GODGRID ─決戦機動電光超人─ (ミレニあん)
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第1回 転・移 ‐右往左往怪獣エニグリム出現‐

 アニゴジとグリッドマン、同時期に発表された特撮アニメで、どっちも好きな作品です!
 この二作品をクロスさせるのが夢でしたが、こうして陽の目に出す事が出来ました。ぜひともご覧ください!


「よし、出来た~」

 

 カーテンを閉めきった薄暗い部屋に、明るい声が響き渡った。

 

 新条(しんじょう)アカネ。きめ細かいショートヘアーとダボダボのパーカー、そして可愛らしい顔つきが特徴的。

 また無頓着な所もあってか、ヒビが付いた眼鏡を着用している。

 

『ほほぉ、これまた特徴的な姿だねぇ』

 

「でしょう? 今回はブルトンとかイメージして作ったんだよ~。空間を操作してグリッドマンを翻弄するの」

 

 アカネの前には電源が付いたパソコンが置かれていた。

 画面にはゴーグルをした黒い怪人が大きく写っている。アレクシス・ケリヴ──色々とあってアカネと協力し、数々の暗躍を行っている人物だ。

 

 アレクシスとアカネの間には一つの粘土があり、まるで抽象化させたようなウニのような形状をしている。一見すれば斬新かそうでないか曖昧なアートにも見えなくもない。

 

 これこそがアカネが作った怪獣の粘土。

 

 彼女は大の怪獣好き、その証拠に多数の怪獣ソフビがケースに保管されている。

 

『なるほどぉ、物理攻撃じゃなく空間操作を重視した訳だね。ちなみに名前は?』

 

「『右往左往(うおうさおう)怪獣エニグリム』。エニグマって英語があったからそれをもじったの。それよりも早く実体化させてよぉ」

 

『おっと、すまない。では早速……インスタンス・アブリアクション!!』

 

 アレクシスがコマンドを口にする。それこそが怪獣を実体化させる一種の呪文となっている。

 直後としてアレクシスのゴーグルアイが赤く発光。そうして怪獣の粘土を包み込み……

 

 

 

 #SSSS#

 

 

 

「内海……そろそろ帰る時間なんだけど」

 

「ああいや待ってくれ! ちょっといいページが見つかったからさぁ」

 

「……はぁ……」

 

 友達の行為に、響裕太(ひびきゆうた)はため息を吐くしかなかった。

 彼は内海将(うつみしょう)と共に本屋に出かけていた。それから目当ての小説を買ったので帰ろうとした矢先、内海が特撮系の雑誌を読みふけてしまったのだ。

 

 かれこれ30分近くそうなっている。そろそろ内海を置いて帰ってしまおうかと彼は考える。

 

「やっぱりレジェゴジはいいよなぁ……何かこう……このパワフルなフォルムとか鋭い目つきとかさぁ。裕太もそう思わねぇ?」

 

「あ、うん……まぁかっこいいんじゃないかな? 俺はよく分からないけど」

 

 どうもレジェゴジとかいうページを見ているらしい。

 以前にハリウッドのゴジラが上映されたのを裕太は覚えている。ただゴジラに詳しくないので、内海の話に全く付いていけない。

 

「……ん?」

 

 裕太の左腕からアラームが鳴り出している。

 そこには『プライマルアクセプター』という特別なアイテムを装着していた。これが鳴っているという事はただ一つ。

 

「内海戻ろう! 怪獣が出てきた!」

 

「お、おう! いい所だったけどしょうがねぇかぁ」

 

 この街――ツツジ台では侵略を受けている。それを食い止めるのが、裕太達グリッドマン同盟の役目。

 

 二人が急いで街中を走り出す。その途中、ある物が目に入る。

 

「あれか、怪獣は!」

 

「うぉ!? ブルトンかあれ!?」

 

「えっ、ブルトン?」

 

 ビルの上から覗き込んでいる巨大な物体。

 

 まるで青と赤の絵の具をぶちまけたような体色。獣的な要素はなく、まるでウニを思わせるような針の固まり。

 今まで裕太達は『怪獣』という巨大生物と戦ってきた。しかしその怪獣はそんな生物的な雰囲気はなく、まるでそれ自体がオブジェのようにも見える。

 

 それが街のど真ん中に鎮座されているのが、なんとも不気味だ。

 

「すいません遅れました!」

 

「あっ、お帰り」

 

「おう、おせーよお前ら。ちゃっちゃと終わらせようぜ」

 

 着いた先はリサイクルショップ『(あや)

 

 まず声を掛けてきたのは『絢』の娘である宝多六花(たからたりっか)。クールな雰囲気を醸し出した黒髪の少女。

 次に言ってきたのが、女の子にも見える黒スーツの少年ボラー。彼の他にも黒スーツを着た三人がおり、口元にマスク、腰に携えた刀、呑気にコーヒーを飲んでいたりと色々と個性的。

 

 彼ら四人の名は『新世紀中学生』。そして彼らと共に怪獣を倒すのが裕太、内海、六花……そして最後一人のグリッドマン同盟。

 

『裕太急ごう。奴は動いていないが、何をしでかすのか分からない』

 

「うん、分かった。……アクセス……フラッシュ!!」

 

 裕太が古びたジャンクパソコンの前に立ち、コマンドを叫ぶ。

 すると彼の身体がジャンクに吸い込まれ、街と怪獣の前に降り立つ。

 

 

 

 怪獣を倒す唯一の巨人、グリッドマンとして。

 

『……見た目から能力が判別出来ない……』

 

 街の中に立ち、構えを取るグリッドマン。

 彼の前には倒すべき怪獣がいる。いるのだが、攻撃はおろか特にこれといった動きを見せてこない。

 

 怪獣ではなく単なる物体では? 

 

 そう考えたグリッドマンだが、すぐに思い直す。そんな浅い考えが敗北に繋がる事をよく知っているのだから。

 そもそも立ち止まっても何も始まらない。まず牽制として怪獣に向かうグリッドマン。

 

 だが、

 

『……!?』

 

『な、なんだ……!? 身体が……!』

 

 グリッドマンの中にいる裕太の声。

 

 今、グリッドマンの動きが止まってしまっている。腕や足がピクリとせず、怪獣に近付く事もままならない。

 しかも直後、怪獣が消えてしまう。いや違う、正確にはグリッドマンが怪獣の背後へと()()した。

 

『何が起こっている……まさか空間操作……?』

 

 怪獣に振り返るグリッドマン。同時に周りにあるビル群が、一瞬にして消えてしまった。

 驚きを隠せなかったが、それでも呆気に取られている場合ではない。グリッドマンの頭上に、消えたはずのビル群が降ってきたからだ。

 

 落下。落下。落下。まるで隕石のように、ビル群がグリッドマンに襲い掛かる。

 彼は身のこなしの回避能力でかわしたが、

 

『グリッドマアアン!!』

『! グワア!!』

 

 グリッドマンに襲い掛かるタックル。吹っ飛ばされた身体がビルに叩き付けられる。

 

 そこにいたのは騎士(ナイト)と獣を複合させたような青い怪獣。

 

 人語を解し、グリッドマンの能力をコピー出来る謎の存在でもある(なお彼の名は『アンチ』と呼ぶが、その事をグリッドマン同盟は知らない)。

 

『貴様は俺が殺す! 今日、ここで!!』

 

『2対1……まずい……』

 

 裕太の言う通りだ。空間操作能力を持つ怪獣、能力をコピー出来る怪獣(アンチ)。形成不利だ。

 その前者がまたもやビル群を落下させてくる。これを回避したグリッドマンだが、突如目の前に怪獣(アンチ)が降ってくる。

 

『なっ!? グワッ!!』

 

『グウゥウ!!』

 

 グリッドマンと怪獣(アンチ)が激突。その衝撃が近くにあったビルの窓を破る。

 両者とも地面に倒れたのだが、怪獣(アンチ)の方が瞬時に立ち上がる。それも苛立っている辺りが見て取れた。

 

『こいつ俺を! 邪魔するなぁ!!』

 

 どうやらオブジェの怪獣によって転移された。そうグリッドマンが推測する。

 激怒した怪獣(アンチ)が、身体中にある発光部から光弾を発射。オブジェ怪獣に向かうも、それが消えてしまい、そして怪獣の背後に現れて飛んでいく。

 

 驚くべき空間操作。しかし怪獣(アンチ)は諦めず、光弾を何回も発射。今度がさっきよりも二倍三倍、あるいはそれ以上の数で応戦する。

 

 オブジェ怪獣は例の如く空間操作で退ける。ただ一つの光弾が向かい、怪獣に被弾――爆発。

 

『当たった……?』

 

 まさかの予想外に、グリッドマンが言葉を漏らす。もしかしたら空間操作にも限界があるのかもしれない。

 

 ただ、この時、何かがおかしくなる。

 

 

 

 ――……フオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……――

 

 

 

 

 オブジェ怪獣の咆哮だろうか。まるで怨霊の叫び声のような、そんな禍々しさ。

 

 すると、怪獣の前にあった自動車群が消滅。次にビルが消滅、またビルが消滅。そして怪獣の周り全体が消滅。

 

 怪獣の周囲にある全ての物体が、どこかへと転移されていく。

 

『クソッ! 巻き込まれ……』

 

 その消滅範囲に怪獣(アンチ)も入ってしまった。すぐに逃げようとしていたが、その身体が消えていき、跡形もなくなる。

 このままではグリッドマンも済まされない。彼もまた(きびす)を返したのだが、

 

『しまっ……』

 

 もうその時には、自分の足が消えていくのを見てしまった。

 足の感覚がなくなってくる。そうして身体がなくなっていき、果ては両肩までもが。まるでどこかへと連れていかれる感覚。

 

 グリッドマンの抵抗も虚しく、その身体がツツジ台から消え去った。



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第2回 邂・逅 ‐フツアの村‐

「……ん……」

 

 真っ暗な視界が少しずつ開けられる。

 最初に入ったのは仄かな光だった。それに慣れてくると、見慣れない天井が目に入る。

 

「……ここは……洞窟……?」

 

 裕太は軽く辺りを見回した。どうやら洞窟のようだが、燭台が灯されたりと人の手が加えられているようだ。

 さらに誰かが横で寝ているのが見える。友達の六花と内海だ。

 

「内海、六花! 二人とも大丈夫!?」

 

「……んん……ん? 響君……」

 

 六花が目を覚ます。その後に内海を起き上がり、辺りを見回す。

 

「……あれ? そういや俺達、怪獣の攻撃に巻き込まれて……」

 

「攻撃……もしかしてあの空間転移に?」

 

「あ、ああ……。これは逃げないとまずいってキャリバーさん達に言われたんだけど、それが間に合わなくて……というかキャリバーさん達は?」

 

 そういえば新世紀中学生の姿が見当たらない。あるいは先に起きてどこかに行ったのかもしれない。

 そう思った裕太が起き上がろうとした所、洞窟の奥から足音が聞こえてくる。それも少しずつこちらに向かってくる。

 

「……えっ?」

 

「あっ、どうやら起きたみたいだね。具合はどうかな?」

 

 裕太は新世紀中学生が帰ってきたかと思っていた。しかし実際来たのは大人の男女二人だ。

 

 男の方は二十代後半~三十代辺りの外国人男性。声を掛けてきたのはこちらの方である。

 そして女の方は裕太達とあまり変わらない歳の見た目をしている。切り揃えた茶髪のショートをして、カチューシャのような物を着けている。おそらく日本人あるいは日系人か。

 

 ただ問題は、共通点として白い服のような物を着ている事だ。まるでSFの特殊部隊が着るようなデザインをしている。

 

「ああ、すまない。言葉は分かるかな?」

 

「……ええ、何とか」

 

「ならよかった。僕はマーティン・ラッザリ。環境生物学者をやっている。で、こちらは同僚のユウコ・タニ曹長」

 

「よろしく。それで……あなた達の名前は?」

 

「あっ、はい。えと、俺は響裕太、それと友達の内海将と宝多六花です……」

 

「よろしくっす……」

 

「どうも……」

 

 二人して呆然としながら挨拶した。裕太自身も同じような感じなので突っ込む事も出来ない。

 見た所マーティン達から危害を加えようとか敵意とか感じない。それに気絶していた裕太達を介抱していたので、いわゆるいい人なのだろう。

 

 しかし服とか洞窟とかで中々安心は出来ない。

 

 そもそも裕太達はさっきまで怪獣と戦っていたのだ。何でこんな所にいるのかが分からない。

 

「ある部屋で倒れてたから皆驚いたよ。それと簡単な検査はしておいたけど、これといった怪我とかはなかったね」

 

「そうですか……。あの、ここはツツジ台でしょうか? それと黒服を着た人達は?」

 

「ツツジ台? 何だいそれは? 黒服の人達なら奥にいるけど」

 

 マーティンが洞窟の奥へと指差す。

 

 裕太は違和感を感じつつも、六花達と一緒に向かう事にした。洞窟を出ると、思いもよらない光景が広がっているのを目にする。

 

 まるで広大なアリの巣のような空間。そこに穴が無数開けられて、その上に規則的に結ばれた紐が垂れ下がっている。

 人もたくさんいる。見る限り民族衣装のような服を着ながら、壺を運ぶ槍を作るといった作業をしていた。

 それにボディペイントだろうか、身体中には塗料のような物が塗られている。

 

「……何ここ。内海君、何か分かる?」

 

「いや俺にもさっぱり……ただモスラでこんな原住民の描写あったけど……」

 

 六花と内海が話している間、原住民が物珍しそうに見てくる。

 きっと裕太達の姿に不思議がっている事だろう。裕太はぎこちなく愛想笑いしながら自分の服を見つめる。

 

「……この服、ちょっと違和感あるかもな……」

 

「裕太、やっと起きたみたいだな」

 

 ふと声がしてきた。

 振り向くと見慣れた黒スーツが二人、こっちに向かってくる。

 

「マックスさん、キャリバーさん! ……あれ、ヴィットさん達は?」

 

「様子を見に行くと外に行った。それよりもここは奇妙な場所だ」

 

「……住民達に敵意がないのが幸いかもしれない。言葉を話せない所が不気味だが……」

 

 マックスに続いてキャリバーも言う。

 確かに原住民は一度も言葉を発していない。マーティン達が流暢に喋っているのとは全く真逆である。

 

 ますます裕太は不思議な感覚に囚われてしまう。ここがどこなのか、何で怪獣の戦いからここに飛ばされたのか。

 こんな時にグリッドマンがいれば何か分かるかもしれない。そう思いたくなる。

 

「……そういえばグリッドマン……ジャンクは?」

 

「ん? ジャンク? もしかして前時代のパソコンの事かい?」

 

「えっ? まぁパソコンと言えばパソコン……ってマーティンさん知っているんですか?」

 

「ああ、確かそれは……」

 

 マーティがジャンクの事を知っているみたいだ。

 それを聞こうと思った矢先、彼の腕から声がしてきた。裕太達の視線が腕に向いていく。

 

『こちらアダム少尉!! セルヴァムが接近中!! 至急援護を!!』

 

「何、奴らが!?」

 

「博士、私行ってきます!!」

 

 どうも腕に付いている物は通信機のようだ。それを聞くなり、ユウコが慌ただしく走る。

 何が起こったのか裕太には分からなかった。一方でマックス達が後を追いかけるのを見て、いつしか自分も走り出す。

 

「あっ、裕太!」

 

「お、おい! 響君!」

 

 内海やマーティンから声を掛けられるが、裕太には返事する暇もなかった。その後ろを彼らが追いかけている事にも気付く余裕もない。

 ユウコがひたすら走っていると、いつしか目の前に光が見えてきた。どうやらあそこに外があるらしい。

 

 ユウコと共に外に出て、そして立ち止まった。

 

「撃てぇ!! 撃てぇ!!」

 

 マーティン達と同様の服を着た男達。その中に紛れている、三メートルはあろう顔のない白いロボット。

 それらが手に持っている銃火器を、上に向けて撃っている。

 

 裕太が見上げると、霧か雲に覆われた空があった。その空を、異形の影が無数飛んでいるのが分かる。

 まるで翼竜のような翼、長い首、耳触りな奇声。その姿はまさしく……

 

「怪獣!?」

 

「にしては小さい……メガヌロン枠か!」

 

 内海が変わった事を言っている間、小型怪獣の一体が急降下する。

 無数の弾幕をかわしつつ、一機のロボットへとしがみつく。ロボットが抵抗しようと暴れまわるが、小型怪獣が鉤爪を強く食い込ませて離さない。

 

 するとその時、その足からロボットへと何かが広がる。まるで水銀か銀色のカビのような、ともかく金属を液体にしたような物。

 その金属のような物がロボットの装甲を浸食している。

 何が起こっているのか裕太には分からないが、どう見てもまずいとしか思えない。

 

 バアアン!!

