよねぇ!?分かっててそういうこと言ってるわよねぇ!?」

 

 全く、これ以上のツッコミは身体に悪いわ・・・

 

 「ほら、食べさせてあげるから・・・あ~ん」

 

 「あ~ん・・・あ、美味しい」

 

 「でしょ?どんどん食べてね!」

 

 「・・・ねぇ曜ちゃん、この二人って付き合ってないんだよね?」

 

 「千歌ちゃん、そこに触れるのは止めよう・・・ツッコミを入れたいところだけど」

 

 ヒソヒソ声で会話している二人。

 

 何を話してるのかしら・・・

 

 「梨子って料理上手いんだね・・・良いお嫁さんになりそう」

 

 「じゃ、じゃあ・・・天くんのお嫁さんになってあげても良いわよ・・・?」

 

 「アハハ、ありがと。お世辞でも嬉しいよ」

 

 「・・・お世辞じゃないのに」

 

 「あれ?何で落ち込んでんの?」

 

 「・・・険しい道のりだねぇ」

 

 「・・・同感であります」

 

 千歌ちゃんと曜ちゃんから、憐憫の眼差しを向けられる私なのだった。




どうも〜、ムッティです。

改めて梨子ちゃん、誕生日おめでとう!

Aqoursの中で、唯一天への恋心を自覚しているメンバーですね。

鈍感な天に振り向いてもらおうと、健気にアタックを続けております。

今のところヒロインレースをリードしていますが、果たしてこれからどうなるのか・・・

そして明後日はルビィちゃんの誕生日!

・・・誕生日回、全然書けてないや(´・ω・`)

が、頑張ります・・・(震え声)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【黒澤ルビィ】心を掴まれた人

案の定、0時投稿出来なくてすいません(土下座)

今回はルビィちゃんの誕生日回!

ルビィちゃん、頑張ルビィ!←


 「えぇっ!?ルビィの誕生日って明日なんですか!?」

 

 「えぇ、そうですわ」

 

 頷くダイヤさん。

 

 俺達は今、生徒会室で仕事をしていた。

 

 「マジですか・・・昨日は梨子の誕生日で、明日はルビィの誕生日ですか・・・」

 

 「同じグループで、よくここまで誕生日が近いメンバーがいるものですわね」

 

 「ホントですよ・・・誕生日回の執筆が間に合わないんですけど・・・」

 

 「メタ発言は止めていただけます!?」

 

 ダイヤさんのツッコミ。

 

 「コホンッ・・・ところで天さん、明日は何かご予定がお有りでしょうか?」

 

 「ありったけの夢をかき集めて、捜し物を探しに行く予定です」

 

 「どこのワン〇ースですの!?真面目に答えて下さいます!?」

 

 「いや、特に何も無いですけど・・・」

 

 「それでしたら、ルビィと一緒に過ごしていただけませんか?」

 

 「はい?」

 

 首を傾げる俺。

 

 「だって明日、ルビィの誕生日なんですよね?だったら俺と過ごすより、ダイヤさんと過ごした方が良いんじゃないですか?」

 

 「ハァ・・・やはりルビィの気持ちには気付いていないのですね・・・」

 

 何故か溜め息をつくダイヤさん。

 

 何やら呟いていたが、何を言ってたんだろう・・・

 

 「実はあの子、東京のスクールアイドルショップに行きたがってまして。一人で東京に行かせるのは不安なので、天さんに同行していただきたいのですわ」

 

 「あぁ、なるほど・・・って、ダイヤさんじゃダメなんですか?」

 

 「私はその・・・そう!家の用事でどうしても行けないのですわ!」

 

 「家の用事ってことは、ルビィも行けないんじゃ・・・」

 

 「ルビィは大丈夫です!私だけで十分ですので!」

 

 何故か必死なダイヤさん。

 

 まぁ、俺としては全然問題無いけど・・・

 

 「分かりました。後でルビィに連絡しておきますね」

 

 「お願いします・・・ルビィ、チャンスメイクはしておきましたわよ」

 

 何故か満足気な表情を浮かべているダイヤさんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 翌日・・・

 

 「来ないなぁ・・・」

 

 駅前でルビィを待っている俺。

 

 あの後ルビィとも連絡をとり、集合場所と時間を決めたのだが・・・

 

 約束の時間を、既に十分ほど過ぎていた。

 

 「・・・電話してみるか」

 

 スマホを取り出し、ルビィに電話をかけようとすると・・・

 

 「天く~ん!」

 

 ルビィの声が聞こえる。

 

 振り向くと、ルビィが急いで走ってくるところだった。

 

 「ハァ・・・ハァ・・・遅くなってゴメンなさい!」

 

 「そんなに待ってないから大丈夫だよ」

 

 勢いよく頭を下げるルビィに、思わず苦笑してしまう俺。

 

 「それより、誕生日おめでとう」

 

 「あ、ありがとう・・・」

 

 照れ臭そうに笑うルビィ。

 

 そこで俺は、あることに気付いた。

 

 「あれ?ルビィ、今日はツインテールじゃないんだね?」

 

 そう、今日のルビィは髪をサイドテールに結っていた。

 

 いつもと髪型が違うと、何か新鮮だなぁ・・・

 

 「うん、偶には違う髪型にしてみようかなって・・・似合わなかったかな?」

 

 「いや、最高に可愛い」

 

 「ふぇっ!?」

 

 率直な感想を述べると、ルビィの顔が真っ赤になった。

 

 照れてるなぁ・・・

 

 「やっぱり可愛い女の子は、どんな髪型にしても似合うんだね」

 

 「か、可愛いって・・・」

 

 「あ、でも坊主は止めてね?」

 

 「しないよ!?急にどうしたの!?」

 

 「いくらアイドルが好きだからって、熱愛報道のケジメで坊主になったアイドルをフィーチャーしないでね?」

 

 「だからしないって!?っていうか何年前の話!?」

 

 ツッコミが止まらないルビィなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「わぁ・・・!」

 

 目を輝かせているルビィ。

 

 東京へとやって来た俺達は、秋葉原にあるスクールアイドルショップを訪れていた。

 

 「このお店凄い!レアな商品がいっぱい置いてある!」

 

 「でしょ?良いお店だよね」

 

 実はここ、にこちゃんや花陽ちゃんの行きつけのお店だったりする。

 

 亜里姉も度々訪れており、俺もよく付き合わされていた。

 

 「あっ、A-RISEのグッズ!」

 

 小走りで駆けて行くルビィ。

 

 いまやプロのアイドルとして有名なA-RISEだが、スクールアイドル時代のグッズは今でも販売している。

 

 まぁ既に生産はされていないので数は少ないし、値段もそこそこするのだが。

 

 「た、高い・・・!」

 

 声が震えているルビィ。

 

 その視線の先には、スクールアイドル時代のA-RISEのクリアファイルが置いてあった。

 

 その下の値札には、女子高生のお小遣いでは払えないであろう金額が・・・

 

 あ、鞠莉は別ね。アイツは最早チーター・・・いや、ビーターだから。

 

 「どこのキ〇トくん!?」

 

 「よく心の声が読めたね・・・それにしても高いなぁ」

 

 「うぅ・・・欲しいけど手が出ない・・・」

 

 物欲しそうな目でクリアファイルを見つめるルビィ。

 

 やれやれ・・・

 

 「ルビィ、ちょっとここで待っててね」

 

 「え・・・?」

 

 首を傾げるルビィを置いて、俺は別のコーナーでわざとらしく商品整理をしている店員さんの耳に顔を近づけ・・・

 

 「・・・ふぅっ」

 

 「ひゃんっ!?」

 

 そっと息を吹きかけた。

 

 店員さんが変な声を上げて飛び上がる。

 

 「ちょ、何するの天くん!?」

 

 「いや、音ノ木坂の精霊(笑)に挨拶しようと思って」

 

 「バカにしてるよねぇ!?」

 

 そうツッコミを入れるのは、水瀬いおりちゃん・・・

 

 音ノ木坂アイドル研究部の現部長だ。

 

 厨二病のような考え方の持ち主で、Aqoursの皆からは音ノ木坂の精霊(笑)だと思われている。

 

 こう見えても、一応はスクールアイドルだ。

 

 「一応って何!?れっきとしたスクールアイドルだから!」

 

 「さらっと心の声を読んでいくスタイルは置いといて・・・何してんの?」

 

 「私がここでバイトしてること、天くんも知ってるでしょ!?何でAqoursのメンバーを連れてきたのよ!?」

 

 「いおりちゃんと遭遇させようかなって」

 

 「やっぱり確信犯かっ!」

 

 「このままだと、いおりちゃんが精霊(笑)でも何でもないことが判明しちゃうね」

 

 「くっ、脅しをかけてきたか・・・A-RISEのクリアファイルが目的なら、私を脅したところで無駄よ!?バイトにどうにか出来る力なんて無いわ!」

 

 「いや、脅すつもりは無いんだけど。そもそも、いおりちゃんごときがどうにか出来るなんて思ってないし」

 

 「何か凄い見下されてる!?事実だけど腹立つわね!?」

 

 「悪いんだけど、店長呼んで来てくれる?下っ端じゃ話にならないから」

 

 「ホントに腹立つうううううっ!絶対呼んであげないんだからぁっ!」

 

 「おーいルビィ、ここに音ノ木坂の精霊(笑)が・・・」

 

 「店長おおおおおおおおおおっ!」

 

 血涙を流して店長さんを呼びに行くいおりちゃん。

 

 やがてバックヤードから、若い女性が姿を現した。

 

 「お待たせしました・・・って天くんじゃないですか!お久しぶりです!」

 

 「お久しぶりです、五月さん」

 

 俺を見てパァッと顔を輝かせる女性・・・上杉五月さん。

 

 このお店の店長さんで、俺もこのお店に通ううちにすっかり顔馴染みとなっていた。

 

 「いおりちゃんから話は聞いてますよ!今はAqoursのマネージャーをやってるそうじゃないですか!」

 

 「えぇ、まぁ色々ありまして」

 

 「それを聞いてから、Aqoursのことは要チェックしてますよ!この間の新曲も素晴らしかったです!」

 

 「ありがとうございます」

 

 他愛無い雑談をしたところで、俺は本題を切り出すことにした。

 

 「ところで五月さん、あそこに置いてあるA-RISEのクリアファイルですけど・・・」

 

 「あぁ、あれですか・・・えっ、あの赤髪の子はまさか・・・!」

 

 「えぇ、Aqoursの黒澤ルビィです」

 

 「やっぱりそうですよね!?あぁ、可愛い・・・じゅるり」

 

 「店長、涎が垂れてます」

 

 うっとりしている五月さんを見て、呆れているいおりちゃん。

 

 この通り、五月さんはスクールアイドルに目が無いのである。

 

 「あのクリアファイル、ルビィが欲しがってて・・・どうにかなりません?」

 

 「あげちゃいます!」

 

 「ちょ、それは流石にマズいですよねぇ!?」

 

 「だ、だっていおりちゃん・・・!」

 

 「じゃあ、こういうのはどうでしょう?」

 

 提案する俺。

 

 「このお店で売っているAqoursのグッズ・・・その中のルビィのグッズ全てに、ルビィ本人の直筆サインを入れてもらいましょう」

 

 「「えぇっ!?」」

 

 驚きの声を上げる二人。

 

 「ちょ、良いんですか天くん!?」

 

 「まぁ決めるのはルビィですけど、嫌とは言わないと思いますよ?本人の直筆サインが入るとなると、グッズの価値は格段に跳ね上がるわけで・・・クリアファイルをもらえるだけの価値ある仕事だと思いますが?」

 

 「わ、私もサインもらって良いですかね・・・?」

 

 「店長!?公私混同してません!?」

 

 「勿論です。五月さんにはお世話になってますし、俺からルビィにお願いしますよ」

 

 「あぁ、天くんが神様に見えます・・・!」

 

 「ハッハッハッ」

 

 「・・・何この茶番」

 

 俺の手を号泣しながら握る五月さんを見て、溜め息をつくいおりちゃんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ほ、本当にもらって良かったのかな・・・?」

 

 恐る恐る、しかし大事そうに紙袋を抱えるルビィ。

 

 スクールアイドルショップ巡りを終えた俺達は、内浦へと帰る電車に乗る為に駅へとやって来ていた。

 

 「大丈夫だって。店長さんが良いって言ったんだから」

 

 「で、でも・・・ルビィのサインなんて、価値あるのかな・・・?」

 

 不安そうなルビィ。

 

 やれやれ・・・

 

 「ホント・・・ルビィは花陽ちゃんに似てるね」

 

 「えっ、花陽ちゃんに・・・?」

 

 「うん。花陽ちゃんも自分に自信が無くて、よくそういうネガティブな発言してたよ」

 

 苦笑する俺。

 

 「初めて会った時から、何となく重なるなぁとは思ってたけど・・・ルビィが花陽ちゃんに憧れてるって知った時は、不思議と納得したよ」

 

 多分ルビィは花陽ちゃんに、自分と近しいものを感じたんだと思う。

 

 そんな花陽ちゃんがスクールアイドルとして活躍する姿を見て、憧れを抱いたんだろう。

 

 「自分に自信が無くても、何かを目指してひたむきに頑張る・・・そういう人の姿は、人の心を掴むものだと思う。だからルビィの頑張る姿を見て、心を掴まれた人が絶対いるはずなんだよ」

 

 「そ、そうかな・・・?」

 

 「うん。そういう人達にとって、ルビィのサインはとっても価値のあるものだから。だからルビィは、もっと自分を誇って良いんだよ。ルビィの頑張りは皆見てるし、マネージャーの俺だってよく知ってるんだから」

 

 「天くん・・・」

 

 瞳を潤ませるルビィ。

 

 俺はルビィに笑顔を向けた。

 

 「改めて誕生日おめでとう、ルビィ。これからもよろしくね」

 

 「っ・・・こちらこそ!」

 

 笑顔で頷いてくれるルビィ。

 

 やっぱりこの子には、笑顔がよく似合う。

 

 「さぁ、帰ろうか」

 

 「うんっ!」

 

 二人並んで歩き出す俺達なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《ルビィ視点》

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 「フフッ、気持ち良さそう・・・」

 

 ルビィの肩に寄りかかって眠る天くんを見て、思わず笑みが零れる。

 

 ルビィ達は今、電車に乗って内浦へ帰る途中だった。

 

 「・・・楽しかったな」

 

 まさか誕生日に、天くんと二人で過ごせるとは思わなかった。

 

 お姉ちゃんから『喜びなさいルビィ!天さんとデートの約束を取り付けてきましたわ!』って言われた時は、本当にビックリしたけど・・・

 

 お姉ちゃんに感謝しなくっちゃ。

 

 「・・・んぅ」

 

 天くんの目がうっすら開く。

 

 「あ、ゴメン・・・寝ちゃってた」

 

 「大丈夫だよ」

 

 天くんの眠そうな顔が、何だか愛おしくて仕方ない。

 

 そう思うのはやっぱり・・・

 

 ルビィが天くんに、恋してるからなんだろうなぁ・・・

 

 

 

 

 

 『ひょっとして、スクールアイドルやりたいんじゃない?』

 

 

 

 

 

 ルビィの本当の気持ちを見抜いて、そっと背中を押してくれた・・・

 

 

 

 

 

 『我慢しなくて良いよ・・・気が済むまで泣いて良いから』

 

 

 

 

 

 落ち込んだ時、ずっと側に寄り添ってくれた・・・

 

 

 

 

 

 『だからルビィは、もっと自分を誇って良いんだよ』

 

 

 

 

 

 自信を持てないルビィを、優しく励ましてくれた・・・

 

 

 

 

 

 いつの間にかルビィの心は、天くんに掴まれてたのかもしれないなぁ・・・

 

 「えいっ!」

 

 「うわっ!?」

 

 天くんの身体を横にさせ、頭をルビィの太ももに乗せて膝枕してあげる。

 

 「ちょ、ルビィ!?」

 

 「フフッ、どうしたの天くん?顔真っ赤だよ?」

 

 「いや、だって・・・」

 

 恥ずかしそうな天くん。

 

 これはまだ、ルビィにもチャンスがあるかな・・・

 

 そんなことを考えつつ、クスクス笑いながら天くんの頭を撫でるルビィなのだった。




どうも〜、ムッティです。

ルビィちゃん、お誕生日おめでとう!

可愛すぎかオイ(唐突)

ちなみにサイドテールのルビィちゃんは、劇場版の最初に登場してましたね。

マジで可愛かった(´・ω・`)




さて、今回登場したいおりちゃん・・・の紹介は省いて(笑)

店長の上杉五月ちゃんが登場しましたね。

まぁ多分今回だけの登場になると思います(笑)

『五等分の花嫁』を知っている方々はお分かりかと思いますが、モチーフキャラは中野五月ちゃんです。

苗字は上杉風太郎くんから取りました。

ちなみに前回全く触れませんでしたが、真姫ちゃんママの名前は『美姫』にしてみました。

『喜久子』にしようか悩みましたが、娘の名前と似た名前にしようかなと・・・

性格はちょっと可愛くし過ぎた感がありますが、大目に見て下さい(´・ω・`)



そしてここで、恒例の支援絵紹介!

今回もことりちゃん大好きさんが、本日が誕生日のルビィちゃんの絵を描いてくれました!


【挿絵表示】


可愛すぎかオイ(二回目)

そして相変わらずクオリティ高い(゜ロ゜)

ことりちゃん大好きさん、いつも素敵な絵をありがとうございます!



さてさて、これでAqoursメンバーの誕生日回は全て終わりましたね。

次回は10月21日、絵里ちゃんの誕生日回です。

これまでμ'sメンバーは天とくっつけてきましたが、絵里ちゃんは姉ですからね・・・

どういった話にしようか悩む・・・

・・・禁断の姉弟愛もアリかも←

色々考えてますので、お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いつだって太陽は皆を照らしてくれる。

忌々しい夏が終わり、ようやく秋の到来・・・

過ごしやすさハンパない( ´∀`)

もう夏なんて来なくて良いわ(タイトルとのギャップ)


 「名古屋だあああああっ!」

 

 「だぎゃあああああっ!」

 

 「テンション高っ!?」

 

 はしゃぐ俺と花丸にツッコミを入れるルビィ。

 

 遂に迎えた地区予選の日、俺達は会場のある名古屋へとやって来ていた。

 

 「みそかつ食べたい!」

 

 「手羽先も外せないずら!」

 

 「落ち着きなさい」

 

 呆れているダイヤさん。

 

 「私達はこれから地区予選なのですよ?グルメツアーをしている暇などありませんわ」

 

 「うわぁ、これだからお嬢様は・・・どうせ『そんな庶民の食べ物、お嬢様である私はいつでも食べられますわ』とか思ってるんでしょ?」

 

 「天さん!?何ですかその私に対する偏見は!?」

 

 「天くん、ダイヤさんに庶民の気持ちを理解してもらうのは無理ずら。頭も固いから尚更無理ずら」

 

 「花丸さん!?そこまでストレートに人を貶す方でしたか!?」

 

 「じゃあ終わったら、皆で何か食べに行きましょう!マリーが奢りマース♪」

 

 「鞠莉大好き!」

 

 「キャッ♡もう、天ってば抱きついてきちゃって♡情熱的なんだから♡」

 

 「流石は本物のお嬢様!前髪パッツン堅物ですわ女とは大違いずら!」

 

 「ぐすん・・・だいやはもう、おうちにかえりたいですわ・・・」

 

 「あぁっ!?ダイヤさんがショックのあまり幼児退行化してる!?」

 

 「しっかりしてダイヤ!?」

 

 慌ててダイヤさんを励ます曜と果南。

 

 大変だなぁ・・・

 

 「誰のせいだと思ってるの?」

 

 俺の心の声を読んだらしい梨子が、何故か不機嫌そうな顔で俺と鞠莉を引き剥がす。

 

 「ダイヤさんの言う通りよ。私達は遊びに来たわけじゃないんだから」

 

 「そっかぁ・・・梨子とグルメデートしたかったのになぁ・・・」

 

 「今すぐ行きましょう天くん!まずは何が食べたい!?」

 

 「あぁ、梨子ちゃんが壊れた・・・」

 

 「早速頭のネジを外してんじゃないわよ」

 

 呆れている千歌さんと、梨子の頭を引っ叩く善子。

 

 「それより天、絵里さんと亜里沙さんは?」

 

 「あぁ、ママ軍団の皆と一緒に行動してるよ」

 

 「ママ軍団って何よ!?」

 

 「え、皆のお母さん達だけど?」

 

 「あの人達来てるのかあああああっ!」

 

 頭を抱える善子。

 

 来てくれたことがよっぽど嬉しかったらしい。

 

 「いや違うから!その逆だから!」

 

 「何で皆ナチュラルに人の心を読めるの?」

 

 俺ってそんなに分かりやすいかなぁ・・・

 

 「あと、今日は浦の星の全校生徒が集まったそうですよ。さっきいつきさんから連絡があって、全員で応援してくれるそうです」

 

 「全校生徒!?よく集まったね!?」

 

 「麻衣先生と翔子先生が呼び掛けてくれたんですって。二人から鬼のようにラインが飛んできてるんですよ・・・全部既読スルーしてますけど」

 

 「何で!?返事してあげてよ!?」

 

 千歌さんのツッコミ。

 

 いや、だって面倒なんだもの。

 

 「まぁそれはさておき・・・覚悟は出来ましたか?」

 

 「勿論!」

 

 「準備万端だよ!」

 

 「いつでも行けるわ!」

 

 「大丈夫ずら!」

 

 「頑張ルビィ!」

 

 「ヨハネの辞書に不可能の文字は無いわ!」

 

 「いざ参りますわ!」

 

 「やってやろうじゃん!」

 

 「絶対に勝ち進んでやりマース!」

 

 皆の頼もしい言葉に、思わず口元が緩む俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「気合い入れて応援するぞおおおおおっ!」

 

 「「「「「「おおおおおおおおおおっ!」」」」」」

 

 「何でアンタはメンバーのお母さん達のリーダーみたいになってんのよ!?」

 

 美渡さんのツッコミ。

 

 観客席に移動した俺は、応援に来てくれた皆と合流していた。

 

 「何言ってるの美渡ちゃん。『みたい』じゃなくて、ママ軍団のリーダーは天くんよ?」

 

 「えぇっ!?」

 

 善恵さんの指摘にビックリしている美渡さん。

 

 「何でママじゃないヤツがリーダーなんですか!?」

 

 「だって私達を繋いでくれたの天だし」

 

 「私達をまとめてくれたの天くんだし」

 

 「ラインのグループ立ち上げてくれたの天だし」

 

 西華さん・奈々さん・星さんが口々に言う。

 

 「な、何なの?この天に対する全幅の信頼は・・・」

 

 「今さら何を仰っているのですか、美渡さん」

 

 「そうだよ美渡ちゃん、ここにいる皆が天くんを信頼してるんだから」

 

 「サラッと話しかけてきましたけど、お二人は初対面ですよねぇ!?」

 

 あ、そういえばこの二人は美渡さんと会ったことなかったっけ・・・

 

 「紹介しますね、美渡さん。黒澤真珠さんと、国木田満点さんです」

 

 「初めまして」

 

 「よろしくね」

 

 挨拶する二人。

 

 真珠さんはダイヤさんとルビィの、満点さんは花丸のお母さんだ。

 

 「真珠さんと満点さんも、来て下さってありがとうございます。お忙しいでしょうに」

 

 「娘達の晴れ舞台ですもの。黒澤家の用事は完全にすっぽかして来たので大丈夫です」

 

 「何が大丈夫なんですか!?黒澤家って結構な名家ですよねぇ!?」

 

 「私も大丈夫だよ。おばあちゃんは置き去りにしてきたから」

 

 「こっちも大丈夫じゃなさそうなんだけど!?」

 

 「うぅ、娘の為に何かを犠牲に出来るなんて・・・親の愛って素晴らしいっ!」

 

 「犠牲にしてるものがとんでもないけど大丈夫!?」

 

 美渡さんのツッコミが止まらない。

 

 何をギャーギャー騒いでいるのやら・・・

 

 「天く~ん、お待たせ~♪」

 

 俺達が楽しくお喋りしていると、俺の嫁がこちらへ駆け寄ってきた。

 

 「だからアンタの嫁じゃないって!?」

 

 「ダーリン、遅くなってゴメンなさい」

 

 「ハハハ、構わないよハニー」

 

 「何でノリノリなの!?」

 

 美渡さんのツッコミはスルーして、手を取り合う俺達。

 

 俺の嫁が美しすぎる・・・

 

 「フフッ、ラブラブねぇ」

 

 「えぇっ!?お母さん!?」

 

 志満さんの背後から現れた人物を見て、驚愕する美渡さん。

 

 千歌さんを一回り小さくしたような女性が、笑顔でこちらに手を振っている。

 

 「こんにちは、天くん。一応、初めまして・・・になるのかしら?」

 

 「確かにそうですね。では改めて・・・初めまして、理恵さん」

 

 この人は高海理恵さん・・・千歌さん達のお母さんだ。

 

 普段は仕事で東京に行っていることが多いらしいが、今日はAqoursを応援する為にわざわざ駆けつけてくれたのだ。

 

 「天!?アンタいつの間にお母さんと知り合いになったの!?」

 

 「志満さん経由でグループラインに入ってくれたんで、ラインではずっとやり取りしてたんですよ。こうして顔を合わせるのは、今日が初めてです」

 

 「まぁラインでは、既に仲良くなってたけど」

 

 「「ね~♪」」

 

 「・・・何なの、この子の交流の広さ」

 

 呆れている美渡さん。

 

 志満さんがクスクス笑っている。

 

 「フフッ、流石は天くんね」

 

 「お~い、天~!」

 

 今度はむつさんがやって来る。

 

 よしみさんといつきさんも一緒だ。

 

 「全員応援する準備バッチリなんだけど、本番まだ始まらないの?」

 

 「まだ時間ありますから。いつきさんに一発ギャグでもやってもらって下さい」

 

 「何で私なの!?」

 

 「一番スベりそうですし」

 

 「最低だよこの子!?私がスベるのを見て楽しもうとしてるんだけど!?」

 

 「アハハ、私も見てみたいかも!」

 

 「よしみまで何言ってるの!?」

 

 「あっ、いた!」

 

 「天くん!?」

 

 よいつむトリオと話していると、今度は麻衣先生と翔子先生がやって来た。

 

 「ちょっと!?何でライン既読スルーするの!?」

 

 「だって面倒なんだもの」

 

 「み●をみたいに言わないでくれる!?私達凄く寂しかったんだから!」

 

 「そうよ!?ウサギさんは寂しいと死んじゃうのよ!?」

 

 「どこにウサギがいるんですか。ハイエナの間違いでしょ」

 

 「「酷い!?」」

 

 爆笑している皆。

 

 良い雰囲気になってきたな・・・

 

 「さて・・・俺もそろそろ行きますかね」

 

 「行くってどこに?」

 

 「千歌さん達のところです。緊張してるでしょうし、力ずくでほぐしてきます」

 

 「いや、力ずくって・・・まぁ天らしいけどさ」

 

 苦笑する美渡さん。

 

 「頼んだよ、天」

 

 「頼まれました」

 

 俺は美渡さんと拳を合わせると、集まってくれた皆を見渡した。

 

 Aqoursメンバーのお母さん達、志満さんに美渡さん、麻衣先生に翔子先生、よいつむトリオを含む浦の星の生徒達・・・

 

 そして・・・

 

 「・・・ハハッ」

 

 少し離れたところにいる、絵里姉と亜里姉。

 

 二人とも優しく微笑んでいた。

 

 「今日はAqoursの為に集まっていただいて、ありがとうございます」

 

 俺は皆に対して、感謝の言葉を述べた。

 

 「これからAqoursは、全力でパフォーマンスをします。だから皆さんも・・・全力で応援して下さい!」

 

 「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおっ!」」」」」」」」」」

 

 皆の歓声に、とても勇気付けられる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《絵里視点》

 

 「・・・凄いなぁ、天は」

 

 私の隣で呟く亜里沙。

 

 その表情は、どこか誇らしげだった。

 

 「浦の星に入学して、まだ半年も経ってないのに・・・皆の中心にいるなんて」

 

 「・・・えぇ、本当に」

 

 頷く私。

 

 Aqoursメンバーのご家族、浦の星の全校生徒、さらには教師陣・・・

 

 今その中心に立っているのは、間違いなく天だった。

 

 「本当に・・・変わらないわね」

 

 μ'sのリーダーである穂乃果には、人を惹き付けるカリスマ性があった。

 

 穂乃果が先頭を走り、私達はどこまでもついていく・・・それがμ'sだった。

 

 その穂乃果と同様のカリスマ性を持ちながらも、先頭には立たず私達を支えてくれた人・・・

 

 いつでも側に寄り添ってくれて、私達を強く惹き付けた人・・・

 

 それがμ'sのマネージャー・・・絢瀬天だった。

 

 「・・・ねぇ、天」

 

 天には聞こえないだろうが、天に向けて想いを口にする。

 

 「貴方は本当に謙虚で、自己評価が恐ろしく低いけど・・・私達にとって貴方は、本当に大きな存在なのよ?」

 

 

 

 

 

 周囲に遠慮しがちなことりが、ありのままの自分でいられ・・・

 

 

 

 

 

 男性が苦手な海未が、すっかり心を許し・・・

 

 

 

 

 

 あまり人と関わりたがらない真姫が、力になってあげたいと全力で動き・・・

 

 

 

 

 

 ムードメーカーの凛が、本当に心から楽しそうな笑顔を見せ・・・

 

 

 

 

 

 引っ込み思案な花陽が、大胆に甘えられ・・・

 

 

 

 

 

 人に対して手厳しいにこが、その人柄を心底気に入り・・・

 

 

 

 

 

 いつも大人の雰囲気を纏う希が、少女のような初々しい反応を見せる・・・

 

 

 

 

 

 そんな相手はただ一人・・・天しかいないのだ。

 

 

 

 

 

 『天くんがいてくれるから、私も全力で突っ走れるんだよ。だから私にとって天くんは・・・背中を預けることの出来る相棒、かな』

 

 

 

 

 

 その昔、穂乃果が言っていたことを思い出す。

 

 穂乃果・天という太陽コンビに照らされながら、μ'sはラブライブ優勝を勝ち取ったのだ。

 

 「・・・行ってきなさい、天」

 

 そう呟く私は・・・当時と同じくらい、気持が昂ぶっているのだった。

 

 「今の貴方はAqoursの一員・・・Aqoursの魅力を存分に引き出して、私に・・・会場の皆に、最高のパフォーマンスを見せてちょうだい・・・!」




どうも〜、ムッティです。

先日セブ●イレブンさんで、μ'sメンバーのクリアファイルがもらえるというキャンペーンが行われていましたね。

皆さん、ゲットしましたか?

自分は9人全員のクリアファイルをゲットしてきましたよ!

大量のチョコレート菓子と共に(´・ω・`)

お菓子を2つ買ってクリアファイルが1枚もらえるので、お菓子を18個買わないといけない計算なんですよね・・・

お菓子18個とクリアファイル9枚をレジへ持って行くと、店員さんに白い目で見られることが多いのです(経験者は語る)

『コイツ、何でこんなにお菓子を・・・あぁ、コレの為か』みたいな(被害妄想かもしれませんが)

幸い、今回の店員さんは愛想良く対応していただきました。

ありがとう店員さん( ;∀;)

ちなみに大量のチョコレート菓子は、知り合いに配って食べてもらいました。

いやぁ、良いことしたなぁ←



さてさて、今回はダイヤさん&ルビィちゃんのお母様である真珠(しんじゅ)さん・・・

そして花丸ちゃんのお母様である満点(まんてん)さんと、千歌ちゃんのお母様である理恵さんが登場しました!

やっぱり黒澤家のお母様なので、名前は宝石関係が良いかなと・・・

カタカナの名前も考えましたが、大和撫子感があって良いなと思い『真珠』にしました。

『満点』に関しては完全に『花丸』から連想しましたが、検索したらこういう名前もあるとのことです。

何かカッコ良い(゜ロ゜)

あっ、千歌ちゃんのお母様は声優さんの名前です。

もうお決まりのパターンですね(笑)



さぁ、いよいよ地区予選のステージが始まろうとしていますね。

果たしてこれからどうなるのか・・・

次回もお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人から感謝されると嬉しいものである。

きんちゃんのソロデビューシングル『Anti world』がカッコ良すぎる・・・

しかも歌上手すぎてヤバい・・・


 「堕天使ヨハネとリトルデーモン・・・ラブライブに降臨ッ!」

 

 「誰か絆創膏持って来て!人一人包みこめるくらいのヤツ!」

 

 「痛い子扱いは止めなさいよ!?」

 

 善子のツッコミ。

 

 Aqoursの控え室になっているブースを訪れたところ、善子がまた痛い発言をしていたのだ。

 

 「全く、善子ときたら・・・ん?何でルビィは涙ぐんでるの?」

 

 「アハハ、ちょっとね」

 

 目元の涙を拭うルビィ。

 

 「善子ちゃんに『ありがとね』って言われて、ちょっとウルッときちゃって」

 

 「ちょ、ルビィ!?言わなくていいから!?」

 

 「情熱的に抱き締められて、マルも感激しちゃったずら」

 

 「ずら丸も余計なこと言うんじゃないわよ!?」

 

 慌てる善子。

 

 なるほど、そんなことが・・・

 

 「良いなぁ・・・俺も善子に抱き締められたいなぁ・・・」

 

 「なっ!?何言ってんのよアンタ!?」

 

 「情熱的に愛を囁かれたいなぁ・・・」

 

 「誰も愛は囁いてないんだけど!?」

 

 「アハハ、冗談だって」

 

 思わず笑ってしまう俺だったが、善子は一つ溜め息をつくと・・・

 

 俺に近付き、思いっきり抱き締めてきた。

 

 「ちょ、善子!?」

 

 「・・・何よ。『抱き締められたい』って言ったのは天でしょ」

 

 「いや、そうなんだけど・・・良いの?」

 

 「良いから抱き締めてるんじゃない。野暮なこと聞くんじゃないわよ」

 

 「・・・何か真姫ちゃんを思い出すわ」

 

 この素直じゃない感じ・・・

 

 真姫ちゃんそっくりだな・・・

 

 「・・・ありがとね、天」

 

 「え・・・?」

 

 善子が腕にキュッと力を込めてくる。

 

 「私の味方でいてくれて、支えになってくれて・・・本当にありがとう。天がいなかったら、私は今ここにいないから・・・凄く感謝してる」

 

 「善子・・・」

 

 「・・・感謝なら、マルもしてるずら」

 

 左側から花丸が抱きついてくる。

 

 「天くんに出会って、背中を押してもらって・・・スクールアイドルになれて、本当に幸せずら。ありがとう、天くん」

 

 「花丸・・・」

 

 「・・・ルビィだってそうだよ」

 

 右側から抱きついてくるルビィ。

 

 「自分の気持ちに正直になれたのも、大好きなお姉ちゃんと一緒にスクールアイドルが出来るのも・・・全部天くんのおかげだから。本当にありがとう」

 

 「ルビィ・・・」

 

 同級生三人の温もりで、心まで温まっていくのを感じる。

 

 緊張をほぐしに来たつもりだったのに、俺がほぐされちゃったな・・・

 

 「・・・ありがとう、三人とも」

 

 両腕を伸ばし、三人を包み込むように抱き締める。

 

 「少しでも三人の力になれたのなら、凄く嬉しいよ。俺が浦の星に入った時、クラスで真っ先に俺のことを受け入れてくれたのは・・・この三人だったから」

 

 抱き締める腕に力を込める。

 

 「善子、花丸、ルビィ・・・三人と同級生で、本当に良かった」

 

 

 

 

 

 人一倍心の優しい善子・・・

 

 

 

 

 

 いつも笑顔で寄り添ってくれる花丸・・・

 

 

 

 

 

 どんなことにも努力を惜しまないルビィ・・・

 

 

 

 

 

 俺はそんな三人のことが大好きだし、心から尊敬していた。

 

 「今日のステージ、ちゃんと見てるから。全力で楽しんできな」

 

 「勿論よ!」

 

 「やってやるずら!」

 

 「最高のステージにしてみせるから!」

 

 俺の言葉に、笑顔で頷いてくれる三人。

 

 そんな同級生達が、とても頼もしく見える俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あの時置いてきたものを・・・もう一度取り戻そう」

 

 果南がそう呟き、ダイヤさんと鞠莉を抱き寄せている。

 

 会場の裏手を覗いてみると、三年生三人組が身体を寄せ合っていた。

 

 これは邪魔しない方が良いかな・・・

 

 「勿論ですわ」

 

 そっと踵を返した時、ダイヤさんの力強い言葉が聞こえた。

 

 「その為に、力を貸して下さいますわよね・・・天さん?」

 

 「っ!?」

 

 ビックリして振り向くと、三人が笑いながらこっちを見ていた。

 

 「な、何で分かったんですか?」

 

 「フフッ・・・何となく、でしょうか」

 

 クスクス笑っているダイヤさん。

 

 「何となく、天さんが側にいるような気がして・・・見えていたわけではないのに、妙な確信がありましたわ」

 

 「何それ怖い」

 

 「フフッ、それだけ私達の感覚が鋭いってことよ♪」

 

 背後から抱きついてくる鞠莉。

 

 「特に天は存在感があるから、すぐ分かっちゃいマース♪」

 

 「鞠莉のおっぱいの存在感には負けるわ」

 

 「いやん♡天のエッチ♡」

 

 豊満な胸を、ぐりぐりと背中に押し付けてくる鞠莉。

 

 ご馳走様です。

 

 「全く、セクハラ発言は相変わらずだね・・・」

 

 果南はそう言って、溜め息を一つつくと・・・

 

 真正面から俺に抱きついてきた。

 

 「おっと・・・そういうことすると、今度は果南のおっぱいが当たるんだけど?」

 

 「でも嬉しいんでしょ?」

 

 「勿論」

 

 計四つのマシュマロを味わえるとか、もう天にも昇る気持ちだわ・・・

 

 「もう・・・エッチ」

 

 果南はそう言って苦笑すると、腕にキュッと力を込めてきた。

 

 「・・・これでも、天には本当に感謝してるんだよ?」

 

 「え・・・?」

 

 「一度は諦めたスクールアイドルを、またこうやってやれてるのは・・・天のおかげだから。ありがとね」

 

 「果南・・・」

 

 「本当に・・・感謝してもしきれないわ」

 

 俺の背中に額をくっつける鞠莉。

 

 「こんな私の為に動いてくれて、果南やダイヤと仲直り出来るようにしてくれて・・・またスクールアイドルが出来るようにしてくれた。ありがとう、天」

 

 「鞠莉・・・」

 

 「・・・私も、本当に感謝しています」

 

 俺の手を握るダイヤさん。

 

 「天さんの仰った通り、あの時諦めなくて本当に良かった・・・今こうして、果南さんや鞠莉さんとスクールアイドルが出来て・・・本当に幸せですわ。ありがとうございます」

 

 「ダイヤさん・・・」

 

 参ったなぁ・・・

 

 これ以上心を温められると、泣いちゃいそうなんだけど・・・

 

 「・・・『ありがとう』はこっちのセリフだよ」

 

 素直に三人に身を委ねる。

 

 「三人が入ってくれたから、Aqoursはもっと成長することが出来た。俺自身、三人に助けられたことがたくさんあったよ」

 

 

 

 

 

 明るく元気で、頼りがいのある果南・・・

 

 

 

 

 

 天真爛漫で、困っている時にさりげなく動いてくれる鞠莉・・・

 

 

 

 

 

 しっかり者で、よく相談に乗ってくれるダイヤさん・・・

 

 

 

 

 

 大人な三年生達には、本当にいつも助けられている。

 

 感謝しているのは俺の方だ。

 

 「果南、鞠莉、ダイヤさん・・・三人がいてくれて、本当に良かった。ありがとう」

 

 俺は感謝の言葉を述べると、三人の顔を見た。

 

 「今日のステージも、よろしく頼むよ」

 

 「オッケー!最高のステージを見せてあげる!」

 

 「マリー達の気合いは十分よ!」

 

 「お任せ下さいませ!」

 

 満面の笑みで、力強く頷いてくれる三人。

 

 そんな最上級生達を見て、とてつもない安心感を覚える俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「全部を楽しんで、皆と進んでいきたい!それがきっと、輝くってことだと思う!」

 

 ステージ裏を訪れると、千歌さんがそう宣言しているのが聞こえた。

 

 本当にこの人は、穂乃果ちゃんそっくりだな・・・

 

 「えいっ」

 

 「あたっ!?」

 

 千歌さんのアホ毛に、軽くチョップをかます。

 

 「ちょ、天くん!?いきなり何するの!?」

 

 「いや、ちょっと昔を思い出して・・・よくこうやって、穂乃果ちゃんをしばいてたんですよね」

 

 「何で!?」

 

 「こうやって止めるしか無かったんですよ。あの暴走機関車は」

 

 「呼び方が酷い!?」

 

 千歌さんのツッコミ。

 

 俺は苦笑すると、曜と梨子の方を見た。

 

 「そんな穂乃果ちゃんを優しく見守ることりちゃんと、厳しく諭す海未ちゃん・・・この三人を見てると、当時のあの三人を思い出すよ」

 

 「私、そんなに厳しく千歌ちゃんを諭してるかしら・・・」

 

 「千歌さん、どう思います?」

 

 「メッチャ厳しいよね」

 

 「千歌ちゃん!?」

 

 「アハハ・・・」

 

 ショックを受けている梨子に、苦笑している曜。

 

 ホント、似てるよなぁ・・・

 

 「何かこうしてると、思い出すなぁ・・・ファーストライブの時のこと」

 

 「あぁ、確かに・・・」

 

 思い返してみれば、最初はこの四人で始めたんだよな・・・

 

 「・・・あの時みたいに、円陣組んでみます?」

 

 「おっ、良いね!やろうやろう!」

 

 お互い手を繋いで円になる。

 

 そうそう、こんな感じだったっけ・・・

 

 「・・・ありがとう、天くん」

 

 「え・・・?」

 

 俺の左側に立っている梨子が、俺の手を強く握った。

 

 「私、内浦に引っ越して来て良かった。スクールアイドルになれて、ピアノとも向き合えて・・・天くんのおかげよ。本当にありがとう」

 

 「梨子・・・」

 

 「・・・私も、天くんには感謝してるよ」

 

 右側に立っている曜も、同じように俺の手を強く握る。

 

 「いつも力になってくれて、悩んでる時は寄り添ってくれて・・・いつも本当に助けられてる。ありがとね」

 

 「曜・・・」

 

 「・・・私からもありがとう、天くん」

 

 俺の前に立っている千歌さんが、優しく微笑んでいた。

 

 「スクールアイドルになりたいっていう夢を、こうやって叶えられたのは・・・間違いなく天くんのおかげだよ。天くんが浦の星に来てくれて、私と出会ってくれて・・・本当に良かった。ありがとう」

 

 「千歌さん・・・」

 

 不覚にも、ちょっと涙ぐんでしまった。

 

 他の皆から感謝の言葉を掛けられた後だったこともあり、余計に感動してしまう。

 

 「ところで、前々から気になってたんだけどさぁ・・・」

 

 何故か急に膨れっ面になる千歌さん。

 

 「天くん、いつまで私のことさん付けで呼ぶの?相変わらず敬語のままだし」

 

 「いや、いつまでって・・・千歌さんは先輩じゃないですか」

 

 「曜ちゃんや梨子ちゃんのことは呼び捨てじゃん!タメ口じゃん!」

 

 「強制されたんで」

 

 「ちょ、天くん!?」

 

 「人聞きの悪いこと言わないでくれる!?」

 

 「事実でしょ。ゴリ押してきたのは誰だっけ?」

 

 「「うぐっ・・・」」

 

 言葉に詰まる二人。

 

 やれやれ・・・

 

 「じゃあ私も強制する!リーダーの特権を使うもん!」

 

 「ただの独裁者じゃないですか」

 

 「良いのっ!とにかく強制っ!」

 

 子供のようにダダをこねる千歌さん。

 

 全く、強引なんだから・・・

 

 「ホント、こういうところもそっくりだな・・・」

 

 

 

 

 

 『さん付け禁止!敬語も禁止!他人行儀なのは嫌!』

 

 

 

 

 

 その昔、穂乃果ちゃんにダダをこねられた時のことを思い出す。

 

 こんなところまで似なくても良いのに・・・

 

 「はいはい、分かったから。改めてよろしくね・・・千歌」

 

 「っ・・・うんっ!」

 

 笑みを浮かべる千歌。

 

 一方、何故か梨子が不機嫌そうな表情を浮かべていた。

 

 「むぅ・・・アドバンテージが無くなっていくわ・・・」

 

 「まぁまぁ梨子ちゃん、落ち着いて」

 

 苦笑しながら宥める曜。

 

 何かあったのかな?

 

 「それじゃ、掛け声は天くんにやってもらおうかな」

 

 「え、千歌じゃないの?」

 

 「偶には良いじゃん。ねっ?」

 

 「頼んだよ、天くん」

 

 「気合いが入るヤツ、よろしくね」

 

 三人からそう言われ、俺は一つ息を吐く。

 

 「コホンッ、それじゃ・・・皆、ありがとう」

 

 感謝の言葉を述べる俺。

 

 「この三人に出会えたから、今こうしてここにいられる・・・本当に感謝してる」

 

 

 

 

 

 いつも優しく、俺の身を案じてくれる梨子・・・

 

 

 

 

 

 どんな時も明るく、俺を笑顔にしてくれる曜・・・

 

 

 

 

 

 力強く前に進み、俺を引っ張ってくれる千歌・・・

 

 

 

 

 

 この三人に出会えて、本当に良かった。

 

 

 

 

 

 「さぁ、行こう!今、全力で輝こう!」

 

 

 

 

 

 声を張り上げる。

 

 三人の背中を、少しでも押せるように。

 

 

 

 

 

 「Aqours~!」

 

 

 

 

 

 「「「「サ~ンシャイ~ン!」」」」

 

 

 

 

 

 あの時と同じようで、あの時とは違う・・・

 

 力強さを感じさせる先輩達の声に、心が震える俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

頭の中で『Anti world』が無限ループしてる今日この頃です。

早くフルで聴きたいなぁ・・・

フルで聴きたいといえば、LiSAさんの新曲『炎』もそうですね。

劇場版『鬼滅の刃』、絶対に観に行かねば・・・



さてさて、恒例の支援絵紹介のコーナー!

今回もことりちゃん大好きさんから、素敵なイラストをいただきました!


【挿絵表示】


海未ちゃあああああんっ!!!!!

スクスタに出てくる、夏祭りシンフォニー衣装の海未ちゃんですね(^^)

この衣装を着た海未ちゃん、可愛くてめっちゃ好きなんですよね( ´∀`)

ことりちゃん大好きさん、本当にありがとうございます!



さぁ、いよいよ地区予選のステージが始まろうとしております。

お互いに感謝し、より絆を深めたAqours・・・

果たしてこれからどうなるのか・・・

次回もお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人の底力は侮れない。

何か急に寒くなりましたね(´・ω・`)

まぁ寒い方が好きなので、個人的には嬉しいかぎりです(^^)

バイバイ夏(・ω・)ノ


 「ただいま~」

 

 「あっ、天!」

 

 「おかえりなさい」

 

 観客席へと戻った俺は、亜里姉と絵里姉の間に座った。

 

 「Aqoursの皆、どうだった?」

 

 「思ったより落ち着いてたよ。あれなら良いパフォーマンスが出来るんじゃないかな」

 

 俺がそう言った瞬間、会場の照明が暗くなる。

 

 次のグループ・・・Aqoursの出番がやってきたのだ。

 

 「・・・ハイレベルだね」

 

 「・・・そうだね」

 

 真剣な表情の亜里姉と、短く言葉を交わす。

 

 ここまで何組かのパフォーマンスが終わっているが、やはりどのグループもレベルが高い。

 

 地区予選でこのレベルだなんて、正直恐ろしいな・・・

 

 「東海地区の予選は初めて見たけど、関東地区のレベルと何ら変わらない高さだよ。これを勝ち抜くのは、至難の業と言って良いと思う」

 

 いつになく厳しい表情の亜里姉。

 

 亜里姉はアイドル研究部時代から、ラブライブ出場グループをこと細かくチェックし続けている。

 

 その分析力は、あのにこちゃんや花陽ちゃんが一目置くほどだ。

 

 その亜里姉がここまで言うとは・・・

 

 「じゃあやっぱり、Aqoursが決勝へ行ける確率は・・・」

 

 「・・・ハッキリ言って、かなり低いと思う。練習を見させてもらったかぎりではね」

 

 絵里姉の問いに、首を横に振る亜里姉。

 

 まぁ正直、俺も同意見ではあるが・・・

 

 「・・・諦めないよ、あの人達は」

 

 「え・・・?」

 

 「今に分かるよ・・・Aqoursの底力が」

 

 ステージにスポットライトが当たり、Aqoursの皆が姿を現す。

 

 そして曲のイントロが流れ出した。

 

 「さぁ・・・思う存分楽しんできな」

 

 千歌と俺が二人で作詞した新曲、『MIRAI TICKET』・・・

 

 そのパフォーマンスの反響が目に浮かび、思わず口元が緩む俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・で?」

 

 「すいませんでしたああああああああああっ!」

 

 俺の目の前で、床に額を擦り付けて土下座している千歌。

 

 地区予選も終了し、後は後日発表される結果を待つのみ・・・

 

 だが、既にAqoursの結果は決まっていた。

 

 「テンションが上がりすぎて、パフォーマンス中に非常口から外に飛び出すバカがどこにいるんだこの腐れアホみかんがああああああああああっ!」

 

 「本当にすみませんでしたああああああああああっ!どうしようもないバカがここにいましたああああああああああっ!」

 

 床にガンガン額をぶつけて謝罪する千歌。

 

 このアホみかん、パフォーマンス中にいきなり走り出して非常口を飛び出していったのだ。

 

 どうやらテンションが限界値を超え、ハイになった結果の行動らしい。

 

 「どこの薬物中毒者?伊●谷なの?」

 

 「ストップうううううっ!?そのネタは危険だから止めてえええええっ!?」

 

 「じゃあエ●カ様?」

 

 「それもダメだってば!?」

 

 「そうだね。決勝進出がダメになったね。誰かさんのせいでね」

 

 「返す言葉もございませんんんんんんんんんんっ!」

 

 再び土下座を敢行する千歌。

 

 ステージ終了後、Aqoursは運営側から厳しくお叱りを受けた。

 

 それは千歌の行動についてだけではなく・・・

 

 「アンタらも何してくれちゃってんの?」

 

 「「ごめんなさああああああああああいっ!」」

 

 二人揃って土下座している麻衣先生と翔子先生。

 

 この二人もテンションが上がり過ぎた結果、ステージの至近距離まで押しかけて応援するというタブーを犯していた。

 

 「『ステージに近付いて応援してはいけません』って、あちこち注意書きもしてあったのに・・・アンタらが先導するもんだから、全校生徒も同じことしちゃっただろうがこの単細胞教師共があああああああああああっ!」

 

 「面目ありませんんんんんんんんんんっ!」

 

 「穴があったら入りたいですううううううううううっ!」

 

 全力で頭を下げ続ける二人。

 

 全く、コイツらときたら・・・

 

 「出場者も応援者もルール違反とか、前代未聞過ぎるでしょ・・・運営側の心象が最悪になった今、決勝進出は無いだろうし・・・」

 

 頭を抱える俺。

 

 せっかく良いパフォーマンスしてたのに・・・

 

 「まぁまぁ天くん、落ち着きなよ」

 

 「仕方ないって。皆テンション上がってたんだしさ」

 

 苦笑しながら俺の背中を叩く曜と果南。

 

 いや、仕方ないって・・・

 

 「まぁ楽しかったし、今の実力は出し切れたんじゃない?」

 

 「Yes!周りのレベルも実感出来たし、収穫はあったわね」

 

 あっけらかんと言う善子と鞠莉。

 

 いやいやいや・・・

 

 「緊張したけど、マル達らしいパフォーマンスが出来たずら!」

 

 「うん!この経験を次に生かさないとね!」

 

 「何で皆そんなに前向きなの!?」

 

 こんな形で決勝進出の道が絶たれて、悔しくないんだろうか・・・

 

 「勿論、残念ではありますが・・・悔しさはありませんわ」

 

 俺の心を読んだのか、笑みを浮かべるダイヤさん。

 

 「今の私達の全てを、間違いなく出し切りましたから。むしろ清々しいですわ」

 

 「それに・・・まだ終わりじゃないでしょ?」

 

 ニッコリ笑う梨子。

 

 「確かに今回は、決勝に行けないかもしれないけど・・・私達には、もう一回チャンスがある。リベンジの機会が残されてるじゃない」

 

 梨子の言う通り、リベンジの機会は確かに残されている。

 

 ラブライブは一年に二回開催されており、今回の大会は今年一回目・・・

 

 つまり、まだ二回目があるのだ。

 

 「課題も見えたし、次の大会までにもっと力を付けないと。やることは山積みよ」

 

 「・・・アハハ、前を見据えるの早過ぎでしょ」

 

 思わず苦笑してしまうが・・・頼もしさを感じている自分がいた。

 

 「仕方ない・・・また明日から頑張るとしようか」

 

 「よーし!私も頑張っちゃうよー!」

 

 「誰が土下座を止めて良いって言ったんだこのクソオレンジヘッドがあああああっ!」

 

 「ごはぁっ!?」

 

 千歌をしばき倒す俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《絵里視点》

 

 「まさかの展開だったわね・・・」

 

 「アハハ・・・確かに」

 

 苦笑する私と亜里沙。

 

 千歌は非常口から飛び出して行くし、先生方は全校生徒を誘導してステージの近くに押しかけちゃうし・・・

 

 「千歌も先生方も、大丈夫かしら・・・」

 

 「いや、絶対大丈夫じゃないと思う。今頃天にしばかれてるでしょ」

 

 「・・・そうよねぇ」

 

 天ったら、無言で先生方を引きずりながら出て行ったし・・・

 

 千歌も無事ではすまないでしょうね・・・

 

 「ラブライブの運営は、こういうルール違反に厳しいから・・・残念だけど、Aqoursは決勝には進めないだろうね」

 

 肩をすくめる亜里沙。

 

 「でも・・・良いステージだった」

 

 「えぇ・・・本当に」

 

 会場全体が一つになるような、素晴らしいパフォーマンスだった。

 

 正直、先生方や生徒達が興奮してしまうのも頷ける。

 

 他の出場グループにも引けを取らない、レベルの高いパフォーマンスだったと思う。

 

 「ステージに立つと、あそこまで変わるなんて・・・私もまだまだ見る目が無いなぁ」

 

 溜め息をつく亜里沙。

 

 「多分、天は分かってたんだろうね・・・」

 

 「でしょうね・・・マネージャーだもの」

 

 

 

 

 

 『今に分かるよ・・・Aqoursの底力が』

 

 

 

 

 

 ステージが始まる前、天が言っていたことを思い出す。

 

 Aqoursはこれほどのパフォーマンスが出来るということを、天は確信していたのね・・・

 

 「・・・私も、立ち止まっている場合じゃないわね」

 

 弟とその仲間達が、これほど頑張ったのだ。

 

 姉として、情けない姿は見せられない。

 

 「いい加減、前を向いて進まないとね」

 

 「・・・うん」

 

 そんな私の手を、微笑みながらギュッと握ってくれる亜里沙なのだった。




どうも〜、ムッティです。

地区予選、終わりましたねぇ・・・

すっ飛ばしましたけど(´・ω・`)

ライブって表現が難しいですよね(遠い目)

ちなみに次のお話で、アニメ一期の内容は全て終了となります。

まさか一期の内容を終えるのに、二年近くかかるとは思わなかった(´・ω・`)

そしてまさかヒロインが決まらないとは思わなかった(´・ω・`)

全く、しっかりしろよ作者・・・すみませんでした(土下座)

次のお話もあと少しで書き終わるので、近いうちに投稿出来ると思います。

お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

物語は始まったばかりである。

ポニーテール梨子ちゃん、可愛すぎません?(唐突)

スクスタのイベントで、梨子ちゃんのポニーテール姿を見たのですが・・・

可愛すぎてハートを撃ち抜かれました(´・ω・`)

あれはヤバい・・・いや、ヤヴァい←


 「色々ありがとう」

 

 「こちらこそ、ありがとうございました!」

 

 握手を交わす絵里姉と千歌。

 

 地区予選の日から数日後、絵里姉と亜里姉が東京へ帰る日がやって来た。

 

 俺達は二人を見送りに、駅までやって来ていた。

 

 「うぅ・・・絵里さん、どうかお元気で・・・!」

 

 「ダイヤ!?何で号泣してるの!?」

 

 「お姉ちゃん、絵里さんと別れるのが寂しいみたいで・・・」

 

 苦笑しながら、ダイヤさんの背中を擦っているルビィ。

 

 まぁダイヤさん、すっかり絵里姉に懐いてたもんな・・・

 

 元々ファンだったけど、『実際にお会いしてますます惚れ込んでしまいましたわ!』とか言ってたし・・・

 

 「もう・・・泣かないで、ダイヤ」

 

 優しくダイヤさんの頭を撫でる絵里姉。

 

 「今度はダイヤが東京に来てちょうだい。その時は、私がたくさんもてなすから」

 

 「ぐすっ・・・約束ですわよ?」

 

 「えぇ、約束」

 

 お互いの小指を絡める二人。

 

 あのダイヤさんが、すっかり絵里姉の妹みたいに・・・

 

 恐るべし、絵里姉・・・

 

 「うわあああああんっ!亜里沙さあああああんっ!」

 

 「曜ちゃあああああんっ!」

 

 「こっちはこっちで、今生の別れみたいになってる・・・」

 

 「この二人、仲良かったもんねぇ・・・」

 

 号泣しながら抱き合う曜と亜里姉を見て、呆れている果南と善子。

 

 この二人は似たような性格の為か波長が合ったらしく、すっかり意気投合していた。

 

 「また絶対会いましょうねえええええっ!」

 

 「勿論だよおおおおおっ!全速前進んんんんんっ!?」

 

 「「ヨーソロおおおおおおおおおおっ!」」

 

 「からのおおおおおっ!?」

 

 「「ハラショおおおおおおおおおおっ!」」

 

 「何か新しい掛け声が生まれてるずら」

 

 花丸の冷静なツッコミ。

 

 やれやれ、騒がしいなぁ・・・

 

 「絵里も亜里沙も、また遊びに来てちょうだい。いつでもWelcomeよ」

 

 「えぇ、またお邪魔させてもらうわね」

 

 「ぐすっ・・・ありがとう、鞠莉」

 

 二人と抱き合う鞠莉。

 

 「天のこと、よろしく頼むわね」

 

 「Of course!妻が夫を支えるのは当然デース!」

 

 「誰が妻で誰が夫やねん」

 

 「あたっ!?」

 

 鞠莉の頭にチョップをかます俺。

 

 「ちょっとダーリン!?DVは良くないわよ!?」

 

 「人の嫁気取りも大概にしろや、B87」

 

 「だからバストサイズで呼ばないでってば!?」

 

 「そうよ鞠莉さん!本妻は私なんだから!」

 

 「梨子まで何言ってんの?」

 

 何で梨子まで悪ノリしてるんだろう・・・

 

 鞠莉の悪い癖がうつったかな?

 

 「出たわね、梨子・・・言っとくけど、マリーの方がおっぱい大きいわよ・・・?」

 

 「ぐぬぬ・・・そこは否定出来ない・・・!」

 

 「まぁまぁ、梨子も大きい方でしょ。B80あるんだし」

 

 「ちょ、天くん!?何で私のサイズ知ってるの!?」

 

 「希ちゃんに聞いた」

 

 「μ'sの人達って口が軽すぎない!?」

 

 「・・・希にはお説教が必要ね」

 

 溜め息をつく絵里姉。

 

 ドンマイ、希ちゃん。

 

 「まぁ、それはさておき・・・天、身体には気を付けるのよ」

 

 「そのセリフ、そっくりそのまま返すわ」

 

 苦笑する俺。

 

 「元気になったとはいえ、また無茶して体調を崩さないようにね」

 

 「分かってるわ。天こそ無茶しないでね」

 

 「俺が無茶したことなんて、人生で一度も無いんだけど」

 

 「へぇ、どの口がそんなことを言うのかしら・・・?」

 

 「いふぁいいふぁい(痛い痛い)」

 

 絵里姉にジト目で両頬を抓られる。

 

 「私も大概だけど、貴方も無茶する方でしょうが。人に無茶するなって言うなら、自分も無茶しないようにしなさい」

 

 「はいはい」

 

 「『はい』は一回!」

 

 「は~い」

 

 「伸ばさない!」

 

 「このPEめんどくさっ!?」

 

 「めんどくさいって何よ!?っていうかPEって何!?」

 

 「P(ポンコツ)E(エリーチカ)」

 

 「誰がポンコツよ!?それならせめてK(可愛い)を付けなさいよ!?」

 

 「自分で自分のこと『可愛い』とか引くわぁ・・・」

 

 「そ~ら~ッ!」

 

 「やれやれ、二人とも子供なんだから・・・」

 

 「「アンタだけには言われたくないんだけど」」

 

 「だから何でそこだけハモるの!?」

 

 亜里姉のツッコミ。

 

 もうテッパンの流れである。

 

 「ほら、そろそろ時間だよ」

 

 「あっ、本当ね・・・」

 

 時計を見ると、電車が来る時間が迫ってきていた。

 

 それを確認した絵里姉は、少し寂しそうな表情を浮かべると・・・

 

 俺に近付き、そっと抱きついてきた。

 

 「・・・また会いに行くから。ね?」

 

 「・・・えぇ」

 

 絵里姉の頭を撫でる俺。

 

 ホント、寂しがりやなんだから・・・

 

 「亜里姉もまたね」

 

 「うん。天も頑張って」

 

 亜里姉も抱きついてくる。

 

 しばらく三人で抱き合っていた俺達は、やがて別れを惜しむようにゆっくり離れた。

 

 「それじゃあ・・・またね!」

 

 「皆もまた会おうね!」

 

 「はいっ!」

 

 「またお会いしましょう!」

 

 笑顔で手を振る皆。

 

 絵里姉と亜里姉も笑顔で手を振ると、改札を通り抜けてホームへと向かった。

 

 やがて二人の姿が見えなくなる。

 

 「・・・ふぅ」

 

 一つ息を吐く俺。

 

 すると、背後から優しい温もりに包まれた。

 

 「・・・寂しい?」

 

 「・・・ちょっとね」

 

 果南が抱き締めてくれていた。

 

 大人しく果南に身体を預ける俺。

 

 「まぁ、またすぐ会えるだろうから・・・寂しがることもないんだけどさ」

 

 「フフッ・・・素直じゃないんだから」

 

 抱き締める力を強くする果南。

 

 「私達が側にいるんだから・・・寂しがる時間なんて、与えてあげないんだからね」

 

 「アハハ・・・それは残念」

 

 果南の優しさが染みる。

 

 ありがたいな・・・

 

 「あー、何か今日は一人になりたくないなぁ・・・」

 

 「それならマリーの家に泊まってちょうだい。一緒にお風呂に入りまショー♪」

 

 「採用」

 

 「不採用!天くんはウチに泊まるんだから!」

 

 何故か不機嫌そうに話に割り込んでくる梨子。

 

 何かさっきから、やたら鞠莉に対抗心を燃やしているような・・・

 

 「それじゃ天くん、ウチ来る?志満姉が喜びそうだし」

 

 「行く行く!」

 

 「「ダメっ!」」

 

 鞠莉と梨子の二人に止められる。

 

 何でや・・・

 

 「天くん、相変わらず鈍感ずら・・・」

 

 「アハハ・・・まぁ、それが天くんだもんね」

 

 「どうやら、天の病気は治りそうにないわね・・・」

 

 同級生三人が、何やらヒソヒソ話をしていた。

 

 よく聞こえないが、何か失礼なことを言われている気がする・・・

 

 「それでしたら、今日は全員で天さんのお家に泊まらせていただきましょうか」

 

 「どうしたんですかダイヤさん?頭でも打ちました?」

 

 「天さん!?失礼ですわよ!?」

 

 ダイヤさんのツッコミ。

 

 あの堅物のダイヤさんが、男女のお泊りを提案するとは・・・

 

 「べ、別に良いでしょう?な、仲間なのですから・・・」

 

 「ダイヤさん・・・結婚して下さい」

 

 「ふぇっ!?」

 

 ダイヤさんの顔が真っ赤に染まる。

 

 おぉ、なかなか見られない光景だな・・・

 

 「ちょ、天!?」

 

 「何しれっとプロポーズしてるの!?」

 

 何故か猛抗議してくる鞠莉と梨子。

 

 「やれやれ、天くんときたら・・・」

 

 「また無意識にやらかしてるし・・・」

 

 何故か呆れている千歌と曜。

 

 「まぁ、これが天だよね」

 

 「ホント、変わらないわねぇ」

 

 何故か苦笑している果南と善子。

 

 「天くんがお義兄ちゃん・・・悪くないかも」

 

 「ルビィちゃん、気が早いずら」

 

 ルビィにツッコミを入れる花丸。

 

 賑やかだなぁ・・・

 

 「そ、天さん!?そういうものは、キチンとした順序を踏んでから・・・!」

 

 「ふむふむ、順序を踏んだらオッケーしてくれるんですか?」

 

 「そ、それは・・・うぅ・・・!」

 

 これ以上無いほど顔を真っ赤にして、涙目になっているダイヤさん。

 

 何この人、メッチャ可愛いんですけど。

 

 「と、とにかくっ!全員準備をして天さんの家に集合ですわっ!」

 

 「「「「「「「「はーい」」」」」」」」

 

 素直に返事をする皆。

 

 どうやら異議は無いようだ。

 

 「・・・ホント、良い仲間を持ったよ」

 

 改めて思う。

 

 内浦に来て、皆に出会えて・・・本当に良かった。

 

 「・・・よし、円陣組もうか」

 

 「急にどうしたずら?」

 

 「そういう気分なんだよね」

 

 「どんな気分ずら!?」

 

 「まぁ良いじゃん。次のラブライブに向けて、気合い入れなきゃいけないしさ」

 

 ツッコミを入れる花丸の背中を、曜が笑いながら押す。

 

 全員で円陣を組むと、千歌が大きな声を張り上げた。

 

 「それじゃ、いくよ・・・1!」

 

 「2!」

 

 「3!」

 

 「4!」

 

 「5!」

 

 「6!」

 

 「7!」

 

 「8!」

 

 「9!」

 

 曜、梨子、花丸、ルビィ、善子、ダイヤさん、果南、鞠莉が続き・・・全員が俺の方を見る。

 

 最初は、Aqoursの一員になることを拒否していた。

 

 この数字は、自分が名乗ってはいけないと思っていた。

 

 でも・・・

 

 

 

 

 

 「・・・10!」

 

 

 

 

 

 今は胸を張って名乗ることが出来る。

 

 俺は、絢瀬天は・・・Aqoursの10人目のメンバーなのだと。

 

 「0から1へ・・・今、全力で輝こう!」

 

 それぞれの指を繋ぎ、0の形を作る。

 

 そして・・・

 

 

 

 

 

 「Aqours~!」

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「「サ~ンシャイ~ン!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 天高く人差し指を・・・1を掲げる。

 

 次のラブライブに向け、決意を新たにする俺達なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「鞠莉さん、カメラの準備出来ました?」

 

 「OKよ。これでバッチリね」

 

 笑顔で返事をしてくれる鞠莉さん。

 

 私達は今、千歌ちゃんの家の前の浜辺に集まっていた。

 

 Aqoursの集合写真を撮る為だ。

 

 「それにしても、急に『写真を撮ろう』だなんて・・・どうしたのかしら、天くん」

 

 そう、これは天くんの発案なのだ。

 

 さっきの円陣といい、急にどうしたのかしら・・・

 

 「・・・多分、懐かしくなったんじゃないかしら」

 

 向こうでルビィちゃんや花丸ちゃんと談笑している天くんを見て、鞠莉さんが微笑む。

 

 「絵里や亜里沙と触れ合って、昔を思い出したんだと思うわ。μ'sが活動してた頃は、よく皆で一緒に写真を撮ってたみたいだし・・・あの二人が帰っちゃって寂しいから、人との繋がりを感じてたいんじゃない?」

 

 「なるほど・・・っていうか鞠莉さん、天くんのことよく理解してますね」

 

 「Of course!幼馴染だもの♪」

 

 「ぐぬぬ・・・」

 

 悔しいが、認めざるをえない。

 

 私よりも鞠莉さんの方が、天くんのことをよく理解している。

 

 これが幼馴染の力なのね・・・

 

 「フフッ、梨子は本当に天が好きなのね」

 

 「・・・そういう鞠莉さんはどうなんですか?」

 

 「それは勿論・・・ね」

 

 再び天くんへと視線を向ける鞠莉さん。

 

 その視線の先では、天くんが善子ちゃんに追いかけられていた。

 

 「・・・私の初恋は、十年前から全く色褪せていないわ。昔も今も、変わらず天のことを想ってる」

 

 「鞠莉さん・・・」

 

 「・・・とはいえ、私はあの子を傷付けたから。そんな資格は無いんだけどね」

 

 苦笑する鞠莉さん。

 

 そのこと、まだ引きずってるのね・・・

 

 「・・・資格なんて要らないでしょう」

 

 「え・・・?」

 

 「大事なのは、天くんのことが好きかどうかです。違いますか?」

 

 「梨子・・・」

 

 「そして選ぶのは天くんです。私を選ぶのか、鞠莉さんを選ぶのか、違う誰かを選ぶのか・・・だから誰が選ばれたとしても、恨み言は無しですからね」

 

 私の言葉に、鞠莉さんはキョトンとした後・・・

 

 面白そうにクスクス笑い出した。

 

 「フフッ・・・梨子、貴女本当に良い女ね」

 

 「そう思ってると、そのうち鞠莉さんのこと出し抜いちゃうかもしれませんよ?」

 

 「あら、怖い怖い」

 

 鞠莉さんはひとしきり笑うと、私に手を差し出してきた。

 

 「改めてよろしく、梨子。仲間としても・・・恋のライバルとしても、ね」

 

 「フフッ・・・負けませんからね、鞠莉さん」

 

 差し出された手を握る私。

 

 「さん付けは要らないわよ」

 

 「え・・・?」

 

 「あと、敬語も要らないから。仲間なんだし、何より・・・ライバルとして公平に、対等に勝負しましょ?」

 

 ウインクする鞠莉さん。

 

 全く、どっちが良い女なんだか・・・

 

 「お~い!鞠莉~!梨子~!」

 

 私達を呼ぶ声がする。

 

 天くんがこちらへ向かって、大きく手を振っていた。

 

 「準備出来た~?」

 

 「バッチリよ!今ボタン押すから!」

 

 鞠莉さんはそう返事をすると、シャッターボタンを押した。

 

 タイマーのカウントダウンが始まる。

 

 「さぁ、行きましょう梨子!」

 

 笑みを浮かべ、私の手を取る鞠莉さん。

 

 「っ・・・うん、鞠莉ちゃん!」

 

 鞠莉ちゃんの手を握り、二人で走り出す。

 

 そして・・・

 

 「えいっ!」

 

 「シャイニー☆」

 

 「うおっ!?」

 

 二人でそれぞれ、天くんの両腕に抱きつくのだった。




どうも〜、ムッティです。

祝!アニメ一期・完!どーん

『絢瀬天と九人の物語』を書き始めて、およそ二年弱・・・

ようやく一期の内容を書き切ることが出来ました!

やったーっ\(^o^)/

・・・これでやっと二期に入れる(´・ω・`)

早くヒロイン決めてイチャイチャさせたいよおおおおおっ!!!!!(魂の叫び)



ここで改めて感謝を・・・

いつも『絢瀬天と九人の物語』を応援していただき、ありがとうございます。

おかげさまで、一期の内容を書き終えることが出来ました。

これもひとえに、いつも応援して下さっている皆様のおかげだと思っています。



☆評価をしていただいた皆様・・・

まさか100人を超える方々に☆評価をしていただけるなんて、思ってもみませんでした。

本当にありがたく思っています。



感想を書いて下さった皆様・・・

皆様からの感想が、この作品を書くモチベーションになっています。

感想をいただけるのはとても嬉しいですし、皆様とコミュニケーションを取れることがとても楽しいです。

本当に感謝しています。



お気に入りに登録して下さった皆様・・・

自分の書いた作品をお気に入りに登録していただけるなんて、身に余る光栄です。

本当に嬉しく思います。



そして、いつもこの作品を読んで下さっている皆様・・・

ハーメルンに投稿された数多の作品の中で、この作品を見つけ目を通して下さったこと・・・

本当にありがとうございます。

これからも頑張って投稿していきますので、『絢瀬天と九人の物語』をよろしくお願い致します。



さてさて、最後は梨子ちゃんと鞠莉ちゃんがお互いをライバル認定していましたが・・・

果たしてヒロインは梨子ちゃんになるのか?

それとも鞠莉ちゃんになるのか?

はたまた別のメンバーになるのか?

ここから恋愛要素を強くしていけたらと思いますので、どうぞお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!



P.S.アニメ一期の内容が終わったことを機に、アンケートをとってみたいと思います!

