ウルトラブライルーブ!サンシャイン!! (焼き鮭)
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青空総進撃Heart(A)

 

 ――十二年前、静岡県綾香市内浦の旅館「四つ角」の縁側で、小学校高学年ほどの少年が絵本を開き、小学校低学年ほどの少年に読み聞かせていた。

 

「むかーしむかし、伊豆半島に空から妖奇星が降りました。星からはグルジオ様という物の怪が生まれました。グルジオ様は、戦で争っていた人々を皆呑み込んでしまいました。人々はグルジオ様を畏れ敬い、妖奇星が降った山を妖奇山と呼ぶようになりました」

「それがおれたちのすんでる、この町の名前のゆらいなんだよね、克兄ぃ」

「ああそうだ、功海」

 

 功海と呼ばれた年少の少年の方は、克兄ぃという年長の少年の方に尋ねかける。

 

「グルジオ様ってほんとにいるのかな? いるのなら、おれがショーライみつけてやるぜ!」

「ハハッ、こんなおとぎ話を信じるなんて、功海はまだまだ子どもだな」

「なんだと~!? おれ、子どもじゃねーし! もう小学生になったんだし!」

 

 からかう兄に対してムキになる功海。と、その時、

 

「「ん?」」

 

 二人がふと顔を上げ、家の庭の端を見やった。

 その視線の先、家の門の側に、幼稚園児くらいの小さな女の子がいて、こちらを見つめている。

 女の子を視界に入れた二人の少年は、彼女に向かって呼びかけた。

 

「千歌ー! そんなとこで何やってるんだよー!」

「こっちこいよ千歌ー! にいちゃんたちが、えほんよんでやるぜー!」

 

 呼ばれた女の子は二人の少年をじっと見つめて、口を開いた。

 

「……おにいちゃん……」

 

 ひと言つぶやいて、女の子は少年たちの方へと駆け出した。

 

「おにいちゃん!!」

 

 

 

『青空総進撃Heart』

 

 

 

 ――十二年後、早朝の「四つ角」に、内浦の女子高校「浦の星女学院」の制服を纏った女子高校生が駆け込み、裏口の玄関で元気よく挨拶した。

 

「おはよーございまーす!」

 

 するとその声に呼ばれて、中からエプロン姿の好青年が出てきた。

 

「おはよう、曜ちゃん」

「おはよーございます、克兄ぃ。千歌ちゃんもう起きてる?」

 

 浦の星女学院に通う生徒、渡辺曜はこの「四つ角」を経営する高海一家の長男、高海克海にそう尋ねかけた。

 

「ああ。昨日の晩からやたらと張り切っててうるさいくらいだったよ、例のアレで」

「アレって……千歌ちゃん本気なんだ」

 

 例のアレ、というもので、克海が苦笑いを浮かべた。

 

「俺も功海も、こんな田舎じゃ無理だって言ったんだけどなぁ……。ああそうだ、悪いけど功海の奴を起こしてやってくれないか? 俺はモーニングコーヒーの用意があるから」

「功兄ぃを? ああ、功兄ぃ寝起き悪いから……」

「あいつ、大学春休みだからって毎日毎日昼まで寝ててな……。ほんとだらしなくて困る」

 

 疲れたようにため息を吐く克海に曜は苦笑しながらも、少し頬を赤らめながらピッと敬礼した。

 

「ヨーソロー! その任、謹んでお受け致します!」

「よろしく頼んだよ」

 

 克海に通されて「四つ角」に上がった曜は、二階の高海家の私生活スペースに向かい、「功海の部屋」と表記のある部屋の襖を思い切り開けた。

 

「おはよー功兄ぃ! さっさと起きろー!」

「ふがッ!?」

 

 部屋の中に入ると、ベッドの掛け布団を引っぺがして、寝ている青年をベッドから引っ張り出した。畳の上に落とされた青年は、頭をさすりながら起き上がる。

 

「いっつつつ……曜か。いきなり何すんだよ……」

「功兄ぃがねぼすけなのが悪いんだよ! また夜更かししたんでしょー?」

 

 大きくあくびする青年、高海一家の次男、高海功海にピッと指を立てる曜。功海は眠そうに頭をかきながら言い訳した。

 

「夜更かしじゃねーよ。ちょっとバイブス波の反射率を解析してただけ……」

「そーいうのを夜更かしっていうの。ほらさっさと顔洗ってきて。克兄ぃが下で待ってるよ!」

「おい押すなって。全くかわいくない奴だな」

「ちょっと~、幼馴染に向かってその言い草は何? もうお世話焼いてあげないよ! 功兄ぃったら昔から……」

 

 憎まれ口を叩く功海にむぅと頬を膨らませた曜だが、彼を部屋から追い出したところでポンと手を叩いた。

 

「そうそう千歌ちゃん! 千歌ちゃーん、起きてるー?」

 

 思い出した曜は別の部屋――「千歌の部屋」へ向かい、襖を開けた。

 その部屋の中央に立っていた、彼女と同じ浦の星の制服を着た女子高生が、クルリと回りながら曜に向き直った。

 

「あっ、おはよう曜ちゃん!」

「うん、おはよう千歌ちゃん!」

 

 高海一家の末の妹、高海千歌が、快活に曜に挨拶した。

 

 

 

 それから、功海は台所と一体となっている居間で、朝食を取りながらパソコンを広げて綾香市の地層を調べ出した。

 

「功海、そんなへんてこなもんはお客さんの前には出すなよ。お客さんの迷惑だから」

「はいはい、分かってますよ克兄ぃ」

 

 克海は功海の手元にある、クリスマスツリーのようなアンテナを見咎めながら注意した。

 その時に二階からドスンと大きな音がする。

 

「何の音?」

「また千歌だな。おーい千歌! 静かにしないと、お客さんの迷惑だぞー!」

「ごめんなさーい!」

 

 克海が呼びかけて注意すると、二階から千歌が謝った。

 

「全くウチの兄妹たちは……。もうちょっと旅館のこと考えてもらいたいよ。ただでさえ小原のホテルに客が流れてるってのに……」

 

 ぶつくさ文句を言う克海に功海が苦笑を浮かべる。

 

「そうカッカするなって克兄ぃ。接客業は笑顔が基本だろ? なぁしいたけ~」

「わんっ!」

 

 言いながら、功海は高海一家の飼い犬のしいたけの頭をなでくり回した。

 克海はため息を吐き出しながらぼやく。

 

「にしても千歌の奴、本気で始めるつもりなのか……。今までスクールアイドルなんて、ちっとも興味なかったってのに」

 

 功海がパソコンの画面を凝視しながら克海に相槌を打った。

 

「この前秋葉原行ってからすっかりハマッたみたいだなー、μ'sに」

「全く、伝説のスクールアイドルだか何だか知らないが、四年も前に解散したグループに何を夢中になってることやら……」

「まぁ何でもいいけどさ、千歌たちの奴、時間大丈夫なのか? もうバス来るぜ」

 

 八時十五分前の時計をあごでしゃくる功海。その言葉の直後に、千歌と曜が慌ただしく二階から駆け下りてきた。

 

「遅刻~!! 遅刻しちゃうよ千歌ちゃん! 早くぅっ!」

「ああちょっと曜ちゃん押さないでよ!」

「こら! こっちの玄関使うなって言ってるだろ!」

「「ごめんなさ~い!!」」

 

 克海のお叱りの声を受けながら、千歌と曜は旅館としての玄関から飛び出してバス停に到着しつつある浦の星女学院行きのバスへと走っていった。

 

「「行ってきまーすっ!!」」

 

 嵐のように去っていく千歌と曜に、克海は大きく肩をすくめて再三ため息を吐いた。

 

「何て落ち着きのない……。あんなんでスクールアイドルなんて出来るのか?」

「ま、なるようになるんじゃね?」

 

 無関心そうな功海に振り向いた克海は、ふと話題を切り替えた。

 

「そうだ功海。今日から隣の空き家、東京から引っ越してきたってご家族さんが入るから」

「あー、そうなんだ」

「お前もちゃんとご挨拶しろよ。お前はそういうこといつもいい加減に済ますからな」

「へーい」

 

 注意されても生返事の功海に肩をすくめる克海は、そのことについて話を続ける。

 

「それでそこの娘さんが、浦女に通うことになるんだって。もしかしたら千歌と同じクラスかもな」

「歳が同じならそーなるんじゃね? 確か浦女、すっかり生徒数が減少して一学年一クラスしかないんだろ?」

「まぁな。ダイヤちゃんが頭悩ませてるみたいだ。……浦女は大丈夫なのか? 俺たちの母校も、お前の代で廃校になったしなぁ……」

 

 一抹の寂しさと不安を覚えた克海だが、気分を切り替えるように首を振った。

 

「いかんいかん、仕事に集中だ。さッ、モーニングの準備準備。功海もたまには手伝えよ」

「へいへい」

 

 克海たちは雑談を終え、「四つ角」の運営のために朝の業務を始めていった。

 

 

 

 その日の晩、帰宅した千歌が居間でしいたけに後ろから抱き着きながら、深いため息を吐いた。

 

「はぁ~……どうしよっかなぁ」

「どうしたんだよ千歌。スクールアイドル部作ったんだろ?」

「もしかして、いきなり問題にぶつかったのか?」

 

 克海と功海が何事かと問いかけると、千歌はバッと起き上がって二人に飛びついてきた。

 

「克海お兄ちゃん! 功海お兄ちゃん! 聞いてよ~!!」

「うわッ!? ど、どうしたんだ一体……」

 

 戸惑う二人に千歌が、学校で起こったことを早口に説明した。

 

「何? 部の設立を許可してくれない? 生徒会長が?」

 

 千歌の説明を功海が端的に纏めた。

 本日、新一年生の入学式であった浦の星女学院で、千歌はスクールアイドル部の勧誘を行っていたそうだが、実はまだ部の申請もしていなかったので、生徒会長の黒澤ダイヤに咎められたという。その上、部員をそろえたとしてもスクールアイドル部の承認はしないと断言されてしまったのだそうだ。それで困っているという訳である。

 

「でもそれっておかしくね? よっぽどおかしな部とかじゃなけりゃ、ちゃんと手続き踏めば承認はされるもんだろ。それを生徒会長とはいえ絶対ダメなんて。職権濫用じゃん」

「そう言われても、何でなのかは私にも分かんないし……」

「克兄ぃからも、そのダイヤって子に何か言ってやんなよ。確か知り合いだったろ?」

「そうなの、克海お兄ちゃん!?」

 

 功海に話を振られ、千歌からも期待の眼差しを向けられるが、克海は妙な様子で目を泳がせた。

 

「いや……それはちょっと難しいな。ダイヤちゃんとも最近会ってないし……」

「そんな~……」

「まッ結局のところ、千歌はそのちゃんとした手続きも出来ねぇ段階なんだから、こんな話ししててもしょうがねぇんだけどな」

「うっ……それを言わないでよ~」

 

 言葉を詰まらせて落胆した千歌に、功海は冗談交じりに聞く。

 

「それで、あきらめんのかよ千歌? お前のやる気はその程度のもんだったのか?」

 

 すると千歌は奮起されて勢いよく立ち上がった。

 

「ううんっ! 私はあきらめない! あきらめちゃダメなんだから! あの人たちも歌ってたし!」

 

 千歌の決意を聞いた功海は苦笑いを浮かべた。

 

「その意気だぜ千歌! 何事もまずは気持ちからだ! 兄ちゃん応援してるからな」

「俺も、一応ダイヤちゃんに話をしとくよ。妹のためだもんな」

 

 功海と克海の言葉を受けた千歌は、感激して二人に抱き着いた。

 

「ありがとぉ~! お兄ちゃん、だーい好き!!」

「お、おいおいよせって。全く、いつもながら大袈裟な奴だな~」

 

 苦笑しながら千歌を引き離す功海。すっかり元気を取り戻した千歌はビッと天井を指差す。

 

「よーし! がんばるぞぉ千歌ー! 目指せ! 脱・普通怪獣っ!」

 

 千歌の決心の言葉に、克海はやれやれと肩をすくめた。

 

「何だよ、普通怪獣って。怪獣なんている訳ないだろ」

 

 

 

 千歌がスクールアイドル部の設立を目指し出した週の金曜日の晩。綾香のあるマンションの一室。

 

「感じます……聖霊結界の損害により、魔力構造が変化していくのが」

 

 津島善子という名前の女子高生が暗い部屋の中、カメラを前にしてネットの生中継を行っていた。

 

「世界の趨勢が、天界議決により、決していくのが……」

 

 ゴスロリの黒い天使のような衣装で、変に格好つけた台詞を読み上げる善子だったが、不意に部屋がズシン、ズシンと大きな連続する揺れに見舞われたので、何事かと顔を上げた。

 

「ちょっと何この揺れ。変な地震……」

 

 思わず素に戻り、黒地のカーテンを開けて外を確認する。

 その目が、綾香の街の狭間に立つ巨大な怪物の爛々と光る眼と合った。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――っ!!?」

 

 咆哮を発する怪物に、善子は大絶叫を上げた。

 

 

 

 土曜の早朝。

 

「へぇ……その転校生の子が、作曲できるのか」

「うん! これはもう運命だよっ!」

 

 千歌がスクールアイドル部設立を目指しての進捗状況を克海に話していた。

 ダイヤに部の設立承認を再び頼み込んだ千歌は、彼女から全スクールアイドルが目指す大会、ラブライブの出場のためにオリジナルの曲が必要となることから、作曲が出来る人材が必要だと説かれた。それで難儀していたところに、かのμ'sを生んだ音ノ木坂学院からの転校生が浦の星に来たのだという。それでその子をスクールアイドルに勧誘し出したそうだが、袖にされてばかりなのだそうだ。

 

「でもあきらめないっ! 私、絶対梨子ちゃんをスクールアイドル部に入れてみせるんだから!」

「まぁ、嫌がられない程度に頑張れよ」

 

 熱意に燃える千歌を克海は適当に応援した。その時に、

 

『24分テレビ、『愛染は地球を救う』! 社長の愛染正義さんにお話しを聞いてみましょう』

「あっ、愛染さんだ!」

 

 テレビ番組に綾香市に拠点を置く大企業アイゼンテック社の社長、愛染正義(まさよし)が出てきたので、千歌はテレビ画面に食いついた。

 

『愛と正義の伝道師、愛染正義です! 今日も我がアイゼンテック開発の新技術をご紹介しましょう!』

 

 筋肉の電気信号を解析、増幅する製品の紹介をする愛染の立ち振る舞いを観て、千歌は感心の吐息を漏らす。

 

「いつ見ても、愛染さんはすごいなー」

「そうか?」

「そうだよぉ! 克海お兄ちゃんだって知ってるでしょ? 綾香市はアイゼンテックのお陰で発展したんだって!」

 

 千歌は瞳を輝かせて愛染とアイゼンテックの解説をする。

 

「それにアイゼンテックはラブライブに出資もしてるし、アイドル専門校の運営だってやってる、スクールアイドルの味方なんだよ! お母さんアイゼンテックに勤めてるんだし、愛染さん紹介してくれないかな~」

「ならいっそのこと、その専門校とやらに転校してみたらどうだ? 部活の立ち上げもままならない現状よりいくらかマシだろ」

「それは違うよ克海お兄ちゃん! 私はこの内浦の、浦女でスクールアイドルやりたいの」

 

 千歌が反論している内に、愛染が番組の目玉である「本日の言葉」を発表する。

 

『本日の言葉は、『石橋にノンストップで行ってみましょ』です! 新しいことにチャレンジするのに怖気づいてはいけな~い! 思い切りが大事ですッ!』

「思い切りかぁ~……私も頑張らなくっちゃ!」

 

 愛染の言葉で千歌が一層張り切っていると、この場に功海が飛び込んできた。

 

「克兄ぃー! これ見てよッ!」

「どうした、騒がしいな」

「功海お兄ちゃん、どうしたの?」

 

 功海が差し出してきたタブレットの画面を覗き込む克海と千歌。

 画面は動画投稿サイトのページで、「綾香山で巨大生物を見た?」というタイトルの動画が流れていた。暗闇の中で、巨大な怪物のようなものが蠢いていた。

 

「これ、どう思うよ?」

「すっごい! 本物の怪獣!? しかも綾香山で!」

 

 千歌は興奮するが、克海は冷めた態度で一瞥するだけだった。

 

「だから、怪獣なんているもんか。こういうのはフェイク、CGか何かに決まってるさ」

 

 現実的な意見をする克海に対して、功海はノートパソコンを引き寄せて画面を見せつけた。

 

「じゃあ……このデータはどうだ!?」

 

 パソコンの画面は、功海の専攻の宇宙考古学で使用するバイブス波解析のものであり、サーモグラフィーで表現されている綾香の地図上で赤い光点が山から街に移動した。

 

「バイブス波の発生源が、山中から街中に移動してる! 綾香山には、絶対何かいんだよ!」

 

 功海が主張していると、千歌が何かを思い出して古い絵本を引っ張り出してきた。

 

「それって、もしかしてグルジオ様じゃないかな?」

「グルジオ様ぁ?」

「お兄ちゃんたちが昔読んでくれた、これ! 綾香山には、グルジオ様がいるんだよ!」

 

 絵本の表紙には赤い怪物が描かれている。が、千歌が力説しても克海は呆れていた。

 

「そんなのはお伽話だって」

「お伽話じゃねーって! 綾香市っていう街の名前になってるくらい歴史的な事実じゃん!」

 

 功海は千歌の説を支持する。

 

「妖奇星は今じゃ隕石ってことになってるけど、俺にはただの隕石とは思えねぇ。地磁気の異常はそれだけじゃ説明がつかないからな……」

「功海お兄ちゃんの言ってることはよく分かんないけど、千歌もそう思うよ!」

「だろ!? よし、じゃあ俺たちで調査しようぜ! これは大発見だぞ~!」

「おぉー! 曜ちゃんも誘おーっと!」

 

 功海と千歌はすっかり乗り気になって「四つ角」を飛び出していく。

 

「お、おいおい……! あいつら本気かよ……」

 

 克海はすっかりと呆れ返りながらも、二人を放っておけずに追いかけることにした。

 

 

 

 綾香山のふもとにある、アイゼンテック社の作った自然公園に高海兄妹と、千歌に誘われた曜が到着した。

 

「よーし、早速やるぜ! 曜、ついてこい!」

「ヨーソロー! グルジオ様探しなんて面白そ~!」

 

 既に興奮気味の功海は曜を連れて、バイブス波感知機を手に公園内を駆け出していった。その背中を見つめながら、千歌が克海に呼びかける。

 

「ねぇ克海お兄ちゃん、小さい頃はよくここにピクニックしに来たよね」

「ああ、そうだな」

 

 相槌を打った克海が当時のことを思い返す。

 

「懐かしいな……。最初にみんなで来たのは、千歌が六歳の頃だったっけか。曜ちゃんと果南ちゃんも一緒で……」

「え? もっと昔から来てなかった?」

「ん? そうだったか? まぁあんまり前のことは記憶が曖昧だしな……」

 

 克海が腕を組んでよく思い出そうとしたが、そこに功海が戻ってきた。

 

「おーい克兄ぃ! このデータ見てくれ!」

 

 功海が興奮気味にバイブス波感知機の画面を見せつけてきた。

 

「プラズマイオンとバイブス波の値を見ろよ! すげーだろ!」

「ああ……お前の言ってることはさっぱり分からん。……おいどこ行くんだよ!?」

 

 話についていけていない克海を置いて、功海がどこかへ走っていく。

 

「こっちの方が線量高けーんだよ! ほら克兄ぃこっちだって!」

「全く、ほんと騒がしい奴だな……」

 

 呆れながらも功海についていく克海の後ろで、曜が千歌につぶやきかけた。

 

「相変わらず、功兄ぃの言うことは難しいね」

「うん。だけど功海お兄ちゃん、楽しそう。ああいう顔の功海お兄ちゃん、私大好きだよ!」

 

 とのたまう千歌に、曜は苦笑を浮かべる。

 

「千歌ちゃんも相変わらず克兄ぃたち大好きなんだねー。何かにつけて大好きって言うし。何でそんなにお兄ちゃん好きなの?」

 

 曜は軽い問いかけのつもりだったが、千歌は妙に真剣に首をひねった。

 

「さぁ、何でなんだろ? 自分でもよく分かんないや。昔からそうだったの……」

 

 と話しながら兄たちを追いかけようとした千歌だったが、視界の端に知った顔が見えたので、そちらに気を取られた。

 

「あっ……梨子ちゃん!」

「えっ……!? 何でここにいるの……?」

 

 音ノ木坂からの転校生、桜内梨子は千歌の顔を見止め、思わず身震いした。千歌はそちらの方に駆け寄っていく。

 

「ちょっとお兄ちゃんたちとピクニックに来ててね! 梨子ちゃんも?」

「私は、不思議な伝説のある綾香山の音からインスピレーションを得られないかって思って……」

「そうだったんだぁ。奇遇だね! あっ、秋月先生も来てたんですか……」

 

 浦の星の知り合いと話し込む千歌と功海たちの方を少し困ったように見比べた曜だが、軽く苦笑いしてから千歌の方へと歩み寄っていった。

 

 

 

 バイブス波の値を確かめながら公園を散策する功海は、熱中するあまりに立ち入り禁止の区域に入っていこうとした。

 

「こっちが一番反応が強い!」

「おい! こっちは駄目だって書いてあるだろ! アイゼンテックの研究所だ」

 

 慌てて止める克海だが、功海に反省の色はなかった。

 

「でもほら、この数値見てよ!」

 

 画面上の地図では、研究所のある地点が赤く染まっていた。

 

「普通の数値じゃねぇ! 絶対あそこに何かいる……」

 

 功海が言いかけた、その時――。

 研究所がいきなり崩壊し、その下から真っ赤な巨大生物が出現した!

 

「「うわぁッ!?」」

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 怪物は赤く染め上げられた、恐竜の骨格のような容貌であった。そして克海には、その姿に見覚えがあった。

 

「グルジオ様……?」

 

 怪物は、絵本に描かれていたグルジオ様によく似た姿をしているのであった――。

 



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青空総進撃Heart(B)

 

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 研究所の残骸を蹴散らして、公園に踏み出そうとする骨格型の巨大怪生物――グルジオボーンの姿に戦慄を覚える克海。

 

「まさか、グルジオ様が本当にいたなんて……!」

 

 震える克海とは対照的に、功海はグルジオボーンに目を輝かせている。

 

「追いかけよう克兄ぃ!」

「何言ってんだ逃げなきゃ!」

 

 動き出したグルジオボーンの方へ走っていこうとする功海の袖を克海は慌てて引っ張って止めた。しかし功海は聞こうとしない。

 

「こんな機会二度とないってば! 俺は誇り高き科学者だ、逃げる訳ねぇだろ!」

 

 と豪語してグルジオボーンへ向かっていこうとするが……。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 けたたましく吼え立てるグルジオボーンの厳つい顔を目の当たりにして、立ち止まった。

 

「やっぱ……逃げよ」

 

 意見も身体の向きも180度翻して、克海とともに脱兎の如く逃げ出す。

 

「お前って奴はぁぁぁッ!」

「命あっての物種だって!」

「おい、急げ! 速く!」

 

 追ってくるグルジオボーンから死に物狂いで逃げる克海と功海。と、その途中で功海が路肩に設置されてあるレンタル自転車に目を留めた。

 

「自転車、お貸しします……」

 

 功海はすぐに自転車にまたがり、克海を追い抜いていく。

 

「克兄ぃ早くッ!」

「あッ! あいつ自分だけ!」

 

 功海と克海は公園手前の陸橋にまで差し掛かったが、グルジオボーンはここまで追ってくる。

 

「おい功海ちょっと待て!」

「克兄ぃ盗塁得意だったろ!」

「そういう問題じゃないだろ!」

「つべこべ言ってっと追いつかれるぞ!」

 

 懸命に逃げる二人だが、グルジオボーンは口内に真っ赤な火炎を溜めると、一気に吐き出して攻撃してきた!

 

「うわぁッ!? いってぇ……!」

 

 火炎放射による爆発で、功海は自転車から放り出された。

 

「功海! 大丈夫か!?」

 

 克海が慌てて駆け寄って助け起こすが、その間にもグルジオボーンは迫ってきている。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

「ほら立て! 早く!」

 

 功海を抱えるようにして、二人で遁走し出した。

 グルジオボーンは火炎を振りまいて辺りをどんどん焼き尽くしていく。その威容と破壊力は、公園にいる人たちの目にも映り出した。

 

「お兄ちゃんたち、どこまで行ったんだろ……って」

「あ、あれ!! グルジオ様!?」

 

 千歌たちも公園に接近してくるグルジオボーンを見上げて仰天。周りの人々は、混乱に陥りながらも命の危険を感じて散り散りに逃げ惑い出した。

 

「う、嘘……!? あれって伝説に出てくる!?」

「私たち、夢でも見てるの~!?」

「お兄ちゃん……!」

 

 思わず兄たちを捜そうとする千歌の腕を、曜が反射的に掴んだ。

 

「だ、駄目だよ千歌ちゃん! 危ないよ! 早く逃げないと!」

「う、うん……!」

「秋月先生も早く! 立ち止まってないで!」

 

 千歌たちが逃げ出すのと同じように、克海と功海も公園の人々に混じってグルジオボーンから逃げている。

 

「だから言っただろ! 大体お前は……!」

「説教は後! 追いつかれるぞ!」

「大体こうなったのは誰のせいだ!」

「あーそれ言っちゃう!?」

 

 口喧嘩しながら必死に逃げ回る克海たちであったが、その時、

 

「あっ……!?」

「梨子ちゃん!」

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 梨子の足がもつれて転倒。咄嗟に立ち止まる千歌と曜だが、梨子の方にグルジオボーンが迫り来る。

 

「きゃあああああっ!!」

「ッ!」

 

 梨子の悲鳴で足を止めた克海に功海が振り返る。

 

「克兄ぃ! まさか……!」

「功海、お前は奴の注意を引け! その間に俺が行く!」

「いやいや無茶だよ克兄ぃー!」

 

 功海の制止も聞かずに梨子を助けに駆け出す克海。功海はやむなく地面に転がっている石をグルジオボーンに向かって投げながら大声で叫んだ。

 

「グルジオー! でっけー面、してんじゃねーぞ!」

 

 功海の声に気を取られたグルジオボーンは、注意が梨子からそれた。その隙に克海が梨子に駆け寄って彼女を抱え上げる。

 

「大丈夫か?」

「は、はい……!?」

 

 突然抱えられた梨子は思わず赤面。克海はそのまま彼女を連れて、千歌と曜の元へ走っていった。

 

「克海お兄ちゃん!」

「克兄ぃ!」

「この子を頼む」

 

 二人に梨子を預ける克海。だがその一方で、梨子の代わりにグルジオボーンに追われる身となった功海が震動によって転倒した。

 

「おわぁぁッ!」

「あっ!? 功兄ぃが!」

「功海ッ!!」

「克海お兄ちゃん!?」

 

 克海は、今度は功海へと走っていく。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

「まずい……!」

 

 グルジオボーンはもう功海に間近。そこへ、功海へ手を伸ばしながらダッシュしていく克海。

 

「功海ぃ―――――!!」

「克兄ぃ―――――!!」

 

 互いに手を伸ばし合う克海と功海だが、そこにグルジオボーンが火炎を吐き出す!

 

「ギュオオォォ――――ン!」

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!」

 

 二人の兄弟は、一瞬にして灼熱の業火の中に呑まれてしまった。

 

「功兄ぃ!! 克兄ぃ!!」

「お兄ちゃん!! いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 最悪の事態を目の当たりにして、千歌が絶叫を発した。

 だがその瞬間! 太陽が激しく輝いた!

 

「きゃあっ!?」

「な、何!? この光っ!」

 

 まばゆい光を浴びた千歌たちが反射的に顔を背けた。それでもどうにか目を開けると……彼女たちの前に、晴れ渡った青空から二人の巨人が振ってきた!

 

「えっ!?」

 

 仰天する千歌たちの視線の先で、二人の巨人が土砂を巻き上げながら豪快に着地。赤い二本角の巨人と、青い一本角の巨人がゆっくりと立ち上がる様子に、千歌たちは呆然としてしまった。

 

「……き、巨人さん……?」

「何なの、あれ……」

 

 開いた口がふさがらない曜と梨子の前で、千歌はまじまじと二人の巨人の威容を見上げた――。

 ――この突然、どこからともなく現れた二人の巨人は、現場に居合わせていた人や緊急生中継を見ていた人の目にもしっかりと焼きつけられる。

 

「花丸ちゃん、あれ見て! すっごいよぉ……」

「はぇ~……おったまげたずら……」

 

 避難民に混じっている二人の少女、黒澤ルビィと国木田花丸は唖然とし、

 

「ど、どうなってるの~!? まさか、私の普段の妄想が現実のものになっちゃったとか!?」

 

 顔をマスクで隠して外を出歩いていた津島善子は勝手にそんなことを口走って、

 

「わたくし、夢でも見てるのかしら……?」

 

 生中継を見ていた黒澤ダイヤは現実を疑い、

 

「巨人って……グルジオ様と関係があるの……?」

 

 同じように生中継を見ていた松浦果南は首をひねり、

 

「ワーオ! アンビリーバボー! とってもファンタスティックねー!」

 

 自家用のヘリで現場を見下ろしていた小原鞠莉はすっかり興奮気味になっていた。

 様々な人たちの注目を一身に浴びた二人の巨人は――。

 

「――何やってるの? あれ……」

 

 何故かその場で自分の身体をベタベタ触ったり、近くの車をつまみ上げたりしていた。

 巨人たちの奇行に曜は目が丸くなっていた。

 

「車が珍しいのかな……?」

 

 

 

 曜がそんな風に感じていたが、実際は違う。何を隠そう、この巨人二人の正体は――あろうことか、克海と功海なのであった。

 グルジオボーンの放った火炎に呑み込まれてしまったかと思われた二人だが、気がついた時には二人とも謎の白い光の空間を漂っていた。

 

「どこだここは……?」

「何だ? どうなってんだよ?」

 

 助かったことよりも、不可思議な空間が自分たちの周りに広がっていることに克海と功海は驚いていた。

 そんな二人の視界を、突然の閃光が塗り潰す。

 

「「うわッ!?」」

 

 一瞬顔を背けた克海たちだが、光が収まると、自分たちの目の前に謎のアイテムが出現していた。

 左右に取っ手がついてある円形の機械のようなものが二つ。手帳型のケース。そしてそれらのくぼみにちょうど収まる大きさの、メダルのような丸いクリスタル。それぞれ「火」「水」と書かれていて、一緒に赤と銀色の超人の絵が刻み込まれている。

 

「何これ……?」

「分からん……」

 

 見たこともない道具の数々に唖然とする功海と克海。すると、計五つのアイテムがまばゆい光を放った。

 

「「うッ!?」」

 

 それとともに、兄弟の脳裏にあるイメージが強く浮かび上がった。

 何かが隕石のように地球上に落下し、大地に巨大なクレーターを作り上げる。そのクレーターの中でグルジオボーンが咆哮し、面と向かう二人の巨人が崩れ落ち、無数のクリスタルとなって弾け飛ぶ……。

 

「ウルトラマン、ロッソ……」

「ウルトラマン……ブル……」

 

 克海と功海は無意識の内に、そんな名前を呼んでいた。そしてその名前が、二本角と一本角の巨人のものだということを直感で理解する。

 そこまでで兄弟の意識が元の空間に帰ってきた。

 

「見た? 克兄ぃ……」

「ああ……。もしかして、俺たちにこれを使えということか?」

 

 二人は強烈なイメージによって、目の前のジャイロの使い方を脳裏に刷り込まれていた。

 

「じゃあ、一、二の三で行こう」

 

 そう決めると、兄弟二人で合図を唱える。

 

「一……」

「二……」

「「三! 俺色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 口から突いて出た決め台詞とともに、二人同時にジャイロに手を伸ばした!

 まずは克海がクリスタルホルダーを開き、その中から横に二本の角が生えた超人の「火」のクリスタルを取り出した。

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 クリスタルを胸の前に持っていくと、指で弾いて赤い二本角を伸ばし、ジャイロの中心にセットした。

 

[ウルトラマンタロウ!]

 

 克海の背後にクリスタルの絵柄の超人のビジョンが現れ、炎が弾ける。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

 

 呪文を唱えながら克海はジャイロの左右のレバーを引っ張っていく。一回引くごとにエネルギーがジャイロに充填されていき、三回目でジャイロから渦巻き状にエネルギーがあふれ出た。

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

「うおぉぉーッ!」

 

 克海の身体を猛々しい火柱が包み、赤い巨人へと変身して右手を振り上げ飛び出していく!

 功海はクリスタルホルダーから「水」のクリスタルを取り出した。

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 功海の方はクリスタルから青い一本角が出てきて、それをジャイロに嵌め込む。

 

[ウルトラマンギンガ!]

 

 功海の背後に、身体の各所に水晶を持つ超人のビジョンが現れて水の波動に変わった。

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」

 

 克海と同じように、呪文とともにジャイロのレバーを引く功海。一回、二回とジャイロにエネルギーが集められ、三回目で解放される。

 

[ウルトラマンブル! アクア!!]

「はあぁぁーッ!」

 

 功海の身体は水柱に包まれ、青い巨人となって左手を振り上げて飛び出していった!

 こうして克海と功海の兄弟は神秘の巨人戦士、ウルトラマンロッソとウルトラマンブルに変身して大地に降り立ったのである。

 

 

 

『マジか! 俺たちすげーことになってんぞ!』

『一体どうなってんだ……!?』

 

 巨人となった自分たちの変化に自分たちで驚いていた功海と克海だが、グルジオボーンはロッソとブルを目の当たりにすると、すかさず駆け出して二人に襲いかかってきた!

 

「ギュオオォォ――――ン!」

『どうする功海!?』

『おっしゃ! 行くぜぇぇッ!』

『おぉいちょっと待てって!』

 

 迫り来るグルジオボーンを警戒した克海と対照的に、お調子者の功海は元気はつらつにグルジオボーンを迎え撃ちに行った。

 

『ジャンピングキック!』

 

 飛び蹴りをかまして攻撃しようとしたブルだが、勢いだけのキックは外れ。おまけにブルはグルジオボーンを見失ってしまう。

 

『あれ? あれ?』

「ギュオオォォ――――ン!」

『うわぁぁ――――!?』

 

 キョロキョロしている内に背後から掴みかかられ、投げ捨てられた。

 

『おおおおい!?』

 

 動揺したロッソは正面にブルを食らい、二人もつれ合って倒れ込んだ。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 ブルを投げ飛ばしたグルジオボーンは怪しく目を光らせ、高速で接近してくる!

 

『来るぞ!』

 

 ブルの頭をどかしたロッソは咄嗟に指をグルジオボーンに向けた。その指先から、小さな火球が飛んだ!

 

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 火球を食らったグルジオボーンが急停止する。その一方で、火を出したロッソは驚いて自分の手を見つめた。

 

『克兄ぃ、今のどうやったんだ!?』

『分からん……何か、ピュッて出た』

『よっしゃあ! じゃ、俺も!』

 

 手から何か出ることを知ったブルは、ロッソをはねのけて意気揚々と起き上がると二本指をグルジオボーンに向ける。

 

『はッ!』

 

 ブルの指からは、高圧の水流が発射された! 水流はグルジオボーンの足元を攻撃し、その周りの木々がへし折れるほどの威力を見せた。

 

『すげー! 見た?』

 

 自身の出した水流をロッソに自慢するブル。だがその背後で、グルジオボーンがいよいよ怒り出した。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

『! どけ!』

『あうッ!?』

 

 猛然と迫ってきたグルジオボーンに気づいたロッソはブルを無理矢理どかし、自身の身体で受け止めた。だが転がったブルが起き上がった時には、いなされて倒れ込んでしまう。

 

『うおぉぉッ!』

『このヤロー!』

 

 ロッソに代わってブルが飛びかかるものの、振り回したグルジオボーンの尻尾がロッソに当たった。

 

『ぐはッ!?』

 

 脇に食らったロッソがもんどりうったが、先ほどブルが折った木を拾い上げて武器とする。そしてブルを振り払ったグルジオボーンに後ろからバットの要領で殴りつけた。

 

『んんん! うりゃあッ!』

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 しかしまるで効果がない。グルジオボーンが牙を剥いて噛みついてくるので、咄嗟に木を盾にした。

 

『うおぉッ!』

 

 木で牙を止めたが、ロッソはそのまま振り回される。そこにブルが回し蹴りを仕掛けるが、

 

『でやッ!』

『うわぁッ!?』

 

 タイミング悪く、ロッソに当たってしまった。ロッソが倒れるが衝撃でグルジオボーンも転倒。

 

『大丈夫?』

『いってぇ~……お前蹴るなよ!』

 

 ブルに助け起こされるロッソ。だがそこにグルジオボーンの尻尾が飛んできて、二人纏めて殴り倒された。

 

『『うわぁぁ―――!!』』

 

 更にグルジオボーンが火炎を吐いてくる! 爆炎に襲われるロッソとブル!

 

『『うわああああぁぁぁぁぁぁッ!!』』

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 グルジオボーンの猛攻に追い詰められ、二人は肩で息をする。

 

『どうしよう、克兄ぃ!』

『歯が立たない……!』

 

 焦るロッソとブル。戦いなど全く無縁の生活をしていた二人では、怪獣を相手にどう戦えば良いのかまるで分からないのだ。

 

『やべぇじゃん! このままだとやられちゃうよ!』

『そんなこと言ったってどうすりゃいいんだ!』

 

 何とか打開策を考えるブル。すると、自分とロッソの能力の性質の違いに着目した。

 

『そうだ! 克兄ぃ、俺とクリスタルを交換してくれ!』

『何言ってんだそんなこと出来るのか!?』

『克兄ぃと俺とじゃ、光線の形が違う。ちょっと試したいことがあるんだ!』

『でも……!』

『はーやーく!』

 

 ブルに急かされ、ロッソはしぶしぶ承諾。

 

『ったく、しょうがないな!』

 

 二人は今使用しているクリスタルを互いに送り合う。そうしてクリスタルに一本角と二本角を出し、ジャイロにセットし直した。

 

『纏うは火! 紅蓮の炎!!』

[ウルトラマンブル! フレイム!!]

『纏うは水! 紺碧の海!!』

[ウルトラマンロッソ! アクア!!]

 

 エネルギーをチャージして変身すると、ブルとロッソの体色が入れ替わって腕を振り上げた状態で立ち上がった。

 ウルトラマンと怪獣の戦いを恐る恐るながめていた千歌たちは、このことに驚愕した。

 

「色が変わった!」

 

 クリスタルを交換して形態を入れ替えたロッソとブルは、改めてグルジオボーンに挑んでいく。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

『おぉッ!』

 

 グルジオボーンが吐き出した火炎を、ロッソが水の盾で防御。火炎が消えたところで肉薄し、肉弾を叩き込む。

 

『よぉーし俺もッ! はッ!』

 

 勇んだブルが両手から火炎弾を連続発射! ――だがグルジオボーンに接近していたロッソも被弾する。

 

『うおおおおおおおッ!? あッ、熱ちぃッ! 熱ちッ!』

 

 まさかの誤射を食らってあたふたしたロッソは、ブルに食ってかかりに行った。

 

『やばいだろ! 周り確認して撃てよ!』

『やっぱ交換すると違う火が出るんだ! かっけー!』

 

 しかしブルはさっぱり相手をしなかった。

 

『聞いちゃいないなこいつ……なぁ?』

 

 がっくりしたロッソが同意を求めたが……振り返った先には、グルジオボーンの顔が間近にあった。

 

『『あ』』

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 グルジオボーンが腕を振り回して襲い掛かってきたのを、すんでのところでかわすロッソたちであった。

 だがグルジオボーンの起こす地響きが千歌たちを巻き込み、三人が悲鳴を発する。

 

「いやああぁぁぁぁぁっ!」

 

 その声に気づいたロッソとブルはハッと意識が切り替わった。

 

『『千歌!!』』

 

 それと同時に二人の雰囲気が変わり、真剣にグルジオボーンを迎え撃とうと構える。

 

『遊んでる場合じゃないな、功海!』

『ああ! これ以上千歌たちに怖い思いはさせられねぇぜ!』

 

 ロッソとブルの調子がガラリと変わり、二人交互による連続攻撃をグルジオボーンにぶち込み出した。

 

『『はぁッ!!』』

 

 兄弟のダブルキックがグルジオボーンに入った。形勢逆転したかに見えたロッソたちだが、その時に胸の中心にある発光器官が赤くなって点滅し出し、同時にロッソたちも焦りを見せた。

 

『やばい、克兄ぃ……何か、急に胸がドキドキしてきた……』

『俺もだ……。もう時間を掛けてらんない感じだな……!』

 

 アイコンタクトを取った二人はいよいよ意を決し、全力でグルジオボーンにぶつかっていった。

 

『『はぁぁッ!』』

 

 ロッソがグルジオボーンの上体を抑えている間にブルが足をすくい上げ、ロッソが押すことで転倒させることに成功した。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

『『せぇのッ!』』

 

 すかさず尻尾を捕らえ、二人がかりでグルジオボーンを振り回す! そして放り投げて地面に叩きつけると、ブルがロッソへ呼びかけた。

 

『克兄ぃ! 怪獣を水のバリアで覆ってくれ!』

『分かった!』

 

 ロッソが水の塊を作り出すと、アンダースローで投擲する。

 

『からのー! 熱線ッ!』

 

 ロッソの水球を追いかける形で熱線を発射するブル。グルジオボーンを包み込んだ水のバリアが熱せられ、水蒸気爆発によってグルジオボーンを空高く弾き飛ばした!

 

「ギュオオォォ――――ン!」

『『セレクト!』』

 

 グルジオボーンが落下してくるまでに、ロッソとブルは元の形態に戻って最後の攻撃の構えを取る。ロッソが巨大な火球を作り出し、両腕を十字に組む。ブルは腕に水を溜めてL字に組んだ。

 

『フレイムスフィアシュート!』

『アクアストリューム!』

 

 落ちてきたグルジオボーンが、二人の渾身の一撃の直撃を受ける!

 

「ギュオオォォ――――ン!!」

 

 そして頭から地面に落下したと同時に、大爆発! グルジオボーンの撃破を確認した二人は思わず安堵の吐息を漏らした。

 

『やった……!』

『やったぞ!』

 

 怪獣に勝利したロッソとブルは、拳を上下に打ち合わせて手の平を叩き合った。

 

『決まったね、俺たち……!』

 

 喜びに震えるブルだが、直後にその身体が薄れて消えていく。

 

『お、おい!? しっかりしろ功海!』

 

 動揺したロッソの身体も透き通っていき、脱力しながら消えていった。

 

『あぁ~……』

 

 

 

 ――グルジオボーンの消滅と同時に、何者かの手が降ってきたクリスタルをキャッチした。

 そのクリスタルには、「魔」の一文字とグルジオボーンの姿が刻み込まれていた……。

 

 

 

 突然公園を襲った怪獣が謎の二人組の巨人に倒され、巨人もすぐに消え去ったことで、人々は徐々に落ち着きを取り戻していった。そして千歌と曜は、巨人の出現前後から安否の分からない克海と功海を捜して駆け回っていた。

 

「お兄ちゃんたち、無事なの……? どこ行ったんだろう……」

「あっ、千歌ちゃん! あそこ!」

 

 曜が指差した先に、仰向けで折り重なって失神している克海と功海の姿があった。

 

「克海お兄ちゃん! 功海お兄ちゃん!」

 

 すぐ駆け寄った千歌と曜が克海たちに呼びかけて目覚めさせようとする。

 

「克兄ぃ、功兄ぃ、しっかりして!」

「う、うーん……」

 

 二人は曜たちの声によって覚醒し、おもむろに身体を起こした。

 

「千歌、曜……」

「二人とも、大丈夫だったか?」

「それはこっちの台詞だよっ!」

「お兄ちゃんたち、怪我はないの? 何か怪獣の他に巨人さんが二人も出てきて大変だったんだよ!」

 

 克海たちに外傷が見られないので安心した千歌と曜は微笑を見せる。

 

「すっごい疲れちゃったよ。千歌ちゃん、今日はもう帰ろうよ」

「うん。お兄ちゃんたち、ちゃんと歩ける? 梨子ちゃんはもう帰っちゃったのかな……」

 

 千歌が気にした梨子は、遠巻きに彼女と向かい合っている克海を見つめていた。

 

「あの人……あの子のお兄さんなんだ……」

 

 曜は功海の手を取って引っ張り出す。

 

「ほらほら功兄ぃ。また何か起こるかもしれないし、幼馴染をエスコートしてよね!」

「おい引っ張んなって! もうクタクタなんだよ……。腹も減ったしな~」

「あっ、ミカンならあるよ!」

 

 先を行く千歌たちの後ろについていきながら、克海が心中で独白した。

 

(何だか俺たち、大変なことになってしまったみたいだ。これからどうなっちゃうんだろう……。けどまぁ、なるようにしかならないか)

 

 考えるほど不安が沸き上がるが、楽しげに戯れる功海、千歌、曜の後ろ姿を見ていると、気持ちが和らぐ克海であった。

 

(とりあえず、俺たち――ウルトラマンはじめました)

 

 

 

『高海兄妹のウルトラソングナビ!』

 

千歌「千歌だよ! 今回紹介するのは『帰ってきたウルトラマン』主題歌だ!」

千歌「この歌を歌ったのはみすず児童合唱団と、主演俳優の団次朗さん! ウルトラシリーズで初めてドラマの主演俳優さんがオープニングテーマを歌唱したんだよ!」

千歌「歌詞もとても特徴的で、ウルトラマンが登場して怪獣と戦って、勝負に勝つという番組の基本的な流れを踏襲したものになってるの! だからオープニングの一番だけじゃ、歌の本当の意味は分からないってことになるのかな」

千歌「ちなみに主題歌の候補に最後まで残った『戦え!ウルトラマン』という曲もあるの。録音もされてるから、機会があれば聴いてみてね」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『青空Jumping Heart』だ!」

功海「アニメ第一期のオープニングテーマだな! アニメ版を代表する曲で、第二期でもある場面で印象的な使われ方をしたぜ!」

克海「Aqours全員によるユニット曲。アニメの始まりには最適だな!」

千歌「それじゃ、また次回っ!」

 




克海「突然ウルトラマンの力を得てしまった俺たち……。そんな重い責任を背負えるのか?」
功海「考えすぎだぜ克兄ぃ。怪獣がまた千歌たちを襲うんだ。俺たちが助けなきゃ!」
功海「次回、『兄弟Hand in Hand』!」
克海&功海「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」


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兄弟Hand in Hand(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

曜「春、巨大生物の目撃情報を知った功兄ぃたちと私は、綾香山に探しに行った。すると私たちの前に本物のグルジオが出現! 公園は一気に大パニックになった。功兄ぃと克兄ぃは梨子ちゃんを助ける代わりに、怪獣の攻撃に見舞われた……。その時! 見たことのない二人の巨人が現れ、グルジオをやっつけた!」

 

 

 

 AM4:20。克海と功海の兄弟はこっそりと「四つ角」を脱け出し、人のいない深い山の中にまで来ていた。

 

「よし。克兄ぃ、準備はいい?」

 

 功海が近くに時計をセットすると、二人は自分たちの身体をほぐし始めた。

 

「功海、あんま無茶すんなよ。俺たちの力を確かめるだけだからな」

「分かってるって!」

 

 軽いやり取りの後、克海と功海は拳を打ち合わせてからの手と手のスパンキングの兄弟の合図を取る。準備が完了すると、神秘のアイテム・ルーブジャイロを構えて同時に叫んだ。

 

「「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 二人はこれから、自分たちが手に入れた超常の力、ウルトラマンの力を確認しようとしているのだった。

 

 

 

『兄弟Hand in Hand』

 

 

 

 日が昇ってから、「四つ角」に帰ってきた克海と功海は机を囲みながら、ノートにウルトラマンについて判明したことを纏めていた。

 

「大体こんなところか……」

「もっと他にも試したかったんだけどなぁ~」

 

 功海が大きくあくびをしながらぼやいた。

 二度目の変身で分かったことは、最大で約50メートルの身長にまで巨大化できるということ、ただ大きくなるだけでなく身体能力も超人級に向上すること、原理は不明だが空を自由自在に飛べること、精神を集中することで山を砕くほどの威力がある光線を出せるということ……後、一番重要な部分だが、一度に変身していられる時間はおよそ三分程度であり、一度変身するとしばらく間を置かなければいけないようであるということだ。功海は再三の変身を試みていたが、結局戻らなければならない時間までに再変身が出来るようにはならなかった。

 

「変身の限界が近づくと、胸の光ってるのが青から赤に変わって報せるって訳か……」

「色が変わって点滅して、時間を示す……さしずめカラータイマーってとこかな」

 

 二人のウルトラマンの姿に共通して存在する、胸部の発光体について触れていると、克海と功海の背後から浦女の制服に着替えた千歌がやってきた。

 

「お兄ちゃんたち、何やってるの?」

「「千歌!?」」

 

 驚いた二人は振り返りながら、咄嗟にノートを後ろ手に隠した。

 

「あれ? 今何か後ろに隠さなかった?」

「い、いや、何もないぞ?」

「ほんとに~? 何だが怪しいなぁ……」

 

 千歌に詰め寄られて冷や汗を垂らす克海。が、千歌の注意は彼からつけっぱなしのテレビの画面に移った。

 

「あっ、こないだの事件やってる」

「何!?」

 

 テレビの方に振り向く克海と功海。テレビにはアイゼンテックの番組の生中継が流れていた。

 

『先日、アイゼンワンダーランドに現れた、三体の巨大生物。その正体を巡っては、様々な憶測が飛び交ってます』

「この時はほんと大変だったよね。ねぇお兄ちゃん……」

 

 同意を求めた千歌だが、克海と功海はテレビに集中していて聞いていなかった。

 

「お兄ちゃん……?」

『本日は、アイゼンテック社社長、愛染正義氏にお話しを伺います』

『きゃ~! 理事長~!』

 

 現場のアイゼンワンダーランドで、アイゼンテック経営の芸能女子高の生徒たちの黄色い声を浴びている愛染にリポーターがマイクを向けた。

 

『この度は大変でしたね……』

『愛と正義の伝道師、愛染正義です!』

 

 愛染はリポーターの言葉をさえぎるように名乗り、自身のトレードマークであるハートを手で作った。そして巨大生物――ウルトラマンとグルジオボーンについて言及する。

 

『巨大生物と言っても、知性を感じる人間型の二体と、凶暴な野獣型の一体は別種でしょうね』

『と、言いますと?』

『凶暴な一体を、私は「怪獣」と呼びます。そして、人間型の二体を、私は……!』

 

 話の途中で愛染は言葉を切り、もったいぶってから堂々と発言しようとする。

 

『ウル……!』

『ありがとうございましたー!』

 

 しかし今度は自分が台詞をさえぎられてしまった。

 

『綾香市に突如現れた、三体の凶暴な巨大生物。今もなお不安に包まれる現場からお送りしました……』

「……凶暴な巨大生物か……」

 

 番組が終わると、克海がリポーターの発言を復唱し、功海は憮然とした顔となっていた。

 

 

 

「またね。バイバイ!」

 

 アイゼンワンダーランドでは、愛染がリポーターに挨拶してから生徒たちの方へ向かっていった。

 

「みんなお待たせ~!」

「理事長~!!」

 

 大勢の生徒たちはこぞって愛染を取り囲む。

 

「ハッハッ、みんな元気いいね~! その調子でラブライブ目指して頑張ろう! 愛と正義の伝道師、愛染正義です!」

 

 生徒の一人一人と手を合わせてハートマークを作っていく愛染。だが人だかりがリポーターとぶつかり、彼女が転倒しそうになる。

 

「あっ!」

 

 その瞬間、ボーイッシュな生徒の一人が颯爽と飛び出して、リポーターを優しく受け止めた。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとう……!」

 

 ボーイッシュな生徒の凛々しい笑顔に、リポーターは思わず赤面した。彼女の活躍に気づいた他の生徒たちの間からもため息が漏れる。

 

「かっこいい……!」

「流石王子様ねぇ……」

「おおッ!」

 

 更に愛染がボーイッシュな生徒に、拍手しながら駆け寄った。

 

「素晴らしい~! 君、いいもの持ってるねぇ! よし、新設の特待生コースに入れてあげよう!」

「えっ……!?」

 

 いきなりの話に面食らう生徒の両肩に手を置いて、愛染が宣言した。

 

「君の力、お借りしますッ!!」

 

 

 

 その日の夕方。

 

「たっだいま~!」

「ああ、お帰り千歌……」

 

 元気よく帰宅した千歌を迎えたのは、彼女とは対照的に元気のない克海だった。それで千歌は面食らう。

 

「克海お兄ちゃん、暗い顔してどうしたの? 功海お兄ちゃんは?」

「あいつなら部屋。今日は晩飯いらないってさ……」

 

 語気に覇気のない克海のことを、千歌は心配して顔をしかめた。

 

「功海お兄ちゃんと喧嘩でもしたの? て言うか、お兄ちゃんたち何だか最近変だよ? 一体どうしたの?」

「……いや、まぁ、俺たちにも色々あるんだよ」

 

 克海は、千歌には本当のことを話すことが出来なかった。彼は功海と、ウルトラマンである自分たちのあり方を巡って対立してしまったのだ。

 功海は町を守って怪獣と戦ったのに、凶暴な生物扱いされたことに納得が行かず、自分たちがウルトラマンの正体でありヒーローだということを発信しようと考えた。しかし怪獣がまだまだ現れるかもしれないこと、正体を明かしてしまったら怪獣と戦い続ける危険を負い続けなければいけなくなることなどを危惧した克海はそれに強く反対。結果、言い争いとなってしまったのであった。

 

「大丈夫、兄ちゃんたちで何とかするさ。お前は心配してくれなくていい。お前だって、スクールアイドル部設立で色々忙しいんだろ?」

「そうだけど……」

 

 それでも心配をぬぐい切れない千歌であったが、無理矢理自分を納得させて追及をやめた。

 

「分かった。だけどその代わり、明日私と一緒に、果南ちゃんのとこに行ってほしいの!」

「うん? 果南ちゃんの? 何でまた」

「梨子ちゃんと、海の音を聞きに行くの!」

「海の音……?」

 

 克海には、千歌の言うことが今一つ分からなかった。

 

 

 

 翌日、克海は千歌、そして梨子を松浦家のダイビングショップに連れてきていた。

 

「しかし驚いたな。あの時の女の子が、お前のクラスに来た転校生だったなんて」

 

 入院中の父に代わり店を取り仕切っている果南と話している梨子を見つめながら、克海がそうぼやいた。グルジオボーンから彼女を助けた時のことを思い返す克海に千歌が振り向く。

 

「克海お兄ちゃん、あの時はありがと! お陰でこうやって梨子ちゃんとここに来れたよ」

「いや、別に構わないけど。それより、桜内さんだっけ? 何であの子、海になんか入りたいんだ? まだシーズンには早いってのに」

 

 疑問を持つ克海に説明を入れる千歌。

 

「梨子ちゃん、ピアノやってるそうなんだけど、最近スランプなんだって。それで環境を変えて、何かを変えたいんだって」

「スランプ打破のためか……。そのためにこんな田舎にまで来るなんて、それだけ一生懸命ってことなんだな……」

 

 ふと、克海の脳裏にウルトラマンとなってしまったことがよぎった。自分たちは、梨子のように怪獣と戦うことをあきらめずに続けられるだろうか……。

 

「お待たせしました」

 

 そう考えていたらウェットスーツ姿の梨子が克海たちの元に歩いてきた。代わりに、果南が千歌のことを呼ぶ。

 

「千歌ー、ちょっと手伝ってくれる?」

「うん!」

 

 千歌が離れると、梨子は克海に向かい合ってお辞儀した。

 

「克海さん……この間は助けていただいてありがとうございます!」

「いや、いいんだよ。それより、千歌が迷惑掛けなかったか? あいつ、随分と君に言い寄ってたみたいだからな」

 

 謙遜した克海が尋ね返すと、梨子は苦笑いを見せた。

 

「正直、大分つき纏われて辟易もしました……」

「やっぱり……」

「だけど……」

「?」

 

 梨子は苦笑しながらも、続けざまにこう言った。

 

「私のために真剣になってくれてることには、少し感謝してます……。こんなにも私のことを考えてくれた人なんて、今までにいませんでしたので……」

 

 少々はにかみながら語った梨子の言葉に、克海は意外な気持ちとなった。

 

「そうなのか……。千歌の奴、俺が思った以上に頑張ってるんだな……」

 

 それと比べたら俺たちは、いや俺は……と考えていると、ふと梨子が問いかけた。

 

「そういえば、いつも千歌さんと一緒にいる、渡辺曜さん。あの子は今日は来てないんですか?」

「ああ、曜ちゃんなら……」

 

 

 

「……ヒーローの責任か……」

 

 その頃、功海は海沿いの路肩にたたずんで、ぼんやりと海をながめていた。深く考えずにウルトラマンのことを発表しようと思っていた彼に対して、克海は言ったのだ。そんなことをしてしまえば、自分たちは怪獣に負けることが許されなくなる。そんな重い責任を背負っていけるのかと。

 つい感情的に突っぱねてしまったが、克海の言う通り、大きな力を持つということはそれだけの責任が生じるということだ。その重い責任が自分たちの未来をどうしてしまうのか、背負い続けていけるのか……とやり場のない思いを抱いていると、後ろから誰かの手が自分の目をふさいだ。

 

「だーれだ?」

「……」

 

 功海はその手をどかして後ろに振り返った。

 

「曜……」

「あったり~」

「何でこんなとこにいるんだよ」

「千歌ちゃんから聞いたんだよ。克兄ぃと喧嘩したんだって?」

 

 不機嫌そうに曜を振り払おうとする功海だが、曜は彼の周りをクルクル回ってつき纏う。

 

「克兄ぃと何を話してたのか知らないけど、克兄ぃはきっと功兄ぃのこと心配してるんだよ。昔から克兄ぃはそうだったじゃん」

「そんなこと……分かってるけどさ……」

 

 力なくつぶやいた功海は、ふと曜に質問を投げかけた。

 

「なぁ曜。もしも自分のやったことが他人から理解されなくて、心ないこと言われたとしても、お前は気にしないでられるか?」

「ん? 急にどうしたの。まさか宇宙考古学のことでまた何かひどいこと言われた? 訳分かんないことやってるーとか。それで克兄ぃと喧嘩したんだ~」

「いいから、答えろっての」

 

 からかい気味の曜だったが、功海の真剣な面持ちに触発されて顔を引き締めると、次のように答えた。

 

「そりゃ、全く気にしないなんてのは無理だよ。だけどそこでムキになっても、自分がみじめになるだけだって思うな。だから、誰に何と言われようともぐっとこらえて、自分の信じたことをやり続けるのが一番だって思うな。そしたら他の人たちだって、いつかは分かってくれるよ」

「そんなに上手く行くか……? そこまでやり続けられるかどうかなんて分かんねぇし、途中で挫折しちまうかもしんないだろ」

「何だか難しいこと言うね……」

 

 眉をひそめた曜だが、気を取り直して功海に返す。

 

「功兄ぃが何をしようというのか知らないけど、それはやってみないことには分からないでしょ。千歌ちゃんだって、前途多難な道のりだけどスクールアイドルをあきらめずにやろうとしてるんだよ」

「……だよな。千歌の奴も、頑張ってんだ……」

「だから、克兄ぃと早いとこ仲直りしなよ。昔から言われてたでしょ? 兄弟が力を合わせれば何だって出来るって。功兄ぃの一番の味方は、克兄ぃの他にはいないんだよ。克兄ぃはどんな時も、功兄ぃのこと助けてくれるって」

「……」

 

 仲直りを勧める曜の説得を受けて、功海は克海がいるだろう沖に目を向けた。

 

 

 

 ――どこかで何者かが、「力」と書かれたクリスタルを、克海たちのルーブジャイロと酷似したジャイロの中央に嵌め込みんだ。

 

ブラックキング!

 

 何者かの手はジャイロの左右のレバーを握り込むと、三回引いてエネルギーを充填させた……。

 

 

 

 船で沖に出た千歌と梨子は、海中に潜って意識を集中していた。その様子を船上から見守りながら、克海が果南に話しかける。

 

「果南ちゃん、親父さんの容態はどうだ?」

「悪くないよ。ただ、退院するのにはまだちょっと掛かりそうだって」

「なら果南ちゃんが復学するのも当分先か。何か困ったことがあるんなら、何だって言ってくれていいからな」

「ありがと、克兄ぃ」

 

 少しだけ頬を赤らめながら、果南が礼を言った。そんな彼女の顔を見つめながら、克海が眉をひそめる。

 

「それで……千歌のことだけどな。本気でスクールアイドル始めるみたいだ」

「……」

「果南ちゃん……何だったら、俺から千歌に言い聞かせるが……」

 

 何かを言いかける克海を、果南がさえぎった。

 

「気にしないで。千歌ちゃんは千歌ちゃん。私……私たちとは、違うかもしれないんだから」

「……」

 

 果南のことを気に掛けて、沈んだ表情を見せる克海だが、その時に千歌と梨子が海面に顔を出した。

 

「聞こえた!?」

「うん!」

 

 二人の様子を見届けた果南が微笑をこぼす。

 

「ほら、何か掴んだみたいだよ」

「そうみたいだな……」

 

 克海も微笑みを見せたが……直後に海面に、奇妙な細かい震動が起こり出す。

 

「な、何だ? この揺れ……」

「何か様子が変……。二人とも、すぐ上がって!」

 

 嫌な予感を覚えた果南が、すぐに千歌と梨子を船に呼び戻す。克海も手を貸して二人を引き上げていると、内浦の町に異常なものが見えた。

 

「何あれ!?」

 

 町の中から、異様な量の土砂が噴き上がっている。ここからでもはっきりと分かるほどの勢いだ。明らかにただごとではない。

 克海はハッと、先日のグルジオボーンのことを思い出して、顔色を一変させた。

 

「果南ちゃん! すぐ陸に引き返してくれ! 功海たちが心配だ!」

「う、うん!」

 

 果南が操縦席に走り、船は直ちに異常事態の起こる内浦へと引き返していった。

 

 

 

 陸ではこの異常が地揺れとなって、よりはっきりとした形で功海たちに感知されていた。

 

「あの土砂何!?」

 

 驚愕する曜の横で、功海も克海と同様、怪獣のことを思い出していた。不吉な予感に駆られた彼は曜に言いつける。

 

「曜、先に避難してろ! 危険だ!」

「功兄ぃ!? ちょっとどこ行くの!?」

 

 曜が止めるのも聞かず、功海は噴き上がる土砂の方向へ駆け出した。

 そして噴き上がる土砂の下から、黒い蛇腹状の皮膚をした巨大な怪物が地上に這い出てきた!

 

「グアアアアァァァァ!」

 

 内浦に出現した巨大怪獣ブラックキング! ブラックキングは付近の家屋を踏み潰し、山の斜面を腕でえぐり飛ばして大暴れを開始する。町はすぐに大パニックに見舞われた。

 

「出たな巨大生物!」

 

 克海の懸念が的中し、再び現れた怪獣の姿を確認した功海はルーブジャイロを取り出した。しかしそれに手を掛けると、克海の言葉がよみがえる。

 

「……それでも、俺たちがやんなきゃ! 俺たち以外にいねぇんだ!」

 

 現実に現れた怪獣を前に、功海は確かな決心をつけた。だが小さな田舎町とはいえ、周りにはブラックキングから逃げる人たちが大勢いる。

 

「流石にここじゃ目立ちすぎる……どこか人の目につかないところで……!」

 

 そう考え、家屋の陰に飛び込んで身を隠した。そこでルーブジャイロを構えようとするが、

 

「功兄ぃ! 功兄ぃー!」

 

 自分を呼ぶ声が耳に届き、思わず手を止めて顔を出した。そうして目に映ったのは、人の波に逆らって自分を捜す曜の姿であった。

 

「曜! 追いかけてきちまったのか!」

 

 ブラックキングの方に振り向く功海。ブラックキングは既に、彼らの近くにまで接近していた。

 

「曜! こっち来ちゃ駄目だ!!」

 

 焦った功海が身を乗り出して警告を飛ばした。しかしそれで刺激してしまったのか、ブラックキングは口から熱線を吐いて、功海の隠れている家屋を爆破した!

 

「グアアアアァァァァ!」

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 どうにか爆発の直撃からは逃れた功海であったが、倒れてきた柱の下敷きになって身動きが取れなくなってしまう。

 

「……何の、これくらい……ウルトラマンに変身すれば……!」

 

 強がる功海だが、ルーブジャイロは爆発の衝撃で彼の手から離れていた。転がったジャイロに手を伸ばすものの、

 

「届かねぇ……!」

 

 腕も押さえつけられていて、手元にあるジャイロに指が触れられない。その間にブラックキングが更に近づいてくる。

 

「まずい……!」

「功兄ぃっ!」

 

 青ざめる功海。そこに彼に気づいた曜が駆け寄ってきた。

 

「大丈夫!?」

「何やってんだ! 俺はいいから、一人で逃げろ!」

「嫌だよ! 功兄ぃを置いて逃げれないよ!」

 

 功海の言いつけを拒否し、曜は彼を押し潰す柱をどかそうとするが、その細腕では到底動かせる重量ではなかった。

 

 

 

 陸に帰ってきた克海たちは、すぐに「四つ角」に戻って家族や客の安否確認と避難を行った。しかし、

 

「功海がいない!」

「曜ちゃんもいないよ! 功海お兄ちゃんと一緒のはずなのに!」

 

 功海たちの姿がないことに焦る克海たち。

 

「電話は!?」

「駄目! つながらないよ!」

 

 果南が問いかけたが、スマホを確かめた千歌はそう答えた。怪獣の出現で電波も通じなくなっているのだ。

 苦悶の色を浮かべた克海は、しいたけを千歌たちに押しつけながら言い聞かせた。

 

「功海たちは俺が捜す。みんなは早く避難しろ!」

 

 梨子がしいたけから遠ざかる中、果南が反論する。

 

「私も捜すよ! 手分けした方がいいって!」

「危険なんだぞ!」

「危険なのは功兄ぃたちの方でしょ!」

 

 食い下がる果南。迷う克海だが、時間がないことで引き下がらざるを得なかった。

 

「分かった……。ただし無茶はするなよ! 自分の身が最優先だからな!」

「うんっ!」

「千歌たちはしいたけを頼んだぞ!」

「分かったよ!」

 

 克海と果南は別々の方向に走り出していった。千歌はしいたけのリードを引きながら梨子に呼びかける。

 

「梨子ちゃん、こっちに!」

「えっ……!?」

 

 だが梨子はしいたけを見るや否や後ずさり、克海の後ろ姿と見比べてから答えた。

 

「わ、私も功海さんたちを捜してくるね! 千歌さんは先に逃げてて!」

「えぇぇっ!?」

 

 仰天する千歌だが、梨子は有無を言わさずに千歌の反対方向に駆け出していったのだった。

 



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兄弟Hand in Hand(B)

 

「うっ……くぅっ……!」

 

 どんなに腕に力を込めても柱がびくともしないことを悟った曜は、近くに転がっている鉄パイプに目をつけた。

 

「ちょっと待ってて!」

 

 それを拾い上げて柱の下に差し込み、てこの原理で柱を持ち上げようとするも、柱が重すぎてやはりどうにもならない。

 

「何してんだよ! 逃げろって!」

 

 曜だけでも逃がそうとする功海であるが、それでも曜はこの場から離れようとしなかった。

 

「功兄ぃ、頑張って!」

「くッ……!」

 

 必死にジャイロに手を伸ばす功海。だがこちらも、あと少しのところでジャイロに手が届かない。

 

 

 

 姿の見えない功海と曜を懸命に捜す克海であったが、一向に見つからなかった。

 

「グアアアアァァァァ!」

 

 その間にブラックキングはますます町を蹂躙していく。最早猶予はないと感じた克海は腹をくくった。

 

「こうなったら俺が変身するしか!」

 

 戦う覚悟を決めてルーブジャイロを取り出すが――その時に、功海の手がジャイロのグリップを掴んだ。

 この瞬間、克海の視界が功海とつながった!

 

『もう俺はいいから、逃げろ曜ッ!』

『駄目だよ! 兄弟はいつでも、一緒に頑張るんだよ! だから功兄ぃは、克兄ぃと千歌ちゃんを置いていっちゃったらいけないんだからっ!』

 

 功海を必死に助けようとする曜に、ブラックキングが迫る。その光景を垣間見た克海は、功海たちのいる場所を判じた。

 

「功海! 今行くッ!」

 

 即座に駆け出す克海。――その姿を梨子が見つけた。

 

「克海さん、一体どこに……!? 危ないわ!」

 

 克海のただならぬ様子を見て取った梨子は、彼がブラックキングの方向へまっすぐ走っていくのに慌て、反射的に追いかけた。

 

 

 

「うぅぅ……!」

 

 どんなに柱が重くとも、あきらめずに功海を助けようとする曜。だがその後方でブラックキングが炎を口に溜めていた。

 

「グアアアアァァァァ!」

 

 再び熱線を放射するブラックキング。その爆発の衝撃が、曜に襲いかかる!

 

「きゃああぁっ!」

「曜――――――――――ッ!」

 

 弾き飛ばされる曜。そのまままっさかさまに地面に叩きつけられる――。

 すんでのところに克海が駆けつけ、曜を受け止めた。

 

「克兄ぃ!」

「克兄ぃ……」

「よく頑張ったな、曜ちゃん。後は任せてくれ!」

 

 曜をそっと下ろした克海は、彼女に代わってパイプを掴んで渾身の力で柱を持ち上げた。

 

「功海大丈夫か!」

 

 克海が作った隙間で、功海はジャイロを持って柱の下から脱け出すことに成功した。

 

「早く曜を安全なところに!」

「ああ!」

 

 負傷した功海だがどうにか立ち上がり、克海とともに曜の側へ駆け寄る。

 

「曜、立てるか?」

「ごめん……さっきので足が……」

「分かった。克兄ぃ!」

「ああ!」

 

 二人で曜を支え、ブラックキングから逃がしていく。が、その行く先から梨子が走ってきた。

 

「克海さん、功海さん! 渡辺さんも……無事だったんですね!」

「桜内さん! 何で来たんだ!」

「それは……」

「とにかく、曜と一緒に逃げ……!」

 

 曜とともに逃がそうとする克海と功海だったが、ブラックキングは近くで動く彼らに目をつけ、熱線を吐き出そうとしていた。

 

「グアアアアァァァァ……!」

「まずいッ! もう余裕が……!」

 

 もう逃げ切れないと判断した二人は、目と目を合わせてうなずき合った。

 

「やるしかないな……!」

「ああッ!」

「功兄ぃ、克兄ぃ? やるって何を……」

 

 功海に抱えられながら呆気にとられる曜だが、兄弟は答える暇もなく、手と手を叩き合って同時にジャイロを構えた。

 

「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」

 

 二つのジャイロから光が放たれ、曜と梨子の視界を塗り潰した。

 

「きゃっ!?」

 

 白い光の中で功海がクリスタルホルダーから火のクリスタルを選び取った。

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 クリスタルから一本角を出して、ジャイロにセットする。

 

[ウルトラマンタロウ!]

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

 

 ジャイロのレバーを三回引いてエネルギーをチャージ!

 

[ウルトラマンブル! フレイム!!]

「はあぁぁーッ!」

 

 火柱に包まれた功海の肉体が変化し、ウルトラマンブルフレイムとなって左腕を振り上げた。

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 克海は水のクリスタルを取り、クリスタルから二本角を出してジャイロにセットした。

 

[ウルトラマンギンガ!]

「纏うは水! 紺碧の海!!」

 

 ジャイロのレバーを三回引いてエネルギーをチャージ!

 

[ウルトラマンロッソ! アクア!!]

「うおぉぉーッ!」

 

 克海は水柱に覆われて、ウルトラマンロッソアクアとなって右腕を振り上げた。

 

『『はぁッ!』』

 

 そして変身した二人のウルトラマンは、熱線を打ち返してブラックキング自身に食らわせた!

 

「グアアアアァァァァ!」

『はぁッ!』

『うりゃッ!』

 

 ひるんだブラックキングのボディに回し蹴りとパンチを入れ、転倒させる。ブラックキングの凶行を止めたロッソとブルの後ろ姿を、内浦の人々が一斉に見上げた。

 

「あの時の巨人さんたちだ……!」

「また出てきた……」

 

 千歌と果南も、二人のウルトラマンの背中をじっと見上げていた。

 ブラックキングが倒れている内に、ロッソは手の中に保護した梨子をそっとブラックキングから遠ざけて下ろした。梨子は、ただただ唖然としてロッソの顔を見つめている。

 

「嘘……克海さんたちが、巨人に……!」

 

 梨子を救出したロッソであるが、ふとあることに気づいてブルの方に振り向いた。

 

『功海、曜ちゃんはどうしたんだ!?』

 

 曜の姿が見えない。確か曜は功海が抱えていたはずだが……そう思っていると、ブルは何故だかバツが悪そうに答えた。

 

『えーっと、それがさ……』

 

 ロッソはギョッとして、ブルを見つめた。視線はその身体の表面を通り抜けて、ブルの内側へ。

 何とブルの内部の、炎に満たされた超空間の中に、曜はいたのだった!

 

『「ここどこ!? そこの青い巨人さんが……まさか克兄ぃなの!?」』

 

 曜は混乱し切ってブンブン首を振り回していた。ロッソは目を見張ってブルの胸を指差す。

 

『おいおいおい!? 何でそんなとこに曜ちゃんが!?』

『俺だって分かんねぇよ! ただ、一番安全なところにかくまわなきゃって思ってたら……』

『早く出してやれ! 戦いに巻き込む気か!?』

『やり方分かんねぇって!』

 

 弁明するブルだが、二人が話している間にブラックキングが起き上がってきた。

 

「グアアアアァァァァ!」

『くッ、しょうがない……このままやるしかないか!』

『おう!』

『「えええぇぇ!? やるって……!」』

 

 ブルは応ずるが混乱の解けない曜は慌てふためく。そしてブラックキングが接近してくると、

 

『「ちょっとやだぁぁぁっ! こっち来ないでよっ!」』

 

 ブンブンと手を振って顔を背けた。するとその動きがブルに伝わり、ロッソとともにブラックキングにぶつかっていこうとしていたブルは足が止まってしまう。

 

『うッ!?』

『功海!? うわッ!』

 

 一人だけでブラックキングを止める形となったロッソは力負けし、地面に叩きつけられた。

 

『「あっ、克兄ぃ!!」』

『曜、悪りぃけどちょっとじっとしててくれ! お前の動きに釣られちまうんだよ!』

『「う、うん、ごめん……」』

 

 ロッソがやられて動揺した曜は、ブルの指示に従って動きを止めた。身体のコントロールが戻ったブルは改めてブラックキングに向かっていく。

 

『だぁッ!』

 

 跳び込むような形でロッソを乗り越えてブラックキングの懐に入ったブルだが、ブラックキングに頭を掴まれて強烈なパンチをもらった。

 

『うわッ!』

「グアアアアァァァァ!」

 

 二人に向かって熱線を繰り出すブラックキング。ロッソとブルは咄嗟に飛びすさって回避した。体勢を立て直すと、ロッソがブルに指示する。

 

『俺は奴の熱線をディフェンス! お前は攻撃だ!』

『オッケー!』

 

 二人でサムズアップし合うと、ロッソがブラックキングの左方に回り込んで水のボールを投擲した。ボールは炎を吐こうとしているブラックキングの頭部に纏わりついてバリアとなり、熱線攻撃を封じ込む。

 

『食らえーッ!』

 

 この間にブルが両手に炎を溜め、光線として発射するフレイムエクリクスを放った。

 しかしブラックキングは水のバリアを蒸発させ、熱線でフレイムエクリクスを防御。弾けた炎のつぶてが町に降り注いでしまう。

 

『『うわぁぁぁぁ―――――!!』』

 

 飛散した炎を食らい、がっくりと膝を突くロッソとブル。

 

『くっそぉー! もう一回!』

 

 悔しがったブルが再び光線を撃とうとしたが、そこをロッソに制止された。

 

『駄目だ! 炎同士がぶつかって被害が広がる!』

「グアアアアァァァァ!」

 

 攻撃をためらった二人にブラックキングが突進。

 

『『わあああぁぁぁぁぁッ!!』

 

 ロッソとブルははね飛ばされて、建物を押し潰しながら倒れ込んだ。

 

『ああ、壊しちゃった……』

 

 破片をつまんで悔やむブルに、ロッソが指示する。

 

『功海、俺に考えがある! クリスタルを交換してくれ!』

『よっしゃ! ……いや、この場合どうすればいいんだ?』

 

 言われた通りにクリスタルをロッソへ飛ばそうとしたブルだが、はたと止まった。

 先の戦いでは自分自身でジャイロを操作したが、今そこにいるのは曜だ。こんな時はどうなるのか。

 

『早くしてくれ!』

 

 しかしロッソに急かされるので、考える間もなく行動に移した。

 

『しょーがない! 曜、悪いけど俺の代わりにクリスタルチェンジしてくれ!』

『「ええ!?」』

 

 自分の目の前にルーブジャイロが出てきたので、曜は思い切り面食らった。

 

『「な、何が何だか分からないけど……分かった!」』

 

 理解が追いつかないながらも、曜はジャイロからタロウクリスタルを外してロッソの方へ投げ渡した。

 

『セレクト、クリスタル!』

[ウルトラマンタロウ!]

 

 ロッソはタロウクリスタルをジャイロにセットしてタイプチェンジする。

 

『纏うは火! 紅蓮の炎!!』

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

 

 ロッソの色が赤に変わり、火の力を身体に纏った。

 そして曜の方には、ロッソから渡されたギンガクリスタルが飛んでくる。

 

『そのクリスタルをジャイロにセットして、三回レバーを引くんだ!』

『「う、うん……!」』

 

 戸惑いつつも、クリスタルをその手に握る曜。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

 

 ロッソの台詞を真似して発し、ジャイロの中央にクリスタルを嵌め込む。

 

[ウルトラマンギンガ!]

『纏うは水! 紺碧の海!!』

 

 ブルの合図とともに一回、二回とレバーを引いて、最後にジャイロを掲げた。

 

『「ヨーソロー!」』

 

 エネルギーのチャージが完了し、ブルが水の力で覆われる。

 

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 タイプチェンジを完了して二人並び立つと、ロッソが自分の身体の調子を確認しながらつぶやいた。

 

『やっぱり、俺は火の方が扱いやすいみたいだ。功海はどうだ?』

 

 と聞くが、ブルからの返事がない。

 

『功海?』

 

 振り向くと、ブルが何やら小刻みに跳びながらそわそわしていた。

 

『な、何やってんだ?』

 

 面食らって問いかけると、ブルは興奮を抑え切れない様子で告げた。

 

『克兄ぃやばいよ! 何か、力が身体の内側からむんむん湧き上がってくる!』

『は?』

 

 ブルだけでなく、水に満たされた空間に包まれた曜も興奮していた。

 

『「ここ、ほんとの水の中みたいで心地いい! 今なら何でも出来ちゃいそう!」』

『よぉーしッ! 行くぜ曜ッ!』

『「ヨーソロー!」』

『あッちょっと……!』

 

 ロッソを置いてブラックキングに飛びかかっていくブル。ブラックキングは拳で迎撃しようとしたが、ブルはすさまじいパワーで弾き返した。

 

『おりゃおりゃおりゃあッ!』

「グアアアアァァァァ!」

 

 ブルの猛ラッシュがブラックキングを押し込み、更にチョップを角に打ち込んでひびを入れた。

 

『今だ克兄ぃ!』

『お、おお!』

 

 急にパワーアップしたブルに困惑しながらも、ロッソがブラックキング目掛けジャンプからのかかと落としをかました。

 

『たぁッ!』

 

 ひびの入っていた角はその一撃に耐えられず、へし折れて吹っ飛んでいった。

 

「グアアアアァァァァ!」

『どーよ! 俺たちの力!』

 

 一本角を失ってたじろぐブラックキング。自慢するブルだが、その時に胸の発光体が二人とも赤く点滅し出した。

 

『あッ、カラータイマーが!』

『功海、時間がない! お前の技で奴を空中に!』

『分かった克兄ぃ!』

 

 ブルが走り出してスライディングし、ブラックキングに下方から水流を撃つ。

 

『食らえー! アクアジェットブラストぉーッ!』

「グアアアアァァァァ!」

 

 ブラックキングの身体は水流によって持ち上げられ、空高くに打ち上げられた。それを追いかけたロッソが猛スピードの飛び蹴りを見舞い、兄弟のダブルキックで追い打ち。

 

『『うりゃあッ!!』』

 

 ブラックキングは真っ逆さまに地上に叩き落とされ、グロッキーとなった。

 

「グアアアアァァァァ……!」

 

 いよいよとどめ。ロッソとブルはブラックキングの頭上からエネルギーを集中し、必殺光線を発射する!