 

 小型怪獣が砲撃を喰らい、地面に倒れる。

 この場に急行してきた別のロボットからだった。ロボットが射撃を行いながら裕太達に振り向く。

 

『響君達はそこから離れない事! すぐに掃討する!』

 

「タニさん!」

 

 どうやらユウコ(あの人)はロボットのパイロットなんだ。

 

 裕太が判断するが、同時にこのままでは危険だとよぎる。未だに小型怪獣の数が減らず、なおかつ何らかの侵食を行ってくる。

 マックス達も同じ事を考えているだろう。それぞれガントレットと太刀を取り出す。

 

「我々も加勢するぞ、キャリバー」

 

「分かっている……」

 

 怪獣や世界に戸惑っている素振りすら見せない。彼らが怪獣を掃討しようと地面を蹴ろうとした

 

 

 

 その時、

 

 ――ガアアアアアアアア!!――

 

 甲高い悲鳴。小型怪獣の群れから巨大な爆発が起こった。

 爆風と爆炎が群れを呑み込み、消し炭にしてしまう。さらに別の群れからも爆発。悲鳴すらかき消す。

 

 何が起こったのか。よく見ると、上空から砲弾が発射されたようだ。

 それが怪獣に着弾し、破裂させている。

 

『……あの攻撃は!』

 

 ユウコの声。同時に上空の雲を切り裂くように何かが降ってくる。

 

 小型怪獣かと思えば、それとは全く違う。

 硬質な青黒い装甲に、機能美を感じさせる長い手足。

 背面から生やした巨大な翼。その翼から光のようなスラスターを噴射している。

 

 それはユウコが乗っているロボットと酷似していた。ただ野暮ったいそれとは違い、まるで機械仕掛けの鳥人のようだった。

 

「援軍か……?」

 

 キャリバーが鳥人を見上げながら呟く。

 

 一方、鳥人は目に留まらぬ速さで飛行し、両腕の火器を発射する。砲弾が怪獣の一体に着弾し、またもや爆発。

 突然の攻撃に、小型怪獣は混乱をしていた。さらに身の危険を感じたか、鳥人から逃げるように飛び去る。

 

「……行ったか」

 

 それぞれの武器をしまうマックス達。

 静かになったこの場に、鳥人がゆるやかに急降下してくる。祐太達と男達の前に着地すると、胸のハッチが開いてきた。

 

「すまない。偵察に時間を掛かってしまった」

 

 鳥人に乗っていたのは日本人の青年だった。

 祐太達よりもはるかに年上の印象。それでいてその瞳に、どこか感情的な強い意思が宿っていた。



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第3回 浸・食 ‐機動増殖都市メカゴジラシティ‐

 本来月曜日投稿でしたが、諸事情で今日に投稿することにしました。

 またお気づきかと思いますが、場所場所な故に六花ママは登場しません……。
 何とか出そうと思ったのですがタイミングがタイミングだったもので……申し訳ございません!


「んん……ん? あれ?」

 

「おお、やっと起きたか。心配していたぞ」

 

 目を開けると強面の顔が飛び込んできた。アレクシスである。

 さっきまでパソコンの中にいた彼だが、今は実体化してアカネの近くにいる。その姿を久々見たなと思いつつも、周りを見渡すアカネ。

 

 どうもここは薄暗い洞窟の中、どう見ても彼女自身の部屋ではない。

 

「ここどこ? というか私達……」

 

「エニグリムの暴走に巻き込まれて転移したらしい。まさかああなるとは私も思わなかったな」

 

「……ああ、確かそうだったねぇ……」

 

 右往左往(うおうさおう)怪獣エニグリムとグリッドマンの戦闘はドローンで把握していた。

 空間操作が思いのほか優秀で、最初はイケるとアカネは思った。ただそこに()()アンチの乱入だ。

 

 彼の行動でエニグリムが暴走し、自分の家ごと巻き込まれてしまった。

 

 それで自分達がどこかに転移されたらしい。しかも薄暗い洞窟という訳の分からない場所にだ。

 

「うわぁ、湿っているなぁここ……。アレクシスぅ、ここどこなの?」

 

「フツアの村の外れにある洞窟だ。君達は突然ここに現れたのだ」

 

「……えっ?」

 

 アレクシスではない誰かの声。

 どうも彼の背後にある暗闇から聞こえてきたらしい。そこから微かに、そしてゆっくりと靴音が聞こえてくる。

 

 そうして誰かが姿を現してきた。思わずアカネは眉を潜んでしまう。

 

「……誰?」

 

「彼が私やアカネ君を匿ってくれたのだ。名前は……」

 

「メトフィエス。以後お見知りおきを、麗しきお嬢さん」

 

 特徴的な結び方をして、病的なほどに白い髪。

 まるで人形のようにどこか無感情で、それでいて端正な顔つき。

 

 身長はアカネよりも大きく、アレクシスよりもやや小さい辺り。ただ身体つきが華奢なので、大きいといっても大柄な印象は全くない。

 着ている服はまるでSFに出てくるような白い戦闘服。顔つきの不釣り合いさが、どこか奇妙さと違和感を感じさせる。

 

「……はぁ、どうも」

 

 いきなりの事で戸惑うアカネだが、とりあえず会釈をする。

 同時に男性への違和感がさらに強まる。何故ならツツジ台の人間達は自分が手を加えた存在。こんな男性を手掛けた覚えは全くない。

 

「どうしたのかね?」

 

「あいや、何でもないです。ちょっとアレクシス、話が」

 

「ん、何々?」

 

 ひとまずアレクシスを連れて洞窟の隅へと移動した。

 共同者である彼なら何か知っている、そう彼女が思ったのだ。

 

「……今さっきあの人、フツアの村とか言ってたよね? ここって本当にツツジ台なの?」

 

「うむ、結論から言うとここはツツジ台じゃないね。正直言って、私もここがどこなのかハッキリと分からないんだ」

 

「はぁ? どういう……」

 

 おもむろにメトフィエスを見てみる。彼は二人を置いて洞窟の外に行っているようだ。

 外に行けば何か分かるのではと、アカネはひとまずメトフィエスの後を付いて行く。出るにつれて光が差し込み、思わず目を塞いでしまう。

 

「ようやく起きたか」

 

「……うっ」

 

 外に出ると一人の少年が立っていた。切り揃えた銀髪に鋭くも赤い目、黒い学ランにデザインされた炎のペイント。

臥薪嘗胆(がしんしょうたん)怪獣アンチ』。今の姿はあくまで仮の姿であり、戦闘時には青い怪獣に変化する。

 

 グリッドマンの能力をコピー出来るのだが、いかんせんおつむが弱くグリッドマンにやられてばかり。加えてさっきのエニグリム戦でも邪魔してきたので、アカネにとってはとにかく煙たい存在。

 

 そのアンチがメトフィエスと並んで、遠くの方を見ているようだ。

 

「メトフィエスさん、何でこの子を……それに二人して何を見て……」

 

 二人が見ている方を見た所、アカネは呆然とする。

 

 はるか彼方の地平線にある、巨大で異質な街。

 

 かなり遠くの方にあるはずなのに全貌が把握出来る。それほどに街が大きい。

 表面が青黒い金属に覆われて、まるでネオンのような光を灯している。それに微かに聞こえる機械の駆動音が、アカネの耳にこびりついた。

 

 まるでツツジ台が出来る以前の街にも似ている。そう思いながら、アカネがメトフィエスに向く。

 

「あの……あれ何ですか? 何かの軍事基地とか?」

 

「……『メカゴジラシティ』。かつて対ゴジラ兵器であったメカゴジラが、二万年を掛けて都市に進化した物だ」

 

「……はっ?」

 

 この場所やメトフィエスの事は知らないのだが、何故かその言葉から聞き慣れた物が出てきた。

 

 メカゴジラ。ゴジラ。

 

 アカネが好きなウルトラシリーズと双璧……というより先輩に当たる物に『ゴジラシリーズ』というのがある。作品ごとに違いがあるが、おおむねゴジラという怪獣が活躍するというのが共通点だ。

 その映画シリーズの中に、ゴジラを模したメカ怪獣『メカゴジラ』がいる。アカネはこの怪獣を知っているし、何より怪獣の中では割かし好きな部類に入る。

 

「……いやいや、あれがメカゴジラだなんておかしいでしょう? というかあれじゃあ怪獣じゃないし」

 

「お嬢さんが何を言いたのか分からないが、あれはまさしく『怪獣』だ。ナノメタルによる浸食を行い、そして取り込む。現に先ほどから我々はあのシティに手を焼かされている。このまま放っておけば我々……いや、地球その物が奴の一部になり果てるだろう」

 

「…………」

 

 会話が噛み合っていない。このメトフィエスというのは自分に酔っているのか。

 

 いずれにしてもアカネは、あの街をメカゴジラというのに抵抗を覚えた。怪獣はかっこよくて、その姿で暴れるからこそ輝いている。街の姿をしているなんて邪道以前の問題だ。

 

 誰が作ったのか知らないが、その人もろとも潰したくなる。

 

「……あんなのあり得ない……ぶっ壊したい……」

 

「ふむ、案の定メカゴジラシティにキレているねぇ。これで怪獣作成の理由が出来たという物」

 

「……どういう事、アレクシス?」

 

 アレクシスへと振り返るも、彼は答えなかった。

 代わりに隣にいるメトフィエスが言い出す。

 

「君の関する事はアレクシスから聞かせてもらった。怪獣を作っている事も。未だに半信半疑だが、もし本当ならぜひとも力を借りたい」

 

「具体的に何やるんですか?」

 

 アカネの質問に対して、メトフィエスがメカゴジラシティを見つめる。

 相変わらず何を考えているか分からないが、少しばかり目が細めているのをアカネは見逃さなかった。

 

「君達の手でメカゴジラシティを破壊してほしい。あれは存在してはいけない物だ」

 

 

 

 #SSSS#

 

 

 

 奇妙な事が起こるものだ。ハルオ・サカキは村の通路を歩きながら思った。

 

 彼の他には部下のアダム、ユウコ、博士のマーティン。そして三人の少年少女と新世紀中学生という二人組がいる。どれも服装が普通過ぎて、この場には全く似合っていない。

 

「……大尉、本当に信じるのですか? 彼らの話」

 

 ハルオへとアダムが尋ねてくる。

 本名はアダム・ビンデバルト。階級は少尉であり、血気盛んな若者。部下の中では信頼している方に入る。

 

「彼らがそう言っているのだから信じせざるを得ない。ここで嘘を言っても双方得はしないはずだ」

 

「それはそうなんですが……かと言って別世界からやって来たと言われてもすぐには……」

 

「俺達は今まで信じられない現象に立ち会ってきた。別世界の住人がいてもおかしくはないだろう」

 

 響裕太以下5名。

 

 彼らはこの世界の住人ではない、いわば別世界からの来訪者らしい。最初それを聞いた時はそんな馬鹿なと半信半疑だった。

 ただ着ている服や証言などで、ひとまず彼らの話は本当だと認める事にした。そもそも信じる信じないといった議論は時間の無駄になる。

 

「サカキ・ハルオ。そろそろ何が起こっているのか、我々に教えてもいいのではないだろうか?」

 

 背後からマスクの大男が言ってくる。

 確か名前はマックスだったか。あれから何の話もしていないので、そろそろ教える頃合いかもしれない。

 

「……俺達は旧富士山麓である物を発見した。それがこのメカゴジラシティ、対ゴジラ兵器のメカゴジラが進化した都市だ」

 

 腕の機器からメカゴジラシティの映像を出した。先ほど飛行兵器ヴァルチャーで偵察をした際、上空から撮った物だ。

 崩壊した富士山麓を埋め尽くすように広がる、金属の巨大要塞都市。

 その全貌を見せた途端、裕太達から息を呑むのが分かる。

 

「マジか……こっちの世界にもメカゴジラあんのかよ。ていうか街って……」

 

「内海知っているの、そのメカゴジラって」

 

「知らない訳ないだろう! 1974年に登場して以来、何度も登場した有名なロボット怪獣なんだぜ!? ていうかメカゴジラが存在するという事は、ここってゴジラシリーズの世界か?」

 

 どうも内海がメカゴジラの事を知っているようだ。

 もっとも別世界の情報ゆえか、ハルオ達の知るメカゴジラとは違いがあるのだが。

 

「そのメカゴジラシティをビルサルド……まぁ要は異星人だが。その一員であるガルグによって制御されていた。それさえあればゴジラを倒せる。そう彼らは信じて疑わなかった」

 

「えっ、ちょっと待って下さい。やっぱりゴジラもいるんですか?」

 

 内海が聞いてくる。

 何でここまで興味津々なのかハルオには分からなかったが、とりあえず返事をする。

 

「そうだ。この地球をゴジラから取り戻す為に俺達はやって来た。だからこそメカゴジラシティを最大活用しよう……そう思った矢先、構成素材であるナノメタルが暴走したんだ」

 

「僕達は逃げるのに精いっぱいだった。中にはナノメタルに取り込まれた仲間もいてね、あの時の光景が今でも忘れられない。それからフツアの村に戻って、あれを何とかしようと思っているって訳。まぁ、その間にナノメタルに汚染されたセルヴァムに襲われたりもしているけどね」

 

 ハルオに続いてマーティンが話してくれた。裕太達の視線が彼の方に向く。

 

「セルヴァムってさっきの怪獣の事ですよね?」

 

「ああ、簡単に言えばゴジラの亜種だ。メカゴジラシティがトラップとかで捕獲した後にナノメタルを注入させて、それで遠隔操作して操っているんだ。ナノメタルを拡散させる為の兵器としてね」

 

「……そんな事があったとは」

 

 裕太に動揺が走っている。

 

 ただ彼の仕草を見て、ハルオは違和感を感じる。シティに対しての反応が非戦力のそれじゃないからだ。

 まるでこういった事に慣れている。そんな姿だ。

 

「ここだ。ここに君が言っていたジャンクというのがある」

 

 目的地の部屋(というより洞穴か)に着いたので、ひとまず裕太に伝えた。

 いつ頃なのかよく分からないが、どうもこの部屋に古びたパソコンが現れたらしい。それが裕太の言うジャンクとの事。

 

「あっ、ありがとうございます!」

 

 慌ただしく部屋に入る裕太。

 続いて内海達も入ったので、ハルオも中に入る事にした。すると彼らが立ち止まり、絶句している。

 

「そ、そんな……」

 

 六花の声。

 

 彼らが探していたジャンクが、部屋の真ん中で粉砕されていた。辛うじてパソコンだと分かる液晶画面は、ケーブルを垂らしながら地面に垂れている。

 

 その姿を見て、裕太が絶望するように膝を突く。



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第4回 交・流 ‐ハルオと裕太‐

「ふむ、落ちた衝撃で部品が破損しているみたいだ……」

 

 薄暗い部屋の中。破損したジャンクを見ながらマックスが唸る。

 

 今、マックスとキャリバーでジャンクの修理を行っていた。とは言っても何もない場所でなおかつ修理道具もなし。この時点では、いくら新世紀中学生でも完全に直すのは難しいらしい。

 

 裕太はその作業をそばで見守る。ジャンクいじりなどやった事ないので、黙って修理が終わるのを待つしかなかった。

 

「おお、ここにいたかぁ……ってジャンクがやべぇ事になってんじゃん」

 

「これは厄介だなぁ、見る限りだと」

 

 部屋に二人の人物が入ってきた。

 ボラーとヴィットである。

 

「……ようやく戻ってきたか。外はどうだった?」

 

「いやさぁ、そこら中森だらけでめっちゃ不気味だったんだよな。しかも俺達は平気だったけど大気が猛毒らしいぜ」

 

「後、濃厚な霧のおかげで通信が遮断されているって。おかげでスマホもいじれないよ」

 

「そうか……とりあえず時間がない。ジャンクを直さない事にはグリッドマンが目覚めない」

 

 ヴィットの呑気な発言をスルー。キャリバーの指示で二人もジャンク修理に携わった。

 と、またもや一人部屋に入ってくる。

 

「いやぁ遅れてすまない。工具を持ってきたよ」

 

 マーティンが戻ってきたようだ。修理用の工具箱を持ってくると一旦離れていたのだ。

 

「助かるマーティン博士。それと色々と面倒を掛けてすまない」

 