アンケート機能は初めて使うので、ちゃんと表示されているか不安ですが・・・

もしちゃんと表示されていたら、アンケートにお答えいただけると幸いです(^^)

よろしくお願い致します(`・ω・´)ゞ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新鮮な気持ちで臨むことは大事である。

虹ヶ咲の『虹色Passions!』が良い曲過ぎる・・・

っていうか、侑ちゃんホント可愛いんだけど・・・


 「Hello,everybody!」

 

 マイクの前に立ち、全校生徒に挨拶する鞠莉。

 

 「本日より、2nd seasonのStartデース!」

 

 「メタ発言ずら」

 

 「いや、多分『二学期』って言いたいだけだから」

 

 花丸のツッコミにツッコミを入れる善子。

 

 夏休みも終わり、今日から二学期・・・

 

 浦の星では全校生徒が集まり、体育館で始業式を行なっていた。

 

 「鞠莉さん!?理事長挨拶なのですから、そこは節度をもって・・・」

 

 「雪像?」

 

 「節度!」

 

 ステージ上でダイヤさんに注意されている鞠莉。

 

 それを見て果南が呆れていた。

 

 「だから『鞠莉には挨拶を任せない方が良い』って言ったのに・・・」

 

 「アハハ・・・まぁ一応理事長だし、立場的に挨拶は必要らしくて・・・」

 

 苦笑するルビィ。

 

 一方、曜は心配そうに体育館の入り口を見つめていた。

 

 「それにしても、千歌ちゃん遅いね・・・」

 

 「『これからは一人で起きるから』って、言ったそばから遅刻するなんて・・・」

 

 溜め息をつく梨子。

 

 どうやら千歌は、まだ登校していないらしい。

 

 っていうか・・・

 

 「凄く今さらなんだけどさぁ・・・学年ごとに並んでなくて良いの?」

 

 今の俺達、学年関係無しにAqoursで固まっちゃってるんだけど。

 

 何なら俺達だけじゃなくて、他の生徒達も学年バラバラで集まってるんだけど。

 

 もう既に列とか存在してなくて、あちこちで集団が形成されてる状態なんだけど。

 

 「良いんじゃない?鞠莉が『堅苦しいのは無しにしまショー♪』って言い出して、こういう形になったらしいし」

 

 「その一声が通ってしまう浦の星って一体・・・」

 

 肩をすくめる果南に、溜め息をつく俺。

 

 そんな俺の両肩に、ポンッと手が置かれる。

 

 「まぁまぁ、良いじゃない天くん」

 

 「そうよ天くん、自由であってこその浦の星なんだから」

 

 「自由すぎてルール違反を犯した人達が何か言ってるんですけど」

 

 「「その節は大変申し訳ありませんでした!」」

 

 土下座する麻衣先生と翔子先生。

 

 相変わらず土下座するの早いな・・・

 

 「ハァ・・・頭上げて下さい。もう気にしてないんで」

 

 「流石は天くん!」

 

 「懐の深い男の子って素敵!」

 

 抱きついてくる二人。

 

 暑苦しいなぁ、もう・・・

 

 「ちょっと!?何してるんですか!?」

 

 慌てて二人を引き剥がし、俺を抱き寄せる梨子。

 

 「先生が生徒に抱きつかないで下さい!」

 

 「いや、梨子も俺に抱きついてるじゃん」

 

 「私は良いのっ!」

 

 「梨子ちゃん、ずいぶん積極的になったね・・・」

 

 「『天くんは鈍感だから、積極的にアピールしないと気付いてもらえない』って学んだらしいよ。『二学期からは、今まで以上にガンガン行くわ!』って言ってたくらいだし」

 

 ルビィと曜が何やら話している。

 

 内容はよく聞こえないが、身の危険を感じるのは気のせいだろうか・・・

 

 「っていうか、麻衣先生も翔子先生もこんなところにいて良いんですか?先生方は端の方に整列してたはずじゃ・・・」

 

 「そんなもの、最初の五分で崩れたわよ」

 

 「おい大人達」

 

 翔子先生の言葉通り、他の先生方も散り散りになって仲の良い生徒達と一緒にいる。

 

 この学校、本当に大丈夫なんだろうか・・・

 

 「それにしても・・・惜しかったわよね、ラブライブ」

 

 「うん・・・あともう少しで、決勝に行けたかもしれないずら」

 

 そんなことを話している善子と花丸。

 

 ルール違反により間違いなく敗退と思われていたAqoursだったが、実際はかなり惜しいところまでいっていた。

 

 会場の観客による投票で予想以上の票数を獲得し、決勝へ進んだグループの票数に肉薄していたのだ。

 

 運営側の評価が下がっていなかったら、もしかすると・・・

 

 「・・・たらればを言っても仕方ないか」

 

 首を横に振る俺。

 

 結果として、地区予選で敗退したことが全てだ。

 

 次の大会では決勝に進んで、優勝出来るように頑張らないと・・・

 

 「あの憎きSaint Snowが、決勝に進出してそこそこ良い順位に入ったからね。あの生意気な小娘達には、絶対に負けられない・・・確実に潰す」

 

 「え、今『潰す』って言った?言ったよね?」

 

 「決勝に進出して・・・とにかくSaint Snowをぶっ潰したいです」

 

 「どこのエ●ン!?不穏過ぎるわ!」

 

 「とりあえず、ブロッコリーの食品サンプルを大量購入しておかないと」

 

 「本気で聖良さんを潰す気じゃん!?止めてあげて!?」

 

 全力で止めてくる曜。

 

 その時・・・

 

 「シャラアアアアアアアアアアップ!」

 

 「うるせええええええええええっ!」

 

 「ごふっ!?」

 

 『檸檬●弾』用に持っていたレモンを全力でぶん投げ、鞠莉の顔面にクリーンヒットさせる。

 

 耳がキンキンするし、火花が散ったみたいに目の前がパチパチするわ・・・

 

 「ちょっと天!?何するのよ!?」

 

 「マイクに向かって大声で叫んだら、今みたいにハウリングが発生するだろうが!ハウった衝動で火花が散るとか、『革命デュ●リズム』の歌詞だけにしてくんない!?」

 

 「何の話!?私はただ注目を集めようとしただけなんだけど!?」

 

 「金髪巨乳ハーフ美女なんて、むしろ注目しか集めないだろうが!」

 

 「そんな、美女だなんて・・・キャッ♡」

 

 「はいはい、鞠莉さんは引っ込んでいて下さい」

 

 面倒になったのか、鞠莉を押し退けてマイクの前に立つダイヤさん。

 

 「決勝に行けなかったことは残念ですが・・・0を1にすることは出来ましたわ」

 

 「えぇ、それは間違いないですね」

 

 今回Aqoursは、たくさんの票を集めることが出来た。

 

 誰一人投票してくれなかった、あの時と違って。

 

 「入学希望者も、今では10人になったもんね」

 

 背後から俺に抱きついたままの梨子が、嬉しそうに笑う。

 

 今まで0人だった入学希望者が、10人になったのだ。

 

 これはかなりの前進と言える。

 

 「そして本日、発表になりました・・・次のラブライブが!」

 

 「えぇっ!?」

 

 「ホントに!?」

 

 ダイヤさんの言葉に、驚いている曜と果南。

 

 やっぱり、ダイヤさんは知ってたか・・・

 

 「今回と同じく、決勝はアキバドーム・・・やるしかありませんわ!」

 

 やる気が漲っているダイヤさん。

 

 その時、体育館の扉が勢いよく開かれた。

 

 「出ようっ!ラブライブっ!」

 

 千歌が息を切らしながら駆け込んでくる。

 

 全く、本当にタイミングが良いな・・・

 

 「フフッ、遅いよ千歌ちゃん」

 

 「千歌ちゃんらしい登場の仕方ずら」

 

 「待たせるんじゃないわよ」

 

 笑っているルビィ、花丸、善子。

 

 千歌は息を整えると、ガバッと顔を上げた。

 

 「1を10にして、10を100にして、学校を救って・・・そしたらきっと、私達だけの輝きが見つかると思う!」

 

 笑顔で言い切る千歌。

 

 どうやらウチのリーダーも、やる気満々のようだ。

 

 「だから出よう!ラブライブ!今度こそ優勝しよう!」

 

 「勿論であります!」

 

 「やってやるわ!」

 

 「マルも気合い入ってるずら!」

 

 「今度は負けないもん!」

 

 「堕天使たるヨハネに、二度目の敗北は許されないわ!」

 

 「Saint Snowにも負けてられないしね!」

 

 「優勝も浦の星も諦めませんわ!」

 

 「二兎を追って二兎とも得てやりマース!」

 

 どうやら、皆の思いは一つのようだ。

 

 Aqoursの皆の視線が、俺に向けられる。

 

 「ほら天くん、皆待ってるわよ・・・Aqoursの十人目の言葉を」

 

 麻衣先生に背中を押される。

 

 俺は一つ息を吐き・・・笑みを浮かべた。

 

 「このままじゃ終われない・・・勝つよ、皆」

 

 「「「「「「「「「おーっ!」」」」」」」」」

 

 こうして、俺達の新たな挑戦が始まるのだった。

 

 「それはさておき・・・何遅刻してんだこの腐れアホミカンがあああああっ!」

 

 「本当に申し訳ありませんでしたああああああああああっ!」




どうも〜、ムッティです。

前回でアニメ一期の内容が全て終わり、今回から二期の内容に入っていきます!

ここからは原作の内容に沿って進めつつ、ヒロインを決めていきたいところ・・・

早速梨子ちゃんが積極的に動いていますが、果たしてどうなることやら・・・

ヒロインといえば、前回の話でヒロインについてのアンケートを実施させていただきました!

予想を大幅に上回る回答数にビックリ(゜ロ゜)

アンケートに答えて下さった皆さん、本当にありがとうございます!

そして見事、1位に輝いた回答は・・・





『志満さん一択ですけど?何か問題でも?』





何で!?Σ(゜Д゜)

何でそんなに志満さん人気なの!?Σ(゜Д゜)

他の回答を差し置いて、断トツで一位なんですけど!?Σ(゜Д゜)

この人気ぶりは予想外だった(笑)

次に多かったのが、梨子ちゃんと鞠莉ちゃん以外のメンバーが良いという意見でしたね。

まぁ皆さんそれぞれ推しメンがいるでしょうから、この意見が多いのは納得ですかね。

そんなアンケートがなかなか面白かったので、第二弾を行いたいと思います!

読者の皆さんの意見を知ることが出来る良い機会だと思うので、是非お答えいただけると幸いです。

ここからまた新たなスタートになりますが、これからも応援よろしくお願い致します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【絢瀬絵里】一生忘れない・・・

絵里ちゃん、誕生日おめでとう!

気合いが入りすぎて、誕生日回史上一番長い回になりました(笑)

っていうか、この作品の一話分より長いかも(笑)

全て絵里ちゃん視点になっておりますので、予めご了承下さい。

それではいってみよー!


 「お姉ちゃん、そっちはどう?」

 

 「もう少しで終わりそうよ」

 

 亜里沙の問いに返事をする私。

 

 私達は今、クローゼットの奥から冬用の服を引っ張り出していた。

 

 これからどんどん寒くなってくるし、準備は早めにしておかないとね・・・

 

 「それにしても・・・今日はこんなことしなくてもいいんじゃない?」

 

 呆れている亜里沙。

 

 「せっかくの誕生日なんだよ?これからμ'sの皆が、お姉ちゃんの誕生日パーティーをやってくれるっていうのに・・・」

 

 「集合までまだ時間があるじゃない。こういうのは時間がある時にやっておかないと」

 

 そう、今日は私の二十三歳の誕生日だ。

 

 皆のことだから、きっと今頃張り切って準備してくれてるんでしょうね・・・

 

 本当にありがたいわ・・・

 

 「・・・天も来られたら良かったのにね」

 

 「仕方ないでしょう。平日だし、普通に学校があるんだから」

 

 「まぁね・・・大学生は自由がきくけど、高校生はそうもいかないか・・・」

 

 残念そうな亜里沙。

 

 天は内浦で頑張ってるんだし、元気でやってくれていればそれで良い。

 

 お祝いのラインだってもらったし、私にはそれだけで十分だ。

 

 「あっ・・・」

 

 天のことを考えていると、衣装ケースの中から一本のマフラーが出てきた。

 

 少し色がくすみ、ところどころ解れてしまっている水色のマフラー・・・

 

 それは私にとって、とても大切なマフラーだった。

 

 「・・・懐かしいね、そのマフラー」

 

 微笑んでいる亜里沙。

 

 「まだ持ってたんだ?」

 

 「・・・捨てられるわけないじゃない」

 

 マフラーを手に取り、ギュッと胸に抱く。

 

 「大事な・・・大事なプレゼントだもの」

 

 「フフッ・・・そうだね」

 

 私の背中に手を添えてくれる亜里沙。

 

 胸に抱いたマフラーを見つめながら、これをもらった五年前のことを思い出す私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「はい、今日の練習はここまで!」

 

 「つ、疲れたぁ・・・」

 

 「も、もう無理・・・」

 

 「う、動けないよぉ・・・」

 

 へたり込む穂乃果・にこ・花陽。

 

 μ'sは今日も、放課後に屋上で練習に励んでいた。

 

 「みっともないですよ、穂乃果。シャキッとして下さい」

 

 「うぅ、海未ちゃんが厳しい・・・」

 

 「情けないわねぇ、にこちゃん・・・」

 

 「何ですって!?そういう真姫こそ足ガクガクじゃない!」

 

 「こ、これぐらいどうってことないわよ!」

 

 「かよちん、お水持ってきたにゃ」

 

 「ありがとう、凛ちゃん」

 

 練習も終わり、わいわい騒いでいる皆。

 

 私も水分補給をしていると、天とことりが二人で私のところにやって来た。

 

 「絵里姉、今日は先に帰っててくれる?俺はことりちゃんの家に寄っていくから」

 

 「えっ、また?」

 

 「うん、次の曲の衣装について打ち合わせしたいし」

 

 ここ最近、天はことりの家に行くことが増えていた。

 

 マネージャーとしての仕事を、頑張ってくれるのはありがたいけれど・・・

 

 「最近多くない?そんなに打ち合わせしないといけないことがあるの?」

 

 「ま、まぁ色々と・・・」

 

 「き、今日は作詞についての打ち合わせもあるので!私もお邪魔する予定なんです!」

 

 急に割り込んでくる海未。

 

 何を慌てているのかしら・・・

 

 「大丈夫だよ、絵里ちゃん」

 

 天を背後から抱き締めつつ、私に笑顔を向けることり。

 

 「そんなに遅くならないようにするし、帰りはお母さんに車で送ってもらうから」

 

 「それなら良いけど・・・じゃあことり、お願いね」

 

 「フフッ、任せて♪天くん、行こう?」

 

 「うん」

 

 「わ、私も行きます!」

 

 天の手を引き、部室へと戻っていくことりと海未。

 

 何か怪しいわね・・・

 

 「そういえば、この前は真姫も一緒だったわよね?」

 

 「ま、まぁね・・・作曲について相談したくて・・・」

 

 何故か目を逸らす真姫。

 

 ひょっとして、何か隠してる・・・?

 

 「まさか・・・天にいかがわしいことをしているの!?」

 

 「してるわけないでしょ!?何でそういう発想になるわけ!?」

 

 「ことりも海未も真姫も、三人共ガチ勢じゃない!そんな三人が天と一緒の部屋で過ごすなんて、あの子の貞操の危機だわ!」

 

 「喧嘩売ってる!?いくら何でもそんなことしないから!」

 

 「抵抗する天を押さえつけて、天の天高くそびえ立つ天を・・・」

 

 「ストップうううううっ!?アンタさっきから何言ってるのよ!?」

 

 「『天くん、ことりで卒業しようね・・・』みたいな展開が容易に想像出来るわ!」

 

 「アンタの脳内はピンク一色かっ!何を卒業させようとしてるの!?」

 

 「じゃあ『天、大丈夫ですよ・・・私も初めてですから・・・』みたいな?」

 

 「だから違うってば!?何が初めてなのよ!?」

 

 「まさか『し、仕方ないわね・・・私が捨てさせてあげるわよ・・・』のパターン!?」

 

 「どんなパターン!?何を捨てさせようとしてるわけ!?」

 

 「ナニよ!そんなの分かってるでしょ!?」

 

 「ナニソレ、イミワカンナイ!アンタ本当に絵里よねぇ!?」

 

 「エリチ、心配しなくても大丈夫やって。天くんはウチの旦那さんになる子なんやから」

 

 「ちょっと希!?アンタまで何言ってるのよ!?」

 

 「そうだよ希ちゃん!私だって天くんのお嫁さんに立候補してるんだからね!」

 

 「花陽まで!?」

 

 真姫のツッコミが止まらない。

 

 何か最近天のせいで、メンバーのキャラがおかしくなってる気がするのだけれど・・・

 

 「いや、絵里ちゃんが一番おかしいよね・・・」

 

 「無自覚って恐ろしいわ・・・」

 

 「何気にμ's崩壊の危機だにゃ・・・」

 

 呆れている穂乃果・にこ・凛なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ハァ・・・」

 

 溜め息をつく私。

 

 あれから数日経つが、天は練習が終わると必ずことりの家に寄るようになっていた。

 

 ここまでくると、まず間違いない・・・

 

 天は私に何かを隠している。

 

 「どうしたんエリチ?溜め息なんてついちゃって」

 

 首を傾げる希。

 

 生徒会の仕事を終えた私達は、学校からの帰り道を歩いていた。

 

 「いや、何て言うか・・・最愛の弟に隠し事されるって、姉として辛いなって・・・」

 

 「あぁ、天くんのことやね」

 

 苦笑する希。

 

 「そんなに心配なん?」

 

 「当たり前じゃない!毎日あの独特サイドテールの家に入り浸っているのよ!?しかも登山家もどきと毛先クルクル女も一緒・・・あの子の貞操が奪われていても、何ら不思議じゃないわ!」

 

 「あれ、エリチってそんなストレートに仲間をディスる子やったっけ・・・」

 

 「あぁ、どうしよう・・・あの子にもしものことがあったら・・・!」

 

 「まぁまぁエリチ、ちょっと落ち着いて・・・」

 

 「B90は黙ってて!」

 

 「バストサイズで呼ぶの止めて!?」

 

 B90のツッコミ。

 

 私より2センチ大きいだけなのに、私より遥かに大きく見えるのは気のせいかしら・・・

 

 「全く、エリチは本当にブラコンやね・・・」

 

 「誰がブラジャーコンプレックスよ!?可愛いの着けてるから!」

 

 「胸の話から離れてもらっていい!?ブラジャーじゃなくてブラザーね!?」

 

 呆れている希。

 

 「そんな心配しなくても、天くんは大丈夫。天くんがしっかりしてるのは、エリチが一番知ってるやん?」

 

 「そ、それはそうだけど・・・」

 

 「ほら、家に着いたよ?」

 

 希に言われて初めて気付く。

 

 私達は既に、私の住むマンションに到着していた。

 

 「天くんも待ってるんじゃない?」

 

 「・・・どうせことりの家でしょ」

 

 今日は生徒会の仕事があったので、私と希はμ'sの練習を休んでいた。

 

 他の皆はいつも通り練習していたはずだが・・・

 

 恐らく天は今日も、練習終わりにことりの家に寄ってくるのだろう。

 

 「でも、連絡は来てないやろ?」

 

 「・・・遂に連絡も寄越さなくなったのね」

 

 「今日のエリチはずいぶんネガティブやね!?」

 

 「ネガティブにもなるわよ!うぅ、天ぁ・・・」

 

 「はいはい、そんな顔しない。せっかくの誕生日やん」

 

 そう、今日は私の誕生日だった。

 

 天や亜里沙は勿論のこと、皆からお祝いの言葉はもらったが・・・

 

 私の心は晴れなかった。

 

 「せっかくやし、今日はエリチの家にお邪魔しようかな。ウチが何か甘いものでも作ってあげるから、元気出して。ね?」

 

 「・・・そうね。お言葉に甘えようかしら」

 

 「はい、決まり。行こう?」

 

 希に手を引かれ、部屋の前までやって来る。

 

 鍵を開けて中に入るが、誰かがいる気配は無かった。

 

 「天だけじゃなくて、亜里沙もいないのね・・・私の誕生日って一体・・・」

 

 「はいはい、早くリビングに行こうね」

 

 希に促されるままに、廊下を歩いてリビングのドアを開ける。

 

 すると・・・

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「誕生日、おめでとう!」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 「・・・えっ?」

 

 盛大なクラッカーの音と共に、何人もの声が響き渡る。

 

 な、何!?何事!?

 

 「フフッ、サプライズ成功やね」

 

 後ろでクスクス笑っている希。

 

 ど、どういうこと・・・?

 

 「今日はμ'sの練習をお休みして、皆ここで誕生日会の準備をしてくれてたんだよ?」

 

 「その通りにゃ!」

 

 「いやぁ、大変だったぁ・・・もぐもぐ」

 

 「花陽!?何つまみ食いしてるのよ!?」

 

 「そうだよ花陽ちゃん!私も食べたい!」

 

 「いけません穂乃果!今日の主役は絵里ですよ!?」

 

 「ハラショー!早く食べたいなー!」

 

 μ'sの皆と亜里沙が、わいわい騒いでいる。

 

 なるほど、そういうことだったのね・・・

 

 「希ちゃん、お疲れ様」

 

 「あっ、天くん♡」

 

 「むぐっ!?」

 

 労いの言葉をかける天を、思いっきり抱き締める希。

 

 「エリチに悟られないようにするの、大変だったんだぁ・・・褒めて欲しいな♪」

 

 「ふぁふふぁふぉふぉふぃふぁん、ふぁふぉふぃふぃふぁふふぁ(流石希ちゃん、頼りになるわ)」

 

 「あんっ♡そんなところで喋らんといて♡」

 

 希の胸に顔が埋まった状態の天が、何やらふがふが言っている。

 

 「はいはい、その辺にしときなさい」

 

 希と天を引き剥がすにこ。

 

 「早く料理食べるわよ。お腹も空いたし、冷めちゃったら勿体ないじゃない」

 

 「これ、全部にこが作ってくれたの・・・?」

 

 「私と天の二人がかりよ。優秀な弟子のおかげで、思ったより早く作れたわ」

 

 「にこちゃんのおかげだよ。間に合って良かった」

 

 ハイタッチを交わすにこと天。

 

 天も作ってくれたのね・・・

 

 「・・・てっきり今日も、ことりの家に行ったんだと思ってたわ」

 

 「絵里姉の誕生日を、スルーするわけないでしょ」

 

 天はそう言って苦笑すると、ラッピングされた箱を差し出してきた。

 

 「誕生日おめでとう、絵里姉」

 

 「あ、ありがとう・・・」

 

 おずおずと箱を受け取る。

 

 これ、誕生日プレゼントよね・・・?

 

 「あ、開けて良いかしら・・・?」

 

 「どうぞ」

 

 天に促され、ゆっくりとラッピングを剥がしていく。

 

 そして箱を開けると・・・

 

 「っ・・・」

 

 そこにあったのは・・・鮮やかな水色のマフラーだった。

 

 「なかなかの出来映えでしょ?」

 

 ニコニコしていることり。

 

 「そのマフラー、天くんが編んだんだよ?」

 

 「編んだって・・・えっ、天が!?」

 

 驚愕する私。

 

 これを天が・・・?

 

 「ことりちゃんに編み方を教えてもらいながら、少しずつ編んでたんだよ。編み物は初めてだったから、相当苦戦したけどね」

 

 「初めてとは思えない出来映えだよ!天くんにはセンスがあるね♪」

 

 天を褒めることり。

 

 えっ、じゃあもしかして・・・

 

 「ここ最近、ことりの家に寄ってたのって・・・」

 

 「あぁ、うん。ずっとこれを編んでたんだよね・・・ゴメンね、打ち合わせなんて嘘ついちゃって」

 

 申し訳なさそうな天。

 

 ふと周りを見ると、皆ニコニコしている。

 

 「まさか・・・皆知ってたの!?」

 

 「すみません、絵里」

 

 「私と海未はカモフラージュの為に、天と一緒にことりの家にお邪魔してたのよ」

 

 苦笑している海未と真姫。

 

 そういうことだったのね・・・

 

 「あれ、私は何も聞いてないよ?」

 

 「凛も聞いてないにゃ」

 

 「穂乃果ちゃんと凛ちゃんには言わなかったもん」

 

 「ちょ、天くん!?」

 

 「何でにゃ!?」

 

 「絶対顔に出るから」

 

 「信頼度ゼロ!?」

 

 「いや、むしろマイナスなんだけど」

 

 「酷いにゃ!?」

 

 「天!?私も聞いてないよ!?」

 

 「あっ・・・亜里姉に伝えるの忘れてた」

 

 「純粋に忘れられてた!?そっちの方がショックなんだけど!?」

 

 亜里沙のツッコミ。

 

 不憫ね、亜里沙・・・

 

 「それより絵里ちゃん、せっかくだしマフラー巻いてみたら?」

 

 「せやね。天くんに巻いてもらったらええやん」

 

 花陽と希がそんなことを言う。

 

 「・・・お願いしても良いかしら?」

 

 「勿論」

 

 天はそう言うと、箱の中のマフラーを取り出し・・・

 

 私の首に優しく巻いてくれた。

 

 「おぉ、良いね!」

 

 「似合ってるにゃ!」

 

 穂乃果と凛が褒めてくれる。

 

 首元以上に・・・心が温まるのを感じる。

 

 「やはり絵里には、水色が良く似合いますね」

 

 「絵里ちゃんのカラーだもんね」

 

 微笑んでいる海未と花陽。

 

 私は天に視線を向けると、笑みを浮かべた。

 

 「ありがとう、天・・・とっても嬉しいわ」

 

 「喜んでもらえて良かった・・・ことりちゃんのおかげだね」

 

 「そんなことないよ。天くんが頑張ったからだよ」

 

 ニッコリ笑うことり。

 

 ことりの言う通り、きっと天は頑張ってくれたんだろう。

 

 他でも無い、私の為に・・・

 

 「っ・・・」

 

 「おっと・・・絵里姉?」

 

 思わず天に抱きついてしまう。

 

 私は今、この子が愛おしくて仕方なかった。

 

 「絵里姉・・・泣いてるの?」

 

 「・・・泣いてないもん」

 

 「・・・そっか」

 

 涙声で返事をすると、天が抱き締め返してくれた。

 

 「・・・いつもありがとう。大好きだよ、絵里姉」

 

 「天・・・」

 

 「さぁ、ご飯食べよう?絵里姉の好きなもの、たくさん作ったから」

 

 「フフッ・・・それは楽しみね」

 

 目元の涙を拭い、天と笑い合う。

 

 かけがえのない仲間に、家族にお祝いされて・・・

 

 今日という日を、一生忘れないだろうと思う私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「「「「「「誕生日、おめでとう!」」」」」」

 

 「ありがとう、皆」

 

 笑みを浮かべる私。

 

 私と亜里沙は、ことりの家にお邪魔していた。

 

 「悪いわね、ことり。家を使わせてもらっちゃって」

 

 「気にしないで。お母さん出張中だから、今は私一人だけだし」

 

 微笑むことり。

 

 「でも、全員は揃えなかったね・・・」

 

 「仕方ないわよ。にこちゃんも希も仕事があるんだし」

 

 残念そうな花陽に、肩をすくめる真姫。

 

 二人は仕事の為、今回の誕生日会は欠席している。

 

 前もって謝罪のラインが来ていたが、仕方の無いことだ。

 

 休職中の私と違って、あの二人はバリバリ働いているのだから。

 

 「でもにこがいない割に、美味しそうな料理が並んでるわね?誰が作ってくれたの?」

 

 「フッフッフッ、実は・・・」

 

 「凛、ストップです」

 

 「むぐっ!?」

 

 海未に口を押さえられる凛。

 

 どうかしたのかしら?

 

 「絵里ちゃん、一口食べてみなよ」

 

 「えっ・・・?」

 

 「多分絵里ちゃんなら、分かるんじゃないかな・・・誰が作ったのか」

 

 そんなことを言い出す穂乃果。

 

 そんなに分かりやすい味付けなのかしら・・・

 

 「ほら絵里ちゃん、あ~ん」

 

 「あ、あ~ん・・・」

 

 穂乃果が側にあったボルシチをスプーンですくい、私の口元に運んでくれる。

 

 恐る恐る口を開け、食べてみると・・・

 

 「っ・・・えぇっ!?」

 

 美味しい・・・

 

 いやそれより、この味はまさか・・・!

 

 「そ、天・・・?」

 

 「大当たり」

 

 「っ!?」

 

 キッチンからひょっこり顔を出したのは・・・

 

 内浦にいるはずの天だった。

 

 「ど、どうしてここにいるの!?」

 

 「・・・前にも言ったじゃん」

 

 微笑む天。

 

 「絵里姉の誕生日を、スルーするわけないでしょ」

 

 「っ・・・」

 

 「あ、ちなみに学校はサボったから」

 

 「何してるの!?」

 

 一気に涙が引っ込んでしまう。

 

 そんな堂々と『サボった』って・・・

 

 「鞠莉に許可はもらったから大丈夫。『マリーの分もお祝いしといて♪』だってさ」

 

 「軽くない!?理事長がそれで良いの!?」

 

 「ちなみに担任の麻衣先生にも、ちゃんと話はしておいたから。『東京のお土産よろしくね!』だってさ」

 

 「担任までそんな感じなの!?」

 

 流石に心配になってくるレベルである。

 

 浦の星、本当に大丈夫かしら・・・

 

 「昨日Aqoursの練習が終わった後、新幹線でこっち来てことりちゃんの家に泊めてもらったんだよね。で、朝から料理の仕込みをしてたってわけ」

 

 「フフッ、サプライズ大成功♪」

 

 天に抱きつくことり。

 

 「昨日の晩御飯は天くんが作ってくれたんだけど、本当に美味しくて・・・天くん、私と結婚して専業主夫やってくれない?」

 

 「はい喜んで!」

 

 「ダメですっ!」

 

 「天も受諾しないのっ!」

 

 二人を引き剥がす海未と真姫。

 

 ガチ勢三人は相変わらずね・・・

 

 「アハハ、相変わらず天くんはモテモテやね」

 

 「本当に罪な男だにゃ」

 

 「フフッ、私も後で甘えちゃおっ♪」

 

 わいわい話している皆。

 

 皆も知ってたみたいね・・・

 

 「ちょっと天!?私は何も聞いてないんだけど!?」

 

 「あっ・・・亜里姉に伝えるの忘れてた」

 

 「まさかの二回目!?そろそろ泣いていい!?」

 

 「フッフッフッ・・・残念だったね、亜里沙ちゃん!」

 

 「凛達はちゃんと聞かされてたにゃ!」

 

 「二人は絵里姉と会わないだろうから、教えても良いかなって。会う機会があるようだったら、絶対教えてないけど」

 

 「酷い!?」

 

 「全然信用されてないにゃ!?」

 

 「アハハ・・・」

 

 思わず苦笑してしまう私。

 

 そんな私に、天がラッピングされた箱を差し出してきた。

 

 「誕生日おめでとう、絵里姉」

 

 「・・・開けても良いかしら?」

 

 「どうぞ」

 

 既視感を覚えるその光景に、私は箱の中身が分かるような気がした。

 

 ゆっくりラッピングを剥がし、箱を開けると・・・

 

 そこには、鮮やかな水色のマフラーがあった。

 

 「五年前にプレゼントしたマフラー、色もくすんで解れが目立っちゃってるでしょ?絵里姉、メッチャ使ってくれてたもんね」

 

 天は苦笑すると、箱の中からマフラーを取り出し・・・

 

 あの時と同じように、私の首に優しく巻いてくれた。

 

 「うん・・・やっぱり絵里姉には、水色がよく似合うね」

 

 「っ・・・」

 

 「おっと・・・絵里姉?」

 

 天を思いっきり抱き締める。

 

 嬉しくて嬉しくて、涙が止まらない。

 

 「絵里姉・・・泣いてるの?」

 

 「こんなことされたら、泣くに決まってるじゃない・・・」

 

 天を抱く腕に力を込める。

 

 「ありがとう、天・・・大好きよ」

 

 「・・・俺も大好きだよ、絵里姉」

 

 抱き締め返してくれる天。

 

 そして抱き合う私達を、温かく見守ってくれている皆。

 

 また一つ、一生忘れないであろう思い出が増えた私なのだった。




ハラショー!ムッティです!

改めて絵里ちゃん、誕生日おめでとう\(^o^)/

μ'sの中で、絵里ちゃんの声が一番好きです。

普段の声も、歌声も・・・素敵やん?←

いやホント、南條さんは神です( ´∀`)

当然のことながら、これからも絵里ちゃんは登場しますのでお楽しみに(・∀・)ノ



ここで恒例の支援絵紹介!

ことりちゃん大好きさんが、新しい支援絵を描いて下さいました!

まずはこちら・・・


【挿絵表示】


曜ちゃん可愛いいいいいっ!!!!!

スクスタの『Snow Crystal』衣装の曜ちゃんですね!

いやぁ、可愛いなぁ( ´∀`)

続きまして、こちら・・・


【挿絵表示】


彼方ちゃあああああんっ!!!!!

可愛すぎてヤバい(´・ω・`)

実はこの絵、自分のリクエストで描いていただきました!

まさか本当に描いていただけるとは・・・

ことりちゃん大好きさん、本当にありがとうございます!



さてさて、本編ではいよいよ第二期の内容に入りましたね。

ラブライブ優勝、そして浦の星の統廃合阻止を目指すAqours・・・

果たしてこれからどうなるのか・・・

そしてヒロインは誰になるのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【星空凛】世界で一番・・・

ムッティ『今日から11月かぁ・・・とりあえずスクスタやろうっと』

スクスタ『11月1日は凛ちゃんの誕生日です!』

ムッティ『あああああっ!?忘れてたあああああっ!?誕生日回書いてねえええええっ!?』



これが今朝8時の出来事です(´・ω・`)

何とか誕生日が終わる前に書き上げたぜ・・・

それではいってみるにゃー!


 「起きるにゃああああああああああっ!」

 

 「ごふっ!?」

 

 腹部に大きな衝撃を受け、思わず目を覚ましてしまう。

 

 視線を向けると、凛が俺の腹部にまたがっていた。

 

 「おはよう天くん!今日も良い天気だにゃ!」

 

 「重いから早く退くにゃ」

 

 「女の子に何てこと言うにゃ!?そして語尾をパクらないでほしいにゃ!」

 

 ツッコミを入れる凛。

 

 やれやれ・・・

 

 「うりゃあっ!」

 

 「にゃあっ!?」

 

 勢いよく身体を起こすと、凛が俺の身体から落ちてひっくり返る。

 

 ベッドに倒れ込む凛に覆い被さり、顔を近付けて笑う。

 

 「形勢逆転」

 

 「そ、天くん!?か、顔が近いにゃ!」

 

 「何今さら恥ずかしがってんの?あんなことやこんなこともしてるのに」

 

 「そ、それとこれとは話が別にゃ!」

 

 顔を赤くして叫ぶ凛。

 

 相変わらず乙女だなぁ・・・

 

 「それにしても凛・・・ずいぶん髪が長くなったよね」

 

 凛の髪を手に取る。

 

 μ's時代はショートヘアだった凛も、今では腰の辺りまであるロングヘアになっていた。

 

 「フフッ、頑張って伸ばしたんだ」

 

 笑う凛。

 

 「だって天くん、ロングヘアの女の子好きでしょ?」

 

 「えっ、俺の為だったの?」

 

 「勿論」

 

 俺の頬に手を添える凛。

 

 「好きな男の子を振り向かせる為なら、女の子は何でも出来ちゃうんだから」

 

 「・・・顔が近いだけで恥ずかしがるくせに、そういうセリフはサラッと言えるのね」

 

 今度は俺が恥ずかしくなってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「シュート!」

 

 「えいっ」

 

 「にゃあああああっ!?」

 

 シュートをブロックされ、悲鳴を上げる凛。

 

 俺達は今、家の近くにある体育館でバスケットボールを楽しんでいた。

 

 「くっ、普通のシュートは天くんにブロックされてしまうにゃ・・・!」

 

 「俺の方が身長高いからね」

 

 悔しがる凛に苦笑する俺。

 

 相変わらず負けず嫌いだなぁ・・・

 

 「っていうか、せっかくの誕生日デートが体育館で良いの?」

 

 「今日は身体を動かしたい気分だったんだにゃ!」

 

 「『今日は』っていうか毎日そうじゃん」

 

 呆れる俺。

 

 今日は凛の誕生日ということで、凛にどこへデートに行きたいか聞いたんだけど・・・

 

 まぁ凛らしいけどね。

 

 「それに凛は、天くんと一緒ならどこに行っても楽しいにゃ!」

 

 「・・・そっか」

 

 少し照れ臭くなってしまう。

 

 俺と凛が付き合い始めたのは、俺が高校を卒業してすぐのことだった。

 

 もう交際四年目になるが、こうやってストレートに好意をぶつけてくるところは全く変わらない。

 

 俺としては、凄く嬉しいんだけども。

 

 「っていうか天くん、遊んでて大丈夫?大学の単位が足りないとか無い?」

 

 「ギリギリ中のギリギリで卒業した人に言われたくないわ」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まる凛。

 

 今でこそ社会人として立派に働いている凛だが、大学時代は遊びすぎて本当に留年しそうになったこともあった。

 

 同じ大学に花陽ちゃんが通ってなかったら、どうなっていたことやら・・・

 

 「俺は問題なく単位取得してるから大丈夫。後は卒論さえちゃんと書けば、無事に卒業出来るよ。もう就職先の内定だってもらってるしね」

 

 「くっ、これだから優等生は・・・!」

 

 「うわ、劣等生が吠えてる」

 

 「にゃあああああっ!腹立つにゃあああああっ!」

 

 地団駄を踏む凛。

 

 「こうなったら、バスケで思いっきり叩きのめしてやるにゃ!」

 

 「かかってこいや」

 

 「おぉっ!やる気満々だねー!」

 

 「「・・・ん?」」

 

 いつの間にか、金髪の女性が目を輝かせながら俺達を見ていた。

 

 「これからバスケで勝負するの!?愛さんも混ぜて混ぜて!」

 

 「・・・こんな人懐っこい子、凛以外にいるんだね」

 

 「凛もビックリしてるにゃ・・・」

 

 「愛?何してるの?」

 

 金髪の女性の後ろから、青みがかった髪のお姉さんが現れた。

 

 「あ、果林!この二人がバスケ対決するらしいから、愛さん達も混ぜてもらおうよ!」

 

 「初対面の人にいきなり絡むんじゃないわよ・・・お邪魔してゴメンなさいね」

 

 「全然大丈夫です。それよりバスケやりましょう」

 

 「早くペア分けするにゃ!」

 

 「受け入れるの早くない!?」

 

 お姉さんのツッコミ。

 

 一方、俺達はやる気満々だった。

 

 「とりあえず凛は、絶対に天くんに勝つにゃ!」

 

 「上等だよ。完膚なきまでに叩きのめしてやるわ」

 

 「良いねー!愛さん燃えてきたー!」

 

 「もう仲良くなってるし・・・」

 

 呆れているお姉さん。

 

 あんまり乗り気じゃないのかな?

 

 「もしかしてお姉さん、勝つ自信無いの?」

 

 「なっ・・・!?」

 

 「そっかそっか、それなら無理しなくても・・・」

 

 「無いわけないでしょ!?貴方なんか捻り潰してあげるんだから!」

 

 「そうこなくっちゃ!」

 

 「おぉ、あの果林を乗り気にさせるとは・・・」

 

 「人を煽るのが上手いだけにゃ」

 

 感心している女性に、溜め息をつく凛なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「にゃあっ!」

 

 高くジャンプして、ダンクシュートを決める凛。

 

 流石の跳躍力だな・・・

 

 「ナイスよ凛ちゃん!」

 

 「ありがとう!果林ちゃんのパスのおかげだにゃ!」

 

 喜ぶ凛とお姉さん・・・朝香果林ちゃん。

 

 俺を倒すことに意欲を見せていた二人は、ペアを組んで全力で勝ちにきていた。

 

 「おぉ、凄いねリンリン!」

 

 「凛は身体能力が高いからね」

 

 感心している女性・・・宮下愛ちゃんに、苦笑しながら答える俺。

 

 そういうこの子も、何気に良い運動神経してるんだよね・・・

 

 「愛さんも負けてられない!行くよ天っち!」

 

 「はいはい」

 

 今度はこちらが攻める番だ。

 

 愛ちゃんからのパスが回ってくる。

 

 「天っち!」

 

 「オッケー!」

 

 そのままドリブルで進もうとしたところ、目の前を果林ちゃんに塞がれてしまう。

 

 「イカせないわよ?」

 

 「えぇっ!?そんなぁ・・・」

 

 「私が素直にイカせてあげると思ってるのかしら?」

 

 「お願い・・・イカせて・・・」

 

 「フフッ、そんな切なそうな顔しちゃって・・・そんなにイキたい?」

 

 「イキたい・・・!」

 

 「バスケの話だよねぇ!?何かエロく聞こえるのは凛だけ!?」

 

 「アハハ・・・」

 

 ツッコミを入れる凛と、苦笑している愛ちゃん。

 

 あの二人の心が汚れているのはさておき・・・

 

 俺も本気を出すとしよう。

 

 「雷の呼吸、壱ノ型・・・」

 

 「いやそれ違う作品だから!」

 

 「“霹●一閃”!」

 

 「えぇっ!?」

 

 果林ちゃんをツッコミと共に置き去りにする。

 

 そのままシュートを決め・・・

 

 「させないにゃ!」

 

 ブロックしてくる凛。

 

 来ると思ってたよ・・・

 

 「終わりにゃ黒子おおおおおっ!」

 

 「いやそれも違う作品だから!」

 

 「いいえ、まだです・・・ボクは、影だ」

 

 「何で天くんもノリノリなの!?」

 

 再び果林ちゃんのツッコミを置き去りにし、愛ちゃんへとパスを出す俺。

 

 「頼んだ愛ちゃん!」

 

 「あいよっ!愛だけにっ!」

 

 ダジャレを言いながらダンクシュートを決める愛ちゃん。

 

 マジかっけぇ・・・

 

 「ナイス愛ちゃん!」

 

 「天っちもナイスパス!」

 

 ハイタッチを交わす俺達。

 

 やっぱ愛ちゃん凄いわ・・・

 

 「くっ、負けてられないわ!」

 

 ボールを手にしてドリブルする果林ちゃん。

 

 そんな果林ちゃんの前に立ち塞がる俺。

 

 「捻り潰してあげる!」

 

 「おぉ、果林ちゃんは紫原か」

 

 「マネしてるわけじゃないわよ!?」

 

 ツッコミを入れつつ、俺をドリブルで抜きにかかる果林ちゃん。

 

 俺は止めようと、ボールへと手を伸ばし・・・

 

 むにゅっ。

 

 「あっ・・・」

 

 「あんっ!?」

 

 甘い声を上げる果林ちゃん。

 

 ボールの前に果林ちゃんの身体が来た結果、俺の手は果林ちゃんの胸を思いっきり掴んでしまった。

 

 指が沈んでいくこの感覚・・・

 

 柔らかい・・・っていうかデカいな・・・

 

 「いつまで揉んでるにゃああああああああああっ!」

 

 「ぐはぁっ!?」

 

 凛に全力の飛び蹴りをお見舞いされる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「本当に申し訳ありませんでした」

 

 「も、もう良いから!頭上げて!ねっ!?」

 

 床に額を擦り付けて土下座する俺を見て、慌てて頭を上げさせようとする果林ちゃん。

 

 「わざとじゃないんだし、全然気にしてないから!」

 

 「果林ちゃん、思いっきり頭を踏みつけてやると良いにゃ」

 

 「凛ちゃん!?」

 

 絶賛不機嫌モードの凛。

 

 まぁこうなるよね・・・

 

 「小さいはずのリンリンから、凄い威圧感を感じる・・・まさにビ●グ・マム・・・リンリンだけに」

 

 「ああん・・・?」

 

 「つまんないこと言ってすいませんでした!」

 

 俺の隣に並んで土下座する愛ちゃん。

 

 「ハァ・・・天くんのラッキースケベっぷりは、本当に変わらないにゃ」

 

 「日頃の行いが良いと、こういうご褒美が待ってるんだね」

 

 「反省しろセクハラ野郎」

 

 「調子に乗ってすいませんでした」

 

 遂に語尾から『にゃ』が消えた凛。

 

 怖すぎる・・・

 

 「・・・フフッ」

 

 不意に果林ちゃんが笑う。

 

 どうしたんだろう?

 

 「凛ちゃんったら、本当に天くんのことが好きなのね」

 

 「か、果林ちゃん!?何を言い出すにゃ!?」

 

 「そんなに怒るほど嫉妬しちゃって・・・可愛いんだから♪」

 

 「い、いきなり抱きつかないでほしいにゃ!」

 

 顔を赤くして抵抗する凛。

 

 その様子を見て、愛ちゃんがニヤニヤしていた。

 

 「リンリンみたいな可愛い女の子に慕われて・・・羨ましいぞ、天っち♪」

 

 「でしょ?自慢の彼女だもん」

 

 「アハハ、言い切ったねー!」

 

 笑みを浮かべる愛ちゃんなのだった。

 

 「全く・・・天っちも羨ましいけど、リンリンも羨ましいなぁ・・・」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「疲れた・・・」

 

 「にゃあ・・・」

 

 家に帰るなり、二人揃ってベッドに倒れ込む。

 

 俺と凛は既に同棲しており、マンションの一室に二人で住んでいた。

 

 「果林ちゃんも愛ちゃんも、体力ありすぎでしょ・・・」

 

 「流石の凛もヘトヘトにゃ・・・」

 

 あの後もバスケを続け、ペアを変えて何度もミニゲームをやった。

 

 かなり白熱したから夢中になってやってたけど、終わった後の疲労感ハンパないな・・・

 

 「・・・フフッ」

 

 「凛?どうした?」

 

 急に笑い出した凛に、首を傾げる俺。

 

 「今日のバスケで、改めて思ったんだけど・・・やっぱり凛、天くんとの相性が一番良い気がするにゃ」

 

 「アハハ、俺もそう思ったよ」

 

 愛ちゃんや果林ちゃんも、ペアを組んでいて凄くやりやすかったけど・・・

 

 一番しっくりきたのは、やっぱり凛とペアを組んだ時だった。

 

 実際その時は凛も俺も無双状態で、愛ちゃんや果林ちゃんから『ゲームにならない』とクレームが来たほどだった。

 

 「・・・凛」

 

 凛の頭を撫でる俺。

 

 「改めて、誕生日おめでとう・・・いつもありがとね」

 

 「・・・それは凛のセリフだにゃ」

 

 俺の胸に顔を埋める凛。

 

 「これからもずっと、凛の側にいてね?」

 

 「勿論」

 

 凛を優しく抱き締める。

 

 歳上だけど、良い意味で歳上な感じがしない・・・

 

 いつも等身大で、全力で好意をぶつけてきてくれる凛・・・

 

 そんな凛を、俺は好きになったのだ。

 

 「・・・大好きだよ、凛」

 

 「・・・凛も大好きだよ、天くん」

 

 笑い合う俺達。

 

 大好きな凛の温もりを感じ、幸せを噛み締める俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《凛視点》

 

 「ふんふんふ~ん♪」

 

 朝ご飯を作っている凛。

 

 ご飯を作るのは当番制で、今日は凛が当番の日だった。

 

 「それにしても・・・よく眠ってるにゃ」

 

 後ろを振り返ってみると、ベッドで爆睡している天くんの姿があった。

 

 昨日はよほど疲れたらしい。

 

 「・・・フフッ」

 

 料理する手を一度止め、寝ている天くんに近寄る。

 

 「相変わらず、可愛い寝顔だにゃ」

 

 普段はのほほんとしている天くんだけど、凛は知っている。

 

 誰よりも凛のことを見てくれていることも・・・

 

 誰よりも凛のことを想ってくれていることも・・・

 

 

 

 

 

 『誰が何と言おうと、凛ちゃんは可愛い女の子だよ』

 

 

 

 

 

 自分に自信が無かった凛に、天くんがかけてくれた言葉だ。

 

 自分の容姿にコンプレックスを抱いていた凛にとって、その言葉は救いだった。

 

 

 

 

 

 『自分のことが信じられないなら、俺の言葉を信じてほしい。俺は凛ちゃんに、嘘なんかつかないから』

 

 

 

 

 

 その言葉通り、天くんはいつも凛に対して正直でいてくれた。

 

 だからこそ凛も、天くんに対して正直でいようと思った。

 

 天くんのことが好きだという気持ちも、正直に伝えようと思ったのだ。

 

 「ホント・・・天くんは罪な男だにゃ」

 

 まさか自分が、こんなに人を好きになるなんて思わなかった。

 

 今までショートだった髪を伸ばしてロングにするなんて、天くんを好きになっていなかったらしなかったと思う。

 

 前までは『短い方が良い』と思っていたが、天くんに『可愛い』と言われたら『長くても良いかな』なんて思ってしまって・・・

 

 自分の変化に、自分でも驚いてしまうほどだ。

 

 「・・・天くん」

 

 目の前でスヤスヤと眠る大好きな人に、優しく語り掛ける。

 

 「いつも凛を肯定してくれて、正直でいてくれて・・・ありがとう」

 

 天くんの頭を撫でる。

 

 「世界で一番・・・天くんのことが大好きにゃ」

 

 笑みを浮かべる凛なのだった。




どうも〜、ムッティにゃ!

凛ちゃん、お誕生日おめでとう\(^o^)/

忘れててすみませんでした(土下座)

凛ちゃんといえば身体能力が高いということで、今回はスポーツデート回にしてみました。

さらにニジガクから、愛ちゃんと果林ちゃんが登場!

とりあえず天、お前はギルティだ(゜言゜)

果林ちゃんのおっぱい揉みやがって(゜言゜)

・・・書いてるの自分ですけど(´・ω・`)

最近の誕生日回にニジガクメンバーを出せていなかったので、今回は登場させてみました!

ちょうどアニメもやっていて、自分の中でニジガク熱が上がっています。

来年は、ニジガクメンバーの誕生日回も書いてみようかな・・・



さてさて、恒例の支援絵紹介のコーナー!

ことりちゃん大好きさんから、またしても素敵な支援絵をいただきました!


【挿絵表示】


絵里ちゃあああああんっ!!!!!

『Angelic Angel』衣装の絵里ちゃん、マジで可愛い・・・

ちなみにこちら、ムッティのリクエストで描いていただきました!

ことりちゃん大好きさん、ありがとうございます!

いやホント・・・ありがとうございます(涙)



そして最近、全然本編が進んでいない件について(汗)

いやぁ、時間が無くて・・・(言い訳)

なるべく早く投稿出来るよう頑張ります(>_<)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

現実は厳しいものである。

今さらですけど、もう11月なんですね・・・

来月は12月、そして年末・・・

1年経つのが早すぎる(´・ω・`)


 「あたたたたっ!?」

 

 「ケン●ロウ?」

 

 「違うわ!」

 

 善子のツッコミ。

 

 放課後、俺達は屋上で練習前の柔軟体操を行なっていた。

 

 「善子は相変わらず身体が固いなぁ・・・」

 

 「フッ、この身体はあくまで仮初め・・・堕天使の実体は・・・」

 

 「“一万キロプ●ス”!」

 

 「ギャアアアアアアアアアアッ!?」

 

 善子の背中に乗り、思いっきり体重をかける。

 

 悲鳴を上げる善子。

 

 「あっ、天くんがキロキロの実の能力者になってる・・・」

 

 「容赦ないずらね・・・」

 

 引き気味のルビィと花丸。

 

 失礼な、これでも手加減はしてるのに。

 

 「よーし!次のラブライブに向けて頑張るぞー!」

 

 「フフッ、気合いが入るわね」

 

 やる気に満ち溢れている曜と梨子。

 

 そこへダイヤさんが割り込む。

 

 「ぶっぶー!」

 

 「ですわ!」

 

 「天さん!?私のセリフを取らないで下さいますか!?」

 

 「ごめんなさいですわ!」

 

 「バカにしてますの!?」

 

 「そんなわけありませんわ!」

 

 「ムキイイイイイッ!?」

 

 「あっ、遂にダイヤまで天のおもちゃになった・・・」

 

 「完全に遊ばれてるわね・・・」

 

 呆れている果南と鞠莉。

 

 まぁ、ダイヤさんイジりはこれくらいにして・・・

 

 「ラブライブの前に、学校説明会があるのを忘れないでね?」

 

 「「あっ・・・」」

 

 思い出した様子の曜と梨子。

 

 入学希望者を増やす為には、この学校説明会で浦の星の魅力を存分にPRしなくてはいけない。

 

 その為には・・・

 

 「学校説明会でライブをする・・・それが一番良いPRになるんじゃないかな」

 

 「それ良い!」

 

 背後から声がする。

 

 振り向くと、顔を輝かせた千歌が立っていた。

 

 「それ、凄く良いと思う!」

 

 「うらぁっ!」

 

 「がはぁっ!?」

 

 ハリセンをフルスイングし、千歌の頭に叩き込む。

 

 床に突っ伏す千歌。

 

 「ちょ、天くん!?いきなり何するの!?」

 

 「何しれっと練習に遅れて来てんの?スクールアイドル舐めてんの?」

 

 「ゴメンって!?ちょっとトイレに行ってて・・・」

 

 「何『トイレ』なんてワードを口にしてんの?スクールアイドル舐めてんの?」

 

 「そこ!?そりゃ人間なんだからトイレくらい・・・」

 

 「スクールアイドル舐めんじゃねえええええっ!」

 

 「ぐはぁっ!?」

 

 「天くん、千歌ちゃんに対してホント容赦ないね・・・」

 

 「いつも思うんだけど、あのハリセンどこから出してるのかしら・・・」

 

 ひそひそ話している曜と梨子。

 

 ちなみに、ハリセンの隠し場所は企業秘密である。

 

 「ほら、皆早く柔軟体操を済ませて。善子はもっと身体を柔らかくして」

 

 「フッ、仮初めの身体を柔らかくしたところで・・・」

 

 「“10tヴァ●ス”!」

 

 「いやああああああああああっ!?」

 

 「あっ、今度はトントンの実の能力者になった・・・」

 

 「善子さんが死にそうな顔してますわ・・・」

 

 「ほら、そこで転がってるアホも早く済ませて」

 

 「遂に『ミカン』が抜けてただの『アホ』になった!?」

 

 千歌がギャーギャー騒ぐ中、鞠莉のスマホが鳴り始める。

 

 「鞠莉、電話なら出なよ。先に始めてるから」

 

 「Thank you!すぐ済ませてくるわ」

 

 スマホを手に取って席を外す鞠莉。

 

 この電話が重大なニュースをもたらすことになるなど、この時の俺達は知る由もないのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 翌日・・・

 

 「うわぁ・・・!」

 

 目を輝かせている千歌。

 

 放課後、俺達は沼津にあるスタジオにやって来ていた。

 

 「広~い!」

 

 「ここ鏡張りだ~!」

 

 梨子とルビィも興奮気味だ。

 

 善子なんてテンションが上がり過ぎたせいか、鏡に向かってクラウチングスタートの構えを・・・

 

 「いざ、鏡面世界へ!」

 

 「待てや厨ニ病」

 

 「ギャアッ!?」

 

 走り出す瞬間にシニヨンを掴み、善子の動きを止める。

 

 「ちょ、痛い痛い痛いっ!引きちぎれるっ!」

 

 「ブリ●レさんじゃないんだから、鏡の中に入れるわけないでしょ。ミラミラの実を食べてから出直してきな」

 

 「フッ・・・ヨハネの力をもってすれば、鏡に入ることなど造作も無いこと・・・」

 

 「花丸、マッチ」

 

 「はいずら」

 

 「ごめんなさあああああいっ!調子に乗ってすみませんでしたあああああっ!」

 

 土下座する善子。

 

 チッ、シニヨン燃やしてやろうと思ったのに・・・

 

 「ここ、パパの知り合いが借りてるスタジオなんだ。しばらく使わないから、好きに使ってもらって構わないってさ」

 

 説明してくれる曜。

 

 これからの季節は日没が早い為、内浦から沼津へ出るバスの最終時間が早まってしまうらしい。

 

 つまり今まで通り浦の星で練習すると、今までより早い時間に切り上げなければいけなくなってしまうのだ。

 

 そこで考えたのが、沼津で場所を借りて練習するという案だった。

 

 沼津から出るバスの時間は変更が無いとのことで、遅い時間までバスが出ているらしい。

 

 そんなわけで俺達は、曜の紹介で練習が出来る広さのスタジオを見に来たのだ。

 

 「じゃあここを借りよう!ここなら近くにお店もたくさんあるし!」

 

 「そんな遊ぶことばっかり考えてちゃダメでしょ?」

 

 「本屋もあるずら」

 

 「えぇっ!?やったぁ!」

 

 「梨子も人のこと言えないじゃん」

 

 「あたっ!?」

 

 梨子の頭を軽く叩く。

 

 「梨子が買う本って、また壁ドンとか顎k・・・」

 

 「キャアアアアアッ!?」

 

 慌てて俺の口を塞ぐ梨子。

 

 やれやれ・・・

 

 「まぁそれはさておき・・・ちょっと真面目な話をしようか」

 

 俺はそう言うと、さっきから一言も喋っていない三年生三人に視線を向けた。

 

 「・・・三人とも、何かあった?」

 

 「「「っ・・・」」」

 

 息を呑む三人。

 

 「ど、どうして・・・」

 

 「そんな暗い表情してたら、誰だって気付くわ」

 

 戸惑った様子の鞠莉に、溜め息をつく俺。

 

 昨日電話を終えて戻ってきたところから、鞠莉の様子がどこかおかしかったのだ。

 

 今日になって、果南やダイヤさんまで浮かない顔してるし・・・

 

 「スタジオに来てからも、曇った表情のまま一言も喋らないし・・・何かあったとしか思えないんだけど」

 

 「えっ、そうだったの?」

 

 「おい腐ったミカン」

 

 「酷い!?」

 

 ショックを受ける千歌。

 

 すると意を決したように、鞠莉が口を開いた。

 

 

 

 

 

 「実は・・・学校説明会が、中止になるの・・・」

 

 

 

 

 

 「・・・え?」

 

 その言葉に、呆然とする皆。

 

 中止・・・?

 

 「ど、どういうこと!?」

 

 「・・・言葉通りの意味だよ」

 

 戸惑った様子の梨子に、淡々と答える果南。

 

 「学校説明会は中止・・・浦の星は、正式に来年度の募集を止めるんだって」

 

 「そんな!?」

 

 「いきなりすぎない!?」

 

 「・・・学校側は、二年前から統合を模索していましたからね」

 

 曜と善子の抗議の声に、俯きながら答えるダイヤさん。

 

 「鞠莉さんがお父様を説得して下さって、先延ばしになっていたのですが・・・遂に限界が来たということでしょう」

 

 「でも、入学希望者はゼロじゃないずら!」

 

 「そうだよ!徐々に増えてきてるでしょ!?」

 

 「それは勿論言ったけど・・・本来の定員数には到底満たない以上、決定を覆すことは出来ないと言われたわ」

 

 花丸とルビィの訴えに、うなだれる鞠莉。

 

 そんな鞠莉の肩を、千歌が勢いよく掴む。

 

 「鞠莉ちゃんッ!お父さんはどこにいるのッ!?」

 

 「ど、どこって・・・アメリカだけど・・・」

 

 「ッ!」

 

 スタジオを飛び出そうとする千歌。

 

 そんな千歌を、曜と梨子が必死に止める。

 

 「千歌ちゃん!?落ち着いて!?」

 

 「離してッ!私が鞠莉ちゃんのお父さんと話してくるッ!」

 

 「鞠莉ちゃんのお父さんはアメリカにいるのよ!?アメリカまで行く気なの!?」

 

 「志満姉や美渡姉やお母さんに言って、お小遣い前借りしまくるッ!それでアメリカに行って鞠莉ちゃんのお父さんに会って、『もう少しだけ待ってほしい』って話すッ!」

 

 「そんなこと、本当に出来ると思う!?」

 

 「出来るッ!だから早く離s・・・」

 

 

 

 

 

 「落ち着けバカ千歌ッ!」

 

 

 

 

 

 「っ・・・」

 

 大声で怒鳴ると、暴れていた千歌がビックリして固まった。

 

 他の皆も、驚いたように俺へと視線を向ける。

 

 「そ、天くん・・・?」

 

 「・・・動揺するのは分かるけど、少し冷静になりなよ」

 

 気持ちを落ち着かせる為、一つ大きな息を吐く俺。

 

 「鞠莉のお父さんは浦の星の運営に顔が利くだけであって、何でもかんでも介入できるわけじゃない。最終的な決定権は、あくまでも浦の星の運営にあるんだよ。鞠莉がお願いしてくれたこともあって、何とか今まで時間を稼いでくれてたみたいだけど・・・鞠莉のお父さんの力をもってしても、そろそろ限界ってことなんだろうね」

 

 運営が二年前から統廃合を模索していた中、よくここまで引き延ばしてくれたと思う。

 

 鞠莉のお父さんでなければ、絶対に出来なかったことだ。

 

 「だから鞠莉のお父さんに会って、どんなに話をしたところで・・・状況は変わらないと思う。もう鞠莉のお父さんの力だけじゃ、どうにも出来ない段階なんじゃないかな」

 

 「でも・・・でもっ・・・!」

 

 「実の娘である鞠莉の頼みでも、『限界だ』って言うくらいなんだよ?初対面の千歌が会って、『もう少しだけ待ってほしい』って頼んだとして・・・応えてくれると思う?」

 

 「それは・・・」

 

 俯いてしまう千歌。

 

 酷な質問だったかもしれないが、これが現実だ。

 

 鞠莉の頼みでさえ応えてくれない以上、俺達が何を言ったところで応えてはもらえないだろう。

 

 「・・・ゴメンね、千歌っち。てへぺろっ」

 

 「っ・・・」

 

 笑って舌を出す鞠莉。

 

 無理して笑っているのが見え見えだし、今にも泣き出しそうな顔をしている。

 

 千歌もそんな鞠莉を見て表情を歪め、何も言えなくなってしまった。

 

 「・・・その癖も相変わらずだね」

 

 俺は溜め息をつくと、鞠莉をそっと抱き締めた。

 

 「そ、天!?今はちょっと・・・」

 

 慌てて離れようとする鞠莉だったが、俺は鞠莉の身体を離さなかった。

 

 やがて鞠莉の目に、じわりと涙が浮かんでくる。

 

 「本当にっ・・・これ以上はっ・・・!」

 

 「・・・俺達の前でくらい、無理しなくて良いんだよ」

 

 「っ・・・!」

 

 堪えきれなくなったのか、声を上げて号泣する鞠莉。

 

 辛くて泣きそうな時、鞠莉はいつも笑って誤魔化そうとするのだ。

 

 全く、本当に不器用なんだから・・・

 

 「さて・・・どうしたもんかな・・・」

 

 鞠莉の頭を撫でながら、今後について思いを巡らせる俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

やっと本編を更新できました・・・

もっとサクサク進めたいのになぁ(´・ω・`)

まぁそれはさておき・・・

アンケートに答えて下さった皆様、ありがとうございました!

第2回目のアンケートですが、何と300を超える投票がありました(゜ロ゜)スゲェ

そして最も多くの票を集めた選択肢がこちら・・・





『いやいや、志満さん以外有り得ないからね?』





何故!?Σ(゜Д゜)

第1回のアンケートに続いて、まさかの志満さん大人気なんですけど!?Σ(゜Д゜)

2位の善子ちゃんに約100票の差をつける、圧倒的勝利なんですけど!?Σ(゜Д゜)

恐るべし志満さん人気・・・!

ちなみに今言いましたが、2位は善子ちゃんでした。

一年生組の中では、一番の人気でしたね。

途中まで花丸ちゃんも良い勝負をしていましたが、やはり堕天使ヨハネの人気は根強かった模様です。

ルビィちゃんも結構な票数が集まっていましたが、やっぱり妹感が強かったのかな?

改めてアンケートに答えて下さった方々、ありがとうございました!

そしてもう次のアンケートやります!←

またお答えいただけると幸いです(^^)

よろしくお願い致します(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大切なものが無くなってしまうのは悲しい。

劇場版『鬼滅の刃』の興業収入が、200億を突破したそうですね(゜ロ゜)スゲェ

先月2回観に行きましたが、ニュースで取り上げられているのを見てまた観に行きたくなってしまいました(´・ω・`)

早く続編やってほしいなぁ・・・


 翌日、急遽として全校集会が開かれた。

 

 その場で鞠莉が学校説明会の中止、及び統廃合の件を正式に発表。

 

 生徒達の間に、大きな衝撃が走ったのだった。

 

 「じゃあ、先生方も統合先の学校に異動するんですか?」

 

 「えぇ、そういう話になってるわ」

 

 放課後、俺は麻衣先生と一緒に校内を回っていた。

 

 各クラスの担任と学級委員長で、校内に貼られた学校説明会のポスターを回収することになったのだ。

 

 ウチのクラスの委員長は何故か俺になっていた為、こうして麻衣先生と一緒に行動しているのだった。

 

 「統合先に知ってる先生がいた方が、生徒達も安心するでしょ?その辺りはちゃんと配慮してくれてるみたいよ」

 

 「じゃあ、麻衣先生も一緒なんですね・・・良かった・・・」

 

 「そ、天くん・・・そんなに私を慕ってくれてたのね・・・!」

 

 「クビになって路頭に迷った挙句、ウチに転がり込んできたらどうしようかと・・・」

 

 「そっちの心配!?っていうか、そうなったら受け入れてよ!?」

 

 「ズボラ女を二人も養えません」

 

 「誰がズボラ女ですって!?」

 

 「ぐえっ!?」

 

 麻衣先生に背後から羽交い絞めにされる。

 

 俺がもがいていると、不意に麻衣先生の力が弱くなり・・・

 

 そのままそっと抱き締められた。

 

 「麻衣先生・・・?」

 

 「・・・この学校、本当に無くなっちゃうのね」

 

 麻衣先生の呟き。

 

 その声は、いつになく弱々しかった。

 

 「私、この学校が大好きなのになぁ・・・」

 

 「麻衣先生・・・」

 

 前に聞いた話だが、麻衣先生と翔子先生は浦の星の卒業生なんだそうだ。

 

 二人とも当時から仲が良く、共に教師の道を志すことを決めたんだとか。

 

 そして大学で教員免許を取得し、卒業後に二人揃って浦の星への赴任が決まったらしい。

 

 『あの時は嬉し過ぎて号泣しちゃったわ』なんて言いながら、二人とも懐かしそうに語っていた姿が印象深い。

 

 それだけこの学校に思い入れがあるのなら、当然寂しくもなるだろうな・・・

 

 「・・・今夜の晩御飯、ウチで食べませんか?麻衣先生の好きなもの作りますから」

 

 「フフッ・・・ありがとう、天くん」

 

 俺を抱き締める腕に、ギュッと力を込める麻衣先生。

 

 すると・・・

 

 「あーっ!?」

 

 廊下に響く大きな声に、二人揃ってビクッとなってしまう。

 

 翔子先生がこっちを指差して、隣にいるダイヤさんに訴えかけていた。

 

 「見てダイヤちゃん!不純異性交遊の決定的瞬間よ!?しかも教師と生徒!」

 

 「鶴見先生、廊下であまり大きな声は出さない方がよろしいかと・・・」

 

 「私も混ぜてえええええっ!」

 

 「混ざりにいくのですか!?そして廊下を走らないで下さいます!?」

 

 翔子先生がダッシュで俺達に駆け寄り、真正面から俺に抱きつく。

 

 俺は今、翔子先生と麻衣先生に挟まれる形になっていた。

 

 「ちょ、苦しいんですけど・・・」

 

 「良いじゃない。こんな美女二人に挟まれてるんだから」

 

 「自分で美女って言っちゃったよ・・・」

 

 「フフッ・・・それで天くん、おっぱいサンドイッチの感想は?」

 

 「幸せです」

 

 前には翔子先生の、後ろには麻衣先生の大きくて柔らかなモノが当たっている。

 

 これ以上の幸せは無い。

 

 「アハハ、翔子ちゃんは元気ねぇ」

 

 「麻衣ちゃんはそんな暗い顔しないの」

 

 「あたっ!?」

 

 苦笑する麻衣先生の頭を、翔子先生が軽く小突く。

 

 「・・・こんな時だからこそ、私達教師は明るく振る舞わなきゃ。私達が暗い顔してたら、生徒達が余計不安になるでしょ」

 

 「・・・ゴメンなさい。その通りだわ」

 

 「分かればよろしい。まぁ私だって思うところは色々あるし、そこら辺は今晩語り合うとしましょう・・・天くんの家で」

 

 「何で俺の家なんですか」

 

 「あら、麻衣ちゃんは誘ってたのに私はダメなの?」

 

 「・・・どこから聞いてたんですか」

 

 「『じゃあ、先生方も統合先の学校に異動するんですか?』から」

 

 「最初からじゃない」

 

 「あたっ!?」

 

 今度は麻衣先生が翔子先生の頭を小突く。

 

 やれやれ・・・

 

 「お三方共、仲がよろしいのは結構ですが・・・」

 

 いつの間にか側に来ていたダイヤさんが、怒りで頬をピクピクさせていた。

 

 「いつまでその体勢でいるつもりですの・・・?」

 

 「「「・・・何か問題でも?」」」

 

 「大アリですわよ!?早く離れて下さい!」

 

 何故か怒っているダイヤさん。

 

 何をカッカしてるんだろう・・・?

 

 「あらダイヤちゃん、もしかして嫉妬?」

 

 「なっ!?そんなわけないでしょう!?」

 

 麻衣先生がニヤニヤしながらそう言うと、ダイヤさんの顔が真っ赤に染まった。

 

 「あぁ、そういうこと・・・愛されてるわねぇ、天くん」

 

 「だから違うと言ってるでしょう!?」

 

 「いやぁ、ダイヤさんに愛されてるなんて幸せだなぁ」

 

 「天さんも調子に乗らないで下さい!」

 

 「そうですよね・・・ダイヤさんは俺みたいなヤツのこと、好きでも何でもないですよね・・・むしろ嫌いですよね・・・調子に乗ってすみませんでした・・・」

 

 「ちょ、天さん!?」

 

 「あーあ、天くんが落ち込んじゃった・・・」

 

 「ダイヤちゃん、今のは酷いわよ・・・」

 

 「私が悪いのですか!?」

 

 あたふたするダイヤさん。

 

 やがて顔を赤らめ、恥ずかしそうに制服の裾を握り締めた。

 

 「き、嫌いなわけないでしょう・・・天さんは私にとって、その・・・た、大切な方なのですから・・・」

 

 「可愛すぎかオイ」

 

 「ひゃあっ!?」

 

 顔を真っ赤にして恥じらうダイヤさんに、思いっきり抱きつく。

 

 そんな俺達を、微笑ましそうに見つめる麻衣先生と翔子先生なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「さて、早く帰って夕飯の支度しなくちゃ・・・」

 

 最寄りのバス停から、家までの道のりを歩く俺。

 

 麻衣先生と翔子先生は仕事が終わり次第来るって言うし、それまでに準備しておかないとな・・・

 

 「わんっ!」

 

 『十千万』の前に差し掛かると、しいたけが勢いよくこちらへ走ってきた。

 

 「ただいま、しいたけ」

 

 「わんっ!」

 

 じゃれついてくるしいたけ。

 

 そんなしいたけに構っていると・・・

 

 「あら天くん、お帰りなさい」

 

 「ただいまです、志満さん」

 

 ちょうどしいたけの毛繕いをしていたらしい志満さんが、声を掛けてくれた。

 

 「今日は千歌ちゃんも早めに帰ってきたけど、Aqoursの練習はお休み?」

 

 「えぇ。今は皆、練習に熱が入らないでしょうから」

 

 「・・・統廃合の件ね」

 

 溜め息をつく志満さん。

 

 「自分の母校が無くなるっていうのは、やっぱり寂しいわ・・・」

 

 「えっ、志満さんも浦の星の卒業生なんですか?」

 

 「あら、言ってなかったかしら?」

 

 首を傾げる志満さん。

 

 そうだったんだ・・・

 

 「私だけじゃなくて、美渡やお母さんもそうよ」

 

 「へぇ・・・じゃあ高海家の女性陣は、皆浦の星出身なんですね」

 

 「えぇ、皆浦の星で青春時代を過ごしてるの」

 

 懐かしそうな表情の志満さん。

 

 「思い出がたくさん詰まった学校だから、無くなってほしくないんだけどね・・・」

 

 「志満さん・・・」

 

 寂しそうな志満さんに何も言えずにいると、玄関から美渡さんが出てきた。

 

 「志満姉、やっぱりダメだった・・・って天じゃん。お帰り~」

 

 「ただいまです、ダメ人間美渡さん」

 

 「ちょ、誰がダメ人間よ!?」

 

 「いや、今自分で『ダメだった』って・・・」

 

 「私のことじゃないわよ!?」

 

 「ダウト」

 

 「しばき倒すっ!」

 

 「ちょっと美渡、私の未来の旦那様を苛めないでちょうだい」

 

 「志満姉の方から旦那呼ばわり!?」

 

 「当然じゃない!私は天くんの嫁になるべき女よ!」

 

 「何でそんなに自信満々なの!?」

 

 「だってアンケートでぶっちぎりの一位だったもの。しかも三回連続で」

 

 「何の話!?」

 

 美渡さんのツッコミが止まらない。

 

 やれやれ、話が進まないじゃないか・・・

 

 「それで?何がダメだったんですか?」

 

 「・・・千歌を元気付けようとしたのよ」

 

 溜め息をつく美渡さん。

 

 「統廃合の件でずいぶんショックを受けてて、今日も帰って来るなり部屋に閉じ篭もっちゃってさ・・・何とか励まそうとしたんだけど、完全に心ここにあらず状態なのよ。今は何を言っても無駄だろうから、そっとしておくのが賢明ね」

 

 「ですよね。じゃ、俺は家に帰って夕飯の支度するんで」

 

 「あれ!?メッチャあっさりしてない!?」

 

 「いや、美渡さんも『そっとしておくのが賢明ね』って言ったじゃないですか」

 

 「いやそうだけども!そこは『俺に任せて下さい』って言う場面じゃないの!?」

 

 「甘えんなダメ人間」

 

 「だから誰がダメ人間よ!?」

 

 ギャーギャー騒ぐ美渡さん。

 

 やれやれ・・・

 

 「・・・千歌のことは、美渡さんだってよく分かってるでしょうに」

 

 「え・・・?」

 

 「これくらいで心が折れる人じゃないって言ってるんです。むしろ本番はこれからでしょうに」

 

 キョトンとしている美渡さんと志満さんに、笑みを浮かべる俺なのだった。

 

 「まぁ見てて下さい。Aqoursも、浦の星も・・・このままじゃ終わりませんから」




どうも〜、ムッティです。

ちゅんるん、歌上手すぎません?(今更)

透明感溢れる、伸びのある歌声・・・めっちゃ好きです( ´∀`)

そして何と言っても、『Evergreen』『声繋ごうよ』からの『哀温ノ詩』ですよ。

曲調がガラッと変わる中、見事に歌いこなすちゅんるん・・・

素敵やん?←

っていうか、何で指出毬亜さんの愛称が『ちゅんるん』なんでしょう?

由来をご存知の方、是非教えて下さい(´・ω・`)



さてさて、先日第三回目のアンケートを実施しました!

回答して下さった皆様、ありがとうございました!

そんな皆様から、最も多くの票を集めた選択肢がこちら・・・





『千歌ちゃん・・・の姉である志満さんかな!』





・・・何も言えねぇ(北島●介風)

また過半数超えてるし・・・

その人気にお応えして、今回は志満さんを登場させてみました(笑)

思い返してみると、天と志満さんが二人きりのシーンってこれまで無かったですよね・・・

今度から書いてみようかな・・・

まぁそれはさておき、第四回目やります←

一年生・二年生とくれば、まぁ三年生ですよね。

是非回答していただけると幸いです(^^)

よろしくお願い致します(`・ω・´)ゞ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

諦めたらそこで試合終了である。

麻衣先生・・・!

