ガンダム二次作 (ひきがやもとまち)
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一年戦争が生んだ子供たち

分割する最初の作品としてオリ作も書いたのですが、やはり最初はコレが良かった・・・。

いくつかは移さずに『試作品集』に残しますが、気に入っているから読みやすくするため映して欲しいと言われる方がおられましたら仰ってくださいませ。直ぐに移動いたします。

正直、自分では選ぶ基準がよく分かりませなんだ・・・。


 宇宙世紀0084。今日も地球上では連邦軍がジオン残党を相手に“至って平和的な戦争を”継続中である。

 

『ガガ・・・こち・・・地球連邦軍代2・・・管区司令部。現在、当基地は所属不明の武装勢力から攻撃を受けている。代23・・・補給中隊は当初の予定よりも南に10キロほど下ったポイン・・・67にて待機せよ』

「こちら、中隊リーダー《コウノトリ1》。通信状態が悪く、よく聞き取れなかった。もう一度確認したい。我々の移動先として指定されたポイントの正確な番号を提示願いたい」

『・・・ガガ・・・現ザ・・・当基地は所属不明勢力の奇襲を受けて交戦チュ・・・ガガ・・・』

 

 急激に通信状態が悪化した無線機の周波数を『形式に則って調整し』一応の体裁を整えてからミデア輸送機《コウノトリ1》の副機長は隣に座っている上司に対して形式通りに報告する。

 

「どうやら所属不明勢力がミノフスキー粒子を散布したらしく、管区司令部との連絡が困難となってしまった様です。機長、どうされますか?」

「やむを得ない。本来であるなら指定されたポイントまで移動するのが筋なのだろうが、この通信が敵の偽電による陽動作戦の一環である可能性を否定しきれない以上、私は中隊乗員の安全と貴重な補給物資の保存とを優先すべしと考える。

 機を上昇させて雲の中に入れろ。そこなら敵のレーダーに感知される事もない」

「了解。《コウノトリ1》上昇、後続機は当機に続け」

 

 味方の基地が敵の奇襲にあっているというのに危機感を欠いた事務的なやり取りに終始するミデアの機長と副機長。

 やがて雲の中に入り、レーザー回線でのコンタクトを不可能にすると機長は、ドライブレコーダーのスイッチを切って肩を回し、副機長も両腕を大きく伸ばしてため息を付く。軍服の詰め襟をあけて風通しをよくすると、胸ポケットから紙タバコ入りのパックを取り出して一本くわえてから機長にも差しだし、

 

「お一ついかがですか?」

「もらおう」

 

 軍用機の中で正規軍に所属している連邦軍人二人が任務中に喫煙行為を平然と行うというダラケきった姿を晒して気を抜きまくって見せている。

 ジオン残党が言うところの『平和ボケして腐りきった連邦軍の象徴』そのものの姿ではあった。

 

 無論、敵には敵に言い分があるだろうし、事情があるのもよく分かってはいる。

 だが、正直なところ彼らにとっては本心から「どうでもよかった」

 

 敵が否定したいなら好きなだけ勝手にしててくれて構わない。彼らには彼らの生きるべき日々の生活があり、国だの人類の未来だのに一喜一憂していられるほど楽な生活は送れていないのだから・・・・・・。

 

「ミノフスキー粒子が散布されている状況で雲の中なら、なにかトラブルがあって報告出来なくても報告義務違反にはなりませんし、機器の故障もリアルタイムで確認とり続けるのは不可能ですからねぇ。ようやく安心して気が抜けますよ」

「まっ、実際には連邦の管制システムなら雲の中だろうと何だろうと後からでも確認取りようはいくらでも出来るんだろうけどな。今時きちんと機能している基地管制センターなんて首都ダカールとか軍事要衝ぐらいにしか存在せんだろ地上には」

 

 二人は予定にはない小休止を得て、一服しながら雑談を交わしあう。長く続いているだけで一向に慣れることの出来ない連邦軍人としての生活スタイルは彼らにとっての大きな精神的負担となっており、こうして偶の休憩を利用した息抜きでもしないとやっていられない。

 それが彼ら一年戦争時に徴兵され、戦後もリストラされることなく軍に残れた悪運の強い現地徴用兵たちの現在であった。

 

 彼らの多くは戦争で家を失うか職を失った者たちであり、家族と自分を養うために連邦軍の軍服に袖を通しただけの一般人に過ぎず、開戦前から連邦政府に半ば以上忘れ去られていた辺境地域の住人たちにしてみたら「敵が攻めてくる」「ジオンだ連邦だ」といきなり言われてもよく分からないと言うのが率直な感想だったのだ。

 

 訳も分からぬままテレビのニュースでしか見たことのない連邦正規軍の軍服を着た偉そうな男がやってきたかと思うと翌日には形状のことなる二種類の巨人同士が行う戦闘に巻き込まれて家を失った者や家族を失ったもの、両方ともに無事ではあったが職場だけは消失させられた者たちなどが町の人口の三割近くにまで上っていた。

 

 連邦の辺境にある片田舎の地方都市だ。養える人の数など元々大して多くはないし、予備の備蓄だけで三十パーセント近い人口を養えるなら農業都市に変貌させてた方が儲かる。何の価値もない田舎の町に敵が攻めてきたのも、ただ単に勢力拡大に伴って手に入れておこうとしただけの無意味すぎる攻撃であって、派遣されてきた迎撃部隊を相手に無駄弾を撃つ余裕も必要性も持ち合わせないジオン正規軍は敵機の待ち伏せを察知した途端に撤退していき、家屋の被害も大半は迎撃のためにと設置させられていた地雷やら爆薬やらが吹き飛ばしたものであり、敵から受けた被害は逃げるときに牽制目的で撃った一発が命中して弾け飛んだジムの肩アーマーに押し潰されて即死した老人一人だけしか出ていない。

 

 要するに彼らは『出稼ぎ軍人』であり、戦争で悪化した経済を立て直すためにと中央優先で復興を押し進めるため労災も国民保険も未払いのまま放置されている、役所に人がいなくなって久しい故郷の町へと戻る気のなくなった中年戦災孤児たちでしかないのである。

 軍人らしい勤勉さなど持ち合わせられる環境で育ってはいないし、むしろ求める方がどうかしている。求めるのであれば教育してくれと頼み込みたい程度の軍事教練しかしこんでもらえていない身なのだから致し方ない。

 

「しっかし敵さん。今日も相変わらず元気っすねー。あんだけモビルスーツを動かして、よく腹が減らないもんですよ。俺らなんか自分たちが運んでる物資の中にあったパイロット優先食のゼリーに手を出すべきかどうかで散々葛藤しまくってるっていうのに」

「減ってるさ。むしろ食うための飯がなくなって、腹ぺこになったから襲いかかってきているだけだろうよ。雲に入る前にチラッとだけ見た敵の編成なんかスゴかったからな。もう訳がわかんなくなっちまってたわ。

 ザク頭にザクボディーで腕は旧ザク、腰部のスカートはジムのを転用。バックパックはスナイパー用ので武器は旧式ザクマシンガン。ジム頭のガンタンクがショルダーアーマーとザクシールド付けてたのが見えちまった時なんか、思わずコメディー映画の撮影かなにかと勘違いしちまいそうな心境にされてたわ」

「チラッとしか見てないって言いながら、イヤにはっきり記憶してますね機長・・・」

 

 本当はしっかりと見物しながら操縦を俺一人に押しつけてたんじゃないのか? そんな副機長の疑惑に満ちた疑いの視線を受けて機長は「はっ」と鼻で笑い飛ばして一蹴する。

 

「あんなキテレツな見た目のモビルスーツ、一目見たら忘れられるかってんだ。敵さんの懐具合が伝わってきちまって俺まで侘びしい気分にさせられてんだからよぉ」

「なるほど、そりゃ確かに」

 

 大いに納得できる事情と理由説明に満足した副機長は休憩へと戻り、吸い終わったタバコをポケット灰皿に押しつけて、もう一本吸おうか迷ったあげくに我慢を選んだ。残り少なく、基地の在庫数も乏しいらしいと噂に聞いている。今回の補給物資からチョロまかしたい物ベスト1に燦然と輝いている嗜好品の星であったが、それ故に在庫0で半年以上を過ごさせられた遠くない過去の記憶は生々しく彼の脳裏に焼き付いている。あの苦しみを再び味わうぐらいなら今この場で我慢する方が賢明だ。

 

 なにしろ『もうじき補給物資を合法的に横領できる』友人がきてくれている可能性が高いのだから、今すぐ危ない橋を渡る必要性は微塵もない。

 安全を確保してから前に出るのが戦術の基本であり、死なせるつもりで前へ前へ進まされるのは一年戦争当時だけで十分過ぎるだろう。

 

「最近のジオン残党軍は所属勢力を問う事なく、連邦の基地を襲いさえすれば送ってもらえる公称みたいなもんになっちまってるからな。あの部隊だって本当にジオンなのかどうか分かったもんじゃない。

 連邦に恨みはなくとも連邦の基地に置いてある備蓄が欲しいだけの盗賊もどきは幾らだっているご時世だしな。

 噂じゃ戦場跡に遺棄されてるパーツやらなにやらを売り買いするジャンク屋からの収入で食いつないでる子供たちが主力社員を勤めている非公式国営企業なんかもあるとかないとか・・・末期だよなぁ戦時中も戦後も年表だけが増えていって俺たちの生活は変わらず末期ってるままだ。いつまで続くのかね、本当に」

 

 肩をすくめてみせる機長に、副機長がなにか口に出そうとした瞬間。

 

 

 ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 

 

 ・・・突如として鳴り響いたサイレンに二人は即座に対応する。タバコを放り出してドライブレコーダーを立ち上げてエンジンを起動、後続機に状況を報告させる。

 

「こちら《コウノトリ1》、現在我が部隊は敵の攻撃を受けていると思われる。各機、状況を報告せよ」

『こちら《コウノトリ3》、三秒前に砲撃を受けましたが掠めただけです。損傷なし』

『こちら《コウノトリ4》、先ほど機体前方を通過していった物体を2秒間視認。《コウノトリ3》を掠めていった物と同一体であると推測します。コンピューターに確認させたところ旧ジオン制のマゼラトップ砲に用いられていた砲弾と99パーセント以上の確率で一致。断定して良いと判断いたします』

 

 落ち着き払った声音での報告が機長に、彼らの報告の正しさを確信させる。

 よく、映画などではオペレーターがマイクに向かって怒鳴り声を上げているシーンが描写されているが、本来のオペレーターたち管制官は空を行くパイロットたちにとっては文字通りの命綱であり水先案内人でもある。

 冷静さを欠いた状態で怒鳴り散らさす相手からもたらされた情報を疑いもなく信じられるパイロットたちの神経をこそ疑いたくなる機長としては熱血漢な脳筋軍人よりも、彼らのような敵からの攻撃を受けながらでも形式通りに仕事をこなしてくれる者たちの方が信用するに値する存在だからだ。

 

「マゼラトップ・・・元は戦車用の砲塔だった物をモビルスーツの携行火器として持ち運びを可能にした兵器だったな?」

「はい。持ち手の都合上、形状こそ大きく変貌しておりますが、中身や砲身に手をつけられた物は現地改修版以外に発見されておりません。

 なによりも戦車用に使われていた物をそのまま転用可能な兵器ですので、懐事情が苦しい部隊であろうとも牽制に用いることが可能です。

 無論、それ故に現在砲撃してきているのがジオンなのか盗賊もどきな軍人崩れなのかの判断が現段階では不可能なことも意味しておりますが・・・」

 

 敵の正体が分からないと言うのは、非正規戦闘においては非常に厄介な事案だ。どこまで妥協が利いてくれるのかが判らない。

 仮に敵が飢えてるだけのジオン残党軍、正規軍が理想を捨てることなく抵抗運動を続けているだけの敗残兵だった場合には、逃げきれないと判断した際に降伏と投降という選択肢が存在し得る。礼儀正しく南極条約を守ってくれるからだ。

 彼らに捕まったとしても無意味な反抗を行いさえしなければ捕虜待遇以上のことをされる恐れはない。後ほど司令部から交渉人が派遣されて非公式会談の場を持ち、捕虜の解放と引き替えにいくつかの物資を提供するのと一定期間の安全保障条約を締結させる等の良識的なやり取りを経た後に生きて基地へと帰り着くことが出来る。

 

 ミノフスキー粒子やら墜落してきた艦隊の残骸やら、バラバラになったコロニーの破片やらが散らばっていてレーダーの網の目が粗すぎる等に起因する治安維持の難しさから、半ば無法地帯が乱立してしまっている状態にある地域においては中央の政治とは無縁にこの手の非合法な条約締結によって治安維持を計らざるをえない惨憺たる状態になっていたのである。

 

 

「・・・とはいえ現時点では所属不明だからな・・・もしも連邦の軍人崩れだったとしたら最悪過ぎる展開になっちまう・・・」

 

 顔をしかめて独白する機長の発言は、狂信的な連邦至上主義者が聞いたら『非国民な売国奴』呼ばわりされた直後に拳銃抜いて処刑されてしまう危険きわまるものであったが、それでも現実的に辺境地域住人たちにとって最悪の脅威となっているのは野盗化したジオン残党と、連邦正規軍からの脱走兵たちで形成された所属を明かさないまま基地を攻撃してくる盗賊どもの事を指す単語となってしまっていた。

 

 

 彼らのほとんどは例外なく、ルウム戦役で永久に失われた人員を補填する為にかき集められたゴロツキ同然の輩であり、『物量で押す戦略こそ連邦の王道』と言う大前提を満たすために員数合わせとして連邦軍に組み込まれていた者たちだったのだが、軍でも庇いきれないほどの罪を犯して脱走し事実上の犯罪者集団と化して非正規戦が多発していて治安も戸籍データも管理するのが不可能となっている広漠な砂漠地帯に逃げ込んだ主義も思想も有しない危険人物どもの集まりに過ぎない。

 

 言うまでもないことではあるが軍事条約は犯罪者集団に対して、有効に作用しない。効果も期待できるとは思えない。サディストどもが群れていると考えた場合にはジオン残党よりも嫌な奴らだとさえ思えてくる。

 

 

 

「どうしたものか・・・」

 

 対応を決めかねていた機長の耳に、インカムを通して若くて先鋭的な少年めいた美声が轟き、決断を下す重要な要素となってくれた。

 

『ユニットリーダーへ! こちら《コウノトリ2》! 直ちに全機バラバラに離散しての撤退を進言いたします!』

「離散して撤退・・・だと?」

『はい! 我々の現状と最初に届いた基地からの通信とを加味して考え合わせれば、基地に対する敵の攻撃は陽動であり、本命は我々を襲って撃滅、もしくは拿捕することで基地を干上がらせることにあると小官は予測いたします!』

「・・・・・・」

『如何に装備で相手を上回っていようとも、乗っているのが飢えた将兵たちでは守り切れません! もし仮に基地が陥落し敵の手にでも落ちようものなら先年に起きたジオン残党の大規模反攻作戦『水天の涙』を再現されてしまうことにもなりかねないのです!

 リーダー! 今こそ決断の時です! 我々が一機でも生き延びて基地へと辿り付けれたなら、その時点で敵の目論見は潰えて出るべき被害は免れるのです!』

 

 情熱的な若い美声を聞いてる内に機長は《コウノトリ2》の機長を務めているのが、先日配置転換で配属されてきたばかりの若き新兵であったことを遅まきながら思い出す。

 

 ーー確か、一年戦争と《水天の涙》で複数の家族を失い、生き残っている家族の制止を振り切ってまで『悪しきジオンの魔手から連邦国民を守り抜こう』と決意して連邦軍に入った若者だったかーー

 

 彼の簡単なプロフィールを思いだした機長は決断を下す。

 “途中まで”は彼の提案を採用するのが一番いい。――と。

 

 

「《コウノトリ1》、了解。これより各機バラバラに飛んで落ち延びろ。最終的に目指していた基地まで逃げ延びられることが集合地点の指定だ。忘れるなよ?」

『《コウノトリ3》、了解』

『《コウノトリ4》、了解』

『《コウノトリ2》! 了解であります!』

 

 三者三様の返事が返ってきたところで頷きを返し、いちおう念のためとして伝えておく。絶対に教えておかなくては成らないことだったからだ。

 

「雲から出たら頭上に注意しろ。まず間違いなく敵は空から我らを見下ろしていて、襲いかかるタイミングを探っている状態にあると思われる。故にバラバラに飛行して逃げる。

 敵が高速飛翔体なんて代物を持ってる訳がないだろうし、仮に持ってたとしても数は高が知れてると見ていいだろう。追ってこられるのは俺たちの中から多くても一機だけだ。逃げ延びて味方を腹一杯に食わせてやれよ。作戦開始」

 

 

 機長が言い終えた瞬間に四機のミデアはバラバラの方向に動きだしーー程なくしてワイヤーを用いて『お肌の触れ合い回線』を行い、雲の中にいるうちに編隊を組み直してから雲をでて、悠々とその場を去っていく。

 

 一方で、一機だけ群から外れた個体に上空から襲いかかる猛禽類が如く黒い鳥。

 

 四枚羽をもつ見たこともない機体であり、その特殊な形状から既存のジオン飛行戦闘機械とは異なる設計思想の元、重力圏内での使用を前提とした何らかの用途に特化した造りとなっている特殊戦機であることが推測できる。

 

 

 飛び去って行くミデア編隊の背後で繰り広げられているその光景を、僅かに首だけ動かして振り返りながら見物していた機長は冷ややかな声で静かに冷酷に冷徹に嘘偽りなく『正確な論評として』新米若手パイロットの英雄的勇猛さを批評する。

 

「・・・ドジ」

 

 と、ただ一言だけ。

 

 常識的に考えたなら最初の一撃を受けたときに損傷しなかったと知らされた時点で、解っていてもおかしくない問題だった。

 ミデアは『輸送機』であって戦闘用の飛行機械ではない。戦線を維持するために必要不可欠となる軍需物資『生活必需品』を満載した空飛ぶインフラだ。

 

 国家レベルの巨大インフラを兼ねているガルダ級と比べたら微々たる量にすぎずとも、本国を落とされ次の補給がいつ届くのか判然としない中でも戦闘を継続したい者たちにとって見れば『たかだか軍管区ひとつ程度の戦果』で撃ち落としたのでは勿体なさすぎる量が満載されている。

 一発だけしか撃ってこない上に、撃墜どころか命中させた事を示す爆発光すら発生してない中で攻撃を停止させて再開しようとしない点から見ても脅しでしかないことが理解できようものを、何故よりにもよって単騎での脱出を提案したりするのだろうか? 機長には若いパイロットの思考が全く持って理解できない。

 

 輸送機のような機動性の無い乗り物であろうとも、敵からドッグファイトを挑まれた時の対処法は逃げるであれ戦うであれ敵にとっては空中戦であることに変わりなく、戦闘機戦で用いられている常道戦術が当然のように応用可能な戦場を形成してしまえる。

 そんな中でミデアが生き延びられる可能性を少しでも上げようと思うのであれば、一カ所に固まって的をデカくして飛ぶしかなくなってしまう。撃てば当たって『奪おうとしている飯が燃える可能性』を底上げしてやれば強奪目的の敵は撃つのを躊躇い、殲滅目的の敵が襲いかかってきたときにはミデアがとれる安全策など存在しない。運に身を任せて逃げまくるだけしかできないのだから選択肢は最初の時点で二択しかない。

 

 機長が上述の迷いを抱いて『見せた』のは、そういう役職に付いているからでしかなく、本当の胸の内では事の始まりからすべての行動と言動は想定済みで決めてある。

 

 若いパイロットは空気も戦況も読むことがないままに情熱の赴くまま走り抜け、散ろうとしている。自業自得の無様な散り様だったが、それも神の定めた人の運命というものなのだろう。

 

 歴史上初めて全人類を統一した史上最大規模の国家機構体『地球連邦政府』という名の傲慢なる人工の神の決めた運命ならば、塵のような大きさの自分たちには従う以外に道はない。重要なのは自分たちのうち『何時どこで誰を死なせるか』だけは選ぶ権利を与えられていること。ただそれだけだったのだ。

 

「悪いな、坊や。恨むんだったら神様か、『ジオンとの戦争はまだ続いているなんて妄想』を信じ込んだ、自分自身のガキっぽさでも恨んどいてくれや」

 

 言い切る機長に迷いはない。

 

 そうなのだ。彼の言うとおり“ジオンと連邦との戦争は終わっている”。

 ジオンに公国制を敷き、地球へと戦争を仕掛けさせたザビ家は滅んで国名は代わり、公の場で終戦協定をも交わされて形だけとはいえサイド3はジオン共和国として“独立自治権を獲得”している。

 

 にも関わらず敵は尚も『亡きジオン・ダイクンの意志を継ぎ、偽りではなく本物の自治権を獲得するまで我々はスペースノイドの為に戦い続ける』と主張して戦闘を辞めようとしない。

 

 偽りではない本当の独立自治権って何なのだろう? 彼らはなにをどういう形で手に入れれば気が済むのだろう? そもそもあの戦争は、宇宙に捨てられた民が貧しい生活を送らされているのに地球で安穏と暮らしてるエリートたちが贅沢な暮らしをしているのが許せなかったから仕掛けられたものではなかったのか? にも関わらず当時よりも苦しい生活環境におかれているのに戦闘を継続したいと願う理由って言うのは何なんだ?

