呪腕少女のヒーローアカデミア (オフェリアスキー)
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1話 異世界転生

ほとんど小説を書いたことがないし、二次創作は初めてなのでおかしい部分もあると思いますがよろしくお願いします。ヒロアカはアニメを軽く見たくらいです。


『起きよ、■■ ■■』

 

 

誰かに呼ばれて起きる。とっても眠たいけど、なぜか起きなければいけない気がした。

目を開けると一面が真っ白で、どうやら私はここに倒れていたようだった。

体を起こして辺りを見渡すと、私の腰くらいの高さの真っ白の机がありその上に何か書かれた箱が2つあった。

 

 

『汝は転生者に選ばれた。そこの箱から特典と転生先を引くがよい』

 

 

は?転生者?

 

何を言ってるのか意味がわかんないしそもそもどこから話してるんだこいつは。

もしかして誘拐か?それとも、友達の悪戯か?

 

 

『汝は死んだ。覚えていないなら思い出させてやろう』

 

 

その瞬間、忘れていた記憶が蘇る。

私は学校から帰る途中に、飲酒運転だかなんだか知らないが暴走して歩道に突っ込んだ車に突き飛ばされ、後ろの崖に頭から落ちて死んだんだ。

死んだときの生々しい感触を思い出して吐き気が込み上げて来たとき、

 

 

『思い出したな。さあ、特典と転生先を引け』

 

 

一瞬で吐き気が消え去った。

 

あまりに鮮明な記憶で、蘇生なのかはわからないけどこんなことが人の手でできることではないことは明白だった。

しかし、とにかく引かなきゃ、このままじゃ何も進まない。

死んだ記憶を思い出してもなんだか全然恐怖が湧いてこないし、死んだままでいるのも悔しいし。

 

気を引き締めて立ち上がり、長机の前まで歩く。

どうやら左の箱には特典、右の箱には転生先と書いてあったようだ。

どちらも気になるが、一番気になるのは転生先だ。

転生先が恋愛物とかほのぼの系なら特典がなんでも問題ないと思うけど、パンデミック系とか異世界、能力バトル系なら特典が強くても安心できない。もし全然使えない特典だったら、私はただのモブとして死んでいくだろう。

 

…もし平和な世界だったら、私お花屋さんになりたいな……(フラグ)

 

 

緊張しながらも転生先と書いてある箱の、その上についている穴を覗く。当然といえば当然だが真っ暗で何も見えないようになっている。見て選べないかなーなんて思ったけれども、同時にそりゃそうだとも思う。まあそんな優しくはしてくれないだろうし、勝手に決められるよりはマシだろう。

そう考えて、気にせず箱の上の穴に手を入れる。

 

中にはいくつもガシャポンの玉くらいの大きさのまるい玉が入っているようだった。

触った感触にどうやら違いはないようだ。あったらあったでまた面倒なんだけど。

覚悟を決めて私の手から逃げるように転がる玉を取る。

もしかしたら平和な世界系のやつを引かせないために玉が逃げていた、なんてそんなことはあの人?はやらなそうなことを思いながら、引き抜いた玉を見る。早まった心臓の鼓動だけが聞こえてきて、寿命が三年くらい縮んでそうだ(もう死んでいるのだが)……

 

 

 

 

《僕のヒーローアカデミア》

 

 

 

 

「………やってしまったぁぁ……。ヒロアカとか危険一杯じゃん!それに変に特異な能力だとオールフォーワンに狙われるし弱いと普通の生活も危険だしどうしよう!?」

 

 

ヒロアカは一見あたりに見えるけどオールフォーワンやそもそもヴィランなんてものがいっぱいいるんだ。当然現代社会よりも人はたくさん死ぬしかなり危険じゃないか!?

 

……いや、待てよ?

 

ある程度戦える能力があれば雄英やヒーロー科に行かずにお花屋さんライフを満喫できるのでは??

特典なんて言うくらいだ、Fateのサーヴァントくらいのものもあるかもしれない。

ヴィランに店を襲われても人通りの多いところならヒーローも来るだろうし、特典で撃退することもできるはず。原作で出ていないところなら街全体が破壊されるようなこともないだろう。

 

そうと決まれば次は特典だ。…あ、そういえば…

 

 

「特典は個性扱いになるんですか?」

 

『そうだ』

 

 

別扱いなら二つも能力を手に入れれたかもしれなかったが、そんなに甘くはないかぁ…。

もし違ったら表向きは個性を使って目立たず、命の危機のときは特典で死ぬことはないという情報と物理の二重壁ができたのに。

 

 

気を取り直して特典の方の箱に手を入れる。転生先の箱と同じように玉がいくつも入っている。

 

できればあんまり目立たなくて、色々できるのがいいなぁ。

fateのマーリンとかだったら他の個性の人にも負けないお花屋さんができそうだ。

花の魔術師なんていうんだし、まだ出てない花を使った能力もいっぱいあるだろう。

 

今度は自分から手の中に転がってきたこの玉を取り出す。

さっきとは逆の観点で取ったし、私の運はそこまで悪くないはず。

さあ、どうなる……!?

 

 

 

 

《fate サーヴァント ハサン・サッバーハの能力》

 

 

 

 

……ハサンの中の誰!?それ次第で来世の生き方がすっごく変わってくるんだよ!?

 

 

「ハサンの中の誰ですか!?」

 

『特典と転生先は決まったな。では転生といこう』

 

「待って、ちょ…」

 

 

どんどん体が崩れていく。そのことは怖くはないけど、だけど!

 

 

「それってヴィランじゃないですかぁぁぁぁ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

始まりは中国のなんとか市で、発光する赤ちゃんが見つかって以来いろんな能力を持つ人が見つかり今では人口の約八割が‘個性’と呼ばれる能力を持っているとかなんとか。

 

そんな私は今、赤ちゃんでございます。

ん?個性?…ああ、一言にハサンの能力といっても、色々ありますよね。

 

今わかってるのだけでも、

初代様の剣技やアズライール、グランドまで行き着いた強さ。

静謐ちゃんの触れれば死んじゃう毒の体の宝具とか。

百貌さんの分身するだけでなくいくつものスキルをBランク程度で扱える宝具とか。

あとは名前はわからないけど脳を爆弾にするのとか、髪がとても伸びて髪で人の首を切れたりとか、気配遮断EXとか、人を操る歌声とか、どこかの蜘蛛みたいに硬くなったり、ね。

 

初代様の力はおそらく使いこなせないどころか、いろいろと危険なものを呼び寄せそうだしちょっと失礼だけど違ってよかったかも。

 

静謐ちゃんのだったら自分の母親を殺しちゃったりしたかもしれないと思うと怖いな。それに誰とも接触できないのは寂しいし。

 

百貌さんのはいいよね、いろんなことができそうで。

バレンタインにチョコを袋から作ってたし、絵を描いたりこものをつくれたりもしたんだろうなぁ…。

 

脳を爆弾にするとかいう加減も何もなく使い道がないのじゃなくて良かったかな。そもそも原作であまり出てないのを出すとは思えなかったけど。

そんな個性ヴィランもヴィランで個性がバレたら爆豪君みたいにオールフォーワンに勧誘されそうだね。

 

他のハサンのは強いし、加減ができそうだし、普通に生活する上では使えそうなのばっかりだったなぁ…

 

 

 

え?一人忘れてるって?……私生まれたときのことは全然覚えてないんだけどね。

でもこうして起きて体の感覚を感じたときに、明らかに右腕が長いんだよね。

少しなんてものじゃなく、普通だと思う左腕の二倍くらいの長さがあるしそれが私の特典なんだろう。

 

はい。もうわかったでしょうけど……

 

 

 

 

 

呪腕のハサンじゃねえかこれ!?




ハサンの能力と言ったらやっぱり呪腕先生でしょ、ということで主人公は呪腕のハサンの能力を個性として手に入れました。
このために調べたら知らないことがたくさんあって、呪腕先生呪術でシャイターンの腕を制御してたんですね…。
主人公一人だったらシャイターンの腕が暴走して死んでたでしょうね(意味深)


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2話 自己紹介

主人公のヒロアカの原作知識は神野あたりで止まっています。


はい。私は今、今生の実家の赤ちゃん用のベッドに寝かせられています。

 

 

あ、今生での私の名前は安佐(あさ) (こころ)

まあヒロアカの世界だし、個性に関する名前なんだろうなぁとは思っていました。

だからある程度は予想していましたよ。していましたけどまさかこんなに直球で来るとは。

読み方変えるとアサシンとか、すでに闇落ちルートが見えてそうで嫌でしかない。

いや、今のところ今生の両親は少なくとも悪い部類ではないみたい。

なんかお父さん角生えてるけど、雰囲気は桃太郎とかの方ではなく、どちらかといえば泣いた赤鬼とかの方が近いから心配はしてないけど。

 

 

忙しくて忘れてましたけど、あの白い空間にいたときから自分の名前だけじゃなく友達や家族の顔や名前も思い出せないんですよね。

まああの雑だけどアフターケアはちゃんとしている神様っぽい人のせいなんだろうけどなぁ。

友達や家族との思い出は思い出せないけど、なんとなくどういう人だったかは覚えています。

少し意地悪だった人もいたけど、みんな良い人だった気がしています。

私が死んだことを知ったら、悲しんでくれていたんでしょうか、泣いてくれていたんでしょうか。

それでも、きっと前世の私は幸せだったのだろうと思います。

 

だったら今生も幸せになってやろうじゃありませんか!

 

 

あ、そうそう。

私の個性はおそらく、というか確実に呪腕のハサンの能力でしょう。

体は動かしにくいけど左腕の二倍くらいの長さの右腕は普通に動かせるようで、だから右腕は普通に見ることができました。

ほんのり赤みがかっていて、筋肉質な腕が見えましたよ。

赤ちゃんなのに。赤ちゃんなのに。

 

普通だったらそんな腕を持った子供が生まれてきたら大騒ぎだけれど、ここは個性があるのが普通の世界。

父親が異形型で母親は見たところ異形型以外のようで、私が生まれてくるのは何もおかしいことではない(見た目上は)。

 

だからといって今何かできるわけでもなく。

右腕を動かしたり、あまり動かないけれど周りを見渡したりしていると、だんだん頭がぼーっとしてきました。どうやら眠くなってきたようです……ね……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

此度の召喚はかなり特異なようだ。聖杯からではなく、さらにその上。または次元をも超えたその先からの召喚。

精神体だけなのかとも思ったが違うようだ。

この娘に霊基を埋め込まれたその姿はまるであの盾を持った少女のようで。

あの少女と違うのは、私の意思で譲り渡したのではなく、何者かによって無理矢理押し込まれたことか。

そのせいで私の右腕に宿る呪いまで押し込まれているようだ。

 

私の能力を望んだわけでもなく押し付けられ私のいた世界とはまた違った危険のある世界に転生させられて、私が制御しなければシャイターンの右腕に喰われていただろう。

その場合、この娘だけではなく周りの人間を巻き込んだ大惨事になっていただろうし仕事以外で人を殺すのは忍びないし、なによりこれは私の力が招いたことであろう。

 

ハサンになるために自分の存在すべてを捨てた我が身ではあるが、この娘が我が呪いを継いでしまったことは無念だ。

シャイターンの腕のせいでこの娘はこれから先まともに食事をすることはできず、そしてこの腕を持つ以上真っ当な道を進むことは難しいだろう。

 

それに、どのような運命なのかこの娘はいつかの赤毛の少女のように人を見捨てることはできない性質。

自分の命が危険に晒されてもそこに救える命があるなら助けずにはいられない。あの少女ほど正直ではないが、本質は変わらない。

力がなければ諦めもつくだろう。誰も届かないような高みの力を持っていれば悩むことはあるまい。

 

しかし、我が力は殺すための力。実力では到底及ばない敵をもこの右腕を持って殺してきた。

我が右腕は心臓を潰し、対峙するものを抹殺するための腕。

シャイターンの腕の本質は人を罰するもの、であれば調整して殺さないようになど出来るはずもなく。

このままであれば、相対するものの命と後ろにある命。そのどちらを取るか悩みながら、迷いながらそれでもと闇を彷徨う道に進みかねない。

なれば、私がすべきことは右腕を制御しながら、この娘が血に塗れた道を歩まぬよう導いてやること。

 

 

 

 

……しかし、今後この右腕を使わなければならないときがくるのであれば。

 

 

そのときは……。




元々はハサン先生はいない予定だったんだけれど制御を誰がするのかとか、誰に技術を学ぶのか考えたらいるなという結論に至りました。


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3話 状況確認

シャイターンのせいで食事できない酒飲めないとかどこに書いてたかわからないしどの程度セーフなのかもわからないなあ。
おひたしいけるならわりといけそうだけど、食べられる量とか肉はダメとかあるのかな。


こんにちは、心です。しんじゃなくて、こころです。

 

相変わらずベッドで寝かせられていますが、今までとは一つ違ったことがあります。

 

それは……話し相手が出来ました!

 

なんと相手は呪腕のハサンさんです!

というかこのシャイターンの右腕、呪腕さんが制御しなかったら私を食べちゃってたそうで…。

 

 

(いや怖いよ!あの人あんなに転生させたがってたくせに転生した瞬間死んでたって笑えないよ!)

 

(なに、あの者もそれがわかっているからこそ私がいるのでしょう。

それより、辛いことではありますが言わなければならないことが)

 

(死んでたかもしれないことをそんなことなんて言えないけれど、これ以上のことがあるの?)

 

(主殿にとってはそれ以上かと。これから先の人生、主殿はまともな食事はできないでしょう)

 

(…え?)

 

 

あ、そうだ…呪腕のハサンは食べ物が食べれないって…。

 

 

(で、でもそれは肉体改造のせいなんじゃ…)

 

(いえ、シャイターンの右腕の呪いが原因であるが故、これからも付き纏うことでしょう)

 

(そっか…)

 

(主殿が食べられるのは液体やおひたし等だけでしょう)

 

 

なんなんだ、転生させといて勝手にそんな呪いを一生背負わされるなんて冗談じゃない!

 

…だめだ。呪腕さんは悪くない。むしろ私のせいでこんな面倒なことに巻き込んでしまってるんだ。悪いのは…私か。

 

 

(ごめんね、こんなことに巻き込ませちゃって。右腕の制御もいつか出来るようになるから。それに太ることはないってことじゃん。大丈夫大丈夫!)

 

(いえ、これは元々私の業。それに、私はあまり生きていた頃の食事が好きではありませんでしたが、主殿の生きていた世界は美味しいものもたくさんあったのでしょう?無理をしてはいけませんぞ。

その呪いを主殿に背負わせてしまった以上、せめて右腕の制御は私がすべきでしょう。それにこの世界は危険なようですし、自衛のためにある程度訓練も必要でしょう)

 

(うん…分かった。でも、大丈夫だよ?飲み物もいろんなものがあるし、どんなものが食べられるか試してみるのも面白そうだし。っていうよりなんで危険ってわかるの…?もしかして聖杯から知識を貰ってたりする?)

 

(聖杯からではないでしょうが、私が意識を得たときにはすでに備わっていましたな)

 

(じゃあ、ヒーローとかヴィランは分かる?個性のことは?オールフォーワンとワンフォーオールは?)

 

(…ヒーローとヴィラン、個性のことは分かりますが、オールフォーワンとワンフォーオールとは?)

 

 

どうやら聖杯と同じように世界の現状の一般的なことしかないようだ。しかし、漫画の世界に転生なんておかしなこと…いや、個性なんてものがあるんだ、今更か。

 

 

(えっと、この世界は僕のヒーローアカデミアっていう漫画の中の世界で、昔個性が発見された頃に色々あって、その結果ワンフォーオールっていう人から人に引き継いで力を増していく個性を持っているのがオールマイトで、人から個性を奪うことと与えることができる個性とその所持者をオールフォーワンっていうの。それで…)

 

(主殿、落ち着きなされ。そろそろ母君が来る時間では?なに、まだ時間はありますので、その間に情報の共有とこれからを決めていきましょう)

 

(そうだね、ありがとう。えっと、それでさ…あなたのこと、先生って呼んでもいい?)

 

(どうぞ、お好きなようにお呼びくだされ)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(私もあんまり覚えてるわけじゃないんだけど、これ以上のことはなかったはず)

 

 

大体の流れしか覚えていないから、1-Aのメンバーも全員言えないけれど、ヴィラン連合の動きはある程度覚えていたし、巻き込まれる危険性のあるところは分かる。

気になるのは私が知っているのは神野でオールフォーワンが捕まってオールマイトが力を失った、っていうところまでしか知らないこと。

あのあとオールフォーワンが脱獄するかもしれないし、オールマイトが力を失ってヴィランの動きが活発化とかもあった気がする。

あのあとも原作は続いていただろうから、将来は北海道か九州あたりにでも行くべきかな?

そしたらあとはそこら辺のチンピラには勝てるようになって、右腕の能力を隠し続ければいい。右腕だけならまだしも気配遮断との合わせ技は避けることがかなり難しい。気配遮断A +はかなり使えるし、攻撃しようとしなければまずバレることはないだろう。

 

 

(そういえば、ステータスってどうなってるの?)

 

(ステータスは大半がそのままでしょうが、私のステータスが上乗せされてるようで主殿の頑張り次第ではまだまだ伸びるでしょう。まあ一つランクをあげるのに常人の十倍の力を手に入れなければいけませんが。

まあしかし、幸運は私以上なようですぞ)

 

(さすがにそんな甘くはないよね。で、それって見れる?)

 

(ステータスは聖杯戦争のマスターしか見れませんが、これは聖杯戦争にあらず。

サーヴァントの能力は手に入れましたが、主殿はサーヴァントではありませぬ。よって霊体化はできますまい。

受肉したサーヴァント、もしくはデミサーヴァントと考えるのがよろしいかと)

 

 

マシュと同じデミサーヴァントかぁ。そう考えるとけっこう分かりやすいかも?

 

 

(そっかー…でも先生の幸運ってEだよね?ってことはCくらいあったりして)

 

(現実を見ましょう主殿)

 

(ですよねー)

 

 

知ってたさ、知ってた。まだDあるだけマシだってこともね。自害させられるレベルの幸運じゃなかっただけましかな。

 

 

(話を戻しますが、雄英高校には行かないということで?)

 

(当然!時代が同じかはまだ分からないけど、そもそもヒーローになる気ないからね!)

 

(しかし、アングラ系ヒーローというのもあるのでは?この力があれば無理ではかと)

 

(いやいや、私の個性は知れば知るほどヒーローっぽくないでしょ?)

 

(私が言うのもなんですが、主殿の言う通りですな)

 

(まあ探られると痛いことがある以上安全とはいえないでしょ。それに前世っていうアドバンテージがある以上、私の夢であるお花屋さんも出来るんじゃない?)

 

(…花関係の個性持ち相手ではいろいろと不利なのでは?)

 

(…時間はあるし、そういう個性の子を従業員にすればいいでしょ…たぶん)

 

(まあ、花を愛でる一生もいいでしょうな)

 

(でしょ〜?)

 

 

そんなことを話して、数十日が経ち。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

こんにちは、心です。

 

あれからけっこう日々が過ぎて、ようやく歩けるようにもなりました。誕生日を少し前に祝っていましたし、私は一歳のようです。

テレビではオールマイトが活躍していて、原作の若手プロヒーローは全然見ないので出久君たちと同年代の確率が上がりました。

 

ああ、両親の名前を言い忘れていましたが、

お母さんは安佐遊。髪も目も真っ黒で、髪はロング。

個性は朝から夕方まで身体能力が向上するといったもので、どこかのゴリラみたいだけど二倍もいかないらしい。

ちなみに結婚前の姓は浅見、らしい。

 

お父さんは安佐典魔。体が少し赤みがかっていて、髪は赤で目も赤。

個性は異形型の鬼だそうで、おでこにあまり長くない角が生えている。

見た目は強そうだけど力は個性を使っているお母さんには勝てないみたい。お父さんが気が小さいし、お母さんが結婚迫ったんじゃないかな。

 

ちなみに私は安佐心。あさしんじゃないよ、あさこころだよ。

なんか心が浅いみたいであれだけど、気にしない気にしない。

 

 

(けっこう気にしてますな、主殿)

 

 

あー聞こえない聞こえない。

それで髪の毛は黒だけど、赤色のメッシュが入ってる。目はほんのり赤い黒。それとまだ分かんないけど目つきが悪いかもしれない。まだ分かんないけど。

 

 

(将来はクール系になりそうですな)

 

 

いーよ素直に言えよ目つき悪いなこいつって!

 

それで、二人ともヒーローじゃないんだけど、お母さんはヒーロー科に通ってたんだって。今は細工師の真似事(本人曰く)やってるんだけど。お父さんは普通の会社員なんだって。

 

両親がヒーローじゃなくてよかったなぁ。ヒーローなんてやって死んじゃったらどうしたらいいのか分からないし。

 

前世の親のことはもうほとんど記憶が残ってないけど、いっぱい愛してもらったのは覚えている。でも、それに負けないくらい今世でも愛してもらってることは分かる。前世では親孝行できずに死んじゃったけど、今度はしっかりお爺さんお婆さんになるまで恩を返したいな。




呪腕のハサン
筋力 B 耐久 C
敏捷 A 魔力 C
幸運 E 宝具 C

安佐心
筋力 B 耐久 C
敏捷 A 魔力 C
幸運 D 宝具 C

保有スキル
風除けの加護:A
自己改造:C
投擲/回収:B
気配遮断:A +

あくまでスペック上の話なので現状誰にも勝てません(一歳)


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4話 お隣さん

HFの真アサシンかっこいいよね
ところで話は変わるんだけど三重訛りが分からない


おはよう、心です。深い心を持つ心です。

 

食べ物を食べてみたら、すぐに逆流して吐いちゃいました。そのあと異常に体調が悪くなっていたのでまともに味わうこともできなそうです。

両親にすごく心配され、病院に連れていかれましたが原因は不明。今はもう流動食みたいなのしか食べていません。それでも噛まないと人は顎が退化してしまうのでガムをよく食べています。

 

なんだかんだで四歳となり、幼稚園に通っているわけですが。

二年前くらいに、来年から幼稚園に行くんだし、ということでお隣さんの同い年の子と会ったんだけどね。

どうやら建設会社をやっているそうで、あまり経営は良くないそうだけど。

ところでそのお隣の子なんだけど、名前が麗日お茶子ちゃんだって。可愛い名前だね。

 

うん、まさか原作キャラがお隣さんだとは思わなんだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「初めまして、私お茶子!よろしく!その右腕すっごい長いね!」

 

「…あ!えっと、私は心、よろしくね。それで、えっと、この右腕は個性なんだって」

 

 

え、なんでお茶子ちゃんがここに?ていうかお茶子ちゃんって三重県出身だったんだ…。

でも待て、これで同世代ってことが証明されたから、つまり…

 

 

「どうしたん、心ちゃん?」

 

「なんでもない、ごめんね」

 

「そうなん、じゃ遊ぼ!」

 

「うん、じゃあ行こっか」

 

 

つまりは十一年後にヘドロ事件、つまり原作スタートってことか!