翔子先生・・・!

浦の星を救いたいです・・・!

とまぁ、S●AM DU●Kの名言をパクるのはこの辺にしておいて・・・

先日静岡に行く機会があったので、沼津の淡島マリンパークへ行ってきました!

果南ちゃんのダイビングショップのモデルになったカエル館を見たり、ホテルオハラを外観だけ眺めたり・・・

あいにくの雨だったので、淡島神社への階段を登るのは断念しました(´・ω・`)

また時間がある時に、ゆっくり沼津を観光したいなぁ・・・


 翌日・・・

 

 「・・・眠い」

 

 欠伸をしつつ、家からバス停までの道を歩く俺。

 

 今朝は早くに目が覚めてしまった為、いつもより早めに登校することにしたのだ。

 

 「・・・じっとしていられない、ってことかな」

 

 浦の星の統廃合の話を聞いて、これからどうすべきなのかを考えて・・・

 

 いてもたってもいられない気持ちが、俺の中にあるのかもしれない。

 

 「・・・ずいぶん影響されたもんだな」

 

 思わず苦笑を漏らす俺。

 

 すると・・・

 

 「あれ?天くん?」

 

 「え?」

 

 バス停の前で、梨子がキョトンとした顔でこちらを見ていた。

 

 「梨子?もう登校するの?」

 

 「うん、何か早くに目が覚めちゃって・・・ひょっとして、天くんも?」

 

 「・・・まぁね」

 

 俺達が偶然に驚いていると、バスがやってきた。

 

 バス停に到着したバスに、梨子と二人で乗り込むと・・・

 

 「あっ、天くん!」

 

 「梨子ちゃんも一緒ずら!」

 

 「凄い偶然だね!」

 

 後ろの席に、曜・花丸・ルビィが座っていた。

 

 善子とダイヤさんの姿も見える。

 

 「何で皆こんなに早いの?」

 

 「今朝は妙に早く目が覚めてしまって・・・」

 

 苦笑するダイヤさん。

 

 「ルビィも目が覚めてしまったということで、二人で早めに登校することにしたのですが・・・まさか皆さんがいるとは思いませんでしたわ」

 

 「クックックッ・・・皆、そんなにヨハネに会いたかったのね」

 

 「・・・会いたかったよ、善子」

 

 「ふぇっ!?」

 

 善子に顔を近づけ、目を合わせる。

 

 「ちょ、天!?近いってば!?」

 

 「・・・会いたかったよ、善子」

 

 「ごめんなさい!私の負けです!」

 

 「よし、勝った」

 

 善子を照れさせ、負けを認めさせる。

 

 これぞ対善子用の新戦法である。

 

 「善子ちゃん、顔真っ赤ずら」

 

 「照れ屋だもんねぇ、善子ちゃん」

 

 「うるさいっ!あとヨハネっ!」

 

 「そ、天くんは大胆だなぁ・・・」

 

 「み、見てるこちらがドキドキしましたわ・・・」

 

 朝からワイワイ盛り上がる皆。

 

 一仕事を終えた俺は、梨子の隣に座った。

 

 「・・・女ったらし」

 

 「ん?何か言った?」

 

 「何も」

 

 そっぽを向く梨子。

 

 あれ?何で機嫌悪いんだろう?

 

 「・・・えいっ」

 

 「ひゃっ!?」

 

 梨子の頬を引っ張る。

 

 相変わらず柔らかいなぁ・・・

 

 「ふぁ、ふぁふぃふふふぉふぉ!?(な、何するのよ!?)」

 

 「いや、何となく」

 

 「ふぁふぁふふぁふぁふぃふぇふぉ!?(早く離してよ!?)」

 

 「おぉ、柔らかいしすべすべ・・・クセになりそう」

 

 「ふぃふぉふぉふぁふぁふぃふぃふぃふぇふ!?(人の話聞いてる!?)」

 

 梨子が抗議してくるので、仕方なく離してあげる。

 

 梨子は自分の手で両頬を擦ると、俺の方を睨んだ。

 

 「むぅ・・・」

 

 「アハハ、ゴメンゴメン」

 

 謝りながら梨子の頭を撫でる。

 

 これも拒否されるかと思ったが、何故か頬を赤く染めて撫でられるがままになっている梨子なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「おはようのハグっ!」

 

 「はいはい、おはよう」

 

 抱きついてくる果南の頭を撫でる俺。

 

 学校に着いた俺達が部室に向かうと、既に果南と鞠莉がいたのだ。

 

 「それにしても、果南も鞠莉も早いね?」

 

 「いやぁ、何か早くに目が覚めちゃってさぁ・・・鞠莉もだよね?」

 

 「えぇ」

 

 頷く鞠莉。

 

 あれ以来、鞠莉は元気が無い状態が続いていた。

 

 勿論他の皆も落ち込んでいたのだが、誰よりも憔悴していたのが鞠莉だったのだ。

 

 統廃合にショックを受けただけでなく、理事長としての責任も感じているんだろう。

 

 「あといないのは、千歌ちゃんだけだけど・・・」

 

 「あの寝坊常習犯が、こんな朝早くに来るかなぁ・・・」

 

 曜と果南がそんな話をしている中、俺には妙な確信があった。

 

 「・・・来るよ、絶対」

 

 「え・・・?」

 

 「いてもたってもいられない気持ちは・・・あの人が一番感じてるはずだから」

 

 

 

 

 

 『がおおおおおおおおおおッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 大きな叫び声が聞こえた。

 

 今の声は・・・

 

 「千歌ちゃんだ!」

 

 「校庭の方ずら!」

 

 「行きましょう!」

 

 皆が続々と部室を飛び出す中、俺は鞠莉に視線を向けた。

 

 「・・・どうやら、ウチのリーダーは諦められないみたいだよ」

 

 「・・・そうみたいね」

 

 苦笑する鞠莉に、俺は手を差し出した。

 

 「ほら、俺達も早く行こう?」

 

 「フフッ・・・えぇ」

 

 俺の手を握る鞠莉。

 

 俺も鞠莉の手を握り返すと、そのまま皆の後に続いて校庭に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「起こしてみせるッ!奇跡を絶対にッ!」

 

 校庭に到着すると、千歌が力強く叫んでいた。

 

 走ってきたらしく息も絶え絶え、汗もびっしょりで目元には涙が浮かんでいた。

 

 「それまで泣かないッ!泣くもんかッ!」

 

 「泣いてんじゃん」

 

 「ごふっ!?」

 

 千歌の背後から手刀を振り下ろす。

 

 やれやれ・・・

 

 「え、天くん!?何でここに!?」

 

 「早朝からやかましいどこかの誰かさんを、警察に突き出そうかと思って」

 

 「止めて!?」

 

 「全く、天くんも素直じゃないんだから」

 

 「曜ちゃん!?」

 

 クスクス笑っている曜を見て、千歌が驚く。

 

 「さっきは信頼のこもった言葉で、『・・・来るよ、絶対』って・・・」

 

 「“檸檬●弾”」

 

 「ギャアアアアアッ!?目がッ!?目があああああッ!?」

 

 悶える曜。

 

 ざまぁみやがれ。

 

 「相変わらず容赦ないね・・・」

 

 「恐ろしいずら・・・」

 

 「ルビィちゃん!?花丸ちゃん!?」

 

 「アレ、ホント目に染みるんだよねぇ・・・」

 

 「もう天さんの武器みたいになってますわね・・・」

 

 「果南ちゃん!?ダイヤさん!?」

 

 「全く、天くんをいじろうとするからそうなるのよ・・・」

 

 「ある意味、曜の自爆ね・・・」

 

 「梨子ちゃん!?善子ちゃん!?」

 

 「ヨハネっ!」

 

 皆が続々と登場し、驚きを隠せない千歌。

 

 さらに俺の後ろから、鞠莉が顔を出す。

 

 「千歌っち、Good morning♪」

 

 「鞠莉ちゃんまで・・・」

 

 呆然としている千歌。

 

 これで全員揃ったな・・・

 

 「結論は出たみたいだね」

 

 笑う俺に、千歌は力強く頷く。

 

 「鞠莉ちゃんは頑張ってくれたけど・・・私も皆も、まだ何も出来てない。だから無駄かもしれないけど、最後まで頑張って・・・足掻きたい!」

 

 「やれやれ、千歌は昔から諦めが悪いんだから」

 

 「果南さんもですけどね」

 

 「お姉ちゃんもね」

 

 「ぴぎゃっ!?」

 

 果南にツッコミを入れたダイヤさんが、ルビィからツッコミを入れられてしまう。

 

 まぁそれを言ったら・・・

 

 「そもそもAqoursって、諦めの悪い人間の集まりじゃん」

 

 「アハハ、確かに!」

 

 俺の言葉に皆が笑う中、突然背後から首を絞められた。

 

 「そ~ら~く~ん~?」

 

 「ぐえっ!?」

 

 曜が遠慮なくグイグイ首を絞めてくる。

 

 「よくもやってくれたね!?覚悟おおおおおっ!」

 

 「良い雰囲気をぶち壊さないでくれる!?この露出狂!」

 

 「だから露出狂じゃないって言ってるでしょうが!」

 

 「朝の学校で水色の下着を晒してたヤツが何言ってんの!?」

 

 「ちょ、色をバラすなぁっ!」

 

 「おまけに人の背中に胸を押し付けてくるなんて!完全な痴女じゃん!」

 

 「押し付けてないから!たまたま当たっちゃってるだけだから!」

 

 「うわ、朝から『たまたま』なんて卑猥・・・」

 

 「だから違うって言ってるでしょうがあああああっ!」

 

 「はいはい、仲がよろしくて結構」

 

 俺と曜をぐいっと引き剥がす梨子。

 

 あれ、また不機嫌になってる・・・

 

 「とにかく、私達は最後まで諦めない・・・良いわね?」

 

 「勿論!最後まで足掻きまくってやろうじゃん!」

 

 意気込む果南。

 

 他の皆も頷く中、突然千歌が鉄棒に向かって走り出す。

 

 そして鉄棒を掴み、そのまま勢いよく一回転した。

 

 「「千歌ちゃん!?」」

 

 ビックリしている曜と梨子。

 

 そんな様子を気にもせず、千歌は笑っていた。

 

 「起こそう!奇跡を!足掻こう!精一杯!」

 

 叫ぶ千歌。

 

 「全身全霊!最後の最後まで!皆で輝こおおおおおっ!」

 

 「・・・ハハッ」

 

 思わず笑ってしまう俺。

 

 今の千歌の姿は、まるで・・・

 

 「ホント似てるよ・・・穂乃果ちゃんに」

 

 力強く皆を引っ張ってくれた、μ'sのリーダーを思い出す。

 

 まさに今の千歌は、Aqoursを照らしてくれる太陽だった。

 

 「・・・私もしょぼくれてる場合じゃないわね」

 

 俺の側に立っていた鞠莉が呟く。

 

 その目には、再び力が宿っていた。

 

 「もう一度パパと話をして、もう少し待ってもらえるようお願いしないと」

 

 「・・・今度は一人で抱え込み過ぎないでね」

 

 そっと鞠莉の手を握る俺。

 

 「鞠莉は一人じゃないんだから。辛い時はちゃんと言って」

 

 「・・・ありがとう、天」

 

 手を握り返し、俺に身を寄せる鞠莉。

 

 「あ、そうそう・・・千歌っち、今思いっきりパンツ見えてたわよ」

 

 「えぇっ!?」

 

 「まぁスカートの状態で、あんなことやったらねぇ・・・」

 

 「ビックリしたわよ、もう・・・」

 

 苦笑する曜に、溜め息をつく梨子。

 

 千歌が恐る恐る俺の方を見た。

 

 「も、もしかして・・・天くんも、見た・・・?」

 

 「みかん愛が強いのは知ってたけど、まさかパンツまでみかん色とは・・・」

 

 「いやああああああああああっ!?」

 

 千歌の悲鳴が、早朝の校庭に響き渡るのだった。




どうも〜、ムッティです。

前書きでも述べましたが、淡島マリンパークに行ってきました!

Aqoursメンバーのサインを見つけたりして、テンション上がりまくってました(笑)

沼津市内ではAqoursのバスが走ってたりして、本当に沼津全体でサンシャインとコラボしてるんだなぁと感じましたね。

あと、のっぽパン食べました(・ω・)ノ

あれは花丸ちゃんもたくさん食べるわ・・・

めっちゃ美味しいもん。

また沼津に行きたいなぁ・・・



さてさて、恒例の支援絵紹介コーナー!

またしてもことりちゃん大好きさんから、素敵な支援絵をいただきました!

まずはこちら・・・


【挿絵表示】


Aqoursだよ!全員集合!

いや凄くね!?Σ(゜Д゜)

劇場版のヤツじゃん!?Σ(゜Д゜)

しかもこの作品のタイトル付き・・・

嬉しい(T-T)

そしてこちら!


【挿絵表示】


りなりいいいいいいいいいいっ!!!!!

りなりーの素顔可愛い( ´∀`)

ちなみに最近、りなりー役の田中ちえ美さんの可愛さに惹かれているのはここだけの話(・ω・)ノ

ことりちゃん大好きさん、ありがとうございました!



そして本編では、アニメ二期第一話の内容が終わりましたね。

千歌ちゃんがめでたく天にパンツを見られたところで、Aqoursが浦の星の統廃合を阻止すべく動き出すようです。

果たしてこれからどうなるのか・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

やるしかないからやるしかない。

投稿間隔が空いてしまって申し訳ない・・・

スクスタのストーリーにメンタルがやられていたんです(関係無い)

おのれランジュ(゜言゜)


 「うぅ、恥ずかしい・・・」

 

 「ドンマイ。そんなこともあるさ」

 

 「誰のせいだと思ってるの!?」

 

 「スカートであんなことをした千歌のせいだと思ってるけど?」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まる千歌。

 

 俺達は今、理事長室の前にいた。

 

 その理由は・・・

 

 「鞠莉、大丈夫かな・・・」

 

 心配そうな表情の果南。

 

 理事長室の中では、鞠莉が鞠莉のお父さんと電話で話をしている最中だった。

 

 内容は当然、浦の星の統廃合についてである。

 

 「・・・大丈夫だよ」

 

 理事長室のドアを見つめる俺。

 

 「千歌の言葉を聞いて、表情が引き締まってたもん。あの顔になった時の鞠莉は・・・本当に凄いんだから」

 

 「フフッ・・・幼馴染の天さんが仰るなら、間違いないですわね」

 

 クスッと笑うダイヤさん。

 

 一方、梨子は何故かムスッとしていた。

 

 「・・・よく理解してるのね。鞠莉ちゃんのこと」

 

 「まぁ幼馴染だからね。ちなみに、梨子のことも理解してるつもりだよ」

 

 「えー、ホントにぃ?」

 

 「ホントホント。今日のパンツの色が黒ってことも、ちゃんと理解してるから」

 

 「ちょ、何で分かるのよ!?」

 

 「あのね梨子ちゃん、言うべきか迷ったんだけど・・・体育座りしてるせいで、さっきからパンツ丸見えだよ?」

 

 「えぇっ!?」

 

 ルビィの指摘に、慌てて立ち上がる梨子。

 

 気付くの遅いなぁ・・・

 

 「朝からご馳走様です」

 

 「天くんの変態っ!スケベっ!」

 

 「曜といい千歌といい梨子といい・・・二年生組って、露出狂の集まりなの?」

 

 「「「そんなわけあるかっ!」」」

 

 三人による一斉ツッコミ。

 

 仲が良いなぁ・・・

 

 「お待たせ・・・ん?何かあったの?」

 

 理事長室から出てきた鞠莉が、キョトンとしながらこちらを見つめる。

 

 「何でもないよ。梨子が自爆しただけ」

 

 「自爆?」

 

 「そ、それよりっ!お父さんとの話し合いはどうだったの!?」

 

 慌てて口を挟む梨子。

 

 鞠莉は溜め息をつくと、重い口を開いた。

 

 「・・・100人」

 

 「え・・・?」

 

 「今年の終わりまでに、入学希望者を100人集めること・・・それが統廃合を取り止めにする、最低条件だって言われたわ」

 

 「マジか・・・そうすると、学校説明会は?」

 

 「開催して良いそうよ。パパが運営に掛け合ってくれるって」

 

 「なるほど・・・チャンスをくれるってわけか」

 

 心の中で、鞠莉のお父さんに深く感謝する。

 

 どうやら俺達には、まだ希望が残されているようだ。

 

 「でも今、入学希望者は10人しかいないずら・・・」

 

 「それを年末までに100人って・・・」

 

 花丸と善子の表情が曇る。

 

 確かに、相当難しい条件と言わざるをえない。

 

 でも・・・

 

 「でも・・・可能性は繋がった」

 

 千歌が呟く。

 

 「可能か不可能かなんて、今はどうでもいい。だって・・・やるしかないんだから!」

 

 そう力強く言い切る千歌の表情は、やる気に満ち溢れていた。

 

 「まぁ、それもそうだね」

 

 「えぇ、やるしかありませんわ」

 

 果南とダイヤさんも笑っている。

 

 皆も笑みを浮かべる中、千歌が鞠莉に笑いかけた。

 

 「鞠莉ちゃん、ありがと!」

 

 「千歌っち・・・」

 

 千歌は目の前の階段を駆け上がると、途中でこちらを振り向いた。

 

 「可能性がある限り、信じて頑張ろう!学校説明会も、ラブライブも頑張って・・・集めよう、100人!」

 

 「0から1へ!」

 

 「1から10へ!」

 

 曜と梨子が声を上げる。

 

 それを聞いた千歌は、笑みを浮かべると・・・

 

 「10から・・・100!」

 

 階段からジャンプし、スタッと着地する。

 

 うん、まぁカッコ良かったけど・・・

 

 「・・・そんなにパンツを見せつけたいの?」

 

 「あぁっ!?」

 

 慌ててスカートを押さえる千歌。

 

 いや、今さら押さえても意味無いんだけど・・・

 

 「ジャンプした時にスカートがフワッてなって、完全に見えたずら・・・」

 

 「階段を駆け上がった時も、下からパンツ丸見えだったよね・・・」

 

 「どんだけ見せびらかしたら気が済むのよ・・・」

 

 「ち、違うのっ!そんなつもりじゃなくてっ!」

 

 花丸・ルビィ・善子が呆れている中、必死に言い訳している千歌。

 

 やれやれ・・・

 

 「フフッ、天は相変わらずエッチデース」

 

 「いや、これは俺のせいじゃないから」

 

 クスクス笑う鞠莉に、ツッコミを入れる俺。

 

 「まぁそれはさておき・・・お疲れ様。結構粘ったんじゃない?」

 

 「当然でしょ?マリーの諦めの悪さは、天もよく知ってるじゃない」

 

 「まぁね。ホント悪質な女だと思うよ」

 

 「ちょ、言い方!?」

 

 「冗談だって」

 

 俺は笑うと、鞠莉の頭を撫でた。

 

 「・・・頑張ってくれてありがとう、鞠莉」

 

 「天・・・」

 

 「ここからは、俺達も一緒に頑張らせてよ。ね?」

 

 「・・・うん」

 

 寄りかかってくる鞠莉。

 

 そんな鞠莉の腰に手を回し、そっと抱き寄せる。

 

 「浦の星は、絶対廃校になんかさせない・・・やるよ、鞠莉」

 

 「えぇ、勿論」

 

 力強く頷く鞠莉なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・やっぱ無理」

 

 「朝のやる気はどこへ行ったの!?」

 

 机に突っ伏す千歌にツッコミを入れる曜。

 

 放課後、俺達は部室に集まっていた。

 

 「だってさぁ・・・ラブライブの予備予選の日が、近すぎるんだよぉ・・・」

 

 「千歌だけにね」

 

 「そのダジャレ好きだね!?」

 

 俺の呟きにツッコミを入れる千歌。

 

 それはさておき、何故予備予選の日が近いと困るのかというと・・・

 

 「まぁ確かに、短期間で二曲分の作詞はキツいよね」

 

 苦笑する果南。

 

 ラブライブの予備予選の日は来月の始めであり、その一週間前には学校説明会が開催されることになっている。

 

 つまり学校説明会で披露する新曲と、予備予選で披露する新曲の二曲を作らないといけないのだ。

 

 「同じ曲じゃダメずら?」

 

 「ラブライブで披露する曲は、必ず未発表の曲であること・・・大会の規定で、そう定められているのですわ」

 

 花丸の疑問に答えるダイヤさん。

 

 厳しいルールだよなぁ・・・

 

 「いっそのこと、学校説明会のライブは過去の曲で良いんじゃない?ラブライブと違って、新曲である必要も無いんだし」

 

 「それはダメ!新曲じゃなきゃインパクトが無いもん!」

 

 「そう思うならさっさと作詞しろや腐ったミカン」

 

 「当たりが強くない!?」

 

 ショックを受ける千歌。

 

 まぁ確かに新曲じゃないと、インパクトや新鮮さには欠けるかもしれないけど・・・

 

 「とはいえ、やっぱり二曲作るのは大変だと思うよ?作詞担当の千歌もそうだけど、作曲担当の梨子もしんどいだろうし・・・」

 

 「アハハ、それは否定出来ないかな・・・」

 

 苦笑する梨子。

 

 そんな様子を見ていた鞠莉の目が、怪しく光った。

 

 「フッフッフッ・・・マリーにGood ideaがありマース!」

 

 「はいはい、飴ちゃんあげるから大人しくしてようね」

 

 「わーい・・・って何で子供扱い!?マリーの方がお姉さんなんだけど!?」

 

 「精神年齢三歳の子が何か言ってるんだけど」

 

 「どれだけ低く見積もられてるのよ!?」

 

 鞠莉は一通りツッコミを入れた後、コホンッと咳払いをした。

 

 「千歌っち達に任せっきりなのは申し訳ないし、マリー達にも手伝わせてちょうだい」

 

 「いや、手伝わせてって・・・鞠莉ちゃん、曲作れるの?」

 

 「Yes!これでも二年前、作曲を担当してたのよ?」

 

 「ちなみに、私は作詞担当ね」

 

 「私は衣装担当でしたわ」

 

 それぞれ手を挙げる果南とダイヤさん。

 

 なるほど、つまり・・・

 

 「二手に分かれて作業するってことね」

 

 「その通りデース!」

 

 頷く鞠莉。

 

 「学校説明会用の曲作りは、千歌っちと梨子に任せるわ。衣装作りも曜にお願いするとして・・・残りのメンバーで、予備予選用の曲作りと衣装作りをやりましょう!」

 

 「賛成!せっかくだし、どっちが良い曲を作れるか勝負しない?」

 

 「それは面白そうですわね。俄然やる気が出てきましたわ」

 

 ノリノリの三年生達。

 

 まぁ確かに、良い考えかもしれないな・・・

 

 「マルも頑張るずら!」

 

 「フフッ、何か楽しそう!」

 

 「クックックッ・・・堕天使の血が騒ぐわ・・・」

 

 「マジで?じゃあ『堕天使の血ぜんぶ抜く大作戦』でもやってみる?」

 

 「殺す気かっ!池の水と同じノリでやろうとしてんじゃないわよ!?」

 

 「いやほら、堕天使もある意味外来種だし」

 

 「駆除する気満々じゃない!?」

 

 「アハハ、それじゃあ決まり!」

 

 パンッと手を叩く千歌。

 

 「二手に分かれて、どっちが良い曲を作れるか競争だーっ!」

 

 「「「「「「「「おーっ!」」」」」」」」

 

 やる気満々の皆なのだった。




どうも〜、ムッティです。

最近メッチャ寒くなってきましたねー。

皆さん、お身体の方はいかがでしょうか?

相変わらずコロナが流行してますので、体調には十分ご注意下さいね(>_<)



さて、まずは支援絵紹介のコーナー!

ことりちゃん大好きさんが、新しい支援絵を送って下さいました!

それがこちら!


【挿絵表示】


果林ちゃん美しい・・・結婚しよ←

こちらもムッティのリクエストで描いていただきました。

ありがたや・・・

ことりちゃん大好きさん、ありがとうございます!



さてさて、ここからはスクスタのストーリーについての感想になります。

ネタバレ及び批判的な意見を見たくない方は、ここで後書きをスキップすることをオススメします。

また次の話でお会いしましょう(^^)

それではまた次回!以上、ムッティでした!





よし、それでは感想タイムスタート!

とりあえず一言・・・



ランジュ許すまじ(゜言゜)



スクールアイドル部を作るのはともかく、スクールアイドル同好会の活動を邪魔するとか・・・

スクールアイドルがやりたいなら好きにやれば良いけど、他の人の邪魔をするなって話ですよ。

同好会のメンバーを部に引き入れるのが目的みたいですけど、やり方があまりにも姑息。

どんだけ自己中で傲慢なのか・・・

とまぁ、ここまでランジュの悪口を述べてきておいてアレなんですが・・・



ぶっちゃけた話、ランジュに対してはそこまで悪い感情は抱いてないんですよね(´・ω・`)



『こんだけ悪口言っといて何言ってんの?』というツッコミを入れた皆さん、正解です(笑)

いや、勿論イラッとはしてますよ?

してるんですけど、どこか憎めないというか・・・

彼女的には、『こうするのが正しい』って信じきってるじゃないですか?

邪念が無いっていうんですかね?

まぁだからこそ質が悪いのかもしれませんが、自分としてはそこまで悪い子には見えないんですよね。

なので個人的には、『最終的にランジュも同好会に入ってほしいなぁ』ぐらいに思ってます。

さて、じゃあ何が許せないって・・・



ずばり言いますが、果林ちゃんと愛ちゃんです。



果林ちゃん及び愛ちゃん推しの方々、大変申し訳ありません。

ここから先、二人に対して批判的な内容になります。



いや、おかしくないですか?

何で部に移籍してるんですかあの二人?

他のメンバーはランジュに邪魔されて、同好会としての活動がままならない状態なんですよ?

それを横目に、自分達は部に乗り換えて・・・

正直、マジで見損ないました。

確かに果林ちゃんは意識が高いし、友達を作る為に同好会に入ったわけじゃない・・・

部の環境の方が、自分を高める為に最適と判断したんでしょう。

そこに関しては、果林ちゃんの性格上理解しているつもりですが・・・

これまで切磋琢磨してきた仲間達を、こんなにあっさり見捨てるなんて・・・

愛ちゃんにいたっては、ちょっと理解出来ません。

ランジュと友達になりたいから?

最初からやり方を否定したくないから?

『は?』ってなりました。

ランジュと友達になる為なら、同好会の皆のことはどうでも良いの?

君が友達になろうとしてるランジュが、同好会の皆を苦しめてるんだよ?

やり方を否定したくないって言うけど、じゃあ同好会の皆を苦しめるあのやり方はどうなの?

結局スクールアイドルの練習をしたいが為に、仲間達を見捨てたってことじゃん。

・・・すみません、ちょっと悪く言い過ぎましたかね。

まぁとにかく、自分の中で今この二人の株がだいぶ下がってます。

勿論また同好会に戻ってきてほしいとは思っていますが、何となくの流れで戻ってくるのは嫌ですね。

同好会の皆に謝罪した上で、戻ってきてほしいです。

ちなみに同じく部に移籍した栞子ちゃんについては、特に悪くは思いません。

ランジュに無理矢理引っ張られただけでしょうし、同好会がちゃんと活動できるように頑張ってくれてるみたいなので。

しずくちゃんも一度は部に移籍しましたが、彼女なりの答えを見つけたかっただけですし。

『必ず戻ってきます』と言って、本当に戻ってきてくれましたからね。

やはりしずかすは尊い・・・

次のストーリーでは、果林ちゃんか愛ちゃんが同好会に戻ってくる流れになるのかな?

続きが気になるところです。





長々と感想を述べてしまってすみません。

特に果林ちゃん及び愛ちゃん推しの方々、大変申し訳ありません。

正直こういった意見を公に述べてしまうのは、いかがなものかとも思ったのですが・・・

自分の中に渦巻くこのモヤモヤした感情を誰かに話したくて、つい書いてしまいました。

『気持ちは分からなくもない』『その意見は間違ってる』等、色々なご意見があるかと思います。

もしムッティに対してご意見がありましたら、お手数ですがメッセージを送っていただければと思います。

感想欄で書くとネタバレになりますので・・・

勿論、今回の本編についての感想はどんどん感想欄に書いていただけると幸いです(^^)

皆さんからの感想、お待ちしております!



長くなってしまい、大変申し訳ありません。

お付き合いいただいた方々、ありがとうございました。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【黒澤ダイヤ】新たな年が始まった日に・・・

新年、明けましておめでとうございます!

元旦を迎えたということで、今年もまたダイヤさんの誕生日回からスタートです!

読んでくれなきゃブッブー!ですわ!←

それではいってみよー!


 2021年、元旦・・・

 

 「ゲホッ・・・ゴホッ・・・」

 

 ベッドに身体を横たえ、激しく咳き込む俺。

 

 新たな年が始まったその日に、どうやら風邪を引いてしまったらしい。

 

 「あぁ、しんどい・・・ずびっ・・・」

 

 身体はダルいし、鼻水は止まらないし・・・

 

 これは辛いなぁ・・・

 

 「絵里姉・・・亜里姉・・・」

 

 東京にいる二人の姉の顔が思い浮かぶ。

 

 Aqoursの練習もある為、今年の年末年始は東京へ帰らず内浦に残ったのだ。

 

 身体が弱っているせいか、二人に会いたくてたまらない。

 

 会いたくて会いたくて震える・・・って、震えてるのは寒気を感じてるせいだろうな。

 

 一人でそんなことを考えていると・・・

 

 

 

 『コホンッ・・・天さん、お電話ですわ!』

 

 

 

 「ん?」

 

 俺のスマホが振動し、聞き慣れた声が流れる。

 

 あれ、この声って・・・

 

 

 

 『コホンッ・・・天さん、お電話ですわ!』

 

 

 

 「・・・あぁ、電話か」

 

 スマホを手に取る俺。

 

 着信音代わりに使う為に、ダイヤさんのボイスを録らせてもらったことをすっかり忘れていた。

 

 ダイヤさんも最初は嫌がってたのに、いざ録音が始まったら拘っちゃって・・・

 

 10回は録り直したような気がするが、まぁそれはさておき・・・

 

 「ピッ・・・もしもし?」

 

 『あっ、もしもし天さん?明けましておめでとうございます』

 

 「・・・あれ、こんなボイス録ったっけ?」

 

 『録音の音声じゃありませんわよ!?』

 

 電話越しにダイヤさんのツッコミが聞こえる。

 

 録音じゃないってことは・・・

 

 「えっ、本物?」

 

 『本物ですわよ!?録音と聞き間違えないで下さいます!?』

 

 「あぁ、ビックリした・・・Aqoursのメンバーから、そういう電話が自動的に来るサービスかと思いました」

 

 『そんなサービスやってませんわよ!?』

 

 「ですよねぇ・・・あぁ、あけおめです。ことよろ~」

 

 『軽い!?新年の挨拶くらいキチンとなさい!』

 

 「そしてハピバ~」

 

 『それも略されるのですか!?』

 

 ダイヤさんのツッコミ。

 

 言わずもがな、本日1月1日はダイヤさんの誕生日である。

 

 「アハハ、ダイヤさんは面白い・・・ゲホッ!ゴホッ!」

 

 『えっ、天さん!?大丈夫ですか!?』

 

 「あぁ、すみません。栗きんとんが変なところに入っちゃって・・・ずびっ」

 

 『ちょ、鼻水!?もしかして風邪を引いたのですか!?』

 

 「違います。お雑煮を啜った音です」

 

 『普通そんな音しませんわよ!?やっぱり風邪ですわよねぇ!?』

 

 「アハハ、そんなわけないでしょう。確かに咳は出るし鼻水は出るし、身体はダルいし寒気を感じますけど・・・風邪なんて引いてないんで大丈夫です」

 

 『絶対引いてますわよねぇ!?何故頑なに認めないのですか!?』

 

 「そのセリフ、どこかの政治家さんに言ってあげて下さい」

 

 『誰のことを仰っているのですか!?』

 

 ダイヤさんは一通りツッコミを入れた後、溜め息をついた。

 

 『ハァ・・・今からお伺いしますから、大人しく寝ていて下さい』

 

 「ちょ、大丈夫ですって!わざわざ来てもらわなくても・・・」

 

 『あぁ、破廉恥な本やDVDはしまっておいて下さいね』

 

 「そういうことじゃなくて!?風邪がうつるから来ないで下さい!」

 

 『ようやく風邪だと認めましたわね・・・十分気を付けますから、心配ご無用ですわ』

 

 「心配しかないんですけど!?そもそも今日は元旦ですし、黒澤家の用事で忙しいんじゃないんですか!?」

 

 『父と母とルビィに丸投げしますから、何の問題もありません』

 

 「大問題でしょうが!そもそも、せっかくの誕生日なんですから・・・」

 

 『あぁもう、つべこべ言わないっ!行くと言ったら行きますっ!』

 

 イラッとしたような大声と共に、勢いよく電話が切られる。

 

 「・・・マジかぁ」

 

 呆然とする俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 一時間後・・・

 

 「お邪魔しますわ」

 

 ブーツを脱ぎ、俺の家に上がるダイヤさん。

 

 まさか本当に来るとは・・・

 

 「・・・風邪がうつっても知りませんよ」

 

 「私は天さんと違って、貧弱ではありませんので。ご心配には及びませんわ」

 

 「胸が貧弱な人が何言ってるんですか」

 

 「喧嘩売ってます!?これでもB80はありますわよ!?」

 

 「尚、同級生はB83とB87な模様」

 

 「水ゴリラや成金変態娘と一緒にしないで下さい!」

 

 「罵倒がストレート過ぎません?」

 

 何だろう、今日のダイヤさんはご機嫌斜めな気がする・・・

 

 「ダイヤさん、何か怒ってません?」

 

 「・・・別に」

 

 「ダイヤさん・・・いや、ダイヤ様」

 

 「様付けは止めて下さいます!?」

 

 「アハハ、ツッコミがキレッキレ・・・ゴホッ!」

 

 「あぁもう!いいから寝てなさい!」

 

 ダイヤさんに手を掴まれ、ベッドまで連れて行かれる俺。

 

 そのまま寝かされた俺は、ベッドの側に立つダイヤさんを見上げた。

 

 「やれやれ、ダイヤさんは強引ですねぇ」

 

 「・・・こんな時まで茶化さないで下さい」

 

 ダイヤさんはその場に座り込むと、俺の手をそっと握った。

 

 「身体、相当辛いのでしょう?顔を見たら分かりますわ」

 

 「・・・だから今、ダイヤさんに会いたくなかったんですよ」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「どんなに取り繕って誤魔化したところで、ダイヤさんには絶対に見抜かれますから。だから来てほしく無かったのに・・・」

 

 「それも嘘、ですわね」

 

 握る手にキュッと力を込めるダイヤさん。

 

 「本当は、一人でいるのが寂しかったのでしょう?電話越しに聞いた天さんの声、とっても心細そうでしたわよ?」

 

 本心を見抜かれ、思わず黙り込んでしまう。

 

 これだから察しの良い人は・・・

 

 「・・・どうして頼ってくれないのですか」

 

 俯くダイヤさん。

 

 「寂しいなら、辛いなら・・・正直にそう言って欲しかった。『会いたい』と、『助けて欲しい』と・・・そう言って欲しかった」

 

 「ダイヤさん・・・」

 

 ひょっとして、ダイヤさんが怒ってたのは・・・

 

 「俺がダイヤさんを頼らなかったから、怒ってたんですか・・・?」

 

 「・・・大切な人に頼ってもらえないなんて、悔しいに決まっているでしょう」

 

 俺を睨むダイヤさん。

 

 そういうことだったのね・・・

 

 「・・・家族と過ごすであろう元旦を、邪魔出来るわけないでしょう」

 

 苦笑する俺。

 

 「それに元旦は、ダイヤさんにとって特別な日で・・・」

 

 「その特別な日に、私は家を抜け出して貴方に会いに来たのですわ」

 

 俺の言葉に被せるダイヤさん。

 

 「他でも誰でも無い・・・貴方の側にいたかったのです」

 

 「っ・・・」

 

 ズルいなぁ・・・

 

 そんなこと言われたら、勘違いしちゃうじゃん・・・

 

 俺が、ダイヤさんにとっての『特別』なんだって・・・

 

 「・・・勘違い、ではありませんわよ」

 

 俺の心を読んだのか、ダイヤさんが呟く。

 

 恥ずかしいのか、頬が赤く染まっていた。

 

 「私にここまで言わせておいて・・・何も仰って下さらないのですか?」

 

 そのセリフは本当にズルいと思う。

 

 そんなことを考えつつ、俺も覚悟を決め・・・

 

 ダイヤさんの手を握り返した。

 

 「俺の側に、いてくれますか?俺は貴女と、一緒にいたいんです。他の誰でも無い・・・『特別』な貴女と」

 

 「っ・・・喜んで」

 

 照れたようにはにかむダイヤさんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《ダイヤ視点》

 

 『天くんの具合はどう?』

 

 「まだ辛そうではありますけれど、少しは落ち着いたようです」

 

 私は今、天さんの家のリビングでルビィと電話していました。

 

 ルビィも天さんが心配だったようで、こうして私に電話をかけてきたのです。

 

 「ごめんなさい、ルビィ。貴女に家の用事を押し付けてしまって・・・」

 

 『気にしないで。ルビィの方から引き受けたんだから』

 

 そう、ルビィは自分から引き受けてくれたのです。

 

 『ルビィがやるから、お姉ちゃんは天くんの所に行ってあげて』と・・・

 

 『お父さんとお母さんも、天くんのこと心配してたよ?家の用事なんてどうでもいいから、早く天くんのお見舞いに行きたいって』

 

 「・・・黒澤家の人間にあるまじき発言ですわね」

 

 頭を抱える私。

 

 あの人達、完全に天さんを自分達の息子だと思ってますわね・・・

 

 『フフッ・・・お姉ちゃんだって、家のことそっちのけで天くんの所に行ったじゃん』

 

 「そ、それは・・・!」

 

 『お姉ちゃんってば、天くんにゾッコンだもんね』

 

 「なっ・・・!?」

 

 『唇の一つでも奪って帰って来るんだよ?じゃあね』

 

 「ちょ、ルビィ!?」

 

 電話を切られ、呆然としてしまう私。

 

 く、唇って・・・

 

 「うぅ、破廉恥ですわ・・・」

 

 「何が破廉恥なんですか?」

 

 「ぴぎゃあっ!?」

 

 背後から声をかけられ、飛び上がってしまいます。

 

 慌てて振り向くと、キョトンとした顔をした天さんが立っていました。

 

 「そ、天さん!?起き上がって平気なのですか!?」

 

 「えぇ、身体が少し楽になったので。ダイヤさんが作ってくれた、愛情たっぷりのお粥を食べたおかげですね」

 

 「あ、愛情たっぷりって・・・」

 

 「ピッ・・・『他の誰でも無い・・・貴方の側にいたかったのです』」

 

 「ぴぎゃああああああああああっ!?」

 

 あまりの恥ずかしさに、悲鳴を上げてしまう私。

 

 い、いつの間に録音を!?

 

 「け、消して下さいっ!」

 

 「永久保存させていただきます」

 

 「嫌ああああああああああっ!?」

 

 天さんからスマホを奪い取ろうと、手を伸ばす私。

 

 天さんはそれを避けると、私の方へ一歩踏み込み・・・

 

 次の瞬間、私は天さんの腕の中にいました。

 

 「っ・・・」

 

 「・・・ありがとうございます。ダイヤさん」

 

 優しく私を抱き締める天さん。

 

 「会いに来てくれて、側にいたいと言ってくれて・・・本当に嬉しかったです」

 

 「天さん・・・」

 

 「ダイヤさんには、いつも助けてもらってばかりですね」

 

 頭を撫でられる私。

 

 助けてもらってばかり、ですか・・・

 

 「・・・それは私のセリフですわ」

 

 「え・・・?」

 

 首を傾げる天さんの頬に、そっと手を添える。

 

 

 

 

 

 思い返してみれば、どれほどこの人に助けられたことでしょう。

 

 

 

 

 

 スクールアイドルをやりたいという、ルビィと向き合うことが出来たのも・・・

 

 

 

 

 

 果南さんと鞠莉さんを、仲直りさせることが出来たのも・・・

 

 

 

 

 

 またもう一度、スクールアイドルが出来ているのも・・・

 

 

 

 

 

 この人がいなかったら、どれも成しえなかったことです。

 

 

 

 

 

 「・・・ありがとうございます、天さん」

 

 「ダイヤさ・・・んっ!?」

 

 顔を近付け、唇同士を触れ合わせます。

 

 突然のことに、驚いて固まる天さん。

 

 しばらくした後、私はゆっくりと天さんから離れました。

 

 「・・・フフッ」

 

 照れ笑いを浮かべる私。

 

 「お慕い申しておりますわ、天さん・・・今年もよろしくお願い致します」

 

 私の言葉に、顔を真っ赤にしている天さん。

 

 新たな年が始まったこの日・・・

 

 私達の関係もまた、新たなものになろうとしているのでした。




ごきげんよう、ムッティですわ!←

改めまして、明けましておめでとうございます!

昨年は『絢瀬天と九人の物語』を応援していただき、本当にありがとうございました!

おかげさまでアニメ一期の内容が終わり、現在はアニメ二期の内容に入っているわけですが・・・



最近の更新、ちょっと少なくね?



何してんだよ作者・・・すみませんでした(土下座)

今年はもっと更新出来るようにして、目指せ今年中の完結!

・・・多分無理でしょうね(´・ω・`)

皆様、どうか気長にお付き合いいただけると幸いです(懇願)



さてさて、今年もダイヤさんの誕生日回からスタートしたわけですが・・・

最近自分の中で、ダイヤさん熱が上がっております(笑)

ソロアルバムのジャケット見ました?

マジで美しすぎません?

やっぱりダイヤさんは美人ですよねぇ・・・

そんなダイヤさんとイチャイチャする天・・・

ギルティ(゜言゜)

・・・まぁ自分で書いてるんですけど(´・ω・`)

ダイヤさん、誕生日おめでとうございます(^^)



そして現在進行中の本編ですが、果たして誰がヒロインになるのか・・・

楽しみにしておいていただけると幸いです(^^)

皆様、今年も『絢瀬天と九人の物語』をよろしくお願い致します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人の性格は十人十色である。

ニジガクのアニメ、終わっちゃいましたね・・・

『夢がここからはじまるよ』は、本当に神曲だと思います(´;ω;`)


 「・・・何でこうなったんですか?」

 

 「・・・色々あったのですわ」

 

 俺の呟きに、溜め息をつきながら答えるダイヤさん。

 

 俺達の目の前には・・・

 

 「「「「ふんっ!」」」」

 

 お互いにそっぽを向く花丸・善子ペアと、果南・鞠莉ペアがいた。

 

 二年生組に学校説明会用の新曲製作を任せ、残りのメンバーは予備予選用の新曲製作に取り組む為に黒澤家へとやって来ていた。

 

 俺は一度家に帰り、参考になりそうな資料を持ってきたのだが・・・

 

 黒澤家に到着した俺が見たのは、一年生ペアと三年生ペアが喧嘩している現場だった。

 

 「そんな激しい曲調、マルには無理ずら!」

 

 「もっと落ち着いた曲調にしなさいよ!?」

 

 「それじゃ今までと変わらないじゃない!」

 

 「そうだよ!今までやってこなかったジャンルの曲をやることで、新しいAqoursを開拓できるかもしれないじゃん!」

 

 「激しいのはアンタの動きだけで十分よ!このゴリラ!」

 

 「ちょ、誰がゴリラよ!?このエセ堕天使!」

 

 「エセじゃないもんっ!エセはこっちの成金お嬢様でしょうが!」

 

 「What!?マリーのどこがエセなのよ!?」

 

 「そうやって英語を混ぜるの止めるずら!そんなにアメリカの血が流れてることを強調したいずらか!?」

 

 「そんなつもりじゃないから!ただのクセだから!」

 

 「そういう花丸ちゃんだって、語尾に『ずら』って付けるじゃん!」

 

 「これはマルのアイデンティティずら!果南ちゃんの寒い語尾に比べたらマシずら!」

 

 「寒くないもんっ!可愛い語尾だもんっ!」

 

 ギャーギャー言い合う四人。

 

 何か罵り合い始めたんだけど・・・

 

 「ど、どうしよう天くん・・・!」

 

 俺の腕にしがみつき、オロオロしているルビィ。

 

 よし、とりあえず・・・

 

 「“雷鳴●卦”!」

 

 「「「「ごはぁっ!?」」」」

 

 四人の頭に、全力でハリセンを叩き込む俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・で?」

 

 「「「すみませんでした・・・」」」

 

 正座している花丸・善子・鞠莉。

 

 そんな中・・・

 

 「な、何で私だけこんな目に・・・」

 

 「何か言ったか水ゴリラ」

 

 「何でもありません!本当にすみませんでした!」

 

 床に両手両膝をついた状態の果南。

 

 俺はそんな果南の背中の上に座っていた。

 

 「とりあえず胃袋ブラックホール娘、今日一日のっぽパン食べるの禁止な」

 

 「そ、そんな殺生な!?」

 

 「ルビィ、鞄から没収しといて」

 

 「ゴ、ゴメンね花丸ちゃん・・・」

 

 「堪忍ずらああああああああああっ!?」

 

 「次に厨二病女、今日一日『ヨハネ』と口にする度に百円の罰金な」

 

 「嘘でしょ!?名乗っちゃいけないっていうの!?」

 

 「ダイヤさん、貯金箱の用意を」

 

 「善子さん、ご健闘をお祈りしておりますわ・・・」

 

 「ヨハネよ・・・はっ!?」

 

 「はい、罰金」

 

 「嫌ああああああああああっ!?」

 

 「それからおっぱいお化け、今日一日英単語を口にする度におっぱい十秒揉むから」

 

 「天さん!?さりげなくセクハラしようとしないで下さい!」

 

 「そうよ天!言ってくれればいつでも揉ませてあげるのに!」

 

 「鞠莉さん!?」

 

 「じゃあ納豆キムチを食べさせるに変更で」

 

 「最悪じゃない!?マリーの嫌いなもの二つを組み合わせるなんて!?」

 

 「この美味しさが分からないとか、頭だけじゃなくて味覚もイカれてるね」

 

 「何か今日もの凄く冷たくない!?」

 

 「そして水ゴリラ、今日一日俺のペットね」

 

 「私だけ罰が重過ぎない!?」

 

 「あぁ、奴隷の方が良かった?」

 

 「良くないよ!?むしろ酷くなってるじゃん!?」

 

 「俺のことは『ご主人様』って呼んでね」

 

 「呼ぶわけないでしょうが!」

 

 「うらぁっ!」

 

 「あんっ!?ちょ、どこ叩いてんの!?」

 

 「うわ、お尻をハリセンで叩いただけで喘ぐとか引くわ・・・」

 

 「喘いでないから!ちょっと変な声出ちゃっただけだから!」

 

 「さて、果南が変態なのはさておき・・・」

 

 「さておかないでくれる!?違うから!」

 

 「おらぁっ!」

 

 「あんっ!?」

 

 とりあえず果南を黙らせ、話を続ける。

 

 「まぁこの辺りで、ちょっと真面目な話をすると・・・一年生組と三年生組って、コミュニケーション不足だと思うんだよね」

 

 「うっ・・・」

 

 「確かに・・・」

 

 呻く善子と果南。

 

 同じグループで活動するようになって、約二ヶ月・・・

 

 勿論会話はしているが、どこかよそよそしいところがあるのは否めない。

 

 「しかもお互い、性格が正反対じゃん。それで自分達の好みを主張し始めたら、そりゃ意見が食い違って衝突するだろうよ」

 

 「せ、正論ずら・・・」

 

 「返す言葉も無いデース・・・」

 

 顔を顰める花丸と鞠莉。

 

 だからこそ、もっと親交を深めるべきだと思うんだよな・・・

 

 「これまでは二年生組が間にいたから、特に問題も無かったけど・・・これも良い機会だし、まずはお互いを理解するところから始めない?その上で話し合いが出来れば、お互いに歩み寄って曲作りが出来るでしょ?」

 

 「天さんの仰る通りですわ。私達はまず、お互いを知るところから始めましょう」

 

 「ル、ルビィもそれが良いと思う!」

 

 ダイヤさんとルビィが賛成してくれる。

 

 さて、そうなると・・・

 

 「まずはどこかへ出掛けるとしようか・・・どこへ行きたい?」

 

 「図書館!」

 

 「手芸用品店!」

 

 「堕天使ショップ!」

 

 「着物専門店!」

 

 「ダイビング!」

 

 「America!」

 

 「ホントにバラバラだな・・・あと鞠莉、納豆キムチね」

 

 「あぁっ!?」

 

 顔面蒼白の鞠莉。

 

 「ちょ、違うの!今のはつい・・・」

 

 「真珠さん」

 

 「こちらに」

 

 どこからともなく真珠さんが現れる。

 

 その手には、納豆キムチが入った器を持っていた。

 

 「お母様!?いつの間に!?」

 

 「黒澤家の女たるもの、気配を完璧に消す術くらい身に付けていますから」

 

 「そんなくノ一みたいな術が本当に必要なのですか!?」

 

 「あぁ、ちなみにミスディレクションも習得済みです」

 

 「それ黒澤家っていうか、黒子家になってない!?」

 

 「あとはファントムシュートに、イグナイトパスが使えるようになれば・・・」

 

 「幻の六人目でも目指してるの!?」

 

 母親に対するツッコミが止まらない娘達。

 

 そんな中、俺は真珠さんから器を受け取る。

 

 「さて、お仕置きだべ~」

 

 「どこのドク●ベエ!?た、助け・・・」

 

 「水ゴリラ、押さえといて」

 

 「はい、ご主人様」

 

 「ちょ、果南!?『ご主人様』呼びはしないって・・・」

 

 「うらぁっ!」

 

 「もごおおおおおおおおおおっ!?」

 

 鞠莉の悲鳴が、黒澤家の屋敷に響き渡るのだった。




どうも〜、ムッティです。

さてさて、最近触れてませんでしたが・・・

アンケート結果発表〜!(ドンドンパフパフ!!)

一年生組・二年生組・三年生組の中で、誰をヒロインにしてほしいかアンケートをとらせていただきましたね。

・・・まぁどのアンケートでも、志満さんがぶっちぎりで一位だったんですが(笑)

そんな中、メンバーでは誰が人気だったのかというと・・・



一年生組・津島善子!

二年生組・桜内梨子!

三年生組・松浦果南!



このような結果になりました。

一年生組では、善子ちゃんと花丸ちゃんが良い勝負でしたね。

ルビィちゃんも多くの票を集めましたが、やはり妹感があるのかな?

二年生組では、梨子ちゃんと曜ちゃんが良い勝負をしていました。

やはり天への恋心を自覚したという点で、梨子ちゃんに軍配が上がったのかな?

千歌ちゃんは・・・ドンマイ、リーダー←

三年生組では、意外にも果南ちゃんが独走状態でしたね。

もうちょっと鞠莉ちゃんの票が伸びるかなとも思いましたが、果南ちゃんが強かったです。

ダイヤさんは天が絵里ちゃんと重ねているところもあって、姉感が強かったのかな?

そんな感じで、以上のような結果となりました。

そこでこの際、人気No.1を決めたいと思います!

善子ちゃん・梨子ちゃん・果南ちゃんの中で、誰をヒロインに希望するのか。

皆さんの意見が知りたいので、アンケートをとらせていただきたいと思います。

お答えいただけると幸いです。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【小泉花陽】ありのままで・・・

μ'sの大トリを飾る、花陽ちゃんの誕生日回!

去年の誕生日の時は本編で未登場だったから、誕生日回は書かなかったのよね(´・ω・`)

花陽ちゃん推しの方々、大変お待たせしました。

それではいってみよー!


 「とりゃあっ!」

 

 「ぐほっ!?」

 

 腹部への衝撃で目を覚ます俺。

 

 視線を向けてみると・・・

 

 「パパ、おはよ~♪」

 

 ニコニコ笑っている女の子が、俺のお腹の上に乗っていた。

 

 「おはよう、陽菜。起こし方が乱暴じゃない?」

 

 「らんぼーってなあに?」

 

 「凛ちゃんみたいな人のことだよ」

 

 「どういう意味だにゃ!?」

 

 扉が勢いよく開かれ、凛ちゃんがツッコミを入れながら入ってくる。

 

 「ほら、扉さんが可哀想でしょ?」

 

 「ホントだ~。凛ちゃん、メッ!」

 

 「ゴ、ゴメン・・・じゃなくて!ひなちんに余計なことを教えないで欲しいにゃ!」

 

 「教育は父親としての役目だもん。っていうか、何で凛ちゃんがいるの?」

 

 「今日が何の日か忘れたのかにゃ!?連絡してきたのは天くんだにゃ!」

 

 「・・・あっ」

 

 そういえば、陽菜を一日預かってもらうんだった・・・

 

 何故なら今日は・・・

 

 「天く~ん?起きた~?」

 

 ひょっこり顔を覗かせたのは・・・俺の愛する嫁だった。

 

 「ママ~♪」

 

 「陽菜、パパを起こしてくれてありがとう♪」

 

 駆け寄ってくる陽菜を、嬉しそうに抱っこする嫁。

 

 「かよちん、母親オーラ全開にゃ」

 

 「アハハ、確かに」

 

 凛ちゃんの言葉に笑う俺。

 

 そんな俺に、嫁が笑いかけてくれる。

 

 「おはよう、天くん」

 

 「おはよう、花陽」

 

 同じように笑いかける俺。

 

 大人気スクールアイドルグループ、μ's・・・

 

 そのメンバーの一人だった、小泉花陽は今・・・

 

 俺の嫁になっているのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ん~、美味しい~♪」

 

 幸せそうな表情を浮かべ、ご飯をパクパク食べている花陽。

 

 俺達は今、ランチビュッフェに来ているのだった。

 

 「幸せそうだねぇ」

 

 「だって美味しいんだもん!白米に合うおかずがいっぱい・・・あぁ、幸せ~♪」

 

 「相変わらず白米好きだね」

 

 苦笑する俺。

 

 こんなに食べてるのに、このスタイルの良さ・・・

 

 栄養はどこへ行っているのやら・・・

 

 「多分、天くんの大好きなところだろうね」

 

 「人の思考を読むの止めてくれる?」

 

 まぁ確かに、μ's時代より一層大きくなってるけども・・・

 

 「こんなに大きくなったのは、天くんのせいでもあるんだからね?」

 

 「もっと育ててあげようか?」

 

 「もうっ、私の旦那さんはエッチだなぁ♪」

 

 クスクス笑う花陽。

 

 俺達が結婚したのは、今から三年前に遡る。

 

 俺の高校卒業を機に交際を始めた俺達は、そのまま四年ほど交際を続けた。

 

 結婚するのは、俺が社会人になってから・・・そんな風に考えていた時期が俺にもあったが、俺が大学四年生の時に花陽の妊娠が発覚。

 

 俺の大学卒業を機に、俺達は結婚することになったのだった。

 

 「あの時は大変だったなぁ・・・絵里姉にどんだけ怒られたことやら・・・」

 

 「アハハ・・・二人揃って『何やってるの!?』って延々と説教されたよね・・・」

 

 「そうそう・・・でも花陽の両親は、メチャメチャ喜んでくれたよね」

 

 「二人とも天くんのこと息子だと思ってたし、早く結婚してほしかったみたい。私が妊娠したから、『これで結婚だ!』って喜んじゃって」

 

 苦笑する花陽。

 

 ホント、理解のある人達で良かった・・・

 

 「それで言うと、亜里沙ちゃんも喜んでくれたよね」

 

 「ちゃらんぽらんだからね」

 

 「相変わらず酷い言い様だね!?」

 

 「アハハ、でも助かったよ。亜里姉が仲裁に入ってくれたおかげで、絵里姉の怒りも落ち着いたわけだし」

 

 今じゃ陽菜のことを溺愛してるもんな、絵里姉・・・

 

 『二人目はいつ!?』とか平気で聞いてくるし・・・

 

 「今日も陽菜のことを預かる気満々だったんだけど、生憎仕事が忙しいみたいでさ。号泣してたよ」

 

 「いや、号泣って・・・」

 

 ちょっと引いている花陽。

 

 『こうなったら仮病を使って・・・』とか不穏なことを言い始めたから、珍しく亜里姉にしばかれてたけど。

 

 「だから凛ちゃんに預かってもらったんだけどね。陽菜も凛ちゃんに凄く懐いてるし」

 

 「フフッ、歳の離れた姉妹みたいだよね」

 

 ちなみに陽菜の読みは、『ひな』ではなく『はるな』である。

 

 凛ちゃんの『はなよ』を『かよ』と呼ぶスタイルは、陽菜が相手でも変わらないらしい。

 

 「でも、凛ちゃんには申し訳ないな・・・せっかくのお休みなのに・・・」

 

 「その分、報酬はちゃんと弾んでおいたから大丈夫だよ」

 

 「報酬?一日五万円とか?」

 

 「いや、ラーメン五杯」

 

 「安くない!?」

 

 「目を輝かせて喜んでたよ」

 

 「それで良いの凛ちゃん!?」

 

 花陽のツッコミ。

 

 まぁ凛ちゃんも陽菜のこと溺愛してるし、『報酬なんて要らないからひなちんと遊びたいにゃ!』って言ってくれたんだけどね。

 

 「まぁ陽菜のことは凛ちゃんに任せて、たまには二人でゆっくりしようよ。せっかくの誕生日なんだしさ」

 

 そう、今日は花陽の誕生日なのだ。

 

 せっかくだし二人でデートしようということで、今日は陽菜を凛ちゃんに預かってもらったのだ。

 

 「それもそうだね・・・あっ、天くん動かないで」

 

 「え?」

 

 首を傾げる俺に、花陽はそっと手を伸ばし・・・俺の口元を指で拭った。

 

 「フフッ、ご飯粒ついてたよ・・・ぱくっ」

 

 「っ・・・」

 

 取ったご飯粒を口にし、微笑む花陽。

 

 思わずドギマギしてしまう俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あ~、幸せだったな~♪」

 

 「食べ過ぎでしょ・・・うっぷ」

 

 家への帰り道を歩く俺達。

 

 買い物もそこそこに、ただひたすら食べ歩くグルメツアーみたいになってたもんな・・・

 

 おかげでこっちはお腹パンパンだ。

 

 「家に帰ったら、この間花丸ちゃんにもらったのっぽパン食べようっと♪」

 

 「・・・胃袋ブラックホールシスターズめ」

 

 花陽といい花丸といい、本当に食べ過ぎだと思う。

 

 花陽もそうだけど、花丸も栄養がどんどん胸回りにいってるし・・・

 

 隣のルビィ、死んだ魚みたいな目してたっけ・・・

 

 「・・・ルビィか」

 

 「天くん?どうしたの?」

 

 「ちょっと思い出してさ・・・ルビィと花陽を重ねてたこと」

 

 「あぁ、そういえばそんなこと言ってたね」

 

 人見知りで、自分に自信が無くて・・・

 

 それでも勇気を出して、前に踏み出して・・・

 

 そんな二人を、俺は重ねて見ていた。

 

 「ルビィ自身も、花陽と自分を重ねてたんだろうね。だから花陽に心惹かれて、ファンになって・・・スクールアイドルになったんだと思うよ」

 

 「フフッ、それなら嬉しいな」

 

 笑みを零す花陽。

 

 「少しでも力になれたのなら・・・あの時勇気を出して、スクールアイドルになって良かった。私の勇気は、無駄じゃなかったってことだもん」

 

 「・・・無駄なわけないでしょ」

 

 そっと花陽の手を握る。

 

 「花陽がいなきゃ、μ'sは無かったよ。それは花陽だけじゃなくて・・・誰か一人でもいなかったら、μ'sとして成立しなかった」

 

 「天くん・・・」

 

 「だから花陽の勇気は、俺達にとって凄く大きな意味があったんだよ。ルビィにしてもそう・・・ルビィがいなきゃ、Aqoursは無かったんだから。そのルビィは花陽に影響を受けたんだから、花陽がいなきゃAqoursは無かったかもね」

 

 「アハハ、何か話が大きくなったね」

 

 クスクス笑いつつ、俺の手を握り返す花陽。

 

 「ありがとう、天くん・・・ホント、天くんには敵わないや」

 

 「え・・・?」

 

 「天く~ん!かよち~ん!」

 

 大きな声がする。

 

 いつの間にか俺達は家のすぐ近くまで来ており、玄関先で凛ちゃんが大きく手を振っていた。

 

 「お帰りにゃ~!」

 

 「パパー!ママー!」

 

 陽菜が元気に駆け寄ってくる。

 

 俺は陽菜を受け止めると、そのまま抱っこした。

 

 「ただいま、陽菜。凛ちゃんは良い子にしてた?」

 

 「天くん!?何で凛が子供扱いされてるにゃ!?」

 

 「凛ちゃん悪い子ー!おうちで暴れてたー!」

 

 「ひなちん!?一緒に遊んでただけだよねぇ!?」

 

 「あと、花丸ちゃんがくれたのっぽパン食べちゃったー!」

 

 「ちょ、ひなちんそれは・・・」

 

 「凛ちゃん・・・?」

 

 花陽の目から光が消えた。

 

 あっ、ヤバい・・・

 

 「ゴ、ゴメンなさあああああいっ!?」

 

 全速力で逃げて行く凛ちゃん。

 

 相変わらず足速いな・・・

 

 「今度会ったらタダじゃおかない・・・」

 

 「落ち着きなよ」

 

 怖いことを呟く花陽を、苦笑しながら宥める。

 

 「花丸に頼んで、のっぽパンを大量に送ってもらうから。『東京でご飯ご馳走する』って言えば、喜んで送ってくれるでしょ」

 

 「ホント!?やったぁ!」

 

 「パパー、おなかへったぁ」

 

 「はいはい、すぐ作るからね」

 

 「天くん、私もお腹空いちゃった」

 

 「食いしん坊キャラも大概にしてくんない!?」

 

 全力でツッコミを入れる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《花陽視点》

 

 「陽菜を寝かしつけてきたよ」

 

 「お疲れ様」

 

 リビングに戻ってきた私を、天くんが労ってくれる。

 

 凛ちゃんと一日中遊んで疲れたのか、今日の陽菜はすぐに寝てしまった。

 

 そこは凛ちゃんに感謝しないといけないが・・・

 

 「あの猫人間・・・のっぽパンの恨みは忘れない・・・」

 

 「顔が怖いんだけど」

 

 天くんが引いていた。

 

 食べ物の恨みは恐ろしいんだからね、凛ちゃん・・・

 

 「全く、花陽は本当に食べることが好きだよね」

 

 「当然だよ!食べなきゃ生きていけないもん!」

 

 「俺とどっちが好き?」

 

 「天くん!」

 

 「そこは俺を選んでくれるのね」

 

 「アハハ、勿論」

 

 私は天くんの側に寄ると、甘えるように天くんの胸に寄りかかった。

 

 そんな私を、包み込むように抱き締めてくれる天くん。

 

 幸せだなぁ・・・

 

 「ホント・・・天くんと一緒にいると、凄く安心するよ」

 

 「そう?」

 

 「うん、何と言うか・・・ありのままの自分でいられる」

 

 「花陽・・・いや、アナ陽」

 

 「『ありのまま』だけに!?何も上手くないよ!?」

 

 「少しも寒くないわ」

 

 「だろうね!暖房効いてるからねこの部屋!」

 

 「雪の女王っぽい海未ちゃんでも呼んでみる?」

 

 「確かに似合いそうだけども!」

 

 全く・・・

 

 昔から天くんと一緒にいると、ツッコミが大変だなぁ・・・

 

 「・・・昔かぁ」

 

 「ん?」

 

 首を傾げている天くん。

 

 

 

 

 

 思い返してみれば、天くんは昔から私の味方でいてくれた。

 

 

 

 

 

 『花陽ちゃんは可愛いんだから、もっと自信持って良いんだよ』

 

 

 

 

 

 自信の無い私を、いつも勇気付けてくれた・・・

 

 

 

 

 

 『スクールアイドル、やりたいんでしょ?だったらやってみようよ』

 

 

 

 

 

 尻込みしている私の背中を、そっと押してくれた。

 

 

 

 

 

 『遠慮なんてしないで、甘えたい時は甘えて良いんだよ。花陽ちゃんだったら、俺がいくらでも甘やかしちゃうから』

 

 

 

 

 

 遠慮して一歩下がろうとする私に、いつも手を差し伸べてくれた・・・

 

 

 

 

 

 私の側には、いつだって天くんがいてくれたのだ。

 

 

 

 

 

 「・・・ありがとう、天くん」

 

 「花陽・・・?」

 

 「私、天くんに出会えて本当に良かった・・・天くんに出会えて、結婚出来て・・・本当に幸せだよ」

 

 心からの感謝を伝えると、天くんが照れ臭そうに笑った。

 

 「・・・俺も花陽に出会えて良かったよ」

 

 「天くん・・・」

 

 「改めて、誕生日おめでとう。生まれてきてくれて、俺と出会ってくれて、結婚してくれて・・・本当にありがとう」

 

 「っ・・・」

 

 思わず涙ぐんでしまう。

 

 私は今、心から幸せを感じていた。

 

 「俺と花陽と陽菜と・・・これからも、三人で一緒に生きて行こうね」

 

 「はいっ」

 

 笑顔で頷く。

 

 三人で一緒に、か・・・

 

 「・・・三人で良いの?」

 

 「え・・・?」

 

 「そろそろかなぁって思ってるんだけど・・・二人目」

 

 「・・・マジで?」

 

 「この部屋暖かいし、『ありのまま』の姿になっても風邪引かないよね?」

 

 「え、ちょ・・・」

 

 「フフッ、いただきます♪」

 

 「おわぁっ!?」

 

 私の誕生日の夜は、まだまだ終わらないのだった。




ダレカタスケテー!ムッティです。

改めて花陽ちゃん、誕生日おめでとう!

今回の花陽ちゃんは天の嫁、それも子持ちです。

しかもデキ婚っていうね・・・

天、お前・・・(゜言゜)

まぁ花陽ちゃんは母性の塊なので、素晴らしいママになりそうですよね。

母性の象徴も大きいし←



さてさて、これでμ'sメンバーの誕生日回は全て書いたことになりますね。

今年はμ'sメンバーの誕生日回について、ちょっと迷ってます。

全員くっつけましたし、今年は書かなくても良いかなぁと・・・

勿論Aqoursメンバーは引き続き書きますが、ニジガクメンバーの誕生日回を書きたいんですよね。

なので今年は、μ'sに代わってニジガクになるかもしれません。

果林ちゃんにあんなことやこんなことをさせたい(ゲス顔)



そして恒例の支援絵紹介コーナー!

今回もことりちゃん大好きさんから、素敵な支援絵をいただきました!

まずはこちら・・・


【挿絵表示】


よs・・・ヨハネちゃあああああんっ!!!!!

可愛すぎかオイ( ´∀`)

もっと天と善子ちゃんをイチャイチャさせたいわぁ(´・ω・`)

そしてこちら・・・


【挿絵表示】


曜ちゃあああああんっ!!!!!

可愛すぎかオイ(2回目)

曜ちゃんと一緒に『ヨーソロー!』って言いたいだけの人生だった・・・

ことりちゃん大好きさん、本当にありがとうございました!



さて、本編の方は鞠莉ちゃんが口に納豆キムチをぶち込まれたところで終わりましたが(笑)

果たしてこれからどうなるのか・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【松浦果南】バカじゃないの

ニジガクの誕生日回を書きたいと言っていたな・・・

あれは嘘だ(涙)

いや、嘘じゃないけど書けなかった(涙)

正確にはかすみんの誕生日回だけ書いたけど、グダグダになってしまった・・・

しかも間に合わなかった・・・ゴメンな(青春アミ●ゴ風)

気を取り直して、0時投稿は出来なかったけど果南ちゃんの誕生日回です!

それでは、いってみようかなん?←


 「ねぇ天、二月十日って何の日か知ってる?」

 

 「えっ、去年の果南の誕生日回と同じ質問から始まるの?」

 

 「メタ発言止めてくれる!?」

 

 鞠莉のツッコミ。

 

 俺達は今、生徒会室で仕事をしていた。

 

 「いや、勿論知ってるけど・・・誕生日でしょ?」

 

 「Great!流石は天ね!」

 

 「市●由衣さんの」

 

 「そっち!?似たようなボケを去年の誕生日回でも聞いたわよ!?」

 

 「貴女もメタ発言はお止めなさい」

 

 呆れているダイヤさん。

 

 まぁ言わずもがな、二月十日は果南の誕生日である。

 

 「天さん、当日のご予定は?」

 

 「平日なんで、普通に学校に来ますけど」

 

 「ここは小説の中ですわよ!?夢の無い話をしてどうするのですか!?」

 

 「遂に『小説の中』って言っちゃいましたね」

 

 「ダイヤが一番メタ発言してマース」

 

 「休日に変えてしまいなさい!現実が平日でも、そんなの関係ありませんわ!」

 

 「そんなの関係ねぇ!」

 

 「はい、オッパッピ~♪」

 

 「ネタが古いですわよ!?」

 

 ノリノリで踊る俺と鞠莉に、ツッコミを入れるダイヤさん。

 

 まぁふざけるのはこれぐらいにして・・・

 

 「果南に誘われて、当日の放課後は一緒に出掛けることになってるんですよ」

 

 「あら、もう決まっていたのですか?」

 

 「えぇ、とりあえずホテルに行く予定です」

 

 「なっ・・・は、破廉恥ですわよ!?」

 

 「いや、ホテルオハラのディナービュッフェを食べに行くだけなんですけど」

 

 「破廉恥なのはダイヤの思考回路デース」

 

 「ハメられましたわああああああああああっ!?」

 

 ニヤニヤしている俺と鞠莉を前に、真っ赤な顔を両手で覆うダイヤさんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「っていうことがあったんだよね」

 

 「二人して何やってんの・・・」

 

 呆れている果南。

 

 誕生日当日、俺達はホテルオハラでビュッフェを楽しんでいた。

 

 「ダイヤは純情なんだから、あんまりからかったら可哀想でしょ」

 

 「3/9の純情な出来心だったんだよ」

 

 「SIAM SH●DEの名曲っぽく言われても困るんだけど。っていうか約分しなよ」

 

 「何だかんだツッコミを入れてくれるところホント好き」

 

 「バカじゃないの」

 

 ぶっきらぼうに言いつつ、ちょっと頬が赤くなる果南。

 

 可愛いヤツめ。

 

 「っていうか、改めて思ったんだけど・・・果南のそういう格好、何か新鮮かも」

 

 果南の姿に目をやる俺。

 

 制服や衣装でスカートは穿くものの、果南の私服は基本的にパンツスタイルが多い。

 

 そんな果南が今日は、ネイビーブルーのワンピースを着用しているのだ。

 

 しかも髪型は、ポニーテールではなくサイドテール・・・

 

 いつもとはちょっと違う果南の姿がそこにはあった。

 

 「いや、私はいつも通りの服装で来るつもりだったんだけど・・・鞠莉が呼んだ小原家のスタイリストさん達の手によって、こういう格好になっちゃって・・・」

 

 「学校が終わった後、小原家のヘリで連行されてたのはそういうことか・・・」

 

 流石は我が幼馴染、グッジョブ。

 

 「うぅ、やっぱり落ち着かないなぁ・・・似合ってないでしょ?」

 

 「バカじゃないの」

 

 「さっきの私のセリフそのまま言われた!?」

 

 「メチャクチャ似合ってるわ。何ならドキドキし過ぎてこっちの方が落ち着かないわ」

 

 「・・・よくそういうセリフをサラッと言えるよね」

 

 「だって本心だもん。俺が嘘をつけない性格だって、果南ならよく知ってるでしょ?」

 

 「・・・バカじゃないの」

 

 さっきより顔が赤い果南。

 

 っていうか・・・

 

 「果南?」

 

 「何?」

 

 「いや、どんどん顔が赤くなってる気がするんだけど・・・大丈夫?」

 

 「大丈夫らろ~」

 

 「いや滑舌ぅ!」

 

 アカン!この子大丈夫じゃない!

