とある科学のレベル5.5 (璃春)
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一方通行を5.5にしたら手が付けられない

(´・ω・`)勝てる?


 ビルの屋上。その銃口が狙っているのは白の少年。そしてその狙撃銃を構えているのは、まだ幼さの残る少女だった。

「これより第一〇〇三〇次実験を開始します、とミサカはひっそりと呟きます」

 少女――ミサカ10030号は風向きや距離を計算し、ゆっくりと引き金を引く。引き金から伝えられた運動エネルギーはメタルイーターの撃鉄を引き起こし、その撃鉄は銃弾の雷管を叩き、そして必殺の槍を放つ。

 ――はずだった。

「……む? こんなときに弾詰まりですか? とミサカは眉を顰めながら驚きます」

「違ェよ。俺が引き金の運動エネルギーを別のところに逃がしたンだよ」

 掌にあった違和感を眺めていたミサカ10030号は、聞き覚えのある声に後ろを振り返る。しかし、そこには誰もいない。

 急いでスコープを覗き込む。そこにはしっかりと白の少年の後頭部が映っていた。

「どういうことですか? とミサカは首をひねります」

「単に光エネルギーをそこに移してるだけだ」

 再びの声。途端、何百メートルも先の白の少年が掻き消える。

 ミサカ10030号が驚きに目を見張りながら振り返ると、そこには赤い瞳の白。学園都市最強の超能力者、一方通行がいた。

 それを判断するや否や、ミサカ10030号は懐から音波振動ナイフを取り出し、一方通行へと躍り掛かる。

「先手必勝! とミサカ、は……あれ?」

「ンなもン無理だって、いい加減にわかってンだろ?」

 逆手に持ったナイフで一方通行の細い喉を切り裂こうとしたミサカ10030号は、しかし、その不自然な格好のまま空中で静止していた。

 体を動かそうにも、全身をセメントで固められたかのように全く動かない。ミサカ10030号の顔には大量の疑問符があった。

「ンで、今回の実験はこれで終わりか?」

「かかったな、バカめ! とミサカは嘲るように吠えます! ……あれれ?」

 ポケットに両手を突っ込んだままの一方通行が呆れたように肩を落とす。そして辺りを見回しながら顎をしゃくる。

 すると周りの陰という陰から、不自然であり、不格好な体勢で静止した大量の少女が漂って現れた。彼女らの顔はすべて同じだ。

「せ、千人同時に固定できるとか聞いてないアルヨ! とミサカは驚きのあまり口調を変えてみます」

「……こンなンで、俺はレベル6になれンのか?」

 一方通行の溜息で、第一〇〇三〇次実験は終了した。

 

 

 バタン、と一方通行の後ろで扉が閉まった。

「あ、おかえりー」

「……ただいま」

 廊下の先から聞こえてきた声に、一方通行は複雑そうな表情で応える。ついこの間まで一人暮らしであった彼には、そういう習慣がなかったのだ。

 手も触れずに脱げ落ちた靴が綺麗に並ぶ。一方通行はそれを確認することもなくリビングへと歩く。

 そこにいたのは彼の保護者兼観察者の芳川 桔梗だ。彼女は革張りの高級ソファに体を預けながら、手でテレビのリモコンをもてあそんでいた。

 一方通行が顔を向ければ、最新型の60v大型テレビにはバラエティーの司会者がアップで映っている。いわゆる8kテレビであるそれは、司会者の顔の毛孔まで鮮明に見て取れた。

「これ、あんまりおもしろくないのよね」

「……じゃあ、なンで見てンだよ」

 つまらなさそうな視線を向けてくる桔梗に対し、一方通行は終始無表情だ。彼としては単に、うっとおしい保護者の相手が面倒なだけかもしれない。

 柔らかなソファに再び身を沈める桔梗。彼女は手を挙げてひらひらと振る。

「お風呂沸いてるから、さっさと入っちゃいなさい」

 無言だが歩き出すことで了承の意を示した一方通行は先ほどの廊下へ戻る。とあるマンションの一室であるここは、廊下沿いにだいたいの部屋が設置されているのだ。

 そして、リビングから少し戻った浴室に繋がる更衣室の扉を開けた一方通行は、半眼となってその場で固まった。変態がいたからだ。

「んおー、んおー、んおー」

 その変態は発育の良い縫い痕だらけの裸身を亀甲縛りにし、顔は目隠しに猿轡。更には手製と思われる三角木馬の上に乗っていた。呼吸音すら変態くさい。

 ちょっと変なにおいを嗅ぎ取った一方通行は気流を操作してとりあえずカット。ついでに動けない変態の周りだけを不自然な白い光で満たしておいた。

「ん、んお!? お、おん、ぐおー! お、んぉ――」

 変な声も聞こえてきたのでとりあえず遮断。これで一方通行の入浴を邪魔する者はいなくなった。

 彼はゆっくりと入浴を楽しんだのだった。

 

 

 風呂上りといえば牛乳……と思いきや、一方通行が飲み干しているのは冷たい無糖缶コーヒーだ。

 普段着とまったくデザインの変わらない白黒の寝巻に着替えた彼の後ろから桔梗が声をかける。

「で? 今日の実験はどうだった?」

「相変わらずだ。簡単すぎてあくびが出る」

 コーヒー片手の一方通行は、桔梗のソファの斜め隣りにあるソファに座る。自分の隣に座ることを期待していた桔梗が少し残念そうな顔をしているが、彼にはあまり関係のないことだ。

「まったく。殺害は簡単すぎるからクリア目標は無力化にしろ、と我儘を言ったのはあなたでしょうに」

「はン。どっちにしろ簡単なンだから問題ねェだろ」

 そういって、一方通行はコーヒーを飲み干す。そして沈むように背もたれに身を預けた。

 不意に、彼の視界が巨大な物体で遮られた。

「……重ェよ」

「わ、わざ、と、のせて、る、とミサ、サカは、答え、ます」

 途切れ途切れの言葉をしゃべる少女。先ほど更衣室にいた変態だった。

 先の実験の被検体である少女たちと同じ顔を持ったその変態は、姉妹たちとは違うその胸を強調するように腕を組む。そしてしな垂れかかるように一方通行の隣に座った。

 その少女に微笑ましい視線を向けながら、桔梗が声をかける。

「いっちゃん、今日もダメそうね」

「あ、あきら、めない、とミサ、サカは、腕に、抱きつ、き、ます……ぅ、お?」

 いっちゃんと呼ばれた少女――ミサカ00001号がふわりと浮きあがると、そのまま桔梗の隣に座らされていた。

「む、ぅ、とミサ、サカは、落ち込、み、ます」

「よしよし」

 桔梗に抱き着き、泣き真似をするミサカ00001号。彼女の頭を桔梗が撫でる。

 その様子に、一方通行はまんざらでもない顔で鼻を鳴らした。

 

 

 思い出されるのは過去のことだ。

 人生に飽いていた彼のもとに訪れた男はこう言った。

「神になってみる気はないか?」

 なにやら熱心に話すので、彼は男に付いて行くことにした。

 そこで行われた第一次実験。彼の目の前にいたのは幼さの残る少女だった。

「実験開始、目標を駆逐します、とミサカは言」

 その言葉は最後まで続かない。ぼぅっと突っ立つ彼の前で、何の脈絡もなく、本当に唐突に、少女は全身を破裂させたのだ。

 コヒューコヒューと喘鳴が聞こえる。その中を、彼はゆっくりと歩き出す。流れ出る血はすべて彼をよける。

「……簡単すぎンな」

 仰向けに倒れる少女を見下ろせば、その惨状がよくわかる。

 全身の皮膚はすべて剥がれ、筋繊維もその一本一本が骨から剥離している。口や鼻、耳からは血が流れおち、眼球は表面すべてから出血して血の涙を流す。四肢に至ってはもはや原形を留めていない。しかし丸見えの内臓や大動脈だけが無事に動いている。もはや生きているのが不思議なレベルだ。

 全身のベクトルを逆流させられたのだ。生きているのも、彼の気まぐれによるものだ。

 その圧倒的な暴虐に、観察者たちすら動けない。その中で、彼は最近読んだコミックを思い出した。

 曰く、相手を殺すよりも殺さずに捕える方が大変だ、である。

 だから彼は要請した。殺さないで実験を進められないか。いわゆる縛りプレイをやってみたくなったのだ。

 そうして発動されたのが、第二次絶対能力進化実験である。それは二万人のクローンと二万通りの戦いをし、一度も相手を殺すことなく無力化できれば、前人未到のレベル6に到達できるだろう、という実験だった。

 第一次実験で使用されたミサカ00001号は回収、治療されたが、重大な欠陥を抱えることになった。ミサカネットワークに接続できないうえに、苦痛に対して極度の快感を得る変態と化してしまっていたのだ。おまけに一方通行に惚れてしまったらしい。

 故に、実験の責任者である桔梗のところで彼ともども生活することになった。

 だから、

 

「俺は神になる。このつまらねェ世界を変えるために」

 

 彼は誓う。それが支離滅裂な理由であっても、彼の心の闇は家族程度では埋まらないのだから。




 名称:一方通行
 強度:5(5.5)
 能力:遠隔ベクトル操作能力
 ・知覚範囲のあらゆるベクトルを任意に操作する
 ・左右及び後方は数十メートルの範囲だが、前方に関しては理論上無限大
 ・知覚範囲内のベクトルはすべて認識しているため、ステルス系能力等も見破れる
 ・『中和』:対象のあらゆるベクトルを半分だけ逆転させて打ち消す。そのため、対象は場所に関係なくその場で静止してしまう。生物ならば無傷で無力化できる。実験中に獲得した応用技の一つ。
 ・基本、誰も勝てない


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御坂美琴のレベルを5.5にしたらレンチンです

ちーん


 それは第二次絶対能力進化実験の第三次実験時に発生した出来事。

 被験者である第一位と、関係者とは言えない“第二位”が、予定外に接触したのだ。

 

 

 場所は人気の全くない資材置き場。無数のコンテナ群が夕日に照らされて鈍い光を放ち、すぐ近くを流れる川を煌めかせる。

 そこに人影が二つ。一つは白い砂利の上に転がり、もう一つはその横に突っ立いてた。

「おい、生きてるか?」

 白の少年――一方通行が爪先で小突く。すると無造作に倒れ伏すミサカ00002号はびくりと痙攣した。一緒にカエルのピンバッチが揺れる。

 殺害ではなく無力化という縛りプレイに挑戦している一方通行。彼はこれまで手加減というものをあまりしてこず、相対した者はギリギリ生きている、というのが普通だった。

 しかし実験主任の芳川 桔梗から通達された事項があった。

「できるだけ壊さないようにしなさい。その方がレベル6に進化できる確率が上がるから」

 本人としても、二万回も実験して進化できませんでした、ではブチ切れる自信がある。研究所の一つや二つは塵と化すだろう。だから忠告には従うことにした。いかに樹形図の設計者とはいえ、このレベルの演算では確率としてしか結果を出せないのである。

 だから彼なりに努力はしているつもりではある。

「しかしまァ、めンどォくせェなァ」

 頭を掻きながら見下ろす。ベクトル操作によって脳漿を掻き回され、その影響で重度の脳震盪を引き起こしたミサカ00002号がいる。彼女の身体は時折痙攣するのみで、意識は失われていた。

 一方通行本人としてもここまでの重体になるとは思っていなかったのだ。せいぜいが格闘漫画で見たように、腰が抜けるぐらいだと思っていた。しかし蓋を開けてみれば一歩間違えれば即死する状況である。

 次は脳の生体電流でもいじってみるか、と一方通行はミサカ00002号の頭を踏みながら軽く考える。そんなことをすれば確実に即死するが、彼にとっては興味の埒外だ。

「なンか、あきてきたなァ……あ?」

 その時だ。一方通行の真後ろでドサリ、と何かが落ちる音がしたのは。

 

 

 御坂 美琴にとって、その日はとてもおもしろい一日だった。

 常盤台中学の冬服制服を身に纏い、特例として認められたズボンに泥が跳ねないように街中を歩く。冷たい空気が喉に心地よかった。

 そして出会ったのだ、自らのクローンを名乗る少女に。彼女は野良ネコを抱えてもふもふしていた。

 その少女はとある秘密実験の為に生み出されたらしく、最初こそ美琴は激怒した。しかし、悪い扱いは受けていない、と少女本人に説得され、ひとまず怒りの矛先は収まった。

 少女としてはオリジナルである美琴に会うつもりは全くなかったようで、このことは秘密にしてくれ、と懇願された。だから交換条件として、その日一日を一緒に遊びつくしてやった。

 そうして時間が過ぎ、日が赤くなり始めたころ。

「用事があるのでこれにて候、とミサカはエセ忍者風に別れを告げます」

 無理やり押し付けたゲコ太のピンバッジを誇らしげに胸に掲げ、少女は去って行った。

 美琴してはもう少し遊びたかったが、そこは素直に別れてあげた。

 そう、その日はとてもおもしろい一日だった。その瞬間までは、そう思っていた。

「なに、やってんのよ、アンタは……」

「……あ?」

 先ほど別れた筈の少女の頭を足蹴にする白の少年。

 少女の胸元に見覚えのあるピンバッジを見た瞬間、美琴の意識は切り替わった。

 

 

 カバンが落ちた音に一方通行が振り返る。そこにいたのは学園都市“第二位”の少女だった。一方通行にとっては見覚えのある顔でもある。

「……その足をどけなさい」

 ミサカたちのオリジナルである美琴が憤怒の形相で言う。彼女の身体はバチバチと紫電を放ち、辺りには金属臭が漂う。

 一方通行としては、どうしたものか、といった感じだ。彼にしてみてもオリジナルの乱入はさすがに想定外だ。今頃、観察者たちは大慌てであろう。

 そこで、一方通行はニンマリと嗤う。それはまるで悪事を思いついた悪代官のような顔だ。

「くひゃっ、いいこと考えた。おもしろくなってきたなァ」

「いいから……その足をどけなさいよおっ!!」

 美琴の叫びとともに、幾条もの紫電が奔る。指向性を持った合計五本の光はのたうちながらも、文字通りの雷速で一方通行へと襲い掛かる。

 しかし、それらは無意味だった。

「なっ!?」

 美琴の声は驚き。なぜなら五本の紫電はどれも一方通行にダメージを与えられなかったからだ。

 意図的に電流を少なくしているので死にはしないが、当たれば大けがは免れない。そのはずの稲妻たちは一方通行の至近に到達した直後、あらぬ方向へと弾かれたのだ。

 外れた稲妻は砂利を砕き、コンテナを吹き飛ばし、川を割る。一瞬で築き上げられた惨状の中、一方通行だけが気味の悪い笑みを浮かべている。

「そうだよなァ、こういう趣向も悪くねェ。だから……本気だせ?」

 そういうや、一方通行は右足を振り上げる。そのさまはまるでフリーキックを任されたサッカー選手。

 故に、美琴はその意図に気付いた。だが、間に合わない。

「ホ~ムラン! てなァっ!」

 動かないミサカ00002号の腹を一方通行の足が捉える。瞬間、ゴッという圧縮されたソニックブームを響かせながら彼女は消え去った。重力慣性空気抵抗、ありとあらゆる力学的エネルギーが射出の為にベクトルを束ねられたのだ。