 

 

(随分と余裕がありそうですな)

 

(うん、何をするにも時間は必要だし、これで計画が立てやすくなったよ)

 

「ねえ、心ちゃんって将来なんになりたいん?私はヒーローになりたい!」

 

「うーん…。私はお花屋さんになりたいなぁ…」

 

「いいね!お花屋さんも楽しそうやん!でもヒーローもすごいんだよ!」

 

 

ヒーローか…。そうかなと思ってたけど、やっぱり。

 

 

「ねぇ、その個性ってどんなことができるん?」

 

「右腕が左腕の倍くらい長くて、力も強いの。あと左腕ほどじゃないけど体も普通より丈夫で強いんだって」

 

「すごい!絶対ヒーローになれるよ!高いところまで手が届くし!」

 

「そうかなぁ、ありがと。でもヒーローって危なくない?」

 

「でもヒーローは強いから負けないんよ?あっそうやん!お花屋ヒーローとかならどっちにもなれるよ!」

 

「なにそれ、お花持ちながら戦ったり?」

 

「そうそう!私も早く個性出ないかなー!」

 

「きっとすごい個性が出るよ」

 

「それなら空を飛べるのとか楽しそう!」

 

 

私の個性は異形の右腕と全身の強化ということになっているし、一応出せる限界の力もEランク程度にしてある。

Eランクでも常人の十倍はあるらしいけど、アンデルセンとか本当にあるんだろうか?それに幸運は絶対違うし。

 

食べ物はは小さいものなら食べれるけど、肉とか重いものは体が受けつけないから食べれないってことにしてある。まあ間違いではないけれど、一緒に同じ食事を取ることができないのは少し辛いな。

ご飯を一緒に食べるとき、お父さんもお母さんも私を見ると悲しそうな顔をするし。

一回両親が私と同じものしか食べないようにしてたこともあったけど、全力で止めた。

私だって辛いけど、だからって他の人にまでやらせるのは呪いと変わらない。両親には笑っていてほしいから私もいつまでも不幸な顔していられないんだ。

 

 

その頃能力の確認も一緒にしたけど、想定通りそのままだった。

ハサンのマスクや装備も出せる(確認済み)けれど、それをしたら個性が複雑化してしまうし、分かりやすい方がいいだろうということで、誰にも見せていない。

 

え?妄想心音?それは誰を相手に実践するのかな?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

原作キャラとお隣さんだったことにはびっくりしたけれど、今考えると時期がわかったから安心できたことの方が大きいかな。

それで、今はお父さんの車でお茶子ちゃんと一緒に幼稚園に向かってます。

 

 

「ねえねえ、今日も幼稚園楽しみやね!」

 

「そうだねー…」

 

「眠いのかー?やっぱり夜更かししてたな、心」

 

「そうなん?幼稚園楽しみで眠れなかったん?」

 

「本読んでたら夜更かししちゃっただけだよ」

 

「「ふーん…」」

 

「なんなのさその顔は」

 

「いやーなんでもないよ?」

 

 

むむ、これじゃあ楽しみで寝れなかったことを隠したがる子供みたいじゃないか…。いや寝れなかったことは事実なんだけど。

そうこうしてると、幼稚園に着いたようだ。

 

 

「さ、いってらっしゃい」

 

「「行ってきまーす!」」

 

 

通いたての頃は同年代では異形型がいなくて、中途半端な異形型な私は目立って少し揉めたりもしたけど、いろいろあって私は今幼稚園強さランキングトップを取っていた。

 

個性発現したての子供なんざ足元にも及ばないよ、なんて思ったときもあったけれど、目の前で爆竹野郎(爆竹っぽい謎の物体を出す個性)を筆頭に数で攻めてきたときにはさすがに傷を負わせるわけにもいかないし園の先生を頼った。ハハッ、先生の力は偉大であるぞ。

…しかし、誰がヴィランだこんにゃろう。

 

 

「あー早く私も個性出ないかなー」

 

「もう四歳だし、そろそろ個性出てくるんじゃないかな?」

 

「だよね!楽しみ!どんなんやろ?」

 

 

いつかは分からないけど、近いうちにお茶子ちゃんの個性は発現するだろう。原作があるとこういうところは不安を感じなくていいな。

 

その後迎えにきたお父さんと共に帰ってきた。

 

 

「また明日!」

 

「じゃーねー!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

お風呂に入ると考えごとをしたくなる。これは前世もそうだった気がするけど、どうだったんだろう。

 

個性を使うことで起きる副作用、たとえば轟が右の氷だけを使うと霜が積もり、氷が出せなくなることだったり、上鳴の電気を出し過ぎるとウェイしか言えなくなったり。

あれは使いすぎると体がついていけなくなるからだろうか。

であれば常時発動しているような異形型に副作用があったなら、それは…。

まあ、私のはただの呪いだけど。

 

 

(あまりにいい個性だと誰かさんにとられてしまうのも怖いよね)

 

(考え事ですかな。…あの呪いは主殿の体質ということにしましたが、本当にそれでよかったので?)

 

(別に。全部が違うというわけでもないし、個性は単純でいいよ。病院の先生は納得してないだろうけど、個性に呪われているなんて誰が信じるのそんなこと)

 

 

個性持ちが八割、五人に一人が無個性。もちろん若いほど個性持ちが多いのだろうけど、緑谷君の例があるし、他にもたくさんいるだろう。

個性という才能が脚光を浴びるほど、無個性だったときのショックも大きくなる。ましてやヒーローなんていう個性がなきゃなれない職業を夢に持ってしまっていたのなら、そのときの絶望は計り知れない。

 

緑谷君が昔から体を鍛えていたら原作みたいに傷つくことを減らせるかもしれないと思ったこともあったけど、彼に会って私は何を言えばいいんだろう。もし下手に心を傷つけて、心が折れてしまったらなんて。

 

いや、きっと私は原作から逸れてしまうことを恐れているのだろう。

このまま私が干渉しなかったら、彼は私の知らないヴィランたちを仲間とともに倒して少しはまともな社会にしてくれるだろう。だから、何も気にする必要はない。

 

そう、このまま干渉しない方がいい。原作は原作のままでいい。

 

 

(素直になってもいいのでは?主殿は彼を傷つけてしまうことを恐れている。それでいいでしょう)

 

(そんなことないよ、あいつが体を鍛えて原作から逸れてしまったら取り返しのつかないことになる。特に、緑谷君は戦いの中で成長するタイプだからこれでいいでしょ)

 

(ハハ、そうですな)

 

 

それに、爆豪君に見つかったら何が起こるか分からないし。それに……。

 

 

(おや、眠ってしまいましたかな)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

主殿の体をお借りして、湯船から上がる。一人で入れると言って三日目でこれだ。まだまだ親離れはできなそうですな。

 

サーヴァントとなってから四年間、これほどの間同じ主に仕えるのは初めてであったが、その時間があれば、主殿を完全に模倣するのも容易なこと。もし主殿が丸一年寝ていても、誰にも悟られることはないであろう。まあ、そんなことはない方がいいのだが。

 

こうやって主殿が戦わざるを得ないときがきたら体の主導権を変わることができたのなら、と思ったこともあったが。

今こうして主殿の意識がないときですら戦闘できそうにない。ましてや戦闘中など緊迫しているときには私の声すら届かないのではないだろうか。

例外はこの右腕。この右腕は私の要素が強いからなのか、妄想心音を使う程度造作でもないようだが。

 

たとえ我が力を宿していようとも主殿は主殿それ以外の誰でもないのだから、私と同じ道は決して辿らせまい。

何かを得るために捨てたものを取り戻すために死後も戦いに明け暮れるなど、馬鹿らしいにもほどがある。

 

大人のふりをしても、前世を足してたったの二十二年。まだまだ甘いが、今はそれでよいのです。




主人公も自己改造スキルを持っているので、心臓を食べたら強くなれるかも?


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5話 無重力

4話の五歳というところを四歳に変えました。
それと、原作開始の時間が違っていたので修正しました。


ハロー、心です。今私は屋根よりも高く浮かんでいます。

 

え?ジャンプじゃないです。浮いてます。どんどん高度上がってって、普通の人だったらやばいところです。

まあサーヴァントの力があればこのくらいはなんともないんですけど、家族やお茶子ちゃんにはそこまでの力を見せてないので…。

なんか近所を巻き込んだ大事になりかけてます。

 

なにがあったのかって?

お茶子ちゃんが個性出たって言うから、

無重力ってどんなのだろ、宇宙行った気分になれるんじゃない?

とか思って浮かしてもらったら、風でシャボン玉みたいに屋根くらいの高さまで飛んじゃったっていう、個性社会の絵本にできそうな話があったわけです。

いや、解除してもらえれば無傷で着地できるんだけど、お茶子ちゃんが慌てて両親たちを連れてきて、今に至るわけで…

 

 

「お茶子ちゃん!個性解除して!」

 

「解除の仕方わからん、どうしよ!?」

 

 

えぇ!?分からないって…あれ?お茶子ちゃんの個性どうやって解除するんだっけ?たしか指の肉球をどうにかするはず…

 

 

「その肉球をなんとかしてできない?」

 

「なんとかってなんや!?…こう?」

 

「待って、今やったら落ちて怪我してまうぞ!」

 

「大丈夫!このくらいなら大丈夫だから!下に誰もいない方がいい!」

 

「ほんとに大丈夫なの!?」

 

「大丈夫だから!」

 

 

お茶子ちゃんは手を握ったり開いたりしているがそれでは解除できないようだ。

それでも落ちてくると思ったのか私の両親が心配しているが、それよりも早く解除してくれないかなぁ……。

とっくにスイッチは入ってるしいつでも落下する準備は出来てるけど、なかなか解除されなくてヒヤヒヤする。

 

 

 

 

随分時間が経った気がする。

風に流されて下にいたみんなが追いつけないくらいまで来て、どうしようもないので周りを見渡すとなかなか見れない絶景が観れた。こういうのも悪くないね、なんて思っていたのはいつだったか。

さすがにそろそろ落ちたらどうなるか分からないところまで来てしまった。死にはしないという直感があるけれど、それでも怖いものは怖い。

 

 

(怪我は避けられなそうですな。こういうとき、霊体化できたら問題ないのですが)

 

「やっぱりそうなるよね…ねえ、何かない?」

 

(ハシシならありますが)

 

「それ麻薬でしょうが!痛みは和らぐだろうけど!」

 

(そうですか。では、マントをパラシュート代わりにでも使いますかな?)

 

「…それしかないの?まあ、ありがとっ!?」

 

 

瞬間、個性が解除され、地上へ引っ張られる。きっと個性の限界が来て強制解除されたのだろう。一回だけ出したことのあるマントを実体化し広げて少しでも落下速度を落とそうとする。

 

 

(風除けの加護とか使えないの!?)

 

(気配遮断以外は必要ないと言ったのをお忘れか?)

 

(そんなこと言ってる場合?やれることは全部やる。出来るだけ痛いのは避けたい!)

 

(そうですか。しかし、その必要はないようですな)

 

「は!?」

 

 

どういうこと、と聞く前に猛スピードで近づいてくる何かの音がする。

 

 

「なんか、来てない?」

 

(来てますな)

 

 

そして、私の横から飛んできたその人物は私を横抱きにして放物線を描き、派手に着地を決めた。

 

 

「もう大丈夫!何故って!?私が来た!!」

 

 

瞑っていた目を開けると、画風が全然違う男が私を抱えている。

その人はこの世界に生まれてからテレビや街で何度も見ている、その名は……

 

 

「オールマイト!」

 

 

No.1ヒーロー、オールマイト。まだこの頃は怪我をしておらず、その力で全国を飛び回っているのだろう。

 

しかし、こうしてみると、でかい。今の私の右腕を伸ばしても彼の身長に届かないだろう。

 

 

「大丈夫だったかい?」

 

「…あ!えっと、はい。あなたのおかげでなんとか」

 

 

少しの間惚けていたが、オールマイトの言葉で思い出す。

そうだ、危うく危ないところだったんだ。少し足が震えているが、気を張り直し降ろしてもらう。

パラシュートなしスカイダイビングをしたせいで体調は悪いが、地に足をつけているのはやはり素晴らしいと感じる。

 

 

「それは良かった!それで、こうなったのは君の個性かな?」

 

「いや、友達の個性で浮かせてもらったんですけど、解除方法が分かんなかったみたいで…」

 

「そうかそうか!では、その友達のところまで行こうか!」

 

 

そうこうして家まで着いたとき、お茶子ちゃんのお母さんだけしかいなかった。

 

 

「オールマイトさん!?なんでここに…」

 

「えっと、この人はその友達のお母さんで…」

 

「心ちゃんも無事だったのね!」

 

「はい、オールマイトのおかげで。それで、お茶子ちゃんは…?」

 

「お茶子は倒れちゃって、今はもう大丈夫なんだけど寝かせてるわ。ごめんなさい、私もお茶子が個性を発現させたとき舞い上がっちゃって。ほんとは私が見てなきゃいけなかったのに」

 

「いいんですよ、私は無事だったんですから」

 

「…もう大丈夫そうだな!では、また会おう、落下少女よ!」

 

「はい!ありがとうございました!」

 

 

話している間待っていてくれたオールマイトに礼を言い、お茶子ちゃんに会いに行く。漫画で見ると画風が違ったけど、実際に見ても画風が違った。出久君はそんなことなかったし、あれはあれで一つの個性なのでは?

 

 

(凄い力ですな。あれがワンフォーオールですか)

 

(そう、六年後にはあのオールフォーワンに打ち勝つ人だよ)

 

 

たとえ生き延びてはいても、原作のオールフォーワンは酷い状態だった。そんな状態であんなに暴れ回ったんだ、全盛期はどんな個性を持ってるか分からないが今のオールマイトなら打ち勝てるだろうと思えた。

私じゃ歯が立たないだろうなぁ。気配遮断は見つからないだけで範囲攻撃とかは当たるし。

 

そう思っているうちにお茶子ちゃんの部屋に着いたので、ノックをする。

 

 

「お茶子ちゃん、いる?」

 

「…心ちゃん?」

 

「入るよ」

 

 

部屋に入ると、お茶子ちゃんのベッドの上に白い塊がいた。

と言ってもまあ、布団に丸まっているお茶子ちゃんなんだけど。

 

 

「ごめん。私、心ちゃんに酷いことしちゃった…」

 

「聞いてたんだ。大丈夫、私はピンピンしてるよ。それにしてほしいって言ったのは私なんだしお茶子ちゃんは悪くないよ」

 

「オールマイトがいなかったら死んじゃってたかもしれないんだよ!?」

 

 

たしかに怪我は避けられなかっただろうけど、あの程度ならまだ死ぬことはなかっただろう。

 

 

「大丈夫、私ってすっごい頑丈なんだ、あのくらいなら、死んだりしないって」

 

「…ほんと?」

 

「本当だって。それに、個性が出たばっかりだし、次は失敗しないようにすればいい、でしょ?」

 

「分かった…」

 

「よし、いい子にはこのオールマイトのサイン入りのハンカチをあげよう!」

 

「わあ!!いいの!?」

 

「いいよ、私はあんまりヒーロー詳しくないし。じゃあ個性の訓練しよう!部屋の中なら飛んでっちゃうことはないし」

 

 

ハンカチを持ち歩いてて良かった、あんまり暗い雰囲気は好きじゃないし。

そして、お茶子ちゃんが自分自身を浮かせると吐いちゃうことを忘れてて、部屋が悲惨なことになりましたとさ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(随分と叱られてましたな)

 

(まあ、原因は私だしね。それに、近所の人たちが探してくれてたのに当の本人は懲りもせず浮かせてもらってたんだから)

 

(それもそうですな。それと、私からも言わせてもらうことが一つ。暗殺者の本懐は暗殺。闇に潜みて敵の隙を窺うことが得手であり、その真骨頂は技術と策略にあることを忘れないように)

 

(どういうこと?)

 

(私の力を過信しないように。三騎士のクラスと私では大きな差がありますので)

 

(…?分かったよ)

 

 

宝具が使えなくてもサーヴァントの力は圧倒的だ。

魔術師ですら相手にならないのだから、個性を持って調子に乗ったチンピラ程度なら負けはしないだろう。




型月の世界は逸般人なのでセーフ


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6話 おつかい

オールフォーワンが超再生を手に入れたのは戦いの後でした、すみません。
早く原作まで行きたいなぁ…




Good morning! I’m Kokoro.

 

あれからもう三年が経ち、私も無事小学二年生となりました。

小学校には当然異形型の子も何人かいるので、幼稚園みたいに目立つこともなさそうです。

そういえば第五世代ということもあり異形型であるから揉める、なんてことはほとんどありませんが、超常黎明期の異形型は人間扱いされなかったそうですね。

 

今、私は右腕を隠したりはしていませんがもう少し前に生まれていたら先生みたいに右腕を黒い布でぐるぐる巻きにしていたでしょう。

まあ隠しても太さが私の細い左腕の何倍もあるし、それを折り畳むので何かあるのは明らかですけどね。畳んでも左腕よりちょっと長いし。

 

さて、時間だし今日もお茶子ちゃんと一緒に学校に行きますか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

家に帰った後、お母さんに軽いおつかいを頼まれたわけだけど。

 

 

(もう八歳なのに、あんなに心配しなくてもいいよね)

 

(こちらの世界はヴィランなるものがいますし、仕方ないかと)

 

(んーでも、まだ一回も実際にヴィランを見たことがないし、ここら辺は安全なんじゃないかな)

 

 

スーパーで頼まれたもの(卵とか)を買って家に帰ろうというとき。そのまま帰るのもつまらないしいつもと違う道で帰ろうとして、あまり人の通らない道を歩いてると、

 

 

「おい、そこのガキ。いい腕持ってんじゃん」

 

「なんだあの腕、気持ち悪っ!」

 

「かわいそうだな。異形型のハーフなど、そんな半端者が出来ることくらいわかってただろうに」

 

 

ヴィラン以下のまさにチンピラっていう男たちが二人と、異形型でかなりの巨漢の男一人が絡んできた。

お母さんに大きい道を通って行きなさいとか言われたのに脇道に逸れた私が悪いんだけども。

 

 

「邪魔です、どいてください」

 

「おお、怖い怖い。なに、俺らちょっと学校で揉めて気が立ってんの。だからさあ、ちょっとサンドバックになってくんない?ガキでも異形型なら死にはしないさ」

 

 

左の男はそう言って手に電気を走らせた。電気系の個性か、厄介だね。

 

 

(主殿の気配遮断なら問題なく逃げ切れるかと。両親を心配させるのはあまり良くありませぬ)

 

(大丈夫、それに放っておいたら他の人がここを通ろうとしたとき危ないし、こういうときのための個性じゃない?)

 

(しかし…個性の無断使用は犯罪ですが)

 

(あいつらも使ってるし、知ってる?バレなきゃ犯罪じゃないんだよ?)

 

 

私の速さについてこれるやつはいないだろうし、ランクが大きく下がっている気配遮断もあいつらなら通用するだろう。

今世、いやたぶんこんな喧嘩をするのは今までで初めてだろう。

相手はどこにでもいそうなチンピラ、これからこの世界で生きていくなら越えるべき壁だ。

 

左の男は黒い服を着ていて、右の男は黄色い服。その後ろの巨漢は全身が緑色の甲殻のようなものに覆われている。

 

左に跳んでエコバッグを置いて、同時に気配遮断を使う。ランクが落ちてるとはいえ、ただの異形型の個性だと思っているあいつらに見つけれるほど甘くない。

 

相手が見失っているうちに姿勢を低くして右の男へ向かう。

個性の詳細がわからないから一番先に潰す…!

左腕に力を込め、横にすれ違うように腹に一発入れようとしたが、殴っていたのは巨漢の手だった。

 

その瞬間。左腕から全身に、体の内部が焼かれるような痛みが走った。そのまま倒れこみ、地面に転がる。

 

 

「ぐ、ぅあ……」

 

「そう来るよな、やっぱそう来るよなぁ!てめえら異形共は、自分の体に自信があるから、個性の分からねえやつを真っ先に潰しに来るよなぁ、おい」

 

 

黒野郎に頭を踏みつけられる。大して痛くはないが、体がうまく動かない。

 

 

「複合型なのには驚いたが、狙いが分かってるなら見えなくてもねぇよ」

 

「ほんと、異形は馬鹿ばっか!」

 

「それだと俺も入ってることになるんだが」

 

「テスト毎回赤点だしお前も馬鹿だよ馬鹿!」

 

「お前はその中でもビリだろアホ」

 

 

チンピラたちが話している間に、左腕で頭を踏みつけている足を掴んで持ち上げる。

けっこう手に力を入れていたからか黒野郎が苦悶の声をあげているうちに抜け出し、十メートルほど下がる。

 

 

「お前らが馬鹿やってるから逃げちまったじゃねえか、責任とって捕まえろ」

 

「へいへい」

 

「了解した」

 

 

しかし、まずいな。こっちの行動が読まれてた。しかもまだ完全に痺れが取れたわけじゃないし、結局黄色野郎の個性は分からないままだし。

何よりいつもと全然違うから冷静になれなくて気配遮断ができない!

 

 

(退きましょう、彼奴等はどうやら戦い慣れている様子。気配遮断はなくても主殿に追いつくことはないでしょう)

 

(でも……うん、分かった。全力で帰る)

 

 

視線は外さずに巨漢で黒野郎の視線を遮るように移動して、後ろへ跳ぶ用意をする。気になるのは黄色野郎の個性だけど、今は気にしている場合じゃない。

 

 

「あんたら、異形型異形型って、そんなに異形型が好きなの?」

 

「ん?あぁそうさ、大好きだぜ。丈夫なやつは痛めつけがいがあるからな」

 

「俺は大っ嫌い!」

 

「それは俺も入っているのか?」

 

「当然!お前デカすぎて邪魔!」

 

 

逃げる隙ができないかと話しかけてみたら、運良くじゃれ合いをしてくれたのでこれは好都合。三十六計逃げるに如かず、ということで逃げさせてもらおう。

 

大きく後ろに跳躍して後ろにある家の壁を蹴ってさらに距離を稼ぐ。そこまで行けば電撃も届かないだろうし、家まで足がつくこともないだろう。おつかいは失敗だが仕方ない。

そう考えて跳んだのはいいものの、黄色野郎が手招きをしだした。

それだけならなんの問題もないんだけど、手招きをする度に黄色野郎の方に引っ張られる。

空中でそんなことをされたものだから、着地もできずに地面に叩きつけられてしまった。

強制的に息が吐き出され、一時呼吸ができなくなり、視界もぐらつく。調子を取り戻す頃には男たちが迫っていた。

黒野郎の電撃で全身が焼かれ、悲鳴が口から零れだす。

 

 

「ぐぅぅあああ!!!」

 

「逃げれると思ったかぁ?残念!こいつの個性で逃げられず、攻めようにもこのデカブツが立ち塞がる。そして俺の電撃で動けなくなってはいゲームオーバー!!どうよこの作戦は?手も足も出なかっただろう?」

 

「結局個性が強い方が勝つ!」

 

「個性に恵まれないものはこの社会で自分の身を守ることすらできない。そんな世の中を恨め」

 

「それになあ、今俺は正しいことををしているんだ!こんな右腕を持つやつがヴィランじゃないわけないよなぁおい!ヒーローの卵として俺はヴィランの卵を潰してやってんのさ!」

 

「そんな、」

 

(無事ですか主殿!?)