 

 「ちょ、果南!?もしかしてお酒呑んでる!?」

 

 「未成年はお酒呑めらいっれ~」

 

 笑っている果南の手からグラスをひったくり、少し口をつけてみる。

 

 うん、ノンアルのシャンパンだよね・・・

 

 「アハハ、間接キス~♪」

 

 「何で酔ってんのこの子」

 

 「果南は雰囲気で酔える子なのよ」

 

 「いや、雰囲気って・・・えっ?」

 

 第三者の声がしたので振り向くと、鞠莉がニコニコしながら立っていた。

 

 「チャオ、天♪楽しんでる?」

 

 「何で鞠莉がここに・・・って、家だから当然か」

 

 「Of course!離れた席から二人の様子を眺めて楽しんでたわ!」

 

 「今度から鞠莉だけ練習メニュー増やしとくわ」

 

 「すみません勘弁して下さい死んでしまいます」

 

 その場で土下座する鞠莉。

 

 この悪趣味成金お嬢様め・・・

 

 「むぅ・・・私を放置しないれ!」

 

 「おいアメリカかぶれ、許して欲しかったら何とかしろ」

 

 「そういうと思って、予め策は用意しておいたわ!」

 

 鞠莉はそう言うと胸の谷間に手を突っ込み、一枚のカードを取り出した。

 

 「天と果南の為に、このホテルの部屋を用意したの。ありがたく受け取りなさい」

 

 「『どこにしまってんの?』っていうツッコミは、去年やったから今年はしないわ」

 

 「だからメタ発言は止めなさいよ!?」

 

 鞠莉のツッコミはスルーした俺は、果南を背負って立ち上がった。

 

 「わ~い、おんぶ~♪」

 

 「はいはい、大人しくしててね・・・じゃ、ありがたく使わせてもらうわ」

 

 「ごゆっくり~♪」

 

 ニヤニヤしている鞠莉を放置して、部屋へと向かう俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・どんな部屋用意してんの?」

 

 呆れる俺。

 

 二人で過ごすには広すぎる部屋に、クイーンサイズのベッドが一つ・・・

 

 しかも照明がピンクで、無駄にムーディーな雰囲気・・・

 

 ラブホかここは。

 

 「とりあえず、果南を寝かせてっと・・・」

 

 「ていっ」

 

 「うおっ!?」

 

 仰向けに寝た果南が俺の肩を掴み、思いっきり抱き寄せてくる。

 

 俺の顔は、果南の胸に埋まる形になってしまった。

 

 「ちょ、果南!?」

 

 「あんっ♡くすぐったいよぉ♡」

 

 色気のある声を出す果南。

 

 あぁ、理性が吹っ飛びそう・・・

 

 「ねぇ、天・・・」

 

 俺の耳元で囁く果南。

 

 「天の好きにして、良いんだよ・・・?」

 

 「っ・・・」

 

 完全な殺し文句だった。

 

 こんな据え膳、勿論・・・

 

 「オコトワリシマス」

 

 「えぇっ!?」

 

 断固拒否するよね、うん。

 

 「何でよ!?何が不満なの!?」

 

 「さっきまでのほろ酔い口調はどこへ行ったのかなん?」

 

 「ギクッ!?」

 

 身体をビクッと震わせる果南。

 

 やっぱり・・・

 

 「酔ったフリをして、男をこんな部屋に連れ込むなんて・・・果南ちゃんは経験豊富なのかなん?」

 

 「いや違うから!経験ゼロだから!」

 

 「だろうね。そんな経験が少しでもあったら、こんな心臓ドキドキしてるわけないし」

 

 果南の胸に埋まっていることもあり、さっきから果南の心音がよく聞こえている。

 

 うるさいくらいバクバク言ってるんだよなぁ・・・

 

 「どうせ鞠莉の入れ知恵でしょ?事前に部屋を用意してたみたいだし、現れるタイミングもバッチリだったしね」

 

 「・・・ご明察の通りです」

 

 うなだれる果南。

 

 「でも、何で酔ったフリをしてるのが分かったの?」

 

 「麻衣先生や翔子先生が酔い潰れた姿を何度も間近で見てきた俺が、酔ったフリを見抜けないとでも思った?」

 

 「・・・苦労してるんだね、天」

 

 ホントだわ。もう介抱にも慣れたもんだよ。

 

 「とりあえず、鞠莉には地獄を見てもらうとして・・・何でこんな計画に乗ったの?」

 

 「うぅ、言わなきゃダメ・・・?」

 

 「黙秘権の行使は認められません」

 

 「マジかぁ・・・」

 

 溜め息をつく果南。

 

 「いや、その・・・私って、ちゃんと女として見られてるのかなぁって・・・」

 

 「張り倒すぞB83」

 

 「バストサイズで呼ぶの止めてくれる!?っていうか何で知ってんの!?」

 

 「翔子先生が酔っ払った勢いで暴露してたから」

 

 「生徒のプライバシーはどこへ行ったの!?」

 

 「ちなみにW58、H84であることも暴露済みだから」

 

 「今度あの人しばいて良いかな!?」

 

 どうぞどうぞ、やっちゃって下さい。

 

 「そもそも、何で女として見られてないって思ったのかなぁ・・・」

 

 「だ、だって!私のことゴリラって呼ぶじゃんっ!」

 

 「もうテッパンネタだもん」

 

 「『おっぱいが大きい』とか言う割に、一度も触ってこないじゃんっ!」

 

 「同意無しで触ったらただの犯罪でしょ」

 

 「『可愛い』とか『美少女』とか言う割に、全然口説いてこないじゃんっ!」

 

 「それを言ったら、俺はμ`sもAqoursも全員口説かないといけなくなるんだけど」

 

 っていうか、それで『女として見られてない』はおかしくない?

 

 「ハァ・・・何考えてんのマジで・・・」

 

 「うぅ・・・だってぇ・・・」

 

 涙目の果南。

 

 どうやら果南にとっても、相当恥ずかしい告白だったらしい。

 

 「・・・あのね、果南」

 

 果南も本音をぶちまけてくれたことだし、俺も本音をぶちまけるかな・・・

 

 「正直に言って、俺は今かなりムラムラしてる」

 

 「ムラっ・・・!?」

 

 一気に顔が真っ赤になる果南。

 

 ダイヤさんに負けないくらい純情だなぁ・・・

 

 「そりゃそうでしょ。スタイル抜群のお姉さんに抱き締められてて、胸が思いっきり顔に押し付けられてて、甘い喘ぎ声を聞かされて、『好きにして良いんだよ・・・?』なんて聞かされてみなよ?欲望の ままに襲いたくなるわ」

 

 「じゃ、じゃあ何で・・・」

 

 「・・・果南が大切だから」

 

 「っ・・・」

 

 息を呑む果南。

 

 「・・・こういうことは、ちゃんとした関係になってからしたい。今の関係のまま、欲望のままに襲いたくない。それで果南のことを傷つけたら、きっと後悔するだろうから。俺はこれからも果南と仲良くしたいし、果南のことを大切にしたいんだよ」

 

 「・・・バカじゃないの」

 

 ちょっと涙声の果南。

 

 今日、何回同じセリフ聞いたっけ・・・

 

 「『据え膳食わぬは男の恥』って言うじゃん」

 

 「据え膳を考え無しに食う方が恥だと俺は思うけど」

 

 「フフッ、何それ」

 

 果南はクスクス笑うと、俺を抱き締める腕にキュッと力を込めた。

 

 「・・・愛されてるなぁ、私」

 

 「・・・当然でしょ」

 

 「あ、照れてる!可愛い~♪」

 

 「うるさいなぁ!」

 

 「怒ってるけど顔真っ赤~♪」

 

 やたらと楽しそうな果南なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《果南視点》

 

 「天、機嫌直してよ」

 

 「ふんっ」

 

 頭から布団を被り、いじけている天。

 

 どうやらからかい過ぎたようだ。

 

 「もう果南なんか知らない。内浦の海に沈んでしまえ」

 

 「何気に怖いこと言わないでよ!?」

 

 「とりあえず、あの成金女は確実に沈める」

 

 「止めたげてよぉ!?」

 

 天の目がマジだった。

 

 ゴメン鞠莉、覚悟しといた方が良いかもしれない・・・

 

 「どいつもこいつも・・・人を何だと思ってるんだ・・・」

 

 ブツブツ恨み言を呟く天。

 

 完全に機嫌を損ねちゃったな・・・

 

 「アハハ・・・ゴメンって」

 

 背後から天を優しく抱き締める。

 

 「でも・・・嬉しかった。私のこと、大切に思ってくれて」

 

 「・・・大切じゃないわけないでしょ」

 

 ぶっきらぼうに言う天。

 

 「言わなくても分かってると思ってたのに・・・」

 

 「『言葉にしなくても分かるだなんて、そんなのはただの甘えだ』って言ってたのは、どの誰だったかなん?」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まる天。

 

 やれやれ・・・

 

 「・・・まぁ、分かってたけどさ。天が私を大切にしてくれてることは」

 

 「じゃあ何で鞠莉の計画に乗ったのさ・・・」

 

 「大切に思われてることと、女として見られてることは別問題じゃん」

 

 「それで俺に襲われたらどうするつもりだったんだよ・・・」

 

 「そのまま流れに身を任せるつもりだったよ?」

 

 「嘘でしょ!?それで良いの!?」

 

 「初めての相手が天なら良いかなって」

 

 「軽くない!?そういうのは好きな人に捧げるものじゃないの!?」

 

 「アハハ、天はお堅いねぇ」

 

 天を抱き締める腕に、キュッと力を込める。

 

 「・・・私だって、軽い気持ちでこんなことしたわけじゃないんだよ?」

 

 「・・・どういう意味?」

 

 「いや、だから・・・」

 

 あぁもう、言葉にするの恥ずかしいのにっ!

 

 「今日、初めてを捧げても良いかなって・・・その・・・私の好きな人に・・・」

 

 「っ・・・」

 

 天の顔が赤く染まる。

 

 まぁそういう私の顔も、きっと真っ赤になってるだろうけど。

 

 「もう・・・言わせないでよ、バカ・・・」

 

 天の背中におでこをくっつける。

 

 うぅ、恥ずかしい・・・

 

 「・・・実は俺、愛されてたのかなん?」

 

 「・・・茶化さないでよ」

 

 私にここまで言わせたのだ。

 

 天にはちゃんと答えてもらわないと・・・

 

 「・・・返事は?」

 

 「捧げられたいです」

 

 「そういう答え方!?」

 

 「あっ、俺も初めてなんだった・・・捧げたいし捧げられたいです」

 

 「そういうことじゃないよ!?」

 

 「冗談だよ」

 

 天は一度私から離れ、こちらへ向き直ると・・・

 

 そのまま私を抱き締めてきた。

 

 「・・・好きだよ、果南」

 

 「っ・・・」

 

 「これからもずっと・・・俺の側にいてくれる?」

 

 「・・・当たり前じゃん」

 

 笑みが零れる私。

 

 「だって私・・・天が大好きだもん」

 

 私の返事に、笑顔を見せる天。

 

 やがてどちらからともなく顔が近付き・・・その距離がゼロになる。

 

 私が18歳の誕生日は、一生忘れられない日になったのだった。

 

 ちなみに翌日、鞠莉は天の手によって本当に地獄を見せられるハメになるのだが・・・

 

 それはまた別の話である。




ハグしよっ!ムッティです!

改めて果南ちゃん、誕生日おめでとう!

果南ちゃんといえば、この間のヒロイン希望No.1を決めるアンケート・・・

見事1位に輝きました!どーん

えっ、志満さん?

あの人はもう殿堂入りよ、うん。

だっていつもぶっちぎりなんだもん(´・ω・`)

いやぁ、果南ちゃんと梨子ちゃんが激戦を繰り広げてましたね。

善子ちゃんも頑張ってたけど、2人には及ばなかった模様・・・

とはいえ、この結果でヒロインが決まるわけではありません。

誰が人気なのかを調べさせていただいた形なので、依然としてヒロインは未定のままです。

アンケートに答えて下さった皆様、ありがとうございました!



さてさて、前書きでも述べましたが・・・

1月23日のかすみちゃん、2月5日のエマちゃんの誕生日回を書けませんでした(´・ω・`)

本当に申し訳ない・・・

なかなか時間も無く、本編も進められてないこの状況・・・

重ね重ね申し訳ありません・・・

そこで方針としては、本編及びAqoursメンバーの誕生日回を最優先にしたいと思います。

μ's及びニジガクメンバーの誕生日回は、時間に余裕があったら書く方針にしようかなと。

それに時間を取られて本編が全く書けなくなると、本末転倒ですからね・・・

まぁ、昨年がまさにそうでしたが(´・ω・`)

μ's及びニジガクメンバーの誕生日回を楽しみにしていただいた方には大変申し訳ないのですが、何卒ご理解下さいますようお願い申し上げます。

余裕があったら本当に書こうと思っていますので!

ちなみにこれも前書きで述べましたが、実はかすみちゃんの誕生日回は一応書きました。

まぁ短い上にグダグダなんですが・・・見ます?

一応見たいという方がいらっしゃれば、番外編という形で投稿したいと思います。

いや、ホントに期待しないで下さいね(>_<)



近々本編も更新します!

今しばらくお待ち下さいませ・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一人として同じ人はいない。

実は体調を崩し、発熱症状が出ていたのはここだけの話・・・

まぁ検査を受けた結果、コロナでもインフルでも無かったんですけどね(´・ω・`)

皆さんも体調には十分ご注意下さい(>_<)


 ~図書館の場合~

 

 「天国ずら~!」

 

 たくさんの本に囲まれて、幸せそうな花丸。

 

 とりあえず行きたい場所へ行ってみようということで、俺達はまず図書館を訪れていた。

 

 「花丸ちゃん、オススメの本ってある?」

 

 「ルビィちゃんには、この本がオススメずら!」

 

 「花丸さん、私にも紹介して下さいな」

 

 「ダイヤさんには、この本をオススメしたいずら!」

 

 ルビィとダイヤさんに、オススメの本を紹介する花丸。

 

 そんな中で善子は、キョロキョロと何かを探してた。

 

 「う~ん・・・堕天使的な本とかないのかしら・・・」

 

 「善子、ここにあるよ」

 

 「ホントに?タイトルは?」

 

 「ハイス●ールD×D」

 

 「いや確かに堕天使出てくるけども!主人公は悪魔だから!」

 

 「イッセーと小猫ちゃんが結婚するなんて、あの頃は思わなかったなぁ」

 

 「それは中の人の話でしょうが!」

 

 流石は善子、話が分かるようだ。

 

 それに比べて・・・

 

 「スヤァ・・・」

 

 読書していたはずなのに、いつの間にか机に突っ伏して寝ている果南。

 

 コイツ・・・

 

 「やっぱり、ゴリラに活字は難しかったか・・・」

 

 「本人に聞かれたらしばかれるから止めなさい」

 

 「しかも『スヤァ・・・』って、どこの彼方ちゃんだよ」

 

 「いや、ニジガクメンバーの名前でツッコミ入れられても・・・」

 

 「よし、今のうちに竹筒を咥えさせよう」

 

 「まさかの中の人繋がり!?どこの禰豆子よ!?」

 

 善子のツッコミが止まらない。

 

 一方・・・

 

 「うぅ・・・匂いが・・・口の中が・・・」

 

 納豆キムチの余韻に悶えている鞠莉なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 ~手芸用品店の場合~

 

 「わぁ・・・!」

 

 目を輝かせているルビィ。

 

 次はルビィのリクエストで、手芸用品店を訪れていた。

 

 「見て見てお姉ちゃん!生地の種類がたくさんある!」

 

 「本当ですわね・・・これは迷ってしまいますわ・・・」

 

 真剣な眼差しで吟味している黒澤姉妹。

 

 そんな二人の様子を見ていたら、つい昔のことを思い出してしまった。

 

 「・・・懐かしいなぁ」

 

 「天?」

 

 「どうしたずら?」

 

 不思議そうに首を傾げる果南と花丸。

 

 「いや・・・俺も昔ことりちゃんと一緒に、あんな風に色々見て回ってたなぁって」

 

 μ'sの衣装担当だったことりちゃんは、休日になるとよく手芸用品店を訪れていた。

 

 俺もよく同行させてもらって、二人で次の衣装について話し合ってたっけ・・・

 

 「・・・今度東京に行ったら、久しぶりにことりちゃんを誘ってみようかな」

 

 「フフッ、良いんじゃない?」

 

 「きっと喜んでくれるわよ」

 

 微笑む果南と善子。

 

 喜んで付き合ってくれると良いなぁ・・・ん?

 

 「何かラインきた・・・あれ、ことりちゃんからだ」

 

 「おぉ、噂をすれば・・・何だって?」

 

 「えぇっと、なになに・・・『天くんからのデートのお誘い、ことりはいつでも待ってるからね!』だって」

 

 「嘘でしょ!?何で分かったの!?」

 

 「ことりちゃんっておっとりしてるけど、勘はメチャクチャ鋭いんだよね」

 

 「勘っていうレベルじゃないずら!?」

 

 「スマホに盗聴器とか仕掛けられてないわよねぇ!?」

 

 震えている果南、花丸、善子。

 

 一方・・・

 

 「ゴクゴク・・・プハァッ!コーラで全てを打ち消してやりマース!」

 

 全力でコーラを飲む鞠莉なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 ~堕天使ショップの場合~

 

 「フフッ・・・フフフッ・・・フフフフフッ!」

 

 「善子が壊れたんだけど」

 

 呆れる俺。

 

 堕天使ショップとか初めて来たわ・・・

 

 「何ですの、この怪しげな雰囲気のお店は・・・」

 

 「ちょっと怖いずら・・・」

 

 若干引いているダイヤさんと花丸。

 

 そんな中、ルビィがある物を発見する。

 

 「見て見て果南ちゃん、鞭があるよ」

 

 「鞭!?」

 

 よく見ると、壁際に長めの鞭が置いてあった。

 

 堕天使って鞭とか使うんだっけ・・・

 

 「な、何で鞭なんてあるの・・・?」

 

 「ルビィ、ちょっと欲しいかも」

 

 「嘘でしょ!?何に使うの!?」

 

 「果南ちゃんのお尻を叩いてあげたいなって」

 

 「何で!?」

 

 「だってさっき天くんに、ハリセンでお尻叩かれて鳴いてたから」

 

 「天あああああっ!ルビィちゃんが汚れちゃったでしょうがあああああっ!」

 

 「うゆ?」

 

 果南の絶叫に対して、首を傾げるルビィ。

 

 「どうしたの果南ちゃん?またお馬さんごっこやりたくなっちゃった?」

 

 「・・・え?」

 

 「ハリセンより鞭を使う方が、本物のお馬さんっぽく鳴けそうだもんね!今度はルビィを背中に乗せてほしいな!」

 

 なるほど・・・

 

 ルビィはさっきのやりとりを、お馬さんごっこだと思ってたのね・・・

 

 「・・・汚れてるの、果南の方じゃん」

 

 「うわああああああああああんっ!」

 

 耳まで赤くなった顔を両手で覆い、その場に崩れ落ちる果南。

 

 一方・・・

 

 「うっぷ・・・飲み過ぎたわ・・・」

 

 コーラを飲み過ぎて、苦しそうに呻く鞠莉なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 ~着物専門店の場合~

 

 「やはり着物は良いですわね」

 

 赤い着物を身に纏ったダイヤさんが、嬉しそうに呟く。

 

 試着をさせてもらえるということで、各々気に入った着物を試着させてもらっていた。

 

 「やっぱりダイヤさんは着物が似合いますね。凄く綺麗です」

 

 「フフッ、ありがとうございます」

 

 少し照れ臭そうなダイヤさん。

 

 そんな中、他の皆はというと・・・

 

 「な、何か落ち着かない・・・」

 

 「うぅ、動きにくいずら・・・」

 

 「この着物、海桜石でも仕込まれてるの・・・?」

 

 「悪魔の実の能力者か」

 

 善子にツッコミを入れる俺。

 

 女子力の低いヤツらめ・・・

 

 「アハハ・・・まぁ着慣れてないとそうなるよね」

 

 苦笑するルビィ。

 

 そういうルビィは着慣れているだけあって、特にそわそわしたりもせず普通にしていた。

 

 流石は名家・黒澤家の娘である。

 

 「名家の娘っていえば、海未ちゃんもよく着物を着てたっけなぁ・・・」

 

 「そういえば海未先生の家は、日本舞踊の家元だったよね?」

 

 「そうそう、だから稽古の時はいつも着物を着ててさ。その佇まいが凛としてて、凄く綺麗だったんだよね」

 

 普段とは違う海未ちゃんの姿に、ちょっとドキドキしたっけ・・・

 

 「今度久々に、着物姿を見せてもらおうかなぁ・・・」

 

 「フフッ・・・天くんが相手なら、海未先生は喜んで見せてくれるだろうね」

 

 ルビィとそんな会話をしていると、俺のスマホが鳴った。

 

 あれ、またラインだ・・・

 

 「おっ、海未ちゃんからだ・・・『家にある着物を全て用意して待ってます』だって」

 

 「だから何で分かるの!?」

 

 「怖いずら!おかしいずら!」

 

 「やっぱり盗聴器が仕掛けられてるんじゃないの!?」

 

 涙目で震えている果南、花丸、善子。

 

 一方・・・

 

 「くっ・・・あれだけコーラを飲んだのに、まだ打ち消せないっていうの・・・!?」

 

 無駄に険しい表情で口を押さえる鞠莉なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 ~ダイビングショップの場合~

 

 「ダイビング最高おおおおおおおおおおっ!」

 

 「ダイビングホリックが暴走してるんですけど」

 

 「完全に人が変わってますわね・・・」

 

 海から顔を出して叫ぶ果南を見て、小型船の上で呆れる俺とダイヤさん。

 

 まぁここまでインドア系だったし、アウトドア派の果南としては退屈だったのかもしれないな・・・

 

 「すみません西華さん、付き合ってもらっちゃって」

 

 「構わないさ。ちょうどお客さんもいなかったからね」

 

 笑っている西華さん。

 

 果南さんがダイビングする気満々だったので、西華さんが船の操縦を買って出てくれたのだ。

 

 「それにしても・・・その子達は大丈夫なのかい?」

 

 西華さんの視線の先には・・・

 

 「う、うゆぅ・・・」

 

 「グラグラ揺れてるずらぁ・・・」

 

 「気持ち悪い・・・うぷっ・・・」

 

 甲板の隅でグロッキー状態になっている、一年生三人組がいた。

 

 「とりあえずコーラを飲ませたんで、大丈夫だと思います」

 

 「そのコーラに対する信頼はどこから来てますの・・・?」

 

 「彼方ちゃんからです」

 

 「今日はやたらとニジガクメンバーの名前を出しますわね!?」

 

 「あれ、ダイヤさん・・・もしかして嫉妬してます?」

 

 「何故そのような結論に至りましたの!?」

 

 「ダイヤ、アンタも果南のライバルなんだね・・・」

 

 「勝手にライバル認定しないで下さいな!?」

 

 「ふぅ、楽しかったぁ・・・ん?何の話してんの?」

 

 「うるさいですわよ水ゴリラ!さっさと海に帰りなさい!」

 

 「酷い!?」

 

 ショックを受ける果南。

 

 一方・・・

 

 「・・・海水を飲んだら消えるかしら」

 

 遂に血迷い始めた鞠莉なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「さぁ、次はAmericaへ行きまショー!」

 

 「却下」

 

 「むぐぅっ!?」

 

 再び鞠莉の口に納豆キムチをぶち込む俺。

 

 流石に海外は無理である。

 

 「っていうか、それぞれの行きたい場所に行ってみて思ったけど・・・私達、やっぱりバラバラだよね」

 

 「フッ・・・ヨハネは誰とも混ざらない、孤高の存在なのよ・・・」

 

 「善子さん、罰金百円ですわ」

 

 「だからヨハネ・・・ハッ!?」

 

 「もう百円追加ですわね」

 

 「嫌ああああああああああっ!?」

 

 どんどん善子の懐が寂しくなっていく。

 

 哀れだなぁ・・・

 

 「でも天くんは、どこへ行っても楽しんでたずらね」

 

 「そう?」

 

 花丸とオススメの本を紹介し合ったり・・・

 

 ルビィと新曲の衣装で使う生地について話し合ったり・・・

 

 善子とタロットカードで盛り上がったり・・・

 

 ダイヤさんの着物の着付けを手伝わせてもらったり・・・

 

 果南とダイビングを楽しんだり・・・

 

 あっ、普通に楽しんでたわ。

 

 「本は絵里姉に勧められてよく読んでたし、生地とかはことりちゃんの影響で・・・タロットカードは希ちゃんが詳しくて教えてもらってたし、着物の着付けは海未ちゃんから教わったことがあって・・・ダイビングは果南のお店でアルバイトを始めてから、暇な時に連れてってもらったりしてたから」

 

 「私、タロットカードで人と盛り上がれたの初めてなんだけど・・・」

 

 「普通に着付けの手順を理解されていて、驚きましたわ・・・」

 

 「そんなに特別なことでもないと思うけど」

 

 「アハハ・・・流石は天くんだよね」

 

 苦笑するルビィ。

 

 「じゃあ、次は天くんの行きたい場所に行こっか。どこへ行きたい?」

 

 「んー、そうだなぁ・・・」

 

 俺は少し考えた後、ある場所を思いつくのだった。




どうも〜、ムッティです。

前書きでも述べましたが、実は少々体調を崩してました・・・

日中は何とも無かったのに、夜になって家に帰って来たら体調が悪くなりまして・・・

熱が38.5℃まで上がった時は『ヤバい、コロナかもしれない・・・』と焦ったものです。

まぁ市販の風邪薬を飲んで一晩寝たら、37℃くらいまで下がってくれて。

病院に行って検査してもらった結果、コロナもインフルも陰性という結果が出たわけなんですが・・・

その翌日には平熱に戻り、今ではピンピンしております。

いやホント、体調には十分気を付けないといけませんね。

あと、医療従事者の方々には頭が上がりません。

本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

皆さんもどうか、身体を大切にして下さいね。

という、柄にもなく真面目な話をしてしまいましたが・・・

本編の更新が遅くなってしまい、本当に申し訳ありません。

引き続きマイペース更新になりますが、これからもお付き合いいただけると幸いです。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心を温めてくれるのは仲間である。

最近久しぶりに『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』のアニメを見返しました。

その勢いで、ラノベも全て読破しちゃって・・・

やっぱり面白い(・∀・)ノ

あと、エンディングの『ゼロイチキセキ』は名曲。

南條さん神ですわ(´・ω・`)


 「・・・ふぅ」

 

 お湯に浸かり、温まっている俺。

 

 行きたい場所として温泉を希望した俺は、皆と一緒にホテルオハラへとやって来ていた。

 

 それにしても、温泉まであるのかこのホテル・・・

 

 「贅沢なホテルだなぁ・・・」

 

 「ウチのホテルだもの。当然じゃない」

 

 「だよねぇ・・・じゃなくて」

 

 ごく自然に会話をしてしまったが、この状況は全く自然ではなかった。

 

 「・・・何で鞠莉が男湯にいるの?」

 

 「来ちゃった♡」

 

 「ハウス」

 

 「ここが私の家なんだけど!?」

 

 鞠莉のツッコミ。

 

 あぁ、確かに・・・

 

 「っていうか、納豆キムチの匂いがするんだけど」

 

 「それは天のせいでしょうが!」

 

 「もう一度ぶち込んであげようか?」

 

 「許して下さい」

 

 お湯から上がって土下座する鞠莉。

 

 ちゃんと身体にバスタオルを巻いてあるので、問題は無い・・・

 

 いや、そもそも男湯にいるのが問題なんだけど。

 

 「へぇ、こっちはこうなってるんだねぇ」

 

 「未来ずら~!」

 

 「いや、未来ではないでしょ」

 

 「ほらお姉ちゃん、早く早く」

 

 「ル、ルビィ!?引っ張るのはお止めなさい!」

 

 ぞろぞろと入ってくる皆。

 

 いやいやいや!?

 

 「何で皆来てんの!?」

 

 「いやほら、天一人じゃ寂しいだろうなって」

 

 「いやマズいでしょ!?ここ男湯だよ!?」

 

 「大丈夫よ。今の時間だけ貸切にしてもらったから」

 

 「こんなところで権力使わないでくれる!?」

 

 ホテルオハラの皆さん、迷惑かけてすみません・・・

 

 「っていうか、一番反対しそうなダイヤさんまで何してるんですか・・・」

 

 「や、やはり全員で楽しむべきではないかと思いまして・・・まぁ、完全な裸の付き合いとはいきませんけれど」

 

 少し恥ずかしそうなダイヤさん。

 

 全員バスタオルを着用しているとはいえ、やることが大胆すぎないか・・・?

 

 「タオルをお湯につけるのはマナー違反だけど・・・まぁ、今日はちょっと許してもらうとしようか」

 

 「良いお湯ずら~♪」

 

 「クックックッ・・・地獄の釜に比べたら生温いわ!」

 

 「あぁ、極楽ぅ・・・」

 

 「ルビィ、年寄り臭いですわよ」

 

 次々とお湯に入ってくる皆。

 

 まぁ乳白色の温泉なので、入ってしまえばタオルを巻いていようがいまいが見えないんだけども。

 

 「フフッ・・・どんな気分?」

 

 俺の腕に抱きついてくる鞠莉。

 

 バスタオルしか身につけていない為、ほぼダイレクトに胸の柔らかい感触が伝わってくる。

 

 「こんな可愛い女の子達と一緒に混浴なんて・・・天は幸せ者デース♪」

 

 「いや、まぁ確かに幸せなんだけど・・・ある意味生殺しだよね」

 

 「あら、じゃあマリーはバスタオル外しましょうか?マリーの身体、好きなだけ弄んでちょうだい♡」

 

 「いただきます」

 

 「ブッブー!ですわ!」

 

 俺と鞠莉の間に割って入ってくるダイヤさん。

 

 チッ・・・

 

 「アハハ、相変わらず天は正直だねぇ」

 

 いつの間にか隣に来ていた果南が、面白そうにクスクス笑っている。

 

 「でもまぁ・・・寂しそうにしてるより、そっちの方が天らしくて良いよ」

 

 「え、俺いつ寂しそうにしてた?」

 

 「最初からずら」

 

 苦笑する花丸。

 

 「楽しんでる時、ふと寂しそうな顔を見せる瞬間があったずら」

 

 「まぁさっきの話を聞いて、合点がいったけどね」

 

 溜め息をつく善子。

 

 「アンタ、μ'sのメンバーのこと思い出してたでしょ」

 

 「うっ・・・」

 

 そういえば、ちょいちょい思い出してたな・・・

 

 ことりちゃんや海未ちゃんもそうだけど、希ちゃんとか絵里姉とか・・・

 

 「・・・ゴメン」

 

 「謝ることなんてないよ。それだけμ'sが、天くんにとって大きな存在だってことだもん。それはルビィ達だって分かってるから」

 

 首を横に振るルビィ。

 

 「だから天くんが寂しさを感じないように、皆で一緒にいようってことになったの」

 

 「それでわざわざ来てくれたの・・・?」

 

 「そういうことですわ」

 

 ダイヤさんが俺の顔を覗き込む。

 

 「恥ずかしい思いをしてまで、こうして天さんのお側に来たのですから。ちゃんと私達を見て下さらないと・・・ブッブー、ですわよ?」

 

 「っ・・・」

 

 その優しい微笑みに、思わずドキッとしてしまう。

 

 改めて思うけど、本当に美人だよなダイヤさん・・・

 

 「ちょっとダイヤ!?マリーの天を取らないでちょうだい!」

 

 「あら、私の天さんでもありますわよ?同じ生徒会の仲間なのですから」

 

 「それなら、私の天でもあるよね。ウチのお店のアルバイトなんだからさ」

 

 笑いながら背後から抱きついてくる果南。

 

 ちょ、胸の感触がっ!?

 

 背中でムニュって潰れる感触がっ!?

 

 あと何かコリッとした感触がっ!?

 

 「それを言ったら、天はヨハネのリトルデーモンなんだからっ!」

 

 「善子ちゃん、罰金百円だね」

 

 「だからヨハネ・・・ってまたやっちゃったあああああっ!?」

 

 「学習能力ゼロずら」

 

 呆れている花丸。

 

 「まぁそれはともかく、天くんはマル達の天くんずら!同じ一年生組の仲間ずら!」

 

 「三年生組の皆には負けないよ!」

 

 「それなら天を賭けた勝負デース!」

 

 「バトルロワイヤルですわ!」

 

 「面白そうじゃん!受けて立つよ!」

 

 「堕天使の力、思い知るが良いっ!」

 

 何故かその場で水掛け合戦・・・もといお湯掛け合戦が始まる。

 

 楽しそうだなぁ・・・

 

 「・・・懐かしいなぁ」

 

 

 

 

 

 『天くんは渡さないよっ!』

 

 『いざ、尋常に勝負です!』

 

 『負けるもんですかっ!』

 

 『フフッ、面白そうやん♪』

 

 『だ、誰か助けてぇ!』

 

 『いっくにゃー!』

 

 『ちょっと、お風呂場では静かにしへぶっ!?』

 

 『あっ、にこちゃんがK.O.された!?』

 

 『ハラショー!ウチの可愛い弟は誰にも渡さないわ!』

 

 

 

 

 

 「・・・ハハッ」

 

 あんな騒がしい日々を、またこうして過ごせるとは思わなかったなぁ・・・

 

 「・・・ありがとう、皆」

 

 そんな感謝の言葉は、騒がしい声達に掻き消されてしまったけれど。

 

 その気持ちは、ちゃんと皆に届いたような気がした。

 

 「これでも食らうがいい!堕天使奥g・・・キャアッ!?」

 

 善子が足を滑らせる。

 

 慌ててどこかに掴まろうとした手が、隣にいたダイヤさんが身に付けていたバスタオルを掴み・・・思いっきり剥ぎ取ってしまう。

 

 あっ・・・

 

 「・・・えっ?」

 

 俺の目の前に、全裸のダイヤさんが立っていた。

 

 全てが丸見えの状態である。

 

 「えーっと・・・ご馳走様です」

 

 「ぴっ・・・ぴぎゃああああああああああっ!?」

 

 ダイヤさんの絶叫が、大浴場に響き渡るのだった。




どうも〜、ムッティです。

さて、明日はバレンタインデーですね。

前は『リア充は滅びろ(゜言゜)』なんて思ったりしていましたが・・・

今は『関係無いしどうでも良い(ヾノ・∀・`)』に変わりました。

大人になったんですね!(多分違う)

幸せなのは良いことですよ、ハハハ( ̄ー ̄)

・・・まぁ駅のホームとかでイチャイチャされると、突き落としたくなるんで止めてほしいですけど←

そんな1%の冗談はさておき、今回は温泉回!

遂にダイヤさんが裸を見られるという・・・

天、ギルティ(゜言゜)

ちなみにアニメの温泉回では、花丸ちゃんが素晴らしい仕事をしてましたね(笑)

あれが無かったら、三年生組三人の裸を拝めたものを・・・

まぁ、アニメ的に無理か(元も子も無い)

そろそろアニメ第二話の内容も終わる・・・はずです←

もっとサクサク進めたい(´・ω・`)

あと『恋愛的な要素を増やしたい』とか言っておきながら、全然増やせてない(´・ω・`)

・・・頑張ろ(適当)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

皆違って皆良い。

ハッピーバレンタイン!

・・・μ's、Aqours、ニジガクのメンバー達からチョコをもらいたいだけの人生だった(涙)


 「うぅ・・・もうお嫁に行けませんわ・・・」

 

 耳まで真っ赤にしたダイヤさんが、枕に顔を埋めて羞恥心に悶えている。

 

 お風呂から上がった俺達は、鞠莉の部屋へとやって来ていた。

 

 「ご、ごめんなさい・・・」

 

 流石に申し訳なく思っているのか、気まずそうに謝る善子。

 

 まさか善子の不幸体質の影響が、ダイヤさんにいってしまうとは・・・

 

 「元気出しなさいよ、ダイヤ。裸を見られたぐらいで何を落ち込んでるの?」

 

 「『ぐらい』とは何ですか!?乙女が裸を見られるなんて一大事ですわよ!?」

 

 「私は天にだったら、裸ぐらい平気で見せられるけど?」

 

 「マジで?じゃあ見せてもらって良い?」

 

 「OK♡すぐに服を脱ぐわね♡」

 

 「ファントムシュートおおおおおっ!」

 

 「むごぉっ!?」

 

 鞠莉の口に納豆キムチをぶち込むダイヤさん。

 

 いや、ファントムシュートでも何でもない気がするんだけど・・・

 

 「えーっと・・・ダイヤさん、何かすみません・・・」

 

 「天さんは完全に不可抗力でしたので、何も悪くありませんわ・・・こちらこそ、見苦しいものをお見せして申し訳ありません・・・」

 

 「見苦しいですって!?張り倒しますよ!?」

 

 「天さん!?何故怒ってらっしゃるのですか!?」

 

 「雪のように白い肌、慎ましい胸、美しくくびれた腰、しなやかな太もも、柔らかそうなお尻・・・ダイヤさんの裸のどこが見苦しいって言うんですかっ!」

 

 「ぴぎゃああああああああああっ!?」

 

 「あれ?」

 

 何故かのたうち回っているダイヤさん。

 

 おかしいな、フォローしたつもりなのに・・・

 

 「あーあ、天が完全にトドメをさしちゃった・・・」

 

 「もうダイヤさんのHPは0ずら・・・」

 

 「無自覚って、時には凶器になるんだね・・・」

 

 呆れている果南、花丸、ルビィ。

 

 解せぬ・・・

 

 「それより鞠莉、本当に泊めてもらって良いの?」

 

 「えぇ、構わないわよ・・・」

 

 納豆キムチにげんなりしながら、鞠莉が頷いてくれる。

 

 俺達が温泉に入っている間に、強い雨が降り始めてきてしまったのだ。

 

 更に風も吹き始めてしまったことで、淡島から出る船は全てストップしてしまったらしい。

 

 帰れなくなってしまった俺達は、鞠莉の厚意でホテルオハラに泊めてもらうことになったのだった。

 

 「とはいえ、他の部屋が空いてないみたいで・・・マリーの部屋に泊まってもらうことになるんだけど、大丈夫?」

 

 「最上階のスイートルームに泊まれるのに、『大丈夫じゃない』なんて言う人はいないと思うけど」

 

 むしろここを自分の部屋にしてるとか、どんだけリッチな生活してんのこの子・・・

 

 

 

 

 

 ドオオオオオンッ!

 

 

 

 

 

 「きゃあっ!?」

 

 「ずらぁっ!?」

 

 大きな雷の音に悲鳴を上げ、抱き合う果南と花丸。

 

 結構大きな雷だったな・・・

 

 「二人とも、雷ダメなの?」

 

 「う、うん・・・ちょっと怖くて・・・」

 

 「おへそ取られちゃうずら・・・」

 

 「可愛いなオイ」

 

 ちょっとほっこりしていると、フッと部屋の電気が消えた。

 

 「ちょ、停電!?」

 

 「真っ暗ずら!?」

 

 「ぴぎぃっ!?」

 

 「おっと・・・落ち着いて、ルビィ」

 

 「クックックッ・・・やはりヨハネには闇が似合うわ・・・」

 

 「そう言いつつ、私に抱きついているではありませんか・・・あと、罰金百円ですわ」

 

 「しまったあああああっ!?」

 

 善子の悲鳴は無視するとして・・・

 

 「鞠莉、どうにか出来る?」

 

 「ちょっと待っててちょうだい」

 

 鞠莉はそう言うとスマホを取り出し、どこかへ電話をかけ始めた。

 

 「うん・・・うん・・・了解。よろしくね」

 

 電話を切る鞠莉。

 

 「ホテルの従業員が、すぐに予備電源で電力を復旧させてくれるわ。それまで待機ね」

 

 「了解」

 

 返事をした俺はスマホのライトを点けると、その上にさっき買った水入りのペットボトルを置いた。

 

 すると・・・

 

 「おぉ・・・!」

 

 「凄いずらぁ・・・!」

 

 感嘆の声を上げる果南と花丸。

 

 こうすると光が水に反射して、ライトのように広範囲に拡散されるのだ。

 

 おかげで少しは明るくなった。

 

 「天、よくこんな技知ってたわね?」

 

 「絵里姉って、暗いところ本当にダメな人なんだよ。だからこういう時の為に、色々調べたことがあって」

 

 苦笑する俺。

 

 まさかこんなところで活きるとは・・・

 

 「明りがあるってありがたいね・・・」

 

 「ホッとするずらぁ・・・」

 

 抱き合いながら笑みを見せる果南と花丸。

 

 「大丈夫よルビィ、マリーが側にいるわ」

 

 「ありがとう、鞠莉ちゃん」

 

 ルビィを背後から抱き締める鞠莉と、鞠莉の腕の中にすっぽり収まっているルビィ。

 

 「善子さん、もっとくっついても良いのですよ?」

 

 「・・・じゃあ遠慮なく」

 

 「あら、『ヨハネ』とは言い返さないのですか?」

 

 「これ以上の罰金はゴメンよ」

 

 「フフッ、それは残念ですわ」

 

 「あの、さっきはゴメン・・・その、お風呂場で・・・」

 

 「・・・思い出させないで下さいまし」

 

 「わあああああっ!?ゴメンゴメン!?」

 

 真っ赤な顔を両手で覆うダイヤさんを、慌てて慰める善子。

 

 あれ、この光景・・・

 

 

 

 

 

 『絵里ちゃ~ん!』

 

 『きゃっ・・・もう、凛ったら甘えん坊なんだから』

 

 『花陽ちゃん、また育ったんじゃない?わしわししちゃうぞ~?』

 

 『の、希ちゃん!?誰か助けてぇ!』

 

 『ぐぬぬ・・・もう一回勝負よ、真姫!』

 

 『はいはい・・・もう、にこちゃんは負けず嫌いなんだから』

 

 

 

 

 

 「・・・何だ、もう良い関係になってるじゃん」

 

 「天さん?何か仰いましたか?」

 

 「ダイヤさんの身体は綺麗だったなぁって」

 

 「ぴぎゃあああああっ!?」

 

 「ちょっと天!?思い出させないでよ!?」

 

 「アハハ、ゴメンゴメン」

 

 これは俺が指摘するのも野暮だし、言わないでおこうかな・・・

 

 「そういえばさぁ・・・」

 

 果南が思い出したように口を開く。

 

 「結局私達、思いっきり遊んじゃったけど・・・曲作り、どうしよっか?」

 

 「結果的に、マル達のタイプはバラバラってことが分かっただけずら」

 

 「意見が統一出来たわけじゃないもんね・・・」

 

 ちょっと弱気な皆。

 

 やれやれ・・・

 

 「バラバラだって良いじゃん」

 

 「え・・・?」

 

 俺の発言に、首を傾げる鞠莉。

 

 「そりゃ同じ人なんていないんだから、意見だってバラバラにもなるよ。そこからどうすり合わせていけるかじゃない?」

 

 「で、でもどうやって・・・」

 

 「そこは話し合いでしょ。お互いの意見を尊重した上で、どこまでお互いが歩み寄れるのか・・・今の皆なら、それが出来ると俺は思うけど」

 

 俺の言葉に、顔を見合わせる六人。

 

 やがて・・・

 

 「・・・あんまり激しい曲調は止めようか」

 

 「じゃあその代わり、今までのAqoursに無い曲調にするずら!」

 

 「良い意味でアイドルらしくない曲、みたいな?」

 

 「それは面白そうですわね。となると・・・」

 

 「カッコ良い曲、かな?」

 

 「それは盛り上がりそうデース♪」

 

 「そう言えば今日、着物専門店に行ってみて思ったんだけど・・・『和』を取り入れた衣装を作ってみたいなって」

 

 「『未熟DREAMER』みたいな?」

 

 「あれよりもっと『和』っぽい・・・それこそ、着物っぽい感じかな?」

 

 「ねぇルビィ、それって踊りやすい衣装に出来るかしら?アップテンポな曲でも、踊れちゃうような感じが良いんだけど」

 

 「うん、出来ると思う。お姉ちゃん、手伝ってくれる?」

 

 「勿論ですわ。腕が鳴りますわね」

 

 「それならマリーは、『和』テイストのアップテンポなカッコいい曲を作るわ!それなら、衣装と曲が合うでしょう?」

 

 「何か楽しそうずら~!」

 

 「花丸も手伝ってちょうだい!最高の曲を作るわよ!」

 

 「了解ずら!」

 

 「何か燃えてきた!善子ちゃん、カッコいい振り付け考えるよ!」

 

 「はいはい、とことん付き合うわよ」

 

 わいわい盛り上がる皆。

 

 μ'sもAqoursも、基本的に皆のタイプはバラバラだ。

 

 だからこそ・・・皆が一つになった時、その魅力が何倍にも増すのだ。

 

 要はこの十人十色こそ、μ'sやAqoursの最大の強みなのである。

 

 っていうか・・・

 

 「ちょっと皆、作詞を忘れてない?」

 

 「あら、忘れてないわよ?」

 

 微笑む鞠莉。

 

 「良い歌詞を書いてくれる人なら、もういるじゃない・・・マリー達の目の前に」

 

 鞠莉も果南もダイヤさんも、善子も花丸もルビィも・・・笑顔で俺を見ていた。

 

 やれやれ、最初からそのつもりだったのね・・・

 

 「仕方ない・・・俺も一年生組として、一肌脱ぎますかね」

 

 こうして俺達は身を寄せ合いながら、次の曲について話し合うのだった。




どうも〜、ムッティです。

バレンタインといえば、皆さんバレンタインジャンボ買いました?

一等は何と二億円・・・欲しい(切実)

二億円あったら、とりあえず一ヶ月は旅行に行きたいなぁ・・・

思いきって日本一周旅行とか良いかも・・・

夢が膨らみます(^^)

・・・当たる確率は低いですけど(´・ω・`)

でも買わないと当たらない!

なので買いました(発売日当日)

当たれ二億円ー!

・・・まぁぶっちゃけ二億円とは言わないから、百万円くらい当たんないかな(´・ω・`)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

究極の選択は突然迫られるものである。

ようやくアニメ二話の内容が終わる・・・

スローペース過ぎるでしょ・・・


 翌朝・・・

 

 「眠い・・・」

 

 「完全に睡眠不足だね・・・」

 

 フラフラしている果南とルビィ。

 

 あの後盛り上がりまくった俺達は、徹夜で新曲を完成させていた。

 

 振り付けやフォーメーション、衣装のデザインまでバッチリである。

 

 「気付いたら朝だったわね・・・」

 

 「のめり込み過ぎたわ・・・」

 

 善子と鞠莉も眠そうだ。

 

 まぁ、電気が復旧したことにさえ気付かなかったくらいだもんなぁ・・・

 

 「ずらぁ・・・」

 

 「花丸さん、よく眠ってますわね・・・」

 

 「限界だったんでしょうね・・・ダイヤさんは大丈夫ですか?」

 

 「えぇ、ありがとうございます」

 

 花丸をおんぶしつつ、ダイヤさんと話す俺。

 

 微笑んではいるものの、ダイヤさんも明らかに疲労の色が見えた。

 

 「・・・学校は休もうか」

 

 「そう言うと思って、既に手配済みデース」

 

 「流石だぜ幼馴染」

 

 「いや、休むのはマズいのでは・・・」

 

 「このままだと、生徒会長が授業中に爆睡するという事件が起きますよ」

 

 「・・・偶には休息が必要ですわね」

 

 あっさり方針転換したダイヤさん。

 

 流石にそんな事態になるのは嫌らしい。

 

 「おっ、着きましたよ」

 

 そうこうしているうちに、目的地である『十千万』に到着した。

 

 二年生組の三人は、ここに泊まって曲作りをしていたらしい。

 

 「あれ、屋根の上にいるの千歌じゃない?」

 

 果南がそんなことを言い出す。

 

 いやいやいや・・・

 

 「いくら何でも、屋根の上なんて危ない場所にいるわけ・・・」

 

 「あっ、皆!お~い!」

 

 屋根の上から手を振っている千歌。

 

 あんにゃろう・・・

 

 「落ちてしまえば良いのに」

 

 「天くん!?何でそんなこと言うの!?」

 

 「逆にそんなところで何してんの?」

 

 「輝いてる」

 

 「鞠莉キング・・・あのアホ毛、撃ち抜け」

 

 「了解」

 

 「どこのエニエス・ロビー!?鞠莉ちゃんもパチンコでこっち狙わないでくれる!?」

 

 「千歌、まだお前の口から聞いてねぇ!『落ちたい』と言えェ!」

 

 「落ぢたいっ・・・って言うかあああああっ!」

 

 「・・・何この茶番」

 

 「どれだけワンピ●ースが好きなのよ・・・」

 

 いつの間にか『十千万』から出てきた曜と梨子が呆れている。

 

 大好きに決まってるわバカヤロー。

 

 名シーンなんだぞここ。

 

 「っていうか・・・何か皆、距離が近くなってない?」

 

 「色々あったんだよ、色々」

 

 果南とルビィは手を繋いでるし、善子と鞠莉は互いの腰に手を回して支え合っている。

 

 ダイヤさんは俺の背中で眠る花丸の頭を、微笑みながら優しく撫でてるし・・・

 

 この一晩で、皆の距離がグッと縮まったのは間違いない。

 

 「新曲もバッチリ出来上がったから、楽しみにしといて」

 

 「フフッ、期待してるわ」

 

 笑顔を見せる梨子。

 

 その時、鞠莉のスマホが鳴った。

 

 「ピッ・・・もしもし?」

 

 電話に出る鞠莉。

 

 「うん・・・うん・・・えぇっ!?」

 

 「うおっ!?」

 

 急に大声を上げる鞠莉。

 

 ビックリしたぁ・・・

 

 「ど、どうしたの・・・?」

 

 「今度は何・・・?」

 

 おずおずと尋ねるルビィと果南。

 

 鞠莉の表情を見ると、良い知らせではなさそうだ。

 

 「・・・学校説明会が、一週間延期になるって」

 

 「えぇっ!?」

 

 「そんな!?」

 

 善子とダイヤさんが悲鳴を上げる。

 

 ってことは・・・

 

 「次の週の日曜日になる、ってことよね・・・」

 

 「でも、次の週の日曜日って・・・」

 

 顔を見合わせる曜と梨子。

 

 そう、これは非常にマズい事態だったりする。

 

 「昨晩の雨の影響で、道路の方に影響が出てるみたい・・・復旧に少し時間がかかりそうだから、一週間延期した方が良いって・・・」

 

 険しい表情の鞠莉。

 

 マジか・・・

 

 「・・・厳しいな」

 

 正直、こういう事態は予想していなかった。

 

 どうするべきか・・・

 

 「どうしたの皆?そんな難しい顔しちゃって」

 

 キョトンとしている千歌。

 

 「その分もっと良いパフォーマンスが出来るように、頑張れば良いじゃん」

 

 「・・・マジで言ってる?」

 

 「大マジですっ」

 

 ドヤ顔で胸を張る千歌。

 

 やっぱり大きい・・・じゃなくて。

 

 「・・・どうやら状況が分かってないみたいですわね」

 

 「アハハ・・・まぁ千歌らしいけど」

 

 溜め息をつくダイヤさんと、呆れている果南。

 

 何で気付かないの、アイツ・・・

 

 「耳の穴かっぽじってよく聞け、腐ったミカン」

 

 「また腐ったミカンって言われた!?」

 

 「俺、金●先生をリスペクトしてるから」

 

 「あの人は『腐ったミカンなんかじゃない』って言ってる人なんだけど!?」

 

 「あっそう」

 

 「リスペクトしてるんじゃなかったの!?」

 

 ギャーギャー騒がしい千歌。

 

 発情期なら相手になるぞコノヤロー。

 

 「ラブライブの予備予選がいつ行なわれるか、ちゃんと覚えてる?」

 

 「学校説明会の次の日曜日でしょ?」

 

 「『何を今さら聞いてんの?』みたいな顔しないでくれる?マジで屋根から突き落としたくなるから」

 

 「さっきより不機嫌になってない!?」

 

 何でそれが分かってて、今の状況が分からないのか・・・

 

 「じゃあ、学校説明会が一週間延期になったら・・・どうなる?」

 

 「どうなるって、学校説明会とラブライブの予備予選が重なる・・・ああっ!?」

 

 ようやく気付いたらしい千歌が悲鳴を上げる。

 

 それと同時に、千歌の体勢が崩れた。

 

 「うわぁっ!?」

 

 「っ・・・曜、パスっ!」

 

 「うわっ!?」

 

 曜に花丸をパスし、勢いよく駆け出す俺。

 

 屋根から落ちる千歌の下へと滑り込み、何とかそのまま千歌をキャッチした。

 

 「天くん!?千歌ちゃん!?」

 

 「大丈夫!?」

 

 駆け寄ってきてくれる皆。

 

 いったぁ・・・

 

 「痛・・・くない?」

 

 目をギュッと閉じていた千歌が、恐る恐る目を開ける。

 

 「って天くん!?大丈夫!?」

 

 「平気平気・・・それより千歌は?怪我してない?」

 

 「う、うん・・・大丈夫・・・」

 

 「・・・良かったぁ」

 

 思わず千歌を抱き寄せる。

 

 危ないところだった・・・

 

 「あんな高いところに上るから・・・危険なマネはしないこと。いい?」

 

 「ご、ごめんなさい・・・」

 

 何故か顔が赤い千歌。

 

 あれ、何か右手が柔らかいものを・・・むにっ。

 

 「あっ・・・」

 

 何やら声を出す千歌。

 

 もしかして、今の衝撃でどこか痛めて・・・

 

 「どうした!?どこか痛い!?」

 

 「そうじゃなくて・・・んっ・・・胸・・・あっ・・・」

 

 「胸って・・・あっ」

 

 俺は今、千歌をお姫様抱っこしている状態なのだが・・・

 

 俺の右手が、千歌の左胸を揉んでいる状態だった。

 

 おぉ、大きくて柔らかい・・・

 

 しかもこの感触、恐らくノーブラだな・・・

 

 その証拠に、中心にコリコリしたものが・・・

 

 って感触を味わってる場合じゃなかったあああああっ!? 

 

 「すみませんわざとじゃないんです勘弁して下さい」

 

 「ちょ、大丈夫だから!」

 

 急いで千歌を下ろして土下座する俺。

 

 やってしまった・・・

 

 「全然怒ってないから!むしろ助けてくれて感謝してるから!」

 

 「さて、警察に自首してくるか・・・」

 

 「ストップうううううっ!」

 

 千歌に羽交い絞めにされる俺。

 

 一方、他の皆は苦笑していた。

 

 「アハハ、相変わらずのラッキースケベっぷりだね・・・」

 

 「これが天デース」

 

 「昨日のダイヤの裸とかね」

 

 「ぴぎゃあああああっ!?」

 

 「だから思い出させないでってば!?」

 

 「お姉ちゃんしっかり!?」

 

 「全く、これだから天くんは・・・」

 

 「ずらぁ・・・」

 

 いや、花丸はいい加減起きろや。

 

 何であんな乱暴にパスしたのに寝てられんの?

 

 「でもホント、無事で良かったわ・・・」

 

 「あ、ありがと・・・」

 

 何故か再び顔が赤くなる千歌。

 

 俺が胸を揉んだせいか・・・

 

 「こういうところが鈍感なんだよなぁ・・・」

 

 曜が何やら呟いていたが、聞こえなかったのでスルーして・・・

 

 「それで本題に戻るけど・・・千歌、どういう状況か理解出来た?」

 

 「っ・・・はい、出来ました・・・」

 

 一気に表情が青褪める千歌。

 

 学校説明会が開催される日と、ラブライブの予備予選が行なわれる日が重なる・・・

 

 つまり、俺達は選択しなければならないのだ。

 

 「学校説明会と予備予選・・・どっちを優先する?」

 

 「どうしよおおおおおおおおおおっ!?」

 

 頭を抱える千歌なのだった。




どうも〜、ムッティです。

前書きでも述べましたが、これにてアニメ二話の内容は終了です。

次回からは三話に入っていくのですが・・・

個人的に、早く四話を書きたいんですよね。

ダイヤさんメインの回ですし、今のところ天がさん付け及び敬語で話してるメンバーがダイヤさんだけなんですよ。

この回を機に、二人の仲をグッと縮めさせたいところ・・・

お楽しみに(・∀・)ノ

・・・その前に三話を終わらせなきゃ(´・ω・`)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

簡単には決められないこともある。

『ONE PIECE』を読んでいて思うんだけど、ワノ国編ってどういう終わり方するのかな?

果たして四皇を二人も倒せるのか・・・

ちなみにヤマトも好きだけど、個人的にはキャロットが仲間になってくれたら嬉しい。


 「さて、整理しようか」

 

 部室にて、大きな地図を広げる俺。

 

 放課後、俺達は部室に集まっていた。

 

 ちなみにすっかり目が冴えてしまったので、結局皆ちゃんと登校して授業も受けていた。

 

 偉い偉い。

 

 「今回のラブライブ予備予選が行なわれる場所が・・・ここだね」

 

 「えっ、山の中じゃん!」

 

 「ここに特設ステージを作って開催するんだって。バカみたいだよね」

 

 「ストレートにディスるね!?」

 

 曜のツッコミ。

 

 何でこんな山の中を会場にしたんだか・・・

 

 「で、浦の星が・・・ここか」

 

 二つの地点を丸で囲み、線で結ぶ。

 

 分かってはいたけど、距離があるよなぁ・・・

 

 「バスや電車を使うというのは・・・」

 

 「調べてみましたけど・・・ちょっと厳しいですね」

 

 ダイヤさんの提案に、首を横に振る俺。

 

 予備予選の会場も浦の星も、交通の便が良いとは言えない場所にある。

 

 どうすべきか・・・

 

 「だったら、空は?」

 

 「・・・俺だけど?」

 

 「天くんのことじゃないわよ!?」

 

 梨子のツッコミ。

 

 海未ちゃんみたいなこと言っちゃった・・・てへっ。

 

 「空だったら、鞠莉ちゃんの家のヘリはどう?」

 

 「パパには『自力で入学希望者を集める』って言っちゃってるし、今さら『力貸して』とは言えまセーン・・・」

 

 千歌の問いに、うなだれながら答える鞠莉。

 

 だよねぇ・・・

 

 「クックックッ・・・それなら、この堕天使の翼で・・・!」

 

 「あー、その手があったねー」

 

 「堕天使ヨハネの翼で大空から会場入りずらー」

 

 「流石はヨハネ様、そこに痺れる憧れるー」

 

 「嘘よ嘘!?常識で考えなさいよ!?」

 

 ルビィ・花丸・俺の気の抜けた相槌に、気まずくなった善子がツッコミを入れる。

 

 日頃から堕天使を名乗ってるヤツに、常識を説かれてもねぇ・・・

 

 「そうずら~?」

 

 「ふ~ん?」

 

 「へ~?」

 

 「ぐぬぬぬ・・・アンタ達、わざとやってるでしょう!?」

 

 「ぴぎぃっ!?」

 

 「ずらぁっ!?」

 

 「うおっ!?」

 

 善子が両腕でルビィと花丸の首を絞め、ルビィと花丸の間に俺が挟まれる形になった。

 

 後頭部には善子の、左頬にはルビィの、右頬には花丸の胸が押し付けられて・・・

 

 うん、幸せなんだけど息苦しいわ・・・

 

 「じゃあ海は?」

 

 「・・・私ですが?」

 

 「海未先生のモノマネしなくていいから!」

 

 再び梨子のツッコミ。

 

 我ながら、今のモノマネは似てたな・・・

 

 「ウチの船は仕事があるから使えないなぁ・・・」

 

 「パパの船、しばらく帰って来ないんだよねぇ・・・」

 

 果南と曜が首を横に振る。

 

 これもダメか・・・

 

 「・・・まぁ実は一つ、間に合う方法があるんだよね」

 

 「えぇっ!?そんな方法あるの!?」

 

 驚く千歌。

 

 「まぁね」

 

 「何!?どんな方法!?」

 

 「予備予選の一番最初に歌うこと・・・終わり次第すぐに会場を出ると、ギリギリ乗れるバスがあるんだよ。そのバスに乗れたら、学校説明会には間に合う」

 

 これなら、予備予選と学校説明会の両方に出ることが可能だ。

 

 ただ・・・

 

 「次のバスは三時間後だから、学校説明会には間に合わない・・・一番以外の順番になったら、もうアウトだね」

 

 「順番って、どうやって決まるの・・・?」

 

 恐る恐る尋ねてくる梨子に、俺は意を決して答えるのだった。

 

 「それは・・・」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 翌日・・・

 

 「・・・抽選かぁ」

 

 溜め息をつく私。

 

 私達は、予備予選の順番を決める抽選会へとやって来ていた。

 

 これで運命が決まるかと思うと、緊張してくるわね・・・

 

 「っていうか、天くんはどこへ行ったの?」

 

 「うさ耳リボンを着けたお姉さんとお話した後、一緒にどっか行っちゃった」

 

 「・・・あの女ったらし」

 

 千歌ちゃんの答えに、舌打ちしたくなる私。

 

 この大事な時に・・・!

 

 「皆さん、お待たせしました!ただ今より、抽選会を行ないます!」

 

 進行役らしいお姉さんが、ステージの上に登場する。

 

 オレンジ色のボブカットの髪に、緑色のうさ耳リボンを着けて・・・

 

 うさ耳リボン?

 

 「あっ、あのお姉さんだ!」

 

 お姉さんを指差す千歌ちゃん。

 

 あのお姉さん、天くんと知り合いなの・・・?

 

 「進行役は私、上杉四葉が務めさせていただきます!そして本日はスペシャルゲストとして、こちらの方に来ていただいています!どうぞ!」

 

 「こんにちは、絢瀬天です」

 

 「何してるのあの子!?」

 

 思わず全力でツッコミを入れてしまう。

 

 スペシャルゲストってどういうこと!?

 

 天くんのことを知らない他のスクールアイドル達がキョトンとしてるんだけど!?

 

 「『え、誰?』と思った皆さん、驚くことなかれ!彼はあの伝説のスクールアイドル・μ'sのメンバー、絢瀬絵里の弟だあああああっ!」

 

 「ええええええええええっ!?」

 

 「あのエリーチカの弟!?」

 

 会場がざわざわしている。

 

 まぁそうなるわよねぇ・・・

 

 「自慢ではありませんが私、第一回ラブライブから運営に携わっているのです!天くんとはその当時にラブライブを通じて知り合い、すっかり顔見知りになっておりまして・・・それにしても天くん、またおっきくなったね~♪」

 

 「四葉さん、親戚のおばさんみたいになってますよ」

 

 「誰がおばさん!?まだ若いんだけど!?」

 

 「五月さんもそうですけど、貴女達姉妹は本当に変わりませんねぇ」

 

 「あっ、五月に会ったの?最近会えてないんだけど、元気にやってる?」

 

 「相変わらずスクールアイドルに目がないみたいですね、あの人・・・って、普通にプライベートな会話してていいんですか?」

 

 「あっ、イベント中だった!?」

 

 会場が笑いに包まれる。

 

 あのお姉さんも自由な人ね・・・

 

 「っていうか、五月さんって誰?」

 

 「秋葉原のスクールアイドルショップの店長さん。天くんの知り合いなんだって」

 

 「ルビィちゃん、知ってるずら?」

 

 「うん、前に天くんと遊びに行ったことがあって」

 

 一年生三人組がそんな話をしている。

 

 ルビィちゃん、いつの間に・・・!?

 

 「それではただ今より、抽選会を始めます!名前を呼ばれたグループの代表者は、ステージに上がって抽選をお願いします!」

 

 「えーっと、最初のグループは・・・スリーマーメイドさん?」

 

 「はーい!よろしくお願いしまーす!」

 

 「・・・何かすいませんでした」

 

 「何が!?」

 

 謝る天くん。

 

 その名前のグループ、実在したのね・・・

 

 「それより・・・誰が行く?」

 

 千歌ちゃんの問いに、全員固まってしまう。

 

 一番以外の順番を引けないという、この責任重大なミッション・・・

 

 誰も行きたくないわよね・・・

 

 「・・・やっぱりリーダーが行くべきじゃない?」

 

 「梨子ちゃん!?」

 

 ショックを受けている千歌ちゃん。

 

 ごめんなさい千歌ちゃん、汚い私を許して・・・

 

 「でも今日の獅子座の運勢、超凶みたいだけど・・・」

 

 「すみません無理です勘弁して下さい」

 

 曜ちゃんの言葉を受け、土下座する千歌ちゃん。

 

 それなら仕方ないか・・・

 

 「じゃあ、最上級生の三人の誰かが・・・」

 

 「わ、私達は途中参加の身だからっ!最初から参加している後輩達に任せたいなっ!」

 

 「「右に同じ!」」

 

 ダラダラ汗を流している三人。

 

 このすれ違い娘ども・・・!

 

 「マ、マル達も途中参加ずら!」

 

 「こ、ここは曜ちゃんか梨子ちゃんが良いんじゃないかな!」

 

 胃袋ブラックホール娘と抜け駆け娘まで、そんなことを言い出す始末・・・

 

 くっ、この後輩達・・・!

 

 「・・・曜ちゃんの方が、早く参加してたわよね?」

 

 「ちょ、それはないよ梨子ちゃん!?Aqoursになった時は三人一緒だったじゃん!?」

 

 「ヨーソローパワーで何とかしてよ!?」

 

 「だからヨーソローパワーって何!?」

 

 私達が醜い押し付け合いをしていると・・・

 

 「待ちなさい」

 

 横から声が掛かる。

 

 こ、この声は・・・!

 

 「Aqours最大のピンチに、堕天使界のレジェンドアイドル・・・ヨハネ、行っきまあああああすっ!」

 

 「シニヨン引きちぎるわよ?エセ堕天使」

 

 「当たり強くない!?」

 

 ショックを受けている善子ちゃん。

 

 この子ときたら・・・

 

 「ないずら」

 

 「ぶっぶー、ですわ」

 

 「何でよ!?何がダメなの!?」

 

 「逆に聞くけど、夏の間アイスじゃんけんで負け続けた子が良い理由って何さ?」

 

 「誕生日に風邪を引くような子が良い理由って何?」

 

 「マリー達がLUCKYなのは、善子がUNLUCKYを引き受けてくれるからデース」

 

 「流石は上条善子、不幸体質を受け継ぐ者・・・」

 

 「上条じゃなくて津島だしっ!善子じゃなくてヨハネだしっ!」

 

 「善子ちゃん、罰金百円」

 

 「それこの間終わったから!っていうかヨハネっ!」

 

 善子ちゃんのツッコミが止まらない。

 

 本気なのこの子・・・?

 

 「普段は運を貯めてるのよっ!いざという時の私の力を見せつけてやるわっ!」

 

 「・・・では、私と勝負ですわ」

 

 善子ちゃんの前に進み出るダイヤさん。

 

 「私にじゃんけんで勝つことが出来たら、貴女に抽選をお願いしますわ。ただし・・・私の山羊座の本日の運勢は、超吉ですわよ?」

 

 「面白いじゃない!受けて立つわ!」

 

 睨み合う二人。

 

 っていうか、ダイヤさんも星座占いチェックしてるのね・・・

 

 しかも超吉なら、ダイヤさんが行くべきなんじゃ・・・

 

 「いきますわよ・・・じゃ~んけ~んぽんっ!」

 

 ダイヤさんがグー、善子ちゃんがパー・・・

 

 っていうことは・・・

 

 「善子ちゃんの勝ちずら!」

 

 「凄い善子ちゃん!」

 

 花丸ちゃんとルビィちゃんが喜んでいるが、当の善子ちゃんは呆然としていた。

 

 まさか本当に勝っちゃうなんて・・・

 

 「続きまして、Aqours・・・ほら誰か、ステージ上に来て」

 

 天くんの声がする。

 

 いよいよ私達の番ね・・・

 

 「・・・引いてらっしゃい、栄光の一番を」

 

 「・・・任せなさい!」

 

 善子ちゃんの背中を、微笑みながら優しく押すダイヤさん。

 

 これはもう、善子ちゃんを信じるしかない。

 

 背中を押された善子ちゃんが、意気揚々とステージに上がる。

 

 「チェンジで」

 

 「ちょっと!?」

 

 天くんがこっちを見て、『何考えてんの?』という顔をしていた。

 

 ゴメンね天くん、色々あったのよ・・・

 

 「続きましては、浦の星女学院のスクールアイドル・Aqoursです!天くんがマネージャーをやってるグループなんだよね?」

 

 「そうなんですけど、今凄く辞めたくなってます」

 

 「何でよ!?」

 

 「アハハ、仲が良いね!それじゃ、引いちゃって下さい!」

 

 ガラガラに手をかける善子ちゃん。そして・・・

 

 「ヨハネ・・・行っきまあああああすっ!」

 

 勢いよく回す善子ちゃんを、固唾を呑んで見守る私達なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・終わった」

 

 肩を落とす千歌。

 

 抽選会も終わり、俺達は会場近くのカフェに来ているのだが・・・

 

 「二十四番なんて中盤じゃん・・・ど真ん中じゃん・・・」

 

 そう、善子が引いた順番は二十四番・・・

 

 完全にアウトだった。

 

 「フッ、仕方ない・・・堕天使の力がこの数字を引き寄せたのだから・・・」

 

 「本音は?」

 

 「申し訳ありませんでしたあああああっ!」

 

 土下座する善子。

 

 やれやれ・・・

 

 「ほら、頭上げる。善子が悪いわけじゃないんだから」

 

 抽選なんて完全な運だし、好きな数字を引こうと思って引けるものじゃない。

 

 ましてや今回の場合、一番以外は全てアウト・・・

 

 どんなに運が良かったとしても、引ける可能性はかぎりなく低かったのだから。

 

 「うぅ、天ぁ・・・!」

 

 「はいはい」

 

 涙目で抱きついてくる善子を、優しくあやす。

 

 今くらいは甘やかしてやろう・・・

 

 「っていうか天くん、あのお姉さんとどういう関係なの?」

 

 「あぁ、四葉さん?五年前のラブライブの時から進行役やってたんだけど、向こうから声を掛けられてさ。それ以来顔見知りになったんだよ」

 

 四葉さん的には、小学生の男の子がμ`sと一緒にいるのが気になったらしい。

 

 マネージャーだって知った時は、流石にビックリしてたけど・・・

 

 それ以来ラブライブの観戦に行くと、気軽に声を掛けてくれるようになったのだ。

 

 「まさか今回は、こっちの地区で進行役をやってるなんて・・・驚いたよ」

 

 「あの人、店長さんのお姉さんなんだよね?」

 

 「そうそう、実は五月さんのお店を紹介してくれたのは四葉さんなんだよ。『妹がスクールアイドルショップ始めたから、良かったら遊びに行ってあげて』って言われてさ」

 

 「・・・相変わらず年上の女性に好かれるのね」

 

 「梨子?何か怒ってる?」

 

 「別に」

 

 出た、梨子様モード・・・

 

 間違いなく不機嫌な時の梨子だ・・・

 

 「まぁそれはさておき・・・こうなった以上、本気で考えないといけないね」

 

 険しい表情で口を開く果南。

 

 「説明会を取るのか・・・ラブライブを取るのか・・・」

 

 「っ・・・」

 

 俯く皆。

 

 まぁ、そうなるよな・・・

 

 「・・・どっちかを選べってこと?」

 

 「残念ですが・・・現実的に考えて、両方は選べませんわ」

 

 千歌の問いに、複雑な表情で頷くダイヤさん。

 

 勿論両方とも出たいところだが、現状不可能と言わざるをえない。

 

 「・・・そう考えると、学校説明会かしら」

 

 「学校を見捨てるわけにはいかないからね」

 

 「ですが、今必要なのは入学希望者を集めること・・・効果的なのは、ラブライブなのではありませんか?」

 

 「たくさんの人に見てもらえるし、注目されるもんね」

 

 「説明会の方は、先生方に任せるっていうのはどうずら?」

 

 「勿論、学校の説明は先生方がやってくれるけど・・・注目を集めるには、やっぱりライブをやる方が効果はあると思う」

 

 「しかも学校説明会は、私達がワガママを言って開催してもらうんだもんね・・・」

 

 「でも、ラブライブを諦めるなんて・・・」

 

 皆の意見がバラバラになる。

 

 学校説明会寄りの意見と、ラブライブ寄りの意見・・・

 

 それでも、誰も強く主張しないのは・・・

 

 「・・・どっちも大切だもんね」

 

 千歌が呟く。

 

 そう、どっちも大切・・・

 

 だからこそ皆、完全にどちらかに心を傾けることが出来ない。

 

 どっちも同じくらい大切で、同じくらい出たいものだから。

 

 「こんなの・・・選べないよ」

 

 重苦しい雰囲気に包まれる。

 

 今の千歌の言葉が、皆の総意だった。

 

 「・・・とりあえず、今日はもう解散しない?家に帰って、皆それぞれもう一度よく考えて・・・明日また話し合おう。ね?」

 

 「・・・うん」

 

 俺の言葉に頷く皆。

 

 その表情が晴れることは、最後まで無かったのだった。




どうも〜、ムッティです。

ようやくアニメ第三話の内容に入ることが出来ました。

学校説明会とラブライブの予備予選が重なってしまったAqours・・・

果たしてどうするのか・・・

そして今回も新キャラ登場!

その名も上杉四葉さんです!

・・・『五等分の花嫁』の四葉ちゃんなんですけどね(´・ω・`)

ルビィちゃんの誕生日回で五月ちゃんを出したので、『四葉ちゃんも出しちゃえ!』みたいな(´・ω・`)

ルビィちゃんの誕生日回と今回の時系列?

そんなもの、ダストシュートしてやったぜ☆

相変わらずガバガバな設定でお送りしております(`・ω・´)ゞ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

解決の糸口は意外なところにある。

祝・アニメ『鬼滅の刃』続編決定ッ!どーん

これはマジで嬉しい!

