緑谷出久は悪夢に喰われてしまいました (玉木一郎)
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悪夢の始まり

「勝己!起きなさい!!

出久君が…!亅

 

朝っぱらからドアをガンガン叩いてくる母親に苛つきながらもドアを開ける。

 

「ンだよ、ババア亅

 

「すぐに下に行ってニュース見てみなさい。

話はそれからよ亅

 

やけに動揺した母親の顔に疑問を抱きながらもテレビをつけた。

 

『昨日、折寺中学校の3年生 緑谷出久君(14)の靴が屋上から発見され、下には本人の物と思われる血があたりには飛び散っており…』

 

 

 

………………は?

 

「デク…?亅

 

何も出来ない木偶の棒のデクは俺の前から突然消えた。

 

 

 

 

 

 

 

学校に行くとクラスはデクの事で持ちきりだった。そしてデクの机には花瓶にいけどられた安っぽい花が置いてあった。

 

「緑谷君死んじゃったの?亅

 

「でも遺体は見つかってないんでしょう?亅

 

「誰かが持ち帰ったとか亅

 

「何のために?無個性よ彼亅

 

うるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇ!!!!

 

俺はデクの机を思いきり蹴った。花瓶の硝子の破片が辺りに飛び散る。

 

「カツキ!?何して…亅

 

「っせぇんだよテメェら!!亅

 

俺は床に落ちた花を踏みつけた。

 

「こんな花…!!テメェら何勝手にデクが死んだと思ってやがる!!

遺体は見つかってねぇんだぞあいつが…あいつが自殺なんざする訳ねぇだろ!!!亅

 

「お、おいカツキ。何でそんな向きになってんだ?

お前緑谷の事嫌いだったじゃんか亅

 

嫌いだった。確かにその筈だったんだ。

なのに何で俺はこんなに苦しい。何でこんなに怒ってる。

 

「…自殺しろって言ったのお前だろ亅

 

俺の取り巻きの一人が小声でそう言った。

それからの事は覚えていない。ただ無我夢中で相手を殴りつけた所先公が止めに入って親を呼ばれたらしい。

 

『幼馴染だったか?爆豪、今日はもう早退していい。混乱してるんだろう。今日はゆっくり家で休みなさい』

 

内申に拘っていた自分が何故あんな行動をとったのか自分でも分からなかった。

 

母親が運転する車の中で俺は外をぼんやりと眺めていた。

 

「なぁ、ババア亅

 

「ババアって呼ばない。亅

 

いつもより声が小さかった。

気を使ってくれているんだろう。

 

「俺はデクが死んだとは思ってねぇ亅

 

「…私もよ。亅

 

「俺はデクが嫌いだった。無個性のくせにヒーローになろうとする姿が見てて苛ついた。俺と同じ土俵に立とうとしてる身のほど知らずのバカが。

なのにデクがいなくなって生きた心地がしねぇ。

嫌いなのにな…亅

 

母親は何も言わずに黙って俺の話を聞いた。

誰かに聞いてほしいなんざ女々しい事を俺が思うなんてどうかしてる。

 

「会いたいんでしょ?出久君に亅

 

「………………ああ亅

 

「なら、インコさんの手伝いするのね。

出久君探す張り紙作りなさい。亅

 

母親はそう言って家についた途端俺の頭を撫でた。

母親の優しさに少し救われた気がした。

 

「待ってろクソナード亅

 

俺しかいない。

 

あいつを見つけ出せるのは

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「先生…本当にこいつ生きてるのか?亅

 

体にチューブが繋がれて意識のない出久は死人も同然だった。

 

「ああ。この子は植物状態になっているだけで生きているよ。亅

 

「何でこんな死にかけ連れてきたんだ?亅

 

「世にも珍しい無個性の子供でね。自殺したってことは余程辛いことがあったんだろう。洗脳したらヴィランにできると思ってね亅

 

「無個性?無個性のガキに何ができ…亅

 