 

 

先生がないか言ってるけれど、よくわからない。それでも、言わなきゃいけないことがある。

 

 

「あぁ?」

 

「そんなヒーローが、あってたまるか!!」

 

 

全力で叫ぶと、電撃は止んだ。もう体は全然動かないけど、それでも口は止まらない。

電撃をしないのなら、言いたいことは全部言わせてもらおう。

 

 

「人に絶対的な差なんてない!他人の個性の限界を勝手に決めつけるな!どんな見た目だって、どんな個性だってヒーローになれるし一番になれる!だけど、お前みたいな見た目で人を決めつけてるようなやつが、ヒーロー語るな!!」

 

 

本当にそうかは分からない。私の個性は使い方によってはかなり強い部類だろうし、お前みたいなやつに俺たちの気持ちが分かるわけない、なんて言われるかもしれない。

 

それでも、見た目だけ、個性だけを見て勝手に悪だヴィランだなんて決めつけるやつはヒーローの卵でもなんでもない!

 

まだ体は痺れているが、それでも立ち上がる。男たちは私に気圧されたのか、何もしてこない。よし、こうなったらやることは一つ。

 

 

「そんな作戦、ヴィランには通用しないよ。ヒーローになりたいんなら、私にくらい勝ってみせな」

 

 

そう言って後ろへ跳び、気配遮断をする。

そして真っ直ぐ突っ込みながらダークを両手に一本呼び出し、右腕は邪魔にならないようたたむ。

 

 

「どこいった!?」

 

「慌てんな、逃げただけだろ。それにあんなガキの思いつきそうな妄想に気を取られるなアホ」

 

「しかし、本当に帰ったとは思えないが…」

 

「あんなガキにそんな度胸はねえガアァ!?」

 

「敵がいるかもしれないところで気を抜いたら、死んじゃうよ?」

 

(そう、アサシンのサーヴァントは相手を踊らせてこそ。相手のペースに飲まれてしまっては、勝ちの目はほぼなくなるでしょう)

 

 

直線的ではなく、人が読みにくい動きをする。まっすぐ突っ込んでくる暗殺者などいない。

今は、人体の急所を狙って一撃で行動不能にする必要はない。

右の壁を蹴って私に背を向けていた黒色の背中に跳び膝蹴りを叩き込み、首元をダークの側面でペチペチ叩く。

 

 

「待てよクソガキ!」

 

「その個性を使うならもっと近距離戦闘を訓練すべきだよ」

 

「な、クソがぁ!?」

 

(抗うことができないのならば、流されてしまった方が良いでしょう。ただし、無闇に突撃するのは愚行ですぞ)

 

 

個性を使って突っ込んできた黄色に引っ張られるが、自分から向かっていけばさらに速度が増す。そのまま右から左へフェイントをかけて右腕を掴み、軸足を蹴飛ばして投げ飛ばす。ダークを倒れ込んだ黄色の目の前に投げると、道路に弾かれることなくすんなり刺さった。

 

 

「小手先の技など、小賢しい。お前の攻撃は俺には届かない」

 

「異形型だからという甘えはプロの世界では通用しないよ?少なくとも、その首は隠しておいた方がいいよ」

 

「な、ぐっ!?」

 

(人である以上、どこかに隙は存在します。力押しが通用しないのなら、その隙をつくことが最善手でしょう)

 

 

大振りな拳を避け、腕の関節を打ちそのままの勢いで後ろに回る。関節部は甲殻に覆われていないためそこならダメージが通る。

膝裏を蹴り払い、その勢いで回転し両膝をついた緑の首に回し蹴りを決める。

 

 

(しかし、動きが急に変わったのは何故でございましょう?)

 

(分からない。でも、ここは負けも逃げもしちゃいけない、って思うと痛みが引いて、先生ならどう動くか考えたら自然と)

 

(まだまだですが、ヒーローとしての心構えは合格点ですな。かっこよかったぞ主殿、いやヒーローと呼ぶべきか?)

 

(む、おちょくらないでよ。ヒーローになる気はないけど、こいつらこのままだとヒーローになれないでヴィランになっちゃうかもしれなかったから、仕方なく!)

 

(そうですなぁ、仕方ない仕方ない)

 

「待てよ、不意打ちで勝ったつもりか?」

 

「ヴィランに不意打ちするなと命令して、聞いてくれるとでも思っているの?」

 

「うるせぇ!不意打ちじゃなきゃお前には負けねえよ!」

 

 

黒色が電撃を放つが、狙いが直線的で容易く避けれる。

どうやら自分が優位に立っていないと冷静になれないようだな。

 

 

「個性はいいのに狙いは最悪。それでは馬鹿と言われても仕方ないね」

 

「うるせぇうるせぇうるせぇ黙れよ!お前も俺を馬鹿にするクソどもも、どうして俺の個性が届かない!?なんでだよクソォ!!」

 

「それが本音?それはそうでしょ、お前が勝てないのは努力不足だから。単純に個性の出力が上回る者にどうやったら勝てるなんて考えもせずに、現状に不満を持ちながらも停滞を選んだお前のせいだよ」

 

「クソが!わかってんだよそんなこと!何度も何度も同じことばっか言いやがって…結局俺はどうしたらいいんだ…」

 

「頼りなよ人を。先生を、友達を、クラスメイトを。プロヒーローを見て、穴が空くほど見続ける。そして、ヒーローの卵と競い合う。盗める技術は盗んで、少しでも自分の糧にする。少しづつでも前に進めば、今こうしているよりずっといいでしょ?そこで倒れてるお前らもね。こんなことしてないで、這いずってでも前に進めよ。立ち止まっていたら一生ヒーローにはなれない」

 

(かっこいいこと言いますな。まるでヒーローみたいですぞ)

 

(うるさい。全然ヒーローじゃないし)

 

 

黒色は頭を掻き毟ったあと、急に落ち着いた。他のやつらも同じように何か決心がついたようだ。

 

 

「ああうるせぇ、うるせぇけど、分かったよ。なってやろうじゃねえかヒーローに!どんだけ時間がかかっても、俺は絶対ヒーローになってやるよ!」

 

「おまえ最悪!だけど、俺もなるぜヒーロー!」

 

「こんな子供に背中を押されるとはな。いやしかし、悪くない。俺もヒーローになる!」

 

 

よし。これでこいつらがヴィランになる道は遠ざかっただろう。ヒーローになれるかは分からないが、本当になるかもね、ヒーロー。

 

…さて、帰るとしよう!

 

 

「ヒーローになるのはお前の方が早いかもしんねぇ。だけど、俺たちがヒーローになったら、次はぜってー勝つからな!」

 

「……いや、ヒーローになるつもりはないけど?」

 

「「「……はあ!?!?」」」

 

「だって、私の夢はお花屋さんだし」

 

「いやいやどんだけつえーお花屋さんだよ!?なに?その花動いたりしない!?」

 

「んー…それもいいね!」

 

「よくねぇよアホか!…とにかく、絶対ヒーローになれよ!?絶対だからなー!?」

 

 

そう言いながら三人組は走り去っていった。いや、本当にヒーローになるつもりはないんだって。

 

 

(言われてしまいましたな)

 

(いい感じ風になってるけどならないからね、勘違いしないでよね!)

 

 

そんなこんなで近所のおつかいなのにボロボロになって帰ってきたもんだから、根掘り葉掘り聞かれた。

なんか今日は散々な目にあったし、疲れたから寝る!ー




痺れはどうなったのって?それはアドレナリンとかそんな感じ


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7話 隣街で

6話の主人公の口調を少し変更しました。


ボンジュール、心です。

 

あれから二年が経ちましたが、すごく平和な日々でした。

お花の勉強をしたりしてたんだけど、個性の影響なのか、それとも前世と違う道を辿ったのか、見たこともない花がたくさんあってびっくりしました。

それから、お茶子ちゃんのヒーローになる夢、というよりかは雄英での戦いで少しでも怪我をしないように個性の訓練をしたりしてました。無重力って、いいよね。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

今は夜。だいたい一時か二時くらい。

そんな草木も眠る時間帯になんで外にいるかというと、二年前の戦い、ヴィラン相手だったらあのまま死んでたかもしれなかった。

さすがにこのままじゃいけないということで、戦闘訓練をしてたのさ!!

 

その間に分かったことが一つ、二つ。

一つ目は、あの戦闘から分かったことなんだけども。

あのときまでスキル、というより気配遮断をスイッチを入れる感覚で使っていたんだけれど、サーヴァントのスキルは生前の逸話や技術が特殊能力となったものであって、当然生前はスキルを使おうと思って使ってたわけじゃない。そこを勘違いしていたからランクが落ちてしまっていた。

じゃあ要訓練、ということで訓練していたんだ。

 

それで二つ目。ある程度先生に教えてもらったんだけど、どうやら私には暗殺者の才能がないそうです。

どちらかというと、真正面からの戦闘を得意とするタイプだそうで。

 

だったら訓練しても意味ないのでは、と思うかもしれないが、そこでスキルの出番ですよ。

スキルを意識すると、投擲はどこかよくわからない方向に飛んでいってたダークが的のど真ん中に(弾丸並みの速度で)。訓練は楽しくなってノーモーションで投げたりしています。

 

犬に吠えられるレベルの気配遮断が自分が存在しないんじゃないかと思うほど気付かれなくなったり。訓練は隣の街まで誰にも気付かれずに跳び回ったりしています。

 

自己改造?これ以上普通じゃないところを増やしたくないのでスルーで。

 

風除けの加護ですが、これは呪文と神への祈りだそうで。

祈りはなくても使えなくはないそうですが、神頼みくらいには祈っています。それと、すぐ使えるように早口言葉をしたりしています。風除けの加護を使うときは大体危険なときだろうしね。

 

そんな感じで、実践は出来ていませんがヴィジランテもどきでもしてオールフォーワンに目をつけられても嫌だし、オールマイトやプロヒーローたちと戦いになるかもしれないのでする気はありません。一応見回ってるけどここら辺平和だし。

 

 

 

 

 

だから今日も何もないと思ったんだけど。隣街を跳び回っていると怪しい少女が一人、夜の町を歩いているのが見えた。

普段は誰かをつけたりはしていないけど、今回は特別。

私より少し年下に見える子供がこんな夜中に出歩くのは明らかに怪しい。

そんなこんなで屋根を飛び回りながら少女を観察した結果。

 

この子、めちゃくちゃ怪しい。

 

服に血がべったりとついているけれど、あれは外側からついたもので、それに少女は怪我をしている様子はないから恐らくは返り血。

また、追われている様子もないので襲われたところを誰かに庇われたわけでもないだろう。

 

もし事件があって解決した後だったとしても、血がついた服を着ているのはおかしいし警察やヒーローは一人で行かせないだろう。

武器を隠し持っている様子もないことから、この少女は個性による犯行を行った可能性が高い。

 

 

(ねえ、どうしよう?明らかになんかやらかしてるよね)

 

(まあ何もないということはないでしょうな。しかし、確証がないのと個性が分からない以上、接触は避けた方がよろしいかと)

 

(でも、このままだと次の犯行が起こるかもしれないし……)

 

(ならば、通報すればよいのでは?主殿が危険な目に遭う必要はないでしょう)

 

(そうしたいけど…お母さんまだスマホ買ってくれないから持ってないし、お金もないから公衆電話も使えない)

 

(であれば、追跡をしましょう。現行犯なら確証もとれますし、被害者の通報でヒーローも呼べるでしょう)

 

(じゃあそうしようか)

 

 

方針は決まったので、そのまま少女についていく。

今は住宅地だが、そのまま進むと人通りのある道に出る。あんなに血がついた服を着ているし、誰かが少女に事情を聞くだろう。

 

 

(気づかれたくないならあんな服で人がいる方には行かないし、ヒーローを呼ばれると分かっていても暴れそうだね)

 

(その可能性は十分にありますので、警戒を忘れずに。戦闘になる場合は、容貌を見られぬよう、隠すべきでしょう)

 

 

先生の言う通りに仮面とマスクを身につけ、いつでも奇襲できるようにする。

当然、目立つ右腕は黒い布で隠してあるので、これで戦闘してもバレることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女が住宅地から道へと出る。それを見た人たちは、驚いて逃げたり、ヒーローに通報したりしていた。

 

興味本位か少女を心配したのか、一人の男が少女に話しかける。

俯いていた少女が顔を上げて、まともじゃない笑みを浮かべた。

同時に、少女の肌から棘が生えた。その棘は話しかけてきた男の顔と首、腹などに向かって伸びていく。

 

それを確認した瞬間、全力で駆け出す。そして棘の隙間を蹴り抜いて吹っ飛ばす。少女は呻き声を上げて住宅地側に転がった。

少女に話しかけていた男は少しの間呆然としていたが、ハッとして叫び声を上げて逃げていった。

 

 

(驚いたけど個性が分かればこちらに分がある!)

 

(明らかに刺すつもりでしたし、ヒーローが来るのも時間の問題でしょう)

 

(じゃあそれまで時間を稼ぐよ!)

 

 

少女はまだ倒れているが靴の裏から棘が飛び出す。先ほどの棘よりもかなり速いがまだ余裕はある。

しかし、左に跳んで棘を避けるとその棘の横からまた棘が生えてきて、私の腹を狙う。

急いでダークを呼び出して棘を弾くが、さらに棘が生えてきて私を狙う。

 

単純に棘をはやすだけならまだしも、この追撃はかなり危険だ…!

棘から棘を生やすとその分元の棘が短くなっているようだが、直線的な攻撃の何倍も読みにくい。

少女からも攻撃は続き、その間も棘を跳んで避けたり弾いたりし続ける。

 

幸いなのは元々血塗れで警戒されていて巻き込まれる人はいないことだけど、私もすごく怪しい格好をしているので、周りの人達の視線が痛い。

 

 

(分かってたけど、左腕だけしか使えないのは辛い!それに消えたら暴れられるかもしれないから気配遮断もできないし!)

 

(しかし、右腕を見せたが最後。確実に身元を暴かれるでしょう)

 

(分かってるけどきついものはきついって!どんだけ棘出せるのあの子!?)

 

 

本能的に個性を使っているのか攻撃は読みやすいがその分速い。

そろそろ厳しくなり、跳んで距離を取る。少女は棘を戻し、私を睨む。あまり遠ざかると他の人を狙われるかもしれないけど、少女は私に狙いを定めたようだ。

 

 

「なんなのお前、邪魔なんだけど」

 

「…………」

 

「ふーん、話す気はないんだ…じゃあ死ねよ」

 

(このままだと埒があかないし、強引にでも攻めるしかない…!)

 

(近距離はやつの独壇場ですぞ!ヒーローが到着するまで耐えるべきでしょう!)

 

(この子の個性だとヒーローも勝てないかもしれないし、ヒーローが私と共闘してくれるとは思えないからここで決めるよ!)

 

 

前方に拡散するようにくる棘の隙間を気配遮断を駆使し追撃をさせずに最速で駆け抜け、ダークを一本、返す手でもう一本腹に向けて投げる。持ち手の方を向けて投げたが全力だと殺してしまうので手加減はした。

そのまま回り込み、ダークを腹に受けて蹲った少女の首を蹴ろうとしたとき、獣のような叫び声を上げた少女の全身から棘が飛び出す。

 

 

「うぅああああああ!!」

 

「なっ!?ぐっ…!」

 

 

なんとか伸びてきた棘を掴んで逃げることができたが、蹴ろうとしていた右足に棘がいくつも刺さった。

 

 

(右足が痛い…。どんだけ自由度高いのさあの個性…!)

 

(あまり深手ではないようでなにより。どうやら無効化するには棘が生えてないときに速攻で叩き伏せるか、手足をダークで撃ち抜くかくらいでしょう)

 

(けっこう痛いんだけどなぁ…。そんなに怪我をさせるとこっちまでヴィランだと思われるしやりたくはないんだけど、とりあえず今はどうしようもないね)

 

 

まだ少女は唸りながら棘を次々と出し続けていて、とても近づける状況ではない。

遠距離から無力化できるミッドナイトみたいなヒーローがいればいいんだけど、来たヒーローによっては任せられないかもしれない。

 

警戒しながらも右足を黒い布で止血しているがヒーローが到着するのを待っていると、右側の人溜まりから歓喜の声が上がった。どうやらヒーローが到着したようだ。

 

 

「やった!エッジショットが来たぞ!」

 

(エッジショット…?原作にいた気がするけど誰だっけ?)

 

「落ち着け。それよりもこの状況はどういうことだ。ヴィラン同士の争いか?」

 

 

あの右側だけ髪の毛で覆われていて、忍者のようなコスチュームの男は……ピザーラ神野店の人か!

いやそれだけだとただの店員だが、あの人の個性はよく覚えていないが黒霧を一瞬で気絶させてたはず。きっとこの少女を無力化できるだろう。

 

 

「まあいい、まずはそこのお前だ」

 

「っ!?」

 

 

赤く細長くなった彼が私に向かって飛んでくる。えぇ何で!?

咄嗟に気配遮断を使い全力で住宅街の方へ駆けようとしたが右足の痛みで脚が縺れて、前方に投げ出される。

一時的に私のことを見失っていた彼に見つかり、再度飛んでくるが、転がったりバク転したりして避ける。

次々と迫る攻撃を避けるが、どんどん速くなっていている気がする。

 

 

「まだ避けるか、それにお前の個性は姿を消す類…厄介だな」

 

(動く様子のないあの少女より、動くことができる主殿を狙ったんでしょうな。しかし、一難去ってまた一難ですな)

 

(実際は一難も去ってないんだけどね)

 

 

住宅地の方に逃げるのもできない。彼が追ってきた場合、少女を止めれる人がいなくなってしまう。

 

 

(では、あの少女を利用するのはどうですかな)

 

(あの子を?)

 

(あのヒーローが少女を止めざるをえない状況ならば、逃げることができるでしょう)

 

(うん、分かった。それでいこう!)

 

「ちっ、そろそろ決めさせてもらう!」

 

「っ!?」

 

 

今も猛スピードで真っ直ぐではなく複雑に迫ってきている彼を避けながらあの少女に近づいていく。

今までとは段違いで、足の怪我を気にしている場合じゃない!

右足に力を込めると刺されたところが焼けるように痛い。

 

少女は近づいてくる私を見たのか私に狙いを定めて棘を伸ばしてきた。

無理矢理両足に力を入れ、少女を飛び越える。棘が当たりかけたが体を捻り、なんとか避けた。

すると、狙い通り私と彼で少女を挟むような形になった。

 

彼は体を元に戻し、少女を見る。

少女もそこで初めて彼の存在を認識し、彼に向けて棘を伸ばした。

彼は体を細くして少女の攻撃を避けてそのまま気絶させようとするが、少女が棘から棘を生やしているのを見ると警戒したのか一旦下がった。

少女も挟まれてるのは嫌だったようで、横に跳ぶ。

 

三つ巴状態で誰も動かなくなったとき、一人の男が彼に叫ぶ。

 

 

「そっちの黒い人は俺を助けてくれたんだ!それに、あんたが来るまでそいつの棘が俺たちにいかないようにしてくれてて、だから、見逃してやってくれないか!?」

 

「そういうわけにはいかないたとえ誰かを助けるためでも、個性の無断使用は違法だ。それに、あんな怪しい格好をして一言も発さないのを放置するわけなかろう」

 

(あの男は、少女に話しかけていた男のようですな。であれば、今のうちに逃げましょう。ダークの回収も忘れないように)

 

 

少女が移動したおかげ二、三メートル前に二本落ちているダークを回収できるようになったしチャンスは今しかないだろう。

 

 

(じゃあ、いくよ!)

 

「っ!?待て!」

 

「逃げんなぁぁ!!」

 

 

気配遮断をした途端、彼と少女が叫ぶ。

少女は棘を伸ばし、そのおかげで彼の私への注意が薄まった。

そのままダークを拾って高く跳び、住宅地に飛び込んだ。

その後遠回りで帰ったけれど誰も追ってくる様子はなかった。

 

 

(さすがに今回は肝が冷えましたぞ)

 

(私も、もうこんなことがないといいんだけど)

 

 

帰ってから右足の治療をしたんだけど、止血していたおかげでそこまで悪化してはいなかった。

エッジショットの攻撃を避けるためにけっこう無茶をしたけれど、刺し傷だったおかげかそれともこの体が頑丈なのか。

どちらにせよこれなら誰かに気づかれることはなさそうで何より。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

次の日足の傷は親には頑張って隠し通したけど、お茶子ちゃんにはなぜかバレた。

かなり心配されたから、誰にも言わない約束で昨日のことを話した。

いろいろと聞かれたけど、マントと仮面は自作ということになったけど気配遮断のこともどうやら知れ渡っているようで、そのこともお茶子ちゃんに話した。

 

そのときお茶子ちゃんに教えてもらったんだけど、エッジショットはあの後無事少女を捕まえたようだ。

それは良かったんだけど、黒いマントに白い骸骨の仮面のヴィジランテのことが話題になっていたのは勘弁して欲しかった。

 

家に帰って新聞を確認すると、あの事件の詳細が載っていた。

どうやらあの少女は私の一歳下の九歳で父から虐待を受けていた。あの日に親に殺されかけて反射的に個性を使ってしまったようだ。

その後錯乱して外に飛び出して、その後は私が見た通り。

 

幸いだったのは少女の父が生きていたこと。

彼女は人殺しにならなかったし、誰も死ぬことはなかった。

 

…それだけは、本当に良かった。




エッジショットは原作登場時に三十三歳なので、二十七歳ならセーフだと思います。


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8話 訓練

中学校の情報が名前しかなかったので、いろいろと捏造しました(自白)


グーテンモルゲン、心です。

 

あれから三年が経ち、中学生になりました。

その間も訓練は続けていて、当然何度かヴィランやチンピラとも戦いました。

しかし、あのときのようにならない為に戦う際はヒットアンドアウェイを心掛けて、ヒーローが来る前にはしっかり姿を隠しました。

一応訓練の範囲も三重県全体まで広げていたのでヴィジランテとしては有名になり、『サイレンス』なんて名前までつけられましたがバレてはいません。

おそらく喋らないことと音を立てずに行動すること、気配遮断でいつのまにかいなくなることからその名前になったようです。

一度ヒーローが何人か集まって捕まえようとしてきましたが、先にそのことを察知できたおかげで逃げ切れました。

と言ってもかなりギリギリで、そのときは野次馬に紛れ込んで装備を消したお陰でなんとかといったところです。

 

それと、露座柳中学校にお茶子ちゃんと一緒に進学しました。

昔、個性が発言した頃にお茶子が実家の建設会社の経営が上手くいっていないことを気にして実家に就職しようとしていたときがありました。

お茶子がお父さんにそのことを提案したら、自分の夢を叶えてほしいと言われたそうで。

だからお茶子はお金を稼いで、両親に楽をさせる為にヒーローになることを決めました。

 

それならば私も応援したいと思い、個性や体を鍛える訓練をしたり勉強を教えたりしていました。

それと、さすが原作で偏差値79の雄英に受かったこともあってか飲み込みは早く、二学期の期末では一位と二位を私とお茶子でとることができました。

この調子だとお茶子は無事雄英に受かることができそうです。

 

あ、ちなみに私は三重県で一番偏差値が高い高校狙ってます。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ねえ、こんなこと、する必要、あるのかな?」

 

「それはもちろん。救助を主にするヒーローとはいえ、戦闘ができなきゃいざというとき困るし、お茶子の個性は相手によっては触れたら勝ちなんだから絶対役に立つよ!」

 

「そうかな…」

 

(主殿も触れられたらダークを投げることしかできませんしな)

 

(魔力放出とかあったら問題ないんだろうけど、その分私に触れるのは難しいし大丈夫)

 

 

最近は学校終わった後、私の家の裏庭で近接戦闘訓練をしています。

内容は私に五本の指で触れて浮かせること。当然私は避けるよ。

範囲は裏庭全体で、あまり広くはないけど避けるには十分の広さ。

気配遮断も使わないしお茶子が目で追えるギリギリの速さしか出していないけど、それでも簡単に触らせる気はない。

 

 

「心ちゃん?もうちょい手加減してくれへんかなー?」

 

「んー、じゃあ触れるたびに速くしていく?」

 

「そうしよそうしよ!」

 

「はい、じゃあスタート!最初はお茶子と同じくらいからで!」

 

「よーし、いくよー!」

 

 

そう言ってお茶子が突撃してくるけど、私は気配遮断や速さだけで避けているわけではないということを思い知らせてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、20分粘ってもお茶子は私に触れられなかった。

私も三年間ただヴィランたち(ヒーローたち)と戦ってきたわけじゃない。先生に戦い方、相手に読まれない攻め方や相手の動きを読んで攻撃や回避につなげることを学んできたんだ。まだまだ半人前だけど、それでも少しずつ身についてきている。

 

 

「はぁ、はぁ、一回も触れんかった…」

 

「それでも最後の方は惜しかったところが何回もあったでしょ?どんどん強くなってきてびっくりしちゃったよ」

 

「それでも!一回も触れんのは悔しい…」

 

「まあまあ、今日はここまでにして勉強しよ?」

 

「う、明日は絶対触ってみせる!」

 

「うんうん頑張ろ頑張ろ」

 

(いやーこの調子だと雄英なんて余裕そうだね!)