宇随さんの活躍が楽しみだわ(^^)


 「赤城麻衣、歌いますっ!」

 

 「イェーイ!」

 

 「この酔っ払いども・・・」

 

 ハイテンションで盛り上がっている麻衣先生と翔子先生。

 

 抽選会が終わって帰宅したところ、麻衣先生から『お寿司食べない?』というお誘いの電話がかかってきたのだ。

 

 どうやらお寿司が食べたい気分だったらしく、結構な量のお寿司を注文したらしい。

 

 たくさんのお酒を手に我が家へとやって来た麻衣先生達は、既に出来上がっていた。

 

 「お寿司を奢ってくれるのはありがたいんですけど・・・届け先が俺の家になってる時点で、もう突撃してくる気満々でしたよね」

 

 「一応止めたんですけど・・・ゴメンなさい」

 

 申し訳なさそうに謝ってくる、グレーのロングヘアの女性・・・金剛榛名先生。

 

 二年生のクラス担任で、温厚で優しい先生である。

 

 麻衣先生や翔子先生が時々連れてくるので、俺も親しくさせてもらっていた。

 

 「あぁ、榛名先生はいつでも大歓迎ですよ。こんな美人な女性と一緒に夕飯が食べられるなんて、一人で食べるよりずっと嬉しいですから」

 

 「びじっ・・・お、大人をからかっちゃダメですよっ!」

 

 恥ずかしそうに顔を赤くする榛名先生。

 

 この感じ、たまらん・・・

 

 「ちょっと天くん、私達の可愛い後輩を口説かないでくれる?」

 

 ジト目で背後から抱きついてくる翔子先生。

 

 榛名先生も浦の星のOGで、麻衣先生や翔子先生の一学年下だったらしい。

 

 学生時代から交流があったらしく、二人とも榛名先生を可愛がっていたんだとか。

 

 「っていうか、私と麻衣ちゃんは美女扱いしてくれないの?」

 

 「顔が良いのは認めます。ただし性格が残念過ぎて差引きゼロです」

 

 「そこまで!?」

 

 「むしろマイナスまであります」

 

 「酷くない!?」

 

 「その点、榛名先生は見た目も性格も完璧なPERFECT HUMAN・・・いや、PERFECT WOMANです」

 

 「ちょ、天くん!?何を言い出すんですか!?」

 

 「We live in UCHIURA?」

 

 「ha,ru,na,haruna?」

 

 「I'm a perfect woman・・・って何を言わせるんですか!」

 

 「「「お~」」」

 

 「拍手とか要りませんから!」

 

 顔を真っ赤にして叫ぶ榛名先生。

 

 やだこの人、可愛いんですけど。

 

 「翔子先生と麻衣先生じゃ、こんな反応出来ないでしょ?」

 

 「私達だって、それくらい出来るんだからねっ♡」

 

 「本気を出しちゃうぞっ♡」

 

 「おえっ」

 

 「「ちょっと!?」」

 

 「海未ちゃん、帰って来て下さい・・・私一人では限界です・・・」

 

 ぐったりしている榛名先生。

 

 榛名先生、海未ちゃんと仲良かったもんなぁ・・・

 

 浦の星の教師陣の中で一番年下の榛名先生にとって、海未ちゃんは可愛い後輩みたいな存在だったらしい。

 

 海未ちゃんも榛名先生を慕ってたし、良いコンビだったなぁ・・・

 

 「この前電話で話したんですけど、海未ちゃんも榛名先生に会いたがってましたよ。今度また内浦に来たいって言ってましたから、その時は会ってあげて下さい」

 

 「本当ですか!?勿論です!」

 

 「あっ、ズルい!私も海未ちゃんに会いたい!」

 

 「私も!」

 

 「はいはい、じゃあ皆でご飯でも食べて来て下さい」

 

 「逃がしませんよ天くん!?天くんには先輩達の相手になってもらわないと!」

 

 「それは後輩である貴女の仕事でしょうが!」

 

 「私には・・・私には、天くんが必要なんです!」

 

 「くっ・・・そんなお願いされたって、俺の心は・・・!」

 

 「ダメ、ですか・・・?」

 

 「・・・分かりました」

 

 「やったぁ!天くん、大好きっ!」

 

 「あっ、天くんが負けたわ・・・」

 

 「涙目で上目遣い、それもあんな甘えた声で・・・榛名ちゃん、恐ろしい子・・・」

 

 うなだれた俺に抱きつく榛名先生を、麻衣先生と翔子先生が恐ろしいものを見るかのような目で見ていた。

 

 これを計算じゃなくて素でやってるから、榛名先生には敵わないんだよなぁ・・・

 

 「ところで天くん」

 

 真面目な表情に戻った麻衣先生が、心配そうに尋ねてくる。

 

 「学校説明会が一週間延期になって、ラブライブの予備予選の日と重なっちゃったけど・・・どうするの?」

 

 「・・・どうしましょうね」

 

 色々考えてはみたが、結局良い案が思いつかないんだよな・・・

 

 「両方とも出られるのが、一番良いんですけどね・・・」

 

 「・・・少し背負い過ぎなんじゃない?」

 

 気遣ってくれる翔子先生。

 

 「貴方達は学生なんだから、もっと自分のことを考えて良いのよ?説明会はAqoursのライブが無くても、私達教師陣が何とか出来るだろうし・・・」

 

 「本音は?」

 

 「Aqours抜きとかオワタ」

 

 「私達だけじゃ無理ぽ」

 

 「ぴえん」

 

 「正直でよろしい」

 

 勿論、教師陣による説明だけで乗り切ることは出来るだろう。

 

 問題は、それで入学希望者が増えるかどうかだが・・・

 

 増えないから統廃合の危機に直面しているわけで、やはりライブをやった方がインパクトは大きいはずだ。

 

 その方が期待も持てるだろうし・・・

 

 「んー・・・両方に出られる方法って、何か無いのかしら」

 

 「・・・あまり良い方法ではないですけど、一応ありますよ」

 

 「「「えぇっ!?」」」

 

 驚く三人。

 

 そう、一応あることはあるのだ。

 

 「あるの!?」

 

 「どんな方法!?」

 

 「二手に分かれる方法です。片方は学校説明会でライブをやって、もう片方はラブライブの予備予選に出る・・・九人いますから、可能な方法ではあるんですよね」

 

 ライブ用の曲を作った二年生組が説明会担当で、予備予選用の曲を作った一年生&三年生組が予備予選担当・・・

 

 これなら、一応は両方に出られる。

 

 しかし・・・

 

 「それは・・・どうなのかしら」

 

 「もしそれで、予備予選を突破出来なかったら・・・」

 

 「だから言ったでしょう。あまり良い方法じゃないって」

 

 顔を顰める麻衣先生と翔子先生に、溜め息をつく俺。

 

 勿論、全員が両方のステージに立てるのがベストなんだけど・・・

 

 「車はダメなんですか?」

 

 「予備予選の会場が山の中なんで、山道を走ることになるんですけど・・・遠回りになっちゃうんで、ちょっと時間がかかっちゃいそうなんですよ。他の手段よりかは早いでしょうけど、どの道説明会には間に合いませんね」

 

 予備予選がもっと早い順番なら、ワンチャンあったかもしれないが・・・

 

 「山の中を突っ切れたら、早いんでしょうけどねぇ・・・」

 

 「突っ切る、ですか?」

 

 「えぇ、木々の間を突っ切るみたいな・・・それが出来たらメッチャ時短ですよね」

 

 「いっそ燃やさない?」

 

 「良いわね。車で走りやすくなりそうだし」

 

 「よし、ガソリン用意しましょう」

 

 「それですっ!」

 

 「「「えぇっ!?」」」

 

 榛名先生の肯定に驚く俺達。

 

 完全にネタだったのに・・・

 

 「あっ、燃やす方じゃないですよ!?木々の間を突っ切る方です!」

 

 「いや、それも無理でしょ・・・」

 

 「それが無理じゃないんです!だってこの辺りの山は、いたるところがみかん畑になってるんですから!」

 

 「「あぁっ!?」」

 

 合点がいったらしい麻衣先生と翔子先生。

 

 え、分かってないの俺だけ?

 

 「すみません、話が見えないんですけど・・・どういうことですか?」

 

 「実はですね、天くん・・・」

 

 そう言って話し始めた榛名先生のアイデアに、驚きを隠せない俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

前書きでも述べましたが、鬼滅のアニメ二期が遂にきました!

PV見ましたけど、もう期待しかない!

1クール?それとも2クール?

2クールだと、遊郭編の後のストーリーまでやる感じ?

OP曲はLiSAさん?

想像するだけでワクワクが止まらない\(^o^)/



それはさておき、新キャラが登場しましたね!

その名も金剛榛名先生!

・・・えぇ、艦これの榛名さんです(´・ω・`)

好きなんだから仕方ないでしょうが!(逆ギレ)

『麻衣』『翔子』ときたので、名前は青ブタ関連にしようかと思ったんですが・・・

変に捻らずそのままにしました(´・ω・`)

麻衣先生や翔子先生と共に、ちょいちょい出番がある・・・はず(未定)

よろしくお願い致します(`・ω・´)ゞ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

正攻法が正解とは限らない。

最近『呪術廻戦』が大人気らしいですね。

今後マンガ読んでみようかな・・・


 「浦の星女学院へようこそ!」

 

 「説明会の会場はこちらです!」

 

 「後で我が校のスクールアイドル、Aqoursのライブもありますよ!」

 

 「よろしくお願いします!」

 

 学校説明会当日、俺はよいつむトリオと一緒にビラ配りに励んでいた。

 

 思ったよりも多くの人が来てくれており、浦の星をアピールするには絶好の機会と言えた。

 

 「すみません、手伝ってもらっちゃって・・・」

 

 「何水臭いこと言ってんの!アタシ達だってここの生徒なんだよ?」

 

 「そうだよ天くん!統廃合を阻止する為なら、私達は何だってやるよ?」

 

 「いつも天達に頼りっぱなしなんだし、こんな時くらい一緒に頑張らせてよ!」

 

 笑顔でそう言ってくれるよしみさん、いつきさん、むつさん。

 

 良い先輩達だなぁ・・・

 

 「お~い、天く~ん!」

 

 翔子先生が駆け寄ってくる。

 

 「ビラ配りは順調?」

 

 「えぇ、もう少しで配り終わる勢いです」

 

 「本当!?凄いわね!?」

 

 驚く翔子先生だったが、すぐに気遣わしげな表情に変わる。

 

 「・・・本当に良かったの?予備予選の方に行かなくて」

 

 「人手が少ない中、榛名先生をお借りしてますからね。せめて穴埋めくらいしないと」

 

 「そんな気を遣わなくても良いのに・・・」

 

 「大丈夫ですよ。どの道向こうに行ったところで、俺に出来ることも無いですし」

 

 「でも天くん、本当に大丈夫なの?」

 

 いつきさんも心配そうな表情をしていた。

 

 「予備予選の会場って、山の中なんでしょ?出番が終わってすぐに会場を出ても、こっちの時間には間に合わないんじゃ・・・」

 

 「あぁ、それなら大丈夫です。その為に榛名先生をお借りしてるんで」

 

 「え、どういうこと?」

 

 怪訝な表情を浮かべるよいつむトリオに対し、俺はニヤリと笑うのだった。

 

 「まぁ見てて下さい・・・必ず間に合いますから」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「お、お待たせしました・・・」

 

 「わぁ・・・!」

 

 本番前に衣装に着替えたダイヤさんを見て、感嘆の声を上げる私達。

 

 「綺麗・・・」

 

 「素敵・・・」

 

 「そ、そんなに見ないで下さい・・・」

 

 千歌ちゃんと曜ちゃんのキラキラした眼差しに、恥ずかしそうに俯くダイヤさん。

 

 これは見惚れるわ・・・

 

 「流石はルビィちゃん、衣装が凝ってるよね」

 

 「職人技デース♪」

 

 「お、大袈裟だよぉ・・・」

 

 果南ちゃんと鞠莉ちゃんに頭を撫でられ、恥ずかしがりながらも嬉しそうなルビィちゃん。

 

 あの日以来、凄く距離が縮まったわね・・・

 

 「それにしても、この曲・・・『MY舞☆TONIGHT』って、今までのAqoursには無かったタイプの曲よね」

 

 「そうそう。でも良い曲だよね」

 

 私の言葉に、曜ちゃんが頷く。

 

 こんな和テイストな曲を、あの鞠莉ちゃんが作曲したなんて・・・

 

 「鞠莉ちゃん・・・日本人の心があったのね」

 

 「梨子!?どういう意味よ!?」

 

 「いや、身も心もアメリカ一色だと思ってたから」

 

 「違うわよ!?これでもハーフなのよ私!?」

 

 「ニューヨークとワシントンのハーフ?」

 

 「それハーフって言わない!完全にアメリカ人!」

 

 鞠莉ちゃんのツッコミ。

 

 鞠莉ちゃんもなかなかのツッコミスキルの持ち主よね。

 

 「梨子、アンタ天みたいなボケしてるわよ・・・」

 

 呆れている善子ちゃん。

 

 あれ、私だんだん天くんに似てきた?

 

 「天くんって言えば、この曲の作詞は天くんがしたんだよね?」

 

 「そうずら」

 

 千歌ちゃんの問いに答える花丸ちゃん。

 

 「ちなみに、ダイヤさんとルビィちゃんをセンターにしたのも天くんずら」

 

 「えっ、そうなの!?」

 

 「えぇ、『この曲のセンターは二人が良い』と仰って・・・」

 

 「当然じゃない。この曲のイメージにピッタリだもの」

 

 戸惑った様子のダイヤさんの肩を、笑いながら叩く鞠莉ちゃん。

 

 確かに、二人ほど和のイメージにピッタリな人はいないわね・・・

 

 「この曲で会場を沸かせて、その勢いのまま説明会に直行デース♪」

 

 「それにしても・・・大胆な作戦を思いついたもんだよね」

 

 苦笑する果南ちゃん。

 

 「みかんトロッコに乗って山の中を突っ切るなんて・・・考えもしなかったよ」

 

 そう、それこそが説明会に間に合う為の奇策だった。

 

 私も初めて知ったのだが、山の中のみかんを収穫する為のみかんトロッコというものがあるらしい。

 

 その線路が山の中のあちこちに敷かれているらしく、それに乗って山の中を突っ切ろうというのが今回の作戦なのだ。

 

 こんな作戦、よく思いついたわね・・・

 

 「金剛先生、本当に良いんですか?」

 

 「フフッ、勿論です」

 

 ニコニコしている金剛先生。

 

 今日は天くんの代わりに、私達の付き添いとして来てくれているのだ。

 

 「説明した通り、この辺りの山はウチの実家が所有しているんです。みかんトロッコもウチのものなので、好きに使っちゃって大丈夫ですよ」

 

 そう、金剛先生がここに来ている最大の理由はそれだ。

 

 私達は本番が終わり次第、金剛先生にみかんトロッコまで案内してもらうことになっているのである。

 

 「でも先生、みかんトロッコって大人数で乗れるんですか?」

 

 「そもそも、そんなにスピードが出る乗り物じゃないような・・・」

 

 不安そうな曜ちゃんとルビィちゃん。

 

 「大丈夫ですよ。荷台を下ろしたので、皆ちゃんと乗れます。スピードもしっかり出るので、問題ありません・・・安全は保障出来ませんけどね(ボソッ)」

 

 「何か不穏なこと言いませんでした!?」

 

 怯える私達なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《梨子視点》

 

 「こっちです!急いで下さい!」

 

 「し、しんどいずらぁ・・・! 」

 

 息切れしながらも走る花丸ちゃん。

 

 予備予選の出番を終えた私達は、すぐに会場を出てダッシュでみかんトロッコに向かっていた。

 

 「でも、良いステージだったね!」

 

 笑っている曜ちゃん。

 

 「あれなら、無事に突破出来るんじゃない?」

 

 『MY舞☆TONIGHT』のパフォーマンスは大好評で、会場は大盛り上がりだった。

 

 私達は、確かな手応えを掴んでいたのだった。

 

 「着きました!ここです!」

 

 先頭を走っていた金剛先生の声が聞こえる。

 

 あれがみかんトロッコ・・・

 

 「乗って下さい!」

 

 金剛先生が先頭に乗り、私達も後ろの席に乗り込む。

 

 「さて・・・しっかり掴まっていて下さいね」

 

 「こ、金剛先生・・・?」

 

 何だろう、先生の雰囲気が変わったような・・・

 

 「ここから先は・・・フルスロットルで飛ばしマース」

 

 「・・・え、鞠莉ちゃん?」

 

 「私はここにいるんだけど!?」

 

 鞠莉ちゃんのツッコミ。

 

 いや、分かってはいるんだけど・・・

 

 金剛先生、口調が変わってない・・・?

 

 「それでは、行きますヨ・・・出発進行!バーニングゥ!ラアアアアアブッ!」

 

 「「「「「「「「「キャアアアアアアアアアアッ!?」」」」」」」」」

 

 みかんトロッコがもの凄いスピードで発進し、悲鳴を上げる私達。

 

 何このスピード!おかしくない!?

 

 「ちょ、金剛先生!?何ですかこれ!?」

 

 「みかんトロッコですヨ?」

 

 「いやそうじゃなくて!明らかにスピードおかしいですよねぇ!?」

 

 「この日の為に改造しただけネ!これぞ金剛型の真の力なのデース!」

 

 「もう人格変わってません!?あと金剛型って言うの止めて下さい!艦●れをパクってるのがバレバレじゃないですか!」

 

 「梨子ちゃんもそういう発言止めてくれる!?」

 

 千歌ちゃんのツッコミ。

 

 もうメタ発言なんて気にしてる場合じゃないわ!

 

 「全員今すぐ口を閉じて下サーイ!」

 

 金剛先生はそう言うと、思いっきりブレーキをかけた。

 

 身体が思いっきり前につんのめる中、みかんトロッコが急停車する。

 

 どうやら、みかんトロッコの終着点らしい。

 

 「到着しました!」

 

 「あっ、口調が元に戻った・・・」

 

 「し、死ぬかと思ったわ・・・」

 

 呆然としている善子ちゃん。

 

 ルビィちゃんとダイヤさんなんて、白目を剥いて気絶しているくらいだし・・・

 

 「おーい!」

 

 「こっちこっちー!」

 

 「急いで!」

 

 前方に車が三台止まっており、曜ちゃんのお母さん・美渡さん・志満さんが手を振っていた。

 

 そういえば、協力を要請したって天くんが言ってたっけ・・・

 

 「私はみかんトロッコを元の場所に戻すので、皆は早く行って下さい!」

 

 「分かりました!ありがとうございます!」

 

 気絶した二人を鞠莉ちゃんと果南ちゃんが抱え、私達は車へと走る。

 

 「ママ、お願い!」

 

 「任せなさい!」

 

 「美渡姉!志満姉!よろしく!」

 

 「オッケー!」

 

 「勿論よ!旦那様のお願いを叶えるのが、妻の仕事なんだから!」

 

 「志満さん!?天くんの奥さんになるのは私ですよ!?」

 

 「NO!マリーデース!」

 

 「いくら梨子ちゃんと鞠莉ちゃんでも、正妻の座は譲れないわ!」

 

 「どうでもいいから早くしてくれる!?」

 

 ギャーギャー騒ぎつつ、浦の星へと向かう私達なのだった。




どうも〜、ムッティです。

榛名先生、すっかり別人格になってますね(笑)

完全に金剛さんが出ちゃってます(笑)

まぁそれはさておき、みかんトロッコに乗って山を突っ切ったAqours・・・

っていうか、あれで本当に間に合うのかな?←

ちなみにアニメで果南ちゃんがハンドル(?)を壊した時の、『取れちゃった・・・』が可愛すぎて悶えたのはここだけの話(笑)

まぁ今回は榛名先生がぶっ飛ばしたので、そんなシーンは無かったんですけどね(´・ω・`)

次の話で、アニメ第三話の内容は終わりです!

果たしてAqoursは、説明会に間に合うのか・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

君のこころは輝いてるかい?

今回の話で、アニメ第三話の内容は終わりです。

何か良い感じにサクサク進んだ気がする(^^)


 「ま、間に合った・・・」

 

 「お疲れ」

 

 ヘトヘトになっている皆を、苦笑しながら出迎える俺。

 

 ちゃんとライブの時間に間に合ったな・・・

 

 「予備予選、ずいぶん盛り上がったみたいだね」

 

 「えっ、何で知ってるの?」

 

 「奈々さんと満点さんから報告もらってたから」

 

 「お母さん!?」

 

 「来てたずら!?」

 

 梨子と花丸のツッコミ。

 

 今回は志満さん達に車をお願いしていたので、現地で応援出来たママ軍団員は二人だけだったのだ。

 

 他のママさん達は仕事があり、今回は泣く泣く不参加だったし・・・

 

 「もう少しで説明会が終わるから、今のうちに衣装に着替えてスタンバイして」

 

 「オッケー!」

 

 部室へと向かう皆。

 

 あっ、そうだ・・・

 

 「千歌、曜、梨子」

 

 「ん?」

 

 「何?」

 

 「どうしたの?」

 

 振り向く三人。

 

 そんな三人に、俺は笑顔で親指を立てた。

 

 「あの曲、歌詞もメロディも凄く良いと思うよ。衣装も凝ってて可愛いし・・・素敵な曲と衣装をありがとう」

 

 「っ・・・うんっ!」

 

 「ヨーソロー!」

 

 「フフッ、嬉しいわ」

 

 三人とも笑顔で親指を立てると、そのまま皆の後を追って部室へと向かっていく。

 

 「ふ~ん・・・良いマネージャーやってるじゃん?」

 

 「ニヤニヤするの止めてもらえます?気持ち悪いんで」

 

 「辛辣!?」

 

 ショックを受ける美渡さん。

 

 やれやれ・・・

 

 「志満さんも星さんも、力を貸していただいてありがとうございました」

 

 「フフッ、私達の仲じゃない。お礼なんて要らないわよ」

 

 「そうだよ天、水臭いこと言わないの」

 

 「ちょっと天、私にお礼の一言は無いわけ?」

 

 「志満さんと星さんを見習えや。このズボラ女が」

 

 「アンタどんどん辛辣になってない!?」

 

 「冗談ですよ。美渡さんもありがとうございます。助かりました」

 

 おかげでこうして間に合ったのだ。

 

 感謝の気持ちでいっぱいである。

 

 

 

 

 

 「フフッ、天は相変わらずですね」

 

 

 

 

 

 この場にいるはずの無い人の声がした。

 

 えっ・・・

 

 「時間ギリギリになってしまいましたが、Aqoursのライブに間に合って良かったです」

 

 「海未ちゃん!?」

 

 そこにいたのは何と海未ちゃんだった。

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべ、こっちを見ている。

 

 「ちょ、何でここにいるの!?」

 

 「今日が学校説明会だというのは、麻衣さんからの連絡で知っていましたから。日曜日で大学もお休みですし、少し顔を出そうかと思いまして」

 

 「わぁ、海未ちゃん久しぶり!」

 

 「元気そうで良かったわ!」

 

 「美渡さん、志満さん、ご無沙汰しています」

 

 「μ'sの園田海未ちゃんだあああああっ!」

 

 「きゃあっ!?」

 

 星さんの興奮ぶりに、驚いている海未ちゃん。

 

 やれやれ・・・

 

 「全く、来るなら連絡してくれれば良かったのに・・・」

 

 「いつも連絡してこない人が何を言っているんですか」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まる俺を、海未ちゃんがジト目で睨んでくる。

 

 「学校説明会が今日だってこと、教えてくれませんでしたよね?」

 

 「すみません・・・」

 

 「ラブライブの予備予選が今日だってことも、教えてくれませんでしたよね?」

 

 「すみません・・・」

 

 「『すみません』しか言えないんですか貴方は」

 

 「それしか言えなくてすみません・・・」

 

 こんな怒られ方、少し前にもあった気がする・・・

 

 「おぉ、あの天が完全に押されてる・・・」

 

 「海未ちゃんの圧、ハンパないわね・・・」

 

 「私も妻として、あれくらい言わないといけないのかしら・・・」

 

 何やら呟いている三人。

 

 とりあえず、志満さんは海未ちゃんを参考にするの止めて下さい。

 

 俺は鬼嫁の尻に敷かれたくないんで。

 

 「ハァ・・・まぁこの辺にしておきましょう」

 

 溜め息をつく海未ちゃん。

 

 「それにしても、説明会と予備予選の日が重なるなんて・・・大変でしたね」

 

 「まぁね」

 

 苦笑する俺。

 

 「どっちかを選択しないといけないところだったけど・・・何とかなって良かったよ」

 

 「フフッ、お疲れ様です」

 

 海未ちゃんはそう言って微笑むと・・・優しく俺を抱き締めてくれた。

 

 「海未ちゃん・・・?」

 

 「・・・天のことですから、よほど頭を悩ませたんでしょう?」

 

 そっと頭を撫でてくれる海未ちゃん。

 

 「解決することが出来て、良かったですね・・・本当にお疲れ様でした」

 

 「海未ちゃん・・・」

 

 参ったなぁ・・・

 

 海未ちゃんの優しさが心に沁みるわ・・・

 

 「・・・少し、このままでいても良い?」

 

 「えぇ、喜んで」

 

 海未ちゃんの腰に手を回す。

 

 ありがたいなぁ・・・

 

 「フフッ・・・あの天が、あんなに素直に甘えるなんて」

 

 「流石は海未ちゃん、天のことをよく分かってるよね」

 

 「ちょっと妬けちゃうなぁ・・・でも、海未ちゃんなら仕方ないわね」

 

 そんな俺達を、微笑ましそうに見つめる三人なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「わぁ・・・!」

 

 感嘆の声を上げる海未ちゃん。

 

 視線の先にあるステージ上では、Aqoursが新曲『君のこころは輝いてるかい?』を披露している真っ最中だ。

 

 「ここまでレベルが上がってるなんて・・・!」

 

 「ビックリでしょ?」

 

 海未ちゃんが最後に生で見たのは、『未熟DREAMER』の時だったからな・・・

 

 あの時に比べたら、Aqoursはグループとして格段に成長を遂げている。

 

 「お疲れ様です、天くん」

 

 「あっ、榛名先生!」

 

 榛名先生が俺達のところへ歩いてくる。

 

 「ありがとうございました。おかげで間に合いました」

 

 「いえいえ、お安い御用です」

 

 「榛名さん、お久しぶりです!」

 

 「海未ちゃんっ!?会いたかったですっ!」

 

 海未ちゃんに抱きつく榛名先生。

 

 相変わらず仲が良いなぁ・・・

 

 「それにしても・・・たくさん集まってくれたなぁ」

 

 予想より多くの人が集まり、Aqoursのライブを楽しんでくれている。

 

 中学生と思わしき女の子達も多くいるし、少しでも浦の星を気に入ってくれると良いなぁ・・・

 

 「フフッ、盛り上がって良かった」

 

 「流石はAqours、人気が凄いわね」

 

 麻衣先生と翔子先生がやって来る。

 

 笑顔ではあるが、少しお疲れのご様子だった。

 

 「・・・大丈夫ですか?」

 

 「ぶっちゃけ疲れたわ・・・」

 

 「説明会って苦手なのよね・・・」

 

 げんなりしている二人。

 

 いやホント、お疲れ様でした・・・

 

 「麻衣さん!翔子さん!」

 

 「海未ちゃん!?来てくれたの!?」

 

 「久しぶりね!よし、今日は呑みに行くわよ!」

 

 「さっきまでの疲労はどこへ行ったんですか」

 

 四人でキャーキャー言いながら抱き合う姿を見て、苦笑してしまう俺。

 

 まぁ、楽しそうだし良いか・・・

 

 

 

 

 

 「「「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 曲が終わり、ステージ上で一礼する皆。

 

 そんな皆に、お客さん達から惜しみない拍手が送られる。

 

 「・・・良かった」

 

 「ホッとした?」

 

 「えぇ」

 

 翔子先生の問いに、笑いながら答える俺。

 

 「予備予選も説明会も、どっちも諦めなくて良かった・・・榛名先生、ありがとうございました」

 

 「フフッ、どういたしまして」

 

 微笑む榛名先生。

 

 「困っている生徒の力になれたのなら・・・教師としては本望ですよ」

 

 「流石はPERFECT WOMAN・・・いや、PERFECT TEACHER」

 

 「天くん!?」

 

 「We live in UCHIURA?」

 

 「ha,ru,na,haruna?」

 

 「I'm a perfect teacher・・・って、だから何を言わせるんですか!?」

 

 「「「お~」」」

 

 「だから拍手とか要りませんって!?」

 

 「・・・榛名さんも苦労してますね」

 

 「うぅ、海未ちゃん・・・この苦労を分かってくれるのは海未ちゃんだけです・・・」

 

 そんなやり取りをしていると、ふとステージ上の千歌と目が合った。

 

 千歌はフッと微笑むと・・・俺に拳を突き出してくる。

 

 

 

 

 

 『これからも、諦めずに頑張っていこう!』

 

 

 

 

 

 そんな声が聞こえた気がした。

 

 「・・・了解、リーダー」

 

 同じように拳を突き出す俺。

 

 ラブライブも浦の星も、絶対に最後まで諦めない・・・

 

 改めて決意を固める俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

前書きでも述べましたが、これにてアニメ第三話の内容は終了です。

最後は海未ちゃんも登場しましたねー。

海未ちゃんは浦の星で教育実習をやってましたから、ここでちょっと登場させたかったんです。

勿論大学があるので、すぐに帰ってしまうんですけどね(´・ω・`)

アニメ二期の内容に入ってからμ'sメンバーが全然出せていないので、そろそろガッツリ出したい気もしています(´・ω・`)

さてさて、いよいよ第四話ですよ皆さん!

お待ちかねのダイヤさんの回です!

天とダイヤさんの距離を縮めるチャンス・・・

いっちょやったりますか(・∀・)ノ

今後の展開をお楽しみに(^^)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【中須かすみ】大好きな人に・・・

先月の話になりますが、1月23日は虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会・中須かすみちゃんの誕生日でした!

遅くなったけどかすみん、誕生日おめでとう!

誕生日には間に合いませんでしたが、投稿するつもりで書いていた誕生日回を投稿させていただきます!

ちなみにここでの天は虹ヶ咲学園の高校2年生で、スクールアイドル同好会のマネージャーをやっているという設定です。

それではいってみよー!


 「おはようございます、天先輩!」

 

 虹ヶ咲学園に登校してきた俺は、正門の前で後輩の中須かすみから声をかけられた。

 

 今日も元気だなぁ・・・

 

 「おはよう、かすかす」

 

 「『かすかす』って呼ばないで下さい!」

 

 頬を膨らませて怒るかすみ。

 

 『かす』という言葉によほどトラウマがあるのか、『かすかす』や『かす子』と呼ばれるのを極端に嫌がるんだよなぁ・・・

 

 「おはよう、かっすー」

 

 「新しいあだ名を試みてもダメですよ!?」

 

 「おはよう、中須院長」

 

 「それ『高須』ですよねぇ!?かすみんはクリニックとかやってないんですけど!?」

 

 「おはよう、中須さん」

 

 「シンプルだけど一番他人行儀な呼び方されたあああああっ!?」

 

 ギャーギャー騒いでいるかすみ。

 

 ワガママな後輩だなぁ・・・

 

 「っていうか、今日はずいぶんゆっくりだね?いつもは朝練の為に早く来てるのに」

 

 「頑張るだけじゃなくて、休むことも必要だと思いまして」

 

 「あぁ、寝坊したのね」

 

 「何で分かったんですか!?」

 

 「今のと全く同じセリフを、この間寝坊で遅刻してきた果林さんが言ってたから」

 

 「・・・納得です」

 

 溜め息をつくかすみ。

 

 果林さん、ホント朝に弱いからなぁ・・・

 

 苗字に『朝』っていう漢字が入ってるのに・・・

 

 「で、でもでもっ!かすみんはちゃんと時間には間に合ってますからっ!」

 

 「まぁね。学校的には遅刻じゃないし、全然大丈夫でしょ。それに・・・」

 

 俺は一度言葉を切ると、かすみの頭を優しく撫でた。

 

 「朝から後輩の可愛い顔が見られたんだから、俺的にはラッキーだよ」

 

 「っ・・・」

 

 途端に顔を赤らめ、恥ずかしそうに俯いてしまうかすみ。

 

 俺の後輩は、今日もとても可愛いのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「お疲れ~」

 

 「あっ、天さん」

 

 放課後にスクールアイドル同好会の部室へ行くと、後輩の天王寺璃奈が座っていた。

 

 「あれ、りな子一人?」

 

 「かすみちゃんとしずくちゃんも来てるよ。他の皆はまだ来てないけど」

 

 「その二人はどこ行ったん?」

 

 「更衣室で着替え中だけど・・・覗いてきたら?」

 

 「先輩を犯罪者にしようとするのは止めなさい」

 

 「璃奈ちゃんボード『わくわく』」

 

 「何でわくわくしてんの?」

 

 「あっ、天さん!来てたんですね!」

 

 そんなやり取りをしていると、同じく後輩の桜坂しずくが現れた。

 

 どうやら着替え終わり、更衣室から出てきたらしい。

 

 「おぉ、しず子。お疲れ」

 

 「お疲れ様です。ずいぶん楽しそうでしたけど、璃奈さんと何をしていたんですか?」

 

 「犯罪者にされそうになってた」

 

 「犯罪者にしようとしてた」

 

 「本当に何をしていたんですか!?」

 

 しず子のツッコミ。

 

 まぁビックリするよねぇ・・・

 

 「ところで、かすみん(笑)は?」

 

 「何で笑ってるんですか・・・もうすぐ着替え終わると思いますよ」

 

 「お待たせ~♪」

 

 そんな話をしていると、噂の人物がやって来た。

 

 「どう?似合ってる?」

 

 「っ・・・」

 

 姿を現したかすみを前に、俺は驚いてしまった。

 

 真新しい衣装に身を包み、いつもと違って後ろで髪を結んだ姿のかすみに・・・

 

 思わず見惚れてしまったのだ。

 

 「それ、今度の新曲の衣装だよね?勝手に着て良いの?」

 

 「良いの良いの!侑先輩からも許可はもらってるし!」

 

 りな子の問いに、上機嫌で返すかすみ。

 

 「この衣装を着て登場したら、きっと天先輩もビックリする・・・はず・・・」

 

 そこで初めて、かすみが俺の存在に気付いた。

 

 「そ、天先輩っ!?いつからいたんですかっ!?」

 

 「天さんなら、『お待たせ~♪』からずっといたよ?」

 

 「最初からじゃん!?部室に入って来た瞬間、この格好で現れてビックリさせる計画が台無しだよぉ!」

 

 「かすみちゃん、計画なら上手くいったみたいだよ?璃奈ちゃんボード『ニヤニヤ』」

 

 「え?」

 

 ニヤニヤしながら俺を見るしず子とりな子。

 

 二人にはバレていたようだ。

 

 「フフッ、天さんでもそんな顔をすることがあるんですね」

 

 「しず子、そのリボン燃やしていい?」

 

 「照れ隠しで後輩に当たるの止めて下さいよ!?」

 

 「りな子も、璃奈ちゃんボード燃やすね?」

 

 「天さん怖い!?璃奈ちゃんボード『ガクガクブルブル』」

 

 「やかましいっ!先輩命令じゃあああああっ!」

 

 「嫌あああああっ!?」

 

 「助けてえええええっ!?」

 

 「ちょ、天先輩!?急にどうしたんですか!?」

 

 「後輩と戯れてるだけだよバカヤロオオオオオッ!」

 

 「お疲れ様です」

 

 そこへ同じく後輩の、三船栞子が入って来た。

 

 「あっ、栞子さん!」

 

 「助けて栞子ちゃん!璃奈ちゃんボード『SOS』」

 

 「しお子ぉ!天先輩が変になっちゃったぁ!」

 

 「はい!?」

 

 「しお子も生徒会長の腕章を燃やしてやるうううううっ!」

 

 「ちょ、天さん!?何があったんですか!?」

 

 この後、しお子によって事態は沈静化。

 

 俺達は四人揃って正座させられ、しお子に説教されるハメになったのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《かすみ視点》

 

 「もうっ!天先輩のせいで、しお子に怒られちゃったじゃないですかぁ!」

 

 「しお子怖すぎワロタ」

 

 「ホントに反省してます!?」

 

 同好会の練習も終わり、かすみん達は電車に乗って家に帰る途中でした。

 

 あれだけ怒られたというのに、天先輩はケロッとしています。

 

 「っていうか、何で急に暴走しちゃったんですか!?かすみんビックリですよ!」

 

 「んー・・・かすみのせいかな」

 

 「かすみんが何をしたっていうんですか!?」

 

 「・・・かすみって罪深い子だよね」

 

 「何でですか!?」

 

 うぅ、天先輩は酷いです・・・

 

 「アハハ、ゴメンゴメン」

 

 天先輩は苦笑すると、かすみんの頭を優しく撫でてくれました。

 

 「っ・・・もう・・・」

 

 天先輩はホントにズルいです。

 

 だって・・・

 

 大好きな人にこんな優しく頭を撫でられたら、何も言えないじゃないですか・・・

 

 「・・・罪深いのは天先輩の方です」

 

 「失礼な、こんな清い先輩に向かって」

 

 「どこがですか!?」

 

 そんなやり取りをしていると、かすみんの最寄り駅に到着してしまいました。

 

 もっと天先輩とおしゃべりしたかったなぁ・・・

 

 「じゃあ、天先輩・・・また明日」

 

 そう言って、電車を降りようとしたかすみんの手を・・・

 

 天先輩が掴みました。

 

 「えっ・・・天先輩?」

 

 驚いて振り返ると・・・

 

 あの天先輩が、真剣な表情でかすみんを見ていました。

 

 「ゴメン、もう少し・・・あともう少しだけ、かすみと一緒にいたいんだけど」

 

 「っ・・・」

 

 顔が一気に熱くなるのを感じます。

 

 かすみん達の顔は、『夕陽のせい』では誤魔化せないほど真っ赤になっているのでした。




皆のアイドル、ムッティです♪

・・・おえっ←

今回はかすみんの誕生日回でした!

誕生日に間に合わなくてすみません(>_<)

しかも短めだし(´・ω・`)

今後もニジガクメンバーの誕生日回を書きたいところですが、本当に時間があったら書くことにします。

時間が無くて書けない場合もあるので、ご了承下さいませ(>_<)



さてさて、最近筆が乗って9日連続投稿を達成したわけですが・・・

すみません、ストックが尽きたので止まります(土下座)

またいつものペースの投稿に戻ると思いますので、よろしくお願い致します。

それとここで、一つ感謝を・・・

『絢瀬天と九人の物語』ですが、いただいた感想が1000件を突破しました!!!!!

いやもう、本当にありがとうございます!

先日150話に到達しましたが、皆さんからの感想がどれだけモチベーションになったことか・・・

皆さんからの感想が無かったら、ここまで書き続けることは出来なかったと思います。

皆さん、本当にありがとうございます!

これからも『絢瀬天と九人の物語』をよろしくお願い致します!

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【上原歩夢】夢に向かって歩く

本日3月1日は、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会・上原歩夢ちゃんの誕生日!

そんなわけで今回は、歩夢ちゃんの誕生日回をお送りします!

ちなみにこの回の天は歩夢ちゃんや侑ちゃんと幼馴染で、歩夢ちゃんと付き合っています。

学年は高校3年生で、歩夢ちゃん・侑ちゃん・愛ちゃん・せつ菜ちゃんと同級生です。

本来の3年生組である果林ちゃん・彼方ちゃん・エマちゃんは卒業して、現在は大学1年生という設定になっていますのでご了承下さい。

それではいってみよー!


 「うわあああああんっ!天先輩いいいいいっ!」

 

 「天さん・・・ひっぐ・・・ご卒業、おめでとうございます・・・ぐすっ・・・!」

 

 「かすみ、しずく・・・ありがとう」

 

 泣いているかすみとしずくを、苦笑しながらそっと抱き寄せる。

 

 今日は俺達三年生にとって、最後の登校日・・・

 

 虹ヶ咲学園高等部の、卒業式当日だった。

 

 「天さん、卒業おめでとう。璃奈ちゃんボード『ニッコリ』」

 

 笑っている表情のボードを出す璃奈。

 

 いつもと変わらないように見えるが、俺は気付いていた。

 

 ボードの脇から見える璃奈の頬を、涙が伝っていることに。

 

 「・・・ありがとう、璃奈」

 

 あえて指摘はせず、璃奈の頭を優しく撫でる俺。

 

 「卒業しても、図々しく遊びに来るから。この人達みたいに」

 

 「天!?どういう意味よ!?」

 

 「アハハ、天くんは手厳しいなぁ」

 

 抗議の声を上げる果林さんと、苦笑しているエマさん。

 

 去年卒業したこの人達は、『卒業しましたよね?』と疑問に思うほど頻繁に遊びに来ていた。

 

 今日も俺達の卒業式ということで、こうして来てくれている。

 

 「でも天くん、嬉しそうにしてくれるじゃ~ん♪」

 

 「誰も『嬉しくない』とは言ってないでしょ」

 

 「照れちゃって~♪このこの~♪」

 

 抱きついてくる彼方さん。

 

 相変わらず距離が近いなぁ・・・

 

 「そういえば、愛とかせつ菜はどうしたのよ?」

 

 「愛は運動部の後輩達に挨拶してくるそうです。せつ菜も生徒会の後輩達に呼ばれてるみたいで、栞子と一緒に生徒会室に行きましたよ」

 

 「あら、モテモテじゃない。どこかの誰かさんと違って」

 

 ニヤニヤしている果林さん。

 

 やれやれ・・・

 

 「俺だってモテモテでしょう。こんなに寂しがってくれる可愛い後輩達と、卒業してるのにこうして来てくれる美人な先輩達がいるんですから」

 

 「っ・・・よ、よくそんな恥ずかしいことを言えるわね・・・」

 

 「えっ、照れてます?自称クールビューティーな果林さん、照れてます?」

 

 「う、うるさいっ!っていうか、自称した覚えないからっ!」

 

 「果林ちゃん、天くんをからかうのは止めておきなよ。果林ちゃんじゃ敵わないよ」

 

 「うぅ、エマぁ・・・」

 

 「二人の絡みも相変わらずだね~」

 

 先輩達と戯れていると、涙を拭ったしずくがキョロキョロと辺りを見回した。

 

 「ところで、歩夢さんと侑さんはどちらですか?」

 

 「私ならここにいるよ?」

 

 「うわっ!?」

 

 俺の背後からひょっこり現れた侑を見て、ビックリするしずく。

 

 「おぉ、侑。歩夢はどうした?」

 

 「中庭で桜を見てるよ」

 

 侑はそう言うと、ニッコリ笑った。

 

 「・・・行ってあげて。歩夢は天を待ってるはずだから」

 

 「・・・了解」

 

 ホント、良い幼馴染を持ったよ・・・

 

 「じゃ、ちょっと行って来るわ。後で合流するから、皆で卒業パーティーやろう」

 

 「オッケー!」

 

 「彼方ちゃん、腕によりをかけてご馳走作っちゃうよ~♪」

 

 「かすみんもコッペパンたくさん用意しますね!」

 

 「私もスイスの郷土料理でも作ろうかなぁ」

 

 「飾りつけは任せて。璃奈ちゃんボード『むんっ』」

 

 「私も手伝うよ、璃奈さん」

 

 「あんまり遅くなるんじゃないわよ?」

 

 「分かってますよ、果林母さん」

 

 「誰が母さんよ!?」

 

 「分かってますよ、果林婆さん」

 

 「しばき倒すわよ!?」

 

 「冗談ですって。行ってきます」

 

 俺は苦笑しながらそう言うと、中庭へ向かうのだった。

 

 もう一人の幼馴染・・・愛しの彼女に会いに行く為に。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「凄いなぁ・・・」

 

 感嘆の声を上げる俺。

 

 中庭はたくさんの桜が咲き誇っており、美しい光景が広がっていた。

 

 そしてひらひらと桜の花びらが舞い落ちる中に佇む、可憐な美少女・・・

 

 「っ・・・」

 

 あまりにも絵になるその姿に、俺は思わず見惚れてしまった。

 

 桜を見つめていた彼女だったが、視線に気付いたのか俺の方を振り向く。

 

 「あっ、天くん!」

 

 歩夢がニッコリ笑い、こちらへ歩み寄ってくる。

 

 「もう、来てたなら声かけてよ」

 

 「あぁ、ゴメン・・・ちょっと見惚れてて」

 

 「フフッ、分かるよ・・・綺麗だよね、桜」

 

 再び桜を見上げる歩夢。

 

 見惚れていたのは桜じゃなくて・・・と言うのは、何だか恥ずかしかったので言わないでおいた。

 

 「・・・卒業なんだね、私達」

 

 少し寂しそうな歩夢。

 

 「何だか、あっという間だったなぁ・・・」

 

 「思い返してみると、なかなか濃い高校生活だったよね」

 

 「アハハ、確かに」

 

 幼馴染三人で同じ高校に入って、侑がスクールアイドルにハマって、俺も歩夢も巻き込まれて・・・

 

 スクールアイドル同好会に入って、皆に出会って、一緒に頑張って・・・

 

 本当にあっという間だった気がする。

 

 「・・・歩夢はさ、いつも一生懸命だったよね」

 

 「えっ、そうかな?」

 

 「うん。いつも一生懸命で、いつも真剣で・・・凄いなって思ってた」

 

 出来ないことは出来るまでやろうとするし、こっちが止めないといつまでも練習してるし・・・

 

 歩夢の性格は分かってるつもりだったけど、スクールアイドルとしての上原歩夢は俺の想像以上だった。

 

 「歩夢は昔から、真っ直ぐで一途だったもんなぁ・・・幼稚園の頃『大きくなったら、天くんのお嫁さんになる!』って宣言してから、全くブレなかったもんね」

 

 「うぅ・・・思い返してみると、ちょっと恥ずかしいかも・・・」

 

 頬が赤くなる歩夢。

 

 今さら恥ずかしがるのか・・・

 

 「小学生の時、クラスの男子達に『お前アイツのこと好きなんだろー!』ってからかわれたけど・・・歩夢が当たり前みたいな顔して『うん、そうだよ?』って首を傾げるもんだから、男子達も『お、おう・・・』ってなってたよね」

 

 「だ、だって本当に好きだったし・・・」

 

 「中学の時も、『バカップルがきたぞ!ヒューヒュー!』って囃し立てられたりしたけど・・・『えへへ、ありがとう♪』って照れ臭そうにお礼を言うもんだから、周りも『あ、うん・・・』ってなってたし」

 

 「て、てっきり祝福されてるんだと思って・・・」

 

 「高校に入ってからも・・・」

 

 「もう止めてえええええっ!?」

 

 真っ赤な顔を両手で覆う歩夢。

 

 可愛すぎかオイ。

 

 「・・・まぁ、俺は嬉しかったけど」

 

 そっと歩夢の腰に手を回す。

 

 「いつも俺のことを好きでいてくれて、本当にありがとう・・・俺も好きだよ、歩夢」

 

 「天くん・・・」

 

 甘えるように、俺に寄りかかってくる歩夢。

 

 歩夢は本当に、俺の自慢の彼女だ。

 

 俺なんかには勿体無いくらいの、本当に素敵な子だと思う。

 

 だからこそ俺は、歩夢を幸せにしたいと強く思うのだ。

 

 「来月から大学生活が始まるけど、頑張って勉強するから。それでしっかり就職して、お金を稼げるようになるから。そしたら、ちゃんと歩夢に言うよ・・・『俺のお嫁さんになって下さい』って」

 

 「っ・・・」

 

 「その時、歩夢の気持ちが変わってなかったら・・・その先の人生を、俺と一緒に歩んでほしい。だから、少し待っててくれると嬉しいな」

 

 「・・・うん、待ってる」

 

 涙を拭う歩夢。

 

 「っていうか、私の気持ちは変わらないよ?」

 

 「いや、分かんないじゃん?大学で超が付くほどのイケメンに出会うとか・・・」

 

 「フフッ、分かってないのは天くんだよ」

 

 クスクス笑う歩夢。

 

 「ねぇ天くん、私の名前は?」

 

 「いや、名前って・・・歩夢でしょ?」

 

 「そう、『夢』に向かって『歩』く・・・それで『歩夢』だよ」

 

 微笑む歩夢。

 

 「『天くんのお嫁さんになる』っていう私の夢は、昔からずっと変わらないよ。その夢に向かって、私はここまで歩いてきたんだもん。私の歩みは、今さら止まらないんだから」

 

 「・・・ズルいなぁ」

 

 思わず歩夢を抱き締める。

 

 こういうことをサラッと言える俺の彼女は、本当に良い女だと思う。

 

 これ以上惚れると、歩夢依存症になりそう・・・

 

 「天くん・・・」

 

 「歩夢・・・」

 

 目を閉じる歩夢。

 

 俺はそんな歩夢に顔を近付け・・・唇を重ね合わせた。

 

 唇から伝わってくる歩夢の温もりが、愛おしくて仕方ない。

 

 「っ・・・フフッ、学校でしちゃったね」

 

 「アハハ・・・しかも中庭でね」

 

 こんな開けた場所、誰に見られてもおかしくないよな・・・

 

 「わぉ、大胆・・・!」

 

 「はわわわわ・・・!」

 

 「ちょ、せっつー!?しっかりして!?」

 

 案の定、見られていたようだ。

 

 感心している侑、顔を真っ赤にして悶えるせつ菜、慌てている愛の姿が目に映った。

 

 「侑ちゃん!?愛ちゃんとせつ菜ちゃんも!?いつの間に!?」

 

 「二人を見かけて声を掛けようとしたんだけど、何か良い雰囲気だったから声を掛け辛くて・・・ゴメン」

 

 「お、お二人が・・・キ、キキキキキスして・・・!」

 

 「はいはい、せつ菜ちゃんしっかり」

 

 謝る愛に、せつ菜を介抱する侑。

 

 うん、何かゴメン・・・

 

 「っていうか、愛とせつ菜の挨拶は済んだの?」

 

 「は、はい・・・さっき終わったところです」

 

 「じゃあ、皆に合流しようか。卒業パーティーの準備してくれてるだろうし」

 

 「よっしゃー!愛さんお腹ペコペコだよー!」

 

 「私もー!」

 

 「どんな料理が出るのか楽しみですね!」

 

 わいわい盛り上がる三人。

 

 あっ、そうだ・・・

 

 「侑、愛、せつ菜」

 

 「ん?どうしたん天っち?」

 

 首を傾げる愛。

 

 俺は三人の顔を見渡し、笑みを浮かべた。

 

 「卒業おめでとう。皆が同級生で、同好会の仲間で・・・本当に良かった。これからも付き合いは続いていくだろうから、今後もよろしく」

 

 俺の言葉に、三人はキョトンとした後・・・涙腺が崩壊した。

 

 「ぢょっどおおおおおっ!泣がぜないでよおおおおおっ!」

 

 「侑!?」

 

 「天っぢいいいいいっ!ウヂらはズッ友だよおおおおおっ!」

 

 「天ざああああんっ!大好ぎでずうううううっ!」

 

 「愛とせつ菜も落ち着いてくんない!?」

 

 「ちょっと皆!?私の旦那さんに抱きつくの止めてくれる!?」

 

 「歩夢は嫉妬してる場合じゃないから!っていうかまだ結婚してないから!」

 

 何とか皆を落ち着かせる。

 

 やれやれ、コイツらときたら・・・

 

 「ぐすっ・・・ねぇ、ちょっと青春っぽいことやらない?」

 

 涙を拭った侑が、卒業証書の入った筒を突き出す。

 

 あっ、なるほど・・・

 

 「よし、やろうか!」

 

 「実は私、こういうの憧れてたんです!」

 

 「愛さん全力出しちゃうよー!」

 

 「フフッ、無くさない程度にしてね?」

 

 五人で円形に並び、それぞれの筒を突き出す俺達。

 

 そして・・・

 

 

 

 

 

 「せーのっ!」

 

 

 

 

 

 「「「「「卒業、おめでとー!」」」」」

 

 

 

 

 

 大きく響く俺達の声。

 

 五本の筒が、桜の花びらと共に宙を舞うのだった。




どうも〜、ムッティだぴょん♪

・・・おえっ(吐き気)

さてさて、今回は歩夢ちゃんの誕生日回でした!

まぁ最後は歩夢ちゃんより、卒業がメインになってしまいましたが(´・ω・`)

3月1日って、やっぱり卒業式のイメージが強かったので。

卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます(`・ω・´)ゞ

そして4日は花丸ちゃんの誕生日!

もう誕生日回は書き終わっているので、ちゃんと4日に投稿します。

お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【国木田花丸】背中を押す

本日3月4日は、花丸ちゃんの誕生日!

そんなわけで今回は、花丸ちゃんの誕生日回をお送りします!

それではいってみるずら!←


 「んー、どうしようかなぁ・・・」

 

 自分の家で、白紙のノートを前に悩んでいる俺。

 

 次のAqoursの新曲の作詞を、千歌から任されてしまったのだ。

 

 「新曲ねぇ・・・」

 

 もう3月だし、卒業ソングが良いかなぁ・・・

 

 いや、桜ソングも良いかも・・・

 

 頭の中で、色々と考えていた時だった。

 

 

 

 

 

 『ピーンポーン』

 

 

 

 

 

 「ん?」

 

 玄関のチャイムが鳴った。

 

 もう夜だっていうのに、一体誰だろう?

 

 

 

 

 

 『ピーンポーン』

 

 

 

 

 

 「はーい」

 

 とりあえず玄関へ行って、ドアを開けてみる。

 

 そこに立っていたのは・・・

 

 「・・・ずらぁ」

 

 何故かしょぼくれている花丸だった。

 

 今にも泣き出しそうな顔をしている。

 

 「は、花丸・・・?」

 

 「っ・・・ずらあああああっ!」

 

 「うおっ!?」

 

 花丸が泣きながら抱きついてくるので、慌てて受け止める。

 

 「ど、どうした!?何かあった!?」

 

 「ぐすっ・・・家出・・・してきたずら・・・ひっぐ・・・」

 

 「家出!?」

 

 そういえば、やたら大きい荷物を持ってるな・・・

 

 まさか花丸が家出なんて・・・

 

 「・・・何があったの?」

 

 「うぅ・・・お母さんが・・・」

 

 「満点さんが・・・?」

 

 「・・・マルのひなあられ、勝手に食べちゃったずら」

 

 「帰れ食いしん坊娘」

 

 「酷いずら!?」

 

 ショックを受ける花丸なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 『本当に申し訳ないっ!』

 

 謝ってくる満点さん。

 

 とりあえず花丸を家に招き入れた俺は、満点さんに電話して事情を説明したのだった。

 

 「花丸は、ひなあられがどうとか言ってましたけど・・・」

 

 『あ、ありのまま今起こったことを話すよ・・・私はテレビの前でひなあられを食べていたと思ったら、いつの間にか消えていた・・・何を言っているのか分からないと思うけど、私も何が起きたのか分からなかった・・・頭がどうにかなりそうだった・・・マジックだとかミステリーだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない・・・もっと恐ろしいものの片鱗を味わったよ・・・』

 

 「長々とポル●レフのセリフをパクりましたけど、貴女がテレビ見ながらひなあられ全部食べちゃっただけですよね。いつの間にか消えていたって、貴女の胃袋に消えていっただけの話ですよね」

 

 『・・・そうとも言う』

 

 「そうとしか言いません」

 

 思わず溜め息をついてしまう。

 

 そういえば、今日はひなまつりだっけ・・・

 

 『・・・花丸、やっぱり怒ってる?』

 

 「さっきまでは怒ってたんですけど・・・」

 

 「美味しいずらぁ・・・!」

 

 「・・・夕飯を食べてないって言うのでご馳走してあげたら、機嫌が直りました」

 

 『アハハ、あの子は食べ物に目が無いから・・・』

 

 「この親にしてこの子あり、ですね」

 

 『うぐっ・・・』

 

 言葉に詰まる満点さん。

 

 やれやれ・・・

 

 「どうするんですか?今から迎えに来ます?」

 

 『・・・悪いんだけど、今夜は花丸を泊めてあげてくれないかな?』

 

 「俺は構いませんけど、年頃の娘を男の家に泊めさせるのは親として良いんですか?」

 

 『責任を取ってくれるなら、手を出しても良いよ?』

 

 「おい母親」

 

 『B83を誇る豊満な胸を、満足するまで揉みしだいても良いよ?』

 

 「サラッと娘のバストサイズを暴露しないで下さい」

 

 『アハハ、まぁ私は天くんを信頼してるから。それに明日は花丸の誕生日だし、花丸も天くんと一緒に過ごせた方が嬉しいだろうしね』

 

 そう、明日は3月4日・・・花丸の誕生日なのだ。

 

 普通に学校でお祝いしようと思っていたが、まさかこんな形になるとは・・・

 

 『というわけで、孫の顔を楽しみにしてるからね!』

 

 「なるほど、孫から満点おばあちゃんって呼ばれたいんですね」

 

 『そ、それは何か嫌だっ!満点お姉ちゃんって呼んでもらうもんっ!』

 

 「はいはい、ボッシュートボッシュート」

 

 『ちょ、天くん!?』

 

 何か喚いていたが、無視して電話を切る。

 

 今度満点おばあちゃんって呼んであげよう。

 

 「天くん?お話は終わったずら?」

 

 夕飯を食べ終えたらしい花丸が、ちょこんと首を傾げる。

 

 「あぁ、うん。とりあえず、今夜はウチに泊まっていきなよ。もう夜遅いし」

 

 「・・・迷惑じゃないずら?」

 

 「押しかけといて何言ってんの?」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まる花丸。

 

 やれやれ・・・

 

 「全然迷惑じゃないから。むしろ可愛い女の子と一緒に過ごせるんだから、役得だよ」

 

 「か、可愛っ・・・!?」

 

 「あと、『責任を取ってくれるなら手を出しても良い』って言われてるから」

 

 「ずらっ!?」

 

 「『豊満な胸を、満足するまで揉みしだいて良い』って言われてるから」

 

 「ずらぁっ!?」

 

 「っていうか花丸、B83もあるのか・・・道理で大きいと思ったら・・・」

 

 「お母さんんんんんんんんんんっ!絶対許さないずらああああああああああっ!」

 

 これ以上ないほど顔を真っ赤にしている花丸。

 

 さて・・・

 

 「それじゃ・・・二人の夜を楽しもうか」

 

 「身の危険しか感じないずらああああああああああっ!」

 

 悲鳴を上げる花丸なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「そんな部屋の隅にいなくても・・・」

 

 「近付かないで欲しいずら・・・むしゃむしゃ・・・天くんは危険人物ずら・・・もぐもぐ・・・」

 

 「警戒するか食べるかどっちかにしたら?」

 

 こっちを睨みながらお菓子を食べる花丸に、思わず呆れてしまう。

 

 やれやれ・・・

 

 「じゃ、俺は作詞の続きでもしようかな」

 

 再び新曲について考えを巡らせる。

 

 さっきは卒業ソングとか、桜ソングとか考えてたんだよな・・・

 

 「・・・卒業かぁ」

 

 俺もいずれ高校を卒業するわけだけど、卒業後はどういう道を進むんだろうなぁ・・・

 

 「花丸はさ、高校を卒業した後のことって考えてる?」

 

 「・・・急にどうしたずら?」

 

 「いや、何となく気になってさ」

 

 「んー・・・とりあえずマルは、大きな図書館がある大学に進みたいずら」

 

 首を傾げながらも、俺の質問に答えてくれる花丸。

 

 「それで卒業後は、本に携わる仕事に就けたら良いなって・・・まだ漠然とした考えだけど、そう思ってるずら」

 

 「なるほど・・・花丸らしいね」

 

 何だかんだ、ちゃんと考えてるんだなぁ・・・

 

 「天くんは考えてるずら?」

 

 「真姫ちゃんか鞠莉と結婚して、逆玉の輿に乗って毎日遊んで暮らしたい」

 

 「ヒモになる気満々!?最低な人間の発想ずら!」

 

 「冗談だって。まぁお金とか関係無しに、真姫ちゃんや鞠莉みたいな美女と結婚出来たら幸せだろうけど・・・あの二人は男なんて選び放題だし、俺なんて相手にされないよ」

 

 「・・・天くんが鈍感で良かったずら。これで鋭かったら、本当にヒモ生活を実現させてしまうところだったずら」

 

 何故かホッとしている花丸。

 

 何をぶつぶつ言ってるんだろう?

 

 「まぁ真面目な話、ちゃんと決めてないんだよね。高校を卒業して就職するのか、それとも大学に進学するのか」

 

 「やりたいことが無いずら?」

 

 「いや、その逆。色々あるんだよね」

 

 『やってみたい』と思うことは、実は結構多かったりするのだ。

 

 例えば・・・

 

 「穂乃果ちゃんのお父さんみたいな和菓子職人に、真姫ちゃんのお父さんみたいなお医者さん・・・にこちゃんみたいな芸能事務所の裏方さんとか、海未ちゃんみたいに教師を目指すのも良いよね」

 

 「け、結構多いずらね・・・」

 

 「そうなんだよ。果南の影響でダイビングの楽しさにも気付いたし、ダイビングのインストラクターも良いなって」

 

 そう考えると、やりたいことがたくさんあるんだよな・・・

 

 何を目指すかによって、就職か進学か決まってくるし・・・

 

 「ただ・・・どの道、一度内浦を離れることになるとは思う」

 

 「っ・・・東京に行くずら・・・?」

 

 「そうなるかな。就職にせよ進学にせよ、いつまでもこの家を借りてるわけにはいかないし・・・」

 

 元々、この家は小原家の所有物だ。

 

 まぁ鞠莉のことだから、俺が頼めば引き続き貸してもらえるとは思うが・・・

 

 ずっと厚意に甘えているわけにもいかないからな。

 

 「まぁ卒業後の話だし、まだまだ先・・・」

 

 「嫌ずらっ!」

 

 「うおっ!?」

 

 花丸が勢いよく抱きついてくる。

 

 身体が小刻みに震えていた。

 

 「ちょ、花丸!?『近付くな』って言ってなかったっけ!?」

 

 「もうどうでもいいずら!思う存分マルに手を出すと良いずら!」

 

 「はい!?」

 

 「マルの胸を好きなだけ揉みしだくと良いずら!」

 

 「何言ってんの!?」

 

 「大きさが物足りないなら、頑張ってもっと大きくなるずら!」

 

 「これ以上大きくしようとしてんの!?」

 

 「鞠莉ちゃんを超えて、Aqoursで一番の巨乳になってみせるずら!」

 

 「いやもう十分だから!無理しなくて良いから!」

 

 「だから・・・だから・・・!」

 

 涙声の花丸。

 

 「行っちゃヤダ・・・ひっぐ・・・マルを、置いていかないで・・・ぐすっ・・・!」

 

 「・・・可愛いなぁ、花丸は」

 

 しっかりと花丸を抱き締める。

 

 俺は今、花丸が愛おしくて仕方なかった。

 

 「ねぇ、花丸・・・一緒に行かない?」

 

 「え・・・?」

 

 目に涙を浮かべたまま、キョトンとする花丸。

 

 「一緒にって・・・」

 

 「東京だよ。花丸も一緒にどうかなって」

 

 花丸の目元の涙を、指でそっと拭う。

 

 「東京の大学なら、大きな図書館があるところもたくさんあるだろうし。花丸が気に入る大学が、きっとあるんじゃないかな」

 

 「マ、マルが・・・東京の大学に・・・?」

 

 息を呑む花丸。

 

 「で、でも・・・マル、東京でやっていけるか・・・」

 

 「大丈夫。花丸は一人じゃないでしょ」

 

 花丸の頭を撫でる俺。

 

 「俺がいるし、μ'sの皆だっている。ダイヤさんも東京の大学に進学するって言うし、それならルビィも同じことを考えるんじゃないかな?」

 

 「オ、オラ・・・一人暮らし、出来るかな・・・?」

 

 「じゃあ・・・俺と一緒に住む?」

 

 「っ・・・」

 

 花丸の顔が、ボンッと真っ赤に染まる。

 

 可愛いなぁ・・・

 

 「まぁさっきも言ったけど、まだ先の話だから。ゆっくり考えてくれたら良いよ」

 

 「わ、分かったずら・・・」

 

 花丸はそう言うと、俺の胸に顔を埋めた。

 

 「もうちょっと・・・もうちょっとだけ、こうしてても良いずら・・・?」

 

 「・・・勿論」

 

 お互いを抱き締め合う、花丸と俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《花丸視点》

 

 「おっ、もうすぐじゃん」

 

 天くんが時計を見ながら呟く。

 

 もうすぐ深夜0時・・・つまり日付が変わり、マルの誕生日になるのだ。

 

 「っていうか、大丈夫?寒くない?」

 

 「平気ずら」

 

 マル達は今、縁側に座って夜空を眺めていた。

 

 もう3月とはいえ、夜はまだ冷える時期だ。

 

 マル達は身を寄せ合い、同じ毛布にくるまっていた。

 

 「何もこんな時間に、夜空を見なくても良いんじゃ・・・」

 

 「せっかくの満月なんだから、見なきゃ損ずら」

 

 そう、今夜は満月だった。

 

 真ん丸な黄色いお月様が、真っ暗な夜空に綺麗に浮かび上がっている。

 

 「そういえば天くん、新曲の作詞はどうするずら?」

 

 「んー・・・方向性は決まったかな」

 

 微笑む天くん。

 

 「3月は卒業シーズンだけど・・・卒業って『別れ』であるのと同時に、新しい『始まり』でもあるでしょ?」

 

 「確かにそうずらね」

 

 「だから卒業して、ここからスタートする人達・・・前に進もうとしている人達に向けた、応援ソングにしたいなって」

 

 「応援ソング・・・」

 

 それは良いアイディアかもしれない。

 

 マル達の歌で、そういった人達の背中を少しでも押してあげることが出来たら・・・

 

 「これまでの思い出を抱きつつ、前に進もうとする人達・・・まだ自分達の知らない、未体験の世界に飛び込もうとしている人達・・・そんな人達を少しでも応援出来たら、凄く素敵なことだと思うんだよね」

 

 そう言いながら月を見上げる天くんの横顔を見て、思わずドキッとしてしまうマル。

 

 こういうことを語る時の天くんは、普段よりカッコ良く見えるのだ。

 

 うぅ、『惚れた方が負け』ってやつずら・・・?

 

 「そういうわけだから花丸、新曲のセンターは君に決めた!」

 

 「そんなサ●シみたいなノリで!?」

 

 「相棒のよしチュウやルビチュウと一緒に頑張って」

 

 「善子ちゃんとルビィちゃんをピ●チュウみたいに呼ぶのは止めるずら!」

 

 「内浦タウンにサヨナラバイバイ」

 

 「マルは天くんと東京に出る・・・ハッ!?」

 

 「はい、言質いただきました」

 

 「ち、違うずら!今のはノリで・・・」

 

 「えー?ノリでそういうこと言っちゃうのー?」

 

 「うぐっ・・・」

 

 「アハハ、冗談だって。ちゃんと考えて決めてね」

 

 頭を撫でてくれる天くん。

 

 うぅ、思わず本音が・・・

 

 本当はもう、答えなんてとっくに出てるずら・・・

 

 「・・・新曲のセンターを花丸に任せたいっていうのは、本気だよ。応援ソングを作るなら、センターは花丸が良い」

 

 「ど、どうして・・・?」

 

 「花丸が一番、そういう人の背中を押せそうだから」

 

 微笑む天くん。

 

 「『自分には無理だ』っていう思いを振り切って、勇気を出してスクールアイドルの世界に飛び込んだ・・・これまで触れたことのない、未体験の世界に飛び込んだ・・・そんな花丸だからこそ、あの時の花丸みたいな人の背中を押せると思うんだ」

 

 「マルが・・・背中を押す・・・」

 

 「同じように、ルビィと善子も勇気を出して一歩を踏み出したでしょ?だからこそ、一年生三人が中心になって歌ってほしいなって・・・俺はそう思うんだけど」

 

 「・・・やっぱり天くんはズルいずら」

 

 そんな風に言われたら、もう『オラには無理』なんて言えない。

 

 『やってみたい』って思ってしまう。

 

 「・・・あの時もそうだったずらね」

 

 「あの時?」

 

 「マルがAqoursに入る時ずら」

 

 あの時、天くんがマルに言ってくれたこと・・・今でも忘れることはない。

 

 

 

 

 

 『花丸はスクールアイドルをやりたいの?やりたくないの?』

 

 

 

 

 

 『一番大切なのは、出来るかどうかじゃない・・・やりたいかどうかでしょ』

 

 

 

 

 

 「天くんがマルの背中を押してくれたから、マルは今スクールアイドルとして活動出来てるずら。だから・・・」

 

 決意を固める。

 

 今度はマルの番だ。

 

 「マルも背中を押してあげたい・・・センター、頑張るずら」

 

 「・・・ありがとう」

 

 笑顔の天くん。

 

 その時・・・

 

 

 

 

 

 ピピピピッ・・・

 

 

 

 

 

 「あっ、日付が変わった!」

 

 0時になり、日付が3月4日に変わる。

 

 つまり・・・

 

 「誕生日おめでとう、花丸」

 

 「フフッ、ありがとうずら」

 

 マルの16歳の誕生日だ。

 

 天くんに祝福され、照れ臭くなってしまうマル。

 

 「天くんと二人で、月を見ながら誕生日を迎えるなんて・・・想像してなかったずら」

 

 「ひなあられを食べちゃった満点さんに感謝だね」

 

 「マルのバストサイズを暴露したから差引きゼロ、むしろマイナスまであるずら」

 

 「アハハ・・・満点さん、ドンマイです」

 

 苦笑する天くんを横目に、月を見上げるマル。

 

 今のマルには、どうしても天くんに言いたいセリフがあった。

 

 

 

 

 

 「・・・月が、綺麗ずらね」

 

 

 

 

 

 このフレーズの意味を、天くんは知らないかもしれない。

 

 それでもマルは、どうしても言っておきたかった。

 

 例え天くんに、マルの気持ちが届かなかったとしても・・・

 

 

 

 

 

 「・・・花丸と見る月だから」

 

 

 

 

 

 「っ・・・!」

 

 微笑む天くん。

 

 どうやらマルの気持ちは、天くんに届いたようだ。

 

 天くんの顔がゆっくりとマルに近付き、マルはそっと目を閉じる。

 

 そして・・・マルの唇が、優しい温もりを確かに感じたのだった。

 

 

 

 

 

 後日、天くんが作詞したAqoursの新曲が完成した。

 

 曲名は、『未体験HORIZON』・・・

 

 センターを任されたマルは、全力で皆の背中を押すことを誓うのだった。




どうも〜、ムッティずら!

さてさて、今回は花丸ちゃんの誕生日回でした!

天のヤツ、花丸ちゃんとイチャイチャしよって・・・

ちなみにご存知かと思いますが、『月が綺麗ですね』は『あなたを愛しています』という告白を意味するフレーズです。

これは『我輩は猫である』で有名な夏目漱石さんが、英語教師をやっていた頃の話が基になっているんだとか。

『I love you』を『俺はお前を愛してるZE!』と訳した生徒に対し、『ジャパニーズはそんなこと言わねーよ。月メッチャ綺麗じゃね?とでも訳しとけや』と言ったそうですよ。

何かメッチャ軽い人達の会話みたいになりましたが、内容は大体合ってるはずです(笑)

まぁこの話、『都市伝説ではないか』と言われているそうですが(´・ω・`)

ちなみにそれに対する『あなたと見る月だから』は、『あなたは特別=OK』という返事のフレーズだそうです。

天と花丸ちゃんが結ばれた・・・

おめでとう(血涙)



そして『未体験HORIZON』の誕生秘話・・・を勝手に作っちゃいました(笑)

花丸ちゃん・・・っていうかきんちゃん、本当に歌が上手いですよね。

あの歌声が本当に好きなので、花丸ちゃんの誕生日に発売されるソロアルバムを買おうか真剣に悩んでいます(´・ω・`)

皆さんは買いましたか?



次の誕生日回は海未ちゃんなんですが、前にも言った通りμ's及びニジガクメンバーの誕生日回は時間に余裕がある場合のみ書かせていただきます。

個人的にはニジガクを優先したいので、次の誕生日回は4月3日のしずくちゃんになるかな・・・

っていうか、そもそも本編書かないと(´・ω・`)

時間を見つけて、頑張って書きたいと思います(>_<)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【桜坂しずく】理想のヒロインに・・・

しずくちゃん、誕生日おめでとう!

そんなわけで、今回はしずくちゃんの誕生日回をお送りします!

・・・間に合って良かった(疲労困憊)

それではいってみよー!


 「先輩、おはようございます!付き合って下さい!」

 

 「おはよう、しずく。無理」

 

 朝の挨拶と共にされた告白を、あっさり断る俺。

 

 告白を断られたしずくは、不満そうな表情を浮かべた。

 

 「むぅ・・・自然に告白出来たと思ったのに・・・」

 

 「今のが自然だと思うなら、しずくの頭はおかしいと思う」

 

 「辛辣!?」

 

 「・・・朝から何してるんですか」

 

 いつの間にか近くへやって来ていた栞子が、呆れた表情で俺達を見ていた。

 

 「聞いてよ栞子さん!先輩が私の告白をまた断ったんだよ!?」

 

 「聞いてましたよ。情緒も何も無い告白でしたね」

 

 「栞子さんまで辛辣過ぎない!?」

 

 「っていうか、もう何回告白してるんですか・・・」

 

 「今回で十五回目だよ」

 

 「・・・覚えてる時点でドン引きです」

 

 「何で!?」

 

 「それよりしずく、今日はリボンの色が違くない?」

 

 今日のしずくの髪を結んでいるのは、いつもの赤いリボンではなく白いリボンだった。

 

 「気付いてくれました!?その違いに気付いてくれるのはポイント高いです!三百億ポイントあげちゃいます!」

 

 「ポイント数がバカみたいに高いんだけど」

 

 「実はあの赤いリボン、昨日切れちゃって・・・でも大丈夫です!赤いリボンは切れても、先輩との赤い糸は切れてないので!」

 

 「俺にはそんな糸見えないわ」

 

 「私には見えてます!」

 

 「センセー!ここに幻覚が見えてる子がいまーす!」

 

 「ちょっと!?私は正常ですってば!?」

 

 「・・・相変わらず仲は良いんですよねぇ」

 

 何とも言えない表情で俺達を見る栞子なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「美味っ!この卵焼き美味っ!」

 

 「フフッ、た~んと召し上がれ~♪」

 

 彼方さん特製の卵焼きを頬張る俺。

 

 昼休み、俺は三年生三人と昼ご飯を食べていた。

 

 「そういえば天、またしずくちゃんの告白を断ったそうじゃない。さっき栞子ちゃんから聞いたわよ?」

 

 「ふぃふふぉふぉふふぃふぇふ(いつも通りです)」

 

 「まず卵焼きを飲み込んでから話しなさいよ!?」

 

 「アハハ、お茶どうぞ」

 

 「ふぉふふぉ~(どうも~)」

 

 果林さんからツッコミを受けてしまったので、エマさんからお茶をもらい卵焼きと共に流し込む。

 

 ふぅ・・・

 

 「いつも通りです。後輩とのコミュニケーションですよ」

 

 「いや、そんなコミュニケーション聞いたことないんだけど」

 

 呆れる果林さん。

 

 一方、エマさんは不思議そうな表情を浮かべていた。

 

 「しずくちゃんは可愛いし、性格も良いと思うんだけど・・・天くんとも仲良しだし、逆にどこが不満なの?」

 

 「おっぱいです」

 

 「そこ!?」

 

 「あぁ、別に高望みはしてませんよ?最低でもB85は欲しいだけです」

 

 「十分高望みだと思うよ!?彼方ちゃんと同じサイズってことでしょ!?」

 

 「エマちゃん、しれっと彼方ちゃんのバストサイズを暴露しないでほしいなぁ・・・」

 

 ちょっと恥ずかしそうな彼方さん。

 

 恥ずかしがる彼方さん、新鮮だなぁ・・・

 

 「まぁ真面目な話、しずくに不満なんて無いですよ。しずくみたいな子が彼女になってくれたら、きっと幸せなんだろうなと思います」

 

 「じゃあ何で告白を断るのよ?」

 

 「・・・そうですねぇ」

 

 果林さんの問いに、俺は苦笑いを浮かべた。

 

 「しずくがどこまで本気なのか、分からないから・・・ですかね」

 

 俺の言葉に、首を傾げる三年生三人なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 《しずく視点》

 

 「そんなわけで、またしても断られてしまいました」

 

 「アハハ・・・」

 

 何故か苦笑している侑さん。

 

 私は二年生の先輩方と一緒に、お昼ご飯をご一緒させていただいていました。

 

 「そっかぁ、愛さんが考えた告白も上手くいかなかったかぁ・・・」

 

 「えっ、愛ちゃんが考えた告白だったの?」

 

 「そうなんだよ。なかなか良い考えだと思ったんだけど」

 

 「・・・愛ちゃんって、見た目の割に恋愛偏差値低いよね」

 

 「歩夢に酷いこと言われた!?」

 

 ショックを受ける愛さん。

 

 歩夢さんでも、そんな辛辣な言葉を口にすることがあるんですね・・・

 

 「ですが天さんは、どうして頑なにしずくさんからの告白を断るんでしょう?」

 

 首を傾げるせつ菜さん。

 

 「しずくさんほどの美少女からの告白であれば、普通はすぐOKしそうですが・・・」

 

 「び、美少女って・・・」

 

 恥ずかしくなってしまう私。

 

 せつ菜さんはストレートに褒めて下さるので、嬉しい反面ちょっと恥ずかしいんですよね・・・

 

 「歩夢とゆうゆは、天っちと幼馴染だよね?心当たりとかある?」

 

 「「おっぱい」」

 

 「はい!?」

 

 同時に返ってきた答えに絶句する愛さん。

 

 いや、おっぱいって・・・

 

 「天はおっぱい星人だからなぁ・・・最低でも、B85は求めてると思うよ」

 

 「最低ライン高過ぎない!?」

 

 「同好会で言うと、三年生三人以外は眼中に無いんじゃないかな」

 

 「それはそれで何か腹立つんだけど!?」

 

 「愛ちゃんはB84だし、あと一歩じゃん。頑張って」

 

 「ゆうゆ!?何で愛さんのバストサイズ知ってんの!?」

 

 愛さんのツッコミが止まらない。

 

 B85かぁ・・・

 

 「よし、ちょっと高●クリニック行ってきます」

 

 「しずくさん!?早まらないで下さい!」

 

 せつ菜さんに止められる。

 

 良い案だと思ったのに・・・

 

 「まぁ冗談はさておき、心当たりはあるよ」

 

 私を見つめる歩夢さん。

 

 「多分だけど・・・しずくちゃんが本気なのか、疑ってるんだと思う」

 

 「えぇっ!?」

 

 驚く私。

 

 疑ってるって・・・

 

 「私が本気じゃないと思われてるってことですか!?」

 

 「そうだと思うよ」

 

 頷く侑さん。

 

 「しずくちゃん、何度も天に告白してるけどさ・・・断られることを前提に告白してるところがあるよね」

 

 「っ・・・」

 

 侑さんの指摘に、何も言えなくなってしまう私。

 

 実際・・・その通りだったから。

 

 「ど、どういうことですか・・・?」

 

 「つまりね、OKしてもらえるなんて思ってないってこと。もっと言っちゃうと、本気で気持ちを伝えにいってないってことだよ」

 

 せつ菜さんの疑問に答える歩夢さん。

 

 「だから天くんも断ってるんだと思う。しずくちゃんの本気度が見えないから」

 

 「そもそも、本当に好きなのかどうかも疑ってるんじゃないかな」

 

 「そんな!?」

 

 侑さんの言葉に慌ててしまう私。

 

 「それは本当です!私は先輩のことが好きなんです!」

 

 「だったら、真剣に伝えなきゃダメだよ」

 

 真面目な表情の侑さん。

 

 「天はそういうところ、本当に鋭いから。しずくちゃんが真剣に気持ちを伝えなきゃ、天だって真剣に向き合ってくれないよ」

 

 真剣に・・・気持ちを伝える・・・

 

 「・・・分かりました。やってみます」

 

 覚悟を決める私なのでした。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ちょ、かすかす!?引っ張らないでよ!?」

 

 「誰がかすかすですかっ!いいから早く来て下さい!」

 

 「天さん、早く早く」

 

 放課後、俺はかすみと璃奈に連行されていた。

 

 一体どこへ連れて行かれるのか・・・

 

 「ふぅ・・・よし、到着です!」

 

 「いや、到着って・・・」

 

 連れて来られた場所は、校舎の外の広場だった。

 

 こんなところに連れて来て、一体何だと言うのか・・・

 

 「天さん、あそこ見て」

 

 璃奈が二階のテラスを指差す。

 

 そこには・・・

 

 「え、しずく・・・?」

 

 何やら覚悟を決めた表情のしずくが立っていた。

 

 しずくは深く息を吸うと、大きな声で叫び始めた。

 

 「皆さん、こんにちは!虹ヶ咲学園一年、桜坂しずくです!」

 

 下校しようとしていた生徒達が、何事かと足を止めてしずくに注目する。

 

 「私は今、二年の絢瀬天先輩に恋をしています!」

 

 「ちょっとおおおおおっ!?何してんのアイツうううううっ!?」

 

 慌てて止めに行こうとした俺の両腕を、かすみと璃奈がガシッと掴んだ。

 

 「ダメです先輩!しず子の話を最後まで聞いて下さい!」

 

 「お願い天さん!璃奈ちゃんボード『ウルウル』」

 

 「いや、だって・・・」

 

 「私は先輩のことが大好きです!心の底から愛してます!」

 

 「恥ずかしいから止めてえええええっ!?」

 

 何なのアイツ!?