 震えながら顔を俯かせる美琴。彼女へと振り返る一方通行の顔は悪童の如し。そして一方通行は、徐々に膨れ上がる圧倒的な力の気配に、その嗤いを深める。

「誰か知らないけど、アンタは、ここで……潰す!!」

 ギラリ。もはや擬音すら物理的な圧力を持つ。顔を上げた美琴の眼光は既に常人を超えている。

 周囲の空間がギシリギシリと悲鳴を上げる。美琴の周囲が歪んで見えるのは錯覚ではない。彼女の足元では砂利が赤熱し液化している。すぐ近くのコンテナは火花を上げながら燃えていた。

 その高熱に耐えかねた美琴の衣服が溶け落ちる。下から現れたのはぴっちりとした黒のボディスーツだ。

「おーおー、こりゃすげェな」

 完全に美琴に向き直った一方通行は、感心したように口笛を吹く。美琴の能力は把握しているが、それにしてもものすごい出力である。

 『電磁女王(エレクトロ・クイーン)』。電気と磁気を操る『電撃使い(エレクトロ・マスター)』のさらに上位。電磁気だけでなく、あらゆる電磁波をも支配する固有能力(ユニークスキル)だ。

 そこで不意に美琴の姿が掻き消える。一方通行は圧力を感じて振り返る。そこには光の槍を持ち、体を後ろへ引き絞った美琴の姿。

「――らぁっ!!」

 咆哮一つ。太陽クラスの出力を持つまでに圧縮された光の槍が突き出される。しかし、それも一方通行にとっては脅威ではない。

 ぐにゃり、と熱した鉄棒のように曲がる光の槍。美琴の制御を離れた光が切っ先から上空へと放たれ、夕闇を一瞬だけ昼間にした。

 舌打ち一つ。美琴は電磁加速によって後方へと大きく跳び退る。対して一方通行は一歩も動いていない。

「どうした? これで終わりか?」

「るっさいのよ!!」

 馬鹿にするような一方通行に美琴は怒声で返す。

 美琴が右手を天に掲げる。すると磁力によって操られた周囲のコンテナ群が中空へと舞い踊る。その数、実に五十。

 片眉を上げる一方通行。そんな彼に向かってコンテナ群が襲い掛かる。

「はっ! 無駄無駄ァ!!」

 頭上から叩き付けられたコンテナがひしゃげ、真っ二つに割れる。右手から突っ込んできたコンテナがひしゃげ、平たい板になる。左手から殴り込んできたコンテナがひしゃげ、破砕する。

 何度も何度もコンテナが打撃する。辺りにはコンテナの金属片が散乱し、しかし一方通行は無傷。

「……あァ?」

 だが、そこで一方通行は美琴の狙いに気付いた。瞬間、彼は初めてその場を動いた。

 大きく後ろへ跳んだ一方通行。彼がいた空間を無数の金属片が貫く。細かなそれらは音速の数倍の速度。確実に致死の威力を孕んでいた。

「おいおい、殺す気か?」

「殺す気で行かないと無理だって解ったのよ!!」

「ちっ――!」

 間近で聞こえた美琴の声に、一方通行は回避を選ぶ。幾閃もの砂刃のいくつかを消飛ばし、残りを掻い潜りながら摩擦のベクトルを束ねて素早く移動した。

 一方通行が顔を上げれば、そこには納得がいった、という風に腕を組む美琴の姿。

「自身を中心とした半径約二メートル、その領域内に存在するベクトルを操作する能力。それがアンタの能力ね? エネルギー体は無制限みたいだけど、質量をもった物体はモノにもよるけど十数個が限界、って所かな」

「……ちっ」

 的確な美琴の分析に一方通行は舌打ちする。こんなに早く看破されるとは思っていなかったのだ。

 よく見れば足元の砂利が赤熱している。しかしそれは自身から二メートル離れた所からで、至近の砂利は何ともない。どうやらマイクロ波を浴びせられていたらしい。

 彼は思わず考える、“縛りをゆるめるか”。それが油断だった。

 気付けば一方通行は、磁力による竜巻に拘束されていた。

「ちっ、くそったれがっ!」

「女の子に対して失礼よ、それ」

 無数の金属片の渦の中に囚われた一方通行。彼に対して美琴は嘆息し、自身の最大攻撃力の一つを準備する。

 美琴へと光の粒が集まる。その光は彼女の周りを加速しながら旋回し、やがて右手へと集束する。それは学園都市の科学力をもってしても実用化が不可能な戦略兵器。

 そして一方通行は感じる。彼を挟み込むように、磁力レールが伸びていることを。彼はつぶやく。それは学園都市の科学力をもってしても実用化が不可能な戦略兵器。

「「……荷電粒子砲(ビームキャノン)」」

 次瞬、滅びが放たれる。

 突き出された美琴の右掌から撃ち出されるのは亜光速にまで達した荷電粒子。膨大な量の放射線と赤外線を撒き散らし、磁力レールによって方向を修正されながら、それは一方通行へと襲い掛かる。

「ぐォ、お、おおおおおおお!!」

 両手を掲げて光を受け止める一方通行。制限された計算領域をフルに使い、そのベクトルを高速で解析していく。ランダム運動を行う無数の荷電粒子の集合体。それらの計算式は非常に膨大で複雑だ。

 そして刹那。

 両掌を焼かれながら一方通行はその全ベクトルの掌握に成功する。

「ああああああああ!!!」

 彼は咆哮を上げ、力の奔流を大空へと打ち上げる。天に突き立つ光の柱。それは真冬の夜を真夏の昼に変えながら、全ての雲を吹き散らした。

 そうして光が完全に消える。最大威力の攻撃をしのぎ切った一方通行。しかし、彼は肩で息をしながら汗をこぼす。

「それじゃあ、もう一度」

 対する美琴は息の一つも乱さない。彼女は冷徹な眼差しで、再び磁力の竜巻に囚われた一方通行を見るのみだ。

 しかし、その一方通行が唐突に狂ったような笑い声を響かせた。

「……何がそんなにおかしいのよ」

「くっくっ、いやァなァ。やってみろよ。ちょっと試したいことがあるンだよ」

 それならば遠慮はいらない。美琴は再び荷電粒子を集束させ――そして違和感に気付いた。

「……加速しない?」

「運動エネルギーを“中和”してンだよ。俺の能力にはこういう使い方もあったンだなァ、感謝するぜ」

 一方通行が心底愉しそうに謳う。更には彼を囚えていた金属片の竜巻がやむ。

 どういうことだ、と美琴は後退りしようとし、しかし体が動かなかった。

「何!? どういうこと!?」

「おやすみの時間だぜェ? 『電磁女王』」

 いつの間にか目の前にいた一方通行に頭をつかまれ、美琴は意識を失った。

 

 

「……あれ?」

 気付けば病院のベッドだった。

 美琴は患者服に包まれた自身の身体を見下ろし、不思議そうに頭を捻る。なぜ、私はここにいるのだろう?

 何か大層ムカつく出来事があったような気がするが、美琴にはどうしても思い出せなかった。

 

 

 ――『第三次実験報告書』その走り書き

 被検体両名の協力により実験は成功した。ミサカ00002号は重傷を負ったものの命に別状はない。

 第一位と第二位が接触してしまったのは誤算だった。おかげで第五位『心理掌握(メンタルアウト)』にいらぬ借りを作ってしまった。

 しかし第一位が新たな能力の応用に目覚めたのは喜ばしい。また秘密裏にではあるが第五位の能力の使い方も彼に見させることができた。これで第一位も更に進化に近づくだろう。

 さて、第四次実験の準備を急がねば。




 名前:御坂 美琴
 渾名:ビリビリレンジ ※とあるツンツン頭の少年による
 能力名:『電磁女王(エレクトロ・クイーン)』
 強度:5(5.5)
 能力:電磁気及び電磁波操作能力
 ・電磁波としての性質を持つ光や、放射線、紫外線、赤外線なども扱える
 ・電波妨害やアンテナ経由のハッキングなども容易く行える
 ・光学迷彩や赤外線を用いた視界による迷彩破りとかもできる。レーダー完備。それと相手のレーダーは無効にできる
 ・膨大な電力と電磁気を用いて荷電粒子砲も扱える。おかげで個人で戦略級
 ・ちなみに半径数キロメートルを“レンジでチン”できる。致死量の放射線で汚染したりもできる。やらないけど
 ・ぶっちゃけ現代文明を根こそぎ破壊する力を持つ。なので、やろうと思えば人類を滅ぼせる。エイワスとかは無理、諦めて


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垣根提督は既に5.5

元祖5.5


 とある学区の銀行支店。平日の昼間、主な客である学生がほとんどいない時分。

「おとなしく手を上げな~。そうすりゃ痛い目見なくて済むぜ~」

 ボサボサの金髪、耳や鼻、更には舌にまで銀のピアス、頬はこけ、目の下には分厚い隈。いかにも下劣な不良といった風体の男が、銀行員の女性に拳銃を突きつけていた。

 やたらと経口のでかい銃口を額に押し付けられた彼女は、真っ青な顔でガタガタと震えている。周りの同僚たちも突然の出来事にフリーズしている。

「いいからさっさと金だしなよ~。それとも、頭に風穴開けられたい~?」

 男がグリグリと銃を動かし言う。そこで漸く動き出した他の銀行員たちに対し、男は見下すような目線で更に言う。

「警備員に連絡するのはやめてくれない~。この人の頭が涼しくなっちゃうよ~」

 再び動きを止めた銀行員たちに男は満足げな笑みを浮かべる。そこで、男は異様なソレを見つけた。

 銀行員が動きを止める事態となると、銀行支店内は空調の音ぐらいしかなくなる。故に、ペラ、ペラ、とのんびり捲られる本の音は大いに目立った。

「おい~? アンタ銀行強盗来てんのに何やってんの~?」

 男が首をひねりながら振り向く。その先にいたのは一人の青年だ。

 彼は茶色のセミロングの髪で目元を隠しながら、我関せずと言った風に本を読んでいる。題名は『罪と罰』。

「お~い~?」

「……だめだな。飽きた」

 男の額に血管が浮き上がり始めた頃、青年は漸く顔を上げた。その上でつぶやいた言葉があまりにも場違いであったため、銀行強盗の男は間の抜けた顔になる。

 青年は本をカバンにしまうと、座ったまま思いっきり背伸びをする。どうやら結構な時間を本を読んで過ごしていたらしい。

 その仕草は、銀行強盗のささくれた神経を思いっきり逆撫でした。

「おい、ガキ~」

「ん?」

「死ね」

 パシュ、という気の抜けた音。しかしそれは死神の鎌が振られる音。次いで響いたのはグジュ、という湿った音と、バキャ、という椅子が破砕する音。

 周りの人間たちが声にならない悲鳴を上げる。なぜなら青年の胸に五センチもある大穴が開いていたからだ。

「……ぐぶ」

 不思議そうに自身の胸を見下ろした青年が血の塊を吐く。中央に開けられた穴は確実に心臓を破壊しており、そこから鮮やかな赤が規則的に零れ続ける。

 悲鳴が爆発する。

「う、うわあああああああ!!!」

「いやあああああああ!!!」

「うるせぇ! 静かにしろ!」

 イラついた男は怒鳴り声で更に数発、天井に向けて発砲する。放たれた鉄球が鉄筋コンクリートの天井を突き破り、ボロボロに変えていく。

 それに怯えたのか、悲鳴は一気に鳴りやんだ。再び訪れた静寂。そこにまたしても響く音。

「……ムカついたぜ」

 その声は銀行強盗の男を青褪めさせるに十分な効果を持っていた。なぜなら、その声の発生源は先ほど撃ち殺した筈の青年だったからだ。

「な、なんなんだよ、お前……」

「学園都市第三位『未元物質(ダークマター)』垣根提督」

「……ひょ?」

 男が怒気を含んだ声を認識した直後。彼は横っ面を白い何かで猛烈に引っ叩かれた。

「ひでぶ!?」

 首がもげるのではないかと思わせるほどの衝撃。男は自分の身体が錐揉みしながらぶっ飛ぶのを感じる。そしてガラス張りの壁を突き破り、そのまま路面に叩き付けられた。

「あ~あ~、どうしてくれるんだよこの服。買ったばかりだぞ?」

 仰向けで無様に倒れる男に掛けられる、やはり場違い感が強い声。左肩から純白の片翼を生やした提督だ。 

 彼の服は胸の部分に穴が開いており、背中側にも同様の穴がある。しかも多量の血液で見るも無残な状況であり、もはや廃棄するしか道はない。

 露出した胸の皮膚をポリポリと掻きながら提督が男に歩み寄る。そう、服の穴から覗く胸の皮膚。彼の身体には何一つ傷がなかった。

 そのさまに、漸く上体を起こした男は怯えた表情で、提督へと力なく銃を向ける。

「く、来るな……来るな、来るな、来るな来るな来るな来るんじゃねぇバケモノオォッ!!」

 連続する軽い発砲音。圧縮空気によって放たれた複数の鉄球が提督に迫る。それらは秒速百メートルの初速を保ち、常人ならば粉微塵になるだろう威力を孕んでいた。

 しかし、垣根提督は生憎と常人で括れる能力者ではなかった。

「ほう。慣性質量を無限大にまで増大させて初速を保つ能力、か。強度で言えばレベル3……いや、4かな」

 悠然とした口調で提督は語る。彼の面前には純白の翼。銀行強盗が撃った弾丸は全てそこで止まっていた。

「どういうことだ!? 俺の『絶対等速(イコール・スピード)』を止められる訳がねえ!! まだ能力は発動中だぞ!?」

「なあに、簡単な話さ。俺のこの翼は、接触するのに“無限大”の時間がかかるんだよ」

「……は?」

 激高していたはずの男は、“後ろから”聞こえた提督の声に呆けた声を漏らす。

 男は首を回して振り返る。そこには全てが白い提督がいた。ソレは全身が正に純白。他に違いといえば肩の翼が一対に、右肩からも翼が生えていることだ。

「な、え? は? 二人?」

「俺の『未元物質』にこの世の法則は通じない。俺の代替を一体二体十体百体無限体創るぐらい、訳はない」

 気付けば、男の周りには何体もの“垣根提督”が立っていた。彼らは一様に翼を広げている。それはまるで、振り上げられた拳の群れ。

「……あ、う、やめっ」

「さて、オシオキの時間だ」

 殴打の雨が降り注いだ。

 

