緋弾のアリアAssassins (語部シグマ)
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プロローグ

〝緋弾のアリアExecutioner〟のリメイク版です。

ですが〝オリ主VSキンジ〟の構成は変わりません。



 少年は生まれながらにして〝処刑人〟であった。

 

 江戸から明治にかけて暗躍した処刑人......〝山田浅右衛門貞武〟の子孫にして、山田一族の末裔である。

 

 処刑人として暗躍してきた彼らは初代〝浅右衛門〟の頃より〝処刑術〟なる技を密やかに編み出し、その技術は〝処刑〟を超えて最早〝芸術〟の域であった。

 

 そんな一族の末裔たる少年は、山田一族に恨みのある者達により家族を失ってしまった。

 

 失意の中、少年は代々受け継がれて来た〝浅右衛門〟の名と一族の処刑術を引き継ぎ、その後家族を殺した者達を追うために武偵を目指した。

 

 しかし武偵が貫く〝非殺〟の甘さに辟易し自主退学をする。

 

 そして少年は〝暗殺者〟に転身し、世界中を飛び回って〝暗殺〟を極めるに至ったのであった。

 

 その際に少年が所謂〝仕事〟の際に装着していた仮面が、まるで黒蟻に見えることから、少年はいつしか〝死蟻(デスアント)〟と呼ばれるようになった。

 

 少年の名は【山田〝浅右衛門〟吉彪(よしとら)】......世界中にて〝死蟻〟の名を轟かす若き処刑人であり暗殺者である。

 

 

 

 ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼

 

 

 

 ──イラン某日──

 

 

「後ろから失礼。もしかして君が今、世界を賑わせている〝死蟻〟で良かったかな?」

 

 山田浅右衛門吉彪がイラン首都テヘランの街中を歩いていると、不意に背後から何者かに呼び止められた。

 

 自身はフードを目深に被っている為、呼び止めてきた者の顔がよく確認出来ない。

 

「素顔を堂々と晒しているのは余程の愚者だ。ここにも同業の者がいるかもしれん......少し人気のない所へと場所を変えようか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コツ......コツ......コツ.........

 

 

 呼び止めてきた者に従うように後をついてゆく吉彪......だが警戒は微塵も解いてはいない。

 

 それを見た謎の人物は小さく笑う。

 

「フッ、素直に見えて隙は見せぬか.........宜しい、君は私の及第点を大幅に超えておるよ。」

 

「いい加減、要件を言え。今から依頼に行くんだからよ。」

 

「クックッ......ならばその依頼、吾輩にも手伝わせては貰えないかな?」

 

 予想外の要望......しかし吉彪は動じることなく謎の人物を真っ直ぐに見据えている。

 

 そして有無を言わさない様子でキッパリと断った。

 

「断る。手伝いは要らない。余計な足でまといが増えるだけだ。」

 

「ククッ......これでも同じ事が言えるかね?」

 

 謎の人物がそう言いながら手を挙げた瞬間、人がいなかったはずの周囲に突然、吉彪と謎の人物を取り囲むように数十人もの人が現れる。

 

 一般人、浮浪者、老人、大人、若者、中には年端もいかない子供まで......その全ての者達が一斉に吉彪へと銃口を向けていた。

 

「なるほど......この国に日本の忍びのように世間に紛れ暗躍する集団がいるとは知ってたが......。」

 

「〝ニザール派〟というイスラム教の派閥の一つだよ。吾輩はその今代の党首でね。」

 

「イスラム教......ニザール派.........なるほど、お前〝ハサン〟か?」

 

「ご名答。」

 

 〝ハサン〟と呼ばれた人物はそう言うとニヤリと笑う。

 

「吾輩は今代〝ハサン〟......〝ハサン・サッバーハ〟。しかし継承前の名前を混ぜて〝ハサン・ジャファール・サッバーハ〟と名乗っている。まぁ、気軽に〝ジャファール〟と呼んでくれても構わんよ。」

 

「まるで俺とお前がこれから行動を共にするかのような言い方だな?」

 

「事実そうなるとも。吾輩の軍勢から逃れるとは思っていないのでね。」

 

 手を挙げ続けながらそう話したジャファールは、いつでも合図を出せるよう吉彪をよく観察していた。

 

 だが......。

 

「そうか......だが、お前はその手を下ろすことは出来ない。」

 

 吉彪はそう言うとジャファールの死角となっている両手小指を僅かに動かした。

 

 その瞬間、吉彪へと向けていた銃口が一斉に......完全同時にジャファールへと向いたのである。

 

 そして吉彪の後方延長線上に立っていた者達は互いに銃口を向け合っていた。

 

『────!!?』

 

 その事に声も出せないほど驚くジャファールとその部下達......そんな彼らを前に吉彪は悠然と前進すると、手を下ろせずに固まっているジャファールの僅か一歩前まで歩み寄る。

 

「さて、ジャファールって言ったな?お前はこの状態でなおその手を下げるか?」

 

「まさか......いつの間に()を......!!」

 

 ジャファールの言う〝糸〟とは、吉彪が現在進行形で周囲に張り巡らせている〝極弦糸〟という肉眼では確認出来ないほどに細く丈夫な糸の事である。

 

 それを張り巡らせ、まるで傀儡人形(マリオネット)のようにジャファールの部下達を操る吉彪に、ジャファールは戦慄にも似た感情に襲われていた。

 

「どうせならお前も味わってみればいい.........同じ人間に操られる感覚ってやつを。」

 

 その途端にジャファールは自身の挙げた手が勝手に動くような感覚を覚える。

 

 見ればジャファールの手は本人の意志に関係なくゆっくりと下がっていた。

 

 それを見たジャファールは抵抗しようとするも、一向に手が止まる気配がない。

 

 そうしてジャファールは静かにため息を吐くと、吉彪に向かってこう告げた。

 

「分かった。吾輩の......吾輩達の負けだ。だから解放しては貰えないかね?大丈夫、危害を加えようとは思わない。」

 

「そうか......。」

 

 シュルシュルと糸が巻き取られてゆく音がして、ジャファールとその部下達は一斉に解放された。

 

「恐ろしいな......いや、吾輩の期待以上だよ。だからこそ手伝わせて欲しい。否、吾輩達を君の配下にして欲しいのだよ。」

 

「11世紀から続く暗殺集団が、こんな子供に与するのか?」

 

「フッ......そのような謙遜も、最早嫌味にしか聞こえんよ。なぁに、君のような者に仕えるは本望と言うやつよ。」

 

「そうか......。」

 

 そう呟きながらゆっくりと手を差し伸べる吉彪。

 

「一回だけ使ってやる。それで使える奴らだと判断すれば使い続けるし、使えないと分かったら即刻切り捨てるが......それでもいいか?」

 

「ふむ......ならば失望させぬよう気を引き締めてゆくとしよう。」

 

 こうして世界最強の暗殺者と世界最凶の暗殺集団が一つとなった。

 

 それから翌年......ジャファールの暗躍により集団はイランだけでなく世界各国にまで勢力を拡大。

 

 そして日本の根幹にまで根を広げていったのである。

 

 しかしその年にジャファールは病死.........彼の遺志を継いだのは双子の姉妹であった。

 

 世界中に存在し、〝奴らは何処にでもいる〟と言われ恐れられた吉彪の軍勢【軍隊蟻(アーミーアント)】。

 

 これは日本を舞台に、山田〝浅右衛門〟吉彪率いる軍隊蟻と、日本の武偵校に通う若き武偵達が繰り広げる戦いの物語である。

 



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