ウルトラブライルーブ!サンシャイン!! (焼き鮭)
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青空総進撃Heart(A)

 

 ――十二年前、静岡県綾香市内浦の旅館「四つ角」の縁側で、小学校高学年ほどの少年が絵本を開き、小学校低学年ほどの少年に読み聞かせていた。

 

「むかーしむかし、伊豆半島に空から妖奇星が降りました。星からはグルジオ様という物の怪が生まれました。グルジオ様は、戦で争っていた人々を皆呑み込んでしまいました。人々はグルジオ様を畏れ敬い、妖奇星が降った山を妖奇山と呼ぶようになりました」

「それがおれたちのすんでる、この町の名前のゆらいなんだよね、克兄ぃ」

「ああそうだ、功海」

 

 功海と呼ばれた年少の少年の方は、克兄ぃという年長の少年の方に尋ねかける。

 

「グルジオ様ってほんとにいるのかな? いるのなら、おれがショーライみつけてやるぜ!」

「ハハッ、こんなおとぎ話を信じるなんて、功海はまだまだ子どもだな」

「なんだと~!? おれ、子どもじゃねーし! もう小学生になったんだし!」

 

 からかう兄に対してムキになる功海。と、その時、

 

「「ん?」」

 

 二人がふと顔を上げ、家の庭の端を見やった。

 その視線の先、家の門の側に、幼稚園児くらいの小さな女の子がいて、こちらを見つめている。

 女の子を視界に入れた二人の少年は、彼女に向かって呼びかけた。

 

「千歌ー! そんなとこで何やってるんだよー!」

「こっちこいよ千歌ー! にいちゃんたちが、えほんよんでやるぜー!」

 

 呼ばれた女の子は二人の少年をじっと見つめて、口を開いた。

 

「……おにいちゃん……」

 

 ひと言つぶやいて、女の子は少年たちの方へと駆け出した。

 

「おにいちゃん!!」

 

 

 

『青空総進撃Heart』

 

 

 

 ――十二年後、早朝の「四つ角」に、内浦の女子高校「浦の星女学院」の制服を纏った女子高校生が駆け込み、裏口の玄関で元気よく挨拶した。

 

「おはよーございまーす!」

 

 するとその声に呼ばれて、中からエプロン姿の好青年が出てきた。

 

「おはよう、曜ちゃん」

「おはよーございます、克兄ぃ。千歌ちゃんもう起きてる?」

 

 浦の星女学院に通う生徒、渡辺曜はこの「四つ角」を経営する高海一家の長男、高海克海にそう尋ねかけた。

 

「ああ。昨日の晩からやたらと張り切っててうるさいくらいだったよ、例のアレで」

「アレって……千歌ちゃん本気なんだ」

 

 例のアレ、というもので、克海が苦笑いを浮かべた。

 

「俺も功海も、こんな田舎じゃ無理だって言ったんだけどなぁ……。ああそうだ、悪いけど功海の奴を起こしてやってくれないか? 俺はモーニングコーヒーの用意があるから」

「功兄ぃを? ああ、功兄ぃ寝起き悪いから……」

「あいつ、大学春休みだからって毎日毎日昼まで寝ててな……。ほんとだらしなくて困る」

 

 疲れたようにため息を吐く克海に曜は苦笑しながらも、少し頬を赤らめながらピッと敬礼した。

 

「ヨーソロー! その任、謹んでお受け致します!」

「よろしく頼んだよ」

 

 克海に通されて「四つ角」に上がった曜は、二階の高海家の私生活スペースに向かい、「功海の部屋」と表記のある部屋の襖を思い切り開けた。

 

「おはよー功兄ぃ! さっさと起きろー!」

「ふがッ!?」

 

 部屋の中に入ると、ベッドの掛け布団を引っぺがして、寝ている青年をベッドから引っ張り出した。畳の上に落とされた青年は、頭をさすりながら起き上がる。

 

「いっつつつ……曜か。いきなり何すんだよ……」

「功兄ぃがねぼすけなのが悪いんだよ! また夜更かししたんでしょー?」

 

 大きくあくびする青年、高海一家の次男、高海功海にピッと指を立てる曜。功海は眠そうに頭をかきながら言い訳した。

 

「夜更かしじゃねーよ。ちょっとバイブス波の反射率を解析してただけ……」

「そーいうのを夜更かしっていうの。ほらさっさと顔洗ってきて。克兄ぃが下で待ってるよ!」

「おい押すなって。全くかわいくない奴だな」

「ちょっと~、幼馴染に向かってその言い草は何? もうお世話焼いてあげないよ! 功兄ぃったら昔から……」

 

 憎まれ口を叩く功海にむぅと頬を膨らませた曜だが、彼を部屋から追い出したところでポンと手を叩いた。

 

「そうそう千歌ちゃん! 千歌ちゃーん、起きてるー?」

 

 思い出した曜は別の部屋――「千歌の部屋」へ向かい、襖を開けた。

 その部屋の中央に立っていた、彼女と同じ浦の星の制服を着た女子高生が、クルリと回りながら曜に向き直った。

 

「あっ、おはよう曜ちゃん!」

「うん、おはよう千歌ちゃん!」

 

 高海一家の末の妹、高海千歌が、快活に曜に挨拶した。

 

 

 

 それから、功海は台所と一体となっている居間で、朝食を取りながらパソコンを広げて綾香市の地層を調べ出した。

 

「功海、そんなへんてこなもんはお客さんの前には出すなよ。お客さんの迷惑だから」

「はいはい、分かってますよ克兄ぃ」

 

 克海は功海の手元にある、クリスマスツリーのようなアンテナを見咎めながら注意した。

 その時に二階からドスンと大きな音がする。

 

「何の音?」

「また千歌だな。おーい千歌! 静かにしないと、お客さんの迷惑だぞー!」

「ごめんなさーい!」

 

 克海が呼びかけて注意すると、二階から千歌が謝った。

 

「全くウチの兄妹たちは……。もうちょっと旅館のこと考えてもらいたいよ。ただでさえ小原のホテルに客が流れてるってのに……」

 

 ぶつくさ文句を言う克海に功海が苦笑を浮かべる。

 

「そうカッカするなって克兄ぃ。接客業は笑顔が基本だろ? なぁしいたけ~」

「わんっ!」

 

 言いながら、功海は高海一家の飼い犬のしいたけの頭をなでくり回した。

 克海はため息を吐き出しながらぼやく。

 

「にしても千歌の奴、本気で始めるつもりなのか……。今までスクールアイドルなんて、ちっとも興味なかったってのに」

 

 功海がパソコンの画面を凝視しながら克海に相槌を打った。

 

「この前秋葉原行ってからすっかりハマッたみたいだなー、μ'sに」

「全く、伝説のスクールアイドルだか何だか知らないが、四年も前に解散したグループに何を夢中になってることやら……」

「まぁ何でもいいけどさ、千歌たちの奴、時間大丈夫なのか? もうバス来るぜ」

 

 八時十五分前の時計をあごでしゃくる功海。その言葉の直後に、千歌と曜が慌ただしく二階から駆け下りてきた。

 

「遅刻~!! 遅刻しちゃうよ千歌ちゃん! 早くぅっ!」

「ああちょっと曜ちゃん押さないでよ!」

「こら! こっちの玄関使うなって言ってるだろ!」

「「ごめんなさ~い!!」」

 

 克海のお叱りの声を受けながら、千歌と曜は旅館としての玄関から飛び出してバス停に到着しつつある浦の星女学院行きのバスへと走っていった。

 

「「行ってきまーすっ!!」」

 

 嵐のように去っていく千歌と曜に、克海は大きく肩をすくめて再三ため息を吐いた。

 

「何て落ち着きのない……。あんなんでスクールアイドルなんて出来るのか?」

「ま、なるようになるんじゃね?」

 

 無関心そうな功海に振り向いた克海は、ふと話題を切り替えた。

 

「そうだ功海。今日から隣の空き家、東京から引っ越してきたってご家族さんが入るから」

「あー、そうなんだ」

「お前もちゃんとご挨拶しろよ。お前はそういうこといつもいい加減に済ますからな」

「へーい」

 

 注意されても生返事の功海に肩をすくめる克海は、そのことについて話を続ける。

 

「それでそこの娘さんが、浦女に通うことになるんだって。もしかしたら千歌と同じクラスかもな」

「歳が同じならそーなるんじゃね? 確か浦女、すっかり生徒数が減少して一学年一クラスしかないんだろ?」

「まぁな。ダイヤちゃんが頭悩ませてるみたいだ。……浦女は大丈夫なのか? 俺たちの母校も、お前の代で廃校になったしなぁ……」

 

 一抹の寂しさと不安を覚えた克海だが、気分を切り替えるように首を振った。

 

「いかんいかん、仕事に集中だ。さッ、モーニングの準備準備。功海もたまには手伝えよ」

「へいへい」

 

 克海たちは雑談を終え、「四つ角」の運営のために朝の業務を始めていった。

 

 

 

 その日の晩、帰宅した千歌が居間でしいたけに後ろから抱き着きながら、深いため息を吐いた。

 

「はぁ~……どうしよっかなぁ」

「どうしたんだよ千歌。スクールアイドル部作ったんだろ?」

「もしかして、いきなり問題にぶつかったのか?」

 

 克海と功海が何事かと問いかけると、千歌はバッと起き上がって二人に飛びついてきた。

 

「克海お兄ちゃん! 功海お兄ちゃん! 聞いてよ~!!」

「うわッ!? ど、どうしたんだ一体……」

 

 戸惑う二人に千歌が、学校で起こったことを早口に説明した。

 

「何? 部の設立を許可してくれない? 生徒会長が?」

 

 千歌の説明を功海が端的に纏めた。

 本日、新一年生の入学式であった浦の星女学院で、千歌はスクールアイドル部の勧誘を行っていたそうだが、実はまだ部の申請もしていなかったので、生徒会長の黒澤ダイヤに咎められたという。その上、部員をそろえたとしてもスクールアイドル部の承認はしないと断言されてしまったのだそうだ。それで困っているという訳である。

 

「でもそれっておかしくね? よっぽどおかしな部とかじゃなけりゃ、ちゃんと手続き踏めば承認はされるもんだろ。それを生徒会長とはいえ絶対ダメなんて。職権濫用じゃん」

「そう言われても、何でなのかは私にも分かんないし……」

「克兄ぃからも、そのダイヤって子に何か言ってやんなよ。確か知り合いだったろ?」

「そうなの、克海お兄ちゃん!?」

 

 功海に話を振られ、千歌からも期待の眼差しを向けられるが、克海は妙な様子で目を泳がせた。

 

「いや……それはちょっと難しいな。ダイヤちゃんとも最近会ってないし……」

「そんな~……」

「まッ結局のところ、千歌はそのちゃんとした手続きも出来ねぇ段階なんだから、こんな話ししててもしょうがねぇんだけどな」

「うっ……それを言わないでよ~」

 

 言葉を詰まらせて落胆した千歌に、功海は冗談交じりに聞く。

 

「それで、あきらめんのかよ千歌? お前のやる気はその程度のもんだったのか?」

 

 すると千歌は奮起されて勢いよく立ち上がった。

 

「ううんっ! 私はあきらめない! あきらめちゃダメなんだから! あの人たちも歌ってたし!」

 

 千歌の決意を聞いた功海は苦笑いを浮かべた。

 

「その意気だぜ千歌! 何事もまずは気持ちからだ! 兄ちゃん応援してるからな」

「俺も、一応ダイヤちゃんに話をしとくよ。妹のためだもんな」

 

 功海と克海の言葉を受けた千歌は、感激して二人に抱き着いた。

 

「ありがとぉ~! お兄ちゃん、だーい好き!!」

「お、おいおいよせって。全く、いつもながら大袈裟な奴だな~」

 

 苦笑しながら千歌を引き離す功海。すっかり元気を取り戻した千歌はビッと天井を指差す。

 

「よーし! がんばるぞぉ千歌ー! 目指せ! 脱・普通怪獣っ!」

 

 千歌の決心の言葉に、克海はやれやれと肩をすくめた。

 

「何だよ、普通怪獣って。怪獣なんている訳ないだろ」

 

 

 

 千歌がスクールアイドル部の設立を目指し出した週の金曜日の晩。綾香のあるマンションの一室。

 

「感じます……聖霊結界の損害により、魔力構造が変化していくのが」

 

 津島善子という名前の女子高生が暗い部屋の中、カメラを前にしてネットの生中継を行っていた。

 

「世界の趨勢が、天界議決により、決していくのが……」

 

 ゴスロリの黒い天使のような衣装で、変に格好つけた台詞を読み上げる善子だったが、不意に部屋がズシン、ズシンと大きな連続する揺れに見舞われたので、何事かと顔を上げた。

 

「ちょっと何この揺れ。変な地震……」

 

 思わず素に戻り、黒地のカーテンを開けて外を確認する。

 その目が、綾香の街の狭間に立つ巨大な怪物の爛々と光る眼と合った。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――っ!!?」

 

 咆哮を発する怪物に、善子は大絶叫を上げた。

 

 

 

 土曜の早朝。

 

「へぇ……その転校生の子が、作曲できるのか」

「うん! これはもう運命だよっ!」

 

 千歌がスクールアイドル部設立を目指しての進捗状況を克海に話していた。

 ダイヤに部の設立承認を再び頼み込んだ千歌は、彼女から全スクールアイドルが目指す大会、ラブライブの出場のためにオリジナルの曲が必要となることから、作曲が出来る人材が必要だと説かれた。それで難儀していたところに、かのμ'sを生んだ音ノ木坂学院からの転校生が浦の星に来たのだという。それでその子をスクールアイドルに勧誘し出したそうだが、袖にされてばかりなのだそうだ。

 

「でもあきらめないっ! 私、絶対梨子ちゃんをスクールアイドル部に入れてみせるんだから!」

「まぁ、嫌がられない程度に頑張れよ」

 

 熱意に燃える千歌を克海は適当に応援した。その時に、

 

『24分テレビ、『愛染は地球を救う』! 社長の愛染正義さんにお話しを聞いてみましょう』

「あっ、愛染さんだ!」

 

 テレビ番組に綾香市に拠点を置く大企業アイゼンテック社の社長、愛染正義(まさよし)が出てきたので、千歌はテレビ画面に食いついた。

 

『愛と正義の伝道師、愛染正義です! 今日も我がアイゼンテック開発の新技術をご紹介しましょう!』

 

 筋肉の電気信号を解析、増幅する製品の紹介をする愛染の立ち振る舞いを観て、千歌は感心の吐息を漏らす。

 

「いつ見ても、愛染さんはすごいなー」

「そうか?」

「そうだよぉ! 克海お兄ちゃんだって知ってるでしょ? 綾香市はアイゼンテックのお陰で発展したんだって!」

 

 千歌は瞳を輝かせて愛染とアイゼンテックの解説をする。

 

「それにアイゼンテックはラブライブに出資もしてるし、アイドル専門校の運営だってやってる、スクールアイドルの味方なんだよ! お母さんアイゼンテックに勤めてるんだし、愛染さん紹介してくれないかな~」

「ならいっそのこと、その専門校とやらに転校してみたらどうだ? 部活の立ち上げもままならない現状よりいくらかマシだろ」

「それは違うよ克海お兄ちゃん! 私はこの内浦の、浦女でスクールアイドルやりたいの」

 

 千歌が反論している内に、愛染が番組の目玉である「本日の言葉」を発表する。

 

『本日の言葉は、『石橋にノンストップで行ってみましょ』です! 新しいことにチャレンジするのに怖気づいてはいけな~い! 思い切りが大事ですッ!』

「思い切りかぁ~……私も頑張らなくっちゃ!」

 

 愛染の言葉で千歌が一層張り切っていると、この場に功海が飛び込んできた。

 

「克兄ぃー! これ見てよッ!」

「どうした、騒がしいな」

「功海お兄ちゃん、どうしたの?」

 

 功海が差し出してきたタブレットの画面を覗き込む克海と千歌。

 画面は動画投稿サイトのページで、「綾香山で巨大生物を見た?」というタイトルの動画が流れていた。暗闇の中で、巨大な怪物のようなものが蠢いていた。

 

「これ、どう思うよ?」

「すっごい! 本物の怪獣!? しかも綾香山で!」

 

 千歌は興奮するが、克海は冷めた態度で一瞥するだけだった。

 

「だから、怪獣なんているもんか。こういうのはフェイク、CGか何かに決まってるさ」

 

 現実的な意見をする克海に対して、功海はノートパソコンを引き寄せて画面を見せつけた。

 

「じゃあ……このデータはどうだ!?」

 

 パソコンの画面は、功海の専攻の宇宙考古学で使用するバイブス波解析のものであり、サーモグラフィーで表現されている綾香の地図上で赤い光点が山から街に移動した。

 

「バイブス波の発生源が、山中から街中に移動してる! 綾香山には、絶対何かいんだよ!」

 

 功海が主張していると、千歌が何かを思い出して古い絵本を引っ張り出してきた。

 

「それって、もしかしてグルジオ様じゃないかな?」

「グルジオ様ぁ?」

「お兄ちゃんたちが昔読んでくれた、これ! 綾香山には、グルジオ様がいるんだよ!」

 

 絵本の表紙には赤い怪物が描かれている。が、千歌が力説しても克海は呆れていた。

 

「そんなのはお伽話だって」

「お伽話じゃねーって! 綾香市っていう街の名前になってるくらい歴史的な事実じゃん!」

 

 功海は千歌の説を支持する。

 

「妖奇星は今じゃ隕石ってことになってるけど、俺にはただの隕石とは思えねぇ。地磁気の異常はそれだけじゃ説明がつかないからな……」

「功海お兄ちゃんの言ってることはよく分かんないけど、千歌もそう思うよ!」

「だろ!? よし、じゃあ俺たちで調査しようぜ! これは大発見だぞ~!」

「おぉー! 曜ちゃんも誘おーっと!」

 

 功海と千歌はすっかり乗り気になって「四つ角」を飛び出していく。

 

「お、おいおい……! あいつら本気かよ……」

 

 克海はすっかりと呆れ返りながらも、二人を放っておけずに追いかけることにした。

 

 

 

 綾香山のふもとにある、アイゼンテック社の作った自然公園に高海兄妹と、千歌に誘われた曜が到着した。

 

「よーし、早速やるぜ! 曜、ついてこい!」

「ヨーソロー! グルジオ様探しなんて面白そ~!」

 

 既に興奮気味の功海は曜を連れて、バイブス波感知機を手に公園内を駆け出していった。その背中を見つめながら、千歌が克海に呼びかける。

 

「ねぇ克海お兄ちゃん、小さい頃はよくここにピクニックしに来たよね」

「ああ、そうだな」

 

 相槌を打った克海が当時のことを思い返す。

 

「懐かしいな……。最初にみんなで来たのは、千歌が六歳の頃だったっけか。曜ちゃんと果南ちゃんも一緒で……」

「え? もっと昔から来てなかった?」

「ん? そうだったか? まぁあんまり前のことは記憶が曖昧だしな……」

 

 克海が腕を組んでよく思い出そうとしたが、そこに功海が戻ってきた。

 

「おーい克兄ぃ! このデータ見てくれ!」

 

 功海が興奮気味にバイブス波感知機の画面を見せつけてきた。

 

「プラズマイオンとバイブス波の値を見ろよ! すげーだろ!」

「ああ……お前の言ってることはさっぱり分からん。……おいどこ行くんだよ!?」

 

 話についていけていない克海を置いて、功海がどこかへ走っていく。

 

「こっちの方が線量高けーんだよ! ほら克兄ぃこっちだって!」

「全く、ほんと騒がしい奴だな……」

 

 呆れながらも功海についていく克海の後ろで、曜が千歌につぶやきかけた。

 

「相変わらず、功兄ぃの言うことは難しいね」

「うん。だけど功海お兄ちゃん、楽しそう。ああいう顔の功海お兄ちゃん、私大好きだよ!」

 

 とのたまう千歌に、曜は苦笑を浮かべる。

 

「千歌ちゃんも相変わらず克兄ぃたち大好きなんだねー。何かにつけて大好きって言うし。何でそんなにお兄ちゃん好きなの?」

 

 曜は軽い問いかけのつもりだったが、千歌は妙に真剣に首をひねった。

 

「さぁ、何でなんだろ? 自分でもよく分かんないや。昔からそうだったの……」

 

 と話しながら兄たちを追いかけようとした千歌だったが、視界の端に知った顔が見えたので、そちらに気を取られた。

 

「あっ……梨子ちゃん!」

「えっ……!? 何でここにいるの……?」

 

 音ノ木坂からの転校生、桜内梨子は千歌の顔を見止め、思わず身震いした。千歌はそちらの方に駆け寄っていく。

 

「ちょっとお兄ちゃんたちとピクニックに来ててね! 梨子ちゃんも?」

「私は、不思議な伝説のある綾香山の音からインスピレーションを得られないかって思って……」

「そうだったんだぁ。奇遇だね! あっ、秋月先生も来てたんですか……」

 

 浦の星の知り合いと話し込む千歌と功海たちの方を少し困ったように見比べた曜だが、軽く苦笑いしてから千歌の方へと歩み寄っていった。

 

 

 

 バイブス波の値を確かめながら公園を散策する功海は、熱中するあまりに立ち入り禁止の区域に入っていこうとした。

 

「こっちが一番反応が強い!」

「おい! こっちは駄目だって書いてあるだろ! アイゼンテックの研究所だ」

 

 慌てて止める克海だが、功海に反省の色はなかった。

 

「でもほら、この数値見てよ!」

 

 画面上の地図では、研究所のある地点が赤く染まっていた。

 

「普通の数値じゃねぇ! 絶対あそこに何かいる……」

 

 功海が言いかけた、その時――。

 研究所がいきなり崩壊し、その下から真っ赤な巨大生物が出現した!

 

「「うわぁッ!?」」

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 怪物は赤く染め上げられた、恐竜の骨格のような容貌であった。そして克海には、その姿に見覚えがあった。

 

「グルジオ様……?」

 

 怪物は、絵本に描かれていたグルジオ様によく似た姿をしているのであった――。

 



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青空総進撃Heart(B)

 

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 研究所の残骸を蹴散らして、公園に踏み出そうとする骨格型の巨大怪生物――グルジオボーンの姿に戦慄を覚える克海。

 

「まさか、グルジオ様が本当にいたなんて……!」

 

 震える克海とは対照的に、功海はグルジオボーンに目を輝かせている。

 

「追いかけよう克兄ぃ!」

「何言ってんだ逃げなきゃ!」

 

 動き出したグルジオボーンの方へ走っていこうとする功海の袖を克海は慌てて引っ張って止めた。しかし功海は聞こうとしない。

 

「こんな機会二度とないってば! 俺は誇り高き科学者だ、逃げる訳ねぇだろ!」

 

 と豪語してグルジオボーンへ向かっていこうとするが……。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 けたたましく吼え立てるグルジオボーンの厳つい顔を目の当たりにして、立ち止まった。

 

「やっぱ……逃げよ」

 

 意見も身体の向きも180度翻して、克海とともに脱兎の如く逃げ出す。

 

「お前って奴はぁぁぁッ!」

「命あっての物種だって!」

「おい、急げ! 速く!」

 

 追ってくるグルジオボーンから死に物狂いで逃げる克海と功海。と、その途中で功海が路肩に設置されてあるレンタル自転車に目を留めた。

 

「自転車、お貸しします……」

 

 功海はすぐに自転車にまたがり、克海を追い抜いていく。

 

「克兄ぃ早くッ!」

「あッ! あいつ自分だけ!」

 

 功海と克海は公園手前の陸橋にまで差し掛かったが、グルジオボーンはここまで追ってくる。

 

「おい功海ちょっと待て!」

「克兄ぃ盗塁得意だったろ!」

「そういう問題じゃないだろ!」

「つべこべ言ってっと追いつかれるぞ!」

 

 懸命に逃げる二人だが、グルジオボーンは口内に真っ赤な火炎を溜めると、一気に吐き出して攻撃してきた!

 

「うわぁッ!? いってぇ……!」

 

 火炎放射による爆発で、功海は自転車から放り出された。

 

「功海! 大丈夫か!?」

 

 克海が慌てて駆け寄って助け起こすが、その間にもグルジオボーンは迫ってきている。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

「ほら立て! 早く!」

 

 功海を抱えるようにして、二人で遁走し出した。

 グルジオボーンは火炎を振りまいて辺りをどんどん焼き尽くしていく。その威容と破壊力は、公園にいる人たちの目にも映り出した。

 

「お兄ちゃんたち、どこまで行ったんだろ……って」

「あ、あれ!! グルジオ様!?」

 

 千歌たちも公園に接近してくるグルジオボーンを見上げて仰天。周りの人々は、混乱に陥りながらも命の危険を感じて散り散りに逃げ惑い出した。

 

「う、嘘……!? あれって伝説に出てくる!?」

「私たち、夢でも見てるの~!?」

「お兄ちゃん……!」

 

 思わず兄たちを捜そうとする千歌の腕を、曜が反射的に掴んだ。

 

「だ、駄目だよ千歌ちゃん! 危ないよ! 早く逃げないと!」

「う、うん……!」

「秋月先生も早く! 立ち止まってないで!」

 

 千歌たちが逃げ出すのと同じように、克海と功海も公園の人々に混じってグルジオボーンから逃げている。

 

「だから言っただろ! 大体お前は……!」

「説教は後! 追いつかれるぞ!」

「大体こうなったのは誰のせいだ!」

「あーそれ言っちゃう!?」

 

 口喧嘩しながら必死に逃げ回る克海たちであったが、その時、

 

「あっ……!?」

「梨子ちゃん!」

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 梨子の足がもつれて転倒。咄嗟に立ち止まる千歌と曜だが、梨子の方にグルジオボーンが迫り来る。

 

「きゃあああああっ!!」

「ッ!」

 

 梨子の悲鳴で足を止めた克海に功海が振り返る。

 

「克兄ぃ! まさか……!」

「功海、お前は奴の注意を引け! その間に俺が行く!」

「いやいや無茶だよ克兄ぃー!」

 

 功海の制止も聞かずに梨子を助けに駆け出す克海。功海はやむなく地面に転がっている石をグルジオボーンに向かって投げながら大声で叫んだ。

 

「グルジオー! でっけー面、してんじゃねーぞ!」

 

 功海の声に気を取られたグルジオボーンは、注意が梨子からそれた。その隙に克海が梨子に駆け寄って彼女を抱え上げる。

 

「大丈夫か?」

「は、はい……!?」

 

 突然抱えられた梨子は思わず赤面。克海はそのまま彼女を連れて、千歌と曜の元へ走っていった。

 

「克海お兄ちゃん!」

「克兄ぃ!」

「この子を頼む」

 

 二人に梨子を預ける克海。だがその一方で、梨子の代わりにグルジオボーンに追われる身となった功海が震動によって転倒した。

 

「おわぁぁッ!」

「あっ!? 功兄ぃが!」

「功海ッ!!」

「克海お兄ちゃん!?」

 

 克海は、今度は功海へと走っていく。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

「まずい……!」

 

 グルジオボーンはもう功海に間近。そこへ、功海へ手を伸ばしながらダッシュしていく克海。

 

「功海ぃ―――――!!」

「克兄ぃ―――――!!」

 

 互いに手を伸ばし合う克海と功海だが、そこにグルジオボーンが火炎を吐き出す!

 

「ギュオオォォ――――ン!」

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!」

 

 二人の兄弟は、一瞬にして灼熱の業火の中に呑まれてしまった。

 

「功兄ぃ!! 克兄ぃ!!」

「お兄ちゃん!! いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 最悪の事態を目の当たりにして、千歌が絶叫を発した。

 だがその瞬間! 太陽が激しく輝いた!

 

「きゃあっ!?」

「な、何!? この光っ!」

 

 まばゆい光を浴びた千歌たちが反射的に顔を背けた。それでもどうにか目を開けると……彼女たちの前に、晴れ渡った青空から二人の巨人が振ってきた!

 

「えっ!?」

 

 仰天する千歌たちの視線の先で、二人の巨人が土砂を巻き上げながら豪快に着地。赤い二本角の巨人と、青い一本角の巨人がゆっくりと立ち上がる様子に、千歌たちは呆然としてしまった。

 

「……き、巨人さん……?」

「何なの、あれ……」

 

 開いた口がふさがらない曜と梨子の前で、千歌はまじまじと二人の巨人の威容を見上げた――。

 ――この突然、どこからともなく現れた二人の巨人は、現場に居合わせていた人や緊急生中継を見ていた人の目にもしっかりと焼きつけられる。

 

「花丸ちゃん、あれ見て! すっごいよぉ……」

「はぇ~……おったまげたずら……」

 

 避難民に混じっている二人の少女、黒澤ルビィと国木田花丸は唖然とし、

 

「ど、どうなってるの~!? まさか、私の普段の妄想が現実のものになっちゃったとか!?」

 

 顔をマスクで隠して外を出歩いていた津島善子は勝手にそんなことを口走って、

 

「わたくし、夢でも見てるのかしら……?」

 

 生中継を見ていた黒澤ダイヤは現実を疑い、

 

「巨人って……グルジオ様と関係があるの……?」

 

 同じように生中継を見ていた松浦果南は首をひねり、

 

「ワーオ! アンビリーバボー! とってもファンタスティックねー!」

 

 自家用のヘリで現場を見下ろしていた小原鞠莉はすっかり興奮気味になっていた。

 様々な人たちの注目を一身に浴びた二人の巨人は――。

 

「――何やってるの? あれ……」

 

 何故かその場で自分の身体をベタベタ触ったり、近くの車をつまみ上げたりしていた。

 巨人たちの奇行に曜は目が丸くなっていた。

 

「車が珍しいのかな……?」

 

 

 

 曜がそんな風に感じていたが、実際は違う。何を隠そう、この巨人二人の正体は――あろうことか、克海と功海なのであった。

 グルジオボーンの放った火炎に呑み込まれてしまったかと思われた二人だが、気がついた時には二人とも謎の白い光の空間を漂っていた。

 

「どこだここは……?」

「何だ? どうなってんだよ?」

 

 助かったことよりも、不可思議な空間が自分たちの周りに広がっていることに克海と功海は驚いていた。

 そんな二人の視界を、突然の閃光が塗り潰す。

 

「「うわッ!?」」

 

 一瞬顔を背けた克海たちだが、光が収まると、自分たちの目の前に謎のアイテムが出現していた。

 左右に取っ手がついてある円形の機械のようなものが二つ。手帳型のケース。そしてそれらのくぼみにちょうど収まる大きさの、メダルのような丸いクリスタル。それぞれ「火」「水」と書かれていて、一緒に赤と銀色の超人の絵が刻み込まれている。

 

「何これ……?」

「分からん……」

 

 見たこともない道具の数々に唖然とする功海と克海。すると、計五つのアイテムがまばゆい光を放った。

 

「「うッ!?」」

 

 それとともに、兄弟の脳裏にあるイメージが強く浮かび上がった。

 何かが隕石のように地球上に落下し、大地に巨大なクレーターを作り上げる。そのクレーターの中でグルジオボーンが咆哮し、面と向かう二人の巨人が崩れ落ち、無数のクリスタルとなって弾け飛ぶ……。

 

「ウルトラマン、ロッソ……」

「ウルトラマン……ブル……」

 

 克海と功海は無意識の内に、そんな名前を呼んでいた。そしてその名前が、二本角と一本角の巨人のものだということを直感で理解する。

 そこまでで兄弟の意識が元の空間に帰ってきた。

 

「見た? 克兄ぃ……」

「ああ……。もしかして、俺たちにこれを使えということか?」

 

 二人は強烈なイメージによって、目の前のジャイロの使い方を脳裏に刷り込まれていた。

 

「じゃあ、一、二の三で行こう」

 

 そう決めると、兄弟二人で合図を唱える。

 

「一……」

「二……」

「「三! 俺色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 口から突いて出た決め台詞とともに、二人同時にジャイロに手を伸ばした!

 まずは克海がクリスタルホルダーを開き、その中から横に二本の角が生えた超人の「火」のクリスタルを取り出した。

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 クリスタルを胸の前に持っていくと、指で弾いて赤い二本角を伸ばし、ジャイロの中心にセットした。

 

[ウルトラマンタロウ!]

 

 克海の背後にクリスタルの絵柄の超人のビジョンが現れ、炎が弾ける。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

 

 呪文を唱えながら克海はジャイロの左右のレバーを引っ張っていく。一回引くごとにエネルギーがジャイロに充填されていき、三回目でジャイロから渦巻き状にエネルギーがあふれ出た。

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

「うおぉぉーッ!」

 

 克海の身体を猛々しい火柱が包み、赤い巨人へと変身して右手を振り上げ飛び出していく!

 功海はクリスタルホルダーから「水」のクリスタルを取り出した。

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 功海の方はクリスタルから青い一本角が出てきて、それをジャイロに嵌め込む。

 

[ウルトラマンギンガ!]

 

 功海の背後に、身体の各所に水晶を持つ超人のビジョンが現れて水の波動に変わった。

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」

 

 克海と同じように、呪文とともにジャイロのレバーを引く功海。一回、二回とジャイロにエネルギーが集められ、三回目で解放される。

 

[ウルトラマンブル! アクア!!]

「はあぁぁーッ!」

 

 功海の身体は水柱に包まれ、青い巨人となって左手を振り上げて飛び出していった!

 こうして克海と功海の兄弟は神秘の巨人戦士、ウルトラマンロッソとウルトラマンブルに変身して大地に降り立ったのである。

 

 

 

『マジか! 俺たちすげーことになってんぞ!』

『一体どうなってんだ……!?』

 

 巨人となった自分たちの変化に自分たちで驚いていた功海と克海だが、グルジオボーンはロッソとブルを目の当たりにすると、すかさず駆け出して二人に襲いかかってきた!

 

「ギュオオォォ――――ン!」

『どうする功海!?』

『おっしゃ! 行くぜぇぇッ!』

『おぉいちょっと待てって!』

 

 迫り来るグルジオボーンを警戒した克海と対照的に、お調子者の功海は元気はつらつにグルジオボーンを迎え撃ちに行った。

 

『ジャンピングキック!』

 

 飛び蹴りをかまして攻撃しようとしたブルだが、勢いだけのキックは外れ。おまけにブルはグルジオボーンを見失ってしまう。

 

『あれ? あれ?』

「ギュオオォォ――――ン!」

『うわぁぁ――――!?』

 

 キョロキョロしている内に背後から掴みかかられ、投げ捨てられた。

 

『おおおおい!?』

 

 動揺したロッソは正面にブルを食らい、二人もつれ合って倒れ込んだ。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 ブルを投げ飛ばしたグルジオボーンは怪しく目を光らせ、高速で接近してくる!

 

『来るぞ!』

 

 ブルの頭をどかしたロッソは咄嗟に指をグルジオボーンに向けた。その指先から、小さな火球が飛んだ!

 

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 火球を食らったグルジオボーンが急停止する。その一方で、火を出したロッソは驚いて自分の手を見つめた。

 

『克兄ぃ、今のどうやったんだ!?』

『分からん……何か、ピュッて出た』

『よっしゃあ! じゃ、俺も!』

 

 手から何か出ることを知ったブルは、ロッソをはねのけて意気揚々と起き上がると二本指をグルジオボーンに向ける。

 

『はッ!』

 

 ブルの指からは、高圧の水流が発射された! 水流はグルジオボーンの足元を攻撃し、その周りの木々がへし折れるほどの威力を見せた。

 

『すげー! 見た?』

 

 自身の出した水流をロッソに自慢するブル。だがその背後で、グルジオボーンがいよいよ怒り出した。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

『! どけ!』

『あうッ!?』

 

 猛然と迫ってきたグルジオボーンに気づいたロッソはブルを無理矢理どかし、自身の身体で受け止めた。だが転がったブルが起き上がった時には、いなされて倒れ込んでしまう。

 

『うおぉぉッ!』

『このヤロー!』

 

 ロッソに代わってブルが飛びかかるものの、振り回したグルジオボーンの尻尾がロッソに当たった。

 

『ぐはッ!?』

 

 脇に食らったロッソがもんどりうったが、先ほどブルが折った木を拾い上げて武器とする。そしてブルを振り払ったグルジオボーンに後ろからバットの要領で殴りつけた。

 

『んんん! うりゃあッ!』

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 しかしまるで効果がない。グルジオボーンが牙を剥いて噛みついてくるので、咄嗟に木を盾にした。

 

『うおぉッ!』

 

 木で牙を止めたが、ロッソはそのまま振り回される。そこにブルが回し蹴りを仕掛けるが、

 

『でやッ!』

『うわぁッ!?』

 

 タイミング悪く、ロッソに当たってしまった。ロッソが倒れるが衝撃でグルジオボーンも転倒。

 

『大丈夫?』

『いってぇ~……お前蹴るなよ!』

 

 ブルに助け起こされるロッソ。だがそこにグルジオボーンの尻尾が飛んできて、二人纏めて殴り倒された。

 

『『うわぁぁ―――!!』』

 

 更にグルジオボーンが火炎を吐いてくる! 爆炎に襲われるロッソとブル!

 

『『うわああああぁぁぁぁぁぁッ!!』』

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 グルジオボーンの猛攻に追い詰められ、二人は肩で息をする。

 

『どうしよう、克兄ぃ!』

『歯が立たない……!』

 

 焦るロッソとブル。戦いなど全く無縁の生活をしていた二人では、怪獣を相手にどう戦えば良いのかまるで分からないのだ。

 

『やべぇじゃん! このままだとやられちゃうよ!』

『そんなこと言ったってどうすりゃいいんだ!』

 

 何とか打開策を考えるブル。すると、自分とロッソの能力の性質の違いに着目した。

 

『そうだ! 克兄ぃ、俺とクリスタルを交換してくれ!』

『何言ってんだそんなこと出来るのか!?』

『克兄ぃと俺とじゃ、光線の形が違う。ちょっと試したいことがあるんだ!』

『でも……!』

『はーやーく!』

 

 ブルに急かされ、ロッソはしぶしぶ承諾。

 

『ったく、しょうがないな!』

 

 二人は今使用しているクリスタルを互いに送り合う。そうしてクリスタルに一本角と二本角を出し、ジャイロにセットし直した。

 

『纏うは火! 紅蓮の炎!!』

[ウルトラマンブル! フレイム!!]

『纏うは水! 紺碧の海!!』

[ウルトラマンロッソ! アクア!!]

 

 エネルギーをチャージして変身すると、ブルとロッソの体色が入れ替わって腕を振り上げた状態で立ち上がった。

 ウルトラマンと怪獣の戦いを恐る恐るながめていた千歌たちは、このことに驚愕した。

 

「色が変わった!」

 

 クリスタルを交換して形態を入れ替えたロッソとブルは、改めてグルジオボーンに挑んでいく。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

『おぉッ!』

 

 グルジオボーンが吐き出した火炎を、ロッソが水の盾で防御。火炎が消えたところで肉薄し、肉弾を叩き込む。

 

『よぉーし俺もッ! はッ!』

 

 勇んだブルが両手から火炎弾を連続発射! ――だがグルジオボーンに接近していたロッソも被弾する。

 

『うおおおおおおおッ!? あッ、熱ちぃッ! 熱ちッ!』

 

 まさかの誤射を食らってあたふたしたロッソは、ブルに食ってかかりに行った。

 

『やばいだろ! 周り確認して撃てよ!』

『やっぱ交換すると違う火が出るんだ! かっけー!』

 

 しかしブルはさっぱり相手をしなかった。

 

『聞いちゃいないなこいつ……なぁ?』

 

 がっくりしたロッソが同意を求めたが……振り返った先には、グルジオボーンの顔が間近にあった。

 

『『あ』』

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 グルジオボーンが腕を振り回して襲い掛かってきたのを、すんでのところでかわすロッソたちであった。

 だがグルジオボーンの起こす地響きが千歌たちを巻き込み、三人が悲鳴を発する。

 

「いやああぁぁぁぁぁっ!」

 

 その声に気づいたロッソとブルはハッと意識が切り替わった。

 

『『千歌!!』』

 

 それと同時に二人の雰囲気が変わり、真剣にグルジオボーンを迎え撃とうと構える。

 

『遊んでる場合じゃないな、功海!』

『ああ! これ以上千歌たちに怖い思いはさせられねぇぜ!』

 

 ロッソとブルの調子がガラリと変わり、二人交互による連続攻撃をグルジオボーンにぶち込み出した。

 

『『はぁッ!!』』

 

 兄弟のダブルキックがグルジオボーンに入った。形勢逆転したかに見えたロッソたちだが、その時に胸の中心にある発光器官が赤くなって点滅し出し、同時にロッソたちも焦りを見せた。

 

『やばい、克兄ぃ……何か、急に胸がドキドキしてきた……』

『俺もだ……。もう時間を掛けてらんない感じだな……!』

 

 アイコンタクトを取った二人はいよいよ意を決し、全力でグルジオボーンにぶつかっていった。

 

『『はぁぁッ!』』

 

 ロッソがグルジオボーンの上体を抑えている間にブルが足をすくい上げ、ロッソが押すことで転倒させることに成功した。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

『『せぇのッ!』』

 

 すかさず尻尾を捕らえ、二人がかりでグルジオボーンを振り回す! そして放り投げて地面に叩きつけると、ブルがロッソへ呼びかけた。

 

『克兄ぃ! 怪獣を水のバリアで覆ってくれ!』

『分かった!』

 

 ロッソが水の塊を作り出すと、アンダースローで投擲する。

 

『からのー! 熱線ッ!』

 

 ロッソの水球を追いかける形で熱線を発射するブル。グルジオボーンを包み込んだ水のバリアが熱せられ、水蒸気爆発によってグルジオボーンを空高く弾き飛ばした!

 

「ギュオオォォ――――ン!」

『『セレクト!』』

 

 グルジオボーンが落下してくるまでに、ロッソとブルは元の形態に戻って最後の攻撃の構えを取る。ロッソが巨大な火球を作り出し、両腕を十字に組む。ブルは腕に水を溜めてL字に組んだ。

 

『フレイムスフィアシュート!』

『アクアストリューム!』

 

 落ちてきたグルジオボーンが、二人の渾身の一撃の直撃を受ける!

 

「ギュオオォォ――――ン!!」

 

 そして頭から地面に落下したと同時に、大爆発! グルジオボーンの撃破を確認した二人は思わず安堵の吐息を漏らした。

 

『やった……!』

『やったぞ!』

 

 怪獣に勝利したロッソとブルは、拳を上下に打ち合わせて手の平を叩き合った。

 

『決まったね、俺たち……!』

 

 喜びに震えるブルだが、直後にその身体が薄れて消えていく。

 

『お、おい!? しっかりしろ功海!』

 

 動揺したロッソの身体も透き通っていき、脱力しながら消えていった。

 

『あぁ~……』

 

 

 

 ――グルジオボーンの消滅と同時に、何者かの手が降ってきたクリスタルをキャッチした。

 そのクリスタルには、「魔」の一文字とグルジオボーンの姿が刻み込まれていた……。

 

 

 

 突然公園を襲った怪獣が謎の二人組の巨人に倒され、巨人もすぐに消え去ったことで、人々は徐々に落ち着きを取り戻していった。そして千歌と曜は、巨人の出現前後から安否の分からない克海と功海を捜して駆け回っていた。

 

「お兄ちゃんたち、無事なの……? どこ行ったんだろう……」

「あっ、千歌ちゃん! あそこ!」

 

 曜が指差した先に、仰向けで折り重なって失神している克海と功海の姿があった。

 

「克海お兄ちゃん! 功海お兄ちゃん!」

 

 すぐ駆け寄った千歌と曜が克海たちに呼びかけて目覚めさせようとする。

 

「克兄ぃ、功兄ぃ、しっかりして!」

「う、うーん……」

 

 二人は曜たちの声によって覚醒し、おもむろに身体を起こした。

 

「千歌、曜……」

「二人とも、大丈夫だったか?」

「それはこっちの台詞だよっ!」

「お兄ちゃんたち、怪我はないの? 何か怪獣の他に巨人さんが二人も出てきて大変だったんだよ!」

 

 克海たちに外傷が見られないので安心した千歌と曜は微笑を見せる。

 

「すっごい疲れちゃったよ。千歌ちゃん、今日はもう帰ろうよ」

「うん。お兄ちゃんたち、ちゃんと歩ける? 梨子ちゃんはもう帰っちゃったのかな……」

 

 千歌が気にした梨子は、遠巻きに彼女と向かい合っている克海を見つめていた。

 

「あの人……あの子のお兄さんなんだ……」

 

 曜は功海の手を取って引っ張り出す。

 

「ほらほら功兄ぃ。また何か起こるかもしれないし、幼馴染をエスコートしてよね!」

「おい引っ張んなって! もうクタクタなんだよ……。腹も減ったしな~」

「あっ、ミカンならあるよ!」

 

 先を行く千歌たちの後ろについていきながら、克海が心中で独白した。

 

(何だか俺たち、大変なことになってしまったみたいだ。これからどうなっちゃうんだろう……。けどまぁ、なるようにしかならないか)

 

 考えるほど不安が沸き上がるが、楽しげに戯れる功海、千歌、曜の後ろ姿を見ていると、気持ちが和らぐ克海であった。

 

(とりあえず、俺たち――ウルトラマンはじめました)

 

 

 

『高海兄妹のウルトラソングナビ!』

 

千歌「千歌だよ! 今回紹介するのは『帰ってきたウルトラマン』主題歌だ!」

千歌「この歌を歌ったのはみすず児童合唱団と、主演俳優の団次朗さん! ウルトラシリーズで初めてドラマの主演俳優さんがオープニングテーマを歌唱したんだよ!」

千歌「歌詞もとても特徴的で、ウルトラマンが登場して怪獣と戦って、勝負に勝つという番組の基本的な流れを踏襲したものになってるの! だからオープニングの一番だけじゃ、歌の本当の意味は分からないってことになるのかな」

千歌「ちなみに主題歌の候補に最後まで残った『戦え!ウルトラマン』という曲もあるの。録音もされてるから、機会があれば聴いてみてね」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『青空Jumping Heart』だ!」

功海「アニメ第一期のオープニングテーマだな! アニメ版を代表する曲で、第二期でもある場面で印象的な使われ方をしたぜ!」

克海「Aqours全員によるユニット曲。アニメの始まりには最適だな!」

千歌「それじゃ、また次回っ!」

 




克海「突然ウルトラマンの力を得てしまった俺たち……。そんな重い責任を背負えるのか?」
功海「考えすぎだぜ克兄ぃ。怪獣がまた千歌たちを襲うんだ。俺たちが助けなきゃ!」
功海「次回、『兄弟Hand in Hand』!」
克海&功海「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」


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兄弟Hand in Hand(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

曜「春、巨大生物の目撃情報を知った功兄ぃたちと私は、綾香山に探しに行った。すると私たちの前に本物のグルジオが出現! 公園は一気に大パニックになった。功兄ぃと克兄ぃは梨子ちゃんを助ける代わりに、怪獣の攻撃に見舞われた……。その時! 見たことのない二人の巨人が現れ、グルジオをやっつけた!」

 

 

 

 AM4:20。克海と功海の兄弟はこっそりと「四つ角」を脱け出し、人のいない深い山の中にまで来ていた。

 

「よし。克兄ぃ、準備はいい?」

 

 功海が近くに時計をセットすると、二人は自分たちの身体をほぐし始めた。

 

「功海、あんま無茶すんなよ。俺たちの力を確かめるだけだからな」

「分かってるって!」

 

 軽いやり取りの後、克海と功海は拳を打ち合わせてからの手と手のスパンキングの兄弟の合図を取る。準備が完了すると、神秘のアイテム・ルーブジャイロを構えて同時に叫んだ。

 

「「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 二人はこれから、自分たちが手に入れた超常の力、ウルトラマンの力を確認しようとしているのだった。

 

 

 

『兄弟Hand in Hand』

 

 

 

 日が昇ってから、「四つ角」に帰ってきた克海と功海は机を囲みながら、ノートにウルトラマンについて判明したことを纏めていた。

 

「大体こんなところか……」

「もっと他にも試したかったんだけどなぁ~」

 

 功海が大きくあくびをしながらぼやいた。

 二度目の変身で分かったことは、最大で約50メートルの身長にまで巨大化できるということ、ただ大きくなるだけでなく身体能力も超人級に向上すること、原理は不明だが空を自由自在に飛べること、精神を集中することで山を砕くほどの威力がある光線を出せるということ……後、一番重要な部分だが、一度に変身していられる時間はおよそ三分程度であり、一度変身するとしばらく間を置かなければいけないようであるということだ。功海は再三の変身を試みていたが、結局戻らなければならない時間までに再変身が出来るようにはならなかった。

 

「変身の限界が近づくと、胸の光ってるのが青から赤に変わって報せるって訳か……」

「色が変わって点滅して、時間を示す……さしずめカラータイマーってとこかな」

 

 二人のウルトラマンの姿に共通して存在する、胸部の発光体について触れていると、克海と功海の背後から浦女の制服に着替えた千歌がやってきた。

 

「お兄ちゃんたち、何やってるの?」

「「千歌!?」」

 

 驚いた二人は振り返りながら、咄嗟にノートを後ろ手に隠した。

 

「あれ? 今何か後ろに隠さなかった?」

「い、いや、何もないぞ?」

「ほんとに~? 何だが怪しいなぁ……」

 

 千歌に詰め寄られて冷や汗を垂らす克海。が、千歌の注意は彼からつけっぱなしのテレビの画面に移った。

 

「あっ、こないだの事件やってる」

「何!?」

 

 テレビの方に振り向く克海と功海。テレビにはアイゼンテックの番組の生中継が流れていた。

 

『先日、アイゼンワンダーランドに現れた、三体の巨大生物。その正体を巡っては、様々な憶測が飛び交ってます』

「この時はほんと大変だったよね。ねぇお兄ちゃん……」

 

 同意を求めた千歌だが、克海と功海はテレビに集中していて聞いていなかった。

 

「お兄ちゃん……?」

『本日は、アイゼンテック社社長、愛染正義氏にお話しを伺います』

『きゃ~! 理事長~!』

 

 現場のアイゼンワンダーランドで、アイゼンテック経営の芸能女子高の生徒たちの黄色い声を浴びている愛染にリポーターがマイクを向けた。

 

『この度は大変でしたね……』

『愛と正義の伝道師、愛染正義です!』

 

 愛染はリポーターの言葉をさえぎるように名乗り、自身のトレードマークであるハートを手で作った。そして巨大生物――ウルトラマンとグルジオボーンについて言及する。

 

『巨大生物と言っても、知性を感じる人間型の二体と、凶暴な野獣型の一体は別種でしょうね』

『と、言いますと?』

『凶暴な一体を、私は「怪獣」と呼びます。そして、人間型の二体を、私は……!』

 

 話の途中で愛染は言葉を切り、もったいぶってから堂々と発言しようとする。

 

『ウル……!』

『ありがとうございましたー!』

 

 しかし今度は自分が台詞をさえぎられてしまった。

 

『綾香市に突如現れた、三体の凶暴な巨大生物。今もなお不安に包まれる現場からお送りしました……』

「……凶暴な巨大生物か……」

 

 番組が終わると、克海がリポーターの発言を復唱し、功海は憮然とした顔となっていた。

 

 

 

「またね。バイバイ!」

 

 アイゼンワンダーランドでは、愛染がリポーターに挨拶してから生徒たちの方へ向かっていった。

 

「みんなお待たせ~!」

「理事長~!!」

 

 大勢の生徒たちはこぞって愛染を取り囲む。

 

「ハッハッ、みんな元気いいね~! その調子でラブライブ目指して頑張ろう! 愛と正義の伝道師、愛染正義です!」

 

 生徒の一人一人と手を合わせてハートマークを作っていく愛染。だが人だかりがリポーターとぶつかり、彼女が転倒しそうになる。

 

「あっ!」

 

 その瞬間、ボーイッシュな生徒の一人が颯爽と飛び出して、リポーターを優しく受け止めた。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとう……!」

 

 ボーイッシュな生徒の凛々しい笑顔に、リポーターは思わず赤面した。彼女の活躍に気づいた他の生徒たちの間からもため息が漏れる。

 

「かっこいい……!」

「流石王子様ねぇ……」

「おおッ!」

 

 更に愛染がボーイッシュな生徒に、拍手しながら駆け寄った。

 

「素晴らしい~! 君、いいもの持ってるねぇ! よし、新設の特待生コースに入れてあげよう!」

「えっ……!?」

 

 いきなりの話に面食らう生徒の両肩に手を置いて、愛染が宣言した。

 

「君の力、お借りしますッ!!」

 

 

 

 その日の夕方。

 

「たっだいま~!」

「ああ、お帰り千歌……」

 

 元気よく帰宅した千歌を迎えたのは、彼女とは対照的に元気のない克海だった。それで千歌は面食らう。

 

「克海お兄ちゃん、暗い顔してどうしたの? 功海お兄ちゃんは?」

「あいつなら部屋。今日は晩飯いらないってさ……」

 

 語気に覇気のない克海のことを、千歌は心配して顔をしかめた。

 

「功海お兄ちゃんと喧嘩でもしたの? て言うか、お兄ちゃんたち何だか最近変だよ? 一体どうしたの?」

「……いや、まぁ、俺たちにも色々あるんだよ」

 

 克海は、千歌には本当のことを話すことが出来なかった。彼は功海と、ウルトラマンである自分たちのあり方を巡って対立してしまったのだ。

 功海は町を守って怪獣と戦ったのに、凶暴な生物扱いされたことに納得が行かず、自分たちがウルトラマンの正体でありヒーローだということを発信しようと考えた。しかし怪獣がまだまだ現れるかもしれないこと、正体を明かしてしまったら怪獣と戦い続ける危険を負い続けなければいけなくなることなどを危惧した克海はそれに強く反対。結果、言い争いとなってしまったのであった。

 

「大丈夫、兄ちゃんたちで何とかするさ。お前は心配してくれなくていい。お前だって、スクールアイドル部設立で色々忙しいんだろ?」

「そうだけど……」

 

 それでも心配をぬぐい切れない千歌であったが、無理矢理自分を納得させて追及をやめた。

 

「分かった。だけどその代わり、明日私と一緒に、果南ちゃんのとこに行ってほしいの!」

「うん? 果南ちゃんの? 何でまた」

「梨子ちゃんと、海の音を聞きに行くの!」

「海の音……?」

 

 克海には、千歌の言うことが今一つ分からなかった。

 

 

 

 翌日、克海は千歌、そして梨子を松浦家のダイビングショップに連れてきていた。

 

「しかし驚いたな。あの時の女の子が、お前のクラスに来た転校生だったなんて」

 

 入院中の父に代わり店を取り仕切っている果南と話している梨子を見つめながら、克海がそうぼやいた。グルジオボーンから彼女を助けた時のことを思い返す克海に千歌が振り向く。

 

「克海お兄ちゃん、あの時はありがと! お陰でこうやって梨子ちゃんとここに来れたよ」

「いや、別に構わないけど。それより、桜内さんだっけ? 何であの子、海になんか入りたいんだ? まだシーズンには早いってのに」

 

 疑問を持つ克海に説明を入れる千歌。

 

「梨子ちゃん、ピアノやってるそうなんだけど、最近スランプなんだって。それで環境を変えて、何かを変えたいんだって」

「スランプ打破のためか……。そのためにこんな田舎にまで来るなんて、それだけ一生懸命ってことなんだな……」

 

 ふと、克海の脳裏にウルトラマンとなってしまったことがよぎった。自分たちは、梨子のように怪獣と戦うことをあきらめずに続けられるだろうか……。

 

「お待たせしました」

 

 そう考えていたらウェットスーツ姿の梨子が克海たちの元に歩いてきた。代わりに、果南が千歌のことを呼ぶ。

 

「千歌ー、ちょっと手伝ってくれる?」

「うん!」

 

 千歌が離れると、梨子は克海に向かい合ってお辞儀した。

 

「克海さん……この間は助けていただいてありがとうございます!」

「いや、いいんだよ。それより、千歌が迷惑掛けなかったか? あいつ、随分と君に言い寄ってたみたいだからな」

 

 謙遜した克海が尋ね返すと、梨子は苦笑いを見せた。

 

「正直、大分つき纏われて辟易もしました……」

「やっぱり……」

「だけど……」

「?」

 

 梨子は苦笑しながらも、続けざまにこう言った。

 

「私のために真剣になってくれてることには、少し感謝してます……。こんなにも私のことを考えてくれた人なんて、今までにいませんでしたので……」

 

 少々はにかみながら語った梨子の言葉に、克海は意外な気持ちとなった。

 

「そうなのか……。千歌の奴、俺が思った以上に頑張ってるんだな……」

 

 それと比べたら俺たちは、いや俺は……と考えていると、ふと梨子が問いかけた。

 

「そういえば、いつも千歌さんと一緒にいる、渡辺曜さん。あの子は今日は来てないんですか?」

「ああ、曜ちゃんなら……」

 

 

 

「……ヒーローの責任か……」

 

 その頃、功海は海沿いの路肩にたたずんで、ぼんやりと海をながめていた。深く考えずにウルトラマンのことを発表しようと思っていた彼に対して、克海は言ったのだ。そんなことをしてしまえば、自分たちは怪獣に負けることが許されなくなる。そんな重い責任を背負っていけるのかと。

 つい感情的に突っぱねてしまったが、克海の言う通り、大きな力を持つということはそれだけの責任が生じるということだ。その重い責任が自分たちの未来をどうしてしまうのか、背負い続けていけるのか……とやり場のない思いを抱いていると、後ろから誰かの手が自分の目をふさいだ。

 

「だーれだ?」

「……」

 

 功海はその手をどかして後ろに振り返った。

 

「曜……」

「あったり~」

「何でこんなとこにいるんだよ」

「千歌ちゃんから聞いたんだよ。克兄ぃと喧嘩したんだって?」

 

 不機嫌そうに曜を振り払おうとする功海だが、曜は彼の周りをクルクル回ってつき纏う。

 

「克兄ぃと何を話してたのか知らないけど、克兄ぃはきっと功兄ぃのこと心配してるんだよ。昔から克兄ぃはそうだったじゃん」

「そんなこと……分かってるけどさ……」

 

 力なくつぶやいた功海は、ふと曜に質問を投げかけた。

 

「なぁ曜。もしも自分のやったことが他人から理解されなくて、心ないこと言われたとしても、お前は気にしないでられるか?」

「ん? 急にどうしたの。まさか宇宙考古学のことでまた何かひどいこと言われた? 訳分かんないことやってるーとか。それで克兄ぃと喧嘩したんだ~」

「いいから、答えろっての」

 

 からかい気味の曜だったが、功海の真剣な面持ちに触発されて顔を引き締めると、次のように答えた。

 

「そりゃ、全く気にしないなんてのは無理だよ。だけどそこでムキになっても、自分がみじめになるだけだって思うな。だから、誰に何と言われようともぐっとこらえて、自分の信じたことをやり続けるのが一番だって思うな。そしたら他の人たちだって、いつかは分かってくれるよ」

「そんなに上手く行くか……? そこまでやり続けられるかどうかなんて分かんねぇし、途中で挫折しちまうかもしんないだろ」

「何だか難しいこと言うね……」

 

 眉をひそめた曜だが、気を取り直して功海に返す。

 

「功兄ぃが何をしようというのか知らないけど、それはやってみないことには分からないでしょ。千歌ちゃんだって、前途多難な道のりだけどスクールアイドルをあきらめずにやろうとしてるんだよ」

「……だよな。千歌の奴も、頑張ってんだ……」

「だから、克兄ぃと早いとこ仲直りしなよ。昔から言われてたでしょ? 兄弟が力を合わせれば何だって出来るって。功兄ぃの一番の味方は、克兄ぃの他にはいないんだよ。克兄ぃはどんな時も、功兄ぃのこと助けてくれるって」

「……」

 

 仲直りを勧める曜の説得を受けて、功海は克海がいるだろう沖に目を向けた。

 

 

 

 ――どこかで何者かが、「力」と書かれたクリスタルを、克海たちのルーブジャイロと酷似したジャイロの中央に嵌め込みんだ。

 

ブラックキング!

 

 何者かの手はジャイロの左右のレバーを握り込むと、三回引いてエネルギーを充填させた……。

 

 

 

 船で沖に出た千歌と梨子は、海中に潜って意識を集中していた。その様子を船上から見守りながら、克海が果南に話しかける。

 

「果南ちゃん、親父さんの容態はどうだ?」

「悪くないよ。ただ、退院するのにはまだちょっと掛かりそうだって」

「なら果南ちゃんが復学するのも当分先か。何か困ったことがあるんなら、何だって言ってくれていいからな」

「ありがと、克兄ぃ」

 

 少しだけ頬を赤らめながら、果南が礼を言った。そんな彼女の顔を見つめながら、克海が眉をひそめる。

 

「それで……千歌のことだけどな。本気でスクールアイドル始めるみたいだ」

「……」

「果南ちゃん……何だったら、俺から千歌に言い聞かせるが……」

 

 何かを言いかける克海を、果南がさえぎった。

 

「気にしないで。千歌ちゃんは千歌ちゃん。私……私たちとは、違うかもしれないんだから」

「……」

 

 果南のことを気に掛けて、沈んだ表情を見せる克海だが、その時に千歌と梨子が海面に顔を出した。

 

「聞こえた!?」

「うん!」

 

 二人の様子を見届けた果南が微笑をこぼす。

 

「ほら、何か掴んだみたいだよ」

「そうみたいだな……」

 

 克海も微笑みを見せたが……直後に海面に、奇妙な細かい震動が起こり出す。

 

「な、何だ? この揺れ……」

「何か様子が変……。二人とも、すぐ上がって!」

 

 嫌な予感を覚えた果南が、すぐに千歌と梨子を船に呼び戻す。克海も手を貸して二人を引き上げていると、内浦の町に異常なものが見えた。

 

「何あれ!?」

 

 町の中から、異様な量の土砂が噴き上がっている。ここからでもはっきりと分かるほどの勢いだ。明らかにただごとではない。

 克海はハッと、先日のグルジオボーンのことを思い出して、顔色を一変させた。

 

「果南ちゃん! すぐ陸に引き返してくれ! 功海たちが心配だ!」

「う、うん!」

 

 果南が操縦席に走り、船は直ちに異常事態の起こる内浦へと引き返していった。

 

 

 

 陸ではこの異常が地揺れとなって、よりはっきりとした形で功海たちに感知されていた。

 

「あの土砂何!?」

 

 驚愕する曜の横で、功海も克海と同様、怪獣のことを思い出していた。不吉な予感に駆られた彼は曜に言いつける。

 

「曜、先に避難してろ! 危険だ!」

「功兄ぃ!? ちょっとどこ行くの!?」

 

 曜が止めるのも聞かず、功海は噴き上がる土砂の方向へ駆け出した。

 そして噴き上がる土砂の下から、黒い蛇腹状の皮膚をした巨大な怪物が地上に這い出てきた!

 

「グアアアアァァァァ!」

 

 内浦に出現した巨大怪獣ブラックキング! ブラックキングは付近の家屋を踏み潰し、山の斜面を腕でえぐり飛ばして大暴れを開始する。町はすぐに大パニックに見舞われた。

 

「出たな巨大生物!」

 

 克海の懸念が的中し、再び現れた怪獣の姿を確認した功海はルーブジャイロを取り出した。しかしそれに手を掛けると、克海の言葉がよみがえる。

 

「……それでも、俺たちがやんなきゃ! 俺たち以外にいねぇんだ!」

 

 現実に現れた怪獣を前に、功海は確かな決心をつけた。だが小さな田舎町とはいえ、周りにはブラックキングから逃げる人たちが大勢いる。

 

「流石にここじゃ目立ちすぎる……どこか人の目につかないところで……!」

 

 そう考え、家屋の陰に飛び込んで身を隠した。そこでルーブジャイロを構えようとするが、

 

「功兄ぃ! 功兄ぃー!」

 

 自分を呼ぶ声が耳に届き、思わず手を止めて顔を出した。そうして目に映ったのは、人の波に逆らって自分を捜す曜の姿であった。

 

「曜! 追いかけてきちまったのか!」

 

 ブラックキングの方に振り向く功海。ブラックキングは既に、彼らの近くにまで接近していた。

 

「曜! こっち来ちゃ駄目だ!!」

 

 焦った功海が身を乗り出して警告を飛ばした。しかしそれで刺激してしまったのか、ブラックキングは口から熱線を吐いて、功海の隠れている家屋を爆破した!

 

「グアアアアァァァァ!」

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 どうにか爆発の直撃からは逃れた功海であったが、倒れてきた柱の下敷きになって身動きが取れなくなってしまう。

 

「……何の、これくらい……ウルトラマンに変身すれば……!」

 

 強がる功海だが、ルーブジャイロは爆発の衝撃で彼の手から離れていた。転がったジャイロに手を伸ばすものの、

 

「届かねぇ……!」

 

 腕も押さえつけられていて、手元にあるジャイロに指が触れられない。その間にブラックキングが更に近づいてくる。

 

「まずい……!」

「功兄ぃっ!」

 

 青ざめる功海。そこに彼に気づいた曜が駆け寄ってきた。

 

「大丈夫!?」

「何やってんだ! 俺はいいから、一人で逃げろ!」

「嫌だよ! 功兄ぃを置いて逃げれないよ!」

 

 功海の言いつけを拒否し、曜は彼を押し潰す柱をどかそうとするが、その細腕では到底動かせる重量ではなかった。

 

 

 

 陸に帰ってきた克海たちは、すぐに「四つ角」に戻って家族や客の安否確認と避難を行った。しかし、

 

「功海がいない!」

「曜ちゃんもいないよ! 功海お兄ちゃんと一緒のはずなのに!」

 

 功海たちの姿がないことに焦る克海たち。

 

「電話は!?」

「駄目! つながらないよ!」

 

 果南が問いかけたが、スマホを確かめた千歌はそう答えた。怪獣の出現で電波も通じなくなっているのだ。

 苦悶の色を浮かべた克海は、しいたけを千歌たちに押しつけながら言い聞かせた。

 

「功海たちは俺が捜す。みんなは早く避難しろ!」

 

 梨子がしいたけから遠ざかる中、果南が反論する。

 

「私も捜すよ! 手分けした方がいいって!」

「危険なんだぞ!」

「危険なのは功兄ぃたちの方でしょ!」

 

 食い下がる果南。迷う克海だが、時間がないことで引き下がらざるを得なかった。

 

「分かった……。ただし無茶はするなよ! 自分の身が最優先だからな!」

「うんっ!」

「千歌たちはしいたけを頼んだぞ!」

「分かったよ!」

 

 克海と果南は別々の方向に走り出していった。千歌はしいたけのリードを引きながら梨子に呼びかける。

 

「梨子ちゃん、こっちに!」

「えっ……!?」

 

 だが梨子はしいたけを見るや否や後ずさり、克海の後ろ姿と見比べてから答えた。

 

「わ、私も功海さんたちを捜してくるね! 千歌さんは先に逃げてて!」

「えぇぇっ!?」

 

 仰天する千歌だが、梨子は有無を言わさずに千歌の反対方向に駆け出していったのだった。

 



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兄弟Hand in Hand(B)

 

「うっ……くぅっ……!」

 

 どんなに腕に力を込めても柱がびくともしないことを悟った曜は、近くに転がっている鉄パイプに目をつけた。

 

「ちょっと待ってて!」

 

 それを拾い上げて柱の下に差し込み、てこの原理で柱を持ち上げようとするも、柱が重すぎてやはりどうにもならない。

 

「何してんだよ! 逃げろって!」

 

 曜だけでも逃がそうとする功海であるが、それでも曜はこの場から離れようとしなかった。

 

「功兄ぃ、頑張って!」

「くッ……!」

 

 必死にジャイロに手を伸ばす功海。だがこちらも、あと少しのところでジャイロに手が届かない。

 

 

 

 姿の見えない功海と曜を懸命に捜す克海であったが、一向に見つからなかった。

 

「グアアアアァァァァ!」

 

 その間にブラックキングはますます町を蹂躙していく。最早猶予はないと感じた克海は腹をくくった。

 

「こうなったら俺が変身するしか!」

 

 戦う覚悟を決めてルーブジャイロを取り出すが――その時に、功海の手がジャイロのグリップを掴んだ。

 この瞬間、克海の視界が功海とつながった!

 

『もう俺はいいから、逃げろ曜ッ!』

『駄目だよ! 兄弟はいつでも、一緒に頑張るんだよ! だから功兄ぃは、克兄ぃと千歌ちゃんを置いていっちゃったらいけないんだからっ!』

 

 功海を必死に助けようとする曜に、ブラックキングが迫る。その光景を垣間見た克海は、功海たちのいる場所を判じた。

 

「功海! 今行くッ!」

 

 即座に駆け出す克海。――その姿を梨子が見つけた。

 

「克海さん、一体どこに……!? 危ないわ!」

 

 克海のただならぬ様子を見て取った梨子は、彼がブラックキングの方向へまっすぐ走っていくのに慌て、反射的に追いかけた。

 

 

 

「うぅぅ……!」

 

 どんなに柱が重くとも、あきらめずに功海を助けようとする曜。だがその後方でブラックキングが炎を口に溜めていた。

 

「グアアアアァァァァ!」

 

 再び熱線を放射するブラックキング。その爆発の衝撃が、曜に襲いかかる!

 

「きゃああぁっ!」

「曜――――――――――ッ!」

 

 弾き飛ばされる曜。そのまままっさかさまに地面に叩きつけられる――。

 すんでのところに克海が駆けつけ、曜を受け止めた。

 

「克兄ぃ!」

「克兄ぃ……」

「よく頑張ったな、曜ちゃん。後は任せてくれ!」

 

 曜をそっと下ろした克海は、彼女に代わってパイプを掴んで渾身の力で柱を持ち上げた。

 

「功海大丈夫か!」

 

 克海が作った隙間で、功海はジャイロを持って柱の下から脱け出すことに成功した。

 

「早く曜を安全なところに!」

「ああ!」

 

 負傷した功海だがどうにか立ち上がり、克海とともに曜の側へ駆け寄る。

 

「曜、立てるか?」

「ごめん……さっきので足が……」

「分かった。克兄ぃ!」

「ああ!」

 

 二人で曜を支え、ブラックキングから逃がしていく。が、その行く先から梨子が走ってきた。

 

「克海さん、功海さん! 渡辺さんも……無事だったんですね!」

「桜内さん! 何で来たんだ!」

「それは……」

「とにかく、曜と一緒に逃げ……!」

 

 曜とともに逃がそうとする克海と功海だったが、ブラックキングは近くで動く彼らに目をつけ、熱線を吐き出そうとしていた。

 

「グアアアアァァァァ……!」

「まずいッ! もう余裕が……!」

 

 もう逃げ切れないと判断した二人は、目と目を合わせてうなずき合った。

 

「やるしかないな……!」

「ああッ!」

「功兄ぃ、克兄ぃ? やるって何を……」

 

 功海に抱えられながら呆気にとられる曜だが、兄弟は答える暇もなく、手と手を叩き合って同時にジャイロを構えた。

 

「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」

 

 二つのジャイロから光が放たれ、曜と梨子の視界を塗り潰した。

 

「きゃっ!?」

 

 白い光の中で功海がクリスタルホルダーから火のクリスタルを選び取った。

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 クリスタルから一本角を出して、ジャイロにセットする。

 

[ウルトラマンタロウ!]

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

 

 ジャイロのレバーを三回引いてエネルギーをチャージ!

 

[ウルトラマンブル! フレイム!!]

「はあぁぁーッ!」

 

 火柱に包まれた功海の肉体が変化し、ウルトラマンブルフレイムとなって左腕を振り上げた。

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 克海は水のクリスタルを取り、クリスタルから二本角を出してジャイロにセットした。

 

[ウルトラマンギンガ!]

「纏うは水! 紺碧の海!!」

 

 ジャイロのレバーを三回引いてエネルギーをチャージ!

 

[ウルトラマンロッソ! アクア!!]

「うおぉぉーッ!」

 

 克海は水柱に覆われて、ウルトラマンロッソアクアとなって右腕を振り上げた。

 

『『はぁッ!』』

 

 そして変身した二人のウルトラマンは、熱線を打ち返してブラックキング自身に食らわせた!

 

「グアアアアァァァァ!」

『はぁッ!』

『うりゃッ!』

 

 ひるんだブラックキングのボディに回し蹴りとパンチを入れ、転倒させる。ブラックキングの凶行を止めたロッソとブルの後ろ姿を、内浦の人々が一斉に見上げた。

 

「あの時の巨人さんたちだ……!」

「また出てきた……」

 

 千歌と果南も、二人のウルトラマンの背中をじっと見上げていた。

 ブラックキングが倒れている内に、ロッソは手の中に保護した梨子をそっとブラックキングから遠ざけて下ろした。梨子は、ただただ唖然としてロッソの顔を見つめている。

 

「嘘……克海さんたちが、巨人に……!」

 

 梨子を救出したロッソであるが、ふとあることに気づいてブルの方に振り向いた。

 

『功海、曜ちゃんはどうしたんだ!?』

 

 曜の姿が見えない。確か曜は功海が抱えていたはずだが……そう思っていると、ブルは何故だかバツが悪そうに答えた。

 

『えーっと、それがさ……』

 

 ロッソはギョッとして、ブルを見つめた。視線はその身体の表面を通り抜けて、ブルの内側へ。

 何とブルの内部の、炎に満たされた超空間の中に、曜はいたのだった!

 

『「ここどこ!? そこの青い巨人さんが……まさか克兄ぃなの!?」』

 

 曜は混乱し切ってブンブン首を振り回していた。ロッソは目を見張ってブルの胸を指差す。

 

『おいおいおい!? 何でそんなとこに曜ちゃんが!?』

『俺だって分かんねぇよ! ただ、一番安全なところにかくまわなきゃって思ってたら……』

『早く出してやれ! 戦いに巻き込む気か!?』

『やり方分かんねぇって!』

 

 弁明するブルだが、二人が話している間にブラックキングが起き上がってきた。

 

「グアアアアァァァァ!」

『くッ、しょうがない……このままやるしかないか!』

『おう!』

『「えええぇぇ!? やるって……!」』

 

 ブルは応ずるが混乱の解けない曜は慌てふためく。そしてブラックキングが接近してくると、

 

『「ちょっとやだぁぁぁっ! こっち来ないでよっ!」』

 

 ブンブンと手を振って顔を背けた。するとその動きがブルに伝わり、ロッソとともにブラックキングにぶつかっていこうとしていたブルは足が止まってしまう。

 

『うッ!?』

『功海!? うわッ!』

 

 一人だけでブラックキングを止める形となったロッソは力負けし、地面に叩きつけられた。

 

『「あっ、克兄ぃ!!」』

『曜、悪りぃけどちょっとじっとしててくれ! お前の動きに釣られちまうんだよ!』

『「う、うん、ごめん……」』

 

 ロッソがやられて動揺した曜は、ブルの指示に従って動きを止めた。身体のコントロールが戻ったブルは改めてブラックキングに向かっていく。

 

『だぁッ!』

 

 跳び込むような形でロッソを乗り越えてブラックキングの懐に入ったブルだが、ブラックキングに頭を掴まれて強烈なパンチをもらった。

 

『うわッ!』

「グアアアアァァァァ!」

 

 二人に向かって熱線を繰り出すブラックキング。ロッソとブルは咄嗟に飛びすさって回避した。体勢を立て直すと、ロッソがブルに指示する。

 

『俺は奴の熱線をディフェンス! お前は攻撃だ!』

『オッケー!』

 

 二人でサムズアップし合うと、ロッソがブラックキングの左方に回り込んで水のボール、ストライクスフィアを投擲した。ボールは炎を吐こうとしているブラックキングの頭部に纏わりついてバリアとなり、熱線攻撃を封じ込む。

 

『食らえーッ!』

 

 この間にブルが両手に炎を溜め、光線として発射するフレイムエクリクスを放った。

 しかしブラックキングは水のバリアを蒸発させ、熱線でフレイムエクリクスを防御。弾けた炎のつぶてが町に降り注いでしまう。

 

『『うわぁぁぁぁ―――――!!』』

 

 飛散した炎を食らい、がっくりと膝を突くロッソとブル。

 

『くっそぉー! もう一回!』

 

 悔しがったブルが再び光線を撃とうとしたが、そこをロッソに制止された。

 

『駄目だ! 炎同士がぶつかって被害が広がる!』

「グアアアアァァァァ!」

 

 攻撃をためらった二人にブラックキングが突進。

 

『『わあああぁぁぁぁぁッ!!』

 

 ロッソとブルははね飛ばされて、建物を押し潰しながら倒れ込んだ。

 

『ああ、壊しちゃった……』

 

 破片をつまんで悔やむブルに、ロッソが指示する。

 

『功海、俺に考えがある! クリスタルを交換してくれ!』

『よっしゃ! ……いや、この場合どうすればいいんだ?』

 

 言われた通りにクリスタルをロッソへ飛ばそうとしたブルだが、はたと止まった。

 先の戦いでは自分自身でジャイロを操作したが、今そこにいるのは曜だ。こんな時はどうなるのか。

 

『早くしてくれ!』

 

 しかしロッソに急かされるので、考える間もなく行動に移した。

 

『しょーがない! 曜、悪いけど俺の代わりにクリスタルチェンジしてくれ!』

『「ええ!?」』

 

 自分の目の前にルーブジャイロが出てきたので、曜は思い切り面食らった。

 

『「な、何が何だか分からないけど……分かった!」』

 

 理解が追いつかないながらも、曜はジャイロからタロウクリスタルを外してロッソの方へ投げ渡した。

 

『セレクト、クリスタル!』

[ウルトラマンタロウ!]

 

 ロッソはタロウクリスタルをジャイロにセットしてタイプチェンジする。

 

『纏うは火! 紅蓮の炎!!』

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

 

 ロッソの色が赤に変わり、火の力を身体に纏った。

 そして曜の方には、ロッソから渡されたギンガクリスタルが飛んでくる。

 

『そのクリスタルをジャイロにセットして、三回レバーを引くんだ!』

『「う、うん……!」』

 

 戸惑いつつも、クリスタルをその手に握る曜。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

 

 ロッソの台詞を真似して発し、ジャイロの中央にクリスタルを嵌め込む。

 

[ウルトラマンギンガ!]

『纏うは水! 紺碧の海!!』

 

 ブルの合図とともに一回、二回とレバーを引いて、最後にジャイロを掲げた。

 

『「ヨーソロー!」』

 

 エネルギーのチャージが完了し、ブルが水の力で覆われる。

 

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 タイプチェンジを完了して二人並び立つと、ロッソが自分の身体の調子を確認しながらつぶやいた。

 

『やっぱり、俺は火の方が扱いやすいみたいだ。功海はどうだ?』

 

 と聞くが、ブルからの返事がない。

 

『功海?』

 

 振り向くと、ブルが何やら小刻みに跳びながらそわそわしていた。

 

『な、何やってんだ?』

 

 面食らって問いかけると、ブルは興奮を抑え切れない様子で告げた。

 

『克兄ぃやばいよ! 何か、力が身体の内側からむんむん湧き上がってくる!』

『は?』

 

 ブルだけでなく、水に満たされた空間に包まれた曜も興奮していた。

 

『「ここ、ほんとの水の中みたいで心地いい! 今なら何でも出来ちゃいそう!」』

『よぉーしッ! 行くぜ曜ッ!』

『「ヨーソロー!」』

『あッちょっと……!』

 

 ロッソを置いてブラックキングに飛びかかっていくブル。ブラックキングは拳で迎撃しようとしたが、ブルはすさまじいパワーで弾き返した。

 

『おりゃおりゃおりゃあッ!』

「グアアアアァァァァ!」

 

 ブルの猛ラッシュがブラックキングを押し込み、更にチョップを角に打ち込んでひびを入れた。

 

『今だ克兄ぃ!』

『お、おお!』

 

 急にパワーアップしたブルに困惑しながらも、ロッソがブラックキング目掛けジャンプからのかかと落としをかました。

 

『たぁッ!』

 

 ひびの入っていた角はその一撃に耐えられず、へし折れて吹っ飛んでいった。

 

「グアアアアァァァァ!」

『どーよ! 俺たちの力!』

 

 一本角を失ってたじろぐブラックキング。自慢するブルだが、その時に胸の発光体が二人とも赤く点滅し出した。

 

『あッ、カラータイマーが!』

『功海、時間がない! お前の技で奴を空中に!』

『分かった克兄ぃ!』

 

 ブルが走り出してスライディングし、ブラックキングに下方から水流を撃つ。

 

『食らえー! アクアジェットブラストぉーッ!』

「グアアアアァァァァ!」

 

 ブラックキングの身体は水流によって持ち上げられ、空高くに打ち上げられた。それを追いかけたロッソが猛スピードの飛び蹴りを見舞い、兄弟のダブルキックで追い打ち。

 

『『うりゃあッ!!』』

 

 ブラックキングは真っ逆さまに地上に叩き落とされ、グロッキーとなった。

 

「グアアアアァァァァ……!」

 

 いよいよとどめ。ロッソとブルはブラックキングの頭上からエネルギーを集中し、必殺光線を発射する!

 

『フレイムスフィアシュート!』

『アクアストリューム!』

 

 二人の同時攻撃を食らったブラックキングは、瞬時に爆散。着地したロッソとブルはそれを見届けた。

 怪獣を倒したブルが曜に呼びかける。

 

『曜、お前の言った通りだったな』

『「え?」』

『兄弟が力を合わせれば何だって出来る! いや、曜の力も一緒だったな!』

『「……うん!」』

 

 思わず笑顔がこぼれる曜。ロッソとブルは、ぐっと手と手を握り合って兄弟の絆を感じ合った。

 

「わああぁぁぁぁ―――――!」

「ありがとー!」

 

 内浦の人たちは、町を守ったロッソとブルに割れんばかりの歓声を送った。それを一身に受けながら、二人はスゥッと消えていく。

 ロッソとブルの退場を見届けた千歌は、果南にそっと呼び掛けた。

 

「果南ちゃん。あの巨人さんたち……凶暴なんかじゃないね」

「うん。むしろ、とても優しそうな人たちだった……」

 

 ロッソとブルの活躍を生で見た果南が、そう評価した。

 

 

 

 破壊された町の瓦礫の中に、ブラックキングクリスタルが落下。それを何者かの手が拾い上げて、回収していった……。

 

 

 

 ブラックキングの内浦襲撃から、数日後。克海と功海は居間で話をしていた。

 

「へ~。それでその桜内梨子って子、千歌と曜とスクールアイドルすることになったんだ」

「ああ。千歌がそう言ってた」

 

 聞いた話によると、千歌の勧誘を拒み続けていた梨子だが、一緒の作詞作りを通してすっかりと打ち解け、遂にスクールアイドルの仲間になってくれたのだという。それから毎日、三人で自主レッスンに打ち込んでいるということだ。

 

「初めはどうなることかと思ったが、案外千歌の奴、順調にやってるみたいだな。と言っても、まだ三人だけだが……」

「けどさ……確かその子が、あの時の女の子なんだろ」

「……ああ、まぁな……」

 

 指摘されて、克海は微妙な顔つきとなった。

 猶予がなかったとはいえ、克海たちは梨子と曜の目の前で変身してしまい、二人に正体が知られる結果となった。どうにか頼み込んで秘密にしてもらえることにはなったが、他の人はどうだか分かったものではない。次からはもう少し慎重に行動するようにしよう、と克海は決意した。

 

「しかし、あれは驚いたな。功海、お前が曜ちゃんを身体の中に入れて、しかもそれでパワーアップしたと来たもんだ」

「俺と曜は水と相性いいみたいだ。相乗効果って奴かな。曜なんか、水泳やってるしな!」

「そんな単純な……」

 

 と話し込んでいたら、千歌が二人の元へ駆け込んできたので、咄嗟にウルトラマンの話を打ち切った。

 

「功海お兄ちゃーん!」

「こら千歌! 家の中で走るなって言っただろ!」

「ごめんなさい! でも大事な用があるの!」

 

 克海に叱られながらも、千歌は功海にすがりついてきた。

 

「功海お兄ちゃん、私たち来月の初めにスクールアイドルとしてライブを行うことにしたのね」

「へぇ?」

 

 手作りのチラシを見せながら功海に説明する千歌。

 

「でね、功海お兄ちゃんにも来てほしいなって思って。大学の人、二百人ほど誘って……」

「はぁ!? 二百人だぁ~!?」

「体育館満員にしないと学校の公認がもらえないの! ウチの全校生徒じゃ足りないし、ねぇお願い~」

 

 媚びを売って頼み込む千歌だが、功海からは頭を軽くぐりぐりされる。

 

「このバカチカが~! 兄貴に頼るようでスクールアイドルなんてやれると思ってんのか~!?」

「だってだって~!」

 

 功海が千歌とじゃれていると、アイゼンテックの番組が始まった。

 

『数日前、新しい巨大生物が内浦を襲った事件ですが、またも二体の巨人が現れ、彼らが町を救ったと話題になっていますが、愛染さんはどうお考えですか?』

 

 先日の事件について触れられているので、克海と功海は千歌を放してそちらに食い入った。

 

『愛と正義の伝道師、愛染正義です。私も、彼らには愛と正義の心があると感じてます。故に私は、彼らを超ヒーローという意味で……』

 

 愛染はもったいぶってから、今度はさえぎられることなく前回言いそびれたことを地上波放送に乗せた。

 

『ウルトラマンと! そう名づけますッ!』

 

 この発言に、克海と功海はギョッと目を剥いた。

 

「ウルトラマンさんか~……流石愛染さん! いい名前考えるね!」

 

 千歌は純粋に褒めそやしていたが、「ウルトラマン」の名を既に知っている克海たちは思わず目を合わせた。

 

「何故アイゼンテックの社長がその名前知ってるんだ?」

「偶然か……?」

 

 訝しむ二人に、千歌がはたと手を合わせて功海に呼びかけた。

 

「そうそう功海お兄ちゃん。お兄ちゃんの部屋にこんなの転がってたけど、これ何? 新しいメンコ?」

 

 と言って差し出したのは、二枚のルーブクリスタルだった。

 

「ああ!?」

「大学でこういうの流行ってるの?」

 

 慌てた功海は千歌からクリスタルをひったくるように受け取った。

 

「これはだなッ! そ、その……まぁそんなとこだ! あはははは~!」

「功海! ちゃんと仕舞えって言っただろッ!」

「ごめんよ克兄ぃ~!」

「?」

 

 笑ってごまかそうとする功海と克海の態度に首を傾げる千歌。と、その時に、出社前の兄弟の母が功海の手の中のクリスタルに目を留めた。

 

「あら? そのメダルみたいなの……社長が同じようなのを持ってたような」

「「えッ!?」」

 

 克海と功海はバッと母に振り返り、ぐぐいっと顔を近づけた。

 

「母さん! 今の話本当!?」

「母さんの会社アイゼンテックでしょ!? その社長って……!」

「え、ええ。愛染正義さんよ。確か、研究対象だって……」

 

 兄弟の妙な様子に困惑しながらも母が答える。それを聞いた克海と功海は、再び顔を見合わせた。

 

「ひょっとして……」

 

 

 

『高海兄弟&曜のウルトラソングナビ!』

 

曜「ヨーソロー! 今回紹介するのは『ウルトラマンギンガの歌』だよ!」

曜「主役ウルトラマンさんの名前が入った曲って主題歌のイメージが強いけど、この「ギンガの歌」は珍しく挿入歌だよ! でもギンガさんが優勢の時は大体この歌がバックで流れるから、印象深い人も多いんじゃないかな」

曜「歌詞は王道のヒーローソングの一方で、まるでラブソングそのものでもあるの! これは『ギンガ』無印の青春ドラマの側面が歌に反映されてるってことかな?」

曜「今からしてみると、「時を越え」って部分はギンガさんの正体に関する伏線だったのかもね。最近のウルトラソングは歌詞に今後の内容が込められてることが多いよ!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『決めたよHand in Hand』だ!」

功海「第一期第一話のラストに、エンディングテーマの代わりに流れた挿入歌だな! 千歌、曜、梨子ちゃんの三人で踊るPV風の作りになってた!」

克海「二年生組三人でのダンスで一話を締めるのは、μ'sからの伝統ってとこかな」

曜「それじゃ次回に向かって、ヨーソロー!」

 




功海「アイゼンテックがウルトラマンの研究をしてたかもしれない。俺たちはアイゼンテックに突撃した!」
曜「大変だよ功兄ぃ! また怪獣が現れた!」
功海「何だってぇ!?」
曜「って克兄ぃが新しい武器持ってる!?」
曜「次回、『元気全開アイゼンテック』!」
功海「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」


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元気全開アイゼンテック(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

梨子「千歌ちゃんが転校生をスカウトする一方、克海さんと功海さんはウルトラマンのあり方について喧嘩してしまう。そんな時、内浦に新しい怪獣が出現! 二人は変身に曜ちゃんを巻き込むひと幕がありながらも怪獣を撃破! そして、新たな事件が……」

 

 

 

 綾香。静岡県綾香市の中心地であるが、かつては偶龍璽王伝説が伝わっているだけでこれといった見所のない極々普通の市街地であったが、十五年前にアイゼンテック社の本社が移転してからは、その恩恵により急速に発展。今ではすっかりアイゼンテックの企業城下町の様相を成している。

 

「へぇ~、ここがアイゼンテック本社ビルかぁ」

「何だかんだでここに来るのは初めてだな」

 

 そして功海と克海は今、そのアイゼンテック本社前に来ていた。

 事の発端は、兄弟たちが所有するルーブクリスタルをひと目見た母親が、アイゼンテック社長の愛染正義が同じようなものを持っていたのを見たと発言したこと。ウルトラマンの名前を言い当てたことと言い、愛染はウルトラマンについて何かを知っているのではないかと考えた兄弟は、母親に頼んで愛染とのアポイントを取ってもらったのであった。

 

「それはいいんだが……何で千歌たちが俺たちについてきてるんだ?」

「すっごいね、アイゼンテック本社って! 何かアンテナみたいなのが立ってる!」

「正式名称は、アルトアルベロタワーっていうらしいよ」

 

 克海がチラリと目を横に向けると、そこではアイゼンテック社パンフレットを広げた千歌と曜がはしゃいでいた。二人と一緒にいる梨子は克海にペコペコ頭を下げる。

 

「ごめんなさい。お邪魔しちゃって……」

「ああいや、邪魔って訳じゃないけど……。ただ、どうしてかってだけで」

「も~、忘れちゃったの克海お兄ちゃん?」

 

 ぷくっと頬を膨らませた千歌が克海に告げる。

 

「言ったじゃない、私たちがスクールアイドル部始めるためには、ライブで体育館をお客さんで満員にしなくちゃいけないんだよ!」

「ああ、そういやそんなこと言ってたな……」

 

 千歌たちは千歌たちで、新しい試練にぶつかっていた。未だ定員の足りないスクールアイドル部(仮)だが、突然やってきた浦女の新理事長が部の設立を許可してくれたのだ。ただし条件があり、浦女の体育館でデビューライブを開催し、そこを観客で満員に出来なければスクールアイドルをあきらめることとなったのであった。

 しかし今の浦女は全校生徒を集めても体育館を埋めるには到底足りない。そのため千歌たち三人は何としても満員にすべく、様々な手を打って観客を集めているところなのであった。

 

「愛染さんってアイドル養成校の理事長もやってるでしょ? そこの会社の人たちもきっとスクールアイドルに興味あるはず! それでアイゼンテックの人たちにチラシ配ることにしたの!」

「アイゼンテックなら人いっぱいいるしね!」

「そんな上手く行くもんか?」

 

 期待いっぱいの千歌と曜に対し、克海は半信半疑であった。

 

「ところで、みんなのグループ名ってもう決まってんのか?」

 

 ふと功海が質問すると、千歌が胸を張って答える。

 

「うん! Aqoursと書いて、『アクア』!」

 

 それを聞いた途端、克海の肩がピクリと震えた。

 

「へぇ? aquaとoursを掛けたのか? 洒落た名前思いつくじゃん。誰が考えたんだ?」

 

 と聞くと、梨子が訝しげに眉をひそめた。

 

「それが、分からないんです」

「は? 分からない? 自分たちで考えたんじゃないのか?」

「浜辺で考えてたんですけど、いつの間にかこの名前が書いてあって。それを千歌ちゃんが採用したんです」

「おいおい……そんな怪しい名前にしちゃっていいのかよ。って克兄ぃ、そんな顔してどうしたんだ?」

 

 功海が振り向くと、克海が妙に真剣な表情をしているのに気づいた。

 

「いや、ちょっとな……」

「功兄ぃ、もうアポの時間じゃない? 遅れたら印象悪くなっちゃうよ!」

「いっけね! 立ち話してる場合じゃなかったな。みんな行こうぜ!」

「おぉー!」

「っておい……! 置いていくなよ!」

 

 功海たちがアイゼンテック・アルトアルベロタワーのエントランスに突撃していくのを追いかける克海。最後に梨子が、克海のおかしな様子に首を傾げながらも社内に足を踏み入れていった。

 その様子を見下ろすように、綾香上空をアイゼンテックの飛行船が巡回していた。

 

 

 

『元気全開アイゼンテック』

 

 

 

「あら克海たち、本当に来たのね」

「お母さん、お邪魔しまーす!」

 

 受付でアポイントを確認してもらうと、愛染より先に高海家の母がやってきた。千歌は元気よく母親に挨拶する。

 

「母さん、愛染さんは?」

 

 功海が周りをキョロキョロしながら尋ねると、母に代わって受付嬢が回答した。

 

「社長はただ今、飛んで参ります」

「飛んで参ります?」

 

 およそ聞き慣れない案内にキョトンとする克海たち。その直後、

 

「ハ―――ハッハッハッ!」

 

 上から異様なテンションの高笑いが響いてきた。思わず見上げると、吹き抜けから見える空より、白いスーツの男が飛行装置を使って降下してくるところであった。受付嬢は旗とホイッスルで彼の着陸を誘導する。

 

「ホントに飛んできた!」

「すごーい!」

「本物だ! すげー!」

 

 克海と梨子は唖然としたが、千歌たちは大興奮であった。

 

「仕事の後の空は気持ちいいな~! そう、私が愛染正義です!」

 

 受付嬢に飛行装置とヘルメットを渡した白いスーツの男が振り返り、見得を切った。この人物こそが、アイゼンテック社社長の愛染正義である。

 

「おッ、ティンと来た!」

 

 克海と梨子が反応に困っていると、愛染は急に懐から短冊を取り出し、筆でサラサラと文章を書き上げた。

 

「『一難去ったら全身で翔ばたけ』! ウッチェリーナ君、これ私の格言集に加えてくれ」

[はい、社長!]

 

 どこからともなくひよこ色のドローンが飛んできて言葉を発したので、梨子たちは仰天する。

 

「また何か飛んできた!」

「愛染社長のAI秘書のウッチェリーナよ」

「AIが秘書なんてすごい! 流石アイゼンテックの社長さん!」

 

 高海母の説明に、千歌たちはますます興奮。高海母は愛染に、克海たちを紹介しようとする。

 

「社長、こちらは面会に来た」

「おーおー! 我がアイゼンテックへようこそぉー!!」

 

 しかし愛染は最後まで聞かずに克海たちに近寄っていく。

 

「もちろん知ってるとも~! 高海君、君からよーく話を聞いたからね~! 高海君の子供の……んー……ここまで出てるんだけどね~」

 

 自分の喉を指した愛染の態度から察した克海が自ら名乗り出る。

 

「長男の高海克海です!」

「あ、愛染さん、俺は……」

「弟の功海です!」

 

 功海は憧れの愛染を前にして上手くしゃべれなかったので、克海が代わりに名乗った。

 

「そーそー! 会えて光栄だよ~! 高海君の自慢の息子さん諸君!!」

 

 二人に腕を回して大仰に抱き着いた愛染は、次いで千歌たちに目を向けた。

 

「こちらのお嬢さんたちは?」

 

 克海と功海は千歌たちを前に出して紹介した。

 

「妹の千歌と、その友達の渡辺曜ちゃんと桜内梨子ちゃんです!」

「私たち、スクールアイドル『Aqours』やってます! よろしくお願いします!」

 

 ペコリとお辞儀する千歌たちAqours。すると、愛染は一歩引いて高海母に尋ねかけた。

 

「高海君、キミ娘さんいたの?」

「あれ? 言ってませんでしたか?」

「言ってないよ~! 水臭いなぁもう~! いやぁ、スクールアイドルやってるとは素晴らしいねぇ! よろしく……!」

 

 千歌たちと握手しようと手を差しのべた愛染だったが、その瞬間何かが降ってきて彼の頭頂にぶつかり、ばったりと昏倒した。

 

「あ、愛染さん!?」

「大丈夫ですかぁー!?」

 

 突然のことに騒然とする功海たち。克海は、愛染にぶつかったものを拾い上げる。鳥の形の石像だった。

 

「石の鳥……?」

「何でこんなものが空から……」

 

 梨子と訝しむが、愛染はすぐに起き上がって何事もなかったかのようにスーツを正した。

 

「なぁ~に、私のことは心配ご無用! じゃあ行こうか! アイゼンテックを案内してあげようッ!」

「ホントですか!? ありがとうございまーす!」

「あッ、ちょっと……!」

 

 功海たちが愛染について行ってしまうので、克海と梨子は慌てて追いかけていった。

 

 

 

 愛染は克海たちを連れてアイゼンテック社内を回りながら、すれ違う社員たちに声を掛けていく。

 

「小島君、髪切ったね? う~ん素敵だぁ~! あ~豊竹君、来週娘さんが誕生日だったね。美味しいジェラートを贈っておくよぉッ! おお大杉君、こないだの寿司美味しかったね。今度は釣り行きましょうよねッ!」

 

 社員一人一人に声を掛ける愛染の姿に功海は感動を覚える。

 

「さっすが愛染さん、すげぇ気さくだなぁ」

「お忙しいでしょうに時間取らせちゃって、申し訳ないです」

「全然構わないよ~! 愛と正義のアイゼンテックはね、いつだって未来を夢見る若者たちの支援に惜しみない! ラブライブ出資だって、愛と正義の精神を全国に伝えるために……」

「あっ! この写真何ですか?」

 

 愛染が話している途中で、千歌が通路の壁に飾ってある写真の前で立ち止まった。

 古ぼけた白黒写真を拡大したもので、「愛染鉄工」という表札の小さな工場の前で作業着の男性たちが横一列に並んでいる。

 

「おお~。これは創業者である父と、その会社、アイゼンテックの前身の愛染鉄工だよ」

「へぇ~! こんな小さな会社だったんだ」

 

 今の大企業ぶりとの違いに驚く功海。

 

「この頃はまだ小さな町工場だったんだ。それを私の代で事業拡大し、綾香市にやってきたんだよね」

 

 その時のことを懐かしむかのようにしみじみ語る愛染。

 

「ここまで会社を育てるのは実に大変だった。困難なことの連続だったよぉ。けど私たちは一つのスローガンの下に励み、あきらめずに努力し続けた。今でもそのスローガンは大事な社訓だ。アイゼンテック、ファイトぉーッ!」

「あっ!」

 

 そのフレーズに千歌が反応し、いたく興味を引かれた。

 

「それって穂乃果ちゃんの決め台詞から来てるんですよね! 流石スクールアイドル学校の理事長さんですっ!」

「え? ああ、うん」

 

 愛染のそっけない返事に、梨子は一瞬首をひねった。

 

「千歌ちゃん、そろそろ私たちの用事を……」

「あっ、そうだった!」

 

 曜が千歌に囁きかけると、自分たちの用件を思い出した千歌は手作りのチラシを差し出しながら愛染に申し出た。

 

「愛染さん、実は私たち、今度の日曜日にデビューライブするんです!」

「へぇ? それはめでたい話だ!」

「よかったら愛染さんも来て下さい! チラシも、アイゼンテックの人たちに配ってきていいでしょうか!」

「こら千歌、そんな不躾に……」

 

 克海がたしなめようとしたが、チラシを受け取った愛染が許可を出す。

 

「いいんだよぉ~! 私は希望を抱くアイドルの卵の味方だからねぇ! そんなことでいいのなら、いくらでも構わないよぉッ!」

「やったぁ! ありがとうございます、愛染さん!」

 

 快諾に千歌たちは喜び、曜と梨子が克海たちと愛染にお辞儀した。

 

「それじゃ、私たちはこれで。また後でね、功兄ぃ克兄ぃ!」

「愛染さん、私たちはこれで失礼します」

「うむ、頑張ってくれたまえ!」

「曜ちゃん梨子ちゃん、早く行こう! アイゼンテックの社員さんみんなに宣伝しよう!」

「ああ、待ってよ千歌ちゃん!」

 

 意気揚々とチラシ配りに行く千歌たち三人の後ろ姿を、ウッチェリーナが見送って独白した。

 

[あの子たち、とても仲がよさそうねぇ。とってもいいわぁ……隠れたところではもっと仲睦まじいことしてるんじゃないかしら。たとえば……ああん、そんなっ! ダメよウッチェリーナ! あんな無垢な子たちでそんなこと考えちゃうなんて!!]

「ど、どうしたんだ……?」

 

 突然ウッチェリーナが一人で声を荒げ出したので面食らう克海。愛染はそれに何でもないことのように告げた。

 

「気にしないでくれたまえ。ウッチェリーナ君には妄想癖があるだけなんだねぇ」

「AIが妄想……?」

「すっげぇ技術! やっぱアイゼンテックは進歩してるな~!」

 

 克海はそれが何の役に立つのかと呆気にとられたが、功海は素直に感心した。

 千歌たちを見送ると、愛染は兄弟たちの方に向き直る。

 

「さてでは、私たちも本題に入ろうか。君たちの用件は何だい? 遊びに来たんじゃないんだろう?」

 

 問われると克海たちはたたずまいを直して、話を切り出した。

 

「実は……こういう形のもの、見覚えありませんか?」

 

 功海と克海がルーブクリスタルの形を写したスケッチを愛染に見せると、愛染は頻りにうなずいた。

 

「あぁ~、これかぁ。よろしい、社長室に案内しよう」

 

 そう言って、愛染は兄弟をアルトアルベロタワー最上階、展望室となっている社長室に連れていった。

 

 

 

「私たち、新しいスクールアイドルAqoursです!」

「日曜日にライブやります! 是非来て下さい!」

「よろしくお願いします!」

 

 千歌、曜、梨子のAqours三人はアイゼンテック社内を回りながら、出会う社員たち一人一人にチラシを渡して宣伝していった。その内の女性社員が強く興味を示す。

 

「へぇ~、スクールアイドルね。社長が好きな奴。私の妹もやってるのよ!」

 

 チラシを渡した曜が彼女と話を交わす。

 

「そうなんですか? その子はどこの学校ですか?」

「社長の経営するとこ。アイゼンアイドルスクールよ。この子なんだけど」

 

 懐から一枚の写真を取り出す社員。それには、ロングヘアを金色に染めた美少女が写っていた。

 

「へ~、お洒落でかわいい子ですね!」

「ありがと。社長も妹のことを高く評価してくれたみたいで、新しい特待生コースに勧誘してくれたって言ってたわ。ラブライブにエントリーするのなら、あなたたちとはライバルになるかもね」

「その時はいい勝負できるように頑張ります!」

 

 手を振り合いながら女性社員と別れると、チラシを配り切った梨子と合流した。

 

「曜ちゃん、そっちは配り終わった?」

「うん。千歌ちゃんは?」

「終わったみたいけど、何かパワードギアとかいうのの試着をやらせてもらってるわ。しばらくはあれに夢中そう……」

 

 やれやれと肩をすくめる梨子。曜も苦笑を浮かべた。

 

「克海さんと功海さんの方は?」

「愛染さんと上の階に行ってたけど。向こうもそろそろお話し終わったんじゃないかな?」

 

 と話していたら、噂をすれば影と言うべきか、克海と功海が二人の元に戻ってきた。

 

「曜ちゃん、桜内さん、ここだったか」

「千歌の奴は?」

「千歌ちゃんはもうちょっと掛かりそうです……」

「それで功兄ぃ、克兄ぃ……」

 

 曜は声を潜めると、周囲に耳がないことを確認してから、兄弟に尋ねかけた。

 

「愛染さんから何聞いたの? 聞いてきたんでしょ? ……ウルトラマンのこと」

 

 ウルトラマンの名前を出すと、梨子も緊張の面持ちとなった。克海と功海も神妙な顔で、曜たちに告げる。

 

「ウルトラマンのことが直接分かったって訳じゃないが……」

「愛染さんが、妖奇星の伝説を調べてたってことは話してもらったぜ」

「そうだったんだ……!」

 

 兄弟は愛染から伺った話を、二人に説明した。

 まず、綾香の土地に1300年前に落下した妖奇星の伝説だが、一般的には隕石ということになっているものの、愛染は別の仮説を立てていた。それは、妖奇星の正体が争いながら地球に落下してきた三つの巨大生命体だというもの。その二つが光の巨人、ウルトラマンであり、もう一つの戦っていた相手が、グルジオの正体である怪獣。

 

「妖奇星の正体が巨大生物……。突拍子のない話みたいですけど……」

「俺も以前までだったら、全然信じなかっただろうけどな……」

 

 腕を組む克海。愛染の仮説は、兄弟が幻視したウルトラマンと怪獣の様子に一致していた。

 そして二人のウルトラマンは落下の際の衝撃で無数のクリスタルとなって飛び散った。それが正しければ、兄弟が持っている二つのクリスタルはその一部ということになる。

 

「ってことは、ウルトラマンのクリスタルって他にもたくさんあるってこと?」

「そうなるな。愛染さん、あくまで研究してただけで、実物は持ってないって言ってたけど……」

 

 曜の質問に功海が答えていると、四人の視界の端に奇妙なものが映った。

 

「? 何だ、あれ……」

 

 窓から見える綾香の風景の晴天に、不自然な稲妻が走ったのだ。その稲妻の中心に、空間の穴とでもいうべきものが開き、中から蛇の化け物のような巨大怪獣が出現。真下のビルを踏み潰して地上に降り立った!

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

「あれは!?」

「また怪獣!?」

 

 梨子が焦った声を上げると、アイゼンテック社内にアラートとウッチェリーナの放送が流れた。

 

[危険です! 巨大生物が急接近しています! 直ちに地下シェルターへ避難して下さい!]

 

 突如綾香の中心に出現した巨大怪獣ガーゴルゴンは、立ち並ぶビルを薙ぎ倒しながら一直線にアルトアルベロタワーに向かって進撃し始めた!

 

「やばッ!」

「みんな、急ごう!」

 

 アイゼンテックの社員たちが血相を抱えて一階へ走っていく中、克海と功海も梨子と曜を連れて避難していく。

 が、階段で二階まで下りてきたところで、克海たちは足を止めて梨子と曜に振り向いた。

 

「二人はシェルターに避難してくれ。千歌ももうそっちに行ってるはずだ。功海、行くぞ!」

「了解だ、克兄ぃ!」

 

 克海と功海はシェルターとは別方向に向かっていこうとする。その背中を、曜が呼び止めた。

 

「待ってよ功兄ぃ克兄ぃ! 怪獣と戦うつもりでしょ!」

「そうだ! だから曜ちゃんたちは安全なところに……」

「だったら、私も連れてって!」

「曜ちゃん!?」

 

 曜の突然の言葉に梨子たちは仰天した。

 

「何言ってるの!? すごく危ないことよそれ!」

「功兄ぃたちはその危ないことをしに行くんだよ! 心配なんだって!」

 

 止めに掛かった梨子に反論すると、曜は克海と功海に訴えかける。

 

「私も力を貸すよ! 私がいれば、功兄ぃ何かパワーアップするんでしょ!?」

「確かにそうだったな……。よーしじゃあ……!」

「馬鹿言うな功海ッ! 駄目だ!」

 

 一瞬うなずきかけた功海だが、すぐに克海が咎めた。

 

「曜ちゃん、気持ちは嬉しいがこれは俺たちだけが背負うべき責任だ。君まで危険な目に遭わせる訳にはいかない」

「でも……!」

「大丈夫だ、俺たちは必ず勝って帰ってくるから。功海もいいな?」

「……ああ、分かったよ克兄ぃ。曜、ありがとな」

 

 克海は考え直した功海を連れて、今度こそ迫り来るガーゴルゴンの方向へと走っていった。

 

「あっ……!」

「曜ちゃん、行こう……! 千歌ちゃんが待ってるはずだよ……」

 

 一瞬二人に手を伸ばしかけた曜だったが、梨子に腕を掴まれ、後ろ髪を引かれながらもシェルターの方向に踵を返したのだった。

 

 

 

 地下シェルターの入り口前には愛染が立ち、腕を振って社員たちを中へと誘導していた。

 

「こっちこっち! 押さないようにね! 大丈夫、シェルターはみんな入れるから!」

 

 人の波が途切れてきたところで、愛染は最後に走ってきた眼鏡の男社員に問いかける。

 

「氷室(ひむろ)君、これで全員かな?」

「社員はそうですが、高海さんのご子息二名と娘さんのご友人がまだです」

「何と!?」

 

 愛染と氷室の傍らでは、千歌がハラハラとした表情で梨子たちを待っていた。

 と、そこに梨子と曜の二人が駆けてきたので反射的に飛び跳ねた。

 

「梨子ちゃん、曜ちゃん! こっちこっちー! ……あれ? お兄ちゃんたちは?」

「功兄ぃと克兄ぃは……その、行くところがあるって!」

 

 本当のことを言えない曜はそうはぐらかした。

 

「えぇー!? こんな時にどこにぃ!?」

「し、心配しないで先に行っててって言ってたわ。さぁ千歌ちゃん、行きましょう」

 

 梨子と曜は半ば強引に千歌を連れてシェルター内に避難していった。が、その後ろで、

 

「へぇー…そっかぁ……」

 

 三人の話を耳に入れた愛染が何かを得心したように目を泳がせ、氷室は眼鏡を光らせた。

 

 

 

 梨子と曜と別れた克海と功海の兄弟は、アルトアルベロタワーから外へ出て、こちらに接近しつつあるガーゴルゴンを視界に収めた。

 

「止めるぞ、功海!」

「オッケー!」

 

 二人は手を叩き合わせて息を合わせると、ルーブジャイロを取り出して構えた。

 

「「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 ルーブジャイロとクリスタルを使って変身し、ウルトラマンロッソとブルがガーゴルゴンに向けて飛び出していった!

 



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元気全開アイゼンテック(B)

 

 千歌たち三人が避難していったアルトアルベロタワーの地下シェルター内では、アイゼンテック社員たちが皆不安な面持ちでいた。その中で高海母が三人を見つける。

 

「千歌、克海と功海は一緒じゃないの?」

「お母さん。それが、お兄ちゃんたちは行くところがあるって……」

「そう……。きっと何かあったのね。あの子たち、昔から妙に正義感が強くて困ってる人なんかをほっとけない性分だから……」

 

 高海母がため息を吐いていると、シェルター内の巨大モニターに光が灯った。

 

「みんな、飛行船からの映像が届いたよ! おお、これはッ!」

 

 愛染が説明をしながら、モニターに映し出された地上の様子を大仰に指差した。

 

「ウルトラマンだぁーッ! ウルトラマンが怪獣と戦ってるぞぉー!」

「ほんとだ! ウルトラマンさん!」

 

 映像の中では、克海と功海が変身したロッソフレイムとブルアクアがまさにガーゴルゴンに立ち向かっているところであった。愛染は暗い表情だった社員たちを囃し立てる。

 

「ウルトラマンは我々のために怪獣を退治しようとしてるのだ! みんなでウルトラマンを応援しよーうッ!」

「う……ウルトラマン……!」

「がんばってくれー!」

「私たちを助けてぇっ!」

 

 心が弱っているところに希望の光が差し込んだことで、社員たちは口々に映像の中のロッソとブルに声援を送り出した。

 

「ふふ……」

 

 それに愛染はこっそりと、満足そうにほくそ笑んだ。

 当のロッソとブルは、二人でガーゴルゴンの背後に回り込んで相手を捕らえ、後ろに倒れ込む形で地面に激しく叩きつけた。

 

「やった!」

 

 曜がぐっと手を握ったが、ガーゴルゴンは倒れた姿勢のまま二股の尻尾を伸ばし、ロッソたちを突き飛ばす。

 

「あぁっ!?」

 

 起き上がったガーゴルゴンは口を開くと、その中に隠されてあった目玉を露出。

 

「何あれ!? 口の中に目が!」

「気色悪い……!」

 

 地球の生物ではありえない肉体構造に、梨子はブルリと悪寒に震えた。

 それだけではない。ガーゴルゴンは目玉から怪光線を発射! 地面をなぞりながらロッソとブルに光線が迫る!

 

「危ないっ!」

 

 ロッソとブルは左右に分かれて回避したが、背後にあった鉄塔に光線が当たると、鉄塔はたちまち石に変わってしまう。

 

「鉄塔が石に……!?」

「! もしかして、あの時の……!」

 

 梨子はアイゼンテック社に訪れた時、空から石の鳥が落下してきたことを思い出した。そういうことだったのだろう。

 

「あれ、超やばいじゃんっ!」

 

 震える曜と同じように、ロッソとブルもガーゴルゴンを警戒。だがガーゴルゴンはロッソに肉薄して抑え込むと、ブルに向けて石化光線を放った。

 反射的にかわしたブルだが、光線はガラス張りのビルに当たって反射。それが運悪くブルの方に飛んできた!

 

「あぁーっ!?」

 

 光線が命中したブルは、あっという間に石像に変えられてしまった!

 

「功兄ぃーっ!」

「え?」

 

 曜は思わずそう叫んでしまい、千歌が呆気にとられて振り向いた。

 

「功兄ぃ? 功海お兄ちゃんがどうかしたの?」

「あっ……!?」

 

 失言に気づいた曜は慌ててごまかす。

 

「ち、違うよ。今のは石にぃーっ! って言ったの。ウルトラマンさんが石にされて、超ピンチだよ!!」

「だよね! 負けないで、二本角のウルトラマンさん!!」

 

 千歌と同じように周りの社員たちの声援が強まるが、無情にもガーゴルゴンは拘束したロッソにも石化光線を食らわせようとする。絶体絶命だ!

 しかしその時、梨子がロッソのある異変を見止めた。

 

「あれ? 何か、角が光って……」

 

 

 

『え……?』

 

 ロッソ自身も、ガラス張りのビルが鏡となって、己の角が発光していることに気がついた。

 咄嗟に角に両手をやったロッソ。すると……角からふた振りの片手剣型の武器を引き抜いた!

 

『そういうことかッ!』

 

 双剣を手にしたロッソは首に巻きついた尻尾を払うと、素早くガーゴルゴンの目玉を切り裂いた。不意打ちに反応できなかったガーゴルゴンは斬撃をまともに食らう。

 

「キュウッ! アァオ――――――――!」

 

 痛恨の一撃を食らったガーゴルゴンが後ずさりし、目玉が潰されたことでブルの石化が解けて元に戻った。

 

『大丈夫か?』

『何とか……』

 

 意識が戻ったブルはロッソの横に並ぶと、彼が握る双剣に目を留める。

 

『そんなすげぇもん、どこで見つけたんだよ?』

『頭に武器が仕込んであったんだ』

『よぉーし! だったら!』

 

 ブルもまた己の一本角に手を添える。そしてこちらは一刀の両手剣が出てきた。

 

『これであいつを仕留めてやる!』

『よく見ろ。下手に戦うとまた石だぞ!』

 

 武装して調子づいたブルに、ロッソが注意を促した。

 

 

 

「角から武器が……!」

「すっごーい! いっけぇー!」

 

 窮地から一転して武器を得たロッソとブルに、曜たちが盛り上がって応援に熱を入れる。

 ロッソとブルは剣でガーゴルゴンの稲妻光線を切り払いながら接近し、波状攻撃による斬撃を浴びせていく。武装した以上、数で優勢のウルトラマン側に戦況が転ぶ。

 が、ガーゴルゴンもしぶといもので、稲妻光線でロッソとブルの周囲を薙ぎ払って二人に爆撃を食らわせた。

 

「あぁっ! あの怪獣強いよぉ!」

「頑張って……!」

 

 千歌たちはロッソたちを信じて応援する以外にない。

 そうしていると、ロッソとブルはクリスタルチェンジ。ロッソアクアはブルフレイムを自分の後ろにつかせると、ガーゴルゴンが飛ばしてくる稲妻光線を回避することに専念し出す。

 攻撃がことごとくかわされるガーゴルゴンは痺れを切らしたように、再生した目玉から石化光線を繰り出す!

 

「またあの光線だっ!」

「危なぁいっ!」

 

 悲鳴を発する千歌だが、ロッソは恐れず、水のバリアを作り出して光線を受け止めた。水のバリアは鏡となり、石化光線をガーゴルゴン自身に跳ね返した!

 

「おおー!?」

「あったまいいー!」

 

 パチンと指を鳴らす曜。自分の光線を食らったガーゴルゴンは、自分自身の下半身が石となってしまった。

 

「動きを封じたわ!」

「今だぁ! いっけぇー!」

 

 曜の応援が届いたかのようにブルがガーゴルゴンにジャンプ斬りを浴びせ、再び目玉を潰すと、ロッソとブルのコンビネーションによる斬撃をお見舞いした!

 それが致命傷となって、ガーゴルゴンは大爆発を起こして消滅したのだった。

 

「やったぁー!」

「みんなッ! ウルトラマンが怪獣を倒したぞぉー! 私たちは助かったのだぁーッ!!」

「わぁぁぁぁぁぁ――――――――!!」

 

 ロッソとブルの大勝利に、シェルター中が歓声で包まれたのであった。

 

 

 

『おっさき~』

『おいちょっと!』

 

 ガーゴルゴンを撃破したブルは空に飛び上がって地上から離れていく。つられて飛び上がったロッソはブルに追いつくと、こう問いかけた。

 

『いきなり飛んでどこ行くんだよ?』

『だって、『一難去ったら全身で翔ばたけ』だろ?』

『しょうがねぇなぁ……』

 

 愛染の言葉を引用したブル。ウルトラマン兄弟はそのまま、地平の彼方へと飛び去っていった。

 

 

 

 ――ロッソとブルに倒されたことで戻ったガーゴルゴンクリスタルは、複数の怪獣クリスタルが収められているケースに嵌め込まれた。

 クリスタルを収納した愛染が、にこやかに首を振った。

 

 

 

 その日の晩、『四つ角』で功海は何やらうなりながらウロウロしていた。

 

「う~ん……ルーブソード、ルーブエッジ……ダメだなぁ~安直だ……」

「功海どうしたんだ。そんな檻の中のクマみたいに」

 

 克海が気を掛けると、功海は次のように答えた。

 

「今日手に入れた武器の名前を考えてんだよ。名前あった方が便利だろ?」

「名前? そんなん何でもいいだろうが」

「いやいや! ここは気分が盛り上がるように、かっこいい名前決めようぜ~! 克兄ぃ、何か思いつかねぇ?」

「名前ねぇ……」

 

 聞かれた克海が、少しの間考え込んだ後に、口を開いた。

 

「じゃあ、ルーブスラッガーってのはどうだ?」

「スラッガー?」

「野球で、強打者を示す言葉だ。ほら、剣とバットって似てるだろ? それでさ」

 

 バットを振る動きをした克海に、功海は満足げに表情を輝かせた。

 

「いいなそれ! 響きが気に入ったぜ! じゃ、俺のがルーブスラッガーブルで、克兄ぃのがルーブスラッガーロッソな!」

「ああ。全く、子供っぽい奴め……」

「いいじゃんかよー。それより、千歌たちはどうしたんだ?」

 

 聞かれて、克海は天井、千歌の部屋を指差した。

 功海が二階に上がって、そっと襖を開くと……。

 

「ここでステップするより、こう動いた方が、お客さんに正対できていいと思うんだけど……」

「じゃあ、ここで私がこっちに回り込んで、サビに入る?」

 

 あんなことがあったというのに、気を休ませることなく真剣にライブの演出を議論していた。

 

「……」

 

 功海は柔らかに微笑むと、静かに襖を閉じた。

 

 

 

 その後、ライブの打ち合わせに熱中し過ぎたことによりバスの最終便を逃してしまったので、曜を克海が家に送ることとなった。

 軽トラックで曜を送る最中に、克海が不意に話しかけた。

 

「けど、少し意外だったな。千歌がスクールアイドルに、こんなにも夢中になるなんて」

「え?」

「あいつ、割と飽きっぽいだろ。何かを始めてもすぐにやめるし。だから俺も功海も、今回もどうせ長続きしないって思ってたんだけどな」

 

 克海の評に対して曜はこのように返す。

 

「飽きっぽいんじゃなくて、やると決めたことはとことんやるタイプなんだよ。だからやらないと決めたことからはすぐに手を引くんだと思う」

「なるほどな……。流石、俺たちに見えないところもよく見てるな」

「えへへ」

 

 苦笑した曜に、克海は問いかける。

 

「それで、ライブは成功しそうなのか? 今後の活動が懸かってるんだろ?」

 

 しかし、曜は不安げな表情を浮かべた。

 

「上手く行くといいけど……体育館割と広いし。人の少ないここで、ほんとに満員に出来るかと言われれば……」

 

 と弱気な曜に、克海は微笑みかけた。

 

「大丈夫さ。確かにここは何もないような田舎だが、みんな温かい。ここには心がある。だから俺も功海も、千歌も、この町が好きなんだ。……きっと成功するさ」

 

 克海の言葉に曜は少し驚いた顔となり、そして柔らかな笑顔となった。

 

 

 

 運命のライブ当日。だが天候は崩れ、土砂降りの空模様であった。

 

「大分降ってるな……」

「ああ……。千歌たちついてねぇな~……」

 

 軽トラックで浦女に向かう克海と功海は、道中顔をしかめていた。天気が悪いと人は外に出たくなくなる。当然の心理だ。そんな状態で、体育館を埋め尽くせるだけの人が集まるのだろうか……。流石に不安はぬぐい切れない。

 

「まぁ、どんな結果になっても俺たちはあいつのこと、温かく迎えてやろうぜ!」

「ああ。もちろんだ」

 

 自分たちが暗くなっていても仕方がない。浦女が見えてくると、二人は気分を切り替えた。

 しかし学院の校庭が見えてくると、克海たちは激しく面食らうこととなる。

 

「んなッ……!?」

「な、何じゃこりゃあ!?」

 

 ――荒天にも関わらず、校庭は来客の車で埋め尽くされており、さながら人気テーマパークのパーキングエリアみたいになっていたからだ。

 それだけではなく、呆けている克海たちの軽トラの後尾に続々と車がやってきて列をなしていく。この過疎化が進む内浦で、渋滞が出来上がっているのだ。

 

「す、すげぇ……。内浦ってこんなに人いたのか……?」

「この分だと、内浦の外からも集まってきてるみたいだな……。千歌たちのライブに……」

 

 予想をはるかに上回る光景を目の当たりにし、すっかり言葉を失っていた克海たちだが、現実を呑み込んでいくと、みるみる顔を輝かせた。

 

「克兄ぃ! これならライブ大成功だよな!」

「当たり前だろ! 千歌たちも喜ぶに違いない!」

「いぇ~!! 俺たちの妹、超人気者だ~!」

 

 気持ちが昂った克海と功海はパンッ! と手を叩き合った。

 レインコートを纏って下車し、体育館の出入り口に向かうと、そこで更に意外な人物と出くわした。

 

「やーやー高海兄弟くんッ! 生憎の雨だが、ここは大盛況だねぇ~!」

「愛染さん!?」

 

 愛染と氷室が体育館の扉の前にいることに克海たちは仰天。

 

「まさか、ほんとに来てくれたんですか!? お忙しいでしょうに……」

「なぁ~に! この愛と正義の伝道師愛染正義、新しいスクールアイドルの誕生を祝福しない訳にはいかな~い! 高海君も来られたらよかったんだけど、彼女には急な出張が入ってしまってね~。そこは実に申し訳ない」

「と、とんでもない! 千歌たちのためにわざわざ来ていただけただけで、十分すぎますって!」

 

 功海は未だ信じられないといった顔でブンブン首を振った。克海は愛染の後方に控える氷室に顔を向ける。

 

「そちらの方は?」

「ああ、これはウチの副社長の氷室仁(じん)だ。堅物に見えるけど、これもアイドル好きでね~。一緒に来ちゃった!」

「氷室仁です。どうぞ『今後とも』お見知りおきを」

「ふ、副社長さんにまで! 何か俺もう、倒れちまいそうだよ~……」

「おいおい! お前が倒れてどうするんだっての!」

 

 思わずよろめいた功海を支えた克海は、氷室にペコペコ頭を下げた。

 

「氷室さん、どうも母がお世話になってます」

「いえ。それよりも、ライブの開始時刻は1時半で間違いありませんよね」

「? そうですけど……?」

 

 唐突に尋ねてきた氷室に、呆気にとられる克海。今は1時を少し過ぎたくらいであり、ライブ開始にはまだ早い。

 

「ですが今しがた中を確認したら、既に舞台でAqoursの皆さんが歌われていたのですが」

「「へ?」」

 

 一瞬変な顔となった克海と功海は、互いに顔を見合わせる。

 

「まさか……」

 

 二人は扉をわずかに開き、自分たちの目で体育館の内部を確かめると、停電したのか明かりの点いていない舞台上に、確かに千歌たちAqoursの姿があった。

 それでおおまかな事情を理解した克海と功海は――思い切り扉を開け放って舞台上の千歌に向かって叫んだ。

 

「おいバカチカー! 開始時間間違えてんぞー!!」

「さぁ、皆さんどうぞ中に」

 

 克海が来客を体育館の中へ誘導し、直後に照明が復旧。

 体育館を埋め尽くし、それでも入り切らないほどに集まった人たちの姿が光の下に晒された。

 

「……ほんとだ。私、バカチカだ……!」

 

 暗闇の舞台上で涙をこらえていた千歌は、それを振り払って、曜と梨子とともにライブを改めて開始した!

 

(♪ダイスキだったらダイジョウブ!)

 

 舞台の上で歌い、踊る千歌たちを見守りながら、克海はふぅと嘆息した。

 

「全く、おっちょこちょいな奴だ。こんな大勢の前で早まるなんて、兄として恥ずかしいな」

「でも、結果大成功でよかったじゃん。マジで体育館満員にしてさー」

「確かに、こんなにも集まったのは正直予想外だったな……」

 

 と話していると、功海に手を振る一団が出てくる。

 

「おーい高海ー! お前の妹のライブ、ちゃんと来たぜー!」

「あッ! あいつら……」

 

 その一団の顔に、克海は見覚えがあった。

 

「あれってお前の大学の友達の……何だ、結局二百人連れてきたのか?」

「し、知らねー。あいつらが勝手に来たんじゃね?」

 

 功海はわざとらしく口笛を吹いて素知らぬ顔をした。

 そこに今度は、克海に飛びついてくる人影が。

 

「オーウ克海ー! 二年ぶーりデースっ!」

「うわッ! 鞠莉ちゃん? 帰ってきてたのか?」

「イエース!」

 

 克海に抱きついてきた金髪の少女に、功海は目を丸くした。

 

「克兄ぃ、その子は?」

「あ、ああ。この子は小原鞠莉。あの小原グループのとこの子だよ。話したことあるだろ?」

「ああ、その子がそうなのか」

「小原鞠莉デース! 浦女三年生にして、ここの新しい理事長デース!」

 

 鞠莉の自己紹介に今度は克海が驚かされた。

 

「えッ、理事長? じゃ、部の承認の条件を出したのって……」

「私デスよー。それくらい出来ないようじゃ、スクールアイドルとして成功するなんて無理ですからね」

 

 鞠莉と親しげな克海の様子に、功海は下世話な顔となる。

 

「何だよ克兄ぃ~。小原のホテルに困ってるふりして、ちゃっかりしてんじゃんか。将来は合併かぁ?」

「まぁ、合併だなんて……」

「馬鹿、お前が想像してるようなんじゃねぇよ。鞠莉ちゃんは果南ちゃんの……あー……友達なんだ。その縁で知り合っただけだ」

「あぁそうなんか。果南の」

 

 克海がそう鞠莉を紹介すると、鞠莉は少し複雑そうな表情をした。

 

「……まぁ、再会のご挨拶はこれくらいにして、今は彼女たちの初ライブに集中しましょう」

「そうだな……。ちゃんと見届けてやらないと」

「ああ」

 

 鞠莉にうなずいて、克海と功海は舞台の千歌たちの方に集中した。

 ――そうして千歌たちが歌い終わると、体育館中に歓声が沸き上がり、体育館が割れんばかりの拍手に包まれた。

 それを一身に受けながら、曜、梨子、千歌は順番に語り出した。

 

「彼女たちは言いました!」

「スクールアイドルはこれからも広がっていく!」

「どこまでだって行ける! どんな夢だって叶えられると!」

 

 その時に、人の間を抜けて早足で舞台の前に向かっていく人影が現れる。

 

「ダイヤちゃん……!」

 

 浦女の生徒会長でこれまでずっとスクールアイドル部の承認を拒み続けていた黒澤ダイヤである。彼女は千歌たちに向かって言い放った。

 

「これは今までのスクールアイドルの努力と、町の人たちの善意があっての成功ですわ! 勘違いしないように!」

 

 きつく釘を刺すダイヤだが、千歌たちは動じなかった。

 

「分かってます! でも……でも、ただ見てるだけじゃ始まらないって! 上手く言えないけど……今しかない、瞬間だから!」

 

 千歌は梨子と曜と手をつなぎ合わせ、宣言した。

 

「「「輝きたいっ!」」」

 

 ――三人のその言葉を、克海たちは皆、再びの拍手で称えたのだった。

 

 ――その中で二人だけ。壁際で拍手をしていない愛染と氷室が、囁き合った。

 

「いやぁ~、彼女たちいいもの持ってるね~。氷室君、そう思わない?」

「おっしゃる通りで、愛染社長」

 

 眼鏡を光らせる氷室と、にんまりと口を吊り上げる愛染が、千歌たちの様子をじっと見つめ続けた。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

梨子「ビーチスケッチさくらうち! 今回ご紹介するのは、『Unite ~君とつながるために~』です!」

梨子「これは『新ウルトラマン列伝』内で放送された『ウルトラマンX』のエンディングテーマです。「ユナイト」は『X』のキーワードの一つなので、エンディングのタイトルとしてはピッタリですね!」

梨子「歌詞の内容は『X』という番組の趣旨、他者との理解をとても直接的に表現してます。でも変にひねらず、直球の言葉での表現は、それだけ心に訴えかけるものがあるのではないでしょうか」

梨子「映画でも主題歌として使用されましたが、こちらはボイジャーに加えて、2000年代のウルトラソングをよく担当したProject DMMも一緒に歌ったバージョンとなってます! 彼らの歌声に懐かしい気分となった方もいらっしゃるんじゃないでしょうか」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『元気全開DAY!DAY!DAY!』だ!」

功海「サンシャインのミニユニットシングル第一弾に収録された曲だな! 担当したのはCYaRon!の千歌、曜、ルビィちゃんの三人だ!」

克海「Aqoursの中でも元気いっぱいの三人に相応しい、明るさいっぱいなのがタイトルの時点で伝わってくるな」

千歌「それではまた次回をお楽しみに!」

 




曜「功兄ぃと克兄ぃの前にまた怪獣が現れた! しかも今度のはメチャ強い!」
梨子「このままじゃ、克海さんたちには勝ち目がない……!」
曜「功兄ぃ、克兄ぃ、私やっぱり……!」
梨子「私……私は……!」
梨子「次回、『勇気があったらダイジョウブ!』!」
曜「全速前進ヨーソロー!」


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勇気があったらダイジョウブ!(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

克海「アイゼンテックを襲った怪獣との戦いで、俺と功海は新しい武器、ルーブスラッガーを手に入れた。千歌たちの方もライブが大成功して、スクールアイドル部を出発できた! だが順風満帆とはいかないみたいで……」

 

 

 

 内浦と綾香の中間ほどの位置にある山間部。いつもなら小鳥がさえずる声が聞こえる程度の閑静な場所であるが、今は激しい地響きが山を騒がせていた。

 

『ぐはッ!』

『うわぁぁーッ!』

 

 ロッソアクアとブルフレイムが、敵に弾き飛ばされて地面の上に横倒しとなった。

 その敵の怪獣が、左手の鉄球と右手の鎌を打ち鳴らして咆哮を上げる。

 

「キィィィィィィィィッ!」

 

 五体の皮膚の形状が、つけ根を境に別々のものとなっている、一個の生命体としては不自然な肉体の怪獣。その名もタイラント! ロッソとブルは二人がかりでも、このタイラントの異様なまでの戦闘能力に追いつめられていた。

 

『克兄ぃ、あいつやばいよ! めっちゃ強えぇよ!?』

『けど俺たちは、逃げる訳にはいかないんだ! もう一度行くぞ!』

 

 既にカラータイマーが赤く点滅しているが、ブルとロッソは立ち上がって遠距離攻撃を仕掛ける。

 

『食らえッ!』

『いっけぇーッ!』

 

 ロッソがスプラッシュ・ボム、ブルがフレイムエクリクスを繰り出す。

 

「キィィィィィィィィッ!」

 

 だがタイラントの腹部にある五角形の口が開くと、二人の水と炎の攻撃を両方とも吸いこんでしまった。

 

『駄目だ、効かない!』

『ちっくしょう! 光線が駄目なら、武器で勝負だ!』

 

 ブルとロッソが角に手を添えて、ルーブスラッガーを引っ張り出した。

 

『ルーブスラッガーブル!』

『ルーブスラッガーロッソ!』

 

 一刀の長剣と二刀の短剣を構え、二人同時に斬りかかっていく。

 

『てやぁぁーッ!』

『はぁッ!』

「キィィィィィィィィッ!」

 

 が、タイラントの両腕の鎌と鉄球で易々と受け止められ、二人とも押し返された。

 

『うわぁぁッ! くッ……どの攻撃も通用しない……!』

『まずいよ克兄ぃ……! もう時間ないってのに……!』

 

 パワーでは圧倒され、光線も剣もまるで通じない。カラータイマーの点滅ばかりが早まっていく。手詰まりの状況にロッソもブルも、ジリジリと後ずさりする他なかった。

 

「キィィィィィィィィッ!」

 

 タイラントは口に炎を溜め、ロッソたちに吐き出そうとする。咄嗟に顔を腕でかばう二人。

 ……しかし、タイラントは突然ポンッと煙とともに消失した。

 

『あ、あれ……?』

『消えた……?』

 

 何の前兆もない事態に、ロッソたちはポカンと呆気にとられた。

 しかし待てども暮らせども、タイラントが再び二人の前に出てくることはなかった。

 

 

 

『勇気があったらダイジョウブ!』

 

 

 

 『四つ角』に帰宅すると、居間で功海がぼやいた。

 

「いや~、一時はどうなることかと思ったけどさ、怪獣いなくなってほんとラッキーだよな~。助かったぜ!」

 

 タイラントの突然の消失を楽観的に捉える功海を、克海が咎める。

 

「そんな気楽に構えてたら駄目だろ! 何でいきなり、どうやって消えたのかは分からないが、俺たちは倒した訳じゃないんだ。怪獣はきっと、また現れる」

 

 再出現の可能性を指摘され、功海がげんなりとした顔となった。

 

「うッ、だよな……むしろやられっぱなしだったもんな、俺たち」

「ああ……。次は助からないかもしれない。その前に、どうにかしてあの怪獣をやっつける手段を考えないと」

「そんな簡単に言うけどさー……実際どうすんだよ、あれ。こっちの攻撃がどれも、全然効かないんだぜ? 正直、手の打ちようがねーよ」

 

 すっかりお手上げの功海。克海も渋い顔。

 

「そこだよな、問題は……。あの怪獣と俺たちじゃ、地力が違いすぎる。そこをどうにかしないことには、きっと何したって無駄だぞ」

「地力の差ねぇ……。ほんと、どうすりゃいいんだろうな」

「お兄ちゃんたち、二人で難しい顔して何やってるの?」

 

 うんうんと頭を悩ませていたら、居間に入ってきた千歌がきょとんと克海たちを見比べた。二人は慌てて千歌に向き直る。

 

「ち、千歌! 帰ってきてたのか」

「ちゃんとただいまって言ったよー? 聞こえなかったの? 私の声が聞こえないくらい熱心に、何の話をしてたの? 教えて~チカにも教えてよ~」

 

 畳み掛けるような質問からのおねだりをしてくる千歌。しかし、本当のことを言う訳にはいかない克海たちは言葉を詰まらせた。

 

「そ、それはだな……功海」

「えっと……大人の男の話さ! 千歌にはまだ早えーよ」

 

 克海に振られた功海が適当にごまかしに掛かる。

 

「えー? 何それ。私だけのけ者にするつもりなのー!? ほんと、お兄ちゃんたち最近おかしいよ!」

「えぇーい、いいからいいから! それより、スクールアイドルの方は順調なのか? 確か部は承認されたんだったよな?」

「そうそう。スタートラインを切ってからが大変なんだぞ、千歌」

 

 話題のすり替えをして千歌の意識をそらそうとする功海と克海。果たして、千歌は二人の目論見通りに追及をやめた。

 

「うん! ちゃんと部室ももらえたし。まだ片づけがちょっと終わってないけど……でも、新しい部員候補の子たちも見つけたし! スクールアイドル部はこれからどんどん大きくなってくよー!」

「子たちってことは、何人かいるのか」

「まぁ二人だけどね。一年生で、国木田花丸ちゃんと黒澤ルビィちゃんって言うの!」

 

 黒澤ルビィという名前に、克海が千歌に振り向き直った。

 

「そのルビィって子……」

「うん。生徒会長の妹さんなんだって。だけど生徒会長と違って、スクールアイドル大好きみたい! とってもかわいいし、ここは是非ウチに入ってもらわないと~」

 

 うへへ、と嫌らしい表情をする千歌に功海は呆れ顔。

 

「あんま強引な勧誘すんなよー? 桜内さんの時は上手く行ったみたいだけど、そうそう何度も成功するとは限らねぇんだからな」

「分かってるってぇ」

 

 功海が千歌と話している一方で、克海は複雑な表情であった。

 

「……練習はちゃんとやってるんだろうな?」

「そりゃあもちろん! 毎日頑張ってるし、スタミナつけるために神社の階段の昇り降りだってやってるんだから! あの長いので!」

「へ~。毎日朝早くに家出るのはそれが理由か。あの千歌が、よくやるもんだなー」

「ちょっと功海お兄ちゃ~ん? それってどういう意味かな~?」

 

 千歌がむぅ~とむくれていると、今の話を聞いた克海が顎に手をやった。

 

「スタミナか……」

 

 

 

 翌早朝。梨子と曜は連れ立ってグルジオを祀る「偶龍璽王神社」の長い石段前へと向かっていた。

 

「千歌ちゃん、今日は先に行ってるみたいだね。何故か功兄ぃも克兄ぃも今朝は留守だったけど……」

「克海さんと、功海さん……。二人の身体は大丈夫なのかしら? 昨日は、大分危なかったみたいだし……」

「ああ、そっか……そうだったよね……」

 

 梨子が言外にウルトラマンのことに触れると、曜が複雑そうにうつむいた。

 

「どうなんだろ……。功兄ぃたち、何だかんだで弱いとこは見せたがらないからなぁ」

「怪獣との戦いなんか続けてて、身体が持つのかしら……。まぁ身体のことなら、私たちも壊しそうなことしてるけど……」

「今日は最後まで休憩なしで昇り切れるかなぁ……?」

 

 などと話しながら階段前に到着すると、意外な先客の顔を目にすることとなった。

 

「か、克兄ぃ……ちょっと休憩しようよ……。もう動けねぇって……」

「だらしないぞ、功海! もっと根性見せろ!」

「あれっ、功兄ぃ克兄ぃ!?」

 

 石段の上から克海が、ヘトヘトになっている功海を引っ張るようにしながら降りてきたのとばったり出くわし、曜たちは面食らった。

 

「ああ曜ちゃん、桜内さん」

「千歌なら、上で休んでるぜ……」

「そうなんだ……ってそうじゃなくて。克海さんたちまでどうして?」

 

 梨子が尋ねると、克海が功海を指差しながら答える。

 

「いや、最近こいつ運動不足でだらしないから、兄としてちょっと鍛えてやらなきゃと思ってな」

「……まぁ、そんな説明を千歌や果南にはしたんだけど……」

 

 つけ加える功海。兄弟の事情を知る曜たちは、本当の理由に察しがついた。

 

「……昨日の怪獣に対抗するための特訓って訳なんだ」

「知ってんのか?」

 

 功海が聞き返すと、曜はスマホを取り出して一本の動画を見せた。

 昨日の、二人がタイラントと戦い、追いつめられるまでの一部始終であった。

 

「うわッ、あれ撮ってる人がいたのか……」

「全然気づかなかったなぁ……」

「ねぇ、克兄ぃ、功兄ぃ……」

 

 呆気にとられる克海たちに、曜と梨子が恐る恐る尋ねる。

 

「何て言うか……大丈夫なの? すっごい一方的にやられてるじゃん……。また同じのが出てきたら、次はもしかしたら……」

「私も心配です……。失礼ですけど、階段を昇り降りするくらいで、勝てるようになるんでしょうか?」

 

 二人の意見に合わせるように、功海も克海に文句をつける。

 

「だから言ったろ、克兄ぃ。今から足腰鍛える程度でどうなるんだよ。何か別の方法を……」

「そんなこと言っても、他にいい手なんかあるのか?」

「そ、それもそうだけど……」

「うんうん考え続けて、結論が出なかったら結局時間の無駄だぞ。とりあえず、やれることをやるんだ」

 

 ピシャリと功海をはねつけた克海が、努めて明るく振る舞って曜たちに向き直った。

 

「心配してくれてありがとう。だけどこれは俺たちの問題だ。俺たちでどうにかしてみせるさ」

「だけど……」

 

 曜が反論しかけたところで、上から更にもう一人階段を駆け下りてきた。

 

「あっ、二人も来たんだ。急にここ、人気になったね」

「果南ちゃん!」

 

 階段を走って降りてくる果南の姿に、曜がまさかと驚く。

 

「もしかして往復してきたの? この長い階段!」

「一応ね。日課だから」

「日課!?」

 

 何でもないことのようなひと言にますます驚く梨子たち。だが果南は気にする様子もなく克海たちに向き直った。

 

「千歌たちはともかく、克兄ぃたちまでランニング始めるなんてね。どんな風の吹き回しか知らないけど、まぁ頑張って」

「ああ」

「じゃあ、店開けないといけないから。じゃあね!」

 

 ひと言残して、果南はそのまま走って神社前から去っていった。その後ろ姿を見送って、呆然とする梨子たち。

 

「息一つ切れてないなんて……」

「上には上がいるってことだね……」

「ほら功海! 果南ちゃんに負けてて悔しくないのか! もうひとっ走り行くぞ!」

「ち、ちょっと克兄ぃ、待ってよ~……!」

 

 克海から発破を掛けられた功海が、しぶしぶながら彼の後に続いて石段を駆け上がっていく。

 

「あっ……!」

 

 置いていかれる形となった曜は、梨子にこう話しかけた。

 

「やっぱり心配だな、功兄ぃたち……。やっぱり、前やったように私が力を貸せば……!」

 

 一瞬そう考えた曜だが、梨子に諭される。

 

「でも、それは当然危険なんでしょう? もしものことがあったら……スクールアイドルも出来なくなるかもしれない。そしたら、千歌ちゃんがすごく悲しむはずよ」

「うっ……それも、そうだけど……」

 

 言葉に詰まる曜。梨子も彼女の気持ちには同感するものがあったが、それでも危険なことはさせたくないという気持ちの方が強かった。

 

「……上で千歌ちゃんが待ってるわ。早く行きましょう」

「うん……」

 

 沈黙が流れた二人は、いたたまれなくなって階段を上がっていこうとする。が、その寸前、曜が不意に後ろに振り返った。

 

「?」

「どうかしたの?」

「いや……何か、誰かに見られてるような気がして」

 

 しかし、周りにはどこにも人の姿らしきものは見受けられなかった。

 

「や、やめてよ、変なこと言うの。さっ、行きましょ」

「うん……」

 

 首をひねりながらも、曜は梨子の後に続いて石段を昇っていった。

 ――その姿がなくなってから、近くの茂みの中からひよこ色のドローンが出てきて綾香の方向へ飛び去っていった。

 

 

 

 その日の放課後、千歌たちが立ち上げたスクールアイドル部に仮入部希望者がやって来た。千歌が目をつけた、国木田花丸と黒澤ルビィの二名である。特に千歌がこれに喜び、自分たちの活動を親身に紹介していった。練習場所など、まだ定まっていない部分もあったが……どうにか無事に解決していった。

 そして、偶龍璽王神社の階段の昇り降りも紹介する。

 

「これ、いつも昇ってるんですか!?」

 

 驚き混じりのルビィの問いに、千歌が自慢げに答えた。

 

「もちろんっ!」

「いつも途中で休憩しちゃうんだけどね」

「えへへ~……」

 

 曜のツッコミに、照れ隠しに頬をかく千歌であった。

 

「でも、ライブで何曲も歌うには、頂上まで駆け上がるスタミナが必要だし」

「じゃあ、μ's目指して……」

 

 スタートの合図を出そうとした千歌だが、その直前に、

 

「おーい! 君たちー!」

「ん?」

 

 上から大きな呼び声がしたので、五人が思わず顔を上げると……空から飛行装置を背負った人がゆっくりと降りてきた。

 

「愛染さん!」

「えぇーっ!? と、飛んでるよぉ……」

「み、未来ずらぁ……」

 

 愛染である。人が空を飛んでいるところを初めて目にしたルビィと花丸は驚き、花丸は思わず口走った言葉に慌てて口を閉ざした。

 

「どうも。愛と正義の伝道師、愛染正義です!」

 

 着陸してトレードマークのハートマークを手で作った愛染に、千歌が尋ねる。

 

「愛染さん、どうしてこんなところに?」

「いやぁ~、先日の君たちのライブがとっても良かったからねぇ! 退社ついでに、ちょっと様子見に寄ってみたという訳だよ」

「えぇ~!? 愛染さんに良かったなんて言ってもらえて、こっちこそ嬉しいですよぉ」

 

 にへへ~、とだらしなく破顔する千歌。

 

「その後順調かな? ん? おぉッ! 新しい部員がいるではないか~! うむ、良き哉良き哉!」

「いえ、二人はまだ仮入部者で……」

「ハッハッハッ。仮入部なんて、もう新入部員も同然だろうて!」

 

 梨子の訂正を軽く笑い飛ばしながら、愛染は花丸とルビィに向き直った。

 

「やぁやぁお初に。君たちもスクールアイドルは好きかい?」

「ぴぎっ!?」

 

 気さくに話しかける愛染だが、ルビィはその途端奇声を上げ、さっと花丸の陰に隠れた。

 

「おやおやどうしたんだい」

「すみません。ルビィちゃん、極度の人見知りで……」

「うーむなるほど。アイドルとしてはちょっと難点だが、そこも逆に個性! 頑張んなさい!」

 

 まともに話が出来ないルビィの代わりに謝る花丸だが、愛染は気にした風もなく、今度は梨子と曜に顔を向けた。

 

「ところで……そこのお二人は、何だか元気がないね」

「えっ……そうでしょうか?」

「何か大きな悩み事でもあるのかな? そうだろうねぇ。悩みのある人は、ちょうど君たちみたいな顔をする」

「そうなの? 曜ちゃん、梨子ちゃん」

 

 面食らって振り向く千歌。二人が何か答える前に、愛染が続けて話した。

 

「アイドルというものは、得てして重大な局面にぶつかるものだ。しかし、逃げていてはいけない! 真に人を笑顔にするアイドルとは、どんなことにもチャレンジして、試練を乗り越えて光り輝くのだ! たとえ、どんなことだろうとね」

 

 「どんなこと」を強調する愛染は、短冊を取り出して梨子たちに見せつける。

 

「そうッ! 『石橋にノンストップで行ってみましょ』だ! くれぐれもよく覚えといてね」

 

 梨子と曜は、思わず顔を見合わせた。

 

「おっと、すっかり邪魔しちゃったかな。いやぁ~失敬失敬」

「いえ、そんなことは全然……!」

「いやいや。スクールアイドルに時間は貴重だ。それじゃ、ラブライブ目指して頑張ってね~! バイバ~イ」

 

 謙遜する千歌に構わず、愛染は手を振りながら飛行装置で再び空に飛び上がり、五人の前から去っていった。

 

「はぁ~、相変わらず愛染さんはすごい人だなぁ。私たちも、負けてらんないよね!」

 

 気合いを入れ直した千歌が、スクールアイドルのトレーニングに皆の意識を戻す。

 

「それじゃあ改めて、よーいドーン!」

 

 そして今度こそ、皆で階段に向かって一斉に走り出していった。

 

 

 

 ――千歌たちの前から去って、帰ったものと見せかけた愛染は、人気のない山の中に密かに降り立って身を隠した。

 

「さってと……今日もよろしく頼むよぉ」

 

 愛染がそう呼び掛けたのは、懐から取り出した、「氷」のタイラントのクリスタルであった……。

 



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勇気があったらダイジョウブ!(B)

 

 偶龍璽王神社の階段の駆け上がりに挑むルビィは、先に到着した千歌たち三人から声援を受けながら、見えてきた鳥居を目指してラストスパートを掛けていた。

 

「あと少しだよー!」

「頑張れー!」

 

 そうして遂に、勢いよく鳥居をくぐってゴールにたどり着く。

 

「やった……やったぁ!」

「すごいよルビィちゃん!」

「見て!」

 

 千歌が、夕陽を後光とする祠を指差す。

 

「わぁぁ……!」

 

 達成感と感動に包まれるルビィ。千歌も、飛び跳ねながら宣言。

 

「やったよ! 昇り切っ……!」

「キィィィィィィィィッ!」

 

 だが台詞が、突然起こった金切り声のような咆哮によってかき消された。

 

「え?」

 

 唖然として、左上を見上げた四人の視線の先に……。

 

「キィィィィィィィィッ!」

 

 いつの間に現れたのか、タイラントの威容があった!

 

「ぴぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――!!?」

「か、怪獣ぅぅぅぅぅぅぅっ!! こんなところにぃぃ―――――――――!?」

 

 途端に悲鳴を発するルビィと千歌。タイラントは幸い彼女たちを気にも掛けていないが、何分その巨体、少し動くだけでも近くにいる千歌たちに危険が及ぶ。

 

「あ、危ないっ!」

「早く逃げよう!」

「う、うん!」

 

 梨子と曜が千歌とルビィの手を引き、来た道を引き返して逃走していく。しかしタイラントも山を下り、内浦に入り込もうとしている。

 

「やばいよ、町に入っちゃう……!」

 

 焦る曜だが、千歌はもう一つのことを気にする。

 

「ねぇ、花丸ちゃんは?」

「そういえば……!」

「途中で、先に行ってって……」

 

 ぜいぜい息を切らしながらそう答えるルビィ。

 

「捜さないと!」

 

 タイラントから逃げながら、姿が見えなくなった花丸を捜索する四人。

 しかしその途中で、別の二人が階段を逆走してくるのが見えた。

 

「克兄ぃ、昨日の奴だよ!」

「こんなに早く現れるなんて……あッ!?」

 

 功海と克海だ。面食らう千歌。

 

「お兄ちゃんたち、何で!?」

「えーっと、それは……」

「た、たまたま通りがかったんだよ! お前たちがいるはずだから、心配でだな」

 

 咄嗟にごまかす功海。梨子も協力して話をそらす。

 

「ここに来るまでに、女の子を見ませんでしたか!?」

「それなら、下の方ですれ違ったけど……」

「何故かダイヤちゃんもいたな」

「お姉ちゃんが!?」

 

 思わず声を上げるルビィ。しかし今はいちいち気にしている場合ではない。曜と梨子はルビィと千歌の背中を押す。

 

「千歌ちゃんとルビィちゃんは、先に花丸ちゃんのとこに行って!」

「えっ、曜ちゃんたちは?」

「私たちはいいから! 早く!」

 

 ほぼ無理矢理千歌とルビィに階段を下らせた梨子と曜は、克海たちに向き直り――曜が申し出た。

 

「功兄ぃ、克兄ぃ……私やっぱり、功兄ぃたちと一緒に戦うよ! 私も一緒に、ウルトラマンに変身させて!!」

「えッ!?」

 

 曜の言い放った言葉に思わず目を見張る兄弟。克海は慌てながら曜を説得しようとする。

 

「曜ちゃん、まだそんなこと言ってるのか! 言っただろ? これは俺たちの、俺たちだけの問題だって……」

 

 だが曜は首を横に振って否定した。

 

「違うよ! だって、襲われてるのは私たちの町だよ! 千歌ちゃんが暮らすところで、梨子ちゃんがいるところで、私がスクールアイドルやるところで……功兄ぃと克兄ぃがいるところ! だから、私の問題でもあるの!」

「曜ちゃん……」「曜……」

「お願いっ! 私の大切な場所を、私が守りたい! 勇気がついたの!」

 

 己の懸命な想いを吐露して訴えかける曜。

 それに続き、梨子も告げる。

 

「私もお願いします! 曜ちゃんがそうだったなら、私も力になれるかもしれません!」

「桜内さんまで!?」

「私は内浦に来てからまだ日が浅いですけど、それでもここが好きです! 失いたくありません! それに、さっき愛染さんが言ってました。『石橋にノンストップで行ってみましょ』と!」

「けれど……」

 

 二人の必死な願いを受けてもまだ迷っている克海だが、そこにタイラントの鳴き声が響く。

 

「キィィィィィィィィッ!」

「克兄ぃ! もう時間ないよ!」

 

 タイラントは今にも町に踏み込みそうだ。克海もいよいよ腹をくくった。

 

「分かった。けど無茶はするんじゃないぞ!」

「実際に戦うのは俺たちだけどな!」

「うんっ!」「ありがとうございます……!」

 

 願いが通り、曜と梨子の顔が輝いた。

 

「だけど、一緒に変身って言ったってどうやるんだ?」

「そんなの勢いで何とかなるって! あの時もそうだったし!」

「そんなもんか……?」

「つべこべ言ってる暇もねーってば! 俺から行くぜ!」

 

 功海が手本を見せるように、曜の側に寄ってルーブジャイロを取り出した。

 

「曜! 準備はいいな!?」

「もっちろん!」

 

 曜が大きくうなずくと、功海がクリスタルホルダーを開いて水のクリスタルをつまみ出した。

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 クリスタルを胸の前に置く功海の後ろで、曜がニッと笑って敬礼のポーズを取る。

 功海がクリスタルから一本角を出してジャイロにセット。

 

[ウルトラマンギンガ!]

 

 功海と曜の背後にギンガのビジョンが現れ、水の波動が広がった。功海は曜とともに上を見上げ、ジャイロを掲げる。

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」

「ヨーソロー!」

 

 功海がジャイロのレバーを三回引き、エネルギーチャージ。

 

[ウルトラマンブル! アクア!!]

「はあぁぁーッ!」

 

 功海と曜の二人が水柱に包まれ、一人の青い巨人となって飛び出していった!

 

『「功兄ぃ、成功だよ!」』

『よっしゃ!』

 

 ウルトラマンブルの水に包まれたインナースペースで、曜が告げた。それを見て、克海が梨子の方に振り向く。

 

「桜内さん、本当にいいんだな?」

「はい……!」

 

 梨子は重々しく、しかしはっきりとうなずいた。

 それを受け、克海が功海と同じように彼女の前で火のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 克海の後ろで、梨子がぐっと胸の前で右手を握り締めた。

 克海はクリスタルから二本角を出し、ジャイロにセット。

 

[ウルトラマンタロウ!]

 

 タロウのビジョンが現れて火が弾けると、克海は梨子とともに上を見上げ、ジャイロを掲げた。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「ビーチスケッチさくらうち!」

 

 克海がジャイロのレバーを三回引き、エネルギーチャージ。

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

「うおぉぉーッ!」

 

 克海と梨子が火柱に包まれ、一人の赤い巨人となって飛び出していく。

 ウルトラマンロッソも無事に梨子をインナースペースに収めて変身を遂げ、ブルに並び立った!

 それから、ロッソが梨子へとつぶやく。

 

『……桜内さん、今の何だ? ビーチスケッチとか……』

『何の決め台詞?』

 

 ブルも訝しそうに尋ねかけた。

 

『「ええ!? 曜ちゃんがヨーソローとか言うから、私も何か言わないといけないのかと思って……」』

『「あーそこまで真似しちゃったんだ。いや、それは私が勢いづけのために言っただけだから、言わないといけないとかじゃないんだよ」』

『「そうなの!? や、やだ、私ったら……」』

 

 羞恥心を感じて赤面する梨子であった。

 

『まぁともかく、桜内さん、熱くないか?』

 

 火に覆われたインナースペース内の梨子を案ずるロッソ。しかし梨子は少しも苦しそうではなかった。

 

『「そこは大丈夫です。むしろ、何だか身体の内側から熱意が溢れてくる感じです……!」』

『「私も、やっぱりここにいると力がみなぎってくるよ!」』

『俺も、何だかパワーが満ちてきてる感じだ!』

『桜内さんは火のクリスタルと相性がいいみたいだな』

 

 梨子たちの反応に、ブルがそう結論づけた。

 

「キィィィィィィィィッ!」

 

 見れば、タイラントがこちらに振り返って威嚇している。昨日交戦したロッソとブルを敵と見定め、町より先に叩きのめしてしまおうという構えだ。

 

『よしッ、行くぞ桜内さん!』

『「はい!」』

『今度は負けねぇぞぉ! 曜!』

『「うん! 行っちゃってー!」』

 

 ロッソとブルは堂々と見得を切り、全身でタイラントに飛び掛かっていった。それを迎撃に掛かるタイラント。

 

『はぁッ!』

「キィィィィィィィィッ!」

 

 接近してくるロッソに対して、タイラントが鉄球を振るう。しかしロッソはそれを両手で受け止め、相手の手首に拳を叩きつけて上に弾いた。

 

『いいぞ! 怪獣の攻撃を止められる!』

 

 昨日は完全に力負けしていたのに、今は互角に立ち回れることにロッソが興奮を覚えた。

 

『うりゃーッ!』

 

 ブルが飛び蹴りをタイラントの首筋に決めると、タイラントがよたよたと後ろに下がった。

 

「キィィィィィィィィッ……!」

『こっちの攻撃も通るぜ! これなら行けるッ!』

『曜ちゃん、桜内さん、二人のお陰だ! ありがとう!』

『「そ、それほどでもないです……!」』

『「これくらい構わないってー。それより怪獣をやっつけちゃおう!」』

 

 ロッソから称賛され、梨子は少し照れ、曜ははにかんで鼓舞した。

 

『『はぁぁぁッ!』』

 

 パワーアップを遂げたロッソとブルは、その勢いに乗ってタイラントに肉弾を入れていった。

 

 

 

 ――この戦いを、アルトアルベロタワーの社長室に戻った愛染が、ウッチェリーナから送られてくる映像を介して観察していた。

 

[社長、兄弟は渡辺曜と桜内梨子と一体化しての変身に成功しました]

 

 ウッチェリーナからの報告に、愛染はにんまりとほくそ笑んだ。

 

「いいねぇ。ウルトラマンと一つになって、怪獣に立ち向かう可憐なアイドル……私の望んだ通りの結果となった」

 

 

 

「キィィィィィィィィッ!」

 

 タイラントは鎌と鉄球を振り回して反撃するが、ロッソとブルは二人がかりで凶器攻撃を弾き返しつつタイラントを押し込んでいく。

 

『よしッ、今だ!』

 

 タイラントの動きが鈍ってきたところで、好機と見たロッソが光線技を試みる。

 

『食らえッ!』

 

 爆発性の火球、ストライクスフィアをオーバースローで投げつけるロッソ。が、タイラントは火球を腹部の口で吸い込み、爆発は起こらなかった。

 

『くッ……パワーを上げても、光線はやっぱり効かないのか』

「キィィィィィィィィッ!」

 

 タイラントはお返しとばかりに、腹部から冷却ガスを放出!