「いやいやお互い様だよ。僕も前時代のジャンクを触れると思うとワクワクしてきてさ。さて、どこから手を付けようかなぁ」

 

 まるで新しいおもちゃに触れるように、嬉しそうに手を付けるマーティン。

 裕太は少しクスリと綻びつつも、彼に頭を下げる。

 

「本当にありがとうございます。見知らずの俺達にここまでしてくれて……」

 

「別にいいんだよ。それに響君、人間は本来助け合いながら生きていく生物なんだ。どんな外道でもそれは例外じゃない。君達の住む世界でも同様のはずだ」

 

「は、はぁ……」

 

 いきなり哲学……あるいは科学的な事をマーティンが言いだす。

 それは彼自身が科学者だから、というのもあるだろうか。

 

「僕達はその助け合いの共生を一切しない存在を知っている。確かにあれは貴重な研究対象だけど、同時になんとも孤独な存在だなと思いたくなるんだ」

 

「孤独……ですか?」

 

「ああ、色んな意味でね。それで話を戻すけど、君達が別世界の人間だからと言って助けない訳にはいかないんだ。だからこれは僕の勝手だと思ってくれ」

 

「…………」

 

 優しい人。マーティンに対して、裕太がそう思うようになった。

 

 彼はジャンクの修理をしながら新世紀中学生とたわいない話を始めた。裕也はもう一回頭を下げた後、部屋を後にする事にする。

 

「……助け合いの共生を一切しない存在……」

 

 マーティンが言っていた存在とは何の事だろうか。

 それが気になっていたが、ふと目の前に六花達の姿が見えてきた。どうも二人して誰かと話しているようなので、早速駆け付けてみる。

 

「二人とも、何しているの?」

 

「おっ、裕太! いやさぁ、この子達がテレパシー使えるんだよ! 頭の中に響く言葉がめっちゃリアルでさ!」

 

 内海の前を覗いてみると、二人の少女が立っている。

 まるで昆虫の羽を折り畳んだような薄緑色の髪、幼い顔つきと低い身長。着ている民族衣装とボディペイントからして、彼女達もフツアという原住民で間違いない。

 

 どちらも容姿が似ている事から、恐らく双子か。

 

 ただよく見るともう一方が穏やかな目つきで、もう一方がやや険しい目つきと微妙な違いがある。

 

「テレパシー? まぁえっと、俺は響裕太。君達は?」

 

《……マイナ……》

 

《……ミアナ……》

 

「!? 声が直接脳内に!?」

 

 脳から言葉が発信される、そんな気分だった。

 内海が言っていたテレパシーはどうやら本当の事らしい。

 

「なっ、なっ!? すげぇだろこれ! ちょっともう一回やってくれないかな? 次は『ファミチキ下さ――」

 

「やめなよ、みっともない。ごめんね、友達の変な事に付き合わせちゃって」

 

「ううん……だいじょうぶ……」

 

 目つきが穏やかな女の子が、六花へと首を振る。その一方で内海が残念そうに項垂れていた。

 

 恐らく穏やかな目の方がミアナで、その隣の険しい方がマイナ。名前が分かって納得する裕太だが、一瞬自分の事に変だと思う。

 何でどっちがどっちの名前だと分かったのか。テレパシーから読み取るにしては情報不足、無意識の勘にしてはどこか妙だ。

 

「…………」

 

「……? ど、どうしたの?」

 

 そんな疑問を抱いていた時、マイナと思わしき少女が裕太を見つめてきた。

 てっきり睨まれているかと思ったが、そんな彼女が予想外の言葉を言い出す。

 

「……あなたのなか、かんじる……つよいちから……」

 

「……えっ?」

 

 強い力。該当する物と言えばグリッドマンだろうか。

 ただグリッドマンはジャンクの中にいて、そのジャンクが修理中である。マイナの言う強い力がグリッドマンの事なら、何故裕太の中から感じるのか。

 

 あるいはアクセスフラッシュで一体化しているので、そういう影響が裕太の中に残っているかもしれない。

 

 ひとまず彼はそういう事なんだと自己完結する事にした。

 

「ここにいたか」

 

「! サカキさん」

 

 裕太達の元にやってきたハルオ。

 

 未だに彼は最初会った時と同じ、鋭くも感情的な目つきをしている。そんな顔をしながら手に持っている物を差し出してきた。

 手のひらサイズのパック三個で、表面には「Water」と記してある。

 

「喉が乾いているだろう。味気ない物だけだが……」

 

「いえ、お構い無く……いただきます」

 

 ハルオからパックを受け取る。その後にマイナ達にも同様の物が渡された。

 それから何気なくパックを眺める祐太だが、そこにハルオが尋ねてくる。

 

「君達のいた世界、具体的にどんな所なんだ?」

 

「えっ? 具体的に……まぁ普通と言えば普通ですが……」

 

 実際は怪獣が現れ、街が勝手に修復される。果ては人間の記憶が操作されている節があるなど、とてもではないが普通ではない。

 ただ言っても信じてもらえないだろうと思い、裕太はあえてはぐらかした。

 

「そうか……家族はいるのか?」

 

「ええ、います。今は出張で出掛けてますが」

 

「私もいますね。ママは店をしているのに煎餅ばっか食べてますけど」

 

「……フッ、ぜひとも会ってみたいな。まぁ、そういう事なら家族は必ず大事にするんだ。いつまでも一緒にいる訳でもないからな」

 

 そう言って、ハルオが腕の機器から立体映像を取り出す。

 映像をいじっている間、祐太は彼の言葉が気掛かりだった。ただ尋ねようにもタイミングが分からない。

 

「……あの、サカキさんのご両親はどうしていますか?」

 

 考えていた事が同じだっただろうか。六花が尋ねようとした事を口にする。

 だがその瞬間、ハルオの手が急に止まる。もしかしたら地雷を踏んでしまったのではと、裕太に緊張が走ってしまう。

 

「俺が四歳の頃、目の前で焼かれてしまった」

 

「……えっ?」

 

 ただハルオの口から、ゆっくりと言葉が出てきた。

 悲しさや悔しさが滲んだような、そんな声音をしながら。

 

「一瞬だった。ほんの数分違ってたらそうはならなかったんだと、今でも思っている。あの時の光景をたまに夢で見るよ」

 

「…………」

 

 何が起こったのかは裕太には分からない。ただ彼が壮絶な出来事に見舞われたのだろうという事が、薄々感じてくる。

 ツツジ台において犠牲者は記憶から消される場合があるので、周りの人間が悲しむという事がなかった。しかしハルオの姿を見て、胸が苦しくなってくる。

 

 もし記憶が消される事がなかったら、今頃悲しむ人間が増えていたはず。

 

「……すまない。湿っぽい話をしてしまったな」

 

「……いえ、こちらこそすいません。事情を知らず……」

 

「いや……これは君のせいでは……」

 

 六花に言いかけたハルオだが、途端に口つぐむ。

 恐らく何を言えばいいのかと悩んでいるはず。裕太自身にもよくあるので、この心境にはすぐに察する事が出来た。

 

「ともあれ家族がいる君達はここにいるべきではない。1日も早く、元の世界に戻る事を祈る。ジャンクも早く直るといいな」

 

「……ありがとうございます、サカキさん」

 

 礼を口にする裕太。それを聞いたハルオが軽く頷き、その場から去ってしまう。

 

「……メカゴジラシティか……」

 

 ハルオ達の手を焼かせている超巨大都市メカゴジラシティ。

 

 あれを放っておけば地球その物が浸食されてしまうとされている。それを意味するのは、この世界全てがシティの一部になるという事。

 ツツジ台に襲い掛かる怪獣と同等……いや、それ以上の脅威だ。怪獣と戦っているグリッドマン同盟の一人として、裕太はこの事を他人事だと思えなかった。

 

「だったら――」

 

「ああ、皆まで言わなくてもいいよ。お前の考える事なんてテレパシーのように丸分かりだ。なぁ、六花?」

 

「……うん、響君なら放っておく訳がないもんね」

 

 口にしようとした矢先、内海と六花が分かっているとばかりに微笑んでくる。

 まだ言っていないのにこの対応。少し驚く裕太だが、同時に嬉しくもあった。

 

「ありがとう、二人とも。なら後はジャンクが直るのを待つだけだ」

 

「そうだな。後、その事で俺に考えがあるんだけど」

 

「ん、何?」

 

 何かを思いついたらしい内海に、裕太はひとまず耳を傾ける。

 その内容とは……。




 ハルオはマイナ達との掛け合いから、年下や非戦力に優しいのではと思っています。裕太達の対応はその考えに基づいて描きました。

 本文にある通り彼が六花ママに出会ったら色んな意味で涙しそう。


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第5回 一・致 ‐メトフィエスとアレクシス‐

『よし、ヴァルチャーの飛行試験終了。順調だったぞユウコ』

 

『先輩こそ、初めての操縦にしては中々よかったですね。Gの問題は大丈夫でしょうか?』

 

『ナノメタルが緩和しているとは言うが、やはり十分応えるな。後はシティに戻って調整するしかない』

 

『……尉……大尉!! ナノメタルが暴走してビルサルドを取り込んでいます!!』

 

『何!?』

 

 

 

 #SSSS#

 

 

 

『どういう事だガルグ!? ナノメタルで同胞を取り込むなんて、そんな事聞いていないぞ!!』

 

『落ち着けハルオ、これは我々ビルサルドの総意だ。我々がメカゴジラシティと一体化し、さらなる戦略向上に図る。このシティを見つけた時からそう考えたのだ』

 

『何だと……これは対ゴジラ兵器なんだろう!? そんなシステムが……』

 

『これがあるのだよ。このメカゴジラの真髄は物量攻撃でも、その多彩な戦術などではない。怪獣ゴジラに対抗できる唯一の存在……つまり「怪獣」と同じ存在にしてくれる力だ』

 

『ナノメタルはその怪獣になる為への必要な物質だ。これさえあれば、必ずやゴジラを倒せる』

 

『ガルグ……ベルベ……貴様ら……!』

 

 

 

 #SSSS#

 

 

 

『うわあ!! ナノメタルがぁ!! 身体が!! 身体がぁああああ!!』

 

『何が起こっている!? ガルグやめさせろ!!』

 

『……どうやらシティと一体となった同志が自律判断を行っているようだ。ナノメタルを増大化させ、ゴジラの森を喰い尽くそうとしている』

 

『もはや我々でも止められないだろう。……いや、止める意味はないと言うべきか。我々はこのナノメタルの恩恵に委ねるだけだ』

 

『くそっ……博士!! 皆を連れてシティから逃げろ!! 早く!!』

 

 

 

 #SSSS#

 

 

 

『ガルグ達から返事がない……やむを得ない、メカゴジラの頭部を破壊する! あれがナノメタルを制御しているユニットだ!!』

 

『了解……キャアアアアアア!?』

 

『砲台が俺達を……! ユウコ大丈夫か!?』

 

『か、掠っただけです!! しかしこれほどの物量攻撃じゃあ……アアアアア!!』

 

『ユウコ!? ユウコォ!!』

 

 

 

 #SSSS#

 

 

 

「皆がお聞きした通り、メカゴジラシティは勝手に暴走したのではありません」

 

 フツアの村の外れにある洞窟。

 

 メトフィエスはここを自分の教会とし、集めた信者達に教えを授けていた。今や信者の数は増え、そしてメトフィエスの言葉を心身に聞いている。

 

 彼が聞かせたのは、メカゴジラシティ暴走時に起きた会話の録音。

 

 ハルオとユウコがヴァルチャーの飛行試験を行っている時、兵士からナノメタル暴走の報告が舞い込んだ。そこからハルオとビルサルド――ガルグとベルベとの内輪揉めが始まる。

 その途中にナノメタルがガルグ達や兵士を取り込み、暴走。ハルオ達が何とかシティを止めようとしたが、ユウコのヴァルチャーが攻撃を受けて損傷。ハルオはユウコ機を連れて脱出した……らしい。

 

 らしいというのは、メトフィエスがこの目で見た訳ではなかったからだ。

 ただ先ほどの録音を聞けば、何が起こったのか手に取るように分かる。

 

「ビルサルドは怪獣と同質の存在になろうとし、メカゴジラシティのリミッターを解除したのです。今やメカゴジラシティはゴジラと並ぶ怪獣となり、我々にとっての脅威となっている。これは我々に対する裏切りに他ならない」

 

「そうだ!!」「許さない事だ!!」「あのナノメタルで俺の仲間が……くそっ!!」

 

 信者から怒りの声が聞こえてくる。

 メトフィエスは内心ほくそ笑む。その怒りが献身の後押しになってくれるのだから。

 

「しかし問題はありません、メカゴジラシティはもうじき終わりを迎えるのです。サカキ大尉などのような怪獣を憎み、そして滅ぼせんとする者の手によって。そうして機械仕掛けの偶像が消え去った後、我々は神の道へと歩むのです」

 

「神……でしょうか?」

 

「ええ。神を降臨させるには、どうしてもメカゴジラシティには消えてもらわなくてはならない。我々に必要なのはナノメタルでもゴジラに打ち勝つ戦力でもなく……ただ神を信じる心なのです」

 

 メトフィエス……ひいてはエクシフが崇める『神』。

 メトフィエスの働きは、全てはこの神があってのこそ。そうしてようやく神からの祝福が与えられる。

  

 そう考えた彼の身体が、どこか熱くなるのを感じた。

 

「さぁ、信じるのです。そして迎え入れるのです。やがれ訪れる大いなる宇宙知性『金色の王』を……」

 

「金色の王……我々の神……」「神よ……我らに祝福を……」

 

 信者が神へと祈りを込める。

 全員がそうなった所で、メトフィエスは一旦その場を離れ、洞窟の奥に向かった。

 

 そこに一人の少女が物資に座りながら、粘土をカッターで削っている。

 

「作業は順調かね、お嬢さん?」

 

「そのお嬢さんはやめてくれませんかねぇ……というかあまり集中出来なかった……」

 

 別世界からやって来た新条アカネという少女。

 

 彼女は洞窟から掘り起こした粘土を使って怪獣を製作していた。この製作した怪獣を、アレクシスが実体化させる事になっている。

 未だ途中だが、メトフィエスは少し楽しみにしている。一体どんな怪獣が出来て、どんな戦いを繰り広げるのか。

 

 先の事なのに、期待で胸が踊ってしまう。

 

「集中出来なかったのはどういう事かね?」

 

「どういう事って、さっきのカルトですよ。何とか出来ませんかあれ?」

 

「それはすまない。しかしああいう事がよくあるから、出来れば我慢はしてもらいたい。これは我々にとって大事な事だからね」

 

「……ハァ……潰したくなるなぁ……」

 

「何か?」

 

「あいや、何でもないです」

 

 小言を言ったかと思えば黙々と怪獣作成を始める。

 そんなアカネに、少し世間話をしてみようとメトフィエスは思う。

 

「しかしこの頼みを嬉々として請け負ったのは意外だ。君はあくまで無関係者のはずだが」

 

「それはそうですけど、私としてはあの街をメカゴジラ扱いにする所が許さないんですよ。ロボット怪獣はかっこよくて、パワフルじゃなきゃいけないんですし。だから私の作った怪獣で粉々にするんです」

 

「……ふむ、よく分からないがこだわりを持っているという事なんだね」

 

「まぁ、そんな感じです」

 

 やや困惑するメトフィエスだが、同時に面白いとも感じてくる。

 移民船の乗員もそうだが、地球降下部隊はやや枯れている感が否めない。だからこそアカネの場違いじみた活気が逆に興味深い。

 

「……ところであっちの方に行かなくていいんですか?」

 

「ああ、そうだった。では完成を楽しみにしているよ」

 

 そろそろ信者の所に行った方がよさそうだと、メトフィエスはアカネから離れる。

 その途中、どこかに行ってしまったもう一人の客を思い出しながら。

 

 

 

 #SSSS#

 

 

 

 濃い霧に包まれた森林。

 

 立ち並ぶ樹は金属の性質を持っており、木の葉だけでも鋭い切れ味をしている。また霧も森林から放たれた花粉であり、あらゆる電波を遮断するチャフにもなっていた。

 これら全て()()()()を源流にしているとされている。

 

「ほう、やはりあそこにいたか」

 

 不気味な森林の中、アレクシスが呑気に呟く。

 彼はある物を探しに、森林を歩き回っていた。大気がある種の猛毒になっているらしいが、人外の彼には全く通用しない。

 

 それで崖から覗けば目的の物が見つかった。森の中でも目立つ青と赤のオブジェ。間違いなく右往左往怪獣エニグリムだ。

 