 

 

 ーーその答えはおそらく『私怨』。

 戦争を始めるまでの過程で降り積もっていった恨み辛みが、戦争が起きた際に総人口の半数を死に至らしめられた憎しみと憎悪が、戦中の優勢と劣勢、逆転した後に起こる悲劇の数々。

 それら全てで一人一人が己の中に詰め込み続けてきた誰かを憎む心が大義名分を薪をくべるための竈として燃え広がり、殺された者たちと見送り続けてきた者たちの恩讐が地球圏全体を今なお包み続けている。

 

 

 ーー俺たちは亡霊だ。別にデラーズ・フリートに限った話じゃあない。あの戦争で何かを奪われ、何かを与えられて、それを使って今も生きてる連中は誰も彼も皆『一年戦争の怨霊にとりつかれた亡霊たち』なんだろうよ。

 自分の理由で始めたわけでもない戦争で何もかも奪われて、奪っていったもので今を生きてる以上は、これからもこの状態は続くんだろうねぇーー

 

 

 感慨深げに機長が心の中だけでつぶやきを発したのとほぼ同時に隣席から「うひょー! スッゲー」と、副機長が素っ頓狂な驚きの声をあげてるのが聞こえて意識を戻して問いかけようとする。

 

 しかし、その必要はなかった。目をキラキラさせながら副機長が顔を向けてきて、キャノピューの向こうで《コウノトリ2》を追い込み中の黒い機体を指さしながら興奮気味に解説してくれたからだ。

 

 

「見てくださいよ機長! ほら、あの機体! スゴくありません!?

 ミデアが雲から出てくることを予測して上に控えていて、出てきた途端に頭を押さえて雲に押しつけてますよ! もしかして白兵戦で乗り移る作戦なんでしょうか!?」

「ああ・・・なんだ。《コルベット》隊か。アイツらの狩りは見応えはあるが参考にはならんぞ? なにしろ《我らが良き友人たち》にしか使えない戦術だからな」

「我らが良き友人って・・・あれが噂のコルベットですか!? 戦闘中、敵後方に控えていた補給部隊のうち対ミデア強襲揚陸占拠に特化した補給物資強奪専門部隊の!?」

「そう。そして奪った物資からオコボレとして俺たち同胞にも分け前をくれる得難い《我らが良き友人》の方々だよ。俺も今日は彼らのおかげで、久々にライトビールの缶を開けられるのかと安堵させられてるよ」

 

 ほえ~と、素直な感心の呻き声を上げている副機長の純粋さをうらやましく感じながらも、機長は思う。

 仕掛けられた戦争には勝利した。敵国は滅ぼしたし、残党軍は毎年のように大規模な反攻作戦を実行しては大敗し拠点を失っている。普通に考えたらとっくの昔に終わっていてもおかしくない戦争。

 

 なのに何故自分たちは、『既に滅びた国』と戦っているのだろうかと。

 

 古い定義に従い、敵国を滅ぼすのが戦争における勝利の条件だというのであれば連邦は既に勝利条件を満たしていることにはならないのだろうか?

 

 敵本国に城下の盟を誓わせて、敵の首魁を一族諸共皆殺しにして滅ぼして、生き残りの子供は十歳にもならない後ろ盾さえ得られてないガキで、質で数の差を補ってた敵のベテランどもは粗方片づいたはずの今になってもまだ『戦争は継続中だ』と言い張る敵。言い張れる敵。

 言うだけでは終わらずに大規模な軍事行動を実際に行うことが可能としてしまえる敵。この底知れない底力はなんなのだ? 自分たちはいったい何と戦っている?

 

 

「まさか本当に怨霊と戦争しているってわけでもあるまいにな・・・」

 

 

 彼自身、軽口の冗談として呟いてみただけの言葉だったが、妙に寒々しいナニカを感じて身震いし、彼は操縦桿を握る手のひらに力を込めた。

 

「基地に向かう。友人の狩りが敵の主目標であったからには、基地への攻撃隊はとっくの昔に退いて後方に戻っていってる最中だろうからな。航路の安全は確保されたんだし直進してまっすぐ飛べい」

「了解。でも、いいんですか? 敵はともかく基地の連中は今の今まで安全に俺たちが狩られるのを見物してただけの連中です。航路が安全って保障はどこにも・・・」

「アホウ」

「は?」

 

 ポカンとする副機長に肩をすくめて見せながら、機長は『こいつも戦争は未だ継続中とか思ってる口か』とため息を付きたい衝動に駆られ、数秒間我慢した後に実行した。

 

「八百長だ、こんなもん。敵の主目的がコルベット隊によるミデア強奪にあると言ったばかりじゃないか。敵本隊も基地側とグルだから通信乱して砲撃の音とか少なすぎるのを誤魔化してんだろうがよ」

「え? どうしてです? なんのために?」

「“仕事がないと職を失う。軍人は敵と戦うのがお仕事です”」

「ああ・・・存在の必要性ね」

 

 倒すべき敵がいなくなれば軍隊は必要なくなるし、軍人として一年戦争に青春を奪われた奴らは軍隊以外で生きてく術を学んでいない。

 自分たち戦争によって親(国)に見捨てられた子供たちが生きてくためには、戦争は続いているんだと言う“誤解が必要”なのも確かな事実ではあったのだった。

 

「ただでさえ連邦政府の経済官僚どもが戦争終わったから減らしましょうって理由で、軍縮を押し進めてんだぞ?

 戦争しないで食ってけるなら軍人は確かにボロい商売ではあるが、戦争終わって失業したら糞の役にも立たない経歴でしかない。再就職に役立たないキャリアなんざ要らねぇし、再就職できない事がわかっているなら今の職場を守り抜くため努力するだろ普通なら。俺は一般的な労働をしているだけの平凡きわまるサラリーマンに過ぎないんだからさ」

「違法行為犯してますけど?」

「生きてくのを邪魔する法律守って飢え死ぬのが正義だってのか? 糞だろ、そんなもん。犬だって食べたがらねぇもんは利用だけしとけばいい。

 できるだけ他人に迷惑をかけずに生きてくために必要なのが法律を守ることだってんなら、生きてくための違法行為をできるだけ他人に迷惑かけないよう努力している今の俺たちは模範的な順法精神の持ち主たちだよ、気にするない」

 

 平然といいながら機長はドライブレコーダーに目をやり、それが“始めから接触不良を起こしやすい様に工夫されている”物であることを型式番号から再確認し、形式に従って命令を下す。

 

「進路を北へ。我々は連邦本部からの通達通りに補給物資の搬入を急ぐぞ」

 

 何もかもが茶番でしかない戦後地球で行われ続けている戦争行為。

 その大本がもし本当に“国の亡霊”でしかないのだとしたら、終わらないのも倒せないのも道理だな、と機長は思う。

 

 

 既に戦争で勝利し滅ぼした国を、再び戦争を使って滅ぼせる軍隊なんて、この世界には実在してはいないのだから・・・・・・。



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コルベット×ガンダム二次創作戦記「プロローグ」

あらためて分割して初めてのオリ作第一弾です。続けて転生憑依(TSじゃない)ジェリドの作品も執筆中。
順番はどちらでもよかったのですが、バラバラに更新されるのだと言うシステムを分かり易くお伝えしたかったのです。

尚、作者の事を知らない人たちには意味不明な事ばかりで申し訳ございません。
ニッチ好みな作風なため内輪以外の方と初対面なのが慣れていないものでして・・・(恥)

それとですが、1話目とは世界観を共有するだけで別作品です。お間違えの無いように。


 宇宙世紀0079年に地球連邦とジオン公国との間でおこなわれた全人類規模での戦いは、戦争が終わった後も大きな禍根を残していた。

 

『勝利のために必要だった出費による経済危機』である。

 

 

 ・・・特に莫大な額の軍事費供出を求められた各種地球企業は戦後、軍からの受注を『宇宙に本社を置く』アナハイム・エレクトロニクスに握られたことに深刻な不満を覚えており、期待していた見返りもほとんどなかったことも手伝い急速に反連邦組織に対する協力の度合いを高めていった。

 

 皮肉なことに連邦が経済復興と戦争の再開を防ぐためにおこなっていた『スペースコロニー再生計画』を始めとする各種復興事業が、地上のジオン残党に武器物資その他を供与する地上企業の誕生を促していたのである。

 

 連邦は、これらの不満に対して軍縮を決定し大規模なリストラを敢行する。

 人件費削減という名目のもと、総力戦のゴタゴタで民間企業から半ば強制的に徴用した技術者たちを民間に復帰させることを主眼に据えた政策だったのだが、これもまた裏目に出てしまう。

 復員しようにも、彼らの働いていた会社は戦争の中で多くが破産し、生き残っていた企業は戦時期の窮乏を少ない人材をフル活用することで補ってきたため今更連邦で『いい飯を食っていた特権階級』に戻ってくる場所など残しておく余裕は存在しなかったのである。

 

 さらには彼らの多くが家族を養うために綱紀の緩んだ地上へ降りてきていた、戦争で職場と家とを同時に失った出稼ぎ不法居住者たちだったことも大きく影響していただろう。

 彼らに取ってみれば給料をくれる相手と、使っている偽の身分証明書の出生地の欄に『宇宙』と『地上』とが書き変わるだけであり、家族を養う金に連邦ジオンの違いはなかったのだから鞍替えすることに精神的抵抗は皆無ではなくても許容できる範囲だったのだ。

 

 

 斯くして現在、宇宙世紀0081の地上は、地球企業からの援助を受けて力を取り戻し始めたジオン残党を相手に軍縮で人材が不足気味な連邦が局所的に戦力不足に陥り、ゲリラ掃討を主眼に据えた少数精鋭の特殊遊撃隊を多数組織して数の不利を補いながら戦いを進めるという逆転現象が生じてしまう悲惨で滑稽な結果を招いていた。

 

 さらに滑稽で悲劇的なのは、連邦は『ファントム・スイープ隊』を始めとする各種遊撃隊の活躍で大きな犠牲を払いながらも苦労の末、大規模な残党組織を壊滅させることには成功したのだが。

 これは地上では補充の利きづらいジオン純正品が必要なガウ等の大型機材を扱う部隊を壊滅したに過ぎず、ザクなどの戦時中に大量生産された兵器を主力にせざるを得ない弱小残党組織は地球製の部品で事足りるため、地球企業からの支援として受け取った物資および元連邦のリストラ兵兼不法居住者によって数の上では回復し、数年の後には熟練兵として再び連邦の脅威として立ちはだかる結果を招いてしまうだけだったと言う事実であろう。

 

 

 ・・・敗れたジオン側に人材を選り好みしている余裕は無く、勝利した連邦側には国内での治安維持活動で得られる戦利品に自分たちを養う金が含まれているはずがなかったから・・・。

 

 

 こうして連邦は戦いに勝利する都度、勝利のために必要となった経費が敵に力を与えて、生き残りを復活させる矛盾を発生させ続けてしまい、『ジオン残党軍の生き残り敗残軍』と戦い続ける負の連鎖に気付かぬまま自らを縛り付けてしまっていたのだった。

 

 

 この事実に気付いている者は少数ながら存在していたが、そのほとんどは連邦からもジオン残党からも煙たがられ、中枢から遠ざけられた。

 

 『自分たちがしていることに何の意味も無い』等という事実に心楽しくなれる人間は存在せず、その苦みと痛みから目を逸らさずに戦争を続けられる者は彼ら以上に極少数人数しか実在しているはずもなく。・・・・・・やがて誰もが口を噤むようになっていく。

 

 

 このような情勢の中、宇宙世紀0083。

 オーストラリア大陸に残存していたジオン残党軍全部隊に宇宙からの檄文が届けられた。

 

「ジオンの戦士たちに告ぐ。時は来た。生きてこそ得ることの出来る栄光を掴むため『星の屑』に協力せよ」

 

 純粋なジオン人はこれを読み、歓喜の涙を流す。

 偽りのジオン国籍人もまた、これを読んで涙する。

 

 ・・・これでまた子供たちに飢えを凌がせてやれる。危険手当と特別手当は安くない・・・。

 安堵のあまり涙する者と、興奮のため涙する者。

 見ているものは違ったが、同じ目的のため奮励し努力し喜びを分かち合おうとする者達は『仲間』であり『同士』だった。

 普段は感情的な疑惑の目を向けてくる生粋なジオニストまで加わって遅くまで先勝パーティーを賑やかに執り行う小規模なジオン残党組織が活発化する中。

 『星の屑作戦』第一段階、トリントン基地襲撃が実行に移された。

 

 

 その時のメンバーに、後方撹乱要員として『コルベット隊』の名がある。

 

 『ミデアハンター』と讃えられる敵の補給攻撃の専門家部隊の来援を残党軍一同は歓迎し、星の屑立案者エギーユ・デラーズ中将も彼らの隊長宛てに直々の感謝状と激励文が届けられていたのだが、彼らは知らない。

 

 コルベット隊の隊長であり責任者であるカール・ロベルト・アイゼナッハ大佐が、作戦に先立ち『星の屑』について、こう述べていたと言う事実を――――。

 

 

「やれやれ、迷惑なことだ。

 ロマンチストの無理心中に付き合わされる、こちらの身にもなって欲しいものだなぁー」

 

 

つづく



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機動戦士ガンダム幕間~地上に捨てられた人々の戦争~

「エリア88」をモデルにしたオリジナルガンダム二次作です。
基本的にはタイトル通りに屁理屈重視な作品を選抜しております。


 ジオン公国と地球連邦政府。双方が死力を尽くして戦いあった総力戦『一年戦争』。

 人類を二分したとも言われる大戦が連邦の勝利により幕を閉じてから数年。

 

 地上ではインターバルを挟みつつも途切れることなくジオン残党との戦いは継続されており、勝利国であるはずの連邦軍の限りある戦力を重力の井戸の底へ引きずり込み続けていたのである。

 

 無論、全体としては連邦の圧倒的優位を覆すなど不可能ごとであったが、連邦は一つの国家であって、一個の運命共同体ではない。生きるために一本の足を切り落としただけで生命活動に支障をきたす人間でもない。

『壊死した足の一本や二本切り捨てたところで蚊ほどにも感じない、192の手足を持つ最大最強の化け物なのである』

 

 敵の弱きに味方の全力を傾けさせるのは用兵の常道であり、勝利と犠牲とを秤に掛けて『割に合わない』戦域から兵を退かせるのは戦略の王道である以上は、「社会の絶対的多数の安寧と福祉のために『泥沼化した一部紛争地域からの撤退』を連邦が決断する」のは必然的な帰結であると言えるだろう。

 

 ーーたとえそれが、残された一部地域とその地の住人たちにとって迷惑きわまりない理不尽にもほどがある決断だったとしても、敗戦国のゲリラ相手に無意味な戦闘を続ける体力は勝利国である連邦にも残っていなかったのだから・・・・・・。

 

 斯くして、合議した訳でもないのに双方の軍は暗黙のうちに成立していた無記名の条約調印を執行するために動き出す。

 

 連邦軍は泥沼化したことにより『相対的に価値の低まった』地域からの撤退を開始。

 ジオン残党もまた示し合わせたかのように、絶妙のタイミングで撤退が完了した地域への残存兵力集中投入を決定。進軍を開始する。

 

 

 戦場として選ばれたのは中東エリア。

 砂漠に囲まれた小さなオアシスのような小国家群が密集している一帯。

 

 戦前から豊富な地下資源により平和と豊かさを享受してきた土地であったが、大戦に敗北して数を減らしたジオン残党としては『第二のオデッサ』にするため是が非でも欲しい地域であり、希少資源を求めた民間企業が次々と宇宙に重要施設を上げている連邦政府にとっては先の見えた有限の資源ごと切り捨ててもよい頃合いの場所に過ぎなくなっていた土地である。

 

 政府に見放されたことを悟った中東各国は、連邦加盟国としての建前を遵守しつつも裏では違法を承知で出自を問わない傭兵徴募をおこわせており、腕さえ立てば元連邦、元ジオンにこだわることなくアースノイドだろうとスペースノイドだろうと『国家と国民たちの安寧と福祉のために』自衛戦力として傭兵部隊に組み込んでいく。

 

 対するジオン残党もまた内情の悲惨さについては共通していたと言えるだろう。

 帰る家を失い、帰るための乗り物は乗客をおいて先に故郷へ戻ったまま帰ってくる気配すら見せてこない。

 彼らに残された寄る辺は、ただ『勝利のみ』。

 自分たちが地上に降りてきたときに抱かせてくれた夢をもう一度と、彼らは願い信じて突き進んでゆく。

 

 そこには勝利があるのだと信じて。

 勝利の果てに祖国の独立と、自分たちの歩むべき栄光の日々があるのだと信じて進軍し続けるより他に道を失っていたからである。

 

 

 ある時、一人の男がラジオを聴いていたところ奇妙な話を耳にする。

 

“人はいつか誤解なくわかり合える刻がくる。連邦もジオンも関係なく、スペースノイドとアースノイドが手を携えながら同じ目標に向かって歩めるような未来がいつか必ず訪れる・・・・・・”

 

 その話を聞いた時、男は声を出して笑い、隣を歩く同僚の肩をたたいて見せた。

 

 同僚は逆にさめた表情で肩をすくめる。

 そして言う。

 

「一度の出撃で5000ドル。宇宙世紀の未来トラベルは安上がりになったもんだな」

 

 そう言って二人の男は肩を並べて歩み出す。

 一つの目標に向かいながら、二つの異なる色の色と形の機体に乗りながら。二つの言語で二種類の歌を口ずさみながら。

 

 

 ジオン残党の前線基地まで後3マイル。

 ザクとジムが並んで歩く戦場までの道中にジオンの軍歌と、連邦の国歌が低く小さく鳴り響いてゆく。

 

 

“いざ行かん、戦場へ♪ 我らが勝利の旗を地上に住む者たちに見せつけるために♪”

 

“さぁ、赴かん戦場へ♪ 正しき正義の旗を宇宙に住む者たちに示しに征くために♪”



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言霊ガンダムOO

別作で使ったオリ主による、ガンダムOOのアンチ作です。
地球連邦設立の日が舞台です。


『国際連合が地球連邦に改名して一年。我々は連邦参加国、全三百二十八カ国の賛同を得て、各国の軍隊を解体。一元化し、地球連邦平和維持軍として発足することをここに宣言します。

 すべての国の軍がなくなり、我が平和維持軍が世界唯一の軍隊となったとき、世界は真の統一を果たすことになるでしょう。その道標となるべく、我々は邁進していく所存です』

 

 大統領の宣言を皮切りにして議場全体が拍手喝采で包まれる。

 そんな中で一人だけ周囲の人々とは違う視点で彼らを見つめる目があった。

 連邦参加国すべての国から賛同を得て発足した平和維持軍の設立に『賛同しなかった』人物であり、有力議員の娘でもある二世議員。

 そして、ソレスタル・ビーイングを陰から見つめる支援者の一人にして監視者の役割を父から引き継いだばかりの若い女性。

 

 

「ーー斯くて、強大な力を持つ魔王を倒すため世界は一致団結し、平和が訪れた世界には最強の騎士団だけが残されたという訳ですか。麗しい友情物語です。できればこのままハッピーエンドに行かせてくれると有り難いんですけどねー」

 

 頬杖をついて呟かれる言葉には真実味が欠けていた。当たり前のことだろう。現実は物語とは違って、都合のいいところで切ってエンディングまで飛ばすことなど許してくれない。人類が生き残り続けている限り、人の歴史は人の歩むスピードでしか記されることは出来ないものなのだから。

 

 

 世界の外側にいた魔王を倒す目的で一つになった三大勢力の軍隊が、魔王を倒して後の世界で、その矛先はいったいどこに向けられるのか?