 

『うわッ!?』

『危ねッ!』

 

 ロッソたちは咄嗟に後ろに下がって冷気攻撃から逃れた。

 

『くっそー、こいつがやべーんだよな』

 

 毒づくブルだが、タイラントは更に鉄球からロープつきのフックを射出して攻撃してくる!

 

『おわぁッ!』

『ぐッ、あいつ全身が武器か……!』

 

 武器が豊富なタイラントになかなか近づけなくなる兄弟。そうしている内に、二人の胸のカラータイマーが点滅し出した。

 

『「功兄ぃ、何か鳴ってる!」』

『タイムリミットが近いんだ! 早いとこ決めねーと!』

『だがどうする? 今の俺たちには、決め手がない』

 

 聞き返すロッソ。光線は効かず、物理だけで勝負を決めるには時間が足りない。八方ふさがりである。

 するとブルがタイラントのフックに注目し、アイディアを思いついた。

 

『俺たちが駄目なら、あいつ自身の攻撃ならどうだ!?』

『何?』

『つまりだな……』

 

 ロッソに素早く耳打ちするブル。

 

『なるほど……試してみるか!』

『合点!』

 

 ロッソとブルは角に手をやり、ルーブスラッガーを抜いた。

 

『ルーブスラッガーロッソ!』

『ルーブスラッガーブル!』

「キィィィィィィィィッ!」

 

 武装した二人に対して、タイラントは再びフックを飛ばしてくる。

 

『はッ!』

 

 ロッソは、今度はよけようとせずに両手のスラッガーを駆使してフックを防御。そのまま絡め取った。

 するとブルが跳躍し、長剣に勢いを乗せてロープに振り下ろす!

 

『たぁぁぁーッ!』

 

 ルーブスラッガーブルがロープを一刀両断! バランスを崩したタイラントがつんのめった。

 

「キィィィィィィィィッ!」

 

 その隙にロッソは切断されたフックにスラッガーから持ち替え、それを火で包み込みながら振りかぶった。

 

『いっけぇぇぇーッ!』

 

 そしてまさかり投法で、タイラントに投擲!

 

「キィィィィィィィィッ……!!」

 

 己のフックが槍のようになって胸に突き刺さったタイラント。動きが目に見えて鈍った。

 

『ストラーイク! ナイスピッチング克兄ぃ!』

『ははッ。今がチャンスだ!』

 

 タイラントが動けない内に、ロッソとブルは必殺攻撃の用意をする。

 

『桜内さん、俺と呼吸を合わせてくれ!』

『「はいっ!」』

『曜、こっちも頼んだぜ!』

『「ヨーソロー!」』

 

 ロッソは腕を十字に組み、ブルはL字を作る。そして、

 

「『フレイムスフィアシュート!!」』

「『アクアストリューム!!」』

 

 同時に光線をお見舞いした! これを食らったタイラントは、一撃で爆散!

 

『決まったッ!』

『よっしゃあーッ!』

 

 遂にタイラントを撃破したことに、ロッソとブルは大喜び。

 二人のインナースペースで、曜と梨子も安堵して笑顔となった。

 

『「やったね、梨子ちゃん!」』

『「うん……!」』

 

 そしてロッソとブルは空に飛び立っていき、内浦への被害は水際で食い止められたのであった。

 

 

 

 後日、克海と功海は千歌、曜、梨子からAqoursの進捗状況を聞いていた。

 

「へぇ。じゃあ、その二人は無事に入部した訳だ」

「よかったじゃん、メンバー増えて」

「うん! これでAqoursも五人だよぉ五人!」

 

 喜びながらうなずく千歌。

 仮入部に来たルビィと花丸は、晴れて正式なAqoursのメンバーとなった。自分に自信がない花丸は一人身を引こうとしていたのだが、ルビィと千歌たちの説得を受けて、自身もスクールアイドルになることを決意したのであった。

 

「いや~、ほんと『石橋にノンストップで行ってみましょ』だよぉ。愛染さん、流石いいこと言うよね~。あっ、お茶菓子取ってくるね」

 

 しみじみ語った千歌が一旦席を立つと、その間に曜がこっそりと克海と功海に呼び掛けた。

 

「功兄ぃ、克兄ぃ、ウルトラマンの方も私と梨子ちゃんがこれからも手伝うからね。一緒にこの綾香市を守ろうね!」

「おう! 曜たちがいれば、どんな怪獣にも負ける気しねーな!」

「けど、繰り返し言うが無茶はしてくれるなよ。スクールアイドルが疎かになったら、千歌に申し訳が立たない」

 

 功海は調子づくが、克海はあくまで曜たちのことをおもんばかってそう言い聞かせた。

 

「桜内さんも、それでいいな?」

「はい。ですけど……」

「ん? 何か?」

 

 梨子はもじもじとしながら、克海を見て頼み込んだ。

 

「私だけ名字呼びって、よそよそしい感じがして少し嫌です。だから、あの……私のこと、どうぞ梨子って呼んで下さい」

 

 克海は少し面食らい、思わず曜と功海に振り向いた。曜はニッと笑い、功海も無邪気に微笑む。

 

「いいんじゃね? 本人がそう言うからにはさ」

「……じゃあ、梨子ちゃん」

「はい……!」

 

 梨子は少しばかり嬉しそうにはにかんだ。

 

「あー! みんな、私抜きで何話してるの? 私も混ぜてよー!」

 

 そこに千歌が舞い戻ってきたので、梨子は手を振ってごまかした。

 

「な、何でもないのよ千歌ちゃん。単なる世間話で……」

「そうそう。梨子ちゃんが、克兄ぃともっとお近づきになりたいってだけだから」

「えぇっ!? 曜ちゃん!?」

 

 曜のからかいに梨子と克海がギョッと目を剥いた。

 

「えー!? 梨子ちゃん、それ本気!? ダメだよ克海お兄ちゃん! いくらお兄ちゃんでも、梨子ちゃんは私の梨子ちゃんなんだから!」

「千歌ちゃんまで!」

「お、おいおい! 千歌、今のは曜の冗談で……!」

「梨子ちゃんも、克海お兄ちゃんは私の克海お兄ちゃんなんだからね!」

「千歌ー。お前言ってることが無茶苦茶だぜー?」

 

 大きく肩をすくめる功海。この騒ぎを、お尻を向けているしいたけが聞いて大きくあくびしたのであった。

 

 

 

 ――綾香に設置されている芸能学校、アイゼンアイドルスクール。そこの無人の教室の隅で、三人の女生徒がスマホに録画した自分たちのダンスをチェックしていた。

 

「うん、なかなかいい感じになってきたね!」

「そろそろラブライブにエントリーしようよ!」

「きっといい線行くと思うんだよね!」

 

 頭部の左右にリボンを結んだ少女が出来にうなずくと、瓜二つの顔立ちの少女二人が打診した。リボンの少女もその気になる。

 

「うん。それじゃ、手続きを……」

「そこの君たち!」

 

 だが言葉の途中で、大きい男の声にさえぎられた。三人が思わず振り向くと……。

 

「愛染正義です!」

「理事長!?」

 

 愛染がいつの間にか、彼女たちの近くにいた。

 

「何でここに……」

 

 リボンの少女の質問を最後まで言わせず、愛染は三人に詰め寄ってくる。

 

「君たち、いいねぇ~! 素質あるよ! 君たち二人は双子アイドルだから、特にねぇ!」

「えっ、ほんとですかぁ?」

「……双子だから素質あるって、どゆこと?」

 

 双子の片割れは褒められて気を良くしたが、もう片方は呆気にとられた。だが愛染は答えない。

 

「それと君ッ! その頭のリボンがすっごくいいッ! イメージピッタリだぁ~! 君のような人材を求めていたんだ!」

「あ、ありがとうございます……」

 

 手を握られて、戸惑いながらも反射的に礼を言うリボンの少女。そんな彼女たちに、愛染が呼び掛けた。

 

「君たちを、特待生コースに入れてあげよう!!」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

花丸「お花ーまるっ! 今回紹介するのは『ウルトラマンタロウ』の歌ずら!」

花丸「この歌の作詞者はあの阿久悠さんずら! 阿久悠さんと言えば日本レコード大賞や日本作詞大賞の常連さんというすごい人だけど、ウルトラシリーズにも『タロウ』から関わったずらよ!」

花丸「『タロウ』はシリーズでも特にウルトラ兄弟やウルトラファミリーの設定を強く押し出した作品だけあって、歌詞にはウルトラの父、ウルトラの母、そしてタロウのタロウファミリーの名前がそろって出てくるずら!」

花丸「また、作品の主題歌が歌詞つきで戦闘シーンのBGMに多用されるようになったのも『タロウ』からずら。だからこの曲が耳に強く残ってる人も結構いると思うずらよ」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『ダイスキだったらダイジョウブ!』だ!」

功海「アニメ第一期第三話の挿入歌だ! この時点でのAqours三人が、初めてのライブで歌った記念の一曲だな!」

克海「この場面は内浦の人たちの温かさも見える名シーンだ」

花丸「それじゃ、また次回ずら~」

 




梨子「克海さんの恩師、熊城監督の引退試合。勝利を捧げるために克海さんは特訓を始めました!」
花丸「克海さん熱血ずら~」
梨子「でも、何故か熊城さんがルーブクリスタルを持ってました! どういうことでしょうか!?」
花丸「また事件の気配がするずら!」
花丸「次回、『待っててウイニングボール』!」
梨子「ビーチスケッチさくらうち!」


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待っててウイニングボール(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

功海「内浦に現れた怪獣! こいつがまた強くて、俺と克兄ぃは大弱り。だけど曜と梨子の協力のお陰で、ぶっ倒すことに成功したぜ! 千歌たちのAqoursにも新しい子たちが入って、さーて今回は何が起こるかなー?」

 

 

 

 内浦の草野球場。ここで十名前後の、野球のユニフォーム姿の中年男性たちがうさぎ跳びでグルグル回っていた。

 

「厳しい道をッ!」

「厳しい道をー!」

「みんなど根性ッ!」

「みんなど根性ー!」

 

 この集団に、棒で地面をバシバシ叩きながら喝を入れているのは克海。――そんな彼に、様子を目の当たりにした功海が告げる。

 

「医学的見地から見てさ、うさぎ跳びは膝に悪いよ」

 

 デェーンッ!

 と、克海がショックを受けた。

 

 

 

 夜には克海は、『四つ角』で『根性論』なる本を読み込んでいた。

 

「最強のチームを作る方法……根性と気合いが全てだ……!」

 

 そこに千歌が横からマネジメント論の本を差し込む。

 

「今時根性論じゃチームは引っ張れないって」

「マネージメントぉ!?」

 

 デェーンッ!

 と、克海がショックを受けた。

 

 

 

 朝には、『四つ角』に来た曜に克海がユニフォームの依頼をしていた。

 

「胸に大きく気合いの文字を入れてほしいんだ」

「……克兄ぃ、率直に言うね」

「何だ?」

「ダサい」

 

 デェーンッ!

 と、克海がショックを受けた……。

 

 

 

『待っててウイニングボール』

 

 

 

 再び草野球場。克海の所属する内浦の町内会の野球チームが、トレーニングに勤しんでいる。それをAqoursの五人と功海が遠巻きに見守っていた。

 

「克兄ぃ、珍しく熱くなってんなー」

「近所の噂になってるよ。万年ビリのホワイトベアーズが、本気になってるって」

 

 千歌に続いて、曜がつぶやく。

 

「高校の時以来だよね。克兄ぃがあんなに熱心なの」

「ねぇ、どうして克海さんはあんなに野球に一生懸命なの?」

 

 梨子のみならず、花丸やルビィも不思議そうな顔をしている。事情を詳しく知らない彼女たちに、曜が説明を始めた。

 

「ああ、梨子ちゃんたちは知らないか。克兄ぃね、高校までは名ピッチャーとして有名だったんだよ」

「えっ、そうだったんだ」

「そういえば昔、お姉ちゃんがそんなこと言ってたような……」

 

 功海にまだ慣れておらず、花丸の陰に隠れがちのルビィがつぶやいた。

 曜とともに功海が、当時の克海について語る。

 

「大学野球からもスカウトがたくさん来るほどの実力だったんだぜ。だけどその年に、ウチの旅館で働いてた人が齢で辞めちゃってさ、人手が足りなくなっちゃったんだよ。母さんはアイゼンテックに勤めてるし、克兄ぃはウチのために大学行かなかったんだよな」

「そんなことがあったなんて……」

 

 克海の野球を断念した過去を知り、表情を曇らせる梨子。彼女に代わって花丸が問い返す。

 

「でもだからって、何で今になって特訓始めたずら?」

「それがさ……あの監督の熊城って人」

 

 功海がチームの中心で指示を出している、一番恰幅が良く年齢の行っている老人を顎でしゃくった。

 

「あの人、次の試合で監督辞めちゃうんだって」

「えっ……!?」

「熊城さん、半年前に胃の手術をしたそうで、もう歳だってこともあって体力的に続けられないんだってさ。で、克兄ぃは最後の試合に勝って、熊城さんを胴上げしたいって頑張ってるんだよ」

 

 梨子たちは複雑な顔で、克海とは対照的にのんきな顔をしている熊城を見やった。千歌は功海に振り向く。

 

「熊城さんって、克海お兄ちゃんの高校の時の野球部の先生なんだっけ」

「ああ。克兄ぃの野球の才能を見出したのがあの人だよ。大学野球に行かなかった克兄ぃを草野球に誘ったのも熊城さん。だから、克兄ぃは熊城さんに恩を感じてるって訳だ」

「そうなんですか……。だったらなおさらですよね……」

 

 熊城のために必死になっている克海を案じながらも、今回ばかりは梨子たちもただ見守る他なかった。

 

 

 

 Aqoursも練習に行った後、『四つ角』に集まったチームに克海が焦り気味に呼び掛ける。

 

「綾香商店街との試合は明日です! この調子では間に合いません! 夜も特訓しましょうッ!」

「えぇッ!?」

 

 流石に動揺するチーム。その内の一人、ひげ面の男性が克海に言い返す。

 

「このままじゃ、へばって却って試合に差し障るよ」

「そうだよ。カッちゃんだって大分キテるよねぇ」

「俺はまだ大丈夫です!」

 

 無理を言う克海だが、チームメイトらは聞こうとしない。

 

「あー特訓はなしッ! しっかり休んで、明日に備えよう」

「それじゃ明日勝てません!」

「だから、勝つために休憩する」

「監督をッ! 胴上げで送り出したくないんですか!?」

「みんな気持ちはおんなじだって!」

「だったら休んでる暇なんてないでしょ!?」

「あぁ!? いい加減にしろよッ!」

「何ですかッ!」

 

 言い争いが過熱して、ひげの男性と取っ組み合いの喧嘩となる克海を止めようとするチームメイト。するとそこに功海が駆け込んでくる。

 

「克兄ぃ、ちょっと来て! ちょっと借りてくよ!」

 

 克海を力ずくで喧嘩から引っ張り出していく功海。

 

「何だよ!!」

 

 まだ頭に血が上っていて声が荒い克海だが、功海は構わずスマホの画面を見せつけた。

 

「山に怪獣が出たんだよ!」

「……こんな時にッ!」

 

 画面には、怪獣出現のパターンのバイブス波の数値が表示されていた。

 

 

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 山中には、全身筋肉と言っていいほどの屈強な肉体の怪獣レッドキングが山肌を砕いて暴れながら、綾香の市街に近づきつつあった。

 その現場へと車を走らせる克海と功海。

 

「もっと急いで!」

「これ以上はスピード違反になる!」

 

 焦る克海たちであるが、ちょうどその時にフロントガラス越しにレッドキングの姿が見えた。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

「「いたぁ!!」」

 

 即座に車を停め、外に飛び出す二人。

 

「町に降りてくる前に止めるぞ!」

「うんッ!」

 

 克海と功海は拳を鳴らし合い、ルーブジャイロを構えた。

 

「「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 克海はクリスタルホルダーから水のクリスタルを選ぶ。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンギンガ!]

 

 クリスタルをジャイロにセットして掲げる克海。

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」

 

 レバーを三回引いて、水の柱に包まれる!

 

[ウルトラマンロッソ! アクア!!]

「うおぉぉーッ!」

 

 克海がロッソに変身し、功海は火のクリスタルを取り出した。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンタロウ!]

 

 クリスタルをセットして、高々と掲げる功海。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

 

 レバーを三回引き、火柱に包まれる!

 

「ウルトラマンブル! フレイム!!」

「はあぁぁーッ!」

 

 功海もブルに変身し、二人は音を立てて着地。その震動でレッドキングがこちらに気づいて立ち止まった。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『うあああーッ!』

『であぁぁッ!』

 

 レッドキングへとまっすぐ突っ込んでいったロッソとブルが、パンチとキックを同時に打ち込んだ。しかしレッドキングは揺るぎもしない。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『うッ!?』

 

 ブルの脇腹を殴りつけ、もう片方の腕でロッソを投げ飛ばす。単純な筋力ならば、レッドキングはロッソたちを大きく上回っていた。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『うあッ!?』

 

 レッドキングは投げ飛ばしたロッソに近づいて掴みかかり押さえ込む。ブルが横から飛び掛かるも蹴り上げで迎撃された。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『うわああぁぁッ!』

 

 ロッソはそのまま殴り飛ばされ、ブルは更にヘッドバットをもらって倒れ込んだ。二人がかりなのに散々に叩きのめされる兄弟。

 

『これならどうだぁーッ!』

 

 接近戦は不利と見て、ロッソはスプラッシュ・ボムを投擲して遠隔攻撃。レッドキングはこれをまともに食らう。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『もう一発!』

 

 有効と見て二発目を繰り出したロッソ。が、

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 レッドキングは腕をバットのように振って、水球を打ち返した! しかもブルの方へと飛んでいく!

 

『うわぁッ!?』

『まずいッ!』

 

 咄嗟に顔を背けたブル。ロッソは彼をかばって、水球を右肩に食らった。

 

『うわぁッ!』

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 更にレッドキングがロッソとブルにダブルラリアット! 二人の身体が宙を舞い、岩壁に叩きつけられた。

 

『ぐあぁッ……!』

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 ダメージが重なり、カラータイマーが鳴って立ち上がれないロッソたち。一方のレッドキングも、一発目のスプラッシュ・ボムが大分効いたのかそれ以上の追撃を掛けずに背を向けて退散していった。

 

『ま、待て……!』

 

 ロッソたちはふらふらとしながらも起き上がってレッドキングを追いかけるが、高い山の陰に入り込んだ相手を追って回り込んだところで、

 

『あれ……?』

『いない……』

 

 レッドキングの姿を見失った。さっきまでいたはずなのに、忽然と消えてしまったのだ。

 立ち尽くすロッソとブルの様子を、ひよこ色のドローンがじっと見つめていた――。

 

 

 

 その後、『四つ角』で梨子と曜が克海の部屋に来た。

 

「克海さん……大丈夫ですか?」

「ああ……すまない」

 

 梨子が上半身を脱いだ克海の右肩、ブルをかばって負傷した箇所に湿布を貼ってあげていた。

 

「災難だったね、克兄ぃ。明日試合なのに、肩を痛めるなんて……」

「私たちがついてあげてれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに……」

 

 克海のことを自分たちのことのように心配する梨子たちに、克海が首を振る。

 

「気にしないでくれ。梨子ちゃんたちの時間を犠牲にしたくはないんだ」

「だからって、克海さんが犠牲になっていいってものじゃないですよ……」

 

 梨子と曜が深刻な顔つきで克海に説く。

 

「功兄ぃから聞いたよ。おじさんたちと喧嘩になったんだって? 夜まで練習しようだなんて言って」

「お言葉ですけど、それはおじさんたちが正しいですよ。無理を押して身体を壊してしまったら、元も子もありません……」

「私たちだって、オーバーワークはしないよう気をつけてるよ。克兄ぃだって、ちょうど今みたいなことになるって分かってたはずでしょ?」

「……だけど……!」

 

 それでも焦燥の感情の方が強い克海。するとそこに、

 

「ちょっといいかい。入るよ」

 

 外から声を掛けられた後に、件の熊城監督が襖を開いて入ってきた。

 

「監督!?」

「すまない、お邪魔だったかな」

「いえ、そんなことは……!」

 

 克海たちがたたずまいを直して、熊城に座布団を差し出す。腰を落ち着かせた熊城は話を切り出した。

 

「話は聞いてるよ。揉めたんだってなぁ。怪獣は出るし、君は肩を痛めるし……」

「すいません……」

 

 思わず謝る克海。しかし熊城は決して咎めずに、話を変える。

 

「テレビで見た。ここ最近現れる巨人……ウルトラマン。いやぁ、素晴らしいフォームで球を投げてた。君に似たフォームでね」

 

 一瞬ドキリとする梨子たち。

 

「……そうなんですか」

「長男だからなぁ~。君は何でも背負い込んでしまう」

 

 熊城が目を向けた先には、棚に飾られている、克海が高校時代に取得した野球の賞状やトロフィーの数々があった。

 

「人には、役目があります。まずは、その役目を果たすことだな」

「俺の役目は、先生をもう一度胴上げすることです」

 

 と返す克海だが、熊城は応じずに、持参した包みの中から古ぼけた箱を取り出した。

 

「これはね、ウチに代々伝わってきたものだ」

 

 紐を解いて、箱を開く熊城。中に入っていたのは……。

 

「妖奇星が落ちた時、飛び散った光。それをご先祖さまが拾った」

「これは……!」

 

 克海たち三人は驚いて目を見張った。

 入っていたのは、「烈」「雷」「刃」の三枚のルーブクリスタル。それぞれ別々のウルトラ戦士が描かれている。

 

「その晩、二人の光の巨人が夢枕に立った。そして、こうおっしゃった。然るべき時、然るべき者に渡せ――。然るべき者とは、君だったりして」

 

 克海の目をまっすぐ見つめる熊城。立ち会う梨子と曜は、どうしたらいいのかと内心うろたえる。

 しかし静寂を破ったのも熊城だ。

 

「……なぁーんてね! 冗談冗談」

 

 笑い飛ばしながらクリスタルを巾着袋に移し替え、克海に差し出す。

 

「私からの餞別だ。受け取ってくれ」

「いや……こんな大事なもの、いただけないです!」

 

 恐れ多くて遠慮する克海だが、熊城はグイと顔を近づけた。

 

「俺の餞別が受け取れないのか!?」

 

 そう言われては、克海も受け取る以外の選択肢がなかった。

 

「……いただきます!」

 

 こうして、新たに三枚のクリスタルが克海たちの手に渡った。

 

 

 

 翌日。試合直前に、ロッカー室前で功海と曜が克海と向かい合った。

 

「山地のあちこちに、バイブス波の観測装置仕掛けといた。またあいつが出たら、アプリですぐに分かるから」

「克兄ぃ、今日の試合、私たちAqoursも応援するからね!」

 

 曜はチアリーダー姿になってボンボンを振った。

 

「ああ。ありがとう」

「頑張れよ」

 

 最後に功海と拳を鳴らし合って、克海はロッカー室に入っていく。

 先にロッカー室に集まっていたチームメイトたちに、克海は開口一番に謝罪した。

 

「充さん、皆さん……昨日はすいませんでした! 俺、熱くなりすぎてました……」

 

 深々と頭を下げた克海に、ひげの男性は向かい合うと――おもむろに、忍者のように手と手を組んだ。

 

「え?」

「おめぇもやれよ」

 

 チームメイト全員が同じように手を結ぶと、ひげの男性は克海に呼び掛ける。

 

「監督に、最高の花道作ってやろうぜ」

「……はいッ!」

 

 克海は感激を覚えて、仲間たちに合わせてチームワークを結び直した。

 

 

 

 克海たちのチームが野球場に出てくると、観客席にいるAqoursの五人がボンボンを大きく振った。

 

「克海お兄ちゃん来た! がんばれー!」

「フレー! フレー! 内浦ホワイトベアーズ!」

 

 チアリーダーになり切った千歌たちの応援に手を振って答える克海たちは、ホームベースの前に並んで相手の綾香商店街チームと向かい合う。

 

「克兄ぃ……」

「克海さん……」

「克海……ファイトですよ」

 

 克海の試合を応援しているのはAqoursだけではない。果南やダイヤ、鞠莉も観客に密かに混じり、それぞれ別の席から見守っていた。

 

「礼ッ!」

「よろしくお願いしまーす!」

 

 そうして試合開始の挨拶が交わされ、いよいよ熊城監督の幕引きの如何を巡る試合が行われる――。

 



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待っててウイニングボール(B)

 

 試合は開始後しばらくは、動きがまるでないまま進行していった。

 綾香商店街チームのピッチャーの投球は、草野球とは思えないほどに速く、ホワイトベアーズの打線は全く打ち返せずに三振ばかり。

 しかしこちら側の克海も、ホワイトベアーズを支える主力。彼の鋭いボールも綾香チームのバッターを片っ端から打ち取っていく。

 

「やったぁ! また三者凡退!」

「さっすが克兄ぃ!」

「克海さん、ほんとに強い……!」

 

 克海が相手打者をアウトにする度に千歌たちは喜ぶ。別の席から試合を見守る果南、ダイヤ、鞠莉の三名も誇らしげになったり、嬉しげな顔になったりしている。

 しかし、いくら投手が強くとも野球は点を取れなければ勝てない。三回表、ホワイトベアーズの今回の攻撃も0点に抑えられてしまった。

 

「あうぅ……また三振だよぉ……」

「フレっフレっホワイトベアーズ! 頑張るずらー!」

 

 なかなかリードすることが出来ないホワイトベアーズを懸命に応援する花丸たち。だがその背後で、

 

「足りないぜぇHeartbeat!」

 

 いきなり大声がしたので、Aqoursと功海が思わず振り返った。

 

「もっと上昇気分上々! 見せてよ君のフルコンボ!!」

「愛染さん!!」

 

 白い背広を見せつけつつクルリと身体の向きを変えたのは、愛染であった。彼は観客席の最上段に上り(「はいちょっとどいて」)、秘書にスピーカーをセットさせる。

 

「今日が大事な試合だと聞きつけた、愛染正義です。ウッチェリーナ君、盛り上がる曲をレッツプレイ!」

[盛り上がる曲を再生します!]

 

 愛染が流させたBGMにより、功海たちのテンションも上昇。

 

「さっすが愛染さん! やることが派手だぜ!」

「ファイト♪ ファイト♪ ホワイトベアーズ、ファイト♪」

 

 Aqoursの応援も動きが派手になっていき、その影響が選手の方にも出始めた。

 

「うっしゃあーッ! カッコ悪いとこ見せらんねーぜ!」

 

 四回表、ひげの男性がヒットを打って遂に打者が一人ホームベースに帰還。ホワイトベアーズに念願の一点が入ったのだった!

 

「やったぁーっ!!」

「いよっしゃあーッ!!」

 

 貴重な一点に千歌たちは大感激。梨子と曜ももちろん喜んでいるが、克海の肩の怪我を知る二人は同時に心配もしていた。

 

「克海さん、大丈夫かな……このまま投げ続けて……」

「うん……。湿布貼っただけだもんね」

 

 克海は、投球の邪魔になるからと肩に包帯は巻かなかった。だから肩への負担も大きいはず。恐らくは、気合いで痛みを抑え込んでいるのだろう。

 今のところはどうにかなっているが、このまま投げ続けて無事だという保証はない。

 

「でも、草野球は七回まで。今が三回の表だから、克兄ぃが投げるのはあと四回。それまで持ちこたえれば……」

「克海さん……」

 

 梨子は真剣な表情で、克海の無事を祈った。

 それが届いたか、克海は大きな異常もなく投げ続け、六回裏まで相手の得点を許さなかった。

 試合も七回表が終わり、点数はホワイトベアーズが一点だけリードしている。

 

「遂にこれで最後ずら……!」

「克兄ぃが0点に抑えれば、ホワイトベアーズの勝ちだ……!」

「はうぅ……こっちがドキドキするよぉ……」

 

 ルビィを始め、功海たちは緊迫の面持ちでマウンドに上がる克海を見守っている。

 と、その時、彼らの背後を愛染がコソコソと通っていこうとした。それに気づいて千歌が振り返る。

 

「愛染さん? どこ行くんですか?」

 

 愛染は千歌に向けて指を一本立てる。

 

「言わぬが花になる」

「ああ、お手洗いですね」

「ちょっと千歌ちゃん」

 

 不躾な千歌を梨子がたしなめた。その間に観客席を離れる愛染だが――向かった先はトイレではなかった。

 

 

 

 愛染が人の目がない木陰に身を潜めると、懐から昔懐かしのベースボールカードのアルバムを出す。だがその中身はベースボールカードなどではなく――怪獣のクリスタルであった。

 愛染はその中から「岩」のクリスタルを取り出し、ジャイロにセットする。

 

「プレイボール!」

レッドキング!

 

 そして掛け声とともに一回ずつレバーを引き、三回目で充填したエネルギーを解放する――!

 

「ファイトぉー! ファイトぉー! 赤組(レッドキング)ファイトぉー!!」

 

 

 

 試合を見守っている功海のポケットの中のスマホが振動した。取り出して画面に目を落とした功海の顔が、一気に強張る。

 

「こんな時に……!」

 

 山地に仕掛けた観測装置が、怪獣出現のバイブス波をキャッチしたのだ。

 功海の様子の変化に気がついた曜と梨子もまた顔色を変えた。

 

「功兄ぃ、まさか……!」

「どうしましょう……! 克海さんに、報せた方が……」

 

 言いかけた梨子を制する功海。

 

「いや……曜、一緒に来てくれ! 免許なら、俺も持ってる」

「功海さん、まさか克海さん抜きで……!?」

「だから曜と行くんだ。曜、俺に力を貸してくれ」

「……ヨーソロー!」

 

 曜は、極めて真剣な顔で敬礼した。そうして功海とともにコソコソと観客席から抜けていく。

 

「あれ? 功海お兄ちゃんと曜ちゃんは?」

「き、急用だって! 気にしないでって言ってたわ!」

 

 二人がいなくなったことに首を傾げた千歌たちを、梨子が慌ててごまかした。

 しかし別の場所で、席を抜けていく功海と曜の存在に気づいた者たちがいる。

 

「功兄ぃ……?」

「最終回なのに、どこへ行くのかしら……?」

 

 果南やダイヤ、鞠莉らが二人の後ろ姿を目撃していたのだ。

 

 

 

 密かに草野球場から抜けていった功海と曜であったが、七回裏、キャッチャーからの返球をキャッチした克海がふと観客席に目をやり、その姿がなくなっていることに気づいてしまった。

 

「……タイム!」

 

 まさか、と克海がベンチへと走っていく。

 

「ちょっとすいません……!」

 

 熊城にひと言断り、バッグからスマホを引っ張り出して画面を確認した。――功海が見たものと同一のものを。

 

「やっぱり……! 功海あいつ……」

「どうした」

「あぁいや、そのぉ……」

 

 熊城から聞かれた克海は、どう答えたものかとしどろもどろになる。

 だがそれで逆に、熊城は察したようであった。

 

「どうやら、然るべき時が来たようだな」

「えッ……!?」

 

 熊城はサングラスを外し、克海と目を合わせながら問いかけた。

 

「君の役目は何だ?」

「それは……」

 

 克海は、回答に窮する。

 

「……監督をもう一度胴上げすることです」

「違うッ!」

 

 その答えは、熊城自身によって強く否定された。

 

「分かってるだろう。君の役目は……」

 

 今度は、克海も間違えなかった。

 

「……みんなのために戦うこと!」

 

 熊城はうなずき、克海の左肩を叩いた。

 

「胴上げまでには、帰ってこい」

「はいッ!」

 

 克海はうなずき返して、すぐに草野球場から駆け出していった。彼を送り出した熊城が堂々と宣言する。

 

「ピッチャー交代! 俺!」

 

 事情を知らない千歌たちは目を見張った。

 

「ええ!? 監督さん自ら!?」

「克海さんはどうしたずら?」

「……克海さん……」

 

 梨子は複雑な表情で、自転車に跨って走っていった克海を見つめていた。

 

「克海まで、どうして……?」

 

 最後の最後でどこかへと走っていった克海に、鞠莉らが唖然としていた。

 

 

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 車を持ち出していった功海たちは、山間を移動中のレッドキングを発見。適当なところで停車して車から降りる。

 

「昨日のリベンジだ! 行くぞ曜!」

「うんっ!」

 

 曜に呼び掛けながら、ルーブジャイロを構える功海。

 

「俺色……いや、俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」

 

 決め台詞を発すると、ホルダーから水のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 敬礼する曜を背に、クリスタルをジャイロの中央にセット。

 

[ウルトラマンギンガ!]

 

 ギンガのビジョンが現れると、曜とともに顔を上げてジャイロを掲げる。

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」

「ヨーソロー!」

 

 レバーを三回引いて、エネルギーチャージ!

 

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 そして曜を宿してウルトラマンブルに変身し、レッドキングの前方に着地した!

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『こっから先には絶対通さねぇ!』

 

 すかさず殴りかかってきたレッドキングの拳に、パンチをぶつける。これでレッドキングの一撃を止めた。

 

『よし! 互角のパワーになったぜ!』

『「このままやっつけちゃおう、功兄ぃ!」』

『ああ! 克兄ぃの晴れ舞台を守るんだ!』

 

 勇むブルが、勢いよくレッドキングへと飛び込んでいった。

 

 

 

「功海……曜ちゃん……!」

 

 克海は懸命にペダルを漕いで、戦闘現場へと急行していく。

 ――その頃、熊城の投げたボールがバッターに打たれ、ヒットを取られてしまった。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 曜との合体でレッドキングに張り合えるほどパワーを引き上げたブルだが、所詮は戦闘経験の乏しい身。それだけでは、野性的な強さを持つレッドキングとの差は埋めがたく、背後に回り込まれて首絞めを食らっていた。

 

『うッ、ぐぅッ……!』

『「く、苦しいよ功兄ぃ……!」』

 

 ブルが受けるダメージは、一体化している曜にも響く。首絞めで酸素が回らなくなり、苦しむ曜。

 

『頑張れ曜! うらぁッ!』

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 相手のつま先を踏みつけて首絞めから脱け出したブルだが、レッドキングのすかさずのテールハンマーで横転した。

 

『うわぁッ!』

 

 更にレッドキングは辺りから大岩を持ち上げてはブルに投げつける。

 

『「うああぁぁっ!」』

 

 ブルだけでなく曜も悲鳴を発した。ブルが力を振り絞って岩の投擲から逃れたが、ダメージは既に無視できないレベル。

 

『「うぅ……やっぱり、克兄ぃがいないと駄目なの……?」』

『弱気になるな曜! 俺たちであいつを倒すんだッ!』

 

 心が折れそうな曜を叱咤してレッドキングに殴りかかっていくブルだが、不用意な攻撃だったために、レッドキングに防がれた上にまたも首を掴まれた。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『うッ、うわあぁぁッ……!』

 

 そのまま吊り上げられるブル。彼の絶体絶命のピンチに――克海が駆けつけた!

 

「功海! 曜ちゃん! 今行くッ!」

 

 自転車を乗り捨てた克海は、ホルダーから火のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンタロウ!]

 

 背後にタロウのビジョンが現れ、クリスタルをセットしたジャイロを掲げる克海。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

 

 レバーを三回引き、ウルトラマンへと変身!

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

 

 巨大化しながら飛び出したロッソが、ブルを吊るし上げるレッドキングに飛び蹴りを決めた。

 

「ピギャ――!」

 

 不意打ちをもらったレッドキングが、ブルを手放して倒れ込んだ。ブルは助かったことよりも、ここにロッソがいることに驚く。

 

『か、克兄ぃ!』

『「試合はどうしたの!?」』

『今はこっちに集中するんだ!』

 

 ロッソはそう言いつけ、レッドキングに向かっていく。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『うッ!?』

 

 レッドキングの拳をかいくぐったロッソだが、続く張り手を右肩に食らって悶絶した。そこは怪我をしているところだ!

 

『克兄ぃ!』

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 しかも苦しんだところを見たレッドキングが、執拗にロッソの右肩を狙って拳を叩きつけ始める。

 

『うああぁぁぁッ!』

『やめろぉぉ―――!』

 

 レッドキングの暴虐に絶叫するロッソ。ブルたちは怒り、レッドキングに中段蹴りを打ってロッソから引きはがした。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『「このぉぉーっ!」』

 

 レッドキングに掴みかかって動きを抑えようとするブルだが、レッドキングは後ろから飛び掛かるロッソをまたも右肩を殴って迎撃し、ブルに蹴りを食らわせて押し返す。

 

『ぐッ、この野郎ッ!』

 

 ブルがドロップキックで反撃したが、レッドキングは後ろに下がっただけで、さしたるダメージが見受けられない。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 レッドキングのぶちかましをかわして背後に回るロッソとブルだが、ブルは戦いが長引いていることでカラータイマーが鳴り出した。

 

『あいつ、克兄ぃの肩のこと分かってやがるのか!』

『「人の苦しいところばかり狙って、卑怯だよ!」』

 

 曜が吐き捨てると、ロッソがブルたちに指示を出した。

 

『功海、曜、ルーブスラッガーだ!』

『おう!』

 

 ロッソとブルが角からルーブスラッガーを引き抜く。

 

『ルーブスラッガーロッソ!』

「『ルーブスラッガーブル!!」』

 

 剣を握り締めた二人がともにレッドキングに肉薄。

 

『『うりゃああああッ!』』

 

 二人同時の斬撃がレッドキングに叩き込まれ、頑強なレッドキングをひるませた。

 

 

 

 野球では、既に走者が三人出そろっているが、熊城が意地を見せ、二人を三振に抑えた。

 

「ツーアウト満塁……」

「次で決まるね……!」

 

 固唾を呑むルビィ、千歌。しかし次の打者は、綾香商店街チームの強打者だ。熊城も一層顔を強張らせる。

 

「……」

 

 梨子は不安な顔つきで、空の向こうで戦っている兄弟たちに思いを馳せた。

 

 

 

『てやッ!』

 

 ブルがスラッガーを突き出すがレッドキングはかわし、カウンターのミドルキックをブルの腰に浴びせた。

 

『ぐわッ!』

『はッ!』

 

 返り討ちにされるブルに代わってロッソが斬りかかるがこれも防がれ、岩山に押さえつけられる。レッドキングは強烈な生存本能でブルたちの太刀筋を見切ったようだ。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『おわッ! ぐえッ!』

 

 身動きを取れなくしたロッソをボコボコに殴るレッドキング。時間経過により、ロッソのカラータイマーも点滅し出す。

 

『てぇぇぇぇぇッ!』

 

 ブルが飛び込んでいってレッドキングの意識をそらしたことで、ロッソは脱出するが疲弊とダメージが積み重なっている。このままでは危険だ。

 

『くッ……!』

 

 苦しむロッソのインナースペースに、熊城から授かった巾着袋が現れ、中から「烈」のクリスタルが出てきた。

 

『「克兄ぃ、それ……!」』

『新しいクリスタル!?』

『こいつを使ってみるか……!』

 

 熊城からのクリスタルに賭けることを決めたロッソは、クリスタルから二本角を出してルーブスラッガーロッソの片方の柄の部分にセットした。

 

[ウルトラマンゼロ!]

 

 双剣を振り回すロッソだが、途端に苦痛で顔が歪んで右型を抑えた。肩のダメージがいよいよ無視できないほどになってきたのだ。

 だが耐えがたきを耐え、スラッガーを構える。その刀身が青緑色の輝きを放つ。

 

『すげぇ! ルーブスラッガーの違うモードか!』

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 レッドキングはロッソが投擲の姿勢を取ったことで、また打ち返そうと身構える。

 ロッソは構わずにスラッガーを高々と振り上げ螺旋の炎に包まれるが、とうとう負傷した右肩からエネルギーが漏れ出して激しくうめく。

 

『うぅッ! うぅぅぅぅぅおおおおおおッ!!』

 

 必死に耐えるロッソの肩に、ブルが咄嗟に水流を当ててアイシングし出した。

 

『克兄ぃ、俺たちにはこんなことしか出来ねぇけど……!』

『「投げて! 光のウイニングボール!!」』

 

 ブルの支援と曜の祈りにより、ロッソの肩が一時的に回復。その瞬間に、ロッソが全力でスラッガーを振り下ろす!

 

『必殺ッ! ゼロツインスライサー!!』

 

 ――ロッソの動きと重なるように、熊城が最後の一球を投げた。

 振り下ろされたルーブスラッガーからふた振りの斬撃が並行して飛んでいく。レッドキングが両腕を振るって光刃を打ち返そうとしたが、

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!!」

 

 光刃はレッドキングの腕を貫通し、レッドキングは打ち取られてばったりと倒れた。

 

『「決まったぁぁぁぁぁぁ――――――――――っ!!」』

『ストライク! バッターアウトッ!!』

 

 爆散して消滅したレッドキングを見届け、曜とブルが空の果て、熊城にも届かせようとばかりに大声で宣言した。

 

『うぅ……』

『やったぜ克兄ぃ!』

 

 力を使い果たしてガクリと片膝を突いたロッソに駆け寄るブル。ロッソは彼の顔を見上げて、固くうなずいた。

 

 

 

 ――爆発四散したレッドキングは、岩のクリスタルに戻って地面の上に転がった。

 そこにひよこ色のドローン――ウッチェリーナが飛んできて、素早くクリスタルを掴み上げて機体下部に収納した。

 

[クリスタル、回収しました!]

 

 

 

 ――戦闘終了後、克海は全速力で帰還。慌てて草野球場へと駆け込んでいくが……。

 既に野球場は無人で、ただ熊城一人だけがマウンドにポツンとたたずんでいた。

 

「……!」

 

 克海が熊城の元へ駆け寄ると、熊城は無言でスコアボードをしゃくった。

 七回裏の得点は、四点。一対四で、ホワイトベアーズの負けになっていた。

 

「最後の最後に、カァーン! と、満塁ホームラン打たれちゃった。ハハ」

「……すいません……!」

 

 いたたまれなくなった克海は、キャップを脱いで深く謝罪。しかし熊城は笑顔であった。

 

「いや。最後に、いい試合が出来た。最高の花道だ」

 

 最後に投げた白球を見せて、熊城は克海を連れてマウンドから下りていく。

 後から功海とともに駆けつけた曜は、彼らを待っていた梨子と一緒にその背中を見つめる。

 

「……胴上げ、できなかったんだ……」

「うん……。だけど、監督さん、とても楽しそうだった」

 

 克海たちに代わって試合を見届けた梨子が、そう告げる。

 

「負けても気持ち良く終われる……そんな幕の引き方もあるんだね」

「ええ……」

 

 梨子たちは、悔いを残すことなくマウンドを去っていく熊城と、彼を支える克海の背中を、ずっと見つめていたのであった――。

 

 

 

 ――アルトアルベロタワー社長室で、愛染が岩のクリスタルをケースの手前側に収めた。

 

「レッドキングちゃん、ナイスプレイでしたよ。どんまい♪」

 

 機嫌良さそうにクリスタルに労いの言葉を掛ける愛染の元に、タブレットを携えた氷室が近寄る。

 

「社長、これを」

「うん?」

 

 氷室が見せたタブレットの画面には、最近デビューしたスクールアイドルの一人が映し出されていた。青みの掛かった長髪の少女が歌っている場面。

 

「社長のお眼鏡に適うかと」

 

 少女自身は己のルックスから、あのμ'sの園田海未のそっくりさんというキャラで売りび出ているのだが――愛染は違う視点で彼女を見ていた。

 

「なるほどぉ。歌唱力は、『あの人』には遠く及ばないが、なかなかいい線行ってる。よく見つけてくれたねぇ氷室君」

「恐縮です」

 

 ペコリとお辞儀する氷室。愛染はますます上機嫌となって、扇子を広げた。

 

「よぅしッ! ではこの子も特待生に招待しましょう!!」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

ルビィ「がんばルビィ! 今回紹介するのは『すすめ!ウルトラマンゼロ』です!」

ルビィ「この歌は『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアルギンガ帝国』の主題歌です。前作の『ウルトラ銀河伝説』で初登場したウルトラマンゼロさんが主役になった初めての映画に相応しい、ゼロさんの歌です」

ルビィ「歌ってるのはvoyagerさん。voyagerさんはウルトラマンの歌を専門に歌うユニットさんで、映像作品でオリジナルの曲を歌うようになったのは、OV『VSダークロプスゼロ』と合わせてこれが最初なんです」

ルビィ「また、歌詞をリニューアルしたアレンジ曲が『ウルトラマンゼロ THE CHRONICLE』の主題歌に使用されて、こっちはあの水木一郎さんと一緒に歌ってるんですよ」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『待ってて愛のうた』だ!」

功海「Aqoursのセカンドシングル『恋になりたいAQUARIUM』のカップリング曲だ! しんみりとした曲調と歌詞が特徴のラブソングだな」

克海「恋というのは嬉しいだけじゃない、つらい時もあるってことが表現されてると言えるな」

ルビィ「それじゃあ次回も、がんばルビィ!」

 




花丸「自分のことを堕天使だと称するのは、マルの幼馴染の善子ちゃん。でも現実とのギャップに悩む善子ちゃんに、功海さんが関わるずら」
ルビィ「功海さん……善子ちゃんのために、あなたの風を見せてあげて下さい!」
ルビィ「次回、『届かないイカロスだとしても』!」
花丸「お花ーまるっ!」


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届かないイカロスだとしても(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

ルビィ「お世話になった監督さんの引退試合に臨む克海さん。だけどそんな時に怪獣が現れて、克海さんは監督さんから送り出されて出動した! 怪獣はやっつけられたけど、試合は結局負けちゃった……。だけど、監督さんに後悔はないみたいだった」

 

 

 

 綾香のとあるマンションの一室。昼間なのにカーテンを閉め切り、照明を落とした暗い部屋の中で、一人の少女が蝋燭の灯りに照らされながらカメラのレンズに向かっていた。その服装は、ゴスロリ調なのはまだいいとして、頭と背にそれぞれ黒い輪っかと羽をつけたかなり奇抜なものであった。

 彼女の名は津島善子。一応、浦の星女学院の一年生なのだが……最初の自己紹介で盛大に失敗して以来、一度も登校していない。

 

「――かの約束の地に降臨した、堕天使ヨハネの魔眼が、その全てを見通すのです!」

 

 そんな不登校児善子は、扇風機で羽をはためかせながら、動画投稿サイトの生放送の中継を行っていた。ブイサインを右の目元にやり、左腕で右ひじを支えるポーズを決めながら、小難しいようでいて何の中身もない言葉を並べる。

 

「全てのリトルデーモンに授ける! 堕天の力を!!」

 

 善子が最後にカッ、とまぶたを開くと、蝋燭の火が風で消え、生放送の中継も同時に終了した。

 

「ふっ……」

 

 善子は一人嗤うと――カーテンと窓をシャッと開いて、叫んだ。

 

「やってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 先ほどまでの澄まし顔とは打って変わって、大声を発しながら自らにツッコミを入れていく善子。

 

「何よ堕天使って! ヨハネって何!? リトルデーモン? サタン!? いる訳ないでしょそんなもーんっ!! 最近怪しいけどっ!」

 

 部屋に引っ込んで鏡の前に立った善子は、自らに言い聞かせる。

 

「もう高校生でしょ、津島善子! いい加減卒業するの……! そう、この世界はもっとリアル……! リアルこそが正義! リア充に、私はなるっ!!」

 

 と、善子は誰にともなく宣言した。

 

 

 

『届かないイカロスだとしても』

 

 

 

「おーよしよしよし! おーよしよしよしよし! いい子だぞしいたけ~」

 

 『四つ角』の居間で、功海がしいたけの首をわしゃわしゃかいてじゃれながら、克海の方を振り向いた。

 

「ところで克兄ぃ、千歌たちの活動は今どんな感じなの?」

「あんまり芳しくないみたいだな……」

 

 ノートパソコンでラブライブのサイトにアクセスし、Aqoursのランキングを確かめた克海が顔をしかめた。

 

「現在が4768位……まだまだ底辺だ。順位は落ちてこそいないが、上昇具合がゆっくり過ぎる。こんな調子じゃ、地区予選すら通過できないだろうな」

「目安は100位以内だっけ? 全然届いてねーのな」

「ライブの評判はいいみたいなんだけどな……」

 

 難しい表情で腕を組む克海。自分のことのように悩む克海に、功海がこう指摘した。

 

「一番のネックはさ、抜きん出た個性がないってことだと思うぜ。他のスクールアイドルと見比べたら分かると思うけど、何かどれもこれもありきたりなんだよな。だから埋もれちまってるんだよ」

「なるほどな……」

「スクールアイドルは今や5000組もいるとはいえ、ほとんどが今の千歌たちみたいに伸び悩んでるとこばっかで、注目されてるのはひと握りだけさ。何か客に強くアピールできるものがありゃ、きっと一気に大化けするはずさ」

「流石、理系なだけあってそういう分析は上手いな……」

 

 克海が関心していると、上の階から下りてきた梨子が廊下を通りがかった。

 

「おッ、来てたんだ」

 

 功海に声を掛けられた梨子が振り返るが、しいたけと目が合った彼女は、凍りついた笑顔を浮かべて冷や汗をダラダラ垂らす。

 

「ん?」

「梨子ちゃん……?」

「わふっ!」

 

 梨子のただならぬ様子を兄弟が訝しんでいると、梨子のことを気に入ったのか、しいたけが遊んでもらおうと勢いよく彼女に飛び掛かっていった。すると、

 

「いやぁぁぁぁぁ――――――――!! 来ないでぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――!!」

 

 奇声を上げてしいたけから逃げ回り出した。しいたけはそれに興奮してますます追いかけ、梨子が更にパニックになる悪循環。

 

「ちょッ!? 落ち着けって!」

「や、やめろしいたけ!」

 

 功海と克海の制止の声も聞かず、逃げる梨子は階段を駆け上がり、襖を蹴り倒し、同時に千歌も下敷きにして、障子を吹っ飛ばして窓から跳躍!

 

「とりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!」

「えぇぇーッ!?」

「おお、飛んだ……」

 

 しいたけを抑えようと追ってきた克海たちはそれを目の当たりにしてあんぐり。千歌たちも呆然。

 梨子はそのまま空中で綺麗に一回転して、隣の自宅のベランダに着地した。

 

「おぉー……」

「……梨子ちゃん、犬が苦手だったのか……」

 

 思わず拍手する千歌たちと功海。克海はようやくしいたけを捕まえながら、ポツリとつぶやいた。

 と、ここで我に返った功海が、千歌たちの中に一人、見慣れない少女がいることに気がついた。

 

「ん、その子誰? 新しい部員か?」

「よく見たら、みんな何でそんな恰好を……」

 

 克海も、今の千歌たちの格好に疑問を抱いた。全員、ゴスロリを着用しているのだ。

 その中で一番着こなしている件の少女が――ビシッとポーズを決めながら名乗りを上げた。

 

「ふっ……私は天界からこの地上へとドロップアウトした、堕天使ヨハネ! あなたたちも私のリトルデーモンに、なってみない?」

 

 と、ヨハネと自称した少女に流し目を送られた克海と功海は――目が点。

 

「……はっ!?」

「新しいメンバー候補の津島善子ちゃんだよ」

 

 自称ヨハネが我に返っていると、曜が本人に代わって克海たちに紹介した。

 

「へ、へぇ……また随分と個性的、というか個性が際立った子を見つけてきたんだな……」

「テコ入れって奴か? キャラ作りすごい上手いな!」

 

 克海は引き気味だが、功海は面白がっている。が、当の善子は自分がしたことが恥ずかしくなったのか赤面した。

 

「ち、違……今のは違うんです! 私は堕天使とかそんなんじゃなくて……普通の女子高生なんですぅぅぅぅぅ――――――――――!!」

 

 そして羞恥心のあまり、千歌の部屋からバッと飛び出して逃げていってしまった。それを呆然と見送る功海たち。

 

「……今日はよく人が逃げる日だなー」

「何かよく分からないキャラ作りだな……」

 

 克海が呆けていると、花丸とルビィが訂正を入れる。

 

「あの……違うんです。善子ちゃんのアレは、キャラ作ってるとかじゃなくて、素なんです」

「へ?」

「善子ちゃん、中学時代はずっと自分のこと堕天使だと思い込んでたらしくて……まだその頃の癖が抜け切ってないって……」

「……自分のことを堕天使とか……親御さんも大変だろうな」

 

 克海はすっかり呆れ返っているが――功海の方は、ますます興奮した。

 

「何だそれ、すっげー面白い子じゃん! まさにスクールアイドル向き!」

「功海お兄ちゃんもそう思う? 私もビビッと来たんだよ! 堕天使こそが、今のAqoursに必要なものだったんだって! これで一気にランクアップだよー!!」

「おぉッ! 意気込んでるな千歌! よぉしその調子で思いっ切りアピールしてこい!」

「もっちろん! 楽しみにしててねー!」

 

 二人でやいのやいのはしゃぐ功海と千歌だが、克海はすっかり呆れ顔であった。

 

「そんな上手く行くか……?」

 

 

 

 翌日、克海と功海は千歌たちが新しく撮ったAqoursのプロモーションビデオを確認していた。

 

『ハァイ。伊豆のビーチから登場した待望のニューカマー、ヨハネよ。みんなで一緒に、堕天しない?』

『しなぁい?』

 

 中央に立つ善子がポーズを取ると、他の五人が昨日の格好で同じポーズを取る。これを見て、現在のランキングを確認した功海が感嘆した。

 

「へぇ~、思ったよりも効果あったなぁ。克兄ぃ、俺の言った通りだったろ? 抜きん出た個性があるだけで、こんなにも変わるんだよ!」

 

 Aqoursの現在ランクは、1526位。昨日と比べると、一気に3000位以上も上昇したことになる。

 しかし克海は浮かない顔だ。

 

「けどな、さっきは900位くらいだったんだぞ。それがこの短時間で急落だ。やっぱり、ちょっと変わったことしたくらいじゃ人気出るのなんて一瞬の間だけなんじゃないのか?」

 

 と聞く克海だが、功海は平然としていた。

 

「いや、そりゃあそうだろ。そんな簡単に上位をキープできるんなら、誰も苦労なんかしちゃいないって。大事なのは継続と、地道な努力。克兄ぃも現役球児時代はよく言ってたじゃん」

「まぁな。けど、千歌たち……特にこの津島善子ちゃんは、この結果はショックだろうな」

 

 克海が映像の中の善子に目をやりながらつぶやいた。

 

 

 

 果たして、千歌たちは目立つ目的でこんなPVを撮ったことをダイヤから叱責されたこともあり、落胆していた。夕焼けの波止場で腰を落として、顔もうつむいている。

 

「確かにダイヤさんの言う通りだね……。こんなことでμ'sになりたいなんて、失礼だよね……」

 

 そしてこのことの責任を感じた善子は、スクールアイドルを辞退することを宣言した。

 

「少しの間だけど、堕天使につき合ってくれて、ありがとね。楽しかったよ……」

 

 そう言い残して千歌たちの元から離れ、海沿いの道をトボトボ歩いていく善子。

 その手の中の、イデンティティーの黒い羽根を放し、羽根が風に吹かれて飛ばされていくが――。

 

「よっと!」

 

 ジャンプした功海がキャッチして、見事に着地した。

 

「あなたは……! 千歌さんのお兄さんの……」

「へへッ、ナイスキャッチだったろ。克兄ぃにも負けてなかったぜ」

 

 自賛した功海は、羽根を持ったまま善子に近寄っていく。

 

「どうしてんのかなと思って様子見に来てみたら……そんな暗い顔してどーしたんだ? スクールアイドルは元気が基本だぜ」

「……いいえ。もう私は、スクールアイドルじゃありませんから」

 

 功海の指摘を、善子が意気消沈したまま否定した。

 

「堕天使も今日限りにするって決めたんです。明日から、今度こそ普通の女子高生になります……」

「おいおい、ランクが落ちたのをそんなに気にすることないだろ。あんなのは一過性で当然さ。続けていって、初めて結果が結ばれんだよ。特にヨハネは、あれが素なんだろ? それって十分才能だぜ。とびっきりのな」

「だから私はヨハネなんかじゃありません。才能なんてものもない……何も特別なんかじゃないんです……」

「……自分は特別な存在でいたかったのか? もっと詳しく聞かせてくれよ」

 

 功海が頼むと、二人は近くに腰を落ち着かせて、善子の身の上話を始めた。

 

「私、昔から自分が普通なのが嫌でした。だからいつも思ってました。これは本当の私じゃない。本当の私は天使で、地上に落ちて人間の世界に紛れ込んだ堕天使。いつか空を飛んで、天の世界に還る時が来るんだって……」

 

 それが、善子の堕天使趣味のルーツであるようだ。

 

「だけど、もうとっくに気づいてます。天使なんかいる訳ない、自分は堕天使なんかじゃない、普通の人間……。空を飛ぶことなんか出来やしないってこと……。いとも簡単に飛ぶウルトラマンとは違うんですよ……」

 

 語りながら、ますます表情が暗くなっていく善子。功海は腕を組んでただ黙っている。

 

「イカロスの話、知ってるでしょう? あれと同じで、特別なんかじゃない人間の私が天使を夢見て飛び立とうとしたって、空には届かないで落ちるだけです。そうなるくらいなら、きっぱりとあきらめますよ、天使になるだなんてこと……」

「……」

 

 善子の話を聞いた功海は――すっくと立ち上がると、善子の腕を引いた。

 

「ヨハネ! ちょっと一緒に来てくれ!」

「えっ!? だからヨハネじゃ……!」

 

 困惑する善子だが、功海は構うことなく、半ば強制的に彼女を連れ立っていった。

 

 

 

 そうしてたどり着いた先は、山の中の一画の、地面に亀裂が走る場所。

 

「見てくれよ、ここ。こないだのウルトラマンと怪獣の戦いで亀裂が出来たんだけど、この辺り、地面の下から風が吹いてるんだぜ」

 

 と功海が言うので、善子が亀裂に手をかざすと、確かに手の平が下から空気の流れに押される感触がした。

 

「ほんとだ……」

「原因は不明だ。不思議だろ? ここ、元々は何の変哲もない場所だったんだぜ」

 

 亀裂の周りを歩きながら、得意げに語る功海。

 

「これと同じように、最初は何も特別じゃなくても、後から特別になれることなんかいくらでもある! 俺もな、大学で宇宙考古学を専攻してるんだ」

「宇宙考古学? それって宇宙の学問ですか? 考古学なんですか? 変なの……」

「ははッ、よく言われるぜ。最近出来たばっかの学問だから、認知度も低い。だけど、俺は宇宙考古学ですっげぇ発見してやるって決めてるんだ!」

 

 堂々と夢を口にする功海。その姿が、今の善子にはまぶしく見えた。

 

「人間はさ、誰だって生まれた時は特別なんかじゃない。それからの生き方で、特別に変わってくんだ! と、俺は思ってる。ヨハネも、堕天使であることをあきらめなきゃ、空を飛べる日が来るぜ!」

「……本当に、私でも空を飛べるのかな……?」

「まッ、とりあえずは、スクールアイドルやってみたらどうだ? 自分を押し殺して生きるよりかは、ずっと天の世界に還る可能性があるはずさ」

「……考えてみます……」

 

 功海の説得に、善子は回答を一旦保留にすると、下から風が吹く亀裂に視線を戻した。

 

「地面から吹く風……。これみたいな風が、私を空に導いてくれるかな……?」

 

 善子の後ろ姿を少し離れたところから見守る功海だが――ふと懐に違和感を覚えて、クリスタルホルダーを取り出した。

 開いてみると――火と水のクリスタルが、何もしていないのに淡く輝いていた。

 

「クリスタルが……!」

 

 功海はハッと、善子が側に立っている亀裂に目をやった。

 

 

 

 その翌日、『四つ角』で功海は千歌に、善子とのやり取りのことを話した。

 

「善子ちゃん、スクールアイドル続けてくれるんだ! よかったぁ~!」

「いや、まだそうと決めた訳じゃないみたいだけどな」

「それでもいいよ! 辞めるのを思いとどまらせてくれただけで!」

 

 千歌は功海が説得をしてくれたことに感激していた。

 

「責任感じてたんだよね。私の軽はずみな思いつきで、善子ちゃんを苦しめちゃったって。だから私からも善子ちゃんとお話しするね! 功海お兄ちゃん、大好き!」

「全く大袈裟だよな、千歌は。それよか、何やってんだ?」

 

 千歌は居間に、家中の雑貨などを集めて吟味していた。

 

「えへへ。今度のフリマで何か売れるものないかなーって。昨日のPVの衣装が思ったより高くてさ、活動費がちょっと苦しいんだよね。その足しにしようと思って」

「千歌、勝手に売りに出すんじゃないぞ。母さんたちの私物まで混じってるじゃないか。勝手に売ったりなんかしたら怒られるぞ?」

 

 克海が、千歌がテーブルの上に広げた物品に目を落として顔をしかめていると、

 

「ほほーうフリーマーケット。いいねぇ~。貴重な掘り出し物はそういうところから出てくるものだ」

「! その声は……!」

 

 三人が振り向くと、いつの間にか廊下に白いスーツの男が立っていた。

 

「失礼、勝手に上がらせてもらいました。愛染正義です」

「愛染さん!」

 

 振り返った愛染は克海たちに親しげに呼び掛けていく。

 

「いやぁ~この前の草野球、楽しかったよぉ克海君!」

「ありがとうございます! 今お茶菓子出しますね!」

「いやいやお構いなく。あッ、千歌君、新しいPV見たよぉ! またいい子見つけたじゃな~い! その調子で頑張ってね!」

「は、はい! 頑張りますっ!」

「いやぁしかしここは変わらないねぇ~! 君たちのお父さんがここを守っている証拠だ! 実に立派なことだよぉ君たち……」

 

 歯が浮くような台詞をまくし立てていた愛染だが、千歌が家の中から集めた物品の中から、マトリョーシカ人形に目を留めると途端にテンションを更に上げた。

 

「おおーッ!! これを譲ってくれ! ひと足お先にッ!」

「すみません。それは両親の新婚旅行の記念品なので、売り物には……」

 

 克海が断ろうとしたが、愛染は最後まで言わせずに、小切手にサラサラと金額をしたためて差し出した。

 

「これでいかがかな?」

 

 金額をひと目見た克海たち三人が、目を飛び出させた。克海が慌てふためく。

 

「こんなにもらえませんよッ!」

「克兄ぃ真面目すぎるって! 売っちゃおうよ!」

「そうだよこれがあれば十年、ううん百年はスクールアイドルできるよ!」

「何年高校生やってるつもりだよ! いやそれより、あれは父さんと母さんの思い出の品で……!」

「お父さんたちには私から言っておくからぁ!」

 

 あまりのことに兄妹が混乱している間に、愛染はカウンターに近づいて、克海が用意したお茶請けのクッキーの皿の中に、クッキーに偽装した物を紛れ込ませた。

 

 

 

 愛染が帰り、千歌に片づけをさせた後に、功海は克海に昨日のことを報告し出した。

 

「山の地下に、クリスタルが埋まってる……?」

 

 功海の言葉を繰り返す克海。功海は、自分たちのクリスタルが地面の亀裂の前で反応を示したことから、亀裂の下にはクリスタルが存在するという仮説を立てたのだ。

 クリスタルホルダーを開きながらうなずく功海。

 

「こいつと同じバイブス波を検知した。風もその影響だと思う。属性があるとするなら」

「風か。でも誰が埋めたんだ?」

 

 克海と功海が話し合っている後ろで、皿の中のクッキーが一枚、ほんのかすかに蚊の羽音のような駆動音を立てていた。

 

 

 

 アルトアルベロタワーに戻った愛染は、屋上のヘリポートでお茶をしながら、イヤホンからの声に耳を傾けていた。

 

『化石と一緒で、上に土が降り積もったんじゃないかな? 前に愛染さんが言ってたじゃん、妖奇星の話』

 

 声は功海のものであった。愛染は『四つ角』に置いてきた、クッキーに偽装した盗聴器を使って兄弟の話を盗み聞きしているのだ。

 

 

 

「山巓から観測して深さを調べたら、そこの地層は1300年前の土で、時期が重なる」

「じゃあ……」

「克兄ぃ、功兄ぃ! いる?」

 

 まだ見ぬクリスタルについて話し込んでいた功海たちだったが、そこに果南が上がり込んできたので慌てて口をつぐんだ。

 

「? 何かやってたの?」

「い、いや別に?」

「それより果南ちゃん、何の用だ?」

 

 克海が素知らぬ顔で話をそらすと、果南は持参した魚の干物を差し出した。

 

「これ、父さんから。ご心配をお掛けしたお詫びだって」

「ってことは、おじさん治ったのか?」

「まだリハビリの途中だけどね。でももうじき仕事に復帰できるし、そしたらまた改めて贈り物するって」

「へぇ。じゃあ果南ももうすぐ復学するってことだな?」

「まぁね。あ、一枚もらってもいい?」

「ああ」

 

 断りを入れてから、果南がクッキーを一枚つまみ上げて口に運ぶ。

 

「いただきます」

 

 ガリッ!

 

「……いったぁ~……!? 何これ、作り物だよ?」

 

 噛み砕こうとして出来なかった果南は、涙目になりながらクッキーを口から出した。

 

「功兄ぃ、また悪戯? ひどいことするなぁ……」

「ええ? 俺は知らねーぞ」

「さっき千歌が色々散らかしてたから、その時に紛れたんじゃないか? 果南ちゃん、ごめんな」

「いや、まぁいいんだけど……」

 

 果南は手の中の、クッキーの偽物に目を向けて訝しげに首を傾げた。

 

 

 

「……つぅ~! 耳がキーンってした……」

[大丈夫ですか、社長?]

 

 果南が盗聴器を噛んだ音がダイレクトに伝わり、愛染は耳を抑えてうずくまっていた。ウッチェリーナが通り一遍の心配をする。

 愛染はイヤホンに意識を向けたが、もう誰の声も聞こえず、砂嵐のノイズが流れるばかりであった。

 

「壊れちゃったか……。でもまぁいいや。肝心な部分はちゃんと聞けたからねぇ……」

 

 気を取り直した愛染がニヤリとほくそ笑んで、風が吹く亀裂のある山へと首を向けた。

 



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届かないイカロスだとしても(B)

 

 次の日、功海と克海は亀裂の調査だとして、Aqoursと善子とともに現場に足を運んだ。

 

「うわー、すごーい! ほんとに地面から風が吹いてる!」

「どうなってるのかな……?」

 

 曜とルビィが引っこ抜いた草を風で飛ばして驚いた。千歌はこの風を見て、パッと思いつく。

 

「そうだ! この風で善子ちゃんを浮かせられないかな? 糸もなしにふわふわと浮いたら、堕天使っぽさがより出せると思う!」

「こら千歌、危ないだろ」

「怪我でもしたら大変だわ」

「えへへ、ごめん」

 

 しかし克海と梨子にたしなめられた。

 花丸は功海を手伝って、観測機器を運ぶ。

 

「功海さん、これはここでいいずら?」

「ああ、ありがとな。後は俺と克兄ぃでやるよ」

「どういたしましてずら!」

 

 功海と話す花丸を見て、善子が花丸に尋ねかける。

 

「ずら丸、あんた功海さん相手に口癖丸出しで話すのね。親しい相手じゃないと、普段は抑えてるのに」

「えへへ。功海さんが、これでいいって言ったずら」

「え?」

 

 花丸ははにかみながら、詳しいところを話す。

 

「マル、自分のこのしゃべり方が恥ずかしいと思ってたずら。だけど、このことを知った功海さんは『つまり方言っ娘? すっげーいいじゃん! 自分の個性なんだから、武器にしてくべきだって!』って言って」

 

 功海の声真似をしながら再現する花丸。

 

「功海さん、自分を抑えて生きるなんてのは良くないとも言ってたずら。それが紛れもない自分なら、一度きりの人生、窮屈するより羽を伸ばしていないと損だって」

「へぇ……。あの人、変わってるわね」

「ふふ、マルもそう思うずら。だけど……そういうところが、功海さんの一番いいところだと思うずら」

 

 花丸の話を聞いて、功海に目を向ける善子。

 

「……ほんと、変わってるわ。こんな私のありのままを肯定するし……」

 

 当の功海は、埋まっているクリスタルについて克海と相談し合っている。

 

「これで正確な位置が分かると思うけど、問題はどうやって見つけるかだよな」

「ああ……。土木業者でもないと、地中深くに埋まってるものを掘り出すなんてのは無理があるぞ」

「スコップでどうにかならねーかなー?」

「馬鹿言うなよ。たかがスコップと腕力で、何メートルも深く掘るなんて無理に決まってるだろ?」

 

 クリスタルの採掘手段を悩む兄弟であるが、この時他にもクリスタルを狙う者がいることを彼らは予想だにしていなかった。

 

 

 

 綾香上空を巡回するアイゼンテックの飛行船を背景にしながら、昨日のようにヘリポートでお茶とテーブルを用意していた愛染は、手の平に「嵐」のクリスタルを出した。それを見てウッチェリーナが聞く。

 

[それはグエバッサーのクリスタルですね!]

「うん。この子に風を探知し、出処を探ってもらおう。そこに、風のクリスタルがあるはずだぁ……!」

 

 愛染は椅子から立ち上がると、左手でジャイロを取り出した。

 

「では行くぞッ! 出でよグエバッサー!!」

 

 クリスタルを高々と掲げた愛染が、意気揚々とジャイロの中央にクリスタルを嵌め込む。

 

グエバッサー!

 

 そうして踊るようにジャイロを振り回しながら、レバーを三回引いていく。

 

「HOOOP! STEEEEEP! JUUUUUUUMP!!」

 

 

 

 曜とルビィに千歌と花丸も混じって、風を感じて遊んでいると、不意に千歌が顔を上げた。

 

「あれ? 何か飛んでくる……」

「え?」

 

 千歌たちが空の彼方を見やると、青い空に白い点のようなものがあるのがおぼろげに見えた。少しずつ大きくなってくる。

 

「白い……鳥?」

 

 と同時に、功海のスマホが怪獣特有のバイブス波の音声を発した。

 

「怪獣!? こんな時に!」

 

 その怪獣は、今まさに彼らの元に飛んできた!

 

「グエ――――! プォォォ――――――!」

 

 普通の鳥類にはありえない、樹木を優に超えるほどの巨体の白い怪鳥! 愛染の召喚した猛禽怪獣グエバッサーが襲撃を掛けてきた!

 

「きゃああああっ!?」

 

 グエバッサーが翼を羽ばたかせる毎に、荒れ狂う嵐のような猛烈な暴風が巻き起こり、千歌たちは飛ばされそうになって地面にしがみついた。

 

「うわッ!」

「梨子ちゃんッ!」

 

 功海も必死にふんばり、克海は近くにいた梨子の腕を掴んで、浮き上がりかけた彼女を引き寄せた。

 

「あ、ありがとうございます……」

「千歌! 曜ちゃん! 早くルビィちゃんたちを逃がすんだ!」

「う、うん!」

 

 グエバッサーがまだ空にいてこれなのだから、地上に下りてきたらますます危ない。その前に、千歌たちは隙を見てグエバッサーから逃れていく。

 

「……あれ、善子ちゃんは!?」

 

 しかし善子の姿がその中にないことで梨子が叫んだ。功海が辺りに目を走らせると、

 

「ヨハネ!?」

 

 善子は、功海が持ってきた観測機材を抱えて抑え込んでいた。功海がよろけながらもそちらへ走っていく。

 

「ヨハネ! 何してんだ! 逃げないと危ねーぞ!」

 

 グエバッサーが高度を下げてくる度、風も強くなっていく。焦って善子を逃がそうとする功海に、善子が訴えかけた。

 

「これ、功海さんの夢のための道具なんでしょ!? どっかに飛ばされる訳にはいかないじゃない!」

「ヨハネ……!」

「功海さんは、私の天に昇る夢を笑わずに応援してくれた……! だから、私も功海さんの夢を守りたい!」

 

 善子の言葉を受けた功海の顔つきが変わった。

 

「グエ――――! プォォォ――――――!」

 

 グエバッサーの影がいよいよ彼らの頭上に差し掛かる。功海は、善子の腕を引いて呼び掛けた。

 

「ヨハネ! 俺と一緒に、空を飛ぼう!!」

「えっ……?」

 

 そう叫び、功海がルーブジャイロを取り出す。

 

「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」

 

 叫んだ功海が、善子を側に置きながらクリスタルホルダーより水のクリスタルを取り出した。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンギンガ!]

 

 一本角を出したクリスタルをジャイロにセットする。

 

「纏うは水、紺碧の海!!」

 

 ジャイロの両脇のレバーを三回引いて、ウルトラマンに変身!

 

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 功海に続く形で、梨子と顔を合わせてうなずき合った克海がホルダーに手を伸ばした。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンタロウ!]

 

 火のクリスタルを選ぶ克海の後ろで、梨子が胸の前でぐっと右手を握る。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「ビーチスケッチさくらうち!」

 

 克海がレバーを三回引いて、梨子とともにウルトラマンに変身!

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

 

 着陸したグエバッサーの真正面に、ロッソとブルが並び立った。――ブルの水に包まれたインナースペースで、善子が唖然としていた。

 

『「こ、ここって……ウルトラマンの中!? ……功海さんが、ウルトラマンだったんだ……!」』

 

 置かれた状況から、何が起こったのかを理解する善子。視線を正面に向けると、こちらに向かって威嚇してくるグエバッサーの姿が見える。

 

「グエ――――! プォォォ――――――!」

『はぁッ!』

 

 ロッソが先制してグエバッサーに飛び込んでいき、片翼を掴んで動きを封じ込もうとする。

 善子がハッと背後に顔を向けると、千歌たちがグエバッサーと反対方向へと逃げていく姿が目に映り込んだ。

 

『千歌たちを守らなきゃならねぇ。ヨハネ、協力してくれ!』

『「……分かった!」』

 

 突然のことで戸惑いを禁じ得なかった善子だが、背にしている千歌たちを目にしたことで、表情を引き締めた。

 

『とあッ!』

 

 善子が覚悟を固めると、ブルもロッソに続く形でグエバッサーの翼に掴みかかり、千歌たちが避難する時間を稼ぐ。

 

「ウルトラマンさんたちだ!」

「今の内だよっ!」

 

 曜が先導して四人はグエバッサーから離れていく。暴れるグエバッサーはブルを振り払うが、梨子との合体でパワーアップしているロッソには敵わずに押しのけられた。

 

『はぁぁッ!』

「グエ――――! プォォォ――――――!」

 

 ロッソは火球弾フレイムダーツを撃って攻撃するが、グエバッサーの方も羽根を矢のように飛ばしてきて対抗。

 雨あられと飛んでくる羽根をロッソが叩き落としながら前進し、グエバッサーの胴体を殴り飛ばす。

 

『おりゃあぁぁッ!』

「グエ――――! プォォォ――――――!」

 

 軽々と殴り飛ばされるグエバッサー。梨子の力を得たロッソのパワーは、グエバッサーを大きく上回っていた。

 だがグエバッサーもやられてばかりではおらず、翼を大きく羽ばたかせることですさまじい暴風を引き起こし出した!

 

『うわぁぁぁッ!?』

『「きゃあああっ!」』

『克兄ぃッ! うッ、うおぉぉ……!』

 

 異常なほどの風圧でロッソが飛ばされそうになるのを後ろからブルが支えたが、あまりの風力に二人の力を合わせても踏ん張るのが精一杯というありさまであった。

 

 

 

 愛染がサラサラと短冊に一文をしたためる。

 

「『蝶のように舞い ヒールも折れた』」

[調子に乗っていると痛い目を見るという意味ですね!]

 

 ウッチェリーナが愛染に合いの手を打った。

 

 

 

「グエ――――! プォォォ――――――!」

 

 グエバッサーの巻き起こす暴風は天候にまで影響し、厚い雲が空を覆い隠す。ロッソとブルは近づくことさえ出来ず、このままでは活動時間が尽きてしまう。

 

『くっそぉ……どうしたら……!』

 

 必死に足を踏ん張って地面にしがみつくブル。その時に、善子が叱咤の言葉を叫んだ。

 

『「しっかりして、功海さん! 私と……ヨハネと、空を飛んでくれるんじゃなかったの!?」』

『はッ……!』

 

 善子の激励により、ブルが気力を呼び覚まされる。

 

『そうだ、あんな向かい風に翼を折られる訳にはいかねぇぜ! 克兄ぃ!』

 

 ロッソに顔を向けて呼び掛けるブル。

 

『風のクリスタルを使おう!』

『風には風をか……! でもクリスタルは地面の中だろ!?』

『こないだの、水に火をぶつける奴で……!』

『水蒸気爆発か……! よしッ!』

 

 ロッソと相談し合うと、ブルが力を振り絞って地面の亀裂へと水流を発射した。

 

『せやぁッ!』

 

 地中に水が満たされると、ロッソが大きく振りかぶって火球を投擲した。

 

『はぁぁぁぁぁッ! てやぁぁッ!』

 

 火球は見事なコントロールで、水があふれた亀裂の中に吸い込まれた。

 これによって急加熱された水が爆発を起こし、土が吹っ飛んで地中に隠れていた紫色のクリスタルが空中に放り出された!

 そしてそのクリスタルをブルの手の平が掴み取り――インナースペースの善子の手に渡る。

 

『ヨハネ! それが俺たちの翼だ!』

『「……!」』

 

 「風」と書かれたクリスタルを見つめた善子が固くうなずき、胸の前に掲げた。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

 

 功海がやったようにクリスタルから一本角を出して、ジャイロの中央に嵌め込む。

 

[ウルトラマンティガ!]

 

 善子の背後で赤と紫色のウルトラ戦士のビジョンが胸を張り、風が善子の髪をなびかせた。

 

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

 

 ブルの合図でジャイロのレバーを一回、二回と引っ張り、高々と掲げる。

 

『「堕天降臨!」』

 

 三回レバーを引くと、善子の周囲が紫色の竜巻で包まれる。

 

[ウルトラマンブル! ウインド!!]

 

 風の力をその身に宿したブルが紫色に変色し、両腕をピンと前に伸ばして飛び出していく!

 そしてグエバッサーの起こす暴風を切り裂いて、ブルが空をグルリと回り込んだ。

 

『「飛んでる……! 私、いま、空を飛んでるっ!!」』

 

 地面に足をつけていた人生の中で味わったことのない解放感と自由の感触に感極まった声を上げる善子。彼女を包み込む風は、善子に更なるパワーを引き出させてブルのエネルギーに変えていた。

 

 

 

「風のクリスタルぅぅッ! また先に使われたぁぁぁぁ―――――!!」

 

 ブルが風のクリスタルを使用したことを感知した愛染が大声で喚き、ヤケになってクッキーを一気にほおばった。

 

 

 

「グエ――――! プォォォ――――――!」

 

 焦りを見せるグエバッサーは翼を更に羽ばたかせて突風を繰り出す。旋回を終えたブルは伸ばした指先をグエバッサーに向け、空中を進みながらまっすぐに突貫していく。

 

『行くぞヨハネ!』

『「ええ!」』

 

 ブルの呼びかけに、善子、いや、堕天使ヨハネが右の目元にブイサインをやりながら応じた。

 グエバッサーの突風をものともせずに前へ前へと突き進むブル。急接近してくるブルに対してグエバッサーは飛び上がって逃げようとしたが、ブルは角からルーブスラッガーブルを引き抜いて相手の胸部に一撃を入れた。だがグエバッサーは落ちずにスラッガーをクチバシでくわえ込み、ブルとの空中でのもつれ合いに発展する。グエバッサーの鉤爪の生えた足が何度もブルを蹴りつけるがブルはひるまず、スラッガーを引き抜いて再度一閃。だがグエバッサーは上昇して回避し、追ってくるブルに羽根の矢を降らせる。羽根をスラッガーで弾きながらブルが追いかけていると、グエバッサーに横からフレイムダーツが命中。『「大丈夫、善子ちゃん!」』『「善子じゃなくてヨハネよ!」』呼びかけた梨子にヨハネが言い返すと、ロッソとブルが並んでグエバッサーを追跡していく。そのグエバッサーは上空で大きく旋回し続け、黒雲を動かして竜巻を作り出した。竜巻の中に閉じ込められたロッソとブルは身動きを封じられ、カラータイマーが赤に転ずる。

 

『まずいな……! エネルギーが残り少ないぜ……!』

 

 ブルが焦りを浮かべるが、ヨハネは毅然と叫んだ。

 

『「どんな逆風が吹き荒れようとも、このヨハネの翼を妨げることは出来ないわ!」』

『逆風……! そうだッ!』

 

 スラッガーを握り直したブルが、竜巻の回転方向とは逆に回り始めた。

 

『えああああぁぁぁぁぁぁ――――――――!!』

 

 飛びながらスラッガーを竜巻の壁に走らせるブル。

 

『おおおおおッ!?』

『「功海さん、何を……!?」』

 

 スラッガーの刃が竜巻を切り裂いていき――そして、竜巻が弾け飛んで暴風が収まった!

 

「グエ――――! プォォォ――――――!」

 

 グエバッサーも自身の能力を破られて停止する。

 

『消えた……!』

『逆回転の竜巻だ! 力を打ち消し合うッ!』

 

 グエバッサーの動きが止まっている内に、ロッソとブルは最後の攻撃に取りかかる!

 

『「セレクト、クリスタル!」』

[ウルトラマンロッソ! アクア!!]

 

 梨子がクリスタルチェンジしてロッソアクアとなると、烈のクリスタルをルーブスラッガーロッソにセットした。

 

[ウルトラマンゼロ!]

 

 双剣に水の力をチャージして、斬撃を発射する!

 

「『ゼロツインスライサー!!」』

 

 ブルは前に伸ばした両腕を重ね合わせて風を渦巻かせ、光線状にして一気に射出した!

 

「『ストームシューティング!!」』

 

 斬撃と光線の同時攻撃が、グエバッサーに突き刺さる!

 

「グエ――――!!」

 

 身体を撃ち抜かれたグエバッサーが天から堕ちていき、地面に激突して大爆発した。

 グエバッサーの消滅によって雲が晴れていき、差し込んだ陽光に照らされながら、ロッソとブルが空の彼方へと飛び去っていく。

 自由な風を肌で感じ、ブルの中で善子が心の中で独白した。

 

(さよならイカロス……私は、堕天使という翼でどこまでも飛び続ける……! あの天上の世界を目指して……!!)

 

 その瞳は、果てしのない天空へと向けられていた――。

 

 

 

 内浦を覆った暗雲が晴れると、内浦の人々は空に向けて顔を上げた。

 

「晴れていきますわ……。あっ!」

「ワオ! ウルトラマンデース!」

 

 それによって、ダイヤやヘリコプターで移動中の鞠莉らが飛び去っていくロッソとブルの姿を目撃した。

 ――一方で、果南は町の電器屋である話を打ち明けられていた。

 

「えっ……盗聴器……!?」

 

 噛み砕けなかったクッキーが気に掛かった果南は、それが機械であることを確認し、電器屋に持ち込んで何なのかを調べてもらったのだ。

 電器屋のおばさんは深刻な表情で、果南に分解したクッキー型盗聴器を見せる。

 

「よく出来てるけど、ほら、これが集音器……。果南ちゃん、こんなものどうしたんだい? 何なら、警察に通報するけど……」

「う、ううん、大丈夫。ありがとう、おばちゃん!」

 

 慌てて盗聴器を回収した果南は電器屋から飛び出し、外で盗聴器に目を落とした。

 

「こんなものが、どうして四つ角に……。そういえば克兄ぃが、私が来る前に愛染さんが来てたって……」

 

 果南は思わず、綾香の方角に顔を向けた。

 

「まさか……でも、そんなことが……」

 

 

 

 愛染はティーセットを片づけたテーブルの上にアタッシェケースを置くと、金に物を言わせて無理矢理買い取ったマトリョーシカ人形の頭をうっとりと指でなでた。そこにウッチェリーナが戻ってくる。

 

[グエバッサーのクリスタルを回収し、帰還しました!]

「ありがとう、ウッチェリーナ君。愛してるよ」

[私もです、社長!]

 

 ウッチェリーナからクリスタルを受け取った愛染が、アタッシェケースを開いてその中に入れてあったホルダーにクリスタルを収めた。

 その時に氷室からの電話が掛かってきて、愛染がスマホを取り出す。

 

「やぁやぁ氷室君、どうしたのかな?」

『社長。新たに勧誘していたスクールアイドル二名が、特待生コースの加入に承諾しました』

 

 スマホの画面に、そのスクールアイドルの顔写真――ツーテールの幼い顔立ちの少女と、おでこを大きく出したロングヘアの少女が映し出されると、愛染はますます気を良くした。

 

「おぉー! これで遂に3分の2を超える! よくやってくれたねぇ氷室君!」

『ありがとうございます』

「連れてきてくれるのを楽しみに待ってるよ! バイバーイ!」

 

 機嫌良く通話を終えた愛染は、円形のクリスタルホルダーに手を伸ばした。愛染から見て左側に、今しがた戻した「嵐」のクリスタル、手前に「岩」、右側に「氷」、奥の側に「炎」のクリスタルが収められている。その中央に――一つだけ縁が錆びついているかのように歪んでいる、「剣」のウルトラ戦士が描かれたクリスタルがあり、愛染はそれを手に取った。

 そのクリスタルを愛おしそうにハンカチで磨きながら、愛染は鼻歌を唄っていた。

 

「~♪ やればできるー♪ きーっとー♪ ぜーったーいー♪ ……」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

善子「堕天降臨! 今回紹介するのは『TAKE ME HIGHER』よ!」

善子「この歌の歌手は、何とあのジャニーズ事務所の人気アイドルグループの一つ、V6よ! 90年代だと特撮番組で現役アイドルとタイアップすることは珍しくて、しかも既にトップクラスの知名度のV6が主題歌を担当するというのはそれこそ事件だったわ!」

善子「しかも例年だと主題歌には必ずウルトラマンの名前を入れられていたけど、これには「TIGA」こそあれど「ウルトラマン」の方は歌詞に一つも出てこないわ。平成という新時代のシリーズを迎えるにあたっての意欲的な試みと言えるわね!」

善子「更に主役のマドカ・ダイゴを演じたのはV6の長野博さん! 過去作とのつながりをあえて排した世界観と言い、どこまでも挑戦的な作品だったわね!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『届かない星だとしても』だ!」

功海「前回の『待ってて愛のうた』と同じで『恋になりたいAQUARIUM』のカップリング曲だ。こんなタイトルだけど意外と明るい曲調で、挑戦することの大事さを歌ってるぜ!」

克海「星というのはμ'sの隠喩という説もある。伝説にあきらめず挑戦するAqoursの精神の表れとも取れるな」

善子「それでは次回で、堕天しましょう?」

 




ルビィ「私たちAqoursは内浦の魅力を紹介するPVを作り始めました。だけど……えっ? ぴぎぃぃー!?」
善子「ちょっ!? 何で怪獣の中にルビィがいるのよ!? こんなの、一体どうしたらいいのー!?」
善子「次回、『Guilty Fire, Guilty Below』!」
ルビィ「次回もがんばルビィ!」


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Guilty Fire, Guilty Below(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

花丸「堕天使キャラをどうしても忘れられない善子ちゃん。千歌ちゃんはAqoursを堕天使スクールアイドルとして特徴を出そうと提案したけど、上手く行かなくて……。すっかり落胆した善子ちゃんだけど、功海さんが応援してスクールアイドルを続けてくれました。そして……」

 

 

 

「どういうことですの!?」

 

 浦の星女学院の理事長室に乗り込んだダイヤが、鞠莉にあることを問い詰めていた。鞠莉はため息交じりにダイヤに答える。

 

「書いてある通りよ……。綾香の高校と統合して、浦の星女学院は廃校になる。分かっていたことでしょう? 克海たちの学校と、ちょうど同じ道をたどってるのだから」

「それは、そうですけど……」

 

 聞き返されたダイヤが、思わず言葉に詰まった。

 そんなダイヤに対し、鞠莉が告げる。

 

「ただ、まだ決定ではないの。まだ待ってほしいと、私が強く言ってるからね」

「鞠莉さんが?」

「何のために、私が理事長になったと思っているの?」

 

 立ち上がった鞠莉は、力を込めた目つきでつぶやく。

 

「この学校は無くさない……。私にとって、どこよりも、大事な場所なの……!」

 

 決意を口にする鞠莉に、ダイヤが次の通り尋ねかけた。

 

「方法はあるんですの? 入学者はこの二年、どんどん減ってるんですのよ」

 

 それに鞠莉は、重い面持ちで返答した。

 

「だからスクールアイドルが必要なの」

「鞠莉さん」

「あの時も言ったでしょう? 私はあきらめないと……! 今でも決して、終わったとは思っていない……!」

 

 ダイヤに振り返った鞠莉は、そっと手を差し出した。が、

 

「わたくしは――わたくしのやり方で廃校を阻止しますわ」

 

 ダイヤはその手を取ることなく、踵を返して理事長室から出ていった。

 閉まった扉を、寂しげに見つめた鞠莉が独白する。

 

「ほんと、ダイヤは好きなのね。果南が……」

 

 

 

『Guilty Fire, Guilty Below』

 

 

 

『――はぁぁッ!』

『うりゃああッ!』

 

 内浦と綾香の境の区間で、ロッソフレイムとブルアクアが上空から一気に降下、その勢いで内浦へと進行中であった怪獣に肘と握り拳を叩きつけた。

 

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 怪獣は全身が鋼鉄で出来上がったロボット怪獣メカゴモラ。当然そのボディは非常に頑丈であり、殴った程度では少しもダメージにならないのだが、ロッソとブルはお構いなしにメカゴモラを囲んでボコボコに殴り出す。

 

『このッ! このッ!』

『行くぞッ!』

 

 何故か抵抗しないメカゴモラだが、それをいいことに散々殴る蹴ると暴行を加えるブルたち。ロッソはその辺の樹を引っこ抜いてメカゴモラの頭を叩き、それが効かないとなるとフレイムダーツを連発して浴びせる。

 このロッソたちの一方的な、しかし効果を上げていない攻撃の様子を、アイゼンテックの飛行船が搭載されているカメラが撮影し――アルトアルベロタワーの社長室に電送していた。

 

 

 

 社長室では愛染が、飛行船からの映像を、イライラと貧乏ゆすりしながらにらんでいた。ウッチェリーナがロッソとブルの行動を分析して解説する。

 

[お兄さんは球を投げればいいと思ってるようですね。野球馬鹿といったところでしょうか]

「あー違う! そこに撃っても効かないのが分からんのか!」

[弟さんの方は、小器用ではありますがメンタルに難があります。はっきり言って、お子ちゃまですね]

「違う! 違う! 違うぅ~!!」

 

 兄弟の戦い方を酷評する愛染が、我慢ならなくなってバッと立ち上がった。

 

「かゆいところに手が届かない、このもどかしさッ! って言うか……雑ッ!!」

 

 身体中をかきむしった愛染は、肺の空気とともに思い切り吐き捨てた。

 

 

 

 ロッソとブルはいら立ち紛れに、メカゴモラに荒っぽい攻撃を加え続ける。

 

『こんな時に出てきやがって!』

『今忙しいんだよッ!』

『TPO考えろッ!』

『空気読めッ!』

 

 膝蹴りや頭突きなど、勢い任せの乱暴な打撃を入れる二人の姿に、逆に落ち着いた愛染が呆れ果てた。

 

「命を懸ける戦士の美学が微塵もない……」

 

 ロッソたちはメカゴモラの左右から突撃して、挟み撃ちを仕掛けようとしているが、それを待たずに愛染が言い放った。

 

「もういい。撤収!」

 

 愛染の宣言を合図として、メカゴモラが右手を挙げると、ポンッと煙とともに消え失せた。

 

『てやぁーッ!』

『あだぁッ!?』

 

 飛び掛かる寸前でメカゴモラが消えたことで、ロッソの拳は空振り。勢い余ったブルのパンチはロッソの顔面に当たった。

 

『いっでぇぇッ!? お前なぁ……!』

『ご、ごめん……』

 

 非難されたブルは平謝りしたが、ロッソはそのまま昏倒してしまった。

 

『あ、おい……』

 

 メカゴモラを消失させた愛染は、憮然とした態度でドカッと腰を椅子に落とした。

 

「がっかり……!」

 

 「炎」のクリスタルに戻ったメカゴモラは、ウッチェリーナが下部から伸ばしたマグネットつきワイヤーによって回収されていく。

 

[メカゴモラクリスタル、回収しました!]

 

 ウッチェリーナはそのまま飛び去り、アルトアルベロタワーへと帰っていった。

 

 

 

 『四つ角』に戻ってきた克海と功海は、大量にある提灯の掃除や補修をしながら先ほどのメカゴモラについて話し合う。

 

「全く、何だったんだあの怪獣は……」

「ほんと迷惑だよな。人の都合も考えないで出てきといて、突然いなくなりやがる。振り回されるこっちの身にもなってほしいぜ」

 

 功海がぷりぷり怒りながらぼやくと、克海がふと疑問を口にした。

 

「それにしても、怪獣ってどこから現れるんだろうな。あんなでかいのが、何の予兆もなく出現するんだぞ」

「言われてみれば、あんなでっけぇのが普段どこに隠れてんだ?」

「映画とかだったら、地面の中とかが鉄板だが」

「けど、それらしい痕跡は一個もないんだぜ。何もない場所から出てきて、煙みたいに消えてるとしか言いようがねぇ」

「謎だよな……」

 

 克海たちが首を傾げていると、二人のいる居間に千歌が肩を落としながら入ってきた。

 

「ただいま~……。はぁ~疲れたぁ……」

「どうしたんだよ、千歌。今日はいつもより遅いしバテてんじゃねーか」

 

 やたらとくたびれている千歌に、何事かと尋ねかける功海。二人の前に腰を下ろした千歌は、本日の出来事を二人に話し始めた。

 

「それがさ、学校に大変なことが起きて……」

 

 千歌の報告に、克海と功海は目を丸くした。

 

「何! 浦女が統廃合!?」

「あちゃ~……やっぱそういうことになったか。一年生が、百人の募集で十二人しか入学しないありさまじゃなぁ」

「でもまだ決定じゃないよ。来年度の入学希望者の人数次第で、撤回できるかもしれないの」

「その話、どっかで聞いたことあるな」

 

 功海がつぶやくと、千歌はバンと大きな音を立てて机を叩いた。

 

「そう! あのμ'sとおんなじ状況なの! だから私たちAqoursも、μ'sと同じように学校を救おう! って最初は思ったんだけど……」

「難しそうなのか」

 

 克海が聞くと、千歌は机にもたれかかりながらうなずいた。功海が肩をすくめる。

 

「まぁそりゃそうだよな。簡単にどうにかなるようなら、そもそも統廃合の話なんか出ねーって」

「だよね……。私も初めは、何からすればいいのかってなって……。ひとまず、内浦の魅力を外の人たちに伝えるためのPVを今日は撮影してたんだけど……」

「それで町のあちこちを回ってた訳か」

 

 町に出て慌ただしくしていた千歌たちを目撃していた克海が納得した。

 

「でも……意外と難しいんだねー、いいところを紹介するのって……。いざやってみろってなったら、何を紹介すればいいのか全然分かんなかったよ」

 

 千歌のひと言に、克海と功海も同意する。

 

「確かに……。俺も具体的なものを挙げろと言われたら、回答に困るな」

「特に内浦は田舎で、分かりやすいもんは何もないからなー。ここの良さってのは、実際住んでみないと分かんねーって」

「それでもどうにか撮影はして、明日鞠莉さんにチェックもらうんだけど……オッケーもらえるかなぁ。ちょっと自信ないよ……」

 

 ため息を漏らす千歌に、功海が意地悪く聞き返す。

 

「だったらやめるか?」

「ううん! それはしないっ!」

 

 千歌は決意を顔に浮かべて力強く言い切った。

 

「私、改めて内浦を回って気がついたの。私、この町も浦女も大好き! やっぱり浦女でスクールアイドルやりたい! だから、なくなっちゃダメなの! そのために、どんなことでもがんばる!」

 

 千歌の決意を感じて、克海たちは安心した微笑を浮かべた。

 

「その意気だ! けど、今はこっちを手伝え。ほら、直すべき提灯はまだまだあるぞ」

「ええ~? チカ、疲れてるって言ったじゃん~。勘弁してよ~」

「甘えたこと言うなよ。これくらい頑張れない奴が、スクールアイドルとして成功できる訳ないだろ」

 

 駄々をこねる千歌を功海と克海が諭す。

 

「最低でも明日の昼までには終わらせないといけないんだ。一個でもボロがあったら、ウチの恥になるんだぞ。内浦が好きというのなら、イベントの準備にも精力的になるんだな」

「は~い……」

 

 言い聞かせられ、千歌はしぶしぶ兄弟の作業を手伝い始めた。

 

 

 

 アルトアルベロタワーの社長室では、愛染が檻の中のクマのようにウロウロと歩き回っていた。その表情はとても険しい。

 

「そもそもだな、あいつら自分たちが負けられない戦いをしてるんだっていう自覚が乏しいのだ。何かその辺奴らに分からせられないもんか……」

 

 などとウッチェリーナ相手にぼやきながら、ロッソとブル=克海と功海のデータや隠し撮りした写真、映像を散りばめたモニターを見やった。

 

「ん……?」

 

 その内の一つ、『四つ角』に集まるAqoursのメンバーを玄関先で出迎える克海、功海の写真に愛染は目を留め、そしてニヤッと口の端を吊り上げた。

 

「おお、そうだ。いい方法を思いついたぞ! あのぼんくらどもでもマジにならざるを得ないような。ふふふ……」

 

 

 

 翌日の晩、『四つ角』の台所にて。

 

「そうか……PV、駄目だったのか」

「うん……。もうバッサリと言われちゃって。撮り直しなの」

 

 梨子たちのためにお茶を淹れている克海に、千歌がPVの件を報告していた。

 

「鞠莉さんに言われちゃった。大切なのは、この町や学校の魅力をちゃんと理解してるかだって。……私、町のこと好きだって言っておきながら、ここのいいところを本当に分かってはいないんだって、PVを見返して思っちゃった。あれじゃ駄目に決まってるよね」

「大変だな……。けれど、その魅力は今は分かったのか?」

「ううん、まだ……。だけど、絶対見つけるから! 他ならぬ私たちで!」

 

 ぐっと手を握って宣言する千歌に、克海が微笑んだ。

 

「頑張れよ。応援してるからな」

「うん! ……あっ、そういえば、今日体育館でダイヤさんが踊ってるのを見かけたんだ」

 

 そのひと言に、克海の手が一瞬止まった。

 

「とっても綺麗だったから、スクールアイドルに誘ったんだけど、断られちゃって……。でも、みんなが言うようにダイヤさんがスクールアイドル嫌いだなんて私には思えない。だけど、ルビィちゃんが聞いちゃ駄目って言うし……。克海お兄ちゃん、何か知らない? 果南ちゃんから聞いてる話とかない?」

 

 千歌の問いかけに、克海はしばし沈黙した後に、答えた。

 

「……悪いが、その辺りはダイヤちゃん本人か、ルビィちゃんから聞いてくれ。俺の一存で勝手に話していいことかどうか、分かりかねるからな……」

「お兄ちゃん……?」

 

 それ以上は千歌に何も言わず、克海は急須と湯飲みをお盆に乗せて二階へ運んでいった。

 千歌の部屋では、梨子たちがPVに関して相談し合っていた。

 

「ほんとPV、どうすんの? 撮り直しって言ったって……」

「確かに、何も思いついてないずら」

 

 そこにお茶を持って入っていく克海。

 

「みんな、頑張ってるみたいだな。はい、お茶」

「ありがとうございます、克海さん」

 

 掛け布団がこんもりと盛り上がっているベッドの端に腰掛けた梨子がお礼を言った。

 

「だけど、今日はあんまり遅くなったら駄目だぞ。明日は海開きで朝早いんだから」

「海開き?」

「あーそっか、もう明日だっけ。ねぇ千歌ちゃん」

 

 梨子が首を傾げていると、曜が布団の盛り上がりに呼び掛けた。それで今度は克海が怪訝な顔。

 

「千歌? 千歌なら下にいるけど」

「え?」

「……じゃあ、この後ろのって……」

 

 梨子の顔が真っ青になると、掛け布団がもぞりと動き――しいたけが顔を出した。

 

「わんっ!」

 

 梨子がギギギと後ろを振り向き――。

 

 

 

 翌日、午前3時半。まだ太陽が水平線から顔も出していない時間帯に、梨子はジャージ姿で砂浜へと足を運んできた。昨日、この時間に海に来るように言われたのだ。

 砂浜に到着した梨子に、千歌と曜が挨拶する。

 

「おーい、梨子ちゃーん!」

「おはヨーソロー!」

「おはよう」

 

 千歌たちの後に、克海と功海がトングとゴミ袋、「四つ角」と書かれた提灯を持ってくる。

 

「おはよう、梨子ちゃん。これは梨子ちゃんの分だ」

「ほいよ、これが明かりな。こっちの端から海に向かって拾ってってくれ」

 

 梨子がグルリと砂浜を見渡すと、大勢の内浦の人たちが砂浜にところ狭しと集まり、皆で手分けして海岸のゴミを拾っていた。これを見て、克海らに尋ねかける。

 

「内浦の海開きって、毎年こんな感じなんですか?」

「ああ。ちゃんと綺麗に掃除して、気持ちよく砂浜を利用できるようにしないといけないからな」

「見ろよこの提灯。全部ウチの管理だからさ、この時期は手入れに大忙しなんだよなぁ。今年は特に補修必要なの多かったし」

「けどどうしてそんなことを?」

 

 克海が聞き返すと、梨子は呆けたようにつぶやいた。

 

「この町って、こんなにたくさん人がいたんだと思って……」

 

 圧倒されているような梨子に曜が告げる。

 

「町中の人が来てるよ。もちろん、学校のみんなも!」

 

 砂浜には、花丸やルビィ、善子などはもちろんのこと、ダイヤ、果南、鞠莉らも、浦女の全校生徒も、内浦中の人がいて、皆で協力して砂浜を掃除していく。

 この様子を一望した梨子が、感動したように発した。

 

「これなんじゃないかな……この町や、学校のいいところって……」

 

 その言葉を聞いた克海たちが、目から鱗が落ちたような顔となった。

 

「――なるほど……。俺たちは当たり前になってたけど……」

「当たり前のことって、気づかないもんなんだなぁ……」

「――そうだ!」

 

 功海の直後に、千歌がバッと駆け出して階段の最上段に上がり、皆の注目を集めて呼び掛け出した。

 

「皆さん! 私たち、浦の星女学院でスクールアイドルやってるAqoursです! 私たちは、学校を残すために、ここに生徒をたくさん集めるために! 皆さんに協力してほしいことがあります! みんなの気持ちを形にするために!!」

 

 千歌の訴えかける姿を見上げ、克海と功海がフフッと笑いながら顔を合わせた。

 

「今度は、文句なしの出来のPVになりそうだな」

「ああ! 俺たちも手伝ってやろうぜ!」

 

 

 

(♪夢で夜空を照らしたい)

 

 そうしてAqoursは、内浦の住人の協力の下に、新しいPV作りを進めた。

 空に浮き上がっていくような作りにした特別な提灯を作製し、それが夕焼け空に飛んでいく光景をバックにして、浦の星女学院の屋上で歌い踊る場面を中心とした、内浦の人たちの温かい心が詰まった新しいPV。

 それが、後にAqoursの運命を大きく変えるきっかけとなる。

 

 

 

「よーし! アップロードかんりょー!」

 

 後日、新PVの使用許可を出してもらえたAqoursは、それを早速ネットにアップした。千歌がエンターキーを押すと、曜や花丸たちは反響が待ち遠しくてウキウキする。

 

「どれくらいの人が観てくれるかなー? 一万再生は行ってほしいよねー」

「手前味噌だけど、出来は抜群だと思うずら!」

「ふふふ……また新しいリトルデーモンが誕生するわ」

 

 善子が悦に入っている脇を抜けていくルビィ。

 

「ルビィ、クラスのみんなにPVアップしたよって報せてくるね!」

 

 そう言って体育館にある部室を出て、渡り廊下を駆けていこうとした。

 その時、

 

「やぁーやぁー! Aqoursの黒澤ルビィ君! またお会いしましたね」

「ぴぎっ……!?」

 

 突然野太い声に呼び掛けられたので、驚いて足が止まった。振り向くと、声がした方向には、

 

「早速君たちのPV観たよぉー。いやぁーなかなかよく出来てた! あれはいい線行くと思うよぉ! 愛染正義です!」

「あ、愛染さん……!?」

 

 愛染がさも当然のような顔で、渡り廊下の外に立っていた。当たり前であるが、ここは浦の星女学院の敷地内である。

 

「ど、どうして学校に……?」

「細かいことはぁーいいじゃないかぁ! それより聞いたよぉ? 大変みたいだねぇー廃校の危機でッ!」

 

 まくし立てながらツカツカと歩み寄ってくる愛染。人見知りのルビィはその勢いに気圧されてビクつく。

 

「君たちは大きな障害に直面したという訳だ。しかしここだけの話、私も私の夢を邪魔する障害にぶつかっててねぇ~。誰かが何とかしてくれたらなぁ~って思ってるんだよね。『若いうちの苦労は ズバーン!って感じでヨロシクちゃん』!」

 

 懐から短冊を取り出しつつ、ルビィを指差した。思わず一歩退くルビィ。

 

「私の障害は、ウルトラマン! って感じで、ヨロシクちゃーん♪」

 

 

 

 ――内浦の町のど真ん中に突然、メカゴモラがどこからか飛んできて着地した。

 

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 『四つ角』へとスカイランタン作製の道具を返却しに来ていた梨子は、克海と功海とともにメカゴモラがうなり声を発する様子を目の当たりにした。

 

「怪獣っ!」

「この間の奴か!」

「今度は逃がさねぇぞ!」

 

 克海と功海は拳を打ち鳴らし合い、同時にルーブジャイロを構えた。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 ぐっと胸の前で手を握る梨子を背にしながら、克海がホルダーより火のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンタロウ!]

 

 クリスタルをジャイロにセットして、レバーを引っ張っていく。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「ビーチスケッチさくらうち!」

 

 克海が梨子とともに火柱に包まれ、ロッソへと変身していく。

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

 

 功海はホルダーから水のクリスタルを選び取った。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンギンガ!]

 

 クリスタルをジャイロにセットして、レバーを三回引っ張る。

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」

 

 功海が水柱に覆われて、ブルへと変身していく。

 

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 変身を遂げたウルトラマン兄弟は、飛び出した勢いのままメカゴモラ目掛けて飛んでいった。

 



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Guilty Fire, Guilty Below(B)

 

『『はッ!』』

 

 ロッソとブルの二人は、内浦の町内に出現したメカゴモラの正面に着地。威圧するようにビッと指を向けたが……メカゴモラは威嚇し返すどころか、一切の反応を見せずに突っ立ったままであった。

 

『「……全然動きませんね、あの怪獣……」』

 

 想定外の事態に、呆気にとられる梨子。ロッソとブルも訝しんだ。

 

『様子が変だぞ』

『とりあえず牽制してみる?』

『よぉーし……!』

 

 ロッソが右手を大きく振りかぶり、ストライクスフィアをメカゴモラに向かって投げつけた。火球はクリーンヒットして、メカゴモラの表面で大きく炸裂する。

 

『ストライーク!』

『よっしゃあッ!』

 

 ぐっとガッツポーズを取るロッソ。しかし、メカゴモラは爆撃を食らったにも関わらず、相も変わらず棒立ちのまま。

 

『あれ? 反撃してこないぞ?』

『「見送りじゃないですか?」』

『まさか。ほんとの野球じゃあるまいし』

 

 不可解なほどに動かないメカゴモラに、ロッソたちは頭に疑問符が浮かび続ける。

 

『電池切れかなぁ?』

『え? あいつ電池で動いてるの?』

『いや知らないけど』

『「でも、見たところロボットですし、何らかのトラブルがあったというのもありえない話じゃ……」』

 

 と梨子が推測したその瞬間――メカゴモラから人間の声が発せられた。

 

[「その声……もしかして、梨子ちゃんですかぁ……?」]

「『『え!!?」』』

 

 聞き覚えのある声に、梨子たちは驚愕。そして透視の超能力を発動してメカゴモラの額に注視すると――。

 内部の空間に、ルビィが閉じ込められているのを発見した!

 

『「嘘でしょう!? な、何でルビィちゃんがあんなところに!?」』

『わ、分からん!』

『誰だ!? 誰があんなことしやがったんだッ!』

 

 激しく狼狽するロッソとブル。メカゴモラの方は、それを合図とするように機体の各所が点灯して、起動を始めた。

 

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 動き出したメカゴモラは、左胸のランプから光線を発射してロッソとブルの立つ地点を薙ぎ払う。二人は咄嗟に跳び上がって回避した。

 

「きゃああああああ――――――――!!」

 

 怪獣が出現していながら、動きが見られなかったことでこちらも訝しんでいた町民たちも、メカゴモラが攻撃を開始したことで一斉に悲鳴を上げて逃げ始めた。

 

『とにかく止めないと!』

『ああ!』

 

 人々の身が危ないことでロッソたちも焦りを見せ、光線を発し続けるメカゴモラに後ろから飛び掛かって羽交い絞めにした。

 

『このッ!』

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 しかし左腕を捕らえるブルの手が、光線の加熱によって焼かれる。

 

『あちちッ!』

『熱には熱だ!』

 

 ロッソが手の平に炎を宿してランプを抑えつけるが、光線は止まらない。

 

『くそッ、熱量を上げるぞ!』

『「ま、待って下さい!」』

 

 ロッソがより強力な炎で抑えつけるのに、梨子が思わず制止の声を出した。ランプが熱で故障して光線が止まるが、そこでロッソはメカゴモラから離れる。

 

『そうだ、迂闊なことは出来ない……!』

『やりやがったな! うらぁッ!』

『待て功海ッ!』

 

 発憤したブルが放ったアクアジェットブラストが命中し、メカゴモラが転倒した。

 

[「ぴぎぃぃぃっ!」]

 

 しかしその際の衝撃が内部のルビィに伝わり、ルビィが悲鳴を上げた。

 

『「何するんですかっ! 中にルビィちゃんがいるんですよ!?」』

『あッ……! ご、ごめん!』

 

 梨子に非難され、我に返ったブルが謝った。

 

 

 

 浦の星女学院では、メカゴモラ出現により千歌たちが慌ただしく避難しようとしていた。

 

「怪獣だよ! 早く逃げないと!」

「だけど、ルビィちゃんがどこにもいないずら!」

「えぇーっ!?」

「わ、私たちも捜してくるね!」

 

 曜と善子が部室を飛び出して、校舎内を駆け回る。

 

「ルビィちゃん、一体どこに……!」

『「曜ちゃん! 善子ちゃん!」』

「ヨハネよ! って、今の声は……!」

 

 曜と善子の元に、ロッソから梨子の声がテレパシーとなって二人に伝わった。梨子が告げる。

 

『「大変なの! ルビィちゃんが、怪獣の中に囚われてるの!!」』

「えぇぇぇぇ―――――――――!?」

「れ、煉獄の虜囚!?」

 

 曜と善子も、その報告に目が飛び出さんばかりに驚愕した。

 

 

 

 アルトアルベロタワーでは、戻ってきた愛染がルビィを人質にしているメカゴモラと、そのために全力で戦うことが出来ず二の足を踏んでいるロッソとブルの様子を観察して、にんまりと笑んでいた。

 

「暴れる怪獣、その中に囚われたアイドル。果たして助け出すことが出来るのか……。いいシチュエーションだ」

 

 

 

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 メカゴモラはロッソたちが全力で立ち向かうことが出来ないのをいいことに、二人をはね飛ばしながら内浦を我が物顔で突き進んでいく。

 

『こいつ、どこかに向かって進んでるぞ……!』

『「この方向って……まさかっ!」』

 

 梨子がハッと青ざめて、メカゴモラの進行方向に首を向けると、その先に見えたのは……。

 

『「わ、私たちの学校!!」』

『何だってぇ!?』

『やばいッ!』

 

 浦の星女学院に向かっていくことに気づいたロッソとブルが、メカゴモラにしがみついて食い止めようとする。が、メカゴモラは指先からミサイルを乱射して二人を振り払った。

 その内の一発が校舎の近くに着弾し、爆発の衝撃で避難途中の生徒たちが絶叫した。

 

「きゃああああ――――――!」

『まずいぞ……下手に抵抗したら逆に学校が危ないッ!』

『「でも、止めないと学校が……だけど、あの中にはルビィちゃんが……!」』

 

 梨子はどうしたらいいのか分からなくなり、パニック状態に陥っていた。

 

 

 

 ロッソとブルの焦る様子に、愛染は笑みを深める。

 

「更に駄目押し。頑張らないとー、浦女が物理的に廃校になっちゃうぞー」

 

 

 

『今のままじゃどうにもならない! こうなったら、パワーは落ちるが……クリスタルチェンジだ! 功海!』

 

 ロッソが指示を出したが、ブルはルビィが囚われているメカゴモラを前にして動揺しており、聞こえていない。

 

『功海ッ!』

『あ、ああ……!』

 

 ロッソが強く呼び掛けることでようやく我に返り、クリスタルを交換する。

 

「『セレクト、クリスタル!」』

 

 クリスタルを取り換えロッソアクア、ブルフレイムになると、ロッソがジャイアントスフィアを飛ばし、メカゴモラの上半身を包み込むことで時間を作った。

 

『功海、ルーブスラッガーで攻撃だ!』

『でも、そんなことしたらルビィちゃんが……!』

『イチかバチか、やるしかない! スラッガーなら、ルビィちゃんを無事に切り離せるかもしれない!』

 

 希望的観測を抱くロッソが、梨子に呼び掛ける。

 

『梨子ちゃん!』

『「う、うん……! 頼みます、克海さんっ!」』

 

 ロッソが角からルーブスラッガーを引き抜く。

 

「『ルーブスラッガーロッソ!!」』

 

 双剣を手にしたロッソが、メカゴモラへと駆けていく。

 

『はぁぁぁッ!』

『克兄ぃ!』

 

 それと同時にメカゴモラもジャイアントスフィアを破り、ロッソの剣戟を腕で受け止めた。

 

『はッ! やぁッ!』

 

 しかしロッソは巧みに双剣を走らせ、関節部を狙って斬撃を見舞う。それで動きを封じようとするが思い通りにはならず、スラッガーを掴まれて放り捨てられた。

 

[ギャオオオオオオオオ!]

『うわぁッ!』

 

 メカゴモラの角が生えたヘッドバットを胸に叩きつけられた上、メガ超振動波を叩き込まれる。

 

『うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

『「いやああああぁぁぁぁぁぁっ!!」』

 

 強烈な衝撃が梨子まで襲い、ロッソが放物線を描いて弾き飛ばされた。

 

『克兄ぃ! 梨子! 大丈夫か!?』

 

 大ダメージを食らって倒れたロッソに駆け寄って助け起こすブル。その時に、閉じ込められて意識が朦朧としているルビィがうわ言を発した。

 

[「ここ、どこですかぁ……? そろそろ、今日のトレーニングに行かないと……」]

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 メカゴモラは両手を射出し、ロケットパンチでロッソとブルを殴り飛ばす。

 

『『うわああぁぁぁぁ――――――――!!』』

 

 チェーンを巻き上げて両手を戻すメカゴモラ。その足が少しずつ、女学院に迫る。

 学校では、ダイヤが青ざめ切った顔で校舎を駆けずり回っていた。

 

「誰かっ! ルビィを見ませんでしたか!?」

「生徒会長! 早く逃げて下さいっ!」

「もうここにいたら危ないですっ!」

 

 善子と曜がダイヤの両脇を抱えて引っ張っていこうとするが、ダイヤは暴れて抵抗する。

 

「放して下さい! ルビィがどこにもいないんですわ! こんな時には真っ先にわたくしのところに来るのに! 大事な妹を、置いていけませんっ!!」

 

 ルビィはどこを捜してもいないのだということを説明することが出来ず、曜たちは必死なダイヤを前に歯がゆい思いをすることとなる。

 女学院の前で仰向けに倒れたロッソの中で、梨子が力を振り絞る。

 

『「駄目……ここを、ルビィちゃんに壊させる訳にはいかない……! 私たちの、夢のスタートラインを……守らなくちゃ!!」』

 

 梨子の発奮がロッソにも伝わり、カラータイマーが鳴りながらも起き上がって仁王立ちする。そして梨子がクリスタルホルダーを掴み取った。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

 

 風のクリスタルを取り出して二本角を出すと、ジャイロに新しくセットする。

 

[ウルトラマンティガ!]

 

 現れたティガのビジョンが風に代わって、インナースペースに満ち溢れた。

 

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

 

 ロッソの合図で梨子がジャイロのレバーを三回引く。

 

[ウルトラマンロッソ! ウインド!!]

 

 竜巻がロッソを包み込み、紫色のロッソウインドが右腕を天高く振り上げた。

 

『「この風の力で……あれを押し返しますっ!」』

 

 接近してくるメカゴモラを見据え、気合いを入れる梨子。ロッソは両手を握り締めると、拳に風を纏わりつかせた。

 

「『ストームフリッカー!!」』

 

 ロッソが拳を突き出す度に、球状の風が飛んでメカゴモラの身体に当たり、風圧で後ろに押し出していく。

 

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 踏ん張って抗うメカゴモラだが、ロッソが風を重ねていくことで、超重量の機体もズルズルと下げられて学校から引き離されていった。

 

『ふッ! ふあッ!』

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 このまま学校から十分な距離を離すことが出来ると思われたが……メカゴモラは両手を地面に向かって飛ばし、突き刺すことでアンカーの代わりとしてその場から下がらなくなった。

 

『「なっ……!?」』

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 更にメガ超振動波で風を弾き飛ばし、腕を戻す。状況まで振り出しに戻ってしまった。

 

[ギャオオオオオオオオ!]

『うわッ!』

 

 メカゴモラの右手が三度飛び、ロッソの首を鷲掴みにして背後に投げ飛ばす。

 

『わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』

 

 地面の上に叩きつけられるロッソ。彼が投げ捨てられたことで学校が無防備となり、メカゴモラがそちらに迫っていく。

 

『克兄ぃ! 梨子! いい加減にしろぉぉぉぉぉッ!』

 

 メカゴモラの暴挙の数々にブルは怒り心頭し、間に割って入ってルーブスラッガーブルを抜いた。

 そして「刃」のクリスタルを取り出し、一本角を出してスラッガーの柄の部分に装着した。

 

[ウルトラセブン!]

 

 スラッガーの刀身が白く輝き、ブルが正眼に構える。

 息を荒げながらブルがメカゴモラと向かい合っていると、迫るメカゴモラからルビィの声がし続けた。

 

[「ルビィががんばって、ランキング上げていったら……お姉ちゃん、またスクールアイドル好きになってくれるかなぁ……」]

[「前みたいに、一緒に歌ったり踊ったりしたい……」]

[「あんなに好きだったのに、今は見たくもないなんて……そんなの悲しいよ……」]

[「えへへ……お姉ちゃんのためにも、スクールアイドル、がんばルビィ……」]

『……ッ!』

 

 ルビィの声に、ブルは剣を握る手が震えるものの――何もかもを振り払うような絶叫を上げながら、腕を振り上げた。

 

『わああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――!!』

 

 そして炎を纏わせた巨大光刃を、振り下ろしたスラッガーから繰り出す。

 

『ワイドショットスラッガーッッ!』

 

 それを見た梨子が、反射的に手を伸ばした。

 

『「――っ!」』

 

 ブルが飛ばした光刃がメカゴモラの胴体を貫き、宙返りして再び貫通。×の字に胴体を裂かれたメカゴモラが、大爆発を起こした。

 

「や……やったぁぁっ!」

「ウルトラマンさんが、学校を守ってくれたずら!」

 

 千歌や花丸は歓声を上げたが、曜と善子はブルが手を下したことに、顔面蒼白となっていた。

 そして他ならぬブルが、がくりと両膝を突いて首を垂らした。

 

『ごめん、ルビィちゃん……千歌……みんな……! 俺……俺が……ルビィちゃんを……ッ!』

 

 自責の念に駆られるブルだったが――かすかに風の音が聞こえたことで、顔を上げた。

 見ると、渦巻く風が硝煙を払い――ルビィの身体をゆっくり地上に下ろしていくのを、ブルの目に映し込んだ。

 

『ルビィちゃん……!』

 

 ルビィの胸は上下している。呼吸している――生きている証拠をブルに見せつけていた。

 彼女を守る風は、倒れたままのロッソの手の平から放たれていた。

 

『功海、ナイスプレイ……』

『「大丈夫です……みんな、無事ですよ……!」』

 

 梨子が汗だくになりながら、にっこりとブルに笑いかけた。

 

「ルビィ……!? あんなところに!?」

 

 ルビィがそっと地上に横たえられたのをダイヤたちも目撃して、脇目もふらずにルビィの元へと走っていった。

 

 

 

 壮絶な戦闘があった翌日、克海たちは綾香総合病院へとやってきた。

 その病室の一つに入院したルビィのお見舞いである。

 

「それにしても、不幸中の幸いってこういうことを言うんだろうね。怪獣と一緒に爆発したのに、ほとんど怪我がなかったなんて!」

 

 ベッドの上のルビィを囲みながら、千歌が安堵しながらそう言った。ルビィはベッドに寝かされてはいるものの、包帯すら巻いておらず、入院も検査の意味合いが大きい。

 

「ほんと、無事で何よりずら~。一時はどうなることかと思ったずら」

「これもルビィちゃんの日頃の行いがいいからだよ! それにかわいいし!」

「千歌ちゃん、かわいいは関係ないでしょ」

「えへへ……それに、ウルトラマンさんが助けてくれたお陰です」

 

 曜が千歌に突っ込んでいると、ルビィははにかみながら述べた。千歌たちの輪の外で、克海が梨子に密かに囁きかける。

 

「ルビィちゃんが無事なのは、あのとき梨子ちゃんが全力を出し切って守ったからこそだ。ありがとう」

「いいえ、そんな……。チームの仲間のためだから、がむしゃらだっただけです」

 

 謙遜する梨子。しかし、彼女が変身を解いた後に疲労困憊で倒れるほどに風を操ったからこそルビィが助かったというのは事実である。

 千歌たちがルビィと笑い合っていると、善子がやや慎重にルビィに問いかけた。

 

「ところで……どうして怪獣の中なんかにいたのか、それと閉じ込められてた間のことは、本当に覚えてないのね?」

「うん。最後に覚えてるのは、クラスのみんなのところまで行こうとしてた途中だったのまでで、そこからは何も……」

 

 つまり、ルビィが克海たちのことも覚えていないということに善子や梨子、曜はほっと息を吐いた。

 

「あっ、でも……功海さんが何か叫んでたような気がします」

「えっ、功海お兄ちゃんが?」

 

 今のひと言に、誰より功海がギクッと肩を震わせた。

 

「何だか、すごく必死だったような……。気のせいかもしれませんけど……」

「いや、えっと、それは……」

 

 言葉に詰まる功海の代わりのように、千歌がケラケラと笑った。

 

「あはは。功海お兄ちゃんったら、変なことばっかするし変な声もよくあげるから、どこかで聞いたのが耳に残ってただけだよきっと」

「おい千歌ぁ~? 兄に向かって二回も変だとはご挨拶だなぁ! 奇行なら人のこと言えた立場じゃないだろぉ!?」

「あ~ん、ごめんなさいお兄ちゃ~ん」

 

 功海に手荒にじゃれつかれ、千歌が眉間を寄せながらも愉快そうに笑った。その様子に、周りの克海たちも思わず破顔させられた。

 ――しかし、功海の表情の片隅には暗い雰囲気が残り続けていた……。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

ダイヤ「ダイヤッホー! 今回ご紹介しますのは、『ウルトラセブンの歌』ですわ!」

ダイヤ「この曲を歌ったのはみすず児童合唱団とジ・エコーズです。ジ・エコーズはコーラスグループのワンダースの変名でして、メンバーであった尾崎紀世彦さんももちろん歌われてますわ」

ダイヤ「尾崎さんの声は冒頭のコーラスの三番目のものですわ。今からして見れば、非常に贅沢な起用といえるでしょう」

ダイヤ「ちなみに『セブンの歌』はバージョン違いのものがありますわ。主題歌に採用されなかった方は本来没になるのですけれど、満田かずほ監督がこれを惜しみ、自身の監督回で使用されていますので、皆さまにも覚えていらっしゃる方がいることと思いますわ」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『Guilty Night, Guilty Kiss!』だ!」

功海「Aqoursのミニユニットの一つ、Guilty Kissが歌った曲の一つだな! ロックやメタルを基とした、硬派な感じが特徴的だぜ!」

克海「Guilty Kissはそんなビターなイメージの歌をよく手掛けてるぞ」

ダイヤ「それでは、また次回でお会い致しましょう」

 




善子「終末の鐘!? 功海がウルトラマンに変身できなくなってしまったわ! ジャイロが故障でもしたというの?」
ダイヤ「功海さん、そんなにルビィのことを気に掛けてどうなさったんですか? 何かルビィに負い目でも……」
善子「功海、堕ちた翼はまた飛び上がるのでしょう?」
ダイヤ「次回、『HEROESの証明』!」
善子「次回もまた、堕天降臨!」


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HEROESの証明(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

ダイヤ「浦の星女学院に統廃合の話が持ち上がり、Aqoursは学校存続に向けて活動を開始。ですがその矢先、怪獣の内部にルビィが監禁されるという事態に! ウルトラマンの活躍によって無事に救出されましたが、功海さんの様子が何やらおかしくて……」

 

 

 

 浦の星女学院のスクールアイドル部の部室で、窓際で団扇を扇いでいた千歌が振り返った。

 

「この前のPVが、50万再生も!?」

 

 パソコンの前では、入院中のルビィを除いたAqoursメンバーがPVの再生回数とコメントを確かめている。

 

「ほんとに!?」

 

 曜が聞き返すと、善子がコメントの内容をひと言で纏めた。

 

「ランタンが綺麗だって評判になったみたい。でも一番の要因は、怪獣の爆発に巻き込まれて生還した奇跡のスクールアイドルってマスコミに持ち上げられたのが話題を呼んだことみたいね」

 

 ルビィの件はすぐにマスコミが食らいつき、大々的にニュースなどで取り上げたことでAqoursの名前も一気に広まることとなった。ルビィの病室には連日記者が押しかけて人見知りの彼女を困らせ、姉のダイヤが見かねて取材拒否を言い渡したりもした。

 

「ランキングも……」

「18位!?」

「ずら!?」

 

 驚異的な順位の飛躍に梨子や花丸も驚嘆した。千歌も興奮を抑え切れない。

 

「すごい! それって、全国に5000以上もいるスクールアイドルの中でってことでしょ!?」

「ランキング上昇率では、断トツの一位よ!」

「一時的な盛り上がりってこともあるかもしれないけど、それでもすごいわね!」

「ルビィちゃんもきっと喜ぶずら!」

 

 舞い上がっているAqoursだが、そんな中で千歌が不意に笑顔に影を差してつぶやいた。

 

「だけど……ルビィちゃんがあんなことになったからっていうのは、ちょっと喜べないかな……」

「あっ……」

 

 千歌のひと言で、部室は一気にシンと静まり返った。

 が、その時にパソコンのメールアドレスに新着のメールが届く。

 

「? これ……」

「何なに?」

 

 曜がメールを開いて、内容を読み上げた。

 

「Aqoursの皆さん、東京スクールアイドルワールド運営委員会です……だって」

「東京って……あの東にある京の……」

「何の説明にもなってないけど……」

 

 そのまんまなことを述べる千歌に梨子が突っ込んだが、その一拍後に、話を呑み込んだ一同がパッと顔を輝かせた。

 

「東京のイベントの招待状!!」

 

 

 

『HEROESの証明』

 

 

 

『ワイドショットスラッガーッッ!』

 

 ブルの放った光刃が、メカゴモラを貫き爆発させる。

 

『いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 その爆発に、内部に囚われているルビィが呑み込まれていく――。

 

 

 

「――ルビィちゃんッ!」

 

 綾香大学の構内で、ベンチの上でうたた寝していた功海は、絶叫を発して悪夢から飛び起きた。

 ハァハァと脂汗まみれの額をぬぐいながら息を切らす功海。すると……。

 ドゴォォォンッ!

 

「!?」

 

 近くから爆音が発生し、功海が振り向くと、いつの間にか綾香市街に出現していた真っ赤な巨大生物が地面を揺らしながら大学に迫りつつあった。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 我先にと逃げていく学生たちの間を逆走しながら怪獣の容貌を視認した功海が驚きを見せる。

 

「グルジオじゃん! 前にぶっ倒したのに、何でまた……?」

 

 再び出現したグルジオボーンは、辺り一帯に向かって口から火炎を吐き出し、街を焼き払っていく。

 

「やべぇ!」

 

 功海はすぐにスマホを出し、克海へと電話を掛けた。

 

『もしもし功海? 今お客さんの相手してるんだけど……』

「何のんきなこと言ってんだよ克兄ぃ! 怪獣、怪獣!」

『何だよこんな時に……!』

 

 電話越しの克海は、困った声を出して功海に頼み込んできた。

 

『悪いけど先やってて。すぐ追っかけるから』

「はぁ!? しょうがねぇなぁ……十秒で片づけてやるわ!」

 

 大言を吐いた功海が電話を切り、ルーブジャイロに持ち替える。

 

「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」

 

 功海のジャイロに気がついたように、グルジオボーンが攻撃を止めて彼をにらみつけた。

 が……。

 

「……あれ?」

 

 いくら待っても、ジャイロが何の反応も示さない。訝しんだ功海がジャイロを引き寄せて、グルジオボーンに手の平を向けた。

 

「ちょっと待っててー」

 

 言葉が通じたのかは定かではないが、グルジオボーンが律儀に待っている間にジャイロを確認する功海。

 

「あれ? どうしたんだ……」

 

 しかし元々出自すら不明のアイテムであり、見ただけではどこがどうなっているのかも分からない。

 そうこうしている間に、待ち切れなくなったかグルジオボーンが火炎を吐き出そうとする。

 

「うわッ!? ちょっと待っててって!」

 

 窮地の功海。だがその瞬間に、飛んできたロッソがグルジオボーンに飛び蹴りを決めて火炎発射を阻止した。

 

『はぁッ!』

「克兄ぃ……!」

 

 功海を救ったロッソは、彼に振り向いて詰問する。

 

『功海、何やってる! 十秒で片づけるんじゃなかったのか?』

「だって変身できないんだもん!」

 

 功海がジャイロを見せつけながら言い訳した。

 

『何!? 変身できない!?』

「克兄ぃこそ何遅れてきてんだよ!」

『お客さんをほっぽり出す訳にはいかないだろ!』

「店と人命とどっちが大事なんだよ!」

『おいそんな言い方ずるいだろ! 店の経営がどれだけ大変なのか分かってるのかお前!』

 

 ロッソと功海が言い争っていると――蹴り倒されたグルジオボーンが起き上がって、後ろからロッソの肩をポンポン叩いた。

 

「克兄ぃ後ろ!?」

『ちょっと待って! 今大事な話を……!』

 

 その手を振り払おうとしたロッソだったが……振り返った瞬間に、グルジオボーンからバチーン! と強烈なビンタを頬にかまされた。

 

『痛ってぇぇぇ~!?』

「えッ……ビンタ?」

 

 呆気にとられる功海。

 一方、ロッソを張り倒したグルジオボーンは、ぶっきらぼうに踵を返すと、肩を怒らせながら功海たちに背を向けてドスドス立ち去っていく。

 

「は……?」

 

 急に戦う気をなくして去っていくグルジオボーンの背中を、功海は呆然としたまま見送った。

 ――そのグルジオボーンは、適当なところまで進んでいくと突然肉体が消滅していき……側のビルの屋上に、ジャイロを抱えた愛染が着地した。

 愛染はいら立ちを顔にありありと表し、一人で怒号を上げた。

 

「ラブライブ運営委員長の誕生パーティーをキャンセルしてまで私自ら出撃したというのに……あのぼんくら兄弟めぇ~! 私を無視して兄弟喧嘩だとぉぉぉ~!? ふざけるなぁぁぁッ!!」

[何で戦いを放棄したんですか?]

 

 喚き散らす愛染の側にウッチェリーナが飛んでくる。

 

[変身アイテムを奪い、兄弟を変身不能に追い込むチャンスでしたのに]

 

 進言するウッチェリーナに、愛染は大仰に肩をすくめた。

 

「分かってないなぁウッチェリーナ君」

[え?]

「それは自分の力に自信のない卑劣な宇宙人がよくやる作戦だ。私は違う!」

 

 自信満々に言い放ちながら、握っていた右の手を開く愛染。

 

「真っ向から勝負を挑み、力を証明してみせる」

 

 その手の中には、錆びついた剣のクリスタルが収められていた。

 

「だから私をガッカリさせないでくれぇ。この試練をどう乗り越えるのか、とくと見届けさせてもらおう」

 

 

 

 『四つ角』に帰ってきた克海と功海は縁側で、曜、梨子、善子の三人を相手に今日のことを話した。

 

「えぇっ!? 功兄ぃが変身できなかったって!?」

 

 吃驚する曜たち。梨子は克海の、ビンタされて赤く腫れ上がった頬を気遣う。

 

「克海さん、ほっぺた大丈夫ですか? すごく赤くなってますけど……」

「ああ、どうにかな。ありがとう。それより功海のことだ」

 

 克海に目を向けられた功海は、自分と克海のジャイロを見比べている。

 

「克兄ぃは変身できんのに何で俺だけ……?」

「グレムリンの悪戯……ジャイロが故障したんじゃないかしら」

 

 善子がそう推測すると、曜が眉間に皺を寄せた。

 

「それってまずくない? そもそもジャイロって何なのかもさっぱり分かってないのに……壊れたら直せるの?」

「そんなこと、このヨハネにだって分からないわよ」

 

 善子が肩をすくめていると、功海が思いついたように立ち上がった。

 

「そうだ! 分解して中調べてみよう。ついでに克兄ぃの方メンテナンスしてやるよ」

「いややめろ! 何でも分解すりゃいいってもんじゃないだろ」

 

 克海は慌てて功海から自分のジャイロを取り上げた。それを奪い返そうとする功海。

 

「いいじゃんか! 一回中どうなってるか見させてくれよ!」

「駄目だ! 俺まで変身できなくなったらどうする!?」

 

 揉め合いになる兄弟の間に曜が割って入って仲裁する。

 

「功兄ぃも克兄ぃも落ち着いて! それより功兄ぃ……最近変じゃない?」

「え? 俺が変って、何で?」

 

 克海から引き離された功海が聞き返すと、曜たちが口々に告げる。

 

「だって、最近ボーッとしてばっかだし……」

「確かに、心ここにあらずという感じよね。何か悩みでもあるなら、ヨハネが占ってあげるわよ」

「俺が悩み? ある訳ねーじゃんそんなの」

 

 笑い飛ばす功海であるが、梨子たちの視線はそんな彼の足元に注がれていた。

 

「でも……さっきから言おうか言うまいか迷ってたんですが……それ、千歌ちゃんのですよね? 何で履いてるんですか?」

「え?」

 

 功海が足元に目を落とすと――自分が、千歌のふわふわもこもこのスリッパを履いていることに今更気がついた。

 克海が腕を組んで眉間を寄せる。

 

「こいつ、ずっとこれ履いてたんだぞ。周りが笑ってるのにも気づいてないし……。もしかして功海、この間の戦いのことまだ……」

「何にもないっつってんじゃん! 克兄ぃはほんとお節介だよなぁ」

 

 心配する克海の胸を、功海は軽い調子でポンと叩いた。そこに千歌がトコトコとやってくる。

 

「ねーお兄ちゃーん、私のスリッパ知らない? って、あぁ~!? 功海お兄ちゃん、何やってるのぉ!?」

 

 功海が自分のスリッパを履いて土に足を着けているに気づいた千歌が彼に詰め寄った。

 

「こんなに汚しちゃってぇ~! 私のお気に入りなのに~! 功海お兄ちゃん、ひどいよ~!」

 

 涙目で怒る千歌に、家に上がってスリッパを突き返した功海は、ふらふらしながら家の奥に引っ込んでいく。

 

「晩飯いらねー。寝る」

 

 そう言い残して自分の部屋に向かっていく功海の後ろ姿を、千歌が愕然と見送った。

 

「そんな……今夜はすき焼きなのに……! 功海お兄ちゃんの大好物のしいたけもたっぷり買ってあるのに……!」

「くぅ~ん……」

 

 犬のしいたけも心配そうな鳴き声を上げた。

 

「夏なのに家ですき焼き食べるんだ……」

 

 しいたけから隠れる梨子のつぶやきはともかく、克海たちも功海のことを案じて顔をしかめていた。

 

「功海……」

 

 

 

 翌日、克海と千歌、花丸はルビィのお見舞いに行く途中、同じくお見舞いに来た果南とばったり出くわして一緒に病室を目指していた。

 

「えぇ? 功兄ぃがそんなことに……」

 

 千歌から功海の様子のことを聞いた果南も驚きを見せた。

 

「確かに最近元気なさそうだったけど……人のスリッパ履いて外を出歩くなんて、重症じゃないかな……」

「うん……私も心配なの。せっかく東京のイベントに招待されたのに、これじゃ落ち着いて行けないよ……」

 

 ため息を吐く千歌。克海も頭を悩ませながら、四人はルビィの病室の前まで来た。

 

「ルビィちゃーん、入るずらー」

 

 花丸がひと声かけて扉を開くと……病室には先客がいた。

 

「正解はー……秋葉原UTD屋上でしたぁ!」

「あーそっちだったかぁ~! いやぁ~流石ッ! 詳しいねぇルビィ君! いや先生!」

「えへへ……それほどでもないですよぉ」

 

 ルビィと談笑しているのは、愛染であった。

 

「愛染さん!」

「おおー君たちッ!」

 

 克海たちが声を上げると、気づいた愛染が振り向く。――彼の顔を見て、果南は表情を強張らせた。

 

「怪獣被害に巻き込まれたスクールアイドルを放っておけず、お見舞いに参上しました。ささッこっち座って。おやその子も新しいメンバー?」

「いえ、彼女は俺たちの知り合いの松浦果南です」

「どうも……」

 

 克海に紹介された果南が控えめに頭を下げる。

 

「へぇ~そう。どっかで見た気もするけど……あれ? いつも陽気な弟君の姿が見当たらないが?」

「まぁ……ちょっと色々ありまして」

 

 聞かれた克海がお茶を濁すと、愛染は大袈裟に泡を食った。

 

「まさか、兄弟喧嘩!? 感心しないな~。君たちには期待しているんだ。早く仲直りしたまえ」

「はぁ……」

「では、あとはお若い人たちだけで。兄弟の愛と絆を信じる男、愛染正義でした」

 

 克海に言いつけた愛染はハートマークのポーズを取って、揚々と病室を後にしていく。

 ――その一瞬、果南は愛染の笑顔が急速に消え失せてしかめ面になったのを目撃して、思わず息を呑んだ。

 

「ルビィちゃん、男の人苦手なのに、いつの間に愛染さんと仲良くなったずら?」

「ついさっき。初めはちょっと怖かったけど、話してたら結構楽しかったし……」

「そっかぁ良かった。あっそうそう。何と私たちAqours、東京のスクールアイドルのイベントのお誘いを受けたのですっ!」

「えぇ~!? 東京のですかぁ!?」

「そう、あの東京! 開催される時にはルビィちゃんも退院できてるはずだし、一緒に行こうね」

 

 花丸と千歌がルビィと談笑する傍らで、果南は克海にそっと囁きかけた。

 

「克兄ぃ……あの愛染って人、何て言うか……信用していいの?」

「えッ? 何でそんなこと……この綾香の名士だぞ? 千歌たちだってお世話になってるし……」

「いや、その……」

 

 聞き返された果南は、盗聴器のことなどをどう説明したらいいか分からずに言葉を濁した。

 

 

 

 綾香病院の外のベンチでは、ここまで来ながらもルビィの元まで足を運ぶことが出来ないでいる功海が力なく座り込んでいた。そこに、曜たち三人が彼の近くまでやってくる。

 

「功兄ぃ、こんなとこにいた」

「!」

 

 しかし功海は曜たちに気づくと、すぐ立ち上がって逃げようとする。

 

「功海さん!? ちょっと待って……!」

「逃げてどうするというのよ!」

 

 呼び止める梨子と善子だが、功海の足は止まらず。しかしその前に克海が回り込んだ。

 

「待て功海! どうして何も話してくれないんだ……」

「克兄ぃ……!」

 

 問いかけた克海に、功海は内心を吐露し出した。

 

「俺……怖いんだ。あの時、もし克兄ぃたちがいなかったら……ルビィちゃんの命を奪ってたかもしれない……。そう思うと戦うのが怖い……! ウルトラマンになるのが怖い……! 俺は……ヒーロー失格なんだ……!」

 

 本心にある恐怖を打ち明けた功海に、曜たちは言葉を掛けることが出来なかった。

 

「……功海が、あんなことを思ってたなんて……」

「うん……。いつも、怖いものなんてないって調子なのに……」

 

 思わずつぶやく善子と梨子に、曜が小声で告げた。

 

「功兄ぃ、小さい頃は泣き虫だったんだよ。いつも克兄ぃの後ろについて回って……。だけど、私や果南ちゃんと一緒にいる内に今のようになっていったんだよね……。だから本当の功兄ぃは、小さい時のままで怖がりなのかも……」

 

 曜たちと同じように、克海も功海に掛ける言葉がなく、ただじっと彼のことを見つめていた。

 

 

 

 しかし、今の功海の様子にいら立ちを募らせる者が一人いた。

 

「ぬあぁぁ~! そんなことでいちいち悩むなぁ~!」

 

 愛染である。帰ったと見せかけた彼は近くの建物の屋上から、密かに功海たちの様子を監視していたのだ。

 

「そんなこと悩んだところで、答えなんか出る訳ないだろッ! あぁ~じれったいッ!!」

 

 自社の飛行船をバックにしながら一人で地団駄を踏んだ愛染が、ピタッと足を止めて吐き捨てる。

 

「『一寸先は悩んでもしかたない』だ! おぉ~……!」

 

 そして左手にジャイロ、右手に「魔」のクリスタルを握り、両腕を下から頭上へ大きく回してからクリスタルをジャイロにセットした。

 

グルジオボーン!

 

 愛染は奇声を上げながらレバーを引いていく。

 

「愛染正義はぁーッ! どんな時もぉーッ! ン悩まなぁーいッ!!」

 

 腕を天高くに掲げた愛染の肉体が、怪しい光に包まれて怪獣のものに変化していく――!

 



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HEROESの証明(B)

 

 功海の告白を前にして、克海たちは何も言えずに立ち尽くしていたが、そんな彼らを突然の震動が襲う。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 バッと振り向いた克海たちの視線の先に、グルジオボーンが雄たけびを上げながら出現した!

 

「またあの怪獣か! 功海ッ!」

 

 ジャイロを握って功海に振り返る克海だが、功海は怖気づいたままジャイロを取り出そうともしなかった。

 

「俺は克兄ぃとはちげーんだよッ! ……俺がいなくたって克兄ぃは戦えんだろ? 梨子たちもいるんだしな……」

「功兄ぃ……」

 

 自暴自棄になっている功海に、曜たちが困惑する。

 

「俺のことなんかほっといてさっさと行けよッ!」

「お前……」

 

 足が進まない克海だが、グルジオボーンはその間にも街に火を放って綾香を破壊していく。ここで立ち止まっている時間はない。

 

「……功海、先に行くよ……!」

 

 やむなく克海は、梨子に振り向いて呼び掛けた。

 

「梨子ちゃん、頼む!」

「は、はいっ!」

 

 戸惑いながらもうなずいた梨子を後ろにつけながら、克海がルーブジャイロを構えた。

 

「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」

 

 克海がクリスタルホルダーに手を伸ばして、火のクリスタルをつまみ取る。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンタロウ!]

 

 クリスタルから二本角を出した克海がジャイロにセットし、梨子と上を見上げて決め台詞を唱える。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「ビーチスケッチさくらうち!」

 

 克海がジャイロのグリップを三回引き、エネルギーチャージ。

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

 

 火柱に包まれた克海と梨子が、ウルトラマンロッソに変身してグルジオボーンの正面に登場した。

 

『俺たちが九秒で片づけてやる!』

 

 功海に皮肉を飛ばしてから、ロッソがグルジオボーンに体当たりしていった。

 

『「克海さんの仕返しよっ!」』

 

 グルジオボーンに激突したロッソが、グルジオボーンの横面にビンタを浴びせた。更にもう一発。

 

『倍返しッ!』

 

 ロッソの戦う背中を呆然と見つめる功海だったが、その時に病院から非常用ベルのけたたましい音が発生した。

 

「ルビィちゃん……!」

「あっ、功兄ぃ!?」

 

 功海はいてもたってもいられず、病院へと駆け出していく。それを曜と善子が慌てて追いかけていった。

 院内は近くに怪獣が出現したことで狂乱状態であり、多くの怪我人や病院が医者や看護師たちの手によって避難させられていく。その中をかき分けてルビィの病室を目指して走る功海は、途中の階段で、千歌たちに連れられて下りるところのルビィを発見した。

 

「千歌っ!」

「功海お兄ちゃん! 来てたの!?」

 

 功海は反射的にルビィの身体を抱え上げた。

 

「ひゃっ!? 功海さん……?」

「じっとしててくれ。君のことは、俺が絶対に護るッ!」

 

 熱を込めてルビィに告げた功海が、千歌たちと追いついた曜、善子に振り向く。

 

「みんな、逃げるぞッ!」

「うん!」

 

 功海たちが病院からの脱出を図る中、ロッソは両手にスラッガーを握り締めた。

 

「『ルーブスラッガーロッソ!!」』

 

 双剣でグルジオボーンに斬りかかっていくロッソだが、グルジオボーンは斬撃をかわし、ロッソにカウンターの張り手を食らわせた。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

『くッ!? 前より強くなってる……!?』

 

 現在は梨子の協力の下にパワーアップしているのに、グルジオボーンは互角以上に張り合う。明らかに、パワーもスピードも以前戦った時より増しているのだ。

 

『「だけど、負けない! 私たちでルビィちゃんたちを守らなきゃ!」』

 

 梨子がより気合いを入れることでロッソの動きのキレも増し、グルジオボーンの腕を止めて右の剣を浴びせた。斬られた腕を痛そうに振るグルジオボーン。

 

『はぁぁッ!』

 

 ロッソは勢いに乗って連続でグルジオボーンを斬りつける。押されていくように見えたグルジオボーンだったが、

 

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 攻撃後の隙を突いてロッソの懐に踏み込み、両腕をガシッと掴んで動きを抑え込んできた。

 

『うわッ!? しまった……!』

 

 ロッソを捕らえたまま振り回すグルジオボーン。それとともに振るわれる尻尾が、病院に叩きつけられる。

 

「大丈夫?」

「は、はい……」

 

 それは功海たちが出入り口から出てくるのと同時であり、彼らの頭上に崩れた瓦礫が降りかかる!

 

「なッ!」

「危ないっ!」

「きゃあぁっ!?」

 

 功海が咄嗟にルビィをかばいながら身をかがめ、果南は千歌たちを突き飛ばした。そこに瓦礫が襲い掛かる!

 

『功海ぃッ!』

『「みんなっ! た、大変……!」』

 

 青ざめた梨子たちが力を振り絞って、グルジオボーンを押し返して病院から引き離していった。

 

「うッ……!」

 

 病院の壁が崩れた結果、ルビィを抱える功海は千歌たちと分断されて瓦礫の中に閉じ込められてしまい、千歌たちは果南に助けられてどうにか無事だったものの、果南はショックで気を失って倒れ込んでいた。

 

「か、果南ちゃん!! 功海お兄ちゃんもっ!」

「俺たちのことはいい! それより、果南を早く安全なところへ!」

 

 失神した果南を案じて、功海は千歌たちに指示を飛ばした。

 

「千歌ちゃん、功兄ぃたちは私が!」

「う、うん! お願い、曜ちゃん!」

「ずら丸、脚持って!」

「ずらっ!」

 

 千歌たちは曜を残して、三人協力して果南の身体を抱え上げてこの場から連れ出していった。

 

「功兄ぃ、頑張って! うぅ……!」

「くっそぉ……!」

 

 曜と功海はルビィを助けるべく力を振り絞って瓦礫の障害をどかそうとするも、びくともしない。功海は弱気になって吐き捨てる。

 

「駄目だ……! やっぱり克兄ぃがいねぇと何にも出来ねぇよ俺……!」

「しっかりして功兄ぃ! 今は功兄ぃが頑張らないと、ルビィちゃんを助けられないんだよ!」

「だけど……!」

 

 激しく落ち込み、悩み苦しむ功海の横顔を見て、彼の腕の中のルビィは――苦悶の顔で剣を振り下ろすウルトラマンブルの顔を思い出し、それが今の功海の顔と重なった。

 ルビィはそっと、功海の手を握り返した。

 

「ルビィちゃん……?」

 

 不思議そうに顔を上げた功海に、ルビィはそっと微笑みかける。

 

「大丈夫です、功海さん……。ルビィ、功海さんにすっごく感謝してます……。だって、こんなにもルビィのことを助けてくれようと、必死なんですもん……。だから功海さん、自分のこと追いつめないで、自分のことを信じて下さい……。功海さん、がんばルビィ!」

 

 にこっと笑顔を向けられて、功海の胸が一瞬ドキッと高鳴った。

 ルビィの応援に続くように、曜も功海に呼び掛ける。

 

「ねぇ功兄ぃ、覚えてる? 功兄ぃが小学校に上がる直前……学校を怖がる功兄ぃを、克兄ぃが勇気づけようとしたことがあったよね。一緒にはしご昇って……。だけど功兄ぃ、高くて途中で泣き出しちゃって……。克兄ぃが手を伸ばしたんだけど、そしたら克兄ぃがずり落ちちゃって……」

 

 思い出を話しながら、曜は力強く功海に笑いかけた。

 

「私も果南ちゃんも目を覆ったけど、その時克兄ぃの手を掴んで受け止めたのが功兄ぃだったじゃん! それからだよ、功兄ぃが泣かなくなったの! 功兄ぃには、おっきな勇気があるんだよ!!」

 

 曜の励ましで、功海の瞳に輝きが戻る!

 

「そうだ……思い出しだぞ! ルビィちゃん!」

 

 ルビィに振り向く功海だが、ルビィは息が苦しくなり、ぐったりと力を失っていた。

 

「ルビィちゃん!! おおおおおおッ!」

 

 功海が奮起すると、懐の中のジャイロが輝き、功海が瓦礫を押し返して檻の中から脱出した!

 

「功兄ぃ!! やったよ功兄ぃ!」

 

 歓喜する曜。だがその時に、ロッソの苦痛の声が轟く。

 

『うわああぁぁぁぁぁッ!』

 

 ロッソは功海たちの盾となって、その身でグルジオボーンの火炎を食らい続けていた。功海たちをかばう彼は身動きが取れない状態にある。

 

「克兄ぃ! 梨子ちゃん!」

 

 焦る曜だが、その前にルビィをそっと下ろした功海がジャイロを手に進み出た。

 

「曜、俺はもう恐れない! この力を……自分を信じるッ!」

「功兄ぃ……! うんっ!」

 

 目を潤ませた曜がうなずき、功海がジャイロを掲げた。

 

「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」

 

 ルーブジャイロが光を放ち、功海と曜を包み込む――!

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 意気揚々と敬礼する曜を背後に、水のクリスタルから一本角を出した功海がジャイロの中心にセットする。

 

[ウルトラマンギンガ!]

 

 水が波打ち、曜と功海が天を見上げた。

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」

「ヨーソロー!」

 

 功海がジャイロのグリップを三回引き、エネルギーチャージ。

 

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 水柱に包まれた功海と曜がウルトラマンブルに変身し、ロッソにとどめの火炎を食らわそうとしていたグルジオボーンの頭にドロップキックを炸裂させた!

 

『はぁーッ!』

 

 ――ぐったりとしながらも、意識があったルビィは、目の前からいなくなった功海に微笑を浮かべた。

 

「えへへ……やりましたね、功海さん……」

 

 グルジオボーンを蹴り倒したブルはロッソの側に駆け寄り、彼の腕を引っ張って助け起こした。

 

『克兄ぃ、おっ待たせー』

『「梨子ちゃん、遅くなっちゃってごめんね」』

 

 実に軽いノリのブルにロッソが文句を発した。

 

『お前遅いよ功海~……!』

『あれあれ? 九秒で倒すって言ってなかったっけ』

『何だと生意気言ってんじゃねぇぞこのーッ!』

『ごめんごめん!』

 

 ブルにヘッドロックを掛けて頭をぐりぐりするロッソ。この二人に梨子が呆れたように注意した。

 

『「二人とも、じゃれてないで怪獣に集中して下さい! 起き上がりますよ!」』

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 立ち上がったグルジオボーンは、即座に火炎を吐いてロッソとブルを攻撃してくる!

 

『はッ!』

 

 咄嗟に後ろに跳んでかわした兄弟は、体勢を立て直しながらグルジオボーンと対峙した。

 

『「あっつぅ……炎を吐かれ続けてたら危ないよ!」』

 

 曜が警告すると、ブルがパチンと指を鳴らす。

 

『閃いた! 克兄ぃは水、俺は風で攻撃だ!』

『え? 何だって?』

『だーかーらぁ~! 克兄ぃは水で、俺は風!』

『「モタモタしてないで! 早くしないと、また攻撃されますよ!」』

『『ご、ごめん』』

 

 ぷんすかと咎める梨子にロッソたちが謝りながら、クリスタルチェンジを行う。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

 

 梨子が曜から投げ渡された水のクリスタルから二本角を出して、ジャイロにセットした。

 

[ウルトラマンギンガ!]

『纏うは水! 紺碧の海!!』

 

 ロッソの合図の下に梨子がジャイロのグリップを引き、エネルギーをチャージする。

 

[ウルトラマンロッソ! アクア!!]

 

 曜の方はホルダーから風のクリスタルを取り出した。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

 

 一本角をクリスタルから出して、ジャイロにセット。

 

[ウルトラマンティガ!]

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

 

 ブルの合図で曜がグリップを引いて、エネルギーをチャージ。

 

[ウルトラマンブル! ウインド!!]

 

 クリスタルチェンジを終えると、ロッソは空に向かって飛び上がり、ブルは風の力による高速移動でグルジオボーンの周囲を駆け回り出した。

 

『はッ!』

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 ブルが走ることで竜巻が発生し、グルジオボーンが火炎を吐いても風に流されて空にそれていき、街への被害を防いだ。

 

『「やるね功兄ぃ! だけど……これ、目が回りそうだよぉ~!」』

『こらえろ曜! もう少しだ!』

 

 善子ほど風の力との相性が良くない曜は、ブルのスピードについていけずにふらふらになっていた。

 竜巻による包囲を完成させると、ブルがグルジオボーンから離れた。そこに空からロッソが呼び掛ける。

 

『功海ー! お前の言う通りにしたぞー!』

『「うぅ……水って結構重いんですね……!」』

 

 ロッソはいつもよりはるかに巨大なジャイアントスフィアを掲げている。梨子は水球の重量に、腕がぷるぷると震えていた。

 

『ああ。オッケー、それでいいよ!』

 

 腕で大きく丸印を作ったブルは、角からルーブスラッガーを引き抜く。

 

「『ルーブスラッガーブル!!」』

 

 スラッガーを中腰に構えると、ロッソに向かって叫んだ。

 

『今だ克兄ぃ!』

『了解……! おぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁッ!』

 

 ロッソがジャイアントスフィアをグルジオボーンへと投げつけた。水球は竜巻ごとグルジオボーンを覆い、グルジオボーンは水の竜巻の中に閉じ込められることとなる。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

『おお……すげぇな』

 

 完全に動きが封じ込まれたグルジオボーンに対し、曜は「雷」のクリスタルから一本角を出してルーブスラッガーブルにセットした。

 

[ウルトラマンエックス!]

 

 クリスタルの力によって、刀身に緑色の電撃が纏わりついた。ブルは雷の剣を水平に構えながら駆け出す。

 

「『スパークアタッカー!!」』

 

 天高く跳躍したブルは、落下の勢いを乗せてグルジオボーンを竜巻ごと切り裂いた! 電撃が水にほとばしり、グルジオボーンに更なるダメージを与える!

 

『「決まったぁっ!」』

『どうだ! 風、水、雷の合わせ技!』

「ギュオオォォ――――ン……!」

 

 グルジオボーンは完全に麻痺しており、最早指一本まともに動かすことも出来ないありさまであった。

 

『それじゃあ仕上げと行きますか!』

『ああ!』

 

 ハイタッチしたロッソとブルが、最後のクリスタルチェンジを行う。

 

『「ビーチスケッチさくらうち!」』

『「ヨーソロー!」』

 

 ロッソフレイムとブルアクアに戻ると、両腕を十字とL字に組む。

 

「『フレイム!!」』

「『アクア!!」』

「『「『ハイブリッドシュート!!!!」』」』

 

 炎と水が螺旋を描いて飛んでいき、一本の光線となってグルジオボーンに命中した!

