コーラちゃんに貢ぎ隊 (へか帝)
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こたつのある基地

だらだら日常系が読みたい


 

 我が基地の指揮室には、こたつが配備されている。というか俺が私物を持ち込んだ。これを配備言い張るのもちょっと違うかもしれない。

 こたつはいい。寒いのは嫌いだが、こたつの快感を堪能するためのスパイスとしては寒さという概念を認めてやってもいいと俺は思っている。この指揮室には他にも冷蔵庫とか給湯器とかボードゲームとか過ごしやすい空間にするためにいろんなものを持ち込んである。

 

 指揮室をこんな大胆なレイアウトにしていることが上の人にバレたらもちろん大目玉だ。首が飛ぶ。でも大丈夫。だって当基地は視察とは無縁のクソ辺境零細弱小アジトですからね。気楽でいいや。俺としては人手不足と懐事情だけがネック。

 

 そういうわけなので、だらだら仕事できる最高の環境を作った。なんてったって監視の目がないのだから。やりたい放題やらない手はない。

 ただ、たまに明らかに処分に困った人形を左遷的なサムシングでうちに動員されるケースがちょくちょくあるので、実際はこの基地の現状を上の人は把握してるのかもしれない。手ごろな三角コーナーとでも思っているのだろうか。個人的には三角コーナーでも何でもいいのでこのままお目こぼししてくれることだけを祈る。

 ま、こんな僻地にぶち込まれた奴からしたらたまったものではないだろうな。刺激も変化もない生殺しのような環境だし、まさに生き地獄になるのかもしれん。

 

「指揮官、手止まってますよ」

「働きたくないでござる」

 

 こたつのぬくもりにまどろむ俺をたしなめたのは、こたつの向かいに座るスプリングフィールドだった。栗色の長髪と柔和な笑みの似合う美人さんだ。そのまま呼ぶと横文字で長いので、春田さんと呼ばせてもらっている。

 春田さんはまさに優しいお姉さんの権化とでもいうべき存在で、常識的だし仕事もできるしなんと戦場に出ても強いと至れり尽くせりの無敵の存在である。そんな春田さんだが、一体全体どうしてうちのような弱小基地なんぞに在籍しているのか。これが本当に謎で、この基地の七不思議のひとつに数えられている。

 

「たっだいまぁー!」

「お。おつかれー」

「あら、おかえりなさいませ」

 

 勢いよく扉を開けてやってきたのはコルトSAA。出撃から帰投してきたようだ。いくら地方の僻地とはいっても、こんなご時世なので物騒なやつらが辺りをうろちょろしている。とはいれ、どれもごく小規模なものだ。十分に武装して対応すれば万が一もない。俺たちはこうして毎日『特に緊急性はないし危険視するほどのものでもないけど、ほっといて何かあったら困るから』程度の脅威を対象にせっせと排除して回るのが我々に任された任務なわけだな。そこ、しょぼいとか言わない。使ったあとの雑巾とか、水ですすぎ洗いしないとどんどん汚れが増えてっちゃうだろ、そういうことだよ。

 え、雑巾なんざ汚れたら捨てるって?ごもっとも。

 

「コーラ各種冷えてるぞ、好きなのをもっていくがいい。あ、報告書はそこ置いといて」

「はーい!」

 

 彼女は当基地における貴重な戦力だ。常に人手不足に苛まれている我が支部としてはぞんざいな扱いなど言語道断、アフターケアを欠いてはならないのだ。方法が俗っぽいのは目をつぶってください。

 

「出撃して帰ってきたら、冷えたコーラが私を迎えてくれる! 本当に最高の職場だわ!」

 

 聞くや否や、コルトSAAは部屋に備え付けられた冷蔵庫に飛びついて中のコーラを物色し始めた。ご覧の通りコルトSAAは重度のコーラマニアで、うちではコーラちゃんのあだ名で通っている。ちなみにそれに関しては本人も満更でもなさそうにしている。

 

 彼女はまさにコーラの為に生きているといっても過言ではないほどのコーラ好きで、ひょっとしたら給料の代わりにコーラ渡しても許されるかもしれない。否定しきれないのが彼女の怖いところ。実をいうと彼女はまさに先ほど左遷的なサムシングでここでやってきた人形の一人だったりする。まあ十中八九コーラ関係でやらかしたんだろうなぁ。うん、想像に難くない。