 

『フレイムスフィアシュート!』

『アクアストリューム!』

 

 二人の同時攻撃を食らったブラックキングは、瞬時に爆散。着地したロッソとブルはそれを見届けた。

 怪獣を倒したブルが曜に呼びかける。

 

『曜、お前の言った通りだったな』

『「え?」』

『兄弟が力を合わせれば何だって出来る! いや、曜の力も一緒だったな!』

『「……うん!」』

 

 思わず笑顔がこぼれる曜。ロッソとブルは、ぐっと手と手を握り合って兄弟の絆を感じ合った。

 

「わああぁぁぁぁ―――――!」

「ありがとー!」

 

 内浦の人たちは、町を守ったロッソとブルに割れんばかりの歓声を送った。それを一身に受けながら、二人はスゥッと消えていく。

 ロッソとブルの退場を見届けた千歌は、果南にそっと呼び掛けた。

 

「果南ちゃん。あの巨人さんたち……凶暴なんかじゃないね」

「うん。むしろ、とても優しそうな人たちだった……」

 

 ロッソとブルの活躍を生で見た果南が、そう評価した。

 

 

 

 破壊された町の瓦礫の中に、ブラックキングクリスタルが落下。それを何者かの手が拾い上げて、回収していった……。

 

 

 

 ブラックキングの内浦襲撃から、数日後。克海と功海は居間で話をしていた。

 

「へ~。それでその桜内梨子って子、千歌と曜とスクールアイドルすることになったんだ」

「ああ。千歌がそう言ってた」

 

 聞いた話によると、千歌の勧誘を拒み続けていた梨子だが、一緒の作詞作りを通してすっかりと打ち解け、遂にスクールアイドルの仲間になってくれたのだという。それから毎日、三人で自主レッスンに打ち込んでいるということだ。

 

「初めはどうなることかと思ったが、案外千歌の奴、順調にやってるみたいだな。と言っても、まだ三人だけだが……」

「けどさ……確かその子が、あの時の女の子なんだろ」

「……ああ、まぁな……」

 

 指摘されて、克海は微妙な顔つきとなった。

 猶予がなかったとはいえ、克海たちは梨子と曜の目の前で変身してしまい、二人に正体が知られる結果となった。どうにか頼み込んで秘密にしてもらえることにはなったが、他の人はどうだか分かったものではない。次からはもう少し慎重に行動するようにしよう、と克海は決意した。

 

「しかし、あれは驚いたな。功海、お前が曜ちゃんを身体の中に入れて、しかもそれでパワーアップしたと来たもんだ」

「俺と曜は水と相性いいみたいだ。相乗効果って奴かな。曜なんか、水泳やってるしな!」

「そんな単純な……」

 

 と話し込んでいたら、千歌が二人の元へ駆け込んできたので、咄嗟にウルトラマンの話を打ち切った。

 

「功海お兄ちゃーん!」

「こら千歌! 家の中で走るなって言っただろ!」

「ごめんなさい! でも大事な用があるの!」

 

 克海に叱られながらも、千歌は功海にすがりついてきた。

 

「功海お兄ちゃん、私たち来月の初めにスクールアイドルとしてライブを行うことにしたのね」

「へぇ?」

 

 手作りのチラシを見せながら功海に説明する千歌。

 

「でね、功海お兄ちゃんにも来てほしいなって思って。大学の人、二百人ほど誘って……」

「はぁ!? 二百人だぁ~!?」

「体育館満員にしないと学校の公認がもらえないの! ウチの全校生徒じゃ足りないし、ねぇお願い~」

 

 媚びを売って頼み込む千歌だが、功海からは頭を軽くぐりぐりされる。

 

「このバカチカが~! 兄貴に頼るようでスクールアイドルなんてやれると思ってんのか~!?」

「だってだって~!」

 

 功海が千歌とじゃれていると、アイゼンテックの番組が始まった。

 

『数日前、新しい巨大生物が内浦を襲った事件ですが、またも二体の巨人が現れ、彼らが町を救ったと話題になっていますが、愛染さんはどうお考えですか?』

 

 先日の事件について触れられているので、克海と功海は千歌を放してそちらに食い入った。

 

『愛と正義の伝道師、愛染正義です。私も、彼らには愛と正義の心があると感じてます。故に私は、彼らを超ヒーローという意味で……』

 

 愛染はもったいぶってから、今度はさえぎられることなく前回言いそびれたことを地上波放送に乗せた。

 

『ウルトラマンと! そう名づけますッ!』

 

 この発言に、克海と功海はギョッと目を剥いた。

 

「ウルトラマンさんか~……流石愛染さん! いい名前考えるね!」

 

 千歌は純粋に褒めそやしていたが、「ウルトラマン」の名を既に知っている克海たちは思わず目を合わせた。

 

「何故アイゼンテックの社長がその名前知ってるんだ?」

「偶然か……?」

 

 訝しむ二人に、千歌がはたと手を合わせて功海に呼びかけた。

 

「そうそう功海お兄ちゃん。お兄ちゃんの部屋にこんなの転がってたけど、これ何? 新しいメンコ?」

 

 と言って差し出したのは、二枚のルーブクリスタルだった。

 

「ああ!?」

「大学でこういうの流行ってるの?」

 

 慌てた功海は千歌からクリスタルをひったくるように受け取った。

 

「これはだなッ! そ、その……まぁそんなとこだ! あはははは~!」

「功海! ちゃんと仕舞えって言っただろッ!」

「ごめんよ克兄ぃ~!」

「?」

 

 笑ってごまかそうとする功海と克海の態度に首を傾げる千歌。と、その時に、出社前の兄弟の母が功海の手の中のクリスタルに目を留めた。

 

「あら? そのメダルみたいなの……社長が同じようなのを持ってたような」

「「えッ!?」」

 

 克海と功海はバッと母に振り返り、ぐぐいっと顔を近づけた。

 

「母さん! 今の話本当!?」

「母さんの会社アイゼンテックでしょ!? その社長って……!」

「え、ええ。愛染正義さんよ。確か、研究対象だって……」

 

 兄弟の妙な様子に困惑しながらも母が答える。それを聞いた克海と功海は、再び顔を見合わせた。

 

「ひょっとして……」

 

 

 

『高海兄弟&曜のウルトラソングナビ!』

 

曜「ヨーソロー! 今回紹介するのは『ウルトラマンギンガの歌』だよ!」

曜「主役ウルトラマンさんの名前が入った曲って主題歌のイメージが強いけど、この「ギンガの歌」は珍しく挿入歌だよ! でもギンガさんが優勢の時は大体この歌がバックで流れるから、印象深い人も多いんじゃないかな」

曜「歌詞は王道のヒーローソングの一方で、まるでラブソングそのものでもあるの! これは『ギンガ』無印の青春ドラマの側面が歌に反映されてるってことかな?」

曜「今からしてみると、「時を越え」って部分はギンガさんの正体に関する伏線だったのかもね。最近のウルトラソングは歌詞に今後の内容が込められてることが多いよ!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『決めたよHand in Hand』だ!」

功海「第一期第一話のラストに、エンディングテーマの代わりに流れた挿入歌だな! 千歌、曜、梨子ちゃんの三人で踊るPV風の作りになってた!」

克海「二年生組三人でのダンスで一話を締めるのは、μ'sからの伝統ってとこかな」

曜「それじゃ次回に向かって、ヨーソロー!」

 




功海「アイゼンテックがウルトラマンの研究をしてたかもしれない。俺たちはアイゼンテックに突撃した!」
曜「大変だよ功兄ぃ! また怪獣が現れた!」
功海「何だってぇ!?」
曜「って克兄ぃが新しい武器持ってる!?」
曜「次回、『元気全開アイゼンテック』!」
功海「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」


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元気全開アイゼンテック(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

梨子「千歌ちゃんが転校生をスカウトする一方、克海さんと功海さんはウルトラマンのあり方について喧嘩してしまう。そんな時、内浦に新しい怪獣が出現! 二人は変身に曜ちゃんを巻き込むひと幕がありながらも怪獣を撃破! そして、新たな事件が……」

 

 

 

 綾香。静岡県綾香市の中心地であるが、かつては偶龍璽王伝説が伝わっているだけでこれといった見所のない極々普通の市街地であったが、十五年前にアイゼンテック社の本社が移転してからは、その恩恵により急速に発展。今ではすっかりアイゼンテックの企業城下町の様相を成している。

 

「へぇ~、ここがアイゼンテック本社ビルかぁ」

「何だかんだでここに来るのは初めてだな」

 

 そして功海と克海は今、そのアイゼンテック本社前に来ていた。

 事の発端は、兄弟たちが所有するルーブクリスタルをひと目見た母親が、アイゼンテック社長の愛染正義が同じようなものを持っていたのを見たと発言したこと。ウルトラマンの名前を言い当てたことと言い、愛染はウルトラマンについて何かを知っているのではないかと考えた兄弟は、母親に頼んで愛染とのアポイントを取ってもらったのであった。

 

「それはいいんだが……何で千歌たちが俺たちについてきてるんだ?」

「すっごいね、アイゼンテック本社って! 何かアンテナみたいなのが立ってる!」

「正式名称は、アルトアルベロタワーっていうらしいよ」

 

 克海がチラリと目を横に向けると、そこではアイゼンテック社パンフレットを広げた千歌と曜がはしゃいでいた。二人と一緒にいる梨子は克海にペコペコ頭を下げる。

 

「ごめんなさい。お邪魔しちゃって……」

「ああいや、邪魔って訳じゃないけど……。ただ、どうしてかってだけで」

「も~、忘れちゃったの克海お兄ちゃん?」

 

 ぷくっと頬を膨らませた千歌が克海に告げる。

 

「言ったじゃない、私たちがスクールアイドル部始めるためには、ライブで体育館をお客さんで満員にしなくちゃいけないんだよ!」

「ああ、そういやそんなこと言ってたな……」

 

 千歌たちは千歌たちで、新しい試練にぶつかっていた。未だ定員の足りないスクールアイドル部(仮)だが、突然やってきた浦女の新理事長が部の設立を許可してくれたのだ。ただし条件があり、浦女の体育館でデビューライブを開催し、そこを観客で満員に出来なければスクールアイドルをあきらめることとなったのであった。

 しかし今の浦女は全校生徒を集めても体育館を埋めるには到底足りない。そのため千歌たち三人は何としても満員にすべく、様々な手を打って観客を集めているところなのであった。

 

「愛染さんってアイドル養成校の理事長もやってるでしょ? そこの会社の人たちもきっとスクールアイドルに興味あるはず! それでアイゼンテックの人たちにチラシ配ることにしたの!」

「アイゼンテックなら人いっぱいいるしね!」

「そんな上手く行くもんか?」

 

 期待いっぱいの千歌と曜に対し、克海は半信半疑であった。

 

「ところで、みんなのグループ名ってもう決まってんのか?」

 

 ふと功海が質問すると、千歌が胸を張って答える。

 

「うん! Aqoursと書いて、『アクア』!」

 

 それを聞いた途端、克海の肩がピクリと震えた。

 

「へぇ? aquaとoursを掛けたのか? 洒落た名前思いつくじゃん。誰が考えたんだ?」

 

 と聞くと、梨子が訝しげに眉をひそめた。

 

「それが、分からないんです」

「は? 分からない? 自分たちで考えたんじゃないのか?」

「浜辺で考えてたんですけど、いつの間にかこの名前が書いてあって。それを千歌ちゃんが採用したんです」

「おいおい……そんな怪しい名前にしちゃっていいのかよ。って克兄ぃ、そんな顔してどうしたんだ?」

 

 功海が振り向くと、克海が妙に真剣な表情をしているのに気づいた。

 

「いや、ちょっとな……」

「功兄ぃ、もうアポの時間じゃない? 遅れたら印象悪くなっちゃうよ!」

「いっけね! 立ち話してる場合じゃなかったな。みんな行こうぜ!」

「おぉー!」

「っておい……! 置いていくなよ!」

 

 功海たちがアイゼンテック・アルトアルベロタワーのエントランスに突撃していくのを追いかける克海。最後に梨子が、克海のおかしな様子に首を傾げながらも社内に足を踏み入れていった。

 その様子を見下ろすように、綾香上空をアイゼンテックの飛行船が巡回していた。

 

 

 

『元気全開アイゼンテック』

 

 

 

「あら克海たち、本当に来たのね」

「お母さん、お邪魔しまーす!」

 

 受付でアポイントを確認してもらうと、愛染より先に高海家の母がやってきた。千歌は元気よく母親に挨拶する。

 

「母さん、愛染さんは?」

 

 功海が周りをキョロキョロしながら尋ねると、母に代わって受付嬢が回答した。

 

「社長はただ今、飛んで参ります」

「飛んで参ります?」

 

 およそ聞き慣れない案内にキョトンとする克海たち。その直後、

 

「ハ―――ハッハッハッ!」

 

 上から異様なテンションの高笑いが響いてきた。思わず見上げると、吹き抜けから見える空より、白いスーツの男が飛行装置を使って降下してくるところであった。受付嬢は旗とホイッスルで彼の着陸を誘導する。

 

「ホントに飛んできた!」

「すごーい!」

「本物だ! すげー!」

 

 克海と梨子は唖然としたが、千歌たちは大興奮であった。

 

「仕事の後の空は気持ちいいな~! そう、私が愛染正義です!」

 

 受付嬢に飛行装置とヘルメットを渡した白いスーツの男が振り返り、見得を切った。この人物こそが、アイゼンテック社社長の愛染正義である。

 

「おッ、ティンと来た!」

 

 克海と梨子が反応に困っていると、愛染は急に懐から短冊を取り出し、筆でサラサラと文章を書き上げた。

 

「『一難去ったら全身で翔ばたけ』! ウッチェリーナ君、これ私の格言集に加えてくれ」

[はい、社長!]

 

 どこからともなくひよこ色のドローンが飛んできて言葉を発したので、梨子たちは仰天する。

 

「また何か飛んできた!」

「愛染社長のAI秘書のウッチェリーナよ」

「AIが秘書なんてすごい! 流石アイゼンテックの社長さん!」

 

 高海母の説明に、千歌たちはますます興奮。高海母は愛染に、克海たちを紹介しようとする。

 

「社長、こちらは面会に来た」

「おーおー! 我がアイゼンテックへようこそぉー!!」

 

 しかし愛染は最後まで聞かずに克海たちに近寄っていく。

 

「もちろん知ってるとも~! 高海君、君からよーく話を聞いたからね~! 高海君の子供の……んー……ここまで出てるんだけどね~」

 

 自分の喉を指した愛染の態度から察した克海が自ら名乗り出る。

 

「長男の高海克海です!」

「あ、愛染さん、俺は……」

「弟の功海です!」

 

 功海は憧れの愛染を前にして上手くしゃべれなかったので、克海が代わりに名乗った。

 

「そーそー! 会えて光栄だよ~! 高海君の自慢の息子さん諸君!!」

 

 二人に腕を回して大仰に抱き着いた愛染は、次いで千歌たちに目を向けた。

 

「こちらのお嬢さんたちは?」

 

 克海と功海は千歌たちを前に出して紹介した。

 

「妹の千歌と、その友達の渡辺曜ちゃんと桜内梨子ちゃんです!」

「私たち、スクールアイドル『Aqours』やってます! よろしくお願いします!」

 

 ペコリとお辞儀する千歌たちAqours。すると、愛染は一歩引いて高海母に尋ねかけた。

 

「高海君、キミ娘さんいたの?」

「あれ? 言ってませんでしたか?」

「言ってないよ~! 水臭いなぁもう~! いやぁ、スクールアイドルやってるとは素晴らしいねぇ! よろしく……!」

 

 千歌たちと握手しようと手を差しのべた愛染だったが、その瞬間何かが降ってきて彼の頭頂にぶつかり、ばったりと昏倒した。

 

「あ、愛染さん!?」

「大丈夫ですかぁー!?」

 

 突然のことに騒然とする功海たち。克海は、愛染にぶつかったものを拾い上げる。鳥の形の石像だった。

 

「石の鳥……?」

「何でこんなものが空から……」

 

 梨子と訝しむが、愛染はすぐに起き上がって何事もなかったかのようにスーツを正した。

 

「なぁ~に、私のことは心配ご無用! じゃあ行こうか! アイゼンテックを案内してあげようッ!」

「ホントですか!? ありがとうございまーす!」

「あッ、ちょっと……!」

 

 功海たちが愛染について行ってしまうので、克海と梨子は慌てて追いかけていった。

 

 

 

 愛染は克海たちを連れてアイゼンテック社内を回りながら、すれ違う社員たちに声を掛けていく。

 

「小島君、髪切ったね? う~ん素敵だぁ~! あ~豊竹君、来週娘さんが誕生日だったね。美味しいジェラートを贈っておくよぉッ! おお大杉君、こないだの寿司美味しかったね。今度は釣り行きましょうよねッ!」

 

 社員一人一人に声を掛ける愛染の姿に功海は感動を覚える。

 

「さっすが愛染さん、すげぇ気さくだなぁ」

「お忙しいでしょうに時間取らせちゃって、申し訳ないです」

「全然構わないよ~! 愛と正義のアイゼンテックはね、いつだって未来を夢見る若者たちの支援に惜しみない! ラブライブ出資だって、愛と正義の精神を全国に伝えるために……」

「あっ! この写真何ですか?」

 

 愛染が話している途中で、千歌が通路の壁に飾ってある写真の前で立ち止まった。

 古ぼけた白黒写真を拡大したもので、「愛染鉄工」という表札の小さな工場の前で作業着の男性たちが横一列に並んでいる。

 

「おお~。これは創業者である父と、その会社、アイゼンテックの前身の愛染鉄工だよ」

「へぇ~! こんな小さな会社だったんだ」

 

 今の大企業ぶりとの違いに驚く功海。

 

「この頃はまだ小さな町工場だったんだ。それを私の代で事業拡大し、綾香市にやってきたんだよね」

 

 その時のことを懐かしむかのようにしみじみ語る愛染。

 

「ここまで会社を育てるのは実に大変だった。困難なことの連続だったよぉ。けど私たちは一つのスローガンの下に励み、あきらめずに努力し続けた。今でもそのスローガンは大事な社訓だ。アイゼンテック、ファイトぉーッ!」

「あっ!」

 

 そのフレーズに千歌が反応し、いたく興味を引かれた。

 

「それって穂乃果ちゃんの決め台詞から来てるんですよね! 流石スクールアイドル学校の理事長さんですっ!」

「え? ああ、うん」

 

 愛染のそっけない返事に、梨子は一瞬首をひねった。

 

「千歌ちゃん、そろそろ私たちの用事を……」

「あっ、そうだった!」

 

 曜が千歌に囁きかけると、自分たちの用件を思い出した千歌は手作りのチラシを差し出しながら愛染に申し出た。

 

「愛染さん、実は私たち、今度の日曜日にデビューライブするんです!」

「へぇ? それはめでたい話だ!」

「よかったら愛染さんも来て下さい! チラシも、アイゼンテックの人たちに配ってきていいでしょうか!」

「こら千歌、そんな不躾に……」

 

 克海がたしなめようとしたが、チラシを受け取った愛染が許可を出す。

 

「いいんだよぉ~! 私は希望を抱くアイドルの卵の味方だからねぇ! そんなことでいいのなら、いくらでも構わないよぉッ!」

「やったぁ! ありがとうございます、愛染さん!」

 

 快諾に千歌たちは喜び、曜と梨子が克海たちと愛染にお辞儀した。

 

「それじゃ、私たちはこれで。また後でね、功兄ぃ克兄ぃ!」

「愛染さん、私たちはこれで失礼します」

「うむ、頑張ってくれたまえ!」

「曜ちゃん梨子ちゃん、早く行こう! アイゼンテックの社員さんみんなに宣伝しよう!」

「ああ、待ってよ千歌ちゃん!」

 

 意気揚々とチラシ配りに行く千歌たち三人の後ろ姿を、ウッチェリーナが見送って独白した。

 

[あの子たち、とても仲がよさそうねぇ。とってもいいわぁ……隠れたところではもっと仲睦まじいことしてるんじゃないかしら。たとえば……ああん、そんなっ! ダメよウッチェリーナ! あんな無垢な子たちでそんなこと考えちゃうなんて!!]

「ど、どうしたんだ……?」

 

 突然ウッチェリーナが一人で声を荒げ出したので面食らう克海。愛染はそれに何でもないことのように告げた。

 

「気にしないでくれたまえ。ウッチェリーナ君には妄想癖があるだけなんだねぇ」

「AIが妄想……?」

「すっげぇ技術! やっぱアイゼンテックは進歩してるな~!」

 

 克海はそれが何の役に立つのかと呆気にとられたが、功海は素直に感心した。

 千歌たちを見送ると、愛染は兄弟たちの方に向き直る。

 

「さてでは、私たちも本題に入ろうか。君たちの用件は何だい? 遊びに来たんじゃないんだろう?」

 

 問われると克海たちはたたずまいを直して、話を切り出した。

 

「実は……こういう形のもの、見覚えありませんか?」

 

 功海と克海がルーブクリスタルの形を写したスケッチを愛染に見せると、愛染は頻りにうなずいた。

 

「あぁ~、これかぁ。よろしい、社長室に案内しよう」

 

 そう言って、愛染は兄弟をアルトアルベロタワー最上階、展望室となっている社長室に連れていった。

 

 

 

「私たち、新しいスクールアイドルAqoursです!」

「日曜日にライブやります! 是非来て下さい!」

「よろしくお願いします!」

 

 千歌、曜、梨子のAqours三人はアイゼンテック社内を回りながら、出会う社員たち一人一人にチラシを渡して宣伝していった。その内の女性社員が強く興味を示す。

 

「へぇ~、スクールアイドルね。社長が好きな奴。私の妹もやってるのよ!」

 

 チラシを渡した曜が彼女と話を交わす。

 

「そうなんですか? その子はどこの学校ですか?」

「社長の経営するとこ。アイゼンアイドルスクールよ。この子なんだけど」

 

 懐から一枚の写真を取り出す社員。それには、ロングヘアを金色に染めた美少女が写っていた。

 

「へ~、お洒落でかわいい子ですね!」

「ありがと。社長も妹のことを高く評価してくれたみたいで、新しい特待生コースに勧誘してくれたって言ってたわ。ラブライブにエントリーするのなら、あなたたちとはライバルになるかもね」

「その時はいい勝負できるように頑張ります!」

 

 手を振り合いながら女性社員と別れると、チラシを配り切った梨子と合流した。

 

「曜ちゃん、そっちは配り終わった?」

「うん。千歌ちゃんは?」

「終わったみたいけど、何かパワードギアとかいうのの試着をやらせてもらってるわ。しばらくはあれに夢中そう……」

 

 やれやれと肩をすくめる梨子。曜も苦笑を浮かべた。

 

「克海さんと功海さんの方は?」

「愛染さんと上の階に行ってたけど。向こうもそろそろお話し終わったんじゃないかな?」

 

 と話していたら、噂をすれば影と言うべきか、克海と功海が二人の元に戻ってきた。

 

「曜ちゃん、桜内さん、ここだったか」

「千歌の奴は?」

「千歌ちゃんはもうちょっと掛かりそうです……」

「それで功兄ぃ、克兄ぃ……」

 

 曜は声を潜めると、周囲に耳がないことを確認してから、兄弟に尋ねかけた。

 

「愛染さんから何聞いたの? 聞いてきたんでしょ? ……ウルトラマンのこと」

 

 ウルトラマンの名前を出すと、梨子も緊張の面持ちとなった。克海と功海も神妙な顔で、曜たちに告げる。

 

「ウルトラマンのことが直接分かったって訳じゃないが……」

「愛染さんが、妖奇星の伝説を調べてたってことは話してもらったぜ」

「そうだったんだ……!」

 

 兄弟は愛染から伺った話を、二人に説明した。

 まず、綾香の土地に1300年前に落下した妖奇星の伝説だが、一般的には隕石ということになっているものの、愛染は別の仮説を立てていた。それは、妖奇星の正体が争いながら地球に落下してきた三つの巨大生命体だというもの。その二つが光の巨人、ウルトラマンであり、もう一つの戦っていた相手が、グルジオの正体である怪獣。

 

「妖奇星の正体が巨大生物……。突拍子のない話みたいですけど……」

「俺も以前までだったら、全然信じなかっただろうけどな……」

 

 腕を組む克海。愛染の仮説は、兄弟が幻視したウルトラマンと怪獣の様子に一致していた。

 そして二人のウルトラマンは落下の際の衝撃で無数のクリスタルとなって飛び散った。それが正しければ、兄弟が持っている二つのクリスタルはその一部ということになる。

 

「ってことは、ウルトラマンのクリスタルって他にもたくさんあるってこと?」

「そうなるな。愛染さん、あくまで研究してただけで、実物は持ってないって言ってたけど……」

 

 曜の質問に功海が答えていると、四人の視界の端に奇妙なものが映った。

 

「? 何だ、あれ……」

 

 窓から見える綾香の風景の晴天に、不自然な稲妻が走ったのだ。その稲妻の中心に、空間の穴とでもいうべきものが開き、中から蛇の化け物のような巨大怪獣が出現。真下のビルを踏み潰して地上に降り立った!

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

「あれは!?」

「また怪獣!?」

 

 梨子が焦った声を上げると、アイゼンテック社内にアラートとウッチェリーナの放送が流れた。

 

[危険です! 巨大生物が急接近しています! 直ちに地下シェルターへ避難して下さい!]

 

 突如綾香の中心に出現した巨大怪獣ガーゴルゴンは、立ち並ぶビルを薙ぎ倒しながら一直線にアルトアルベロタワーに向かって進撃し始めた!

 

「やばッ!」

「みんな、急ごう!」

 

 アイゼンテックの社員たちが血相を抱えて一階へ走っていく中、克海と功海も梨子と曜を連れて避難していく。

 が、階段で二階まで下りてきたところで、克海たちは足を止めて梨子と曜に振り向いた。

 

「二人はシェルターに避難してくれ。千歌ももうそっちに行ってるはずだ。功海、行くぞ!」

「了解だ、克兄ぃ!」

 

 克海と功海はシェルターとは別方向に向かっていこうとする。その背中を、曜が呼び止めた。

 

「待ってよ功兄ぃ克兄ぃ! 怪獣と戦うつもりでしょ!」

「そうだ! だから曜ちゃんたちは安全なところに……」

「だったら、私も連れてって!」

「曜ちゃん!?」

 

 曜の突然の言葉に梨子たちは仰天した。

 

「何言ってるの!? すごく危ないことよそれ!」

「功兄ぃたちはその危ないことをしに行くんだよ! 心配なんだって!」

 

 止めに掛かった梨子に反論すると、曜は克海と功海に訴えかける。

 

「私も力を貸すよ! 私がいれば、功兄ぃ何かパワーアップするんでしょ!?」

「確かにそうだったな……。よーしじゃあ……!」

「馬鹿言うな功海ッ! 駄目だ!」

 

 一瞬うなずきかけた功海だが、すぐに克海が咎めた。

 

「曜ちゃん、気持ちは嬉しいがこれは俺たちだけが背負うべき責任だ。君まで危険な目に遭わせる訳にはいかない」

「でも……!」

「大丈夫だ、俺たちは必ず勝って帰ってくるから。功海もいいな?」

「……ああ、分かったよ克兄ぃ。曜、ありがとな」

 

 克海は考え直した功海を連れて、今度こそ迫り来るガーゴルゴンの方向へと走っていった。

 

「あっ……!」

「曜ちゃん、行こう……! 千歌ちゃんが待ってるはずだよ……」

 

 一瞬二人に手を伸ばしかけた曜だったが、梨子に腕を掴まれ、後ろ髪を引かれながらもシェルターの方向に踵を返したのだった。

 

 

 

 地下シェルターの入り口前には愛染が立ち、腕を振って社員たちを中へと誘導していた。

 

「こっちこっち! 押さないようにね! 大丈夫、シェルターはみんな入れるから!」

 

 人の波が途切れてきたところで、愛染は最後に走ってきた眼鏡の男社員に問いかける。

 

「氷室(ひむろ)君、これで全員かな?」

「社員はそうですが、高海さんのご子息二名と娘さんのご友人がまだです」

「何と!?」

 

 愛染と氷室の傍らでは、千歌がハラハラとした表情で梨子たちを待っていた。

 と、そこに梨子と曜の二人が駆けてきたので反射的に飛び跳ねた。

 

「梨子ちゃん、曜ちゃん! こっちこっちー! ……あれ? お兄ちゃんたちは?」

「功兄ぃと克兄ぃは……その、行くところがあるって!」

 

 本当のことを言えない曜はそうはぐらかした。

 

「えぇー!? こんな時にどこにぃ!?」

「し、心配しないで先に行っててって言ってたわ。さぁ千歌ちゃん、行きましょう」

 

 梨子と曜は半ば強引に千歌を連れてシェルター内に避難していった。が、その後ろで、

 

「へぇー…そっかぁ……」

 

 三人の話を耳に入れた愛染が何かを得心したように目を泳がせ、氷室は眼鏡を光らせた。

 

 

 

 梨子と曜と別れた克海と功海の兄弟は、アルトアルベロタワーから外へ出て、こちらに接近しつつあるガーゴルゴンを視界に収めた。

 

「止めるぞ、功海!」

「オッケー!」

 

 二人は手を叩き合わせて息を合わせると、ルーブジャイロを取り出して構えた。

 

「「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 ルーブジャイロとクリスタルを使って変身し、ウルトラマンロッソとブルがガーゴルゴンに向けて飛び出していった!

 



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元気全開アイゼンテック(B)

 

 千歌たち三人が避難していったアルトアルベロタワーの地下シェルター内では、アイゼンテック社員たちが皆不安な面持ちでいた。その中で高海母が三人を見つける。

 

「千歌、克海と功海は一緒じゃないの?」

「お母さん。それが、お兄ちゃんたちは行くところがあるって……」

「そう……。きっと何かあったのね。あの子たち、昔から妙に正義感が強くて困ってる人なんかをほっとけない性分だから……」

 

 高海母がため息を吐いていると、シェルター内の巨大モニターに光が灯った。

 

「みんな、飛行船からの映像が届いたよ! おお、これはッ!」

 

 愛染が説明をしながら、モニターに映し出された地上の様子を大仰に指差した。

 

「ウルトラマンだぁーッ! ウルトラマンが怪獣と戦ってるぞぉー!」

「ほんとだ! ウルトラマンさん!」

 

 映像の中では、克海と功海が変身したロッソフレイムとブルアクアがまさにガーゴルゴンに立ち向かっているところであった。愛染は暗い表情だった社員たちを囃し立てる。

 

「ウルトラマンは我々のために怪獣を退治しようとしてるのだ! みんなでウルトラマンを応援しよーうッ!」

「う……ウルトラマン……!」

「がんばってくれー!」

「私たちを助けてぇっ!」

 

 心が弱っているところに希望の光が差し込んだことで、社員たちは口々に映像の中のロッソとブルに声援を送り出した。

 

「ふふ……」

 

 それに愛染はこっそりと、満足そうにほくそ笑んだ。

 当のロッソとブルは、二人でガーゴルゴンの背後に回り込んで相手を捕らえ、後ろに倒れ込む形で地面に激しく叩きつけた。

 

「やった!」

 

 曜がぐっと手を握ったが、ガーゴルゴンは倒れた姿勢のまま二股の尻尾を伸ばし、ロッソたちを突き飛ばす。

 

「あぁっ!?」

 

 起き上がったガーゴルゴンは口を開くと、その中に隠されてあった目玉を露出。

 

「何あれ!? 口の中に目が!」

「気色悪い……!」

 

 地球の生物ではありえない肉体構造に、梨子はブルリと悪寒に震えた。

 それだけではない。ガーゴルゴンは目玉から怪光線を発射! 地面をなぞりながらロッソとブルに光線が迫る!

 

「危ないっ!」

 

 ロッソとブルは左右に分かれて回避したが、背後にあった鉄塔に光線が当たると、鉄塔はたちまち石に変わってしまう。

 

「鉄塔が石に……!?」

「! もしかして、あの時の……!」

 

 梨子はアイゼンテック社に訪れた時、空から石の鳥が落下してきたことを思い出した。そういうことだったのだろう。

 

「あれ、超やばいじゃんっ!」

 

 震える曜と同じように、ロッソとブルもガーゴルゴンを警戒。だがガーゴルゴンはロッソに肉薄して抑え込むと、ブルに向けて石化光線を放った。

 反射的にかわしたブルだが、光線はガラス張りのビルに当たって反射。それが運悪くブルの方に飛んできた!

 

「あぁーっ!?」

 

 光線が命中したブルは、あっという間に石像に変えられてしまった!

 

「功兄ぃーっ!」

「え?」

 

 曜は思わずそう叫んでしまい、千歌が呆気にとられて振り向いた。

 

「功兄ぃ? 功海お兄ちゃんがどうかしたの?」

「あっ……!?」

 

 失言に気づいた曜は慌ててごまかす。

 

「ち、違うよ。今のは石にぃーっ! って言ったの。ウルトラマンさんが石にされて、超ピンチだよ!!」

「だよね! 負けないで、二本角のウルトラマンさん!!」

 

 千歌と同じように周りの社員たちの声援が強まるが、無情にもガーゴルゴンは拘束したロッソにも石化光線を食らわせようとする。絶体絶命だ!

 しかしその時、梨子がロッソのある異変を見止めた。

 

「あれ? 何か、角が光って……」

 

 

 

『え……?』

 

 ロッソ自身も、ガラス張りのビルが鏡となって、己の角が発光していることに気がついた。

 咄嗟に角に両手をやったロッソ。すると……角からふた振りの片手剣型の武器を引き抜いた!

 

『そういうことかッ!』

 

 双剣を手にしたロッソは首に巻きついた尻尾を払うと、素早くガーゴルゴンの目玉を切り裂いた。不意打ちに反応できなかったガーゴルゴンは斬撃をまともに食らう。

 

「キュウッ! アァオ――――――――!」

 

 痛恨の一撃を食らったガーゴルゴンが後ずさりし、目玉が潰されたことでブルの石化が解けて元に戻った。

 

『大丈夫か?』

『何とか……』

 

 意識が戻ったブルはロッソの横に並ぶと、彼が握る双剣に目を留める。

 

『そんなすげぇもん、どこで見つけたんだよ?』

『頭に武器が仕込んであったんだ』

『よぉーし! だったら!』

 

 ブルもまた己の一本角に手を添える。そしてこちらは一刀の両手剣が出てきた。

 

『これであいつを仕留めてやる!』

『よく見ろ。下手に戦うとまた石だぞ!』

 

 武装して調子づいたブルに、ロッソが注意を促した。

 

 

 

「角から武器が……!」

「すっごーい! いっけぇー!」

 

 窮地から一転して武器を得たロッソとブルに、曜たちが盛り上がって応援に熱を入れる。

 ロッソとブルは剣でガーゴルゴンの稲妻光線を切り払いながら接近し、波状攻撃による斬撃を浴びせていく。武装した以上、数で優勢のウルトラマン側に戦況が転ぶ。

 が、ガーゴルゴンもしぶといもので、稲妻光線でロッソとブルの周囲を薙ぎ払って二人に爆撃を食らわせた。

 

「あぁっ! あの怪獣強いよぉ!」

「頑張って……!」

 

 千歌たちはロッソたちを信じて応援する以外にない。

 そうしていると、ロッソとブルはクリスタルチェンジ。ロッソアクアはブルフレイムを自分の後ろにつかせると、ガーゴルゴンが飛ばしてくる稲妻光線を回避することに専念し出す。

 攻撃がことごとくかわされるガーゴルゴンは痺れを切らしたように、再生した目玉から石化光線を繰り出す!

 

「またあの光線だっ!」

「危なぁいっ!」

 

 悲鳴を発する千歌だが、ロッソは恐れず、水のバリアを作り出して光線を受け止めた。水のバリアは鏡となり、石化光線をガーゴルゴン自身に跳ね返した!

 

「おおー!?」

「あったまいいー!」

 

 パチンと指を鳴らす曜。自分の光線を食らったガーゴルゴンは、自分自身の下半身が石となってしまった。

 

「動きを封じたわ!」

「今だぁ! いっけぇー!」

 

 曜の応援が届いたかのようにブルがガーゴルゴンにジャンプ斬りを浴びせ、再び目玉を潰すと、ロッソとブルのコンビネーションによる斬撃をお見舞いした!

 それが致命傷となって、ガーゴルゴンは大爆発を起こして消滅したのだった。

 

「やったぁー!」

「みんなッ! ウルトラマンが怪獣を倒したぞぉー! 私たちは助かったのだぁーッ!!」

「わぁぁぁぁぁぁ――――――――!!」

 

 ロッソとブルの大勝利に、シェルター中が歓声で包まれたのであった。

 

 

 

『おっさき~』

『おいちょっと!』

 

 ガーゴルゴンを撃破したブルは空に飛び上がって地上から離れていく。つられて飛び上がったロッソはブルに追いつくと、こう問いかけた。

 

『いきなり飛んでどこ行くんだよ?』

『だって、『一難去ったら全身で翔ばたけ』だろ?』

『しょうがねぇなぁ……』

 

 愛染の言葉を引用したブル。ウルトラマン兄弟はそのまま、地平の彼方へと飛び去っていった。

 

 

 

 ――ロッソとブルに倒されたことで戻ったガーゴルゴンクリスタルは、複数の怪獣クリスタルが収められているケースに嵌め込まれた。

 クリスタルを収納した愛染が、にこやかに首を振った。

 

 

 

 その日の晩、『四つ角』で功海は何やらうなりながらウロウロしていた。

 

「う~ん……ルーブソード、ルーブエッジ……ダメだなぁ~安直だ……」

「功海どうしたんだ。そんな檻の中のクマみたいに」

 

 克海が気を掛けると、功海は次のように答えた。

 

「今日手に入れた武器の名前を考えてんだよ。名前あった方が便利だろ?」

「名前? そんなん何でもいいだろうが」

「いやいや! ここは気分が盛り上がるように、かっこいい名前決めようぜ~! 克兄ぃ、何か思いつかねぇ?」

「名前ねぇ……」

 

 聞かれた克海が、少しの間考え込んだ後に、口を開いた。

 

「じゃあ、ルーブスラッガーってのはどうだ?」

「スラッガー?」

「野球で、強打者を示す言葉だ。ほら、剣とバットって似てるだろ? それでさ」

 

 バットを振る動きをした克海に、功海は満足げに表情を輝かせた。

 

「いいなそれ! 響きが気に入ったぜ! じゃ、俺のがルーブスラッガーブルで、克兄ぃのがルーブスラッガーロッソな!」

「ああ。全く、子供っぽい奴め……」

「いいじゃんかよー。それより、千歌たちはどうしたんだ?」

 

 聞かれて、克海は天井、千歌の部屋を指差した。

 功海が二階に上がって、そっと襖を開くと……。

 

「ここでステップするより、こう動いた方が、お客さんに正対できていいと思うんだけど……」

「じゃあ、ここで私がこっちに回り込んで、サビに入る?」

 

 あんなことがあったというのに、気を休ませることなく真剣にライブの演出を議論していた。

 

「……」

 

 功海は柔らかに微笑むと、静かに襖を閉じた。

 

 

 

 その後、ライブの打ち合わせに熱中し過ぎたことによりバスの最終便を逃してしまったので、曜を克海が家に送ることとなった。

 軽トラックで曜を送る最中に、克海が不意に話しかけた。

 

「けど、少し意外だったな。千歌がスクールアイドルに、こんなにも夢中になるなんて」

「え?」

「あいつ、割と飽きっぽいだろ。何かを始めてもすぐにやめるし。だから俺も功海も、今回もどうせ長続きしないって思ってたんだけどな」

 

 克海の評に対して曜はこのように返す。

 

「飽きっぽいんじゃなくて、やると決めたことはとことんやるタイプなんだよ。だからやらないと決めたことからはすぐに手を引くんだと思う」

「なるほどな……。流石、俺たちに見えないところもよく見てるな」

「えへへ」

 

 苦笑した曜に、克海は問いかける。

 

「それで、ライブは成功しそうなのか? 今後の活動が懸かってるんだろ?」

 

 しかし、曜は不安げな表情を浮かべた。

 

「上手く行くといいけど……体育館割と広いし。人の少ないここで、ほんとに満員に出来るかと言われれば……」

 

 と弱気な曜に、克海は微笑みかけた。

 

「大丈夫さ。確かにここは何もないような田舎だが、みんな温かい。ここには心がある。だから俺も功海も、千歌も、この町が好きなんだ。……きっと成功するさ」

 

 克海の言葉に曜は少し驚いた顔となり、そして柔らかな笑顔となった。

 

 

 

 運命のライブ当日。だが天候は崩れ、土砂降りの空模様であった。

 

「大分降ってるな……」

「ああ……。千歌たちついてねぇな~……」

 

 軽トラックで浦女に向かう克海と功海は、道中顔をしかめていた。天気が悪いと人は外に出たくなくなる。当然の心理だ。そんな状態で、体育館を埋め尽くせるだけの人が集まるのだろうか……。流石に不安はぬぐい切れない。

 

「まぁ、どんな結果になっても俺たちはあいつのこと、温かく迎えてやろうぜ!」

「ああ。もちろんだ」

 

 自分たちが暗くなっていても仕方がない。浦女が見えてくると、二人は気分を切り替えた。

 しかし学院の校庭が見えてくると、克海たちは激しく面食らうこととなる。

 

「んなッ……!?」

「な、何じゃこりゃあ!?」

 

 ――荒天にも関わらず、校庭は来客の車で埋め尽くされており、さながら人気テーマパークのパーキングエリアみたいになっていたからだ。

 それだけではなく、呆けている克海たちの軽トラの後尾に続々と車がやってきて列をなしていく。この過疎化が進む内浦で、渋滞が出来上がっているのだ。

 

「す、すげぇ……。内浦ってこんなに人いたのか……?」

「この分だと、内浦の外からも集まってきてるみたいだな……。千歌たちのライブに……」

 

 予想をはるかに上回る光景を目の当たりにし、すっかり言葉を失っていた克海たちだが、現実を呑み込んでいくと、みるみる顔を輝かせた。

 

「克兄ぃ! これならライブ大成功だよな!」

「当たり前だろ! 千歌たちも喜ぶに違いない!」

「いぇ~!! 俺たちの妹、超人気者だ~!」

 

 気持ちが昂った克海と功海はパンッ! と手を叩き合った。

 レインコートを纏って下車し、体育館の出入り口に向かうと、そこで更に意外な人物と出くわした。

 

「やーやー高海兄弟くんッ! 生憎の雨だが、ここは大盛況だねぇ~!」

「愛染さん!?」

 

 愛染と氷室が体育館の扉の前にいることに克海たちは仰天。

 

「まさか、ほんとに来てくれたんですか!? お忙しいでしょうに……」

「なぁ~に! この愛と正義の伝道師愛染正義、新しいスクールアイドルの誕生を祝福しない訳にはいかな~い! 高海君も来られたらよかったんだけど、彼女には急な出張が入ってしまってね~。そこは実に申し訳ない」

「と、とんでもない! 千歌たちのためにわざわざ来ていただけただけで、十分すぎますって!」

 

 功海は未だ信じられないといった顔でブンブン首を振った。克海は愛染の後方に控える氷室に顔を向ける。

 

「そちらの方は?」

「ああ、これはウチの副社長の氷室仁(じん)だ。堅物に見えるけど、これもアイドル好きでね~。一緒に来ちゃった!」

「氷室仁です。どうぞ『今後とも』お見知りおきを」

「ふ、副社長さんにまで! 何か俺もう、倒れちまいそうだよ~……」

「おいおい! お前が倒れてどうするんだっての!」

 

 思わずよろめいた功海を支えた克海は、氷室にペコペコ頭を下げた。

 

「氷室さん、どうも母がお世話になってます」

「いえ。それよりも、ライブの開始時刻は1時半で間違いありませんよね」

「? そうですけど……?」

 

 唐突に尋ねてきた氷室に、呆気にとられる克海。今は1時を少し過ぎたくらいであり、ライブ開始にはまだ早い。

 

「ですが今しがた中を確認したら、既に舞台でAqoursの皆さんが歌われていたのですが」

「「へ?」」

 

 一瞬変な顔となった克海と功海は、互いに顔を見合わせる。

 

「まさか……」

 

 二人は扉をわずかに開き、自分たちの目で体育館の内部を確かめると、停電したのか明かりの点いていない舞台上に、確かに千歌たちAqoursの姿があった。

 それでおおまかな事情を理解した克海と功海は――思い切り扉を開け放って舞台上の千歌に向かって叫んだ。

 

「おいバカチカー! 開始時間間違えてんぞー!!」

「さぁ、皆さんどうぞ中に」

 

 克海が来客を体育館の中へ誘導し、直後に照明が復旧。

 体育館を埋め尽くし、それでも入り切らないほどに集まった人たちの姿が光の下に晒された。

 

「……ほんとだ。私、バカチカだ……!」

 

 暗闇の舞台上で涙をこらえていた千歌は、それを振り払って、曜と梨子とともにライブを改めて開始した!

 

(♪ダイスキだったらダイジョウブ!)

 

 舞台の上で歌い、踊る千歌たちを見守りながら、克海はふぅと嘆息した。

 

「全く、おっちょこちょいな奴だ。こんな大勢の前で早まるなんて、兄として恥ずかしいな」

「でも、結果大成功でよかったじゃん。マジで体育館満員にしてさー」

「確かに、こんなにも集まったのは正直予想外だったな……」

 

 と話していると、功海に手を振る一団が出てくる。

 

「おーい高海ー! お前の妹のライブ、ちゃんと来たぜー!」

「あッ! あいつら……」

 

 その一団の顔に、克海は見覚えがあった。

 

「あれってお前の大学の友達の……何だ、結局二百人連れてきたのか?」

「し、知らねー。あいつらが勝手に来たんじゃね?」

 

 功海はわざとらしく口笛を吹いて素知らぬ顔をした。

 そこに今度は、克海に飛びついてくる人影が。

 

「オーウ克海ー! 二年ぶーりデースっ!」

「うわッ! 鞠莉ちゃん? 帰ってきてたのか?」

「イエース!」

 

 克海に抱きついてきた金髪の少女に、功海は目を丸くした。

 

「克兄ぃ、その子は?」

「あ、ああ。この子は小原鞠莉。あの小原グループのとこの子だよ。話したことあるだろ?」

「ああ、その子がそうなのか」

「小原鞠莉デース! 浦女三年生にして、ここの新しい理事長デース!」

 

 鞠莉の自己紹介に今度は克海が驚かされた。

 

「えッ、理事長? じゃ、部の承認の条件を出したのって……」

「私デスよー。それくらい出来ないようじゃ、スクールアイドルとして成功するなんて無理ですからね」

 

 鞠莉と親しげな克海の様子に、功海は下世話な顔となる。

 

「何だよ克兄ぃ~。小原のホテルに困ってるふりして、ちゃっかりしてんじゃんか。将来は合併かぁ?」

「まぁ、合併だなんて……」

「馬鹿、お前が想像してるようなんじゃねぇよ。鞠莉ちゃんは果南ちゃんの……あー……友達なんだ。その縁で知り合っただけだ」

「あぁそうなんか。果南の」

 

 克海がそう鞠莉を紹介すると、鞠莉は少し複雑そうな表情をした。

 

「……まぁ、再会のご挨拶はこれくらいにして、今は彼女たちの初ライブに集中しましょう」

「そうだな……。ちゃんと見届けてやらないと」

「ああ」

 

 鞠莉にうなずいて、克海と功海は舞台の千歌たちの方に集中した。

 ――そうして千歌たちが歌い終わると、体育館中に歓声が沸き上がり、体育館が割れんばかりの拍手に包まれた。

 それを一身に受けながら、曜、梨子、千歌は順番に語り出した。

 

「彼女たちは言いました!」

「スクールアイドルはこれからも広がっていく!」

「どこまでだって行ける! どんな夢だって叶えられると!」

 

 その時に、人の間を抜けて早足で舞台の前に向かっていく人影が現れる。

 

「ダイヤちゃん……!」

 

 浦女の生徒会長でこれまでずっとスクールアイドル部の承認を拒み続けていた黒澤ダイヤである。彼女は千歌たちに向かって言い放った。

 

「これは今までのスクールアイドルの努力と、町の人たちの善意があっての成功ですわ! 勘違いしないように!」

 

 きつく釘を刺すダイヤだが、千歌たちは動じなかった。

 

「分かってます! でも……でも、ただ見てるだけじゃ始まらないって! 上手く言えないけど……今しかない、瞬間だから!」

 

 千歌は梨子と曜と手をつなぎ合わせ、宣言した。

 

「「「輝きたいっ!」」」

 

 ――三人のその言葉を、克海たちは皆、再びの拍手で称えたのだった。

 

 ――その中で二人だけ。壁際で拍手をしていない愛染と氷室が、囁き合った。

 

「いやぁ~、彼女たちいいもの持ってるね~。氷室君、そう思わない?」

「おっしゃる通りで、愛染社長」

 

 眼鏡を光らせる氷室と、にんまりと口を吊り上げる愛染が、千歌たちの様子をじっと見つめ続けた。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

梨子「ビーチスケッチさくらうち! 今回ご紹介するのは、『Unite ~君とつながるために~』です!」

梨子「これは『新ウルトラマン列伝』内で放送された『ウルトラマンX』のエンディングテーマです。「ユナイト」は『X』のキーワードの一つなので、エンディングのタイトルとしてはピッタリですね!」

梨子「歌詞の内容は『X』という番組の趣旨、他者との理解をとても直接的に表現してます。でも変にひねらず、直球の言葉での表現は、それだけ心に訴えかけるものがあるのではないでしょうか」

梨子「映画でも主題歌として使用されましたが、こちらはボイジャーに加えて、2000年代のウルトラソングをよく担当したProject DMMも一緒に歌ったバージョンとなってます! 彼らの歌声に懐かしい気分となった方もいらっしゃるんじゃないでしょうか」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『元気全開DAY!DAY!DAY!』だ!」

功海「サンシャインのミニユニットシングル第一弾に収録された曲だな! 担当したのはCYaRon!の千歌、曜、ルビィちゃんの三人だ!」

克海「Aqoursの中でも元気いっぱいの三人に相応しい、明るさいっぱいなのがタイトルの時点で伝わってくるな」

千歌「それではまた次回をお楽しみに!」

 




曜「功兄ぃと克兄ぃの前にまた怪獣が現れた! しかも今度のはメチャ強い!」
梨子「このままじゃ、克海さんたちには勝ち目がない……!」
曜「功兄ぃ、克兄ぃ、私やっぱり……!」
梨子「私……私は……!」
梨子「次回、『勇気があったらダイジョウブ!』!」
曜「全速前進ヨーソロー!」


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勇気があったらダイジョウブ!(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

克海「アイゼンテックを襲った怪獣との戦いで、俺と功海は新しい武器、ルーブスラッガーを手に入れた。千歌たちの方もライブが大成功して、スクールアイドル部を出発できた! だが順風満帆とはいかないみたいで……」

 

 

 

 内浦と綾香の中間ほどの位置にある山間部。いつもなら小鳥がさえずる声が聞こえる程度の閑静な場所であるが、今は激しい地響きが山を騒がせていた。

 

『ぐはッ!』

『うわぁぁーッ!』

 

 ロッソアクアとブルフレイムが、敵に弾き飛ばされて地面の上に横倒しとなった。

 その敵の怪獣が、左手の鉄球と右手の鎌を打ち鳴らして咆哮を上げる。

 

「キィィィィィィィィッ!」

 

 五体の皮膚の形状が、つけ根を境に別々のものとなっている、一個の生命体としては不自然な肉体の怪獣。その名もタイラント! ロッソとブルは二人がかりでも、このタイラントの異様なまでの戦闘能力に追いつめられていた。

 

『克兄ぃ、あいつやばいよ! めっちゃ強えぇよ!?』

『けど俺たちは、逃げる訳にはいかないんだ! もう一度行くぞ!』

 

 既にカラータイマーが赤く点滅しているが、ブルとロッソは立ち上がって遠距離攻撃を仕掛ける。

 

『食らえッ!』

『いっけぇーッ!』

 

 ロッソがスプラッシュ・ボム、ブルがフレイムエクリクスを繰り出す。

 

「キィィィィィィィィッ!」

 

 だがタイラントの腹部にある五角形の口が開くと、二人の水と炎の攻撃を両方とも吸いこんでしまった。

 

『駄目だ、効かない!』

『ちっくしょう! 光線が駄目なら、武器で勝負だ!』

 

 ブルとロッソが角に手を添えて、ルーブスラッガーを引っ張り出した。

 

『ルーブスラッガーブル!』

『ルーブスラッガーロッソ!』

 

 一刀の長剣と二刀の短剣を構え、二人同時に斬りかかっていく。

 

『てやぁぁーッ!』

『はぁッ!』

「キィィィィィィィィッ!」

 

 が、タイラントの両腕の鎌と鉄球で易々と受け止められ、二人とも押し返された。

 

『うわぁぁッ! くッ……どの攻撃も通用しない……!』

『まずいよ克兄ぃ……! もう時間ないってのに……!』

 

 パワーでは圧倒され、光線も剣もまるで通じない。カラータイマーの点滅ばかりが早まっていく。手詰まりの状況にロッソもブルも、ジリジリと後ずさりする他なかった。

 

「キィィィィィィィィッ!」

 

 タイラントは口に炎を溜め、ロッソたちに吐き出そうとする。咄嗟に顔を腕でかばう二人。

 ……しかし、タイラントは突然ポンッと煙とともに消失した。

 

『あ、あれ……?』

『消えた……?』

 

 何の前兆もない事態に、ロッソたちはポカンと呆気にとられた。

 しかし待てども暮らせども、タイラントが再び二人の前に出てくることはなかった。

 

 

 

『勇気があったらダイジョウブ!』

 

 

 

 『四つ角』に帰宅すると、居間で功海がぼやいた。

 

「いや~、一時はどうなることかと思ったけどさ、怪獣いなくなってほんとラッキーだよな~。助かったぜ!」

 

 タイラントの突然の消失を楽観的に捉える功海を、克海が咎める。

 

「そんな気楽に構えてたら駄目だろ! 何でいきなり、どうやって消えたのかは分からないが、俺たちは倒した訳じゃないんだ。怪獣はきっと、また現れる」

 

 再出現の可能性を指摘され、功海がげんなりとした顔となった。

 

「うッ、だよな……むしろやられっぱなしだったもんな、俺たち」

「ああ……。次は助からないかもしれない。その前に、どうにかしてあの怪獣をやっつける手段を考えないと」

「そんな簡単に言うけどさー……実際どうすんだよ、あれ。こっちの攻撃がどれも、全然効かないんだぜ? 正直、手の打ちようがねーよ」

 

 すっかりお手上げの功海。克海も渋い顔。

 

「そこだよな、問題は……。あの怪獣と俺たちじゃ、地力が違いすぎる。そこをどうにかしないことには、きっと何したって無駄だぞ」

「地力の差ねぇ……。ほんと、どうすりゃいいんだろうな」

「お兄ちゃんたち、二人で難しい顔して何やってるの?」

 

 うんうんと頭を悩ませていたら、居間に入ってきた千歌がきょとんと克海たちを見比べた。二人は慌てて千歌に向き直る。

 

「ち、千歌! 帰ってきてたのか」

「ちゃんとただいまって言ったよー? 聞こえなかったの? 私の声が聞こえないくらい熱心に、何の話をしてたの? 教えて~チカにも教えてよ~」

 

 畳み掛けるような質問からのおねだりをしてくる千歌。しかし、本当のことを言う訳にはいかない克海たちは言葉を詰まらせた。

 

「そ、それはだな……功海」

「えっと……大人の男の話さ! 千歌にはまだ早えーよ」

 

 克海に振られた功海が適当にごまかしに掛かる。

 

「えー? 何それ。私だけのけ者にするつもりなのー!? ほんと、お兄ちゃんたち最近おかしいよ!」

「えぇーい、いいからいいから! それより、スクールアイドルの方は順調なのか? 確か部は承認されたんだったよな?」

「そうそう。スタートラインを切ってからが大変なんだぞ、千歌」

 

 話題のすり替えをして千歌の意識をそらそうとする功海と克海。果たして、千歌は二人の目論見通りに追及をやめた。

 

「うん! ちゃんと部室ももらえたし。まだ片づけがちょっと終わってないけど……でも、新しい部員候補の子たちも見つけたし! スクールアイドル部はこれからどんどん大きくなってくよー!」

「子たちってことは、何人かいるのか」

「まぁ二人だけどね。一年生で、国木田花丸ちゃんと黒澤ルビィちゃんって言うの!」

 

 黒澤ルビィという名前に、克海が千歌に振り向き直った。

 

「そのルビィって子……」

「うん。生徒会長の妹さんなんだって。だけど生徒会長と違って、スクールアイドル大好きみたい! とってもかわいいし、ここは是非ウチに入ってもらわないと~」

 

 うへへ、と嫌らしい表情をする千歌に功海は呆れ顔。

 

「あんま強引な勧誘すんなよー? 桜内さんの時は上手く行ったみたいだけど、そうそう何度も成功するとは限らねぇんだからな」

「分かってるってぇ」

 

 功海が千歌と話している一方で、克海は複雑な表情であった。

 

「……練習はちゃんとやってるんだろうな?」

「そりゃあもちろん! 毎日頑張ってるし、スタミナつけるために神社の階段の昇り降りだってやってるんだから! あの長いので!」

「へ~。毎日朝早くに家出るのはそれが理由か。あの千歌が、よくやるもんだなー」

「ちょっと功海お兄ちゃ~ん? それってどういう意味かな~?」

 

 千歌がむぅ~とむくれていると、今の話を聞いた克海が顎に手をやった。

 

「スタミナか……」

 

 

 

 翌早朝。梨子と曜は連れ立ってグルジオを祀る「偶龍璽王神社」の長い石段前へと向かっていた。

 

「千歌ちゃん、今日は先に行ってるみたいだね。何故か功兄ぃも克兄ぃも今朝は留守だったけど……」

「克海さんと、功海さん……。二人の身体は大丈夫なのかしら? 昨日は、大分危なかったみたいだし……」

「ああ、そっか……そうだったよね……」

 

 梨子が言外にウルトラマンのことに触れると、曜が複雑そうにうつむいた。

 

「どうなんだろ……。功兄ぃたち、何だかんだで弱いとこは見せたがらないからなぁ」

「怪獣との戦いなんか続けてて、身体が持つのかしら……。まぁ身体のことなら、私たちも壊しそうなことしてるけど……」

「今日は最後まで休憩なしで昇り切れるかなぁ……?」

 

 などと話しながら階段前に到着すると、意外な先客の顔を目にすることとなった。

 

「か、克兄ぃ……ちょっと休憩しようよ……。もう動けねぇって……」

「だらしないぞ、功海! もっと根性見せろ!」

「あれっ、功兄ぃ克兄ぃ!?」

 

 石段の上から克海が、ヘトヘトになっている功海を引っ張るようにしながら降りてきたのとばったり出くわし、曜たちは面食らった。

 

「ああ曜ちゃん、桜内さん」

「千歌なら、上で休んでるぜ……」

「そうなんだ……ってそうじゃなくて。克海さんたちまでどうして?」

 

 梨子が尋ねると、克海が功海を指差しながら答える。

 

「いや、最近こいつ運動不足でだらしないから、兄としてちょっと鍛えてやらなきゃと思ってな」

「……まぁ、そんな説明を千歌や果南にはしたんだけど……」

 

 つけ加える功海。兄弟の事情を知る曜たちは、本当の理由に察しがついた。

 

「……昨日の怪獣に対抗するための特訓って訳なんだ」

「知ってんのか?」

 

 功海が聞き返すと、曜はスマホを取り出して一本の動画を見せた。

 昨日の、二人がタイラントと戦い、追いつめられるまでの一部始終であった。

 

「うわッ、あれ撮ってる人がいたのか……」

「全然気づかなかったなぁ……」

「ねぇ、克兄ぃ、功兄ぃ……」

 

 呆気にとられる克海たちに、曜と梨子が恐る恐る尋ねる。

 

「何て言うか……大丈夫なの? すっごい一方的にやられてるじゃん……。また同じのが出てきたら、次はもしかしたら……」

「私も心配です……。失礼ですけど、階段を昇り降りするくらいで、勝てるようになるんでしょうか?」

 

 二人の意見に合わせるように、功海も克海に文句をつける。

 

「だから言ったろ、克兄ぃ。今から足腰鍛える程度でどうなるんだよ。何か別の方法を……」

「そんなこと言っても、他にいい手なんかあるのか?」

「そ、それもそうだけど……」

「うんうん考え続けて、結論が出なかったら結局時間の無駄だぞ。とりあえず、やれることをやるんだ」

 

 ピシャリと功海をはねつけた克海が、努めて明るく振る舞って曜たちに向き直った。

 

「心配してくれてありがとう。だけどこれは俺たちの問題だ。俺たちでどうにかしてみせるさ」

「だけど……」

 

 曜が反論しかけたところで、上から更にもう一人階段を駆け下りてきた。

 

「あっ、二人も来たんだ。急にここ、人気になったね」

「果南ちゃん!」

 

 階段を走って降りてくる果南の姿に、曜がまさかと驚く。

 

「もしかして往復してきたの? この長い階段!」

「一応ね。日課だから」

「日課!?」

 

 何でもないことのようなひと言にますます驚く梨子たち。だが果南は気にする様子もなく克海たちに向き直った。

 

「千歌たちはともかく、克兄ぃたちまでランニング始めるなんてね。どんな風の吹き回しか知らないけど、まぁ頑張って」

「ああ」

「じゃあ、店開けないといけないから。じゃあね!」

 

 ひと言残して、果南はそのまま走って神社前から去っていった。その後ろ姿を見送って、呆然とする梨子たち。

 

「息一つ切れてないなんて……」

「上には上がいるってことだね……」

「ほら功海! 果南ちゃんに負けてて悔しくないのか! もうひとっ走り行くぞ!」

「ち、ちょっと克兄ぃ、待ってよ~……!」

 

 克海から発破を掛けられた功海が、しぶしぶながら彼の後に続いて石段を駆け上がっていく。

 

「あっ……!」

 

 置いていかれる形となった曜は、梨子にこう話しかけた。

 

「やっぱり心配だな、功兄ぃたち……。やっぱり、前やったように私が力を貸せば……!」

 

 一瞬そう考えた曜だが、梨子に諭される。

 

「でも、それは当然危険なんでしょう? もしものことがあったら……スクールアイドルも出来なくなるかもしれない。そしたら、千歌ちゃんがすごく悲しむはずよ」

「うっ……それも、そうだけど……」

 

 言葉に詰まる曜。梨子も彼女の気持ちには同感するものがあったが、それでも危険なことはさせたくないという気持ちの方が強かった。

 

「……上で千歌ちゃんが待ってるわ。早く行きましょう」

「うん……」

 

 沈黙が流れた二人は、いたたまれなくなって階段を上がっていこうとする。が、その寸前、曜が不意に後ろに振り返った。

 

「?」

「どうかしたの?」

「いや……何か、誰かに見られてるような気がして」

 

 しかし、周りにはどこにも人の姿らしきものは見受けられなかった。

 

「や、やめてよ、変なこと言うの。さっ、行きましょ」

「うん……」

 

 首をひねりながらも、曜は梨子の後に続いて石段を昇っていった。

 ――その姿がなくなってから、近くの茂みの中からひよこ色のドローンが出てきて綾香の方向へ飛び去っていった。

 

 

 

 その日の放課後、千歌たちが立ち上げたスクールアイドル部に仮入部希望者がやって来た。千歌が目をつけた、国木田花丸と黒澤ルビィの二名である。特に千歌がこれに喜び、自分たちの活動を親身に紹介していった。練習場所など、まだ定まっていない部分もあったが……どうにか無事に解決していった。

 そして、偶龍璽王神社の階段の昇り降りも紹介する。

 

「これ、いつも昇ってるんですか!?」

 

 驚き混じりのルビィの問いに、千歌が自慢げに答えた。

 

「もちろんっ!」

「いつも途中で休憩しちゃうんだけどね」

「えへへ~……」

 

 曜のツッコミに、照れ隠しに頬をかく千歌であった。

 

「でも、ライブで何曲も歌うには、頂上まで駆け上がるスタミナが必要だし」

「じゃあ、μ's目指して……」

 

 スタートの合図を出そうとした千歌だが、その直前に、

 

「おーい! 君たちー!」

「ん?」

 

 上から大きな呼び声がしたので、五人が思わず顔を上げると……空から飛行装置を背負った人がゆっくりと降りてきた。

 

「愛染さん!」

「えぇーっ!? と、飛んでるよぉ……」

「み、未来ずらぁ……」

 

 愛染である。人が空を飛んでいるところを初めて目にしたルビィと花丸は驚き、花丸は思わず口走った言葉に慌てて口を閉ざした。

 

「どうも。愛と正義の伝道師、愛染正義です!」

 

 着陸してトレードマークのハートマークを手で作った愛染に、千歌が尋ねる。

 

「愛染さん、どうしてこんなところに?」

「いやぁ~、先日の君たちのライブがとっても良かったからねぇ! 退社ついでに、ちょっと様子見に寄ってみたという訳だよ」

「えぇ~!? 愛染さんに良かったなんて言ってもらえて、こっちこそ嬉しいですよぉ」

 

 にへへ~、とだらしなく破顔する千歌。

 

「その後順調かな? ん? おぉッ! 新しい部員がいるではないか~! うむ、良き哉良き哉!」

「いえ、二人はまだ仮入部者で……」

「ハッハッハッ。仮入部なんて、もう新入部員も同然だろうて!」

 

 梨子の訂正を軽く笑い飛ばしながら、愛染は花丸とルビィに向き直った。

 

「やぁやぁお初に。君たちもスクールアイドルは好きかい?」

「ぴぎっ!?」

 

 気さくに話しかける愛染だが、ルビィはその途端奇声を上げ、さっと花丸の陰に隠れた。

 

「おやおやどうしたんだい」

「すみません。ルビィちゃん、極度の人見知りで……」

「うーむなるほど。アイドルとしてはちょっと難点だが、そこも逆に個性! 頑張んなさい!」

 

 まともに話が出来ないルビィの代わりに謝る花丸だが、愛染は気にした風もなく、今度は梨子と曜に顔を向けた。

 

「ところで……そこのお二人は、何だか元気がないね」

「えっ……そうでしょうか?」

「何か大きな悩み事でもあるのかな? そうだろうねぇ。悩みのある人は、ちょうど君たちみたいな顔をする」

「そうなの? 曜ちゃん、梨子ちゃん」

 

 面食らって振り向く千歌。二人が何か答える前に、愛染が続けて話した。

 

「アイドルというものは、得てして重大な局面にぶつかるものだ。しかし、逃げていてはいけない! 真に人を笑顔にするアイドルとは、どんなことにもチャレンジして、試練を乗り越えて光り輝くのだ! たとえ、どんなことだろうとね」

 

 「どんなこと」を強調する愛染は、短冊を取り出して梨子たちに見せつける。

 

「そうッ! 『石橋にノンストップで行ってみましょ』だ! くれぐれもよく覚えといてね」

 

 梨子と曜は、思わず顔を見合わせた。

 

「おっと、すっかり邪魔しちゃったかな。いやぁ~失敬失敬」

「いえ、そんなことは全然……!」

「いやいや。スクールアイドルに時間は貴重だ。それじゃ、ラブライブ目指して頑張ってね~! バイバ~イ」

 

 謙遜する千歌に構わず、愛染は手を振りながら飛行装置で再び空に飛び上がり、五人の前から去っていった。

 

「はぁ~、相変わらず愛染さんはすごい人だなぁ。私たちも、負けてらんないよね!」

 

 気合いを入れ直した千歌が、スクールアイドルのトレーニングに皆の意識を戻す。

 

「それじゃあ改めて、よーいドーン!」

 

 そして今度こそ、皆で階段に向かって一斉に走り出していった。

 

 

 

 ――千歌たちの前から去って、帰ったものと見せかけた愛染は、人気のない山の中に密かに降り立って身を隠した。

 

「さってと……今日もよろしく頼むよぉ」

 

 愛染がそう呼び掛けたのは、懐から取り出した、「氷」のタイラントのクリスタルであった……。

 



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勇気があったらダイジョウブ!(B)

 

 偶龍璽王神社の階段の駆け上がりに挑むルビィは、先に到着した千歌たち三人から声援を受けながら、見えてきた鳥居を目指してラストスパートを掛けていた。

 

「あと少しだよー!」

「頑張れー!」

 

 そうして遂に、勢いよく鳥居をくぐってゴールにたどり着く。

 

「やった……やったぁ!」

「すごいよルビィちゃん!」

「見て!」

 

 千歌が、夕陽を後光とする祠を指差す。

 

「わぁぁ……!」

 

 達成感と感動に包まれるルビィ。千歌も、飛び跳ねながら宣言。

 

「やったよ! 昇り切っ……!」

「キィィィィィィィィッ!」

 

 だが台詞が、突然起こった金切り声のような咆哮によってかき消された。

 

「え?」

 

 唖然として、左上を見上げた四人の視線の先に……。

 

「キィィィィィィィィッ!」

 

 いつの間に現れたのか、タイラントの威容があった!

 

「ぴぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――!!?」

「か、怪獣ぅぅぅぅぅぅぅっ!! こんなところにぃぃ―――――――――!?」

 

 途端に悲鳴を発するルビィと千歌。タイラントは幸い彼女たちを気にも掛けていないが、何分その巨体、少し動くだけでも近くにいる千歌たちに危険が及ぶ。

 

「あ、危ないっ!」

「早く逃げよう!」

「う、うん!」

 

 梨子と曜が千歌とルビィの手を引き、来た道を引き返して逃走していく。しかしタイラントも山を下り、内浦に入り込もうとしている。

 

「やばいよ、町に入っちゃう……!」

 

 焦る曜だが、千歌はもう一つのことを気にする。

 

「ねぇ、花丸ちゃんは?」

「そういえば……!」

「途中で、先に行ってって……」

 

 ぜいぜい息を切らしながらそう答えるルビィ。

 

「捜さないと!」

 

 タイラントから逃げながら、姿が見えなくなった花丸を捜索する四人。

 しかしその途中で、別の二人が階段を逆走してくるのが見えた。

 

「克兄ぃ、昨日の奴だよ!」

「こんなに早く現れるなんて……あッ!?」

 

 功海と克海だ。面食らう千歌。

 

「お兄ちゃんたち、何で!?」

「えーっと、それは……」

「た、たまたま通りがかったんだよ! お前たちがいるはずだから、心配でだな」

 

 咄嗟にごまかす功海。梨子も協力して話をそらす。

 

「ここに来るまでに、女の子を見ませんでしたか!?」

「それなら、下の方ですれ違ったけど……」

「何故かダイヤちゃんもいたな」

「お姉ちゃんが!?」

 

 思わず声を上げるルビィ。しかし今はいちいち気にしている場合ではない。曜と梨子はルビィと千歌の背中を押す。

 

「千歌ちゃんとルビィちゃんは、先に花丸ちゃんのとこに行って!」

「えっ、曜ちゃんたちは?」

「私たちはいいから! 早く!」

 

 ほぼ無理矢理千歌とルビィに階段を下らせた梨子と曜は、克海たちに向き直り――曜が申し出た。

 

「功兄ぃ、克兄ぃ……私やっぱり、功兄ぃたちと一緒に戦うよ! 私も一緒に、ウルトラマンに変身させて!!」

「えッ!?」

 

 曜の言い放った言葉に思わず目を見張る兄弟。克海は慌てながら曜を説得しようとする。

 

「曜ちゃん、まだそんなこと言ってるのか! 言っただろ? これは俺たちの、俺たちだけの問題だって……」

 

 だが曜は首を横に振って否定した。

 

「違うよ! だって、襲われてるのは私たちの町だよ! 千歌ちゃんが暮らすところで、梨子ちゃんがいるところで、私がスクールアイドルやるところで……功兄ぃと克兄ぃがいるところ! だから、私の問題でもあるの!」

「曜ちゃん……」「曜……」

「お願いっ! 私の大切な場所を、私が守りたい! 勇気がついたの!」

 

 己の懸命な想いを吐露して訴えかける曜。

 それに続き、梨子も告げる。

 

「私もお願いします! 曜ちゃんがそうだったなら、私も力になれるかもしれません!」

「桜内さんまで!?」

「私は内浦に来てからまだ日が浅いですけど、それでもここが好きです! 失いたくありません! それに、さっき愛染さんが言ってました。『石橋にノンストップで行ってみましょ』と!」

「けれど……」

 

 二人の必死な願いを受けてもまだ迷っている克海だが、そこにタイラントの鳴き声が響く。

 

「キィィィィィィィィッ!」

「克兄ぃ! もう時間ないよ!」

 

 タイラントは今にも町に踏み込みそうだ。克海もいよいよ腹をくくった。

 

「分かった。けど無茶はするんじゃないぞ!」

「実際に戦うのは俺たちだけどな!」

「うんっ!」「ありがとうございます……!」

 

 願いが通り、曜と梨子の顔が輝いた。

 

「だけど、一緒に変身って言ったってどうやるんだ?」

「そんなの勢いで何とかなるって! あの時もそうだったし!」

「そんなもんか……?」

「つべこべ言ってる暇もねーってば! 俺から行くぜ!」

 

 功海が手本を見せるように、曜の側に寄ってルーブジャイロを取り出した。

 

「曜! 準備はいいな!?」

「もっちろん!」

 

 曜が大きくうなずくと、功海がクリスタルホルダーを開いて水のクリスタルをつまみ出した。

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 クリスタルを胸の前に置く功海の後ろで、曜がニッと笑って敬礼のポーズを取る。

 功海がクリスタルから一本角を出してジャイロにセット。

 

[ウルトラマンギンガ!]

 

 功海と曜の背後にギンガのビジョンが現れ、水の波動が広がった。功海は曜とともに上を見上げ、ジャイロを掲げる。

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」

「ヨーソロー!」

 

 功海がジャイロのレバーを三回引き、エネルギーチャージ。

 

[ウルトラマンブル! アクア!!]

「はあぁぁーッ!」

 

 功海と曜の二人が水柱に包まれ、一人の青い巨人となって飛び出していった!

 

『「功兄ぃ、成功だよ!」』

『よっしゃ!』

 

 ウルトラマンブルの水に包まれたインナースペースで、曜が告げた。それを見て、克海が梨子の方に振り向く。

 

「桜内さん、本当にいいんだな?」

「はい……!」

 

 梨子は重々しく、しかしはっきりとうなずいた。

 それを受け、克海が功海と同じように彼女の前で火のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 克海の後ろで、梨子がぐっと胸の前で右手を握り締めた。

 克海はクリスタルから二本角を出し、ジャイロにセット。

 

[ウルトラマンタロウ!]

 

 タロウのビジョンが現れて火が弾けると、克海は梨子とともに上を見上げ、ジャイロを掲げた。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「ビーチスケッチさくらうち!」

 

 克海がジャイロのレバーを三回引き、エネルギーチャージ。

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

「うおぉぉーッ!」

 

 克海と梨子が火柱に包まれ、一人の赤い巨人となって飛び出していく。

 ウルトラマンロッソも無事に梨子をインナースペースに収めて変身を遂げ、ブルに並び立った!

 それから、ロッソが梨子へとつぶやく。

 

『……桜内さん、今の何だ? ビーチスケッチとか……』

『何の決め台詞?』

 

 ブルも訝しそうに尋ねかけた。

 

『「ええ!? 曜ちゃんがヨーソローとか言うから、私も何か言わないといけないのかと思って……」』

『「あーそこまで真似しちゃったんだ。いや、それは私が勢いづけのために言っただけだから、言わないといけないとかじゃないんだよ」』

『「そうなの!? や、やだ、私ったら……」』

 

 羞恥心を感じて赤面する梨子であった。

 

『まぁともかく、桜内さん、熱くないか?』

 

 火に覆われたインナースペース内の梨子を案ずるロッソ。しかし梨子は少しも苦しそうではなかった。

 

『「そこは大丈夫です。むしろ、何だか身体の内側から熱意が溢れてくる感じです……!」』

『「私も、やっぱりここにいると力がみなぎってくるよ!」』

『俺も、何だかパワーが満ちてきてる感じだ!』

『「桜内さんは火のクリスタルと相性がいいみたいだな」』

 

 梨子たちの反応に、ブルがそう結論づけた。

 

「キィィィィィィィィッ!」

 

 見れば、タイラントがこちらに振り返って威嚇している。昨日交戦したロッソとブルを敵と見定め、町より先に叩きのめしてしまおうという構えだ。

 

『よしッ、行くぞ桜内さん!』

『「はい!」』

『今度は負けねぇぞぉ! 曜!』

『「うん! 行っちゃってー!」』

 

 ロッソとブルは堂々と見得を切り、全身でタイラントに飛び掛かっていった。それを迎撃に掛かるタイラント。

 

『はぁッ!』

「キィィィィィィィィッ!」

 

 接近してくるロッソに対して、タイラントが鉄球を振るう。しかしロッソはそれを両手で受け止め、相手の手首に拳を叩きつけて上に弾いた。

 

『いいぞ! 怪獣の攻撃を止められる!』

 

 昨日は完全に力負けしていたのに、今は互角に立ち回れることにロッソが興奮を覚えた。

 

『うりゃーッ!』

 

 ブルが飛び蹴りをタイラントの首筋に決めると、タイラントがよたよたと後ろに下がった。

 

「キィィィィィィィィッ……!」

『こっちの攻撃も通るぜ! これなら行けるッ!』

『曜ちゃん、桜内さん、二人のお陰だ! ありがとう!』

『「そ、それほどでもないです……!」』

『「これくらい構わないってー。それより怪獣をやっつけちゃおう!」』

 

 ロッソから称賛され、梨子は少し照れ、曜ははにかんで鼓舞した。

 

『『はぁぁぁッ!』』

 

 パワーアップを遂げたロッソとブルは、その勢いに乗ってタイラントに肉弾を入れていった。

 

 

 

 ――この戦いを、アルトアルベロタワーの社長室に戻った愛染が、ウッチェリーナから送られてくる映像を介して観察していた。

 

[社長、兄弟は渡辺曜と桜内梨子と一体化しての変身に成功しました]

 

 ウッチェリーナからの報告に、愛染はにんまりとほくそ笑んだ。

 

「いいねぇ。ウルトラマンと一つになって、怪獣に立ち向かう可憐なアイドル……私の望んだ通りの結果となった」

 

 

 

「キィィィィィィィィッ!」

 

 タイラントは鎌と鉄球を振り回して反撃するが、ロッソとブルは二人がかりで凶器攻撃を弾き返しつつタイラントを押し込んでいく。

 

『よしッ、今だ!』

 

 タイラントの動きが鈍ってきたところで、好機と見たロッソが光線技を試みる。

 

『食らえッ!』

 

 爆発性の火球、ストライクスフィアをオーバースローで投げつけるロッソ。が、タイラントは火球を腹部の口で吸い込み、爆発は起こらなかった。

 

『くッ……パワーを上げても、光線はやっぱり効かないのか』

「キィィィィィィィィッ!」

 

 タイラントはお返しとばかりに、腹部から冷却ガスを放出!

 

『うわッ!?』

『危ねッ!』

 

 ロッソたちは咄嗟に後ろに下がって冷気攻撃から逃れた。

 

『くっそー、こいつがやべーんだよな』

 

 毒づくブルだが、タイラントは更に鉄球からロープつきのフックを射出して攻撃してくる!

 

『おわぁッ!』

『ぐッ、あいつ全身が武器か……!』

 

 武器が豊富なタイラントになかなか近づけなくなる兄弟。そうしている内に、二人の胸のカラータイマーが点滅し出した。

 

『「功兄ぃ、何か鳴ってる!」』

『タイムリミットが近いんだ! 早いとこ決めねーと!』

『だがどうする? 今の俺たちには、決め手がない』

 

 聞き返すロッソ。光線は効かず、物理だけで勝負を決めるには時間が足りない。八方ふさがりである。

 するとブルがタイラントのフックに注目し、アイディアを思いついた。

 

『俺たちが駄目なら、あいつ自身の攻撃ならどうだ!?』

『何?』

『つまりだな……』

 

 ロッソに素早く耳打ちするブル。

 

『なるほど……試してみるか!』

『合点!』

 

 ロッソとブルは角に手をやり、ルーブスラッガーを抜いた。

 

『ルーブスラッガーロッソ!』

『ルーブスラッガーブル!』

「キィィィィィィィィッ!」

 

 武装した二人に対して、タイラントは再びフックを飛ばしてくる。

 

『はッ!』

 

 ロッソは、今度はよけようとせずに両手のスラッガーを駆使してフックを防御。そのまま絡め取った。

 するとブルが跳躍し、長剣に勢いを乗せてロープに振り下ろす!

 

『たぁぁぁーッ!』

 

 ルーブスラッガーブルがロープを一刀両断! バランスを崩したタイラントがつんのめった。

 

「キィィィィィィィィッ!」

 

 その隙にロッソは切断されたフックにスラッガーから持ち替え、それを火で包み込みながら振りかぶった。

 

『いっけぇぇぇーッ!』

 

 そしてまさかり投法で、タイラントに投擲!

 

「キィィィィィィィィッ……!!」

 

 己のフックが槍のようになって胸に突き刺さったタイラント。動きが目に見えて鈍った。

 

『ストラーイク! ナイスピッチング克兄ぃ!』

『ははッ。今がチャンスだ!』

 

 タイラントが動けない内に、ロッソとブルは必殺攻撃の用意をする。

 

『桜内さん、俺と呼吸を合わせてくれ!』

『「はいっ!」』

『曜、こっちも頼んだぜ!』

『「ヨーソロー!」』

 

 ロッソは腕を十字に組み、ブルはL字を作る。そして、

 

「『フレイムスフィアシュート!!」』

「『アクアストリューム!!」』

 

 同時に光線をお見舞いした! これを食らったタイラントは、一撃で爆散!

 

『決まったッ!』

『よっしゃあーッ!』

 

 遂にタイラントを撃破したことに、ロッソとブルは大喜び。

 二人のインナースペースで、曜と梨子も安堵して笑顔となった。

 

『「やったね、梨子ちゃん!」』

『「うん……!」』

 

 そしてロッソとブルは空に飛び立っていき、内浦への被害は水際で食い止められたのであった。

 

 

 

 後日、克海と功海は千歌、曜、梨子からAqoursの進捗状況を聞いていた。

 

「へぇ。じゃあ、その二人は無事に入部した訳だ」

「よかったじゃん、メンバー増えて」

「うん! これでAqoursも五人だよぉ五人!」

 

 喜びながらうなずく千歌。

 仮入部に来たルビィと花丸は、晴れて正式なAqoursのメンバーとなった。自分に自信がない花丸は一人身を引こうとしていたのだが、ルビィと千歌たちの説得を受けて、自身もスクールアイドルになることを決意したのであった。

 

「いや~、ほんと『石橋にノンストップで行ってみましょ』だよぉ。愛染さん、流石いいこと言うよね~。あっ、お茶菓子取ってくるね」

 

 しみじみ語った千歌が一旦席を立つと、その間に曜がこっそりと克海と功海に呼び掛けた。

 

「功兄ぃ、克兄ぃ、ウルトラマンの方も私と梨子ちゃんがこれからも手伝うからね。一緒にこの綾香市を守ろうね!」

「おう! 曜たちがいれば、どんな怪獣にも負ける気しねーな!」

「けど、繰り返し言うが無茶はしてくれるなよ。スクールアイドルが疎かになったら、千歌に申し訳が立たない」

 

 功海は調子づくが、克海はあくまで曜たちのことをおもんばかってそう言い聞かせた。

 

「桜内さんも、それでいいな?」

「はい。ですけど……」

「ん? 何か?」

 

 梨子はもじもじとしながら、克海を見て頼み込んだ。

 

「私だけ名字呼びって、よそよそしい感じがして少し嫌です。だから、あの……私のこと、どうぞ梨子って呼んで下さい」

 

 克海は少し面食らい、思わず曜と功海に振り向いた。曜はニッと笑い、功海も無邪気に微笑む。

 

「いいんじゃね? 本人がそう言うからにはさ」

「……じゃあ、梨子ちゃん」

「はい……!」

 

 梨子は少しばかり嬉しそうにはにかんだ。

 

「あー! みんな、私抜きで何話してるの? 私も混ぜてよー!」

 

 そこに千歌が舞い戻ってきたので、梨子は手を振ってごまかした。

 

「な、何でもないのよ千歌ちゃん。単なる世間話で……」

「そうそう。梨子ちゃんが、克兄ぃともっとお近づきになりたいってだけだから」

「えぇっ!? 曜ちゃん!?」

 

 曜のからかいに梨子と克海がギョッと目を剥いた。

 

「えー!? 梨子ちゃん、それ本気!? ダメだよ克海お兄ちゃん! いくらお兄ちゃんでも、梨子ちゃんは私の梨子ちゃんなんだから!」

「千歌ちゃんまで!」

「お、おいおい! 千歌、今のは曜の冗談で……!」

「梨子ちゃんも、克海お兄ちゃんは私の克海お兄ちゃんなんだからね!」

「千歌ー。お前言ってることが無茶苦茶だぜー?」

 

 大きく肩をすくめる功海。この騒ぎを、お尻を向けているしいたけが聞いて大きくあくびしたのであった。

 

 

 

 ――綾香に設置されている芸能学校、アイゼンアイドルスクール。そこの無人の教室の隅で、三人の女生徒がスマホに録画した自分たちのダンスをチェックしていた。

 

「うん、なかなかいい感じになってきたね!」

「そろそろラブライブにエントリーしようよ!」

「きっといい線行くと思うんだよね!」

 

 頭部の左右にリボンを結んだ少女が出来にうなずくと、瓜二つの顔立ちの少女二人が打診した。リボンの少女もその気になる。

 

「うん。それじゃ、手続きを……」

「そこの君たち!」

 

 だが言葉の途中で、大きい男の声にさえぎられた。三人が思わず振り向くと……。

 

「愛染正義です!」

「理事長!?」

 

 愛染がいつの間にか、彼女たちの近くにいた。

 

「何でここに……」

 

 リボンの少女の質問を最後まで言わせず、愛染は三人に詰め寄ってくる。

 

「君たち、いいねぇ~! 素質あるよ! 君たち二人は双子アイドルだから、特にねぇ!」

「えっ、ほんとですかぁ?」

「……双子だから素質あるって、どゆこと?」

 

 双子の片割れは褒められて気を良くしたが、もう片方は呆気にとられた。だが愛染は答えない。

 

「それと君ッ! その頭のリボンがすっごくいいッ! イメージピッタリだぁ~! 君のような人材を求めていたんだ!」

「あ、ありがとうございます……」

 

 手を握られて、戸惑いながらも反射的に礼を言うリボンの少女。そんな彼女たちに、愛染が呼び掛けた。

 

「君たちを、特待生コースに入れてあげよう!!」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

花丸「お花ーまるっ! 今回紹介するのは『ウルトラマンタロウ』の歌ずら!」

花丸「この歌の作詞者はあの阿久悠さんずら! 阿久悠さんと言えば日本レコード大賞や日本作詞大賞の常連さんというすごい人だけど、ウルトラシリーズにも『タロウ』から関わったずらよ!」

花丸「『タロウ』はシリーズでも特にウルトラ兄弟やウルトラファミリーの設定を強く押し出した作品だけあって、歌詞にはウルトラの父、ウルトラの母、そしてタロウのタロウファミリーの名前がそろって出てくるずら!」

花丸「また、作品の主題歌が歌詞つきで戦闘シーンのBGMに多用されるようになったのも『タロウ』からずら。だからこの曲が耳に強く残ってる人も結構いると思うずらよ」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『ダイスキだったらダイジョウブ!』だ!」

功海「アニメ第一期第三話の挿入歌だ! この時点でのAqours三人が、初めてのライブで歌った記念の一曲だな!」

克海「この場面は内浦の人たちの温かさも見える名シーンだ」

花丸「それじゃ、また次回ずら~」

 




梨子「克海さんの恩師、熊城監督の引退試合。勝利を捧げるために克海さんは特訓を始めました!」
花丸「克海さん熱血ずら~」
梨子「でも、何故か熊城さんがルーブクリスタルを持ってました! どういうことでしょうか!?」
花丸「また事件の気配がするずら!」
花丸「次回、『待っててウイニングボール』!」
梨子「ビーチスケッチさくらうち!」


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待っててウイニングボール(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

功海「内浦に現れた怪獣! こいつがまた強くて、俺と克兄ぃは大弱り。だけど曜と梨子の協力のお陰で、ぶっ倒すことに成功したぜ! 千歌たちのAqoursにも新しい子たちが入って、さーて今回は何が起こるかなー?」

 

 

 

 内浦の草野球場。ここで十名前後の、野球のユニフォーム姿の中年男性たちがうさぎ跳びでグルグル回っていた。

 

「厳しい道をッ!」

「厳しい道をー!」

「みんなど根性ッ!」

「みんなど根性ー!」

 

 この集団に、棒で地面をバシバシ叩きながら喝を入れているのは克海。――そんな彼に、様子を目の当たりにした功海が告げる。

 

「医学的見地から見てさ、うさぎ跳びは膝に悪いよ」

 

 デェーンッ!