 

「ギュオオォォ――――ン!!」

 

 光線に貫かれたグルジオボーンが瞬時に爆裂! これを見届けたブルがロッソに拳を向ける。

 

『やったね!』

『ああ!』

 

 ロッソとブルは拳を打ち鳴らし合い、軽快にタッチを決めた。

 

 

 

「くっそ~あいつら……! 復活したらしたで調子に乗りおってぇ……!」

 

 グルジオボーンから戻った愛染は、ほうほうの体でアイゼンテック社に帰ってきた。そこに若い女性社員が通りかかる。

 

「社長、お疲れさまです」

「おお、お疲れぇ……」

 

 愛染のありさまをよく見た女性社員は、彼のことを案じて声を掛けた。

 

「あらあら。社長、そんなにくたびれてしまって……もうお若くないんですから、あんまりはしゃいでたら駄目ですよ」

「ああうんありがとう……ん? あらあら……」

 

 注意された愛染だが、女性社員の口走ったひと言に反応して、グロッキーだったのが嘘のようにすっくと立ち上がった。

 

「いいねぇ実にいいッ! よぉし決めたッ! 十一人目は、君だぁーッ!」

「あ……あらあら……?」

 

 女性社員は、愛染の言っていることがさっぱり分からずにたじろいだ。

 

 

 

 後日、千歌たちAqoursは綾香駅の前に集合していた。

 

「ルビィちゃんも無事に退院できたし! 絶好の東京日和! よーし、張り切って行っくぞー! いざ東京っ!」

 

 東京に向かう電車に乗る前に早くも意気込んでいる千歌を、見送りの功海がからかう。

 

「千歌ぁ、お前ほんとに大丈夫なのかぁ? 地方感丸出しの格好で行こうとしてたし、東京行って本場のスクールアイドルとの実力差にけちょんけちょんにされちまうんじゃねーの?」

「むっ、そんなことないよー! 私たちだってすっごい頑張ってるんだからね! きっと結果出してみせるもん!」

 

 ムキになって功海に言い返す千歌だが、一方でルビィが何やら物憂げにうつむいているのに花丸が気がついた。

 

「ルビィちゃん、どうしたの? まだどこか悪いんじゃ……」

「ううん、そうじゃないの。ただ……家を出る時に、お姉ちゃんが気持ちを強く持って、なんて言ってたから、どういうことなのかなぁって……」

 

 思い悩むルビィに、千歌をいなした功海がぐっと親指を立てた。

 

「暗い顔してんなよ、ルビィ。どんな時も元気に、自分に自信を持ってりゃ、未来は切り開けるぜ! な?」

「……はいっ!」

「あっれぇ~!?」

 

 ルビィと自然に笑顔を交わし合う功海に、千歌が冷や汗を垂らして詰め寄ってきた。

 

「功海お兄ちゃん、いつの間にルビィちゃんとそんなに仲良しさんになったのぉ!? お兄ちゃんながら、抜け目ない……!」

「そんなもんいつだっていいだろ? 兄には兄の人づき合いってもんがあるんだよ」

「む~、何か釈然としない……! 何か分からないけど、蚊帳の外に置かれてるような感じがする……!」

 

 千歌がむくれている一方で、キャリーバッグを車から下ろした梨子が、彼女たちを駅に送ってきた克海に頼みごとをされた。

 

「梨子ちゃん、みんな東京には慣れてないから、あんまりおかしなことしないように目をつけてやってくれな」

「は、はいっ! 任せて下さい!」

「ああ、それと……」

「はい?」

「……どんな結果になったとしても、それを真摯に受け止めるんだ。みんなにも言っておいてくれ」

「……? はい……」

 

 今の梨子には、克海の言うことの意味が理解できていなかった。

 そしてAqours六人は、最後にクラスメイトからの餞別ののっぽパンをもらう。

 

「それ食べて、浦女のすごいところを見せてやって!」

「……うんっ! 頑張る!」

 

 顔を引き締めた千歌がうなずくと、Aqoursは改札をくぐって東京への旅立ちに出ていった。

 

「いってらっしゃーい!」

「いってきまーす!」

 

 克海と功海、クラスメイトたちに送り出された千歌たちが、張り切って出発していった――。

 

 

 

 その頃、アルトアルベロタワーの社長室――その隠し部屋にて。

 

「はい! 今日はー、皆さんに新しいお仲間を紹介しまーす」

 

 愛染が先日の女性社員を連れて、並んだ十人の少女たちに告げた。

 ボーイッシュな少女、長い髪を金髪に染めた少女、双子の少女、リボンを二つ髪に結んだ少女、青みの掛かった長髪の少女、ショートボブカットの少女、ツーテールの少女、おでこの広い少女、眼鏡を掛けた少女……全員、愛染が自分のアイドルスクールの特待生コースに迎えた子たちである。

 それだけならまだしも……彼女たちは全員、隠し部屋の中央にある怪しげな装置につながれた赤い輪を頭に被せられて、虚ろな目で立ち尽くしていた。

 

「し、社長……? この子たちに、何をしたんですか……?」

「はいこれ被ってね。はいそっちに並んで」

 

 あまりにも異様な光景に女性社員も気が動転していたが、愛染は構うことなく赤い輪を彼女にも被せて少女たちの列に追いやった。

 それから愛染はパンと手を叩いて、テンションを上げて自意識のない少女たちに語る。

 

「さぁッ! これで残るはいよいよあと二人ッ! 変わる世界が輝いてきたぞー!」

 

 愛染が手の平を差し向けた先は、中央の謎の装置。その上には、「炎」「氷」「岩」「嵐」の四つのクリスタルに囲まれた、「剣」のクリスタルが置かれてあった。

 愛染は声を張って宣言する。

 

「絆の力で、輝きの向こう側へぇ!!」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

果南「ハグしよっ! 今回紹介するのは、『ウルトラマンX』だよ!」

果南「この曲はもちろん『新ウルトラマン列伝』内で放送されたドラマ『ウルトラマンX』の主題歌! 歌ったのはお馴染みのvoyagerと、大空大地役の高橋健介さんだよ!」

果南「歌詞は『X』の作風や世界観を強く反映してて、他者とつながる絆を特に強く歌い上げてるんだ。一方で「世界が滅びる」「地球の未来がなくなる」なんて物騒なワードが出てくるけど、今思えばこれは最終回への伏線だったんだね」

果南「その最終回ではこの歌がエンディングテーマに使用され、映画ではクライマックスシーンで挿入歌として使われたりしてて、『X』という作品において重要な役割を担ったと言えるね。それで印象に残ったという人も多いと思うよ!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『AQOURS☆HEROES』だ!」

功海「Aqoursのファーストシングル『君のこころは輝いてるかい?』のカップリング曲だ! HEROESなんて単語がタイトルに使われてる通り、ひたすら人を元気にする言葉を送る応援曲だぞ!」

克海「『君のこころは輝いてるかい?』はAqoursのデビューシングルだから、ファンには思い出深い一曲でもあるな」

果南「それじゃ、また次回でね!」

 




愛染
「ぬあぁッ! お前らそれでもウルトラマンかッ! これでアイドルのつもりかぁッ!! お前ら全員落第点だぁぁぁッ!!」
「こうなったら教えてやろう。真のアイドルをプロデュースする、私こそが! ウルトラマンだとッ!!」
「次回、『世界中CONTROL!!』!」
「絆の力でぇ、輝きの向こう側へぇぇッ!!」


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幕間「東京スクールアイドルワールド」

 

 ――千歌たちは現在、『東京スクールアイドルワールド』という、全国の注目度が高いスクールアイドルを集めてライブ形式でパフォーマンスをしてもらうイベントに参加するため、東京は秋葉原を訪れていた。

 秋葉原……そこはかの伝説のスクールアイドル、μ'sが在籍していた音ノ木坂学院と、そのライバルであったA-RISEのUTX学院がある、スクールアイドルの聖地。それ以外にも、日本中のサブカルチャーの最先端が集う土地でもある。そんな場所に来たAqoursの六人は、綾香市ではまずお目に掛かれないような店舗や品ぞろえにすっかり夢中になっていた。

 

「うん……うん。大きなビルの下。見えない?」

「あっ、いましたー!」

「すみませーん!」

 

 それぞれが勝手に自分らの好きな店に入り、てんでバラバラに行動しているので、千歌が何とか召集を掛けようとしている。ルビィと花丸は合流したが、曜と善子が不在だ。

 

「善子ちゃんと曜ちゃんは?」

「二人とも場所は分かるから、もう少ししたら行くって」

 

 その善子と曜はただ今、それぞれ黒魔術ショップと制服専門店に入り浸ったまま動こうとしていなかった。

 

「もう少しって?」

「さぁ……」

「もう、みんな勝手なんだから!」

 

 ぼやく千歌だが、一番にスクールアイドル専門ショップに突入したのは彼女であった。

 

「しょうがないわね……。克海さんから頼まれたのに……」

 

 とため息を吐く梨子も、傍らの女性向け同人誌店の看板を見つけると、ひどく興味をそそられた。

 

「はっ……!? 壁クイ……!?」

「梨子ちゃん?」

「な、何でもないっ!」

「何が?」

「いいえ! あ、私、ちょっとお手洗い行ってくるねー!」

 

 梨子は言い訳して駆け出すと――こっそりと同人誌店に入っていった。

 

「えー!?」

 

 すっかり纏まりをなくしたことに絶叫する千歌。……その一方で、ルビィがふと背後に振り向いた。

 

「ルビィちゃん、どうしたの?」

「ううん。その……誰かがこっち見てるような気がして……」

 

 ルビィが首を傾げながら答えると、花丸がふふっと笑い飛ばした。

 

「気のせいず……気のせいだよ。マルたち、そんなに目立ってないって。多分」

「そうかなぁ……」

 

 ルビィは首をひねり続けていたが、特におかしな様子は見られなかったので視線を正面に戻した。

 ――その隙を突いて、ひよこ色のドローンが物陰から物陰へと素早く移っていった。

 

 

 

 ドローンが撮影する映像は全て、アイゼンテックの愛染のところへと送信されている。

 

「……」

 

 愛染は秋葉原ですっかりはしゃいでいるAqoursの姿を観察して、チッ……と大きな舌打ちをした。

 

 

 

 その日の夕方、内浦の『四つ角』。

 

「千歌たちは今頃東京かぁ~……。何か、千歌たちがいねーと寂しく感じるな」

 

 功海が居間の机に頬杖を突きながら、克海相手にぼやいた。

 

「千歌がスクールアイドル始めてから、ずっと騒がしかったもんな。母さんはまた出張で、父さんは相変わらず影薄いし……すっかり静かだ。しいたけ、お前も寂しいだろ~」

「わふっ」

 

 しいたけの喉元をくすぐって戯れる功海。克海の方は、洗い物をしながらひたすらに黙っていた。

 

「……克兄ぃ、聞いてんのか? さっきから黙りっぱなしだけど、どうかしたの?」

 

 功海に呼び掛けられ、克海はようやく顔を上げた。

 

「あ、ああ、いや……千歌たちはイベント、大丈夫かなって思ってな。今までにない大舞台になるだろ。それで……」

「克兄ぃ、心配しすぎだって~。何も取って食われる訳じゃねぇだろ」

 

 功海が呆れていると、高海家の玄関のインターホンが鳴らされ、外から呼び声がする。

 

「ごめんくださいまし」

「お客さんか? こんな時間に」

「今の声……!」

 

 克海が出迎えに玄関に行き、一人の女の子を家に上げて戻ってきた。功海はその少女の顔に見覚えがあった。

 

「あれ? 克兄ぃ、その子って確か……」

「黒澤ダイヤちゃん。ルビィちゃんの姉で、浦女の生徒会長だ。お前も体育館のライブで見てるだろ?」

「あーやっぱり! あの時の」

「どうも。改めまして、黒澤ダイヤと申しますわ」

 

 一礼をしたのは、口元のほくろが目を引く少女、ダイヤ。功海がこうして面と向かったのは初めてであった。

 克海がダイヤに座布団を勧めつつ、尋ねかけた。

 

「今日はどうしてウチに? 千歌なら留守にしてるけど」

「存じてますわ。東京のイベントに出場すると、ルビィから聞いていますので」

 

 と返したダイヤが、続けて克海たちに告げる。

 

「実は、その件に関して少しお話しがありまして、本日はお伺いしました」

「話……?」

「俺たちにか? まさか生徒会長さん、まだスクールアイドル部に反対なんじゃないだろうな? 千歌言ってたからな、会長さんはスクールアイドル嫌いって」

 

 ややトゲのある言い方をする功海を克海がたしなめた。

 

「功海、失礼だぞ! それにダイヤちゃんがスクールアイドル嫌いなんてのは誤解だ」

「え? 何でそんなこと言えんの?」

「それは……」

 

 克海が言い淀んでダイヤにチラリと目を向けると、ダイヤは寂しげな微笑を返した。

 

「大丈夫です。功海さんにはわたくしから、一からお話し致しますわ」

 

 そう言い切ったダイヤが、功海の方へ身体を向け直した。

 

「もう二年も前のこととなります。当時一年生だったわたくしは――果南、鞠莉と三人でスクールアイドルをやっていました」

「へ!?」

 

 ダイヤの告白に、功海は仰天。

 

「ま、マジ!? そうだったの!?」

「二年前から、既に浦の星が統合になるかもということは噂でありました。わたくしはμ'sのように学校を救おうと思い立ち、果南と鞠莉を誘ってスクールアイドル部を立ち上げたんですの。克海さんのことは、その頃に果南に紹介してもらいました。わたくしたちのファン第一号になっていただいて、練習場所や衣装作製の仲介など色々とサポートをしてもらっていたのですわ」

「し、知らなかった……。克兄ぃ、何で教えてくれなかったんだよ?」

 

 功海が唇を尖らせると、克海は冷めた視線を返した。

 

「一応、その当時に話をしたぞ。けど千歌はまだスクールアイドルに興味なかったし、お前は宇宙考古学に夢中で、完全に聞き流してたな」

「あッ……あー、そういやそんなこともあったような……。けど仕方ねーじゃん? こんなことになるなんて思う訳ないって」

 

 当時のことを思い出しながら目を泳がした功海が言い訳した。それからダイヤが再び口を開く。

 

「わたくしたちのことを知らなくても無理はありませんわ。わたくしたちが活動していたのは、ほんの三か月程度の間だけ……東京で現実を思い知らされて帰ってきてからは、ぱったりとスクールアイドルと縁を切っていましたから……」

「えッ……東京って……」

 

 功海は何だか、嫌な予感を覚えた。

 

「ええ……わたくしたちは、今のルビィたちとほとんど同じ経緯をたどりました。そしてちょうど今の時期に、挫折してしまいました……。今日は、千歌さんたちが打ちのめされて帰ってきても、お二人には温かく迎え入れてもらって、彼女たちの心を支えてあげてほしいとお願いしに来たんですの」

 

 千歌たちが打ちのめされる、という言葉に功海がショックを受けている間に、克海が険しい顔でダイヤに尋ね返す。

 

「千歌たちは、厳しいのか……?」

「残念ながら……。わたくしの見立てでは、一票でも投じてもらえたら感謝というような結果を迎えるでしょう」

「そ、そんなことある訳ねーだろ!」

 

 功海がややムキになりながらダイヤに反論した。

 

「千歌たち、あんなにがんばってんだぜ! いっぱい努力して……他にどんなスクールアイドルがいるのかなんて知らないけど、負けるはずがねぇよ!」

 

 力説する功海だが、ダイヤは冷静に聞き返す。

 

「7236。何の数字か分かります?」

「え? えっと……」

「去年最終的にラブライブにエントリーした、スクールアイドルの数ですわ。第一回大会の十倍以上です」

「えぇッ!? スクールアイドルってそんないんの!? 千歌たちがエントリーした時には、5000程度じゃ……」

「まだエントリーしていない子たちは、全国にいくらでもいますわ。今年は、更に多くなることでしょう。エントリー数は増加傾向にありますから」

 

 想像していたよりもはるかに多いスクールアイドルの総数に、流石の功海もしばし呆然となった。

 

「スクールアイドルは以前から人気がありましたが、ラブライブの大会の開催、更にA-RISEとμ'sの存在によって知名度は爆発的に向上。それとともに、レベルの向上を招きました。もちろん千歌さんたちも努力していることは存じていますが……ランキング上位の方々のパフォーマンスは、最早別格。ただ歌が上手いだの、観ていて楽しいだのといった程度では通用しない世界になっているのですわ」

「マジかよ……」

 

 初めて知る、スクールアイドルの厳しさに功海も言葉がない。にわかには信じがたいような話だが、実際に体験した者が言う以上はそうなのだろう。

 

「わたくしたちは上位陣との次元の違いを見せつけられたことで、東京では歌うことすら出来ませんでした……。軽い気持ちで、μ'sのようになろうとしたのがそもそもの間違いでしたの」

「じゃあ、スクールアイドル部に反対してたのって……」

「他の人たちに、わたくしたちと同じ思いをしてほしくなかったからですわ……」

 

 ダイヤの真意を知り、押し黙る功海。ダイヤは自嘲めいたわびしい微笑を浮かべる。

 

「帰ってきてからは、μ'sに関わるものを見る度に、挫折したわたくしをみじめに思ってしまい、それら全てを周りから遠ざけました。でもそのせいで、ルビィに苦しい思いをさせていた……。後悔していますわ……」

 

 そこまで語って、ダイヤは改めて克海と功海に頼み込んだ。

 

「人は本気であればあるほど、くじけた時に心に深い傷を負います。わたくしたちの場合は、互いの関係に大きなわだかまりを残すほどとなってしまいました。千歌さんたちも最悪の場合は、今後の人生にも影響を及ぼすようなことになってしまうかもしれません。ですので、克海さんたちには彼女たちの心のケアをしてあげてほしいのですわ。よろしいでしょうか?」

「元よりそのつもりだ。他ならぬ妹のことなんだからな」

「……俺はそれでも信じられねぇ、いや信じたくねぇよ。千歌たちが、そんなぐらいにボロ負けするなんてこと……」

 

 克海と功海は窓の外の夕焼け空を見やり、その向こう側にいるはずの千歌たちのことを案じた。

 

 

 

 夜。Aqoursは秋葉原の旅館に泊まり、明日のイベントに備えて英気を養っていた。

 

「あと十数時間もしたら、いよいよ始まるね! 大きなステージで歌うなんて初めてだから楽しみっ!」(千歌)

「でも、あんまり大勢の前だと緊張が……」(梨子)

「そんな気負い過ぎないで! いつも通りでいいんだよ!」(曜)

「うんうん。リラックスずら~」(花丸)

「ふふふ……この魔都に降臨せし堕天使ヨハネが、観客たちをリトルデーモンに変えてあげるわ」(善子)

 

 各人がそれぞれの形で意気込んでいると、千歌がぐっと手を握りながら宣った。

 

「愛染さんも私たちに期待してくれるみたいだし、いいところ見せなくっちゃね!」

「あっ……」

 

 愛染の名前を出した瞬間――ルビィが何か言いたげにうつむいた。

 

「どうしたの、ルビィちゃん? 愛染さんがどうかしたずら?」

 

 気がついた花丸が問いかけると、ルビィはおずおずとしながらも、次のような疑問を口にした。

 

「あの……愛染さんって、ほんとにスクールアイドル好きなのかな……?」

「へ?」

 

 予想だにしていなかった質問に、千歌たちはそろって目が点となった。

 

「何でそんなこと言うの? あんなにスクールアイドルを支えてる人なのに」

「そうだよ。好きじゃなかったら、アイドル学校の理事長なんてやる訳ないよ」

 

 千歌と曜がそう返すが、ルビィは自分の疑問の根拠を示す。

 

「でも……ルビィが入院してた時に愛染さんがお見舞いに来て、そこでμ'sのクイズを出したんですけど……愛染さん、一つも正解できなかったんですよ? 結構簡単なのも出したのに……。スクールアイドルが好きで、あのμ'sを知らないなんてことあるのかな……」

「……そういえば、前に少し妙なことがあったわね……」

 

 梨子はルビィの疑問に同意を示す。

 

「アイゼンテックで、愛染さんが口にした会社の合言葉を、穂乃果ちゃんの口癖から来てるって言われてうなずいてたけど……μ'sの結成は五年前。十何年前からやってる会社の合言葉になるはずがないわ」

 

 訝しむルビィと梨子だが、他の四人は深く捉えなかった。

 

「考えすぎだよー。私だって、ダイヤさんが出したクイズには正解できなかったし」

「いやぁ、千歌ちゃんの場合とは全然違うだろうけど……でも、深い事情なんてないと思うよ。きっとみんなのこと気遣って、接待してたんだよ。愛染さん大人だし」

「ですよね。考えすぎずら」

「ヨハネもたまに、リトルデーモンに試練を投げかけることがあるわ。ヨハネのこと好きかしら? とかわざとらしく聞いたりして。それと同じようなものでしょう」

「そうなのかな……」

 

 ルビィたちはやや腑に落ちないものを感じながら、それ以上の言及はよしたのであった。

 

 

 

 翌日、『東京スクールアイドルワールド』――その閉会後。

 

「9位か……。入賞は無理だとは思ってたけど、予想以上に厳しい順位だね」

「姉さま、早く帰って練習を再開しよう! 上位のグループは、こうしてる今も実力を磨いてる!」

 

 会場のビルを離れながら、結果について反省している二人組のスクールアイドルがいた。名前は『Saint Snow』。姉の鹿角聖良と、妹の理亞による姉妹スクールアイドルである。

 

「うん。勝ってA-RISEやμ'sと同じ場所に立つには、もっと励まないと……」

 

 今回の決して良いとは言えない結果を踏まえて次に活かそうと、北海道に帰ろうとしていたこの二人であるが、その行く手に白い背広の背中が直立していたので思わず足を止めた。

 

「いやぁ実にいいパフォーマンスでした。まだまだ粗削りながらも、抜群の将来性が感じられましたよぉ!」

「あなたは……」

 

 白い背広の男がクルリと振り向き――愛染が手でハートマークを作りながらにこやかに笑いかけた。

 

「どうも初めまして。わたくし、愛と正義の伝道師、愛染正義です!」

 

 押し黙る理亞を傍らに置きながら、聖良が愛染に聞き返す。

 

「あなたが、あのアイゼンテックの社長の……」

「おおッ! 私のことを知っていたのかね?」

「もちろんです、有名ですから。そうでなくても、ラブライブに関わる人のことは大体は調べてます。どこで役立つか分かりませんので」

「おぉ~流石ッ! 私が見込んだだけのことはあるッ!」

「……私たちに、何の御用でしょうか?」

 

 今一つ真意が見えない愛染に、聖良が慎重に尋ねた。

 

「ふふふ……私のことを調べたというのなら、当然私が特待生を募ってるということもご存じだろうね?」

「まさか、私たちを? でも、私たちは今回のイベントで結果を残せませんでした」

「私が重視するのはそこではないッ! 君たちには飽くなき向上心がある。何が何でもアイドルの頂きに登ろうという強い決意……そこを私は評価する! 君たちは、スクールアイドルの勝者となり得る器だッ!」

 

 やたらと褒めそやされて、聖良は思わず理亞と目を合わせた。

 

「ですが……」

 

 しかしここで、愛染の話の方向性が変化する。

 

「だが……その器を、スクールアイドル程度で満足させていいのかな?」

「は……?」

「スクールアイドルは、『ここ』では大人気だ。しかし、その寿命は短い。かのμ'sとて、実際の活動期間はたったの一年未満だ。君たちのアイドル生命は、そんな儚いものでいいのかな?」

「プロへの勧誘でしょうか? それでしたら、残念ですけど私たちは……」

「そんな小さい話でもないのだよッ!」

 

 声を張って否定する愛染。聖良たちは、ますます訳が分からない。

 

「あの、おっしゃってる意味が……」

「私は知っているッ! 真に輝きを放つアイドルたちを! 永遠に色あせることのない、空に瞬き続ける綺羅星をッ! 君たちにも見せてあげよう、『本物』の世界を! そしてそれを知った時、君たちは思うことだろう。私たちも、『永遠』になりたいとッ!」

 

 ついていけずに困惑する聖良たちに構うことなくまくし立てた愛染が、二人に向かっておもむろに腕を広げた。

 

「君たちには素質がある。私が導いて(プロデュースして)あげよう……真なるアイドルの頂点の座に。――アイドルマスターにッ!!」

 



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世界中CONTROL!!(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

千歌「最近様子がおかしかった功海お兄ちゃん。だけどウルトラマンさんたちが怪獣をやっつけた頃には、すっかり元気になってた! 安心した私たちAqoursは、スクールアイドルのイベントに出場するために、はるばる東京へと出発! ……だけど……」

 

 

 

 ――綾香市の一画の十字路。何の変哲もない土地なのだが、ここに突然異変が起こった。交差点の中心がいきなり陥没し、砂が広がっていって大きな蟻地獄のようなありさまに変貌していったのだ。

 そして蟻地獄の中央から、虫型の巨大生物が這い出てきた!

 

「キィ―――キキキッ!」

 

 巨大生物は二本の腕から火炎を放ち、己の周囲を無差別に燃やしていく。巨大生物から一目散に逃げる自動車の群れの一部が炎上するほどに広範囲が火の海に変えられていく。

 

「きゃあぁぁぁ―――――!」

「怪獣だぁ―――――!」

 

 綾香の街の人々が、悲鳴を発して我先にと逃げていく。――その光景を見下ろす飛行船からの映像をながめ、愛染がひと言つぶやいた。

 

「怪獣じゃなぁい。アリブンタは、超獣だ」

 

 綾香を我が物顔で蹂躙する超獣アリブンタ。だがその時、空の彼方から猛スピードで駆けてくる赤と青の流星が。

 

「キィ―――キキキッ!」

『『はぁッ!』』

 

 暴虐の限りを尽くすアリブンタの正面に颯爽と着地したのは、綾香の平和を守るために駆けつけたウルトラマン兄弟。ロッソウインドとブルフレイムだ。

 

『行くぞ、梨子ちゃん!』

『やっちゃおうぜ、曜!』

『「はいっ!」』

『「ヨーソロー!」』

 

 ロッソとブルの呼びかけに、彼らのインナースペース内の梨子と曜が威勢よく返事をした。

 

 

 

『世界中CONTROL!!』

 

 

 

「キィ―――キキキッ!」

 

 アリブンタはロッソとブルの登場で街の破壊の手を止め、そちらに意識を集中した。対するロッソたちは角からスラッガーを引き抜いて武装する。

 

「『ルーブスラッガーロッソ!!」』

「『ルーブスラッガーブル!!」』

 

 突進してくるアリブンタを前蹴りで止めたロッソたちは、ひるんだ相手にスラッガーの斬撃を浴びせる。

 

『はぁーッ!』

 

 ブルの後ろ手の刺突がアリブンタに決まった。初めはろくな戦い方を知らなかった兄弟であるが、実戦をいくつも経験することにより、今ではすっかりと戦う姿が様になるようになった。

 が、

 

「きゃー! ウルトラマンさん、かっこいー!」

「がんばってー!」

 

 綾香から浦の星女学院に通っている生徒が三人、ロッソとブルに向かって応援を送った。それに気がついたブルの手が止まる。

 

『「あっ、ウチの子たちだ」』

『ほんとだな。ちょっと克兄ぃそこどいて』

『え?』

 

 ブルは生徒たちの方に数歩近づくと、しゃがみ込んで手を振った。

 

『どうもー』

『「応援ありがとー!」』

「きゃあっ!? こっちに手ぇ振ってる!」

『「えぇーっ!? ちょっとぉ!?」』

 

 敵に背を向けて生徒たちの相手をし出したブル。ロッソは慌ててアリブンタの攻撃を受け止めた。

 

 

 

 ブルの行動を見た愛染が、わなわなと震えて立ち上がった。

 

「おいコラぁッ! 何やっとんだお前はぁッ! 今戦闘中だぞ分かっとんのか!?」

 

 

 

「キィ―――キキキッ!」

『うわッ!』

 

 一人でアリブンタを抑えていたロッソだが、アリブンタのパンチを食らってふらふらしながらブルの元まで退く。

 

『功海、あいつ結構強いぞ……!』

『「もう、よそ見してないでよね!」』

『「ごめんごめん」』

 

 笑ってごまかす曜。ブルはロッソを自分の前に立たせる。

 

『克兄ぃ、考案したあの連携技、試してみようぜ』

『よぉし……!』

 

 ロッソが右手に風を溜め、投球の要領で勢いよく放った。

 

「『ロッソサイクロン!!」』

 

 解き放たれた風は横向きの竜巻となってアリブンタにぶち当たり、アリブンタは身動きが取れなくなる。

 

「キィ―――キキキッ!」

 

 しかしこれで終わりではない。ロッソが横にどくと、前に出たブルが竜巻に向かって発火能力を発動。

 

「『パイロアタック!!」』

 

 空気中の酸素に引火して竜巻はたちまち炎の渦に変わり、アリブンタを襲った!

 

「キィ―――キキキッ!!」

 

 炎の竜巻がアリブンタの巨体を空高くに持ち上げていき、空中で爆散させた!

 

『見たか! ファイヤートルネードだ!』

『「大成功っ!」』

『「やりましたね!」』

 

 見事アリブンタを撃破したロッソとブルに向かって、浦女の生徒たちが黄色い声を送る。

 

「ありがとー! ウルトラマンさーん!」

「一緒に写真撮って下さーい!」

『写真だって! いいよー!』

 

 ぐっとサムズアップで了解の意を示すブルにロッソが突っ込む。

 

『いや写真はまずいだろ……!』

『「えーいいじゃん克兄ぃ~。ファンサービスだよ!」』

『「曜ちゃん、克海さんたちの正体バレにつながったりしたらまずいって!」』

「はい、チーズ!」

 

 ノリノリな曜に梨子が渋ったりしていたが、生徒たちがスマホを向けてシャッターを切ると、結局ロッソもVサインしたのであった。

 

 

 

 女子高生と一緒に写真を撮ってからようやく帰っていくロッソとブルに、愛染が憤懣やるせない様子になっていた。

 

「戦いが終わっていつまでもその辺にいるな! 時間切れになったらどうするつもりだよ! 全くあいつらどうしようもないなほんと……!」

 

 不満をこぼしながら、社長室より隠し部屋へと移っていく愛染。――そこには『特待生』と称して様々な場所、社内からも集めた少女たちが、怪しい装置につながれた状態で並べられている。

 

「やはり私がウルトラマンの何たるかを、奴らに知らしめてやらなければならんな。人数もそろったことだし、いよいよ始めるとしようか……! 皆さん準備はオッケー?」

 

 虚ろな目をしている少女たちに反応がないことを知りながら、愛染は装置を起動させるレバーハンドルに手を添えた。

 

「それじゃあみんなの願いを、レッツUNION!!」

 

 愛染がレバーを動かしてスイッチを入れると同時に、少女たちが口をそろえてある唄を歌い出す。

 

「アァー……アアアーアアアー……アーアーアアアーアァー……」

 

 ゆったりとした、優しいながらもどこか物悲しい旋律の唄――それとともに、少女たちに被せられている赤い輪から中央の装置にエネルギーが送られ、四枚のクリスタルに囲まれた「剣」のクリスタルに反応が起こる。

 剣のクリスタルから光の粒子が出され、リング状の物体に形成されていくのを目にして、愛染が鼻息を荒くしていく。

 

「おお……! 遂にこの時が来たか……!」

 

 ――しかし、途中で粒子が崩れて物体は完成せずに消滅した。

 

「あれ? おおい駄目だ駄目だッ! ウッチェリーナ君、もっと機械のパワーを上げるんだ!」

 

 完成間近での失敗に怒った愛染がピンマイクを通してウッチェリーナに命令する。

 

[これ以上彼女たちに負担を掛けるのは危険です!]

「構わんッ! やれ!!」

[了解しました!]

 

 一度は反対しながらすぐに従うウッチェリーナ。

 だが、虚ろな顔の少女たちの中にありながら、瞳に光がある二人の少女が止めた。

 

「待って! やめてっ!」

「足りない分は、私たちが補います!」

 

 身長に差のある二人の少女の申し出に、愛染はにんまりと笑顔になる。

 

「何と気高き精神! 私が見込んだだけのことはある。じゃあお願いね~」

 

 褒めたたえながらあっさりと負担を強いた愛染が、装置のスイッチを入れ直した。

 

「アァー……アアアーアアアー……!」

 

 二人の少女は脳からエネルギーを吸い上げられ、余分な苦痛に苛まれながらも、懸命に歌い続ける。

 その結果、再び放出された光の粒子は途中で崩れることなく、一つの形になっていく。

 

「今度こそ間違いないぞぉ……! とうとう出来上がる……!」

 

 剣のクリスタルの錆が消え去り、光の粒子が小ぶりのリングに取っ手がついたような、奇妙な形状のアイテムに変わった――。

 

「私だけの変身アイテム! オーブリングNEO!!」

 

 

 

 克海と功海は『四つ角』で、東京より帰ってきた千歌たちAqoursと、イベントの結果について話をしていた。

 

「東京では、残念だったみたいだな、みんな……」

「まさか、ほんとにけちょんけちょんにされるなんて……」

 

 克海たちは自分のことのように気を落とす。功海は、あんなこと言わなきゃよかったと内心悔やんでいた。

 Aqoursのイベントでの結果は――得票数0。何も失敗した訳ではない、今の自分たちがやれる全力を出し切ったというのに、観客の誰一人もAqoursのパフォーマンスを評価しなかったという惨い結末となった。ダイヤが克海たちに話した通り、上位のスクールアイドルの世界にはAqoursの力は全く通用しなかったのだ。

 あんまりな結末に、一時はAqours全員が心の奥底まで打ちのめされたのだが――今は、活力を取り戻していた。

 

「だけど、私たちはスクールアイドルをあきらめないよ! このまんまじゃ、悔しすぎるもん! 今は0かもしれないけど……これから1にしていくんだっ!」

 

 千歌が以前にも増して気合いの入った表情で、そう宣言した。他の五人も、一様に引き締まった凛々しい顔つきとなっていた。

 徹底的な敗北を経験したことが、却って彼女たちにとって良い結果となったようだ。そう感じて、克海と功海は表情を綻ばせた。

 

「いい顔になったな、千歌。大丈夫、本気でやることなら誰だって一度や二度は大きな壁にぶち当たるもんだ。みんなが特別駄目な訳じゃあない」

「今が0なら、もう這い上がるだけだぜ! 同じ人間なんだ。他の奴に出来て、お前たちに出来ないなんてことなんかねぇさ!」

「ああ! これからもっともっと腕を磨いて、いつか今回の観客たちも振り向かせるようになれ!!」

「うんっ!!」

 

 克海たちからの熱いエールに、Aqoursは力を込めた顔でうなずいた。

 その時に、千歌たちがスクールアイドル活動で使用しているノートパソコンがメールの着信を報せた。

 

「あっ、メールだ。今度は誰からだろ?」

 

 曜たちがパソコンの前に集まってメールを確認し、そして驚きの声を発した。

 

「えぇー!?」

「何だ? どうしたんだ?」

 

 克海と功海が何事かと振り返ると、梨子が息を荒げながら画面を二人にも見せた。

 

「これ! 見て下さい! 愛染さんからなんですけど!」

「愛染さんから!?」

 

 克海たちがメールの内容に目を通すと、次のように書かれてあった。

 

『Aqoursの皆さんへ。この度のスクールアイドルワールドの結果は誠に残念でした。つきまして、皆さんに私からの特別レッスンを施したいと考えております。是非とも後日、下記の場所にご足労下さい。愛と正義の伝道師 愛染正義』

 

 これに克海たちに驚く。

 

「愛染さんが、みんなのためにわざわざ!?」

「何でそこまでしてくれんだ? 千歌たち、愛染さんの学校の生徒でもないのに」

「愛染さんはやっぱり私たちの味方なんだよ! 私たちのステップアップのために、貴重な時間を割いてくれるなんて! ありがとう愛染さんっ! アイゼンテックに向けて礼っ!」

 

 興奮して変なテンションになった千歌が、部屋の壁に向かって頭を下げたことにルビィが苦笑いした。

 

「千歌ちゃん、そっち反対……」

「それにこれ、よく見たら……曜と梨子、ヨハネの三人だけになってんぞ」

「えぇー!? 何でぇ!?」

 

 指名があることにショックを受ける千歌。

 

「さる事情につき、なんて書いてあるけど」

「愛染さんの特別レッスン、マルは受けられないなんて……善子ちゃんずるいずら!」

「善子じゃなくてヨハネよ! そんなこと言ったってしょうがないじゃない。先方がそう言うんじゃ」

「でも、マルだって腕を上げて、みんなの役に立ちたいずら……」

「花丸ちゃん、落ち着いて。ルビィたちは大人しく待ってよ?」

 

 納得がいかずにむくれる花丸をルビィがなだめた。

 一方で、指名された曜たち三人は互いに顔を見合わせる。

 

「それにしても、この三人って……まさか……」

「……まさかねぇ」

「だよね。偶然だよね、きっと」

「何が?」

「あっ、ううん。何でもないの」

 

 聞き返してきた千歌に、梨子が手を振ってごまかした。

 

 

 

 翌日の早朝、克海と功海はダイビングショップで果南と話をしていた。

 

「聞いたよ。果南ちゃん、遂に復学するんだってね」

「うん。もう夏休み近いけれど、大分休学続いちゃったからね。一日でもクラスに顔を出そうと思って」

 

 克海にそう答えた果南が、今度はこちらから二人に問いかける。

 

「ところで千歌から聞いたんだけど……曜たちが、あの愛染さんから特別レッスンってのを受けるんだって?」

 

 それに功海が首肯する。

 

「ああ。それで千歌たち、今日は直帰さ。千歌の奴、自分は行けないのすごい残念がってたぜ」

「……それに、克兄ぃたちも呼ばれてるんだって?」

 

 果南が聞き返すと、克海が認めた。

 

「何か、俺たちにも話があるからってさ。何だろうな、話って」

「母さんが出世するんじゃね?」

「それだったら母さんに言うだろ。だけど、それがどうしたんだ?」

「……ううん。ちょっと、気になっただけ」

 

 と果南は返したが――以前の盗聴器、そしてルビィの入院時に一瞬だけ目にした愛染の並々ならぬ表情のことが、内心では渦巻いていた。

 

 

 

 その日の学校が終わると、梨子、曜、善子の三人は克海たちの車に乗って、愛染が指定した場所へと向かっていった。

 その場所とは――周りを野山に囲まれた、採石場跡地。

 

「何でこんな場所でやるんだろ? 特別レッスン」

 

 梨子が疑問に思うと、功海と曜が冗談めかして言う。

 

「スタントみたいな激しいアクションの練習でもあるんじゃね?」

「ほんとにそれかもね。東京で会ったSaint Snowってスクールアイドルの子、新体操ばりに飛び跳ねてたし!」

 

 どんなすごいレッスンなのかと多少浮つきながら、車は採石場跡地に到着。その中央では、愛染が野点と屏風を用意して彼らを待っていた。

 

「ご苦労だったねぇ。迷わず来れたかな? 愛染正義です」

「大丈夫です。位置情報頂いてたので」

 

 車から降りた一同に、いやににこやかな表情の愛染が話しかけ、克海が返答した。

 

「いやいや、世の中には位置情報あっても道に迷っちゃう、困ったけどかわいい人もいるからねぇ~。油断はならないよ」

「ハハ、そんな人いるんですか」

「愛染さん、今日はよろしくお願いしまーす!」

 

 克海は冗談と思って相槌を打つ。曜は皆を代表して愛染に元気よく挨拶した。

 

 

 

 その様子を、林の木陰に隠れながら、密かに見張っている者がいた。

 

「ふっふっふっ……ほんとはいけないことだけど、どんなことやるのか、見せてもらうずら」

 

 花丸だ。どうしても特別レッスンの内容が知りたい彼女は、先んじて自転車で出発して待ち伏せていたのだ。

 しかし、その背後から誰かに声を掛けられる。

 

「あれ? あなたは、一年生の……」

「ずら!?」

 

 驚いて振り返る花丸。そこに立っていたのは、

 

「松浦果南さん!? 何でここに……」

「それはこっちの台詞なんだけど……」

 

 果南だ。彼女は花丸の隣に並んで、樹の影から愛染と話をしている克海たちの方に目をやった。

 

「まぁいいや。ちょっと一緒にいさせて」

「いいですけど……果南さん、スクールアイドルだったんですよね? だから興味があるんですか?」

「……そういうことじゃないんだけどね……」

 

 果南は、特に愛染の挙動を注意深く監視する。

 

(もしもの時は、警察に通報しよう……)

 

 

 

 特別レッスンの始まりを今か今かと緊張しながら待っている曜たちに、愛染がニコニコしながらあるものを差し出した。

 

「まずはこれを渡そう。自分の名前が書いてあるのを取ってねー」

「これ何ですか?」

「終業式にはまだ早いけどねぇ~」

 

 差し出されたのは大きめの封筒。中身を取り出すと、「アイドル通信簿」なるものが三部、それぞれ曜たちの名前が印刷されたものが出てきた。

 

「アイドル通信簿……?」

「はい、これは君たち兄弟の分」

「え? 俺たちも?」

 

 愛染は更にもう一枚、封筒を克海と功海の方に差し出した。疑問を感じながらも受け取る兄弟。

 梨子たちの方は通信簿を開き――その内容に愕然とした。

 

「な、何これ!?」

「こ、酷評の嵐……」

 

 通信簿には「ボーカル」「ダンス」「ビジュアル」、他にも「キュート」「クール」「パッション」「エンジェル」「フェアリー」「プリンセス」などよく分からないようなものも含めて様々な項目があるが……三人とも、そのほとんどが「だめ」「0」などの低評価であった。特記事項には、曜は「意識が高海千歌さんに向く傾向があります。もう少し観客に向けるよう注意しましょう」、梨子は「表現に照れが残ってこぢんまりとしがちです。大胆さを身に着けましょう」、善子は「キャラがネタに走りすぎです。もっと自分を抑えることを覚えましょう」などと書かれてあった。

 

「他の三人の分もあるから、帰ったら渡しといてねー」

 

 しかしもっと大きな問題が、すぐ横にあった。

 

「な、何だこれ!?」

「どういうことだ!?」

「ど、どうしたんですか? えっ……!?」

 

 克海と功海が声を上ずらせたので、梨子たちが二人に渡されたものに目を向け――絶句した。

 克海たちの封筒の中身は「ウルトラ通信簿」というもので――二人のウルトラマンとしての能力や行動を、梨子たちをも下回る評価で示し出していたのだ。

 

「あ、愛染さん! これはどういうことですか!?」

「んー? 言わなきゃ分かんない?」

 

 曜が泡を食って尋ねると、それまでずっとニコニコしていた愛染が――憤怒の形相に豹変した。

 

「お前らはぁッ! アイドルもッ! ウルトラマンもッ! 全部ッ!! 落第点だということだよッ!!」

 

 突然怒鳴られ、克海たちはそろって面食らう。

 

「い、いつから僕たちのことを……!?」

「特にお前らだこのぼんくら兄弟ッ!!」

「ぶッ!?」

 

 話が呑み込めない克海だが、愛染はいきなり彼と功海の頬を手でつまんで押し潰した。

 

「せっかくこの私が立派なウルトラマンにプロデュースしてやろうと思ったというのにッ! お前らは毎度毎度ぉ~ッ! 最早愛想が尽きたわッ!」

「何するんですか!? やめて下さいっ!」

 

 慌てて愛染を克海たちから引き離す梨子たち。だが愛染は手を放しても兄弟を罵倒し続ける。

 

「お前らはぁ! 何の熱意もなくッ! 何の使命感もなくッ!! ただ何となーくウルトラマンやってるだけ!! 中身がない……形だけの、空っぽのウルトラマンなんだよッ!!」

「か、空っぽ……!?」

「俺たちが……!?」

 

 真っ向から否定されてショックを受ける克海と功海。

 

 

 

 果南と花丸は、克海たちと愛染の様子がおかしいことに眉をひそめた。

 

「何か揉めてるみたい……。なに話してるんだろう?」

「ここからじゃ聞こえないずら……」

 

 

 

 愛染は呆然としている克海たちを置いて、話を続ける。

 

「そう、形……。折しも、この私も愛染正義というちっぽけな地球人の形を着ている。ある意味では、十五年もこの中に囚われていると言えるだろう」

 

 そう唱えながら振り向いた愛染の瞳孔が――不気味に赤く光った。

 

「きゃあああっ!?」

「目っ! 目が光った!!」

 

 悲鳴を上げる梨子たちを、功海が咄嗟に後ろにかばう。

 

「みんな離れろッ! こいつ……人間じゃねぇッ!!」

 

 功海の言葉を、ごまかすこともなく肯定する愛染。

 

「如何にもッ! 私は人間ではない……。だがッ! お前らよりも高い市民税をッ! いっぱい払ってるぞぉーッ!!」

 

 両腕を振り上げて叫んだ愛染に、克海たちは唖然。

 

「そうッ! 私は十五年前、妖奇星に乗ってこの土地に散らばったウルトラマンの力を求めてやって来た宇宙人ッ! 名前はサルモーネ・グリルド!! そして小さな町工場の社長の息子だった愛染正義という男の中に入り、アイゼンテックを作って妖奇星の研究を開始した! そしてクリスタルの力を発動する、二つのジャイロを発掘した……。だが、それから三年後の十二年前に、何者かに盗まれてしまったのだ! そう、お前たちが持ってるそれだッ!!」

 

 克海と功海が思わず懐に目を落とした。

 

「お、俺たちじゃねぇぞ!」

「分かっとるわそんなことッ! お前らその時子供だろッ!」

 

 弁明した功海に怒鳴り返す愛染、その身体を乗っ取っているサルモーネ・グリルド。

 

「しかし、それでも私はあきらめなかった! 十二年間、ひたすらに努力を重ね、ついに手にしたのだ! 光の力をッ!!」

 

 とサルモーネが宣言した時――屏風の後ろに隠れていた、二人の少女がサルモーネの背後に出てきた。その顔に梨子たちは驚愕する。

 

「えっ!? 何であなたたちが!?」

 

 その二人とは――鹿角聖良と理亞の、Saint Snowの姉妹であった。

 聖良は梨子の問いに答えず、代わりに言い放った。

 

「皆さん。あなたたちでは、地球を守るヒーローにはなれません」

 

 そしてサルモーネが堂々と宣う。

 

「夢を叶えるにはねぇ、君たち……変化を恐れてはいけないッ! 自分から逃げてはいけないッ! 今こそ宣言しよう!!」

 

 サルモーネが右手に模造したAZジャイロ、左手に剣のクリスタルを取り出した。

 

「私こそが、ウルトラマンだ!!」

 



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世界中CONTROL!!(B)

 

 サルモーネが剣のクリスタルを、AZジャイロの中心に嵌め込んだ。

 

[ウルトラマンオーブ!]

 

 そしてジャイロのグリップを引いていく。

 

「あ団結ッ!」

 

 左を向いて一回。

 

「あ団結ッ!」

 

 右を向いて一回。

 

「オールフォーワーンッ!!」

 

 そして正面を向いて一回引き、エネルギーフルチャージ。

 するとジャイロから、スクールアイドルたち十三人の脳波エネルギーを用いて作り出したオーブリングNEOが現れ、サルモーネがそれを握るとリングが闇に染まる。

 サルモーネは闇に染まったリングの中心のボタンを押し、円を描くようにリングを振って高々と掲げた。

 

「絆の力……お借りしまぁすッ!!」

 

 サルモーネの左右と正面にオーブリングNEOのビジョンが現れて彼を囲み、漆黒の巨人の姿に変える。

 巨人は聖良と理亞を両手でそれぞれ鷲掴みにすると、リング状のカラータイマーの中に押し込んだ。

 

ウルトラマンオーブダーク!

『でゅわッ!』

 

 闇の巨人が両手でハートマークを作りながら、右腕を振り上げて飛び出していく!

 

「な……!」

 

 採石場跡地に轟音を立てて着地した漆黒の巨人に、克海たちだけでなく、隠れて見張っていた花丸と果南も驚愕した。

 

「へ、変身したずら!? 愛染さんが!?」

「嘘でしょ……!?」

 

 右手に「炎」「氷」「岩」「嵐」の四つの象形文字がリング型の柄に刻まれた魔剣を握る黒い巨人は、名乗りを上げる。

 

『銀河の光がオレも呼ぶ! 我が名はッ!』

 

 額に縦に長い赤のランプと、胸に赤いリング型のカラータイマーを持つ、黒い肉体のウルトラマンが、名を叫んだ。

 

『ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowだぁーッ!!』

 

 梨子、曜たちが、紛れもないウルトラマンに変身したサルモーネを見上げて愕然となった。

 

「黒いウルトラマン……!」

「オーブダーク!?」

『ノワールブラックシュバルツwith Saint Snowだッ! 勝手に省略するなぁッ!』

 

 変なこだわりを持って怒鳴ったサルモーネが、自身のインナースペースに取り込んだSaint Snowの姉妹へと合図する。

 

『聖良ちゃんッ!』

『「!? 待って! 彼女たち、まだ生身ですよ!?」』

『いいからッ! 当てないようにするからさぁ!』

 

 言いつけられた聖良が、しぶしぶと魔剣オーブダークカリバーの柄のリングを回し、「岩」の文字を光らせて柄を回転させた。

 

『オーブダークロックカリバー!』

 

 サルモーネが変じたウルトラマンがオーブダークカリバーを地面に突き刺すと、大量の岩が噴き上がって梨子たちの頭上に降りかかる!

 

「きゃあああ――――っ!?」

「危ないッ!」

 

 克海と功海は梨子たちの手を引き、振ってくる岩雪崩から逃れた。

 

「みんなっ!」

「だ、駄目! 見つかったら危ない!」

 

 花丸が反射的に身を乗り出したが、すぐに果南に腕を引かれて樹の影に戻された。

 岩雪崩から逃れた克海たちに、サルモーネは指を突きつけて非難し始める。

 

『お前たちはぁ! ウルトラマンも、アイドルも、失格だッ! たとえば高海兄!』

「お、俺!?」

『お前はこともあろうに野球にかまけて、出動に後れを取ったな!?』

 

 熊城監督の引退試合の件を持ち出された克海が反論する。

 

「いやあれは、お世話になった監督が……!」

『うるさい言い訳するな! 社会的には、お前が遅刻したことだけが事実だ! あーそれから、Aqours! お前らだお前ら!』

「わ、私たち!?」

 

 自分を指差す梨子たち三人。

 

『お前らイベントに出場するために東京行ったんだろ!? だったら練習しろよッ! のんきに観光してんじゃないよ! そんなだから一票ももらえないんだよッ!』

「うっ……そこ突かれると痛い……」

 

 ギクッと顔をしかめた曜だが、梨子と善子は目を見張りながらサルモーネに聞き返す。

 

「ちょっと待って! 何でそんなこと知ってるの!? まさか……!」

「ヨハネたちをストーキングしてたの!? 最低だわっ! シューベルトの魔王!」

『黙れ論点をすり替えるな! 今はお前らの体たらくの話をしてるんだ!』

 

 非難し返されても開き直るサルモーネは、最後に功海を指差した。

 

『そんで極めつけは高海弟! お前だぁッ!』

「はい!?」

『こないだ取り込まれた知り合いごと怪獣倒したことにへこんでたな』

 

 ルビィの件を言及された功海たちの顔色が変わる。――この声は梨子たちのような普通の人間にも聞こえるようにしてあるので、花丸と果南にも聞こえている。

 

『一人を取るか! 大勢を取るか! ウルトラマンにはよくあることだよ! それをいつまでもグズグズと悩みおって! まぁー繊細ですことッ! いらないんだよそういうのッ!』

 

 花丸と果南は息を呑みながら、サルモーネを見上げ直した。

 

「ルビィちゃんのこと!? それを知ってるってことは……」

「まさか……あいつが……!」

 

 それまで戸惑いながらも批判を浴びていた功海たちだが、彼らも真相に思い至り、怒りの目つきとなった。

 

「あれ、あんたの差し金だったのかッ!」

「ふざけないでよ! ルビィちゃん、克兄ぃたちがいなかったら死んでたかもしれないんだよ!?」

「私たちの学校だって……!」

『それはお前らが不甲斐ないからだよッ! いつも思うが、ヘッタクソな戦いしおって!』

 

 梨子たちの非難の声を一方的にはねつけるサルモーネ。だが聖良と理亞も詰問してくる。

 

『「ちょっと! 今のどういうことですか!?」』

『「私たち、そんなの聞いてない!」』

『あーちょっと黙っといて! 後で説明するからッ!』

 

 煩わしそうに姉妹を黙らせたサルモーネが、高圧的に功海らに言いつける。

 

『いいか? 一流ってのは悩まないッ! 己の未熟さを、他人に押しつけたりなんかしないんだよッ!』

 

 しかしあまりにも勝手な言い分を、功海たちは聞き入れなかった。

 

「ルビィちゃんを危ない目に遭わせといて、あの態度……! 許せないよっ!」

「克海さん! 功海さん!」

「ああッ!」

「あいつぶっ倒さねぇと気が済まねぇぜ!」

「頼んだわよ!」

 

 梨子と曜が克海と功海の背後につき、兄弟がルーブジャイロを構えた。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 克海は火、功海は水のクリスタルを手に取る。

 

「「セレクト!」」

 

 クリスタルをジャイロにセットして、ウルトラマンへの変身を行う。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「ビーチスケッチさくらうち!」

「纏うは水! 紺碧の海!!」

「ヨーソロー!」

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 巨大化してサルモーネの黒いウルトラマンと対峙したロッソとブルの後ろ姿に、花丸と果南が再度目を見張った。

 

「克海さんと、功海さんまで……!」

「克兄ぃたちが、ウルトラマンだったんだ……!」

 

 ブルは今までになく怒りに燃えて、剣を構えるサルモーネのウルトラマンをにらんだ。

 

『許しておけねぇぞ! オーブダークッ!』

『オレの名前はウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowだ! 省略するなと言ったろうがッ!』

 

 怒号を発するオーブダーク『省略するなと言うのが分からんのかぁぁぁッ!』……ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snow。梨子と克海もまた彼を厳しく凝視した。

 

『「人の命を何だと思ってるの!?」』

『世界を自分の好きに操れるとでも思って……ッ!』

 

 だが言葉の途中で、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowが魔剣を振るって光輪を飛ばしてきた!

 

『ぬぅんッ!』

 

 光輪は鉄塔を数本斬り倒しながら飛び、ロッソの胸を切り裂いた!

 

『ぐわあぁぁッ!?』

『「きゃああああっ!」』

 

 不意打ちを食らったロッソが仰向けに倒れる。ダメージは梨子にまで響き、梨子も胸を抑えた。

 

『克兄ぃッ! 大丈夫か!?』

『「梨子ちゃんっ! しっかりして!」』

 

 慌ててロッソを抱き起こすブル。ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowは剣を肩に担いで言い放つ。

 

『最近のウルトラマンはベラベラしゃべりすぎだ! 何もずっと黙ってろとは言わんが、もうちょっと神秘性って奴を大事にだな』

『お前の方がしゃべってるだろ!』

『「人を馬鹿にして! 絶対許さないっ!」』

 

 ロッソとブルはルーブスラッガーを抜き、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowに猛然と向かっていった。

 

『はぁッ!』

『てやぁッ!』

 

 連携して剣を振るうロッソとブルだが、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowはその軌道から外れるように首や腰を小刻みに動かし、全てかわす。

 

『当たらない!?』

『速いッ……!』

『遅ぉいッ! それからッ!』

 

 二人の刃をオーブダークカリバーで受け止め、はね返す。

 

『今オレが話してただろうがぁぁぁぁぁッ!!』

『『うわあああぁぁぁぁッ!?』』

 

 そして怒声とともにロッソたちを一文字に切り裂いた!

 

『人の話は最後まで聞けと教わらなかったのか!? 全く、親の顔が見てみたいな! 見てるけどッ!』

 

 腰に手を当てたウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowが、膝を突いたロッソとブルを見下す。

 

『大体お前ら、見た目が気に入らん。もみあげなんか生やしちゃってぇ、今風のつもりかぁ?』

『人のルックス馬鹿にするなッ!』

 

 どうにか立ち上がってスラッガーを振り下ろすロッソたちだが、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowは空に逃れて剣を横に構えた。

 

『聖良ちゃんッ!』

 

 再び聖良の名が呼ばれると、聖良がオーブダークカリバーの柄を回して「炎」に合わせた。

 

『オーブダークインフェルノカリバー!』

 

 刀身で円を描いて作り出した炎の輪を、ロッソたちにぶつける。

 

『『わぁぁぁぁぁ――――――!!』』

『でゅうわッ!』

 

 爆発に吹っ飛ばされるロッソとブル。ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowはわざとらしく掛け声を出して着地した。

 

『ヒーローとは決めポーズなのだよ。お前らはそれが致命的にダサい!』

 

 何度も倒れるロッソたちのありさまに、戦いを見守る善子が焦燥する。

 

「そんな……! 功海たちが、まるで歯が立たないなんて……!」

 

 ロッソとブルも焦りを浮かべ、戦法を変更する。

 

『克兄ぃ、クリスタルチェンジだ!』

『ああ!』

 

 梨子が風、曜が火のクリスタルを手に取った。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

 

 ロッソウインドとブルフレイムになると、ロッソが竜巻を投擲し、ブルが空気を着火させる。

 

「『ロッソサイクロン!!」』

「『パイロアタック!!」』

 

 だがウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowは構えだけで呆れを見せた。

 

『それ見たんですけど~。引き出し少ないなぁ~』

 

 炎の竜巻が迫るが、全くうろたえることなく理亞に向かって合図する。

 

『理亞ちゃんッ!』

 

 理亞がオーブリングNEOのスイッチを押してAZジャイロにセットし、グリップを三回引いてエネルギーチャージする。

 

『ダークオリジウム光線ッッ!』

 

 胸の前にハートマーク――歪んだオーブが現れてから、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowが両腕で十字を組んで暗黒光線を発射。

 光線は炎の竜巻をあっさり押し返して、ロッソとブルに命中する!

 

『『うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!』』

『「「いやああああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!」」』

 

 強烈な一撃を食らい、派手に倒れるロッソとブル。あまりのことに絶叫する善子。

 

「功海っ! 克海ぃっ!」

『ふん……!』

 

 ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowは立ち上がれないロッソとブルの肩を繰り返し踏みつける。二人のカラータイマーが危機を報せる。

 

『見たかオレの力をッ!』

『「やりすぎです! 追い打ちすることはないでしょう!」』

 

 聖良が制止しても、サルモーネは聞く耳を持たない。

 

『このアホどもには自分たちの格を教えてやった方がいいのだッ! オレとの格の違いをなッ! そう、このウルトラマンオーブダークノワール』

『名乗りが長すぎんだよッ!』

 

 踏みつけられているブルが、その脚のすねを殴りつけた。激痛で跳びはねるウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snow。

 

『痛ってぇぇ――――ッ!? 名乗りの最中と変身の途中で攻撃するのは言語道断だぞ!? 常識だろうがッ! 子供の頃何見て育ったんだ!?』

 

 激怒したウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowがブルの胸ぐらを掴み、無理矢理起こした。

 

『お前らはいつもそうだッ! 昨日も、見物人に気を取られて戦闘を抜け出す始末! 二人してチャラチャラしやがってッ! だからお前らヘボなんだッ! このヘボッ!!』

『「あうっ!?」』

 

 ブルに往復ビンタを浴びせるウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snow。衝撃を受ける曜の首が左右に揺れる。

 

『ヘボッ! ヘボッ! ヘボッ! も一つヘボッ! ヘェ――ボ――――――!!』

『うわあぁぁ……ッ!』

 

 最後の一発でブルが吹っ飛んでいった。

 

『……何かついたぁーッ! 汚ねぇなオイ……! ちょっと洗うか』

 

 無防備に近くの湖の側に寄っていくサルモーネに、聖良と理亞が愕然。

 

『「何やってるんですか!?」』

『「まだ相手がそこにいるじゃない!」』

『いーのいーのあんな奴ら。どっこいしょ』

 

 ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowがしゃがみ込んで水面に手を突っ込み、洗い出す。

 

『あ~気持ちいい。冷たくて気持ちいいな~。最近暑いからな……』

「いい加減にしてよっ! ふざけたことばっかりして!」

 

 善子がウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowの態度に怒鳴ったが、うんざりしたような目で指を向けられた。

 

『うるさいな~妄想イカレポンチ風情が。堕天使ヨハネだぁ? 頭おかしいんじゃないのかお前?』

「なぁっ……!」

 

 散々に罵倒されて、顔が真っ赤になる善子。

 その一方で、ロッソがよろめきながらも起き上がった。

 

『「自分のことをあんな悩んだ善子ちゃんに、あんな言葉浴びせるなんて……!」』

『クズ野郎が……!』

 

 わなわなと震えたロッソが飛び掛かり、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowの後頭部めがけチョップを振り下ろしたが――。

 即座に振り向いたウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowの腕に止められ、ひねり上げられた。

 

『がッ……!?』

『何だぁ~まだいたのか』

 

 悶えるロッソに指を突きつけるウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snow。

 

『いいか? お前らは地味だ。Aqoursも、華やかさってもんがまるでない。あんなザマでラブライブ優勝とかぁ? 学校を救うとかぁ? 輝きたいだぁ!? 出来っこないんだよぉお前ら凡人なんかにはぁッ!!』

 

 罵声を浴びせながらロッソの首に腕を回す。

 

『分かるかぁ? オレの言ってること。凡人の脳みそでよぉく噛み締めろ。んん? オラァッ!』

『「あうぅっ!!」』

 

 ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowの拳が喉に刺さり、梨子が苦しげに息を吐き出した。

 

『特別レッスン終わりッ! チャイム鳴らしますッ!! 理亞ちゃんッ!』

 

 名を呼ばれた理亞が、ためらいながらもリングのスイッチを押した。

 

『ダークストビュームダイナマイトぉーッッ!』

 

 全身が赤く燃え上がったウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowが、既にふらふらのロッソとブルに突撃!

 

『ハイッ! ターッチぃッ!!』

 

 両の張り手が、ロッソとブルの顔面に突き刺さった!

 

『いぇえいッ!!』

『『わあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――!!!』』

 

 ロッソとブルが大爆発に呑まれ――変身を解除された克海と功海、梨子と曜が地面の上に投げ出された。

 

「みんなぁぁぁぁぁ―――――――っ!」

 

 大急ぎで倒れた四人の元へと走っていく善子。花丸と果南も、辛抱ならなくなって飛び出していった。

 

「曜さん! 梨子さん! 克海さん! 功海さんっ! しっかりしてぇ!!」

「ずら丸!? 何でここに……!?」

 

 善子が聞いても、気が動転している花丸には聞こえていない。

 果南はキッと、歯を食いしばりながら傲然と仁王立ちしているウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowをにらみつけた。

 向こうは果南たちに気づくこともなく、吐き捨てるように唱える。

 

『お前たちは所詮、風に吹かれる塵と同じなのだ。『塵積もっても ある意味出来レース』! ウッチェリーナ君、今のオレの格言集に加えてくれ』

[『塵積もっても ある意味出来レース』を、登録しました!]

 

 ウッチェリーナが浮上してきて返答した。

 飛んできたアイゼンテックの飛行船を背景に、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowは高笑いを上げる。

 

『ワ―――ハッハッハッハッ! これからが真のウルトラマン伝説の幕開けなのだぁッ! 世界中は誰を待っている? 世界中は誰を信じてる? お前たちではなぁーいッ!』

 

 インナースペースで聖良と理亞が無表情でいることも気づかず、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowが剣を担ぎながら左手の親指で自身を指し示した。

 

『そうッ! 世界中が、オレを待っている!!』

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

鞠莉「シャイニー☆ 今回紹介するのは、『オーブの祈り』デース!」

鞠莉「この曲は『ウルトラマンオーブ』の主題歌デス! お歌いになったのはお馴染みvoyagerと、あの水木一郎兄貴さんなんデース! 水木一郎さんをご存じない、という方はいませんヨネー?」

鞠莉「歌詞はそのままウルトラマンオーブを熱く応援するものになってマスね! 「二つのパワー」というのは、オーブがLegend戦士二人の力を借りて戦う前例のないHeroだったことから来てマスねー! 最終回だと、もう一つの意味もありますけど」

鞠莉「『ウルトラマンオーブTHE CHRONICLE』でも主題歌として使われてマース! 更に八話からは、May J.さんも加えたVersionが使用されマシタ!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『SELF CONTROL!!』だ!」

功海「アニメで登場したAqoursのライバルグループSaint Snowが劇中で初めて歌った歌だ! Saint Snowの躍動的なダンスシーンと一緒に披露されて、千歌たちにも視聴者にも強い印象を植えつけたぞ!」

克海「Saint Snowは前作のA-RISEポジションとして登場したな。Aqoursとの対決の行方は……」

鞠莉「では、次回でお会いしまショー!」

 




ダイヤ「綾香市に新しい黒いウルトラマンが登場ですわ! 次々と街の人たちを助け、支持を得ていきますが、何か話が出来過ぎているような……」
果南「オーブダーク……あいつは許せないよ……!」
ダイヤ「えっ!? その話は……本当ですの!?」
果南「次回、『ウルトラマンDREAMER』!」
ダイヤ「次回もダイヤッホー! ですわ!」


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ウルトラマンDREAMER(A)

 

\前回のウルトラブライルー「『THE ULTRAM@STER ORB DARK NOIR BLACK SCHWARTZ』ゥゥゥゥッ!!」

 

サルモーネ「ウワ――――ハハハハァ――――! これまでは与えられた力の意味をなーんも理解してないなんちゃってウルトラマンどもがでしゃばっていたが、これからは違うぞぉ! この私、サルモーネ・グリルドが真のウルトラマン伝説を始めるのだッ! 絆の力でぇぇぇぇッ、輝きの向こう側へぇぇぇぇぇッ!!」

 

 

 

 内浦の海岸周辺の上空を、小原家所有のヘリコプターが飛行していた。それに搭乗しているのは、小原鞠莉。

 

「ふぅ……各方面への根回しも楽じゃないわ。でも、これも浦の星のため……」

 

 鞠莉はヘリに揺られながら、大きなため息を吐いた。生徒数減少のため、廃校寸前の浦の星女学院を存続させるために、彼女は学校経営の関係者に話を通しにこうして飛び回っているのだ。

 

「だけどこれでひと段落ついたし、ようやくスクールアイドルに専念できるわ。あとは果南がもう一度スクールアイドルをやってくれれば……果南が考えを改めれば、ダイヤだって……」

 

 二年前に喧嘩別れしてしまい、未だ仲が戻らぬ友に想いを馳せた鞠莉は、ふと思考を別のところに切り替える。

 

「それにしても……この映像……」

 

 取り出したタブレットの画面に再生したのは、綾香にグルジオボーンが再度出現した際に撮影された動画。グルジオボーンに飛び蹴りを決めたロッソが、急にしゃがみ込んで動かなくなる。

 傍から見たら不可解な行動だが、鞠莉はこれを、地上にいる誰かと話をしているのではないかと分析していた。ロッソの目線は、地面の方を向いているのだ。この角度だと、その先に誰がいるのかまでは見えないが……。

 

「もしかしたら、ウルトラマンって……でも、まさかそんな……」

 

 草野球の時に、功海や克海が不自然に球場を離れたことも思い出しながら、一つの可能性を思い浮かべる鞠莉だが、普通ならあまりに突飛な考えなので、今一つ確証が持てない……。

 悶々としていたその時――突然ヘリを衝撃が襲い、鞠莉と操縦士が激しく揺さぶられた。

 

「な、何事!?」

「大変ですお嬢さま! 操縦不能! 高度が落ちていきます!」

 

 操縦士が半分パニックになりながら告げた。

 

「何ですって!? 原因は!?」

「わ、分かりません! うわあああぁぁぁぁぁぁ―――――!?」

 

 操縦桿が全く効かず、地面にめがけ一直線に落ちていくヘリ。――しかし、

 

『でゅうわッ!』

 

 機体が突然巨大な何かに掴まれ、落下は止められた。

 鞠莉は窓の外に見える、巨大な顔を目の当たりにして驚愕した。

 

「う……ウルトラマン!? だけど、黒い……!」

 

 その顔立ちの特徴は、ウルトラマンのもの。しかし、ロッソともブルとも違う、黒い身体のウルトラマンであった――。

 

 

 

『ウルトラマンDREAMER』

 

 

 

「あぁーもうっ! あったま来るぅぅぅぅーっ!」

 

 『四つ角』の居間で、善子がガシガシと頭をかきむしった。その後ろでは、花丸と果南が克海と功海、梨子、曜の手当てをしている。

 

「梨子ちゃん、みんな……大丈夫ずら……?」

「うん……。ありがとう、花丸ちゃん」

「……私たち、負けたんだね……」

「認めたくねぇけどな……」

「ノーヒットノーラン……コールドゲームのボロ負けだ……」

 

 落胆する曜たち。クリスタルの力を使って黒いウルトラマンと化した愛染――宇宙生命体サルモーネ・グリルドに完全敗北を喫した彼らは、ほうほうの体でこの『四つ角』に帰ってきたのであった。

 しいたけも今ばかりは、何かを察したのか、梨子には寄りつかずに庭で心配そうにしていた。

 

「くぅーん……」

 

 戻ってからも、善子は怒りが収まらぬ様子だった。

 

「誰の頭がおかしいよ! あんたの名前なんか、オーブダーク黒黒黒! そっちの方が頭おかしいじゃないっ!」

 

 ウガーと叫ぶことでストレスを発散しているが、すぐに湧き上がってくる善子。と、そこに、千歌とルビィが息せき切って居間に駆け込んできた。

 

「お兄ちゃんもう帰ってるー!? って、果南ちゃん来てたの? っていうか梨子ちゃんたちどうしたの!? お兄ちゃんまでっ! 特別レッスンってそんなキツかったの!?」

 

 目に飛び込んできた光景の情報量が多すぎて混乱気味の千歌を克海が落ち着かせる。

 

「まぁそんなとこ……。それより千歌、一体どうしたんだ?」

「あっそうそう! 今さっきニュースで流れたんだけど……これ見て! 大変だよっ!」

 

 千歌が皆にスマホの画面を見せる。その中に、ニュースの動画が流された。

 

『見て! ヘリがっ!』

 

 内浦の人が偶然撮影したもので、カメラが海の方向に向けられると、小原のヘリコプターが黒い煙を上げて急速に落下していくところが映される。

 

「!? これって鞠莉ちゃんのところのヘリじゃ!」

「えっ!? 鞠莉!!」

 

 克海の言葉に、果南が色を失ってスマホにかじりついた。

 映像の中でヘリが落ちていくが、そこにかのウルトラマンオーブダークの姿のサルモーネが飛んできて、ヘリを受け止めた。

 

「……!」

『黒い巨人は、ヘリコプターを海岸に下ろして飛び去った、とのことです。一体この巨人は何者でしょうか……』

「ね? すごいでしょ? 新しいウルトラマンさんだよー!」

 

 このウルトラマンの正体を知らない千歌は、無邪気にはしゃいでいる。

 

「危ないところで鞠莉さんのヘリを助けるなんて、まさにヒーローだよ! かっこいい……」

「やめて! そいつの話をするのはっ!」

 

 千歌の言葉を、善子が声を荒げてさえぎった。

 

「ど、どうしたの善子ちゃん……?」

 

 面食らって固まる千歌。しかし、善子は名前の訂正も忘れるほどに自分を抑えるのに必死だった。

 

「……?」

 

 克海たちのただごとではない様子と動画を見比べて、ルビィが不思議そうに首を傾げた。

 

 

 

 アルトアルベロタワーでは、ウッチェリーナが記録した先ほどの戦闘の映像をサルモーネが見返していた。

 

[パワー、スピード、スタイル! 全て五段階評価の五といったところです! いえ、スピードは六、パワーに至っては七と言えるでしょう!]

 

 それを受けてサルモーネが気を良くした。

 

「うむ、素晴らしい! まさに7! 6! 5! という訳だ!」

 

 鼻歌交じりにサルモーネが、これからの活動予定を語る。

 

「明日からどんどん活躍して、新たなウルトラ伝説を打ち立てるぞぉ! Saint Snowもアイゼンテックの権力で推して推しまくって、私がアイドルマスターにプロデュースするのだぁッ! アイゼンテック、ファイトぉーッ!」

 

 

 

 千歌たちを退席させると、克海たちの秘密を知った果南が、克海と功海に呼び掛けた。

 

「克兄ぃ、功兄ぃ……ウルトラマンなんてもう辞めてっ!」

「果南ちゃん、何を!?」

 

 曜が驚いて振り向くが、果南の必死の形相で思わず口をつぐんだ。

 

「今回だってそうだし、これまでだって、克兄ぃたちすごく危ない目に遭ってたじゃない……。次は怪我じゃ済まないかもしれない……。克兄ぃたちがそんなことになったら……千歌ちゃんはどうなるの!?」

 

 懸命に訴えかける果南だが、それに善子が感情的に反論した。

 

「それって、負けっぱなしで泣き寝入りしろってこと!? 冗談じゃないわ! 今度はヨハネが梨子と曜の仇を討つのに変身……」

「気分を晴らすなんかより、命の方が大事でしょ!? 未来がなくなっちゃうかもしれないんだよ……!?」

 

 果南が鬼気迫る表情で怒鳴ったので、善子も思わず口を閉ざした。

 

「……確かに、あいつにボロカスに言われて腹が立つ。だが……」

 

 逆説で続ける克海に、果南は一瞬ほっと息を吐いた。

 しかし、

 

「だが――一番腹が立つのは、みんなの夢を侮辱されて、一矢も報いられなかった俺自身だ」

「!? 克兄ぃ、駄目だよ……!」

 

 続く言葉を果南が制そうとしたが、克海はより大きい声で封じ返した。

 

「果南ちゃん、確かに命は大事だ。けど、みんなのことをああも貶されて黙って引き下がるような奴は男じゃないッ! どんな危険があったとしても、絶対に負けられない戦いがあるんだ!!」

 

 克海の強い熱気に当てられ、果南は反対する言葉を出せなくなった。

 

「とはいえ、今のままじゃ勝ち目がないのも分かってる」

「克兄ぃ。あいつと戦って、分かったことがある」

 

 功海も真剣な面持ちとなって発言した。

 

「あいつと比べて、俺たちは攻撃の振りや動作がいちいち大きすぎる。当たらない訳だよ」

「ああ……。梨子ちゃんと曜ちゃんの協力で、俺たちはパワーアップはしてた。だけどそのパワーを制御できてなかった。どれだけパワーを上げたところで、俺たち自身に扱い切れるだけの実力がなかったら何の意味もないんだッ!」

 

 そう結論づけて、勢いよく立ち上がる克海と功海。

 

「特訓だ! 俺たち自身を集中的に鍛えて、一分一秒でも早く奴に食らいつけるようにするぞ、功海!」

「おうよッ! じっとしちゃいられねーぜ! もう今すぐに始めようぜ克兄ぃ!」

 

 血気にはやる克海と功海は、その勢いのままに『四つ角』を飛び出していった。

 

「あっ! 手当てがまだ終わってないずらよ!?」

「克兄ぃ……功兄ぃ……」

 

 傷を癒す暇も惜しむ兄弟の熱意に当てられて、曜、梨子、善子も表情を引き締めた。

 

「功兄ぃたちばかりに苦しい思いはさせられないよ! 私たちも頑張らなきゃ!」

「ええ! パフォーマンスももっと磨いて、二度と地味だなんて言わせないようにするわ!」

「向こうもSaint Snowを取り込んでたからあんなに強かったはず。ヨハネたちも強くなれば、功海たちはもっともっと強くなるわ! 高みを目指すわよぉっ!」

 

 おー! と張り切る三人を、感服したように見つめる花丸。

 

「みんなやる気満々ずら……。マルも、置いてかれないようにしないと!」

 

 その傍らで、皆の様子を目の当たりにした果南は、うつむいて何かを思い返しながら独白した。

 

「負けられない戦い……か……」

 

 

 

 翌日の放課後、梨子、曜、善子は誰よりも早く校舎の屋上に来て、トレーニングを始めていた。

 

「いちっ! にっ! さんっ!……」

 

 三人が声をそろえて一心不乱にバーピーを行う場面に、後から来た千歌が面食らう。

 

「曜ちゃんたち、すごい熱心だね……! 東京でのことを差し引いても……。どうしたの?」

 

 尋ねかけた千歌に、曜たちはトレーニングを続けながら答えた。

 

「ちょっとね……! どうしても、今より実力を高めないとって思うことがあって……!」

「千歌ちゃんは気にしないで……! 私たちが、自主的にやってることだから……!」

「そ、そういう訳にはいかないよ! みんなが頑張ってるのに、私が頑張らない訳には! でも、そんなに頑張るのは……」

 

 一生懸命な梨子たちの姿に、千歌は何かを得心した。

 

「……そんなに夏祭りのイベントが楽しみなんだね!」

 

 ずれた解釈をしていた。

 とそこに、屋上にルビィと花丸がスマホを抱えながら駆け込んできた。

 

「た、大変だよぉ~!」

「これ見てずらぁーっ!」

「どうしたの?」

 

 千歌たちがスマホの画面に注目する。

 そこには、内浦と綾香間を運行するバスが崖から落ちかけ、そこをオーブダークが救出する内容の動画が流れていた。

 

「また黒いウルトラマンさんが出て、バスを事故から救ったってニュースで……」

「また!?」

「すごい! 二日連続で町の人たちを助けるなんて……ヒーローそのものだね!」

 

 何も知らない千歌は無邪気に興奮しているが、オーブダークの正体を知る梨子たちは複雑な顔をしていた。

 

 

 

 理事長室では、鞠莉が小原家のヘリコプターの整備士と電話をしていた。

 

「ええ、クラスのみんなにもすごい心配されちゃったの。……気にしないで。あなたたちの整備に不備があったなんて、思ってなんかいないから」

 

 責任を感じている整備士を優しくなだめた鞠莉は、相手に問いかけた。

 

「でも、事故の原因は何だったのかしら。急に操縦不能になるなんて……。何か分かった?」

『それが……』

 

 整備士はとても言いづらそうにしながらも、次のように回答した。

 

『ありえないことだとは重々承知しておりますが……どう調べても、外から強い衝撃が加えられたとしか思えないんです……』

「強い衝撃……!? 外から……?」

 

 思わず唱え返す鞠莉。

 

「……いいえ、嘘を吐いてるなんて思わないわ。だけど……一体誰がどうやって……。まさか……」

 

 

 

 その日の帰り。綾香に到着したバスから降りた曜と善子は、オーブダークの二度目の救出劇のことを話し合った。

 

「でも、何か変じゃないかな……。今まではヘリや車が落ちかけるなんて大きな事故、一度もなかったのに、二日立て続けで起きるなんて」

「それに、あの男はどうして事故を事前に察知できるのかしら。まさか、天界の宣告が聞けるんじゃ!?」

「……まぁ、克兄ぃも直感力じゃないかって言ってたけど……ほんとにそうなのかな……」

 

 疑問に思いながら公園前に差し掛かると――公園内に走っていくサルモーネの後ろ姿を発見した。

 

「あっ……!」

「あいつ、こんなところで何を……」

 

 サルモーネを警戒する曜と善子は、隠れながら後をつけて様子を見張る。

 公園に入ったサルモーネは、待ち惚けている小さい女の子の下へ駆け寄っていった。

 

「ミヨちゃーん、お待たせー。愛と正義の伝道師、愛染正義です」

「マサちゃん遅いよぉ」

「ごめーん。はいこれ」

 

 サルモーネは女の子に、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの人形を差し出した。

 

「わぁ~、ありがとう!」

「こっちこそありがと。けど、ちょっとだけ間違えちゃったね。シュワルツ、じゃなくて、シュバルツ、なんだよ」

「長いんだもん。その名前嫌い! 覚えらんない!」

「……!」

 

 女の子が走り去っていっても、サルモーネはショックを受けて立ち尽くしていた。一連の流れを、怪訝な顔で見届けた曜と善子。

 

「……何やってたんだろ?」

「さぁ……。知りたくもないわ」

 

 

 

 次の日の休日、克海と功海は旅館のことを父親に頼み、朝から山で特訓に打ち込む手筈だった。の、だが……。

 

「なーんで、千歌たちまでいるんだよ?」

 

 特訓場に千歌、梨子、花丸、ルビィの四人がいることに功海が突っ込んだ。千歌以外は苦笑を浮かべている。

 

「いいじゃーん。お兄ちゃんたち、野球の特訓してるっていうから、一緒に練習しようって思って。私たちも今、夏祭りに向けて特訓中なんだよ!」

 

 千歌がそう言うと、梨子が克海に囁きかけた。

 

「私たちもトレーニングしてるのを見て、千歌ちゃんもすっかり乗り気になっちゃったんです」

「すまない、梨子ちゃんたちまで巻き込んで……」

「いいんです……。私たちも、負けたくない気持ちは同じです」

「そうか……。けどそれじゃ、曜ちゃんと善子ちゃんも?」

「はい。でも、ちょっと遅いですね……」

 

 

 

 その頃、曜と善子は内浦へのバス停に向かおうとしていたのだが、今は喫茶店の店先のテーブルをとある二人と囲んでいた。

 

「それで……本当に、愛染――ううん、サルモーネの仲間になるつもりなんだね? Saint Snowのお二人さん」

 

 その相手とは、聖良と理亞の二人。街中でばったり会った曜たちは、内浦に行く前に彼女たちと話をすることにしたのだ。

 

「そもそも、あなたたちはどうやってあいつと出会ったの?」

 

 先日のこともあり、つんけんしている善子が問いかけると、聖良が落ち着き払いながら答えた。

 

「東京でのイベント後、あの人から直々にお誘いを受けました。私たちの才能を見込んだということで。もちろん初めは、あまりにも突飛な話に戸惑いましたが……彼から見せてもらったんです。私たちの知らない、宇宙という広大な世界で活躍するアイドルの姿を」

 

 そう語ると、聖良の頬はやや上気する。

 

「衝撃でした。μ'sやA-RISEにも劣らぬ輝きを放ち、更に命をも護る力を持った人たち……。サルモーネさんは、自分に協力すれば私たちをあの人たちと同等のアイドルに導いてくれると約束してくれました。私たちも、私たちが人命を助けることが出来るのなら助力は惜しみません」

 

 聖良の言葉に、理亞が無言でうなずいた。

 聖良は曜と善子の瞳を正面から覗き込みながら宣言する。

 

「先の対決で分かったと思いますが、あなたたちではヒーローには力不足です。これからは、私たちがこの街を守ります」

 

 

 

 克海と功海と一緒にトレーニングを始めた千歌たちであるが、千歌は二人の特訓のあまりの激しさに、見ているだけで疲れてしまっていた。

 

「はぁ、お兄ちゃんたちすごい張り切ってるなぁ……。だけど、野球にあんな特訓必要なのかな?」

 

 筋トレや投球練習ならいざ知らず、剣技の練習まで行っていることに流石に疑問を感じる千歌。

 

「梨子ちゃんはどう思う?」

「わ、私にはよく分からないわ。でも、克海さんたちがやるからにはそうなのよ」

 

 真実を知る梨子は目を泳がせながらごまかした。

 

「そうなのかな……。あれ?」

「どうしたの?」

 

 視線を梨子から外した千歌が、不意にあらぬ方向を見やった。

 

「何か、誰かに呼ばれたような……あっちの方から……」

「あっ、千歌ちゃん!?」

 

 ふらふらと山の奥へ立ち入っていく千歌を慌てて追いかける梨子。異常に気づいた花丸やルビィ、克海と功海も手を止めて後を追っていった。

 

「待って千歌ちゃん! どうしたの……」

「あっ、あそこ見て!」

 

 茂みをかき分けていった千歌が、正面を指差す。

 その先、一本の樹が上に生えた洞穴から、琥珀色の光が漏れ出ていた。明らかに、普通の光景ではない。

 

「あの光、何だろ……?」

「みんな待った。危険なものかもしれない。俺と功海が先に見てくる」

「気をつけてね、お兄ちゃん!」

 

 注意を引きつけられる千歌たちをその場に留めて、克海が慎重に洞穴の中に入っていった。

 洞穴はさほど広くはないが、その奥部で幾重にも積まれた石の下から、琥珀色の光は生じていた。この石に、何かが隠されているようだ。

 

「何だありゃ……」

「石を崩してみるか」

「よぅし……!」

 

 克海と功海は協力して積まれた石を取り払っていった。すると下から、輝く何かが浮き上がってきて、克海の手の平の中に収まった。

 

「これって……!」

「……ルーブクリスタル!」

 

 琥珀色の光の正体は、「土」の字がV型の冠のウルトラ戦士とともに刻まれたクリスタルであった。

 

 

 

 聖良の話を聞いた善子は、バンとテーブルを叩いて腰を浮かした。

 

「だけど、あいつのこと見てたでしょう!? あんな人に散々罵声を浴びせるような奴が、本物の聖戦士だと思うの!?」

 

 そう言われると聖良も理亞も一瞬言葉に詰まったが、それでも聖良が反論した。

 

「ですが、あなたたちは彼に全く太刀打ちできなかった。それが現実です」

「うっ……それは、そうだけど……」

「それに、あの人の正義のために行動する気持ちは確かです。あなたたちも、知ってるでしょう? サルモーネさんは、既に二度も事故を未然に防いでます。失礼ながら、あなたたちにその経験はありますか?」

 

 これに善子たちは何も言い返せなかった。確かに、自分たちは怪獣が現れてからでしかウルトラマンに変身したことがないが……。

 その時に、街頭テレビにあるニュースが流れる。

 

『続いての話題は、黒い巨人です。連日綾香市の人々を事故から救っている黒い巨人ですが、昨日も小学三年生の相馬美代子ちゃんの手を離れた、赤い風船を捕まえ返してくれた、とのことです』

 

 オーブダークの話題が流れ、四人の目が街頭テレビに向けられるが、曜と善子はインタビューを受ける件の少女の顔に注目して目を細めた。

 

『ミヨちゃんね、お名前聞いたの』

「あれ? あの子……」

 

 その顔に見覚えがあったのだ。昨日、サルモーネが公園で会っていた女の子と、同じ顔なのだ。

 更に女の子は、こう唱えた。

 

『あのね……ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュワルツ!』

「!!」

 

 いきなり曜たちが立ち上がったので、聖良たちは面食らった。

 

「シュワルツじゃなくて……!」

「シュバルツ! そういうことだったんだ!」

「ど、どうしたんですか?」

 

 戸惑う聖良と理亞に、曜と善子は顔を近づけて訴えかけた。

 

「よく聞いて! あいつは、正義の味方なんかじゃない!」

「あなたたちは騙されてるのよ! あの天使の面を被った悪魔に!!」

 



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ウルトラマンDREAMER(B)

 

「お兄ちゃんたち、洞穴で何見つけたんだろ。教えてくれないなんて~……」

「まぁまぁ。克海さんたちにも色々あるのよ」

 

 克海と功海が洞穴で発見したクリスタルを調べている間、外で待たされている千歌が不満を抱いてうなっているのを梨子がなだめる。

 

「む~……ところで、曜ちゃんと善子ちゃん、まだ来ないのかな」

 

 千歌がふと、意識を曜と善子の方に向けた。

 

「ここ圏外だから、連絡するには下まで降りないと」

「だったらルビィが行ってきます。近くまで来てるかもしれませんし」

「マルも行くずら」

「ありがと!」

 

 ルビィと花丸が名乗り出て、電話と様子見のために下山していく。

 しかし偶龍璽王神社の長い石段の近くまで来たところで、誰かが騒いでいる声が聞こえてきた。

 

「放してっ! いい加減しつこいよ!?」

「スクールアイドルに復帰してくれるって約束するまで、絶対放さない~!」

「二人ともおやめなさい! ここは神域ですのよ!?」

「あれ? 今の、お姉ちゃんの声……」

「何か言い争いみたいずら」

 

 聞き馴染みのある声に、ルビィと花丸が顔を見合わせて、騒ぐ声のする方へと足を向ける。

 そして石段の途中の休憩場所で、果南の腰にしがみつく鞠莉と、引き離そうとする果南、揉み合いになっている二人を仲裁しようとしているダイヤの三人を発見した。

 

「お姉ちゃん!?」

「ルビィ! どうしてこんなところに?」

「お姉ちゃんこそ、どうして……」

「というか、何やってるんですか? こんなところで」

 

 揉み合う鞠莉と果南に手を焼いているダイヤは、ルビィと花丸に事情を説明した。

 

「実は鞠莉さんが、果南さんをスクールアイドルに戻らせようとつき纏って……果南さんが逃げようとしたら、鞠莉さんがしがみついてきて、こんなことになったそうですの。わたくしは二人が神社で騒いでいるなんて聞いたので駆けつけましたの。ほらお二人とも、一度落ち着きなさいな!」

 

 むしろ言い争いが過熱する果南と鞠莉の間に割って入ろうと四苦八苦するダイヤ。ルビィと花丸は呆然としながらその様子を見つめた。

 

「理事長さん、あそこまでやるなんて……」

「二人とも意地っ張りずら」

 

 などとつぶやいていたら、下から本来の目的である曜と善子が石段を息せき切って駆け上ってきた。

 

「おーい! ルビィちゃん、花丸ちゃーん!」

「あっ、曜さん! 善子ちゃん!」

「善子ちゃん遅いずら!」

「善子じゃなくてヨハネよ! ってそんなことより、功海たちはどこ!? こんな時に携帯つながらないし!」

 

 よほど急いで来たのか、ぜいぜい息を切らしながら善子が問うてきた。

 

「ど、どうしたの? そんな急いで……」

「大変! 大変なことが分かったんだよ! 早く功兄ぃと克兄ぃに知らせなくっちゃ!」

「オーブダーク! あいつは悪夢の道化師よ! 一昨日からの事故は、全てあいつが……!」

「わー! 待つずら待つずら!」

 

 口走る曜と善子を、花丸が慌てて止める。

 

「そこにダイヤさんたちがいるずらよ!」

「えっ!? あっ!!」

 

 曜たちは急ぐあまりに、すぐそこのダイヤら三人の姿が見えていなかった。口をつぐんでももう遅く、今の言葉は三人にしっかりと聞こえていた。

 

「……!」

 

 顔つきが一変した鞠莉は、果南の腰から離れると、ツカツカと曜と善子に歩み寄ってきて肩をがっしり掴んだ。

 

「――知ってること、全部話して!」

 

 

 

「サルモーネさんっ!」

 

 曜たちと別れた後の聖良と理亞は、アルトアルベロタワーの社長室に突撃し、サルモーネと面と向かっていた。

 

「んん? 聖良ちゃんたちじゃない。そんなに急いでどうしたの」

 

 フィットネスバイクを漕いでいるところであったサルモーネが聞き返すと、聖良たちは強張った顔で彼を問い詰めた。

 

「Aqoursの人たちから聞きました……。あなたが防いだ事故は――あなたが起こしたものなんですか!?」

「ええ?」

「昨日、風船を捕まえてもらった女の子が、その後であなたと会ってたところを見たと言ってました。……あれは、仕込みだったということですね……!?」

 

 険しい顔の二人とは反対に、サルモーネはひょうひょうとした態度のままバイクから下りる。

 

「あー、それ知っちゃったかー。意外と早かったねぇ」

「!? 認めるんですね……今までの人命救助は、自作自演だと!」

「どういうつもり!? 私たちは、あなたがこの世に正義と希望を見せるというから……!」

 

 怒鳴りかける理亞を制して、サルモーネが肩をすくめながら語り出す。

 

「まぁまぁ落ち着きたまえ。私は何も嘘は言ってないよ? これも世界中の人間に、愛と正義を伝導するためさ」

「は……? 何を言って……」

「いいかい? ウルトラマンは人々に希望を与える、正義の味方だ! しかし正義の味方には必要なものがある。それは活躍の場だよ! 何の事件もない場所では、どんな正義も昼行燈みたいなもの。世の人間が希望という光の尊さを知るには、必要なのだよ……絶望という暗闇がね」

 

 サルモーネの言わんとするところを察して、聖良と理亞はみるみる青ざめていく。

 

「……黒澤ルビィさんを怪獣に閉じ込めたのは、あの人たちを鍛えるためというから引き下がりましたが……今度は自分の活躍のために……!?」

「正気なの!? 他の人の命を危険に晒して、何でそんな平気な顔してるのっ!」

 

 非難をぶつける理亞であるが、サルモーネの表情はやはり崩れない。

 

「人聞き悪いなぁ~。私のやってることと、君らのやってることは、そうそう違わないだろう?」

「は……!?」

「アイドルだって無償で歌ったりしてる訳じゃあない。彼女たちの歌い踊る姿を見るために、人々はお金や時間などを代償に支払ってる訳だ。君らスクールアイドルにも、何人の人間が多額の投資をしているか。ああそれが悪いことだと言ってるんじゃないよ? 世の中ってそういう風にして回るんだから。つまりぃ、人がお金を出してアイドルのライブを楽しむのと、身の危険という代償と引き換えに正義と希望を知るのと、あんまり違わないだろう? って話」

 

 サルモーネの論法に、聖良たち姉妹は絶句。

 

「そもそも命の危険っていうけどさぁ、そんなものはないんだよ。最初から、この私に助けられるというのが決まってるんだから。ちょっとの間怖い思いをするだけで、彼らは大いなる希望をその身で感じられたんだ。何の問題がある?」

 

 二人がドン引きしていることも気づかずにスラスラ語り続けるサルモーネ。

 と、そこに、社長室の窓の外へと急速に向かってくる二つの飛行物体。――克海と功海が変身した、ウルトラマンロッソフレイムとブルアクアだ!

 

『サルモーネ! 全部聞いたぞ! お前のマッチポンプ!』

『今度という今度は許しておけねぇ! 表に出やがれ!』

 

 二人から挑戦を叩きつけられ、サルモーネはニヤリと嗤った。

 

「リターンマッチに来たか。返り討ちにしてくれよう! 聖良ちゃん、理亞ちゃん!」

 

 サルモーネはAZジャイロを取り出しながら聖良たちに変身を呼び掛けたが……。

 

「ふざけないで下さいっ!」

「あり?」

 

 返ってきたのは、激しい敵意だった。

 

「あなたがそんな人だったなんて……失望しました! 私たちは、そんな自己満足に協力するためにここに来たんじゃありませんっ!」

「あんたと一緒に戦うなんて……二度とごめんよっ!」

 

 二人に拒絶されたサルモーネだが、少しも応えた様子もなく唇をとがらすだけだった。

 

「ちぇ~、つれないなぁ。いいよいいよ、一人でやりますよ」

 

 まるで執着を見せることもなく、サルモーネはジャイロに剣のクリスタルをセットする。

 

[ウルトラマンオーブ!]

「あ団結ッ! あ団結ッ! オールフォーワーンッ!!」

 

 ジャイロのグリップを三回引いて、オーブリングNEOを召喚。掴んだその手からリングが闇に染まり、中央のボタンが押された。

 

「絆の力……お借りしまぁすッ!!」

 

 オーブリングNEOの力で、サルモーネが再び闇のウルトラマンに変身する!

 

ウルトラマンオーブダーク!

『でゅわッ!』

 

 先に人のいない山地に向かって飛んでいたロッソとブルだが、その間を変身したサルモーネが高速で突き抜けて追い越していった。

 

『でゅわぁッ!』

 

 格好つけながら着地したサルモーネのウルトラマンは、振り向きざまにカリバースラッシャーを繰り出す。

 

『うわッ!』

 

 不意打ちを食らったロッソとブルは空中から地面へと墜落させられた。

 

『フハハハハ! 今日は無印のウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツだぁーッ!』

 

 無印と言いながらそれでも長い名前を口走るウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツに対して、ロッソとブルは立ち上がりながら詰問した。

 

『自分でヘリを落としたんだよなぁ!?』

『バスもお前の仕業なんだな!? ヒーローになりたくて、事故をでっち上げたのかよッ!』

 

 怒るロッソたちとは対照的に、サルモーネはやはり悪びれた様子が欠片もない。

 

『それの何が悪い? オレは人々が求めているものを与えただけだ。愚かで弱い民衆を導く、希望の光をな。……と、油断させてる隙に……!』

 

 ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツが密かにオーブダークカリバーのリングを「氷」に合わせ、剣を一気に振り上げる。

 

『闇を抱いてひがみとなれッ! オーブダークアイスカリバーッッ!』

 

 冷気に覆われた刀身から、氷の荒波が発せられてロッソとブルに襲い来る!

 が、ロッソとブルはバク転で氷を回避。同時にクリスタルチェンジしてロッソアクアとブルフレイムに変わった。

 

『ほぉう? 少しは動けるようになったみたいだな。しかし、ひがみを超えて闇を斬ることが出来るかなぁ!?』

 

 手招きして挑発するウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ。ロッソとブルはルーブスラッガーを抜き、一気呵成に斬りかかっていく!

 

『はぁぁッ!』

 

 振るわれるロッソの双剣を、かいくぐってかわすウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ。

 

『ぬわッはッはッ遅いッ! その程度でよくまぁリベンジなど』

『てやぁぁぁぁーッ!』

 

 大笑いするウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツだが、その後ろからブルがジャンプしながら長剣を振り下ろし、肩を切り裂いた。

 

『ぬあぁぁぁぁッ!? 何だとぅ!?』

 

 背後からとはいえ反応できなかったウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツが驚愕。それからもブルが剣を縦横無尽に走らせるのを、防ぐので手いっぱいであった。

 

『せぇぇぇぇいッ!』

 

 一回転したブルの水平斬りが、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの腹部に叩き込まれる。

 

『ぐぇぇッ! な、何だこいつ!? 一日二日鍛えただけで、こんな太刀筋になるとは思えんぞ!? まさかッ!』

 

 ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツは、よく目を凝らしてブルのインナースペースにいる人物を確かめた。そこにいるのは、

 

『「――がんばルビィ!」』

 

 ルビィだ!

 

『いつもの奴じゃないッ! お前はあの時の、ふざけた名前の小娘ッ!』

『ふざけてるのはお前のやってることだろッ!』

 

 ブルが振るったスラッガーから、光刃が放たれる。

 

『ぬえいッ!』

 

 それをどうにか受け流したウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツだが、その先にロッソが回り込んで、光刃を更に重ねて打ち返す。

 

『うりゃあッ!』

『ぐわああぁぁぁぁーッ!』

 

 交差した光刃をまともに食らって膝を突くウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ。それを見下ろすのは、ロッソのインナースペースにいる人物。

 

『「愛染正義! いいえ、サルモーネ・グリルド! あなたの悪行三昧、ここで成敗して差し上げますわ!」』

 

 ダイヤである!

 

『誰だお前!?』

 

 ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツが目を見張った。

 今のロッソとブルと変身しているのは、ダイヤとルビィの姉妹。兄弟と姉妹のダブルコンビネーションが、偽善のウルトラマン打倒に燃えているのだ!

 

 

 

 克海と功海は報せを受け、千歌のことを梨子に任せて曜たちの元へ駆けつけていた。

 

『何だって!? 本当なのか!』

『うん! 確かにこの目で見たの! あいつの不正!』

『道理で奴に都合のいいことばかり起こると思った……!』

 

 曜たちからサルモーネのマッチポンプを聞かされた克海たちは、怒りに打ち震える。果南もまたギリッ……! と奥歯を軋ませた。

 

『許せないっ……! ダイヤの妹だけじゃなく、鞠莉にまで……!』

『果南……!』

 

 散々袖にされていた鞠莉は、少し驚いて果南の顔に振り返った。

 克海と功海は互いに顔を見合わせる。

 

『もうあいつの好きにはさせておけない! 功海ッ!』

『おうよッ! ぶっ飛ばしてやる!』

『私も行くよ! 今度こそやっつけるんだから!』

『いいえ、ヨハネにやらせて! 堕天使の裁きを与えてやるわ!』

 

 曜と善子が先を争うように名乗り出たが、それを制したのがルビィであった。

 

『待って下さい! ルビィに、戦わせて下さい!』

『ルビィちゃん!?』

 

 曜たちは驚愕してルビィに振り向いた。

 

『何言ってるか分かってる!? すごく危険なんだよ!?』

『そんなに自分への仕打ちに怒ってるの?』

『ううん、恨んでるとかじゃない。だけど……!』

 

 ルビィは強い意志を瞳に込めて、思いの丈を打ち明けた。

 

『もう誰も、ルビィみたいな怖い思いをする人は出させたくない! あの人の身勝手で苦しめられる人たちを、助けたいっ!』

『ルビィ……!』

 

 ルビィの熱い眼差しを一身に浴びる功海。

 

『それなら、私だって……!』

 

 果南が身を乗り出しかけたが、ダイヤがその前に腕を差し込んだ。

 

『いいえ! あの男に引導を渡すなら、わたくしが先ですわ!』

『ダイヤ!』

 

 ダイヤの瞳には激しい激情の炎が灯っていた。

 

『克海さんたちの真実、この綾香市で起きていること、驚きました。しかしそれ以上に、わたくしの大事なルビィと鞠莉を殺しかけておいて、のうのうとしているあの男への怒りを感じています! 晴らさないことには、どうにかなってしまいそうですわ!』

 

 それぞれ激しい感情を抱える黒澤姉妹を前にして、克海と功海は目と目を合わせ、そしてうなずき合った。

 

 

 

 そして二人とともにウルトラマンに変身し、ここにいるのだ。

 

『俺たちはヒーローになりたいんじゃない!』

『俺たちが戦うのは、悲鳴を上げる人がいるからだ!』

 

 ロッソとブルはウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツに対して、はっきりと言い放つ。

 

『その人たちのために戦うんだ!』

『それがウルトラマンってもんだろ!』

『だから俺たちは、ウルトラマンの名の下に!』

『『お前を倒す!!』』

 

 宣言したロッソとブルに、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツは激昂。

 

『ウルトラマンの名の下にだぁぁぁ―――――!? ひよっこどもが知った口聞きやがってぇぇッ! 身の程を知れぇぇぇいッ!』

 

 魔剣をブンブン振り回して二人に斬りかかるウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ。ブルが剣をかわし、ロッソが双剣で鍔迫り合いをする。

 ロッソとにらみ合うウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツに、ダイヤが怒りを込めた言葉をぶつける。

 

『「偽りの希望で、人々を導くですって!? ルビィも鞠莉も自分の玩具にして、偉そうなことをベラベラと! 恥を知りなさいっ!」』

『うるさぁいッ! 思い出したぞ~! お前は二年前、東京で歌うことすら出来ずに尻尾を巻いて逃げ帰ったスクールアイドル崩れだなぁ!? そんなガラクタが、ガラクタどもを玩具にされて成敗などと、片腹痛いわぁッ!』

『「ルビィも、鞠莉も、誰もガラクタなどではありませんわっ!」』

『ハァッ! 学校を舞台にアイドルとか、お遊びでアイドルやってるガキどもがガラクタ以外の何だと言うのだッ! Saint Snowだってそうだ! 大人しくオレに従ってりゃあアイドルの頂に立てるというのに! あんな一時の感情に流されるようなケツの青いアマチュアがぁ、このオレの力なくして真のアイドルになどなれるはずがなぁいッ! どいつもこいつもアホばっかりだぁッ!!』

『「っ!」』

 

 ロッソがウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツを押し返し、ダイヤが目元に力を込めてにらみつけた。

 

『「わたくしは、あなたには絶対に負ける訳にはいかなくなりました! スクールアイドルを――いいえ、アイドルそのものを馬鹿にしているあなたには!!」』

『なぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいッッ!!?』

 

 サルモーネはビキビキと血管が浮き上がるほどに発憤。

 

『この(アイドル)正義(ウルトラマン)の伝道師に向かって、何たる言い草だぁぁぁぁッ! 許さぁぁぁぁあああああああ―――――――――――んッッ!!』

 

 怒り狂ったウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツが、リングのスイッチを押してダークストビュームダイナマイトを発動。空中に浮かび上がる。

 

『紅にぃぃッ! 全て燃えて灰になれぇぇぇぇぇぇッ!!』

 

 上空からロッソへと突撃を掛けようとするウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ。

 

『今だッ!』

『「ええ!」』

 

 だがその瞬間に、ダイヤがクリスタルホルダーに手を伸ばした。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

 

 ホルダーから取り出したのは、先ほど克海たちが手に入れたばかりの土のクリスタル。それを指で弾いて、二本角を出してルーブジャイロにセットする。

 

[ウルトラマンビクトリー!]

 

 ダイヤの背後でVの字のカラータイマーを持つウルトラ戦士のビジョンが胸を張り、土が弾けた。

 

『纏うは土! 琥珀の大地!!』

 

 ロッソの合図の下に、ダイヤがジャイロのグリップを引いていく。

 

『「ダイヤッホー!」』

 

 高らかに叫んで三回目を引くと、ダイヤの周囲が渦巻く土で覆われた。

 

[ウルトラマンロッソ! グランド!!]

 

 土の力をその身に宿した琥珀色のロッソが、大地を砕いて立ち上がった!

 

『でゅわあぁぁ――――!』

 

 新たな姿となったロッソの中で、ダイヤは静かに向かってくるウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツを見据える。

 そして十分な距離まで引きつけてから、足元の地面を拳で叩いた!

 

「『グラビティホールド!!」』

 

 土が噴き上がってウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツを取り囲むと――その黒い肉体を、空中でビタッと止めて静止させた。

 

『う、動けな……!?』

『おおおぉぉぉぉりゃあああああッ!!』

 

 更にロッソが両の拳を振り下ろすと、高重力で身動きを封じられたオーブダークが土ごと地面に叩きつけられた!

 

『ぐはぁッ!? し、省略するなと……うおおおぉぉぉぉぉ!?』

 

 地面に押さえつけられるオーブダークは、最早顔を上げることすら出来ない。

 

『「克海さん! お姉ちゃん! すごい!」』

『全てをつなぎ止め、支え、守る。これが大地の力だ』

 

 ロッソが唱えると、ダイヤが固くうなずく。

 

『「わたくしたち人間も同じですわ。誰も一人で生きているのではない。互いに支え合いながら、明日を生きていく! 一人が集まり、皆で進む未来!」』

 

 ダイヤとルビィが声をそろえて、高々と謳った。

 

『「「ワンフォーオール!!」」』

『な、何を小癪な……ぬああぁぁぁぁッ!!』

 

 その場から一歩たりとも動けないオーブダークに、ブルがとどめの攻撃の準備をする。

 

『終わりにしようぜ!』

『「うんっ!」』

 

 ルビィが風のクリスタルから一本角を出して、ルーブスラッガーにセットした。

 

[ウルトラマンティガ!]

 

 ブルがX字に剣を振るい、交差した光刃に炎を乗せて撃ち出す!

 

「『ブリンガーフラッシュ!!」』

 

 オーブダークカリバーを杖にしてようやく立ち上がったオーブダークだが、その時には既に遅い。

 三枚の風と炎の刃が、オーブダークにぶち当たって回転し、偽りの光を引き裂いていく!

 

『ぐわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――ッッ!!!』

 

 オーブダークの肉体が粉々に砕け散って爆発し、宙を舞った魔剣がブルたちの背後に突き刺さり、そして消え失せていった。

 

 

 

「ぐッ……うぅぅ……!」

 

 オーブダークの身体を砕かれ、愛染の姿に戻されたサルモーネは、立ち上がることも出来ない状態ながら地面の上を這いずり、落としたオーブリングNEOを手に取ろうと腕を伸ばす。

 

「あ、あと少し……!」

 

 もう数センチで指が掛かる――その時に、克海の手がリングを掴んでサルモーネから遠ざけた。

 克海とともに、功海や黒澤姉妹、現場に駆けつけた曜たちも倒れたままのサルモーネを見下ろす。

 

「これでウルトラマンに……!」

「なッ!? か、返せぇッ! 私のリング……!」

 

 血相抱えて克海の足に腕を伸ばすサルモーネだが、その手の甲を、ガッ! と果南の踵が踏みつけた。

 

「ぐあぁッ!?」

「……」

「ひッ!?」

 

 果南から計り知れないまでの怒気をぶつけられ、怖気づくサルモーネ。だが果南は何の言葉も浴びせずに、唾棄するようにサルモーネから背を向けた。

 克海たちはリングを取り上げ、サルモーネの前から立ち去っていく。

 

「こいつは俺たちが預かる」

「もう二度と使わせねぇ」

「ま、待てぇ……!」

 

 サルモーネには彼らを追いかける力すら残っていない。

 そこに、克海たちと代わるように、聖良と理亞もやってくる。

 

「……私たちは、函館に帰ります。短い間でしたが、お世話になりました」

 

 聖良がペコリと頭を下げると――アイゼンアイドルスクールへの転入手続きの書類を、ビリビリに破ってサルモーネの目の前に投げ捨てた。

 理亞は、サルモーネを一顧だにもしなかった。

 

「――うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――!!」

 

 正義(リング)も、(アイドル)も一辺に失ったサルモーネの絶叫が、野原に響き渡った。

 

 

 

 数日後、綾香市の夏祭り。

 克海と功海は岸部から、海上に設置されたステージで歌い始めるAqoursを見つめている。

 

(♪未熟DREAMER)

 

「いや~、まぁ色々あったけどさぁ、終わり良ければ全て良しって感じだな。何もかも、丸く収まったじゃん」

 

 功海が快活に笑いながら、舞台上の『九人』に目を向ける。

 

「ああ。Aqoursは、これで本当の姿になったと言えるな」

 

 克海が温かい目で見つめるのは、舞台の中央の、鞠莉、ダイヤ、そして果南。

 

「けど果南が頑固にスクールアイドルを拒んでたのが、鞠莉のためだったなんてなぁ。克兄ぃも初めから言ってあげりゃよかったのに」

「あくまで部外者の俺が口を挟んだら、余計に話がこじれるかもしれないだろ? 果南ちゃんたち、かなりの意地っ張りだからな」

「それもそうかもな。でも、スクールアイドルのために留学の話を次々蹴ってた鞠莉のことを気に病んで、東京のイベントを口実に強引に活動打ち切るとか……三年生組は、色々とやることが極端だな。そのせいでめんどくさいことになるとか」

「まぁな……。だけど、やっとみんな素直になれたんだ。今までの分も取り戻すほど、みんな飛躍していくだろう」

 

 安堵の眼差しでAqoursの活躍を見守る克海。そこに功海がもう一つ尋ねかける。

 

「ところでさ、果南たちの元々のグループの名前もAqoursだったんだって? これって偶然なのか?」

「まさか。千歌たちが名前を決める時に、砂浜にいつの間のか書かれてたって名前……書いたの誰だと思う?」

「え? その時の果南の訳ないし、鞠莉も砂浜にはいなかったろうし……あッ、まさか!」

 

 ダイヤを見やる功海。克海はフッと破顔した。

 

「一番反対してるように見せかけて、一番応援してた訳だ。ダイヤちゃんは」

 

 

 

 ――アルトアルベロタワーの隠し部屋。サルモーネはクリスタルホルダーを前にして、プルプルと震えている。

 

「ワンフォーオールだとぉ……!? ちっくしょぉぉぉぉッ!!」

 

 怒りのままにクリスタルを弾き飛ばして八つ当たりしたサルモーネ。だがすぐに我に返ると、慌てて床に散らばった怪獣クリスタルを拾っていく。

 

「あぁぁぁごめんねごめんねッ!」

 

 クリスタルにペコペコ謝るサルモーネ。その背後から氷室が近寄り、彼に一枚のクリスタルを差し出す。

 

「社長、これを」

 

 氷室から、「獣」と書かれたクリスタルを受け取ったサルモーネの顔が、ニタリと歪む。

 

「そうだ……まだこいつがあった……!」

 

 ククク、とほくそ笑むサルモーネの背後で、氷室は眼鏡のレンズを怪しく光らせていた――。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

千歌「かんかんみかん! 今回紹介するのは『ウルトラマンビクトリーの歌』だよ!」

千歌「この歌は以前紹介した『ウルトラマンギンガの歌』と同じで挿入歌なの! タイトルの通り、ビクトリーさんが活躍してる場面で流されてたね」

千歌「だけど劇中で使用されたのは四回だけ。それも前半に集中してたから、「ギンガの歌」よりは印象に残ってないって人も多いんじゃないかな? でもシェパードンセイバーの初登場を盛り上げてくれたよ!」

千歌「歌詞は王道的なヒーローソング! それとビクトリーさんが地底人のビクトリアンのウルトラマンだから、大地とか地球とか、土に関する言葉がサビに使われてるね。ビクトリーさんのイメージにピッタリだね!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『未熟DREAMER』だ!」

功海「第一期第九話の特殊エンディングとして使用された歌だな! アニメ版において、初めて九人がそろったAqoursの初ライブ曲という大事な場面を飾った曲だぞ!」

克海「千歌たちは大きな壁にぶち当たったばかりで、三年生たちも未熟だった。それでも夢に向かって進んでいく決意をしたことを象徴する一曲だ!」

千歌「それじゃあ、また次回でね!」

 




果南「オーブダークを破って、克兄ぃたちも私たちも新しい一歩を踏み出した! だけどその矢先に、また大きな壁が! あなたは何者!?」
鞠莉「違う宇宙から来た!? ウルトラマンを知ってる!? 一体誰なんですかー!?」
果南「克兄ぃたちが負けたら、ジャイロを没収するって!? 何が目的なの!?」
鞠莉「次回、『彼らのSTART:DASHはまちがっているのか。』!」
果南「次回も、ハグしよっ!」


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彼らのSTART:DASHはまちがっているのか。(A)

 
※今回は拙作『やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。』を読まれていないと話が理解できない部分が多くあります。どうぞご了承下さい。



 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

???「自分で事故の原因を作ってヒーローを装う偽りのウルトラマン、オーブダーク。高海兄弟は猛特訓の末に、この偽者を倒すことに成功した。……しかし、二人がかりでようやく勝ててるようでこの先大丈夫なのか? ちょっと試してみるか……」

 

 

 

 内浦の町外れにある、人が寄りつくことのない山間部。

 

『――うわぁッ!』

『ぐわぁッ!?』

 

 ここで今まさに、ロッソフレイムとブルアクアが窮地に陥っていた。

 二人の攻撃を寄せつけず、圧倒的な破壊力で追いつめる巨大怪獣が、大口を開いて咆哮を発する。

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

 青い身体に、背面に翅と、腹部に縦列に牙が並んだ怪獣。その名もキングオブモンス! その巨体から繰り出される圧倒的パワーに押され、ロッソとブルは既にカラータイマーが点滅するほど消耗していた。

 

『くそッ、こいつ何て強さだ……!』

『このまんまじゃやべぇぜ、克兄ぃ……!』

『こうなったら、俺たちの力を合わせるしかない! 行くぞ!』

『ああ!』

 

 ロッソとブルは一発逆転のために、腕をそれぞれ十字とL字に組んだ。

 

『フレイムスフィアシュート!』

『アクアストリューム!』

 

 火炎弾と水の奔流が同時に発射される!

 が、その瞬間にキングオブモンスは羽からバリアを発して全身を包み、二人の攻撃を完全に受け流した。

 

『何!?』

『マジかよ!』

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

 動揺するロッソたちに、バリアを解除したキングオブモンスが口からクレメイトビームを放つ!

 

『『うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』』

 

 すさまじい爆発を引き起こす光線によって、ロッソとブルは弾き飛ばされた。

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

 倒れた二人に、キングオブモンスがドスドスと地面を揺らしながらにじり寄ってくる。

 

『ま、まずい……!』

『万事休すかよ……!』

 

 立ち上がることもままならないロッソとブルは、せめて少しでもダメージを軽減しようと身構える。

 だが、もうこれまでと思われたその時に、キングオブモンスの身体がいきなり光に包まれて小さくなっていく。

 

『『は……?』』

 

 カード型の光にまで圧縮されると、そのままどこかへと飛んでいって消えていった。

 

『な、何が起こったんだ……?』

『さぁ……』

 

 突然の出来事にロッソとブルは全く呑み込むことが出来ずに、ポカンとするばかりであった。

 

 

 

 ――キングオブモンスが変じたカード型の光は、何者かの手が握る長方形の箱型の装置に吸い込まれていった。三つの窓が並ぶ、奇妙な機械だ。

 キングオブモンスを回収した手の主は、ハァと深いため息を吐き出す。

 

「全く……あんな調子じゃ、先が思いやられるな。……よし」

 

 正体の知れない男は一人ごちると、何かを思いついてうなずいた。

 そして、独特なデザインのサンダルを履いた踵を返して、山林の奥へと消えていった。

 

 

 

『彼らのSTART:DASHはまちがっているのか。』

 

 

 

 『四つ角』。どうにか命を拾って帰ってきた克海と功海は、千歌以外のAqoursメンバーを交えながら先ほどの戦いの反省会を行っていた。

 

「さっきの怪獣、一体どこに消えたんだろうな?」

「まさか、またサルモーネの仕業じゃ……」

「そんな……! こないだやっつけたばかりなのに!」

 

 梨子や曜はその可能性を危惧する。

 

「分からん。ただ一つだけ言えるのは、今までそうだったように、あの怪獣もきっともう一度現れるだろうってことだ。それまでに対抗策を考えておかないとな」

 

 そう述べた克海が、真剣な面持ちで功海に向き直った。

 

「功海。俺たちはオーブダークを倒すための特訓から、定期的にトレーニングをするようになったが、まだまだ付け焼き刃だ。ある意味、ようやくスタートダッシュを切ったようなもの。ああいう怪獣を難なく倒せるようになるまで、もっと力をつけないといけない」

「分かってるって克兄ぃ! 俺だって今は本気さ! この綾香市を守れるのは、俺たちしかいねぇんだからな!」

 

 強い気持ちを乗せて克海に応じる功海。それまではウルトラマンとしての自分たちをどこか軽く考えていた彼だが、オーブダークとの激闘を通じてこのことを重く受け止めるようになった。

 と、オーブダークの名前が出たことで、善子が思い悩むように口を開いた。

 

「ところで……あのサルモーネの奴、どうにかならないかしら。一度天誅を下したとはいえ、その後も変わらず人間界に野放しのままよ。あれで懲りたとは思えないし、いずれまた何かしでかすんじゃ……」

 

 それにダイヤも顔をしかめながら返答する。

 

「懸念は分かりますわ。ですが……残念ながらあの男には社会的地位がありますし、悪行を証明する手段がありません。大企業の社長が、ウルトラマンに変身して自演行為を働いていたなど、誰が信じるでしょうか。彼が利用するために集めていたというスクールアイドルも、そのことは誰も覚えてないようですし、特待生コースも形としてあります。証拠がないということですわ」

「下手に手を出したら、俺たちの首が締まるだけだな……」

 

 克海がうなり、功海も悔しげに頭をかきむしった。

 

「あーくそッ! 歯がゆいぜ……!」

「ぴぎぃ……」

「ずら……」

 

 ルビィと花丸も目を伏せる。

 空気が重くなるのを、吹き飛ばすように果南が声を上げた。

 

「あいつのことなんか考えてたってしょうがないよ! 克兄ぃたちの行動で救われた人たちがいるとか、もっと明るいことを考えよう! たとえば、Saint Snowの子たちとか」

 

 果南の言葉でルビィたちが顔を上げた。

 

「はい! 騙されてたあの人たちを助けられて何よりです!」

「思ったよりも礼儀正しい人たちだったずら」

 

 と花丸が苦笑を交えた。

 

 

 

 函館に帰るSaint Snowを克海たちが見送りした際に、聖良は彼らに向かってこう告げた。

 

『私たちは、A-RISEやμ'sと同じ場所に立つためには勝つ以外にないと思っていました。ですが……勝っていくことにこだわるあまり、あの男の本性に気がつけませんでした。恥ずかしい限りです』

 

 反省の意を示した聖良は、深々と頭を下げる。

 

『あなた方の熱意、見させていただきました。これまでの失礼は全てお詫びします』

 

 聖良の隣の理亞も、ぎこちないながらも頭を下げて克海たちに謝罪したのであった。

 

 

 

「……今度は、スクールアイドルの舞台で競い合いたいよね」

「今度は私たちも負けないわ!」

 

 曜と梨子が意欲を燃やしていると、

 

「ねーねー、みんな集まって何話してるの?」

 

 この場に千歌がひょっこりと現れたことで、克海たちは思わず慌てふためく。

 

「あッ! ああいや、ちょっとみんなに夏祭りのライブ良かったって……」

「も~、チカっちったら何言ってるのぉ?」

 

 克海がごまかしかけるが、鞠莉が千歌の後ろに回って肩に手を掛けた。

 

「ほえ?」

「そんなの決まってるじゃない。もちろん、ウル……」

「わぁー!!」

 

 鞠莉の言いかけた言葉を、梨子と曜が大声を発してかき消し、彼女の腕を左右から捕らえて千歌から遠ざけていく。

 

「鞠莉さん、ちょっとこっちに!」

「? 梨子ちゃん曜ちゃん、どうしたの?」

「な、何でもないんだ! 何でもないぞー千歌」

 

 首を傾げる千歌に、わたわたと手を振って注意をそらす功海。その間に、梨子たちが鞠莉にヒソヒソと囁きかけた。

 

「駄目ですよ……! 千歌ちゃんは、知らないんです! 克海さんたちのこと……!」

 

 それを聞いて、鞠莉がポカンと口を開く。

 

「え? 嘘でしょ? もう私たちみんな知ってるのに……よりによってチカっちだけ」

「千歌ちゃんだからこそです! 功兄ぃたち、千歌ちゃんだけには秘密にしてくれって……」

「千歌ちゃんにだけは、心配かけたくないからって……。だから、鞠莉さんもバラさないであげて下さい。いいですか?」

「まぁ、そういうことなら……。だけど、克海たちは本当にそれでいいのかしら……」

 

 鞠莉は承知しながらも、困った顔で千歌を必死にごまかす克海と功海を見やった。

 

 

 

 翌日。梨子と曜が一番にスクールアイドル部の部室へとやってくる。

 

「今のところ、怪獣は現れてないみたいだね」

 

 部室に向かいながら、曜がスマホで、ネットの怪獣情報を確認した。梨子はうなずきながら言う。

 

「もしまた出てきたら、克海さんたちのところへ急いで一緒に戦いましょう。この町は大事な場所……私たちの手で守らないと」

「うん! ……だけど」

 

 了承しながらも、曜はあることを気に掛けた。

 

「そうやって私たちが何度も抜け出てたら、千歌ちゃんも怪しむんじゃないかな……?」

「そうは言っても、他にやりようがないわ。でも、確かに隠し通せるかしら、秘密……」

「不安だね……。だけど、功兄ぃたちからのたってのお願いだもんね~」

「うん。聞かない訳にはいかないけど……はぁ、どうしたものかしら……」

 

 ため息交じりに部室に入ると……すぐに、室内に見慣れないものがあることに気がついた。

 

「あれ? 何か、人形が置いてある」

「あら、ほんと」

 

 中央の机の上にポツンと、女の子の人形が置かれているのだ。昭和期製作のような、随分と古めかしいデザインだ。

 

「誰が置いてったんだろ? 鞠莉さん?」

「そもそも、部室に人形なんて持ってくる人いるかしら?」

 

 訝しみながら、曜が人形を手に取った。すると、次の瞬間、

 

『宇宙指令M774。地球人に警告します。――なーんてな』

 

 人形が男の声で話し始めた。

 

「きゃあっ!?」

 

 驚いた曜たちが思わず人形を手放した。床に落ちた人形は、変わらず言葉を発し続ける。

 

『おいおい、投げるのはひでぇな。そこまで驚くこともないだろ?』

「お、驚くって! 人形がいきなりしゃべったら! ……って、これ何なの!?」

「これ……誰かが人形越しに話しかけてるの?」

 

 曜より先に冷静になった梨子が分析した。人形から声がしていると言っても、人形自体は微塵も動いていない。何故そんなことをするかは分からないが、人形を媒体にして何者かが声を飛ばしているようである。

 

『その通り。まぁ単純なトリックだな』

「受け答えした! こっちの状況も分かってるみたい……」

「あなたは誰なの!?」

 

 梨子と曜は得体の知れない人形を警戒しながら、姿の見えない男に質問する。

 

『俺のことは、ひとまずはいい。お前たち……もっと言えば、ウルトラマンロッソとウルトラマンブルに変身する兄弟に用がある者とだけ言っとく』

「! 功兄ぃたちのことを知ってる……!?」

 

 目を見張る曜。ロッソとブルというのは、克海たちが変身するウルトラマンの名前だということを当人らから聞いている。しかし世間に名乗ってはいないので、自分たち以外にその名を知っている者はいないはずだ。

 知っているはずがないことを知るこの男は、何者なのだろうか。

 

『知ってるのはウルトラマンだけじゃない。お前たちAqoursというグループが、兄弟に協力して戦ってるということも把握してる。いや、一人は違うんだったか?』

「そこまで知ってるなんて……!」

 

 梨子はますます警戒を深めた。とりあえず、誰かのいたずらなどではないことは確かだ。

 

『もう一度言う。俺はロッソとブルに変身する兄弟に用がある。邪魔が入らないところで、この二人と会いたい』

「そ、それなら功兄ぃたちに直接言えばいいのに」

『こんな回りくどい手段を取るのは、いきなり会って話をしたら、お前たちも警戒してろくな話が出来ないかもしれないからだ。一旦考えを整理する時間を置いた方が、話がスムーズに行くだろう。また、この話はウルトラマンの協力者のお前たちにも立ち会ってもらいたいから、先にお前たちとのコンタクトを図った』

「……克海さんたちに用があるというけど、それはどういう用事なの?」

『それは直接会ってからだ。まずは、こっちが指定する場所に来い。そこで待ってる』

 

 人形の胸が自動で開き、中から一枚の地図がヒラヒラと飛び出してきた。それをキャッチする曜。

 

『俺もそれなりに忙しい身なんでな、待つのは今日の間だけだ。来たくないなら来なくとも別にいいが、そん時は後々後悔することになると思うぜ? 今のところは、用件はそれだけだ。じゃあ待ってるからな』

「あっ、ちょっと!」

「話はまだ……!」

 

 一方的に話を打ち切る男の声を制止する曜と梨子だが、人形はそれきりうんともすんとも言わなくなってしまった。

 

「……何だったんだろう、今の」

「分からないわ……。でもただごとじゃない。このこと、克海さんや功海さん、みんなにも知らせなくっちゃ」

 

 非常に怪しい話であったが、とりあえずは報告することを梨子たちは決定した。

 それから、千歌が部室にやってくる。

 

「曜ちゃん、梨子ちゃん、お待たせー。って、あれ? その人形何? 何で床に落ちてるの?」

「さ、触っちゃダメ千歌ちゃん!」

 

 人形の存在に気づいて拾いかけた千歌を、曜が思わず止めた。

 

「え? どうしたの、二人とも? 何かあった?」

「う、ううん。何でもないのよ」

 

 キョトンとする千歌に、梨子たちが冷や汗をかきながらも首を振ってごまかした。

 

 

 

 その日のスクールアイドル部が終わると、梨子と曜はこのことを兄弟や仲間たちに知らせ、千歌には適当にごまかしながら密かに謎の男の声に指定された地点を目指していた。

 そこは、人が寄りつかないほどの綾香市の山地の奥深く。途中の開けた道までは車で移動し、閉ざされた山林の間は徒歩で移動していく。

 

「しっかし、俺たちに用があるっていうそいつは何者なんだ? 明らかにただ者じゃないよな……」

 

 克海とともに、曜たち八人を先導して草木をかき分けていく功海が疑問を口にした。果南は険しい表情で推測する。

 

「まさか、サルモーネが早速罠を仕掛けてきたんじゃ……」

「でも、声はあいつのじゃなかったよ。口調も違ってたし」

 

 と返す曜。サルモーネではないとなりながらも、克海が思案する。

 

「けど、ウルトラマンや俺たちのことにそんなにも詳しかったということは、普通の人間なんかじゃないだろうな。もしや、サルモーネと同じ宇宙人なんじゃ……」

「う、宇宙人ってそんなにいるんでしょうか……?」

 

 ルビィが少しおびえながら尋ね返した。

 

「分からん。宇宙に関しては俺たち、素人だからな……。功海は何か分からないか?」

「無茶言うなよ、克兄ぃ。俺だって宇宙人の実在なんて、最近までは信じてなかったんだぜ」

「ともかく、現時点では判断材料が少なすぎますわ。その声の主とやらと会わなければ、確かなことは何も言えません」

 

 ダイヤがそう言うと、鞠莉がうなずいた。

 

「そうね。まぁ、わざわざこちらにこうして考える時間を与えたということは、問答無用の敵意を持ってたりはしないでしょう」

「つまり、いきなり襲われる心配はしなくていいってことだな」

「ふっ……仮に宇宙人だとしても、この堕天使ヨハネの威光の前にひれ伏せさせてあげるわ」

「善子ちゃん、今は真面目な話ししてるずら」

「善子じゃなくてヨハネ! 悪かったわね、ふざけた人間で!」

 

 花丸に突っ込まれてむくれる善子を梨子がなだめたりしながら進んでいると、やがて一行の前に、山の奥深くには似つかわしくないようなものが現れた。

 

「ん? 何だ、この建物……」

 

 克海たちの前に建っているのは、閑静な雰囲気の一軒家。看板には『るぱぁつ屋』なる文字が書かれている。何かの店舗だろうか。

 

「こんな山の深くに、店……?」

「地図だと、待ち合わせ場所はここになってるぜ」

 

 山の中に存在する怪しい店に、一行は強く警戒する。しかしずっと突っ立っていても何も始まらないので、意を決して中に入ることとなった。

 

「いいかみんな。何かおかしいものを見たり感じたりしたら、すぐに外に逃げるようにしてくれ。みんなの安全が第一だ」

「はーい」

「よし……じゃあ功海、行くぞ!」

「合点!」

 

 克海と功海が玄関扉の前に立って、恐る恐るドアノブをひねって扉を開いた。二人の後に続いて、曜たちがゾロゾロ中に入っていく。

 

(♪ユキトキ)

 

 聞き慣れない歌がBGMとして流されている建物の内部は、更に異様な空間となっていた。

 

「うわッ!? 何か色々並んでるな……」

 

 四方の壁に取りつけられた幾段もの棚や台には、様々な物がところ狭しと飾られている。タコのぬいぐるみや『爆裂戦記ドンシャイン』なるヒーローっぽいキャラクターのポスターにDVDケース、やたら人相が悪い、左目の黒ぶちが星型になっているパンダの人形(しかもいくつも種類がある)と『ハロー、ミスターパンダ』『パンダズガーデン』というタイトルの絵本、『東京ディスティニィーランド』と書かれたタペストリー、『ジャンボキング』『タイラント』『キングオブモンス』という札がついた三つの怪獣のソフビ、などなど……。

 どれも兄弟やAqoursには、馴染みのないものであった。

 

「どういうお店なんだろ?」

 

 あまり統一性が見られない内装の数々に、ルビィが首をひねった。それにツッコミを入れる善子。

 

「そんなことはどうでもいいわ。私たちを呼んだ、この万魔殿の主はどこ?」

「万魔殿とはえらい言いようだな」

 

 いきなり、克海のものでも功海のものでもない、男の声がした。一同がバッと振り向くと、室内の奥にある半円形のテーブルの上座に、背もたれをこちらに向けている大きな回転椅子がある。それに座っている人物がしゃべったようだ。

 

「あんたか! 俺たちを呼んだのは!」

「誰だ! 顔を見せろ!」

 

 克海が言いつけると、椅子がクルリと半回転して、腰掛けている男の姿が露わになった。

 

「まぁそんなカッカすんなよ。いきなり呼びつけたのは、詫びてもいいぜ」

 

 容姿はほとんど普通の人間と変わりないが、瞳は透き通った紅玉色の若者。だが一番目を引くのは、テーブルの脚の間から見える、独特なデザインの金色のサンダルであった。

 

「見た目は人間だね……」

「でも、サルモーネも外見はそうだった」

 

 ヒソヒソ話し合う曜と果南。克海は姿を現した男に問いかける。

 

「あんたは何者だ」

 

 すると男は、手に持っていたマックスコーヒーの缶をテーブルにコトリ、と置いて、克海たちの顔を見回しながら名乗った。

 

「俺の名はデュエス。ルパーツ星人デュエスだ」

 



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彼らのSTART:DASHはまちがっているのか。(B)

 

(♪キボウノカケラ)

 

 店内のBGMが変わる中、克海たちは金色のサンダルの男と向かい合う。

 

「ルパーツ星人……?」

 

 自らをそう名乗った男に対して警戒を深める克海たち。一方のデュエスなる男は、対照的に自然体で続ける。

 

「宇宙人なんているはずが、なんて白々しいことは言うなよ。お前らは既に宇宙人と会ってるだろ」

「……!」

 

 どうやら愛染正義――サルモーネの正体のことも知っているようだ。ますます何者なのか。

 

「まぁ立ち話も何だ。そこに座りな。椅子は人数分用意したぜ」

 

 半円形のテーブルの円周には、ちょうど十人分の椅子が並べられていた。克海たちは依然警戒しながら、順々に腰を下ろしていく。

 

「兄弟は真ん中座れ。俺の正面」

 

 指示しながら、デュエスはテーブルに新しいマッカンを置く。

 

「飲むか? マッカン。別にんな警戒しなくたって、毒なんか入ってねぇよ」

「……」

 

 何で宇宙人がマックスコーヒー……と思っていると、デュエスは更に「銀河マーケット」と書かれたカゴの中に山積みとなった駄菓子を差し出してきた。

 

「菓子もいっぱい買ってきた」

「お菓子!」

「こら、おやめなさい! はしたないですわよ」

 

 ルビィと花丸が思わず身を乗り出したのを、ダイヤにたしなめられた。

 場が落ち着くと、克海が代表してデュエスに質問を投げかける。

 

「あんたが本当に宇宙人かどうかは置いといて……どうして俺たちのことに詳しいんだ?」

「そりゃあ、お前らがウルトラマンに変身するからさ。興味ぐらい持つ」

 

 あっさり答えたデュエスが、逆に聞いてくる。

 

「それより、お前らはウルトラマンがそもそも何なのか、ちゃんと知ってんのか?」

「いや……」

 

 首を振る克海たち。彼らはもう何回もウルトラマンに変身しているが、それがどういう存在で、どこから来たのかということに関しては何も存じない。サルモーネも、ウルトラマンを「正義のヒーロー」としていたが、詳しいことは何も話さなかった。

 

「やっぱりな。じゃあ教えてやるが、ウルトラマンとは端的に言えば、光を得て進化した超人類。そして宇宙のバランスの調停者だ」

「調停者……?」

「過去に様々なウルトラマンが、あらゆる次元宇宙の均衡を保ってきた。こことは別の宇宙……分かりやすく言えば、パラレルワールドでな。お前らが持ってるクリスタルに描かれてるウルトラ戦士も、別世界の地球を守護した奴らさ」

 

 功海が思わずクリスタルホルダーを取り出して、火や水のクリスタルのウルトラマンの絵を確かめた。

 

「そうなのか……!? パラレルワールドって……」

「完全にSFの世界になってきたね……」

 

 曜が横からクリスタルを覗き込みながらつぶやく。だが鞠莉はデュエスの言うことについて、半信半疑だ。

 

「あなたの言うことが、本当に真実だと?」

「別に信じたくねぇならそれでもいいさ。だが、かく言う俺も別の地球で、ウルトラマンと何人か関わったことがある」

「別の地球って……あの写真とか、そこで撮ったの?」

 

 善子が上座に飾られている写真の一枚を指差した。その中には、「銀河マーケット」というワゴン店の前でデュエスが、歳の頃はダイヤらと同じか少し上くらいの、やたらと目つきの悪い少年や、スレンダーな体型のクールビューティーという言葉がよく似合う長髪の美少女、善子のようなシニヨンをピンク色に染めたギャル風の少女、「THE SPACE AGE」とプリントされたシャツとデニムジャケットを羽織った青年、竹刀袋を担いだ女性と一緒に写っている。

 

「ああ……。あれは友達と撮った奴だ」

「友達?」

「大事な友達だ。ずっと暗闇の中にいた俺を、救い出してくれた」

 

 写真を見つめるデュエスの瞳には、感慨深い輝きが宿っていた。そこにどれほどの想いが込められているのか、事情を知らない克海らには想像がつかない。

 

「……それはいい。ともかく、ウルトラマンは宇宙の安寧を司る、責任重大の存在だってことさ。――だってのに、お前らは……」

 

 話を続けるデュエスの口調が、克海と功海をにらみながら徐々に荒立っていく。

 

「な、何だよ」

「お前らの戦いぶり見たぞ。ひどいのひと言だ。特に初戦! 何だあれ? いくらずぶの素人だからって、あれはねぇよ。自分らの命懸かってるって理解してたのか? 阿呆どもが」

「何だとぉ!?」

「い、功海さん、落ち着いて……」

 

 真正面から罵倒されて、短気な功海がいきり立つのを梨子がなだめる。が、

 

「その後も悲惨のひと言だ! よそ見するわ、私語が多いわ、戦いに不真面目だわ! 緊張感ってもんがないのかお前ら! 挙句の果てには、オーブダークとかいう見た目だけ取り繕った紛い物に二人がかりで負ける始末! お前ら俺が見てきたウルトラマンの中で、ぶっちぎりの最低だよッ! そもそも俺は、所用でここに来ただけでお前らに干渉するつもりなんかなかった! だがお前らがあんまりにも情けねぇから、喝を入れることにしたんだ! あんなザマでこの先やってけると、思ってんのかお前ら!?」

 

 怒鳴り散らした喉を潤すようにマッカンをグビグビ飲むデュエス。一方的な物言いに、功海たち以外も徐々に気分を害していく。つい先日に横暴極まるサルモーネと戦ったばかりなのでなおさらだ。

 功海と克海が眉間に皺を寄せて言い返す。

 

「そんなん、余計なお世話だっつーの!」

「そりゃ、俺たちがウルトラマンのことをどこか軽く考えてたのは認める。だけどあの敗戦で反省して、今は毎日トレーニングを重ねてる……」

「甘いッ!!」

 

 デュエスがドンッ! と缶ごとテーブルを叩いて克海の言葉をさえぎった。思わずビクリと肩を震わすルビィたち。

 

「このマッカンよりも甘めぇよ、お前らの考えなんか」

「……」

 

 上手いこと言ったつもりか、と内心ツッコむ善子ら。

 

「ダイエットじゃねぇんだぞ。これこれこういうことをすればオッケーですよなんてもんはウルトラマンにはねぇんだ。というかそもそも、そういうとこじゃねぇんだよお前らの問題は!」

「何?」

「お前らに欠けてるのは! 世界を守る使命を背負う正義を貫く茨の道を進んでく意志だ! 自分らの後ろに守らなきゃいけねぇもんがあるっていう意識だよ!」

 

 とのたまうデュエスに、ムッとして反論する果南。

 

「あんたに克兄ぃたちの何が分かるの!? 克兄ぃたちは、いつもみんなを助けようとがんばって……」

「気持ちだけじゃ足りねぇんだよ! こいつらにはな、覚悟がねぇんだ!」

「覚悟だぁ!? あるに決まってんだろ! 甘く見んなよ!」

 

 怒鳴り返す功海だが、デュエスはフンと鼻で笑った。

 

「つい昨日、俺のキングオブモンスに手も足も出せずにびびってたってのによく言う」

「あ!? あれお前の怪獣かよ!」

「もしも俺があの時本気で町をぶっ壊すつもりだったら、どうなってた? あの時それが考えられて、必死になれてたか? 覚悟っていうのはそういうことだ!」

 

 痛いところを突かれ、功海も克海もぐッ……とうなるばかりであった。

 そんな二人に代わり、ダイヤがデュエスをにらみつける。

 

「先ほどから聞いていれば、随分と偉そうなことばかり……。あなたがどのような人か知りませんが、ウルトラマンの何を知っていますの!?」

 

 するとデュエスはきっぱりと言い放つ。

 

「ウルトラマンはな、ただ敵を倒すだけじゃねぇ。世界中の人間を明日に導き、全てを救う存在だ。時には敵対する相手をもな」

「敵対する相手も?」

「そうだ。周りに馴染めないってだけで何もかもに絶望して全てをぶっ壊そうとするノミより弱い心の、手下に殿下なんて超痛てぇ呼び方させるようなろくでなしでどうしようもないド畜生のゴミクズ野郎をもだッ!」

「喩えがやたら具体的な上にすごい言いよう!?」

 

 ガーンとショックを受ける曜たち。一体過去にどんなことがあったのかは知らないが、モデルとなる人物がいて、その人と何かあったのだろうか。

 

「単に敵を倒しゃいいんなら極端な話、惑星ごとぶっ飛ばす超兵器でもありゃいいんだ! そうじゃねぇだろ!? ウルトラマンになる奴は、たとえ相手がどんな化け物だろうと、背にしてるものを護った上で、『倒す』んじゃなく『勝』たなきゃならねぇ! その修羅の道を突き進むには、決して折れない鋼の精神力が必要なんだ! 今のお前らにはねぇだろそれ! そんなことじゃあこの先に待ってる戦い、絶対生き残れねぇ! 断言してやるッ!」

「ぐぅ……!」

 

 厳しい言葉をひたすらぶつけてくるデュエスに歯ぎしりする克海と功海。そんな時に、梨子が問いかける。

 

「何で断言なんて出来るんですか? さっきからのあなたの口ぶり……まるで、これから起こるだろうことの予測がついてるみたいです」

 

 デュエスがむッ、と一瞬口をつぐんだ。

 

「もしかして、あなたは妖奇星……どうして最初のウルトラマンが地球に落ちてきたか、何でクリスタルになって分散したのか……1300年前に起きたことの真相を、掴んでるんですか?」

「……!」

 

 梨子が指摘した可能性に、曜たちは驚いて目を剥いた。

 対するデュエスは腕を組んで、しばし沈黙。そしてひと言発した。

 

「全てを、知ってる」

「!!」

 

 大きく息を呑む一同。次に続く言葉を、固唾を呑んで待つが、

 

「だが教えねぇ」

「何だよそれぇ!!」

「ケチずらー!」

 

 ガクッ! と一斉に肩を落とす功海ら。それに冷めた目を送るデュエス。

 

「何がケチだ! さっきも言ったが、俺は本来部外者だぞ。そんな俺から教えを乞うような心持ちでどうする! そんな甘ったれた精神じゃ、どの道話したところで何も変えられねぇぞ!」

「あーもうッ! 何なんだよお前ぇ! さっきから何も肝心なこと言わねーでこっちをなじってきてぇッ!」

 

 フラストレーションがたまり続ける功海が頭をかきむしった。いよいよ場は口喧嘩の様相になってくる。

 

「とにかくッ! 何が何でもこの星を護り抜こうって覚悟が決まらないんなら! ウルトラマン辞めちまえッ!! 俺がもっと相応しい奴を捜してやる!」

「余計なお世話だってんだよッ!」

 

 たまりかねた功海と克海がガタッと荒々しく立ち上がった。

 

「お前みたいな訳わかんねー奴の助けになるくらいだったら、覚悟ぐらい決めてやるよ!」

「あんまり俺たちをなめるなよ! この先何があったって、俺たちは地球でも何でも護ってみせる!」

 

 半ば勢いで宣言した二人。

 デュエスはそれを待っていたとばかりに、こちらも席を立った。

 

「言ったな? じゃあその言葉、本当かどうか試してやろう」

 

 と言い放って取り出したのは、表面に怪獣が描かれた小さなカプセル。

 

「イッツ!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 カプセルの側面のスイッチをスライドすると、怪獣の鳴き声がカプセルから発せられて、デュエスはそれを、腰に取りつけたホルダーに装填した。

 

「アワー!」

『ピッギャ――ゴオオオオウ!』

 

 更にもう一つカプセルを起動する。そちらに描かれているのは、克海たちが戦ったことのある黄色い怪獣だ。

 同じように装填ナックルに押し込むと、三つ目に赤と黒の握力計のような道具を取り出した。

 

「ショウタイム!!」

 

 そのアイテム、ライザーで二つのカプセルをスキャンするデュエス。

 

フュージョンライズ!

「おおおおおおおッ!」

 

 ライザーを横向きに胸の前に置くと、取っ手にあるトリガーを握り込んだ!

 

「はぁッ!」

 

 ライザーの液晶画面の螺旋が激しく回り、デュエスの左右に怪獣たちのビジョンが現れる。

 

ゴモラ! レッドキング!

ルパーツ星人デュエス! スカルゴモラ!!

 

 フランス人形とレコードプレーヤーに見守られながら、デュエスが怪獣のビジョンと融合して肉体を変貌。右腕を突き上げて飛び出していく!

 

「えっ!?」

「変身した!!」

 

 直後にズシィンッ! と外から響く轟音と震動。克海たちがそろって店から飛び出すと、山のような異形の巨体を見上げる形となる。

 

「ギャオオオオオオオオ! ピッギャ――ゴオオオオウ!」

「か、怪獣!」

 

 鞠莉たちの目の前に、ちょうど二体の怪獣――ゴモラとレッドキングが合成されたような大怪獣がそびえ立っている。デュエス融合獣スカルゴモラ!

 

『「さぁ、変身して戦え! 俺に負けたら、お前らの変身アイテムは没収だ!!」』

 

 克海たちを見下ろして豪語してくるデュエス。克海と功海は、この挑戦を迎え撃つ構えだ。

 

「要は、俺たちの力を見せろってことか!」

「だったら最初からそう言えってんだ! 回りくどい奴だぜ!」

 

 勇んでルーブジャイロを取り出す克海と功海。その側に、梨子と曜が並んだ。

 

「克海さん、私たちも一緒に!」

「私たちも、功兄ぃたちがダメじゃないってあいつに教えるんだから!」

「ありがとう!」

「よっしゃ行くぜ!」

 

 梨子と曜を後ろにしながら、兄弟がジャイロを前に突き出した。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 クリスタルホルダーから克海が水、功海が火のクリスタルを選択する。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

 

 それぞれ選んだクリスタルをジャイロにセット。

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

 

 水柱と火柱の二つが立ち昇り、その中からロッソアクアとブルフレイムが腕を振り上げて立ち上がる。

 

『『はッ!!』』

 

 変身を遂げた二人のウルトラマンが、スカルゴモラと相対して堂々と見得を切った。

 



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彼らのSTART:DASHはまちがっているのか。(C)

 

 変身して目の前に立ったロッソとブルに対して、デュエスが堂々と挑発する。

 

『「来いッ! お前たちの持てる力の全部、俺に見せてみろッ!」』

 

 そして猛然と突っ込んでくるスカルゴモラ。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 これを迎え撃つ姿勢のロッソ、ブル。

 

『そんなに言うんなら、遠慮なく行くぞ!』

『怪我しても文句言うんじゃねーぞ!』

 

 二人は早速角からスラッガーを引き抜いた。

 

「『ルーブスラッガーロッソ!!」』

「『ルーブスラッガーブル!!」』

 

 そして二人同時にスカルゴモラに肉薄し、剣を振り下ろす。

 

『『はぁッ!』』

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 だがスカルゴモラは両腕を振り上げて盾にして、二人の剣戟を受け止めた。厚い筋肉と固い皮膚は、刃を少しも通さない。

 

『はぁぁッ!』

『とあッ!』

 

 ロッソたちは一度剣を引いて、スカルゴモラの左右を取って相手のガードを抜けようとするが、スカルゴモラは鈍重そうな体格に見合わない巧みな身のこなしで刃をはね返し続けた。目を見張る曜。

 

『「は、速いっ!」』

『偉そうなこと言うだけあるってことかよ!』

『「どうした! 踏み込みが足りねぇぞぉッ! あいつのクローはもっと鋭かったぞッ!」』

 

 スカルゴモラの尻尾の振り回しが、ロッソとブルを打ち払う。

 

『うわッ! あいつって誰だよ!』

『わっけ分かんねーことばっか言いやがって! イライラすんだよそういうの!』

 

 体勢が崩れかけたロッソたちだが踏みとどまって、スラッガーを握り直した。

 

「功海さん! 克海さん! がんばルビィー!」

「梨子さんも曜さんも、ファイトずらー!」

 

 スカルゴモラ相手に奮闘するロッソたちをルビィと花丸が応援。その手をダイヤと善子が引いた。

 

「ここは近すぎて危ないですわ。一旦離れましょう」

「うんっ」

「ほらずら丸、早く!」

「待ってー善子ちゃん」

「だからヨハネよ!」

 

 善子たち六人が安全を取って、店の前から移動していった。その間に、曜がルーブスラッガーブルに風のクリスタルを装着する。

 

[ウルトラマンティガ!]

「『ブリンガーフラッシュ!!」』

 

 炎に包んだ三枚の光刃をきりもみ回転させながら、まっすぐにスカルゴモラへと飛ばす。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 だがスカルゴモラは太い二本角でブリンガーフラッシュを破砕した。

 

『マジかよ!』

『「次は私たちの番です!」』

 

 梨子が烈のクリスタルをルーブスラッガーロッソにセット。

 

[ウルトラマンゼロ!]

「『ゼロツインスライサー!!」』

 

 水の光刃がふた振り、スカルゴモラに襲い掛かる。

 だがこれもスカルゴモラの腕で打ち返された。

 

『効いてない! 何て奴だ……!』

『「まだまだぁ! 本物のウルトラマンの一撃は、もっと腕にビリビリ来るぞ!」』

『俺たちが本物じゃないって言いたいのかよ! くっそー……!』

 

 舐められるブルが悔しがりながら、ロッソの隣に並ぶ。

 

『克兄ぃ、真っ向勝負じゃ不利みたいだ。クリスタルチェンジだ!』

『よしッ!』

 

 梨子と曜がそれぞれ、土と風のクリスタルを取り出す。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

 

 クリスタルをジャイロにセットして、タイプチェンジを行う。

 

[ウルトラマンビクトリー!]

[ウルトラマンティガ!]

『纏うは土! 琥珀の大地!!』

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

 

 ロッソが琥珀色のグランド、ブルが紫色のウインドに変化した。

 

『今度はスピードで勝負だ!』

 

 ブルウインドが一足で高速に達し、スカルゴモラの周囲をぐるぐる回って竜巻を作り出す。グルジオボーンの動きを封じ込めたスパイラルソニックだ。

 

『「克兄ぃ、今の内に……!」』

 

 スカルゴモラの動きも封じて、ロッソへの連携につなげようとする。が、

 

『「甘ぁいッ!」』

 

 スカルゴモラは角からスカル超振動波を発すると、全身に駆け巡らせてから全方位に放出した!

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

『うわあああぁぁぁぁぁッ!?』

『「あうっ!?」』

 

 横から強烈な衝撃波を浴びせられ、ブルが吹っ飛ばされて竜巻がかき消えた。

 

『功海ッ!』

『「曜ちゃん!!」』

 

 横倒しとなったブルに叫ぶロッソ。次いでスカルゴモラをきつくにらむ。

 

『やりやがったなぁ……! これでどうだッ!』

 

 足元の地面を拳で叩いて、土を巻き上げて重力波を発生させる。

 

「『グラビティホールド!!」』

 

 高重力をスカルゴモラに負わせるロッソ。流石にスカルゴモラも立っていられず、うずくまったように見えたが、

 

『「甘いっつってんだよッ!」』

 

 スカルゴモラは鼻先の角を地面に押し当て、スカル超振動波を地面伝いにロッソへ飛ばす。

 

『ぐわああぁぁぁぁぁッ!』

『「きゃあああぁぁっ!」』

 

 重力を操っていたロッソはかわすことが出来ず、振動波をまともに食らって弾き飛ばされた。

 

『「その技は使ってる間、自分も動けねぇのが弱点だッ!」』

『くぅッ……!』

『ぐぅぅ……!』

 

 スカルゴモラになす術なくやられてばかりで、カラータイマーが危機を報じるロッソとブルの様子に、善子たちが焦りを浮かべた。

 

「ちょっと、これまずいわよ……! 審判が迫ってるわ……!」

「まさか、本当にジャイロ没収になっちゃうかも……!」

「だ、駄目よそんな! 克海、功海ー! 立ち上がってー!!」

 

 果南のつぶやきに身を震わせた鞠莉が、声を張って二人を励ます。

 しかしなかなか立ち上がれないロッソとブルを、スカルゴモラが見下した。

 

『「そんなもんなのか!? お前らの覚悟はッ!」』

『くッ……!』

 

 ギリギリと手の平を握り締めるロッソたちを叱咤するデュエス。

 

『「お前らがくじけるってことは、お前らが背にしてる人間たちの価値もその程度だってことだぞ!」』

『何!?』

 

 仲間たちは、ちょうどロッソたちの背後の方向に来ていた。思わず彼女たちに振り向く二人。

 

『「本当に大事だと思ってんのなら、死力を尽くし切ってでも戦えるはずだ! それに、お前らが今抱えてる娘たちも! そいつらはわずかな力しか持たなくとも、お前らのために立ち上がってくれたんだろ!? その気持ちが無駄なものだとするような、根性なしなのかお前らッ!」』

 

 厳しく叱りつけられたロッソとブルの目の色が変わり、全身に力がみなぎって立ち上がった。

 

『ほんと、言いたい放題言ってくれるぜ……! そこまで言われて奮起しなきゃ、男じゃねぇッ!』

『みんなの気持ちは無駄なんかじゃない! 意味があるものだと、俺たちが証明してみせるッ!』

 

 ロッソとブルが立ち上がったことに、ダイヤたちがわっと歓喜。

 

「そうですわ! 頑張って下さいまし!」

「逆転ホームラン狙うずらー! フレーフレー!」

 

 デュエスは纏う雰囲気が変わったロッソたちに、ニヤッと微笑む。

 

『「ちょっとはマシになったじゃねぇか」』

 

 梨子と曜はインナースペースから兄弟に呼び掛けた。

 

『「克海さん! 功海さん! 私たちだって一緒に戦います! 戦ってます! あなたたちのことは、私たちが支えてますから!」』

『「だから、どんな奴にも心で負けたりなんかしないってとこ、見せてやってよ!」』

『おっしゃあー! 任せてろッ!』

『本当の勝負はここからだッ!』

 

 ロッソとブルが気合いを入れ直したところで、梨子と曜は火と水のクリスタルをチェンジする。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

[ウルトラマンタロウ!]

[ウルトラマンギンガ!]

 

 火と水が背後で弾け、ジャイロを掲げる梨子と曜。

 

『纏うは火! 紅蓮の炎!!』

『纏うは水! 紺碧の海!!』

 

 ジャイロのグリップを引く二人。三回目で、気合いとともに叫ぶ。

 

『「ビーチスケッチさくらうち!」』

『「ヨーソロー!」』

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 梨子と曜が力を最も発揮できる形態となったロッソとブルが、右腕と左腕を振り上げて飛び出していく!

 

『『はぁーッ!』』

 

 覚悟を決めたロッソとブルへ、スカルゴモラが攻撃を再開。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 太い脚が地面を踏み鳴らすと、礫岩が複数宙に浮き上がり、それを火炎弾に変えて飛ばしてくる。

 

『うりゃあッ!』

 

 それをロッソが、ストライクスフィアの投擲で打ち落とす。この隙にブルがスカルゴモラの左側に回り込んでいく。

 

「『アクアジェットブラスト!!」』

 

 ブルの手の平から放たれた水流の勢いはすさまじく、横面に浴びたスカルゴモラが水圧で姿勢を崩した。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

『はぁーッ!』

 

 この瞬間にロッソが地を蹴り、スカルゴモラの顔面に炎に包まれたパンチを打ち込んだ。これを食らったスカルゴモラの身体が、初めて大きく傾く。

 

「やった! 通ったよ!」

「その調子デース!」

 

 ロッソとブルが巻き返し出したことで、果南や鞠莉が飛び跳ねた。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 スカルゴモラは着地したロッソを狙い、口からインフェルノ・マグマを吐き出した。

 

『とぁッ!』

 

 だがすかさずロッソの前にブルが回り込んで、水のバリアを張って火炎を受け止めてはね返した。スカルゴモラは自らの攻撃を腹に食らう。

 

「いいですわ! 流れを掴んでいます!」

「もう少し! ふんばルビィ!」

 

 戦況が逆転しつつあるロッソたちを、こちらも懸命になって応援するダイヤ、ルビィ。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 しかしこれだけ戦っていてもスカルゴモラのスタミナは尽きず、スカル超振動波を纏って突進してくる。それをバク転で回避するロッソとブル。

 

『「まだまだだぁッ! 半人前の技じゃあ、この肉体を崩すには至らねぇぞ!」』

 

 デュエスの挑発に、覚悟を抱いたロッソとブルは毅然と返した。

 

『確かに俺たちはまだまだ半人前かもしれない! だがッ!』

『半人前と半人前が合わされば一人前ッ! いいや、それ以上になってみせるぜッ!』

 

 梨子と曜も固くうなずく。

 

『「一人だけじゃ小さい力でも、集めれば大きな力に変わる!」』

『「私たちみんなの力を一つにした攻撃、受けてみヨーソロー!」』

 

 ロッソが腕を十字に組んで火球を作り出し、ブルが両腕でL字を作って水の力をたぎらせた。

 

「『フレイム!!」』

「『アクア!!」』

「『「『ハイブリッドシュート!!!!」』」』

 

 炎と水が螺旋を作り、一本の光線に変わってスカルゴモラに猛然と向かっていく!

 

『「むんッ!」』

 

 スカルゴモラは四股を踏んで大きく腕を広げ、光線を真正面から受けた!

 

「『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――!!」』

「『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!!」』

 

 光線を受け止めようとするスカルゴモラだが、ロッソたちは更にエネルギーを注ぎ込んで光線の勢いを増す。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!! ギャオオオオオオオオ!!」

 

 その結果、遂にスカルゴモラの胸をぶち抜いて爆散させたのだった!

 

『『いよっしゃあぁぁぁッ!!』』

「やったぁぁぁぁ―――――――――!!」

 

 見事な逆転勝利にロッソとブルが華麗にタッチを決め、仲間たちが諸手を挙げて喜ぶ。

 しかし、

 

『――まッ、及第点ってとこだな』

『んなッ!?』

 

 喜んでいるのに水を差すように、デュエスの声がどこからともなく、ロッソとブルに向けられた。

 

『今回のとこはこれでよしとしてやる。だが、釘を刺しとくとだな、まだこの程度じゃあはっきり言って不十分だ。これから先にお前らを、この星を待ってる運命を打ち破るには、全然だ』

『何だって!』

『ウルトラマンの光に限界はねぇ。自分らが持つ光を今よりもずっとずっと高め、秘める力の全てを出し切れるようになれッ! 最後にそれだけ言い残しとく』

 

 声が途切れると、『るぱぁつ屋』がある地点から突然、典型的なアダムスキー型円盤が浮上した。

 

『「うわっ!? UFOだ!」』

 

 ルパーツ星の円盤はそのままはるか上空へと飛翔していき、あっという間に大気圏から離れていった。

 ロッソとブルは、デュエスの去就をじっと見送った。

 

 

 

 その後、元に戻った克海と功海は梨子たち八人とともに、『るぱぁつ屋』があったところに引き返してきた。だが、

 

「あれ……なくなってる!」

 

 その場所は、最初から何もなかったかのように店が影も形もなくなっていて、ただの森林の中の開けた空間に変わっていた。

 

「随分退去が早いずら」

「本当に宇宙人だったのですわね……」

 

 今更ながらダイヤがぼやいていると、善子が店のあった場所の中央、半円形のテーブルがあった辺りを指差した。

 

「ねぇ、あそこに何かない?」

「あっ。確かに……箱みたいのが置いてある」

 

 近寄って確認する果南。草むらの上にポツンと、蓋に「お土産」と書かれた箱が放置されているのだ。

 

「お土産って……」

「中身を、確かめてみよう」

 

 功海たちが見守る中、克海が慎重に蓋を開けた。その中に入っていたのは――。

 

「クリスタル……?」

「けど、普通のと違げーぞ。何かいっぱいいる!」

 

 ウルトラマンギンガ、ビクトリー、エックス、オーブ、ジード。五人ものウルトラマンの胸像が円形の枠の中に詰め込まれた、「新」のクリスタルであった。

 克海と功海は一つの試練を経て、ニュージェネレーションズクリスタルを入手したのであった。

 

 

 

 その日の夜、克海と功海は『四つ角』で二人きりで今日の戦いを振り返る。

 

「あのデュエスという奴、もしかして俺たちのことを心配してあんなことしたんだろうか」

「全く、余計なお世話だっつーの。しかも自分たちの光を高めろ、秘める力を出し切れーなんてふわっとした表現じゃ、どうすりゃいいのか分かんねーって」

 

 功海が憎まれ口を叩いて肩をすくめた。

 

「そこは俺たち自身で考えろってことじゃないか?」

「そんなこと言われてなー。持てる力ねぇ……」

 

 腕を組んで考えた功海が、ふと何かを思い立って、あるものを取り出す。

 

「克兄ぃ、これ」

「ん? そいつがどうかしたのか」

 

 功海が出したのは――サルモーネが二度と変身しないようにと取り上げたオーブリングNEOだ。

 隠して仕舞っていたこれを見つめながら、功海がつぶやいた。

 

「もしかして、これってさ……俺たちでも使えるんじゃね?」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

梨子「ビーチスケッチさくらうち! 今回ご紹介するのは、『GEEDの証』です!」

梨子「この歌は『ウルトラマンジード』の主題歌で、お馴染みのvoyagerさんと、主人公朝倉リク役の濱田龍臣さんが歌ってます。主役の方が一緒に歌われるのは、近年ではままあるパターンですね」

梨子「歌詞はニュージェネレーションシリーズの例によく見られるように、本編の内容を強く意識したものとなっています。ジードは出生の時点で他人に利用された存在で、その運命を打ち破って一人のウルトラマンに成長していく物語だと、この歌は表してます」

梨子「第一話と第二話、そして最終話ではクライマックスシーンで挿入歌として流され、特に最終話では作品通しての最もインパクトがある場面を盛り上げてくれてます!」

克海「そして今回のラブライブ!の歌は『START:DASH!!』だ!」

功海「これはいつも紹介してるAqoursじゃなくて、μ'sの楽曲だな。アニメ『ラブライブ!』第一期の最重要シーンで使用された印象深い歌で、サンシャイン!!でも第一話で千歌たちがこれを聴いてる場面があるぜ」

克海「μ'sからAqoursをつないだ象徴とも言える。ラブライブシリーズにとっても、語る上で外せない一曲だな」

梨子「それでは、また次回でお会いしましょう」

 




鞠莉「浦の星も夏休み! 私たちAqoursは夏合宿を始めましたー!」
千歌「お兄ちゃんたちも休日! 海ではしゃいじゃうぞー!」
鞠莉「ですが、サルモーネはあきらめてません! また私たちの邪魔をしに来ます!」
千歌「うわぁっ!? また怪獣が出てきたよー!」
千歌「次回、『サンシャインぴっかぴか休日』!」
鞠莉「次回も、シャイニー☆」


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サンシャインぴっかぴか休日(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

鞠莉「遂にPerfect Nineとなり、新しいStartを切ったAqours! Orb Darkをやっつけた克海と功海もUltramanとして強い気持ちを抱いたけど、二人にダメ出ししてくる人が。でも克海たちは試練を乗り越えて、一層の成長を遂げたのです!」

 

 

 

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

『うわぁッ!』

 

 内浦の中心で、ブルアクアが怪獣の張り手を食らって吹っ飛ばされた。倒れた彼に代わるように、ロッソフレイムが突っ込んでいって前蹴りを浴びせる。

 

『ふッ!』

 

 ロッソとブルは、内浦に出現した怪獣ゴメス(S)を相手に交戦している真っ最中であった。

 

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

『ぐッ、ぐッ……!』

 

 ロッソに掴みかかってくるゴメス。その手を握り返して受け止めるロッソだが、ゴメスの想像以上の怪力に苦戦を余儀なくされる。

 

『これ以上持たないぞ……!』

 

 エネルギーの消費でカラータイマーが鳴り出し、残り時間の猶予がないことを表した。しかしこの間にブルが持ち直す。

 

『けど、やるしかないっしょ! 俺たちは、ウルトラマンだ!』

 

 気勢を吐くブル。その中の人物も、ブルの言葉に応じて大きくうなずいた。

 

『「うんっ! 最後まであきらめなければ、道は開けるずら!」』

 

 それは花丸! 花丸はクリスタルホルダーに手を伸ばし、中から土のクリスタルを取り出した。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

 

 クリスタルから一本角を出し、ルーブジャイロにセットする。

 

[ウルトラマンビクトリー!]