 

 ーー内側に決まっているではないか。当然だ。

 外に向けるべき敵は、自分たちが倒してしまった後なのだから。

 

「三つの勢力が利権目当てで争い合っていた時代には、様々な制約から三大勢力による戦争は限定的にせざるを得ませんでしたし、三つ巴の情勢は抑止力で守られた平和な時代という見方も出来なくは無かったんですけどね・・・」

 

 勢力が三つある時には、それぞれに頭が一つずつ存在し、互いが互いを食おうと狙っていたため、一つが選択を選び間違えても残り二つが互いに足を引っ張り合いながら噛みついてくる痛さにより間違えた事実に気づくことが出来ていた。

 それが今、ひとつになる。

 勢力も頭もひとつになって、判断する頭も、間違えてしまう頭も一つだけになる。

 

 これで世界は間違えられなくなってしまった。世界に一つだけしかない軍隊が間違えたとしても、食らいつく痛みで間違いを気づかせてくれる敵の脅威も今はない。

 

 一つの失敗ですべてが終わる。世界のすべてを一部の人たちに委ねてしまえる。

 一つに統合されるとは、そう言う意味を持つ言葉だ。そう言う側面を持つ社会制度だ。

 果たして今の世界は、そのことに気づいているのかな? 彼女は疑念を抱いたが、それより何より警戒すべき点は他にある。

 

 

「おそらく『彼ら』は今の世界を良しとは思わない。必ず再起して行動にでるはずです。彼らは元々そう言う集団ですからね・・・」

 

 彼女が思い出すのは一年と半年ほど前のこと。父の後を継いだばかりの新人監視者だったときに一度だけソレスタル・ビーイングメンバーの処遇を決定する会議に出席したことがある。

 

 戦死したらしいアレハンドロ・コーナーが語っていた彼らのプロフィールから見ても、歪な精神とその由来がよく分かる。

 

 

 自身がヴェーダの操り人形になり切れてない苛立ちを他者にぶつける、子供じみた半端者のイノベイター。

 

 自分の責任では一人も殺せず「世界のために」と不特定多数の他人たちのためなら赤の他人を殺しまくれる、未完成な人革連の殺戮マシーンもどき。

 

 そして、宗教テロ組織の一員でありながら自分を見捨てた神は信じず、新たに自分を救ってくれた神へと鞍替えして戦い続ける狂信的な少年兵。

 

 

 ーーもともと彼らは戦災孤児を寄せ集めた烏合の衆に過ぎず、『戦争根絶』という利害が一致していたからこそ協力しあえていた排他性の強い集まりでしかなかったのを、緩衝材として輪の中心になってくれていたロックオン・ストラトス一人の人格に信頼を寄せていくことで一個の集団として機能するようになっていった若者たちの少数集団。

 

 戦艦一隻の中で完結している彼らのコミュニティは仲間意識というより同族意識が芽生えやすい。仲間を殺した世界を許しておくべき理由は彼らにはない。必ずや家族の仇討ちをするため牙をむいてくるだろう。それはいい。だがしかし。

 

 

「問題なのは彼らのすべてが問題の解決手段として、戦争に依存しきっているという事。戦争によって多くのものを失わされた彼らにとって戦争は否定する対象であると同時に、自分たちが持つ世界観の総て。戦争の中で生まれて地獄に落とされ、地獄の中で必死に生き抜いてきた彼らは、自分でも気づかぬうちに戦場でしか生きられなくなってきている。

 仮に彼らが世界に勝利して戦争を終わらせたとしても、彼らの中で戦争は終わらない。終わらせられない。戦争を終わらせたいと願った自分自身の中の戦争を憎む心は、自分以外の誰が行う戦争を止めたところで終わらせられるはずがない」

 

 

 誰に頼まれたわけでもない、自分自身の自己満足のために始められた戦争根絶のための戦争。自分の中の欲求を満たせるものは自分自身しかいない。それを目に見える形で示すよう他人に求めて戦い続ける彼らの戦いに終わりはない。

 

 もしかしたら、と彼女は思う。

 

 あの少年兵の身体から硝煙の臭いが消える日が来ることは未来永劫訪れないのかもしれない・・・と。

 

 

「戦争から生まれた戦争しか知らないマルスの申し子たち・・・・・・たまには彼らにも休息の時間ぐらい与えてあげたいものですね・・・」

 

 そう言って、機械を操作しファイルを削除する。

 ソレスタル・ビーイング残党が潜んでいる工廠を発見した旨を伝える父親からのメッセージを闇へと葬り去りながら、彼女は思い出す。父親からイオリアの計画を聞かされた時に思った感想を。

 

 

 ーーー自分に都合のいい子供を利用して犠牲の羊に捧げさせる、とんでもない暴挙だ、と。



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機動戦士ガンダムOO「誰かが変革をもたらさなくてはならないとしたら…」

ガンダムOOと『紺碧の艦隊』コラボ作品です。
マイントイフェル大佐がリボンズ側に転生していたらと言う設定の会話オンリー作品です。胸糞な内容ですので読む際にはお気を付けくださいませ。


リジェネ「ソレスタル・ビーイングの復活を予言し、それを逆手にアロウズの権限拡大を図る、か。これは君の考え? それともヴェーダ?」

リボンズ「さぁ? どっちかな…」

リヴァイブ「ともあれ、そろそろ僕たちの出番となりそうですね」

リジェネ「…リヴァイブ・リバイバル…」

リヴァイブ「すでにガデッサもロールアウトしています。出撃命令をくだされば、すぐにでも」

リボンズ「それには及ばないよ、リバイバル。例の作戦は“ある者”に頼んであるからね」

リジェネ「ある者?」

リヴァイブ「デヴァインですか? それとも、ブリング?」

リボンズ「人間だよ。ある意味、その枠を超えてるけどね・・・」

 

 

コツコツコツ……

 

?「それはそれとしまして、我らも覚悟を決めておくべきかと存じますが?」

 

リジェネ・リヴァイブ「!?」

リボンズ「…君か。呼んだ覚えはないが、何か御用かな? 雇われ作戦参謀顧問殿?」

 

?「無論、職務を遂行しにまいりました。小官は軍人であり、一軍人に過ぎぬ身であります。それ故に細やかとは言え、与えられた職務を疎かにする訳にはいきませんので」

 

リボンズ「…よろしい、わかった。話を聞こう。―――要件の内容は?」

 

?「大したことではありません。事を始めるに当たり、世界人類の上に君臨する者として皆様方にも覚悟を決めておいていただきたい。そう申し上げに来ただけであります」

 

リジェネ「覚悟?」

リヴァイブ「はっ。何を言いだすかと思えば今さら…世界が犯した罪を背負い清算する覚悟なら、とっくの昔に済ませてある。その程度のことキミも承知済みのことだろう?」

 

?「無論です。その程度の通過儀礼を今更蒸し返すつもりは毛頭御座いませんので、ご安心ください、お二方」

 

リジェネ・リヴァイブ「っ!!」

リボンズ「・・・・・・」

 

?「小官が皆様方に求めているのは他者を切る覚悟ではなく、身内を切る覚悟です。

すなわち軍事介入においては一罰百戒を以て当たり、任務失敗には地位身分所属を問うことなく厳罰を以て遇する事。

また、これは当然イノベイター勢力の最高責任者であらせられるリボンズ・アルマーク閣下にも該当し、例外はないと言うこと。この二点です。

世界を次のステージへと誘う聖戦において指導者が身を切る痛みを恐れていたのでは、過去に実在した独裁者どもの醜悪なカリカチュアを演じるだけになりかねませんのでね」

 

リボンズ「…君の言い分は、人間の学生たちが学校の授業で習わされる初歩的なマキャベリズムとやらの講義のようだね。人間らしく実に野蛮だ、美しくないよ。僕の美学にも反している…」

 

?「初歩なればこそ、永遠の真理です。人類の歴史が始まってよりこの方、覇者の覇道は敵以上に身内の犠牲をこそ生贄として求めてくるもの。敵の穢れた血に塗れながら、味方の生鮮な血では穢されていない白い手の覇者など実在しません。何卒ご承知おき頂ければ幸いに存じます」

 

リボンズ「…中々に卓見だが、君自身にもそれは当てはまる覚悟をした上での発言なのかな? 僕たちイノベイターが君たち人間を管理するための戦いで君が敗れた場合、君自身が僕たちのために自らの血を捧げる覚悟をしてあるとでも?」

 

?「作戦失敗は責任者が責任を負うべきものです。――が、より多くの責任が現場にあるのもまた事実。どうかその際に於きましては、ご存分に…」

 

リボンズ「――ちっ。もういい、話はわかった。下がってくれ。これから僕たちは作戦会議を開く必要がある。失敗しないで勝つための作戦を考えるのに必要な会議がね」

 

?「まさに御慧眼であります。では、小官はこれにて。(サッと、右手を掲げてUターン)

 

コツコツコツ・・・・・・。

 

リジェネ「…リボンズ、以前から思っていたことだけれど彼は一体なんなんだい? どうにも得体が知れない不吉さを感じて仕方がないのだけれど・・・」

 

リヴァイブ「それに、我々イノベイターさえ見下したようなあの目付き…気に入りませんね。まるで、自分以上の能力の主はこの世界にいないと信じ切ってるような傲慢さだ」

リボンズ「人間だよ。不要な人間同士を噛み合わせて処分するには最も適した人間…いや。――ある意味、人間の枠にも収まらない人以下のクズと呼ぶべきなのかもしれないけれど…」

 

コツコツコツ……

 

?(自らを新人類と称し、世界と人類に犠牲を強要しながら、愛する者の血を革命に捧げる覚悟すらできず…か。私の生きた時代と異なる大戦を経た後の世界でさえ、あのような者が世界を我が手にせんと過ぎた野心に身を焦がす。いつまで経っても人は変われぬ生き物だな。――やはり誰かが変革をもたらしてやらなくてはならんか…)

 

 

ワルター・G・F・マイントイフェル「人類が次へと至る階梯を昇るのに戦いと犠牲が必要不可欠だとおっしゃるなら、まず自分たちで範を示すべきでしたなイノベイター。殺すばかりで殺される覚悟が無いのでは、今までの戦争と何ら変わり映えしないと言うのに…。

所詮、彼方がた“優秀に作られただけの人形”に変革戦争は荷が克ち過ぎるのだ。せいぜい劣等人種らしく、ソレスタルビーイングとやらいう同族相手に潰し合い戦争でも挑んでおられなさい。同族嫌悪しかできないバカどもへの目暗ましには丁度いい遊び相手となるでしょうからな…クックック」

 



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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。

転生憑依パプティマス・シロッコがガンダムSEEDの世界に生まれ変わっていたらと言う設定の作品。そのセリフ集です。

敵キャラ贔屓ではあっても基本的には宇宙世紀好きなので、平成ガンダムの敵キャラたちには毒舌なのが私と言う人間です。
トレーズ閣下やサーシェスなど例外もいますけども。


パトリック・ザラ

「なに? ラクス・クラインらが・・・? ハンッ! けざかしいことを・・・。

 構わぬ、放っておけ。こちらの準備も完了した」

 

「思い知るがいい、ナチュラル共。この一撃が、我らコーディネーターの創世の光とならん事を! 発射―――――っ!!!」

 

ラウル・クルーゼ

「フッ・・・(愚かだな、パトリック。憎しみに満ちた破壊の光で生み出せる物など、死体の山と廃墟しか存在しない子供でも分かる理屈すら解せなくなるとは。

 そうなるとアレはシロッコが造った物ではないと言うことか・・・)」

 

 

パプティマス・シロッコ(転生主人公)

「おいおい、そういう友達甲斐のない出来の悪い冗談はやめてくれクルーゼ。

 あんな薄らデカいだけで金ばかり食らう代物を、この私が手掛ける訳がないだろう? なにしろ、私の美学に反すること甚だしい代物だからな」

 

クルーゼ

「ハハハハ、すまないシロッコ。少々確かめたくなってしまったのでね。気分を害したなら謝罪させてもらう。(・・・やはりシロッコではなかったか。だとするなら誰だ?

 かつての私がシロッコと出会う前に考えて破棄した計画を引き継いで継続させている・・・?

 一体どこの誰が何の目的で、あのような絶望だけで練り上げられた計画を・・・)」

 

 

ディランダル

「(ふっ・・・すまないね、ラウ。

 君はいい友人だったが、君が親友と呼んでいる人物と私は、共に同じ天を仰ぐことができない定めにあるようなのだよ。

 君が私ではなく彼を選ぶとするならば、進む道が違えてしまうのもまた定めというもの。これも運命だと思って受け入れて欲しい。君には感謝している。

 ありがとう我が友よ。そして―――さようなら)」

 

 

 

ラクス・クライン(エターナル艦長)

「ザフトは直ちにジェネシスを停止しなさい! 核を撃たれ、その痛みと悲しみを知るわたくしたちが、それでも同じことをしようというのですか!? 撃てば癒やされるのですか? 同じように罪なき人々と子供を?

 これが正義と? 互いに放つ砲火が、何を生んでいくのか? まだ分からないのですか!? まだ犠牲が欲しいのですか!? わたくしたちは―――」

 

 ピーッ! ピーッ! ピーッ!!

 

「モビルスーツ接近! ブルー52、チャーリー!」

「あっ!?」

 

白ッコ

「君の歌は嫌いではなかった・・・だが、乱戦の中オープンチャンネルで演説をしながら戦争を指揮する今の君は、リリー・マルレーンよりも尚不愉快だ!

 戦後世界を主導するのは女であるべきだが、その意思を持たないまま戦いに身を投じた君では余計な争いを生むばかり! 悪いがここで舞台の上から退場してもらおう!」

 

 

オリジナル会話・シロッコとクルーゼ

 

クルーゼ

「・・・まさか人類が本当に、私が手を下さなくてもここまで来てしまうとはな・・・。もはや我々だけでは戦いを止める術がなくなってしまったようだ。これからどうする、シロッコ。

 いや、この状況下まできて我々に出来ることはあるのだろうか・・・?」

 

シロッコ

「事態は最初から見えていた。戦いを止めるだけなら簡単だ。問題はその後のことだからな・・・」

 

クルーゼ

「なに? どういう事なんだシロッコ。きちんと分かるように説明してくれないか?」

 

シロッコ

「もちろんだ。――まず、戦いの止め方だが・・・これは至って簡単な作業で済む。連合とザフト、双方のトップを殺すだけでいい。

 それだけで戦闘は終わるし、双方の和平派、平和論者達が即座に動いて政権を奪い取るだろう。ただ其れだけのことで終わるのが、この茶番じみた戦争ゴッコなのだよ、我が親友」

 

クルーゼ

「おいおい、シロッコ。さすがに其れはあり得まい? これは国の総意によって始められた戦争であり、互いの国の国民達は敵に対して憎しみを抱き、愛すべき者達の仇を討つ為、核をこれ以上撃たせぬために戦っているのだから、そう簡単には・・・」

 

シロッコ

「ふ・・・。君は今、総意と言ったがなクルーゼ。この戦いについて互いの国の国民達が何かを思ったことが有っただろうか? 考えたことが有っただろうか?

 一体何故こんな戦争をやっているのか? やらされているのか? やらねばならなくなっているかを本気で考えたものが一人でも存在していたことがあったのだろうか?」

 

クルーゼ

「それは・・・」

 

シロッコ

「ありはすまい。誰もが皆、似たような言葉を繰り返し合うことしかしないで行ってきた戦争なのだからな。『今は戦争なのだから仕方がない』――と」

 

クルーゼ

「・・・・・・」

 

シロッコ

「もっと言うなら、『撃たれたから撃ち返す』『撃たなければ撃たれる』『ナチュラルだから』『コーディネーターだから』と、誰もが敵を殺すのを敵のせいにして自分自身の悪意を希薄化して戦っている。

 憎しみと恨みから、自分の意思で敵国の人間を殺したいと思っている気持ちに言い訳しながら撃っているから、人を殺しているのだという自覚が沸きづらいのだよ。

 自らのエゴで人を殺そうと思い、引き金を引くときに命を奪う責任を自分以外の他者に押しつけていたのでは戦闘だけ終わらせても戦争が終わらせられるはずがあるまい?

 私が自分の手で行動を起こそうとしなかったのは、実にこれが理由なのだ我が友よ・・・」

 

 

 

シロッコ

「そもそも、この戦争は何をやりたいのかがまるで見えてこない。それが一番の問題だと私は思っている」

 

クルーゼ

「と言うと?」

 

シロッコ

「考えてもみたまえ。ザフト軍はもともと、植民地コロニー故に固有の武力を持たなかったプラントが地球に対して対等な地位を得ようとして設立されたものだったはずだ。そして核を撃たれ、その報復も兼ねて核を封じることが出来るニュートロン・ジャマーを地球中に散布した。ここまではまぁ、理解は出来る。

 新興の弱小国家が背景となるべき武力も持たずに宗主国に対して対等な立場で交渉を求めたとしても受け入れる理由が相手側にあるとは思えんからな。使うかどうかは別として、あの時点でプラントに軍事力は最低限必要不可欠だっただろう」

 

クルーゼ

「ふむ・・・。当時の私は君とで会う前でテロメアの進行を遅らせる薬を渡されてもいなかったが故の絶望に支配されていたから、そこまでは考えなかったが・・・言われてみると確かにおかしな点が多すぎる。

 そもそもザフト軍は『プラント防衛』を理念として設立されたもの。それが何故今、敵国の領土を半分以上支配して総力戦をやっている?

 なぜ、対等な自治権獲得の為の戦争が敵種族の根絶などと言う民族浄化じみた時代錯誤な蛮行にまで発展してしまっているのだろうか?