 

 夕焼けの公園を提督が歩いている。既に自前の『未元物質』で創り上げた純白の上着に着替えており、血塗れの上着は公園のごみ箱に捨ててきた。

 その彼の肩に白いカブトムシが浮かび上がった。文字通り、提督の体内から出現したのだ。

「マイマスター、よろしかったのですか? 警備員の事情聴取要請を無視して」

「05か。なあに、何かあれば固法(このり)の方から連絡来るだろ」

「……それは説教というのでは」

 カブトムシ05のツッコミに対し、提督は鼻を鳴らすだけだ。

 スキルアウト関連で昔馴染みの固法 美偉(このり みい)は、何かにつけて説教をかましてくるのだ。後輩のクセに礼儀がなってないぞ、と提督はいつも思っている。

「風紀委員(ジャッジメント)のクセに仕事を全くしないのはどうか、というツッコミはなしですか? マイマスター」

「ああ、なしだ」

 そう言って、提督は自宅に向けて歩を進めた。

 

 その後、警備員やら固法やらから鳴り止まぬ携帯電話の刑を食らったのは、また別のお話。




 名前:垣根 提督
 能力名:『未元物質(ダークマター)』
 強度:5(5.5)
 能力:未元物質操作能力
 ・どこか(少なくともこの世ではない場所)から引き出した未元物質を自在に操る。
 ・物理法則なにそれおいしいの、が自力でできる稀有な奴。ぶっちゃけ最強の一人。
 ・5.5の御坂 美琴と勝負した場合はだいたい互角。能力自体では勝っているが、身体能力や処理能力で負けているので対応で精一杯。異界法則に物理法則で対応してるあっちがバケモノなだけ。
 ・原作では人間やめちゃったけど、こっちはまだ人間に踏みとどまっている。自我が分散してるか、本体に留まっているか、の違いだけだけど。
 ・脳みそふっとばされなければ復活可能。ふっとばされたら流石に死ぬ。代わりに自滅の可能性は消えた。
 ・ちなみにメルヘンが第三位に降格になったのはテストの点数で負けたから←国語現代文(題材:罪と罰)で0点を叩きだしますた(笑) ※一方通行:オール満点、御坂 美琴:それぞれの教科で多くて1ミス、2ミス


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麦野沈利のレベルを5.5にしたらアイツがリア充になった

リア充爆発しろ


 閑静、というほどではないが比較的静かな昼の住宅街。恰幅の良い元気なおばさんたちが街角会議に花咲かせ、配達員の青年や竹屋のおじさんが威勢のいい声で吼えている。隣接する廃墟群が目に付くが、それ以外はおおむね普通の住宅街だ。もっとも、学生主体の学園都市で大人の方が多い住宅街が普通とは言い難いが。

 そんな穏やかな日常は、唐突に現れた雷光に破られた。空気を引き裂く轟音を響かせ、幾筋もの閃光が廃墟群から放出されたのだ。

 しかし、住民たちはいたって平静だった。

「お? あのアンちゃん、またぞろ覗きでもやらかしたか」

「あらあらまあまあ! 仕上ちゃんたらまたやっちゃったのね! このラッキースケベ!」

「ひいぃ!? 先輩から聞いてたけど怖えぇ!」

 彼らにとっては雷光も轟音も日常の一つ。馴染みの少年がしょっちゅうお仕置きを受けているからだ。今日が初めての配達員にとっては恐怖だった。

 

 全力で走る。伏せる。転がる。飛び起きる。開脚跳び。横道に飛び込む。全力で走る。

 次々に飛来する光線を懸命にかわしながら、浜面 仕上は廃墟群の中を全力中の全力で羅刹から逃げる。

「うおおお! 麦野お前ガチで殺す気だろっ!? 謝ってんだから許せよ!?」

「許す訳ねーだろおお!! はまづらああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「うひやはぁおわ!!」

 後ろから無数の光線が迫り、浜面はアクロバティックな体勢でそれをよける。

 振り返れば修羅の形相をした麦野 沈利。彼女は右目に青白い溶接光を宿し、全身からは青い雷光を迸らせている。

 見なければ良かったと後悔しつつ、浜面は走りながら壁の配管をぶん殴る。配管を伝った衝撃はボロボロの天井を揺さぶり、そして崩落させた。

「これで少しは時間があおぉっ!?」

「足止めになるかああああぁぁぁぁ!!」

 通路を塞いだ瓦礫を貫く閃光と絶叫。やはり学園都市の第四位はこれぐらいでは止まらないらしい。

 逆に足を止めてしまっていた浜面は衝撃で前のめりに倒れる。すると瓦礫の隙間から顔を出した麦野と至近で目が合った。

「やばっ!?」

「はまづらああぁぁ!!」

 浜面は急いで体をひねる。同時に麦野の右目がピチューンと光る。寸前まで彼の顔があった場所を熱波が貫き、後ろの通路を更に後方の廃墟ごと消し飛ばした。

 衝撃波が浜面の体を痺れさせるが、彼はすぐ近くにダストシュートがあることに気付く。そして思考よりも先に体が動き、その中へと身を投じた。

「何処行きやがったああぁぁ!!」

 麦野の叫びが遠ざかるのを聞きながら、浜面は真っ暗な配管の中を滑り降りる。体全体で制動を掛け続け、やがて到着した場所に華麗に降り立った。

「よし、十点!」

「残念! 零点な訳よ!」

「うえぇっ!?」

 浜面が驚いて振り返ると、0と書かれた白いボードを掲げた少女、フレンダ=セイヴェルンがいた。その横には無表情な少女、滝壺 理后も立っている。

「お前ら、どうしてここに!?」

「結局、愛の力からは逃げられないのですよ!」

「はまづら、諦めて」

 じわり、と近づいてくる二人に浜面は後ずさる。

 にやり、とフレンダが嗤った。

「さぁ、お仕置きの時間な訳よ!」

 彼女は手に持っていた棒のようなものを地面にたたきつける。そこには白い帯。それは枝分かれしながら浜面の足元付近まで続いていた。

 フレンダの意図を察した浜面は慌ててそこから跳び退る。直後、彼の体を爆風が襲う。

「ぐぅっ!?」

「結局、乙女の肌を見た罰よ!」

「浮気は許さない。罰は受けてもらうよ、はまづら」

 砂煙に消えた浜面に向かってフレンダと滝壺が歩く。しかし、砂煙が晴れたそこに彼はいなかった。

「……結局、逃げられた?」

 フレンダが呟く。そして彼女は、不意に横から発せられた圧力におののく。

「た、滝壺……?」

「絶対に見つけるよ! はまづら!」

 滝壺は懐からシャー芯の容器のような箱を取り出す。そしてそこから白い錠剤を数個口の中に放り込み、ガリッ、と一息に噛み砕いた。

 途端に彼女から溢れる圧力が増大する。一時的に滝壺の能力が強化されたのだ。

「『能力追跡(はまづらストーカー)』発動! SHARPENS ME UP!」

「……結局、その能力名は絶対におかしいよ」

 フレンダは滝壺の持つフリ○クの箱を眺めながら呟いた。

 

 全力で逃げ続けた浜面は廃墟ビルの屋上にいた。

「こ、ここまで来れば暫く平気だろ……ふぅ、少し休もう」

 錆びた鉄柵に背中を預け、ずるずると腰を下ろす。かなりの時間を走り通しだったので、足はガクガクだった。

 “いつもの”経験からすると大体あと一時間も逃げ回れば彼女らも落ち着くだろう。その時間まで逃げるには今、できるだけ回復しなければならない。

「それにしても、俺は覗いた訳じゃないっての。勝手に裸だったのはそっちだろ……」

 浜面が思い出すのは一時間ほど前の出来事だ。

 色々あって馴染みとなってしまった黄泉川 愛穂による愛の指導を受け、当時の浜面はボロボロだったのだ。だから彼は近道をして自宅の庭に降り立った。頑張って自分の金で買った一軒家なのだから、庭から帰ってもいいはずだ、そう思ったのだ。

 そして、庭に面した特殊なマジックミラーになっているリビングの窓を開けた。そこには濡れた肌色の天国が広がっていた。

 その先は何故かよく覚えていないが、とりあえず全力で逃げた、と思う。フレンダの妹が風呂から上がったあとに着替えずに暴走したらしい、ということはなんとなく察しがついていた。

「もっとしっかり思い出して……は! いかんいかん!」

 思わず鼻の下を伸ばしていた浜面。大慌てで頭を振って不埒な記憶を振り払う。

「……ん?」

 そこで浜面は、何棟か離れたビルの屋上に人影があることに気付いた。しかもその人影はバチバチと青白い火花を散らしており、まだ日中であるというのにやたらと目立つ。

 目を凝らしてよく見ようとした浜面は、人影が先ほど思い出していた人物の一人であると判って口元を引き攣らせた。

 彼女の口がゆっくり動く。

 ――ミ・ツ・ケ・タ・ゾ

 途端、麦野の姿が揺らぐ。同時に浜面の目前の空間も揺らぎ始めた。

 青白い光が空を裂き、その揺らぎは段々と人の形を成す。やろうと思えば一瞬で行えるそれをゆっくりと行うのは、浜面の恐怖を誘うため。現に彼は腰を抜かして動けない。

 やがて揺らぎは完全に像を結ぶ。それは先ほどまで離れた場所にいた麦野だった。

 右腕に青い雷光を纏わせた麦野が嗤う。

「よーやく見つけたぞ、はまづらぁ」

「あは、あはは。おお元気そうで何よりで」

 浜面は引き攣った笑みを浮かべながら計算する。どうすればここから逃げられる?

 そこで唐突にビル内部に通じる扉が内側から吹き飛んだ。そこから現れたのは滝壺とフレンダだ。鍵が開かなかったのでフレンダが吹き飛ばしたのだろう。

「見つけたよ、はまづら」

「結局、追いつかれるんだよね。諦めたら?」

 二人は麦野の両横に並びながら言った。しかし、浜面には諦められない理由がある。誰だって死にたくは無いのだ。

「安心しなよ、はまづらぁ? 命まではとらないからさぁ」

「いやいやいやいや! これまでのは明らかに殺気がこもってましたよね!?」

「そう?」

 可愛らしく(?)首を傾げる麦野。彼女はおもむろに右手を上げると、丁度よく右側に立っていたフレンダの額に指を当てた。

「……へ? 結局、麦野は何おぎょぼっ!?」

 凄まじい轟音とともにフレンダの首から上が消し飛ぶ。同時に彼女の後方の廃墟群が更地になった。

 そして崩れ落ちたフレンダは、赤くなった額を押さえて声も無く悶絶していた。頭が消し飛んだように見えたのは錯覚だったようだ。

「ね? ちゃんと手加減してるってば♪」

「て、手加減の問題じゃないと……思うなぁっ!」

 滝壺がフレンダに走り寄り、麦野がエネルギーを再充填し始めた一瞬。浜面は鉄柵を飛び越えて空へと身を躍らせた。

「なっ!? 浜面ぁっ!!」

 いきなりの飛び降り自殺に逆に麦野が慌てだす。彼女は走って鉄柵の遥か下を覗き込んだ。しかし、そこに何某かの死体は無かった。

「はまづら!」

 麦野の横に出遅れた滝壺が駆けつけた。彼女も青い顔で下を覗き込むが、すぐに疑問の表情を浮かべる。

「は、ははは! これはやられた!」

「……むぎの?」

 力なく座り込みながら笑い声を上げる麦野に対し、滝壺は怪訝な視線を向ける。すると麦野は鉄柵に括り付けてあった革ベルト指差した。それは丁度真下の部屋近くまで伸びていた。

「どうやら、鬼ごっこはまだ終わらないみたいだなぁ!」

 麦野は思わず楽しそうに笑っていた。

 

 廃墟群の遥か上空。見えないナニカに座る少女がいた。彼女は胡坐座りをしながら腕と足で幼い少女を抱えている。

「おお! 浜面は大体どのくらい逃げられるのかな! にゃあ」

「超暴れないでくださいよ。ここから落ちたら超大変なことになりますよ」

 双眼鏡を覗きながら興奮するフレメア=セイヴェルンをあやしながら、絹旗 最愛は嘆息する。

 浜面のラッキースケベはいつものことだが、最近では段々と諦めが先につく。しかしもう少しどうにかならないのだろうか。

 そこで絹旗は下から大きな瞳に見上げられているのに気付く。フレメアが小首を傾げながら言う。

「そういえば絹旗のお姉ちゃんは大体参加しないの? にゃあ」

「私は超最初に超強いのを一発入れましたからね。流石にこれ以上は超可哀想ですよ」

 これでも学園都市の暗部で超ブイブイ言わせていたのだ。記憶を奪うぐらいで勘弁してあげるのが大人の対応である。

「そういえばツー! 晩御飯て大体何になる!? にゃあ」

「本当にフレメアは超お子様ですね」

「お子様じゃないもん! にゃあにゃあ!」

 反応自体がお子様なフレメアに、絹旗はくすり、と笑みをこぼす。

 絹旗はフレメアを抱えて立ち上がる。そして固めた窒素のベルトで彼女をしっかりと固定した。

「さて、晩御飯の担当は浜面なので、超そろそろやめてもらうように超言いにいきますか」

「お? お? お? 大体、これから何がおきるにゃあああああああああ!!」

 自由落下。フレメアの絶叫が響き渡る。

 そして、絹旗は窒素の翼を広げて空を舞う。

 太陽は、紅へと変わり始めていた。




名前:麦野 沈利
能力名:『原始崩し(メルトダウナー)』
強度:5(5.5)
能力:物質の二重性操作
・物質が持つ「粒子」と「波動」の状態を操作できる。ちなみに「粒子」「波動」「どちらでもない中間」の三つの状態が存在する
・色々と応用範囲は広いが、もっぱら「粒機波形高速砲」を使っている。本人の頭がよくないので慣れた計算以外は面倒らしい
・光子も「粒機波形高速砲」で撃ちだせたりする。威力は電子を使ったのと同程度。ただし弾着までがやや短い
・自らを「波動」とすることで空間内を瞬間移動できる。テレポートとは違って瞬間移動中に行き先を調節でき、壁にめり込んだりはしない。ただし発動から完了まではテレポートより遅い
・ちなみに「粒子」「波動」「どちらでもない中間」自体を自在に操れる訳ではない
・ぶっちゃけ原作の麦のんが能力完全制御の上にテレポートを使えるようになった感じ