 しかし常にコーラを中心にものを考えている問題児待ったなしのコーラちゃんだが、適切にコーラを与えているうちはいたって大人しい。彼女の為に馬鹿にならない額がコーラ代に吸い込まれているが、背に腹は代えられぬのだ。うちに人を選べるほどの余裕はないからな、今いる人員でやりくりするしかないのだ。

 

「ここはほんっとうに最高の職場よ、愛してるわ指揮官!」

「はいはい、修復施設の使用許可出しといたからはよ行ってきな」

「はーい!」

 

 腕いっぱいにコーラを抱えたコーラちゃんは、満面の笑みを浮かべて返事をして部屋を出て行った。

 ふむ。

 

「……行った?」

「ええ」

 

 

 

 

「「͢҉҉b̷̢͘͞ ̛̀͘͢͝c̡͜҉ ̀͟͠ ̶̡͘͜ ͞҉͜͏ ̷͜͏ ̡́́͠ ̢ ̀͏ ̕͜ ̵̷͘ ̶̴̴̵ę̷̷͜ ̴̸҉̀Í͡ ̸͘͞ ̨͢͜͡͡ ́͢͏͢ ̢̡́́͞ ̷̶̸̀͝ ̸͠ ̶̷̧̀̀ ̵̵̵̢́ 」

「あら指揮官、また感極まって人間の言葉を忘れてますよ」

「うぅ……コーラちゃん……好きだぁ……」

 

 コーラちゃんの手前、全力で抑えていた反動が出てしまった。

 何を隠そうこの俺は、コーラちゃん全推し勢だ。コーラちゃんを想うだけで心が洗われ、コーラちゃんが視界に入るだけで魂が浄化される。この世に存在してくれてありがとう。

 

「もう、仕事してください」

「コーラちゃんがいてくれて本当に良かった……。彼女が俺を生きる希望だ……」

「まだちょっと言葉不安定ですよ」

 

 いかんいかん、早く自我を取り戻さなくはな。仕事はしっかりこなさなくてはいかん。一応うちは問題児をたくさん抱えているので、その辺りの報告をぬかって上に目を付けられたらたまってものではない。早速コーラちゃんの提出した作戦報告書を手に取って目を通す。特に内容に異常はない。いつも通りだ。今回も何事もなく終えられたようだ。

 

「しかし、当然のように撃破報告の中に装甲人形が混じってるんだよな……」

「いつものことでしょう?」

「いやでも、まあ、うん」

 

 おかしいな、彼女の銃種ってハンドガンなんだけどな。破甲用の装備とか搭載してないはずなんだけどな……。

 コーラちゃんは一見すると単なるコーラキt……コーラ愛好家だが、銃の歴史の古さも相まってか同じくハンドガンを取り扱う人形にとっては尊敬される大先輩らしく、わざわざこの基地まで話を聞きに来るやつもいる。前にちらっとその時の会話が耳に入った。確か火力不足に関する相談だったと思うんだが、「死ぬまで撃ち続けるだけ」と男前オブ男前な返答をしていた。そら後輩に人気出るわ。

 ところで彼女の使うColt SAAという銃はリボルバーでしてね。六発しか装填できない上に、リロードの際には一発ずつ排莢して、また一発ずつ弾を込め直さないといけないんですよ。撃って撃って撃ちまくるには最悪の相性の銃ですが。しかしどういう訳か彼女は硬きこと山の如しでお馴染みの鉄血装甲兵を毎日ばったばったと薙ぎ倒しております。

 仮にリロードの問題をどうにかして、装甲兵を通常弾でごり押ししていると考えても、彼女の提出した報告書を見ると更に謎が増える。まず弾薬の消費量がそれほど多くないし、作戦時間も完了までが早すぎる。俺は実際に出撃に同行している訳ではないので、戦闘するコーラちゃんをこの目で見たことはないのだが、一体どんな手品を使っているのだろうか。

 これもまたこの基地における七不思議のひとつである。

 まあそんなに追求することも無い。別に虚偽の戦闘報告をしているわけでもあるまいし。コーラちゃんカッケーで済む話だからな。

 

 コーラちゃんカッケー!