 私に言うべき資格がないのは分かっているのだが、冷静になって考えてみると不可思議な要素が散見しすぎて疑問を持たざるを得なくなってしまう・・・私と同じで寿命に恐怖する必要のない普通の人々が一体何故ここまで・・・・・・」

 

シロッコ

「私が思うに、人々が理性ではなく、感情だけを基準にして物事を考えてしまうようになっていたからではないかな?」

 

クルーゼ

「感情で・・・考える?」

 

シロッコ

「あるいは、心という美辞麗句で包んだ感情論でと言うべきか。

 自分と異なる相手を動かす為には心に届く言葉が必要だが、現行の指導者達は感情を煽ることしかしていない。

 その点ではパトリック・ザラとムルタ・アズラエル、ラクス・クラインの三者に違いはあっても差は存在しない。誰もが皆、曖昧な理想を唱えるばかりで具体性のある明確な未来のヴィジョンを示すことが出来ないままなのだ。

 だからこそ誰もが未来に不安を覚えて、過激な主張を叫ぶ指導者を喝采してしまう。感情だけで動いてしゃべる愚か者達に共鳴して戦火を拡大するだけの現状になってしまっているのだよ」

 

「誰もが理性ではなく感情によって判断と選択を行ってしまうようになり、感傷に基づいて賛成し、生理的反感によって反対する。

 この戦争が本当にコーディネーター、ナチュラル、どちらかの未来にとって有意義であるのか否かの議論は置き去りにしてな。

 一部を除いて、賛成する者も反対する者も相手の愚かさを罵倒するだけで、説得に手間暇時間をかけようとしなかった。これでは正常な判断力など保てるはずがない。

 そこをパトリック率いるタカ派の最右翼、アズラエルを盟主とするブルー・コスモス思想に付け入られて利用された」

 

「確かに戦争は誰にとってもイヤなものだ。やりたくて人殺しをしに来る変人は0でなくとも、多くはあるまい。

 だからと言って、「非道だ」「イヤだ」「やめよう」と叫ぶだけなら子供でも出来ること。自分の思い描く平和な未来を具体的に語って聞かせて理解を得られなければ、どんな正論も理屈の域を超えることは出来ないだろう。理屈で人の心は動かない・・・。

 自分の意思で選んで考えて、行動して判断する。人間として当たり前のことをしなくなった人間は、人の形をした国家の道具に成り下がるしか道はないというのに」

 

「個として強力すぎてしまうから、『人は一人では生きられない』と言う基本さえ忘れられてしまっている・・・。

 この世界の二大人類のひとつ、コーディネーターを生み出したジョージ・グレンもつくづく罪な業を人類に課してくれたものだな――」



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戦記好きがキラ・ヤマトに憑依転生した場合のお話

ガンダムSEED原作の会話集です。内容はタイトル通りの文字通りなお話です(^^♪


VSバルトフェルド

 

「バルトフェルドさん!」

「まだだぞ!少年!」

「もう止めてください! 勝負はつきました! 降伏を!」

「言ったはずだぞ! 戦争には明確な終わりのルールなど無いと!」

 

「戦うしかなかろう・・・互いに敵である限り、どちらかが滅びるまでなぁっ!!」

 

 

『甘えるな! これは子供のやる戦争ゲームじゃない! 現実の人が死ぬ戦争なんだぞ!』

 

 

「!?」

「あなたは一兵士じゃない! 指揮官だ! 敵軍に敗れたときには敗軍の将として果たすべき義務と責任があるはずです! 敵手との名誉をかけた一騎打ちで戦死するような贅沢は許されない!」

「・・・・・・」

「戦争に負けても生きている部下がいる限り、指揮官としての責任は終わらない。自分に付きしたがってきた部下たちの命に対して払うべき責任から逃れることは決して出来ません。

 なのにあなたは、自分一人のちっぽけな自己満足のために義務も責任も、まだ生きている部下たちさえ放置して自分だけ格好良く散りたい気持ちを戦争の理屈で正当化する気なんですか!?

 答えてください! アンドリュー・バルトフェルドォォォォォっ!!!!!!」

 

 

「・・・アンディ・・・」

「・・・・・・敗けだよアイシャ。僕の完敗だ。これ以上やっても見苦しさしか残せはしないだろうからね。

 そんな自分のこだわりに反する死に方をするぐらいなら、それこそ『死んだ方がマシ』って奴だよ」

 

 

 

 

ラクス人質交渉で、アスランとキラの会話シーン

 

『ザフト軍に告ぐ! こちらは地球連合軍所属艦アークエンジェル! 当艦は現在、プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クラインを保護している! 偶発的に救命ボートを発見し、人道的立場から保護したものであるが、以降、当艦へ攻撃が加えられた場合、それは貴艦のラクス・クライン嬢に対する責任放棄と判断し、当艦は自由意志でこの件を処理するつもりであることをお伝えする!』

 

「卑怯なっ・・・・・・! 救助した民間人を人質に取る! そんな卑怯者とともに戦うのが、おまえの正義か!?キラ!」

 

「・・・そうだよアスラン! これが、こんな非人道的で腐ったやり方を一時凌ぎのための策として、現場の一少尉如きが独断でおこない実行してしまう・・・これが地球連合軍という腐りきった組織の掲げる正義なんだ!

 『今を生き延びなければ明日がないから』と、目の前で起きてることだけに意識を集中し、乗り越えられた後のことは考えようともしていない! 未来を思い煩う苦労をしないから核だって簡単に撃ててしまう!

 そんな奴らの船に僕の友達は乗っているんだ! それが僕が卑怯者たちとともに戦っている理由の全てだ!

 身の危険が迫ったら平然と民間人を人質に取る、そんな連中に生殺与奪権を握られている友達を心配して慰留するのが、そんなに悪いと言う気なのかアスラン!」

「・・・っ! ーーだが、それなら尚のこと俺と一緒にガモフへ来るべきだ! もちろん、友達を一緒に連れてくるぐらいなら構わない! 民間人の数名程度なら俺が父上に頼んでどうとでも・・・」

 

 

 

『中立国のコロニーを宣戦布告もなしに襲撃して崩壊させた無法者集団に属している君が、今更なにを言っているんだ!

 こんなこと、旧世紀に地球で行われていた戦争でだって許されない蛮行なんだぞ!』

 

 

 

「!? ・・・し、しかしあれはオーブが中立の立場にありながら・・・」

「中立国の立場を利用して連合の秘匿兵器を極秘建造していたのは、オーブ側の明確な条約違反だった! 非難されて当然の違法行為だったし、甘んじて報いを受けるべき蛮行だった。

 なのになぜ君たちは正当な手続きの元、オーブを非難しようとしなかったんだ!? それさえ省略しなければプラント理事国は全面的にプラントの支持を表明できたし、正義は一方的にプラント側だけにあったはずなのに!」

「・・・・・・」

「君たちも奴らと同類だ! 自分たちが中立国を攻撃したことで発生した難民たちを満載している戦艦を、『敵国の開発した新型戦艦だから』と諸共に沈めて証拠隠滅を謀ろうとしている! 手段を選ばない戦争犯罪者たちが乗る船ならどちらも大した差があるわけないだろう!?」

 

 

 

 

 

アルテミスの傘で補給を受けにいく途中、キラとムゥとの会話シーン。

 

 

「ーーあの! この船はどこへ向かっているんですか!?」

「ユーラシアの軍事要塞だ。ま、すんなり入れればいいがな」

 

 

「・・・むしろ入れてもらった後の方が危なくないですか? それ・・・」

 

 

「あん? 坊主、そりゃいったい、どういう意味なんだ?」

「ユーラシア連邦と大西洋連邦とが結んでいるのは同盟関係じゃなくて、軍事同盟でしかないと言う意味です。

 自分たちだけの独力では勝てない相手と戦う際に、『敵は同じだから』という利己心から互いに互いを敵にぶつけ合って消耗させ、あわよくば共倒れを理想型として期待するのが同盟ではない、軍事同盟というものなんでしょう?

 『敵の敵は味方』とは言いますけど、それはあくまで敵に単独で勝つ力を持たないからこそ言える言葉です。この船とストライクを見た彼らが変心しないという保証は誰にも出来ません。

 なにより優れた力という物は持ってる人より見ているだけの人たちの方がより強く、都合のいい道具に見えてるように感じますからね・・・・・・」

 

 

 

 

 

オーブ攻防戦前、キラとアスハとの会話シーン

 

「・・・ウズミ様は、どう思ってらっしゃるんですか?」

「ただ剣を飾っておける状況ではなくなった。・・・と、思っておる」

 

 

「失礼ですが、ウズミ様。僕が聞きたかったのはそう言う哲学の話じゃなくて、現実的にオーブが取るべき道、選ぶべき道、辿るべき具体的な道筋についてです。

 たとえば、連合と戦えばいいのか、ザフトと戦えばいいのか。戦う目的としてオーブ一国を守り切れさえすればそれでいいのか、他の国々が支援をしてくれるまで持ちこたえた方がいいのか、最期の一人が死に絶えるまでオーブの掲げる平和理念のために戦い続けるべきなのか。

 そもそも根本的な話として、長期戦を想定しているのか短期決戦を強いるつもりなのか。そこらへんを明確にしておかなければいけないのが一国を預かる者としての責務なんじゃないですか?

 剣を抜いて使うにしても、切っ先を向ける先どころか使い方さえ判然としないままでは僕たちも道を選びようがありません。選べと言うのなら、せめて如何なる道が存在していて選べるのかどうかだけでも教えてもらいたかったんですけども・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・(冷や汗)」



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コルベット×ガンダム二次創作戦記 2話「『コルベット隊』結成秘話」

ジェリドを書くより先にこっちを出したかった個人的欲求。
ガンダムと銀河英雄伝説とを比べながら楽しむのが大好きな作者の趣味により、周囲との温度差が凄まじいように描かれてしまったコルベット隊の面々の回です。

本当はもう少し先まで書くのを想定してたのですが、今日から始めたばかりだと予定通りは無理がありました。


「これより我々は、自分たちが乗ってきたガウを解体する。ジオン残党軍としての初仕事だから派手にやるように。以上」

 

 コルベット隊隊長のアイゼナッハ大佐が、残党軍を率いる指揮官として独立して最初に出した命令が上記のものである。

 

 開戦時から使われている旧式ではあったが、地上に残っている中ではきわめて珍しく故障して落ちる心配のない安全第一改造された逸品だったのだが。

 大佐にとってはガラクタ以下のお荷物でしかない。何故なら金が掛かりすぎるから。

 

「補修部品に使えそうな物は残らず引っぺがして丁寧に保管しろよ-。壊した後で売るんだから、無駄にはするなー。丁重になー」

『うーい、了解でーす』

「我々をオーストラリアまで無事に送り届けてくれたお袋さんなんだ。年老いてるからって無碍には扱っちゃダメだぞ? キチンと最後まで面倒見てやって年金で新しい生活スタートする基盤を築くのが、正しい子供の恩返しってもんだ。感謝の思いを込めてぶっ壊すように」

『へーい。今までありがとうクソ婆。俺たちの今後のため糧になれ!』

 

 カーン!!

 

 誰かが経年劣化で錆び付いて取れづらくなってた部品を力尽くで剥ぎ取る音が周囲に響き渡る。

 彼らにとってガウ攻撃空母は使える使えないに寄らず、乗ってきて到着した今になってはお荷物でしかなくなっていたのだ。むしろ問題なく動くぶん、性質が悪いとも言える。

 

「修理するための部品はジオン製だし、補充が利かない地上で壊れてくれたら早くに捨てられてたんだけどなぁ。燃料は地球上でも無理すれば手に入れられるから始末に悪い。

 ジオン地上軍にとって一番厄介な未練だよ、この馬鹿デッカくて金ばっかりかかる年食ったお袋さんは」

 

 大佐はそう言って舌打ちする。

 実際にその通りで、ガウはその強力な空輸能力から敗れた今でも地上各地でジオン残党軍から羨望の眼で見られる空飛ぶ空母だったが、デカい分だけ養うのに掛かる費用もバカにならず、飛行機械らしく精密機器の塊だから定期的なメンテを欠かすことも出来ない。

 使っても使わなくても金ばかり掛かる無駄飯ぐらいなど、さっさと口減らしのため解体して、今日を生き抜くための食費に充てた方がまだマシだったのである。

 

「あ、それから餞別にもらってきたドップも一緒に解体して補修部品に分別しといてくれないか? あんな航空力学無視したバカみたいなフォルムの代物使うぐらいなら、連邦のお古を闇市で買って改修した方がまだしも使い物になる。

 どうせドコも物不足で鹵獲機使いまくっているだろうし、ジオンマークさえ画いておけば撃たれやしないよ。たぶんだけどね?」

 

 半ば以上、責任を放棄して大佐は言ってのける。

 これは決定して命令する責任者として無責任発言だったが、現在の戦況を見るに可能とされる責任の取り方としては最上位に属する類いの責任感に満ち満ちた請負でもあった。

 

 そもそも、味方を誤射する馬鹿がいることなど想定して出撃を命じるバカなどいない。安全面を最大限気遣ったつもりで出撃させて撃ち落とされるのが撃墜なのである。

 それを撃ったのが敵であれ味方であれ、どうしてソイツが撃たれたのかは撃った奴らに教えてもらえとしか指揮官としては答えようがない。誰も敵に撃たせるつもりで味方を出撃させる訳ではないのだから、味方の非撃墜までは正直想定しきれない。

 

 結果的に落とされたことには責任を取るが、落とさせないよう味方に周知する以上の努力は存在しない。落とされた時に誰に責任なのかは『落とされた奴』がいて初めて生じる類いの問題なのである。

 

 

「しかし、壊すのはよいのですが誰に売る気なのです? 地上では稀少なジオン製品といえど、新規参入の我々では闇市場でも足下を見られるだけですよ?」

 

 モビルスーツ部隊の隊長であるマスニード大尉が話しかけてくる。

 もっとも、現時点で彼らが保有するモビルスーツは作業用に持ってきた旧ザク一機だけであり、残りは書類上に『二機』と記載して『二機分の補修部品』を多めにもらい、実際には兵士を乗せて重量を誤魔化しただけだったりするので肩書きだけのお飾り隊長でしかないのだけれども。

 

「決まってるじゃないか。味方に売りつけるのだよ」

「は?」

 

 大尉は一瞬、ポカンとしてからしばらくして了解の意を示して頷いた。

 士官学校で優秀な成績を修めながら、冴えない風貌を理由に出世が遅れて左遷させられたと噂の大佐殿は、今日も通常運行で昼行灯ぶりを発揮してくれているらしい。

 

 人類史上初めてモビルスーツを実戦投入し、いくつかの分野では連邦を超越していたジオン製品は、戦後の地球上においては反連邦政府思想を持つ地下組織たちにとって憧れの品となっているため多額で取引されているのだが、一方で慣れない商売と裏取引の犠牲になる元ジオン将校が後を絶たない問題も続出させていた。

 

 モビルスーツを複数擁している大規模な部隊であるなら報復を恐れて、せいぜいが国籍や人種を問わない代わりに通常よりも安く買って高く売る、商売道徳心に溢れた誠実な対応をしてくれるのだが。

 一機程度しか保有しない弱小部隊とかだと交渉している間にパイロットがハニートラップで寝取られて裏切りにあい、裏切りが成功した後にパイロットも殺されて一緒に連邦軍兵士へと死体を売り飛ばされてしまう場合も存在している。

 連邦兵としても戦争が終わって残党狩りしか仕事がない中でクビにされないためには手柄が必要であり、残党軍兵士の死体は結構高値で売れたりするのだ。

 売り飛ばした相手の兵士から口封じのため殺される商人もいるにはいるが、そんな事まで気にするのなら堅気で居続けて真面目に誠実に生きれば良い。卑劣感として金儲けしようとするならリスクとリターンとは常に相対性で成り立っている事を理解しておかなければならない。

 

「そんなハイエナたちを相手に交渉して勝てる自信など私にはない。それぐらいなら、味方に売る。売って信頼と信用できる人材を紹介してもらえる下地を作る方がなんぼかマシだ」

「ヘイ! まことに持って大佐殿のご慧眼で! へっへっへ」

 

 如何にもな太鼓持ちの風を装って道化る大尉に、白けた目を向けながら『独裁者っぽいチョビ髭』と本国にいた頃は称されていた自分の髭を右手指でいじくりながら、なんで自分はこんな所でこんなことをやらせてるんだったかな?と、己の過去について走馬灯のように思い出そうと回想し始め――――直ぐに思い出した。

 たった三ヶ月前のことなのに忘れかけてしまっていた辺り、引っ越し準備というのは本当に忙しいものなのだなぁと心中で感想を抱きながら・・・・・・。

 

 

 

 ・・・一年戦争末期、オーストラリアから物資を山のように抱えて撤兵したユライア・ヒープ中佐指揮下にあるジオン残党軍の中から戦後、一部が旧戦場に逆戻りしてきており、敗戦寸前のゴタゴタの中で階級責めに遭った士官学校出身士官の一人である大佐は、ユライア中佐に委ねられていた『オクトパス』とも呼称される八つの輸送部隊を束ねた非公式補給部隊のうち一つを率いる部隊長でもあり、階級章に描かれている星の数では上官より上になってしまったが、彼なりに上官殿には敬意と尊敬を抱いていたので変わらず忠勤に励んでいた。

 彼の元を飛び出して独立したのも『せざるをえなかったから』であって、彼自身が望んだ結果ではない。――全員を養い続ける金を得るには出稼ぎ組が必要だったのである。

 

 

「オットー・アイヒマン大佐から地球に降下してきた『インビシブル・ナイツ』支援のため、後方支援部隊を一つ寄越して欲しいと要請がきた。名門出身でありながら一兵卒として戦い続ける覚悟のある青年エリク・ブランケ少佐の力添えをしてあげたいのだそうだ」

「・・・で、私たちに行けとおっしゃるのですか?」

 

 元民間輸送企業でマネージャーをしていたせいで軍人らしくない外見的特徴を持つ中佐の前で、冴えない中年がジオンの士官服を着ているだけにしか見えないアイゼナッハ大佐(面倒だから階級章は変えずに中佐のまま)は、仕事に疲れた中年男らしい表情で肩をすくめながら答えた。

 軍だと部下に命令を拒否する権利はないが、無言の不平不満を示す権利ぐらいは黙認してくれる上司もいるのである。

 

「・・・大佐殿も少佐君もザビ家の覚えめでたきエリート様方だ。ギレン総帥のご意志を継いで戦い続ける道を選んだ残党軍として戦い続けるためには、頼まれて断れる相手じゃないだろう?」

「ですな~。仲間同士助け合わないと売り飛ばされかねないのが残党軍なワケですし」

「イヤな現実を思い出させてくれるなよ・・・・・・」

 

 冴えない口調でアッサリと言ってのける階級は上の部下に中佐は唇をへの字に曲げさせられる。まったく大佐の言うとおりで、現在のジオン残党軍は極めてアンバランスな状態で立っている組織だ。

 

 負けたからこそ一枚岩にならなくてはならず、一枚岩になるためには部外者は排除すべきであり、ギレン閣下のご意志を継いでダイクンの理想を実現する大義のための聖戦において、『英雄への協力を拒む非国民』に安心して背中などを預けられる訳がない。

 裏切って捨てられる前に売り飛ばして囮に使え! 敵を倒すために敵を使うなら一石二鳥だ!