 

(そうですな。たしか雄英の入試はロボットですが、それでも問題ないでしょう)

 

(個性の許容値も伸びていってるし、0ポイントのロボットも敵じゃな……い……)

 

(どうかなさいましたか?)

 

(やばい)

 

(入試に何か問題が?)

 

(やばいやばい!!お茶子が強くなったら緑谷君がお茶子を助けてレスキューポイントを手に入れれなくなるかも!?)

 

(つまりは?)

 

(原作の一番重要な部分が、主人公がいなくなっちゃうよ!!」

 

「わっ!!びっくりしたー!急にどうしたの?主人公ってなんの?」

 

「あっえっとその……なんでもないから。大丈夫」

 

「そう?じゃあその問題の答えは?」

 

「え?……分かりません」

 

「やっぱり!ちゃんと勉強せんとダメやろ?」

 

「はーい…」

 

 

怒られたけど今はそれどころではない。このままだと少なくとも雄英はまずいことになる。

お茶子が0ポイントから逃げるときに転んで逃げ遅れるかもしれないが、当然訓練の中には悪路での走行なども入っているのでそうならない可能性も十分にある。

 

だからって今から訓練を辞めることもできない。

これは私のエゴだけど、雄英のヒーロー科に進んだとき確実にヴィランとの戦闘は避けられない、なら少しでもお茶子が無事でいられるように少しでもできることはやっておきたい。

 

なら、どうする?

 

 

 

 

 

…そうだ!まだなんとかなるかもしれない…!

 

今緑谷君に接触したって何もできない、だけどオールマイトと接触した後ならできることはある。

そう考えると確実に緑谷君を入学させるルートは一つ。彼の実力で合格できるようにすることだけだ!

 

 

「またぼーっとしてる!」

 

 

…あと二年訓練と勉強頑張ろう。




後先考えてなかった結果だけど、当然でもある


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9話 意外な再会

ドーブラエウートラ、心です。

 

晴れて中学二年生となりました。今は一年生の入学式の真っ最中です。

最近も訓練は順調で、来年までには私が手伝えなくてもなんとかなるでしょう。

そう、来年は今のようにお茶子と訓練や勉強する時間はかなり減りますから。

 

そういえば私とお茶子は訓練や勉強などに時間を費やしているので部活等には所属していません。

なので先輩たちと関わる機会も少なく、それは一年生も同じでほとんど関わることもないでしょう。

それよりもあと一年のうちに出久君たちの家、そしてヘドロ事件の場所などを確認しなければいけませんね。

ああ忙しい、忙しい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

在校生は校歌を歌ったり拍手することくらいしかすることがないから暇なので、面白い人いないかなー?と一年生を眺めていると、女の子が一人私たち二年生の方を見ていた。

 

誰かを探しているようで、歩きながら目をキョロキョロとさせている。

その子は黒髪を長く伸ばしていて、とても可愛らしい顔をしていたので男子たちの何名かはすでに色めき立っていた。

すあの子を狙っていることをこちらにも聞こえるほどの声で言うアホもいるようだ。

 

その声はあの子にも聞こえているだろうな、なんて思っていると、その子と目が合った。

するとその子は忽ち目を輝かせ、花が咲くような笑顔を浮かべて一年生の席に向かっていった。

 

 

(あの子、私のことを見てた?)

 

(ええ、間違えなく主殿を見てあの反応をしていましたな)

 

(でも私に一歳下の知り合いなんて…幼稚園の子かな?あのときは年齢なんて関係なく遊んでたし)

 

(いや、意外と知らないところで会っているかもしれませんな。それこそヴィジランテのときなどに)

 

(いやいや、あの姿を見て私だと思う人は目がおかしいとしか思えないんだけど)

 

 

それこそ一番ない可能性だ。ヒーローや警察ですら私を見つけれていないのに、救けた一般人に分かるわけがないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式の後お茶子にそのことを話すと、

 

 

「うーん……心ちゃんサイレンスのとき以外は大体私と一緒にいたし、でも幼稚園にあんな子いたかなぁ?…もしかして一目惚れとか?」

 

「いやないでしょ。それに私の右腕を見てあの反応ならまだしも、私の顔を見てあの反応はなんか引っ掛かるんだよね」

 

「まあ、もし何かあるんならあっちから話しかけてくるよきっと」

 

「それもそうだね」

 

 

あんまり気にしても仕方ないし、そのことはお茶子と話をしている間に忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、次の日。

昨日の少女が満面の笑みを浮かべて私の家の前で待っていた。

昨日は一年生の方が帰宅時間が早かったからなのか、それとも私の家を探していたのか。

…それともこの出会い方を狙っていたのか。

 

睨み合い(と言っても一人は笑顔だが)を続けても仕方ないし、お茶子を迎えにいかなければいけない。

意を決して話しかけようとすると、少女の方から話を切り出した。

 

 

「お久しぶりです、心さん」

 

「お久しぶり?私たちが会うのはこれが初めてだと思うんだけど?」

 

「忘れちゃったんですか?…ああ、あれから私も成長しましたし、あのときは暗かったので分からなくなっただけですよね」

 

 

今生で今のところ私は親に同伴なしで夜中に出歩いたことはない。

あるとすればそのときだが、全く記憶にない。

 

 

「幼馴染さんを迎えに行くんですよね。私は待ってますので、早く行かないと遅刻してしまいますよ。私も最初から遅刻なんて嫌ですし」

 

「…ああ、そうするよ。あとで話を聞かせてもらえるかな?」

 

「ええ、でも幼馴染さんに心さんがサイレンスであることを言ってないのなら辞めておきますが」

 

「いや、お茶子も知っているから大丈夫だよ。それじゃあ、また」

 

(ヴィジランテ繋がりは確定だね……)

 

(であれば、あの少女しかおりますまい。敵対するつもりはないでしょうが、警戒を忘れずに)

 

(はあ…救けた子だったら良かったんだけど)

 

 

いつものように隣のお茶子の家に行くと、少ししてお茶子が制服を着ながら出てきた。そのときに私の様子がいつもと違うことに気づいたようだ。

 

 

「ねえ、なんかあったん?」

 

「ああ、登校するときに話すよ」

 

「うん。あとちょっと待ってね」

 

 

タイを結び終えたお茶子と一緒に玄関を出る。玄関先で後ろを向いていた少女がこちらに振り返った。

 

 

「さあ行きましょう、心さん」

 

「あの子、昨日の…?」

 

「早く行かないと遅刻してしまいますよ」

 

「行こうか。その前に、君の名前は?」

 

「私は棘崎(とげさき) 羽織(はおり)。羽織って呼んでください」

 

 

あのとき見た新聞にあの子の名前は載っていなかったが、あの子の父親の名前は載っていた。

 

 

「やっぱり羽織はあのときのヴィランの子だね」

 

歩きながらそう言うと、少女は何も言わずにただ頷いた。

 

「話がわからんけど、結局誰なん?」

 

「三年前の隣街のヴィラン、いたでしょ?私があのとき戦った子だよ」

 

「あのときの…!でもなんで心ちゃんだって分かったん!?誰も心ちゃんだって分からんかったのに!」

 

 

お茶子が羽織を驚きの目で見る。たしかに、彼女の個性は人を探せるものではない。

 

 

「少年院に二年ほどいましたが、一度もあのときのことを忘れたことはありません。それに三年間の心さんの動きを全部調べて、あなたに会いに行こうとして夜中に出歩いたりしてたんですよ?

三重でしか活動していなかったこと、背はあまり高くはないこと。あのときは私と同じくらいでしたが、背中を曲げているからそう見えただけなんですね。あと、私に右足を刺されたときだけ声が出ていましたね、大人には出しにくい高さの声でした。なのでそこまで歳は離れていないということ。そして左手しか使わなかったこと。右腕は黒い布で覆われていましたが、その右腕を見せたらすぐに誰かわかってしまうからなんですね。

…ああ、確証を持ったのはヒーローどもが心さんを捕まえようとしたときです。あのとき私もあそこにいたんですよ?

そこで心さんを見つけて、そして確信しました。

ああ、家は昨日つけて行ったわけじゃなくて、最近になってやっと見つけ出したんですよ?頑張ったって褒めて欲しいくらいです」

 

「「なっ…!?」」

 

 

次々と捲し立てるその言葉に私とお茶子は戦慄する。

何がここまで彼女を駆り立てるのか。

私を見るその目は復讐に駆られた者の目ではなく、愛する人を見るような目。

この子は私しか見ていない。お茶子は私の付属品とでも思っているかのように見ようともしない。

 

それでも、と一縷の望みをかけてその理由を聞く。

 

 

「…どうしてそこまでしようと思ったの?」

 

「心さんが、心さんだけが私を見てくれた。絶望の中にいて、錯乱していた私を止めてくれたんですよ」

 

「たしかに羽織を止めたけれども、最終的に君を捕まえたのはエッジショットだよ」

 

「あんなやつ、あんなやつに私が分かるわけない!だってあいつは私のことを見ていなかった!あなただけが私を見てくれたの!」

 

「そんなことはない。私はただ人が傷つけられるのから目を逸らしたくなかっただけで」

 

「そうじゃない!あなたは誰かを傷つけようとしていた私をも救けようとしてくれていたんだ!

…誰からも見ないふりされていて、誰も私を救けようとしなかった。父親から虐待されているのを知っているくせに黙っていた。

そんな中、あなただけが私を救おうとして、私を見ていてくれた。

だからこれからも私を見ていてください。

私だけを見て。

他の人なんてどうでもいい。私もあなただけを見続けるから、私とずっと一緒にいましょう?」

 

 

彼女の独白めいた告白に、自然と足が止まっていた。それはお茶子も同じで、私たち三人しかいない世界にいるみたいで…

 

 

(主殿、気をしっかり持ちなされ。彼女は主殿に依存していたのでしょう。それが時間が経つにつれ、彼女の中のほぼ全てを占めるまでに大きくなっている。…これは主殿がどうにかするべき問題でしょう)

 

(そんなこと言われたって、どうしたらいいのさ)

 

(…ここまで過激な告白をされたのです。返事をしないのは悪い結果を招きかねませんぞ)

 

(…うん)

 

 

先生と話している間、誰も言葉を発さなかった。

今から言うことは彼女を傷つけるかもしれない。でも、言わなきゃいけないことだろう。

 

 

「それはできない、羽織は私に依存しているだけだよ。たしかに私が止めたから今君はここにいる。

でも、私は羽織に依存してほしくて戦ったわけじゃない」

 

「でも、それでも…!」

 

「それに、私はそこまでできた人間じゃない。私は訓練途中でたまたま見かけて、ただ誰も守れないでただ逃げるだけの人になりたくなかったから羽織を止めただけ。

…羽織はもう自由なんだ。だから、もっと視野を広げてほしい。私以外にも羽織を見てくれる人はいるよ」

 

「心ちゃん…」

 

「…心さん。私まだ諦めてませんから」

 

「それでもいいよ。…よし、学校まで勝負だ!このままだと遅刻しちちゃうよ!」

 

「あっ、待って、負けへんから!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

違う、違うのに。

もっと私を見てほしかっただけなのに。

どうして私を見てくれないんだろう。もっと近くに行けばいいの?

心さんを見つけたときはとっても近くにいる気がしたのに、今はあのときみたいに遠い。

 

卒業したら心さんはもっと遠くに行ってしまう。そしたら他の誰かに盗られて、私を見てくれなくなるかもしれない。

 

あと二年…その間に手に入れなきゃ、あの人を。



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10話 はじめての

1話から10話まで加筆修正をしましたが、話の流れは変わりません。
追加したこと
・ヴィジランテ名を追加『サイレンス』
・ヴィジランテ時に複数のヒーローによる確保作戦が行われたことを追加


あれから一年、できることは全部やってきたつもりだ。

 

お茶子との訓練もしっかりとやってきて、近接格闘訓練も三回ほど触られて、今の速さにも慣れてきている。

勉強も順調で、この学校の他の雄英志望者にも負けずにトップ2を守り抜いているし、お茶子は模試でA判定を取っていた。

私も模試を受けたときに一応雄英も書いていたが、しっかり全てA判定を取れていたので順調と言えるだろう。

 

だけど、変わったことが一つ。

あの後から羽織も一緒に登校するようになり、お昼も一緒に食べるようになった。最初は相変わらず私しか見ていなかったけど、最近はお茶子とも話すようになった。

まあ話すといってもかなり喧嘩腰で、無視することもある。

そして髪型もお茶子に対抗してか同じくらいの長さにしたりしていた。

 

少し前に私とお茶子の訓練に羽織も参加させてほしいと言ってきたけれど、そのくせ志望校は私と一緒の学校で、ヒーロー科ではない。

単純に私に執着してるだけですぐにやめるかと思ったけど、今の今まで続いている。

私が卒業するまでに羽織のこともどうにかしなければいけないけど、何をしても羽織は私から離れることはなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昨日担任の先生が三年生になったということで進路希望調査用紙を配ったのだが、当然私は雄英でもヒーロー科でもない。

しかし今日の朝、先生が昨日の進路希望調査のことをなんの躊躇もなく言った。

私のクラスはヒーロー科志望が半分、他が半分といった感じで、お茶子以外に雄英志望はいないようだ。

そういうのは生徒には言わないものじゃないの?、と思っていると、

 

 

「あれ、安佐は雄英行かねーの?」

 

「麗日と一緒に雄英目指してたんじゃなかった?」

 

「いやそんなこと言ったことないけど」

 

「え、でもお茶子ちゃんそんなこと言ってなかったっけ?」

 

「いやー、えっと、その」

 

 

…うん、これは黒ですね。

クラスメイトから幼馴染への疑惑が浮かび上がり、お茶子の方を見てみると明らかに焦った顔をしている。

 

 

「それなんだけど、私ちょっと迷ってて、どうしよっかなって」

 

「行けるよ雄英!心さんすっごい速いし!」

 

「そうだぞー、雄英に行ったら行くだけ学校の評価も俺の評価も上がるからな!」

 

「はは、そうですね。まだ時間はあるし、考えておきます」

 

「そうか、まあ最終的に決めるのは自分自身でな」

 

「じゃあ俺も雄英行くわ!」

 

「いや赤点取ってるお前じゃ筆記で落ちるわ」

 

「ひどっ!?」

 

 

なんとか有耶無耶にできたし、あとでお茶子に尋問しますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして移動教室の時間、みんなが移動した頃にお茶子に朝のことを聞いた。

 

 

「ねえ、今日の朝の。いつもはそんなことないし、誰かと何かあったの?」

 

「誰とも何もないよ…。心ちゃん、あれは私の本心なんよ」

 

「それって、本気で言ってる?」

 

「心ちゃんがヒーローになる気はないのは知っているよ、でも!

…心ちゃん、私と雄英行ってくれへん?」

 

「…ちっちゃい頃は一緒にヒーローなろうとか言ってたけど、最近は聞いてなかったからびっくりしちゃったよ」

 

「私は本気やよ、心ちゃん!心ちゃんなら絶対プロヒーローになれる。今みたいに顔を隠す必要もないし、人を救けたのに世間から批判されることもないやん!?」

 

「私が勝手にやってることだよ。そういうのが欲しくてやってるわけじゃないし」

 

「嘘やん!クラスの人がそういう話題を話してるときの自分の顔知ってるん!?…辛そうな顔してるんだよ?」

 

「私は誰かから褒められたくてやってるわけじゃない!訓練のついでで「心ちゃんの嘘つき!!そんな訓練もう必要ないでしょ!?」…そんなことない」

 

「前言ってたやん、ヴィランに負けないための訓練だって。でも普通の人はヴィランと戦ったことなんかあらへんよ?そういうときはヒーローが助けに来てくるんやから」

 

「っでも、羽織のときは誰かが死んでたかもしれなかった!」

 

「だったらっ!なんでヴィジランテなんかやってるん!?

みんな誰かを守るために頑張って勉強して訓練してヒーローになってるんだよ!?誰かを守りたいならヒーローになればいいやん!

今心ちゃんがやってることはダメなことなん、だから、ヴィランとやってることは変わらんよ!!

…ヒーローに守られるのとヴィジランテに守られるのじゃ全然違うんだよ?ヴィジランテに守られてもその人は安心できないんだよ?だから心ちゃんは批判されてるの。

私は心ちゃんが心配なの…。ヒーローになる気がないならそんな危ないことしないでよ…!」

 

「っ!!」

 

 

言い返せない。私は何も言えない。それはそうだ、私は法を犯しているんだから。

誰かを守りたいならヒーローになればいい。そう、ヴィジランテは誰かを守ることはできても安心させることはできない。

だから私の行動はあってはいけないんだ。

 

 

(ヒーローとヴィジランテには大きな差がありますな。

片や訓練をしっかり積んで資格を持っている者。

片や素性の知れぬ、いつこちらに刃を向けるかもわからない者。

たとえ両者とも救けたい意思を持っていたとしても、それが他人に伝わるかはまた別の話)

 

(…………)

 

 

 

 

授業開始のチャイムが鳴る。

 

 

「……私は行くね」

 

 

お茶子が私の隣を通って教室から出る。だけど私は一歩も動けない。

そもそもなんで私はこんなことを始めたんだ?

 

今やってる見回りなんて自分から戦う気がなかったらする必要がないだろう?

先生の力があれば他の人を一人か二人抱えて逃げて、ヒーローに頼ることもできただろう。

それにあんな怪我をして、あんなに心配してくれているひとも見ないで、独りよがりで。

 

いつぶりだろう、涙を流すのは。

どんなに怖い目にあっても泣いたことはないのに、今は全然涙が止まらない。

 

 

(先生、私、どうしたら、いいの…?)

 

(覚えていますかな、主殿が私に教えを乞うたときに私が言った言葉を)

 

(ええと、逃げればいい…だっけ…?)

 

(言ってしまえばそうですが、それだと足りませぬ。

『主殿は逃げに徹したなら誰も捉えることはできませぬ。一人か二人なら共に逃げることができますし、今のままで十分では?』

と私は言いました。それに主殿はなんと答えましたか?)

 

(そんなの、覚えてないよ…)

 

(では、今ならなんと答えますかな?)

 

(………)

 

(その答えを持たないのならば、訓練は止めることです)

 

(そしたらだれかが死んじゃうかもしれない、それだけはできない!)

 

(主殿がいないところで、ヒーローの仕事が増えるだけです。ヒーロー飽和社会なのですから問題ないでしょう)

 

(そんなこと(では、主殿が活動してから誰も殺されてないとでも?主殿は力はあっても所詮は一人の人間、取りこぼした命はいくつもありましょう)…っ!)

 

(なに、ヒーローたちはあなた以上に場数も鍛錬もこなしているのです。それに、気持ちが定まっていないと思わぬところで失敗を犯しますしな)

 

(…分かったよ)

 

 

私は今、誰にも自分の答えをいうことができていない。

 

涙は止まったがこんな目をして授業になどいけない。保健室で休むことにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昨日から心さんの様子がおかしい。お茶子さんと何かあって、それでぎくしゃくとしているようだ。

まあ、それなら都合がいい。足りないなら、私がいる、私だけがいる。

やっぱり心さんにお茶子さんは相応しくない。私じゃなきゃダメなんだよね、心さん?



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11話 ここから

1話から10話まで加筆修正をしましたが、話の流れは変わりません。
追加したこと
・ヴィジランテ名を追加『サイレンス』
・ヴィジランテ時に複数のヒーローによる確保作戦が行われたことを追加


雄英入試は来年の二月二十六日。

つまりその十ヶ月前は四月の下旬となるが、正確な日付は分かっていない。

平日かつ授業が終わり帰宅するときにあの事件が起きるのは分かっているが、できることなら商店街でヴィランが暴れているところも見ておきたいので四月の中旬に巨大化ヴィランが逮捕されてから毎日静岡県の方まで向かっている。

 

原作でもはっきり場所が出ていたわけじゃないので、商店街が近くにある中学校に侵入して同学年の名前を見て回りようやく見つけ出した。

ヘドロヴィランの出現場所である商店街を確認して、それから毎日帰宅後に商店街まで見通せるところまで来ている。

夕方頃には家に帰っているが、今のところまだ何も起きてない。

 

 

あのときからお茶子との関係がギクシャクしていて、登下校時も会話することはほとんどなくなり、したとしてもすぐ途切れてしまっている。

当然お茶子と訓練することはなくなった。

だけど、私の答えが未だ出せてない以上、どうしようもない。

 

羽織も訓練をやめたが、羽織は毎日、自分の家に来ませんかと聞いてくる。

その誘いを断ると毎回理由を聞かれるが、ヴィジランテをしていると言っている。

だけど、あのとき先生に言われて以来ヴィジランテとしては活動していない。

静岡県まで行くときにヴィランが現れることもあったが、どれも殺人まではいかないくらいのやつらだったので眺めるだけに済ませた。

怪我人が出たが、やっぱりプロヒーローが到着して誰も大事には至っていない。

ヒーローが出てなんとかなるならそれの方がいい。

やっぱり私がやっていることは良くないことなんだろうな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その日も商店街が見える定位置に行こうとするが、商店街の方から黒煙が立ち上っているのを確認するとすぐにそちらの方へ向かった。

 

商店街に並んでいる店の上に着地をすると、商店街が火の海になっていて、その中心で爆豪君がヘドロヴィランに取り込まれようとしている。個性を使って暴れているようで、そのせいで火の海になったようだ。

逃げている人たちがいて、見たところ逃げ遅れている人も何人かいる。

観察しているとどうやらプロヒーローも到着したようだが、三人のうち青い服に警戒色の装備が付いているデステゴロしかわからない。他の二人はサイドキックだろうか。

 

デステゴロはヘドロヴィランすぐさま飛び出してヘドロヴィランを殴りつけるが、効いている様子はない。それどころか投げ飛ばされてシャッターに叩きつけられている。

他の二人も手が出せない様子で、有利な個性が来るまで待つしかない、などと言いながら退いている。

ヒーローが何を、とも思うが私もあのヘドロヴィランとはかなり相性が悪い。

 

二車線以上しか通れないほどの巨大化の個性を持つMt.レディは何もできていない。

活躍できているのは消防士風の格好をし、両手の蛇口と背中のホースから水を噴出して消火しているバックドラフト、そして体が樹木のようになっていて、私の隣のビルの上で指から根を伸ばし爆豪君以外の人を救助しているシンリンカムイだけだ。

 

どんどん状況は悪くなっている。

原作ではこのあと緑谷君が無茶を通して爆豪君を救けに行くはずだ。

私がオールマイトに一回救けられているが、その程度で入試までの流れは変わらないはず。

 

しかし、もし来なかったら?その場合は誰が爆豪君を救けるのだろうか?