 と、克海がショックを受けた。

 

 

 

 夜には克海は、『四つ角』で『根性論』なる本を読み込んでいた。

 

「最強のチームを作る方法……根性と気合いが全てだ……!」

 

 そこに千歌が横からマネジメント論の本を差し込む。

 

「今時根性論じゃチームは引っ張れないって」

「マネージメントぉ!?」

 

 デェーンッ!

 と、克海がショックを受けた。

 

 

 

 朝には、『四つ角』に来た曜に克海がユニフォームの依頼をしていた。

 

「胸に大きく気合いの文字を入れてほしいんだ」

「……克兄ぃ、率直に言うね」

「何だ?」

「ダサい」

 

 デェーンッ!

 と、克海がショックを受けた……。

 

 

 

『待っててウイニングボール』

 

 

 

 再び草野球場。克海の所属する内浦の町内会の野球チームが、トレーニングに勤しんでいる。それをAqoursの五人と功海が遠巻きに見守っていた。

 

「克兄ぃ、珍しく熱くなってんなー」

「近所の噂になってるよ。万年ビリのホワイトベアーズが、本気になってるって」

 

 千歌に続いて、曜がつぶやく。

 

「高校の時以来だよね。克兄ぃがあんなに熱心なの」

「ねぇ、どうして克海さんはあんなに野球に一生懸命なの?」

 

 梨子のみならず、花丸やルビィも不思議そうな顔をしている。事情を詳しく知らない彼女たちに、曜が説明を始めた。

 

「ああ、梨子ちゃんたちは知らないか。克兄ぃね、高校までは名ピッチャーとして有名だったんだよ」

「えっ、そうだったんだ」

「そういえば昔、お姉ちゃんがそんなこと言ってたような……」

 

 功海にまだ慣れておらず、花丸の陰に隠れがちのルビィがつぶやいた。

 曜とともに功海が、当時の克海について語る。

 

「大学野球からもスカウトがたくさん来るほどの実力だったんだぜ。だけどその年に、ウチの旅館で働いてた人が齢で辞めちゃってさ、人手が足りなくなっちゃったんだよ。母さんはアイゼンテックに勤めてるし、克兄ぃはウチのために大学行かなかったんだよな」

「そんなことがあったなんて……」

 

 克海の野球を断念した過去を知り、表情を曇らせる梨子。彼女に代わって花丸が問い返す。

 

「でもだからって、何で今になって特訓始めたずら?」

「それがさ……あの監督の熊城って人」

 

 功海がチームの中心で指示を出している、一番恰幅が良く年齢の行っている老人を顎でしゃくった。

 

「あの人、次の試合で監督辞めちゃうんだって」

「えっ……!?」

「熊城さん、半年前に胃の手術をしたそうで、もう歳だってこともあって体力的に続けられないんだってさ。で、克兄ぃは最後の試合に勝って、熊城さんを胴上げしたいって頑張ってるんだよ」

 

 梨子たちは複雑な顔で、克海とは対照的にのんきな顔をしている熊城を見やった。千歌は功海に振り向く。

 

「熊城さんって、克海お兄ちゃんの高校の時の野球部の先生なんだっけ」

「ああ。克兄ぃの野球の才能を見出したのがあの人だよ。大学野球に行かなかった克兄ぃを草野球に誘ったのも熊城さん。だから、克兄ぃは熊城さんに恩を感じてるって訳だ」

「そうなんですか……。だったらなおさらですよね……」

 

 熊城のために必死になっている克海を案じながらも、今回ばかりは梨子たちもただ見守る他なかった。

 

 

 

 Aqoursも練習に行った後、『四つ角』に集まったチームに克海が焦り気味に呼び掛ける。

 

「綾香商店街との試合は明日です! この調子では間に合いません! 夜も特訓しましょうッ!」

「えぇッ!?」

 

 流石に動揺するチーム。その内の一人、ひげ面の男性が克海に言い返す。

 

「このままじゃ、へばって却って試合に差し障るよ」

「そうだよ。カッちゃんだって大分キテるよねぇ」

「俺はまだ大丈夫です!」

 

 無理を言う克海だが、チームメイトらは聞こうとしない。

 

「あー特訓はなしッ! しっかり休んで、明日に備えよう」

「それじゃ明日勝てません!」

「だから、勝つために休憩する」

「監督をッ! 胴上げで送り出したくないんですか!?」

「みんな気持ちはおんなじだって!」

「だったら休んでる暇なんてないでしょ!?」

「あぁ!? いい加減にしろよッ!」

「何ですかッ!」

 

 言い争いが過熱して、ひげの男性と取っ組み合いの喧嘩となる克海を止めようとするチームメイト。するとそこに功海が駆け込んでくる。

 

「克兄ぃ、ちょっと来て! ちょっと借りてくよ!」

 

 克海を力ずくで喧嘩から引っ張り出していく功海。

 

「何だよ!!」

 

 まだ頭に血が上っていて声が荒い克海だが、功海は構わずスマホの画面を見せつけた。

 

「山に怪獣が出たんだよ!」

「……こんな時にッ!」

 

 画面には、怪獣出現のパターンのバイブス波の数値が表示されていた。

 

 

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 山中には、全身筋肉と言っていいほどの屈強な肉体の怪獣レッドキングが山肌を砕いて暴れながら、綾香の市街に近づきつつあった。

 その現場へと車を走らせる克海と功海。

 

「もっと急いで!」

「これ以上はスピード違反になる!」

 

 焦る克海たちであるが、ちょうどその時にフロントガラス越しにレッドキングの姿が見えた。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

「「いたぁ!!」」

 

 即座に車を停め、外に飛び出す二人。

 

「町に降りてくる前に止めるぞ!」

「うんッ!」

 

 克海と功海は拳を鳴らし合い、ルーブジャイロを構えた。

 

「「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 克海はクリスタルホルダーから水のクリスタルを選ぶ。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンギンガ!]

 

 クリスタルをジャイロにセットして掲げる克海。

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」

 

 レバーを三回引いて、水の柱に包まれる!

 

[ウルトラマンロッソ! アクア!!]

「うおぉぉーッ!」

 

 克海がロッソに変身し、功海は火のクリスタルを取り出した。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンタロウ!]

 

 クリスタルをセットして、高々と掲げる功海。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

 

 レバーを三回引き、火柱に包まれる!

 

「ウルトラマンブル! フレイム!!」

「はあぁぁーッ!」

 

 功海もブルに変身し、二人は音を立てて着地。その震動でレッドキングがこちらに気づいて立ち止まった。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『うあああーッ!』

『であぁぁッ!』

 

 レッドキングへとまっすぐ突っ込んでいったロッソとブルが、パンチとキックを同時に打ち込んだ。しかしレッドキングは揺るぎもしない。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『うッ!?』

 

 ブルの脇腹を殴りつけ、もう片方の腕でロッソを投げ飛ばす。単純な筋力ならば、レッドキングはロッソたちを大きく上回っていた。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『うあッ!?』

 

 レッドキングは投げ飛ばしたロッソに近づいて掴みかかり押さえ込む。ブルが横から飛び掛かるも蹴り上げで迎撃された。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『うわああぁぁッ!』

 

 ロッソはそのまま殴り飛ばされ、ブルは更にヘッドバットをもらって倒れ込んだ。二人がかりなのに散々に叩きのめされる兄弟。

 

『これならどうだぁーッ!』

 

 接近戦は不利と見て、ロッソはスプラッシュ・ボムを投擲して遠隔攻撃。レッドキングはこれをまともに食らう。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『もう一発!』

 

 有効と見て二発目を繰り出したロッソ。が、

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 レッドキングは腕をバットのように振って、水球を打ち返した! しかもブルの方へと飛んでいく!

 

『うわぁッ!?』

『まずいッ!』

 

 咄嗟に顔を背けたブル。ロッソは彼をかばって、水球を右肩に食らった。

 

『うわぁッ!』

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 更にレッドキングがロッソとブルにダブルラリアット! 二人の身体が宙を舞い、岩壁に叩きつけられた。

 

『ぐあぁッ……!』

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 ダメージが重なり、カラータイマーが鳴って立ち上がれないロッソたち。一方のレッドキングも、一発目のスプラッシュ・ボムが大分効いたのかそれ以上の追撃を掛けずに背を向けて退散していった。

 

『ま、待て……!』

 

 ロッソたちはふらふらとしながらも起き上がってレッドキングを追いかけるが、高い山の陰に入り込んだ相手を追って回り込んだところで、

 

『あれ……?』

『いない……』

 

 レッドキングの姿を見失った。さっきまでいたはずなのに、忽然と消えてしまったのだ。

 立ち尽くすロッソとブルの様子を、ひよこ色のドローンがじっと見つめていた――。

 

 

 

 その後、『四つ角』で梨子と曜が克海の部屋に来た。

 

「克海さん……大丈夫ですか?」

「ああ……すまない」

 

 梨子が上半身を脱いだ克海の右肩、ブルをかばって負傷した箇所に湿布を貼ってあげていた。

 

「災難だったね、克兄ぃ。明日試合なのに、肩を痛めるなんて……」

「私たちがついてあげてれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに……」

 

 克海のことを自分たちのことのように心配する梨子たちに、克海が首を振る。

 

「気にしないでくれ。梨子ちゃんたちの時間を犠牲にしたくはないんだ」

「だからって、克海さんが犠牲になっていいってものじゃないですよ……」

 

 梨子と曜が深刻な顔つきで克海に説く。

 

「功兄ぃから聞いたよ。おじさんたちと喧嘩になったんだって? 夜まで練習しようだなんて言って」

「お言葉ですけど、それはおじさんたちが正しいですよ。無理を押して身体を壊してしまったら、元も子もありません……」

「私たちだって、オーバーワークはしないよう気をつけてるよ。克兄ぃだって、ちょうど今みたいなことになるって分かってたはずでしょ?」

「……だけど……!」

 

 それでも焦燥の感情の方が強い克海。するとそこに、

 

「ちょっといいかい。入るよ」

 

 外から声を掛けられた後に、件の熊城監督が襖を開いて入ってきた。

 

「監督!?」

「すまない、お邪魔だったかな」

「いえ、そんなことは……!」

 

 克海たちがたたずまいを直して、熊城に座布団を差し出す。腰を落ち着かせた熊城は話を切り出した。

 

「話は聞いてるよ。揉めたんだってなぁ。怪獣は出るし、君は肩を痛めるし……」

「すいません……」

 

 思わず謝る克海。しかし熊城は決して咎めずに、話を変える。

 

「テレビで見た。ここ最近現れる巨人……ウルトラマン。いやぁ、素晴らしいフォームで球を投げてた。君に似たフォームでね」

 

 一瞬ドキリとする梨子たち。

 

「……そうなんですか」

「長男だからなぁ~。君は何でも背負い込んでしまう」

 

 熊城が目を向けた先には、棚に飾られている、克海が高校時代に取得した野球の賞状やトロフィーの数々があった。

 

「人には、役目があります。まずは、その役目を果たすことだな」

「俺の役目は、先生をもう一度胴上げすることです」

 

 と返す克海だが、熊城は応じずに、持参した包みの中から古ぼけた箱を取り出した。

 

「これはね、ウチに代々伝わってきたものだ」

 

 紐を解いて、箱を開く熊城。中に入っていたのは……。

 

「妖奇星が落ちた時、飛び散った光。それをご先祖さまが拾った」

「これは……!」

 

 克海たち三人は驚いて目を見張った。

 入っていたのは、「烈」「雷」「刃」の三枚のルーブクリスタル。それぞれ別々のウルトラ戦士が描かれている。

 

「その晩、二人の光の巨人が夢枕に立った。そして、こうおっしゃった。然るべき時、然るべき者に渡せ――。然るべき者とは、君だったりして」

 

 克海の目をまっすぐ見つめる熊城。立ち会う梨子と曜は、どうしたらいいのかと内心うろたえる。

 しかし静寂を破ったのも熊城だ。

 

「……なぁーんてね! 冗談冗談」

 

 笑い飛ばしながらクリスタルを巾着袋に移し替え、克海に差し出す。

 

「私からの餞別だ。受け取ってくれ」

「いや……こんな大事なもの、いただけないです!」

 

 恐れ多くて遠慮する克海だが、熊城はグイと顔を近づけた。

 

「俺の餞別が受け取れないのか!?」

 

 そう言われては、克海も受け取る以外の選択肢がなかった。

 

「……いただきます!」

 

 こうして、新たに三枚のクリスタルが克海たちの手に渡った。

 

 

 

 翌日。試合直前に、ロッカー室前で功海と曜が克海と向かい合った。

 

「山地のあちこちに、バイブス波の観測装置仕掛けといた。またあいつが出たら、アプリですぐに分かるから」

「克兄ぃ、今日の試合、私たちAqoursも応援するからね!」

 

 曜はチアリーダー姿になってボンボンを振った。

 

「ああ。ありがとう」

「頑張れよ」

 

 最後に功海と拳を鳴らし合って、克海はロッカー室に入っていく。

 先にロッカー室に集まっていたチームメイトたちに、克海は開口一番に謝罪した。

 

「充さん、皆さん……昨日はすいませんでした! 俺、熱くなりすぎてました……」

 

 深々と頭を下げた克海に、ひげの男性は向かい合うと――おもむろに、忍者のように手と手を組んだ。

 

「え?」

「おめぇもやれよ」

 

 チームメイト全員が同じように手を結ぶと、ひげの男性は克海に呼び掛ける。

 

「監督に、最高の花道作ってやろうぜ」

「……はいッ!」

 

 克海は感激を覚えて、仲間たちに合わせてチームワークを結び直した。

 

 

 

 克海たちのチームが野球場に出てくると、観客席にいるAqoursの五人がボンボンを大きく振った。

 

「克海お兄ちゃん来た! がんばれー!」

「フレー! フレー! 内浦ホワイトベアーズ!」

 

 チアリーダーになり切った千歌たちの応援に手を振って答える克海たちは、ホームベースの前に並んで相手の綾香商店街チームと向かい合う。

 

「克兄ぃ……」

「克海さん……」

「克海……ファイトですよ」

 

 克海の試合を応援しているのはAqoursだけではない。果南やダイヤ、鞠莉も観客に密かに混じり、それぞれ別の席から見守っていた。

 

「礼ッ!」

「よろしくお願いしまーす!」

 

 そうして試合開始の挨拶が交わされ、いよいよ熊城監督の幕引きの如何を巡る試合が行われる――。

 



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待っててウイニングボール(B)

 

 試合は開始後しばらくは、動きがまるでないまま進行していった。

 綾香商店街チームのピッチャーの投球は、草野球とは思えないほどに速く、ホワイトベアーズの打線は全く打ち返せずに三振ばかり。

 しかしこちら側の克海も、ホワイトベアーズを支える主力。彼の鋭いボールも綾香チームのバッターを片っ端から打ち取っていく。

 

「やったぁ! また三者凡退!」

「さっすが克兄ぃ!」

「克海さん、ほんとに強い……!」

 

 克海が相手打者をアウトにする度に千歌たちは喜ぶ。別の席から試合を見守る果南、ダイヤ、鞠莉の三名も誇らしげになったり、嬉しげな顔になったりしている。

 しかし、いくら投手が強くとも野球は点を取れなければ勝てない。三回表、ホワイトベアーズの今回の攻撃も0点に抑えられてしまった。

 

「あうぅ……また三振だよぉ……」

「フレっフレっホワイトベアーズ! 頑張るずらー!」

 

 なかなかリードすることが出来ないホワイトベアーズを懸命に応援する花丸たち。だがその背後で、

 

「足りないぜぇHeartbeat!」

 

 いきなり大声がしたので、Aqoursと功海が思わず振り返った。

 

「もっと上昇気分上々! 見せてよ君のフルコンボ!!」

「愛染さん!!」

 

 白い背広を見せつけつつクルリと身体の向きを変えたのは、愛染であった。彼は観客席の最上段に上り(「はいちょっとどいて」)、秘書にスピーカーをセットさせる。

 

「今日が大事な試合だと聞きつけた、愛染正義です。ウッチェリーナ君、盛り上がる曲をレッツプレイ!」

[盛り上がる曲を再生します!]

 

 愛染が流させたBGMにより、功海たちのテンションも上昇。

 

「さっすが愛染さん! やることが派手だぜ!」

「ファイト♪ ファイト♪ ホワイトベアーズ、ファイト♪」

 

 Aqoursの応援も動きが派手になっていき、その影響が選手の方にも出始めた。

 

「うっしゃあーッ! カッコ悪いとこ見せらんねーぜ!」

 

 四回表、ひげの男性がヒットを打って遂に打者が一人ホームベースに帰還。ホワイトベアーズに念願の一点が入ったのだった!

 

「やったぁーっ!!」

「いよっしゃあーッ!!」

 

 貴重な一点に千歌たちは大感激。梨子と曜ももちろん喜んでいるが、克海の肩の怪我を知る二人は同時に心配もしていた。

 

「克海さん、大丈夫かな……このまま投げ続けて……」

「うん……。湿布貼っただけだもんね」

 

 克海は、投球の邪魔になるからと肩に包帯は巻かなかった。だから肩への負担も大きいはず。恐らくは、気合いで痛みを抑え込んでいるのだろう。

 今のところはどうにかなっているが、このまま投げ続けて無事だという保証はない。

 

「でも、草野球は七回まで。今が三回の表だから、克兄ぃが投げるのはあと四回。それまで持ちこたえれば……」

「克海さん……」

 

 梨子は真剣な表情で、克海の無事を祈った。

 それが届いたか、克海は大きな異常もなく投げ続け、六回裏まで相手の得点を許さなかった。

 試合も七回表が終わり、点数はホワイトベアーズが一点だけリードしている。

 

「遂にこれで最後ずら……!」

「克兄ぃが0点に抑えれば、ホワイトベアーズの勝ちだ……!」

「はうぅ……こっちがドキドキするよぉ……」

 

 ルビィを始め、功海たちは緊迫の面持ちでマウンドに上がる克海を見守っている。

 と、その時、彼らの背後を愛染がコソコソと通っていこうとした。それに気づいて千歌が振り返る。

 

「愛染さん? どこ行くんですか?」

 

 愛染は千歌に向けて指を一本立てる。

 

「言わぬが花になる」

「ああ、お手洗いですね」

「ちょっと千歌ちゃん」

 

 不躾な千歌を梨子がたしなめた。その間に観客席を離れる愛染だが――向かった先はトイレではなかった。

 

 

 

 愛染が人の目がない木陰に身を潜めると、懐から昔懐かしのベースボールカードのアルバムを出す。だがその中身はベースボールカードなどではなく――怪獣のクリスタルであった。

 愛染はその中から「岩」のクリスタルを取り出し、ジャイロにセットする。

 

「プレイボール!」

レッドキング!

 

 そして掛け声とともに一回ずつレバーを引き、三回目で充填したエネルギーを解放する――!

 

「ファイトぉー! ファイトぉー! 赤組(レッドキング)ファイトぉー!!」

 

 

 

 試合を見守っている功海のポケットの中のスマホが振動した。取り出して画面に目を落とした功海の顔が、一気に強張る。

 

「こんな時に……!」

 

 山地に仕掛けた観測装置が、怪獣出現のバイブス波をキャッチしたのだ。

 功海の様子の変化に気がついた曜と梨子もまた顔色を変えた。

 

「功兄ぃ、まさか……!」

「どうしましょう……! 克海さんに、報せた方が……」

 

 言いかけた梨子を制する功海。

 

「いや……曜、一緒に来てくれ! 免許なら、俺も持ってる」

「功海さん、まさか克海さん抜きで……!?」

「だから曜と行くんだ。曜、俺に力を貸してくれ」

「……ヨーソロー!」

 

 曜は、極めて真剣な顔で敬礼した。そうして功海とともにコソコソと観客席から抜けていく。

 

「あれ? 功海お兄ちゃんと曜ちゃんは?」

「き、急用だって! 気にしないでって言ってたわ!」

 

 二人がいなくなったことに首を傾げた千歌たちを、梨子が慌ててごまかした。

 しかし別の場所で、席を抜けていく功海と曜の存在に気づいた者たちがいる。

 

「功兄ぃ……?」

「最終回なのに、どこへ行くのかしら……?」

 

 果南やダイヤ、鞠莉らが二人の後ろ姿を目撃していたのだ。

 

 

 

 密かに草野球場から抜けていった功海と曜であったが、七回裏、キャッチャーからの返球をキャッチした克海がふと観客席に目をやり、その姿がなくなっていることに気づいてしまった。

 

「……タイム!」

 

 まさか、と克海がベンチへと走っていく。

 

「ちょっとすいません……!」

 

 熊城にひと言断り、バッグからスマホを引っ張り出して画面を確認した。――功海が見たものと同一のものを。

 

「やっぱり……! 功海あいつ……」

「どうした」

「あぁいや、そのぉ……」

 

 熊城から聞かれた克海は、どう答えたものかとしどろもどろになる。

 だがそれで逆に、熊城は察したようであった。

 

「どうやら、然るべき時が来たようだな」

「えッ……!?」

 

 熊城はサングラスを外し、克海と目を合わせながら問いかけた。

 

「君の役目は何だ?」

「それは……」

 

 克海は、回答に窮する。

 

「……監督をもう一度胴上げすることです」

「違うッ!」

 

 その答えは、熊城自身によって強く否定された。

 

「分かってるだろう。君の役目は……」

 

 今度は、克海も間違えなかった。

 

「……みんなのために戦うこと!」

 

 熊城はうなずき、克海の左肩を叩いた。

 

「胴上げまでには、帰ってこい」

「はいッ!」

 

 克海はうなずき返して、すぐに草野球場から駆け出していった。彼を送り出した熊城が堂々と宣言する。

 

「ピッチャー交代! 俺!」

 

 事情を知らない千歌たちは目を見張った。

 

「ええ!? 監督さん自ら!?」

「克海さんはどうしたずら?」

「……克海さん……」

 

 梨子は複雑な表情で、自転車に跨って走っていった克海を見つめていた。

 

「克海まで、どうして……?」

 

 最後の最後でどこかへと走っていった克海に、鞠莉らが唖然としていた。

 

 

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 車を持ち出していった功海たちは、山間を移動中のレッドキングを発見。適当なところで停車して車から降りる。

 

「昨日のリベンジだ! 行くぞ曜!」

「うんっ!」

 

 曜に呼び掛けながら、ルーブジャイロを構える功海。

 

「俺色……いや、俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」

 

 決め台詞を発すると、ホルダーから水のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 敬礼する曜を背に、クリスタルをジャイロの中央にセット。

 

[ウルトラマンギンガ!]

 

 ギンガのビジョンが現れると、曜とともに顔を上げてジャイロを掲げる。

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」

「ヨーソロー!」

 

 レバーを三回引いて、エネルギーチャージ!

 

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 そして曜を宿してウルトラマンブルに変身し、レッドキングの前方に着地した!

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『こっから先には絶対通さねぇ!』

 

 すかさず殴りかかってきたレッドキングの拳に、パンチをぶつける。これでレッドキングの一撃を止めた。

 

『よし! 互角のパワーになったぜ!』

『「このままやっつけちゃおう、功兄ぃ!」』

『ああ! 克兄ぃの晴れ舞台を守るんだ!』

 

 勇むブルが、勢いよくレッドキングへと飛び込んでいった。

 

 

 

「功海……曜ちゃん……!」

 

 克海は懸命にペダルを漕いで、戦闘現場へと急行していく。

 ――その頃、熊城の投げたボールがバッターに打たれ、ヒットを取られてしまった。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 曜との合体でレッドキングに張り合えるほどパワーを引き上げたブルだが、所詮は戦闘経験の乏しい身。それだけでは、野性的な強さを持つレッドキングとの差は埋めがたく、背後に回り込まれて首絞めを食らっていた。

 

『うッ、ぐぅッ……!』

『「く、苦しいよ功兄ぃ……!」』

 

 ブルが受けるダメージは、一体化している曜にも響く。首絞めで酸素が回らなくなり、苦しむ曜。

 

『頑張れ曜! うらぁッ!』

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 相手のつま先を踏みつけて首絞めから脱け出したブルだが、レッドキングのすかさずのテールハンマーで横転した。

 

『うわぁッ!』

 

 更にレッドキングは辺りから大岩を持ち上げてはブルに投げつける。

 

『「うああぁぁっ!」』

 

 ブルだけでなく曜も悲鳴を発した。ブルが力を振り絞って岩の投擲から逃れたが、ダメージは既に無視できないレベル。

 

『「うぅ……やっぱり、克兄ぃがいないと駄目なの……?」』

『弱気になるな曜! 俺たちであいつを倒すんだッ!』

 

 心が折れそうな曜を叱咤してレッドキングに殴りかかっていくブルだが、不用意な攻撃だったために、レッドキングに防がれた上にまたも首を掴まれた。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『うッ、うわあぁぁッ……!』

 

 そのまま吊り上げられるブル。彼の絶体絶命のピンチに――克海が駆けつけた!

 

「功海! 曜ちゃん! 今行くッ!」

 

 自転車を乗り捨てた克海は、ホルダーから火のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンタロウ!]

 

 背後にタロウのビジョンが現れ、クリスタルをセットしたジャイロを掲げる克海。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

 

 レバーを三回引き、ウルトラマンへと変身!

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

 

 巨大化しながら飛び出したロッソが、ブルを吊るし上げるレッドキングに飛び蹴りを決めた。

 

「ピギャ――!」

 

 不意打ちをもらったレッドキングが、ブルを手放して倒れ込んだ。ブルは助かったことよりも、ここにロッソがいることに驚く。

 

『か、克兄ぃ!』

『「試合はどうしたの!?」』

『今はこっちに集中するんだ!』

 

 ロッソはそう言いつけ、レッドキングに向かっていく。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『うッ!?』

 

 レッドキングの拳をかいくぐったロッソだが、続く張り手を右肩に食らって悶絶した。そこは怪我をしているところだ!

 

『克兄ぃ!』

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 しかも苦しんだところを見たレッドキングが、執拗にロッソの右肩を狙って拳を叩きつけ始める。

 

『うああぁぁぁッ!』

『やめろぉぉ―――!』

 

 レッドキングの暴虐に絶叫するロッソ。ブルたちは怒り、レッドキングに中段蹴りを打ってロッソから引きはがした。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『「このぉぉーっ!」』

 

 レッドキングに掴みかかって動きを抑えようとするブルだが、レッドキングは後ろから飛び掛かるロッソをまたも右肩を殴って迎撃し、ブルに蹴りを食らわせて押し返す。

 

『ぐッ、この野郎ッ!』

 

 ブルがドロップキックで反撃したが、レッドキングは後ろに下がっただけで、さしたるダメージが見受けられない。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 レッドキングのぶちかましをかわして背後に回るロッソとブルだが、ブルは戦いが長引いていることでカラータイマーが鳴り出した。

 

『あいつ、克兄ぃの肩のこと分かってやがるのか!』

『「人の苦しいところばかり狙って、卑怯だよ!」』

 

 曜が吐き捨てると、ロッソがブルたちに指示を出した。

 

『功海、曜、ルーブスラッガーだ!』

『おう!』

 

 ロッソとブルが角からルーブスラッガーを引き抜く。

 

『ルーブスラッガーロッソ!』

「『ルーブスラッガーブル!!」』

 

 剣を握り締めた二人がともにレッドキングに肉薄。

 

『『うりゃああああッ!』』

 

 二人同時の斬撃がレッドキングに叩き込まれ、頑強なレッドキングをひるませた。

 

 

 

 野球では、既に走者が三人出そろっているが、熊城が意地を見せ、二人を三振に抑えた。

 

「ツーアウト満塁……」

「次で決まるね……!」

 

 固唾を呑むルビィ、千歌。しかし次の打者は、綾香商店街チームの強打者だ。熊城も一層顔を強張らせる。

 

「……」

 

 梨子は不安な顔つきで、空の向こうで戦っている兄弟たちに思いを馳せた。

 

 

 

『てやッ!』

 

 ブルがスラッガーを突き出すがレッドキングはかわし、カウンターのミドルキックをブルの腰に浴びせた。

 

『ぐわッ!』

『はッ!』

 

 返り討ちにされるブルに代わってロッソが斬りかかるがこれも防がれ、岩山に押さえつけられる。レッドキングは強烈な生存本能でブルたちの太刀筋を見切ったようだ。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

『おわッ! ぐえッ!』

 

 身動きを取れなくしたロッソをボコボコに殴るレッドキング。時間経過により、ロッソのカラータイマーも点滅し出す。

 

『てぇぇぇぇぇッ!』

 

 ブルが飛び込んでいってレッドキングの意識をそらしたことで、ロッソは脱出するが疲弊とダメージが積み重なっている。このままでは危険だ。

 

『くッ……!』

 

 苦しむロッソのインナースペースに、熊城から授かった巾着袋が現れ、中から「烈」のクリスタルが出てきた。

 

『「克兄ぃ、それ……!」』

『新しいクリスタル!?』

『こいつを使ってみるか……!』

 

 熊城からのクリスタルに賭けることを決めたロッソは、クリスタルから二本角を出してルーブスラッガーロッソの片方の柄の部分にセットした。

 

[ウルトラマンゼロ!]

 

 双剣を振り回すロッソだが、途端に苦痛で顔が歪んで右型を抑えた。肩のダメージがいよいよ無視できないほどになってきたのだ。

 だが耐えがたきを耐え、スラッガーを構える。その刀身が青緑色の輝きを放つ。

 

『すげぇ! ルーブスラッガーの違うモードか!』

「ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 レッドキングはロッソが投擲の姿勢を取ったことで、また打ち返そうと身構える。

 ロッソは構わずにスラッガーを高々と振り上げ螺旋の炎に包まれるが、とうとう負傷した右肩からエネルギーが漏れ出して激しくうめく。

 

『うぅッ! うぅぅぅぅぅおおおおおおッ!!』

 

 必死に耐えるロッソの肩に、ブルが咄嗟に水流を当ててアイシングし出した。

 

『克兄ぃ、俺たちにはこんなことしか出来ねぇけど……!』

『「投げて! 光のウイニングボール!!」』

 

 ブルの支援と曜の祈りにより、ロッソの肩が一時的に回復。その瞬間に、ロッソが全力でスラッガーを振り下ろす!

 

『必殺ッ! ゼロツインスライサー!!』

 

 ――ロッソの動きと重なるように、熊城が最後の一球を投げた。

 振り下ろされたルーブスラッガーからふた振りの斬撃が並行して飛んでいく。レッドキングが両腕を振るって光刃を打ち返そうとしたが、

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!!」

 

 光刃はレッドキングの腕を貫通し、レッドキングは打ち取られてばったりと倒れた。

 

『「決まったぁぁぁぁぁぁ――――――――――っ!!」』

『ストライク! バッターアウトッ!!』

 

 爆散して消滅したレッドキングを見届け、曜とブルが空の果て、熊城にも届かせようとばかりに大声で宣言した。

 

『うぅ……』

『やったぜ克兄ぃ!』

 

 力を使い果たしてガクリと片膝を突いたロッソに駆け寄るブル。ロッソは彼の顔を見上げて、固くうなずいた。

 

 

 

 ――爆発四散したレッドキングは、岩のクリスタルに戻って地面の上に転がった。

 そこにひよこ色のドローン――ウッチェリーナが飛んできて、素早くクリスタルを掴み上げて機体下部に収納した。

 

[クリスタル、回収しました!]

 

 

 

 ――戦闘終了後、克海は全速力で帰還。慌てて草野球場へと駆け込んでいくが……。

 既に野球場は無人で、ただ熊城一人だけがマウンドにポツンとたたずんでいた。

 

「……!」

 

 克海が熊城の元へ駆け寄ると、熊城は無言でスコアボードをしゃくった。

 七回裏の得点は、四点。一対四で、ホワイトベアーズの負けになっていた。

 

「最後の最後に、カァーン! と、満塁ホームラン打たれちゃった。ハハ」

「……すいません……!」

 

 いたたまれなくなった克海は、キャップを脱いで深く謝罪。しかし熊城は笑顔であった。

 

「いや。最後に、いい試合が出来た。最高の花道だ」

 

 最後に投げた白球を見せて、熊城は克海を連れてマウンドから下りていく。

 後から功海とともに駆けつけた曜は、彼らを待っていた梨子と一緒にその背中を見つめる。

 

「……胴上げ、できなかったんだ……」

「うん……。だけど、監督さん、とても楽しそうだった」

 

 克海たちに代わって試合を見届けた梨子が、そう告げる。

 

「負けても気持ち良く終われる……そんな幕の引き方もあるんだね」

「ええ……」

 

 梨子たちは、悔いを残すことなくマウンドを去っていく熊城と、彼を支える克海の背中を、ずっと見つめていたのであった――。

 

 

 

 ――アルトアルベロタワー社長室で、愛染が岩のクリスタルをケースの手前側に収めた。

 

「レッドキングちゃん、ナイスプレイでしたよ。どんまい♪」

 

 機嫌良さそうにクリスタルに労いの言葉を掛ける愛染の元に、タブレットを携えた氷室が近寄る。

 

「社長、これを」

「うん?」

 

 氷室が見せたタブレットの画面には、最近デビューしたスクールアイドルの一人が映し出されていた。青みの掛かった長髪の少女が歌っている場面。

 

「社長のお眼鏡に適うかと」

 

 少女自身は己のルックスから、あのμ'sの園田海未のそっくりさんというキャラで売りび出ているのだが――愛染は違う視点で彼女を見ていた。

 

「なるほどぉ。歌唱力は、『あの人』には遠く及ばないが、なかなかいい線行ってる。よく見つけてくれたねぇ氷室君」

「恐縮です」

 

 ペコリとお辞儀する氷室。愛染はますます上機嫌となって、扇子を広げた。

 

「よぅしッ! ではこの子も特待生に招待しましょう!!」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

ルビィ「がんばルビィ! 今回紹介するのは『すすめ!ウルトラマンゼロ』です!」

ルビィ「この歌は『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアルギンガ帝国』の主題歌です。前作の『ウルトラ銀河伝説』で初登場したウルトラマンゼロさんが主役になった初めての映画に相応しい、ゼロさんの歌です」

ルビィ「歌ってるのはvoyagerさん。voyagerさんはウルトラマンの歌を専門に歌うユニットさんで、映像作品でオリジナルの曲を歌うようになったのは、OV『VSダークロプスゼロ』と合わせてこれが最初なんです」

ルビィ「また、歌詞をリニューアルしたアレンジ曲が『ウルトラマンゼロ THE CHRONICLE』の主題歌に使用されて、こっちはあの水木一郎さんと一緒に歌ってるんですよ」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『待ってて愛のうた』だ!」

功海「Aqoursのセカンドシングル『恋になりたいAQUARIUM』のカップリング曲だ! しんみりとした曲調と歌詞が特徴のラブソングだな」

克海「恋というのは嬉しいだけじゃない、つらい時もあるってことが表現されてると言えるな」

ルビィ「それじゃあ次回も、がんばルビィ!」

 




花丸「自分のことを堕天使だと称するのは、マルの幼馴染の善子ちゃん。でも現実とのギャップに悩む善子ちゃんに、功海さんが関わるずら」
ルビィ「功海さん……善子ちゃんのために、あなたの風を見せてあげて下さい!」
ルビィ「次回、『届かないイカロスだとしても』!」
花丸「お花ーまるっ!」


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届かないイカロスだとしても(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

ルビィ「お世話になった監督さんの引退試合に臨む克海さん。だけどそんな時に怪獣が現れて、克海さんは監督さんから送り出されて出動した! 怪獣はやっつけられたけど、試合は結局負けちゃった……。だけど、監督さんに後悔はないみたいだった」

 

 

 

 綾香のとあるマンションの一室。昼間なのにカーテンを閉め切り、照明を落とした暗い部屋の中で、一人の少女が蝋燭の灯りに照らされながらカメラのレンズに向かっていた。その服装は、ゴスロリ調なのはまだいいとして、頭と背にそれぞれ黒い輪っかと羽をつけたかなり奇抜なものであった。

 彼女の名は津島善子。一応、浦の星女学院の一年生なのだが……最初の自己紹介で盛大に失敗して以来、一度も登校していない。

 

「――かの約束の地に降臨した、堕天使ヨハネの魔眼が、その全てを見通すのです!」

 

 そんな不登校児善子は、扇風機で羽をはためかせながら、動画投稿サイトの生放送の中継を行っていた。ブイサインを右の目元にやり、左腕で右ひじを支えるポーズを決めながら、小難しいようでいて何の中身もない言葉を並べる。

 

「全てのリトルデーモンに授ける! 堕天の力を!!」

 

 善子が最後にカッ、とまぶたを開くと、蝋燭の火が風で消え、生放送の中継も同時に終了した。

 

「ふっ……」

 

 善子は一人嗤うと――カーテンと窓をシャッと開いて、叫んだ。

 

「やってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 先ほどまでの澄まし顔とは打って変わって、大声を発しながら自らにツッコミを入れていく善子。

 

「何よ堕天使って! ヨハネって何!? リトルデーモン? サタン!? いる訳ないでしょそんなもーんっ!! 最近怪しいけどっ!」

 

 部屋に引っ込んで鏡の前に立った善子は、自らに言い聞かせる。

 

「もう高校生でしょ、津島善子! いい加減卒業するの……! そう、この世界はもっとリアル……! リアルこそが正義! リア充に、私はなるっ!!」

 

 と、善子は誰にともなく宣言した。

 

 

 

『届かないイカロスだとしても』

 

 

 

「おーよしよしよし! おーよしよしよしよし! いい子だぞしいたけ~」

 

 『四つ角』の居間で、功海がしいたけの首をわしゃわしゃかいてじゃれながら、克海の方を振り向いた。

 

「ところで克兄ぃ、千歌たちの活動は今どんな感じなの?」

「あんまり芳しくないみたいだな……」

 

 ノートパソコンでラブライブのサイトにアクセスし、Aqoursのランキングを確かめた克海が顔をしかめた。

 

「現在が4768位……まだまだ底辺だ。順位は落ちてこそいないが、上昇具合がゆっくり過ぎる。こんな調子じゃ、地区予選すら通過できないだろうな」

「目安は100位以内だっけ? 全然届いてねーのな」

「ライブの評判はいいみたいなんだけどな……」

 

 難しい表情で腕を組む克海。自分のことのように悩む克海に、功海がこう指摘した。

 

「一番のネックはさ、抜きん出た個性がないってことだと思うぜ。他のスクールアイドルと見比べたら分かると思うけど、何かどれもこれもありきたりなんだよな。だから埋もれちまってるんだよ」

「なるほどな……」

「スクールアイドルは今や5000組もいるとはいえ、ほとんどが今の千歌たちみたいに伸び悩んでるとこばっかで、注目されてるのはひと握りだけさ。何か客に強くアピールできるものがありゃ、きっと一気に大化けするはずさ」

「流石、理系なだけあってそういう分析は上手いな……」

 

 克海が関心していると、上の階から下りてきた梨子が廊下を通りがかった。

 

「おッ、来てたんだ」

 

 功海に声を掛けられた梨子が振り返るが、しいたけと目が合った彼女は、凍りついた笑顔を浮かべて冷や汗をダラダラ垂らす。

 

「ん?」

「梨子ちゃん……?」

「わふっ!」

 

 梨子のただならぬ様子を兄弟が訝しんでいると、梨子のことを気に入ったのか、しいたけが遊んでもらおうと勢いよく彼女に飛び掛かっていった。すると、

 

「いやぁぁぁぁぁ――――――――!! 来ないでぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――!!」

 

 奇声を上げてしいたけから逃げ回り出した。しいたけはそれに興奮してますます追いかけ、梨子が更にパニックになる悪循環。

 

「ちょッ!? 落ち着けって!」

「や、やめろしいたけ!」

 

 功海と克海の制止の声も聞かず、逃げる梨子は階段を駆け上がり、襖を蹴り倒し、同時に千歌も下敷きにして、障子を吹っ飛ばして窓から跳躍!

 

「とりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!」

「えぇぇーッ!?」

「おお、飛んだ……」

 

 しいたけを抑えようと追ってきた克海たちはそれを目の当たりにしてあんぐり。千歌たちも呆然。

 梨子はそのまま空中で綺麗に一回転して、隣の自宅のベランダに着地した。

 

「おぉー……」

「……梨子ちゃん、犬が苦手だったのか……」

 

 思わず拍手する千歌たちと功海。克海はようやくしいたけを捕まえながら、ポツリとつぶやいた。

 と、ここで我に返った功海が、千歌たちの中に一人、見慣れない少女がいることに気がついた。

 

「ん、その子誰? 新しい部員か?」

「よく見たら、みんな何でそんな恰好を……」

 

 克海も、今の千歌たちの格好に疑問を抱いた。全員、ゴスロリを着用しているのだ。

 その中で一番着こなしている件の少女が――ビシッとポーズを決めながら名乗りを上げた。

 

「ふっ……私は天界からこの地上へとドロップアウトした、堕天使ヨハネ! あなたたちも私のリトルデーモンに、なってみない?」

 

 と、ヨハネと自称した少女に流し目を送られた克海と功海は――目が点。

 

「……はっ!?」

「新しいメンバー候補の津島善子ちゃんだよ」

 

 自称ヨハネが我に返っていると、曜が本人に代わって克海たちに紹介した。

 

「へ、へぇ……また随分と個性的、というか個性が際立った子を見つけてきたんだな……」

「テコ入れって奴か? キャラ作りすごい上手いな!」

 

 克海は引き気味だが、功海は面白がっている。が、当の善子は自分がしたことが恥ずかしくなったのか赤面した。

 

「ち、違……今のは違うんです! 私は堕天使とかそんなんじゃなくて……普通の女子高生なんですぅぅぅぅぅ――――――――――!!」

 

 そして羞恥心のあまり、千歌の部屋からバッと飛び出して逃げていってしまった。それを呆然と見送る功海たち。

 

「……今日はよく人が逃げる日だなー」

「何かよく分からないキャラ作りだな……」

 

 克海が呆けていると、花丸とルビィが訂正を入れる。

 

「あの……違うんです。善子ちゃんのアレは、キャラ作ってるとかじゃなくて、素なんです」

「へ?」

「善子ちゃん、中学時代はずっと自分のこと堕天使だと思い込んでたらしくて……まだその頃の癖が抜け切ってないって……」

「……自分のことを堕天使とか……親御さんも大変だろうな」

 

 克海はすっかり呆れ返っているが――功海の方は、ますます興奮した。

 

「何だそれ、すっげー面白い子じゃん! まさにスクールアイドル向き!」

「功海お兄ちゃんもそう思う? 私もビビッと来たんだよ! 堕天使こそが、今のAqoursに必要なものだったんだって! これで一気にランクアップだよー!!」

「おぉッ! 意気込んでるな千歌! よぉしその調子で思いっ切りアピールしてこい!」

「もっちろん! 楽しみにしててねー!」

 

 二人でやいのやいのはしゃぐ功海と千歌だが、克海はすっかり呆れ顔であった。

 

「そんな上手く行くか……?」

 

 

 

 翌日、克海と功海は千歌たちが新しく撮ったAqoursのプロモーションビデオを確認していた。

 

『ハァイ。伊豆のビーチから登場した待望のニューカマー、ヨハネよ。みんなで一緒に、堕天しない?』

『しなぁい?』

 

 中央に立つ善子がポーズを取ると、他の五人が昨日の格好で同じポーズを取る。これを見て、現在のランキングを確認した功海が感嘆した。

 

「へぇ~、思ったよりも効果あったなぁ。克兄ぃ、俺の言った通りだったろ? 抜きん出た個性があるだけで、こんなにも変わるんだよ!」

 

 Aqoursの現在ランクは、1526位。昨日と比べると、一気に3000位以上も上昇したことになる。

 しかし克海は浮かない顔だ。

 

「けどな、さっきは900位くらいだったんだぞ。それがこの短時間で急落だ。やっぱり、ちょっと変わったことしたくらいじゃ人気出るのなんて一瞬の間だけなんじゃないのか?」

 

 と聞く克海だが、功海は平然としていた。

 

「いや、そりゃあそうだろ。そんな簡単に上位をキープできるんなら、誰も苦労なんかしちゃいないって。大事なのは継続と、地道な努力。克兄ぃも現役球児時代はよく言ってたじゃん」

「まぁな。けど、千歌たち……特にこの津島善子ちゃんは、この結果はショックだろうな」

 

 克海が映像の中の善子に目をやりながらつぶやいた。

 

 

 

 果たして、千歌たちは目立つ目的でこんなPVを撮ったことをダイヤから叱責されたこともあり、落胆していた。夕焼けの波止場で腰を落として、顔もうつむいている。

 

「確かにダイヤさんの言う通りだね……。こんなことでμ'sになりたいなんて、失礼だよね……」

 

 そしてこのことの責任を感じた善子は、スクールアイドルを辞退することを宣言した。

 

「少しの間だけど、堕天使につき合ってくれて、ありがとね。楽しかったよ……」

 

 そう言い残して千歌たちの元から離れ、海沿いの道をトボトボ歩いていく善子。

 その手の中の、イデンティティーの黒い羽根を放し、羽根が風に吹かれて飛ばされていくが――。

 

「よっと!」

 

 ジャンプした功海がキャッチして、見事に着地した。

 

「あなたは……! 千歌さんのお兄さんの……」

「へへッ、ナイスキャッチだったろ。克兄ぃにも負けてなかったぜ」

 

 自賛した功海は、羽根を持ったまま善子に近寄っていく。

 

「どうしてんのかなと思って様子見に来てみたら……そんな暗い顔してどーしたんだ? スクールアイドルは元気が基本だぜ」

「……いいえ。もう私は、スクールアイドルじゃありませんから」

 

 功海の指摘を、善子が意気消沈したまま否定した。

 

「堕天使も今日限りにするって決めたんです。明日から、今度こそ普通の女子高生になります……」

「おいおい、ランクが落ちたのをそんなに気にすることないだろ。あんなのは一過性で当然さ。続けていって、初めて結果が結ばれんだよ。特にヨハネは、あれが素なんだろ? それって十分才能だぜ。とびっきりのな」

「だから私はヨハネなんかじゃありません。才能なんてものもない……何も特別なんかじゃないんです……」

「……自分は特別な存在でいたかったのか? もっと詳しく聞かせてくれよ」

 

 功海が頼むと、二人は近くに腰を落ち着かせて、善子の身の上話を始めた。

 

「私、昔から自分が普通なのが嫌でした。だからいつも思ってました。これは本当の私じゃない。本当の私は天使で、地上に落ちて人間の世界に紛れ込んだ堕天使。いつか空を飛んで、天の世界に還る時が来るんだって……」

 

 それが、善子の堕天使趣味のルーツであるようだ。

 

「だけど、もうとっくに気づいてます。天使なんかいる訳ない、自分は堕天使なんかじゃない、普通の人間……。空を飛ぶことなんか出来やしないってこと……。いとも簡単に飛ぶウルトラマンとは違うんですよ……」

 

 語りながら、ますます表情が暗くなっていく善子。功海は腕を組んでただ黙っている。

 

「イカロスの話、知ってるでしょう? あれと同じで、特別なんかじゃない人間の私が天使を夢見て飛び立とうとしたって、空には届かないで落ちるだけです。そうなるくらいなら、きっぱりとあきらめますよ、天使になるだなんてこと……」

「……」

 

 善子の話を聞いた功海は――すっくと立ち上がると、善子の腕を引いた。

 

「ヨハネ! ちょっと一緒に来てくれ!」

「えっ!? だからヨハネじゃ……!」

 

 困惑する善子だが、功海は構うことなく、半ば強制的に彼女を連れ立っていった。

 

 

 

 そうしてたどり着いた先は、山の中の一画の、地面に亀裂が走る場所。

 

「見てくれよ、ここ。こないだのウルトラマンと怪獣の戦いで亀裂が出来たんだけど、この辺り、地面の下から風が吹いてるんだぜ」

 

 と功海が言うので、善子が亀裂に手をかざすと、確かに手の平が下から空気の流れに押される感触がした。

 

「ほんとだ……」

「原因は不明だ。不思議だろ? ここ、元々は何の変哲もない場所だったんだぜ」

 

 亀裂の周りを歩きながら、得意げに語る功海。

 

「これと同じように、最初は何も特別じゃなくても、後から特別になれることなんかいくらでもある! 俺もな、大学で宇宙考古学を専攻してるんだ」

「宇宙考古学? それって宇宙の学問ですか? 考古学なんですか? 変なの……」

「ははッ、よく言われるぜ。最近出来たばっかの学問だから、認知度も低い。だけど、俺は宇宙考古学ですっげぇ発見してやるって決めてるんだ!」

 

 堂々と夢を口にする功海。その姿が、今の善子にはまぶしく見えた。

 

「人間はさ、誰だって生まれた時は特別なんかじゃない。それからの生き方で、特別に変わってくんだ! と、俺は思ってる。ヨハネも、堕天使であることをあきらめなきゃ、空を飛べる日が来るぜ!」

「……本当に、私でも空を飛べるのかな……?」

「まッ、とりあえずは、スクールアイドルやってみたらどうだ? 自分を押し殺して生きるよりかは、ずっと天の世界に還る可能性があるはずさ」

「……考えてみます……」

 

 功海の説得に、善子は回答を一旦保留にすると、下から風が吹く亀裂に視線を戻した。

 

「地面から吹く風……。これみたいな風が、私を空に導いてくれるかな……?」

 

 善子の後ろ姿を少し離れたところから見守る功海だが――ふと懐に違和感を覚えて、クリスタルホルダーを取り出した。

 開いてみると――火と水のクリスタルが、何もしていないのに淡く輝いていた。

 

「クリスタルが……!」

 

 功海はハッと、善子が側に立っている亀裂に目をやった。

 

 

 

 その翌日、『四つ角』で功海は千歌に、善子とのやり取りのことを話した。

 

「善子ちゃん、スクールアイドル続けてくれるんだ! よかったぁ~!」

「いや、まだそうと決めた訳じゃないみたいだけどな」

「それでもいいよ! 辞めるのを思いとどまらせてくれただけで!」

 

 千歌は功海が説得をしてくれたことに感激していた。

 

「責任感じてたんだよね。私の軽はずみな思いつきで、善子ちゃんを苦しめちゃったって。だから私からも善子ちゃんとお話しするね! 功海お兄ちゃん、大好き!」

「全く大袈裟だよな、千歌は。それよか、何やってんだ?」

 

 千歌は居間に、家中の雑貨などを集めて吟味していた。

 

「えへへ。今度のフリマで何か売れるものないかなーって。昨日のPVの衣装が思ったより高くてさ、活動費がちょっと苦しいんだよね。その足しにしようと思って」

「千歌、勝手に売りに出すんじゃないぞ。母さんたちの私物まで混じってるじゃないか。勝手に売ったりなんかしたら怒られるぞ?」

 

 克海が、千歌がテーブルの上に広げた物品に目を落として顔をしかめていると、

 

「ほほーうフリーマーケット。いいねぇ~。貴重な掘り出し物はそういうところから出てくるものだ」

「! その声は……!」

 

 三人が振り向くと、いつの間にか廊下に白いスーツの男が立っていた。

 

「失礼、勝手に上がらせてもらいました。愛染正義です」

「愛染さん!」

 

 振り返った愛染は克海たちに親しげに呼び掛けていく。

 

「いやぁ~この前の草野球、楽しかったよぉ克海君!」

「ありがとうございます! 今お茶菓子出しますね!」

「いやいやお構いなく。あッ、千歌君、新しいPV見たよぉ! またいい子見つけたじゃな~い! その調子で頑張ってね!」

「は、はい! 頑張りますっ!」

「いやぁしかしここは変わらないねぇ~! 君たちのお父さんがここを守っている証拠だ! 実に立派なことだよぉ君たち……」

 

 歯が浮くような台詞をまくし立てていた愛染だが、千歌が家の中から集めた物品の中から、マトリョーシカ人形に目を留めると途端にテンションを更に上げた。

 

「おおーッ!! これを譲ってくれ! ひと足お先にッ!」

「すみません。それは両親の新婚旅行の記念品なので、売り物には……」

 

 克海が断ろうとしたが、愛染は最後まで言わせずに、小切手にサラサラと金額をしたためて差し出した。

 

「これでいかがかな?」

 

 金額をひと目見た克海たち三人が、目を飛び出させた。克海が慌てふためく。

 

「こんなにもらえませんよッ!」

「克兄ぃ真面目すぎるって! 売っちゃおうよ!」

「そうだよこれがあれば十年、ううん百年はスクールアイドルできるよ!」

「何年高校生やってるつもりだよ! いやそれより、あれは父さんと母さんの思い出の品で……!」

「お父さんたちには私から言っておくからぁ!」

 

 あまりのことに兄妹が混乱している間に、愛染はカウンターに近づいて、克海が用意したお茶請けのクッキーの皿の中に、クッキーに偽装した物を紛れ込ませた。

 

 

 

 愛染が帰り、千歌に片づけをさせた後に、功海は克海に昨日のことを報告し出した。

 

「山の地下に、クリスタルが埋まってる……?」

 

 功海の言葉を繰り返す克海。功海は、自分たちのクリスタルが地面の亀裂の前で反応を示したことから、亀裂の下にはクリスタルが存在するという仮説を立てたのだ。

 クリスタルホルダーを開きながらうなずく功海。

 

「こいつと同じバイブス波を検知した。風もその影響だと思う。属性があるとするなら」

「風か。でも誰が埋めたんだ?」

 

 克海と功海が話し合っている後ろで、皿の中のクッキーが一枚、ほんのかすかに蚊の羽音のような駆動音を立てていた。

 

 

 

 アルトアルベロタワーに戻った愛染は、屋上のヘリポートでお茶をしながら、イヤホンからの声に耳を傾けていた。

 

『化石と一緒で、上に土が降り積もったんじゃないかな? 前に愛染さんが言ってたじゃん、妖奇星の話』

 

 声は功海のものであった。愛染は『四つ角』に置いてきた、クッキーに偽装した盗聴器を使って兄弟の話を盗み聞きしているのだ。

 

 

 

「山巓から観測して深さを調べたら、そこの地層は1300年前の土で、時期が重なる」

「じゃあ……」

「克兄ぃ、功兄ぃ! いる?」

 

 まだ見ぬクリスタルについて話し込んでいた功海たちだったが、そこに果南が上がり込んできたので慌てて口をつぐんだ。

 

「? 何かやってたの?」

「い、いや別に?」

「それより果南ちゃん、何の用だ?」

 

 克海が素知らぬ顔で話をそらすと、果南は持参した魚の干物を差し出した。

 

「これ、父さんから。ご心配をお掛けしたお詫びだって」

「ってことは、おじさん治ったのか?」

「まだリハビリの途中だけどね。でももうじき仕事に復帰できるし、そしたらまた改めて贈り物するって」

「へぇ。じゃあ果南ももうすぐ復学するってことだな?」

「まぁね。あ、一枚もらってもいい?」

「ああ」

 

 断りを入れてから、果南がクッキーを一枚つまみ上げて口に運ぶ。

 

「いただきます」

 

 ガリッ!

 

「……いったぁ~……!? 何これ、作り物だよ?」

 

 噛み砕こうとして出来なかった果南は、涙目になりながらクッキーを口から出した。

 

「功兄ぃ、また悪戯? ひどいことするなぁ……」

「ええ? 俺は知らねーぞ」

「さっき千歌が色々散らかしてたから、その時に紛れたんじゃないか? 果南ちゃん、ごめんな」

「いや、まぁいいんだけど……」

 

 果南は手の中の、クッキーの偽物に目を向けて訝しげに首を傾げた。

 

 

 

「……つぅ~! 耳がキーンってした……」

[大丈夫ですか、社長?]

 

 果南が盗聴器を噛んだ音がダイレクトに伝わり、愛染は耳を抑えてうずくまっていた。ウッチェリーナが通り一遍の心配をする。

 愛染はイヤホンに意識を向けたが、もう誰の声も聞こえず、砂嵐のノイズが流れるばかりであった。

 

「壊れちゃったか……。でもまぁいいや。肝心な部分はちゃんと聞けたからねぇ……」

 

 気を取り直した愛染がニヤリとほくそ笑んで、風が吹く亀裂のある山へと首を向けた。

 



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届かないイカロスだとしても(B)

 

 次の日、功海と克海は亀裂の調査だとして、Aqoursと善子とともに現場に足を運んだ。

 

「うわー、すごーい! ほんとに地面から風が吹いてる!」

「どうなってるのかな……?」

 

 曜とルビィが引っこ抜いた草を風で飛ばして驚いた。千歌はこの風を見て、パッと思いつく。

 

「そうだ! この風で善子ちゃんを浮かせられないかな? 糸もなしにふわふわと浮いたら、堕天使っぽさがより出せると思う!」

「こら千歌、危ないだろ」

「怪我でもしたら大変だわ」

「えへへ、ごめん」

 

 しかし克海と梨子にたしなめられた。

 花丸は功海を手伝って、観測機器を運ぶ。

 

「功海さん、これはここでいいずら?」

「ああ、ありがとな。後は俺と克兄ぃでやるよ」

「どういたしましてずら!」

 

 功海と話す花丸を見て、善子が花丸に尋ねかける。

 

「ずら丸、あんた功海さん相手に口癖丸出しで話すのね。親しい相手じゃないと、普段は抑えてるのに」

「えへへ。功海さんが、これでいいって言ったずら」

「え?」

 

 花丸ははにかみながら、詳しいところを話す。

 

「マル、自分のこのしゃべり方が恥ずかしいと思ってたずら。だけど、このことを知った功海さんは『つまり方言っ娘? すっげーいいじゃん! 自分の個性なんだから、武器にしてくべきだって!』って言って」

 

 功海の声真似をしながら再現する花丸。

 

「功海さん、自分を抑えて生きるなんてのは良くないとも言ってたずら。それが紛れもない自分なら、一度きりの人生、窮屈するより羽を伸ばしていないと損だって」

「へぇ……。あの人、変わってるわね」

「ふふ、マルもそう思うずら。だけど……そういうところが、功海さんの一番いいところだと思うずら」

 

 花丸の話を聞いて、功海に目を向ける善子。

 

「……ほんと、変わってるわ。こんな私のありのままを肯定するし……」

 

 当の功海は、埋まっているクリスタルについて克海と相談し合っている。

 

「これで正確な位置が分かると思うけど、問題はどうやって見つけるかだよな」

「ああ……。土木業者でもないと、地中深くに埋まってるものを掘り出すなんてのは無理があるぞ」

「スコップでどうにかならねーかなー?」

「馬鹿言うなよ。たかがスコップと腕力で、何メートルも深く掘るなんて無理に決まってるだろ?」

 

 クリスタルの採掘手段を悩む兄弟であるが、この時他にもクリスタルを狙う者がいることを彼らは予想だにしていなかった。

 

 

 

 綾香上空を巡回するアイゼンテックの飛行船を背景にしながら、昨日のようにヘリポートでお茶とテーブルを用意していた愛染は、手の平に「嵐」のクリスタルを出した。それを見てウッチェリーナが聞く。

 

[それはグエバッサーのクリスタルですね!]

「うん。この子に風を探知し、出処を探ってもらおう。そこに、風のクリスタルがあるはずだぁ……!」

 

 愛染は椅子から立ち上がると、左手でジャイロを取り出した。

 

「では行くぞッ! 出でよグエバッサー!!」

 

 クリスタルを高々と掲げた愛染が、意気揚々とジャイロの中央にクリスタルを嵌め込む。

 

グエバッサー!

 

 そうして踊るようにジャイロを振り回しながら、レバーを三回引いていく。

 

「HOOOP! STEEEEEP! JUUUUUUUMP!!」

 

 

 

 曜とルビィに千歌と花丸も混じって、風を感じて遊んでいると、不意に千歌が顔を上げた。

 

「あれ? 何か飛んでくる……」

「え?」

 

 千歌たちが空の彼方を見やると、青い空に白い点のようなものがあるのがおぼろげに見えた。少しずつ大きくなってくる。

 

「白い……鳥?」

 

 と同時に、功海のスマホが怪獣特有のバイブス波の音声を発した。

 

「怪獣!? こんな時に!」

 

 その怪獣は、今まさに彼らの元に飛んできた!

 

「グエ――――! プォォォ――――――!」

 

 普通の鳥類にはありえない、樹木を優に超えるほどの巨体の白い怪鳥! 愛染の召喚した猛禽怪獣グエバッサーが襲撃を掛けてきた!

 

「きゃああああっ!?」

 

 グエバッサーが翼を羽ばたかせる毎に、荒れ狂う嵐のような猛烈な暴風が巻き起こり、千歌たちは飛ばされそうになって地面にしがみついた。

 

「うわッ!」

「梨子ちゃんッ!」

 

 功海も必死にふんばり、克海は近くにいた梨子の腕を掴んで、浮き上がりかけた彼女を引き寄せた。

 

「あ、ありがとうございます……」

「千歌! 曜ちゃん! 早くルビィちゃんたちを逃がすんだ!」

「う、うん!」

 

 グエバッサーがまだ空にいてこれなのだから、地上に下りてきたらますます危ない。その前に、千歌たちは隙を見てグエバッサーから逃れていく。

 

「……あれ、善子ちゃんは!?」

 

 しかし善子の姿がその中にないことで梨子が叫んだ。功海が辺りに目を走らせると、

 

「ヨハネ!?」

 

 善子は、功海が持ってきた観測機材を抱えて抑え込んでいた。功海がよろけながらもそちらへ走っていく。

 

「ヨハネ! 何してんだ! 逃げないと危ねーぞ!」

 

 グエバッサーが高度を下げてくる度、風も強くなっていく。焦って善子を逃がそうとする功海に、善子が訴えかけた。

 

「これ、功海さんの夢のための道具なんでしょ!? どっかに飛ばされる訳にはいかないじゃない!」

「ヨハネ……!」

「功海さんは、私の天に昇る夢を笑わずに応援してくれた……! だから、私も功海さんの夢を守りたい!」

 

 善子の言葉を受けた功海の顔つきが変わった。

 

「グエ――――! プォォォ――――――!」

 

 グエバッサーの影がいよいよ彼らの頭上に差し掛かる。功海は、善子の腕を引いて呼び掛けた。

 

「ヨハネ! 俺と一緒に、空を飛ぼう!!」

「えっ……?」

 

 そう叫び、功海がルーブジャイロを取り出す。

 

「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」

 

 叫んだ功海が、善子を側に置きながらクリスタルホルダーより水のクリスタルを取り出した。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンギンガ!]

 

 一本角を出したクリスタルをジャイロにセットする。

 

「纏うは水、紺碧の海!!」

 

 ジャイロの両脇のレバーを三回引いて、ウルトラマンに変身!

 

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 功海に続く形で、梨子と顔を合わせてうなずき合った克海がホルダーに手を伸ばした。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンタロウ!]

 

 火のクリスタルを選ぶ克海の後ろで、梨子が胸の前でぐっと右手を握る。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「ビーチスケッチさくらうち!」

 

 克海がレバーを三回引いて、梨子とともにウルトラマンに変身!

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

 

 着陸したグエバッサーの真正面に、ロッソとブルが並び立った。――ブルの水に包まれたインナースペースで、善子が唖然としていた。

 

『「こ、ここって……ウルトラマンの中!? ……功海さんが、ウルトラマンだったんだ……!」』

 

 置かれた状況から、何が起こったのかを理解する善子。視線を正面に向けると、こちらに向かって威嚇してくるグエバッサーの姿が見える。

 

「グエ――――! プォォォ――――――!」

『はぁッ!』

 

 ロッソが先制してグエバッサーに飛び込んでいき、片翼を掴んで動きを封じ込もうとする。

 善子がハッと背後に顔を向けると、千歌たちがグエバッサーと反対方向へと逃げていく姿が目に映り込んだ。

 

『千歌たちを守らなきゃならねぇ。ヨハネ、協力してくれ!』

『「……分かった!」』

 

 突然のことで戸惑いを禁じ得なかった善子だが、背にしている千歌たちを目にしたことで、表情を引き締めた。

 

『とあッ!』

 

 善子が覚悟を固めると、ブルもロッソに続く形でグエバッサーの翼に掴みかかり、千歌たちが避難する時間を稼ぐ。

 

「ウルトラマンさんたちだ!」

「今の内だよっ!」

 

 曜が先導して四人はグエバッサーから離れていく。暴れるグエバッサーはブルを振り払うが、梨子との合体でパワーアップしているロッソには敵わずに押しのけられた。

 

『はぁぁッ!』

「グエ――――! プォォォ――――――!」

 

 ロッソは火球弾フレイムダーツを撃って攻撃するが、グエバッサーの方も羽根を矢のように飛ばしてきて対抗。

 雨あられと飛んでくる羽根をロッソが叩き落としながら前進し、グエバッサーの胴体を殴り飛ばす。

 

『おりゃあぁぁッ!』

「グエ――――! プォォォ――――――!」

 

 軽々と殴り飛ばされるグエバッサー。梨子の力を得たロッソのパワーは、グエバッサーを大きく上回っていた。

 だがグエバッサーもやられてばかりではおらず、翼を大きく羽ばたかせることですさまじい暴風を引き起こし出した!

 

『うわぁぁぁッ!?』

『「きゃあああっ!」』

『克兄ぃッ! うッ、うおぉぉ……!』

 

 異常なほどの風圧でロッソが飛ばされそうになるのを後ろからブルが支えたが、あまりの風力に二人の力を合わせても踏ん張るのが精一杯というありさまであった。

 

 

 

 愛染がサラサラと短冊に一文をしたためる。

 

「『蝶のように舞い ヒールも折れた』」

[調子に乗っていると痛い目を見るという意味ですね!]

 

 ウッチェリーナが愛染に合いの手を打った。

 

 

 

「グエ――――! プォォォ――――――!」

 

 グエバッサーの巻き起こす暴風は天候にまで影響し、厚い雲が空を覆い隠す。ロッソとブルは近づくことさえ出来ず、このままでは活動時間が尽きてしまう。

 

『くっそぉ……どうしたら……!』

 

 必死に足を踏ん張って地面にしがみつくブル。その時に、善子が叱咤の言葉を叫んだ。

 

『「しっかりして、功海さん! 私と……ヨハネと、空を飛んでくれるんじゃなかったの!?」』

『はッ……!』

 

 善子の激励により、ブルが気力を呼び覚まされる。

 

『そうだ、あんな向かい風に翼を折られる訳にはいかねぇぜ! 克兄ぃ!』

 

 ロッソに顔を向けて呼び掛けるブル。

 

『風のクリスタルを使おう!』

『風には風をか……! でもクリスタルは地面の中だろ!?』

『こないだの、水に火をぶつける奴で……!』

『水蒸気爆発か……! よしッ!』

 

 ロッソと相談し合うと、ブルが力を振り絞って地面の亀裂へと水流を発射した。

 

『せやぁッ!』

 

 地中に水が満たされると、ロッソが大きく振りかぶって火球を投擲した。

 

『はぁぁぁぁぁッ! てやぁぁッ!』

 

 火球は見事なコントロールで、水があふれた亀裂の中に吸い込まれた。

 これによって急加熱された水が爆発を起こし、土が吹っ飛んで地中に隠れていた紫色のクリスタルが空中に放り出された!

 そしてそのクリスタルをブルの手の平が掴み取り――インナースペースの善子の手に渡る。

 

『ヨハネ! それが俺たちの翼だ!』

『「……!」』

 

 「風」と書かれたクリスタルを見つめた善子が固くうなずき、胸の前に掲げた。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

 

 功海がやったようにクリスタルから一本角を出して、ジャイロの中央に嵌め込む。

 

[ウルトラマンティガ!]

 

 善子の背後で赤と紫色のウルトラ戦士のビジョンが胸を張り、風が善子の髪をなびかせた。

 

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

 

 ブルの合図でジャイロのレバーを一回、二回と引っ張り、高々と掲げる。

 

『「堕天降臨!」』

 

 三回レバーを引くと、善子の周囲が紫色の竜巻で包まれる。

 

[ウルトラマンブル! ウインド!!]

 

 風の力をその身に宿したブルが紫色に変色し、両腕をピンと前に伸ばして飛び出していく!

 そしてグエバッサーの起こす暴風を切り裂いて、ブルが空をグルリと回り込んだ。

 

『「飛んでる……! 私、いま、空を飛んでるっ!!」』

 

 地面に足をつけていた人生の中で味わったことのない解放感と自由の感触に感極まった声を上げる善子。彼女を包み込む風は、善子に更なるパワーを引き出させてブルのエネルギーに変えていた。

 

 

 

「風のクリスタルぅぅッ! また先に使われたぁぁぁぁ―――――!!」

 

 ブルが風のクリスタルを使用したことを感知した愛染が大声で喚き、ヤケになってクッキーを一気にほおばった。

 

 

 

「グエ――――! プォォォ――――――!」

 

 焦りを見せるグエバッサーは翼を更に羽ばたかせて突風を繰り出す。旋回を終えたブルは伸ばした指先をグエバッサーに向け、空中を進みながらまっすぐに突貫していく。

 

『行くぞヨハネ!』

『「ええ!」』

 

 ブルの呼びかけに、善子、いや、堕天使ヨハネが右の目元にブイサインをやりながら応じた。

 グエバッサーの突風をものともせずに前へ前へと突き進むブル。急接近してくるブルに対してグエバッサーは飛び上がって逃げようとしたが、ブルは角からルーブスラッガーブルを引き抜いて相手の胸部に一撃を入れた。だがグエバッサーは落ちずにスラッガーをクチバシでくわえ込み、ブルとの空中でのもつれ合いに発展する。グエバッサーの鉤爪の生えた足が何度もブルを蹴りつけるがブルはひるまず、スラッガーを引き抜いて再度一閃。だがグエバッサーは上昇して回避し、追ってくるブルに羽根の矢を降らせる。羽根をスラッガーで弾きながらブルが追いかけていると、グエバッサーに横からフレイムダーツが命中。『「大丈夫、善子ちゃん!」』『「善子じゃなくてヨハネよ!」』呼びかけた梨子にヨハネが言い返すと、ロッソとブルが並んでグエバッサーを追跡していく。そのグエバッサーは上空で大きく旋回し続け、黒雲を動かして竜巻を作り出した。竜巻の中に閉じ込められたロッソとブルは身動きを封じられ、カラータイマーが赤に転ずる。

 

『まずいな……! エネルギーが残り少ないぜ……!』

 

 ブルが焦りを浮かべるが、ヨハネは毅然と叫んだ。

 

『「どんな逆風が吹き荒れようとも、このヨハネの翼を妨げることは出来ないわ!」』

『逆風……! そうだッ!』

 

 スラッガーを握り直したブルが、竜巻の回転方向とは逆に回り始めた。

 

『えああああぁぁぁぁぁぁ――――――――!!』

 

 飛びながらスラッガーを竜巻の壁に走らせるブル。

 

『おおおおおッ!?』

『「功海さん、何を……!?」』

 

 スラッガーの刃が竜巻を切り裂いていき――そして、竜巻が弾け飛んで暴風が収まった!

 

「グエ――――! プォォォ――――――!」

 

 グエバッサーも自身の能力を破られて停止する。

 

『消えた……!』

『逆回転の竜巻だ! 力を打ち消し合うッ!』

 

 グエバッサーの動きが止まっている内に、ロッソとブルは最後の攻撃に取りかかる!

 

『「セレクト、クリスタル!」』

[ウルトラマンロッソ! アクア!!]

 

 梨子がクリスタルチェンジしてロッソアクアとなると、烈のクリスタルをルーブスラッガーロッソにセットした。

 

[ウルトラマンゼロ!]

 

 双剣に水の力をチャージして、斬撃を発射する!

 

「『ゼロツインスライサー!!」』

 

 ブルは前に伸ばした両腕を重ね合わせて風を渦巻かせ、光線状にして一気に射出した!

 

「『ストームシューティング!!」』

 

 斬撃と光線の同時攻撃が、グエバッサーに突き刺さる!

 

「グエ――――!!」

 

 身体を撃ち抜かれたグエバッサーが天から堕ちていき、地面に激突して大爆発した。

 グエバッサーの消滅によって雲が晴れていき、差し込んだ陽光に照らされながら、ロッソとブルが空の彼方へと飛び去っていく。

 自由な風を肌で感じ、ブルの中で善子が心の中で独白した。

 

(さよならイカロス……私は、堕天使という翼でどこまでも飛び続ける……! あの天上の世界を目指して……!!)

 

 その瞳は、果てしのない天空へと向けられていた――。

 

 

 

 内浦を覆った暗雲が晴れると、内浦の人々は空に向けて顔を上げた。

 

「晴れていきますわ……。あっ!」

「ワオ! ウルトラマンデース!」

 

 それによって、ダイヤやヘリコプターで移動中の鞠莉らが飛び去っていくロッソとブルの姿を目撃した。

 ――一方で、果南は町の電器屋である話を打ち明けられていた。

 

「えっ……盗聴器……!?」

 

 噛み砕けなかったクッキーが気に掛かった果南は、それが機械であることを確認し、電器屋に持ち込んで何なのかを調べてもらったのだ。

 電器屋のおばさんは深刻な表情で、果南に分解したクッキー型盗聴器を見せる。

 

「よく出来てるけど、ほら、これが集音器……。果南ちゃん、こんなものどうしたんだい? 何なら、警察に通報するけど……」

「う、ううん、大丈夫。ありがとう、おばちゃん!」

 

 慌てて盗聴器を回収した果南は電器屋から飛び出し、外で盗聴器に目を落とした。

 

「こんなものが、どうして四つ角に……。そういえば克兄ぃが、私が来る前に愛染さんが来てたって……」

 

 果南は思わず、綾香の方角に顔を向けた。

 

「まさか……でも、そんなことが……」

 

 

 

 愛染はティーセットを片づけたテーブルの上にアタッシェケースを置くと、金に物を言わせて無理矢理買い取ったマトリョーシカ人形の頭をうっとりと指でなでた。そこにウッチェリーナが戻ってくる。

 

[グエバッサーのクリスタルを回収し、帰還しました!]

「ありがとう、ウッチェリーナ君。愛してるよ」

[私もです、社長!]

 

 ウッチェリーナからクリスタルを受け取った愛染が、アタッシェケースを開いてその中に入れてあったホルダーにクリスタルを収めた。

 その時に氷室からの電話が掛かってきて、愛染がスマホを取り出す。

 

「やぁやぁ氷室君、どうしたのかな?」

『社長。新たに勧誘していたスクールアイドル二名が、特待生コースの加入に承諾しました』

 

 スマホの画面に、そのスクールアイドルの顔写真――ツーテールの幼い顔立ちの少女と、おでこを大きく出したロングヘアの少女が映し出されると、愛染はますます気を良くした。

 

「おぉー! これで遂に3分の2を超える! よくやってくれたねぇ氷室君!」

『ありがとうございます』

「連れてきてくれるのを楽しみに待ってるよ! バイバーイ!」

 

 機嫌良く通話を終えた愛染は、円形のクリスタルホルダーに手を伸ばした。愛染から見て左側に、今しがた戻した「嵐」のクリスタル、手前に「岩」、右側に「氷」、奥の側に「炎」のクリスタルが収められている。その中央に――一つだけ縁が錆びついているかのように歪んでいる、「剣」のウルトラ戦士が描かれたクリスタルがあり、愛染はそれを手に取った。

 そのクリスタルを愛おしそうにハンカチで磨きながら、愛染は鼻歌を唄っていた。

 

「~♪ やればできるー♪ きーっとー♪ ぜーったーいー♪ ……」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

善子「堕天降臨! 今回紹介するのは『TAKE ME HIGHER』よ!」

善子「この歌の歌手は、何とあのジャニーズ事務所の人気アイドルグループの一つ、V6よ! 90年代だと特撮番組で現役アイドルとタイアップすることは珍しくて、しかも既にトップクラスの知名度のV6が主題歌を担当するというのはそれこそ事件だったわ!」

善子「しかも例年だと主題歌には必ずウルトラマンの名前を入れられていたけど、これには「TIGA」こそあれど「ウルトラマン」の方は歌詞に一つも出てこないわ。平成という新時代のシリーズを迎えるにあたっての意欲的な試みと言えるわね!」

善子「更に主役のマドカ・ダイゴを演じたのはV6の長野剛さん! 過去作とのつながりをあえて排した世界観と言い、どこまでも挑戦的な作品だったわね!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『届かない星だとしても』だ!」

功海「前回の『待ってて愛のうた』と同じで『恋になりたいAQUARIUM』のカップリング曲だ。こんなタイトルだけど意外と明るい曲調で、挑戦することの大事さを歌ってるぜ!」

克海「星というのはμ'sの隠喩という説もある。伝説にあきらめず挑戦するAqoursの精神の表れとも取れるな」

善子「それでは次回で、堕天しましょう?」

 




ルビィ「私たちAqoursは内浦の魅力を紹介するPVを作り始めました。だけど……えっ? ぴぎぃぃー!?」
善子「ちょっ!? 何で怪獣の中にルビィがいるのよ!? こんなの、一体どうしたらいいのー!?」
善子「次回、『Guilty Fire, Guilty Below』!」
ルビィ「次回もがんばルビィ!」


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Guilty Fire, Guilty Below(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

花丸「堕天使キャラをどうしても忘れられない善子ちゃん。千歌ちゃんはAqoursを堕天使スクールアイドルとして特徴を出そうと提案したけど、上手く行かなくて……。すっかり落胆した善子ちゃんだけど、功海さんが応援してスクールアイドルを続けてくれました。そして……」

 

 

 

「どういうことですの!?」

 

 浦の星女学院の理事長室に乗り込んだダイヤが、鞠莉にあることを問い詰めていた。鞠莉はため息交じりにダイヤに答える。

 

「書いてある通りよ……。綾香の高校と統合して、浦の星女学院は廃校になる。分かっていたことでしょう? 克海たちの学校と、ちょうど同じ道をたどってるのだから」

「それは、そうですけど……」

 

 聞き返されたダイヤが、思わず言葉に詰まった。

 そんなダイヤに対し、鞠莉が告げる。

 

「ただ、まだ決定ではないの。まだ待ってほしいと、私が強く言ってるからね」

「鞠莉さんが?」

「何のために、私が理事長になったと思っているの?」

 

 立ち上がった鞠莉は、力を込めた目つきでつぶやく。

 

「この学校は無くさない……。私にとって、どこよりも、大事な場所なの……!」

 

 決意を口にする鞠莉に、ダイヤが次の通り尋ねかけた。

 

「方法はあるんですの? 入学者はこの二年、どんどん減ってるんですのよ」

 

 それに鞠莉は、重い面持ちで返答した。

 

「だからスクールアイドルが必要なの」

「鞠莉さん」

「あの時も言ったでしょう? 私はあきらめないと……! 今でも決して、終わったとは思っていない……!」

 

 ダイヤに振り返った鞠莉は、そっと手を差し出した。が、

 

「わたくしは――わたくしのやり方で廃校を阻止しますわ」

 

 ダイヤはその手を取ることなく、踵を返して理事長室から出ていった。

 閉まった扉を、寂しげに見つめた鞠莉が独白する。

 

「ほんと、ダイヤは好きなのね。果南が……」

 

 

 

『Guilty Fire, Guilty Below』

 

 

 

『――はぁぁッ!』

『うりゃああッ!』

 

 内浦と綾香の境の区間で、ロッソフレイムとブルアクアが上空から一気に降下、その勢いで内浦へと進行中であった怪獣に肘と握り拳を叩きつけた。

 

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 怪獣は全身が鋼鉄で出来上がったロボット怪獣メカゴモラ。当然そのボディは非常に頑丈であり、殴った程度では少しもダメージにならないのだが、ロッソとブルはお構いなしにメカゴモラを囲んでボコボコに殴り出す。

 

『このッ! このッ!』

『行くぞッ!』

 

 何故か抵抗しないメカゴモラだが、それをいいことに散々殴る蹴ると暴行を加えるブルたち。ロッソはその辺の樹を引っこ抜いてメカゴモラの頭を叩き、それが効かないとなるとフレイムダーツを連発して浴びせる。

 このロッソたちの一方的な、しかし効果を上げていない攻撃の様子を、アイゼンテックの飛行船が搭載されているカメラが撮影し――アルトアルベロタワーの社長室に電送していた。

 

 

 

 社長室では愛染が、飛行船からの映像を、イライラと貧乏ゆすりしながらにらんでいた。ウッチェリーナがロッソとブルの行動を分析して解説する。

 

[お兄さんは球を投げればいいと思ってるようですね。野球馬鹿といったところでしょうか]

「あー違う! そこに撃っても効かないのが分からんのか!」

[弟さんの方は、小器用ではありますがメンタルに難があります。はっきり言って、お子ちゃまですね]

「違う! 違う! 違うぅ~!!」

 

 兄弟の戦い方を酷評する愛染が、我慢ならなくなってバッと立ち上がった。

 

「かゆいところに手が届かない、このもどかしさッ! って言うか……雑ッ!!」

 

 身体中をかきむしった愛染は、肺の空気とともに思い切り吐き捨てた。

 

 

 

 ロッソとブルはいら立ち紛れに、メカゴモラに荒っぽい攻撃を加え続ける。

 

『こんな時に出てきやがって!』

『今忙しいんだよッ!』

『TPO考えろッ!』

『空気読めッ!』

 

 膝蹴りや頭突きなど、勢い任せの乱暴な打撃を入れる二人の姿に、逆に落ち着いた愛染が呆れ果てた。

 

「命を懸ける戦士の美学が微塵もない……」

 

 ロッソたちはメカゴモラの左右から突撃して、挟み撃ちを仕掛けようとしているが、それを待たずに愛染が言い放った。

 

「もういい。撤収!」

 

 愛染の宣言を合図として、メカゴモラが右手を挙げると、ポンッと煙とともに消え失せた。

 

『てやぁーッ!』

『あだぁッ!?』

 

 飛び掛かる寸前でメカゴモラが消えたことで、ロッソの拳は空振り。勢い余ったブルのパンチはロッソの顔面に当たった。

 

『いっでぇぇッ!? お前なぁ……!』

『ご、ごめん……』

 

 非難されたブルは平謝りしたが、ロッソはそのまま昏倒してしまった。

 

『あ、おい……』

 

 メカゴモラを消失させた愛染は、憮然とした態度でドカッと腰を椅子に落とした。

 

「がっかり……!」

 

 「炎」のクリスタルに戻ったメカゴモラは、ウッチェリーナが下部から伸ばしたマグネットつきワイヤーによって回収されていく。

 

[メカゴモラクリスタル、回収しました!]