その瞬間、弔の腕を出久が爪が食い込むほど強く掴んだ。

 

「…誰がガキだって?亅

 

「は!?こいつ…どうなってんだ!先生!!亅

 

「弔。僕も混乱しているよ。確かに彼は植物状態になって動けないはずだ。亅

 

酸素マスクを取り、体についていたチューブを引っこ抜いた出久は息をついた。

 

「…やっと出てこれた。手間かけさせんじゃねぇよ亅

 

「君は誰だい?亅

 

オールフォーワンは警戒しながらも出久に聞くと顔に似合わない不気味な笑みを浮かべた。

 

「緑谷出久…のもう一つの精神。

ずっと外に出たくてうずうずしてたんだよ亅

 

無個性の何も出来ない木偶の棒はもういない。

あるのは狂気に満ちた【何か】だけだ。

 

「ナイトメア(悪夢)とでも呼んでくれ。

先生亅

 

 

―緑谷出久は悪夢に喰われてしまいました―

 

 

 

 

 




 闇落ちデク君が好きすぎる…


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【俺】の物語

 


 【俺】は緑谷出久から産まれたもう一つの精神。

いや、産まされたと言ったほうがいいのか

 

【俺】が産まれたのは出久が4歳になった時医者から無個性と診断された日だった。

 

「ごめんねぇ…ごめんね出久…亅

 

泣いて謝る母親に出久は思った。

 

違う。僕は無個性なんかじゃない。だってヒーローになるんだもの。オールマイトみたいなカッコいいヒーローに…かっちゃんみたいなカッコいい個性が出てくるはずなんだ。これは僕の夢なんだ。

 

拒絶

 

 

憧れてたヒーローになれない絶望感を齢4歳にして味わった出久の精神はとても耐えられるものじゃなかった。

小さい頃に誰だって〈仮面ライダーになる〉とか〈アイドルになりたい〉だとか叶わないような現実味の無い夢を抱く。それを出久は壊される時期が早すぎたのだ。

 

他人事と思わなければやっていけなかった。

 

そこで【俺】が産まれた。

出久の身を守る為の二重人格とは少し違う自我を持った存在が。

 

大丈夫だ出久。【俺】がいる…

 

でもこんなの地獄への序章にしか過ぎなかった。

 

 

 

「無個性!こっち来んな!亅

 

「無個性が移ったら大変だ!皆急げー!亅

 

子供というのは残酷な生き物だ。

まだやって良いこととやっちゃいけない事の差別すらついていない。幼稚園から出久は仲間ハズレにされ、殴られた。

 

それを【俺】は見る事しかできなかった。

俺は精神だけの存在。出久と入れ替わってあげたくても何かキッカケが必要だった。

 

 

「かっちゃん!一緒に遊ぼ!」

 

出た。爆豪勝己

 

幼稚園生の癖に生意気で暴力的。将来のヴィラン候補だなこいつは。

 

「いいぜ。デクも入れてやんよ」

 

「本当!?」

 

お、意外に優しい

 

「ヒーローごっこやるからお前、ヴィランな!」

 

前言撤回。四歳にしてクソを下水で煮込んだみたいな性格してやがる。

 

それから爆豪勝己は出久を遊びには誘うものの対等な関係ではない。まるで飼い主と奴隷みたいだ。

四歳でもう格差社会というものが染み付いている。

小学校にあがってからは同級生たちは殴る事はしなくなったものの無視を始めた。出久の存在が空気みたいに。

担任からいじめはしてはいけないものと厳しく言われているのもあってか肉体的な暴力はなくなったが、悪口に無視はねぇだろ。

 

変わってやりてぇなぁ…クラスメイト全員病院行きにしてやるのに

 

どんなに苦しいだろうか。どんなに辛いだろうか。

【俺】は見てることしか出来ない。無力だ。

爆豪勝己は時々遊んでいたものの高学年になってから話さなくなっていた。

 

そして最悪な中学時代

 

出久のいじめが酷くなった。

思春期を迎え、中学の奴らは無個性というだけで出久をいじめのターゲットにした。

クラスメイトは勿論そんなのは見て見ぬふりだ。

 

 

爆豪勝己は主犯だった。

10年も一緒にいた出久にどうしてそんな酷い事ができる?

