終末世界に星の戦士を放り込む (バリ茶)
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そーらかーらおっちてっくる

 平和を疑問に思わず、当たり前のように親からの愛を受け、同級生たちと友愛を育み、常識を外れない範囲で思うままに生きていたあの時代。

 暖かい夕日が照らす中、赤いランドセルを背負って仲の良い友達と下校をしていたあの日。

 下らないイタズラをする男子の話や、明日の昼休みは何をして遊ぶか、なんて話していたあの時間。

 ふと、何も考えず、ただ何となく、空を見上げたあの瞬間。

 

 私は――流星をみた。

 

 それを見たその時の私は、あぁ、不思議だな、としか思わなかった。

 今になって思えば、私はあの流星を見た瞬間、隣で笑いかけてくれている友人の手を掴み、一目散に逃げるべきだったのだ。

 しかし危機感も感じず、好奇心が旺盛だったあの時の私は、数十メートル先になぜかゆっくりと着陸したソレが、気になってしまった。

 友の手を引き、飛来してきた目の前の鉄の塊へ歩みだした。

 

 鉄の塊に小さなガラス窓のようなものがあり、そこからのぞき見える中では黒い何かが蠢いていた。

 それに気づいた私が狼狽している最中、隣にいた友達は私の手を放し、軽く、ほんの少しだけ指先でその鉄の塊に触れた。

 

 

 あの瞬間、地球は、世界は、人類は、滅びの道へと足を踏み外したのだったと、今となってから思い知る。

 

************************

 

 5年前、突如として世界各地に異形の生物たちが出現した。

 海、台地、そして空。ありとあらゆる場所から、その異形たちは湧いて出てきた。

 その姿は人類史の神話に登場する怪物や、SF映画のエイリアンのようなものまで様々であり、その異形たちはこぞって人間が支配していたこの世界を崩壊へと導いて行った。

 

 足を十本生やした怪鳥は空から巨大な火の玉を地上に吐いて回り、高層ビル程の大きさのナメクジが街を這いずり、サッカーボールに何百個も目玉が埋め込まれたような姿の肉塊の化け物は赤子のような鳴き声をあげながら数百数千といった数で学校の中に流れ込んで生徒たちをすり潰していった。

 

 一瞬で人間を真っ二つにする骸骨の剣士が道路を闊歩し、跡形もなく生物が消え去るビームを射出する衛星が地球を囲み、人間を捕食するようになった巨大な虫たちが大地を這う。

 不思議な病原菌に感染した人間は体が腐り落ち、口から内臓が飛び出ているゾンビが民家を襲う。人間サイズのモグラは子供を地中へと引きずり込んでいき、ヒトのような手足が生えた鮫は人間を刺身にして吟味した。

 

 

 人類は既に敗北している。

 かろうじて生き残った人々はボロボロの地下シェルターの中で震えたまま動かない。

 まだ少し息のある国は特殊な軍隊や巨大な要塞を作り上げ、虚しく抵抗を続けている。

 安全な地域など何処にもない。そう頭では理解しているが、認めたくない。皆が安心して生活できるような場所を探し出して見せる。そんな思いを内に秘め、化け物たちを掻い潜りながら放浪の旅を続けている変わり者たちもいる。

 

 元々は私もその一人だった。今までの日本の常識を当てはめるならば、今の私は高校生。体力だけは一人前だし、ここ数年で培った運動能力をもってすれば、化け物たちの目を盗んで様々な地域を渡り歩くことは難しくなかった。

 たとえ無意味でも、シェルターの中で生きる意味すら見出せない内に衰弱して死ぬくらいなら、最後まで足掻いて見せる、と。

 

 

 ―――まぁ、本当に意味なかったけど。

 

 人はおろか化け物すらいない廃ビルの屋上にあるベンチに寝転びながら、そう呟いた。

 ベンチの下には底に穴が空いた空っぽのリュックサック。右手には水が半分も残っていないペットボトル。

 これを飲みきれば手元にある持ち物は全てなくなり、いよいよ手ぶらだ。

 