 

 ウッチェリーナはそのまま飛び去り、アルトアルベロタワーへと帰っていった。

 

 

 

 『四つ角』に戻ってきた克海と功海は、大量にある提灯の掃除や補修をしながら先ほどのメカゴモラについて話し合う。

 

「全く、何だったんだあの怪獣は……」

「ほんと迷惑だよな。人の都合も考えないで出てきといて、突然いなくなりやがる。振り回されるこっちの身にもなってほしいぜ」

 

 功海がぷりぷり怒りながらぼやくと、克海がふと疑問を口にした。

 

「それにしても、怪獣ってどこから現れるんだろうな。あんなでかいのが、何の予兆もなく出現するんだぞ」

「言われてみれば、あんなでっけぇのが普段どこに隠れてんだ?」

「映画とかだったら、地面の中とかが鉄板だが」

「けど、それらしい痕跡は一個もないんだぜ。何もない場所から出てきて、煙みたいに消えてるとしか言いようがねぇ」

「謎だよな……」

 

 克海たちが首を傾げていると、二人のいる居間に千歌が肩を落としながら入ってきた。

 

「ただいま~……。はぁ~疲れたぁ……」

「どうしたんだよ、千歌。今日はいつもより遅いしバテてんじゃねーか」

 

 やたらとくたびれている千歌に、何事かと尋ねかける功海。二人の前に腰を下ろした千歌は、本日の出来事を二人に話し始めた。

 

「それがさ、学校に大変なことが起きて……」

 

 千歌の報告に、克海と功海は目を丸くした。

 

「何! 浦女が統廃合!?」

「あちゃ~……やっぱそういうことになったか。一年生が、百人の募集で十二人しか入学しないありさまじゃなぁ」

「でもまだ決定じゃないよ。来年度の入学希望者の人数次第で、撤回できるかもしれないの」

「その話、どっかで聞いたことあるな」

 

 功海がつぶやくと、千歌はバンと大きな音を立てて机を叩いた。

 

「そう! あのμ'sとおんなじ状況なの! だから私たちAqoursも、μ'sと同じように学校を救おう! って最初は思ったんだけど……」

「難しそうなのか」

 

 克海が聞くと、千歌は机にもたれかかりながらうなずいた。功海が肩をすくめる。

 

「まぁそりゃそうだよな。簡単にどうにかなるようなら、そもそも統廃合の話なんか出ねーって」

「だよね……。私も初めは、何からすればいいのかってなって……。ひとまず、内浦の魅力を外の人たちに伝えるためのPVを今日は撮影してたんだけど……」

「それで町のあちこちを回ってた訳か」

 

 町に出て慌ただしくしていた千歌たちを目撃していた克海が納得した。

 

「でも……意外と難しいんだねー、いいところを紹介するのって……。いざやってみろってなったら、何を紹介すればいいのか全然分かんなかったよ」

 

 千歌のひと言に、克海と功海も同意する。

 

「確かに……。俺も具体的なものを挙げろと言われたら、回答に困るな」

「特に内浦は田舎で、分かりやすいもんは何もないからなー。ここの良さってのは、実際住んでみないと分かんねーって」

「それでもどうにか撮影はして、明日鞠莉さんにチェックもらうんだけど……オッケーもらえるかなぁ。ちょっと自信ないよ……」

 

 ため息を漏らす千歌に、功海が意地悪く聞き返す。

 

「だったらやめるか?」

「ううん! それはしないっ!」

 

 千歌は決意を顔に浮かべて力強く言い切った。

 

「私、改めて内浦を回って気がついたの。私、この町も浦女も大好き! やっぱり浦女でスクールアイドルやりたい! だから、なくなっちゃダメなの! そのために、どんなことでもがんばる!」

 

 千歌の決意を感じて、克海たちは安心した微笑を浮かべた。

 

「その意気だ! けど、今はこっちを手伝え。ほら、直すべき提灯はまだまだあるぞ」

「ええ~? チカ、疲れてるって言ったじゃん~。勘弁してよ~」

「甘えたこと言うなよ。これくらい頑張れない奴が、スクールアイドルとして成功できる訳ないだろ」

 

 駄々をこねる千歌を功海と克海が諭す。

 

「最低でも明日の昼までには終わらせないといけないんだ。一個でもボロがあったら、ウチの恥になるんだぞ。内浦が好きというのなら、イベントの準備にも精力的になるんだな」

「は~い……」

 

 言い聞かせられ、千歌はしぶしぶ兄弟の作業を手伝い始めた。

 

 

 

 アルトアルベロタワーの社長室では、愛染が檻の中のクマのようにウロウロと歩き回っていた。その表情はとても険しい。

 

「そもそもだな、あいつら自分たちが負けられない戦いをしてるんだっていう自覚が乏しいのだ。何かその辺奴らに分からせられないもんか……」

 

 などとウッチェリーナ相手にぼやきながら、ロッソとブル=克海と功海のデータや隠し撮りした写真、映像を散りばめたモニターを見やった。

 

「ん……?」

 

 その内の一つ、『四つ角』に集まるAqoursのメンバーを玄関先で出迎える克海、功海の写真に愛染は目を留め、そしてニヤッと口の端を吊り上げた。

 

「おお、そうだ。いい方法を思いついたぞ! あのぼんくらどもでもマジにならざるを得ないような。ふふふ……」

 

 

 

 翌日の晩、『四つ角』の台所にて。

 

「そうか……PV、駄目だったのか」

「うん……。もうバッサリと言われちゃって。撮り直しなの」

 

 梨子たちのためにお茶を淹れている克海に、千歌がPVの件を報告していた。

 

「鞠莉さんに言われちゃった。大切なのは、この町や学校の魅力をちゃんと理解してるかだって。……私、町のこと好きだって言っておきながら、ここのいいところを本当に分かってはいないんだって、PVを見返して思っちゃった。あれじゃ駄目に決まってるよね」

「大変だな……。けれど、その魅力は今は分かったのか?」

「ううん、まだ……。だけど、絶対見つけるから! 他ならぬ私たちで!」

 

 ぐっと手を握って宣言する千歌に、克海が微笑んだ。

 

「頑張れよ。応援してるからな」

「うん! ……あっ、そういえば、今日体育館でダイヤさんが踊ってるのを見かけたんだ」

 

 そのひと言に、克海の手が一瞬止まった。

 

「とっても綺麗だったから、スクールアイドルに誘ったんだけど、断られちゃって……。でも、みんなが言うようにダイヤさんがスクールアイドル嫌いだなんて私には思えない。だけど、ルビィちゃんが聞いちゃ駄目って言うし……。克海お兄ちゃん、何か知らない? 果南ちゃんから聞いてる話とかない?」

 

 千歌の問いかけに、克海はしばし沈黙した後に、答えた。

 

「……悪いが、その辺りはダイヤちゃん本人か、ルビィちゃんから聞いてくれ。俺の一存で勝手に話していいことかどうか、分かりかねるからな……」

「お兄ちゃん……?」

 

 それ以上は千歌に何も言わず、克海は急須と湯飲みをお盆に乗せて二階へ運んでいった。

 千歌の部屋では、梨子たちがPVに関して相談し合っていた。

 

「ほんとPV、どうすんの? 撮り直しって言ったって……」

「確かに、何も思いついてないずら」

 

 そこにお茶を持って入っていく克海。

 

「みんな、頑張ってるみたいだな。はい、お茶」

「ありがとうございます、克海さん」

 

 掛け布団がこんもりと盛り上がっているベッドの端に腰掛けた梨子がお礼を言った。

 

「だけど、今日はあんまり遅くなったら駄目だぞ。明日は海開きで朝早いんだから」

「海開き?」

「あーそっか、もう明日だっけ。ねぇ千歌ちゃん」

 

 梨子が首を傾げていると、曜が布団の盛り上がりに呼び掛けた。それで今度は克海が怪訝な顔。

 

「千歌? 千歌なら下にいるけど」

「え?」

「……じゃあ、この後ろのって……」

 

 梨子の顔が真っ青になると、掛け布団がもぞりと動き――しいたけが顔を出した。

 

「わんっ!」

 

 梨子がギギギと後ろを振り向き――。

 

 

 

 翌日、午前3時半。まだ太陽が水平線から顔も出していない時間帯に、梨子はジャージ姿で砂浜へと足を運んできた。昨日、この時間に海に来るように言われたのだ。

 砂浜に到着した梨子に、千歌と曜が挨拶する。

 

「おーい、梨子ちゃーん!」

「おはヨーソロー!」

「おはよう」

 

 千歌たちの後に、克海と功海がトングとゴミ袋、「四つ角」と書かれた提灯を持ってくる。

 

「おはよう、梨子ちゃん。これは梨子ちゃんの分だ」

「ほいよ、これが明かりな。こっちの端から海に向かって拾ってってくれ」

 

 梨子がグルリと砂浜を見渡すと、大勢の内浦の人たちが砂浜にところ狭しと集まり、皆で手分けして海岸のゴミを拾っていた。これを見て、克海らに尋ねかける。

 

「内浦の海開きって、毎年こんな感じなんですか?」

「ああ。ちゃんと綺麗に掃除して、気持ちよく砂浜を利用できるようにしないといけないからな」

「見ろよこの提灯。全部ウチの管理だからさ、この時期は手入れに大忙しなんだよなぁ。今年は特に補修必要なの多かったし」

「けどどうしてそんなことを?」

 

 克海が聞き返すと、梨子は呆けたようにつぶやいた。

 

「この町って、こんなにたくさん人がいたんだと思って……」

 

 圧倒されているような梨子に曜が告げる。

 

「町中の人が来てるよ。もちろん、学校のみんなも!」

 

 砂浜には、花丸やルビィ、善子などはもちろんのこと、ダイヤ、果南、鞠莉らも、浦女の全校生徒も、内浦中の人がいて、皆で協力して砂浜を掃除していく。

 この様子を一望した梨子が、感動したように発した。

 

「これなんじゃないかな……この町や、学校のいいところって……」

 

 その言葉を聞いた克海たちが、目から鱗が落ちたような顔となった。

 

「――なるほど……。俺たちは当たり前になってたけど……」

「当たり前のことって、気づかないもんなんだなぁ……」

「――そうだ!」

 

 功海の直後に、千歌がバッと駆け出して階段の最上段に上がり、皆の注目を集めて呼び掛け出した。

 

「皆さん! 私たち、浦の星女学院でスクールアイドルやってるAqoursです! 私たちは、学校を残すために、ここに生徒をたくさん集めるために! 皆さんに協力してほしいことがあります! みんなの気持ちを形にするために!!」

 

 千歌の訴えかける姿を見上げ、克海と功海がフフッと笑いながら顔を合わせた。

 

「今度は、文句なしの出来のPVになりそうだな」

「ああ! 俺たちも手伝ってやろうぜ!」

 

 

 

(♪夢で夜空を照らしたい)

 

 そうしてAqoursは、内浦の住人の協力の下に、新しいPV作りを進めた。

 空に浮き上がっていくような作りにした特別な提灯を作製し、それが夕焼け空に飛んでいく光景をバックにして、浦の星女学院の屋上で歌い踊る場面を中心とした、内浦の人たちの温かい心が詰まった新しいPV。

 それが、後にAqoursの運命を大きく変えるきっかけとなる。

 

 

 

「よーし! アップロードかんりょー!」

 

 後日、新PVの使用許可を出してもらえたAqoursは、それを早速ネットにアップした。千歌がエンターキーを押すと、曜や花丸たちは反響が待ち遠しくてウキウキする。

 

「どれくらいの人が観てくれるかなー? 一万再生は行ってほしいよねー」

「手前味噌だけど、出来は抜群だと思うずら!」

「ふふふ……また新しいリトルデーモンが誕生するわ」

 

 善子が悦に入っている脇を抜けていくルビィ。

 

「ルビィ、クラスのみんなにPVアップしたよって報せてくるね!」

 

 そう言って体育館にある部室を出て、渡り廊下を駆けていこうとした。

 その時、

 

「やぁーやぁー! Aqoursの黒澤ルビィ君! またお会いしましたね」

「ぴぎっ……!?」

 

 突然野太い声に呼び掛けられたので、驚いて足が止まった。振り向くと、声がした方向には、

 

「早速君たちのPV観たよぉー。いやぁーなかなかよく出来てた! あれはいい線行くと思うよぉ! 愛染正義です!」

「あ、愛染さん……!?」

 

 愛染がさも当然のような顔で、渡り廊下の外に立っていた。当たり前であるが、ここは浦の星女学院の敷地内である。

 

「ど、どうして学校に……?」

「細かいことはぁーいいじゃないかぁ! それより聞いたよぉ? 大変みたいだねぇー廃校の危機でッ!」

 

 まくし立てながらツカツカと歩み寄ってくる愛染。人見知りのルビィはその勢いに気圧されてビクつく。

 

「君たちは大きな障害に直面したという訳だ。しかしここだけの話、私も私の夢を邪魔する障害にぶつかっててねぇ~。誰かが何とかしてくれたらなぁ~って思ってるんだよね。『若いうちの苦労は ズバーン!って感じでヨロシクちゃん』!」

 

 懐から短冊を取り出しつつ、ルビィを指差した。思わず一歩退くルビィ。

 

「私の障害は、ウルトラマン! って感じで、ヨロシクちゃーん♪」

 

 

 

 ――内浦の町のど真ん中に突然、メカゴモラがどこからか飛んできて着地した。

 

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 『四つ角』へとスカイランタン作製の道具を返却しに来ていた梨子は、克海と功海とともにメカゴモラがうなり声を発する様子を目の当たりにした。

 

「怪獣っ!」

「この間の奴か!」

「今度は逃がさねぇぞ!」

 

 克海と功海は拳を打ち鳴らし合い、同時にルーブジャイロを構えた。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 ぐっと胸の前で手を握る梨子を背にしながら、克海がホルダーより火のクリスタルを取り出す。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンタロウ!]

 

 クリスタルをジャイロにセットして、レバーを引っ張っていく。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「ビーチスケッチさくらうち!」

 

 克海が梨子とともに火柱に包まれ、ロッソへと変身していく。

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

 

 功海はホルダーから水のクリスタルを選び取った。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンギンガ!]

 

 クリスタルをジャイロにセットして、レバーを三回引っ張る。

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」

 

 功海が水柱に覆われて、ブルへと変身していく。

 

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 変身を遂げたウルトラマン兄弟は、飛び出した勢いのままメカゴモラ目掛けて飛んでいった。

 



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Guilty Fire, Guilty Below(B)

 

『『はッ!』』

 

 ロッソとブルの二人は、内浦の町内に出現したメカゴモラの正面に着地。威圧するようにビッと指を向けたが……メカゴモラは威嚇し返すどころか、一切の反応を見せずに突っ立ったままであった。

 

『「……全然動きませんね、あの怪獣……」』

 

 想定外の事態に、呆気にとられる梨子。ロッソとブルも訝しんだ。

 

『様子が変だぞ』

『とりあえず牽制してみる?』

『よぉーし……!』

 

 ロッソが右手を大きく振りかぶり、ストライクスフィアをメカゴモラに向かって投げつけた。火球はクリーンヒットして、メカゴモラの表面で大きく炸裂する。

 

『ストライーク!』

『よっしゃあッ!』

 

 ぐっとガッツポーズを取るロッソ。しかし、メカゴモラは爆撃を食らったにも関わらず、相も変わらず棒立ちのまま。

 

『あれ? 反撃してこないぞ?』

『「見送りじゃないですか?」』

『まさか。ほんとの野球じゃあるまいし』

 

 不可解なほどに動かないメカゴモラに、ロッソたちは頭に疑問符が浮かび続ける。

 

『電池切れかなぁ?』

『え? あいつ電池で動いてるの?』

『いや知らないけど』

『「でも、見たところロボットですし、何らかのトラブルがあったというのもありえない話じゃ……」』

 

 と梨子が推測したその瞬間――メカゴモラから人間の声が発せられた。

 

[「その声……もしかして、梨子ちゃんですかぁ……?」]

「『『え!!?」』』

 

 聞き覚えのある声に、梨子たちは驚愕。そして透視の超能力を発動してメカゴモラの額に注視すると――。

 内部の空間に、ルビィが閉じ込められているのを発見した!

 

『「嘘でしょう!? な、何でルビィちゃんがあんなところに!?」』

『わ、分からん!』

『誰だ!? 誰があんなことしやがったんだッ!』

 

 激しく狼狽するロッソとブル。メカゴモラの方は、それを合図とするように機体の各所が点灯して、起動を始めた。

 

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 動き出したメカゴモラは、左胸のランプから光線を発射してロッソとブルの立つ地点を薙ぎ払う。二人は咄嗟に跳び上がって回避した。

 

「きゃああああああ――――――――!!」

 

 怪獣が出現していながら、動きが見られなかったことでこちらも訝しんでいた町民たちも、メカゴモラが攻撃を開始したことで一斉に悲鳴を上げて逃げ始めた。

 

『とにかく止めないと!』

『ああ!』

 

 人々の身が危ないことでロッソたちも焦りを見せ、光線を発し続けるメカゴモラに後ろから飛び掛かって羽交い絞めにした。

 

『このッ!』

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 しかし左腕を捕らえるブルの手が、光線の加熱によって焼かれる。

 

『あちちッ!』

『熱には熱だ!』

 

 ロッソが手の平に炎を宿してランプを抑えつけるが、光線は止まらない。

 

『くそッ、熱量を上げるぞ!』

『「ま、待って下さい!」』

 

 ロッソがより強力な炎で抑えつけるのに、梨子が思わず制止の声を出した。ランプが熱で故障して光線が止まるが、そこでロッソはメカゴモラから離れる。

 

『そうだ、迂闊なことは出来ない……!』

『やりやがったな! うらぁッ!』

『待て功海ッ!』

 

 発憤したブルが放ったアクアジェットブラストが命中し、メカゴモラが転倒した。

 

[「ぴぎぃぃぃっ!」]

 

 しかしその際の衝撃が内部のルビィに伝わり、ルビィが悲鳴を上げた。

 

『「何するんですかっ! 中にルビィちゃんがいるんですよ!?」』

『あッ……! ご、ごめん!』

 

 梨子に非難され、我に返ったブルが謝った。

 

 

 

 浦の星女学院では、メカゴモラ出現により千歌たちが慌ただしく避難しようとしていた。

 

「怪獣だよ! 早く逃げないと!」

「だけど、ルビィちゃんがどこにもいないずら!」

「えぇーっ!?」

「わ、私たちも捜してくるね!」

 

 曜と善子が部室を飛び出して、校舎内を駆け回る。

 

「ルビィちゃん、一体どこに……!」

『「曜ちゃん! 善子ちゃん!」』

「ヨハネよ! って、今の声は……!」

 

 曜と善子の元に、ロッソから梨子の声がテレパシーとなって二人に伝わった。梨子が告げる。

 

『「大変なの! ルビィちゃんが、怪獣の中に囚われてるの!!」』

「えぇぇぇぇ―――――――――!?」

「れ、煉獄の虜囚!?」

 

 曜と善子も、その報告に目が飛び出さんばかりに驚愕した。

 

 

 

 アルトアルベロタワーでは、戻ってきた愛染がルビィを人質にしているメカゴモラと、そのために全力で戦うことが出来ず二の足を踏んでいるロッソとブルの様子を観察して、にんまりと笑んでいた。

 

「暴れる怪獣、その中に囚われたアイドル。果たして助け出すことが出来るのか……。いいシチュエーションだ」

 

 

 

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 メカゴモラはロッソたちが全力で立ち向かうことが出来ないのをいいことに、二人をはね飛ばしながら内浦を我が物顔で突き進んでいく。

 

『こいつ、どこかに向かって進んでるぞ……!』

『「この方向って……まさかっ!」』

 

 梨子がハッと青ざめて、メカゴモラの進行方向に首を向けると、その先に見えたのは……。

 

『「わ、私たちの学校!!」』

『何だってぇ!?』

『やばいッ!』

 

 浦の星女学院に向かっていくことに気づいたロッソとブルが、メカゴモラにしがみついて食い止めようとする。が、メカゴモラは指先からミサイルを乱射して二人を振り払った。

 その内の一発が校舎の近くに着弾し、爆発の衝撃で避難途中の生徒たちが絶叫した。

 

「きゃああああ――――――!」

『まずいぞ……下手に抵抗したら逆に学校が危ないッ!』

『「でも、止めないと学校が……だけど、あの中にはルビィちゃんが……!」』

 

 梨子はどうしたらいいのか分からなくなり、パニック状態に陥っていた。

 

 

 

 ロッソとブルの焦る様子に、愛染は笑みを深める。

 

「更に駄目押し。頑張らないとー、浦女が物理的に廃校になっちゃうぞー」

 

 

 

『今のままじゃどうにもならない! こうなったら、パワーは落ちるが……クリスタルチェンジだ! 功海!』

 

 ロッソが指示を出したが、ブルはルビィが囚われているメカゴモラを前にして動揺しており、聞こえていない。

 

『功海ッ!』

『あ、ああ……!』

 

 ロッソが強く呼び掛けることでようやく我に返り、クリスタルを交換する。

 

「『セレクト、クリスタル!」』

 

 クリスタルを取り換えロッソアクア、ブルフレイムになると、ロッソがジャイアントスフィアを飛ばし、メカゴモラの上半身を包み込むことで時間を作った。

 

『功海、ルーブスラッガーで攻撃だ!』

『でも、そんなことしたらルビィちゃんが……!』

『イチかバチか、やるしかない! スラッガーなら、ルビィちゃんを無事に切り離せるかもしれない!』

 

 希望的観測を抱くロッソが、梨子に呼び掛ける。

 

『梨子ちゃん!』

『「う、うん……! 頼みます、克海さんっ!」』

 

 ロッソが角からルーブスラッガーを引き抜く。

 

「『ルーブスラッガーロッソ!!」』

 

 双剣を手にしたロッソが、メカゴモラへと駆けていく。

 

『はぁぁぁッ!』

『克兄ぃ!』

 

 それと同時にメカゴモラもジャイアントスフィアを破り、ロッソの剣戟を腕で受け止めた。

 

『はッ! やぁッ!』

 

 しかしロッソは巧みに双剣を走らせ、関節部を狙って斬撃を見舞う。それで動きを封じようとするが思い通りにはならず、スラッガーを掴まれて放り捨てられた。

 

[ギャオオオオオオオオ!]

『うわぁッ!』

 

 メカゴモラの角が生えたヘッドバットを胸に叩きつけられた上、メガ超振動波を叩き込まれる。

 

『うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

『「いやああああぁぁぁぁぁぁっ!!」』

 

 強烈な衝撃が梨子まで襲い、ロッソが放物線を描いて弾き飛ばされた。

 

『克兄ぃ! 梨子! 大丈夫か!?』

 

 大ダメージを食らって倒れたロッソに駆け寄って助け起こすブル。その時に、閉じ込められて意識が朦朧としているルビィがうわ言を発した。

 

[「ここ、どこですかぁ……? そろそろ、今日のトレーニングに行かないと……」]

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 メカゴモラは両手を射出し、ロケットパンチでロッソとブルを殴り飛ばす。

 

『『うわああぁぁぁぁ――――――――!!』』

 

 チェーンを巻き上げて両手を戻すメカゴモラ。その足が少しずつ、女学院に迫る。

 学校では、ダイヤが青ざめ切った顔で校舎を駆けずり回っていた。

 

「誰かっ! ルビィを見ませんでしたか!?」

「生徒会長! 早く逃げて下さいっ!」

「もうここにいたら危ないですっ!」

 

 善子と曜がダイヤの両脇を抱えて引っ張っていこうとするが、ダイヤは暴れて抵抗する。

 

「放して下さい! ルビィがどこにもいないんですわ! こんな時には真っ先にわたくしのところに来るのに! 大事な妹を、置いていけませんっ!!」

 

 ルビィはどこを捜してもいないのだということを説明することが出来ず、曜たちは必死なダイヤを前に歯がゆい思いをすることとなる。

 女学院の前で仰向けに倒れたロッソの中で、梨子が力を振り絞る。

 

『「駄目……ここを、ルビィちゃんに壊させる訳にはいかない……! 私たちの、夢のスタートラインを……守らなくちゃ!!」』

 

 梨子の発奮がロッソにも伝わり、カラータイマーが鳴りながらも起き上がって仁王立ちする。そして梨子がクリスタルホルダーを掴み取った。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

 

 風のクリスタルを取り出して二本角を出すと、ジャイロに新しくセットする。

 

[ウルトラマンティガ!]

 

 現れたティガのビジョンが風に代わって、インナースペースに満ち溢れた。

 

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

 

 ロッソの合図で梨子がジャイロのレバーを三回引く。

 

[ウルトラマンロッソ! ウインド!!]

 

 竜巻がロッソを包み込み、紫色のロッソウインドが右腕を天高く振り上げた。

 

『「この風の力で……あれを押し返しますっ!」』

 

 接近してくるメカゴモラを見据え、気合いを入れる梨子。ロッソは両手を握り締めると、拳に風を纏わりつかせた。

 

「『ストームフリッカー!!」』

 

 ロッソが拳を突き出す度に、球状の風が飛んでメカゴモラの身体に当たり、風圧で後ろに押し出していく。

 

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 踏ん張って抗うメカゴモラだが、ロッソが風を重ねていくことで、超重量の機体もズルズルと下げられて学校から引き離されていった。

 

『ふッ! ふあッ!』

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 このまま学校から十分な距離を離すことが出来ると思われたが……メカゴモラは両手を地面に向かって飛ばし、突き刺すことでアンカーの代わりとしてその場から下がらなくなった。

 

『「なっ……!?」』

[ギャオオオオオオオオ!]

 

 更にメガ超振動波で風を弾き飛ばし、腕を戻す。状況まで振り出しに戻ってしまった。

 

[ギャオオオオオオオオ!]

『うわッ!』

 

 メカゴモラの右手が三度飛び、ロッソの首を鷲掴みにして背後に投げ飛ばす。

 

『わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』

 

 地面の上に叩きつけられるロッソ。彼が投げ捨てられたことで学校が無防備となり、メカゴモラがそちらに迫っていく。

 

『克兄ぃ! 梨子! いい加減にしろぉぉぉぉぉッ!』

 

 メカゴモラの暴挙の数々にブルは怒り心頭し、間に割って入ってルーブスラッガーブルを抜いた。

 そして「刃」のクリスタルを取り出し、一本角を出してスラッガーの柄の部分に装着した。

 

[ウルトラセブン!]

 

 スラッガーの刀身が白く輝き、ブルが正眼に構える。

 息を荒げながらブルがメカゴモラと向かい合っていると、迫るメカゴモラからルビィの声がし続けた。

 

[「ルビィががんばって、ランキング上げていったら……お姉ちゃん、またスクールアイドル好きになってくれるかなぁ……」]

[「前みたいに、一緒に歌ったり踊ったりしたい……」]

[「あんなに好きだったのに、今は見たくもないなんて……そんなの悲しいよ……」]

[「えへへ……お姉ちゃんのためにも、スクールアイドル、がんばルビィ……」]

『……ッ!』

 

 ルビィの声に、ブルは剣を握る手が震えるものの――何もかもを振り払うような絶叫を上げながら、腕を振り上げた。

 

『わああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――!!』

 

 そして炎を纏わせた巨大光刃を、振り下ろしたスラッガーから繰り出す。

 

『ワイドショットスラッガーッッ!』

 

 それを見た梨子が、反射的に手を伸ばした。

 

『「――っ!」』

 

 ブルが飛ばした光刃がメカゴモラの胴体を貫き、宙返りして再び貫通。×の字に胴体を裂かれたメカゴモラが、大爆発を起こした。

 

「や……やったぁぁっ!」

「ウルトラマンさんが、学校を守ってくれたずら!」

 

 千歌や花丸は歓声を上げたが、曜と善子はブルが手を下したことに、顔面蒼白となっていた。

 そして他ならぬブルが、がくりと両膝を突いて首を垂らした。

 

『ごめん、ルビィちゃん……千歌……みんな……! 俺……俺が……ルビィちゃんを……ッ!』

 

 自責の念に駆られるブルだったが――かすかに風の音が聞こえたことで、顔を上げた。

 見ると、渦巻く風が硝煙を払い――ルビィの身体をゆっくり地上に下ろしていくのを、ブルの目に映し込んだ。

 

『ルビィちゃん……!』

 

 ルビィの胸は上下している。呼吸している――生きている証拠をブルに見せつけていた。

 彼女を守る風は、倒れたままのロッソの手の平から放たれていた。

 

『功海、ナイスプレイ……』

『「大丈夫です……みんな、無事ですよ……!」』

 

 梨子が汗だくになりながら、にっこりとブルに笑いかけた。

 

「ルビィ……!? あんなところに!?」

 

 ルビィがそっと地上に横たえられたのをダイヤたちも目撃して、脇目もふらずにルビィの元へと走っていった。

 

 

 

 壮絶な戦闘があった翌日、克海たちは綾香総合病院へとやってきた。

 その病室の一つに入院したルビィのお見舞いである。

 

「それにしても、不幸中の幸いってこういうことを言うんだろうね。怪獣と一緒に爆発したのに、ほとんど怪我がなかったなんて!」

 

 ベッドの上のルビィを囲みながら、千歌が安堵しながらそう言った。ルビィはベッドに寝かされてはいるものの、包帯すら巻いておらず、入院も検査の意味合いが大きい。

 

「ほんと、無事で何よりずら~。一時はどうなることかと思ったずら」

「これもルビィちゃんの日頃の行いがいいからだよ! それにかわいいし!」

「千歌ちゃん、かわいいは関係ないでしょ」

「えへへ……それに、ウルトラマンさんが助けてくれたお陰です」

 

 曜が千歌に突っ込んでいると、ルビィははにかみながら述べた。千歌たちの輪の外で、克海が梨子に密かに囁きかける。

 

「ルビィちゃんが無事なのは、あのとき梨子ちゃんが全力を出し切って守ったからこそだ。ありがとう」

「いいえ、そんな……。チームの仲間のためだから、がむしゃらだっただけです」

 

 謙遜する梨子。しかし、彼女が変身を解いた後に疲労困憊で倒れるほどに風を操ったからこそルビィが助かったというのは事実である。

 千歌たちがルビィと笑い合っていると、善子がやや慎重にルビィに問いかけた。

 

「ところで……どうして怪獣の中なんかにいたのか、それと閉じ込められてた間のことは、本当に覚えてないのね?」

「うん。最後に覚えてるのは、クラスのみんなのところまで行こうとしてた途中だったのまでで、そこからは何も……」

 

 つまり、ルビィが克海たちのことも覚えていないということに善子や梨子、曜はほっと息を吐いた。

 

「あっ、でも……功海さんが何か叫んでたような気がします」

「えっ、功海お兄ちゃんが?」

 

 今のひと言に、誰より功海がギクッと肩を震わせた。

 

「何だか、すごく必死だったような……。気のせいかもしれませんけど……」

「いや、えっと、それは……」

 

 言葉に詰まる功海の代わりのように、千歌がケラケラと笑った。

 

「あはは。功海お兄ちゃんったら、変なことばっかするし変な声もよくあげるから、どこかで聞いたのが耳に残ってただけだよきっと」

「おい千歌ぁ~? 兄に向かって二回も変だとはご挨拶だなぁ! 奇行なら人のこと言えた立場じゃないだろぉ!?」

「あ~ん、ごめんなさいお兄ちゃ~ん」

 

 功海に手荒にじゃれつかれ、千歌が眉間を寄せながらも愉快そうに笑った。その様子に、周りの克海たちも思わず破顔させられた。

 ――しかし、功海の表情の片隅には暗い雰囲気が残り続けていた……。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

ダイヤ「ダイヤッホー! 今回ご紹介しますのは、『ウルトラセブンの歌』ですわ!」

ダイヤ「この曲を歌ったのはみすず児童合唱団とジ・エコーズです。ジ・エコーズはコーラスグループのワンダースの変名でして、メンバーであった尾崎紀世彦さんももちろん歌われてますわ」

ダイヤ「尾崎さんの声は冒頭のコーラスの三番目のものですわ。今からして見れば、非常に贅沢な起用といえるでしょう」

ダイヤ「ちなみに『セブンの歌』はバージョン違いのものがありますわ。主題歌に採用されなかった方は本来没になるのですけれど、満田かずほ監督がこれを惜しみ、自身の監督回で使用されていますので、皆さまにも覚えていらっしゃる方がいることと思いますわ」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『Guilty Night, Guilty Kiss!』だ!」

功海「Aqoursのミニユニットの一つ、Guilty Kissが歌った曲の一つだな! ロックやメタルを基とした、硬派な感じが特徴的だぜ!」

克海「Guilty Kissはそんなビターなイメージの歌をよく手掛けてるぞ」

ダイヤ「それでは、また次回でお会い致しましょう」

 




善子「終末の鐘!? 功海がウルトラマンに変身できなくなってしまったわ! ジャイロが故障でもしたというの?」
ダイヤ「功海さん、そんなにルビィのことを気に掛けてどうなさったんですか? 何かルビィに負い目でも……」
善子「功海、堕ちた翼はまた飛び上がるのでしょう?」
ダイヤ「次回、『HEROESの証明』!」
善子「次回もまた、堕天降臨!」


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HEROESの証明(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

ダイヤ「浦の星女学院に統廃合の話が持ち上がり、Aqoursは学校存続に向けて活動を開始。ですがその矢先、怪獣の内部にルビィが監禁されるという事態に! ウルトラマンの活躍によって無事に救出されましたが、功海さんの様子が何やらおかしくて……」

 

 

 

 浦の星女学院のスクールアイドル部の部室で、窓際で団扇を扇いでいた千歌が振り返った。

 

「この前のPVが、50万再生も!?」

 

 パソコンの前では、入院中のルビィを除いたAqoursメンバーがPVの再生回数とコメントを確かめている。

 

「ほんとに!?」

 

 曜が聞き返すと、善子がコメントの内容をひと言で纏めた。

 

「ランタンが綺麗だって評判になったみたい。でも一番の要因は、怪獣の爆発に巻き込まれて生還した奇跡のスクールアイドルってマスコミに持ち上げられたのが話題を呼んだことみたいね」

 

 ルビィの件はすぐにマスコミが食らいつき、大々的にニュースなどで取り上げたことでAqoursの名前も一気に広まることとなった。ルビィの病室には連日記者が押しかけて人見知りの彼女を困らせ、姉のダイヤが見かねて取材拒否を言い渡したりもした。

 

「ランキングも……」

「18位!?」

「ずら!?」

 

 驚異的な順位の飛躍に梨子や花丸も驚嘆した。千歌も興奮を抑え切れない。

 

「すごい! それって、全国に5000以上もいるスクールアイドルの中でってことでしょ!?」

「ランキング上昇率では、断トツの一位よ!」

「一時的な盛り上がりってこともあるかもしれないけど、それでもすごいわね!」

「ルビィちゃんもきっと喜ぶずら!」

 

 舞い上がっているAqoursだが、そんな中で千歌が不意に笑顔に影を差してつぶやいた。

 

「だけど……ルビィちゃんがあんなことになったからっていうのは、ちょっと喜べないかな……」

「あっ……」

 

 千歌のひと言で、部室は一気にシンと静まり返った。

 が、その時にパソコンのメールアドレスに新着のメールが届く。

 

「? これ……」

「何なに?」

 

 曜がメールを開いて、内容を読み上げた。

 

「Aqoursの皆さん、東京スクールアイドルワールド運営委員会です……だって」

「東京って……あの東にある京の……」

「何の説明にもなってないけど……」

 

 そのまんまなことを述べる千歌に梨子が突っ込んだが、その一拍後に、話を呑み込んだ一同がパッと顔を輝かせた。

 

「東京のイベントの招待状!!」

 

 

 

『HEROESの証明』

 

 

 

『ワイドショットスラッガーッッ!』

 

 ブルの放った光刃が、メカゴモラを貫き爆発させる。

 

『いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 その爆発に、内部に囚われているルビィが呑み込まれていく――。

 

 

 

「――ルビィちゃんッ!」

 

 綾香大学の構内で、ベンチの上でうたた寝していた功海は、絶叫を発して悪夢から飛び起きた。

 ハァハァと脂汗まみれの額をぬぐいながら息を切らす功海。すると……。

 ドゴォォォンッ!

 

「!?」

 

 近くから爆音が発生し、功海が振り向くと、いつの間にか綾香市街に出現していた真っ赤な巨大生物が地面を揺らしながら大学に迫りつつあった。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 我先にと逃げていく学生たちの間を逆走しながら怪獣の容貌を視認した功海が驚きを見せる。

 

「グルジオじゃん! 前にぶっ倒したのに、何でまた……?」

 

 再び出現したグルジオボーンは、辺り一帯に向かって口から火炎を吐き出し、街を焼き払っていく。

 

「やべぇ!」

 

 功海はすぐにスマホを出し、克海へと電話を掛けた。

 

『もしもし功海? 今お客さんの相手してるんだけど……』

「何のんきなこと言ってんだよ克兄ぃ! 怪獣、怪獣!」

『何だよこんな時に……!』

 

 電話越しの克海は、困った声を出して功海に頼み込んできた。

 

『悪いけど先やってて。すぐ追っかけるから』

「はぁ!? しょうがねぇなぁ……十秒で片づけてやるわ!」

 

 大言を吐いた功海が電話を切り、ルーブジャイロに持ち替える。

 

「俺色に染め上げろ! ルーブ!!」

 

 功海のジャイロに気がついたように、グルジオボーンが攻撃を止めて彼をにらみつけた。

 が……。

 

「……あれ?」

 

 いくら待っても、ジャイロが何の反応も示さない。訝しんだ功海がジャイロを引き寄せて、グルジオボーンに手の平を向けた。

 

「ちょっと待っててー」

 

 言葉が通じたのかは定かではないが、グルジオボーンが律儀に待っている間にジャイロを確認する功海。

 

「あれ? どうしたんだ……」

 

 しかし元々出自すら不明のアイテムであり、見ただけではどこがどうなっているのかも分からない。

 そうこうしている間に、待ち切れなくなったかグルジオボーンが火炎を吐き出そうとする。

 

「うわッ!? ちょっと待っててって!」

 

 窮地の功海。だがその瞬間に、飛んできたロッソがグルジオボーンに飛び蹴りを決めて火炎発射を阻止した。

 

『はぁッ!』

「克兄ぃ……!」

 

 功海を救ったロッソは、彼に振り向いて詰問する。

 

『功海、何やってる! 十秒で片づけるんじゃなかったのか?』

「だって変身できないんだもん!」

 

 功海がジャイロを見せつけながら言い訳した。

 

『何!? 変身できない!?』

「克兄ぃこそ何遅れてきてんだよ!」

『お客さんをほっぽり出す訳にはいかないだろ!』

「店と人命とどっちが大事なんだよ!」

『おいそんな言い方ずるいだろ! 店の経営がどれだけ大変なのか分かってるのかお前!』

 

 ロッソと功海が言い争っていると――蹴り倒されたグルジオボーンが起き上がって、後ろからロッソの肩をポンポン叩いた。

 

「克兄ぃ後ろ!?」

『ちょっと待って! 今大事な話を……!』

 

 その手を振り払おうとしたロッソだったが……振り返った瞬間に、グルジオボーンからバチーン! と強烈なビンタを頬にかまされた。

 

『痛ってぇぇぇ~!?』

「えッ……ビンタ?」

 

 呆気にとられる功海。

 一方、ロッソを張り倒したグルジオボーンは、ぶっきらぼうに踵を返すと、肩を怒らせながら功海たちに背を向けてドスドス立ち去っていく。

 

「は……?」

 

 急に戦う気をなくして去っていくグルジオボーンの背中を、功海は呆然としたまま見送った。

 ――そのグルジオボーンは、適当なところまで進んでいくと突然肉体が消滅していき……側のビルの屋上に、ジャイロを抱えた愛染が着地した。

 愛染はいら立ちを顔にありありと表し、一人で怒号を上げた。

 

「ラブライブ運営委員長の誕生パーティーをキャンセルしてまで私自ら出撃したというのに……あのぼんくら兄弟めぇ~! 私を無視して兄弟喧嘩だとぉぉぉ~!? ふざけるなぁぁぁッ!!」

[何で戦いを放棄したんですか?]

 

 喚き散らす愛染の側にウッチェリーナが飛んでくる。

 

[変身アイテムを奪い、兄弟を変身不能に追い込むチャンスでしたのに]

 

 進言するウッチェリーナに、愛染は大仰に肩をすくめた。

 

「分かってないなぁウッチェリーナ君」

[え?]

「それは自分の力に自信のない卑劣な宇宙人がよくやる作戦だ。私は違う!」

 

 自信満々に言い放ちながら、握っていた右の手を開く愛染。

 

「真っ向から勝負を挑み、力を証明してみせる」

 

 その手の中には、錆びついた剣のクリスタルが収められていた。

 

「だから私をガッカリさせないでくれぇ。この試練をどう乗り越えるのか、とくと見届けさせてもらおう」

 

 

 

 『四つ角』に帰ってきた克海と功海は縁側で、曜、梨子、善子の三人を相手に今日のことを話した。

 

「えぇっ!? 功兄ぃが変身できなかったって!?」

 

 吃驚する曜たち。梨子は克海の、ビンタされて赤く腫れ上がった頬を気遣う。

 

「克海さん、ほっぺた大丈夫ですか? すごく赤くなってますけど……」

「ああ、どうにかな。ありがとう。それより功海のことだ」

 

 克海に目を向けられた功海は、自分と克海のジャイロを見比べている。

 

「克兄ぃは変身できんのに何で俺だけ……?」

「グレムリンの悪戯……ジャイロが故障したんじゃないかしら」

 

 善子がそう推測すると、曜が眉間に皺を寄せた。

 

「それってまずくない? そもそもジャイロって何なのかもさっぱり分かってないのに……壊れたら直せるの?」

「そんなこと、このヨハネにだって分からないわよ」

 

 善子が肩をすくめていると、功海が思いついたように立ち上がった。

 

「そうだ! 分解して中調べてみよう。ついでに克兄ぃの方メンテナンスしてやるよ」

「いややめろ! 何でも分解すりゃいいってもんじゃないだろ」

 

 克海は慌てて功海から自分のジャイロを取り上げた。それを奪い返そうとする功海。

 

「いいじゃんか! 一回中どうなってるか見させてくれよ!」

「駄目だ! 俺まで変身できなくなったらどうする!?」

 

 揉め合いになる兄弟の間に曜が割って入って仲裁する。

 

「功兄ぃも克兄ぃも落ち着いて! それより功兄ぃ……最近変じゃない?」

「え? 俺が変って、何で?」

 

 克海から引き離された功海が聞き返すと、曜たちが口々に告げる。

 

「だって、最近ボーッとしてばっかだし……」

「確かに、心ここにあらずという感じよね。何か悩みでもあるなら、ヨハネが占ってあげるわよ」

「俺が悩み? ある訳ねーじゃんそんなの」

 

 笑い飛ばす功海であるが、梨子たちの視線はそんな彼の足元に注がれていた。

 

「でも……さっきから言おうか言うまいか迷ってたんですが……それ、千歌ちゃんのですよね? 何で履いてるんですか?」

「え?」

 

 功海が足元に目を落とすと――自分が、千歌のふわふわもこもこのスリッパを履いていることに今更気がついた。

 克海が腕を組んで眉間を寄せる。

 

「こいつ、ずっとこれ履いてたんだぞ。周りが笑ってるのにも気づいてないし……。もしかして功海、この間の戦いのことまだ……」

「何にもないっつってんじゃん! 克兄ぃはほんとお節介だよなぁ」

 

 心配する克海の胸を、功海は軽い調子でポンと叩いた。そこに千歌がトコトコとやってくる。

 

「ねーお兄ちゃーん、私のスリッパ知らない? って、あぁ~!? 功海お兄ちゃん、何やってるのぉ!?」

 

 功海が自分のスリッパを履いて土に足を着けているに気づいた千歌が彼に詰め寄った。

 

「こんなに汚しちゃってぇ~! 私のお気に入りなのに~! 功海お兄ちゃん、ひどいよ~!」

 

 涙目で怒る千歌に、家に上がってスリッパを突き返した功海は、ふらふらしながら家の奥に引っ込んでいく。

 

「晩飯いらねー。寝る」

 

 そう言い残して自分の部屋に向かっていく功海の後ろ姿を、千歌が愕然と見送った。

 

「そんな……今夜はすき焼きなのに……! 功海お兄ちゃんの大好物のしいたけもたっぷり買ってあるのに……!」

「くぅ~ん……」

 

 犬のしいたけも心配そうな鳴き声を上げた。

 

「夏なのに家ですき焼き食べるんだ……」

 

 しいたけから隠れる梨子のつぶやきはともかく、克海たちも功海のことを案じて顔をしかめていた。

 

「功海……」

 

 

 

 翌日、克海と千歌、花丸はルビィのお見舞いに行く途中、同じくお見舞いに来た果南とばったり出くわして一緒に病室を目指していた。

 

「えぇ? 功兄ぃがそんなことに……」

 

 千歌から功海の様子のことを聞いた果南も驚きを見せた。

 

「確かに最近元気なさそうだったけど……人のスリッパ履いて外を出歩くなんて、重症じゃないかな……」

「うん……私も心配なの。せっかく東京のイベントに招待されたのに、これじゃ落ち着いて行けないよ……」

 

 ため息を吐く千歌。克海も頭を悩ませながら、四人はルビィの病室の前まで来た。

 

「ルビィちゃーん、入るずらー」

 

 花丸がひと声かけて扉を開くと……病室には先客がいた。

 

「正解はー……秋葉原UTD屋上でしたぁ!」

「あーそっちだったかぁ~! いやぁ~流石ッ! 詳しいねぇルビィ君! いや先生!」

「えへへ……それほどでもないですよぉ」

 

 ルビィと談笑しているのは、愛染であった。

 

「愛染さん!」

「おおー君たちッ!」

 

 克海たちが声を上げると、気づいた愛染が振り向く。――彼の顔を見て、果南は表情を強張らせた。

 

「怪獣被害に巻き込まれたスクールアイドルを放っておけず、お見舞いに参上しました。ささッこっち座って。おやその子も新しいメンバー?」

「いえ、彼女は俺たちの知り合いの松浦果南です」

「どうも……」

 

 克海に紹介された果南が控えめに頭を下げる。

 

「へぇ~そう。どっかで見た気もするけど……あれ? いつも陽気な弟君の姿が見当たらないが?」

「まぁ……ちょっと色々ありまして」

 

 聞かれた克海がお茶を濁すと、愛染は大袈裟に泡を食った。

 

「まさか、兄弟喧嘩!? 感心しないな~。君たちには期待しているんだ。早く仲直りしたまえ」

「はぁ……」

「では、あとはお若い人たちだけで。兄弟の愛と絆を信じる男、愛染正義でした」

 

 克海に言いつけた愛染はハートマークのポーズを取って、揚々と病室を後にしていく。

 ――その一瞬、果南は愛染の笑顔が急速に消え失せてしかめ面になったのを目撃して、思わず息を呑んだ。

 

「ルビィちゃん、男の人苦手なのに、いつの間に愛染さんと仲良くなったずら?」

「ついさっき。初めはちょっと怖かったけど、話してたら結構楽しかったし……」

「そっかぁ良かった。あっそうそう。何と私たちAqours、東京のスクールアイドルのイベントのお誘いを受けたのですっ!」

「えぇ~!? 東京のですかぁ!?」

「そう、あの東京! 開催される時にはルビィちゃんも退院できてるはずだし、一緒に行こうね」

 

 花丸と千歌がルビィと談笑する傍らで、果南は克海にそっと囁きかけた。

 

「克兄ぃ……あの愛染って人、何て言うか……信用していいの?」

「えッ? 何でそんなこと……この綾香の名士だぞ? 千歌たちだってお世話になってるし……」

「いや、その……」

 

 聞き返された果南は、盗聴器のことなどをどう説明したらいいか分からずに言葉を濁した。

 

 

 

 綾香病院の外のベンチでは、ここまで来ながらもルビィの元まで足を運ぶことが出来ないでいる功海が力なく座り込んでいた。そこに、曜たち三人が彼の近くまでやってくる。

 

「功兄ぃ、こんなとこにいた」

「!」

 

 しかし功海は曜たちに気づくと、すぐ立ち上がって逃げようとする。

 

「功海さん!? ちょっと待って……!」

「逃げてどうするというのよ!」

 

 呼び止める梨子と善子だが、功海の足は止まらず。しかしその前に克海が回り込んだ。

 

「待て功海! どうして何も話してくれないんだ……」

「克兄ぃ……!」

 

 問いかけた克海に、功海は内心を吐露し出した。

 

「俺……怖いんだ。あの時、もし克兄ぃたちがいなかったら……ルビィちゃんの命を奪ってたかもしれない……。そう思うと戦うのが怖い……! ウルトラマンになるのが怖い……! 俺は……ヒーロー失格なんだ……!」

 

 本心にある恐怖を打ち明けた功海に、曜たちは言葉を掛けることが出来なかった。

 

「……功海が、あんなことを思ってたなんて……」

「うん……。いつも、怖いものなんてないって調子なのに……」

 

 思わずつぶやく善子と梨子に、曜が小声で告げた。

 

「功兄ぃ、小さい頃は泣き虫だったんだよ。いつも克兄ぃの後ろについて回って……。だけど、私や果南ちゃんと一緒にいる内に今のようになっていったんだよね……。だから本当の功兄ぃは、小さい時のままで怖がりなのかも……」

 

 曜たちと同じように、克海も功海に掛ける言葉がなく、ただじっと彼のことを見つめていた。

 

 

 

 しかし、今の功海の様子にいら立ちを募らせる者が一人いた。

 

「ぬあぁぁ~! そんなことでいちいち悩むなぁ~!」

 

 愛染である。帰ったと見せかけた彼は近くの建物の屋上から、密かに功海たちの様子を監視していたのだ。

 

「そんなこと悩んだところで、答えなんか出る訳ないだろッ! あぁ~じれったいッ!!」

 

 自社の飛行船をバックにしながら一人で地団駄を踏んだ愛染が、ピタッと足を止めて吐き捨てる。

 

「『一寸先は悩んでもしかたない』だ! おぉ~……!」

 

 そして左手にジャイロ、右手に「魔」のクリスタルを握り、両腕を下から頭上へ大きく回してからクリスタルをジャイロにセットした。

 

グルジオボーン!

 

 愛染は奇声を上げながらレバーを引いていく。

 

「愛染正義はぁーッ! どんな時もぉーッ! ン悩まなぁーいッ!!」

 

 腕を天高くに掲げた愛染の肉体が、怪しい光に包まれて怪獣のものに変化していく――!

 



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HEROESの証明(B)

 

 功海の告白を前にして、克海たちは何も言えずに立ち尽くしていたが、そんな彼らを突然の震動が襲う。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 バッと振り向いた克海たちの視線の先に、グルジオボーンが雄たけびを上げながら出現した!

 

「またあの怪獣か! 功海ッ!」

 

 ジャイロを握って功海に振り返る克海だが、功海は怖気づいたままジャイロを取り出そうともしなかった。

 

「俺は克兄ぃとはちげーんだよッ! ……俺がいなくたって克兄ぃは戦えんだろ? 梨子たちもいるんだしな……」

「功兄ぃ……」

 

 自暴自棄になっている功海に、曜たちが困惑する。

 

「俺のことなんかほっといてさっさと行けよッ!」

「お前……」

 

 足が進まない克海だが、グルジオボーンはその間にも街に火を放って綾香を破壊していく。ここで立ち止まっている時間はない。

 

「……功海、先に行くよ……!」

 

 やむなく克海は、梨子に振り向いて呼び掛けた。

 

「梨子ちゃん、頼む!」

「は、はいっ!」

 

 戸惑いながらもうなずいた梨子を後ろにつけながら、克海がルーブジャイロを構えた。

 

「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」

 

 克海がクリスタルホルダーに手を伸ばして、火のクリスタルをつまみ取る。

 

「セレクト、クリスタル!」

[ウルトラマンタロウ!]

 

 クリスタルから二本角を出した克海がジャイロにセットし、梨子と上を見上げて決め台詞を唱える。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「ビーチスケッチさくらうち!」

 

 克海がジャイロのグリップを三回引き、エネルギーチャージ。

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

 

 火柱に包まれた克海と梨子が、ウルトラマンロッソに変身してグルジオボーンの正面に登場した。

 

『俺たちが九秒で片づけてやる!』

 

 功海に皮肉を飛ばしてから、ロッソがグルジオボーンに体当たりしていった。

 

『「克海さんの仕返しよっ!」』

 

 グルジオボーンに激突したロッソが、グルジオボーンの横面にビンタを浴びせた。更にもう一発。

 

『倍返しッ!』

 

 ロッソの戦う背中を呆然と見つめる功海だったが、その時に病院から非常用ベルのけたたましい音が発生した。

 

「ルビィちゃん……!」

「あっ、功兄ぃ!?」

 

 功海はいてもたってもいられず、病院へと駆け出していく。それを曜と善子が慌てて追いかけていった。

 院内は近くに怪獣が出現したことで狂乱状態であり、多くの怪我人や病院が医者や看護師たちの手によって避難させられていく。その中をかき分けてルビィの病室を目指して走る功海は、途中の階段で、千歌たちに連れられて下りるところのルビィを発見した。

 

「千歌っ!」

「功海お兄ちゃん! 来てたの!?」

 

 功海は反射的にルビィの身体を抱え上げた。

 

「ひゃっ!? 功海さん……?」

「じっとしててくれ。君のことは、俺が絶対に護るッ!」

 

 熱を込めてルビィに告げた功海が、千歌たちと追いついた曜、善子に振り向く。

 

「みんな、逃げるぞッ!」

「うん!」

 

 功海たちが病院からの脱出を図る中、ロッソは両手にスラッガーを握り締めた。

 

「『ルーブスラッガーロッソ!!」』

 

 双剣でグルジオボーンに斬りかかっていくロッソだが、グルジオボーンは斬撃をかわし、ロッソにカウンターの張り手を食らわせた。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

『くッ!? 前より強くなってる……!?』

 

 現在は梨子の協力の下にパワーアップしているのに、グルジオボーンは互角以上に張り合う。明らかに、パワーもスピードも以前戦った時より増しているのだ。

 

『「だけど、負けない! 私たちでルビィちゃんたちを守らなきゃ!」』

 

 梨子がより気合いを入れることでロッソの動きのキレも増し、グルジオボーンの腕を止めて右の剣を浴びせた。斬られた腕を痛そうに振るグルジオボーン。

 

『はぁぁッ!』

 

 ロッソは勢いに乗って連続でグルジオボーンを斬りつける。押されていくように見えたグルジオボーンだったが、

 

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 攻撃後の隙を突いてロッソの懐に踏み込み、両腕をガシッと掴んで動きを抑え込んできた。

 

『うわッ!? しまった……!』

 

 ロッソを捕らえたまま振り回すグルジオボーン。それとともに振るわれる尻尾が、病院に叩きつけられる。

 

「大丈夫?」

「は、はい……」

 

 それは功海たちが出入り口から出てくるのと同時であり、彼らの頭上に崩れた瓦礫が降りかかる!

 

「なッ!」

「危ないっ!」

「きゃあぁっ!?」

 

 功海が咄嗟にルビィをかばいながら身をかがめ、果南は千歌たちを突き飛ばした。そこに瓦礫が襲い掛かる!

 

『功海ぃッ!』

『「みんなっ! た、大変……!」』

 

 青ざめた梨子たちが力を振り絞って、グルジオボーンを押し返して病院から引き離していった。

 

「うッ……!」

 

 病院の壁が崩れた結果、ルビィを抱える功海は千歌たちと分断されて瓦礫の中に閉じ込められてしまい、千歌たちは果南に助けられてどうにか無事だったものの、果南はショックで気を失って倒れ込んでいた。

 

「か、果南ちゃん!! 功海お兄ちゃんもっ!」

「俺たちのことはいい! それより、果南を早く安全なところへ!」

 

 失神した果南を案じて、功海は千歌たちに指示を飛ばした。

 

「千歌ちゃん、功兄ぃたちは私が!」

「う、うん! お願い、曜ちゃん!」

「ずら丸、脚持って!」

「ずらっ!」

 

 千歌たちは曜を残して、三人協力して果南の身体を抱え上げてこの場から連れ出していった。

 

「功兄ぃ、頑張って! うぅ……!」

「くっそぉ……!」

 

 曜と功海はルビィを助けるべく力を振り絞って瓦礫の障害をどかそうとするも、びくともしない。功海は弱気になって吐き捨てる。

 

「駄目だ……! やっぱり克兄ぃがいねぇと何にも出来ねぇよ俺……!」

「しっかりして功兄ぃ! 今は功兄ぃが頑張らないと、ルビィちゃんを助けられないんだよ!」

「だけど……!」

 

 激しく落ち込み、悩み苦しむ功海の横顔を見て、彼の腕の中のルビィは――苦悶の顔で剣を振り下ろすウルトラマンブルの顔を思い出し、それが今の功海の顔と重なった。

 ルビィはそっと、功海の手を握り返した。

 

「ルビィちゃん……?」

 

 不思議そうに顔を上げた功海に、ルビィはそっと微笑みかける。

 

「大丈夫です、功海さん……。ルビィ、功海さんにすっごく感謝してます……。だって、こんなにもルビィのことを助けてくれようと、必死なんですもん……。だから功海さん、自分のこと追いつめないで、自分のことを信じて下さい……。功海さん、がんばルビィ!」

 

 にこっと笑顔を向けられて、功海の胸が一瞬ドキッと高鳴った。

 ルビィの応援に続くように、曜も功海に呼び掛ける。

 

「ねぇ功兄ぃ、覚えてる? 功兄ぃが小学校に上がる直前……学校を怖がる功兄ぃを、克兄ぃが勇気づけようとしたことがあったよね。一緒にはしご昇って……。だけど功兄ぃ、高くて途中で泣き出しちゃって……。克兄ぃが手を伸ばしたんだけど、そしたら克兄ぃがずり落ちちゃって……」

 

 思い出を話しながら、曜は力強く功海に笑いかけた。

 

「私も果南ちゃんも目を覆ったけど、その時克兄ぃの手を掴んで受け止めたのが功兄ぃだったじゃん! それからだよ、功兄ぃが泣かなくなったの! 功兄ぃには、おっきな勇気があるんだよ!!」

 

 曜の励ましで、功海の瞳に輝きが戻る!

 

「そうだ……思い出しだぞ! ルビィちゃん!」

 

 ルビィに振り向く功海だが、ルビィは息が苦しくなり、ぐったりと力を失っていた。

 

「ルビィちゃん!! おおおおおおッ!」

 

 功海が奮起すると、懐の中のジャイロが輝き、功海が瓦礫を押し返して檻の中から脱出した!

 

「功兄ぃ!! やったよ功兄ぃ!」

 

 歓喜する曜。だがその時に、ロッソの苦痛の声が轟く。

 

『うわああぁぁぁぁぁッ!』

 

 ロッソは功海たちの盾となって、その身でグルジオボーンの火炎を食らい続けていた。功海たちをかばう彼は身動きが取れない状態にある。

 

「克兄ぃ! 梨子ちゃん!」

 

 焦る曜だが、その前にルビィをそっと下ろした功海がジャイロを手に進み出た。

 

「曜、俺はもう恐れない! この力を……自分を信じるッ!」

「功兄ぃ……! うんっ!」

 

 目を潤ませた曜がうなずき、功海がジャイロを掲げた。

 

「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」

 

 ルーブジャイロが光を放ち、功海と曜を包み込む――!

 

「セレクト、クリスタル!」

 

 意気揚々と敬礼する曜を背後に、水のクリスタルから一本角を出した功海がジャイロの中心にセットする。

 

[ウルトラマンギンガ!]

 

 水が波打ち、曜と功海が天を見上げた。

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」

「ヨーソロー!」

 

 功海がジャイロのグリップを三回引き、エネルギーチャージ。

 

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 水柱に包まれた功海と曜がウルトラマンブルに変身し、ロッソにとどめの火炎を食らわそうとしていたグルジオボーンの頭にドロップキックを炸裂させた!

 

『はぁーッ!』

 

 ――ぐったりとしながらも、意識があったルビィは、目の前からいなくなった功海に微笑を浮かべた。

 

「えへへ……やりましたね、功海さん……」

 

 グルジオボーンを蹴り倒したブルはロッソの側に駆け寄り、彼の腕を引っ張って助け起こした。

 

『克兄ぃ、おっ待たせー』

『「梨子ちゃん、遅くなっちゃってごめんね」』

 

 実に軽いノリのブルにロッソが文句を発した。

 

『お前遅いよ功海~……!』

『あれあれ? 九秒で倒すって言ってなかったっけ』

『何だと生意気言ってんじゃねぇぞこのーッ!』

『ごめんごめん!』

 

 ブルにヘッドロックを掛けて頭をぐりぐりするロッソ。この二人に梨子が呆れたように注意した。

 

『「二人とも、じゃれてないで怪獣に集中して下さい! 起き上がりますよ!」』

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 立ち上がったグルジオボーンは、即座に火炎を吐いてロッソとブルを攻撃してくる!

 

『はッ!』

 

 咄嗟に後ろに跳んでかわした兄弟は、体勢を立て直しながらグルジオボーンと対峙した。

 

『「あっつぅ……炎を吐かれ続けてたら危ないよ!」』

 

 曜が警告すると、ブルがパチンと指を鳴らす。

 

『閃いた! 克兄ぃは水、俺は風で攻撃だ!』

『え? 何だって?』

『だーかーらぁ~! 克兄ぃは水で、俺は風!』

『「モタモタしてないで! 早くしないと、また攻撃されますよ!」』

『『ご、ごめん』』

 

 ぷんすかと咎める梨子にロッソたちが謝りながら、クリスタルチェンジを行う。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

 

 梨子が曜から投げ渡された水のクリスタルから二本角を出して、ジャイロにセットした。

 

[ウルトラマンギンガ!]

『纏うは水! 紺碧の海!!』

 

 ロッソの合図の下に梨子がジャイロのグリップを引き、エネルギーをチャージする。

 

[ウルトラマンロッソ! アクア!!]

 

 曜の方はホルダーから風のクリスタルを取り出した。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

 

 一本角をクリスタルから出して、ジャイロにセット。

 

[ウルトラマンティガ!]

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

 

 ブルの合図で曜がグリップを引いて、エネルギーをチャージ。

 

[ウルトラマンブル! ウインド!!]

 

 クリスタルチェンジを終えると、ロッソは空に向かって飛び上がり、ブルは風の力による高速移動でグルジオボーンの周囲を駆け回り出した。

 

『はッ!』

「ギュオオォォ――――ン!」

 

 ブルが走ることで竜巻が発生し、グルジオボーンが火炎を吐いても風に流されて空にそれていき、街への被害を防いだ。

 

『「やるね功兄ぃ! だけど……これ、目が回りそうだよぉ~!」』

『こらえろ曜! もう少しだ!』

 

 善子ほど風の力との相性が良くない曜は、ブルのスピードについていけずにふらふらになっていた。

 竜巻による包囲を完成させると、ブルがグルジオボーンから離れた。そこに空からロッソが呼び掛ける。

 

『功海ー! お前の言う通りにしたぞー!』

『「うぅ……水って結構重いんですね……!」』

 

 ロッソはいつもよりはるかに巨大なジャイアントスフィアを掲げている。梨子は水球の重量に、腕がぷるぷると震えていた。

 

『ああ。オッケー、それでいいよ!』

 

 腕で大きく丸印を作ったブルは、角からルーブスラッガーを引き抜く。

 

「『ルーブスラッガーブル!!」』

 

 スラッガーを中腰に構えると、ロッソに向かって叫んだ。

 

『今だ克兄ぃ!』

『了解……! おぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁッ!』

 

 ロッソがジャイアントスフィアをグルジオボーンへと投げつけた。水球は竜巻ごとグルジオボーンを覆い、グルジオボーンは水の竜巻の中に閉じ込められることとなる。

 

「ギュオオォォ――――ン!」

『おお……すげぇな』

 

 完全に動きが封じ込まれたグルジオボーンに対し、曜は「雷」のクリスタルから一本角を出してルーブスラッガーブルにセットした。

 

[ウルトラマンエックス!]

 

 クリスタルの力によって、刀身に緑色の電撃が纏わりついた。ブルは雷の剣を水平に構えながら駆け出す。

 

「『スパークアタッカー!!」』

 

 天高く跳躍したブルは、落下の勢いを乗せてグルジオボーンを竜巻ごと切り裂いた! 電撃が水にほとばしり、グルジオボーンに更なるダメージを与える!

 

『「決まったぁっ!」』

『どうだ! 風、水、雷の合わせ技!』

「ギュオオォォ――――ン……!」

 

 グルジオボーンは完全に麻痺しており、最早指一本まともに動かすことも出来ないありさまであった。

 

『それじゃあ仕上げと行きますか!』

『ああ!』

 

 ハイタッチしたロッソとブルが、最後のクリスタルチェンジを行う。

 

『「ビーチスケッチさくらうち!」』

『「ヨーソロー!」』

 

 ロッソフレイムとブルアクアに戻ると、両腕を十字とL字に組む。

 

「『フレイム!!」』

「『アクア!!」』

「『「『ハイブリッドシュート!!!!」』」』

 

 炎と水が螺旋を描いて飛んでいき、一本の光線となってグルジオボーンに命中した!

 

「ギュオオォォ――――ン!!」

 

 光線に貫かれたグルジオボーンが瞬時に爆裂! これを見届けたブルがロッソに拳を向ける。

 

『やったね!』

『ああ!』

 

 ロッソとブルは拳を打ち鳴らし合い、軽快にタッチを決めた。

 

 

 

「くっそ~あいつら……! 復活したらしたで調子に乗りおってぇ……!」

 

 グルジオボーンから戻った愛染は、ほうほうの体でアイゼンテック社に帰ってきた。そこに若い女性社員が通りかかる。

 

「社長、お疲れさまです」

「おお、お疲れぇ……」

 

 愛染のありさまをよく見た女性社員は、彼のことを案じて声を掛けた。

 

「あらあら。社長、そんなにくたびれてしまって……もうお若くないんですから、あんまりはしゃいでたら駄目ですよ」

「ああうんありがとう……ん? あらあら……」

 

 注意された愛染だが、女性社員の口走ったひと言に反応して、グロッキーだったのが嘘のようにすっくと立ち上がった。

 

「いいねぇ実にいいッ! よぉし決めたッ! 十一人目は、君だぁーッ!」

「あ……あらあら……?」

 

 女性社員は、愛染の言っていることがさっぱり分からずにたじろいだ。

 

 

 

 後日、千歌たちAqoursは綾香駅の前に集合していた。

 

「ルビィちゃんも無事に退院できたし! 絶好の東京日和! よーし、張り切って行っくぞー! いざ東京っ!」

 

 東京に向かう電車に乗る前に早くも意気込んでいる千歌を、見送りの功海がからかう。

 

「千歌ぁ、お前ほんとに大丈夫なのかぁ? 地方感丸出しの格好で行こうとしてたし、東京行って本場のスクールアイドルとの実力差にけちょんけちょんにされちまうんじゃねーの?」

「むっ、そんなことないよー! 私たちだってすっごい頑張ってるんだからね! きっと結果出してみせるもん!」

 

 ムキになって功海に言い返す千歌だが、一方でルビィが何やら物憂げにうつむいているのに花丸が気がついた。

 

「ルビィちゃん、どうしたの? まだどこか悪いんじゃ……」

「ううん、そうじゃないの。ただ……家を出る時に、お姉ちゃんが気持ちを強く持って、なんて言ってたから、どういうことなのかなぁって……」

 

 思い悩むルビィに、千歌をいなした功海がぐっと親指を立てた。

 

「暗い顔してんなよ、ルビィ。どんな時も元気に、自分に自信を持ってりゃ、未来は切り開けるぜ! な?」

「……はいっ!」

「あっれぇ~!?」

 

 ルビィと自然に笑顔を交わし合う功海に、千歌が冷や汗を垂らして詰め寄ってきた。

 

「功海お兄ちゃん、いつの間にルビィちゃんとそんなに仲良しさんになったのぉ!? お兄ちゃんながら、抜け目ない……!」

「そんなもんいつだっていいだろ? 兄には兄の人づき合いってもんがあるんだよ」

「む~、何か釈然としない……! 何か分からないけど、蚊帳の外に置かれてるような感じがする……!」

 

 千歌がむくれている一方で、キャリーバッグを車から下ろした梨子が、彼女たちを駅に送ってきた克海に頼みごとをされた。

 

「梨子ちゃん、みんな東京には慣れてないから、あんまりおかしなことしないように目をつけてやってくれな」

「は、はいっ! 任せて下さい!」

「ああ、それと……」

「はい?」

「……どんな結果になったとしても、それを真摯に受け止めるんだ。みんなにも言っておいてくれ」

「……? はい……」

 

 今の梨子には、克海の言うことの意味が理解できていなかった。

 そしてAqours六人は、最後にクラスメイトからの餞別ののっぽパンをもらう。

 

「それ食べて、浦女のすごいところを見せてやって!」

「……うんっ! 頑張る!」

 

 顔を引き締めた千歌がうなずくと、Aqoursは改札をくぐって東京への旅立ちに出ていった。

 

「いってらっしゃーい!」

「いってきまーす!」

 

 克海と功海、クラスメイトたちに送り出された千歌たちが、張り切って出発していった――。

 

 

 

 その頃、アルトアルベロタワーの社長室――その隠し部屋にて。

 

「はい! 今日はー、皆さんに新しいお仲間を紹介しまーす」

 

 愛染が先日の女性社員を連れて、並んだ十人の少女たちに告げた。

 ボーイッシュな少女、長い髪を金髪に染めた少女、双子の少女、リボンを二つ髪に結んだ少女、青みの掛かった長髪の少女、ショートボブカットの少女、ツーテールの少女、おでこの広い少女、眼鏡を掛けた少女……全員、愛染が自分のアイドルスクールの特待生コースに迎えた子たちである。

 それだけならまだしも……彼女たちは全員、隠し部屋の中央にある怪しげな装置につながれた赤い輪を頭に被せられて、虚ろな目で立ち尽くしていた。

 

「し、社長……? この子たちに、何をしたんですか……?」

「はいこれ被ってね。はいそっちに並んで」

 

 あまりにも異様な光景に女性社員も気が動転していたが、愛染は構うことなく赤い輪を彼女にも被せて少女たちの列に追いやった。

 それから愛染はパンと手を叩いて、テンションを上げて自意識のない少女たちに語る。

 

「さぁッ! これで残るはいよいよあと二人ッ! 変わる世界が輝いてきたぞー!」

 

 愛染が手の平を差し向けた先は、中央の謎の装置。その上には、「炎」「氷」「岩」「嵐」の四つのクリスタルに囲まれた、「剣」のクリスタルが置かれてあった。

 愛染は声を張って宣言する。

 

「絆の力で、輝きの向こう側へぇ!!」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

果南「ハグしよっ! 今回紹介するのは、『ウルトラマンX』だよ!」

果南「この曲はもちろん『新ウルトラマン列伝』内で放送されたドラマ『ウルトラマンX』の主題歌! 歌ったのはお馴染みのvoyagerと、大空大地役の高橋健介さんだよ!」

果南「歌詞は『X』の作風や世界観を強く反映してて、他者とつながる絆を特に強く歌い上げてるんだ。一方で「世界が滅びる」「地球の未来がなくなる」なんて物騒なワードが出てくるけど、今思えばこれは最終回への伏線だったんだね」

果南「その最終回ではこの歌がエンディングテーマに使用され、映画ではクライマックスシーンで挿入歌として使われたりしてて、『X』という作品において重要な役割を担ったと言えるね。それで印象に残ったという人も多いと思うよ!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『AQOURS☆HEROES』だ!」

功海「Aqoursのファーストシングル『君のこころは輝いてるかい?』のカップリング曲だ! HEROESなんて単語がタイトルに使われてる通り、ひたすら人を元気にする言葉を送る応援曲だぞ!」

克海「『君のこころは輝いてるかい?』はAqoursのデビューシングルだから、ファンには思い出深い一曲でもあるな」

果南「それじゃ、また次回でね!」

 




愛染
「ぬあぁッ! お前らそれでもウルトラマンかッ! これでアイドルのつもりかぁッ!! お前ら全員落第点だぁぁぁッ!!」
「こうなったら教えてやろう。真のアイドルをプロデュースする、私こそが! ウルトラマンだとッ!!」
「次回、『世界中CONTROL!!』!」
「絆の力でぇ、輝きの向こう側へぇぇッ!!」


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幕間「東京スクールアイドルワールド」

 

 ――千歌たちは現在、『東京スクールアイドルワールド』という、全国の注目度が高いスクールアイドルを集めてライブ形式でパフォーマンスをしてもらうイベントに参加するため、東京は秋葉原を訪れていた。

 秋葉原……そこはかの伝説のスクールアイドル、μ'sが在籍していた音ノ木坂学院と、そのライバルであったA-RISEのUTX学院がある、スクールアイドルの聖地。それ以外にも、日本中のサブカルチャーの最先端が集う土地でもある。そんな場所に来たAqoursの六人は、綾香市ではまずお目に掛かれないような店舗や品ぞろえにすっかり夢中になっていた。

 

「うん……うん。大きなビルの下。見えない?」

「あっ、いましたー!」

「すみませーん!」

 

 それぞれが勝手に自分らの好きな店に入り、てんでバラバラに行動しているので、千歌が何とか召集を掛けようとしている。ルビィと花丸は合流したが、曜と善子が不在だ。

 

「善子ちゃんと曜ちゃんは?」

「二人とも場所は分かるから、もう少ししたら行くって」

 

 その善子と曜はただ今、それぞれ黒魔術ショップと制服専門店に入り浸ったまま動こうとしていなかった。

 

「もう少しって?」

「さぁ……」

「もう、みんな勝手なんだから!」

 

 ぼやく千歌だが、一番にスクールアイドル専門ショップに突入したのは彼女であった。

 

「しょうがないわね……。克海さんから頼まれたのに……」

 

 とため息を吐く梨子も、傍らの女性向け同人誌店の看板を見つけると、ひどく興味をそそられた。

 

「はっ……!? 壁クイ……!?」

「梨子ちゃん?」

「な、何でもないっ!」

「何が?」

「いいえ! あ、私、ちょっとお手洗い行ってくるねー!」

 

 梨子は言い訳して駆け出すと――こっそりと同人誌店に入っていった。

 

「えー!?」

 

 すっかり纏まりをなくしたことに絶叫する千歌。……その一方で、ルビィがふと背後に振り向いた。

 

「ルビィちゃん、どうしたの?」

「ううん。その……誰かがこっち見てるような気がして……」

 

 ルビィが首を傾げながら答えると、花丸がふふっと笑い飛ばした。

 

「気のせいず……気のせいだよ。マルたち、そんなに目立ってないって。多分」

「そうかなぁ……」

 

 ルビィは首をひねり続けていたが、特におかしな様子は見られなかったので視線を正面に戻した。

 ――その隙を突いて、ひよこ色のドローンが物陰から物陰へと素早く移っていった。

 

 

 

 ドローンが撮影する映像は全て、アイゼンテックの愛染のところへと送信されている。

 

「……」

 

 愛染は秋葉原ですっかりはしゃいでいるAqoursの姿を観察して、チッ……と大きな舌打ちをした。

 

 

 

 その日の夕方、内浦の『四つ角』。

 

「千歌たちは今頃東京かぁ~……。何か、千歌たちがいねーと寂しく感じるな」

 

 功海が居間の机に頬杖を突きながら、克海相手にぼやいた。

 

「千歌がスクールアイドル始めてから、ずっと騒がしかったもんな。母さんはまた出張で、父さんは相変わらず影薄いし……すっかり静かだ。しいたけ、お前も寂しいだろ~」

「わふっ」

 

 しいたけの喉元をくすぐって戯れる功海。克海の方は、洗い物をしながらひたすらに黙っていた。

 

「……克兄ぃ、聞いてんのか? さっきから黙りっぱなしだけど、どうかしたの?」

 

 功海に呼び掛けられ、克海はようやく顔を上げた。

 

「あ、ああ、いや……千歌たちはイベント、大丈夫かなって思ってな。今までにない大舞台になるだろ。それで……」

「克兄ぃ、心配しすぎだって~。何も取って食われる訳じゃねぇだろ」

 

 功海が呆れていると、高海家の玄関のインターホンが鳴らされ、外から呼び声がする。

 

「ごめんくださいまし」

「お客さんか? こんな時間に」

「今の声……!」

 

 克海が出迎えに玄関に行き、一人の女の子を家に上げて戻ってきた。功海はその少女の顔に見覚えがあった。

 

「あれ? 克兄ぃ、その子って確か……」

「黒澤ダイヤちゃん。ルビィちゃんの姉で、浦女の生徒会長だ。お前も体育館のライブで見てるだろ?」

「あーやっぱり! あの時の」

「どうも。改めまして、黒澤ダイヤと申しますわ」

 

 一礼をしたのは、口元のほくろが目を引く少女、ダイヤ。功海がこうして面と向かったのは初めてであった。

 克海がダイヤに座布団を勧めつつ、尋ねかけた。

 

「今日はどうしてウチに? 千歌なら留守にしてるけど」

「存じてますわ。東京のイベントに出場すると、ルビィから聞いていますので」

 

 と返したダイヤが、続けて克海たちに告げる。

 

「実は、その件に関して少しお話しがありまして、本日はお伺いしました」

「話……?」

「俺たちにか? まさか生徒会長さん、まだスクールアイドル部に反対なんじゃないだろうな? 千歌言ってたからな、会長さんはスクールアイドル嫌いって」

 

 ややトゲのある言い方をする功海を克海がたしなめた。

 

「功海、失礼だぞ! それにダイヤちゃんがスクールアイドル嫌いなんてのは誤解だ」

「え? 何でそんなこと言えんの?」

「それは……」

 

 克海が言い淀んでダイヤにチラリと目を向けると、ダイヤは寂しげな微笑を返した。

 

「大丈夫です。功海さんにはわたくしから、一からお話し致しますわ」

 

 そう言い切ったダイヤが、功海の方へ身体を向け直した。

 

「もう二年も前のこととなります。当時一年生だったわたくしは――果南、鞠莉と三人でスクールアイドルをやっていました」

「へ!?」

 

 ダイヤの告白に、功海は仰天。

 

「ま、マジ!? そうだったの!?」

「二年前から、既に浦の星が統合になるかもということは噂でありました。わたくしはμ'sのように学校を救おうと思い立ち、果南と鞠莉を誘ってスクールアイドル部を立ち上げたんですの。克海さんのことは、その頃に果南に紹介してもらいました。わたくしたちのファン第一号になっていただいて、練習場所や衣装作製の仲介など色々とサポートをしてもらっていたのですわ」

「し、知らなかった……。克兄ぃ、何で教えてくれなかったんだよ?」

 

 功海が唇を尖らせると、克海は冷めた視線を返した。

 

「一応、その当時に話をしたぞ。けど千歌はまだスクールアイドルに興味なかったし、お前は宇宙考古学に夢中で、完全に聞き流してたな」

「あッ……あー、そういやそんなこともあったような……。けど仕方ねーじゃん? こんなことになるなんて思う訳ないって」

 

 当時のことを思い出しながら目を泳がした功海が言い訳した。それからダイヤが再び口を開く。

 

「わたくしたちのことを知らなくても無理はありませんわ。わたくしたちが活動していたのは、ほんの三か月程度の間だけ……東京で現実を思い知らされて帰ってきてからは、ぱったりとスクールアイドルと縁を切っていましたから……」

「えッ……東京って……」

 

 功海は何だか、嫌な予感を覚えた。

 

「ええ……わたくしたちは、今のルビィたちとほとんど同じ経緯をたどりました。そしてちょうど今の時期に、挫折してしまいました……。今日は、千歌さんたちが打ちのめされて帰ってきても、お二人には温かく迎え入れてもらって、彼女たちの心を支えてあげてほしいとお願いしに来たんですの」

 

 千歌たちが打ちのめされる、という言葉に功海がショックを受けている間に、克海が険しい顔でダイヤに尋ね返す。

 

「千歌たちは、厳しいのか……?」

「残念ながら……。わたくしの見立てでは、一票でも投じてもらえたら感謝というような結果を迎えるでしょう」

「そ、そんなことある訳ねーだろ!」

 

 功海がややムキになりながらダイヤに反論した。

 

「千歌たち、あんなにがんばってんだぜ! いっぱい努力して……他にどんなスクールアイドルがいるのかなんて知らないけど、負けるはずがねぇよ!」

 

 力説する功海だが、ダイヤは冷静に聞き返す。

 

「7236。何の数字か分かります?」

「え? えっと……」

「去年最終的にラブライブにエントリーした、スクールアイドルの数ですわ。第一回大会の十倍以上です」

「えぇッ!? スクールアイドルってそんないんの!? 千歌たちがエントリーした時には、5000程度じゃ……」

「まだエントリーしていない子たちは、全国にいくらでもいますわ。今年は、更に多くなることでしょう。エントリー数は増加傾向にありますから」

 

 想像していたよりもはるかに多いスクールアイドルの総数に、流石の功海もしばし呆然となった。

 

「スクールアイドルは以前から人気がありましたが、ラブライブの大会の開催、更にA-RISEとμ'sの存在によって知名度は爆発的に向上。それとともに、レベルの向上を招きました。もちろん千歌さんたちも努力していることは存じていますが……ランキング上位の方々のパフォーマンスは、最早別格。ただ歌が上手いだの、観ていて楽しいだのといった程度では通用しない世界になっているのですわ」

「マジかよ……」

 

 初めて知る、スクールアイドルの厳しさに功海も言葉がない。にわかには信じがたいような話だが、実際に体験した者が言う以上はそうなのだろう。

 

「わたくしたちは上位陣との次元の違いを見せつけられたことで、東京では歌うことすら出来ませんでした……。軽い気持ちで、μ'sのようになろうとしたのがそもそもの間違いでしたの」

「じゃあ、スクールアイドル部に反対してたのって……」

「他の人たちに、わたくしたちと同じ思いをしてほしくなかったからですわ……」

 

 ダイヤの真意を知り、押し黙る功海。ダイヤは自嘲めいたわびしい微笑を浮かべる。

 

「帰ってきてからは、μ'sに関わるものを見る度に、挫折したわたくしをみじめに思ってしまい、それら全てを周りから遠ざけました。でもそのせいで、ルビィに苦しい思いをさせていた……。後悔していますわ……」

 

 そこまで語って、ダイヤは改めて克海と功海に頼み込んだ。

 

「人は本気であればあるほど、くじけた時に心に深い傷を負います。わたくしたちの場合は、互いの関係に大きなわだかまりを残すほどとなってしまいました。千歌さんたちも最悪の場合は、今後の人生にも影響を及ぼすようなことになってしまうかもしれません。ですので、克海さんたちには彼女たちの心のケアをしてあげてほしいのですわ。よろしいでしょうか?」

「元よりそのつもりだ。他ならぬ妹のことなんだからな」

「……俺はそれでも信じられねぇ、いや信じたくねぇよ。千歌たちが、そんなぐらいにボロ負けするなんてこと……」

 

 克海と功海は窓の外の夕焼け空を見やり、その向こう側にいるはずの千歌たちのことを案じた。

 

 

 

 夜。Aqoursは秋葉原の旅館に泊まり、明日のイベントに備えて英気を養っていた。

 

「あと十数時間もしたら、いよいよ始まるね! 大きなステージで歌うなんて初めてだから楽しみっ!」(千歌)

「でも、あんまり大勢の前だと緊張が……」(梨子)

「そんな気負い過ぎないで! いつも通りでいいんだよ!」(曜)

「うんうん。リラックスずら~」(花丸)

「ふふふ……この魔都に降臨せし堕天使ヨハネが、観客たちをリトルデーモンに変えてあげるわ」(善子)

 

 各人がそれぞれの形で意気込んでいると、千歌がぐっと手を握りながら宣った。

 

「愛染さんも私たちに期待してくれるみたいだし、いいところ見せなくっちゃね!」

「あっ……」

 

 愛染の名前を出した瞬間――ルビィが何か言いたげにうつむいた。

 

「どうしたの、ルビィちゃん? 愛染さんがどうかしたずら?」

 

 気がついた花丸が問いかけると、ルビィはおずおずとしながらも、次のような疑問を口にした。

 

「あの……愛染さんって、ほんとにスクールアイドル好きなのかな……?」

「へ?」

 

 予想だにしていなかった質問に、千歌たちはそろって目が点となった。

 

「何でそんなこと言うの? あんなにスクールアイドルを支えてる人なのに」

「そうだよ。好きじゃなかったら、アイドル学校の理事長なんてやる訳ないよ」

 

 千歌と曜がそう返すが、ルビィは自分の疑問の根拠を示す。

 

「でも……ルビィが入院してた時に愛染さんがお見舞いに来て、そこでμ'sのクイズを出したんですけど……愛染さん、一つも正解できなかったんですよ? 結構簡単なのも出したのに……。スクールアイドルが好きで、あのμ'sを知らないなんてことあるのかな……」

「……そういえば、前に少し妙なことがあったわね……」

 

 梨子はルビィの疑問に同意を示す。

 

「アイゼンテックで、愛染さんが口にした会社の合言葉を、穂乃果ちゃんの口癖から来てるって言われてうなずいてたけど……μ'sの結成は五年前。十何年前からやってる会社の合言葉になるはずがないわ」

 

 訝しむルビィと梨子だが、他の四人は深く捉えなかった。

 

「考えすぎだよー。私だって、ダイヤさんが出したクイズには正解できなかったし」

「いやぁ、千歌ちゃんの場合とは全然違うだろうけど……でも、深い事情なんてないと思うよ。きっとみんなのこと気遣って、接待してたんだよ。愛染さん大人だし」

「ですよね。考えすぎずら」

「ヨハネもたまに、リトルデーモンに試練を投げかけることがあるわ。ヨハネのこと好きかしら? とかわざとらしく聞いたりして。それと同じようなものでしょう」

「そうなのかな……」

 

 ルビィたちはやや腑に落ちないものを感じながら、それ以上の言及はよしたのであった。

 

 

 

 翌日、『東京スクールアイドルワールド』――その閉会後。

 

「9位か……。入賞は無理だとは思ってたけど、予想以上に厳しい順位だね」

「姉さま、早く帰って練習を再開しよう! 上位のグループは、こうしてる今も実力を磨いてる!」

 

 会場のビルを離れながら、結果について反省している二人組のスクールアイドルがいた。名前は『Saint Snow』。姉の鹿角聖良と、妹の理亞による姉妹スクールアイドルである。

 

「うん。勝ってA-RISEやμ'sと同じ場所に立つには、もっと励まないと……」

 

 今回の決して良いとは言えない結果を踏まえて次に活かそうと、北海道に帰ろうとしていたこの二人であるが、その行く手に白い背広の背中が直立していたので思わず足を止めた。

 

「いやぁ実にいいパフォーマンスでした。まだまだ粗削りながらも、抜群の将来性が感じられましたよぉ!」

「あなたは……」

 

 白い背広の男がクルリと振り向き――愛染が手でハートマークを作りながらにこやかに笑いかけた。

 

「どうも初めまして。わたくし、愛と正義の伝道師、愛染正義です!」

 

 押し黙る理亞を傍らに置きながら、聖良が愛染に聞き返す。

 

「あなたが、あのアイゼンテックの社長の……」

「おおッ! 私のことを知っていたのかね?」

「もちろんです、有名ですから。そうでなくても、ラブライブに関わる人のことは大体は調べてます。どこで役立つか分かりませんので」

「おぉ~流石ッ! 私が見込んだだけのことはあるッ!」

「……私たちに、何の御用でしょうか?」

 

 今一つ真意が見えない愛染に、聖良が慎重に尋ねた。

 

「ふふふ……私のことを調べたというのなら、当然私が特待生を募ってるということもご存じだろうね?」

「まさか、私たちを? でも、私たちは今回のイベントで結果を残せませんでした」

「私が重視するのはそこではないッ! 君たちには飽くなき向上心がある。何が何でもアイドルの頂きに登ろうという強い決意……そこを私は評価する! 君たちは、スクールアイドルの勝者となり得る器だッ!」

 

 やたらと褒めそやされて、聖良は思わず理亞と目を合わせた。

 

「ですが……」

 

 しかしここで、愛染の話の方向性が変化する。

 

「だが……その器を、スクールアイドル程度で満足させていいのかな?」

「は……?」

「スクールアイドルは、『ここ』では大人気だ。しかし、その寿命は短い。かのμ'sとて、実際の活動期間はたったの一年未満だ。君たちのアイドル生命は、そんな儚いものでいいのかな?」

「プロへの勧誘でしょうか? それでしたら、残念ですけど私たちは……」

「そんな小さい話でもないのだよッ!」

 

 声を張って否定する愛染。聖良たちは、ますます訳が分からない。

 

「あの、おっしゃってる意味が……」

「私は知っているッ! 真に輝きを放つアイドルたちを! 永遠に色あせることのない、空に瞬き続ける綺羅星をッ! 君たちにも見せてあげよう、『本物』の世界を! そしてそれを知った時、君たちは思うことだろう。私たちも、『永遠』になりたいとッ!」

 

 ついていけずに困惑する聖良たちに構うことなくまくし立てた愛染が、二人に向かっておもむろに腕を広げた。

 

「君たちには素質がある。私が導いて(プロデュースして)あげよう……真なるアイドルの頂点の座に。――アイドルマスターにッ!!」

 



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世界中CONTROL!!(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

千歌「最近様子がおかしかった功海お兄ちゃん。だけどウルトラマンさんたちが怪獣をやっつけた頃には、すっかり元気になってた! 安心した私たちAqoursは、スクールアイドルのイベントに出場するために、はるばる東京へと出発! ……だけど……」

 

 

 

 ――綾香市の一画の十字路。何の変哲もない土地なのだが、ここに突然異変が起こった。交差点の中心がいきなり陥没し、砂が広がっていって大きな蟻地獄のようなありさまに変貌していったのだ。

 そして蟻地獄の中央から、虫型の巨大生物が這い出てきた!