 

どのヒーローも太刀打ちできないわけじゃない。だけど、間に合うかどうかはまた別だ。

 

爆豪君の手を掴めたのなら引き出すことができるかもしれないが、すでに顔しか見えてない状況だ。

 

 

 

……今の私にできることは…ない……

 

 

 

そのとき一人の少年が野次馬の中から飛び出し、ヘドロヴィランの方へと走っていく。

プロヒーローたちが止まるように言っているが、止まる様子はなく、むしろ速くなっている。

 

 

(あれは……緑谷、出久……)

 

(勝算はなく、命を懸けてでも救け出す覚悟があるわけでもない。それでも、救けを求める人がいるなら、誰も救けようとしないのなら)

 

(救おうとせずにはいられない。…ああ、緑谷君はまさに…ヒーローじゃないか…)

 

 

もし私があそこに立っていたなら、どうしただろう?

 

ヘドロヴィランに有利な個性を持っていたら救けに行っただろう。

 

 

 

 

 

でも、不利どころかなんの個性も持たない無個性だったら?

 

無理だ。私にはできない。

だって、そんなことしたって、無駄死にするだけじゃないか。勝てない敵に挑んだって、意味ないじゃないか。

 

緑谷君が投げたバッグからペンシルケースが飛び出し、運良くヘドロヴィランの目に当たる。

爆豪君の顔を覆っていたヘドロが剥がれ、呼吸できるようになる。

 

そうだ、ヘドロだからどこも攻撃が通らないわけじゃない。先入観にとらわれすぎていて諦めていたが、目を潰して隙を作れば爆豪君を救け出せていた。

 

 

「かっちゃん!」

 

「なんで、てめえが!?」

 

「足が勝手にっ!なんでって、わかんないけど!

…君が救けを求める顔してた…!」

 

 

今の緑谷君は弱い、弱いはずなのに。

そんな彼の言葉に、私の心が燃えるように熱くなる。

ああ、こんな私でも。

 

 

(こんなことで諦めている私でも、緑谷君のようになれるかな…?)

 

(ええ、なれますな。何故なら、主殿は完全には諦めていなかった。

諦めているのなら、何故いつでもあのヴィランのところに飛び出せるようにしているのですかな?)

 

(あ……そっか。私はまだ諦めてなかったんだ…)

 

 

私の心の奥底で、まだ諦めるなって叫んでいた私がいた。

いたはずなのに、彼の言葉を聞くまで見ないふりをしていた。

そんなの無理だ、どうしようもないって。

 

 

「やめ、ろおおお!」

 

「もう少しなんだから、邪魔するなああ!」

 

 

ヘドロヴィランが緑谷君をヘドロで殴ろうとするが、その攻撃は緑谷君に届かない。

 

だって、あのNo.1ヒーローも、緑谷君に心を動かされたのだから。

 

 

「本当に情けない…。君に諭しておいて、己が実践しないなんてっ!!」

 

 

血を吐きながらも、ヴィランの前にオールマイトが立ち塞がる。

 

 

「プロはいつだって、命懸けっ!!」

 

「オールマイトォ!!」

 

 

 

「DETROIT SMASH!!」

 

 

 

その一撃はヘドロヴィランを吹き飛ばし、上昇気流を発生させた。

飛ばされないように姿勢を低くしていると、風は止み、雨が降ってくる。

 

 

(凄まじい…!拳の一振りで雨を降らすとは!)

 

「はは。やっぱりすごいなぁ、オールマイト」

 

 

限界が来て古傷に激痛が走っているのに、力強く右腕を掲げるその姿は、誰よりも強く、脆くみえた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

時刻はすでに夕方で、プロヒーローたちに怒られたり事情聴取を受けたりしたあと帰る緑谷君を私は尾行していた。

住宅地を進んでいると、緑谷君の後ろから爆豪君が駆け寄ってきていた。

 

 

「デク!!」

 

「…あっ、かっちゃん…?」

 

 

爆豪君は数メートル前で止まり、息を整えたあと、一気に捲し立てた。

要約すると、俺は救けてなんていってない、一人でやれた、だ。

爆豪君は最後にクソナードが!!と吐き捨てて、大股で去っていった。

 

 

(あれでいて頭は良いんだから、人って見ただけじゃわかんないよね)

 

(主殿もつり目でいつも誰かを睨んでいるように見えますからな)

 

(それに右腕も合わせたらなぁ…。まあ、私の態度も良くないのかもしれないけど)

 

「私が来た!!」

 

「わあ!?お、オールマイト!?」

 

 

緑谷君が振り返って俯きながら帰ろうとすると、手前の横道からオールマイトが飛び出してくる。

それを見た私は屋根から近くの電柱の上へと飛び移った。

 

マッスルポーズを決めたオールマイトがトゥルーフォームになるのも確認して、準備は完了だ。その間も二人は話している。

 

この二人には無個性という私にはない繋がりがある。

それがとてももどかしくて、でも。

 

 

「トップヒーローは学生時から逸話を残している。彼らの多くが話をこう結ぶ…『考えるより先に、体が動いていた』と…」

 

 

まさにその言葉は私にとって一番遠く、これまで私がたどり着けなかったものだった。

でも、まだ足りない。私の答えはこれじゃない。

 

 

「君は、ヒーローになれる」

 

 

緑谷君の嗚咽が響き渡る。

ああ、そうだ。あれこれ理由を作ったって、結局はこれなんだ。

人を救けるのに理由なんていらない。

 

あと少し、あと少しなんだ。すぐ近くに答えがあるはずなのに、それが全く分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オールマイトがその個性、ワンフォーオールのことを緑谷君に話して、そして提案をした。

緑谷君が承諾してその日は解散ということになったが、このまま帰らせるわけにはいかない。

意を決して、気配遮断を解除し電柱の上から二人に話しかける。

マッスルフォームなら気づかれるかもしれないと思い気配遮断をしていたが、解除してもバレてはいないようだった。

 

 

「ねえ、お二人さん」

 

「っな!?…君、いつのからそこに?それにそこは危険だぞ」

 

「え…あ!電柱の上に人が!?」

 

 

電柱の上から飛び降り、悠々と着地する。

オールマイトはまだ隠し通せると思っているのかもしれないが、こっちのペースに持ち込ませてもらう!

 

 

「んー、オールマイトさんがそのヒョロヒョロの姿になったときからかな?」

 

「な、オールマイトの秘密が!?」

 

「Shit!まずいな…」

 

「大丈夫、誰にも言いませんよ」

 

「本当か!?いやしかし…」

 

「それで、何をするつもりだったんですか?ただワンフォーオールを受け継ぐだけじゃないんでしょう?」

 

「あ、ああ、このままだと体が個性に耐えられないからな。トレーニングをしようと思っているんだが」

 

「良いですね面白そう!そのトレーニング、私にも手伝わせてくれませんか!?」

 

「え、ええ!?何がどうなって、どういうことぉ!?」

 

「私が信用できませんか?私の名前は安佐 心。あ、これ学生証です。ちゃんと露座柳中学校に通っている三年生ですよ?

あと、私の個性はこの右腕と、あと身体能力が強化されて三重からここまで走ってこれたりします」

 

 

学生証を名刺のようにオールマイトに渡し、ついでに個性のことも話す。二人は動揺して、頭が回っていない。

普段の私だと怪しまれるかもしれないし、こういう明るくて好奇心旺盛な子を演じれば問題ないだろう。

 

 

「そこの君は雄英のヒーロー科行くんでしょ?私も雄英のヒーロー科志望なんです。模試は余裕でA判定でしたし、頭が良いならあとは体だけ。そのためにここまで走ってきたんですよ?

私はNo.1ヒーローのトレーニングを受けられる。

オールマイトさんはその秘密が知れ渡らずに済む。

そこの君はオールマイトさんからトレーニングを受けられる。

WIN-WIN-WINじゃないですか?あ、そうだ。勉強が必要ならそっちのお手伝いもできますよ」

 

「な、なんで雄英のことが「オールマイトさんの個性を受け継ぐんです、それなら当然オールマイトさんの母校である雄英に決まってるじゃないですか!」あ…たしかに」

 

 

雄英にもヒーロー科にも今は行く気がないけど、理由にはちょうど良いだろう。入試までバレることはないだろうし。

 

 

「うーん…。よし!そうしよう!」

 

「えええええ!?良いの、オールマイト!?」

 

「雄英の今年の偏差値は80くらいですよ」

 

「そう!体を鍛えたところで勉強ができなきゃ雄英なんて無理だぜ!」

 

「でも、この人に迷惑が…」

 

「A判定って言ったでしょ?それに勉強を教えるってことは復習にもなるからね」

 

「では、緑谷少年、安佐少女。二日後、海浜公園で会おう!」

 

 

オールマイトが去っていくが、そこで呆然としている緑谷君に言っておくことがある。

 

 

「で、君。名前は?」

 

「あ、えっと、緑谷 出久です…」

 

「そう、じゃあ緑谷君。これからよろしくね!」

 

「う、うん…」

 

「それじゃあ二日後、また会おう!」

 

 

顔を赤くしている緑谷君は置いておいて、全力で跳ぶ。

ファーストコンタクトは成功。だけど、ここからが本番だ。

いろいろと問題が山積みだけれど、これはなんとかしなきゃいけないこと。少しずつこなしていこう。



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12話 海浜で

やっとHF2章見ることができました
セイバーオルタ聖杯があったからだけどそれでも強すぎでしょ…ってなりました
てかあれ12歳で見ていいものなのか…?


今は休日の朝、といってもまだ日も登ってない時間帯。

 

冷蔵庫のいくつもあるゼリー飲料の中から今日はぶどう味のをとって、ささっと飲み切る。そして、机の上に書き置きを残しておく。

朝から家にいないとかで心配をさせたくないし、トレーニングのことをあらかじめ嘘を交えて伝えておいた。

快諾とはいかないけれど、許してくれた両親には感謝しかない。

 

玄関を出ると、冷たい風に吹かれた。春とはいえ朝のこの時間はとても寒い。

これに加えこれから猛スピードで風を切ることになるのだから、すでに気持ちが右肩下がりになっている。

 

……おっと、このままじゃいけない。前に会ったときと全然雰囲気も喋り方も変わっていて怪しまれるのも面倒だ。

軽く伸びをして気持ちを切り替える。

 

 

(よし!安佐心、十五歳、今日からトレーニング頑張ります!…はあ…)

 

(いつまでそのキャラでいくつもりで?ずっとは主殿には持ちますまい)

 

(うん。まあ…出来るだけ頑張ってみようかな。まだ二回目だし)

 

 

ちゃんと方向を確かめて、黒いマントだけ身につけて玄関から跳ぶ。

風を防ぐものがあるだけでも全然違うし、気配遮断をしているので見つからないとは思うが念のため。

これから何度も行くことになるんだ、最短ルートを見つけていきたい。

 

 

……はあ……眠い……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

着く頃には日はもう登っていた。

 

 

(それにしても、ゴミさえなければかなり良いところだよねここ)

 

(見たところ、こちら側は不法投棄物ばかりですが海側には漂着物もだいぶ流れ着いていますな。おそらく漂着物が溜まっているのを見てバレないだろうと思って捨てたのでしょう)

 

(勿体ないなあ…綺麗なのに)

 

 

そうこうしていると、何か巨大なものが潰れる音がした。音のした方に向かってみると、重機に潰されたかのような形の物体と、何か紙を持って緑谷君に説明しているオールマイトとそれを聞く緑谷君がいた。

 

 

「おはよーございます!今何やってるんですか?」

 

「来たか!安佐少女!」

 

「来ました!」

 

「うわっ、安佐さん!?」

 

「女の子に向かってうわっはないよー緑谷君」

 

「あ…ごめんね…?」

 

「うんよし!で、何してたの?」

 

「緑谷少年のために考案したトレーニングプランさ!ぶっちゃけ超ハードだ!」

 

「どれどれー。んーこれを毎日かー。頑張って緑谷君!」

 

 

朝から夜までほとんど休む暇もない。これを十ヶ月毎日と言うのだから、普通の人なら数日で音を上げてギブアップするだろう。

 

 

「うん…僕は他の人の何倍も頑張らなきゃ…!」

 

「まだ私の出番はあんまりないけれど、もう少ししたら私も混ざるからよろしく!オールマイトさんも、よろしくお願いします!」

 

「ああ!任せてくれたまえ!」

 

 

かなりハードなトレーニングだし、一ヶ月くらいは慣れる期間を用意しないと病院行きになりそうだ。

それからは私も雄英実技試験対策を仕込んでいくから、それまでは筆記試験対策を紙にでもまとめておこうかな。

 

 

「さあ、トレーニング再開だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑谷君の応援をしながらゴミの上を飛び回ったり砂浜をダッシュしたりして悪路での移動をしたり、右腕を使った戦闘も考慮して訓練したりしていた。

 

 

「調子はどうだい、安佐少女?」

 

「はい、あまり右腕は使っていなかったのでなかなか慣れなくて。丈夫なのはいいんですけど左腕と同じように動かそうとすると腕一本分ずれるので」

 

「同じように動かそうとしても上手くはいかないさ!右腕は右腕で別の感覚で扱うことを意識するといい!」

 

「別…ですか。ありがとうございます」

 

(私の場合、相手に右腕を晒すときそれ即ち相手を殺すときでしたから。あまり主殿のお力にはなれませんな。強いて言うならば、その右腕は痛覚が鈍いため、主殿であればいざというときに盾にでも使いそうですが、もし右腕が切り落とされるようなことがあった場合、右腕の制御ができず、右腕は人を喰らい、主殿をも喰らうでしょう)

 

(もしかしてそれって聖都での……?)

 

(おや、そうでしたな。主殿は特異点での出来事を知っていらっしゃる。であればそう、お気をつけくだされ)

 

(わかった。気をつけるね)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一ヶ月後の朝。

今日も海浜公園に着くとオールマイトと緑谷君がトレーニングしていた。あれから一週間は毎日来ていたが、オールマイトがいない日も何日かあった。

それでも緑谷君は怠けることなく訓練を続けていたのは明確な目標があるからだろうか。

 

 

「おはよーございます!オールマイトさん、緑谷君!」

 

「おはよう安佐少女!」

 

「っ……おはよう、安佐さん…」

 

「おおう、今日も頑張ってるね!」

 

 

緑谷君が冷蔵庫を押しながら挨拶をする。昨日は洗濯機だったし、だんだん大きくなっている気がする。

 

今日からは雄英実技試験の訓練を緑谷君にしていこうと思っている。

もちろん今やっているトレーニングをやめて新しいのをするのではなく、ながら訓練だ。

 

緑谷君が原作で実技試験を受けたとき以上の体を作るのはトレーニングに詳しくない私じゃ無理。なら、どうすれば緑谷君が点数を取れるようになるか。

 

 

1.時代は変わった!銃を撃ちまくって点数を稼ぎまくれ!

 

2.敵はロボット!であれば電気で回路をショートさせろ!

 

3.レスキューレスキュー!傷ついた人を救助手当しまくれ!

 

4.八極拳の前ではロボットなどおもちゃ!八極拳で暴れまくれ!

 

5.やっぱりOFAが一番!敵をまとめてぶっ壊せ!

 

 

まず1、ダメに決まってるでしょ!ゴム弾でも骨が折れるんだから!それにそれで合格してもそのあと色々詰みポイントいっぱい!

 

2、改造すればいけるかもしれないけど、ロボットを何十体も壊せる電気をどうやって用意するの?

 

3、入試のあれは立ち向かった勇気も含まれるだろうし、それだけで合格は運要素が高すぎる!

 

4、あと九ヶ月で武術が習得できると思う?無理!

 

5、そもそも入試で初めて使ったんだし、範囲も分からないし慣れない強烈な痛みに何度も耐えることは難しい!ていうか私がそれを強いることはできない!

 

と、そういう感じだった。

でも、原作ではただジャージを着ているだけ。手に何かをつけるというのはしたほうがいいし、そういうのをつけた戦闘に慣れた方がいい。

 

何より問題なのが、恐怖心。

無個性であることや、爆豪君のことも影響しているだろうが、そこを直さない限り、それこそ銃で壊すことくらいしかなくなる。

緑谷君の分析能力があればロボットのどこを殴れば壊せるかはすぐ分かるはず。

 

別に、どんなことにも動じないようにするわけではない。恐怖心は脳が出す警告。それを無視し続ける者は長く生きれない。

でも、恐怖心を感じながらも動きを止めない、考えることを止めない。そういう能力こそが緑谷君に必要な能力。

そういう意味では緑谷君の恐怖心を吹き飛ばしたのは0ポイントを殴り壊したあのときかな?

それがなくなってしまったら次の戦闘はUSJ。そこで誰かが死んでしまうかもしれないし、その前に除籍処分になるかもしれない。

 

私の考えた雄英実技試験突破作戦はつまり……

 

 

 

『ビビらない訓練&装備をつけて訓練』だ!

 

 

 

上手くいくかはわからないけど、現状私の頭ではこれが限界だった。

 

 

(てことで、早速やろうか!)

 

(おや、ついにですな。上手くいくと良いのですが…)

 

(とりあえずやってみる!)

 

 

落ちている壊れた電子レンジを拾って、人一人分くらいの直径があるタイヤを横倒しで押している緑谷君の前五メートル程度に移動する。

 

 

「…?安佐さん、どうしたの?」

 

「緑谷君、動かなくていいから、この電子レンジの中のものを当ててね」

 

「え…?なんでそんな視力検査みたいなこ」

 

 

緑谷君が何か言っているが、気にせず電子レンジを緑谷君の顔の横10cmくらいを通るように投げる。

それと同時に砂浜を踏み切り、緑谷君の後ろまで行って電子レンジを回収する。

 

 

「何か分かった?」

 

「うわああ!?」

 

「安佐少女!急にどうしたんだ!それはかなり危険だ!」

 

「大丈夫でーす!ちゃんと緑谷君の目の前でも回収できるような速さにしてあります!」

 

「そういう問題じゃないぞ!するにしてもちゃんと了承を得てするもんだぜ!」

 

 

オールマイトが止めるが、ここでやめるわけにはいかない。

 

 

「ちょっと試してみただけです。……でも、これで分かりました。今のままじゃ体を鍛えるだけで雄英の実技試験は合格できない」

 

「それはどういうことだい?」

 

「ヒーロー科の実技試験というからには、戦闘は外せない。今年度はどうか分かりませんが、例年通りならロボットを行動不能にしてポイントを稼ぐポイント制……あの程度にビビっていたら1ポイントも取れませんよ?」

 

「そんなことっ…!」

 

「別にこれは緑谷君だけのせいではないと思うけど、入試でそれが考慮されるわけない。合格したいなら避ける必要はないから中に何が入っているかを判断できるくらいには余裕がないとね」

 

「…一つ聞くが、本当に危険性はないんだね?」

 

「はい。少なくとも物理的には絶対ないと約束しますよ」

 

「……よし!緑谷少年!これも必要なことだ!」

 

「えぇ!?」

 

「ビビっている時間はヴィランに付け入る隙を与える。ヒーローになるならこんなことでビビってはいられないぞ!」

 

「た、たしかに…」

 

「緑谷君、絶対に怪我はさせないから安心してね」

 

「全然安心できないぃ!」

 

 

なんとかなったけど、まだまだ序盤。あと九ヶ月でしっかり完遂させないと……。それにこれはトレーニングをしながらでもできるから良いのであって立ち止まってやっていても無駄が多いし。

 

 

「ところで安佐少女!その喋り方が本当の君かい?」

 

「そうですよ。やっぱり演技バレてましたか?」

 

「君に長い演技は無理そうだな!一週間くらいでボロが出ていたぞ!」

 

「え、嘘。そこまでポンコツだったの私…」

 

(まあ、認めることも大事ですな)

 

(そこは否定してほしかったな…)

 

 

何やらとても悔しいのでそのあと投げる速さを1.5倍くらいにした。

緑谷君は叫んだ。




原作7巻まで買いました。アニメと違うところがいくつもあり、ちょっと戸惑っております。


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13話 あなたの

元々なかった話が思い浮かんでしまった…少し長めのが入るかもしれません。

また雄英が遠くなる…


休日は朝から昼、何時もではないけど夜までトレーニングに付き合っていることも。

平日は当然学校もあるので遅れるんだけど、それでも出来るだけ行っている。

 

勉強に関しては雄英の過去問から出そうなところをマークしたり、改題したものをまとめたノートを緑谷君に渡した。

渡したときは顔を赤くしていたけど、問題できてなかったら罰ゲームということを伝えると顔が青くなっていた。

私がいることで集中できなくて筆記を落とした、なんてことにならないように勉強に関してはかなりスパルタでいっている。

 

緑谷君のびびり改善トレーニングの方は、棒立ちには慣れてちゃんと物を見れるようになったのでゴミを運んでいるときに投げる段階まで進めた。

まだ足を止めることが多いけれど適応能力が高く次の段階もそう遠くないかもしれないなあ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

学校からの帰り道。少し前のように三人ではなく、二人で帰っている。

お茶子は学校に残って勉強をして、私はすぐ帰ってトレーニングに向かう。羽織が私についてくるのはいつものことで、当然私の隣にいるのは羽織だ。

羽織は二人でいることが多くなってから積極的になるかと思っていたけど、あまり私の隠し事に踏み込んでこない。

ただただ私のそばにいるから、今日もそうだと思っていた。

 

 

「心さん。心さんは、いつも何をしているんですか?誰と会っているんですか?私じゃダメですか?」

 

「それは…前も言ったけどヴィジランテをしていて…」

 

「嘘ですよね、さすがに分かります。心さんは自分があまり注目されてないのかと思っているのかもしれませんが、サイレンスがいなくなった、もしくは殺されたという噂まであるんですよ?」

 

「まあ、そうなるよね…。ごめんなさい、私は羽織に嘘をついていた」

 

 

実際その噂を私も聞いたし、SNSで少し話題にもなっていた。

 

 

「嘘をついていたことに怒ってるんじゃないんです。…心さん、だれか同じ人と何度も会っていますよね?それも男の人と」

 

「…なんでそう思ったの?」

 

「なんで、だと思います?ああ、鎌をかけたわけじゃありませんよ。その人、雄英目指してるんですよね」

 

 

なんでそのことを知っている?緑谷君の情報は何も残してないはずなのに。

 

 

(いや、一つだけ可能性はありますな。緑谷殿に渡したノートを家に置いていたでしょう)

 

(待って!あのノートは渡すとき以外私の部屋から出してないし、ちゃんと引き出しの中に鍵をかけてしまっていたはず!)