 最初は同年代の友人たちや大人の男たちと共に旅をしていた。当然、最初から仲間が減っていく旅だということは理解していたが、まさか今日は一日にしてメンバーが全滅するとは。

 10人から8人、8人から5人、そして5人から1人。今日の4人はみんな大剣を携えた骸骨騎士に頭から真っ二つにされ、死体は頭がいっぱいある鳥たちにグチョグチョ食べられた。

 流石に数える間もなく絶望したし、諦めて座り込んだ。せめてもう一人だけでも生き残っていれば、その場から駆け出していたのかもしれないけど。

 

 一人は参っちゃうよね。やる気なくなる。

 そんな私の気持ちなんて露知らず、満足げに骸骨騎士さまは帰って行ったし、お腹がいっぱいになったのか鳥ちゃんたちは嬉しそうに大空へ羽ばたいていった。

 開いた口が塞がらなかった。余りにも理不尽で、勝手すぎる。ふざけんな、せめて私を殺していけよ。

 そう思っていたけど、化け物はもう居なくなっちゃったし、私もダラダラとこの屋上で過ごしている。

 

 感覚が麻痺している、とは思うけど、普通じゃないとは思わない。

 今のこの世界で、人を失ったくらいで泣き喚くような人間は外では生きていけない。人々の根底にある『普通』は時代ごとに変わっていくものだろう。

 合理的に動いて、理不尽に死ぬ。それがシェルター以外で生きる人間の定め。

 

 ふと、立ち上がって屋上の鉄柵に凭れ掛かった。

 とても高いビルだ。落ちたら死ぬであろうこの高さから見る景色は、中々に絶景かも。

 天気は良いし、お日様も暖かい。こんな日はお昼寝でもしたいな。

 

 呑気な事を考えながら、ビルの下の方を眺めてみると、そこには体が炎に包まれている狼たちが集会をしていた。

 ざっと百匹、見えないだけで近くにはもう少しいるだろう。

 奴らは常に群れで行動する性質はこれと言って存在しない。ではなぜ集まるのかといえば、答えは簡単。

 近くにいる人間の位置を共有しているのだ。どいつもこいつも人間大好きゴハンだいすき。誰が先に食べるかは置いといて、まずは人間さんを見つけない事には始まらない。

 何故かハイブリッドな身体なので、嗅いだ人間の臭いを仲間にもかがせることが可能。わんこってすごいね。どんな仕組みだよバカ。

 

 まあここら辺に居る人間はおそらく私だけなので、あの中の誰かが地面に残った私の残り香を嗅ぎ当てたのだろう。

 どうやら我が人生はここが最後のようである。見えた! 私の終着駅!

 

「あー、もーやってらんなーい」

 

 そう呟いたと同時に体から力が抜けた。本格的に怠くなってきた。

 どうせあの犬畜生どもに喰われるくらいなら、いっそ飛び降りた方が楽に天国へ行けるかな。

 最後に水でも飲もうとボトルのキャップに手をかける―――

 

 ―――ガチャ、と屋上のドアが開く音が聞こえた。

 

 肩がビクつき、瞬間的にボトルキャップから手を離した。狼がドアを開けたのか? 冗談じゃない、そんな進化を奴らはしてない。突き破るならともかく、ご丁寧にドアノブを捻って屋上に侵入してくるなんて、どうなってるんだ。

 鋭い悪寒が走り、ボトルをポケットに突っ込み、後ろを振り返った。

 

「ううぅっ、おにい……っ」

 

 そこには私と同い年程度の少年を両手で引きずっている、小さな女の子がいた。頬には涙の痕があり瞼が腫れている、小学校高学年あたりの黒髪の少女が。

 引きずられている少年は右肩と左の太ももの服が破かれており、よく見れば酷い火傷がある。おそらく、あの炎狼に噛みつかれてできたものか。

 