 

 花丸の背後にビクトリーのビジョンが浮かび上がり、ジャイロを掲げる。

 

『纏うは土! 琥珀の大地!!』

『「お花ーまるっ!」』

 

 三回目のエネルギー注入で叫び、渦巻く土に包まれる花丸。

 

[ウルトラマンブル! グランド!!]

 

 琥珀色にチェンジしたブルが左腕を高々と掲げる。大地の力をその身に宿した、ブルグランドだ!

 

『「力がお腹から湧き上がるずら!」』

 

 大地の波動と同調し、ブルの力へと還元する花丸がふんすと鼻息を荒くした。ブルは片足をドンと振り下ろして全身に力をみなぎらせる。

 

『行くぜー!』

 

 全身でゴメスに向かって駆け出していき、ロッソが逃れた直後に飛び蹴りを炸裂させた。

 

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

 

 ブルのキックを食らって悶絶するゴメス。鉤爪の生えた手を振り回して反撃するが、ブルはゴメスをも超えたパワーで難なく押し返した。

 しかしこちらもカラータイマーが点滅を始める。

 

『次の一撃に全力を込めるぜ!』

『「分かったずら!」』

 

 花丸に合図すると、ブルは両腕に琥珀色の光を纏わせながら、その拳をハンマーのように振り下ろして足元の地面を思い切り殴りつけた。

 

「『アースブリンガー!!」』

 

 ブルが地中に送り込んだエネルギーが地表を伝ってゴメスに向かっていき、ゴメスの足元で一気に噴出した。

 

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

 

 下からの攻撃に大きくひるむゴメス。それを見てロッソが動く。

 

『次は俺たちの番だ!』

『「All right!」』

 

 呼びかけに応じたのは、ロッソのインナースペース内にいる鞠莉だ。

 彼女はホルダーから風のクリスタルを選び出し、二本角を出す。

 

『「Select, Crystal!」』

 

 それをジャイロにセットして高々と掲げた。

 

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

『「シャイニー☆」』

 

 エネルギーチャージしてロッソウインドへの変身を遂げると、ゴメスの周囲を風の速さで駆け回り出す。

 

「アアオオウ! アアオオウ!」

 

 ゴメスはロッソの動きに翻弄され、目を回してふらふらとなった。この隙に跳び上がるロッソ。

 

『今だ!』

『「OK! これを使いマース!」』

 

 そして鞠莉がオーブリングNEOに手を伸ばすと、握られたリングが光り輝き、鞠莉が中央のボタンを押して光の力を解放する。

 

「『スペリオン光線!!」』

 

 ロッソが左腕を横に、右腕を上に伸ばしてから両腕で十字を作ると、右手より光の奔流が発射され、ゴメスに命中!

 

「アアオオウ!!」

 

 これが決まり手となり、ゴメスは転倒しながら爆散。怪獣を倒すと、緊張が切れたブルがよろけるのをロッソが支えた。

 

『「大丈夫デスか?」』

『ああ、ありがとう』

『しっかり』

『「ふぃ~……ウルトラマンって疲れるずら」』

 

 花丸がどっと息を吐いていると、助けられた内浦の町の人たちがロッソとブルに向かって歓声を送る。

 

「やったー!」

「ありがとう、ウルトラマーン!」

 

 テレビのカメラマンは、健闘を称え合っているロッソとブルの姿をカメラに収める。

 

 

 

『二人のウルトラマンの活躍により、内浦は再び平和な日常を取り戻しました。しかし、またいつ怪獣が襲ってくるか分かりません……』

 

 ロッソたちの様子はテレビでお茶の間へと放送されているのだが、これを一人だけ憮然としながら観ている者がいた。

 

「あ~情けない。市民に疲れた姿を見せるな! 全くみっともない奴らだよ」

 

 サルモーネだ。頬杖を突きながら一人でぶつくさ文句をつけていると、ウッチェリーナが口を挟む。

 

[ですが、スピード、パワーは以前より飛躍的に上昇しています]

 

 だがサルモーネは鼻を鳴らすばかり。

 

「それがどうした。無様な勝ち方は、ヒーローの美学に反する」

 

 持論を述べていると、社長室に氷室が入室してきてサルモーネに報告した。

 

「社長。指示された書類、全て用意できました」

「うむ、ありがとう」

 

 簡潔に応じたサルモーネが立ち上がって自作のオーブダーク人形を掴み取る。

 

「前回はちょっとばかし頭に血が昇ってしまったが、やはりウルトラマンに相応しいのはこの私! 人々がヒーローに求めるもの、それは一度負けた逆境から這い上がる姿だぁッ!」

[いよっ! 憎いですねぇ~社長!]

 

 人形を片手に熱弁するサルモーネをウッチェリーナが囃す。

 このサルモーネの様子を、氷室が真顔で見つめていた――。

 

 

 

『サンシャインぴっかぴか休日』

 

 

 

 オーブリングNEO。これをながめる功海の顔がニヤニヤとにやける。

 

「これが俺たちの新しい力かぁ~……」

 

 サルモーネがオーブダークに変身する際に用いていたアイテム。これが自分たちでも使用可能と判明したことで、功海はご満悦だった。そんな彼の肩越しに、花丸や善子、ルビィ、曜がリングを見つめる。

 

「すっごい威力だったずら!」

「まさしく堕天の雷!」

「かっこよかったよねぇ」

「いいな~。私も使ってみたい!」

「こらこら。こういうのは、使う時が来ないのが一番よ」

 

 不謹慎な曜を苦笑して諫める梨子。そんな時に、リングを千歌が横からヒョイと取った。

 

「何これ~? あっ、分かった! フェイスローラーでしょ! 功海お兄ちゃん、何でこんなの持ってるのー?」

 

 勘違いして顔にリングを押し当てる千歌に、功海たちは大慌て。千歌からリングを取り返す。

 

「ち、違げーよ! これは大事なものなんだよ!」

「えー? ちょっとくらいいいじゃんケチー!」

「ち、千歌ちゃん、それよりお手伝い頑張りましょう!」

 

 梨子や曜が焦りながら千歌をリングから遠ざける。

 

「そうそう! 私たちでここ繁盛させて、いっぱい褒められようよ!」

 

 彼女たちが居間いる場所は、いつもの『四つ角』――ではなく、内浦のビーチに建っている海の家であった。格好も水着姿である。

 七月も後半に入り、浦の星女学院も夏休みとなった。Aqoursはダイヤの提案によって夏合宿を行うことになったのだが、千歌には内浦の自治体より海の家の手伝いがあった。そこでAqours全員で海の家を手伝いながら、その営業前後の時間にトレーニングを行うこととなったのである。

 克海と功海は、お盆の時期が来て『四つ角』が本格的に忙しくなる前に、英気を養うささやかな休日をもらったので、千歌たちの様子見がてらに海の家を訪れたのであった。

 

「……ダイヤちゃん。この日程って……」

 

 克海はダイヤから、手帳に記した合宿のスケジュールを見せてもらっているが、その内容に冷や汗を垂らしていた。

 

「これって本当にμ'sがやってたのか? 自衛隊員のトレーニングメニューが混ざってるんじゃ……」

 

 スケジュールの円グラフには、「発声」「ダンスレッスン」はともかくとして、「ランニング10km」「遠泳10km」「腕立て腹筋20セット」など、常識離れしたメニューが当たり前のように記載されている。これがそのままμ'sの合宿メニューだったということに半信半疑の克海だが、当のダイヤは信じ切っていた。

 

「間違いありませんわ! わたくしが独自のルートで入手した、確かな情報です!」

「マジか……。スクールアイドルって当時からすごかったんだな……」

 

 呆気にとられる克海に、鞠莉がパラソルの下から呼び掛ける。

 

「ね~え克海~。ちょっと来て~」

「ん? どうしたんだ、鞠莉ちゃん」

 

 妙な猫なで声に嫌な予感を覚えつつ、鞠莉に近寄っていく克海。

 

「スクールアイドルに、日焼けは天敵デース。だ・か・ら……」

 

 鞠莉は妖艶に言いながら、水着の肩紐をずらしてみせる。ブッ!? と噴き出す克海。

 

「日焼け止めクリーム、塗ってくだサーイ。スミズミまで☆」

「ちょっとちょっとぉーっ!?」

 

 誘惑を掛ける鞠莉に気づいて、梨子、ダイヤ、果南が真っ赤になってすっ飛んできた。

 

「鞠莉さん、何やってるんですか!」

「破廉恥ですわ鞠莉さんっ!」

「か、克兄ぃにそんなこと……! いくら鞠莉でもダメっ!」

「あら~? 私は克海を信頼して頼んだだけデースよ? みんな、一体どんな想像してるんデスか~?」

 

 にやにや笑う鞠莉。どうも彼女たちをからかうのが初めからの目的だったようである。

 

「嘘だっ! 絶対分かっててやった!」

「というより鞠莉さん、日焼け止めならさっき塗っていたじゃありませんか!」

 

 ぎゃあぎゃあ鞠莉に詰め寄る果南とダイヤの様子に、克海がやれやれと肩をすくめる。

 

「みんな、夏だからってはしゃいでないで、海の家を盛り上げてくれよな。客はみんな隣に行っちゃってるぞ」

 

 千歌たちの貧相な海の家の隣に立つ、お洒落な店は満席となるほどの繁盛ぶりを見せている。

 

「そ、そうですわ! あんな都会の刺客に負けてはいられません! わたくしたちが、この店の救世主となるのですわ!」

 

 大きく咳払いして話をすり替えたダイヤの先導の下に、Aqoursは海の家の盛り上げに着手し始めた。

 

 

 

「海の家でーす! 美味しいヨキソバありますよー!」

「堕天使の涙に、シャイ煮! ……は、ちょっとおすすめできないけど……」

 

 千歌と梨子はダイヤの指示で、客の呼び込みを行っている。その様子を、ヨキソバ片手にながめていた克海だが……。

 梨子の表情がいささか曇っていることを見て取って、梨子の元に近づいていく。

 

「梨子ちゃん、ちょっといいかな?」

「は、はい? どうかしましたか……?」

 

 梨子を海の家の裏へと連れていって、そこで話を切り出す克海。

 

「この間、君のお母さんから聞いたんだけど、ピアノコンクールの招待があったらしいね」

「!」

 

 そのひと言に梨子の顔が強張る。

 

「けど出るとも出ないとも言ってないらしいけど……。梨子ちゃんのことは、大体は千歌から聞いてる。元々、ピアノのために内浦に来たんだろ? コンクール、出なくていいのか?」

 

 と克海が聞くと、梨子はやや寂しげにしながら答えた。

 

「でも、その日はラブライブ予選があるんです」

「……被っちゃったのか」

「はい。それにこの内浦で過ごす内に、私の中でここやみんなの存在が大きくなって。だから今の私の目標は、ラブライブ予選を突破すること。だからいいんです」

「……君の中で決定してるのなら、それでいいんだが」

 

 と言いながらも心配そうな克海だが、今度は梨子の方から告げる。

 

「それより、功海さんのことこそ、気に掛けてあげた方がいいんじゃないでしょうか」

「え? 功海の?」

「功海さん、さっきからバイブス波を調べてばかりです。……ちょっと、根を詰めすぎじゃないかと思います」

 

 見ると、確かに功海がバイブス波の検知機をにらみながら辺りを歩き回っており、ビーチの客から怪訝な目で見られていた。

 

「あいつ……分かった。ありがとう」

 

 克海は梨子の元から離れて、功海の側に行って呼び掛けた。

 

「功海、せっかくみんなの海の家に来たんだ。少しは楽しもうぜ」

 

 しかし功海は強張った顔で反論する。

 

「俺たちにはウルトラマンとしての使命がある。怪獣は未だに出続けてるんだ。遊んでる場合じゃねぇよ」

 

 今までと一転して、今度は気負い過ぎている功海に、克海は苦笑して説得した。

 

「休憩も使命に必要さ。それに、高海功海と克海だ。みんなといる時間で、みんなを笑顔にするのは、他の誰でもない俺たちだよ」

「克兄ぃ……そうだな」

 

 克海の言葉で考え直し、功海は肩の荷を下ろした。

 

「とりあえず、何か食べようぜ」

「じゃ俺、堕天使の涙とシャイ煮っての食ってみてぇ!」

「ええ? やめといた方がいいと思うぞ……。すごい匂いしたし、価格設定メチャクチャだし」

 

 談笑しながら海の家の方に戻ってくると、曜が店から出てきて二人に尋ねかけてきた。

 

「功兄ぃ、克兄ぃ、千歌ちゃん見なかった?」

「え? 千歌?」

「クラスのみんなを呼んだって言ってたけど、なかなか来ないんだよね。それで見なかったかなって思ったんだけど……」

「いや? でも広いビーチじゃないし、遠くに行ってるとは思えないけど……」

 

 キョロキョロと周りを見回す克海たち。すると、ビーチの片隅に開かれているドリンクショップの出店を発見した。

 

「あれ? あんなとこに出店がある」

「どこの出した店だ」

「あっ、千歌ちゃん。みんなもいる!」

 

 曜がその出店の前で、千歌やクラスメイトらが誰かと談笑しているのを見つけた。その相手が誰なのかと、目を凝らしてみると……。

 

「……っていう訳でね、君のお兄さんたちに是非にと思ってるんだけど」

「えぇ~? それ本気なんですか?」

「すごいじゃん、千歌のお兄さん! 愛染さんから推薦なんて!」

 

 顔を確認した克海たちがギョッと目を剥く。

 

「サルモーネ!!」

 

 その名前を耳にしたダイヤたち全員も含めて、克海らは出店の方へ血相を抱えて走っていった。

 

「みんな何やってるの!?」

「あっ、みんな。このお店、愛染さんが経営してるんだって」

 

 何も知らない千歌はのんきに告げる。

 

「多角経営の時代だからね~」

「愛染さん、良かったらウチの海の家にも来て下さい!」

「駄目っ! 千歌ちゃん離れて!!」

 

 無防備にサルモーネに近寄ろうとする千歌や浦女の生徒たちを、梨子たち総出で引き離した。

 

「ち、ちょっとみんなどうしたの!? 愛染さんに失礼だよ!」

 

 千歌と友人らが、サルモーネに敵意を向ける梨子たちに目を丸くした。

 

「愛染さんに変なことしたら、ラブライブでも良くない印象持たれちゃうかもよ?」

「愛染さん、怪獣の被害に遭った人たちにも義援金をたくさん出してくれてるんだよ! 失礼なことしちゃ駄目だよ!」

 

 違う。この男こそが、怪獣という恐怖と混乱をもたらしている元凶なのだ――。そう打ち明けることが出来なくて、曜たちは歯噛みする。

 克海と功海は千歌たちをかばうように前に回って、サルモーネをにらんだ。

 

「千歌に何の用だ!」

「いやいや、ちょっと雑談をしてただけだよ。用があるのは、君たちの方」

「俺たちにだとぉ!?」

 

 サルモーネはひょうひょうとした態度で、脇のカバンから書類を何枚か取り出した。

 

「ウチのアイゼンテックがシリコンバレーに支社を出すことになってねぇ。そこの研究員に、功海君を推薦したい!」

「何!?」

「克海君には、海外宿泊施設部門のジェネラルマネージャーの椅子を用意した!」

「何だと……!?」

「そうそう。Aqoursのみんなにもある。先日は、とっても刺激的な体験だったからねぇ~。みんなのこと、すっかり気に入っちゃったよ!」

 

 あまりにも白々しいことを述べるサルモーネに、ダイヤが舌打ちした。

 

「だから君たちがアイドルとして飛躍するように、本場ハリウッドのタレントスクールへの留学の推薦を持ってきたんだぁ! どうかね?」

「え……」

 

 今の話に、千歌が真顔となった。しかし周りの生徒たちはわっと興奮。

 

「すごい! ハリウッドなんて!」

「まさか、浦の星からハリウッドスターが誕生しちゃうの!?」

 

 Aqoursを置いてノリノリの生徒たちだが、果南や曜は歯を剥き出しにしてサルモーネに怒鳴り返した。

 

「誰があんたの推薦なんかっ!」

「人を馬鹿にするのも大概にしてよっ!」

 

 うなる曜を友人らがなだめようとする。

 

「ちょっとちょっと!? 落ち着いてよ! どうしちゃったの!?」

「こんなビッグチャンス、二度とないかもしれないんだよ!?」

 

 本当のことを知らないのでうろたえる浦女の生徒たちと対照的に、サルモーネは余裕たっぷりに大笑いした。

 

「いやいや。急な話で戸惑うのは当然だ! ちょっと、私たちだけで落ち着いて話をさせてもらえないかな?」

 

 

 

 ビーチから離れ、人気のないところまで移動した克海たちは、敵意を剥き出しにしながらサルモーネと面と向かっていた。

 上を羽織った鞠莉たちが、サルモーネに詰問する。

 

「あれは何の冗談なの!?」

「冗談なんてひどいな~。書類は正式なものだよ?」

「ふざけないで! どうせ、ヨハネたちが邪魔だから海外に飛ばしてしまおうって腹でしょ!」

 

 断固拒否の姿勢を見せる善子たちだが、サルモーネは大仰に肩をすくめた。

 

「君たち、よく考えてごらんよぉ。君たちがさ、これからもウルトラマンとしていつ起こるかも分からない戦いに臨んでいけると思ってる? 功海君は、勉強はどうするの? 克海君、旅館は? Aqoursは、ラブライブほっぽり出すのぉ?」

 

 おちょくるようになじってくるサルモーネに、克海たちが毅然と言い返した。

 

「それでも、俺たちはウルトラマンだ!」

「そんなこと、お前なんかには関係ねぇよ!」

「ラブライブ優勝も、克海さんたちを支えることも、どちらもやり遂げてみせますわ!」

 

 ダイヤが代表して突っ返すと、サルモーネはむしろその言葉を待っていたとばかりにニヤリと笑った。

 

「へぇ~、言うねぇ。それではぁ、君たちが本当にウルトラマンとして私より相応しいか、最終試験を行います!」

「はぁ!?」

「何するつもりだ!」

「じゃ、始めますッ!」

 

 克海たちへのサルモーネの返答は、取り出したAZジャイロと「獣」のクリスタルだった。

 

「なッ……!」

「やめなさいっ!」

 

 果南が身を乗り出したが、既に遅かった。

 

ホロボロス!

 

 サルモーネは素早くクリスタルをセットし、ジャイロを三回引く。直後に、どこからかすさまじい音量の獣の咆哮のような声が轟いた。

 

「何今の!?」

「あっ! あそこです!」

 

 ルビィが指差した先。そこに、

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 小山の頂上に、青い肌で白い体毛を生やした、狼とも虎ともライオンともつかない巨大猛獣が遠吠えを発していた!

 



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サンシャインぴっかぴか休日(B)

 

 サルモーネによって召喚された巨大な猛獣に、曜や梨子たちが目を見張る。

 

「何あれ! 狼!? ライオン!?」

「怪獣だわっ!」

 

 巨大猛獣は山の頂上から一足飛びで、内浦の真ん中に着地する。怪獣の出現に、内浦は一気にパニック状態となった。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 克海たちが猛獣に気を引きつけられている間に、サルモーネは飛行装置を背負っていた。

 

「豪烈暴獣ホロボロスだ。強いぞぉ~? あれに勝てたら、認めてあげてもいいよ。じゃ、がんばってねー♪」

「ま、待てっ!」

「怪獣を消してっ!」

 

 果南やルビィがサルモーネを捕まえようとしたが、サルモーネは空中に飛び上がり、彼女たちの手の届かないところへと逃げていってしまった。

 

「くそッ……! 怪獣もジャイロで呼び出してたのか!」

「あれも取り上げとくんだったぜ!」

 

 後悔する克海と功海に、ダイヤと善子が駆け寄る。

 

「今は怪獣を止めるのが先ですわ! あれが暴れ出す前に、早く!」

「あのサタンの使徒の思惑を粉砕するのよ!」

「ああ!」

 

 克海と功海は拳を打ち鳴らし合い、ルーブジャイロを取り出した。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 克海がクリスタルホルダーから火を、功海が水のクリスタルを選択する後ろで、ダイヤが後ろ髪をかき上げ、善子が右目元にブイサインを置く。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

 

 兄弟がジャイロにクリスタルをセットし、タロウとギンガのビジョンを呼び出す。

 

[ウルトラマンタロウ!][ウルトラマンギンガ!]

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「纏うは水! 紺碧の海!!」

 

 クリスタルの力で、ダイヤと善子と変身したロッソとブルが、怪獣ホロボロスの正面に着地。その様子を、固唾を呑んで見守る梨子たち。

 

『「町には人がいっぱいいるわ! 早く裁きを下してしまいましょう!」』

『よ~し……!』

 

 ホロボロスが動き出す前に、ブルが速攻を決めようとするが、それを制止するロッソ。

 

『「お待ちを! あの怪獣、恐らくサルモーネの切り札。ひと筋縄ではいかないでしょう……!」』

『俺たちから行く……!』

 

 ホロボロスの動きを警戒しながら、ロッソがジリジリと間合いを図り合った。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 

 

 戦いを一望できるビルの屋上まで移動してきたサルモーネは、飛んできた自社の飛行船をバックに、レポート用紙とペンを取り出してロッソたちの戦闘を観察し始めた。

 

 

 

 ダイヤは開幕早々にオーブリングNEOを取り出す。その手に握られたリングが光り輝き、ダイヤの指がスイッチを押した。

 

「『ゼットシウム光線!!」』

 

 ロッソの右腕に光と闇の稲妻が纏わりつき、両腕を十字に組んで光線にして発射する!

 光線はホロボロスに直撃し、その全身を爆発が呑み込んだ。

 

『やったか!?』

 

 必殺技が決まったことで一瞬安堵したロッソとブルだが……。

 

『「……待って! いないわ!」』

 

 善子が叫んだ通り、硝煙が晴れると、ホロボロスの姿が忽然となくなっていた。爆散した痕跡もない。爆発に乗じてどこかに隠れたのだ。

 

『どこ行った!?』

 

 背中合わせになって周囲に目を走らせるロッソたち。だが、あの巨躯にも関わらずホロボロスの影すら見つけ出すことが出来ない。

 

 

 

「いきなりの光線は往々にして失敗しがちだ! 光線の扱いバツ!」

 

 サルモーネがレポート用紙の項目の一つに大きなバツ印を記した。

 

 

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 必死に周りを警戒するロッソとブルの耳に、ホロボロスの吠える声が聞こえる。しかし姿が見えない。

 

『「どこですの……!?」』

 

 冷や汗を垂らすダイヤの視界の端に、青い影が一瞬だけ入り込んだ。

 

『「あそこ! 今山の後ろにいたっ!」』

 

 指差す善子。ホロボロスは内浦を囲む山々や、ビルの陰から陰を移動しているようだ。だがロッソたちの目は、残像しか捉えられない。

 

『速い……!』

『どこに隠れたんだ……!?』

 

 ホロボロスの隠れ場所を見つけられず、立ち往生するロッソとブル。下手に動けば不意打ちをもらうかもしれないが、かと言って見境なく周りを攻撃できるはずもない。最初の攻撃は悪手であった。

 焦るブルの視界の端に、青いものが動いたように見えた。

 

『あそこかッ!』

 

 振り返ったブルの視線の反対側から、ホロボロスが飛び掛かってくる!

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『うわぁッ!?』

 

 押し倒されるブル。ホロボロスは彼に馬乗りになって、前足の太く頑強な爪で激しく殴打してきた。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『ぐあッ!』

『「くぅぅっ! 地獄の番犬め……!」』

 

 ホロボロスを押しのけようとするブルだが、ホロボロスの筋力はすさまじく、まるで抵抗できない。

 

『「おやめなさい!」』

 

 ブルと善子を助けようと、ロッソがホロボロスの背中に飛びついて跨り、首を引っ張る。

 

『大人しくしろッ!』

 

 ロッソが後ろからホロボロスの頭を叩くも、ホロボロスは全く応えない。それどころか上半身を振り上げ、ロッソを振り払った。

 

『うわぁッ!』

 

 仰向けに倒れたロッソの方にホロボロスが飛びつき、喉笛に噛みつこうとするのをロッソが必死で食い止める。

 

『「うっ……!」』

 

 喉を噛み千切られる恐怖が目前に迫り、ダイヤのこめかみに嫌な汗が流れた。

 

「お姉ちゃん……!」

 

 ロッソたちの苦戦に、ルビィたちはもちろん、ビーチの千歌たちも焦燥を浮かべる。

 

『「克海たちが危ない!」』

『力技じゃ駄目だ!』

 

 ふらつきながらも立ち上がったブルが、角からルーブスラッガーを抜く。

 

「『ルーブスラッガーブル!!」』

 

 更に善子が土のクリスタルをスラッガーに装着する。

 

[ウルトラマンビクトリー!]

 

 ブルが剣をVの字に振り上げると、そのラインに沿って土のエネルギーが並ぶ。

 

「『グラビティスラッシャー!!」』

 

 土の破片を斬撃にして飛ばし、ロッソを襲うホロボロスに食らわせた! ホロボロスの力が弱まった隙にロッソが逃れる。

 斬撃の連発を食らったホロボロスが倒れ込んだ。

 

『「決まったわ!」』

 

 ぐっと手を握る善子だったが……倒れたのは一瞬だけで、ホロボロスはすぐにブルに詰め寄ってきた!

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『うわああぁぁぁッ!』

 

 猛烈な勢いの突進を食らい、吹っ飛ばされるブル。ロッソが追撃されないように彼の前に急いで回り込んだ。

 

『「大丈夫ですの!?」』

『「う、うぅ……!」』

 

 

 

「効いてないかもしれないんだから、必殺技の後も油断しない! 警戒心バツ!」

 

 サルモーネが別の項目に新たにバツ印を書き加えた。

 

 

 

 ブルを助け起こしたロッソは、彼に指示を出す。

 

『クリスタルチェンジだ!』

 

 ダイヤと善子が、ホルダーから別のクリスタルを取り出した。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

[ウルトラマンビクトリー!]

[ウルトラマンティガ!]

 

 ダイヤが土、善子が風のクリスタルをジャイロにセットした。

 

『纏うは土! 琥珀の大地!!』

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

『「ダイヤッホー!」』

『「堕天降臨!」』

 

 クリスタルチェンジで、ロッソとブルはダイヤと善子の得意とする形態に変身する。

 

『「ここからが本番ですわ!」』

『「堕天使の風を見せてあげる!」』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ホロボロスは変身したロッソたちに猛然と突撃してくる。ブルは両手に風を纏わせ、それに向けて一気に放出した。

 

「『ストームフォース!!」』

 

 放たれた突風がホロボロスの突進を止める。

 

「ウ……ウオオオオ……!」

 

 あまりの風速と風圧に、さしものホロボロスも前に進めなくなって後ろに引きずられる。この隙を突いて、ロッソが手を横に動かして空中に土の塊を五つ作り出し、一個の巨岩に纏めた。

 

「『グランドコーティング!!」』

 

 土の塊を投げつけると、ホロボロスの全身を土が固め、完全に身動きを封じ込んだ。

 

『「今の内ですわ!」』

『ああ!』

 

 土の中に閉じ込めたホロボロスをロッソが念力で封じている内に、ブルが上空に飛び上がって光線の発射用意を行う。

 しかしホロボロスはその状態で暴れ、拘束から脱しようとしている。

 

『くッ……何て奴だ……!』

『「そうは行きませんわよ……!」』

 

 念力を発する手が震えるロッソだが、ダイヤの尽力で抵抗を続ける。その間に、ブルが渾身の一撃を繰り出した!

 

「『ストームシューティング!!」』

 

 風の光線がホロボロスにクリーンヒット!

 

『よっし!』

『「いくら何でも、これで……!」』

 

 全力を叩き込んだ善子が額の汗をぬぐうが、

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 これでもホロボロスは倒れず、大ジャンプしてブルに一回転からのかかと落としをお見舞いした!

 

『うわあああぁぁぁぁぁ―――――――!!』

『「きゃああああぁぁぁぁぁっ!!」』

 

 痛恨の一打を脳天に食らい、地面に真っ逆さまに叩き落とされるブル。

 

『功海ぃッ!!』

『「善子さんっ!!」』

『「よ、ヨハネよ……!」』

 

 大ダメージをもらいながらも、善子が残る力を振り絞ってブルにエネルギーを分け与え、どうにか立ち上がらせる。しかし戦闘が長丁場になっていることで、カラータイマーが点滅して限界が近いことを報せた。

 

『まずい、もう時間が……!』

『「早く決めないとっ!」』

 

 焦った善子がオーブリングNEOに手を伸ばした。掴んだリングが光り輝き、ボタンを押して光のエネルギーをスパークさせる。

 

「『スペリオン光線!!」』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 だがリングを使った攻撃は既に見切られており、光線はホロボロスの爪で弾き返された。

 しかも流れ弾が当たったビルが吹き飛び、ビーチに落下していく!

 

「きゃあああ―――――――!?」

『しまった!!』

 

 ビーチに残っている千歌たちが悲鳴を上げた。ブルは高速移動で彼女たちの前に回り込み、ビルの残骸を受け止めて助ける。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 しかし直後にホロボロスが横から突進してきて、ブルをはね飛ばした!

 

『うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――ッ!!』

「功兄ぃぃぃぃぃ―――――!!」

「善子ちゃんっっ!!」

 

 絶叫する曜たち。

 これがとうとうとどめとなり、ブルはエネルギーを使い果たして消え去っていった。

 

『この野郎ぉぉッ!』

『「いい加減になさいまし! この狂犬っ!」』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 怒ったロッソがホロボロスに飛び掛かるも、後ろ蹴りで返り討ちにされる。

 

『ぐッ、俺たちもエネルギーが……!』

『「こうなれば、残った力を全てぶつけましょう!」』

 

 最早活動時間の猶予が残されていないロッソは賭けに出て、頭上にエネルギーの全てを注ぎ込んだ巨大な土のボールを作り出す。これをぶつけて、異様なタフさのホロボロスを一気に押し潰すつもりだ。

 

『食らえ……!』

『「ま、待って!」』

 

 だがいざ放とうとしたその時に、ダイヤが血相を抱えて止めた。

 

『「ここからだと、千歌さんたちを巻き込んでしまいます!」』

『あッ……!』

 

 ホロボロスはビーチを背にしており、巨岩を投げつけようものならそこにいる人たちにまで攻撃が当たってしまう! ロッソの手が止まる。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 その隙を突かれ、接近してきたホロボロスの固い爪がロッソを殴り飛ばした。

 

『ぐわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――ッ!!』

「克海さぁんっっ!!」

「お姉ちゃあああ―――――――んっ!!」

 

 ロッソもまたエネルギーを使い果たして斃れ、消え去っていった。

 

 

 

「他人をかばって自分がやられてたら、その後誰が戦うんだぁぁぁぁぁぁッ! 判断力バツバツバぁぁぁぁぁぁツッ!!」

 

 サルモーネが癇癪を起したように用紙に滅茶苦茶にバツを書き込んで、フンッと鼻息を吹いた。

 

「決まりだな」

 

 

 

「うッ、うぅ……!」

 

 活動時間の限界を超え、変身が解けた克海と功海は道路の上に倒れ込んでいる。その側には、ダイヤと善子が力を使い果たしてぐったりと気を失っていた。

 

「みんなぁっ!」

 

 そこに果南たちが急いで走ってくるが、彼女たちの到着より先に、投げ出されたオーブリングNEOを拾う者が現れた。

 

「サルモーネ……!」

「『負け犬のわおーん』」

 

 もう立ち上がる余力もなく、サルモーネを憎々しげに見上げるしかない克海と功海に、サルモーネは目の前に短冊を投げ捨てた。

 

「ヒーローは遅れてやってくるんだよ。つまり……君たちは前座ッ! ウルトラマン失格ぅッ! もう変身しちゃダメだからねぇッ!!」

「それを返しなさいっ!」

「おっと」

 

 果南が駆け込んでリングを奪い返そうとしたが、サルモーネはひらりと身をかわした。

 

「ハハハッ。君たちはぁ、スケールが小さいんだよ。町を守る? 学校を守るぅ? ウルトラマンもアイドルも、もっと広い世界を舞台に活躍するものだよ。んんぅ?」

「……あなたは、何のために戦うというの!?」

 

 鞠莉がキッとにらみつけて問い返すと、サルモーネはにやついて答えた。

 

「誰のためでもなぁい。強くてかっこいいヒーローは、誰の心にも希望を与えるのさぁ」

 

 文句が美しいだけの、何の重みもない言葉であった。

 克海と功海が梨子たちに介抱されながら、サルモーネに侮蔑を向ける。

 

「お前には、守りたいものがないのかッ!」

「哀れな奴だ……!」

 

 サルモーネは二人に、せせら笑いで返した。

 

「すぐ隣にいた人すら守れなかったのに、なーに言ってるんだか。まッ、どっちが正しいか、じっくり見物してるといい。あッ! 就職と留学の件、決心ついたら連絡してねぇ~!」

「待ちなさいっ!」

 

 背を向けて立ち去ろうとするサルモーネを捕まえようとする果南だが、その前にホロボロスが飛ばした瓦礫が降ってきて足止めされてしまった。

 

「うわっ!」

「果南ちゃん危ないっ!」

 

 咄嗟に果南を引き戻す曜。瓦礫の向こう側から、サルモーネが最後にひと言吐き捨てた。

 

「あばよ」

 

 

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

「うわあああぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!」

 

 ロッソとブルを打ち負かしたホロボロスは山の頂上に飛び乗って、遠吠えを発して内浦中を威圧する。怪獣の猛威に、町中の人々が恐れおののき逃げ惑う。

 サルモーネはその逃げる人波の間を格好つけて逆行していた。

 

 

そ  ウ

れ  ル

は  ト

正  ラ

義  マ

を  ン

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完 負 求  人 絶 こ

全 け め  々 望 の

無 て て  の の 地

欠 も い  祈 中 球

の 尚 る  り ` を

ヒ 立    の   守

| ち    声   る

ロ 上    が   唯

| が    聞   一

を る    こ   無

       え   ニ

       る   の

           存

           在

 

 

「そのヒーローこそ私! サルモーネ・グリルドだ!」

 

 サルモーネはドリンクショップの出店まで戻ると、テントの中に隠れて椅子にドカッと座り込んだ。

 

「今こそ全世界待望! ウルトラマン伝説の幕開けの時なのだぁーッ!!」

 

 サルモーネが握ったリングが闇に染まり、中央のボタンが押される。

 

「絆の力……お借りしまぁすッ!」

 

 リングの力を使い、サルモーネが闇のウルトラマンに変身する!

 

ウルトラマンオーブダーク!

『でゅわッ!』

 

 

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 山の頂上を陣取るホロボロスの正面に、オーブダークが出現。逃げ惑っていた町の人たちは、その姿に思わず足を止めた。

 

『銀河の光がオレも呼ぶ! 我が名は、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ!!』

 

 魔剣オーブダークカリバーを構えるオーブダークを見上げ、克海たち四人を安全なところへ連れていこうとしていた曜たちが息を呑んだ。

 

「ああ……!」

 

 ――函館では、聖良と理亞が内浦からの中継映像で状況を目の当たりにして、絶句していた。

 

「姉さま、これ……!」

「嘘……! どうしてこいつが、また……!」

 

 世界中の人間の目を集めながら、偽りで塗り固められたウルトラマンがホロボロスへと剣を向けて気取った。

 

『でゅうわ……!』

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

曜「ヨーソロー! 今回紹介するのは、『誓い』だよ!」

曜「この歌は『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』の第二期『NEVER ENDING ODYSSEY』の主題歌だよ。このシリーズは、当時の筐体カードゲーム『大怪獣バトル』のメディアミックスとして制作されたテレビ番組で、ウルトラマンじゃなくて怪獣使いレイオニクスのレイを主役にした、いわば番外編なんだ」

曜「歌手は中西圭三さん! 作詞作曲も担当してるよ! とっても勇ましいイメージの歌で、大怪獣バトルの映像作品にぴったりの雰囲気! 最後の目的地が地球だから、地球を目指す旅路を想像させる歌詞にもなってるの!

曜「中西さんはエンディング曲の『愛のしるし』も担当してるよ。この二つの歌で、『大怪獣バトルNEO』を彩ったんだ!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『サンシャインぴっかぴか音頭』だ!」

功海「名前の通り、夏祭りには定番の音頭だな。舞台の沼津市の企業と公式コラボを推し進めたサンシャインならではって言えるぜ」

克海「振りつけもあるんだが、何とそれは幼稚園の先生が考えたものを逆輸入したという逸話つきだ。幼稚園の先生すごいな」

曜「それじゃ次回に向かって、ヨーソロー!」

 




千歌「二人のウルトラマンさんがやられた後に現れたのは、三人目のウルトラマンさん! 怪獣と戦うウルトラマンさんだけど……」
克海「違う……あいつはウルトラマンじゃない!」
功海「これ以上あいつの好きにさせてたまるかよ! 俺たちは負けねぇぜ!」
功海「次回、『アイゼンTrapper』!」
千歌「かんかんみかん!」


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アイゼンTrapper(A)

 

『むぅん……!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ――豪烈暴獣ホロボロスをけしかけ、ロッソとブルを倒させたサルモーネは、オーブリングNEOを取り返すとウルトラマンオーブダークに変身し、魔剣オーブダークカリバーを構えて自らが呼び出したホロボロスと対峙していた。

 

「くっそぉ……!」

 

 ホロボロスに打ちのめされ、満身創痍の克海と功海は、梨子たちに支えられながらこれを悔しげに見上げている。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 やがてホロボロスは、陣取っている山の上から跳び、町中に降り立つと四つ足でオーブダークへと突進していく。

 

『むんッ!』

 

 対するオーブダークはその場にオーブダークカリバーを突き刺すと、胸を張って堂々と待ち構えた。

 

『来ぉいッ!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ホロボロスはまっすぐにオーブダークに体当たりし、オーブダークはその首根っこに腕を回して突進を受け止めた。そのまま押し合いとなる。

 

『でゅわぁッ!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 首を捕らえたまま、ホロボロスの顎に膝を入れるオーブダーク。一瞬ひるんだホロボロスだが、再びオーブダークに飛び掛かる。

 

『でゅわぁッ!』

 

 オーブダークは一瞬背後をチラリと見やると、ホロボロスの飛び掛かりを受け流して投げ飛ばす。ホロボロスの落下の衝撃で、側のマッサージ店の店舗がひび割れてガラガラと崩れていく。

 

「お、おじさんの店が!!」

「あいつ……今わざとあそこに投げたっ!!」

 

 絶叫する曜。オーブダークの事前の行動から、果南は怒号を発した。

 

『でゅわッ!』

 

 わざと店を破壊したことを何も意に介さず、オーブダークは構えを取り直して再度ホロボロスを待ち構える。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 一気に駆け出して突進を繰り返すホロボロス。身を翻してかわすオーブダークだが、立ち位置を変えると、三度目の突撃をまともに食らった。

 

『でゅわぁぁぁッ!』

 

 はね飛ばされたオーブダークが、背中から家屋の上に倒れ込んで、家を押し潰した。

 

「ま、町が壊れてくずらっ!」

「何て真似を……!」

 

 オーブダークが戦う毎に建物が次々に破壊されていくことに、花丸も鞠莉も顔を真っ青にした。

 これまでのロッソたちの戦いの中でも、余波で周囲に被害が出ることはあったが……真実を知る彼女たちの目には見える。オーブダークは、それを故意にやっているのだ。

 

『でゅわああ!』

 

 そんなことは大したことではないとばかりに、素知らぬ顔でホロボロスと取っ組み合い続けるオーブダーク。そこに飛行船が飛んでくると、チョイチョイと手の平で仰いで角度を調整させる。

 微調整した飛行船がカメラを回し、オーブダークとホロボロスの格闘する様子をアップで全国のテレビに流し始めた。

 

『でゅわあぁぁッ!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 その瞬間にホロボロスを蹴り飛ばしたオーブダークが、カメラに向けて手でハートマークを作ってアピールする。

 

「お……おぉ!」

「新しいウルトラマンが、怪獣と戦ってる!」

 

 テレビ映像を目にした人々は次々と沸き立つが――聖良と理亞は、青ざめた顔を大きく振っていた。

 

「違う……! これは八百長なの……!!」

 

 

 

『アイゼンTrapper』

 

 

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 オーブダークに蹴られ、家屋に突っ込んで転倒したホロボロスだったが、すぐに瓦礫を振り払って起き上がると、またもオーブダークに飛び掛かっていく。

 

『でぇぇぇぇぇあぁッ!』

 

 オーブダークは地面に刺した剣を抜いて頭上から振り下ろすが、ホロボロスは前足を上げて刃をかわした。オーブダークが振るう剣を転がってよけ続けるホロボロス。

 彼らの足元の道路や家が巻き込まれて砕かれていく。

 

「このままじゃ町が……!」

「あの野郎……!」

 

 被害がどんどん拡大していく内浦の惨状に、克海たちの胸に痛みと怒りが広がる。

 オーブダークが後ろから斬りかかろうとした時、ホロボロスが放った後ろ蹴りを浴びて仰向けに倒された。

 

『であぁぁぁぁぁッ!!』

 

 またもオーブダークの巻き込みによって、建物が一軒倒壊した。

 功海たちはルーブジャイロを振り回して起動させようとする。

 

「動けッ! 今行かないといけねぇんだよッ!」

「や、やめて下さい! 無茶ですよぉっ!」

 

 反応しないジャイロを強引に引っ張って動かそうとする功海を、ルビィたちが必死に押しとどめた。

 

「そんな身体じゃ危険すぎます!」

「くそぉッ! 俺たちじゃどうすることも出来ないのかッ!」

 

 梨子の諫める声も聞こえないほど、克海は取り乱していた。

 

『であぁ……!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 そうしている間にオーブダークとホロボロスは再びにらみ合い、オーブダークが距離を詰めていく。

 

『であぁぁぁッ!』

 

 水平斬りを繰り出したが、バク宙したホロボロスの足によって剣を弾き飛ばされた。

 

『うわぁぁッ!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 勢いで倒れ込んだオーブダークの上にホロボロスが跨って押さえつけると、首筋を狙って噛みついてくる。これをすんでのところで、首を振ってかわすオーブダーク。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ホロボロスの首を抑えて抵抗し、窮地に陥ったように見せるオーブダーク。これにまんまと乗せられる千歌が叫ぶ。

 

「危ない! がんばって、ウルトラマンさーん!」

 

 それを皮切りとして、町中からオーブダークに声援が送られ始めた。

 

「がんばれ! がんばれーウルトラマーン!」

「負けないでー!」

「立ち上がってくれー!」

 

 これらの声を耳にしたオーブダークがつぶやく。

 

『そろそろ頃合いか……!』

 

 ホロボロスの首をじりじり押し返していくと、空いたボディに左手の平を押し当てる。

 

『であぁッ!』

 

 そこから停止信号が打ち込まれ、ホロボロスは一気に動きを鈍らせて活動を止めた。

 

「ウオオオオオ……!」

『ピンチになったヒーローは、必ず最後に返り咲く!』

 

 その下から抜け出たオーブダークは、リングをAZジャイロにセットしてエネルギーチャージする。

 

『ダークオリジウム光線ッッ!』

 

 オーブダークが十字に組んだ腕から生じたハートマークより暗黒光線が発せられ、動かなくなったホロボロスに直撃。そのまま爆破、消滅させた。

 

「やった! 勝った!」

「ありがとう、ウルトラマーン!」

 

 歓喜の声で沸き上がったビーチに、克海たちが走ってくる。梨子たちはその後から、目を覚ましつつあるダイヤと善子を支えながら歩いてきた。

 

「……!!」

 

 オーブダークは彼らに、見せつけるようにゆっくりと首肯すると、一足飛びで空の彼方に飛び去っていった。

 

『でゅわぁッ!!』

「……」

 

 声も出せない克海と功海の元に、千歌が駆け寄ってきた。

 

「お兄ちゃんたち、どこ行ってたの!? 心配してたんだよ! 怪我はない?」

 

 二人や梨子たちを心配する千歌は、彼らの表情が沈んでいることに戸惑いを見せた。

 

「……何か、あったの?」

 

 克海たちが沈黙を貫いていると――このビーチに、サルモーネが大きく手を振りながら、満面の笑顔で走ってきた。

 

「おーい!」

「あっ、愛染さん無事だったんだ! どこ行ってたんですか?」

「いやぁ~! あの怖い怪獣見てぇ、すっかり気絶しちゃったんだよ~! いや~お恥ずかしいッ!」

 

 非常にわざとらしく言い訳するサルモーネ。

 

「もう、しょうがないですね~」

 

 苦笑する千歌だが、サルモーネの態度に我慢がならなくなった克海は彼女をどかして胸ぐらに掴みかかった。

 

「サルモーネぇッ! お前は良心がないのか……! 町の人々を危険に晒してるんだぞッ……!」

 

 非難をぶつけられても、サルモーネは平然としている。

 

「でも見てみなよ。闇に光を与えたヒーローに、みんな大喜びだ」

「騙してるだけだろうが……! お前のやってることのどこがヒーローだッ……!」

 

 克海の弾劾に鼻を白けさせたサルモーネは、彼の手を振り払って襟元を正した。

 

「ならば、ここではっきりさせとこうか」

 

 そう言うが否や、ビーチにいる人たちの前に躍り出ていった。

 

「愛染さん!」

「愛染さんだ!」

 

 人々の敬慕の声に手を振って応じながら、一段高いところに上って注目を集めるサルモーネ。

 

「親愛なる内浦の皆さん! 愛染正義ですッ!」

「あいつ……!」

「何するつもりなの……!?」

 

 サルモーネの行動を、功海や果南たちがキッとにらんだ。

 それに構わず、サルモーネが弁舌を振るい出した。

 

「先に、脅威に倒れた二人のウルトラマンがおりました! まずは、その健闘を称えましょう!」

 

 サルモーネに合わせて拍手を鳴らす市民たち。――サルモーネの拍手に、果南らがわなわなと震える。

 

「しかぁーしッ! 我々は今、真のウルトラマンを迎えました! これからは彼とともに、脅威に立ち向かっていかなければいけませーんッ!」

「そうだッ!」

「そうだぁッ!」

 

 サルモーネの熱弁に乗せられて、同意の声がちらほらと起こる。

 

「もちろん! 我がアイゼンテックは全面的にバックアップ致します! そして皆さまのお力を、お借りしまぁーすッ!」

「おぉーッ!」

「あ団結ッ! あ団結ッ! はいご一緒に!」

「あ団結! あ団結!」

 

 サルモーネの音頭で、内浦の若者衆を中心としてコールが巻き起こる。――この光景を見せられて、梨子たちは顔面蒼白となった。

 功海と克海はとうとう我慢ならなくなり、若者衆の輪の中に割って入っていく。

 

「やめろ! やめろぉーッ!」

「あいつの言ってることはデタラメだッ!」

「い、功兄ぃ、克兄ぃ……!」

 

 無謀に飛び込んでいった二人に息を呑む曜。

 

「怪獣の襲来も、さっきまでの戦いも! 全部あいつが仕組んだことなんだッ! あいつは大嘘吐きなんだッ!!」

「本当なんだよみんな! 信じてくれぇッ!!」

 

 必死に訴えかける克海と功海だったが――逆上した青年団に取り囲まれる羽目になってしまう。

 

「高海のとこの! 何失礼なこと言ってんだ!」

「愛染さんに謝れッ!」

「本当なんだよぉー!」

「騙されるなみんなぁー!」

「このヤロぉー!!」

「克兄ぃ、功兄ぃ! やめてっ!」

 

 青年団にもみくちゃにされる克海たちを見ていられず、果南と曜が助けに行って引っ張り出した。若者たちはその後もサルモーネとコールし続ける。

 

「あ団結! あ団結! あ団結!」

「……くぅっ……!」

 

 果南たちは悔しさを噛み締めることしか出来ず、無念そうに立ち去る他なかった。最後に見せられたのは、サルモーネの勝ち誇った嘲笑であった。

 

 

 

 民衆の歓声を一身に浴びながら、サルモーネは颯爽と立ち去っていく。戦いの影響でボロボロになった無人の区域に立ち入ると、崩れた町並みを見回しながら誇らしげに胸を張る。

 

「素晴らしい! これこそがウルトラマンだッ! 戦いが激しいほどに、ウルトラマンという光もまた人の心に強く刻み込まれる! 全人類がウルトラマンの威光を崇め奉り、そこに跪く日も遠くはないッ!!」

 

 満足そうに言い放つサルモーネの元に飛んできたウッチェリーナが報告する。

 

[申し訳ありません社長ぉ]

「ん? どうしたんだい?」

[ホロボロスのクリスタル、回収できませんでした。どこを探しても見つからなくって……]

 

 これを聞いたサルモーネが、ふむ、と顎に指を掛ける。

 

「誰かに持ち去られてしまったか。だがまぁジャイロがないと意味がないものだからな。あのアホ兄弟にも身の程を教えてやったし、ほっといても大丈夫だろう」

[はぁ]

 

 さして重く受け止めることもなく、サルモーネは上機嫌でアイゼンテックへと帰っていった。

 

 

 

 怪獣の出現によってビーチが閉鎖され、克海たち一同はやむなく『四つ角』に戻ってきた。

 

「……いえ、こっちは大丈夫です。はい、私たちで何とかしますので。ありがとうございます」

 

 彼らの身を案じて『四つ角』に電話を掛けてきた聖良に、兄弟に代わって梨子が応対していた。受話器を置いて居間に向かうと、そこで千歌が克海と功海に問いをぶつけている。

 

「克海お兄ちゃん、功海お兄ちゃん……何で、チカに何も話してくれないの?」

 

 憮然としてうなだれている二人に、反応がなくとも語りかける千歌。

 

「いくら何でも、お兄ちゃんたちに何かあったってことぐらい分かるよ。そんなに悩むことがあるなら、私とも話をしてよ。私たち、家族なんだよ?」

 

 懸命な想いを込めて訴えかける千歌。梨子たちは、その様子を遠巻きに、不安げに見守るしかない。

 だが、克海たちは千歌の気持ちには応えなかった。

 

「これは、俺たちの問題なんだ」

「……」

 

 どうしようもないと悟り、うつむいて背を向ける千歌。居間から離れる寸前に、小さい声でつぶやく。

 

「……バカ」

 

 千歌が自分の部屋へと上がっていくと、入れ替わるように意識がはっきりしたダイヤと善子が克海たちの前に腰を下ろす。

 

「話は伺いました。面目ありませんわ……」

「ヨハネたちがもっとしっかりしてれば、こんなことには……」

 

 落胆して謝る二人に、克海は首を振った。

 

「二人のせいじゃないよ。結局、俺たちが未熟だったからだ」

「……」

 

 重い空気に覆われる居間の中で、果南がいら立ちを抑え切れずに吐き捨てる。

 

「こんなのってある!? 克兄ぃたちが必死に頑張ったのに、みんなあのペテン師を持ち上げてばかりで……! あいつこそが元凶なのにっ!」

 

 憤懣やるせない果南に、鞠莉が努めて冷静に告げる。

 

「無理もないわ……。傍から見たら、結果として怪獣をやっつけたのはオーブダークなんだから。何も知らない彼らは責められない」

「だけど……!」

「残酷だけどね……世の中は、結果が全てだという風に出来てるの。……想いだけじゃ何も変えられないのは、私たちがよく知ってるでしょ?」

 

 そう言われてしまっては、果南もそれ以上は何も言えなかった。

 沈黙が流れるこの場で、功海がポツリとつぶやく。

 

「強さって何だろうな……」

「強さか……」

 

 それに応じる克海。

 

「……結局、弱いヒーローにいる意味なんてない。どんなにあいつのやることを批判したところで、町を守ることが出来なければ、誰も振り返ってはくれない……。苦労も、努力も、全て無駄になる……」

「ヒーローって辛いな……。いっそのこと、あいつの言うように海外に行っちまえば全部楽になるんだろうけどなぁ」

 

 ため息交じりの功海。曜たちは二人のやり取りを、じっと黙って聞いている。

 

「……だけど、俺たちのこの町を護れるのは……いや! あいつを倒せるのは! 俺たちだけしかいないんだッ!」

「だよな……! もう何も壊されたくねぇ! あいつの好き勝手にされんのはたくさんだッ!」

 

 克海と功海が気力を取り戻していくことに、梨子たちも顔を明るくしていった。

 

「ああ。たとえ罵られようとも構うもんか! 俺たちは、俺たちの信じるもののために戦う!」

「苦労も努力も上等じゃんか! 全部背負っていこうぜ!」

「二人だけじゃありません! 私たちだって手伝います!」

「みんなで目指そうよ! 打倒オーブダーク!」

 

 梨子も、曜も、ダイヤも善子も、果南、鞠莉、花丸、ルビィも。全員が険しい道を進んでいく覚悟を、既に持っていた。

 

「よしッ! 早速作戦会議だ!」

「おぉー!」

 

 克海と功海は、互いのみならず皆と拳を重ね合い、虚構のウルトラマン伝説を食い止める目的のために動き始めた。

 



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アイゼンTrapper(B)

 

 翌日。内浦の被害はかなり大きく、海の家は当分営業停止。手伝いがなくなってしまったAqoursだが、合宿自体は続行することとなる。

 しかし二日目の今日の午後、Aqoursと克海、功海はある理由で綾香に来ていた。

 

「……千歌の奴、大丈夫か? サルモーネ……いや、愛染に会いに行くなんて言いやがって」

「向こうも、まさか千歌に直接手を出すような真似はしないと思うが……」

 

 功海と克海は公園から、不安げにアルトアルベロタワーを見上げてつぶやいた。

 早朝、千歌はいきなり愛染に会いにアイゼンテックを訪問すると言い出した。当然克海たちはそろって反対したが、理由を言うことは出来ないので、強くは反対できず、押し切られてしまったのだった。その代わり、もしもの場合に備えて一緒に綾香までついてきたのである。

 

「千歌さん、大丈夫でしょうか……」

「まぁ、梨子さんと曜さんがついていっていますから、万一のことがあればすぐに連絡がありますわ」

 

 心配するルビィにダイヤが言い聞かせていると、克海と功海は彼女たちの方へ振り向く。

 

「千歌のことは別にしても、サルモーネは今日にでもまた悪事を働くかもしれない。まだ何も起こってない内に、連携の練習をしとこう」

「絶対奴をぶっ倒して、リングを取り返すぜ!」

「おぉー! ずら!」

「任せて克兄ぃ! 功兄ぃ!」

 

 千歌が戻るまでの間に、克海たち一同はオーブダーク打倒のためのチームワークを磨き始めた。

 

 

 

 その頃、梨子と曜は千歌が入っていったアイゼンテックの社長室の扉に密かに張りつき、中の会話に聞き耳を立てていた。

 

「あいつ、千歌ちゃんに何もしないよね。もしもの時は、すぐに踏み込めるようにしなきゃ……!」

「しっ。聞こえるわ」

 

 中の千歌に気づかれないように気を配りつつ、聴覚に意識をこらす二人。

 社長室では、千歌がサルモーネと面と向かって話をしている。

 

「それじゃあ……本当に、お兄ちゃんたちとは何もなかったんですか?」

「もちろんさぁ。強いて言えば、私がちょっとお節介を焼き過ぎたことかな」

 

 サルモーネも真実は口にせず、千歌にははぐらかしたことを返している。

 

「君のお兄さんとお友達のみんなは、とっても自立心が強いみたいだ。それで余計なことをしたって思われちゃったみたいだねぇ。いやぁ、彼らの気持ちを慮れなかいとはこの愛染正義もまだまだだ!」

「あ、愛染さんは悪くないですよ! ほんとにそうなら、あんなに怒ったお兄ちゃんたちが失礼だったんたし……ごめんなさい」

「いーよいーよ謝ってくれなくたって。それより……」

 

 頭を下げた千歌に、愛染が目を細めながら告げる。

 

「私は本当に君たちのことを買ってるんだ。だから、君から彼らのことを説得してくれないかな?」

「え?」

「!!」

 

 聞き耳を立てている梨子と曜の顔色が変わった。

 

「君だって行ってみたいだろう? ハリウッド。狭い田舎町で、何の指導者もなしにラブライブ優勝しようなんてとても大変なことだよ。本場ハリウッドで勉強すれば、将来はトップスターにだってなれることだろう! どうかな? 君から言ってくれれば、みんなも考え直してくれると思うんだけど」

 

 誘惑を掛けるサルモーネ。梨子と曜は、千歌が何と返答するものかとハラハラする。

 そして、肝心の千歌の回答は、

 

「……お気持ち、ありがとうございます」

「おお、ではッ!」

「ですけど……すみませんが、私もそのお話しはお断りさせてもらいます」

「……何ぃ?」

 

 梨子たちは驚いて、思わず顔を見合わせた。

 

「私たちは、浦の星をなくさないようにがんばってます。今浦の星から離れちゃえば、私たちは有名になるかもしれませんけど、きっと浦の星に生徒を集めることは出来なくなっちゃうから……。だから、私たちだけが得する道は選べないんです。すみません、せっかく愛染さんが気に掛けてくれたのに……」

「……いやいいんだよ~。少ーし残念だけど、そういうことなら仕方ない。だけど、私だったらいつでも待ってるからね~」

「ありがとうございます。お話しはこれだけです。今日はありがとうございました」

「気をつけて帰ってね~」

 

 サルモーネにペコリと一礼して、社長室から退室する千歌。――その途端に、ダバーと感涙している梨子と曜に左右から抱きつかれた。

 

「千歌ちゃぁんっ!」

「わっ!? 二人とも、どうしてここにいるの!?」

「ラブライブ優勝しようねぇ! 絶対、絶対浦女を存続させようねぇ~!」

「う、うん……」

 

 やや気圧されながら、二人と一緒に社長室の前を離れていく千歌。それをニコニコと見送ったサルモーネだが――完全に姿が見えなくなると、その顔がしかめ面に一変した。

 

「けッ! 青っちろい小娘がカッコつけおって! 結局ぼんくら兄弟の妹もぼんくらかッ! 私の言うことを大人しく聞いてりゃあいいものを! あ~無駄な時間過ごしたッ!!」

 

 肩を怒らせながらデスクの前まで回っていくサルモーネ。

 

「もうあんな石ころのことなど忘れて、ダイヤの原石の研磨を始めるとしようか! この台本でッ!」

 

 と言って取り出したのは、表紙に『THE ULTRA M@STER ORB DARK NOIR BLACK SCHWARTZ』と書かれた台本だった。サルモーネの手作りだ。

 

「『夏休みのある日、アイゼンアイドルスクールのスクールアイドルたちが突如怪獣の魔の手に掴まってしまう! それを救うウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ! しかしアイドルたちは知ってしまう。その正体が愛と正義の伝道師、愛染正義であると! この出会いこそが、彼女たちがスクールアイドルなどというお遊びではない、真のウルトラマンと歩む真のアイドルの道を踏み出すスタ→トとなるのであった……』。うーむ我ながら完璧なシナリオだぁ!!」

[昨日出撃したばかりなのに、また戦闘するのですか?]

 

 自画自賛しているサルモーネに、ウッチェリーナが尋ねかける。

 

「この業界はスピード勝負だ。畳みかける大活躍で、私が真のヒーローだと印象づけるのだよ!」

[なるほどぉ! 流石社長!]

「それではぁ、よーいアクション!」

 

 サルモーネがAZジャイロに「毒」のクリスタルを嵌め込み、レバーを引き始めた。

 

「第三話ぁ! 『スタ→ト日和』! みんなで見ようッ!!」

 

 クリスタルから召喚された怪獣が、綾香の上空に解き放たれる!

 

 

 

 サルモーネに集められていた『特待生』の内、二つのリボンを結んだ娘と双子のスクールアイドル三人が、アイゼンアイドルスクールの正門前に集まっていた。

 

「理事長、こんなところに呼び出して何の用事なんだろ?」

 

 リボンの娘がぼやいていると、そこにサルモーネの召喚した虫型怪獣が空から急襲を掛ける!

 

「キイィィ―――!」

「え? きゃああああ―――――――!?」

 

 宇宙悪魔ベゼルブ! ベゼルブは手中にスクールアイドル三人を捕らえて浮上し、綾香の街を火炎弾で爆撃後に着地する。

 

「うわああぁぁぁぁ―――――――!」

「た、大変です! 女の子が三人、怪獣の手の中に捕まってます!」

「助けてぇーっ!!」

 

 街はたちまち大混乱。その光景をタワーから満悦気味に見下ろすサルモーネ。

 

「よしよし、ここまでシナリオ通り。それでは、主役の登場と行こうか……!」

 

 サルモーネは早速オーブリングNEOを使用し、変身を行う。サルモーネに手に取られたリングが闇に染まる。

 

「絆の力……お借りしまぁすッ!」

ウルトラマンオーブダーク!

 

 変身したオーブダークが肩にオーブダークカリバーを担ぎながら、ベゼルブの正面に着地した。その背後に飛行船が旋回する。

 

『銀河の光がオレも呼ぶ! 我は、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ!!』

「キイィィ―――!」

 

 ベゼルブとにらみ合うオーブダークに、綾香の市民が口々に声援を送る。

 

「ウルトラマーン! がんばれー!」

「女の子たちを助けてー!」

 

 これを受けたサルモーネがにんまりとほくそ笑む。

 

『うむうむ! 全てオレに任せておきなさい! ハッハッハッ!』

 

 ベゼルブはスクールアイドルたちを手中に捕らえたまま、火炎弾を吐き出してオーブダークに攻撃。それを切り払ったオーブダークは、ベゼルブに文句を飛ばした。

 

『こらこらぁッ! いきなり派手な技を使うんじゃない! 最初は強めに当たって、後は流れだッ!』

 

 その場に剣を突き刺すと、ベゼルブに駆け寄って素手による格闘戦を始める。

 

『でゅわぁッ!』

「キイィィ―――!」

 

 ベゼルブの腹部に前蹴りを入れ、頭突きを決めるオーブダーク。痛がって悶えるベゼルブを叱りつける。

 

『ボサッとすんな! 次はお前の番だ! ほら、ここにドンとッ!』

「キイィィ―――!」

 

 自分の胸を殴らせるオーブダーク。捕まっているスクールアイドルたちは、ベゼルブに振り回されて悲鳴を発する。

 

「きゃああぁぁぁ――――――――っ!」

 

 ――その声を聞きつけ、克海たちが戦闘の現場の付近まで駆けつけてきた。

 

「関係のない子たちに、あんな危険な思いをさせるなんて……!」

 

 スクールアイドル三人に注視し、怒りを覚える鞠莉。功海は花丸に振り向く。

 

「もうあいつの好きにはさせねぇ! 行こうぜ、花丸!」

「うん! マルたちで、あの人たちを救うずら!」

「しっかりやりなさいよ、ずら丸!」

 

 応援する善子。克海は果南の方へと振り向いた。

 

「果南ちゃん、君は初めての実戦になるが、頼んだぞ! この戦いには、絶対負けられない!」

「もちろん! これ以上街の人たちを巻き込ませないんだから!」

「お願いしますわ、果南さん!」

 

 人一倍張り切る果南。そして兄弟がルーブジャイロを構える!

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 克海と功海がそれぞれ、両腕を胸の前に広げるよう伸ばす果南と、祈るように手を握る花丸を後ろにしながらクリスタルを選択する。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

 

 火と水のクリスタルがジャイロにセットされ、タロウとギンガのビジョンが現れた。

 

[ウルトラマンタロウ!]

[ウルトラマンギンガ!]

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「纏うは水! 紺碧の海!!」

 

 レバーを三回引いて、四人がウルトラマンに変身!

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 ベゼルブと戦っていたオーブダークは、剣の元に戻って地面から引き抜く。

 

『そろそろクライマックス……!』

『はぁッ!』

 

 オーブダークカリバーを構えようとしたオーブダークに、ロッソの飛び蹴りが命中する。

 

『いでぇッ!? いきなり何す……!』

『はぁーッ!』

 

 顔を上げたオーブダークに、今度はブルの蹴りが炸裂して地面に転がった。

 

『ぐへあぁッ!? 『一男蹴って、また二男』んッ!?』

 

 オーブダークとベゼルブの間に割り込んだロッソとブルは、背中合わせになってそれぞれとにらみ合う態勢となる。

 オーブダークは自分をにらむブルに切っ先を向けた。

 

『おいッ!? 何故邪魔しに来たぁッ! もう二度と変身しちゃダメだって言ったろ!!』

 

 地団太を踏むオーブダークに、ロッソが振り返る。そこを狙ってベゼルブが背後から飛び掛かろうとする。

 

「キイィィ―――!」

『『うるさいッ!』』

 

 が、顔面に二人からの肘が刺さって返り討ちにされた。

 ぶっ倒れるベゼルブを尻目に、ロッソがオーブダークに宣告。

 

『自分で仕組んだヒーローごっこはやめてもらう!』

『「こんな茶番劇はおしまいなんだから!」』

 

 ブルとタッチしたロッソが起き上がるベゼルブに掴みかかっていき、ブルはオーブダークに指を向けた。

 

『綾香市は俺たちが守る!』

『「悪いことするあなたは、マルたちがやっつけるずら!」』

 

 堂々と宣言し、ブルがルーブスラッガーを角から引き抜いた!

 

「『ルーブスラッガーブル!!」』

 

 オーブダークに肉薄し、鍔迫り合いを行うブル。彼が抑えている間に、ロッソがベゼルブから人質を奪還しようと肉弾戦を繰り広げる。

 

『「その子たちを放しなさいっ!」』

「キイィィ―――!」

 

 膝蹴りでベゼルブの手の力を弱めようとするロッソ。ブルはスラッガーで振り回されるオーブダークカリバーを弾き返している。

 

『えぇい邪魔だぁッ!』

『「邪魔してるんだから当たり前ずらっ!」』

 

 ブルとオーブダークが激しく切り結ぶ姿に、市民たちは困惑した。

 

「ウルトラマン同士で戦ってるぞ!?」

「仲間なんじゃないのか!?」

 

 ロッソはベゼルブの右腕を掴んで、その手の中のスクールアイドルたちを解放しようとするも、ベゼルブは羽を広げて飛び上がり抵抗。

 

「キイィィ―――!」

 

 空に逃れて火球弾で反撃してくるベゼルブ。ロッソはそれを腕で全て打ち払った。

 

『はッ! 待てッ!』

 

 飛び回るベゼルブを追うロッソ。ブルはオーブダークと、刃と刃をぶつけ合って火花を散らす。

 

『てあぁッ!』

『ぬぅッ!』

 

 オーブダークを押し返すと、ブルの背中にロッソが背中を合わせた。

 

『あいつ速いな!』

『「功兄ぃ! クリスタルチェンジだよ!」』

『オッケー!』

『「行くずら!」』

 

 花丸が果南へと水のクリスタルを投げ渡し、自分は土のクリスタルを選び取る。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

 

 クリスタルをジャイロにセットして、果南と花丸がレバーを引いていく。

 

『纏うは水! 紺碧の海!!』

『纏うは土! 琥珀の大地!!』

『「ハグしよっ!」』

『「お花ーまるっ!」』

 

 ロッソアクアとブルグランドに変身すると、ロッソがアンダースローでスプラッシュ・ボムを飛ばした。

 

『これならどうだぁッ!』

 

 水球はベゼルブの羽に纏わりついて羽ばたきを阻害し、浮力を失ったベゼルブが墜落していく。

 

「キイィィ―――!」

「きゃああああああああっ!!」

 

 そこに駆けていくロッソ。手の平に水球を作り、落下するベゼルブとすれ違う。

 

『はッ!』

 

 ロッソは水球をクッションにしてスクールアイドル三人を奪い返した。ベゼルブはそのまま頭から地面に激突。

 

『「盗塁成功!」』

『おいゴラァッ! 勝手に助けるなぁッ!』

 

 切れたオーブダークがロッソに後ろから斬りかかろうとするのを、ブルのパンチが押し返した。

 

『ぶッ!』

『お前こそ、勝手なこと言うんじゃねぇ!』

『「あの人たちには手を出させないずら!」』

 

 ロッソは今の内にスクールアイドルたちを安全な場所まで移し、そっと地面に下ろした。

 

『「さぁ、早く逃げて!」』

 

 クイッと顎でしゃくって避難を促すロッソ。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 三人はそれに従って、タタタタッと走り去っていった。

 

『く、くっそぉー! こうなったら怪獣だけでもぉ!』

『そうはさせるかッ!』

 

 あきらめ悪く、ベゼルブにとどめを刺そうとするオーブダークに反転したロッソが飛び掛かって剣を受け止めた。彼と位置を交代したブルはベゼルブに狙いを定め、両腕にエネルギーを込める。

 

「『アースブリンガー!!」』

 

 地面に叩き込んだエネルギーが地表伝てに走っていき、おきあがったところのベゼルブを呑み込む!

 

「キイィィ―――!!」

 

 ベゼルブは一撃で、木端微塵に消し飛んだ!

 

『うわああぁぁぁぁぁああああああああ――――――――!! 台無しだぁぁぁああああああああ―――――――――――!!』

 

 怪獣へのとどめも奪われたサルモーネは、台本をビリビリに破り捨てながら慟哭。膝を突いてドンドン道路を殴り、激しく悔しがる。

 

『そんなにか……』

『「呆れ果てた……」』

 

 ドン引きのロッソの下に駆け寄るブル。――その時に、千歌が梨子、曜とともにロッソたちの様子が一望できる場所まで走ってくる。

 

「戦いは終わった……のかな……?」

「やったんだね、克海さんたち……!」

「うん……! あいつにひと泡吹かせてやったね……!」

 

 千歌に気づかれないよう顔を背けながら、こそっと喜び合う梨子と曜。――そのため、ロッソとブルが拳を打ち合わせてタッチするのを千歌が目撃したことには気づかなかった。

 

「! 今のって……」

 

 千歌にはそのポーズと――克海と功海の姿が重なって見えた。

 健闘を称え合ったロッソとブルだが、そこにオーブダークが不穏な様子でゆらりと起き上がる。

 

『よくも! よくもッ! よぉぉぉぉくもぉッ!! もー許さんッ!! 消え失せろにせウルトラマンどもぉぉぉぉぉぉぉッ!!』

 

 目を血走らせたオーブダークが、二人へ全力で剣を振り下ろした! 咄嗟に左右に分かれてかわすロッソとブル。

 

『許さないはこっちの台詞だ!』

『偽物はお前だろッ!』

『「みんなに迷惑ばっかり掛けて!」』

『「お仕置きずら!!」』

 

 とうとう我慢がならなくなったロッソたちが、オーブダークを捕まえて締め上げる。

 

『「えいえい! 善子ちゃん直伝、コブラツイストずら!」』「堕天龍鳳凰縛よ!」

『「さぁ! 降参しなさいっ!」』

『だ、誰が降参など……いででででででッ!』

 

 ブルが拘束し、ロッソがオーブダークカリバーを奪い取ろうとする。――その時に、少し離れた場所のビルの屋上に、黒い服装の怪しい雰囲気の少女が上ってきた。

 少女は右手に奇怪な模様が走るジャイロを、左手に――ウッチェリーナより先に回収した獣のクリスタルを取り出し、クリスタルをジャイロに嵌め込む。

 

ホロボロス!

 

 少女は小脇でジャイロのレバーを二回引き、三回目に正面に回してチャージしたエネルギーを解放する――!

 

『ん?』

 

 ロッソたちがオーブダークと乱闘している、その頭上に空間の穴が開き、三人が思わず見上げた。

 直後に穴から巨大な光球が降ってきて、咄嗟に身を引いてかわした。

 

『な、何だ!?』

『「まさか、新手!?」』

 

 警戒する果南だが、オーブダークも困惑している。

 光球が弾けると、その中から出てきたのはホロボロスであった。

 

『またお前の仕業か……!』

『汚ねぇぞッ!』

『「この期に及んで、潔くないずら!」』

 

 花丸たちに糾弾されたオーブダークはブンブン手を振る。

 

『違う違う違う違う! オレ知らないよ!?』

『「つまらない嘘吐かないでよ! あんた以外に、誰がいるの!」』

『ホントなんだってば! ほら、今変身してるし!』

 

 オーブダークが虚言を弄しているようには見えないので、ロッソたちは戸惑う。

 

『どういうことだ?』

『どっちにしたって倒すしかないっしょ!』

『待てッ!』

 

 攻撃を仕掛けようとするブルを、ホロボロスの様子がおかしいことに気づいたロッソが押しとどめた。

 ホロボロスは突然全身からスパークを発して、黄色い眼を赤く染め上げると、肉体をゴキゴキと変形させ始めた!

 

『「な、何事ずらぁ!?」』

『「どうなってるの……!?」』

 

 目を見張る花丸たちの前で――ホロボロスの爪がバックリ開いてベアークローのようになり、背筋が伸びて二本足で立ち上がった。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『た、たたたたたッ! 立った!?』

『何が起きてるんだ……!』

 

 事態の急変についていけないロッソたちだが、時間が経ち過ぎていることで、カラータイマーが点滅を始めた。

 

「え!? え!? どういうこと!?」

「戦いは、もう終わったんじゃ……!」

 

 戦闘を見守っていた鞠莉たちや、曜、梨子も混乱している。

 そして千歌も――ホロボロスを召喚した少女も、事態の流れをじっと見つめていた。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

花丸「お花ーまるっ! 今回紹介するのは『ULTRAMAN ORB』ずら!」

花丸「この曲はタイトル通り、『ウルトラマンオーブ』の主題歌……じゃなくて、そのスピオンオフ作品の『THE ORIGIN SAGA』の主題歌ずら! アマゾンプライムで独占配信されてる、『オーブ』の前日譚ずらよ!」

花丸「歌うのは浅倉大介さんと、あのつるの剛士さんずら! 言うまでもないことかもしれないけど、つるのさんは『ウルトラマンダイナ』の主人公アスカ・シン役を務めた役者さんで、『THE ORIGIN SAGA』にもアスカ役で出演してるずらよ」

花丸「『ORIGIN SAGA』はオーブがウルトラマンになってすぐの事件を描いた作品だから、テレビ本編と比べて未熟なところが多いずら。その部分が歌詞にも反映されてて、ちょっと重い雰囲気の歌になってるずら」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『Strawberry Trapper』だ!」

功海「以前も紹介したGuilty Kissの歌った曲だな! 過激な意味の言葉が次々出てくる、アダルチックなイメージの歌だぞ!」

克海「Guilty Kissを構成する鞠莉ちゃん、梨子ちゃん、善子ちゃんもAqoursで比較的クールなイメージの三人だな」

花丸「それじゃ、また次回ずら!」

 




克海「ホロボロス……こいつは今までの怪獣とはひと味違うぜ……!」
功海「こんな奴、どうやって倒せばいいんだよ!」
千歌「お兄ちゃん! 私信じてる! だから負けないで!!」
克海&功海「千歌!!」
克海「次回、『俺たちの想いよひとつになれ』!」
克海&功海「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」


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俺たちの想いよひとつになれ(A)

 

 怪獣を使い、自作自演のヒーロー劇を繰り広げるサルモーネ。克海と功海はその身勝手を許せず、Aqoursと力を合わせてその悪行をくじいた。――しかしその矢先にホロボロスが再度出現。しかも今度は変形して立ち上がった!

 何かがおかしい。残り時間の猶予が少ないロッソとブルは、この事態を収拾することが出来るのか――。

 

 

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『どうなってんだよ……!』

『分からん……!』

 

 二足で立ち上がり、雄叫びを上げるホロボロスにロッソとブルは狼狽。オーブダークも事態を呑み込めずにうろたえているが、その時に綾香の市民から声が上がる。

 

「昨日の怪獣だぁー!」

「助けてー! ウルトラマーン!」

 

 これを耳にしたオーブダークが虚勢を張った。

 

『な、何が何だか理解が追いつかんが……みんなの期待に応えてこそヒーロー! オレに任せなさーいッ!』

 

 ドンと胸を叩いてオーブダークカリバーを構えると、ホロボロスに肉薄して肩口に振り下ろした。

 

『でゅわぁッ!』

 

 刃は肩の筋肉に止められるが、この隙に手の平を押し当てて停止信号を打ち込む。

 

『よぉし、これで……!』

 

 安堵の息を吐くオーブダークだが――ホロボロスには何の反応がなかった。

 

『あれ?』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ホロボロスはオーブダークカリバーを弾き飛ばすと、オーブダークの顔面をしたたかに引っかいた。

 

『でゅわぁぁーッ!?』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 張り倒されたオーブダークにホロボロスが馬乗りになって、連続で鉤爪を突き立てる!

 

『ぎ、ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ――――――――!!』

『「何だか様子が変だよ!?」』

『お、おいッ!』

 

 一方的に打ちのめされるオーブダークの姿にロッソたちも思わず焦り、止めに入ろうと身を乗り出したが、既に遅かった。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ホロボロスはオーブダークの首根っこを掴んで無理矢理立たせると、反対の手の爪で腹部を貫通した!

 

『でゅわあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――ッ!!』

 

 串刺しにされたオーブダークが断末魔を上げ、エネルギーが暴走。肉体が弾け飛んで消滅した。

 

『「じ、自分の怪獣にやられちゃったずら!」』

『どうなってんだよ一体!?』

 

 まさかの展開に仰天しているブルたち。だがいつまでもじっとしていられそうになかった。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 オーブダークをなぶり殺しにしたホロボロスが振り向き、こちらを見たのだから……!

 

 

 

『俺たちの想いよひとつになれ』

 

 

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ホロボロスは完全にロッソとブルを次の獲物に定め、爪を振りかざして走ってくる!

 

『やべぇよ! こっち来たッ!』

『時間がない! 早くあいつを倒さないとッ!』

 

 ロッソがスプラッシュ・ボム、ブルが槍状の光線、ロックブラスターを発射して攻撃。

 

『はぁーッ!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 二人の攻撃をその身に食らうホロボロスだが、勢いが緩んだのは一瞬だけ。すぐに飛びついてきて二人纏めて引きずり倒す。

 

『うわあぁぁぁぁッ!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 それからホロボロスはすさまじい腕力で二人の首根っこを掴み、それぞれ片腕で吊るし上げる。苦痛で必死にもがくロッソたち。

 

『は、放せ……!』

『「う……うぅぅぅりゃあああっ!」』

『「やあああぁぁぁぁぁぁっ!」』

 

 花丸と果南が力を振り絞ることでブルとロッソの力を引き上げ、どうにかホロボロスから逃れさせる。

 

『「あ、危なかったずら……でも……!」』

『「あいつ無茶苦茶だよ……!」』

 

 汗でびっしょりの二人。ホロボロスの異常なフィジカルの強さには、果南ですら戦慄するほどであった。

 しかもエネルギーを酷使したために、ロッソたちの体力も残されていない。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『うわああぁぁぁぁッ!』

『「あああぁぁぁぁっ!」』

 

 ホロボロスが爪を交差するよう振るい、二人の身体を切り裂く。防御しようとしたロッソたちだが防ぎ切れず、深いダメージを負って片膝を突いた。

 

「功海さん! 克海さんっ!」

「ずら丸ぅっ!」

「果南さんっ!!」

 

 瞬く間に追いつめられるロッソたちのありさまに、ルビィたちも悲鳴を発する。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 更にホロボロスは両腕の爪から光刃を作り出し、それを飛ばしてくる!

 

『『うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!』』

 

 余力のないロッソとブルはかわすことも出来ず、派手に吹っ飛ばされた!

 

「克海さぁんっ!!」

「功兄ぃーっ!!」

 

 あまりのことに梨子と曜が、千歌がいることも忘れて絶叫した。

 

『うッ……! ぐッ……!』

『ぐあぁぁ……!』

 

 光刃が致命傷となって、ロッソとブルが消え去り、後には倒れ伏した克海たちだけが残された。

 

「大変……!」

「助けに行かなきゃ!」

「あっ! 二人とも!」

 

 血相を抱えた梨子と曜は脇目も降らずにその場所へと急いでいく。後に続こうとした千歌だが、そこに光る物体が飛んできたので思わず足を止めた。

 

「え……!?」

 

 不自然な動きで飛んできた発光体は、光を収めるとその場に落下した。――それは、オーブダークが弾け飛んだ際に同時に吹っ飛ばされたオーブリングNEO。それがいやにゆっくりとした速度で、千歌の目の前に来たのであった。

 

「これって……功海お兄ちゃんが持ってた奴……」

 

 リングを手に取った千歌は、すぐにそれが功海の持っていたものと同じであることに気づいた。

 

「じゃあ、お兄ちゃんたちが……!」

 

 我に返った千歌は、リングをポーチに仕舞い込むと、急いで梨子たちの後を追いかけていった。

 

 

 

「みんな……!」

 

 鞠莉たちと梨子、曜は息せき切って、ロッソたちが消えた地点へと駆けつけた。

 そこで彼女たちが目にしたのは、アスファルトの上にぐったりと横たわる克海たち四人の姿。特にウルトラマンの本体の克海と功海の負傷具合は深刻であり、梨子たちは青ざめて息を呑み込む。

 

「克海さんっ! 功海さんっ!」

「功兄ぃ! 克兄ぃ! しっかりしてぇっ!」

「すぐに救急車を!」

 

 側に駆け寄って必死に呼びかける曜たち。鞠莉は迅速な判断で病院に連絡する。

 そこに、千歌も到着する。

 

「……みんな……!」

「ち、千歌ちゃん!」

 

 千歌はこの光景を目の当たりにして、疑惑を確信へと変えた。

 

 

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 オーブダーク、ロッソ、ブルを立て続けに打ち負かしたホロボロスは、身体を揺すって咆哮を上げる。――その近くに、召喚主の怪しい少女がやってくる。

 

「……」

 

 少女が手を伸ばすと、ホロボロスはたちまち粒子に分解され、元のクリスタルに戻って少女の手の平の中に収まった。

 

「……」

 

 少女はその後、克海たちを懸命に介抱するAqoursをしばし見下ろしていたが、やがて無言のままどこかへ立ち去っていった。

 

 

 

「……うッ……」

「うぅ……」

 

 ――意識を失っていた克海と功海が目を開くと、最初に見えたのは、『四つ角』のものではない白い天井だった。

 

「功兄ぃ! 克兄ぃ!」

「みんな! 克海さんと功海さんが目を覚ました!」

 

 二人が覚醒すると、近くから曜と梨子の声が起こる。徐々に意識がはっきりしていくと、克海たちは自分らが病院のベッドに寝かされていたことを知る。

 

「功海さん! 克海さん!」

「よかった、無事に目を覚まして……」

 

 ルビィとダイヤの安堵の声。二人のベッドの周りにはAqoursの八人が集まり、皆安心して胸を撫で下ろしていた。

 

「みんな……」

「あの後、どうなったんだ……?」

「もう一日経ってるわ。私たちで病院まで運んだの」

「ずっと起きないから、心配してたのよ……」

 

 状況を把握できていない克海たちに、鞠莉と善子が告げた。

 

「そうか……。くッ、俺たちまたやられちまったって訳か……!」

「……ごめん。力になれなくて……」

 

 悔やむ功海に、ひと足早く回復していた果南と花丸が申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「いや、結局俺たちが力不足なせいだぜ……」

「こっちこそすまなかった。せっかくの合宿を、滅茶苦茶にして……」

「気にしないで下さい。それより……」

 

 謝る克海に首を振った梨子が、非常に言いづらそうにしながらも告げる。

 

「実は……千歌ちゃんが……」

「千歌!?」

 

 その瞬間に――今までにないほどに暗い表情の千歌が、克海と功海の前に進み出てきた。周りの曜たちは、気まずそうに沈黙する。

 

「……私、見ちゃったの。二人のウルトラマンが消えたところに、お兄ちゃんたちが倒れてたの……。だけど、みんなには何も聞いてないよ。お兄ちゃんたちの口から、直接聞きたいから……」

「……!」

「お兄ちゃん……本当のことを話してよ! お兄ちゃんたちが何をやってるのか! 何で私には何も話してくれなかったのか!」

 

 千歌は真剣な眼差しで、克海と功海と向き合った。

 

 

 

 アイゼンテックの飛行船が上空に巡回する綾香の雑踏の中を、謎の少女が歩いている。――彼女の脳裏にあるのは、倒れ伏した克海と功海の側に集い、二人を懸命に介抱していたAqoursの姿。

 

「……あの娘たち……」

 

 ひと言つぶやいた少女は、周りに人がいない場所に滑り込んでいくと、そこでジャイロと獣のクリスタルを取り出す。

 

ホロボロス!

 

 ジャイロのレバーを三回引いて、再びホロボロスを召喚する――!

 

 

 

 千歌に問い詰められる克海と功海だったが、何も答えずに沈黙だけが流れる。兄妹の周りを囲む梨子たち八人は、一切口を挟むことが出来ずにただ見守るしか出来ないでいた。

 しかし何かの動きが起こる前に、病院の外から轟音と震動が発生した。

 

「! 今のは……!」

 

 鞠莉のつぶやきとともに聞こえるサイレン。直後に病室の扉が開かれて、医者が克海たちへ叫ぶ。

 

「怪獣が出ました! 指示に従って避難して下さい!」

 

 果南が咄嗟にカーテンを開いて窓を開けると、街のど真ん中で暴れ狂うホロボロスの姿を一同が目撃した。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

「またあいつ……!」

 

 歯ぎしりする善子。自分たちを二度も負かした怪獣が、今また出現して猛威を振るっているのだ。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ホロボロスは剛力でビルを根元から引っこ抜き、投げ捨てて綾香の街を破壊していく。これを捨て置けない克海と功海は、すぐに普段着に着替えて出動しようとする。

 

「行くぞ功海……!」

「おう……!」

 

 その後に続こうとする曜たちであったが――兄弟の前を、千歌が腕を広げて立ちふさいだ。

 

「行かないで!!」

「千歌ちゃん……!」

 

 克海と功海の足がピタリと止まった。曜たちもまたその場で立ち止まる。

 

「そんな身体で戦いに行くなんて無茶だよ! 死んじゃうかもしれないんだよ!?」

「……」

 

 訴えかける千歌に、梨子たちは向ける言葉がなく、兄妹の対面をひたすらに見守るばかりであった。

 

「何で……何でお兄ちゃんたちなの? どうして、お兄ちゃんたちがこんな危険なことをしなくちゃいけないの……?」

 

 涙を目尻に浮かべる千歌に、克海が口を開く。

 

「黙ってたのは悪かった。やるべきことが終わったら、全部話す! だから今は行かせてくれ!」

「嫌っ!」

 

 だが千歌は頑なに拒絶。

 

「もしもお兄ちゃんたちがいなくなったら……チカ、怖いの……」

 

 身体が震える千歌に、功海と克海が優しく説く。

 

「この手で綾香市を守らなきゃなんねぇ。みんなが生きるこの街を」

「千歌たちがこれからスクールアイドルとして羽ばたく場所なんだ。壊される訳にはいかない」

「……」

 

 二人の説得で、千歌がゆっくりと腕を下ろしていった。克海と功海はその肩にポンと手を置いてから、脇を通り抜けていく。

 

「千歌ちゃん、私たちも克海さんたちに力を貸すから……!」

「絶対、戻ってくるからね!」

 

 梨子と曜も、千歌に約束する。そして克海たちを追いかけていこうとする寸前、千歌が病室から飛び出して兄弟の背中に叫んだ。

 

「克海お兄ちゃんっ! 功海お兄ちゃーん!」

 

 振り返った二人は、千歌にそっと微笑みかけた。

 

「心配するな。俺たちは」

「「ウルトラマンだ!!」」

 

 その言葉を最後に病院から飛び出していく克海と功海。その後を追いかけて走っていく梨子と曜。

 

「千歌さん……」

「……わたくしたちは、安全なところで克海さんたちの勝利を祈りましょう。きっと、気持ちは届きます!」

 

 残ったルビィたちは、千歌を連れて避難していく。

 

 

 

 外に出た克海、功海、梨子、曜の四人は、今もなお暴れ回るホロボロスを視界に捉えた。

 

「千歌ちゃんにはああ言ったけど、何か倒す手立てがないと結果は同じだよ……!」

「あのスピードが厄介なんです。動きを封じ込めることが出来れば……」

 

 曜と梨子の言葉に、功海が作戦を提案する。

 

「じゃあ、縄文土器作戦ってのはどうだ」

「縄文土器?」

「克兄ぃたちは土の技で奴を泥で包んでくれ。俺たちは火の技を仕掛けて、その泥を固める」

「土は火で熱すると固くなるか……! よしッ!」

 

 うなずき合った克海と功海がパンと手を叩き、ルーブジャイロを取り出した。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」

 

 梨子と曜を後ろに控えさせ、克海と功海が土と火のクリスタルを選択する。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

 

 クリスタルから角を出してジャイロにセット。

 

[ウルトラマンビクトリー!]

[ウルトラマンタロウ!]

「纏うは土! 琥珀の大地!!」

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

 

 克海と梨子、功海と曜を土と火の柱が覆い、ウルトラマンへと変身させていく!

 

[ウルトラマンロッソ! グランド!!]

[ウルトラマンブル! フレイム!!]

 

 

 

 ロッソグランドとブルフレイムが空を飛んでホロボロスに向かっていくのを、避難していく花丸たちが見上げた。

 

「功海さんたち……がんばってずら……!」

 

 固唾を呑む一同。――その時に、千歌は腰に違和感を覚える。

 

「……? ポーチが、光ってる……?」

「え?」

 

 皆が振り向く中、千歌はポーチを開いて光を放つ元を取り出した。

 

「! それって……!」

「どうして、チカっちが……?」

 

 千歌が取り出したのは、オーブリングNEO。それが、淡い光を発しているのであった――。

 



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俺たちの想いよひとつになれ(B)

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『『おぉぉッ!』』

 

 綾香の街を蹂躙するホロボロスに向かっていくロッソとブルは、滑空しながら突撃。飛行の勢いを乗せた拳を相手の腹部に入れ、大きく殴り飛ばした。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『はッ!』

 

 ホロボロスが地面に叩きつけられると、着地したロッソとブルが手の平を叩き合って呼吸をそろえる。

 

『『縄文土器作戦開始!』』

 

 構えを取って宣言したロッソたちに、起き上がったホロボロスが大きく吠えて飛び掛かっていく。

 

 

 

 ロッソたちが戦っている頃、ルビィたちは、

 

「ま、待ってよぉ千歌ちゃーん!」

「本気!? 危ないわよ!」

 

 戦場に向かって走る千歌を慌てて追いかけていた。

 善子が思いとどまるよう叫びかけるが、千歌の足が止まることはなかった。

 

 

 

 こちらに目掛け迫り来るホロボロスに、ロッソが土の塊を投げつける。

 

「『グランドコーティング!!」』

 

 ロッソが次々に投げつける土の球がホロボロスの五体を順番に包み込んでいき、全ての球を投げた時には全身が土で固められていた。

 しかしこのままでは、恐るべき筋力のホロボロスを長く抑え込んでいることは出来ない。そこでブルの出番だ。

 

「『フレイムバーン!!」』

 

 両手の平から火炎放射を繰り出すブル。火で焼かれた土がコチコチに固まり、ホロボロスの身動きを完全に封じ込めた。

 

『「よしっ! 今の内だよ!」』

『「ええ! 一気に決めましょう!」』

 

 曜の呼びかけにうなずき返す梨子。ロッソは掲げた両手の間に土を集め、巨大な岩の爆弾を作り上げる。

 

「『グランドエクスプロージュン!!」』

 

 これを身動きの取れないホロボロスに放ち、猛烈な爆発をまともに食らわせた!

 

『やったか!?』

『よっしゃあッ!』

 

 確かな手応えを感じたロッソたち。だが――。

 

「――ウオオオオオ―――――ン!」

『何!?』

 

 渾身の一発が直撃したというのに、ホロボロスは倒れてはいなかった!

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 むしろ更に凶暴化したように、暴れ狂いながら爪を振りかざして切りかかってきた。

 

『うわッ!』

 

 ホロボロスの飛びつきを咄嗟にかわすロッソとブル。梨子と曜は冷や汗を垂らす。

 

『「今のを受けても何ともないなんて……!」』

『「丈夫すぎるよこいつぅっ!」』

 

 ホロボロスの屈強すぎる肉体に、作戦が破られたロッソたちは追いつめられていた。ホロボロスの単純な強さには弱点がなく、そのせいで活路を見出せずにいた。

 

『こうなったら作戦も何もなしだ! 全力で相手するぞ!』

『このヤロー! いい加減倒れろぉーッ!』

 

 ロッソとブルは捨て身の覚悟でホロボロスに飛び掛かっていき、肉弾の勝負に打って出るも、やはり肉体の強度には大きな開きがあって、瞬く間に叩き伏せられていく。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『うわッ!』

『ぐわぁぁッ!』

 

 ロッソとブルのコンビネーションを物ともせず、爪や脚による攻撃で二人を返り討ちにするホロボロス。追いつめられる二人の元に、千歌が走ってくる。

 

「克海お兄ちゃんっ! 功海お兄ちゃーん!」

『『千歌!?』』

 

 千歌に振り返ったロッソたちがギョッと目を剥いた。

 

『「な、何で千歌ちゃんがここに!? 避難したんじゃ……!」』

「ごめん! 千歌がどうしてもって聞かなくて……!」

 

 曜が戸惑っていると、千歌を追いかけてきた果南たちが声を張って謝った。

 

『くッ……! 何としても奴を倒さなければ!』

 

 目の前にはホロボロスがいる。最早退くことが出来なくなったロッソたちは、尋常ならざる覚悟を固める。

 

『「曜ちゃん! クリスタルチェンジよ!」』

『「うん! 全力を絞り尽くそう!」』

 

 梨子と曜はクリスタルチェンジし、自分たちの持てる力の全てを出し尽くせる状態となる。

 

『「ビーチスケッチさくらうち!」』

『「ヨーソロー!」』

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 ロッソフレイムとブルアクアに変身した二人が、すかさずダブルドロップキックを仕掛ける。

 

『『はぁぁぁぁーッ!!』』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 全身全霊の攻撃が決まり、ホロボロスも流石に蹴り飛ばされたが、押されたのは一瞬だけ。すぐに体勢を立て直してロッソたちに再度襲い掛かってくる。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『うわぁッ!』

 

 ロッソとブルにタックルをかまし、捕らえたまま締め上げようとするホロボロス。だが、ロッソたちはひたすらに踏ん張って抵抗し、ホロボロスを押し返そうとする。

 

『「こ、ここから先は絶対通さない……!」』

『「すぐ後ろに、千歌ちゃんたちがいるんだ……!」』

 

 千歌たちを護るため、全身から汗を噴き出しながら力を出し続ける梨子と曜。しかし持久戦となってはウルトラマンに分が悪く、やがてカラータイマーが点滅を始める。

 それでも決してあきらめずに拮抗し続けていると、千歌がオーブリングNEOを再び取り出し、それに願いを込め始めた。

 

「お願い……! どうか、お兄ちゃんたちに力を……! お兄ちゃんたちを、助けて……!」

 

 リングをぎゅっと握り締めながら、万感の想いを捧げる千歌。

 

「お兄ちゃん……! 私、信じてる! だから負けないで!!」

 

 必死の願いを、あらん限りの声で叫ぶ千歌。

 すると、

 

「ずらっ!?」

「な、何ですの……!? リングが、光って……!」

 

 千歌の手の中のリングから、すさまじい閃光がほとばしった。あまりの光量にダイヤたちは直視できず、反射的に目をそらす。

 

「す、すごい光……! 私たちが使った時も、こんなには光らなかったのに……!」

 

 驚きを見せる鞠莉。そしてリングはひとりでに浮き上がって千歌の手から離れ、ホロボロスに苦しめられているロッソとブルの元へと一直線に飛んでいった。

 ホロボロスとの間に入り込んだリングが更なる閃光を発して、目を焼かれたホロボロスはロッソたちから手を放して後ろに倒れる。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 解放されたロッソたちは安堵するより、見たことがないほどに光るリングに驚愕する。

 

『「オーブリングNEO……!」』

『「すごい光ってる……!」』

 

 驚くとともに、リングの輝きに勇気づけられた梨子と曜は、リングへと手を伸ばした。

 

『「私たちから行くよっ!」』

 

 曜がリングを手に取り、中央のボタンを押す。リングから生じるエネルギーが、ブルの身体にみなぎった。

 

「『スペリオン光線!!」』

 

 十時に組んだ腕からほとばしった光の奔流がホロボロスに押し寄せる。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 前回と同じように弾き返そうとしたホロボロスだが――光線は爪を粉砕! 自慢の武器を砕かれ衝撃を受けるホロボロス。

 

『「梨子ちゃんっ!」』

『「ええ!」』

 

 曜がリングをパスして、受け取った梨子がボタンを押して光と闇のエネルギーを解放する。

 

「『ゼットシウム光線!!」』

 

 ロッソの腕から放たれた一撃がホロボロスに突き刺さり、その巨体を空中に吹っ飛ばした。

 

「ウオオオオオ―――――ン!!」

「す、すごいですわ……!」

「ヨハネたちの時とは、全然違う威力……!」

 

 一転してホロボロスを追いつめるロッソとブル、それを可能としたオーブリングNEOの威力に目を見張るダイヤたち。果南は唖然としながら千歌に振り向いた。

 

「千歌が、手にしたから……?」

 

 ロッソは今こそが勝機と見て、ブルたちに呼び掛ける。

 

『俺たちの想いをひとつにするんだッ!』

『分かったぁ!!』

『「梨子ちゃん、お願い!!」』

『「任せてっ!!」』

 

 梨子が再びリングのボタンを押すと、ルーブジャイロにリングをセットしてレバーを引っ張り出す。

 

『俺たちの守るべきものを!』

『守り抜くために!』

『「「気持ちを、ひとつに!!」」』

 

 三回目のエネルギーチャージの際に、梨子と曜は一瞬、ほんの一瞬だけ、幻視した。

 

『「「――あなたは……」」』

 

 頭の左右にリボンを結った、誰しもが持っていそうな親しみがありながら、同時に誰よりも温かい慈愛の感情と輝きを醸し出す、不思議な少女の微笑みを――。

 

『『はぁぁぁッ!』』

 

 ロッソとブルは胸の前に両手で円を作ると、右腕と左腕を頭上に伸ばしてタッチさせる。その二人の手を中心にエネルギーがあふれ返る。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 二人からただならぬものを感じたか、ホロボロスはこちらも全エネルギーを集中させて光刃を作り出し対抗しようと構える。

 ロッソとブルのエネルギーが頂点に達すると、二人の背後にもう一人の光の戦士――真のウルトラマンオーブの幻像が現れ、三人で四色の煌めきを宿した光の輪を作り出す。

 

『『はぁぁぁぁぁぁ―――――――ッ!!』』

 

 ロッソとブル、オーブが十字を組み、三人の光線をリングで一つに束ねて発射!

 

「『「『トリプルオリジウム光線!!!!」』」』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ウルトラ戦士たちの光線と、ホロボロスの放った光刃が衝突! 光刃が光線を切り裂いて進もうとするが、

 

「『「『いっけぇぇぇぇぇ――――――――――――!!!!」』」』

 

 光線が光刃を打ち砕き、ホロボロスの肉体を貫通した!

 

「ウオオオオオ―――――ン!!」

 

 驚異的な耐久力を誇ったホロボロスも遂に限界を迎え、跡形もなく爆散!

 

「やった……!」

「か、勝ったぁぁぁぁぁ――――――――!!」

 

 これを見届けた千歌たちが、わっと歓声を上げる。

 

「よかった……本当に、よかった……!」

「これでやっと安心ずらぁ……」

「ナイスファイトっ!」

「ふっ……これぞ堕天使の祝福……!」

「ほらルビィ、何を泣いていますの。お拭きなさい」

「だって、だってぇ……」

 

 胸を撫で下ろす果南、花丸。健闘を称える鞠莉、善子。思わず感涙してしまうルビィを、ダイヤがあやす。

 そして微笑んで見上げる千歌に、ロッソとブルが強くうなずくと、二人で拳を打ち鳴らして手の平をパンッと重ね合わせた。

 

 

 

「――春香……」

 

 

 

 変身を解いた克海、功海、梨子、曜の四人は、千歌たちの元へと戻ってくる。

 

「……ただいま」

「……おかえりなさい」

 

 苦笑を浮かべながら告げた克海と功海に、千歌は微笑とともに返した。

 そして、ガバッと二人に抱き着く。

 

「お、おい!?」

 

 千歌は克海と功海の胸に顔を埋めるようにしながら、声を絞り出した。

 

「よかった……よかったよぉ……お兄ちゃんたちが、帰ってきて……」

「千歌……?」

「どっか行っちゃうかもって思って……怖かったんだもん……。チカを置いて……行っちゃわないでよぉ……」

 

 ぐすっと嗚咽混じりにつぶやく千歌の背中を、克海と功海が優しくさする。

 

「ごめんな、千歌……。もう隠し事はしないから」

「兄ちゃんたち、ずっとお前の傍にいるからな」

 

 ぎゅっと抱き合う兄妹たちの姿を、梨子たちは微笑みながら、優しい眼差しでじっと見守っていた。

 やがて、鞠莉がパンと手を叩いて場を仕切る。

 

「さっ! みんなで内浦に帰りまショー! 合宿の続きデース!」

「そうですわ! 結局、特訓をやれてません! 明日から改めて行いましょう!」

「え、えぇー!? あれほんとにやるんですかぁ!?」

 

 気持ちを切り替えた千歌たちが、ダイヤの呼びかけにためらいの声を上げた。

 

「そんな軟弱な気持ちではいけませんわよ! 克海さんたちだって、全力を出し尽くしたところではありませんか! 見習わないといけなくてよ!」

「いや、それとこれとはちょっと違うと俺も思うんだけどな……」

「えらい張り切ってんなー……」

 

 ぼやく克海と功海だが、やる気満々のダイヤは結局誰にも止められそうになかった。

 そんなこんなで、一同は和気あいあいと話し合いながら内浦へのバス停へと歩いていく。

 

「それにしても、最後の一撃すごかったよね。何か背後霊みたいなのまで出てきちゃってたし!」(果南)

「あれこそ光と闇を併せ持つ真なる堕天の使徒……。あるいは、幽波」(善子)

「あんなこと出来るのなら、もっと早くやればよかったのにずら」(花丸)

「いやー、急に頭の中に浮かんできたんだよね。やり方」(曜)

「ええ。実際やってみて、あんなすごい技あったんだってびっくりだわ。無我夢中だったから気にならなかったけど」(梨子)

「ウルトラマンってすごいんだね~……」(ルビィ)

「今更ながら、常識では計り知れない存在だと見せつけられましたわ」(ダイヤ)

「ウルトラマンにはまだまだ俺たちの知らない力があるみたいだな」(克海)

「それって、お兄ちゃんたちがもっともっとカッコよくなるってことかな!?」(千歌)

「何にせよ、今夜は怪獣撃退パーティーやろうぜ! 俺シャイ煮食ってみてぇ! いいよな!」(功海)

「Of course! 一杯十万円デース!」(鞠莉)

「え……!?」(功海)

 

 ――団欒とともに立ち去っていく兄弟とAqoursの背中を、謎の少女が密かに見つめていた。

 彼女は、特にAqoursに注目してひと言つぶやく。

 

「……ウルトラマンとともにいる、あの娘たち。何故……」

 

 彼女の頭上の空では、アイゼンテックの飛行船がゆっくりと旋回していた――。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

ダイヤ「ダイヤッホー! 今回ご紹介しますのは、『Shine your ORB』ですわ!」

ダイヤ「この歌は『ウルトラマンオーブ』のエンディングテーマですの。歌手はvoyagerさんと、クレナイガイ役の石黒英雄さんに加え、SSPのお三方の『オーブ』レギュラー陣の皆さまですわ!」

ダイヤ「オープニングの『オーブの祈り』が典型的なヒーローソングだったのに対して、こちらはゆったりとしたメロディで、エンディングらしい落ち着いた曲調となってますわ。一方で、こちらの歌詞も『オーブ』の内容が強く反映されてますわ」

ダイヤ「ところでオーブの存在は『R/B』の中盤で物語に大きく関わっていましたが、肝心のロッソとブルとは意外な関係があったことが終盤になって語られました。驚かれた方もいらっしゃることでしょう」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『想いよひとつになれ』だ!」

功海「第一期第十一話のライブシーンで使用された歌だな! ストーリーの都合上、ここでは梨子を除いた八人という珍しい人数でのライブとなったんだぜ」

克海「このライブに至るまでの経緯が十一話の主題だ。千歌と曜ちゃんの関係にスポットが当たる話だから、この組み合わせが好きな人は必見だな」

ダイヤ「それでは、また次回でお会い致しましょう」

 




克海「ラブライブの予備予選に臨む千歌たちだが、梨子ちゃんが抜けた穴を埋めるのに苦労していた。曜ちゃんが代役を務めることになるんだが……」
鞠莉「曜はチカっちに複雑な気持ちがあるみたい。これはほっとけないわ」
克海「そんな時に現れる新手の怪獣! 千歌たちの邪魔はさせないぞ!」
鞠莉「次回、『ふたりの星で踊るんだもん!』!」
克海「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」


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ふたりの星で踊るんだもん!(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

果南「大暴れする大怪獣ホロボロス! あきらめずに立ち向かう克兄ぃたちだけど、絶体絶命のピンチに……! その時に千歌が手にしてたオーブリングNEOが新しい力を与えて、遂にホロボロスをやっつけた!」

 

 

 

 ――『四つ角』で、千歌がぷくーと頬を膨らませてすねていた。

 

「……千歌、何であんな顔してるの?」

「それが……」

 

 果南の問いかけに曜が苦笑いしながら答えようとするが、それより早く千歌が言う。

 

「お兄ちゃんたち、ひどいんだ~。みんなにはウルトラマンの秘密教えてたのに、チカにだけずっと黙ってたなんて。チカだけのけ者にしたんだ~」

「い、いや別に、そんなつもりはなかったんだぞ? ただ、結果的にそうなったってだけで……」

「そ、そうそう、なりゆきだって。だからそんな怒んなって」

 

 克海と功海が焦りながら弁解するのを、若干呆れながらながめる果南たち。

 千歌は二人の言い訳を聞くと、振り返ってこう頼んだ。

 

「許してほしかったらさ、私もウルトラマンに変身させてよ!」

「え?」

「もうみんなは変身したんでしょ? 私にもやらせて!」

「おいおい。ウルトラマンは遊びじゃ……」

「変身したいしたいぃ~! チカにもやらせて~!」

 

 拒否しようとする克海に千歌はじたばたと駄々をこねる。それに肩をすくめる功海。

 

「しょーがねぇなぁ。一回だけだからな」

「ほんと!? ありがと功海お兄ちゃん!」

「おい功海……!」

「いいじゃん、一度だけなら。すぐ戻るからさ」

 

 咎める克海に断りを入れて、功海は千歌と並んでルーブジャイロを取り出そうとする。

 

「じゃあ行くぞ。俺色に染め上げろ! ルー……!」

 

 だがいつものようにジャイロを構えた瞬間――バチィッ! と激しいスパークが発生した。

 

「うおッ!?」

「きゃっ!?」

「だ、大丈夫ですかぁ!?」

 

 スパークの衝撃ではね飛ばされる功海と千歌。周りで見ていたルビィたちは驚いて二人に駆け寄った。

 

「あ、ああ、大丈夫だ。けど……」

「え……えぇ~!? 何で変身できないの~!?」

 

 ジャイロに拒絶されたことに千歌はガビンとショックを受けた。克海はジャイロを拾い上げて首をひねる。

 

「変だな……。こんな反応、今まで一度だってなかったのに」

「わたくしたちは皆、何の問題もありませんでしたわよね」

「どうしてチカっちだけ駄目なのかしら?」

「不思議ずらぁ~」

「もしや、天界の非情なる審判……!」

「千歌、ジャイロを怒らせるようなことでもしたんじゃね?」

「そ、そんなことないもん!」

 

 功海の冗談にムキになった千歌は、ジャイロを力ずくで動かそうとする。だがレバーは石になったかのようにびくともしない。

 

「何かの間違いだよ今のは! う、動けぇ~……! うぎぎぎぎ……!」

「おいおいやめろって! 壊れたらどうすんだ!」

 

 それでも無理矢理引っ張る千歌から功海がジャイロを取り上げた。

 

「うぅ~……何で私だけぇ……?」

「千歌ちゃん、元気出して……。気にすることないわよ……」

 

 ガックリと落胆した千歌を励ます梨子。だが、不意にその眉間に皺が寄った。

 彼女は、昨晩に千歌とある話をしていた――。

 

 

 

『ふたりの星で踊るんだもん!』

 

 

 

 ――後日、千歌たちは新幹線の綾香駅に集っていた。

 

「しっかりね!」

「お互いに」

 

 千歌たちが見送りをしているのは、梨子。彼女はこれから、ピアノコンクール出場のために東京に向かうところであった。

 同日のラブライブ予備予選のために、一度は見送ろうとした梨子。しかしこのことを偶然知った千歌に、彼女の最初の目的だったピアノをあきらめないでほしいと説得され、その結果出場を決意したのであった。

 

「梨子ちゃん、がんばルビィ!」

「東京に負けては駄目ですわよ!」

「チャオ♪ 梨子」

「気をつけて」

「ファイトずら!」

 

 皆の声援を受ける梨子に、彼女らを送ってきた克海が声を掛ける。

 

「コンクール、頑張ってな。この綾香市から応援してるから」

「は、はい。ありがとうございます……」

 

 頬を多少上気させながらお礼を言い、改札を通っていく梨子。その背中に、最後に千歌が呼び掛ける。

 

「梨子ちゃーん! 次は! 次のステージは、絶対みんなで歌おうねっ!」

「……もちろんっ!」

 

 千歌に笑顔で応じて、梨子はホームへと駆けていった。それを見送り、ダイヤたちは踵を返す。

 

「さぁ、練習に戻りますわよ」

「これで予備予選で負ける訳にはいかなくなったね!」

「何か気合いが入りマース!」

「ねっ、千歌ちゃん!」

 

 振り向きながら千歌に呼び掛ける曜だったが……千歌はまだ改札の前に留まって、梨子が消えたところを見つめていた。

 

「千歌ちゃん……」

 

 その背中を、曜もまた見つめた――。

 

 

 

 アルトアルベロタワー、社長室。

 

「くそぅ……ひどい目に遭った」

 

 サルモーネは全身包帯でグルグル巻きの状態で、社長の椅子に座っていた。前回、ホロボロスにズタボロにされたことで重傷を負ったのである。

 

「何が起こったのかは分からんが、きっと全部あのぼんくら兄弟どものせいだ! リングもまた奪われてしまったし……何で私がこんな目に遭わなきゃならんのだ~!」

 

 人のせいにしてジタバタと暴れるサルモーネだが、すぐ身体に激痛が走って悶える。

 

「あッたたた……! 滅茶苦茶痛い……!」

「社長、落ち着いて下さい。一か月は安静にしなければいけません」

 

 苦痛にあえぐサルモーネを氷室が諫める。

 

「その間は、活動はどうかお控えを」

「うーむ、仕方ないか……。その代わりに!」

 

 サルモーネはギプスをはめた手で氷室を指した。

 

「氷室君! 君が行ってリングを取り返してくるのだッ!」

「私が……ですか?」

「特別にAZジャイロ貸してあげるからさ! この私専用のッ! 君だから特別にだよッ!」

 

 やたらと特別を強調するサルモーネに、氷室が冷めたような目を、デスクの上のジャイロに向ける。

 

「……これは我々で共同開発したものですが」

「あー、そうだったっけ? まぁ細かいことはいいじゃないか!」

 

 軽くとぼけたサルモーネは、繰り返し氷室に命令した。

 

「ともかく、取り返してきてくれたまえ! 吉報を待ってるよ!」

「はぁ……」

 

 若干気のない返事で、氷室がジャイロを手に取った。

 

 

 

 夕方、功海は綾香市のバイブス波を観測しながら内浦をパトロールしていた。

 

「……異常はなし、か。サルモーネの奴も、あんだけの重態だから当面は大人しくするつもりかな」

 

 独りごちながらコンビニの前を通りがかると、その敷地内で千歌と曜の二人を見かける。

 

「おッ、千歌たちだ。あんなとこで練習してんのか?」

 

 千歌と曜はコンビニの横でダンスの練習をしている。が、途中で二人の肩と肩がぶつかってしまった。

 

「あたっ!」

「ごめん……!」

「ううん、私がいけないの。どうしても梨子ちゃんと練習してた歩幅で動いちゃって……」

 

 と千歌が言うと、曜が一瞬複雑そうな顔となる。そこに近寄っていく功海。

 

「おーい千歌ー、よーう」

「あっ、功海お兄ちゃん」

「功兄ぃ」

 

 振り返った二人に功海は言葉を掛ける。

 

「随分張り切ってんな。けど、その割には上手くいってねぇみたいだけど」

「あはは……。梨子ちゃんがいない分、立ち位置を変更したからね」

 

 千歌は苦笑いしながらそう返した。

 

「梨子ちゃんのところに曜ちゃんに入ってもらったんだけど……歩幅が違うと間隔って大分変わってくるんだね。さっきからぶつかってばっかで。曜ちゃん、もう一度やってみよう!」

「うん。だけど……」

 

 千歌の呼びかけに、曜がうなずきつつも提案する。

 

「千歌ちゃん。もう一度、梨子ちゃんと練習してた通りにやってみて」

「えっ、でも……」

「いいから。行くよ!」

 

 戸惑う千歌を促しながら、曜が千歌と所定の位置に並んで立つ。

 

「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト!」

 

 拍を取りながら離れていた二人が近づいていってポーズ。最後に肩を寄せ合うタイミングで今までぶつかっていたが、今回は触れずにギリギリの距離で止まった。

 

「おぉ、出来たじゃねーか!」

「天界的合致!」

 

 功海と、物陰から様子を見ていた善子たちが声を弾ませた。

 

「曜ちゃん!」

「これなら大丈夫でしょ?」

「う、うん! 流石曜ちゃん! すごいね……」

 

 曜が千歌に笑いかけていると、千歌の携帯に電話が掛かってくる。

 

「あっ、梨子ちゃんからだ! もしもーし?」

 

 千歌が電話に出ている間に、功海が曜に話しかける。

 

「悪りぃな、曜。千歌に合わせてくれたんだろ」

「うん、まぁ……」

「あいつ、なかなか人のこと考えないとこあるからなー。つき合ってて大変なことも少なくないだろ」

「あはは。それ功兄ぃが言う?」

「なにぃ~? お前言うようになったじゃねぇか曜~!」

「きゃ~♪ 功兄ぃがいじめる~♪」

 

 功海と曜がじゃれ合っていたら、梨子と通話していた千歌がスマホを曜に向けてきた。

 

「曜ちゃん! 梨子ちゃんに話しておくこと、ない?」

「え……」

 

 曜は瞬く間に真顔になって、千歌へ振り返った。

 

「えっと……」

 

 曜が何やら返答をためらっていると、千歌のスマホがピー、ピーと電子音を出す。

 

「あっ、ごめん! 電池切れそう……。またって言わないでよ~。まただけど……」

 

 慌てて携帯を自分の耳にあてがう千歌。彼女の意識から外れた曜は、複雑そうに眉を寄せた。

 梨子に謝りながら通話を終えた千歌は、立ち上がって曜に向き直る。

 

「じゃあ曜ちゃん、私たちももうちょっとだけがんばろっか!」

「……うん、そうだね!」

 

 傍目からだと快活そうに応じた曜だが、かすかに歯切れが悪いことに功海が気づき、曜に視線を向けた。

 

「……」

 

 

 

 その後、功海らと別れて一人帰宅するところだった曜は、道中で鞠莉と遭遇し、大型展望水門へ場所を移し、そこで話をしていた。

 

「……千歌ちゃんと?」

「ハイ! 上手くいってなかったでしょー?」

「あ……それなら大丈夫! あの後二人で練習して上手くいったから!」

「イーエ。ダンスではなく……チカっちを梨子に取られて、ちょっぴり、嫉妬ファイヤー♪ が、燃え上がってたんじゃナーイの?」

「し、嫉妬!?」

 

 内心を見抜かれて動揺した曜に、鞠莉は己の経験を踏まえながら助言を与える。

 

「要はチカっちのことが大好きなんでしょ? なら、本音でぶつかった方がいいよ。大好きな友達に本音を言わずに、二年間も無駄にしてしまった私が言うんだから、間違いありません♪」

「あ……」

 

 鞠莉の言葉で、それまで暗くなりがちだった曜の表情が、わずかにだが明るくなった。

 

「それじゃ、気をつけて帰ってね♪」

 

 これで話は終わりとなって、鞠莉は曜の下から離れていこうとする。――その寸前に、

 

「――随分と熱心なのだな」

「え?」

「What’s?」

 

 いつの間にか、二人の近くに一人の見知らぬ少女が立っていて、その子が急に話しかけてきた。

 全身黒い、ゴシック調の洋装の少女。善子が好んで着るものよりは派手ではないが、少女自身の纏う雰囲気が妙に俗世離れしているため、ある意味ではこちらの方が堕天使らしく見える。そんな不思議な少女であった。

 

「……鞠莉ちゃん、知り合い?」

「いいえ。覚えはないけれど……」

 

 記憶にない人物から突然話しかけられた二人は戸惑い気味だが、当の少女はお構いなしという風に質問してくる。

 

「どうしてあそこまで一生懸命になれる? 何もお前たちが、あそこまで身体を張る必要はないのではないか?」

 

 少女の口ぶりに、自分たちスクールアイドルに興味のある子なのかなと考えた曜が返答する。

 

「ううん。誰かに任せてたら、結局何も変わらないかもしれないから。だから私たちがやるんだよ」

「だが、お前たちがやったところで何も変わらないかもしれない」

「そうかもしれないけど……だけどやらないで後悔するよりはいい。だから、どんなに大変でも苦しくても、頑張ることが出来るの!」

「……そうか」

 

 曜の唱えたことに、黒衣の少女は短くつぶやいて、納得をしたのかは定かではないが、踵を返して曜たちの前からスタスタと立ち去っていった。

 その後ろ姿を呆然と見送った曜が、鞠莉に振り返る。

 

「あの子、どこの子なんだろ。ここらじゃ見ない顔だったけど……。でも、私たちのファンなのかな? わざわざスクールアイドルのこと聞いてきて」

 

 と言うと、鞠莉は考え込みながら首を振った。

 

「もしかしたら……スクールアイドルのことを聞いてたんじゃないのかも」

「え? それだったら、何のことを……」

 

 一瞬唖然としたものの、答えに考えついた曜は、朗らかに笑い飛ばした。

 

「まっさかぁ。いくら何でも考えすぎだよ。あんな会ったこともない子が、ウルトラマンのこと知ってるはずないって。考えすぎだよ鞠莉ちゃん」

「ええ……まさかそんなはずはとは思うんだけれど。でも、普通じゃない子というのは確かだと思う」

 

 曜に諭されても、鞠莉は少女の得体の知れない雰囲気によって沸き上がった胸騒ぎが収まらずに、眉間に皺を寄せた。

 

 

 

 ――曜と鞠莉がいる展望水門を、氷室が外から見上げていた。

 

「……」

 

 彼は曜たちの姿を窓ガラス越しに確認すると、サルモーネから借り受けたAZジャイロと「恐」のクリスタルを取り出して、セットする。

 

ハイパーゼットンデスサイス!

 

 そして無言のままにレバーを三回引き、充填したエネルギーを解放した――!

 



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ふたりの星で踊るんだもん!(B)

 

 見知らぬ少女に急に話しかけられて、微妙な空気になったりもしたが、曜と鞠莉は改めて帰ろうとした。

 が、その時に、どこからかズシィンッ! と激しい震動が起こって二人を揺さぶった。

 

「ひゃっ!? な、何なに!?」

「今のは……!」

 

 鞠莉の顔に緊張が走って、窓へと首を向けた。その向こうに見えたものに、二人が息を呑む。

 

「ピポポポポポ……ゼットォーン……」

 

 全身漆黒の甲殻に覆われた、人型でありながら明らかな異形の巨大怪物が湾内にそびえ立っていた。顔面に顔のパーツがない代わりに十字型の発光体が張りつき、腕の先は鎌状となっている。

 氷室の手によって召喚された宇宙恐竜、ハイパーゼットンデスサイスだ!

 

「か、怪獣!」

「またサルモーネの仕業!?」

 

 海面をかき分けながらこちらの展望水門に接近してくるハイパーゼットンデスサイスの姿に、曜と鞠莉は焦りを浮かべた。

 

「すぐにここから逃げましょう!」

「う、うん! 功兄ぃたちを捜さなきゃ!」

 

 流石に慣れたもので、二人は冷静な判断の下にすぐさま水門の非常口に向かって駆け出し、ゼットンが攻撃してくる前の脱出を試みた。

 

 

 

 克海と功海は怪獣出現のバイブス波をキャッチして、すぐに水門前に飛んできた。

 

「いたぞ!」

「サルモーネの野郎、もう悪だくみを再開しやがったのか!」

「あれだけのダメージで、もう動けるようになってるとは思えないんだが……」

 

 車から降りた克海と功海の下へ、ちょうど水門から外に走り出てきた曜と鞠莉が寄ってくる。

 

「克海! 功海! もう来てたのね!」

「鞠莉ちゃん、曜ちゃん! 何でこんなところに……」

「克兄ぃ、逆かもしれないぜ。曜たちを狙って召喚したのかも」

「私たちが狙い!?」

 

 目を見張る曜。

 

「曜たちの方を狙うなんて、卑怯な手を使いやがる!」

「だが、今更二人に何の用が……」

「そんなこと話してる場合じゃないわよ! 怪獣を上陸させちゃ駄目!」

 

 鞠莉の言う通り、ゼットンはこうしている間にも陸地にどんどん近づいてきている。

 

「そうだった。行くぞみんな!」

「おうよ!」

「ヨーソロー!」

 

 克海と功海が拳を打ち鳴らし合って、ルーブジャイロを前に突き出した。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 そして克海が目元でピースサインしながらウィンクする鞠莉を、功海が敬礼する曜を背にしながらクリスタルを選び取る。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

[ウルトラマンタロウ!]

[ウルトラマンギンガ!]

 

 克海は火の、功海は水のクリスタルを選択してジャイロにセットした。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「纏うは水! 紺碧の海!!」

「ヨーソロー!」

 

 グリップを三回引いて、エネルギーチャージ!

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 変身して飛び出していったロッソとブルが、ハイパーゼットンデスサイスの頭上を飛び越えて海面に着水した。

 

『『はッ!』』

「ピポポポポポ……ゼットォーン……」

 

 堂々と決めポーズを取った二人に、ゼットンは180度振り返って両手の鎌を向ける。

 

『……普通に変身できたな。やっぱ、ジャイロが壊れたとかじゃないみてぇだ』

 

 己の身体の調子を確認するブル。千歌の時はジャイロに拒まれたことを思い出している。

 

『じゃあ何が理由で……』

『今は気にしてる場合じゃないぞ、功海! 敵は目の前だ!』

 

 ロッソの喝で我に返るブル。

 

『そうだったな。まずは俺たちから行くぜ!』

『「相手の手が鎌になってるよ! 危ない!」』

『だったらスラッガーだ!』

 

 ブルはゼットンに対抗して剣で武装して、海面をかき分けながら猛然と肉薄していく。

 

『はぁぁッ!』

「ピポポポポポ……」

 

 振り下ろされたルーブスラッガーブルを、ゼットンは腕の鎌で受け止めた。

 

『俺たちも行こう!』

『「OK!」』

 

 ロッソの方もルーブスラッガーロッソを抜刀し、左に回り込みながらゼットンに斬りかかっていく。

 

『はッ!』

「ゼットォーン……」

 

 片手が使えないゼットンでは双剣の攻撃は防ぎ切れないと思えたが、ゼットンは身をひるがえして斬撃をかわした。追撃を掛けようとするロッソだが、海の水に足を取られて思うように前に進めない。

 

『くッ、海の上だと動きづらいな……』

『けど、それは向こうだって同じはず……!』

 

 とつぶやくブルだったが、

 

「ゼットォーン……」

 

 ゼットンは渦巻きのように肉体が歪んで瞬時に消失した。

 

『はぁッ!?』

『「ど、どこ行ったの!?」』

 

 動揺するブルたち。その背後に、ゼットンは瞬間移動していた。

 

『なッ……!』

「ピポポポポポ……」

 

 咄嗟に振り向くブルだが、暗黒火球を肩に食らって吹っ飛ばされる。

 

『うわあぁぁぁッ!』

『功海ッ! こいつッ!』

 

 ロッソがスラッガーを振るうもゼットンはワープで逃れ、ロッソの背後を取って鎌で切りつける。

 

『ぐわぁッ!』

『「アウチっ!」』

 

 ロッソもまた海面に突っ伏したが、ブルとともにすぐに持ち直した。

 

『くそッ、瞬間移動できるのか……!』

『そんなんチートじゃねぇか!』

 

 毒づくブル。ゼットンは鎌をもたげてこちらの動向を窺っているが、これでは迂闊に攻め入る訳にはいかない。

 たじろいでいるロッソとブルに、鞠莉が激励する。

 

『「バラバラに攻撃してたら翻弄されるだけよ! Combinationを活かすの! 二人の気持ちを合わせて!」』

『「二人の気持ち……!」』

 

 その言葉に、曜が一番反応した。

 

『そうだな! 行くぜ克兄ぃ!』

『ああ! 功海!』

 

 ロッソたちはうなずき合うと、ブルが先行してゼットンにもう一度斬りかかっていく。

 

『おおおおッ!』

 

 その間に鞠莉がクリスタルホルダーに手を伸ばして、新しくクリスタルを選択した。

 

『「Select, Crystal!」』

 

 風のクリスタルから二本角を出して、ジャイロにセット。

 

[ウルトラマンティガ!]

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

 

 鞠莉がジャイロのグリップを引いていき、三回目で掲げる。

 

『「シャイニー☆」』

[ウルトラマンロッソ! ウインド!!]

 

 ロッソの体色が紫に変わり、ロッソウインドにタイプチェンジする。

 そしてブルの斬撃をワープで回避したゼットン目掛け、ジャンプで海面から跳び立ってスラッガーを振るう。

 

『はぁッ!』

「ピポポポポポ……ゼットォーン……」

 

 風を纏いながらの素早い剣戟。しかしゼットンの身のこなしも速く、鎌でガード。そこにブルが飛び込んで突きを繰り出すも、またワープで逃げられる。

 

『「そこネー!」』

 

 しかし鞠莉はゼットンの出現先を見切り、ロッソが両拳から球場の風を飛ばした。

 

「『ストームフリッカー!!」』

 

 風は実体化したばかりのゼットンに命中し、風圧で動きを封じ込む。

 

「ピ……ポポポポポ……」

『「やった! 鞠莉ちゃんすごい!」』

『「うふふ。向こうの動きの癖を掴んだの」』

『やるじゃん! 次は俺たちの番だ!』

 

 ゼットンの動きを抑えている内に、ブルが手の平から水流を放つ。

 

「『アクアジェットブラスト!!」』

 

 顔面に水を被せて、水圧で更にひるませるブル。そこで曜が雷のクリスタルをスラッガーにセットした。

 

[ウルトラマンエックス!]

『「たぁーッ!」』

 

 ブルが高々と跳躍し、ゼットンを狙ってルーブスラッガーを思い切り振り下ろす。

 

「『スパークアタッカー!!」』

「ゼットォーン……!」

 

 電撃を纏った斬撃は、水を被っていたゼットンの全身を麻痺させて大きな痛手を与えた。

 

『今だッ! 一気に決めるぞ!』

『「イエース!」』

 

 この機を逃すまいと、鞠莉がオーブリングNEOに手を伸ばす。掴まれたリングが光り輝き、鞠莉の指がボタンを押した。

 

「『ストビュームダイナマイト!!」』

 

 ロッソの全身が炎に包まれ、更に風を纏いながらゼットンに突撃。正面からタックルを決める。

 

「ピポポポポポ……!!」

『「シャイニー!!」』

 

 鞠莉が叫ぶと同時に大爆発! これによってハイパーゼットンデスサイスを粉砕した。

 

『「やったぁー!」』

『決まったぜ!』

 

 カラータイマーが時間を報せる中、ブルはロッソに歩み寄ってパシッとタッチ。そして二人並んで空に飛び上がり、沈みゆく夕陽に向かって飛び去っていった。

 

 

 

 ――氷室はその後ろ姿を、じっと観察しながら独りごちた。

 

「……順調に成長しているようだ」

 

 

 

 後日、ラブライブ予備予選直前の会場。

 

「そっか。千歌と新しくダンス作り直したのか」

「うん!」

 

 ライブが始まるまでの時間に、Aqoursの応援に来た功海と克海が、曜から事の顛末を聞いていた。

 初めは千歌に合わせたステップを取るつもりの曜であったが、考え直した千歌が、曜自身のステップと合わせるようにダンスを一から作り直すことを提案。彼女の気持ちに触れた曜は、心の中のわだかまりが解消され、快活に笑うようになっていた。

 それに気づいた功海がからかう。

 

「おい何だよ~。随分といい笑顔になったじゃんか? 全くこの千歌スキーめがぁ~! そんなに嬉しいのかよ!」

「え~? 別にいいじゃーん。千歌ちゃん好きってのは人のこと言えないでしょ~?」

「な、なーに言ってんだこいつ! 曜のくせに生意気だぞ~!」

「功兄ぃのくせに偉そうに言うな~!」

 

 明るく功海とじゃれ合う曜の様子をながめた克海が、鞠莉と微笑みを交わす。

 

「予備予選、上手く行きそうだな」

「もちろん! 私たちのPerformance、しっかり見てて下さいネー、克海♪」

「もちろん。精一杯応援するよ」

 

 克海の言葉にうふふと満悦気味の鞠莉だったが、ふと顔を上げて告げる。

 

「あっ、そういえば、この間の戦いの直前に少し変わった女の子と出会ったの」

「変わった女の子?」

 

 鞠莉の言葉に曜が振り向いて声を上げた。

 

「あーそれ! あの子、あの後どこにもいなかったけど、大丈夫だったのかな?」

「変わったって、どんな奴だったんだ?」

 

 功海が気になって尋ねると、曜と鞠莉で説明する。

 

「格好や雰囲気は善子ちゃんみたいな感じなんだけど、妙に落ち着いてて大分自然なの。善子ちゃんみたいな、わざとらしさがないっていうか。どっちかって言うとSaint Snowの聖良さんたちに近いかな」

「初対面なのに、何でそんなに一生懸命なのか、なんてこといきなり聞かれてね。……それに、一番不思議に感じてるのは……何だか、初めて会った気がしなかったの」

「あっ、鞠莉ちゃんもそれ思ったの? 実は私もなの! 何か、ずっと前から知ってるみたいな。変な感じだけど」

「曜はそうなの? 私はそこまでじゃなかったけど」

 

 二人の説明の後半が、あまり要領を得ないものだったので、克海と功海は今一つ想像がつかなかったし、大して気に留めなかった。

 

「へぇ……よく分からんが、世の中には色々と変わった子がいるんだな」

「そんなことよりそろそろ時間じゃね? 早くみんなのとこ行ってこいって!」

「あっ、うん!」

 

 曜と鞠莉は最後に、梨子から送られてきたシュシュを巻いた手首に目を落としながらうなずき合った。

 

「東京でがんばってる梨子ちゃんのためにも!」

「予備予選、絶対突破しマース!」

「その意気だ! 二人とも、頑張ってこい!」

「最高のステージにしろよー!」

「「うんっ!!」」

 

 克海と功海に送り出され、曜と鞠莉は勢いよくAqoursの仲間たちの元へと駆けていった。

 

 

 

 そして、Aqoursのステージが始まる。

 

(♪想いよひとつになれ)

 

 観客席からAqoursを見守る克海と功海は、センターの千歌と曜の息の合ったダンスに特に見惚れる。

 

「おお……ちょっと心配だったが、千歌も曜ちゃんも息ぴったりだな」

「ああ。ふたりとも、輝いてるぜ!」

 

 もちろん他の六人のダンスも見事なものだが、肩が触れ合いそうなほどに距離をギリギリまで詰めているにも関わらず、互いの動きを阻害しない完璧な距離感を保っている千歌と曜のステップは、彼らの目にひと際輝いて映っていた。

 ステージ上で天真爛漫に踊り切る千歌と曜の姿に、克海が満足げにうなずく。

 

「今は、あのふたりは煌めく星だな……」

 

 

 

 ――会場の観客席の最後部にて、曜と鞠莉と接触した黒衣の少女が、ステージ上のAqoursのライブをじっと観ていた。

 

「……」

 

 やがて八人のライブが終了すると、少女は他のグループのライブは観ようとはせずに、扉をくぐって通路に出る。

 しかしそこで、後ろからある男に声を掛けられた。

 

「――先日、ホロボロスを召喚した娘だな」

 

 少女の足がピタリと止まり、後ろに振り返る。

 そこにいたのは、氷室仁である。

 

「……何故そのことを知っている」

 

 少女の問い返しに、氷室は答えずに、代わりにこう切り出した。

 

「話がある」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

鞠莉「シャイニー☆ 今回ご紹介するのは、『ウルトラマンエース』デース!」

鞠莉「この歌は『ウルトラマンA』の主題歌! 歌うのはみすず児童合唱団と、ハニー・ナイツデース! ハニー・ナイツは当時の色んな特撮やアニメ作品に関わってることで有名な男性コーラスグループなのデース!」

鞠莉「『A』は男女変身やレギュラー悪役といった、シリーズ初の要素をふんだんに盛り込んだ作品なので、歌詞にもそれらの単語が入れられてマース! 後に夕子は降板しますが、彼女の名前が入った一番は最後までオープニングに使用されてました!」

鞠莉「実は『A』の元々のタイトルは『ウルトラエース』だったのですが、商標の問題で『ウルトラマンエース』に変更されました。これがなかったら、代々のシリーズは『マン』を抜いたタイトルになってたかもしれませんネー」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『Pops heartで踊るんだもん!』だ!」

功海「テレビシリーズのBlu-ray第一巻の特装限定版の特典曲だ! タイトル通り、ポップなイメージを思いっ切り押し出した一曲だぜ!」

克海「ブルーレイディスク、それも限定版を購入した人だけが入手できるCDだから聴いたことのない人も多いだろうが、それでも一度でも聴いてほしいな」

鞠莉「それじゃ、次回でお会いしまショー☆」

 




鞠莉「私たちAqoursは順調に成果を上げてますが、肝心の浦女存続は目途が立たないまま……。私たちとμ'sで何が違うのか、その答えを探します」
梨子「でも怪獣はスクールアイドルに集中させてくれない。また強敵が現れた!」
鞠莉「もうっ! いい加減にしてほしいデース!」
梨子「次回、『夢のとりでを照らしたい』!」
鞠莉「次回も、シャイニー☆」


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夢のとりでを照らしたい(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

善子「予備予選を前に、梨子の代わりに千歌と闇の契約を結んだ曜。千歌との間に、漆黒の鼓動を打つ悩みを抱えていた。しかし闇黒の魔神との戦いを乗り越えた後に、遂に神々の黄昏、ラブライブに堕天したのです!」

 

 

 

 『四つ角』にて、功海がドタドタと走りながら克海の元に飛び込んできた。

 

「克兄ぃ克兄ぃ! 大変だぜ大変!」

「功海! 旅館の中を走るなって何回言ったら分かるんだ!」

「それどころじゃねーって! 千歌たち、予備予選突破したんだぜ!」

 

 功海が見せつけたスマホの画面には、ラブライブの予備予選合格グループの一覧が表示されており、その中にAqoursの名前があった。

 

「千歌たち、やるじゃねーか! こりゃもしかしたらもしかするかもよ!?」

「はしゃぎすぎだろ。まだ全国どころか、地区予選もあるってのに」

「それでもさ! 最初の頃を思えば、すっげぇ人気の上昇具合じゃんか! この前のPVだって15万再生突破したんだぜ! この調子なら、優勝だって夢物語じゃねぇって! そうは思わね?」

 

 すっかり自分のことのように浮かれ調子な功海であるが……克海は対照的に、重い表情であった。

 

「……克兄ぃ、何かあったの?」

 

 それに気づいて、功海もクールダウンする。

 

「実はな……鞠莉ちゃんから聞いたんだが」

「うん」

「肝心の学校説明会の参加希望者が……未だに0人のままなんだそうだ」

「えッ……!?」

 

 克海から打ち明けられた事実に、功海も衝撃を禁じ得なかった。

 

「マジかよ……。もうすぐ九月で、二学期も始まるってのに」

「いくら千歌たちが頑張ったとしても、当初の目的である浦の星が存続できなければ、どうしようもない……。浦女がなくなれば、Aqoursも事実上解散だからな……」

「そっか……。現実ってやっぱ、そうそう甘くないんだな……」

 

 功海も肩を落として、克海の向かい側に腰を落とす。

 

「何でも、μ'sは今の千歌たちとほぼ同時期には、もう廃校の撤回がほぼ決まってたらしい。随分と状況が違うな……」

「まぁ……冷静になって考えりゃ、やっぱ全然違うっしょ。向こうは秋葉原の学校でしょ? 立地の条件が全然違うじゃん」

「確かにな……。いくら千歌たちが有名になったとしても、それだけでこの内浦の学校に通いたいかと言われたらと考えれば……ある意味当然の話ではあるな」

「けど、そしたら千歌たちはどうすればいいんだろうな?」

「全く分からんし、こればかりは千歌たち自身でどうにかしなきゃいけないことだろう。俺たちがここでああだこうだ言ったり、口を挟んだりしたところで、どうにもならない」

 

 結局は彼女たちを見守るしかない、と、二人はそういう結論に達した。

 

 

 

『夢のとりでを照らしたい』

 

 

 

 その後、克海と功海は千歌から、あることを打ち明けられた。

 

「えッ、また東京に行く?」

「そうなのっ!」

 

 千歌は身を乗り出しながら、二人に向かって力説する。

 

「色々考えて、思ったの。今のままの私たちじゃ、どうしたところで浦の星に入学希望者を呼び込めない。μ'sと私たちのどこが違うのか、μ'sがどうして音ノ木坂を救えたのか、それをこの目で見て、みんなで考えたいって。前の時はそんなこと全然頭になかったけど、今ならμ'sの足取りから何か掴めるんじゃないかなって……。ダメ、かな?」

 

 千歌の問いかけに、克海たちは笑顔で返した。

 

「ダメな訳があるもんか。お前が決めたのなら、存分に行ってくるといいさ」

「土産話、楽しみにしてるぜ!」

「! うんっ、ありがとう! お兄ちゃんたち、大好きっ!」

 

 兄たちに快く送り出され、千歌は満面の笑みを二人に返した。

 

 

 

 後日、千歌たちAqoursの九人は、μ'sの成功の秘訣を掴むために東京へ出発し――そして帰ってきた。

 

「おう。お帰り、千歌!」

「ただいま、お兄ちゃん!」

「梨子ちゃんも、コンクール金賞おめでとう」

「ありがとうございます。これ、東京のお土産です」

 

 『四つ角』の居間で克海と功海は、帰ってきた千歌と久々に顔を合わす梨子と机を囲んでいた。梨子は二人に菓子折りを差し出す。

 

「それで千歌、結局答えは見つかったのか?」

 

 功海が成果を尋ねると、千歌が笑顔でうなずいた。

 

「うんっ! 分かったの。私たちは私たちのままで、自由に走ればいいんだって!」

「え?」

 

 一瞬キョトンとする兄弟に、千歌が詳しく語る。

 

「μ'sのすごいところは、何もないところを、何もない場所を、思いっきり駆け抜けたことなんだって、東京で感じたの。だから……μ'sのようになりたい、μ'sのように学校を救いたいって考えじゃダメなんだって。私たちはμ'sに囚われず、私たちのありのままに輝くべきなんだ。それが、浦の星を救うために必要なこと。これが私の出した結論だよ!」

 

 千歌の答えを聞き、功海が冗談交じりに返す。

 

「なーんかありがちな結論だな。東京まで行って考えついたのがそれかよ」

「えー!? ダメなのー!? これが私の精いっぱいの気持ちだよー!」

「まぁ……確かに言葉だけならありきたりかもな。だが、単純なことこそ頭じゃなく心で感じ取るのが難しいのかもしれない。少なくとも、迷いを振り切ったならそれだけで行った意味があると俺は思うぞ」

「さっすが克海お兄ちゃん! 分かってくれるー!」

「克兄ぃは相変わらず言うことが優等生だなー。ま、千歌がそれでいいってなら俺も異論はないさ。肝心なのは、結果が出せるかだ!」

「うんっ! これから、私たち自身の輝きを前に押し出して、たくさんの人に見てもらう! それで私たちを育てた浦女はすごいところなんだって、みんなに知ってもらうの! 頑張るぞー!」

 

 張り切る千歌に思わず笑みがこぼれる克海と功海。

 話にひと区切りがついたところで、梨子がふと克海たちに尋ねかけた。

 

「ところで、私たちが東京に行ってる間、綾香市は大丈夫だったんですか? ニュースとかでは、怪獣が出たとは聞きませんでしたけど……」

「ああ、それなら心配はいらないさ。意外なほど、何も起きなかったから」

 

 克海が安心させるようにそう答えた。

 

「俺たちもちょっと警戒してたけどさ、ほんと何も起きなかったよな。平和そのものだったぜ」

「こっちとしても、そっちに何かしらのちょっかいが出されるんじゃって不安だったけど、その調子だと大丈夫そうだな」

「ならいいんですけど……。でも、どうして向こうは何もしなかったんでしょう。敵からしたら、私たちが離れてる時こそ都合がいいでしょうに……」

「さぁな……。何か事情があったのかもしれない」

「どうせ、傷の疼きがひどくて何もする気が起きなかったってとこじゃねぇの?」

 

 サルモーネからの動きが一切なかったことを、功海たちはそう深くは捉えなかった。

 

 

 

 アルトアルベロタワーの社長室では、依然として包帯ぐるぐる巻きのサルモーネが氷室を叱りつけていた。

 

「氷室君ッ! 君、どうして昨日は何もしなかったの! 戦いを仕掛けるのには何の問題もなかったはずでしょ!? あの兄弟とAqoursの連中が分断してる時こそ絶好のチャンスだったってのに!!」

 

 カンカンなサルモーネに対して、氷室は至って冷静に反論する。

 

「お言葉ですが社長。敵が分散している状況で戦いを仕掛けようなどと、社長の美学に反するのではないでしょうか」

「えッ?」

「相手の弱っているところにつけ込むなどと、それこそまさに三下の卑劣漢が好んで使う手口。社長は、誰にも負けない偉大なヒーローを目指されているお方。それを思えばこそ、私もいつ如何なる時も自らに恥じるような振る舞いはしないつもりなのです」

「……」

 

 説得され、サルモーネが押し黙る。

 

「勝利を得るならば、相手の本領が発揮できる状態で……。常に騎士道精神に溢れる者こそ、真のヒーローなのではないでしょうか」

 

 と囁かれ、虚栄心をくすぐられたサルモーネはあっさりと己の発言を撤回する。

 

「そうだね、その通りだ! いや~すまないね氷室君、ちょっと焦りすぎちゃってたよ。君はやっぱり私のことをよく分かってくれている! もう何も構うことはないから、存分に君のやり方で戦うといいよ!」

「ありがとうございます。それでは、日を改めてリングを奪い返しに向かいます」

「うんうん! 頑張ってねー! 期待してるからねー!」

 

 ペコリと一礼して、サルモーネの前から退室していく氷室。――社長室の扉を閉じた瞬間に、大きく眉間をしかめた。

 

「……馬鹿の相手は疲れる」

 

 

 

 予備予選を通過したとしても、当然ながらラブライブはそれで終わりではない。次は地区予選。その開催日は、既に目前に迫っている。

 

「ふぅ~……今日も暑くて、練習大変だった~……」

「お疲れさま、千歌」

 

 夜。テーブルの上にぐでぇっと溶けるように突っ伏した千歌に、克海が労いの言葉を掛けた。それから功海が尋ねかける。

 

「調子はどうなんだよ。地区予選は大丈夫そうか?」

「うん、やれるだけのことは毎日やってるけど……。あっ、そうそう!」

 

 バッと顔を上げて、克海たちに報告する千歌。

 

「実はね、今日、むっちゃんたち……クラスメイトの子三人が、一緒にラブライブに出てくれるって申し出てくれたんだ! 他の子も誘ってくれるって!」

「え?」

「それ、受けたのか?」

「もちろん!」

 

 意外な内容に、功海も克海も唖然。

 

「けどお前……今からじゃ到底間に合いっこねぇだろ。その子たち、何の練習もしてねぇんだろ?」

「そりゃあ踊ったりは無理かもだけど、一緒にステージで歌うとかなら間に合うんじゃないかなって。私たち九人だけじゃなく、学校全体で協力してラブライブで成功できたら、強いアピールになるし。きっと入学希望者もたくさん来てくれるって思うの」

「……まぁ、そういうことなら確かに上手くいった時のリターンが大きそうだけど」

「でしょ? それに何より……今は、0を1にしたい」

 

 功海に対して、強い想いを述べる千歌。

 

「……けど千歌、確かラブライブは……」

 

 千歌の言葉を聞いて、克海が何か言いかけたが――。

 

 

 

 それとほぼ同時刻に、氷室は一人、小高い丘にある内浦の展望台に立っていた。そこで夜のとばりに覆われている町をぐるりと一望してから、AZジャイロと「暴」のクリスタルを取り出す。

 

ギャラクトロン!

 

 クリスタルをジャイロの中央にセットして、グリップを三回引く――!

 

 

 

 克海たち兄妹の会話は、外から発生した大きい地響きで打ち切られた。

 

「ひゃっ!? この揺れって……!」

 

 同時に功海のスマホが、バイブス波検出のアラートを鳴らす。

 

「この反応は……!」

「近いぞ!」

 

 克海がカーテンをバッとめくると、窓の外に見える景色の中に、竜人型の巨大ロボットが夜の闇の中にたたずんでいるのが発見される。

 

「怪獣だ!」

「サルモーネの野郎……また仕掛けてきやがったかッ!」

 

 そう決めつける功海と克海。二人のすべきことは決まっていた。

 

「千歌、行ってくる!」

「ここはまだ離れてるけど、危なくなったらしいたけ連れて逃げるんだぜ!」

「うんっ! お兄ちゃん、お願いね!」

 

 千歌に端的に言い聞かせ、二人はすぐさま夜の町に向かって飛び出していった。

 



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夢のとりでを照らしたい(B)

 

 『四つ角』から飛び出した克海と功海は、同じように家から駆け出してきたところの梨子とばったり出くわした。

 

「梨子ちゃん!」

「克海さん、功海さん!」

 

 もう彼らの間に言葉は不要。克海と梨子は小さくうなずき合うと、三人でギャラクトロンに向かって走っていく。

 ギャラクトロンの方はまだ動きを見せていないが、いつ暴れ出すか分からない。町の人々が慌てて逃げていく中を逆走していく克海たちは、更に黒澤姉妹と鉢合わせる。

 

「功海さん、克海さん!」

「梨子さんも、こちらにいましたか」

「二人も来てくれたのか。怪獣はまだじっとしてるけど……」

 

 功海がつぶやいた矢先に、ギャラクトロンの両眼が光ってとうとう顔を上げた。

 ウオォンッ、ウオォンッ……!

 

「あッ! 動き出しやがった!」

「……?」

 

 身構える功海たちの一方でダイヤは、自分たちの合流を合図としたかのようなタイミングで起動したことを訝しんだ。

 しかしギャラクトロンが目の前の小屋を踏み潰したことで、黙ってはいられなくなる。

 

「梨子ちゃん、行こう!」

「はい!」

「こっちはルビィとだ!」

「お姉ちゃん、行ってくるね!」

「……皆、お気をつけて」

 

 梨子とルビィがそれぞれ克海と功海の背後につき、兄弟がルーブジャイロを突き出す。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 克海と功海はホルダーから火と水のクリスタルを選択。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

 

 それらを慣れた手つきでジャイロにセット。

 

[ウルトラマンタロウ!]

[ウルトラマンギンガ!]

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「纏うは水! 紺碧の海!!」

「ビーチスケッチさくらうち!」

 

 グリップを三回引いて、変身する!

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 梨子とルビィと一体化して、変身巨大化したロッソとブルが立ち上がる。

 

『『はッ!』』

 

 決めポーズを取るロッソとブルへと、ギャラクトロンが振り向いて戦闘態勢を取った。

 

 

 

「……」

 

 氷室は展望台の上から、無言で対峙したウルトラマン兄弟とギャラクトロンの光景をながめている。

 

 

 

 最初に動いたのはギャラクトロンだ。右腕が変形して銃身がせり出し、そこからビームを発射して攻撃してくる。

 

『うわッ!』

『危ねッ!』

 

 ロッソとブルは二手に分かれてビームをかわし、左右からギャラクトロンを挟む陣形を取る。

 

『はッ!』

 

 ギャラクトロンの右手に回ったロッソがビーム砲を捕らえて抑え込み、その間にブルが左手から飛びかかっていく。

 

『おりゃあッ!』

 

 キックを打ち込もうとするブルだったが、ギャラクトロンの左腕が半回転して剣となり、それを振るってきた。

 

『うわッ!?』

 

 咄嗟に後ろに下がって剣を回避したブルが毒づく。

 

『くっそー、両腕に武器仕込んでるとか危ねぇ奴だぜ』

『「こっちもルーブスラッガーです!」』

 

 ルビィの判断でルーブスラッガーブルを抜き、それで立ち向かう。

 

『はぁッ!』

『「えいっ! えいっ!」』

 

 ブルが切り結ぶ一方で、ロッソがギャラクトロンの腹部に蹴りを入れる。しかし相手に応えた様子は見られない。

 左右から抑えつけられているギャラクトロンだが、機体を大きく振るって二人とも難なく振り払った。パワーを底上げしているロッソもだ。

 

『うわッ!』

『くッ……かなり手強そうだな』

 

 数的不利も物ともしないギャラクトロンの馬力と防御力に小さくうめくロッソ。ギャラクトロンは攻め手を緩めることなく、両眼から光線を発射してきた。

 

『うおッ!』

 

 光線の攻撃から逃れる二人。ロッソはストライクスフィアを投擲して反撃。

 

『食らえッ!』

 

 だがギャラクトロンはピンポイントで魔法陣を展開、盾にして防いだ。

 

『何ッ!』

『「隙がないですね……!」』

 

 攻撃、防御ともにレベルが高いギャラクトロンに手を焼くロッソたち。だがギャラクトロンもこちらを狙って接近してくるので、いつまでも逃げ続けている訳にもいかない。

 

『とにかく攻撃するしかないっしょ! 行くぜッ!』

 

 ブルがスラッガーを構えて立ち向かっていく。同時にルビィがクリスタルを取り出して、スラッガーを強化しようとするも、

 その瞬間にギャラクトロンの後頭部のシャフトが伸び、先端のアームがブルの首根っこを捕らえた。

 

『「ぴぎゃっ!?」』

『うげッ!? しまった……!』

 

 首を捕らえられて宙吊りにされるブル。スラッガーでアームを叩くものの、拘束を解くことは出来ない。

 

『功海ッ!』

『「ルビィちゃん!」』

 

 すぐに助けようとするロッソだが、そちらにはギャラクトロンの右腕が切り離されて飛んでいき、ビームで近寄らせない。

 

『うわぁッ! くそッ……!』

 

 ロッソを足止めしている間に、ギャラクトロンは剣でブルの腹部を狙う……!

 

『や、やべぇ……!』

「ルビィ!!」

 

 嫌な汗が額を伝うブルとルビィ。絶叫するダイヤ。絶体絶命!

 

 

 

「……」

 

 この時、氷室が眼鏡を怪しく光らせながら、ジャイロに触れて信号を送った。

 

 

 

 今にもブルを串刺しにしそうなギャラクトロンであったが――何故か急に動きを止めた。

 

『あれ?』

 

 この間にロッソがルーブスラッガーロッソでギャラクトロンの腕を弾き返し、梨子が烈のクリスタルをセットした。

 

[ウルトラマンゼロ!]

「『ゼロツインスライサー!!」』

 

 ふた振りの光刃がシャフトを切断し、ブルを解放する。

 

『大丈夫か、功海!』

『あ、ああ……』

『「クリスタルチェンジよ!」

『「う、うん!」』

 

 梨子とルビィは互いのクリスタルを交換する。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

『纏うは水! 紺碧の海!!』

『纏うは火! 紅蓮の炎!!』

『「がんばルビィ!」』

 

 瞬時にロッソアクアとブルフレイムにタイプチェンジした二人に、右腕を戻したギャラクトロンがビームで狙ってくる。

 

「『アクアミラーウォール!!」』

 

 しかし相手の手の内が分かってきたことで、ロッソが水の鏡でビームを反射。これには対応し切れず、ギャラクトロンが姿勢を崩した。

 

「『フレイムバーン!!」』

 

 この隙を突いて、ブルが火炎放射を繰り出す。高熱火炎を浴びて更に後ずさるギャラクトロン。

 

『今だッ! 一気に決めるぞ!』

『おうよッ!』

 

 ルビィがオーブリングNEOを手にしてスイッチを押し、ルーブジャイロにセットしてグリップを三回引く。

 

『『はぁぁぁッ!』』

 

 ロッソとブルが高く伸ばした手と手をタッチして、ウルトラマンオーブのビジョンを呼び出し、光の輪を描く。

 

「『「『トリプルオリジウム光線!!!!」』」』

 

 三人の光線を一つに重ね合わせて、超強力な光線と化す!

 ギャラクトロンは正面に魔法陣のバリアを張って一瞬光線を受け止めるが、そのエネルギーを防ぎ切ることは叶わず、突き破られて機体にも風穴を開けられた。

 

『よしッ!』

『決まったぜ!』

 

 全身にスパークが生じたギャラクトロンは、そのまま爆散。それを見届けたロッソとブルが夜空の彼方へと飛び去っていった。

 

 

 

 一連の戦闘を見届けた氷室が、ひと言つぶやく。

 

「……まだ甘いな。もっと成長を促す必要がある」

 

 

 

 アルトアルベロタワーの社長室で、サルモーネが時計を見上げながらぼやいた。

 

「遅いなぁ、氷室君……。もうとっくに戦闘は終わったはずだろうに」

 

 氷室がなかなか戻ってこないことに待ちくたびれているサルモーネが、不意に身をひねった。

 

「あッ、かゆい! 背中かゆい! でも手届かない!」

 

 包帯ぐるぐる巻きの状態では関節の自由が少なく、己の腕が背中まで回らない。そのためウッチェリーナに頼み込む。

 

「ウッチェリーナ君、ちょっとかいて!」

[しょうがないですねぇ。じっとしてて下さいよ]

 

 飛んできたウッチェリーナの底部から孫の手が出てきて、サルモーネの背後に回って上下することで背中をかき始める。

 

[ぽりぽり。ぽりぽり。どうですか?]

「あー違う。もっと下」

[えっ、下? ここですか?]