 

「分かっているんでしょう?それともまだ隠せるとでも?」

 

「私は信じたくないなぁ。だってそれは羽織が無断で私の部屋に入ったってことでしょう?」

 

「無断ではありませんよ?心さんのご両親に話をしたら快く入れてくれましたから」

 

「そっか。…遠出をしたときに女の子を救けて、そこからいろいろあって勉強を教えることにしたんだ」

 

「ふーん…。そうですか」

 

「なんで男の子と勘違いしたのかは分からないけど、ごめんね隠してて」

 

「…そうですか、よかったです。もし男の人と会っていたら、私、自分を抑えられなくなってたかもしれませんから。

でも、それならもう少し控えたらどうでしょうか。あまりつきっきりだとよくありませんよ?」

 

「それもそうだね。なら今日は私の家に来る?」

 

「はい!初めてです、心さんの家…」

 

「すでに侵入済みでしょうが。じゃ、行こうか」

 

 

どうやらなんとかなったようだ。それに羽織を放置しすぎていたかもしれないし、たまにはこうやって話すことも大事だね。

 

 

(でも、詳しくはバレてなくてよかったね。緑谷君のことまでバレてたら危なかったよ)

 

(…さて、どうでしょうな。まあ心配はせずともよろしいかと)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(……嘘つき……)

 

 

だれにも聞こえないように、心の中だけで。

心さんは自分が嘘をついているのがバレバレなことに気づいていないんだろうな。

でも、まだ届かない。どれだけ問い詰めたって、私と心さんとの距離が開くだけ。

でも恋愛感情がないのなら、まだいい。それよりも、絶対に心さんを雄英に行かせてはいけない。

それを許してしまったら、もう一生私の手は届かない。もう一生私のものにならない。

 

どうして、どうして私よりも他のやつが心さんに目を向けられるの?

どうして近くにいる私よりも心さんを傷つけたあの女を見るの?

 

こんなに好きなのに。わたしにはあなたしかいないのに。

 

 

 

 

 

どうか、わたしの手の届くところにいて。

 

これ以上遠くに行ってしまったら、わたしはまた一人になってしまうの。

 

 

 

 

「心さん、手、繋いでもいいですか?」

 

「ん?いいよ。ほら、手出して?」

 

 

暖かい。もっと近くで感じたい。

 

 

「ちょっと、腕に抱きつかれても…そろそろ家だよ?」

 

「もう少しだけ、お願いします…」

 

「まあ、いいけどさ…」

 

 

今だけはあなたはわたしだけを見てくれる。あなただけが、その瞳で。

あなたはわたしよりも強くて優しくて、かっこよくて可愛くて。

きっとわたしとは全然釣り合わないけれど。

 

 

「今日だけは、甘えてもいいですか?」

 

「羽織ってけっこう甘えん坊さんなんだね。いいよ、寂しいならいつでも」

 

 

そんなこと言われたら、胸の中で暴れているこの想いが溢れ出してしまいそうで。

 

 

「大丈夫です。…明日には、わたしはいつも通りの私ですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰り道気をつけてね?ちゃんと寄り道しないで帰るんだよ?」

 

「はい。ふふっ、そこまで子供じゃないですよ?」

 

「それでも、だよ。何かあったらいつでも電話してね」

 

 

優しい、その瞳にいつまでも見つめられたい。

でも、もうだめ。

これ以上は、止められないから。

 

 

「それじゃあ、バイバイ。また明日!」

 

「さようなら。また明日、待ってますから」

 

 

これでいい。これでいいの。これで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「…あ、お、おかえりなさい…。料理、できてるから」

 

「いらない。食べてきたから」

 

 

ああ、私の嫌いな目だ。

怯える目。私の個性を恐れる目。あの男に虐待されていた私を見る目。自分が暴力されないと分かって安心する目。

 

私は母が嫌いだ。

私が五歳の頃、あの男が仕事をリストラされたときから私は虐待を受けていた。

それを止めようとした母があの男に暴行を受けてから、母の目つきが変わった。

私を救けようとする目から、私が虐待を受けていることに安心している目に。

一年後、あの男が就職してからも上手くいかないことがあると必ず殴られて、蹴られて、刺された。

顔が腫れて学校に行けないときも、手加減なんてしようともしていなかった。

いつだって母はあの男の言いなりで、誰も救けてくれなくて、だから。

 

 

そして、心さんと会った。

誰も救けてくれないのなら、と誰かを同じ目に合わせようとしていた私の目の前に。

 

仮面から見えるその目は初めて見る目で、それが分からなくて怖くて。

でも、その人は私をできるだけ傷つけないようにしていて、この人なら私を見てくれるんじゃないかって。

 

ヒーローに捕まって、少年院に入れられたあともその目をしている人はいなくて。

だから探して探して、見つけたその人の目を見て。

 

 

 

ああ、この人さえいればいい。誰にどんな目で見られたって、なにも気にならない。

もっと近くにいたい。その目で私を、私だけを見てほしいなんて。

 

私じゃあなたと釣り合わないことは分かっている。

 

それでも、負けたくない。

お茶子さんにも、私の知らない誰かにも、あなたの両親にも、これから先に会う誰よりもあなたを愛してるから。

 

 

 

心さん、どうすればわたしを愛してくれますか?

 

どうすれば私だけを見てくれますか?

 

どうすればあなたの隣にいられますか?

 

どうすればあなたの近くに……



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14話 接触、そして

今日もいつものように、放課後羽織と一緒に帰ってトレーニングに向かっている途中。

いつも通っているルートでヴィランが暴れていたのでビルの屋根で観察していると、その騒動に紛れて一人の男が走って逃げているのが見えた。

 

ヒーローが到着したのでなんとなくその男を追っているが、何やら見覚えがある。だけれど、何かは思い出せない。

二十代後半から三十代前半くらいのどこにでもいそうな男。

その男は路地裏に逃げ込んだが、そこにはチンピラらしき人が一人いて、当然男とチンピラは揉め始めた。

 

 

(どこかで見たことがあるんだけど…うーん)

 

(おそらく今朝ニュースでやっていた事件の犯人でしょう)

 

(ああ!そうそう、たしか連続殺人事件の…ってそしたらあのチンピラ危ないじゃん!)

 

 

そう考えていると、怒鳴っていたチンピラが急に気を失ったかのように倒れ込んだ。

しまった、と思いながらダークを男の前に投げる。

 

あのとき以来ヴィラン等に関わったことはなかったけど、今回はかなり急を要する事態だから干渉するしかない。

別に堂々と姿を見せなくてもいい。ただ、自分がいるということを分からせれればそれで。

 

 

「なっ!?誰かいるのかい!?」

 

 

当然答えない。しかし、まだ危害を加えようとするなら少し面倒なことになる。念のために仮面もつけておく。

 

 

「もし君がヴィランじゃないのなら話を聞いてほしい!僕は誰も殺してない!私は誰かに罪をなすりつけられたんだ!」

 

 

この男は何を言っている?実際にチンピラとはいえ個性を使って危害を加えている。ただ眠っているだけだが無防備なチンピラを殺すことなどこの男には容易いだろう。

 

 

「……犯人の目星はついているんだ…。でも僕にはそいつを捕まえれる力がないんだよ、お願いだ!君はチンピラを救けようとしたんだろう!?」

 

(……どうしようか?)

 

(今の状況ではなんとも。雰囲気はそれらしいですがそれも相手の油断を誘うためにも見えなくはない。個性の発動条件もわからない以上姿を見せるのは悪手でしょうな)

 

 

たしかに、あの男の個性で寝てしまったら私も殺される可能性が高い。こういうときに喋れないのは不便だな…。

一歩踏み出した男の首の横にまたダークを投げつける。

 

 

「ひっ…いるならいると言ってくれないか…?

それで、もし手を貸してくれるのなら、私についてきてくれないか?ここだと直にヒーローが来てしまう」

 

 

ヒーローが来るまで足止めすることもできるだろうが、しかしこの場で相対するのも危険だ。それに、どうも私はこの人が嘘をついているようには見えなかった。

 

 

「私は君を信じるよ…!」

 

(危険ですが、行くつもりで?)

 

(うん…。もし本当に冤罪ならまだ事件は終わらないし、嘘だとしてもこの男を見張って誰も殺させないようにすればいいから)

 

 

二本のダークをしっかり回収して、路地裏から人気の少ない道に走っていく男の後ろ姿を見る。

やっぱり私にはあの男が人を殺すようには見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

男を追って、ボロい空き家の地下のそのまた地下の隠し扉を開けて中に入る。

そこには工具やら武器のようなものが置いていて、ヒーローがつけてそうな装備も置いてあった。

部屋の奥で男が椅子に座って息を整えている。

 

 

「いるか?いるなら何か反応してくれるとありがたいんだけど」

 

 

今は工具の置いてある机に隠れているので適当にレンチを取って男の方に投げる。

 

 

「良かった…。じゃあ自己紹介…といっても僕だけか。

僕は眠田(ねむた) 祐介(ゆうすけ)。歳は三十二歳だよ。

個性は目を合わせた人の眠気を誘うことができる。だけど相手が全然眠くないときとかは一分ほど目を合わせ続けないといけない。あのチンピラは運良く目を合わせ続けてくれたからなんとかなったけれど君に効くことはないだろうさ」

 

 

名前も連続殺人事件の容疑者と一致しているはずだ。それにチンピラとこの眠田が会ってから一分半は経過していたので個性のことは嘘をついてないかもしれない。

眠田は写真を取り出し、私のいる机の方に投げてきた。

写真はひらひらと私の方に落ちてきて、キャッチしたそれを見ると二十歳より少し下くらいの青年が眠田とツーショットで写真を撮っていた。

 

 

(は?…え、なにこれどういうこと?)

 

(眠田とやらの顔は形こそ笑顔ですが、顔を無理やり笑顔にさせられているように見えますな)

 

(もう一人の方は普通に笑顔だし、何だろうこの写真?)

 

「一から全て話す。少し長くなるが、聞いてくれるとありがたい」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

いつものように十二歳の娘とつい先ほど仕事から帰ってきた妻とともに僕が作った料理を食べていると、珍しくインターホンが鳴った。

 

 

「こんな時間に誰かしら…?」

 

「帰ってきたばかりで疲れてるだろうし、僕が出るよ」

 

 

今までこんな時間に誰か来たことはなかったけど、近所の人かもしれないしそこまで気にしてはいなかった。

 

インターホンを鳴らした人がだれか外付のカメラで見てみると、大人とまではいかない十八、九歳くらいの青年が平然と立っていた。

とりあえずインターホンを通して会話をする。

 

 

「何か用ですか?」

 

『あの、近くに帽子が落ちていて、見たら住所が書いてあったので届けに来ました』

 

「そうなんですか、ちなみにどんな帽子か見せてくれませんか?」

 

 

うちでは妻が物を忘れることが多く、大事なものには住所を書いているのでそれかもしれないな、と思っていた。

 

 

『これなんですが、見えますか?』

 

「それは僕の妻のものですね。すみませんこんな時間に、ありがとうございます」

 

「いえ、帰り道だったので」

 

 

青年が手に持っていたのは妻が長く使っている帽子で、帽子の中では一番のお気に入りだったはずだ。疑っていたことを反省し、適当にお菓子を取って玄関のドアを開ける。

 

 

「こんばんは、どうぞこれを」

 

「こんばんは。どうもありがとう、君は近くに住んでいるのかな?」

 

 

青年から帽子を受け取る。そのまま帰すのも悪いのでお菓子くらい渡しておいた方がいいだろう。

 

 

「いえ、友達の家に行っていたんです。今はその帰りで」

 

「そうなんだ。それなら長く止めるのも悪いね。良かったらこのポテチ貰ってくかい?」

 

「それならありがたくいただきます」

 

 

そのとき、青年は両手で僕の手を掴んできたんだ。

 

 

「あ、すみません。間違えちゃいました」

 

 

そのときから青年の雰囲気が少し変わった気がした。でもそのときは気にしていなかったんだ。

 

 

「では、ありがとうございました。良い夜を」

 

「…?ああこちらこそありがとう。帰り、気をつけてね」

 

 

青年は軽く笑みを浮かべて去っていった。不思議に思いながらもドアを閉じて、リビングの家族のところへ戻った。

戻る頃には二人とも食べ終えていて、娘が妻の皿洗いを手伝っていた。

 

 

「優しい人が帽子を拾ってくれたみたいだよ?近くに落ちてたって」

 

「え?その帽子、そこに置いてあったはずだけど?」

 

 

棚を見ると、今僕が持っているのと同じ帽子が置いてあった。

 

不思議に思う前に、僕はもう自分の意思で体が動かせなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

自分の意思で動けない。まるでなにか強い力に無理やり動かされてるかのように、足が妻のいる台所の方へ向かう。

 

 

(おい…!待て、なにをする気なんだよ!)

 

 

顔が勝手に笑顔を浮かべる。

やめろ、僕の体を勝手に使うな!

 

あと一歩のところに妻がいる。勝手に動く自分の手には包丁。

 

 

(待ってくれ、頼む、お願いだ…。俺なら殺してくれてもいいから、どうか家族だけは)

 

 

止まらない。僕に背を向ける彼女の方へ包丁の切っ先が向く。娘は僕を見て頭を傾げている。

 

 

(くそ、止まれよ!どうして止まらないんだよ!!)

 

 

お願いだ。僕ならどうしてくれてもいい。だから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

娘が妻に必死に呼びかけている。だけど妻は、なにも答えない。

赤く染まった自分の手が僕にその事実を突きつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足が勝手に外へ向かっていく。後ろで娘の泣き叫ぶ声が聞こえる。

 

玄関を出ると、あのときの青年と、紺色の外套を着た巨漢が一人。

青年はあのときのポテトチップスを食べながら、ニンマリとした顔で話しかけてくる。

 

 

「やあ。どうだい、自分の奥さんを殺した気分は?」

 

 

頭に血がのぼる。今すぐにでもこの青年を殺したかった。

でも、体はピクリともせず棒立ちをするだけ。

青年も目を合わせようともせず、話を続ける。

 

 

「娘さんも殺したかったかな?でも、ごめんね。君に罪を被ってもらうためには彼女に生きてもらう必要があるんだ」

 

(…ふざけるな…!殺す、殺してやる…!絶対に許さない…!)

 

「おい、こいつとぼくを少し遠くの路地裏辺りまで連れて行け」

 

「……」

 

 

巨漢は何も言わず、頷いた。そして動けない僕と殺したくてやまないこの男を脇に抱え、跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこかの路地裏まで連れてかれて、転がされる。

 

 

「おい、お前乱暴すぎだろ。ぼくが主人なの分かってる?」

 

「…す…まな…い…」

 

「はあ…。オールフォーワンからの贈り物っていうからにはもっと良いのだと思ってたけど、出来が悪すぎだろこいつ」

 

 

腕が動く。殺す。

 

 

「はい残念。時間切れとでも思った?」

 

 

足が動かず、前に崩れ落ちる。這っていって、殺す。

 

 

「ああ、めんどくさいなぁ。どうせぼくには勝てないんだから、手間取らせないでよ」

 

 

腕も動かない。殺す。

 

 

「いい顔!でも、笑顔の方が好きだよ。ぼく、気に入った人とは写真一緒に撮ってるんだ!だからはい、チーズ!」

 

 

ポラロイドカメラで青年と一緒に写真を撮られる。

少しして、写真を見せられる。

なんて歪な顔だ。笑えもしない。

 

 

「この写真は君にあげる。君は今から連続殺人犯として、ヒーローや警察から逃げる生活になるけど、仕方ないよね?

…じゃあね。少ししたら動けるようになるから。ああ、写真を警察に見せてもいいけど、君の無罪を証明することにはならないと思うよ。だってこれはぼくの趣味だから、道行く人ともいっぱい撮ってるし」

 

「待てよ…!ふざけるなよ…!このままで済むと思うな!絶対にお前を殺す!」

 

「うん、待ってるよ!ぼくの名前はそうだなぁ、何がいいと思う?」

 

「お前だけは…お前だけは許さない!」

 

「ははっ、次会うときまでにどんな名前がいいか考えておいてね!」

 

「絶対に見つけ出して殺してやるよ…!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「案の定そのあと僕は連続殺人事件の犯人として指名手配された。刺し方や状況が他の事件と酷似しているとして、全て僕のせいってわけさ。そしてあの男を探しながら手を貸してくれる人を探し続けて探し続けて、君が来てくれた」

 

「そんな……。じゃあ奥さんは…」

 

 

辛そうに話す眠田さんを見て、法螺話だと思えるわけがなかった。

それに、オールフォーワン。

現状死んだと思われているオールフォーワンを法螺話に使うなんてするわけがない。

 

 

「そういえば、オールフォーワンって人、知ってるかい。僕はあのとき初めて聞いたんだけどね。ネットの噂話では、超常黎明期に日本を支配してた人だとか。大方、その名前を使っているだろうけど」

 

 

巨漢、そして喋れない。まるで脳無のプロトタイプのようで、オールフォーワンが偽物とは思えなかった。

 

 

「あの男は待っていられるようなやつじゃない。僕が捕まらないことに腹を立てて殺しにくるか、他の誰かを殺すか。どちらにせよ、狙うとしたらそこだ」

 

 

でも、どうしても聞きたいことがあった。だから、仮面をつけたまま、眠田さんの前に現れる。

 

 

「君は…あの短刀を見たときはもしやと思ったが、ヴィジランテのサイレンスか…!一部の地域でしか活動していなかったから君の助けは諦めていたけど、こんなところまで来ているとは!

そうか、それで話せなかったのか。少し不安だったんだよ」

 

安心したかのように話す眠田さんに、聞かなきゃいけないことがある。

 

 

「あなたは…眠田さんは、その男を捕まえたら殺すんですか…?」

 

(主殿、何故このようなことを?)

 

(どうしても聞きたくなったんだよ)

 

「君は…女の子だったんだね。意外だったかな。

……そうだね…殺したくなるだろう。何度も殴るだろうね。でも、僕は娘をこのまま放っておいてはいけないんだよ」

 

「でも、娘さんはあなたのことを」

 

「大好きなお母さんを殺した憎いやつ、とか思ってるのかな。でも、もしあの男を捕まえたら僕の無罪も証明される。だから、娘だけでも救い出さなきゃいけないんだよ」

 

「どうしてですか?奥さんを殺されたのに、憎くないんですか?」

 

「さっきは殺すなと言ったり、今度は憎くないって、まあ、分かるよ。

僕は妻のことを忘れることはないし、一生あの男を恨み続ける。でも、殺したら娘の目に映る僕の姿は一生変わらなくなる。人殺しの僕が娘に一生しがみつくことになる。だからそれだけはいけないんだよ。

……それに、あの男を殺したら僕の無罪を証明することも難しくなるだろうし、ね」

 

「そうですか…すみません」

 

「いいんだよ。今僕が指名手配中なことは変わらないんだし」

 

(それで、どうするおつもりで?このまま手を貸した場合、嫌でもオールフォーワンに目をつけられるでしょうな)

 

(うん。それは避けたかったことだけど、でもこの人を放っておくわけにはいかないよ)

 

(また彼女を心配させることになりますが?それに答えもまだ出ていないでしょう?)

 

(今眠田さんを救けられるのは私だけなんだ。今はヒーローもヴィランも、全員が敵になるんだよ。

だから、これで私は答えを出す。だから、今回だけは、お願い)

 

(……私から言うことはありません。やるなら全力でいきましょうか)

 

(うん…。怪我をしないで眠田さんの無罪を証明してヴィランを倒して答えを出す。全て完璧にこなして、勝とう!)

 

「眠田さん」

 

「なんだい?」

 

「私、全力でいきますから、勝ちましょう!」

 

「ふふっ、そうだね。僕も全力で勝ちにいくよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう?ちゃんと声、変わってる?」

 

「うん、三十代の男性の声になっているからその口調はやめておいた方がいいけど」

 

 

 

「こちらサイレンス、聞こえるか?」

 

「おっけー、聞こえてるよ。傍受される危険もないからね。これ、壊さないでね?」

 

 

 

「これは触れている相手に電撃を流して気絶させるブーツだよ」

 

「なんでこんなものまで…?」

 

「僕、こういうの好きで、ライセンスは持ってるからたまに作って会社に持ってってたんだ。ああ、僕はヒーロー用のサポートアイテムとかも作ってたんだよ。まあここに作業場を置いてからはちょっとアウトなのも作ってたんけど」

 

「いや、アウトでしょ…」

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、眠田さん。私が犯人見つけ出すまで、捕まらないでくださいね」

 

「君に頼りっきりになるのは悔しいけど、君を頼るしかないんだ。危険な状況になったらいつ退いてくれても構わないし、逃げてくれてもいい」

 

「大丈夫です、隠れている私を見つけれる人なんていませんから」

 

「頼もしくて何より。じゃあ、また」

 

「次会うのは勝った後ですよ。では」

 

 

ああ、なんて頼もしいんだろうか。おそらく娘とあまり歳の変わらないだろうあの子はすでにヒーローとして大事なものを持っている。

 

もし、僕が捕まって、あの子も関与していることが知られたら、あの子の未来を閉ざしてしまうことになる。

だから、どうか彼女の正体が誰にも知られませんように。

どうか彼女に怪我がないように。

 

 

「全て終わったら、娘の友達になってもらおうかな、なんて」



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15話 脳無と男

虹演出で星5確定かと思ったら美遊でした
美遊も好きだけど!でも!イリヤの方が好きなんです!