 ──フオオオオオオオオオオオオオオオオンン……──

 

 エニグリムから響き渡る怨霊如き咆哮。

 

 直後として目の前の広い地面がぽっかり消えてしまった。すぐに地面はかなりの高さに出現し、そして落下する。

 

 地面は目の前のある山に投下、粉砕。山の上で地面だった土が零れてくる。

 

 

 

 ──……グウウウウウウウウウウウウウウウウウ……──

 

 

 

 エニグリムとは違う、空間を震わすような唸り声。

 それは山から。山は生きているのだ。そうにしか見えない巨体を持つ獣が、アリほどのエニグリムを嘲るように見下ろしている。

 

 エニグリムはこれに対し、空間から無数の光球を発射。アレクシスはそれがアンチの物だと看破。どうも先のグリッドマン戦で防いだ物を取り出す事が出来るようだ。

 

 光球がまっすぐ巨獣に着弾。

 

 巨獣の上半身を覆い尽くすほどの爆発が起きる。しかし巨獣は倒れはせず、しかも微動だにしない。

 

 ──……オ゛オオオオオオオオオオオオオオオンン!!──

 

 巨獣の大きな口が開く。すると空間を歪ませるほどの衝撃波が放出される。

 

 まともに喰らったエニグリムが、周りの樹木ごと塵芥(ちりあくた)へとなり果てる。やがて衝撃波が消えると、エニグリムがいた場所が不毛の地に変わってしまった。

 

「あーあ、エニグリムがやられてしまったか。まぁ、あんなの相手にするのは少々無謀だったか」

 

「これでいいのか? あれがないと元の世界に帰れないんだろう?」

 

 隣には人間体のアンチが付いてきている。

 彼もまた人外だからか、猛毒の大気でも平然としている。

 

「大丈夫さ。またエニグリムを実体化させて元の世界に帰ればいい。すぐにそうしないのは『あえて』だからなのだよ」

 

「あえて?」

 

「そう、ここは間違いなく本物の()()()()……色々と面白くなりそうな気がするんだ。まぁ、アカネ君はこの事に気付いていないか、あるいは単に気付かない振りをしているかもしれないがね」

 

 色々と調べて分かったが、やはりこの世界は現実世界のようだ。アレクシス達はエニグリムの空間転移によって、現実世界のパラレルワールドに迷い込んだのだ。

 アカネの方は未だにツツジ台の延長と()()()()()()()節がある。はっきりと本人に聞いた訳ではない、ただ彼女の経歴上そうなんだろうとアレクシスには分かった。

 

「それに、あの怪獣は私にとっての貴重なサンプルだ。アカネ君の怪獣にはない強い意思を感じる」

 

 この世界に興味を持った原因こそ、目の前の巨大怪獣だ。

 怪獣は人間のような瞳を細め、ゆっくりと大木如き脚を動かす。脚が地面を叩きつけるたびに、周りの樹や地面がはじけ飛んだ。

 

 巨大怪獣はどこかに向かっているようだ。それもまたアレクシスには分かる。

 

「アカネ君が見たらさぞ喜ぶだろう。この大気のせいで来れないのが残念……」

 

《楽しんでいるようで何よりだ、アレクシス》

 

「!」

 

 脳内にあの声が聞こえてくる。

 一応周りを見渡すも、声の主は見当たらない。とすると……アレクシスはあるキーワードを思い出す。

 

「テレパシーを使えるとは。見かけ以上に厄介だね、メトフィエス君」

 

《テレパス能力は他種族にとっては脅威になる。もっとも人外の君になら大丈夫だろうと踏んでいたが》

 

「別に気にはしないよ。それよりもアカネ君の様子はどうだい?」

 

《ああ、順調だ。見ていて面白くも感じる。これはシティの破壊が期待出来そうだ》

 

「そうだろう? 実を言うと私も楽しみにしているんだ。やはりあの時に我々の事を言ってよかったよ」

 

 フツアの洞窟に転移した後、アレクシスが最初にメトフィエスと接触した。

 彼はアレクシスを見て只者ではないと看破(最も容姿を見れば一目瞭然だが)。さらに彼がメカゴジラシティの破壊を目論んでいるのを知って、アレクシスは率先して怪獣の事を話したのだ。

 

 アレクシスは巨大都市の破壊という『情動』に満たされ、メトフィエスはその破壊という『目的』が達成出来る。

 

 これほど両者とも得のある利害一致はないだろう。だからこそアレクシスはこの世界に留まる事に決めたのだ。

 

《楽しそうで何よりだ。ところで先の発言を聞くに、あの怪獣を見ているようだな》

 

「ああ、もちろん。あれはまさしく貴重なサンプルになりえるはずだ。ああいうのを見ると退屈から紛れる」

 

《そうか……ただあらかじめ言っておくが、それには触れないように頂きたい。奴は我々エクシフにとっては必要な存在だ》

 

「必要?」

 

《ああ、いずれに降臨なさる……『神』への供物の為に》

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、アレクシスは垣間見る。

 光り輝く空間を蠢く、三体の龍の影……。

 

「…………」

 

《……どうかしたかね、アレクシス》

 

「……あ、いやぁ何でもない。とりあえずアレには手出しをしなければいいんだね? ぜひともそうしておくよ」

 

《助かる。では私はこれで……》

 

 その言葉を最後に、メトフィエスのテレパシーが消えた。

 ただそれが終わっても、アレクシスは先ほどの龍が気になっていた。単なる幻にしては大分明瞭で、そして何よりも……おぞましい。

 

「さっきから何喋っていたんだ……?」

 

「ん? ああ、単なる独り言だよ。それよりも戻るとしますか」

 

 用がなくなったので、アレクシスとアンチはフツアの洞窟に戻る事にした。 

 背後では、巨獣の咆哮が雷のように響き渡る。




 作品の都合上、アカネちゃんのストレス耐性が若干高めです(本当に若干ですが)。どんな怪獣を作っているのかは追々分かるかと。
 またこの時系列においてシティはゴジラと戦っていません。「シティが暴走して、ハルオ達がフツアの村へと脱出」→「その後に裕太達と邂逅」という流れです。


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第6回 強・行 -一人にはさせない-

サブタイは増殖都市の主題歌「THE SKY FALLS」の歌詞から引用しました。
またその主題歌を聴きながら読むのをお勧めします!


 裕太達から来てから一日が経った。

 

 フツアの村の外。その大きく開けた場所にハルオは立っていた。彼は専用機であるヴァルチャーを見上げながら、今後の事を考える。

 

 やがていつまでそうしていたか、気が付けばユウコが彼の方に向かってきた。

 

「先輩、ちょっといいですか?」

 

「ああ、どうした?」

 

 ユウコにある場所に連れていかれる。そこにあったのは彼女専用のヴァルチャーだ。

 実は右腕と右半身の装甲を、メカゴジラシティの砲撃で破壊されたのだ。とても機動出来る状態ではない為、先ほど起こったセルヴァム襲撃時に出撃出来なかったらしい。

 

「損傷した装甲と右腕をパワードスーツの部品に置き換えたんです。そうするとまるで溶け合うようにヴァルチャーと接合しまして……これってもしかしてナノメタルの自己修復でしょうか?」

 

 そのヴァルチャーだが、以前よりマシな状態になっている。

 ユウコの言った通り、ロボット兵器パワードスーツの予備パーツで応急処置をしていた。パーツが溶接されたようにヴァルチャーへと接着している。

 

 これがナノメタルのなせる業か。

 

 改めてハルオはナノメタルの万能さに驚く。それを見ながら、ハルオはシティ暴走の時の事を思い出す。

 

 

 

『……ハルオ、お前のやっている事など同志には一目瞭然だ』

 

『ガルグ! 生きていたのか!?』

 

 ユウコ機が砲撃によって損傷し、急いで担いだ直後だった。

 

 ナノメタルに呑み込まれたと思われたガルグから通信が届く。彼自身の姿はノイズによって映されなかったが、それでも声だけはハッキリと聞こえてきた。

 

『聞こえているならナノメタルを止めるんだ、今すぐに!! それは危険な存在だ!!』

 

『……危険か……。だがハルオよ、その言葉には致命的な矛盾が存在する。それに何故気が付かないのか』

 

『……何だと?』

 

 ガルグの予想だにしない言葉。

 彼はナノメタルに取り込まれているというのに、酷く冷静にハルオに伝えてきた。

 

『そも怪獣とは、ゴジラとは、人の手で決して倒せないからこそ怪獣なのだ。人智を越えた者に打ち勝つ事は、既に人の行いの範疇には無い。

 ゴジラを倒すと心に決めたその時から、君は人ならざる者を志していたのだ、ハルオ』

 

『……ガルグ……』

 

『勝利するなら覚悟しろ。人を超え、ゴジラを超えたその果てに至ると!!』

 

『…………ガルグ……ガルグウウウウ……!!』

 

 

 

 あれからあの後の行動を覚えていない。覚えているのは命がらがらシティから逃げた時だけ。

 よほど興奮していたからか、あるいはガルグの言葉にショックを受けていたからか。いずれにしてもハルオは、ガルグの言葉に何も返す事が出来なかった。

 

「……どうかしました、先輩?」

 

「……あ、ああ。危険なナノメタルで直されるなんて皮肉だと思ってな……」

 

「そうですか……でもこれで出撃は出来ます。今度こそ一緒にメカゴジラシティを……」

 

「いや、今度は俺だけでいい」

 

 さっきまで考えた事をユウコに告げた。

 そんなハルオに、彼女が驚愕の表情を浮かべる。

 

「そんな……無謀です! それに先輩一人でどうにかなる問題では!」

 

「仮にメカゴジラシティを破壊した後、あのゴジラだけが残る。ゴジラを倒す為にはより多くの戦力が必要なんだ。ここでお前を失う訳にはいかない」

 

「それは先輩も同じです! 先輩がいなければゴジラを……」

 

「分かっている……だがガルグやベルベを止められなかった俺にも責任がある。あの時の止められなかった事を、今やるしかないんだ」

 

「そんなの勝手です! 自分を責めてはい終わりって、それこそ無責任じゃないですか!」

 

「…………」

 

 ユウコの言葉に、ハルオは何も言えない。

 

 確かに降下部隊の指揮官として無責任だ。それに一人でメカゴジラシティに立ち向かって生きて帰れる保証なんてない。

 そもそもメカゴジラシティの暴走が起こる前に、もっと早くナノメタルの異常性に気付けばこんな事にはならなかった。仲間のガルグとベルベが隠していたとは言え、その調査を怠っていた事が今回の原因だとハルオは思っている。

 

 だがくよくよしている暇はない。メカゴジラシティを何とか止めたい。それだけしか考えられない。

 

「ユウコ、お前の言いたい事は分かる。しかし……」

 

「サカキさん、待って下さい!」

 

 その時、裕太がこちらにやって来た。

 彼の後ろには友人二人と新世紀中学生、そしてジャンクを台車で運んできたマーティンとアダム、フツアの姉妹がいる。ジャンクの方は最初見たような壊れた姿ではなく、不格好ながらもちゃんと直っていた。

 

「響……どうやらジャンクは直ったみたいだな」

 

「はい、おかげさまで。それと……俺達を匿ってくれてありがとうございます」

 

 裕太や内海達が頭を下げてきた。

 突然の事で目を丸くするハルオ。

 

「何者か知らない俺達を疑わず、あそこまで世話をしてくれた事が嬉しかったです。それでジャンクも直してもらって……本当に感謝しかないです」

 

「……いいんだ。俺達はただやるべき事をやっただけだ。君達が頭を下げる必要はない」

 

「でも本当に嬉しくて……だから恩返しと言うと恩着せがましいですけど、俺達もメカゴジラシティ破壊に協力します」

 

 顔を上げた裕太がいきなりそんな事を言ってきた。

 年端の行かない少年がいきなり怪獣と戦う。本気で言っているのかどうかはともかく、ハルオは納得出来ない。

 

「そう言ってくれるのは嬉しい。ただ君達はあくまで民間人……」

 

「いや、案外そうではないらしいよ、サカキ大尉」

 

 すると前に出るマーティン。

 彼が運んできたジャンクが、いきなり電源が付いた。何と画面に装甲を着たような人物が映っている。

 

『このような場所からで申し訳ない。私はハイパーエージェント――グリッドマン、君達と同じメカゴジラシティに対抗出来る存在だ』

 

「……なっ」

 

「これが俺達の本当の姿です。……アクセス……フラッシュ!!」

 

 ジャンクの前に立った裕太が叫び出すと、身体がジャンクに吸い込まれてしまった。

 同時にどこからともなく巨人が現れ、ハルオ達の前に着地する。紛れもなく画面にいたあの人物が、巨大になって実体化したのだ。

 

 数々の修羅場に見舞われ続けたハルオでさえ、開いた口が塞がらない。

 

「これってあれですよね。昔日本にあった『ジャパニーズジャイアントヒーロー』っていう」

 

「アダムよく知っているなぁ。僕の両親、こういった特撮が好きでよく見ていたんだよな」

 

「いやいや二人とも、そんな呑気に……」

 

 アダムとマーティン、ユウコが話している中、ハルオは目を白黒させていた。

 今見ている物は現実だろうか?

 今までの精神疲労が祟って幻覚を見ていると思いたいくらいだ。

 

 だがその間にも、新世紀中学生がジャンクの前に並び立つ。彼らもまた一斉に、そしてどこか共通のある言葉を発する。

 

『アクセスコード、バトルトラクトマックス!!

         グリッドマンキャリバー!!

         バスターボラー!!

         スカイヴィッター』

 

 彼ら四人も吸い込まれていき、そして空間に基盤のような文様が浮上し、現れる。

 

 砲台を持った装甲車、金色の刃を持った剣、二連ドリルの戦車、そして蒼い戦闘機。

 

 パワードスーツやヴァルチャーとは比べ物にならない巨大兵器が、グリッドマンの周りに降り立った。

 

『サカキ・ハルオ。これで我々を民間人とは言えないはずだ』

 

『メカゴジラシティが怪獣と言うのなら……その怪獣を倒すのも俺達の仕事だ』

 

『水臭いんだよあんたは。まぁ、俺達がいるからには安心してくれってな』

 

『要塞都市を相手するのは想像つかなかったけど、まぁ何とかなるんじゃないかな』

 

 新世紀中学生の声が聞こえてくる。あの巨大兵器からだ。

 未だにハルオは動揺を隠せていない。泳いだ目で内海達を見た途端、彼らが微笑んでくる。

 

「本来グリッドマンとマックスさん達が同時出撃すると処理落ちするんですよ。それで俺が出力を絞れば解決するんじゃってなったら、これが上手く行きまして。これならメカゴジラシティだって対処出来ますよ」

 

「非戦力の私が言うのも何ですが、サカキさんは一人じゃないと思うんです。こうして響君やグリッドマン、そして皆さんがここにいて、そして一緒に戦おうとしている。それを覚えてほしいな……なんて」

 

「……内海、宝多……」

 

 本来彼らはこの世界にとって無関係のはず。にも関わらず、こうして率先して協力しようとしてくれている。

 未だ状況を呑み込めていないハルオだが、同時に自分はとんでもない事をしたのではと思ってきた。今さっきハルオ自身、特攻じみた事をやろうとしていた。

 

 分かってはいたが、それは愚かだ。こんなにも協力者……いや心強い味方がいるのを気付かずに。

 

 ハルオはおもむろにフツアの姉妹へと振り向く。ミアナもマイナも、激励するようにコクリと頷く。

 

《ハルオ……頑張って》

 

 二人のテレパシーが、応援の言葉が、ハッキリとハルオの脳裏に響いた。

 

「……ユウコ、今すぐに出撃準備だ」

 

「……えっ?」

 

「俺とユウコ、そして空を飛べる者は上空からメカゴジラシティに強行突破。シティからの砲撃は間違いないだろうから、その時はマックス達地上部隊が援護してほしい」

 

「先輩……」

 

 もはや悩む必要などなかった。

 ハルオはグリッドマン達の前に立ち、指揮官としての礼を述べる。

 

「君達の協力、感謝する。シティはナノメタルで構成されている以上、何が起こるのか予測出来ない。だからこそその戦力、大いに期待する!」

 

『……はい、サカキさん!!』

 

 ジャンクから聞こえてくる裕太の声。驚くハルオだが、同時に綻びそうになる。

 

 ハルオとユウコはすぐにヴァルチャーに搭乗。グリッドマンはキャリバーを片手にヴィットに乗り、出撃の準備を整えた。またハルオの指示通り、マックスとボラーは地上から強行する事にしている。