 生存者、火傷の痕、なるほど繋がった。下の炎狼たちは私では無く、恐らく兄妹と思われるこの二人を追ってきたのだ。

 

「……? あっ、あっ……た、たすけて」

 

 眼前に立つ私に気が付き、うわごとの様な力の無い声で助けを求めてきた。そのまま少年を引きづりながら、私の前までゆっくりと近づいてくる。

 

 ―――冗談だろう。

 自分は今まさに自ら命を断とうとしていた存在だ。そんな人間にあの怪我人を介抱しろだなんて、皮肉が過ぎる。

 

 少女は私の前で少年を仰向けに寝かせると、訴えかけるような瞳で私の眼を射抜いた。

 おもわず、唾を飲んだ。直ぐに言葉が出てこない。小さく身じろぎし、何をすれば正解なのかを思考する。

 控えめに言って私は今、とんでもなく狼狽している。

 

「あのっ……おにいをっ、たっ、たすけて!」

 

 黙ったままの状態の私に不安と焦りを覚え、たまらず少女は叫びだす。

 見るに傷は深く、応急処置に果たして意味があるのか分からない。それどころか今の私は医療品など何も持ち合わせていない。骸骨騎士に追われているときにリュックに穴をあけられ、その時に中身は全て落とした。

 傷口から血が出ている訳では無いし、手元の水をかけても無意味だ。

 

『オォォ―――』

 

 そこまで遠くない距離から、炎狼たちの遠吠えが聞こえてきた。

 少年を引きずってここまで連れてきたのだし、地面には彼の臭いがこびり付いている筈だ。それを追ってきたとして不思議ではない。

 この屋上が犬畜生で溢れ返るのも時間の問題だ。

 

「おにい゛っ……」

「ちょ、まっ、まって。ちょっと待ってね」

 

 兄の胸に顔を埋めている少女を見て、更に焦りが加速する。

 考えても一つの答え以外浮かんでは来ない。寧ろ、他の答えが存在するわけがない。

 諦める。それしかないのではないか。あの化け物たちを撃退する手段は無い。

 ドアを閉めても、ものの数秒で蹴り飛ばして侵入してくるに決まっている。

 私が生身で立ち向かったとしても、百匹のわんちゃんに勝てるはずが――

 

「やだぁ……やだ、おにいっ、うううっ、やだぁ」

「――ああ、もう」

 

 考えてる暇なんてない。

 私は膝をつき、少女の両肩を掴んで此方を向かせた。

 

「いい、聞いて?」

「はっ、え……?」

「少しだけ距離があるけど、この屋上の柵の外から飛べば、隣接してる隣ビルの非常階段におりられるの」

「なに、え? 飛ぶ……っ?」

 

 少女が混乱しているが、頭を整理させる時間が惜しい。

 私は少年を背負い、少女に付いてくるよう指示をする。以外にもそれには素直に従った少女が私の後ろを歩くことに安堵し、振り返らず隣接ビルが見える柵まで小走りで向かっていく。

 そして目の前の光景をみて、私は頭が痛くなった。分かってはいたがやはり『遠い』のだ。

 普通に飛んで着地できるか、と言われたら即座に否定の意を示す程度には、この柵から向こうの非常階段までの距離がありすぎる。

 

 私が思い切り投げれば少女はギリギリ届かせられるか?

 いやだめだ。怖がって着地どころではなくなるし、届いたとしてあの階段に頭からぶつかればまず無事では済まない。少し広い踊り場に、ならありか?