 ・・・こう言う理屈がまかり通ってしまっているのが国家を失った国家のために戦い続けるテロリストもどきな元国軍の実態だったから・・・。

 

「ウォルター大佐からは、『ザビ家の評価を気にする時代はそれほど長くないはずだ』と言われたからこそ引き受けた『オクトパス』だったのだがな・・・」

「まぁ、予定が予定通りに運ぶことなど滅多にはないものですからなぁ」

 

 辛辣な事実を大恩ある上司への別れの挨拶として、大佐は補給部隊の一つを引き連れ『インビシブル・ナイツ』がおこなおうとしている『水天の涙作戦』支援のために出向。地理的理由から、旧職場のオーストラリアを拠点に選択した。――地形が分かってる分だけ調べる経費が浮くからである。

 

 

 こうして、ジオニズムの思想とも亡き故国への愛国心とも無縁で、補給部隊故に復讐戦を企図するほどの傷を受けさせられた覚えもなく、覚えさせられた時が全滅する時と同義な貧弱すぎる装備しか持たされず、故郷に置いてきた家族や恋人たちも『二年も経ったし生きてるかどうか分からんし、どうせ俺たちのことなんて待っててくれるはずもないか』と諦める程度の学歴と収入と人間関係しか持てたことないから冷や飯ぐらいの荷物運び補給部隊に配属させられてた、アイゼナッハ大佐の人格的影響受けまくりの面々はオーストラリアの地に最初の一歩目を踏み締めた。

 

 

 そして訪れる、後に彼らの部隊名が敵味方関係なく、ご当地強敵存在として知れ渡るようになる新たな母艦の設計図を携えた部隊の紅一点にして『観賞用としては最上級。実際に使ったりしたら男として死ぬ』と噂されている美人副官アリーシャ・マクガイル中尉が大佐の傍らへと音もなく歩み寄り、一枚の紙切れを手渡した。

 

 

「大佐、ご要望のあった設計図の完成品をお持ちしました。ついでに現地の業者から買い取りの見積書も受け取ってきたところです」

「おお、アリス君! ご苦労だったねぇ。疲れただろうからお茶でも飲んでゆっくり休んでくれたまえ」

「いえ、結構です。私以上においしい紅茶を淹れられる者は我が隊には存在しませんので、休んだままでは飲めませんし、飲めたら飲めたで不味すぎるでしょうから」

「・・・・・・そうかね」

「それよりも、現地部隊に多額で売りつける算段をした上で紹介してもらった職人たちへの発注なのです。ビタ一文罷り成らんと言い渡されていますので、頑張って良質な補充用部品をガウとドップからひん剥いてください。私たちのご飯がかかっています。

 あまり安値で買いたたかれるような品だと、私たちがまとめて炭鉱と娼館を兼ねた安酒場に売り飛ばされかねませんので、そのお覚悟で」

『うおーっ!! お袋さん、今まで元気でいてくれてありがとう! 俺たちの生活のため高く売られてくれ! 頼むから!』

 

 

 ――こうして、後に『ミデアハンター』として補給部隊強奪のエキスパートとなる、“真っ正面から殴り合えば必ず負ける部隊”は誕生の産声を上げる。

 

 

つづく



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俺はいつかジェリド・メサとして勝利を手にしたい

出来ました! 転生憑依ジェリドが頑張る二次創作です! ――ただしチートはねぇ。
そりゃ頑張らざるを得ませんよね、普通に生きたら死あるのみの未来しか待ってないですから。


 ジェリド・メサって奴を知っているかい? ――良くも悪くも真っ直ぐなだけだったガキの名前だよ。

 ティターンズなんて碌でもない組織の表向きな理想を信じて、命令に従い任務を遂行する。 抱いた野心が大きいわりに最期まで一パイロットでしか在れなかった、取るに足らないガンダム作品の登場人物、そのうちの一人。それ以外の何物でもない存在。

 

 

 ・・・ただ、目上から学ぼうとする姿勢だけは好きな奴だったな。

 率直に自分を批判して、自分よりも優れた人から教えて欲しいと頭を下げられるところに俺は憧れていたんだと思う。

 

 きっと自分がガキの頃、プライドが邪魔して出来なかったことが出来たからだ。自分が出来ない事を出来る奴は他の奴より上で、凄い奴なんだと思いたいだけのガキ臭い思考。自分もジェリドと同じで取るに足らない凡人の一人だったという証拠。

 どんなに努力しても『主役になれる才能はないのだ』とする、何よりも雄弁な証。

 

 

 だからこそ俺はきっと、ここでこうして今この時を迎えているんだろう――――

 

 

 

 

「・・・・・・カミーユ、カミーユったら!」

 

 ――長旅を終えた友人と再会の握手を交わして、久しぶりに二人で飲みに行く店に女の子がいるかどうかを話している時。

 部屋に通ずる曲がり角の向こうから、可愛らしいが甘ったるすぎる女の子の声が聞こえてきたから俺は振り返る。

 

「・・・・・・」

「カミーユ!」

 

 通路から先に出てきたのは、呼ばれた名前通りにかわいい顔を仏頂面で歪めた生意気そうな少年

 続いて出てきてそいつの名前を呼んだのは、今にも泣き出すんじゃないかってぐらいに意志の弱そうな眼をした、少年と同い年ぐらいの少女。

 

 

 ――『刻に選ばれて才能を生まれ持った主人公様』の登場だ。

 

 俺は皮肉気に唇を歪めて自嘲しつつ、【そいつ】の名前を呼ぶまえに二人の会話をもう少しだけ聞いていたい誘惑に駆られ、三秒ほどためらった後で実行する。

 

「カミーユ! 待ってよ、カミーユってば!」

「言うなよ。カミーユってのが俺だって誰にでもわかってしまうだろ?」

「そんなの、みんな知っているわ! 本人だけが承知してないんじゃない。

 ――ねえ、宇宙港に何の用があるの?」

「今、ホワイトベースのキャプテンだったブライト艦長の船テンプテーションが港に来ているはずなんだ――――」

 

 少年からの返事を、悪いが俺は最後まで聞いていてやる事ができなくなっていた。・・・“ガキの頃見たアニメ版”でも思った事だが、まさかここまでとはね・・・。ハッキリ言って失笑ものだ。自意識過剰にも程がある。

 

「待ってよ、カミーユ! どうせ会えやしないわよ!」

 

 誰かが側にいてくれないと一人じゃ立ち続けられないから「一人にしないで欲しい!」と叫んでいるかのような弱々しく縋るようなしゃべり方が、悪い意味で特徴的な少女――ファ・ユイリィが“平凡な、だが俺にとっては重要なセリフ”を言った事を確認し、俺は充分に警戒しながら例の“ブロックワード”を口に出す。

 

 ――俺が“ジェリド・メサになるため”の一歩目。

 ジェリド・メサになった俺が、“ジェリドとして戦い抜いて生き延びるため”の戦い。

 その始まりを告げる狼煙として、俺はコイツを――――ぶっ飛ばしてやる。

 

 

「カミーユ? ――女の名前なのに・・・なんだ、男か?」

 

 

「!!」

 

 つぶやきが聞こえたのか(聞こえるようにつぶやいてやったのだから当然だが)少年の瞳が大きく見開かれて鋭さを増す。

 片手に抱えていた鞄を取り落とし、異常を察知して止めようとしたファ・ユイリィを突き飛ばしてから狂眼を湛えてスタスタとゆっくりこちらに歩み寄る。

 

「どうしたの、カミーユ? カミーユ!?」

 

 その様はさながら『死ぬ』と言う言葉を聞かされたステラ・ルーシェのようで、その後の行動も含めて彼という人間の人生を決めた今の言葉を『ブロック・ワード』と表現した俺のネーミングセンスは中々のものだったかもなと内心で自画自賛しながら嘲笑の形に唇を歪めて見せる。

 

「カクリコン中尉の知り合いかな? え? “カミーユ”くん」

 

 敢えて挑発しているのだと分かり易いように、相手の気にしている言葉を続けて言ってやる。

 予想通り、そして予定通り相手は幼馴染みのファから「それ以上行ってはダメ!」と言われた、『関係者以外立ち入り禁止』を示すゲートの一歩手前まで来て叫び声を上げ、殴りかかってきてくれた。

 

 ・・・しかし、コイツとは別案件だが『幼女戦記』に書いてあった記述に寄るなら戦時下だと、立ち入り禁止区画に軍関係者以外が立ち入ってきた時点で射殺するのが当たり前らしい。

 仮にも地球を守るイージスの盾役を自認する、対ジオン残党のためのエリート組織ティターンズの拠点を守備する警備兵が、この距離まで踏み越えられても未だ動けていない。――なるほど、数がいくら多くたってティターンズがエゥーゴ相手に負けるのも道理だと『安心』して、俺はバカ正直に大声で叫び声を上げながら突っ込んできた馬鹿に対応するため体を横に捌く。

 

 

「なめるなっ!!」

「お前がなっ!!」

「なにっ!?」

 

 突進しながら全力で繰り出してくる、ただの左ストレート。来るのが解っているなら、避けるのは容易い。わざわざ知ってる事を教えてやるために挑発までしてやったって言うのに学ばないガキだ。

 だから生みの親である富野由悠季からアニメ版のお前は『アムロやシャアと同じで死ぬしかない人間』などと評される羽目になる。

 

「よっ、と」

「うっ!?」

 

 拳を躱しながら右足を前に出して、体勢的に後ろにある相手の左足に引っかけることで転ばせてやり、無重力なのを利用した反動で前に出た俺は低い天井に両手をつけて思い切り伸ばし、無様につんのめって壁に手をつき力ずくで反撃姿勢を取ろうとしている奴の背中に跳び蹴りをくれてやる。 

 

「悔しい気持ちはわかるが・・・無理だなっ!!」

「ぐわぁっ!?」

 

 蹴り飛ばされて無重力ならではの空中散歩をカミーユに強制的体験させてやりながら、着地した俺は『先達たる大人の義務として』経験不足な未熟者に教えを説いてやるのも忘れない。

 

「動きは悪くなかったが、教科書通りなのがいけなかったな。不意打ちすれば格上相手でも出し抜けた経験でもあったのか?」

 

 揶揄するように言ってやる。

 学生としてのカミーユ・ビダンが所属している空手部のキャプテン、メズーン・メックスの制止を振り切って港にやってくる1話目序盤のことを指してやった言葉でもある。

 

「貴様っ!!」

「やめとけよ、自分から恥を上乗せする趣味がある訳でもないんだろ?

 平和的なアマチュア格闘技と、人を殺すための訓練を受けた軍人の戦い方は違うんだってことが、どうして君たち子供には判らないんだ? 今の君じゃ無様を繰り返すだけだぜ?」

「うるさい!」

 

 相変わらず頭に血が上ってる時のコイツには、人の忠告なんか聞く耳持たず・・・か。

 

「貴様! 俺たちをティターンズと知ってちょっかいを出してきたのか!」

 

 遅ればせながら左右にいたモブティターンズ隊員ザコ二人が介入してきて、痛みに動きを止めていたカミーユに掴みかかって押さえ付けようとする。

 無論、それだけで大人しく捕まるほどコイツもプライドが低くて素直な人間じゃあない。全力で暴れるし罵声も上げてくる。

 ・・・しかし、たかだかアマチュア空手でキャプテンにもなれない程度のガキ一人を相手に全軍から選りすぐった選良を集めたはずの精鋭部隊が数人がかりで未だ抑えきれずか。

 つくづく見かけ倒しだな、ティターンズって虚仮威しヤクザの集団は。

 

「カミーユが男の名前で、なんで悪いんだ! 俺は男だよぉっ!」

 

 数には勝てず取り押さえられて、床に引っ立てられながらカミーユが俺に向かってまだ叫んでいる。

 

「知ってるよ。さっきからそこにいるガールフレンドがそう呼んでくれてるじゃないか。“カミーユ”ってな。それとも何か? 君は自分が男でカミーユって名前だと叫ばない限り、自分は男として相手にされないという不安にでも怯えているのか?」

 

「っ!! ――言っていい事と悪い事がある! 俺は――っ!」

「カミーユ君だろ? 知ってるよ、さっきからそう言っている」

「・・・・・・っ」

「で? 俺は君に対してどんな言ってはいけない事を言ったんだ? 初対面の相手から殴りつけられそうになるくらいだから、余程にヒドい事を言ってしまったんだろうな? 俺は」

「く・・・っ。――男に向かって、“なんだ”はないだろう!」

「ああ、そうか。“なんだ”そんなことで俺は殴られそうになってたのか。それは済まなかったなカミーユ君。

 気付かないうちに君にとって“言って欲しくない言葉”を言ってしまってたみたいで本当に申し訳なかった。心から謝罪させてもらうよ。本当に申し訳ないカミーユ君。

 確かに君は間違いようもなく、『男の子』だったよ」

「・・・っ! 貴様! 貴様貴様貴様ぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「ハハハっ、せいぜい自分のやり方が通じる都合のいいガールフレンドを大事にしてやることだな、青少年」

 

 笑い飛ばしてやりながら、憲兵たちに連行されていくカミーユを見送る俺。

 その頃になってようやくやってきて慇懃無礼に敬礼してくるのは、見覚えのある顔。

 

 ・・・カミーユを拷問まがいの手法でエゥーゴに走らせる切っ掛けをつくった憲兵か!

 

「ジェリド中尉ですね? エゥーゴの工作員らしく少年の逮捕拘禁に協力していただきありがとうございます。

 先ほどの少年について二、三、お伺いさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「失せろ」

「・・・は? 今なんと・・・」

「失せろって言ってるんだよ! この税金泥棒が! 抵抗できない奴にしか勇敢に対処できない無能は事後処理だけしてればいい! 引っ込んでろ!」

 

 凄んでみせると、さすがは後方勤務で筋肉だけが取り柄の強面MPだ。声だけで顔面蒼白にさせられてるのに、それでも対面と面子だけは保持したがる。

 

「と、到着が遅れた事は謝罪します。ですが小官にも任務があり、これに協力していただけない場合には相応の対処をさせていただく事にもなりかねません。ご再考を」

「考え直せ・・・か」

 

 つくづくティターンズって連中は腐っているな。心でも体でもなく、ただ戦場勘が。

 

「よし分かった、考え直してやる。――お前選べ」

「(ホッ・・・)賢明なご判断、ありがとうございます中尉。でしたらこちらで・・・・・・は? 今なんと―――」

 

 間抜けが間抜けな質問で返してくるのを、俺は言葉で答えずに行動で答えに変えてやる事にした。

 

 ブラスターを引き抜いて、間抜けが開けたままにしていた口の中に銃口を突っ込んでやったのである。

 

「ふゅ、ふゅういどの!? なにふぉ・・・っ!?」

「ティターンズは力だ! 力がなければ敵に敗れて全てを失わされる! エリートだからと敵が遠慮容赦などしてくれる訳がない! その程度も分からん覚悟なき無能がティターンズに居続けるからには選べと言っているんだよ。

 言われた事だけやって沈黙し続ける服従か。それとも命がけで己の真を貫きながら生き残れる道を探す戦いの道か。この、どちらかだ。さぁ選べ」

「ひゅ、ひゅういほぉの・・・・・・」

「返事はどうしたぁっ!?」

「ひ、ひえふ・ふぁー! ひょうかいひまひたひゅういほぉの!」

 

 ・・・チッ。クズが・・・殺すチャンスを逃されたか・・・。

 

「もういい、行け」

「は、はいぃぃっ! どうもお騒がせいたしましたねぇ・・・えっへっへ」

「――それから自分にも任務があると言っていたからには、有言実行ぐらいはしろよ? 先ほどの少年がエゥーゴの工作員なのか判然としない時点では軍紀に則り公平に扱うように。

 身元調査のファイルをしっかりと読みこなし、自分に都合がいい部分だけを見て独善的な現場の判断で容疑者を犯人と決めつけないこと。・・・判ったな?」

「は、はい。もちろんですよ中尉殿。そこんところは小官共の方でも万全を期しておりますのでご安心を。うぇっへっへ・・・」

 

 ヘコヘコしながら去って行く憲兵の後ろ姿に『望み薄』であることを実感させられ溜息をつく。

 

「じ、ジェリド・・・」

「ジェリド中尉・・・」

 

 背後から驚いた声で友人たちに声をかけられ頭をかき、さてどのように言い訳したものかと悩まされながら、俺は次のステージへと向かって歩き出す。

 

 次はグリプス内にノーマルスーツで潜入してきていたクワトロ大尉を、ガンダムMkーⅡで撃ち落とそうとするファースト2話目のアムロを模倣する段だ。宇宙じゃなくても宇宙と同じように四次元起動できる人間サイズ相手にバルカン以外がそうそう当たるものでもないのだが、これをやらないとカミーユがティターンズビルから出てこれない。

 奴の脱獄に手を貸すのは癪だが、捕まってしまって憲兵の態度を変えることが出来なかった以上は致し方ない。アレでもいないと困る場面はそれなりにはある奴なのだから。

 

 

「まったく、試練試練で厳しい人生だな。ジェリド・メサとして生き抜くために戦う人生って奴はよ」

 

 ボヤいてみるが、やるしかない。

 ジェリドがエウェーゴに入ってしまってはジェリドではなくなってしまうし、大切な人たちを死なせることなく守り抜く上でもティターンズに居続けなきゃならない理由がある。

 

 

 ――ジェリド・メサとして生まれ変わった俺は、ジェリド・メサとして戦い抜いて、いつかジェリドとして勝利をこの手に掴んでやると誓っているのだから!!

 

 

主人公紹介:『転生憑依ジェリド・メサ』

 前世では反骨心旺盛だった現代日本の高校生を前世に持つジェリド・メサ。

 周囲に反発するだけしかしなかった前世での自分を深く後悔し、また憎悪している。

 当初は半端な才能と能力しか持たないジェリドに生まれ変わったことに失望していたが、今ではむしろ自分には合っていたと『幸運』に感謝している。

 目的は『ジェリド・メサとしてグリプス戦役を戦い抜いて生き延びること』。

 また、『死ななくてもよいはずだった人々を死なせないこと』を第二の目的として、ティターンズに入隊した。

 原作と異なりティターンズの実態を既に承知しているため、組織に対する幻想はない。

 また、途中経過はどうあろうと『必ず負ける軍隊』としてティターンズを見ているため、属している現在に不満は特に持っていない。

 

 

 

『転生憑依ジェリドに関わる人々』

ライラ・ミラ・ライラ

 ジェリドの前世がもっともジェリドに影響を与えたとして、素直に尊敬している人物。

 残念ながら今作でも死ぬ人。ジェリドがいないところで死ぬキャラまではどうしようもない。

 

シェリー・ペイジ

 アニメ版準拠の世界観だが、ジェリドが主人公のために出張して登場してくれる。

 この人もジェリドがいないところで死ぬので救えない。戦い方を教えてくれる師匠その2役。

 

カクリコン・カクーラー

 大気圏突入時の説得で、『バリューとの展開高度』を出されたことからギリギリ生き延びる。

 ただし、続くジャブロー戦を生き抜けるかどうかは本人次第なので予断が許されない人でもある。

 

マウアー・ファラオ

 死ぬか生きるか一番判らない人。ジェリドの努力だけではどうにもならない運命を背負っている悲劇の女性。彼女自身の生きるための意思次第で道が開ける可能性が出てくる人。本作のヒロイン。

 

ジャブロー戦のハイザック・パイロット

 上の命令でジェリドが脱出するまで離脱できなかった悲運のパイロット。

 今作だとジェリドが始めから核爆発の件を知っていることと、カミーユを現時点では仕留められないこと。

 上官として命令に従っているだけの兵士を無駄死にさせる訳にはいかなかったこと等の理由から生き延びられる。その後の活躍は不明。二度と出ない可能性もある人。




補足説明:
今作のジェリドは凡人です。これからカミーユに嫌と言うほど煮え湯を飲まされながらも感情に流されすぎずに戦い続けて、我慢しなきゃいけない時には我慢するためにも出合い頭では勝利しておく必要性がありました。

要するに、『これから負けっぱなしになるんだから初戦ぐらい勝たせろ』――ですね。

出来るなら『最初と最後だけでも勝利で飾れる男になる』ことを夢見る凡人ジェリド・メサ君がんばる。


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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。【正規版】プロローグ

転生憑依したシロッコが活躍するガンダム二次創作を読んで以来、書きたいと思って憧れていた作品のプロローグです。よろしければ読んでみてくださいませ。では。

*タイトルを原題に変えました。


 諸君らは、パプティマス・シロッコという名で呼ばれた男をご存じだろうか?

 

 なに、大した男ではない。己が野望のためティターンズとやらいう碌でなし組織に加担して身を滅ぼした、愚かで傲慢な野心家だった男のことさ。

 

 だが、なぜ今になって私がそんな男の話をしているかと言えば、“先頃死んだ私が”転生の神に求めた転生対象の名が、そのパプティマス・シロッコだったと言うだけのこと。

 そして求めた転生先は宇宙世紀とは異なる歴史を歩んだ地球世界。

 

 『機動戦士ガンダムSEED』の大西洋連邦にである。

 

 ・・・なに、心配ない。別に連合などと言うヤクザやティターンズと変わらぬ組織に肩入れして世界をこの手にするなどと、大それた野望を持ってのことではない。ただ、パプティマス・シロッコの天才的才能がなければユニウス戦役で起きた愚かな時代の流れは変えられないと感じただけに過ぎぬのさ・・・。

 

 ふふ、これも傲慢に感じられてしまう言葉だったかな・・・?