 

 これで確率が低かったシティ破壊達成を、さらに格段に上げる事が出来た。

 

「俺達を退けたシティはさらなる戦力強化を行っている事だろう。それには気を付けてほしい」

 

『分かった。サカキ・ハルオも無茶はしないでほしい』

 

「フン、グリッドマンに言われなくとも。

 

 

 

 ヴァルチャー全機、グリッドマン同盟(チーム)、出撃!!」

 

 ヴァルチャーの超音速飛行。翼から赤いスラスターの光を噴かせながら、一瞬にしてフツアの村から遠ざかる。

 

 またヴィットに乗ったグリッドマンが、ほぼ同じ速度でヴァルチャーと並んでいる。ヴァルチャーの速度に劣らない事に、ハルオは心底感心する。

 

「ヴィットを解析すれば優秀な兵器が量産出来そうだ」

 

『褒めているつもりだろうけど、あいにく解剖はごめんだね。これでも痛みはあるし』

 

「冗談だ。そろそろシティが見えてきたぞ」

 

 数秒経たずに旧富士山麓に到着する。かつて富士山があった場所だが、ある怪獣によって破壊されたという経歴がある。

 その富士山の陥没場所を覆い尽くすように、メカゴジラシティが存在する。

 まるで粘菌のように地表を覆い尽くしている巨大な街。いつ見ても気持ちのいい物ではない。

 

『先輩、シティからセルヴァムの群れが出現!!』

 

 ユウコの音声通り、シティから黒い雲のような物が放出される。

 

 遠目で見たセルヴァムの群れだ。しかもメカゴジラシティによってナノメタルを注入され、シティの拡散兵器に成り果てている。

 接触すればナノメタルに感染され、最悪の場合シティの一部になる可能性がある。

 

「戦闘態勢、撃て!!」

 

 ハルオとユウコのヴァルチャーから砲撃。群れに砲弾が直撃すると、巨大な爆発が発生。

 半分は消し炭にしたが、まだ残っているようだ。

 

『アンプレーザーサーカス!!』

 

 今度はヴィットが攻撃を開始した。機体後部から無数のレーザーを放つ。

 レーザーはまるで意思を持っているようにセルヴァムを追尾。避けようとする個体を一体残らず焼き尽くしていく。

 その追尾性能にハルオは驚愕するが、肝心のセルヴァムはまだ存命。数少ない生き残りがグリッドマンに向かってくる。

 

『グリッドォ!!』

 

『キャリバァー!!』

 

『エンドオォ!!』

 

 キャリバーを大きく振るうグリッドマン。

 

 金色の刃でセルヴァムを切り刻み、遺骸を地上に落とさせた。これでセルヴァム全個体が掃討された事になる。

 

「助かったグリッドマン。このままシティに向かう!」

 

『了解!!』

 

 ユウコの返事と共に、ハルオ達はメカゴジラシティに立ち向かう。

 目的はナノメタルを制御しているメカゴジラ頭部の破壊。それで全てが終わる。



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第7回 共・闘 ‐アカネの二大怪獣‐

あらかじめ伝えておきますが、本作はアニゴジへの尊重と配慮として怪獣型のメカゴジラは登場しません(ある例外を除けば)
メカゴジラシティも本作+没案や作者の独自解釈で描写する事になります。


「……いよいよ動き出したか、ハルオ」

 

 洞窟の外に立ちながら、メトフィエスは一人言葉を漏らす。

 

 彼が見据える先にメカゴジラシティが存在する。そのシティに強行するように二つの赤い光と、謎の巨大物体が飛行していた。

 後者はともかくとして、赤い光は間違いなくヴァルチャーだ。ついに人類の英雄ハルオが動いたという事になる。

 

 やはり彼は自分の考え通りに動いてくれる。

 

 メトフィエスは静かにほくそ笑む。その手にある小さな石板――七芒星が描かれたそれを強く握り締めながら。

 

「ただいま。いやぁ、遅くなって申し訳ない」

 

「お帰りアレクシス。ところで怪獣が出来たよ~見てみて」

 

「どれどれ。ほうほう、以前の怪獣をアレンジしたんだね。とても素晴らしいデザインだ!」

 

「でしょう? 同じデザインじゃあつまらないと思ってパワードテレスドンをオマージュしたんだ~。尻尾にも光線発射口付けて強化してみたの」

 

 洞窟から声。メトフィエスが戻ると、そこにアレクシスの姿があった。

 彼は調査と言いながらちょくちょく出入りしている。ただ入り口を通った形跡がない為、恐らくは瞬間移動が使えるかもしれない。

 

「さてと……じゃあアンチ、この怪獣と一緒に街を破壊して。あんな名前詐欺なんか徹底的にさ」

 

「何故その街をやらなければならない? 俺の敵はグリッドマンだけだ」

 

「…………」

 

「まぁまぁ、そう言わずにアンチ君。先ほど見たがグリッドマンは確かにいてね、シティを破壊した後でも彼と戦えると思うよ?」

 

 仲が悪いのか、アカネのアンチに対する声音が低めだ。さらに拒否された時には泥を投げようとしていた。

 その泥投げを止めつつフォローするアレクシス。一方で止められたアカネが「やっぱり響君達いるんだぁ」と納得した素振りを見せる。

 

「……分かった。お前達の言う通りにする」

 

「うむ、頼んだよ。ではメトフィエス君、とくとご覧あれ……インスタンス・アブリアクション!!」

 

 アレクシスのゴーグルアイから発光。

 アカネの作った怪獣人形が光に包まれたかと思えば、一瞬にしてそれが消え失せる。同時に洞窟の外から轟音と地響き。

 

 メトフィエスが外に出ると、巨大な壁のような物体が見えた。

 

 正体が分かった途端、心底驚きが出てくる。

 

「こういう事か。実に素晴らしい」

 

「そうだろう? これがアカネ君と私のなせる業だ。それにまだまだあるよ」

 

 アレクシスと共に外に出るアンチ。そうして彼が獣のように雄叫びを上げる。

 

 身体が赤い閃光に包まれて、人間の姿から、巨大な青い怪獣へと変貌。

 

 一瞬にして異形になったアンチは、身丈に合わない身体能力で物体の上に跳び移った。

 

「なるほど……これは面白くなりそうだ」

 

 怪獣を作り出す少女と怪人、怪獣に変身する少年。

 この世界ではあり得なかった現象に、メトフィエスは興味を抱く。

 

 

 

 #SSSS#

 

 

 

『あいてて! 葉っぱが鋭くてすげぇ痛い!』

 

 森の中、マックスとボラーがシティに急行していた。

 ボラーの言う通り、森の葉がナイフのように鋭利で固い。そうした中を潜り抜ける物だから、二人とも蚊に刺されたように痛みが走る。

 

『マーティン博士が言っていたな。この森は以前の生態系と全く異なると』

 

『そんな話してたっけ? ジャンク修理に夢中だったから分からねぇや』

 

『その途中で話していたんだ。……っと、あれがメカゴジラシティか』

 

 森を抜けた先にある、視界を覆い尽くさんばかりの巨大都市。

 

 あれがハルオ達を苦しめたメカゴジラシティで間違いない。ハルオが言うには、内部にあるメカゴジラの頭部を破壊すれば全ナノメタルが機能停止するらしい。

 

 となると外壁に穴を開け、内部に侵入するのがベストだ。

 二人はそれぞれの火器で攻撃すべく、砲門をシティに向ける。

 

『……! 回避しろ、ボラー!!』

 

『おっと……!!』

 

 二人が回避行動した直後、元いた場所に穴が開いた。

 察知したメカゴジラシティからの攻撃だ。所々生えた砲台がマックス達を照準し、雨あられと撃ち続けている。

 

『砲台の死角を突きながら攻撃するんだ!! 急げ!!』

 

『分かっているっての! ……グウ!!』

 

 疾走していたボラーの近くに着弾。ボラーが横転し、近くの岩に叩き付けられる。

 マックスが援護すべくタンカーキャノンを発射。自分達を狙ってきた砲台を一つ残らず破壊した。

 

『大丈夫か、ボラー!?』

 

『ああ、何とか……ってナノメタルが!!』

 

 着弾した訳ではなく、ボラーの装甲を砲弾が掠っただけ。にも関わらずナノメタルが付着して浸食してくる。

 しかしすぐにそれが剥がれ落ちていく。その様子を見て安堵するボラー。

 

『ああ、よかった……マーティン博士の言った通りだな』

 

『僕の推測は正しかったようだね。タニ曹長、やっぱりどうやって鱗粉を分けやったのか後で聞かせてくれないかな?』

 

『今は戦闘中です! 放っておいて下さい!!』

 

 ジャンクはある種の通信機器になっている。そこから近くにいるだろうマーティンと戦闘中のユウコの声が聞こえてくる。

 

 まずヴァルチャーもナノメタル製のマシンである。それに乗っているハルオとユウコがいつ浸食されてもおかしくない状態にあった。

 ただ両者とも何故か浸食されていない。マーティンが調べた所、かつてハルオがフツアの身体から浮き出る鱗粉で、怪我の治療を受けた事が原因ではないかとされた。

 

 つまり鱗粉がナノメタルに対して抗体の役割をしている。

 

 ユウコはそのハルオから、何らかの行為で鱗粉を経口摂取(なおこの事を本人は全く説明しようともしない)。結果として浸食の恐れのあるヴァルチャーを難なく操縦する事が出来たのだ。

 

 そこでマーティンが裕太や新世紀中学生にも鱗粉を塗る事を提案。そうした事で、ナノメタルのキャリアでもあるシティに対抗出来るようになった訳である。

 

『あの時は身体を塗られて嫌だったけど、今となってはありがたいぜ』

 

『そうだな。感謝する、マーティン博士!』

 

 破壊力に優れたタンカーキャノンと広範囲攻撃に優れたミサイル。二人の武装がメカゴジラシティへと攻撃。

 それらが砲台や都市の至る所を破壊し、崩れさせる。上空にいるグリッドマンやヴァルチャーもまた、持てる火力をもって集中砲火していった。

 

『……! ガア!!』

 

『ボラー!! グアア!!』

 

 突如地面から鋭い物が生え、マックス達に襲い掛かる。

 ナノメタルの槍だとマックスが気付いた時には、それが彼らに目掛けて……

 

 

 

 #SSSS#

 

 

 

『マックス! ボラー!!』

 

 グリッドマンにも、二人のやられる声が聞こえた。

 キャリバーが呼びかけるが返事は返ってこない。様子を確認しようともシティが死角になってままならない。

 

 またグリッドマン達も集中砲火を喰らっている最中だ。キャリバーで防ぐのが精いっぱいで、マックス達の様子を見に行ける余裕すらない。

 

『サカキ、メカゴジラの頭部はどこに!?』

 

『あの巨大なドームのすぐ左だ!! そこさえ入れれば……!!』

 

 メカゴジラシティはドーム状の建物が無数建てられた構造になっている。それら全部ナノメタルで構成された物らしい。

 そのナノメタルを制御しているメカゴジラの頭部が、ひと際巨大なドームの陰にあるようだ。もちろんそれを守る為か、周囲の攻撃が激しさを増している。

 

 グリッドマンは何としてもそこに突入したかった。

 

 しかしそんな彼らの意志を阻むように、ドームの側面から刃のような突起物が生えてきた。数多く並んだ突起物が射出され、ミサイルのようにグリッドマン達を追尾してくる。

 

『メカゴジラの背部ブレードランチャーだ! 気を付けろ!!』

 

 ハルオの叫び声。彼やユウコのヴァルチャーが回避しつつ、ブレードランチャーを撃ち落とす。

 グリッドマンを乗せたヴィットも目に留まらぬ機動性で振り切った。それでも向かってくるブレードランチャーが、メカゴジラの殺意を象徴しているかのように見える。

 

『グリッドォ……ビーム!!』

 

 構えを取り、アクセプターから黄金の光線を発射。

 追尾してくるブレードランチャーを蒸発し、そのまま角度を変え、射出装置をも破壊する。これでしばらくは撃てない。

 

 

 

 ――オ゛オ゛オオオオオオオオオオオオオオオオオオ……――

 

 

 

『……何この音? 先輩!』

 

『風の音……いや違う……これは!』

 

 咆哮か轟音のような何かが、この場に響き渡る。

 グリッドマンが不思議に思ったが、すぐに原因が判明した。メカゴジラシティのすぐ近くの地盤が、意思を持っているかのように盛り上がってくる。

 

 地盤がとてつもない高さまで上げられた後、重力に負けるように落ちていく。地面に落下した地盤は粉砕され、粉塵となって蔓延した。

 

『あれは……以前の怪獣!!』

 

 グリッドマン達の前に、その正体が露わになった。

 まるで山のようなとてつもない巨体。身体の大部分で巨大な口で占めており、その先に赤く光る両眼が付いている。

 そして何物を踏み壊せそうな巨大な四肢と長い尻尾。その姿はかつて、裕太達が出掛けていた校外学習の怪獣と大変酷似していた。

 

 ただ別個体なのか、身体が森と岩ではなく金属質の装甲で包まれている。尻尾の先端も二股に分かれ、サソリのように前方にもたげていた。

 

『あいつは一体……』

 

『私達の世界にも怪獣がいる。これはその内の一体だ』

 

 ハルオが動揺するのを聞いて、グリッドマンがすぐに説明する。

 また彼だけではなく、ジャンク越しの六花と内海も同様だった。

 

『ねぇ、あれって校外学習に出てきた奴だよね!?』

 

『ああ! でも見た目が大分変わっているな……てかあのパクリ怪獣もいるぞ!!』

 

 確かに会話の通り、巨大怪獣の頭にはあの青い怪獣(アンチ)がいる。

 となるとこれはグリッドマンを追い詰める算段か。彼が振り向いてくるのを見て、キャリバーを構えるグリッドマン。

 

『やはりここにいたか……でも貴様の相手は後だ!!』

 

『……何?』

 

 怪獣(アンチ)はグリッドマンを敵視し憎悪している。彼らしくない言葉にグリッドマンは怪訝に思う。

 直後、巨大怪獣の尻尾がメカゴジラシティへと向く。先端から赤く光る二筋の光線が発射。怪獣(アンチ)もそれに続くように光弾を放つ。

 

難攻不落(なんこうふらく)怪獣メガゴーヤベック』と怪獣(アンチ)。二体の強力な攻撃がメカゴジラシティに直撃し、大爆発が炸裂した。




アカネちゃんからメカゴジラシティをディスる発言がありますが、あくまでも「アカネちゃんがシティを見たらこういう反応をするだろう」という判断から描いたものです。

作者の自分はあれもまたメカゴジラであり、名前詐欺ではないと思っておりますはい。


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第8回 対・話 ‐ゴジラニ死ヲ‐

 二大怪獣の攻撃によって、メカゴジラシティが爆炎に包まれる。

 

 やがて炎が晴れると、ドームも周辺に並ぶ砲台も無残に溶解していた。砲台から滴り落ちたナノメタルが、地面に広がるのも見て取れる。

 

 これでしばらくは攻撃出来ないかもしれない。頭部に向かうなら今しかなかった。

 

『サカキ、タニ、急ごう。奴がいつ動き出すか分からない』

 

『あ、ああ……!』

 

 二機のヴァルチャーを連れ、シティ中枢へと向かうグリッドマン。

 彼はドームの中を飛行しながら辺りを見回す。未だにシティはドロドロに溶けているが、中には歪になりながらも修復されていく様子もあった。

 

 完全に直るのも時間の問題のはず。

 

 すぐにメカゴジラの頭部があるとされるドームに向かうと、キャリバーで両断。青黒い壁に巨大な亀裂を入れた後、ヴァルチャーと共に中に入ろうとする。

 

『グリッドマンすまない、俺はマックス達の援護に向かう!』

 

『……分かった。後の事は私達が何とかする』

 

『悪い、すぐに皆で戻る!!』

 

 ヴィットは中に入らず、その場から離れた。彼を見届けたグリッドマンがヴァルチャーを連れ、中に突入する。

 

 鈍い足音を鳴らしながらメカゴジラシティの通路を突き進む。中は規則的で無機質な空間をしており、不気味さを思わせる。

 辺りを見回すグリッドマンだが、途中何かがつま先に当たった。確認すると、人型をしたナノメタルが何体も転がっている。

 

『これは……』

 

『……逃げ遅れた兵士が取り込まれた姿だ』

 