夜の街を駆ける。

例の犯人の行動、行く先々の人と写真を撮っているのはおそらく事実。

であれば聞き込みをした方がいいに決まっているので、昼は私服で聞き込み、夜はマントと仮面+新装備で捜索&ちょっと危険な聞き込みをしていた。

 

あれからもう二日経った。今日は日曜日で、明日は月曜日。当然学校があるが、だからといっていつ眠田さんが見つかってもおかしくないから呑気に授業を受けている場合じゃない。今日で終わらなかったら親を説得する必要がありそうだな。

 

事件に関するニュースを逐一確認しているが、あまり進展はないようだ。しかし、ニュースでは放送していないだけで実際には捜査は進んでいるに違いない。

 

 

(…!あれは、普通のヴィランか…)

 

(あの通りならヒーローもすぐ来るでしょうし、探すのを優先した方がよろしいかと)

 

(了解っと)

 

 

この街は眠田さんと会った街の隣街の三つ目。あの街を中心に捜索範囲を広げているけど、全然手がかりがない。

 

屋根を伝って路地裏から大きい通りまで隙間なく探していく。

途中、チンピラなどから情報を持っていないかと聞き出しているが、なにも得られない。

 

今日はもうこの街にいても仕方ない、かな。

それに時間も時間だ。一度帰らないと両親を心配させてしまう。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、最近忙しそうだけど、トレーニングばっかりしてても効果薄いわよ」

 

「…あ、ごめん。なんて言ったの?」

 

「はあ…。休日も出突っ張りだったんだから明日はトレーニング休みなさい!体壊しちゃ元も子もないんだよ?」

 

「あ…。それなんだけどさ……明日学校休んでもいい?」

 

「なに、風邪でも引いたの?」

 

「いや、そうじゃなくて。頼みごとされちゃってさ」

 

「それは学校休む理由にはならないわよ…。心ちゃんがそこまでやる気を出しているんだから邪魔はしたくないけど、何をしているか具体的なことを教えてくれないと私も安心できないわ」

 

「今やらなきゃ絶対後悔する、だからお願い。……終わったら、話すから」

 

「……はあ。学校休む理由は体調不良ってことにしとくわよ」

 

「ありがとう、お母さん」

 

「そのかわり、後悔しないようにしなさい」

 

「うん!今から行ってくるね。明後日の朝には帰ってくるから」

 

「はいはい、怪我だけしないようにね」

 

「じゃあ、行ってきます!」

 

「いってらっしゃい」

 

 

そう言って、出て行く娘を見送る。最近はまじめに?トレーニングをしてたと思ったら、また危険なことを始め出した娘には呆れ半分心配半分といった感じで。

 

 

「行かせてよかったのかい?今回のはまた危険そうな感じがしたけれど」

 

「最近のニュースからして、あの連続殺人事件でも追ってるのかしら?」

 

「そ、それって今までとは比べ物にならないじゃないか!?」

 

「今更、よ。まあ、心ちゃんならなんとかしちゃいそうよ?あ、そうそう、どうやら私たちの娘は男の声も出せるみたいね」

 

 

そう言って夫に新聞を渡す。サイレンスは地元では有名で、少し遠くの県でサイレンスが目撃されたことが書かれている。

 

 

「なになに、『サイレンスが声を発した!?サイレンスは三十代ほどの男性か!?』…ええ!?心はこんなこともできたのか!?」

 

「いや、違うでしょ。でも、市販の変声機だと解析されて本当の声が割り出されるし、市販のものではないと思う。そして、装備も新調しているらしいから、誰かのバックアップを受けている。さらに指名手配中の男はヒーローのサポートアイテムとかを作っていた」

 

「ははっ、まさかそんなこと」

 

「なくはないわ。あんなに急いでいるのもいつそいつが捕まるか分からないから、と考えられるし、今まで犯人が全く分からなかった事件なのに奥さんは堂々と娘の前で殺す、なんて少しおかしいもの」

 

「しかし、それだけでここまで熱心になるかな?」

 

「さあ、ね。それにしても、心ちゃん、まだ気づかれてないと思っているみたい」

 

「うーん…やっぱり心はどこか抜けているから、犯人に騙されているかもしれないよ」

 

「大丈夫よ、だってそういう悪意には敏感な子だから」

 

「…なあ、もうこれ以上知らないふりをするのはやめないか?」

 

「心ちゃんも、終わったら何かいうつもりだそうよ」

 

「丁度いいだろう。言わなかったら僕たちから切り出せばいいし、ね」

 

「そうね。でももう少し気づくのが早かったら、変わってたかしら」

 

「サイレンスが最初に目撃されたのが心が十歳のときだから、もうすぐ五年になるのか」

 

「そうね、五年経っても私たちの距離は離れたままだったわね」

 

「心のやりたいことはやらせてあげようと思っていたけど、まさかヴィジランテをやってるなんて思いもしていなかったなぁ」

 

「今更親らしく、なんて言えないけど、今を逃したらもう一生このままかもしれないわ」

 

 

小さい頃から私たちのいうことはよく聞いていて、勉強も一人でできちゃって、とにかく手がかからない子だったけど。

ずっと何かを隠していて、いつのまにかヴィジランテなんかやってて。おまけに救けた女の子にバレちゃうなんて、ね。

食事を一緒に取ることも避けられて、いつのまにか私たちは親子といえないほど疎遠な仲になっていた。

 

それでもあの子は私たちのことを大切に思っている。あの子なりに私たちに歩み寄ろうとしている。

 

だからこそ、私たちの方から抱きしめてあげなきゃ今度こそどこかへ行ってしまう気がした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夜が明けた。

日の出の光に照らされて、思わず目を閉じてしまう。

 

 

(どうしよう、もう時間がないのに全然手がかりがない)

 

(しかし、焦ったところで手がかりが見つかるわけでもありますまい)

 

(そうだけど…)

 

『おはよう、そっちはどうだい?』

 

 

耳元の無線イヤホン型の通信機から眠田さんの声が聞こえてきた。

 

 

「潜伏している場所は大まかに。そちらはどうですか?」

 

『ああ、まだ捕まってはいないけど、もう長くはないね。家の周囲にまで警察が来ていた。僕の予想では今日の夜までにはヒーローが突入してくるだろう』

 

「そうですか…。必ずそれまでにあいつを捕まえますので安心してください」

 

『…ああ、そうだね』

 

 

通信が切れる。

気持ちを切り替えて、外していた仮面をつける。

 

 

「……よし、行きますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平日の八時、当然通勤途中の人や学生ばかりなので聞き込みをしようにもできない。

仕方なく街を歩いていると、前を歩いている学生達の会話が聞こえてくる。

 

 

「なあ、まだあの連続殺人事件の犯人のアジト発見されたらしいぜ。それで、昼頃に突入するって」

 

「マジで?五日かかってやっとって最近あまりそういうのなかったよな」

 

「まあヒーロー飽和社会とか呼ばれてるし」

 

「うちの母親、学校終わったら危険だから早く帰ってこいってうるさくてさー、やっと解放されるな」

 

「それ俺も!帰る頃までに捕まってたらどっか寄ろうぜ」

 

「いいなそれ!」

 

 

急いでニュースを確認したけどそんなことはどこにも書かれていない。

でもSNSで警察の知り合いから聞いたという噂が出回っていて、どうにも判断できない。

 

でも眠田さんからの話から察するに信用度はかなり高い。

そう思って誰にも聞かれないように移動しながら通信を繋ぐ。

 

 

「SNS上で今日の昼に突入して確保するって噂が流れてます。信憑性は高くありませんが現状から考えて可能性は十分あります」

 

『…こちらでも確認できた。まあ、分かったところでどうしようもないんだけどね。もし僕が捕まったらあいつはまた誰かを殺し始めるだろう。そうなったときは、君が止めてくれないか?…お願いだ、サイレンス』

 

「…そうなったら娘さんはどうするんですか?」

 

『大丈夫、あの子は強い子だから。だから万が一にでもあいつがあの子に関わらないようにね』

 

 

だめだ、このままむやみに探したところで見つかる望みは薄い。でも、どうしたらいい?現状を打破するにはどうしたら…。

 

 

(ねえ、なにか方法ないかな…?)

 

(ふむ。こちらから探すのは難しいでしょうな)

 

(だよね…。…ん?こちらからは無理ならあっちから来て貰えば…?)

 

(あちらから?もしかして…)

 

(あの男がそういう性格なら絶対に顔を見せにくるはず!)

 

「……もし、もしこの噂、あの男が流したものだとしたら?」

 

『まあ、なくはないだろうね』

 

「あの男は愉快犯です、もし眠田さんのいる場所が分かっているなら、ヒーローに捕まるあなたを絶対見にくるはずです。だから、どうにかしてヒーローが突入してくる前にあの男を捕まえれたら…」

 

 

あの男が言ってたことからして最後に顔を見せにくる可能性は高い。オールフォーワンからなら警察の情報も手に入れられるだろうし、それを狙うほかない。

 

 

『それは難しいね。ここにある全てを使っても時間稼ぎには殆どならないよ』

 

 

…ここまで大事になったのなら、有名なヒーローが来てもおかしくない。でも、どんなヒーローでも民間人には攻撃できない。

 

 

「野次馬を呼びましょう。とにかくSNSでも掲示板でもなんでも使ってどうにかできませんか?」

 

『…分かったよ。それしかないのなら、頑張ってみるよ。僕も手が離せなくなるし、見つからなかったら君も関与が疑われる。だから、ここで通信は終わりにしよう』

 

「はい。…また、会いましょう」

 

『……』

 

 

通信を切り、もう使わない通信機は捨てる。

ここからはもう聞き込みはいらない、あとはあいつを全力で叩き潰すだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…いた。間違えない?)

 

(ええ、あの男で間違い無いでしょうな)

 

 

野次馬がぎりぎり見えるところにある路地裏に男と巨漢が潜んでいた。

野次馬が集まったせいで警察も対応せざるを得ず、空き家の周囲は騒がしい。

あの様子だとだれかが入ってしまったらしい。

 

 

「ははっ、誰だか知らないけど面倒だね。このままだと最後に顔を見せれないかもしれないなぁ」

 

「ちら…す…か…?」

 

「いや、いい。これはこれで面白いし」

 

 

速攻で決めてもいいけど、それだとだめだ。あれを使えなければ、無罪にできない。

マントに仮面、ブーツに変声機、そしてあれが起動しているのを確認して声をかける。

 

 

「なあ、少し話をしないか?」

 

「ああ、もうかくれんぼは終わってるよ、鬼さん」

 

「まだ終わってないさ。ここで捕まえればいいだけだ」

 

「うーん…もしかして、ぼくに勝てると思ってるのかな?もしそうなら残念、とだけ言わせてもらうよ。

ぼくらはそんじょそこらのヴィランとは格が違う。バレるような殺ししかできない奴らとは出来が違うのさ」

 

「一つだけ聞かせろ、どうして眠田さんの家族を狙った?」

 

「逆にどうして分からないのかな。…幸せな家庭ほど壊したくなるものはないと思うんだけど。

あの男ならそういうことできそうな個性だったし、犯人に仕立て上げるのは簡単だったよ。ぼくの個性ならね」

 

「そうか、逃げられると思うなよ」

 

「いいね、やってみなよ。こいつは…えっと、たしか脳無とか言ってたかな…。まあお前程度じゃ傷一つつけられないやつだよ」

 

「そいつはどうかな。案外あっさり勝っちゃうかもな」

 

「脳無、こいつを殺しちゃえ!」

 

「…ああ」

 

 

巨漢改め脳無がこちらに向かってくる。さっき脳無と言っていたが、おそらくこいつは脳無の試作品、もしくはプロトタイプだろう。

脳無はオールフォーワンとドクターによって作られた個性を複数持っている改造人間のことで、USJ編で初めて登場したはず。

思考能力にリソースが割かれたタイプかそれとも適合したのか。

分からないけど、真正面から戦うほど馬鹿ではない。

 

歩きから走りに移行した巨漢から逃げるように壁を登る。

しかし、下から地面が割れる音がした。

 

 

「甘いよ!その程度の速さじゃ逃げることもできない!」

 

 

さらに加速してビルの屋上まで駆け上がり、滑り込む。すぐ後ろから壁が削られる音がした。

 

 

(こんなのとまともには戦いたくないよね)

 

(力押しは一番相性が悪い型ですからな)

 

 

気配遮断をして、跳んだ勢いでまだ浮いている巨漢を無視して男の方へ飛び降りる。

脳無の方を見ている男の後ろに着地し、ブーツのスイッチを入れて蹴りを叩き込む。男は前の方向に顔からダイブしていた。

 

 

「ぐはっ!?なんで後ろに…しかも電気なんか流しやがって…!」

 

「触られるとアウトな個性なら動けなくするのが一番だろう?」

 

 

すぐさま脳無が男の盾となるように飛び込んでくる。すぐさま退いて避けるが、脳無はおそらく男から離れようとしないだろう。一撃で決められなかったのは痛い。

 

 

(スイッチ入れるの遅すぎたかな…?)

 

(入れてから五秒はかかると言っていましたぞ)

 

(五秒も待たなきゃいけないのかぁ…。せめてつけっぱなしでいられればよかったんだけど)

 

 

このブーツ、スイッチつけっぱなしで歩くといちいち電気が放電されるし、その度に足も少し感電するので歩けたもんじゃない。

衝撃が強いほど電撃も大きくなるのであの高さからの着地では当然動けなくなっていただろう。

 

ダークを三本脳無の顔に投げつける。

脳無が顔を右手で覆った隙に左横をすり抜けようとするが、体を左にずらしてくる。跳んで壁を蹴って脳無の右後ろに着地し、こちらへ伸ばしてくる手を避ける。

 

再度距離をとって脳無を見ると左頬にダークが刺さっているが特に気にした様子もなく抜き取って再生させていた。

 

 

(あの速さについていけてる…の?)

 

(体の方は無理やり動かしているのでしょうな。足や腕の筋肉が何度も切れていますがその度に再生させているのでしょう)

 

(じゃあ、個性は超反応と超再生ってこと?)

 

(最低でもその二つは持っていることは確定でしょう)

 

 

それに能無の身体能力が加わると私との相性は最悪となる。

唯一可能性があるとすればこのブーツだが、失敗したときのリスクが高い。

牽制のためにダークをいくつか投げつつ、男を挑発して証拠を引き出す。

 

 

「どうした?脳無とやらに頼りっきりで足手まといになってるだけじゃないか」

 

「ぼくはお前みたいなやつらじゃなくて…!絶望の淵にいるやつらを見ようともせずまるで世界は幸せに満ち溢れているような顔をするやつらを殺すためにやってんだよ…!」

 

「お前のそれはただの八つ当たりだろう」

 

「ああくそ、うるせぇな…。ぼくはそういうのじゃなくて…はあ。

おい能無、足場を崩せ。足場を崩してもお前は影響を受けないだろ」

 

「…あ…ああ!」

 

(…!主殿早く上に!)

 

(あ、うん!)

 

 

とにかく上へ跳び、屋上にいく。その間、下から地面が割れる音が何度も響いていた。

それはさっきの比ではなく、屋上から下を見ると元の路地裏ではなくなっていた。

地面は剥がれ、壁も平らなところが残されていない。

壊し終えた脳無が瓦礫をぶん投げてくるのを避けながら考える。

 

 

(降りたら死にますなこれは)

 

(うん、着地できてもそのあとの追撃を避けきれる気がしない)

 

(しかし、こちらの作戦勝ちですな)

 

(うん。見事にハマってくれたよ)

 

 

そのとき、路地裏が炎で焼き尽くされる。そして、大きな通りの方から一人の男が入ってきた。

 

 

「くだらん。こんな粗末な捜査で犯人を決めつける警察も、お前らヴィランも、な」

 

「エン、デヴァー…!?どうしてここにお前がいる!?」

 

 

路地裏に来たのはNo.2ヒーローエンデヴァー。その炎を脳無を盾にすることで防いだ男が叫ぶ。

 

 

「お前らとそこのヴィジランテの戦いがネットで配信されていたのでな」

 

「なんで……お前かサイレンスゥ!!」

 

「御名答!お前と会ったときから今までずっと撮らせてもらったよ!」

 

「そういうことだ。大人しく焼かれるんだな!」

 

「そうはいくかよ…!ぼくは個性は人体支配!触ったやつに何でもさせられる!そしてぼくはそこの野次馬どもに触れた!あとは分かるよねヒーロー!」

 

「まずい!エンデヴァー今のは嘘じゃない!」

 

「ああ、サイドキックから連絡を受けた。あっちは他のヒーローがどうにかする、だからお前らは俺が捕まえる」

 

「ははっ野次馬だけじゃなくてぇ、お前のサイドキックにも触ってんだよねぇこっちは!」

 

 

エンデヴァーがすぐさま振り返ると二人の男がエンデヴァーに向かって来ていた。

 

 

「脳無跳べ!」

 

「あっまずい…!あいつはこっちに任せてくださいエンデヴァー!」

 

「ちっ、お前は足止めだけしていればいい!」

 

 

足は焼かれていなかったのか、男を抱えた脳無が路地裏から飛び出す。エンデヴァーはサイドキックと戦っているから私だけしかいないので急いで屋上から跳んで追いかける。

 

 

「ああくそ!これじゃ逃げられないじゃないか!」

 

「逃がすわけないだろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追いついてダークを進行方向に全力で投げる。スピードを落とそうともせずそのまま屋根を走って跳ぼうとしている脳無の足を二本とも撃ち抜いた。

 

転がって落ちていったその先は、眠田さんのいる空き家だった。

 

 

「こうなったらあいつだけでも殺す!そしたらお前も幸せになれないよなぁサイレンス!」

 

「させるかよ!」

 

 

空き家の屋根を突き破りそのまま地下一階まで落ちる。

なんとか着地した私の前には、足を再生させた脳無と男の姿があった。

 

 

「ここで足止めしておいてね、脳無」

 

「まか…せ…ろ…!」

 

「絶対に眠田さんは殺させない!」



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16話 終結からの

ここの地下は空き家の敷地内全体まで広がっていて、それが地下二階まである。

眠田さんは地下二階にいるはずだが、地下二階への階段がある扉は固く閉ざされている。

だから男一人では破れないだろうが、脳無の攻撃を耐えられるほどではない。

 

 

「めんどくさいなぁこれ。まあいいや、こい!」

 

「させるか!」

 

 

ダークを脳無に一本、男の両足に一本ずつ投げる。当然反応されるがそのままブーツのスイッチを入れて脳無へ突撃する。

 

 

「届かないよ、ぼくには!だってヒーローがついてるんだから!」

 

 

脳無に蹴りが当たる直前、地上から誰かが間に落ちて来たので慌てて足を曲げて膝蹴りに変える。

膝蹴りを受けたその人物は騎士の鎧のような、近未来めいた装いをしていた。

 

 

「インゲニウムか…!」

 

「いやあ、握手に応じてくれたヒーローは彼だけだったからね。温存させてもらったよ。

インゲニウム、そいつを足止めしてろ。脳無はこの扉を壊せ」

 

(ヒーローにも…どれだけ準備してたのこいつ…!)

 

(意外と心配性だったのか、もう一つ騒ぎを起こすつもりだったのか。どちらにせよ状況は悪くなりましたな。相手は三人、こちらは一人と守る対象が一人。エンデヴァーの到着を待っている間にあの方は殺されてしまうでしょう)

 

 

どこまでやれば個性が解かれるのか、蹴り飛ばした程度じゃ全然ってことしか分からない。

とりあえず男へダークを三本投げて牽制をする。

 

 

「あれ?ヒーローを傷つけてもいいのかな?」

 

「ぐっ!?」

 

 

さっきと違うのは盾となったのがインゲニウムということ。インゲニウムは再生能力など持っていないのでそのままダークは腕の鎧に突き刺さった。

脳無は扉に一発、また一発と拳を振っている。

 

ならば次は、とブーツのスイッチを入れて個性を使って突進してくるインゲニウムにカウンターを叩き込む。

しかし、その鎧のせいなのかインゲニウムは感電している様子はなく、そのまま足を掴んできたので頭に膝を叩き込んで離れる。

 

そんなことをしている間に扉は壊された。

 

 

「はい残念ゲームオーバー!ここからは脳無とインゲニウム二人が相手だよ!」

 

「っ最悪だね、この状況!」

 

「ぼくも、ここまで追い込まれると思ってなかったから褒めてあげてもいいよ?」

 

「どうしたら…危な!?」

 

 

脳無が飛び込んでくるのを避けると次はインゲニウムの拳に狙われる。男にダークを投げようと男を見ればその射線上にインゲニウムが入ってきて投げれない。

 

そうしているうちに男は扉の奥に消え、私は脳無に扉の反対方向へ殴り飛ばされる。

 

壁から離れ、すぐさまくる追撃を避ける。

だが、攻撃は止まず、扉へ近づけば体がボロボロになっても立ちはだかってくる。

 

この部屋から到底抜け出せそうになく。だから、眠田さんを救けるのは不可能なんじゃないか、と思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、負けるのかな、私」

 

 

心の声が口から漏れ出す。

結局誰も救えなかったなぁ。

 

 

(まだ、諦めるのは早いのでは?)

 

 

心の中で問いかけてくる存在がいる。

でもこの状況からひっくり返すことなんて私には無理だ。

 

 

(あなたにはまだ右腕があるではありませんか)

 

 

初めて聞いたなぁ、先生は右腕を使うなって言ったっきりだっけ。

先生がそう言ってたんだし、だめだ。

 

 

(…嫌だよ、誰にも使いたくない)

 

(では、使わないであの男が殺すのを指をくわえて待っていると?それこそ、見殺しというものでは?)

 

(約束したじゃん!絶対に使わないって!)

 

 

なんで、今になって。約束を忘れてしまったの?

『決して右腕を使おうとしないように。使えば必ず後悔なさるでしょう』なんて言ってたのに。

 

 

(約束を守って人が死ぬのでは本末転倒というものでしょう。なに、先程の攻撃でカメラは壊れています。今、この場所を見ている人などいませんよ)

 

(だって、やだよ、どっちも…。どうしたらいいの?)