 

 羞恥心はどこへ行ったの!?

 

 「先輩と付き合いたい!先輩の恋人になりたい!その気持ちに嘘はありません!でも・・・」

 

 俯くしずく。

 

 「私が本気で告白して、先輩にフラれてしまったら・・・今のような仲良しな関係ではいられなくなる・・・私はそれが怖かったんです」

 

 独白を続けるしずく。

 

 「だからいつも、本気とも冗談ともつかないような告白をして・・・先輩に受け入れてもらえなくて当然です。そんな曖昧な告白をして、真剣な答えを返してくれるはずがありません。私はそれが分かっていながら、ずっと逃げてきました」

 

 「しずく・・・」

 

 「でもっ・・・!」

 

 涙声で叫ぶしずく。

 

 「もう逃げたくないっ!もしこの気持ちを受け入れてもらえなくてもっ!もし今みたいな関係でいられなくなってもっ!それでも私はっ・・・!」

 

 顔を上げるしずく。

 

 その目からは、涙が溢れていた。

 

 「先輩っ!私は先輩のことが大好きですっ!だから・・・だから私を・・・私を先輩の彼女にして下さいっ!絶対に、先輩の理想のヒロインになってみせますからっ!」

 

 「っ・・・」

 

 しずくの言葉が、心に響いた。

 

 こうしちゃいられない・・・!

 

 「かすみ!璃奈!手を離してくれ!」

 

 「了解です!」

 

 「行ってらっしゃい!」

 

 二人の手が離れた瞬間、ダッシュで二階へ続く階段へと向かう。

 

 階段を駆け上がり、テラスへと出ると・・・

 

 目を真っ赤にしながらも、凛とその場に立つしずくがいた。

 

 「しずくっ!」

 

 「っ!?先輩!?」

 

 驚いた表情のしずく。

 

 俺はしずくに駆け寄ると・・・思いっきりしずくを抱き締めた。

 

 「ふぇっ!?」

 

 しずくの顔が真っ赤に染まるが、そんなのお構いなしに強く抱き締める。

 

 「・・・ありがとう、しずく」

 

 「せ、先輩・・・?」

 

 「しずくの気持ち・・・ちゃんと伝わったから」

 

 俺はそう言うと、自分の素直な気持ちを言葉にした。

 

 「・・・好きだよ、しずく」

 

 「っ・・・」

 

 「俺の彼女に・・・俺だけのヒロインになってほしい」

 

 微笑む俺。

 

 「俺と・・・付き合ってくれる?」

 

 「っ・・・はいっ・・・!」

 

 涙を流しながらも、嬉しそうに微笑むしずく。

 

 「喜んで・・・!」

 

 抱き合う俺達。

 

 すると・・・

 

 

 

 

 

 『パチパチパチパチ!』

 

 

 

 

 

 広場にいた生徒達が、一斉に拍手し出した。

 

 「おめでとー!」

 

 「お幸せにー!」

 

 「彼方ちゃん、感動しちゃったよー!」

 

 「二人とも愛してるよー!愛だけにー!」

 

 「・・・何か聞き覚えのある声がするんだけど」

 

 「奇遇ですね先輩。私も同じことを思いました」

 

 姿は見当たらないが、確実にいるな・・・

 

 恐らく、同好会メンバーは全員揃っているんだろう。

 

 「・・・ま、いっか」

 

 俺は溜め息をつくと、しずくを抱き寄せた。

 

 「わわっ!?先輩、ちょっと大胆過ぎません!?」

 

 「こんなところで公開告白したヤツに言われたくないんだけど」

 

 「うぅ、それを言われると・・・」

 

 顔を真っ赤にするしずく。

 

 やれやれ・・・

 

 「・・・これからもよろしくね」

 

 「っ・・・はいっ!」

 

 俺の言葉に笑みを浮かべたしずくは、勢いよく俺に抱きついてくる。

 

 そして・・・

 

 「先輩、大好きです・・・んっ」

 

 「んんっ!?」

 

 『おおっ!?』

 

 公衆の面前で、愛おしそうに俺の唇を奪うのだった。




あなたの理想の作者、ムッティです♪

・・・調子に乗ってすみませんでした(土下座)

さてさて、今回はしずくちゃんの誕生日回でした!

いつもはおしとやかなしずくちゃんが、好きな人に対してグイグイ迫る・・・

そんな話を書きたかったんですよねー。

まぁ本編の梨子ちゃんのように、ちょっと残念な子になっちゃいましたけど(笑)

っていうか、先月の花丸ちゃんの誕生日回から1ヶ月も空いてしまったのか・・・

本編なんてそれ以上空いてるし・・・

やっちまったZE☆

・・・ホントにすいませんでした(土下座)

ぼちぼち執筆していかねば・・・

次の更新は本編が先か、それとも曜ちゃんの誕生日回が先か・・・

が、頑張ります・・・(震え声)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

結果発表は緊張するものである。

Liella!のデビューシングル『始まりは君の空』がリリースされましたね。

アニメ『ラブライブ!スーパースター!!』も7月から始まりますし、今から楽しみです(^^)


 「うぅ・・・」

 

 明らかに具合が悪そうな海未ちゃん。

 

 ラブライブ予備予選&学校説明会の翌朝、俺は東京へ帰る海未ちゃんを見送りに沼津駅までやって来ていた。

 

 「だから『飲み過ぎるな』って言ったのに・・・」

 

 海未ちゃんを支えつつ、溜め息をつく俺。

 

 学校説明会終了後、海未ちゃん・麻衣先生・翔子先生・榛名先生の四人は俺の家で飲み会を敢行していた。

 

 俺は早々に寝たのだが、四人は明け方まで飲んでいたらしい。

 

 今朝起きてリビングに行ったら、四人とも床に転がって爆睡してたもんな・・・

 

 全員“雷鳴●卦”で叩き起こしたけども。

 

 「先生方は仕事だから仕方ないけど、海未ちゃんはもう少し休んでから帰ったら?」

 

 「そうしたいのは山々なんですが、今日は午後から講義があって・・・二日酔いで休むなんて嫌ですから・・・」

 

 「真面目だねぇ・・・」

 

 俺だったら絶対サボるけどな・・・

 

 そんなことを考えながらホームへ向かうと、ちょうど電車が到着するところだった。

 

 ドアが開き、海未ちゃんがフラフラしながら乗り込む。

 

 「すみません、天・・・これから学校があるのに、わざわざ送ってもらって・・・」

 

 「気にしないの。俺と海未ちゃんの仲でしょ」

 

 申し訳なさそうにする海未ちゃんの頭を、苦笑しながら優しく撫でる。

 

 「電車の中でちゃんと休むんだよ。お茶とサンドイッチも渡しておくから」

 

 「すみません、何から何までありがとうございます・・・」

 

 海未ちゃんに手提げ袋を渡す。

 

 「あぁ、そうでした・・・Aqoursの皆に伝言をお願い出来ますか?『決勝ステージは必ず見に行きます』と」

 

 「いや、気が早くない?まだ予備予選を突破したかも分からないのに・・・」

 

 「突破しますよ、必ず」

 

 断言する海未ちゃん。

 

 「動画は見せてもらいましたが、素晴らしいパフォーマンスでした。あれなら予備予選突破は間違いありません。それに加えて、昨日の学校説明会でのパフォーマンス・・・あれほどの力があるのなら、地区予選突破も難しくないでしょう。まず間違いなく、決勝まで勝ち進むでしょうね」

 

 「珍しく自信満々だね?いつもなら『油断は禁物です』とか言うのに」

 

 「ですが、油断など微塵もしていないでしょう?」

 

 「勿論。ラブライブが甘くないことは、全員身を持って知ってるからね」

 

 「フフッ、それなら大丈夫です」

 

 微笑む海未ちゃん。

 

 「私も応援していますから。頑張って下さいね」

 

 「ありがとう。頑張るよ」

 

 どちらからともなく抱き合う俺達。

 

 「また遊びに来てね。待ってるから」

 

 「えぇ。天の方こそ、たまには帰って来て下さい。皆会いたがってるんですから」

 

 「そうそう。ウチも天くんに会えないのは寂しいんよ」

 

 「うん、また今度東京に・・・ん?」

 

 「え?」

 

 第三者の声に、思わず固まってしまう俺と海未ちゃん。

 

 恐る恐る振り向くと・・・

 

 「おはようさん♪」

 

 キャリーバッグを持った希ちゃんが、にこやかに手を振っていた。

 

 「えぇっ!?希ちゃん!?」

 

 「何故希がここに!?」

 

 「フフッ、サプライズ大成功やね」

 

 クスクス笑う希ちゃん。

 

 「実はウチ、今日からしばらく連休なんよ。まだ取ってなかった夏季休暇プラス、有給も使ってガッツリ仕事休んだからね」

 

 「そうだったんだ・・・それで遊びに来てくれたの?」

 

 「うん。早く天くんに会いたくて、始発に乗って来ちゃった」

 

 楽しそうな希ちゃん。

 

 これはまさかの展開だな・・・

 

 「海未ちゃんが来てるのは知らなかったなぁ・・・具合悪そうやけど大丈夫?」

 

 「えぇ、何とか・・・それより希、その荷物の多さ・・・しばらく内浦に滞在するつもりですか?」

 

 「勿論。連休中はずっとこっちで過ごすつもりやしね」

 

 「・・・その間、どこに泊まるつもりですか?」

 

 「天くんの家やけど?」

 

 「だったら私も残りますうううううっ!」

 

 「ちょ、海未ちゃん!?」

 

 慌てて電車を降りようとする海未ちゃんを、必死に電車内に押し留める。

 

 「講義あるんでしょ!?何で降りようとしてんの!?」

 

 「天と希を二人きりにするわけにはいきません!確実に間違いが起きます!」

 

 「間違いって何!?」

 

 『ドアが閉まります。ご注意下さい』

 

 音楽と共にアナウンスが流れる。

 

 すると希ちゃんが、素早くドアに近付き・・・

 

 「“わしわしMAX”!」

 

 「きゃあっ!?」

 

 海未ちゃんの両胸を揉んだ。

 

 悲鳴を上げた海未ちゃんは、慌てて後ずさり希ちゃんから離れ・・・

 

 海未ちゃんと希ちゃんの間を、ドアが遮った。

 

 「あぁっ!?」

 

 「気を付けて帰ってな~♪」

 

 『しまった』という表情の海未ちゃんを乗せて出発した電車を、手を振って見送る希ちゃん。

 

 うわぁ・・・

 

 「希ちゃん、相変わらず策士だねぇ・・・」

 

 「海未ちゃんを安全に帰せる上に、海未ちゃんの胸も堪能出来る・・・一石二鳥やね」

 

 「・・・変態親父め」

 

 「おっぱい星人に言われたくないなぁ」

 

 クスクス笑う希ちゃん。

 

 それを言われると否定できない・・・

 

 「まぁそんなわけで、しばらくお世話になるからよろしくね」

 

 「はいはい・・・ってか、俺はこれから学校に行かないといけないんだけど・・・希ちゃんどうする?俺の家知らないよね?」

 

 「せやね・・・そしたら、天くんと一緒に浦の星に行こうかな。鞠莉ちゃんにお願いして、校内を見学させてもらいたいんやけど」

 

 「まぁ、鞠莉なら即OKするだろうね・・・じゃ、一緒に行こっか」

 

 「うんっ♪」

 

 嬉しそうに笑う希ちゃんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「ふんふんふ~ん♪」

 

 「フフッ、ご機嫌やね?」

 

 「だって希さんに会えたんですよ!?テンション上がっちゃいます!」

 

 「嬉しいこと言ってくれるやん、千歌っち♪」

 

 ニコニコしながら会話している千歌と希ちゃん。

 

 放課後、俺達は部室に集まっていた。

 

 「千歌ちゃん、浮かれてるねぇ・・・」

 

 「全く、浮かれている場合ではないというのに・・・」

 

 「希ちゃんにサインもらって、千歌と一緒に浮かれてた姉妹が何を言っているのやら」

 

 「「ぴぎぃっ!?」」

 

 悲鳴を上げる黒澤姉妹。

 

 海未ちゃん・真姫ちゃん・絵里姉に続いて、希ちゃんで四人目のサイン・・・

 

 千歌も黒澤姉妹も、μ'sメンバーのサインをコンプリートする気満々なんだよなぁ・・・

 

 「むむむ・・・」

 

 一方、何やら真剣な表情で希ちゃんを見つめる鞠莉。

 

 曜が首を傾げる。

 

 「鞠莉ちゃん?どうしたの?」

 

 「やっぱり凄いわね・・・」

 

 「あぁ、希さん?オーラがあるよね」

 

 「どうやったらあんな風になるのかしら・・・」

 

 「んー、経験を積むしか無いんじゃないかな?」

 

 「経験・・・確かにマリーは経験ゼロだし、もっと経験するべきかも・・・」

 

 「いや、ゼロではないでしょ。場数は結踏んでるじゃん」

 

 「ちょっと曜、失礼なこと言わないでちょうだい!」

 

 「えぇっ!?」

 

 怒る鞠莉に戸惑う曜。

 

 「何!?私何か失礼なこと言った!?」

 

 「場数なんて踏んでるわけないでしょ!?人をビッチみたいに言わないで!」

 

 「誰もそんなこと言ってないよ!?スクールアイドルとして何度もステージに立ってきてるわけだし、場数は踏んでるでしょ!?」

 

 「・・・What?何の話をしているの?」

 

 「いやだから!希さんみたいにオーラのあるスクールアイドルになるには、どうしたらいいのかっていう話でしょ!?」

 

 「いや、どうしたらあんな大きな胸になるのかっていう話なんだけど」

 

 「そっち!?」

 

 「だって凄いじゃないあの胸!マリーの目測だと、B92のGカップよ!?」

 

 「何で目測で分かるの!?」

 

 「おっ、マリチ正解!流石やね!」

 

 「Yes!」

 

 「まさかのドンピシャ!?しかも認めちゃうんだ!?」

 

 曜のツッコミが止まらない。

 

 大変そうだなぁ・・・

 

 「希、胸を大きくする秘訣を教えてちょうだい!」

 

 「んー、ウチも経験ゼロでこれやけど・・・天くんに触ってもらったおかげかな?」

 

 「いや、触った覚えなんて・・・」

 

 「覚えなんて?」

 

 「・・・さて、飲み物買ってくるかな」

 

 「ちょっと!?」

 

 部室を出て行こうとした俺を、果南が慌てて引き止めてくる。

 

 「何で急に話を逸らしたの!?確実に触ってるよねぇ!?」

 

 「それでもボクはやってない」

 

 「映画じゃん!?」

 

 「天、今すぐマリーの胸を揉みしだいて!」

 

 「オッケー」

 

 「オッケーじゃないずら!」

 

 花丸に止められる。

 

 チッ・・・

 

 「くっ、今の私じゃ勝ち目が無い・・・ちょっと●須クリニック行ってくる!」

 

 「はいはい、落ち着きなさい」

 

 「ぐえっ!?」

 

 溜め息をついた善子が、梨子の襟首を掴んで止める。

 

 何してんの梨子・・・

 

 「もう、皆落ち着きなよ」

 

 呆れた表情の千歌。

 

 「そろそろ予備予選の結果が発表されるからって、気持ち昂ぶり過ぎだって」

 

 「よく覚えてたね。一番忘れそうなのに」

 

 「天くん!?酷くない!?」

 

 千歌のツッコミ。

 

 てっきり忘れてると思ってたけど・・・

 

 「っていうか、何でそんなに落ち着いてるの?千歌のくせに」

 

 「『くせに』って何さ!?私が落ち着いてちゃいけないの!?」

 

 「いけないでしょ。キャラ的に」

 

 「どんなキャラ!?」

 

 「暴走機関車キャラ」

 

 「そんなキャラになった覚えないんだけど!?」

 

 一通りツッコミを入れた千歌が、コホンッと咳払いをする。

 

 「実は昨日、聖良さんと電話したんだよ。そしたら聖良さん、『トップ通過間違い無し』って言ってくれたんだ。だから大丈夫だよ、きっと」

 

 「・・・・・」

 

 「露骨に嫌そうな顔しないでくれる!?ホントに聖良さんのこと嫌いだね!?」

 

 どうやら顔に出ていたらしい。

 

 あのブロッコリー嫌い女め・・・

 

 「アハハ、噂には聞いてたけど・・・本当に毛嫌いしてるんやね、Saint Snowのこと」

 

 苦笑する希ちゃん。

 

 「ホント、当時のA-RISEに対する反応にそっくりやん」

 

 「天くん、そんなにA-RISEを嫌ってたんですか?」

 

 「うん、それはもう凄かったよ。特にツバサちゃんなんて、天くんに会う度に心バッキバキに折られてたしね」

 

 「ツバサちゃんが豆腐メンタルだっただけでしょ」

 

 「いや、ウチがツバサちゃんの立場でもキツかったと思うよ?」

 

 「希ちゃんにはそんなことしないよ。大好きだもん」

 

 「フフッ、ウチも天くんが大好きだよ。はい、お茶どうぞ」

 

 「ありがと。『穂むら』の和菓子あるから、一緒に食べよっか」

 

 「うんっ♪」

 

 「・・・何この落ち着いた感じ」

 

 「確かに、ことりさんの時みたいな甘々過ぎる感じじゃないね・・・」

 

 「前に海未先生が言ってたこと、何となく分かったかも・・・」

 

 二年生組が、何やらヒソヒソ話している。

 

 すると・・・

 

 「あっ!結果発表きた!」

 

 パソコンの前に陣取っていたルビィが、大きな声を上げる。

 

 皆が慌ててパソコンの画面を覗き込む中・・・

 

 「予備予選通過グループ、一組目・・・Aqours!」

 

 「やったぁ!」

 

 「しかも一組目ってことは、トップ通過ってことだよね!?」

 

 「そういうことだね」

 

 抱きついてくる梨子の頭を撫でつつ、曜の言葉に頷く俺。

 

 数多くのグループが参加する中、トップで通過というのは誇って良いことだと思う。

 

 まずは第一関門突破だな・・・

 

 「果南ちゃん!やったずら!」

 

 「嬉しいね!花丸ちゃん!」

 

 「マリー!」

 

 「Yes!」

 

 抱き合いながら喜ぶ花丸と果南に、ハイタッチを交わす善子と鞠莉。

 

 一年生組と三年生組も、すっかり仲良くなったなぁ・・・

 

 と、そんな皆を何故か複雑そうな表情で見つめるダイヤさん。

 

 あれ・・・?

 

 「やったね!千歌ちゃん!」

 

 「ふふん、言った通りだったでしょ?」

 

 千歌はルビィとハイタッチを交わすと、ダイヤさんにも手を向けた。

 

 「ほら、ダイヤさんも!」

 

 「え、えぇ・・・」

 

 戸惑いながらも、千歌とハイタッチを交わすダイヤさん。

 

 「よーし、今日も練習頑張るぞー!」

 

 「ヨーソロー!」

 

 「地区予選も突破出来るように頑張ろうね!」

 

 「海未先生に、決勝ステージの応援に来てもらおうね!」

 

 盛り上がる皆。

 

 俺も予備予選突破を喜びつつも、様子のおかしいダイヤさんがどうも気になるのだった。




どうも〜、ムッティです。

お待たせしましたが、ようやく本編再開です。

やっとダイヤさん回が書ける・・・

気合い入れて書いていくぞーっ!

・・・えっ、曜ちゃんの誕生日回?

全く書けてないです←

が、頑張ります・・・(震え声)

まぁそれはさておき、今回は希ちゃんが登場しました・・・東條だけに←

出したかったのよ、希ちゃん。

何と言っても作者の推しメンだもの。

なおバストサイズは適当、もとい作者の願望なので悪しからず・・・

エマちゃんに負けたくなかったんや・・・

これからもちょいちょいμ'sメンバーは出していきますので、お楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『何でもない』は何でもなくない。

『進撃の巨人』が完結・・・

途中から全然追えてないけど、読み直そうかな。


 「ほら善子ちゃん、もっと身体を倒して」

 

 「いたたたたたっ!?あとヨハネっ!」

 

 善子の背中を押す希ちゃん。

 

 練習に参加してくれることになった希ちゃんは、善子とペアを組んで柔軟体操をやっていた。

 

 「じゃあヨハネちゃんね。ウチのことはノゾミエルとでも呼んでもらおうかな」

 

 「フフッ・・・ではノゾミエル、貴女を我が眷属に迎え入れましょう」

 

 「ありがたき幸せ・・・それでは契約の証として、お胸を拝借させていただきます」

 

 「え、ちょ・・・キャアッ!?」

 

 「おぉ、この手に収まるちょうど良い大きさ・・・五年前の真姫ちゃんみたいやね」

 

 「ちょ、止め・・・あんっ!?」

 

 じゃれあう二人。

 

 楽しそうだなぁ・・・

 

 「すっかり仲良しだね。良かった良かった」

 

 「仲良しっていうか、ただセクハラされてるようにしか見えないんだけど」

 

 「梨子も揉んできてもらったら?」

 

 「嫌よ!?何でわざわざ揉まれに行かなきゃいけないの!?」

 

 「希ちゃんに胸を揉まれると、大きくなるっていうジンクスが・・・」

 

 「希さん!私もお願いします!」

 

 「はいはい、落ち着いて」

 

 「ぐえっ!?」

 

 ペア相手の千歌に襟首を掴まれる梨子。

 

 千歌といいさっきの善子といい、何か梨子の扱いが雑になってるような・・・

 

 「・・・・・」

 

 「ルビィちゃん?どうしたずら?」

 

 一方ルビィは、ペア相手の花丸をじっと見つめていた。

 

 花丸が首を傾げる中、ルビィが花丸の両胸を掴んだ。

 

 「ひゃんっ!?ちょ、ルビィちゃん!?」

 

 「・・・同じ一年生なのに、何でこうも違うんだろう」

 

 「そ、そんなこと言われても・・・んあっ!?」

 

 「希さん、ルビィもお願いします」

 

 「ルビィちゃん!?早まっちゃダメずら!?」

 

 目の死んだルビィを必死に止める花丸。

 

 その様子を見て、果南が首を傾げる。

 

 「何でそんなに胸を大きくしたいの?運動の邪魔になるし、あんまり大きくない方が良いんじゃ・・・」

 

 「余計なこと言うんじゃねえええええっ!」

 

 「ギャアアアアアッ!?」

 

 “檸檬●弾”をお見舞いし、果南を黙らせる。

 

 やれやれ・・・

 

 「鞠莉、そこのKYゴリラ回収しといて」

 

 「Yes,sir!」

 

 果南の足を持ち、引きずっていく鞠莉。

 

 これで平和が保たれたな・・・

 

 「・・・相変わらず賑やかですわね」

 

 「アハハ・・・」

 

 呆れるダイヤさんに、苦笑する曜。

 

 すると曜が、何かを思い出したような顔をする。

 

 「あっ、そうだ!今週の日曜日なんだけど、皆ヒマだったりする?」

 

 「日曜日?何かあるの?」

 

 「実は私がバイトしてる水族館で、人手が足りなくなっちゃったみたいでさぁ・・・一日だけで良いから、バイトしてくれる人を募集してるんだよね」

 

 困った表情の曜。

 

 そういえば曜は、水族館でバイトしてるんだっけ・・・

 

 「俺で良かったら行こうか?」

 

 「えっ、良いの?天くんは果南ちゃんのお店のバイトがあるんじゃ・・・」

 

 「あれ、辞めたって言わなかったっけ?」

 

 「えぇっ!?辞めたの!?」

 

 驚く曜。

 

 そう、俺はダイビングショップのアルバイトを辞めていた。

 

 果南のお父さんが本格的に仕事に復帰した為、人手が要らなくなったのだ。

 

 夏の間は繁忙期だったこともあり続けさせてもらっていたが、夏休みが終わるタイミングで正式に辞めたのだった。

 

 「全く、天ってばこういう時にかぎって遠慮するんだから」

 

 復活したらしい果南が、呆れた顔で俺を見る。

 

 「お父さんは『これからも続けてくれたら良い』って言ってたのに・・・」

 

 「西華さんや果南のサポートがあれば、どう見ても俺は要らないでしょ。余計なお金を払う必要は無いんだしさ」

 

 苦笑する俺。

 

 果南のお父さんも西華さんも、ずいぶん残念がってたっけなぁ・・・

 

 人手が足りなくなった時は、喜んで手伝いに来るとは言っておいたけども。

 

 「最後のアルバイトの日は、豪勢な夕飯をご馳走になった上に食材もいっぱいもらっちゃって・・・逆に申し訳なかったよ」

 

 「これまで天に助けられてきたんだもん。当然の報酬だよ」

 

 笑う果南。

 

 「これからも、ちょいちょいウチにご飯食べに来てね。お母さんが寂しがるから」

 

 「勿論。まぁそんなわけで、日曜日は空いてるから手伝いに行けるよ」

 

 「ありがとう!助かるよ!」

 

 そんなやり取りをしていると・・・

 

 「私も行くー!」

 

 「私も行きたいな」

 

 「ルビィも水族館行ってみたい!」

 

 「マルもお魚を・・・じゅるり」

 

 「食べられないからね?まぁ仕方ないから、ヨハネも手伝ってあげるわ」

 

 「ウチの店も日曜日はヒマだし、私も行こうかな」

 

 「面白そうだから全員で行きまショー!」

 

 皆が次々に手を上げる。

 

 いやいやいや・・・

 

 「流石に全員で行くのはご迷惑なのでは・・・」

 

 ダイヤさんが真っ当な意見を口にするが、曜が首を横に振る。

 

 「全然大丈夫です!人手が多い方が助かるって、館長も言ってますから!」

 

 「そうなのですか?それでしたら、私も参加させていただきますわね」

 

 「ありがとうございます!」

 

 曜の言葉で、全員参加が決まる。

 

 一方、唇を尖らせている希ちゃん。

 

 「むぅ・・・ウチも行きたいなぁ・・・」

 

 「いや、希ちゃんは社会人だからマズいんじゃ・・・」

 

 「じゃあお客さんとして、皆が働く姿を冷やかしに行こうかな」

 

 「冷やかしのお客様は入場禁止となっております」

 

 「おっぱい揉んでもええよ?」

 

 「一名様ご案内しまーす!」

 

 「方針転換早過ぎない!?」

 

 「フフッ、欲望に忠実な天くんがウチは大好きだよ?」

 

 曜のツッコミに、クスクス笑う希ちゃん。

 

 「働くことは出来ないけど、お邪魔して大丈夫かな?」

 

 「大歓迎です!館長にも伝えておきますね!」

 

 「水族館かぁ・・・楽しみだね、果南ちゃん!」

 

 「フフッ、ルビィちゃんったら嬉しそうだね」

 

 目を輝かせるルビィの頭を、クスクス笑いながら撫でる果南。

 

 「お魚食べたいずらぁ・・・じゅるり」

 

 「花丸はFishが食べたいの?それなら今度、マリーの家で夕飯食べる?シェフにリクエストしておくわ」

 

 「鞠莉ちゃん大好きずら!」

 

 鞠莉に抱きつく花丸。

 

 「果南ちゃん・・・鞠莉ちゃん・・・」

 

 それぞれの様子を見ていたダイヤさんが、何やら小さく呟いていた。

 

 「ダイヤさん?」

 

 「っ・・・な、何ですか天さん!?」

 

 「いや、何か様子がおかしいなって・・・どうかしました?」

 

 「な、何でもありませんわよ!?」

 

 「そうですか・・・?」

 

 「そうです!それより日曜日、楽しみですわね!」

 

 「えぇ、まぁ・・・」

 

 慌てて笑みを浮かべるダイヤさん。

 

 本当にどうしたんだろう・・・?

 

 「・・・何かおかしいよね、ダイヤ」

 

 柔軟体操に戻るダイヤさんの背中を見ていると、不意に果南が近付いてきた。

 

 「・・・果南もそう思う?」

 

 「うん、鞠莉も気付いててさ・・・後でそれとなく、探ってみようと思ってる。ここは私達に任せてもらって良いかな?」

 

 「・・・了解。頼んだよ」

 

 頷く俺なのだった。




どうも〜、ムッティです。

進撃の巨人、終わっちゃいましたね・・・

まぁ全然追えてなかったんですけど(´・ω・`)

しっかり追えてたのはアニメ二期までで、三期以降の内容はたまにチラ見してたくらいです。

原作なんて全然追えてないし・・・

ちなみに推しキャラはジャンです。

最初は『コイツ・・・』とか思ってましたけど、物語が進むにつれて『ジャアアアアアンッ!』って感じになってました(笑)

やっぱり最初からガッツリ読み直そうかしら。

さてさて、本編ではやはりダイヤさんの様子がおかしい模様・・・

果たしてどうなるのか・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【渡辺曜】一緒にいたい・・・

曜ちゃん、誕生日おめでとう!

そんなわけで今回は、曜ちゃんの誕生日回をお送りします!

この話を書いていたのが夜遅くだったこともあり、最後はちょっと暴走気味ですがご了承下さい(笑)

それではいってみヨーソロー(。ゝω・)ゞ


 「メイドさんになりたい!」

 

 「じゃあ俺は小林さんになるわ」

 

 「メイドラゴンになりたいわけじゃないよ!?」

 

 放課後、俺と曜は珍しく二人で帰路に着いていた。

 

 今日はAqoursの練習は休みで、他の皆は各々やることがあるということで学校に残っている。

 

 「メイド服を着て、メイドさんみたいなことをやりたいの!」

 

 「なるほど、ご主人様とあんなことやこんなことをやりたいと・・・この変態が」

 

 「今何で罵倒されたの私!?変なことを妄想してる天くんの方が変態だからね!?」

 

 「まぁ真面目な話、メイドカフェとかでバイトしてみたら良いんじゃない?」

 

 「それは考えたんだけど、今やってる水族館のバイトも好きだからさぁ・・・Aqoursの練習もあるから掛け持ちは難しいし、どうしたものか・・・」

 

 頭を悩ませている曜。

 

 んー、そうだなぁ・・・

 

 「短期バイトはどう?一日だけみたいな」

 

 「それならありがたいけど、メイドカフェでそういうの募集してるかなぁ・・・」

 

 「・・・頼んでみるか」

 

 「天くん?」

 

 首を傾げる曜をよそに、俺はスマホを取り出した。

 

 「曜、今週の土曜日って空いてる?」

 

 「空いてるけど・・・急にどうしたの?」

 

 「いや、曜の誕生日じゃん。一緒に出掛けない?」

 

 「あぁ、そういうこと・・・何?デートのお誘い?」

 

 「デートかどうかはともかく、曜の希望は叶えられるかもしれないよ」

 

 「え?」

 

 キョトンとしている曜に、俺はぐいっと顔を近付けた。

 

 「ちょ、天くん!?近いってば!?」

 

 「行くの?行かないの?」

 

 「い、行くっ!行かせていただきますっ!」

 

 「オッケー」

 

 何故か顔を赤くしている曜。

 

 俺は曜から離れると、ある人に電話をかけるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「真姫ちゃん可愛いかきくけこ」

 

 「は、恥ずかしいからあんまり見ないでっ!」

 

 顔を真っ赤にしている真姫ちゃん。

 

 土曜日、俺は曜と一緒にことりちゃんや真姫ちゃんが働くメイドカフェへとやって来ていた。

 

 「そんなに恥ずかしがることないじゃん。真姫ちゃんのメイド姿、凄く可愛いのに」

 

 「知り合いに見られるのが恥ずかしいのっ!しかもよりによって今日は・・・」

 

 「まさかのネコ耳姿、ご馳走様です」

 

 「うぅ・・・!」

 

 涙目の真姫ちゃん。

 

 今日はネコ耳デーらしく、働いているメイドさん達は全員ネコ耳カチューシャを着けていた。

 

 本当にありがとうございます。

 

 「天、あまり真姫をいじめないの」

 

 「人聞きの悪いことを言わないで下さい。褒め称えているだけです」

 

 「完全に逆効果でしょうが」

 

 呆れている猫耳メイド姿の女性。

 

 姫カットの赤いロングヘアを、黒いリボンでツインテールに結っているのが特徴的だ。

 

 「それにしても・・・アンタから連絡が来るなんて珍しいと思ったら、『友達を一日だけ働かせてほしい』なんてお願いされるとはね」

 

 「急なお願いですみません、二乃さん」

 

 「まぁ構わないわよ。ことりと真姫も知ってる子だって言うし・・・アンタとアタシの仲でもあるしね」

 

 そう言ってフッと微笑む女性・・・上杉二乃さん。

 

 四葉さんや五月さんのお姉さんで、このメイドカフェの店長さんだ。

 

 前に曜とここに来た時は会えなかったので、俺も今日久しぶりに会った。

 

 「そういえば、四葉と会ったんだって?元気にしてた?」

 

 「えぇ、相変わらず元気でしたよ。二乃さんは会ってないんですか?」

 

 「あの子はラブライブの運営メンバーとしてあちこち飛び回ってるから、なかなか会えないのよ。五月は近くで働いてるから、いつでも会えるんだけどね」

 

 「あの人も相変わらず、スクールアイドルに目が無いですよね」

 

 「変わらないわよねぇ」

 

 二乃さんとそんな会話をしていると・・・

 

 「お待たせしました!さぁ曜ちゃん、早く早く!」

 

 「ちょ、ことりさん!?」

 

 ニコニコしていることりちゃんに手を引かれ、曜が姿を現した。

 

 「っ・・・」

 

 「うぅ、何か落ち着かないかも・・・」

 

 モジモジしている猫耳メイド姿の曜。

 

 しかもウィッグを被っているらしく、いつもと違いロングヘア・・・

 

 大人っぽい姿の曜がそこにいた。

 

 「あら、よく似合ってるじゃない」

 

 「可愛いわ、曜。凄く綺麗よ」

 

 「あ、ありがとうございます・・・」

 

 曜は照れながらお礼を言うと、恥ずかしそうに上目遣いで俺を見てきた。

 

 「あの、天くん・・・どうかな?」

 

 「いや、その・・・うん、凄く似合ってる。正直見惚れてた」

 

 「っ・・・あ、ありがと・・・」

 

 顔を真っ赤にして俯く曜。

 

 そういう反応されると、こっちも恥ずかしいんだけど・・・

 

 「むぅ、私の天くんが・・・!」

 

 「くっ、やるわね曜・・・!」

 

 「はいはい、嫉妬しないの」

 

 溜め息をつきながら二人の頭を撫でる二乃さん。

 

 「そろそろ交代の時間よ。曜はことりや真姫と一緒に、ホールで接客をお願いね。天はアタシと一緒に、キッチンで調理を手伝ってちょうだい」

 

 「わ、分かりましたっ!」

 

 「了解です」

 

 実は俺も二乃さんの提案で、曜と一緒に働かせてもらえることになっていた。

 

 俺も一緒にいた方が、曜も安心するだろうという二乃さんなりの気遣いなんだろうな。

 

 「曜ちゃん、ことり達がついてるから大丈夫!一緒に頑張ろう!」

 

 「リラックスしていきましょう」

 

 「よろしくお願いします!」

 

 こうして、俺達の一日バイトが始まるのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「つ、疲れたぁ・・・」

 

 「お疲れ」

 

 ぐったりしている曜を、苦笑しながら労う俺。

 

 無事にバイトを終えた俺達は、内浦へと帰る電車の中にいた。

 

 「っていうか、あんなにお給料もらっちゃって良かったのかなぁ・・・」

 

 「二乃さんが良いって言うんだから、ありがたくもらっておこうよ」

 

 バイトを終えた二乃さんからもらったのは、とても一日分とは思えない額のお給料だった。

 

 二乃さん曰く、『往復の交通費とアタシからの気持ちをひっくるめたお給料』らしい。

 

 まぁ曜はお客さん達から大人気だったし、おかげでいつもより客足が多いって二乃さんも喜んでたもんな・・・

 

 「しかもことりさんから、このウィッグまでもらっちゃったし・・・こういうのって、結構高いと思うんだけど・・・」

 

 ウィッグの毛先を弄る曜。

 

 何とこのウィッグ、実はことりちゃんの私物だったらしい。

 

 『最高に似合ってるもん!』ということりちゃんのススメもあり、曜が譲り受けることになったのだ。

 

 「良いじゃん。よく似合ってるし」

 

 「・・・天くんって、実はロングヘアが好きだったりする?」

 

 「大好きです」

 

 「言い切ったね!?」

 

 黒髪に限らず、ロングヘアは素晴らしいと思います。

 

 「・・・髪伸ばそうかな」

 

 「ん?何か言った?」

 

 「な、何でもないっ!」

 

 何故か慌てる曜。

 

 一体どうしたんだろう?

 

 「まぁそれはさておき、メイドカフェでのバイトはどうだった?」

 

 「凄く楽しかった!」

 

 顔を輝かせる曜。

 

 「もっとあのお店で働きたいくらいだよ!高校卒業したら東京の大学に進学して、あのお店でバイトしようかなぁ・・・」

 

 「それが目的で東京の大学に行くのはどうなのよ・・・」

 

 「いや、まぁそれは冗談なんだけど・・・東京の大学に進学するっていうのは、選択肢の一つとして考えてはいるんだよね」

 

 真面目な表情の曜。

 

 「内浦は大好きだけど、外の世界を知ってみたいとも思っててさ。一度東京に出て、勉強してみるのもアリかなって」

 

 「・・・なるほどねぇ」

 

 「フフッ、天くんも一緒に来る?」

 

 「良いよ」

 

 「えぇっ!?」

 

 悪戯っぽく笑っていた曜が、ビックリした表情を浮かべる。

 

 「ちょ、ホントに!?」

 

 「まぁ俺の方が一年後になっちゃうけど、それでも良いなら良いよ」

 

 「そんなあっさり!?」

 

 「別に迷うこともないから」

 

 俺はそう言って笑うと、曜の手をそっと握った。

 

 「曜と一緒なんだもん。絶対楽しいでしょ」

 

 「っ・・・」

 

 顔を赤くする曜。

 

 可愛いヤツめ。

 

 「うぅ、何でそういうことを平気で言えるかなぁ・・・」

 

 「先に誘ってきたのは曜だろうに」

 

 「こんなあっさり返されると思ってなかったのっ!」

 

 「曜は俺と一緒は嫌?」

 

 「・・・嫌なわけないでしょ」

 

 手を握り返してくる曜。

 

 そのまま身体を倒し、俺の肩に寄りかかってくる。

 

 「・・・これからも、私と一緒にいてくれる?」

 

 「勿論。曜が望むまで、いつまでも」

 

 「・・・じゃあ、一生だね」

 

 曜はそう言って笑うと、幸せそうに目を閉じた。

 

 内浦に着くまでの間、俺達は身を寄せ合って眠るのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 《曜視点》

 

 (ああああああああああっ!?)

 

 恥ずかしさで悶える私。

 

 私は今、天くんの家にお邪魔していた。

 

 内浦に着いたのが遅い時間だったこともあり、今夜は天くんの家に泊めさせてもらうことになったのだ。

 

 (メッチャ恥ずかしいこと口走ったあああああっ!?)

 

 『・・・これからも、私と一緒にいてくれる?』とか!

 

 『・・・じゃあ、一生だね』とか!

 

 もう告白じゃん!

 

 むしろプロポーズじゃん!

 

 何言ってんの私いいいいいっ!?

 

 「何布団の上で悶えてんの?」

 

 隣の布団で寝る準備をしていた天くんが、キョトンとした様子で首を傾げている。

 

 何でこの子は平然としていられるのか・・・

 

 「ところでさぁ、曜・・・」

 

 「な、何・・・?」

 

 「・・・初夜を迎える準備は出来た?」

 

 「うらぁっ!」

 

 「ごふっ!?」

 

 天くんの顔面に枕をぶち込む。

 

 「何言ってんの!?訴えるよ!?」

 

 「果南みたいなこと言うね」

 

 「他の女の子の名前出すの禁止!」

 

 「めんどくさいなコイツ」

 

 呆れている天くん。

 

 いや、それよりも・・・

 

 「初夜って何さ!?いかがわしいこと考えすぎでしょうが!」

 

 「いや、だって俺達将来を誓い合ったじゃん?」

 

 「アレ誓い合った内に入るの!?」

 

 「一生一緒だって曜が言ったんじゃん」

 

 「あああああっ!?そうだったあああああっ!?」

 

 再び恥ずかしさに悶える。

 

 うぅ、思い出すだけで顔が真っ赤に・・・

 

 「つまり俺達は夫婦同然・・・そして夫婦同然になって初めての夜・・・結論はいつも一つだよね」

 

 「『真実はいつも一つ』みたいな言い方止めてくれる!?どこのコナンくん!?」

 

 「あぁ、男の子が欲しいのね」

 

 「曲解し過ぎてて怖いわ!」

 

 全くこの子は・・・

 

 いつもいつもこうなんだから・・・

 

 「・・・アハハ」

 

 「曜?」

 

 首を傾げている天くん。

 

 そう、天くんはいつもこうだ。

 

 どんどんボケるし、それに対するツッコミが大変だし・・・

 

 普通にエッチなこと言うし、それにどう反応して良いか分かんないし・・・

 

 でも・・・

 

 「・・・楽しいんだよなぁ」

 

 一緒にいて凄く楽しい・・・

 

 出来ればずっと一緒にいたい・・・

 

 そんな風に思える天くんだからこそ、私は恋をしたんだろうなぁ・・・

 

 「全く・・・天くんには敵わないや・・・」

 

 「何が?」

 

 「何でもない・・・よっ!」

 

 「うおっ!?」

 

 天くんを押し倒す。

 

 そのまま天くんのお腹に馬乗りになった。

 

 「ちょ、曜!?」

 

 「にひひ、いつも主導権が天くんにあるとは思わないことだね」

 

 私はそう言って笑うと、勢いよく天くんの唇を奪った。

 

 「んぐっ!?」

 

 ビックリしている天くん。

 

 私は天くんから離れると、自分の唇をペロッと舐めた。

 

 「フフッ、ご馳走様♪」

 

 「・・・曜が小悪魔に見えるんだけど」

 

 「小悪魔ねぇ・・・じゃあこんなこともしちゃおっ!」

 

 「うっ!?ちょ、どこ触って・・・」

 

 「アララ、もうこんなにしちゃって・・・私のも触る?」

 

 「いや、ちょ・・・」

 

 「あんっ♡もう、いやらしいなぁっ♡」

 

 「あっ・・・もう無理・・・」

 

 理性が吹き飛んだ私達。

 

 その後のことは・・・まぁ語るまでもないのだった。




全速前進!ムッティです!

改めて曜ちゃん、誕生日おめでとう\(^o^)/

えっ、最後はどうなったのかって?

それを聞くのは野暮というものですよ、奥さん( ´-ω-)y‐┛~~

とりあえず、危うくR-18になるところだったとだけ言っておきます←

まぁそれはさておき、今回はメイドカフェで働くお話にしてみました。

ネコ耳メイド姿で、なおかつロングヘアの曜ちゃん・・・

想像しただけで萌える( ´∀`)

そして今回も『五等分の花嫁』より、二乃が登場しました!

『五月、四葉とくれば次は三玖だろ!』と思った皆様、大変申し訳ございません(>_<)

実は三玖の出番は既に決めていて、今回は二乃にさせていただきました(>_<)

あとは二乃と真姫ちゃんってちょっと似てるので、真姫ちゃんの良き理解者みたいな裏設定を勝手に作りました(笑)

近いうちに三玖も登場しますので、お楽しみに(・∀・)ノ

あとは一花をどこで登場させようか・・・

まぁそれはさておき、本編ではAqoursの皆が曜ちゃんがバイトしている水族館を手伝うことになりましたが・・・

果たしてダイヤさんの問題は解決するのか・・・

これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

簡単に出来たら苦労しない。

だんだん暑くなってきましたねー。

これからあの忌々しい夏がやって来るのかと思うと・・・

何で夏なんていう季節があるんだ(´・ω・`)


 日曜日・・・

 

 「みんな~、楽しんでる~?」

 

 『イェーイ!』

 

 「次はあっちに移動するから、一列に並んでね~」

 

 『はーい!』

 

 幼稚園児達を誘導する俺。

 

 俺達は曜のアルバイト先である、伊豆・三津シーパラダイスへとやって来ていた。

 

 「へぇ、子供の扱いが上手だね」

 

 「俺も心は子供なんで」

 

 「フフッ、何それ」

 

 クスクス笑う女性。

 

 セミロングの髪を風に靡かせ、懐かしそうな表情で俺を見る。

 

 「それにしても、こんなところで天に会えるなんて思わなかったよ」

 

 「俺だって、ここの館長が三玖さんだなんて思いませんでしたよ」

 

 苦笑する俺。

 

 彼女は上杉三玖さん・・・二乃さんの妹で、四葉さんや五月さんの姉にあたる人物だ。

 

 俺のμ's時代からの知り合いであり、今は何とここの館長を務めているらしい。

 

 曜に紹介された時は、お互いビックリしたもんな・・・

 

 「三玖さん、こっちにいたんですね。それが分かってたら、もっと早く会えたのに」

 

 「私もまさか、天がこっちに来てるとは思わなくて・・・四葉や五月と違ってスクールアイドルに疎いから、Aqoursのことも『曜が所属してるグループ』程度の認識で・・・」

 

 肩を落とす三玖さん。

 

 三玖さんは自分の好きなものにとことん熱中するタイプだから、それ以外のことには本当に疎いんだよなぁ・・・

 

 「館長ー!準備出来ましたー!」

 

 「あっ、行かなきゃ・・・じゃあ天、今日はよろしくね」

 

 「こちらこそ。頑張って働かせてもらいます」

 

 「フフッ、期待してるから」

 

 俺の頭を撫で、その場を立ち去る三玖さん。

 

 すると・・・

 

 「むぅ・・・」

 

 「希ちゃん?」

 

 何故か膨れっ面の希ちゃんが、背後から抱きついてきた。

 

 どうしたんだろう?

 

 「・・・あの美人な館長さん、知り合いやったんやね?」

 

 「まぁね。四葉さんのお姉さんだし」

 

 「四葉さんはウチも知ってるし、二乃さんや五月さんとも面識はあるけど・・・あの館長さんのことは知らなかったよ?」

 

 「あぁ、皆は会ったことないんだっけ」

 

 お店に遊びに行って知り合った二乃さんや五月さんと違って、三玖さんとは四葉さんの紹介で知り合ったもんな・・・

 

 水族館で働いているとは聞いてたけど、まさかここの館長をやっていたとは・・・

 

 「ウチの知らないところで、綺麗なお姉さんの知り合いを着々と増やしてたんやね」

 

 「希ちゃんだって『綺麗なお姉さん』だろうに」

 

 「・・・バカ」

 

 ちょっと顔が赤くなる希ちゃん。

 

 照れる希ちゃんって新鮮だなぁ・・・

 

 「ところで、果南と鞠莉はどこへ行ったの?さっきまで一緒に誘導係をやってたはずなんだけど・・・」

 

 「あぁ、あの二人ならあそこやね」

 

 希ちゃんが指差した方向にいたのは・・・

 

 「きゅー!」

 

 「アッハッハッ!」

 

 ステージ上でアザラシのモノマネをしている鞠莉と、それに爆笑している果南だった。

 

 「“羊肉ショ●ト”!」

 

 「「ぐはぁっ!?」」

 

 ステージ周りの水の中に蹴り落としてやった。

 

 何やってんだコイツら・・・

 

 「げほっ・・・ごほっ・・・ちょっと天!?いきなり何するのよ!?」

 

 「アザラシなんでしょ?泳いでみろやクソカネモチが」

 

 「何か別のギャグ漫画の話してない!?」

 

 「っていうか、何で鞠莉だけじゃなくて私まで落とされたの!?」

 

 「やかましいんだよ擬人化ワカメが。水中に帰れ」

 

 「酷い!?」

 

 ショックを受けつつも、自力でステージの上に這い上がってくる二人。

 

 当然のごとくビショビショである。

 

 「そんなに濡らしちゃって・・・このド変態共が」

 

 「その言い方止めてくれる!?」

 

 「誰のせいだと思ってるの!?」

 

 ギャーギャー抗議してくる二人。

 

 まぁそれは置いといて・・・

 

 「ところで、ダイヤさんの様子がおかしい理由は分かったの?」

 

 「あぁ、アレねぇ・・・」

 

 「分かったんだけど、そんなに大した理由じゃなかったっていうか・・・」

 

 苦笑する鞠莉と果南。

 

 大した理由じゃなかった・・・?

 

 「どういうこと?」

 

 「天、私達のこと何て呼んでる?」

 

 「『成金』と『ゴリラ』」

 

 「ネタに走らなくていいから!」

 

 「いや、割とこれでも呼んでるよね」

 

 「確かにそうだけども!普段は何て呼んでるかってことよ!」

 

 「普通に『鞠莉』と『果南』じゃん」

 

 「じゃあダイヤは?」

 

 「『ダイヤさん』・・・えっ、まさか・・・」

 

 「そのまさかよ」

 

 溜め息をつく鞠莉。

 

 「一年生組や二年生組も、『鞠莉ちゃん』や『果南ちゃん』に対して『ダイヤさん』でしょ?本人はそこに距離を感じちゃってるのよ」

 

 「それに加えて皆、私達にはタメ口でダイヤには敬語を使うでしょ?それもずいぶん気にしてるみたい」

 

 「・・・そういうことね」

 

 納得する俺。

 

 それで元気が無かったのか・・・

 

 「ウチも気になってたんよ。何で皆ダイヤちゃんには敬語でさん付けなんだろうって」

 

 「俺の場合は出会った時からそうだったからなぁ・・・それに先輩だから、タメ口とか呼び捨ては違うかなって」

 

 「でも幼馴染のマリチはともかく、果南ちゃんにはタメ口で呼び捨てやん」

 

 「果南は俺のペットだから」

 

 「その設定まだ続いてたの!?」

 

 「まぁ冗談はさておき、果南の方からそうしてほしいって言われたんだよ。二年生三人もそうだったんだよね」

 

 そういえば俺、当初は皆にさん付けと敬語を使ってたんだよな・・・

 

 今じゃバリバリ呼び捨て&タメ口だけど。

 

 「とはいえ、ダイヤさんと距離なんかとってないんだけどなぁ・・・」

 

 「私達もそう言ったんだけど・・・ダイヤは自分が怖がられてると思ってるんだよね」

 

 肩をすくめる果南。

 

 メンバーを注意する役目は、基本的にダイヤさんがやってくれることが多い。

 

 俺もそうだが、ダイヤさんの前では皆『ちゃんとしよう』という意識が強くなることは否めない。

 

 それが『怖がられている』と捉えられてしまったのかな・・・

 

 「じゃあダイヤさんは、さん付けと敬語を止めてほしいって思ってるってこと?」

 

 「そうみたい。『ダイヤちゃん』って呼ばれたいんですって」

 

 苦笑する鞠莉。

 

 「だから今日のアルバイトで、皆ともっと距離を縮めなさいって言っておいたわ。今頃奮闘してる頃じゃないかしら」

 

 「奮闘するのは良いんだけど、ダイヤってああ見えてドジなところがあるから・・・気合いが空回りして、変なことにならなきゃいいんだけど・・・」

 

 果南も苦笑いしている。

 

 距離を縮める、ね・・・

 

 「・・・それが簡単に出来たら、苦労しないだろうに」

 

 「え?」

 

 「何でもない」

 

 肩をすくめる俺。

 

 「とりあえず、二人とも着替えてきなよ。ボディラインがくっきり浮き出てる上に、下着が透け透けの状態だから」

 

 「「えぇっ!?」」

 

 自分達の惨状に気付き、慌てて着替えに走る二人。

 

 やれやれ・・・

 

 「・・・じゃ、ダイヤちゃんの様子を見に行こっか」

 

 「・・・そうやって俺の気持ちを察してくれるところ、ホント好き」

 

 「フフッ、ありがと」

 

 微笑みながら俺の手を握る希ちゃんなのだった。




どうも〜、ムッティです。

先日の曜ちゃんの誕生日、従姉の結婚式に出席してきました!

新郎さんの隣にいる従姉は本当に幸せそうで・・・

小さい頃から実の姉のように慕ってきた人なので、良い人に巡り会えて本当に良かったなと思いました。

自分も良い人に巡り会えると良いなぁ・・・

そんなわけで希ちゃんと彼方ちゃん、結婚して下さい←



さてさて、本編では三玖が登場しました!

曜ちゃんの誕生日回を書く前にここで登場させることを決めてたので、向こうは二乃を登場させたんですよね。

まさかのみとしーの館長という設定(笑)

二乃と五月は店長だし、一体この姉妹はどうなっているのか(笑)

残るは一花ですが、果たしてどこで登場するのか・・・

そしてダイヤさんの悩みも明らかに・・・

果たしてどうなるのか・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

気合いが空回りしてしまうこともある。

最近Twitterで知り合った方の呟き・・・

『鞠莉ちゃんのお母さんって日本人だよね?』

そこにツッコミ入れたい気持ち分かるわぁ・・・

ムッティ『日本人のはずなのに、誰がどう見ても外人さんですよね(笑)』

『僕の読んでるハーメルンの筆者さんもツッコミ入れてて、ずっと気になっちゃって(笑)』

あっ、この方もハーメルン読んでるんだ(゜ロ゜)

その筆者さんとは気が合いそうだなー。

ムッティ『実は自分も、サンシャインの小説をわハーメルンに投稿してます(笑)』

『もしかして、絢瀬天と九人の物語ですか!?』

えっ、知ってんの!?Σ(゜Д゜)

ムッティ『あ、そうです(^^)』

『めっちゃファンです!』

ええええええええええっ!Σ(Д゚;/)/

という出来事がありました(笑)

鞠莉ちゃんのお母さんにツッコミ入れてた筆者さんというのも、自分のことだったという(笑)

そういえば、前にそんなツッコミ入れてたような気がする(´・ω・`)

まさかTwitterで読者さんと繋がれるとは・・・

ありがたいなぁ・・・

そして前書きが長くなって申し訳ない(笑)


 ~千歌&花丸の場合~

 

 「千歌さん、今日も良いお天気ですわね♪」

 

 「そ、そうですね・・・」

 

 「花丸さん、うどんは苦手?」

 

 「め、麺類はちょっと・・・」

 

 「フフッ・・・苦手なものの一つや二つ、誰にでもありますわ♪」

 

 「ず、ずらぁ・・・」

 

 水族館内の飲食店で調理や皿洗いを担当している千歌と花丸が、ニコニコしているダイヤさんに怯えていた。

 

 「千歌ちゃんと花丸ちゃん、顔が引き攣ってるんやけど・・・」

 

 「・・・あれは俺でも引き攣るわ」

 

 「そこまで!?」

 

 希ちゃんのツッコミ。

 

 あんな語尾に『♪』が付くような喋り方、普段のダイヤさんならしないもんな・・・

 

 逆にメチャクチャ怒ってるようにしか見えないし・・・

 

 そんなことを考えていると、俺達が様子を窺っていることに気付いた二人が目で訴えてきた。

 

 (助けて天くん!ダイヤさんがメチャクチャ怒ってる!)

 

 (マル達は何もしてないずら!どうしたらいいずら!?)

 

 多分こんな感じのことを言ってるな、アレ。

 

 とりあえず・・・

 

 (大丈夫だよ二人とも。俺はそんな二人を応援してる)

 

 ((どこの滝壺さん!?))

 

 これで良し、と。

 

 「いや、全然良くなさそうなんやけど。もの凄く必死に助けを求めてるんやけど」

 

 希ちゃんのツッコミ。

 

 仕方ないなぁ・・・

 

 「ダイヤさ~ん!向こうの人手が足りないんで、手を貸して下さ~い!」

 

 「は~い、今行きますわ~♪」

 

 ニコニコしながらやって来るダイヤさん。

 

 うわぁ・・・

 

 「千歌さん、花丸さん、少し席を外しますわね♪」

 

 「「ご、ごゆっくり~・・・」」

 

 引き攣った笑顔で手を振る二人なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 ~曜&善子の場合~

 

 「お疲れ様ですわ~♪」

 

 「あっ、ダイヤさん!」

 

 曜と善子に合流するダイヤさん。

 

 二人はたくさんの風船を持ち、子供達に配っていた。

 

 「ところで曜さん・・・その着ぐるみは何ですの?」

 

 「あぁ、これですか?」

 

 何故か誇らしげに胸を張る曜。

 

 「この水族館のマスコットキャラ、ウチッチーです!」

 

 「・・・あぁ、ことりさんの中の人ですわね」

 

 「ウッチーじゃないですよ!?っていうか『中の人』とか言うの止めて下さい!」

 

 曜のツッコミ。

 

 遂にダイヤさんまでメタ発言を・・・

 

 「アハハ、ダイヤちゃんもあんなこと言うんやね」

 

 「気付かれちゃうから静かにしようね、くっすん」

 

 「まさかの便乗!?」

 

 希ちゃんのツッコミはスルーして、再びあちらの様子を見守る。

 

 曜がダイヤさんに風船の一部を差し出した。

 

 「ダイヤさんも配ります?」

 

 「あ、ありがとうございます・・・」

 

 おずおずと受け取るダイヤさん。

 

 そして・・・

 

 「・・・曜『ちゃん』」

 

 「・・・・・・・・・・」

 

 あっ、曜がフリーズした・・・

 

 何が起きたか分からない顔してるわ・・・

 

 「ダ、ダイヤさん・・・?」

 

 「何ですの?曜『ちゃん』?」

 

 「ひぃっ!?」

 

 悲鳴を上げる曜。

 

 一方のダイヤさんは、そんなことは気にもせずニコニコしている。

 

 ちゃん付けで呼べたことがよっぽど嬉しいらしい。

 

 「さぁ、頑張りますわよ!」

 

 「は、はい・・・」

 

 「ふぅ、子供の相手も大変ねぇ・・・って曜?どうしたの?」

 

 風船を配ってきたらしい善子が、キョトンとした顔で曜を見る。

 

 ダイヤさんはニコニコしながら、そんな善子に話しかけ・・・

 

 「お疲れ様ですわ、善子『ちゃん』♪」

 

 「・・・・・・・・・・」

 

 あっ、善子もフリーズしたわ・・・

 

 やはりダイヤさんは気にせず、スキップをしながら風船を配りに行ってしまった。

 

 「・・・・・ヨハネよ」

 

 「そこ!?」

 

 ようやく動いた善子の一言目がそれだった。

 

 流石だぜ堕天使。

 

 「何なの、今の背筋に冷たいものが走る違和感・・・」

 

 「分かる・・・」

 

 「天界からの使者によって、もう一つの世界が現出したかのような・・・」

 

 「それは分からない・・・」

 

 「アハハ、酷い言われようやね・・・」

 

 「まぁ違和感しか無いからね」

 

 「希さん!?」

 

 「天まで!?」

 

 ダイヤさんが去ったところで、希ちゃんと一緒に物陰から出る。

 

 やれやれ・・・

 

 「ちょっと天くん、ダイヤさんがおかしいんだけど!?」

 

 「一体何があったのよ!?」

 

 「かくかくしかじか」

 

 「あぁ、なるほど・・・って分かるかっ!」

 

 「それで通じるのはアニメやマンガの世界だけだって、前も言ったでしょうが!」

 

 「まぁまぁ、曜ちゃんも善子ちゃんも落ち着きなよ」

 

 「な、何で天くんまでちゃん付けなのさ・・・///」

 

 「い、いつもは呼び捨てのくせに・・・///」

 

 「何で照れてんの?」

 

 「この反応の差・・・ダイヤちゃんが可哀想になってきたんやけど・・・」

 

 呆れる希ちゃんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 ~梨子&ルビィの場合~

 

 「バウッ!」

 

 「いやあああああっ!?」

 

 「ぴぎいいいいいっ!?」

 

 何故かアシカから逃げ回っている梨子とルビィ。

 

 ダイヤさんが風船配りに夢中になってるから、ちょっと離れてこっちの様子を見に来たんだけど・・・

 

 「助けてえええええっ!?」

 

 「梨子ちゃん、掴まって!」

 

 一足先に少し高い足場に上ったルビィが、梨子に向かって手を伸ばす。

 

 その手を掴む梨子だが、ルビィの力では持ち上げられないようだ。

 

 「ぐぬぬぬ・・・梨子ちゃん、重い・・・!」

 

 「ルビィちゃん!?その言葉は心に突き刺さるから止めて!?」

 

 「いや~、曜が学校のベランダから落ちかけた時のことを思い出すわ~」

 

 「あっ、天くん!梨子ちゃんを引き上げるの手伝って!」

 

 「えー、面白いところなのに」

 

 「人が逃げ回るところを見て面白がるの止めてくれる!?こっちは必死なのよ!?」

 

 「『助けてくれたら何でもします』って言うなら良いよ」

 

 「い、嫌よ!?私に乱暴する気でしょう!?エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」

 

 「梨子ちゃん、何でちょっと顔が赤くなってるん?」

 

 「ねぇ天くん、えろどーじんってなぁに?」

 

 「ルビィは知らない方が良いから、とりあえず梨子の手を離そっか」

 

 「ホントに止めてよぉっ!何でもするからぁっ!」

 

 「はいはい」

 

 今にも泣き出しそうな顔をする梨子の手を掴み、足場まで引き上げる。

 

 「うぅ・・・ぐすっ・・・」

 

 「そんなに怖かったの?」

 

 「だってぇ・・・何か犬みたいでぇ・・・」

 

 「あぁ、分からなくもないかな・・・」

 

 しかも犬より大きいし・・・

 

 梨子にアシカはハードルが高かったかな・・・

 

 「よしよし、もう大丈夫だから。俺が側にいるからね」

 

 「うん・・・ぐすっ・・・」

 

 「・・・天くんって、μ'sの時からこうだったんですか?」

 

 「うん。だから周りに遠慮しちゃうことりちゃん、男性が苦手な海未ちゃん、なかなか人に心を開けない真姫ちゃんのハートでさえも撃ち抜いてしまったんよ」

 

 「なるほど・・・」

 

 俺が梨子を優しく抱き締めている一方、何やらルビィと希ちゃんがヒソヒソと話していた。

 

 よく聞こえないんだけど、何を話してるのかな?

 

 

 

 

 

 『ピイイイイイイイイイイッ!』

 

 

 

 

 

 いきなり笛の音が鳴った。

 

 下を見ると、ダイヤさんが笛を片手にアシカをキッと睨みつけていた。

 

 「今すぐプールにお戻りなさい!」

 

 「クゥ~ン・・・」

 

 いそいそとプールに戻るアシカ。

 

 凄いな・・・

 

 「ダイヤさん、どうしてここに?っていうか、その笛どうしたんですか?」

 

 「騒ぎに気付いて駆け付けたのですわ。笛はステージの上に落ちていたので、調教用のものではないかと思いまして」

 

 「あっ、ルビィがスタッフさんに借りたやつ!」

 

 「やはりそうでしたか・・・でしたら慌てたりせず、キチンと笛を吹かなければいけませんよ?きっとアシカさんは、ルビィ達に遊んでほしかったのですわ」

 

 「うぅ、ごめんなさい・・・」

 

 シュンとするルビィ。

 

 俺はルビィの頭を撫でた。

 

 「後で一緒にご飯あげよっか。きっと喜ぶよ」

 

 「っ・・・うんっ!」

 

 「それにしても、一瞬で言うことを聞かせるなんて・・・流石はダイヤさんですね!」

 

 「ハッ!?やってしまいましたわ・・・」

 

 「え?」

 

 急にうなだれるダイヤさんを見て、首を傾げる梨子。

 

 アララ・・・

 

 「道のりは険しそうやねぇ・・・」

 

 苦笑する希ちゃんなのだった。




どうも〜、ムッティです。

祝・虹ヶ咲アニメ二期制作決定\(^o^)/

いやぁ、マジで嬉しい!

栞子ちゃんも登場すると良いなぁ・・・

っていうか、Twitterで虹ヶ咲声優の皆さんが3rdライブで撮った画像を載せていましたが・・・

あかりん可愛すぎない?

髪染めて彼方ちゃんそっくりになってない?

あかりんも彼方ちゃんも大好きよマジで!

あかりんと言えば、最近アニメ『俺だけ入れる隠しダンジョン』を一気に見ました。

いやぁ、女の子がメチャクチャ可愛い←

ちなみに推しキャラは、あかりんがCVを務めるルナちゃんです。

普段は凛々しい美人なのに、弱気になった時のあの可愛さ・・・

ギャップ萌えって良いよね(^^)

彼方ちゃんといいルナちゃんといい、CVがあかりんのキャラが素晴らし過ぎる( ´∀`)

・・・あかりん熱が上がり過ぎてますね(笑)

まぁ何はともあれ、虹ヶ咲の二期が今から楽しみです(^^)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

頑張っても上手くいかないこともある。

だんだん暑くなってきちゃいましたね・・・

忌々しい・・・(゜言゜)


 「ダイヤ、ちゃん・・・?」

 

 呆然としている千歌。

 

 これ以上皆を混乱させるのは良くないということで、果南と鞠莉が皆を集めて事情を説明したのだった。

 

 「皆ともう少し距離を近づけたいってことだと思うけど・・・」

 

 「ここまで空回りするとはねぇ・・・」

 

 溜め息をつく果南と鞠莉。

 

 一方、皆はホッとした様子だった。

 

 「あの笑顔は、怒ってたわけじゃなかったずらね・・・」

 

 「フフッ・・・ダイヤさん、何か可愛いかも」

 

 「ホントにね。言ってくれれば良いのに」

 

 「でしょ?だから小学校の頃から、私達以外はなかなか気付かなくてさぁ」

 

 苦笑する果南。

 

 「真面目でちゃんとしてて、頭が良くてお嬢様で・・・頼れる存在ではあるけど、皆にとっては雲の上の存在だったんだよね」

 

 「だからダイヤもそう振る舞って、どんどん皆と距離をとっていったの。本当は凄く寂しがりやなのにね」

 

 肩をすくめる果南と鞠莉。

 

 なるほどねぇ・・・

 

 「・・・他人とは思えないわ」

 

 「天くん?何か言った?」

 

 「何でもないよ」

 

 首を傾げるルビィにそう返事をすると、俺は立ち上がった。

 

 「あれ?どこ行くの?」

 

 「ダイヤさんのところ。そろそろ希ちゃんと交代しようかなって」

 

 上手くいかないことに落ち込んでしまったダイヤさんを、希ちゃんが気分転換させる為に連れ出したのだ。

 

 希ちゃんのことだから、ダイヤさんを立ち直らせる為のお膳立てはしてくれていることだろう。

 

 後は俺の役目である。

 

 「少し放っておいた方が良いんじゃないかな」

 

 そんなことを言う果南。

 

 「これはダイヤの問題だし、私達がでしゃばり過ぎるのも良くないっていうか・・・」

 

 「マリーもそう思うわ。ダイヤが自分で動かなきゃ、意味が無いんじゃないかしら」

 

 果南の言葉に頷く鞠莉。

 

 二人なりにダイヤさんの為を思い、良かれと思って言ってるんだろうけど・・・

 

 「二人とも、ダイヤさんの悩みを軽く見過ぎてるんじゃない?」

 

 「「え・・・?」」

 

 ポカンとする二人。

 

 「ど、どういうこと・・・?」

 

 「そりゃ自分で動けるなら、その方が良いだろうけどさ・・・それが出来なくて困ってるから、ダイヤさんは二人に相談したんじゃないの?」

 

 「それは・・・」

 

 言葉に詰まる鞠莉。

 

 俺は尚も言葉を続けた。

 

 「人と距離を縮めるって、そんなに簡単なことじゃないよ。そういうのが苦手っていう人からしたら、尚更大変なことだと思う。それが簡単に出来たらダイヤさんだって苦労しないし、二人に相談することも無かったんじゃないかな」

 

 ダイヤさんからすると、きっと二人に相談することさえ勇気が必要だっただろう。

 

 人に弱味を見せたがらず、人に甘えることが苦手な人・・・それがダイヤさんなのだから。

 

 それにも関わらず・・・

 

 「ダイヤさんの悩みを『大したことじゃない』の一言で片付けて、『とにかく距離を縮めろ』としか言わない・・・どうやったらそれが出来るか悩むダイヤさんを見ていながら、一緒に悩んであげることもしない・・・それでも本当に親友なの?」

 

 「「っ・・・」」

 

 俺の言葉に、気まずそうな表情を浮かべる二人。

 

 今頃になって、『ちょっとマズかったかな・・・?』とでも思い始めているんだろう。

 

 「二人とも、ダイヤさんとは長い付き合いなんでしょ?その二人が、真剣に相談に乗ってくれないなんて・・・流石にダイヤさんが可哀想過ぎるよ」

 

 黙り込んでしまう二人。

 

 俺はそんな二人に背を向けた。

 

 「・・・じゃ、ちょっとダイヤさんのところに行ってくる。すぐに合流するから、引き続き仕事よろしくね」

 

 「・・・了解。ダイヤさんのこと、任せたよ」

 

 「勿論」

 

 千歌の言葉に頷き、歩き出す俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《ダイヤ視点》

 

 「ハァ・・・」

 

 「ダイヤちゃん、元気出して」

 

 溜め息をつく私に、優しい言葉をかけて下さる希さん。

 

 私達は外のベンチに座り、風に吹かれながら海を眺めていたのでした。

 

 「そんなに気に病まなくても大丈夫。ダイヤちゃんの気持ちは、きっと皆に届くから」

 

 「・・・そうでしょうか」

 

 肩を落とす私。

 

 私なりに頑張ったつもりですが、こうも上手くいかないとは・・・

 

 「・・・ツケを払う時がきた、ということでしょうね」

 

 「え・・・?」

 

 「これまで人と向き合うことから逃げてきた・・・そのツケが回ってきたのですわ」

 

 そう、この結果は必然・・・上手くいくはずがなかったのです。

 

 「私は幼い頃から、周りの方達から『しっかり者のお嬢様』として見られてきました。ありがたいことに、頼られることは多かったのですが・・・気軽に親しく話しかけて下さる方は、果南さんや鞠莉さんしかいませんでした」

 

 「ダイヤちゃん・・・」

 

 「ですがそれは、私にとっても好都合でした・・・何せ私は大の人見知りで、人付き合いというものが苦手だったのですから」

 

 だからこそ、私は周りの方達のイメージ通りに振る舞い続けました・・・

 

 関わり合うことを避ける為に・・・

 

 「でも、果南ちゃんやマリチとは仲良しだよね?」

 

 「果南さんは幼馴染ですし、鞠莉さんはああいう性格なのでグイグイ来られて・・・私にとって友人と呼べる存在は、あの二人だけですわ」

 

 私にとっての友人は、あの二人だけで良い・・・

 

 そんな考えもあったからこそ、私は他の方達と向き合うことを避けてきたのです。

 

 「そんな私が、距離を縮められるはずがありませんわ。これまでそこから逃げてきたというのに・・・」

 

 うなだれる私。

 

 すると・・・

 

 「フフッ・・・なるほど」

 

 クスクス笑う希さん。

 

 どうしたのでしょうか・・・?