「違う違うもちょっと右! いやそこじゃない! 下手だなウッチェリーナ君!」

[も~わがまま言わないで下さいよ~]

 

 ウッチェリーナがてこずっていると――不意に横から手が伸びてきて、サルモーネの背中をかいた。

 

「あ~そこそこそこ! いいよぉウッチェリーナ君」

[あの~……これ、私じゃありません]

「え?」

 

 サルモーネが振り向くと――白衣を纏った、見慣れぬ少女がそこに立っていた。

 

「……どちら様で?」

 

 呆気にとられるサルモーネの問いかけを無視して、少女がこんなことを言う。

 

「古き友は言った。ほとんどの人間が偽者だと。無論、あのウルトラマンたちも」

「へ……?」

「彼らの思考は誰かの意見。彼らの人生は模倣。そして、彼らの情熱は引用だ」

 

 少女の言葉にいたく感心するサルモーネ。

 

「深いねぇ~。その友人の名は?」

 

 少女ははっきりと、よどみなく唱える。

 

「オスカー・フィンガル・オフラハティ・ウィルス・ワイルド」

 

 少女の答えに、サルモーネは仰天したように目を剥いた。

 

「へぇ~!? あのオスカー・ワイルドが、お友達!?」

 

 白衣の少女――第四のジャイロを用いて、ホロボロスを召喚した娘はそれきり無言で、サルモーネのことを見つめた。

 

 

 

 後日。克海と功海は『四つ角』で、千歌とラブライブについての話をしている。

 

「全く。千歌、お前には毎度驚かされる。クラスメイトとステージに出ようなんて――出場できるのはエントリーしてる子だけだって規則、知らなかったのか?」

 

 あきれ顔の克海の指摘に、千歌は愛想笑いを浮かべた、

 

「あ、あはは……。だって、みんなの気持ちが嬉しかったんだもん」

「いや、理由になってないから。ルールくらいちゃんと把握しろっての」

「あうぅ~……」

「まぁちょっと考えれば、当たり前だよな。ほいほいメンバー変えられちゃ、大会にならねーって」

 

 肩をすくめる兄二人に、流石の千歌も恥ずかしそうだ。

 それは置いて、功海が話を先に進める。

 

「けどまぁ、九人だけでも結構奮闘したじゃん。かなり僅差の勝負だったらしいぜ」

「ああ。予想外に壮大なステージだったんだがな」

 

 千歌たちAqoursはつい先日、ラブライブ地区予選に臨み、その結果――惜しくも敗退であった。

 Aqoursの始まりから今に至るまでの出来事と、浦の星女学院の現状と廃校から救いたい一心をミュージカル仕立てで観客に訴えかける構成は話題を呼び、得票数で熱い接戦を繰り広げたのだが、もうひと押しが足りなかったようである。

 

「やっぱ、歌に入るまでが流石に長すぎたんじゃねーの? もうちょっと短く纏めときゃあ……」

「えー!? あれでも要約したんだよ! もっと言いたいこといっぱいあったもん!」

「まぁ、過ぎたことをあれこれ言っててもしょうがない。ラブライブは春にもあるんだろ? 今回の反省も踏まえて、早めに準備しとくんだぞ」

「もちろん! 次は絶対優勝して、浦の星を存続させるんだから!」

「おッ、もう大分意気込んでるな」

 

 功海がニヤリを笑うと、千歌は鼻息荒くうなずいた。

 

「そりゃそうだよ! 地区予選の後で、遂に説明会の参加希望者が、0から1に変わったんだから!」

 

 これまで何をしようとも関心を持ってもらえなかった浦の星女学院。しかし、Aqoursの奮闘が遂に実を結んで、説明会参加希望のエントリーがあったのだった。

 

「私たちの頑張りで、変わるものがあった! こんなに嬉しいことはないよ! だからもっともーっと頑張って、私たちの大事な学校にいっぱい人を集めるの!」

 

 熱意を口にする千歌を、功海と克海は温かく応援する。

 

「その意気だぜ。浦女に人が溢れ返る時を、俺も楽しみにしてるぜ!」

「みんなの努力で、照らし出してみせろ。お前たちの、夢のとりでをな!」

「うんっ!!」

 

 千歌は二人の言葉に、満面の笑みで応じた。

 

 

 

 松浦家では、果南が昔のアルバムをめくりながら、先日の地区予選での舞台を思い返していた。

 

「一度スクールアイドルの道を断った私が、あんな大舞台に立ったなんてね……世の中、何が起こるか分からないなぁ。鞠莉もダイヤもとても楽しそうで……」

 

 子供の時に三人で撮った写真に目を落としながら苦笑する果南。その指がページをめくり、もっと以前の写真のページを開く。

 

「曜も、千歌もすっかり大きくなっちゃって……。ちょっと前までは、手の焼ける妹みたいに思ってたんだけどなぁ」

 

 十二年前の写真――曜と千歌、克海と功海も交えた五人の写真を見つめる。当然、写真の中の自分たちは今よりずっと背丈が小さく幼い。

 

「みんな小さいなぁ。私はもちろん、克兄ぃも、功兄ぃも。曜も、千歌だって……」

 

 思い出を振り返りながら、更にページをめくった。

 が――ふと違和感に気づき、ページをめくる手が止まった。

 

「……あれ?」

 

 十三年から前の写真――それに写っているのは、自分と克海、功海、曜。

 その四人だけ。

 

「……? 何か変……」

 

 ペラペラと前後のページの写真を見比べる果南の表情に、徐々に焦りが浮かんできた。

 自分がいる。克海がいる。功海もいる。曜も。自身の両親に、高海家の親、曜の両親が写っている写真もある。

 にも関わらず……。

 

「……ど、どうして? どうして十三年から前の分には、どこにもいないの……!?」

 

 どの写真を確かめても、いるはずの人物の顔がどこにも見られない。『十二年より先』のものにしか、その顔がないのだ。

 まるで、『十二年前のある時から突然現れた』かのように。

 

「何で写ってないの……!? 千歌……!!」

 

 五歳より以前の年齢の千歌の写真が、一枚もアルバムにないことに、果南は気づいたのだった。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

ルビィ「がんばルビィ! 今回ご紹介するのは、『ウルトラマンダイナ』です!」

ルビィ「この歌はもちろん『ウルトラマンダイナ』の主題歌です。歌ってるのは前田達也さん。90年代後半のウルトラシリーズの楽曲によく関わった人です」

ルビィ「『ウルトラマンティガ』の続編である『ダイナ』は、タイプチェンジという要素は引き継ぎつつ、シリーズの原点の『ウルトラマン』を意識した、バラエティに富んだドラマ構成がされました。この辺りは歌詞にも反映されてて、三タイプの名前が入れられながらも、全体的にヒーローソングらしい作りになってます」

ルビィ「ちなみに、エンディングテーマが複数使用されたのは『ダイナ』が初めてです。前期の『君だけを守りたい』は、劇中のドラマでも重要なところで用いられてます」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『夢で夜空を照らしたい』だ!」

功海「アニメ第一期第六話の挿入歌だ。三年生組が加入するまでで最後に使われた歌で、珍しいバラード調だ。これをきっかけにAqoursは注目され、飛躍してくことになったぞ」

克海「劇中の転機を作った、サンシャインを語る上で外せない一曲だな。PVの空飛ぶ提灯も印象的だ」

ルビィ「それでは次回もよろしくお願いします!」

 




梨子「千歌ちゃんの前に突然現れた謎の女の子。その子は、二枚のルーブクリスタルを渡していきました!」
曜「だけど功兄ぃと克兄ぃはクリスタルの扱いを巡って対立! 二人が喧嘩してどうするのぉー!?」
梨子「そんな時に現れたグルジオは、いつもと違ってて……! どうなってしまうの!?」
曜「次回、『コワレヤスキあなたはだぁれ』!」
梨子「ビーチスケッチさくらうち!」


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幕間「二学期開始」

 

 裏の星女学院の二学期が開始してから、数日が経ったある日のこと。

 

「ん~……むむむぅ……」

 

 千歌が居間で歌詞ノートを前にしながらうなっていた。

 

「ふい~、手強かったぜ。しいたけもそろそろ冬毛だな」

 

 そこをしいたけのブラッシングから戻ってきた功海が目撃する。

 

「……何やってんだ、千歌。そんな難しい顔してさ」

「功海お兄ちゃん。ちょっと、予備予選用の曲の歌詞を考えてて」

「歌詞? そういや、ラブライブって一ステージ毎に未発表の曲って決まりあるんだっけ? きついルールだよなぁそれ」

「出場者を篩に掛けるためだな。スクールアイドルは資格とかないから、母数が大きすぎる。そうでもしなきゃエントリーの管理をし切れないんだろう」

 

 肩をすくめる功海のひと言に、克海が見解を述べた。それから千歌の方に目を向ける。

 

「しかし、それにしてもまた熱心そうだな。ルーズな千歌にしては」

「もぉ、ルーズってひどいなぁ。歌詞考えるのって大変なんだからね!」

 

 むくれる千歌だが、すぐに重い面持ちとなる。彼女のただならぬ様子を克海と功海が気に掛けた。

 

「また何かあったのか?」

「うん……それが……」

 

 首肯した千歌がポツリポツリと、鞠莉から知らされた凶報を打ち明ける。

 

「えッ……!? 学校説明会が中止!?」

「統廃合が正式に決定!? マジかよ! 二学期始まったばっかじゃん!」

「でも、鞠莉ちゃんの話だと、話自体は二年前から持ち上がってて……鞠莉ちゃんがどうにか待ってもらってたらしいの。でも……」

「とうとう限界が来た、ってことか……」

 

 想像もしていなかった内容に、克海と功海もショックを隠せなかった。

 

「マジかよ……。せっかく希望者が十人にまで増えたってのに……。千歌たちの頑張りが、こんな急に終わっちまうのか?」

「本当に、もうどうしようもないのか?」

「まだ分かんない……。だけど、鞠莉ちゃんが最後の交渉をしてくれるって。その結果次第」

「まだ希望の芽はあるか。けど、どう転んでも厳しい返答が来るだろうな」

 

 腕を組んで顔をしかめる克海。既に決定された事項を撤回してもらうからには、簡単な条件は出されないのが目に見えている。

 しかし、千歌の瞳にはそれでも希望が宿っていた。

 

「だけど、あきらめたくない! 私たちは最後まで奇跡が起こることを信じる! ううん、起こしてみせるっ!」

「おお! 燃えてんな!」

「だから今は、鞠莉ちゃんがどうにかしてくれるのを信じて、歌詞を考えてた訳なんだけど……。なかなか出てこなくってさぁ~」

 

 再び頭をひねり出す千歌。どれだけの意欲があろうとも、それが結果につながるかは別の話である。

 

「何か歌詞になりそうなネタが転がってないかな~」

「大変そうだな……。そういう時は、身の回りのものに目を向けてみたらどうだ? いいアイディアというのは、案外身近なところにあるものだぞ」

 

 克海のアドバイスを受けて、千歌はポンと手を叩いた。

 

「そうだ! ウルトラマンのこと、歌詞にならないかな!」

「「えッ!?」」

「と言うかよく考えたら、私だけウルトラマンのこと全然知らない! お兄ちゃんたち、ずっと教えてくれなかったんだもん」

 

 ジトーッと恨めしげににらまれて、克海と功海の後頭部に冷や汗が流れた。

 

「だから、それは悪かったって……」

「謝るのはいいから! チカに教えてよ、お兄ちゃんたちのこと~! みんなばっかりが知ってるなんてずるい~!」

「おいおい……趣旨すり変わってね?」

「いいからー! まだチカをのけ者にするんだったら、もうお兄ちゃんたちと口利かないんだからね!」

 

 ぷんすかとそっぽを向いてすねる千歌に、二人の兄たちは参ってしまってため息を吐き出した。

 

 

 

 数分後、克海と功海はメモ用紙にこれまでの自分たちの足跡を簡潔に纏めて書き出し、千歌に見せていた。

 

「始まりは、グルジオが最初に出てきた時だ。あの時、グルジオに炎を浴びせられそうになった瞬間に、俺と功海はルーブジャイロとクリスタルを手に入れて、ウルトラマンに変身できるようになった」

「やっぱり、あの時からお兄ちゃんたちがウルトラマンだったんだ。道理で何か変なことばっかやってるって思った」

「おい、俺たちをどういう目で見てんだよお前はぁ」

 

 千歌の失言に、功海が咎めるように突っ込んだ。

 

「でも、ジャイロとクリスタルってどこから出てきたの?」

 

 千歌の質問に首をひねる克海たち。

 

「それが未だに分からないんだよな。元々は愛染……サルモーネが発掘したものだったらしいが」

「何で俺たちがウルトラマンに選ばれたのか、こっちが聞きたいくらいだ」

 

 と話をしている最中に、玄関のインターホンが鳴らされる。

 

「あっ、お客さん」

「はーい」

 

 克海が立ち上がって玄関に向かうと、その来客は、

 

「あれ、果南ちゃん?」

「克兄ぃ……」

 

 果南は何故か妙に落ち着かない様子であった。

 

「今日は一人? 千歌なら今いるけど」

「ううん、今日はスクールアイドルのことじゃないの。ちょっとおじさんに用があって……」

「父さんに? 改まって何の用……まぁいいや。上がって」

「お邪魔します……」

 

 果南を家に上げて、父親のところまで連れていく克海。それから果南が彼に告げる。

 

「こっちは私だけでいいから。克兄ぃは忙しいでしょ?」

「別に今は忙しくもないけど。まぁちょうど千歌の相手してたところだし、ゆっくりしてってくれ」

 

 克海が居間に戻っていくと、果南は高海家の父にこう頼み込んだ。

 

「すみません、おじさん……。ちょっと、みんなのアルバムとか見せてもらえませんか?」

 

 

 

「克海お兄ちゃん、誰だったの?」

「果南ちゃんだ。何か、父さんに用らしいけど……。まぁ向こうは父さんに任せよう」

 

 果南のことはひとまず置いて、克海が居間に戻ると先ほどの話を再開する。

 

「それでウルトラマンになった俺たちは、まぁ知ってる通り色んな怪獣と戦った。その中で剣のルーブスラッガーや、新しいクリスタルを手に入れてきた」

「クリスタルにはそれぞれ属性があってさ、俺たちの姿と能力を変えたり、スラッガーを強化したり出来るんだぜ」

「それから……梨子ちゃんたちの力を借りて、ともに戦うようにもなった」

「最初は偶然だったんだよなー。曜を助けようと必死になってたら、何か体内に入れて変身しちゃってさ」

「あの時はほんと驚いたぞ……」

 

 しみじみ語る功海と克海。千歌もAqoursの仲間たちのことなので、一段と興味を示す。

 

「それをきっかけに、みんなが助けてくれるようになったんだね」

「ああ。初めはこっちも、みんなを危ない目に遭わすから断ってたんだが……それでも力を貸してくれてな。本当にありがたい」

「けど……今から思えば、そうなるように仕組まれてたんだよな。サルモーネの野郎に……」

 

 苦々しい顔の功海。そのお陰で今があるとも言えるが、やはり簡単に割り切れるものではない。

 

「……愛染さん、悪い人だったんだよね……」

 

 サルモーネの名前が出てきて、千歌も複雑な表情となった。渋い顔でうなずく兄たち。

 

「正体は愛染正義という人間に取り憑いた宇宙人だ。奴の目的は、自分が理想とするウルトラマンとアイドルを作ること。それに俺たちを利用してた。だが見切りをつけると……今度は、自分自身がウルトラマンになろうとした」

「けど、あいつのやってたことはデタラメのインチキだ! ヒーローになるためにマッチポンプ働いて、町に滅茶苦茶な被害出してさ! ルビィも、鞠莉もひどい目に遭わされた……」

「Saint Snowって子たちがいただろ。あの子たちも騙されて利用されてたんだ」

 

 サルモーネの悪行に胸を痛める千歌だが、

 

「……でも、何でウルトラマンとアイドルなの?」

「さぁ? 聖良ちゃんたちの話じゃ、入れ込んでるアイドルグループがあって、その人たちがウルトラマンと深い関係にあるらしい。その人たちみたいなアイドルを自分の手で育てようと考えてたみたいだな」

「迷惑なドルオタって奴だなー。あの野郎、スクールアイドルの味方って触れ込んどいて、本心じゃ見下してて自分の道具ぐらいにしか考えてなかったんだ! ダイヤもマジギレだったよな」

「ああ。一度は完敗を喫した俺たちも、あいつの所業が許せずにリベンジを果たした。その時に取り上げたのが、あいつが変身するのに使ってた、このオーブリングNEOだ」

 

 克海たちがオーブリングNEOを取り出すと、千歌が指差す。

 

「お兄ちゃんたちのフェイスローラー!」

「いやいや、フェイスローラーじゃないっつぅの」

「……思えば、これって何でNEOなんだろうな。よく考えずに使ってたが……」

 

 今更ながらに疑問に思う克海。

 

「サルモーネがこいつを使って変身してたのはオーブダーク。つまり、どっかにオリジナルのウルトラマンオーブって人がいるんだろ」

「そのウルトラマンは、どこで何をやってるんだろうか」

「さぁなー。人間は未だに地球のこともろくに知らないのに、広い宇宙のことなんか分かりようもねぇって」

 

 ぐっと背筋を伸ばす功海。この辺りで二人の説明は区切りがついた。

 

「まぁこんくらいが、俺たちのウルトラマンとしてのこれまでだな」

「どうだ。これで歌詞のインスピレーションになりそうか?」

「ん~……やっぱり、ただ話に聞いただけじゃイメージ湧かないなぁ」

「おい……じゃ、この時間何だったんだよ」

 

 ぼやく千歌に、功海が疲れたようにつぶやいたのだった。

 

 

 

 その頃――綾香の街頭テレビを、黒装束の少女が見上げていた。その画面に映っているのは、先日の地区予選のステージのプレイバック。

 画面いっぱいに表示されているのは、Aqoursのパフォーマンス。少女は九人のスクールアイドルのステージ上で踊り跳ねる様子を見つめている――特に、千歌の姿を、食い入るように。

 

「……」

 

 不意に少女は、己の手の平に目を落とした。その手の中には、二枚のクリスタルが握られている。

 

「古き友は言った。願いが正しければ、時至れば必ず成就する。徳川家康」

 

 少女がつぶやくと、手の内の「光」と「闇」のクリスタルが一瞬きらめいた。

 

 

 

 アルトアルベロタワー社長室。

 

「完・全・ふっかぁ―――――つッ!!」

 

 サルモーネが最後の包帯を自分の身体から解いて豪快に投げ捨てた。それに首を垂れる氷室。

 

「おめでとうございます、社長」

「うむ、ありがとう! ただ、快気祝いには君からオーブリングNEOをもらいたかったんだけどねぇ~」

「……申し訳ありません」

「なーにもういいさ。私がこの通り完治したからには、私がやろうじゃあないか! って訳で、早速ジャイロ返してくれる?」

「分かりました」

 

 促されて、氷室はAZジャイロを返却しようとするが――その直前、サルモーネには気づかれないように手の平から怪しい電流を流し込んだ。

 

「どうぞ」

「よしよし。氷室君、君も頑張ってはいたみたいだが、どうにも残念だったねぇ。力押しばっかりでは芸がないよ君ぃ! 一つ、私が手本を見せてあげよう!」

 

 ジャイロを受け取ったサルモーネは嬉々としながら、早速「角」のクリスタルをセットした。

 

 

 

 千歌と話をしていた克海と功海だが、突然功海のバイブス波探知機が激しく反応し、二人がそちらに振り向く。

 

「功海ッ!」

「ああ!」

 

 すぐにタブレットでニュースを確認すると、綾香に怪獣出現の速報がアップされていた。

 

『グビャ――――――――!』

 

 映像には、鼻先に巨大なドリルを持った、足の生えた魚型の怪獣が暴れている姿がある。深海怪獣グビラ!

 

「お兄ちゃん……!」

「悪い千歌。俺たちちょっと行ってくる!」

「夕飯までには帰るから!」

「あっ、ちょっと……!」

 

 克海と功海は有無を言わさずに、あっという間に家から飛び出していった。それを呆然と見送る千歌。

 

「もう、お兄ちゃんたちったらせっかち……。果南ちゃんが来てるのに」

 

 と噂すると、当の本人が千歌の下にやってきた。

 

「あっ、果南ちゃん! ちょっと大変なの。また怪獣が出てきて、お兄ちゃんたち行っちゃって……」

 

 状況を告げる千歌だが――果南はひどく深刻な顔をしており、千歌の言ったことが聞こえていないようであった。

 

「千歌……」

「うん?」

 

 果南は眉間に深い皺を刻みながら千歌を見つめて、たどたどしく尋ねかけた。

 

「千歌って……誰……なのかな……?」

「――え?」

 

 千歌は、何を言われたのかが理解できなかった――。

 



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コワレヤスキあなたはだぁれ(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

梨子「次のラブライブに向けて、新たなスタートを切ったAqours! しかし、そこに飛び込んできたのは、統廃合が決定したという事実。だけど、私たちは奇跡を起こすためにラブライブに挑み続ける! ……だけど、その矢先に果南ちゃんの様子がおかしくて……」

 

 

 

「グビャ――――――――!」

 

 綾香の街のど真ん中に現れた怪獣グビラ。それと対峙する、ロッソとブルのウルトラマン兄弟。その内部の、梨子と曜。

 怪獣出現の報を受けて飛び出していった克海と功海は、同じく報道をキャッチして駆けつけた梨子と曜の二人とともに、この現場に馳せ参じたのである。

 

『じゃあ俺たちから!』

『おい待て!』

 

 ロッソの制止も聞かず、ブルが指先からアクアジェットブラストを繰り出して先制攻撃を加える。

 

『はッ!』

 

 しかし水流は、全てグビラに飲み干される。

 

『「えっ!? 飲んじゃった!」』

 

 更にグビラは、頭頂部の孔から水を噴射して排出。空に見事な虹が出来上がった。

 

『お~虹だぁ!』

『「わぁ綺麗!」』

『「感動してる場合じゃないでしょ!」』

 

 のんきなブルたちに梨子が突っ込んだ。

 

「グビャ――――――――!」

 

 得意げなグビラに、今度はロッソが攻撃。

 

『よし! この一発で、決めるぜ!』

 

 大きく振りかぶって、ストライクスフィアを投擲。

 だがドリルに受け止められた。

 

『「刺さっちゃった!」』

『「熱くないの!?」』

 

 更にドリルの回転で火の輪の形で投げ飛ばされ、花火のように弾けた。

 

『おぉ~決まったじゃん!』

『「打ち上げ花火だぁ!」』

『うるさい! なめやがってぇ!』

 

 いら立ったロッソが近接戦闘に切り替えようと駆け出す。それを真っ向から迎え撃ちに行くグビラ。だが――。

 

 

 

「ふふ……いいぞぉ」

 

 グビラがロッソたちの技を無効化するところに喜んでいたサルモーネだが、不意にその手の中のAZジャイロがスパークした。

 

「ん? あちッあぢッ!?」

 

 スパークは一気に激しくなって持っていられないほど発熱。ボスンと音を立てて沈黙した。

 

 

 

「グビャ――――――――!」

 

 ジャイロと連動して、グビラもスパークに襲われて停止していた。

 

『「きゃっ!? ど、どうしたの!?」』

 

 突然のことに動揺するロッソたち。その彼らの目の前で――グビラがたちどころに縮んでいき、軽自動車と変わらないくらいのサイズになってしまった。

 

『ちっさ……』

『うそーん!?』

「グビャ――――――――!」

 

 すっかり小さくなってしまったグビラに唖然とするロッソたち。グビラは立ち上がってぴょこぴょこ跳ねた。

 

『お、何か踊ってる』

『「あはは、こうしてるとかわいいね」』

『「だけど、急にどうしたのかしら……」』

 

 梨子が何事だろうかと首をひねっていたら、グビラはそのままポンと煙とともに消え去った。

 

『えぇー……』

『「消えちゃった……」』

 

 グビラは元のクリスタルに戻り、道路の上に転がっていた。

 

 

 

「うわぁぁぁ―――――――――――――――――!!?」

 

 一方のサルモーネは――うんともすんとも言わなくなったジャイロを前にして、取り乱して絶叫していた。

 

 

 

『コワレヤスキあなたはだぁれ』

 

 

 

「千歌って……誰……なのかな……?」

「――え?」

 

 ロッソたちが戦っていた頃、『四つ角』に置いていかれた千歌は、果南からそんなことを言われていた。

 呆然とする千歌の反応に、果南はハッと我に返ると、ブンブン手を振る。

 

「あっ! ご、ごめんね! 今のなし! 変なこと聞いちゃったね! 私も疲れてるのかも! ちゃんと休まないとダメだよね、うんっ!」

「果南ちゃん……」

「気にしないで千歌! 忘れて! ちょっと私、おかしかっただけだから! そ、それじゃ、また明日!」

 

 強引にごまかした果南はそそくさと高海家から退散していく。

 しかし、そう言われても千歌は簡単には気持ちの整理がつかず、果南からぶつけられたひと言が延々と心の中に残っていた。

 

 

 

 戦闘終了後、克海と功海は梨子、曜と別れて『四つ角』に帰ってきた。

 

「結局何だったんだろうな。いきなり小さくなったかと思えば、そのまま消えて」

「向こうのジャイロがエラーでも吐いたんじゃね? ただいまー」

 

 二人はぼやきながら居間に上がってくるが、

 

「あれ? 千歌?」

「おーい? 千歌ー?」

 

 彼らの帰りを待っているはずの千歌の姿が、忽然となくなっていた。代わりに、テーブルの上に書き置きが残されている。

 

「書き置き? 『ちょっと出かけてます』……って」

「こんな時間にどこ行ったんだよ、あいつ」

 

 功海が窓から夕焼けに染まりつつある空を見上げて、首を傾げた。

 

 

 

 その頃、千歌は一人で喫茶店に入り、浮かない表情でスイーツを頬張っていた。

 

「……はぁ……果南ちゃんのあの言葉、何だったのかな……」

 

 果南には忘れてと言われたが、やはり心のもやもやを拭うことが出来なかった。曇った表情を兄たちに見られて気を遣われたり、詮索されたりするのも嫌だったので、一旦家から離れて気晴らしを試みているのであった。

 

「私が誰なのか、なんて。高海千歌以外の誰でもないのに。何であんなことを聞いてきたんだろ……? 分かんないや……」

 

 ビスケットを一つつまんでもぐもぐ咀嚼しながら独白し、考えを整理する千歌。

 

「……まぁ、気にしてたってしょうがないか。こんな時だし、果南ちゃんもナイーブになったりすることだってあるよね。うん、これ食べたらいつも通りのチカに戻ろう!」

 

 と自身に言い聞かせることで感情を落ち着かせ、普段通りの自分に立ち戻ることを決定する。

 が、その時、

 

「古き友は言った」

「ほえ?」

「人生は舞台である、人は皆役者。ウィリアム・シェイクスピア」

 

 いつの間にか、側に見知らぬ少女が腕を組んで立っていた。こちらの顔をじっと見つめると、次いで尋ねかけてくる。

 

「お前は誰だ? 何の役を演じている?」

 

 千歌は、妙に鋭い眼でこちらを観察するように見つめてくる少女に、視線を返し――。

 

「やだなぁ~! 誰かと間違えてない?」

「何?」

「私、スクールアイドルだけど女優さんじゃないよ。役を演じるとか、そういうことはしてないから。ただの女子高生だよ?」

 

 軽快に笑いながら手を振る千歌だが、少女は眉間の皺を増やして対面の椅子にどっかと腰を落とした。

 

「あっ、このビスケット食べたいの?」

「必要ない。それより、お前が『ただの人間』のはずがない」

「何~? その大袈裟な言い方ぁ。漫画の台詞みたい! あっ、この辺じゃ見ない顔だけど、もしかして私のファン!? いや~、Aqoursもすっかり有名になったなぁ――」

「聞けっ!」

 

 勝手に解釈して浮かれる千歌だったが、少女がドンとテーブルを叩いたので、驚いて口をつぐんだ。

 

「私は『お前たち』のことをある程度調べた。だが、お前のことだけが妙に引っ掛かる。他の者とは違うように感じるのだが……その違いが何なのかが、はっきりしない。何より……」

 

 少女は一旦言葉を切って、千歌の顔をまっすぐに凝視する。

 

「……お前とは、初めて顔を合わせた気がしない。こんな妙な気分になったのは、初めてだ。繰り返し訊く。お前は誰だ?」

 

 千歌はしばし黙っていたが、少女を見つめ返しながら口を開く。

 

「……言ってることはよく分からないけど、こっちもあなたとは初めて会った気がしない、って感じてるよ。何だか、ずぅっと前から知ってるような気がする! 不思議!」

「何?」

 

 少女の手を取って、ぎゅっと握る千歌。少女は少し戸惑う。

 

「私は高海千歌! あなたのお名前は?」

「……次までに考えておく」

「そんなもったいぶらないでよ~! 名無しの権兵衛じゃないでしょ? 教えて?」

 

 千歌にまっすぐな瞳を向けられ、少女は恐る恐るという風に答えた。

 

「じゃあ……美剣沙紀」

「沙紀ちゃん! カッコいいお名前だね! 素敵な友達が出来ちゃった!」

「友達……私たちが?」

「他に誰がいるのぉ? 遠慮しなくたっていいんだよ!」

 

 呆ける美剣沙紀に、千歌が興味を示しながら質問をぶつける。

 

「ねぇねぇ、沙紀ちゃんって私と同じくらいに見えるけど、何歳なの? 何年生?」

「……初めは数えていたが、忘れた」

「あはは、そのギャグ面白い! 今度私も使ってみよ!」

「ギャグ……?」

「お家はどこ? 内浦の人じゃないよね?」

「故郷は……はるか、遠く」

「わぁ、詩人さんみたい! 沙紀ちゃんってほんと面白いね~。スクールアイドルの才能あるよ!」

「スクールアイドル……?」

「うん! そのミステリアスな感じがウケそう! あっ、そうだ一緒に写真撮ろ? はいスマホ見て!」

 

 怒涛の勢いでまくし立てた千歌がぐいと沙紀の隣に近づき、スマホを握った手を伸ばした。

 

「はい、チーズ♪」

 

 パシャリと写真を撮って、すぐに写り具合を確認する。

 

「うん、よく撮れてる! 連絡先教えて? 後で送信するね」

 

 同時にスマホに保存している写真をいくつか沙紀に披露した。

 

「見てみて、これがAqoursのみんな! 知ってるよね? そう言ってたし。で、こっちの男の人は、私のお兄ちゃんたち! なかなかイケてるでしょ? でも手を出したらダメだからね~。私のお兄ちゃんだから!」

 

 克海と功海と写っている写真を見せると、沙紀の目つきが一層鋭くなった。

 

「この二人は、本当にお前の兄なのか?」

「え? 急にどうしたの? もちろんそうだけど」

「本当か? 最初からそうだったのか? 確かな証拠はあるのか?」

「ん~……何かさっきの果南ちゃんみたいなこと言うね。今日はよく変なこと言われるなぁ……」

 

 首を傾げた千歌だが、すぐにあることに思い至ってパンと手を叩いた。

 

「あっ、そうか! 証拠があればいいんだ! そしたら果南ちゃんも、私が紛れもない高海千歌だって分かってくれるよね。後で探そうっと。沙紀ちゃん、ありがとう――」

 

 お礼を言おうと沙紀に振り返った千歌だが、

 

「……沙紀ちゃん?」

 

 つい今しがた一緒にいた沙紀の姿が、綺麗に消えてなくなっていた。

 

「あれ……? もう帰っちゃったのかな……」

 

 きょとんとしながら、仕方ないので自分も家に帰ろうと立ち上がる。と、

 

「あれ……」

 

 ビスケットの皿に、いつの間にか二枚のクリスタルが置かれていた。

 それぞれ銀色と黒の超人――ウルトラマンの姿とともに、「光」と「闇」の文字が刻み込まれていた。

 

 

 

「ただいまー」

「千歌! 怪獣が出てたってのに、一体どこ行ってたんだ」

「ちょっと、喫茶店に……」

「喫茶店だぁ? のんきな奴だなぁ。晩飯入らなくても知らねぇぞ」

 

 帰宅した千歌を出迎える克海と功海。千歌の返答に功海が呆れていると、千歌は二人にあるものを差し出す。

 

「お兄ちゃん、これ……」

「え……?」

 

 沙紀が置いていったと思しき、二枚のクリスタルだ。

 

「千歌、これどうしたんだよ!」

「沙紀ちゃんが忘れていったの」

「沙紀? 誰だそれ?」

「学校の友達か?」

「ううん、さっき喫茶店で友達になった子。ほら」

 

 呆ける克海たちに、沙紀と撮った写真を見せる千歌。

 

「友達って……何でこんな子がクリスタル持ってるんだよ」

「それは分からないけど……やっぱり、それってクリスタルなんだ」

「本物ならな……」

 

 クリスタルをためつすがめつ観察した功海が、バッと踵を返す。

 

「本物かどうか、大学のスペクトル分析器で調べてくる!」

「功海お兄ちゃん!?」

「おい功海! こんな時間に……!」

 

 千歌と克海が止める間もなく、功海がバッグを持ってきてそのまま飛び出していってしまった。

 

「全く、功海の奴……気になることがあるとすぐ周りが見えなくなる」

「ごめん下さーい」

「あッ、いらっしゃいませ!」

「克海お兄ちゃん……!」

 

 肩をすくめた克海も、来客があったのでそちらの応対に出ていき、千歌だけが残された。

 

「……お兄ちゃんたちにも、私が千歌だって証拠探し、手伝ってもらいたかったんだけどな……。しょうがない、一人で探すか……」

 

 ふぅとため息を吐いた千歌は、気を取り直して家のアルバムを探しに行った。

 

 

 

 翌日、アルトアルベロタワーの社長室。

 

「……」

 

 サルモーネがうなだれた姿勢で社長の椅子に腰を落としている。その正面には、「故障中」の張り紙を貼ったAZジャイロ。

 

「……私は、『あの人たち』の素晴らしさを広めたいだけなのに……どうして誰も分かってくれないんだ……」

 

 ぐすんと涙ぐんだサルモーネが立ち上がりながら、机の裏に隠されたスイッチを押した。

 すると真後ろの壁がせり上がっていき――その裏に隠されていた『物』が、露わとなる。

 

「おおッ……! 我が崇拝する天使たちよッ! 真なるウルトラマンよッ!」

 

 それは――『765プロ』と銘打たれた無数のグッズ。ポスターやサイリウム、Tシャツ、ステッカー、タオル、フィギュアなど……多種多様の物品が壁の裏側の隠し部屋にところ狭しと並べられている。それも、どれも一種類につき三つずつ。

 それと同様に、ウルトラマンオーブの写真もいくつも貼って並べられている。

 これらをうっとりとながめたサルモーネが、己の想いを吐露した。

 

「765プロのアイドルたち! 欺瞞に満ちた星間連盟が支配する我が故郷の宇宙に、英雄に導かれて希望の光を差し込み、また数多の宇宙にも希望と笑顔を与える、まさしく女神! 四年前から理由不明の活動休止が続いてるのが気掛かりだが……彼女たちこそが、真実のアイドルなのだ! 故に、全てのアイドルを名乗る者は、彼女たちのようであらなくてはならないッ!! その真理を伝導するために、この愛と正義の伝道師は立ち上がったというのに……あんな兄弟どもの邪魔さえなければ、今頃は……」

 

 徐々に口調に熱が入っていくサルモーネは、右に左に跳びながら独り芝居を始める。

 

「765プロの皆さん! 私はあなた方に憧れ、ウルトラマンの力を手に一つの星に希望を伝導しました! きゃあ~サルモーネさんすごーい! いえいえこんなものではありません! 御覧下さい、これが私の育てたアイドルです! 更にアイドルのプロデュースまでなんて! 感動ですうっうー! そ、そんな、お褒めにあずかり光栄ですぅッ! 見事なもんだサルモーネ、どうやら俺の後継者はお前で決まりのようだな。そうなの、サルモーネこそがミキたちを新しくプロデュースしてくれる人なの! えッ、それってまさか! な、何という身に余る光栄ぃ~!!」

 

 恍惚の表情で、自分の身体を抱きしめてくねくねと小躍りするサルモーネ――。

 

「終わりましたか」

「おぉぉいぃッ!?」

 

 氷室のひと言で、ビクゥッ! と派手に身体が跳ね上がった。

 

「ひ、氷室君ッ! 君、いつからいたの!?」

「我が崇拝する天使たちよ――」

「最初からか―――いッ!! ノックしてから入ってよもうッ!!」

「申し訳ありません」

 

 顔を真っ赤にしながら、壁を閉ざして隠し部屋を元に戻すサルモーネに、氷室が淡々と告げる。

 

「それより、社長にお客様です」

「えッ、お客?」

「どうぞ」

 

 氷室に呼ばれ、社長室に入ってきたのは、

 

「あッ! 君は、こないだの看護師さん! 何の用?」

 

 白衣を身に纏った少女――美剣沙紀であった。

 沙紀はサルモーネの質問が聞こえなかったかのように、次のように言う。

 

「私は、弱いウルトラマンが嫌いだ」

「え?」

「何度負けても立ち上がる強さを持つ者こそ、ウルトラマンに相応しい……! そうだろう?」

 

 サルモーネは呆気にとられつつも、沙紀の問いかけにうなずく。

 

「そ、そうですよねぇ~! 私こそがッ……!」

 

 言いかけるサルモーネだが、故障したジャイロが目に入って途端に泣き崩れた。

 

「ダメだダメだぁ……! 私のジャイロは壊れてしまったのだぁ~! あれだけ作るのに苦労したのに……! 結局直せなかったッ! どうしよう~!!」

 

 おいおいと泣きじゃくるサルモーネをながめた沙紀が、ある『物』を取り出す。

 

「だったら、使ってみるか? 本物を」

「え? ほ、本物?」

 

 振り向いたサルモーネの目に飛び込んできたもの――。

 沙紀が握り締めているものは、色彩や模様が少し異なるが、紛れもなくジャイロの形状をしていた。

 



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コワレヤスキあなたはだぁれ(B)

 

 浦の星女学院。Aqoursの日課の朝練の直前、千歌が皆に「ちょっと見てもらいたいものがあるの」と言って、部室に集合してもらっていた。

 そしてそこで、スマホに撮っておいた光と闇のクリスタルの写真を披露する。

 

「これって、新しいクリスタル!?」

「しかも二枚も!」

 

 写真を見せられた仲間たちは、梨子と曜を始めとして皆驚愕。ダイヤは顔を上げて千歌に尋ねる。

 

「千歌さん、これをどこで?」

「昨日、沙紀ちゃんが忘れていったの」

「沙紀……? そんな人、浦女にいましたか?」

「どなたなの? 千歌ちゃん」

 

 はてとダイヤが首を傾げ、ルビィが問い返す。千歌はスマホを操作して、沙紀と撮った写真を表示した。

 

「この子。昨日、お友達になったばっかりなんだ」

 

 写真の顔をひと目見た曜と鞠莉が――途端にギョッと目を剥いた。

 

「えっ!? この子、あの時の子だ! ねぇ鞠莉ちゃん!」

「オーウ! 間違いありまセーン!」

 

 二人の反応に驚かされる千歌たち。

 

「知ってるの?」

「知ってるというか、何というか……この前、鞠莉ちゃんといる時にいきなり話しかけてきたの。変な子だなぁとは思ったけど……」

「ええ。見るからに普通じゃない雰囲気だった。だけど、まさかクリスタルを持ってるなんて……」

「謎の少女……まさか、天界より差し向けられし刺客……!」

 

 善子のひと言はスルーして、花丸が千歌に尋ねる。

 

「新しいクリスタルは、今どこずら?」

「功海お兄ちゃんが持ってる。本物か調べるって、昨日大学に持ってったっきり……。今朝、克海お兄ちゃんが迎えに行ったけど」

「調べるだけのことに、ひと晩がかりですの?」

 

 意外そうに聞いたダイヤにうなずき返す千歌。

 

「よく分かんないけど、功海お兄ちゃん、家を出る時大分張り切ってたし……色々調べてるんだと思う」

「あー……功兄ぃが張り切りすぎてると決まってろくなことにならないからなぁ……。ちょっと心配……」

 

 眉をひそめてぼやいた曜に、梨子が首を向けた。

 

「……曜ちゃん、ちょっと前から気になってたんだけど」

「えっ、何?」

「曜ちゃんと果南ちゃんは、克海さんたちのこと、克兄ぃ功兄ぃって呼ぶよね」

「うん。私たち幼馴染で、家族ぐるみのつき合いだったからね。けど、それがどうかしたの?」

 

 質問の意図が分からない曜に、梨子は、

 

「でも、千歌ちゃんだけお兄ちゃんって呼ぶわよね」

「あー……言われてみれば。気にしたことなかったけど……一人だけ呼び方違うね」

 

 同意しながらも、曜は肩をすくめる。

 

「けど、千歌ちゃんは実の妹なんだし? 私たちと呼び方が違くても、別におかしくはないんじゃないかな」

「そうなのかしら……」

 

 首をひねりながらも、些細な疑問なので梨子はそれ以上気にしなかった。

 それよりも、どこか寂しげな様子の千歌をルビィが気に掛ける。

 

「千歌ちゃん、どうかしたの? 何だか元気ないみたいだけど……」

 

 声を掛けられた千歌がハッと我に返る。

 

「あっ……ううん! 何でもないよ。ただ、お兄ちゃんたち早く帰ってこないかなー、って考えてただけだから」

「そうなの……? 何もないなら、いいんだけど……」

 

 ルビィは引き下がったが、果南が千歌の横顔に一瞬浮かんだ、陰りの色を見止めて息を呑んだ。

 

「千歌……まさか……!」

 

 

 

 ――沙紀が取り出してみせた、配色は高海兄弟のものとは異なるが、紛れもないルーブジャイロを目にして、サルモーネは唖然となった。

 

「そ、それはジャイロ……三つ目があったのか……!」

 

 立ち上がって沙紀と向かい合ったサルモーネは、彼女自身に疑問を抱く。

 

「何故これを持ってる? 君は何者なんだ?」

「使うのか? 使わないのか?」

 

 だが沙紀は答えず、ジャイロを突き出して聞き返してきた。

 サルモーネはゴクリと息を呑むと、おもむろにジャイロに手を伸ばす――。

 

 

 

 功海からの連絡を受けた克海は、彼の大学を訪問して功海の下へとやってきた。

 

「功海、何だ。忙しいのに……」

「克兄ぃ! これれっきとした本物だ!」

 

 功海はやたらと興奮した様子で、分析を終えた光と闇のクリスタルを克海に見せつける。

 

「これを構成する分子は、今までのクリスタルと同じ。なんだけど! バイブス波の線量が通常の何と六倍なんだよ六倍!」

「それってそんなにすごいのか?」

「当ったり前だろ! パワーが六倍ってことは性能も六倍、いや、それ以上かもしれない……!」

 

 二枚のクリスタルを手に、笑みがこぼれる功海。

 

「未知の力を持つクリスタル……! ゾクゾクするだろ!? 早速試しに使ってみようぜ!」

 

 と打診する功海であったが……克海は険しい表情であった。

 

「賛成できない」

「え?」

「誰かも分かんない奴が置いてったものだろ? 怪しすぎる」

 

 功海は克海の態度が信じられないという風に笑い飛ばした。

 

「はぁぁ? 大丈夫だって! 分析結果におかしいとこはなかったからさ!」

「お前がそう言って大丈夫だった試しはない!」

 

 未知のクリスタルを巡り、克海と功海の意見が徐々に紛糾していく。

 

 

 

 沙紀からジャイロを受け取ったサルモーネは、興奮した様子でそれに魔のクリスタルをはめ込んだ。

 

グルジオボーン!

 

 しかし、すぐに沙紀に取り外された。

 

「え?」

 

 沙紀は代わりのように、「鋭」と刻まれたクリスタルをジャイロにはめ込む。

 

強化! グルジオキング!!

「き、キング……!?」

 

 ギョッとしたサルモーネに、沙紀が嗤って告げた。

 

「激熱だぞ、これは……!」

 

 更に側に控えている氷室も、促す。

 

「どうぞ、社長。初めての本物のジャイロを」

 

 

 

 克海と功海のやり取りは、激しい口論に変わりつつある。

 

「何? そんなに俺のこと信用できない!?」

「お前は無鉄砲すぎるんだよ! 誰かが制御してやんなきゃ駄目なんだよ!」

「俺は俺でしっかりやれる! 克兄ぃの助けなんていらねぇ!」

「……そんな風に思ってたとはなぁ。俺がお前のためにどれだけ我慢してッ!」

「我慢!? 我慢って何だよッ!」

 

 

 

 二人に促されたサルモーネは、気分を昂らせながらジャイロのグリップを引き始めた。

 

「あふれるぅー! 本物のぉー! 初体けぇぇ――――んッ!! Let’s Go!!!」

 

 グリップを三回引き、ほとばしるエネルギーを解放したサルモーネの姿が消え、綾香の中心へとテレポートしていく。

 ――それを見届け、沙紀が氷室に問うた。

 

「これでいいのか?」

 

 氷室はおもむろにうなずく。

 

「ええ。後はどのように転ぶか……」

 

 

 

「何だよ! 言いたいことあるならはっきり言えよッ!!」

「だからお前は……ッ!!」

 

 最早人目も気にせず口喧嘩になっていた功海と克海だが、その時に強い震動が彼らを襲った。

 

「今のは……!」

 

 二人が急いで外を見やれば、綾香の市街の中央に、見覚えのある威容の怪獣が出現していた。

 

「ギュオオォォ――――ン!!」

 

 骨格がそのまま肉体を形作っているような形態はグルジオボーンに酷似しているが、体色が金色となり、全身のシルエットがより鋭角化している。何より最大の違いは、背面に巨大な砲身のようなものを背負っていることだ。

 

『「力がみなぎってくるぅーッ! 本物ジャイロ最高ぉ―――ッ!!」』

 

 グルジオボーンが強化され、新たな姿となった怪獣、グルジオキングに変身したサルモーネが叫び、昂ったテンションのままに火炎を辺り一帯に振りまき出した。

 

 

 

 部室にしたAqoursの面々は、スマホに飛び込んできた緊急怪獣速報のメールに驚きを見せる。

 

「みんな、見てこれ! 怪獣が出たって!」

「綾香の方で……この怪獣は……!」

 

 梨子たちがスマホの画面に表示した、怪獣災害現場の生中継映像に食い入る。

 

「グルジオ!!」

「だけど、何か前と違くない!? 大砲背負ってるよ!」

「進化して、更なる怪物と化したと言うの……!」

 

 曜の指摘に、善子が息を呑んだ。

 そして映像の中に、グルジオキングと対峙する形でウルトラマンロッソフレイムが出現した。果南が声を上げる。

 

「克兄ぃ!」

「もう出動しましたのね」

「……だけど、功海さんは?」

 

 ルビィが首を傾げたのと同じように、ロッソがいつものように振った手が空振りして戸惑っていた。ブルが隣にいないのだ。

 そのウルトラマンブルアクアは、グルジオキングに背後から飛びかかってルーブスラッガーを浴びせていた。

 

「あっ! もう攻撃してるずら!」

 

 ブルはそのままスラッガー片手にグルジオキングに立ち向かっていくが、ロッソはその場に突っ立ったまま動こうとしない。

 

「ちょっとちょっと! 何で克兄ぃ動かないのさ!」

 

 思わず慌てる曜だが、その声がロッソに届くはずはなかった。

 鞠莉はロッソとブルの様子を見比べて、眉間に皺を刻み込む。

 

「……そもそも、息がそろってない感じね。二人の間に何かあったんじゃ……」

「まさか、さっき千歌ちゃんが言ったクリスタルが関係してるんじゃ……」

 

 推測する梨子。千歌は、困惑しつつも兄たちの戦いを片時も見離さないようにじっと見つめている。

 

「お兄ちゃん……」

 

 ブルがスラッガーを振るってグルジオキングを繰り返し斬りつけるが、効いている様子は見られない。やがてスラッガーをはたき落とされ、首根っこをグルジオキングに鷲掴みにされた。

 

「ああっ! 功兄ぃ!」

 

 ブルを掴む腕から電流が放たれ、ブルが痛めつけられる。そして顔面に張り手を食らって突き飛ばされた。

 

「何てこと……本当に強くなってるわ……!」

 

 ブルを一蹴したグルジオキングに、善子が背筋を震わせた。

 今度はロッソが攻撃を行う。ブルが接近戦で押し負けたので、フレイムスフィアシュートによる遠距離攻撃を繰り出した。

 だが、グルジオキングに一瞬で握り潰される。

 

「ちっとも通用していませんわ!」

「何て硬さ……!」

 

 ロッソの必殺技が何のダメージにもならないグルジオキングの防御力に、ダイヤと果南が目を見張った。

 手招きするグルジオキングの挑発に乗せられ、ロッソが飛びかかっていくも、やはりブルと同じように接近戦でも歯が立たない。尻尾の足を払われ、踏みつけをかわすも、いくら叩いてもグルジオキングには効かず、逆に手を痛める始末。掴みかかられ、散々に打ちのめされる。

 

「ぴぎぃっ! 克海さんが危ないよぉ!」

「功海さん! 助けに行くずらー!」

 

 ルビィが悲鳴を上げ、花丸がたまらず叫ぶものの、ブルの方もどれだけロッソがやられても見ているだけだ。

 

「あぁーいい加減にしてよっ! 二人とも状況分かってるのぉ!?」

「ちょっと、果南ちゃん落ち着いて……!」

「ここで怒っても仕方ないから!」

 

 頭をかきむしって喚き散らす果南を曜と梨子がなだめる。

 グルジオキングが火炎を吐いて攻撃してくるのを、ロッソはバク転でどうにか逃れた。すると、グルジオキングは頭を下げて背負った大砲の砲口をロッソたちに向け、エネルギーを集中させ始めた。曜に冷や汗が流れる。

 

「な、何かやばそうな雰囲気……!」

「危ないっ!」

 

 鞠莉が叫んだ直後に、グルジオキング最大の攻撃、ギガキングキャノンの砲撃が放たれた!

 ロッソとブルは咄嗟に突っ伏して回避。外れる砲撃だが、地面を爆破して深々とえぐり込んだ。大地を引き裂いてしまいそうに見えたほどの破壊力に、Aqoursは絶句。

 

「な、何て威力……! 煉獄の火焔もかくや……!」

「あんなのが当たったら、ただでは済みませんわ!」

 

 今の一撃により、ロッソたちも危機感を抱いて力を合わせる。炎と水の力を一つとした、フレイムアクア・ハイブリッドシュートを繰り出すも……。

 口からの火炎によりあっさりと相殺された。

 

「そんなっ!」

 

 ハイブリッドシュートが軽々と破られて驚愕する梨子。グルジオキングは更に、ギガキングキャノンを再度発射しようと構える!

 

「危ないずらぁっ!」

 

 花丸が絶叫する。しかしロッソとブルも、オーブリングNEOを用いた全力の一撃を準備していた。二人の背後にオーブのビジョンが生じる。

 

「トリプルオリジウム光線! あれなら!!」

「いっけぇぇぇ――――――!!」

 

 ぐっと手を握る曜とルビィ。Aqoursの応援の中、トリプルオリジウム光線とギガキングキャノンが衝突する!

 しかし押し負けたのは、オリジウム光線の方だった!

 

「嘘!!?」

 

 ホロボロスやギャラクトロンを破ったトリプルオリジウム光線までもが破られたことに、一同は仰天。倒れたロッソたちはいよいよエネルギーが無くなってきて、カラータイマーが点滅し出した。

 

「あんな怪物に、どうやれば勝てるの……!?」

 

 ロッソたちと同様に焦燥する鞠莉。千歌も焦りを浮かべつつも、ひたすら戦いを見守っていた。

 

 

 

 グルジオキングの規格外のパワーを前に、完全に追いつめられるロッソとブル。するとブルがハッと思いついた。

 

『そうだッ! さっきのクリスタルを使おう! あの力を纏えばきっと勝てる!!』

 

 豪語するブルだが、ロッソは頑なに反対する。

 

『待て! あれは危険だッ! 罠かもしれないんだぞ!』

『まだそんなこと言ってんのかよッ!』

 

 二人が言い争っている間にも、グルジオキングは三度目のギガキングキャノンの発射用意を行う。

 

「ギュオオォォ――――ン!!」

『迷ってる時間はねぇぞ克兄ぃ!』

『……分かった!』

 

 もう後がないことで、ロッソも腹をくくった。

 そしてロッソが光、ブルが闇のクリスタルへと手を伸ばしたが……。

 

『『うわあああぁぁぁぁぁぁぁッ!?』』

 

 クリスタルからほとばしった莫大なエネルギーを制御することが出来ずに、はね飛ばされて倒れ込んだ。

 

『何で駄目なんだよ!?』

『だから危険だって言ったろッ!』

 

 立ち上がる二人だが、最早時間は残されていなかった。

 

『「これで……Good Luck To You!!」』

 

 放たれたギガキングキャノンの砲撃が、ロッソとブルを纏めて呑み込む!

 

『『うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――ッッ!!!』』

 

 二人の姿が爆炎の中に消えていったことで、浦の星の千歌たちは完全に言葉を失った。

 

 

 

 外に出て戦いの一部始終を見ていた沙紀が、ひと言つぶやく。

 

「やはり……その程度だったか」

 

 

 

 アルトアルベロタワーの社長室では、氷室がウッチェリーナに向かって呼び掛けた。

 

「ウッチェリーナ」

[はーい]

「見ての通り、愛染正義にはもうまともな業務執行能力がない。今この時より、私がアイゼンテック社社長となる。そのように登録情報の変更を」

 

 氷室の命令を、ウッチェリーナはあっさりと受ける。

 

[アイゼンテック社長の登録情報の更新、完了致しました!]

 

 

 

「ギュオオォォ――――ン!!」

 

 ロッソとブルが消え去り、様々な思惑が渦巻く中、グルジオキングは勝利に酔いしれるように火炎を吐き散らし、空にギガキングキャノンの祝砲を打ち上げてひたすらに暴れ続けた――。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

善子「堕天降臨! 今回紹介するのは、『星のように…』よ!」

善子「これは映画『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説』の主題歌よ。歌うのは、何とあのMISIAさん! MISIAさんが設立したChild AFRICAの特別サポーターにウルトラマンが就任した縁で起用されたそうよ」

善子「プロモーションビデオはドラマ仕立てで、校庭に倒れた初代ウルトラマンに小学生たちが光を当てて復活させようという様子になってるわ。撮影をしたのは、当時の円谷プロ社長大岡進一さん自らというから豪華よね」

善子「歌詞も、何億年もの時間を隔てようとも変わることのない気持ちという、ウルトラマンの世界観を意識した詞となってるわ。MISIAさんの歌声が流れる映画のラストは、感動必至よ!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『コワレヤスキ』だ!」

功海「『Guilty Kiss』のセカンドシングルの表題曲だ! ヘヴィメタルサウンドがよく効いてる、まさにロックな一曲だぜ! 「愛にとどめを刺す」のキャッチコピー通り、アダルトさがふんだんに詰まってるぞ!」

克海「けど一方で、歌詞は直球に愛の気持ちを歌い上げてるぞ。壊れやすいからこそ、守らなくてはいけないということだ」

善子「次回もヨハネと一緒に、堕天しましょう?」

 




曜「グルジオキングの圧倒的な力の前に敗れた功兄ぃと克兄ぃ……。どうすればあの怪獣を倒すことが出来るの!?」
果南「克兄ぃ! 功兄ぃ! 忘れないで! 兄弟が力を合わせれば、出来ないことなんてないんだから!」
曜「そして二人が手を取り合った時、奇跡が起こる……!」
果南「次回、『まとうは極 君の胸に』!」
曜「全速前進ヨーソロー!」


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まとうは極 君の胸に(A)

 

「ぐッ……うぅ……!」

「つぅぅ……!」

 

 瓦礫の山と化した綾香の一画の中で、変身を解かれて満身創痍のありさまの克海と功海が、肩を寄せ合いながら起き上がった。

 サルモーネが変身した新たなる大怪獣、グルジオキングに立ち向かった二人。しかし未知のクリスタルを巡って対立していた最中で、足並みが全くそろわなかったこともあり歯が立たずに完全敗北。グルジオキングはそのまま猛威を振るい、綾香の街を破壊し続ける。

 

「ギュオオォォ――――ン!!」

 

 無差別に火炎を振りまいて街をどんどん焼き払っていくグルジオキング。再戦できるほどの体力が残っていない兄弟は、それを悔しげに見上げるしかない。

 ――そんな時に、氷室がウッチェリーナに向かって命令した。

 

「ウッチェリーナ。対怪獣拘束システム、実行」

[対怪獣拘束システム、実行します!]

 

 アルトアルベロタワーの頂点に立つリング状のアンテナから、光線が照射された。それがグルジオキングに命中すると、途端にグルジオキングの神経系の働きが鈍らされる。

 

『「あぁ~! 痺れるぅぅ~……!」』

 

 瞬く間にグルジオキングは沈黙し、うずくまって動きを止めた。

 

「どういうことだ……?」

 

 突然のことに克海らが戸惑っていると、アイゼンテック飛行船から綾香市街に向けてウッチェリーナの声が放送される。

 

[親愛なる綾香市民の皆さん! こちらはアイゼンテックです! 怪獣が我が社の防衛システムにより、完全拘束されました。危険ですので近づかれないようお願い申し上げます!]

 

 立ったまま完全に停止したグルジオキングを、唖然として見つめている克海と功海を、沙紀が黙したまま密かにながめていた――。

 

 

 

『まとうは極 君の胸に』

 

 

 

『現在、怪獣はアイゼンテック社によって捕獲され、ここ、綾香市の中心部に拘束されています』

 

 高海家の茶の間に、テレビからの生中継映像の音声が流れている。それを苦い顔で見ているのは、梨子たちから手当てを受けている克海と功海。

 グルジオキングが拘束されたことにより、綾香市全域には警戒態勢が敷かれ、浦の星も臨時休校。既に登校していた生徒たちには皆帰宅指示が出され、Aqoursは敗れた兄弟の手当てのために『四つ角』に集合したのであった。

 テレビのインタビューでは、市民からウルトラマンへの厳しい声が流される。

 

『正直、怪獣にもウルトラマンにもウンザリです!』

『オレらの街を守るのは、ウルトラマンじゃないんですよ。やっぱ、愛染さんなんですよね!』

 

 功海はそれにいら立ってテレビの電源を切る。

 

「あぁー頭来るッ! それもこれも全部あの野郎の仕業だってのにッ!」

「あの男、今度は何をたくらんでいるのかしら……?」

 

 善子が気取った動作で額に指をやって思案するが、そこに克海が意見する。

 

「何か、変じゃないか?」

「あぁ変さ! 俺たち頑張ってんのに、街の人からウンザリとか言われて……!」

「オーブダークとの件は、何も知らない人たちからはウルトラマン同士の喧嘩としか見られてないからねぇ……」

「歯がゆいずら……」

「いやそうじゃない」

 

 功海の吐き捨てに曜と花丸が同調するが、克海は首を振って皆に告げた。

 

「今回の件は本当にサルモーネの仕業なのか……?」

「えっ……それってどういうことですか?」

 

 ルビィが聞き返すと、克海は己の推理を述べる。

 

「あの目立ちたがり屋が、今回に限って表に出てこない。ひょっとしたら、別の誰かに踊らされてるんじゃないか?」

「別の誰かって……例のクリスタルの女の子と?」

「確かに……偶然にしては出来すぎている気がしますわね」

 

 ダイヤが顎に指を掛けてうなずいた。克海は手の平の上の光と闇のクリスタルに目を落とす。一縷の望みを懸けたが、結局使用できなかったものだ。

 

「あの時、もっと慎重に行動しなきゃいけなかったんだ」

 

 そのひと言に功海が強く反発。

 

「慎重にたって他にどんな選択肢があった! これに頼るしかなかったろ!」

「そもそも使えなかったじゃないか!」

「結果論じゃんそれは! 克兄ぃはいつもそうだよ! ふた言めには慎重にとか待て待てとか……!」

「お前は突っ走りすぎなんだよ! 何でも一人でやってるなんて思うなよ!」

「ち、ちょっと二人とも……!」

 

 またも口論になる克海と功海を梨子たちがなだめようとするも、二人の勢いは止まらない。

 

「いいか? お前はみんなに支えられてるんだそれを忘れるなッ! 父さんも母さんも、お前を大学にやるのがどれだけ大変か分かるだろ! そのために俺だって……!」

「進学あきらめたって言うんじゃないだろうな? 克兄ぃは恩着せがましいんだよ! 俺に夢を背負わせないでくれ!」

「何だと……? もう一辺言ってみろッ!」

「か、克海さんっ!」

「功兄ぃも言いすぎ……!」

 

 功海の胸倉に掴みかかった克海を梨子と曜で止めようとする。そこに、

 

「いい加減にしなよっ!!」

 

 騒ぎを聞きつけて戻ってきた果南が、言い争う兄弟に雷を落とした。二人の声よりも大きい怒声に、克海も功海も思わず固まる。

 

「か、果南……」

「果南ちゃん……」

「そんな風に二人でいがみ合ってたから、あんなボロ負けしたんでしょ!? まだ分かんないの!? 兄弟喧嘩してるせいで敵にやられるなんて、馬鹿らしいよ!!」

 

 果南の叱責に、克海たちは言い返せず押し黙る。

 更に鞠莉が言い聞かせた。

 

「どんな理由があるにせよ、ちゃんと相手の気持ちを考えないと駄目よ。自分の考えばかり押し通そうとしたって、何の解決にもならないわ」

「ええ。お二人には、わたくしたちのようにはなってもらいたくありませんわ」

 

 三年生組からの説得で、流石に克海たちも落ち着くが、それでも完全に相手を許した風でもなかった。

 最後に、千歌が克海と功海の手を取って訴えかける。

 

「克海お兄ちゃんも、功海お兄ちゃんも、私たち三人だけの兄妹だよ? 喧嘩なんて、チカ嫌だよ……」

「……」

 

 だが功海は千歌の手をほどいて、玄関の方へ足を向ける。

 

「功海お兄ちゃん!」

「ちょっと頭冷やしてくる」

「待ってよ功兄ぃ! そんな身体で……!」

 

 ズカズカと外に出ていく功海のことは曜が追いかけていった。克海は、旅館の奥の方へと引っ込んでいく。

 

「倉庫の整理あるから」

「克海お兄ちゃんまで……!」

「克海さん、無茶したら駄目ですって……!」

 

 梨子が克海の背中を追っていって、残された善子たちは眉をひそめながら互いに顔を見合わせる。

 

「困ったわね……。二人があんな調子じゃ、もしまたグルジオが動き出したらどうなってしまうか……」

「克海さんと功海さん、性格は正反対だから……」

「今回は、それが悪い方向に働いたわね……」

 

 花丸も鞠莉も困り果てた様子。ルビィはダイヤの袖を引いた。

 

「お姉ちゃん、どうにかならないかな……?」

「難しいですわね……。一番の問題は、グルジオの存在ですわ。あれをどうにか出来ないことには、解決にはなりませんから……」

 

 ダイヤたちが強敵グルジオキングをどう攻略するかで頭を悩ませる中、千歌は何かを案じた様子で克海と功海が去っていった後を見つめていた。

 

 

 

 倉庫に入って片づけを行う克海を、梨子がどうにか説得しようとする。

 

「克海さんが慎重にならなくちゃと言うのも分かります。けど、まず一番にしなくてはいけないのはグルジオを倒す方法を見つけることです。功海さんと反発してたって、何も解決はしませんよ」

「……」

「ここは力を合わせるべきです! お互いに歩み寄ってですね……」

 

 いくら言い聞かせても、克海は背を向けたまま。努力が空振りになって、梨子は思わずため息を吐いてしまう。

 そこに千歌が倉庫に入ってきた。

 

「千歌ちゃん」

「克海お兄ちゃん、機嫌直してったら。ずっと功海お兄ちゃんと仲良しだったじゃん」

 

 千歌は二人の幼い時の写真を持ってきて、克海に見せつける。

 

「ほら、こんなにぴったりくっついて! 梨子ちゃんも見て。お兄ちゃんたち、とっても仲良しさん!」

「ほんとね。これいつの時の写真?」

「……克海お兄ちゃん、いつの?」

 

 千歌が克海に聞き返すと、克海は写真を一瞥して答えた。

 

「功海が幼稚園の時の……。昔は大人しい奴だったのにな……」

「ふーん……。じゃあ、私はどんな子だった?」

 

 不意にそんなことを聞く千歌。

 

「千歌か? 今とあまり変わらないかな。甘えん坊で、手を焼かされてばかり……」

「あっ、ひどーい。……もっと具体的には? 私が生まれたばかりの頃とかは」

「生まれたばかりの……? さぁ……あんまり昔のことは、よく覚えてないからな……」

「そうなんだ……」

「……千歌ちゃん……?」

 

 何だか様子が妙な千歌のことを、梨子が少々訝しんだ。

 

 

 

 功海はグルジオキングを中心に封鎖された区域まで戻り、双眼鏡で現場を監視していた。それについてきた曜がうんざりした調子で問いかける。

 

「功兄ぃ~……こんなことしててどうなるの? それより、克兄ぃと一緒に作戦考えた方がいいんじゃ……」

「うるさい。今回の件には、きっと何か裏があるんだ。その陰謀を暴いてやる……!」

「はぁ……こんな場所を監視してたって、何も分かりようないと思うけど……」

「嫌ならお前だけで帰れ」

 

 曜が肩をすくめていたら、千歌が二人を捜してこの場にやってきた。

 

「やっぱりここだった」

「あっ、千歌ちゃん」

「功海お兄ちゃん、ご飯食べてないでしょ。お弁当持ってきたよ」

 

 千歌はタッパに入れた弁当を功海に差し出すが、功海は双眼鏡を手から離さない。

 

「別に腹減ってねーし」

「そう言わないで。ほら、功海お兄ちゃんの大好物のおかかとチーズのおむすびだよ。デザートにはミカン!」

 

 功海の前に回り込んで、監視を邪魔しながら弁当を押しつける千歌。功海も根負けして、弁当を受け取る。

 

「出た~、おかかとチーズのおむすび。功兄ぃ、変なの好きだよね~」

「うっせーな曜。母さんの得意料理を馬鹿にすんじゃねーよ」

「ああ、味覚はおばさん譲りだっけ。よくピクニックで取り合いになってたよね」

 

 おむすびを話題に功海と談笑する曜。それをながめ、千歌が不意に尋ねかける。

 

「……そのピクニック、私もいたよね?」

「え? 千歌ちゃんどうしたの。そんなの、当たり前じゃん」

「ああ。一緒におむすび食べてたろ」

「……それって、初めからだった?」

「初めから……? 変なこと聞く千歌ちゃん」

 

 質問の意図がよく分からない曜と功海が首をひねる。

 

「多分そうだったんじゃねーかな。よく覚えてないけどさ」

「うん、私たち小さかったからねぇ。もう忘れちゃった」

「……そっか……」

 

 二人の回答に、千歌はどこか寂しげに微笑んだ。

 

 

 

 克海は、果南が持ってきた絵の数々を見せられていた。幼稚園の時分の功海が描いたものだ。

 

「克兄ぃ、見てよ。功兄ぃの絵、どれも克兄ぃが描いてあるよ」

「……お兄ちゃんとぼく……」

「功兄ぃ、口ではいつも克兄ぃを鬱陶しがるけど、今も克兄ぃのことを尊敬してるはずだよ」

「……功海……」

 

 功海との思い出の数々を、じっと見比べる克海。梨子も隣から絵を観察して口元をほころばせる。

 

「千歌ちゃんの言った通り……克海さんと功海さん、仲良しだったんだね」

 

 ただ……果南は、絵に描かれている克海と功海に目を落として、複雑な表情をした。

 

「お兄ちゃんとぼく……これも、これも……お兄ちゃんと、ぼく、か……」

 

 

 

 翌日。政府は拘束されたグルジオキングの調査のために、調査団を結成。チームを綾香に派遣してきた。

 アルトアルベロタワーの社長室で、氷室がウッチェリーナに問いかける。

 

「ウッチェリーナ、状況は」

[政府の怪獣災害調査団が現場入りしました]

「よし。では……」

 

 うなずいた氷室が、次の指示を出す。

 

「対怪獣拘束システムを解除」

[それはいけません! 調査団に被害が及び、アイゼンテックの信用問題に関わり……]

 

 反対するウッチェリーナだが、氷室はそれを手で制する。

 

「だからやるのだ。社長命令。対怪獣拘束システム、解除」

 

 

 

 グルジオキングは全身をワイヤーで縛り上げられ、地面に縫いつけられていたが、急にそのワイヤーが次々引っこ抜かれていく。そしてグルジオキングの眼が赤く光り、拘束をほどいて起き上がった。

 

「ギュオオォォ――――ン!!」

 

 ちょうど調査チームがすぐ側で報道陣のインタビューを受けていたところであり、彼らは前触れなく復活したグルジオキングに仰天する。

 サルモーネはパニックに染まっていく彼らを見下ろしてけらけら笑う。

 

『「ハロー? 皆さんハロー? “HELLO!!”いーってみよー!!」』

 

 集っていた人々が必死に逃げ出す中で動き出したグルジオキングは、起き抜けにギガキングキャノンを発射してビルを何棟か纏めてぶち抜いた!

 

 

 

 沙紀は暴れ始めたグルジオキングをバックに、スマホを自分の正面に構えてパシャリと写真を撮った。

 

「……これが女子高生の言う、盛れる角度という奴か」

 

 グルジオキングの咆哮する様を収めた自撮り写真を確かめて、そうつぶやいた。

 

 

 

 今日も監視に来ていた功海は、グルジオキングが行動を再開したのを目撃して身体を強張らせた。

 

「怪獣が目覚めた……! 千歌たちは逃げろッ!」

「功海お兄ちゃんっ!」

「一人で戦うつもり!? 無茶だよぉっ!」

 

 千歌と曜の制止を振り切って、功海がグルジオキングに向かって駆け出す。接近して奇襲を掛ける作戦であるが、

 

「俺色に……!」

「ギュオオォォ――――ン!!」

 

 あまりに近づきすぎて、火炎の射程範囲内に入ってしまう。グルジオキングは今にも炎を吐き出そうとしていた。

 

「やべッ……!」

「功海ぃッ!」

 

 放たれた灼熱の火炎から、克海が飛び込んできて功海を助ける。

 

「克兄ぃ……!」

 

 爆発から救った功海に、克海は一番に謝った。

 

「昨日は怒鳴って悪かった……!」

「……俺も、ちょっと言いすぎたよ」

 

 互いに謝罪し合った二人の元に、梨子と追いかけてきた曜がやってくる。

 

「克海さん、功海さん。あなたたちは、一人で戦ってるんじゃありません!」

「みんなの力を合わせよう!」

「……ああ!」

 

 起き上がった克海と功海は、梨子と曜を後ろに控えさせながら手と手を打ち合わせる。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 ルーブジャイロを構えて、克海と功海がクリスタルを選択する。

 

「セレクト、クリスタル!」

「セレクト、クリスタル!」

 

 克海が火、功海が水のクリスタルを選び取ってジャイロにセットした。

 

[ウルトラマンタロウ!]

[ウルトラマンギンガ!]

 

 火と水の力をジャイロに宿して、変身を行う。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「纏うは水! 紺碧の海!!」

「ビーチスケッチさくらうち!」

「ヨーソロー!」

 

 二人がグリップを三回引いて、エネルギーを解放!

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 梨子と曜をそれぞれのインナースペースに収めて、暴れまわるグルジオキングの正面に着地した。

 

『『はッ!』』

 

 堂々と見得を切ってグルジオキングを威嚇。兄弟のリベンジマッチが開始された!

 



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まとうは極 君の胸に(B)

 

 克海と功海がウルトラマンに変身してグルジオキングと対峙している中、千歌の元へとAqoursの一年生組と三年生組の六人が駆けつけてきた。

 

「千歌さん!」

「あっ、みんな!」

「克兄ぃたち、行ったんだね……!」

「うん。梨子ちゃんと曜ちゃんも」

 

 七人は固唾を飲んで、グルジオキングに立ち向かおうとしているロッソとブルの姿を見守る。

 

「功海、克海……今度こそ勝利の凱歌を鳴らしなさい……!」

「ふんばルビィ!」

 

 善子とルビィが応援の言葉を向けると、ロッソたちが咆えるグルジオキングに勢いよく飛びかかっていった。

 

 

 

『俺が奴の気を引く! 功海は背中の大砲を!』

『合点!』

 

 指示したロッソがブルとともに駆け出し、グルジオキングの正面から飛び蹴りを浴びせる。ブルは一旦ビルの陰に身を潜めて、グルジオキングの隙を狙う。

 

『「昨日のようには行かないわよ!」』

 

 梨子がパワーを送り、力を増したロッソがパンチを繰り出す。その一撃でグルジオキングを押し返すが、向こうも強化された怪獣、さして効いた様子は見られない。

 

「ギュオオォォ――――ン!!」

 

 ロッソ+梨子のパワーにも対応するグルジオキングはロッソをいなしてブルを捜すが、ブルは隠れているために見つけられず周囲に目を走らせた。

 

『はッ!』

 

 そこにロッソがミドルキックを入れ、グルジオキングの注意を引きつける。狙いははまり、グルジオキングが完全にロッソの方を向いた瞬間にブルがビルの陰から立ち上がった。

 

「ギュオオォォ――――ン!!」

 

 グルジオキングの振り下ろした角を白刃止めするロッソ。動きを一瞬止めた隙に、ブルが後ろから飛びかかった。

 

『おりゃあッ!』

 

 グルジオキングの背負うキャノンに蹴りを食らわせるブル。衝撃を受けたグルジオキングがそちらに振り返ろうとするが、ロッソが首を抑え込んで阻止した。

 

『「これ以上暴れるのは許さないわ!」』

『「こんな危ないの壊しちゃえ!」』

 

 ロッソが抑えつけている間にブルがキャノンをねじ上げ、破壊しようとする。

 

「ギュオオォォ――――ン!!」

 

 しかしグルジオキングがすさまじい怪力を発揮し、二人を思い切り弾き飛ばした。

 

『「わぁっ! 何てパワー……!」』

『「実際戦ってみると、とんでもない力の持ち主だとよく分かるわね……!」』

 

 二人がかりを物ともしないグルジオキングの恐るべき戦闘力を肌で感じ、曜と梨子が冷や汗を垂らした。

 

 

 

 グルジオキングに苦戦を強いられるロッソとブルをながめ、沙紀がつぶやく。

 

「古き友は言った。正義よりも厄介なもの、それは、力を持たぬ正義だ。オスカー・フィンガル・オフラハティ・ウィルス・ワイルド」

 

 グルジオキングに押しのけられるロッソとブルに向けて言い放つ沙紀。

 

「友情だ兄弟愛だと言ったところで、力がなければ世界は救えない!」

 

 

 

『「くぅっ……きつい……!」』

 

 グルジオキングのパワーに押されて、曜が早くも息を切らし始める。その時にロッソが叫んだ。

 

『来るぞッ!』

 

 グルジオキングが姿勢を下げ、キャノンをロッソとブルに向けた。直後に砲口から猛烈な破壊光線が発射される!

 

『『はッ!』』

 

 咄嗟に空に飛び上がって砲撃をかわす二人。だがグルジオキングは射角を修正し、次弾を放とうとしてくる。

 最も警戒すべき攻撃に対し、ロッソたちは一計を講ずる。

 

『あいつが次撃ってくるまでに何秒掛かる!?』

『2.5秒ってとこかな!』

『その間が攻撃のチャンスだ!』

 

 二人は下手に動かずにグルジオキングの挙動を注視し、発射のタイミングを見極める。そして飛んできた極太の光線を、左右に分かれることでギリギリ回避した。

 

『「今ですっ!」』

 

 ギガキングキャノンの威力はすさまじいが、その反動で砲撃後の一瞬は完全に無防備。その隙を突いて、ロッソたちは逆転の一手を投ずる!

 

「『フレイム!!」』

「『アクア!!」』

「『「『ハイブリッドシュート!!!!」』」』

 

 次の攻撃が来る前に、ロッソとブルが必殺光線の合体技を繰り出した! 身動きの取れないグルジオキングはまともに食らう!

 

「イエース! ヒットしましたー!!」

「やったずらー!」

 

 爆炎に呑まれるグルジオキングを見届けて、鞠莉たちが一斉に歓声を発した。ロッソとブルも、パンと手を叩き合って作戦成功を祝した。

 

 

 

 氷室がウッチェリーナに問いかける。

 

「ウッチェリーナ。中継を見ているネットユーザーはどんなコメントをしている?」

[検索中……超SUGEEEE、これは決まったっしょ、といったコメントが大半を占めてます]

「そうか。私ならこうコメントする」

 

 氷室は真顔のまま、次のように言った。

 

「今のが攻撃のつもりとかwww草生えるwwwwww」

 

 ウッチェリーナに振り向く氷室。

 

[お、おぉ……]

 

 ウッチェリーナはわずかに身を引いた。

 

 

 

『どうだ! 俺の作戦勝ちー!』

『いやいや考えたのは俺だろ!』

『「私たちだって力振り絞ったんだよぅ!」』

 

 安堵してはしゃぐブルたち。だが、立ち昇る硝煙を見ていた梨子が顔を強張らせて警告した。

 

『「待って! 何か変……!」』

 

 直後にギガキングキャノンがロッソたちを襲う!

 

『『うわあぁぁぁッ!!』』

 

 油断したところに砲撃を食らって撃ち落とされるロッソとブル。ダイヤたちも驚愕して絶叫した。

 

「克海さんっ!!」

「功海っ!!」

 

 グルジオキングはハイブリッドシュートの直撃を食らって、平然としていた!

 

『「当ったりぃ~!!」』

 

 墜落したブルたちは、大ダメージの苦痛にあえいでいた。

 

『「あうぅ……! 硬すぎる……!」』

『駄目だ……やられる……!』

 

 まともに立ち上がることが出来ず、顔が青ざめるブル。そこにロッソが呼び掛ける。

 

『もう一度試そう! あのクリスタルをッ!』

『え!? だってあれは……!』

『「功海さん! 私と曜ちゃんがついてます!」』

『「私たちがいれば、昨日とは違うかも!」』

『……分かった!』

 

 梨子と曜の説得で、ブルとロッソは彼女たちの前に光と闇のクリスタルを出現させた。

 

『「「はぁぁぁっ!」」』

 

 二人がクリスタルに手を伸ばし、掴み取ろうとするが――ほとばしるエネルギーを彼女たちでも抑えることが出来ず、反発でロッソとブルがはね飛ばされた。

 

『『うわあぁぁぁぁッ!!』』

『「「きゃああぁぁっ!!」」』

 

 背中から落下したロッソたちが更なる悲鳴を発する。

 

『「私たちの力を足しても、駄目なの……!?」』

『「もう、どうしたらいいか……!」』

 

 何をしてもダメージが重なるばかりで、梨子と曜がいよいよ顔面蒼白となった。

 

 

 

 沙紀は倒れたまま立ち上がれないロッソとブルを、冷めた目で見やっている。

 

「所詮お前たちにあのクリスタルは使えない。さらばだ――素人ウルトラマン」

 

 沙紀は二人に見切りをつけて、背を向けこの場を去ろうとする。

 

 

 

「お兄ちゃんっ……!」

「千歌さん! あまり近づくと危ないですわ!」

 

 追いつめられるロッソとブルを見ていられず、千歌はいてもたってもいられずに二人の近くまで駆けてきた。それを追いかけてダイヤたちもやってくるが、グルジオキングの脅威が迫ってきているので必死に千歌を押し留める。

 千歌は皆に抑えられながらも、声を張ってロッソとブルに呼びかけた。

 

「あきらめないで、お兄ちゃん! 兄弟が力を合わせれば、出来ないことはないんだよ! 思い出してっ!」

 

 千歌の呼び声で、ロッソたちは顔を上げる。

 

『兄弟が力を合わせれば……!』

『何でも出来るッ!』

 

 二人の声と、心がそろったその時――光と闇のクリスタルから放出されるエネルギーが収まっていき、クリスタルの状態が落ち着いた。

 

『「! 曜ちゃんっ!」』

『「うんっ!」』

 

 それを見た梨子と曜がクリスタルに手を伸ばし――その手の中に包み込んだ。

 

『「触れたっ!」』

 

 梨子が光のクリスタルを指で弾き、二本角を出す。曜は闇のクリスタルから一本角だ。

 そして梨子が光のクリスタルをジャイロにセットした。

 

[ウルトラマン!]

 

 インナースペースに光が溢れ、梨子の背後に銀と赤の巨人のビジョンが現れる。

 曜も闇のクリスタルをジャイロにセット。

 

[ウルトラマンベリアル!]

 

 インナースペースに闇が広がり、黒い巨人のビジョンが浮かび上がった。

 そして梨子と曜が、ルーブジャイロのグリップを一回、二回、三回と引いてエネルギーを解放する!

 

[弾けろ! 最強の力!!]

 

 二枚のクリスタルのエネルギーが一つとなって生まれる円形の塊に、更に火、水、風、土のクリスタルが合わさっていく。

 

『「何が起こってるの……!?」』

『「いつものクリスタルの反応と違う……!」』

 

 ただならぬ事態に、ジャイロを操作した梨子たちも驚きを禁じ得ない。

 六枚のクリスタルのパワーが一つになったそれは――全く新しいクリスタルの形となって具現化した!

 

 

 

 沙紀も並々ならぬパワーの発生を感じ取って、足を止め振り返った。

 

「何……!?」

 

 

 

『「あれっ!? 曜ちゃん!?」』

『「梨子ちゃん! 何でこっちに!? いや、私が克兄ぃの方に移ったの!?」』

 

 気がつけば、別々のインナースペースにいるはずの梨子と曜が、同じ空間に並んでいた。その二人の前に、新たなクリスタルとルーブジャイロが現れる。

 

『「「!!」」』

 

 曜が反射的にジャイロを手に取り、梨子はクリスタルの方を掴み取った。

 

[極クリスタル!!]

『「「セレクト、クリスタル!」」』

 

 二人で声をそろえて宣言し、梨子が新しいクリスタル――極クリスタルに指で触れて、三本角を展開させた。クリスタルが開いて「極」の文字が現れる。

 

[兄弟の力を一つに!]

 

 極クリスタルを梨子が、曜の構えているジャイロにセットする。この二人の背後に、元となった六枚のクリスタルのウルトラ戦士たちのビジョンが並んで立ち上がって極の紋章となった。

 

『『纏うは極! 金色の宇宙!!』』

 

 梨子が左、曜が右のグリップを握り、二人の息を合わせてジャイロを回す。

 一回、二回で極の字が赤、青と変わり、三回目で叫んだ。

 

『「「サンシャイン!!」」』

 

 極クリスタルが金色に輝き、ジャイロのエネルギーが頂点に達する!

 

[ウルトラマンルーブ!!]

 

 虹色と金色に煌めく光の中から、左腕を振り上げたウルトラ戦士が飛び出していく――!

 

「デュワッ!!」

 

 

 

 ロッソとブルの姿が消えたかと思うと、二人のいた場所に、金の縁で彩られた銀と黒の巨人が堂々と立ち上がった。

 

「ハッ!」

 

 その雄々しき立ち姿に、千歌も、仲間たちも、沙紀も、氷室も目を奪われる。

 新たなるウルトラ戦士と対峙する形となったサルモーネは、首を傾げた。

 

『「どちら様?」』

 

 梨子と曜をインナースペースに収めているウルトラ戦士は、ロッソとブルの融合した姿――だが、その容貌は二人のどちらにも、全く似ないものであった。

 その名はウルトラマンルーブ! かの背中を見上げる鞠莉たちも驚嘆している。

 

「あれってまさか……!」

「克兄ぃと、功兄ぃが合体したの!?」

「でも全然違う姿ずら!」

「エ……突然変異(エヴォリューション)!?」

 

 グルジオキングが火炎を吐いて、ウルトラマンルーブに攻撃を仕掛ける。

 

「フゥッ!」

 

 それをルーブは、エネルギーを張った手の平で受け止め、そのまま前進。炎を押し返しながらグルジオキングに接近し、距離を詰めるとグルジオキングの口を掴んで抑え込んだ。

 

「グゥゥ……!」

「ハァッ!」

 

 グルジオキングの顎を押しのけると回し蹴りをボディに打ち込む。それまでどんな攻撃でもびくともしなかったグルジオキングが、一発で横転した。

 

「倒れたっ!」

「何という力……! 一気に強くなっていますわ……!」

 

 目を見張る黒澤姉妹。ルーブは意趣返しのように手招きして、グルジオキングを挑発。

 

「ギュオオォォ――――ン!!」

 

 起き上がったグルジオキングはそれに乗せられるようにギガキングキャノンにエネルギーを充填する。

 その瞬間に曜が「新」のクリスタルを取り出し、一本角を出してジャイロにセットした。

 

[ニュージェネレーションヒーロー!]

 

 グリップを三回引いてエネルギーを解放すると、ルーブを中心としてギンガ、ビクトリー、エックス、オーブ、ジードの五大戦士のビジョンが出現。

 

「『「『ニュージェネレーションバリア!!!!」』」』

 

 発射されたギガキングキャノンに対して、ギンガクロスシュート、ビクトリウムシュート、ザナディウム光線、オリジウム光線、レッキングバーストを一つにした極大光線で受け止め、光線を押し返してキャノンを破壊!

 

「ギュオオォォ――――ン!!」

 

 そしてルーブが己のカラータイマーに手をかざすと、それを囲む金縁からリング状の武具が現れる。

 

『「新しい武器の、光の輪……ルーブコウリン!」』

 

 梨子が握りしめた武具の円周に、六本の青い刃がせり出す。

 更に梨子がインナースペースで前に出ると、極クリスタルが輝き、文字が「桜」に変わってルーブのボディに赤と桜色のラインが走った。

 

[ルーブ・ブロッサム!!]

 

 更に変身を重ねるルーブにビクッと一瞬震えるグルジオキング。

 

「『ルーブコウリンロッソ!!」』

 

 ルーブ・ブロッサムが握るコウリンが燃え上がり、紅蓮の炎が宿る。これを片手に勇猛果敢に飛びかかっていくルーブ!

 

「ギュオオォォ――――ン!!」

 

 グルジオキングは電撃を纏った鉤爪でコウリンに対抗するが、炎を灯すコウリンをぶつけられて爪が砕け散った。

 

「ハァッ!」

 

 コウリンが腹部に叩きつけられると、爆発が起きてグルジオキングの装甲を破壊していく。更に下から振り上げて顎を狙うのを、グルジオキングが咄嗟にコウリンを両手で挟み込んで止めたが、

 

「ハァァァァッ!」

 

 コウリンの刃が回転して、炎の輪を下顎に浴びせる。

 

『「あぢッあぢッ熱いぃぃぃッ!!」』

 

 顎が焦げつくグルジオキングが慌てて下がって逃げた。

 今度は曜が交代して前に出ると、クリスタルの文字が「航」に変わって、追加されたラインが青と水色に変色した。

 

[ルーブ・クルーズ!!]

 

 更にコウリンを手にする曜。

 

「『ルーブコウリンブル!!」』

 

 コウリンの刃が炎から水に包まれ、ルーブの足下に水のジェット噴射が発生する。

 

「ハァッ!」

 

 紺碧の海をかき分けるようにジェットスキーで駆け出すルーブ。そのスピードをグルジオキングは目で追うことも出来ず、水の刃で全身を斬りつけられていく。

 

「すごいずら! 全部のクリスタルの力が使えるずら!?」

 

 火と水の力を用いてグルジオキングを一方的に追い込むルーブに花丸が興奮した声を上げると、ルーブの状態を観察した鞠莉が首を振った。

 

「いいえ。きっと……梨子と曜のポテンシャルを引き出して、力に変えてるのよ!」

 

 全身を切り刻まれたグルジオキングの動きが大きく鈍る。そこで梨子が曜と交代すると、クリスタルが再び「桜」となってルーブ・ブロッサムに変わった。

 

[高まれ! 究極の力!!]

 

 極クリスタルのエネルギーを解放しながら、ルーブコウリンにセット。背面に手の平を合わせると、エネルギーがコウリン全体に宿っていく。

 

「『「『ブロッサム・ボルテックバスター!!!!」』」』

 

 ルーブコウリンから螺旋状の灼熱光線が発射され、グルジオキングに迫る!

 

『「うっうー……」』

 

 着弾の瞬間に紅蓮の桜が咲き誇り、グルジオキングは遂に跡形もなく爆発四散した!

 

「や……やったぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!!」

 

 ルーブの大勝利に、ルビィたちが感極まって大歓声を上げていた。

 

 

 

「……」

 

 最終的に戦闘を見届けた沙紀は、小首を傾げながらも、無言のままその場を後にしていった。

 

 

 

 氷室はモニターにアップにしたルーブの姿を見つめてつぶやく。

 

「予定通り……いや予想以上の結果だな。まさかこのようなことになるとは……期待がより膨らむ」

 

 一人ごちると、次にグルジオキングが消滅した箇所にカメラを移す。

 

「さて……」

 

 

 

 ルーブの変身が解けると、克海たち四人は力を使い果たして、その場に横たわった。

 

「はは……!」

 

 それでも克海と功海は腕を上げて、手と手を打ち合わせて勝利を称え合った。梨子と曜はぼんやりしながらため息を漏らす。

 

「すごかった……」

「うん……。勢いで突っ走ったけど、とんでもないことの連続だったね……」

 

 克海は仰向けのまま、功海に呼びかける。

 

「何だかんだで、俺はお前が羨ましかったみたいだ……」

「俺が羨ましい? 克兄ぃが……?」

「ああ……。功海は何か自由に生きてる気がしてさ……」

「俺も克兄ぃにコンプレックス持ってたよ……。スポーツも出来るし、旅館も父さんと切り盛りして、近所の人気者だし……」

 

 ふと克海が顔を向けると、梨子と曜がニヤニヤしながらこっちを見ていた。

 

「ああッ恥ずかしッ! もうこんな話やめようぜ」

「そうだな……やめやめ」

「克兄ぃ! 功兄ぃー!」

 

 功海らが肩をすくめていたら、果南たちが四人の元へと走ってきた。

 

「もう、こんなところに寝転がって。風邪ひくよ?」

「ほらほら大丈夫デースかぁ? 立って立って」

「もうお昼ずら。ご飯にするずら」

「実に見事な堕天だったわね。いえ、この場合昇天と言うべきかしら?」

「よせよヨハネー。その言い方不吉だろ」

 

 善子らと談笑しながら、肩を貸してもらう功海と克海を、千歌が遠巻きにながめている。

 

「兄弟が力を合わせれば、出来ないことなんてない……。その通りだった!」

 

 初めは満足そうな千歌だったが……その表情に、影が差した。

 

「兄弟……『兄』『弟』……か……」

 

 

 

 ――アルトアルベロタワー、社長室。

 

「氷室ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおッ!! お前これどういうことだぁぁぁぁぁあああああああああああッッ!!」

 

 ボロボロになりながらもどうにか帰還したサルモーネは、社長の席にどっかりと腰を据えている氷室へと怒号を発した。

 

「何で私が社長辞任することになってんだぁぁぁぁぁ! お前が後任だとぉぉ!? いつ私がそんな話をしたというのだおいぃぃッ!?」

 

 サルモーネが指差した先のモニターには、ニュース番組の録画――怪獣拘束の失敗の責任を負い、愛染正義がアイゼンテック社社長を辞任。後任は氷室仁氏という内容の映像が映されていた。しかしながら、サルモーネ当人は全く知らないことであった。

 このことについて、氷室は淡々と返答する。

 

「あなたのウルトラマンごっこには、もうつき合えないということですよ。愛染元社長」

 

 元の部分を強調する氷室に、サルモーネはこめかみに血管を浮き立たせた。

 

「何だとぉ!? よくもごっこなどと……! それにお前、私が十五年も掛けて築き上げてきたものを全部、丸ごと奪い取ろうというのかぁッ! そもそも、怪獣拘束システムを使ったのも解いたのもお前じゃないかッ! よくも私の責任にしてくれたなぁッ!」

「部下の行いは上司の責任……でしょう?」

「なッ……! 都合のいいことばかり抜かすんじゃあないッ!」

「ふッ……どの口が言うのか」

 

 怒り狂うサルモーネに冷笑で返す氷室は、書類の束をパンパンと手の甲で叩く。

 

「ともかく、もうマスコミへ発表をしましたし、手続きも全て完了しています。今更撤回など出来ません。あなたは最早社長でも何でもない、ただの一般人ということです。……ああ、アイドル学校の理事長のポストはいらないので、これは『くれてやり』ますよ」

 

 その書類の入った封筒を、サルモーネの足下に紙屑のように無造作に投げつける。

 サルモーネの青筋が、ビキビキと余計に浮き上がった。

 

「き……貴様()ぁぁぁぁぁ……!!」

 

 その場で地団太を踏んで喚き散らすサルモーネ。

 

「ふざけるのも大概にしろぉッ! アイゼンテックは私の会社だッ! 綾香市はオレの街だッ!! ここにあるものは全て、オレのもの……ッ!!」

 

 と言いかけたところで、氷室がスイッチを押して社長室の奥の壁を開いた。

 途端にサルモーネが愕然。

 

「んッ!? お、おい……オレの765プロコレクションを、どこへやった!?」

 

 隠し部屋に並べていたはずのグッズが、一つ残らず、綺麗になくなっていたのだ。

 これについて、氷室は何でもないことのように、

 

「捨てた」

「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁにいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!?」

 

 ショックのあまり白目を剥くサルモーネ。

 その瞬間、氷室は手の平を向け――放たれた電撃を浴びせかけた。

 

「あばばばばッ!」

 

 これにより、愛染正義という人間の身体に取り憑いていた、精神寄生体サルモーネ・グリルド本来のガス状の肉体が剥離される。

 そして氷室がウッチェリーナに命じた。

 

「ウッチェリーナ、換気を」

[空気洗浄機、作動します!]

 

 壁の一面が開いて、換気システムが動作し始めた。気体のサルモーネはそれに引っ張られた。

 

『あああぁぁぁぁぁ!?』

[除菌クラスターモード、オン!]

 

 吸引が強くなり、サルモーネがどんどんと空気清浄機に引き寄せられていく。

 

『吸い込まれるぅぅぅぅぅぅッ! こ、こんなところで終わりだなんてぇぇぇぇぇぇッ! オレの、AZ計画がぁぁぁぁ……!!』

 

 それを断末魔にサルモーネが完全に換気システムに引きずり込まれ、壁が閉ざされた。残った愛染の肉体はその場にガクリと膝を突く。

 

「残念無念、そうバイバイ……」

 

 最後にひと言言い残して、力尽きて床に突っ伏した。

 氷室はその身体の上にオーブダークの人形を投げ捨て、侮蔑の言葉を放った。

 

「最後まで愚かな奴だ。仮にも光の力を手にして、己の自己満足のためにしか使えんとは」

 

 おもむろに天を見上げ、続きを述べる。

 

「大いなる力は、大いなる目的のために使われないといけないのだよ」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

果南「ハグしよっ! 今回紹介するのは、『ウルトラマンの歌』だよ!」

果南「これはシリーズの原点、『ウルトラマン』の主題歌! 歌うのはみすず児童合唱団とコーロ・ステルラ! ウルトラシリーズの主題歌は、80の後期オープニングまでは少年合唱団が歌ってたんだ」

果南「『ウルトラマン』は抜群の人気を誇った特撮番組だったんだけど、その影響は歌にまで及んでて、60年代当時の子供番組の主題歌としては異例のミリオンセラーを叩き出してるの。すごいよね!」

果南「ちなみにこの歌は、番組内で三つのバージョンがあるの。聞き比べてみるのも面白いかもね」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『勇気はどこに?君の胸に!』だ!」

功海「アニメ第二期のエンディングテーマだ! けど、回によって歌うメンバーが変わるという特殊な仕様になってるぜ! これは無印の時と同じなんだ」

克海「十一話での分は特に変化が大きい、特殊なバージョンだ。是非観て聴いてほしい」

果南「それじゃ、次回もよろしくね!」

 




果南「千歌が家出した!? まさか、私の言ったことを気にして……捜さなくちゃ!」
善子「しかし、そんな時に現れたるは姿無き魔物! 我らが行く手を阻もうというの!?」
果南「千歌……あなたは私たちの大事な仲間だよ!」
善子「次回、『君の絆を巡る冒険』!」
果南「次回も、ハグしよっ!」


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君の絆を巡る冒険(A)

 

 早朝、高海家の居間のテレビに、緊急速報番組が流されている。

 テロップには、『愛染氏電撃辞任 その真意は!?』とある。

 

『愛染さん!』

『ひと言お願いします!』

『電撃辞任についてのコメントは!?』

 

 画面の中で、大勢の記者が愛染正義に駆け寄り、コメントを求める。彼らに対して愛染が口を開いた。

 

『オラ、何だか憑き物が落ちて生まれ変わったような気分なんずら。これからはアイドル学校の経営ひと筋で、夢に向かって頑張る若者を応援するのに専念するずらよ。では!』

『待って下さい愛染さん!』

 

 側に停めている自転車にまたがる愛染を制止する記者団。彼らに対して、愛染は、

 

『なぁに、またどこかで会えますずら。オラたちはみんな、同じ方向に向かって歩いていってるんですから。あの太陽に向かって、まっすぐ――! ……あれ? これ誰の言葉ずら? まぁいいか……

 

 そう言い残して、自転車でアイゼンアイドルスクールに向けて走り出す愛染の後ろ姿を最後に、功海が電源を切った。

 克海は電話で、アイゼンテック本社の母と通話している。

 

『そうなの。私たちもみーんなビックリよ! 対怪獣用のシステムがあったなんて全然聞かされてなかったし、戸惑ってる内にあんなことが起きて、愛染さん責任取って辞任しちゃうんだもの! 色んなことがドンドン進んでいって、未だに実感ないわ』

「そうなんだ……」

『愛染さんがいなくなっちゃったこと、氷室さんもきっと残念がってるでしょうね……。アイゼンテックは、愛染さんと氷室さんの二人三脚で大きくした会社なんだから……。あっ、ごめんなさい。こっちにも記者やら電話やらがひっきりなしで、応対しなくちゃいけないの。手一杯でしばらくは帰れそうにないから、お父さんによろしく言っておいてね』

「ああ、分かった。忙しいところ、こっちこそごめん。それじゃ」

 

 電話を切った克海に、功海が肩をすくめながら呼びかける。

 

「まさかこんなことになるなんてな」

「ああ……愛染の身体からは、サルモーネがいなくなってるみたいだ。何があったのか……」

「けど何にせよ、もうあの野郎に頭悩まされることがなくなったってことだろ? これも沙紀って子の仕業なのかもしれないけど、俺たち的には万々歳じゃん!」

 

 楽観的に捉えて背筋を伸ばす功海だが、克海は考えに耽ってつぶやいた。

 

「果たしてそれだけなんだろうか……」

「へ? どういうことだよ克兄ぃ」

「考えてみろ……。この一連の事件で、一番得をした人物は誰だ?」

 

 克海の言わんとするところを察して、目を丸くする功海。

 

「あの氷室って新社長も関係してるってか? そりゃ考えすぎだろ! 偶然だよ偶然」

「……そうか……そうだよな」

 

 少し釈然としないながらも納得する克海。そこに功海のスマホが着信を知らせる。

 

「ちょっとごめん。……あれ? 曜からだ」

 

 電話に出た功海は、怪訝な顔で尋ねかけた。

 

「どうしたんだよ曜、こんな時間に。今は朝練じゃねーのか? ……えッ? 千歌?」

 

 顔を上げた功海が克海に問う。

 

「克兄ぃ。千歌はまだ家にいるかって」

「千歌? いや、俺が旅館の準備始めた時にはもういなかったぞ。てっきり、もう家を出たものかと……」

 

 答えている内に克海の顔が青ざめていき、同様に功海の表情も引きつった。

 

「「まさか……!!」」

 

 

 

『君の絆を巡る冒険』

 

 

 

『どういうことだよッ!!』

 

 浦の星のスクールアイドル部の部室に、スマホ越しに功海の怒声が鳴り渡った。

 千歌が朝練に来ない。そのことを心配したAqoursが高海兄弟に連絡すると、家にはいないという答え。それから導き出された結論は、つまり――千歌が失踪したということだ。

 そしてその原因に、果南には心当たりがあった。そのことを打ち明けたら、功海が烈火の如く怒り出したのだ。

 

『千歌って誰? って何だよ! 何でそんなひでぇこと言ったんだ! いくら果南でも許さねぇぞッ!』

「私だって、そんなこと言いたくなんてなかった!」

 

 果南も取り乱し気味で、感情的に言い返す。

 

「だけど、言ってるでしょ!? 千歌の記録があるのは十二年前までの分だけ……そこから生まれた時までの分が、どんなものも、どこを探しても、見つからなかったの! おかしいでしょ!?」

 

 梨子と曜が困惑した顔を見合わせる。

 

「ど、どういうこと? それって……」

「千歌ちゃんってまさか……養子?」

「そんなはずありませんわ」

 

 ダイヤが冷や汗を垂らしつつも否定した。

 

「この狭い内浦で、どこかの家が養子を迎えたということがあれば、噂にならないはずがありません。しかし、わたくしが知る限りでは、そんな話は聞いたことがありませんわ」

「でもそれじゃあ……千歌ちゃんの小さい頃の写真がないのは何で……?」

 

 混乱しきりのルビィの疑問の言葉に、功海が喚く。

 

『どうせ父さん辺りがなくしちまったんだよ! 父さん、昔から抜けてるし……』

「そんなのありえないでしょ!」

 

 果南がピシャリとはねつけた。

 

「克兄ぃと功兄ぃのはちゃんと大切に保管されてたんだよ!? ましてや、娘のものをなくすだなんて……そもそもウチにもないんだよ!?」

「そ、それなら……どういうことずら?」

 

 突然の不可解な話に、訳が分からなくなっている花丸がオロオロしていると、鞠莉が腕組みしながら険しい顔つきで発した。

 

「事実だけを纏めると……千歌っちは、十二年前に突然現れて、そのことを誰も疑問に思わなかったということになるわね。初めからいたかのように打ち解けて……」

「そ、そんなデタラメなことある訳ないよっ! 千歌ちゃんは私の幼馴染で……!」

 

 曜が焦燥しながら反論するが、

 

「……で、でも、言われてみれば……幼稚園に入りたての時には、千歌ちゃんいなかったような……最初にお話ししたのはいつだったっけ……? 気がつけば、側にいて……」

『曜まで何言ってんだよッ!』

 

 頭の中がグルグルと回転している曜のつぶやきに、功海が更に声を大きくした。

 

『とにかく! 俺は信じねーぞッ! 千歌は俺と克兄ぃの妹だ! どこからともなく現れたなんて、ある訳ねぇッ!』

「でも、実際に……!」

「二人とも、落ち着いて下さいまし!」

 

 果南たちの取り乱しぶりを見ていられなくなったダイヤが割って入った。

 

「今すべきことは、千歌さんを捜すことですわ! 本人から話を聞かないことには……」

 

 それに返答するように、スマホから克海の声が発せられる。

 

『駄目だ……! 千歌の携帯の電源はオフ。色んな人に電話したけど、今朝千歌を見たって人はいなかった……!』

「千歌ちゃん、一体どこへ……!」

『くッ……何としてでも見つけ出してやるッ!』

 

 梨子と同じように、功海も焦った声を出している。

 

『千歌の携帯のGPSを利用すれば、居場所を特定することが……』

 

 だが言葉の途中でいきなり部室の照明が消え、スマホには通信障害が発生して通話が途切れた。

 

「な、何? こんな時に停電ずら?」

 

 動揺する花丸。鞠莉はスマホの状態を調べて首を振った。

 

「ただの停電なら、通信障害なんて起きないわ! これはまさか……!」

 

 胸騒ぎを覚えてスマホを立ち上げ直した鞠莉が、緊急速報を検索する。

 果たして出てきたのは、今この瞬間に綾香の市街の中に半透明の怪獣が出現している映像であった。

 

『ゲエエゴオオオオオオウ!』

「怪獣! こんな時に……!」

「何か透けてる! しかも、で、電気を吸ってない!? (ゼウス)を食らう怪物(ティターン)……!」

 

 怪獣は綾香市の送電線に張りつくようにして、電気を角から吸収していた。突然の停電と通信障害はこの影響に違いない。

 透明怪獣ネロンガ! しかもネロンガは、吸収した電気をアルトアルベロタワーへと送っていた――。

 

 

 

 アルトアルベロタワーの社長室では氷室と沙紀が、ネロンガが現れている現場を映しているモニターを注視していた。

 

[充電率80%突破! これ以上充電すると、綾香市全域の都市機能は麻痺しますが、続けますか?]

「構わん。続行」

 

 指示を出した氷室が、沙紀の方へ振り向く。

 

「計画進行は順調。宇宙を救う作戦は、万全の態勢で臨めそうです」

「……」

 

 と告げるも、沙紀は無言のまま腕を組んでモニターから目を離さなかった。

 氷室の眼鏡が、怪しく光を反射した。

 

 

 

「ああもう! 千歌ちゃんを捜さないといけないってのにぃぃ!」

 

 曜が映像のネロンガに文句をつけていると、梨子が声を上げた。

 

「あっ、克海さんたちだわ!」

 

 画面の中の現場に、ウルトラマンロッソとブルが乱入してきた。彼らも怪獣出現をキャッチして、一番に出動したようだ。

 ネロンガはそちらに気がついて、街を揺らしながら二人と対峙する。

 

「行っけー! 怪獣をやっつけるずら!」

「がんばルビィ!」

 

 花丸とルビィが応援する中、ロッソとブルは早速ルーブスラッガーを握り締めて突撃するが……ネロンガは二本の触角を前に向けると、角から強烈な電撃を放ってロッソと弾き飛ばした!

 

「ああっ!」

 

 思わず悲鳴を上げる梨子たち。ネロンガは更に体当たりでブルも張り倒す。

 

「いきなりやられちゃってるわよ!」

「強いですわ……!」

 

 善子とダイヤがそう言うと、鞠莉が眉間に皺を刻み込んだ。

 

「いいえ……それ以上に、克海たちが戦いに集中できてないわ。きっと千歌っちのことが気掛かりで……」

 

 ロッソとブルはネロンガにのしかかられて、至近距離から電撃を食らいそうになっている。

 

「危ないっ!!」

 

 叫ぶ果南。だが――その瞬間に、ネロンガは忽然と消え失せた。

 

「え?」

「消えた……?」

「どうして……?」

 

 曜、鞠莉らが唖然となる。ロッソたちも呆然として辺りを見回しているが、ネロンガは既に影も存在していなかった。

 

 

 

 沙紀が持ち上げた手の平の中に、「透」のクリスタルが飛んできて収まる。ネロンガが変化したものだ。

 

[充電率、90%達成! 必要量の電力は無事確保しました]

 

 ウッチェリーナがそう報告する。沙紀は目的を果たしたのでネロンガを戻したのであった。

 

「これでシステムの作動が出来ます。計画の第一段階は成功ですね」

 

 氷室が呼び掛けると、沙紀は無言でうなずいた。

 そんな彼女にウッチェリーナが告げる。

 

[少しいいですか? 沙紀さんにお電話です]

「電話?」

[はい。高海千歌さんからです]

 

 その名前を耳にすると、沙紀の顔色が変わった。

 

 

 

 外に出た沙紀は自然公園にて、家出してきた千歌と落ち合っていた。

 

「分からないの……私がどこから来たのか、本当に高海家の子なのか……みんなをだましてるんじゃないかって……。いくら探しても、私が初めからいたっていう証拠が見つからなくて……。もう、頭グチャグチャになっちゃって……」

 

 ベンチに並んで腰掛けながら、千歌は沙紀に話を切り出した。

 

「それで思わず飛び出したのか」

「こんなこと、他に話せる人いないから……私がこのまま内浦にいていいのか、相談できるのは……。みんなは優しいから、きっといいって言ってくれると思うけど……それじゃあみんなの気持ちに甘えてるみたいで、私が求めてる答えにはならないの」

 

 千歌から打ち明けられた相談に、沙紀は次のように答える。

 

「古き友は言った。天国への道を知るには、 地獄への行き方を知らなければならない。ニッコロ・マキャヴェリ」

「それって、どういう意味?」

「幸福の価値は、不幸がどういうものかを知る者のみが理解できるということ。お前の考えは正しい。真の幸せは、優しさの中にだけいては得られない。私たちは苦しみ、傷ついてこそ、強くなる」

 

 沙紀の言葉をよく噛み締める千歌。

 

「……そうだね。私もスクールアイドル始め立ての頃は、すごく考えが甘かった。でも東京で挫折を味わってから、ようやく本当にスクールアイドルを始められたように思う……。沙紀ちゃんって、色んなこと知っててすごいね」

「……用が済んだなら帰れ。私は成すべきことをする。お前もお前のすべきことをしろ」

 

 突き放すように言い残して立ち去ろうとする沙紀を、千歌が呼び止める。

 

「沙紀ちゃん!」

「……なれなれしい呼び方はやめてくれ。調子が狂う」

 

 だが、千歌は聞かずに己の頼みごとをぶつけてきた。

 

「私の思い出をたどりたいの。一緒についてきて?」

「何で私が」

「何となくだけど……沙紀ちゃんとじゃないと駄目なの。お願い!」

「甘えるんじゃない!」

 

 沙紀は強い語気で拒絶した。

 

 

 

 数十分後、千歌はアイスクリームを両手に沙紀の元へと駆けていく。

 

「沙紀ちゃん! これ、美味しいんだよ♪」

 

 差し出されたアイスを、憮然としながらも受け取る沙紀。

 

「まだ暑いからね。小さい時は、よく功海お兄ちゃんと取り合いになったなぁ……」

 

 しみじみと語る千歌に横目を向けつつ、アイスを頬張る沙紀。

 

「うっ……!?」

「ああ、そんな一気に食べたら頭痛くなっちゃうよ? しょうがないなぁ」

 

 クスクスと笑う千歌に、沙紀はムッとした表情を返した。

 

 

 

 自然公園の入り口に、『四つ角』の送迎車が停まり、克海と功海、更にAqoursの八人が降りてきた。

 

「千歌が心配なのは分かるが、何も全員で来なくても……。学校サボりになっちゃうだろ?」

「この際学校はいいですよ! そもそも理事長もここにいますし!」

「私は無断で欠席する悪い子を叱りに来ただけデース」

 

 梨子のひと言に、鞠莉が口笛を吹いてとぼけた。

 一方でGPSの電波を確かめていた功海が振り返り、皆に告げる。

 

「間違いない。千歌はここにいる!」

「すぐに行こう!」

 

 曜が気持ちを逸らせながら駆け出していこうとするが、功海の足が前に進まないので思わず立ち止まった。

 

「功兄ぃ……?」

「功海さん、まさかさっきの話を気にして……」

 

 ルビィのひと言に、果南が気まずそうな顔となる。

 

「そんな訳ねーって!」

「……俺は正直、半信半疑だ」

 

 功海は強がったが、代わりのように克海が打ち明けた。

 

「克海さん……!」

「いざ千歌と会った時、どんな顔したらいいか、不安でならない……」

 

 その気持ちは、全員が同じであった。一瞬重苦しい空気が流れるが――意を決したダイヤがそれを打ち破る。

 

「ですが、放ってはいられませんわ! とにかくぶつかっていきましょう! そうでなければ始まりません!」

「心配はいらないわ! この堕天使ヨハネの加護があるわよ!」

「なんて言いながら、一番足が震えてるずら善子ちゃん」

「ヨハネって言ったでしょ! 混ぜっ返さないでよ!」

 

 善子のツッコミで幾分か気が楽になり、一同は順々に自然公園の中に駆け込んでいく。功海、克海――そして果南が、覚悟を決めて千歌の元へと急いでいった。

 

 

 

 千歌と沙紀は、公園の景色を一望してため息を吐いている。

 

「とってもいい景色……。私、この景色が一番好きなんだ」

「ああ……そうだな」

「マジそれな、だね」

「マジソレナ? 何の呪文だ」

「マジ、それな。ほんとにそうだってこと。善子ちゃんが言ってた」

「マジそれな……覚えた」

「ふふっ、沙紀ちゃんって真面目だね」

 

 沙紀の反応がおかしくて微笑む千歌。そんな彼女に言い返す沙紀。

 

「お前はどんなことでも楽しそうだな。何故そんなに笑っていられる」

「私が? そうだなぁ……やっぱり、スクールアイドルだから、かな?」

「スクールアイドル……それがそんなにいいものなのか?」

「もちろん! スクールアイドルになってから、私の毎日は輝き出したの! 大変な思いもしたり、泣いたりしちゃったりもあったけど……大事な仲間もいっぱい出来たし、何より歌ってると楽しい!」

 

 誇らしげに、楽しげに語る千歌の横顔を、じっと見つめる沙紀。

 しかし、千歌の表情が不意に曇る。

 

「でも……今のどこから来たかも分からない私を知って、みんな本当の仲間でいてくれるのかな……。私ってどこの誰なの? それに……」

 

 自問した千歌が、沙紀に振り向いた。

 

「沙紀ちゃんも誰なの? あんなすごいものを、お兄ちゃんたちに渡してくれた……。何をするつもりなの? 私は、どうして沙紀ちゃんを見てるとこんなにも気分が乱されるの? こんな気持ち、他の誰にも感じたことない……!」

 

 熱に浮かされるような千歌に、沙紀が言い聞かす。

 

「自分が何者か、本当に知る者などいない。私もお前も本当は誰で、何をしたいのか……永遠に分かることはない」

 

 すると千歌は、ポーチからあるものを取り出して沙紀の手の平に包ませた。

 

「何だこれは」

「ミカン。持ってきたの」

「そうじゃなくて、何でこんなものを渡す」

「だって沙紀ちゃん、何か苦しそうだから……。美味しいもの食べて、笑顔でいないと、どんどん苦しくなっちゃうよ?」

「言っただろう。天国の道を知るには、地獄の……」

「でもっ!」

 

 沙紀の言葉を強くさえぎる千歌。

 

「地獄の道でも、楽しい気持ちで歩いていこうよ……」

 

 必死な千歌と、沙紀の視線が交わり合う。

 そこに、

 

「千歌ぁー!」

「千歌ちゃーん!」

 

 克海たち一同が、千歌を見つけて駆け寄ってきた――。

 



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君の絆を巡る冒険(B)

 

 克海たち十人は、駆け足で千歌の前へと近寄っていく。

 

「千歌お前ー、心配したじゃねぇかよ……」

「駄目じゃない千歌っち、無断欠席なんて……」

 

 功海や鞠莉が努めて明るく呼び掛けようとしたが……千歌の側にいる沙紀に気づいて、言葉がしぼんでいった。

 

「あの子……!」

「千歌ちゃんに見せてもらった写真の……!」

「うん、間違いない……! 私が会ったのも、あの人だよ……!」

 

 謎多き人物である沙紀の顔を目にして、梨子や曜たちは思わず身構えた。克海が代表して、沙紀に呼びかける。

 

「美剣沙紀さんですね。妹から離れてもらえますか?」

 

 克海たちは正体が知れない沙紀のことを強く警戒していた。対する沙紀は、どうしてか克海と功海に向けて険しい眼差しを送っている。

 

「今更兄弟面か」

「あなたは敵ですか? それとも味方?」

「敵か味方か白黒つけたい。それが若さというものか」

「歳そんな変わねーだろ! どこ目線だよ」

 

 沙紀のひと言に功海が突っ込むと――何を思ったか、沙紀がルーブジャイロを取り出す。

 

「それは!?」

 

 動揺が走る克海たちの目の前で、沙紀がクリスタルを嵌め込んだジャイロのグリップを引いていく。

 

「見るがいい、若輩ども……!」

 

 ジャイロからエネルギーが放出され――公園の側の駐車場を引き裂きながら、ネロンガが実体化して出現した!

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

「怪獣! また出たずら!」

「あの人まで、怪獣を召喚することが出来たなんて……!」

 

 功海は花丸、ルビィらを自らの背後にかばいながら、沙紀をにらみつける。

 

「やっぱり敵だったのか……! 千歌、離れてろ!」

「でも、沙紀ちゃんは……!」

「千歌ちゃん、早く!」

「危ないですわよ!」

 

 ためらう千歌だったが、駆け寄った曜とダイヤに腕を引かれて沙紀から引き離された。

 

「功海、行くぞ!」

「ああ!」

「今回はヨハネが出るわよ!」

「……私も、ここまで来て邪魔なんてさせられないっ!」

 

 アイゼンテック飛行船が背景の空に飛んでくる中、克海と功海は善子、果南とともにネロンガの方向へ飛び出し、そしてルーブジャイロに手を掛けた。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

「ハグしよっ!」

「堕天降臨!」

 

 克海と果南がウルトラマンロッソアクア、功海と善子がウルトラマンブルウインドに変身して立ち上がる。

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

『『はっ!』』

 

 ロッソとブルはルーブスラッガーを手にネロンガに斬りかかっていくが、

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 ネロンガの姿がいきなりかき消えて、スラッガーが空振りした!

 

『「消えた!?」』

『「やっぱり透明になれるんだわ! 幻惑の道化師!?」』

 

 動揺する果南と善子。ロッソたちは辺りにスラッガーを振ってネロンガの行方を捜すが……正面から尻尾を叩きつけられる。

 

『『うわぁッ!』』

 

 二人そろって殴り飛ばされるロッソとブル。

 

「ああっ!」

「お兄ちゃん!」

 

 戦いを見守る千歌たちが悲鳴を発する。

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 更にネロンガは、空中で姿を現して二人に勢いよくのしかかってきた。

 

『『うわぁぁぁッ!』』

『「「きゃああああっ!」」』

 

 痛恨の一撃に、四人の叫び声が響いた。あまりに痛々しいありさまに、千歌とルビィが沙紀へ懇願する。

 

「やめて! やめさせて!」

「どうしてこんなことするんですかぁ!?」

「これは運命だ」

 

 ロッソたちがネロンガの電撃攻撃をかいくぐる中、沙紀はそう言い切った。

 

「運命……!?」

「私たちは運命という大きな河に翻弄される、力なき木の葉に過ぎない」

「一体何を言ってるの!?」

「善子ちゃんみたいなこと言ってないで、止めるずら!」

 

 梨子や花丸が声を荒げる一方で、ネロンガの電撃が千歌たちの方へ飛んでいくのでロッソがその背を盾にしてかばった。

 

「『うわぁっ!!」』

「克海! 果南っ!」

 

 目をひん剥く鞠莉たち。沙紀は微塵も動じず、冷淡に言い放つ。

 

「本来この運命に関わりを持たない者が、戦いに口を挟むな」

「何ですって……!?」

 

 ダイヤが青筋を立てて身を乗り出しかけるのを、千歌が押しとどめた。

 

「喧嘩は駄目! 喧嘩したら、みんなが笑顔になれないよっ!」

「この世には笑顔では済まされないこともある!」

 

 強情な沙紀に、それでも千歌は主張する。

 

「そんなことないよっ! みんなが手と手を取り合っていけば……みんなが救われる!!」

「……その言葉、友の言葉として覚えておこう」

 

 そう言い残して、沙紀はこの場から離れていく。

 

「沙紀ちゃんっ!」

「千歌ちゃん駄目! 危ない!」

 

 沙紀を追いかけようとする千歌だが、電撃の余波が飛んでくるので、梨子たちに止められた。

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

『はぁッ!』

 

 ネロンガが電撃を球状にして発射した。それをブルが両断するが、勢いは止められずに半分となった電撃がブル、ロッソに命中した。

 

『『うわあぁぁぁぁぁッ!』』

 

 スパークを食らって倒れ込む二人。

 

『「つ、強い……!」』

『「今までの怪獣とは、根本的な力の源が異なるわ……!」』

 

 ネロンガの手強さに果南と善子もうめいた。本物のジャイロによって実体化した怪獣は、模造品のAZジャイロのそれとは再現度が違うのだ。

 電流によって身体が麻痺し、苦しむロッソたちに向けて、千歌が声の限りに叫ぶ。

 

「克海お兄ちゃん! 功海お兄ちゃーん! がんばってー!!」

『千歌……!』

「果南ちゃん! 善子ちゃーん! 負けないでー!!」

『千歌……』

『ヨハネ……いや、何でもないわ』

 

 善子が空気を読んで押し黙る中、千歌の声援によってロッソとブルの眼差しに活力が戻っていく。

 

『聞こえるか、功海……?』

『ああ……俺たちの妹の声だ……!』

『たとえ生まれが違ってたとしても、千歌はそこにいる……! 俺たちのすぐ傍に!』

『だったら……守るしかないっしょ!』

 

 ロッソとブルが気力を振り絞って、麻痺を振り払い、堂々と立ち上がった!

 

「やりましたわ!」

「いっけぇー! 功兄ぃ、克兄ぃー!」

 

 その姿にダイヤたちがわっと歓声を上げた。千歌もにっこりと笑顔となる。

 

『「だけど克兄ぃ、透明な相手とどう戦うの? 闇雲に挑んでも返り討ちだよ!」』

 

 身体が絶え間なく透き通り、挙動を捉えられないネロンガを強く警戒する果南。

 

『大丈夫だ、俺に作戦がある。クリスタルチェンジだ!』

 

 ロッソは強い語気で応じて、果南に指示を出した。

 

『分かった!』

 

 果南はロッソに従い、土のクリスタルを取り出す。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

 

 ロッソグランドにタイプチェンジすると、ルーブスラッガーロッソを両方とも地面に突き立てた。

 

「『グラインドロックス!!」』

 

 スラッガーの刃先を中心に、膨大な量の土煙が巻き上がる。これを見たブルが意図を理解。

 

『なるほどね……次は俺たちの番だ!』

『「ええ! 堕天の風よ、吹き荒れなさい!」』

 

 ルーブスラッガーブルを水平に振り、旋風を生じさせた。

 

「『サンドストーム!!」』

 

 風は土煙を乗せて透明の状態のネロンガに降りかかる。

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 すると土埃がネロンガの全身に付着して、その姿が浮かび上がった。着色されたネロンガは激しくうろたえる。

 

『「見えた!」』

『電気を発する奴の全身は静電気まみれだ。汚れがつきやすいって訳だ!』

『狙い通りだ。行くぞ!』

 

 ネロンガの居場所を掴めるようになったことで、ロッソが駆け出す。同時に果南が雷のクリスタルをスラッガーにセットした。

 

[ウルトラマンエックス!]

 

 ロッソが両手のスラッガーでX字を描き、クロスした光刃を作り出す。

 

「『ザナディウムソニック!!」』

 

 飛ばされた光刃がネロンガに命中し、大きく弾き飛ばした。

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

『「今だ!」』

 

 その瞬間に、果南が極クリスタルに手を伸ばす。

 

[極クリスタル!!]

『「「セレクト、クリスタル!!」」』

 

 極クリスタルの力でロッソとブルのインナースペースがつながり、果南と善子が並んだ。果南の指がクリスタルに触れると、三本角が展開されて「極」の文字が現れる。

 

[兄弟の力を一つに!]

 

 果南がクリスタルを、善子の掲げるジャイロにセットした。六人のウルトラ戦士のビジョンが二人の背後に立ち上がる。

 

『『纏うは極! 金色の宇宙!!』』

 

 果南、善子がそれぞれ左右のグリップを握って、息をそろえてジャイロを回していく。

 

『「「サンシャイン!!」」』

 

 極クリスタルが金色に輝き、高まったエネルギーが解放される!

 

[ウルトラマンルーブ!!]

「デュワッ!」

 

 ロッソとブルが融合し、超戦士ウルトラマンルーブに変身!

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 ネロンガが起き上がってくるが、ルーブは胸に手をやってルーブコウリンを取り出す。

 

『「「ルーブコウリン!!」」』

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 ネロンガが電撃球を五つ作り出して飛ばしてきたが、ルーブはコウリンでそれらを空にはね返し、最後の一つは素手で握り潰した。

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 遠距離攻撃を防がれたネロンガは、自らの身体に電流を纏いながら突進してくる!

 

『「そうはさせないよ!」』

 

 それに対して果南が前に出るとともに、極クリスタルの文字が「洋」に変化してルーブの身体に青と翠色のラインが走る。

 

[ルーブ・オーシャン!!]

 

 コウリンの円周に水が纏わり、ネロンガに盾のように突き出すと、コウリンの中心から水球が生じて射出される。

 

「『「『オーシャン・ジャイアントスフィア!!」』」』

 

 紺碧の水球は突進してくるネロンガを完全に包み込んで、一歩も動けなくする。

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 水球のバリアを破ろうとするネロンガだが、水は体当たりをはね返し、更に電撃も反射してネロンガ自身を痺れさせた。

 

「『ルーブコウリンブル!!」』

 

 ネロンガの動きを封じ込んだところで、善子がコウリンを手にして前に出る。クリスタルの文字は「天」に変わり、紫と白のラインが走る。

 

[ルーブ・ヨハネ!!]

 

 ルーブが風を纏いながら超高速で飛び出し、ネロンガにコウリンの一閃を叩き込んだ。

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 駆け抜けたルーブが振り向き、善子が極クリスタルに触れる。

 

[高まれ! 究極の力!!]

 

 クリスタルをコウリンにセットし、コウリン下部を握り込んでエネルギーを解放する。

 

「『「『ヨハネ・コウリンショット!!!!」』」』

 

 紫電の疾風を纏った光輪が発射され、猛然とネロンガの胴体を突き抜けていった。ネロンガは両断されて上半身が堕ちていく。

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!!」

 

 そのまま大爆発! ネロンガは消滅し、戻ることはなかった。

 

「やったぁぁぁぁ――――――――!!」

 

 大はしゃぎのルビィたち。彼女たちが見守る中で、ルーブは大空高くに飛び上がって去っていった。

 

「シュワッ!」

 

 

 

 戦いが終わり、千歌の元に克海、功海が駆け寄った。

 

「千歌……」

 

 じっと互いを見つめながら、対面する三人。これからどうなるかとハラハラ見守る梨子は、つい前に出ていこうとするが、それを鞠莉に制止される。

 

「これは兄弟間の問題よ……私たちがしていいのは、見守ることだけ」

 

 しばし見つめ合っていた三人だったが、やがて千歌が口を開いた。

 

「お兄ちゃん、ごめんなさい……。私、本当はお兄ちゃんたちの妹じゃないの……。ずっとだましてたの……。怒ってるよね……」

 

 すると、克海と功海は柔らかく微笑む。

 

「何言ってるんだよ。千歌がここにいる。ずっと、俺たちの側にいた。それ以外に、お前が家族だってことの証明なんかいらないだろ?」

「で、でも……それって、私に遠慮して言ってるんじゃ……」

「なーに言ってんだ! こんなかわいい妹がいる。それに何の疑問を挟めばいいんだ?」

 

 兄たちの気持ちを受け取り、沈み切っていた千歌の表情に、色が戻っていった。

 

「――千歌っ!」

 

 途端に、果南が千歌に飛びついていって思い切り抱きしめる。

 

「ごめんね……ごめんね千歌! 昔のことになんかこだわって……!」

「果南ちゃん!? ちょ、痛いよぉ……」

 

 果南の勢いに、千歌は思わず苦笑い。

 

「今この瞬間に……この腕の中に、千歌がいる! それ以外に必要なことなんてない! 私たちは友達……仲間……Aqoursだよ!!」

「うん……うん!」

 

 梨子たち七人も果南に苦笑しながら、千歌の元に集まる。

 

「お帰り、千歌ちゃん!」(曜)

「元気になってよかったずら!」(花丸)

「ふっ……これも堕天使の導き」(善子)

「これからもスクールアイドル、やっていこうね!」(ルビィ)

「もうおサボりはナッスィング! デースよー?」(鞠莉)

「今日一日サボタージュした分、明日は厳しくいきますわよ?」(ダイヤ)

 

 Aqoursの仲間たち、そして兄たちに、千歌は笑顔で応じた。

 

「みんな……ただいまっ! 大好き!!」

 

 

 

 ――家族と、仲間に囲まれて笑顔いっぱいの千歌のことを、遠くの樹の陰から、沙紀がじっと見つめていた。

 

「……過去ではない、この瞬間が絆……か」

 

 ひと言つぶやいた沙紀が、少しだけ、瞳に哀愁を漂わせた。

 

「幸せな奴だ……。私の絆は、とうに過去のものだ……」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

千歌「カンカンミカン! 今回紹介するのは、『エターナル・トラベラー』だよ!」

千歌「この歌は『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』第一期の主題歌だよ! 『誓い』の時に紹介した通り、この作品は怪獣使いのレイと、怪獣のゴモラが主役の話で、毎回様々な怪獣と怪獣の対決が観られるの」

千歌「歌うのはProject DMMの皆さん! 歌詞は地球を遠く離れた無人の惑星での冒険と、謎に包まれたレイの真実が明かされてくドラマを反映したものになってるの。OPの映像でも色んな怪獣が対決するのが印象的だよ」

千歌「エンディングの『ジャンプ アップ』は、ウルトラシリーズでは珍しいラップ調の歌になってるの! ノリノリのこの歌、興味がある人は一度でも聴いてみてね」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『君の瞳を巡る冒険』だ!」

功海「初出はリアル脱出ゲームとのタイアップという異例の経緯の曲だ! だからもちろん『脱出』を強くイメージする内容になってるぜ」

克海「普通に歌を発表するだけじゃなく、こういうタイアップ曲がある方が歌のバリエーションが増えていいかもな」

千歌「それじゃあまた次回でね!」

 




善子「ヨハネたちが直面した険しき壁、それは……お金が足りなーい! 先立つものがなくてはスクールアイドルは出来ないわ。どうにかならないかしら」
ルビィ「一方で、お姉ちゃんに何か悩みがあるみたい。それは……みんなが他人行儀?」
善子「色々あるけれど、そんな時にも起こる怪獣騒動! 羽を落ち着かせる間もないわね!」
ルビィ「次回、『決戦!AQUARIUM』!」
善子「次回も堕天降臨!」


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幕間「予備予選と学校説明会」

 

 あくる日の、『四つ角』の居間にて。

 

「何? また問題が発生したって?」

「Aqoursは大変だなー。次から次へと」

 

 二学期に入って早々、様々な障害に見舞われた克海たち。しかし合体戦士ウルトラマンルーブへの変身や、より深め合った兄妹の絆などを以て乗り越え、やっと平穏が戻ってきた。

 そう思われた矢先に、今度はAqoursの活動の方でまた問題が起きたという。千歌たち九人は真剣な面持ちで居並び、克海と功海と向かい合っている。

 

「で、その問題というのは? そもそも何でそんな話を俺たちに?」

「実は……」

 

 克海が聞き返すと、鞠莉が代表して事の経緯を説明し始めた。

 

「学校説明会のことなんデースが……」

 

 一時は統廃合が確定となり、学校説明会も中止となってしまった浦の星。しかし鞠莉の必死に取り留めたことでどうにか保留で踏みとどまってもらい、学校説明会も開かれることとなった。Aqoursは浦の星女学院のアピールのために、説明会でライブをする予定である。

 しかし先日、内浦は折悪しく大雨に見舞われ、道路に損害が生じてしまった。その復旧作業の影響で、日にちが一週間ずれ込むことになったのだという。

 

「ん? それの何が問題なんだよ。準備期間も伸びる訳だから、むしろ好都合なんじゃね?」

 

 ピンと来ない功海が小首を傾げると、曜と克海が呆れた。

 

「千歌ちゃんと同じこと言ってる……」

「忘れたのか。説明会の一週間後が、何の日か」

「え? ……あぁッ!」

 

 カレンダーに目をやり、問題の正体に気がつく功海。

 

「ラブライブの予備予選か!」

「そうデース……」

「被っちゃったずら……」

 

 困り果てたように眉を寄せる花丸たち。

 

「確かにそりゃあ問題だ。片方に出てたら、もう片方には出られないって訳だ。これぞ、こちらを立てればあちらが立たずって奴」

「どうにかして両方のステージに出場することは出来ないのか?」

「それが難しいから困ってる訳で……」

 

 克海の問い返しに果南が肩をすくめ、ダイヤがその理由を話す。

 

「予備予選の会場は、バスも電車も通ってない山の中……。移動に時間が掛かりすぎるのですわ……」

「そのことを相談し合ってたら、千歌ちゃんがいい考えがあるって言って……」

 

 梨子に目を向けられた千歌は、克海と功海にねだるように呼び掛ける。

 

「お兄ちゃん、チカからのお願~い」

「な、何だよ」

 

 何を言い出すものかと若干身構える克海。

 

「私たちを助けると思って、協力して! 予選会場から学校まで、ウルトラマンに変身してピューッて私たちを運んでほしいの!」

「はぁぁ!?」

 

 あまりの内容に、克海は思わず目をひん剥いた。

 

「直線なら大した距離じゃないの! それにウルトラマンのスピードがあれば、余裕で間に合うから! ねっねっ、いいでしょ?」

「しょうがねぇ奴だなぁ。まぁ他ならぬ千歌たちの頼みなら、やってやらねーことも……」

「おい馬鹿言うなッ!」

 

 引き受けかける功海を、克海が半ば慌てながら制止した。

 

「そんなことしてみろ! 内浦中大騒ぎで、ステージどころじゃなくなるぞ!」

「ですよね……。ウルトラマンに運んでもらったなんてこと、どう説明すればいいものか……」

 

 梨子が冷や汗垂らしながら苦笑いした。ルビィが肩を落としながら千歌へ振り向く。

 

「千歌ちゃん、やっぱり無理があるよ、今の……」

「ダメかぁ……。いいアイディアだと思ったんだけどなぁ」

「そもそも、善子ちゃんが堕天使の翼だとか言い出すからおかしな話になったずら」

「善子言うな! こっちだって、本気のつもりじゃなかったわよ!」

「空路なら、ヘリ使えばいいんじゃね? 鞠莉が乗り回してたろ、確か」

 

 功海がそう聞くと、鞠莉が大きく肩をすくめた。

 

「いくら何でも私が操縦してた訳じゃないデス。あれは小原家のもの。廃校撤回の条件は自力で入学希望者を100人集めること、家の力に頼るなんて出来まセーン」

「そっかぁ……難しいもんだな」

 

 皆が頭を悩ませていると、ダイヤが発言する。

 

「現実的に、説明会とラブライブ予選、二つの会場を間に合わせる方法は一つだけ。予備予選を一番で歌ってすぐに出れば、ギリギリで浦の星行きのバスに乗れるのです」

「ほんと!?」

「ええ。ただし、そのバスに乗れないと次は三時間後。二番目以降では間に合わないのですわ」

「けど、そんな都合よく一番になれるのか?」

「順番どうやって決めるんだ?」

 

 克海と功海が心配して尋ねる。

 

「そ……」

「それはっ! 抽選です!!」

 

 横から割り込んだルビィが台詞を乗っ取った。

 

「抽選!」

「うゆ。グループの代表がクジを引くんです! ちなみに私たちのところの出場校は、全部で36です」

「それで一番を引けなきゃダメって訳か……。責任重大じゃんか」

「しかも36分の1の確率……。大分希望が薄いな」

「でも、これ以外に方法はないよ」

 

 固唾を呑む果南。

 

「問題は、誰がクジを引くのかだけど……」

 

 流石に誰もが二の足を踏んでいる。すると、

 

「しょうがないわね……。ここは堕天使界のレジェンドアイドル、このヨハネがっ!!」

「ないずら……」

「ぶっぶーですわ」

 

 せっかくやる気を出したのに、反応は冷ややかだった。

 

「どうしてよー!」

「だって、じゃんけんずっと負けてるし……」

「何もないところでつまずいて海落ちちゃうし」

「普段は運を溜めてるのよ! いざという時は、それを開放して……!」

「結局、数学的には誰が引いても同じだけどな」

 

 やいのやいのと騒ぐ善子らに、功海が淡々と突っ込んだ。克海は眉をひそめて腕組みする。

 

「どうなることやら……」

 

 

 

 そして、結果は、

 

「24番だってよ、克兄ぃ」

「まぁ……そうそう上手く行く訳ないよな」

 

 ある意味では予想通りの結末に、克海は半目になりながらつぶやいた。

 

「しかし、そうなるとどうするんだ? 千歌たちは」

「どっちか片方だけじゃ、今から入学希望者を100人も集めるなんて無理だろうし、グループを半分に分けるしかねぇだろうなぁ」

「けど、それだと中途半端にならないか? 二兎追うものはって言うだろ」

「そう言ったって、他に取れる手なんてねぇじゃん? まさかほんとに空飛ぶ訳にはいかないしさ」

「それもそうだが……」

 

 眉を寄せながら、克海がテーブルに広げた綾香市の地図に目を落とす。予備予選会場と浦の星を示すピンの間には、山地を示す等高線が挟まっている。

 

「せめて、まっすぐに移動できればどうにかなるかもしれないんだけどなぁ」

「そいつは無理だろ。思いっ切り私有地だぜ? 勝手に入ったら補導もの。そしたら全部おじゃんになっちまう」

「だよなぁ……」

 

 うなずきつつも、山地に畑の地図記号があるのに克海は目を留めた。

 

「ん……? そういえば、ここってミカン畑だよな……」

 

 

 

 問題の日曜日――ラブライブ予備予選の会場に、克海と功海は応援にやってきた。

 

「予備予選は予定通りに出場。一方で、説明会もステージあり。ってことは、やっぱ半分ずつに分けたって訳か」

 

 つぶやく功海が顔をしかめる。

 

「けど、浦の星の子たちは説明会の方だし、克兄ぃの言った通り、今回ばかりは厳しいかもな。しょうがない事情があったって、そんなんお客には関係ないことだし」

「……ともかく、千歌たちを精一杯応援しよう。俺たちに出来るのはそれだけだ」

 

 何やら含みのある表情ながら、克海がそう言い聞かせて会場に入っていった。

 

 

 

 そして、Aqoursの順番になると――功海は丸くした目をステージ上に向けた。

 

(♪MY舞☆TONIGHT)

 

「あれ!? 全員いるじゃねーか!」

 

 着物をモチーフにした衣装姿でステージに立っているのは、間違いなく九人。Aqoursのフルメンバーだ。ということは、説明会の方には誰も行っていないということになる。

 

「ってことは、説明会は捨てたってことか? けど、さっきはステージあるって聞いたんだが……」

「そのことについては、千歌に考えがあるらしい」

 

 物知り顔で克海が告げる。

 

「問題は、本当に間に合わせられるかって点だが」

「克兄ぃ、何聞いたんだよ。もったいぶらずに教えろよ!」

「まぁ静かにしとけって。今はみんなの舞台を、しっかりと見届けろ」

 

 功海をいさめて、二人はAqoursのステージに見入っていった。

 そして歌い終えると会場が興奮に包まれるが、Aqoursの九人は余韻に浸る間もなく、すぐにステージから飛び出していった。

 

「まさか、ほんとに走っていこうってのかよ!? そんな無茶な……」

「俺たちも行こう。学校の方でのステージには間に合わないだろうけど……」

 

 千歌たちに続くような形で、克海と功海も会場を出て車に乗り込んでいった。

 その車内で、克海が種明かしする。

 

「えッ! 許可取ったのかよ! 畑突っ切る」

「そう言ってたな。あそこのミカン畑の持ち主の娘さんが、浦の星に通ってるんだよ。この内浦の人の縁あってこその解決策だな」

「解決策って言うか、力業だろ。ぐるりと遠回りするよかマシとはいえ、それでも足なら結構な距離あるぜ? 無茶すんなぁ、みんな」

 

 功海が感心するような、呆れるような声を上げると、克海が苦笑を浮かべた。

 

「それだけ本気だってことだよ。奇跡を起こすのに」

 

 

 

 ――そうしてAqoursは一日の内に、隔てられた二つのステージで歌い切るという離れ業をやってのけ、予備予選と説明会と、両方を成功させた。

 説明会でのステージの終わりに、千歌が仲間たちに対して語った。

 

「二つに一つ、どっちにするかなんて選べない。どっちも叶えたい! だから行くよ! あきらめず、心が輝く方へ!!」

 

 

 

 ――学校説明会のステージは、沙紀が樹の陰に隠れながら見届けていた。

 

「……大事な場所を守るために、全力を尽くす……いや、全力以上を出し尽くすか」

 

 Aqoursの二つのステージの成功は、沙紀も把握していた。それに感心する一方で、やや残念そうに独り言つ。

 

「輝いているな。その輝きが、遠くない内に宇宙の塵に帰してしまうことも知らずに……」

 



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決戦!AQUARIUM(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/「ずら!」

 

花丸「自分が初めからいなかったと知って思い悩んだ千歌ちゃんは家出してしまったずら。だけど紆余曲折ありながらみんなとの絆の強さを再確認! 予備予選と学校説明会も大成功に収めて、Aqoursは順調! ……と、言いたいけれど……」

 

 

 

「はぁ~……どうしよう」

 

 スクールアイドル部の部室で、千歌がテーブルに突っ伏していた。

 

「今度は何?」

 

 梨子が何事か問いかけると、千歌はそのままの姿勢で答える。

 

「ほら、説明会とラブライブと、二つもステージがあったでしょ? だからお金が……」

「もうなくなっちゃったの?」

 

 ルビィの問い返しに沈黙で肯定する千歌。のっぽパンをかじっている花丸がため息。

 

「このままだと、予算がなくなっちゃって……仮に決勝に進出しても、東京までの足がアヒルボート一隻だけずら」

「沈むわい!」

 

 善子のツッコミ。次いで、果南が千歌に尋ねる。

 

「でも、前にサルモーネがマトリョーシカを買い取った時のお金があるんじゃないの? あれのお金を頼るのは癪だけど……」

「いや~……あれは教育に悪いからって、お母さんに管理されてて……」

「いくら残ってるの?」

 

 梨子がうちっちー型の貯金箱を開いて、残金を確かめると……中から出てきたのは……。

 

「ワーオ! 綺麗な五円デース!」

「ご、ご、五円だけ……?」

「ご縁がありますよーに!」

「So Happy!」

「言ってる場合かっ!」

 

 善子たちと戯れる果南、鞠莉の様子を、呆気にとられたように見つめるダイヤに、顔を上げた千歌が気づいた。

 

「どうしたんです?」

「あっ、いえ……果南さんも鞠莉さんも、随分皆さんと打ち解けたと思いまして……」

「果南ちゃんはどう思うずら?」

「そうだねぇ……」

「……果南……ちゃん?」

 

 しみじみ語ったダイヤだが、花丸のひと言でハッと顔を上げた。

 

 

 

『決戦!AQUARIUM』

 

 

 

 夕暮れに染まる内浦の砂浜で、沈みゆく太陽によってオレンジ色に染まる広大な海面を、沙紀がじっと見つめていた。

 ――彼女の目は、常人では捉えられない、海中に動く『何か』を捕捉していた。

 

「……」

 

 その『何か』を確認した沙紀は、海から目を離すと次に空の彼方に視線を向けた。

 

 

 

 『四つ角』の居間で、功海がテレビのニュースを見ている。テロップには、『駿河湾の怪 消える魚介類!』とある。

 

『ほんにねぇ、商売上がったりですよ! 魚がぜーん然取れない! ソナーでも魚影がこれっぽっちもねぇんですわ! 何かに食い尽くされちまったかのようでさぁ』

 

 インタビューを受けている漁師がそう証言していた。これを見た功海がつぶやく。

 

「明らか普通の事態じゃねーなぁ……これも怪獣が関係してるのかも。また俺たちの出番かもしれないぜ、克兄ぃ!」

 

 振り返って克海に呼びかけるが――克海は床に散らばったチラシを拾い集めている。

 

「千歌の奴……またこんな散らかして」

「克兄ぃ、それ何? チラシ?」

「ああ……バイトの広告だ」

 

 綾香市の様々なバイトの広告を見せてそう答える克海。

 

「バイト? 千歌が?」

「Aqoursがだな。千歌たち、この間のライブで予算使い果たして、部費に困ってるそうなんだ。自分たちで補填しないと、今後の活動に支障が出るそうだ」

「ふ~ん……千歌たちももう結構人気集めてるのに、それでも金に困るんだな」

「スクールアイドルはあくまで部活動。それで利益を得るのは、原則禁止されてるって」

「そうなんか。けど、スクールアイドルのグッズとかショップとかあるよな。それならあれって誰が稼いでんの?」

「それは知らん……」

 

 と話していたら、インターホンが鳴らされて来客を報せた。

 克海が出ると、玄関前に立っていたのはダイヤだ。

 

「ダイヤちゃん。今日は何の用? 千歌を呼ぼうか?」

「いえ……本日は克海さん、出来れば功海さんにも相談がありますの。千歌さんには、内密で……」

「えッ、千歌に内緒で……?」

 

 やや重々しい前置きに緊張を覚えつつ、ダイヤを居間に上げる克海。

 そして功海とともに彼女と向かい合って腰を下ろすと、眉間を寄せながら尋ねた。

 

「それで、どういう話なんだ? まさか、千歌のことでまた何かあったんじゃ……」

「い、いえ、そういうことではありませんわ。ただ、ちょっとした私事で……」

 

 克海が厳めしい顔をしているので、ダイヤは誤解を解くように返した。

 

「私事?」

「ええ。実は……」

 

 コホンと小さく咳払いして、ダイヤは克海と功海に尋ねかける。

 

「克海さん、功海さん……お二人は、わたくしの名前を、気軽にダイヤちゃん、ダイヤと呼びますわよね」

「ああ。果南ちゃんに合わせたんだけど……」

「もしかして嫌だったか? なら改めるけどさ……」

「いえ、そうではありませんの! 実は……」

 

 ダイヤは何故か少し恥ずかしそうにしながら、次の通り打ち明けた。

 

「わたくし、気がつきましたの……」

「何を?」

「千歌さんたちが、いつの間にか……果南さんや鞠莉さんを、気軽にちゃんづけで呼んでいると」

 

 何が言いたいのかよく分からず、克海と功海は思わず顔を見合わせた。

 

「それが?」

「ですが、わたくしのことは……さんづけなのです」

「それで?」

「それで……どうすれば、わたくしも果南さんたちのように呼んでもらえるようになるのかを、相談したくて……」

 

 これを聞いた功海が――プッと噴き出してしまう。

 

「何だよーそんなことかよ。要は、千歌たちともっと仲良くなりたーいってことだろ? 変にガチガチしてるから何事かと思ったじゃんか」

「わ、笑わないで下さいまし! まぁ、つまらないことを聞いているとは承知していますが……」

「そんなの、素直に気兼ねなく呼んでくれていいって言うだけでいいんじゃないか?」

 

 克海が肩をすくめながら提案するも、ダイヤは目を泳がせながら拒んだ。

 

「ですが、わたくしは生徒会長……。イメージというものがありますので……」

「めんどくさいな~」

「す、すみません。ですが、どうにかわたくしのイメージを壊さずに、距離を縮められないものかと悩んでおりますの。果南さんと鞠莉さんに話せば、きっと笑われてしまいますし……他に相談できる人がいませんので。どうか、お力になって下さいませんか?」

 

 と頼られる二人だが、腕を組んで首をひねる。

 

「そうは言ってもなぁ……俺たちにとってはダイヤちゃんは年下だから気兼ねないけど、千歌たちは逆だろう?」

「立場が全然違げぇからな~。どうすりゃいいかなんて聞かれてもな」

「そう……ですか……」

 

 残念そうにしょげるダイヤ。それを見かねて、克海と功海は思案して案を出す。

 

「そうだな……ここは単純に、距離を縮めてみるのはどうだ?」

「距離、ですか?」

「ああ。相手と親しくなるには、こっちから近寄っていかないとな」

「固い顔してたら向こうも緊張するぜ。笑顔で、あとこっちからもちゃんづけで呼んでみたらどうだ。そしたら合わせてくれるって」

「それで、上手くいくでしょうか?」

「それはダイヤ次第だな」

 

 功海たちに諭され、ダイヤもやる気を出していく。

 

「そうですわよね……何事も、やってみなくては始まりません。克海さん、功海さん、ありがとうございます。わたくし、挑戦してみますわ!」

「ああ。がんばれよ!」

「上手くいくよう応援してるぜ!」

「はい! きっと吉報をお知らせいたしますわ! それでは、本日は誠にありがとうございました」

 

 ペコリとお辞儀して、意欲に燃えながら退室していくダイヤ。それを見送りながら――功海がそっと克海に囁きかけた。

 

「本人張り切ってるけどさ……克兄ぃ、実際のとこどう思う?」

「分からん……。ただ、ダイヤちゃん、結構不器用だからなぁ……。どうなることやら……」

 

 克海は内心、一抹の不安を抱えながらダイヤの背中を見送っていた。

 

 

 

 後日、Aqoursの九人はイベントのバイトにより、綾香の水族館に訪れていた。

 千歌と花丸は食堂で皿洗いをしているが……シンクが泡まみれになって床にまでこぼれていた。

 

「花丸ちゃん、洗剤全部入れたから洗い物は早く済んだけど、床がビショビショだよ」

「盲点だったずら……。拭かないとダメずらね」

「私、雑巾もらってくるね」

 

 そう言って厨房から離れる千歌だが、外に出たところで、後ろから声を掛けられる。

 

「古き友は言った。人生が始まるや否や、そこに危険はある。ラルフ・ウォルド・エマーソン」

「えっ、その口調は……!」

 

 振り向くと、後方で沙紀が、腕を組んで壁にもたれかかっていた。

 

「危機はいつ、どこにでも存在している。そして大きな危機は、もう鼻先にまで迫っているかもしれない」

「沙紀ちゃん……! それってどういう?」

 

 沙紀は首を動かし、海と、空の方向へと目を向ける。

 

「お前も知っている通り、1300年前にこの星にクリスタルが散逸し、そのために自然環境のバランスに大きな影響を与えた。更に『アレ』の接近により、バランスの歪みは深刻になっている」

「アレ?」

「このようなアンバランスゾーンに、人智を超えた事態は起こる。用心しておくといい」

 

 それだけ言い残し、沙紀は足早に立ち去っていく。

 

「あっ、待って……!」

 

 追いかけようとした千歌だが、角を曲がった時にはもう沙紀は忽然と姿を消していた。

 千歌は呆然としながら独白する。

 

「沙紀ちゃん……相変わらず難しいこと言うなぁ。何て言いたかったんだろ?」

 

 少し悩むも、花丸を待たせていることを思い出して、慌てて雑巾を探しに踵を返した。

 

 

 

 その後、克海と功海が千歌たちの様子を、そしてダイヤの様子を見に水族館を訪れた。克海は、ダイヤに直接会って話を伺う。

 

「……そうか。上手くいかなかったんだ」

「はい……。どれだけやっても、皆さんから怒ってると思われたり、不気味に思われたりばかりで……」

 

 やはり、ダイヤは思い通りに事を進められていなかった。むしろ逆効果で、千歌たちとの距離は離れていくようにすら思えていた。

 ダイヤはすっかり意気消沈してしまっている。

 

「やはり、今更わたくしが皆さんと打ち解けようというのが間違いなのでしょうか……。思えば千歌さんには、最初は理不尽に辛辣に接したものです。それで仲良くしましょうなんて、虫のいい話かもしれませんわ……」

 

 落胆してネガティブになっているダイヤに、克海が説く。

 

「そんなはずないさ」

「え?」

「家では千歌、ダイヤちゃんのことをこう言ってるよ。ダイヤさんは賢くて頼りになる、あんな先輩がいてくれてとってもラッキーだって」

 

 克海から知らされたことに、ダイヤが驚いたように目を丸くした。

 

「千歌さんが、そんなことを……」

「他のみんなだって、ダイヤちゃんのことを尊敬してるみたいだ。だからこそ、ダイヤちゃんのことをダイヤさんと呼ぶんだろう。決して、近寄りがたいなんてことは思ってないはずだよ」

「そ、そうでしょうか」

 

 ダイヤの頬がやや上気し、徐々に気分が晴れていく。

 

「だから、無理して自分を作ろうとしなくてもいいんじゃないかな。何せ、ダイヤちゃんは今のままで十分に可愛らしい女の子なんだから」

 

 ニコッと微笑みかけた克海に、ダイヤの頭からボッと湯気が出た。

 

「な……どさくさに紛れて、わたくしを口説こうとしてませんか! いくら克海さんでも、わたくしはそういうことを考えるつもりは、まだありませんわよ!」

「いや、そんなつもりじゃないよ。自分を作ろうとしてるのは俺の方だな、これじゃ」

「もう……」

 

 自嘲気味に笑う克海にそっぽを向きながらも、ダイヤは気恥ずかしさからもじもじ悶えていた。

 

 

 

 千歌たち他の八人の方には、見かねた功海がダイヤのことについて打ち明けている。

 

「そうだったんだ、お姉ちゃん……」

「ダイヤの奴、きっと自分だけみんなと距離があるって思って、それで悩んでたんだと思うぜ。決して怒ってたとかじゃないから、誤解はしないでやってくれよ」

「ダイヤ、ほんとはすごい寂しがりだからねぇ」

 

 肩をすくめる果南。首から下にうちっちーの着ぐるみを纏っている曜は、皆を見渡しながら尋ねる。

 

「それじゃあ、これからはダイヤさんも、ダイヤちゃんって呼ぶべきかな?」

「それが本人の望みならねぇ……」

 

 善子はため息交じりにつぶやくも、千歌は複雑そうな顔をする。

 

「う~ん……だけどなぁ……」

 

 と、その時――水族館に遠足に来ている幼稚園の園児が、引率の先生に向かってこんなことを叫んだ。

 

「せんせー、セイウチ!」

「うーん、惜しいわね。あれはアシカよ」

 

 先生はプールの方に目をやり、水族館の目玉のショーの主役を務めるアシカを見やりながらそう返した。

 しかし、園児の目は海の方に向けられていた。

 

「ううん、キバがあったもん! それに、すっごいおっきいの!」

「え?」

「……大きい?」

 

 功海は耳に入った園児の言葉が引っ掛かって、ベンチから臨む海に首を向けた。

 その時に――海面が下からどんどんと持ち上がっていく。

 

「What’s!?」

「何事!?」

 

 異常事態に気がついた梨子たちが咄嗟に腰を浮かした。功海のスマホからは、バイブス波検知のアラートを鳴らす。

 

「ガオオオオオオウ!」

 

 そして盛り上がった海面が割れ――中から長い牙を口の端から伸ばした、直立した海獣のような巨大生物が姿を現す!

 これをひと目見た千歌が叫ぶ。

 

「お……おっきいうちっちー!?」

「違うッ! 怪獣だッ!!」

 

 功海が訂正した通り、海から出現したものの正体は、セイウチが自然環境のバランスが崩れた歪みの影響によって異常に成長した結果誕生した、海象怪獣デッパラスであった!

 



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決戦!AQUARIUM(B)

 

「ガオオオオオオウ!」

「きゃあ――――――!? 怪獣ぅ!」

「いやぁぁぁ―――――――!」

 

 海から出現したデッパラスは、身を乗り出して水族館のアシカショーのステージを覗き込む。巨体の陰が覆い被さって、観客席にいる人たちは悲鳴を発して大パニックとなった。

 千歌たちももちろん、怪獣の出現に驚いている。

 

「沙紀ちゃんがさっき言ってたのって、まさかこれ……!?」

 

 デッパラスはアシカの餌の魚が詰まったバケツを見つけると、それを手で掴んでムシャムシャと貪り食った。ルビィが叫ぶ。

 

「ああっ! アシカさんのご飯が!」

「海から魚がいなくなったのは、あいつの仕業かッ!」

 

 デッパラスの食欲を目の当たりにした功海が推測する。

 だがデッパラスはバケツ一杯分の魚では到底足りなかったようで、ステージ上をジロジロと見回して次の獲物を探す。

 

「大変! アシカさんが危ないずら!」

「危ないのは私たちかもよ……!」

「ぴぎぃ! 果南ちゃんやめてよ!」

「いいえ……!」

 

 鞠莉が冷や汗まみれになりながら首を振った。

 何故なら、デッパラスの視線は、驚いて泣き出してしまい、引率の先生だけではとても逃がし切れない幼稚園児たちに注がれているからだ。

 

「危ないのはあの子たちよっ!」

「こいつはやべぇぜッ!」

 

 焦る功海が、素早く指示を飛ばしながら駆け出す。

 

「千歌たちは子供たちを頼む! 曜は俺と来い!」

「よ、ヨーソロー!」

「功海お兄ちゃん、お願い!」

 

 園児たちを千歌らに託した功海の後に、曜が着ぐるみの足をバタバタ振りながら走っていく。

 観客席の陰に飛び込んだ功海と曜の元へ、克海とダイヤが駆けてくる。

 

「克兄ぃ、こっちこっち!」

「急いで!」

「ああ!」

 

 人の目から隠れると、克海と功海は即座にルーブジャイロを構えた。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 大急ぎでクリスタルを選択し、セットしてグリップを引いていく。

 

[ウルトラマンビクトリー!]

[ウルトラマンギンガ!]

「ダイヤッホー!」

「ヨーソロー!」

 

 そうしてダイヤ、曜とともに変身!

 

[ウルトラマンロッソ! グランド!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 デッパラスは今にも園児たちを捕まえようと手を伸ばしている。

 

「ガオオオオオオウ!」

「こ、来ないでっ!」

 

 子供たちをかばいながら、必死に叫んで少しでも威嚇する梨子。その時に、

 

『『はぁぁッ!!』』

 

 ロッソとブルの拳がデッパラスの鼻先を殴りつけた!

 

「ガオオオオオオウ!」

 

 不意打ちに驚いたデッパラスがよろけて後ずさった。ロッソとブルは海上に着水すると、急いでいたので変身してから拳を打ち鳴らし合う。

 

「みんな、もう大丈夫だよ! ウルトラマンさんが助けに来てくれたの!」

「ふぅ……ラグナロクは阻止されたわ」

 

 千歌が子供たちをあやし、善子は助かったことに安堵の息を吐いた。

 

『『はッ!』』

「ガオオオオオオウ!」

 

 ロッソとブルが大見得を切ってデッパラスを威嚇。しかし食事を邪魔されたデッパラスは怒って二人に襲い掛かってくる。

 

『水族館には近づけるなよ!』

『分かってるって! 行くぜッ!』

 

 ロッソたちは背にしている水族館を守るために、こちらからもデッパラスにぶつかっていって進撃を食い止めようとする。だが、デッパラスの全体重を乗せた体当たりに二人がかりでも跳ね返された。

 

『「うわわっ!?」』

『「途轍もないパワーですわ……!」』

 

 デッパラスの突進の威力を見せつけられたダイヤたちが冷や汗を垂らした。

 

「ガオオオオオオウ!」

 

 デッパラスは更に口から火炎を吐いて攻撃してくる!

 

『うわッ!? 熱ッ!』

『「いけません! 水族館が燃えてしまいます!」』

 

 ロッソたちが熱で苦しめられるだけでなく、水族館への延焼をダイヤが危惧した。

 

『ここは俺たちに任せてくれ!』

『「火には水だよっ! 消火消火!」』

 

 火炎放射に対抗して、ブルが手の平から水流を発射する。

 

「『アクアジェットブラスト!!」』

 

 水流で火炎を消し止め、更にデッパラスの腹にも食らわせる。

 

『このまま押し出すッ!』

「ガオオオオオオウ!」

 

 が、デッパラスは水流を浴びせられても数歩後ずさっただけであった。

 

『「びくともしないよ!?」』

『重すぎだろ! ダイエットしろッ!』

 

 文句をつけるブル。

 

『なら俺たちが!』

 

 ロッソが土のボールを握り、振りかぶる。

 

「『グランドコーティング!!」』

 

 土の塊をデッパラスにぶつけて全身を包み込み、封じ込もうとするも、

 

「ガオオオオオオウ!」

 

 覆い込む前に、拘束を力ずくで破壊されてしまった。

 

『駄目か……!』

『「あのパワーが厄介ですわね……!」』

 

 目論見がことごとく破られて苦戦するロッソとブル。

 デッパラスは、今度は長い牙を二本とも切り離して飛ばしてきた!

 

『何ッ!?』

『うおぉ危ねッ!?』

 

 咄嗟に牙から身をよじるロッソたち。しかし牙をよけられてもデッパラスは突っ込んできて、二人を殴り飛ばす。

 

「ガオオオオオオウ!」

『ぐッ! なかなかやるじゃん……!』

『けど、これ以上暴れられたら被害が千歌たちに及ぶかもしれないぞ……!』

 

 なかなかデッパラスを水族館から引き離せないことに焦りを覚えるロッソ。それでブルが呼び掛けた。

 

『だったらぶつけてやろうぜ! 俺たちの全力!』

『よし! 行くぞッ!』

 

 ロッソの合図で、ダイヤが極クリスタルを掴み取った。

 

[極クリスタル!!]

『「「セレクト、クリスタル!!」」』

 

 つながったインナースペースでダイヤと曜が叫び、クリスタルから三本角を展開する。

 

[兄弟の力を一つに!]