 後から着いてきたハルオのヴァルチャーが、人型を見下ろす。

 これこそがナノメタルに侵された人間の成れの果て。その言葉を聞いて、グリッドマンはただ呆然と見つめるしかなかった。

 

『……元には戻せないのか?』

 

『完全に生命反応が途絶えている。彼らはシティに同化され、その思考をデータの一部として利用されている……これがこの怪獣のやり方なんだ』

 

 キャリバーとの会話から分かる、ハルオの怒りに震える様。

 

 そしてグリッドマンは、何故メカゴジラシティが人間を襲うのか分かってきた。このシティは人間という高度なAIを欲しており、浸食と言う形でAIを吸収しようとしている。

 AIを吸収したシティは、さらに複雑な思考体に進化。どうすれば外敵を倒せるのか、複雑な機能をどのように制御するのかなど、いくつもの問題をクリアしていく。

 

 そうして敵も、何もかも、全てを飲み込み、果ては地球と同化する。

 

 物理的な破壊をもたらすツツジ台の怪獣と違う、身の毛がよだつ脅威その物。まさに『怪獣』と呼ぶに相応しい所業だ。

 

『……! グリッドマン!!』

 

 ユウコの声に、考え浸っていたグリッドマンが我に返る。

 

 天井からナノメタルが伸び、機械仕掛けの腕になった。襲い掛かる腕を回避しつつ、キャリバーで一刀両断。

 しかし動きが止まってしまう。死角から伸びた腕によって、両足が拘束されたのだ。

 

『しまった……!』

 

 二機のヴァルチャーが駆け付けるも、無数の機械腕が行く手を阻む。

 超高速で回避しようとするが、グリッドマンと同様掴まってしまう。銃砲を押さえ付けられて満足に撃てない状態だった。

 

 さらに追い打ちを掛けるように、機械腕がグリッドマンの両腕を捕縛する。

 

 完全に身動きが取れなくなった。その思いもよらない握力でキャリバーを落としてしまう。

 

『グリッドマン!!』

 

『グッ……!』

 

 誰も動けない状態。さらにグリッドマンを浸食しようとしているのか、四肢にナノメタルが這う。

 すぐに鱗粉の効果で剥がれ落ちるが、それすら関わらず浸食を続けようとしてくる。まるでメカゴジラシティの執念が形になったかのよう。

 

 グリッドマンはこの状況をどうにかしようかと考え……

 

 

 

 

 

 

 …………##########死ヲ…………######ニ死ヲ…………ゴジ#######死ヲ……ゴジラ####死ヲ……

 

 

 

 

 

 ゴジラ##死ヲゴジラニ死ヲ…………ゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲ

 

 

 

 

 

 

 ゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲ

 ゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲ

 ゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲ

 ゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲ

 ゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲ

 ゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲ

 

 

 

 

 

 

                ゴジラニ死ヲ

     

 

『……何だ?』

 

 グリッドマンの脳内に、謎の怪文が浮上する。

 やがて怪文の後、ノイズ交じりの映像が浮かび上がる。映像にはあるのは燃え上がる火の海……だがそれだけではなく、ある物が倒れていた。

 

 それは機械仕掛けの怪獣。所々損傷して、火花が散っている。どう見てもまともに歩けない状態にある。

 

 その怪獣が棘のような口を展開させ、レーザーを発射している。レーザーは山のような物体に直撃するが、まるで無意味とばかりに跳ね返ってしまう。山には傷一つおろか焦げ跡すら付いていなかった。

 

 いや、山ではない。それは動いている。

 獣の顔を持ち、手足を持ち、尻尾がある。

 ノイズの音声でも聞き取れる、荘厳な咆哮。

 

 山のような怪獣が背びれを帯電させ、口元に収束。直後として機械仕掛けの怪獣と同じような、青白いレーザーが放たれた。

 

 レーザーが動けない機械怪獣に直撃し、粉砕。

 

 そこから先の映像が途切れ、視界が闇に染まってしまった。

 

 

 

 #SSSS#

 

 

 

「……? 何だここ……」

 

 グリッドマンの中にいた裕太。気が付けば見知らぬ場所に立っている事に、彼は気付く。

 

 まず用途が分からない機器が立ち並んでいた。モニターが取り付けてあるが、映像には何らかの文字のような物が羅列している。

 壁もプラグや機械が取り付けられて、まるでSFに出てくる指令室のよう。裕太がそれらを見渡したが、急にある物が目に入る。

 

「……これは……」

 

 壁の一面に強化ガラスが張られている。

 

 その奥に、怪獣の姿をした機械が鎮座されていた。刺々しい頭部と装甲が、さっきグリッドマンと見た映像の怪獣だと分かった。

 裕太はガラスに近付き、機械の怪獣を見上げる。

 

「……これがメカゴジラか……」

 

「その通り。我々が血肉を注いで作り上げた決戦兵器。我らに繁栄を与えてくる存在だ」

 

 背後からの声に、反射的に振り返る裕太。

 

 そこには褐色肌をした大男が立っていた。ハルオと同じく白い戦闘服を着ている事から、彼の仲間なのは間違いない。

 

「……あなたがサカキさんが言っていたガルグさん……」

 

「そうだ。君は今、メカゴジラシティの量子コンピューターの中にいる。メカゴジラ自身の記憶とも言っておこう」

 

 そう言ってガルグもガラスに近付き、メカゴジラを眺める。

 裕太はハルオから彼の事を聞かされていた。科学力を極めた異星人ビルサルドの一員でメカゴジラの開発責任者。現在はシティに取り込まれて死亡しているとの事。

 

 ここがシティのコンピューター内と言っていた為、その取り込まれたガルグとこうして話す事が出来るのだろう。

 

「君の事はメカゴジラが解析をしてくれた。別世界の住人……それも未知の巨人に変身出来る異能者の類。まさかそんなのがいるとは調べるまで思わなかった」

 

「……あなたは……」

 

「むっ?」

 

 もちろん裕太はシティで何が起きたのかも知っている。

 その張本人と話せる以上、聞きたい事が山ほどあった。

 

「あなたは何でナノメタルを暴走させたんですか……? 人が死んでいるというのに、どうしてここまで……」

 

「我々はメカゴジラの意思に従っただけの事だ。『ゴジラを殺す』という最大の目的の為に」

 

 ガルグが顔色変えず断言する。

 

 すると彼と裕太の周りに男達が集まってくる。これが全員シティに取り込まれたビルサルドか。

 

「我々にとって、ゴジラは倒さなければならない存在だ。奴は幾度も我々の科学力を跳ね除け、地球の頂点として君臨している。メカゴジラはその奴によって倒されたのだ。

 それがメカゴジラに憎悪のような物を芽生えさせ、我々を同化させた。故に我々はそれに従い、こうしてメカゴジラの一部として存在しているに過ぎない。ナノメタル拡散もまた、その目的の為に必要な事なのだ」

 

「必要って……そんなのをしたら地球がシティに飲み込まれるんでしょう? あなた達がよくても、サカキさん達が許さないはずです!」

 

「……青いな。言っておくが少年、ハルオの目的を達する為には、どうしてもメカゴジラが必要なのだ。例え彼が拒んだとしても」

 

「……えっ?」

 

 裕太が怪訝に思った時、ガラスの奥から駆動音が聞こえてくる。メカゴジラが急に動いてきたのだ。

 唖然とする裕太へと、メカゴジラがゆっくりと腕を伸ばしてくる。ガルグとビルサルドはその光景を無表情で見つめるだけ。

 

「ハルオもまた地球の頂点になったゴジラを憎んでいる……同じなのだよ、今のメカゴジラとハルオは。だから彼がどんなに拒んでも、必ずやメカゴジラを頼るようになる。俺達はそんな彼と共に奴を倒したい」

 

 メカゴジラの腕がガラスを割り、裕太を掴む。

 掴んだ箇所からナノメタルが溢れ、裕太の身体に這っていく。浸食しようと試みている事を、裕太は呆然として見つめるしかなかった。

 

「別世界から来た君には分からないだろう……我々が奴に何度屈辱を与えられたのか。もう後戻り出来ないのだ……我々も、ハルオも、そしてメカゴジラ自身も」

 

 ……ゴジラニ死ヲ……ゴジラニ死ヲ……ゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲゴジラニ死ヲ

 

 浸食されたナノメタルからメカゴジラの憎悪が伝わってくる。

 そのメカゴジラを開発したガルグ達もまた、無意識に敵への憎悪を抱いている事だろうか。だからこそナノメタルに浸食されようとも目的を達成しようとしている。

 

 裕太には分かっていた。分かっていたが、

 

「……それでも、あなた達のやり方は間違っている」

 

 彼の発言と共に、ナノメタルの浸食が止まった。

 無表情に近かったガルグの眉が微かに動くのも分かる。

 

「確かに別世界から来た俺達は、この世界の事情をよく知らない。あなた達がどんな屈辱を与えられたかも正直分からない……。でもナノメタルを使って目的を達成しようとするやり方には、どうしても許す事が出来ない」

 

「……だから青いのだ、君は。だったら我々はどうすればいい? どうすればハルオの憎しみを晴らす事が出来る!?」

 

 声を荒げるガルグ。それに呼応するように、メカゴジラが裕太の握る腕を強くする。

 苦痛を感じた裕太の顔が歪む。しかしそれでも俄然とした表情で、ガルグ達やメカゴジラに振り向いた。

 

「サカキさんの憎しみがどのようなのも分からない……正直晴らす事も出来ないかもしれない。だけど彼が傷ついたりくじけそうになったら、必ず()……いや()達がそばにいて支えてあげる。青いやり方だけど(だが)、それでも彼が変わるのを信じる」

 

 身体に這っていたナノメタルが引いていく。同時にメカゴジラの腕が溶け出し、裕太を解放した。

 そして彼自身は気付いていない。その声にもう一人の人物が混ざる事を。 

 青い目が光のような()()に変わった事を。

 

あなた()達の悲しみや苦しみはよく分かる……だからこそメカゴジラを止めたい。そしてサカキ・ハルオの憎しみも、一心に受け止めたい!!」

 

 裕太の背後から、無数の光が飛び交う。その光がメカゴジラを向かい、粉砕させる。

 そうして部屋全体が光に包み込まれていき、何も見えなくなる。

 

「……後悔するぞ。その考えが間違っていたと、必ず思うようになる」

 

 真っ白になった空間の中で、ガルグの声が微かに聞こえながら……。

 

 

 

 #SSSS#

 

 

 

『わりぃ、遅くなっちまった!!』

 

 辺りにあった機械腕が粉々に砕かれていく。

 

 グリッドマンが振り返ると、新世紀中学生の三人が駆け付けてきたのだ。持てる火器でグリッドマンとヴァルチャーを拘束した機械腕を破壊する。

 

 先ほどの光はボラーのミサイルだった。すぐにグリッドマンは把握する。

 

『マックス、ボラー、ヴィット!!』

 

『何とか間に合ったようだな! タンカーキャノン!!』

 

 マックスのタンカーキャノンが機械腕を粉砕。これでグリッドマンを拘束する物がなくなった。

 

 脱したグリッドマンはすかざすキャリバーを持ち、新世紀中学生を見やる。どれも装甲に損傷や亀裂が入っており、ダメージがあるのは明白。

 にも関わらず、彼らはやって来た。グリッドマンを助ける為に。

 

『皆……そこまでになって……』

 

『我々はグリッドマンの仲間だ。これくらいは当然の事』

 

『どんな事でも一人にさせない。それが俺のモットーなんでね』

 

『…………』

 

 マックスとヴィットの言葉が、グリッドマンの心に深く刺さる。

 そんな時、前方から無数の機械腕が出現。まるで無数の蛇のようにぬたくりながら迫ってくる。それでもグリッドマンは忽然(こつぜん)とした姿勢を崩さなかった。

 

 仲間を、信じれるのだから。

 

『……今がその時だ。全員の力、私に貸して欲しい!!』

 

『『おう!!』』

 

 ここで出し惜しみする必要はない。今こそ五人の力を合わせる時。

 

 マックス、ボラー、ヴィットの身体が分離。それぞれ両腕、胴体、両足に合体させ、巨大なシルエットを作らせる。

 次にキャリバーのパーツを胸に装着させ展開。グリッドマンの頭部に専用ヘルメットを被らせる。

 

 そして最後にキャリバーを手にしながら、彼らは叫ぶ。

 

 

 

『超合体超人フルパワーグリッドマン!!』

 

 

 

 

 最強の形態フルパワーグリッドマン。

 

 華奢な人型をしたグリッドマンと比べて、巨大で力強い印象。両肩などにあらゆる武装を備えており、遠近ともに隙を見せない。

 それはさながら巨大ロボットの姿だった。

 

『……それが君達の力……』

 

『ああ、その通りだ。……ツインドリルブレイク!!』

 

 ハルオに返事した後、両肩のドリルを発射。

 

 回転する強力なドリルで、無数の機械腕を貫通。通り過ぎた後に、空間に溢れんばかりの爆発を起こさせた。

 やがて爆発が消え、残ったのは腕の残骸だけ。

 

『……急ごう、サカキ。頭部はすぐ目の前だ』

 

 メカゴジラシティを止める為、ハルオを促すグリッドマン。

 

 ハルオの方は呆然としていたのか、すぐには答えず。だがヴァルチャーの翼から噴く光が、さらに増したのが見えた。

 

『ああ! 行こう、グリッドマン、ユウコ!』

 

『はい!!』

 

 三機の機体は敵の本丸に向け、長い通路を走り出す。

 

 そしてついに目の前に巨大な扉が見えてくる。ヴァルチャーが発砲して扉を粉砕。熱と威力で空いた穴から突入する。

 

『……これが、メカゴジラシティの中枢……』

 

 その全貌を見て、グリッドマンが呟く。

 

 目の前にはドーム状の空間が広がっている。その中央に、まるで打ち捨てられたような残骸が横たわっていた。

 

 それが他ならぬ、メカゴジラの頭部だった……。




今回のメカゴジラは「二万年前のゴジラと戦ったが敗れた」という設定です。またフルパワーの前にパワードゼノンを出す予定でしたが、結果として没となりました……(汗)


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第9回 決・戦 ‐迫り来る影‐

 ハルオは今、グリッドマンとユウコと共に中枢にいた。

 

 彼の目の前には、ナノメタル全体を制御しているメカゴジラの頭部がある。ここを出る前とは変わらず、まるで打ち首のように転がっていた。

 また頭部の近くには二つの人型ナノメタルがある。

 

「……ガルグ……ベルベ……」

 

 共にゴジラと戦った二人のビルサルド。ナノメタルを喜んで受け入れた彼らの成れの果てだ。

 危険なナノメタルを受け入れるなんて普通はおかしい。ただシティの存在を知った時には歓喜し、ナノメタルが同胞を取り込んでいる事を当然とばかりに説明していた。

 

 彼らにとってメカゴジラシティとは、それほど特別な存在だったという事かもしれない。

 

 それは十中八九移民船に残っているビルサルドも同じだろう。もしシティを破壊した場合、彼らの逆鱗に触れるのは間違いない。

 

「それでも俺は……」

 

 だがそんな事に構っている場合ではなかった。

 

 これを破壊すれば全てが終わる。そしてここまで戦ってくれたグリッドマン達の為に、ハルオは火器をメカゴジラ頭部に向けた。

 

 

 

 

『巨大不明生物、データ解析完了』

 

「……何?」

 

 コックピットのモニターに、突如として無機質な文が表示された。

 戸惑うハルオだが、そこにユウコの声が届く。

 

『先輩、私のモニターにも文が……』

 

 どうやら彼女のヴァルチャーにも同じ事が起こっているようだ。

 二人が呆然としている間にも、文が次々に表示される。

 

『コードネーム:グリッドマン 所属:不明 身長:現時点で約50m  

 未知の光学兵器及び僚機との接続を確認 メカゴジラに対する危険度:未知数 ただちに「レパード」での排除が求められる

 

 グリッドマンニ死ヲ グリッドマンニ死ヲ グリッドマンニ死ヲ

 

 グリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲ

 グリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲ

 グリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲ

 グリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲ……』

 

「レパード……?」

 

 ハルオが怪訝に思った時、天井から軋み音が響く。そこのハッチが徐々に開けられるのだ。

 ハッチの奥には、刺々しさを持った巨大な影が見える。

 

 完全にハッチが開けられたと同時に、謎の影がハルオ達の前に落下してきた。逆関節の両脚で着地し、まるでハルオ達に見せ付けるように身体を持ち上げる。

 

『ヴァルチャー!?』

 