 

 「天くんの言ってたこと、今ならよく分かる」

 

 「・・・何の話ですの?」

 

 「天くんにAqoursの皆の話を聞いた時、言ってたんよ。『ダイヤさんは絵里姉にそっくりなんだよ』って」

 

 そういえば、前に私も言われたような・・・

 

 そんなに似ているのでしょうか・・・?

 

 「周りから『しっかり者で近寄りがたい』って思われてるところも、本当は寂しがりやなところも・・・ホント、エリチそっくりやね」

 

 私の頭を撫でる希さん。

 

 「ウチも最初は大変やったよ?エリチが心を開いてくれるまでに、どれだけ時間がかかったことか・・・」

 

 「そ、そうだったのですか・・・?」

 

 「ダイヤちゃんも、果南ちゃんやマリチに心を開くのに時間かかったんやない?」

 

 「・・・言われてみれば」

 

 確かに心を開くまでに、少し時間がかかったような・・・

 

 まぁ二人とも遠慮なく来るので、心を開かされたと言った方が正しい気もしますが・・・

 

 「二人とも気が強そうに見えて、実はとっても怖がりなんだよね。だからこそ人を信じるのに時間がかかるし、簡単には心を開かない・・・そんなところもそっくりやね」

 

 苦笑する希さん。

 

 「だからこそ天くんは、ダイヤちゃんを気にかけるんやと思うよ?」

 

 「私に絵里さんを重ねているから、ですか?」

 

 「それもあるけど・・・エリチがそういう性格のせいで苦労するところを、天くんは見てきてるから。だからダイヤちゃんがなるべく苦労しないように、出来る限り力になってあげたい・・・そう思ってるんじゃないかな」

 

 柔らかく微笑む希さん。

 

 天さんの考えを、そこまで読むことが出来るなんて・・・

 

 「・・・天さんのこと、よく理解されているのですね」

 

 「勿論。天くんのこと、大好きやもん」

 

 笑顔で言い切る希さん。

 

 「ダイヤちゃんだって、天くんのこと好きやろ?」

 

 「す、すすすす好きって・・・そ、そそそそそんな・・・!?」

 

 「じゃあ嫌いなん?」

 

 「嫌いなはずありませんわ!」

 

 「ほら、好きやん」

 

 ニヤニヤしている希さん。

 

 うぅ、やりづらいですわ・・・

 

 「す、好きと言っても・・・こ、恋では無いというか・・・!」

 

 「ふ~ん?」

 

 「た、大切な方ではあるのですが・・・!」

 

 「へ~?」

 

 「あ、あくまでも仲間として・・・!」

 

 「ほ~?」

 

 「ニヤニヤするの止めていただけます!?」

 

 明らかに楽しんでいる希さん。

 

 全く、この人ときたら・・・!

 

 「フフッ、ダイヤちゃんは面白いなぁ♪」

 

 「私で遊ばないで下さい!」

 

 「アハハ、ゴメンゴメン」

 

 希さんは苦笑しながら謝ると、ベンチから立ち上がりました。

 

 「さて、ダイヤちゃんの元気が少し出たところで・・・ウチの役目は終わりやね」

 

 「え・・・?」

 

 「もうすぐ天くんがここに来るから、後は天くんと話してな」

 

 「何故分かるのですか!?」

 

 「スピリチュアルパワーのおかげや」

 

 「希さんが仰ると冗談に聞こえないのですが!?」

 

 「アハハ、ダイヤちゃんは本当に面白いなぁ♪」

 

 クスクス笑う希さん。

 

 どうにも調子が狂いますわ・・・

 

 「今のダイヤちゃんの気持ち、そのまま素直に話したらええよ。天くんなら、きっと受け止めてくれるから」

 

 「希さん・・・」

 

 「じゃ、皆のところに行ってるね」

 

 そう言って私に背を向ける希さん。

 

 そんな希さんの背中に、私は大声で叫びました。

 

 「あのっ・・・ありがとうございます!」

 

 こちらを振り向かず、手をひらひらと振り去っていく希さんなのでした。




どうも〜、ムッティです。

さて、まずは謝罪から・・・

今回のお話ですが、果南ちゃんと鞠莉ちゃんが天から責められる描写がありましたね。

不愉快に思われた方がいましたら、大変申し訳ありません。

そもそも何故このような描写になったのかと言いますと、アニメでこのお話を見た際の個人的な感想に理由がありまして・・・

『果南ちゃんも鞠莉ちゃんも、もう少しダイヤさんと一緒に悩んであげても良いんじゃないかな』と・・・

ダイヤさんらしからぬ悩みにクスッとなるのは良いとしても、ちょっと面白がり過ぎてるように感じまして・・・

もう少し親身になってと言いますか、真面目に相談に乗ってあげても良いんじゃないかなと・・・

そんな思いもあったので、今回こういった描写にさせていただきました。

勿論果南ちゃんや鞠莉ちゃんが、ダイヤさんのことを大切に思っているのは理解しているつもりです。

あくまであのお話を見た上での個人的な感想なので、果南ちゃんや鞠莉ちゃんへのアンチ的な感情があるわけでもありません。

そこは誤解しないでいただきたいのですが、誰かが責められる描写というのは不快に思われる方もいらっしゃるかもしれませんので・・・

改めまして、大変申し訳ございませんでした。

さてさて、次回は天とダイヤさんの会話になります。

果たしてどうなるのか・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【宮下愛】愛だけに!

愛ちゃんの誕生日回、誕生日に間に合わなくて本当に申し訳ない(土下座)

何とか書き上げたんで、許して下さい(土下座)


 「そ、天っち!」

 

 「ん?」

 

 登校中に声をかけられる。

 

 振り向くと、何故か愛が顔を赤くして立っていた。

 

 「おぉ、おはよう愛・・・何か顔赤くない?」

 

 「き、今日は暑いねー!」

 

 「むしろ肌寒いんだけど」

 

 「メ、メッチャ晴れてるねー!」

 

 「生憎の曇り空なんだけど」

 

 何か今日の愛、様子がおかしいな・・・

 

 もしかして・・・

 

 「ちょっと失礼」

 

 「ひゃあっ!?」

 

 愛に近付き、おでこをくっつけてみる。

 

 うん、何か熱い気がする。

 

 「愛、ひょっとして熱があるんじゃ・・・」

 

 「だ、大丈夫だからっ!」

 

 慌てて俺から離れる愛。

 

 何か挙動不審だなぁ・・・

 

 「そ、それよりっ!天っちに話があるのっ!」

 

 「何?」

 

 「そ、それは・・・」

 

 「それは?」

 

 「・・・うぅ」

 

 何故か恥ずかしそうに口ごもってしまう愛。

 

 本当にどうしたんだろう・・・

 

 「や、やっぱりここじゃ言えないっ!」

 

 「はい?」

 

 「今日の放課後、屋上に来て!そこで話すから!」

 

 「いや、放課後は同好会の練習が・・・」

 

 「そんなに時間は取らせないからっ!待ってるからねっ!」

 

 それだけ言うと、愛は慌てて走り去ってしまった。

 

 「・・・何なのあの子」

 

 首を傾げる俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《愛視点》

 

 「じゃあ、天さんを屋上に呼び出すことには成功したんだね」

 

 「やるじゃない、愛」

 

 「うぅ、恥ずかし過ぎて死ぬかと思った・・・」

 

 机に突っ伏すアタシ。

 

 昼休み、アタシは学食でりなりーや果林と昼ご飯を食べていた。

 

 「どうしよう・・・絶対おかしい子だと思われたよ・・・」

 

 「はい璃奈ちゃん、あーん」

 

 「あーん・・・うん、なかなかイケる」

 

 「そこ!愛さんが悶え苦しんでる時にイチャイチャしない!」

 

 「愛さんが悶え苦しんでいるのを見ながら食べるご飯は美味しい」

 

 「りなりー!?何てこと言うの!?」

 

 「人の不幸は蜜の味ってやつね」

 

 「果林まで!?」

 

 くっ、他人事だと思って・・・!

 

 「フフッ、何だかんだで愛も乙女だったのね」

 

 面白そうに笑う果林。

 

 「天への恋心に翻弄されちゃって・・・可愛いんだから♪」

 

 「面白がらないでよぉ・・・」

 

 再び机に突っ伏すアタシ。

 

 果林の言う通り、アタシは天っちに恋をしてしまったのだ。

 

 その恋心に、自分でもビックリするくらい振り回されてしまっている。

 

 うぅ、自分が自分じゃないみたい・・・

 

 「でも、あとは簡単。屋上へやって来た天さんに告白するだけ」

 

 「簡単じゃないよ!?それが一番難しいんだってば!?」

 

 「『好きです。付き合って下さい』・・・うん、三秒あれば余裕」

 

 「それが言えたら苦労しないんだけど!?」

 

 「愛さんはチキン。ケン●ッキーでバイトしたら良い」

 

 「喧嘩売ってる!?そしてケ●タッキーをバカにしてる!?」

 

 「ケンタ●キーはバカにしてない。愛さんをバカにしてる」

 

 「表出ろやゴラァ!」

 

 「はいはい、落ち着きなさい」

 

 呆れた表情の果林に宥められる。

 

 「仕方ないわね。私が絶対に成功する告白方法を伝授してあげるわ」

 

 「マジで!?教えて教えて!」

 

 流石は果林!大人の女性は一味違う!

 

 「よく聞きなさい。まずはそっと相手の手を掴むの。右でも左でも構わないわ」

 

 「ふむふむ」

 

 「次にその手を自分の胸元に持っていって・・・おっぱいを揉ませなさい」

 

 「何言ってんの!?」

 

 果林に期待したアタシがバカだった!

 

 完全に痴女路線に走ったよこの子!

 

 「そして上目遣いでこう言うの。『バラされたくなかったら付き合いなさい』ってね」

 

 「ただの脅しじゃん!?」

 

 「これなら絶対に成功するわ」

 

 「だろうね!断るっていう選択肢が潰されてるからね!」

 

 「相手に言うことを聞かせたい時は、弱味を握るのが一番よ」

 

 「最低な発言してるけど大丈夫!?」

 

 汚い!大人って汚い!

 

 「まぁ冗談はさておき、自分の気持ちはちゃんと伝えなさい」

 

 真剣な表情になる果林。

 

 「いつまでもうじうじしてるのは、愛らしくないわよ。ここまで来たら、覚悟を決めてぶつかるしかないんだから」

 

 「それはそうだけど・・・」

 

 それでも、アタシは怖い・・・

 

 天っちにフラれて気まずくなって、今までみたいに仲良しでいられなくなったら・・・

 

 「大丈夫。どんな答えにせよ、天さんは愛さんの気持ちをちゃんと受け止めてくれる」

 

 りなりーが優しく手を握ってくれる。

 

 「愛さんが好きになった天さんを、信じてあげて」

 

 「りなりー・・・」

 

 そうだよね・・・

 

 まずアタシが天っちを信じなきゃダメだよね・・・

 

 「・・・ありがとう、二人とも。気持ち、ちゃんと伝えてくる」

 

 腹をくくるアタシなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《愛視点》

 

 「うぅ・・・緊張する・・・」

 

 放課後、屋上で天っちを待つアタシ。

 

 腹をくくったとはいえ、緊張するものは緊張するのだ。

 

 あぁ、落ち着かない・・・

 

 「深呼吸してみるか・・・」

 

 「愛の呼吸、壱の型」

 

 「いやそれ全集中の呼吸・・・って天っち!?」

 

 いつの間にか、アタシの後ろに天っちが立っていた。

 

 「ちーっす!」

 

 「ちょっと!?愛さんの挨拶パクんないでよ!?」

 

 「ちょりーっす!」

 

 「その挨拶もダメ!色々問題あるから!」

 

 「わがままだなぁ・・・こうなったら、こっちも事務所総出でやりますね」

 

 「その発言がダメだって言ってるんだけど!?蒸し返さないであげて!?」

 

 「はいはい・・・それで、話って何?タピオカ店でも始めるの?」

 

 「だから蒸し返すなって言ってんでしょうがあああああっ!?」

 

 何でこの子は際どいラインを超えようとするの!?バカなの!?

 

 「アハハ、やっと愛らしくなった」

 

 「え・・・?」

 

 キョトンとするアタシに、天っちは笑いながら言葉を続ける。

 

 「しおらしい愛も悪くないけど・・・やっぱり、元気で明るい愛が俺は好きだよ」

 

 「っ!?」

 

 一気に顔が赤くなってしまう。

 

 何でこういうセリフをサラッと言えるのかなぁ・・・

 

 「あれ、照れてる?」

 

 「て、照れてないしっ!」

 

 「え~?ホントに~?」

 

 「ニヤニヤしないっ!あと顔近いからっ!」

 

 「良いではないか~」

 

 恥ずかしがる様子も無い天っち。

 

 むぅ、アタシだけ意識してるのがバカみたいじゃんか・・・

 

 よし、こうなったら・・・

 

 「えいっ!」

 

 「っ!?」

 

 天っちの手を掴み、思いっきり自分の胸に押し当てる。

 

 天っちの手は、アタシの胸を触っている状態だった。

 

 「ちょ、愛!?何してんの!?」

 

 「そ、天っちがいけないんだからね!?」

 

 「何が!?ってか離してくんない!?」

 

 「愛さんのおっぱいじゃ満足出来ないの!?」

 

 「はい!?」

 

 「そりゃ三年生組には及ばないけどさ!愛さんだって大きいんだから!」

 

 「分かったってば!?良いから手を離して!?」

 

 「ダメ!離さない!」

 

 「何で!?」

 

 「離してほしかったら・・・愛さんと付き合いなさい!」

 

 遂に言ってしまった。

 

 それを聞いた瞬間、天っちの動きがピタリと止まる。

 

 「い、今何て・・・?」

 

 「愛さんはね、天っちに惚れちゃったんだよ」

 

 開き直ったアタシは、思いの丈をぶつけることにした。

 

 「はっちゃけたい時は一緒にバカ騒ぎしてくれて、悩んでる時はそっと寄り添ってくれて、全力で打ち込みたい時は強く背中を押してくれて・・・そんな天っちを、愛さんは好きになっちゃったんだよ」

 

 「愛・・・」

 

 「好きで好きでたまらなくて、胸がドキドキして・・・こんな気持ち初めてなの。こんなに誰かを好きになるなんて、思いもしなかった」

 

 天っちの肩に、コテッとおでこをぶつける。

 

 「好きだよ、天っち・・・大好き」

 

 自分の気持ち、正直に言っちゃったなぁ・・・

 

 もしこれで天っちにフラれて、今までみたいな関係でいられなくなったら・・・

 

 「・・・ありがとう」

 

 「っ・・・」

 

 天っちが優しく抱き締めてくれる。

 

 「そんなストレートに好意をぶつけられるなんて、思ってもみなかったから・・・ちょっと照れ臭いけど、嬉しいよ」

 

 「天っち・・・」

 

 「愛が本心を話してくれたんだから、俺もちゃんと話さないとね」

 

 アタシの目を見つめる天っち。

 

 そして・・・

 

 

 

 

 

 「俺も好きだよ、愛」

 

 

 

 

 

 「っ!」

 

 「元気で明るくて、一緒にいると楽しくて・・・落ち込んでる時とか体調が悪い時は、いつも本気で心配してくれて・・・そんな優しい愛を、俺は好きになったんだよ」

 

 微笑む天っち。

 

 「俺で良かったら・・・付き合ってくれる?」

 

 「っ・・・うんっ」

 

 微笑み返すアタシ。

 

 涙で視界が滲んでいた。

 

 「愛さんを・・・天っちの彼女にしてほしい」

 

 「喜んで」

 

 抱き締め合うアタシ達。

 

 幸せ過ぎておかしくなりそう・・・

 

 「ねぇ、天っち・・・愛してるよ」

 

 「愛だけに?」

 

 「茶化さないの。愛さんは本気なんだから」

 

 「ゴメンゴメン」

 

 天っちは苦笑しながら謝ると、アタシの涙を指で拭ってくれた。

 

 「ほら、泣かないで。俺は愛の笑顔が好きなんだから」

 

 「アハハ、よくそういうセリフを平気で言えるよね」

 

 思わず笑みが零れる。

 

 まぁ、こういうところが天っちらしいんだけどね。

 

 「・・・隙ありっ」

 

 「っ!?」

 

 悔しいので、天っちの唇を奪う。

 

 顔を真っ赤にする天っちを見て、悪戯っぽく笑うアタシなのだった。

 

 「フフッ・・・愛してるぞ、天っち!愛だけにっ!」




ちーっす!ムッティです!

遅くなったけど愛ちゃん、誕生日おめでとう!

いつもは元気いっぱいな愛ちゃんが、好きな子の前ではしおらしくなってしまう・・・

そんなシーンを書きたかったので、今回は天への恋心に翻弄される愛ちゃんを書いてみました。

その結果、誕生日に間に合わないっていう・・・

本当に申し訳ない(´・ω・`)

そのお詫びというわけでもありませんが、ずっと書けていなかったエマちゃんの誕生日回も書きました!

明日投稿予定ですので、読んでいただけると幸いです(^^)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【エマ・ヴェルデ】あの時の約束

今回はエマちゃんの誕生日回です!

2月に間に合わなくて、そのままずるずると6月になるっていうね・・・

ゴメンよエマちゃん(´・ω・`)

しかもよりによって、希ちゃんの誕生日に投稿するっていうね・・・

ゴメンよ希ちゃん(´・ω・`)

ちなみに今回の天は三年生組なので、エマちゃん・果林ちゃん・彼方ちゃんと同級生になっています。

それではいってみよー!


 「うわあああああん!天くうううううん!」

 

 「泣かないで、エマ」

 

 号泣するエマの頭を、優しく撫でる俺。

 

 今日は俺の家にホームステイしていたエマが、母国であるスイスに帰国する日だった。

 

 「うぅ・・・寂しいよぉ・・・」

 

 「おっと・・・今日のエマは甘えん坊だなぁ」

 

 抱きついてくるエマを受け止める。

 

 いつも笑顔を絶やさず、同い年なのにお姉さんのような包容力を持つ女の子・・・そんなエマも、今日ばかりは歳相応の一面を見せていた。

 

 まぁ俺の身体に押し付けられているモノは、歳相応とは言えないほど大きいのだが・・・

 

 まだ中一でこれなら、将来はどれほど大きくなるんだろうか・・・

 

 「ぐすっ・・・天くんは寂しくないの・・・?」

 

 「・・・寂しいよ」

 

 ギュッとエマを抱き締める。

 

 一緒に過ごした時間は短かったが、俺にとってエマは大切な存在になっていた。

 

 寂しくないわけがない。

 

 「でも、これが永遠の別れじゃないから。またきっと会える」

 

 「・・・ホントに?」

 

 「うん、また日本に遊びに来てよ。俺も大きくなったらスイスまで遊びに行くからさ」

 

 「・・・また会ってくれる?」

 

 「当たり前でしょ。俺とエマの仲なんだから」

 

 優しくエマの背中を擦る。

 

 少し落ち着いたようだ。

 

 「もし俺がスイスにお邪魔する時は、案内よろしくね。エマがオススメの場所とか食べ物とか、いっぱい紹介してよ」

 

 「っ・・・任せて!たくさん紹介してあげるね!」

 

 ようやく笑顔を見せてくれるエマ。

 

 うん、やっぱり・・・

 

 「俺はやっぱり、エマの笑顔が一番好きだよ」

 

 「っ!?」

 

 顔を赤くするエマ。

 

 そして服の裾をキュッと握り締めると、恥ずかしそうにしながらも意を決したように口を開くのだった。

 

 「ねぇ、天くん・・・もし、また会えたら・・・その時は私を、天くんの・・・」

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「・・・ん」

 

 目が覚める俺。

 

 どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

 

 「あら、お目覚め?」

 

 頭上から声がする。

 

 見上げると、大きな山が二つ・・・

 

 「・・・この大きさは果林しかいないな」

 

 「何を見て判断してるのよ・・・」

 

 山の間から、果林の呆れた顔が現れた。

 

 っていうか・・・

 

 「何で俺、果林に膝枕されてんの?」

 

 「ベンチじゃ固くて寝づらいだろうと思って。迷惑だったかしら?」

 

 「本当にありがとうございます」

 

 この柔らかさ、まさに至高の枕や・・・

 

 「っていうか、モデルの仕事は?」

 

 「今日は休みだから、読書でもしようと思って静かな場所を探してたのよ。そしたら天を発見したってわけ」

 

 「あぁ、なるほど」

 

 「ところで、エマって誰のことかしら?」

 

 「えっ、何でその名前知ってんの?」

 

 「寝言で呼んでたわよ。『エマ・・・エマ・・・』って」

 

 「マジか」

 

 そう言えば、あの時の夢を見ていたような・・・

 

 「中一の時、俺の家にホームステイしてた女の子だよ。スイスの子なんだけど」

 

 「あら、もしかして初恋の相手とか?」

 

 「初恋ねぇ・・・」

 

 あの時の言葉、エマは覚えているだろうか・・・

 

 もし覚えていたら・・・

 

 「婚約者、かな?」

 

 「はい?」

 

 首を傾げる果林。

 

 すると・・・

 

 「えーっと・・・学生寮の地図は・・・」

 

 「ん?」

 

 何やら荷物を漁っている女の子が目に留まった。

 

 今『学生寮』って聞こえたし、あのスーツケース・・・

 

 麦わら帽子で顔は見えないけど、もしかして新しい転入生の子かな?

 

 「場所が分からないのか・・・ちょっと行ってくるわ」

 

 「はいはい、相変わらずお人好しねぇ」

 

 立ち上がり、女の子の元へ近づく俺。

 

 「すみません、転入生の方ですか?」

 

 「あ、はい!学生寮の場所が分からなくて・・・キャッ!?」

 

 突然強い風が吹き、女の子が被っていた麦わら帽子が飛ばされてしまう。

 

 「あぁっ!?私の帽子!?」

 

 「大丈夫よ。今取ってくるわ」

 

 「頼んだ果林」

 

 果林が帽子を拾いに行ってくれる。

 

 再び女の子へと視線を戻した俺は、思わず固まってしまった。

 

 赤毛の三つ編みおさげ、透き通るような青い目、特徴的なそばかす・・・

 

 もしかして・・・

 

 「すみません、ご迷惑をおかけして・・・えっ?」

 

 向こうも俺の顔を見た瞬間、動きが固まってしまった。

 

 やっぱりこの子・・・

 

 「エ、エマ・・・?」

 

 「天・・・くん・・・?」

 

 お互いをまじまじと見つめ合う俺達。

 

 そして・・・

 

 「そ・・・天くううううううううううんっ!」

 

 「うおっ!?」

 

 勢いよく抱きついてくるエマ。

 

 何とか受け止めるが、エマの勢いは止まらない。

 

 「天くんっ!天くんっ!天くんっ!」

 

 「ちょ、エマ!?」

 

 さっきからメチャクチャ当たってるんだけど!?

 

 っていうか何だこの大きさ!?

 

 発育の暴力すぎない!?

 

 どんだけ成長してんの!?

 

 「天くうううううんっ!」

 

 「頼むから落ち着いてえええええっ!?」

 

 「何してるのよアナタ達・・・」

 

 取ってきた麦わら帽子を片手に、呆れながら俺達を見る果林なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「フフッ、天くんっ♪」

 

 嬉しそうに俺の腕に抱きついているエマ。

 

 俺達は今、学生寮にある俺の部屋へとやって来ていた。

 

 ちなみに果林は空気を読んでくれたのか、『ごゆっくり~』という言葉を残して帰って行った。

 

 どうやら出来る女は一味違うらしい。

 

 「それにしても、まさかここでエマに会えるとは・・・何で虹ヶ咲に?」

 

 「スクールアイドルになりたくて」

 

 微笑むエマ。

 

 「虹ヶ咲がスクールアイドル活動に力を入れるっていう話を聞いて、転入することにしたの。ずっと憧れだったから」

 

 「そういえば、スクールアイドルが大好きだったね」

 

 あの頃のエマ、スクールアイドルの動画を食い入るように見てたもんなぁ・・・

 

 「日本に来たら、天くんに会いに行こうと思ってたけど・・・まさかここで会えるなんて、思ってもみなかったよ」

 

 「ホントにね」

 

 俺は苦笑すると、そのままエマを抱き締めた。

 

 「そ、天くんっ!?」

 

 「・・・会いたかったよ、エマ」

 

 エマを抱き締める腕に、ギュッと力を込める。

 

 「また会えて・・・本当に嬉しい」

 

 「・・・私も」

 

 優しく抱き締め返してくれるエマ。

 

 「ねぇ、天くん・・・あの時の約束、まだ覚えてる・・・?」

 

 「・・・勿論」

 

 

 

 

 

 『ねぇ、天くん・・・もし、また会えたら・・・その時は私を、天くんのお嫁さんにしてほしいな』

 

 

 

 

 

 『・・・俺で良ければ、喜んで』

 

 

 

 

 

 「・・・好きだよ、エマ」

 

 「私も・・・天くんが大好き」

 

 見つめ合う俺達。

 

 その距離がゼロになるのに、時間はかからないのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「っていうことがあってね」

 

 「うぅ・・・ひっぐ・・・!」

 

 「感動じまじだあああああ・・・・!」

 

 「何で侑とせつ菜はガチ泣きしてんの?」

 

 呆れる俺。

 

 俺達は同好会の部室で、俺とエマの馴れ初めについての話をしていた。

 

 っていうか、こういうの話すの恥ずかしいんだけど・・・

 

 「でも、本当に良い話だと思います」

 

 「お二人が羨ましいです」

 

 歩夢としずくまで目が潤んでいる。

 

 何も泣かなくても・・・

 

 「天っちとエマっちがラブラブな理由、愛さんよく分かったよ!」

 

 「璃奈ちゃんボード『納得』」

 

 「本当は『スクールアイドルは恋愛禁止!』って言いたいところですけど、そんな話聞かされたら何も言えないじゃないですかー!」

 

 「フフッ、純愛って良いよね~」

 

 ワイワイ盛り上がっている皆。

 

 人の恋愛ネタで盛り上がっちゃって・・・

 

 「まぁ確かに『婚約者』よね。あの時の天の言葉、ようやく意味が分かったわ」

 

 ニヤニヤしている果林。

 

 「エマはともかく、天も案外一途なところあるのね」

 

 「男をとっかえひっかえしてそうなヤツに言われたくないわ」

 

 「人聞きの悪いこと言わないでくれる!?そんなことしてないから!」

 

 「分かってるって。彼氏いない歴=年齢だもんね・・・ハッ」

 

 「あっ、鼻で笑ったわね!?腹立つうううううっ!」

 

 「はいはい、落ち着いて果林ちゃん」

 

 苦笑しながら宥める彼方。

 

 「さぁ皆、そろそろ練習を始めるよ~」

 

 「よーし!やったるぞー!」

 

 「かすみん頑張っちゃいますよー!」

 

 「璃奈ちゃんボード『むんっ』」

 

 「ほら侑ちゃん、これで涙拭いて」

 

 「せつ菜さんもティッシュどうぞ」

 

 「ありがとう、歩夢・・・」

 

 「しずくさん、すみません・・・」

 

 ぞろぞろと部室を出て行く皆。

 

 さて、俺もサポートに行きますか・・・

 

 「フフッ・・・」

 

 「エマ?」

 

 笑みを零すエマに、首を傾げる俺。

 

 どうしたんだろう?

 

 「ねぇ、天くん・・・私ね、今凄く幸せだよ」

 

 「え・・・?」

 

 「自分のやりたいことが出来て、一緒に頑張り合える仲間がいて・・・支えてくれるのが、大好きな人で・・・本当に幸せ」

 

 「エマ・・・」

 

 「私、もっと頑張るから。だからこれからも一番近くで、私のことを見ててね」

 

 「・・・勿論」

 

 エマをそっと抱き寄せる。

 

 「俺はこれからもずっと、エマの一番近くにいるから」

 

 「天くん・・・」

 

 「それと・・・あの時の約束、ちゃんと果たすから」

 

 「っ・・・」

 

 エマの目が潤む。

 

 あの時の約束は、エマを俺のお嫁さんにすること・・・

 

 晴れて恋人同士になった俺達だが、結婚となるとそう簡単には出来ない。

 

 お互いまだ高校生だし、やりたいこともたくさんある。

 

 それでも・・・お互いの気持ちは変わらない。

 

 「もしその時が来たら・・・俺のお嫁さんになってくれる?」

 

 「・・・勿論」

 

 身を寄せてくるエマ。

 

 「私はずっと、天くんの側にいるから」

 

 「ありがと」

 

 笑い合う俺達。

 

 そして・・・

 

 

 

 

 

 「「Ti Amo」」

 

 

 

 

 

 お互いの唇を重ね、愛を誓い合う俺とエマなのだった。




どうも〜、ムッティです。

改めてエマちゃん、誕生日おめでとう!

まぁ2月の話なんだけども(´・ω・`)

そして希ちゃん、誕生日おめでとう!

まぁ誕生日回は無いんだけども(´・ω・`)

ちなみに最後の『Ti Amo』はEXILEさんの曲とかでお馴染みの言葉ですが、イタリア語で『愛してる』という意味ですね。

調べてみたところ、エマちゃんの母国であるスイスは公用語が4つもあるそうです。

ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の4つですって・・・ロマンシュ語って何?

まぁそれはともかく、エマちゃんはよくイタリア語を使っているので今回はイタリア語を使いました。

イタリア語といえば、アニメでエマちゃんが歌っていた『La Bella Patria』・・・

メッチャ良い曲\(^o^)/

『美しき故郷』・・・良いタイトルですよね。

エマちゃんの曲はどれも大好きです(^^)



さてさて、次は鞠莉ちゃんの誕生日・・・

間に合うかなぁ←

っていうか本編進まねえええええ!!!!!

なるべく頑張りますが、鞠莉ちゃんと果林ちゃんの誕生日回だけで6月は終わるかも・・・

本当に申し訳ない(´・ω・`)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【小原鞠莉】唯一無二の存在

間に合わなくてすみませんでしたあああああっ!!!!!(スライディング土下座)


 「今日も雨かぁ・・・」

 

 窓の外を見ながら、溜め息をつく俺。

 

 先日梅雨入りしてからというもの、しばらく雨の日が続いていた。

 

 雨が降っていると屋上が使えない為、Aqoursの練習も休みとなる。

 

 そんなわけで今日も練習は中止となり、こうして早めに帰宅したのだが・・・

 

 「暇だなぁ・・・」

 

 正直やることも無いし、何より身体を動かしたい気分だった。

 

 しかしこうして雨が降っていては、外で遊ぶことも出来ない。

 

 さて、どうしよう・・・

 

 「とりあえず、勉強でもするかな・・・」

 

 「天は真面目ねー。まるでダイヤみたい」

 

 「いや、ダイヤさんほどじゃ・・・ん?」

 

 自然にそう返してしまってから、ふと声がした方を振り向くと・・・

 

 「チャオ♪」

 

 いつの間にか、鞠莉が俺の隣でにこやかに手を振っていた。

 

 「ピッ・・・もしもし、警察ですか?」

 

 「ちょっと!?何で通報してるの!?」

 

 「自宅に不法侵入者がいます。住居侵入罪で捕まえて下さい」

 

 「ゴメンって!?勝手に入ったのは謝るから!」

 

 「金髪の独特な髪型が特徴的で、恐らく『ONE P●ECE』のMr.3をリスペクトしているものと思われます」

 

 「いや違うから!それでこんな髪型にしてるわけじゃないから!」

 

 「あと、おっぱいがやたら大きいです。いやらしく強調して見せつけてくるので、公然猥褻罪でも捕まえて下さい」

 

 「別に強調はしてないわよ!?逆にセクハラで訴えても良い!?」

 

 「おぉ、まさか鞠莉が果南みたいなセリフを言うとは・・・歩くセクハラのくせに」

 

 「酷い!?」

 

 ショックを受ける鞠莉。

 

 まぁ冗談はさておき・・・

 

 「鍵は閉めてたはずなんだけど、どうやって入ったの?」

 

 「この家の所有権は小原家にあるのよ?合鍵くらい持ってるわ」

 

 「俺のプライバシーはどこへ行ったの?」

 

 「緊急事態でもないかぎり使うことはないから、安心してちょうだい」

 

 「緊急事態でもないのに使った人に言われても、安心出来ないんだけど」

 

 「マリーは特別だから」

 

 「特別な変態?」

 

 「変態は余計よ!?」

 

 鞠莉のツッコミ。

 

 やれやれ、鞠莉にも困ったもんだ・・・

 

 「それで?何かあったん?」

 

 「雨で暇だから遊びに来ちゃった♪」

 

 「鞠莉大好き」

 

 「キャッ♡天ってば大胆♡」

 

 思わず鞠莉に抱きつく。

 

 流石は俺の幼馴染、思いは一つだったらしい。

 

 「外で身体を動かすことも出来ないし、退屈よねぇ」

 

 「それな」

 

 頭を撫でてもらいながら、鞠莉の言葉に頷く俺。

 

 ホント、この退屈な時間をどうしたものか・・・

 

 「そこで提案なんだけど、今からマリーの家に遊びに来ない?」

 

 「鞠莉の家に?」

 

 「えぇ、とっておきの遊び場があるのよ。ついでに泊まっていってちょうだい」

 

 「天使・・・いや、女神か・・・」

 

 「フフッ、結婚したい?」

 

 「あ、結構です」

 

 「何でよ!?そこは『結婚しよ』っていう場面でしょうが!」

 

 「俺はラ●ナーじゃないし、鞠莉はク●スタじゃないでしょ」

 

 「同じ金髪だもん!あと、クリ●タじゃなくてヒス●リアだから!」

 

 「同じ金髪だから何だよっていう話なんだけど・・・あとそれはネタバレになりかねないから、あんまり訂正しないで」

 

 俺は苦笑しながらツッコミを入れると、頬を膨らませて拗ねている鞠莉の頭を撫でた。

 

 「まぁ、鞠莉みたいな人と結婚出来たら良いな・・・とは思うけどね」

 

 「っ・・・」

 

 顔を赤くする鞠莉なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「シャイニーッ!」

 

 「うおっ!?」

 

 鞠莉のスマッシュが決まり、ピンポン球が俺のラケットの先を通り過ぎる。

 

 俺と鞠莉は今、卓球で勝負していた。

 

 「強いね、鞠莉」

 

 「Of course!体育の授業じゃ、マリーの相手になるのは果南かダイヤくらいよ!」

 

 「果南はともかく、ダイヤさんも?」

 

 「ダイヤはああ見えて、結構運動神経良いのよ?テニスや卓球みたいなラケットを使うスポーツなら、マリーや果南よりダイヤの方が上なんじゃないかしら」

 

 「マジでか」

 

 ダイヤさんの意外な一面を知ったな・・・

 

 「意外って言えば、ここも意外なんだよなぁ・・・」

 

 周りを見回す俺。

 

 俺と鞠莉がいるのは、まるで体育館のような仕様の場所だった。

 

 ホテルオハラの地下にある場所で、小原家専用のスペースらしい。

 

 その無駄に広いスペースの中心に卓球台を広げ、俺達は卓球を楽しんでいるのだった。

 

 「まさか地下にこんな場所があったとは・・・」

 

 「普段はスタッフのレクリエーションなんかで使ってるわ。スタッフ同士の交流を深めてもらう為に、定期的にスポーツ大会を開いたりしてるのよ」

 

 「何その楽しそうなイベント」

 

 「賞金や景品も出るから、スタッフ達は本気で熱いバトルを繰り広げてるわね」

 

 「・・・俺、鞠莉のお父さんの会社に就職しようかな」

 

 「マリーと結婚すれば就職は勿論、次期社長候補になれるけど?」

 

 「あ、結構です」

 

 「だから何でよ!?」

 

 「隙あり!」

 

 「あぁっ!?」

 

 俺のサーブが決まる。

 

 よし、点を取り返したぜ。

 

 「ちょ、今のずるくない!?」

 

 「鞠莉に比べたらずるくないわ」

 

 「What!?マリーのどこがずるいって言うの!?」

 

 「そんな胸元の緩い服を着て、谷間をガッツリ見せて誘惑してくるなんて・・・鞠莉にスポーツマンとしての心は無いのか!」

 

 「誘惑してないしスポーツマンでもないんだけど!?っていうかどこ見てんのよ!?」

 

 「うわ、そのネタ懐かしい・・・分かる人いるかな?」

 

 「青木さ●かのネタをやったわけじゃないから!」

 

 鞠莉のツッコミが止まらない。

 

 やれやれ・・・

 

 「かかってこいや、アメリカかぶれ。そんな独特なサイドテール、ことりちゃんだけで十分なんだよ」

 

 「あっ、ことりの髪型も独特だとは思ってるのね・・・」

 

 「良いんだよ独特でも。ことりちゃんはどんな髪型でも可愛いんだから」

 

 「坊主でも?」

 

 「週刊誌に写真を撮られて坊主にしたアイドルの話は止めなさい!」

 

 「そんな具体的なこと一言も言ってないわよ!?」

 

 そういえば、つい最近グループを卒業したんだよな・・・

 

 本当にお疲れ様でした。

 

 「そんなわけで鞠莉、俺に負けたら坊主ね」

 

 「どんなわけよ!?嫌に決まってるでしょ!?」

 

 「じゃあ坊主以外で、俺が指定した髪型にしてもらおうか」

 

 「・・・まぁ良いわ。髪を切ったりするのは無しよ?」

 

 「そんなことするわけないじゃん。何言ってんの?」

 

 「さっき坊主にしろって言ったのを忘れたの!?」

 

 ツッコミを入れつつ、サーブを打ってくる鞠莉。

 

 フッ、甘いな・・・

 

 「坊主の呼吸、壱の型・・・」

 

 「何で坊主じゃない人が坊主の呼吸使ってるの!?」

 

 「“終完分瞬”!」

 

 「漢字が違うだけで読み方は一緒でしょうが!」

 

 ツッコミも虚しく、鞠莉のラケットが空を切る。

 

 よし、一点追加。

 

 「さぁ、センテンスなスプリングを始めようか」

 

 「それは別の人の事件よねぇ!?」

 

 ツッコミが止まらない鞠莉なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《鞠莉視点》

 

 「はい、出来た」

 

 「相変わらず手慣れてるわねぇ」

 

 思わず感心してしまう私。

 

 私達は今、ホテルオハラの最上階にある私の部屋へとやって来ていた。

 

 勝負に勝った天が、私を好きな髪型にする為だ。

 

 その髪型というのは・・・

 

 「ポニーテール・・・本当に絵里のことが好きなのね」

 

 「否定はしないけど、シスコンみたいな言い方止めてくんない?」

 

 「実際シスコンじゃない」

 

 「髪は女の命・・・そして今、鞠莉の髪は俺が握っている・・・」

 

 「すいませんでした!」

 

 全力で謝る私。

 

 危なかったわ・・・

 

 「絵里姉で見慣れてるっていうのもあるけど、ポニーテール好きなんだよね。女の子がポニーテールにしてると、可愛いなって思うもん」

 

 「あら、じゃあ果南のことも?」

 

 「勿論。まぁ果南は普段からポニーテールだから、逆に他の髪型も見てみたいけどね。髪を下ろしてる姿を見た時は、ちょっとドキッとしちゃったよ」

 

 「ふぅん・・・今度髪を下ろしてみようかしら・・・」

 

 「ん?何か言った?」

 

 「何でもありまセーン」

 

 はぐらかす私。

 

 全く、天ってば鈍感なんだから・・・

 

 「でも鞠莉、ポニーテール似合ってるよ。凄く可愛いと思う」

 

 「っ・・・そ、そうかしら・・・?」

 

 「うん、たまにはこういう髪型にしてみても良いんじゃないかな?」

 

 「そ、天がそう言うなら・・・」。

 

 もう、何でそういうことはサラッと言えるのよ・・・

 

 聞いてるこっちが恥ずかしいじゃない・・・

 

 とっても嬉しいけど。

 

 「・・・ハハッ」

 

 「天?」

 

 「あぁ、ゴメンゴメン。ちょっと思い出しちゃって」

 

 急に笑い出す天。

 

 どうしたのかしら?

 

 「小さい頃、こうやって鞠莉の髪をいじったことがあったじゃん」

 

 「そういえばそうね」

 

 「鞠莉ってば『髪は女の命デース!天はマリーの旦那になる男だから、特別に触ることを許可しマース!』とか言っててさ」

 

 「フフッ、覚えてるわ」

 

 私もつい笑ってしまう。

 

 我ながら上から目線なセリフだと思うし、天と結婚する気満々だったなと思う。

 

 「・・・今も変わらないけどね」

 

 「鞠莉?」

 

 「今も変わらないって言ったのよ」

 

 首を傾げる天に、今度ははぐらかさずちゃんと伝える。

 

 「マリーが髪を触らせる男なんて、天しかいないんだから。マリーにとって、天は特別な人・・・唯一無二の存在なの」

 

 真っ直ぐ天を見つめる。

 

 自分の気持ちを、しっかりと伝えられるように。

 

 「大好きよ、天・・・旦那にするなら、嫁になるなら・・・天しか考えられない」

 

 「鞠莉・・・」

 

 呆然としている天。

 

 その時・・・

 

 

 

 

 

 ゴーン・・・ゴーン・・・

 

 

 

 

 

 部屋に置いてある時計の鐘の音が鳴り響く。

 

 日付が変わり、六月十三日になったのだ。

 

 つまり今日は・・・

 

 「・・・誕生日おめでとう、鞠莉」

 

 微笑む天。

 

 そう、私の十八歳の誕生日・・・

 

 まさか告白の真っ最中に迎えることになるなんてね・・・

 

 「誕生日プレゼント、渡さないとね」

 

 「・・・じゃあ天をちょうだい」

 

 「アハハ、そうきたか」

 

 天は面白そうに笑うと・・・おもむろに両腕を広げた。

 

 「俺で良ければ・・・喜んで」

 

 「っ!」

 

 勢いよく天の腕の中に飛び込み、天の身体を強く抱き締める。

 

 「あーあ、鞠莉のモノになっちゃった」

 

 「不満なの?」

 

 「まさか」

 

 抱き締め返してくれる天。

 

 「好きな人と一緒になれるんだもん。不満なんか無いよ」

 

 「・・・じゃあ、ちゃんと『好き』って言って」

 

 「・・・好きだよ、鞠莉」

 

 「っ・・・」

 

 耳まで赤くなるのが、自分でもよく分かる。

 

 好きな人に『好き』って言われるだけで、こんなにドキドキするなんて・・・

 

 「ずっと大切にしてね。永久保証の俺だから」

 

 「どこの西野●ナ!?しかもそれ女の子側のセリフじゃないの!?」

 

 「ほら、俺は養ってもらう側の人間だから」

 

 「ヒモになる気満々!?」

 

 思わずツッコミを入れてしまう。

 

 もう、こんな時まで・・・ってあれ?

 

 「天?」

 

 「ん?何?」

 

 「何でこんなに心臓バクバクなの?」

 

 「・・・言わせないでよ」

 

 視線を逸らす天。

 

 抱き合っているからこそ分かる、今の天の状態・・・

 

 もしかして・・・

 

 「天もドキドキしてるの?」

 

 「だから言わせないでってば・・・」

 

 「そっかそっかぁ・・・ふ~ん?」

 

 「な、何そのニヤニヤ顔・・・」

 

 「別に~?可愛いなんて思ってないわよ~?」

 

 「うわ、うざっ・・・」

 

 「ちょっと!?嫁に向かって何てこと言うの!?」

 

 「結婚してないし!まだ嫁じゃないし!」

 

 「ゆくゆくは結婚するんだから良いでしょ!?浮気したら承知しないんだから!」

 

 「するわけないじゃん!?旦那を信じられないの!?」

 

 「じゃあ果南に『おっぱい揉んで良いよ?』って言われたらどうするのよ!?」

 

 「揉む」

 

 「即答!?完全にアウトでしょうが!」

 

 「『揉んで良い』って言うなら揉むのが礼儀でしょうが!」

 

 「どんな礼儀!?だったらマリーのおっぱいを揉んで良いわよ!」

 

 「うわ、痴女かよ」

 

 「礼儀はどこへいったの!?」

 

 ギャーギャー言い合う私達。

 

 全く、天ときたら・・・

 

 でも・・・

 

 「・・・フフッ」

 

 つい笑ってしまった私は、天の胸に顔を埋めた。

 

 「ねぇ、天・・・マリー、今とっても幸せ」

 

 「鞠莉・・・」

 

 「好きな人と想いが通じ合うって、こんなにも幸せなことなんだって・・・今、凄く実感してる」

 

 天を見つめる私。

 

 「マリーの想いに応えてくれて・・・ありがとう」

 

 「・・・こちらこそ」

 

 微笑む天。

 

 「好きになってくれて・・・ありがとう」

 

 やがて私達の顔がゆっくりと近付き・・・そのままゼロになる。

 

 「「っ・・・」」

 

 顔を離した私達だったが、物足りなくて再び唇を重ねる。

 

 何度も何度も・・・

 

 「っ・・・ねぇ、天・・・マリーのおっぱい、本当に揉んで良いのよ・・・?」

 

 「っ・・・本当に理性が崩壊するんだけど・・・」

 

 「えいっ」

 

 「ちょっ・・・あっ・・・!」

 

 「・・・やんっ♡」

 

 そこから先のことは、あまりよく覚えていないけれど・・・

 

 幸せに溺れた夜を過ごしたことだけは、しっかり覚えている私なのだった。




シャイニー☆ムッティです☆

遅くなったけど鞠莉ちゃん、誕生日おめでとう!

今回も間に合わなかったぜ・・・

っていうか、鞠莉ちゃんのソロアルバムのジャケット見ました?

鞠莉ちゃん、美しすぎません?

そしてあいにゃの歌の上手さよ。

ちなみに最近『えとにゃんらん』メッチャ聴いてます。

YouTubeであいにゃが踊ってる動画がアップされてましたけど、もう可愛すぎて・・・

鞠莉ちゃんもあいにゃも大好きです(^^)

さてさて、次回は果林ちゃんの誕生日回かな?

クールビューティー果林先輩を、天にゾッコンな女の子にしてやりたい(願望)

お楽しみに(・ω・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【朝香果林】素直に・・・

果林ちゃん、誕生日おめでとう!

何とか間に合ったぜ・・・

ちなみに今回のお話は、果林ちゃん視点で進みますのでご了承下さい。

それではいってみよー!


 「あれ?果林さん?」

 

 「あら、せつ菜じゃない」

 

 放課後に部室で読書をしていると、後輩のせつ菜がやって来た。

 

 今日の同好会は休みになったから、誰も来ないと思っていたんだけど・・・

 

 「どうして部室に?」

 

 「昨日忘れ物をしてしまったので、回収にきたんです。果林さんはどうしてここに?」

 

 「彼の付き添いよ」

 

 そう言って、視線を膝元に落とす。

 

 そこには・・・

 

 「すぅ・・・すぅ・・・」

 

 私の膝枕でスヤスヤ眠っている、天の姿があった。

 

 それを見たせつ菜が微笑む。

 

 「フフッ・・・天さん、気持ち良さそうに眠ってますね」

 

 「ここ最近、夜遅くまで曲作りしてくれてるみたいなのよ。今日もさっきまで作業してたんだけど、眠そうだったから強制的に仮眠をとらせたの」

 

 「次のライブ、近いですもんね・・・本当に、天さんと侑さんには頭が上がりません」

 

 「全くよね」

 

 天の頭を撫でる私。

 

 相変わらず無茶するんだから・・・

 

 「フフッ・・・果林さんは、本当に天さんが大好きなんですね」

 

 「なっ!?いきなり何を言い出すのよ!?」

 

 「しーっ、天さんが起きちゃいますよ」

 

 「あっ・・・」

 

 慌てて口元を押さえつつ、せつ菜を恨みがましく睨む。

 

 「アハハ、ごめんなさい」

 

 「もう・・・」

 

 溜め息をつく私。

 

 まぁ、その通りなんだけどね・・・

 

 「そういえば果林さんと天さんって、同好会が始まる前からお付き合いされてましたよね?お二人の馴れ初めって、どういった感じだったんですか?」

 

 「急に切り込んできたわね・・・まぁ、隠すことでも無いんだけど」

 

 目をキラキラさせながら尋ねてくるせつ菜に呆れつつ、天と出会ったあの日のことを思い出す私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 一年前・・・

 

 「・・・参ったわ」

 

 溜め息をつく私。

 

 今日は学校も仕事も休みだったから、気分転換で動物園にでも行こうと思って外へ出てきたんだけど・・・

 

 「・・・ここ、どこかしら」

 

 完全に迷子になってしまった。

 

 必死にスマホのマップと睨めっこしていると・・・

 

 「えーっと・・・朝香先輩?」

 

 急に声を掛けられる。

 

 振り向くと、見覚えの無い男の子が立っていた。

 

 「貴方は・・・?」

 

 「あ、虹ヶ咲学園一年の絢瀬天です」

 

 「・・・あぁ、虹ヶ咲唯一の男子生徒!」

 

 今年から共学となった虹ヶ咲だが、入学した男子はたった一人・・・

 

 その一人がこの男の子、絢瀬天くんだ。

 

 そういえば噂には聞いてたけど、顔は見たことなかったわね・・・

 

 「よく私のことが分かったわね?会ったこと無いのに」

 

 「朝香先輩は有名人ですから」

 

 「そう?まぁ読者モデルやってるから、顔は知られてるかもしれないけど」

 

 「いえ、歩く公然猥褻罪として有名です」

 

 「何それ!?」

 

 ちょっと待って!?

 

 私そんな不名誉な称号で有名なの!?

 

 「『スタイルが良過ぎて目の毒』『目のやり場に困る』『無駄にエロい』『色気がありすぎていけない方向に走ってしまいそう』等々、あちこちで意見を聞きますよ」

 

 「どんな意見!?っていうか、最後の意見は身の危険を感じるんだけど!?」

 

 虹ヶ咲のモラルが不安になる内容だった。

 

 大丈夫かしら・・・

 

 「ところで先輩、ひょっとして道に迷われてます?」

 

 「え、何で分かったの?」

 

 「挙動が明らかに迷子でしたけど」

 

 「うっ・・・」

 

 何も言い返せない私。

 

 ここは素直に頼ろうかしら・・・

 

 「実は動物園に行きたくて・・・場所、分かるかしら?」

 

 絢瀬くんにスマホを見せると、何故かポカンとした表情を浮かべた。

 

 「いや、先輩・・・後ろを見て下さい」

 

 「え?」

 

 絢瀬くんに言われて後ろを振り返ると・・・

 

 すぐ目の前に、目的地の動物園があった。

 

 「・・・・・」

 

 汗がダラダラ流れる。

 

 嘘でしょ・・・?

 

 「・・・さようなら」

 

 「ちょっと待って!?」

 

 哀れな子を見るような目をしながら立ち去ろうとする絢瀬くんを、全力で引き止める。

 

 「違うの!これは違うの!」

 

 「大丈夫です先輩。先輩はきっとナイスバディを得る為の代償として、頭のネジを十本くらい失ったんですよね。俺はちゃんと分かってますから」

 

 「何も分かってないじゃない!?っていうか十本って多くない!?」

 

 「何かを得る為には、それと同等の代価が必要・・・等価交換の法則ですもんね」

 

 「どこのハガレンよ!?お願いだから話を聞いて!?」

 

 マズいわ・・・!

 

 このままじゃ、先輩としての威厳が・・・!

 

 「そうだわ絢瀬くん!貴方今日暇かしら!?」

 

 「無限大の地図を広げて、果てしないあの場所へ行かないといけないんで忙しいです」

 

 「どこのD●-iCE!?『ONE PI●CE』の主題歌じゃない!?」

 

 「そういうことなんで帰りますね」

 

 「ちょっと待ちなさい!」

 

 絢瀬くんの腕を掴む。

 

 こうなったら・・・!

 

 「今日一日、私に付き合いなさい!これは先輩命令よ!」

 

 「パワハラで訴えて良いですか?」

 

 「美人な先輩と一日デート出来るんだから、役得だと思いなさい!」

 

 「自分で美人とか言っちゃう時点でドン引きなんですけど」

 

 「お昼ご飯奢ってあげるから!」

 

 「何してるんですか朝香先輩!早く行きますよ!」

 

 「急に態度が変わったわね!?」

 

 掌返しが早い絢瀬くんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「見て絢瀬くん!パンダよパンダ!」

 

 「はしゃぎっぷりが凄いですね・・・」

 

 苦笑する絢瀬くん。

 

 動物園へやって来た私達は、色々な動物を見て回っていた。

 

 「朝香先輩がパンダ好きって、何か意外ですね」

 

 「うっ・・・どうせ『キャラじゃない』って言いたいんでしょ?」

 

 「人相の悪い強面のオジサンが、実は大の子供好きだった時くらいの衝撃です」

 

 「そこまで!?」

 

 絢瀬くんの中で、私ってどういうイメージなのかしら・・・

 

 「まぁでも、可愛いなって思いました」

 

 「っ・・・き、急に何を言い出すのよ・・・」

 

 「思いっきり抱きつきたいです」

 

 「えぇっ!?そ、そんないきなり・・・!」

 

 「あの白黒の毛をモフモフしたいですよね」

 

 「パンダの話!?」

 

 「そうですけど?」

 

 首を傾げる絢瀬くん。

 

 わ、私としたことが・・・

 

 とんでもない勘違いをしてたわ・・・

 

 「っていうか、人メッチャ多いですね」

 

 「休日の動物園だもの。これくらい普通・・・キャッ!?」

 

 人だかりに押され、よろけてしまう私。

 

 すると・・・

 

 「大丈夫ですか?」

 

 絢瀬くんが私を受け止め、優しく支えてくれた。

 

 「あ、ありがとう・・・」

 

 「いえいえ。はぐれても困りますし、とりあえず人だかりから離れましょうか」

 

 絢瀬くんはそう言うと、私の手を握った。

 

 「あ、絢瀬くん!?」

 

 「ん?何ですか?」

 

 「な、何でもない・・・」

 

 私だけ意識しているのが恥ずかしくて、言葉を飲み込んでしまう。

 

 意外にも大きな手の温もりを感じながら、そっと絢瀬くんの手を握り返す私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「いやぁ、楽しかったですね」

 

 「そ、そうね・・・」

 

 「先輩?どうしました?」

 

 「な、何でもないわよ!?」

 

 すっかり日も暮れ、私達は学生寮への帰路に着いていたのだが・・・

 

 私はさっきの手の温もりを思い出し、未だにドキドキしていた。

 

 (うぅ、何でこんなにドキドキしてるのよ・・・)

 

 周りからは『恋愛経験が豊富そう』などとよく言われるが、実は完全にゼロだというのはここだけの話だ。

 

 男性と付き合ったことはおろか、手さえ繋いだこともない。

 

 そもそも恋をしたことすらないのである。

 

 (初めて男の子と手を繋いだ結果、この有り様・・・うぶすぎるでしょ・・・)

 

 何だか顔が熱いし、とても恥ずかしい・・・

 

 でも、不思議と嫌な気分ではない・・・

 

 そんなモヤモヤを抱えている間に、いつの間にか学生寮に着いていた。

 

 「それじゃ、今日はありがとうございました」

 

 「・・・ごめんなさいね。一日付き合わせちゃって」

 

 「役得だと思えって言ったのは先輩でしょうに」

 

 「あ、あれはもう忘れて!」

 

 「アハハ、先輩は面白いですね」

 

 笑っている絢瀬くん。

 

 全くもう・・・

 

 「あ、そうだ」

 

 絢瀬くんは何かを思い出すと、鞄の中から袋を取り出した。

 

 「これ、さっきの動物園で買ったんです。良かったらどうぞ」

 

 「私に・・・?」

 

 驚きながらも受け取る。

 

 いつの間に・・・

 

 「開けても良いかしら?」

 

 「どうぞ」

 

 ゆっくりと封を開けると、中にはパンダのストラップが入っていた。

 

 「可愛い・・・」

 

 「でしょ?偶然見つけたんで、先輩にどうかなって」

 

 微笑む絢瀬くん。

 

 「・・・お世辞でも何でもなく、今日は本当に楽しかったです」

 

 「え・・・?」

 

 「朝香先輩って、クールで大人な女性っていう印象がありましたけど・・・本当は凄く可愛い女の子なんだなって思いました」

 

 「なっ・・・!?」

 

 「アハハ、今度はパンダのことじゃないですよ」

 

 笑う絢瀬くん。

 

 この子、最初から気付いて・・・

 

 「また学園で会ったら、声掛けて下さいね。それじゃ」

 

 そう言って立ち去ろうとする彼の手を、気付いたらギュッと掴んでいた。

 

 「先輩・・・?」

 

 「・・・ライン」

 

 「え・・・?」

 

 「ライン、教えなさい・・・休みの日、また付き合ってちょうだい・・・」

 

 小さな声で呟く。

 

 恥ずかしくて顔を上げられない。

 

 「か、勘違いしないでよね!?私がパンダ好きだなんて知ってるの、貴方しかいないんだから!責任取ってパンダ巡りに付き合えって言ってるの!」

 

 「何だ、ただのツンデレか」

 

 「誰がツンデレよ!?」

 

 「はいはい、落ち着いて下さい」

 

 いきり立つ私に苦笑しつつ、絢瀬くんはスマホを取り出してラインを教えてくれた。

 

 「これで良し、と・・・それじゃ、デートのお誘いを楽しみにしてますね」

 

 「だからデートじゃないから!」

 

 絢瀬くんは私のツッコミに笑いながら、一礼して去っていった。

 

 全くもう・・・

 

 「・・・楽しかったわね、今日」

 

 一人呟く。

 

 気を遣うことなく自然に、一人の女の子として私を見て接してくれた絢瀬くん・・・

 

 私には、それが何よりも嬉しかったのだ。

 

 「フフッ・・・次はどこへ付き合ってもらおうかしら?」

 

 思わず笑みが零れる。

 

 この気持ちを何と呼ぶのか知らないまま、次に彼と出掛ける日を心待ちにしている私なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「そんなことがあってから、天と二人で遊びに出掛けるようになって・・・」

 

 「へ~?」

 

 「『私は天が好きなんだ』って気付いて、アプローチするようになって・・・」

 

 「ほ~?」

 

 「それで、その・・・私の方から告白して、今に至るというか・・・」

 

 「なるほど~?」

 

 「そのニヤニヤ顔を今すぐ止めなさい!」

 

 「しーっ、天さんが起きちゃいますって」

 

 「あっ・・・」

 

 慌てて口元を押さえる私。

 

 うぅ、何を暴露させられているのかしら・・・

 

 「それにしても、果林さんって案外純情なんですねぇ」

 

 「わ、悪い!?」

 

 「全然。むしろキュンとしちゃいました」

 

 せつ菜はそう言って微笑むとその場にしゃがみ、天の頬をツンツン突いた。

 

 「天さんは幸せ者ですねー。あの果林さんに想ってもらえるなんて」

 

 「ちょっと、人の彼氏の頬を突くの止めてちょうだい」

 

 「フフッ、嫉妬ですか?」

 

 「・・・何とでも言ってちょうだい」

 

 「アハハ、ちょっとからかい過ぎましたね。すみません」

 

 苦笑しながら謝るせつ菜。

 

 全く・・・

 

 「本当に、お二人はお似合いのカップルだと思います。私も恋愛したいなぁ・・・」

 

 「・・・天は渡さないわよ?」

 

 「どれだけ天さんが大好きなんですか・・・ってもうこんな時間!?すみません、予定があるので失礼します!」

 

 慌てて部室を出て行くせつ菜。

 

 それで目が覚めたのか、天の目がゆっくり開く。

 

 「んっ・・・」

 

 「あら天、おはよう」

 

 「・・・おはよう、果林」

 

 寝たまま身体を伸ばす天。

 

 「今誰かいなかった・・・?」

 

 「せつ菜よ。忘れ物を取りに来たんですって」

 

 「あぁ、せつ菜か・・・俺も会いたかったな・・・」

 

 「あら、彼女の前で浮気宣言?」

 

 「違うって。新曲のことで話し合いたくて」

 

 天は苦笑すると、手を伸ばして私の頬に触れた。

 

 「全く、俺の彼女は妬いてくれるねぇ」

 

 「重くて悪かったわね」

 

 「そうやって自虐的にならないの」

 

 優しく頬を撫でてくれる天。

 

 「まぁ、そういうところも好きなんだけど」

 

 「っ・・・だ、騙されないんだから!」

 

 顔が赤くなる私。

 

 我ながらチョロい女ね・・・

 

 「そういえば果林、ライブの次の週の日曜日って空いてる?」

 

 「え?えぇ、仕事も休みだから空いてるわよ」

 

 「じゃあ、久々に動物園行こっか。パンダ見たいでしょ?」

 

 「・・・天がどうしてもって言うなら、付き合ってあげるわ」

 

 「アハハ、じゃあお願い」

 

 「し、仕方ないわね・・・」

 

 言葉とは裏腹に、胸が高鳴る私。

 

 その日が待ち遠しくて仕方ない。

 

 「もう、俺の彼女は素直じゃないんだから」

 

 笑う天。

 

 素直じゃない、か・・・

 

 「・・・そうね。たまには素直になってみようかしら」

 

 「え・・・?」

 

 私は笑みを浮かべ、そのまま上半身を倒すと・・・

 

 天の唇に自分の唇を重ねた。

 

 「っ・・・」

 

 「んっ・・・」

 

 やがて名残惜しく思いながらも唇を離し、至近距離で天の瞳を見つめる。

 

 「いつもありがとう、天・・・大好きよ」

 

 赤くなる天の顔を見ながら、改めて天が大好きなのだと実感する私なのだった。




はぁい♪ムッティよ♪

・・・おえっ(吐き気)

今回は果林ちゃんの誕生日回でした!

果林ちゃんの魅力は、ずばりギャップだと思うんですよね。

大人な雰囲気を漂わせつつ、方向音痴だったりエマちゃんにお世話されていたり・・・

ギャップがたまらん( ´∀`)

そんなわけで今回は大人な果林ちゃんではなく、一途で純情な果林ちゃんをテーマに書いてみましたが・・・

いかがだったでしょうか?

気が付けばニジガクメンバーの誕生日回も、半数以上書いてきましたね。

残るは8月のせつ菜ちゃん、10月の栞子ちゃん、11月の璃奈ちゃん、12月の彼方ちゃんの4人・・・

侑ちゃんは誕生日が不明なので、どこかのタイミングで書けたら良いなぁ・・・

っていうかその前に7月の善子ちゃん、そして本編も書かないとなぁ・・・

が、頑張ります・・・(震え声)

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自分の気持ちからは逃げられない。

毎日YouTubeで『DREAMY COLOR』のPVを見る今日この頃・・・

皆可愛くてたまらん( ´∀`)

出来ればアニメ版のPVも見たいと思うのはワガママだろうか(´・ω・`)


 《ダイヤ視点》

 

 「ここにいたんですね、ダイヤさん」

 

 「・・・希さんの仰った通り、本当に来ましたわね」

 

 「ん?何か言いました?」

 

 「いえ、こちらの話ですわ」

 

 溜め息をつく私。

 

 まさか本当に来て下さるとは・・・

 

 「それより、よくここが分かりましたわね?」

 

 「希ちゃんのことだから、風に当たれる眺めの良い場所に連れて行くだろうと思って」

 

 「どうして分かりますの!?」

 

 「それでダイヤさんのことをいじった挙句、カッコ良いこと言って立ち去ったんでしょう?『後は天くんと話してな』とか言って」

 

 「エスパーですか!?」

 

 「いや、カバンには入れませんけど」

 

 「エスパー●東のことではありませんわよ!?」

 

 ツッコミが止まらない私。

 

 勘が鋭いなどというレベルではありませんわね・・・

 

 「希ちゃんとは長い付き合いですから。それくらい分かりますよ」

 

 「そ、そういうものですの・・・?」

 

 それにしても、希さんのことを理解されすぎているような気が・・・

 

 まぁ、これ以上は考えないことにしましょう・・・

 

 「・・・座りましょうか」

 

 「・・・えぇ」

 

 お互いベンチに座り、海を眺める。

 

 そういえば、あの時も・・・

 

 「そういえば・・・前にもダイヤさんと、こうして海を眺めたことがありましたね」

 

 「フフッ、ちょうど私も思い出していたところですわ」

 

 スクールアイドル部に体験入部したルビィを追いかけて、淡島神社へ続く階段を上って・・・

 

 その途中にあるベンチに座って、二人で夕陽に照らされる海を眺めて・・・

 

 「あの時は、天さんに怒られてしまいましたわね。『言葉にしなくても分かるだなんて、そんなのはただの甘えだ』って」

 

 「言いましたねぇ・・・先輩を相手に、ずいぶん偉そうなことを言ったもんです」

 

 「ですが、そのおかげでルビィと向き合うことが出来ました。感謝してますわ」

 

 微笑む私。

 

 「あの時、天さんに初めて呼び捨てにされましたわね。タメ口も使われました」

 

 「・・・ホントすいませんでした」

 

 「フフッ、怒ってませんわよ」

 

 申し訳なさそうにする天さんの頭を撫でる私。

 

 「嬉しかったですわ。先輩や生徒会長としてではなく、黒澤ダイヤという一人の人間として見ていただけた気がして・・・」

 

 「ダイヤさん・・・」

 

 「今にして思えば・・・私が天さんに心を開いたのは、あの時からだったのかもしれませんわね」

 

 自分では『いつの間にか』などと思っていましたが、思い返してみればちゃんとしたキッカケがあったのですね・・・

 

 「本当に・・・天さんの仰る通りですわ」

 

 「え・・・?」

 

 「言葉にしなければ伝わらない・・・それなのに、言葉にすることもせずただウジウジして・・・これではダメですわ」

 

 私は深呼吸で気持ちを落ち着かせると・・・

 

 両手で勢いよく自分の頬を叩きました。

 

 「ちょ、ダイヤさん!?何してるんですか!?」

 

 「自分に喝を入れました。天さんには天晴れを差し上げますわ」

 

 「どこの張●さん!?っていうか頬大丈夫ですか!?」

 

 心配して下さる天さん。

 

 私はそんな天さんの顔へ手を伸ばし、両頬に手を添えました。

 

 「ダ、ダイヤさん・・・?」

 

 「・・・ダイヤ」

 

 「え・・・?」

 

 「ダイヤ、と呼んで下さいな。敬語も不要ですわ」

 

 それは私が、ずっと思っていたこと・・・

 

 Aqoursメンバーの中で、私だけが天さんにさん付けと敬語を使われていて・・・

 

 私も他の皆さんと同じが良いと、ずっと思っていたのです。

 

 「・・・『ダイヤちゃん』じゃなくて良いんですか?」

 

 「他の皆さんをちゃん付けで呼ぶなら、それでも良いですわよ?」

 

 「今さらそれはないかなぁ・・・」

 

 「でしたら、呼び捨てですわね」

 

 クスクス笑う私。

 

 天さんも苦笑し、一つ息をつくと・・・

 

 「じゃあ、改めてよろしくね・・・ダイヤ」

 

 「っ・・・」

 

 顔が赤くなるのが、自分でもよく分かります。

 

 少し気恥ずかしいですけれど・・・

 

 それと同時に、嬉しさがこみ上げてきました。

 

 「フフッ・・・こちらこそよろしくお願いしますわ、天さん」

 

 「・・・天、で良いよ」

 

 「え・・・?」

 

 ポカンとする私。

 

 天さんは悪戯っぽい笑みを浮かべています。

 

 「あれ、俺だけ呼び捨てで呼ばせるつもりなの?」

 

 「っ・・・」

 

 そのセリフに、初めて天さんとお会いした日の記憶が蘇ってきました。

 

 

 

 

 

 『これからよろしくお願いしますわね・・・天さん』

 

 『よろしくお願いします、会長』

 

 『ダイヤ、で結構ですわ』

 

 『え・・・?』

 

 『あら、私だけ名前で呼ばせるつもりですの?』

 

 『・・・まさか。よろしくお願いします、ダイヤさん』

 

 『よろしい』

 

 

 

 

 

 どうやら、天さんに一本取られてしまったようですわね・・・

 

 「・・・まさか。よろしくお願いしますわ、天」

 

 「よろしい」

 

 満足そうに笑う天。

 

 「敬語も要らない・・・って言いたいけど、それがダイヤの素だもんね」

 

 「えぇ。ですが、少々砕けた口調でも構いませんか?」

 

 「勿論。遠慮しなくて良いからね」

 

 天はそう言うとベンチから立ち上がり、私に手を差し伸べてきました。

 

 「一緒に戻ろう?皆心配してるから」

 

 「えぇ」

 

 天の手を取り、ベンチから立ち上がる。

 

 「皆さん、ちゃん付けで呼んで下さるでしょうか・・・」

 

 「大丈夫だよ。まぁ善子は呼び捨てにしそうだけど」

 

 「フフッ、確かに」

 

 私は小さく笑うと、天の手をギュッと握りました。

 

 「・・・しばらく、このままでも良いですか?」

 

 「・・・勿論」

 

 天は照れ臭そうに笑うと、私の手を引いて歩き出しました。

 

 ドキドキしている一方、不思議と安心感もあって・・・

 

 (・・・困りましたわね)

 

 そんなことを思いながら、一人苦笑してしまいます。

 

 (こうもハッキリと、自分の気持ちを自覚してしまったら・・・逃げられませんわ)

 

 私は今、自分の中に芽生えた気持ちをハッキリと認識してしまいました。

 

 

 

 

 

 『す、好きと言っても・・・こ、恋では無いというか・・・!』

 

 『ふ~ん?』

 

 『た、大切な方ではあるのですが・・・!』

 

 『へ~?』

 

 『あ、あくまでも仲間として・・・!』

 

 『ほ~?』

 

 『ニヤニヤするの止めていただけます!?』

 

 

 

 

 

 先ほどの希さんとの会話を思い出します。

 

 天に対しての『好き』は恋ではないと、そう思っていた・・・

 

 いえ、そう思おうとしていた・・・

 

 ですが・・・

 

 (・・・認めざるを得ませんわね)

 

 

 

 

 

 私は、天に・・・

 

 

 

 

 

 家柄や立場に関係無く、黒澤ダイヤという一人の人間に向き合ってくれるこの人に・・・

 

 

 

 

 

 こんな私を大切にして下さる、この殿方に・・・

 

 

 

 

 

 惚れてしまったのだと。

 

 

 

 

 

 (これが恋、ですか・・・)

 

 これ以上無いほど胸がドキドキしているのに、天の手から伝わる温もりに幸せを感じてしまいます。

 

 表情が緩んでしまいそうになるのを必死で堪えながらも、天の手を離すまいとしっかり握り直す私なのでした。




エンダアアアアアイヤアアアアア!!!!!

いや、結ばれたわけではないですけど(´・ω・`)

どうも〜、ムッティです。

遂に天とダイヤさんが、お互いを呼び捨てにするようになりました!

そしてダイヤさんは、天への恋心を自覚・・・

梨子ちゃん・鞠莉ちゃんに続いて三人目ですね!

果たしてヒロインレースの行方やいかに・・・

っていうか、凄く今さらなんですけど・・・

自分、今までずっとダイヤ『さん』呼びでしたね(´・ω・`)

何かダイヤさんだけ年上のお姉さん感がハンパなくて・・・

これを機にダイヤ『ちゃん』呼びにしたいと思います(本当に今さら)

恐らく次の話でダイヤちゃん回は終了かな?

多分その前に、善子ちゃんの誕生日回を挟むと思います。

・・・間に合うと良いなぁ←

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

頼りになる人がいると安心できる。

皆〜!久しぶり〜!

善子『遅いわああああああっ!』

千歌『何で更新止まってたのさ!?』

せつ菜『誕生日回飛ばしすぎです!』

ちょ、止め・・・ギャアアアアアッ!!!!!