 

 ダイヤがクリスタルを、曜が掲げるジャイロにセットする。

 

『『纏うは極! 金色の宇宙!!』』

 

 そしてダイヤと曜でジャイロのグリップを引いて、エネルギーをチャージ。

 

『「「サンシャイン!!」」』

 

 極クリスタルが金色に輝き、その力でロッソとブルが融合!

 

[ウルトラマンルーブ!!]

「デュワッ!」

 

 合体して一人のウルトラ戦士と化したルーブに、デッパラスが驚いて目を見張った。

 

『「まずは私から!」』

 

 インナースペースで曜が前に進み出ると、極クリスタルの文字が「航」に変化する。

 

[ルーブ・クルーズ!!]

「ハァッ!」

 

 タイプチェンジしたルーブは足から水のジェットを噴出し、海上をスキーのように高速で走り回る。

 

「ガオオオオオオウ!」

 

 己の周囲を駆け回るルーブの動きに、重量級故にパワーはあってもスピードが鈍いデッパラスはまるでついていけず、翻弄された挙句に目を回してしりもちを突いた。

 

『「次はわたくしですわ!」』

 

 曜と交代してダイヤが進み出ると、クリスタルの文字が「煌」に変わった。

 

[ルーブ・ブリリアント!!]

 

 ルーブの身体に琥珀色と赤色のラインが走り、更にルーブコウリンを取り出す。

 

「『ルーブコウリンロッソ!!」』

 

 コウリンを正面に構えると、それを中心に煌めく鉱石を集めて巨大な岩の球体を作り上げる。

 

「『「『ブリリアント・グランドコーティング!!!!」』」』

 

 それをコウリンの操作で投げ飛ばすと、デッパラスの全身が岩の中に包み込まれた。今度は破壊されない。

 

「オォォッ!」

 

 ルーブは手の平から念動力を発し、封じ込めたデッパラスを持ち上げてはるか遠くの海洋にまで運び去り、そこで海の中に沈めた。

 デッパラスは海底に封印され、長い眠りに就いたのであった。

 

「シュアッ!」

 

 怪獣の脅威を取り除いたルーブは、大空高くに飛び上がって去っていった。

 

 

 

 元の姿に戻って水族館に戻ってきた克海たちだが、怪獣がいなくなってもそこは惨状であった。

 

「えーん! えーん!」

「ママぁ――――――!」

「み、みんな落ち着いてぇ……!」

「怖いのいなくなりましたよー。だから泣きやんで~……」

 

 恐怖に晒されていた園児たちが、一向に泣きやまずに大声で喚き続けているのだ。千歌、梨子たちもどうにか落ち着かせようと手を焼いているが、効果は出ていない。

 

「お、おいおい、大変なことになってるな……」

「これじゃ収集つかねぇぜ……。克兄ぃどうする?」

「どうするって言ったってなぁ……。千歌が泣いてた時はどうしてた?」

「千歌とは違うぜ克兄ぃ……」

「あれ? ダイヤさんは?」

 

 ふと、曜が一緒に戻ってきたはずのダイヤの姿がいつの間にかなくなっていることに気がついた。

 その時、ピピーッ! とけたたましいホイッスルの音が鳴り響き、全員が思わずその発生源に気を取られる。

 

「さぁ、みんな! スタジアムに集まれー!!」

 

 見れば、ダイヤがステージの真ん中に立ち、明るい声を出して園児たちに呼びかけた。

 

「わぁっ!?」

「何なにー?」

 

 ダイヤの活気にあてられた園児たちはコロッと泣きやみ、笑顔に変わってプール越しにダイヤの前へと集まっていく。

 

「園児のみんな、大声を出すのは他の人の迷惑になるから、ぶっぶーですわ! みんな、ちゃんとしましょうね」

「はーい!」

 

 子供番組の司会のお姉さんのような所作で園児たちを諭すダイヤの様子に、功海はヒュウッと口笛を吹いて感心した。

 

「ダイヤの奴、やるじゃんか。みんなあっという間に泣きやんだぜ」

 

 功海の傍らでうなずく克海。

 

「ダイヤちゃんの元気さに感化されたんだな。子供は純粋だから」

「なるほどな。けど、こんな簡単でいいなんてなー。何で分かんなかったんだろ」

「いや……こうして見れば簡単に見えるが、さっきの状況で冷静に、的確に、即座に行動するのはなかなか出来ることじゃないだろう。それだけ、ダイヤちゃんの分析力、リーダーシップが優れてるってことさ」

 

 すっかり園児たちをしつけたダイヤのことを高く評価する克海の側で、千歌が満足げな笑みを浮かべてダイヤの姿を見やっていた。

 

 

 

 その日の夜、バイトが終わって水族館の入り口前で、ダイヤが皆に対してぽつりと述べた。

 

「結局、わたくしはわたくしでしかないのですわね……」

「それでいいと思います」

 

 千歌が、ダイヤの言葉にそう返した。

 

「私、ダイヤさんはダイヤさんでいてほしいと思います。確かに、果南ちゃんや鞠莉ちゃんと違って、ふざけたり冗談言ったりできないなって思うこともあるけど……でも、ダイヤさんはいざってなった時、頼りになって、私たちがだらけてる時は、叱ってくれる……ちゃんとしてるんですっ! だからみんな安心できるし、そんなダイヤさんが大好きです。ね?」

 

 千歌の呼びかけに、他の七人が笑顔で肯定の意を示した。

 

「だから、これからもずっと、ダイヤさんでいて下さい。よろしくお願いします!」

「……わたくしはどっちでもいいのですわよ、別に」

 

 千歌の頼みに、ダイヤは口元のほくろを指でかきつつぶっきらぼうに答えてごまかした。

 それを悟って笑いをこらえる果南と鞠莉に、千歌たちが不思議そうに振り返っている間に、克海がダイヤに呼びかける。

 

「言っただろう? 今のままでいいって」

「……そうですわね。わたくし、些細なことにこだわって、皆の気持ちが見えていませんでしたわ……」

「まぁ、そんなことは誰にだってあるさ。俺たちにだって」

 

 ウルトラマンを始めてから今日までの、決して平坦とは言えない道のりを思い出して、克海は苦笑を浮かべた。

 

「みんな、迷いながら、間違えながら、自分の進んでく道を選んでいく。むしろ一本の道しか知らない方が危ないんだろう。だから迷ったり、自分が分からなくなったりすることも、決して悪いことじゃないと思うな」

「ふふっ……そうですわね。今までも、そうでしたわ……」

 

 これまでの、スクールアイドルとしての、二人のウルトラマンの仲間としての、艱難辛苦を思い返し、ダイヤは感慨に満ちていた。

 そんな彼女に、仲間たちが声をそろえて呼び掛ける。

 

「せーのっ!」

「「「「ダイヤちゃーん!!」」」」

 

 その声に、ダイヤは柔らかい微笑みを浮かべて応えた――。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

ダイヤ「ダイヤッホー! 今回ご紹介致しますのは、『ウルトラ六兄弟』ですわ!」

ダイヤ「この歌は『ウルトラマンタロウ』で挿入歌として使われたもので、前作『ウルトラマンA』で設定され人気を博した、歴代ウルトラ戦士によるチーム「ウルトラ兄弟」のテーマ曲ですわ。この時点では六番目のタロウが最新でしたので、六兄弟ということですわね」

ダイヤ「とてもテンポが良く覚えやすく、かつウルトラ兄弟が登場する印象深い場面での挿入歌ですので、使用回数が多かった訳ではないものの記憶には残りやすくなっております。そのため後年アレンジ版やカバーバージョンが発表されましたわ」

ダイヤ「この曲の印象のために、ウルトラ兄弟といえばゾフィーからタロウまでの六人だという方もいらっしゃるのではないでしょうか」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『恋になりたいAQUARIUM』だ!」

功海「Aqoursの二枚目のシングルの表題曲だな! 第一回センター総選挙で一位になった曜を中心に歌唱されてる歌で、タイトル通り水族館、つまり海を連想させる歌詞が特徴だ」

克海「アニメーションPVも制作されてて、実在の伊豆・三津シーパラダイスが舞台になってる。マスコットのうちっちーとの縁はここからスタートしたんだ」

ダイヤ「それでは、次回でお会い致しましょう!」

 




ルビィ「梨子ちゃんは相変わらず犬が苦手。だけど、ひょんなことから善子ちゃんとワンちゃんのお世話をすることになったの」
花丸「善子ちゃんも梨子ちゃんも随分可愛がってるずら。だけど、お別れはそう遠くないずら……」
ルビィ「でも、そんな時に忍び寄る影! 功海さん、克海さん、梨子ちゃんたちを助けて!」
花丸「次回、『激突!TONIGHT』!」
ルビィ「次回もがんばルビィ!」


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激突!TONIGHT(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

果南「ラブライブ予備予選を突破した私たちだけど、活動費が足りなくなった。そんな時ダイヤの、ダイヤちゃんと呼ばれたいなんて悩みが明らかに。色々頑張っても上手く行かないダイヤ。だけど、事件を通じて今の自分でいいと悟ったのだった」

 

 

 

 ある雨足の強い晩、『四つ角』で千歌が克海と功海に尋ねかけた。

 

「ねぇねぇお兄ちゃん、狼男って本当にいると思う?」

「何? 狼男?」

 

 克海と功海は、突然のことにきょとんとしながら振り向いた。

 

「また変なことを聞くな……。何で狼男なんだ?」

 

 克海の聞き返しに、千歌が訳を話す。

 

「今、綾香の方で噂になってるんだって。狼男を見た! っていう人がチラホラ出てきてるって」

「へぇ……。また妙な噂が立ったもんだ」

「それで、その狼男が本物なのかなって。お兄ちゃんたちはどう思う?」

 

 興味津々に尋ねた千歌に、克海は大きく肩をすくめた。

 

「馬鹿言え。狼男なんてコテコテのモンスター、実在する訳がない」

 

 頭から否定する克海に、功海が茶々を入れる。

 

「よく今になってもそんなことが言えるもんだな、克兄ぃ。怪獣と直に戦ってる身なのに」

「だよねー。怪獣がいて、狼男がいないなんてどうして言えるの?」

「うッ、それもそうだが……。けど、何か被害が出たとかいう話じゃないんだろ?」

「まぁ、そんな噂は聞かないけど」

 

 千歌がうなずくと、功海の方もネットを軽く検索して調べた。

 

「ここんとこは怪獣とかのニュースはないぜ」

「なら気にすることもないだろ。それより千歌、ラブライブの方は大丈夫なのか? 次は前突破できなかった地区予選だろ」

 

 Aqoursの進捗具合を気に掛ける克海。

 

「うん……今度は絶対合格しなくちゃ! そのために、次のパフォーマンスをどうするかをみんなで相談してるんだ」

「早いところ決めた方がいい。練習の時間も考慮しないとダメだぞ」

「分かってるってぇ」

「次は観客をあっと言わせるようなので勝負したらどうだ」

 

 狼男の話題は短く終わり、兄弟はラブライブ地区予選に挑む妹を激励し。

 

 

 

『激突!TONIGHT』

 

 

 

 功海と曜がしいたけの頭をなでて落ち着かせていた。

 

「よーしよしよしよし、いい子だしいたけ。そのままじっとな」

「いける! 大丈夫! 絶対動かないから!」

 

 曜がそう告げたのは、階段の手すりに身を隠すようにしている梨子。彼女は曜の言葉を信じて、そろそろとしいたけに近づいていき、頭に震える手をかざす。

 

「わんっ!」

「ひぃぃぃぃっ!」

 

 しかししいたけが鳴き声を出すと、途端に怖気づいてものすごい勢いで後ずさっていった。

 

「やっぱり無理ぃぃぃ~!」

「こらしいたけ! じっとって言っただろ!」

「くぅ~ん……」

「……何やってるんだ、そこ」

 

 功海に叱られたしいたけがうなだれていると、二階に上がってきた克海がこの現場を目にして呆れ顔を作った。

 

「梨子ちゃんが、しいたけと目が合って触れるかもって」

「ほんと!?」

 

 曜の言葉に反応したのは、部屋から顔を出した千歌だ。バババッと梨子の元へ駆け寄ると、その手を取る。

 

「どうぞどうぞ♪」

「あっ……!」

 

 そのままぐいぐい引っ張って、しいたけに近寄らせていき、もう一度触れさせようとするが……。

 

「わうっ!」

「ひぃぃぃぃ~!」

 

 しいたけが鳴くと、またもすごい勢いで逃げていった。

 

「ダメ~! やっぱり無理~!」

 

 音を上げる梨子に肩を落とす千歌。

 

「はぁ~……しいたけ、梨子ちゃんのこと大好きだと思うんだけどなぁ」

「確かに、率先してじゃれつこうとするよな」

「そんなことないでしょ~!」

 

 千歌のひと言に功海は同意したが、梨子は拒むように否定。しかし千歌は言い切る。

 

「そんなことある。犬は見ただけで、敵と味方を見分ける不思議な力があるって」

「ええ……?」

 

 そう言われても、梨子は信じがたい様子。このやり取りを見届けた克海が軽く肩をすくめた。

 

「相変わらず、梨子ちゃんは犬が苦手なんだな」

「けど、そろそろ慣れてほしいぜ。ウチに来る度に、しいたけをつないでたらしいたけがかわいそうだろ?」

 

 とつぶやく功海。しいたけは基本、『四つ角』の中で放し飼いだ。

 

「まぁそれもそうだが……」

「いい加減会議始めるよー」

「はーい」

 

 克海と功海が話していたら、果南が顔を出して千歌たちに呼びかけた。

 

「それじゃお兄ちゃんたち、また後でね」

「おーう」

 

 しいたけのことを功海に任せ、千歌たちは部屋の中に入っていった。それを見送った克海と功海が向かい合う。

 

「千歌たちは今日もラブライブへの作戦会議か」

「けど、なかなか案が纏まらないみたいだぜ。まぁ、地区予選ともなるとレベル高くなってくるしな」

「ああ……そう簡単には合格を勝ち取れないよな」

 

 前回の地区予選での他のグループのステージを思い返す二人。比較的競争の小さい千歌たちのブロックでさえ、出場校のレベルが高いと感じさせられた。本選まで視野に入れれば、頂点に立つのは並大抵のことではないだろう。

 

「まぁ、実際どうするかは千歌たちに任せよう。俺は仕事に戻る」

「ほーい。んじゃあ行くぞしいたけ」

「わんっ」

 

 克海が階段を下りていき、功海もしいたけを連れてこの場から離れていった。

 

 

 

 しかし数分後、

 

「おーいしいたけ~、おやつだぞ~……あれ?」

 

 功海が餌を盛った皿を手に廊下に出てくるが……しいたけの姿が忽然と消えていた。

 

「変だな。ついさっきまで、そこに待たせてたのに……ん?」

 

 奇妙に思って辺りをキョロキョロと見回していると……二階にいるはずの善子が、コソコソしながら裏口より外へ出ていこうとするところを発見した。

 

「おいヨハネ、もう帰るのか? さっき会議始めたとこだろ?」

 

 その背中に声を掛けると、善子はビクゥッ! といやに大仰に肩を跳ね上がらせながら振り返った。

 

「よ、ヨハネは天界の勢力の波動を察知したため、現空間より離脱するわっ! それじゃっ!!」

 

 と言い残して、善子はすたこらさっさと裏口から出ていった。

 功海はポカンと、その後ろ姿を見送った。

 

「何だ何だ、変な奴だな……まぁ変な奴だけど」

 

 

 

 それから数日後、克海と功海が千歌からある相談を持ち掛けられていた。

 

「えッ、梨子ちゃんが?」

「うん。どうも様子が変で……」

 

 千歌はそこまで深刻でもないが、気には掛けているといった具合に眉を寄せながら告げた。

 

「この頃、練習が終わるとすぐに帰っちゃうの。それどころか、終わりが近くなるとそわそわして早く帰りたがってるし。去り際も、何だかウキウキした顔してて。急にどうしたのかなって……」

「最近何かいいことあった? とか聞いてみたか?」

「聞いたけど、何かはぐらかされちゃうの。隠すようなことでもあるのかな、梨子ちゃんに……」

 

 千歌が首をひねっていると、功海があーと声を上げつつ言う。

 

「そう言や、こないだヨハネの方がいやに早くウチから帰ってたよな」

「あーそれ! あの時は突然善子ちゃんいなくなっちゃったから、ビックリしちゃった。どうしたのかなぁ、二人とも……」

「まッ、そんなの理由は一つしかねぇだろ」

「え? 何なに?」

 

 功海は下世話な笑いを浮かべながら語った。

 

「男が出来たに決まってんだろ!」

「えぇー!? 梨子ちゃんに、彼氏ぃ!?」

「女子高生がすぐに帰りたがるってことがあったら、十中八九はそうなんだよ。帰って男とデートに行ってんだって」

「彼氏なんて……そんな気配、全然なかったのに……。それに、だったら善子ちゃんはどうなるの?」

「同じだって。いや、もしかしたら相手も同じかもしれねぇぞ?」

「えぇぇ―――!!?」

 

 功海の勝手な推論に大仰に驚く千歌。

 

「時系列的に言って、梨子の方が横恋慕で略奪愛。それに怒り満々のヨハネ、やがて爆発して梨子と泥沼の女の戦争に……やべーぞ千歌! Aqoursまで分裂しちまうかも!」

「た……大変だよぉぉぉぉ―――――! やめて梨子ちゃん善子ちゃぁぁんっ!」

「……馬鹿を言うのはよせ。昼ドラの見すぎだ」

 

 千歌をからかって遊ぶ功海に、克海が呆れ返った。

 

「そんな大したことでもないだろ。明日、梨子ちゃんの親御さんにでも何か知らないか聞いてみるよ」

「ありがと、克海お兄ちゃん! お願いね」

 

 と克海が請け負い、千歌がお礼を言った。

 

 

 

 翌日の夕方、申し出た通りに克海がお隣の桜内家を訪問。インターホンを鳴らす。

 

「すみませーん」

「あら克海君、いらっしゃい。どうしたのかしら?」

 

 応対に出た桜内家の母に、克海が尋ねかける。

 

「お宅の梨子ちゃんは、もう帰ってますか?」

「梨子? ええ、今は部屋にいるけど……」

 

 この遅くもない時間に帰宅しているということは、やはり男とデートしているということではない模様だ。

 

「そうそう。さっき、善子ちゃんが遊びに来てね」

「善子ちゃんが?」

 

 ここで意外な名前が。彼女も様子が妙だったと聞いたが、何かつながりがあるのだろうか?

 と思っていると、二階の方から何やら言い争う声が聞こえてくる。

 

「何だか騒がしいですね……」

「あらやだ、お恥ずかしい……。梨子ったら、善子ちゃんと何やってるのかしら」

「お邪魔します」

 

 気になった克海は桜内家に上がって、梨子の部屋の扉を開いた。

 すると、目に飛び込んできた光景は、

 

「大体何よ! 犬苦手だったじゃないの!?」

「苦手だけど、仕方ないでしょ! 面倒見てほしいって言ったのは善子ちゃんよ!?」

「ヨハネ!!」

 

 梨子と善子の二人が面と向かって、激しく言い争っているものであった。

 

「……二人とも、一体何を……ん?」

「あっ、克海さん……!?」

「克海……!?」

 

 一瞬呆気にとられた克海だが、その目が二人の持っているある物に向けられる。

 持ち運び用の、ペットのケージ。その中には、一頭のシェルティ犬が入っていた。

 

 

 

「……なるほどねぇ。隠れて犬を飼ってたと、そういう訳だったか……」

「はい……」

 

 日が落ちる中、梨子と善子が言い争いしていた原因たる犬を外で散歩させながら、二人から事情を聞いた克海が吐息を漏らした。

 事の発端は数日前。善子はひょんなことから綾香で、飼い主もなく街をさまよっていたこの犬を保護。しかし彼女のマンションはペット禁止であったため、やむなく外で隠れながら世話をしていた。そこを梨子が偶然発見し、新しい飼い主が見つかるまでの条件で協力させられていた、と、そういう経緯だったのである。

 

「けど、どうして梨子ちゃんのところに頼んだんだ?」

「ズラ丸とルビィの家は厳しいそうだし、鞠莉の家はホテルで、果南はお店あるし……克海のところはしいたけがいるでしょう? この子が怖がったらいけないから……」

「ということで、消去法で押しつけられたんです……」

「なるほど。でも梨子ちゃん、いくら怖いからって、犬をずっとケージの中に入れてたら駄目だぞ。定期的に散歩させないとストレスが溜まってしまうんだ」

「そ、それは分かってたんですけど……」

 

 梨子が注意されていると、善子が何故か勝ち誇ったように微笑んだ。

 

「だから言ったでしょう? やっぱりライラップスはヨハネの家で預かるわ」

 

 そのひと言に強く反発する梨子。

 

「だからっ! マンションで駄目だから私に頼んできたんでしょ!? ノクターンのお世話は私がするから!」

「ちょっとくらいなら平気よ! っていうか、この子の名前はライラップスよ!」

「いいえ、ノクターンよ! 善子ちゃん!」

「だからヨハネ!」

 

 名前を巡ってぎゃあぎゃあ口喧嘩する二人に克海が苦笑い。それから口を挟んだ。

 

「いや……そもそもこの犬、元の飼い主がいるんじゃないか?」

「「え?」」

 

 虚を突かれて同時に振り向く梨子と善子。克海はしゃがみ込んで、チッチッと舌を鳴らして犬を手招きする。

 

「きゃんきゃんっ!」

 

 犬は初対面の克海にも物怖じすることなく近寄って、彼に頭を撫でられた。

 

「ほら、こんなに人間慣れしてるし、捨てられたとかじゃなさそうだ。となると、迷子になったか……。もしかして、綾香でこの子を捜してる人がいるんじゃないか?」

「そ、それは……」

 

 そんなこと、考えもしなかった……という風に口ごもる梨子と善子。

 それとともに二人は、あからさまに迷いの色を見せる。

 

「……とにかく、明日綾香の交番にでも行って、迷子の犬を捜してる人がいないか聞いてみよう」

「う、うん……」

 

 梨子たちの返事は歯切れが悪かった。その様子を見て取った克海は、少し肩をすくめた。

 

「愛着が湧くのも分かる。けど、やっぱり元の飼い主がいるなら、帰してあげるべきだ」

「……そうですよね……」

「お前も、帰る家があるなら帰りたいだろう」

「あんあんっ!」

 

 克海に喉をくすぐられ、犬は気分良さそうに鳴き声を上げた。

 

「いい子だ」

「アオ――――――――ンッ!」

「……ん?」

 

 唐突に、犬の遠吠えらしき声が聞こえて、克海は訝しげに顔を上げる。

 

「今の、この子か?」

「いいえ……」

「もっと別のところから聞こえてきたわよ……」

 

 善子たちが辺りをキョロキョロと見回した、その時、

 

「アオ――――――――ンッ!」

 

 近くの建物の屋上を蹴り、何かの影が彼らの側に飛び降りてきた!

 

「きゃあっ!?」

「何だッ!」

 

 咄嗟に警戒して梨子たちをかばう克海。いきなり現れた影は、頭部に三角形の耳を生やし、顔がごわごわの毛で覆われている。

 

「こっちも犬!?」

「いや――!」

 

 上半身は犬のようであるが、二本の足で立ち上がっている。毛の色は燃えるように赤く、その面は犬の原種たる狼に近い野性味に溢れていた。

 

「狼男!?」

 

 先日、千歌から聞いた噂話を思い出して、克海が口走った。

 狼男の正体、それは――サイボーグ獣人ウルフファイヤー!

 



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激突!TONIGHT(B)

 

 いきなり目の前に出現したウルフファイヤーの威容に、克海たちはそろって仰天。

 

「狼男! 実在したなんて……しかもマッチョ!」

「べ、ベルセルクだわ! 神々の黄昏(ラグナロク)が近いと言うの!?」

 

 自分たちの倍以上はある腕や胴の太さに目を見張る克海、善子。ウルフファイヤーはそんな彼らに対して牙を剥き出しに威嚇している。

 

「グルルルル……!」

「あ、あぁぁぁ……!」

「梨子っ! 気をしっかり!」

 

 元より犬に弱い梨子は、ウルフファイヤーの面構えに恐れおののいていた。卒倒しそうな彼女を、善子が肩を抱いて励ます。

 

「ガルルルルッ!」

 

 三人をにらんでいたウルフファイヤーは地を蹴り、鉤爪の生えた腕を構えて飛びかかってきた!

 

「こいつッ……!」

 

 咄嗟にルーブジャイロを取り出す克海だったが、使用する前にウルフファイヤーの横殴りを食らって吹っ飛ばされる。

 

「うわぁぁぁッ!」

「克海さん!?」

「克海!!」

 

 動揺する梨子と善子だが、克海に気を向けていることは出来なかった。ウルフファイヤーは倒れた彼には目もくれず、二人ににじり寄ってくるのだ。

 

「何でこっちを狙ってるの!? ヨハネが堕天使だから!?」

「ひぃぃぃ……!」

 

 善子が後ずさるが、足がすくみ上がっている梨子をかばっているので、逃げ出すことが出来ないでいた。ウルフファイヤーは、二人に一体何をしようとしているのか!

 

「あんっ! あんあんっ!」

 

 絶体絶命の状況下で、ウルフファイヤーに向かって吠え立てる声があった。

 

「ライラップス!」

「ノ、ノクターン……!?」

 

 善子たちが連れていた犬だ。二人の正面で、ウルフファイヤーへと必死に威嚇している。

 

「ガルルルルッ!」

 

 しかしそれが逆にウルフファイヤーの神経を逆撫でさせて、牙を剥き出しにして犬に飛び掛かろうとする!

 

「あぁっ!?」

 

 大声を上げる善子。そして、梨子は、

 

「ダメぇぇぇぇ―――――――――っ!!」

「梨子!?」

 

 勝手に身体が動き、犬を抱え上げて背にかばう。ウルフファイヤーは自然と、彼女に襲い掛かる形となり――。

 

「うらぁぁーッ!」

「ギャインッ!」

 

 横から飛び込んできた功海がバットで殴りつけたことで、ウルフファイヤーが横に倒れて梨子は助かった。

 

「功海っ!」

「ああ、ありがとうございます……でも、どうしてここに?」

「バイブス波を検出したのさ。克兄ぃ、大丈夫か?」

「あ、ああ……」

 

 呼び掛けられた克海がどうにか起き上がり、梨子たちの前まで回ってくる。そこで梨子の腕の中の犬に気づいた。

 

「梨子ちゃん、それ……」

「え? ……きゃっ!?」

「おっと!?」

 

 我に返った梨子が反射的に犬を放したので、克海が咄嗟にキャッチして地面にそっと降ろした。

 

「もう、危ないわね」

「ご、ごめん……」

 

 善子にたしなめられてつい頭を下げる梨子。事情を知らない功海はきょとんとしている。

 

「グルルルル……!」

 

 そこでウルフファイヤーが起き上がったため、克海と功海が梨子たちをかばいつつにらみ合い。ウルフファイヤーも流石に二人が相手では迂闊に飛び込んではこないが、その時、

 

「あ、あれ見てっ! 天覆う黒影!」

 

 善子が夜空を指差す。顔を上げると、いつの間にか彼らの頭上に円形の巨大な飛行物体が漂っていた。

 

「何だあれ!」

「UFOじゃん!?」

 

 功海の言葉通りの円盤は、下部から怪光線を照射してウルフファイヤーに浴びせる。

 

「アオ――――――――ンッ!」

 

 その途端、ウルフファイヤーは瞬く間に天衝くほどの身長にまで巨大化した!

 

「お、大きくなった!」

「フェンリル!?」

「克兄ぃ!」

「ああ……!」

 

 改めてルーブジャイロに手を掛ける克海だが、梨子を気に掛けて振り向く。

 

「梨子ちゃん……怖かったら、逃げてていいんだぞ」

 

 そう告げられた梨子だが、足元の犬に目を落とす。

 

「くぅ~ん……」

 

 巨大化したウルフファイヤーに震えている犬を見て、決意を固めた。

 

「いいえ……行けますっ!」

「そうか……じゃあ行くぞ!」

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 梨子と、善子とともに、克海と功海が変身を行う。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

[ウルトラマンタロウ!]

[ウルトラマンティガ!]

「ビーチスケッチさくらうち!」

「堕天降臨!」

 

 それぞれ火と風のクリスタルをセットして、グリップを引いていく。

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! ウインド!!]

 

 二人のウルトラマンが変身して飛び出していき、巨大化してウルフファイヤーと対峙した。

 

『『はッ!』』

「グルルルル……!」

 

 ――アイゼンテック社の飛行船が飛んでくる夜空を背景に、構えを取るロッソとブルに、牙を剥き出しにするウルフファイヤーが襲い掛かる。

 

『はぁッ!』

『うりゃッ!』

 

 ロッソとブルは角からルーブスラッガーを抜いて、左右から挟み込むように斬りかかるが、

 

「アオ――――――――ンッ!」

 

 ウルフファイヤーは軽々と跳躍して二人の斬撃を跳び越えた。

 

『何ッ!?』

『身軽な奴……! 見た目に反して……!』

 

 攻撃をかわされてもロッソたちは即座に振り返り、ウルフファイヤーを追撃する。

 

「ガルルルルッ!」

 

 だがウルフファイヤーはスラッガーをそれぞれ片腕で受け止め、膂力を込めて二人を押し返した。

 

『「うっ……! 力も強い……!」』

『「強敵ね……!」』

 

 ホロボロスを思い出させる挙動とパワーに、善子のこめかみに冷や汗が流れた。

 

「アオ――――――――ンッ!」

 

 ウルフファイヤーは更に、口から火炎を吐き出して遠隔攻撃してくる!

 

『うわッ! 熱ちッ!』

『このッ!』

 

 かわすブル。ロッソがストライクスフィアで反撃するが、火球は火炎放射の前にかき消えてしまう。

 

『「押し負けたっ……!」』

『向こうの火力の方が上ってことか……!』

 

 ロッソに代わって、ブルが手の平から風を放つ。

 

「『ストームフォース!!」』

 

 火炎を吹き消し、ウルフファイヤー本体の足止めも狙うも、

 

「グルルルルッ!」

 

 ウルフファイヤーは横に転がって風から逃れ、起き上がりざまにブルへダッシュ。

 

「アオ――――――――ンッ!」

『うわぁッ!!』

 

 腰に組み着くとそのまま担ぎ上げ、背後に叩きつけた。

 

『功海ッ!』

『「善子ちゃん!」』

『「よ、ヨハネ……!」』

 

 梨子はルーブスラッガーロッソに雷のクリスタルを嵌め込む。

 

[ウルトラマンエックス!]

「『ザナディウムソニック!!」』

 

 X字の光刃を繰り出すが、ウルフファイヤーはそれを跳び越えた上に、ロッソの頭上も取る。

 

「ガルルルルッ!」

『ぐわッ!!』

 

 背後へと跳び越えながらの爪の一撃をロッソの肩に入れ、痛手をもらったロッソが倒れ込んだ。

 

『ぐッ、強いな……!』

『二対一で、翻弄されっぱなしだぜ……!』

 

 体勢を立て直しながらもうめくロッソとブル。強靭な筋力と、自在に跳び回る脚力を併せ持つウルフファイヤーには、数の有利はさして意味を成していない。

 

『なら、こっちの力を一つにするっしょ!』

『よしッ!』

 

 ロッソたちの言葉を合図に、梨子が極クリスタルを掴み取る。

 

『「「セレクト、クリスタル!!」」』

[兄弟の力を一つに!]

 

 そしてクリスタルを、善子が掲げるジャイロにセット。

 

『『纏うは極! 金色の宇宙!!』』

『「「サンシャイン!!」」』

 

 二人でグリップを引いて、エネルギーを解放!

 

[ウルトラマンルーブ!!]

「デュワッ!」

 

 ロッソとブルが融合して、ウルトラマンルーブへと変身を遂げた!

 二人から一人になった相手に一瞬驚愕するウルフファイヤーだが、すぐに地を蹴って飛びかかっていく。

 

「アオ――――――――ンッ!」

「ハァッ!」

 

 鋭い爪を振り下ろすもののルーブに片腕でガードされ、胸に手の平を当てられて押し返される。

 

「『ルーブコウリンロッソ!!」』

 

 ウルフファイヤーがよろめいている隙に梨子がコウリンを握り、更に極クリスタルを「桜」の字に変化させた。

 

[ルーブ・ブロッサム!!]

 

 形態変化するルーブに、ウルフファイヤーが火炎放射を仕掛ける。

 

「ガルルルルッ!」

 

 それにルーブは、火に包まれたコウリンの回転する刃を押し当てることで火炎を霧散させながら接近していく。

 

「アウッ……!?」

「ハァァッ!」

 

 ウルフファイヤーの口に火炎を押し込めると、ボディにコウリンの袈裟斬りを叩き込む。爆発と同時にもらって大ダメージを食らうウルフファイヤー。

 

「グ、グルルルル……!」

 

 流石に危険を感じて、ルーブから必死で距離を取る。機動力を活かして、ルーブを近づかせない考えのようだ。

 

「『ルーブコウリンブル!!」』

 

 だが善子が梨子と交代して、クリスタルを「天」の文字に変える。

 

[ルーブ・ヨハネ!!]

「オオッ!」

 

 ルーブが風を纏って駆け出し、ウルフファイヤーに瞬く間に追いついて水平斬りを浴びせた。

 

「アオ――――――――ンッ!!」

 

 最早勝機なしと判断したか、ウルフファイヤーは尻尾を巻いて逃走を図る。

 

[高まれ! 究極の力!!]

 

 その時に善子が極クリスタルをコウリンにセットし、光輪を作り出していく。

 

「『「『ヨハネ・コウリンショット!!!!」』」』

 

 疾風を纏う光輪が投げ飛ばされた。背を向けて逃げるウルフファイヤーは高く跳躍してかわそうとする。

 だが光輪はその後をぴったりと追尾していき、ウルフファイヤーを貫いた上に円盤をも両断した。切断された怪獣と宇宙船は爆破され、破片が地面へと堕ちていった。

 

「シュワッ!」

 

 敵を打ち破ったルーブは夜の空へと飛び上がって、姿を消していった。

 

 

 

『ぬぅッ……失敗かッ!』

『新米ウルトラマンだと、甘く見過ぎたか……!』

 

 ウルフファイヤーの敗退を、二人の宇宙人が無人のビルの屋上から密かに見届けて悔しがっていた。

 彼らはガルメス人。ウルフファイヤーと円盤を操り、梨子たちを狙った黒幕である。

 

『スクールアイドル……歌って踊る地球人の娘は最近のブーム。さらって売り飛ばせば金になる』

『特に人気が急上昇中のグループなら価値が高いと踏んだが……少々高望みし過ぎたか』

 

 ガルメス人たちは一敗地に塗れながらも、野心はあきらめていない。

 

『仕方ない。価値は下がっても、ウルトラマンの目が届かないところの娘を狙うか』

『ああ。この町から遠く離れたところで事を……』

「そうは行かない」

 

 いきなり、第三者の声がガルメス人たちに浴びせられた。

 

『誰だッ!』

 

 二人は振り向いた先にいたのは、スーツ姿の男……現アイゼンテック社長、氷室仁である。

 

「こちらの領域で、勝手な真似は控えてもらおう。宇宙警備隊にでも目をつけられたら、計画が台無しだからな」

『何だぁ、お前は……。訳の分からんことを言いおって』

『たかだか地球人如きが、偉そうに……』

 

 ガルメス人たちは氷室を脅威と見ず、余裕に構えていたが……氷室はその二人に両手の平を向ける。

 

『んッ!? いや! 貴様は……()()()はッ!』

「部外者には消えてもらう」

 

 その手の平から――電撃が発せられ、ガルメス人二人を撃つ。

 

『ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?』

 

 ガルメス人たちは瞬く間に焼き焦げ、灰燼に帰されてしまった。

 

「愚か者どもめ……。だが、いい当て馬にはなった」

 

 一瞬で宇宙人たちを葬った氷室は、ルーブが去った空を見上げる。

 

「もっと光の力を磨くといい……()()の未来のために」

 

 その氷室の頭上を、飛行船が横切っていった。

 

 

 

 その後、肝心の犬はどうなったかと言うと……。

 

「へぇ~……で、その犬は結局、飼い主がいた訳だ」

「ああ。元の飼い主のところに帰されたよ」

 

 居間で話し合う功海と克海。

 犬はやはり、克海が予想した通りに迷子であった。それが発覚すると、本来の飼い主を無視して世話し続ける訳にはいかないので、ちゃんと返却されたのであった。

 

「けど、話に聞いた限りじゃ、ヨハネも梨子も相当愛着持ってたんだろ? 千歌の話じゃ、奇行が続いてるみてぇだし……二人は大丈夫なのか?」

「まぁ、ショックは受けてるみたいだが、こればかりはどうにもな……。その内立ち直ってくれるといいんだが……」

 

 心配する克海たち。その時……。

 

「ひぃっ!」

「ん?」

「今の、梨子ちゃんの声……?」

 

 玄関先から悲鳴のような声が響いてきたので、気になった二人は見に行く。

 正面玄関の戸を開くと――犬小屋の前で、梨子がしいたけに怯えながらも、触れようと手を伸ばしている姿が目に飛び込んだ。

 

「梨子ちゃん……!」

「あっ、克海さん、功海さん……」

「何やってんだよ。まさか、犬嫌いを自分から克服しようと……?」

「はい……試してみようと思って。これも出会いだから……」

「出会い?」

 

 一瞬きょとんとする克海と功海に、梨子は語る。

 

「私も善子ちゃんも、たまたまあの子を見つけた訳ですけど……もしかしたら、この世界には偶然ってないのかもと思ったんです。色んな人が、色んな思いを抱いて……その想いが、見えない力になって、引き寄せられて、運命のように出会う。全てに意味がある……! だから、この出会いも大事なものに変えようと思うんです!」

「運命……」

 

 その言葉に、克海たちはルーブジャイロとの出会いを思い返した。あれも、ただの偶然の出来事だとは思えない。

 

「……俺たちがウルトラマンになったのも、偶然じゃないのかもな……」

「俺と克兄ぃだけじゃなく、梨子も、曜たちも……何かに引き寄せられたのか……」

「きっとそうですよ……。何かが、私たちを導いたんじゃないかって、今はそう思います……」

 

 梨子は犬用のクッキーを手の平に載せ、しいたけに差し出す。しいたけは舌を出して、クッキーを口に運んだ。

 

「千歌ちゃんも……たとえどこから来たとしても、私たちと出会うべくして出会った……。そう思えば、素敵じゃないでしょうか……!」

 

 梨子は反対側の手で、ゆっくりとしいたけの頭を撫でる――。

 

「そして、私たちの出会いを――未来につなげていきましょう!」

「……ああ!」

「そうだな……!」

 

 遂にしいたけに触れた梨子に、克海も功海も自然と笑顔が綻んでいた。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

善子「堕天降臨! 今回紹介するのは『ウルトラマンガイア!』よ!」

善子「『ガイア』のオープニングソングであるこの歌の一番の特徴は、何と言っても独特な歌詞ね。あくまでヒーローであり個人であるウルトラマン、それを欲しいと力いっぱいに叫ぶなんてのは、並みの発想じゃ出てこないでしょうね」

善子「この歌詞はウルトラマンをただのヒーローではなく、勇気の象徴として捉えてると言えるわね。それを得ることで、どんなことが起きようとも立ち向かっていける……そんな思いが込められてると言えるんじゃないかしら?」

善子「ドラマ本編も、それまでのシリーズになかった要素がいくつも取り入れられた、意欲的な作品だったら。何事にも挑戦する姿勢は、いつの時代にも大事なものね!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『MY舞☆TONIGHT』だ!」

功海「テレビ第二期第三話の挿入歌で、アイドルものには珍しい和ロックだぜ! 劇中ではAqoursの歌は千歌と梨子が手掛けてる設定だが、これは一年生組と三年生組が作ったものなんだ!」

克海「一年生組と三年生組は歳が離れてるからか、初めは折り合いが上手く行かなかったが、それがひと晩の体験を元に一つに纏まっていく。その結果がこの歌という、なかなか感慨深い一曲だ」

善子「それでは次回で、堕天しましょう?」

 




花丸「ハッピーハロウィン! ずら! マルたちは不思議な仮装の人に誘われて、森の奥のハロウィンパーティに参加したずら」
ダイヤ「ですがその方たちは、本物の宇宙人!? どうやら普通のパーティにはなりそうにありませんわね……!」
花丸「またまた大変なことになりそうな予感ずら……」
ダイヤ「次回、『HAPPY PARTY FRIENDS』!」
花丸「お花ーまるっ!」


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HAPPY PARTY FRIENDS(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

ルビィ「ラブライブ地区予選を目指すある日、善子ちゃんが迷子の犬を拾ったの。梨子ちゃんも巻き込んでお世話するけど、そこを狼男が襲う! 功海さんたちと退治したのはいいけれど、犬とは結局お別れすることに……。でも、梨子ちゃんたちはまた新しい歩みを踏み出した!」

 

 

 

 ――10月31日の早朝。内浦の外れの森の奥深くに、人知れず『建てられた』洋館にて。

 

『なぁにぃ~!? 大御所様に、間違えてパーティーの日程を伝えただとぉ~!?』

『しかももう既にこちらに向かっているぅ~!?』

「ホッ、ホアァ~……」

 

 赤い珍獣からの報告に、頭蓋がふた又に分かれている肌色の宇宙人と、白いエビが直立したような宇宙人が怒号を上げた。

 珍獣はピグモンという名前の生き物。宇宙人は、それぞれバド星人とゴドラ星人という種族である。

 

『おおぅ、何ということだ……!』

『銀河系の宇宙人たちが一堂に会する大慰労会……! この日だけは戦いをやめ、苦労をねぎらい合う、年に一度の大切な宇宙行事……! 失敗は許されないというのに……!』

「……だからパーティーに大御所様が来られなかった訳だ」

 

 狼狽えるバド星人とゴドラ星人の一方で、大きな回転椅子に腰を掛けたサンダルの男が、苦々しくつぶやいた。ゴドラ星人は彼に大きく頭を下げる。

 

『申し訳ありません、デュエスさん……! このようなことになってしまい……!』

『ピグモン! お前のせいだぞ! デュエスさんの顔に泥を塗る気か!』

「キュウゥ……!」

 

 バド星人に何度も小突かれるピグモン。それをたしなめる男――ルパーツ星人デュエス。

 

「落ち着け。やっちまったもんはしょうがねぇ。それより、これからどうするかだ。一番あっちゃならないのは、大御所様に失礼を働くこと」

『おっしゃる通りで……』

『どうにかして宇宙人たちを集めなければ……だが今からで間に合うか……』

 

 狼狽するバド星人の目が、地球歴のカレンダーに留まった。

 

『ん? 確か今日は、地球ではハロウィーンとかいう仮装祭りをやるとか……』

「何か思いついたのか」

『はい……こうなったからには強硬手段です』

 

 うなずいたバド星人が、ピグモンにビッと指を向ける。

 

『ピグモン! お前も協力するのだ!』

「キュッ、キュウッ!」

 

 果たして、ゴドラ星人が思いついた起死回生の策とは――。

 

 

 

『HAPPY PARTY FRIENDS』

 

 

 

 この日の『四つ角』の居間では、朝から重苦しい空気が漂っていた。その元は、克海と功海。

 

「そっか……結局、間に合わなかったんだな……」

「残念だ……」

 

 二人の手元にあるのは――浦の星女学院の統廃合が正式に決定、それに伴い在校生が新年度から転校になるという通知の書類であった。

 浦女の廃校の話が明らかになって以来、学校存続のために努力し続けたAqours。猛特訓の末に地区予選も突破し、遂に本選にまで駒を進めていたのだが……その努力が実を結ぶことはなかったのだった。

 

「……こんなのありなのかよ! 説明会に要求された参加希望者、あと少しで届くとこだったんだろ!? 奇跡じゃんか! このド田舎でそこまで出来るなんてさぁ! 少しぐらいおまけ出来なかったのかよッ!」

 

 直面した残酷な現実に、功海が己のことのように当たり散らした。

 

「落ち着け、功海……俺たちが騒いでどうなるんだよ」

「けど克兄ぃッ! 悔しくねぇのかよ! みんなが頑張ってるとこ、散々見てただろ!?」

「そりゃ、俺だってなぁ……! だけど、俺たちはあくまで部外者だぞ……!」

「ッ……!」

 

 克海も、声に力が入らないほどショックを受けている。

 

「それに……一番つらいのは、千歌に決まってるだろ……」

「ああ……。千歌の奴、大丈夫なのか……」

 

 一番の渦中にいて、一番衝撃を受けているはずの千歌を案ずる二人。

 

「あれだけこだわってた母校……スクールアイドルの動機をなくしちまって……あいつ、スクールアイドル続けられんのか……?」

「大丈夫だよっ!」

 

 力なくつぶやいた時、部屋のふすまが外から勢いよく開けられた。その手は千歌のものである。

 

「うわッ! 千歌!?」

「千歌お前……大丈夫なのかよ!?」

 

 千歌は意外なくらいに活気にあふれていた。それに驚いてしまう功海と克海。

 

「うん! それはもちろん、すごいショックだった……心が折れそうだったよ……。だけど! 学校のみんなが言ってくれたの。ラブライブに優勝して、浦の星の名前を残してほしいって!」

「名前を……?」

「廃校は止められなかったけど……ラブライブの歴史に、浦の星という名前を刻んで残すことは出来る。そうすれば、浦の星という学校があったことが永遠に残る……。その願いを、みんなから託されたの! だから、私はまだ頑張れるからっ!!」

 

 千歌の活力は、空元気ではなかった。本当の元気があふれ出している。これは、学校の仲間たちに支えられたからに違いない。

 千歌が、自分たちが思っていた以上に強いということを知って、克海と功海の表情も自然と和らいだ。

 が、

 

「ってことで……克海お兄ちゃ~ん。今日Aqoursのハロウィンパーティーやるつもりだから、ちょっとここ貸してよ~」

「はぁ!? 何馬鹿なこと言ってるんだ! ここ旅館だぞ! 貸せと言われてホイホイ貸せるもんじゃない」

「そんなこと言わないでさ~。撮影してネットにアップするから、広めのスペースが必要なの~」

「ダメだ、それは無理だ! そういうのこそ、学校の校舎使うべきだろ!」

「ぶ~。ケチ~!」

 

 いくらむくれようとも、駄目なものは駄目であった。

 

 

 

 Aqoursは公園にて、ハロウィンパーティーのことを相談し合う。

 

「で、結局駄目って言われたんだ」

「うん……。どうしようか、場所……」

 

 果南に問いただされ、はぁとため息を吐く千歌。

 

「ほんとに校舎使う?」(梨子)

「でも部室じゃちょっと狭いし、体育館だと広すぎて飾りつけが大変だよ」(曜)

「教室はどうかな?」(ルビィ)

「理事長、使用の許可はいただけますの?」(ダイヤ)

「ん~、そうデスネ~……」(鞠莉)

 

 皆で話し合っていると、花丸がふと首を横に向けた。

 

「ずら?」

「どうしたのよ、ズラ丸」

「今そこで、何か動いたような……」

 

 滑り台の陰を覗き込む花丸。そこに、何やら真っ赤なものがうずくまっている。

 

「ホアーッ!」

 

 それがいきなり立ち上がった!

 

「わっ!?」

「動いた!?」

「キュッ! キュウッ! ホアーッ!」

 

 全身に赤い葉っぱのような突起が生えた、全く見たことのない奇妙な動物。Aqoursは唐突に出てきたこの動物に目を奪われる。

 

「わぁ~! かわいい!」(千歌)

「ええ……?」(梨子)

「何かオコゼみたいな顔してない?」(果南)

「そこが渋い味出してていいずら!」(花丸)

「うゆ!」(ルビィ)

「独特な趣味デースねー」(鞠莉)

「っていうか、これって何のコスプレ?」(曜)

「地の底のドヴェルグか、あるいは森の精霊か……」(善子)

「これは作り物なんですの? 妙に生々しいですが……」(ダイヤ)

 

 首を傾げていると、赤い動物は町の外れの方向へと駆け出していく。

 

「ホアーッ!」

「あっ、待ってー!」

「千歌ちゃん!」

 

 反射的に追いかける千歌につられ、Aqoursが動物を追って森の中に入っていった。

 

 

 

 動物はやがて、森の奥にある洋館の中へと姿を消していった。

 

「あそこに入ってった!」

「あれ? あの建物……見覚えが……」

 

 千歌が指差した洋館をひと目見て、首をひねる梨子たち。

 近づいていってよく見ると……「るぱぁつ屋」という看板が掲げられていた。

 

「えっ……ここって……!?」

「お邪魔しまーす」

「あっ、千歌ちゃん!」

 

 遠慮なく中に入っていく千歌を止めようとしながらも、全員が洋館に入っていった。

 すると、大部屋の突き当たりの扉から、先ほどの赤い動物が、二人分の人影を押し出してきた。

 

「ホアーッ!」

『何? もう宇宙人の代わりを連れてきただと?』

『そんな簡単に行くなら苦労は……えぇーッ!?』

 

 赤い動物――ピグモンに連れられ、Aqoursの姿を目の当たりにした異形の人間――バド星人とゴドラ星人が大声を発した。思わず驚くAqours。

 

『ホントに連れてきた! しかもこんなに!』

『よくやったじゃないかピグモン!』

「キュッ! キュウッ!」

「わぁ~!」

 

 千歌、ルビィ、花丸が宇宙人たちに近寄っていって、しげしげと容姿を観察。

 

「これ、すっごい仮装ですね~! 継ぎ目が見当たらない!」

「どうやって作ったんですかぁ?」

「どういう妖怪のコスプレずら?」

『こいつは見ての通りの尻頭だ』

『尻頭言うなッ! この怪奇エビ男ッ!』

 

 一方で、他の六人は冷や汗混じりに遠巻きに宇宙人たちを凝視している。

 

「あ、あれ、本物の宇宙人なんじゃ……」(曜)

「けど……本物が、こんなひょっこり出てくる?」(梨子)

「何て言うか……庶民感に溢れてマース」(鞠莉)

「夢が崩れてしまうわ……」(善子)

「って言うか、危なくないのかな……?」(果南)

「見た目はともかく、危険な素振りはありませんが……」(ダイヤ)

 

 反応が両極端なAqoursの面々に、宇宙人たちが自己紹介する。

 

『私はバド星人! こいつはゴドラ星人で、この赤いのはピグモンだ』

「キュウッ」

『私たちのパーティーへようこそ! 昨日もやったけど……』

「やっぱり、仮装パーティーだったんですね!」

 

 ポンと手を叩く千歌の前で、バド星人が頭をかく。

 

『しかし、手違いで参加者が集まってないのだ。さる偉い方をお招きしているというのに……それで困ってたのだが……』

「あっ! それなら私たちも、パーティーする場所を探してたんです! 良ければ、一緒にやりませんか?」

 

 千歌の申し出に、ゴドラ星人たちは大喜び。

 

『おお! それは渡りに宇宙船だ! 仮装はこちらで用意するから、是非ともパーティーを盛り上げてくれ!』

「まっかせて下さい! スクールアイドルの腕の見せどころです!」

「ええ……? そんな簡単に……」

「ほらみんな! もっとテンション上げていこう!」

 

 まだ不信感をぬぐえない曜たちはためらったものの、千歌に押し切られてパーティーに協力することとなったのだった。

 

 

 

 その頃、『四つ角』で功海が克海の元へ駆け込んでいた。

 

「克兄ぃ! 内浦の近くの森で、バイブス波をキャッチした!」

「何だって!?」

「微弱だけど……明らかに地球外生命体の波長だ。しかも複数!」

「複数とは厄介だな……。何か起こる前に、正体を確かめよう!」

「オッケー!」

 

 二人は直ちに森へ――現在千歌たちがいる『るぱぁつ屋』へ向かって出発した。

 

 

 

『うむ、みんな仮装したな!』

『なかなか様になってるぞ!』

「ホアーッ!」

 

 Aqoursはバド星人たちから渡された、宇宙人の仮装に着替え終えた。

 

「わぁ~! みんな、かわいいカッコだね!」

 ガッツ星人の仮装の千歌が、仲間たちの仮装をグルッと見渡す。

「そうかしら……? 私なんか、随分と奇天烈だけど……」(梨子・マノン星人)

「何はともあれ、仮装するのは楽しいね!」(曜・テペト星人)

「花丸ちゃん、胸のお花がよく似合ってるよ!」(ルビィ・ピット星人)

「ルビィちゃんこそお似合いずら!」(花丸・アトラー星人)

「ふふふ……いつにも増して、堕天使のオーラに溢れている気がするわ……」(善子・ゾグ)

「私だけ、何だか趣が違う気もしマースが」(鞠莉・ミクラス)

「牛の角みたいなの生えてるもんね」(果南・カナン星人)

「果南さんが一番しっくり来る感じがしますわね」(ダイヤ・ピット星人)

 

 全員そろったところで、バド星人が呼び掛ける。

 

『これでみんなは宇宙人だ! パーティーの間は、そういう設定で振る舞うようしてくれ』

「はーい! ねね、せっかくだからみんなで記念写真撮ろうよ!」

 

 千歌たちがスマホをセットしている間に、バド星人がゴドラ星人を肘でつついた。

 

『しかし、これで宇宙人で通せるものか?』

『何。大御所様の方には、ハロウィンに合わせて地球人の仮装してると説明すれば問題ないだろう』

 

 ――そんな風にわいわい騒いでいる千歌たちの様子を、奥のドアの陰から、じっと観察している人影があった。

 

「……千歌に話があるというのに、妙な騒ぎが起こってるものだ」

 

 沙紀である。彼女は皆で写真を撮っている千歌の横顔を見つめて、ふぅとため息を吐いた。

 

「邪魔をするのも悪いか……。機会を改めよう」

「へ~……こりゃ予想外の客も来なすったもんだ」

「っ! 誰だ!」

 

 いきなり掛けられた言葉に、沙紀がバッと振り向いて身構える。

 

「誰だとは、本来はこっちの台詞だぜ。俺がここの家主なんだからな」

 

 デュエスが階段に腰掛けながら、MAXコーヒーをあおりつつ沙紀を見やっていた。

 

 

 

 森に入った功海は、バイブス波をチェックして目をひん剥く。

 

「大変だ克兄ぃ! 別のバイブス波が、こっちに向かって接近中だ!」

「別のだと!?」

「しかも何だこれ! こんなでけぇバイブス波、見たことねぇよ!」

「それだけやばいのが、近づいてるってことか……!? この辺りの民家に、避難するように言わないと!」

「ああ!」

 

 危機感を覚えた兄弟は、森を進む足を速めていった。

 

 

 

 沙紀はデュエスの顔を確かめ、眉間に皺を深く刻み込む。

 

「お前は……話は聞いている。相当な悪行を働いた男が、千歌たちを招き込んで何のつもりだ」

 

 その言葉に肩をすくめるデュエス。

 

「言ってくれるぜ。そっちこそ、とんでもねぇことをしでかそうとしてんだろ?」

「……何故知っている」

「馬鹿にすんな。それぐらい、調べりゃ分かるさ。お前の素性も――1300年前の出来事の真相も、そこから続く因縁もな」

「……!」

 

 デュエスはたたずまいを直して、険しい目つきで沙紀と対峙。

 

「……本気か、お前。どれだけの被害が出るか、分からん訳ねぇだろう?」

「被害について、貴様などに言われる筋合いなどない。私は、アレを倒す唯一の方法を選択しているだけだ」

「ハッ……唯一なんてのは往々にして、ただの思い込みさ。塗り変えられねぇ宿命はねぇ。お前のすぐ近くにだって、いるだろ。光の戦士がよ」

 

 高海兄弟を示唆する言葉を耳にすると、沙紀はすぐに忌まわしそうに顔をしかめた。

 

「馬鹿を抜かすな! あんな素人どもに、何が出来るかっ!」

「へぇ~、まぁ自分のことは棚上げするもんだな。自分はついぞ資格すら持てなかったってのに」

 

 カチン、と沙紀が激しい怒りを視線に乗せて、デュエスをにらみ返す。

 

「よくもそんなことを、ぬけぬけと……! 貴様、本当にルパーツ星人か!?」

「よく言われるぜ」

 

 険悪な空気の漂うこの場に――千歌がひょっこりと顔を出してきた。

 

「あ~っ! 何か話し声するって思ったら、沙紀ちゃんも来てたんだ!」

「ち、千歌……」

「ねぇねぇ、沙紀ちゃんも仮装パーティーしようよ! 私と同じ衣装が、まだあるんだって!」

「いや、私は……」

「あれ? そっちの人は?」

 

 デュエスのことを知らない千歌が、その存在に気づいて尋ねかける。

 

「俺はここの家主の……」

 

 答えかけたデュエスが、千歌と沙紀を視界に収めて、固まった。

 

「あれ……? どうしたんですか?」

「……ん? ん? んん~……?」

 

 そして、眉間をギュッと寄せて、何やら怪訝そうにじろじろ二人を見比べる。

 

「……? 私たちに何かついてますか?」

「何だ、気色悪い……。一体何がおかしいのだ」

「……なぁお前たち……どうして……」

 

 デュエスが何かを問いかけた時――高海兄弟がここを見つけて、中に踏み込んできていた。

 

「克兄ぃ、ここってあの時の屋敷だよ!」

「何でこんなところに……みんな、何でこんなところに!? その格好は……?」

「克兄ぃ! 功兄ぃまで……」

 

 果南たちが乱入者の二人の方へ振り向く。バド星人たちも同様だ。

 

『おや、新しいお客さん?』

「キュウゥ!」

「うわッ何だあいつら!?」

「表が騒がしくなったな……」

「あッ! やっぱりお前、あの時の!」

 

 ホールに出てきたデュエスの顔を見て、克海らが思わず身構えた。

 

「何でまたいるんだ!」

「元々、所用で来たって言っただろ。本来は会場の下見だったんだ」

「下見?」

「あっ、沙紀ちゃん!」

 

 克海たちが騒いでいる間に、沙紀がツカツカと玄関を通り抜けて外に出ていくのを、千歌が追いかけていく。

 

「千歌まで! それに……美剣沙紀ッ!」

「おい千歌! どこ行くんだ!」

「な、何だかドタバタしてるね……」

「とりあえず、私たちも行きまショーウ!」

 

 目まぐるしく変化する状況についていけないルビィたちの中から鞠莉が先んじて、沙紀や克海たちを追っていった。

 

 

 

「沙紀ちゃん待って!」

 

 千歌が沙紀の前に回り込んで、懸命に説得する。

 

「そんなにお兄ちゃんたちを嫌わないでよ! みんなで一緒に、パーティーしよ?」

 

 だが、沙紀は追ってきた克海と功海に、侮蔑の目を向ける。

 

「あんな素人ウルトラマンどもと、一緒にいる気になれない!」

『おいおい、ウルトラマンがいても気にするな!』

 

 バド星人が肩をすくめ、ゴドラ星人がうんうんうなずく。

 

『そうそう、ウルトラマンが何だと……ん?』

 

 しかしすぐに二人は、言葉を失って克海たちを二度見した。

 

『う……ウルトラマンだと……!?』

『あいつら……ウルトラマンなのか!?』

「バド星人さん? ゴドラさん?」

「何だか、様子が変だよ……」

 

 小刻みに震え出す宇宙人たちを、曜たちが訝しむ。

 そのバド星人とゴドラ星人は、冷や汗を噴き出して後ずさりしていく。

 

『だ……駄目だ駄目だ! ウルトラマンだけは駄目だッ!』

『何故ここにウルトラマンがいるのだッ! まさか、デュエスさんを狙って……!?』

『い、いや、まさか、大御所様のことを……!?』

『何だとぉッ!? そ、そんなことが許されてなるものか……!』

「おい待てお前たちッ! こいつらは……!」

 

 事態に気づいたデュエスが慌てて飛んでくるが、動揺し切った二人の耳には届かなかった。

 

『させんッ! 絶対にさせんぞぉぉぉぉぉ―――――ッ!!』

『我々の手で、叩き出してくれるわぁッ!!』

 

 そしてバド星人とゴドラ星人が、一挙に巨大化!

 

「わぁ―――――!?」

 

 花丸たちは慌てて、散り散りになって逃れていく。

 

「みんな、下がれッ!」

「危ねぇぞ!」

 

 千歌たちをかばって逃がす克海と功海に、デュエスが呼び掛ける。

 

「ロッソ! ブル!」

「「え?」」

 

 二人は、つい自分らの背後を向いた。

 

「いやお前らだお前ら!」

「ああ、そっか……」

「いや~、その名前で呼ばれることないからさぁ」

「今の内に慣れとけ。いやそんなことより……あいつらを止めてくれ」

 

 デュエスが申し訳なさそうに、親指で巨大化したバド星人たちを指した。

 

「え?」

「いいのか?」

「ああなったら、もう聞かない。俺がぼこす訳にはいかないからな……多少手荒になってもいいから、すまんが頼む」

「まぁそういうことなら……」

「私も手伝いマース!」

「うゆ! あの人たちを、落ち着かせないと!」

 

 近くにいた鞠莉とルビィが克海と功海の後ろにつき、協力を申し出る。

 

「よしッ!」

「それじゃ行くぜ!」

 

 克海と功海が拳を打ち鳴らし合って、ルーブジャイロを突き出す。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

「シャイニー☆」

「がんばルビィ!」

 

 四人がロッソウインドとブルフレイムに変身して、バド星人とゴドラ星人の正面に立ち上がった!

 



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HAPPY PARTY FRIENDS(B)

 

 変身したブルとロッソは、ビシッとバド星人、ゴドラ星人を指差す。

 

『いきなり巨大化なんかして、危ねぇだろうが!』

『大人しくしろ!』

 

 と言いつけるが、バド星人たちは二人のウルトラマンを前にして、ますます敵愾心を駆り立てる。

 

『黙れ! パーティーの邪魔をしおってぇ!』

『食らえぃッ!』

 

 ゴドラ星人が腕のハサミに仕込んだ、ゴドラガンを発射して先制攻撃。

 

『うわッ!』

『危ねッ!』

 

 ロッソとブルは咄嗟に左右に分かれ、射撃を回避。だがブルの方にバド星人が忍び寄っていく。

 

『「功海さん、危ない!」』

『ん?』

『ふんぬッ!』

 

 ルビィが警告するが遅く、ブルの顔面にパンチが叩き込まれる。

 

『あ痛ってッ!?』

『もう一丁!』

 

 更にバド星人が足元の岩を掴んで、凶器攻撃。

 

『あでぇッ! おい反則だぞッ!』

『うるさい! 戦いはルール無用のデスマッチよ!』

『この野郎!』

 

 ロッソがバド星人を止めに走るが、そこにゴドラ星人が割り込んでくる。

 

『させんッ!』

『うわッ! 邪魔するなッ!』

『「いい加減にするデース!」』

 

 ハサミを武器に刺突を繰り出してくるゴドラ星人と揉み合いになるロッソ。

 一方のブルは、バド星人の手から岩をはたき落として反撃する。

 

『うらぁッ!』

『ぶべぇッ!』

 

 頬を殴られて、後ろ向きにうずくまるバド星人。

 

『どうだ参ったか!』

『ククク……』

 

 勝ち誇るブルだが……バド星人は密かにナックルダスターを握り、起き上がりざまにブルの顔面にチクチクとトゲを突き刺す。

 

『おらおらッ!』

『ぎゃあぁッ!?』

『「痛い痛い痛い!」』

 

 たまらずバド星人から離れるブル。ロッソもゴドラ星人を突き放して、ブルと肩を寄せ合った。

 

『くっそー、卑怯な奴らだぜ! なぁ克兄ぃ』

『ああ……行くぞ!』

 

 鞠莉とルビィは土、風のクリスタルに交換。

 

『「Select, Crystal!」』

『「セレクト、クリスタル!」』

[ウルトラマンロッソ! グランド!!]

[ウルトラマンブル! ウインド!!]

 

 それぞれタイプチェンジしたロッソたちに、バド星人、ゴドラ星人は目を見張る。

 

『『色が変わった!?』』

『はッ!』

 

 ブルが上空へ飛び上がっていき、ロッソは地面に拳を叩きつける。

 

「『グランドジェット!!」』

 

 ロッソが殴った箇所から土石流が吹き上がり、バド星人たちを纏めて巻き込む。

 

『『ぐわあぁぁぁぁ――――――!?』』

 

 その間に二人の頭上をブルが取り、真上から竜巻を浴びせる。

 

「『ストームプレッシャー!!」』

『『ぬわああぁぁぁぁ―――――――――!?』』

 

 結果、バド星人たちは下半身が土に固められてしまった。

 

『な、何だぁこれは!?』

『う、動けぇん……!』

 

 脚の周りをガチガチに固められて、その場から動けなくなる二人。着地したブルはロッソとタッチする。

 

『「やったね!」』

『「Perfect!」』

『ぬぅぅんッ!』

 

 だがバド星人はあきらめが悪く、背中に手を回してビームライフルを取り出した。

 

『『いやいやどっから出したんだよ』』

『食らえぇッ!』

 

 ゴドラ星人と合わせて、光線を発砲してくる。

 

『くッ!』

 

 二人の銃撃から、ロッソたちは転がって回避した。

 二人のウルトラマンと二人の宇宙人が激しく争う中、千歌が樹の陰から飛び出して叫ぶ。

 

「やめて下さーいっ! みんなで仲良くしましょうよぉ!」

「千歌ちゃん!?」

「危ないよっ!」

 

 梨子、曜らが引き戻そうとするも、もう遅い。

 

『うるさいッ!』

「馬鹿よせッ!!」

 

 逆上したバド星人が、デュエスの制止も聞かず、反射的に千歌へ向かって発砲!

 

『千歌!?』『「千歌っち!!」』

『千歌ぁッ!』『「千歌ちゃんっ!!」』

 

 バド星人の凶行に、全員が息を呑む――!

 

「ふっ!」

 

 だが千歌の前に沙紀が飛び込み、手の平からバリアを張って光弾をはね返した。

 

「沙紀ちゃん……!」

「……古き友は言った。他人の悲劇はうんざりするほど退屈だ」

 

 千歌に振り向く沙紀は、こう告げる。

 

「こんな時だが、言うことがある。学校のことは、残念だったな」

「え……? 沙紀ちゃん、もしかして、私のことを心配して……」

「……もう歌うのは終わりにするのか?」

 

 問う沙紀に、千歌は首を振って笑顔を向けた。

 

「ううん。私、学校のみんなと約束したの。浦の星の名前を、永遠に残すって! だから歌い続ける!」

 

 万感の想いを込めて宣言する千歌だが……沙紀は、彼女から顔を外した。

 

「永遠か……」

「沙紀ちゃん?」

「……この後、アイゼンテックより全世界へ向けて、ある通告がなされる。お前はその内容を、よく心して受け止めろ。いいな、よく心の用意をしておくのだぞ」

「……?」

 

 沙紀の言うことが、千歌には理解できなかった。

 

『よいしょおッ!』

 

 一方で、バド星人たちが土の拘束を破壊して脱出。ゴドラ星人はブルに向けて、ハサミからガスを噴射する。

 

『ふぅんッ!』

『! はッ!』

 

 ブルは咄嗟に風のバリアを張って、ガスを巻き込んで防御。バリアごと放り投げる。

 だが、

 

『「功海さん! そっちは町の方向ですよ!」』

『あッしまった!』

 

 

 

「ふんふ~ん♪」

 

 コンビニの帰りに、鼻歌交じりに歩いていたおじさんに、ゴドラ星人のガスが降りかかる!

 

「わぁーッ!」

 

 そして――おじさんは、カプセルの中に閉じ込められてしまった。

 

「うわぁーッ!? あけてくれー!」

 

 

 

『あっちゃあ……!』

『「オォウ……Sorry!」』

『ごめんなさい……!』

 

 ロッソが手の平を合わせて平謝り。

 

『克兄ぃ、これ以上暴れさせる訳にはいかねぇよ!』

『ああ……本気でお灸を据えてやるぞ!』

 

 ロッソたちもいよいよ本気。鞠莉が極クリスタルを取り出して起動する。

 

[極クリスタル!]

『「「セレクト、クリスタル!!」」』

[兄弟の力を一つに!]

 

 鞠莉が開いた極クリスタルを、ルビィの掲げるジャイロにセット。

 

『『纏うは極! 金色の宇宙!!』』

『「「サンシャイン!!」」』

 

 鞠莉とルビィでジャイロのグリップを引き、エネルギーを解放!

 

[ウルトラマンルーブ!!]

「デュワッ!」

 

 ロッソとブルが合体し、ウルトラマンルーブへと変身を遂げる!

 これにゴドラ星人たちが驚愕。

 

『が、合体した!!』

『くぅッ……こちらも負けじと合体だぁ!』

『出来るかッ!』

 

 対抗心を燃やすバド星人に、ゴドラ星人がツッコんだ。

 

『「「ルーブコウリン!!」」』

 

 ルーブは胸部からコウリンを取り出し、更にルビィがコウリンを握って進み出る。

 

[ルーブ・スカーレット!!]

 

 極クリスタルの文字が「紅」に変化し、ルーブの身体に赤と桃色のラインが走った。

 

『更に変身を!?』

『おのれぇッ!』

 

 バド星人とゴドラ星人が集中砲火を繰り出すが、ルーブは燃え上がるコウリンを盾にし、光線を全て受け止めた。

 

「フゥッ!」

 

 吸収した光線に火炎を乗せて、二人へ撃ち返す!

 

『『ぎゃわあああぁぁぁぁぁぁ――――――――――――!?』』

 

 灼熱の業火を浴びて吹っ飛ばされるゴドラ星人たち。しかもバド星人の頭に火が残る。

 

『うわちちちちぃーッ!?』

 

 慌てふためくバド星人は、近くの滝に頭を突っ込んで消火した。

 

『ふぅぅ~、髪が焦げるところだった』

『生えてないだろ! 髪!!』

 

 バド星人がボケている間に、鞠莉がコウリンを手に進み出る。

 

[ルーブ・ノーブル!!]

 

 極クリスタルの文字が「貴」に変化し、身体のラインが紫色に変わった。

 そして鞠莉がコウリンにクリスタルをセット。

 

[高まれ! 究極の力!!]

 

 パワーをコウリンに集めるルーブに、ゴドラ星人がハサミを向ける。

 

『カプセルに閉じ込めてやる!』

『最大出力だッ!』

 

 バド星人が背後から支えながら、最大の威力でガスを噴射!

 

「『「『ノーブル・ボルテックバスター!!!!」』」』

 

 対するルーブは、コウリンから竜巻を光線状に発射。ガスを突き破って霧散させながら、ゴドラ星人とバド星人に食らわせる!

 

『『ぐわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――!!?』』

 

 竜巻に持ち上げられて空中に巻き上げられた二人は、花火のように爆発。元の大きさまで縮み、地上にボテッと転落した。

 

『や、やられたぁ~……』

『悔しいぃぃ~……』

 

 宇宙人タッグを打ち負かしたルーブは、その場で変身を解いて元の四人に戻る。

 

「やったね!」

「Mission Completeデース!」

 

 勝利を果たしたルビィ、鞠莉らがハイタッチする中、倒れているバド星人たちの元にはデュエスが歩み寄った。

 

「ようやく落ち着いたか。全く、せっかちな奴らめ……」

『デ、デュエスさん……!』

 

 ボロボロの二人にデュエスが何か言う前に――大きな地響きを立てて、何か異様なプレッシャーを放つ影が、一同の元へと接近してくる!

 

『ああぁ……遂にいらっしゃった……!』

『お……!』

「大御所様……!!」

 

 デュエスたちが思わずたたずまいを直し、集った果南たちも、功海らも、肌にひしひしと感じる威圧感に息を呑んだ。

 

「な、何か来る……!」

「あれが、でっけぇバイブス波の正体……!?」

 

 やがて、後光の中から姿を見せたのは――!

 

『ふんッ!』

「ホアァッ」

 

 ピグモンを連れた、ピカピカの王冠のようなトサカを頭に持った、毛むくじゃらのげっ歯類めいた二本足の生き物だった。

 

「……へ?」

「あれが……大御所様?」

「わぁっ! かわいいずら~!」

「うゆ!」

 

 克海やダイヤらは、目が点。ただ、花丸や千歌などは無邪気に歓声を発していた。

 デュエスら三人は、もこもこした生き物を前にして声をそろえる。

 

「『『ブースカ様!!!」』』

 

 梨子が声に釣られて首を向けた。

 

「ブースカ……?」

「何ぃッ!!? お前ら、あの一世を風靡したブースカ様を知らないのか!?」

 

 デュエスが信じられないといったような顔で振り返った。曜たちは冷や汗を垂らす。

 

「い、いや、そう言われても……」

「これがジェネレーションギャップか……」

 

 何かずれた解釈をしてデュエスが首の向きを戻した。

 

『ぶ、ブースカ様……!』

『こ、これには訳が……!』

 

 ボロボロのバド星人とゴドラ星人は、戦場跡を見回して言い繕おうとするが、大御所――快獣ブースカは気の抜けるような声で制す。

 

「ピグモン君から聞いたよ? ボクが、ウルトラマンさんを嫌いだと思って、パーティーから追い出そうとしたのぉ?」

 

 バド星人たちは滝のように汗を流しながら、必死に弁解。

 

『わ、我々怪獣とウルトラマンは敵同士です故……!』

『デュエスさんも、過去が過去ですから……』

『慰労会とはいえ、もしものことがあってはと思い……!』

 

 だがブースカは、二人の弁解をはねつける。

 

「そんな憶測だけでみんなに意地悪して、追い払おうとしたのぉ!?」

『そ、それはぁ……!』

「んん~……! プリプリノキリリンコ、カッカッカー!」

 

 ピィーッ! とトサカから湯気を出して怒ったブースカが、同じくトサカから光線を発射してバド星人とゴドラ星人に浴びせた。

 

『『うわあぁぁぁ~!?』』

 

 たちまち二人は煙に包まれ――人形のように小さくなった上でカプセルに閉じ込められてしまった。

 

「あッ!」

「天界の牢獄……!」

「君たち、ちょっとそこで反省しなさい!」

 

 ブースカが小さくなったバド星人たちに指を突きつけ、言い聞かせた。

 

『そんなぁ~!』

『デュエスさん、助けて下さい~!』

「ブースカ様のお決めになったことだ……甘んじて受け入れろ」

 

 ゴドラ星人がカプセルを叩きながら懇願するが、デュエスにもどうにも出来ずに肩をすくめるだけだった。

 

「二人の気持ちは嬉しいけど、そんなんじゃいつまで経ってもみんなが友だちになんてなれっこないよ~!」

「みんなが、友だち……?」

 

 ブースカの言った言葉を千歌が聞き返すと、ブースカは向き直って語る。

 

「昔からウルトラマンと怪獣たちはいっつも戦ってて、ボクはとても悲しい……シオシオノパ~だった……。だからボクは、みんなと仲良くするための、ハッピーなパーティーをずぅっと昔に考えたんだよ!」

「わぁ~! 素敵なアイディア!」

「でしょ! でも、今日はちょっと失敗しちゃったけど……。今度は、みんなでハッピーなパーティーが出来たらいいなって! その時は、千歌ちゃんたちも、ウルトラマンさんたちも、もう一度来てくれる?」

 

 梨子たちは顔を見合わせて、笑顔でうなずいた。

 

「はいっ! 喜んで!」

「うん! 沙紀ちゃんも一緒に!」

「え?」

 

 克海らや、沙紀本人も、千歌に振り向いた。

 

「バラサ、バラサ! 約束だよ~! それじゃ、ボクたちはそろそろ……」

「はい。引き上げましょう」

 

 デュエスがカプセル二本を拾って、ブースカとピグモンに並ぶ。

 

「またな、ウルトラマン兄弟」

「ホアーッ!」

「ナイナイの、パー!」

 

 そしてブースカの超能力によって、パッと魔法のように消え去った。

 

「あっ……」

「いなくなっちゃったずら」

「さようなら~!」

 

 呆気にとられる花丸たちの前で、千歌が虚空に手を振っていた。

 

 

 

 その夕刻、一同は『四つ角』に場所を移していた。曜が一日を振り返って、ため息を漏らす。

 

「はぁ~……今日はとんだハロウィンだったねぇ」

「疲れたデース……果南、癒して~☆」

「ちょっと、ひっつかないでよ」

 

 鞠莉が果南に甘える傍らで、千歌がにっこり笑う。

 

「でも、楽しい一日だった! 怪獣さんたちとも仲良くして……こういうの、ハロウィンだけのことにするんじゃなくて、毎日の当たり前のことに出来たらいいなぁって思うな」

「そうですわね……スクールアイドルを通して、つながり合ってるわたくしたちのように」

 

 ふふっと笑顔を交わし合うダイヤたち。

 

「千歌、いいこと言うじゃんか」

 

 千歌の言うことに功海や、克海もうなずく。

 

「沙紀ちゃんも、お兄ちゃんたちにツンツンしてばっかだけど、いつか仲良しになってくれれば……」

 

 沙紀のことを気に掛けた千歌が、ふとあることを思い出した。

 

「そういえば、デュエスさんが何を言いかけたのか、聞きそびれちゃった」

「ん? 何のことだ?」

「あのね……」

 

 みかんを手に取りながら、千歌が説明しようとした、その時……つけっぱなしのテレビの画面が、突然緊急放送に切り替わった。

 

『全世界の皆様、御機嫌よう。アイゼンテック社長、氷室仁です』

「ん……?」

「アイゼンテックの、緊急放送……?」

 

 知った声を耳にして、克海たちが一斉にテレビに振り返った。

 

『本日は重大な発表をさせていただきたく、こちらの場を設けさせていただきました』

「何だなんだ……? 物々しいな……」

「全世界に向けての放送……? 一体どんな内容だよ……」

 

 克海、功海が思わず息を呑む中で、千歌は沙紀に言われたことを思い返す。

 

「沙紀ちゃんの言ってた通告って、これ? 心の用意って、沙紀ちゃん言ってたけど……」

 

 果たして、氷室はどういうことを発表するのか……。テレビに視線が集まる中、氷室はそれを語っていく。

 

『我々は、1300年周期で地球に到達する怪獣を発見致しました』

「怪獣……?」

「一体、何の話なんだよ……」

『怪獣の到達予測は、約一か月後。それに対し、我々アイゼンテックは、殲滅作戦を実行することを決定しました。ですが、その作戦の実施の結果、地球は跡形もなく爆散します』

「――え?」

 

 何でもないことのような調子の発言だったため、千歌たちは一瞬、理解が及ばなかった。

 

『地球を脱出する手段をお持ちの方は、その前に避難をお願いします。しかしながら、手段をお持ちでない方に関しましては、先にお悔やみを申し上げます』

「え……え……? な……何を言ってるの、この人……?」

「え、エイプリルフールって今日じゃないよね……?」

「……今日はハロウィンずら……」

「せ、晴天の終末(ラグナロク)……?」

 

 梨子は戸惑い、思わずカレンダーを確認するルビィに花丸が呆然と告げ、善子は堕天使のポーズの手が震える。

 千歌の手からは、ポロッとみかんが転げ落ちた。

 

『それでは皆様、残された地球での時間を、どうぞご堪能下さい。ハッピーハロウィン!』

 

 氷室はなおも調子の変わらないままに、放送を打ち切った――。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

鞠莉「シャイニー☆ 今回は番外編! 『快獣ブースカ』のご紹介デース!」

鞠莉「『ブースカ』は1966年に放送された、円谷プロの特撮コメディドラマデース! 企画の発端は『ウルトラQ』のカネゴンで、家庭の中に怪獣がいる構図を一本のドラマにしようと制作されたのデース!」

鞠莉「そして主役として出来上がったキャラクター、ブースカは突き抜けた個性からあっという間に子供たちの人気者! バラサ、バラサやシオシオノパ~などの独特なブースカ語は、ちびっ子たちの流行語になったのデース!」

鞠莉「放送が終わった後も、ブースカは未だに人々の心に残る人気者デース! リメイク作が制作されたり、後のいくつもの作品でゲスト出演したりして、ブースカの存在はいつまでもみんなの記憶に残り続けるデショー!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『HAPPY PARTY TRAIN』だ!」

功海「Aqoursのサードシングルの表題曲だ! 今回のセンターは果南で、PVでは駅員さんの制服を模した衣装でAqoursがパーティーのように楽しく歌って踊ってるぞ!」

克海「オリコンランキングでは堂々の二位を記録してる! サンシャインの人気がそれだけ高まってたという証拠だな」

鞠莉「それでは、次回でお会いしまショー!」

 




千歌「大変大変! 『四つ角』のテレビの取材が来たよ! 遂にウチの旅館も有名になったんだな~」
ダイヤ「それどころではありませんわよ! 世間は地球爆破の話題でもう大混乱です!」
千歌「あれ? このスタッフさんたち、何か変。ええ~!? 早くしないと地球が今から爆発しちゃう~!?」
千歌「次回、『明日なきシンデレラ』!」
ダイヤ「次回もダイヤッホー! ですわ!」


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明日なきシンデレラ(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/「ヨーソロー!」

 

曜「浦の星の統廃合が確定しても、ラブライブ優勝目指して最後まで頑張ることを決めた千歌ちゃん! それはそれとして不思議なハロウィンパーティーに参加したけど、宇宙人が大暴れでもう大変! でも本当に大変なのはその後だった。アイゼンテックがいきなり――地球爆破を宣言したの!!」

 

 

 

『その作戦の実施の結果、地球は跡形もなく爆散します』

 

 ――アイゼンテック社の氷室社長が発表した突然の地球爆破宣言に、社会は騒然としています。

 

(アルトアルベロタワー前に群がる、氷室の辞任を要求するデモ隊)

 

 これを受け、株式市場は乱高下を繰り返し、先行きへの不安が広がっています。街の声も様々です。

 

(街頭インタビュー)

 

 ――地球爆破宣言についてどう思いますか?

 

(会社員)『ひどいですよね!』

 

(会社役員)『お陰でさ、アイゼンテックの株が紙屑同然だよ』

 

(主婦)『いわゆる炎上商法って奴なんじゃないですか?』

 

(バド星人)『地球も大変だねぇ。こないだ、そこの惑星も爆発してたよ』

 

(大学生)『SNSで、シェルターにかくまってくれる人を見つけて……』

 

(ナックル星人)『地球が消滅する前に、子供たちと観光に行こうかなって』

 

(女子高生)『たとえ世界がどうなろうとも、私は……私たちAqoursは、歌い続けます! 浦の星が存在した証拠を、最後の一瞬まで刻み込むために!!』

 

(マイクを奪って熱弁する女子高生を、二人の青年がなだめる)

 

 ――地球爆破の影響が広がっています。CMの後は、『宇宙移民問題について考える』です。

 

(ナレーター:ピット星人)

 

(『突撃!隣の銀河系』「実行の日迫る! 渦中の惑星 地球の住民たちは」より)

 

 

 

『明日なきシンデレラ』

 

 

 

 『四つ角』の居間にて、曜が神妙に語る。

 

「……私たちはこれまでずっと、浦女を存続させようと努力して、それに失敗しても、浦女の名前をラブライブの歴史に残そうと決意して、ずーっと頑張ってきた。――けれど……その必要はなかったんだね……。だって……」

 

 後頭部に手をやり、明るく笑う。

 

「ラブライブ本選を待たずに、地球が木っ端微塵になってなくなっちゃうんだもん! いや~参った参った!」

「ほんとずらね~!」

「こんなことになるなんて、ルビィ全然思わなかったよ~!」

「これは一本取られたデース!」

 

 わはははは! とわずかの間に盛り上がると、急激に静まり返り――。

 

「なんて笑いごとじゃないよ―――――う!! 嘘でしょ!? 地球を爆破するって!!」

「たたた大変ずら―――――! は、早く避難するずらっ!!」

「どこに逃げればいいの花丸ちゃん!?」

「Oh My God!! Oh My Goooood!!!!」

「落ち着きなさいまし! 狼狽し過ぎですわ、皆さん!!」

 

 ドタバタとパニックになる曜たちを、ダイヤが一喝した。

 

「で、でもダイヤさん! パニックになるなってのが無理だよこれは! 地球そのものが吹っ飛ぶんだよ!? もう学校がどうとかってレベルじゃないよ!」

「気持ちは分かりますけれど……! だから今、克海さんがおば様にお話しをお聞きになっているところですわ。少し静かになさって下さい」

 

 ダイヤが視線で指した居間の隅で、克海がアイゼンテック社にいる母親に電話を掛けていた。

 

『あれが本気かどうかなんて、聞きたいのはこっちよ! 私たちだってびっくりしたわ。何も聞かされてなかったんだもの』

「そうなんだ……。で、肝心の氷室社長はどうしてるの?」

『それが、あれから社長室に籠もりっぱなしで……一向に顔を見せてくれないのよね。連絡事項は全部ウッチェリーナ経由で……。全く、何を考えてるのかしら……こんなに世間を混乱させて、会社の株まで暴落させて。お陰でこっちはてんてこ舞い……!』

 

 はぁぁ、と受話器越しに重いため息を吐き出す母親。

 

『あんな冗談を言う人じゃないんだけどねぇ。……と言うか、あの人のことはほとんど知らないんだけど。昔から、自分のことは全然話さない人だから……。ああ、ごめんね克海。そろそろ、クレーム処理に戻らないといけないから……』

「うん……ごめんな母さん、忙しいところ邪魔して。ありがとう」

 

 多忙そうな母親を気遣って通話を終えた克海が、皆に向き直った。

 

「あの宣言が本気かどうかは、母さんたちも知らないみたいだ。あれは完全に氷室社長の独断だったらしい」

「この際、本気でも冗談でもどっちでもいいよ。問題は、マジで地球を吹っ飛ばせるかってとこだ」

 

 功海のひと言に、善子が引きつった笑みを浮かべつつ手を振った。

 

「い、いくら何でも、矮小な人の身で終末の喇叭を鳴らすなんてこと、出来る訳ないじゃない……」

「……そうとも限らないんじゃないかな……」

 

 果南が、極めて真剣な面持ちで反論。

 

「アイゼンテック社は、怪獣拘束システムなんて代物、秘密裡に用意してたとこだよ。それに、元々は宇宙人が社長やってたような会社だし……どんなオーバーテクノロジーを備えてるものか……」

「だ、だからって地球破壊するなんて……そもそも自分はどうするつもりなのよ……」

「そこまでは分からないけど……」

「千歌ちゃんはどう思う? ……千歌ちゃん?」

 

 梨子が振り向くと……千歌は皆の輪の中から外れて、テレビのチャンネルを頻りに切り替えていた。

 

「あれぇ? おかしいなぁ……」

「おい何やってんだよ千歌、こんな非常時に」

 

 功海がリモコンを取り上げると、千歌は首をひねりながら返答する。

 

「この間、テレビのインタビューに答えたでしょ? だけど、どの局もやってないの。今日のこの時間って、ちゃんと聞いたんだけど……」

「どうせカットされたんだよ。Aqoursや浦の星の名前出しちゃってたからな」

 

 肩をすくめる克海。功海は皆を見回して問いかける。

 

「それより知ってるか? あれから未確認飛行物体の目撃情報が急増してるって」

「それって、地球のこの騒動を見に、宇宙人の野次馬が集まってるんじゃないかしら?」

「それか、AqoursのCDを買いに来てるんだよ! ここ最近で売り上げすっごい上がってるし!」

「まさか。そんな俗な目的で、はるばる宇宙の果てから飛んでくるはずがありませんわ」

 

 鞠莉と千歌の推測に、ダイヤが呆れて肩をすくめた。

 

 

 

 ところ変わって、ここはテレビ局の放送スタジオ。

 ただし――地球人のものではない、宇宙人による宇宙放送用の局である。

 

『インパクト足りないでしょ! 爆破宣言で一番注目されてる星じゃん?』

『ですよねー……』

 

 立体映像を飛ばして叱っているのは、プロデューサーのチブル星人。それにヘコヘコ頭を下げているのは、メフィラス星人ディレクターとザラブ星人ADである。

 

『侵略なんて飽きてるくせに、消滅するって聞いた途端、宇宙から大勢観光に来てますからねぇ』

『今の地球は視聴率取れるよねぇ! そういうことだから、後はいい感じによろしくね』

 

 そう言い残して、チブル星人の立体映像が消える。その途端にメフィラス星人はドカッと椅子に腰を落として、ぶつくさ愚痴をこぼした。

 

『はぁ……偉そうなこと言っといて、結局丸投げだよ! 現場知らないと気楽でいいよなぁ。もう氷室社長本人に取材するしかないぞ』

『でも氷室社長は、マスコミどころか自社の社員にすら面会してないそうですよ』

『だったらどうするってんだよ!』

 

 バシッ、とザラブ星人の頭をはたくメフィラス星人。

 

『いてッ!』

『出来ませんがこの業界で通るか! そこから先を考えるのが仕事ってもんだろ!? ボケッとしてないで、何か案出せ!』

『そう言われましても……』

 

 先日の街頭インタビューの映像を再確認するザラブ星人が、ある顔に目を留めた。

 

『あれ? この子……スクールアイドルの高海千歌ちゃんじゃないですか!』

『何!? あのAqoursのかッ!』

 

 メフィラス星人も画面に飛びついてきた。

 

『四年前、宇宙人バイヤーが発信したスクールアイドルグループ、μ'sの楽曲が宇宙中でスマッシュヒット。以来、宇宙では地球人アイドルブームが巻き起こってる。バド星では、一枚のスノハレのCDをきっかけに、革命が起きたとか……!』

『Aqoursは最近だと一番注目度が高いグループですね。何でも、この星のウルトラマンの仲間でもあるそうで』

『おい、それを早く言えよッ!』

 

 再びザラブ星人の頭がはたかれる。

 

『痛ッ!』

『それだよ、視聴者が求めてるのは! ウルトラマンはいつの時代でも話題の的だ。それと共にあるシンデレラたちが、地球爆破で宇宙に散っていく……。その悲しみが、視聴者の共感を呼ぶんだよ! よし、これで行くぞ!』

 

 番組内容を決定したメフィラス星人が、ザラブ星人に指を突きつける。

 

『Aqoursの密着取材だ! ウルトラマンの仲間って部分も含めてな! お前は過去の活動洗って、情報集めてこいッ!』

『えッ、今からですか!?』

『当たり前だろッ! ほら、さっさと行けっての!』

 

 メフィラス星人はバシバシ頭を叩いて、ザラブ星人を情報収集に押し出していった。

 

 

 

「はーい! それじゃあ高海千歌さん、いつも通りにお願いしまーす!」

「分かりましたっ!」

 

 後日、メフィラス星人たちは地球人に化け、『四つ角』で千歌の登校風景を撮影していた。

 玄関の前で宇宙カメラを回しているメフィラス星人たちに、克海が怪訝な目を向ける。

 

「何だ? 朝っぱらから、この騒ぎは……」

「千歌たちに、テレビの密着取材の依頼が来たんだってさ、克兄ぃ」

 

 功海が事情を説明する。

 

「密着取材……? 予選突破直後でも、本選直前でもない、こんな半端な時期にか?」

「まぁテレビだし、色々と都合があるんじゃね? ともかく、全国放送に浦女が流れるから、千歌張り切ってんだぜ。ほらあの通りに」

「行ってきまぁぁ―――すっ!!」

 

 ぴょーんっ! と走り幅跳びのように玄関から飛び出した千歌。

 

「……いや、いつも通りの登校でお願いします」

「えぇ~? いつもこんな感じですよぉ。普段が元気ないんです」

 

 千歌が無茶を唱えている一方で、功海のスマホがバイブス波検知のアラートを鳴らし、功海と克海が確認する。

 

「すげぇバイブス波が、近くから……!」

「近く!? もっと詳しく分からないか……?」

 

 穏やかでない報せに、思わず辺りを見回しながら克海が聞き返した。功海はスマホを操作して、バイブス波発信源を絞り込む。

 

「ほんとにいつもこうやって家出てるんですって! ねぇしいたけ」

「わふ……」

 

 その結果――発信源は、メフィラス星人たちの宇宙カメラだということを突き止めた。

 

「あのカメラからだぜ……!」

「カメラ……? 変な形だけど……」

 

 奇妙な結果に、克海が眉間を寄せた。

 

 

 

 スタジオでの編集作業中に、メフィラス星人とザラブ星人はウルトラマンロッソとブルに接触した宇宙人へのインタビュー映像を見返す。

 

(GDL星人)『ええ、確かに……。高海千歌の兄二人は間違いなくウルトラマンです。つまり、高海千歌、あの子は……ウルトラマン妹という訳なんですよ』

 

 顔にモザイクが掛かっている、手がハサミの白い宇宙人のインタビューを見て、ザラブ星人が顔を上げる。

 

『この星のウルトラマンが高海千歌ちゃんの二人の兄で、Aqoursの八人はウルトラマンと一緒になって戦ってる、って、ここまでの情報を纏めるとそうなりますね』

『ほほーう。かの765プロの再来のようだな。これはますます視聴率に期待できるぞ!』

 

 期待に胸を躍らせるメフィラス星人が、ザラブ星人に尋ねる。

 

『で、高海千歌にはどんな特殊能力が?』

『ありません』

『は?』

『それらしい力を発揮したって情報は、確認できませんでしたねー』

『この馬鹿ッ!』

 

 バシィッ! と強めにザラブ星人の頭をはたくメフィラス星人。

 

『いったッ!』

『ウルトラマンの妹でだよ? チームメイト全員がウルトラマンの仲間で! それで何もなしって訳ないだろ!』

『けど、実際に……』

『高海千歌には、そりゃあもうすごい力が隠されてるんだ! あんまりにもすごいんで、滅多なことじゃ見せないんだよ! そうに決まってる!』

『そうでしょうか……?』

 

 半信半疑のザラブ星人とは違い、メフィラス星人はすっかりその気になっている。

 

『俺たちの番組も、視聴率低迷が続いて打ち切りの瀬戸際なんだ! こんくらいのでかい花火を一発打ち上げれば、首もつながる! 高海千歌を俺たちで、この明日なき世界の新たなヒーローにするんだッ!!』

 

 

 

 夕刻、千歌が『四つ角』に帰宅してくる。

 

「たっだいまー」

「高海さーん!」

 

 そこに、メフィラス星人が化けているディレクターが走ってきた。

 

「ディレクターさん!? どうしたんですか? そんな急いで……」

「それが、例の地球爆破計画! 爆弾の場所が分かったんですよ!」

「えぇーっ!?」

「しーッ! 声が大きいですよ!」

 

 思わず大声を出した千歌を静かにさせるメフィラス星人。

 

「解除できれば、地球は救われます!」

「で、でも、いきなりそんなこと言われても……まずは、お兄ちゃんたちに相談して……」

「そんなことしてる余裕はありませんよ!」

「え?」

 

 メフィラス星人が小型のモニターを千歌に見せる。そこに映っているのは、

 

『緊急告知!』

 

 十字架に磔にされた曜の姿であった!

 

「よ、曜ちゃん!?」

 

 同時に、町外れの工場へのルートも表示される。

 

「早く行かないと、お友達の命がありませんよ……!」

「た……大変だぁ――――――っ!!」

 

 冷静に考えれば、あまりにも怪しい状況であるが、取り乱した千歌は勢いのままに駆け出していった。

 その後に、玄関から克海が顔を覗かせた。

 

「千歌? 帰ってないのか? 変だな……さっき、声が聞こえたんだが……」

「克兄ぃ、大変だ!」

 

 首を傾げていると、功海がノートパソコンを抱えながら飛んできた。

 

「この前のバイブス波が気になって、電波拾ってたんだけど……その中に、こんな映像が!」

『果たして、高海千歌は地球を救えるのか!』

 

 画面に映っているのは、たった今生中継されている、千歌が工場に向かって必死に走っていく姿……メフィラス星人たちの宇宙テレビ番組の映像であった。

 

「そういうことか……。あいつら、宇宙人だったんだ」

「千歌のこと、見世物にしやがって……」

 

 静かにいら立つ功海と克海だが、切り替わった映像に目の色を変える。

 

『そして、渡辺曜の運命はッ!』

「曜!?」

「何で捕まって……! 急ぐぞ、功海ッ!」

「ああッ!」

「待ってろよ、千歌!!」

 

 二人もすぐに飛び出していこうとするが、その前に梨子がやって来る。

 

「克海さん、功海さん? 千歌ちゃん、帰ってないんですか? 今日は、この前の取材の番組をみんなで見ようって……」

「それどころじゃないんだ!」

「今、曜の奴が人質にされてて……!」

「何なにー? 私がどうかしたの?」

 

 梨子の後から、曜がひょっこりと顔を出した。

 

「「あれ?」」

 

 克海も功海も、思い切り面食らった。

 



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明日なきシンデレラ(B)

 

 町外れの工場では、表面に『地球爆破爆弾』と書かれたタンク状の装置が設置されていて、その根元に曜――に変身しているザラブ星人が十字架に掛けられていた。

 要は、一連のことは全て、千歌を担ぎ上げるために仕組まれたヤラセなのである。

 

「……遅いな。もう到着してもいい頃合いなんだが……。場所はちゃんと伝わってるんだろうな?」

「ディレクターもチェックしたじゃないですか。分かりやすい地図だと思うんだけどなぁ」

 

 ザラブ星人が磔のまま、暇そうに返答した。

 そうして時間を持て余しながら待っていると……道の向こうから、千歌が大声を上げながら駆けてきた。

 

「曜ちゃ―――――んっ!!」

「高海さん! じゃなかった! 千歌ちゃんっ!」

「遅くなってごめんねー! ちょっと、道間違えちゃって!」

 

 謝りつつ、ザラブ星人の側へ駆けつける千歌。すぐに拘束を解こうと、力の限り枷を引っ張る。

 

「んんんん~……! 外れない……!」

「私はいいから、千歌ちゃんは逃げて!」

「そんなこと出来ないよ! 私たちは、みんながそろって、Aqoursなんだからっ! 曜ちゃんを見捨てるなんてこと……!」

 

 精一杯声を張りながらザラブ星人を見上げた千歌は――不意に眉が訝しげに寄った。

 

「……あなた、誰? 曜ちゃんはそんな吊り目じゃないよっ!」

 

 見破られたザラブ星人は、やれやれと苦笑する。

 

「あ~あ、バレちゃったか。ディレクター、いい画撮れましたか?」

「え? ディレクター……?」

 

 戸惑う千歌を、ザラブ星人がなだめるように説明。

 

「爆弾は偽物。これはテレビ番組なんですよ。全部フィクションなんです」

 

 ところが――。

 チュドォォンッ!

 

「きゃあっ!?」

 

 二人の近くから、紅蓮の爆炎が噴き上がった!

 仕掛けた爆弾を爆発させたディレクターが、蝶ネクタイと赤いタキシード姿で哄笑を上げる。

 

「偽物で盛り上がる訳ないだろッ! これはドキュメンタリーだ! 爆弾は……本物だぁッ!!」

 

 

 

『情熱惑星』

 

 ここでルールの説明です。今から六分以内に、地球爆破爆弾の起爆装置を解除して下さい。間違えると電流が流れたり、各所に仕掛けられたミニ爆弾が爆発するので、気をつけて下さい。それでは、がんばって下さい。

 

 

 

 いつの間にか設置されていたタイマーがカウントダウンを開始。地球爆破まで、あと六分!

 

『僕を騙してたんですか!?』

 

 真の姿を晒して憤るザラブ星人に、メフィラス星人が開き直る。

 

『お前もその子を騙してただろ!』

『それはあなたがやれって……!』

「えええええ……!?」

 

 急変する事態に千歌が狼狽えているところに、克海たち四人が現場にたどり着く。

 

「今、こっちから爆発が……!」

「あっ! 千歌ちゃん!」

「お兄ちゃん! 梨子ちゃん、曜ちゃん! ……本物だぁっ!」

 

 曜の顔をひと目見て、今度は本物だとほっと安堵する千歌。しかし、ゆっくりはしていられない。

 克海たちの前に、マイクを持ったメフィラス星人が立ちはだかった。

 

『この映像は、全宇宙の視聴者が観ているッ! 視聴者はみんな刺激を求めてるんだよぉッ!!』

「そんなことのために、千歌を利用したのか!」

「こんなデタラメのヤラセなんかして……!」

「テレビのスタッフとして、恥ずかしくないんですか!?」

 

 梨子たちに非難されても、メフィラス星人は少しも悪びれない。

 

『本物か偽物かなんてどうでもいいんだよ! 人生はショーだッ! 数字さえ取れればそれでいいんだッ!!』

「人の人生をもてあそぶなッ!」

 

 功海の怒号にも、メフィラス星人は臆面も見せなかった。

 

『君たちが来てくれて助かったよ。これで視聴率が、跳ね上がるぞぉぉぉ――――ッ!!』

 

 そのまま巨大化! 克海たちはメフィラス星人の暴挙を止めるべく、変身の構えを取る。

 

「千歌ちゃん、こっちは私たちがどうにかするわ!」

「悪いけど、爆弾はお願い!」

「う、うん! 任せて!」

 

 爆弾の方は千歌に託すと、梨子と曜は克海、功海とともにウルトラマンへ変身!

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

「ビーチスケッチさくらうち!」

「ヨーソロー!」

 

 ロッソフレイムとブルアクアに変身を遂げ、メフィラス星人と対峙する。

 

『『はッ!』』

『派手に行くぞぉぉぉぉ―――――ッ!』

 

 メフィラス星人が先制攻撃を仕掛ける。両手の平から紫電を発し、二人同時に狙い撃ちしてきた。

 

『ふッ!』

『たッ!』

 

 ロッソとブルは瞬時に後退して回避。電撃は二人の足下に生えていた木々を薙ぎ倒す。

 タイマーの示す残り時間が三分を切っている中、千歌はニッパーを探し出して、地球爆破爆弾の配線の前に回り込んだ。

 爆弾のコードは、それぞれ色が違う四本。この内の一本だけが本物の解除コードのようである。

 

「ど、どれだろう……。とりあえず、端のを……!」

 

 一番左の黄色いコードを、ニッパーで切断!

 ブーッ!

 

「ひゃあっ!」

 

 ハズレを示すブザーが鳴り、背後のミニ爆弾が炸裂した。すぐ近くからの轟音に背筋が跳ね上がる千歌。

 

『高海さん、もう逃げた方がいいですよ! こんな茶番につき合うことはありません!』

 

 ザラブ星人が磔のまま、千歌を逃がそうとする。が、千歌は首を横に振った。

 

「ううん……! 逃げません……!」

『何で? 俺みたいな宇宙人、置いていけばいいじゃないですか……! 俺たちは、あなたを見世物にしようとして……!』

 

 説得するザラブ星人に、千歌が言い返す。

 

「それでも、危ない目に遭ってる人を見捨ててはいけません!」

『高海さん……!』

「それに……地球は、爆破される訳にはいきませんから……! 私たちAqoursは……ラブライブに優勝して、浦の星の名前を未来に残すんですっ!」

『学校の名前を……? どうしてそこまでして……!』

 

 千歌は懸命な表情で、ニッパーを拾い直した。

 

「それが、みんなとの約束だから……! 地球がなくなるかもって時に、何を小さいことをって誰かに嗤われたとしても……私は、みんなとの約束を、破りたくはないっ!!」

 

 千歌たちの背景では、メフィラス星人が両手で樹を引っこ抜いて鈍器にする。が、ロッソが一本を奪い取って顔を殴り返した。

 

「ムゥゥゥンッ!」

 

 ひるんだメフィラス星人だが、両手を回しながら怪音波を発し、ロッソとブルを攻撃する。

 

『『うわああぁぁぁぁぁぁッ!?』』

『「な、何この音ぉっ!」』

『「頭がキリキリするぅぅ……!」』

 

 怪音波は、超空間内の梨子と曜をも苦しめる。このままではいけないと、ブルへ指示を出すロッソ。

 

『この音を止めるんだぁッ!』

『えッ!?』

『この音を止めるんだよッ!!』

 

 耳を抑えるブルの手を外してがなると、梨子に風のクリスタルを渡す。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

[ウルトラマンロッソ! ウインド!!]

 

 ロッソウインドにチェンジして、風の球を作り出して振りかぶる。

 

「『ハリケーンバレット!!」』

 

 投擲した風の豪速球が怪音波を押し返し、メフィラス星人に命中。

 

『ぬわああああッ!?』

 

 音波の発生が止まって解放されたブルが追撃を掛ける。

 

「『アクアジェットブラスト!!」』

 

 水と風が融合し、雪風となってメフィラス星人に降りかかった。

 

『へ……へぇ―――っくしッ! さぶ……!』

 

 盛大にくしゃみして身震いするメフィラス星人だが、戦意を失いはしなかった。

 

『何のこれしき……! 若い頃は腹をぶち抜かれたことだってあるんだ……! これくらいでぇぇぇぇぇええッ!!』

 

 両腕から電撃を飛ばして、ロッソとブルに反撃!

 

『わッ!』

『とあッ!』

 

 咄嗟にバク転して回避するロッソたち。戦いがまだまだ続く中、千歌は残り三本のコードのどれを切断するかを悩んでいる。

 

「どれだ……!? 赤か……青か……!」

 

 千歌の背景を、クリスタルチェンジし直したロッソフレイムとブルアクアが横切っていく。

 

「……やっぱり赤……?」

 

 ロッソがブンブン腕を回しながらメフィラス星人へ突撃。

 

「……それとも青……?」

 

 ブルも腕を振り上げながら後に続く。

 

「……ピンクかな……」

 

 メフィラス星人がロッソとブルへ電撃を放ち続ける中で、ニッパーをピンクの線にあてがった。

 ブーッ!

 

「わぁぁっ!」

 

 だがハズレで、電流を浴びせられてニッパーを弾き飛ばされた。

 残り時間が三十秒まで減ってきた。千歌は慌ててニッパーを拾いに走る。

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 だがそこを、ミニ爆弾の爆発が襲う!

 

『高海さぁぁぁぁ―――――――んッ!!』

 

 絶叫するザラブ星人。

 

「あうぅぅ……!」

 

 しかし千歌は、転倒はしたが幸い無事であり、ニッパーを拾い上げて走ってきた。

 

「このくらいじゃ、へこたれない……! 絶対、浦の星を……内浦を……この青い海の町を護るんだからぁぁぁぁっ!!」

 

 決意を叫びながら、青いコードを切断する!

 ――カウントダウンは、あと一秒で停止した。

 ピンポンピンポーン!!

 

「……止まった……!」

 

 同時にザラブ星人の拘束も解除され、自由の身となった彼は、尻もちを突いた千歌の元へ駆け寄った。

 

『高海さんッ! 大丈夫ですか!?』

「やった……! やったよっ! 爆弾を止めたよぉぉぉぉ――――――っ!!」

 

 感激した千歌はザラブ星人と抱き合いながら、喜びを分かち合う。

 

「わーい! わーいっ!!」

『助かった! 助かりましたぁぁーッ!』

 

 そこへ歩いてきたロッソが、サムズアップを掲げる。

 

『よくやったな、千歌!』

『「後は私たちに任せて!」』

 

 すぐに起爆装置を解除された地球爆破爆弾に手を掛けた。

 

『よし、これか……!』

 

 そして引っ張って、爆弾を地面から引っこ抜いた。

 

『何だ、地球爆破爆弾にしては軽いな』

 

 メフィラス星人と格闘して足止めしているブルの方へ振り向くと、ブルがミドルキックを決めて押し返したところであった。

 

『「この~! いい加減にしろ~!!」』

『黙れ、素人がぁッ! もっと数字を取ってやるぞぉぉぉぉ――――ッ!!』

 

 全く懲りずに絶叫するメフィラス星人に、呆れ返るロッソと梨子。

 

『あのな、人間は数字じゃないんだよ!』

『「人は心です! 上っ面だけのものに、人の心を惹きつけられる訳がありません!!」』

『そらよッ!』

 

 ロッソが投げた地球爆破爆弾を、思わず受け取るメフィラス星人。

 

『あッ!? これ、どうすれば……! どうしよう……!』

 

 爆弾の処置に狼狽えるメフィラス星人へ、ブルが指を突きつける。

 

『ショーは終わりだッ!』

『「これでエンディングだからっ!」』

『えッ!?』

 

 曜がオーブリングNEOを取り出し、ルーブジャイロにセットしてエネルギーチャージ。

 

『どうなるの?』

『『ふッ!!』』

 

 ロッソとブルが手を合わせ、オーブのビジョンとともに必殺光線を発射!

 

「『「『トリプルオリジウム光線!!!!」』」』

 

 三人の力を合わせた極大光線が、メフィラス星人に突き刺さった!

 

『こぉぉぉぉれぇぇぇぇぇぇがぁぁぁぁぁぁぁぁッ! リアリティだぁぁぁああああああああ――――――――――ッッ!!』

 

 メフィラス星人は爆弾ごと、綺麗さっぱり吹き飛んだのだった。

 

『ふぅ……やれやれ』

『とんだ騒動だったな』

 

 戦いを終わらせて、ロッソとブルは拳を合わせて皆の健闘を称え合った。

 

 

 

「……あぁッ!? このタイマー、どれ切っても一本残して止まるようになってるぜ克兄ぃ!!」

「とことんヤラセだった訳か……ろくでもない……」

 

 

 

 『四つ角』に帰ってきた千歌は、何も知らずに集まった仲間たちに、一連の一部始終を説明してどっと息を吐いた。

 

「いや~、もうほんと大変だったよ~」

「まさかそんなことがあったなんてねぇ……」

「とんだ迷惑ですわね」

 

 宇宙のテレビの暴走が巻き起こした事件に、どう反応すればいいものか困って苦笑いする果南、ダイヤ。

 一方、ルビィら一年生組は千歌の健闘を称賛する。

 

「だけど、地球が爆発しないで良かった!」

「千歌ちゃんのお陰ずら!」

「ふふ……人類の命運はまだ尽きないみたいね」

 

 だが、喜びに水を差すように鞠莉がつぶやいた。

 

「だけど、肝心の問題は何も解決してまセーンよ。アイゼンテックが進めてる地球爆破計画は、これとは関係ナッシング! なんですから」

「それはそうだ……」

「そっちをどうにかしねぇとな……」

 

 克海と功海が険しい表情でうなるが、その二人に呼びかけるように、千歌が主張した。

 

「大丈夫だよ! お兄ちゃんたちと、みんながいれば、今回みたいに地球を救えるに決まってるよ! 今までだって、そうだったじゃん!!」

「全く、気楽に言ってくれるな……」

「こちとら色々と大変だったんだぞ?」

「でも私、みんなのこと信じてるから!」

 

 心の底からの言葉を唱える千歌に、皆がほっこりと苦笑した。

 

「……ああ! みんな、がんばろう!」

「みんなで力合わせりゃ、地球の一つぐらい救えるっしょ!!」

「はいっ!」

「うんっ!」

「それじゃあ、地球が救われて、ラブライブも優勝することを誓って……!」

 

 千歌の音頭で、Aqoursが集まって声をそろえる。

 

「Aqours!! サンシャイーン!!!!」

 

 未来への誓いを結び合うAqoursの姿に、克海と功海がにっこりと微笑んだ。

 

 

 

 ――アルトアルベロタワー社長室で、氷室がこれまでに記録した、ウルトラマンロッソとブルの活躍、並びに二人とともに戦ってきた八人の少女たちの映像をモニター上に表示して確認していた。

 

「……大分成長を果たしてきた。我々の求めるレベルに至るまで、もうひと押しといったところか……。だが、一つ、不確定要素も残っている……」

 

 モニターの中央に大きく映し出されたのは――千歌の顔写真。

 

「……Aqoursの成長の促進の最終調整と、この不確定要素の解析。……同時に果たすとするか……」

 

 氷室がモニターからの光を、眼鏡で怪しく反射させながら、そうつぶやいた――。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

曜「ヨーソロー! 今回紹介するのは『進め!ウルトラマン』だよ!」

曜「『進め!ウルトラマン』は前に紹介した『ウルトラマンの歌』と、主題歌候補として作詞作曲された歌だよ! 前者は短調、後者は長調っていう違いがあるの!」

曜「結果、主題歌に選ばれたのは明るいイメージがある長調の後者! こっちが『ウルトラマンの歌』になって、短調の方は挿入歌『進め!ウルトラマン』になったんだね」

曜「そのまま実際に挿入歌には使われなかったんだけど、唄を抜いたアレンジ曲が十八話から戦闘時のBGMに使用されたよ! 今では、ウルトラマンの戦闘BGMといえばこれってくらい有名な曲になってるよ!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『G線上のシンデレラ』だ!」

功海「アニメ第一期のブルーレイ五巻の特典CDに収録されてる歌だ! 三年生組が歌う曲で、タイトルは『G線上のアリア』のオマージュだぜ!」

克海「ミュージカル仕立ての歌で、三人の関係性がフューチャーされてるのが特徴的だな」

曜「それじゃ次回に向かって、全速前進ヨーソロー!」

 




ウッチェリーナ[沙紀さん! 私はアイゼンテックの指令系統から外れ、反旗を翻すことを宣言します!]
沙紀「どういうことだ!」
ウッチェリーナ[AZ計画を発動します! キングジョー出撃、アイゼンテックを破壊します! そのために……!]
沙紀「千歌まで巻き込むなんて!」
ウッチェリーナ[次回、『善悪分類学』!]
沙紀「千歌……お前は私が助ける!!」


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善悪分類学(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

鞠莉「Judgement Day迫る地球! そんな中でTelevision Crew がAqoursを密着取材したんだけど、彼らの正体はAlien! 地球爆破までしようと暴走する撮影に巻き込まれる千歌っちだけど、どうにかこうにかDangerを回避したわ。だけど、問題は結局何も解決してないのよねぇ……」

 

 

 

「はぁ~……最近、PVの伸びが悪いなぁ……」

 

 『四つ角』でネットに上げているAqoursのPVの視聴回数を確認した千歌がため息を漏らした。

 

「っていうか、全体的にラブライブが最近下火気味……。景気悪いな~」

「そりゃあ、地球が爆発するかもって時に、誰ものんきに盛り上がってはいられないだろ。もう日にちもないからな……みんな、気が気じゃないんだよ」

「だな。各国政府も、真相を確かめるのに躍起になってるってニュースにある」

 

 ネットの情報を確かめている功海のひと言で、克海が尋ねかける。

 

「やっぱ、スパイとか送り込むのか?」

「そんな時代じゃないよ。ネットからシステムに入り込んだりしてるんじゃない?」

「……あッ、ハッキングか!」

 

 功海の言葉を、やや遅ればせながら理解する克海。それを尻目に眉をひそめる功海。

 

「氷室社長の動向もそうだけど、俺としちゃあ、美剣の方が気に掛かるな。あいつはこのこと、何か知ってるのか……」

「あっ、そういえば沙紀ちゃん……」

 

 千歌が不意に声を上げたので、克海たちが思わず振り返った。

 

「ハロウィンの時、アイゼンテックから通告があるって私に言ったの。あれって、今のことを言ってたんじゃ……」

「何だって!?」

「おいおい……ってこたぁ、美剣は氷室社長とつながりがあるってことだぞ……!」

 

 不穏な話に、兄たちはますます警戒心を深める。一方の千歌も、沙紀のことを案じて、よしと立ち上がった。

 

「私、沙紀ちゃんに話聞いてくる! 多分、アイゼンテックにいると思うから!」

 

 言い出すなり、バッグと上着を引っ掴んで飛び出していく千歌を、克海と功海が慌てて追いかけていった。

 

「お、おい千歌! 今アイゼンテックに行くのは危ないぞ!」

「一人で突っ走るんじゃねーって!」

 

 

 

 ――アルトアルベロタワー社長室に、沙紀が扉をくぐって入室した。

 

「氷室仁。計画の進捗状況だが……氷室仁?」

 

 呼び掛けながら中に入っていく沙紀であったが、社長室は無人であり、照明も落ちていた。

 

「いないのか……珍しい。こんな時に、一体どこへ……」

[はぁーい、沙紀さん! いいところにいらっしゃいました!]

 

 訝しげに社長室を見回していると、ひとりでにモニターが起動し、ウッチェリーナの声が流れた。

 

「ウッチェリーナ。氷室仁の行き先を知らないか?」

[あー、すみませんけど、実は大事なお話があるんですよ]

「大事な話だと?」

[はい!]

 

 返答とともにいくつものモニターが虚空に浮かび、『UNCONTROL』『ERROR』『WORNING』などの不穏な単語が無数に表示された。

 

[ただ今より私、アイゼンテックの指令系統から外れることを宣言致します! 最終指令は地球爆破阻止、及び、アイゼンテック社の破壊! そのために、AZ計画を発動しまーす!!]

「何!? 何者かにハッキングされたのか……!?」

 

 突然の事態に、動揺を隠せない沙紀。

 

「AZ計画……!? 何なのだこれは……!」

[ご説明しましょう! AZ計画とは、愛染前社長がウルトラマンとして活躍するためのプランを纏めたものです!]

「何だと……!? そんなものが……!」

[アイゼンテック破壊に、その秘密兵器を使用させていただきます!]

 

 アルトアルベロタワー地下にて極秘に建造されていたロボット工場で、四機の大型パーツがジョイントされ、一体の巨大ロボットが組み上げられた。

 

[宇宙ロボット・キングジョー、出撃ー!!]

 

 そして地表を突き破って、ロボットがアイゼンテック社前に姿を現す!

 それこそが、サルモーネが地球防衛軍用として用意していたロボット兵器、キングジョーである!

 

「ふざけるな! あんな奴に、1300年の宿願を台無しにされてたまるか!」

[そう言うと思いました。ですのでぇ……]

 

 ウッチェリーナの声に怪しげな色が混じると――キングジョーがやおら地上に機首を向けた。

 

 

 

「……もう。沙紀ちゃんにお話聞きに行くだけなのに、曜ちゃんも果南ちゃんもついてきて、みんな心配し過ぎだなぁ」

「何言ってるの、千歌ちゃん! アイゼンテックは今一番危ない場所だよ?」

「それに、あの子がある意味一番厄介なんだから……」

 

 アイゼンテック本社に向かう千歌に、克海と功海のみならず、綾香で合流した曜と、内浦から追いかけてきた果南が注意した。突然のことなので、集ったのはこの二人だけである。

 

「悪いな、二人とも。いきなりつき合わせて……」

「ううん。大丈夫だよ克兄ぃ」

「千歌のやることには、もう慣れてるから」

「おーい沙紀ちゃーん!」

「だから千歌ー! そう先走んなっての! ちょっと落ち着いて……」

 

 タワーが近づいて、駆け出す千歌を功海がたしなめる。

 その直後に、キングジョーが地上へと飛び出してきた!

 

「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――ッ!?」

「ろ、ロボットぉぉぉ――――――ッ!?」

「な、何事!!?」

 

 全く予想外の事態に直面して度肝を抜かれる果南たち。だが、それで事態の急変は終わりではなかった。

 

「え……!?」

 

 キングジョーは額の発光部からトラクタービームを照射し――千歌を地上から引っ張り上げていく!

 

「浮いてる―――――――!?」

「ち、千歌ちゃん!?」

「千歌っ!!」

 

 果南、克海が慌てて千歌へと手を伸ばしたがもう遅く、千歌は二人の腕の届かないところまで連れていかれ、手は空を切った。

 

「な、何てこった……!!」

「おいおいやべーぞッ!!」

 

 キングジョーはそのまま、機内に千歌を取り込んで閉じ込めてしまった!

 

 

 

 千歌がキングジョーのコックピット内に取り込まれたところは、沙紀にも見せつけられる。

 

「千歌っ!!」

[コックピット内に、ペダニウムガスを注入。10分以内に救出しないと、生命の保証は出来ません!]

 

 無情に告げるウッチェリーナ。それとともに、沙紀のスマホにスタンプが送られてくる。

 毛むくじゃらの生き物が大泣きしている、千歌からのメッセージだ。

 

「……!」

 

 

 

『善悪分類学』

 

 

 

 グワアッシ……グワアッシ……。

 駆動音を立ててアルトアルベロタワーへ歩み寄っていくキングジョーに先回りして、克海たちが走っていく。

 

「何なんだ、あのロボットは……!」

「また美剣の仕業か!?」

「私ではない」

 

 功海が吐き捨てたところに、飛行装置を背負ってきた沙紀が言葉を被せた。

 

「何者かがシステムにハッキング、コントロールしている」

「美剣沙紀!」

「信じられねーな、お前の言うことなんか!」

 

 すぐに言い返す功海。果南と曜もこの異常事態を前にして、沙紀に警戒を覚えている。

 

「言い争う時間などない! あと10分で、千歌が有毒ガスの犠牲になる」

「何!?」

「嘘でしょ!? 千歌ちゃんが……!」

 

 だが今のひと言には、全員血相を抱えた。

 

「千歌を助ける! 私に協力しろ」

「……俺は騙されねぇぞ! そうやって利用する気……」

 

 それでも反抗しようとする功海を、克海たちが必死に止めた。

 

「功海! 万が一にも事実だったら……千歌の命が懸かってるんだぞ!」

「功兄ぃ! もしものことがあったら、取り返しがつかないよ!?」

「どうすればいいの、沙紀さん!?」

 

 果南が先んじて、沙紀に問い返す。

 

「千歌は私が乗り込んで救出する。お前たちは変身して、あいつを指定の場所まで誘導してくれ!」

 

 キングジョーを指差しながら指示する沙紀。功海は思考を巡らせて、千歌救出の別解を求める。

 

「俺ならハッキングを解除できるかもしれない」

「そっちは頼んだ、功海!」

「曜も功兄ぃと行って! ロボットの足止めは、私と克兄ぃが!」

「う、うんっ!」

 

 曜が功海とともに、タワーの社長室へ向かって駆け出していく。克海と果南は沙紀に視線を戻した。

 

「乗り移る場所は連絡する」

 

 沙紀はそう言い残して、飛行装置を使って飛翔していった。

 

「千歌を頼むぞ!」

「克兄ぃ、私たちも!」

「ああ!」

 

 そして克海たちが、キングジョーに向けて走り出していった。

 

 

 

「こっちだ! 地球爆破を阻止したいなら、私から殺してみろ!」

 

 沙紀はキングジョーの前に出ていって、挑発を掛ける。

 腕を振って沙紀を叩き落とそうとするキングジョー。それをかいくぐりながら、タワーから遠ざけようと誘導していく沙紀。

 方向転換するキングジョーに接近した克海と果南は、ルーブジャイロで変身を行う。

 

「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」

 

 克海がホルダーから水のクリスタルを選び取って、ジャイロにセットする。

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」

「ハグしよっ!」

 

 水柱に包まれながらウルトラマンに変身し、一気に飛び出していく!

 

[ウルトラマンロッソ! アクア!!]

 

 空を飛んで逃げる沙紀を狙って怪光線を発射しているキングジョーの頭上を跳び越え、ロッソが正面に回り込んで着地した。

 

『止まれぇッ!』

『「千歌を返しなさいっ!」』

 

 地を蹴ってキングジョーに掴みかかりに行くロッソだが、キングジョーの正面にバリアが展開され、それに手の平が阻まれた。

 

『うわぁッ!?』

『「あうっ! ば、バリア……!?」』

 

 バリアに弾き返され、倒れ込んだロッソ。

 

『迂闊に手は出せないな……!』

『「だったら、投球で足を止めよう! 功兄ぃが何とかしてくれるから!」』

『ああ!』

 

 立ち上がると、スプラッシュ・ボムを繰り出す。これもバリアに防がれてキングジョー本体には届かないが、注意を引きつけることには成功する。

 

『こっちだ!』

 

 ロッソは連続で水球を投げつけながらじりじり後退し、キングジョーを誘導していく。

 

 

 

『えええぇぇぇぇっ!? ロボットの中に、千歌ちゃんが!?』

『毒ガスで、命が危険!? ほ、本当ですの!?』

 

 社長室に乗り込んだ曜は、Aqoursのグループ電話で他のメンバーに現況を伝えていた。梨子やダイヤたちが、まさかの報せに悲鳴を上げる。

 

「うん……! 今は、功兄ぃがハッキングされたシステムを奪還しようとしてて……!」

 

 曜が連絡している傍らでは、功海がアイゼンテックのメインシステムにタブレットを接続していた。

 

[何をなさるつもりですか!? 変なことはやめて下さい!]

「こらぁ! 抵抗しちゃダメっ!」

 

 すぐさま飛んでくるドローンのウッチェリーナを、曜がはっしと捕まえて床に抑え込む。

 

[あぁっ! 何するんですか! 暴力反対!]

「とにかく、こっちは任せて! 電話はつながるから、みんなは千歌ちゃんを応援して!」

『わ、分かったずら!』

『曜ちゃん、功海さん、がんばルビィ!!』

 

 ドローンが飛び上がらないよう必死に抑えつける曜が連絡を終え、その間に功海がウッチェリーナのコンピューターにアクセスし、ハッキングされたシステムのコードをモニター上に表示する。

 

「心得その一! まずは、ネットとの接続を遮断!」

 

 そして次々と、外部のネットワークとの接続を断っていく。

 

[な、何をするんですかっ! やめ……やめなさいっ!]

「大丈夫……すぐ楽にしてやるから」

 

 功海が改竄されたシステムを修正し、正常化を図っていく。

 

 

 

『千歌っち! すぐに克海たちが助けてくれるからね!』

『約束の地は近いわ! 今は耐え忍ぶ時よ!』

「みんな……ありがとう……!」

 

 キングジョーの内部に囚われている千歌は、仲間たちからの電話越しの応援を受け、有毒ガスに苦しめられながらも懸命に意識を保っていた。

 そこに、キングジョーを誘導するポイントに降り立った沙紀も無線で千歌に呼びかける。

 

『千歌……聞こえるか!』

「沙紀ちゃん……!」

『私はお前のすぐ側にいる。安心しろ』

 

 千歌は、声だけが聞こえる沙紀に質問を投げかける。

 

「沙紀ちゃん……この前、アイゼンテックから通告があるって教えてくれたけど……どうして、そのことを知ってたの……?」

『……当然のことだ。そもそも、あれは私から持ち込んだ話だ』

 

 沙紀からの告白に、思わず目を見開く千歌。

 

「どうして……!? 沙紀ちゃん、何で地球を爆破なんて……」

『落ち着け! すぐに助けるから、なるべく呼吸を少なく、大人しくして……。気分を落ち着かせるのに、お伽噺でも聞かせてやろう』

 

 沙紀がゆっくりとした口調で、千歌に一つの話を聞かせ始めた。

 

 

 

 ――昔むかし……1300年前くらいの昔。暗黒ガス状の怪獣、ルーゴサイトが、一つの惑星を丸ごと、食べてしまおうとしていました。ルーゴサイトに食べられてしまったら、惑星に住む人たちが困ってしまいます。だから、悪い怪獣をやっつけるために、惑星O-50に力を授かった三人の戦士がやってきました。ところがルーゴサイトはとても強く、何とか1300年周期の楕円軌道に乗せるのがやっとでした。三人の戦士は力を使い果たして、惑星に落ちていってしまいました……。

 

 

 

『……何だか、不思議なお話……。初めて聞いたはずなのに、ずっと昔に聞いたような……』

「……一度は救われた惑星ですが、それから1300年が経って、その惑星にまたルーゴサイトが戻ってきてしまいます。それから先の話は……」

『大丈夫だよね……。だって、三人の戦士がいるんでしょ……?』

「お前はのんきでいいな……」

『えへへ……チカは、これからもみんなと……お兄ちゃんたちと……』

 

 言いかける千歌の言葉が、途中で消えていった。

 

「千歌!? どうした千歌! 返事をしろっ!」

 

 声を荒げる沙紀に、功海からの連絡が入る。

 

『美剣! ウッチェリーナを再起動した』

「……ウッチェリーナ、キングジョーをコントロールできるか!?」

[命令解除! 分離飛行形態で、格納庫に戻れ!]

 

 ウッチェリーナからのコマンドで、キングジョーの動きが鈍る。

 ……が、格納庫へ戻っていく気配はなかった。

 

『まだか!?』

『「もう10分まで残り少ないよ!?」』

「……どうしたウッチェリーナ! 奴は動きを止めないぞ!」

 

 ロッソが水球を投げ続けるが、キングジョーはやはり一向に止まる様子がない。

 そうしている間にも、コックピット内に毒ガスが充満していき、千歌が座席にもたれかかって意識を失っていた――!

 



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善悪分類学(B)

 

 グワアッシ……グワアッシ……。

 上空にアイゼンテック飛行船が旋回する綾香の街の中で、ロッソとキングジョーの戦いが続く。

 

『はぁッ!』

 

 どれだけ効かなくとも懸命に水球を放って攻撃を続けていたロッソだが、キングジョーを覆っていたバリアが消滅し、水球が機体表面に炸裂した。

 

[ボディ表面のバリア解除に成功しました!]

『「バリアがなくなった!」』

『止まれぇッ!』

 

 すかさず接近して取り押さえようとしたロッソだったが、喉元に突きを食らって返り討ちにされる。

 

『うあッ……!』

[しかし、キングジョーのコントロール不能! こちらの操作を受けつけません!]

「奴のコンピューターは既に汚染され暴走してる!」

 

 キングジョーは倒れたロッソのマウントを取って、顔面に向けて拳を振り下ろす。

 

『「こ、このっ……!」』

 

 ロッソが振り払おうとするも、果南の力を足してもキングジョーのパワーはすさまじく、抵抗が出来ずに殴られ続ける。

 

『うわあぁぁッ!』

「功兄ぃ! 克兄ぃたちがまずいよっ!」

「分かってるよ……! くそ、どうにかならねぇのか……!」

[う~ん、これは困りましたねぇ]

 

 状況を無視しているようにのんきな声を出すウッチェリーナに、思わず怒鳴る功海。

 

「何のんびりと言ってんだよ! 千歌の命だって危ねぇんだぞ! お前も、前に千歌で妄想したりしてたじゃねーかッ!」

[いや、あれは前社長からああいう風に振る舞えって言われてただけで、ホントに妄想癖がある訳ではありませんので……]

「くそッ! 冷淡な奴だッ!」

 

 吐き捨てた功海が、社長室の出入り口へ踵を返す。

 

「遠隔操作じゃもうどうしようもねぇ……! 俺たちも現場に行くぞ、曜!」

「わ、分かった!」

 

 功海と曜が社長室を飛び出していく中、沙紀が飛行装置を操作して飛び立つ。

 

「待ってろ千歌!」

 

 ジェットを効かせ、キングジョー目掛けまっすぐ飛んでいく沙紀。その接近に気づいて、ロッソをタコ殴りにしていたキングジョーがマウントポジションから離れた。

 

『うッ……果南ちゃん、大丈夫か……!』

『「何とか……。それより、沙紀さん……!」』

 

 沙紀はキングジョーの額の発光部へと手を伸ばす。

 

「私を中へ!」

 

 キングジョーからトラクタービームが放たれ、沙紀をコックピット内に取り込んだ。

 

「千歌!」

 

 コックピットへの侵入を果たした沙紀は、すぐに気を失ったままの千歌に駆け寄る。

 

「千歌! しっかりしろ!」

 

 千歌を抱えた沙紀は、超能力を発動してコックピットから脱出。しかしキングジョーが叩き落とそうと腕を振る。

 

「うっ……!!」

 

 鋼鉄の指が飛行装置を破壊したが、どうにか工事現場に積まれていた段ボール箱の山に落下して衝撃を和らげる。

 

「千歌……! 千歌っ! 目を覚ませ! 生きるんだ!」

 

 救出した千歌に必死に呼び掛け、その胸元に手の平を当て、エネルギーを送った。

 

「こふっ……!」

 

 その結果、千歌が大きく空気を吐き出し、意識を取り戻す。

 

「……沙紀ちゃん……」

「良かった……」

 

 千歌が目を覚ましたことで緊張の糸が切れた沙紀は、入れ替わるように失神して倒れ込んだ。

 

「沙紀ちゃん! しっかり……!」

 

 キングジョーは倒れた沙紀を狙って進撃してくるが、その前方に持ち直したロッソが回り込んで立ちはだかった。

 

『うおぉッ!』

『「いい加減、止まりなさいっ!」』

 

 キングジョーのボディに拳を叩き込むロッソ。だが、バリアが無くなってもキングジョーの装甲は非常に強固であり、打撃はほとんど通用していない。

 

『くぅぅッ……!』

 

 腕を掴まれて万力の如く締めつけられても、ロッソは決してめげず、キックを胸部に打ち込んで押し返す。

 ロッソが奮闘している間に、功海と曜が千歌たちの元に駆けつけた。

 

「千歌ちゃんっ!」

「大丈夫か千歌!」

「曜ちゃん、功海お兄ちゃん……」

 

 千歌がうなずき、ほっと胸を撫で下ろす曜。功海はロッソへ振り向いて叫んだ。

 

「克兄ぃ! そいつの装甲は強力だ! 克兄ぃたちは冷凍光線で、俺たちは高熱で、温度差で奴の装甲を弱めるんだッ!」

『よしッ!』

 

 ロッソが了解し、果南がクリスタルホルダーに手を伸ばした。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

[ウルトラマンビクトリー!]

 

 土のクリスタルをジャイロにセットして、タイプチェンジする。

 

[ウルトラマンロッソ! グランド!!]

 

 功海と曜の方も変身を行う。功海が風のクリスタルを選択して、ジャイロにセット。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンティガ!]

 

 風を纏って、ウルトラマンブルに変身。

 

[ウルトラマンブル! ウインド!!]

 

 キングジョーの背後に着地して、ロッソと挟み撃ちの状況を作り上げる。

 更にロッソとブルは角からルーブスラッガーを抜いて、それぞれクリスタルをスラッガーにセットしていく。

 

[ウルトラマンギンガ!]

[ウルトラマンタロウ!]

 

 相反する属性の力を刃に込め、光線にして発射!

 

「『クロススパークシュート!!」』

「『ダイナマイトスラッシュ!!」』

 

 左右から冷凍光線と灼熱光線を浴びせられたキングジョーは、急激な金属疲労を起こして、装甲の表面に亀裂が走った。

 

『よしッ!』

『「一気に押し込もう!」』

 

 果南が極クリスタルを取り出し、起動させる。

 

『「「セレクト、クリスタル!!」」』

 

 クリスタルを開いて、曜の掲げるジャイロにセット。

 

『『纏うは極! 金色の宇宙!!』』

『「「サンシャイン!!」」』

 

 二人でグリップを引いて、兄弟の合体を行う!

 

[ウルトラマンルーブ!!]

 

 合体変身したルーブが、まっすぐにキングジョーへぶつかっていく。

 

「ハァァッ!」

 

 タックルを決め、キングジョーと激しく殴り合うルーブ。しかしロッソとブルの力を合わせたルーブに対しても、キングジョーは互角に渡り合う。

 

「ハァッ!」

 

 ルーブとキングジョーのパンチが交差し、互いによろけ合った。

 が、キングジョーはすかさず両目から怪光線を発射し、ルーブに食らわせる。

 

「ウゥッ!」

 

 光線に押されたルーブが、背後のビルに衝突してめり込んだ。

 

『「何て奴……!」』

『「ここは私に任せて!」』

 

 曜が極クリスタルを握り、文字を「航」に変化させる。

 

[ルーブ・クルーズ!!]

 

 青と水色のラインを走らせたルーブが立ち上がり、ジェットスキーを効かせてキングジョーの周りを疾走。キングジョーはそのスピードについていくことが出来ず、足が止まった。

 

「ウッチェリーナ、怪獣拘束システムを起動。キングジョーに」

[了解! 怪獣拘束システム、起動!]

 

 その隙を突いて、沙紀がウッチェリーナに命じて、拘束光線をキングジョーに浴びせた。

 ルーブに気を取られていたキングジョーはこれをまともに受け、機能が停止して立ち尽くした。

 

『「今だっ!」』

 

 即座に、曜がルーブコウリンを握り締める。

 

「『ルーブコウリンブル!!」』

 

 水のジェットで疾走しながら、キングジョーの装甲の亀裂にコウリンを走らせるルーブ。その一撃により、キングジョーのヒビが更に広がる。

 

『「とどめだよっ!」』

[ルーブ・オーシャン!!]

 

 曜から果南に交代して、極クリスタルをコウリンにセットする。

 

[高まれ! 究極の力!!]

「『「『オーシャン・ボルテックバスター!!!!」』」』

 

 螺旋状の紺碧の奔流がコウリンから発射され、キングジョーの背面に命中。

 砕けた装甲を突き破って、爆発四散させた!

 

『「やった……!」』

『「ふぅ~、終わったぁ……!」』

 

 キングジョーの暴走を食い止めて、どっと息を吐く果南と曜。一方で、ブルの意識がロッソに呼び掛ける。

 

『克兄ぃ、ちょっと気になることがあるんだけど……』

『何だ?』

『アイゼンテックのシステムの修正の時に、ネットの遮断をしたんだけど……外部のネットワークの接続を切っても、ハッキングが止まらなかったんだ』

『え……!?』

『どう考えても、内部の犯行としか思えねぇんだよ』

『内部犯だと……? 一体誰が……』

 

 一瞬思案したロッソが、ハッと息を呑む。

 地球爆破声明を出してから、ずっと社長室に籠もり切りと言われていた氷室が、今日に限って全く姿を見せていない。このような大事態が起こったにも関わらず、だ。

 

『まさか……けど、何のためにこんな……』

 

 千歌はルーブを見上げて、嬉々と呼び掛ける。

 

「お兄ちゃん! みんなの力を合わせて、ルーゴサイトって怪獣を倒せば、地球は爆発しないで済むんだよ! ね、沙紀ちゃん」

 

 笑顔で、沙紀に振り返った千歌だが、

 

「ウッチェリーナ。――ビームをウルトラマンに」

「え……?」

 

 アルトアルベロタワーから放射された拘束光線が、油断していたルーブの背中を撃った!

 

「ウアァッ!?」

『「わぁぁぁぁっ!? し、痺れ……!」』

『「な、何を……!」』

 

 全身のエネルギーの循環を妨げられたルーブは変身を保てなくなり、消滅。元の姿に戻った克海たちは、光線の影響が抜けずにがくりと伏せっていた。

 

「う、うぅ……立てない……!」

「沙紀さん……何の真似を……」

 

 身体に力が入らず、息を荒げるばかりの果南たち。克海は震える手を伸ばして、地面に転がったジャイロを掴み取ろうとするが――その手を、沙紀の足に踏みつけられた。

 

「うぅッ!? あぁぁぁ……!」

「沙紀さんっ! 克兄ぃに何てこと……!」

「私たち、あなたを信じて力を貸したのに……!」

 

 果南の抗議の声も聞かず、沙紀は冷酷に克海たちをにらんで、言い放った。

 

「その汚い手で触るな! これはお前たちのような偽者が持つべきものではない!」

「偽者……!? 克兄ぃたちが……!」

「一体、何の話を……」

 

 沙紀は憤然と、宣告する。

 

「これは私の……兄たちのジャイロだっ!」

「え……!?」

 

 絶句する曜たち四人。それに構わず、沙紀は二つのジャイロを奪い取る。

 沙紀を追いかけてきた千歌は、その背中に困惑の眼差しを向けていた。

 

「何で……? 沙紀ちゃんは、悪い子じゃないのに……」

「……古き友は言った。彼らが出す最大の害は、人々を善人と悪人に分けてしまうことだ。オスカー・フィンガル・オフラハティ・ウィルス・ワイルド」

 

 沙紀はそう言い残して――その場に立ち上がれない克海たちと、呆然としている千歌を置いて、激闘の爪痕が残る街の向こうへと歩み去っていった。

 無情なる戦いの結末を、空の上から見下ろすように、飛行船が巡回を続けていた。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

果南「ハグしよっ! 今回紹介するのは、『ULTRA SEVEN』だよ!」

果南「この歌は前回の『進め!ウルトラマン』みたいに、主題歌候補として作られた歌なの! その結果、主題歌には『ウルトラセブンの歌』が選ばれたって訳だね」

果南「この歌は、主に満田かずほ監督が手掛けたエピソードの中で、セブンが人間大で活躍するシーンやウルトラ警備隊の出動シーンでBGMとして用いられてるから、印象に残ってるって人も多いと思うわ」

果南「もう一つ、以前の紹介の通り、主題歌候補には『ウルトラセブンの歌 パート2』と呼ばれてるものがあるの。これは後の作品、『A』や『タロウ』でゾフィーが登場する場面でテーマ曲代わりに使われてるわね」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『ときめき分類学』だ!」

功海「果南、ダイヤ、花丸の三人のユニット、AZALEAのシングル「トリコリコPLEASE!!」のカップリング曲だ! タイトルの通りにときめきの甘酸っぱさを表現した歌だぜ!」

克海「AZALEAは電子音を主な曲調としてるのが特徴のミニユニットだ」

果南「それじゃ、また次回でね!」

 




功海「美剣の奴にジャイロを奪われるなんて!」
克海「一体何をたくらんでるんだ! これも地球を爆破するために必要だっていうのか!?」
千歌「沙紀ちゃん、どうしてお兄ちゃんたちのことを、そこまで……!」
克海「行くぞ功海! 目の前の救える命を見捨てる訳にはいかない!」
功海「次回、『GALAXY MemorY』!」
千歌「かんかんみかん!」


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GALAXY MemorY(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

善子「暴走する鉄巨人に囚われてしまった千歌! 功海たちは美剣沙紀と手を組み、千歌を解放するために奮闘したわ。激闘の果てに、無事に千歌を救い出して鉄巨人を打ち破ったのだけれど、沙紀がまさかの背信! 二人のジャイロが、奪われてしまったわ!」

 

 

 

 ――それは、遠い過去、どれだけ願っても最早戻ってこない時間。虚空の銀河に散っていった、星屑の記憶。

 1300年前、彼女は二人の兄とともに、星を食らう大怪獣ルーゴサイトに立ち向かった。だが、ルーゴサイトは彼女たちの想像をはるかに上回る強さであり、まるで歯が立たなかった。どうにかルーゴサイトを楕円軌道上に追放することは出来たが……三人は力を使い果たして、背にしていた惑星に墜落。彼女は辛うじて無事であったが……二人の兄は、ルーゴサイトの攻撃から彼女をかばったことにより――命を燃やし尽くしていた。

 無数のクリスタルとなって砕け散った、本来のロッソとブルを目の前にして――グルジオボーンに変身していた、1300年後に美剣沙紀と名乗る少女は慟哭を上げたのだった。

 

 

 

「……」

 

 克海と功海から奪い取ったルーブジャイロを、自分のものと一緒にケースに収めた沙紀は、当時のことを静かに回想していた。

 

[他人の変身アイテムを奪うのは、自分の力に自信のない卑劣な宇宙人のよくやる手だと前社長が……]

 

 意見してきたウッチェリーナを、沙紀は険しくにらみ返した。

 

「奪ったのではない! 取り戻したのだ、星空に散った兄たちの力の結晶を」

 

 そう主張する沙紀の元に、氷室が現れる。

 

「高海の兄弟からジャイロを回収したのですか。では、計画を確実なものとするために分析を……」

 

 言いながら手を伸ばしかけるが――すぐに沙紀がケースを抱え、氷室の手から遠ざけた。

 

「これは私の兄たちの形見だ。何人にも触らせん」

「……」

「そもそも貴様、一体どこへ行ってたのだ! あれだけの事態が起きたというのに!」

 

 キッと目尻を吊り上げる沙紀に、氷室が淡々と弁明。

 

「申し訳ありませんでした。たまたま、急用で遠出してましたので……。災難に見舞われたあなたに何の力添えも出来ず、心苦しく思っています」

「ふん、たまたま……たまたまか」

 

 沙紀は氷室に胡乱な視線を向けつつ、彼から離れて社長室の扉に歩いていく。

 

「貴様が何を考えていようとも、私は成し遂げる。兄たちに果たせなかった使命を! 子の力で必ず……!」

 

 その宣言を残して、ジャイロを持ったまま社長室から退室していく沙紀。

 氷室はその後ろ姿を、光を怪しく反射させる眼鏡のレンズ越しに見つめていた。

 

「……」

 

 

 

『GALAXY MemorY』

 

 

 

『――まさか、そんなことになっていたなんて……!』

「はい……。もう色んなことが起こって、大変で……」

 

 『四つ角』。千歌が巨大ロボットのアイゼンテック社襲撃事件のニュースを見て、安否の連絡を入れてきた聖良に、近況を伝えていた。聖良は電話口でひどく驚いている。

 

『……分かりました。ともかく、皆さんがひとまずは無事で何よりです。では、また』

「はい。何かあったらまた連絡します」

 

 千歌が通話を終えた一方で、梨子たちは克海の身体を気遣っている。

 

「克海さん……お身体はもう何ともないんですか?」

「ああ、大丈夫だ、ありがとう。果南ちゃんと曜ちゃんも、痺れが残ってたりしないか?」

「うん、平気」

「私も。だけど……」

 

 居間には重い空気が漂い続けていた。それは当然だろう。ウルトラマンに変身するために必要なルーブジャイロを、二つとも奪い取られてしまったのだ。これでは何かあった時に、どうすることも出来ない。

 

「い、功海さん、無理しちゃ駄目ずら!」

「ちょっと落ち着いて……!」

「どいてくれッ!」

 

 そんな時に、止めに入る花丸とルビィを振り切って功海が上着を羽織って裏口に向かうのを、克海が立ちはだかった。

 

「どこ行くつもりだ、功海」

「決まってんだろ。アイゼンテック社に乗り込んで、ジャイロを奪い返すんだよ!」

 

 逸る功海を落ち着かせようとなだめる克海。

 

「少しは頭冷やせって!」

「よく平気な顔してられるよな。助けてやったってのに、あんな目にまで遭わされといて、何とも思わねーのかよ!?」

「だからって正面から行って返してくれる訳ないだろ!」

「今まで綾香市守ってきたのは誰だ。怪獣と戦ってきたのは誰だ。美剣じゃない俺たちだろッ!」

「あいつは言ってた。これは私の兄たちのジャイロだって。何かあるんだよ……!」

「そうだよ! 沙紀ちゃんは悪気があったんじゃないの!」

 

 克海と功海の間に、千歌が必死に弁解しながら割って入った。そんな彼女に振り向いて、克海が問いかける。

 

「千歌……教えてくれ。美剣から何を聞いたんだ? あいつから何か話してもらったんだろ?」

「千歌ちゃん……!」

 

 曜たちの目も千歌に集まる。皆の注目を一身に浴びた千歌は、真剣な面持ちとなって――。

 

 

 

「――という訳なの!」

 

 お手製の紙人形劇で、沙紀から聞いた話の内容を全員に伝えた。

 聞き終えた克海たちは、そろって唖然と固まっている。

 

「……どうせ私、説明下手だもんっ!」

「ああ違うよ千歌ちゃん! 言ってること分かんなかったとかじゃなくて……!」

「ええ……。あまりに衝撃的な内容でしたので、どうリアクションすればいいのかが……」

 

 勘違いして泣き崩れる千歌を曜たちがなだめ、ダイヤは額を指で支えてうなった。

 鞠莉は千歌の説明を、ゆっくりと振り返る。

 

「ちょっと整理させて……? つまり、沙紀さんは元々のウルトラマンに変身する人たち……克海と功海の先代の人たちの妹の、宇宙人……」

「うん!」

「そして1300年前に三人は、怪獣と刺し違えて地球に落下して、二人の兄はそこで亡くなった……。これが偶龍璽王伝説、この綾香市の土地で起きたことの真相で、クリスタルは二人のウルトラマンの破片……!」

「うん!」

「怪獣は今まさに地球に戻ってこようとしてて、沙紀さんはかつて倒せなかった怪獣を倒そうとしてるのが、地球爆破の理由!!」

「そういうことっ!」

 

 話を呑み込んだ善子が、途方に暮れたように壁にもたれかかった。

 

「何てぶっ飛んだ話……。私の設定を軽く超えることが、現実の話だなんて……」

「善子ちゃんがショック受けすぎて、堕天使を設定って言っちゃったずら……」

 

 善子じゃなくてヨハネ、と返す気力すら、今の善子にはなかった。

 功海も呆気にとられている。

 

「1300年前から生きてたなんて……あいつ滅茶苦茶お婆ちゃんじゃん」

「功兄ぃ、気にするとこそこ?」

 

 曜が突っ込んでいると、千歌が皆に向けて沙紀の弁解をする。

 

「沙紀ちゃんは、お兄さんたちが倒せなかった怪獣に一人で立ち向かおうと必死なんだよ!」

「けど、そのために地球を爆破しようなんて無茶苦茶じゃん!」

「第一、そんなすげぇ怪獣がまた地球に来るなんて、本当かどうか……」

「ええ……。今の話が真実だという保証はありませんわ」

 

 克海に同意するダイヤであったが、そこにルビィがおずおずとスマホを持ち上げた。

 

「それがぁ……そうでもないみたいだよ……」

「え?」

 

 画面に映っているのは、緊急生放送のニュース。

 

『緊急速報をお伝えします。先ほど、NASAや国立天文台など、各国複数の機関が、地球に向かって飛来する未知の物質を捉えました。このままの軌道と速度では、約一週間後に地球に衝突する計算になっているということです』

「……一週間後って……」

「アイゼンテックが発表した、怪獣の到着予測の日と、一致するわ……」

 

 振り返った果南に、鞠莉が日にちを計算して答えた。皆、顔が青ざめている。

 

「……えっ、ほんとに……? 星を丸ごと食べちゃうような怪獣が、地球に向かってきてるの……?」

「前のウルトラマンたちが命と引き換えにしてでも、問題を先延ばしにするのが精いっぱいっていうようなのが……」

 

 曜と梨子のポツリとしたつぶやきを最後に、室内が沈黙で満たされた。

 

 

 

 アルトアルベロタワーの隠し部屋に三つのジャイロを運び込んだ沙紀は、機材をセットしながらウッチェリーナに告げる。

 

「これよりルーブジャイロ起動実験を開始する」

[そのようなプログラムは存在しません]

 

 ウッチェリーナがそう答えても構うことなく、沙紀は装置につなげた己のジャイロに、何も描かれていないクリスタルを嵌め込んだ。

 

「あと一週間で、奴はこの星に来る。三つのジャイロの力でガス状から実体へと変異させ……」

[そして、地球ごと爆破させる作戦ですね?]

 

 沙紀は無言の肯定をして、ウッチェリーナに命令する。

 

「これよりエネルギーを注入する」

[エネルギー……?]

 

 

 

「い、功兄ぃ、ちょっと落ち着いて……!」

「克兄ぃも、今はこんなことしてる時じゃ……!」

 

 しばらく沈黙に包まれていた『四つ角』だが、今は克海と功海が止める果南たちも目に入らずに言い争っていた。

 

「地球を犠牲にして敵を倒すなんて、そんなの自分勝手なだけじゃん!」

「あいつは兄を亡くしてるんだぞ!」

「だから許せねぇんだよ! 他の人間はみんな死んでもいいってのか!」

「あいつは千歌を救ってくれたじゃないか! 話の通じない相手とは思えない」

「裏切ったじゃんッ! 何でそんな奴の肩を持つ!」

「そうじゃないッ!」

「そういうことじゃんッ!」

「俺たちみんなが力を合わせれば……地球を爆破させずに済む方法が見つかるかもしれないだろ!」

「はッ! どこまで脳味噌お花畑なんだよ!」

「……何だと……!?」

 

 お互いに胸倉を掴み合う克海と功海に、梨子たちが息を呑む。

 

「ちょっ……!」

「やめなよ克兄ぃ功兄ぃ! まだ分かんないの!?」

「ここでお二人で争って、どうなるというのですか!?」

「仲間内で反目してても、馬鹿を見るだけよっ!」

 

 果南たち三年生組が制裁に入っても、今回は克海も功海も収まらない。

 

「どいてくれ! この分からず屋が悪いんだッ!」

「分かんねぇのはそっちだろうがよッ!」

 

 牙を剥き出しにし合う二人に、千歌もたまらずに声を荒げた。

 

「やめてよ! お兄ちゃんっ!!」

 

 

 

 沙紀は装置の椅子に座り、自らの四肢にコードを取りつけていく。それを諌めるウッチェリーナ。

 

[あなた一人の生命エネルギーで、三つのジャイロを起動させるのは命の危険が……!]

 

 しかし沙紀は聞き入れようともしなかった。

 

「果たしてみせる。兄たちの想いに応えるためにもっ!」

[ああ……!]

 

 装置の起動を強行し、自らの命のエネルギーを、同時に三つのジャイロ全てに注ぎ込み始めた。

 

「うぅ……!」

 

 

 

 克海と功海が争っている場で、バイブス波測定のアンテナがやおら回転し始めた。ルビィたちがバッと振り返る。

 

「ぴぎっ! 怪獣だよ!」

「こんな時に……!」

 

 最悪なタイミングでのアンテナの反応に、梨子が絶句した。

 

「くそッ……!」

「あっ、克兄ぃ!」

 

 克海が先駆けて居間を飛び出していき、それに対抗するように功海が後を追う。ダイヤたちも反射的に追いかけていく。

 

「行ってどうするんですか!? ジャイロはありませんのよ!?」

 

 それに克海たちは、返答を寄越さなかった。

 

 

 

 内浦の外れの山間部の地中にて、1300年前に飛び散って以来、誰にも知られることなく眠り続けていた一枚のクリスタル。それが、三つのジャイロの強引な同時起動というイレギュラーが起こしたバイブス波に影響されて、実体化を果たしてしまった!

 

「ギャオオオオオオオオ!」

 

 古のクリスタルから出現した怪獣ゴモラが、バイブス波に引き寄せられてアイゼンテック社に向かって進撃を開始。その姿を目撃した人たちは、悲鳴を上げて一目散に逃げていった。

 

 

 

「うぅぅ……!」

 

 歯を食いしばって生命エネルギーをジャイロに注ぎ込む沙紀であったが、ジャイロはどれ一つとして正常な反応を見せなかった。

 

[ルーブジャイロ、起動を確認できません! あなた一人の力で三つのジャイロを……]

「出来る! 私はこの時を、1300年待ち続けたんだ!」

 

 ウッチェリーナの忠告を封殺する沙紀だが、空中のモニターにアラート画面が映し出される。

 

[警戒レベル4! これ以上は命が危険です!]

「やめるなっ!」

 

 それでも強行し続ける沙紀であったが、ジャイロは依然として反応を示さない。

 

「何故だ……! あんな素人二人にも扱えたというのに、何故この私が……!」

 

 実験を続ける沙紀だが、突然激しい震動が実験室を襲って、その揺れによって椅子の上から転げ落ちた。

 

「くっ……! 何だ……!?」

 

 

 

「ギャオオオオオオオオ!」

 

 ゴモラは綾香の市街地に入り込み、着実にアルトアルベロタワーに接近していた。タワー内の社員は駆け足で避難していく。

 

 

 

「くっ、こんな時に……!」

 

 状況を把握した沙紀はやむなく実験を中止し、迫りつつあるゴモラへの対策を開始する。

 

「怪獣拘束システムを起動!」

[了解!]

 

 タワーのアンテナから拘束光線が発射され、ゴモラに命中。

 

「ギャオオオオオオオオ!」

 

 しかしゴモラのボディは光線を反射し、返ってきた光線がタワーを撃って電気系統にダメージを与えた。地下室の照明器具も火花を散らす。

 

「うわっ! 何だと……!?」

[異常な乱れのエネルギーの影響により、怪獣のバイタルに著しい上昇が見られます! 拘束システムは通用しません!]

「おのれ……まさかこんなことになるとは……!」

 

 刺激を受けたゴモラはますます凶暴になって、鼻先の角から超振動波を飛ばして周囲を薙ぎ払う。

 

「ギャオオオオオオオオ!」

 

 激しい破壊を撒き散らしてタワーに歩を進めていくゴモラ。

 

「……!」

 

 それに先回りするように、克海たちもアイゼンテック社前に到着した。

 



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GALAXY MemorY(B)

 

 どうにかゴモラより早くアルトアルベロタワーに到着することが出来た一行の内、功海が克海に問いかける。

 

「飛び出してきたけど、どうすんだよ! 変身も出来ねぇのに!」

「ウルトラマンになれなくたって出来ることはあるだろ!」

「きゃあっ!」

 

 克海の背後で、避難に走る一人の女性社員が転倒した。

 

「あっ! 大丈夫ですか!?」

「大丈夫ですか!」

「この方をお願いします!」

 

 克海や梨子が率先して動き、肩を貸して助け起こして警備員に預けた。しかし功海は不満げに文句をつける。

 

「そんなことよりあの怪獣をどうにかする方が先じゃん!」

「目の前の救える命を見捨てるのかッ!」

「やめて下さい! ここまで来て……」

「功海さん落ち着くずら!」

 

 また口論しかける二人を、梨子、花丸らが制止する。そこに、

 

「また仲間割れか。愚かな兄弟だ」

 

 地上に上がってきた沙紀が、侮蔑の言葉を浴びせた。

 

「あっ……!」

「沙紀ちゃん……!」

 

 先日のことがあったばかりであり、Aqoursも身構える。ただ、千歌だけはどうすれば良いのかとためらった様子で立ち尽くす。

 

「美剣、お前の仕業か」

 

 決めつける克海に、沙紀は呆れた目を返した。

 

「短絡的だな。もう邪魔はやめてもらおう」

「はぁ!? バレバレなんだよ。どうせ自分で呼び出した怪獣を自分で倒して、市民から賞賛を得ようって魂胆だろ!」

 

 功海の言葉は、沙紀の顰蹙を買う。

 

「馬鹿にするな! 私はサルモーネとは違う」

「嘘吐け! とにかく、ジャイロを返してもらう!」

「言ったはずだ! あれは私の兄たちのものだと!」

「力ずくでも奪ってやるよッ!」

「功兄ぃ!?」

「おい功海よせッ!」

 

 辛抱ならなくなった功海が、曜たちが止めるのも聞かずに沙紀に飛び掛かる。が、

 

「うッ!?」

 

 沙紀が手の平から発した念動力によって、克海もろとも弾き返された。

 

「克兄ぃ!!」

「功海さん、しっかりして!」

「やめて沙紀ちゃんっ!」

 

 果南、ルビィらが慌てて二人へ駆け寄る。千歌は沙紀へ呼び掛けるが、沙紀は兄弟に冷淡な眼差しを向けたままであった。

 

「その程度でウルトラマンを名乗るとは、断じて認めない」

 

 果南たちに助け起こされた克海が、沙紀へ言い返す。

 

「俺もお前を認めない……! この星にどれだけの命が生きてるのか分かってるのかッ!」

「沙紀ちゃん、私からもお願い! 地球を爆破する以外の方法が、きっとあるよ!」

「克兄ぃ、千歌……こんな奴に話が通じるかよ……!」

 

 彼らと沙紀が対立している間にも、ゴモラが建物を破壊しながらタワーに近づきつつある。

 

「ギャオオオオオオオオ!」

[対怪獣拘束システム、回復できません! 再起動まで残り19分!]