 ユウコの言葉通り、それはヴァルチャーに酷似していた。

 おおむねのシルエットは翼を取り除いたヴァルチャーといった所か。しかし全身が刺々しい装甲で覆われ、手足には鋭い爪が生えている。身長は今のグリッドマンとほぼ同等。

 

 そして何より頭部がヴァルチャーと全く異なり、獰猛な獣の造形をしていた。

 

「いや、違う。ヴァルチャーに改造予定だったパワードスーツを元に造り上げたんだ。かつてのメカゴジラの要素を加えながら」

 

 レパードと呼ぶ機体には、かつてのメカゴジラの面影があった。

 そして元になったパワードスーツはベルベの物で間違いない。ヴァルチャーは三機分開発されており、それぞれハルオとユウコ、そしてベルベに割り当てられていた。

 しかも脱出する時にベルベ機を置いてきたままになっている。その間に機体に改造を加えたのだろう。

 

 つまりこの機体はメカゴジラシティにとっての、ガーディアンという事になる。

 

「……ガルグ達が俺達を止めようとしているかもしれないな」

 

 ベルベ機が敵として現れたのを、そんな意味があるのではないかと思うようになる。

 複雑な気分になるハルオだが、一方でレパードがこちらへと駆けてくる。考えている余裕はなさそうだった。

 

「全員散開!!」

 

 鉤爪を振るってくるレパード。

 ハルオ達は散開しつつ火器を発射。するとレパードが跳躍し、射撃を回避してしまう。

 

 レパードが降り立った場所はフルパワーグリッドマンの目の前だ。やはり鉤爪で攻撃しようとする。

 

 対しフルパワーグリッドマンはキャリバーで受け止める。迸る金属音と火花。

 

 そのままグリッドマンがヴィットで構成された足で蹴り飛ばす。吹っ飛ばされるレパードが壁に張り付き、身体中の棘を発射。追尾しながら迫りくる棘を腕でガードするグリッドマン。

 

 ハルオとユウコも火器を発射。しかし敵はそれすら回避。

 

 レパードが目に留まらぬ速さで、二機のヴァルチャーに接近。鉤爪がユウコ機に襲い掛かるのを、ハルオは見逃さなかった。

 

「ユウコ、よけろ!!」

 

『……っ!』

 

 ユウコ機が宙返りでかわした。

 だが突如としてレパードの頭部が伸び、ユウコ機に喰らい付く。

 

『しまった! キャアア!!』

 

 頭部に振り回され、壁に叩き付けられるユウコ機。

 ハルオは愕然するも、すかさず火器を発射。今度は背中に直撃し爆炎が起こる。

 

 ──だが爆炎の中からレパードが現れ、タックルを喰らってしまう。

 

「グアアアア!!」

 

 ヴァルチャーが地面へと倒れ込む。衝撃で操縦席に叩き付けられ、ハルオの頭から血が流れる。

 激痛が走りながらも、彼は重い頭を上げた。そのモニターの奥で、フルパワーグリッドマンに襲い掛かるレパードが見える。

 

『この化け物め!! バスターグリッドミサイル!!』

 

 ボラーの声と共にミサイルが発射。

 それらをかわしながらフルパワーグリッドマンに接近。グリッドマンが拳を振るおうとするが、その隙を付くように攻撃してくる。

 

『グアアアア!!』

 

 よりにもよって強固な装甲の関節を狙う形で。

 

 関節に入り込んだ爪が、グリッドマンに苦痛を与える。さらに彼がキャリバーを振るうのを察知して、右腕の関節に攻撃。そのダメージでキャリバーを落とすグリッドマン。

 

 隙を入れず、なおかつ合理的。そんなレパードがグリッドマンに蹴りを入れて転倒。さらに倒れるグリッドマンの首を掴み、高く持ち上げていく。

 

 このままでは彼らがやられてしまう。モニターに起こった蹂躙が、ハルオにそう感じさせる。

 

 

 

 #SSSS#

 

 

 

 ――ブォオオオオオオオオオオンン!!――

 

 難攻不落怪獣メガゴーヤベックの口から、空気を震わす咆哮が響く。

 

 背中の火口から火球を発射させ、メカゴジラシティの砲台を破壊尽くす。燃え盛る炎、木霊する爆発。さらには進撃し、ドームを巨大な脚で叩き潰して粉砕。

 

 それはまるで、このシティの存在を許さない新条アカネその物を表しているかのよう。

 

 などと思いながら、メガゴーヤベックの上に乗ったアンチが腹のミサイルを発射する。以前バスターグリッドマンからコピーしたそれで、次々とシティの一部を焼き尽くす。

 

『あまり時間がない……早く行かせろ……!!』

 

 シティの中心にあるメカゴジラの頭部を破壊すれば停止する。アンチはメトフィエスからそう聞かされている。

 頭部の居場所は分からないが、逆にグリッドマン達は匂いで把握済み。彼らもまたシティの破壊を目論んでいるはずなので、その場所に行けばたどり着けるはず。

 

 そうしてシティを破壊した後、グリッドマンを倒す。

 

 例え体力や制限時間が消耗していても構わない。残り少ない時間で宿敵を叩き潰すまでだ。

 

『喰らええええええ!!』

 

 さっきのように黙らせるべく、発光部のエネルギーを収束させる。

 

 その時、メカゴジラシティから金属粒子が舞うのをアンチが気付く。それでもかまわないと、エネルギーを収束させた極太の光線を放つ。

 

 レーザーがそのままシティに直撃……はしなかった。金属粒子に当たった途端、レーザーが明後日の方向に飛んでいく。

 

『何っ!?』

 

 メガゴーヤベックも尻尾から光線を放つも、同様に跳ね返されてしまう。

 どうやら金属粒子が光線へのバリアになっているようだ。だとするならば実弾攻撃しか通用しないという事になる。

 

 歯がゆい思いをしながらも、アンチはミサイル攻撃に転向。するとその時、彼やメガゴーヤベックの周りの地面が爆ぜる。

 数本の巨大なアームが出現。それらが内側に稼働し、メガゴーヤベックを挟む。

 

 そうして身動きが取れなくなったメガゴーヤベックへと、アームから無数の槍が伸び、刺し貫いた。

 

 ――ボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!――

 

 苦痛の悲鳴がシティに上がる。さらにアームの力によって、メガゴーヤベックの体表が砕かれていく。

 ここにいたら巻き込まれると、アンチがメガゴーヤベックの上から脱出。メガゴーヤベックはまるで助けを求めるように腕を伸ばすが、やがて鈍い音を上げながら潰されてしまう。

 

 バキッ!! ボキボキッ!! バキッ!!

 

 もはや怪獣であったそれは原型を留めず、単なる巨大な残骸へと化してしまった。

 

 呆気に取られるアンチ。しかし立ち止まっている訳に行かないと、メカゴジラシティへと跳躍する。

 だがメカゴジラシティが再生させた砲台で一斉射撃。アンチは両腕で防いだが、そのまま地面に転がってしまう。

 

『ぐう……!!』

 

 すぐに腕を見るとナノメタルが侵食している。アンチは光弾で強引に除去。腕に痛みが走るが、体表に這っていたナノメタルを焼く事が出来た。

 

 その時、頭部の発光部からサイレンが鳴る。そう時間が掛からない内に人間体に戻ってしまうサインだ。

 逆に言えばかなりの時間戦っていたという事になるはずだ。しかし目の前の都市はいくら損傷を負ってもすぐに再生してしまい、逆にこちらを消耗させてくる。勝てない戦いを常にやっているような物。

 

 悪態を吐きたくなるアンチだが、目の前の都市が武装を向けてくる。

 

 もはや逃げられはしないだろう。グリッドマンを倒す事を叶わないまま、散っていくのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 そう思っていた時、周辺が青白い光に包まれた。

 

『何だ……?』

 

 アンチが見上げると、一筋の光が飛んでいた。

 光が金属粒子を通過すると無数に分離し、屈折。しかしそれが逆に広範囲に渡り、シティの所々に着弾していく。

 

 光の余波を喰らうシティ。アンチはどこから来たのか、それを確かめようと背後を振り向く。

 

 ――グルウウウウウウウウウウ……――

 

『……あれは、さっきの……』

 

 遠くにある森の中を、それは動いていた。

 山のように巨大で、獣の顔と手足を持って、背中から青白い電撃を纏わせた存在。それが大木のような脚を踏み鳴らしながら、シティにゆっくり迫ってくる。

 

 アンチはメトフィエスから、あの存在の事を聞かされていた。

 この世界における怪獣の頂点であり、地球の生態系の霊長、そして破壊の王とも言われている存在。

 

 その名は――『ゴジラ』。

 

 

 

 ――オ゛オオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン!!――

 

 

 

 

 ゴジラが高らかに咆哮をする。同じ怪獣であるはずなのに、アンチは言い知れない威圧感を感じ始める。

 

 ドン!! ドン!! ドン!!

 

 だが呆然としている間、シティがゴジラへと砲撃していた。

 雨あられと無数の弾幕が襲い掛かる……のだが、ゴジラは全く意を介さず突き進んでくる。もはや誰にも止められないと言わんばかりの進撃。

 

 やがて一旦立ち止まると、その背ビレに大量の放電が放たれる。

 

 放電が口元に収束した瞬間、ゴジラの瞳孔が鋭くなった。



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第10回 終・局 ‐一人の人間として、生きていく‐

 フルパワーグリッドマンの首を持ち上げるレパード。

 

 グリッドマンは蹴りを入れようとするが、気付いたレパードによって地面に叩き付けられてしまう。あまりにも暴力にうめき声を上げるグリッドマン。

 さらにレパードがもう片方の腕を上げ、鋭い鉤爪を見せ付けるように向ける。早く助けないと殺されてしまう。ハルオはすっかり重くなったヴァルチャーを持ち上げようとする。

 

「……くそっ……」

 

 グリッドマンは……裕太達は、本来このシティに関係なかった。

 なのに率先して協力してくれて、共に戦っている。

 

 それに彼らには家族がいる。家族を残してこの世界で死んでいくなんて、果たして許される事なのか。少なくともハルオはそんな事など許しはしない。

 

 彼らには生き残ってほしい。元の世界に帰って家族と日常に触れ合って欲しい。

 

 自分のような人間が増えるのは、二度とあってはならない。

 

「ううう……ウオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 グリッドマン達を助ける為、ハルオはヴァルチャーを動かす。

 レパードへと急接近し、ヴァルチャーの巨大な翼で打撃を加えた。それによってグリッドマンを離しつつ吹っ飛ばされる。

 

 だがレパードの棘がヴァルチャーへと射出。棘がヴァルチャーの左腕に貫通し、壁に磔をされる。

 

 そうして動かなくなったハルオ機に迫るレパード。するとその瞬間大きく揺れ出す空間。突然の出来事にレパードの体勢が崩れていく。

 

『先輩!!』

 

 体勢を崩したレパードに銃弾が撃ち込まれた。ユウコのヴァルチャーからだ。

 

 何発も、何発も喰らい続けた結果、背中から伸びていた棘が粉々に砕かれる。攻撃の影響でユウコ機に振り返るレパード。

 ただ気を取られすぎていた。あまりにもユウコ機を注目する余り、フルパワーグリッドマンの接近に気付いていなかった。

 

『ハアアアアアアア!!』

 

 振りかぶられるキャリバーの斬撃。レパードが振り向いた時には左腕が切断。断面から迸る火花に、床に転がる左腕。

 

 部位をもぎ取られた焦りからか、レパードがグリッドマンから離れるように飛び下がった。まるでヤモリのように壁に張り付く。

 

『サカキ大尉! メカゴジラシティにゴジラが出現している!! 今の揺れは奴の熱線だ!!』

 

「!!」

 

 突如としてマーティンの報告が舞い込んだ。ハルオはそれを聞いて強く反応する。

 

 (ゴジラ)がすぐ近くにいる。

 

 自分達を破滅に追いやった宿敵が、このメカゴジラシティを破壊しようとしているのだ。かつて倒した敵を発見して、奴は何を思っているのか。

 

 それよりもレパードの方だ。ハルオは磔にされたヴァルチャーの左腕を引きちぎり、レパードに照準を向ける。

 しかし捉えようとしても、すぐにどこかへと飛んでしまう。まるで獣のような俊敏性でハルオ達をかく乱していく。

 

 これでは攻撃しようにも出来ない。ハルオが歯ぎしりする……が、

 

『ダアアアアアアアア!!』

 

 グリッドマンやヴァルチャーの背後から青い怪獣が出現。手の甲の鉤爪でレパードの首を刺し貫いた。

 

 あれは、先ほどの巨大怪獣の上に乗っていた謎の怪獣(アンチ)

 

 怪獣が出現した事に、ハルオはおろかグリッドマン達も驚く。

 

『おい、一体何の用だ!? 俺達の邪魔しに来たのか!?』

 

『勘違いするな!! ここでお前達が死なれたら困るだけだ!!』

 

 怪獣(アンチ)がボラーに言い放つ。一方でレパードが鉤爪から引きちぎりつつ脱出。

 

 しかし彼は目に留まらぬ速さで回り込み、レパードに羽交い締め。もがこうと暴れるレパードだが、それでも決して離さない怪獣(アンチ)

 

『早くやれ!! こいつを倒せばこの街が終わるんだろう!?』

 

「!」

 

『何突っ立っているんだ!? とっととやれ!! グリッドマン!!』

 

 自分が攻撃されるのを承知で言っている。

 

 そう分かったハルオはフルパワーグリッドマンへと振り向く。彼は怪獣(アンチ)に思う所があるのか、まるで躊躇しているように立ち止まっている。

 

 しかし覚悟を決めただろうか。彼はキャリバーを掲げ、高らかに叫ぶ。

 

『フルパワー……チャージィ!!』

 

 キャリバーの刃にエネルギーが放出され、あたかも巨大な剣になる。

 全身の装甲が金色に発光し、この暗い空間を照らす。

 

 そしてキャリバーを、動かなくなったレパードへと振りかぶる。

 

『グリッドォ……フルパワーフィニッシュウウウウ!!』

 

 エネルギーの切っ先でドームが切り裂かれた。

 また攻撃がレパードに向かう直前、怪獣(アンチ)が離れる。

 

 エネルギーの切っ先がレパードを一刀両断。大量の部品をばら蒔き、放電を放ちながら身体が崩れていき、爆散。

 

 空間に満たされていく黒煙。やがてキャリバーが斬り裂いた壁の亀裂から、その煙が排出されていった。

 

『……どうやら我々が勝ったようだな』

 

『だね』

 

 マックスとヴィットの言葉に、ハルオはやっと実感する。

 自分達は勝った。あの化け物を倒す事が出来た。もしグリッドマン達がいなかったら、今頃どうなっていたか。

 

 心の底から安堵をするハルオ。するとそんな彼にグリッドマンが振り向く。

 

『サカキ、後は君が頭部を破壊するだけだ』

 

「!」

 

 意外な言葉だった。思わずハルオは目を丸くする。

 

『確かにこれはお前の役目……お前自身がトドメを刺すべきだ……』

 

『そうそう、とっととやって終わりにしようぜ。今までのお礼を兼ねて、あの頭部にガツンってさ』

 

「…………」

 

 キャリバーもボラーも促している。

 まさかこんな事になるとはハルオも予想付かなかった。だがメカゴジラシティは元はと言えば、ハルオ自身が管轄していた物、彼らの言い分は至極正しい。

 

 ハルオは真っすぐメカゴジラの頭部を見据えた。未だ頭部は最初発見した時と同じく、空間の中央に転がっている。

 

「……ガルグ。お前はあの時に言っていたな。人を超え、ゴジラを超えたその果てに至れと……。今の俺なら、お前の言葉に返す事が出来る」

 

 ガルグとの最期の会話の時、ハルオは何も答えられなかった。

 それはいずれそうなるのではと危惧し、ガルグに返す言葉が見つからなかったからだと彼は思っている。だがこの戦いを経て、彼は自分の答えを見つけた。

 

 その答えを口にしようと、火器を頭部へと向ける。

 

「俺は、お前の言った人ならざる者にはならないようだ。このナノメタルに屈する事もない……こんな物など必要ないんだ」

 

 彼はハッキリとガルグ……そしてメカゴジラシティに伝える。

 

 彼をそうさせたのは他ならない、隣に立っているグリッドマン達だ。別世界の住人なのに、身体を張って一緒に戦ってきた『仲間達』。そんな彼らに比べればナノメタルなど取るに足らない。

 

 もちろんグリッドマンだけではない。六花や内海、そしてたくさんの仲間が、今ハルオのそばにいる。

 六花が言っていた「一人じゃない」。この言葉が、ハルオを怪獣化(人ならざる者)から救ってくれたのだ。

 