 

「キィ―――キキキッ!」

 

 巨大生物は二本の腕から火炎を放ち、己の周囲を無差別に燃やしていく。巨大生物から一目散に逃げる自動車の群れの一部が炎上するほどに広範囲が火の海に変えられていく。

 

「きゃあぁぁぁ―――――!」

「怪獣だぁ―――――!」

 

 綾香の街の人々が、悲鳴を発して我先にと逃げていく。――その光景を見下ろす飛行船からの映像をながめ、愛染がひと言つぶやいた。

 

「怪獣じゃなぁい。アリブンタは、超獣だ」

 

 綾香を我が物顔で蹂躙する超獣アリブンタ。だがその時、空の彼方から猛スピードで駆けてくる赤と青の流星が。

 

「キィ―――キキキッ!」

『『はぁッ!』』

 

 暴虐の限りを尽くすアリブンタの正面に颯爽と着地したのは、綾香の平和を守るために駆けつけたウルトラマン兄弟。ロッソウインドとブルフレイムだ。

 

『行くぞ、梨子ちゃん!』

『やっちゃおうぜ、曜!』

『「はいっ!」』

『「ヨーソロー!」』

 

 ロッソとブルの呼びかけに、彼らのインナースペース内の梨子と曜が威勢よく返事をした。

 

 

 

『世界中CONTROL!!』

 

 

 

「キィ―――キキキッ!」

 

 アリブンタはロッソとブルの登場で街の破壊の手を止め、そちらに意識を集中した。対するロッソたちは角からスラッガーを引き抜いて武装する。

 

「『ルーブスラッガーロッソ!!」』

「『ルーブスラッガーブル!!」』

 

 突進してくるアリブンタを前蹴りで止めたロッソたちは、ひるんだ相手にスラッガーの斬撃を浴びせる。

 

『はぁーッ!』

 

 ブルの後ろ手の刺突がアリブンタに決まった。初めはろくな戦い方を知らなかった兄弟であるが、実戦をいくつも経験することにより、今ではすっかりと戦う姿が様になるようになった。

 が、

 

「きゃー! ウルトラマンさん、かっこいー!」

「がんばってー!」

 

 綾香から浦の星女学院に通っている生徒が三人、ロッソとブルに向かって応援を送った。それに気がついたブルの手が止まる。

 

『「あっ、ウチの子たちだ」』

『ほんとだな。ちょっと克兄ぃそこどいて』

『え?』

 

 ブルは生徒たちの方に数歩近づくと、しゃがみ込んで手を振った。

 

『どうもー』

『「応援ありがとー!」』

「きゃあっ!? こっちに手ぇ振ってる!」

『「えぇーっ!? ちょっとぉ!?」』

 

 敵に背を向けて生徒たちの相手をし出したブル。ロッソは慌ててアリブンタの攻撃を受け止めた。

 

 

 

 ブルの行動を見た愛染が、わなわなと震えて立ち上がった。

 

「おいコラぁッ! 何やっとんだお前はぁッ! 今戦闘中だぞ分かっとんのか!?」

 

 

 

「キィ―――キキキッ!」

『うわッ!』

 

 一人でアリブンタを抑えていたロッソだが、アリブンタのパンチを食らってふらふらしながらブルの元まで退く。

 

『功海、あいつ結構強いぞ……!』

『「もう、よそ見してないでよね!」』

『「ごめんごめん」』

 

 笑ってごまかす曜。ブルはロッソを自分の前に立たせる。

 

『克兄ぃ、考案したあの連携技、試してみようぜ』

『よぉし……!』

 

 ロッソが右手に風を溜め、投球の要領で勢いよく放った。

 

「『ロッソサイクロン!!」』

 

 解き放たれた風は横向きの竜巻となってアリブンタにぶち当たり、アリブンタは身動きが取れなくなる。

 

「キィ―――キキキッ!」

 

 しかしこれで終わりではない。ロッソが横にどくと、前に出たブルが竜巻に向かって発火能力を発動。

 

「『パイロアタック!!」』

 

 空気中の酸素に引火して竜巻はたちまち炎の渦に変わり、アリブンタを襲った!

 

「キィ―――キキキッ!!」

 

 炎の竜巻がアリブンタの巨体を空高くに持ち上げていき、空中で爆散させた!

 

『見たか! ファイヤートルネードだ!』

『「大成功っ!」』

『「やりましたね!」』

 

 見事アリブンタを撃破したロッソとブルに向かって、浦女の生徒たちが黄色い声を送る。

 

「ありがとー! ウルトラマンさーん!」

「一緒に写真撮って下さーい!」

『写真だって! いいよー!』

 

 ぐっとサムズアップで了解の意を示すブルにロッソが突っ込む。

 

『いや写真はまずいだろ……!』

『「えーいいじゃん克兄ぃ~。ファンサービスだよ!」』

『「曜ちゃん、克海さんたちの正体バレにつながったりしたらまずいって!」』

「はい、チーズ!」

 

 ノリノリな曜に梨子が渋ったりしていたが、生徒たちがスマホを向けてシャッターを切ると、結局ロッソもVサインしたのであった。

 

 

 

 女子高生と一緒に写真を撮ってからようやく帰っていくロッソとブルに、愛染が憤懣やるせない様子になっていた。

 

「戦いが終わっていつまでもその辺にいるな! 時間切れになったらどうするつもりだよ! 全くあいつらどうしようもないなほんと……!」

 

 不満をこぼしながら、社長室より隠し部屋へと移っていく愛染。――そこには『特待生』と称して様々な場所、社内からも集めた少女たちが、怪しい装置につながれた状態で並べられている。

 

「やはり私がウルトラマンの何たるかを、奴らに知らしめてやらなければならんな。人数もそろったことだし、いよいよ始めるとしようか……! 皆さん準備はオッケー?」

 

 虚ろな目をしている少女たちに反応がないことを知りながら、愛染は装置を起動させるレバーハンドルに手を添えた。

 

「それじゃあみんなの願いを、レッツUNION!!」

 

 愛染がレバーを動かしてスイッチを入れると同時に、少女たちが口をそろえてある唄を歌い出す。

 

「アァー……アアアーアアアー……アーアーアアアーアァー……」

 

 ゆったりとした、優しいながらもどこか物悲しい旋律の唄――それとともに、少女たちに被せられている赤い輪から中央の装置にエネルギーが送られ、四枚のクリスタルに囲まれた「剣」のクリスタルに反応が起こる。

 剣のクリスタルから光の粒子が出され、リング状の物体に形成されていくのを目にして、愛染が鼻息を荒くしていく。

 

「おお……! 遂にこの時が来たか……!」

 

 ――しかし、途中で粒子が崩れて物体は完成せずに消滅した。

 

「あれ? おおい駄目だ駄目だッ! ウッチェリーナ君、もっと機械のパワーを上げるんだ!」

 

 完成間近での失敗に怒った愛染がピンマイクを通してウッチェリーナに命令する。

 

[これ以上彼女たちに負担を掛けるのは危険です!]

「構わんッ! やれ!!」

[了解しました!]

 

 一度は反対しながらすぐに従うウッチェリーナ。

 だが、虚ろな顔の少女たちの中にありながら、瞳に光がある二人の少女が止めた。

 

「待って! やめてっ!」

「足りない分は、私たちが補います!」

 

 身長に差のある二人の少女の申し出に、愛染はにんまりと笑顔になる。

 

「何と気高き精神! 私が見込んだだけのことはある。じゃあお願いね~」

 

 褒めたたえながらあっさりと負担を強いた愛染が、装置のスイッチを入れ直した。

 

「アァー……アアアーアアアー……!」

 

 二人の少女は脳からエネルギーを吸い上げられ、余分な苦痛に苛まれながらも、懸命に歌い続ける。

 その結果、再び放出された光の粒子は途中で崩れることなく、一つの形になっていく。

 

「今度こそ間違いないぞぉ……! とうとう出来上がる……!」

 

 剣のクリスタルの錆が消え去り、光の粒子が小ぶりのリングに取っ手がついたような、奇妙な形状のアイテムに変わった――。

 

「私だけの変身アイテム! オーブリングNEO!!」

 

 

 

 克海と功海は『四つ角』で、東京より帰ってきた千歌たちAqoursと、イベントの結果について話をしていた。

 

「東京では、残念だったみたいだな、みんな……」

「まさか、ほんとにけちょんけちょんにされるなんて……」

 

 克海たちは自分のことのように気を落とす。功海は、あんなこと言わなきゃよかったと内心悔やんでいた。

 Aqoursのイベントでの結果は――得票数0。何も失敗した訳ではない、今の自分たちがやれる全力を出し切ったというのに、観客の誰一人もAqoursのパフォーマンスを評価しなかったという惨い結末となった。ダイヤが克海たちに話した通り、上位のスクールアイドルの世界にはAqoursの力は全く通用しなかったのだ。

 あんまりな結末に、一時はAqours全員が心の奥底まで打ちのめされたのだが――今は、活力を取り戻していた。

 

「だけど、私たちはスクールアイドルをあきらめないよ! このまんまじゃ、悔しすぎるもん! 今は0かもしれないけど……これから1にしていくんだっ!」

 

 千歌が以前にも増して気合いの入った表情で、そう宣言した。他の五人も、一様に引き締まった凛々しい顔つきとなっていた。

 徹底的な敗北を経験したことが、却って彼女たちにとって良い結果となったようだ。そう感じて、克海と功海は表情を綻ばせた。

 

「いい顔になったな、千歌。大丈夫、本気でやることなら誰だって一度や二度は大きな壁にぶち当たるもんだ。みんなが特別駄目な訳じゃあない」

「今が0なら、もう這い上がるだけだぜ! 同じ人間なんだ。他の奴に出来て、お前たちに出来ないなんてことなんかねぇさ!」

「ああ! これからもっともっと腕を磨いて、いつか今回の観客たちも振り向かせるようになれ!!」

「うんっ!!」

 

 克海たちからの熱いエールに、Aqoursは力を込めた顔でうなずいた。

 その時に、千歌たちがスクールアイドル活動で使用しているノートパソコンがメールの着信を報せた。

 

「あっ、メールだ。今度は誰からだろ?」

 

 曜たちがパソコンの前に集まってメールを確認し、そして驚きの声を発した。

 

「えぇー!?」

「何だ? どうしたんだ?」

 

 克海と功海が何事かと振り返ると、梨子が息を荒げながら画面を二人にも見せた。

 

「これ! 見て下さい! 愛染さんからなんですけど!」

「愛染さんから!?」

 

 克海たちがメールの内容に目を通すと、次のように書かれてあった。

 

『Aqoursの皆さんへ。この度のスクールアイドルワールドの結果は誠に残念でした。つきまして、皆さんに私からの特別レッスンを施したいと考えております。是非とも後日、下記の場所にご足労下さい。愛と正義の伝道師 愛染正義』

 

 これに克海たちに驚く。

 

「愛染さんが、みんなのためにわざわざ!?」

「何でそこまでしてくれんだ? 千歌たち、愛染さんの学校の生徒でもないのに」

「愛染さんはやっぱり私たちの味方なんだよ! 私たちのステップアップのために、貴重な時間を割いてくれるなんて! ありがとう愛染さんっ! アイゼンテックに向けて礼っ!」

 

 興奮して変なテンションになった千歌が、部屋の壁に向かって頭を下げたことにルビィが苦笑いした。

 

「千歌ちゃん、そっち反対……」

「それにこれ、よく見たら……曜と梨子、ヨハネの三人だけになってんぞ」

「えぇー!? 何でぇ!?」

 

 指名があることにショックを受ける千歌。

 

「さる事情につき、なんて書いてあるけど」

「愛染さんの特別レッスン、マルは受けられないなんて……善子ちゃんずるいずら!」

「善子じゃなくてヨハネよ! そんなこと言ったってしょうがないじゃない。先方がそう言うんじゃ」

「でも、マルだって腕を上げて、みんなの役に立ちたいずら……」

「花丸ちゃん、落ち着いて。ルビィたちは大人しく待ってよ?」

 

 納得がいかずにむくれる花丸をルビィがなだめた。

 一方で、指名された曜たち三人は互いに顔を見合わせる。

 

「それにしても、この三人って……まさか……」

「……まさかねぇ」

「だよね。偶然だよね、きっと」

「何が?」

「あっ、ううん。何でもないの」

 

 聞き返してきた千歌に、梨子が手を振ってごまかした。

 

 

 

 翌日の早朝、克海と功海はダイビングショップで果南と話をしていた。

 

「聞いたよ。果南ちゃん、遂に復学するんだってね」

「うん。もう夏休み近いけれど、大分休学続いちゃったからね。一日でもクラスに顔を出そうと思って」

 

 克海にそう答えた果南が、今度はこちらから二人に問いかける。

 

「ところで千歌から聞いたんだけど……曜たちが、あの愛染さんから特別レッスンってのを受けるんだって?」

 

 それに功海が首肯する。

 

「ああ。それで千歌たち、今日は直帰さ。千歌の奴、自分は行けないのすごい残念がってたぜ」

「……それに、克兄ぃたちも呼ばれてるんだって?」

 

 果南が聞き返すと、克海が認めた。

 

「何か、俺たちにも話があるからってさ。何だろうな、話って」

「母さんが出世するんじゃね?」

「それだったら母さんに言うだろ。だけど、それがどうしたんだ?」

「……ううん。ちょっと、気になっただけ」

 

 と果南は返したが――以前の盗聴器、そしてルビィの入院時に一瞬だけ目にした愛染の並々ならぬ表情のことが、内心では渦巻いていた。

 

 

 

 その日の学校が終わると、梨子、曜、善子の三人は克海たちの車に乗って、愛染が指定した場所へと向かっていった。

 その場所とは――周りを野山に囲まれた、採石場跡地。

 

「何でこんな場所でやるんだろ? 特別レッスン」

 

 梨子が疑問に思うと、功海と曜が冗談めかして言う。

 

「スタントみたいな激しいアクションの練習でもあるんじゃね?」

「ほんとにそれかもね。東京で会ったSaint Snowってスクールアイドルの子、新体操ばりに飛び跳ねてたし!」

 

 どんなすごいレッスンなのかと多少浮つきながら、車は採石場跡地に到着。その中央では、愛染が野点と屏風を用意して彼らを待っていた。

 

「ご苦労だったねぇ。迷わず来れたかな? 愛染正義です」

「大丈夫です。位置情報頂いてたので」

 

 車から降りた一同に、いやににこやかな表情の愛染が話しかけ、克海が返答した。

 

「いやいや、世の中には位置情報あっても道に迷っちゃう、困ったけどかわいい人もいるからねぇ~。油断はならないよ」

「ハハ、そんな人いるんですか」

「愛染さん、今日はよろしくお願いしまーす!」

 

 克海は冗談と思って相槌を打つ。曜は皆を代表して愛染に元気よく挨拶した。

 

 

 

 その様子を、林の木陰に隠れながら、密かに見張っている者がいた。

 

「ふっふっふっ……ほんとはいけないことだけど、どんなことやるのか、見せてもらうずら」

 

 花丸だ。どうしても特別レッスンの内容が知りたい彼女は、先んじて自転車で出発して待ち伏せていたのだ。

 しかし、その背後から誰かに声を掛けられる。

 

「あれ? あなたは、一年生の……」

「ずら!?」

 

 驚いて振り返る花丸。そこに立っていたのは、

 

「松浦果南さん!? 何でここに……」

「それはこっちの台詞なんだけど……」

 

 果南だ。彼女は花丸の隣に並んで、樹の影から愛染と話をしている克海たちの方に目をやった。

 

「まぁいいや。ちょっと一緒にいさせて」

「いいですけど……果南さん、スクールアイドルだったんですよね? だから興味があるんですか?」

「……そういうことじゃないんだけどね……」

 

 果南は、特に愛染の挙動を注意深く監視する。

 

(もしもの時は、警察に通報しよう……)

 

 

 

 特別レッスンの始まりを今か今かと緊張しながら待っている曜たちに、愛染がニコニコしながらあるものを差し出した。

 

「まずはこれを渡そう。自分の名前が書いてあるのを取ってねー」

「これ何ですか?」

「終業式にはまだ早いけどねぇ~」

 

 差し出されたのは大きめの封筒。中身を取り出すと、「アイドル通信簿」なるものが三部、それぞれ曜たちの名前が印刷されたものが出てきた。

 

「アイドル通信簿……?」

「はい、これは君たち兄弟の分」

「え? 俺たちも?」

 

 愛染は更にもう一枚、封筒を克海と功海の方に差し出した。疑問を感じながらも受け取る兄弟。

 梨子たちの方は通信簿を開き――その内容に愕然とした。

 

「な、何これ!?」

「こ、酷評の嵐……」

 

 通信簿には「ボーカル」「ダンス」「ビジュアル」、他にも「キュート」「クール」「パッション」「エンジェル」「フェアリー」「プリンセス」などよく分からないようなものも含めて様々な項目があるが……三人とも、そのほとんどが「だめ」「0」などの低評価であった。特記事項には、曜は「意識が高海千歌さんに向く傾向があります。もう少し観客に向けるよう注意しましょう」、梨子は「表現に照れが残ってこぢんまりとしがちです。大胆さを身に着けましょう」、善子は「キャラがネタに走りすぎです。もっと自分を抑えることを覚えましょう」などと書かれてあった。

 

「他の三人の分もあるから、帰ったら渡しといてねー」

 

 しかしもっと大きな問題が、すぐ横にあった。

 

「な、何だこれ!?」

「どういうことだ!?」

「ど、どうしたんですか? えっ……!?」

 

 克海と功海が声を上ずらせたので、梨子たちが二人に渡されたものに目を向け――絶句した。

 克海たちの封筒の中身は「ウルトラ通信簿」というもので――二人のウルトラマンとしての能力や行動を、梨子たちをも下回る評価で示し出していたのだ。

 

「あ、愛染さん! これはどういうことですか!?」

「んー? 言わなきゃ分かんない?」

 

 曜が泡を食って尋ねると、それまでずっとニコニコしていた愛染が――憤怒の形相に豹変した。

 

「お前らはぁッ! アイドルもッ! ウルトラマンもッ! 全部ッ!! 落第点だということだよッ!!」

 

 突然怒鳴られ、克海たちはそろって面食らう。

 

「い、いつから僕たちのことを……!?」

「特にお前らだこのぼんくら兄弟ッ!!」

「ぶッ!?」

 

 話が呑み込めない克海だが、愛染はいきなり彼と功海の頬を手でつまんで押し潰した。

 

「せっかくこの私が立派なウルトラマンにプロデュースしてやろうと思ったというのにッ! お前らは毎度毎度ぉ~ッ! 最早愛想が尽きたわッ!」

「何するんですか!? やめて下さいっ!」

 

 慌てて愛染を克海たちから引き離す梨子たち。だが愛染は手を放しても兄弟を罵倒し続ける。

 

「お前らはぁ! 何の熱意もなくッ! 何の使命感もなくッ!! ただ何となーくウルトラマンやってるだけ!! 中身がない……形だけの、空っぽのウルトラマンなんだよッ!!」

「か、空っぽ……!?」

「俺たちが……!?」

 

 真っ向から否定されてショックを受ける克海と功海。

 

 

 

 果南と花丸は、克海たちと愛染の様子がおかしいことに眉をひそめた。

 

「何か揉めてるみたい……。なに話してるんだろう?」

「ここからじゃ聞こえないずら……」

 

 

 

 愛染は呆然としている克海たちを置いて、話を続ける。

 

「そう、形……。折しも、この私も愛染正義というちっぽけな地球人の形を着ている。ある意味では、十五年もこの中に囚われていると言えるだろう」

 

 そう唱えながら振り向いた愛染の瞳孔が――不気味に赤く光った。

 

「きゃあああっ!?」

「目っ! 目が光った!!」

 

 悲鳴を上げる梨子たちを、功海が咄嗟に後ろにかばう。

 

「みんな離れろッ! こいつ……人間じゃねぇッ!!」

 

 功海の言葉を、ごまかすこともなく肯定する愛染。

 

「如何にもッ! 私は人間ではない……。だがッ! お前らよりも高い市民税をッ! いっぱい払ってるぞぉーッ!!」

 

 両腕を振り上げて叫んだ愛染に、克海たちは唖然。

 

「そうッ! 私は十五年前、妖奇星に乗ってこの土地に散らばったウルトラマンの力を求めてやって来た宇宙人ッ! 名前はサルモーネ・グリルド!! そして小さな町工場の社長の息子だった愛染正義という男の中に入り、アイゼンテックを作って妖奇星の研究を開始した! そしてクリスタルの力を発動する、二つのジャイロを発掘した……。だが、それから三年後の十二年前に、何者かに盗まれてしまったのだ! そう、お前たちが持ってるそれだッ!!」

 

 克海と功海が思わず懐に目を落とした。

 

「お、俺たちじゃねぇぞ!」

「分かっとるわそんなことッ! お前らその時子供だろッ!」

 

 弁明した功海に怒鳴り返す愛染、その身体を乗っ取っているサルモーネ・グリルド。

 

「しかし、それでも私はあきらめなかった! 十二年間、ひたすらに努力を重ね、ついに手にしたのだ! 光の力をッ!!」

 

 とサルモーネが宣言した時――屏風の後ろに隠れていた、二人の少女がサルモーネの背後に出てきた。その顔に梨子たちは驚愕する。

 

「えっ!? 何であなたたちが!?」

 

 その二人とは――鹿角聖良と理亞の、Saint Snowの姉妹であった。

 聖良は梨子の問いに答えず、代わりに言い放った。

 

「皆さん。あなたたちでは、地球を守るヒーローにはなれません」

 

 そしてサルモーネが堂々と宣う。

 

「夢を叶えるにはねぇ、君たち……変化を恐れてはいけないッ! 自分から逃げてはいけないッ! 今こそ宣言しよう!!」

 

 サルモーネが右手に模造したAZジャイロ、左手に剣のクリスタルを取り出した。

 

「私こそが、ウルトラマンだ!!」

 



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世界中CONTROL!!(B)

 

 サルモーネが剣のクリスタルを、AZジャイロの中心に嵌め込んだ。

 

[ウルトラマンオーブ!]

 

 そしてジャイロのグリップを引いていく。

 

「あ団結ッ!」

 

 左を向いて一回。

 

「あ団結ッ!」

 

 右を向いて一回。

 

「オールフォーワーンッ!!」

 

 そして正面を向いて一回引き、エネルギーフルチャージ。

 するとジャイロから、スクールアイドルたち十三人の脳波エネルギーを用いて作り出したオーブリングNEOが現れ、サルモーネがそれを握るとリングが闇に染まる。

 サルモーネは闇に染まったリングの中心のボタンを押し、円を描くようにリングを振って高々と掲げた。

 

「絆の力……お借りしまぁすッ!!」

 

 サルモーネの左右と正面にオーブリングNEOのビジョンが現れて彼を囲み、漆黒の巨人の姿に変える。

 巨人は聖良と理亞を両手でそれぞれ鷲掴みにすると、リング状のカラータイマーの中に押し込んだ。

 

ウルトラマンオーブダーク!

『でゅわッ!』

 

 闇の巨人が両手でハートマークを作りながら、右腕を振り上げて飛び出していく!

 

「な……!」

 

 採石場跡地に轟音を立てて着地した漆黒の巨人に、克海たちだけでなく、隠れて見張っていた花丸と果南も驚愕した。

 

「へ、変身したずら!? 愛染さんが!?」

「嘘でしょ……!?」

 

 右手に「炎」「氷」「岩」「嵐」の四つの象形文字がリング型の柄に刻まれた魔剣を握る黒い巨人は、名乗りを上げる。

 

『銀河の光がオレも呼ぶ! 我が名はッ!』

 

 額に縦に長い赤のランプと、胸に赤いリング型のカラータイマーを持つ、黒い肉体のウルトラマンが、名を叫んだ。

 

『ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowだぁーッ!!』

 

 梨子、曜たちが、紛れもないウルトラマンに変身したサルモーネを見上げて愕然となった。

 

「黒いウルトラマン……!」

「オーブダーク!?」

『ノワールブラックシュバルツwith Saint Snowだッ! 勝手に省略するなぁッ!』

 

 変なこだわりを持って怒鳴ったサルモーネが、自身のインナースペースに取り込んだSaint Snowの姉妹へと合図する。

 

『聖良ちゃんッ!』

『「!? 待って! 彼女たち、まだ生身ですよ!?」』

『いいからッ! 当てないようにするからさぁ!』

 

 言いつけられた聖良が、しぶしぶと魔剣オーブダークカリバーの柄のリングを回し、「岩」の文字を光らせて柄を回転させた。

 

『オーブダークロックカリバー!』

 

 サルモーネが変じたウルトラマンがオーブダークカリバーを地面に突き刺すと、大量の岩が噴き上がって梨子たちの頭上に降りかかる!

 

「きゃあああ――――っ!?」

「危ないッ!」

 

 克海と功海は梨子たちの手を引き、振ってくる岩雪崩から逃れた。

 

「みんなっ!」

「だ、駄目! 見つかったら危ない!」

 

 花丸が反射的に身を乗り出したが、すぐに果南に腕を引かれて樹の影に戻された。

 岩雪崩から逃れた克海たちに、サルモーネは指を突きつけて非難し始める。

 

『お前たちはぁ! ウルトラマンも、アイドルも、失格だッ! たとえば高海兄!』

「お、俺!?」

『お前はこともあろうに野球にかまけて、出動に後れを取ったな!?』

 

 熊城監督の引退試合の件を持ち出された克海が反論する。

 

「いやあれは、お世話になった監督が……!」

『うるさい言い訳するな! 社会的には、お前が遅刻したことだけが事実だ! あーそれから、Aqours! お前らだお前ら!』

「わ、私たち!?」

 

 自分を指差す梨子たち三人。

 

『お前らイベントに出場するために東京行ったんだろ!? だったら練習しろよッ! のんきに観光してんじゃないよ! そんなだから一票ももらえないんだよッ!』

「うっ……そこ突かれると痛い……」

 

 ギクッと顔をしかめた曜だが、梨子と善子は目を見張りながらサルモーネに聞き返す。

 

「ちょっと待って! 何でそんなこと知ってるの!? まさか……!」

「ヨハネたちをストーキングしてたの!? 最低だわっ! シューベルトの魔王!」

『黙れ論点をすり替えるな! 今はお前らの体たらくの話をしてるんだ!』

 

 非難し返されても開き直るサルモーネは、最後に功海を指差した。

 

『そんで極めつけは高海弟! お前だぁッ!』

「はい!?」

『こないだ取り込まれた知り合いごと怪獣倒したことにへこんでたな』

 

 ルビィの件を言及された功海たちの顔色が変わる。――この声は梨子たちのような普通の人間にも聞こえるようにしてあるので、花丸と果南にも聞こえている。

 

『一人を取るか! 大勢を取るか! ウルトラマンにはよくあることだよ! それをいつまでもグズグズと悩みおって! まぁー繊細ですことッ! いらないんだよそういうのッ!』

 

 花丸と果南は息を呑みながら、サルモーネを見上げ直した。

 

「ルビィちゃんのこと!? それを知ってるってことは……」

「まさか……あいつが……!」

 

 それまで戸惑いながらも批判を浴びていた功海たちだが、彼らも真相に思い至り、怒りの目つきとなった。

 

「あれ、あんたの差し金だったのかッ!」

「ふざけないでよ! ルビィちゃん、克兄ぃたちがいなかったら死んでたかもしれないんだよ!?」

「私たちの学校だって……!」

『それはお前らが不甲斐ないからだよッ! いつも思うが、ヘッタクソな戦いしおって!』

 

 梨子たちの非難の声を一方的にはねつけるサルモーネ。だが聖良と理亞も詰問してくる。

 

『「ちょっと! 今のどういうことですか!?」』

『「私たち、そんなの聞いてない!」』

『あーちょっと黙っといて! 後で説明するからッ!』

 

 煩わしそうに姉妹を黙らせたサルモーネが、高圧的に功海らに言いつける。

 

『いいか? 一流ってのは悩まないッ! 己の未熟さを、他人に押しつけたりなんかしないんだよッ!』

 

 しかしあまりにも勝手な言い分を、功海たちは聞き入れなかった。

 

「ルビィちゃんを危ない目に遭わせといて、あの態度……! 許せないよっ!」

「克海さん! 功海さん!」

「ああッ!」

「あいつぶっ倒さねぇと気が済まねぇぜ!」

「頼んだわよ!」

 

 梨子と曜が克海と功海の背後につき、兄弟がルーブジャイロを構えた。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 克海は火、功海は水のクリスタルを手に取る。

 

「「セレクト!」」

 

 クリスタルをジャイロにセットして、ウルトラマンへの変身を行う。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「ビーチスケッチさくらうち!」

「纏うは水! 紺碧の海!!」

「ヨーソロー!」

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 巨大化してサルモーネの黒いウルトラマンと対峙したロッソとブルの後ろ姿に、花丸と果南が再度目を見張った。

 

「克海さんと、功海さんまで……!」

「克兄ぃたちが、ウルトラマンだったんだ……!」

 

 ブルは今までになく怒りに燃えて、剣を構えるサルモーネのウルトラマンをにらんだ。

 

『許しておけねぇぞ! オーブダークッ!』

『オレの名前はウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowだ! 省略するなと言ったろうがッ!』

 

 怒号を発するオーブダーク『省略するなと言うのが分からんのかぁぁぁッ!』……ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snow。梨子と克海もまた彼を厳しく凝視した。

 

『「人の命を何だと思ってるの!?」』

『世界を自分の好きに操れるとでも思って……ッ!』

 

 だが言葉の途中で、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowが魔剣を振るって光輪を飛ばしてきた!

 

『ぬぅんッ!』

 

 光輪は鉄塔を数本斬り倒しながら飛び、ロッソの胸を切り裂いた!

 

『ぐわあぁぁッ!?』

『「きゃああああっ!」』

 

 不意打ちを食らったロッソが仰向けに倒れる。ダメージは梨子にまで響き、梨子も胸を抑えた。

 

『克兄ぃッ! 大丈夫か!?』

『「梨子ちゃんっ! しっかりして!」』

 

 慌ててロッソを抱き起こすブル。ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowは剣を肩に担いで言い放つ。

 

『最近のウルトラマンはベラベラしゃべりすぎだ! 何もずっと黙ってろとは言わんが、もうちょっと神秘性って奴を大事にだな』

『お前の方がしゃべってるだろ!』

『「人を馬鹿にして! 絶対許さないっ!」』

 

 ロッソとブルはルーブスラッガーを抜き、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowに猛然と向かっていった。

 

『はぁッ!』

『てやぁッ!』

 

 連携して剣を振るうロッソとブルだが、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowはその軌道から外れるように首や腰を小刻みに動かし、全てかわす。

 

『当たらない!?』

『速いッ……!』

『遅ぉいッ! それからッ!』

 

 二人の刃をオーブダークカリバーで受け止め、はね返す。

 

『今オレが話してただろうがぁぁぁぁぁッ!!』

『『うわあああぁぁぁぁッ!?』』

 

 そして怒声とともにロッソたちを一文字に切り裂いた!

 

『人の話は最後まで聞けと教わらなかったのか!? 全く、親の顔が見てみたいな! 見てるけどッ!』

 

 腰に手を当てたウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowが、膝を突いたロッソとブルを見下す。

 

『大体お前ら、見た目が気に入らん。もみあげなんか生やしちゃってぇ、今風のつもりかぁ?』

『人のルックス馬鹿にするなッ!』

 

 どうにか立ち上がってスラッガーを振り下ろすロッソたちだが、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowは空に逃れて剣を横に構えた。

 

『聖良ちゃんッ!』

 

 再び聖良の名が呼ばれると、聖良がオーブダークカリバーの柄を回して「炎」に合わせた。

 

『オーブダークインフェルノカリバー!』

 

 刀身で円を描いて作り出した炎の輪を、ロッソたちにぶつける。

 

『『わぁぁぁぁぁ――――――!!』』

『でゅうわッ!』

 

 爆発に吹っ飛ばされるロッソとブル。ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowはわざとらしく掛け声を出して着地した。

 

『ヒーローとは決めポーズなのだよ。お前らはそれが致命的にダサい!』

 

 何度も倒れるロッソたちのありさまに、戦いを見守る善子が焦燥する。

 

「そんな……! 功海たちが、まるで歯が立たないなんて……!」

 

 ロッソとブルも焦りを浮かべ、戦法を変更する。

 

『克兄ぃ、クリスタルチェンジだ!』

『ああ!』

 

 梨子が風、曜が火のクリスタルを手に取った。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

 

 ロッソウインドとブルフレイムになると、ロッソが竜巻を投擲し、ブルが空気を着火させる。

 

「『ロッソサイクロン!!」』

「『パイロアタック!!」』

 

 だがウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowは構えだけで呆れを見せた。

 

『それ見たんですけど~。引き出し少ないなぁ~』

 

 炎の竜巻が迫るが、全くうろたえることなく理亞に向かって合図する。

 

『理亞ちゃんッ!』

 

 理亞がオーブリングNEOのスイッチを押してAZジャイロにセットし、グリップを三回引いてエネルギーチャージする。

 

『ダークオリジウム光線ッッ!』

 

 胸の前にハートマーク――歪んだオーブが現れてから、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowが両腕で十字を組んで暗黒光線を発射。

 光線は炎の竜巻をあっさり押し返して、ロッソとブルに命中する!

 

『『うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――!!』』

『「「いやああああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!」」』

 

 強烈な一撃を食らい、派手に倒れるロッソとブル。あまりのことに絶叫する善子。

 

「功海っ! 克海ぃっ!」

『ふん……!』

 

 ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowは立ち上がれないロッソとブルの肩を繰り返し踏みつける。二人のカラータイマーが危機を報せる。

 

『見たかオレの力をッ!』

『「やりすぎです! 追い打ちすることはないでしょう!」』

 

 聖良が制止しても、サルモーネは聞く耳を持たない。

 

『このアホどもには自分たちの格を教えてやった方がいいのだッ! オレとの格の違いをなッ! そう、このウルトラマンオーブダークノワール』

『名乗りが長すぎんだよッ!』

 

 踏みつけられているブルが、その脚のすねを殴りつけた。激痛で跳びはねるウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snow。

 

『痛ってぇぇ――――ッ!? 名乗りの最中と変身の途中で攻撃するのは言語道断だぞ!? 常識だろうがッ! 子供の頃何見て育ったんだ!?』

 

 激怒したウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowがブルの胸ぐらを掴み、無理矢理起こした。

 

『お前らはいつもそうだッ! 昨日も、見物人に気を取られて戦闘を抜け出す始末! 二人してチャラチャラしやがってッ! だからお前らヘボなんだッ! このヘボッ!!』

『「あうっ!?」』

 

 ブルに往復ビンタを浴びせるウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snow。衝撃を受ける曜の首が左右に揺れる。

 

『ヘボッ! ヘボッ! ヘボッ! も一つヘボッ! ヘェ――ボ――――――!!』

『うわあぁぁ……ッ!』

 

 最後の一発でブルが吹っ飛んでいった。

 

『……何かついたぁーッ! 汚ねぇなオイ……! ちょっと洗うか』

 

 無防備に近くの湖の側に寄っていくサルモーネに、聖良と理亞が愕然。

 

『「何やってるんですか!?」』

『「まだ相手がそこにいるじゃない!」』

『いーのいーのあんな奴ら。どっこいしょ』

 

 ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowがしゃがみ込んで水面に手を突っ込み、洗い出す。

 

『あ~気持ちいい。冷たくて気持ちいいな~。最近暑いからな……』

「いい加減にしてよっ! ふざけたことばっかりして!」

 

 善子がウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowの態度に怒鳴ったが、うんざりしたような目で指を向けられた。

 

『うるさいな~妄想イカレポンチ風情が。堕天使ヨハネだぁ? 頭おかしいんじゃないのかお前?』

「なぁっ……!」

 

 散々に罵倒されて、顔が真っ赤になる善子。

 その一方で、ロッソがよろめきながらも起き上がった。

 

『「自分のことをあんな悩んだ善子ちゃんに、あんな言葉浴びせるなんて……!」』

『クズ野郎が……!』

 

 わなわなと震えたロッソが飛び掛かり、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowの後頭部めがけチョップを振り下ろしたが――。

 即座に振り向いたウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowの腕に止められ、ひねり上げられた。

 

『がッ……!?』

『何だぁ~まだいたのか』

 

 悶えるロッソに指を突きつけるウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snow。

 

『いいか? お前らは地味だ。Aqoursも、華やかさってもんがまるでない。あんなザマでラブライブ優勝とかぁ? 学校を救うとかぁ? 輝きたいだぁ!? 出来っこないんだよぉお前ら凡人なんかにはぁッ!!』

 

 罵声を浴びせながらロッソの首に腕を回す。

 

『分かるかぁ? オレの言ってること。凡人の脳みそでよぉく噛み締めろ。んん? オラァッ!』

『「あうぅっ!!」』

 

 ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowの拳が喉に刺さり、梨子が苦しげに息を吐き出した。

 

『特別レッスン終わりッ! チャイム鳴らしますッ!! 理亞ちゃんッ!』

 

 名を呼ばれた理亞が、ためらいながらもリングのスイッチを押した。

 

『ダークストビュームダイナマイトぉーッッ!』

 

 全身が赤く燃え上がったウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowが、既にふらふらのロッソとブルに突撃!

 

『ハイッ! ターッチぃッ!!』

 

 両の張り手が、ロッソとブルの顔面に突き刺さった!

 

『いぇえいッ!!』

『『わあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――!!!』』

 

 ロッソとブルが大爆発に呑まれ――変身を解除された克海と功海、梨子と曜が地面の上に投げ出された。

 

「みんなぁぁぁぁぁ―――――――っ!」

 

 大急ぎで倒れた四人の元へと走っていく善子。花丸と果南も、辛抱ならなくなって飛び出していった。

 

「曜さん! 梨子さん! 克海さん! 功海さんっ! しっかりしてぇ!!」

「ずら丸!? 何でここに……!?」

 

 善子が聞いても、気が動転している花丸には聞こえていない。

 果南はキッと、歯を食いしばりながら傲然と仁王立ちしているウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowをにらみつけた。

 向こうは果南たちに気づくこともなく、吐き捨てるように唱える。

 

『お前たちは所詮、風に吹かれる塵と同じなのだ。『塵積もっても ある意味出来レース』! ウッチェリーナ君、今のオレの格言集に加えてくれ』

[『塵積もっても ある意味出来レース』を、登録しました!]

 

 ウッチェリーナが浮上してきて返答した。

 飛んできたアイゼンテックの飛行船を背景に、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowは高笑いを上げる。

 

『ワ―――ハッハッハッハッ! これからが真のウルトラマン伝説の幕開けなのだぁッ! 世界中は誰を待っている? 世界中は誰を信じてる? お前たちではなぁーいッ!』

 

 インナースペースで聖良と理亞が無表情でいることも気づかず、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツwith Saint Snowが剣を担ぎながら左手の親指で自身を指し示した。

 

『そうッ! 世界中が、オレを待っている!!』

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

鞠莉「シャイニー☆ 今回紹介するのは、『オーブの祈り』デース!」

鞠莉「この曲は『ウルトラマンオーブ』の主題歌デス! お歌いになったのはお馴染みvoyagerと、あの水木一郎兄貴さんなんデース! 水木一郎さんをご存じない、という方はいませんヨネー?」

鞠莉「歌詞はそのままウルトラマンオーブを熱く応援するものになってマスね! 「二つのパワー」というのは、オーブがLegend戦士二人の力を借りて戦う前例のないHeroだったことから来てマスねー! 最終回だと、もう一つの意味もありますけど」

鞠莉「『ウルトラマンオーブTHE CHRONICLE』でも主題歌として使われてマース! 更に八話からは、May J.さんも加えたVersionが使用されマシタ!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『SELF CONTROL!!』だ!」

功海「アニメで登場したAqoursのライバルグループSaint Snowが劇中で初めて歌った歌だ! Saint Snowの躍動的なダンスシーンと一緒に披露されて、千歌たちにも視聴者にも強い印象を植えつけたぞ!」

克海「Saint Snowは前作のA-RISEポジションとして登場したな。Aqoursとの対決の行方は……」

鞠莉「では、次回でお会いしまショー!」

 




ダイヤ「綾香市に新しい黒いウルトラマンが登場ですわ! 次々と街の人たちを助け、支持を得ていきますが、何か話が出来過ぎているような……」
果南「オーブダーク……あいつは許せないよ……!」
ダイヤ「えっ!? その話は……本当ですの!?」
果南「次回、『ウルトラマンDREAMER』!」
ダイヤ「次回もダイヤッホー! ですわ!」


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ウルトラマンDREAMER(A)

 

\前回のウルトラブライルー「『THE ULTRAM@STER ORB DARK NOIR BLACK SCHWARTZ』ゥゥゥゥッ!!」

 

サルモーネ「ウワ――――ハハハハァ――――! これまでは与えられた力の意味をなーんも理解してないなんちゃってウルトラマンどもがでしゃばっていたが、これからは違うぞぉ! この私、サルモーネ・グリルドが真のウルトラマン伝説を始めるのだッ! 絆の力でぇぇぇぇッ、輝きの向こう側へぇぇぇぇぇッ!!」

 

 

 

 内浦の海岸周辺の上空を、小原家所有のヘリコプターが飛行していた。それに搭乗しているのは、小原鞠莉。

 

「ふぅ……各方面への根回しも楽じゃないわ。でも、これも浦の星のため……」

 

 鞠莉はヘリに揺られながら、大きなため息を吐いた。生徒数減少のため、廃校寸前の浦の星女学院を存続させるために、彼女は学校経営の関係者に話を通しにこうして飛び回っているのだ。

 

「だけどこれでひと段落ついたし、ようやくスクールアイドルに専念できるわ。あとは果南がもう一度スクールアイドルをやってくれれば……果南が考えを改めれば、ダイヤだって……」

 

 二年前に喧嘩別れしてしまい、未だ仲が戻らぬ友に想いを馳せた鞠莉は、ふと思考を別のところに切り替える。

 

「それにしても……この映像……」

 

 取り出したタブレットの画面に再生したのは、綾香にグルジオボーンが再度出現した際に撮影された動画。グルジオボーンに飛び蹴りを決めたロッソが、急にしゃがみ込んで動かなくなる。

 傍から見たら不可解な行動だが、鞠莉はこれを、地上にいる誰かと話をしているのではないかと分析していた。ロッソの目線は、地面の方を向いているのだ。この角度だと、その先に誰がいるのかまでは見えないが……。

 

「もしかしたら、ウルトラマンって……でも、まさかそんな……」

 

 草野球の時に、功海や克海が不自然に球場を離れたことも思い出しながら、一つの可能性を思い浮かべる鞠莉だが、普通ならあまりに突飛な考えなので、今一つ確証が持てない……。

 悶々としていたその時――突然ヘリを衝撃が襲い、鞠莉と操縦士が激しく揺さぶられた。

 

「な、何事!?」

「大変ですお嬢さま! 操縦不能! 高度が落ちていきます!」

 

 操縦士が半分パニックになりながら告げた。

 

「何ですって!? 原因は!?」

「わ、分かりません! うわあああぁぁぁぁぁぁ―――――!?」

 

 操縦桿が全く効かず、地面にめがけ一直線に落ちていくヘリ。――しかし、

 

『でゅうわッ!』

 

 機体が突然巨大な何かに掴まれ、落下は止められた。

 鞠莉は窓の外に見える、巨大な顔を目の当たりにして驚愕した。

 

「う……ウルトラマン!? だけど、黒い……!」

 

 その顔立ちの特徴は、ウルトラマンのもの。しかし、ロッソともブルとも違う、黒い身体のウルトラマンであった――。

 

 

 

『ウルトラマンDREAMER』

 

 

 

「あぁーもうっ! あったま来るぅぅぅぅーっ!」

 

 『四つ角』の居間で、善子がガシガシと頭をかきむしった。その後ろでは、花丸と果南が克海と功海、梨子、曜の手当てをしている。

 

「梨子ちゃん、みんな……大丈夫ずら……?」

「うん……。ありがとう、花丸ちゃん」

「……私たち、負けたんだね……」

「認めたくねぇけどな……」

「ノーヒットノーラン……コールドゲームのボロ負けだ……」

 

 落胆する曜たち。クリスタルの力を使って黒いウルトラマンと化した愛染――宇宙生命体サルモーネ・グリルドに完全敗北を喫した彼らは、ほうほうの体でこの『四つ角』に帰ってきたのであった。

 しいたけも今ばかりは、何かを察したのか、梨子には寄りつかずに庭で心配そうにしていた。

 

「くぅーん……」

 

 戻ってからも、善子は怒りが収まらぬ様子だった。

 

「誰の頭がおかしいよ! あんたの名前なんか、オーブダーク黒黒黒! そっちの方が頭おかしいじゃないっ!」

 

 ウガーと叫ぶことでストレスを発散しているが、すぐに湧き上がってくる善子。と、そこに、千歌とルビィが息せき切って居間に駆け込んできた。

 

「お兄ちゃんもう帰ってるー!? って、果南ちゃん来てたの? っていうか梨子ちゃんたちどうしたの!? お兄ちゃんまでっ! 特別レッスンってそんなキツかったの!?」

 

 目に飛び込んできた光景の情報量が多すぎて混乱気味の千歌を克海が落ち着かせる。

 

「まぁそんなとこ……。それより千歌、一体どうしたんだ?」

「あっそうそう! 今さっきニュースで流れたんだけど……これ見て! 大変だよっ!」

 

 千歌が皆にスマホの画面を見せる。その中に、ニュースの動画が流された。

 

『見て! ヘリがっ!』

 

 内浦の人が偶然撮影したもので、カメラが海の方向に向けられると、小原のヘリコプターが黒い煙を上げて急速に落下していくところが映される。

 

「!? これって鞠莉ちゃんのところのヘリじゃ!」

「えっ!? 鞠莉!!」

 

 克海の言葉に、果南が色を失ってスマホにかじりついた。

 映像の中でヘリが落ちていくが、そこにかのウルトラマンオーブダークの姿のサルモーネが飛んできて、ヘリを受け止めた。

 

「……!」

『黒い巨人は、ヘリコプターを海岸に下ろして飛び去った、とのことです。一体この巨人は何者でしょうか……』

「ね? すごいでしょ? 新しいウルトラマンさんだよー!」

 

 このウルトラマンの正体を知らない千歌は、無邪気にはしゃいでいる。

 

「危ないところで鞠莉さんのヘリを助けるなんて、まさにヒーローだよ! かっこいい……」

「やめて! そいつの話をするのはっ!」

 

 千歌の言葉を、善子が声を荒げてさえぎった。

 

「ど、どうしたの善子ちゃん……?」

 

 面食らって固まる千歌。しかし、善子は名前の訂正も忘れるほどに自分を抑えるのに必死だった。

 

「……?」

 

 克海たちのただごとではない様子と動画を見比べて、ルビィが不思議そうに首を傾げた。

 

 

 

 アルトアルベロタワーでは、ウッチェリーナが記録した先ほどの戦闘の映像をサルモーネが見返していた。

 

[パワー、スピード、スタイル! 全て五段階評価の五といったところです! いえ、スピードは六、パワーに至っては七と言えるでしょう!]

 

 それを受けてサルモーネが気を良くした。

 

「うむ、素晴らしい! まさに7! 6! 5! という訳だ!」

 

 鼻歌交じりにサルモーネが、これからの活動予定を語る。

 

「明日からどんどん活躍して、新たなウルトラ伝説を打ち立てるぞぉ! Saint Snowもアイゼンテックの権力で推して推しまくって、私がアイドルマスターにプロデュースするのだぁッ! アイゼンテック、ファイトぉーッ!」

 

 

 

 千歌たちを退席させると、克海たちの秘密を知った果南が、克海と功海に呼び掛けた。

 

「克兄ぃ、功兄ぃ……ウルトラマンなんてもう辞めてっ!」

「果南ちゃん、何を!?」

 

 曜が驚いて振り向くが、果南の必死の形相で思わず口をつぐんだ。

 

「今回だってそうだし、これまでだって、克兄ぃたちすごく危ない目に遭ってたじゃない……。次は怪我じゃ済まないかもしれない……。克兄ぃたちがそんなことになったら……千歌ちゃんはどうなるの!?」

 

 懸命に訴えかける果南だが、それに善子が感情的に反論した。

 

「それって、負けっぱなしで泣き寝入りしろってこと!? 冗談じゃないわ! 今度はヨハネが梨子と曜の仇を討つのに変身……」

「気分を晴らすなんかより、命の方が大事でしょ!? 未来がなくなっちゃうかもしれないんだよ……!?」

 

 果南が鬼気迫る表情で怒鳴ったので、善子も思わず口を閉ざした。

 

「……確かに、あいつにボロカスに言われて腹が立つ。だが……」

 

 逆説で続ける克海に、果南は一瞬ほっと息を吐いた。

 しかし、

 

「だが――一番腹が立つのは、みんなの夢を侮辱されて、一矢も報いられなかった俺自身だ」

「!? 克兄ぃ、駄目だよ……!」

 

 続く言葉を果南が制そうとしたが、克海はより大きい声で封じ返した。

 

「果南ちゃん、確かに命は大事だ。けど、みんなのことをああも貶されて黙って引き下がるような奴は男じゃないッ! どんな危険があったとしても、絶対に負けられない戦いがあるんだ!!」

 

 克海の強い熱気に当てられ、果南は反対する言葉を出せなくなった。

 

「とはいえ、今のままじゃ勝ち目がないのも分かってる」

「克兄ぃ。あいつと戦って、分かったことがある」

 

 功海も真剣な面持ちとなって発言した。

 

「あいつと比べて、俺たちは攻撃の振りや動作がいちいち大きすぎる。当たらない訳だよ」

「ああ……。梨子ちゃんと曜ちゃんの協力で、俺たちはパワーアップはしてた。だけどそのパワーを制御できてなかった。どれだけパワーを上げたところで、俺たち自身に扱い切れるだけの実力がなかったら何の意味もないんだッ!」

 

 そう結論づけて、勢いよく立ち上がる克海と功海。

 

「特訓だ! 俺たち自身を集中的に鍛えて、一分一秒でも早く奴に食らいつけるようにするぞ、功海!」

「おうよッ! じっとしちゃいられねーぜ! もう今すぐに始めようぜ克兄ぃ!」

 

 血気にはやる克海と功海は、その勢いのままに『四つ角』を飛び出していった。

 

「あっ! 手当てがまだ終わってないずらよ!?」

「克兄ぃ……功兄ぃ……」

 

 傷を癒す暇も惜しむ兄弟の熱意に当てられて、曜、梨子、善子も表情を引き締めた。

 

「功兄ぃたちばかりに苦しい思いはさせられないよ! 私たちも頑張らなきゃ!」

「ええ! パフォーマンスももっと磨いて、二度と地味だなんて言わせないようにするわ!」

「向こうもSaint Snowを取り込んでたからあんなに強かったはず。ヨハネたちも強くなれば、功海たちはもっともっと強くなるわ! 高みを目指すわよぉっ!」

 

 おー! と張り切る三人を、感服したように見つめる花丸。

 

「みんなやる気満々ずら……。マルも、置いてかれないようにしないと!」

 

 その傍らで、皆の様子を目の当たりにした果南は、うつむいて何かを思い返しながら独白した。

 

「負けられない戦い……か……」

 

 

 

 翌日の放課後、梨子、曜、善子は誰よりも早く校舎の屋上に来て、トレーニングを始めていた。

 

「いちっ! にっ! さんっ!……」

 

 三人が声をそろえて一心不乱にバーピーを行う場面に、後から来た千歌が面食らう。

 

「曜ちゃんたち、すごい熱心だね……! 東京でのことを差し引いても……。どうしたの?」

 

 尋ねかけた千歌に、曜たちはトレーニングを続けながら答えた。

 

「ちょっとね……! どうしても、今より実力を高めないとって思うことがあって……!」

「千歌ちゃんは気にしないで……! 私たちが、自主的にやってることだから……!」

「そ、そういう訳にはいかないよ! みんなが頑張ってるのに、私が頑張らない訳には! でも、そんなに頑張るのは……」

 

 一生懸命な梨子たちの姿に、千歌は何かを得心した。

 

「……そんなに夏祭りのイベントが楽しみなんだね!」

 

 ずれた解釈をしていた。

 とそこに、屋上にルビィと花丸がスマホを抱えながら駆け込んできた。

 

「た、大変だよぉ~!」

「これ見てずらぁーっ!」

「どうしたの?」

 

 千歌たちがスマホの画面に注目する。

 そこには、内浦と綾香間を運行するバスが崖から落ちかけ、そこをオーブダークが救出する内容の動画が流れていた。

 

「また黒いウルトラマンさんが出て、バスを事故から救ったってニュースで……」

「また!?」

「すごい! 二日連続で町の人たちを助けるなんて……ヒーローそのものだね!」

 

 何も知らない千歌は無邪気に興奮しているが、オーブダークの正体を知る梨子たちは複雑な顔をしていた。

 

 

 

 理事長室では、鞠莉が小原家のヘリコプターの整備士と電話をしていた。

 

「ええ、クラスのみんなにもすごい心配されちゃったの。……気にしないで。あなたたちの整備に不備があったなんて、思ってなんかいないから」

 

 責任を感じている整備士を優しくなだめた鞠莉は、相手に問いかけた。

 

「でも、事故の原因は何だったのかしら。急に操縦不能になるなんて……。何か分かった?」

『それが……』

 

 整備士はとても言いづらそうにしながらも、次のように回答した。

 

『ありえないことだとは重々承知しておりますが……どう調べても、外から強い衝撃が加えられたとしか思えないんです……』

「強い衝撃……!? 外から……?」

 

 思わず唱え返す鞠莉。

 

「……いいえ、嘘を吐いてるなんて思わないわ。だけど……一体誰がどうやって……。まさか……」

 

 

 

 その日の帰り。綾香に到着したバスから降りた曜と善子は、オーブダークの二度目の救出劇のことを話し合った。

 

「でも、何か変じゃないかな……。今まではヘリや車が落ちかけるなんて大きな事故、一度もなかったのに、二日立て続けで起きるなんて」

「それに、あの男はどうして事故を事前に察知できるのかしら。まさか、天界の宣告が聞けるんじゃ!?」

「……まぁ、克兄ぃも直感力じゃないかって言ってたけど……ほんとにそうなのかな……」

 

 疑問に思いながら公園前に差し掛かると――公園内に走っていくサルモーネの後ろ姿を発見した。

 

「あっ……!」

「あいつ、こんなところで何を……」

 

 サルモーネを警戒する曜と善子は、隠れながら後をつけて様子を見張る。

 公園に入ったサルモーネは、待ち惚けている小さい女の子の下へ駆け寄っていった。

 

「ミヨちゃーん、お待たせー。愛と正義の伝道師、愛染正義です」

「マサちゃん遅いよぉ」

「ごめーん。はいこれ」

 

 サルモーネは女の子に、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの人形を差し出した。

 

「わぁ~、ありがとう!」

「こっちこそありがと。けど、ちょっとだけ間違えちゃったね。シュワルツ、じゃなくて、シュバルツ、なんだよ」

「長いんだもん。その名前嫌い! 覚えらんない!」

「……!」

 

 女の子が走り去っていっても、サルモーネはショックを受けて立ち尽くしていた。一連の流れを、怪訝な顔で見届けた曜と善子。

 

「……何やってたんだろ?」

「さぁ……。知りたくもないわ」

 

 

 

 次の日の休日、克海と功海は旅館のことを父親に頼み、朝から山で特訓に打ち込む手筈だった。の、だが……。

 

「なーんで、千歌たちまでいるんだよ?」

 

 特訓場に千歌、梨子、花丸、ルビィの四人がいることに功海が突っ込んだ。千歌以外は苦笑を浮かべている。

 

「いいじゃーん。お兄ちゃんたち、野球の特訓してるっていうから、一緒に練習しようって思って。私たちも今、夏祭りに向けて特訓中なんだよ!」

 

 千歌がそう言うと、梨子が克海に囁きかけた。

 

「私たちもトレーニングしてるのを見て、千歌ちゃんもすっかり乗り気になっちゃったんです」

「すまない、梨子ちゃんたちまで巻き込んで……」

「いいんです……。私たちも、負けたくない気持ちは同じです」

「そうか……。けどそれじゃ、曜ちゃんと善子ちゃんも?」

「はい。でも、ちょっと遅いですね……」

 

 

 

 その頃、曜と善子は内浦へのバス停に向かおうとしていたのだが、今は喫茶店の店先のテーブルをとある二人と囲んでいた。

 

「それで……本当に、愛染――ううん、サルモーネの仲間になるつもりなんだね? Saint Snowのお二人さん」

 

 その相手とは、聖良と理亞の二人。街中でばったり会った曜たちは、内浦に行く前に彼女たちと話をすることにしたのだ。

 

「そもそも、あなたたちはどうやってあいつと出会ったの?」

 

 先日のこともあり、つんけんしている善子が問いかけると、聖良が落ち着き払いながら答えた。

 

「東京でのイベント後、あの人から直々にお誘いを受けました。私たちの才能を見込んだということで。もちろん初めは、あまりにも突飛な話に戸惑いましたが……彼から見せてもらったんです。私たちの知らない、宇宙という広大な世界で活躍するアイドルの姿を」

 

 そう語ると、聖良の頬はやや上気する。

 

「衝撃でした。μ'sやA-RISEにも劣らぬ輝きを放ち、更に命をも護る力を持った人たち……。サルモーネさんは、自分に協力すれば私たちをあの人たちと同等のアイドルに導いてくれると約束してくれました。私たちも、私たちが人命を助けることが出来るのなら助力は惜しみません」

 

 聖良の言葉に、理亞が無言でうなずいた。

 聖良は曜と善子の瞳を正面から覗き込みながら宣言する。

 

「先の対決で分かったと思いますが、あなたたちではヒーローには力不足です。これからは、私たちがこの街を守ります」

 

 

 

 克海と功海と一緒にトレーニングを始めた千歌たちであるが、千歌は二人の特訓のあまりの激しさに、見ているだけで疲れてしまっていた。

 

「はぁ、お兄ちゃんたちすごい張り切ってるなぁ……。だけど、野球にあんな特訓必要なのかな?」

 

 筋トレや投球練習ならいざ知らず、剣技の練習まで行っていることに流石に疑問を感じる千歌。

 

「梨子ちゃんはどう思う?」

「わ、私にはよく分からないわ。でも、克海さんたちがやるからにはそうなのよ」

 

 真実を知る梨子は目を泳がせながらごまかした。

 

「そうなのかな……。あれ?」

「どうしたの?」

 

 視線を梨子から外した千歌が、不意にあらぬ方向を見やった。

 

「何か、誰かに呼ばれたような……あっちの方から……」

「あっ、千歌ちゃん!?」

 

 ふらふらと山の奥へ立ち入っていく千歌を慌てて追いかける梨子。異常に気づいた花丸やルビィ、克海と功海も手を止めて後を追っていった。

 

「待って千歌ちゃん! どうしたの……」

「あっ、あそこ見て!」

 

 茂みをかき分けていった千歌が、正面を指差す。

 その先、一本の樹が上に生えた洞穴から、琥珀色の光が漏れ出ていた。明らかに、普通の光景ではない。

 

「あの光、何だろ……?」

「みんな待った。危険なものかもしれない。俺と功海が先に見てくる」

「気をつけてね、お兄ちゃん!」

 

 注意を引きつけられる千歌たちをその場に留めて、克海が慎重に洞穴の中に入っていった。

 洞穴はさほど広くはないが、その奥部で幾重にも積まれた石の下から、琥珀色の光は生じていた。この石に、何かが隠されているようだ。

 

「何だありゃ……」

「石を崩してみるか」

「よぅし……!」

 

 克海と功海は協力して積まれた石を取り払っていった。すると下から、輝く何かが浮き上がってきて、克海の手の平の中に収まった。

 

「これって……!」

「……ルーブクリスタル!」

 

 琥珀色の光の正体は、「土」の字がV型の冠のウルトラ戦士とともに刻まれたクリスタルであった。

 

 

 

 聖良の話を聞いた善子は、バンとテーブルを叩いて腰を浮かした。

 

「だけど、あいつのこと見てたでしょう!? あんな人に散々罵声を浴びせるような奴が、本物の聖戦士だと思うの!?」

 

 そう言われると聖良も理亞も一瞬言葉に詰まったが、それでも聖良が反論した。

 

「ですが、あなたたちは彼に全く太刀打ちできなかった。それが現実です」

「うっ……それは、そうだけど……」

「それに、あの人の正義のために行動する気持ちは確かです。あなたたちも、知ってるでしょう? サルモーネさんは、既に二度も事故を未然に防いでます。失礼ながら、あなたたちにその経験はありますか?」

 

 これに善子たちは何も言い返せなかった。確かに、自分たちは怪獣が現れてからでしかウルトラマンに変身したことがないが……。

 その時に、街頭テレビにあるニュースが流れる。

 

『続いての話題は、黒い巨人です。連日綾香市の人々を事故から救っている黒い巨人ですが、昨日も小学三年生の相馬美代子ちゃんの手を離れた、赤い風船を捕まえ返してくれた、とのことです』

 

 オーブダークの話題が流れ、四人の目が街頭テレビに向けられるが、曜と善子はインタビューを受ける件の少女の顔に注目して目を細めた。

 

『ミヨちゃんね、お名前聞いたの』

「あれ? あの子……」

 

 その顔に見覚えがあったのだ。昨日、サルモーネが公園で会っていた女の子と、同じ顔なのだ。

 更に女の子は、こう唱えた。

 

『あのね……ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュワルツ!』

「!!」

 

 いきなり曜たちが立ち上がったので、聖良たちは面食らった。

 

「シュワルツじゃなくて……!」

「シュバルツ! そういうことだったんだ!」

「ど、どうしたんですか?」

 

 戸惑う聖良と理亞に、曜と善子は顔を近づけて訴えかけた。

 

「よく聞いて! あいつは、正義の味方なんかじゃない!」

「あなたたちは騙されてるのよ! あの天使の面を被った悪魔に!!」

 



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ウルトラマンDREAMER(B)

 

「お兄ちゃんたち、洞穴で何見つけたんだろ。教えてくれないなんて~……」

「まぁまぁ。克海さんたちにも色々あるのよ」

 

 克海と功海が洞穴で発見したクリスタルを調べている間、外で待たされている千歌が不満を抱いてうなっているのを梨子がなだめる。

 

「む~……ところで、曜ちゃんと善子ちゃん、まだ来ないのかな」

 

 千歌がふと、意識を曜と善子の方に向けた。

 

「ここ圏外だから、連絡するには下まで降りないと」

「だったらルビィが行ってきます。近くまで来てるかもしれませんし」

「マルも行くずら」

「ありがと!」

 

 ルビィと花丸が名乗り出て、電話と様子見のために下山していく。

 しかし偶龍璽王神社の長い石段の近くまで来たところで、誰かが騒いでいる声が聞こえてきた。

 

「放してっ! いい加減しつこいよ!?」

「スクールアイドルに復帰してくれるって約束するまで、絶対放さない~!」

「二人ともおやめなさい! ここは神域ですのよ!?」

「あれ? 今の、お姉ちゃんの声……」

「何か言い争いみたいずら」

 

 聞き馴染みのある声に、ルビィと花丸が顔を見合わせて、騒ぐ声のする方へと足を向ける。

 そして石段の途中の休憩場所で、果南の腰にしがみつく鞠莉と、引き離そうとする果南、揉み合いになっている二人を仲裁しようとしているダイヤの三人を発見した。

 

「お姉ちゃん!?」

「ルビィ! どうしてこんなところに?」

「お姉ちゃんこそ、どうして……」

「というか、何やってるんですか? こんなところで」

 

 揉み合う鞠莉と果南に手を焼いているダイヤは、ルビィと花丸に事情を説明した。

 

「実は鞠莉さんが、果南さんをスクールアイドルに戻らせようとつき纏って……果南さんが逃げようとしたら、鞠莉さんがしがみついてきて、こんなことになったそうですの。わたくしは二人が神社で騒いでいるなんて聞いたので駆けつけましたの。ほらお二人とも、一度落ち着きなさいな!」

 

 むしろ言い争いが過熱する果南と鞠莉の間に割って入ろうと四苦八苦するダイヤ。ルビィと花丸は呆然としながらその様子を見つめた。

 

「理事長さん、あそこまでやるなんて……」

「二人とも意地っ張りずら」

 

 などとつぶやいていたら、下から本来の目的である曜と善子が石段を息せき切って駆け上ってきた。

 

「おーい! ルビィちゃん、花丸ちゃーん!」

「あっ、曜さん! 善子ちゃん!」

「善子ちゃん遅いずら!」

「善子じゃなくてヨハネよ! ってそんなことより、功海たちはどこ!? こんな時に携帯つながらないし!」

 

 よほど急いで来たのか、ぜいぜい息を切らしながら善子が問うてきた。

 

「ど、どうしたの? そんな急いで……」

「大変! 大変なことが分かったんだよ! 早く功兄ぃと克兄ぃに知らせなくっちゃ!」

「オーブダーク! あいつは悪夢の道化師よ! 一昨日からの事故は、全てあいつが……!」

「わー! 待つずら待つずら!」

 

 口走る曜と善子を、花丸が慌てて止める。

 

「そこにダイヤさんたちがいるずらよ!」

「えっ!? あっ!!」

 

 曜たちは急ぐあまりに、すぐそこのダイヤら三人の姿が見えていなかった。口をつぐんでももう遅く、今の言葉は三人にしっかりと聞こえていた。

 

「……!」

 

 顔つきが一変した鞠莉は、果南の腰から離れると、ツカツカと曜と善子に歩み寄ってきて肩をがっしり掴んだ。

 

「――知ってること、全部話して!」

 

 

 

「サルモーネさんっ!」

 

 曜たちと別れた後の聖良と理亞は、アルトアルベロタワーの社長室に突撃し、サルモーネと面と向かっていた。

 

「んん? 聖良ちゃんたちじゃない。そんなに急いでどうしたの」

 

 フィットネスバイクを漕いでいるところであったサルモーネが聞き返すと、聖良たちは強張った顔で彼を問い詰めた。

 

「Aqoursの人たちから聞きました……。あなたが防いだ事故は――あなたが起こしたものなんですか!?」

「ええ?」

「昨日、風船を捕まえてもらった女の子が、その後であなたと会ってたところを見たと言ってました。……あれは、仕込みだったということですね……!?」

 

 険しい顔の二人とは反対に、サルモーネはひょうひょうとした態度のままバイクから下りる。

 

「あー、それ知っちゃったかー。意外と早かったねぇ」

「!? 認めるんですね……今までの人命救助は、自作自演だと!」

「どういうつもり!? 私たちは、あなたがこの世に正義と希望を見せるというから……!」

 

 怒鳴りかける理亞を制して、サルモーネが肩をすくめながら語り出す。

 

「まぁまぁ落ち着きたまえ。私は何も嘘は言ってないよ? これも世界中の人間に、愛と正義を伝導するためさ」

「は……? 何を言って……」

「いいかい? ウルトラマンは人々に希望を与える、正義の味方だ! しかし正義の味方には必要なものがある。それは活躍の場だよ! 何の事件もない場所では、どんな正義も昼行燈みたいなもの。世の人間が希望という光の尊さを知るには、必要なのだよ……絶望という暗闇がね」

 

 サルモーネの言わんとするところを察して、聖良と理亞はみるみる青ざめていく。

 

「……黒澤ルビィさんを怪獣に閉じ込めたのは、あの人たちを鍛えるためというから引き下がりましたが……今度は自分の活躍のために……!?」

「正気なの!? 他の人の命を危険に晒して、何でそんな平気な顔してるのっ!」

 

 非難をぶつける理亞であるが、サルモーネの表情はやはり崩れない。

 

「人聞き悪いなぁ~。私のやってることと、君らのやってることは、そうそう違わないだろう?」

「は……!?」

「アイドルだって無償で歌ったりしてる訳じゃあない。彼女たちの歌い踊る姿を見るために、人々はお金や時間などを代償に支払ってる訳だ。君らスクールアイドルにも、何人の人間が多額の投資をしているか。ああそれが悪いことだと言ってるんじゃないよ? 世の中ってそういう風にして回るんだから。つまりぃ、人がお金を出してアイドルのライブを楽しむのと、身の危険という代償と引き換えに正義と希望を知るのと、あんまり違わないだろう? って話」

 

 サルモーネの論法に、聖良たち姉妹は絶句。

 

「そもそも命の危険っていうけどさぁ、そんなものはないんだよ。最初から、この私に助けられるというのが決まってるんだから。ちょっとの間怖い思いをするだけで、彼らは大いなる希望をその身で感じられたんだ。何の問題がある?」

 

 二人がドン引きしていることも気づかずにスラスラ語り続けるサルモーネ。

 と、そこに、社長室の窓の外へと急速に向かってくる二つの飛行物体。――克海と功海が変身した、ウルトラマンロッソフレイムとブルアクアだ!

 

『サルモーネ! 全部聞いたぞ! お前のマッチポンプ!』

『今度という今度は許しておけねぇ! 表に出やがれ!』

 

 二人から挑戦を叩きつけられ、サルモーネはニヤリと嗤った。

 

「リターンマッチに来たか。返り討ちにしてくれよう! 聖良ちゃん、理亞ちゃん!」

 

 サルモーネはAZジャイロを取り出しながら聖良たちに変身を呼び掛けたが……。

 

「ふざけないで下さいっ!」

「あり?」

 

 返ってきたのは、激しい敵意だった。

 

「あなたがそんな人だったなんて……失望しました! 私たちは、そんな自己満足に協力するためにここに来たんじゃありませんっ!」

「あんたと一緒に戦うなんて……二度とごめんよっ!」

 

 二人に拒絶されたサルモーネだが、少しも応えた様子もなく唇をとがらすだけだった。

 

「ちぇ~、つれないなぁ。いいよいいよ、一人でやりますよ」

 

 まるで執着を見せることもなく、サルモーネはジャイロに剣のクリスタルをセットする。

 

[ウルトラマンオーブ!]

「あ団結ッ! あ団結ッ! オールフォーワーンッ!!」

 

 ジャイロのグリップを三回引いて、オーブリングNEOを召喚。掴んだその手からリングが闇に染まり、中央のボタンが押された。

 

「絆の力……お借りしまぁすッ!!」

 

 オーブリングNEOの力で、サルモーネが再び闇のウルトラマンに変身する!

 

ウルトラマンオーブダーク!

『でゅわッ!』

 

 先に人のいない山地に向かって飛んでいたロッソとブルだが、その間を変身したサルモーネが高速で突き抜けて追い越していった。

 

『でゅわぁッ!』

 

 格好つけながら着地したサルモーネのウルトラマンは、振り向きざまにカリバースラッシャーを繰り出す。

 

『うわッ!』

 

 不意打ちを食らったロッソとブルは空中から地面へと墜落させられた。

 

『フハハハハ! 今日は無印のウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツだぁーッ!』

 

 無印と言いながらそれでも長い名前を口走るウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツに対して、ロッソとブルは立ち上がりながら詰問した。

 

『自分でヘリを落としたんだよなぁ!?』

『バスもお前の仕業なんだな!? ヒーローになりたくて、事故をでっち上げたのかよッ!』

 

 怒るロッソたちとは対照的に、サルモーネはやはり悪びれた様子が欠片もない。

 

『それの何が悪い? オレは人々が求めているものを与えただけだ。愚かで弱い民衆を導く、希望の光をな。……と、油断させてる隙に……!』

 

 ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツが密かにオーブダークカリバーのリングを「氷」に合わせ、剣を一気に振り上げる。

 

『闇を抱いてひがみとなれッ! オーブダークアイスカリバーッッ!』

 

 冷気に覆われた刀身から、氷の荒波が発せられてロッソとブルに襲い来る!

 が、ロッソとブルはバク転で氷を回避。同時にクリスタルチェンジしてロッソアクアとブルフレイムに変わった。

 

『ほぉう? 少しは動けるようになったみたいだな。しかし、ひがみを超えて闇を斬ることが出来るかなぁ!?』

 

 手招きして挑発するウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ。ロッソとブルはルーブスラッガーを抜き、一気呵成に斬りかかっていく!

 

『はぁぁッ!』

 

 振るわれるロッソの双剣を、かいくぐってかわすウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ。

 

『ぬわッはッはッ遅いッ! その程度でよくまぁリベンジなど』

『てやぁぁぁぁーッ!』

 

 大笑いするウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツだが、その後ろからブルがジャンプしながら長剣を振り下ろし、肩を切り裂いた。

 

『ぬあぁぁぁぁッ!? 何だとぅ!?』

 

 背後からとはいえ反応できなかったウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツが驚愕。それからもブルが剣を縦横無尽に走らせるのを、防ぐので手いっぱいであった。

 

『せぇぇぇぇいッ!』

 

 一回転したブルの水平斬りが、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの腹部に叩き込まれる。

 

『ぐぇぇッ! な、何だこいつ!? 一日二日鍛えただけで、こんな太刀筋になるとは思えんぞ!? まさかッ!』

 

 ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツは、よく目を凝らしてブルのインナースペースにいる人物を確かめた。そこにいるのは、

 

『「――がんばルビィ!」』

 

 ルビィだ!

 

『いつもの奴じゃないッ! お前はあの時の、ふざけた名前の小娘ッ!』

『ふざけてるのはお前のやってることだろッ!』

 

 ブルが振るったスラッガーから、光刃が放たれる。

 

『ぬえいッ!』

 

 それをどうにか受け流したウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツだが、その先にロッソが回り込んで、光刃を更に重ねて打ち返す。

 

『うりゃあッ!』

『ぐわああぁぁぁぁーッ!』

 

 交差した光刃をまともに食らって膝を突くウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ。それを見下ろすのは、ロッソのインナースペースにいる人物。

 

『「愛染正義! いいえ、サルモーネ・グリルド! あなたの悪行三昧、ここで成敗して差し上げますわ!」』

 

 ダイヤである!

 

『誰だお前!?』

 

 ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツが目を見張った。

 今のロッソとブルと変身しているのは、ダイヤとルビィの姉妹。兄弟と姉妹のダブルコンビネーションが、偽善のウルトラマン打倒に燃えているのだ!

 

 

 

 克海と功海は報せを受け、千歌のことを梨子に任せて曜たちの元へ駆けつけていた。

 

『何だって!? 本当なのか!』

『うん! 確かにこの目で見たの! あいつの不正!』

『道理で奴に都合のいいことばかり起こると思った……!』

 

 曜たちからサルモーネのマッチポンプを聞かされた克海たちは、怒りに打ち震える。果南もまたギリッ……! と奥歯を軋ませた。

 

『許せないっ……! ダイヤの妹だけじゃなく、鞠莉にまで……!』

『果南……!』

 

 散々袖にされていた鞠莉は、少し驚いて果南の顔に振り返った。

 克海と功海は互いに顔を見合わせる。

 

『もうあいつの好きにはさせておけない! 功海ッ!』

『おうよッ! ぶっ飛ばしてやる!』

『私も行くよ! 今度こそやっつけるんだから!』

『いいえ、ヨハネにやらせて! 堕天使の裁きを与えてやるわ!』

 

 曜と善子が先を争うように名乗り出たが、それを制したのがルビィであった。

 

『待って下さい! ルビィに、戦わせて下さい!』

『ルビィちゃん!?』

 

 曜たちは驚愕してルビィに振り向いた。

 

『何言ってるか分かってる!? すごく危険なんだよ!?』

『そんなに自分への仕打ちに怒ってるの?』

『ううん、恨んでるとかじゃない。だけど……!』

 

 ルビィは強い意志を瞳に込めて、思いの丈を打ち明けた。

 

『もう誰も、ルビィみたいな怖い思いをする人は出させたくない! あの人の身勝手で苦しめられる人たちを、助けたいっ!』

『ルビィ……!』

 

 ルビィの熱い眼差しを一身に浴びる功海。

 

『それなら、私だって……!』

 

 果南が身を乗り出しかけたが、ダイヤがその前に腕を差し込んだ。

 

『いいえ! あの男に引導を渡すなら、わたくしが先ですわ!』

『ダイヤ!』

 

 ダイヤの瞳には激しい激情の炎が灯っていた。

 

『克海さんたちの真実、この綾香市で起きていること、驚きました。しかしそれ以上に、わたくしの大事なルビィと鞠莉を殺しかけておいて、のうのうとしているあの男への怒りを感じています! 晴らさないことには、どうにかなってしまいそうですわ!』

 

 それぞれ激しい感情を抱える黒澤姉妹を前にして、克海と功海は目と目を合わせ、そしてうなずき合った。

 

 

 

 そして二人とともにウルトラマンに変身し、ここにいるのだ。

 

『俺たちはヒーローになりたいんじゃない!』

『俺たちが戦うのは、悲鳴を上げる人がいるからだ!』

 

 ロッソとブルはウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツに対して、はっきりと言い放つ。

 

『その人たちのために戦うんだ!』

『それがウルトラマンってもんだろ!』

『だから俺たちは、ウルトラマンの名の下に!』

『『お前を倒す!!』』

 

 宣言したロッソとブルに、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツは激昂。

 

『ウルトラマンの名の下にだぁぁぁ―――――!? ひよっこどもが知った口聞きやがってぇぇッ! 身の程を知れぇぇぇいッ!』

 

 魔剣をブンブン振り回して二人に斬りかかるウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ。ブルが剣をかわし、ロッソが双剣で鍔迫り合いをする。

 ロッソとにらみ合うウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツに、ダイヤが怒りを込めた言葉をぶつける。

 

『「偽りの希望で、人々を導くですって!? ルビィも鞠莉も自分の玩具にして、偉そうなことをベラベラと! 恥を知りなさいっ!」』

『うるさぁいッ! 思い出したぞ~! お前は二年前、東京で歌うことすら出来ずに尻尾を巻いて逃げ帰ったスクールアイドル崩れだなぁ!? そんなガラクタが、ガラクタどもを玩具にされて成敗などと、片腹痛いわぁッ!』

『「ルビィも、鞠莉も、誰もガラクタなどではありませんわっ!」』

『ハァッ! 学校を舞台にアイドルとか、お遊びでアイドルやってるガキどもがガラクタ以外の何だと言うのだッ! Saint Snowだってそうだ! 大人しくオレに従ってりゃあアイドルの頂に立てるというのに! あんな一時の感情に流されるようなケツの青いアマチュアがぁ、このオレの力なくして真のアイドルになどなれるはずがなぁいッ! どいつもこいつもアホばっかりだぁッ!!』

『「っ!」』

 

 ロッソがウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツを押し返し、ダイヤが目元に力を込めてにらみつけた。

 

『「わたくしは、あなたには絶対に負ける訳にはいかなくなりました! スクールアイドルを――いいえ、アイドルそのものを馬鹿にしているあなたには!!」』

『なぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいッッ!!?』

 

 サルモーネはビキビキと血管が浮き上がるほどに発憤。

 

『この(アイドル)正義(ウルトラマン)の伝道師に向かって、何たる言い草だぁぁぁぁッ! 許さぁぁぁぁあああああああ―――――――――――んッッ!!』

 

 怒り狂ったウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツが、リングのスイッチを押してダークストビュームダイナマイトを発動。空中に浮かび上がる。

 

『紅にぃぃッ! 全て燃えて灰になれぇぇぇぇぇぇッ!!』

 

 上空からロッソへと突撃を掛けようとするウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ。

 

『今だッ!』

『「ええ!」』

 

 だがその瞬間に、ダイヤがクリスタルホルダーに手を伸ばした。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

 

 ホルダーから取り出したのは、先ほど克海たちが手に入れたばかりの土のクリスタル。それを指で弾いて、二本角を出してルーブジャイロにセットする。

 

[ウルトラマンビクトリー!]

 

 ダイヤの背後でVの字のカラータイマーを持つウルトラ戦士のビジョンが胸を張り、土が弾けた。

 

『纏うは土! 琥珀の大地!!』

 

 ロッソの合図の下に、ダイヤがジャイロのグリップを引いていく。

 

『「ダイヤッホー!」』

 

 高らかに叫んで三回目を引くと、ダイヤの周囲が渦巻く土で覆われた。

 

[ウルトラマンロッソ! グランド!!]

 

 土の力をその身に宿した琥珀色のロッソが、大地を砕いて立ち上がった!

 

『でゅわあぁぁ――――!』

 

 新たな姿となったロッソの中で、ダイヤは静かに向かってくるウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツを見据える。

 そして十分な距離まで引きつけてから、足元の地面を拳で叩いた!

 

「『グラビティホールド!!」』

 

 土が噴き上がってウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツを取り囲むと――その黒い肉体を、空中でビタッと止めて静止させた。

 

『う、動けな……!?』

『おおおぉぉぉぉりゃあああああッ!!』

 

 更にロッソが両の拳を振り下ろすと、高重力で身動きを封じられたオーブダークが土ごと地面に叩きつけられた!

 

『ぐはぁッ!? し、省略するなと……うおおおぉぉぉぉぉ!?』

 

 地面に押さえつけられるオーブダークは、最早顔を上げることすら出来ない。

 

『「克海さん! お姉ちゃん! すごい!」』

『全てをつなぎ止め、支え、守る。これが大地の力だ』

 

 ロッソが唱えると、ダイヤが固くうなずく。

 

『「わたくしたち人間も同じですわ。誰も一人で生きているのではない。互いに支え合いながら、明日を生きていく! 一人が集まり、皆で進む未来!」』

 

 ダイヤとルビィが声をそろえて、高々と謳った。

 

『「「ワンフォーオール!!」」』

『な、何を小癪な……ぬああぁぁぁぁッ!!』

 

 その場から一歩たりとも動けないオーブダークに、ブルがとどめの攻撃の準備をする。

 

『終わりにしようぜ!』

『「うんっ!」』

 

 ルビィが風のクリスタルから一本角を出して、ルーブスラッガーにセットした。

 

[ウルトラマンティガ!]

 

 ブルがX字に剣を振るい、交差した光刃に炎を乗せて撃ち出す!

 

「『ブリンガーフラッシュ!!」』

 

 オーブダークカリバーを杖にしてようやく立ち上がったオーブダークだが、その時には既に遅い。

 三枚の風と炎の刃が、オーブダークにぶち当たって回転し、偽りの光を引き裂いていく!