 

「さて、コーラさんも帰投したことですし、今日はもう来客はなさそうですね」

「ん? そうだな……おっとまちたまえ春田くん」

 

 ふと嫌な予感がしたので、こたつから出てドアの方へ向かう春田さんを呼び止める。

 

「どうされました?」

 

 足を止め、不思議そうにこちらを振り返る春田さん。

 

「そうやって二人きりになるとすぐ部屋の内鍵を閉めようとするのはやめなさい」

「チッ」  

 

 あぶないところだった。

 




指揮官:コーラちゃんが最大の良薬であり最悪の猛毒。
コーラちゃん:コーラを惜しみなく提供してくる指揮官が大好き。
春田さん:コーラちゃんに狂いがちな指揮官をたしなめるのが主な業務。
 指揮官と二人きりになると不審な動きをするので危険視されている。



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おばあちゃんといっしょ

我らコーラによって人となり、人を超え、また人を失う


「こたつに入ってたべるみかんは本当に最高じゃのう」

「せやろ」

 

 いつもの春田さんの定位置には、今日はナガさんが収まっている。ナガさんというのはナガンM1895のことだ。真っ白な服装に金髪赤目の小柄な少女なのだが、銃自体の古い歴史にちなんでかのじゃ口調で喋る。巷では彼女のそういう立ち振る舞いも相まっておばあちゃんとよく呼ばれているそうだが、個人的にはこの小柄な風貌の子をおばあちゃんと呼ぶことに抵抗があるのでナガさんと呼ばさせてもらっている。

 さて、そんなナガさんがここにいる理由だが、今日は春田さん装備点検で不在なので副官の代役を務めてもらっているからだ。今もほっこりした顔でみかんを手に取ってせっせと白い筋を剥いている。うむ、眺めているだけで不思議と癒される光景だ。ナガさんも寒さに強そうな恰好をしているが、それとこれとは別らしい。

 ナガさんはうちの基地では元からここにいる珍しいパターンの人物だ。だいたいみんなやらかしてここに来るからな。寛容で親しみやすい彼女は当基地に欠かせない存在だ。なんだかんだですぐにこのだらだらした雰囲気に適応しているあたり結構したたかでもある。

 

「まさに至福の時間というやつじゃのう」

「全面的に同意する」

「しかしよくみかんなんぞ用意できたの。今のご時勢、フルーツは超がつくほどの高級品じゃろ」

 

 完全に無垢となったみかんを一切れひょいと口に放り込んで言うナガさん。

 ふむ、そこに気づくとは。確かに彼女の言う通りで、色んなアレコレで世界中がずたぼろになった昨今、野菜や果実のような植物由来の食品はとてもレアものなのだ。そう気軽に手に入る代物ではない。

 

「もちろん吹きとんだぞ。予算が」

「この馬鹿」

 

 食い気味になじられた。なんてレスポンスの速さだ。 

 

「はっはっは、基地の金で食うみかんは美味かろう」

「憎たらしいほどにの」

 

 あきれ返ったジト目を俺に向けながら、トーンの下がった声で俺を咎める。しかしみかんを食べる手は止めないあたり、本当にしたたかだなナガさん。この基地で長いだけのことはある。その調子だ。

 

「まったく、おぬしの意味不明な金の使い方はどうにかならんのか」

「意味不明じゃないさ、だらだらするという一点にまっしぐらだろう」

「ま、嫌いじゃないがの」

 

 この歯に物着せぬ物言いもまた好ましい。気を置かずに話せるという意味では貴重な存在だ。今まさにこたつ&みかんという物理的な恩恵を直に授かっている訳だしな、苦言を呈せるような立場でもないか。ナガさんはいつもなんだかんだ言いながら俺と一緒にだらだらすることに定評がある。

 

「修復用のパーツ代や弾薬費は確保してある。心配はいらないさ」

「おぬしのことじゃ、そのあたりは心配しとらんよ。しかしそれならみかん代は一体どこから捻出したんじゃ?どこか別の所で採算を合わせならんじゃろ」

「こ、コーラ代……」

「この馬鹿」

 

 食い気味になじられた。二回目だ。

 いやはや、本当にナガさんは聡い人だ。事の重大さを一瞬で理解したらしい。年季の違いというやつだろうか。ちょうどいい機会だから相談に乗ってもらう他あるまい。

 

「どうすればいいと思う?」

「知らん。簀巻きにされたまま馬に繋がれて引き回されたりするんじゃないかの」

「見捨てないで! ていうかコーラちゃんってばそんなところまで西部的なの!?」

「コーラさんに献上するコーラを用意しなかったらどうなるかわからないおぬしでもなかろうに」

「やっぱまずいかな……」

「死は免れんじゃろうな」

「そこまで!?」

 

 どうやら事の重大を理解していないのは俺の方だったらしい。

 

「諦めて本当の事を話すしかあるまいて」

「骨くらいは拾ってくれよな」

「残っていたらの話じゃな」

 