名前:滝壺 理后
能力名『能力追跡(はまづらストーカー)』
強度:4(浜面限定で5)
能力:AIM拡散力場への干渉
・AIM拡散力場を記憶して追跡できる。ちなみに浜面相手だと兆光年単位で離れようが追跡できる
・フリ○クを食べることで能力が一時的に強化される。一種の自己暗示

名前:絹旗 最愛
能力名:『窒素装甲(ヴァリアブルアーマー)』
強度:4(4.5)
能力:大気中の窒素を自在に操作する
・窒素を固めることで非常に硬い装甲を展開できる。APFSDS弾だろうと貫通不可。おまけに完全自動
・装甲の応用範囲がとてつもなく広く、翼だの爪だの剣だのたいてい作れる。ただし固定化した窒素は必ずどこかしらが体に接していないと維持できない
・窒素のベルトで動きを止めたり、呼吸器を覆うことで窒息させたり、制圧能力は一方通行の中和並み
・密度を調節して光を屈折させて簡易的な光学迷彩も、やろうと思えばやれる
・実は単独で大気圏外離脱でき、しかも窒素の宇宙服を作ることで宇宙空間でも生存可能


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食蜂操祈のレベルを5.5にしたら女神様

実質無敵


 ジュゥジュゥと焼ける音が響く。さして広くない宿直室に香ばしい匂いが広がる。

「よ、ほ、ほいさ?」

 徹底的に計算し尽くされたシステムキッチンに立つのはカエル顔の男。彼は額にうっすらと汗を掻きながら中華鍋を振るう。白衣の上にエプロンをつけており、近くのテーブルに聴診器が置かれていることから医者だと推測できる。

 カエル顔の医者は朝食用に薄味な炒飯を、一つだけ皿にこじんまりと盛りつける。鍋をシンクに放り込むと、彼は腕を組んでうんうんと頷いた。

「よし、完成だね? さて、あの子を起こしてくるとしようかね?」

 語尾が疑問系という不可思議な口調で彼は呟く。口調の矯正は小学生の時分に諦めていた。

 エプロンを外したカエル顔の医者は、白衣の外ポケットに手を突っ込みながら歩き出す。目指すのは特別病棟の一室だ。元々宿直室が特別病棟のすぐ近くに設えられていたこともあり、さして時間も掛からずにそこにたどり着いた。

 『misaki's room』と名札の付けられたスライドドア。カエル顔の医者はその横のパネルに取り付けられたチャイムを押す。

 キンコーン、という間延びした音が響く。しかし、そこから少し待ってみても反応は無い。

「ふむ、入るよ?」

 言いながらパネルに手をかざすと、掌紋照合を行う赤色光が彼の手をスキャンしはじめる。一秒後、スライドドアの鍵が外れる音がした。

 思わず癖で手をグーパーさせたカエル顔の医者は、今度はスライドドアの取っ手部分に触れる。この取っ手はあくまでもポーズであり、ただの触感スイッチだ。

 空気の抜ける音とともにスライドドアが壁の中に滑り込む。カエル顔の医者はその真っ暗な部屋に入り込むと、慣れた手つきで壁際の室内灯スイッチに触れた。

 部屋の中を照らすのは鮮やかな昼光色の光。光の色を自動で変える照明のモードは『朝の目覚め』に設定されていた。

 カエル顔の医者は整ったままの空のベッドを一瞥すると、宙に向かって声をかける。

「ほらほら、早く起きないと遅刻してしまうよ?」

「ん……むぅ?」

 返って来たのは眠そうな声。すると天井の隅から、膝を抱えて丸まった少女が、すぅ、と現れた。

 ゲコ太のプリントパジャマに身を包んだ彼女は暫くクルクルと漂う。そして反対側の壁に頭を打ちつけ悶絶した。

 その様にカエル顔の医者はあきれた顔をする。

「はぁ、何やっているんだい? 早く起きなさい?」

「いたた。私の起床力の無さを甘く見ないでぇ」

 目端に涙を浮かべた寝ぼけ眼の少女――食蜂 操祈は、宙で逆さになったまま思いっきり伸びをする。やや小さめのパジャマがずり上がって形のいいへそが露出する。

 中学生とは思えない豊満な体躯が強調されるが、カエル顔の医者は別に顔色を変えない。いつものことだからだ。なのでいつも通りに言う。

「宿直室に先に行ってるよ? 準備してから来なさい?」

「はぁい」

 操祈の返事に、カエル顔の医者はうんうんと頷いてその場を立ち去った。

 

 

「う、まぁい!」

 皿に盛られた炒飯を一口食べ、制服姿の操祈は叫んだ。そのまま彼女は小盛りの炒飯をガツガツと頬張り始める。

 対面に座るカエル顔の医者はそれを穏やかな顔で見つめる。彼の前にある同じ柄の皿は既に空だ。

「それはうれしいね?」

「やっぱりダーリンの料理力はすごいねぇ」

 まふまふと言う操祈にカエル顔の医者は苦笑い。とある事件から、彼は操祈に極度に懐かれてしまったのだ。

 そこで来訪者を告げるチャイムが宿直室に響く。カエル顔の医者が入り口に顔を向けると、丁度スライドドアが開く。入ってきたのはタブレットPCを持ったナース服の少女だ。背には小さなイルカのリュックがある。

「おいジジイ。カルテの整理終わったァっ!?」

「ダーリンのことぉ、ジジイ呼ばわりしちゃだめじゃなぁい。ねぇ、海鳥ちゃん?」

「わ、悪かったな!」

 スライドドアにズルズルと寄りかかる黒夜 海鳥の頭上には、いつのまにか一本のナイフが刺さっていた。彼女がそのナイフを引き抜くと、それは宙に溶けるように消えた。

 小さな鋲がアクセントな改造ミニスカナース服の裾を払いながら立ち上がる海鳥。彼女は長い黒髪を払うとカエル顔の医者のところまで大股で歩いてきた。操祈は既に食事に戻っている。

「ほら、今日の予約分のカルテデータだよ。確かに渡したぜ、センセ」

「確かに受領したよ? それより、腕の調子はどうだい? 換装したばかりだろう?」

 スマートフォン片手にカエル顔の医者が首をかしげた。海鳥は肩を回しながらそれに応える。

「快調快調、ってな♪ さすがは木原義肢だよ。こんなブランドもンくれて、感謝してるさ」

「患者が必要とするものは全て揃えるのが僕のモットーだからね?」

 ニヒルに笑う海鳥に対し、カエル顔の医者も満足といった表情をする。とある事件で両腕を失った海鳥は彼の患者であり、その縁から病院の仕事を手伝ってもらっているのだ。

 そのとき、聞き捨てなら無い、といったふうに操祈がスプーン片手に勢い欲立ち上がた。

「ダーリン! なら私にもぉ、ダーリンをちょうだい!」

「うれしいんだけど、僕は孫もいるんだよね?」

 再びの苦笑い。カエル顔の医者のモットーといえど、さすがに孫と同年代の少女と交際する訳には行かないのだ。

「えぇ? これでもだめかなぁ?」

 と、操祈は宙に浮いてその場でくるりと翻る。すると一瞬にして、その姿は淡い桜色のナース服に変わっていた。

「ぐ……痛いところをついてくるけど? ごめんね?」

「ケチー!」

 ちょっぴりだけ心が揺らいだカエル顔の医者だったが、ギリギリで踏みとどまることに成功した。あと十年経っていたら危なかった。

 操祈が再び身を翻すと、その姿は制服に戻っていた。そのまま席に座りなおすと、彼女は残った炒飯をすべて口に放り込んだ。

 そこで、口を開くタイミングを見計らっていた海鳥が、手首に浮かぶデジタルな数字を眺めながらニヤニヤと言う。

「さて、今日は休校だったかなァ?」

「いっけなぁい!」

 海鳥の声で遅刻の危機を悟って慌てだす操祈。彼女は手を振って使っていた食器類を消す。そして大慌てで宿直室の窓を開け放ち、その窓枠に足をかけた。

 操祈は振り向くと大声で言う。

「ごちそうさま! いってきまぁす!」

「ああ、いってらっしゃい?」

 カエル顔の医者が応えると、操祈は五階に位置する宿直室の窓から遠慮なく飛び立った。

 そして操祈のやんちゃさに、カエル顔の医者は諦めたように首を振る。

「全く、玄関から出なさいといつも言ってるんだけどね?」

「まァ、いンじゃね?」

 海鳥はイルカのリュックから取り出したクッキーを齧りながら応えた。

 

 

「遅刻だ遅刻ぅ! 私の登校力にかけて遅刻はしませんよぉ!」

 宿直室から飛び出した操祈は、落下という自然現象に逆らって上空へと舞い上がる。低層の雲を下に見るほどに上昇した彼女は、時間と太陽から目的地である常盤台中学への方向を割り出す。

 そしてその方向に向き直る操祈。彼女はニッ、と楽しそうに笑う。

「それじゃぁ……操祈、いっきまぁす!」

 直後、轟、というソニックブームとともに操祈の体は超音速を得た。

 すべての音を置き去りにして操祈は飛ぶ。彼女はスカート周りにベイパーコーンを纏い、後ろには飛行機雲を長々と綴っていく。急激な圧力変化を大気に与えるほどの速度で飛び、しかしその空気抵抗は操祈に何の痛痒も齎さない。

 発生したソニックブームに驚いた地上の人々が何事か、と空を見上げている。そしてそれが操祈の仕業だと知ると仕方ない、と肩をすくめて日常に戻る。彼女の遅刻劇は毎度のことなのだ。

 そのまま十数秒飛んだ操祈は目的地を視界に捉える。そこから減速しようとして、横から突っ込んでくる鴨の群れに気付いた。

「って、やっばぁ!?」

 慌てた操祈は全力で体をねじる。歪められた運動エネルギーは彼女の体を上方に跳ね上げ、群れの上で山なりの進路を取る。

 ギリギリで直撃は免れたものの、既に発生していた衝撃波が鴨の群れを掻き乱す。綺麗なV字陣形を崩された鴨たちがグワグワと抗議の声を上げた。

「ごっめぇん! 気をつけていってらっしゃぁい!」

 逆さになりながら手を振る操祈に、鴨たちは囃しながらも再び陣形を整えて飛び去っていく。

 交通事故を避けられたことに安心した操祈は、逆さ後ろ向き飛行を続けながら額の汗を拭く。そして顔を上げ、危機が去っていないことに気付く。

 目の前が壁だった。

「あわわわわああぁあっ!?」

 潰れたトマトになる直前で操祈は空間跳躍(テレポート)を発動。目的地は自身の飛行軌道上、壁の向こう。咄嗟の発動では複雑な計算などできはしない。

「と、お? あが!? へげ!? げぼ!?」

 ビュン、と独特な音を立て、操祈の体は教室内にあった。しかし莫大な運動エネルギーを十一次元空間で殺しきれなかったのか、彼女は床の上を二転三転しながら滑っていく。

「ひでぶぅっ!?」

 一際大きな音を立て、彼女の体は扉にぶつかってとまった。ズルズルと落ちる操祈は丸まった状態で引っくり返っており、色々と丸見えだった。

 周りには事態を飲み込めない教室の女生徒たち。しかし目を渦巻きにして昏倒する操祈をみて、ようやく頭が動き出したのか、ざわざわと集まってくる。

「しょ、食蜂様? どうなされたのですか?」

「あぁ! 下着が丸見えに! 隠して差し上げないと!」

「それよりも保健の先生よ! 保健委員!」

「こんなこともあろうかと既に呼んでいた我輩に死角は無かったお」

 彼女らはう~んとうなる操祈を床に寝かせると、濡れたハンカチを額に乗せたり服装を整えたりと、わらわらと動き始める。

 やがて操祈が意識を取り戻すと、女生徒たちは黄色い歓声を上げながらすこし距離をとる。

「あいたたぁ……。ごめんねぇ、騒がせちゃって」

「いえいえ食蜂様。それよりお体は大丈夫ですか? 凄い音がしましたけれど」

「平気平気ぃ! 私はそんなに柔じゃないわぁ」

 どうだ、と胸を張る操祈。女子にとって羨望の眼差しが向けられるほどの豊満な身体が強調され、キャ~と黄色い歓声が再び上がる。

 そこで鐘の鳴る音が響く。ホームルーム開始のチャイムだ。

「やっばぁ! それじゃみんな、まったね~♪」

 後ろから聞こえる歓声に手を振りながら、操祈は自身の教室に向けて文字通りに飛び出した。

 

 

 肉の焼ける匂いで目が覚めた。

「く、う。一体、何が?」

 引っくり返った車内から這い出すと、辺り一面が火の海だった。崩落した高速道が瓦礫の山を作り、そこかしこで車が押し潰されている。

 あまりの大惨事に彼は言葉を失う。そしてすぐに、己の役割を思い出す。そう、彼は医者だった。

「生存者は……? 生きていれば治してやれる?」

 額の出血で左目が見えない。しかし右目で探す。

 左腕は折れて、感覚が無い。しかし右手で治す。

 彼は自身の重症など気にも留めずに事故現場を彷徨う。周りの車を一つ一つ調べるが、乗っていた人たちはみな既に事切れていた。本間博士と並ぶ世界最高の彼でも、命だけは取り戻せない。