 というか、そもそもこの少年はどうすればいい。状況から察するに、少年は詰んでいる。どう足掻いても向こう側へ届かせる手段が無い。

 私自身、ここから飛んだとして、あの階段に着地できるか――

 

 ――けたたましい轟音が鳴り響いた。振り返ると、ドアが外側にへこんでいる。まずい、もう来てしまった。

 ものの数秒で炎狼たちがあのドアを破壊して入って来る。奴らの脚力なら屋上の入り口から私たちまでの距離など一っ跳びで詰めることが出来てしまう。あぁ、マジでふざけんな。

 

 やるしかない。私は一旦背中の少年を地面に寝かせ、少女を連れて柵の外に出る。

 

「え、おっ、おにい」

「先にあなたが行くのっ、お兄ちゃんは私がすぐに連れて行くから!」

 

 少女の意思を汲んでいる余裕などない。私は少女を抱き上げ、隣接ビルの非常階段の方を向いた。

 

「今からあの階段の少し広い踊り場にあなたを投げるから、なんとか頑張って着地して」

「むりだよっ、こ、こわいっ」

 

 私の袖を強く握ってきたが、それを無理矢理ほどく。優しく宥めながら接するには時間が無さすぎる。この間にも入り口の方からは強い騒音が響いているのだ。もう四の五の言っていられない。

 

「いいから飛ぶの! お兄ちゃんは私が絶対に連れて行くから!」

「あっ、うぅっ」

「いい!?」

「――わっ、わがっだ!」

 

 私の気迫に折れる形で少女は頷き、決意を固めた。

 いや、まだ怖いのだろう。恐れているのだろう。安心できる要素など何一つとして存在しないのだから。

 だがやるしかない。それしか選択肢が無いのなら、戸惑って立ち止まる暇なんてない。そうして少女は恐怖を一時的に飲み込んだのかもしれない。

 

 彼女を持っている手を数回揺らし、タイミングを計る。

 今しかない。

 

「わっ―――わぁっ」

 

 口をパクパクさせながら、一瞬だけの空中浮遊を体験する少女。

 ダンっ、と金属の響く音が鳴った。

 

「や、やった」

 

 思わず口に出てしまった。

 着地した後に転んで少しくじいてしまったのか、少女は涙をこらえながら左の足首を両手で押さえている。

 緊急時にしては最良の着地。あの様子だと骨も折れていないはずだ。

 

 あとは私と少年だけ、だが。

 

 金属のはじけ飛ぶ音がした。ドアノブが地面に吹っ飛んでいる。

 私は急いで柵から戻り、少年を背負った。しかしその時、一匹の炎狼がドアのガラス部分を破壊し侵入してきた。

 心臓が握りつぶされるような感覚に陥った。悪寒が全身を支配する。まて、まて、落ち着け。一匹だけ、アイツだけなら。

 

 少年を降ろし、ポケットのペットボトルを取り出す。残っている量の水ではヤツを攻撃できないが、投擲武器としての重さは十分にある。

 炎に包まれているあの狼も、目の部分だけは燃えてはいないし無防備だ。あそこにペットボトルの底か、もしくはキャップ部分を当てることが出来れば時間稼ぎにはなる。

 しかしほんの少しでも当てる箇所を間違えれば、一瞬で私と少年は畜生共のランチだ。

 

 私をロックオンした炎狼が駆け出してきた。追いつかれる前に投げるしかない!

 ボトルのキャップ部分を持ち、勢いをつけて投擲した。

 

 これで!

 

「……あっ」

 

 おもわず声が出た。

 炎狼はボトルに気が付き、身体を捻って紙一重でそれを避けた。

 ペットボトルは地面を転がり、中の水は一瞬だけ太陽の光を反射させた。

 

 

 ――終わった。

 もう無理だ。

 もう何も残っていない。私が隣接ビルに飛ぶ時間も、少女の元へ兄を連れて行く手段も、全てが存在しない。

 攻撃してきたことに憤慨した様子の炎狼は鼻息を荒くしている。今すぐにでも此方へ飛びかかってくるだろう。

 

 せめて、せめて彼だけは。

 私は仰向けの少年の前に立ちふさがった。無駄なことは分かっている。だが、あの少女の事を思い出すと、どうしてもこの少年の後には死ねない。死んでも死にきれない。私は、私は。