 だが、そう言うべき男なのだよ。パプティマス・シロッコと呼ばれた男は。

 

 そして今の私は、コズミック・イラの立会人になるためパプティマス・シロッコに転生した身である以上、そう見られるのは仕方のないことだと割り切るとしよう。・・・ククク。

 

 

 

 

「――パプティマス・シロッコ技術主任。先頃ザフト軍司令部は貴様を士官として任じ、隊長を示す白服を与えることを正式に決定した。謹んで受領するように」

「はっ。光栄であります。ご期待に添えられるよう微力を尽くします」

 

 国防委員長の執務室で、委員長手ずから渡された白色の軍服を受け取りながら私は実直な軍人に相応しい態度と口調と表情を心がけた答弁を繰り返す。

 

「・・・言うまでもないことだが本来、モビルスーツ開発で多大な功績のある貴様を危険きわまる前線に送り出すのは本意ではない・・・。

 が、『現場で実機に乗ってみなければ解らないこともある』とする貴様の強い希望を容れ、妥協した決定であることを強く胸に刻み適切な対応を取ってくれるものと確信した故でのものだ。判っているな?」

「はっ。不肖の身に特別なご配慮、まこと感謝に耐えません。このご恩には必ず報いさせて頂く所存であります」

「うむ」

 

 応用に頷き返しながら目の前の男、プラント評議会国防委員長の座にあるパトリック・ザラ――『SEED』世界における最大級の戦争犯罪人の片割れはデスクの引き出しを開けて一枚の書類を取り出すと、私の方へ向けて差し出してくる。

 

「貴様の配属先には士官学校で同期だったらしい、クルーゼ隊のヴェサリウスを推薦しておいてやった。形としてはクルーゼ隊の副隊長として奴を補佐する立ち位置になるだろう。実践と理論の違いというものを先任であるクルーゼからよく学んでおくように。――以上だ」

「はっ! 失礼致します!」

 

 敬礼し、踵を返すとキビキビとした足取りで歩み去って行く私の背中に「シロッコ」と、親しげな声が――あるいは、親しげを装った声が――かけられたので振り返る。

 

 視線の先にはザラ議長がおり、その顔には友好的な笑みを浮かべているが、どこかしら昏い陰を感じさせる微笑みでもあった。

 

「――貴様には“期待している”」

「・・・はっ。閣下。必ずや」

 

 双方、含むところのある遣り取りを終え、私は軍本部の建物内にあるロビーを足早に通り過ぎ出入り口へと向かい、外に出て軽く深呼吸して毒気を吐き出す。狸の相手をするというのも存外に疲れるものだった。

 

「さて・・・これからどうするか・・・?」

 

 まだ建物のすぐ近くにあるという地理的な問題から、監視カメラの目などを意識した発言で監視者たちの目を欺きながら私は周囲を軽く見渡し、これから行くべき先について考える。

 今日はこの後これと言った予定もなく、共に過ごす恋人――メインヒロインとなり得そうな女性との出会いもなかった寂しい十代少年の時を過ごした敵キャラでしかない私だが、どうやら良き友人には恵まれていたらしい。

 

 本部ビルの近くに止めてあった車の1つからクラクションを鳴らす音が聞こえ、そちらに目をやると見慣れたセダンのフロントガラスが開かれて、親しく付き合う友人の顔が笑みと共に現れる。

 

 私はその顔に、苦笑を以て返す演技を“して見せる”。

 

「やぁ、クルーゼ隊長殿。迎えに来てくれたのかい? わざわざ君が来るほどのことでもなかろうに・・・」

「ご謙遜を。ザフトにおけるモビルスーツ開発の権威である若き天才様が軍に入隊されたのですから、タクシー役ぐらいは小官如きが如何様にも請け負わせて頂きますよ、シロッコ副隊長殿?」

 

 我々は同時に笑い出し、過剰なほどに大きい笑い声で後方から盗み見ている2人の黒服たち白い目を向けられるのを感覚によって確信する。

 

 演技を続けながら我々は、落ち合う予定だった場所へ自然と向かえるよう示し合わせた訳でもない息の合った会話を繰り広げてゆく。

 

「なに、せっかく技術者から軍の指揮官に出世したんだ。昇進祝いに一杯やろうと誘うのは、友人としては当然のことだと思ったのでね。迷惑だったかな?」

「とんでもない。喜んで誘いに乗らせてもらうとも。・・・しかし、その言い様だと今日は君の奢りと言うことでよいのかな? クルーゼ?」

「いいや、もちろん君の奢りだよシロッコ。君の昇進を祝う会なのだから、君の払いで気持ちよく飲むのが筋というものだ」

「おいおい、クルーゼ・・・?」

 

 わざとらしく不機嫌そうにしてみせる私にクルーゼは、同じくらいにわざとらしく俗っぽい笑顔を浮かべて見せてから敢えて物欲丸出しの台詞を口にだす。

 

「せっかく白服になれたのだ。高給取りに加われた喜びを早い内に実感するため、初任給は飲むだけでパァーッと使ってしまうのがいいだろうと思ったまでさ。白服の給料は君が思っているよりずっといいものなのだぞ? なにしろ他にも色々と役得が付いてくるからな・・・」

「なるほどな。そう言うことなら納得だ。ありがたく好意に甘えさせて頂くよ、白服の先輩ラウ・ル・クルーゼ隊長殿」

 

 もう一度だけ笑ってからクルーゼは車を走らせ初めて、それまでは敢えて付けっぱなしにしていたドライブレコーダーも「飲みに行くときまで付けておくのは無粋か・・・」と呟いてから切ってしまう。

 

 

 

 ――そこまでして、ようやく私たちは一息入れることが出来るのだった。

 まったく、なまじ有能すぎると上から目を付けられて利用されるか抹殺されるかの二つの一つしか道がないのがザフト軍という閉ざされた世界でのみ生き続けてきた者たちの軍がもつ欠点だな。

 

「・・・やれやれ、不便なことだ。求められた役割を演じ続けるというのも存外に難しい。以前までとは大違いだよ・・・」

 

 大きく息を吐き出しながら、運転席に座る男――仮面ではなくサングラスをかけた姿の『SEED』世界最大の悪役ラウ・ル・クルーゼが疲れたように笑ってみせるのを、私は苦笑しながら見つめ返す。

 

(変われば変わるものだ)

 

 と、感心しながら・・・。

 

「おいおい、君がそれを言うのか? 世界を欺き、全てを欺き、『人類など滅んでしまえ!』と叫んでいた仮面の男、ラウ・ル・クルーゼが?」

「言ってくれるなよ、シロッコ。私にも恥ずかしさを感じる人間らしい心ぐらい戻ってきているのだからな・・・」

 

 苦虫を噛み潰したような、と表現するには楽しさも混じえた悔恨の苦笑を浮かべてクルーゼは、服のポケットから薬の錠剤が入った小さな小瓶――ピルケースを取り出して見下ろす。

 

 それは以前まで彼が服用していた物と、“全く同じように似せて作られた”別物の薬。

 より正しく言い換えるなら『効果が桁違いで別物と言った方が正しい薬』だ。

 今の彼は私が長年の研究の末に作り出したコレによって『死の運命』から逃れる術を手に入れ、精神的な余裕をも獲得していたのである。

 

「・・・コレのおかげで私は常に「死の恐怖」に怯える日々を送らなくて済むようになった。

 いつ自分が死ぬのか、明日自分は生きていられているのかと、ビクビクして明日に怯えながら生きなくても良くなった。

 ただの命ある一個の命として人としての人生を、どう生きるかで悩み迷って考えられるようになったのだ。君のおかげで人間になれたのだ。これで変われない人がいるなら嘘だろう?」

「確かにな。君の言うことは間違っていない」

 

 私は大真面目に首肯して同意した後、おどけた笑顔で道化じみたセリフを言ってやる。

 

「――なにしろ作るのに、金と時間がかかっている。神の定めた運命を覆す禁断の領域、人の限界を忘れた愚か者の夢の結晶なのだ。これで効果がなかったら泣くに泣けないな、制作者としてはの話だが?」

「だから、それを言ってくれるなと言うに・・・」

 

 私は哄笑し、クルーゼは苦笑する。

 私が十数年がかりで手に入れた、望んだ結末へと至る道の肖像がここにある―――。

 

 

 ――実のところ、私がコズミック・イラの世界にシロッコとして生まれ変わったとき、プラントを選ばなかったのには幾つかの理由があった。

 

 まず第一に、私パプティマス・シロッコはニュータイプであってコーディネーターではない。ナチュラルなのだ。大人になった後ならシロッコのハイスペックに物を言わせて騙し通せる自信があったが子供の時もそれが通じる確証はない。

 クルーゼの子供時代と同じように地球でナチュラルとして生まれ、長じてからプラントに赴く方が安全であり確実であると考えた故でのことだった。

 

 そして第二に。こちらの方が本命というか狙いだったのだが、遺伝子工学について学ぶためである。

 プラントの遺伝子工学ではない、ナチュラルが持つ遺伝子工学に関する資料をコーディネーターを名乗る前に可能な限り知っておくこと。それはクルーゼを救うためには必要不可欠なことだったからだ。

 

 ご存じのようにコーディネーターの国家であるプラントと、ナチュラルによる国家連合体であるユーラシア連合・大西洋連邦とは、その創立された理由からして仲がきわめて悪い。

 戦争が勃発した後には事実上の国交断絶状態となり、平和目的だろうと何だろうと宇宙から地上に降りることが非常に難しくなるだろうことは想像に難くない。

 

 ならば戦争が始まる前から、訪れることが出来なくなる地が持つ情報を少しでも多く習得しておくことは技術者として当たり前のことでしかなく、やって当然の優先順位と呼ぶべき物だった。

 

 遺伝子工学ではコーディネーや―の方が圧倒的に上だとは言っても、やはり歴史の浅い国の資料では抜け落ちている部分がないとは言えないし、なによりも『失敗の記録』は次の成功のため非常に重要な意義と価値を持つ。歴史学において敗戦国の資料が特級の国家資料として重要視されるのはそれが理由なのである。

 

 失敗から学ぶことの大切さは、無論技術や科学の面にも応用される。

 事実、生まれつき優秀で失敗しづらいコーディネーターが持つ栄光の記録よりも、生まれつき平凡なナチュラルたちが持つ敗北の記録の方が遙かに参考資料として役立ってくれた。

 

 なぜなら私が作りたかったのは『確実に安全にコーディネーターを生み出す技術』ではなく、『最高のコーディネーターを作ろうとして失敗した結果の出来損ないを救う技術』なのだから。

 

 

「ああ、忘れていた。今週の追加分だ。使いすぎることなど起きないとは思うが、念のために持っておいてくれ。何かあったとき君の手元にないかもしれないと思うとゾッとしない」

「ああ、すまない。ありがとう、感謝するよ。これが減るとどうにも不安になるのでね・・・」

「わかるよ」

 

 原作の彼を見て知っている私は、心からの理解を込めて同意する。

 彼は自分の頬を指でなぞり、昨日までと比べて今日はどうなっているのか、かわってはいないだろうか確認するように震える指で擦り上げてゆく。

 

 彼がそうまでして不安がる理由も理解できる。

 ――なにしろ薬は完全なものではない。彼は完全に死の運命より脱した訳ではないのである。またいつあの日々に逆戻りするかと思って不安に怯えてしまうのは仕方がない。

 

 『生きられるかも知れない』と知った者にとって、死は何よりも恐ろしいものだ。

 『死ぬ以外に道はない』と信じていた頃と同じ精神など求めるべくもないほど圧倒的に。

 

 

 ――結論から言えば、彼の身体を苛む生まれつきの欠陥、『常人の数倍の早さで減り続けるテロメア』の問題はパプティマス・シロッコの天才を持ってしても解決することは不可能だった。

 私がシロッコの才能と、遺伝子工学技術において他のガンダムを大きく引き離す『SEED』世界の二大勢力プラント連合の技術を掛け合わせて作り出すことが出来たのは、『テロメアの減退速度を遅らせる薬』と、その効果を高めるための食事療法各種による補助的な延命療法のみである。

 

 如何にテロメアが、遺伝子が複製される度に短くなってゆき、クルーゼが年老いたアル・ダ・フラガの体細胞から創り出されたクローン人間に過ぎなかったとしても。

 クルーゼはクルーゼであり、残り寿命が確定しているアル・ダ・フラガ本人ではない。やりよう次第では普通の人間と同じように死ぬことは出来ずとも、『今日明日に死ぬ心配だけは皆無』という状態にまで持って行くことは可能なのである。

 

 その結果がもたらした効果は、今見てもらっているとおりだ。

 クルーゼには死ぬまでの間に『死ぬための心の準備をする時間』が与えられたことで安心感が生まれ、周りのことに目を向けるだけの余裕が出来た。

 死ぬまでの時間に何をしようか?と、考えて実行しても途中で強制中断させられる可能性が大きく削られたのである。

 

 私はこの程度が限界だったかと、シロッコの才能を十全に活かしきれなかった前世の自分の凡人さに落胆したが、クルーゼは逆に「これだけでも十分だ」と本心から浮かべた笑顔で笑って返してくれた。

 

 おそらくはこれが、『寿命で死ねるのが当たり前』で生きてきた現代日本人と、『寿命が最初から短く設定されている』動乱期の人間との間に広がる死生観の差なのだろうと、私はおぼろげながら実感させられ、キラ・ヤマトたち原作オーブ勢と周囲との間の温度差に多少ながらも納得させられたものだ。

 

 

「そうだ。私の方も伝え忘れていたのだが、出撃は二日後の一二〇八、船は第三デッキに停泊してあるから、忘れずに来てくれたまえよ」

「ずいぶんと急な話だな。何かあったのか?」

「諜報部からもたらされたばかりの超一級極秘事項だ。軍事機密なので許可なき者に口外はできん・・・などと言うのは今更過ぎるかな?」

「破棄したとは言え、人類滅亡計画の『ついで』として、プラントをも滅ぼすつもりでいた謀臣の陰謀計画を聞かされた身としてはな」

 

 ははははは、とまたしても笑い声で満ちる車内。

 そして笑いを収めたクルーゼが、表情を改めて語り出す内容に私の方も知らぬ間に、戦時下の顔へと筋肉筋を動かされていた。

 

 ついに“あの日”が訪れたのである。

 

「三日前のことだ。オーブが所有する中立コロニー『ヘリオポリス』方面と向かう連合艦らしき艦影を哨戒に出ていたローラシア級が目撃した」

「ほう?」

「見たこともないフォルムをしていて、すぐに見えなくなったそうだが、コンピューターに照合させたデータにも存在しないことから連合の新造戦艦であることが予想される。

 ――が、軍上層部は『また時代遅れな連合お得意の艦隊決戦思想か』と左程に危険視していない。「敵の能力ではこの程度が限界か」と、相対的に重要視して“やっている”がね。真面目に対処する気がないのは明白すぎるざっくばらんな対処を命じられてしまったよ」

 

 そこらのコンビニで面白い新商品を見つけたらしいと、その程度の情報を話すように気楽な口調で語るクルーゼだが、その内容は彼が言うほど自体を楽観視してはいないことを意味していた。

 

 ザフト軍が誇るエース部隊を率いる彼が“その程度の重要性しかない任務”につけることを上が快く思う訳がない。彼がかなりの無理を言って出港許可を取り付けてきたのは間違いない。

 彼ほどの男がそれほどに重要視する“ヘリオポリス絡みの新造戦艦”・・・考えられることは一つしかあり得ない。

 

「だが、それでも出撃(で)るのだろう? そうするだけの理由は何かな? 教えてくれないかクルーゼ」

「勘だ。私の勘がそうしろと告げている。

 “アレを見過ごせば、いずれその代価を我らが命で支払わねばならなくなる”・・・と」

 

 ビンゴだ。予想通りの答えに、私の表情も厳しく、そして好戦的になる。

 いよいよ『奴』と戦えるのかと思うと、パプティマス・シロッコとして、1人のガンダム凰として燃えるところがないはずが無い。

 

「故に出航許可を取り付け、補給も急ぐよう命じてある。

 ――が、どれほど急がせようと機械だ。人間の都合だけで早めるのには限界がある。どんなに急がせても二日後が限界だった。

 それまでに英気を養い、万全の状態で出撃して欲しいと願う隊長から新任の部下に対する心からの歓迎会だ。存分に飲み食い楽しむといい。君の奢りでな、シロッコ副隊長殿」

「・・・そこは出来れば、新任の部下に対する心遣いとして、隊長様からの奢りでとして欲しいところなのだがな? クルーゼ隊長?」

「それは次の機会にさせてもらおう。誰かと約束の一つでもしていた方が生き延びようという気にもなると言うものさ。

 それを教えてやるのが配属先の原隊指揮官として果たすべき義務・・・そのように解釈できるよう頑張ってくれたまえ、我が新しき参謀殿」

「・・・善処すると致しましょう、我らが戴く隊長殿」

 

 三度の笑い。戦場に赴くまえに訪れた束の間の休息時間に、戦士たちは休み英気を養い覚悟を手にする。

 敵と戦い、倒す覚悟を。必ず生き延びて帰ってくると誓う覚悟を。

 

 そして私は・・・・・・この狂った時代コズミック・イラが正常な時代の中の一つになれたことを目撃して、立会人となる。その為の覚悟を。

 

 

 今、時代の歯車が動き出す。

 その赴く先は誰も知らない、知らせない。

 未来を決める権利など、私が誰にも与えてやらない―――――――。



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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。第1章

シロッコSEED二話目です。前回と合わせてタイトルを原題に変更しました。


 

 ・・・カタカタ、カタカタ。

 ヘリオポリスにある工業カレッジのキャンパスでキラ・ヤマトは、教授から依頼された資料の作成を端末で行いながら、画面の端には常に戦時速報を表示させる癖がついていた。

 

〈――では次に、激戦の伝えられる華南戦域、その後の情報をお伝えいたします。新たに届いた情報によりますと、ザフト軍は先週末、華南宇宙港の手前六キロの地点まで迫り・・・・・・〉

 

「・・・・・・」

 

 意識して付いた癖ではない。ただ、幼い頃を一緒に過ごした親友と離ればなれになる切っ掛けとなった戦争について、他のオーブ国人よりかは深く調べて知識があったことも事実ではあった。

 

「お、こんなところにいた。また新しいニュースか?」

 

 肩越しに突然、ぬっと顔を覗かせてきた学友の登場に驚かされながらも、キラは我に返り、

 

「トール・・・・・・」

「うわ、先週でこれじゃ、今頃はもう陥ちゃってんじゃねぇの、華南?」

 

 お気楽な調子であっけらかんとコメントしてみせる友人の言葉に曖昧な微笑で返していると、第二の友人にしてトールのガールフレンドでもあるミリアリア・ハウもやってきた。

 

「華南なんてけっこう近いじゃない? 大丈夫かな、本土」

「そーんな。本土が戦場になることなんて、まずナイって」

 

 不安を交えたミリアリアの言を、トールは悪意のない口調で笑い飛ばす。

 彼らの住むヘリオポリスは、中立国オーブが所有するコロニーで、オーブが今次大戦への参加を頑なに拒否し続けているのは確かな事実であったから、彼の言うことはあながち間違ってはいない。

 どんな言い訳をしようとも中立国を攻撃することは非難を免れない蛮行なのだから、正面の敵と矛を交えている最中にソレをするのは愚策以外の何物でもない。

 オーブが“中立を貫き通す限り”、そう簡単には彼らの故郷が戦火に飲み込まれるという事態にはなり得ない。“条約が正常に守られ続ける限り”においては絶対に――――。

 

「それよりもホラ、行こうぜ? 教授がお前のこと呼んでるぞ? また資料の編集手伝ってほしいんだってさー」

「え、本当に? うわ、この前の分だってようやく終わったばっかりだって言うのに・・・」

 

 彼らに誘われ、手を引かれながら歩き出すキラ・ヤマト少年。

 

 ――そうだ、戦争なんて僕たちとは関係ない。コンピュータを閉じたら終わってしまう、画面上の表示に過ぎないものなんだから――。

 

 “この時の彼”はまだ、そう思っていたし、そう信じていたから、裏表ない率直な笑顔をたたえながら手を引かれ、教授のいる建物へ向けて歩き出し、何気ない仕草で空を見上げる。

 

 ――その時だ。

 

「・・・・・・?」

 

 ナニカが遠く微かに見えた気がして、コロニーの壁を透かし観たかのように『青い宇宙』を実感したかのような錯覚に襲われたのは――――。

 

「今のは、いったい・・・・・・?」

 

 つぶやく彼に答えるのは、先を急ぎたいトールのせかす声のみ。

 その声に「ごめん、今行くよ」と普通に返して、今感じた不思議な感触を記憶の中から忘却の淵に沈めてしまおうとする彼。

 

 だが、不思議とその感触は彼の脳裏に残り続け、今後も彼に『不快な感触』を与え続けることになる。

 

 これが後に、『ユニウス戦役』と呼称される大規模な戦乱の影で活躍した二人の天才の最初の接触だったことを、今の彼は知らないし今後も知ることはない。

 