 

【俺】が出てこれる事があったら殺してやる…

 

爆豪勝己の取り巻きに水をかけられたこともあった。サンドバックにされた事もあった。出久がずっと追い続けたヒーローの夢をバカにされる事もあった。

でも出久はそんないじめに負けなかった。

絶対にヒーローになると諦めなかった。健気な姿に泣きたくなってくる。

 

中学3年の時に事件は起きた

 

担任が進路希望を朝のホームルームに聞いたところ皆ヒーロー志望だった。

 

は?

 

てめぇら全員出久のいじめを見てみぬふりをしただろ

誰一人助けなかったくせに何を言ってる?

爆豪勝己は雄英高校に進学すると宣言した。主犯のお前がナマいってんじゃねぇよ。

 

「そう言えば、緑谷も雄英志望だったな」

 

今このタイミングで言うか!?担任

 

「勉強出来るだけじゃ行けないんだぞー」

 

案の定降ってきた罵倒の雪崩

 

「テメェに何が出来るってんだ!?」

 

 

 

帰り際、出久は辛そうな顔をしていた。

出久の味方になってあげられるのは【俺】しかいない。

だが、対話をすることも出来ない。出久の精神も限界だ。どうにかして入れ替わる方法を考えねぇと…

 

そんな事を考えていた時に爆豪勝己が現れは耳を疑うような言葉を吐いた。

 

「来世は個性が宿ると信じてワンチャンダイブ!!亅

 

自殺教唆だ。

そこで出久の精神が完全にぶっ壊れた。

失意のまま辺りをうろついて夜の9時を回った頃出久はブツブツとヒーロー観察するときみたいに何かを呟き始めた。

 

「ああ…そっか…何で気が付かなかったんだろ…

やっぱりかっちゃんは天才だ…亅

 

誰もいない学校に忍び込み、屋上に上がった出久はフェンスを登って行った。

 

止めろ!!出久!!!

 

聞こえないと分かっていても叫ばずにはいられなかった。お前が苦しむ必要なんて何一つないのに何でこんなに辛い思いをしなきゃならない?無個性で生まれたってだけで何でこんなに虐げられなきゃいけない?

 

「月がきれいだなぁ…空でも飛べちゃいそうな夜だ亅

 

頬に涙がつたった。

 

「来世は…僕が生きやすい世の中に…亅

 

出久は飛び降りた。

深い深い闇の底へと落ちていった出久は幸せそうな顔をしていた。

 

 

出久

 

 

 

 

 

 

守ってやれなくて…ごめんなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無個性?無個性のガキなんざ役に立つのか?亅

 

目を開けたら体は重くて痛かった。

【俺】は痛覚を感じない。まさか…

 

「…誰がガキだって?亅

 

手が動く。声が出せる。

入れ替わったんだ!!!

 

「余計な手間かけさせやがって…亅

 

出久は多分、生きるのを拒絶したんだと思う。だから【俺】が出てこれた。

俺がこの体を使ってやれる事はただ一つ

 

「ナイトメアとでも呼んでくれ、先生亅

 

このヒーロー社会を壊すんだ。

どんな手段を使ってもいい、出久を否定したこの世界を俺が正してやる。

出久がまた生きたいって思えるような世界に

 

 

「出久、楽しみだなぁ亅

 

 

 

だからその時まで眠っていてくれ

 

 




 「久しぶりだなぁ爆豪勝己亅

「テメェ…誰だ!!亅

次回 「悲劇」

出久の為なら俺はヴィランとだって手を組むよ





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