 

「し、死にたくない……」

 

 嫌だ。冗談じゃない、ふざけるな。

 つい数十分前まで死のうとしてた? そんなことは関係ない。もう私一人の命では無い。諦めていい理由がない。

 あの子を置いて死ねるのか。そんなわけがない。彼女は一人で生きていける年齢では無い。きっとこの少年に大事に守られて生きてきたのだ。一人きりでも生きていく(すべ)を、これから身に着けていくはずの、未来がある筈の命なんだ。

 この少年の様に、私があの少女を守らなければいけないんだ。お兄ちゃんを連れて行くからと、約束したんだ。だから、その為に、絶対に、私が死ぬわけにはいかないんだ。

 

 

 足音が迫る。炎狼が飛びかかってきたのだ。

 雄叫びを上げながら、炎狼は私の右腕に噛みついて来た。

 

 激痛が全身に響き渡る。足が震える。だが、されるがままは気に入らない。

 

「こんのぉ!」

 

 残っている左手を握りしめ、眼前の炎狼にむけて振りかぶった。

 拳は畜生の鼻尖に深くめり込み、怯んだ炎狼が思わず口を離した瞬間、右足で思い切り蹴飛ばした。

 ゴロゴロと転がっていく炎狼、だがその瞬間。

 ギターを思い切り地面に叩きつけたような、けたたましい金属の破壊音が鳴り響いた。

 

 ドアが、壊された。

 

 次々と炎狼の群れがなだれ込んでくる。一目散に私の元へ。

 

 思考が止まる。

 あまりにもあっけない。

 こんなにも簡単に終わってしまうのか。

 

 ふと、思い出した。

 私の仲間も、そんなにあっけなく死んだのだ。

 今の私の様に抵抗すらままならず、その身を二つに切り裂かれた。

 悔しい、クヤシイ、くやしい。

 今も昔も、命の価値は変わっていない。理不尽に奪われていいものなんかじゃない。

 

 それでも、今この瞬間、私の命の価値は地に落ちるだろう。

 

「……だれか」

 

 誰でもいい。

 私たちを。

 

「だれかぁ……!」

 

 理不尽に奪われる命を。

 救いようのないこの世界に生きる人の命を。

 誰か、だれか――― 

 

「誰か助けてぇ!!」

 

 

 

 ―――空が光った。

 

 まるであの日見た流星の如く。

 

 目の前に、()()()()()()()()()()

 炎狼達はたじろぎ、少しだけ足を後ろに下げた。

 

 地面にめり込んだ、大きな黄色い星。よく見ると、その星にはピンク色の何かがくっ付いていた。

 その何か―――まるでバレーボールのようなそのピンク玉は、ぽてっ、とその星から落っこちた。

 

『……?』

 

 ピンク玉は不思議そうな顔をして、周りを見渡す。そして偶然に、私の眼とその青い瞳が重なった。

 聞かずにはいられなかった。

 何が起こっているんだ。いったいこれは、何なんだ。

 

「えっと……き、キミは?」

 

 私の問いに、その存在は無垢な笑顔で答えてきた。

 

 

 

 

『カービィ!』

 

 

 

 

 

 




多分ゲームのカービィです 喋らないので
自己紹介とか技名は言ったりするのでアニメも混ざってる かも


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カービィ、吸い込みよ!


被弾ボイスや攻撃時の声のイメージはスマブラ




 

 

『カービィ!』

 

 ピンク玉はそう鳴いた。いや、名乗ったのだろうか。

 

 言語が通じるかどうかは分からないが、彼(彼女?)は私の言葉の意図を汲み取って名乗った、なんとなくだがそう感じる。

 

 ――いやいや、えっ、なに? かーびー?