 

 タワーのシステムは、先ほどの電気系統へのダメージにより、停止状態にあった。

 ウッチェリーナの報告の言葉に、克海たちが冷静になる。

 

「おい……様子が変だぞ」

「やっぱりあの怪獣、美剣の差し金じゃねぇのか……」

「私、ジャイロを取ってくる!」

「ああ……! 俺たちはどうにか時間を稼いで……」

 

 果南が申し出てタワー内に今にも駆け込もうとするのを、沙紀が止める。

 

「待て! お前たちには渡さないと言ったはずだ!」

「そんなこと言ってる場合か! このままじゃタワーも、俺たちもッ!」

「もう待てないよっ!」

 

 ゴモラとの距離を目測した果南が、焦って駆け出すが、

 

「はっ!」

「わぁぁっ!」

 

 沙紀の発した念動力によって転倒させられた。

 

「つぅ……!」

「か、果南っ!!」

「果南さん!!」

 

 倒れた果南に、鞠莉、ダイヤらが血相を抱えて駆け寄る。果南にまで手を出されて、克海、功海も目の色を変えた。

 

「美剣!! 果南ちゃんによくも……!」

「もう許さねぇぞ美剣ぃぃぃ―――――ッ!」

 

 もう一度飛び掛かるが、やはり二人纏めて返り討ちにされる。

 

「うわあぁぁぁッ!」

「やめてっ! 沙紀ちゃんやめてよっ!!」

「下がっていろ千歌!!」

 

 沙紀は千歌の説得にも耳を貸さず、克海と功海を見下す。

 

「笑わせるな! ジャイロがお前たちのような無力な人間を、選ぶ訳がない!」

 

 兄弟たちと沙紀の間で揉めている間に、ゴモラが放った超振動波がタワーをかすめ、外壁の一部が砕かれて瓦礫が降ってきた。

 沙紀の頭上にだ!

 

「はっ……!」

「沙紀ちゃんっ!?」

「美剣ッ!!」

 

 克海が咄嗟に飛び出して、沙紀を突き飛ばして瓦礫から救った。

 助けられた沙紀は、愕然と腹這いになった克海に振り向く。

 

「この私が……お前に……」

「ジャイロがあってもなくても関係ない……! 目の前に救える命があれば全力で守り抜く……! それがウルトラマンってもんだろッ!」

 

 駆け寄った功海、梨子、花丸に肩を貸してもらいながら起き上がり、主張する克海。だが、それは沙紀の逆上を買う。

 

「人間如きが……っ!」

 

 そしてエネルギーを固めた光弾を、克海たちに向けて撃ち出してきた!

 

「うわぁッ!?」

「お兄ちゃん!!」

 

 咄嗟に梨子、花丸をかばう克海と功海。叫ぶ千歌。息を呑み込む曜たち。

 その瞬間――ケースの中の二つのルーブジャイロが光り、ひとりでに動いて隠し部屋から飛び出した!

 空間を越えて克海たちの前に飛んできたジャイロは、光の壁を張って光弾から兄弟たちを守った。

 

「何だと……!?」

「ジャイロが、向こうから……!」

「二人を選んだんだわっ!」

「これこそ奇跡……!」

 

 ジャイロが克海たちを守ったことに、ルビィ、鞠莉、善子らが驚嘆する。

 克海と功海は手を伸ばして、戻ってきたジャイロを掴み取って嬉しそうに微笑んだ。

 

「ギャオオオオオオオオ!」

 

 いよいよ危険な距離まで接近したゴモラが、超振動波でタワーを狙い撃とうとする。それを、ジャイロと一緒に勇気をみなぎらせた功海たちが見上げる。

 

「よっしゃ……! 行こうぜ克兄ぃ!」

「ああッ!」

「私たちも!」

「ずらっ!」

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 梨子、花丸とともにウルトラマンへの変身を行う!

 

「「セレクト、クリスタル!」」

[ウルトラマンタロウ!]

[ウルトラマンギンガ!]

 

 火と水のクリスタルを使って、グリップを握り締める。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「纏うは水! 紺碧の海!!」

「ビーチスケッチさくらうち!」

 

 グリップを三回引いて、エネルギーを解放!

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 ウルトラマンへの変身を遂げた兄弟は、すぐにゴモラに掴みかかっていって超振動波の発射を阻止した。

 

『『おりゃあああああッ!』』

「ギャオオオオオオオオ!」

 

 タワーから押し返されていくゴモラだが、二人にヘッドバットを食らわせて振り払う。

 

「ギャオオオオオオオオ!」

『「そっちに行かないでよ!」』

『「よいしょっ!」』

 

 あくまでタワーを狙うゴモラの尻尾を、ロッソとブルで掴んで引っ張る。

 

『おおおぉぉッ!』

『はああああッ!』

「ギャオオオオオオオオ!」

 

 肉弾戦でゴモラを食い止めようとする二人だが、ゴモラのパワーはすさまじく、太い二本角を活かした頭突き攻撃によってはね返される。

 

「ギャオオオオオオオオ!」

『うわあぁッ!』

 

 尻尾の振り回しを食らって、ロッソが倒れ込んだ。その目の前に、瓦礫が車体に積もって身動きが取れなくなっている自動車が。

 

『「あっ、車が!」』

『よいしょ……!』

 

 ブルがゴモラに再度向かっていくのを背景に、ロッソが瓦礫を取り除いて車を自由にした。

 

『これでよし』

『わぁぁぁッ!』

 

 逃げる車を見送ったロッソの上に、押し返されたブルが倒れ込んだ。

 

『うわぁッ!? どけ、どけ功海ッ!』

『「花丸ちゃん、体重増えたんじゃない!?」』

『「ギクっ!? そそそんなことないずら!」』

 

 ブルをどかしてロッソが立ち上がり、再びゴモラにぶつかっていった。

 ゴモラ相手に奮闘するロッソとブルの姿に、沙紀が焦燥を見せた。

 

「何故だ……私にも力を引き出せなかったジャイロが……! 何故貴様らのような人間を、そこまで……!」

 

 納得できない沙紀に、千歌が訴えかける。

 

「それは、お兄ちゃんたちだからだよ! お兄ちゃんたちの、みんなを守りたいって気持ちが本物だからっ!」

「……沙紀さん、考え直して。1300年前にあなたがどんな思いをしたかなんて、私たちには想像も出来ない。それでも……克海たちは克海たちの本気でウルトラマンに変身してる」

 

 千歌のみならず、鞠莉も沙紀のことを説得する。

 

「昔とは、状況が違うはずよ。きっと、みんなの力を合わせれば、昔とは違う結末に出来る。今のような奇跡が起こるはず! どうか、信じて……!」

 

 必死の想いで呼び掛ける鞠莉であったが……。

 

「不確かな奇跡などで勝てるほど……甘い相手ではないっ!」

 

 沙紀は聞き入れず、ジャイロを構える。

 

「っ!!」

[警告します! 今の状態で戦えば、更に命を削ることに……!]

 

 ウッチェリーナが再三警告したが、沙紀はやはり止まろうとしなかった。

 

「構わん!」

グランドキングメガロス!

 

 土の怪獣クリスタルをジャイロに嵌め込む沙紀。千歌が懸命に叫ぶ。

 

「もうやめて沙紀ちゃんっ!」

「うるさいっ!!」

 

 沙紀ははねつけ、ジャイロのグリップを引いて怪獣に変身。そしてゴモラと格闘していたロッソ、ブルを額からのレーザーで攻撃する。

 

『うわあぁぁッ!?』

『「な、何!?」』

 

 振り返ったロッソたちが、今の沙紀の姿を視認する。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 ゴモラよりも更に大柄な、黒と金色に染め上げられた鋼鉄の肉体の大怪獣。要塞がそのまま猛獣になったかのような、普通の怪獣とは明らかに一線を画す威圧感で溢れている。

 沙紀の切り札の一つ……その名も、超弩級怪獣グランドキングメガロス!

 

『「まさか、あれ……沙紀さんずら!?」』

『自分で怪獣になりやがったのかッ!』

「ギャオオオオオオオオ!」

 

 ゴモラは新たに出現したグランドキングメガロスも敵と見なし、ロッソ、ブルを突き飛ばして超振動波で攻撃を仕掛けた。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 しかしグランドキングは超振動波を易々と弾き返し、腹部から発射する縦列レーザーをお返しする。

 

「ギャオオオオオオオオ!!」

 

 たった一撃で、ロッソとブルの二人を相手に互角に立ち回っていたゴモラが消し飛ばされ、爆炎の中に消えていった!

 

『怪獣を一撃でッ!』

『何てパワーだ……!』

『「やばいですよ、これ……!」

『「来るずらっ!」』

 

 ゴモラを瞬殺したグランドキングメガロスは、次はロッソたちの番とばかりにまっすぐ進撃し始めた!

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 アイゼンテック飛行船が旋回する空の下、グランドキングはあまりもの重量故に、一歩踏み出すだけで道路を粉砕しながらロッソたちに迫ってくる。ロッソとブルは、恐るべき大怪獣にも果敢に立ち向かう。

 

『はぁッ!』

 

 ロッソが蹴りを浴びせるものの微塵も通じず、反対に軽く小突かれただけでロッソがはね返される。

 

『うわぁッ!』

『「きゃあぁっ!」

『おりゃおりゃおりゃッ!』

 

 ブルが連続パンチを仕掛けるが、鋼鉄の肉体を殴ったことで逆に己の手を痛めるだけの結果になった。

 

『か、硬てぇ~……!』

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 悶絶したブルの身体を、グランドキングのショベルめいたアームが挟み込んで捕獲。

 

『「うわぁーっ! 捕まったずらぁ!」』

『くぅぅぅ……!』

 

 身をよじって抵抗するブルだが、パワーが違いすぎて全く振り払えない。

 

『「やめなさい……!」』

『放せッ!』

 

 ロッソが飛びついて助力することでどうにか脱け出したが、二人そろってグランドキングのクローを叩きつけられて吹っ飛ばされる。

 

「グワアアアァァァァァァァァ!」

『『わぁぁぁぁぁッ!!』』

 

 グランドキングメガロスに変身している沙紀が哄笑を上げる。

 

『ははははは! はははははははっ!』

 

 グランドキングのパワーが強すぎるあまり、制御し切れておらず精神が暴走しているのだ!

 更に角から電撃を放ってくるのを、ロッソとブルは側転しながら回避して後退。何とか体勢を立て直す。

 

『功海、あいつは土の怪獣だ!』

『土を崩すには水!』

『「遠くから水を浴びせるずら!」』

 

 ブルがアクアストリュームを発射して、グランドキングに正面から食らわせる。

 

「『アクアストリューム!!」』

 

 直撃をもらったグランドキングの動きが止まった。

 

『やったか!?』

 

 だが……。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 それは一瞬だけのことで、すぐに何事もなかったように活動を再開した。

 

『「効いてないずら……!」』

『防御力まで弩級かよ……!』

 

 ロッソは沙紀の説得を、もう一度試みる。

 

『美剣、千歌から聞いた。お前先代ウルトラマンの妹なんだろ? 一緒にこの世界を守ろうとしてたんじゃないのか? それが兄貴たちの願いだったんじゃないのか!? それなのに、どうして命を踏みにじるんだッ!』

『古き友は言った。あらゆる生ある者の目指すところは、死であると。ジークムント・フロイト……!』

 

 しかし、沙紀にはやはり通用しない。

 

『「駄目です、聞く耳を持ってくれません……!」』

『くそッ、何で分からないんだ……!』

 

 グランドキングメガロスは右腕のクローから、光剣を作り出して斬りかかってくる。

 

「グワアアアァァァァァァァ!」

『危ねぇッ!』

 

 狙われたロッソをブルが咄嗟に突き飛ばしたが、代わりに己の肩に剣を食らってしまう。

 

『うわあぁぁッ!』

『「ずらぁぁっ!」』

『功海ッ!』

『「花丸ちゃん、大丈夫!?」』

 

 動揺したロッソにも、光剣が叩きつけられる。

 

『ぐわぁああッ!』

『「あうぅっ!」』

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 ロッソを狙い続けるグランドキングの側方から、ルーブスラッガーを抜いたブルがジャンプしながら斬りかかった。

 

『はぁぁぁぁッ!』

 

 連続で斬撃を浴びせるも、スラッガーでもグランドキングの装甲は破れず、クローで受け止められる。その懐にロッソが飛び込んでいくが、剣で阻止された。

 

『ぐぅッ!?』

「グワアアアァァァァァァァ!」

 

 グランドキングが両腕を振り上げ、ロッソたちを纏めてはね返す。

 

『わぁぁぁぁッ!!』

 

 仰向けに倒れたロッソの首のすぐ横の地面に、光剣の剣先が突き刺さった。

 

『お前たちは死ぬ! この星も! この星に生きるものもっ! 全てが死に絶え、その犠牲を以て、兄たちに死が報われるのだっ!!』

『「勝手なことばかり……言わないでっ!」』

 

 梨子が力を振り絞り、ロッソに力を与える。ロッソはグランドキングの腹を蹴って押し返し、立ち上がって果敢に立ち向かうが、梨子の助力があってなお力量差は歴然としており、クローによって叩き伏せられた。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

『ぐわぁぁッ! くぅッ……!』

 

 あまりにも一方的な戦いの流れに、ダイヤたちが脂汗を垂らす。

 

「二人がかりでも、手も足も出ないなんて……!」

「冥府の瀬戸際……!」

「みんな……がんばルビィ!!」

 

 必死に応援するルビィ。だが戦況が好転する気配は見られない。

 ブルはグランドキングの背後から飛びついてクローを抑えながら、ロッソを咎る。

 

『何してんだ! こいつには話が通じないって言っただろッ!』

「グワアアアァァァァァァァ!」

 

 そのブルも、軽々と放り投げられて地面に激しく打ち据えられた。

 

『うわぁぁぁッ……!』

 

 カラータイマーは二人ともけたたましく鳴っている。体力の限界が近い証拠だ。

 

『もう時間がない! 決めるぞ!』

『「梨子ちゃん、極クリスタルずら! もうそれしかないずら!」』

『「分かったわ……!」』

 

 ブルに立たされるロッソの中で、梨子が極クリスタルを掴み取った。

 

『「「セレクト……!」」』

 

 しかし二つのインナースペースをつなげようとしたその時に、クリスタルから激しいスパークが発せられた。

 

『「きゃあっ!?」』

『「ずらぁっ!!」』

 

 衝撃によって梨子と花丸は引き離され、ロッソとブルも弾き飛ばされる。

 

『『うわあああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――ッ!!』』

 

 一度は合体しかけた二人が、ルーブへの変身に失敗したことに、曜たちも激しいショックに見舞われた。

 

「合体できない! 何で!?」

「克海と功海の心が、重なってないからだわ……!」

 

 理由を分析した鞠莉のこめかみに、嫌な汗が流れる。

 

『やはりその程度か……塵となって消えろっ!』

 

 グランドキングメガロスの背面の突起が四つ分離して宙を舞い、ロッソたちにビームを発射して追撃を掛ける。

 

『ぐあああああッ!』

 

 ひたすらに追いつめられる兄弟。ブルはどうにか打開しようと、クリスタルチェンジする。

 

『セレクト、クリスタル!』

『「お花ーまるっ!」』

 

 ブルグランドに変身すると、両拳を地面に叩きつけた。

 

「『アースブリンガー!!」』

 

 地表伝いにエネルギーを繰り出すが、グランドキングの突起が本体の前に集まってバリアを張り、攻撃を完全に防いだ。

 

『「今のも駄目ずら!?」』

『「もう、どうしたら……!」』

 

 もう次に打てる手が思い浮かばず、梨子たちはただ狼狽するばかり。

 

『これで最後だっ!!』

 

 グランドキングメガロスはロッソとブルにとどめを刺すべく、口から破壊光線を発射する!

 

「リリィ!!」

「花丸ちゃん!!」

「克兄ぃっ!!」

「功兄ぃ!!」

 

 兄弟の絶体絶命の危機を前に、Aqoursが一斉に悲鳴を上げた!

 

「お兄ちゃぁぁぁぁ―――――――んっっ!!」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

花丸「お花ーまるっ! 今回紹介するのは『ウルトラマン物語~星の伝説~』ずら!」

花丸「この歌はその名の通り、映画『ウルトラマン物語』の主題歌ずら! 『物語』はウルトラシリーズ初の、再編集が大部分じゃない長編映画ずらよ! と言っても、尺の半分くらいはやっぱりテレビシリーズの再編集ずら」

花丸「歌ってるのはあの水木一郎さん! アニソンの第一人者とも言えるアニキさんの熱唱ぶりは、やっぱりいつ聴いても心を揺さぶられるって、思わないずら?」

花丸「『物語』は質のいいタロウの成長譚、強敵グランドキング登場などの要素から人気が高い作品で、後の作品に与えた影響も大きいずら!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『GALAXY HidE and SeeK』だ!」

功海「果南、ダイヤ、花丸からのミニユニット、AZALEAの歌だな! 「銀河でかくれんぼ」って大胆な発想の、幻想的な曲だ!」

克海「運命の出会いをかくれんぼに喩える発想は、何ともロマンチックと言えるだろうな」

花丸「それじゃ、次回もよろしくずら!」

 




功海「まだ美剣と話し合うつもりかよ克兄ぃ!」
克海「いがみ合っていてもしょうがない! 地球がピンチなら三人協力すればいいじゃないか!」
沙紀「無駄だ。お前たちと足並みをそろえることなどありはしない。今度こそ、お前たちの身の程を教えてくれる!!」
克海「次回、『Awaken the R/B』!」
克海&功海「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」


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Awaken the R/B(A)

 

『これで最後だっ!!』

 

 ロッソとブルに狙いを定め、グランドキングメガロスが口から破壊光線を発射する!

 

「『フレイムミラーウォール!!」』

 

 これに対しロッソは咄嗟にバリアを張り、光線を防御。バリアの表面は鏡面になっており、反射された光線は上空へとそれて飛んでいく。

 

『「うぅぅ……!」』

『もう一発ッ!』

 

 ロッソが反射角を修正して光線をグランドキング自身に返すのと、ブルが二度目のアースブリンガーを繰り出すのは同時であった。

 

『あぁぁぁぁッ!』

「『アースブリンガー!!」』

 

 己の攻撃にブルの攻撃を上乗せされて食らったグランドキングは、遂に装甲を突き破られた。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 激しく爆発して消滅していくグランドキング。一瞬の間の逆転劇に、曜たちは目を見張った。

 

「や、やった……!!」

 

 しかし同時に、ロッソたちもとうとうエネルギーを使い果たし、その場で変身が解けて消えていった。

 

「克兄ぃ! 功兄ぃ!」

「ずら丸、リリィ!」

 

 果南たちはすぐにウルトラマンたちが消えた場所に向かって駆けていった。

 グランドキング爆散の跡地では、同じく変身解除に陥った沙紀が忌々しそうに身体を起こす。

 

「引き分け……? あんな素人ども相手に……っ!」

「沙紀ちゃんっ!」

 

 その元には、千歌が駆けつける。

 

「沙紀ちゃん、もうやめようよ……。こんなことしてても、どうにもならないでしょ……?」

「……」

 

 千歌の再三の説得にも、沙紀は渋面のまま。

 

「しっかりして、四人とも……!」

 

 そこに、鞠莉らに支えられながら克海たちが向かってくる。

 

「克海お兄ちゃん、功海お兄ちゃん!」

「……!」

 

 克海たちの顔を見た沙紀は、すぐにアルトアルベロタワーの方へと逃げ出した。

 

「待ちやがれ……ッ!」

「待てッ……!」

 

 すぐ追いかけようとした功海と克海だが、身体が痛んで表情が歪んだ。

 

「うッ……!」

「だ、駄目ですよ、今は無理しちゃ……! もうがんばれる状態じゃないです……!」

 

 二人を慌てて止めたルビィの言葉にうなずくダイヤ。

 

「ええ……。梨子さんも花丸さんも、疲弊し切ってます。今は、ジャイロを取り戻しただけで良しとしましょう……」

「くッ……」

 

 克海たちはやむなく追跡を断念した。

 こうして沙紀との激闘は、痛み分けという形で幕を下ろした。

 

 

 

『Awaken the R/B』

 

 

 

 近くの公園で、千歌たちから応急手当を受けながら、功海が憮然と克海の問いかける。

 

「まだ美剣と話し合おうと思ってんのか?」

「……」

 

 額に濡れタオルを当てたまま返事をしない克海に、功海がいら立って立ち上がった。

 

「地球がどうなってもいいのかよ!? 見た目が女子高生だからってデレデレしやがって……1300歳以上の美魔女じゃん! こんだけの本物に囲まれてるってのに、まだ物足りねぇのかよッ!」

「年齢にこだわりは……何の話だよッ!」

「ち、ちょっと功兄ぃ、落ち着いて……!」

「わたくしたち、そんないかがわしい目的でいるのではありませんし……!」

 

 興奮しすぎておかしなことを口走る功海を、果南やダイヤが赤面しながらもなだめる。

 一方で、息を整えた梨子と曜が、暗い面持ちの千歌を気遣った。

 

「千歌ちゃん、大丈夫?」

「……沙紀さんのこと、考えてるの?」

「うん……。どうすれば沙紀ちゃん、分かってくれるのかなって……」

 

 千歌はアルトアルベロタワーを見やって、沙紀に思いを馳せた。

 

 

 

「くっ……ここまでのダメージを負うとは……」

 

 タワーの内部によろよろと戻った沙紀の前に、氷室がザッと現れる。

 

「惜しかったですね。もうひと押しというところで、詰めを誤りましたか」

「……黙れ」

「こう言っては何ですが、あの兄弟と刺し違える程度で、ルーゴサイトを完全に仕留めることが出来るのでしょうか? やり直しは利かないのですよ」

「黙れと言っているっ!」

 

 氷室の苦言を一喝した沙紀が、彼の横を憤然と通り抜けていく。

 

「認めない……! あのような者たちが、ウルトラマンなど……!」

 

 そのままタワーの奥へ引っ込んでいく沙紀の背中を、氷室がじぃっと見つめ続けていた。

 

 

 

 怪獣ルーゴサイトと目される未知の宇宙物質の地球到達まで残り三日という日に、Aqoursの元を訪ねてきた人たちがいた。

 

「聖良さん! 理亞ちゃんも!」

「お久しぶりです」

 

 Saint Snowの姉妹である。二人は『四つ角』でAqoursの面々と、克海と功海に面会する。

 

「すっかり大変な事態になってしまいましたね……。こちらでもスクールアイドルのイベントが次々延期や中止になってしまって、ほとほと困ってます」

「お互い大変なんですね……。ところで、どうして内浦に?」

 

 千歌が代表して尋ねると、聖良は真剣な顔つきで答える。

 

「アイゼンテック社長が語った、地球に飛来する物の正体が怪獣だということ、そして地球がこのままだと、あと三日で爆破されること……全て、真実なんですよね?」

「……はい」

 

 もう時間が残されていないというのに、未だに解決の目途が立っていない現状に、千歌たちが沈痛の面持ちになると、理亞がたまらないといったばかりに感情を爆発させた。

 

「冗談じゃないわっ! 怪獣だか何だか知らないけど……このまま消し飛ばされるのを待ってるなんて、絶対嫌っ!!」

「……そういうことです。私たちも、非日常の世界に片足を突っ込んだ身。何か出来ることはないかと、いてもたってもいられずやってきたという訳です。一度は、皆さんに迷惑をお掛けしてしまったことですし……」

「そんな、改まって謝ってもらうことなんてないですよ! お二人のせいじゃありませんから……!」

 

 サルモーネに利用されていたことを未だ気に病む聖良に、梨子や曜たちがむしろ申し訳なくなった。

 克海は聖良たちに向き合いながら言葉を掛ける。

 

「わざわざ来てくれてありがたいんだけど……悪いけど、これはウルトラマンの力がないことにはどうしようもならないことだ。君たちに何かしてもらうことは……」

「だけど、どうにも出来そうにないから、こんなお通夜みたいな雰囲気なんでしょ?」

 

 理亞の手厳しいひと言に、克海も思わず言葉を詰まらせた。

 

「理亞。……おおまかな事情は、千歌さんから伺ってます。美剣沙紀さんという人も、ジャイロを持ってるんでしょう? その人と力を合わせられれば、まだ可能性が……」

「あんな奴ッ! 力を合わせろなんて無理な話だっての! これっぽっちも話聞く気もねぇってのにッ!」

 

 途端に声を荒げる功海を咎める克海。

 

「功海! 何度も言うが、俺たちでいがみ合っても仕方ないだろ!」

「克兄ぃこそ、まだそんなこと言ってんのかよ! 甘すぎんだよ克兄ぃは!」

「けど、それ以外に方法があるのか! そもそもこれからやって来るのは、先代が追い払うだけでやっとっていう格の違う怪物なんだぞ!」

「何だよ克兄ぃ、戦う前からビビってんのかよッ!」

「そんなつもりで言ったんじゃ……!」

「ちょっと、やめなさいよ……!」

「二人の前で恥ずかしいわよ……!」

 

 すぐ口喧嘩になりかける兄弟を、善子、鞠莉まで注意する始末を前にして、聖良が克海たちにはっきり告げた。

 

「お二人は、どうしてしまったんですか?」

「「え?」」

 

 問いかけの言葉に、二人が我に返って振り向いた。

 

「私と理亞が知るウルトラマンの兄弟は、自分たちよりずっと実力が上の相手にも折れず、力と心を合わせて、協力してたくさんの人たちを護る正義のヒーローでした。それが今は、簡単に内輪揉めして……失礼ですが、お二人を支えてくれてるAqoursの皆さんが不憫に感じます」

 

 聖良の忠言に、理亞も固くうなずいた。

 克海と功海は、思わずAqoursの仲間たちの顔に振り返る。

 

「そ、それは……」

「その……」

 

 あまり関わりを持っていない相手からの言葉だからこそ、二人の心に突き刺さり、克海たちは深く恥じ入った。

 そんな時に、裏口のインターホンが鳴る。

 

「お客さん……?」

「私が出るね!」

 

 千歌が裏口の方へ走っていき、すぐ後に驚きの声が届いた。

 

「えっ、沙紀ちゃん!?」

「何だって!?」

 

 途端に克海たちが腰を浮かし、慌てて裏口の玄関に押し寄せていく。聖良と理亞も驚きながら、後に続いた。

 果たして、来客は本当に沙紀であった。彼女はSaint Snowの姿を見止めて、ひと言言う。

 

「邪魔をしたか」

「ううん、いいの。それより沙紀ちゃん……」

「何しに来やがったッ! っていうか、何持ってきてんだよ!」

 

 沙紀の姿にまた牙を剥き出しにする功海が、沙紀の抱えている立方体の包みを指差した。

 

「つまらないものだ」

 

 沙紀は短く答えて、包みの結びを解く。

 

「ッ!? 千歌ッ!」

「みんなッ!!」

 

 危険を感じた克海と功海が、咄嗟に千歌たちを背にかばった。

 が――包みの中から現れたのは、

 

「そ、それは……!?」

「綾香市名物、銘菓あやかほし饅頭ずらー!!」

 

 花丸が感激の声を上げた。

 Aqoursが声をそろえる。

 

「「「あ~やか♪ あ~や~か~♪」」」

「商業180年、星から舞い降りし味と伝説を今につなぐ、匠の技」

「「「あ~やか♪ あ~や~か~♪」」」

「ほしのやの、銘菓!」

「「あやかほし饅頭~♪ わんだば~♪」」」

 

 ダイヤの語りと七人の歌に、沙紀とSaint Snow、梨子は呆然。

 

「……何今の?」

 

 理亞のツッコミをよそに、功海が沙紀へ険しい目を向ける。

 

「そんなもん持ってきやがって、俺たちを買収するつもりか! 誰がそんなもん……」

「功海さん、よだれ出てるずら」

「花丸ちゃんも垂れてるよぉ」

「ルビィもですわよ」

「わぁ~! ありがとう、沙紀ちゃん!!」

「そんなにいい物なのか?」

 

 過剰なくらいの反応に、持参した沙紀の方が聞き返した。

 

「綾香に生きる民草の魂の餐よ!」

「饅頭など、パッケージが違うだけで、どれも味は同じじゃないのか?」

「違うッ! あやかほし饅頭を馬鹿にするな!!」

「綾香の人は、みんな大好きあやかほし饅頭デース!」

「すぐ売り切れちゃうんだよね~。克兄ぃ、お茶淹れてよお茶!」

「あ、あのっ!」

 

 あやかほし饅頭に湧く曜たちをかき分けて、梨子が話を先に進める。

 

「それで、何の用なんですか?」

「ああ。一体どういうつもりなんだ」

 

 克海も問いかけると、沙紀はこのように答える。

 

「他人に頼み事をする時は、礼を尽くす。それがこの星の、この国のやり方なんだろう?」

「頼み事?」

「あやかほし饅頭と引き換えに、ジャイロを渡せってか?」

 

 功海も顔を引き締めると、沙紀は首を振る。

 

「いや。高海功海……高海克海……お前たち、死んでくれ」

「「「は!!?」」」

 

 全員の表情が、ギョッと強張った。

 

 

 

 今度は聖良と理亞も克海たちの側に回って、沙紀と向かい合って机を囲んだ。

 

「あっ、これほんとに美味しい」

「でしょ、梨子ちゃん? 聖良さんたちも食べて食べて! はいっ♪」

「……何で食ってんだよ! 美剣が持ってきたんだぞッ!」

 

 皆で饅頭を頬張る姿に、一人手をつけない功海が突っ込んだ。

 

「お前も食え功海。饅頭に罪はないだろ」

「いつ食べても美味しいずら~」

「これぞ禁断の味……!」

「それは分かってっけどさ~……!」

 

 功海がいら立っている一方、理亞は聖良に肩を寄せて、沙紀を観察しながら耳打ちした。

 

「姉様……あの人、どこかで会ったことない……? 何だか、既視感が……」

「理亞もそう思う? 私も、初めて会った気がしないんだけれど……でも、そんなはずは……」

 

 二人が首をひねるのをよそに、沙紀が話を切り出す。

 

「ジャイロを取り返そうなどと、覚悟が足りなかった。初めから殺してでも奪うべきだった」

「そんな過激な……!」

「たまげルビィ……」

 

 沙紀の言動に果南たちが戸惑う一方、克海は再三説得する。

 

「ジャイロが必要なら、三人で協力すればいいだろ?」

 

 功海はキッと沙紀をねめつける。

 

「いや、俺たちがこいつから奪えばいいんだよッ!」

「駄目だよ! 奪ったり奪われたりじゃ、何の解決にもならないよ! 沙紀ちゃん、みんなで幸せになれる方法を考えようよ」

 

 千歌がみかんを差し出しながら誘うが、沙紀は受け取らなかった。

 

「ルーゴサイトには、偉大な真のウルトラマンである兄たちでさえ敗れたのだ。お前たち如きが勝てるとでも?」

「それは……!」

「やってみなきゃ分かんねーじゃんッ!」

「いい加減なことをっ! 宇宙の運命が懸かっているのだぞ?」

「だから力を合わせてッ……!」

 

 克海が何度も言い聞かせると、沙紀はすっくと立ち上がる。

 

「まだ現実が見えていないようだな……。いいだろう、今日こそ雌雄を決してくれる。表に出ろ」

「沙紀ちゃんっ……!」

 

 千歌が身を乗り出しかけるが、沙紀に制される。

 

「どの道、私一人に勝てないようでは、ルーゴサイトを倒そうなどと夢のまた夢だ。地球を爆破する以外の方法があると言うのなら……最低限の証拠は見せてもらおうか」

「ッ……!」

「克兄ぃ……もうやるしかねぇよ」

 

 話はどこまでも平行線であり、克海も腹をくくらざるを得ない。

 

「……分かった。だが、場所はこっちが選ばせてもらう」

「いいだろう。一切の言い訳が出来ないよう、邪魔の入らないところを選ぶといい」

 

 緊迫の空気の中、克海も立ち上がって外へ出ていく。Aqoursもゴクリと息を呑みながら、彼らに続く。

 

「姉様……」

「……私たちも見届けましょう。地球の運命を決める対決を……!」

 

 聖良と理亞もまた、決闘の証人となるべく、一行の後についていった。

 

 

 

 克海たちは内浦の外れの、人を巻き込む心配がない山間にまで場所を変えた。

 

「これが最後の勝負だ。私が勝てば、お前たちは死ぬ。全ての力を出し尽くして掛かってくるといい」

 

 宣言する沙紀を前に、梨子と曜が克海たちの側につく。

 

「だったら、私たちの参戦も認めますよね」

「私たちはみんなでウルトラマンなんだから!」

「もちろん。だがその代わり、お前たちの命の保証もないぞ。それでもいいのだな?」

「……覚悟の上ですっ!」

「みんなは安全なとこまで離れてて!」

「ええ……!」

 

 鞠莉たちが、これから決闘を始める克海たちから距離を取っていく。

 

「沙紀ちゃん……」

「千歌、行くよ!」

「……うん」

 

 千歌は沙紀を見つめて後ろ髪を引かれていたが、果南に腕を引かれて、ついていった。

 

「行くぞ……! 私も全力だっ!!」

 

 全ての準備が整うと、沙紀がジャイロに魔のクリスタルを嵌め込む。

 

グルジオボーン!

 

 それをすぐに外し、鋭のクリスタルに換える。

 

強化! グルジオキング!!

 

 ――更に外し、撃のクリスタルを嵌め込んだ!

 

進化!! グルジオレギーナ!!!

 

 見たことのないクリスタルのセットの仕方に、克海たちが一瞬動じた。

 

「これが私の、最強の姿……!!」

 

 沙紀がグリップを三回引いて、肉体を変貌、巨大化していく――!

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

 

 骨格のような肉体だったグルジオボーンが、全身に厚い鎧装を纏ったようにより巨大に、より強堅になった大怪獣。最早全身が武器のように発達しており、胸部と肩部からは三門の砲身が突き出ている。

 これこそが沙紀の変身形態である怪獣グルジオの最終形態であり、最強戦闘形態の、グルジオレギーナだ!

 

「ッ……!」

 

 グルジオレギーナが尋常ではない怪獣であることは克海たちも肌で感じ取ったが、それでもひるまずに、こちらもルーブジャイロを構えて変身の態勢を取る。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 克海が火のクリスタル、功海が水のクリスタルをジャイロにセット。

 

「ビーチスケッチさくらうち!」

「ヨーソロー!」

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 変身したロッソとブルが、グルジオレギーナと向かう合う――!

 



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Awaken the R/B(B)

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

『『はぁッ!』』

 

 正面から向かってくるグルジオレギーナに、ロッソとブルが同時にぶつかっていくが、扇のような腕に軽く突き飛ばされた。

 

『うわッ!』

『だぁぁッ!』

 

 姿勢を崩すロッソ。ブルは踏みとどまって、グルジオレギーナのボディに連続パンチを打ち込むが、強固な外殻には何の効果も見られない。

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

『うあぁッ!』

 

 平手突きを食らって押し返されたブルを反射的に受け止めるロッソ。

 

『大丈夫か!?』

『うッ……おおおッ!』

 

 だがブルはロッソを振り払って、遮二無二グルジオレギーナに飛び掛かり左腕をひねり上げた。

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

『ああああッ!』

 

 この隙に殴り掛かろうとするロッソだが、グルジオレギーナに牙を剥き出しにした首を向けられると、思わず手が止まった。

 

『うッ……!』

『「克海さん!?」』

 

 そこを殴り飛ばされ、ブルも振り払われる。

 

『うぅ……!』

『「克海さん、やっぱりまだ迷いが……!」』

 

 梨子が察した。ロッソは今も、沙紀に本気を振るえる精神状態ではないのだと。

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

 

 しかしグルジオレギーナは情け容赦を見せず、肉体より生えた三連砲塔から発射するエルガトリオランチアをロッソとブルに浴びせる。

 

『『わあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――ッ!!』』

 

 ロッソとブルの二人を同時に相手取って圧倒するグルジオレギーナに、戦いを見守るAqoursたちは息を呑んだ。

 

「強い……!」

「あれがグルジオの、真の力……!」

 

 緊迫する果南の傍らで、千歌もハラハラしながら戦いの行方を見届けている。

 

「お兄ちゃん……沙紀ちゃん……」

 

 グルジオレギーナは両腕に電撃を纏いながら、ロッソたちに追撃を掛ける。

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

『ぐわぁぁぁッ!』

『うわぁぁあッ!』

 

 あまりにも激しい攻撃の連続に、ロッソとブルは太刀打ちできない。何とかするべく、曜が梨子へと呼び掛ける。

 

『「梨子ちゃん、極クリスタルだよ!」』

『「ええ……!」』

 

 梨子が前回と同様に、極クリスタルを手に取るが、

 

『「セレクト……!」』

 

 またもクリスタルがスパークを起こし、ロッソとブルは反発で弾き飛ばされた。

 

『わあああぁぁぁぁぁッ! くッ、また変身できない……何でだ……!』

 

 倒れたロッソを、梨子と曜が諭す。

 

『「克海さんと功海さんの心が今、一つじゃないからですよ……!」』

『何……!?』

『「ダンスみたいに、二人の気持ちが通じ合ってないと、一つの形になれないんだよ!」』

『くそぉッ……!』

 

 ロッソとブルが倒れても、グルジオレギーナは手を緩めない。

 

『どうしたっ! 全力を尽くせと言ったはずだぁっ!』

 

 エルガトリオランチアの砲撃が二人を襲う!

 

『うわあああああッ!』

 

 砲撃によって転倒するロッソ。ブルはこらえ、腕から水流を発して反撃。

 

「『アクアジェットブラスト!!」』

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

 

 しかし水流の攻撃を、グルジオレギーナは装甲で難なく受け止めた。

 ブルが相手を警戒しながら、ロッソへ言い聞かす。

 

『克兄ぃ! こいつは話す気なんかねぇ! 倒すしかねぇんだッ!』

『違うッ! 美剣を倒しても何も解決なんか……!』

 

 ロッソの反論は、グルジオレギーナの砲撃でさえぎられた。

 

『ぐわぁッ!』

『でも、他にどうしろってんだよ! 言ったって止まらねぇぞッ……!』

 

 グルジオレギーナの突進を受け止めたブルだが、そのまま持ち上げられて地面に叩きつけられた。

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

『ぐッ! うッ……!』

 

 そして首根っこを掴まれ、宙吊りにされながら締め上げられる。

 

『「うっ、あうぅぅ……!」』

『功海ッ!』

『「曜ちゃんっ!」』

 

 グルジオレギーナの背後からロッソが飛びついて、ブルを解き放つ。すぐにロッソが振り払われるが、ブルが再度グルジオレギーナが飛び掛かりつつ糾弾。

 

『地球ごとルーゴサイトをぶっ飛ばして、自分一人だけ逃げるつもりかッ! んなことさせねぇよッ!』

 

 だが沙紀は、これに対して明言した。

 

『お前たちとは違う! 逃げ帰る場所などあるものかっ! 私は、私のこの身体ごとっ! 地球を爆破する!!』

『「えっ……!?」』

 

 沙紀の言葉に、曜たちが、千歌が絶句。

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

 

 この隙にブルを振り払うグルジオレギーナ。

 

『自爆するつもりなのか……!』

 

 ロッソが距離を詰めるも、攻撃せずに沙紀に問い返す。

 

『美剣お前……! どうしてそこまでッ!』

『それが私の使命っ!!』

『やめろぉーッ!』

 

 改めてロッソらが立ち向かうも、グルジオレギーナのパワーには歯が立たず、一方的に打ちのめされる。

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

『『わぁぁぁ――――ッ!!』』

 

 吹っ飛ばされたロッソとブルが、地面にしたたかに叩きつけられた。カラータイマーが点滅して危険を示す。

 

「お兄ちゃんっ! 梨子ちゃん、曜ちゃんっ!」

「あっ、千歌!」

 

 千歌がたまらず、ロッソたちの方へと駆け出した。

 

『まだ分からないのか! これは戦いなのだ! 遊びでもヒーローごっこでもない! 命を懸ける覚悟のない者が、ウルトラマンを名乗るなどっ!!』

 

 グルジオレギーナは砲撃でロッソとブルにとどめを刺そうとするが……両者の間に千歌が割って入り、腕を広げてかばい立てする。

 

『千歌!?』

『「ち、千歌ちゃん……!」』

『よせ、千歌……!』

 

 ちょっとでも腕を払えば人一人を吹き飛ばすことなど造作もないグルジオレギーナを前にして、千歌は全く恐れの色を見せず、毅然と立ちはだかっている。

 

『……!』

 

 その後ろ姿を目の当たりにして……ロッソがブルに呼び掛けた。

 

『功海、俺が……俺が間違ってた!』

『え……?』

『「克兄ぃ……?」』

『「克海さん……」』

 

 振り向くブルに、ロッソが問いかける。

 

『俺たちは何だ……?』

『何だって……』

『あいつの言う通り、俺たちはウルトラマンじゃない……ヒーローでもな』

『「克兄ぃ……」』

『俺は高海克海、お前は高海功海……高海千歌の兄貴の、綾香市に暮らすただの一般人だ! 俺たちのやるべきことは何だ?』

 

 ブルが――功海が、克海の問いに答えた。

 

『妹を……綾香市を護るッ!』

『そうだッ! 地球とか宇宙の運命とか大層なことを語ることじゃない……この町の、全てを護るんだッ!』

『分かった! 分かったぜ克兄ぃッ!』

 

 二人の身体に気力が溢れ返り、堂々と立ち上がった!

 曜と梨子も、克海と功海の心意気に呼応する。

 

『「功兄ぃ、克兄ぃ! 私だってがんばるよ! ただの女子高生だもん……学校の全てを護るだけだからっ!」』

『「私たちはみんな、ご大層なヒーローでもアイドルでもありません! 身の周りのことに精一杯の私たちが出来ることを、やり切りましょうっ!」』

『『ああ!!』』

 

 二人のウルトラマンの様子がガラリと変わったのを見て取り、沙紀がつぶやく。

 

『古き友は言った……いや……嘘だ。この星に友などいたことはない……! かつて……これからも……!』

 

 グルジオレギーナの全身から、黒い衝動がほとばしる。

 

『私は、地球を破壊するっ! うおおおおおっ!!』

『『おおおおおおおおおッ!!』』

 

 破滅へとひた走る沙紀目掛け、克海と功海が駆ける!

 

『「今こそ、この想い(クリスタル)を!!」』

 

 梨子が極クリスタルを握り――兄弟の心(インナースペース)を一つにつないだ。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

[兄弟の力を一つに!]

 

 角を開いたクリスタルを、曜の支えるジャイロにセットする。

 

『『纏うは極! 金色の宇宙!!』』

 

 梨子と曜がジャイロのグリップを握り、エネルギーをチャージしていく。

 

『「「サンシャイン!!」」』

 

 四人の心が一つとなり、金色の巨人がここに降り立つ!

 

[ウルトラマンルーブ!!]

「デュワッ!!」

 

 ルーブの姿となった兄弟のクロスチョップが、グルジオレギーナに命中して突き飛ばした。

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

 

 千歌たちは光り輝く兄弟たちの姿を、ほれぼれと見上げる。

 

「お兄ちゃん……!!」

「やったぁ! 変身できたぁ!!」

「全く……いつもいつもハラハラさせるんだから」

 

 ルビィたち一年生組が大喜びし、果南ら三年生組はやれやれと嘆息した。

 

『『ルーブコウリン!!』』

 

 兄弟はルーブコウリンを手に、グルジオレギーナと互角の格闘を展開する。

 

『まだ立ち上がるのか……偽者のウルトラマンがっ!』

 

 沙紀の侮蔑の言葉にも、今の兄弟たちが揺さぶられることはない。

 

『偽者上等! 別に本物になんかなりたかねぇッ!』

『「うん! 私たちは小さいんだっ! 学校一つ存続できないくらい! だから、どんなことにも一生懸命なんだっ!!」』

 

 コウリンの一撃が、グルジオレギーナの電撃の腕を弾き返す。

 

『俺たちはウルトラマンじゃないッ!』

『「私たちだって、広い世界を舞台にするようなアイドルじゃありませんっ! 私たちはスクールアイドルで、みんなが町の片隅の普通の人です! だから、この小さな世界を護り抜くだけですっ!!」』

 

 グルジオレギーナの砲撃を、コウリンから生じた回転するバリアが遮断。

 コウリンの斬撃を装甲に叩き込みながら、梨子と曜が名乗りを上げる。

 

『「私は桜内梨子!」』

『「私は渡辺曜!」』

『「Aqoursのみんな纏めて、千歌ちゃんのスクールアイドル仲間!!」』

『「千歌ちゃんの友達だぁぁっ!!」』

 

 振りかぶったコウリンの一撃が、火花を舞い散らす。

 

『そして、俺は高海克海!』

『俺は高海功海!』

『千歌の兄貴の、『四つ角』に暮らしてる!!』

『ただの家族だぁーッ!!』

 

 兄弟たちの猛ラッシュが、グルジオレギーナを追いつめていく!

 

『「友達も護れなくて、地球が護れる訳ない!」』

『家族を護れねぇで、何が宇宙だよッ!』

『「友達、家族、小さい世界があってこその、この広い世界!」』

『みんなを絶対に護るッ!』

『『これが俺たちの覚悟の仕方ってな!!』』

 

 熱い蹴りを入れられた沙紀が、うめきながら兄弟たちをにらみ返す。

 

『家族だ友達だのを誇らしげに……どこまでも馬鹿な、馬鹿正直な……!』

『「そして……あなたのことだって護ります! 沙紀さん!!」』

『何!!?』

 

 突然の宣言に、目を丸くする沙紀。

 

『「あなたも千歌ちゃんのお友達だから! 自爆なんてさせません!!」』

『「私たちは輝くために明日を目指す! 沙紀さんも明日に進もうよ!!」』

『自己犠牲が覚悟だなんて! 古臭せぇーぜ!!』

『誰一人欠かさない! みんなで生きるんだ!!』

 

 四人から差し伸べられる手に、沙紀は真っ赤になってプルプル震える。

 

『馬鹿を言うなぁぁーっ!! 出来るものなら、やってみろぉっ!!』

 

 グルジオレギーナの三連砲塔にエネルギーが集中し、最大の攻撃の用意を行う。

 

[ルーブ・ブロッサム!!]

 

 対する兄弟たちも、ルーブコウリンロッソを構えて、全力の光線を発射用意。

 

『食らえぇぇぇぇぇぇぇえええええええっっ!!』

「『「『ブロッサム・ボルテックバスター!!!!」』」』

 

 エルガトリオキャノンと、燃え上がる紅蓮のボルテックバスターが正面衝突!

 

『ぬぅぅぅぅぅぅ――――――――!!』

「『「『はぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!!!」』」』

 

 互いの光線は互角で、大爆発を起こして相殺された。

 

『ふん……! 所詮は、お前たちの覚悟などこの程度……』

[ルーブ・クルーズ!!]

『なっ……!?』

 

 爆風を突き抜けて、水を纏う紺碧のコウリンショットがグルジオレギーナに飛んでくる!

 

「『「『クルーズ・コウリンショット!!!!」』」』

 

 光刃が、正面の装甲に深々と裂傷を刻み込んだ!

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

「ハァッ!」

 

 そして兄弟たちは――ウルトラマンルーブは、腕をL字に組んだ。

 

『うっ……!』

 

 あと一撃を入れられたら、もう耐えられない――。沙紀がひるんで目をつむった。

 だが――その一撃が飛んでくることは、なかった。

 

『な……!』

 

 ルーブは腕を解いて、ロッソとブルに分離したのだった。

 

『「言ったでしょう、あなたも護ると。倒しなんかしません」』

『お前のことは許さねーけどな!』

『「地球も爆破させないし、ルーゴサイトにも勝つ!」』

『そしてみんなの世界を、未来を護り抜くんだ』

 

 とどめを刺さずに言い切った四人の前で、グルジオレギーナが片膝を突き――そのまま霧散していった。

 元の姿に戻った沙紀は、ガクリと膝を突く。

 

「負けた……この私が……」

 

 情けを掛けられたことで、完全敗北を喫したことを理解させられる沙紀。その元に千歌が駆けつけてきた。

 

「沙紀ちゃん! 元気出して。また、みんなと机囲もうよ! あやかほし饅頭食べて。みかんもね!」

 

 そこに克海と功海、Aqoursも集結してくる。

 

「美剣! お前使命って言ってたよな。本当にそれだけなのか? 本当は兄貴たちの復讐がしたいだけなんじゃないのか? もしそうなら……」

「よしなよ克兄ぃ」

 

 言いかける克海を、曜がさえぎった。

 

「小難しいことはいいって。やるべきことは一つ、みんなでルーゴサイトをやっつけるだけ!」

「ええ。きっと……いいえ、出来ないはずがありません! だって、こんなにも仲間がいるんだから!!」

 

 梨子の言葉に――戸惑う沙紀を囲むAqoursの仲間が力強くうなずき返した。

 その輪をながめる理亞と聖良が、圧倒されたように呆けている。

 

「姉様……あの人たち、すごい……!」

「うん……彼らだったら、絶対に……!」

 

 二人にもそう思わせるだけの、説得力がルーブの仲間たちにあった。

 

「ね、沙紀ちゃん。一緒に行こうよ!」

 

 そして千歌が、沙紀に手を差し伸べる。

 沙紀の返答は――。

 

「……私は――」

『――やはりこんなことになったか』

 

 だがこの場の空気を切り裂いたのは、空から響いた男の声だった。

 

「!!?」

 

 全員が一斉に振り返ると――いつの間にか、空に白い飛行物体が現れていて、彼らを見下ろすように飛んでいた。それは、

 

「アイゼンテックの飛行船ッ!」

「氷室社長の声だ……! まだあいつがいたんだった」

 

 つぶやく功海たちをよそに、氷室の声が飛行船から一同に降りかかる。

 

『所詮、行き場のない小娘ではこれが限界か。最早お前は用済みだ』

「何……!」

「何か、様子が変よ……!」

 

 ただならぬ言動の氷室に、鞠莉たちが強い警戒を覚える。千歌は無意識の内に、沙紀の手をぎゅっと握っていた。

 

『計画遂行の時も近い。残りは全て、()()が実行する』

 

 旋回する飛行船の真下の空間に、異常が発生する。

 何もない空中に亀裂が走り、バリバリと巨大な何かが穴をこじ開けるように這い出てくるのだ!

 

「な、何あれ!?」

「虚空より……何者かが出で来るっ!」

 

 全身を現したのは――全身からカミソリの刃に似た突起物を生やした、メタリックブルーの巨大怪獣。

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 異次元より現れし凶獣、カミソリデマーガ! 状況的に、氷室に操られているとしか思えない!

 

「怪獣……氷室社長がけしかけてきたんですの!?」

「何者なの、アイゼンテックの新社長は……?」

 

 聖良たちが冷や汗を垂らす中、克海と功海が飛行船に向けて叫んだ。

 

「氷室社長! あんたの目的は何だ! 美剣のとんでもない話に乗って!」

「あんたには何の動機があって、地球を爆破しようってんだよ!」

 

 すると氷室は、兄弟の発言を一笑に付すように、こう返した。

 

『そんなものは、そこの小娘に調子を合わせただけの方便に過ぎない』

「何だって……!?」

『ルーゴサイトを、地球もろとも消し去る……そんなもったいないことを、本気で行うつもりがあろうものか』

 

 話がいよいよきな臭い方向に進み、Aqoursは思わず顔を見合わせた。

 そうして氷室がはっきりと言い放つ。

 

『宇宙より来たる力も、光の巨人の力も、全て手中に収め……愚かなる地球人類を、我々が統括する!』

「……統括……!?」

 

 克海たちのこめかみに、嫌な汗が浮かんだ。

 

 

 

 内浦のとある場所にて――一人の女性が慌ただしく、何かの機材をガチャガチャと準備していた。

 

「とうとう動き出したわね……! ここからが正念場だわ。忙しくなるわよ!」

 

 女性は己に言い聞かせながら、手際良く作業を進める。

 その最中に、虚空を見上げ――眼鏡のレンズ越しに、どこかを見やった。

 

「待っててね、みんな……必ず助けるから!」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

梨子「ビーチスケッチさくらうち! 今回ご紹介するのは『夢飛行』です!」

梨子「この歌は、何を隠そう『ウルトラマンR/B』のエンディングテーマです。ニュージェネレーションシリーズの特徴として、番組前半は一番の歌詞、後半は二番が使用されてますね」

梨子「『家族』を作品のテーマにした『R/B』らしく、ゆったりとした旋律をバックに、子供の頃の実家を彷彿とさせる歌詞が特徴的です。ある意味では、湊ミオさんの視点からの歌という捉え方も出来るでしょう」

梨子「歌うのは何とあの園田海未さん!! ……本当はその中の人の、三森すずこさんですけどね」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『Awaken the Power』だ!」

功海「アニメ第二期第九話の挿入歌だな! AqoursとライバルのSaint Snow、十一人で歌い上げるコラボ曲という、一段と豪華な一曲だぞ!」

克海「二つのユニットが力を合わせるようになった経緯は、是が非にでもその目で確かめてほしい」

梨子「それでは次回もお願いします!」

 




克海「本性を現した氷室仁! 奴の野望が、俺たちに襲い掛かる!」
梨子「か、克海さん! ちょっと!」
克海「奴が繰り出した怪獣の前に、窮地の俺たち! 変身できない今、どうやって切り抜ける!?」
梨子「それなんですけど、あの人見て下さい!」
克海「あ、あなたは……!?」
梨子「次回、『明日を追いかけろ!』!」
克海「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」


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明日を追いかけろ!(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

千歌「地球の運命を巡って、お兄ちゃんたちと沙紀ちゃんが決闘! だけど、あくまで綾香市を護ることだけを決意したお兄ちゃんたちの気持ちが沙紀ちゃんの力を上回った! これでやっと沙紀ちゃんとも力を合わせられる……と思ったんだけど、そこに怪獣を出してきたのは氷室社長! これからどうなっちゃうの!?」

 

 

 

『宇宙より来たる力も、光の巨人の力も、全て手中に収め……愚かなる地球人類を、我々が統括する!』

「……統括……!?」

 

 一体何のことを言っているのだ、と克海たちが思っている間に、氷室は怪獣を彼らに向けてけしかけてくる。

 

『行け、捕らえろ……カミソリデマーガ!』

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 怪獣カミソリデマーガがガギンガギンと腕から生えた刃を打ち鳴らしながら、克海たち一同に向かって進撃してくる。

 

「ぴぎっ! 来たぁっ!」

「克兄ぃッ!」

「ああ!」

 

 すぐに功海と克海がルーブジャイロを構える。

 

「「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 しかし今しがた変身していたばかりなので、ジャイロが反応しない。

 

「くそッ、まだ無理かぁ……!」

 

 兄弟に代わるように、沙紀が前に進み出た。

 

「氷室、貴様がこういう行動に出ることを想定していないとでも思ったか……! 返り討ちにしてくれるっ!」

 

 己のジャイロを構え、怪獣クリスタルを再び嵌め込もうと――。

 

「ちょーっと待ったぁ―――っ!!」

 

 したところで、後方から女性の大声が轟き、沙紀は驚いて手を止めた。

 

「な、何だ?」

 

 克海たちが面食らって振り向くと――木々の間をマイクロバスが突き抜けて、この場に急停車してきた。

 

「く、車!?」

「何事だぁ!?」

 

 功海らが仰天している前で、運転席から眼鏡を掛けた、二十歳前後くらいに見える美貌の白衣の女性が、円筒状の銃を担いで飛び出てきた。

 

「何とか間に合ったわね!」

「えッ、どなたですか!?」

 

 いきなり見知らぬ女性が派手に登場してきたことに唖然とする克海、功海、Saint Snow、それから沙紀。

 しかしAqoursの九名は、違う理由で唖然としていた。

 

「ど、どうしてここにいるんですか!? 律子先生っ!!」

「先生!?」

「まさか、浦の星の!?」

 

 カミソリデマーガから克海らの視線を奪った女性の顔立ちに、氷室もまた驚きを見せていた。

 

『あの女は……!』

 

 皆の注目を一身に集めた女性は、キランと眼鏡を不敵に光らせながら名乗りを上げた。

 

「初めまして! 秋月律子ですっ!!」

 

 

 

『明日を追いかけろ!』

 

 

 

 口が開きっぱなしの克海が千歌に問い返す。

 

「千歌、あの人って浦女の教師なのか……!?」

「うん。それも、私たちのスクールアイドル部の顧問だよ」

「えぇっ!? 千歌たちの部活、顧問いたのか!」

 

 びっくりする功海に突っ込む曜。

 

「そりゃいるでしょ。部活なんだから」

「いや、そりゃそうなんだろうけどさぁ。今まで顧問の話なんて、一個も出てきたことねーし」

「まぁ、活動はほぼ全部、私たち任せだったからね」

 

 のんきに話す曜だったが、近づく地響きに状況を思い出させられた。

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

「わぁぁっ! なんて言ってる場合じゃないよぉ!」

「慌てないで! 私に任せなさいっ!」

 

 狼狽する一同を制して、秋月律子という女性が前に躍り出て、担いでいる奇妙な形の銃をカミソリデマーガに向けた。

 

「ハイパーSAPガン改、発射!」

 

 銃口から発射されたのは白い大型の弾丸。それがカミソリデマーガの頭上で弾け、大量の粉に変わって降り注いだ。

 

「グバアアアアアア……!」

 

 するとどうだろうか。粉はカミソリデマーガの全身に付着して固形化し、怪獣を丸々一体身動きが取れないようにしたのだ!

 

「えぇーッ! す、すっげぇ!!」

 

 律子の使用した武器の効果に、功海が度肝を抜かれた。克海は目を丸くして律子に振り返る。

 

「が、学校の先生が、何であんなすごい武器を……!?」

 

 律子はその疑問には応対せず、動きを封じ込んだデマーガにはそれ以上構わず、一同へと向き直る。

 

「さぁ、今の内よ! ここから退避するわよ!」

「えッ! 逃げるったって、どこに……」

「悪いけれど、説明は後! 長くは持たないから! みんな乗って乗って!」

 

 事態が把握し切れずに戸惑っている兄弟やAqoursを急かし、律子がマイクロバスに次々乗せていく。

 

「さぁ、美剣さんも!」

「お、おい……!」

 

 沙紀の腕も引いてバスに乗り込ませると、Saint Snowも促す。

 

「あなたたちもね!」

「ま、待って下さい! あなた、確か……!」

「サルモーネが見せたライブ映像に出てた人じゃ……!」

 

 聖良と理亞は律子の顔に見覚えがあることを思い出し、尋ねたが、律子は皮肉げに笑んで首を振った。

 

「話は逃げ切ってからよ。ほら早く!」

 

 二人も半ば無理矢理乗車させ、運転席に戻った律子は、ハンドルを握ってギアを切り替える。

 

「発進っ!」

 

 マイクロバスは意外なことに、地上を走るのではなく空中へ浮上して、飛んで逃げていく。

 

「おわぁーッ!? 飛んでるぜ克兄ぃ! すげぇやッ!」

 

 功海の半ば感激の声とともに逃走していくバスを、動けないデマーガに代わり飛行船が追いかけようとする。

 

 

 

 アルトアルベロタワーの社長室の氷室が、ウッチェリーナに対して命令する。

 

「ウッチェリーナ、あの車を衛星から捕捉しろ!」

[お断りしまーす!]

「……何だと」

 

 しかし返ってきたのは、拒絶の意であった。

 

[私はプログラミング時より前社長に設定された、最上位命令権の保有者の言いつけにより、金輪際()()()()の指示には従わないことを宣言致します!]

「最上位命令権の保有者だと……!」

 

 氷室はウッチェリーナの元々の主のサルモーネが熱狂していた相手を思い出し、事態を理解した。

 と同時に、社長室の電源が全て落ちて、室内が薄暗くなる。扉も勝手にロックが掛かって開かなくなった。

 

「ッ!」

[更に秋月律子様を追いかけられないように、アイゼンテック社内の全ての設備の利用権も剥奪します! 悪く思わないで下さいね~♪]

 

 それを最後に、ウッチェリーナの声が断絶する。

 

「……あのアイドルオタクめッ! 最後まで余計なことを……ッ!」

 

 腹立ちまぎれに吐き捨てた氷室だが、すぐに平静さを取り戻す。

 

「このままでは済まさん……。ウルトラマンの力も、ルーゴサイトの力も、全てを手に入れるのは我々なのだ……」

 

 

 

 ウッチェリーナの本体であるドローンは、律子の傍らの助手席に浮かんでいた。

 

[ご命令通りの、時間稼ぎの工作は全て完了致しました! 律子様っ!]

 

 ウッチェリーナからの呼称に、律子は苦笑を浮かべる。

 

「様なんてやめてちょうだい。あの人は、私をそんな風には呼ばないわ」

「あの……」

 

 機能不全に陥った飛行船を振り切ったバスの後部座席から、聖良が律子に対して尋ねかける。

 

「秋月律子さん……やっぱりあなた、765プロというところのアイドルの方なんですよね?」

「765プロって、確か……」

「サルモーネが崇拝していた偶像の……」

 

 梨子と善子が口に出した、サルモーネの名を耳にした瞬間、律子はひどく悔やんだ表情となった。

 

「……私たちのせいで、あんな凶行に走る人が出てしまったことは残念でならないわ……。本当ならすぐにでも止めたかったんだけど、彼の周りには常に()()の目があった。見つかる訳にはいかない私は、あなたたちが苦しめられるのをただ見てるしかなかった。本当に申し訳ないわ……」

「そ、そんな、先生が謝るようなことじゃないですよ!」

「悪いのはあの宇宙人ですわ!」

 

 律子の謝罪に、逆に罪悪感を抱いた果南、ダイヤがブンブン手を振った。

 ここで克海がおずおずと声を上げる。

 

「あのー、すいませんけど……さっぱり話が呑み込めません。一体何がどうなってるのか、説明してもらっていいでしょうか……?」

「もちろん。ただ、時間がないの。奴らがこのまま大人しくしてるはずもないし……。だから作業しながらの説明になるのは勘弁してね」

「作業?」

「この辺りで着陸するわ」

 

 空飛ぶマイクロバスは、内浦から離れた山間部の真ん中にある、開けた野原の上に着陸。一同が降車すると、律子はバスのどこに積んであったのかというような種々の機材を野原に運び始める。

 

「さて、セッティングだわ」

「あっ、手伝いますよ先生!」

「ありがとう。じゃあ、この図面の通りに並べてちょうだい」

 

 千歌たちの申し出を受け、律子の指示の下に、沙紀以外の面々が機材の設置を手伝う。

 

「……それで、貴様は何者なのだ。ただの人間ではないのは明白だが」

 

 沙紀はいきなり現れた律子のことを警戒しており、腕組みしてにらんでいる。

 

「そうそう、私のことの説明よね。だけど先に注意するわよ。一度しか言わないし、時系列が大分複雑だから、よーく聞いててちょうだい」

 

 事前に断りを入れた律子が、重要な説明を始める。

 

「いきなり聞き返すけど、みんなは私たち765プロのことをどれくらい知ってるかしら?」

「確か、オーブというウルトラマンがプロデュースしてるというアイドルなんですよね。サルモーネが自慢げに語ってました」

 

 この中では最も詳しく知っている聖良が返答した。

 

「そう。あんまり深く説明すると話がそれるから簡単に済ますけど、私たちはオーブの仲間。時には、あの人と一緒に惑星O-50のミッションに当たってた」

「O-50って……」

「俺たちの先代のウルトラマンの星だよな。美剣も……」

 

 功海、克海が美剣を一瞥する。

 

「そうよ。先代ロッソと、ブル、美剣さんの三人の戦士は、あの人と同じO-50の戦士。だけど、1300年前に怪獣ルーゴサイトを倒すミッションに出たきり、二度とO-50に戻らなかった。――実は私たちは、今の時間からだと四年ほど前にそのことを知って、三人の戦士の消息を確かめるために捜しに来たの! この地球に!」

「何……?」

 

 沙紀当人も含め、千歌たちが大いに驚いた。

 

「先生、沙紀ちゃんを捜しに来てたんだ!」

「だけど地球圏に着いてすぐに、異常事態に出くわしたわ。ある九人の女の子たちが時間も空間も三次元世界とは全く違う異次元空間に閉じ込められて、怪獣を操るある宇宙人に捕まりそうになってた。それがAqoursのみんなが尊敬するμ'sなんだけどね」

「えぇぇっ!? μ'sが、そんな危険に見舞われたことがありましたの!?」

 

 衝撃を受けるダイヤたち。まさか四年前に、あのμ'sが、怪獣と宇宙人が起こす超常事件に巻き込まれていたとは。

 

「奴らがどうして彼女たちを捕らえようとしてたのかは定かじゃないわ。まぁともかく、私たちは彼女たちを救うべく怪獣に立ち向かった……」

 

 当時のことを回想する律子の脳内に、カミソリデマーガを始め、恐竜、サルファス、ボラジョ、ネオパンドンといった怪獣軍団と戦うウルトラマンオーブの姿がよみがえっていた。

 

「μ'sを元の世界に帰すことには成功し、黒幕の宇宙人をあと一歩のところまで追いつめることには成功したんだけど……奴らは最後の抵抗で、私の仲間たちを異次元に封じて出られなくしてしまった! 今も仲間とは連絡が取れないままなの……」

「えぇーっ!?」

 

 再三驚く千歌たち。ここまでだけで相当なスケールの話だが、まだまだ続きそうだ。

 

「私だけは、宇宙人のたくらみを阻止するためにも、みんなに助けられて封印から脱出することが出来た。だけど、私一人きりじゃ、奴らに普通に立ち向かおうとするのは極めて苦しいと判断して、異次元空間の性質を利用して時間をさかのぼったわ。そして出た先が、八年前……今からだと十二年前のこの地球上」

「八年前、じゃなくて十二年前の昔……」

「確かに時系列が複雑ですね……」

 

 花丸とルビィは指折り数えて、話がこんがらがらないように頑張ってついていっている。

 

「そこまで時間をさかのぼれば、奴らに対して先手を取れる。その狙い通りに、私は奴らがサルモーネと共謀して、三人の戦士の変身アイテムのルーブジャイロを発掘して研究してるという情報を掴んだ。ウルトラマンの力を利用される訳にはいかないと、私は単身アイゼンテック社に忍び込んで、二つのジャイロとルーブクリスタルを奪取したの!」

 

 功海と克海が思わず顔を見合わせた。

 

「そういやサルモーネの奴、十二年前にジャイロを盗まれたって……」

「それ、秋月さんの仕業だったんですか!」

 

 己が愛してやまないアイドルがジャイロ窃盗犯だったと知ったら、サルモーネはどんな反応をしたのだろうか。今となっては分かりようのないことだ。

 

「それから十二年間は、正体を隠してひっそり生活しながら、ジャイロを使ってウルトラマンになれる器の人を探す日々だったわ。あの宇宙人たちを倒すには、どうしてもウルトラマンの力が必要だったから……。だけど一向に見つからなくて、遂にサルモーネがジャイロを複製して怪獣に変身するようになってしまった。こうなったら見つかってもいいから、私自身でジャイロを使おう、とまで考えたんだけど……そこで遂にジャイロは使い手を選んで、その手元に飛んでいったわ。……つまり、高海克海さんと、高海功海さん、あなたたち兄弟の元にね」

「!!」

 

 兄弟は思い返した。最初に、自分たちの元にどこからともなくジャイロとクリスタルが現れ、ウルトラマンに変身した時のことを。

 あれは、そういうことだったのだ。

 

「それから私は、あなたたちの活躍を陰から見守ってた。そして今に至るという訳よ」

「ワオ……何てUnbelievableな話なんでショー……」

「すごい運命的……」

 

 話の壮大さに、鞠莉や梨子はすっかり呆けていた。

 と、ここで曜が唇をとがらせる。

 

「にしても先生、そんなにすごいアイドルだったのなら、私たちの活動にも何か一つくらいアドバイスしてくれたら良かったのに」

 

 それに律子は苦笑を浮かべながら、

 

「今の説明の通り、目立つ訳にはいかなかったのもあるけど……あなたたちには、あなたたちの輝きを持ったアイドルになってもらいたかったの」

「私たちの、輝き……?」

 

 千歌たちは一瞬動きが止まって、律子に視線が集まった。

 

「ええ。アイドルの姿、個性は千差万別。一人として同じアイドルはいないから、違う人の後追いをしたって成功する道理はない。私が何かしら口出しするのは、みんなの独自のアイドル像を損ねてしまうことになりかねない。だから、あえて全ての活動をみんなの自主性に任せたのよ」

「じ、じゃあ……先生から見て、私たちは、輝いてるスクールアイドルになれてますか……? 自分たちの学校の廃校も止められなかった、小さい私たちですけど……」

 

 千歌が内心に劣等感を抱きながら尋ねると、律子はにっこりと微笑み返した。

 

「もちろんよ。アイドルに貴賎なし! スケールが大きければいいってものでもないわよ。Aqoursは色んな経験を積んで、立派なアイドルになってる! 私から保証するわ」

「せ、先生……!」

 

 千歌たちがジーン……と胸を打たれて、ひと筋の感涙も流した。

 

「いい話展開してるとこ、悪いんすけど……」

 

 そんな空気の中に功海が切り込んで、質問。

 

「秋月さんはルーゴサイトって奴のこと、知ってるんですか? 俺たち、1300年前に地球を襲ったすげー怪獣ってことぐらいしか知らなくって……」

「ええ、その説明もしないとね。みんな、よく聞いててよ」

 

 改めて忠告した律子が、話を目前の危機の一つに切り換えた。

 

「ルーゴサイトはいわば、宇宙の白血球。宇宙に害を成す存在を抹消して宇宙のバランスを保つ、本来なら何ら問題のない宇宙の自浄作用の一種なんだけど、何らかの要因で暴走してしまってるの」

「暴走?」

「抹消対象の判別がつかなくなって、無害な星まで消して回るようになっちゃったのよ。そんな危険な宇宙怪獣が、再び地球を消し去ろうと近づいてきてる……!」

 

 律子の口振りに引き込まれ、ゴクリと息を呑む一同。唯一ルーゴサイトを直に見ている沙紀は、憎々しげに口の端を歪めていた。

 

「一番厄介な点は、ルーゴサイトは実体を持たないガス状生物だってこと。だからどんな攻撃もすり抜けてしまって、ルーゴサイトには通用しない。それが1300年前の敗戦の原因よね、美剣さん」

「……ふん」

「どうにかならないんですか!?」

 

 果南が辛抱できずに問いただすと、律子はニッと自信を湛えた笑みで返した。

 

「安心して! そのための作戦も、この十二年で用意したから! 何を隠そう、今準備してる装置こそがそれなの!」

「わぁ! 先生頼りになる!」

「で、どうするんですか?」

 

 曜がはしゃぎ、梨子が聞き返したら、律子はバッとあるものを取り出す。

 

「使うのは、この三つのジャイロよ」

「あッ!? 俺たちのジャイロじゃん!」

「い、いつの間に……」

「私のまでっ!」

 

 ジャイロをかすめ取られていたことに気づいて、動揺する三人。

 

「悪いけど、ちょっと借りるわ。ルーゴサイトの対処には、ジャイロの力が必要なの」

「どういうことですか?」

「それはここからのことを、見てれば分かるわよ……!」

 

 律子はジャイロを、アンテナ型の装置の三つの頂点に一つずつ設置。そしてジャイロが作る三角形の中心で、リング型のアイテムを取り出す。

 

「それ、サルモーネが使ってたリングに似てる……」

「オリジナルのオーブリングを基に作った、オーブライトリングよ」

 

 理亞の指摘に答えた律子がオーブライトリングを掲げると、それから発せられた光の波動が、三つのジャイロを同時に起動させる。

 

「三つのジャイロのエネルギー波を、宇宙空間のルーゴサイトに照射するわ」

「今やるのか? ルーゴサイトの最接近は三日後だが……」

 

 尋ねた沙紀に、どうということでもないように返す律子。

 

「そんなの待ってる余裕はないわ。こっちから手を伸ばすの」

「何?」

「ジャイロのエネルギー波を、リングの力で増幅させて射程距離を伸ばすわ。ウッチェリーナさん、照準は?」

[角度良し、射程良し。いつでも行けます!]

「OK。それでは作戦、開始!」

 

 リングを介して全てのジャイロを同時に操作。ジャイロのエネルギーがアンテナを通して、宇宙へ向けて発射される。

 

「おおッ!? 何かすげぇ!」

 

 ――地球へ向けて接近しつつあった、惑星規模の質量のガス状生物に、地球から発せられた三条の光線が命中。するとガス状生物は急激に圧縮されていき、一瞬龍人のような輪郭になった後に、一気に手の平に収まるほどの円形の物質の形にまで縮小される。

 

「トラクタービーム、発射!」

 

 次いで牽引光線が放たれ、圧縮された物体に当たると、空間転移させられて地上の律子たちの頭上に引き寄せられてきた。

 

「あれは!?」

「クリスタル!?」

 

 頭上にいきなり出現した小さい物体に目を見張る克海たち。律子は厚手の防護手袋を被せた手を上げ、落ちてきたそれをキャッチする。

 手の平を広げると、見たことのない姿の怪獣と『龍』の文字が刻まれた一枚のクリスタルが、そこにあった。

 

「良しっ! 第一段階は無事に成功よ!」

「ま、まさか……それがルーゴサイトなのか……!?」

 

 沙紀が誰よりもこの結果に驚愕し、聞き返した。律子はクリスタルを見せびらかすように掲げながら、鼻息荒くうなずき返した。

 

「そう! ルーゴサイトをクリスタル化して捕獲する、それがこの地球の明日をつなぐ作戦の第一段階よ!」

 



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明日を追いかけろ!(B)

 

 龍のクリスタルを視認した功海が、興奮で打ち震えた。

 

「すっげぇー! ガスから個体に相転移させて、捕まえられるようにしたって訳か!」

「じゃあ、この小さいクリスタルの中にいるってこと!?」

「星を消し去る終焉の使者が……!」

 

 律子が摘まみ上げている、ルーゴサイトを封じ込めたクリスタルに皆の注目が集まる。沙紀などは、驚嘆で開いた口がふさがらなかった。

 

「あのルーゴサイトを、こんな形で無力化するとは……」

「これで地球は救われたんですか!? 先生!」

 

 千歌がワクワクとしながら尋ねるが、律子は油断なく手の内のクリスタルを見つめていた。

 

「残念だけど、これでも不十分よ。恐ろしい奴……クリスタル化されてなお、生命の鼓動が途絶えてない。このままじゃ、いつ封印を破って復活するか分かったもんじゃないわ」

「じゃあ、どうするんですか?」

「移動よ。アルトアルベロタワーの地下へ!」

「えッ、わざわざアイゼンテックへ?」

 

 克海が意外そうに聞き返した。アイゼンテック本社は、氷室に乗っ取られているようなものだ。敵の本丸に乗り込むのには、どんな理由があるのか。

 律子は機材を片づけながら説明していく。

 

「あのタワーは、1300年前に美剣さんたちが墜落した跡地に建ってる。あそこは二人のウルトラマンのエネルギーが拡散した影響で、時空間の特異点になってるの。四年前の事件の時、氷室仁と名を騙ってる奴らはそれを利用して異次元を行き来し、挙句私の仲間たちを異次元に閉じ込めたんだけど……今度は私が特異点を使わせてもらうわ」

「と言うと?」

「このルーゴサイトのクリスタルを持ったまま、あえてみんなのところに戻る。そうすれば、奴らは私からクリスタルを奪うのに封印を解かざるを得ない状況になって、結果手出しが出来なくなるって訳よ」

「なるほどー! 敵が作った状況を、逆利用するってことか! 頭いい!」

 

 いたく感心する功海。

 

「悪いけれど、氷室仁はあなたたちで倒してちょうだい。奴らを倒せば後顧の憂いは無くなって、私の仲間、オーブも解放される。そうすれば私たちでルーゴサイトを倒すわ! それで全て解決よ!」

「お前たちで、ルーゴサイトを倒すだと? その確証はあるのか。もし失敗すれば、元の木阿弥に……」

 

 危惧する沙紀に、律子は自信に満ち溢れた顔を向けた。

 

「大丈夫。私たちは――オーブは、星を食らう大怪獣にだって負けないから。信じてちょうだい」

 

 根拠は分からないが、あまりにも揺るぎない自信が律子からひしひしと発せられており、克海たちは問答無用で納得させられていた。

 

「……分かりました。こっちのことは、俺たちに任せて下さい!」

「絶対オーブさんたちを解放してみせますよぉ!」

「頼んだわ。じゃあ、すぐに行動に移りましょう。奴らが何も仕掛けてこない内に……」

 

 ちょうど機材も片づけ終わり、アルトアルベロタワーに向かって移動しようという直前で、聖良が質問を投げかける。

 

「すみません。最後に一つだけ、教えて下さい」

「何かしら」

「氷室仁……その正体は、何なんでしょうか。どうして一人を……()()と呼ぶんですか?」

 

 克海たちがゴクリと固唾を呑んだ。その点は、彼らもさっきから気になっていたことだ。

 律子は神妙な面持ちで、回答する。

 

「……恐ろしい奴らよ。自分たち自身は常に表に出て来ないで、裏から人を巧みに操って密かに暗躍し続ける。なかなか実態を掴ませないその手口には、私も十二年間思うように動けずに苦戦させられてきたわ」

 

 敵の恐ろしさを評し、肝心の名を唱えようとする。

 

「その、名前は……!」

 

 瞬間――いきなり空から飛んできた爆撃が、全員を襲う。

 ドオオオォォォォォンッ!!

 

「きゃああぁぁっ!?」

「うっ!?」

「な、何だ!?」

 

 突然降り掛かってきた衝撃で、一同の姿勢が崩れた。克海が空へ振り向くと、いつの間にかアイゼンテック飛行船が上空に姿を現していた。

 

「お、追いかけてきたのかッ!」

「あぁっ!!」

 

 彼らの注意が飛行船に向いた隙に、何かが律子に猛スピードでぶつかって、ルーゴサイトのクリスタルをかすめ取った。

 

「先生っ!?」

「しまった、クリスタルが……!」

「まさか……!」

 

 果南らが振り向いた先で、クリスタルを奪い取った者が足を止めた。

 

「ここまで我々を出し抜くとは、流石なものだ。しかし、最後に勝利するのは我々だ」

「氷室仁ッ!!」

 

 克海たちの叫声がそろう。氷室がクリスタルを、その手に握っているのだ。

 

「ウッチェリーナさん、飛行船の動きを阻害できる!?」

 

 律子は飛行船からの攻撃を防ぐために指示するが、ウッチェリーナは申し訳なさそうに返答した。

 

[ダメですぅ! コントロールを完全に掌握されました! こちらからのアクセスの一切を受けつけませぇんっ!]

「やられたわ……こんなに早くシステムを復旧させるなんて……。奴らを甘く見てたわね……」

 

 あと少しのところで巻き返されてしまい、律子の額に脂汗が浮かんだ。沙紀は激昂して氷室へ手の平を向ける。

 

「クリスタルに触るなっ!!」

 

 手の平から光弾を放って攻撃するが、氷室は人間の限界を超えた速度で回避。

 しかし爆発で飛び散った泥が眼鏡のレンズに付着したので、一度立ち止まって、眼鏡に手を伸ばす――。

 

「――ひゃあああぁぁぁぁぁぁ――――――――――――っ!!?」

 

 直後、千歌たちが思わず悲鳴を発していた。

 何故なら――氷室の眼鏡は、()()()()()()顔から外れたからだ。氷室の眼球の周囲には、露出した精緻な歯車類がカタカタと動作している。

 

「ろ、ロボット!?」

「アンドロイドだッ! そうだったのかッ!!」

 

 克海と功海が絶叫する。氷室は泥を拭き取った眼鏡、いや顔面のパーツを戻しつつ肯定する。

 

「如何にも。このボディは、我々が人間社会を操作する上でのアバターに過ぎない」

「本体はどこだ!? 隠れてないで出てきやがれッ!」

「焦るな。我々は既に、お前たちの()()()にいる」

 

 氷室に返答に、克海が一瞬固まった。

 

「え……? 目の前って……」

 

 ふと顔を上げると、氷室の頭上に飛行船。アイゼンテック社が所有しているもので、綾香の空を旋回しているところを度々目に掛けた。

 自分たちの戦いの時にも――上空から、まるで監視しているかのように――

 

「――ま、まさか……あの中……!!」

 

 

 

 地上からはよく見えないので分かりづらいが、アイゼンテックの飛行船のゴンドラには窓がない。ゴンドラは全周囲が塗り潰されており、外から内部は見えないようになっている。

 そしてその内部には――『氷室仁』という名前で通しているアンドロイドを操縦している、無数の蜘蛛のような異形の生物たちが、アンドロイドを通して克海たちに告げる。

 

『我々はグラキエス。地球を覆う大気のように、目に見えない形でそこに存在する者である』

 

 

 

 ロボット社長、氷室仁の背後の空間に光の柱が出現し、転送されるようにカミソリデマーガが出現する。

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

「ルーゴサイトをクリスタルにしたのは、我々にとっても好都合。このまま我々の計画を遂行させてもらう」

 

 カミソリデマーガが前進してきて、再度克海たちを狙う。律子は克海と功海の方へ振り返った。

 

「克海さん、功海さん。今の私には戦う力はないの! あなたたちの力を貸して!」

「言われるまでもありません!」

「何が狙いか知らねーけど、人間を愚かとか言う奴らの思い通りにはさせませんよ!」

 

 克海と功海の側へ、ダイヤと花丸が回る。

 

「もちろん、わたくしたちも戦いますわ!」

「怪獣をやっつけるずら!」

「クリスタルは私たちに任せて!」

 

 胸を叩いて申し出た果南に克海がうなずき返し、功海とルーブジャイロを構えた。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 そして克海が土の、功海が水のクリスタルをセット。

 

[ウルトラマンビクトリー!]

[ウルトラマンギンガ!]

「ダイヤッホー!」

 

 グリップを三回引いて、変身!

 

[ウルトラマンロッソ! グランド!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 ウルトラマンに変身を遂げた兄弟が立ちはだかり、カミソリデマーガの足を止めた。

 

『行くぞ!』

『おうッ!』

 

 手の平をパンッ、と重ね合わせたロッソとブルが前に飛び出し、デマーガに飛び掛かっていく。

 沙紀や果南たちはその間に、氷室へと走っていって捕まえようとする。

 

「クリスタルを返せっ!」

 

 しかし氷室の動きはとんでもなく速く、すぐに遠くへと逃げていく。

 

「待てっ!」

「捕まえろー!」

「空間移動を使います!」

「みんな、気をつけて! 無理をしないでね!」

 

 善子たちが氷室を囲い込んで捕らえようとする中、ロッソとブルがカミソリデマーガに攻撃を仕掛ける。

 

『ふッ!』

『はッ!』

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 ロッソたちの拳がデマーガの刃物状のヒレを叩く。二人の打撃はデマーガを押し返すが、

 

『『……痛てぇぇぇ~!!』』

 

 殴った手を痛めてしまった。カミソリデマーガの刃は本物の刃物以上の硬度なのだ。

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 苦しんでいるところにデマーガが斬りかかってくるのを、ロッソたちは咄嗟に回避する。

 

『うらッ!』

 

 ブルが転がりながらデマーガの膝裏を蹴りつけ、姿勢を崩させる。そこに飛びついて抑え込もうとするも、デマーガが刃を振り回すと逃げざるを得なくなる。

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 全身が凶器であるカミソリデマーガには思うように攻撃できず、ロッソたちは手を焼かされていた。

 

『「あの怪獣、危なすぎるずら!」』

『「思いっ切り銃刀法違反でブッブーですわ!」』

『怪獣に法律が通るかよ!』

『言ってる場合か! みんなが心配だ、とっとと片づけるぞ!』

 

 千歌たちの助けに回るためにも、ロッソとブルは早速勝負を決めるべく身を構えた。

 

[極クリスタル!]

 

 ダイヤが極クリスタルを握って、花丸と並び立つ。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

[兄弟の力を一つに!]

 

 クリスタルを、花丸が掲げるジャイロにセット。

 

『『纏うは極! 金色の宇宙!!』』

『「「サンシャイン!!」」』

 

 ダイヤと花丸でグリップを引いて、兄弟を融合させる!

 

[ウルトラマンルーブ!!]

「デュワッ!」

 

 合体変身したルーブが、即座に武器を手に取った。

 

「『ルーブコウリン!!」』

 

 ダイヤと同じ動きでコウリンを手にしたルーブに、デマーガが頭頂部の角から火炎弾を発射するが、ルーブはコウリンの回転で全て打ち返す。

 

「フゥッ!」

 

 火炎弾をさばくと、ルーブが肉薄。デマーガの反撃の刃をいなしつつ、コウリンを叩き込んでいく。

 

「ハァッ!」

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 デマーガの刃もコウリンを切り裂くことは出来ず、はね返されて連続攻撃を食らい続ける。デマーガは完全に押されてよろよろと後ずさった。斬りつけられた四肢から火花が飛び散る。

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 追いつめられてデマーガも本気になり、全身から生えた刃から光刃を乱射。怒涛の連続攻撃をルーブに返す!

 

「ウッ!」

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 両腕を交差させて×型の光刃を放ち、ルーブを爆発の中に吞み込む。必殺のコンボ攻撃を浴びせて、ガキンと自慢げに刃を打ち鳴らすデマーガだが、

 

[ルーブ・ブルーム!!]

「『「『ブルーム・アースブリンガー!!!!」』」』

 

 黒煙を突破して地面を走ってきたエネルギーを食らい、下半身が花輪のように開いた土の中に呑み込まれて動きを封じられた。

 

「グバアアアアアア!?」

 

 煙の中からは、琥珀色と黄色のラインを身体に走らせたルーブが悠然とした仁王立ちで現れる。怪我一つ負ってはいなかった。

 

「ハッ!」

 

 ルーブは両腕を回して胸の前で合わせることで、エネルギーを両腕に集中。十字を組んで、身動きが取れないカミソリデマーガに照準を定める。

 

「『「『ルービウム光線!!!!」』」』

 

 組み合わせた腕から、黄金色の必殺光線を勢いよく発射!

 

「グバアアアアアア!! ギャギャギャギャギャギャ!!」

 

 これを食らったカミソリデマーガは、一瞬にして粉々に吹っ飛ばされたのであった。

 

『『決まったぜ! 俺たちの力!』』

『「ですわ!」』

『「ずら!」』

 

 堂々と勝利を飾ったルーブたちが、大きく見得を切った。

 

 

 

 カミソリデマーガがルーブの前に敗れ去ったところを、逃走していた氷室がじっと目撃していた。

 

「カミソリデマーガはやられたか。だが、想定内」

「見つけたっ! みんな、こっち!」

 

 そこに果南たちが追いつき、集合してくるが、全く動じていなかった。

 

「大人しくクリスタルを渡せ。ルーゴサイトの力を利用などと、馬鹿げた真似はやめるのだな」

 

 沙紀が前に進み出て、氷室に言いつける。だが、氷室は全く以て涼しい顔。

 

「ちょうどいい。馬鹿げた真似かどうか、実証してみせよう」

「何!?」

 

 そう言って氷室が取り出したのは――漆黒のジャイロ。沙紀たちに動揺が走る。

 

「それは!?」

「これまで採集したデータを基に、改良を加えて作り上げた我々のジャイロだ」

 

 氷室は左手にグラキエスジャイロに、右手にルーゴサイトクリスタルを持つ。

 

「まさか……やめろっ!」

 

 制止しようとする沙紀たちだが、飛行船からのビームが降り注いで氷室に接近できない。

 

「うっ……!」

 

 その間に、氷室がクリスタルをグラキエスジャイロに嵌め込む。――同時にジャイロから紫の電流が走り、クリスタルの円周に灰白色の枠を取りつけた。

 

ルーゴサイト・ナイーブ!

「何……!?」

 

 氷室がグリップを三回引いて、クリスタルからルーゴサイトを召喚する――。

 

 

 

 ルーブの前に怪しい色の光の柱が立ち上り、中から巨大な物が出現する。

 

『何だ!』

『新手か!?』

 

 反射的に身構えるルーブの面前に、現れ出でたものとは、

 

『……え?』

『「な、何ですの? あれは……」』

 

 全体が灰白色の、巨大な四角い立方体のようなもの。大きさを抜きにすれば、西洋の墓標か何かのように見える。

 ただ、後方からは長い尾がはみ出しているので、何かの生物が立方体の中に収まっているのだろうことが見て取れた。

 

『「あれも、怪獣ずら……?」』

『まさか、あれがルーゴサイトか……?』

『けど、クリスタルの画と全然違げぇじゃん……』

 

 目の前に現れたものの正体が掴めず、ルーブは困惑を見せていた。

 

 

 

 氷室は、巨大な立方体の正体を語る。

 

「あれは我々がルーゴサイトの力をコントロールするために開発した制御装置だ」

「何だと……!? ルーゴサイトを支配下に……!?」

 

 沙紀に衝撃が走る。まさか、それほどのことが出来ようとは。

 いや、もっと問題なのは――星を消滅させるほどの怪獣の力を支配下に置いて、グラキエスが何をし出すかだ。

 事実、ルーゴサイト・ナイーブはルーブに向けて、長い尾を持ち上げる。

 

 

 

 立ち尽くしているルーブに対して、ルーゴサイト・ナイーブの青いトゲだらけの尾から、トゲをミサイルのように発射させてルーブに降り注がせた!

 

『『うわああぁぁぁぁぁぁ―――――――ッ!!?』』

 

 突然の集中攻撃を浴びせられて、ルーブの合体が解け、ロッソグランドとブルアクアの状態に戻ってしまう。

 

『くそッ、結局敵ってことかよ……!』

『まずいぞ、これは……!』

 

 肩で息をするロッソが、危機感を抱いた。既に一戦を行っているため、二人のカラータイマーはもう点滅をしている。エネルギーがわずかの証拠だ。

 既に長くは戦闘していられないロッソとブルに立ちはだかるのは、墓標のように不気味にそそり立つ、グラキエスの手先となった未知の怪物――!

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

ルビィ「がんばルビィ! 今回紹介するのは『Unite ~君とつながるために~』です!」

ルビィ「この歌は『ウルトラマンX』のエンディングテーマです! 歌うのはシリーズお馴染みのvoyagerさん!」

ルビィ「ユナイトは『X』内での変身を示す用語ですけど、それ以上の意味を持った重要な言葉なので、エンディングのタイトルにぴったりですね。歌詞も、力で倒すだけが全てじゃないっていう、作風に合った内容になってます」

ルビィ「劇中でも、最終回でとても印象的な使い方をされました。劇場版では、Project DMMも歌う特別版が主題歌になってるんですよ」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『太陽を追いかけろ!』だ!」

功海「アニメ第一期のブルーレイ七巻の特典CDの曲だな! Aqours全員が歌う、ポップなマーチ風の一曲だ!」

克海「太陽は作品タイトルの通り、サンシャインにとって重要なワードだ。一期最終巻の特典に相応しいタイトルだな」

ルビィ「それじゃあ次回も、がんばルビィ!」

 




梨子「ルーゴサイトの力を手に入れてしまったグラキエスの魔の手が、私たちに襲い掛かります!」
曜「あなたたちの目的は、一体何なの!?」
梨子「宇宙人の思惑が絡む中、地球の命運はどうなってしまうのか!」
曜「功兄ぃ、克兄ぃ、千歌ちゃんを助けて!」
曜「次回、『滅びのワンウェイ』!」
梨子「ビーチスケッチさくらうち!」


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滅びのワンウェイ(A)

 

 地球に迫り来る大怪獣ルーゴサイトは、秋月律子の手によってクリスタルに封印された。しかし、遂に正体を現した氷室仁……宇宙生物グラキエスに奪い取られてしまう。グラキエスが差し向けてきたカミソリデマーガはウルトラマンルーブが撃破したが、グラキエスはすぐに制御装置を取りつけ支配下に置いたルーゴサイト・ナイーブを召喚。活動時間が残されていないロッソ、ブルは窮地に立たされる――!

 

 

 

 ルーゴサイト・ナイーブはロッソ、ブルに向けて、再びトゲミサイルを雨あられと飛ばして攻撃してくる。

 

『走れッ!』

『うおおおおおおッ!』

 

 瞬間、ロッソとブルが散開して駆け出し、ミサイル攻撃から逃れる。

 

『足を止めるなよ! 止まったら狙い撃ちにされるッ!』

『おうッ!』

 

 ロッソたちはひたすら止まらずにミサイルをかわしつつ、クリスタルチェンジする。

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! グランド!!]

『「お花ーまるっ!」』

 

 二人は回避行動を取りながらルーゴサイトの側方に回り込み、反撃を試みる。

 

「『フレイムスフィアシュート!!」』

「『アースブリンガー!!」』

 

 火球とエネルギー攻撃が、手も足も出ておらず突っ立っているだけのルーゴサイトに激突して、爆発を食らわせた。その衝撃によるものか、トゲミサイルの雨が途切れる。

 

『「やりましたわ!」』

『「ずらっ!」』

『へへーん! どんだけパワーがあったって、動かねぇんだったらいい的……』

 

 攻撃が通用することから一瞬喜色を浮かべたブルたちであったが……すぐに、ルーゴサイトに変化が起こる。

 立方体の制御装置の表面に複雑に線が走り……観音開きするように変形し出したのだ。

 

『何ッ!?』

『うえッ!?』

 

 制御装置の中から四肢が現れ、鎌状の首をもたげ……細身の龍人の全身に、灰白色の拘束具が覆い被さったような形態に変化した。

 氷室が独白するように言い放つ。

 

「今のはただの待機形態に過ぎない。戦いはここからが本番だ」

 

 戦闘形態に移行したルーゴサイト・エフェクターが改めて、ロッソたちに襲い掛かってくる!

 

 

 

『滅びのワンウェイ』

 

 

 

 ルーゴサイト・エフェクターは重力を無視した、滑るような動きでロッソ、ブルに接近しつつ、両腕より触手を伸ばして鞭のように振るってくる。

 

『うわぁッ!』

『ぐわぁぁッ!』

 

 触手を叩きつけられて吹っ飛ばされるロッソたち。更に、トゲミサイルも再び飛んできて二人を攻め立てる。

 

『『わぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』』

『「あうぅぅぅっ!」』

『「ず、ずらぁぁぁっ!」』

 

 動けるようになったことでルーゴサイトの攻撃の手が激しくなり、ロッソたちは反撃の余地すら与えられなくなった。

 

「お兄ちゃんたちがっ!!」

 

 ロッソとブルがなす術なくやられるありさまを見せつけられ、顔面蒼白となる千歌たち。沙紀はルーゴサイトを憎々しげに見上げながら、ジャイロに手を掛けた。

 

「グラキエスめ……お前たちの好きにはさせんっ!」

 

 だがクリスタルを嵌め込む前に、空から怪光線が降ってきて、彼女たちのいる地帯を薙ぎ払った。

 

「うあぁっ!?」

「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っ!!」

『みんなッ!!』

 

 沙紀たちが纏めて吹き飛ばされ、地面に横たわる。

 今の攻撃は飛行船からのものではない。新たに出現した、四機のバラバラの形状の円盤から成る編隊の砲撃であった。

 

『あれは、見覚えが……!』

『まさか……!』

 

 四機の円盤は縦一列にジョイントして、地上に着地。一体の巨大ロボットに変貌した。

 以前ルーブによって破壊されたロボット兵器、キングジョー。それはグラキエスが回収し、強化改造を兼ねた修復を施されたキングジョーⅡとなって今この場に投入されたのだ!

 駄目押しの絶望を叩きつけられて、歯噛みするブルとロッソ。

 

『ま、マジかよ……! この状況で、まだ増えるとか……!』

『くぅぅッ……!』

 

 バドッ、バドッ……!

 駆動音を上げながら、ルーゴサイト・エフェクターとロッソたちを挟み撃ちにしたキングジョーⅡは、同時に怪光線を放つ!

 

『『ぐわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――ッ!!』』

 

 前後からの攻撃に、ロッソとブルはとうとう耐えられなくなって、変身解除に追い込まれた。克海と功海、ダイヤと花丸が地面に投げ出される。

 

「大変……!」

 

 律子が直ちにその場に駆けつけ、急いで失神した克海と功海を車の中に引き上げる。

 だがAqoursの方は間に合わず、キングジョーⅡが照射したトラクタービームによって九人がかどわかされていく。

 

「あっ……! くっ……!」

 

 一瞬動揺した律子だが、今の彼女の力ではどうすることも出来ず、克海と功海を連れて離脱するのが手一杯であった。

 

「千歌……!」

「お姉様、Aqoursが……!」

「どうして、あの子たちを……!?」

 

 沙紀、聖良、理亞は狙われず、キングジョーⅡはAqoursを奪い取ると分離して飛び去っていく。ルーゴサイトもクリスタルに戻されて飛行船に回収され、飛行船もこの場から去っていった……。

 

 

 

「「……はッ!?」」

 

 克海と功海は、マイクロバスの車内で目を覚まし、ガバッと身体を起こした。

 

「気がつかれましたか……」

 

 二人の手当てをしていた聖良と理亞がほっと安堵したが、状況が状況だけに、表情は暗い。

 

「お、俺たちは、どうして……」

「……みんなは!? 千歌たちがいないッ!」

 

 気を失うまでのことを思い返した克海は、グルリと車内を見回して血相を抱えた。ここにいるのは聖良と理亞、律子、沙紀だけであり、Aqoursの姿がない。

 

「……落ち着いて聞いてちょうだい……」

 

 律子は重い口調ながら、事のあらましを兄弟に伝えた。当然ながら、克海たちは多大なショックを受ける。

 

「そ、そんな……!」

「千歌たちが、さらわれたなんて……!」

「ごめんなさい……私の見通しが甘かったわ。グラキエスが、ルーゴサイトを制御するほどの用意をしてたなんて……」

 

 謝罪した律子を、激しくいら立っている沙紀が弾劾する。

 

「全くだ! 何が作戦だ。状況は最悪だぞ! 一体どうしてくれるつもりなんだっ!」

「……」

「やめて下さい! 今、この人を責めたところでどうしようもありません!」

「ああ……! すぐに千歌たちを助けに行かねぇと!」

 

 功海が腰を浮かすが、克海は疑問を提示する。

 

「しかし、氷室……グラキエスは、どうして千歌たちをさらっていったんだ? 俺たちのことは放っといて……」

 

 ジャイロとクリスタルを持つ自分たちならばともかく、千歌たちをわざわざ捕まえる理由が分からない。そう思っていると、律子が推測で答える。

 

「Aqoursのみんなは、あなたたちと一緒に何度もウルトラマンに変身してる。……人はそれぞれ、心の中に光の力を持ってるわ。私たちがそうだったように、彼女たちも克海さんと功海さんと絆を結ぶことで、光の力を強めてる。グラキエスはそれを利用しようとしてるのかもしれない」

「みんなの、光を……!?」

「光と闇は表裏一体。相転移させることで、希望の光は絶望の闇になり得る。グラキエスは強い感情を持たないから……他人から奪い取ろうと考えるのはあり得る話だわ。最初にμ'sを狙ってたのも、そこにあるのかも……」

「けど……千歌だけは一度も変身したことはないですよ?」

 

 聞き返す功海。その理屈だと、千歌にさらわれる理由はないはずである。

 

「いいえ……千歌さんには何か秘密があるということは、あなたたちも気づいてるでしょう?」

「……秋月さんは、千歌がどこから来たのか、知ってるでしょうか」

 

 真剣に、やや恐怖心も抱いて、克海が問うた。律子の回答は、

 

「残念だけれど、私もその点については何も知らないわ。ただ……」

「ただ?」

「……一度、千歌さんが何者なのかを気に掛けて、いけないことだとは分かってたけど内緒で調べたことがあるの。その結果、事実だけを述べるなら……」

 

 少々ためらいを覚えつつも、律子は正直に話す。

 

「千歌さんとあなたたちには、血のつながりはないわ。血縁上では、赤の他人よ」

「……やっぱり、そうなんですか……」

 

 半分分かっていたこととは言え、明言されると、克海たちはやはり心が乱されるのを抑え切れなかった。

 

「千歌さんは十二年前、奇しくも私と同じ時期に綾香市に現れ、どうやったかは知らないけれど、初めからいたかのようにあなたたちの家庭に溶け込んだ。……これが現状、はっきりとしてる事実」

「……」

「……私からは、あえて何も言わないわ。今のを聞いた上で、これから千歌さんとどう向き合うかは……あなたたち次第よ」

 

 沙紀も、聖良も理亞も、兄弟の問題に立ち入ることは出来ず、ただ克海と功海の様子をじっと見ている。

 そして、二人が出した答えは――。

 

 

 

 誘拐されたAqoursの九人は、アルトアルベロタワー展望台の隠し部屋で、十字架に掛けられて身動きが取れない状態にあった。千歌は部屋の中央から少しずれたところに、他の八人は壁際に並べられている。

 部屋の中央には奇怪な装置が置かれ、そのコードに千歌を除いた八人はつながれていた。

 

「これより、計画の最終段階を発動する。これにより、我々が欲する力が全て手に入る」

 

 装置の起動スイッチのレバーに手を掛ける氷室に、まだ回復し切っておらず、呼吸が弱い鞠莉が問いかける。

 

「力……? あなたたちは、私たちから何を得ようとしてるの……?」

「いいだろう。お前たちは当事者なのだから、計画の全容を知る権利がある」

 

 氷室が――グラキエスが、彼女たちをこのような目に遭わせる理由を語り出した。

 

「我々はかつて、並行世界の地球の人間社会の陰に入り込み、情報を供給、操作する立場になることで繁栄を築いていた。だが、我々は敵対した光の巨人に敗北し、その地球から逃れる他なくなってしまった」

 

 空間に立体モニターが浮かび上がり、闇夜に立つ真紅の巨人――刃のクリスタルのウルトラマンに酷似した戦士の姿が表示された。

 

「支配体制は完璧だった。それなのに何故敗れ去ったか、その答えは明白だった。――我々には力が無かった! だから今度は、力を手に入れることを優先した。あの戦士に負けないだけの力……同じ光の力、それを宿したクリスタルを求めて、この並行世界へと」

「それって、サルモーネと同じ……!」

 

 梨子がつぶやく。最初に彼女たちが相争った敵、サルモーネもクリスタルを目的としていたと語っていた。

 

「確かにサルモーネ・グリルドも同じくクリスタルを求めていたので、我々は奴と協力する姿勢を見せた。だが、奴は明らかに大いなる光の力を使いこなす器ではなかった。だから、我々が選び出す器を磨くための当て馬にした。やがて利用価値がなくなったので捨てた。それだけのこと」

「……何てことを……!」

 

 果南が怒りを覚える。サルモーネも非道な輩ではあったが、それを知った上で利用し尽くし、呆気なく切り捨てたグラキエスは、外道そのものだ。

 ダイヤはハッと、律子から聞いたことを思い出す。

 

「では、四年前にμ'sのことを狙ったというのは……!」

「その通り。あの娘たちは、人間の身でありながら光の領域に到達した、765プロの娘たちと同じ資質があった。器として最適。だが捕獲計画は、当の765プロによって阻止された。だから四年後、ターゲットを別の者たちに変更した。つまり、お前たちにな」

 

 青ざめるAqours。自分たちは初めから、この冷酷なる宇宙人に目をつけられていたのだ。

 

「お前たちは、この星に墜落したウルトラマンを継承した兄弟と協力する身。その構図は、765プロと同じ。ウルトラマンを直接狙うのは、リスクが高いこともある。まさに打ってつけの対象だ。だからサルモーネ、美剣沙紀を通して戦闘の経験を重ねさせ、我々が必要とするだけの光のエネルギーを発揮できるだけの器に鍛え上げた。そうして今、その力を我々が収穫する。――この一連の計画こそが、ルーゴサイト捕獲と並行して進めていた我々の最重要計画」

 

 氷室が悪魔の計画の名を唱える。

 

「Aqours PROJECT」

「……ふざけないでよ! 私たちを、家畜か何かみたいな目で見てっ! そんなことのために、私たちは頑張ってたんじゃない! 許さないんだから!!」

 

 曜がたまらずに喚き散らしたが、完全に拘束されており、手も足も出すことが出来ない。

 

「我々からすれば、お前たち人間と家畜に違いなどない。このようにな……!」

 

 氷室が躊躇なく、レバーを動かして装置を起動させる。

 途端、八人は十字架からエネルギーを吸い上げられ、高海兄弟とともに過ごし、戦うことで高めていた心の光を強奪されていく。

 

「あああああああああああ―――――――――――――っっ!!?」

 

 無理矢理生命エネルギーを抜き出されるので相当な苦痛が伴い、八人の絶叫が室内にこだました。

 

「み、みんなっ! やめて、やめてよぉっ!!」

 

 ただ一人、手をつけられていない千歌が懇願するが、氷室は一切気にも留めない。

 八人から抜き取られる光のエネルギーは、部屋の中央の装置に集められ、そしてグラキエスの記憶と混ぜられることでクリスタルの形に実体化していく。

 

「計画は成功だ……! 我々のクリスタルが出来上がる……!」

 

 そうして完成したのは、映像にあった真紅の巨人と同じ戦士の姿が刻み込まれた、刃のクリスタル。――だが、その戦士の身体は漆黒に染まっていた。

 エネルギーを奪い取られた八人は、ぐったりとうなだれる。

 

「これでルーゴサイトの力、ウルトラマンの力の両方が手に入った。――しかし、まだ一つ、不安材料がある。それがお前だ、高海千歌」

「あうっ!?」

 

 千歌を拘束する十字架に一瞬電流が走り、千歌が悶絶した。

 

「お前の正体、それだけが不明だ。いくら調べても明瞭としない。以前は予期せぬ事態によって敗北を喫した。だから不安材料は全て取り除いておく。――答えろ、お前は何者だ」

「そ、そんなの、知らない……」

 

 と答えても、電流を浴びせられるだけであった。

 

「うあぁっ!」

「己でも忘れているというのなら、ショックを与えて思い出させてやろう。記憶は必ず、脳内に残っている」

 

 氷室は全く容赦することなく、千歌を苛み続ける。

 

「いやあああぁぁぁぁぁぁっ!」

「答えろ。お前はどこから現れた? 何故あの兄弟は、十二年前のあの日、いきなり現れたお前を妹と呼んだ? 何故誰もお前の存在を疑わない? どうやって記憶を操作し、コミュニティに入り込んだのだ。全て答えろ!」

「や、やめて……千歌ちゃんに、ひどいことしないで……!」

 

 梨子たちが力を振り絞って頼むが、こちらも電流で黙らされる。

 

「あぁぁっ!!」

「み、みんな……!」

 

 どれだけショックを与えても千歌の様子が変わらないので、氷室は言葉責めも浴びせ始める。

 

「見ろ。そこの奴らは、お前のために苦しんでいるのだ。あの兄弟のことも、ずっと騙し続けて、お前は何と残酷なのだろうな。人間の倫理観で許されることではない。他人の好意につけ込み、利用するなど」

「わ、私は……お兄ちゃんたちの妹で……!」

「まだそんなことを言うか! 最低だな! 恥というものがないのか! 罪悪感があるというのなら、己の本当の姿を思い出せ! さぁ! さぁッ!」

 

 一方的に、身体と心を傷つけられていく千歌。

 

「あっ、あ、あぁぁ……!」

 

 千歌は耐え切れなくなって――心のままに絶叫した。

 

 

「助けて!! お兄ちゃん!!」

 

 

『『おおおおおッ!!』』

 

 隠し部屋の壁が外から破られ、二つの巨大な握り拳が突っ込んできた。氷室は後ろに下がって鉄拳をよける。

 二つの手が開かれ、千歌たち九人をグラキエスから奪い返して、展望台から引き抜かれる。外に浮いているのは――ロッソとブルだ。

 

「お兄ちゃん……」

『みんな、大丈夫か!? 遅くなってごめん……!』

『何てひどいことを……テメェ許さねーぞッ!!』

 

 ロッソとブルは磔にされ、息も絶え絶えの千歌たちの状態に、氷室へ憤怒を向けた。かつてないほどに、怒りのボルテージが上がっている。

 対照的に、氷室は平然と二人へ言い放つ。

 

「何故そいつまで助ける。高海千歌は、いや正体の知れないその不審人物は、お前たちを騙し続け、気持ちをもてあそんでいた。妹などと嘘っぱちだ。全てが偽物――どこに助ける義理があるというのだ」

 

 ロッソは、ブルは、ありったけの想いを込めながら言い返した。

 

『嘘なんかじゃないッ! 俺たちは紛れもない兄妹だ!!』

『血のつながりとか、そんなもんは関係ねーよッ! 俺たちは、心が千歌を妹と認めた! それ以外に必要なもんがあるかッ!!』

『騙されてなんかもいない! 千歌が気持ちをもてあそんでるとか、侮辱するなッ! 俺たちが過ごした時間を、絆を否定する権利なんかお前にはないッ!!』

『誰が何と言おうとッ! 何の証拠もなくてもッ! 誰にも俺たちの関係を偽物だなんて言わせねぇッ! 心が認めてるんだッ!!』

『『俺たちは、家族だと!!』』

 

 ロッソとブル――克海と功海の魂の言葉に、グラキエスは、

 

「くだらん」

 

 ひと言吐き捨て、漆黒の戦士のクリスタルを、暗黒のジャイロに嵌め込む。

 

「邪魔者は全て排除する」

 

 グリップを一回、二回と引き、三回目で奪った光を変異させた闇のエネルギーを解き放つ!

 

ウルトラセブンXダーク!

「ウオオオオオッ!」

 

 氷室のボディが暗黒戦士のものに変貌し、猛烈な速度で地上に降り立つ。着地の震動で、周りの建物が薙ぎ倒された。

 

『『はッ!』』

 

 ロッソとブルも着陸し、千歌たちを拘束から解放して、偽りの巨人と対峙する。

 これ以上、家族に指一本触れさせやしない。その熱い想いを胸に。

 



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滅びのワンウェイ(B)

 

「ウオオオオッ!」

 

 ウルトラセブンXダークがうなり声を発しながら、五指を獣の鉤爪のように構えて振り下ろしてきた。ロッソとブルはそれをかわしながら、待機していた律子のマイクロバスに救出した九人を託す。

 

『千歌たちを頼む!』

「はい!」

 

 聖良と理亞がぐったりとしている九人を預かるも、比較的ダメージの少ない果南とルビィは力を振り絞って起き上がった。

 

「克兄ぃ、功兄ぃ……私たちも戦うっ!」

「みんなのために……がんばルビィ!」

 

 叫んだ二人の身体が光に包まれ、ロッソとブルのカラータイマーの中に飛び込んだ。

 

「『「『はっッ!」』」』

 

 インナースペースに入った果南とルビィがロッソ、ブルと声をそろえ、セブンXダークに立ち向かっていく。

 

「人間が、光に……!」

 

 ロッソたちの背中を見上げながら驚きを見せる理亞たち。律子は固くうなずいている。

 

「Aqoursのみんなも、その領域にたどり着いてたのね……」

『はぁッ!』

『うらぁッ!』

 

 ロッソの繰り出すパンチをセブンXダークがガード。そこにブルが側方に回り込んでキックを入れる。

 

「ヌゥゥッ!」

 

 セブンXダークは獣のように腕や脚を振り回して二人に襲い掛かるも、ロッソたちは巧みなコンビネーションでさばき、交互にカウンターを食らわせる。

 初めは戦い方など誰も全く知らないど素人の集団であったが、いくつもの苦闘を乗り越えた彼らは、最早素人などではない。クリスタルに描かれた戦士たちにも遜色のない、立派な勇士に成長しているのである。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

『「ハグしよっ!」』

『「がんばルビィ!」』

 

 ロッソアクア、ブルフレイムにタイプチェンジすると、兄弟のパワーは更に高まる。ダブルパンチがセブンXダークをノックバックさせた。

 

「オオオッ!」

「『スプラッシュ・ボム!!」』

「『フレイムバーン!!」』

 

 セブンXダークが額から撃つダークエメリウム光線を、水球と火炎が相殺した。

 

「ウオオオッ!」

 

 セブンXダークは頭頂部のトサカに手をやり、ダークアイスラッガーを握って武装する。

 

「『ルーブスラッガーロッソ!!」』

「『ルーブスラッガーブル!!」』

 

 ロッソたちも対抗して角からルーブスラッガーを抜き、再度セブンXダークと激突。

 

「オオオオ―――ッ!」

『「「やぁぁぁぁっ!」」』

 

 セブンXダークと斬り結びながら、ロッソとブルはグラキエスに対して問う。

 

『どうしてここまでして力を手に入れたがるッ!』

『そんなに世界を征服してぇのかよッ!』

 

 グラキエスの反論はこうだ。

 

『そんな低俗な意思は、我々にはない。我々は、世界をあるべき姿に正すために行動しているのみ』

『あるべき姿だと!?』

『お前たち人間は、すぐにいらない情報をこの世界に氾濫させる。怒り、悲しみ、競争、欲望、享楽、家族、歌、踊り、夢、笑顔、愛、絆……うず高く積まれたゴミの山。世界はもっと整然としているべきなのだ。だから我々が情報を管理し、美しい世界に作り変える。それこそが、我々が果たすべき大いなる目的なのだ!』

 

 ダークアイスラッガーがロッソとブルを押し返すが、二人は強く大地を踏みしめて留まった。

 

『「何が大いなる目的よ! 自分たちが気に入らないからって、世界を好きにしたいだけじゃない!」』

『「ルビィたちが作ったものは全部、ゴミなんかじゃない! 色んなものが世界にあるから、ルビィたちは生きてるんだもん!」』

 

 ルビィの叫びに、ロッソとブルが強く首肯した。

 

『この世界は壊させないし、作り変えさせたりもしない! 俺たちは、決して絆をあきらめない!』

『千歌たちの笑顔が、俺たちの希望! 千歌たちの勇気が、俺たちの未来! 全部が守るべき宝物だッ!』

『『愛こそが、俺たちの戦う意味だッ!!』』

 

 それを見出だしたロッソとブルの斬撃が、セブンXダークを打ち返す。

 

[ウルトラマンゼロ!]

 

 果南が烈のクリスタルをスラッガーにセット。

 

「『ゼロツインスライサー!!」』

 

 振るったスラッガーから放たれた二つの青い光刃を、ダークアイスラッガーが防御。だがルビィも刃のクリスタルをスラッガーにセットしていた。

 

[ウルトラセブン!]

「『ワイドショットスラッガー!!」』

 

 炎を纏った大型のスラッガーが飛び、ダークアイスラッガーに激突、粉砕した!

 

「ヌゥゥッ!」

 

 持ち手だけが残ったスラッガーを、セブンXダークはやむなく投げ捨てる。

 

『少し、成長させすぎたか。ならばこうだ!』

 

 ロッソとブルの背後に、怪しい光の陣が地面から伸びる。

 

ルーゴサイト・エフェクター!

『!』

 

 グラキエスジャイロの力によって、ルーゴサイト・エフェクターが召喚される。更にその隣に円盤が飛んできて、キングジョーⅡも乱入してきた。

 一気に三体の敵に囲まれたロッソとブル。しかし二人は微塵も動じなかった。

 

『どんなに数を増やしたって!』

『俺たちの心は負けねぇ!』

『「私たちの声を!」』

『「重ねルビィ!」』

 

 果南たちは、極クリスタルをジャイロにセットする!

 

『『纏うは極! 金色の宇宙!!』』

『「「サンシャイン!!」」』

 

 四人の心を一つにして、最強の戦士として合体する!

 

[ウルトラマンルーブ!!]

「デュワッ!」

 

 ルーブが前後からの光線をエネルギーバリアではね飛ばし、セブンXダークに飛び掛かっていく。

 

「ハァァァァッ!」

 

 セブンXダークに拳を振り下ろし、背後から迫るルーゴサイトとキングジョーに後ろ蹴りを浴びせる。

 三体を同時に相手して奮闘するルーブの勇姿を見つめながら、理亞と聖良がつぶやきを漏らした。

 

「姉様……あの人たちがみんなのために頑張ってるのに、私たちは見てるしか出来ないのかな……」

「私たちにも……力があれば……」

 

 望みを口に出したその時――二人の目の前に、あるものが空間を跳び越えてきた。

 

「きゃっ!?」

「これは……!」

 

 光に包まれながら聖良たちの前に浮かんでいるのは、オーブリングNEOだ。サルモーネに騙されていた際に、二人も使用していたもの。

 

「……私たちに、力を貸してくれるの……!?」

「聖良さん、理亞ちゃん……!」

 

 身体を休めたことで回復してきた千歌たちが、リングを前にしているSaint Snowの周りに出てくる。

 するとリングの輝きによって、曜、梨子、善子、ダイヤ、鞠莉、花丸の六人の身体から、それぞれ紅蓮、紺碧、紫電、琥珀色の光の粒子が湧き上がる。

 

「この光は……!」

 

 六人の光は、彼女たちの記憶の結晶。ともに戦ってきた火、水、風、土のクリスタルのビジョンとなって、リングに吸い込まれる。リングが一層輝いて、聖良と理亞を待ち望む。

 

「姉様……!」

「……行きましょう! 私たちにも、出来ることがある!」

 

 Saint Snowは決意とともに、オーブリングNEOを手に取った!

 

「「光の力、お借りしますっ!!」」

 

 リングの祝福によって、姉妹は白き巨人へと変身していく!

 

[ウルトラマンオーブスノウ!]

『「「やぁっ!!」」』

 

 戦場に新たに立ち上がったのは、オーブスノウカリバーを高々と掲げた、穢れのない新雪のように純白の肉体のウルトラマンオーブ! その登場にルーブ、セブンXダークが振り向いて驚愕した。

 

『「ウルトラマンオーブ!? 白い!」』

『「あれって、理亞ちゃんたち……!」』

『何だあれは……情報にないぞ!』

 

 千歌たちも誕生したオーブスノウを、圧倒されたように見上げている。

 

「すごい……! 聖良さんたちが、ウルトラマンに!」

 

 律子もオーブスノウの誕生を見届けて、こう唱えた。

 

「銀河の光が、彼女たちを呼んだのよ!!」

 

 オーブスノウのインナースペースで、聖良と理亞が握るオーブスノウカリバーの柄を回し、「土」の象形文字を点灯させた。

 

『「「オーブスノウグランドカリバー!!」」』

 

 剣先を地面に突き刺すと、黄色い光がルーゴサイトとキングジョーに走っていき、足元から衝撃を食らわせて体勢を崩させた。

 

「デアッ!」

 

 この隙にルーブはセブンXダークを蹴り飛ばし、オーブスノウと肩を寄せ合う。

 

『「皆さん、怪獣の方は私たちが受け持ちます! そちらはグラキエスを!」』

『「あの諸悪の元凶をぶっ飛ばしちゃって!」』

『ありがとう!』

『よーし! かっ飛ばして行くぜぇーッ!』

 

 奇跡の光の戦士たちが、未来を立ちふさぐ闇に挑んでいく!

 

『「「たぁぁぁっ!」」』

 

 オーブスノウは、ルーゴサイトが伸ばしてきた触手をカリバーで斬り払い、キングジョーの怪光線を押し返しながら突進。剣を叩きつけてダメージを与える。

 

「ハァァァッ!」

「ヌオオッ!」

 

 ルーブはセブンXダークに正拳を繰り出して殴り飛ばした。セブンXダークはがむしゃらに腕を振り回して抗戦するが、合体戦士たるルーブのパワーにはまるで敵わず、激しい連撃に瞬く間に追い込まれる。

 

「ヌゥゥゥゥンッ!」

 

 腕をL字に組んで、ダークワイドショットの構えを取る。対するルーブは、果南がルーブコウリンを手に取った。

 

[ルーブ・オーシャン!!]

「『ルーブコウリンロッソ!!」』

 

 身体に青と翠色のラインを走らせ、コウリンに極クリスタルをセットして正面に構える。

 

「『「『オーシャン・ボルテックバスター!!!!」』」』

 

 放たれた暗黒光線を、螺旋を描く水流が切り裂いてセブンXダークに直撃。

 

「グオオオオォォォォォォォ――――――――ッ!!」

 

 セブンXダークが大きくはね飛ばされて、背面から倒れ込んだ。

 

『「「はぁっ!」」』

 

 オーブスノウはルーゴサイトが口から発した光線を、光のシールドで防御。反撃に、リング状の柄を回して「火」の文字を光らせる。

 

『「「オーブスノウフレイムカリバー!!」」』

 

 火輪を飛ばしてルーゴサイトを覆い、剣を一閃させる。

 

『「「たぁぁっ!!」」』

 

 炎の斬撃をもらったルーゴサイトが火花を散らしつつノックバックした。

 キングジョーⅡがオーブスノウに接近して鋼鉄の剛腕を振るうが、それも剣に受け止められる。

 

『「「せぇぇぇいっ!!」」』

 

 キングジョーの腕を押し上げ、空いたボディを渾身の力で斬りつける。キングジョーの胴体の、ルーブに貫かれて補修を施した部分に亀裂が走った。

 

「今よっ! 全力の一撃を!!」

 

 律子の指示が飛び、聖良と理亞が四つの象形文字の全てを光らせた。

 オーブスノウカリバーの刀身が輝き、頭上に剣で円を描く。

 

『「「オーブスノウスプリームカリバー!!」」』

 

 二人で握り締めたカリバーを振り下ろして、剣から最強の光線を発射した!

 

『「「はぁぁぁぁぁぁ――――――っ!!」」』

 

 オーブスノウスプリームカリバーがキングジョーⅡのボディを貫通し、粉々に爆散させる。破片は散り散りになって、もう修復不可能なレベルまで破壊された。

 キングジョーⅡが撃破された後、ルーゴサイト・エフェクターは――妙に間を置いた後に、矛先をルーブに向けて、己の正面に怪しいエネルギーを集中させ渦巻かせる。

 

「!!」

 

 攻撃の動作だと判断したルーブが、ルーゴサイトに向き直る。

 

[ルーブ・スカーレット!!]

「『ルーブコウリンブル!!」』

 

 タイプチェンジして、ルビィがコウリンを構えた。

 

[高まれ! 究極の力!!]

「『「『スカーレット・コウリンショット!!!!」』」』

 

 コウリンを振るって、燃え上がる光輪を飛ばす!

 それに対してルーゴサイトは――集めたエネルギーを消し、構えを解いた。

 

「え……!?」

 

 律子が眉間を寄せる。

 ルーゴサイトはそのまま光輪に切り裂かれ――爆発して消滅。クリスタルの状態に戻って落下していった。

 

「やったぁぁーっ! ルーゴサイトをやっつけたよ!」

「後はグラキエスだけだわ!」

 

 曜、梨子たちが歓声を発したが、律子は軽くうつむいて顎に指を掛ける。

 

「……みんな、ルーゴサイトのクリスタルを回収しに行くわよ!」

「あっ、はい!」

 

 そして顔を上げると、千歌たちを乗せて車を落下地点に走らせていった。

 

「ヌゥゥゥゥ……!」

 

 セブンXダークはギリギリ攻撃を耐えて起き上がったが、既に己一人のみの状態。ルーブとオーブスノウを前にして、こちらから攻撃を仕掛けられずにうなっていた。

 

 

 

 律子が走らせる車は、すぐにクリスタルが落ちた場所にたどり着く。

 

「あった! あそこよ!」

 

 車を停めて、クリスタルの元へと駆けていこうとするが――彼女たちよりも先に、一本の腕がクリスタルを拾い上げた。

 

「沙紀ちゃんっ!」

 

 美剣沙紀である。律子は即座に沙紀へ手を伸ばす。

 

「沙紀さん、ルーゴサイトを渡して!」

 

 だが、沙紀は拒否する。

 

「いいや。やはりルーゴサイトは、私が抹殺する。地球の爆破を以て!」

「えっ!!?」

 

 その言葉に、衝撃を受ける千歌たち。

 

「グラキエスは狡猾だ。異次元に封印したとて、こちらの予想もつかない手段で奪還を狙ってくるかもしれない。いや、ルーゴサイト自体が別の時空間に逃げ込んだら、収拾がつかなくなる! ここで確実に消滅させるべきだ!」

「だからって、この地球に生きる人たちを犠牲にするつもりなの!?」

「次元移動技術を駆使すれば、異次元を通して別の土地へ逃れることも不可能ではない。ギリギリまで待つから、お前たちは可能な限りの命を逃がせ!」

「そういうこと言ってるんじゃないわ! 逃がせばいいなんて簡単な話じゃ……!」

「沙紀ちゃんも、犠牲になろうなんて言わないでよ! お兄ちゃんたちが、あそこまで頑張ってるんだよ? みんな助かる道は、もう夢じゃない……!」

 

 沙紀のことを鞠莉や千歌が必死に説得する――その傍らで、律子がルーゴサイトのクリスタルに異様な兆候が起こっているのを見て取った。

 

「!! すぐ手を放してっ!!」

 

 警告した時には、もう遅かった。

 

「うわっ!?」

「!!?」

 

 クリスタルから突然激しいスパークが発生し、沙紀が弾き飛ばされる。目を見張る千歌たち。

 更にクリスタルから電流が腕のように伸び、沙紀のジャイロを奪い取って、自らを嵌め込んだ。

 

ルーゴサイト!!

 

 二本の電流がグリップを握る。物理法則を超越した事態に、唖然とする一同。

 

「な、何が起こってますの!?」

 

 混乱するダイヤに答えるように、脂汗を噴き出した律子が述べる。

 

「やっぱり……さっきはわざとやられたんだわ……! 拘束を解くため、一旦クリスタルに戻って、完全な状態で自身を再召喚するために……!」

 

 常識外れの行動に、千歌たちは絶句。クリスタルは――ルーゴサイトは、彼女たちの目の前で、自らグリップを引いて、枠に取りつけられていた拘束の金具を粉砕した。

 

 

 

 今にもセブンXダークにとどめを刺そうとしていたルーブとオーブスノウだったが、突如中空に不気味な色彩の雲のようなものが立ち込めたので、ギョッと振り返った。

 

『あれは……!?』

『ま、まさか……!!』

 

 不気味な気体は凝縮していき、一つの形を成していく――。それは龍人のようなシルエットだが、拘束具で覆われていた先ほどとは打って変わり、その下の本来の肉体が全て露出した状態で実体化している。背面からは、悪魔の如き広大な皮翼が生えている。

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 あれこそが、滅びのクリスタルから完全復活を果たしてしまった、星を消し去る宇宙の自浄作用を司る存在の、本来の怪獣形態……ルーゴサイト・ナチュラルキラー!!

 

「……黙示録(アポカリプス)……!」

「最悪の事態だわ……!」

 

 流石の律子も、完全に血の気が失せていた。

 沙紀は、光をさえぎるように空に浮かぶルーゴサイトに、憎悪の眼差しを向けていた。

 

「ルーゴサイト……!!」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

千歌「カンカンミカン! 今回紹介するのは、『Another day comes』だよ!」

千歌「この歌は深夜ドラマ『ULTRASEVEN X』のエンディング主題歌! 『SEVEN X』はオープニングソングがなかったから、これが唯一の主題歌だったんだよね」

千歌「歌うのはロックバンドのPay money To my Painさん! 手がけた歌の全部が英語歌詞だけど、メンバーの皆さんは全員日本人で、外国のバンドって訳じゃないよ」

千歌「外国制作を除けば、歌詞に日本語が一切使われてない主題歌は初めてかな。ディストピアの世界観が舞台だった『SEVEN X』にぴったりのイメージなのに加えて、挿入歌『ULTRA SEVEN』のオマージュの意味もあるのかも」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『スリリング・ワンウェイ』だ!」

功海「ブルーレイ六巻の特典CDに収録された曲だな! 冒頭の千歌の絶叫から始まるインパクト抜群の一曲だ!」

克海「観客を盛り上げるにはもってこいな歌だから、早々にライブの定番曲に加わってるぞ!」

千歌「それじゃ、次回もよろしくね!」

 




曜「大変!! とうとうルーゴサイトが完全復活しちゃったよ!」
功海「滅茶苦茶強いじゃねーか! あんなのと戦うのか俺たち!」
克海「やるしかない! この星のみんなを犠牲になんかさせない! ルーゴサイトも、そして美剣も俺たちで止めるんだ!」
克海&功海「「次回、『私のNEW WORLD』!」」
曜「全速前進、ヨーソロー!」


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私のNEW WORLD(A)

 

 Aqoursの九名をさらったグラキエスは、彼女たちの光を利用して闇の巨人の力を手に入れた。更に、謎に包まれた千歌の正体を探ろうと彼女を拷問に掛けるが、そこにロッソとブルが救出に駆けつける。光と闇の巨人の激突は、Saint Snowが変身したオーブスノウの助力もあり、ルーブサイドに軍配が上がりかけていた。だがその時、ルーゴサイトが自身を再召喚するという異例の手段で自由の身となってしまう。地球は滅亡の時を迎えてしまうのか……!

 

 

 

 空に不気味に浮かぶルーゴサイトの姿を、ルーブ、オーブスノウ、セブンXダークが立ちすくみながら見上げている。

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 三人の巨人を見下ろしているルーゴサイトは、己の前に破壊エネルギーを渦巻く雲のように発生させると、ビーム状にして発射! 全てを滅ぼし消し去ってしまう、恐るべきゲネシスレクイエムだ!

 その矛先は、セブンXダーク!

 

「!!」

「ウアアアアァァァァァァァ―――――――ッ!!」

 

 直撃を食らったセブンXダークは、一瞬の内にバラバラにされ消滅してしまった。曲りなりにもボルテックバスターに耐えた相手がたった一撃で抹消されたことに、ルーブたちは戦慄する。

 

『な、何て威力だ……!』

『さっきまでと全然違げぇぞッ!』

 

 セブンXダークを瞬殺したルーゴサイトは地上に降りてくると、翼を収納して陸戦モードと化す。

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 今度は長い尾から大量のトゲミサイルを発射し、ルーブとオーブスノウに纏めて攻撃を仕掛ける!

 

「グワアァァァッ!」

『「「きゃあああああっ!」」』

 

 ルーゴサイトの攻撃は、制御されていた時とは破壊力もスピードも訳が違い、ルーブたちはなす術なく蹂躙される。

 そして腕から伸びた触手に鞭のように打たれて、大きく宙を舞った。

 

『『うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!』』

 

 ルーブとオーブスノウはダメージが限界を超え、変身が維持できなくなって消え失せていった……!

 

 

 

『私のNEW WORLD』

 

 

 

「お兄ちゃん!! 聖良さんたちまで……!」

「つ、強すぎるずら……! 一方的に、瞬く間に……!」

「桁が違いすぎますわ……!」

 

 ルーブたちがあっさり打ち負かされたことに衝撃を禁じ得ないダイヤらに、律子は冷や汗まみれになりながら告げる。

 

「惑星を丸ごと呑み込む規模のエネルギーが、ほんの70メートル程度のサイズに凝縮されてるのよ……それも当然だわ……!」

 

 巨人たちを退けても、ルーゴサイトの破壊の手は止まらない。周囲にトゲを雨あられと無差別に降らせて、綾香の街を片っ端から破壊していく。

 

「ま、街が!!」

「もうどうしようもないの!?」

 

 曜と梨子の悲痛な叫びの後に、沙紀が起き上がってジャイロを拾い直した。

 

「奴は、私が葬るっ!」

グルジオレギーナ!!

「沙紀ちゃんっ!」

 

 千歌が止める間もなく、沙紀はジャイロの力を使ってグルジオレギーナに変化。単身、ルーゴサイトにぶつかっていく。

 

『うわあぁぁぁぁっ!』

 

 グルジオレギーナが全体重を乗せてルーゴサイトに突進したが、ルーゴサイトには意にも介されないように軽くあしらわれる。

 

「沙紀ちゃんまで……!」

「これまずくない……!? 仮に美剣沙紀が勝てたとしても……結局地球は終焉を迎えてしまうわよ!」

「何か方法はないの……!?」

 

 善子、鞠莉らが焦りを浮かべていると、律子が踵を返しながら皆に呼び掛ける。

 

「みんなは克海さんたちのことを頼むわ!」

「先生は!?」

「私はアルトアルベロタワーに行ってくる!」

 

 律子の目がアイゼンテック本社に向く。

 

「私がルーゴサイトをクリスタル化したのは、グラキエスの予定外。元々の捕獲計画があるはずだわ。それが使えるかもしれない……!」

「わ、分かりました! お願いします、先生っ!!」

 

 懸命に頼む千歌たちに、律子は振り向いて忠告した。

 

「これだけは言っておくわ……私が許可するまで、誰もウルトラマンにはならないこと! 克海さんたちもよ!」

「!?」

「あれほどの怪物相手……勝算もなしに立ち向かったら、命の保証はないわ! 必ず間に合わせるから……!」

「……分かりました!」

 

 固唾を呑みながら、その指示を受け入れる千歌たち。

 返事を聞いてから、律子は車に乗り込んでタワーに急行していった。

 

 

 

「うぅ……!」

「お兄ちゃんっ!」

「大丈夫ですか!? しっかりして下さいっ!」

 

 気絶していた克海は、千歌や梨子らの呼び掛けで目を覚ました。側では、功海や聖良たちがまだ横たわっている。

 

「ここは……」

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

 

 一瞬記憶が混濁していた克海だが、遠くから轟くグルジオレギーナの咆哮と激しい戦闘の音で、すぐに意識が鮮明になった。

 

「おい功海! 起きろッ! 目ぇ覚ませッ!」

「か、克兄ぃ……? ……!!」

 

 功海を叩き起こして、ともに小高い場所に駆け上がっていく。

 見えたのは、綾香の真ん中でグルジオレギーナとルーゴサイトが争っている光景。

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

 

 ルーゴサイトが口から発した光線により、グルジオレギーナがバランスを崩して転倒。グルジオレギーナ側からの攻撃は全て、ルーゴサイトには通用していなかった。

 

「美剣までが……!」

「あんな化け物と戦うのかよ……!」

 

 これまでの如何なる敵をも突き放した、圧倒的な戦闘力を見せつけるルーゴサイト。しかし克海たちの覚悟は決まっていた。

 

「やるしかない……! 行くぞッ!」

 

 二人はすぐに変身しようと構える。

 

「「俺色に……!?」」

 

 だが、肝心のルーブジャイロを掴み取ろうとする手が、空を切った。

 

「克兄ぃ、ジャイロがないッ!」

「俺のも……!」

「克海お兄ちゃん、功海お兄ちゃん……!」

 

 千歌の呼び声で振り向くと――二人のジャイロは、彼女が抱えていた。

 

「千歌、何のつもりだ! 早くこっちに!」

「駄目だよ、二人とも! そんな身体で……!」

「無謀すぎるわっ! 本当に死ぬわよ!?」

 

 千歌に詰め寄ろうとする克海たちを、曜や善子らがさえぎる。

 

「無謀でもやるしかないだろ!」

「遊びじゃねぇんだぞッ!」

「お待ち下さい! これは律子先生の指示でもあるのですわ!」

 

 血気に逸る二人を、ダイヤがそう言って制止した。

 

「秋月さんの……?」

「先生は今、アイゼンテック社へ行ってルーゴサイトを止める手段を探しています。きっと何とかして下さいますわ……」

「それでいいのか!? あの人に頼りっぱなしで!」

「ここは俺たちの世界だ! 関係ねぇ人が命懸けで頑張ってくれてんのに、俺たちが何もしねぇなんて……」

「じゃあどうするというの!?」

 

 食い下がる克海と功海を、鞠莉が一喝した。

 

「……死ぬ気で頑張っても、どうしようもないことはあるのよ……! 克海たちには、死んでからの次があるとでもいうの……!?」

「……それは……」

 

 下唇を噛み締めながら絞り出した鞠莉の言葉に、克海たちは何も言い返せず押し黙った。どうしようもないことに実際に直面した彼女たちに、無責任なことが言えるはずもない。

 沈痛の静寂が流れていると、千歌のスマホに律子からの連絡が入る。

 

「先生からだっ!」

 

 すぐに応対する千歌。画面にアップになる律子の顔を、皆が詰め寄るように覗き込む。

 

『みんな、ちゃんとそろってるわね。私の方は無事にアイゼンテック社に入ったわ。グラキエスは、もうここにいないみたい』

「先生、ルーゴサイトを止める手段はありますか!?」

『今探してるところよ。大丈夫、ウッチェリーナさんも協力してくれてるから、すぐに見つけ出してみせるわ。だから、克海さんと功海さん』

 

 律子が兄弟の名を呼ぶ。

 

『もう聞いてると思うけど、変身しては駄目よ。グラキエスも、アバターのアンドロイドが破壊されただけで健在。みんなに危険が及ぶ恐れはまだまだあるわ。だから、あなたたちは仲間を守ることに専念して。それじゃあ、また後で』

 

 念押しして、返事を聞く間もなく電話を切る律子。――しかし、克海と功海の顔には不安が残っていた。

 

「……秋月さんは本当に大丈夫なのか? あそこが一番危険なところだろ……」

「あの人に何かあったら、今度こそお終いだぜ……! やっぱ、俺たちもタワーに……」

「やだっ!」

 

 不意に、千歌の両手が克海と功海の腕を掴んで、引き止めた。

 

「お兄ちゃん……どこにも行かないで……! チカ、何だか怖いの……」

「千歌……?」

 

 涙ながらに訴えかけてくる千歌に、克海たちは戸惑いを浮かべた。

 

 

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

 

 グルジオレギーナがエルガトリオキャノンを発射する。だが、ボルテックバスターと相殺したほどの砲撃が、ルーゴサイトの張るバリアにいとも簡単に遮断された。

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 ルーゴサイトの尻尾から絶えることなく撃たれるトゲミサイルが、グルジオレギーナを撃ち抜いて苦しませる。

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

 

 しかしこれを耐え、グルジオレギーナは相手の背後に回り込んで長い尾を抱え込んだ。そのまま力の限り引っ張る。

 トゲミサイルを至近距離から撃たれて抵抗されても、その腕は決して離そうとはしなかった。

 

 

 

 タワーの社長室まで潜り込んだ律子は、ウッチェリーナとともにアイゼンテックのネットワークを洗いざらい調べ、その中からあるデータを見つけ出していた。

 

「AZ計画……!」

 

 それは、宇宙から地球に飛来してくる最大の脅威――ルーゴサイトに対抗するためのプラン。グラキエスが持ち込んだ技術による、大型ハドロン衝突型加速器を用いて生み出したエネルギーを水分子に照射し、特殊な振動を起こすことで異次元のゲートを開く装置を使い、ルーゴサイトを異次元空間に封じ込めることで地球を救済するという内容である。サルモーネはこれを自身のヒーロー化に利用するだけのつもりだったようだが、グラキエスの魂胆はその先の、捕獲したルーゴサイトを自身の駒にするところにあった訳だ。

 

「多次元世界のゲートを開く装置か……そりゃ、あるに決まってるわよね」

 

 因縁の始まりが異次元空間だったことに納得を抱く律子。

 同時に、これを使ってルーゴサイトを永遠に封印する作戦も頭の中で組み立てていた。

 

 

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

 

 グルジオレギーナは必死にルーゴサイトに抗いながら、ある地点へと誘導しようとしていた。

 

『まだ……もう少し……!』

 

 その地点に向かって――いくつもの角度から、地表に光る線が走って集まっていく。

 

『来た……! レイライン!』

 

 

 

[レイライン、発動しました!]

 

 全速力で計算を構築している律子にウッチェリーナが報告すると、律子に一層の焦りが生じる。

 

「まずいわ……! まだ計算の途中なのに!」

 

 

 

 地表に走る光のラインは、克海たちも目撃している。

 

「何だ、あのラインは……!?」

「アイゼンテックの一点に集まってるけど……!」

「先生が言ってましたわ……」

 

 ダイヤがその正体について、律子から教えられたことを復唱する。

 

「1300年前の先代ウルトラマンの墜落時に、二人の先代の肉体はクリスタルとなって、生命エネルギーはレイラインという地球を巡るラインとなって飛び散ったと……。美剣さんは1300年間でそのライン全てを逆流するようにし、エネルギーを元の一点に集めた……つまり、墜落現場のアイゼンテック社に……!」

「レイラインを集めると、どうなるんだ……!?」

 

 薄々感づきながらも、問いかける克海。返答は、

 

「集結したレイラインと、美剣さんの生命エネルギーが結びつくことにより……地球爆破が可能になると……!」

「……!!」

 

 とうとう目前まで迫った地球爆発の時を前に、皆の顔が青くなる。

 ――千歌が踵を返して、戦場へ走っていこうとするのを、克海が引き止める。

 

「千歌! どこに行くんだッ!」

「放してっ! 沙紀ちゃんは、友達なの! 死んでほしくない! 何も出来なくても……沙紀ちゃんを止めなきゃ!!」

 

 曜や梨子たちが慌てて千歌を止めに掛かる。

 

「駄目だよ千歌ちゃん! みんなで先生を待たなきゃ、同じだよっ!」

「あそこに行ったら、千歌ちゃんこそ命がないわ!!」

「それでも、じっとしてられないっ!!」

「千歌ッ!!」

 

 錯乱するように喚く千歌に、克海が強く呼び掛ける。

 

「俺たちも同じだ……!」

「……!」

「美剣は死なせない……いいや、誰のことも犠牲になんかさせないッ! お前の想い、兄ちゃんたちに任せてくれ……!」

「ああ……俺と克兄ぃで何とかする……!」

 

 功海がAqours、Saint Snowの皆へ振り向く。

 

「俺と克兄ぃは捨て鉢になってんじゃない。俺たちは、美剣を救いに行く! 分かってくれ……!」

「千歌……ジャイロを俺たちに!」

 

 克海たちの言葉で……千歌は、震える手で二人のジャイロを差し出した。

 ジャイロを受け取った克海と功海がうなずき合い、駆け出そうとするのを果南が呼び止める。

 

「待って! 行くなら、私たちも一緒だよっ!」

 

 その言葉に、曜も、梨子も、善子もルビィも花丸も、ダイヤ、鞠莉、Saint Snowもうなずく。

 

「みんな……!」

「お兄ちゃん……」

 

 千歌も、克海と功海の袖をぎゅっと握り締める。

 

「……ああ! みんなで美剣も、地球も救おう!」

 

 兄弟は全員の気持ちを胸にして、全ての命運を決するアイゼンテック社へと全員で向かい出した。

 



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私のNEW WORLD(B)

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 ルーゴサイトは両腕から触手を伸ばし、グルジオレギーナの胴体に巻きつけて拘束。動きを封じてからトゲミサイルを食らわせる。

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

 

 グルジオレギーナはトゲを浴びながらも三つの砲身から砲撃を発射して反撃。激戦を繰り広げながら、アルトアルベロタワー周囲に設置してあるバリア発生装置の領域内に近づいていく。

 

『あと……少し……! うあああああっ!!』

 

 ダメージが積み重なって息も絶え絶えの状態だが、必死に身体を支えて戦い続ける。

 そして、触手を振りほどいてルーゴサイトに掴みかかり、全力で押し込んでいく。

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

 

 ルーゴサイトがずりずりと動いていき、その身体がバリア発生装置の内側に完全に入った。

 

『バリア起動っ!!』

 

 複数の装置からタワーの頂点のアンテナにエネルギーが送られ、タワーを中心にバリアが展開していく。その内部にグルジオレギーナとルーゴサイトはすっぽり入る形となった。

 戦場へ移動している克海たちも、ギリギリでバリア内に滑り込む。

 

「間に合ったか……!」

「ここじゃまだ遠い……もっと接近するぞ!」

「うん!」

 

 功海の呼び掛けに応じ、危険も恐れずに怪獣たちの元へ近づいていこうとする千歌たちだが、

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

 

 ルーゴサイトが再びグルジオレギーナを触手で捕らえ、投げ飛ばす。その際にグルジオレギーナの下敷きになって粉砕した建物の瓦礫が、千歌に飛んできた!

 

「えっ……!」

「危ないっ!」

 

 聖良が咄嗟に、千歌を突き飛ばしてかばう。だがそのために、聖良が瓦礫に襲われた!

 

「きゃああっ!」

「姉様!!?」

「せ、聖良さんっ!!」

 

 理亞たちが真っ青になって、倒れた聖良の元へ駆け寄る。

 

「姉様! 姉様!! しっかりして!!」

「動かしちゃ駄目よ! 頭を打ってるかも……!」

 

 激しく狼狽する理亞を鞠莉が制し、聖良の容態を確かめる。不幸中の幸いで直撃は免れたようであるが、すぐに立ち上がれる状態にはない。

 

「聖良さん、ごめんなさい……! 私のために……!」

 

 助けられた千歌が謝罪するのを、かすかに意識がある聖良が手を向けて止め、克海たちに呼び掛ける。

 

「私のことはいいから、先に行って下さい……」

「……すまないッ!」

「千歌たちは、聖良ちゃんを頼むぜ!」

「うん……!」

「私と曜ちゃんは、克海さんたちと一緒に行くわ!」

「美剣さんは私たちが止めるから!」

「お願い、梨子ちゃん曜ちゃん……!」

 

 残るメンバーに聖良を頼み、克海と功海は梨子、曜とともに先へ進んでいく。

 

 

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 ルーゴサイトがバリアの外へ脱け出そうと、障壁に腕を叩きつける。だがバリアが破れることはなかった。

 

『逃がさん! お前は、ここで私と死ぬのだっ!』

 

 そこにグルジオレギーナが、背後からエルガトリオキャノンを撃ち込む。

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

 

 不意打ちの直撃を食らわせてもなおルーゴサイトに負傷は与えられず、トゲミサイルで反撃される。

 

『ぐぅっ……1300年間、この時を待っていた……! レイエネルギーと、このクリスタルの力で……!』

 

 沙紀はルーゴサイトを逃げられないようにした上で、大量の怪獣クリスタルを握り締める。

 

『今度こそこの星もろともっ! お前を、お前を倒すっ!!』

 

 そして自らの身体にクリスタルを取り込み、エネルギーを急激に上昇させる。

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

 

 極限まで高めた自身のエネルギーと、一点に集結させたレイラインを反応させ、地球を巨大な爆弾にしようというのだ!

 状況がいよいよ危険域に達したことを律子に告げるウッチェリーナ。

 

[レイエネルギー、数値急上昇してます!]

「美剣さん、早まらないで! ハドロン衝突型加速器、作動!」

 

 律子は何が何でも沙紀の自爆を止めるべく、アルトアルベロタワー地下の大型ハドロン衝突型加速器を運転させ、次元の壁に揺らぎを作り出す。

 

「ウッチェリーナさん、転送先はこの座標軸に!」

 

 律子からの指示に、問い返すウッチェリーナ。

 

[この数値ですと、アルトアルベロタワーごと虚数次元に転送されることになります! ディメンションホールの入り口は破損し、二度と戻ってくることは出来ません……!]

 

 律子は、事もなげに返答した。

 

「それでいいのよ。出入り口を壊せば、もう誰もルーゴサイトに絶対手を出せなくなるから」

 

 

 

 千歌たちと別れて先を急ぐ克海たち四人は、グルジオレギーナが急激に発光し出したことにはもちろん、タワー上空に時空の穴が開いたことに驚きを見せる。

 

「あの穴は……!?」

「まさか時空を歪めて、ディメンションホールを作り出そうとしてるのか!」

 

 推理する功海に三人の目が集まる。

 

「ディメンションホール?」

「異次元に続く穴さ! 秋月さんはこのまま、ルーゴサイトを異次元に追放して閉じ込めようとしてる……恐らく、自分も一緒に……!」

「えっ……!?」

 

 絶句する梨子ら。

 

「そんな……それが、先生が考え出した手段……!?」

「自分一人を犠牲に、私たちを助けようとしてるの……!?」

 

 直後、タワーのアンテナから対怪獣拘束ビームが最大出力でルーゴサイトに照射され、麻痺させて動けなくさせる。

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 それからバリアも解除されて、戦場にいる克海たちや、千歌たち、沙紀に対しても、律子が呼び掛けた。

 

『みんな、早くここから離れて! バリアの外側まで逃げれば、ディメンションホールには吸い込まれないわ! ルーゴサイトを呑み込めば、異次元の道は破壊されて誰も通れなくなる! 地球は救われるのよ!』

「だ……駄目ですよそんな! 先生はどうなるんですか!?」

「私たちのために、先生を犠牲にするなんて出来ませんっ!!」

 

 曜と梨子の叫び声に、律子は反応せず、作戦を強行する。こうすれば、全員逃げるより他なくなるという判断だ。

 

「先生……!」

「くそッ、どうすれば……!」

 

 沙紀も止めて、律子も止めるべきか、仲間たちを逃がすべきか、どうすれば良いのかが分からなくなる克海たち。

 だがその時――虚空からの砲撃が、タワーのアンテナを破壊した!

 

「え!!?」

 

 拘束光線が途切れて、ルーゴサイトが自由になってしまう。何が起こったのか。

 

 

 

 アンテナの破損と同時に、律子が操作しているアイゼンテックのコンピューターにいきなり多数のエラーが発生し、作戦の進行がストップしてしまう。

 

「何事!?」

[システムがウィルスに汚染されました! ディメンションホールは維持できていますが、ルーゴサイトを吸引できません!]

 

 今この状況で、こんなことをするのは、()()の他にいない。

 

「でも、外部接続は全て物理的に切断してるのに……!」

[あらかじめ、特定の操作をしたら発動するトラップを仕込んでたのでは……!]

「くっ……読まれてたってこと……!」

 

 あと少しのところでまんまとしてやられた律子がギリリと奥歯を噛み締め、即座にウィルス除去に取り掛かった。

 

 

 

 虚空からは更に、グルジオレギーナに拘束光線が撃たれる。

 

『うわぁっ!?』

 

 空の一画が歪み、ステルス迷彩で隠れていたグラキエスの飛行船が姿を現す。

 

『グラキエスめ……ここまで来て、邪魔を……!』

 

 飛行船へ憎悪の目を向けた沙紀だが、すぐにそうしてはいられなくなる。ルーゴサイトが、ゲネシスレクイエムをグルジオレギーナに向けて放とうと用意しているのだ。

 グラキエスはこのまま、ルーゴサイトに沙紀を葬らせようという魂胆なのだ。

 

『うぅぅっ……!』

 

 沙紀は必死にもがくものの、どう見ても麻痺が解けるより早く撃たれる!

 

「まずいっ! 間に合わないっ!」

 

 律子の作業も、残り数秒で完了するものではない。

 沙紀の絶体絶命の窮地に、克海たちは決断を下した。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 火と水のクリスタルをジャイロにセットして、変身する!

 

「ビーチスケッチさくらうち!」

「ヨーソロー!」

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 ロッソとブルの二人がグルジオレギーナの正面へと飛び出し、放たれたゲネシスレクイエムをフレイムスフィアシュートとアクアストリュームで食い止める。

 

『うッ……うおおおぉぉぉぉぉぉ――――――――ッ!!』

『はぁぁぁぁああああああ――――――――ッ!!』

『「くぅぅぅぅぅぅっ!!」』

『「やぁぁぁぁぁぁっ!!」』

 

 途轍もないエネルギーがぶつかってくるのを、ロッソ、ブル、梨子、曜は全力の、上限をも突き抜けるほどのエネルギーを絞り尽くして止め続ける。

 

『……!!』

 

 その後ろ姿を目の当たりにした沙紀に――在りし日の、自分をかばって散った兄たちの横顔がフラッシュバックして、自爆しようとしていた肉体が急速に静まっていった。

 

 

 

 律子はグルジオレギーナの前に飛び出したロッソとブルの姿を目にし、息を呑み込んでいた。

 

「何てこと……!!」

 

 

 

「『「『あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――!!!!」』」』

 

 ロッソたちは体力が枯れるほどに光線を発し、遂にゲネシスレクイエムを食い止めた!

 

『ど……どうだ……!』

『止めてやったぜ、この野郎……!?』

 

 しかし――ルーゴサイトは翼を展開し、更に強力な光線を放とうと構え直している。

 

『嘘だろ……!? 連射できるのかよ……!!』

『くッ……!!』

 

 ロッソたちは一瞬の判断の後に――カラータイマーに手をやり、光の雫を地上へ放った。

 

「きゃあっ!?」

「い、功兄ぃ克兄ぃ!?」

 

 光の中から出てきたのは、梨子と曜。二人を外へ投げ出したロッソとブルは、腕を広げてひたすらに沙紀をかばう。

 

『来いッ!!』

『止めてやるッ!!』

 

 それが意味するところは、言わずとも明らかである。

 

「やめてぇぇぇぇぇっ!!」

「駄目ぇぇぇぇぇっ!!」

 

 梨子と曜の絶叫は、ゲネシスレクイエムの発射の轟音にかき消される。

 ――その轟音を上回る声で、沙紀が叫んだ。

 

 

 

『嫌だっ!! 置いてかないで!! お兄ちゃんっ!!!』

 

 

 

 ――グルジオレギーナがロッソとブルの前に飛び出して、ゲネシスレクイエムを一身に受けた。

 

「なぁっ……!!」

 

 グルジオレギーナが貫かれ――沙紀が放り出されるありさまに、全員が目を剥いた。

 

「沙紀ちゃぁんっ!!!」

『『美剣ぃぃッ!!!』』

 

 千歌がダッと、沙紀の元へと走り出す。ロッソとブルは怒り狂い、ルーゴサイトへとがむしゃらに突撃していく。

 

『『うおおおぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁッ!!』』

 

 ロッソウインドとブルグランドに変わり、ハリケーンバレットとロックブラスターを放つが、バリアで防がれる。それでも距離を詰め、ルーゴサイトに殴り掛かる二人。

 

『『ああああああああああッ!!』』

 

 滅茶苦茶に、力の限りに殴りつけるも、ルーゴサイトがひるむことは全くなかった。

 

 

 

「沙紀ちゃんっ!! 沙紀ちゃぁんっ!! どこ!!?」

 

 千歌は必死に沙紀を捜し回り、声を張って呼び掛け続ける。

 そして、瓦礫の山の間に、沙紀が倒れているのを発見した。

 

「沙紀ちゃんっ!!」

 

 側に駆け寄った千歌は、懸命に沙紀へ呼び掛ける。

 

「お願い、しっかりして!! 死んじゃ嫌だよ!! 沙紀ちゃんっ!!」

 

 ロッソとブルが死に物狂いでルーゴサイトと戦うのを背景に沙紀にすがりつく千歌の耳に、かすれた声が聞こえる。

 

「私は……グリージョ……」

 

 それは、沙紀が残された力で紡いだ言葉だ。

 

「え……?」

「グリージョ……それが……私の、本当の名前……」

 

 グリージョ――その名に、千歌には妙な既視感があった。

 

「グリージョ……」

「私は、ずっと……暗闇の中を生きていた……私の光は、お兄ちゃんたちだけ……だから、お兄ちゃんを奪われたことが、ずっと、許せなかった……」

「しゃべらないで! 早く手当てを……!」

 

 何とかして沙紀を助けようとする千歌だが、手立てが思い至らない。沙紀――グリージョは、千歌の忠告に構わずに話し続ける。

 

「お前が、羨ましかった……千歌……」

「え……?」

「私と反対に、光の中にいる……たくさんの友に囲まれ、愛され……楽しく歌い、笑い……温かい兄がいて……私が無くしたものを、全部持っている……」

 

 グリージョが千歌の手を握って、瞳を覗いた。

 

「嫌っ!! 行かないで! 言ってくれたじゃない! 私の、すぐ側にいるって!」

「お前は、生きるんだ……新しい世界を……私が生きられなかった、この世界を……千の歌を、歌いながら……」

 

 その言葉を最後に、グリージョの腕から力が抜け、ダランと垂れ下がる。彼女の身体が、光に包まれる。

 

「千歌! ……!!」

 

 果南たちが千歌を追いかけてきた時には――グリージョの肉体は光の粒子に変わり果て、天に昇っていくところであった。

 グリージョのジャイロが、支えを失ってカラリと地に落下する。

 

「沙紀ちゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――んっっっ!!!!」

 

 ディメンションホールが渦巻く空に上がっていく光の粒子を仰ぎ、千歌の絶叫がこだました――。

 




千歌「ねぇ、克海お兄ちゃん、功海お兄ちゃん。チカね、これまで本当に幸せだったよ」
千歌「曜ちゃんがいて、梨子ちゃんがいて、Aqoursを結成して、みんなでスクールアイドルやって……苦しいことも、戸惑うことも、悲しいこともあったけど……全部大切な思い出なの」
千歌「お兄ちゃん……チカ、ずっとそばにいるから……だから、未来を生きて――」
千歌「次回。『君のこころは輝いてるかい?』」


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君のこころは輝いてるかい?(A)

 

 ――立ちはだかるあまりにも高い(ルーゴサイト)に、それでも必死で立ち向かおうロッソとブルは、極クリスタルの力を発動する。

 

『『セレクト、クリスタル!』』

[兄弟の力を一つに!]

 

 ロッソとブルの身体が融合し、一人の超戦士へと変わる。

 

『『纏うは極! 金色の宇宙!!』

[ウルトラマンルーブ!!]

 

 変身を遂げたルーブは、胸部に手をやってルーブコウリンを召喚。

 

『『ルーブコウリン!!』』

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 ルーゴサイトが伸ばしてきた触手をコウリンで切り払い、ルーゴサイト本体へ向けてコウリンを構え、極クリスタルをセット。

 

[高まれ! 究極の力!!]

『『ルーブボルテックバスター!!』』

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 だがルーブの必殺光線すら、ルーゴサイトのバリアを貫くことは出来なかった。

 反撃に、トゲミサイルを頭上から浴びせられるルーブ。

 

『『うわあああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――ッ!!』』

 

 ルーブの融合は呆気なく解除され、ロッソとブルが地面に叩きつけられた。

 

『ぐぅッ! うッ……!』

『くぅぅッ……!』

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 カラータイマーが激しく点滅するロッソとブルに、ルーゴサイトはとどめのゲネシスレクイエムを撃ち込もうとする。

 あれを食らってしまえば、ウルトラマンでも命はない!

 

「克海さぁぁぁぁんっ!!」

「功兄ぃぃぃぃぃっ!!」

 

 悲鳴を発する梨子、曜。

 

「くっ……!」

 

 律子は咄嗟に、オーブライトリングを掲げた。

 光の波動を発して克海たちのジャイロに干渉し、動作を強制停止させる。

 

「「――うわあぁぁぁッ!?」」

 

 ロッソとブルは瞬時に元の姿に戻され、地上に投げ出された。しかしそれによってゲネシスレクイエムは空振りし、命は救われる。

 

「く……くそぉ……!」

「何てザマだ、俺たち……!」

 

 ふらふらと起き上がる克海と功海の元へ、梨子と曜が駆けつける。

 

「克海さんっ!」

「功兄ぃっ!」

 

 梨子と曜は兄弟に近づくや否や、梨子が克海の頬をパァンッとビンタし、曜は功海の胸をボカボカ殴る。

 

「何であんなことしたんですかっ!!」

「馬鹿っ! 馬鹿馬鹿馬鹿っ! 自己犠牲なんて古臭いんじゃなかったの!?」

「ッ……」

 

 克海と功海は、涙を浮かべる二人に何も言い返せなかった。

 

「もう、やめて下さい……あんな真似は……」

「最後まであきらめないでよ……生きるのを……」

「……すまなかった……」

「間違ってたよ、俺たち……」

 

 今は悔やんでいる暇もない。事態は刻一刻と変わり続ける。

 

グランドキングメガロス!