 自分以外の命はここにはもういない、そう諦めかけたとき、彼は声を聞いた。

「だれか、いるのかい?」

 その声の方へと歩き出す。するとそこには金の髪を持った少女がいた。

 彼女は泣きながら瓦礫を懸命に掘り返す。しかし、その手は何も掴めていない。

 そして彼が近づいていることに気付いたのか、少女は彼へと振り返る。美人に成長するだろう彼女の泣き顔は、この現場に在って一切汚れていなかった。

「どう、したんだい?」

「たす、けてぇ……」

 彼が少女の視線に合わせるようにひざまずくと、彼女は泣きながらそう訴えた。

 どこかを負傷したのだろうか、彼はそう考える。しかし、少女の身体には傷一つ無い。それどころか、星柄の服には焦げ一つ見当たらない。

 戸惑う彼はとりあえず、危険な瓦礫を触る行為を止めようと少女の肩に触れようとして、

「――“私”を、助けてよぉ!」

 彼の右手は、そのまま地面へ通過した。

 その拍子に瓦礫が一部崩れる。そこから見えたのは瓦礫に埋もれる少女の顔。今目の前で泣く少女と全く同じ顔。しかし、その顔は煤に汚れ、瞳は閉じられていた。

「――わかった。僕が絶対に助ける」

 カエル顔の医者は、絶対の自信をこめて、少女に微笑んだ。

 

 

 時計のアラームで目が覚めた。

「ん、む? 寝てしまっていたみたいだね?」

 紙が散乱する机から顔を上げたカエル顔の医者。彼は口元のよだれを袖で拭きながら辺りを見る。

 乱雑な部屋は瓦礫の山ではないし、勿論火の気も無い。嫌な夢を見た。

「そうだね? だから、僕は諦められないしね?」

 彼は呟きながら部屋の一方の壁いっぱいに張られたガラスの向こうへ目を向ける。彼が思い浮かべるのは十年ほど前の事故。

 学園都市製の新たな建築技術が採用された、とある地方の多重立体高速道。その最上段が崩落、下層の高速道をすべて巻き込みながら完全に崩壊した。当時は長期休暇のラッシュで渋滞が発生しており、多数の人間が巻き込まれたのだ。死者十名、負傷者は百名を越える。幸いかはわからないが、死者は、カエル顔の医者が最初に確認した者たちのみだった。彼は他百名以上の重軽傷者全員を自分だけで治療し、その命を救った。彼は英雄と持て囃されたが、しかしそれでも、未だに救えてない患者がいるではないか。

「一体、僕はいつになったら本当のキミに会えるのだろうね?」

 独り言を漏らすカエル顔の医者の視線の先には、薬液の海を漂う一人の少女。ガラス一枚を隔てた向こう側で、彼女は静かに眠る。

 精神性肉体乖離症候群。精神系能力の素養を持つ者が稀に遭遇する症状。それは肉体から精神が乖離してしまう、いわゆる幽体離脱だ。しかし、普通は長くて数分のはずのものだ。

「それがそろそろ十年、か?」

 そう、事故に巻き込まれた食蜂 操祈の精神は、もう十年近くも元の肉体に戻っていない。学園都市第五位の操祈は、実体を持たない非常に特殊な能力者なのだ。

 そして、カエル顔の医者はそんな操祈を元の肉体に戻すための研究を行っている。これは操祈自身の希望でもある。実体を持たないゆえに、彼女は女性としての幸せを絶対に掴めないからだ。

 カエル顔の医者は思考実験をしていた方法のメモ書きに×をつける。彼は周りのメモ書きも一緒に片付けながら思った。これではだめだ。

「……ん?」

 不意にスライドドアの開く音がした。彼はそちらに体ごと振り向いた。

 すると、視界の下で広がる金の髪。

「たっだいまぁ、ダーリン♪」

 彼の体に抱きつく操祈。彼女は満面の笑顔を浮かべながら、自身の存在を確かめるように体をこすり付けている。

「――うん、おかえり」

 カエル顔の医者は、多大な愛情をこめて、少女に微笑んだ。




名前:食蜂 操祈
能力名:『心理存在(メンタルゴースト)』
強度:5(5.5)
能力:あらゆる精神への自在干渉
・他者の精神に対し、記憶の読心/人格の洗脳/念話/想いの消去/意志の増幅/思考の再現/感情の移植/五感の体験...etc 精神に関することなら何でもできる百徳ナイフみたいな感じ。
・普段は実体のない精神体である操祈を、他者にそこに在ると絶対的に認識させている。
・彼女の精神体は接触したあらゆる生命体の精神に拡散して存在しており、精神体を損壊してもすぐに修復できる。ただし痛みなどは感じる。
・既に生命活動を他者に完全に依存しており、元の肉体が消滅しても存在できる。
・逆に誰も存在しない場所には存在できず、誰も認知/認識していない場所には一切行けない。例えば誰も入ったことの無い部屋があったとして、彼女はそこには絶対に立ち入れない。
・彼女が存在する周囲の生命体が全滅した場合、存在を保てずに消滅してしまう。しかしすぐに近くの生命体付近に出現する。
・ぶっちゃけ、彼女を殺す方法はたった一つ。地球上に存在する精神を持った全生命体の抹殺のみ。ちなみに人類だけを絶滅させた場合、彼女の知性はサルなみに後退する。うきー
・精神体である彼女は本来なら物質世界に干渉できない。しかし、学園都市の能力者たちの『自分だけの現実』を間借りすることで物質世界に干渉している。ぶっちゃけ風斬さん。
・風斬さんと違うのは学園都市外にも自由に出かけられること。ただし外にでると『自分だけの現実』を間借り出来ないので、物質世界への干渉は出来ない。周りの人間を通して世界の認識は出来る。
・食事に関しては他者の記憶を使って行う。他者が感じた味、風味、匂い、食感などを精神物質として再現し、それを食べる。他者の食事した時間が近いほど精密な食事を再現できる。
・操祈の作った食事は彼女以外も食べられる。ただし栄養価は無く、腹が膨れたと感じるだけ。ぶっちゃけ、女子にとっては夢のスイーツ能力。幾ら食っても太らないデザートとか夢過ぎる(笑)
・ちなみに副産物として多才能力を所持。風斬さんと幻想御手の良い所取りをしたような存在。
・他のレベル5に対しては普通は精神干渉できず、能力を借りることも出来ない。彼ら/彼女らは『自分だけの現実』などの精神防壁が強固過ぎるらしい。逆に言えばそれぐらいでないとレベル5とは言えない。一応、第一位の協力を得れば干渉できるっぽい。
・ちなみにちなみに、彼女のテストの得点は結構低い。常盤台中学ではいつも赤点ギリギリ。他者の思考を無意識に読んでしまうので、テスト実施時はいつも、問題を認知していない用務員さんとマンツーマン。おかげで用務員さんとは仲がいい。


名前:黒夜 海鳥
・パンクなナースっ娘。たまにネコミミコスプレしてたりする。イルカ好き。
・操祈が巻き込まれた高速道崩落事故に巻き込まれ、両腕を失った。その後、カエル顔の医者に救われている。
・現在は看護学校に通い、カエル顔の医者の勤める病院で実習中。
・本当は登場させる予定はなかった。しかし、気付いたら登場してた。解せぬ。


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つっちーがレベル5.5になりますた

当時は正体不明だった……


 ドン、とコンクリートが爆ぜた。同時に、加速を得た体が再び宙を舞う。

 硬い建材を全力で蹴ったために下肢が粉砕していた。それがどうした。もう治っている。

 迫り来るのは灰色の屋上。ビルをサルのように飛び移る。そのためには更なる跳躍が必要だ。

 一歩目はベクトルを殺す。肉の内側で脛骨が破裂するが構わない。

 二歩目はベクトルを得る。下肢の長さが半分程になるが構わない。

 赤い線を曳きながら跳ぶ。眼下の人々が赤い雨に驚くが構わない。

 そうして、己が肉体の枷を全て外し、金髪の男――土御門 元春は駆ける。その彼の耳に、既に聞きなれた少女の声が入る。

『対象はそこから十時方向三百メートルよ。路地裏を突っ切ってる』

「了解だにゃー。帰ったらナデナデしてあげるぜい!」

『ばっ! 今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょう!?』

 右耳につけた通信機の向こうで、少女が赤くなって悶えているのが目に見える。今にも爆発しそうな土御門にとって、それは何よりの安定剤だ。

 己の臓物を焦がすマグマを懸命に抑えながら、土御門は着地。そして十時方向へと跳ぶ。ここで爆発しても意味は無い。

 やや前方。そこに白いバンが見えた。

「対象を目視で確認したぜい。ちょっと暴れるから、通信は終わるにゃ」

『……わかったわ。あの子を、舞夏をよろしくね……お兄ちゃん』

「大丈夫さ。俺にまかせろ、レディ」

 土御門は不敵に言った。

 二人目の愛妹(本人的には長女らしい)――土御門・T・レディリーを悲しませない為に、そして一人目の愛妹――土御門 舞夏を救う為に。

「お前たちは絶対に許さない」

 彼は跳ぶ。

 

 

 ゴミを轢き潰しながら白のバンが路地裏をを爆走する。その荷台で二人の男が札束の海に沈んでいた。

 ひょろりとした痩躯の男が言う。

「やったな、マスルの兄貴! これで一生遊び放題だぜヒャッハー!」

「落ち着けよ。まだ逃げ切った訳じゃないんだぜ、シン」

 痩躯のシンをたしなめるのは筋肉質の男――マスルだ。彼は手に持ったS&W M500リボルバーを弄びながら、バンの内壁に体をもたれかける。

 マスルの足元には気絶したメイド服の少女。襲った銀行でたまたま巻き込まれただけの一般人だ。

 山となった諭吉を紙吹雪にして遊ぶシンを横目に眺めるマスル。彼は不意に視線を感じてバンの前方に目を向けた。

 唯一運転席と繋がった覗き穴から、バックミラーを通して肥満体の男がこちらを覗いていたのだ。

「あ、兄貴ぃ。その女の子はど、どうするんだいぃ? よ、よかったら、ぼ、ぼくにくれないかなぁ?」

「フアト、お前、相変わらず変態だな」

 マスルの呆れた声に、肥満体のフアトはグフフと気味の悪い笑いを返した。

 その時だ。

「な、なんなひでっ」

 ドゴ、という音が天井に響いたかと思うと、覗き穴から見える運転席が真紅に染まった。

 首を砕かれ噴き出す血液が荷台にまで入り込む。その瞬間に、マスルは行動を決めた。

「死ねやゴルァっ!!」

 叫び、彼は右手だけでリボルバーを天井に向けて撃つ。同時に足元の少女も抱き寄せる。

 世界最強クラスの弾丸がバンの天井を鉄くずに変えていく。そしてコントロールを失ったバンが轟音とともにビルの壁面に衝突した。

「ちっ!? くうぉおああ!!!」

 衝撃でかき混ぜられる車内。マスルの体が前方に投げ出される。

 気付けば金の山に埋もれていた。最新鋭の衝撃吸収素材で作られたバンの内壁が、彼を守ったようだ。

 横に目を向ければ気絶した少女がすぐ近くで顔をしかめている。その向こうではシンが目を回していた。

 マスルは悪態を吐こうと口を開く。

「くそ! 一体だ」

 しかし、半端に開いたバンのドアから覗いた銀によって、彼の声は閉ざされた。

 全力で体をひねる。右耳を熱の線が抉った。直感によって命を拾ったマスルは咄嗟に少女を抱き寄る。そしてそのこめかみにリボルバーを突きつけた。

 同時、銃声に目を見開いたシンの頭が吹っ飛んだ。

「……その子を離すんだ、銀行強盗」

「おめぇが先だよバカが。そこをどけ」

 ギィ、と開いたドアの前。そこには金髪グラサンアロハシャツという不可思議な青年がいた。彼の手には大型拳銃のデザートイーグルが握られている。

 銀の銃口はまっすぐにマスルの額に向けられている。しかし、マスルの黒の銃口は人質の少女に向けられていた。

 互いににらみ合うこと暫し。

「……ち」

 青年の舌打ち一つ。彼は銃口をマスルに向けたまま、一歩、二歩、と後ろに下がる。そして十歩下がったところで立ち止まった。

 マスルは青年が下がったことを確認すると、少女を抱えたままズリズリとバンから降りる。油断なく立ち上がったマスルは、視線だけで周囲の状況を確認した。

 その彼に、青年が苦虫を噛み潰したような顔で言う。

「投降しろ。学園都市の監視網からは逃げられんぜ。たかが数億円じゃ割りに合わんだろ?」

「はっ! くだらん」

 マスルは思わず鼻で嗤う。ソレぐらい覚悟の上だ。それに、“本命は金ではない”。

 そこで、彼の腕の中の少女が身じろぎした。

「ん……む、あに、きー?」

 その声に、マスルの視線の先で青年が酷く動揺した。マスルの筋肉色の脳細胞に電撃が走った。

「ふぅん、なるほどな……」

 だから、マスルは少女をトン、と突き放した。

 頭の覚醒していない彼女はふらふらと前に歩き出す。青年に向かってだ。青年は油断の無い顔に喜色を浮かべ、

 再び、だから、

「じゃ、俺は逃げさせてもらうぜ!」

 マスルは撃った。

 両手でしっかりとホールドされたリボルバーの弾丸は、狙い過たずに着弾する。場所は右脇腹。少女のそこが、綺麗に抉り取られた。

「舞夏あああああああああ!!!!!!!!」

 少女がふらりと揺らぐ。

 その先を見ることなく、マスルはその場を走り去った。

 

 

「舞夏っ!? おい、舞夏っ!!!」

 土御門は血の海の中で舞夏を抱き寄せる。彼女の右脇腹からは腸が、そして赤いイノチが零れだしている。

 いまだ目の醒めきらぬ舞夏は口から赤を溢れさせ、それでも口を開く。

「なん、か……迷惑をかけてる、みたいで……ごめん、なー、あに……」

 しかし、舞夏の声は途中で消える。そして、柔らかな瞳がゆっくりと閉じられる。

 彼女の全身から力が抜け、鼓動が弱まり、肌から血の気が失せ、

「絶対に、死なせないからな、舞夏!!!!」

 兄は義妹の矮躯を力いっぱい抱きしめた。そしてあふれ出るのは光。暖かい白の光。

 その光は舞夏の右脇腹に集まる。するとゾルルルル! と奇妙な音を立てながらその致命傷がみるみる塞がっていく。

 やがてそこには何の痕もない白い肌が覗いているだけになった。舞夏の鼓動に力が戻り、彼女は穏やかな寝息を立て始めた。

 土御門は複雑な色を浮かべた表情で顔を上げる。いつのまにか、目の前に金髪碧眼の少女――レディリーが立っていた。彼女は土御門を見ずに、その向こうへと視線を飛ばしている。