 

(あなたは知っているはずだ、右腕の使い方を。なに、脳無に使えば死にはしないでしょうし、その隙にあの男のところまで行けばいい。そこのヒーローの足を使えなくすれば邪魔もされないでしょう)

 

 

でも、ああ、そうだ。

今まで先生が間違えたことなんてなかったし、今回もきっと…。

 

 

(…それしかないのなら、それで誰かを救えるのなら)

 

 

右腕の布を解く。また殴り飛ばされたが丁度いい。

 

右腕が赤く発光しだす。抑えないと今すぐにでもどこかに飛んで行っちゃいそうだ。

 

 

(名前は知っているでしょう?ハサンたちの持つその宝具の名は…)

 

 

先生の持つシャイターンの右腕、それの持つ呪いを使って相手の心臓を潰す宝具。

たとえ再生能力を持つ脳無であっても、無視はできないだろう。

 

そう、その宝具の名は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妄想(ザバー)…「サイレンス!!」!?」

 

 

 

扉から出てきたその人は、一度しか顔を合わせたことはないけど、絶対に救けたかった人で。

 

右腕の魔力を拡散させ、宝具を解く。

そして脳無のこちらへ蹴り出した右足にダークを突き刺しそのまま股下を滑り抜けてその人と脳無たちの間に立つ。

 

 

「眠田さん…!?どうして…あの男は!?」

 

「君、その右腕は…いや、僕も罠の一つくらい仕掛けてるさ。それよりも、あいつの個性の解除方法が分かった!」

 

「本当ですか!?それはどういう…」

 

 

脳無たちからの攻撃を避けながらも、攻撃が後ろに行かないように抑える。

 

 

「上のヒーローたちが見つけたんだが、どうやらあいつが触れた部分をエンデヴァーの炎で焼いたら戻ったそうだ!」

 

「それじゃあ、電気でもできますかね…!」

 

 

脳無にダークを六本全力で投げ、ブーツのスイッチを入れてインゲニウムを誘い出す。

高速で首を掴みかかって来ようとするインゲニウムの、その両手をバク転しながら蹴り飛ばす。

 

インゲニウムは手を抑えていたが、こちらにくる様子はない。

 

 

「ぐあああっ!!??手が……あれ、動けるようになった?」

 

「インゲニウム!しゃがんで!」

 

 

解除されたと同時に脳無がインゲニウムに向かって走り出していた。

しゃがんだインゲニウムを飛び越えて飛び蹴りを振り抜いた拳へぶつける。

 

吹き飛ばされたが、インゲニウムが手を掴んでくれたおかげでなんとか着地できた。

 

 

「大丈夫か!?」

 

「足が痺れて、でもなんとか大丈夫です」

 

「…脳無にも少し効いているようだし、前言ったフルパワーでやれば行動不能に出来るかもしれない」

 

 

脳無も右半身が痺れたのかすぐには追撃してこなかったが、もうすでに痺れがなくなっているようだ。

 

フルパワー…。ブーツに残った電気を全て放出するあの技は私の足もしばらくダメになるらしいので使えなかったけど、今なら。

 

 

「インゲニウムさん、眠田さんと主犯の男をお願い。ここは大丈夫だから」

 

「しかし、本当に大丈夫か?」

 

「私は誰かを守るのに向いてないらしいですから、それにあなたじゃ脳無には勝てませんし」

 

「言われちまったな。まあいいさ、任されたよ。

…勝てよ、サイレンス」

 

 

地下二階へ向かうインゲニウムと眠田さんを見送り、脳無の方へ向き直る。

脳無はインゲニウムたちには何もせず、私だけを見ていた。

さっきの衝突でノイズが酷くなった変声機を外す。

 

 

「サイ…レン…ス。おま…え…は、なぜ…たたか…う?」

 

「なぜって…お前たちが眠田さんに無実の罪を着せたからに決まってるでしょ…!」

 

「なぜ…おまえ…が?」

 

「ああ、そういうこと…。それは、眠田さんを救けたいと思ったから。それに、どちらにせよお前たちのことは放置できなかった。幸せな家庭ばかりを狙うその行動を許しておけなかった」

 

「そう…か」

 

「話は終わり。時間を稼がれて困るのはあなたの方でしょ?」

 

「あ…あ、負け…るわ…けには…いかない…んだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脳無は真正面から向かってくる。私もダークを両手に三本づつ構えて迎え撃つ。

正面に二本、横に一本づつ。そして跳んだ脳無に向けて残った二本を投擲する。

 

 

「効か、ないぃ!!!」

 

 

刺さっても効いた様子はなく、そのまま叩きつけてくる攻撃を左に避けて、スイッチをつけていたブーツで右の腹部に蹴りを入れる。

 

 

「それもぉ、効か、ない!」

 

「分かってるよそんなの!」

 

 

すり抜けるように左腕の下を通る。振ってきた左腕をダークで突き刺し、そのまま跳んでサマーソルトキックを頭に入れる。

 

 

「まだ、だぁ!!」

 

「いや、もう終わりだよ」

 

 

脳無の正面に着地し、しゃがむ。

左足のブーツのリミッターを解除する。電気が溢れ出し、バチバチと音を鳴らしている左足で、頭に電撃を受け意識が朦朧としている脳無の腹に向けて上段蹴りを叩き込んだ。

 

 

 

轟音が鳴り響き、脳無は天井を突き抜けて真上に飛ばされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左足の焼けるような痛みで目を覚ます。一瞬気を失っていたようだ。

まだだ、まだ足りない。あれじゃまだ立ち上がってくる。

 

まだ動く右足で上に跳ぶ。落ちてきていた脳無を見て、右足のブーツのリミッターも解除する。

 

 

「もう一発、喰らっとけぇぇぇ!!!」

 

「まだ、まだ…」

 

 

落ちる脳無と上る私がすれ違うとき。私は体を横にして右足を縦に振るう。

 

電気が迸る右足が脳無の腹の中心に叩き込まれ、また轟音を鳴らした。

 

私は上へ、脳無は下へ吹き飛ばされる。

 

 

(こんなにボロボロになったの初めてだなぁ。…そういえば、先生、なんで右腕を使おうとしたの?)

 

 

返答はない。今まで返事がないときはなかったのに。

 

 

(先生…?)

 

 

落ちる。落ちていく。

 

 

……あれ、ここってどこだっけ?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「くそぉ!!今日までは全てが上手くいってたのに…!

全てあいつのせいだ、あいつさえいなければ…」

 

「君が、この事件の真犯人だね?抵抗せずに…といっても無理だなその腕と足じゃ」

 

 

ああ、最悪だ。サイレンスとかいうやつに勝てないのはいい。ヒーローにも。

でも、呑気に生きているこいつらだけには負けちゃいけなかったのに。

 

 

「すみません、とにかく触れられないようにって考えてたら…」

 

「やりすぎだ、腕なんか焼かれた皮膚同士でくっついてるじゃないですか。…あなたの境遇からして仕方ないのかもしれませんが、殺してしまってはあなたも無実にはなりませんよ」

 

「あいつさえいなければ、お前らも殺せてた!完璧だったんだよこの計画は!」

 

「たしかに、あのままだと無実のこの人を捕まえるところだったよ。きっとこの事件が報道されれば警察に批判がいくだろう」

 

「ああそうだ!お前の家族も殺せてたんだよぼくは!」

 

 

あいつは脳無に勝つ。もし勝てなくてもエンデヴァーがいる以上ぼくの負けは決まっている。

もしかしたら、ここにきた時点でぼくの負けだったのかもしれない。

 

 

「お前、名前はなんていうんだ?」

 

「さあね。忘れたよ、そんなの。……そういえばお前に聞くのを忘れてた。ぼくの名前は何がいいと思う?」

 

「……」

 

「答えろよ、ぼくに勝ったんだろ」

 

「…自分の名前くらい、自分で決めろ。そうだろ?岸瀬(きしせ) 叉操(さそう)

 

「へえ、よく分かったね。でも、その名前は捨てたんだ。だから、名前が欲しいんだ」

 

 

どんな名前だろうか?幸せの中生きていた人間が全てを奪った相手につける名前は。

 

 

「ないよ。僕はもう何も君に渡したくない。だって、君が憎くてたまらないから」

 

「なら殺せよ。殺してくれよ」

 

「君を殺しても何も残らない。だったら僕は君への憎しみを胸の奥に閉じ込めて娘のために生きる」

 

 

ああ、なんだよ。どうして大事なものを奪われても幸せの中に戻ろうとする?どうして殺さない?どうしてどうしてどうして。

 

どうして、羨ましいんだろう?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はあ…全く。ボスの人使いの荒さにはびっくりよ…。あの二人を回収するだけならまだしも、なんであいつの投げたナイフまで回収しなきゃならないのかしら」

 

「リーダーの考えてることは僕には分からないけど、きっと大事なことだよ!それと、ボスって言ったらリーダー怒っちゃうよ?」

 

 

数分前に戦闘があったボロボロの路地裏に二人の少女がいた。どうやらサイレンスの投げたダークを回収しに来ているようだ。

 

鎧を着た少女が瓦礫からダークを掘り出し、もう一人の、ゴスロリの服を着た少女が渡されたダークを手から消していた。

 

 

「はいはい。リーダーは私の個性も使い過ぎると疲れるってことを分かってるのかしら?」

 

「でも、eスポーツってかなり便利だし仕方ないんじゃない?」

 

「アスポートよ!ア、ス、ポー、ト!それにどこでも自由に送れるわけじゃないし!」

 

 

そう、少女の個性はアスポート(もしくはアスポーツ)。物体や生物を事前に指定した位置に送れるというもの。

 

 

「僕の個性はそういうの苦手だなぁ…。なんというか、真正面からのぶつかり合いしかできないし」

 

「いいじゃない、お馬鹿さんにはお似合いよ?」

 

「むむむ…反論できない…」

 

『はいは〜い、そこにそろそろ警察来るよ〜。サイレンスと脳無、ナイフ二十四本もちゃんと回収できてるし、早く帰ってきてね〜』

 

 

二人が話していると、二人の通信機からだいぶのんびりとした声が聞こえてきた。

 

 

「はいはい、わかりました。あんたも、早くしないと置いてくわよ?」

 

「待って、私もぉ!?」

 

 

二人の少女が手を繋いだ瞬間、まるで路地裏には誰もいなかったかのように消え去ってしまった。



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17話 その後と結託

「どうやら、あの坊主捕まったみたいじゃな。脳無も渡しておったのに、情けない」

 

「まあ、あの脳無は言う通りに動かない失敗作だったからね。それに、元々期待はしてなかったさ。あれはあそこが限界だった。今は弔より上だが、弔はすぐにあれを超えていくさ」

 

「相変わらず、弟子には甘いな」

 

「そうだね。そういえばあの脳無、警察ではない誰かに回収されたみたいだよ」

 

「何?そこら辺のヴィランがやったのか?」

 

「どうだろう。でも、それより脳無を倒したあのヴィジランテが気になるなぁ」

 

「そいつは今どこにいる?警察か?」

 

「いや、あの子も脳無と一緒に回収された。…あの子も、弔の成長に役立ちそうだったよ」

 

「わしはそうは思わんがの。どう見てもヒーロー寄りじゃろ」

 

「いや、きっとあの子にはこっち側の方が心地いいだろうね。まあ、今はいいさ。きっとまたお目にかかるだろうからね」

 

「そうか…。それにしてもあの脳無、もう少し実験に使いたかったのう…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……………………わよ」

 

「………えば〜?」

 

「………僕がいっきまーす!」

 

 

腹部に衝撃が走り、たまらず飛び起きて目を開ける。

 

 

「あ、起きたよ!おはよう右腕ちゃん!」

 

「え、お、おはよう?」

 

 

私の腿のあたりに転がっていった少女に挨拶を返す。

周りを見回すと、洋風の部屋に白いベッド、そして二人の少女がいた。全然見覚えがなく、ここがどこかも分からない。

ていうか右腕ちゃんってなに?

 

 

「えっと、ここはどこで何があってこうなったの?」

 

「それは〜、リーダーに聞けば全部分かるから〜」

 

「とりあえずさっさと起きてついて来なさい、右腕長い人」

 

 

わけが分からないけど、あまりにゆったりとした雰囲気に警戒するのもあれなので大人しく従って、膝上の少女を下ろして私もベッドから出る。

 

服も勝手に着替えさせられていたがそこまで気にせず、どこかの豪邸にありそうな廊下を歩く三人についていく。

 

 

「ねえ、リーダーってどんな人?」

 

「…リーダーはリーダーだよ?」

 

「そうじゃないでしょ…。リーダーは優しい人よ。少なくとも私たちには、ね」

 

「全っ然安心できないんだけど…。ていうか私戦っててそれで」

 

「はいストップ〜。ここがリーダーの部屋だよ。あ、入るのは君だけだよ〜」

 

(ちょっと待って先生何があったのこれは!?)

 

 

返答がない。なんでって……なんでだっけ?

 

うだうだしててもしょうがないので気持ちを切り替えて扉を開ける。

中に入ると、豪華な部屋に社長が使ってそうな机と椅子、そこには黒色の髪を腰の辺りまで伸ばした、所謂美少女と呼ばれるような容姿の少女が声をかけて来た。

 

 

「おはよう、サイレンス。それとも安佐 心の方が良かったかしら?」

 

「へえ、もう全て分かってるってわけ?」

 

「まあ、あの事件と貴方に関しては、ね」

 

 

面倒なことになった。この状況は確実に何か要求してきて、応じなかったら家族を人質に脅されるようなパターンだろう。

 

 

「……」

 

「……まあ、あの後のことから話しましょうか」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「地方のやつがアホやらかしかけたせいで警察がまた批判を受けちまったなぁ」

 

「せめてヒーローが倒してくれたならまだしも、大体があのヴィジランテの功績だからな」

 

「サイレンス、だったか?今回の事件で大暴れしたが身元は分からなねえのか」

 

「今回確認された声もボイスチェンジャーらしいから性別もまだ判断できてないし、分からないことだらけだね」

 

 

警察本部では、昨日大々的に報じられた連続殺人事件について話し合われていた。

 

 

「それで、サイレンスと脳無はどこに消えたんだろうなぁ?あいつら二人とも気を失ってたんだろう?」

 

「はい、脳無とサイレンス両名ともあの状態からすぐ動ける様子ではなく、第三者による介入の線が濃厚かと」

 

「それで、今回の事件の概要は?」

 

「元被疑者 眠田 祐介氏は、訪問して来た真犯人 岸瀬 叉操氏の個性により妻を殺害後、脳無と呼ばれていた者によって隣街の路地裏まで連行されてその後指名手配されました。

その際叉操氏と眠田氏が撮られた写真を叉操の手から渡されたそうです。

連続殺人の動機については、叉操氏は五歳の頃親に捨てられており、その後個性をヴィランに見定められ十六歳で家族に再会。しかしそのとき家族は新たな子供と幸せな家庭を築いており、それを見た叉操氏は幸せな家庭に憎悪を抱くようになり犯行に及びました。

しかし、仮称ヴィランネーム 脳無については情報が皆無です。

 

それで、眠田氏の個性は目を合わせた人の眠気を誘うというもの、

叉操氏の個性は両手で触れた相手に一つ指示が出せるというものです。

叉操氏に触られてから五時間は叉操氏がいつでも指示が出せる状態であり、それによってのちに警察とヒーローが足止めされました。

解除方法は叉操氏自身が解除、もしくは叉操氏が触れた部分に損傷するほどの衝撃を与えることです。

また、脳無の個性は再生で、それにより主に叉操氏の守護をしておりました。

 

その後逃亡中にサイレンス氏と接触、そして協力関係になり、サポートアイテムを複数譲渡。

眠田氏は依頼されたサポートアイテムを自宅で作成して会社に提出する仕事をしておりましたが、個人でのサポートアイテムの所有は認められてませんでした。ですが、秘密裏にサポートアイテムを作成しておりそれが今回使用されたようです。

他にもサポートアイテムを売り捌いていないかはどうか調査中です。

 

その後サイレンス氏は叉操氏を捜索、眠田氏は父の所有する土地に潜伏していました。

その土地は元は眠田氏の祖父が所有していて、祖父の死後誰も居住しておらず、眠田氏はその土地を改造して敷地内全体に地下室を広げ、元はなかった地下二階に工房を作ってそこに潜伏していたそうです。

叉操氏の方は隣の県まで移動しており、そこでの犯行は確認されてません。

 

その後ヒーローがその日の昼に突入してくるという噂を聞いたサイレンス氏が眠田氏に報告、そして作戦を立案しました。

その際叉操氏は警察の行動を把握していたようで、警察側に共犯者がいないかも調査中です。

 

その後真犯人発覚までは計画通りに進み、警察側も叉操氏を捕らえる方向で進みましたが叉操氏の個性により現場は混乱し、ヒーローも民間人の鎮圧に専念していました。

叉操氏が脳無氏とともに逃亡を図りましたがサイレンス氏が阻止し、叉操氏は眠田氏を殺害することにして眠田氏の拠点へ。

 

さらに何名かのサイドキックや一名のヒーローも個性の対象となっており、その際エンデヴァー氏の個性により叉操の個性の解除方法が判明、それがネットを通じて眠田氏に伝わり、サイレンス氏に伝えられたそうです。

インゲニウム氏は叉操氏の個性によりサイレンス氏の妨害をしておりました。その際サイレンス氏により腕に短剣が三本刺さったそうですがそれは故意ではなく後遺症はありませんでした。

 

その際眠田氏は叉操と交戦し、叉操は両足の骨が複雑骨折、両腕は焼かれて癒着するほどの怪我を与えました。

これは過剰防衛に当たりますが、状況を考慮され免除されました。

そして眠田氏とサイレンス氏が接触、サイレンス氏がインゲニウム氏を叉操氏の個性から解放し、眠田氏はインゲニウム氏と叉操氏の元へ。

サイレンス氏は脳無氏と戦闘をして脳無氏を撃破したと思われます。

 

それで、現状ワープ系の個性を持つ第三者によって脳無氏、サイレンス氏、そしてサイレンス氏の持つ短剣が全て回収されており、目的は不明です」

 

「サイレンスと脳無を回収はまだ分かるが、なんで何本もある短剣まで回収したんだろうな?」

 

「それについては、サイレンス氏は以前の目撃情報では主に投げて使う短剣を全て回収しており、現場には一本も残されていませんでした」

 

「それはつまり、サイレンスを回収した奴とサイレンスが協力関係にあるってことじゃねえのか?」

 

「それは早計かもしれない。が、サイレンスの持つ短剣について分かったことがある。彼の持つ短剣は中東の何百年も前に活動していた暗殺教団の使用していた短剣に酷似していた。その暗殺教団は現在は存在していないが、彼がその関係者である可能性がある」

 

「中東の暗殺教団ねぇ…そりゃぁ穏やかじゃねえな。でも、サイレンスは殺人を忌避しているんだろう?」

 

「しかし、彼の個性は暗殺に向いている。どうやら機械による観測には効果がないみたいだが、日陰者を殺すにはもってこいだとは思わないか?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それで、眠田さんは事情聴取中であり、サポートアイテムに関しての違法行為はあるけれど、まあ冤罪の賠償金があるので大丈夫でしょうね」

 

「叉操は捨て子だったんだね…」

 

「だからといってあの行為をあなたは許しはしないでしょう?それに、関係ない人まで巻き込むなんて悪質すぎるし」

 

「そうだけど、さ。知れてよかったよ」

 

 

リーダーと呼ばれている人物からあの事件のことを教えられて、眠田さんの工房の秘密やあの男が叉操という名前だということ、そして犯行に至るまでの経緯を知れた。

結果が変わらないとしても、知らなくていいことなんてないはずだ。

 

 

「そう。…それで、私が貴方を攫った理由だけど」

 

「攫ったって言っちゃうんだね。もっとあれこれ言い訳するかと思ったけど」

 

「貴方とはこれから仲良くしていきたいからね。ねえ、私の組織に所属してくれないかしら?」

 

「組織、ね。どんな組織なのかな?」

 

 

今のところ少女しかいないこの組織だけど、私だけならまだしも、脳無も回収している組織がまともな組織とは思えない。

 

 

「失礼、先に言っておくべきだったわね。

私の結成した組織はある一つの目的を持って活動しているわ。メンバーは私をリーダーとして、貴方を案内した三人が所属しているの。

それだけでじゃなくて他に駒もいくつかあるけど、それはまあ、いいでしょう。

それで、目的だけど。その前に、貴方はオールフォーワンという人物をご存知かしら?」

 

「少しは。今回の事件に関与していたそうだし」

 

「そう、それは結構。私たちの目的は、そのオールフォーワンを殺すことよ」

 

「……は?」

 

 

オールフォーワンを殺す?あの化け物を?

だけど、少女は到底冗談を言っているようには見えない。

 

 

「ふふっ。そんなに驚く、ということは貴方、オールフォーワンについてだいぶ知っているのね」

 

「噂だけだよ。個性を奪うことができるっていうのを知ってるだけ」

 

「いえ、貴方は知っているわ。オールフォーワンが脳無の製作に携わっていることも。何故なら、貴方は脳無と戦闘した際、脳無が個性を複数持っていることに気づいていながらそれを訝しむことなく分析していた。

元々はあのあと接触する予定だったけど、貴方のことを知りたくなったわ。だから、こんなに手荒な手段を使ったの」

 

 

バレバレじゃん!あの脳無は再生と超反応の個性を持っていたけど、普通の人なら個性は一つしかないと思い込むから超反応に気づかない。でも、知っている人なら私の冷静さに違和感を持ってもおかしくないかもしれない。

 

 

「別に、直接会ったことはないけど、知っている人と話したことがあるだけ。…それよりも!そっちはなんでオールフォーワンを知ってて、そこまで敵意を持ってるのさ?」

 

「嘘ね。まあ、いいでしょう。私が何故そこまでオールフォーワンを殺したいか、ね。

それは、貴方が私の計画を手伝ってくれるなら教えるわ」

 

「そう…。なら、あなたは私に何をしてほしいの?言っておくけど、私は誰も殺さないよ」

 

 

おそらく誰かを暗殺しろとでも言うのだろうけど、それはできない。だって私は誰も殺さないって決めたんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に?これから先ずっと?誰かを見殺しにしても?

 

お前はみんなを救けるヒーロー(オールマイト)じゃない。ならば、その手を血に染めることでしか救えない者がいる。

 

お前が右腕を使うだけで立ちはだかる敵を殺せる。

 

殺せば、誰かを救える。

 

お前の目的はなんだ?人を救うこと?違うだろう?

 

お前は善良な市民を救いたいんだろう。罪を犯したものを生かしておく必要はない。

 

罪には罰が必要だ。お前の右腕をもって罪深き人間に罰を与えよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の目を見なさい」

 

「……あ……」

 

 

目の前には真っ黒で、だけど光は失われていない力のある目。

私はいつのまにか目の前の少女と至近距離で見つめ合っていた。

 

 

「何を考えてたかは知らないけど、貴方の力を借りれるのなら、それで十分よ。貴方に殺しをさせたいわけではないわ」

 

「……私、殺した方が、救けれるって……」

 

 

いつのまにか目から涙が零れていた。なにかに心を押し潰されそうで、辛くて……。

 

 

「…そう、私はそうは思わないわ。だって、貴方メンタル弱すぎるもの。殺す前からそんなに弱ってちゃ、殺したところで罪悪感に苛まれて自殺しちゃいそうよ?」

 

「…そんなことない…!」

 

「私の思ってた貴方はもっとキリッとしてたけど、今の貴方は捨てられた子犬みたいよ?

たしかに殺した方が手っ取り早いけれど、正義のために殺しを許容できる人、できない人というのははっきり分かれるわ。

私なんかは邪魔なやつらはめんどくさいので殺しちゃうけど、あの子たちは誰も殺してないし」

 

「……そう。ごめんなさい、初めて会うのに」

 

「気にしてないわ」

 

 

いつのまにかしゃがみ込んでたので少女の手を借りて立ち上がる。

何を考えてたか分かんないけど、殺せば救けられる、罪には罰を、という言葉が頭を埋め尽くしていた。

でも、もう涙は止まったんだ。涙を拭い去って、少女と再び目を合わせる。

 

 

「まだ迷ってるの?あまり脅したくはないのだけど」

 

「…ねえ、私は、私のヴィジランテとしての活動に意味はあったのかな…?」

 

 

あのとき答えを出すって言ったのに、まだ見つからない。それを初めて会う人に聞くのはおかしいのに、この人なら教えてくれるんじゃないかって思った。

 

 

「それは私に聞くのではなく、貴方が救けたあの男性に聞くべきではないんじゃない?

…まあ、私としてはそのおかげで貴方と会うことができたんだから、十分意味はあると思うけど」

 

「……そう…。一応聞いておくけど、盗みとかもないよね?」

 

「少なくとも警察やらヒーローに追われることは頼まないわ」

 

「それなら良かった。…これからよろしく」

 

「ええ、こちらこそ。よろしくお願いね。

申し遅れたけど、私は(つむぎ) 彩華(あやか)。リーダーでもいいわよ?」

 

「私は安佐 心。好きに呼んでね、リーダー」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

この道を進んだ以上いつかこうなると思ってはいたが、こうも早いとは。

もう私の言葉が彼女へ届くことはないかもしれない。だが、あの少女。

あの少女の力を利用できれば、もしくは……




21巻までしか知らないから今どうなってるのかわからない…。
緑谷OFAプラス個性6つも使えるとかマジなん?


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