 

『ぐわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――ッッ!!!』

 

 オーブダークの肉体が粉々に砕け散って爆発し、宙を舞った魔剣がブルたちの背後に突き刺さり、そして消え失せていった。

 

 

 

「ぐッ……うぅぅ……!」

 

 オーブダークの身体を砕かれ、愛染の姿に戻されたサルモーネは、立ち上がることも出来ない状態ながら地面の上を這いずり、落としたオーブリングNEOを手に取ろうと腕を伸ばす。

 

「あ、あと少し……!」

 

 もう数センチで指が掛かる――その時に、克海の手がリングを掴んでサルモーネから遠ざけた。

 克海とともに、功海や黒澤姉妹、現場に駆けつけた曜たちも倒れたままのサルモーネを見下ろす。

 

「これでウルトラマンに……!」

「なッ!? か、返せぇッ! 私のリング……!」

 

 血相抱えて克海の足に腕を伸ばすサルモーネだが、その手の甲を、ガッ! と果南の踵が踏みつけた。

 

「ぐあぁッ!?」

「……」

「ひッ!?」

 

 果南から計り知れないまでの怒気をぶつけられ、怖気づくサルモーネ。だが果南は何の言葉も浴びせずに、唾棄するようにサルモーネから背を向けた。

 克海たちはリングを取り上げ、サルモーネの前から立ち去っていく。

 

「こいつは俺たちが預かる」

「もう二度と使わせねぇ」

「ま、待てぇ……!」

 

 サルモーネには彼らを追いかける力すら残っていない。

 そこに、克海たちと代わるように、聖良と理亞もやってくる。

 

「……私たちは、函館に帰ります。短い間でしたが、お世話になりました」

 

 聖良がペコリと頭を下げると――アイゼンアイドルスクールへの転入手続きの書類を、ビリビリに破ってサルモーネの目の前に投げ捨てた。

 理亞は、サルモーネを一顧だにもしなかった。

 

「――うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――!!」

 

 正義(リング)も、(アイドル)も一辺に失ったサルモーネの絶叫が、野原に響き渡った。

 

 

 

 数日後、綾香市の夏祭り。

 克海と功海は岸部から、海上に設置されたステージで歌い始めるAqoursを見つめている。

 

(♪未熟DREAMER)

 

「いや~、まぁ色々あったけどさぁ、終わり良ければ全て良しって感じだな。何もかも、丸く収まったじゃん」

 

 功海が快活に笑いながら、舞台上の『九人』に目を向ける。

 

「ああ。Aqoursは、これで本当の姿になったと言えるな」

 

 克海が温かい目で見つめるのは、舞台の中央の、鞠莉、ダイヤ、そして果南。

 

「けど果南が頑固にスクールアイドルを拒んでたのが、鞠莉のためだったなんてなぁ。克兄ぃも初めから言ってあげりゃよかったのに」

「あくまで部外者の俺が口を挟んだら、余計に話がこじれるかもしれないだろ? 果南ちゃんたち、かなりの意地っ張りだからな」

「それもそうかもな。でも、スクールアイドルのために留学の話を次々蹴ってた鞠莉のことを気に病んで、東京のイベントを口実に強引に活動打ち切るとか……三年生組は、色々とやることが極端だな。そのせいでめんどくさいことになるとか」

「まぁな……。だけど、やっとみんな素直になれたんだ。今までの分も取り戻すほど、みんな飛躍していくだろう」

 

 安堵の眼差しでAqoursの活躍を見守る克海。そこに功海がもう一つ尋ねかける。

 

「ところでさ、果南たちの元々のグループの名前もAqoursだったんだって? これって偶然なのか?」

「まさか。千歌たちが名前を決める時に、砂浜にいつの間のか書かれてたって名前……書いたの誰だと思う?」

「え? その時の果南の訳ないし、鞠莉も砂浜にはいなかったろうし……あッ、まさか!」

 

 ダイヤを見やる功海。克海はフッと破顔した。

 

「一番反対してるように見せかけて、一番応援してた訳だ。ダイヤちゃんは」

 

 

 

 ――アルトアルベロタワーの隠し部屋。サルモーネはクリスタルホルダーを前にして、プルプルと震えている。

 

「ワンフォーオールだとぉ……!? ちっくしょぉぉぉぉッ!!」

 

 怒りのままにクリスタルを弾き飛ばして八つ当たりしたサルモーネ。だがすぐに我に返ると、慌てて床に散らばった怪獣クリスタルを拾っていく。

 

「あぁぁぁごめんねごめんねッ!」

 

 クリスタルにペコペコ謝るサルモーネ。その背後から氷室が近寄り、彼に一枚のクリスタルを差し出す。

 

「社長、これを」

 

 氷室から、「獣」と書かれたクリスタルを受け取ったサルモーネの顔が、ニタリと歪む。

 

「そうだ……まだこいつがあった……!」

 

 ククク、とほくそ笑むサルモーネの背後で、氷室は眼鏡のレンズを怪しく光らせていた――。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

千歌「かんかんみかん! 今回紹介するのは『ウルトラマンビクトリーの歌』だよ!」

千歌「この歌は以前紹介した『ウルトラマンギンガの歌』と同じで挿入歌なの! タイトルの通り、ビクトリーさんが活躍してる場面で流されてたね」

千歌「だけど劇中で使用されたのは四回だけ。それも前半に集中してたから、「ギンガの歌」よりは印象に残ってないって人も多いんじゃないかな? でもシェパードンセイバーの初登場を盛り上げてくれたよ!」

千歌「歌詞は王道的なヒーローソング! それとビクトリーさんが地底人のビクトリアンのウルトラマンだから、大地とか地球とか、土に関する言葉がサビに使われてるね。ビクトリーさんのイメージにピッタリだね!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の歌は『未熟DREAMER』だ!」

功海「第一期第九話の特殊エンディングとして使用された歌だな! アニメ版において、初めて九人がそろったAqoursの初ライブ曲という大事な場面を飾った曲だぞ!」

克海「千歌たちは大きな壁にぶち当たったばかりで、三年生たちも未熟だった。それでも夢に向かって進んでいく決意をしたことを象徴する一曲だ!」

千歌「それじゃあ、また次回でね!」

 




果南「オーブダークを破って、克兄ぃたちも私たちも新しい一歩を踏み出した! だけどその矢先に、また大きな壁が! あなたは何者!?」
鞠莉「違う宇宙から来た!? ウルトラマンを知ってる!? 一体誰なんですかー!?」
果南「克兄ぃたちが負けたら、ジャイロを没収するって!? 何が目的なの!?」
鞠莉「次回、『彼らのSTART:DASHはまちがっているのか。』!」
果南「次回も、ハグしよっ!」


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彼らのSTART:DASHはまちがっているのか。(A)

 
※今回は拙作『やはり俺がウルトラマンジードなのはまちがっている。』を読まれていないと話が理解できない部分が多くあります。どうぞご了承下さい。



 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

???「自分で事故の原因を作ってヒーローを装う偽りのウルトラマン、オーブダーク。高海兄弟は猛特訓の末に、この偽者を倒すことに成功した。……しかし、二人がかりでようやく勝ててるようでこの先大丈夫なのか? ちょっと試してみるか……」

 

 

 

 内浦の町外れにある、人が寄りつくことのない山間部。

 

『――うわぁッ!』

『ぐわぁッ!?』

 

 ここで今まさに、ロッソフレイムとブルアクアが窮地に陥っていた。

 二人の攻撃を寄せつけず、圧倒的な破壊力で追いつめる巨大怪獣が、大口を開いて咆哮を発する。

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

 青い身体に、背面に翅と、腹部に縦列に牙が並んだ怪獣。その名もキングオブモンス! その巨体から繰り出される圧倒的パワーに押され、ロッソとブルは既にカラータイマーが点滅するほど消耗していた。

 

『くそッ、こいつ何て強さだ……!』

『このまんまじゃやべぇぜ、克兄ぃ……!』

『こうなったら、俺たちの力を合わせるしかない! 行くぞ!』

『ああ!』

 

 ロッソとブルは一発逆転のために、腕をそれぞれ十字とL字に組んだ。

 

『フレイムスフィアシュート!』

『アクアストリューム!』

 

 火炎弾と水の奔流が同時に発射される!

 が、その瞬間にキングオブモンスは羽からバリアを発して全身を包み、二人の攻撃を完全に受け流した。

 

『何!?』

『マジかよ!』

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

 動揺するロッソたちに、バリアを解除したキングオブモンスが口からクレメイトビームを放つ!

 

『『うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』』

 

 すさまじい爆発を引き起こす光線によって、ロッソとブルは弾き飛ばされた。

 

「ヴォオオオオオオオオオオ!」

 

 倒れた二人に、キングオブモンスがドスドスと地面を揺らしながらにじり寄ってくる。

 

『ま、まずい……!』

『万事休すかよ……!』

 

 立ち上がることもままならないロッソとブルは、せめて少しでもダメージを軽減しようと身構える。

 だが、もうこれまでと思われたその時に、キングオブモンスの身体がいきなり光に包まれて小さくなっていく。

 

『『は……?』』

 

 カード型の光にまで圧縮されると、そのままどこかへと飛んでいって消えていった。

 

『な、何が起こったんだ……?』

『さぁ……』

 

 突然の出来事にロッソとブルは全く呑み込むことが出来ずに、ポカンとするばかりであった。

 

 

 

 ――キングオブモンスが変じたカード型の光は、何者かの手が握る長方形の箱型の装置に吸い込まれていった。三つの窓が並ぶ、奇妙な機械だ。

 キングオブモンスを回収した手の主は、ハァと深いため息を吐き出す。

 

「全く……あんな調子じゃ、先が思いやられるな。……よし」

 

 正体の知れない男は一人ごちると、何かを思いついてうなずいた。

 そして、独特なデザインのサンダルを履いた踵を返して、山林の奥へと消えていった。

 

 

 

『彼らのSTART:DASHはまちがっているのか。』

 

 

 

 『四つ角』。どうにか命を拾って帰ってきた克海と功海は、千歌以外のAqoursメンバーを交えながら先ほどの戦いの反省会を行っていた。

 

「さっきの怪獣、一体どこに消えたんだろうな?」

「まさか、またサルモーネの仕業じゃ……」

「そんな……! こないだやっつけたばかりなのに!」

 

 梨子や曜はその可能性を危惧する。

 

「分からん。ただ一つだけ言えるのは、今までそうだったように、あの怪獣もきっともう一度現れるだろうってことだ。それまでに対抗策を考えておかないとな」

 

 そう述べた克海が、真剣な面持ちで功海に向き直った。

 

「功海。俺たちはオーブダークを倒すための特訓から、定期的にトレーニングをするようになったが、まだまだ付け焼き刃だ。ある意味、ようやくスタートダッシュを切ったようなもの。ああいう怪獣を難なく倒せるようになるまで、もっと力をつけないといけない」

「分かってるって克兄ぃ! 俺だって今は本気さ! この綾香市を守れるのは、俺たちしかいねぇんだからな!」

 

 強い気持ちを乗せて克海に応じる功海。それまではウルトラマンとしての自分たちをどこか軽く考えていた彼だが、オーブダークとの激闘を通じてこのことを重く受け止めるようになった。

 と、オーブダークの名前が出たことで、善子が思い悩むように口を開いた。

 

「ところで……あのサルモーネの奴、どうにかならないかしら。一度天誅を下したとはいえ、その後も変わらず人間界に野放しのままよ。あれで懲りたとは思えないし、いずれまた何かしでかすんじゃ……」

 

 それにダイヤも顔をしかめながら返答する。

 

「懸念は分かりますわ。ですが……残念ながらあの男には社会的地位がありますし、悪行を証明する手段がありません。大企業の社長が、ウルトラマンに変身して自演行為を働いていたなど、誰が信じるでしょうか。彼が利用するために集めていたというスクールアイドルも、そのことは誰も覚えてないようですし、特待生コースも形としてあります。証拠がないということですわ」

「下手に手を出したら、俺たちの首が締まるだけだな……」

 

 克海がうなり、功海も悔しげに頭をかきむしった。

 

「あーくそッ! 歯がゆいぜ……!」

「ぴぎぃ……」

「ずら……」

 

 ルビィと花丸も目を伏せる。

 空気が重くなるのを、吹き飛ばすように果南が声を上げた。

 

「あいつのことなんか考えてたってしょうがないよ! 克兄ぃたちの行動で救われた人たちがいるとか、もっと明るいことを考えよう! たとえば、Saint Snowの子たちとか」

 

 果南の言葉でルビィたちが顔を上げた。

 

「はい! 騙されてたあの人たちを助けられて何よりです!」

「思ったよりも礼儀正しい人たちだったずら」

 

 と花丸が苦笑を交えた。

 

 

 

 函館に帰るSaint Snowを克海たちが見送りした際に、聖良は彼らに向かってこう告げた。

 

『私たちは、A-RISEやμ'sと同じ場所に立つためには勝つ以外にないと思っていました。ですが……勝っていくことにこだわるあまり、あの男の本性に気がつけませんでした。恥ずかしい限りです』

 

 反省の意を示した聖良は、深々と頭を下げる。

 

『あなた方の熱意、見させていただきました。これまでの失礼は全てお詫びします』

 

 聖良の隣の理亞も、ぎこちないながらも頭を下げて克海たちに謝罪したのであった。

 

 

 

「……今度は、スクールアイドルの舞台で競い合いたいよね」

「今度は私たちも負けないわ!」

 

 曜と梨子が意欲を燃やしていると、

 

「ねーねー、みんな集まって何話してるの?」

 

 この場に千歌がひょっこりと現れたことで、克海たちは思わず慌てふためく。

 

「あッ! ああいや、ちょっとみんなに夏祭りのライブ良かったって……」

「も~、チカっちったら何言ってるのぉ?」

 

 克海がごまかしかけるが、鞠莉が千歌の後ろに回って肩に手を掛けた。

 

「ほえ?」

「そんなの決まってるじゃない。もちろん、ウル……」

「わぁー!!」

 

 鞠莉の言いかけた言葉を、梨子と曜が大声を発してかき消し、彼女の腕を左右から捕らえて千歌から遠ざけていく。

 

「鞠莉さん、ちょっとこっちに!」

「? 梨子ちゃん曜ちゃん、どうしたの?」

「な、何でもないんだ! 何でもないぞー千歌」

 

 首を傾げる千歌に、わたわたと手を振って注意をそらす功海。その間に、梨子たちが鞠莉にヒソヒソと囁きかけた。

 

「駄目ですよ……! 千歌ちゃんは、知らないんです! 克海さんたちのこと……!」

 

 それを聞いて、鞠莉がポカンと口を開く。

 

「え? 嘘でしょ? もう私たちみんな知ってるのに……よりによってチカっちだけ」

「千歌ちゃんだからこそです! 功兄ぃたち、千歌ちゃんだけには秘密にしてくれって……」

「千歌ちゃんにだけは、心配かけたくないからって……。だから、鞠莉さんもバラさないであげて下さい。いいですか?」

「まぁ、そういうことなら……。だけど、克海たちは本当にそれでいいのかしら……」

 

 鞠莉は承知しながらも、困った顔で千歌を必死にごまかす克海と功海を見やった。

 

 

 

 翌日。梨子と曜が一番にスクールアイドル部の部室へとやってくる。

 

「今のところ、怪獣は現れてないみたいだね」

 

 部室に向かいながら、曜がスマホで、ネットの怪獣情報を確認した。梨子はうなずきながら言う。

 

「もしまた出てきたら、克海さんたちのところへ急いで一緒に戦いましょう。この町は大事な場所……私たちの手で守らないと」

「うん! ……だけど」

 

 了承しながらも、曜はあることを気に掛けた。

 

「そうやって私たちが何度も抜け出てたら、千歌ちゃんも怪しむんじゃないかな……?」

「そうは言っても、他にやりようがないわ。でも、確かに隠し通せるかしら、秘密……」

「不安だね……。だけど、功兄ぃたちからのたってのお願いだもんね~」

「うん。聞かない訳にはいかないけど……はぁ、どうしたものかしら……」

 

 ため息交じりに部室に入ると……すぐに、室内に見慣れないものがあることに気がついた。

 

「あれ? 何か、人形が置いてある」

「あら、ほんと」

 

 中央の机の上にポツンと、女の子の人形が置かれているのだ。昭和期製作のような、随分と古めかしいデザインだ。

 

「誰が置いてったんだろ? 鞠莉さん?」

「そもそも、部室に人形なんて持ってくる人いるかしら?」

 

 訝しみながら、曜が人形を手に取った。すると、次の瞬間、

 

『宇宙指令M774。地球人に警告します。――なーんてな』

 

 人形が男の声で話し始めた。

 

「きゃあっ!?」

 

 驚いた曜たちが思わず人形を手放した。床に落ちた人形は、変わらず言葉を発し続ける。

 

『おいおい、投げるのはひでぇな。そこまで驚くこともないだろ?』

「お、驚くって! 人形がいきなりしゃべったら! ……って、これ何なの!?」

「これ……誰かが人形越しに話しかけてるの?」

 

 曜より先に冷静になった梨子が分析した。人形から声がしていると言っても、人形自体は微塵も動いていない。何故そんなことをするかは分からないが、人形を媒体にして何者かが声を飛ばしているようである。

 

『その通り。まぁ単純なトリックだな』

「受け答えした! こっちの状況も分かってるみたい……」

「あなたは誰なの!?」

 

 梨子と曜は得体の知れない人形を警戒しながら、姿の見えない男に質問する。

 

『俺のことは、ひとまずはいい。お前たち……もっと言えば、ウルトラマンロッソとウルトラマンブルに変身する兄弟に用がある者とだけ言っとく』

「! 功兄ぃたちのことを知ってる……!?」

 

 目を見張る曜。ロッソとブルというのは、克海たちが変身するウルトラマンの名前だということを当人らから聞いている。しかし世間に名乗ってはいないので、自分たち以外にその名を知っている者はいないはずだ。

 知っているはずがないことを知るこの男は、何者なのだろうか。

 

『知ってるのはウルトラマンだけじゃない。お前たちAqoursというグループが、兄弟に協力して戦ってるということも把握してる。いや、一人は違うんだったか?』

「そこまで知ってるなんて……!」

 

 梨子はますます警戒を深めた。とりあえず、誰かのいたずらなどではないことは確かだ。

 

『もう一度言う。俺はロッソとブルに変身する兄弟に用がある。邪魔が入らないところで、この二人と会いたい』

「そ、それなら功兄ぃたちに直接言えばいいのに」

『こんな回りくどい手段を取るのは、いきなり会って話をしたら、お前たちも警戒してろくな話が出来ないかもしれないからだ。一旦考えを整理する時間を置いた方が、話がスムーズに行くだろう。また、この話はウルトラマンの協力者のお前たちにも立ち会ってもらいたいから、先にお前たちとのコンタクトを図った』

「……克海さんたちに用があるというけど、それはどういう用事なの?」

『それは直接会ってからだ。まずは、こっちが指定する場所に来い。そこで待ってる』

 

 人形の胸が自動で開き、中から一枚の地図がヒラヒラと飛び出してきた。それをキャッチする曜。

 

『俺もそれなりに忙しい身なんでな、待つのは今日の間だけだ。来たくないなら来なくとも別にいいが、そん時は後々後悔することになると思うぜ? 今のところは、用件はそれだけだ。じゃあ待ってるからな』

「あっ、ちょっと!」

「話はまだ……!」

 

 一方的に話を打ち切る男の声を制止する曜と梨子だが、人形はそれきりうんともすんとも言わなくなってしまった。

 

「……何だったんだろう、今の」

「分からないわ……。でもただごとじゃない。このこと、克海さんや功海さん、みんなにも知らせなくっちゃ」

 

 非常に怪しい話であったが、とりあえずは報告することを梨子たちは決定した。

 それから、千歌が部室にやってくる。

 

「曜ちゃん、梨子ちゃん、お待たせー。って、あれ? その人形何? 何で床に落ちてるの?」

「さ、触っちゃダメ千歌ちゃん!」

 

 人形の存在に気づいて拾いかけた千歌を、曜が思わず止めた。

 

「え? どうしたの、二人とも? 何かあった?」

「う、ううん。何でもないのよ」

 

 キョトンとする千歌に、梨子たちが冷や汗をかきながらも首を振ってごまかした。

 

 

 

 その日のスクールアイドル部が終わると、梨子と曜はこのことを兄弟や仲間たちに知らせ、千歌には適当にごまかしながら密かに謎の男の声に指定された地点を目指していた。

 そこは、人が寄りつかないほどの綾香市の山地の奥深く。途中の開けた道までは車で移動し、閉ざされた山林の間は徒歩で移動していく。

 

「しっかし、俺たちに用があるっていうそいつは何者なんだ? 明らかにただ者じゃないよな……」

 

 克海とともに、曜たち八人を先導して草木をかき分けていく功海が疑問を口にした。果南は険しい表情で推測する。

 

「まさか、サルモーネが早速罠を仕掛けてきたんじゃ……」

「でも、声はあいつのじゃなかったよ。口調も違ってたし」

 

 と返す曜。サルモーネではないとなりながらも、克海が思案する。

 

「けど、ウルトラマンや俺たちのことにそんなにも詳しかったということは、普通の人間なんかじゃないだろうな。もしや、サルモーネと同じ宇宙人なんじゃ……」

「う、宇宙人ってそんなにいるんでしょうか……?」

 

 ルビィが少しおびえながら尋ね返した。

 

「分からん。宇宙に関しては俺たち、素人だからな……。功海は何か分からないか?」

「無茶言うなよ、克兄ぃ。俺だって宇宙人の実在なんて、最近までは信じてなかったんだぜ」

「ともかく、現時点では判断材料が少なすぎますわ。その声の主とやらと会わなければ、確かなことは何も言えません」

 

 ダイヤがそう言うと、鞠莉がうなずいた。

 

「そうね。まぁ、わざわざこちらにこうして考える時間を与えたということは、問答無用の敵意を持ってたりはしないでしょう」

「つまり、いきなり襲われる心配はしなくていいってことだな」

「ふっ……仮に宇宙人だとしても、この堕天使ヨハネの威光の前にひれ伏せさせてあげるわ」

「善子ちゃん、今は真面目な話ししてるずら」

「善子じゃなくてヨハネ! 悪かったわね、ふざけた人間で!」

 

 花丸に突っ込まれてむくれる善子を梨子がなだめたりしながら進んでいると、やがて一行の前に、山の奥深くには似つかわしくないようなものが現れた。

 

「ん? 何だ、この建物……」

 

 克海たちの前に建っているのは、閑静な雰囲気の一軒家。看板には『るぱぁつ屋』なる文字が書かれている。何かの店舗だろうか。

 

「こんな山の深くに、店……?」

「地図だと、待ち合わせ場所はここになってるぜ」

 

 山の中に存在する怪しい店に、一行は強く警戒する。しかしずっと突っ立っていても何も始まらないので、意を決して中に入ることとなった。

 

「いいかみんな。何かおかしいものを見たり感じたりしたら、すぐに外に逃げるようにしてくれ。みんなの安全が第一だ」

「はーい」

「よし……じゃあ功海、行くぞ!」

「合点!」

 

 克海と功海が玄関扉の前に立って、恐る恐るドアノブをひねって扉を開いた。二人の後に続いて、曜たちがゾロゾロ中に入っていく。

 

(♪ユキトキ)

 

 聞き慣れない歌がBGMとして流されている建物の内部は、更に異様な空間となっていた。

 

「うわッ!? 何か色々並んでるな……」

 

 四方の壁に取りつけられた幾段もの棚や台には、様々な物がところ狭しと飾られている。タコのぬいぐるみや『爆裂戦記ドンシャイン』なるヒーローっぽいキャラクターのポスターにDVDケース、やたら人相が悪い、左目の黒ぶちが星型になっているパンダの人形(しかもいくつも種類がある)と『ハロー、ミスターパンダ』『パンダズガーデン』というタイトルの絵本、『東京ディスティニィーランド』と書かれたタペストリー、『ジャンボキング』『タイラント』『キングオブモンス』という札がついた三つの怪獣のソフビ、などなど……。

 どれも兄弟やAqoursには、馴染みのないものであった。

 

「どういうお店なんだろ?」

 

 あまり統一性が見られない内装の数々に、ルビィが首をひねった。それにツッコミを入れる善子。

 

「そんなことはどうでもいいわ。私たちを呼んだ、この万魔殿の主はどこ?」

「万魔殿とはえらい言いようだな」

 

 いきなり、克海のものでも功海のものでもない、男の声がした。一同がバッと振り向くと、室内の奥にある半円形のテーブルの上座に、背もたれをこちらに向けている大きな回転椅子がある。それに座っている人物がしゃべったようだ。

 

「あんたか! 俺たちを呼んだのは!」

「誰だ! 顔を見せろ!」

 

 克海が言いつけると、椅子がクルリと半回転して、腰掛けている男の姿が露わになった。

 

「まぁそんなカッカすんなよ。いきなり呼びつけたのは、詫びてもいいぜ」

 

 容姿はほとんど普通の人間と変わりないが、瞳は透き通った紅玉色の若者。だが一番目を引くのは、テーブルの脚の間から見える、独特なデザインの金色のサンダルであった。

 

「見た目は人間だね……」

「でも、サルモーネも外見はそうだった」

 

 ヒソヒソ話し合う曜と果南。克海は姿を現した男に問いかける。

 

「あんたは何者だ」

 

 すると男は、手に持っていたマックスコーヒーの缶をテーブルにコトリ、と置いて、克海たちの顔を見回しながら名乗った。

 

「俺の名はデュエス。ルパーツ星人デュエスだ」

 



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彼らのSTART:DASHはまちがっているのか。(B)

 

(♪キボウノカケラ)

 

 店内のBGMが変わる中、克海たちは金色のサンダルの男と向かい合う。

 

「ルパーツ星人……?」

 

 自らをそう名乗った男に対して警戒を深める克海たち。一方のデュエスなる男は、対照的に自然体で続ける。

 

「宇宙人なんているはずが、なんて白々しいことは言うなよ。お前らは既に宇宙人と会ってるだろ」

「……!」

 

 どうやら愛染正義――サルモーネの正体のことも知っているようだ。ますます何者なのか。

 

「まぁ立ち話も何だ。そこに座りな。椅子は人数分用意したぜ」

 

 半円形のテーブルの円周には、ちょうど十人分の椅子が並べられていた。克海たちは依然警戒しながら、順々に腰を下ろしていく。

 

「兄弟は真ん中座れ。俺の正面」

 

 指示しながら、デュエスはテーブルに新しいマッカンを置く。

 

「飲むか? マッカン。別にんな警戒しなくたって、毒なんか入ってねぇよ」

「……」

 

 何で宇宙人がマックスコーヒー……と思っていると、デュエスは更に「銀河マーケット」と書かれたカゴの中に山積みとなった駄菓子を差し出してきた。

 

「菓子もいっぱい買ってきた」

「お菓子!」

「こら、おやめなさい! はしたないですわよ」

 

 ルビィと花丸が思わず身を乗り出したのを、ダイヤにたしなめられた。

 場が落ち着くと、克海が代表してデュエスに質問を投げかける。

 

「あんたが本当に宇宙人かどうかは置いといて……どうして俺たちのことに詳しいんだ?」

「そりゃあ、お前らがウルトラマンに変身するからさ。興味ぐらい持つ」

 

 あっさり答えたデュエスが、逆に聞いてくる。

 

「それより、お前らはウルトラマンがそもそも何なのか、ちゃんと知ってんのか?」

「いや……」

 

 首を振る克海たち。彼らはもう何回もウルトラマンに変身しているが、それがどういう存在で、どこから来たのかということに関しては何も存じない。サルモーネも、ウルトラマンを「正義のヒーロー」としていたが、詳しいことは何も話さなかった。

 

「やっぱりな。じゃあ教えてやるが、ウルトラマンとは端的に言えば、光を得て進化した超人類。そして宇宙のバランスの調停者だ」

「調停者……?」

「過去に様々なウルトラマンが、あらゆる次元宇宙の均衡を保ってきた。こことは別の宇宙……分かりやすく言えば、パラレルワールドでな。お前らが持ってるクリスタルに描かれてるウルトラ戦士も、別世界の地球を守護した奴らさ」

 

 功海が思わずクリスタルホルダーを取り出して、火や水のクリスタルのウルトラマンの絵を確かめた。

 

「そうなのか……!? パラレルワールドって……」

「完全にSFの世界になってきたね……」

 

 曜が横からクリスタルを覗き込みながらつぶやく。だが鞠莉はデュエスの言うことについて、半信半疑だ。

 

「あなたの言うことが、本当に真実だと?」

「別に信じたくねぇならそれでもいいさ。だが、かく言う俺も別の地球で、ウルトラマンと何人か関わったことがある」

「別の地球って……あの写真とか、そこで撮ったの?」

 

 善子が上座に飾られている写真の一枚を指差した。その中には、「銀河マーケット」というワゴン店の前でデュエスが、歳の頃はダイヤらと同じか少し上くらいの、やたらと目つきの悪い少年や、スレンダーな体型のクールビューティーという言葉がよく似合う長髪の美少女、善子のようなシニヨンをピンク色に染めたギャル風の少女、「THE SPACE AGE」とプリントされたシャツとデニムジャケットを羽織った青年、竹刀袋を担いだ女性と一緒に写っている。

 

「ああ……。あれは友達と撮った奴だ」

「友達?」

「大事な友達だ。ずっと暗闇の中にいた俺を、救い出してくれた」

 

 写真を見つめるデュエスの瞳には、感慨深い輝きが宿っていた。そこにどれほどの想いが込められているのか、事情を知らない克海らには想像がつかない。

 

「……それはいい。ともかく、ウルトラマンは宇宙の安寧を司る、責任重大の存在だってことさ。――だってのに、お前らは……」

 

 話を続けるデュエスの口調が、克海と功海をにらみながら徐々に荒立っていく。

 

「な、何だよ」

「お前らの戦いぶり見たぞ。ひどいのひと言だ。特に初戦! 何だあれ? いくらずぶの素人だからって、あれはねぇよ。自分らの命懸かってるって理解してたのか? 阿呆どもが」

「何だとぉ!?」

「い、功海さん、落ち着いて……」

 

 真正面から罵倒されて、短気な功海がいきり立つのを梨子がなだめる。が、

 

「その後も悲惨のひと言だ! よそ見するわ、私語が多いわ、戦いに不真面目だわ! 緊張感ってもんがないのかお前ら! 挙句の果てには、オーブダークとかいう見た目だけ取り繕った紛い物に二人がかりで負ける始末! お前ら俺が見てきたウルトラマンの中で、ぶっちぎりの最低だよッ! そもそも俺は、所用でここに来ただけでお前らに干渉するつもりなんかなかった! だがお前らがあんまりにも情けねぇから、喝を入れることにしたんだ! あんなザマでこの先やってけると、思ってんのかお前ら!?」

 

 怒鳴り散らした喉を潤すようにマッカンをグビグビ飲むデュエス。一方的な物言いに、功海たち以外も徐々に気分を害していく。つい先日に横暴極まるサルモーネと戦ったばかりなのでなおさらだ。

 功海と克海が眉間に皺を寄せて言い返す。

 

「そんなん、余計なお世話だっつーの!」

「そりゃ、俺たちがウルトラマンのことをどこか軽く考えてたのは認める。だけどあの敗戦で反省して、今は毎日トレーニングを重ねてる……」

「甘いッ!!」

 

 デュエスがドンッ! と缶ごとテーブルを叩いて克海の言葉をさえぎった。思わずビクリと肩を震わすルビィたち。

 

「このマッカンよりも甘めぇよ、お前らの考えなんか」

「……」

 

 上手いこと言ったつもりか、と内心ツッコむ善子ら。

 

「ダイエットじゃねぇんだぞ。これこれこういうことをすればオッケーですよなんてもんはウルトラマンにはねぇんだ。というかそもそも、そういうとこじゃねぇんだよお前らの問題は!」

「何?」

「お前らに欠けてるのは! 世界を守る使命を背負う正義を貫く茨の道を進んでく意志だ! 自分らの後ろに守らなきゃいけねぇもんがあるっていう意識だよ!」

 

 とのたまうデュエスに、ムッとして反論する果南。

 

「あんたに克兄ぃたちの何が分かるの!? 克兄ぃたちは、いつもみんなを助けようとがんばって……」

「気持ちだけじゃ足りねぇんだよ! こいつらにはな、覚悟がねぇんだ!」

「覚悟だぁ!? あるに決まってんだろ! 甘く見んなよ!」

 

 怒鳴り返す功海だが、デュエスはフンと鼻で笑った。

 

「つい昨日、俺のキングオブモンスに手も足も出せずにびびってたってのによく言う」

「あ!? あれお前の怪獣かよ!」

「もしも俺があの時本気で町をぶっ壊すつもりだったら、どうなってた? あの時それが考えられて、必死になれてたか? 覚悟っていうのはそういうことだ!」

 

 痛いところを突かれ、功海も克海もぐッ……とうなるばかりであった。

 そんな二人に代わり、ダイヤがデュエスをにらみつける。

 

「先ほどから聞いていれば、随分と偉そうなことばかり……。あなたがどのような人か知りませんが、ウルトラマンの何を知っていますの!?」

 

 するとデュエスはきっぱりと言い放つ。

 

「ウルトラマンはな、ただ敵を倒すだけじゃねぇ。世界中の人間を明日に導き、全てを救う存在だ。時には敵対する相手をもな」

「敵対する相手も?」

「そうだ。周りに馴染めないってだけで何もかもに絶望して全てをぶっ壊そうとするノミより弱い心の、手下に殿下なんて超痛てぇ呼び方させるようなろくでなしでどうしようもないド畜生のゴミクズ野郎をもだッ!」

「喩えがやたら具体的な上にすごい言いよう!?」

 

 ガーンとショックを受ける曜たち。一体過去にどんなことがあったのかは知らないが、モデルとなる人物がいて、その人と何かあったのだろうか。

 

「単に敵を倒しゃいいんなら極端な話、惑星ごとぶっ飛ばす超兵器でもありゃいいんだ! そうじゃねぇだろ!? ウルトラマンになる奴は、たとえ相手がどんな化け物だろうと、背にしてるものを護った上で、『倒す』んじゃなく『勝』たなきゃならねぇ! その修羅の道を突き進むには、決して折れない鋼の精神力が必要なんだ! 今のお前らにはねぇだろそれ! そんなことじゃあこの先に待ってる戦い、絶対生き残れねぇ! 断言してやるッ!」

「ぐぅ……!」

 

 厳しい言葉をひたすらぶつけてくるデュエスに歯ぎしりする克海と功海。そんな時に、梨子が問いかける。

 

「何で断言なんて出来るんですか? さっきからのあなたの口ぶり……まるで、これから起こるだろうことの予測がついてるみたいです」

 

 デュエスがむッ、と一瞬口をつぐんだ。

 

「もしかして、あなたは妖奇星……どうして最初のウルトラマンが地球に落ちてきたか、何でクリスタルになって分散したのか……1300年前に起きたことの真相を、掴んでるんですか?」

「……!」

 

 梨子が指摘した可能性に、曜たちは驚いて目を剥いた。

 対するデュエスは腕を組んで、しばし沈黙。そしてひと言発した。

 

「全てを、知ってる」

「!!」

 

 大きく息を呑む一同。次に続く言葉を、固唾を呑んで待つが、

 

「だが教えねぇ」

「何だよそれぇ!!」

「ケチずらー!」

 

 ガクッ! と一斉に肩を落とす功海ら。それに冷めた目を送るデュエス。

 

「何がケチだ! さっきも言ったが、俺は本来部外者だぞ。そんな俺から教えを乞うような心持ちでどうする! そんな甘ったれた精神じゃ、どの道話したところで何も変えられねぇぞ!」

「あーもうッ! 何なんだよお前ぇ! さっきから何も肝心なこと言わねーでこっちをなじってきてぇッ!」

 

 フラストレーションがたまり続ける功海が頭をかきむしった。いよいよ場は口喧嘩の様相になってくる。

 

「とにかくッ! 何が何でもこの星を護り抜こうって覚悟が決まらないんなら! ウルトラマン辞めちまえッ!! 俺がもっと相応しい奴を捜してやる!」

「余計なお世話だってんだよッ!」

 

 たまりかねた功海と克海がガタッと荒々しく立ち上がった。

 

「お前みたいな訳わかんねー奴の助けになるくらいだったら、覚悟ぐらい決めてやるよ!」

「あんまり俺たちをなめるなよ! この先何があったって、俺たちは地球でも何でも護ってみせる!」

 

 半ば勢いで宣言した二人。

 デュエスはそれを待っていたとばかりに、こちらも席を立った。

 

「言ったな? じゃあその言葉、本当かどうか試してやろう」

 

 と言い放って取り出したのは、表面に怪獣が描かれた小さなカプセル。

 

「イッツ!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 カプセルの側面のスイッチをスライドすると、怪獣の鳴き声がカプセルから発せられて、デュエスはそれを、腰に取りつけたホルダーに装填した。

 

「アワー!」

『ピッギャ――ゴオオオオウ!』

 

 更にもう一つカプセルを起動する。そちらに描かれているのは、克海たちが戦ったことのある黄色い怪獣だ。

 同じように装填ナックルに押し込むと、三つ目に赤と黒の握力計のような道具を取り出した。

 

「ショウタイム!!」

 

 そのアイテム、ライザーで二つのカプセルをスキャンするデュエス。

 

フュージョンライズ!

「おおおおおおおッ!」

 

 ライザーを横向きに胸の前に置くと、取っ手にあるトリガーを握り込んだ!

 

「はぁッ!」

 

 ライザーの液晶画面の螺旋が激しく回り、デュエスの左右に怪獣たちのビジョンが現れる。

 

ゴモラ! レッドキング!

ルパーツ星人デュエス! スカルゴモラ!!

 

 フランス人形とレコードプレーヤーに見守られながら、デュエスが怪獣のビジョンと融合して肉体を変貌。右腕を突き上げて飛び出していく!

 

「えっ!?」

「変身した!!」

 

 直後にズシィンッ! と外から響く轟音と震動。克海たちがそろって店から飛び出すと、山のような異形の巨体を見上げる形となる。

 

「ギャオオオオオオオオ! ピッギャ――ゴオオオオウ!」

「か、怪獣!」

 

 鞠莉たちの目の前に、ちょうど二体の怪獣――ゴモラとレッドキングが合成されたような大怪獣がそびえ立っている。デュエス融合獣スカルゴモラ!

 

『「さぁ、変身して戦え! 俺に負けたら、お前らの変身アイテムは没収だ!!」』

 

 克海たちを見下ろして豪語してくるデュエス。克海と功海は、この挑戦を迎え撃つ構えだ。

 

「要は、俺たちの力を見せろってことか!」

「だったら最初からそう言えってんだ! 回りくどい奴だぜ!」

 

 勇んでルーブジャイロを取り出す克海と功海。その側に、梨子と曜が並んだ。

 

「克海さん、私たちも一緒に!」

「私たちも、功兄ぃたちがダメじゃないってあいつに教えるんだから!」

「ありがとう!」

「よっしゃ行くぜ!」

 

 梨子と曜を後ろにしながら、兄弟がジャイロを前に突き出した。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 クリスタルホルダーから克海が水、功海が火のクリスタルを選択する。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

 

 それぞれ選んだクリスタルをジャイロにセット。

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

 

 水柱と火柱の二つが立ち昇り、その中からロッソアクアとブルフレイムが腕を振り上げて立ち上がる。

 

『『はッ!!』』

 

 変身を遂げた二人のウルトラマンが、スカルゴモラと相対して堂々と見得を切った。

 



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彼らのSTART:DASHはまちがっているのか。(C)

 

 変身して目の前に立ったロッソとブルに対して、デュエスが堂々と挑発する。

 

『「来いッ! お前たちの持てる力の全部、俺に見せてみろッ!」』

 

 そして猛然と突っ込んでくるスカルゴモラ。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 これを迎え撃つ姿勢のロッソ、ブル。

 

『そんなに言うんなら、遠慮なく行くぞ!』

『怪我しても文句言うんじゃねーぞ!』

 

 二人は早速角からスラッガーを引き抜いた。

 

「『ルーブスラッガーロッソ!!」』

「『ルーブスラッガーブル!!」』

 

 そして二人同時にスカルゴモラに肉薄し、剣を振り下ろす。

 

『『はぁッ!』』

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 だがスカルゴモラは両腕を振り上げて盾にして、二人の剣戟を受け止めた。厚い筋肉と固い皮膚は、刃を少しも通さない。

 

『はぁぁッ!』

『とあッ!』

 

 ロッソたちは一度剣を引いて、スカルゴモラの左右を取って相手のガードを抜けようとするが、スカルゴモラは鈍重そうな体格に見合わない巧みな身のこなしで刃をはね返し続けた。目を見張る曜。

 

『「は、速いっ!」』

『偉そうなこと言うだけあるってことかよ!』

『「どうした! 踏み込みが足りねぇぞぉッ! あいつのクローはもっと鋭かったぞッ!」』

 

 スカルゴモラの尻尾の振り回しが、ロッソとブルを打ち払う。

 

『うわッ! あいつって誰だよ!』

『わっけ分かんねーことばっか言いやがって! イライラすんだよそういうの!』

 

 体勢が崩れかけたロッソたちだが踏みとどまって、スラッガーを握り直した。

 

「功海さん! 克海さん! がんばルビィー!」

「梨子さんも曜さんも、ファイトずらー!」

 

 スカルゴモラ相手に奮闘するロッソたちをルビィと花丸が応援。その手をダイヤと善子が引いた。

 

「ここは近すぎて危ないですわ。一旦離れましょう」

「うんっ」

「ほらずら丸、早く!」

「待ってー善子ちゃん」

「だからヨハネよ!」

 

 善子たち六人が安全を取って、店の前から移動していった。その間に、曜がルーブスラッガーブルに風のクリスタルを装着する。

 

[ウルトラマンティガ!]

「『ブリンガーフラッシュ!!」』

 

 炎に包んだ三枚の光刃をきりもみ回転させながら、まっすぐにスカルゴモラへと飛ばす。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 だがスカルゴモラは太い二本角でブリンガーフラッシュを破砕した。

 

『マジかよ!』

『「次は私たちの番です!」』

 

 梨子が烈のクリスタルをルーブスラッガーロッソにセット。

 

[ウルトラマンゼロ!]

「『ゼロツインスライサー!!」』

 

 水の光刃がふた振り、スカルゴモラに襲い掛かる。

 だがこれもスカルゴモラの腕で打ち返された。

 

『効いてない! 何て奴だ……!』

『「まだまだぁ! 本物のウルトラマンの一撃は、もっと腕にビリビリ来るぞ!」』

『俺たちが本物じゃないって言いたいのかよ! くっそー……!』

 

 舐められるブルが悔しがりながら、ロッソの隣に並ぶ。

 

『克兄ぃ、真っ向勝負じゃ不利みたいだ。クリスタルチェンジだ!』

『よしッ!』

 

 梨子と曜がそれぞれ、土と風のクリスタルを取り出す。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

 

 クリスタルをジャイロにセットして、タイプチェンジを行う。

 

[ウルトラマンビクトリー!]

[ウルトラマンティガ!]

『纏うは土! 琥珀の大地!!』

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

 

 ロッソが琥珀色のグランド、ブルが紫色のウインドに変化した。

 

『今度はスピードで勝負だ!』

 

 ブルウインドが一足で高速に達し、スカルゴモラの周囲をぐるぐる回って竜巻を作り出す。グルジオボーンの動きを封じ込めたスパイラルソニックだ。

 

『「克兄ぃ、今の内に……!」』

 

 スカルゴモラの動きも封じて、ロッソへの連携につなげようとする。が、

 

『「甘ぁいッ!」』

 

 スカルゴモラは角からスカル超振動波を発すると、全身に駆け巡らせてから全方位に放出した!

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

『うわあああぁぁぁぁぁッ!?』

『「あうっ!?」』

 

 横から強烈な衝撃波を浴びせられ、ブルが吹っ飛ばされて竜巻がかき消えた。

 

『功海ッ!』

『「曜ちゃん!!」』

 

 横倒しとなったブルに叫ぶロッソ。次いでスカルゴモラをきつくにらむ。

 

『やりやがったなぁ……! これでどうだッ!』

 

 足元の地面を拳で叩いて、土を巻き上げて重力波を発生させる。

 

「『グラビティホールド!!」』

 

 高重力をスカルゴモラに負わせるロッソ。流石にスカルゴモラも立っていられず、うずくまったように見えたが、

 

『「甘いっつってんだよッ!」』

 

 スカルゴモラは鼻先の角を地面に押し当て、スカル超振動波を地面伝いにロッソへ飛ばす。

 

『ぐわああぁぁぁぁぁッ!』

『「きゃあああぁぁっ!」』

 

 重力を操っていたロッソはかわすことが出来ず、振動波をまともに食らって弾き飛ばされた。

 

『「その技は使ってる間、自分も動けねぇのが弱点だッ!」』

『くぅッ……!』

『ぐぅぅ……!』

 

 スカルゴモラになす術なくやられてばかりで、カラータイマーが危機を報じるロッソとブルの様子に、善子たちが焦りを浮かべた。

 

「ちょっと、これまずいわよ……! 審判が迫ってるわ……!」

「まさか、本当にジャイロ没収になっちゃうかも……!」

「だ、駄目よそんな! 克海、功海ー! 立ち上がってー!!」

 

 果南のつぶやきに身を震わせた鞠莉が、声を張って二人を励ます。

 しかしなかなか立ち上がれないロッソとブルを、スカルゴモラが見下した。

 

『「そんなもんなのか!? お前らの覚悟はッ!」』

『くッ……!』

 

 ギリギリと手の平を握り締めるロッソたちを叱咤するデュエス。

 

『「お前らがくじけるってことは、お前らが背にしてる人間たちの価値もその程度だってことだぞ!」』

『何!?』

 

 仲間たちは、ちょうどロッソたちの背後の方向に来ていた。思わず彼女たちに振り向く二人。

 

『「本当に大事だと思ってんのなら、死力を尽くし切ってでも戦えるはずだ! それに、お前らが今抱えてる娘たちも! そいつらはわずかな力しか持たなくとも、お前らのために立ち上がってくれたんだろ!? その気持ちが無駄なものだとするような、根性なしなのかお前らッ!」』

 

 厳しく叱りつけられたロッソとブルの目の色が変わり、全身に力がみなぎって立ち上がった。

 

『ほんと、言いたい放題言ってくれるぜ……! そこまで言われて奮起しなきゃ、男じゃねぇッ!』

『みんなの気持ちは無駄なんかじゃない! 意味があるものだと、俺たちが証明してみせるッ!』

 

 ロッソとブルが立ち上がったことに、ダイヤたちがわっと歓喜。

 

「そうですわ! 頑張って下さいまし!」

「逆転ホームラン狙うずらー! フレーフレー!」

 

 デュエスは纏う雰囲気が変わったロッソたちに、ニヤッと微笑む。

 

『「ちょっとはマシになったじゃねぇか」』

 

 梨子と曜はインナースペースから兄弟に呼び掛けた。

 

『「克海さん! 功海さん! 私たちだって一緒に戦います! 戦ってます! あなたたちのことは、私たちが支えてますから!」』

『「だから、どんな奴にも心で負けたりなんかしないってとこ、見せてやってよ!」』

『おっしゃあー! 任せてろッ!』

『本当の勝負はここからだッ!』

 

 ロッソとブルが気合いを入れ直したところで、梨子と曜は火と水のクリスタルをチェンジする。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

[ウルトラマンタロウ!]

[ウルトラマンギンガ!]

 

 火と水が背後で弾け、ジャイロを掲げる梨子と曜。

 

『纏うは火! 紅蓮の炎!!』

『纏うは水! 紺碧の海!!』

 

 ジャイロのグリップを引く二人。三回目で、気合いとともに叫ぶ。

 

『「ビーチスケッチさくらうち!」』

『「ヨーソロー!」』

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 梨子と曜が力を最も発揮できる形態となったロッソとブルが、右腕と左腕を振り上げて飛び出していく!

 

『『はぁーッ!』』

 

 覚悟を決めたロッソとブルへ、スカルゴモラが攻撃を再開。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 太い脚が地面を踏み鳴らすと、礫岩が複数宙に浮き上がり、それを火炎弾に変えて飛ばしてくる。

 

『うりゃあッ!』

 

 それをロッソが、ストライクスフィアの投擲で打ち落とす。この隙にブルがスカルゴモラの左側に回り込んでいく。

 

「『アクアジェットブラスト!!」』

 

 ブルの手の平から放たれた水流の勢いはすさまじく、横面に浴びたスカルゴモラが水圧で姿勢を崩した。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

『はぁーッ!』

 

 この瞬間にロッソが地を蹴り、スカルゴモラの顔面に炎に包まれたパンチを打ち込んだ。これを食らったスカルゴモラの身体が、初めて大きく傾く。

 

「やった! 通ったよ!」

「その調子デース!」

 

 ロッソとブルが巻き返し出したことで、果南や鞠莉が飛び跳ねた。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 スカルゴモラは着地したロッソを狙い、口からインフェルノ・マグマを吐き出した。

 

『とぁッ!』

 

 だがすかさずロッソの前にブルが回り込んで、水のバリアを張って火炎を受け止めてはね返した。スカルゴモラは自らの攻撃を腹に食らう。

 

「いいですわ! 流れを掴んでいます!」

「もう少し! ふんばルビィ!」

 

 戦況が逆転しつつあるロッソたちを、こちらも懸命になって応援するダイヤ、ルビィ。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ! ギャオオオオオオオオ!」

 

 しかしこれだけ戦っていてもスカルゴモラのスタミナは尽きず、スカル超振動波を纏って突進してくる。それをバク転で回避するロッソとブル。

 

『「まだまだだぁッ! 半人前の技じゃあ、この肉体を崩すには至らねぇぞ!」』

 

 デュエスの挑発に、覚悟を抱いたロッソとブルは毅然と返した。

 

『確かに俺たちはまだまだ半人前かもしれない! だがッ!』

『半人前と半人前が合わされば一人前ッ! いいや、それ以上になってみせるぜッ!』

 

 梨子と曜も固くうなずく。

 

『「一人だけじゃ小さい力でも、集めれば大きな力に変わる!」』

『「私たちみんなの力を一つにした攻撃、受けてみヨーソロー!」』

 

 ロッソが腕を十字に組んで火球を作り出し、ブルが両腕でL字を作って水の力をたぎらせた。

 

「『フレイム!!」』

「『アクア!!」』

「『「『ハイブリッドシュート!!!!」』」』

 

 炎と水が螺旋を作り、一本の光線に変わってスカルゴモラに猛然と向かっていく!

 

『「むんッ!」』

 

 スカルゴモラは四股を踏んで大きく腕を広げ、光線を真正面から受けた!

 

「『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――!!」』

「『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!!」』

 

 光線を受け止めようとするスカルゴモラだが、ロッソたちは更にエネルギーを注ぎ込んで光線の勢いを増す。

 

「ピッギャ――ゴオオオオウ!! ギャオオオオオオオオ!!」

 

 その結果、遂にスカルゴモラの胸をぶち抜いて爆散させたのだった!

 

『『いよっしゃあぁぁぁッ!!』』

「やったぁぁぁぁ―――――――――!!」

 

 見事な逆転勝利にロッソとブルが華麗にタッチを決め、仲間たちが諸手を挙げて喜ぶ。

 しかし、

 

『――まッ、及第点ってとこだな』

『んなッ!?』

 

 喜んでいるのに水を差すように、デュエスの声がどこからともなく、ロッソとブルに向けられた。

 

『今回のとこはこれでよしとしてやる。だが、釘を刺しとくとだな、まだこの程度じゃあはっきり言って不十分だ。これから先にお前らを、この星を待ってる運命を打ち破るには、全然だ』

『何だって!』

『ウルトラマンの光に限界はねぇ。自分らが持つ光を今よりもずっとずっと高め、秘める力の全てを出し切れるようになれッ! 最後にそれだけ言い残しとく』

 

 声が途切れると、『るぱぁつ屋』がある地点から突然、典型的なアダムスキー型円盤が浮上した。

 

『「うわっ!? UFOだ!」』

 

 ルパーツ星の円盤はそのままはるか上空へと飛翔していき、あっという間に大気圏から離れていった。

 ロッソとブルは、デュエスの去就をじっと見送った。

 

 

 

 その後、元に戻った克海と功海は梨子たち八人とともに、『るぱぁつ屋』があったところに引き返してきた。だが、

 

「あれ……なくなってる!」

 

 その場所は、最初から何もなかったかのように店が影も形もなくなっていて、ただの森林の中の開けた空間に変わっていた。

 

「随分退去が早いずら」

「本当に宇宙人だったのですわね……」

 

 今更ながらダイヤがぼやいていると、善子が店のあった場所の中央、半円形のテーブルがあった辺りを指差した。

 

「ねぇ、あそこに何かない?」

「あっ。確かに……箱みたいのが置いてある」

 

 近寄って確認する果南。草むらの上にポツンと、蓋に「お土産」と書かれた箱が放置されているのだ。

 

「お土産って……」

「中身を、確かめてみよう」

 

 功海たちが見守る中、克海が慎重に蓋を開けた。その中に入っていたのは――。

 

「クリスタル……?」

「けど、普通のと違げーぞ。何かいっぱいいる!」

 

 ウルトラマンギンガ、ビクトリー、エックス、オーブ、ジード。五人ものウルトラマンの胸像が円形の枠の中に詰め込まれた、「新」のクリスタルであった。

 克海と功海は一つの試練を経て、ニュージェネレーションズクリスタルを入手したのであった。

 

 

 

 その日の夜、克海と功海は『四つ角』で二人きりで今日の戦いを振り返る。

 

「あのデュエスという奴、もしかして俺たちのことを心配してあんなことしたんだろうか」

「全く、余計なお世話だっつーの。しかも自分たちの光を高めろ、秘める力を出し切れーなんてふわっとした表現じゃ、どうすりゃいいのか分かんねーって」

 

 功海が憎まれ口を叩いて肩をすくめた。

 

「そこは俺たち自身で考えろってことじゃないか?」

「そんなこと言われてなー。持てる力ねぇ……」

 

 腕を組んで考えた功海が、ふと何かを思い立って、あるものを取り出す。

 

「克兄ぃ、これ」

「ん? そいつがどうかしたのか」

 

 功海が出したのは――サルモーネが二度と変身しないようにと取り上げたオーブリングNEOだ。

 隠して仕舞っていたこれを見つめながら、功海がつぶやいた。

 

「もしかして、これってさ……俺たちでも使えるんじゃね?」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

梨子「ビーチスケッチさくらうち! 今回ご紹介するのは、『GEEDの証』です!」

梨子「この歌は『ウルトラマンジード』の主題歌で、お馴染みのvoyagerさんと、主人公朝倉リク役の濱田龍臣さんが歌ってます。主役の方が一緒に歌われるのは、近年ではままあるパターンですね」

梨子「歌詞はニュージェネレーションシリーズの例によく見られるように、本編の内容を強く意識したものとなっています。ジードは出生の時点で他人に利用された存在で、その運命を打ち破って一人のウルトラマンに成長していく物語だと、この歌は表してます」

梨子「第一話と第二話、そして最終話ではクライマックスシーンで挿入歌として流され、特に最終話では作品通しての最もインパクトがある場面を盛り上げてくれてます!」

克海「そして今回のラブライブ!の歌は『START:DASH!!』だ!」

功海「これはいつも紹介してるAqoursじゃなくて、μ'sの楽曲だな。アニメ『ラブライブ!』第一期の最重要シーンで使用された印象深い歌で、サンシャイン!!でも第一話で千歌たちがこれを聴いてる場面があるぜ」

克海「μ'sからAqoursをつないだ象徴とも言える。ラブライブシリーズにとっても、語る上で外せない一曲だな」

梨子「それでは、また次回でお会いしましょう」

 




鞠莉「浦の星も夏休み! 私たちAqoursは夏合宿を始めましたー!」
千歌「お兄ちゃんたちも休日! 海ではしゃいじゃうぞー!」
鞠莉「ですが、サルモーネはあきらめてません! また私たちの邪魔をしに来ます!」
千歌「うわぁっ!? また怪獣が出てきたよー!」
千歌「次回、『サンシャインぴっかぴか休日』!」
鞠莉「次回も、シャイニー☆」


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サンシャインぴっかぴか休日(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

鞠莉「遂にPerfect Nineとなり、新しいStartを切ったAqours! Orb Darkをやっつけた克海と功海もUltramanとして強い気持ちを抱いたけど、二人にダメ出ししてくる人が。でも克海たちは試練を乗り越えて、一層の成長を遂げたのです!」

 

 

 

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

『うわぁッ!』

 

 内浦の中心で、ブルアクアが怪獣の張り手を食らって吹っ飛ばされた。倒れた彼に代わるように、ロッソフレイムが突っ込んでいって前蹴りを浴びせる。

 

『ふッ!』

 

 ロッソとブルは、内浦に出現した怪獣ゴメス(S)を相手に交戦している真っ最中であった。

 

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

『ぐッ、ぐッ……!』

 

 ロッソに掴みかかってくるゴメス。その手を握り返して受け止めるロッソだが、ゴメスの想像以上の怪力に苦戦を余儀なくされる。

 

『これ以上持たないぞ……!』

 

 エネルギーの消費でカラータイマーが鳴り出し、残り時間の猶予がないことを表した。しかしこの間にブルが持ち直す。

 

『けど、やるしかないっしょ! 俺たちは、ウルトラマンだ!』

 

 気勢を吐くブル。その中の人物も、ブルの言葉に応じて大きくうなずいた。

 

『「うんっ! 最後まであきらめなければ、道は開けるずら!」』

 

 それは花丸! 花丸はクリスタルホルダーに手を伸ばし、中から土のクリスタルを取り出した。

 

『「セレクト、クリスタル!」』

 

 クリスタルから一本角を出し、ルーブジャイロにセットする。

 

[ウルトラマンビクトリー!]

 

 花丸の背後にビクトリーのビジョンが浮かび上がり、ジャイロを掲げる。

 

『纏うは土! 琥珀の大地!!』

『「お花ーまるっ!」』

 

 三回目のエネルギー注入で叫び、渦巻く土に包まれる花丸。

 

[ウルトラマンブル! グランド!!]

 

 琥珀色にチェンジしたブルが左腕を高々と掲げる。大地の力をその身に宿した、ブルグランドだ!

 

『「力がお腹から湧き上がるずら!」』

 

 大地の波動と同調し、ブルの力へと還元する花丸がふんすと鼻息を荒くした。ブルは片足をドンと振り下ろして全身に力をみなぎらせる。

 

『行くぜー!』

 

 全身でゴメスに向かって駆け出していき、ロッソが逃れた直後に飛び蹴りを炸裂させた。

 

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

 

 ブルのキックを食らって悶絶するゴメス。鉤爪の生えた手を振り回して反撃するが、ブルはゴメスをも超えたパワーで難なく押し返した。

 しかしこちらもカラータイマーが点滅を始める。

 

『次の一撃に全力を込めるぜ!』

『「分かったずら!」』

 

 花丸に合図すると、ブルは両腕に琥珀色の光を纏わせながら、その拳をハンマーのように振り下ろして足元の地面を思い切り殴りつけた。

 

「『アースブリンガー!!」』

 

 ブルが地中に送り込んだエネルギーが地表を伝ってゴメスに向かっていき、ゴメスの足元で一気に噴出した。

 

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

 

 下からの攻撃に大きくひるむゴメス。それを見てロッソが動く。

 

『次は俺たちの番だ!』

『「All right!」』

 

 呼びかけに応じたのは、ロッソのインナースペース内にいる鞠莉だ。

 彼女はホルダーから風のクリスタルを選び出し、二本角を出す。

 

『「Select, Crystal!」』

 

 それをジャイロにセットして高々と掲げた。

 

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

『「シャイニー☆」』

 

 エネルギーチャージしてロッソウインドへの変身を遂げると、ゴメスの周囲を風の速さで駆け回り出す。

 

「アアオオウ! アアオオウ!」

 

 ゴメスはロッソの動きに翻弄され、目を回してふらふらとなった。この隙に跳び上がるロッソ。

 

『今だ!』

『「OK! これを使いマース!」』

 

 そして鞠莉がオーブリングNEOに手を伸ばすと、握られたリングが光り輝き、鞠莉が中央のボタンを押して光の力を解放する。

 

「『スペリオン光線!!」』

 

 ロッソが左腕を横に、右腕を上に伸ばしてから両腕で十字を作ると、右手より光の奔流が発射され、ゴメスに命中!

 

「アアオオウ!!」

 

 これが決まり手となり、ゴメスは転倒しながら爆散。怪獣を倒すと、緊張が切れたブルがよろけるのをロッソが支えた。

 

『「大丈夫デスか?」』

『ああ、ありがとう』

『しっかり』

『「ふぃ~……ウルトラマンって疲れるずら」』

 

 花丸がどっと息を吐いていると、助けられた内浦の町の人たちがロッソとブルに向かって歓声を送る。

 

「やったー!」

「ありがとう、ウルトラマーン!」

 

 テレビのカメラマンは、健闘を称え合っているロッソとブルの姿をカメラに収める。

 

 

 

『二人のウルトラマンの活躍により、内浦は再び平和な日常を取り戻しました。しかし、またいつ怪獣が襲ってくるか分かりません……』

 

 ロッソたちの様子はテレビでお茶の間へと放送されているのだが、これを一人だけ憮然としながら観ている者がいた。

 

「あ~情けない。市民に疲れた姿を見せるな! 全くみっともない奴らだよ」

 

 サルモーネだ。頬杖を突きながら一人でぶつくさ文句をつけていると、ウッチェリーナが口を挟む。

 

[ですが、スピード、パワーは以前より飛躍的に上昇しています]

 

 だがサルモーネは鼻を鳴らすばかり。

 

「それがどうした。無様な勝ち方は、ヒーローの美学に反する」

 

 持論を述べていると、社長室に氷室が入室してきてサルモーネに報告した。

 

「社長。指示された書類、全て用意できました」

「うむ、ありがとう」

 

 簡潔に応じたサルモーネが立ち上がって自作のオーブダーク人形を掴み取る。

 

「前回はちょっとばかし頭に血が昇ってしまったが、やはりウルトラマンに相応しいのはこの私! 人々がヒーローに求めるもの、それは一度負けた逆境から這い上がる姿だぁッ!」

[いよっ! 憎いですねぇ~社長!]

 

 人形を片手に熱弁するサルモーネをウッチェリーナが囃す。

 このサルモーネの様子を、氷室が真顔で見つめていた――。

 

 

 

『サンシャインぴっかぴか休日』

 

 

 

 オーブリングNEO。これをながめる功海の顔がニヤニヤとにやける。

 

「これが俺たちの新しい力かぁ~……」

 

 サルモーネがオーブダークに変身する際に用いていたアイテム。これが自分たちでも使用可能と判明したことで、功海はご満悦だった。そんな彼の肩越しに、花丸や善子、ルビィ、曜がリングを見つめる。

 

「すっごい威力だったずら!」

「まさしく堕天の雷!」

「かっこよかったよねぇ」

「いいな~。私も使ってみたい!」

「こらこら。こういうのは、使う時が来ないのが一番よ」

 

 不謹慎な曜を苦笑して諫める梨子。そんな時に、リングを千歌が横からヒョイと取った。

 

「何これ~? あっ、分かった! フェイスローラーでしょ! 功海お兄ちゃん、何でこんなの持ってるのー?」

 

 勘違いして顔にリングを押し当てる千歌に、功海たちは大慌て。千歌からリングを取り返す。

 

「ち、違げーよ! これは大事なものなんだよ!」

「えー? ちょっとくらいいいじゃんケチー!」

「ち、千歌ちゃん、それよりお手伝い頑張りましょう!」

 

 梨子や曜が焦りながら千歌をリングから遠ざける。

 

「そうそう! 私たちでここ繁盛させて、いっぱい褒められようよ!」

 

 彼女たちが居間いる場所は、いつもの『四つ角』――ではなく、内浦のビーチに建っている海の家であった。格好も水着姿である。

 七月も後半に入り、浦の星女学院も夏休みとなった。Aqoursはダイヤの提案によって夏合宿を行うことになったのだが、千歌には内浦の自治体より海の家の手伝いがあった。そこでAqours全員で海の家を手伝いながら、その営業前後の時間にトレーニングを行うこととなったのである。

 克海と功海は、お盆の時期が来て『四つ角』が本格的に忙しくなる前に、英気を養うささやかな休日をもらったので、千歌たちの様子見がてらに海の家を訪れたのであった。

 

「……ダイヤちゃん。この日程って……」

 

 克海はダイヤから、手帳に記した合宿のスケジュールを見せてもらっているが、その内容に冷や汗を垂らしていた。

 

「これって本当にμ'sがやってたのか? 自衛隊員のトレーニングメニューが混ざってるんじゃ……」

 

 スケジュールの円グラフには、「発声」「ダンスレッスン」はともかくとして、「ランニング10km」「遠泳10km」「腕立て腹筋20セット」など、常識離れしたメニューが当たり前のように記載されている。これがそのままμ'sの合宿メニューだったということに半信半疑の克海だが、当のダイヤは信じ切っていた。

 

「間違いありませんわ! わたくしが独自のルートで入手した、確かな情報です!」

「マジか……。スクールアイドルって当時からすごかったんだな……」

 

 呆気にとられる克海に、鞠莉がパラソルの下から呼び掛ける。

 

「ね~え克海~。ちょっと来て~」

「ん? どうしたんだ、鞠莉ちゃん」

 

 妙な猫なで声に嫌な予感を覚えつつ、鞠莉に近寄っていく克海。

 

「スクールアイドルに、日焼けは天敵デース。だ・か・ら……」

 

 鞠莉は妖艶に言いながら、水着の肩紐をずらしてみせる。ブッ!? と噴き出す克海。

 

「日焼け止めクリーム、塗ってくだサーイ。スミズミまで☆」

「ちょっとちょっとぉーっ!?」

 

 誘惑を掛ける鞠莉に気づいて、梨子、ダイヤ、果南が真っ赤になってすっ飛んできた。

 

「鞠莉さん、何やってるんですか!」

「破廉恥ですわ鞠莉さんっ!」

「か、克兄ぃにそんなこと……! いくら鞠莉でもダメっ!」

「あら~? 私は克海を信頼して頼んだだけデースよ? みんな、一体どんな想像してるんデスか~?」

 

 にやにや笑う鞠莉。どうも彼女たちをからかうのが初めからの目的だったようである。

 

「嘘だっ! 絶対分かっててやった!」

「というより鞠莉さん、日焼け止めならさっき塗っていたじゃありませんか!」

 

 ぎゃあぎゃあ鞠莉に詰め寄る果南とダイヤの様子に、克海がやれやれと肩をすくめる。

 

「みんな、夏だからってはしゃいでないで、海の家を盛り上げてくれよな。客はみんな隣に行っちゃってるぞ」

 

 千歌たちの貧相な海の家の隣に立つ、お洒落な店は満席となるほどの繁盛ぶりを見せている。

 

「そ、そうですわ! あんな都会の刺客に負けてはいられません! わたくしたちが、この店の救世主となるのですわ!」

 

 大きく咳払いして話をすり替えたダイヤの先導の下に、Aqoursは海の家の盛り上げに着手し始めた。

 

 

 

「海の家でーす! 美味しいヨキソバありますよー!」

「堕天使の涙に、シャイ煮! ……は、ちょっとおすすめできないけど……」

 

 千歌と梨子はダイヤの指示で、客の呼び込みを行っている。その様子を、ヨキソバ片手にながめていた克海だが……。

 梨子の表情がいささか曇っていることを見て取って、梨子の元に近づいていく。

 

「梨子ちゃん、ちょっといいかな?」

「は、はい? どうかしましたか……?」

 

 梨子を海の家の裏へと連れていって、そこで話を切り出す克海。

 

「この間、君のお母さんから聞いたんだけど、ピアノコンクールの招待があったらしいね」

「!」

 

 そのひと言に梨子の顔が強張る。

 

「けど出るとも出ないとも言ってないらしいけど……。梨子ちゃんのことは、大体は千歌から聞いてる。元々、ピアノのために内浦に来たんだろ? コンクール、出なくていいのか?」

 

 と克海が聞くと、梨子はやや寂しげにしながら答えた。

 

「でも、その日はラブライブ予選があるんです」

「……被っちゃったのか」

「はい。それにこの内浦で過ごす内に、私の中でここやみんなの存在が大きくなって。だから今の私の目標は、ラブライブ予選を突破すること。だからいいんです」

「……君の中で決定してるのなら、それでいいんだが」

 

 と言いながらも心配そうな克海だが、今度は梨子の方から告げる。

 

「それより、功海さんのことこそ、気に掛けてあげた方がいいんじゃないでしょうか」

「え? 功海の?」

「功海さん、さっきからバイブス波を調べてばかりです。……ちょっと、根を詰めすぎじゃないかと思います」

 

 見ると、確かに功海がバイブス波の検知機をにらみながら辺りを歩き回っており、ビーチの客から怪訝な目で見られていた。

 

「あいつ……分かった。ありがとう」

 

 克海は梨子の元から離れて、功海の側に行って呼び掛けた。

 

「功海、せっかくみんなの海の家に来たんだ。少しは楽しもうぜ」

 

 しかし功海は強張った顔で反論する。

 

「俺たちにはウルトラマンとしての使命がある。怪獣は未だに出続けてるんだ。遊んでる場合じゃねぇよ」

 

 今までと一転して、今度は気負い過ぎている功海に、克海は苦笑して説得した。

 

「休憩も使命に必要さ。それに、高海功海と克海だ。みんなといる時間で、みんなを笑顔にするのは、他の誰でもない俺たちだよ」

「克兄ぃ……そうだな」

 

 克海の言葉で考え直し、功海は肩の荷を下ろした。

 

「とりあえず、何か食べようぜ」

「じゃ俺、堕天使の涙とシャイ煮っての食ってみてぇ!」

「ええ? やめといた方がいいと思うぞ……。すごい匂いしたし、価格設定メチャクチャだし」

 

 談笑しながら海の家の方に戻ってくると、曜が店から出てきて二人に尋ねかけてきた。

 

「功兄ぃ、克兄ぃ、千歌ちゃん見なかった?」

「え? 千歌?」

「クラスのみんなを呼んだって言ってたけど、なかなか来ないんだよね。それで見なかったかなって思ったんだけど……」

「いや? でも広いビーチじゃないし、遠くに行ってるとは思えないけど……」

 

 キョロキョロと周りを見回す克海たち。すると、ビーチの片隅に開かれているドリンクショップの出店を発見した。

 

「あれ? あんなとこに出店がある」

「どこの出した店だ」

「あっ、千歌ちゃん。みんなもいる!」

 

 曜がその出店の前で、千歌やクラスメイトらが誰かと談笑しているのを見つけた。その相手が誰なのかと、目を凝らしてみると……。

 

「……っていう訳でね、君のお兄さんたちに是非にと思ってるんだけど」

「えぇ~? それ本気なんですか?」

「すごいじゃん、千歌のお兄さん! 愛染さんから推薦なんて!」

 

 顔を確認した克海たちがギョッと目を剥く。

 

「サルモーネ!!」

 

 その名前を耳にしたダイヤたち全員も含めて、克海らは出店の方へ血相を抱えて走っていった。

 

「みんな何やってるの!?」

「あっ、みんな。このお店、愛染さんが経営してるんだって」

 

 何も知らない千歌はのんきに告げる。

 

「多角経営の時代だからね~」

「愛染さん、良かったらウチの海の家にも来て下さい!」

「駄目っ! 千歌ちゃん離れて!!」

 

 無防備にサルモーネに近寄ろうとする千歌や浦女の生徒たちを、梨子たち総出で引き離した。

 

「ち、ちょっとみんなどうしたの!? 愛染さんに失礼だよ!」

 

 千歌と友人らが、サルモーネに敵意を向ける梨子たちに目を丸くした。

 

「愛染さんに変なことしたら、ラブライブでも良くない印象持たれちゃうかもよ?」

「愛染さん、怪獣の被害に遭った人たちにも義援金をたくさん出してくれてるんだよ! 失礼なことしちゃ駄目だよ!」

 

 違う。この男こそが、怪獣という恐怖と混乱をもたらしている元凶なのだ――。そう打ち明けることが出来なくて、曜たちは歯噛みする。

 克海と功海は千歌たちをかばうように前に回って、サルモーネをにらんだ。

 

「千歌に何の用だ!」

「いやいや、ちょっと雑談をしてただけだよ。用があるのは、君たちの方」

「俺たちにだとぉ!?」

 

 サルモーネはひょうひょうとした態度で、脇のカバンから書類を何枚か取り出した。

 

「ウチのアイゼンテックがシリコンバレーに支社を出すことになってねぇ。そこの研究員に、功海君を推薦したい!」

「何!?」

「克海君には、海外宿泊施設部門のジェネラルマネージャーの椅子を用意した!」

「何だと……!?」

「そうそう。Aqoursのみんなにもある。先日は、とっても刺激的な体験だったからねぇ~。みんなのこと、すっかり気に入っちゃったよ!」

 

 あまりにも白々しいことを述べるサルモーネに、ダイヤが舌打ちした。

 

「だから君たちがアイドルとして飛躍するように、本場ハリウッドのタレントスクールへの留学の推薦を持ってきたんだぁ! どうかね?」

「え……」

 

 今の話に、千歌が真顔となった。しかし周りの生徒たちはわっと興奮。

 

「すごい! ハリウッドなんて!」

「まさか、浦の星からハリウッドスターが誕生しちゃうの!?」

 

 Aqoursを置いてノリノリの生徒たちだが、果南や曜は歯を剥き出しにしてサルモーネに怒鳴り返した。

 

「誰があんたの推薦なんかっ!」

「人を馬鹿にするのも大概にしてよっ!」

 

 うなる曜を友人らがなだめようとする。

 

「ちょっとちょっと!? 落ち着いてよ! どうしちゃったの!?」

「こんなビッグチャンス、二度とないかもしれないんだよ!?」

 

 本当のことを知らないのでうろたえる浦女の生徒たちと対照的に、サルモーネは余裕たっぷりに大笑いした。

 

「いやいや。急な話で戸惑うのは当然だ! ちょっと、私たちだけで落ち着いて話をさせてもらえないかな?」

 

 

 

 ビーチから離れ、人気のないところまで移動した克海たちは、敵意を剥き出しにしながらサルモーネと面と向かっていた。

 上を羽織った鞠莉たちが、サルモーネに詰問する。

 

「あれは何の冗談なの!?」

「冗談なんてひどいな~。書類は正式なものだよ?」

「ふざけないで! どうせ、ヨハネたちが邪魔だから海外に飛ばしてしまおうって腹でしょ!」

 

 断固拒否の姿勢を見せる善子たちだが、サルモーネは大仰に肩をすくめた。

 

「君たち、よく考えてごらんよぉ。君たちがさ、これからもウルトラマンとしていつ起こるかも分からない戦いに臨んでいけると思ってる? 功海君は、勉強はどうするの? 克海君、旅館は? Aqoursは、ラブライブほっぽり出すのぉ?」

 

 おちょくるようになじってくるサルモーネに、克海たちが毅然と言い返した。

 

「それでも、俺たちはウルトラマンだ!」

「そんなこと、お前なんかには関係ねぇよ!」

「ラブライブ優勝も、克海さんたちを支えることも、どちらもやり遂げてみせますわ!」

 

 ダイヤが代表して突っ返すと、サルモーネはむしろその言葉を待っていたとばかりにニヤリと笑った。

 

「へぇ~、言うねぇ。それではぁ、君たちが本当にウルトラマンとして私より相応しいか、最終試験を行います!」

「はぁ!?」

「何するつもりだ!」

「じゃ、始めますッ!」

 

 克海たちへのサルモーネの返答は、取り出したAZジャイロと「獣」のクリスタルだった。

 

「なッ……!」

「やめなさいっ!」

 

 果南が身を乗り出したが、既に遅かった。

 

ホロボロス!

 

 サルモーネは素早くクリスタルをセットし、ジャイロを三回引く。直後に、どこからかすさまじい音量の獣の咆哮のような声が轟いた。

 

「何今の!?」

「あっ! あそこです!」

 

 ルビィが指差した先。そこに、

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 小山の頂上に、青い肌で白い体毛を生やした、狼とも虎ともライオンともつかない巨大猛獣が遠吠えを発していた!

 



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サンシャインぴっかぴか休日(B)

 

 サルモーネによって召喚された巨大な猛獣に、曜や梨子たちが目を見張る。

 

「何あれ! 狼!? ライオン!?」

「怪獣だわっ!」

 

 巨大猛獣は山の頂上から一足飛びで、内浦の真ん中に着地する。怪獣の出現に、内浦は一気にパニック状態となった。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 克海たちが猛獣に気を引きつけられている間に、サルモーネは飛行装置を背負っていた。

 

「豪烈暴獣ホロボロスだ。強いぞぉ~? あれに勝てたら、認めてあげてもいいよ。じゃ、がんばってねー♪」

「ま、待てっ!」

「怪獣を消してっ!」

 

 果南やルビィがサルモーネを捕まえようとしたが、サルモーネは空中に飛び上がり、彼女たちの手の届かないところへと逃げていってしまった。

 

「くそッ……! 怪獣もジャイロで呼び出してたのか!」

「あれも取り上げとくんだったぜ!」

 

 後悔する克海と功海に、ダイヤと善子が駆け寄る。

 

「今は怪獣を止めるのが先ですわ! あれが暴れ出す前に、早く!」

「あのサタンの使徒の思惑を粉砕するのよ!」

「ああ!」

 

 克海と功海は拳を打ち鳴らし合い、ルーブジャイロを取り出した。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 克海がクリスタルホルダーから火を、功海が水のクリスタルを選択する後ろで、ダイヤが後ろ髪をかき上げ、善子が右目元にブイサインを置く。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

 

 兄弟がジャイロにクリスタルをセットし、タロウとギンガのビジョンを呼び出す。

 

[ウルトラマンタロウ!][ウルトラマンギンガ!]

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「纏うは水! 紺碧の海!!」

 

 クリスタルの力で、ダイヤと善子と変身したロッソとブルが、怪獣ホロボロスの正面に着地。その様子を、固唾を呑んで見守る梨子たち。

 

『「町には人がいっぱいいるわ! 早く裁きを下してしまいましょう!」』

『よ~し……!』

 

 ホロボロスが動き出す前に、ブルが速攻を決めようとするが、それを制止するロッソ。

 

『「お待ちを! あの怪獣、恐らくサルモーネの切り札。ひと筋縄ではいかないでしょう……!」』

『俺たちから行く……!』

 

 ホロボロスの動きを警戒しながら、ロッソがジリジリと間合いを図り合った。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 

 

 戦いを一望できるビルの屋上まで移動してきたサルモーネは、飛んできた自社の飛行船をバックに、レポート用紙とペンを取り出してロッソたちの戦闘を観察し始めた。

 

 

 

 ダイヤは開幕早々にオーブリングNEOを取り出す。その手に握られたリングが光り輝き、ダイヤの指がスイッチを押した。

 

「『ゼットシウム光線!!」』

 

 ロッソの右腕に光と闇の稲妻が纏わりつき、両腕を十字に組んで光線にして発射する!

 光線はホロボロスに直撃し、その全身を爆発が呑み込んだ。

 

『やったか!?』

 

 必殺技が決まったことで一瞬安堵したロッソとブルだが……。

 

『「……待って! いないわ!」』

 

 善子が叫んだ通り、硝煙が晴れると、ホロボロスの姿が忽然となくなっていた。爆散した痕跡もない。爆発に乗じてどこかに隠れたのだ。

 

『どこ行った!?』

 

 背中合わせになって周囲に目を走らせるロッソたち。だが、あの巨躯にも関わらずホロボロスの影すら見つけ出すことが出来ない。

 

 

 

「いきなりの光線は往々にして失敗しがちだ! 光線の扱いバツ!」

 

 サルモーネがレポート用紙の項目の一つに大きなバツ印を記した。

 

 

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 必死に周りを警戒するロッソとブルの耳に、ホロボロスの吠える声が聞こえる。しかし姿が見えない。

 

『「どこですの……!?」』

 

 冷や汗を垂らすダイヤの視界の端に、青い影が一瞬だけ入り込んだ。

 

『「あそこ! 今山の後ろにいたっ!」』

 

 指差す善子。ホロボロスは内浦を囲む山々や、ビルの陰から陰を移動しているようだ。だがロッソたちの目は、残像しか捉えられない。

 

『速い……!』

『どこに隠れたんだ……!?』

 

 ホロボロスの隠れ場所を見つけられず、立ち往生するロッソとブル。下手に動けば不意打ちをもらうかもしれないが、かと言って見境なく周りを攻撃できるはずもない。最初の攻撃は悪手であった。

 焦るブルの視界の端に、青いものが動いたように見えた。

 

『あそこかッ!』

 

 振り返ったブルの視線の反対側から、ホロボロスが飛び掛かってくる!

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『うわぁッ!?』

 

 押し倒されるブル。ホロボロスは彼に馬乗りになって、前足の太く頑強な爪で激しく殴打してきた。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『ぐあッ!』

『「くぅぅっ! 地獄の番犬め……!」』

 

 ホロボロスを押しのけようとするブルだが、ホロボロスの筋力はすさまじく、まるで抵抗できない。

 

『「おやめなさい!」』

 

 ブルと善子を助けようと、ロッソがホロボロスの背中に飛びついて跨り、首を引っ張る。

 

『大人しくしろッ!』

 

 ロッソが後ろからホロボロスの頭を叩くも、ホロボロスは全く応えない。それどころか上半身を振り上げ、ロッソを振り払った。

 

『うわぁッ!』

 

 仰向けに倒れたロッソの方にホロボロスが飛びつき、喉笛に噛みつこうとするのをロッソが必死で食い止める。

 

『「うっ……!」』

 

 喉を噛み千切られる恐怖が目前に迫り、ダイヤのこめかみに嫌な汗が流れた。

 

「お姉ちゃん……!」

 

 ロッソたちの苦戦に、ルビィたちはもちろん、ビーチの千歌たちも焦燥を浮かべる。

 

『「克海たちが危ない!」』

『力技じゃ駄目だ!』

 

 ふらつきながらも立ち上がったブルが、角からルーブスラッガーを抜く。

 

「『ルーブスラッガーブル!!」』

 

 更に善子が土のクリスタルをスラッガーに装着する。

 

[ウルトラマンビクトリー!]

 

 ブルが剣をVの字に振り上げると、そのラインに沿って土のエネルギーが並ぶ。

 

「『グラビティスラッシャー!!」』

 

 土の破片を斬撃にして飛ばし、ロッソを襲うホロボロスに食らわせた! ホロボロスの力が弱まった隙にロッソが逃れる。

 斬撃の連発を食らったホロボロスが倒れ込んだ。

 

『「決まったわ!」』

 

 ぐっと手を握る善子だったが……倒れたのは一瞬だけで、ホロボロスはすぐにブルに詰め寄ってきた!

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『うわああぁぁぁッ!』

 

 猛烈な勢いの突進を食らい、吹っ飛ばされるブル。ロッソが追撃されないように彼の前に急いで回り込んだ。

 

『「大丈夫ですの!?」』

『「う、うぅ……!」』

 

 

 

「効いてないかもしれないんだから、必殺技の後も油断しない! 警戒心バツ!」

 

 サルモーネが別の項目に新たにバツ印を書き加えた。

 

 

 

 ブルを助け起こしたロッソは、彼に指示を出す。

 

『クリスタルチェンジだ!』

 

 ダイヤと善子が、ホルダーから別のクリスタルを取り出した。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

[ウルトラマンビクトリー!]

[ウルトラマンティガ!]

 

 ダイヤが土、善子が風のクリスタルをジャイロにセットした。

 

『纏うは土! 琥珀の大地!!』

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

『「ダイヤッホー!」』

『「堕天降臨!」』

 

 クリスタルチェンジで、ロッソとブルはダイヤと善子の得意とする形態に変身する。

 

『「ここからが本番ですわ!」』

『「堕天使の風を見せてあげる!」』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ホロボロスは変身したロッソたちに猛然と突撃してくる。ブルは両手に風を纏わせ、それに向けて一気に放出した。

 

「『ストームフォース!!」』

 

 放たれた突風がホロボロスの突進を止める。

 

「ウ……ウオオオオ……!」

 

 あまりの風速と風圧に、さしものホロボロスも前に進めなくなって後ろに引きずられる。この隙を突いて、ロッソが手を横に動かして空中に土の塊を五つ作り出し、一個の巨岩に纏めた。

 

「『グランドコーティング!!」』

 

 土の塊を投げつけると、ホロボロスの全身を土が固め、完全に身動きを封じ込んだ。

 

『「今の内ですわ!」』

『ああ!』

 

 土の中に閉じ込めたホロボロスをロッソが念力で封じている内に、ブルが上空に飛び上がって光線の発射用意を行う。

 しかしホロボロスはその状態で暴れ、拘束から脱しようとしている。

 

『くッ……何て奴だ……!』

『「そうは行きませんわよ……!」』

 

 念力を発する手が震えるロッソだが、ダイヤの尽力で抵抗を続ける。その間に、ブルが渾身の一撃を繰り出した!