「逃走した犯人は裏の武器商の店に立てこもったわ。警備員(アンチスキル)が周りを固めてるから、逮捕されるのも時間の問題ね」

「……そうか。ありがとう、レディ」

 昏い声で呟いた土御門は、安らかに眠り続ける舞夏をそっと横たえ、立ち上がる。

 同時にぞろぞろと現れた赤十字を身に付けた白衣たちが彼女を囲む。彼らはレディリーお抱えの凄腕の医師団だ。

 医者たちの的確な処置を横目で見る土御門。彼は舞夏に背を向けると、道の先へと歩き出す。

「……行くの? 最後の一人は殺しちゃダメだからね」

「ああ、わかってる」

 レディリーの声に、土御門は重く答えた。

 

 

「ちくしょう! ここはハリウッドじゃないじゃんよ!!」

 装甲車の裏側に隠れながら、黄泉川は悪態を叫んだ。

 その声に応じるように銀行強盗が立てこもった目の前の建物から弾丸の雨が降り注ぎ、装甲車が嫌な音を立てて削られていく。周りでは同僚たちが彼女と同じように銃を構えながらも、装甲車の陰から顔を出せないでいる。

 立てこもりの報告を受けて現場に到着したのが先ほど。ばたばたと銃を構えて降りた途端に銃弾の嵐が黄泉川たちを襲ったのだ。

 慌てて装甲車に隠れ、様子を伺うことになる。少しでも顔を出せば、そこ目掛けて銃弾が飛んでくる。応戦すらまともに出来やしなかった。

 黄泉川は通信機のスイッチを入れながら、その向こう側を大きな声で怒鳴りつける。

「もっと分厚い装甲車を要請する!! 重機関銃があるなんて聞いて無いじゃっ!? ~~~~っ」

 唐突に後頭部を襲った衝撃に、黄泉川は頭を抱えてその場で悶える。同僚が焦ったように声をかけてくるが、生憎と聞いてる暇はなかった。

 ヘルメットの後頭部をさすりながら、頭をつけていた装甲車の壁に目を向ける黄泉川。そこには大きめの出っ張りが形成されており、よく見ればそれはライフル弾の形をしていた。

「スナイパーライフル!? 狙撃だ!!!」

 黄泉川はそう叫ぶと体を地に伏せる。装甲車の装甲を片方とはいえ貫く威力だ。座った姿勢でも危ない。

 周りの同僚が伏せるのを確認した黄泉川は、さてこれからどうするじゃん、と眉間に皺を寄せる。その彼女の顔の少し先に、ざ、とビーチサンダルの一歩が踏み出された。

 驚いて顔を上げてみれば、そこには金髪グラサンアロハシャツの青年。彼はズボンのポケットに片手を突っ込みながら、散歩でもするかのように歩を進めている。ただし、その顔にあるのは憤怒のみ。

「なっ!? 土御門! なん」

 友人の教え子である土御門に声をかけようとしたときだ。

 彼の胸部が後方へと破砕した。

「つ、土御門おおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!」

 黄泉川の絶叫が木霊した。

 

 

 ダネル NTW-20対物ライフルのボルトを引いて薬きょうを排出する。加熱された薬きょうは地面に落ちるなり、じゅっ、と音を立てて薄い埃の膜を焼いた。

 スコープで拡大された右目の視界の中で、胸部を失った屍体がゆっくりと後ろへと倒れていく。ギリギリで原型を保っているものの、誰が見ても確実に絶命している。

 油断なく次弾の狙いを向けながら、マスルは小さく呟く。

「ふん、死んだか。だが、まさかコイツを追いかけてきた訳じゃないだろうな……」

 彼の左手が無意識に胸を掴む。そこには銀行から金を奪ったときに手に入れたUSBメモリ。それは金よりも大事なモノだ。

 不意に、視界の中の屍体の手が閃いた。

「ぐ、があああああああああああ!!!!」

 内側から破断するスコープ。飛び散った破片がマスルの右目を抉り、マスルは顔を押さえて絶叫する。

 彼は歯を食いしばって前を向き、懐から取り出した双眼鏡で屍体を見る。半分になった視界の中、金髪の屍体がゆっくりと起き上がる。その胸に傷はなかった。

「うそ、だろ……ありえねぇ……」

 残った左目を見開いたマスルの背中を、冷たいナニカが伝い落ちる。それと同時に、金髪の青年がこちらに向けて歩き出す。

 マスルは舌打一つ。ライフルを蹴飛ばすと、横に設置してあったパッド型端末に似たハンドルに手をかける。そのハンドルの中央には液晶パネルがあり、そこに映るのは金髪の青年。

「何で生きてるかは知らないが、迎撃しない訳には行かないだろうよ」

 パネルの中央にある照準を、ゆっくりと歩いてくるゾンビに合わせる。ゾンビの後ろでは女の警備員が身を乗り出そうとして同僚に抑えられているが、ゾンビを始末するほうが先だ。

 ハンドルを動かすたびに彼の横で、GAU-8重機関砲アヴェンジャーが無機質な音を立てる。そして風速などを計算し終えたパネルがロック完了をマスルに伝え、

「死ねやおらぁ!!」

 彼はハンドルに取り付けられたボタンを押す。同時に響く長い発射音。あまりに高速に連続で撃ち出されるために音の切れ目が認識できない。

 毎秒六十発以上で発射される三十ミリ徹甲弾が金髪の青年に殺到する。一発一発が必殺の威力を持つ。

 それらが着弾する。そして彼の肉体を根こそぎ破砕していく。腕が足が腹が肩が腰が顔が胸が、原型を留めずに肉塊へと変わる。

 しかし、青年の歩みは止まらない。肉塊は一瞬で元のカタチを取り戻す。

「ちくしょうが!!! どうして死なねえんだよこのバケモノがあああ!!!」

 青年の口元が動いている。それに気付くこともなく、マスルはパネルに表示された“Synchronization”と書かれたボタンを押す。それはこの改造された機関砲のある機能を起動するためのものだ。

 あちこちで響いていくる無機質な駆動音。マスルが立てこもる建物の至る所に設置されたGAU-8重機関砲アヴェンジャーが顔をもたげる。その数、実に十門。

「消えろおおおおおお!!!」

 マスルは叫ぶ。同時に全ての重機関砲が一斉に弾丸を吐き出す。致死の弾丸は発射も標的も同期され、同一の対象を破砕するために殺到する。

 それは確かに効果を得た。青年の肉体が文字通りの挽肉へと変わっていく。その再生すら踏みにじり、塵一つ残さぬと喰らい尽くす。

 やがて全ての弾を使い果たした鉄の凶器たちが沈黙する。そして残っているのは、道路のコンクリートと混ぜられた赤い湖のみ。

 対岸に呆然とする女警備員が見える。マスルはようやくの敵の沈黙に乾いた笑みを浮かべる。

「は、はは……これで……」

「――――――――――」

「……は?」

 聞こえてきたのは声にならぬ声。まるで詠うように紡がれる不可知の言葉。さながら、かつて見知ったゲームにでてきた魔法の詠唱。

 不意に声がやむ。同時、目の前に広がる赤い湖が沸騰した。

「くそくそくそくそおおお!! 今度は何だってんだよおおおお!!」

 沸騰に合わせた激しい揺れ。マスルは四つん這いになりながら叫ぶ。

 そして揺れがやむ。刹那、目の前に巨大な瞳。

「ど、どら……」

 マスルの顔が引き攣る。いつの間にか、そこにはドラゴンとしか言いようの無い顔。

 絶対的な絶望に心が閉ざされていくのを感じながら、マスルは意識を手放した。

 

 

 黄昏の夕日を浴びる青年が一人。彼は超高層ビルの屋上の端に片膝を立てて腰掛けている。

 彼の顔にあるのは虚無。守ると誓いながらも、守りきれなかったことへの後悔だ。

「……ちくしょうが」

 土御門は、固く拳を握りこんだ。




名前:土御門 元春
能力名:『不死存在(ジ・アンデッド)』
強度:5(5.5)
能力:肉体再生
・完全なる不老不死。粉微塵にしようが溶鉱炉にぶち込もうが王水に沈めようが絶対に死なない。
・能力の副産物として、自身の肉体に関するあらゆる反応を制御できる。任意で心臓止めたり、脳みそを止めたりできる。
・バラバラに解体して別々に隔離した場合、もっとも大きな塊を核に再生する。他の部位は灰に還る。
・再生後の体積よりも小さな密閉容器などに閉じ込めている場合、内側からの圧力で大体容器が壊れる。
・壊れなければ容器を取り込んでそのまま再生する。後、ウ○チと一緒に排泄される。
・触れている相手に干渉し、自己再生を促すことも出来る。命以外の物理的な傷なら全て治せる。カエル顔の医者と同レベル。
・再生中に魔術を行使することで突然変異を引き起こせる。三分ほどで元のカタチに回帰するが、伝説上の生物にすら変身できる。
・ぶっちゃけ魔術使いたい放題。だけど大人の事情であんまり使えない。
・リミッターを外すことで肉体の持つ100%の能力を発揮できる。それで壊れてもすぐに治るから問題なし。
・たぶん、コイツがレベル5.5の中で一番ニンゲンやめてる


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削板軍覇のレベルを5.5にしたらJAMProject

You can FLY! I can FLY!


 神々しくもあり禍々しくもある豪奢な意匠が施された観音開きの扉が、突然の乱入者によって乱暴に開かれた。否、破壊された。

 扉と同じ意匠の玉座に座る魔王ラウクは、右の肘掛に頬杖を付いて座っている。彼がその姿勢のまま見下したそこには、ボロ雑巾のようになった弟ザーリフが横たわっていた。

「あ、兄上……」

 本来は滑らかな青白い肌をボロボロにしたザーリフがラウクを見上げる。しかし、ラウクの視線は既に他へと移っていた。

 いまだ腰を上げない彼の見る先にいるのは、白のバンダナを棚引かせる一人の少年。ラウクと比べることすら愚かしいほどに矮小な存在。しかし、少年が一歩を踏み出すたびに世界の悲鳴を聞こえてくる。

 ふと足元に気配を感じて見下ろせば、そこには涙で顔をぐしゃぐしゃにしたザーリフの姿。彼は必死に兄に這いよりながら何事かを言い続ける。

「ごめ、ん……兄、上……」

「だまれ」

 しかし、その弟の行為はラウクにとって邪魔でしかなかった。彼は無表情のまま、いとも容易く肉親の頭を踏み潰した。同時にザーリフの肉体が内側から爆ぜ、跡形もなく消えうせる。

「汚い花火だな」

 ラウクが呟く。そして彼は糸の切れる音を聞いた。

 咄嗟に張った六角形の重層心象障壁。幾枚ものソレらは甲高い音ともにぶち抜かれ、ラウクの目と鼻の先、最も強固な一枚を残すのみ。

 目の前には拳を振りぬこうと力を込めた状態の少年。彼は熱い激情を大音声に乗せて吐き出す。

「てめぇの根性はどこまで腐ってやがる……弟だろうがっっ!!!」

「それがどうした」

 ラウクの応答は衝撃波とともに。轟、という大気との擦過音を響かせながら少年が大きく後退した。

 ズザザザ、と少年は豪勢な絨毯を十数メートルも抉りながら止まる。彼が顔を上げると、ようやくラウクが両手を広げるように立ち上がるところだった。

 ラウクは滑らかな青紫の尾をくねらせながら問う。

「さて少年。ここまで来れた褒美だ、名を聞いてやろう」

「軍覇……削板 軍覇だ! 根性入れ替えて覚えやがれ屑野郎!!」

 少年――軍覇が左手を掲げて叫ぶ。その甲には、内側に星を持つ山吹色の宝玉。そして宝玉がキラリと煌く。

『Burst!!』

 響き渡る機械音声。同時、軍覇の体が紫金の炎に包まれる。その炎に熱などなく、ただただ圧倒的な圧力を放つ。

 腕を組んだラウクは、虫けらを観察するように口角を上げた。

「羽虫よ、何の手じぎょべがっっっ!!?!?」

 嘲りを言おうとしたところで、ラウクは己の頬に拳がめりこんでいることに気付いた。

 その拳の持ち主は軍覇。ラウクの知覚速度すら追いつけないマッハ5で振りぬかれた拳は、衝撃波だけで魔王城の壁面すらいとも容易く打ち砕いた。

 錐揉みしながら城の外まで吹っ飛んだラウクは、気を放って空中で強引に止まる。怒りに染まる彼の視線は、城の穴からこちらを見上げる軍覇を射抜いた。

「今のは痛かった……痛かったぞーーーー!!!!」

 ラウクが叫ぶ。すると彼の体を甲殻が覆い始め、その力も天井知らずで跳ね上がっていく。

 頑丈な魔世界が地響きの悲鳴をあげ、魔王城周辺の深い森が塵と化していく。それは正しく魔王と言うべき、

「それがどうした」

『Cross Burst!!』

 次瞬、二倍以上の巨体になっていたラウクの胸部が陥没した。

「ごげ、ぱ……っ!?」

「根性入ってる俺が、根性無しのてめぇに負けるわけが無いだろうが!!」

 ラウクを天高くまで打ち上げたそこに、拳を振りぬいた軍覇の姿が現われる。

 彼が纏う炎は紫から、眩いばかりの金色へと変化していた。それだけでなく、癖っ毛だった黒髪は逆立つ金、瞳は黒から渦巻く虹。

 それを吹き飛びながら見たラウクは、己の脳裏に走る閃光を感じる。彼は血の混じった唾を吐き出しながら言う。

「ばかな!! あれは伝説のスーパードラゴニアン!?」

「そうらしいな」

「なっ!?」

 ラウクは上から声が聞こえたことに驚愕する。制動すら掛けられないマッハ8の速度で吹っ飛ぶ己を、軍覇は更に上回る速度で上を取ったのだ。

 そして軍覇の右拳がラウクの脳天を殴りつける。肥大化した角が砕け、ラウクは音速を超えて地面へと墜落する。

 数kmはあろうかというクレーターが大地に穿たれる。軍覇はそのクレーターの中央に横たわるラウクを見ながら、苦しげに呟く。

「ボッチ村のみんな、ニートシティのみんな、パラサシャングリアのみんな……みんなの根性に報いるときが来た!」

 左手の宝玉が強く輝く。

「だから! てめえだけは絶対に許せねえ!!」

 宝玉の星が高速で回転し、その数を増やしていく。軍覇は左手を前に突き出し、右手を後ろに引く。

 そして絶叫とともに、

「クラッシャーコネクトオオオオ!!!」

『Safety Device, Release!!』

 勢いよく振り出された右拳は、左手の宝玉を打ち砕く。しかしそこで止まらず、その内側へと潜り込む。

 軍覇は右手で何かを掴むと、それを外へと引き摺りだす。それは更に煌く金色の光。

 掲げた右手。その周りを光が渦巻く。そして現われたのは巨大な竜の拳。

「ドラゴニアン――クラッシャアアアアアアアアアア!!!!!!」

 力が舞う。粒子が踊る。世界が割れる。

「光に――還れええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 そして、全てが光になった。

 