「だから俺は……」

 

 操縦桿を握り、スイッチに指を添えるハルオ。

 その時、頭部の目に赤い光が灯る。まるで獣が口を開けるようにパーツが展開されていく。

 

「一人の人間として、仲間と生きていく!!」

 

 パーツの奥からレーザーは放出。ハルオに直進。

 しかしハルオは寸前で回避。火器を発射。

 

 一発の銃弾がメカゴジラの頭部に着弾。無機質な装甲が熱によって変形し、中から破裂。

 

 粉々に吹き飛ぶ瞬間を、ハルオは目を離さずに見守った。かつて『人類最後の希望』とされた怪獣が今、目の前で破壊されていく様を。

 

『……終わったか』

 

「……ああ、終わった」

 

 メカゴジラの頭部は金属の破片となり、火を噴いていた。

 ハルオがグリッドマンにそう答えたが、突如として爆発音と振動が襲い掛かる。

 

「奴の攻撃か……全員、ここから離脱する!!」

 

 無言で頷いたグリッドマンがツインドリルブレイクを発射し、壁に穴を開ける。そこからハルオ達が脱出した。怪獣(アンチ)の方はとっくに離れたのか姿が見えない。

 

 すぐにメカゴジラシティの上空へと急上昇。ある程度の高さまで上がり、シティの様子を確認する。

 

──ウ゛オ゛オオオオオオオオオオオオオオ……… ──

 

 メカゴジラシティの前に巨大な獣が立っている。ゴジラだ。

 

 ゴジラの大木のような体表が、みるみる内に赤く帯びていった。それに比例して、彼の中心に陽炎と大量の火の粉が発生して燃え上がる。

 

 熱を利用した攻撃だ。ハルオが気付いた時には、シティの砲台が少し溶解しつつ爆発する。

 

 爆発、爆発、爆発、爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発。

 

 膨大な熱エネルギーによって砲台が誘爆したのだ。一瞬にしてシティが爆炎にまみれ、やがて火の海と化す。

 

 ――オ゛オ゛オ゛オオオオオオオオオオオオオオンンンン!!!――

 

 燃え上がる炎の中、ゴジラは帯電を頭部に収束。歪に溶けていくシティへと熱線を薙ぎ払った。

 

 15キロ以上の範囲を及ぶシティ全体が貫通され、次々に爆散。

 

 さらにゴジラが再び熱線を繰り出し、一発目を免れた物も爆散――破壊。

 

 広大な機動増殖都市は、ハルオ達の目の前で一瞬にして焦土と化し、

 怪獣の王は、勝利を歓喜するように咆哮を上げた。



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第11回 余韻 

「素晴らしいねぇ……久々にいい物を見させてもらったよ」

 

 洞窟の外に立ったアレクシスが嬉しそうに呟く。

 

 彼が見ている彼方に広大な火の海が上がっていた。今さっきメカゴジラシティがあった場所だが、アンチ達の奮闘により跡形もなく破壊されている。

 その火の海の中で、咆哮を上げている巨大な怪物。あれがかのゴジラだと分かった途端、アレクシスが静かにほくそ笑む。

 

「あの怪獣もまた強い情動の持ち主……この世界は本当に面白いねぇ」

 

「私は全然面白くなかったですけどぉ~」

 

 隣にいるアカネちゃんが膨れ顔になっている。

 この距離からでは戦闘はおろかメガゴーヤベックの活躍すら把握出来ないからだ。ツツジ台にいた頃はドローンで解決していたが、今はそれがない。そもそも用意したとしても電波の影響で撮影する事が出来なかった。

 

「まぁ、それは仕方がないさ。でもゴジラが大きいおかげで破壊シーンが楽しめたと思うよ?」

 

「……霧とか炎のせいであんまり見えなかったけどね。大体大き過ぎるゴジラなんてナンセンスだよ。期待しちゃって損しちゃった」

 

「ううむ、難儀だねぇ」

 

 アカネは怪獣に対してこだわりが強い。だからこそメカゴジラシティを憎み、あれほどの破壊を行ってくれた。

 結果的にメガゴーヤベックは負けてしまったが、アレクシスにとっては勝ちも当然。強い情動に満たされた彼は大変満足していた。

 

「……ん? おおアンチ君、お帰りなさい」

 

 アレクシス達へと人間体のアンチが戻ってきた。頬や服装に傷が出来ているが、逆にこれといった重傷はしていない。

 

「目的は果たせた。だが結局、グリッドマンを仕留める事を……」

 

「いやいや、シティ破壊に貢献したんだからめっけものだよ。グリッドマンはまた後で戦えばいい。ねぇ、アカネ君?」

 

「……まぁそうだね。とりあえずご苦労様」

 

 それだけ言って洞窟の中に戻るアカネ。素直じゃない一面にアレクシスがやれやれと首を振る。

 するとアカネに代わるように、メトフィエスが外に出てきた。彼もまた燃え盛るメカゴジラシティを見て、その口元の角を少し上げる。

 

「君達のおかげでメカゴジラシティは破壊された。改めて礼を言わせてもらう」

 

「いやいや、私も十分楽しめたからね、お互い様だ。ところでシティを破壊した後はどうするつもりだい?」

 

「どうするか……私としてはただ神を祈るだけの事。その為には偶像であるメカゴジラシティを排除する必要があった……まぁ、単なる気まぐれだと思って欲しい」

 

「……気まぐれねぇ……」

 

 そう答えるメトフィエスに対して、アレクシスは気付く。

 

 彼は何かを隠している。今さっきの台詞もどこか他人事のようで、本心から言っているようには聞こえない。となると他人に言えない『何か』を隠しているという事になる。

 

「メトフィエス君、やはり君も私と同じだと思うね」

 

「……何の話だろうか?」

 

 隠していると言えば……アレクシスにはある確信があった。

 その根拠として以前に見たビジョンがある。それがメトフィエスに関わっているのは間違いない。

 

「怪獣だよ怪獣。君にも私と同じ怪獣の匂いがする。それを利用してこの世界で何かを起こしている……違うかな?」

 

「……それなら君はどうするつもりかね?」

 

「いや、何も。私は見ているだけでも満足でね。君の怪獣がどういった存在なのか、考えるだけでもワクワクするよ」

 

 例のビジョンからして、恐らくはアカネの怪獣以上の脅威と見て間違いない。

 むしろ脅威が未知数だからこそ興味深いとアレクシスは思っている。あの怪獣がゴジラと共にどのような活躍を見せてくれるのか――それがアレクシスにとっての楽しみになっていた。

 

「……確かに我々は同じかもしれない」

 

 メカゴジラシティを見ていたメトフィエスが、アレクシスへと振り返る。

 小さい石板を丁寧に指で持っており、まるでアレクシスに見せ付けるように掲げていた。

 

「だがハッキリ言おう。私は君が思っているような人間ではない。君が楽しみにしているという……その怪獣も……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 メトフィエスの言葉の後、全く見知らぬ世界が広がっていた。

 森に満ちたあの場所とは違い、光だけしか視覚出来ない謎の空間。アレクシスは何故にここにいるかと、怪訝に思いながら辺りを見回す。

 

 やがてそうしていた彼が、ふとその動きを止めてしまった。

 

 光の中から出現する、三体の龍の影。

 

「……これは……」

 

 龍は身体を持っている。身体から長い首と巨大な翼、そして二本の尾が見える。

 先ほど垣間見た幻影の存在だと、アレクシスはすぐに分かった。龍の影がゆっくりと、獲物を狙うようにアレクシスへと迫る。

 

 長い首が彼の周囲を囲んでいき、逃げ場をなくしていく。

 

 禍々しい三体の顔がアレクシスを見つめる。その目が、口が、牙が、アレクシスという獲物を狙っている。

 

 そうしてアレクシスへと、ゆっくりと近付き、口を開け……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!?」

 

 気付けば元の場所が広がっていた。目の前にはメトフィエスが未だ穏やかな笑みをしている。

 一見すれば、幻影の事に気付いていないようにも見える。だがその笑みが、幻影に翻弄されたアレクシスを嘲っているかのようだ。

 

「……本当に面白いね。メトフィエス君は」

 

 だが彼のやり方に、アレクシスはどこかそそられる物があった。

 

 

 

  #SSSS#

 

 

 

 あの戦いから数時間が経った。

 

 裕太は部屋の中で壁に寄りかかり、体育座りをする。ツツジ台の時とは比べ物にならないメカゴジラシティとの激闘には、さすがの彼も疲労感を覚えた。

 

「大丈夫か、裕太?」

 

「うん……ちょっと疲れているだけ。しばらくはこんな感じかな……」

 

「さっきのは本当に危なかったもんね……本当にお疲れ様、響君」

 

 内海に返事すると、今度が六花が言ってきた。

 彼女の微笑んだ顔を見て、裕太は少し耳が熱くなってしまう。軽く「うん……」と言って真正面を向く。

 

「これ……よかったら……」

 

 そんな彼の元にマイナとミアナが近付く。さらにミアナが壺のような物を差し出してきた。

 中身は見る限り透明な水。ちょうど喉が渇いたので、裕太はそれを口にする。

 

 水はかなり冷やされており、枯れた喉を優しく癒してくれる。

 

「ぷはぁ! ありがとうミアナちゃん、マイナちゃん」

 

「…………」

 

 二人は何も言わなかった。ただ口元を綻ばせてコクリと頷く。

 彼女達の姿を見て、裕太自身本当に頑張ったと自己評価する。もちろんそこには新世紀中学生の助力があってこそ。

 

 なお新世紀中学生は近くでアダム達と話し合っていた。彼らからお礼として携帯食料をもらったりと、それなりに楽しそうである。

 

「うむ……今の所は休眠しているね。今までから察するに数サイクルはこのままかな」

 

「……そうですか」

 

 するとマーティンとユウコがやって来た。

 マーティンの機器からある場所の立体映像が表示されており、二人して見ているらしい。裕太がよく見ると、文字通りの不毛の土地にゴジラが佇んでいる。

 

 今いる場所は燃え尽くされたメカゴジラシティ跡。ゴジラはそこで休眠をとっているようだ。

 

「マーティンさん、あれからゴジラは動いていないんですか?」

 

「ああ、今回の戦闘でかなりのエネルギーを消耗したみたいだからね。しかも捕食なんかせずとも、休眠をとるだけでエネルギーを蓄えられる……完全無欠とはまさにこの事だよ」

 

「……完全無欠……」

 

 以前マーティンが『助け合いの共生をいらない存在』を示唆していた。それがゴジラの事だったと裕太は確信する。

 グリッドマンの中にいた時、彼もまたゴジラの姿を目にしていた。あの攻撃の規模、脅威、そして存在感――どれもツツジ台の怪獣とは比べ物にならない。

 

 そして何と言っても、彼がハルオにとっての宿敵らしい。もし仮に戦う事になったら、果たして勝ち目があるかどうか。

 

「ああ後、メカゴジラの頭部が破壊された影響で全ナノメタルが機能停止した。後はそのままただの金属に変わるはずだよ」

 

「そうですか……よかった」

 

「うん、だからありがとう響君。私達の為にここまで戦ってくれて……」

 

「いえ、そんな……」

 

 ユウコに礼を言われて、裕太はこそばゆく感じる。

 彼の様子に微笑むマーティン達。と、その二人へと壺を持ったミアナが駆け寄る。

 

「はい……」

 

「……!」

 

 渡されたユウコが少し動揺したのを、裕太は見逃さなかった。

 すると彼女は恥ずかしそうにしながらも、「あ、ありがとう……」と壺を受け取る。その行動に疑問を持つ裕太。

 

(タニ曹長、以前はマイナ達を苦手にしてたんだけど、鱗粉で助かって以来考えを変えたらしいんだよ)

 

(へぇ……)

 

 裕太の疑問に察しただろう。マーティンが小声で説明してくれた。

 ユウコの方はぎこちなく壺の水を飲んで、それでぎこちなく笑みを浮かべる。彼女なりにミアナ達に歩み寄ろうと頑張っているかもしれない。

 

 そう考えるとどこか微笑ましい。

 

 そんな事を思っていた裕太が、ふとある事に気付く。

 

「ところでサカキさんは?」

 

「ああ、外のヴァルチャー整備場にいるはずだよ。今頃はどっかに座ってぼんやりしていると思うよ」

 

「外ですね。俺、ちょっと行ってきます」

 

 ハルオがどうしているのか気になったので、裕太は言われた場所に向かう事にした。 

 長い洞窟を経て目的地に着くと、空が夜の漆黒に染まっている。星は霧の影響かほとんど見えない。

 

 その夜空の下で、ハルオがヴァルチャーの上に座っていた。彼は戦闘服を脱ぎ捨てた軽装姿で、星のない夜空を見上げている。

 

「あの、サカキさん」

 

「……! 響……」

 

 気付いた彼がヴァルチャーから降りる。

 相変わらずの鋭い目付きで、裕太を見つめる。最初はどこか強気な印象が拭えなかったが、今の裕太にとってはそれほどでもない。

 

「ありがとう。俺達の為に頑張ってくれて……君達がいなければメカゴジラシティに対抗出来なかった」

 

「いえ、これは他人事じゃないって思っただけで……それにサカキさんがいたからこそ、ここまで来れたんです」

 

「ここまでか……君が言うと、その言葉が悪くない気がする」

 

 上の空のように呟く。そんなハルオを見て、自分のした事はよかったかもしれないと裕太は思う。

 

 だがどうしても引っ掛かる。それは自分が思っているだけで、本当はよくないのではとも勘繰りたくなる。

 

 

 

『後悔するぞ。その考えが間違っていたと、必ず思うようになる』

 

 

 

 理由があるとすれば、ガルグの言葉だ。

 まるで裕太達の行動を否定するような感じ。それが今でも彼の脳裏に焼き付いている。

 

 だから……

 

「サカキさん」

 

「ん、どうした?」

 

 だからこそ、言葉にしたい。

 ハルオに、それを伝えたかった。

 

「俺は……信じます。例えあなたがどんな事になっても、どんな事が先に待っていても、俺はあなたを信じます……信じたいんです」

 

「…………」

 

 裕太の言葉を聞いて、ハルオは沈黙する。

 次第に場が静かになっていくにつれて、裕太は少し恥ずかしそうになる。頬が熱くなるのを感じながら、無性に頬をかく。

 

「えっと……ちょっとかっこつけましたね……」

 

「……いや、俺は嬉しい」

 

「えっ?」

 

 もう一度ハルオを見る裕太。

 彼は少し前を歩き、その背中を見せるように立った。

 

「ガルグ達の件で、俺は自身というのを信じられなくなったかもしれない。自分のしてきた事が今まで間違っていた、やっている事なんて無駄だった、そんな言葉が脳裏に浮かんでくる事もあった」

 

「…………」

 

 裕太は何も言えない。ただハルオの背中を見つめるしかない。

 

「でも君のその言葉が、また俺自身を信じるという勇気をくれた。君のおかげで報われたとも言っていい……君という存在がいて、俺は今嬉しく思う」

 

 しかし一呼吸入れてからの言葉が、裕太の心に深く突き刺さる。

 そしてハルオが彼に振り返ってきた。鋭い目つきを穏やかにして、微笑みを見せながら。

 

「俺は響を……宝多達を信じたい。俺の事を信じてくれた、別世界の仲間として」

 

「……はい、よろしくお願いします。サカキさん……」

 

 自分の言葉で救われた。それを知った裕太もまた嬉しく思う。

 お互い別世界の住人で、それでいて過去の事を何も知らない。何もかもが正反対……でも信念だけは同じのはず。

 

 だからこそ確かにそこに感じる友情。それが裕太とハルオの間に、芽生えようとしている。

 

 そんな二人の間に吹くそよ風。それはまるで、世界の誓う二人に微笑むかのようだった。

 

 

 

 裕太はこれからも信じ続ける事だろう。ハルオがこの先、どんな道に歩んでいても。

 

 そして彼もまたこの世界において、さらなる困難に見舞われる。困難を退けた時、彼らの前に姿を現すだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ――来たれ金色の、その名は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――来たれギ――よ、終焉の翼――

 

 

 

 

 

 

 

 ――来たれギド―よ、我らに栄えある終焉を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――来たれギドラよ、我らに栄えある終焉を。血肉を糧に究極の勝利を――

 

 

To Be Continued……?




これにて「GODGRID ─決戦機動電光超人─」は完結となります! ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!!
この作品に関する事を活動報告で語りますので、ぜひともお越しください!


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