 

「『ストームシューティング!!」』

 

 風の光線がホロボロスにクリーンヒット!

 

『よっし!』

『「いくら何でも、これで……!」』

 

 全力を叩き込んだ善子が額の汗をぬぐうが、

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 これでもホロボロスは倒れず、大ジャンプしてブルに一回転からのかかと落としをお見舞いした!

 

『うわあああぁぁぁぁぁ―――――――!!』

『「きゃああああぁぁぁぁぁっ!!」』

 

 痛恨の一打を脳天に食らい、地面に真っ逆さまに叩き落とされるブル。

 

『功海ぃッ!!』

『「善子さんっ!!」』

『「よ、ヨハネよ……!」』

 

 大ダメージをもらいながらも、善子が残る力を振り絞ってブルにエネルギーを分け与え、どうにか立ち上がらせる。しかし戦闘が長丁場になっていることで、カラータイマーが点滅して限界が近いことを報せた。

 

『まずい、もう時間が……!』

『「早く決めないとっ!」』

 

 焦った善子がオーブリングNEOに手を伸ばした。掴んだリングが光り輝き、ボタンを押して光のエネルギーをスパークさせる。

 

「『スペリオン光線!!」』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 だがリングを使った攻撃は既に見切られており、光線はホロボロスの爪で弾き返された。

 しかも流れ弾が当たったビルが吹き飛び、ビーチに落下していく!

 

「きゃあああ―――――――!?」

『しまった!!』

 

 ビーチに残っている千歌たちが悲鳴を上げた。ブルは高速移動で彼女たちの前に回り込み、ビルの残骸を受け止めて助ける。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 しかし直後にホロボロスが横から突進してきて、ブルをはね飛ばした!

 

『うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――ッ!!』

「功兄ぃぃぃぃぃ―――――!!」

「善子ちゃんっっ!!」

 

 絶叫する曜たち。

 これがとうとうとどめとなり、ブルはエネルギーを使い果たして消え去っていった。

 

『この野郎ぉぉッ!』

『「いい加減になさいまし! この狂犬っ!」』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 怒ったロッソがホロボロスに飛び掛かるも、後ろ蹴りで返り討ちにされる。

 

『ぐッ、俺たちもエネルギーが……!』

『「こうなれば、残った力を全てぶつけましょう!」』

 

 最早活動時間の猶予が残されていないロッソは賭けに出て、頭上にエネルギーの全てを注ぎ込んだ巨大な土のボールを作り出す。これをぶつけて、異様なタフさのホロボロスを一気に押し潰すつもりだ。

 

『食らえ……!』

『「ま、待って!」』

 

 だがいざ放とうとしたその時に、ダイヤが血相を抱えて止めた。

 

『「ここからだと、千歌さんたちを巻き込んでしまいます!」』

『あッ……!』

 

 ホロボロスはビーチを背にしており、巨岩を投げつけようものならそこにいる人たちにまで攻撃が当たってしまう! ロッソの手が止まる。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 その隙を突かれ、接近してきたホロボロスの固い爪がロッソを殴り飛ばした。

 

『ぐわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――ッ!!』

「克海さぁんっっ!!」

「お姉ちゃあああ―――――――んっ!!」

 

 ロッソもまたエネルギーを使い果たして斃れ、消え去っていった。

 

 

 

「他人をかばって自分がやられてたら、その後誰が戦うんだぁぁぁぁぁぁッ! 判断力バツバツバぁぁぁぁぁぁツッ!!」

 

 サルモーネが癇癪を起したように用紙に滅茶苦茶にバツを書き込んで、フンッと鼻息を吹いた。

 

「決まりだな」

 

 

 

「うッ、うぅ……!」

 

 活動時間の限界を超え、変身が解けた克海と功海は道路の上に倒れ込んでいる。その側には、ダイヤと善子が力を使い果たしてぐったりと気を失っていた。

 

「みんなぁっ!」

 

 そこに果南たちが急いで走ってくるが、彼女たちの到着より先に、投げ出されたオーブリングNEOを拾う者が現れた。

 

「サルモーネ……!」

「『負け犬のわおーん』」

 

 もう立ち上がる余力もなく、サルモーネを憎々しげに見上げるしかない克海と功海に、サルモーネは目の前に短冊を投げ捨てた。

 

「ヒーローは遅れてやってくるんだよ。つまり……君たちは前座ッ! ウルトラマン失格ぅッ! もう変身しちゃダメだからねぇッ!!」

「それを返しなさいっ!」

「おっと」

 

 果南が駆け込んでリングを奪い返そうとしたが、サルモーネはひらりと身をかわした。

 

「ハハハッ。君たちはぁ、スケールが小さいんだよ。町を守る? 学校を守るぅ? ウルトラマンもアイドルも、もっと広い世界を舞台に活躍するものだよ。んんぅ?」

「……あなたは、何のために戦うというの!?」

 

 鞠莉がキッとにらみつけて問い返すと、サルモーネはにやついて答えた。

 

「誰のためでもなぁい。強くてかっこいいヒーローは、誰の心にも希望を与えるのさぁ」

 

 文句が美しいだけの、何の重みもない言葉であった。

 克海と功海が梨子たちに介抱されながら、サルモーネに侮蔑を向ける。

 

「お前には、守りたいものがないのかッ!」

「哀れな奴だ……!」

 

 サルモーネは二人に、せせら笑いで返した。

 

「すぐ隣にいた人すら守れなかったのに、なーに言ってるんだか。まッ、どっちが正しいか、じっくり見物してるといい。あッ! 就職と留学の件、決心ついたら連絡してねぇ~!」

「待ちなさいっ!」

 

 背を向けて立ち去ろうとするサルモーネを捕まえようとする果南だが、その前にホロボロスが飛ばした瓦礫が降ってきて足止めされてしまった。

 

「うわっ!」

「果南ちゃん危ないっ!」

 

 咄嗟に果南を引き戻す曜。瓦礫の向こう側から、サルモーネが最後にひと言吐き捨てた。

 

「あばよ」

 

 

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

「うわあああぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!」

 

 ロッソとブルを打ち負かしたホロボロスは山の頂上に飛び乗って、遠吠えを発して内浦中を威圧する。怪獣の猛威に、町中の人々が恐れおののき逃げ惑う。

 サルモーネはその逃げる人波の間を格好つけて逆行していた。

 

 

そ  ウ

れ  ル

は  ト

正  ラ

義  マ

を  ン

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完 負 求  人 絶 こ

全 け め  々 望 の

無 て て  の の 地

欠 も い  祈 中 球

の 尚 る  り ` を

ヒ 立    の   守

| ち    声   る

ロ 上    が   唯

| が    聞   一

を る    こ   無

       え   ニ

       る   の

           存

           在

 

 

「そのヒーローこそ私! サルモーネ・グリルドだ!」

 

 サルモーネはドリンクショップの出店まで戻ると、テントの中に隠れて椅子にドカッと座り込んだ。

 

「今こそ全世界待望! ウルトラマン伝説の幕開けの時なのだぁーッ!!」

 

 サルモーネが握ったリングが闇に染まり、中央のボタンが押される。

 

「絆の力……お借りしまぁすッ!」

 

 リングの力を使い、サルモーネが闇のウルトラマンに変身する!

 

ウルトラマンオーブダーク!

『でゅわッ!』

 

 

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 山の頂上を陣取るホロボロスの正面に、オーブダークが出現。逃げ惑っていた町の人たちは、その姿に思わず足を止めた。

 

『銀河の光がオレも呼ぶ! 我が名は、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ!!』

 

 魔剣オーブダークカリバーを構えるオーブダークを見上げ、克海たち四人を安全なところへ連れていこうとしていた曜たちが息を呑んだ。

 

「ああ……!」

 

 ――函館では、聖良と理亞が内浦からの中継映像で状況を目の当たりにして、絶句していた。

 

「姉さま、これ……!」

「嘘……! どうしてこいつが、また……!」

 

 世界中の人間の目を集めながら、偽りで塗り固められたウルトラマンがホロボロスへと剣を向けて気取った。

 

『でゅうわ……!』

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

曜「ヨーソロー! 今回紹介するのは、『誓い』だよ!」

曜「この歌は『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』の第二期『NEVER ENDING ODYSSEY』の主題歌だよ。このシリーズは、当時の筐体カードゲーム『大怪獣バトル』のメディアミックスとして制作されたテレビ番組で、ウルトラマンじゃなくて怪獣使いレイオニクスのレイを主役にした、いわば番外編なんだ」

曜「歌手は中西圭三さん! 作詞作曲も担当してるよ! とっても勇ましいイメージの歌で、大怪獣バトルの映像作品にぴったりの雰囲気! 最後の目的地が地球だから、地球を目指す旅路を想像させる歌詞にもなってるの!

曜「中西さんはエンディング曲の『愛のしるし』も担当してるよ。この二つの歌で、『大怪獣バトルNEO』を彩ったんだ!」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『サンシャインぴっかぴか音頭』だ!」

功海「名前の通り、夏祭りには定番の音頭だな。舞台の沼津市の企業と公式コラボを推し進めたサンシャインならではって言えるぜ」

克海「振りつけもあるんだが、何とそれは幼稚園の先生が考えたものを逆輸入したという逸話つきだ。幼稚園の先生すごいな」

曜「それじゃ次回に向かって、ヨーソロー!」

 




千歌「二人のウルトラマンさんがやられた後に現れたのは、三人目のウルトラマンさん! 怪獣と戦うウルトラマンさんだけど……」
克海「違う……あいつはウルトラマンじゃない!」
功海「これ以上あいつの好きにさせてたまるかよ! 俺たちは負けねぇぜ!」
功海「次回、『アイゼンTrapper』!」
千歌「かんかんみかん!」


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アイゼンTrapper(A)

 

『むぅん……!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ――豪烈暴獣ホロボロスをけしかけ、ロッソとブルを倒させたサルモーネは、オーブリングNEOを取り返すとウルトラマンオーブダークに変身し、魔剣オーブダークカリバーを構えて自らが呼び出したホロボロスと対峙していた。

 

「くっそぉ……!」

 

 ホロボロスに打ちのめされ、満身創痍の克海と功海は、梨子たちに支えられながらこれを悔しげに見上げている。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 やがてホロボロスは、陣取っている山の上から跳び、町中に降り立つと四つ足でオーブダークへと突進していく。

 

『むんッ!』

 

 対するオーブダークはその場にオーブダークカリバーを突き刺すと、胸を張って堂々と待ち構えた。

 

『来ぉいッ!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ホロボロスはまっすぐにオーブダークに体当たりし、オーブダークはその首根っこに腕を回して突進を受け止めた。そのまま押し合いとなる。

 

『でゅわぁッ!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 首を捕らえたまま、ホロボロスの顎に膝を入れるオーブダーク。一瞬ひるんだホロボロスだが、再びオーブダークに飛び掛かる。

 

『でゅわぁッ!』

 

 オーブダークは一瞬背後をチラリと見やると、ホロボロスの飛び掛かりを受け流して投げ飛ばす。ホロボロスの落下の衝撃で、側のマッサージ店の店舗がひび割れてガラガラと崩れていく。

 

「お、おじさんの店が!!」

「あいつ……今わざとあそこに投げたっ!!」

 

 絶叫する曜。オーブダークの事前の行動から、果南は怒号を発した。

 

『でゅわッ!』

 

 わざと店を破壊したことを何も意に介さず、オーブダークは構えを取り直して再度ホロボロスを待ち構える。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 一気に駆け出して突進を繰り返すホロボロス。身を翻してかわすオーブダークだが、立ち位置を変えると、三度目の突撃をまともに食らった。

 

『でゅわぁぁぁッ!』

 

 はね飛ばされたオーブダークが、背中から家屋の上に倒れ込んで、家を押し潰した。

 

「ま、町が壊れてくずらっ!」

「何て真似を……!」

 

 オーブダークが戦う毎に建物が次々に破壊されていくことに、花丸も鞠莉も顔を真っ青にした。

 これまでのロッソたちの戦いの中でも、余波で周囲に被害が出ることはあったが……真実を知る彼女たちの目には見える。オーブダークは、それを故意にやっているのだ。

 

『でゅわああ!』

 

 そんなことは大したことではないとばかりに、素知らぬ顔でホロボロスと取っ組み合い続けるオーブダーク。そこに飛行船が飛んでくると、チョイチョイと手の平で仰いで角度を調整させる。

 微調整した飛行船がカメラを回し、オーブダークとホロボロスの格闘する様子をアップで全国のテレビに流し始めた。

 

『でゅわあぁぁッ!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 その瞬間にホロボロスを蹴り飛ばしたオーブダークが、カメラに向けて手でハートマークを作ってアピールする。

 

「お……おぉ!」

「新しいウルトラマンが、怪獣と戦ってる!」

 

 テレビ映像を目にした人々は次々と沸き立つが――聖良と理亞は、青ざめた顔を大きく振っていた。

 

「違う……! これは八百長なの……!!」

 

 

 

『アイゼンTrapper』

 

 

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 オーブダークに蹴られ、家屋に突っ込んで転倒したホロボロスだったが、すぐに瓦礫を振り払って起き上がると、またもオーブダークに飛び掛かっていく。

 

『でぇぇぇぇぇあぁッ!』

 

 オーブダークは地面に刺した剣を抜いて頭上から振り下ろすが、ホロボロスは前足を上げて刃をかわした。オーブダークが振るう剣を転がってよけ続けるホロボロス。

 彼らの足元の道路や家が巻き込まれて砕かれていく。

 

「このままじゃ町が……!」

「あの野郎……!」

 

 被害がどんどん拡大していく内浦の惨状に、克海たちの胸に痛みと怒りが広がる。

 オーブダークが後ろから斬りかかろうとした時、ホロボロスが放った後ろ蹴りを浴びて仰向けに倒された。

 

『であぁぁぁぁぁッ!!』

 

 またもオーブダークの巻き込みによって、建物が一軒倒壊した。

 功海たちはオーブジャイロを振り回して起動させようとする。

 

「動けッ! 今行かないといけねぇんだよッ!」

「や、やめて下さい! 無茶ですよぉっ!」

 

 反応しないジャイロを強引に引っ張って動かそうとする功海を、ルビィたちが必死に押しとどめた。

 

「そんな身体じゃ危険すぎます!」

「くそぉッ! 俺たちじゃどうすることも出来ないのかッ!」

 

 梨子の諫める声も聞こえないほど、克海は取り乱していた。

 

『であぁ……!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 そうしている間にオーブダークとホロボロスは再びにらみ合い、オーブダークが距離を詰めていく。

 

『であぁぁぁッ!』

 

 水平斬りを繰り出したが、バク宙したホロボロスの足によって剣を弾き飛ばされた。

 

『うわぁぁッ!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 勢いで倒れ込んだオーブダークの上にホロボロスが跨って押さえつけると、首筋を狙って噛みついてくる。これをすんでのところで、首を振ってかわすオーブダーク。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ホロボロスの首を抑えて抵抗し、窮地に陥ったように見せるオーブダーク。これにまんまと乗せられる千歌が叫ぶ。

 

「危ない! がんばって、ウルトラマンさーん!」

 

 それを皮切りとして、町中からオーブダークに声援が送られ始めた。

 

「がんばれ! がんばれーウルトラマーン!」

「負けないでー!」

「立ち上がってくれー!」

 

 これらの声を耳にしたオーブダークがつぶやく。

 

『そろそろ頃合いか……!』

 

 ホロボロスの首をじりじり押し返していくと、空いたボディに左手の平を押し当てる。

 

『であぁッ!』

 

 そこから停止信号が打ち込まれ、ホロボロスは一気に動きを鈍らせて活動を止めた。

 

「ウオオオオオ……!」

『ピンチになったヒーローは、必ず最後に返り咲く!』

 

 その下から抜け出たオーブダークは、リングをAZジャイロにセットしてエネルギーチャージする。

 

『ダークオリジウム光線ッッ!』

 

 オーブダークが十字に組んだ腕から生じたハートマークより暗黒光線が発せられ、動かなくなったホロボロスに直撃。そのまま爆破、消滅させた。

 

「やった! 勝った!」

「ありがとう、ウルトラマーン!」

 

 歓喜の声で沸き上がったビーチに、克海たちが走ってくる。梨子たちはその後から、目を覚ましつつあるダイヤと善子を支えながら歩いてきた。

 

「……!!」

 

 オーブダークは彼らに、見せつけるようにゆっくりと首肯すると、一足飛びで空の彼方に飛び去っていった。

 

『でゅわぁッ!!』

「……」

 

 声も出せない克海と功海の元に、千歌が駆け寄ってきた。

 

「お兄ちゃんたち、どこ行ってたの!? 心配してたんだよ! 怪我はない?」

 

 二人や梨子たちを心配する千歌は、彼らの表情が沈んでいることに戸惑いを見せた。

 

「……何か、あったの?」

 

 克海たちが沈黙を貫いていると――このビーチに、サルモーネが大きく手を振りながら、満面の笑顔で走ってきた。

 

「おーい!」

「あっ、愛染さん無事だったんだ! どこ行ってたんですか?」

「いやぁ~! あの怖い怪獣見てぇ、すっかり気絶しちゃったんだよ~! いや~お恥ずかしいッ!」

 

 非常にわざとらしく言い訳するサルモーネ。

 

「もう、しょうがないですね~」

 

 苦笑する千歌だが、サルモーネの態度に我慢がならなくなった克海は彼女をどかして胸ぐらに掴みかかった。

 

「サルモーネぇッ! お前は良心がないのか……! 町の人々を危険に晒してるんだぞッ……!」

 

 非難をぶつけられても、サルモーネは平然としている。

 

「でも見てみなよ。闇に光を与えたヒーローに、みんな大喜びだ」

「騙してるだけだろうが……! お前のやってることのどこがヒーローだッ……!」

 

 克海の弾劾に鼻を白けさせたサルモーネは、彼の手を振り払って襟元を正した。

 

「ならば、ここではっきりさせとこうか」

 

 そう言うが否や、ビーチにいる人たちの前に躍り出ていった。

 

「愛染さん!」

「愛染さんだ!」

 

 人々の敬慕の声に手を振って応じながら、一段高いところに上って注目を集めるサルモーネ。

 

「親愛なる内浦の皆さん! 愛染正義ですッ!」

「あいつ……!」

「何するつもりなの……!?」

 

 サルモーネの行動を、功海や果南たちがキッとにらんだ。

 それに構わず、サルモーネが弁舌を振るい出した。

 

「先に、脅威に倒れた二人のウルトラマンがおりました! まずは、その健闘を称えましょう!」

 

 サルモーネに合わせて拍手を鳴らす市民たち。――サルモーネの拍手に、果南らがわなわなと震える。

 

「しかぁーしッ! 我々は今、真のウルトラマンを迎えました! これからは彼とともに、脅威に立ち向かっていかなければいけませーんッ!」

「そうだッ!」

「そうだぁッ!」

 

 サルモーネの熱弁に乗せられて、同意の声がちらほらと起こる。

 

「もちろん! 我がアイゼンテックは全面的にバックアップ致します! そして皆さまのお力を、お借りしまぁーすッ!」

「おぉーッ!」

「あ団結ッ! あ団結ッ! はいご一緒に!」

「あ団結! あ団結!」

 

 サルモーネの音頭で、内浦の若者衆を中心としてコールが巻き起こる。――この光景を見せられて、梨子たちは顔面蒼白となった。

 功海と克海はとうとう我慢ならなくなり、若者衆の輪の中に割って入っていく。

 

「やめろ! やめろぉーッ!」

「あいつの言ってることはデタラメだッ!」

「い、功兄ぃ、克兄ぃ……!」

 

 無謀に飛び込んでいった二人に息を呑む曜。

 

「怪獣の襲来も、さっきまでの戦いも! 全部あいつが仕組んだことなんだッ! あいつは大嘘吐きなんだッ!!」

「本当なんだよみんな! 信じてくれぇッ!!」

 

 必死に訴えかける克海と功海だったが――逆上した青年団に取り囲まれる羽目になってしまう。

 

「高海のとこの! 何失礼なこと言ってんだ!」

「愛染さんに謝れッ!」

「本当なんだよぉー!」

「騙されるなみんなぁー!」

「このヤロぉー!!」

「克兄ぃ、功兄ぃ! やめてっ!」

 

 青年団にもみくちゃにされる克海たちを見ていられず、果南と曜が助けに行って引っ張り出した。若者たちはその後もサルモーネとコールし続ける。

 

「あ団結! あ団結! あ団結!」

「……くぅっ……!」

 

 果南たちは悔しさを噛み締めることしか出来ず、無念そうに立ち去る他なかった。最後に見せられたのは、サルモーネの勝ち誇った嘲笑であった。

 

 

 

 民衆の歓声を一身に浴びながら、サルモーネは颯爽と立ち去っていく。戦いの影響でボロボロになった無人の区域に立ち入ると、崩れた町並みを見回しながら誇らしげに胸を張る。

 

「素晴らしい! これこそがウルトラマンだッ! 戦いが激しいほどに、ウルトラマンという光もまた人の心に強く刻み込まれる! 全人類がウルトラマンの威光を崇め奉り、そこに跪く日も遠くはないッ!!」

 

 満足そうに言い放つサルモーネの元に飛んできたウッチェリーナが報告する。

 

[申し訳ありません社長ぉ]

「ん? どうしたんだい?」

[ホロボロスのクリスタル、回収できませんでした。どこを探しても見つからなくって……]

 

 これを聞いたサルモーネが、ふむ、と顎に指を掛ける。

 

「誰かに持ち去られてしまったか。だがまぁジャイロがないと意味がないものだからな。あのアホ兄弟にも身の程を教えてやったし、ほっといても大丈夫だろう」

[はぁ]

 

 さして重く受け止めることもなく、サルモーネは上機嫌でアイゼンテックへと帰っていった。

 

 

 

 怪獣の出現によってビーチが閉鎖され、克海たち一同はやむなく『四つ角』に戻ってきた。

 

「……いえ、こっちは大丈夫です。はい、私たちで何とかしますので。ありがとうございます」

 

 彼らの身を案じて『四つ角』に電話を掛けてきた聖良に、兄弟に代わって梨子が応対していた。受話器を置いて居間に向かうと、そこで千歌が克海と功海に問いをぶつけている。

 

「克海お兄ちゃん、功海お兄ちゃん……何で、チカに何も話してくれないの?」

 

 憮然としてうなだれている二人に、反応がなくとも語りかける千歌。

 

「いくら何でも、お兄ちゃんたちに何かあったってことぐらい分かるよ。そんなに悩むことがあるなら、私とも話をしてよ。私たち、家族なんだよ?」

 

 懸命な想いを込めて訴えかける千歌。梨子たちは、その様子を遠巻きに、不安げに見守るしかない。

 だが、克海たちは千歌の気持ちには応えなかった。

 

「これは、俺たちの問題なんだ」

「……」

 

 どうしようもないと悟り、うつむいて背を向ける千歌。居間から離れる寸前に、小さい声でつぶやく。

 

「……バカ」

 

 千歌が自分の部屋へと上がっていくと、入れ替わるように意識がはっきりしたダイヤと善子が克海たちの前に腰を下ろす。

 

「話は伺いました。面目ありませんわ……」

「ヨハネたちがもっとしっかりしてれば、こんなことには……」

 

 落胆して謝る二人に、克海は首を振った。

 

「二人のせいじゃないよ。結局、俺たちが未熟だったからだ」

「……」

 

 重い空気に覆われる居間の中で、果南がいら立ちを抑え切れずに吐き捨てる。

 

「こんなのってある!? 克兄ぃたちが必死に頑張ったのに、みんなあのペテン師を持ち上げてばかりで……! あいつこそが元凶なのにっ!」

 

 憤懣やるせない果南に、鞠莉が努めて冷静に告げる。

 

「無理もないわ……。傍から見たら、結果として怪獣をやっつけたのはオーブダークなんだから。何も知らない彼らは責められない」

「だけど……!」

「残酷だけどね……世の中は、結果が全てだという風に出来てるの。……想いだけじゃ何も変えられないのは、私たちがよく知ってるでしょ?」

 

 そう言われてしまっては、果南もそれ以上は何も言えなかった。

 沈黙が流れるこの場で、功海がポツリとつぶやく。

 

「強さって何だろうな……」

「強さか……」

 

 それに応じる克海。

 

「……結局、弱いヒーローにいる意味なんてない。どんなにあいつのやることを批判したところで、町を守ることが出来なければ、誰も振り返ってはくれない……。苦労も、努力も、全て無駄になる……」

「ヒーローって辛いな……。いっそのこと、あいつの言うように海外に行っちまえば全部楽になるんだろうけどなぁ」

 

 ため息交じりの功海。曜たちは二人のやり取りを、じっと黙って聞いている。

 

「……だけど、俺たちのこの町を護れるのは……いや! あいつを倒せるのは! 俺たちだけしかいないんだッ!」

「だよな……! もう何も壊されたくねぇ! あいつの好き勝手にされんのはたくさんだッ!」

 

 克海と功海が気力を取り戻していくことに、梨子たちも顔を明るくしていった。

 

「ああ。たとえ罵られようとも構うもんか! 俺たちは、俺たちの信じるもののために戦う!」

「苦労も努力も上等じゃんか! 全部背負っていこうぜ!」

「二人だけじゃありません! 私たちだって手伝います!」

「みんなで目指そうよ! 打倒オーブダーク!」

 

 梨子も、曜も、ダイヤも善子も、果南、鞠莉、花丸、ルビィも。全員が険しい道を進んでいく覚悟を、既に持っていた。

 

「よしッ! 早速作戦会議だ!」

「おぉー!」

 

 克海と功海は、互いのみならず皆と拳を重ね合い、虚構のウルトラマン伝説を食い止める目的のために動き始めた。

 



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アイゼンTrapper(B)

 

 翌日。内浦の被害はかなり大きく、海の家は当分営業停止。手伝いがなくなってしまったAqoursだが、合宿自体は続行することとなる。

 しかし二日目の今日の午後、Aqoursと克海、功海はある理由で綾香に来ていた。

 

「……千歌の奴、大丈夫か? サルモーネ……いや、愛染に会いに行くなんて言いやがって」

「向こうも、まさか千歌に直接手を出すような真似はしないと思うが……」

 

 功海と克海は公園から、不安げにアルトアルベロタワーを見上げてつぶやいた。

 早朝、千歌はいきなり愛染に会いにアイゼンテックを訪問すると言い出した。当然克海たちはそろって反対したが、理由を言うことは出来ないので、強くは反対できず、押し切られてしまったのだった。その代わり、もしもの場合に備えて一緒に綾香までついてきたのである。

 

「千歌さん、大丈夫でしょうか……」

「まぁ、梨子さんと曜さんがついていっていますから、万一のことがあればすぐに連絡がありますわ」

 

 心配するルビィにダイヤが言い聞かせていると、克海と功海は彼女たちの方へ振り向く。

 

「千歌のことは別にしても、サルモーネは今日にでもまた悪事を働くかもしれない。まだ何も起こってない内に、連携の練習をしとこう」

「絶対奴をぶっ倒して、リングを取り返すぜ!」

「おぉー! ずら!」

「任せて克兄ぃ! 功兄ぃ!」

 

 千歌が戻るまでの間に、克海たち一同はオーブダーク打倒のためのチームワークを磨き始めた。

 

 

 

 その頃、梨子と曜は千歌が入っていったアイゼンテックの社長室の扉に密かに張りつき、中の会話に聞き耳を立てていた。

 

「あいつ、千歌ちゃんに何もしないよね。もしもの時は、すぐに踏み込めるようにしなきゃ……!」

「しっ。聞こえるわ」

 

 中の千歌に気づかれないように気を配りつつ、聴覚に意識をこらす二人。

 社長室では、千歌がサルモーネと面と向かって話をしている。

 

「それじゃあ……本当に、お兄ちゃんたちとは何もなかったんですか?」

「もちろんさぁ。強いて言えば、私がちょっとお節介を焼き過ぎたことかな」

 

 サルモーネも真実は口にせず、千歌にははぐらかしたことを返している。

 

「君のお兄さんとお友達のみんなは、とっても自立心が強いみたいだ。それで余計なことをしたって思われちゃったみたいだねぇ。いやぁ、彼らの気持ちを慮れなかいとはこの愛染正義もまだまだだ!」

「あ、愛染さんは悪くないですよ! ほんとにそうなら、あんなに怒ったお兄ちゃんたちが失礼だったんたし……ごめんなさい」

「いーよいーよ謝ってくれなくたって。それより……」

 

 頭を下げた千歌に、愛染が目を細めながら告げる。

 

「私は本当に君たちのことを買ってるんだ。だから、君から彼らのことを説得してくれないかな?」

「え?」

「!!」

 

 聞き耳を立てている梨子と曜の顔色が変わった。

 

「君だって行ってみたいだろう? ハリウッド。狭い田舎町で、何の指導者もなしにラブライブ優勝しようなんてとても大変なことだよ。本場ハリウッドで勉強すれば、将来はトップスターにだってなれることだろう! どうかな? 君から言ってくれれば、みんなも考え直してくれると思うんだけど」

 

 誘惑を掛けるサルモーネ。梨子と曜は、千歌が何と返答するものかとハラハラする。

 そして、肝心の千歌の回答は、

 

「……お気持ち、ありがとうございます」

「おお、ではッ!」

「ですけど……すみませんが、私もそのお話しはお断りさせてもらいます」

「……何ぃ?」

 

 梨子たちは驚いて、思わず顔を見合わせた。

 

「私たちは、浦の星をなくさないようにがんばってます。今浦の星から離れちゃえば、私たちは有名になるかもしれませんけど、きっと浦の星に生徒を集めることは出来なくなっちゃうから……。だから、私たちだけが得する道は選べないんです。すみません、せっかく愛染さんが気に掛けてくれたのに……」

「……いやいいんだよ~。少ーし残念だけど、そういうことなら仕方ない。だけど、私だったらいつでも待ってるからね~」

「ありがとうございます。お話しはこれだけです。今日はありがとうございました」

「気をつけて帰ってね~」

 

 サルモーネにペコリと一礼して、社長室から退室する千歌。――その途端に、ダバーと感涙している梨子と曜に左右から抱きつかれた。

 

「千歌ちゃぁんっ!」

「わっ!? 二人とも、どうしてここにいるの!?」

「ラブライブ優勝しようねぇ! 絶対、絶対浦女を存続させようねぇ~!」

「う、うん……」

 

 やや気圧されながら、二人と一緒に社長室の前を離れていく千歌。それをニコニコと見送ったサルモーネだが――完全に姿が見えなくなると、その顔がしかめ面に一変した。

 

「けッ! 青っちろい小娘がカッコつけおって! 結局ぼんくら兄弟の妹もぼんくらかッ! 私の言うことを大人しく聞いてりゃあいいものを! あ~無駄な時間過ごしたッ!!」

 

 肩を怒らせながらデスクの前まで回っていくサルモーネ。

 

「もうあんな石ころのことなど忘れて、ダイヤの原石の研磨を始めるとしようか! この台本でッ!」

 

 と言って取り出したのは、表紙に『THE ULTRA M@STER ORB DARK NOIR BLACK SCHWARTZ』と書かれた台本だった。サルモーネの手作りだ。

 

「『夏休みのある日、アイゼンアイドルスクールのスクールアイドルたちが突如怪獣の魔の手に掴まってしまう! それを救うウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ! しかしアイドルたちは知ってしまう。その正体が愛と正義の伝道師、愛染正義であると! この出会いこそが、彼女たちがスクールアイドルなどというお遊びではない、真のウルトラマンと歩む真のアイドルの道を踏み出すスタ→トとなるのであった……』。うーむ我ながら完璧なシナリオだぁ!!」

[昨日出撃したばかりなのに、また戦闘するのですか?]

 

 自画自賛しているサルモーネに、ウッチェリーナが尋ねかける。

 

「この業界はスピード勝負だ。畳みかける大活躍で、私が真のヒーローだと印象づけるのだよ!」

[なるほどぉ! 流石社長!]

「それではぁ、よーいアクション!」

 

 サルモーネがAZジャイロに「毒」のクリスタルを嵌め込み、レバーを引き始めた。

 

「第三話ぁ! 『スタ→ト日和』! みんなで見ようッ!!」

 

 クリスタルから召喚された怪獣が、綾香の上空に解き放たれる!

 

 

 

 サルモーネに集められていた『特待生』の内、二つのリボンを結んだ娘と双子のスクールアイドル三人が、アイゼンアイドルスクールの正門前に集まっていた。

 

「理事長、こんなところに呼び出して何の用事なんだろ?」

 

 リボンの娘がぼやいていると、そこにサルモーネの召喚した虫型怪獣が空から急襲を掛ける!

 

「キイィィ―――!」

「え? きゃああああ―――――――!?」

 

 宇宙悪魔ベゼルブ! ベゼルブは手中にスクールアイドル三人を捕らえて浮上し、綾香の街を火炎弾で爆撃後に着地する。

 

「うわああぁぁぁぁ―――――――!」

「た、大変です! 女の子が三人、怪獣の手の中に捕まってます!」

「助けてぇーっ!!」

 

 街はたちまち大混乱。その光景をタワーから満悦気味に見下ろすサルモーネ。

 

「よしよし、ここまでシナリオ通り。それでは、主役の登場と行こうか……!」

 

 サルモーネは早速オーブリングNEOを使用し、変身を行う。サルモーネに手に取られたリングが闇に染まる。

 

「絆の力……お借りしまぁすッ!」

ウルトラマンオーブダーク!

 

 変身したオーブダークが肩にオーブダークカリバーを担ぎながら、ベゼルブの正面に着地した。その背後に飛行船が旋回する。

 

『銀河の光がオレも呼ぶ! 我は、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ!!』

「キイィィ―――!」

 

 ベゼルブとにらみ合うオーブダークに、綾香の市民が口々に声援を送る。

 

「ウルトラマーン! がんばれー!」

「女の子たちを助けてー!」

 

 これを受けたサルモーネがにんまりとほくそ笑む。

 

『うむうむ! 全てオレに任せておきなさい! ハッハッハッ!』

 

 ベゼルブはスクールアイドルたちを手中に捕らえたまま、火炎弾を吐き出してオーブダークに攻撃。それを切り払ったオーブダークは、ベゼルブに文句を飛ばした。

 

『こらこらぁッ! いきなり派手な技を使うんじゃない! 最初は強めに当たって、後は流れだッ!』

 

 その場に剣を突き刺すと、ベゼルブに駆け寄って素手による格闘戦を始める。

 

『でゅわぁッ!』

「キイィィ―――!」

 

 ベゼルブの腹部に前蹴りを入れ、頭突きを決めるオーブダーク。痛がって悶えるベゼルブを叱りつける。

 

『ボサッとすんな! 次はお前の番だ! ほら、ここにドンとッ!』

「キイィィ―――!」

 

 自分の胸を殴らせるオーブダーク。捕まっているスクールアイドルたちは、ベゼルブに振り回されて悲鳴を発する。

 

「きゃああぁぁぁ――――――――っ!」

 

 ――その声を聞きつけ、克海たちが戦闘の現場の付近まで駆けつけてきた。

 

「関係のない子たちに、あんな危険な思いをさせるなんて……!」

 

 スクールアイドル三人に注視し、怒りを覚える鞠莉。功海は花丸に振り向く。

 

「もうあいつの好きにはさせねぇ! 行こうぜ、花丸!」

「うん! マルたちで、あの人たちを救うずら!」

「しっかりやりなさいよ、ずら丸!」

 

 応援する善子。克海は果南の方へと振り向いた。

 

「果南ちゃん、君は初めての実戦になるが、頼んだぞ! この戦いには、絶対負けられない!」

「もちろん! これ以上街の人たちを巻き込ませないんだから!」

「お願いしますわ、果南さん!」

 

 人一倍張り切る果南。そして兄弟がルーブジャイロを構える!

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 克海と功海がそれぞれ、両腕を胸の前に広げるよう伸ばす果南と、祈るように手を握る花丸を後ろにしながらクリスタルを選択する。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

 

 火と水のクリスタルがジャイロにセットされ、タロウとギンガのビジョンが現れた。

 

[ウルトラマンタロウ!]

[ウルトラマンギンガ!]

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「纏うは水! 紺碧の海!!」

 

 レバーを三回引いて、四人がウルトラマンに変身!

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 ベゼルブと戦っていたオーブダークは、剣の元に戻って地面から引き抜く。

 

『そろそろクライマックス……!』

『はぁッ!』

 

 オーブダークカリバーを構えようとしたオーブダークに、ロッソの飛び蹴りが命中する。

 

『いでぇッ!? いきなり何す……!』

『はぁーッ!』

 

 顔を上げたオーブダークに、今度はブルの蹴りが炸裂して地面に転がった。

 

『ぐへあぁッ!? 『一男蹴って、また二男』んッ!?』

 

 オーブダークとベゼルブの間に割り込んだロッソとブルは、背中合わせになってそれぞれとにらみ合う態勢となる。

 オーブダークは自分をにらむブルに切っ先を向けた。

 

『おいッ!? 何故邪魔しに来たぁッ! もう二度と変身しちゃダメだって言ったろ!!』

 

 地団太を踏むオーブダークに、ロッソが振り返る。そこを狙ってベゼルブが背後から飛び掛かろうとする。

 

「キイィィ―――!」

『『うるさいッ!』』

 

 が、顔面に二人からの肘が刺さって返り討ちにされた。

 ぶっ倒れるベゼルブを尻目に、ロッソがオーブダークに宣告。

 

『自分で仕組んだヒーローごっこはやめてもらう!』

『「こんな茶番劇はおしまいなんだから!」』

 

 ブルとタッチしたロッソが起き上がるベゼルブに掴みかかっていき、ブルはオーブダークに指を向けた。

 

『綾香市は俺たちが守る!』

『「悪いことするあなたは、マルたちがやっつけるずら!」』

 

 堂々と宣言し、ブルがルーブスラッガーを角から引き抜いた!

 

「『ルーブスラッガーブル!!」』

 

 オーブダークに肉薄し、鍔迫り合いを行うブル。彼が抑えている間に、ロッソがベゼルブから人質を奪還しようと肉弾戦を繰り広げる。

 

『「その子たちを放しなさいっ!」』

「キイィィ―――!」

 

 膝蹴りでベゼルブの手の力を弱めようとするロッソ。ブルはスラッガーで振り回されるオーブダークカリバーを弾き返している。

 

『えぇい邪魔だぁッ!』

『「邪魔してるんだから当たり前ずらっ!」』

 

 ブルとオーブダークが激しく切り結ぶ姿に、市民たちは困惑した。

 

「ウルトラマン同士で戦ってるぞ!?」

「仲間なんじゃないのか!?」

 

 ロッソはベゼルブの右腕を掴んで、その手の中のスクールアイドルたちを解放しようとするも、ベゼルブは羽を広げて飛び上がり抵抗。

 

「キイィィ―――!」

 

 空に逃れて火球弾で反撃してくるベゼルブ。ロッソはそれを腕で全て打ち払った。

 

『はッ! 待てッ!』

 

 飛び回るベゼルブを追うロッソ。ブルはオーブダークと、刃と刃をぶつけ合って火花を散らす。

 

『てあぁッ!』

『ぬぅッ!』

 

 オーブダークを押し返すと、ブルの背中にロッソが背中を合わせた。

 

『あいつ速いな!』

『「功兄ぃ! クリスタルチェンジだよ!」』

『オッケー!』

『「行くずら!」』

 

 花丸が果南へと水のクリスタルを投げ渡し、自分は土のクリスタルを選び取る。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

 

 クリスタルをジャイロにセットして、果南と花丸がレバーを引いていく。

 

『纏うは水! 紺碧の海!!』

『纏うは土! 琥珀の大地!!』

『「ハグしよっ!」』

『「お花ーまるっ!」』

 

 ロッソアクアとブルグランドに変身すると、ロッソがアンダースローでストライクスフィアを飛ばした。

 

『これならどうだぁッ!』

 

 水球はベゼルブの羽に纏わりついて羽ばたきを阻害し、浮力を失ったベゼルブが墜落していく。

 

「キイィィ―――!」

「きゃああああああああっ!!」

 

 そこに駆けていくロッソ。手の平に水球を作り、落下するベゼルブとすれ違う。

 

『はッ!』

 

 ロッソは水球をクッションにしてスクールアイドル三人を奪い返した。ベゼルブはそのまま頭から地面に激突。

 

『「盗塁成功!」』

『おいゴラァッ! 勝手に助けるなぁッ!』

 

 切れたオーブダークがロッソに後ろから斬りかかろうとするのを、ブルのパンチが押し返した。

 

『ぶッ!』

『お前こそ、勝手なこと言うんじゃねぇ!』

『「あの人たちには手を出させないずら!」』

 

 ロッソは今の内にスクールアイドルたちを安全な場所まで移し、そっと地面に下ろした。

 

『「さぁ、早く逃げて!」』

 

 クイッと顎でしゃくって避難を促すロッソ。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 三人はそれに従って、タタタタッと走り去っていった。

 

『く、くっそぉー! こうなったら怪獣だけでもぉ!』

『そうはさせるかッ!』

 

 あきらめ悪く、ベゼルブにとどめを刺そうとするオーブダークに反転したロッソが飛び掛かって剣を受け止めた。彼と位置を交代したブルはベゼルブに狙いを定め、両腕にエネルギーを込める。

 

「『アースブリンガー!!」』

 

 地面に叩き込んだエネルギーが地表伝てに走っていき、おきあがったところのベゼルブを呑み込む!

 

「キイィィ―――!!」

 

 ベゼルブは一撃で、木端微塵に消し飛んだ!

 

『うわああぁぁぁぁぁああああああああ――――――――!! 台無しだぁぁぁああああああああ―――――――――――!!』

 

 怪獣へのとどめも奪われたサルモーネは、台本をビリビリに破り捨てながら慟哭。膝を突いてドンドン道路を殴り、激しく悔しがる。

 

『そんなにか……』

『「呆れ果てた……」』

 

 ドン引きのロッソの下に駆け寄るブル。――その時に、千歌が梨子、曜とともにロッソたちの様子が一望できる場所まで走ってくる。

 

「戦いは終わった……のかな……?」

「やったんだね、克海さんたち……!」

「うん……! あいつにひと泡吹かせてやったね……!」

 

 千歌に気づかれないよう顔を背けながら、こそっと喜び合う梨子と曜。――そのため、ロッソとブルが拳を打ち合わせてタッチするのを千歌が目撃したことには気づかなかった。

 

「! 今のって……」

 

 千歌にはそのポーズと――克海と功海の姿が重なって見えた。

 健闘を称え合ったロッソとブルだが、そこにオーブダークが不穏な様子でゆらりと起き上がる。

 

『よくも! よくもッ! よぉぉぉぉくもぉッ!! もー許さんッ!! 消え失せろにせウルトラマンどもぉぉぉぉぉぉぉッ!!』

 

 目を血走らせたオーブダークが、二人へ全力で剣を振り下ろした! 咄嗟に左右に分かれてかわすロッソとブル。

 

『許さないはこっちの台詞だ!』

『偽物はお前だろッ!』

『「みんなに迷惑ばっかり掛けて!」』

『「お仕置きずら!!」』

 

 とうとう我慢がならなくなったロッソたちが、オーブダークを捕まえて締め上げる。

 

『「えいえい! 善子ちゃん直伝、コブラツイストずら!」』「堕天龍鳳凰縛よ!」

『「さぁ! 降参しなさいっ!」』

『だ、誰が降参など……いででででででッ!』

 

 ブルが拘束し、ロッソがオーブダークカリバーを奪い取ろうとする。――その時に、少し離れた場所のビルの屋上に、黒い服装の怪しい雰囲気の少女が上ってきた。

 少女は右手に奇怪な模様が走るジャイロを、左手に――ウッチェリーナより先に回収した獣のクリスタルを取り出し、クリスタルをジャイロに嵌め込む。

 

ホロボロス!

 

 少女は小脇でジャイロのレバーを二回引き、三回目に正面に回してチャージしたエネルギーを解放する――!

 

『ん?』

 

 ロッソたちがオーブダークと乱闘している、その頭上に空間の穴が開き、三人が思わず見上げた。

 直後に穴から巨大な光球が降ってきて、咄嗟に身を引いてかわした。

 

『な、何だ!?』

『「まさか、新手!?」』

 

 警戒する果南だが、オーブダークも困惑している。

 光球が弾けると、その中から出てきたのはホロボロスであった。

 

『またお前の仕業か……!』

『汚ねぇぞッ!』

『「この期に及んで、潔くないずら!」』

 

 花丸たちに糾弾されたオーブダークはブンブン手を振る。

 

『違う違う違う違う! オレ知らないよ!?』

『「つまらない嘘吐かないでよ! あんた以外に、誰がいるの!」』

『ホントなんだってば! ほら、今変身してるし!』

 

 オーブダークが虚言を弄しているようには見えないので、ロッソたちは戸惑う。

 

『どういうことだ?』

『どっちにしたって倒すしかないっしょ!』

『待てッ!』

 

 攻撃を仕掛けようとするブルを、ホロボロスの様子がおかしいことに気づいたロッソが押しとどめた。

 ホロボロスは突然全身からスパークを発して、黄色い眼を赤く染め上げると、肉体をゴキゴキと変形させ始めた!

 

『「な、何事ずらぁ!?」』

『「どうなってるの……!?」』

 

 目を見張る花丸たちの前で――ホロボロスの爪がバックリ開いてベアークローのようになり、背筋が伸びて二本足で立ち上がった。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『た、たたたたたッ! 立った!?』

『何が起きてるんだ……!』

 

 事態の急変についていけないロッソたちだが、時間が経ち過ぎていることで、カラータイマーが点滅を始めた。

 

「え!? え!? どういうこと!?」

「戦いは、もう終わったんじゃ……!」

 

 戦闘を見守っていた鞠莉たちや、曜、梨子も混乱している。

 そして千歌も――ホロボロスを召喚した少女も、事態の流れをじっと見つめていた。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

花丸「お花ーまるっ! 今回紹介するのは『ULTRAMAN ORB』ずら!」

花丸「この曲はタイトル通り、『ウルトラマンオーブ』の主題歌……じゃなくて、そのスピオンオフ作品の『THE ORIGIN SAGA』の主題歌ずら! アマゾンプライムで独占配信されてる、『オーブ』の前日譚ずらよ!」

花丸「歌うのは浅倉大介さんと、あのつるの剛士さんずら! 言うまでもないことかもしれないけど、つるのさんは『ウルトラマンダイナ』の主人公アスカ・シン役を務めた役者さんで、『THE ORIGIN SAGA』にもアスカ役で出演してるずらよ」

花丸「『ORIGIN SAGA』はオーブがウルトラマンになってすぐの事件を描いた作品だから、テレビ本編と比べて未熟なところが多いずら。その部分が歌詞にも反映されてて、ちょっと重い雰囲気の歌になってるずら」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『Strawberry Trapper』だ!」

功海「以前も紹介したGuilty Kissの歌った曲だな! 過激な意味の言葉が次々出てくる、アダルチックなイメージの歌だぞ!」

克海「Guilty Kissを構成する鞠莉ちゃん、梨子ちゃん、善子ちゃんもAqoursで比較的クールなイメージの三人だな」

花丸「それじゃ、また次回ずら!」

 




克海「ホロボロス……こいつは今までの怪獣とはひと味違うぜ……!」
功海「こんな奴、どうやって倒せばいいんだよ!」
千歌「お兄ちゃん! 私信じてる! だから負けないで!!」
克海&功海「千歌!!」
克海「次回、『俺たちの想いよひとつになれ』!」
克海&功海「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」


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俺たちの想いよひとつになれ(A)

 

 怪獣を使い、自作自演のヒーロー劇を繰り広げるサルモーネ。克海と功海はその身勝手を許せず、Aqoursと力を合わせてその悪行をくじいた。――しかしその矢先にホロボロスが再度出現。しかも今度は変形して立ち上がった!

 何かがおかしい。残り時間の猶予が少ないロッソとブルは、この事態を収拾することが出来るのか――。

 

 

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『どうなってんだよ……!』

『分からん……!』

 

 二足で立ち上がり、雄叫びを上げるホロボロスにロッソとブルは狼狽。オーブダークも事態を呑み込めずにうろたえているが、その時に綾香の市民から声が上がる。

 

「昨日の怪獣だぁー!」

「助けてー! ウルトラマーン!」

 

 これを耳にしたオーブダークが虚勢を張った。

 

『な、何が何だか理解が追いつかんが……みんなの期待に応えてこそヒーロー! オレに任せなさーいッ!』

 

 ドンと胸を叩いてオーブダークカリバーを構えると、ホロボロスに肉薄して肩口に振り下ろした。

 

『でゅわぁッ!』

 

 刃は肩の筋肉に止められるが、この隙に手の平を押し当てて停止信号を打ち込む。

 

『よぉし、これで……!』

 

 安堵の息を吐くオーブダークだが――ホロボロスには何の反応がなかった。

 

『あれ?』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ホロボロスはオーブダークカリバーを弾き飛ばすと、オーブダークの顔面をしたたかに引っかいた。

 

『でゅわぁぁーッ!?』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 張り倒されたオーブダークにホロボロスが馬乗りになって、連続で鉤爪を突き立てる!

 

『ぎ、ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ――――――――!!』

『「何だか様子が変だよ!?」』

『お、おいッ!』

 

 一方的に打ちのめされるオーブダークの姿にロッソたちも思わず焦り、止めに入ろうと身を乗り出したが、既に遅かった。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ホロボロスはオーブダークの首根っこを掴んで無理矢理立たせると、反対の手の爪で腹部を貫通した!

 

『でゅわあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――ッ!!』

 

 串刺しにされたオーブダークが断末魔を上げ、エネルギーが暴走。肉体が弾け飛んで消滅した。

 

『「じ、自分の怪獣にやられちゃったずら!」』

『どうなってんだよ一体!?』

 

 まさかの展開に仰天しているブルたち。だがいつまでもじっとしていられそうになかった。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 オーブダークをなぶり殺しにしたホロボロスが振り向き、こちらを見たのだから……!

 

 

 

『俺たちの想いよひとつになれ』

 

 

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ホロボロスは完全にロッソとブルを次の獲物に定め、爪を振りかざして走ってくる!

 

『やべぇよ! こっち来たッ!』

『時間がない! 早くあいつを倒さないとッ!』

 

 ロッソがスプラッシュ・ボム、ブルが槍状の光線、ロックブラスターを発射して攻撃。

 

『はぁーッ!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 二人の攻撃をその身に食らうホロボロスだが、勢いが緩んだのは一瞬だけ。すぐに飛びついてきて二人纏めて引きずり倒す。

 

『うわあぁぁぁぁッ!』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 それからホロボロスはすさまじい腕力で二人の首根っこを掴み、それぞれ片腕で吊るし上げる。苦痛で必死にもがくロッソたち。

 

『は、放せ……!』

『「う……うぅぅぅりゃあああっ!」』

『「やあああぁぁぁぁぁぁっ!」』

 

 花丸と果南が力を振り絞ることでブルとロッソの力を引き上げ、どうにかホロボロスから逃れさせる。

 

『「あ、危なかったずら……でも……!」』

『「あいつ無茶苦茶だよ……!」』

 

 汗でびっしょりの二人。ホロボロスの異常なフィジカルの強さには、果南ですら戦慄するほどであった。

 しかもエネルギーを酷使したために、ロッソたちの体力も残されていない。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『うわああぁぁぁぁッ!』

『「あああぁぁぁぁっ!」』

 

 ホロボロスが爪を交差するよう振るい、二人の身体を切り裂く。防御しようとしたロッソたちだが防ぎ切れず、深いダメージを負って片膝を突いた。

 

「功海さん! 克海さんっ!」

「ずら丸ぅっ!」

「果南さんっ!!」

 

 瞬く間に追いつめられるロッソたちのありさまに、ルビィたちも悲鳴を発する。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 更にホロボロスは両腕の爪から光刃を作り出し、それを飛ばしてくる!

 

『『うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!』』

 

 余力のないロッソとブルはかわすことも出来ず、派手に吹っ飛ばされた!

 

「克海さぁんっ!!」

「功兄ぃーっ!!」

 

 あまりのことに梨子と曜が、千歌がいることも忘れて絶叫した。

 

『うッ……! ぐッ……!』

『ぐあぁぁ……!』

 

 光刃が致命傷となって、ロッソとブルが消え去り、後には倒れ伏した克海たちだけが残された。

 

「大変……!」

「助けに行かなきゃ!」

「あっ! 二人とも!」

 

 血相を抱えた梨子と曜は脇目も降らずにその場所へと急いでいく。後に続こうとした千歌だが、そこに光る物体が飛んできたので思わず足を止めた。

 

「え……!?」

 

 不自然な動きで飛んできた発光体は、光を収めるとその場に落下した。――それは、オーブダークが弾け飛んだ際に同時に吹っ飛ばされたオーブリングNEO。それがいやにゆっくりとした速度で、千歌の目の前に来たのであった。

 

「これって……功海お兄ちゃんが持ってた奴……」

 

 リングを手に取った千歌は、すぐにそれが功海の持っていたものと同じであることに気づいた。

 

「じゃあ、お兄ちゃんたちが……!」

 

 我に返った千歌は、リングをポーチに仕舞い込むと、急いで梨子たちの後を追いかけていった。

 

 

 

「みんな……!」

 

 鞠莉たちと梨子、曜は息せき切って、ロッソたちが消えた地点へと駆けつけた。

 そこで彼女たちが目にしたのは、アスファルトの上にぐったりと横たわる克海たち四人の姿。特にウルトラマンの本体の克海と功海の負傷具合は深刻であり、梨子たちは青ざめて息を呑み込む。

 

「克海さんっ! 功海さんっ!」

「功兄ぃ! 克兄ぃ! しっかりしてぇっ!」

「すぐに救急車を!」

 

 側に駆け寄って必死に呼びかける曜たち。鞠莉は迅速な判断で病院に連絡する。

 そこに、千歌も到着する。

 

「……みんな……!」

「ち、千歌ちゃん!」

 

 千歌はこの光景を目の当たりにして、疑惑を確信へと変えた。

 

 

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 オーブダーク、ロッソ、ブルを立て続けに打ち負かしたホロボロスは、身体を揺すって咆哮を上げる。――その近くに、召喚主の怪しい少女がやってくる。

 

「……」

 

 少女が手を伸ばすと、ホロボロスはたちまち粒子に分解され、元のクリスタルに戻って少女の手の平の中に収まった。

 

「……」

 

 少女はその後、克海たちを懸命に介抱するAqoursをしばし見下ろしていたが、やがて無言のままどこかへ立ち去っていった。

 

 

 

「……うッ……」

「うぅ……」

 

 ――意識を失っていた克海と功海が目を開くと、最初に見えたのは、『四つ角』のものではない白い天井だった。

 

「功兄ぃ! 克兄ぃ!」

「みんな! 克海さんと功海さんが目を覚ました!」

 

 二人が覚醒すると、近くから曜と梨子の声が起こる。徐々に意識がはっきりしていくと、克海たちは自分らが病院のベッドに寝かされていたことを知る。

 

「功海さん! 克海さん!」

「よかった、無事に目を覚まして……」

 

 ルビィとダイヤの安堵の声。二人のベッドの周りにはAqoursの八人が集まり、皆安心して胸を撫で下ろしていた。

 

「みんな……」

「あの後、どうなったんだ……?」

「もう一日経ってるわ。私たちで病院まで運んだの」

「ずっと起きないから、心配してたのよ……」

 

 状況を把握できていない克海たちに、鞠莉と善子が告げた。

 

「そうか……。くッ、俺たちまたやられちまったって訳か……!」

「……ごめん。力になれなくて……」

 

 悔やむ功海に、ひと足早く回復していた果南と花丸が申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「いや、結局俺たちが力不足なせいだぜ……」

「こっちこそすまなかった。せっかくの合宿を、滅茶苦茶にして……」

「気にしないで下さい。それより……」

 

 謝る克海に首を振った梨子が、非常に言いづらそうにしながらも告げる。

 

「実は……千歌ちゃんが……」

「千歌!?」

 

 その瞬間に――今までにないほどに暗い表情の千歌が、克海と功海の前に進み出てきた。周りの曜たちは、気まずそうに沈黙する。

 

「……私、見ちゃったの。二人のウルトラマンが消えたところに、お兄ちゃんたちが倒れてたの……。だけど、みんなには何も聞いてないよ。お兄ちゃんたちの口から、直接聞きたいから……」

「……!」

「お兄ちゃん……本当のことを話してよ! お兄ちゃんたちが何をやってるのか! 何で私には何も話してくれなかったのか!」

 

 千歌は真剣な眼差しで、克海と功海と向き合った。

 

 

 

 アイゼンテックの飛行船が上空に巡回する綾香の雑踏の中を、謎の少女が歩いている。――彼女の脳裏にあるのは、倒れ伏した克海と功海の側に集い、二人を懸命に介抱していたAqoursの姿。

 

「……あの娘たち……」

 

 ひと言つぶやいた少女は、周りに人がいない場所に滑り込んでいくと、そこでジャイロと獣のクリスタルを取り出す。

 

ホロボロス!

 

 ジャイロのレバーを三回引いて、再びホロボロスを召喚する――!

 

 

 

 千歌に問い詰められる克海と功海だったが、何も答えずに沈黙だけが流れる。兄妹の周りを囲む梨子たち八人は、一切口を挟むことが出来ずにただ見守るしか出来ないでいた。

 しかし何かの動きが起こる前に、病院の外から轟音と震動が発生した。

 

「! 今のは……!」

 

 鞠莉のつぶやきとともに聞こえるサイレン。直後に病室の扉が開かれて、医者が克海たちへ叫ぶ。

 

「怪獣が出ました! 指示に従って避難して下さい!」

 

 果南が咄嗟にカーテンを開いて窓を開けると、街のど真ん中で暴れ狂うホロボロスの姿を一同が目撃した。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

「またあいつ……!」

 

 歯ぎしりする善子。自分たちを二度も負かした怪獣が、今また出現して猛威を振るっているのだ。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ホロボロスは剛力でビルを根元から引っこ抜き、投げ捨てて綾香の街を破壊していく。これを捨て置けない克海と功海は、すぐに普段着に着替えて出動しようとする。

 

「行くぞ功海……!」

「おう……!」

 

 その後に続こうとする曜たちであったが――兄弟の前を、千歌が腕を広げて立ちふさいだ。

 

「行かないで!!」

「千歌ちゃん……!」

 

 克海と功海の足がピタリと止まった。曜たちもまたその場で立ち止まる。

 

「そんな身体で戦いに行くなんて無茶だよ! 死んじゃうかもしれないんだよ!?」

「……」

 

 訴えかける千歌に、梨子たちは向ける言葉がなく、兄妹の対面をひたすらに見守るばかりであった。

 

「何で……何でお兄ちゃんたちなの? どうして、お兄ちゃんたちがこんな危険なことをしなくちゃいけないの……?」

 

 涙を目尻に浮かべる千歌に、克海が口を開く。

 

「黙ってたのは悪かった。やるべきことが終わったら、全部話す! だから今は行かせてくれ!」

「嫌っ!」

 

 だが千歌は頑なに拒絶。

 

「もしもお兄ちゃんたちがいなくなったら……チカ、怖いの……」

 

 身体が震える千歌に、功海と克海が優しく説く。

 

「この手で綾香市を守らなきゃなんねぇ。みんなが生きるこの街を」

「千歌たちがこれからスクールアイドルとして羽ばたく場所なんだ。壊される訳にはいかない」

「……」

 

 二人の説得で、千歌がゆっくりと腕を下ろしていった。克海と功海はその肩にポンと手を置いてから、脇を通り抜けていく。

 

「千歌ちゃん、私たちも克海さんたちに力を貸すから……!」

「絶対、戻ってくるからね!」

 

 梨子と曜も、千歌に約束する。そして克海たちを追いかけていこうとする寸前、千歌が病室から飛び出して兄弟の背中に叫んだ。

 

「克海お兄ちゃんっ! 功海お兄ちゃーん!」

 

 振り返った二人は、千歌にそっと微笑みかけた。

 

「心配するな。俺たちは」

「「ウルトラマンだ!!」」

 

 その言葉を最後に病院から飛び出していく克海と功海。その後を追いかけて走っていく梨子と曜。

 

「千歌さん……」

「……わたくしたちは、安全なところで克海さんたちの勝利を祈りましょう。きっと、気持ちは届きます!」

 

 残ったルビィたちは、千歌を連れて避難していく。

 

 

 

 外に出た克海、功海、梨子、曜の四人は、今もなお暴れ回るホロボロスを視界に捉えた。

 

「千歌ちゃんにはああ言ったけど、何か倒す手立てがないと結果は同じだよ……!」

「あのスピードが厄介なんです。動きを封じ込めることが出来れば……」

 

 曜と梨子の言葉に、功海が作戦を提案する。

 

「じゃあ、縄文土器作戦ってのはどうだ」

「縄文土器?」

「克兄ぃたちは土の技で奴を泥で包んでくれ。俺たちは火の技を仕掛けて、その泥を固める」

「土は火で熱すると固くなるか……! よしッ!」

 

 うなずき合った克海と功海がパンと手を叩き、ルーブジャイロを取り出した。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」

 

 梨子と曜を後ろに控えさせ、克海と功海が土と火のクリスタルを選択する。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

 

 クリスタルから角を出してジャイロにセット。

 

[ウルトラマンビクトリー!]

[ウルトラマンタロウ!]

「纏うは土! 琥珀の大地!!」

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

 

 克海と梨子、功海と曜を土と火の柱が覆い、ウルトラマンへと変身させていく!

 

[ウルトラマンロッソ! グランド!!]

[ウルトラマンブル! フレイム!!]

 

 

 

 ロッソグランドとブルフレイムが空を飛んでホロボロスに向かっていくのを、避難していく花丸たちが見上げた。

 

「功海さんたち……がんばってずら……!」

 

 固唾を呑む一同。――その時に、千歌は腰に違和感を覚える。

 

「……? ポーチが、光ってる……?」

「え?」

 

 皆が振り向く中、千歌はポーチを開いて光を放つ元を取り出した。

 

「! それって……!」

「どうして、チカっちが……?」

 

 千歌が取り出したのは、オーブリングNEO。それが、淡い光を発しているのであった――。

 



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俺たちの想いよひとつになれ(B)

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『『おぉぉッ!』』

 

 綾香の街を蹂躙するホロボロスに向かっていくロッソとブルは、滑空しながら突撃。飛行の勢いを乗せた拳を相手の腹部に入れ、大きく殴り飛ばした。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『はッ!』

 

 ホロボロスが地面に叩きつけられると、着地したロッソとブルが手の平を叩き合って呼吸をそろえる。

 

『『縄文土器作戦開始!』』

 

 構えを取って宣言したロッソたちに、起き上がったホロボロスが大きく吠えて飛び掛かっていく。

 

 

 

 ロッソたちが戦っている頃、ルビィたちは、

 

「ま、待ってよぉ千歌ちゃーん!」

「本気!? 危ないわよ!」

 

 戦場に向かって走る千歌を慌てて追いかけていた。

 善子が思いとどまるよう叫びかけるが、千歌の足が止まることはなかった。

 

 

 

 こちらに目掛け迫り来るホロボロスに、ロッソが土の塊を投げつける。

 

「『グランドコーティング!!」』

 

 ロッソが次々に投げつける土の球がホロボロスの五体を順番に包み込んでいき、全ての球を投げた時には全身が土で固められていた。

 しかしこのままでは、恐るべき筋力のホロボロスを長く抑え込んでいることは出来ない。そこでブルの出番だ。

 

「『フレイムバーン!!」』

 

 両手の平から火炎放射を繰り出すブル。火で焼かれた土がコチコチに固まり、ホロボロスの身動きを完全に封じ込めた。

 

『「よしっ! 今の内だよ!」』

『「ええ! 一気に決めましょう!」』

 

 曜の呼びかけにうなずき返す梨子。ロッソは掲げた両手の間に土を集め、巨大な岩の爆弾を作り上げる。

 

「『グランドエクスプロージョン!!」』

 

 これを身動きの取れないホロボロスに放ち、猛烈な爆発をまともに食らわせた!

 

『やったか!?』

『よっしゃあッ!』

 

 確かな手応えを感じたロッソたち。だが――。

 

「――ウオオオオオ―――――ン!」

『何!?』

 

 渾身の一発が直撃したというのに、ホロボロスは倒れてはいなかった!

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 むしろ更に凶暴化したように、暴れ狂いながら爪を振りかざして切りかかってきた。

 

『うわッ!』

 

 ホロボロスの飛びつきを咄嗟にかわすロッソとブル。梨子と曜は冷や汗を垂らす。

 

『「今のを受けても何ともないなんて……!」』

『「丈夫すぎるよこいつぅっ!」』

 

 ホロボロスの屈強すぎる肉体に、作戦が破られたロッソたちは追いつめられていた。ホロボロスの単純な強さには弱点がなく、そのせいで活路を見出せずにいた。

 

『こうなったら作戦も何もなしだ! 全力で相手するぞ!』

『このヤロー! いい加減倒れろぉーッ!』

 

 ロッソとブルは捨て身の覚悟でホロボロスに飛び掛かっていき、肉弾の勝負に打って出るも、やはり肉体の強度には大きな開きがあって、瞬く間に叩き伏せられていく。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『うわッ!』

『ぐわぁぁッ!』

 

 ロッソとブルのコンビネーションを物ともせず、爪や脚による攻撃で二人を返り討ちにするホロボロス。追いつめられる二人の元に、千歌が走ってくる。

 

「克海お兄ちゃんっ! 功海お兄ちゃーん!」

『『千歌!?』』

 

 千歌に振り返ったロッソたちがギョッと目を剥いた。

 

『「な、何で千歌ちゃんがここに!? 避難したんじゃ……!」』

「ごめん! 千歌がどうしてもって聞かなくて……!」

 

 曜が戸惑っていると、千歌を追いかけてきた果南たちが声を張って謝った。

 

『くッ……! 何としても奴を倒さなければ!』

 

 目の前にはホロボロスがいる。最早退くことが出来なくなったロッソたちは、尋常ならざる覚悟を固める。

 

『「曜ちゃん! クリスタルチェンジよ!」』

『「うん! 全力を絞り尽くそう!」』

 

 梨子と曜はクリスタルチェンジし、自分たちの持てる力の全てを出し尽くせる状態となる。

 

『「ビーチスケッチさくらうち!」』

『「ヨーソロー!」』

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 ロッソフレイムとブルアクアに変身した二人が、すかさずダブルドロップキックを仕掛ける。

 

『『はぁぁぁぁーッ!!』』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 全身全霊の攻撃が決まり、ホロボロスも流石に蹴り飛ばされたが、押されたのは一瞬だけ。すぐに体勢を立て直してロッソたちに再度襲い掛かってくる。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

『うわぁッ!』

 

 ロッソとブルにタックルをかまし、捕らえたまま締め上げようとするホロボロス。だが、ロッソたちはひたすらに踏ん張って抵抗し、ホロボロスを押し返そうとする。

 

『「こ、ここから先は絶対通さない……!」』

『「すぐ後ろに、千歌ちゃんたちがいるんだ……!」』

 

 千歌たちを護るため、全身から汗を噴き出しながら力を出し続ける梨子と曜。しかし持久戦となってはウルトラマンに分が悪く、やがてカラータイマーが点滅を始める。

 それでも決してあきらめずに拮抗し続けていると、千歌がオーブリングNEOを再び取り出し、それに願いを込め始めた。

 

「お願い……! どうか、お兄ちゃんたちに力を……! お兄ちゃんたちを、助けて……!」

 

 リングをぎゅっと握り締めながら、万感の想いを捧げる千歌。

 

「お兄ちゃん……! 私、信じてる! だから負けないで!!」

 

 必死の願いを、あらん限りの声で叫ぶ千歌。

 すると、

 

「ずらっ!?」

「な、何ですの……!? リングが、光って……!」

 

 千歌の手の中のリングから、すさまじい閃光がほとばしった。あまりの光量にダイヤたちは直視できず、反射的に目をそらす。

 

「す、すごい光……! 私たちが使った時も、こんなには光らなかったのに……!」

 

 驚きを見せる鞠莉。そしてリングはひとりでに浮き上がって千歌の手から離れ、ホロボロスに苦しめられているロッソとブルの元へと一直線に飛んでいった。

 ホロボロスとの間に入り込んだリングが更なる閃光を発して、目を焼かれたホロボロスはロッソたちから手を放して後ろに倒れる。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 解放されたロッソたちは安堵するより、見たことがないほどに光るリングに驚愕する。

 

『「オーブリングNEO……!」』

『「すごい光ってる……!」』

 

 驚くとともに、リングの輝きに勇気づけられた梨子と曜は、リングへと手を伸ばした。

 

『「私たちから行くよっ!」』

 

 曜がリングを手に取り、中央のボタンを押す。リングから生じるエネルギーが、ブルの身体にみなぎった。

 

「『スペリオン光線!!」』

 

 十時に組んだ腕からほとばしった光の奔流がホロボロスに押し寄せる。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 前回と同じように弾き返そうとしたホロボロスだが――光線は爪を粉砕! 自慢の武器を砕かれ衝撃を受けるホロボロス。

 

『「梨子ちゃんっ!」』

『「ええ!」』

 

 曜がリングをパスして、受け取った梨子がボタンを押して光と闇のエネルギーを解放する。

 

「『ゼットシウム光線!!」』

 

 ロッソの腕から放たれた一撃がホロボロスに突き刺さり、その巨体を空中に吹っ飛ばした。

 

「ウオオオオオ―――――ン!!」

「す、すごいですわ……!」

「ヨハネたちの時とは、全然違う威力……!」

 

 一転してホロボロスを追いつめるロッソとブル、それを可能としたオーブリングNEOの威力に目を見張るダイヤたち。果南は唖然としながら千歌に振り向いた。

 

「千歌が、手にしたから……?」

 

 ロッソは今こそが勝機と見て、ブルたちに呼び掛ける。

 

『俺たちの想いをひとつにするんだッ!』

『分かったぁ!!』

『「梨子ちゃん、お願い!!」』

『「任せてっ!!」』

 

 梨子が再びリングのボタンを押すと、ルーブジャイロにリングをセットしてレバーを引っ張り出す。

 

『俺たちの守るべきものを!』

『守り抜くために!』

『「「気持ちを、ひとつに!!」」』

 

 三回目のエネルギーチャージの際に、梨子と曜は一瞬、ほんの一瞬だけ、幻視した。

 

『「「――あなたは……」」』

 

 頭の左右にリボンを結った、誰しもが持っていそうな親しみがありながら、同時に誰よりも温かい慈愛の感情と輝きを醸し出す、不思議な少女の微笑みを――。

 

『『はぁぁぁッ!』』

 

 ロッソとブルは胸の前に両手で円を作ると、右腕と左腕を頭上に伸ばしてタッチさせる。その二人の手を中心にエネルギーがあふれ返る。

 

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 二人からただならぬものを感じたか、ホロボロスはこちらも全エネルギーを集中させて光刃を作り出し対抗しようと構える。

 ロッソとブルのエネルギーが頂点に達すると、二人の背後にもう一人の光の戦士――真のウルトラマンオーブの幻像が現れ、三人で四色の煌めきを宿した光の輪を作り出す。

 

『『はぁぁぁぁぁぁ―――――――ッ!!』』

 

 ロッソとブル、オーブが十字を組み、三人の光線をリングで一つに束ねて発射!

 

「『「『トリプルオリジウム光線!!!!」』」』

「ウオオオオオ―――――ン!」

 

 ウルトラ戦士たちの光線と、ホロボロスの放った光刃が衝突! 光刃が光線を切り裂いて進もうとするが、

 

「『「『いっけぇぇぇぇぇ――――――――――――!!!!」』」』

 

 光線が光刃を打ち砕き、ホロボロスの肉体を貫通した!

 

「ウオオオオオ―――――ン!!」

 

 驚異的な耐久力を誇ったホロボロスも遂に限界を迎え、跡形もなく爆散!

 

「やった……!」

「か、勝ったぁぁぁぁぁ――――――――!!」

 

 これを見届けた千歌たちが、わっと歓声を上げる。

 

「よかった……本当に、よかった……!」

「これでやっと安心ずらぁ……」

「ナイスファイトっ!」

「ふっ……これぞ堕天使の祝福……!」

「ほらルビィ、何を泣いていますの。お拭きなさい」

「だって、だってぇ……」

 

 胸を撫で下ろす果南、花丸。健闘を称える鞠莉、善子。思わず感涙してしまうルビィを、ダイヤがあやす。

 そして微笑んで見上げる千歌に、ロッソとブルが強くうなずくと、二人で拳を打ち鳴らして手の平をパンッと重ね合わせた。

 

 

 

「――春香……」

 

 

 

 変身を解いた克海、功海、梨子、曜の四人は、千歌たちの元へと戻ってくる。

 

「……ただいま」

「……おかえりなさい」

 

 苦笑を浮かべながら告げた克海と功海に、千歌は微笑とともに返した。

 そして、ガバッと二人に抱き着く。

 

「お、おい!?」

 

 千歌は克海と功海の胸に顔を埋めるようにしながら、声を絞り出した。

 

「よかった……よかったよぉ……お兄ちゃんたちが、帰ってきて……」

「千歌……?」

「どっか行っちゃうかもって思って……怖かったんだもん……。チカを置いて……行っちゃわないでよぉ……」

 

 ぐすっと嗚咽混じりにつぶやく千歌の背中を、克海と功海が優しくさする。

 

「ごめんな、千歌……。もう隠し事はしないから」

「兄ちゃんたち、ずっとお前の傍にいるからな」

 

 ぎゅっと抱き合う兄妹たちの姿を、梨子たちは微笑みながら、優しい眼差しでじっと見守っていた。

 やがて、鞠莉がパンと手を叩いて場を仕切る。

 

「さっ! みんなで内浦に帰りまショー! 合宿の続きデース!」

「そうですわ! 結局、特訓をやれてません! 明日から改めて行いましょう!」

「え、えぇー!? あれほんとにやるんですかぁ!?」

 

 気持ちを切り替えた千歌たちが、ダイヤの呼びかけにためらいの声を上げた。

 

「そんな軟弱な気持ちではいけませんわよ! 克海さんたちだって、全力を出し尽くしたところではありませんか! 見習わないといけなくてよ!」

「いや、それとこれとはちょっと違うと俺も思うんだけどな……」

「えらい張り切ってんなー……」

 

 ぼやく克海と功海だが、やる気満々のダイヤは結局誰にも止められそうになかった。

 そんなこんなで、一同は和気あいあいと話し合いながら内浦へのバス停へと歩いていく。

 

「それにしても、最後の一撃すごかったよね。何か背後霊みたいなのまで出てきちゃってたし!」(果南)

「あれこそ光と闇を併せ持つ真なる堕天の使徒……。あるいは、幽波」(善子)

「あんなこと出来るのなら、もっと早くやればよかったのにずら」(花丸)

「いやー、急に頭の中に浮かんできたんだよね。やり方」(曜)

「ええ。実際やってみて、あんなすごい技あったんだってびっくりだわ。無我夢中だったから気にならなかったけど」(梨子)

「ウルトラマンってすごいんだね~……」(ルビィ)

「今更ながら、常識では計り知れない存在だと見せつけられましたわ」(ダイヤ)

「ウルトラマンにはまだまだ俺たちの知らない力があるみたいだな」(克海)

「それって、お兄ちゃんたちがもっともっとカッコよくなるってことかな!?」(千歌)

「何にせよ、今夜は怪獣撃退パーティーやろうぜ! 俺シャイ煮食ってみてぇ! いいよな!」(功海)

「Of course! 一杯十万円デース!」(鞠莉)

「え……!?」(功海)

 

 ――団欒とともに立ち去っていく兄弟とAqoursの背中を、謎の少女が密かに見つめていた。

 彼女は、特にAqoursに注目してひと言つぶやく。

 

「……ウルトラマンとともにいる、あの娘たち。何故……」

 

 彼女の頭上の空では、アイゼンテックの飛行船がゆっくりと旋回していた――。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

ダイヤ「ダイヤッホー! 今回ご紹介しますのは、『Shine your ORB』ですわ!」

ダイヤ「この歌は『ウルトラマンオーブ』のエンディングテーマですの。歌手はvoyagerさんと、クレナイガイ役の石黒英雄さんに加え、SSPのお三方の『オーブ』レギュラー陣の皆さまですわ!」

ダイヤ「オープニングの『オーブの祈り』が典型的なヒーローソングだったのに対して、こちらはゆったりとしたメロディで、エンディングらしい落ち着いた曲調となってますわ。一方で、こちらの歌詞も『オーブ』の内容が強く反映されてますわ」

ダイヤ「ところでオーブの存在は『R/B』の中盤で物語に大きく関わっていましたが、肝心のロッソとブルとは意外な関係があったことが終盤になって語られました。驚かれた方もいらっしゃることでしょう」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『想いよひとつになれ』だ!」

功海「第一期第十一話のライブシーンで使用された歌だな! ストーリーの都合上、ここでは梨子を除いた八人という珍しい人数でのライブとなったんだぜ」

克海「このライブに至るまでの経緯が十一話の主題だ。千歌と曜ちゃんの関係にスポットが当たる話だから、この組み合わせが好きな人は必見だな」

ダイヤ「それでは、また次回でお会い致しましょう」

 




克海「ラブライブの予備予選に臨む千歌たちだが、梨子ちゃんが抜けた穴を埋めるのに苦労していた。曜ちゃんが代役を務めることになるんだが……」
鞠莉「曜はチカっちに複雑な気持ちがあるみたい。これはほっとけないわ」
克海「そんな時に現れる新手の怪獣! 千歌たちの邪魔はさせないぞ!」
鞠莉「次回、『ふたりの星で踊るんだもん!』!」
克海「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」


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ふたりの星で踊るんだもん!(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

果南「大暴れする大怪獣ホロボロス! あきらめずに立ち向かう克兄ぃたちだけど、絶体絶命のピンチに……! その時に千歌が手にしてたオーブリングNEOが新しい力を与えて、遂にホロボロスをやっつけた!」

 

 

 

 ――『四つ角』で、千歌がぷくーと頬を膨らませてすねていた。

 

「……千歌、何であんな顔してるの?」

「それが……」

 

 果南の問いかけに曜が苦笑いしながら答えようとするが、それより早く千歌が言う。

 

「お兄ちゃんたち、ひどいんだ~。みんなにはウルトラマンの秘密教えてたのに、チカにだけずっと黙ってたなんて。チカだけのけ者にしたんだ~」

「い、いや別に、そんなつもりはなかったんだぞ? ただ、結果的にそうなったってだけで……」

「そ、そうそう、なりゆきだって。だからそんな怒んなって」

 

 克海と功海が焦りながら弁解するのを、若干呆れながらながめる果南たち。

 千歌は二人の言い訳を聞くと、振り返ってこう頼んだ。

 

「許してほしかったらさ、私もウルトラマンに変身させてよ!」

「え?」

「もうみんなは変身したんでしょ? 私にもやらせて!」

「おいおい。ウルトラマンは遊びじゃ……」

「変身したいしたいぃ~! チカにもやらせて~!」

 

 拒否しようとする克海に千歌はじたばたと駄々をこねる。それに肩をすくめる功海。

 

「しょーがねぇなぁ。一回だけだからな」

「ほんと!? ありがと功海お兄ちゃん!」

「おい功海……!」

「いいじゃん、一度だけなら。すぐ戻るからさ」

 

 咎める克海に断りを入れて、功海は千歌と並んでルーブジャイロを取り出そうとする。

 

「じゃあ行くぞ。俺色に染め上げろ! ルー……!」

 

 だがいつものようにジャイロを構えた瞬間――バチィッ! と激しいスパークが発生した。

 

「うおッ!?」

「きゃっ!?」

「だ、大丈夫ですかぁ!?」

 

 スパークの衝撃ではね飛ばされる功海と千歌。周りで見ていたルビィたちは驚いて二人に駆け寄った。

 

「あ、ああ、大丈夫だ。けど……」

「え……えぇ~!? 何で変身できないの~!?」

 

 ジャイロに拒絶されたことに千歌はガビンとショックを受けた。克海はジャイロを拾い上げて首をひねる。

 

「変だな……。こんな反応、今まで一度だってなかったのに」

「わたくしたちは皆、何の問題もありませんでしたわよね」

「どうしてチカっちだけ駄目なのかしら?」

「不思議ずらぁ~」

「もしや、天界の非情なる審判……!」

「千歌、ジャイロを怒らせるようなことでもしたんじゃね?」

「そ、そんなことないもん!」

 

 功海の冗談にムキになった千歌は、ジャイロを力ずくで動かそうとする。だがレバーは石になったかのようにびくともしない。

 

「何かの間違いだよ今のは! う、動けぇ~……! うぎぎぎぎ……!」

「おいおいやめろって! 壊れたらどうすんだ!」

 

 それでも無理矢理引っ張る千歌から功海がジャイロを取り上げた。

 

「うぅ~……何で私だけぇ……?」

「千歌ちゃん、元気出して……。気にすることないわよ……」

 

 ガックリと落胆した千歌を励ます梨子。だが、不意にその眉間に皺が寄った。

 彼女は、昨晩に千歌とある話をしていた――。

 

 

 

『ふたりの星で踊るんだもん!』

 

 

 

 ――後日、千歌たちは新幹線の綾香駅に集っていた。

 

「しっかりね!」

「お互いに」

 

 千歌たちが見送りをしているのは、梨子。彼女はこれから、ピアノコンクール出場のために東京に向かうところであった。

 同日のラブライブ予備予選のために、一度は見送ろうとした梨子。しかしこのことを偶然知った千歌に、彼女の最初の目的だったピアノをあきらめないでほしいと説得され、その結果出場を決意したのであった。

 

「梨子ちゃん、がんばルビィ!」

「東京に負けては駄目ですわよ!」

「チャオ♪ 梨子」

「気をつけて」

「ファイトずら!」

 

 皆の声援を受ける梨子に、彼女らを送ってきた克海が声を掛ける。

 

「コンクール、頑張ってな。この綾香市から応援してるから」

「は、はい。ありがとうございます……」

 

 頬を多少上気させながらお礼を言い、改札を通っていく梨子。その背中に、最後に千歌が呼び掛ける。

 

「梨子ちゃーん! 次は! 次のステージは、絶対みんなで歌おうねっ!」

「……もちろんっ!」

 

 千歌に笑顔で応じて、梨子はホームへと駆けていった。それを見送り、ダイヤたちは踵を返す。

 

「さぁ、練習に戻りますわよ」

「これで予備予選で負ける訳にはいかなくなったね!」

「何か気合いが入りマース!」

「ねっ、千歌ちゃん!」

 

 振り向きながら千歌に呼び掛ける曜だったが……千歌はまだ改札の前に留まって、梨子が消えたところを見つめていた。

 

「千歌ちゃん……」

 

 その背中を、曜もまた見つめた――。

 

 

 

 アルトアルベロタワー、社長室。

 

「くそぅ……ひどい目に遭った」

 

 サルモーネは全身包帯でグルグル巻きの状態で、社長の椅子に座っていた。前回、ホロボロスにズタボロにされたことで重傷を負ったのである。

 

「何が起こったのかは分からんが、きっと全部あのぼんくら兄弟どものせいだ! リングもまた奪われてしまったし……何で私がこんな目に遭わなきゃならんのだ~!」

 

 人のせいにしてジタバタと暴れるサルモーネだが、すぐ身体に激痛が走って悶える。

 

「あッたたた……! 滅茶苦茶痛い……!」

「社長、落ち着いて下さい。一か月は安静にしなければいけません」

 

 苦痛にあえぐサルモーネを氷室が諫める。

 

「その間は、活動はどうかお控えを」

「うーむ、仕方ないか……。その代わりに!」

 

 サルモーネはギプスをはめた手で氷室を指した。

 

「氷室君! 君が行ってリングを取り返してくるのだッ!」

「私が……ですか?」

「特別にAZジャイロ貸してあげるからさ! この私専用のッ! 君だから特別にだよッ!」

 

 やたらと特別を強調するサルモーネに、氷室が冷めたような目を、デスクの上のジャイロに向ける。

 

「……これは我々で共同開発したものですが」

「あー、そうだったっけ? まぁ細かいことはいいじゃないか!」

 

 軽くとぼけたサルモーネは、繰り返し氷室に命令した。

 

「ともかく、取り返してきてくれたまえ! 吉報を待ってるよ!」

「はぁ……」

 

 若干気のない返事で、氷室がジャイロを手に取った。

 

 

 

 夕方、功海は綾香市のバイブス波を観測しながら内浦をパトロールしていた。

 

「……異常はなし、か。サルモーネの奴も、あんだけの重態だから当面は大人しくするつもりかな」

 

 独りごちながらコンビニの前を通りがかると、その敷地内で千歌と曜の二人を見かける。

 

「おッ、千歌たちだ。あんなとこで練習してんのか?」

 

 千歌と曜はコンビニの横でダンスの練習をしている。が、途中で二人の肩と肩がぶつかってしまった。

 

「あたっ!」

「ごめん……!」

「ううん、私がいけないの。どうしても梨子ちゃんと練習してた歩幅で動いちゃって……」

 

 と千歌が言うと、曜が一瞬複雑そうな顔となる。そこに近寄っていく功海。

 

「おーい千歌ー、よーう」

「あっ、功海お兄ちゃん」

「功兄ぃ」

 

 振り返った二人に功海は言葉を掛ける。

 

「随分張り切ってんな。けど、その割には上手くいってねぇみたいだけど」

「あはは……。梨子ちゃんがいない分、立ち位置を変更したからね」

 

 千歌は苦笑いしながらそう返した。

 

「梨子ちゃんのところに曜ちゃんに入ってもらったんだけど……歩幅が違うと間隔って大分変わってくるんだね。さっきからぶつかってばっかで。曜ちゃん、もう一度やってみよう!」

「うん。だけど……」

 

 千歌の呼びかけに、曜がうなずきつつも提案する。

 

「千歌ちゃん。もう一度、梨子ちゃんと練習してた通りにやってみて」

「えっ、でも……」

「いいから。行くよ!」

 

 戸惑う千歌を促しながら、曜が千歌と所定の位置に並んで立つ。

 

「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト!」

 

 拍を取りながら離れていた二人が近づいていってポーズ。最後に肩を寄せ合うタイミングで今までぶつかっていたが、今回は触れずにギリギリの距離で止まった。

 

「おぉ、出来たじゃねーか!」

「天界的合致!」

 

 功海と、物陰から様子を見ていた善子たちが声を弾ませた。

 

「曜ちゃん!」

「これなら大丈夫でしょ?」

「う、うん! 流石曜ちゃん! すごいね……」

 

 曜が千歌に笑いかけていると、千歌の携帯に電話が掛かってくる。

 

「あっ、梨子ちゃんからだ! もしもーし?」

 

 千歌が電話に出ている間に、功海が曜に話しかける。

 

「悪りぃな、曜。千歌に合わせてくれたんだろ」

「うん、まぁ……」

「あいつ、なかなか人のこと考えないとこあるからなー。つき合ってて大変なことも少なくないだろ」

「あはは。それ功兄ぃが言う?」

「なにぃ~? お前言うようになったじゃねぇか曜~!」

「きゃ~♪ 功兄ぃがいじめる~♪」

 

 功海と曜がじゃれ合っていたら、梨子と通話していた千歌がスマホを曜に向けてきた。

 

「曜ちゃん! 梨子ちゃんに話しておくこと、ない?」

「え……」

 

 曜は瞬く間に真顔になって、千歌へ振り返った。

 

「えっと……」

 

 曜が何やら返答をためらっていると、千歌のスマホがピー、ピーと電子音を出す。

 

「あっ、ごめん! 電池切れそう……。またって言わないでよ~。まただけど……」

 

 慌てて携帯を自分の耳にあてがう千歌。彼女の意識から外れた曜は、複雑そうに眉を寄せた。

 梨子に謝りながら通話を終えた千歌は、立ち上がって曜に向き直る。

 

「じゃあ曜ちゃん、私たちももうちょっとだけがんばろっか!」

「……うん、そうだね!」

 

 傍目からだと快活そうに応じた曜だが、かすかに歯切れが悪いことに功海が気づき、曜に視線を向けた。

 

「……」

 

 

 

 その後、功海らと別れて一人帰宅するところだった曜は、道中で鞠莉と遭遇し、大型展望水門へ場所を移し、そこで話をしていた。

 

「……千歌ちゃんと?」

「ハイ! 上手くいってなかったでしょー?」

「あ……それなら大丈夫! あの後二人で練習して上手くいったから!」

「イーエ。ダンスではなく……チカっちを梨子に取られて、ちょっぴり、嫉妬ファイヤー♪ が、燃え上がってたんじゃナーイの?」

「し、嫉妬!?」

 

 内心を見抜かれて動揺した曜に、鞠莉は己の経験を踏まえながら助言を与える。

 

「要はチカっちのことが大好きなんでしょ? なら、本音でぶつかった方がいいよ。大好きな友達に本音を言わずに、二年間も無駄にしてしまった私が言うんだから、間違いありません♪」

「あ……」

 

 鞠莉の言葉で、それまで暗くなりがちだった曜の表情が、わずかにだが明るくなった。

 

「それじゃ、気をつけて帰ってね♪」

 

 これで話は終わりとなって、鞠莉は曜の下から離れていこうとする。――その寸前に、

 

「――随分と熱心なのだな」

「え?」

「What’s?」

 

 いつの間にか、二人の近くに一人の見知らぬ少女が立っていて、その子が急に話しかけてきた。

 全身黒い、ゴシック調の洋装の少女。善子が好んで着るものよりは派手ではないが、少女自身の纏う雰囲気が妙に俗世離れしているため、ある意味ではこちらの方が堕天使らしく見える。そんな不思議な少女であった。

 

「……鞠莉ちゃん、知り合い?」

「いいえ。覚えはないけれど……」

 

 記憶にない人物から突然話しかけられた二人は戸惑い気味だが、当の少女はお構いなしという風に質問してくる。

 

「どうしてあそこまで一生懸命になれる? 何もお前たちが、あそこまで身体を張る必要はないのではないか?」

 

 少女の口ぶりに、自分たちスクールアイドルに興味のある子なのかなと考えた曜が返答する。

 

「ううん。誰かに任せてたら、結局何も変わらないかもしれないから。だから私たちがやるんだよ」

「だが、お前たちがやったところで何も変わらないかもしれない」

「そうかもしれないけど……だけどやらないで後悔するよりはいい。だから、どんなに大変でも苦しくても、頑張ることが出来るの!」

「……そうか」

 

 曜の唱えたことに、黒衣の少女は短くつぶやいて、納得をしたのかは定かではないが、踵を返して曜たちの前からスタスタと立ち去っていった。

 その後ろ姿を呆然と見送った曜が、鞠莉に振り返る。

 

「あの子、どこの子なんだろ。ここらじゃ見ない顔だったけど……。でも、私たちのファンなのかな? わざわざスクールアイドルのこと聞いてきて」

 

 と言うと、鞠莉は考え込みながら首を振った。

 

「もしかしたら……スクールアイドルのことを聞いてたんじゃないのかも」

「え? それだったら、何のことを……」

 

 一瞬唖然としたものの、答えに考えついた曜は、朗らかに笑い飛ばした。

 

「まっさかぁ。いくら何でも考えすぎだよ。あんな会ったこともない子が、ウルトラマンのこと知ってるはずないって。考えすぎだよ鞠莉ちゃん」

「ええ……まさかそんなはずはとは思うんだけれど。でも、普通じゃない子というのは確かだと思う」

 

 曜に諭されても、鞠莉は少女の得体の知れない雰囲気によって沸き上がった胸騒ぎが収まらずに、眉間に皺を寄せた。

 

 

 

 ――曜と鞠莉がいる展望水門を、氷室が外から見上げていた。

 

「……」

 

 彼は曜たちの姿を窓ガラス越しに確認すると、サルモーネから借り受けたAZジャイロと「恐」のクリスタルを取り出して、セットする。

 

ハイパーゼットンデスサイス!