 なぜなら彼は最強のコーディネーター。

 最強に近い位置にいるニュータイプの青年とは力の性質が異なる才能の所有者だったから―――。

 

 

 

 

 

 

 

「そう難しい顔をするな、アデス」

 

 遠く窓外に浮かぶ、『宇宙世紀』のものとは全く異なる形状をしたスペースコロニー・ヘリオポリスを眺めていた私の耳に、クルーゼの声が聞こえてきたのでソッと振り返る。

 彼は無重力状態の艦橋で遊泳しながら、艦長席に座るアデス艦長と入手した情報への対処法についてちょっとした口論をしているところだった。

 

「は・・・しかし。――評議会からの返答を待ってからでも、遅くはないのでは・・・」

「遅いな。私の勘が、そう告げている」

 

 パサッと、クルーゼが指ではじいて投げ渡してきた写真を手に取り眺めながら、私とアデス艦長、そしてクルーゼはそれぞれ異なる表情を顔に浮かべる。

 

 その画像は不鮮明ではあるが、間違いなく巨大な人型をしたロボットに使うものと断言できる装甲の一部が写されていた。

 パイロットであり、指揮艦であり、技術屋でもある私にとっては一目瞭然なそれも、アデス艦長のような船に長くいる人間には判別が難しいのか、あるいはガディキャプテンほど船乗り歴が長くないジャマイカンが、色を変えただけのボスニアの見分けが付かなかったのと似たような理由か。その両方か。

 

 どれにしろ彼は、この連合が開発したとおぼしき新型モビルスーツを奪取するため『中立コロニーに特殊部隊を送り込んで破壊工作をおこなわせる作戦』に消極的ながらも反対のようだった。

 

「・・・シロッコ副隊長は、この事態。どのように観ておられますか?」

 

 救いを求めるようなアデスの声に、私は今度は身体ごと振り返り、

 

「私も艦長の意見に賛成だな。この作戦案は却下すべきであると考えている」

「おいおい、シロッコ・・・?」

 

 ハッキリとそう告げた私の言葉が意外だったのか、クルーゼは仮面越しに「正気か?」と言いたげな視線を送って私を見る。

 そんな友人の不安を解消してやるため、私はより有効だと前世の頃から暖め続けていた案を開陳した。

 

「むしろ、ヘリオポリス政庁に堂々と抗議してやればいい。写真も添えてな? 『貴国は中立を放棄して連合に肩入れするのか』と。

 民間人諸君らにも聞こえるよう、オープン回線を使って大きな声で避難勧告を轟かせながらな。少数の我々が動くよりもきっと早く確実に事が片付くと私は考えるが、如何かな?」

「・・・悪党だな、シロッコ」

 

 先ほどとは異なる感情を込めた視線で私を見るクルーゼと、呆れてものも言えないとばかりに首を振るアデス艦長。

 

 対照的な反応を示す二人に私は白く輝く歯を見せて、シロッコらしい笑顔を浮かべて見せながら。

 

「戦いは非情さ。このくらいに卑劣な手は考えてある。

 ――それよりも私としては、敵が民衆に突き上げられてヘリオポリスから脱出してくるときに敵モビルスーツを奪うため、ノーマルスーツ部隊を貸してほしいのだがね・・・?」

 

 

 

「大尉ーっ」

 

 トレーラーから胴間声で呼びかけられ、地球連合軍大尉マリュー・ラミアスは作業服姿で振り返る。

 同じ任務に従事する同僚であり部下のコジロー・マードック軍曹が、無精髭だらけの顔を窓から突き出し怒鳴っていた。

 

「んじゃあ、俺たちゃ先に船に行ってますんでー!」

「お願いね!」

 

 周囲が騒がしいので、自然と真リューの声も怒鳴り声に近くなる。

 ここはヘリオポリス内にある国営軍需企業モルゲンレーテ社の地上部分に当たる。彼女たちは表向きモルゲンレーテ社の社員と言うことになっているから全員が地味な作業服を着ているが、実際にはそのほとんどが地球連合軍に籍を置く身であった。

 

「・・・ようやく“G”が完成まで漕ぎ着けられたのね・・・。これできっと戦局は動くわ」

 

 彼女が極秘裏に連合初のモビルスーツ開発計画に従事し始めてから数ヶ月、ようやく完成させることができた5機のGの搬出作業も順調そのもの。

 

 後は同じく極秘裏に建造されていた新造戦艦“アークエンジェル”に移送すれば、計画は完遂する。彼女の胸が感慨で満たされるのは当然だった。

 

 

 だが、しかし。

 いつの時代、どんな戦争であろうとも、敵にとっての幸福は味方にとっての災厄であり。

 味方を守るため死なせないため、敵の幸福は可能な限り邪魔するのが戦争における礼儀であり常識でもあるのもまた至極当然のことでしかなかったのだった。

 

 突如として天高く頭上から怒鳴り声同士によるやり取りが轟いてきたのだ。

 

 

『接近中のザフト艦に通達する! 貴艦の行動は我が国との条約に大きく違反するものである。ただちに停船されたし!』

 

 ヘリオポリス管制官らしき男の声にマリューたちはギョッとさせられる。

 ザフト軍!? まさかG計画を察知されたのか? いや、それよりもなぜ、こんな重要な会話を民間の電波に乗せて垂れ流しにしている? これでは機密も何もないではないか!

 

 そう怒鳴りたくなる彼女だったが、彼女が驚くにはまだ早かったことを思い知るのは次に聞こえた敵の声だった。

 

 落ち着いた渋みのある声で、その人物は語る。慣れた調子で敵の急所を的確に突いてくる。

 

『ヘリオポリス管制室に告ぐ。残念ながらその要求は受け入れられない。なぜなら先に条約違反を犯しているのは我が国ではなく、貴国だからだ。当方はその事実を証明するに足る確固たる証拠を入手している。

 貴国が我が国との条約を守り、今後も中立を貫く意志に変わりないと主張されるのであるならば、今すぐコロニー内にあるヘリオポリス工廠から連合に所属する軍属の人間と、開発中の新兵器の双方をコロニー外へ放逐していただきたい。

 それが成されないというのであれば、我が国は貴国が条約を犯し、連合に属する決定を下したものと見なさざるを得ない』

 

「・・・・・・っ!!!!」

 

 マリューたちは驚愕した。

 まさか自分たちの存在と計画、その全てが敵の手で暴露されてしまうだなんて! 一体なぜ!?

 

 ・・・いや、今はそれどころではない。一刻も早くGの移送を完了させて艦長に指示を仰がなければならない。

 幸いヘリオポリスは自分たちを見捨ててはいない。管制官が粘ってくれている間に自分たちは少しでもアークエンジェルまでの距離を稼がなければ! そう思っていた。

 

 ――それが公共の電波に乗せられていると知るときまでは―――。

 

 

『見よ! これが我々のつかんだ証拠だ! このモビルスーツとおぼしき5機の巨大人型兵器の実在を以てしても、呪わしき連合とオーブ首脳陣との呪わしき癒着の悪意を否定できる者がおろうか!?』

 

 ――民間のローカルテレビ局にまでメールで添付されて送られてきた画像。

 それは先ほどクルーゼから投げ渡された不鮮明なモビルスーツらしきものの画像――ではない。

 もっとハッキリとした、人型だと判る形を持った5機のGがトレーラーに乗せられ移送されていく光景を録画した、生々しい証拠VTRだったのだから!!

 

 

 

「――クルーゼ隊長の言ったとおりだったな」

 

 冷静な口調で言ったのは、イザーク・ジュールだった。先行して派遣された潜入工作班の隊長役を任されている少年兵である。

 

「それを言うなら、シロッコ副隊長もだろ?

 “綺麗事で飾り立てた国ほど突いただけで埃が山のように出るものだ”――ってさ」

 

 ディアッカ・エルスマンがくすくすと笑った。金髪に浅黒い肌、陽気そうな外見だがけっこうな皮肉屋でもある彼も潜入工作班の一員だ。

 

 彼らに与えられた任務は至極単純なものだった。

 艦隊に先行してヘリオポリス内に侵入し、敵モビルスーツの実在を示す証拠を確保して、シロッコとヘリオポリス管制官との会話をジャックして、入手した証拠と共に公共の電波に乗せる。それだけである。

 

 軍需用と違い、民間の電波はセキュリティが甘くコーディネーターである彼らにしてみれば、子供でもハッキングできる程度の安直なものでしかない。

 撮影した画像も、移送班に専門の軍人が付いていなかったのか警備網がスカスカで、堂々と侵入して脱出してくることができてしまった。

 ディアッカなどは思わず「戦争ってこんな簡単なものだったっけ?」と軽口を漏らしてしまうほどに、簡単すぎる任務。

 

 

 ――だが、効果は覿面だ。

 ヘリオポリスの住人たちは今頃政庁とモルゲンレーテ・ヘリオポリス支部に押しかけて猛烈な勢いで抗議していることだろう。

 政庁は政庁で、情報の出所を探っているかもしれないが、もう遅い。一度拡散した情報を押さえ込むことはコーディネーターでさえ困難を極めるのだから、自分たちより大きく劣るナチュラルごときに出来るわけがない。

 

「やっぱり間抜けなもんだ。ナチュラルなんて」

 

 イザークが、差別意識を隠そうともしないで言い切るのを耳にして、同僚のアスラン・ザラは少しだけ顔を歪めるが。声に出しては何も言わなかった。

 

 作戦は成功であり、戦闘行為も民間人虐殺などの非人道的行いにも手をだす必要性は生じなかった。今はそれで由とすべきところであり、いたずらに同僚同士で不和を持ち込む必要性は微塵もない。そう思ったからである。

 

「ただ、少し不完全燃焼だったな。連合のあのモビルスーツ、意外と面白そうだったのに・・・アレ奪って一暴れしていけたら最高だったのになぁ?」

 

 ディアッカがそう言って、せっかく押さえかけていたアスランの我慢を台無しに仕掛ける。

 

 彼らも、その後ろに続くアスラン・ザラ、ニコル・アマルフィ、ラスティ・マッケンジーのいずれもがザフト軍のエースであることを示す赤いパイロットスーツを着用しており、彼らを守るようにそれぞれのチーム構成員が周囲を取り巻くようにガードして飛んでいる。

 

 彼らは所謂エリートであり、功を焦る気持ちも手柄を欲して戦いを求める生の欲望も、子供らしく純粋に戦いを愉しみたい危険な感性も十分以上に持ち合わせており、簡単すぎる任務に退屈さを覚えていたのだ。

 

 だが、ここでディアッカを押さえたのは意外にも隊内で一番好戦的なイザーク・ジュールだった。

 彼は言う。

 

「ぼやくなよディアッカ。生きて母艦に帰り着くまでが潜入工作だと、クルーゼ隊長から言われたろ?」

「そりゃま、そうだけどさぁ」

「いいから聞け。隊長に続いて副隊長はこう仰られていたはずだ。“心配しなくても諸君らの遊び場は敵が自分から用意してくれるだろう。少しだけ彼らの死亡時刻が変わるだけのことさ”――とな」

「・・・ああ、そう言えば、そうだったよなぁ・・・」

 

 言い聞かされてディアッカは引き下がる。酷薄な笑みを口元にたたえながら、見下しきった視線で地上のモビルスーツ移送班を一瞥してから速度を上げて、イザークに追随する。

 

 もしもヘリオポリスが連合艦を匿い続けるのであるならば、適当なミサイルで威嚇射撃して市民たちの尻に火をつけてやるだけのこと。

 彼らは自分たちの身の安全を求めて、ヘリオポリス政庁に連合艦を即座に放逐するよう訴えかけるに違いない。

 恐怖と興奮で混乱している群衆たちを相手に、『そんな事実はない。敵の策略だ、落ち着け』などと言ったところで誰も聞く耳など持っているはずがない。

 そんな状況下で誰か一人でも住人の前で撃ってしまったら身の破滅だ。

 

 彼らにとって互いを守るために取れる最善手は、連合艦の放逐しか他になく、後はいつどの様にして放逐するのか。そのタイミングと戦術だけが考えるべき課題として残されるはずだ。そこを突く。

 

 

 

「そうして出てきてしまえば、後は簡単だ。事態は誰の目にも明白なほど見えやすいものになり、本国はあらかじめ事実を知っていたが故の行動だったと、事後ではなく事前承諾した上での作戦行動だったことにせざるをえなくなる・・・」

 

 私が作戦の趣旨を説明し終えると、心配性のアデス艦長が

 

「そう上手くいくものでしょうか・・・?

 もし民衆がヘリオポリス政庁の警備兵に大人しく従わされたりした場合には、我々だけが誰も見ていない舞台上で一人芝居を演じる道化の役を担わされる羽目になるのではありませんか・・・?」

 

 まるで、どこかのレーザー砲に改造されたコロニー内の劇場を見てきたことがあるかのように、大した証拠もない漠然とした疑惑と不満を口にする。

 

 とは言え、馬鹿馬鹿しいと言い切ることが出来ないのがSEED世界の住人たちだ。ロゴス時代における連合の圧政に唯々諾々と従って生きながらえていた彼らの人間性は信頼の於けるものでは決してない。

 

 しかし――。

 

「艦長の言い分もよく分かる。――だが、必死で逃げる奴らは怖いものなのだぞ? 助かるためにはどんな無茶でもやるのが、生き延びるために逃げ惑う民衆という者たちだからな」

 

 シーブック・アノーに、アムロ・レイ。どちらも避難民の一人に過ぎない身でありながら、戦乱の渦中で頭角を現し軍を代表するエースにまで成り上がったニュータイプ。

 彼らも最初の時点では、『自らが生き延びるため必死で戦っていた』。それ以外に戦うべき理由のない民間人の少年たちが生存欲求だけを頼りに一国の軍隊を撃破できるのがガンダム世界である。

 

 ならば今回が、その例に漏れる例外である理由も特にはない以上、必ず何らかの形で民衆による突き上げは起き、アークエンジェルは巣穴から叩き出されて出てこざるを得なくなるはず。そこを討つ。

 

「とは言え、連合も遊んでいるばかりとも思えない。脱出の成功率を上げるため、何かしらの手は打ってくるだろう。そう言うものだよ。

 偶然であろうとなかろうと、勝てるはずだった相手を取り逃すには訳がある。それは時代の流れを示すものかもしれんのだ。そんなものに逆らっては勝てる戦も勝てないよ・・・」

 

 そう。だからこそ敗れた。ティターンズもアクシズも、全体を通してみた場合にはエゥーゴでさえも最終的な勝利者にはなりえなかった。

 

「冷静なのですな・・・まるで戦争を舞台として演じる役者かなにかであらせられるようだ・・・」

「ククク・・・私は最終的に勝った者として、コズミック・イラの立会人になりたいと思っているから、そうも見えるか・・・?

 まぁ、見ているがいい。向こうには負けたくないから策を練る事情があるように、こちらには必勝を信じるに足る自信と事情があるのだと言うことを敵に教えてやる」

 

つづく



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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。第2章

シロッコSEED三話目。少し完成を焦りすぎたかもしれません。もしかしたら書き直す可能性もありますけど、一応は投稿しておこうと思います。


「艦長!」

 

 地球連合軍大尉、ムウ・ラ・フラガは本来着るべき軍服に着替えるまもなく、アークエンジェルの艦橋に飛び込んできて上官を求め声を張り上げる。

 

 民間船に偽装してヘリオポリスに入港していた彼の乗る船は本来、新造戦艦に配備されるモビルスーツのパイロットたちを運んでくるだけが任務であり、彼自身にしたところで船の護衛以外の任務は帯びていない。

 だから敵からの襲撃を受けること事態は予測された範囲内であったし、港に入った後に襲われるのは予定にはなくとも本来であれば有り得べきではない許されざる暴挙であったから想定しておくことそのものが難しい。

 

 

 ――が、今発生しているこの事態に限って言うなら予想できなかったのではなく、予測したくなかったと言う方が正しい窮状だったという方が正しかっただろう。

 

(まさか中立国であることを隠れ蓑に利用したことが裏目に出るとはねっ!)

 

「おお、フラガ大尉か! 良かった、無事だったのだな!」

「敵であるザフト艦の動きは!?」

「ここにくるまでにトレースした二隻の内、ナスカ級だけが警告を無視して接近し続けておる。・・・だが、巧妙にも領海内には一歩も入ってこないまま攻撃開始時刻だけを通達してきおった。

 “二十分待って連合艦を放逐しないなら、それを以てオーブと連合はザフトに対抗するため密約を結んだものと見なし、攻撃を開始する”・・・とな」

「・・・分かり易いブラフですね。ここまで条約を遵守して証拠を提示しておきながら、最後の部分だけは力押しの脅迫に出る必要性がない。明らかに本艦をヘリオポリス自身の手で追い出させにかかってきている・・・」

「同感だ。だが、既にヘリオポリスからは“一刻も早く出航してくれる”ように催促の雨が飛び交い続けている。まして二十分と明確な制限時間を指定されてしまったのではな・・・」

「パニックは、抑えようがありませんか・・・」

 

 無理もない、そう言わざるを得ない群集心理だとムウ個人は思うが、それでも悔しさに歯噛みせざるを得ないのもまた連合軍人として生きる彼の立場というものでもあった。

 

 誰だって自分はかわいいし、他人の都合に巻き込まれて死にたくはない。

 オーブは確かに表向きは中立を標榜しながら、裏では地球の一国家として自分たち連合の要請を受け入れて、こうして身分を偽り軍艦共々密入国させてくれている。

 

 ――とは言え、それらの事情はオーブの政治に深く関わっている一部要人たちのみが知る機密事項であって、ヘリオポリス全住民の内大半を占める民間人たちのほとんどには寝耳に水の出来事だったはず。驚き慌てて狼狽え騒がずに冷静な判断をと求める方が無理難題と言わざるを得ないのも確かな事実であったのだから・・・。

 

 

「とにかく、こうなってしまっては致し方がない。先手を打つ」

 

 民間貨物船の船長に偽装していた、アークエンジェルの艦長は作戦を決定した。

 

「敵の要請を受諾すると言って、二十分後に港を出た瞬間にローエングリン発砲。敵の意表を突き、その隙にフラガ大尉がナスカ級のエンジン部を奇襲して敵全体の足を止めて撤退に追い込ませる。

 数でも質でも敵より劣り、乗艦が乗り慣れていない新造艦とくれば、それしかあるまい」

「ですな・・・坊主共はどうされますか?」

「手が足りない以上は、出すしかない。――ただし、当艦の直援としてだ。対空機銃と副砲による援護射撃が受けられる中なら、OSが未完成なままでも弾除けぐらいには使えるはずだからな」

 

 艦長の言葉に、ムウはうなずく。

 搭載予定だった5機のモビルスーツ“G”と、それに搭乗予定だった若手のパイロットたち。

 本来なら軍事機密を預けられる関係上、彼らに安全な場所から戦争ゲームを見物させたやりつつ実戦経験を積ませてやりたいところであったが、現状においては望むべくもない贅沢でしかない以上、それら余裕を手にするためにも戦ってもらうより他道はない。

 

 冷酷なようだが、それが今の自分たちにしてやれる最大限彼らの安全を考慮した作戦案だったから・・・・・・。

 

「モビルスーツデッキ! 聞こえているな? 二十分後までに全ての機体を発進可能な状態にして待機させておくように。・・・なに?」

 

 艦長席に取り付けられていた受話器に手を伸ばし、命令を下した艦長の目が険しくなる。

 

「おい、それじゃ困るんだよ! なんとかならんのかなんとか! ・・・ええい、分かった! こちらで代理を探しておく! とにかくそちらは今使える分だけを確実に動かせる状態に持って行って待機させておいてくれ。分かったな!?」

 

 乱暴な手つきで受話器を置き、胸の前で腕組みしながら「まったく、なんと言うことだ・・・」と歯噛みしだす艦長。

 

 何が起きたのか気になったが、言い出しづらい空気を敏感に感じ取ったムウが沈黙していると、艦長の方が察してくれて口を開いた。

 

「上陸させてから艦に着くまでの間に、ヒヨッコ共の一人が暴徒化した民間人に襲われて怪我を負ったそうだ。利き腕にな。到底モビルスーツの操縦は不可能な状態だそうだ」

 