 

 ついつい、なんというか条件反射でピンク玉に質問をしてしまったが、この生物は一体なにものなんだ。

 

 冷静に、冷静になれ。

 

 まず、落ち着いて考えてみれば、この生物はあの異形のバケモノたちと同種、ということは間違いない……はず。

 

 バケモノの中には地球周辺の宇宙空間を漂っている連中がいるので、おそらくコイツはその仲間だ。

 

 獲物を横取りしに来たのだろうが、来た場所が悪い。周囲は数十匹の炎狼が取り囲んでおり、更に言えばこのビルの下にも、残りのワンちゃんたちがお散歩している。

 

 私の攻撃でより一層興奮している狼たちは、もはや見境なくこのピンク玉をも襲うだろう。

 

 見た目から判断するに、このピンク玉の戦闘力は皆無に等しい。短い手足、柔らかそうな体、小さい口、つぶらな瞳。どれをとっても強そうに見える要素は存在しないので、今まで出会ったバケモノたちの中で唯一、コイツに対してだけは恐怖を抱いていない。ていうかむしろかわいい。

 

 つまるところ、このピンク玉と共にこの黄色い星が落ちてきたことで変わったことは、この場に死体が一つ増えることになった……ということだけである。

 

『グゥルル……へッ、へっ』

 

 突然目の前に落ちてきた星の正体が【ただの動くボール】だと理解した炎狼たちは舌なめずりをし、一時的に視線をピンク玉に向けた。ターゲットが変わったらしい。

 

 よし、この隙に――と振り返った瞬間、思わず私は舌打ちをした。

 

 いつの間にか私と少年(とピンク玉)は、炎狼たちに囲まれていた。

 

 つまり……逃げ場がない。

 

 もはや詰みだ。どうあがこうと焼肉になるのがオチ。これ以上の抵抗は無駄だと瞬時に理解してしまった。

 

 肩を落とし、なんとなく下を向いた。人間落ち込むと前を見ていられないらしい。

 

 

 

 死ぬ前にひとつ知見を得たな、なんてくだらないことを考え―――何かを見つけた。

 

 足元に転がっていたのは、手乗りサイズの、小さな星のかけら。

 

「……あれっ?」

 

 つい間抜けが声が出てしまった。気が付けば、目の前に落ちてきたはずの大きな星が消えている。

 

 私は足元の小さな星が、いつの間にか消えた星と同じ五芒星のような形をしている事に気が付き、条件反射のようにすぐさま星を拾い上げた。

 

 手のひらサイズの星は中央が鈍く点滅しており、気になった私はそこをなぞるように触ってみた。

 

 すると星はスマートフォンのような形に変形し、その画面に何かを映し出す。そこには――

 

 

 【カービィ】【 】

  ○×3

 

 

「な、なにこれ……」

 

 表示されている言語は日本語で間違いなく、記されている情報はカービィという文字と謎の数字のみ。

 

 よく分からないが、さきほどのピンク玉の鳴き声は「カービィ」という発音で正しいらしい。

 

 そして画面の下の方をよく見ると「Start」と記載された四角いボタンアイコンがあった。スタート、ということは……これを押すと何かが始まるのか?

 

 どうするか迷うが、どのみち私に選択肢は残されていない。

 

 今にも飛びかからんとする狼たちを考えれば、逡巡の隙すら惜しい。

 

 意を決し、スタートボタンをタップした。

 

 すると画面右上に通知の様なものが表示され、そこには日本語でこう書かれていた。

 

 

 ♪:グリーングリーンズ

 

 

 突如として、周囲一帯に軽快な音楽が流れ始める。辺りにスピーカーなど存在しないにもかかわらず、何処からともなく……なんというか、楽しい雰囲気の曲が。

 

『ッ!』

 

 するとピンク玉―――カービィは、私に向けていた顔を炎狼達へと向け、奴らへと駆け出して行った。

 

 そしてその勢いのまま右足を前に突きだし、カービィは先頭の炎狼にスライディングの様な攻撃を仕掛けた。

 

 あまりにも突然の事で対応が遅れたその炎狼は見事にその足技を足に受け、後方へと吹っ飛んで行った。

 

 ……え? あの狼、いまスライディングみたいな攻撃されたのに、なんでその場で転倒するんじゃなくて、後ろにノックバックされてんの?