 

 そして無言のままにレバーを三回引き、充填したエネルギーを解放した――!

 



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ふたりの星で踊るんだもん!(B)

 

 見知らぬ少女に急に話しかけられて、微妙な空気になったりもしたが、曜と鞠莉は改めて帰ろうとした。

 が、その時に、どこからかズシィンッ! と激しい震動が起こって二人を揺さぶった。

 

「ひゃっ!? な、何なに!?」

「今のは……!」

 

 鞠莉の顔に緊張が走って、窓へと首を向けた。その向こうに見えたものに、二人が息を呑む。

 

「ピポポポポポ……ゼットォーン……」

 

 全身漆黒の甲殻に覆われた、人型でありながら明らかな異形の巨大怪物が湾内にそびえ立っていた。顔面に顔のパーツがない代わりに十字型の発光体が張りつき、腕の先は鎌状となっている。

 氷室の手によって召喚された宇宙恐竜、ハイパーゼットンデスサイスだ!

 

「か、怪獣!」

「またサルモーネの仕業!?」

 

 海面をかき分けながらこちらの展望水門に接近してくるハイパーゼットンデスサイスの姿に、曜と鞠莉は焦りを浮かべた。

 

「すぐにここから逃げましょう!」

「う、うん! 功兄ぃたちを捜さなきゃ!」

 

 流石に慣れたもので、二人は冷静な判断の下にすぐさま水門の非常口に向かって駆け出し、ゼットンが攻撃してくる前の脱出を試みた。

 

 

 

 克海と功海は怪獣出現のバイブス波をキャッチして、すぐに水門前に飛んできた。

 

「いたぞ!」

「サルモーネの野郎、もう悪だくみを再開しやがったのか!」

「あれだけのダメージで、もう動けるようになってるとは思えないんだが……」

 

 車から降りた克海と功海の下へ、ちょうど水門から外に走り出てきた曜と鞠莉が寄ってくる。

 

「克海! 功海! もう来てたのね!」

「鞠莉ちゃん、曜ちゃん! 何でこんなところに……」

「克兄ぃ、逆かもしれないぜ。曜たちを狙って召喚したのかも」

「私たちが狙い!?」

 

 目を見張る曜。

 

「曜たちの方を狙うなんて、卑怯な手を使いやがる!」

「だが、今更二人に何の用が……」

「そんなこと話してる場合じゃないわよ! 怪獣を上陸させちゃ駄目!」

 

 鞠莉の言う通り、ゼットンはこうしている間にも陸地にどんどん近づいてきている。

 

「そうだった。行くぞみんな!」

「おうよ!」

「ヨーソロー!」

 

 克海と功海が拳を打ち鳴らし合って、ルーブジャイロを前に突き出した。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 そして克海が目元でピースサインしながらウィンクする鞠莉を、功海が敬礼する曜を背にしながらクリスタルを選び取る。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

[ウルトラマンタロウ!]

[ウルトラマンブル!]

 

 克海は火の、功海は水のクリスタルを選択してジャイロにセットした。

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「纏うは水! 紺碧の海!!」

「ヨーソロー!」

 

 グリップを三回引いて、エネルギーチャージ!

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 変身して飛び出していったロッソとブルが、ハイパーゼットンデスサイスの頭上を飛び越えて海面に着水した。

 

『『はッ!』』

「ピポポポポポ……ゼットォーン……」

 

 堂々と決めポーズを取った二人に、ゼットンは180度振り返って両手の鎌を向ける。

 

『……普通に変身できたな。やっぱ、ジャイロが壊れたとかじゃないみてぇだ』

 

 己の身体の調子を確認するブル。千歌の時はジャイロに拒まれたことを思い出している。

 

『じゃあ何が理由で……』

『今は気にしてる場合じゃないぞ、功海! 敵は目の前だ!』

 

 ロッソの喝で我に返るブル。

 

『そうだったな。まずは俺たちから行くぜ!』

『「相手の手が鎌になってるよ! 危ない!」』

『だったらスラッガーだ!』

 

 ブルはゼットンに対抗して剣で武装して、海面をかき分けながら猛然と肉薄していく。

 

『はぁぁッ!』

「ピポポポポポ……」

 

 振り下ろされたルーブスラッガーブルを、ゼットンは腕の鎌で受け止めた。

 

『俺たちも行こう!』

『「OK!」』

 

 ロッソの方もルーブスラッガーロッソを抜刀し、左に回り込みながらゼットンに斬りかかっていく。

 

『はッ!』

「ゼットォーン……」

 

 片手が使えないゼットンでは双剣の攻撃は防ぎ切れないと思えたが、ゼットンは身をひるがえして斬撃をかわした。追撃を掛けようとするロッソだが、海の水に足を取られて思うように前に進めない。

 

『くッ、海の上だと動きづらいな……』

『けど、それは向こうだって同じはず……!』

 

 とつぶやくブルだったが、

 

「ゼットォーン……」

 

 ゼットンは渦巻きのように肉体が歪んで瞬時に消失した。

 

『はぁッ!?』

『「ど、どこ行ったの!?」』

 

 動揺するブルたち。その背後に、ゼットンは瞬間移動していた。

 

『なッ……!』

「ピポポポポポ……」

 

 咄嗟に振り向くブルだが、暗黒火球を肩に食らって吹っ飛ばされる。

 

『うわあぁぁぁッ!』

『功海ッ! こいつッ!』

 

 ロッソがスラッガーを振るうもゼットンはワープで逃れ、ロッソの背後を取って鎌で切りつける。

 

『ぐわぁッ!』

『「アウチっ!」』

 

 ロッソもまた海面に突っ伏したが、ブルとともにすぐに持ち直した。

 

『くそッ、瞬間移動できるのか……!』

『そんなんチートじゃねぇか!』

 

 毒づくブル。ゼットンは鎌をもたげてこちらの動向を窺っているが、これでは迂闊に攻め入る訳にはいかない。

 たじろいでいるロッソとブルに、鞠莉が激励する。

 

『「バラバラに攻撃してたら翻弄されるだけよ! Combinationを活かすの! 二人の気持ちを合わせて!」』

『「二人の気持ち……!」』

 

 その言葉に、曜が一番反応した。

 

『そうだな! 行くぜ克兄ぃ!』

『ああ! 功海!』

 

 ロッソたちはうなずき合うと、ブルが先行してゼットンにもう一度斬りかかっていく。

 

『おおおおッ!』

 

 その間に鞠莉がクリスタルホルダーに手を伸ばして、新しくクリスタルを選択した。

 

『「Select, Crystal!」』

 

 風のクリスタルから二本角を出して、ジャイロにセット。

 

[ウルトラマンティガ!]

『纏うは風! 紫電の疾風!!』

 

 鞠莉がジャイロのグリップを引いていき、三回目で掲げる。

 

『「シャイニー☆」』

[ウルトラマンロッソ! ウインド!!]

 

 ロッソの体色が紫に変わり、ロッソウインドにタイプチェンジする。

 そしてブルの斬撃をワープで回避したゼットン目掛け、ジャンプで海面から跳び立ってスラッガーを振るう。

 

『はぁッ!』

「ピポポポポポ……ゼットォーン……」

 

 風を纏いながらの素早い剣戟。しかしゼットンの身のこなしも速く、鎌でガード。そこにブルが飛び込んで突きを繰り出すも、またワープで逃げられる。

 

『「そこネー!」』

 

 しかし鞠莉はゼットンの出現先を見切り、ロッソが両拳から球場の風を飛ばした。

 

「『ストームフリッカー!!」』

 

 風は実体化したばかりのゼットンに命中し、風圧で動きを封じ込む。

 

「ピ……ポポポポポ……」

『「やった! 鞠莉ちゃんすごい!」』

『「うふふ。向こうの動きの癖を掴んだの」』

『やるじゃん! 次は俺たちの番だ!』

 

 ゼットンの動きを抑えている内に、ブルが手の平から水流を放つ。

 

「『アクアジェットブラスト!!」』

 

 顔面に水を被せて、水圧で更にひるませるブル。そこで曜が雷のクリスタルをスラッガーにセットした。

 

[ウルトラマンエックス!]

『「たぁーッ!」』

 

 ブルが高々と跳躍し、ゼットンを狙ってルーブスラッガーを思い切り振り下ろす。

 

「『スパークアタッカー!!」』

「ゼットォーン……!」

 

 電撃を纏った斬撃は、水を被っていたゼットンの全身を麻痺させて大きな痛手を与えた。

 

『今だッ! 一気に決めるぞ!』

『「イエース!」』

 

 この機を逃すまいと、鞠莉がオーブリングNEOに手を伸ばす。掴まれたリングが光り輝き、鞠莉の指がボタンを押した。

 

「『ストビュームダイナマイト!!」』

 

 ロッソの全身が炎に包まれ、更に風を纏いながらゼットンに突撃。正面からタックルを決める。

 

「ピポポポポポ……!!」

『「シャイニー!!」』

 

 鞠莉が叫ぶと同時に大爆発! これによってハイパーゼットンデスサイスを粉砕した。

 

『「やったぁー!」』

『決まったぜ!』

 

 カラータイマーが時間を報せる中、ブルはロッソに歩み寄ってパシッとタッチ。そして二人並んで空に飛び上がり、沈みゆく夕陽に向かって飛び去っていった。

 

 

 

 ――氷室はその後ろ姿を、じっと観察しながら独りごちた。

 

「……順調に成長しているようだ」

 

 

 

 後日、ラブライブ予備予選直前の会場。

 

「そっか。千歌と新しくダンス作り直したのか」

「うん!」

 

 ライブが始まるまでの時間に、Aqoursの応援に来た功海と克海が、曜から事の顛末を聞いていた。

 初めは千歌に合わせたステップを取るつもりの曜であったが、考え直した千歌が、曜自身のステップと合わせるようにダンスを一から作り直すことを提案。彼女の気持ちに触れた曜は、心の中のわだかまりが解消され、快活に笑うようになっていた。

 それに気づいた功海がからかう。

 

「おい何だよ~。随分といい笑顔になったじゃんか? 全くこの千歌スキーめがぁ~! そんなに嬉しいのかよ!」

「え~? 別にいいじゃーん。千歌ちゃん好きってのは人のこと言えないでしょ~?」

「な、なーに言ってんだこいつ! 曜のくせに生意気だぞ~!」

「功兄ぃのくせに偉そうに言うな~!」

 

 明るく功海とじゃれ合う曜の様子をながめた克海が、鞠莉と微笑みを交わす。

 

「予備予選、上手く行きそうだな」

「もちろん! 私たちのPerformance、しっかり見てて下さいネー、克海♪」

「もちろん。精一杯応援するよ」

 

 克海の言葉にうふふと満悦気味の鞠莉だったが、ふと顔を上げて告げる。

 

「あっ、そういえば、この間の戦いの直前に少し変わった女の子と出会ったの」

「変わった女の子?」

 

 鞠莉の言葉に曜が振り向いて声を上げた。

 

「あーそれ! あの子、あの後どこにもいなかったけど、大丈夫だったのかな?」

「変わったって、どんな奴だったんだ?」

 

 功海が気になって尋ねると、曜と鞠莉で説明する。

 

「格好や雰囲気は善子ちゃんみたいな感じなんだけど、妙に落ち着いてて大分自然なの。善子ちゃんみたいな、わざとらしさがないっていうか。どっちかって言うとSaint Snowの聖良さんたちに近いかな」

「初対面なのに、何でそんなに一生懸命なのか、なんてこといきなり聞かれてね。……それに、一番不思議に感じてるのは……何だか、初めて会った気がしなかったの」

「あっ、鞠莉ちゃんもそれ思ったの? 実は私もなの! 何か、ずっと前から知ってるみたいな。変な感じだけど」

「曜はそうなの? 私はそこまでじゃなかったけど」

 

 二人の説明の後半が、あまり要領を得ないものだったので、克海と功海は今一つ想像がつかなかったし、大して気に留めなかった。

 

「へぇ……よく分からんが、世の中には色々と変わった子がいるんだな」

「そんなことよりそろそろ時間じゃね? 早くみんなのとこ行ってこいって!」

「あっ、うん!」

 

 曜と鞠莉は最後に、梨子から送られてきたシュシュを巻いた手首に目を落としながらうなずき合った。

 

「東京でがんばってる梨子ちゃんのためにも!」

「予備予選、絶対突破しマース!」

「その意気だ! 二人とも、頑張ってこい!」

「最高のステージにしろよー!」

「「うんっ!!」」

 

 克海と功海に送り出され、曜と鞠莉は勢いよくAqoursの仲間たちの元へと駆けていった。

 

 

 

 そして、Aqoursのステージが始まる。

 

(♪想いよひとつになれ)

 

 観客席からAqoursを見守る克海と功海は、センターの千歌と曜の息の合ったダンスに特に見惚れる。

 

「おお……ちょっと心配だったが、千歌も曜ちゃんも息ぴったりだな」

「ああ。ふたりとも、輝いてるぜ!」

 

 もちろん他の六人のダンスも見事なものだが、肩が触れ合いそうなほどに距離をギリギリまで詰めているにも関わらず、互いの動きを阻害しない完璧な距離感を保っている千歌と曜のステップは、彼らの目にひと際輝いて映っていた。

 ステージ上で天真爛漫に踊り切る千歌と曜の姿に、克海が満足げにうなずく。

 

「今は、あのふたりは煌めく星だな……」

 

 

 

 ――会場の観客席の最後部にて、曜と鞠莉と接触した黒衣の少女が、ステージ上のAqoursのライブをじっと観ていた。

 

「……」

 

 やがて八人のライブが終了すると、少女は他のグループのライブは観ようとはせずに、扉をくぐって通路に出る。

 しかしそこで、後ろからある男に声を掛けられた。

 

「――先日、ホロボロスを召喚した娘だな」

 

 少女の足がピタリと止まり、後ろに振り返る。

 そこにいたのは、氷室仁である。

 

「……何故そのことを知っている」

 

 少女の問い返しに、氷室は答えずに、代わりにこう切り出した。

 

「話がある」

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

鞠莉「シャイニー☆ 今回ご紹介するのは、『ウルトラマンエース』デース!」

鞠莉「この歌は『ウルトラマンA』の主題歌! 歌うのはみすず児童合唱団と、ハニー・ナイツデース! ハニー・ナイツは当時の色んな特撮やアニメ作品に関わってることで有名な男性コーラスグループなのデース!」

鞠莉「『A』は男女変身やレギュラー悪役といった、シリーズ初の要素をふんだんに盛り込んだ作品なので、歌詞にもそれらの単語が入れられてマース! 後に夕子は降板しますが、彼女の名前が入った一番は最後までオープニングに使用されてました!」

鞠莉「実は『A』の元々のタイトルは『ウルトラエース』だったのですが、商標の問題で『ウルトラマンエース』に変更されました。これがなかったら、代々のシリーズは『マン』を抜いたタイトルになってたかもしれませんネー」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『Pops heartで踊るんだもん!』だ!」

功海「テレビシリーズのBlu-ray第一巻の特装限定版の特典曲だ! タイトル通り、ポップなイメージを思いっ切り押し出した一曲だぜ!」

克海「ブルーレイディスク、それも限定版を購入した人だけが入手できるCDだから聴いたことのない人も多いだろうが、それでも一度でも聴いてほしいな」

鞠莉「それじゃ、次回でお会いしまショー☆」

 




鞠莉「私たちAqoursは順調に成果を上げてますが、肝心の浦女存続は目途が立たないまま……。私たちとμ'sで何が違うのか、その答えを探します」
梨子「でも怪獣はスクールアイドルに集中させてくれない。また強敵が現れた!」
鞠莉「もうっ! いい加減にしてほしいデース!」
梨子「次回、『夢のとりでを照らしたい』!」
鞠莉「次回も、シャイニー☆」


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夢のとりでを照らしたい(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

善子「予備予選を前に、梨子の代わりに千歌と闇の契約を結んだ曜。千歌との間に、漆黒の鼓動を打つ悩みを抱えていた。しかし闇黒の魔神との戦いを乗り越えた後に、遂に神々の黄昏、ラブライブに堕天したのです!」

 

 

 

 『四つ角』にて、功海がドタドタと走りながら克海の元に飛び込んできた。

 

「克兄ぃ克兄ぃ! 大変だぜ大変!」

「功海! 旅館の中を走るなって何回言ったら分かるんだ!」

「それどころじゃねーって! 千歌たち、予備予選突破したんだぜ!」

 

 功海が見せつけたスマホの画面には、ラブライブの予備予選合格グループの一覧が表示されており、その中にAqoursの名前があった。

 

「千歌たち、やるじゃねーか! こりゃもしかしたらもしかするかもよ!?」

「はしゃぎすぎだろ。まだ全国どころか、地区予選もあるってのに」

「それでもさ! 最初の頃を思えば、すっげぇ人気の上昇具合じゃんか! この前のPVだって15万再生突破したんだぜ! この調子なら、優勝だって夢物語じゃねぇって! そうは思わね?」

 

 すっかり自分のことのように浮かれ調子な功海であるが……克海は対照的に、重い表情であった。

 

「……克兄ぃ、何かあったの?」

 

 それに気づいて、功海もクールダウンする。

 

「実はな……鞠莉ちゃんから聞いたんだが」

「うん」

「肝心の学校説明会の参加希望者が……未だに0人のままなんだそうだ」

「えッ……!?」

 

 克海から打ち明けられた事実に、功海も衝撃を禁じ得なかった。

 

「マジかよ……。もうすぐ九月で、二学期も始まるってのに」

「いくら千歌たちが頑張ったとしても、当初の目的である浦の星が存続できなければ、どうしようもない……。浦女がなくなれば、Aqoursも事実上解散だからな……」

「そっか……。現実ってやっぱ、そうそう甘くないんだな……」

 

 功海も肩を落として、克海の向かい側に腰を落とす。

 

「何でも、μ'sは今の千歌たちとほぼ同時期には、もう廃校の撤回がほぼ決まってたらしい。随分と状況が違うな……」

「まぁ……冷静になって考えりゃ、やっぱ全然違うっしょ。向こうは秋葉原の学校でしょ? 立地の条件が全然違うじゃん」

「確かにな……。いくら千歌たちが有名になったとしても、それだけでこの内浦の学校に通いたいかと言われたらと考えれば……ある意味当然の話ではあるな」

「けど、そしたら千歌たちはどうすればいいんだろうな?」

「全く分からんし、こればかりは千歌たち自身でどうにかしなきゃいけないことだろう。俺たちがここでああだこうだ言ったり、口を挟んだりしたところで、どうにもならない」

 

 結局は彼女たちを見守るしかない、と、二人はそういう結論に達した。

 

 

 

『夢のとりでを照らしたい』

 

 

 

 その後、克海と功海は千歌から、あることを打ち明けられた。

 

「えッ、また東京に行く?」

「そうなのっ!」

 

 千歌は身を乗り出しながら、二人に向かって力説する。

 

「色々考えて、思ったの。今のままの私たちじゃ、どうしたところで浦の星に入学希望者を呼び込めない。μ'sと私たちのどこが違うのか、μ'sがどうして音ノ木坂を救えたのか、それをこの目で見て、みんなで考えたいって。前の時はそんなこと全然頭になかったけど、今ならμ'sの足取りから何か掴めるんじゃないかなって……。ダメ、かな?」

 

 千歌の問いかけに、克海たちは笑顔で返した。

 

「ダメな訳があるもんか。お前が決めたのなら、存分に行ってくるといいさ」

「土産話、楽しみにしてるぜ!」

「! うんっ、ありがとう! お兄ちゃんたち、大好きっ!」

 

 兄たちに快く送り出され、千歌は満面の笑みを二人に返した。

 

 

 

 後日、千歌たちAqoursの九人は、μ'sの成功の秘訣を掴むために東京へ出発し――そして帰ってきた。

 

「おう。お帰り、千歌!」

「ただいま、お兄ちゃん!」

「梨子ちゃんも、コンクール金賞おめでとう」

「ありがとうございます。これ、東京のお土産です」

 

 『四つ角』の居間で克海と功海は、帰ってきた千歌と久々に顔を合わす梨子と机を囲んでいた。梨子は二人に菓子折りを差し出す。

 

「それで千歌、結局答えは見つかったのか?」

 

 功海が成果を尋ねると、千歌が笑顔でうなずいた。

 

「うんっ! 分かったの。私たちは私たちのままで、自由に走ればいいんだって!」

「え?」

 

 一瞬キョトンとする兄弟に、千歌が詳しく語る。

 

「μ'sのすごいところは、何もないところを、何もない場所を、思いっきり駆け抜けたことなんだって、東京で感じたの。だから……μ'sのようになりたい、μ'sのように学校を救いたいって考えじゃダメなんだって。私たちはμ'sに囚われず、私たちのありのままに輝くべきなんだ。それが、浦の星を救うために必要なこと。これが私の出した結論だよ!」

 

 千歌の答えを聞き、功海が冗談交じりに返す。

 

「なーんかありがちな結論だな。東京まで行って考えついたのがそれかよ」

「えー!? ダメなのー!? これが私の精いっぱいの気持ちだよー!」

「まぁ……確かに言葉だけならありきたりかもな。だが、単純なことこそ頭じゃなく心で感じ取るのが難しいのかもしれない。少なくとも、迷いを振り切ったならそれだけで行った意味があると俺は思うぞ」

「さっすが克海お兄ちゃん! 分かってくれるー!」

「克兄ぃは相変わらず言うことが優等生だなー。ま、千歌がそれでいいってなら俺も異論はないさ。肝心なのは、結果が出せるかだ!」

「うんっ! これから、私たち自身の輝きを前に押し出して、たくさんの人に見てもらう! それで私たちを育てた浦女はすごいところなんだって、みんなに知ってもらうの! 頑張るぞー!」

 

 張り切る千歌に思わず笑みがこぼれる克海と功海。

 話にひと区切りがついたところで、梨子がふと克海たちに尋ねかけた。

 

「ところで、私たちが東京に行ってる間、綾香市は大丈夫だったんですか? ニュースとかでは、怪獣が出たとは聞きませんでしたけど……」

「ああ、それなら心配はいらないさ。意外なほど、何も起きなかったから」

 

 克海が安心させるようにそう答えた。

 

「俺たちもちょっと警戒してたけどさ、ほんと何も起きなかったよな。平和そのものだったぜ」

「こっちとしても、そっちに何かしらのちょっかいが出されるんじゃって不安だったけど、その調子だと大丈夫そうだな」

「ならいいんですけど……。でも、どうして向こうは何もしなかったんでしょう。敵からしたら、私たちが離れてる時こそ都合がいいでしょうに……」

「さぁな……。何か事情があったのかもしれない」

「どうせ、傷の疼きがひどくて何もする気が起きなかったってとこじゃねぇの?」

 

 サルモーネからの動きが一切なかったことを、功海たちはそう深くは捉えなかった。

 

 

 

 アルトアルベロタワーの社長室では、依然として包帯ぐるぐる巻きのサルモーネが氷室を叱りつけていた。

 

「氷室君ッ! 君、どうして昨日は何もしなかったの! 戦いを仕掛けるのには何の問題もなかったはずでしょ!? あの兄弟とAqoursの連中が分断してる時こそ絶好のチャンスだったってのに!!」

 

 カンカンなサルモーネに対して、氷室は至って冷静に反論する。

 

「お言葉ですが社長。敵が分散している状況で戦いを仕掛けようなどと、社長の美学に反するのではないでしょうか」

「えッ?」

「相手の弱っているところにつけ込むなどと、それこそまさに三下の卑劣漢が好んで使う手口。社長は、誰にも負けない偉大なヒーローを目指されているお方。それを思えばこそ、私もいつ如何なる時も自らに恥じるような振る舞いはしないつもりなのです」

「……」

 

 説得され、サルモーネが押し黙る。

 

「勝利を得るならば、相手の本領が発揮できる状態で……。常に騎士道精神に溢れる者こそ、真のヒーローなのではないでしょうか」

 

 と囁かれ、虚栄心をくすぐられたサルモーネはあっさりと己の発言を撤回する。

 

「そうだね、その通りだ! いや~すまないね氷室君、ちょっと焦りすぎちゃってたよ。君はやっぱり私のことをよく分かってくれている! もう何も構うことはないから、存分に君のやり方で戦うといいよ!」

「ありがとうございます。それでは、日を改めてリングを奪い返しに向かいます」

「うんうん! 頑張ってねー! 期待してるからねー!」

 

 ペコリと一礼して、サルモーネの前から退室していく氷室。――社長室の扉を閉じた瞬間に、大きく眉間をしかめた。

 

「……馬鹿の相手は疲れる」

 

 

 

 予備予選を通過したとしても、当然ながらラブライブはそれで終わりではない。次は地区予選。その開催日は、既に目前に迫っている。

 

「ふぅ~……今日も暑くて、練習大変だった~……」

「お疲れさま、千歌」

 

 夜。テーブルの上にぐでぇっと溶けるように突っ伏した千歌に、克海が労いの言葉を掛けた。それから功海が尋ねかける。

 

「調子はどうなんだよ。地区予選は大丈夫そうか?」

「うん、やれるだけのことは毎日やってるけど……。あっ、そうそう!」

 

 バッと顔を上げて、克海たちに報告する千歌。

 

「実はね、今日、むっちゃんたち……クラスメイトの子三人が、一緒にラブライブに出てくれるって申し出てくれたんだ! 他の子も誘ってくれるって!」

「え?」

「それ、受けたのか?」

「もちろん!」

 

 意外な内容に、功海も克海も唖然。

 

「けどお前……今からじゃ到底間に合いっこねぇだろ。その子たち、何の練習もしてねぇんだろ?」

「そりゃあ踊ったりは無理かもだけど、一緒にステージで歌うとかなら間に合うんじゃないかなって。私たち九人だけじゃなく、学校全体で協力してラブライブで成功できたら、強いアピールになるし。きっと入学希望者もたくさん来てくれるって思うの」

「……まぁ、そういうことなら確かに上手くいった時のリターンが大きそうだけど」

「でしょ? それに何より……今は、0を1にしたい」

 

 功海に対して、強い想いを述べる千歌。

 

「……けど千歌、確かラブライブは……」

 

 千歌の言葉を聞いて、克海が何か言いかけたが――。

 

 

 

 それとほぼ同時刻に、氷室は一人、小高い丘にある内浦の展望台に立っていた。そこで夜のとばりに覆われている町をぐるりと一望してから、AZジャイロと「暴」のクリスタルを取り出す。

 

ギャラクトロン!

 

 クリスタルをジャイロの中央にセットして、グリップを三回引く――!

 

 

 

 克海たち兄妹の会話は、外から発生した大きい地響きで打ち切られた。

 

「ひゃっ!? この揺れって……!」

 

 同時に功海のスマホが、バイブス波検出のアラートを鳴らす。

 

「この反応は……!」

「近いぞ!」

 

 克海がカーテンをバッとめくると、窓の外に見える景色の中に、竜人型の巨大ロボットが夜の闇の中にたたずんでいるのが発見される。

 

「怪獣だ!」

「サルモーネの野郎……また仕掛けてきやがったかッ!」

 

 そう決めつける功海と克海。二人のすべきことは決まっていた。

 

「千歌、行ってくる!」

「ここはまだ離れてるけど、危なくなったらしいたけ連れて逃げるんだぜ!」

「うんっ! お兄ちゃん、お願いね!」

 

 千歌に端的に言い聞かせ、二人はすぐさま夜の町に向かって飛び出していった。

 



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夢のとりでを照らしたい(B)

 

 『四つ角』から飛び出した克海と功海は、同じように家から駆け出してきたところの梨子とばったり出くわした。

 

「梨子ちゃん!」

「克海さん、功海さん!」

 

 もう彼らの間に言葉は不要。克海と梨子は小さくうなずき合うと、三人でギャラクトロンに向かって走っていく。

 ギャラクトロンの方はまだ動きを見せていないが、いつ暴れ出すか分からない。町の人々が慌てて逃げていく中を逆走していく克海たちは、更に黒澤姉妹と鉢合わせる。

 

「功海さん、克海さん!」

「梨子さんも、こちらにいましたか」

「二人も来てくれたのか。怪獣はまだじっとしてるけど……」

 

 功海がつぶやいた矢先に、ギャラクトロンの両眼が光ってとうとう顔を上げた。

 ウオォンッ、ウオォンッ……!

 

「あッ! 動き出しやがった!」

「……?」

 

 身構える功海たちの一方でダイヤは、自分たちの合流を合図としたかのようなタイミングで起動したことを訝しんだ。

 しかしギャラクトロンが目の前の小屋を踏み潰したことで、黙ってはいられなくなる。

 

「梨子ちゃん、行こう!」

「はい!」

「こっちはルビィとだ!」

「お姉ちゃん、行ってくるね!」

「……皆、お気をつけて」

 

 梨子とルビィがそれぞれ克海と功海の背後につき、兄弟がルーブジャイロを突き出す。

 

「「俺たち色に染め上げろ! ルーブ!!」」

 

 克海と功海はホルダーから火と水のクリスタルを選択。

 

「「セレクト、クリスタル!」」

 

 それらを慣れた手つきでジャイロにセット。

 

[ウルトラマンタロウ!]

[ウルトラマンギンガ!]

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

「纏うは水! 紺碧の海!!」

「ビーチスケッチさくらうち!」

 

 グリップを三回引いて、変身する!

 

[ウルトラマンロッソ! フレイム!!]

[ウルトラマンブル! アクア!!]

 

 梨子とルビィと一体化して、変身巨大化したロッソとブルが立ち上がる。

 

『『はッ!』』

 

 決めポーズを取るロッソとブルへと、ギャラクトロンが振り向いて戦闘態勢を取った。

 

 

 

「……」

 

 氷室は展望台の上から、無言で対峙したウルトラマン兄弟とギャラクトロンの光景をながめている。

 

 

 

 最初に動いたのはギャラクトロンだ。右腕が変形して銃身がせり出し、そこからビームを発射して攻撃してくる。

 

『うわッ!』

『危ねッ!』

 

 ロッソとブルは二手に分かれてビームをかわし、左右からギャラクトロンを挟む陣形を取る。

 

『はッ!』

 

 ギャラクトロンの右手に回ったロッソがビーム砲を捕らえて抑え込み、その間にブルが左手から飛びかかっていく。

 

『おりゃあッ!』

 

 キックを打ち込もうとするブルだったが、ギャラクトロンの左腕が半回転して剣となり、それを振るってきた。

 

『うわッ!?』

 

 咄嗟に後ろに下がって剣を回避したブルが毒づく。

 

『くっそー、両腕に武器仕込んでるとか危ねぇ奴だぜ』

『「こっちもルーブスラッガーです!」』

 

 ルビィの判断でルーブスラッガーブルを抜き、それで立ち向かう。

 

『はぁッ!』

『「えいっ! えいっ!」』

 

 ブルが切り結ぶ一方で、ロッソがギャラクトロンの腹部に蹴りを入れる。しかし相手に応えた様子は見られない。

 左右から抑えつけられているギャラクトロンだが、機体を大きく振るって二人とも難なく振り払った。パワーを底上げしているロッソもだ。

 

『うわッ!』

『くッ……かなり手強そうだな』

 

 数的不利も物ともしないギャラクトロンの馬力と防御力に小さくうめくロッソ。ギャラクトロンは攻め手を緩めることなく、両眼から光線を発射してきた。

 

『うおッ!』

 

 光線の攻撃から逃れる二人。ロッソはストライクスフィアを投擲して反撃。

 

『食らえッ!』

 

 だがギャラクトロンはピンポイントで魔法陣を展開、盾にして防いだ。

 

『何ッ!』

『「隙がないですね……!」』

 

 攻撃、防御ともにレベルが高いギャラクトロンに手を焼くロッソたち。だがギャラクトロンもこちらを狙って接近してくるので、いつまでも逃げ続けている訳にもいかない。

 

『とにかく攻撃するしかないっしょ! 行くぜッ!』

 

 ブルがスラッガーを構えて立ち向かっていく。同時にルビィがクリスタルを取り出して、スラッガーを強化しようとするも、

 その瞬間にギャラクトロンの後頭部のシャフトが伸び、先端のアームがブルの首根っこを捕らえた。

 

『「ぴぎゃっ!?」』

『うげッ!? しまった……!』

 

 首を捕らえられて宙吊りにされるブル。スラッガーでアームを叩くものの、拘束を解くことは出来ない。

 

『功海ッ!』

『「ルビィちゃん!」』

 

 すぐに助けようとするロッソだが、そちらにはギャラクトロンの右腕が切り離されて飛んでいき、ビームで近寄らせない。

 

『うわぁッ! くそッ……!』

 

 ロッソを足止めしている間に、ギャラクトロンは剣でブルの腹部を狙う……!

 

『や、やべぇ……!』

「ルビィ!!」

 

 嫌な汗が額を伝うブルとルビィ。絶叫するダイヤ。絶体絶命!

 

 

 

「……」

 

 この時、氷室が眼鏡を怪しく光らせながら、ジャイロに触れて信号を送った。

 

 

 

 今にもブルを串刺しにしそうなギャラクトロンであったが――何故か急に動きを止めた。

 

『あれ?』

 

 この間にロッソがルーブスラッガーロッソでギャラクトロンの腕を弾き返し、梨子が烈のクリスタルをセットした。

 

[ウルトラマンゼロ!]

「『ゼロツインスライサー!!」』

 

 ふた振りの光刃がシャフトを切断し、ブルを解放する。

 

『大丈夫か、功海!』

『あ、ああ……』

『「クリスタルチェンジよ!」

『「う、うん!」』

 

 梨子とルビィは互いのクリスタルを交換する。

 

『「「セレクト、クリスタル!」」』

『纏うは水! 紺碧の海!!』

『纏うは火! 紅蓮の炎!!』

『「がんばルビィ!」』

 

 瞬時にロッソアクアとブルフレイムにタイプチェンジした二人に、右腕を戻したギャラクトロンがビームで狙ってくる。

 

「『アクアミラーウォール!!」』

 

 しかし相手の手の内が分かってきたことで、ロッソが水の鏡でビームを反射。これには対応し切れず、ギャラクトロンが姿勢を崩した。

 

「『フレイムバーン!!」』

 

 この隙を突いて、ブルが火炎放射を繰り出す。高熱火炎を浴びて更に後ずさるギャラクトロン。

 

『今だッ! 一気に決めるぞ!』

『おうよッ!』

 

 ルビィがオーブリングNEOを手にしてスイッチを押し、ルーブジャイロにセットしてグリップを三回引く。

 

『『はぁぁぁッ!』』

 

 ロッソとブルが高く伸ばした手と手をタッチして、ウルトラマンオーブのビジョンを呼び出し、光の輪を描く。

 

「『「『トリプルオリジウム光線!!!!」』」』

 

 三人の光線を一つに重ね合わせて、超強力な光線と化す!

 ギャラクトロンは正面に魔法陣のバリアを張って一瞬光線を受け止めるが、そのエネルギーを防ぎ切ることは叶わず、突き破られて機体にも風穴を開けられた。

 

『よしッ!』

『決まったぜ!』

 

 全身にスパークが生じたギャラクトロンは、そのまま爆散。それを見届けたロッソとブルが夜空の彼方へと飛び去っていった。

 

 

 

 一連の戦闘を見届けた氷室が、ひと言つぶやく。

 

「……まだ甘いな。もっと成長を促す必要がある」

 

 

 

 アルトアルベロタワーの社長室で、サルモーネが時計を見上げながらぼやいた。

 

「遅いなぁ、氷室君……。もうとっくに戦闘は終わったはずだろうに」

 

 氷室がなかなか戻ってこないことに待ちくたびれているサルモーネが、不意に身をひねった。

 

「あッ、かゆい! 背中かゆい! でも手届かない!」

 

 包帯ぐるぐる巻きの状態では関節の自由が少なく、己の腕が背中まで回らない。そのためウッチェリーナに頼み込む。

 

「ウッチェリーナ君、ちょっとかいて!」

[しょうがないですねぇ。じっとしてて下さいよ]

 

 飛んできたウッチェリーナの底部から孫の手が出てきて、サルモーネの背後に回って上下することで背中をかき始める。

 

[ぽりぽり。ぽりぽり。どうですか?]

「あー違う。もっと下」

[えっ、下? ここですか?]

「違う違うもちょっと右! いやそこじゃない! 下手だなウッチェリーナ君!」

[も~わがまま言わないで下さいよ~]

 

 ウッチェリーナがてこずっていると――不意に横から手が伸びてきて、サルモーネの背中をかいた。

 

「あ~そこそこそこ! いいよぉウッチェリーナ君」

[あの~……これ、私じゃありません]

「え?」

 

 サルモーネが振り向くと――白衣を纏った、見慣れぬ少女がそこに立っていた。

 

「……どちら様で?」

 

 呆気にとられるサルモーネの問いかけを無視して、少女がこんなことを言う。

 

「古き友は言った。ほとんどの人間が偽者だと。無論、あのウルトラマンたちも」

「へ……?」

「彼らの思考は誰かの意見。彼らの人生は模倣。そして、彼らの情熱は引用だ」

 

 少女の言葉にいたく感心するサルモーネ。

 

「深いねぇ~。その友人の名は?」

 

 少女ははっきりと、よどみなく唱える。

 

「オスカー・フィンガル・オフラハティ・ウィルス・ワイルド」

 

 少女の答えに、サルモーネは仰天したように目を剥いた。

 

「へぇ~!? あのオスカー・ワイルドが、お友達!?」

 

 白衣の少女――第四のジャイロを用いて、ホロボロスを召喚した娘はそれきり無言で、サルモーネのことを見つめた。

 

 

 

 後日。克海と功海は『四つ角』で、千歌とラブライブについての話をしている。

 

「全く。千歌、お前には毎度驚かされる。クラスメイトとステージに出ようなんて――出場できるのはエントリーしてる子だけだって規則、知らなかったのか?」

 

 あきれ顔の克海の指摘に、千歌は愛想笑いを浮かべた、

 

「あ、あはは……。だって、みんなの気持ちが嬉しかったんだもん」

「いや、理由になってないから。ルールくらいちゃんと把握しろっての」

「あうぅ~……」

「まぁちょっと考えれば、当たり前だよな。ほいほいメンバー変えられちゃ、大会にならねーって」

 

 肩をすくめる兄二人に、流石の千歌も恥ずかしそうだ。

 それは置いて、功海が話を先に進める。

 

「けどまぁ、九人だけでも結構奮闘したじゃん。かなり僅差の勝負だったらしいぜ」

「ああ。予想外に壮大なステージだったんだがな」

 

 千歌たちAqoursはつい先日、ラブライブ地区予選に臨み、その結果――惜しくも敗退であった。

 Aqoursの始まりから今に至るまでの出来事と、浦の星女学院の現状と廃校から救いたい一心をミュージカル仕立てで観客に訴えかける構成は話題を呼び、得票数で熱い接戦を繰り広げたのだが、もうひと押しが足りなかったようである。

 

「やっぱ、歌に入るまでが流石に長すぎたんじゃねーの? もうちょっと短く纏めときゃあ……」

「えー!? あれでも要約したんだよ! もっと言いたいこといっぱいあったもん!」

「まぁ、過ぎたことをあれこれ言っててもしょうがない。ラブライブは春にもあるんだろ? 今回の反省も踏まえて、早めに準備しとくんだぞ」

「もちろん! 次は絶対優勝して、浦の星を存続させるんだから!」

「おッ、もう大分意気込んでるな」

 

 功海がニヤリを笑うと、千歌は鼻息荒くうなずいた。

 

「そりゃそうだよ! 地区予選の後で、遂に説明会の参加希望者が、0から1に変わったんだから!」

 

 これまで何をしようとも関心を持ってもらえなかった浦の星女学院。しかし、Aqoursの奮闘が遂に実を結んで、説明会参加希望のエントリーがあったのだった。

 

「私たちの頑張りで、変わるものがあった! こんなに嬉しいことはないよ! だからもっともーっと頑張って、私たちの大事な学校にいっぱい人を集めるの!」

 

 熱意を口にする千歌を、功海と克海は温かく応援する。

 

「その意気だぜ。浦女に人が溢れ返る時を、俺も楽しみにしてるぜ!」

「みんなの努力で、照らし出してみせろ。お前たちの、夢のとりでをな!」

「うんっ!!」

 

 千歌は二人の言葉に、満面の笑みで応じた。

 

 

 

 松浦家では、果南が昔のアルバムをめくりながら、先日の地区予選での舞台を思い返していた。

 

「一度スクールアイドルの道を断った私が、あんな大舞台に立ったなんてね……世の中、何が起こるか分からないなぁ。鞠莉もダイヤもとても楽しそうで……」

 

 子供の時に三人で撮った写真に目を落としながら苦笑する果南。その指がページをめくり、もっと以前の写真のページを開く。

 

「曜も、千歌もすっかり大きくなっちゃって……。ちょっと前までは、手の焼ける妹みたいに思ってたんだけどなぁ」

 

 十二年前の写真――曜と千歌、克海と功海も交えた五人の写真を見つめる。当然、写真の中の自分たちは今よりずっと背丈が小さく幼い。

 

「みんな小さいなぁ。私はもちろん、克兄ぃも、功兄ぃも。曜も、千歌だって……」

 

 思い出を振り返りながら、更にページをめくった。

 が――ふと違和感に気づき、ページをめくる手が止まった。

 

「……あれ?」

 

 十三年から前の写真――それに写っているのは、自分と克海、功海、曜。

 その四人だけ。

 

「……? 何か変……」

 

 ペラペラと前後のページの写真を見比べる果南の表情に、徐々に焦りが浮かんできた。

 自分がいる。克海がいる。功海もいる。曜も。自身の両親に、高海家の親、曜の両親が写っている写真もある。

 にも関わらず……。

 

「……ど、どうして? どうして十三年から前の分には、どこにもいないの……!?」

 

 どの写真を確かめても、いるはずの人物の顔がどこにも見られない。『十二年より先』のものにしか、その顔がないのだ。

 まるで、『十二年前のある時から突然現れた』かのように。

 

「何で写ってないの……!? 千歌……!!」

 

 五歳より以前の年齢の千歌の写真が、一枚もアルバムにないことに、果南は気づいたのだった。

 

 

 

『Aqoursのウルトラソングナビ!』

 

ルビィ「がんばルビィ! 今回ご紹介するのは、『ウルトラマンダイナ』です!」

ルビィ「この歌はもちろん『ウルトラマンダイナ』の主題歌です。歌ってるのは前田達也さん。90年代後半のウルトラシリーズの楽曲によく関わった人です」

ルビィ「『ウルトラマンティガ』の続編である『ダイナ』は、タイプチェンジという要素は引き継ぎつつ、シリーズの原点の『ウルトラマン』を意識した、バラエティに富んだドラマ構成がされました。この辺りは歌詞にも反映されてて、三タイプの名前が入れられながらも、全体的にヒーローソングらしい作りになってます」

ルビィ「ちなみに、エンディングテーマが複数使用されたのは『ダイナ』が初めてです。前期の『君だけを守りたい』は、劇中のドラマでも重要なところで用いられてます」

克海「そして今回のラブライブ!サンシャイン!!の曲は『夢で夜空を照らしたい』だ!」

功海「アニメ第一期第六話の挿入歌だ。三年生組が加入するまでで最後に使われた歌で、珍しいバラード調だ。これをきっかけにAqoursは注目され、飛躍してくことになったぞ」

克海「劇中の転機を作った、サンシャインを語る上で外せない一曲だな。PVの空飛ぶ提灯も印象的だ」

ルビィ「それでは次回もよろしくお願いします!」

 




梨子「千歌ちゃんの前に突然現れた謎の女の子。その子は、二枚のルーブクリスタルを渡していきました!」
曜「だけど功兄ぃと克兄ぃはクリスタルの扱いを巡って対立! 二人が喧嘩してどうするのぉー!?」
梨子「そんな時に現れたグルジオは、いつもと違ってて……! どうなってしまうの!?」
曜「次回、『コワレヤスキあなたはだぁれ』!」
梨子「ビーチスケッチさくらうち!」


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幕間「二学期開始」

 

 裏の星女学院の二学期が開始してから、数日が経ったある日のこと。

 

「ん~……むむむぅ……」

 

 千歌が居間で歌詞ノートを前にしながらうなっていた。

 

「ふい~、手強かったぜ。しいたけもそろそろ冬毛だな」

 

 そこをしいたけのブラッシングから戻ってきた功海が目撃する。

 

「……何やってんだ、千歌。そんな難しい顔してさ」

「功海お兄ちゃん。ちょっと、予備予選用の曲の歌詞を考えてて」

「歌詞? そういや、ラブライブって一ステージ毎に未発表の曲って決まりあるんだっけ? きついルールだよなぁそれ」

「出場者を篩に掛けるためだな。スクールアイドルは資格とかないから、母数が大きすぎる。そうでもしなきゃエントリーの管理をし切れないんだろう」

 

 肩をすくめる功海のひと言に、克海が見解を述べた。それから千歌の方に目を向ける。

 

「しかし、それにしてもまた熱心そうだな。ルーズな千歌にしては」

「もぉ、ルーズってひどいなぁ。歌詞考えるのって大変なんだからね!」

 

 むくれる千歌だが、すぐに重い面持ちとなる。彼女のただならぬ様子を克海と功海が気に掛けた。

 

「また何かあったのか?」

「うん……それが……」

 

 首肯した千歌がポツリポツリと、鞠莉から知らされた凶報を打ち明ける。

 

「えッ……!? 学校説明会が中止!?」

「統廃合が正式に決定!? マジかよ! 二学期始まったばっかじゃん!」

「でも、鞠莉ちゃんの話だと、話自体は二年前から持ち上がってて……鞠莉ちゃんがどうにか待ってもらってたらしいの。でも……」

「とうとう限界が来た、ってことか……」

 

 想像もしていなかった内容に、克海と功海もショックを隠せなかった。

 

「マジかよ……。せっかく希望者が十人にまで増えたってのに……。千歌たちの頑張りが、こんな急に終わっちまうのか?」

「本当に、もうどうしようもないのか?」

「まだ分かんない……。だけど、鞠莉ちゃんが最後の交渉をしてくれるって。その結果次第」

「まだ希望の芽はあるか。けど、どう転んでも厳しい返答が来るだろうな」

 

 腕を組んで顔をしかめる克海。既に決定された事項を撤回してもらうからには、簡単な条件は出されないのが目に見えている。

 しかし、千歌の瞳にはそれでも希望が宿っていた。

 

「だけど、あきらめたくない! 私たちは最後まで奇跡が起こることを信じる! ううん、起こしてみせるっ!」

「おお! 燃えてんな!」

「だから今は、鞠莉ちゃんがどうにかしてくれるのを信じて、歌詞を考えてた訳なんだけど……。なかなか出てこなくってさぁ~」

 

 再び頭をひねり出す千歌。どれだけの意欲があろうとも、それが結果につながるかは別の話である。

 

「何か歌詞になりそうなネタが転がってないかな~」

「大変そうだな……。そういう時は、身の回りのものに目を向けてみたらどうだ? いいアイディアというのは、案外身近なところにあるものだぞ」

 

 克海のアドバイスを受けて、千歌はポンと手を叩いた。

 

「そうだ! ウルトラマンのこと、歌詞にならないかな!」

「「えッ!?」」

「と言うかよく考えたら、私だけウルトラマンのこと全然知らない! お兄ちゃんたち、ずっと教えてくれなかったんだもん」

 

 ジトーッと恨めしげににらまれて、克海と功海の後頭部に冷や汗が流れた。

 

「だから、それは悪かったって……」

「謝るのはいいから! チカに教えてよ、お兄ちゃんたちのこと~! みんなばっかりが知ってるなんてずるい~!」

「おいおい……趣旨すり変わってね?」

「いいからー! まだチカをのけ者にするんだったら、もうお兄ちゃんたちと口利かないんだからね!」

 

 ぷんすかとそっぽを向いてすねる千歌に、二人の兄たちは参ってしまってため息を吐き出した。

 

 

 

 数分後、克海と功海はメモ用紙にこれまでの自分たちの足跡を簡潔に纏めて書き出し、千歌に見せていた。

 

「始まりは、グルジオが最初に出てきた時だ。あの時、グルジオに炎を浴びせられそうになった瞬間に、俺と功海はルーブジャイロとクリスタルを手に入れて、ウルトラマンに変身できるようになった」

「やっぱり、あの時からお兄ちゃんたちがウルトラマンだったんだ。道理で何か変なことばっかやってるって思った」

「おい、俺たちをどういう目で見てんだよお前はぁ」

 

 千歌の失言に、功海が咎めるように突っ込んだ。

 

「でも、ジャイロとクリスタルってどこから出てきたの?」

 

 千歌の質問に首をひねる克海たち。

 

「それが未だに分からないんだよな。元々は愛染……サルモーネが発掘したものだったらしいが」

「何で俺たちがウルトラマンに選ばれたのか、こっちが聞きたいくらいだ」

 

 と話をしている最中に、玄関のインターホンが鳴らされる。

 

「あっ、お客さん」

「はーい」

 

 克海が立ち上がって玄関に向かうと、その来客は、

 

「あれ、果南ちゃん?」

「克兄ぃ……」

 

 果南は何故か妙に落ち着かない様子であった。

 

「今日は一人? 千歌なら今いるけど」

「ううん、今日はスクールアイドルのことじゃないの。ちょっとおじさんに用があって……」

「父さんに? 改まって何の用……まぁいいや。上がって」

「お邪魔します……」

 

 果南を家に上げて、父親のところまで連れていく克海。それから果南が彼に告げる。

 

「こっちは私だけでいいから。克兄ぃは忙しいでしょ?」

「別に今は忙しくもないけど。まぁちょうど千歌の相手してたところだし、ゆっくりしてってくれ」

 

 克海が居間に戻っていくと、果南は高海家の父にこう頼み込んだ。

 

「すみません、おじさん……。ちょっと、みんなのアルバムとか見せてもらえませんか?」

 

 

 

「克海お兄ちゃん、誰だったの?」

「果南ちゃんだ。何か、父さんに用らしいけど……。まぁ向こうは父さんに任せよう」

 

 果南のことはひとまず置いて、克海が居間に戻ると先ほどの話を再開する。

 

「それでウルトラマンになった俺たちは、まぁ知ってる通り色んな怪獣と戦った。その中で剣のルーブスラッガーや、新しいクリスタルを手に入れてきた」

「クリスタルにはそれぞれ属性があってさ、俺たちの姿と能力を変えたり、スラッガーを強化したり出来るんだぜ」

「それから……梨子ちゃんたちの力を借りて、ともに戦うようにもなった」

「最初は偶然だったんだよなー。曜を助けようと必死になってたら、何か体内に入れて変身しちゃってさ」

「あの時はほんと驚いたぞ……」

 

 しみじみ語る功海と克海。千歌もAqoursの仲間たちのことなので、一段と興味を示す。

 

「それをきっかけに、みんなが助けてくれるようになったんだね」

「ああ。初めはこっちも、みんなを危ない目に遭わすから断ってたんだが……それでも力を貸してくれてな。本当にありがたい」

「けど……今から思えば、そうなるように仕組まれてたんだよな。サルモーネの野郎に……」

 

 苦々しい顔の功海。そのお陰で今があるとも言えるが、やはり簡単に割り切れるものではない。

 

「……愛染さん、悪い人だったんだよね……」

 

 サルモーネの名前が出てきて、千歌も複雑な表情となった。渋い顔でうなずく兄たち。

 

「正体は愛染正義という人間に取り憑いた宇宙人だ。奴の目的は、自分が理想とするウルトラマンとアイドルを作ること。それに俺たちを利用してた。だが見切りをつけると……今度は、自分自身がウルトラマンになろうとした」

「けど、あいつのやってたことはデタラメのインチキだ! ヒーローになるためにマッチポンプ働いて、町に滅茶苦茶な被害出してさ! ルビィも、鞠莉もひどい目に遭わされた……」

「Saint Snowって子たちがいただろ。あの子たちも騙されて利用されてたんだ」

 

 サルモーネの悪行に胸を痛める千歌だが、

 

「……でも、何でウルトラマンとアイドルなの?」

「さぁ? 聖良ちゃんたちの話じゃ、入れ込んでるアイドルグループがあって、その人たちがウルトラマンと深い関係にあるらしい。その人たちみたいなアイドルを自分の手で育てようと考えてたみたいだな」

「迷惑なドルオタって奴だなー。あの野郎、スクールアイドルの味方って触れ込んどいて、本心じゃ見下してて自分の道具ぐらいにしか考えてなかったんだ! ダイヤもマジギレだったよな」

「ああ。一度は完敗を喫した俺たちも、あいつの所業が許せずにリベンジを果たした。その時に取り上げたのが、あいつが変身するのに使ってた、このオーブリングNEOだ」

 

 克海たちがオーブリングNEOを取り出すと、千歌が指差す。

 

「お兄ちゃんたちのフェイスローラー!」

「いやいや、フェイスローラーじゃないっつぅの」

「……思えば、これって何でNEOなんだろうな。よく考えずに使ってたが……」

 

 今更ながらに疑問に思う克海。

 

「サルモーネがこいつを使って変身してたのはオーブダーク。つまり、どっかにオリジナルのウルトラマンオーブって人がいるんだろ」

「そのウルトラマンは、どこで何をやってるんだろうか」

「さぁなー。人間は未だに地球のこともろくに知らないのに、広い宇宙のことなんか分かりようもねぇって」

 

 ぐっと背筋を伸ばす功海。この辺りで二人の説明は区切りがついた。

 

「まぁこんくらいが、俺たちのウルトラマンとしてのこれまでだな」

「どうだ。これで歌詞のインスピレーションになりそうか?」

「ん~……やっぱり、ただ話に聞いただけじゃイメージ湧かないなぁ」

「おい……じゃ、この時間何だったんだよ」

 

 ぼやく千歌に、功海が疲れたようにつぶやいたのだった。

 

 

 

 その頃――綾香の街頭テレビを、黒装束の少女が見上げていた。その画面に映っているのは、先日の地区予選のステージのプレイバック。

 画面いっぱいに表示されているのは、Aqoursのパフォーマンス。少女は九人のスクールアイドルのステージ上で踊り跳ねる様子を見つめている――特に、千歌の姿を、食い入るように。

 

「……」

 

 不意に少女は、己の手の平に目を落とした。その手の中には、二枚のクリスタルが握られている。

 

「古き友は言った。願いが正しければ、時至れば必ず成就する。徳川家康」

 

 少女がつぶやくと、手の内の「光」と「闇」のクリスタルが一瞬きらめいた。

 

 

 

 アルトアルベロタワー社長室。

 

「完・全・ふっかぁ―――――つッ!!」

 

 サルモーネが最後の包帯を自分の身体から解いて豪快に投げ捨てた。それに首を垂れる氷室。

 

「おめでとうございます、社長」

「うむ、ありがとう! ただ、快気祝いには君からオーブリングNEOをもらいたかったんだけどねぇ~」

「……申し訳ありません」

「なーにもういいさ。私がこの通り完治したからには、私がやろうじゃあないか! って訳で、早速ジャイロ返してくれる?」

「分かりました」

 

 促されて、氷室はAZジャイロを返却しようとするが――その直前、サルモーネには気づかれないように手の平から怪しい電流を流し込んだ。

 

「どうぞ」

「よしよし。氷室君、君も頑張ってはいたみたいだが、どうにも残念だったねぇ。力押しばっかりでは芸がないよ君ぃ! 一つ、私が手本を見せてあげよう!」

 

 ジャイロを受け取ったサルモーネは嬉々としながら、早速「角」のクリスタルをセットした。

 

 

 

 千歌と話をしていた克海と功海だが、突然功海のバイブス波探知機が激しく反応し、二人がそちらに振り向く。

 

「功海ッ!」

「ああ!」

 

 すぐにタブレットでニュースを確認すると、綾香に怪獣出現の速報がアップされていた。

 

『グビャ――――――――!』

 

 映像には、鼻先に巨大なドリルを持った、足の生えた魚型の怪獣が暴れている姿がある。深海怪獣グビラ!

 

「お兄ちゃん……!」

「悪い千歌。俺たちちょっと行ってくる!」

「夕飯までには帰るから!」

「あっ、ちょっと……!」

 

 克海と功海は有無を言わさずに、あっという間に家から飛び出していった。それを呆然と見送る千歌。

 

「もう、お兄ちゃんたちったらせっかち……。果南ちゃんが来てるのに」

 

 と噂すると、当の本人が千歌の下にやってきた。

 

「あっ、果南ちゃん! ちょっと大変なの。また怪獣が出てきて、お兄ちゃんたち行っちゃって……」

 

 状況を告げる千歌だが――果南はひどく深刻な顔をしており、千歌の言ったことが聞こえていないようであった。

 

「千歌……」

「うん?」

 

 果南は眉間に深い皺を刻みながら千歌を見つめて、たどたどしく尋ねかけた。

 

「千歌って……誰……なのかな……?」

「――え?」

 

 千歌は、何を言われたのかが理解できなかった――。

 



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コワレヤスキあなたはだぁれ(A)

 

\前回のウルトラブライルーブ!サンシャイン!!/

 

梨子「次のラブライブに向けて、新たなスタートを切ったAqours! しかし、そこに飛び込んできたのは、統廃合が決定したという事実。だけど、私たちは奇跡を起こすためにラブライブに挑み続ける! ……だけど、その矢先に果南ちゃんの様子がおかしくて……」

 

 

 

「グビャ――――――――!」

 

 綾香の街のど真ん中に現れた怪獣グビラ。それと対峙する、ロッソとブルのウルトラマン兄弟。その内部の、梨子と曜。

 怪獣出現の報を受けて飛び出していった克海と功海は、同じく報道をキャッチして駆けつけた梨子と曜の二人とともに、この現場に馳せ参じたのである。

 

『じゃあ俺たちから!』

『おい待て!』

 

 ロッソの制止も聞かず、ブルが指先からアクアジェットブラストを繰り出して先制攻撃を加える。

 

『はッ!』

 

 しかし水流は、全てグビラに飲み干される。

 

『「えっ!? 飲んじゃった!」』

 

 更にグビラは、頭頂部の孔から水を噴射して排出。空に見事な虹が出来上がった。

 

『お~虹だぁ!』

『「わぁ綺麗!」』

『「感動してる場合じゃないでしょ!」』

 

 のんきなブルたちに梨子が突っ込んだ。

 

「グビャ――――――――!」

 

 得意げなグビラに、今度はロッソが攻撃。

 

『よし! この一発で、決めるぜ!』

 

 大きく振りかぶって、ストライクスフィアを投擲。

 だがドリルに受け止められた。

 

『「刺さっちゃった!」』

『「熱くないの!?」』

 

 更にドリルの回転で火の輪の形で投げ飛ばされ、花火のように弾けた。

 

『おぉ~決まったじゃん!』

『「打ち上げ花火だぁ!」』

『うるさい! なめやがってぇ!』

 

 いら立ったロッソが近接戦闘に切り替えようと駆け出す。それを真っ向から迎え撃ちに行くグビラ。だが――。

 

 

 

「ふふ……いいぞぉ」

 

 グビラがロッソたちの技を無効化するところに喜んでいたサルモーネだが、不意にその手の中のAZジャイロがスパークした。

 

「ん? あちッあぢッ!?」

 

 スパークは一気に激しくなって持っていられないほど発熱。ボスンと音を立てて沈黙した。

 

 

 

「グビャ――――――――!」

 

 ジャイロと連動して、グビラもスパークに襲われて停止していた。

 

『「きゃっ!? ど、どうしたの!?」』

 

 突然のことに動揺するロッソたち。その彼らの目の前で――グビラがたちどころに縮んでいき、軽自動車と変わらないくらいのサイズになってしまった。

 

『ちっさ……』

『うそーん!?』

「グビャ――――――――!」

 

 すっかり小さくなってしまったグビラに唖然とするロッソたち。グビラは立ち上がってぴょこぴょこ跳ねた。

 

『お、何か踊ってる』

『「あはは、こうしてるとかわいいね」』

『「だけど、急にどうしたのかしら……」』

 

 梨子が何事だろうかと首をひねっていたら、グビラはそのままポンと煙とともに消え去った。

 

『えぇー……』

『「消えちゃった……」』

 

 グビラは元のクリスタルに戻り、道路の上に転がっていた。

 

 

 

「うわぁぁぁ―――――――――――――――――!!?」

 

 一方のサルモーネは――うんともすんとも言わなくなったジャイロを前にして、取り乱して絶叫していた。

 

 

 

『コワレヤスキあなたはだぁれ』

 

 

 

「千歌って……誰……なのかな……?」

「――え?」

 

 ロッソたちが戦っていた頃、『四つ角』に置いていかれた千歌は、果南からそんなことを言われていた。

 呆然とする千歌の反応に、果南はハッと我に返ると、ブンブン手を振る。

 

「あっ! ご、ごめんね! 今のなし! 変なこと聞いちゃったね! 私も疲れてるのかも! ちゃんと休まないとダメだよね、うんっ!」

「果南ちゃん……」

「気にしないで千歌! 忘れて! ちょっと私、おかしかっただけだから! そ、それじゃ、また明日!」

 

 強引にごまかした果南はそそくさと高海家から退散していく。

 しかし、そう言われても千歌は簡単には気持ちの整理がつかず、果南からぶつけられたひと言が延々と心の中に残っていた。

 

 

 

 戦闘終了後、克海と功海は梨子、曜と別れて『四つ角』に帰ってきた。

 

「結局何だったんだろうな。いきなり小さくなったかと思えば、そのまま消えて」

「向こうのジャイロがエラーでも吐いたんじゃね? ただいまー」

 

 二人はぼやきながら居間に上がってくるが、

 

「あれ? 千歌?」

「おーい? 千歌ー?」

 

 彼らの帰りを待っているはずの千歌の姿が、忽然となくなっていた。代わりに、テーブルの上に書き置きが残されている。

 

「書き置き? 『ちょっと出かけてます』……って」

「こんな時間にどこ行ったんだよ、あいつ」

 

 功海が窓から夕焼けに染まりつつある空を見上げて、首を傾げた。

 

 

 

 その頃、千歌は一人で喫茶店に入り、浮かない表情でスイーツを頬張っていた。

 

「……はぁ……果南ちゃんのあの言葉、何だったのかな……」

 

 果南には忘れてと言われたが、やはり心のもやもやを拭うことが出来なかった。曇った表情を兄たちに見られて気を遣われたり、詮索されたりするのも嫌だったので、一旦家から離れて気晴らしを試みているのであった。

 

「私が誰なのか、なんて。高海千歌以外の誰でもないのに。何であんなことを聞いてきたんだろ……? 分かんないや……」

 

 ビスケットを一つつまんでもぐもぐ咀嚼しながら独白し、考えを整理する千歌。

 

「……まぁ、気にしてたってしょうがないか。こんな時だし、果南ちゃんもナイーブになったりすることだってあるよね。うん、これ食べたらいつも通りのチカに戻ろう!」

 

 と自身に言い聞かせることで感情を落ち着かせ、普段通りの自分に立ち戻ることを決定する。

 が、その時、

 

「古き友は言った」

「ほえ?」

「人生は舞台である、人は皆役者。ウィリアム・シェイクスピア」

 

 いつの間にか、側に見知らぬ少女が腕を組んで立っていた。こちらの顔をじっと見つめると、次いで尋ねかけてくる。

 

「お前は誰だ? 何の役を演じている?」

 

 千歌は、妙に鋭い眼でこちらを観察するように見つめてくる少女に、視線を返し――。

 

「やだなぁ~! 誰かと間違えてない?」

「何?」

「私、スクールアイドルだけど女優さんじゃないよ。役を演じるとか、そういうことはしてないから。ただの女子高生だよ?」

 

 軽快に笑いながら手を振る千歌だが、少女は眉間の皺を増やして対面の椅子にどっかと腰を落とした。

 

「あっ、このビスケット食べたいの?」

「必要ない。それより、お前が『ただの人間』のはずがない」

「何~? その大袈裟な言い方ぁ。漫画の台詞みたい! あっ、この辺じゃ見ない顔だけど、もしかして私のファン!? いや~、Aqoursもすっかり有名になったなぁ――」

「聞けっ!」

 

 勝手に解釈して浮かれる千歌だったが、少女がドンとテーブルを叩いたので、驚いて口をつぐんだ。

 

「私は『お前たち』のことをある程度調べた。だが、お前のことだけが妙に引っ掛かる。他の者とは違うように感じるのだが……その違いが何なのかが、はっきりしない。何より……」

 

 少女は一旦言葉を切って、千歌の顔をまっすぐに凝視する。

 

「……お前とは、初めて顔を合わせた気がしない。こんな妙な気分になったのは、初めてだ。繰り返し訊く。お前は誰だ?」

 

 千歌はしばし黙っていたが、少女を見つめ返しながら口を開く。

 

「……言ってることはよく分からないけど、こっちもあなたとは初めて会った気がしない、って感じてるよ。何だか、ずぅっと前から知ってるような気がする! 不思議!」

「何?」

 

 少女の手を取って、ぎゅっと握る千歌。少女は少し戸惑う。

 

「私は高海千歌! あなたのお名前は?」

「……次までに考えておく」

「そんなもったいぶらないでよ~! 名無しの権兵衛じゃないでしょ? 教えて?」

 

 千歌にまっすぐな瞳を向けられ、少女は恐る恐るという風に答えた。

 

「じゃあ……美剣沙紀」

「沙紀ちゃん! カッコいいお名前だね! 素敵な友達が出来ちゃった!」

「友達……私たちが?」

「他に誰がいるのぉ? 遠慮しなくたっていいんだよ!」

 

 呆ける美剣沙紀に、千歌が興味を示しながら質問をぶつける。

 

「ねぇねぇ、沙紀ちゃんって私と同じくらいに見えるけど、何歳なの? 何年生?」

「……初めは数えていたが、忘れた」

「あはは、そのギャグ面白い! 今度私も使ってみよ!」

「ギャグ……?」

「お家はどこ? 内浦の人じゃないよね?」

「故郷は……はるか、遠く」

「わぁ、詩人さんみたい! 沙紀ちゃんってほんと面白いね~。スクールアイドルの才能あるよ!」

「スクールアイドル……?」

「うん! そのミステリアスな感じがウケそう! あっ、そうだ一緒に写真撮ろ? はいスマホ見て!」

 

 怒涛の勢いでまくし立てた千歌がぐいと沙紀の隣に近づき、スマホを握った手を伸ばした。

 

「はい、チーズ♪」

 

 パシャリと写真を撮って、すぐに写り具合を確認する。

 

「うん、よく撮れてる! 連絡先教えて? 後で送信するね」

 

 同時にスマホに保存している写真をいくつか沙紀に披露した。

 

「見てみて、これがAqoursのみんな! 知ってるよね? そう言ってたし。で、こっちの男の人は、私のお兄ちゃんたち! なかなかイケてるでしょ? でも手を出したらダメだからね~。私のお兄ちゃんだから!」

 

 克海と功海と写っている写真を見せると、沙紀の目つきが一層鋭くなった。

 

「この二人は、本当にお前の兄なのか?」

「え? 急にどうしたの? もちろんそうだけど」

「本当か? 最初からそうだったのか? 確かな証拠はあるのか?」

「ん~……何かさっきの果南ちゃんみたいなこと言うね。今日はよく変なこと言われるなぁ……」

 

 首を傾げた千歌だが、すぐにあることに思い至ってパンと手を叩いた。

 

「あっ、そうか! 証拠があればいいんだ! そしたら果南ちゃんも、私が紛れもない高海千歌だって分かってくれるよね。後で探そうっと。沙紀ちゃん、ありがとう――」

 

 お礼を言おうと沙紀に振り返った千歌だが、

 

「……沙紀ちゃん?」

 

 つい今しがた一緒にいた沙紀の姿が、綺麗に消えてなくなっていた。

 

「あれ……? もう帰っちゃったのかな……」

 

 きょとんとしながら、仕方ないので自分も家に帰ろうと立ち上がる。と、

 

「あれ……」

 

 ビスケットの皿に、いつの間にか二枚のクリスタルが置かれていた。

 それぞれ銀色と黒の超人――ウルトラマンの姿とともに、「光」と「闇」の文字が刻み込まれていた。

 

 

 

「ただいまー」

「千歌! 怪獣が出てたってのに、一体どこ行ってたんだ」

「ちょっと、喫茶店に……」

「喫茶店だぁ? のんきな奴だなぁ。晩飯入らなくても知らねぇぞ」

 

 帰宅した千歌を出迎える克海と功海。千歌の返答に功海が呆れていると、千歌は二人にあるものを差し出す。

 

「お兄ちゃん、これ……」

「え……?」

 

 沙紀が置いていったと思しき、二枚のクリスタルだ。

 

「千歌、これどうしたんだよ!」

「沙紀ちゃんが忘れていったの」

「沙紀? 誰だそれ?」

「学校の友達か?」

「ううん、さっき喫茶店で友達になった子。ほら」

 

 呆ける克海たちに、沙紀と撮った写真を見せる千歌。

 

「友達って……何でこんな子がクリスタル持ってるんだよ」

「それは分からないけど……やっぱり、それってクリスタルなんだ」

「本物ならな……」

 

 クリスタルをためつすがめつ観察した功海が、バッと踵を返す。

 

「本物かどうか、大学のスペクトル分析器で調べてくる!」

「功海お兄ちゃん!?」

「おい功海! こんな時間に……!」

 

 千歌と克海が止める間もなく、功海がバッグを持ってきてそのまま飛び出していってしまった。

 

「全く、功海の奴……気になることがあるとすぐ周りが見えなくなる」

「ごめん下さーい」

「あッ、いらっしゃいませ!」

「克海お兄ちゃん……!」

 

 肩をすくめた克海も、来客があったのでそちらの応対に出ていき、千歌だけが残された。

 

「……お兄ちゃんたちにも、私が千歌だって証拠探し、手伝ってもらいたかったんだけどな……。しょうがない、一人で探すか……」

 

 ふぅとため息を吐いた千歌は、気を取り直して家のアルバムを探しに行った。

 

 

 

 翌日、アルトアルベロタワーの社長室。

 

「……」

 

 サルモーネがうなだれた姿勢で社長の椅子に腰を落としている。その正面には、「故障中」の張り紙を貼ったAZジャイロ。

 

「……私は、『あの人たち』の素晴らしさを広めたいだけなのに……どうして誰も分かってくれないんだ……」

 

 ぐすんと涙ぐんだサルモーネが立ち上がりながら、机の裏に隠されたスイッチを押した。

 すると真後ろの壁がせり上がっていき――その裏に隠されていた『物』が、露わとなる。

 

「おおッ……! 我が崇拝する天使たちよッ! 真なるウルトラマンよッ!」

 

 それは――『765プロ』と銘打たれた無数のグッズ。ポスターやサイリウム、Tシャツ、ステッカー、タオル、フィギュアなど……多種多様の物品が壁の裏側の隠し部屋にところ狭しと並べられている。それも、どれも一種類につき三つずつ。

 それと同様に、ウルトラマンオーブの写真もいくつも貼って並べられている。

 これらをうっとりとながめたサルモーネが、己の想いを吐露した。

 

「765プロのアイドルたち! 欺瞞に満ちた星間連盟が支配する我が故郷の宇宙に、英雄に導かれて希望の光を差し込み、また数多の宇宙にも希望と笑顔を与える、まさしく女神! 四年前から理由不明の活動休止が続いてるのが気掛かりだが……彼女たちこそが、真実のアイドルなのだ! 故に、全てのアイドルを名乗る者は、彼女たちのようであらなくてはならないッ!! その真理を伝導するために、この愛と正義の伝道師は立ち上がったというのに……あんな兄弟どもの邪魔さえなければ、今頃は……」

 

 徐々に口調に熱が入っていくサルモーネは、右に左に跳びながら独り芝居を始める。

 

「765プロの皆さん! 私はあなた方に憧れ、ウルトラマンの力を手に一つの星に希望を伝導しました! きゃあ~サルモーネさんすごーい! いえいえこんなものではありません! 御覧下さい、これが私の育てたアイドルです! 更にアイドルのプロデュースまでなんて! 感動ですうっうー! そ、そんな、お褒めにあずかり光栄ですぅッ! 見事なもんだサルモーネ、どうやら俺の後継者はお前で決まりのようだな。そうなの、サルモーネこそがミキたちを新しくプロデュースしてくれる人なの! えッ、それってまさか! な、何という身に余る光栄ぃ~!!」

 

 恍惚の表情で、自分の身体を抱きしめてくねくねと小躍りするサルモーネ――。

 

「終わりましたか」

「おぉぉいぃッ!?」

 

 氷室のひと言で、ビクゥッ! と派手に身体が跳ね上がった。

 

「ひ、氷室君ッ! 君、いつからいたの!?」

「我が崇拝する天使たちよ――」

「最初からか―――いッ!! ノックしてから入ってよもうッ!!」

「申し訳ありません」

 

 顔を真っ赤にしながら、壁を閉ざして隠し部屋を元に戻すサルモーネに、氷室が淡々と告げる。

 

「それより、社長にお客様です」

「えッ、お客?」

「どうぞ」

 

 氷室に呼ばれ、社長室に入ってきたのは、

 

「あッ! 君は、こないだの看護師さん! 何の用?」

 

 白衣を身に纏った少女――美剣沙紀であった。

 沙紀はサルモーネの質問が聞こえなかったかのように、次のように言う。

 

「私は、弱いウルトラマンが嫌いだ」

「え?」

「何度負けても立ち上がる強さを持つ者こそ、ウルトラマンに相応しい……! そうだろう?」

 

 サルモーネは呆気にとられつつも、沙紀の問いかけにうなずく。

 

「そ、そうですよねぇ~! 私こそがッ……!」

 

 言いかけるサルモーネだが、故障したジャイロが目に入って途端に泣き崩れた。

 

「ダメだダメだぁ……! 私のジャイロは壊れてしまったのだぁ~! あれだけ作るのに苦労したのに……! 結局直せなかったッ! どうしよう~!!」

 

 おいおいと泣きじゃくるサルモーネをながめた沙紀が、ある『物』を取り出す。

 

「だったら、使ってみるか? 本物を」

「え? ほ、本物?」

 

 振り向いたサルモーネの目に飛び込んできたもの――。

 沙紀が握り締めているものは、色彩や模様が少し異なるが、紛れもなくジャイロの形状をしていた。

 



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コワレヤスキあなたはだぁれ(B)

 

 浦の星女学院。Aqoursの日課の朝練の直前、千歌が皆に「ちょっと見てもらいたいものがあるの」と言って、部室に集合してもらっていた。

 そしてそこで、スマホに撮っておいた光と闇のクリスタルの写真を披露する。

 

「これって、新しいクリスタル!?」

「しかも二枚も!」

 

 写真を見せられた仲間たちは、梨子と曜を始めとして皆驚愕。ダイヤは顔を上げて千歌に尋ねる。

 

「千歌さん、これをどこで?」

「昨日、沙紀ちゃんが忘れていったの」

「沙紀……? そんな人、浦女にいましたか?」

「どなたなの? 千歌ちゃん」

 

 はてとダイヤが首を傾げ、ルビィが問い返す。千歌はスマホを操作して、沙紀と撮った写真を表示した。

 

「この子。昨日、お友達になったばっかりなんだ」

 

 写真の顔をひと目見た曜と鞠莉が――途端にギョッと目を剥いた。

 

「えっ!? この子、あの時の子だ! ねぇ鞠莉ちゃん!」

「オーウ! 間違いありまセーン!」

 

 二人の反応に驚かされる千歌たち。

 

「知ってるの?」

「知ってるというか、何というか……この前、鞠莉ちゃんといる時にいきなり話しかけてきたの。変な子だなぁとは思ったけど……」

「ええ。見るからに普通じゃない雰囲気だった。だけど、まさかクリスタルを持ってるなんて……」

「謎の少女……まさか、天界より差し向けられし刺客……!」

 

 善子のひと言はスルーして、花丸が千歌に尋ねる。

 

「新しいクリスタルは、今どこずら?」

「功海お兄ちゃんが持ってる。本物か調べるって、昨日大学に持ってったっきり……。今朝、克海お兄ちゃんが迎えに行ったけど」

「調べるだけのことに、ひと晩がかりですの?」

 

 意外そうに聞いたダイヤにうなずき返す千歌。

 

「よく分かんないけど、功海お兄ちゃん、家を出る時大分張り切ってたし……色々調べてるんだと思う」

「あー……功兄ぃが張り切りすぎてると決まってろくなことにならないからなぁ……。ちょっと心配……」

 

 眉をひそめてぼやいた曜に、梨子が首を向けた。

 

「……曜ちゃん、ちょっと前から気になってたんだけど」

「えっ、何?」

「曜ちゃんと果南ちゃんは、克海さんたちのこと、克兄ぃ功兄ぃって呼ぶよね」

「うん。私たち幼馴染で、家族ぐるみのつき合いだったからね。けど、それがどうかしたの?」

 

 質問の意図が分からない曜に、梨子は、

 

「でも、千歌ちゃんだけお兄ちゃんって呼ぶわよね」

「あー……言われてみれば。気にしたことなかったけど……一人だけ呼び方違うね」

 

 同意しながらも、曜は肩をすくめる。

 

「けど、千歌ちゃんは実の妹なんだし? 私たちと呼び方が違くても、別におかしくはないんじゃないかな」

「そうなのかしら……」

 

 首をひねりながらも、些細な疑問なので梨子はそれ以上気にしなかった。

 それよりも、どこか寂しげな様子の千歌をルビィが気に掛ける。

 

「千歌ちゃん、どうかしたの? 何だか元気ないみたいだけど……」

 

 声を掛けられた千歌がハッと我に返る。

 

「あっ……ううん! 何でもないよ。ただ、お兄ちゃんたち早く帰ってこないかなー、って考えてただけだから」

「そうなの……? 何もないなら、いいんだけど……」

 

 ルビィは引き下がったが、果南が千歌の横顔に一瞬浮かんだ、陰りの色を見止めて息を呑んだ。

 

「千歌……まさか……!」

 

 

 

 ――沙紀が取り出してみせた、配色は高海兄弟のものとは