 俺の中のコーラちゃん像が崩れる。言われてみれば俺の知っているコーラちゃんは十分にコーラを摂取した健常なコーラちゃんだけだった。コーラと一緒に冷静を欠いたコーラちゃん……想像するだけで恐ろしい。

 

「やっほー! 指揮官いるー?」

「ヒィッ!」

 

 天使の呼び声が、今だけは死神の足音に聞こえる。

 

「や、やあコーラちゃん。今日もいい天気だね?」

 

 努めて自然な様子で会話を切り出す。心の準備をしていなかったせいで声が上ずってしまったが、大丈夫、どこもおかしなところはない。ここが屋内なのは些細な問題だ。

 

「え、今日? 確かにいい天気ね、コーラの雨には負けるけど」

 

 コーラの雨!? コーラちゃんにとってコーラの雨とは日常的に発生する気象なのか……? いや惑わされるな俺。迂闊にコーラちゃんの価値観について思いを馳せると戻ってこれなくなる。このまま本題に持ち込もう。

 

「実は折り入って大切な話があってだな……」

「あら? 珍しいわね、指揮官がそんな風に改まるなんて。一体どんなコーラの話?」

 

 彼女にとって俺がコーラの話をするということは確定事項らしい。いや実際その通りだけど、なんか負けた気がするのはどうしてだ。

 

「とても言いづらい話なんだが、その、今週分のコーラなんだが……」

 

 コーラちゃんの目がすっと細まった。コーラという単語が俺の口から飛び出た瞬間、彼女の視線から冷気が放射され始めたような気さえしてくる。だが、我が身可愛さに嘘を言っても仕方ない。どのみちすぐにバレるし、そうなったら正直に話すよりも恐ろしい未来が待っているからな。

 

「その、コ……」

 

 コーラ代をみかんで使い切ってしまいました、と言いかけてふとナガさんの言葉を思いだした。

 

『簀巻きにされたまま馬に繋がれて引き回されたりするんじゃないかの』

 

 それ死ぬんとちゃう? 俺は訝しんだ。

 これ以上言葉を続ければ。待つのは正直者の死。俺は確信した。

 彼女に真実を伝えるのは折衷案を用意してからにすべきだ。うん、俺自身の安寧の為にもそうしよう。まずはとにかく、言いかけてしまった言葉を別の言葉に続けなくては。

 

「こ? 今週分のコーラが、どうしたの?」

 

 なにか、何か言わなくては……!

 俺はこの窮地を脱する為に昨日の記憶を呼び覚ましていた。そう、あれは先日あった上司からの連絡通達の通信で……。

 

「今週はコーラ強化期間とする!」

「コーラ強化期間!? なにそれなにそれ!?」

 

 ちくしょう、よりにもよって通信で上司から言い渡された『効果強化期間』のフレーズだけが脳裏をかすめてしまった。でもコーラちゃんの喜色満面の笑顔を見ると全てがどうでもよくなってくる。

 

「あ、ああ。だから、今週は好きなだけコーラを飲んでいいぞ」

「ほ、ほんと!? で、でも指揮官、そんなお金どこに……」

「俺が出す。心配ないさHAHAHA!」

 

 馬鹿野郎。俺の中のコーラちゃん甘やかし担当大臣が先走って発言しやがった。コーラちゃんが節制をせずにコーラを飲み始めようものなら、たちまち俺の貯金は跡形もなく姿を消すだろう。後先考えない発言ばかりしやがって、お前はいつもそうだ。

 だが、お陰様で市中引き回しの刑だけは免れた。

 

「じゃあ、とりあえず今ある分全部飲んでくるねっ!」

「えちょ」

 

 冷蔵庫から次々とコーラを取り出し、脱いだ帽子の中にひょいひょい投げ込んでいく。それは、まさに今の基地にある全コーラであった。

 

「指揮官と出会えたことが私にとって最高の幸福よ!」

 

 捨て台詞でなんてこというんだコーラちゃん。刺激が強すぎる、ともすれば死者が出てもおかしくないぞ。現に俺の中のコーラちゃん甘やかし担当大臣は絶命した。いい気味だぜ。

 

「のう、指揮官」

「なんだよ」

「おぬしは本当に愚かな男じゃな」

「うっせ」

 

 




指揮官:一文無し
ナガさん:今回みかんを一番たくさん食べた
コーラちゃん:指揮官への好感度が留まることを知らない
春田さん:指揮官にお金を貸して弱みを握ろうと画策している

落ちも山もなく平坦に書き進めたい(願望)


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