 

 疑問が頭によぎったが、私の脳はすぐさま別の困惑を体験することになる。

 

 パンッ! と。

 

 後ろに吹っ飛ばされた炎狼の体が、風船のように破裂したのだ。

 

 そして辺り一面に狼の血や臓物が飛び散る――なんてことはなく、破裂した体からは小さな星が少し飛び出し、それも直ぐに消え去った。

 

 死体が残るなんてことは無く、今さっきカービィの攻撃を浴びた二体目の炎狼も同じように破裂し、星になって消え去った。

 

 

 い、いったいなにが……? 彼に倒された生物は、どうして死体が残らないんだ?

 

 もし触れただけで相手を跡形も無く消し去る能力なんて持ってたら、あのカービィとかいう生物には誰にも勝てないのでは……なんて思っていたが、その予想はすぐさま否定されることとなる。

 

『ゥワアッ』

 

 隙を見せたカービィに炎狼の爪が炸裂し、カービィはかわいい悲鳴をあげて吹っ飛んだ。

 

 ぽてっとボールのように跳ね、私の足元まで転がってきたカービィ。やはり多勢に無勢か。

 

 どうすればいい。このピンクボールが味方とは限らないが、今この窮地を脱するためにはコイツと協力するほかない。

 

 しかし協力と言ったって、私に出来る事なんて……。

 

 五月蠅い炎狼達の雄叫びが木霊し、考える時間などほとんどない、という事実が余計に私を焦らせる。

 

 なにか、何かないか? そう思って星のスマホ画面を触っていると、スライドするように画面が切り替わった。確認すると、そこには日本語で二つの文が記されいた。

 

 カービィ:てきをすいこみ のうりょくゲット!

      ワザもいろいろ 使えるぞ。

 

「すい、こみ……?」

 

 敵を吸い込む、とそう書いてある。

 

 足元で転がっているカービィを見てみるが、とても敵を吸い込むなんて芸当ができるほど、大きな口はしていない。というか小さい。

 

 私はカービィを持ち上げ、その顔と正面から向き合った。カービィ、案外軽い。

 

「……か、カービィ?」

 

『……?』

 

 何も分かっていなそうな、何も考えて無さそうな、そんな表情のカービィとは裏腹に、私は汗だくで不安な表情をしている。

 

 これしかない。取り敢えず今はこの画面から読み取れる情報でなんとかするしか……ない!

 

「カービィ、お願いがあるの」

 

 炎狼の群れは一斉にこちらへ駆けだしてくる。

 

「絶対あとで……な、なにかお礼はっ、絶対あとでするから!」

 

 すぐそばまでやってくる。

 

「だから――」

 

 先頭の一匹の炎狼が飛びかかってくる――

 

 

「―――あのわんこちゃん、吸い込んじゃって」

 

『ハァイ』

 

 

 返事を返してくれたカービィは私の腕から飛び降り、すぐさま後ろを向いた。

 

 そして信じられないほど大きく口を開き、まるで掃除機を彷彿とさせるような勢いの良い吸引音と共に、飛びかかって来ていたはずの炎狼を一匹まるまる口の中に吸い込んだ。

 

 そしてそれを飲み込んだカービィは一瞬だけ眩く光り、いつの間にかその姿を赤く染め上げていた。

 

 手元のスマホを確認すると、カービィと記されていた箇所が別の文字に変わっており、炎を模したようなアイコンが名前の隣に出現していた。

 

 

 

 【ファイア】【 】

  ○×3

 

 

 

 

 

 






 ファイア:アツくもえるよ 火炎のワザよ。
      どうかせんに 火をつけ
      アチチッ!火だるまころがり
      ジャンプで とんでけ!
      炎とどろく 火だるまぢごく!
  







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