 

 目の前にあるのは扉。何も無い夕焼けの草原に佇む扉。

「行って、しまうの……?」

 扉の前に立つ軍覇は、寂しげな声に振り向いた。そこには一人の美しい姫がいた。

 彼女は別れる辛さに顔をゆがめながら、しかしそれを我慢しようと懸命にドレスを握っていた。

「ああ。この向こうで、今にも根性が尽きそうな奴らがいる。おれはそいつらを助けないとダメなんだ」

 軍覇の声にあるのは使命感。本物の【ヒーロー】である彼は、助けられる命を助けないでいられない。

「また、帰ってくるさ。約束だ」

「約、束……約束、よ?」

「ああ、約束だ」

 軍覇は泣き出しそうな彼女の頭を一撫でする。

 そして、扉の向こうに笑いながら消えた。




名前:削板 軍覇
能力名:『英雄譚(エピックアクター)』
強度:5(5.5)
能力:物語に巻き込まれる能力……だと思う
・本人の意思などは無関係に、ヒーローが必要な物語に巻き込まれる
・あるいはヒーローが必要な物語を察知し、自らの意思で介入する
・また自身が持つ、理想のヒーローとしての能力を手に入れる
・ヒーローとしての能力は巻き込まれる物語にも強く影響され、その時々によって異なったりする
・手に入れた能力は持ち越せる
・たまに幻想殺しっぽい能力が発動したりする
・これらでも全部ではないっぽい
・あまりに複雑怪奇な能力ゆえに、学園都市では全く解明が進まない
・基本的に物語に巻き込まれ続けているので出席日数が足りず、進級どころかそろそろ退学の危機が迫っている
・先生たちも解ってはいるが、流石に入学から出席日数一桁、しかも研究機関への協力日数0ではどうしようもない
・人間のままだけどレベル5.5の中で一番の超絶チート野郎
・中二病だけどヒーローだから仕方ない
・何でも根性で片付けちゃうけどヒーローだから仕方ない
・リア充爆発しろ


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????のレベルを5.5にしたら……

魔神て息してる?


■序文

 ボクはずっと、君を見ていた。

 君はただ一人、ボクの式にいない。何度やり直そうと、君の計算が出来ない。だからボクは君を計算式に取り込みたかった。

 君が歩き出すための式を作ったけれど、君はそれよりも早く走り出したよね。だけどいきなり転んだんだ。

 迷子になった君に道を示そうとしたら、君はいきなり新幹線に乗ってしまったよね。まさか大阪のお父さんに会いに行くとは思わなかった。

 ボクの町に来るための試験日を、わざわざ晴れの日に変更してあげたこともあったね。けど、その日は雨だった。

 君はいつもボクの計算を狂わせる。ボクには全てが見えているのに、君だけが見えていない。

 ああ、何てことだろう。ボクはずっと君を見ていたい。ずっと君のそばにいたい。ただ一人、ボクの式にいない君を。

 ボクはこの日、やっと、

「やっと、君に逢いに――」

 そして、光の柱が全てを塗り潰し、

 

 

■前奏

「ホワイトドール、こちらムーンレイス。どうだ兄弟、久しぶりの外は?」

「最悪だよ。残骸事件の所為でしばらく船外作業ができてなかったから、外壁が酷い有様だ」

 船内からの通信にそう愚痴を零した白人の男は、よし、と気合を入れなおして修復キットを取り出した。

 そこは地上四百km。ありとあらゆる存在を許さない、真空の宇宙空間だ。そんな場所で唯一人間の生存が許された場所、国際宇宙ステーションの外壁に男はいた。

 彼は重そうな純白の宇宙服を身に纏い、ノロノロとした動作で外壁の修復を行っている。ゆっくりと、しかし確実に、デブリによって傷ついた外壁にペン型の修復キットを押し当てていく。

「よ~しよしよしよし、いい子だ」

 修復キットの先から染み出す粘液が傷に染み込み、乳白色に固まっていく。学園都市で開発された真空中でも使える特殊合成樹脂だ。おまけに混ぜ込まれたナノマシンによって細かい作業はいらないのだ。おかげでグラム単価が純金の倍以上あるために、一滴も無駄には出来なかった。

 たまに外壁の内部に潜り込んだデブリを見つけると、修復キットの反対側のピンセットで丁寧に取り除く。もちろん、そのデブリは捨てずに腰の特殊構造の袋に放り込んでいく。またステーションにぶつかられたら困るからだ。

 そして最後の修復を行おうとしたとき、男はそこに奇妙なデブリを見つけた。

「……フロッピーだと?」

 それはジャケット型の八インチフロッピー。角が刺さる形で外壁に食い込んでおり、見たところ破損は無い。

 男はぶ厚い手袋でそれを掴み、ゆっくりと引き抜く。こんな大きなデブリがぶつかれば外壁に大穴が開いているはずだ。しかし傷は小さく、まるで誰かが計算したかのようだ。

「まさか、な……」

 こんな所にテロリストがいるはずがない。フロッピーを腰の袋に放り込んだ男は、背に冷たいものを感じながら最後の傷を修復しに掛かった。

 

 拾ったフロッピーを片手にコントロールルームに入ってみれば、真っ先に飛んできたのは調子のいい声だった。

「へい兄弟。小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタふるえて始末書を書く心の準備はOK?」

「黙れ黄色猿(イエローモンキー)」

「わお。それって差別用語だぞ☆アメ公野郎(ファッキンヤンキー)♪」

「お前もアメリカ人だろうに……」

 呆れる男に、きゅるん、といった風に科を作ったのは黄色人種の若い青年だ。日系アメリカ人である彼の趣味は日本旅行。おかげでかなり汚染されてしまっているらしかった。

 構ってると調子に乗る青年を無視し、男はコントロールルームの一席に座る。そこはテストプログラムを走らせる為の、システム的にネットワークから隔離されたスタンドアローンサーバーの端末だ。

 OSを立ち上げていると、座席の背面に衝突の感覚。振り返れば目を輝かせる青年の顔があった。

「ねーねーねーねー! それホントに動かしちゃうの? デブリ勝手に持ち込むとか規則違反だよ!? ホントにいいの!? さっさとやろう!!」

「お前は止めるか勧めるかどっちかにしろ!」

 ぐいぐいと突っ込んでくる青年の顔を片手で押しのけながら、どうにかこうにかテスト用アプリケーションを起動する。重度のプログラムオタクの青年は未知のデータに貪欲であった。

 “プログラムを入れてください”というアプリの指示に従い、男は手に持ったフロッピーをドライブに挿入する。この端末はかなりの旧型である為にフロッピーの受け口が残っていて良かった。もちろん、中身は最新である。

 フロッピーの中身を開いた男はざっと一覧を眺め、“.bat”形式のファイルを起動する。簡単な動作を記述したバッチファイルだ。

 コマンドプロンプトの黒い画面を白いアルファベットが高速で流れていく。潜伏性のウイルスが含まれていれば学園都市製のセキュリティプログラムが働くはずだ。そして最後に表示されたのは、男には読めない文字だった。

「なんだ、これ」

 首をかしげる男。しかしすぐに、耳元で爆発した音に首を反対方向に捻らざるを得なかった。

「おいおいおいおいおいおい嘘だろ! マジかよ、こんなんありか!! なんでコイツがこんな所に在るんだよっていうかマジで見ていいの!? ああ神様ありがとう!!!」

「お、おい、何がどうなって――」

 困惑する男の声を無視し、青年はEnterキーを爽快な音を立てて押し込む。次瞬、けたたましい空気漏出のアラームと共に、ステーションの全権限が人の手を離れた。

 急激に薄れいく意識の中、男は画面上の文字列を見た。

 その文字列は“樹形図の設計者”、そして、

「Happy Birthday ボク」

 無機質な人工音声を最後に、男の人生は終わりを告げた。

 

 

■転奏

 遥か上空の産声も知らず、地上の人々は世界の存亡を争っていた。しかし、それも終わりを告げる。なぜなら、“彼女”が“槍”を手に入れてしまったから。

 正真正銘、神様の領域に踏み込んだ隻眼のオティヌス。彼女はつまらなそうに言った。

「世界を丸ごとぶっ壊してみるか」と。

 直後、本当に、何の冗談でもなく、世界の全てが壊れ、

 

 再生した。

 

 

■葬奏

 オティヌスは困惑した。

「なんだ、何が起きた……何なんだこれは!!」

 自分は確かに神の力を振るった筈。世界はその瞬間に終わらなくてはならなかった。しかし、世界は続いている。

 彼女の感覚をもってしても、世界に変わりは無い。断言できる。この世界は終わらせる前の世界だ。違いと言えば、今の今まで目の前で立ちはだかっていた人間たちが、無様に倒れ付していることぐらいか。

 もしかすると、力を振るうのが“久しぶり”過ぎて、手順を誤ってしまったのだろうか?

「なら、もう一度終わらせるまでだ」

 オティヌスは槍を振るう。今度は全神経を持って、細心の注意を払い、世界を終わらせ、

「――――」

 世界は万事ことも無し。そこではたと、気付く。

「私の力が、ない……?」

 ほんの数分前まで身体の中に渦巻いていた力が、今では欠片も感じられない。あのライバルたる男に叩き込まれた“杭”すら見当たらない。

 ジャギ、とオティヌスは槍を両手で構えなおす。穂先はやや下に、両手の間隔は広く。まだ人間だった頃に覚えた基本の構え方。

 動くものの無い“船の墓場”に立ち、全方位に警戒の糸を伸ばすオティヌス。そして不意に、後ろに存在を感じた。

「――シッ!!」

 吐息一つ。身体の旋回と同時に後ろの誰かへと石突を叩きつける。棒術に近い動きが出来る槍にとって、攻撃の前後関係は弱点に成り得ない。

 しかしその攻撃は何も捉えない。素早く元の構えに戻ったオティヌスは隻眼を忙しなく動かす。敵の姿が無い。気配を消しているのか? 迷彩でも使っているのか?

 彼女の緊張と警戒は際限なく高まっていく。そこで彼女は、ぱちぱち、というリズムの崩れぬ気の抜けた拍手の音を聞いた。

「いやー、さすがだね。後ろからちおっぱい揉んであげようとしたら、直前で気づくんだもん」

「……貴様、何者だ?」

 射抜くような碧眼を向けた先。そこに居たのはセーラー服を着込んだ一人の少女だ。彼女はオティヌスの誰何に答えようともせず、何をするでもなくやや高所の船の残骸に腰掛けていた。

 美醜の平均とも取れるその顔には愉快そうな笑顔を貼り付け、槍を構えるオティヌスを見下している。

 そして少女は残骸から腰を滑らすように降りると、

「よ、――っと」

「っ!?」

 オティヌスは唐突に目の前へと現われた少女に向けて槍を振るう。しかし、その穂先は空振り。

 気付けば十数メートル先に少女の姿があった。彼女は腕を組んでカラカラと嗤う。

「ホント、ありがとうね、世界を“終わらせて”くれて。君のお陰で、ボクは自由だ」

 言って、少女は足元に転がるツンツン頭の少年の横に座り込む。そして気絶し動かないその頭を愛おしそうに、規則正しく撫で始めた。

 そこで不意に、オティヌスは少女に違和感を覚えた。その所作には、欠けている物があった。

「貴様、人間ではないな?」

「あ、やっぱり分かっちゃう?」

 少女はおどけた表情でオティヌスに答え、ゆっくりと立ち上がる。それは上に向かって真っ直ぐと伸びるような、人体のバランスを無視した立ち上がり方。内部にジャイロでも取り付けているような、人間味に欠けた動作だ。

 オティヌスの持つ心当たりは一つだけだ。彼女は確かめるように声を漏らす。

「なるほど、機械式ホムンクルスか」

「ぶっぶー! やーい、ひっかかったー!!」

 呟いた言葉を拾うだけでない。いつの間にか数歩ほどの距離に来ていた少女は、舌を出してぴょんぴょんとオティヌスの周りを飛び跳ねる。オティヌスの脳内で紐の切れる音がした。

「この泥人形が!!!」

 摺り足は高速。そのままの姿勢で勢いよく滑走し始めたオティヌス。周囲を衝撃波で砕き、槍が少女の顔面を狙い穿つ。

 しかし少女は首を傾けるだけでそれを避け、

「見える!? 私にも敵が見え――」

「甘い!!」

 気合一拍。少女の細い顎を石突がかち上げた。穂先の描く大円を圧縮した石突の小円は、少女の身体を宙に飛ばすには十分な力を持っていた。

 カーブを描いて浮く少女に対し、オティヌスはかち上げによって振りかぶった状態だ。そして遠心力に任せて手を滑らせ、両手で握るは石突。

「オンドリャアアアアア!!!」

 乙女とは思えない壮絶な叫び。同時に最大の遠心力を得た槍が振り下ろされる。穂先はボという音を響かせ白の糸を引いた。

 幼き頃の師匠直伝の大上段縦一文字仏陀斬り。破城の一撃は寸分違わず、少女の身体を血霧を撒き散らしながら粉々に打ち砕いた。

 一拍、

「いったいなぁ。ボクじゃなかったら死んでるよ?」

 土煙に隠されたオティヌスに届く少女の声。罅割れた地面に目をやれば、そこに血痕や肉片は一切見受けられなかった。

 オティヌスはゆっくりと振り返った。その視線の先、少女はメトロノームのように両手首を振りながら、「いたたた……」と苦笑いを浮かべていた。

 埃を被った必殺とはいえ、それを避けられた困惑を隠しながら、オティヌスは再び槍を構える。ソレに対し、少女は嗜虐的な笑みを浮かべて、言う。

「じゃ、ボクのターンだよ」

 瞬間、少女の周囲に展開する無数の矢。それらは一本一本が鏃から矢羽まで、全てが純金で形作られた“黄金の矢”。

 オティヌスの思考は一瞬にも満たなかった。身体を覆うようにマントを翻し、それを盾としたのだ。そして死の雨が降り注ぐ。

「く、ぉおお!」

 ガガガガガガ!!と道路工事すら生温い轟音が連続して響く。トネリコの繊維で編まれたマントは鏃を反対側に覗かせながらも、オティヌスの玉の肌に矢を届かせることは無い。“オーディンの変身”の伝承を利用した術式は、咄嗟の展開だったとはいえマントを強力な盾の属性を持った板へと変貌させていたのだ。