 「・・・何この状況」

 

 ダイヤと一緒に戻ってきた俺は、目の前の光景に呆れていた。

 

 そこには・・・

 

 「わー!」

 

 「きゃー!」

 

 「ちょ、皆!?」

 

 「落ち着いて!?」

 

 はしゃぎまくる幼稚園児達を相手に、てんやわんやする皆の姿があった。

 

 うわぁ・・・

 

 「あっ、天!」

 

 困り顔の三玖さんが慌てて駆け寄ってくる。

 

 「どうしよう・・・全然収集つかなくて・・・」

 

 「三玖さん、俺の左手に手を乗せて・・・せーの!」

 

 「バルス・・・って何させるの!?」

 

 「いや、水族館が滅んだら収集つくかなって」

 

 「発想が怖いよ!?収集つくどころか全てが終わるんだけど!?」

 

 「天!?助けて!?」

 

 三玖さんがツッコミを入れる中、善子が助けを求めてくる。

 

 「あの女の子とルビィが泣き止まないの!」

 

 「うえええええんっ!」

 

 「うわああああんっ!」

 

 善子が指差した先では、何故か女の子とルビィがわんわん泣いていた。

 

 幼稚園児と女子高生が揃って泣くという、何とも言えない光景がそこにはあった。

 

 「何でルビィまで泣いてんの?」

 

 「善子ちゃんがお尻を触った女の子を怒ったら泣いちゃって、それにつられてルビィちゃんも泣いちゃったずら」

 

 「なるほど、つまり善子のせいじゃん」

 

 「女の子はともかく、ルビィも私のせいなの!?」

 

 「罰としてお尻ぺんぺん百回な。ほら、早くお尻出して」

 

 「ここで脱げって言うの!?何しれっとセクハラしようとしてんのよ!?」

 

 「いや、誰も脱げなんて言ってないけど」

 

 「えっ」

 

 「お尻を突き出してもらって、花丸にぺんぺんしてもらうつもりだったんだけど」

 

 善子の顔が羞恥で真っ赤に染まっていく。

 

 あらら・・・

 

 「じゃあ花丸、よろしく」

 

 「了解ずら。ほら痴女子ちゃん、早くお尻をこっちに向けるずら」

 

 「誰が痴女子よ!?」

 

 「ずらっ!」

 

 「あんっ!?」

 

 花丸によるお尻ぺんぺんが始まる。

 

 とりあえず、公開SMプレイは放っておいて・・・

 

 「Aqours集合!」

 

 「あっ、天くん!?」

 

 俺に気付いた皆が、慌てて駆け寄ってくる。

 

 「大変なのよ・・・って、花丸ちゃんと善子ちゃんは何してるの?」

 

 「気にしないで」

 

 「いや、凄く気になるんだけど・・・しかもルビィちゃん泣いて・・・」

 

 「気にしないで」

 

 「ひゃあっ!?」

 

 おでこと鼻をくっつけ、梨子を強引に黙らせる。

 

 今はそれどころじゃないからね。

 

 「とりあえず全員待機で。すぐにこの状況は落ち着くから、動くのはそれからね」

 

 「いや、このままじゃ落ち着かないと思うよ!?」

 

 「そうよ!マリー達も動かないと!」

 

 「“鳴●”!」

 

 「「がふっ!?」」

 

 ハリセンで顎に一撃をもらった果南と鞠莉が地面に倒れる。

 

 「他に異論のある人いる?」

 

 「「「いませんっ!」」」

 

 千歌・曜・梨子の三人が、冷や汗をダラダラ流しながら返事をする。

 

 「やれやれ・・・」

 

 俺は溜め息をつきつつ、オロオロしている引率の先生に歩み寄った。

 

 そのすぐ側には、涙目になっている女の子の姿があった。

 

 「皆、ちゃんとしてよぉ・・・!」

 

 他の子達が自由に動く中、この子だけは勝手な行動をとっていなかったのだ。

 

 恐らく、普段からとてもしっかりした子なんだろう。

 

 そしてそんな姿は・・・先ほどまで会話していた、彼女の姿を思い起こさせた。

 

 「・・・大丈夫だよ」

 

 「ふぇ・・・?」

 

 優しく頭を撫でると、女の子がキョトンとした顔でこちらを見る。

 

 「頼りになるお姉ちゃんが、すぐに助けてくれるから」

 

 

 

 

 

 『ピイイイイイイイイイイッ!』

 

 

 

 

 

 辺りに笛の音が鳴り響く。

 

 幼稚園児達が動きを止め、視線を向けた先には・・・

 

 「さぁ皆、集まれー!」

 

 ステージの上に立ったダイヤが、幼稚園児達に呼びかける姿があった。

 

 「走ったり大声を出すのは、他の人の迷惑になります!ブッブー、ですわ!」

 

 興味をそそられた幼稚園児達が、ダイヤのいるステージの前に集まっていく。

 

 「皆、ちゃんとしましょうね?」

 

 『はーい!』

 

 元気よく返事をする幼稚園児達。

 

 よし・・・

 

 「ほら、出番だよ」

 

 「あっ、うん!」

 

 慌てて幼稚園児達の誘導を始める皆。

 

 俺は女の子の背中を押した。

 

 「行っておいで。楽しんできてね」

 

 「っ・・・うんっ!」

 

 笑顔で皆のところへ行く女の子。

 

 引率の先生も俺に頭を下げ、女の子を追いかけていった。

 

 ルビィも泣き止んで、泣いていた女の子を誘導してあげている。

 

 一件落着だな・・・

 

 「お疲れさん」

 

 いつの間にか俺の側にいた希ちゃんが、笑顔で労ってくれる。

 

 「希ちゃん、今までどこにいたの?」

 

 「水族館を満喫してた」

 

 「その無駄に大きい乳は何の為にあると思ってんの?暴れ回る幼稚園児達を大人しくさせる為でしょうが」

 

 「何そのピンポイントな使用目的!?」

 

 「でもその場合、あの子達に希ちゃんのおっぱいが弄ばれるのか・・・それはちょっと許可出来ないわ」

 

 「天くんの立ち位置はどこなん!?」

 

 「アハハ、天は相変わらずだね」

 

 三玖さんがクスクス笑いながらやってくる。

 

 「ありがとう。助かったよ」

 

 「俺は何もしてませんよ。お礼はダイヤに言ってあげて下さい」

 

 俺が三玖さんにそう言うと、呼び捨てに気付いた様子の希ちゃんが優しく微笑んだ。

 

 「フフッ、ダイヤちゃんの問題は解決出来たみたいやね」

 

 「希ちゃんがお膳立てしてくれたおかげでね。ありがとう」

 

 「どういたしまして」

 

 コツンと拳を合わせる俺達。

 

 そんな俺達を、三玖さんが眩しそうに見つめている。

 

 「流石はμ's・・・絆が深いね」

 

 「勿論。だからこそ、三玖さんには天くんを渡しませんからね」

 

 俺の腕に抱きついてくる希ちゃん。

 

 思ったより嫉妬してたのね・・・

 

 「フフッ、それは残念・・・騒ぎを収めてくれたお礼に、天には私のおっぱいを揉ませてあげようと思ってたのに」

 

 「喜んでご馳走になります」

 

 「天くん!?それは許可出来へんよ!?」

 

 「希ちゃんの立ち位置はどこなの?」

 

 「アハハ、さっきとツッコミが逆になってるよ」

 

 「三玖さんも天くんを誘惑しないで下さい!」

 

 おかしそうに笑う三玖さんに、ムキになって怒る希ちゃん。

 

 珍しい光景にちょっとほっこりしつつ、声を出して幼稚園児達を誘導するダイヤに目を向ける。

 

 すると視線に気付いたのか、ダイヤがこちらを振り向き俺達の目が合う。

 

 ダイヤはニッコリ笑うと、俺に向かってウインクしてきた。

 

 「ハハッ・・・流石ダイヤだわ」

 

 笑いながらダイヤに手を振る俺。

 

 一瞬で場を収めてみせたその行動力に、改めてダイヤに尊敬の気持ちを抱く俺なのだった。




どうも〜、ムッティです・・・(ボロッ)

いやホント、しばらく更新出来なくてすみませんでした(土下座)

善子ちゃん、千歌ちゃん、せつ菜ちゃんの誕生日回も飛ばしちゃうし・・・

とりあえず本編の方が書き上がったので、先にそっちを投稿することにしました。

今後も本編を優先し、時間がある時に誕生日回をちまちま書いていこうかなと・・・

誕生日回を楽しみにして下さっている方々には大変申し訳ありませんが、今しばらくお待ち下さいませ。

そして本編ですが、次話でアニメ二期四話の内容が終了します。

もう既に書き上がっているので、近いうちに投稿しますね。

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

距離が縮まるのは嬉しいものである。

今回の話で、アニメ二期四話の内容は終了になります。

ようやく次の話に進めるわぁ・・・

全く、ここまで引っ張ったの誰だよ!

・・・すみませんでした(土下座)


 《ダイヤ視点》 

 

 「皆、今日は本当にありがとう」

 

 お礼を言って下さる三玖さん。

 

 伊豆・三津シーパラダイスも閉館時間となり、私達のアルバイトも終わりを迎えていたのでした。

 

 「これ、今日のお給料。受け取って」

 

 「わーい!」

 

 「ありがとうございます!」

 

 お給料を受け取り、喜んでいる皆さん。

 

 そんな中・・・

 

 「ダイヤ・・・」

 

 何故か神妙な顔をした果南さんと鞠莉さんが、私に近付いてきました。

 

 「お二人とも、そんな顔をしてどうしたのですか?」

 

 「いや、その・・・ゴメン」

 

 「はい?」

 

 謝ってくる二人に、思わず首を傾げてしまう私。

 

 何を謝っているのでしょう・・・?

 

 「ダイヤが真剣に悩んでるのに、真面目に相談に乗ろうともしないで・・・無責任なことだけ言って、ダイヤを助けようともしないで・・・本当にゴメン」

 

 「それでも親友なのかって、天に怒られちゃって・・・本当にその通りだと思うわ。ダイヤと一緒に悩むべきだったのに・・・ゴメンなさい」

 

 頭を下げる二人。

 

 なるほど、そういうことでしたか・・・

 

 「お二人とも、頭を上げて下さい。そんなに謝られると気持ち悪い・・・じゃなくて、こっちが申し訳なくなりますわ」

 

 「今気持ち悪いって言わなかった!?」

 

 「良いから頭を上げて下さい。キモいので」

 

 「隠すこともなく断言した!?」

 

 「そんな胸元の緩い服を着て、頭を下げることで胸の谷間を見せつけるなんて・・・嫌味ですの?優越感に浸りたいんですの?」

 

 「そんなつもり微塵も無かったんだけど!?」

 

 「誰の胸が微塵も無いですって!?ぶっ飛ばしますわよ!?」

 

 「言ってないから!?どうしちゃったのダイヤ!?」

 

 ツッコミが止まらない二人。

 

 まぁ冗談はこれくらいにして・・・

 

 「・・・気にしないで下さいな」

 

 微笑む私。

 

 「そもそも、私がウジウジしていたのがいけないのです。おかげさまで吹っ切れましたので、もう大丈夫ですわ」

 

 「ダイヤ・・・」

 

 「それより・・・私も、鞠莉さんには謝らないといけませんわね」

 

 「え・・・?」

 

 「あっ、いたいた」

 

 鞠莉さんが首を傾げる中、天が私を見つけて近付いてきます。

 

 「ダイヤ、これダイヤの分のお給料だって」

 

 「ありがとうございます、天」

 

 「えっ、『ダイヤ』・・・!?」

 

 「しかも今、天のことを呼び捨てに・・・!?」

 

 ビックリしている二人。

 

 私は悪戯っぽく笑うと、天の腕に抱きつきました。

 

 「鞠莉さん、大変申し訳ありませんが・・・負けませんわよ?」

 

 「え、ちょ・・・えぇっ!?」

 

 「うわぁ、あのダイヤをオトすとか・・・ヤバいね、天」

 

 「ん?何の話?」

 

 「フフッ、何でもありませんわ」

 

 キョトンとしている天の表情に、思わず笑ってしまいます。

 

 全く、天は相変わらずなんですから・・・

 

 

 

 

 

 「ちょ、ダイヤちゃん!?」

 

 

 

 

 

 「え・・・?」

 

 不意にちゃん付けで呼ばれ、驚いて振り向くと・・・

 

 梨子さんが慌ててこちらへ駆け寄ってくるところでした。

 

 「何で天くんに抱きついてるの!?」

 

 「大変よ梨子!ライバルが増えてしまったわ!」

 

 「えぇっ!?」

 

 何やら焦った様子で話し合う二人をよそに、私はポカンとしてしまいました。

 

 「梨子さん、今・・・」

 

 「あっ、ダイヤちゃんずら!」

 

 「ダイヤちゃん、お給料もらった!?」

 

 花丸さんと曜さんに話しかけられました。

 

 二人とも、ダイヤ『ちゃん』って・・・

 

 「ダイヤ、さっきは助かったわ。ありがとね」

 

 笑顔でお礼を言って下さる善子さん。

 

 呼び捨て、しかもタメ口・・・?

 

 「あ、あの・・・皆さん、どうしたんですの・・・?」

 

 「フフッ、お姉ちゃんこそどうしたの?」

 

 悪戯っぽく笑うルビィ。

 

 「果南ちゃんも鞠莉ちゃんも、ちゃん付けで呼ばれてるしタメ口で話してるでしょ?お姉ちゃんだってそうなってもおかしくないんじゃない?」

 

 「ルビィ・・・」

 

 「そういうこと」

 

 ルビィの後ろから、千歌さんがニコニコしながらやってきます。

 

 「改めて、これからもよろしくね・・・ダイヤちゃん」

 

 「っ・・・えぇ、勿論ですわ!」

 

 笑みを浮かべる私。

 

 本当に、良く出来た後輩達ですわ・・・

 

 「そうだ皆、これからご飯食べに行かない?私が奢るから」

 

 「マジですか!三玖さん愛してる!」

 

 「ちょ、天!?」

 

 「簡単に愛してるとか言わないのっ!」

 

 「ご飯・・・じゅるり」

 

 「花丸ちゃんは食欲に忠実過ぎない!?」

 

 「まぁそれがずら丸よね・・・」

 

 「でも、お腹空いたであります!」

 

 「確かにね。お言葉に甘えよっか」

 

 「よーし!食べるぞー!」

 

 わいわい盛り上がる皆さん。

 

 元気ですわねぇ・・・

 

 「フフッ・・・良かったね、ダイヤちゃん」

 

 いつの間にか、希さんがすぐ側に立っていました。

 

 「皆との距離も縮まったし、天くんへの気持ちにも気付けたし・・・一件落着やね」

 

 「えぇ、おかげさまで」

 

 苦笑してしまう私。

 

 「希さん、こうなることが分かっていたのではありませんか?」

 

 「さぁ、どうやろうね?」

 

 クスクス笑う希さん。

 

 全く、この人には敵いませんわ・・・

 

 「それよりダイヤちゃん、天くんに告白しないの?」

 

 「・・・今はまだ、心の準備が出来ていませんので」

 

 何しろ、先ほど自分の気持ちを自覚したばかりなのです。

 

 今はまだ、告白する勇気を持つことが出来ません。

 

 ですが・・・

 

 「これからしっかり、自分の気持ちに向き合っていきます。逃げたりしません」

 

 「それなら良し。頑張ってね」

 

 「はい!」

 

 「希ちゃん!ダイヤ!早く行くよ!」

 

 「はーい」

 

 「今行きますわ」

 

 天に声を掛けられ、皆さんのところへ向かう私達。

 

 今はまだ、貴方に気持ちを伝えることは出来ません。

 

 ですが・・・

 

 「天」

 

 「ん?」

 

 振り向いた天に、私は手を差し出しました。

 

 「・・・ん」

 

 「はいはい」

 

 天は意図が分かったのか、笑いながら私の手を取りました。

 

 そのままそっと握られ、優しく引かれます。

 

 「ダイヤったら、急に甘えん坊になったね」

 

 「私だって、たまには甘えたいんです」

 

 「アハハ、じゃあ喜んで甘えられようかな」

 

 「えぇ、覚悟していて下さいな」

 

 この人を好きになって、本当に良かった・・・

 

 笑顔で天の手を握り返しつつ、心からそう思う私なのでした。




どうも〜、ムッティです。

アニメ二期四話の内容も終わり、梨子ちゃん・鞠莉ちゃんに続きダイヤちゃんがヒロインレースに参戦・・・

果たしてヒロインレースの行方やいかに・・・

ヒロインレースといえば、ずいぶん前にヒロイン希望No.1メンバーを決めるアンケートを採ったことを覚えてますか?

まぁ志満さんがぶっちぎりで一位だったのはさておき、Aqoursメンバー第一位は果南ちゃんだったんですが・・・

この前結果を見てみたら、梨子ちゃんが逆転してました(゜ロ゜)

何か激しいデッドヒートが繰り広げられてるわぁ・・・

まぁ志満さんがぶっちぎりなんですけど(´・ω・`)

ヒロイン、誰になるんですかね?(他人事)



最後に真面目な話になりますが、花丸ちゃん役の高槻かなこさんが活動休止を発表されました。

AZALEAのライブ直前だったこともあり、かなりの衝撃でしたが・・・

今はただ身体を大切に、ゆっくり休んでほしいなと思います。

またステージの上で、元気な姿を見せてくれることを願っています。



次からは五話の内容に入ります。

よしりこ回ですが、果たしてどうなるのか・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

可愛いは正義である。

いやぁ、段々寒くなってきたなぁ・・・

梨子『何しれっと戻ってきてるのよおおおおおっ!』

ルビィ『誕生日回スルーしたくせにいいいいいっ!』

栞子『投稿間隔空きすぎなんですよおおおおおっ!』

ちょ、止め・・・ギャアアアアアッ!?


 「天くん、色々ありがとう」

 

 「こちらこそ。楽しかったよ」

 

 駅のホームで抱き合う希ちゃんと俺。

 

 東京へ帰る希ちゃんを見送る為、俺はAqoursの皆と沼津駅へやって来ていた。

 

 「希さん、ありがとうございました!」

 

 「まだいつでも遊びに来て下さい!」

 

 「楽しみに待ってます!」

 

 「フフッ、ありがとう。千歌っち、曜ちゃん、ルビィちゃん」

 

 嬉しそうに笑う希ちゃん。

 

 そんな希ちゃんの前に、善子がゆっくり進み出る。

 

 「ノゾミエル、貴女にこれを授けましょう・・・」

 

 そう言って善子が手渡したのは、いかにも善子が好きそうな形のペンダントだった。

 

 「ヨハネのリトルデーモンとなった証です。受け取りなさい」

 

 「ありがたき幸せ・・・感謝致します、ヨハネ様」

 

 「・・・何で希さんはノリノリずら?」

 

 「希ちゃん、昔から悪ノリ大好きだから」

 

 呆れている花丸に、苦笑しながら答える俺。

 

 まぁあんな風にノリが良いから、希ちゃんは色々な人と仲良くなれるんだけども。

 

 「それではヨハネ様、お別れのわしわしをさせていただきます」

 

 「え、ちょ・・・あんっ!?」

 

 「流石はヨハネ様、相変わらず手に収まるちょうど良い大きさ・・・」

 

 「いや、それ褒めてない・・・んあっ!?」

 

 「・・・相変わらずおっぱいが好きだね」

 

 善子の胸をわしわしする希ちゃんを見て、果南が若干引いていた。

 

 「もしかして天のおっぱい好きは、希さんの影響なんじゃ・・・」

 

 「『そうだ』って言ったら、果南のおっぱいをわしわししても良い?」

 

 「良いわけないでしょうが!」

 

 「そうよ天!わしわしするのはマリーのおっぱいにしなさい!」

 

 「鞠莉!?」

 

 「天くん、私のおっぱいをわしわしして!大きくなるかもしれないし!」

 

 「梨子ちゃんも何言ってんの!?」

 

 「その、天が『どうしても』と言うのなら・・・私の胸をわしわししても、良いのですよ・・・?」

 

 「ダイヤまで壊れたあああああっ!?」

 

 悲鳴を上げる果南。

 

 あのダイヤがそんなことを言うとは・・・

 

 「じゃあ『どうしても』で」

 

 「し、仕方ありませんわね・・・」

 

 「ダメだってば!?」

 

 「大和撫子はどこへ行ったずら!?」

 

 必死に止める果南と花丸。

 

 その様子を見た希ちゃんが、クスクス笑っている。

 

 「フフッ・・・ダイヤちゃん、すっかり乙女やね」

 

 「出遅れてしまった分、アピールしなくてはいけませんので」

 

 楽しそうに笑うダイヤ。

 

 「希さん、色々とお世話になりました」

 

 「こちらこそ。頑張ってね」

 

 「はいっ」

 

 握手を交わす二人。

 

 ずいぶん仲良くなったなぁ・・・

 

 「ところで、『出遅れた』とか『アピール』って何の話?」

 

 「天くんに言ったところで、理解出来るとは思えないずら」

 

 「そんな冷たいこと言うなよ花丸~」

 

 「ウザ絡みは止めるずら!」

 

 花丸に抱きついてみる。

 

 恥ずかしそうだが、拒否はしてこない。

 

 可愛いヤツめ。

 

 「ちょ、天!?」

 

 「何で花丸ちゃんに抱きついてるの!?」

 

 「そういう関係なんだよ」

 

 「「「「「「「「えぇっ!?」」」」」」」」

 

 「ちょっと待つずら!前にもこんなやり取りやったことあるずら!」

 

 「おっ、よく覚えてたね。よしよし」

 

 「えへへ・・・じゃないずら!誤解を招く発言は止めるずら!」

 

 「アハハ、仲がええなぁ」

 

 笑っている希ちゃん。

 

 そんなやり取りをしている内に、ホームに電車が入ってくる。

 

 「あっ、電車来ちゃった。それじゃ、ウチはそろそろ・・・」

 

 「希ぃ・・・!」

 

 「え・・・?」

 

 別れの挨拶をしようとした希ちゃんを呼ぶ声がした。

 

 声のした方を振り向くと・・・

 

 「えっ、海未ちゃん!?」

 

 そこにいたのは海未ちゃんだった。

 

 恨みのこもった眼差しで希ちゃんを睨んでいる。

 

 「あの時は、よくもやってくれましたね・・・!」

 

 「ア、アハハ・・・ゴメンゴメン・・・」

 

 「許しませんよぉ!」

 

 「キャアッ!?」

 

 希ちゃんに後ろから抱きつき、両胸をガシッと掴む海未ちゃん。

 

 「ちょ、海未ちゃん!?何してるん!?」

 

 「“わしわしMAX”!」

 

 「人の技パクらんといて!?」

 

 悲鳴を上げる希ちゃん。

 

 美女と美女が絡み合いながら、美女が美女のおっぱいを揉んでいるなんて・・・

 

 「うん、ご馳走様です」

 

 「何が!?」

 

 千歌のツッコミ。

 

 まぁそれはさておき・・・

 

 「海未ちゃんが復讐の為に来たのは分かったけど、何で今来たの?海未ちゃんが東京に帰ってから、もう一週間経つけど」

 

 「ずっと大学の講義があったんです!休むことなど出来ません!」

 

 「真面目か」

 

 「どれほど日曜日を心待ちにしたことか!さぁ希、覚悟しなさい!」

 

 「あぁんっ!?」

 

 胸を揉まれて喘ぐ希ちゃん。

 

 なかなかレアなシーンだな・・・

 

 「鞠莉」

 

 「No Problem!バッチリ録ってるわ!」

 

 「流石だぜ」

 

 「そんなやり取りしてる場合かっ!この変態幼馴染コンビっ!」

 

 焦っている善子。

 

 「それより、早く海未先生を止めなさいよ!?」

 

 「やだねったら~?」

 

 「やだね~・・・って氷川き●しかっ!いいから止めなさい!」

 

 「そんなこと言われても、海未ちゃんを止められるのはことりちゃんの『お願い』くらいなんだよねぇ・・・」

 

 「呼んだ?」

 

 「うわっ!?」

 

 急に背後から誰かに抱きつかれる。

 

 俺の肩からひょっこり顔を出したのは・・・

 

 「えっ、ことりちゃん!?」

 

 「おはよー♪」

 

 笑っていることりちゃん。

 

 まさかのご本人登場だった。

 

 「な、何でことりちゃんがここに・・・?」

 

 「秋休みを利用して、天くんに会いに来ちゃった♡」

 

 「ことりちゃん・・・」

 

 「天くん・・・」

 

 「二人の世界に入ってないで、早くあっちを止めてくんない!?」

 

 ギャーギャーうるさい善子。

 

 チッ、良いところだったのに・・・

 

 「じゃ、サクッと終わらせちゃおっか・・・海未ちゃん!」

 

 「えっ、ことり!?」

 

 希ちゃんの胸をわしわししていた海未ちゃんが、驚いてこちらを振り向く。

 

 「な、何故ことりがここに!?」

 

 「そんなことより、希ちゃんに乱暴しないの!メッ!」

 

 「で、ですが・・・!」

 

 食い下がろうとする海未ちゃんを、ことりちゃんが涙目で見つめる。

 

 「ことりのお願い、聞いてくれないの・・・?」

 

 「そ、そういうわけではなく・・・!」

 

 「海未ちゃん・・・お願ぁいっ!」

 

 「っ・・・!」

 

 雷に撃たれたような表情の海未ちゃん。

 

 あっ、陥落した・・・

 

 「分かりました・・・」

 

 「ありがとう、海未ちゃん。希ちゃんを連れて、気を付けて東京に帰ってね」

 

 「はい・・・」

 

 「希ちゃん、生きてる?」

 

 「ハァ・・・ハァ・・・た、助かったぁ・・・」

 

 息を切らしている希ちゃん。

 

 顔も紅潮してるし、服も胸元が乱れてるし・・・

 

 「うん、エロいね」

 

 「真面目な顔して何言ってんのっ!」

 

 曜に頭を叩かれる。痛い。

 

 「さぁ希、帰りますよ」

 

 「はーい・・・」

 

 海未ちゃんと希ちゃんが電車に乗り込む。

 

 「ことりちゃん、ありがとう。助かっちゃった」

 

 「気にしないで、希ちゃん」

 

 「それよりことり、貴女も早く乗って下さい。そろそろ出発してしまいますよ」

 

 「乗らないよ?」

 

 「はい?」

 

 首を傾げる海未ちゃん。

 

 ことりちゃんは満面の笑顔で、俺の腕に抱きつく。

 

 「だってことり、天くんのお家に泊まりに来たんだもん♪」

 

 「ハァッ!?」

 

 「天くん、秋休みの間はお世話になっても良いかな?」

 

 「勿論。ことりちゃんなら大歓迎だよ」

 

 「フフッ、ありがと♪」

 

 ことりちゃんは微笑むと、俺の耳元に口を寄せて囁いた。

 

 「じゃあお礼に・・・天くんの好きなこと、何でもさせてあげるねっ♡」

 

 「オッケー、今すぐ家に行こうか」

 

 「何するつもりですかっ!」

 

 「はいはい、動かんといて」

 

 慌てて電車を降りようとする海未ちゃんを、希ちゃんが羽交い絞めにする。

 

 「ちょ、希!?」

 

 「ことりちゃん、これで借りは返したからね」

 

 「ありがとう、希ちゃん。帰り道は海未ちゃんを自由にして良いから」

 

 「それじゃあ、お言葉に甘えて・・・海未ちゃんにも借りを返さんとね」

 

 「ひぃっ!?」

 

 悲鳴を上げる海未ちゃん。

 

 希ちゃんの笑顔から圧力を感じる・・・

 

 さっきのわしわし、怒ってるんだろうなぁ・・・

 

 「そ、天っ!助けて下さいっ!」

 

 「海未ちゃん、君のことは忘れない」

 

 「天ぁっ!?」

 

 「さっ、行こうか海未ちゃん・・・天くん、またね」

 

 「うん、またね希ちゃん」

 

 「嫌あああああっ!?」

 

 無情にも電車の扉が閉まる。

 

 ニコニコしている希ちゃんと絶望の表情を浮かべる海未ちゃんを乗せ、電車は走っていった。

 

 「海未先生、大丈夫かな・・・?」

 

 「これが元気な海未ちゃんを見る最後の機会になることを、この時のAqoursは知る由も無いのであった」

 

 「不穏なナレーション止めてくれる!?」

 

 ルビィのツッコミ。

 

 まぁ、それはさておき・・・

 

 「ことりちゃん、とりあえず俺の家に行こっか」

 

 「うんっ♪天くんのお家、楽しみだなぁ♪」

 

 再び俺の腕に抱きついてくることりちゃん。

 

 幸せだなぁ・・・

 

 「ぐぬぬぬぬ・・・!」

 

 「強敵現るデース・・・!」

 

 「やはり私も、もっと積極的に行くべきでしょうか・・・!」

 

 「はいはい、梨子ちゃんと鞠莉ちゃんは落ち着いて。お姉ちゃんは今以上に壊れたらアウトだから気を付けようね」

 

 何故かこちらを睨んでいる梨子と鞠莉の頭を撫でつつ、何故か真剣な表情を浮かべているダイヤに呆れているルビィなのだった。




どうもおおおおおっ!ムッティでえええええすっ!

皆さあああああんっ!お元気でしたかあああああっ!?

・・・本当にすいませんでした(土下座)

既に6人のメンバーの誕生日回をスルーしてしまっているというこの状況・・・

どうしよう(絶望)

とりあえず最優先は本編で、誕生日回は時間がある時に書く方針でいきたいと思います(*_*)

そんな本編では希ちゃんが東京へ帰り、ことりちゃんが内浦へ・・・

これはAqoursの天ガチ勢とのバトルに発展するか・・・?

これからの展開をお楽しみに!

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【優木せつ菜】どっちが好き?

メッチャ遅くなりましたが、せつ菜ちゃんの誕生日回です。

今回は栞子ちゃんがいない設定となっておりますので、悪しからず・・・

それではいってみよー!


 「菜々、書類出来たよ」

 

 「ありがとうございます」

 

 俺から出来上がった書類を受け取る菜々。

 

 放課後、俺達は生徒会室で業務を行なっていた。

 

 よって今の彼女はスクールアイドル・優木せつ菜ではなく、虹ヶ咲学園生徒会長・中川菜々なのである。

 

 「後は何か仕事ある?」

 

 「そうですねぇ・・・」

 

 菜々は少し考え込むと、俺に向かって手招きをした。

 

 「少しこちらへ来ていただいても良いですか?」

 

 「ん?どうした?」

 

 菜々の近くに歩み寄る俺。

 

 その瞬間、菜々の両手が俺の腰をガッチリ掴む。

 

 俺は今、菜々に抱きつかれている状態だった。

 

 「・・・ここ、生徒会室なんだけど」

 

 「・・・良いじゃないですか。今は誰もいないんですし」

 

 俺の腰を抱く手にキュッと力を込める菜々。

 

 俺と菜々が付き合っていることは、スクールアイドル同好会のメンバーしか知らないことだ。

 

 他の生徒会役員達には内緒にしている為、この場でこういうことをするのはあまり良くないのだが・・・

 

 「ダメ、ですか・・・?」

 

 「・・・少しだけなら」

 

 菜々に上目遣いで甘えられると、ダメとは言えなくなってしまう。

 

 この場にかすみでもいたら、『天先輩はせつ菜先輩に甘過ぎです!』とか怒られてしまいそうだ。

 

 まぁ実際、甘やかしているのは間違いないんだけども。

 

 「全く、菜々は甘えん坊だなぁ」

 

 「私だって甘えたいお年頃なんです」

 

 「どんなお年頃だよ」

 

 呆れつつ、菜々の頭を優しく撫でる。

 

 サラサラな髪の感触が心地良かった。

 

 「フフッ・・・天さんに頭撫でられるの、好きだなぁ・・・」

 

 幸せそうに微笑む菜々。

 

 そんな菜々の顔をもっと見ていたくて、菜々の頭を優しく撫で続ける俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「せつ菜、スカーレットストームッ!」

 

 「ぐはぁっ!?」

 

 せつ菜の投げたクッションが、かすみの顔面に直撃する。

 

 生徒会業務を終えた俺達は、そのままスクールアイドル同好会の練習に合流していた。

 

 「かすみさん!?大丈夫ですか!?」

 

 「せつ菜、それかすみやない。屍や」

 

 「誰が屍ですか!」

 

 ガバッと起き上がるかすみ。

 

 あっ、生きてたんだ・・・

 

 「っていうかせつ菜先輩!?いきなり危ないじゃないですか!」

 

 「す、すみません!投げるつもりは無かったんですが、カッコつけてたらつい・・・」

 

 「まぁまぁ、かすみが犠牲になっただけだから良しとしよう」

 

 「天先輩!?全然良しと出来ないんですけど!?」

 

 「かすみに当たったおかげで、後ろで寝てる彼方さんに当たらずに済んで良かったよ」

 

 「天先輩はかすみんと彼方先輩のどっちが大切なんですか!?」

 

 「彼方さん」

 

 「即答!?っていうか彼方先輩は何で寝てるんですか!」

 

 「彼方さんだから」

 

 「・・・納得したくないのに納得です」

 

 「すやぁ・・・」

 

 熟睡している彼方さん。

 

 相変わらず気持ち良さそうに寝てるなぁ・・・

 

 「ほら、練習再開するよ。彼方さんも起きて下さい」

 

 「んぅ・・・」

 

 「あっ、遥ちゃんだ」

 

 「えっ、どこ!?」

 

 「嘘です。ほら、練習やりますよ」

 

 「うぅ・・・嘘つくなんて酷いよ天くん・・・」

 

 落ち込みつつ、寝ていたソファから立ち上がる彼方さん。

 

 やれやれ・・・

 

 「むぅ・・・」

 

 「ん?」

 

 何故かせつ菜が不機嫌そうな表情で俺を見ていた。

 

 「せつ菜?どうした?」

 

 「・・・仲良いですよね。かすみさんや彼方さんと」

 

 「そりゃ同好会の仲間だし」

 

 「しかも『彼方さんが大切』って・・・浮気ですか?」

 

 「あれ、妬いてます?せつ菜さん、妬いてます?」

 

 「ニヤニヤしながらこっち見ないで下さい!」

 

 膨れっ面でそっぽ向いてしまうせつ菜。

 

 やれやれ・・・

 

 「・・・俺にとっての一番はせつ菜だよ」

 

 「っ・・・」

 

 耳元でそう囁くと、せつ菜の顔がカァッと赤く染まる。

 

 可愛いヤツめ。

 

 「おやおや~?」

 

 背後から彼方さんに抱きつかれる。

 

 「同好会の練習中にイチャイチャするなんて、破廉恥ですな~?」

 

 「なっ・・・だ、誰が破廉恥ですかっ!」

 

 「全く、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうわ」

 

 呆れた表情を浮かべる果林さん。

 

 「バカップルなのは結構だけど、二人きりの時にやってちょうだい」

 

 「頭がバカな人が何か言ってるんですけど」

 

 「天!?喧嘩売ってるの!?」

 

 「そんなわけないでしょ、バ果林さん」

 

 「そ~ら~っ!」

 

 「せつ菜スカーレットストームッ!」

 

 「ごふっ!?」

 

 せつ菜の投げたクッションが、果林さんの顔面に直撃する。

 

 「私の恋人に手を出すことは許しません!」

 

 「良いぞせつ菜、もっとやっちゃえ!」

 

 「くっ・・・こうなったら、全面戦争よ!」

 

 「遊んでないで練習して下さいいいいいいいいいいっ!」

 

 かすみに怒られる俺達なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《せつ菜視点》

 

 「うぅ、まだ顔が痛いわ・・・」

 

 「ゴ、ゴメンなさい・・・ついやりすぎてしまって・・・」

 

 「良いんだよせつ菜ちゃん、果林ちゃんの自業自得なんだから」

 

 「彼方!?自業自得って何よ!?」

 

 果林さんのツッコミ。

 

 練習を終えた私達は、更衣室で着替えているところでした。

 

 「そういえば、前から気になってたんですけど・・・」

 

 かすみさんが会話に加わってきます。

 

 「天先輩って同好会の時、せつ菜先輩のこと『せつ菜』って呼んでますよね?普段からそうなんですか?」

 

 「いえ、普段は『菜々』って呼ばれてますよ。『優木せつ菜』として活動している時は、『せつ菜』って呼んでくれてるんです」

 

 「・・・何かややこしくないですか?」

 

 「アハハ・・・まぁ『優木せつ菜』の正体は秘密ですから」

 

 苦笑する私。

 

 実際、そこは天さんに申し訳ないと思ってるんですよね・・・

 

 状況に応じて呼び方を変えてもらうなんて・・・

 

 「変わったカップルよね、貴女達」

 

 呆れたように言う果林さん。

 

 「天は『中川菜々』と『優木せつ菜』、どっちを好きになったのかしらね?」

 

 「え・・・?」

 

 「いや、だってキャラが全然違うじゃない?天のタイプはどっちゴフッ!?」

 

 「は~い、余計なこと言わな~い」

 

 彼方さんが果林さんの顔面にクッションを投げつけていました。

 

 「果林ちゃんは人のことを心配する前に、自分の心配をしようね~」

 

 「なっ、何よ自分の心配って!?」

 

 「恋愛経験豊富そうに見えて実はゼロなんだから、悪い男の子に騙されないようにしないといけないよ~」

 

 「彼方あああああっ!」

 

 ギャーギャー騒ぐ果林さん。

 

 私は呆然としつつも、先ほどの果林さんの言葉が頭から離れないのでした。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《せつ菜視点》

 

 「・・・菜・・・つ菜・・・せつ菜!」

 

 「・・・はっ!?」

 

 名前を呼ばれていることに気付いて顔を上げると、隣に座っている天さんが心配そうな表情を浮かべてこちらを見ていました。

 

 「大丈夫?何かボーっとしてるみたいだけど・・・」

 

 「す、すみません!ちょっと考え事をしていて・・・」

 

 他の皆さんは帰宅し、部室には私達二人しかいません。

 

 練習終了後は、最終下校時間まで二人で過ごすのがいつもの流れになっているのです。

 

 「ホントに大丈夫?練習は終わったのに、まだ『せつ菜』スタイルだけど・・・」

 

 いつもは練習が終わると、眼鏡をかけて髪を結んで『中川菜々』に戻るんですが・・・

 

 今日の私は、まだ『優木せつ菜』の格好のままでした。

 

 「・・・天さんは、『菜々』の方が好きですか?」

 

 「え・・・?」

 

 「それとも・・・『せつ菜』の方が好きですか?」

 

 「はい・・・?」

 

 首を傾げる天さん。

 

 「天さんが好きになったのは、『中川菜々』ですか?『優木せつ菜』ですか?」

 

 頭の中から離れないその疑問を、思わず天さんにぶつけてしまいます。

 

 天さんが好きになってくれた私が、どちらの私なのか分からない・・・

 

 だからこそ『菜々』に戻れず、『せつ菜』のまま葛藤を続けている・・・

 

 どちらが正解なのか、私には分かりませんでした。

 

 天さんはそんな私を見て、一つ溜め息をつくと・・・

 

 「天、スカーレットストームッ!」

 

 「ごふっ!?」

 

 私の顔面にクッションを叩き込んできました。

 

 「ちょ、何するんですか!?」

 

 「『菜々』は眼鏡してるから遠慮しちゃうけど、『せつ菜』なら遠慮なく叩き込めるわ」

 

 「全く嬉しくないんですけど!?」

 

 「あとストレートに甘えてくる『せつ菜』も良いけど、しおらしく甘えてくる『菜々』ってキュンとするんだよなぁ・・・どっちかを選ぶって難しいね」

 

 「真面目に答えてもらえます!?こっちは真面目に聞いてるんですよ!?」

 

 「いや、結構真面目に答えてるんだけど」

 

 呆れたように言う天さん。

 

 「だって俺、『菜々』も『せつ菜』も大好きだし」

 

 「え・・・?」

 

 「そりゃそうでしょ。それぞれ良いところがあるんだし、比べられるものでもないし。どっち『が』好きとかじゃなくて、どっち『も』好きだよ」

 

 当然と言わんばかりの天さんに、私は思わずポカンとしてしまいます。

 

 「そもそもだけど、『中川菜々』と『優木せつ菜』って同一人物じゃん。別人格とかじゃなくて、一人の人間の違う一面同士じゃん。それなら彼氏である俺が、彼女のどっちの一面も好きなのは自然なことじゃない?」

 

 「っ・・・」

 

 「『菜々』と『せつ菜』のどっちが好きって、『優しいところ』と『明るいところ』のどっちが好きって聞いてるようなもんだよ?大好きな彼女なんだから、そりゃどっちも好きに決まってぇっ!?」

 

 喋っている途中の天さんに、思いっきり抱きつく私。

 

 そのまま力のかぎり抱き締めます。

 

 「ちょ、苦しいんだけど・・・」

 

 「・・・天さんはズルいです」

 

 「はい・・・?」

 

 「いつもいつも、甘い言葉で私を誘惑して・・・」

 

 「誰がいつ誘惑したよ!?」

 

 「この人たらし・・・責任取って下さい」

 

 「理不尽!?」

 

 ギャーギャー喚く天さんの胸に、顔を押し付ける私。

 

 顔から火が出そうなほど恥ずかしくて・・・

 

 でも涙が出そうなほど嬉しくて・・・

 

 こんな顔、天さんには見せられません。

 

 「ありがとう、天さん・・・大好き」

 

 「・・・俺も大好きだよ」

 

 優しく抱き締めてくれる天さん。

 

 お互いに見つめ合い、そっと唇を重ね合わせます。

 

 私の全てを受け入れ、『大好き』と言ってくれる人がいる・・・

 

 その幸せを噛み締めながら、天さんの温もりに身を委ねる私なのでした。




どうも〜、ムッティです。

せつ菜ちゃんの誕生日回を、3ヶ月遅れで投稿させていただきました。

遅れてゴメンよ、せつ菜ちゃん(´;ω;`)

っていうか誕生日回書き切れねえええええ!!!!!

善子ちゃん、千歌ちゃん、梨子ちゃん、ルビィちゃん・・・

うん、無理(絶望)

とりあえずニジガクメンバーは最後まで書き切りたい・・・

アニメに出てきてない栞子ちゃん、ランジュちゃん、ミアちゃんはちょっと除外して・・・

あとは璃奈ちゃんと彼方ちゃん、出来れば侑ちゃんも書きたいなぁ(誕生日不明だけど)

とりあえず本編を最優先にして、次にニジガクメンバー優先でいきたいと思います。

Aqoursメンバーの誕生日回を楽しみにして下さっている方々には大変申し訳ありませんが、時間があれば書くという方針でいきたいと思います。

兎にも角にも、本編を進めねば・・・

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【近江彼方】大好きな人

彼方ちゃんの誕生日キタアアアアア!!!!!

誕生日回メッチャ書きたかった!

というわけで気合いが入った結果、いつもより長めのお話になっております(笑)

それではいってみよ〜!


 「・・・ん」

 

 ふと目を覚ます俺。

 

 部屋のカーテンの隙間から、日が差し込んでいた。

 

 「もう朝か・・・」

 

 ゆっくり起き上がろうとする俺だったが、身体が重くて起き上がることが出来ない。

 

 っていうか、身体が何やら柔らかい感触に包まれているような・・・

 

 「もしかして・・・」

 

 布団の中へ視線を向ける。

 

 そこには・・・

 

 「すやぁ・・・」

 

 オレンジブラウンのロングヘアの女の子が、俺を抱き枕にして熟睡する姿があった。

 

 やっぱりかぁ・・・

 

 「かな姉、起きて」

 

 「んぅ・・・」

 

 名前を呼ぶと、女の子の目が徐々に開いていく。

 

 そして俺の顔を見上げると、優しい笑みを浮かべた。

 

 「ふわぁ・・・おはよう、天くん」

 

 「おはよう」

 

 苦笑する俺。

 

 彼女は近江彼方・・・通称かな姉。

 

 俺の近所に住んでいる幼馴染で、俺より一つ上の高校三年生だ。

 

 同じ学校に通っていることもあり、朝は一緒に登校するのが日課になっているのだが・・・

 

 「毎回聞いてるんだけど、何で俺の布団で一緒に寝てんの?」

 

 「毎回答えてるんだけど~、天くんの寝顔を見てたら眠くなっちゃったから~♪」

 

 楽しそうに笑うかな姉。

 

 この年中睡眠不足め・・・

 

 「わざわざ早起きして、俺の家まで迎えに来なくて良いんだよ?何だったら、俺がかな姉の家まで迎えに行くのに」

 

 「色々と準備しなくちゃいけないし、どの道早起きはするから~。それに~・・・」

 

 かな姉は俺の頬に手を添え、いつものようにふわりと笑った。

 

 「天くんの寝顔を見ながら添い寝するのは~、彼方ちゃんの特権だも~ん♪」

 

 「・・・何それ」

 

 何だが気恥ずかしくなってしまい、かな姉から顔を背ける俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「すやぁ・・・」

 

 「また寝てるし・・・」

 

 電車に乗るやいなや、俺の右肩にもたれかかって熟睡するかな姉。

 

 俺が溜め息をついていると、俺の左隣に座る茶髪ツインテールの女の子が苦笑していた。

 

 「アハハ・・・何かゴメンね、お兄ちゃん」

 

 「はるちゃんが気にすることじゃないよ」

 

 苦笑しながら返す俺。

 

 彼女は近江遥・・・通称はるちゃん。

 

 俺の幼馴染で、かな姉の妹だ。

 

 俺より一つ下の高校一年生で、俺達とは違う高校に通っている。

 

 俺のことを『お兄ちゃん』と呼んで慕ってくれる奥ゆかしい子で、俺も本当の妹のように可愛がっていた。

 

 「ところでお兄ちゃん、いつお姉ちゃんに告白するの?」

 

 「奥ゆかしさはどこへいったの?」

 

 いきなりド直球な質問をぶちかましてくるはるちゃん。

 

 何この子、怖いんだけど。

 

 「『聞きにくい質問こそストレートに聞くべきです』って、綾小路さんに言われたから」

 

 「果林さんにアイツ宛のサイン書いてもらって、アイツの目の前で破り捨ててやろう」

 

 「止めてあげて!?綾小路さんがショックで立ち直れなくなっちゃうよ!?」

 

 姫乃ェ・・・

 

 はるちゃんに余計なことを吹き込んだ罪は重いぞ・・・

 

 「それで?告白しないの?」

 

 「・・・告白ねぇ」

 

 隣で幸せそうに眠る、かな姉の寝顔をじっと眺める。

 

 俺はかな姉のことが、異性として好きだ。

 

 でもかな姉にとって、俺はあくまでも幼馴染・・・それも弟みたいなもの、といったところだろう。

 

 異性として意識されているなら、毎朝ベッドに潜り込んできて添い寝なんてしないだろうし・・・

 

 「・・・告白して今の関係が壊れるなら、このままの方が幸せなんじゃないかな」

 

 「お兄ちゃん・・・」

 

 「はるちゃん、駅に着いたよ」

 

 「あっ、ホントだ!じゃあお兄ちゃん、行ってきます!」

 

 「行ってらっしゃい」

 

 電車を降りていくはるちゃんを見送る。

 

 俺の右腕を抱きながら眠るかな姉の手に、少し力が入ったような気がしたのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《彼方視点》

 

 「彼方、聞いてる?」

 

 「え・・・?」

 

 果林ちゃんの声にハッとする彼方ちゃん。

 

 果林ちゃんが心配そうな表情をしている。

 

 「大丈夫?いつになくボーっとしてるけど・・・」

 

 「ゴ、ゴメンね~・・・ちょっと考え事してて~・・・」

 

 「何か悩み事?相談に乗るよ?」

 

 エマちゃんも心配してくれる。

 

 うぅ、やっちゃったなぁ・・・

 

 「た、大したことじゃないから大丈夫だよ~・・・」

 

 「ホント・・・?」

 

 「ホントホント~!それより~、早くお昼ご飯食べちゃお~!」

 

 慌てて誤魔化しながら、ご飯を頬張る彼方ちゃん。

 

 お昼休み、彼方ちゃんは果林ちゃんやエマちゃんとご飯を食べに食堂へやって来ていた。

 

 「それもそうだね・・・って、あれ天くん達じゃない?」

 

 「え・・・?」

 

 エマちゃんが見ている方へ顔を向けると・・・

 

 「歩夢のお弁当って、いつ見ても美味しそうだよね」

 

 「フフッ、ありがと。良かったら卵焼き食べる?天くん卵焼き好きだもんね」

 

 「えっ、良いの?やった!」

 

 「天っち~、せっかくだから歩夢に『あ~ん』してもらったら~?」

 

 「やかましいわ金髪ギャル。髪色をライトピンクにして出直してきな」

 

 「何でさ!?」

 

 「いや、やっぱライトピンクは止めて。歩夢が汚される」

 

 「当たり強過ぎィ!」

 

 「アハハ・・・じゃあ天くん、あ~ん」

 

 「え、ちょ・・・良いの?」

 

 「勿論。あ~ん」

 

 「あ~ん・・・うん、結婚しよう歩夢」

 

 「ふぇっ!?」

 

 「ちょっと天!?歩夢を嫁にするのは私だから!」

 

 「侑ちゃん!?」

 

 「侑とは決着をつけないといけないみたいだな・・・!」

 

 「望むところだよ・・・!」

 

 「まぁまぁお二人とも、ここはせつ菜特製スペシャル卵焼きでも食べて・・・」

 

 「味オンチはお呼びじゃないから引っ込んでな」

 

 「ダークマター製造人間は黙っててくれる?」

 

 「酷過ぎません!?」

 

 「フフッ、どうやらここはランジュの出番・・・」

 

 「「国に帰れ」」

 

 「何でよぉっ!?」

 

 二年生組がわいわい騒いでいた。

 

 楽しそうだなぁ・・・

 

 「あらあら、ずいぶん仲良しねぇ」

 

 笑っている果林ちゃん。

 

 「それにしても・・・天と歩夢って、何か良い感じよね」

 

 「っ・・・」

 

 「モテモテよねぇ、天って・・・侑に信頼されてるし、愛も心を許してるし・・・せつ菜には慕われてるし、ランジュにも気に入られてるしね」

 

 「か、果林ちゃん!?もうその辺にしとこう!?」

 

 慌てて制止しようとするエマちゃんをよそに、果林ちゃんがじっとこちらを見る。

 

 「それで?彼方はどうなのかしら?」

 

 「・・・天くんは~、彼方ちゃんの弟みたいな存在だよ~」

 

 「だったら、何でそんな悲しそうな顔をしてるのかしら?」

 

 「っ・・・」

 

 どうやらお見通しだったらしい。

 

 参ったなぁ・・・

 

 「まぁ彼方がそう言うなら、私が天をいただこうかしら」

 

 「え・・・?」

 

 「とりあえず、誘惑してみようかしら・・・身体で」

 

 「ダメええええええええええっ!」

 

 慌てて立ち上がる彼方ちゃん。

 

 「果林ちゃんに天くんは渡さないもんっ!」

 

 「ちょ、彼方ちゃん!?」

 

 「天くんは彼方ちゃんの・・・彼方ちゃんの・・・大好きな人だもんっ!」

 

 果林ちゃんを睨みつける彼方ちゃん。

 

 果林ちゃんがフッと笑みを零す。

 

 「フフッ、大好きな『人』ね・・・弟みたいな存在じゃないってこと、自分でもよく分かってるじゃない」

 

 「あっ・・・」

 

 果林ちゃんに指摘されて気付く。

 

 そっか・・・彼方ちゃん、天くんのこと・・・

 

 「素直になりなさい、彼方。じゃないと後悔するわよ」

 

 「・・・うん。ありがとう、果林ちゃん」

 

 決心がつき、果林ちゃんと笑い合っていると・・・

 

 「えーっと・・・二人とも?」

 

 エマちゃんがおずおずと割って入ってくる。

 

 「一件落着したところ悪いんだけど・・・周りを見てくれる?」

 

 「「え・・・?」」

 

 果林ちゃんと二人で首を傾げつつ、周りを見回す。

 

 彼方ちゃん達に、食堂中の視線が向けられていた。

 

 「「・・・あっ」」

 

 二人でダラダラと冷や汗を流す。

 

 そういえば、大きな声で叫んじゃったっけ・・・

 

 しかも天くんのこと、『大好きな人だ』って・・・

 

 「っ!?」

 

 慌てて天くんの方に視線を向けると・・・

 

 「・・・・・」

 

 天くんが呆気にとられた表情で彼方ちゃんを見ていた。

 

 あっ、終わった・・・

 

 「か、彼方ちゃん・・・」

 

 顔を真っ赤にした彼方ちゃんをフォローしようと、エマちゃんが優しく声をかけてくれるが・・・

 

 「か・・・果林ちゃんのバカあああああっ!」

 

 「ちょ、私のせいなの!?」

 

 「彼方ちゃん!?」

 

 全速力で食堂を出て行く彼方ちゃんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 放課後・・・

 

 「・・・・・」

 

 「・・・・・」

 

 気まずい雰囲気の中、かな姉と二人で帰り道を歩く。

 

 エマさんや二年生組の気遣いもあり、俺達は今日の同好会の練習を休んで帰ることにした。

 

 ちなみにあの一年中迷子には、全力で『雷鳴●卦』をぶちかましておいた。

 

 それにしても・・・

 

 

 

 

 

 『天くんは彼方ちゃんの・・・彼方ちゃんの・・・大好きな人だもんっ!』

 

 

 

 

 

 「っ・・・」

 

 顔が赤く染まるのが分かる。

 

 まさかあんな形で、かな姉の気持ちを知ることになるとはなぁ・・・

 

 ふとかな姉の方を見ると・・・

 

 「っ!?」

 

 偶然目が合ってしまい、かな姉が恥ずかしそうに俯いてしまう。

 

 やれやれ・・・

 

 「ねぇかな姉、この後時間ある?」

 

 「え・・・?」

 

 俺の質問に、キョトンとしているかな姉。

 

 「大丈夫だけど・・・どうして?」

 

 「ちょっと寄り道して帰らない?行きたいところがあってさ」

 

 「行きたいところって?」

 

 「それは行ってからのお楽しみ」

 

 「え~、教えてくれないの~?」

 

 「アハハ、行けば分かるよ」

 

 俺はそう言うと、かな姉の手を握った。

 

 「ふぇっ!?ちょ、天くん!?」

 

 「行くよかな姉!ダッシュ!」

 

 「えっ、走るの!?」

 

 「同好会の練習休んでるんだし、これくらいの運動はしないと!」

 

 「そ、そんなぁ!?」

 

 「ほら、急ごう!」

 

 かな姉の手を引っ張り、走り出す俺なのだった。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「到着~」

 

 「ハァッ・・・ハァッ・・・つ、疲れたよ~・・・」

 

 息切れしているかな姉。

 

 やれやれ・・・

 

 「情けない・・・明日から練習メニュー増やすからね」

 

 「か、勘弁してよ~!?」

 

 悲鳴を上げるかな姉だったが、周りの景色を見てハッとした表情を浮かべる。

 

 「あれ、ここって・・・」

 

 「懐かしいでしょ?」

 

 笑う俺。

 

 俺達がやって来たのは、何の変哲も無い小さな公園・・・

 

 それでも俺達にとって、ここは思い出の場所だった。

 

 「昔はよく、この公園で遊んだよね。はるちゃんも一緒に三人で」

 

 「うん、懐かしいね~・・・あっ、ブランコ!」

 

 かな姉がブランコの方に駆け寄っていく。

 

 「昔はよくこれで遊んだな~」

 

 「久しぶりに乗ってみなよ。俺が押してあげるから」

 

 「じゃ、じゃあ少しだけ~・・・」

 

 少し恥ずかしそうにブランコに座るかな姉。

 

 俺はかな姉の後ろに立つと、ゆっくり背中を押した。

 

 かな姉を乗せたブランコが小さく揺れる。

 

 「フフッ・・・こうしてると~、昔に戻った気分だね~♪」

 

 「アハハ、ホントにね。昔はよくかな姉に押してもらってたっけ」

 

 「昔は彼方ちゃんの方が背が大きかったもんね~。すっかり抜かされちゃったけど~」

 

 「成長期だもん」

 

 「むぅ・・・彼方ちゃんも成長してるのにぃ・・・」

 

 ちょっと悔しそうなかな姉。

 

 まぁ成長はしてるよね・・・どこが、とは言わないけど。

 

 「天くんはすっかり大きくなっちゃって・・・カッコ良くなっちゃってさ~。今じゃモテモテだもんね~」

 

 「いや、別にモテないよ?」

 

 「同好会の二年生組の女の子達と、凄く仲良しじゃ~ん」

 

 「まぁ同い年だし」

 

 あれ、かな姉ちょっとご機嫌斜め?

 

 「皆可愛いもんね~。この女ったらし~」

 

 ちょっと拗ねたような態度のかな姉。

 

 やれやれ・・・

 

 「・・・かな姉」

 

 「っ!?」

 

 押すのを止め、かな姉を背中からギュッと抱き締める。

 

 かな姉がビックリしていた。

 

 「そ、天くんっ!?」

 

 「・・・好きだよ、かな姉」

 

 「っ・・・」

 

 息を呑むかな姉。

 

 「歩夢も侑も、愛もせつ菜もランジュも・・・皆可愛いと思う。凄く魅力的な女の子達だと思う。それでも・・・」

 

 かな姉を抱く腕に力を込める。

 

 「それでも俺が好きなのは、かな姉なんだよ。昔からずっと想ってるのは、かな姉ただ一人なんだよ」

 

 「天くん・・・」

 

 「好きだよ、かな姉・・・大好き」

 

 かな姉が俯く。

 

 後ろからなので表情は見えないが、耳が真っ赤になっていた。

 

 「・・・彼方ちゃんで良いの?」

 

 「え・・・?」

 

 「本当に・・・彼方ちゃんで良いの?」

 

 震えているかな姉。

 

 俺はハッキリと告げた。

 

 「うん・・・俺はかな姉が良い。かな姉じゃなきゃ嫌なんだよ」

 

 「っ・・・」

 

 俺はかな姉を離すと、正面に回りかな姉の顔を見た。

 

 かな姉は・・・泣いていた。

 

 「え、ちょ・・・何で泣いてんの!?」

 

 「うぅ・・・天くんのバカぁ・・・」

 

 「はい!?」

 

 「女ったらし~・・・鈍感~・・・」

 

 「急に罵倒の嵐!?」

 

 「うぅ~・・・」

 

 抱きついてくるかな姉。

 

 「実はね~・・・今朝の天くんと遥ちゃんの会話、聞こえちゃって~・・・」

 

 「えっ、起きてたの!?」

 

 「最初は寝てたんだけど、途中で起きちゃって~・・・でもあんな会話してるから、起きるに起きられなくて~・・・」

 

 「oh・・・」

 

 ってことは、俺のかな姉への気持ちは知られてたのか・・・

 

 そういえばエマさんから、『朝から彼方ちゃんの様子がおかしいんだけど、天くん何か知ってる?』って連絡きてたっけ・・・

 

 エマさんゴメン、原因は俺だったわ・・・

 

 「・・・何かゴメン」

 

 「もう良いの~・・・彼方ちゃんも今日のお昼休みに、食堂で公開告白しちゃったから~・・・」

 

 「あぁ、皆から質問攻めにされたやつね・・・」

 

 「な、何かゴメンね~・・・」

 

 「大丈夫大丈夫。歩夢以外は『雷●八卦』ぶちかましたから」

 

 「よ、容赦ないね~・・・」

 

 ちょっと引いているかな姉。

 

 いや、アイツらはあれくらいやっても良いと思う。

 

 特に愛とランジュには、全力でぶちかまてやったし。

 

 「・・・かな姉」

 

 かな姉を見つめる俺。

 

 「俺と・・・付き合ってくれる?」

 

 「・・・彼方」

 

 「え・・・?」

 

 「彼方って呼んでくれなきゃ、付き合ってあげないも~ん」

 

 そっぽを向くかな姉。

 

 俺は苦笑すると、最愛の彼女の名前を呼んだ。

 

 「俺と付き合ってほしい・・・彼方」

 

 「っ・・・はいっ♪」

 

 屈託の無い笑みを浮かべる彼方。

 

 やがてどちらからともなく、二人の顔の距離が近付いていき・・・ゼロになった。

 

 唇に触れる温もりが、愛おしくてたまらない俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《彼方視点》

 

 「ふんふんふ~ん♪」

 

 「ご機嫌だね」

 

 鼻歌を歌いながら寝る準備をしていると、天くんが苦笑していた。

 

 「勿論だよ~♪」

 

 笑顔を返す彼方ちゃん。

 

 「だって天くんと、二人きりの夜を過ごせるんだも~ん♪」

 

 そう、今夜天くんは近江家に泊まることになった。

 

 そもそものキッカケは、遥ちゃんに電話で天くんと恋人になったことを報告したことだった。

 

 泣いて喜んでくれた遥ちゃんだったが、『今夜は友達の家にお泊りするから、お兄ちゃんは近江家にお泊りするように!』と言い出したのだ。

 

 しかもお母さんに連絡してくれたらしく、帰ってきた彼方ちゃん達を待っていたのはお母さんの熱烈なハグだった。

 

 『これで天くんも近江家の一員ね!』と喜びを爆発させたお母さんは、『今夜は二人きりでごゆっくり~♪』と言いながら夜勤へ行ってしまったのだ。

 

 つまり今夜、この家には彼方ちゃんと天くんの二人だけしかいない。

 

 「何か展開が急過ぎて、ついていけないんだけど・・・」

 

 「むぅ・・・天くんは嬉しくないの~?」

 

 「いや、勿論嬉しいんだけど・・・まさか朝の電車ではるちゃんと話してた時、夜にこんな状況を迎えてるとは思わなかったからさぁ・・・」

 

 「フフッ、まぁ確かにね~」

 

 本当に色々なことがあった一日だったと思う。

 

 ちなみに同好会の皆にも、天くんとのことをちゃんと報告しておいた。

 

 皆凄く喜んでくれて、嬉しかったな~・・・

 

 「明日の朝は~、久しぶりに彼方ちゃんが手料理を振る舞ってしんぜよう~」

 

 「マジで?じゃあ卵焼き食べたい!」

 

 「オッケ~。あっ、卵焼きといえば・・・」

 

 彼方ちゃんは、今日のお昼休みのことを思い出した。

 

 「天くん、食堂で歩夢ちゃんに『あ~ん』してもらってたでしょ~?」

 

 「ぎくっ・・・あ、あれは愛が余計なこというから・・・」

 

 「『結婚しよう歩夢』って言ってたでしょ~?」

 

 「そ、それは流れというか何というか・・・」

 

 「むぅ・・・この浮気者~・・・」

 

 つい膨れっ面になってしまう。

 

 彼方ちゃん、結構独占欲が強いのかも・・・

 

 「アハハ、ゴメンゴメン・・・歩夢の卵焼きも美味しかったけど、俺の中で卵焼きと言えば彼方の味なんだよなぁ」

 

 「そ、そうなの~?」

 

 「うん、あの優しい味が凄く好きでさ・・・毎日食べたいなって思うよ」

 

 「ま、毎日!?」

 

 そ、それって・・・もしかしてプロポーズ!?

 

 「あ、そういうんじゃなくて!いや、ゆくゆくはそうなったら良いなとは思うけど!」

 

 慌てて弁解する天くん。

 

 「彼方がずっと側にいてくれたら、それだけで幸せなのになって・・・あの頃から、ずっと思ってたから」

 

 「天くん・・・」

 

 「だから今日食堂で、彼方が俺を『大好きな人』って言ってくれた時・・・本当に嬉しかったんだよ」

 

 彼方ちゃんの手を握る天くん。

 

 「ありがとう・・・彼方」

 

 「っ・・・」

 

 思わず天くんに抱きつく。

 

 優しく抱き締めてくれる天くん。

 

 あぁ、幸せだなぁ・・・

 

 「ねぇ、天くん・・・彼方ちゃん、もう我慢出来ない」

 

 「え・・・むぐっ!?」

 

 「んっ・・・」

 

 天くんの唇を、彼方ちゃんの唇で塞ぐ。

 

 そのままベッドに倒れ込んだ。

 

 「ぷはっ・・・フフッ、今夜は寝かさないよ~?」

 

 「彼方が一番言わないであろうセリフを口にしてる!?」

 

 「お母さんに、本当に見せてあげよっか~・・・孫の顔♪」

 

 「ちょ、俺の理性がもう・・・」

 

 「彼方ちゃんの身体・・・天くんの好きにして?」

 

 「っ・・・」

 

 「あんっ♡もう、天くんのエッチ♡」

 

 翌日、二人揃って寝坊したことは言うまでもないのであった。




どうも〜、ムッティです・・・( ˘ω˘)スヤァ

改めて彼方ちゃん、誕生日おめでとう!

言ったことあるか分かりませんが、ムッティのニジガクの推しメンは彼方ちゃんです!

可愛さは勿論のこと、優しさ!包容力!おっとり感!

あ〜、たまらん(^^)

妹想いで料理上手で努力家とか、もう完璧かよ・・・

CV:鬼頭明里だし←

ニジガクの小説を書くことがあったら、ヒロインは彼方ちゃんに・・・

いや、それぞれのメンバーがヒロインの短編とか面白そう・・・色んな子とイチャイチャ出来るし(浮気者)

っていうかその前に、早く本編更新しないと・・・

ことりちゃんが内浦に来てから一ヶ月だよ(現実時間)

早く更新出来るように頑張ります(T_T)

それではまた次回!以上、ムッティでした!

すやぴ(-_-)zzz


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【朝香果林】一生の付き合い

長らくの失踪、本当に申し訳ありませんでした(土下座)

本編ではありませんが、果林ちゃんの短編をお送り致します。

ニジガクのアニメ二期で卒業を寂しがる果林ちゃんを見て、『こんな話を書きたい!』と思って書いたものです。

それではいってみよー!


 「果林ちゃんの様子がおかしい?」

 

 首を傾げるエマ。

 

 ある日の昼休み、俺は彼方やエマと一緒に学食で昼食を食べていた。

 

 ちなみに果林はライブが近い為、昼食もそこそこに部室へ練習に行っていた。

 

 「そうなんだよ。ここ最近、何か思いつめてるっていうかさ」

 

 「何だろう・・・ダイエットのせいでお腹空いてるのかな?」

 

 「エマの脳みそってパンで出来てんの?」

 

 「酷くない!?」

 

 ショックを受けるエマ。

 

 食欲と発育の怪物に聞いたのが間違いだった・・・

 

 「まぁ、心当たりはあるかな~」

 

 俺達のやりとりに苦笑しつつ、顎に手をやる彼方。

 

 「何だかんだ言って、二人も心当たりあるんじゃないの~?」

 

 「・・・そりゃまぁ」

 

 「意識する時期だもんねぇ・・・」

 

 表情が曇る俺とエマ。

 

 既に十二月に入り、季節はすっかり冬となっている。

 

 この冬が明け、春になってしまえば・・・

 

 「卒業、か・・・」

 

 溜め息をつく俺。

 

 三月になれば、俺達三年生は卒業・・・

 

 果林がそれを寂しがっていることくらい、皆最初から分かっていた。

 

 「こ~ら、天くんまで落ち込まないの~」

 

 彼方が両手で俺の両頬を挟む。

 

 「果林ちゃんを元気付けたいんでしょ~?天くんがそんな顔してちゃ、メッ!だよ~」

 

 「・・・ゴメン」

 

 果林だけじゃない。

 

 俺も彼方もエマも、本当は凄く寂しい。

 

 それでも・・・

 

 「・・・果林のあんな顔、見たくない。果林には、心から笑っててほしい」

 

 「フフッ、よく言えました♪」

 

 俺の頭を撫でるエマ。

 

 「果林ちゃんに伝えよう?私達の気持ちを」

 

 「・・・うん」

 

 頷く俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《果林視点》

 

 「・・・ハァ」

 

 溜め息をつく私。

 

 放課後の練習も終わり、職員室へ行った天の帰りを部室で待つ。

 

 その間、私の頭の中を占めていたのは・・・

 

 「・・・もうすぐ、終わっちゃうのね」

 

 部室を見渡す私。

 

 卒業すれば、もうこの部室でスクールアイドルの練習をすることもない。

 

 同好会の皆と、ここで一緒に過ごすこともない。

 

 それがたまらなく寂しかった。

 

 「・・・留年しちゃおうかしら」

 

 「縁起でもないこと言わない」

 

 「あたっ!?」

 

 頭を小突かれる。

 

 見上げると、天が呆れた顔をして立っていた。

 

 「天!?いつからいたの!?」

 

 「『・・・ハァ』から」

 

 「最初からじゃない!?いつの間に部室に入ってきたのよ!?」

 

 「普通に入ってきたよ。まぁどこかの誰かさんはボーっとしてて、全然気付いてくれなかったけど」

 

 「うぐっ・・・」

 

 言葉に詰まる私。

 

 天は溜め息をつくと、私の隣に腰を下ろした。

 

 「留年したって、いつかはここを去らなきゃいけないのは変わらないよ。それが早いか遅いかだけの違いなんだから」

 

 「・・・分かってるわよ」

 

 「あとかすみに『果林せんぱぁい、留年ですかぁ?』って煽られるよ」

 

 「絶対卒業するわ」

 

 あの子が絶対に言いそうなセリフが脳内再生され、思わず顔を顰める。

 

 それを見て、天がクスクス笑っていた。

 

 「ホント、果林は負けず嫌いだねぇ」

 

 「面倒くさい女で悪かったわね」

 

 「うん、ホント面倒くさい」

 

 「そこは否定しなさいよ!?これでも貴方の彼女なのよ!?」

 

 「知ってるよ」

 

 笑いながら私の頭を撫でる天。

 

 「そんな果林のことを、俺は好きになったから」

 

 「っ・・・」

 

 この男はホント・・・

 

 何でそういうセリフをサラッと言えるのかしら・・・

 

 こっちの顔が赤くなりそうになっていると、突然天が私を抱き寄せた。

 

 「ちょ、天!?」

 

 「・・・俺もね、ホントは寂しいよ」

 

 ポツリと呟く天。

 

 「かすみをからかえなくなるのも、しずくのお芝居に付き合えなくなるのも、璃奈の璃奈ちゃんボード作りを手伝えなくなるのも、栞子の仕事を手伝えなくなるのも・・・凄く寂しい」

 

 「天・・・」

 

 「侑のひたむきに突っ走る姿を見れなくなるのも、そんな侑を見守る歩夢の優しい顔を見れなくなるのも、愛のダジャレを聞けなくなるのも、せつ菜とアニメ話で盛り上がれなくなるのも、ランジュのワガママに付き合えなくなるのも・・・凄く寂しい」

 

 天の言葉からは、仲間達への愛が溢れていた。

 

 「ミアとハンバーガーを食べに行けなくなるのも、エマの美味しそうに食べる姿を見れなくなるのも、彼方の幸せそうに昼寝する姿を見れなくなるのも・・・凄く寂しい」

 

 そう言うと、天が私の方を見た。

 

 「それに・・・果林のスクールアイドル姿を見れなくなるのも、凄く寂しい」

 

 「っ・・・」

 

 「でも、寂しいことばかりじゃないよ」

 

 微笑む天。

 

 「大学生活は少し不安だけど・・・果林が一緒だから。凄く楽しみにしてるんだ、俺」

 

 「天・・・」

 

 「それに・・・ここに来れば、また皆に会えるから」

 

 部室を見渡す天。

 

 「これで終わりじゃない。サヨナラじゃない。だから・・・」

 

 天が私の頬に手を当てる。

 

 「そんな悲しそうな顔しないでよ。俺まで悲しくなっちゃう」

 

 「・・・ごめんなさい」

 

 気付けば涙が溢れていた。

 

 天の手をギュッと握る。

 

 「そうよね・・・これで終わりじゃないのよね・・・サヨナラじゃないのよね・・・」

 

 「当たり前でしょ」

 

 あやすように、背中を優しく叩いてくれる天。

 

 「だから俺達は、胸を張って笑顔で卒業しよう。最後くらい、後輩達に先輩のカッコいいところ見せなくちゃ」

 

 「フフッ・・・そうね」

 

 涙を拭う私。

 

 「それを言ったら、私は天の方が心配よ。貴方絶対卒業式で泣くでしょ」

 

 「それは否定出来ないかなぁ・・・まぁエマと彼方の方が泣きそうだけど」

 

 「それは心外だなぁ」

 

 「彼方ちゃん、こう見えても結構強い子なんだぜ~」

 

 「っ!?」

 

 慌てて振り向くと、エマと彼方が笑いながら立っていた。

 

 「二人とも!?いつからいたの!?」

 

 「『・・・ハァ』から」

 

 「まさかの最初から!?」

 

 「フッフッフ~、天くんと一緒に入ってきたのだ~♪」

 

 「・・・そ~ら~?」

 

 「ドッキリ大成功!」

 

 「それで済むかぁっ!」

 

 「ぎゃあっ!?」

 

 「あっ、果林ちゃんが天くんを押し倒した!?」

 

 「果林ちゃん、ここでR-18展開はマズいんじゃないの~?」

 

 「違うわよ!?」

 

 「キャーッ、果林に襲われるぅ!」

 

 「天は人聞きの悪いこと言わないのっ!」

 

 「よ~し、彼方ちゃんも天くんを襲っちゃうぞ~」

 

 「何でそうなるのよ!?」

 

 「じゃあ私は果林ちゃんを襲っちゃうぞ~!」

 

 「エマまで!?」

 

 彼方が天に抱きつき、エマが私に抱きついてくる。

 

 何なのよもう・・・

 

 「あとは~・・・」

 

 「こうしよっか!」

 

 「うわっ!?」

 

 「きゃあっ!?」

 

 彼方が天の背中を、エマが私の背中を押す。

 

 私と天が再びくっつき、四人で抱き合う形になった。

 

 「ちょ、何するのよ!?」

 

 「フフッ、良いではないか~」

 

 「天くんも幸せそうな顔してるしね」

 

 「あぁ、ここが天国か・・・」

 

 「彼女の前で鼻の下伸ばしてるんじゃないわよ!?」

 

 全く、天ときたら・・・

 

 「・・・ハハッ」

 

 「天・・・?」

 

 不意に笑う天。

 

 どうしたのかしら・・・?

 

 「ホント・・・幸せ者だよ、俺は」

 

 「あら、そんなに女の子の身体を堪能出来ることが幸せなのかしら?」

 

 「それは間違いない」

 

 「断言したわね・・・」

 

 「天くんはブレないね~・・・」

 

 「いっそ清々しいよね・・・」

 

 彼方とエマも苦笑している。

 

 やれやれだわ・・・

 

 「アハハ、まぁそれもそうなんだけど・・・出会いに恵まれたな、と思ってさ」

 

 笑う天。

 

 「果林がいて、彼方がいて、エマがいて・・・三人が同級生で、本当に良かった」

 

 「天・・・」

 

 「大好きな彼女ができて、大切な親友が二人もできて・・・幸せだよ、俺は」

 

 私達を抱き締める天。

 

 「果林、彼方、エマ・・・ありがとう」

 

 「っ・・・」

 

 「も~・・・天くんはズルいな~・・・ぐすっ」

 

 「まだ卒業式じゃないのに・・・うぅ・・・」

 

 涙ぐむ私達。

 

 ホント、ズルいんだから・・・

 

 「・・・卒業で終わりじゃない。俺達はこれから、一生の付き合いになるんだから。寂しがることもないでしょ」

 

 「フフッ・・・それもそうね」

 

 「エマちゃん聞いた~?天くんがしれっと果林ちゃんにプロポーズしたぜ~?」

 

 「勿論♪果林ちゃんのOKの返事までバッチリ聞いちゃった♪」

 

 「プ、プロポーズ!?」

 

 「いや、その・・・間違ってはいない、かな・・・」

 

 珍しく照れている天。

 

 え、今のプロポーズだったの!?

 

 「まぁ、ちゃんとしたプロポーズはまたするけど・・・俺はこの先もずっと、果林と一緒に歩んでいきたいと思ってるよ」

 

 真剣な表情でそう言われ、これ以上ないほど顔が熱くなる私。

 

 そんな私達を見て、彼方とエマがニヤニヤしていた。

 

 「二人が結婚する時は~、彼方ちゃんが盛大にお赤飯を炊いてあげるね~♪」

 

 「天くんと果林ちゃんの子供、抱っこしたいな~♪」

 

 「うぅ・・・」

 

 恥ずかしすぎて顔から火が出そうだった。

 

 でも・・・

 

 「アハハ・・・まぁ先の話だし、ゆっくり考えてくれたらいいから」

 

 苦笑する天の頬を両手で挟む。天がキョトンとした顔をした。

 

 「果林?どうしt・・・んっ!?」

 

 「「おぉ~・・・!」」

 

 天の言葉を遮るようにキスをすると、彼方とエマが感嘆の声を上げていた。

 

 ゆっくり天から離れると、精一杯の言葉を紡ぐ。

 

 「これが私の答えだから・・・その・・・これからも、よろしくね・・・?」

 

 嬉しさと恥ずかしさが混ざり合い、心臓バクバクな私なのだった。




どうも〜、ムッティです。

前書きでも述べましたが、長らく更新が止まってしまってすみませんでした・・・

今年に入ってから一回も更新が無いっていうね・・・

読者の皆さんからは心配の声もいただきまして、本当にありがとうございました。

ご心配おかけしてすみません。

元気に生きてますので大丈夫です(⁠^⁠^⁠)

とりあえず時間がある時にちまちま書いていけたらとは思っていますが、超スローペースになるかもしれません・・・

どうか気長に、温かい目で見守っていただけると幸いです。

これからもこの作品をよろしくお願い致します!

それではまた次回!以上、ムッティでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。