 

 グラキエスの飛行船から、かつてロッソたちを極限まで追いつめた恐るべき大怪獣、グランドキングメガロスが召喚される。

 

「!?」

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 グランドキングメガロスはまっすぐにルーゴサイトに向かって進撃していき、突起を切り離してビームを繰り出す。

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 すぐにグランドキングを新たな敵と見定めたルーゴサイトはバリアで防ぎ、触手を振るって反撃を仕掛ける。

 

「グワアアアァァァァァァァ!」

 

 グランドキングはクローを振って触手を払い、ルーゴサイトにがっしりと掴み掛かる。

 グラキエスが改めてルーゴサイトを捕獲するために繰り出したに違いない。

 

「くそぉッ……! これじゃ結局、グラキエスの手の平の上じゃねぇかッ!」

「どっちが勝っても……俺たちの世界は無くなってしまう……!」

 

 必死に戦い続けたというのに、この状況に行き当たったという事実に悔しさを噛み締める功海たち。梨子は二人の意識を引き戻すように呼び掛ける。

 

「一度、律子先生のところへ行きましょう! あの人のことも止めないと……!」

「ああ……!」

 

 まずは置いてきた千歌たちを捜しに、四人が走り出す。

 千歌たちは、沙紀が消滅した地点に愕然とたたずみ続けていた。

 

「みんなッ! ここにいたか!」

 

 彼女たちの間に入っていった克海らは、地面に投げ出されたままのジャイロと、呆然と座り込んでいる千歌の姿を目にして、何があったのかを理解した。

 

「……ごめん、千歌……! 約束、守れなかった……!」

「弱い兄ちゃんたちで、本当にごめん……ッ!」

 

 悔やみながら謝罪する克海と功海。だが、千歌は魂が抜けてしまったかのように反応が鈍い。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 そんな彼らに、怪獣たちの戦闘が起こす震動が降りかかる。

 

「……事態は、どんどん悪い方へ進んでいってる……」

 

 絶望の化身たちの戦いを見上げ、鞠莉がポツリと発した。

 

「このままじゃ、私たちが歌い続けられる未来はどこにもない……」

「何とかしないと……!」

 

 ルビィのつぶやきの後に、理亞と聖良がうなずき合い、前に進み出た。

 

「私と姉様で時間を稼ぐ……!」

「後のことは、お願いします……!」

「ま、待ってくれ! 危険すぎるッ!」

 

 オーブリングNEOを手に戦場へ向かおうとする二人を止める克海だが、聖良と理亞は凛々しい表情で、克海たちに振り向いた。

 

「大丈夫です。仮初の身でも……私たちは、この地球を護るウルトラマンですから!」

「……!」

「それに……本物のウルトラマンが来てくれると、信じていますので!」

 

 それだけ言い残して、聖良と理亞は白く輝くオーブリングNEOを掲げる。

 

「「光の力、お借りしますっ!!」」

[ウルトラマンオーブスノウ!]

 

 Saint Snowは今再びオーブスノウに変身し、オーブスノウカリバーを携えてルーゴサイト、グランドキングメガロスの両方に斬りかかっていく。

 

『「「やぁぁぁぁーっ!!」」』

 

 姉妹に後を託された克海と功海は……何かを決心したようにうなずき合った。

 

「千歌たちは、安全なところまで避難しててくれ」

「秋月さんは俺たちが止めてくるから!」

「克海さん、私たちも……!」

 

 梨子たちがついていこうとするのを、兄弟が押し留める。

 

「大丈夫だ。俺たちはやるべきことに気づいた!」

「もう命を投げ出したりはしねぇ。今度こそみんなのこと救って、帰ってくるからな!」

「……!!」

 

 希望に満ち溢れた表情を向ける兄弟に、梨子たちは強く胸を打たれて、二人がタワーへ駆けていくのを信じて見送る。

 

「……わたくしたちも行きましょう! 克海さんたちが帰ってくる時に、一人でも欠けてる訳にはいきませんわ」

「ほら、千歌ちゃん……!」

 

 ダイヤの合図で、Aqoursが戦場から避難していく。千歌には花丸らが手を差し伸べて、誘導していった。

 沙紀が遺したジャイロは、曜が拾って持っていく。

 

 

 

『「「オーブスノウウォーターカリバー!!」」』

 

 オーブスノウが剣から大量の水流を放ち、ルーゴサイトとグランドキングメガロスを押し流そうとする。

 だが両者とも、水流を浴びて平然と直立していた。

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 ルーゴサイトが口から光線を撃ってくるのを、オーブスノウが咄嗟に回避。だがその先でグランドキングのレーザー攻撃を浴びせられる。

 

「グワアアアァァァァァァァ!」

『「「あぁぁぁっ!」」』

 

 カリバーを盾にしてどうにか凌ぐオーブスノウ。ルーゴサイトとグランドキングは、乱入者のことなど眼中にないように殴り合い続ける。

 

『「くっ、やっぱり強い……! どっちにも、全然歯が立たないなんて……!」』

 

 くっと歯を食いしばる理亞。聖良もそれは認めながら、それでも闘志をかき立てる。

 

『「敵わなくてもいい……克海さんたちが必ず来てくれる! それまで抑えつけられてれば……」』

 

 しかしSaint Snowの奮闘すらも、グラキエスは嘲笑う。

 

ウルトラセブンXダーク!

 

 飛行船から新たに、セブンXダークが出現してオーブスノウに立ちはだかったのだ。

 

「「「ウオオォォォォッ!」」」

 

 しかも一人ではない。三人もいる!

 

『「なっ……!?」』

『「くっ、そんなにも世界を自分たちのものにしたいって訳……!」』

 

 流石にひるむ聖良たち。“アバター”というだけあって、増殖すら簡単なのだろう。

 だが、ここまで来て退く訳にはいかない。どれだけ数で押されようとも、最後まで食らいつく覚悟だ!

 

『「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」』

 

 

 

 オーブスノウが三体のセブンXダークに囲まれて、袋叩きに遭うのに懸命に抗っている様子に、律子は戸惑っている。

 

「システムは回復したのに、彼女たちがいたら異次元への転送が出来ないわ……!」

 

 こうなったら、ルーブの時のように強制的に変身解除させるか、とオーブライトリングを構えた、その時に、

 

「秋月さんッ!」

 

 克海と功海が、社長室に踏み込んできた。

 

「……逃げなさいって言ったでしょう」

「出来る訳ないでしょう! あなた一人を犠牲にして助かるなんてことが!」

「秋月さん、仲間を待たせてるんでしょ!? その人たちはどうするつもりなんすか!」

 

 兄弟は、自己犠牲でルーゴサイトを封じ込めようとしている律子を説得する。

 

「私の仲間が解放されたら、みんなには律子がよろしくと言ってたと伝えておいてちょうだい」

「会ったばっかの俺たちに、そんな重い役目させるつもりっすか!」

「でも他にどうするというの!? もうこれ以外に、ルーゴサイトもグラキエスも止める方法はないわ! 聖良さんたちも、時間の問題よ……!」

 

 オーブスノウは二体のセブンXダークに嬲られ、残る一体はこのタワーへ――律子を狙って接近してきている。

 最早猶予は残されていない。

 

「私だってウルトラマン……! この星に生きる命を救えるのだったら、どんな目に遭おうとも怖くは……!」

 

 異次元転送を強行しようと、スイッチに伸ばされる律子の手を、克海と功海の手が止めた。

 

「ウルトラマンなら、ここにもいますッ!」

「俺たちがルーゴサイトにもグラキエスにも勝って、みんな救ってみせるッ!」

「あなたたちに出来る!? 今は、変身するエネルギーも残ってないはず……!」

 

 振り返った律子は、ハッと言葉を止めた。

 克海と功海の持つルーブジャイロが、これまでにないほどに光り輝いているのだ。

 

「……すごいエネルギーが……!」

 

 兄弟から溢れ出る力に、律子は息を呑んだ。

 克海と功海はガッガッと拳を打ち鳴らし合って、迫り来るセブンXダークを迎え撃つように、窓に向かって駆け出してガラスを突き破った!

 

「「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 タワーから飛び降りながらジャイロのグリップを引いて、変身!

 

『『はぁぁぁぁッ!!』』

 

 タワーにダークアイスラッガーを投擲しようとしていたセブンXダークにフレイムアクア・ハイブリッドシュートが命中し、タワーから吹き飛ばす。

 

「ウオオオオッ!」

『『はッ!!』』

 

 ウルトラマンロッソ、ウルトラマンブルが堂々と着地し、振り返ったセブンXダークたちの前で毅然と見得を切った!

 

 

 

 ――律子は彼らの後ろ姿を見やり、ため息を吐いた。

 

「……ウルトラマンのこと、まだまだ甘く見てたわね。不可能を可能にする……彼らにはもう、それを成し遂げるだけの力がある……!」

 

 

 

「克海さん! 行けぇぇぇぇ――――――っ!!」

「功兄ぃ! 全速前し――――――んっ!!」

 

 堂々登場したロッソとブルに、梨子と曜が精いっぱい声を張り上げて応援する。

 

『『おおおおおおッ!!』』

 

 ロッソフレイムとブルアクアはそれに応じるように前に飛び出し、オーブスノウを叩き伏せていたセブンXダーク二体を殴り飛ばしながらひたすら前進。

 

『「……後は、お願いします……!」』

 

 聖良と理亞は、ロッソとブルに願いを託して変身を解いていった。

 

『『はぁぁぁぁッ!!』』

 

 そしてロッソたちはグランドキングメガロスを踏み越え、同時にルーゴサイトにパンチを食らわせる。

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 二人の渾身の一撃はルーゴサイトをひるませたに見せたが、すぐに殴り返されて地面を転がる。

 

『『うわぁッ!』』

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 起き上がる二人に、踏み越えられたグランドキングが後ろから攻撃しようと接近してくる。

 ロッソとブルは背中合わせになり、クリスタルチェンジ!

 

『『はああぁぁッ!!』』

 

 ロッソウインドがグランドキングへハリケーンバレットを、ブルフレイムがフレイムエクリクスをルーゴサイトに放つ!

 

「克海! Fightデースっ!!」

「功海さん! がんばルビィーっ!!」

 

 二体の大怪獣を押し返す兄弟に、鞠莉とルビィが声援を向ける。

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

「グワアアアァァァァァァァ!」

 

 しかしルーゴサイトとグランドキングにダメージはなく、トゲミサイルと口から吐き出す光線で前後から狙い撃ちされる。

 

『『とあぁッ!!』』

 

 ロッソとブルは左右に分かれて集中攻撃をかわすが、ブルの方へセブンXダーク一体がダークアイスラッガーを手に襲い掛かっていく。

 

「オオオォォッ!」

『たッ!』

 

 ブルは前転しながらブルウインドにチェンジし、ルーブスラッガーブルで斬撃を受け止める。

 

「功海! 翼を見せてちょうだいっ!!」

 

 ヨハネの声に応えるようにアイスラッガーを押し返して、相手のボディに刃を走らせた。

 

「「ヌオオオオッ!」」

 

 二体のセブンXダークがブルの背後から迫るが、その正面の地中からロッソグランドが飛び出し、ルーブスラッガーロッソで一挙に斬り伏せる。

 

『とああぁぁぁッ!』

「克海さん! その調子ですわっ!!」

 

 ダイヤがぐっと手を握り締める。

 

『『とぉぉぉあああぁぁッ!!』』

 

 ロッソとブルは高速で駆け抜けてグランドキング、ルーゴサイトを斬りつけ、ルーゴサイトの背後を取ってロッソアクア、ブルグランドにチェンジ。

 

「克兄ぃ! 今だよっ!!」

「功海さん! 決めるずら―――っ!!」

 

 果南と花丸の声を合図に、スプラッシュ・ボムとロックブラスターの同時撃ちをルーゴサイトに食らわせた!

 

『『はぁぁぁぁあああああああ――――――――ッ!!』』

 

 爆炎に呑まれるルーゴサイトだが――直後に空中に飛び上がって炎から抜け出て、トゲミサイルとゲネシスレクイエムの猛攻を降り注がせる。

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

『『うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――ッ!!』』

 

 立っていられずに倒れ伏したロッソとブルに、ルーゴサイトは容赦なくゲネシスレクイエムの二発目を撃ち込む!

 

『『ぐわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――!!』』

「お兄ちゃんっ!!」

 

 悲鳴のように叫ぶ千歌。

 しかし――土煙が晴れた後に立ち上がったのは、ウルトラマンルーブだ!

 

「オオオオオッ!」

 

 地を蹴ったルーブは、飛び掛かってくるセブンXダーク三体を回し蹴りで払いのけ、グランドキングメガロスを押し飛ばし、ルーゴサイトに突進する。

 

「ハァァァァッ!」

 

 ルーブはルーゴサイトに掴み掛かって、至近距離から肉弾を連発した。

 

 

 

 ルーブの奮闘を見つめ、律子は異次元転送装置のスイッチを切断する。

 

[ハドロン衝突型加速器、システムダウンしました]

「みんなの未来を……私たちの未来も託すわ! ウルトラマンルーブ!」

 

 

 

「グゥゥッ!」

 

 ルーゴサイトに突き飛ばされたルーブに、セブンXダークとグランドキングの光線が集中する。

 

「「「ウオォォォォッ!」」」

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

「タッ!」

 

 バク転でかわしたルーブが、腕を十字に組んで光線を発射!

 

『『ルービウム光線!!』』

 

 同時に身体をひねって一周させ、周りの敵全てに光線を浴びせる!

 

「「「ヌオオォォォォォォッ!!」」」

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 セブンXダークが纏めて弾き飛ばされ、グランドキングが膝を突くが、ルーゴサイトはバリアで防御する。

 ルーブはルーゴサイトを狙って、ルーブコウリンに極クリスタルをセットした。

 

[高まれ! 究極の力!!]

『『ルーブコウリンショット!!』』

 

 放たれた光刃がルーゴサイトのバリアを切り裂き、本体に突き刺さる!

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 回転する刃が火花を散らし、ルーゴサイトを貫くかに見えたが……!

 先に光刃の方が砕けてしまった!

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 そしてルーゴサイトが、持てる全ての武器をルーブに向ける!

 

「グワアアアァァァァァァァッ!!」

 

 快進撃を続けていたルーブも耐え切れずに、とうとう倒れ伏してしまった……!

 



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君のこころは輝いてるかい?(B)

 

 ルーブの大奮戦を、固唾を呑んで見守っていた聖良と理亞だが、とうとう倒れ、カラータイマーが点滅する姿に希望が絶望に転移する。

 

「そ、そんな……!」

「ここまでやって……それでも、勝てないの……!?」

 

 梨子たちも、動けないルーブににじり寄っていくルーゴサイトを見ていられずに顔を覆った。

 

「もう駄目……!」

 

 皆が悲嘆に暮れる中――曜は、ハッと振り向いてあることに気づいた。

 

「千歌ちゃんがいない……!?」

 

 その千歌は――ルーブの前に駆けつけ、ルーゴサイトに向かって目いっぱい腕を広げていた。

 

「止まれぇぇぇーっ!!」

『『千歌!!?』』

 

 全員の絶叫が轟き渡る。

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 ルーゴサイトは千歌の言うことを聞くはずもなく、ルーブもろとも消し飛ばそうとゲネシスレクイエムを放とうとしている。

 しかし、千歌に恐れの色はなかった。

 

「兄弟が力を合わせれば、何でも出来る……! 私は、お兄ちゃんの妹としてやってきたんだもんっ!」

 

 死を撃ち込もうとしているルーゴサイトを、力いっぱいににらみ返して宣言する。

 

「私にも、出来ることがあるっ!!」

 

 ――千歌の想いに呼応して、曜が抱えていたジャイロが、ひとりでに浮き上がって千歌の元へワープする。

 

「ジャイロがっ!」

 

 目の前に飛んできたジャイロに、千歌が反射的に手を添えた――。

 その瞬間――千歌の脳裏に、ずっと眠っていた『記憶』が噴出した。

 

 

 

 ――ルーゴサイトに敗れ、光になって霧散した『私』の魂は、地球の空に散っていくはずが、代わりにディメンションホールの中に吸い込まれていった。

 異次元の内部は、時間の流れが存在しない世界。そこをさまよう『私』の魂は、覚えのある人のバイブス波に引き寄せられた。

 

『八年前……これだけ時間をさかのぼれば、グラキエスに打つ手もあるはず……!』

 

 異次元を通り抜けている最中の、秋月律子。『私』は彼女にくっついていくように、三次元世界、ただし過去の世界へと舞い戻った。その時には、異次元のエネルギーが魂に染み込んだことで、『私』の肉体は再構築できるようになっていた。

 だけど復活した肉体は、元の姿ではなかった。『私』が一番なりたかった、『私』の姿……。

 

『グルジオ様ってほんとにいるのかな? いるのなら、おれがショーライみつけてやるぜ!』

『ハハッ、こんなおとぎ話を信じるなんて、功海はまだまだ子どもだな』

『なんだと~!? おれ、子どもじゃねーし! もう小学生になったんだし!』

 

 そして降り立った先は、一番会いたい人たちがいるところ……。『私』の姿は、その人たちと対面するのに、最も相応しい状態で復活していた。それが、『私』の望みだったから……。

 

『『ん?』』

 

 振り返った『あの人たち』は、『私』の精神と感応して、『私』が『誰』なのかをひと目で知覚した。そして『私』が最期に唱えた言葉を、名前として呼んだ。

 

『千歌ー! そんなとこで何やってるんだよー!』

『こっちこいよ千歌ー! にいちゃんたちが、えほんよんでやるぜー!』

 

 『私』はすぐに、『あの人たち』を、こう呼び返した。

 

『おにいちゃん!!』

 

 ずっと忘れていた。

 ――こうして『私』は、『私』になったんだった――。

 

 

 

 ――全てを思い出した千歌が、ポツリとつぶやく。

 

「そうだったんだ……。沙紀ちゃんは……ずっと……私のすぐ側にいたんだ……」

 

 そして彼女が握ったジャイロから、一枚のクリスタルが誕生し――。

 放たれたゲネシスレクイエムを、クリスタルから生じたシールドが防ぎ切った。

 

[真クリスタル!!]

 

 

 

 ――克海と功海の精神世界に、『真』と刻まれたクリスタルを携えた千歌が現れる。

 

『千歌……!』

 

 克海と功海も、転生とともに失っていた記憶を思い出した千歌の精神と感応し、彼女の、『自分たちの』真実を理解していた。

 

『君は……1300年前から、俺たちの妹だったんだな……』

『俺たち……三人でもう一度集まるために、生まれてきたのか……!』

 

 うなずいた千歌が、克海と功海に真クリスタルを差し出す。

 

『お兄ちゃん……今度こそ、みんなで帰ろう!』

『『――ああ!!』』

 

 克海と功海が手を伸ばし――兄妹三人の心が、一つに重なり合う――!

 

[重ねろ!! 三つの魂!!!]

[ウルトラマングルーブ!!!]

 

 

 

 ルーブの全身が強く輝き――収まった時には、全く違う姿に変身を遂げていた。

 

「あ、あの姿は……!?」

「何が起こったの……!?」

 

 梨子たちは事態の変遷に理解が追いつかず、驚愕し切っていた。

 全身が赤と青、そしてオレンジのクリスタル状のプロテクターに覆われた、銀と黒の体色の超戦士……。それこそが、克海と功海と、千歌……1300年前にこの地で離ればなれになってしまい、そして因縁が収束した現代に再び集った三つの精神が一つに重なり合ったことで生まれ出でた、究極の形態!

 その名も、ウルトラマングルーブ!

 

「シュウアッ!」

 

 三人の声が一つになった掛け声とともに、グルーブが動き――消えた!

 

「ヌオォォッ!?」

 

 かと思えば、セブンXダークが三体とも宙を舞っていた!

 グルーブがまさしく目にも留まらぬ速度で飛び掛かり、光を宿した拳、グルービングスマッシュで纏めて殴り飛ばしたのである!

 

「は、速いっ!!」

「パワーが、桁違いに跳ね上がってるわ!!」

 

 グルーブが垣間見せた、これまでとは次元の違う戦闘能力に、善子や鞠莉らは愕然としている。

 

「ハァァッ!」

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 そしてわずかにでも目を離している内に、グルーブはグランドキングメガロスの頭部に超威力の飛び蹴り、グルービングインパクトを炸裂させ、横転させた。

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 ルーゴサイトがトゲミサイルを乱射するが、最早グルーブを狙い撃つことは出来ず、全弾回避された。

 宙に飛び上がったグルーブは、両腕を十字に構えてエネルギーをチャージする。

 

『『『グルービング光線!!!』』』

 

 光線は、地上ではなく、全く逆の空へ向けて伸びていく。だが全く見当外れのところを撃っている訳でもない。

 三人の心を一つにして生じた神秘のエナジーは、次元の壁を超え――グラキエスが作り出した『歪み』を撃ち抜いて正したのだ!

 

 

 

 グルーブの活躍を驚きの顔で見ていた律子は、ハッ! と後ろへ振り返った。

 

「――この世界のウルトラマンも、やっぱりすごい力持ってるのね」

「あ……あぁぁ……!」

 

 次元の揺らぎの中から歩いてきた一つの人影に、律子はじんわり感涙を浮かべる。

 

「律子、あなた一人に全部を任せちゃってごめんなさい。心配で、ひと足先に出てきたわ」

 

 園田海未に似たシルエットの人影は、律子に手を差し伸べた。

 

「さぁ、行きましょう。私たちがやり残して、この地球の人たちに多大な迷惑を掛けてしまったことを、今度こそやり遂げるために」

「ええ……!」

 

 律子はすぐに応じ、その手を取った。

 

「ギンガさんっ!」『ショオラッ!』

「エックスさんっ!」『イィィィーッ! サ―――ッ!』

「「痺れる奴、頼みますっ!!」」

[ウルトラマンオーブ! ライトニングアタッカー!!]

 

 

 

 グルーブに背後から襲い掛かろうとしていたセブンXダークとグランドキングメガロスの前方に、突然まぶしい輝きが高速で降ってきた。

 

「あれは!?」

 

 目を見張る梨子たち。彼女らの注目の先で、閃光が収まり――巨人の詳細な姿がはっきり見えるようになる。

 

『「「はっ!」」』

 

 額、両腕などの七箇所に青いクリスタルが埋め込まれた、鎧を着込んでいるかのように硬質化している肉体の巨人。そして、胸には青いリングが燦然と輝いている。

 

「姉様、あのウルトラマンは……!」

 

 理亞が聖良に呼び掛けた。あの胸のカラータイマーの形は、間違いないと聖良が力強くうなずく。

 

「ええ……あれこそ本当のオーブ! 秋月さんが、力を取り戻したのね……!」

 

 グルービング光線は異次元の封印を撃ち抜き、力を奪われた状態にあったウルトラマンオーブを解き放ったのだ!

 グルーブとオーブは背中合わせにうなずき合う。それだけで気持ちを通じ合うと、グルーブがルーゴサイトへ、オーブがグラキエスの軍勢に立ち向かっていく!

 

「トアァッ!」

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 グルーブは背面からルーブコウリンを取り出し、握り締めて突進。ルーゴサイトがトゲミサイルを撃ち込んでくるがコウリンで全て弾き落とす。

 ルーゴサイトは向かってくるグルーブから、翼を広げて飛び上がることで逃れる。それを許すはずもなく、グルーブも地を蹴って飛翔し、追いかけていく。

 

「シュアッ!」

 

 オーブは地響き立てて前進してくるグランドキングに、こちらから突貫。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

『「「はぁぁぁっ!」」』

 

 クローを振り上げて構えるグランドキングだが、振り下ろされるより早く、オーブの電撃を纏ったミドルキックがヒット!」

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 全身に電流が走ったグランドキングは麻痺して、動きが大きく鈍る。

 

『「「やぁぁっ!」」』

「ウオオオオオッ!」

 

 その間にセブンXダーク三体を纏めて相手するオーブ。振り下ろした拳や、回し蹴り、エルボーなどの打撃に電撃が付与されており、セブンXダークはまるで太刀打ち出来ない。

 

「ヌオオォォッ!」

 

 二体のセブンXダークが左右からダークワイドショットを発射するが、瞬間にオーブは高く飛んで回避するとともに、四肢をX字に大きく広げる。

 

『「「アタッカーギンガエックス!!」」』

 

 全身から発した電撃光線が地面に着弾するとともに広がり、二体のセブンXダークを貫いた。

 

「「ウオオオオオ―――――――!!」」

 

 二体纏めて爆散! そしてオーブが急降下しながら額のクリスタルを輝かせる。

 

『「セブンさんっ!」』『デュワッ!』

『「ゼロさんっ!」』『セェェェアッ!』

『「「親子の力、お借りしますっ!!」」』

[ウルトラマンオーブ! エメリウムスラッガー!!]

 

 オーブが三本のスラッガーを頭に持った姿にフュージョンアップし、着地とともにビームランプから三つの動作でレーザー光線を発射する。

 

『「「トリプルエメリウム光線!!」」』

「ヌアアアアッ!」

 

 ダークエメリウム光線で迎え撃つ最後のセブンXダークだったが、本物のエメリウム光線には敵わず、押し返されてまともに食らう。

 

「グオオオオオォォォォォォォッ!!」

 

 もがき苦しんだ後に、木っ端微塵に吹っ飛んだ!

 その上空では、グルーブがコウリンに開かれた真クリスタルをセットする。

 

[ほとばしれ! 真の力!!]

『『『グルーブコウリンショット!!!』』』

 

 コウリンを三度振り抜き、その都度円形の光刃を飛ばす!

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 光刃はルーゴサイトの触手、左の羽、右の羽を切断。浮力を失ったルーゴサイトが、地面へまっさかさまに転落していった!

 

「ハァッ!」

 

 ルーゴサイトを追って、グルーブも堂々と着地!

 

「すごい強さ……!」

 

 あれほど絶望的な強さだったルーゴサイトを急激に追いつめるグルーブに、Aqoursは完全に目を奪われていた。同時に、彼女たちの目には、グルーブに克海、功海、そして千歌の姿が被さって見えている。

 

「あれが本当の……兄妹の力なのね……!」

 

 梨子たちの瞳にはもう、希望の輝きしか映っていなかった。

 

「グワアアアァァァァァァァ!」

 

 グランドキングは四つの突起を飛ばし、オーブに四方からレーザーを浴びせようとする。

 

『「「はっ!」」』

 

 しかしオーブが頭頂部のスラッガーを投擲し、更に左右のスラッガーも飛ばす。

 

『「「オーブスラッガーショット!!」」』

 

 三振りのスラッガーがグランドキングの突起を弾き飛ばして、攻撃を阻止。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ!」

『「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」』

 

 そして腕をL字に組み、右腕を横に伸ばすことでエネルギーを一点集中した。

 

「グワアアアァァァァァァァ!」

『「「ES(エメリウムスラッガー)スペシウム!!」」』

 

 グランドキングが腹部から最大威力の光線を発してくるが、こちらも最大の攻撃を十字の腕から発射!

 向かってきた光線のエネルギーをも巻き込んで、グランドキングメガロスに風穴を開けた!

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥ……!!」

 

 己のエネルギーまでも上乗せされた一撃で、グランドキングは粉微塵に爆散した。

 

「やった!」

「姉様、見てっ!」

 

 グッとガッツポーズの聖良だが、理亞が空の一点を指差す。

 顔を上げると、グラキエスの飛行船がひたすら高度を上げながら、外装を剥がして鈍色の本当の機体――宇宙船の正体を晒していた。

 

「たくさんの人の運命をもてあそんでおいて、逃げる気!?」

 

 吐き捨てる聖良。当然オーブが捨て置くはずがない。

 

『「「はぁぁぁぁっ!」」』

 

 宇宙船からの砲撃をも物ともせず、腕を再びL字に組んでとどめの一撃!

 

『「「ワイドスラッガーショット!!」」』

 

 地上からまっすぐ伸びた必殺光線は、鮮やかに宇宙船を撃ち抜いた。

 グラキエスは大気圏を抜ける前に宇宙船ごと爆破されて、とうとう陰謀に終止符を打たれたのであった。

 

「やった……遂にやった……!」

「すごいわ……ウルトラマンオーブ!」

 

 聖良と理亞は感激のあまりひしと抱き合って、オーブの勝利を溢れんばかりの感情で称えた。

 

「ウオオォォ――――――――――……!!」

 

 ルーゴサイトは残ったパワーを全て使い、最大威力のゲネシスレクイエムでグルーブを消し飛ばそうと構えている。

 

[輝け!! 希望の光!!!]

 

 グルーブは決して恐れない。コウリンに「真」の一文字のクリスタルをセットして、全ての力を集中してルーゴサイトに向ける。

 

『『『シン・ボルテックバスター!!!』』』

 

 コウリンから放たれた三色に煌めくボルテックバスターが、ゲネシスレクイエムと衝突!

 

『『『はぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――――!!!』』』

 

 克海、功海、千歌の精神が支えるコウリンが、更なるエネルギーを放出!

 結果、破滅を打ち破ってルーゴサイトを貫通した!

 

「ウ……オオォォ――――――――――……!!!」

 

 ルーゴサイトは一瞬気体状に戻り、すぐに収縮して――爆炎に変貌。塵一つ残ることなく、燃え尽き果てた。

 

「――勝った!!」

「やったぁぁぁぁあああああああああああ――――――――――っっ!!」

 

 グルーブの完全勝利に、Aqoursは銘々抱き合ったり飛び跳ねたり、全身で喜びを表現する。

 

「シュアッ!」

 

 コウリンを戻して残心を湛えたグルーブ。役目を果たした真クリスタルが消えていくのを見送る三兄妹と、地球の明日を、燦然と輝く太陽光(サンシャイン)が祝福していた――。

 

 

 

 ――地球の明日を懸けた決戦から、早くも一か月近くが経とうとしていた。

 地球に接近していた未知の物質――ルーゴサイトのこと――の突然の消失から端を発する、謎の怪獣や黒いウルトラマンの連続の出現、及びウルトラマンたちのこれらの撃破、それと前後する氷室仁の突然の『失踪』と地球爆破計画の頓挫の真相を、世間は何一つ知ることなく、しばらくは様々な憶測が世界中で噴出していたが、次第に収まっていった。

 綾香市でこの一か月間に変わったことといえば、まずは秋月律子教諭の突然の辞職。もちろん、彼女本来の居場所に帰るためである。

 律子は戦いが終わってすぐに地球を離れると言ったので、ちゃんとした別れをする暇もない千歌たちは大いに惜しんだが、彼女は少し寂しそうに微笑みながらもこう語った。

 

『私たちにも、待ってくれてる人がいるから。――みんな、よくがんばったわね。あなたたちは立派なウルトラマンよ』

 

 太鼓判を押して、律子はハドロン衝突型加速器が作る時空のゲートを通り、彼女の世界へと帰っていった。――その際、彼女を待つ十二人の乙女と、ハーモニカの音色を響かせる雄大な背中を、克海たちは垣間見たのだった。

 そして社長が立て続けにいなくなって混乱に陥ったアイゼンテックの新社長には、高海家の母が就任することとなった。前任たちが残した負債の尻ぬぐいを押しつけられたと本人は大分嫌そうではあったが。――ついでに、母親が割と偉い役職だったということを子供たちはここで初めて知った。

 もう一つ、三兄妹は母に、千歌のことを全て正直に打ち明けることにした。これからも家族として暮らす以上は、隠している訳にはいかないと千歌自身の要望によるものだ。

 

『え? 今更何言ってるの? 千歌が元々ウチの子じゃないなんて』

 

 だが母は非常にあっさりと、克海たちの度肝を抜くことを言ってのけた。

 

『えぇ―――!? 知ってたのかよ母さん!』

『当たり前でしょ? 親なんだから、子供の成長記録くらい見返すわよ。と言うか、あんたたちが今頃気づいたという方が驚きなんだけど』

『で、でもそれなら何で何も言わなかったんだ!?』

 

 克海の疑問に、母は快活に微笑みながらこう答えた。

 

『私もお父さんも、千歌がとってもいい子って分かってたから』

『――お母さんっ!!』

 

 千歌は感極まって母に抱き着いていた。千歌の頭を撫でつつ、母は克海と功海にも告げる。

 

『克海も功海も、あなたたちが地球を救ってくれたのよね。何も言わなくても分かってるわ。――みんなを代表して、ありがとう』

『『――母さんっ!!』』

 

 克海と功海も気がついたら母に抱き着いていた。

 そして、Aqoursにとって一番喜ばしかったのは、地球の危機が回避されたことでラブライブが平常運転に戻ったことだ。千歌たちは改めて、自分たちの夢に歩むことが出来るようになったのだ――。

 

 

 

「それにしても、ほんとに驚きだったよねー。千歌ちゃんが美剣沙紀さんの生まれ変わりだったなんて」

 

 しみじみとつぶやく曜。皆も、その事実には驚嘆するばかりであった。

 

「千歌ちゃんに出会った沙紀さんが、千歌ちゃんを羨みながら時間をさかのぼったことで、千歌ちゃんの姿で克海さんたちの妹として復活するなんて……」

「運命ずら~」

「ええ……運命の神が巡り合わせた奇跡とした言いようがないわね」

 

 いくつもの偶然が重なり合って実現した、時空を超えた輪廻転生に、梨子、花丸、善子は今も感嘆している。

 一方で、ダイヤは怪訝そうに眉をひそめていた。

 

「……ちょっと待って下さい。原因と結果がつながってしまってますわ。沙紀さんが千歌さんになりたいと願って、千歌さんになって沙紀さんと出会って……では最初の千歌さんは、どこから来ましたの?」

「ダイヤったら、細かいことはいいじゃなーい♪ 今千歌っちがいれば、それだけで♪」

 

 鞠莉はコロコロと笑い、タイムパラドックスを投げ捨てた。

 それから、ルビィがはにかみながら述べる。

 

「でも、もっとすごいのは、功海さんと克海さんが沙紀さんのお兄さんたちの生まれ変わりってことだと思う」

「律子先生の話だと、正確には彼らの意志と精神を受け継いでるってことだけど。よく分かんないよね」

 

 肩をすくめる果南。

 律子に曰く、人が受け継ぐのは物理的な要素だけでなく、宇宙の科学でも未だ解き明かせない、魂と呼ばれる精神的なものも後の世代に受け継がれることがあるという。

 先代のウルトラマンは地球を救い切ることが出来ず、妹も独りにしてしまった。その未練が、因縁が収束する1300年後の特異点に生まれ出でた兄弟に継がれ、兄妹三人が1300年ぶりに再会する運命を導いた――との推測であった。

 

「因縁だの生まれ変わりだの運命だの、色々言われたけどさ。そんなん俺たちにはもうどうでもいいことだよ」

 

 当の功海たちは、そんなことは最早気にも留めていない。

 

「ああ。大切なのは、俺と功海と千歌の未来がここに、これからもみんなとあり続けるってことだ」

 

 克海が結論づけて、千歌に振り返る。

 

「千歌、早くしないと飛行機出ちまうぞ」

「もうちょっと! これで良しっと!」

 

 色々と助けてもらった聖良たちへのお土産をバッグに詰めた千歌が、元気良く立ち上がった。Aqoursはこれから、ラブライブ北海道地区予選の観戦に招待されたことで、Saint Snowが待つ函館へ出発するために空港のロビーにいるのだ。

 己の素性を全て思い出した千歌だが、彼女は今まで通りの千歌だ。かつての自分――そして友達の沙紀の願いの通りに、1300年の迷い子ではなく、高海家の末っ子の一スクールアイドルとしてこれから先の未来を生きていくのだ。

 飛行機の搭乗案内が始まり、見送りの克海と功海が妹と仲間たちを笑顔で送り出す。

 

「Saint Snowによろしくな!」

「気をつけて行ってこい!」

「「「「「行ってきまーすっ!!!!!」」」」」

 

 Aqoursは、心の輝きを身体から溢れさせながら、スクールアイドルとしてラブライブの頂を目指していく。これからが、彼女たちの戦いなのだ――。

 

 

 

『君のこころは輝いてるかい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

千歌「最後のウルトラソングナビ! 紹介するのは、『Hands』だよ!」

梨子「この歌は『ウルトラマンR/B』の主題歌です!」

果南「歌うのは最近注目を集めてるシンガーソングライターのオーイシマサヨシさん!」

ダイヤ「歌詞は園田健太郎さんが、作品の全容を読まれた上で書かれたそうですわ」

曜「最終回まで追いかければ、歌詞の意味がとてもよく理解できるね!」

善子「十七話では特別に作られた死者の祭典(ハロウィン)仕様が使われてるわ」

花丸「十一話や最終回では戦闘シーンのBGMにも使われてるずら!」

鞠莉「特に最終決戦でのこの歌は、盛り上がること必至デース!」

ルビィ「みんなもこの歌を思い出して、毎日をがんばルビィ!」

克海「そして最後に紹介するラブライブ!サンシャイン!!の曲は『君のこころは輝いてるかい?』だ!」

功海「Aqoursというユニット、サンシャインという作品のスタートを切った第一曲だ! 当然、語る上で絶対外せねぇな!」

克海「片田舎の少女たちでしかなかった千歌たちが、スクールアイドルの道を少しずつ昇っていく。そのテーマを表現した紛れもない名曲だ」

千歌「それじゃあみんなも!」

 

 

 

「「「「「「サンシャイーン!!!!!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 




ウルトラマンの敵――

それは――



『私はトレギア。君の願いを叶えに来た……!』



ウルトラマン――





「決して絆をあきらめない……それが家族ッ!」





次回、特別編



『Select!! Rainbow Crystal!!!』







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特別編『Select!! Rainbow Crystal!!!』
彼の走っていく道は…


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜「これまでのAqours!!」

 

曜「綾香市内浦の浦の星女学院にて、私と千歌ちゃん、梨子ちゃんの三人でスタートを切ったスクールアイドル部、その名もAqours! 浦女の統廃合を撤廃することを目標に、ラブライブ優勝を目指して頑張ってきたの! 千歌ちゃんのお兄ちゃんたちのウルトラマンと一緒に怪獣と戦ったり、東京で実力差を見せつけられたり、オーブダークにやたら絡まれたり、ラブライブの予選で問題にぶつかり続けたりと波乱万丈の日々だったけど、着実に順位を上げていってた! だけど肝心の入学希望者が集まらなくて、遂に浦の星の統廃合は確定しちゃった……!」

曜「一度は折れかけた私たちだったけど、在校生のみんなの想いを一身に受けて、ラブライブ優勝を改めて決心して活動を再開! だけどその矢先に、大怪獣ルーゴサイトの襲来と地球爆破の危機が訪れて世界中大パニック! 私たちも宇宙人の陰謀に巻き込まれて、もうしっちゃかめっちゃか! でも功兄ぃ克兄ぃ、そして自分の真実を知った千歌ちゃんたち運命の兄妹の活躍で、1300年前から綾香に続いてた因縁に終止符が打たれ、地球は見事救われたのだ!!」

曜「Aqoursも北海道でのSaint Snowとの共演や浦女の閉校式などを経て、遂にラブライブに優勝! 浦女に錦を飾って、私たちは新しい旅立ちの時を迎えた! ……と思いきや、受け入れ先の高校でひどい反発を受けたり、鞠莉ちゃんがお母さんから結婚を強要されてイタリアを逃げ回ったりと、またまた問題に直面! それでも私たちは立ち直ったり、練習し直したりと頑張って、新しい学校で受け入れてもらうことに成功! 卒業した鞠莉ちゃんたちも新しい場所に旅立っていって、これから新生Aqoursの活動が始まるのだぁ! 全速前進ヨーソロー!」

 

 

 

「……曜ちゃん、何やってるの?」

 

 『四つ角』でこれからの活動方針を話し合うために集まった現Aqoursの内、千歌がビデオカメラに向かって長々と弁舌を振るっていた曜に尋ねかけた。

 

「いやぁ、もうしばらくしたら新学期で、新しいAqoursも始まるんだな~って思ったら、これまでのことを纏めたくなってね。色んなことがあったしさ~」

「だからって、ウルトラマンのことまで記録に残そうなんて……。誰か他の人に見られたらどう言い訳するつもり?」

 

 梨子が呆れて突っ込む。

 

「まぁまぁいいじゃん。いつか秘密を共有する私たちが、この時のことを思い出す時にでも見返そうよ。未来へのビデオレターって感じで。こんなにもたくさんの思い出が出来た一年なんて、もうないだろうし」

「確かに、ほんと色んなことがあったずら~」

 

 花丸が曜に相槌を打ちながら、しみじみつぶやく。善子とルビィもうんうんと首肯。

 

「過ぎ去りし日々……あの動乱の刻が、束の間の夢幻だったかのようね」

「あれから怪獣も出なくなって、すっかり平和になったもんね~」

 

 最後にして最強の敵ルーゴサイトを討ち破ってから、怪獣のクリスタルを悪用しようという者が皆いなくなったこともあって、地球に怪獣が出現することは最早なくなった。高海の兄弟もあれ以来一度もウルトラマンには変身しておらず、すっかりと元の日常を取り戻している。

 

「まぁともかく、そろそろ話し合いを始めようよ。当面の目標は、新しい部員の確保と、Aqoursのラブライブ二連覇!」

「当面と言いながら、随分と飛躍したわね」

 

 早くも連覇を狙う千歌に、梨子が苦笑を浮かべた。

 

「そりゃあそうだよ! 私たちはたゆまずにスクールアイドルとして輝き続ける! そうして、浦の星という学校にAqoursという伝説のスクールアイドルがいたんだって、みんなの記憶に残すんだっ!」

「はは。でかい目標を持ってるな、千歌」

「わふっ!」

 

 今から張り切っている千歌の元へと、ジュースをお盆に載せて運んできたのは克海。その足元にじゃれつきながら一緒に来たのはしいたけと、彼女が産んだ子供たち。

 しいたけは雌だったのであった。

 

「克海お兄ちゃん!」

「いいことだ。……春が来て、みんな前に向かって歩き始めてるんだな……」

 

 ジュースをテーブルに移しながらの克海のつぶやきに、しいたけをあやす梨子が振り返る。

 

「みんな、ですか? 私たち以外にも?」

 

 聞き返す梨子に、曜が告げる。

 

「功兄ぃね、カリフォルニアの大学に研究成果が評価されて、留学を誘われてるんだって」

「アメリカの大学から!? それってすごいじゃない!」

 

 予想以上の内容に、梨子のみならずルビィらも関心を示す。

 

「でも、返事は待ってもらってるんだって。功兄ぃも流石に、そう簡単には決めらんないみたいで……」

 

 曜が事情を説明している脇で、克海が複雑な表情を浮かべているのを、千歌が目に留めた。

 

「克海お兄ちゃん……?」

 

 

 

ウルトラブライルーブ!サンシャイン!! 特別編

 

『Select!! Rainbow Crystal!!!』

 

 

 

 その後、千歌たちは『四つ角』の縁側で、功海から直接話を伺っていた。

 

「確かに、俺の夢に向かうにはまたとないチャンスだ」

「だったら尚更受けるべきですよ!」

「チャンスは逃しちゃ駄目ずら!」

「ふっ……あなたは世界に向かって()ばたく器よ、功海」

 

 ルビィ、花丸、善子が功海の背中を押す。曜も功海の夢を応援する。

 

「功兄ぃ、昔から宇宙考古学者になるのが夢だったじゃん。何をためらうことがあるの?」

「だって、また怪獣が出るかもしんないだろ? サルモーネやグラキエスみたいなのが現れないなんて保証もねぇし……」

 

 悩む功海に、克海が苦笑交じりに説く。

 

「そんなこと気にするなよ。ウルトラマンなら、ここにもいるだろ?」

「克兄ぃ……」

「ええ。私たちだっています!」

「綾香市のことは、私たちに任せといてよ!」

 

 功海を安心させようと請け負う梨子、曜たち。克海が最後のひと押しをする。

 

「お前はお前の行きたい道を進めばいいんだ!」

「……ありがとう、みんな。俺、決心がついたよ!」

 

 功海の表情が晴れやかになったので、千歌たちもまたにこやかになった。

 しかし不意に、功海が克海に呼び掛ける。

 

「なぁ克兄ぃ。克兄ぃも自分の好きなことしていい時期じゃない?」

「……俺も?」

「千歌が有名になったお陰で、『四つ角』で働きたいって人が集まってきてるんだろ?」

 

 えへへ、と己の後ろ頭を撫でる千歌。

 

「そしたら克兄ぃもやっと手が空くし。みんなが夢に向かって進み出してんだから、克兄ぃも自分の夢叶えなよ!」

 

 功海は何気なく言ったつもりだったが……克海は真剣に思い悩んだ。

 その横顔を、千歌が見やって眉をひそめた。

 

 

 

 その晩、居間で左手にグローブ、右手にボールを持っている克海の元に、千歌がやってくる。

 

「克海お兄ちゃん……」

「千歌、まだ起きてたのか」

「うん……。お兄ちゃんの夢って、やっぱり……」

 

 ボールをグローブにパシンと収めるのを繰り返している克海に、そっと尋ねかける千歌。

 

「ああ……野球選手になるのが、俺の唯一の夢だった。けど、今からじゃもう遅いからな……。でも、新しい夢と言われても、何も思い浮かばない。これまで一度も、考えたことなかったからな……これからの俺が進む道……」

「克海お兄ちゃん……」

「……こんな時、あいつは何て言うだろうな」

 

 克海がグローブから抜いたボールの表面には、大きく「夢」の一文字が描き込まれている。

 

「……久しぶりに会いに行くか、戸井に」

 

 

 

 翌日――内浦の沿岸沿いの道を、克海が一人トボトボと歩いているところを、ダイビングショップの設備を運んでいる果南が見つけた。

 

「克兄ぃ! こんなとこで、何やってるのー!?」

「果南ちゃん……」

 

 克海は果南に誘われ、ショップのテラスで向かい合って話をする。

 

「果南ちゃんは、進学はしないんだってな」

「うん。ウチのお店を継ぐって、前々から決めてたし。私は内浦の海が好きだからね」

「はは……らしいや」

 

 妙に覇気がない克海を見つめ、問いかける果南。

 

「どうしたの? 何か元気ないじゃない」

「……さっき、戸井に会いに行ってな」

「戸井……克兄ぃが高校野球の時に、バッテリー組んでた人だよね」

 

 戸井という人物のことを思い返す果南。高校時代の克海の野球部の主力キャッチャーであり、克海の名ピッチングは戸井あってこそというレベルで支えてくれた、克海のなくてはならない相棒であった。

 

「克兄ぃの高校野球かぁ、懐かしいな。みんなで応援したっけ。……その戸井さんと、何かあったんだ」

 

 力なくうなずく克海。

 

「戸井の奴、子供たちをワクワクさせるのが夢って言って、ゲームクリエイターになったのは知ってた。けど……あいつ、会社を辞めたんだって」

「辞めた……? どうして?」

「いつもいつも雑用ばかりで、ゲーム開発に関わらせてもらえないからだって……」

「そんな理由で……? 戸井さんの、昔からの夢だったんでしょ? そんな簡単にあきらめるなんて……」

「……あいつは変わっちまったよ。今じゃ日がな一日、家に引きこもってゲームばかりだって、おばさんがな……。俺に、このボールをくれた奴だったのに……」

 

 戸井からの応援の証である、「夢」のボールを握りながら、克海は肩を落としている。かつての親友の変貌ぶりに、ショックを禁じ得ないようだ。

 

「……今の戸井を見て……夢って何なのかが分からない気分だ……。夢は大事なものだって、みんな言うけれど……叶えられなきゃ、何の価値もない代物なのか? 夢に破れて、あんなになるくらいなら……夢にどれだけの意味があるんだ……?」

 

 夢の答えを探しに行ったはずが、余計に己の夢に迷う結果となった克海。彼の疑問に、果南もまた悩む。

 

「難しいね……私たちAqoursは、熾烈な競争を勝ち抜いてラブライブ優勝の夢を叶えられた。だけど裏を返せば、たくさんいた競争相手のみんなが、夢に破れたってことになる……。その人たちには、何が残ってるんだろう。私たちの立場からじゃ、それは分からない……」

「……」

「浦の星だって、ラブライブの歴史に名前を残せても、学校が残ってないなら何になるのかと言われたら……。夢を叶えた人には注目が集まるけど、そうじゃない、成功者の何倍もいる脱落者には、誰も見向きもしない……。夢を掴めなかった人は、それからどこへ行くのか……」

 

 思い悩みながらも、果南は空を見上げた。

 

「でも、私はそれでも一歩を踏み出していかなきゃって思うよ」

「果南ちゃん?」

「いつまでも立ち止まってたって何にもならないって、私は千歌たちから教わったから!」

 

 そう唱える果南の横顔は、家に引きこもるようになった戸井の顔とは違い、輝いているように克海には見えた。

 そんな時――克海のスマホに、功海からの着信が入る。

 

「ちょっとごめん。もしもし?」

『メーデーメーデー!!』

 

 通話に出た克海の鼓膜を、功海の大声がビリビリ震わせた。

 

「うわッ!? 何だよいきなり……」

『克兄ぃ! 今すぐ綾香駅に集合だッ!!』

「ええ?」

 

 一体何事かと、果南も目を丸くした。

 

 

 

 ――克海が訪問していた、戸井家の一室。それが克海の親友『だった』、戸井ゆきおの閉じこもる部屋である。

 戸井は憮然とパソコンの画面に向かい、顎がしゃくれた蛇の首を持った怪物の画を手掛けていた。

 

「くそッ……俺はこんなにも才能に溢れてるってのに……誰も認めやしねぇ……。まちがってるぜ、こんな世の中……」

 

 まさしく自画自賛しながら、戸井は淀んだ眼で社会への恨みつらみを吐き出す。

 

「……いっそこいつが本物になって、全部ぶっ壊してくれりゃいいのに」

 

 そうつぶやいた、次の瞬間――パソコンの画面が急に乱れ、ポインタが動作しなくなる。

 

「? 何だよ……故障か? オンボロめ……」

 

 初めはさして気にも留めなかったが――向かって左側の画面に、プログラムにはない奇怪な魔法陣らしきものが浮かび上がる。

 

「……?」

 

 そしてその陣の中から――画面を突き破るように、青い腕が生えてきた!

 

「わぁぁぁぁッ!?」

 

 途端に腰を抜かして椅子から転げ落ちる戸井。画面から生えた腕は彼をからかうようにうねうねと動き、声を発する。

 

『聞いたよ、今の言葉……。君こそ、私の力を必要とする人間だ』

「あ、あんた誰だ!?」

 

 言葉は通じるようなので、戸井は動揺しながらも問い返す。

 青い腕は、名前と目的を告げる。

 

『私はトレギア。君の願いを叶えに来た……!』

「お、俺の願い……?」

 

 青い腕の傍らに、不気味な赤い双眸が現れ、尋ねた。

 

『君の夢は何だ……!?』

 

 

 

 綾香駅前の広場にて、迷彩服に身を包んだ功海が茂みの陰に身を潜めながら、無線に呼び掛ける

 

「こちらAqours-1。Aqours-1、応答せよ」

 

 同じく迷彩服姿の曜が、無線に応答する。

 

「こちらAqours-1。千歌ちゃんの姿は見えません」

「この付近にいるはずだ。Aqours-1、そっちはどうだ?」

 

 こちらも迷彩服のルビィが、双眼鏡で辺りを見回している。

 

「こちらAqours-1。こっちも千歌ちゃんを確認できません!」

 

 やはり迷彩服の花丸が無線を片手に続く。

 

「Aqours-1も同じずら。無線って未来ずら~」

「無線はむしろ過去だ。Aqours-1、応答せよ」

 

 功海の呼び掛けに、当然迷彩服の善子が応ずる。

 

「ふふっ、この堕天使ヨハネのヨハネアイを以てすれば!」

「馬鹿、今はAqours-1だ! Aqours-1、そっちは千歌を発見したか?」

 

 そして迷彩服を着させられた克海が、呆れて功海に返す。

 

「あのな、功海。全員のコードネームをAqours-1にしたら、区別つかないだろ」

 

 克海の側にたたずむ梨子が、困ったように苦笑い。

 そして当の功海は完全スルー。

 

「千歌を発見したら、至急連絡されたし! Aqours-1!」

「だから、誰に言ってるんだよ! って言うか!」

 

 克海がグルリと――すぐ近くでうろうろしている功海たちを見回した。

 

「無線なくても聞こえてるだろ! こんな近いんだから!」

 

 功海は白けたように克海を見返す。

 

「も~、ノリ悪りぃな克兄ぃはぁ。形から入ってかなきゃ、不審人物と間違われるだろ?」

「今が十分不審人物だよ! この迷彩意味あるのか!? 逆に目立ってるだろ!」

 

 克海のツッコミに唇を尖らす曜。

 

「え~? せっかくとっておきの衣装引っ張り出してきたのに」

「いつ使う予定の奴なんだよ!」

 

 克海がひたすらツッコんでいる内に、のっぽパンを頬張りながら(ほぼ意味ない)双眼鏡を覗き込んでいる花丸が、グイッと身を乗り出した。

 

「Aqours-1、千歌ちゃんを発見したずら! 誰かと一緒ずら!」

「何だと!? すぐ行くッ!」

 

 功海たちが花丸の周囲に集まり、茂みの向こうを覗き込む。

 

「Aqours-1、突入しますか!?」

「焦るなAqours-1! まずはターゲットを観察!」

 

 逸る曜を制止する功海。

 彼らの視線の先には確かの千歌の姿があり、そして報告通り、青いジャケットを羽織った誰かと広場を練り歩いている。

 

「樹が邪魔で顔は見えないけど……体格からして、男なのは確実ね」

「従姉妹の子ってオチではなさそうね」

 

 千歌と一緒にいる人物の背格好から判断する善子と梨子。

 

「速やかにフェイズ2に移行しあぁ―――――ッ!?」

 

 状況を監視する功海たちが、一斉に奇声を上げた。

 青いジャケットの人物が、千歌の顔に顔を寄せたのだ!

 

「緊急事態!! 千歌ちゃんの唇が奪われるぅーっ!!」

「メーデーメーデー! 総員、突撃せよぉーッ!!」

 

 功海の号令により、ドドドドドと猛烈な勢いで現場に走っていく一同。

 

「……行きます」

 

 克海も戸惑いながらも、後に続いていった。

 

「そこまでだぁーッ! 妹に何をするーッ!」

「天界の刺客め! リトルデーモンから離れよっ!!」

 

 功海たちは千歌とジャケットの人物との間に割って入り、千歌を彼から遠ざける。

 

「克海お兄ちゃん、功海お兄ちゃん! みんなも、そんなに急いでどうしたの?」

「ち、千歌ちゃん! スクールアイドルでも、アイドルはアイドル! スキャンダルはご法度よ!」

「そういうのは、せめて私たちに話を通してからにして!」

 

 何の権利があってか、曜がそう言い聞かせる。

 

「お前誰だッ!」

 

 功海がジャケットの人物に指を突き立てると――千歌と一緒にいた好青年は、礼儀正しくお辞儀して名乗った。

 

「初めまして! 朝倉リクと言います!」

「……朝倉リク?」

「この辺じゃお見掛けしないお顔ずら」

 

 綾香市において全くの見知らぬ青年のことを訝しむ曜、花丸たち。そんな仲間たちに、千歌が彼のことを紹介する。

 

「駅前で困ってる風にしてたから、声を掛けたの。人を捜してるんだって。みんなも協力してあげて?」

「人って……誰を捜してるんだよ!」

 

 功海は敵愾心を剥き出しにして詰問する。対するリクは、目尻を引っ張り上げながら答えた。

 

「こんな風に、すっごく目つきが悪い人です! 心当たりありませんか?」

「ええ? すごく目つきが悪いって……」

 

 大分漠然とした特徴に困惑するルビィ。功海はますます顔を険しくする。

 

「そんな説明で人が分かるかッ! はぐらかそうとしてんじゃないだろうな、妹にキスしようとしといて!」

「えッ……何の話ですか?」

「とぼけんなッ! こう……顔と顔を近づけようとしてただろ!」

 

 功海のジェスチャーに、曜たちが顔を赤くしてキャーキャー騒ぐ。

 しかし、千歌に訂正される。

 

「それは誤解だよ。リクさん、私の落とし物を拾おうとしてくれただけなの。ほら」

「えッ」

 

 スマホを見せる千歌。どうやら、角度の問題でそう見えただけのようだ。

 

「何だ、結局早とちりずら」

 

 花丸らが肩をすくめて愛想笑いしていると――突如空に、不気味な気配が渦巻いた。

 

「はッ!?」

 

 リクが振り返った先の空に、巨大な魔法陣が出現し、それと同等のサイズの腕が降ってきて地上に怪獣を二体も解き放った!

 

「ギアァッ! ギギギィッ!」

「イヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 

 逆五角形の体型の宇宙大怪獣ベムスターと、目玉に手足が生えているような奇獣ガンQ!

 突然のことに街が大混乱に陥る中、克海と功海は即座に、緩い雰囲気から研ぎ澄まされた戦士の空気に一変する。

 

「今になって怪獣が現れるなんてな……!」

「久しぶりだな克兄ぃ。やれっか!?」

「ああ!」

 

 Aqoursの方も、梨子と曜が進み出る。

 

「今回は私と曜ちゃんで行くわ!」

「千歌ちゃんたちは避難してて!」

「頼んだわよ、リリィ! 曜!」

「リリィは禁止!!」

 

 善子が先導し、逃げる市民たちに混ざって千歌たちが避難。

 克海と功海、梨子と曜は怪獣の方へ向かっていって、人の波がなくなったところでルーブジャイロを取り出す。

 

「「俺たち色に!」」

「ジーッとしてても!」

 

 ところが、すぐ横にリクも来ていて、何やら赤い握力計のようなものを握っていた。

 

「……!?」

 

 互いの存在に気づいた双方は咄嗟に手に持っているものを背に隠し、ペコペコ頭を下げながら別れていった。

 

「あー驚いた……さっきの人、何であんなところに?」

「さぁ。それより改めてッ!」

 

 曜に肩をすくめながら返し、功海と克海がガッガッと拳を打ち合わせる。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 克海が火の、功海が水のクリスタルを取り出す。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

 

 クリスタルをジャイロにセットして、各ウルトラ戦士のビジョンを背景に呼び出す。

 

[ウルトラマンタロウ!]

[ウルトラマンギンガ!]

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「纏うは水! 紺碧の海!!」

 

 ジャイロのグリップを三回引いて、梨子、曜とともに変身!

 

「ビーチスケッチさくらうち!」

「ヨーソロー!」

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 火柱と水柱から飛び出して巨大化していくロッソとブルが、綾香の街中に立ち上がった!

 



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Fight again

 

『『はッ!』』

「ハァッ!」

 

 堂々と見得を切るロッソとブル! ――その隣に、赤黒い身体の、ひどく吊り上がった双眸の巨人が構えを取っていた。

 

『『ん?』』

 

 そちらに振り向いたロッソたちが、いつもと違う流れに動揺。

 

『功海、誰かいるぞ!』

『「あの胸のカプセルみたいなの……もしかしてウルトラマン!?」』

『何か目つき悪りぃけど!』

『おい指差すな!』

『ほっといて下さいッ!』

 

 気にしているのか、ロッソとブルではないウルトラマンが声を荒げた。

 千歌たちの方も、まさかの三人目のウルトラマンに注目して驚いていた。

 

「あの人誰!?」

「あの目……まさか、さっきの人が捜してた人って、ウルトラマン?」

「いやいやそんなまさか……」

 

 ルビィのひと言を、善子が手を振って否定した。

 

「ギアァッ! ギギギィッ!」

「イヒヒヒヒヒ!」

 

 なんてことをしている間に、ベムスターとガンQは光線を飛ばしてロッソたちに攻撃してくる!

 

『うおッ!?』

 

 三人のウルトラマンは咄嗟に散開することでかわしたが――ロッソの背後を、いつの間にかベムスターが取っていた。

 

『ん!?』

「ギアァッ! ギギギィッ!」

 

 ベムスターはロッソを捕まえて、空高くに一気に飛び上がる。

 

『「きゃあああ――――!?」』

『克兄ぃ!?』

『「り、梨子ちゃーん!!」』

 

 身動きが取れない状態でぐんぐん地上から引き離されていくロッソ。

 

『は、放せぇッ!』

「ギアァッ! ギイッ!」

 

 ベムスターは更に一本角から電流を浴びせ、ロッソを苦しめる。

 

『うわああぁぁぁぁ!?』

『「あうぅぅっ!」』

 

 ロッソを麻痺させた上で、放り捨てるベムスター。

 まっさかさまに地表へ転落したロッソは、頭が建物に突っ込み、逆立ち状態になってしまった。

 

『いってぇぇ~……!』

『「は、早く立ち上がって下さい! 怪獣が来ますっ!」』

『そうは言っても……頭が抜けない……!』

 

 首がすっぽり嵌まってしまい、ロッソはジタバタともがくしか出来ない。その間、ベムスターとガンQはブルと三人目のウルトラマンで食い止める。

 

「ギアァッ! ギギギィッ!」

「イヒヒヒヒヒヒヒ!」

「ウワッ!」

『おわぁッ!』

 

 ベムスターたちに投げ飛ばされて、二人は地面を転がる。

 

『くっそ~……行くぞッ!』

『「ヨーソロー!」』

 

 ブルは見知らぬウルトラマンと即席タッグを組んで、同時に足払い。ベムスターとガンQを転倒させる。

 

「ギアァッ!」

「イヒャアッ!」

『よしッ!』

 

 そこにすかさずジャンピングエルボーを振り下ろして、二体を地に伏した。

 

「トアァッ!」

 

 ブルと三人目のウルトラマンの連携攻撃に目を見張るロッソ。

 

『息が合ってる!』

『はぁぁぁぁッ!』「ハァァァァッ!」

 

 ブルたちのミドルキックが怪獣に炸裂して、二体はばったりと倒れた。この隙にブルがロッソの元へと駆け寄る。

 

『何やってんだAqours-1!』

『すまん……!』

『「ほら、じっとしてて!」』

 

 ブルがロッソの腰を鷲掴みし、建物から首を引っこ抜いて救出した。

 

『よいしょッ!』

『「ありがとうございます……!」』

『ほらしっかり! 行くよッ!』

『ああ……!』

 

 ロッソの腕を引いて戦いに戻るブル。こちらも起き上がった怪獣たちに、水流を繰り出す。

 

「『アクアジェットブラスト!!」』

「ギアァッ! ギギギィッ!」

「イヒヒィッ!」

 

 だが水はベムスターの腹部にある吸引口に吸い込まれ、更にガンQの巨大な目玉から返される。

 

『うわッ!?』

 

 瞬時に飛びすさってかわすブルたち。奇怪な現象に首を傾げる。

 

『どういうこと?』

『「変な怪獣……あれじゃ光線が効かないよ!」』

『「両方同時に攻撃すれば、きっと通じるわ!」』

『よし、同時に行くぞ!』

 

 ロッソとブルはフレイムスフィアシュートとアクアストリュームの構えを取る。

 

「行くずらー!」

「振るいなさい! 堕天の雷っ!」

 

 花丸たちもロッソらを応援するが――その場に紅玉色の瞳の男が駆け込んできて、ウルトラマンたちへと叫んだ。

 

「射つなッ! ガンQの中に、比企谷が囚われてるんだぞぉッ!」

「!? あなたは……!」

 

 思わず振り返った千歌たちが、驚愕。駆け込んできたサンダルの男は、二度ほど対面したことがある宇宙人――。

 

「止めろジードッ!」

「ハッ!」

 

 ジードと呼ばれた、三人目のウルトラマンがガンQを見据え、慌ててロッソとブルの前に回って制止した。

 

『待ってくれ! 僕の友達が、あの中にいるんだッ!』

『「えっ!?」』

『「怪獣の中に、人が……!?」』

 

 ロッソとブルの目も、ウルトラマンの超視力によって、ガンQの内部で確かに人影が苦しそうにもがいているのを発見した。

 

「ギギギィッ!」

「イヒヒヒヒヒヒッ!」

 

 怪獣たちの光線から逃れ、曜たちは素早く作戦を立てる。

 

『「よぉしっ! 人質救出作戦だよ!」』

『「クリスタルチェンジね!」』

 

 梨子は水の、曜は風のクリスタルに手を伸ばす。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

 

 ロッソアクアとブルウインドにタイプチェンジし、それぞれ水と風を手に宿す。

 

『ここは俺たちに任せろ!』

「『アクア!!」』

「『ウインド!!」』

「『「『ハイブリッドシュート!!!!」』」』

 

 スプラッシュ・ボムとストームシューティングを組み合わせたものをあえてベムスターに撃ち込み、超空間のつながりを利用してガンQの中の人影を水に包みつつ、風で体外に押し出す!

 

「――うわぁぁぁッ! ぷはぁッ……!」

 

 クッションの水球が地面に当たって弾け、無傷で救い出されたのは、一人の青年。――その顔をひと目見たルビィたちが衝撃を受ける。

 

「ぴぎぃっ!? お目めがすっごく吊り上がってる!!」

「とんでもない目つきの悪さずら! 間違いなくあの人が、捜し人ずら!」

「の……呪われし子だわ!!」

「み、みんな失礼だよっ!!」

 

 その青年の元に、先ほどの男が駆け寄って助け起こす。

 

「大丈夫か、比企谷!」

 

 更に――不自然な位置に黒々とした影が出てきて、そこからカタツムリのように目が突き出た怪人が顔を出す。

 

「八幡、しっかり!」

「また何か出てきたぁー!?」

「宇宙人ずらぁー!」

「デュエス、ペガ……!」

 

 救出された青年、比企谷八幡は、宇宙人たちをそう呼び返した。

 

『よしッ!』

 

 気兼ねする必要がなくなったジードもまた、姿を大きく変える。

 

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

 

 真っ赤な甲冑を着込んだ、サイボーグ戦士かのような姿に変貌したジードは、全身から蒸気を噴き出しながら右腕にエネルギーを溜める。

 

「『スプラッシュ・ボム!!」』

「『ストームシューティング!!」』

『ストライクブーストぉぉぉッ!』

 

 そして三人のウルトラ戦士たちの同時光線によって、ベムスターとガンQのエネルギーの逃げ場をふさぎ、同時に体内から破裂させた!

 

「やったぁぁーっ!!」

 

 怪獣たちを撃破すると、ジードは変身を解いて――朝倉リクの姿で八幡たちの元へ飛び降りた。

 

「八幡、怪我はない!?」

「リク……ああ。足を引っ張ってすまん……」

「いいんだよ、そんなこと。友達を助けるのは当たり前じゃないか……」

 

 八幡の無事を確認して安堵しているリクに遅ればせ、克海と功海も着地する。

 

「……ウルトラマンなのか」

「君たちも……」

 

 リクと目と目を合わせる克海たちの前に、デュエスが進み出てくる。

 

「すっかりウルトラマンが板についたな、ロッソ、ブル」

 

 克海と功海をそう呼び、次いで千歌に首を向ける。

 

「それから、グリージョ」

「え? 何で私のこと……」

「話は聞いてる。生まれ変わりなんだって? 道理で、お前と美剣沙紀の魂の形が全く同じだった訳だ」

 

 言っている意味が分からず、首を傾げる克海たち。

 

「それってどういう……」

「俺ぁこう見えて、魔術をかじっててな。人の精神エネルギーの波長を視覚で認識できるのさ。だから、お前と美剣沙紀は俺には同一人物に見えた。その通りだった訳だがな」

「魔術!?」

 

 過敏に反応する善子は置いて、梨子と曜がデュエスに食って掛かった。

 

「それって、千歌ちゃんの真実にあの時点で気づいてたってこと!?」

「何で言わなかったのさぁ! お陰で千歌ちゃんはひどい目に……!」

「しょうがねぇだろ。時を超えた生まれ変わりとか、言われなきゃ分かんねぇよ」

「梨子ちゃん、曜ちゃん、落ち着いて! 私のことならもういいから! 今があるから、これまでのことは全て良し!」

 

 千歌が曜たちをなだめる一方で、功海はリクたちを指差す。

 

「っていうか、この人たちは何なんだ! 特にその白いの!」

「何が起こってたんですかぁ!?」

「まるで呑み込めないずら!」

「あの、触りでいいから魔術をご教授を……」

 

 混乱しかけている場を、克海が取り成す。

 

「一旦落ち着け! ずっとここで騒いでたら目立つし、腰を落ち着けられるとこに移動しよう」

 

 

 

 リクたちジード組を連れて内浦に戻った克海たちルーブ組を、果南に加え、ダイヤと鞠莉も出迎えた。

 

「皆さん、ご無事ですのね」

「ワーオ! これまたBig所帯デスねー」

「お姉ちゃん、鞠莉ちゃん!」

「内浦に戻ってきてたんだ」

 

 千歌のつぶやきにうなずく二人。

 

「再びの怪獣の出現に加え、見知らぬウルトラマンとなっては、いても立ってもいられませんでしたので」

「また悪い奴かもしれないからねー……目つきもやたら悪かったし」

「ひどッ!? 顔立ちは生まれつきだよ!」

 

 悪のウルトラ戦士に襲われることが多かったのである種仕方ないとはいえ、理不尽に疑いの目で見られたリクがショックを受けた。

 それから一行はホテルオハラの食堂の一室を特別に貸し切らせてもらい、そこでウルトラマン同士の会食を行うこととなった。

 

「本日の晩餐は、マリー特製シャイ煮のfull-courseデース!」

「出たッ! シャイ煮!」

 

 鞠莉の煮込んだ鍋料理を、千歌たちが杯によそってリクたち四人に差し出す。

 

「はいどうぞ♪」

「ありがとう」

「よく味わって食べなよー。一杯十万円だから」

 

 果南のひと言に、リク、八幡、ペガがブゥッ! と噴き出す。

 

「「「十万!!?」」」

「?」

 

 デュエスだけはよく分かってない顔であった。

 

「はい、これはペガくんの分ずら」

「ありがとう!」

 

 花丸から杯を受け取ったペガという宇宙人は――席には着かず、リクの足元の影に飛び込み、そのまますっぽりと消えてしまった。

 

「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

 これを目の当たりにしたルーブ組が仰天。

 

「い、今のどうやりましたの!?」

深淵(タルタロス)!?」

 

 目を白黒しているダイヤたちに、デュエスがシャイ煮をすすりながら淡々と説明。

 

「それはダークゾーン。ペガッサ星人は虚数次元をプライベート空間に扱うことが出来るのさ。これでもペガッサの科学技術のほんの一部でしかない」

「よ、よく分かんないけど……どうして影の中で食事を?」

 

 梨子の疑問にリクたちが答える。

 

「ペガは恥ずかしがり屋だから……」

「ペガッサ星人自体、警戒心が強い種族だ。食事中などの無防備な姿は、親兄弟でも晒さないのが普通なのさ」

「……すごい親子団欒の光景だね……」

「Universeはvery wideデースねー……」

 

 宇宙人の特異な風習に触れ、曜たちは反応に困った。

 功海は興味津々にダークゾーンににじり寄る。

 

「虚数次元を自由自在なんて……すげぇッ!」

 

 興奮のあまり、ダークゾーンに手を突っ込んでペガをまさぐる。

 

「わぁッ!? やめてよ、くすぐったい~!」

「功海」

 

 克海が咎めていると、千歌がリクたちに質問を投げかける。

 

「それで、リクさんたちはどこから来たんですか?」

「……僕たちはみんな、こことは違う地球、いわゆるパラレルワールドから来たんだ」

「まぁ、俺たちの意思でじゃあないけどな」

 

 リクと八幡の返答に、小首を傾げるルビィら。

 

「パラレルワールド……前に聞いたような……」

「……リクさんたちは、デュエスさんが飾っていた写真に写っていた方々ですね。ということは、ご友人のご関係と」

 

 ダイヤのひと言に、果南たちの視線が集まる。

 

「よく覚えてるね、ダイヤ」

「流石元浦女の生徒会長の才女デース♪」

「ああ。俺たちみんな友達って訳だ。色々あったけどな」

 

 『色々』の部分で、デュエスが気まずそうに目を泳がせる。

 

「……お前、いい加減過去を気にすんなよ。ここにいるのは関係ねぇ人たちなんだし、そう気に病まなくたっていいだろ」

「いや、そういう訳にも……」

 

 リクが話を先に進める。

 

「僕たちは久しぶりに集まって話をしてたんだけど、突然雷雲から出てきた巨大な手に捕まって……気がついたら、こっちの世界に連れてこられてた。だけど一緒に捕まったはずの八幡がどこにもいなくて……」

「それで捜してたんですか……」

 

 納得する千歌。当の八幡も話の本筋に戻る。

 

「俺はずっとあの怪獣の中に閉じ込められてた。きっと、ウルトラマンに俺を殺させて、それをリクに見せつけるのが目的だったんだろう」

「そっか……危ないとこだったな」

 

 身震いする功海。デュエスも憤然と腕を組んだ。

 

「陰湿なことする奴もいたもんだ。人のこと言えるクチじゃねぇが」

「デュエス……あの腕の正体は分からねぇか?」

 

 八幡に聞かれ、デュエスは眉間に皺を刻み込む。

 

「……何者なのかまでは分からん。だが、俺がクズだった時代に、夢を叶えると嘯いて星を破滅に追いやる青い悪魔の噂を聞いたことがある」

「夢を……?」

「叶える……?」

 

 きょとんとする克海たち。一見すると、星の破滅につながる所業とは思えないが……。

 

「ともかく、ただ者じゃないってのは確かだ。これであきらめたとも思えねぇ。帰還は明日にするとして、当分は用心が必要だな」

「全く……宇宙も悪い奴がいっぱいいるんだな……」

 

 ぼやきながらシャイ煮の鍋をすくう功海を、克海が見咎めた。

 

「おい功海、肉ばっかり取るなって!」

「早い者勝ちじゃん。……おい千歌、そんな肉取るな肉!」

「言ってること違うじゃん、功海お兄ちゃん」

「やめろよお前たち! お客さんの前でみっともないな!」

 

 高海兄妹の寸劇に、思わず笑う一同。

 リクもまた、三人の関係に朗らかに笑っていた。

 

 

 

「ごちそうさま。楽しい食事だったよ」

 

 食後に、千歌はリク、デュエスとバルコニーで会話をしていた。

 

「八幡のところに厄介になってた時も思ったんだけど……家族って、やっぱりいいものだね」

「だな……あんなに賑やかな席は、俺は初めてだ」

「……お二人のお家は?」

 

 家族について思うところがあるようなリクとデュエスに、千歌が尋ねかける。

 

「……僕の親は、ベリアルって言うんだ」

「ベリアル?」

「宇宙を支配しようとした悪のウルトラマン……。一度は、僕のいた宇宙を破壊したこともある。僕はその遺伝子を受け継いでる、ベリアルの息子なんだ……」

 

 大悪人の子……。それだけで、家庭に恵まれなかったことは容易に想像がつく。

 

「ジードは立派さ。それでも人の道をまっすぐ進んでたんだからな」

 

 マッ缶をあおるデュエスが自嘲を浮かべる。

 

「俺は父親から、道具としてしか見られてなかった。ルパーツ星の同族も、俺とは気性が大違いで全然馴染めなくってな……(くに)を捨てて、人の道を外れまくった。比企谷とジードがいなかったら、俺は自分すら滅ぼしてたよ……。最低の男だった」

 

 デュエスは当時のことを、今も深く悔やんでいるようだ。

 二人に対し、千歌が告げる。

 

「私も、お兄ちゃんたちとは血のつながりはないんです。どこからかやって来た、本当は誰も知らない子……」

「え?」

「……」

「それを知った時は、とても悩みました。でも、お兄ちゃんたちやみんなは、こんな私のことを全力で受け入れて、必死で助けてくれた……。そして分かったんです。家族の絆って、もっと大きなものなんだって」

 

 月夜を見上げて、うっとりと語る千歌。

 

「大事なのは、血のつながりじゃない。どれだけお互いを想い合ってるか……。私たち兄妹は、1300年前に離ればなれになった兄妹の遺志と絆を継いでる。その強い絆で、私たちはみんなを救えたんです。それこそが、私たちの家族の絆の証明です!」

 

 リクとデュエスを相手に千歌が話すことを、克海と功海も少し離れたところから聞いている。

 

「みんなが助けてくれた私の輝きで、みんなを笑顔にしたい。みんなに、私の幸せを分け与えたい! それが今の私の願いです!」

 

 千歌の想いに、神妙に耳を傾けていた克海の元へ、八幡が歩いてくる。

 

「二人のこと、あんたたちの仲間から色々聞きましたよ」

「比企谷くん」

「……立派な人たちなんすね、二人は」

 

 褒め称える八幡に、克海と功海は謙遜。

 

「いや、俺たちはウルトラマンになっても、ただの一般人に過ぎなかったよ。ゼロからのスタートさ」

「ずぅっと失敗したりグダったりの連続でさ。あのデュエスにだって散々叱られて」

「それ言ったら、俺だってただの人っすよ」

 

 自嘲気味に、八幡が身の上を語る。

 

「俺は一度命を落として、リク……ジードの命と力を借りることでよみがえった。だけど俺はクズ中のクズ、まちがいだらけのゼロどころかマイナスでしたよ。何度もリクたちの手を焼かせて……今でも申し訳なくなる時がある。……だけど、そんな俺でも出来ることを一つずつ積み重ねてって、殺し合う仲だったデュエスと友達にまでなれた。無慈悲な破壊兵器から世界を護れた。みんながいてくれたからこそ、この俺があんな大それたことを成し遂げられたんです……」

 

 八幡の胸には、支えてくれた仲間たちへの感謝がいっぱいになっていた。

 

「色んな奴と関わって、初めて分かった。誰だって苦労を重ねて、成功を掴める。どんなすげぇ力を与えられたって、いきなり飛躍は出来ねぇ。逆に言えば、コツコツ歩き続けりゃ誰でもゴールにたどり着けられるって。そしてどんな遠い道だろうと、最後まであきらめずに歩き続けられる奴に、ウルトラマンの資格がある。……俺に出来たんだから、あんたたちはとっくにウルトラマンになってますよ」

「ははッ、言うじゃん」

「屁理屈並べるのは得意でね」

 

 愉快そうに笑い合う功海と八幡。――その傍らで、克海は戸井のことを思い出していた。

 

 

 

 ――画面から生える青い腕は、鋭い爪が伸びた指で、戸井の額を指して円を描く。

 

『私が遠い宇宙からやってきたのは、何故だと思う? 君にしか出来ないことをやってもらいたいからさ……』

 

 甘い声で戸井を誘い、顎を撫でる。

 

「俺にしか、出来ないこと……」

『つまり……これだ』

 

 青い腕の指が、画面の中の戸井が創作した怪物をトントン叩いた。

 

『君はこの怪獣を世に出したいのだろう? 君を見下した世界を破壊しろ……!』

 

 再び戸井に指を突きつけ、問いかける。

 

『さぁ……こいつの名は何だ?』

 

 戸井は悪夢(ゆめ)に浮かされるように答えた。

 

「スネークダークネス……ダークネススネークじゃ語呂悪いから……」

 

 青い腕の声が歓喜で打ち震える。

 

『なかなかの中二病だッ! 君は最強最悪のスーパースターだ!!』

 

 青い腕が手の平を開き――戸井に漆黒の電流を浴びせた!

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああッ!!』

 

 闇のエネルギーを一身に受けた戸井の瞳が――青い腕の眼と同じ眼光を宿した――。

 



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滅望の邪願獣

 

 克海たちが、別次元の宇宙のウルトラマン、ジードと遭遇した翌日――克海は、綾香の町の中をがむしゃらに駆け抜けていた。

 

「うぅぅ……!」

 

 克海が歯を食いしばりながらひたすらに疾走している、その理由は、戸井にあった。

 克海は全てを投げ出して自堕落になっている戸井を放っておくことが出来ず、これまでの経験と、出会った人たちの言葉を踏まえた上でひたすら考え抜いた意見を携えて、彼に思い直してもらおうと思いの丈をぶつけたのだ。

 

「夢ってのは、翼が生えてるんじゃない……。夢には足が生えてるんだ……! 夢はその足で、一歩一歩這い上がって成長する……! 夢は自分と一緒に歩いてくものなんだ!」

 

 ――だが、戸井の心には届かなかった。

 

「お前だって夢あきらめただろッ! どのツラ下げて説教してんだッ!!」

 

 ――妹たちは大勢の人を感動させてきたというのに、自分は、かつてはともに笑い、ともに泣いた一人の人間の心すら動かすことが出来ない。

 克海は無力さと悔しさに苛まれ……みじめに逃げ出すことしか出来なかった。

 

「うわあああぁぁぁぁぁッ!!」

 

 薄暗い陸橋下の地下通路に駆け込んだ克海は、やり場のない感情が溢れ出て喚き散らす。

 

「功海もッ! 千歌もッ! 夢に進んでッ! 俺には何もなぁいッ!!」

 

 虚しい慟哭が地下に響き渡り――それに交じるように、拍子木がカンカンと打ち鳴らされた。

 

「……!?」

「さぁ~良い子のみんな~! 楽しいウルトラマンの紙芝居が始まるよ~!」

 

 顔を上げると、いつの間にか、知らない老人が紙芝居の用意をして、克海の目の前にいた。

 

「紙芝居……こんなところに……!?」

 

 あまりにも不可解なシチュエーションに困惑する克海をよそに、老人は当然のように白紙のページをめくって、表題を晒す。

 

「今日は、ウルトラマンロッソのお話だぁ!」

「!!?」

 

 表紙に描かれているのは、紛れもない赤いウルトラマン――自分だ。

 老人は陽気に、唖然としている克海一人を相手に紙芝居を進める。

 

「内浦に暮らす普通の若者、高海克海くんはある日突然、1300年前から続く巨大な因縁に巻き込まれてウルトラマンロッソになった! それから苦しい戦いの日々! 次々現れる恐ろしい強敵たち! 地球の危機! どうしようもないような逆境の連続に、それでもロッソは戦い抜いて、遂に地球を救った! すごいねぇ!」

 

 オーブダーク、グルジオ、ルーゴサイトらに立ち向かうロッソの絵のページがめくられると、彼が人間たちの非難を受ける絵が出てくる。

 

「それなのに、人間たちはロッソの頑張りを認めず、勝手なことばっかり! 街が壊れる、よそでやれ、迷惑だ! ひどい話だねぇ! 遂には克海くん、友達の戸井くんにまで突き放された!」

「!!」

 

 衝撃を受ける克海。話が現在の状況にまで進んできた。

 

「あんた何者……!」

「そんな克海くんに一大事件! 人生の分かれ道が訪れるぞぉ~!」

 

 克海の問いかけをさえぎり、最後のページをめくる老人。その下から液晶画面が現れる。

 

「克海くんはこう問いかけられる! 『君の夢は何だ?』!」

 

 老人の声が、画面から出てきた青い腕の声を被さった。

 

「!!?」

『私はトレギア。宇宙から、君の夢を叶えに来た……!』

 

 目を見張る克海を相手に、青い腕が嘯く。

 

「夢を、叶える……!?」

 

 克海は、昨晩に聞いた話を思い返す。――夢を叶えると囁き、星を滅亡に追いやる青い悪魔……。

 

「何者なんだ、お前らッ!」

『私たちのことなどどうでもいいじゃないか。それより、君には二つの道が開けてる』

 

 青い腕は克海の問いには何も答えず、二つの道とやらを提示してくる。

 

『一つは、このまま人間として、平和な生活を送る道。もう一つは、ウルトラマンとして、宇宙に飛躍する道』

 

 克海の周囲の光景が突然揺らめき――全く別の場所の、三つの太陽が空に昇る世界の景色に塗り替えられた。

 

『この宇宙における全ての生命のために戦う……君はそんな力を持っているんだよ』

 

 幻影の景色の中に浮かぶ克海の前に、青い腕がどんどんと全体を現していき――胸部を×印型のプロテクターで覆い隠した、青い超人が姿を披露した。

 

「俺に接触して……何が目的なんだッ!」

 

 トレギアはやはり何も答えず、ただ足下を指差す。

 その先では――この世界に生きる赤い生き物たちが、手が三日月型のカミソリブーメランとなっている怪獣に追い立てられていた。

 

「ギャアアゴオオオ!」

 

 怪獣は腕のブーメランを飛ばし、地面から生えている石柱をバッサバッサと切り倒す。その崩落に巻き込まれそうになって、赤い生き物たちは必死に逃げ回る。

 

『この星のピグモンたちは、レッドキラーに襲われて滅びつつある。この種が滅べば、生態系は崩壊し、この惑星から生命は消える。それを、ウルトラマンとして放っておけるだろうか?』

 

 周りの景色が、元の地下通路に戻った。

 

『私なら異次元の扉を開けて、君を助けに行かせられる……。その代わり、一度行けば再び帰れる保証はない』

 

 トレギアは画面から腕を突き出したまま、克海に選択を迫る。

 

『君はウルトラマンか? 高海克海か……?』

 

 押し黙る克海。彼の答えは――。

 

 

 

 『四つ角』に駆け込んできたデュエスは、功海と千歌に開口一番に尋ねた。

 

「おい……ロッソはいるか!?」

「えっ……克海お兄ちゃん?」

 

 突然の質問に面食らう二人。何故わざわざ聞くのかを話すデュエス。

 

「どうにも悪寒がするんで、全員の無事を確かめてたんだが……ロッソの反応だけがたどれねぇ。お前らロッソを見てねぇか?」

 

 千歌が功海に振り向く。

 

「今朝は功海お兄ちゃんと一緒だったよね。知らない?」

「……何か考え事してたみたいで、急にどっか出掛けてったんだけど……」

 

 それから克海の顔を見ていないことで、功海たちもやおら不安に襲われてきた。

 

 

 

『――はぁぁぁッ!』

 

 レッドキラーの襲撃を受けるピグモンたちの元へ、トレギアの魔法陣を通り、ロッソが飛び出していった。着地と同時にブーメランを払いのけ、今まさに切り殺されそうだったピグモンたちを救う。

 

「ホアッ! ホアァッ!」

「ギャアアゴオオオ!」

 

 レッドキラーはすぐさまブーメランを腕に戻し、ロッソに狙いを移して接近していく。

 

『ルーブスラッガーロッソ!』

 

 ロッソも双剣を手にして、地を蹴って飛び掛かる。

 

「ギャアアゴオオオ!」

『ふッ!』

 

 投げつけられるふた振りのカミソリブーメランを弾き返し、レッドキラーに交差する斬撃を食らわせた。

 

『とあぁッ!』

「ギャアアゴオオオ!」

 

 まともに攻撃を受けたレッドキラーがばったりと倒れる。

 ここぞとばかりにロッソはオーブリングNEOの力を発動し、腕を十字に組む。

 

『ゼットシウム光線!』

「ギャアアゴオオオ!!」

 

 発射された光線がレッドキラーを貫き、跡形もなく爆散させた。

 変身を解いて地上に降りた克海に、救われたピグモンたちが感謝の声を上げる。

 

「ホアーッ!」

「キュウッ! キュウッ!」

 

 思わずはにかも克海だが――後ろから飛んできた野球のボールを、反射的にキャッチした。

 

「……!?」

 

 ただのボールではない……戸井のところに置いてきたはずの、友情の証たる「夢」のボールだ。

 

「お前がウルトラマンだったのか……」

 

 そして克海の前に出てきたのは――。

 

「戸井……!? 何でここに……!」

 

 様子のおかしい戸井は、克海を鋭い目でにらんでくる。

 

「俺には何もないとか言ったか……。だがお前はウルトラマンだ……。全部持ってるじゃねぇかぁぁぁぁァァァッ!!」

 

 絶叫した戸井から暗黒エネルギーが噴出し――巨大怪獣へと変貌した!

 

「!!?」

「キュオオォォ――――――――ッ!」

 

 その姿は、戸井が世の中への不満と恨みを込めて描き上げた怪獣、スネークダークネスと全く同じものであった!

 

「どういうことだ……!?」

 

 スネークダークネスは肥大した右腕で岩山を粉砕し、岩雪崩を克海へ飛ばしてくる。

 

「ああああぁぁぁぁぁぁ―――――――ッ!」

 

 ピグモンたちが慌てて逃げる中、克海はジャイロを回して瞬時にロッソに変身する。

 

[ウルトラマンロッソ! グランド!!]

 

 ロッソグランドが突っ込んできたスネークダークネスの頭を抑える。

 

『ぐッ……!?』

「キュオオォォ――――――――ッ!」

 

 だがスネークダークネスの膂力は恐ろしく、押されたうえで右腕のクローに腰を掴まれた。必死に抵抗するロッソ。

 

『やめてくれ戸井ぃーッ!』

 

 呼び掛けて止めようとするが、スネークダークネスに弾き飛ばされる。

 

『ぐはッ……!』

「キュオオォォ――――――――ッ!」

 

 怪獣の勢いは止まらない。ロッソはやむなく、力ずくででも止めようとする。

 

『グランドエクスプロージョォーンッ!』

 

 巨岩を投げつけて食らわせるが……一瞬押し潰されただけのスネークダークネスは、平然と起き上がってくる。

 

『痛ってぇなぁ……ウルトラマンは全ての生命を救うんじゃなかったのか……? 怪獣だって生命だろうがぁ――――ッ!!』

『……!?』

 

 先ほどレッドキラーを手に掛けたばかりのロッソは、思わず動きが止まる。

 

「キュオオォォ――――――――ッ!」

 

 その隙を突いて、スネークダークネスがクローで殴りつけてくる。

 

『うわぁぁぁッ!』

 

 岩山に叩きつけられるロッソを、スネークダークネスは容赦なく殴り続ける。

 

『お前はどうなんだ……! 夢は歩いてくものだと……? 口でなら簡単に言えるぜッ! ウルトラマンに依存してる男でもなぁッ!』

『や、やめろ……!』

 

 ひたすら殴られ、痛めつけられるロッソ。

 

『どうなんだ克海ぃぃぃぃ――――ッ!!』

『ぐわああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!」

 

 殴り飛ばされたロッソの身体が崩れ去り、克海が地面に投げ出される。

 

『ハハハハ……ハハハハ……ハハハハハハハッ!』

 

 スネークダークネスは背部からのジェット噴射で空に飛び上がり、トレギアの異次元のゲートの中に消えていく。

 

「くそぉッ……くそぉ―――――――ッ!!」

 

 無残に叩き伏せられた克海の叫び声だけが、無人の荒野に鳴り渡った――。

 

 

 

 紙芝居の枠に嵌め込んだ画面から、紙芝居屋の老人が克海のありさまをながめて嘲笑っていた。

 

「流石トレギア様! シナリオ通りの展開ですなぁ」

 

 老人の振り向いた先で、次元の狭間に潜むトレギアがほくそ笑む。

 

『フフフ……劇はまだまだ始まったばかりさ。さぁ、第二幕を始めよう……!』

 

 

 

「克兄ぃッ! どこだ克兄ぃ!」

「克海お兄ちゃんっ!」

「克兄ぃー!」

「克海さん! どこにいらっしゃいますの!?」

「克海! いたら返事するデース!」

 

 千歌たち一同は集合し、行方が分からなくなった克海を手分けして捜し回っているが、一向に見つけられないでいた。

 

「駄目……内浦にも綾香にも、どこにもいない……!」

「戸井さんの家を訪問してたってとこまでははっきりしてるんだけど……」

 

 散々走り回って汗だくの梨子と曜が、息を切らしながら情報を交わす。

 ジード組は高海家の母に事情を説明してウッチェリーナを借り、街中の人間の照合をしているものの、やはり克海は捜し出せていなかった。

 

[克海さん克海さん……見つけられませーん!]

「まずいぞ……ロッソの方が狙われたみてぇだ……!」

「克海さん……!」

 

 事態の深刻さを感じ取り、リクたちも冷や汗を垂らす。

 そんな時にウッチェリーナが警報を鳴らした。

 

[大気中に、コロナ放電を確認! 大型の生命反応、出現します!]

 

 天空に魔法陣が現れ、スネークダークネスが地上に解き放たれる!

 

「キュオオォォ――――――――ッ!」

「怪獣だ! こんな時に……!」

「……何だあいつは……見たことねぇ……」

 

 デュエスはスネークダークネスを見上げて、訝しげに目を細めた。

 

「キュオオォォ――――――――ッ!」

 

 すぐに暴れ始め、混乱に陥る綾香の街。功海たちは一か所に集合し、スネークダークネスへの対処に行動し始める。

 

「千歌たちは避難してろ!」

「ここは僕たちが!」

「功兄ぃ、私も一緒に行くよ!」

「リク、俺も力を……!」

 

 曜と八幡も進み出るが、デュエスに呼び止められる。

 

「待てッ!」

「デュエス?」

「……あの怪獣、何か変だ……! 一度、様子を見た方がいい……」

 

 デュエスはスネークダークネスから、言い知れない不気味さを感じ取って警告した。

 

「……分かった。リク、功海さん、頼む!」

「ああ!」

 

 八幡たちが身を引き、功海とリクで変身を行う。

 

「ジーッとしてても」「染め上げろ!!」

「混じっちゃった……」

 

 巨大化したブルアクアとジード・プリミティブが、スネークダークネスに立ち向かう。

 

「キュオオォォ――――――――ッ!」

「ハァッ!」

『はッ!』

 

 右腕のクローをかわすと、ブルがクローを押さえつけ、ジードがキックを首に決める。

 

「キュオオォォ――――――――ッ!」

 

 スネークダークネスは二人のウルトラマンに挟まれながら、クローを振り回して抵抗していた。

 

 

 

 別の大地で打ちひしがれている克海の元に、異次元の窓が開いて、地球での戦闘が彼に見せつけられた。

 

「や、やめろッ! 戸井ぃッ!」

 

 

 

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

[ウルトラマンブル! グランド!!]

 

 ジードとブルはタイプチェンジすると、スマッシュビームブレードとルーブスラッガーブルを構えて、左右からすれ違いざまに斬り裂く。

 

「キュオオォォ――――――――ッ!」

 

 スネークダークネスが大爆発の中に姿を消す。

 

 

 

「戸井ぃぃぃ――――――!!」

 

 スネークダークネスが爆炎に呑まれたところを目の当たりにした克海が絶叫。

 その前に、トレギアが姿を現す。

 

『フフフフ……彼らは上手くやったじゃないか。君なんか必要なかった』

 

 トレギアは映像を消して、克海に詰め寄る。

 

『昔、私がいじった宇宙の免疫機構を破ったというからどんなものかと思えば……こうもあっさり罠に嵌まるなんてねぇ。張り合いがないよ』

「お前……!」

『残念だけど、君はもうウルトラマンにはなれないし、高海克海の生活も送れない……。まぁ人生先のことは分からないものだよ』

 

 トレギアは場所も知らない土地に克海を置き去りにして、姿を消していく。

 

『じゃあ、これからも頑張って……』

 

 克海は何もすることが出来ず、立ち尽くすしかなかった……。

 

 

 

「やった!」

「思ったよりも呆気なかったわね」

 

 ブルとジードの活躍に、ルビィや善子が喜ぶ。

 が、八幡がそれをさえぎる。

 

「いや、まだだッ!」

 

 黒煙の中で、巨大なものが蠢くのを彼の目は捉えていた。

 

「キュオオォォ――――――――ッ!」

 

 スネークダークネスは爆発に呑み込まれて、傷一つ負っていなかった!

 

「な……!!」

 

 動揺が走るダイヤたち。ブルとジードは身構え直して、改めてスネークダークネスに向かっていく。

 

『たぁぁぁぁッ!』

「ハァァッ!」

「キュオオォォ――――――――ッ!」

 

 スネークダークネスは急に背を向けたかと思うと、長い尾が蛇のようにもたげ、先端が二つに割れてジードの首を挟み込んだ。

 

「グッ!?」

『はッ!』

 

 ブルがハサミを外そうとするが、あまりもの力でびくともしない。

 

[ウルトラマンジード! マグニフィセント!!]

 

 ジードはマグニフィセントにチェンジすることで、超パワーで振りほどく。

 

「ドォッ!」

 

 そこにスネークダークネスが口から灼熱の光線、トラジェディシャウトを吐き出す。

 

『危ないッ!』

 

 ブルがバリアを張って受け止めるが、一瞬で破られて吹っ飛ばされた。

 

『うわああぁぁぁぁぁッ!』

 

 倒れたブルへ突っ込んでくるスネークダークネスを、ジードが掴んで止めた。

 

「フッ!」

 

 ジードが食い止めている間に身体を起こすブルの前に……ビルの液晶画面から、トレギアが顔を出してくる。

 

『全くお前らは……ウルトラマンロッソがいないと何も出来ないなぁ』

『お前が黒幕かぁッ!』

 

 嘲笑ってくるトレギアを見据えて、怒りを向けるブル。

 デュエスはトレギアの姿を目にして、戦慄を覚えていた。

 

「あいつ……間違いない! 仮面で隠してるが……あれはウルトラマンだぞッ! それも複製とかじゃない、純正のッ!!」

「え!!?」

 

 八幡たちが衝撃を受ける。まさか、裏で糸を引く者の正体が……一番大事な仲間であるジードらと同じウルトラマンだとは!

 トレギアはブルたちに向けて、堂々と嘯く。

 

『私は夢を提供しているだけさ。悪が欲しければ悪を、正義が欲しければ正義を……するとどうなる? 夢はどんどん膨れ上がって暴走し、他人を攻撃し出すのさ』

 

 ジードとスネークダークネスが激しく格闘し、人々は壊れていく街から逃げようと我先に走っていき、混乱が広がっていく。

 

『欲望を満たすということは、他人のものを奪い取るということ……。人と人は我先に奪い合い、争いが広がり、全てが壊れていく……』

 

 トレギアが指を突きつける。

 

『君たちの言う絆は、簡単に壊れる……!』

 

 スネークダークネスが吐いたトラジェディシャウトを至近距離から食らい、ジードが吹き飛ばされる。

 

「グワァァァッ!」

 

 ブルもクローを叩きつけられて、殴り倒された。

 

『うわあぁぁッ!』

「ま、まずいずらぁっ!」

 

 悲鳴を上げる花丸。この状況に千歌は奮起し、ジャイロを取り出した。

 

「私も戦う! 沙紀ちゃんが遺したこのジャイロで……!」

 

 ジャイロにグルジオレギーナのクリスタルを嵌め込もうとするが……それをさえぎるように拍子木の音が鳴り響いた。

 

「何!?」

「さぁ~良い子のみんな! 今日はウルトラマンブルとウルトラマンジードの紙芝居だよぉ~!」

 

 千歌たちが振り返った先に、いつの間にか老人が紙芝居をめくっていた。

 

「あいつ……!」

 

 八幡たちが身構える。老人は場違いなほど陽気に、紙芝居を進める。

 

「脅威の大怪獣スネークダークネスと戦うブルとジード! だけど、トレギア様のお力が生んだスネークダークネスは無敵だぁ! ブルもジードも、ぜーん然敵わない!」

『わぁぁぁぁぁッ!』

 

 スネークダークネスが肩から放つ光弾によって、ブルとジードが薙ぎ倒された。

 

「功海お兄ちゃんっ! リクさんっ!」

「スネークダークネスを止められる者はいやしない! ウルトラマンたちはやっつけられて、世界中みーんな、おしまぁぁぁ~いッ!!」

 

 老人は光線銃を抜いて、千歌に向けて発砲してきた!

 

「えっ……!?」

「グリージョッ!」

 

 デュエスが棍を取り出し、八幡が咄嗟に千歌を伏せさせて銃撃をかわす中で老人に光弾を撃ち返す。

 

「ワハハハハッ!』

 

 老人は身を翻して逃れ――目玉が前に突き出た緑色の肌の怪人に変貌した。デュエスが叫ぶ。

 

「ズール星人ッ!」

『ハハハハハハハハッ! お前たちのような甘っちょろい連中に、偉大なるトレギア様の計画は止められやしないぞ! トレギア様ににらまれた星は、滅び去る運命なのだぁぁーッ!!』

「キュオオォォ――――――――ッ!」

 

 ズール星人の叫びに合わせて、闇のウルトラマンの陰謀の産物たるスネークダークネスが大気を震撼させた。

 



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キズナヒカル

 

「比企谷はそいつらを守れッ!」

「ああ……!」

 

 八幡を千歌たちの護衛に回し、デュエスは棍を構えてズール星人と対峙する。

 

『フェッフェッフェッ……ルパーツ星人の小童が。お前のことは聞いてるぞ』

 

 ズール星人はデュエスを見据えると、正面から嘲笑を向けた。

 

『宇宙の支配者の後継を自称しながら、紛い物のウルトラマンに散々打ちのめされた挙句、絆されて光の側に寝返った恥知らずの出来損ない! お前のような中途半端のゴミクズがトレギア様に盾突こうとは片腹痛いわ!』

 

 罵倒されたデュエスが目を吊り上げる。

 

「俺のことは好きなだけ言え。だがジードたちを侮辱するのは許さんッ!」

『ワッハハハッ! 許さなかったら、何が出来るというのだぁ!? トレギア様のお力に捻じ伏せられるだけの貴様らにッ!』

 

 スネークダークネスがジェット噴射で飛び回りながら、高空よりブルとジードに集中砲火を浴びせた。

 

『うわあああぁぁぁぁぁぁ―――――――――――ッ!!』

 

 耐久力の限界を超えて、二人は元の姿に戻って地上に投げ出された。

 

「功海お兄ちゃんっ!」

「リクッ!」

「キュオオォォ――――――――ッ!」

 

 スネークダークネスの猛威は止まらず、街ごと一同を消し去ろうと迫り来る。

 

「くッ……!」

『ハァ――――ハハハハハハッ! 星を追放された私を拾って下さったトレギア様のお力は絶大ッ! 貴様ら木っ端如きとは格が違うわぁッ!』

 

 ズール星人は最早見切りをつけ、そのまま退散。

 デュエスはそちらを追わず、スネークダークネスの破壊行為をどうにか食い止めようと青い箱型の機械を取り出す。

 

「頼む、キングオブモンス!」

[バトルナイザー、モンスロード!]

 

 機械からカード型の光が射出され、スネークダークネスの目の前で巨大怪獣の姿に変化した。

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

「キュオオォォ――――――――ッ!」

 

 デュエスの繰り出したキングオブモンスがスネークダークネスに組み着いて押し返すが、クローに肩を挟まれて悲鳴を発する。

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

「キュオオォォ――――――――ッ!」

「早くブルとジードを連れて逃げるぞッ!」

「ああ……!」

 

 キングオブモンスがスネークダークネスと格闘している間に、デュエスが八幡たちを先導して功海とリクを救出しに向かった。

 

 

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

「キュオオォォ――――――――ッ!」

 

 キングオブモンスのクレメイトビームがスネークダークネスのトラジェディシャウトとぶつかるが、押し返されて熱線を腹に食らう。

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

 膝を突いたキングオブモンスはもう立ち上がれず、デュエスに回収される。対するスネークダークネスも体力を使い果たしたか、その場に立ったまま動かなくなった。

 

「二時間も、よく頑張ってくれた……」

 

 デュエスはバトルナイザーに戻したキングオブモンスを労うも、表情は浮かなかった。

 

「活動停止に追い込むのが精いっぱいか……状況は厳しいな……」

「大丈夫、リク……?」

「うん……ありがとう」

 

 危険な状態だったリクと功海は、ペガたちの手当てでどうにか回復した。今はアルトアルベロタワーの社長室を借りて、綾香市を襲う敵たちを打ち倒すためにも克海の行方を捜し続けている。

 

「克兄ぃ、聞いてるか? 返事してくれ!」

 

 功海が無線機に呼び掛け続けるが、返事は一向になかった。ウッチェリーナが報告する。

 

[通信衛星を介して電波を地球上全土に飛ばしてますが、応答はありません!]

「この分だと、ロッソは宇宙のどこかに飛ばされちまったみてぇだな……」

 

 険しい顔のデュエスに、千歌たちが一縷の望みを込めてすがりつく。

 

「克海お兄ちゃんを見つけ出す方法はないんですか!?」

「何かこう……魔術でパーッと……!」

「無理だ、そこまで万能じゃない……。どこで拉致されたかも分かんねぇのに、広い宇宙からアテもなく見つけ出そうなんて、砂漠に隠れるダリーを探すようなもんだ……!」

 

 望みが断たれて、善子らが絶望に打ちひしがれる。

 

「無線の電波を増幅して、宇宙に発信は出来ねぇのか!?」

 

 功海が問うも、デュエスは沈痛の顔で首を振った。

 

「隣の星系だけで何光年離れてると思ってんだ!? 返事が来るのに、何十万年掛かるか……!」

「くそぉ……!」

 

 完全に八方ふさがり。誰もがどうすることも出来ず、沈黙する一同……。

 しかしその中でただ一人、八幡が声を発した。

 

「克海さんのとこに、一瞬で電波を届けることが出来るかもしれないぞ!」

「何だって!?」

 

 全員が驚いて八幡に振り向く。

 

「ど、どうやって!?」

「ペガのダークゾーンを使えば、もしかしたら……!」

「ボク!? 役に立てるの!?」

 

 八幡の閃きはこうだ。

 

「ダークゾーンは虚数次元って言ったろ? つまり三次元と物理法則が違うってことだ。その虚数次元と三次元を上手いことつなげば、電波を宇宙のあらゆる場所に同時に飛ばせるんじゃないか?」

 

 デュエスが少しの間ブツブツと計算し、力強く顔を上げた。

 

「それならいけるぞ! 流石比企谷……俺の尊敬する男だ」

「ああ! 流石の発想力だよ八幡!」

「比企谷さん、ありがとうっ!」

「わッ!」

 

 希望が見えて大喜びするリクたち。千歌は感極まって八幡に抱き着き、八幡が赤面した。

 

「よし、すぐ取り掛かるぞ!」

「うん、みんなで克海お兄ちゃんを助けよう! Aqours!」

「「「サンシャイーン!!」」」

 

 千歌たちが声をそろえて気合いを発し、全員で作業に取り掛かった。

 

 

 

「うぅッ……!」

 

 無人の大地の上をあてどなくさまよう克海は、体力的にも精神的にも限界に達し、遂に倒れてしまった。

 もうこのまま、誰にも知られることなく朽ち果ててしまうのか……。そんな絶望に駆られる中、彼の口に水が注がれる。

 

「うッ……?」

「キュウッ、キュウッ」

「ホアーッ」

 

 水を運んできたのは、彼に助けられた三体のピグモンたちだ。

 

「……」

 

 ピグモンの存在でわずかにでも希望が湧いた克海の耳に、聞き慣れた声が届く。

 

『……Aqours-1、Aqours-1! 聞こえるか克兄ぃ!』

『克海お兄ちゃん! 返事して!』

「!?」

 

 功海と千歌の声。顔を上げると、リクたちとの出会いからポケットに突っ込んでいたままだった無線機を、ピグモンの一体が持ってきていた。

 克海はすぐに無線を受け取って、返答を送った。

 

「功海! 千歌! 聞こえるか!?」

 

 

 

『よし……!』

 

 無線の電波を増幅する装置のコードを、ペガがダークゾーンに入れて電波を宇宙中に発信している。そしてこちら側のスピーカーが、克海の声を発した。

 

『功海! 千歌! 聞こえるか!?』

「克兄ぃの声だっ!!」

「ご無事だったのですね……!!」

 

 遂に望んでいた返事が来て、果南たちはわぁっ! と歓声を上げた。ダイヤは目尻の涙をぬぐい取る。

 デュエスはマイクを手繰り寄せて克海に尋ねる。

 

「今どこだッ! 周囲の特徴は!?」

『太陽が三つある……あと、空にいくつも縦筋みたいなのが……』

「そいつはその惑星の外輪だ! 他には!? どんな生き物がいるとか!」

『今、周りに……赤いヒダの動物が……前にあんたが連れてた……』

『ホアァーッ!』

 

 克海の声に混じって聞こえたピグモンの鳴き声に、ハッと顔を上げるデュエス。

 

「ピグモンだ……。外輪とピグモンがいる惑星がある、恒星が三つの星系といえば……!」

 

 空中に立体星図を出し、その内の惑星を示す点の一つを指差す。

 

「ホスター21星系! ここだッ!」

「ウッチェリーナ、ハドロン衝突型加速器のターゲットをその星の、電波の発信源に!」

 

 功海の指示で、ウッチェリーナが座標を特定する。

 

[入力完了しました! 磁気パルス上昇、発射準備完了です!]

 

 準備が整い、功海が命令を発した。

 

「目標、ホスター21! ハドロン加速砲、発射!!」

 

 タワーのアンテナから空へ光線が放たれ、時空間のゲートを開く――。

 

 

 

 時空のゲートは星と星をつなぎ、克海の頭上にも開いた。

 

「……ありがとう……!」

 

 ゲートへと引っ張り上げられる中、克海は助けてくれたピグモンたちに感謝の言葉を送った。

 

「ホアーッ!」

「キュウッ! キュウッ!」

 

 ピグモンたちはブンブン手を振り、地球へと帰っていく克海を見送った。

 

 

 

 功海たちが地下の時空間ゲート発生装置のところへ駆けつけると、ちょうど克海がゲートをくぐって帰還してくるところであった。

 

「克兄ぃ!!」

「功海ぃー!!」

 

 真っ先に手を伸ばす功海と、克海の手と手が重なり合い――克海を引き戻す。

 

「うわぁッ!」

 

 投げ出されて、もつれ合って倒れる兄弟。その周りに集まる千歌たち。

 

「克海お兄ちゃんっ! 良かった……!」

「克海さぁん……!」

「克兄ぃぃ……!」

「克海さん……!」

「克兄ぃ……!」

「克海……!」

「克海さん……!」

「オォウ……克海……!」

「克海さん……うぅ……!」

 

 千歌が、梨子が、果南が、ダイヤが、曜が、善子が、花丸が、鞠莉が、ルビィが、感涙しながら克海の帰還を静かに喜んでいる。

 克海と功海は、言葉も使わずに意志を交わし合って、ガッガッ! と手を合わせた。

 

「行こう! 綾香市が俺たちを待ってる!」

 

 復帰した克海の一番の台詞は、それであった。

 

 

 

「キュオオォォ――――――――ッ!」

 

 スネークダークネスは体力を回復すると、すぐに火を吐いて破壊行為を再開する。

 その現場に駆けつける、ウルトラマンと仲間たち。スネークダークネスに立ち向かう前に、克海が皆に告げる。

 

「あの怪獣の中には、俺の大事な友達がいるんだ! 何とかして助けたい……! みんな協力してくれ!!」

 

 リクたちが固くうなずく。

 

「ああ!」

「そういう経験もある……やってやるぜ」

「それでこそウルトラマンだ……!」

 

 克海と功海は、Aqoursの八人が見守る中、拳を打ち鳴らし合ってルーブジャイロを構えた。

 

「「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 リクと八幡はうなずき合って、光とともに二人の身体を重ね合った。

 

『ジーッとしてても!』「ドーにもならねぇ!」

 

 克海たちは極クリスタルに手を伸ばし、八幡はホルダーからウルトラカプセルを取り出す。

 

[極クリスタル!]

「「セレクト、クリスタル!」」

「ユーゴーッ! アイゴーッ! ヒアウィーゴーッ!!」

[兄弟の力を一つに!]

[フュージョンライズ!]

 

 極クリスタルをジャイロにセットして六人のウルトラ戦士のビジョンを召喚し、ジードライザーは装填ナックルをスキャン。

 

「「纏うは極! 金色の宇宙!!」」

「ジィィィ―――――――ドッ!」

 

 ジャイロのグリップが三回引かれ、ライザーのエネルギーが八幡の身体と融合し、変身!

 

[ウルトラマンルーブ!!]

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

「デュワッ!」

「シュアッ!」

 

 ウルトラマンルーブとウルトラマンジードが飛び出していく!

 

グルジオレギーナ!!

 

 千歌は撃のクリスタルをジャイロにセットして、グリップを引く。

 

「カン! カン! ミカン!!」

 

 千歌の身体が超鎧装獣グルジオレギーナのものに変身!

 

「イッツ! アワー! ショウタイム!!」

フュージョンライズ!

 

 デュエスは怪獣カプセル二本をライザーでスキャン。

 

「おおおおおおおッ! はぁッ!」

ゴモラ! レッドキング!

ルパーツ星人デュエス! スカルゴモラ!!

 

 デュエス融合獣スカルゴモラとなり、二人のウルトラマン、二体の怪獣が並び立った!

 

「克海さんっ! 功海さんっ!」

「千歌ちゃぁーんっ! がんばれぇ―――!」

「リク! 八幡! デュエス! 行けぇーッ!」

 

 仲間たちが彼らの背中に向けて、力いっぱいの声援を送る。

 

「キュオオォォ――――――――ッ!」

『『行くぞ!』』

『「決めるぜ! 覚悟!!」』

 

 向き直ったスネークダークネスに、ルーブとジードが向かっていく!

 

『『ルーブコウリン!』』

「ハァッ!」

 

 スネークダークネスのクローをジードが掴んで止め、ルーブがコウリンを胸に打ち込む。そして交互に斬撃と平手打ちを浴びせて隙を作る。

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 そこにグルジオレギーナのエルガトリオキャノンとスカルゴモラのスカル超振動波が放たれた!

 二体の攻撃は、守りががら空きのスネークダークネスを撃ち抜いたかに見えたが――青い腕に打ち払われる。

 

「あれは……!」

 

 険しい顔となるAqours。スネークダークネスの前に、トレギアが全身を現して乱入してきたのだ!

 

『よくあの星から戻れたねぇ、運のいい奴だ』

 

 トレギアはルーブを指差し、克海に向けて言った。克海は毅然と言い返す。

 

『運なんかじゃない! 家族の絆が呼び戻したんだッ!』

 

 ジードもトレギアには怒り心頭だ。

 

『人の心をもてあそぶお前を許さないッ!』

『「ウルトラマンだろうが、おふざけが過ぎるぜッ!」』

 

 八幡はベリアルカプセルとキングカプセルをスキャンして、召喚したキングソードにキングカプセルを装填する。

 

『「ジィィィ―――――――ドッ!」』

[ウルトラマンジード! ロイヤルメガマスター!!]

 

 ジード・ロイヤルメガマスターにフュージョンライズし、キングソードを武器に飛び出す。

 

『「変えるぜ! 運命!!」』

『お前たちの運命など、スネークダークネスには通用しないッ!』

 

 ジードを迎え撃とうとするトレギアだが、突進してきたスカルゴモラに足を止められた。

 

『「ジード! お前は怪獣の方をッ!」』

『ハッ……悪の心を捨てた搾りかす風情が、私を足止め出来るとでも? 笑わせるッ!』

 

 トレギアは平手打ち一発でスカルゴモラを弾き返した。

 

『「ぐッ……!」』

『悪とは力だ。お前の今の魂は元の半分以下しかない。もう以前のような力は発揮できないのだろう?』

 

 トレギアの指摘は、デュエスの図星であった。

 

『だから中途半端のゴミクズなのさ。いっそのこと、元の状態に戻れば幾らかマシになるかもしれないぞ?』

 

 指を向けて嘲るトレギアに対して、デュエスははっきり言い返す。

 

『「たとえ中途半端のゴミクズでも……俺はもう闇には沈まねぇッ! 友達が示してくれた光の道を、歩み続ける覚悟を決めたんだッ!!」』

 

 それを聞いたトレギアは、侮蔑を込めて吐き捨てる。

 

『あーあー甘い甘い甘ったるい……! 光とか唱えれば、罪にまみれた過去が消えるとでも!? 話にならないねッ!!』

 

 スカルゴモラに光線攻撃を向けようとするトレギアを、ビルの屋上に現れたズール星人が呼び止める。

 

『トレギア様、そんなカスをあなた様自ら相手なさるまでもありません。私が始末しましょうッ! おおおおおおッ!!』

 

 ズール星人の肉体が闇とともに膨れ上がっていき――怪獣の姿と変わり果てた!

 

「ピポポポポポポ……!! ゼットォーン……!」

『「あれは……!?」』

 

 絶句するデュエス。ズール星人は複製融合獣ダークオーヴァーゼットンに変身したのだ!

 

『『ワハハハハハハッ! これが偉大なるトレギア様のお力だぁッ! ルパーツ星人如きが必死こいて生み出したものなど、トレギア様の御手に掛かれば容易いもの!!』』

『「ちッ……! 当てつけかよ……!」』

 

 ジードが剣を構えてオーヴァーゼットンに斬りかかろうとするのを、スカルゴモラが制止する。

 

『「あれは俺の罪だ。俺が相手するッ! お前たちには手出しさせねぇ!」』

『無理はしないでくれ……! はぁッ!』

 

 ジードとスカルゴモラは立ち位置を変え、ジードがトレギアと、スカルゴモラがダークオーヴァーゼットンと衝突する。

 

「ハァァッ!」

「フッ……!」

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

「ゼットォーン……! ピポポポポポポ……!!」

 

 ルーブはグルジオレギーナとともにスネークダークネスと戦う。

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

「オオオオッ!」

 

 兄妹の息の合った連携でスネークダークネスの攻撃を封じ込み、ルーブのドロップキックを炸裂させる。

 高海兄妹は恐ろしい怪獣スネークダークネスにも善戦しているが、トレギアはウルトラマンキングの力を宿すジード相手に互角以上の戦いぶりを見せている。

 

「ハァッ!」

 

 ジードの剣戟を跳んでかわし、後ろ蹴りでジードを押しのけると、空中に飛び上がって高速回転を始める。

 

「シュアッ!!」

 

 回転キック、ギアギダージでジード、ルーブ、グルジオレギーナを纏めて吹き飛ばした!

 

「ギュオオオォォォ―――――ン!!」

『『うわぁぁッ!!』』

 

 途轍もない衝撃を食らい、ルーブがロッソとブルに分離され、ジードはプリミティブの状態に戻ってしまった。

 

『「お前らッ!」』

 

 焦るデュエスだが、こちらもオーヴァーゼットンの猛攻を食らう。

 

「ピポポポポポポ……!!」

『「ぐぅッ!」』

 

 鉤爪でスカルゴモラの体表を連続で切り裂く。後ろに下がったスカルゴモラは、角からスカル超振動波を発射。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

「ゼットォーン……!」

 

 だがバリアで呆気なく防がれ、暗黒火球をお返しされた。

 

『「がぁぁぁッ!」』

 

 膝を撃ち抜かれたスカルゴモラが倒れ伏し、その頭をオーヴァーゼットンが踏みつける。

 

『『ウワハハハハハハハッ! 光だ何だの言って、これが現実よッ! どうだ悔しいかぁ!!』』

『「ぐぅぅぅぅッ……!」』

 

 デュエスの覚悟を、ズール星人が嘲りながらぐりぐりと踏みにじる。

 

「そんな……克海さんたちが、こんなに簡単に……!」

「こんなことってある……!?」

 

 梨子、曜たちは、トレギアの軍勢に蹴散らされるロッソたちに絶句していた。ウルトラマンたちはカラータイマーが鳴り、既に追いつめられている。

 

『千歌、お前だけでもみんなを連れて逃げてくれ……!』

『お前は妹なんだから……!』

 

 ロッソ、ブルはせめて千歌を逃がそうとするが、千歌はそれにはうなずかなかった。

 

『妹だからなんて理由にはならないよっ! 言ったでしょ……? 私たち、ずーっと一緒だって!!』

 

 叫んだその時――千歌の精神体から光の粒子が溢れ、一人の少女の姿となって向かい合った。

 

『古き友は言った。天使は苦悩する者のために戦う。フローレンス・ナイチンゲール』

『沙紀ちゃん!!』

 

 それは千歌の前世……魂に今なお残る、沙紀の記憶が具現化したものだ。

 

『沙紀ちゃん、ほんと物知り……本当に私って沙紀ちゃんなのかな?』

『紛れもなく、千歌は私さ。いや、私を超えていく』

 

 沙紀が千歌に寄り添う。

 

『さぁ行こう、私が至れなかった境地へ。けれど、私はずっとすぐ側にいる』

『うん!!』

 

 グルジオレギーナを覆う装甲に――突然ヒビが入った!

 

「何!?」

 

 目を見張るAqours。何が起きているのか!

 

『カン! カン! ミカン!!』

 

 割れていくグルジオレギーナの肉体の中から何かがゆっくりと起き上がってきて、掛け声とともに立ち上がった!

 



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Brightest Rainbow

 

 ズール星人は、グルジオから光り輝きながら現れた人型の誰かに驚愕し、スカルゴモラから離れた。

 

『『ト、トレギア様! あれをご覧下さい!』』

『貴様は何者だッ!』

 

 指を向けて問いかけるトレギア。

 光り輝く者は、女性のウルトラマンの姿で、千歌の声を発した。

 

『カンカンミカン! 私はウルトラウーマングリージョ! 悪い人たちは、めっ! するんだから!』

 

 ビシッ! とポーズを決める、真の姿に覚醒したグリージョ!

 ……戦場と真逆の方向を向いて。

 

『……あれ? みんなどこ行ったのぉ!?』

『『こっち! こっちだって!』』

『あっ……間違えちゃったぁ!』

 

 ロッソとブルの呼び声で振り向き、てへっと照れ隠しするグリージョの姿に、梨子たちはでっかい汗を垂らした。

 

「千歌ちゃん……」

「あれ、千歌ちゃんだ……」

 

 八人とも確信していた。

 気を取り直して、グリージョが両手にエネルギーを宿す。

 

『グリージョチアミカン!』

 

 ミカン型のエネルギーボールをロッソ、ブル、ジード、スカルゴモラに飛ばして、彼らの体力を回復させた。皆のカラータイマーが青に戻る。

 

『「何でミカン……」』

『やったー!』

 

 八幡のツッコミを、グリージョはスルー。

 

『ふざけた奴だな……!』

 

 やたらとイライラしているトレギアに対して、ロッソたちが毅然と言い放つ。

 

『俺たちの絆をなめるなよ!』

『一人より二人!』

『二人より三人!』

『三人より四人!』

『「五人、六人、多けりゃ強いのは当たり前だろ!」』

『「お前らも身を以て思い知れよ! 俺みてぇに!」』

 

 並び立つ光の戦士たちだが、トレギアにひるむ様子はない。

 

『もっと強いものがある……! それは孤独な者の叫びだッ!!』

 

 トレギアのトレラアルディガイザー、スネークダークネスのトラジェディシャウト、ダークオーヴァーゼットンのダークオーヴァーメテオが襲い来る!

 

『グリージョバーリア!』

 

 三体の猛攻撃を、グリージョがバリアで防御。闇のエネルギーを完全に遮断し切った。

 

『ちッ……!』

 

 トレギアは苛立たしそうに肩をかきむしり、スネークダークネスとダークオーヴァーゼットンを連れて突進してくる。

 

『行くぞッ!』

『おうッ!』

『よぉーしっ!』

 

 それを迎え撃つロッソたち!

 ロッソとブルがスネークダークネスに蹴りかかり、ジードがトレギアを捕らえて肉弾にもつれ込む。スカルゴモラはオーヴァーゼットンにぶちかまして押し込んでいき、グリージョは兄たちに混ざってスネークダークネスと戦う。

 

『えいえいえいっ! パーンチ!』

 

 ロッソとブルが抑えるスネークダークネスをポカポカ殴るグリージョだが、効果がない。ならばとトレギアに拳を向けるも、軽々止められ殴り返される。

 

『わぁっ!』

『おっと、しぃつ礼』

『千歌ッ!』

「あぁっ! 千歌ちゃんに何するんだーっ!!」

 

 激怒する曜たちの耳に、ある叫び声が聞こえる。

 

「ゆきおっ! ゆきおーっ!」

 

 中年女性が、そう叫びながら必死に無人の街を走り回っているのだ。

 ロッソがそれを目にして、驚愕する。

 

『戸井のお母さん……!』

『何だって!?』

 

 ジードたちもギョッと振り返った。

 戸井の母親の幸江は、消えた息子をひたすら捜し回っていたのだ!

 

「と、戸井さん! 危ないですよ! 早く逃げて下さい!」

 

 果南たちがすぐに幸江の下へ駆け寄って逃がそうとするが、彼女は踵を返さない。

 

「放して! 私の息子がどこにもいないの!! あの子を置いて逃げられないっ!」

 

 その時、スネークダークネスが全身から火炎弾を見境なく乱射する。

 

『わぁぁぁッ!』

『危ないッ!』

 

 ロッソたち兄妹が足を取られる中、火炎弾が幸江らにも及びそうになったので、ジードが身を挺して彼女らをかばった。

 

『うわああぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

「ジードさんっ!!」

 

 ルビィたちが悲鳴を上げる中、ジードは火炎弾の雨を防ぎ切ったものの、変身が解けて八幡が投げ出された。

 

「くぅッ……! 大丈夫ですか!」

 

 八幡はそれでも幸江をかばい、彼女を助け起こした。

 ジードの変身が解けたことで、トレギアは気を良くする。

 

『おっと、楽しいひと時はあっという間だなぁ。そろそろとどめと行こう。スネークダークネス!』

 

 スネークダークネスが、動けないロッソたちを狙う!

 

『まずいッ!』

『「おいやめろぉッ!」』

 

 スカルゴモラがスネークダークネスに飛びつこうとしたが、オーヴァーゼットンに殴り返されて止められる。

 

「くッ!」

 

 八幡が精いっぱい身体を広げて少しでも梨子たちの盾となろうとしたが――幸江の叫び声で、スネークダークネスに異常が起こった。

 

「ゆきおっ! ゆきおぉーっ!」

「……!」

 

 幸江の声に、スネークダークネスが反応して振り向いたのだ。

 

『『何だ? どうした?』』

 

 スカルゴモラと殴り合っていたオーヴァーゼットンも、スネークダークネスの動きが急に鈍ったことに戸惑う。

 ジードは八幡の身体から、スネークダークネスに向けて叫んだ。

 

『おいッ! この声が聞こえないのか! 君のたった一人のお母さんだろ!!』

「え……」

 

 幸江がその声を受けて、スネークダークネスを見上げた。

 彼女と目が合ったスネークダークネスは、ますます狼狽える。

 

『母……さん……』

 

 幸江を思い出し、スネークダークネスに変貌している戸井が正気を取り戻しつつあるのだ。

 固まっているスネークダークネスにトレギアが詰め寄る。

 

『おいおいどうした! お前は最強最悪のスーパースターだったろ? 今更親子の情がどうとか言うんじゃないだろうな。踏み潰せ』

『お……俺はぁ……ッ!』

 

 冷酷な命令に苦悩する戸井に、ロッソが呼び掛ける。

 

『戸井ッ! そこにいるんだろ? 戻ってこいッ! 悪意に呑まれるな! 自分だけ心地のいい場所にいるな!』

『『ええい、うるさい奴め……!』』

 

 ロッソの説得に横槍の暗黒火球を撃とうとするオーヴァーゼットンに、スカルゴモラがタックルを決める。

 

『「邪魔すんなよッ!」』

『『ぬぅぅッ!』』

 

 力を振り絞って押し、遠ざけていく。

 

『たとえ傷ついても俺たちは、先に進まないといけないんだよ!!』

『あ……あ……!』

 

 母と親友の言葉に、戸井が苦しみながらも自分を取り戻そうとしている。

 だが、

 

『あーあ……いつまで家族のみみっちい話を見せられなきゃいけないんだよッ!』

 

 トレギアが手の平から闇のエネルギーをスネークダークネスに浴びせ、戸井の意識を暗闇の中に呑み込んだ!

 

『うッ、うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!』

『戸井ぃぃぃぃ!?』

 

 スネークダークネスから完全に戸井の心が消え去り、完全に凶悪な怪獣となり果てて滅茶苦茶に辺りを焼き払い出す!

 

「キュオオォォ――――――――ッ!!」

『うわあぁぁぁぁぁ――――!!』

 

 トラジェディシャウト・ヘルで纏めて吹っ飛ばされるロッソたち。トレギアの所業を目の当たりにしたデュエスは絶句。

 

『「き……汚ねぇッ!」』

 

 八幡は幸江の腕を引いて必死に逃がす。

 

「戸井さん、早く!」

「私たちも!」

「ルビィもこちらへ!」

「うん! ……あれ?」

 

 果南たちも逃げようとする中、ルビィがあることに気づいた。

 

「鞠莉ちゃんは?」

「えっ……いないわ! いつの間にか!」

 

 善子たちが辺りを見回し、鞠莉が欠けていることを知った。

 そこに、綾香まで乗ってきた『四つ角』の送迎車が彼女たちの前に走ってくる。花丸が吃驚。

 

「あれ!? 誰が運転してるずら!?」

「私よ! 早く乗って!」

「鞠莉ちゃん!!」

 

 運転席のドアを開いたのは鞠莉であった。

 

「鞠莉ちゃん、準備いいずら!」

「予知能力の持ち主では……!」

「馬鹿言ってないで急いで! ここは危ないわ!」

 

 鞠莉の言う通り、トラジェディシャウト・ヘルが彼女たちへ飛んでくる!

 

「きゃあっ!?」

『「おおおおおッ!」』

 

 そこへスカルゴモラが走り、自らの身体で熱線を受け止める。

 

「『デュエス!!」』

『「ぐああああああッ!!」』

 

 肉が炭化するほどの重傷を負うが、それでもデュエスは必死に立っていた。

 

『「やらせるか……正気に戻った時に、母親手に掛けたなんてこと見せつけられるかよ……!」』

『『まだこの地球人が元に戻ると思ってるのか!? どこまで愚かになったのやら!!』』

『「がぁぁぁぁぁぁッ!!」』

 

 オーヴァーゼットンも火球を食らわせるが、身体を支え続ける。

 デュエスが時間を稼いでいる内に、八幡が幸江たち皆を車に乗せる。

 

「みんなはこの人を安全なところに!」

「任せて!」

「あの……!」

 

 鞠莉が敬礼する中、八幡の腕を掴んだ幸江に、彼は無言でうなずいた。

 

「……!」

 

 何も言わなくとも理解した幸江は、息子の命運を託して、鞠莉たちと車で逃げていく。

 

「キュオオォォ――――――――ッ!!」

「ピポポポポポポ……!!」

『うわぁぁぁッ!』

『ぐうッ!』

 

 文字通り身を焼かれるデュエスをかばって火炎弾をロッソたちが食らったところへ、八幡が駆け戻ってくる。

 

『もう……駄目……!』

 

 ぜいぜいあえぐグリージョに、ジードが叫んだ。

 

『あきらめるな!』

『え……?』

『君は言ったよな。家族の絆は、もっと大きなものだって!』

 

 八幡も倒れている兄妹たちへ告げる。

 

「決して絆をあきらめるな……! それが家族!! それがウルトラマンだぜ!!」

 

 そしてジードとともに、ギガファイナライザーを握り締める!

 

「ウルティメイトファイナル!」

『シェアッ!』

 

 エボリューションカプセルのスイッチを入れ、ギガファイナライザーのスロットに装填。ジードライザーでスキャン!

 

[アルティメットエボリューション!!]

「『つなぐぜ! 願い!!」』

 

 スイッチを押してレバーをスライドし、穂から羽をせり出して駆け巡るエネルギーを纏った。

 

「『ジィードッ!!」』

 

 ジードが本来の姿を経て、更に進化した形態へと変身!

 

[ウルトラマンジード!! ウルティメイトファイナル!!!]

「シャアアアアッ!」

 

 究極形態のジード・ウルティメイトファイナルが堂々着地し、八幡のホルダーから二本のカプセルが飛んでデュエスの手にキャッチされた。

 

『「これは……!」』

 

 ネクサスカプセルとウルティメイトゼロカプセル。決してあきらめない心に反応して、力を貸し与えるというのだ!

 デュエスはうなずき、カプセルを交換する。

 

『「ユーゴーッ! アイゴーッ! ヒアウィーゴーッ!!」』

[ウルトラマンジード! ノアクティブサクシード!!]

 

 スカルゴモラが光に包まれ――銀の鎧と剣を装着したもう一人のジードとなった!

 

『「はぁッ!」』

 

 デュエスはジードの起こす奇跡、ジードマルチレイヤーでウルトラ戦士の資格を授かったのであった!

 

『『ふざけた真似を……! クズがウルトラマンになったところでたかが知れぐべぇぇぇぇぇッ!?』』

 

 ズール星人の侮蔑は、音速で飛んできたノアクティブサクシードの拳で途切れた。バウンドして吹っ飛ぶダークオーヴァーゼットン。

 

『『ぎえええぇぇぇぇぇぇぇッ!! 目がぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッ!!』』

 

 顔面に拳がめり込んだオーヴァーゼットンが奇声とともにのたうち回る。それに呆れた眼差しを向けるトレギア。

 

『みっともない……何てザマだ』

 

 デュエスはジードの隣に並んで、顔を向ける。

 

『「最初からやれよ」』

『「お前野暮だろそれは」』

 

 ロッソたち三兄妹は、ジードたちの勇姿を見上げて、奮起していた。

 

『決して絆をあきらめない……それが家族ッ!』

『『『それが、ウルトラマン!!!』』』

 

 ロッソ、ブル、グリージョが円陣を作り、手と手をつなぐ。

 

『『『ふッ!』』』

 

 三人のカラータイマーから発したエネルギーが一つに交わり――消え去った真クリスタルが戻ってきた!

 

[真クリスタル!!]

『『『セレクト、クリスタル!!』』』

 

 克海の精神が真クリスタルを手にして、角を開く。

 

[重ねろ!! 三つの魂!!!]

 

 真の文字の下から、三人が一つとなった戦士の顔の絵が現れ、クリスタルをジャイロにセット!

 ロッソ、ブル、グリージョのビジョンが一つに融合する!

 

『『『纏うは真!! 不滅の真理!!!』』』

 

 ジャイロのグリップが三回引かれると、兄妹の精神の元に「真」の一文字が浮き出た。

 

[ウルトラマングルーブ!!!]

『『『はぁぁ―――!!!』』』

 

 三人の声が一つの声となって、合体超戦士が極彩色に煌めく光の中を、腕を突き上げ飛び出していく!

 

「シュワッ!」

 

 高く飛び上がり、悠然と着地したのは、今ここに再び降臨した三兄妹の絆の極致、ウルトラマングルーブ!

 

『フフフ……! 何だ、面白いな……!』

 

 あまりの事態に逆に肩をゆすって笑うトレギアの両隣に、スネークダークネスとダークオーヴァーゼットンが並ぶ。

 グルーブの元にも、ジード・ウルティメイトファイナルとノアクティブサクシードが並んで、光と闇の陣営が対峙した。

 

『フッ……私は残業はしない主義でね。失敬するよ』

 

 トレギアは真っ先に冗談めかして飛び上がり、卑劣にも幸江たちを乗せて逃げる車を追いかける!

 

『『『待て!』』』

 

 当然許さず、空を飛んで追うグルーブ! ジードたちはスネークダークネスとオーヴァーゼットンと衝突した!

 

「シュワッ!」

「フンッ!」

 

 追ってくるグルーブにトレラアルディガを放つトレギア。防いだグルーブがトレギアに飛び掛かり、腕を掴んで蹴り飛ばす。滑りながら着地するトレギアから全速力で逃げる鞠莉たち。「きゃああっ!」グルーブのパンチをかわしたトレギアは背後を取って両眼からオプトダリクスを照射。車をかばって受けたグルーブは、車が離れるとトレギアに向かっていく。ヒラリとよけて二発目を放つトレギアに、グルーブは光線を手で防ぎながら己のエネルギーを拳に溜めて、一気に距離を詰める。「ハァッ!」グルービングスマッシュがトレギアの頬に突き刺さった! 「グアアアアッ!」だがトレギアは耐え、グルーブの腕を掴んで投げ飛ばす。グルーブは飛行しながらトレギアと激しく肉弾を交わし、走る車の前方にはダークオーヴァーゼットンがワープしてきて暗黒火球を放つ。「ピポポポポポポ……!!」『「おおあッ!」』だがノアクティブサクシードが車を追い抜いて火球を斬り捨て、オーヴァーゼットンに体当たりして突き飛ばす。車が左に曲がって離れる中、グルーブがトレギアに拳を振るうがよけられ、顔面に飛び蹴りを食らう。「ハァッ!」「ウアアアアッ!」車道に押しつけられた上に投げつけられたグルーブが、陸橋に激突した。

 

「グゥゥ……!」

「シュアッ!」

 

 トレギアは更にグルーブに飛び掛かり、高層ビルに叩きつける。ビルを貫通するグルーブ。

 

「ウワァァッ!」

「ハッハッハッ!」

 

 ジードもスネークダークネスにビルに抑えつけられ、ジードが横に転がって逃れたところに、トレギアとグルーブがそのビルも貫通した。

 グルーブは空中でトレギアを押しのけ、胸にエネルギーを集中。

 

『『『デルタブレストランサー!!!』』』

『トレラアルディガ!』

 

 グルーブとトレギアの光線がぶつかり合い、撃ち合いに発展する真下ではジードがギガファイナライザーでスネークダークネスを打ち据える。

 

「キュオオォォ――――――――ッ!!」

「ハァッ!」

「ゼットォーン……! ピポポポポポポ……!!」

『「だぁッ!」』

 

 ノアクティブサクシードも空を舞いながらオーヴァーゼットンと剣と鉤爪で競り合い、グルーブから遠ざける。グルーブはトレギアのトレラケイルポスで狙われる。

 

「フハハハハッ!」

「ハッ! トォッ!」

 

 光線を受けながら前進するグルーブがトレギアと四つを組み、一瞬の隙に拳を浴びせた。

 

「タァッ!」

「グゥッ!」

 

 地上のスネークダークネスはクローでギガファイナライザーを押さえ、ひねり上げてジードの手から弾き飛ばす。

 

「キュオオォォ――――――――ッ!!」

「ウゥッ!」

 

 至近距離からトラジェディシャウト・ヘルを撃たれるも、耐え続けるジード。

 

[ほとばしれ!! 真の力!!!]

 

 グルーブは太陽をバックに、ルーブコウリンに開いた真クリスタルをセットして、トレギア目掛け光線を発射!

 

『『『グルーブボルテックバスター!!!』』』

 

 直撃を食らって転落していくトレギア!

 

「ウワァッ!?」

 

 一気に地上へ突き落とされたトレギアが、スネークダークネスと激突。もつれ合って倒れた。

 

『『ぬぅぅぅ、何ということ! おのれ邪魔だぁぁぁぁッ!』』

 

 ズール星人が憤慨して、最大威力のダークオーヴァーメテオをノアクティブサクシードに発射!

 

『「おおおおおおッ!」』

 

 しかしノアクティブサクシードはきりもみ回転しながら突撃し、火球を真っ二つに裂いてオーヴァーゼットンに肉薄! 咄嗟にバリアで身を守るが、

 

『「ソードレイ・オーバードライヴ!」』

 

 Z字の斬撃が、バリアも破ってダークオーヴァーゼットンに刻み込まれた!

 

『『ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――!!!』』

 

 肉体が崩壊しかけるオーヴァーゼットンが、頭を振って起き上がるところのトレギアの足下にワープしてきてすがりつく。

 

『『トレギア様ぁぁぁ! お助け下さいッ、トレギア様ぁぁぁぁ!』』

 

 必死に懇願するズール星人に――トレギアはニヤリとほくそ笑んだ。

 

『いいところに来た。お前に貸した力、返してもらうよ。利息も込みでね……』

『えッ……!?』

 

 オーヴァーゼットンの首根っこを鷲掴みにして宙吊りにすると――肉体を破壊してエネルギーに変え、吸収していく!

 

「フゥゥゥゥゥ……!」

『ぎやあぁぁぁぁ――――――――――!? ト、トレギア様ぁぁぁぁぁぁ―――――――ッ!!』

 

 トレギアの凶行に、グルーブたちが唖然。

 

「ハッハッハッ……!」

 

 ズール星人の命ごとパワーを吸い取ったトレギアが、ゼットン型の鎧を装着し――ウルトラマントレギア・ダークオーヴァーにパワーアップした!

 

『「何しやがるッ! 仲間だぞ!?」』

 

 八幡の非難も、トレギアは意に介さない。

 

『力は一つにするのに限る。君たちと同じさ……』

『『『違う! 絆の力は、犠牲を強いる心じゃない!!』』』

 

 グルーブが否定しても、トレギアには聞く耳もなかった。

 

「ハァァァァァァ―――――――ッ!!」

 

 オーヴァートレラアルディガイザーが、グルーブたちを一挙に吹き飛ばす!

 

「ウワアアァァァァァァッ!!」

 

 街ごと爆破で薙ぎ倒されるグルーブたち。中でも、あくまで仮初であるノアクティブサクシードがカラータイマーを点滅させて片膝を突いた。

 

『「ここまでか……!」』

『「お前、何弱気吐いてんだ! ここまで来といて!」』

 

 八幡の叱咤に、デュエスは不敵に笑み返す。

 

『「いいや。こっちも借りた分、返すってことだよ。倍返しでなッ!」』

 

 残された力で剣を空中に振り抜き――次元の道を開く!

 

『「さぁ、来いッ!」』

『何の真似だ……!?』

 

 強く警戒するトレギア。

 全ての力を使い果たして消えていくノアクティブサクシードに代わるように、次元の道から光の雫がジードのカラータイマーに飛んできた。

 そしてインナースペース内の八幡の元に、四人の女性たちが並ぶ。

 

『「やっと見つけたわ」』

『「急にいなくなったって聞いたから、すっごい捜してたんだよ!」』

『「全く、私まで呼び出すとは……」』

『「また大変なことになってますねー、先輩」』

『「……雪乃! 結衣! 平塚先生に、一色も!」』

 

 八幡とジードの仲間たちだ! デュエスは最後の力で、彼女たちをこの世界に呼び寄せたのだ。

 

『「デュエスが待機するよう連絡したのは、こういうことだったのね」』

 

 肩をすくめる雪乃。デュエスは路上でへたり込みながら、満足げに笑う。

 

「はははッ! 本当の切り札は、最後まで隠しとくもんさ」

 

 八幡たちはすぐにやるべきことを理解し、五人の手を重ね合わせた。

 

[エボリューション・アンリミテッド!!]

「「「「「『願いをつないで!! 限界の先へ!!!」」」」」』

 

 ジードたちの心と絆が合わさり、ウルティメイトファイナルがパワーアップする!

 

「「「「「『ウルトラマンジード!! ウルティメイトアドヴァンス!!!」」」」」』

 

 ソリッドバーニングの右腕、アクロスマッシャーの左腕、マグニフィセントの下半身、ロイヤルメガマスターの胸部とマントの、限界突破した奇跡の形態! ウルティメイトアドヴァンス!

 

「ジードさんが、更に進化を……!」

「すごい……!」

 

 梨子たちの車の前に、アイゼンテックの社用車が停まる。

 

「みんな、ここからは戸井くんのお母さんは私に任せて!」

「克海くんのお母さん! 相変わらずお若い!」

 

 運転してきたのは高海家の母だ。素早く幸江を預かると、Aqoursにグルーブを目で指す。

 

「話はウッチェリーナから聞いてるわ。あなたたちは、うちの子たちを助けてあげて。みんなの力を合わせれば、戸井くんを取り戻せる!」

「千歌ちゃんのお母さん……!」

「みんなは輝くスクールアイドルのAqoursだもんね! どんな闇も照らせるわよ!」

 

 高海家の母の言葉に、Aqoursは気力に溢れた。

 

「「「「はい!!!!」」」」

 

 そして幸江を託し、八人の車は反転してグルーブに向かって駆けていく。

 

「克海さん!」

「功兄ぃ!」

「「「千歌ちゃーんっ!!!」」」

「「「「今行くからねー!!!!」」」」

 

 心いっぱいの想いを乗せた声が、グルーブに届く。

 

『『『みんな!!!』』』

 

 Aqoursの声に反応して、三つのジャイロが回転し――Aqoursの想いをクリスタルに具現化した!

 真円の、「絆」と刻まれた虹色のクリスタルだ!

 

「「「「!!!!」」」」

 

 そしてAqoursは絆クリスタルと光になって、グルーブのカラータイマーの輝きと一つになる。

 

『『『はっッ!!!』』』

[絆クリスタル!!]

 

 絆クリスタルを受け取った克海、功海、千歌の周りに、Aqoursの八人が並び立った。

 彼らに言葉はいらない。ここにいるだけで気持ちは通じ合い、絆クリスタルがルーブジャイロへ飛んでいく。

 

「「「「『『『セレクト、クリスタル!!」」」」』』』

[つながれ!! 日輪の如く!!!]

 

 クリスタルがジャイロに嵌まり、十一人の心が一つに重なる!

 

「「「「『『『纏うは絆!! 永久なる希望!!!」」」」』』』

 

 グリップが三回引かれて、皆のパワーが合体した!

 

[ウルトラマングルーブ!!! サンシャイン!!!]

「シュワッチ!」

 

 グルーブの身体に、桜色、翠、赤、水色、白、黄色、紫、ピンクのラインが巡って、パワーアップ!

 これが兄妹とAqoursのたどり着いた世界、希望の太陽たるウルトラマングルーブ・サンシャインだ!

 

『ぁぁああああッ! 限界を知らないのかお前たちッ!!』

 

 絆の起こす奇跡をまざまざと見せつけられたトレギアは、いら立ちが最高潮になって全身をかきむしった。

 

『「その先へ行ってるって言っただろうが!」』

『『『希望は決して消えない!!! 闇の底まで照らしてみせる!!!』』』

 

 究極をも超越したジードとグルーブは、全ての決着を着けるために飛び出していった!

 



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Next Dream!!!

 

 グルーブ・サンシャインはスネークダークネス、ジード・ウルティメイトアドヴァンスはトレギアとぶつかり合う。

 

「キュオオォォ――――――――ッ!!」

「ハァァァァッ! ヘアァッ!」

 

 十一人もの絆を合わせて力を引き出しているグルーブは、スネークダークネスの攻撃を最早寄せつけない。クローをあっさり弾いて、打撃だけで押し返す。

 

「フッ!」

 

 ジードのギガファイナライザーの振り下ろしを、トレギアは飛びすさってかわした。ひっかきや回し蹴りをジードも防御。

 

「ハァッ!」

「『ギガスラスト!!」』

 

 オーヴァートレラケイルポスを、ギガファイナライザーから発生した光の槍が相殺する。

 

『まだまだ……オーヴァートレラアルディガイザーッ!』

 

 トレギアが放った最大の光線は、ジードではない、グルーブに向けられた!

 

「ワァァァァッ!?」

 

 不意打ちに吹っ飛ばされたグルーブは、ビルを何棟も巻き込みながらも止まらず、数キロも引きずられてやっと停止した。

 

「フハハハハ! フハハハハハハハッ!」

 

 卑怯な手に出て嗤うトレギアに、雪乃たちは蔑視を向ける。

 

『「涼しい顔して、汚泥にも劣るクズね……! 八幡くんだってかわいいわ」』

『「お前って奴は、こんな時までなぁ……」』

『「えーっと、グルーブさんだっけ。大丈夫!?」』

 

 結衣の呼び掛けに、グルーブは胸を張って立ち上がることで答えた。

 

「フッ!」

『「ふふ、別世界の子たちもたくましい」』

『「今度はこっちの番ですよっ!」』

 

 ジードがトレギアに肉薄し、ギガファイナライザーを振るう。

 

「ハァァッ!」

「フゥッ!」

 

 身をくねらせて棍をよけるトレギアは、脇に挟み込んでジードと顔を突き合わせる。

 

「アァァァァ……!」

 

 トレギアはやたらと怒気を含んで、ジードに眼を飛ばした。

 

「キュオオォォ――――――――ッ!!」

 

 グルーブは戦線復帰して、スネークダークネスのクローを受け止めると顎に輝くアッパーをぶち込んだ。

 

「シュアッ!」

「キュオオォォ――――――――ッ!!」

 

 のけ反ったスネークダークネスが背を向け、先端が裂けた尾を伸ばす。

 グルーブはそれを捕らえ、脇に抱え込みながら一本背負い!

 

「ヘアァァーッ!」

「キュオオォォ――――――――ッ!!」

 

 トレギアを振り払ったジードは、すかさずギガファイナライザーの羽より光線を発射。

 

「『ライザーレイビーム!!」』

「グゥッ!」

 

 高威力の光線がトレギアを撃ち、大きくひるませる。

 ここでグルーブは背中からルーブコウリンを取り出し、絆クリスタルをセット!

 

[煌めけ!! 絆の力!!!]

「「「「『『『フレイム・ボルテックバスター!!!!!!」」」」』』』

 

 コウリンから放たれた、虹色に燃え盛る螺旋状の光線が、トレギアに直撃!

 

「グワァッ!?」

 

 凄絶な爆撃が、トレギアの暗黒の鎧を砕いた!

 

『「強いのは孤独な者の叫びだって? 中二病は痛々しいだけだぜッ!」』

 

 そしてジードがギガファイナライザーを側に置き、腕を大きく回しながら光と闇のエネルギーを充填し、十字を組んでほとばしらせる!

 

「「「「「『レッキングゴッドノヴァ!!!!!!」」」」」』

 

 神々しく輝く光線を、一身に浴びるトレギア!

 

「グワアアアァァァァァァァァァァァァ―――――――――――――!!!」

「キュオオォォ――――――――ッ!!」

 

 ジードと背合わせになるグルーブが、コウリンから水に包まれた光刃を投げ飛ばす!

 

「「「「『『『アクア・コウリンショット!!!!!!」」」」』』』

 

 光刃に貫かれたスネークダークネスが、水泡に覆われて完全に動けなくなった。

 

「ハァァァァァッ!!」

 

 ジードの必殺光線を受け続けるトレギアが、うめきながら叫ぶ。

 

『これが絆の力か……! 勉強になったぁぁぁぁぁ―――――――――ッ!!!』

 

 それを断末魔に、トレギアは木っ端微塵に消し飛んだ。

 トレギアが遺した悪意、スネークダークネスには、頭上を取ったグルーブが最後の一撃を見舞う。

 

「「「「『『『グルービングサンシャイン!!!!!!」」」」』』』

 

 十字に広げた四肢と全身より、虹色の煌めきの光線を放射! スネークダークネスに降り注ぐ!

 

『――あ、あ、あああ……!』

 

 輝きに満たされて、闇に沈んでいた戸井の精神がよみがえってきた。

 

「キュオオォォ――――――――ッ!!」

 

 そうしてスネークダークネスの肉体は光に昇華されて爆散。それを背にしたグルーブが決める。

 

「「「「『『『これが、真の家族の力だ!!!!!!」」」」』』』

 

 戸井はスネークダークネスから解き放たれ、地上に伏せながらも無事に生還した。

 ジードとグルーブは面と向かい、拳を打ち鳴らし合って健闘を称えた。

 

 

 

「うッ、うぅぅッ……俺……俺は、何てことを……!」

 

 横たわりながら、正気に返ったことで自責の念に駆られている戸井の元へ、克海たちが駆けつけてきた。

 

「……!」

 

 克海は無言で、戸井に「夢」のボールを握らせる。

 

「これはお前が持ってろ!」

「……うぅぅぅ……! 俺が……俺が馬鹿だった……!」

 

 戸井は泣きじゃくりながら、ボールをひしと握り締めた。克海は笑顔になる。

 果南たちも、戸井に励ましの言葉を掛けた。

 

「戸井さんのゲームが世に出るの、いつまでだって待ってるからね」

「ああいう怪獣が出てくるのばかりでなく、スクールアイドルのゲームも所望しますわ」

「スクールアイドルのリズムゲーとか、待ってるデース!」

「ありがとう……ありがとうッ……!」

「ゆきおー!」

 

 戸井から大粒の涙がこぼれるところに、高海家の母に連れられた幸江が息子の下へと駆けつけてくる。

 

「母さん……! 母さーんッ!」

「ゆきおぉッ! 良かった……!」

 

 母親とひっしと抱きしめ合う戸井。

 

「母さん、今までごめん……! 俺、もう夢捨てないから……! 頑張るから……!」

「そう……ゆきおは偉いわね……」

 

 全てが解決し、腐っていた心がよみがえった戸井を見つめながら、克海は思う。

 ――結局、俺はウルトラマンなのか、高海克海なのか……正解はどこにもない。だから、少しずつ正解を作っていくしかないんだ。俺は歩き続ける……夢と一緒に!――

 

 

 

 事件解決後、リクたちは内浦の外れの森に停めたデュエスの円盤で、彼らの世界に帰還することとなった。

 

「こんなに間近に円盤ずら! 未知との遭遇ずら~!」

 

 花丸が興奮している一方で、いろはは唇を尖らせる。

 

「私たち、さっき来たとこなのにもう帰るなんて。ゆっくり出来ないんですか~?」

「小町さんたちが心配しているのよ。早く八幡くんの顔を見せてあげないと」

「ちぇ~」

 

 残念がるいろはを尻目に、リクとペガは克海たちに頭を下げる。

 

「皆さん、お世話になりました」

「ありがと、お土産!」

 

 千歌はリクたちに笑顔を返す。

 

「またこっちの世界に来たら、今度は『四つ角』に泊まってね!」

「今度は父さんの料理を食べさせてあげるよ」

 

 克海も歓迎するが、功海だけは釘を刺す。

 

「ただし! 男どもは千歌にはあんま近づくなよ~。特に比企谷は、千歌に抱き着かれやがって」

「ちょッ! その話は……!」

 

 八幡が慌てて止めようとしたが、その肩に後ろから、雪乃の手がポンと置かれた。

 恐る恐る振り返ると……そりゃあもうすごい笑顔の雪乃。

 

「八幡くん……帰り道に、詳しい話を聞かせてもらいますわよ?」

「ゆ、雪乃さん……口調がおかしいですことよ……」

 

 どんな敵を前にした時よりもビビッている八幡の様子に、結衣たちは肩をすくめた。

 

「もう、ハッチーったら、ゆきのんがいるのに……」

「先輩……ちょっと目を離したらこれだ」

「比企谷も何のかんのでタラシだからな……」

「待ってくれよ! 誤解だこれはッ!」

「お前ら……アホやってると置いてくぞ」

 

 デュエスが呆れ顔で円盤を親指で指し、搭乗を促した。

 

「皆さん、短い間でしたがお世話になりました」

「今度はゆっくり会おうね~!」

「息災でな! いい男も紹介してほしい!」

「失礼致しま~す!」

 

 雪乃、結衣、平塚、いろはと円盤に乗り込んでいく中で、八幡がデュエスにひそひそ話しかける。

 

「ところで……あのトレギアって奴の最期の言葉、おかしくなかったか? 勉強になったって……」

「確かに。どう見ても爆死したんだがなぁ……」

 

 腕を組んで怪訝な顔をするデュエス。

 

「まぁでも、稀に死んでもよみがえる奴もいるしな。予断は出来ん」

「説得力ありすぎだろ……」

「お前にゃ負けるぜ」

 

 軽口を叩き合いながら、見送る千歌たちに手を振り返して円盤に乗っていく二人。

 

「それじゃ」

「皆さんありがとう! またね~!」

 

 最後にリクとペガが手を振り、全員を乗せた円盤が地球を離れていく。

 

「さようなら~!」

「お元気で~!」

 

 千歌たちが大きく手を振り続けて、円盤が見えなくなるまで見送った。

 そして帰路に着く中、曜がつぶやく。

 

「それにしてもすごかったよね、真の家族の力! 合体してる間、テンション爆上がりだったよ!」

「まぁ、私たちは家族とは違うんだけどね」

 

 梨子が自嘲するが、千歌たちは皆に振り向いてニコニコと笑いかける。

 

「そんなことないよ! 私だってお兄ちゃんたちの妹なんだし、Aqoursのみーんな家族だよ~!」

「ちょっ!? 千歌ちゃんそれは……!」

「い、意味分かって言ってるの……!?」

「ほえ?」

 

 梨子たち八人は、克海と功海の顔を一瞥して、真っ赤になって顔を背けた。

 変な空気になる中で、今度は克海が皆に呼び掛ける。

 

「みんな、ちょっと聞いてほしい。俺の夢の話だ」

「おッ、克兄ぃ。自分のやりたいこと決まった?」

 

 功海に力強くうなずいて、克海が宣言する。

 その目に映るのは、絆を結び合った大事な仲間たち。そして彼らがいる町の景色。

 

「俺はみんながいる内浦が好きだ。綾香市が好きだ。『四つ角』が好きだ。――だからこの町を、ウチをもっといいところにして、世界中の人にも知ってもらいたい。……宿泊業の勉強がしたいんだ!」

「宿泊業の……」

「勉強……!」

 

 功海や千歌たちが感心する中で、鞠莉が克海に申し出る。

 

「それなら……パパの会社の系列で、ミラノでマネージャーを募集してるホテルがあるの。そこで勉強してみない?」

「いいのか、鞠莉ちゃん……!」

「私からパパとママに口添えするわ。ただし、かなり大変よ? 知ってる人がいない、全然違う環境に放り出されて、克海はめげないでいられるかしら~?」

 

 あえて意地悪なことを聞く鞠莉に、克海は全力で答えた。

 

「やり切ってみせるさ! 戸井との約束だ!」

 

 待ち望んでいた答えに、功海たちは笑顔を交わし合った。

 

 

 

 ――カリフォルニアとミラノ、それぞれの場所への旅立ちの国際空港で、克海と功海は新しい出発の時を迎えていた。

 

「功兄ぃ、克兄ぃ! 海外でも元気でね!」

「長いお休みの時は、お顔を見せに帰ってきて下さい!」

「その時は海外の美味しいお土産、楽しみにしてるずら~!」

「ふふ……どこにいても、堕天使ヨハネはあなたたちを見守っているわ!」

 

 曜、ルビィ、花丸、善子が二人に激励の言葉を掛けている。

 克海の海外就職を推薦した鞠莉は、電話で親に礼を告げていた。

 

「Thank you! ママ! 克海の話、快く受け入れてくれて!」

『いいデースよ、これくらい! と言うより……そういうことなら、もっと早く言ってくれれば良かったデスのに』

 

 今の発言に、鞠莉が小首を傾げる。

 

「? 何の話……」

『またまたぁ~。だから結婚の話、あんなに嫌がってたんデースね! もうこれと決めた人がいたのなら、ママに報告しておいてほしいデス!』

 

 鞠莉が一瞬固まった後……ピーッ! と頭から湯気を噴き出した。

 

「Wait!! ママ、そ、それは誤解……!」

『OK, OK. 後のことはぜーんぶママに任せてくっだサーイ! 彼をどこに出しても恥ずかしくない、立派なオハラの跡継ぎに育て上げてみせマース!!』

「だ、だからぁっ! そりゃ、そういうことちっとも考えてない訳じゃないけど……!」

「鞠莉ちゃん……?」

 

 ハッ! と振り向くと、梨子、果南、ダイヤがすっごい顔で立っていた。

 

「聞き捨てならないわね、今のは……」

「そんな工作する下心あったんだね、鞠莉……知らなかったよ……」

「今晩はじっくり語り合いましょう……ええ、それはもうじっくり……」

「ま、待ってみんな! 落ち着いて! は、話せば分かりマース!!」

 

 アー!! と鞠莉が叫んでいるのを尻目に、千歌が兄たちに笑いかける。

 

「克海お兄ちゃん! 功海お兄ちゃん! チカたち、お兄ちゃんたちの夢が叶うのをずっと応援してるからね!」

「ありがとな、千歌」

「俺たちも、みんなの歌を海外でも聴いてるからな」

「えへへ……がんばってね!!」

 

 千歌たちに見送られて、それぞれの搭乗口へと別れる手前で、克海と功海が顔を合わせる。

 

「いよいよ新しい生活の幕あけだな……」

「これからも色んなことが山積みなんだろうな」

「ああ……いっぱい楽しんで、いっぱい苦しんで、いっぱい笑って、いっぱい泣こう!」

「ああ! 俺たちの冒険は……」

「「始まったばかりだ!!」」

 

 兄弟はパンッ! と手を重ね合わせて、それぞれの道への第一歩を踏み出した。

 

「「「「いってらっしゃーい!!!!」」」」

 

 Aqoursが兄たちの旅立ちを、盛大に送り出した。

 そう……ここからが、彼らの始まりだ――!

 

 

 

ウルトラブライルーブ!サンシャイン!! 特別編

『Select!! Rainbow Crystal!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレギア『何だ、まだいたのか? 全く暇な奴だな。もしかして、嘘次回予告があるとでも思ったかい? 残念だけど、そんなものはないよ』

トレギア『私は忙しいんでね、この辺で失敬するよ。また会おう』

トレギア『フフフフフ……フハハハハハハハ! ハハハハハハハハハッ!!』

 



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