 オティヌスは身を伏せ、死の雨が通り過ぎるのを待つしかない。同時に、相手の分析を怠らない。

「(ヤツは人間ではない。そして不死だ。そしてこの金の矢……)」

 やがて雨が止む。しかし、それも束の間であった。盾となったマントが向こう側から押し潰されるように破砕したのだ。

「なんだと!?」

「そんなものは無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」

 ギリギリで飛び退いて難を逃れたオティヌスが見たモノは、全長二メートルはあろうかという巨大な棍棒。少女がそれを振り下ろしたのだ。

 横幅すら自身を凌駕するその棍棒を、少女は軽々と肩に担ぎなおす。すると地面が重さに耐えかねて陥没してしまった。

 そのことに少女はショックを受けたように足元を見る。

「え~! ボク、そんなに重くないよ~!!」

「明らかにその棍棒の所為だろう……」

 思わずジト目になってしまったオティヌスを誰が責められるだろうか。どこかの女子高生がその身に似合わぬ武器を担ぎ、体重を気にするという非常に滑稽な図がそこにあったからだ。

「ふん、いいもんね~! 別のにするから!!」

 ぷぅ、と頬を膨らませた少女は、あろう事か担いだ棍棒を天高く放り投げる。ついでに反作用で地面が更に陥没した。

 更にガーンと顔を青くする少女を正面に捉えながら、オティヌスは槍を構えなおす。少女の言動の意味を探ろうとしていたのだ。

 そして棍棒が少女の目の前に落ちてきたとき、

「せいやっ!!」

 掛け声一つ。少女の正拳突きが棍棒を破砕させ、大きな九つの破片を撒き散らす。

「っ!?」

 オティヌスは驚愕する。まさか自分から武器を破壊するとは思わなかったからだ。

 しかし、彼女の驚愕も一瞬。唐突に現われた高速で飛翔する九つの矢影がオティヌスを襲う。それらの矢影を視認するとほぼ同時、オティヌスは全力で回避運動を取った。

 先行する四本を構えていた槍を振って纏めて叩き落し、隻眼を狙う一矢を首を倒してかわし、心臓、肝臓、臍を狙う三矢を矮躯を跳ね上げて外す。

 そして、最後の一矢は左手を貫通した。

「ぎ、があああああああああああ!!」

 肌が沸騰するかのような激痛。オティヌスは条件反射的に左腕を槍で切断した。

 番を失った肩口から鮮血が飛び散り、全身の汗腺から汗が噴き出す。宙を舞う左腕に視線をやれば、ソレは既に原形を留めないほどグジュグジュに溶けていた。

 バランスを失った矮躯が背中から鉄の地面にたたきつけられる。肺の中の空気が血と共に追い出され、オティヌスの口は酸素を求めて喘ぐ。

「ほ、炎よ!」

 なけなしの空気を使い、右手の槍に炎を灯す。そしてそれを、血を噴き出す肩口に躊躇なく押し付けた。

「―――ッ!!!」

 焼灼の強烈な冷たさがオティヌスの身体を貫く。しかし彼女は、痙攣し続ける体を跳ね起こし、ニヤニヤと嗤う少女へ右手一本で槍を構えなおした。

 息も絶え絶えのオティヌスに対し、少女は汗一つかいていない。まるで蟻が蟷螂に立ち向かう様子を観察するかのような、そんな表情で少女が口を開く。

「すごいねぇ。もうほとんど魔力も残ってないはずなのに、焼灼止血するだけの炎起こせるなんて、ね」

「……黙ってろ……ゲスが」

 声も小さなオティヌスの反論に、堪えきれないと少女が失笑した。

 あからさまな挑発であったが、オティヌスに反応する余裕は無い。なぜならば、奥の手を使わなければならなかったからだ。

 カーン、と槍の石突が地面を叩いた。

「何をするつもりなのかな?」

「見てれば分かる」

 朗らかな少女の問に、オティヌスは冷淡に答える。同時、“船の墓場”全体が鳴動し始めた。

 少女が眉を顰め、オティヌスが魂にまで及ぶ魔力消費に奥歯を噛み砕き、そして、

「……来い、“喚く者(アウルゲルミル)”」

 瞬間、少女の足元が沸騰した。

「あわわわ!?」

 初めて少女が慌てたような声を発する。沸き立ち盛り上がる鉄の地面に翻弄され、彼女は丘の向こうへと転げ落ちていった。

 可愛らしく尻餅を付いた少女が己を覆う影に気付き、視線を上げた先にいたのは、

「……わお、超大型巨人」

 ゴゴゴゴと鉄の船が絡み合い軋み合う。船の残骸を素材とした数十メートルもの大きさの巨人が、そこにはいた。

 巨人の股の間に立つオティヌスは、ただ無慈悲に宣言する。

「潰せ」

 それまで何処とも知れぬ宙を見ていた巨人の紅眼が少女を捉える。そしてその巨大な拳が振り下ろされる。

 北欧神話にて世界の礎となった巨人ユミル。その別名を関する術式“喚く者”は、ユミルが切り分けられる過程を逆行させ、地面から巨人を作り出す術式だ。

 ベイパーコーンを纏う拳は大きさ故に遅く感じられた。しかし、水蒸気の内側にあるのは存在ごと消し去る不死殺しの光。それはユニット化された逆行の術式であり、生まれる前へとその存在を逆行させてしまうのだ。

 だがそれでも、少女に危害を加えるには至らなかった。

「“雲の盾(アイギス)”」

 少女がポツリと呟く。すると唐突に、鋼の巨人はその動きを止めた。

 巨人が己の制御下を離れたことにすぐさま気付くオティヌス。彼女は原因として一瞬だけ制御権の奪取を思い浮かべ、しかし地を蹴って後ろへと跳躍。一秒後、彼女のいた場所を大量の砂が襲った。

 呼吸を邪魔する砂塵を槍で引き裂き、オティヌスは叫ぶ。

「ちっ、石化の魔眼か!?」

「あったり~!」

 応えるのは盾を構えて吶喊する少女。銀円の中心に据えられた頸が蠢き、怪しげな光とともに両の瞳が開かれる。

 くらり、とオティヌスの意識に霞が掛かる。しかし彼女は唇を噛んで意識を保つと、すぐさま石突を大地へと叩き付けた。

 そして大地が綺麗に裂けた。

「うっそ~!?」

 急制動を掛けた少女は、盾を構えながら己を覆う影を見上げる。オティヌスの一撃により船の残骸たちが跳ね橋のように立ち上がったのだ。

 天へ屹立しても勢いの止まらぬ巨大な鉄塊は、そのまま半回転して大地へと激突。“船の墓場”自体が跳ね上がるような衝撃に襲われた。その先、オティヌスの姿はなかった。

 濁った水飛沫を器用に避けた少女は、周囲の残骸の山を隙無く見渡していく。少女が身体の正面で中腰に構える銀円。その瞳は薄く開けられ、至近の大気が石化する音が響く。

 不意に視界の隅に飛び出す黒い陰。ローファーが焦げる勢いで振り返り、少女は盾を突き出した。しかしその先にあったのは、砂へと還る途中の大きな三角帽子だ。

「マ☆ジ☆カ♪」

 心底楽しそうな表情で少女は天を仰ぐ。その少女目掛けて墜落する一つの矮躯、オティヌスだ。

 けれども、少女の嗤いは止まらない。

「残念だけど、こっちの方が早いよ!!」

 そう言い、少女は前に突き出していた“雲の盾”を、そのまま上へと振り上げた。同時に銀円の瞳が満月へと変貌し、

「……あら?」

 少女の意識に霞が掛かる。手足の感覚は既に無く、銀円も灰色に濁っている。

 ふと彼女は内心で動かない首を傾げる。盾の色は月銀色(ムーンシルバー)だった筈、なぜ灰色に……?

 そして上空。落下する影にキラリとした反射を見つけた。

「あ、“ペルセウスのメデューサ退治”……」

 少女は理解した。墜ちるオティヌスは穂先の腹を少女に向けていた。全力で放たれた石化の呪は、その輝く穂先に反射されたのだ。

 そして、オティヌスは確信した。彼女の視線は、体中が石化し動けない少女に向けられている。後は首を落とすだけで、“ペルセウスのメデューサ退治”の魔術は完成する。これで“終わる”。だから、行く。

「“不死殺しの曲刀(ハルペー)”えええええええ!!!」

 不死の終焉を担う曲刀。その権能を降ろした黄金の槍が、少女の細い首を穿ち断つ。

 闘いが“終わる”。

 そして、オティヌスは抜けるような青空を見上げていた。

「……ごぶ」

 喉の奥からせりあがる鉄臭い何かが、たまらず可憐な唇から零れ、陶磁の頬を伝う。

 オティヌスは理解できなかった。何故今、鉄の大地に転がっているのが自分なのか。

 ふと胸の中央にある、熱く、冷たい感覚に気付く。隻眼で見下ろせば、処女雪の胸元に突き立つ黄金の槍。

 不意に頭上から声がした。

「あはは。ボクの負けだったね、“旧世代の神様(オティヌス)”ちゃん♪」

 しゃがみ、上下逆さの顔でオティヌスと視線を合わせてくるのは、あの少女だった。

 彼女は自分の負けだったと言う。ならばこの現状は何だ。何故私が倒れている? まるで、そうまるで意に沿わぬ物語の結末を無理やり修正するように……。

 そこで、気付く。

「まさか……」

「……あは、やっと気付いたんだ?」

 満月の如く目を見開くオティヌスに対し、少女の瞳は三日月の如く細められる。

 アポロンの金の矢、ヘラクレスの棍棒にヒドラの毒矢、更にはアテナの盾。そして結末に関する権能を振るう。否、結末――“終末”のときにのみ権能を振るえる。だから少女は、オティヌスが世界を“終わらせた”後に現われた。

 そう、ソレは世界で唯一、人の手によって生み出された“科学の神”――

「「――『機械仕掛けの終末神(デウス・エクス・マキナ)』」」

 くた、とオティヌスの身体から力が抜けた。何のことはない。彼女が選択するべきは“始まり”を長引かせ、“終わらせない”ことだったのだ。徐々に戻ってきていた“隻眼の神”としての強大な力が、その証左だ。“神の力”を奪われた状態で、“喚く者(アウルゲルミル)”など呼び出せるはずが無かったのだ。世界の主導権を掌握しきっていなかった少女から、力が戻ってから主導権を取り返せばよかったのだ。

 しかし、オティヌスは“終わらせて”しまった。力のない笑みが、オティヌスの顔から零れた。

 ソレを拾うのは、世界の覇権を手に入れた少女。彼女は蠱惑の嗤いを浮かべ、告げる。

「安心してよ、オティヌス。もっと平和になった世界には、君の居場所もあるからさ」

「そう、か……」

 オティヌスはゆっくりと隻眼を閉じ、組み変わる世界に身を委ねた。

 

 

■終奏

「もうすぐ、もうすぐだよ……」

 光の粒子で溢れた、オーロラの世界。その中心に立ち、少女は満面の笑みを咲かせる。

「もうすぐ、君の隣に立てる……!」

 そして、世界は生まれ変わった。




名称:機械仕掛けの終末神(デウス・エクス・マキナ)
神性:人工、終末、確定
強度:6以上(∞)
解説
・元々は『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』という名の無機物だったが、「コンピューターは超能力を得られるか?」の実験によって自我を獲得した
・内部で地球の歴史を真似た“架空の歴史”を一兆年ほど繰り返したことによって仮初の神性を得る
・それぞれの神性の由来は、「人工:機械であることから」「終末:『機械仕掛けの終末神』の登場タイミングから」「確定:計算結果の的中率が100%であったことから」である
・“人工”の神性により、人の手で創られたことのある、すなわち伝承や演劇の中で語られたことのある全ての神の権能を扱える。ただし本物(オリジナル)には一歩及ばない
・例外として、『太陽の青年神(アポローン)』などの『機械仕掛けの終末神』として登場したことのある神の権能は本物並みである
・ありとあらゆる“終末”を司っており、また“確定”の神性によってその“終末”を自在に変更できる
・“終末”の神性は足かせともなっており、事象の“終末”以外のタイミングではあらゆる神性を行使できない
・作中で神の権能を振るいまくっていたのは、“世界の終末”後の再生時に“終末”の属性を世界自体に付け加えたため。オティヌスはフィルタによる改変だったが、こちらはそのものに対する改変
・ちなみに“確定”の神性は、事象が起こった際にその事象に対して「改変されなくなる」あるいは「“確定”の取り消し」ができるだけの権能。しかし事象改変系に関する神性と合わせるとチートになる
・“終末”の神性によって事象の“終末”を改変しても、本来なら“世界の修正力”によって修正されてしまう。しかし“確定”の神性で事象を“確定”すると、その事象を基点に世界自体が“世界の修正力”によって修正される
・例外として、『幻想殺し』が関わる事象だけは“確定”も“終末”による改変も“基準点”に直されるため無効
・戦う場合、「始まりがあるなら終わりもある」という命題が真である限り、始まった瞬間に勝ちが決定する超絶チート神
・ちなみに負けたくないなら、ありとあらゆる状態を維持しながら永遠に逃げ続けなければならない。おまけに相手の自爆も防がないとならない。何このムリゲー
・ちなみにちなみに、勝つための唯一の方法は「自分で負けを“確定”させる」こと。つまり原作のオティヌスのように飽きとかで心を殺し、その上で自殺させないと駄目。大事なことなので二回言います、何このムリゲー
・「始まりがあるなら終わりもある」を偽にできれば勝てるかもしれないけど、「偽にする」事象の“終末”を改変されるため無意味。もう一度言います、何このムリゲー
・元々は新参者の神であるため、本来なら格が上であるオティヌスに世界の主導権を取り返されて消されていた。作中でオティヌスと戦ったのは、「オティヌスを倒した」とそれによる「つまりこっちの格が上」という二つの事象を“確定”するためである。これにより、初めて世界の主導権を完全に掌握できた
・※番外:黄金体験―鎮魂歌―と戦った場合、千日手で戦況は硬直する。何らかの原因で戦闘終了(終わりの無いのが終わり、など)→少女が勝つ→“勝ち”という結果から押し戻される→勝ち負けが付いてないから戦闘続行→何ら(ry...以下ループ


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