 思わず天を仰いでしまうムウ。踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂とはこのことだろう。ただでさえ少ない持ち札が、戦う前にさらに減ってしまったというのだから彼でなくても絶望感に囚われそうになるのは致し方あるまい。

 

 艦長は指揮シートに座りながらブツブツ呟き何かを言っていたが、作戦時にかかる負担がより大きくなった責任重大なムウには聞いていてやる余裕がなく、どの様な戦術で攻めるべきかと頭の中でシミュレートするのに忙しい彼は聞き逃してしまっていた。

 

「・・・ラミアス大尉が工業カレッジの地下で移送中に保護した民間人が協力を申し出てきてくれているらしいのが、不幸中の幸いか・・・・・・。

 しかし一体誰なのだ? 民間人でありながらロボット工学の権威でもある教授の片腕的存在でもあるカレッジの学生というのは・・・」

 

 

 

 警告から二十分後。ヘリオポリス前方の宙域にて。

 

「時間であります」

 

 アデスが時計を確認してから声を発し、

 

「ヘリオポリスの港湾デッキが開き、奥に軍艦らしき艦影を視認いたしました」

 

 オペレーターが報告し、それに被さるようにして別の艦橋要員が大声で危機の到来を告げてくる。

 

「敵艦に高エネルギー反応感知! 攻撃してきます!」

「退避! 方向は右だ! 急げ!」

 

 アデスが指示し、艦橋のクルーたちは緊張しながらも落ち着いた調子で指示を実行して敵艦からの奇襲より母艦を守り抜いて見せた。

 

 だが、危機はそれだけでは終わらない。ここからが本番なのである。

 

「敵艦よりモビルアーマー部隊の出撃を確認しました! 急速に本艦へ向けて接近中!」

「全速後退! こちらも迎撃のためモビルスーツ隊を発進させろ!」

 

 敵艦の動きに呼応するように艦長が指示を出し、敵味方双方の動きを眺めながらシロッコは他人事のような口調で独りごちていた。

 

 

「ま、こんなものか」

 

 ―――と。

 

 

 

 

「よしっ! 先手を取った!」

 

 地球連合軍のモビルアーマー《メビウス・ゼロ》のコクピット内でムウ・ラ・フラガ大尉は快哉を上げていた。

 

 彼が艦長の立てた作戦を実行するに当たって取った手段は単純明快なものだった。

 未だ敵には存在しないはずの新兵器、高出力ビーム砲《ローエングリン》を撃ってみせることで驚かせ、自分が出撃する瞬間を敵に見つからないよう目眩ましとして用い、天頂方向からナスカ級へと回り込んで接近、奇襲をかけてエンジン部を直撃させて航行不能とし、敵全体を撤退に追い込むというものである。

 

「やはりヘリオポリスからナスカ級に至るまでの途上で、ローラシア級が伏せてありやがったか!」

 

 周囲に漂うデブリに紛れ込むことで巧妙に隠れ潜んでいた敵の随行艦ローラシア級だが、天頂方向から俯瞰してみれば一目瞭然。

 一度に二隻を同時に相手取りながら母艦を守るには手が足りず、とにかく敵艦隊旗艦のナスカ級を倒してしまうことを最優先事項に据えざるを得なかったアークエンジェルとしては今の自分たちが持ちうる最高戦力を切り札としての特攻役に当てる賭けに出たわけだが、どうやら自分たちは賭けに勝利したらしいと言うことをムウは確信していた。

 

(ナスカ級から出てこようとしているモビルスーツは本物だ! ダミーじゃない! 敵は本当にこちらの奇襲を受けて驚きながらも即時対応しようとしているということだ! これなら勝てる!)

 

 そう確信して、後退しながらも逃げようとはしていない敵ナスカ級との距離をさらに縮めて、もう少しで射程に捕らえられると言うとき。

 

 

 キュピィィィィッン!!!

 

 ―――ムウの脳裏を嫌な予感が走り抜けた。

 

「この感触・・・きさま! ラウ・ル・クルーゼか!?」

『久しぶりだな、ムウ・ラ・フラガ!」

 

 天頂方向からナスカ級に向かって逆落としをしようとしていた矢先、さらに自機の上方から小隕石の影に隠れていたモビルスーツが姿を現し、手に持つマシンガンを乱射して突っ込んできながらメビウス・ゼロのエンジン部近くを擦られてしまった!

 

「ちぃっ! しまった! 後ろを取られた上に、この速度では・・・っ」

『お前はいつでも私の邪魔をしてくれたな、ムウ・ラ・フラガ! もっとも、お前にとっては今の私こそが最大の邪魔者なのだろうがね!』

 

 ダダダッ! またしても乱射。しつこいほど執拗に、攻撃の邪魔をしてくるため撃ち続けてくる。

 背後を取られて、上も取られる。およそ飛行機乗りにとって最低最悪の位置関係に歯を食いしばって耐え忍びながら、それでもムウは進むのをやめない。

 今の自分の目標は宿敵を倒すことではなくて、敵旗艦の足を止めることだ。

 

 それさえ叶えば後は、アークエンジェルの圧倒的火力に晒させられるだけとなり、ナスカ級を守るためローラシア級は盾とならざるを得ないし、仮に旗艦を見捨てて単艦で向かってきたとしても練度の差を補いうるだけの性能差がアークエンジェルとローラシア級には存在している。

 モビルスーツ戦ほど兵士の能力が絶対的な差として現れにくい艦隊戦で勝負を決めるのがムウの目的だった。こんなところで足止めを食ってはいられない! 一刻も早くナスカ級に一撃を加えてやらなくては!!

 

 そう思い、ひた走るムウの執念が生きることを覚えた敵に勝ったのか、ムウの駆るメビウス・ゼロは火力の乏しい有線式ガンバレルだけでなく、装甲の厚い敵用に搭載されている『対装甲リニアガン』の射程にも敵艦を捉えることに成功した!

 

「よし! これでっ!!」

 

 叫んで、ロックオンした全ての武器の発射ボタンを押そうとしたまさにその瞬間。

 ――敵艦『ヴェサリウス』の全対空機銃が一斉にこちらへと向けられて、射的距離ギリギリの間合いでありながら正確無比な射撃精度によりしたたかなダメージを被らされてしまった。

 

 特に、メイン武装である『リニアガン』と、『ガンバレル』二基の損失は大きすぎた。残された火力だけではいくら装甲の薄いナスカ級だろうと落とすことは不可能に近い。

 

『ヴェサリウスを、やらせるわけにはいかんな!』

「!?」

 

 突如として聞こえてきた、聞き覚えのない男の声。

 相手の彼は“お肌の触れあい回線”を通じて、こう続けてくる。

 

『連合のフラガ大尉だな? 我々は貴官らが保有する5機のモビルスーツの内、4機までを手に入れた。

 そちらが攻撃をやめ、停戦を受け入れて母艦への帰投を受け入れない場合は、貴官らの母艦を全面破壊する用意がある。

 繰り返す、我々は貴官らが保有する5機のモビルスーツの内、4機までを――――』

 

『大尉! 今すぐ戻ってきてください! これは敵の罠です! 大尉とアークエンジェルとの距離を開いて通信も満足に行えなくさせるための!

 大尉が出撃されてから直ぐに背後から敵のパイロットスーツ隊による奇襲を受け、白兵戦で5機のGの内4機までもを奪われ、現在のアークエンジェルは裸城同然なんです! どうか敵からの停戦勧告を受け入れて即時撤退を! 大尉!』

「ちぃっ! わかったよ!!」

 

 信号弾と一緒に照明弾を放ち、撤退の補助を担わせながら逃げ帰っていくムウのメビウス・ゼロを黙って見逃してやり、クルーゼは友人といつも通りに会話を始める。

 

「これで良かったのかな? 我が最良の友にして、最高の参謀格殿?」

『十分だ。もとより最初の攻撃で全てを得ようなどと思っていたわけでもない。敵の数を減らすことができ、減った分は味方として吸収することができた。

 こちらの損害はジン小破一機のみ・・・十分すぎる戦果だ。今はこれで十分としておくべきだろう。あまり追い詰めすぎると連中は何をしでかすか分からんからな』

「確かに・・・『血のバレンタイン』の件もあることだしな。窮鼠猫を噛む挙に出させるのは時期尚早か」

『そう言うことだ。欲をかくと碌な目にあわんのは歴史が証明していることでもある。作戦目標は達成したのだ。今は大人しく帰還してきて次の作戦に備えてくれ。人質に使えそうな場所から遠ざかったら、もう一度出てもらうかもしれん』

「やれやれ、指揮官使いが荒い参謀殿だなまったく・・・フフフ」

 

 頼もしそうに笑顔を浮かべて後方を確認するクルーゼ。

 遠くから四つの光点を見いだして、潜入させていたイザークたちが無事に敵モビルスーツを出撃した直後に襲って奪い取るのに成功したのだという事実を確認した後、母艦へ帰投していく。

 

 

 この戦いでザフト軍が負った損害は、戦艦というものを甘く見たパイロットの一人、オロールのジンが敵艦に接近しすぎて機銃で撃たれ被弾。小破一機のみなのに対して連合側は、出撃させていた4機のG全てを敵に奪われ、戦闘のどさくさの中で艦長およびクルーの一部までもが重軽傷を負うという悲惨なものとなってしまっていた。

 

 シロッコの立てた作戦は、母艦を囮にして敵主力を誘い込み、実は一機だけを除いて全てのジンを移し終えていたローラシア級によって敵母艦を奇襲して、迎撃に出てきた不慣れなパイロットたちから機体を強奪してくるというものであり、母艦さえ落とせばいいと信じたムウとは丁度対極にある作戦内容だったのである。

 

 

 こうして、無意味な陽動作戦を行わされてしまったアークエンジェルは大きく数を減らし、乗員の定数割れを引き起こし、一部を偶然収容することになった避難民の少年少女たちに委ねざるを得なくなってしまったのだった。

 

 度重なる条約無視と条約違反の数々に頭を悩まされながら、それでもアークエンジェルは地球へ向けての航海に乗り出す。

 一刻も早く船と生き残ったGを計画の発案者であるハルバートン提督へ届けるために。

 

 

 大天使に名を持つ白い船の孤独な航海は、まだ始まったばかりであった―――――。



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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。第3章

前回が半端な形で終わってしまったために大急ぎで書かせて頂きました。
補足回みたいな扱いになっております。


 ――カタカタ、カタカタ。

 キラ・ヤマトは連合が開発した新兵器モビルスーツ“G”の一機、《ストライク》のコクピットシートに座ってキーボードを高速で叩いていた。

 

「・・・ヤリブレーションを取りつつゼロ・モーメント・ポイントおよびCPGを再設定・・・ちっ、これじゃダメか。なら疑似皮質の分子イオンポンプに制御モジュールを直結させて・・・」

 

 独り言をつぶやきながら未完成だったOSを急速に形にしていく手腕に舌を巻かされながらマリュー・ラミアスは、忸怩たる念いに柳眉を曇らせていた。

 それはコーディネーターとナチュラルとの能力差に対するコンプレックスであり、民間人を戦争に巻き込んでしまった自分たち軍人の無能さを痛感するものであり、オーブが中立国でコーディネーターとナチュラルが平和裏に共存している国だと承知しているのに“敵国人だから”という偏見を完全に拭い去ることが出来ない自分自身の偏狭さに自己嫌悪したが故でもあった。

 

「・・・悪いわね、ここまでさせてしまって・・・」

「いえ・・・。僕としても助けてもらった恩はお返ししたいですから・・・」

 

 そう言って、顔を上げることなく言葉だけで返してくるキラ・ヤマト少年。その声は固く、決して彼の本意から来る行動ではないことを物語っていた。

 

「それに、僕としては一刻も早くあなた達にはヘリオポリスから出て行ってほしいですし、戦うなら巻き込んでほしくありません。

 そのためにアークエンジェルが武器を必要としているというなら、これくらいのことは手伝います。・・・早く終わらせて帰らせてほしいですから・・・」

「・・・・・・」

 

 マリューは答えず、手に持った飲み物に口をつけて黙り込む。

 民間人である彼には知らされていないが、今では艦長代行となっている彼女は知っていた。

 『先の戦闘で甚大な人的被害を被ったアークエンジェルに、戦える民間人を手放せる余裕は存在していない』という事実をだ・・・・・・。

 

 

 ――キラがマリューと合流してしまったのは、完全な偶然によるものだった。

 カレッジに到着して教授のラボに着いたのとほぼ同時に発せられた非常事態警報。

 それを耳にしたらしい、部屋の隅っこの方にいた『教授のお客さん』を自称していた金髪の少年(?)が「やはり、お父様は・・・!」とつぶやいて地下へと向かい走り出してしまったため、一緒に避難させようと後を追ってきたのだが、そこで運悪くマリューたちに退去を迫る暴徒化した群衆と、それに追われる“G”移送班と鉢合わせしてしまい、まとめて殺されないためには合流してアークエンジェルに逃げ込むしかなくなってしまったのである。

 

 

 その後、ヘリオポリスから脱出するための戦闘が始まり、パイロットたちが間に合った4機のGと、フラガ大尉の部下であるモビルアーマー部隊数機とが連携して敵一機を小破にまで追い込むが、代わりとして艦がダメージを負ったとき飛び散った破片に脇腹を貫かれた艦長が負傷し、残りの正規クルーのほとんどまでもが何らかの形と理由で負傷し戦闘続行不可能な容体に追い込まれてしまっていた。

 

 彼女たちのあずかり知らぬ事ではあったが、これは運命とも呼ぶべき世界の悪意による作為的な損耗によるものだった。

 

 『歴史の修正力』である。

 

 シロッコによってもたらされた激変に正史が細やかな抵抗をおこなった結果として、辻褄合わせのため艦長たちが犠牲の羊に供されてしまったのだ。

 

 これによりアークエンジェルは、多数の避難民を抱え込む必要性はなくなった代わりとして、多数の負傷兵を抱え込む羽目になり、ごく少数ながらも脱出時に暴徒たちから救助した民間人の少年少女たち数名を回収して処女航海に出航せざるを得ない窮状に追い込まれてしまったのだった。

 

「――そう言えば、この船って今どこに向かっているんですか?」

「・・・ああ、そう言えば伝えてなかったわね」

 

 思い出したように飲み物から口を離し、ラミアス大尉は先ほど副長たちと交わしたちょっとした口論を思い出しながら言葉を続ける。

 

「ユーラシア連邦が保有する軍事衛星“アルテミス”・・・“アルテミスの傘”よ。一応は同盟関係にある国が持つ拠点だから、補給は受けられるだろうってことでね。

 そこまで行き着けばひとまずは安心できるはずなんだけど、それを敵が知らないはずがない。必ず妨害するため動き出すと思われるの。だからその時、船を守れる力として“ストライク”はどうしても必要不可欠なのよ・・・」

「・・・・・・」

 

 キラは答えない。

 彼には、彼女の言ってることが正しいのか間違ってるのか判断して行動できるだけの自意識を未だ持ち合わせることが出来ていなかったから・・・・・・・。

 

 

 

 

 

「クルーゼ隊長へ、本国からであります」

 

 ブリッジクルーの一人が慇懃無礼な口調でプラント本国から届けられたばかりの命令書を差し出し下がっていった後、クルーゼは一瞥した命令書を私とアデスにも見るように無言で差し出してきた。

 

「評議会からの出頭命令ですか!? アレをここまで追い詰めて首を絞めている最中だというのに!?」

「中立国が所有するコロニー、ヘリオポリスに軍艦が接近しただけでも大事だからな。議会は今頃てんやわんやとなっているから沈静化させたい。そんなところだろう」

 

 クルーゼが至極冷静な口調で論評し、私もその意見に同意する。

 地球と宇宙とが争い合っている戦争の直中にあって、双方に利益をもたらすからと中立を尊重してもらっていた国のコロニーが、地球軍の新型兵器製造に関与していたことが露見したのだから、対オーブ政策を担当していた議会の一部は盛大に首が飛んでいることだろうし、市民たちとて今度ばかりは黙って公式発表を受け入れるわけにもいくまい。

 

 ロゴスの実在をテレビ中継で証明されたときの戯画を描かされるのは、誰だろうと真っ平ご免だからな。嫌でも現場責任者からの報告は聞いておいて証言してほしいに決まっているのだ。

 

 それに――――

 

 

「おそらくはその推測で間違っていまい。査問会に出席するようにとも、添えられていることだしな」

「査問会?」

「プラント憲章にもザフト軍基本法にも規定されていない、超法規的措置という奴だ。なんらの法的根拠も持たない恣意的な代物だよ。

 要するに命令を無視して独断専行した我々に釘を刺しておきたい。『今回だけは特別だからな?』と、秘密裁判ごっこでリンチにかけて上下関係をハッキリさせておく必要を感じた。そう言うことだよ、おそらくだがな?」

「・・・・・・」

 

 またもや呆れ果てたと言わんばかりのアデス艦長。

 まぁ、今回は気持ちは分かるが本国の言い分も分からなくはないものだからな。流石に今回のはやりすぎた。

 

 ここまでやった連中を、『結果良ければ』で不問に付してしまった場合、今後の大局に差し障りがある・・・そう考えるのは至極まっとうで正常な判断でしかない。避難する謂われは特にはないさ。

 

「無論、現場に立つ身としては迷惑でしかない、と言う艦長の気持ちも分かるがね?」

 

 そう言って、相手の肩をポンポンと叩いて労ってやりながら、私はクルーゼの隣へと向かう。

 

「さて、どうするクルーゼ? 如何に恣意的なものとはいえ、国防委員長が君に出頭命令を出すこと自体は立派に法的根拠を持つものである以上、無視するわけにはいかないだろうが・・・」

「まぁ、仕方がないさ。アレはガモフを残して引き続き追わせよう。・・・頼めるか? シロッコ」

「請け負わせてもらおう。これでも逃げる獲物を追いかけ回すのは得意なのでね」

 

 私は安請け合いして簡単に引き受けると、アデス艦長が懸念を示す。

 

「しかし、モビルスーツはどうされますか? 二艦に別けて追いかけるのは戦力分散の愚を犯すだけで、兵法の常道からは外れてしまいます。『兵力は集中して運用すべし』は戦術の基本中の基本でありますが・・・」

「問題ない。私の方は敵から鹵獲した分と、自分用にチューンしたジン一機だけがあれば十分だ。それ以外は持って帰ってくれて構わない」

「アレを投入されると!?」

「他にアレ以上の性能を持つ機体がない状況ではな」

 

 ローラシア級が搭載可能なモビルスーツ数の上限は5機だけなのだ。限られたペイロードを有効活用するためには、同じ数でも性能的にジンより勝るガンダムたちを選ぶのは当然の選択でしかない。

 

「データは先ほど私自身が取り終えた。もう実機が残っていようといるまいと大した影響はない。それよりかは実戦で使用させてデータ検証に役だってもらった方が都合がいい。

 ――宙域図を出してくれ! ガモフにも索敵範囲を広げるよう打電だ。直ぐに私も行くと申し添えた上でな」

「はっ!」

 

 先ほどの停戦に紛れて、敵は行方を眩ませたつもりになっているが、実際には逃げられるところも隠れられる条件に合った場所も限られている。そう易々と戦艦サイズの獲物が隠れられるポイントはない。

 厳密には広大な宇宙には無数にそう言う場所が存在しているが、航路図から外れてしまう恐れが発生してしまう。絶対に月へと帰還しなければならない船が取り得るギャンブルとしてはリスクが大きすぎる選択肢だ。

 本当の意味で追い詰められているならまだしも、そこまでは追い詰めすぎていない以上、連中は可能な限り安全策をとりたいはず。

 

 ならば妥当な線としてアルテミスへと逃げ込むのは間違っているとまでは言えないが・・・状況が状況だからな。

 ワッケイン指令と同様に頭が固いことで知られるナタル・バジルール少尉では、自分たちがもたらしてしまった状況の変化に柔軟に対処して考え方を改めることなど出来はすまいよ。

 

「奴らは我々が退くのに合わせて、既にこの宙域を離脱した可能性もありますが・・・」

「いや、それはないな。この近くのどこかでジッと息を殺して退いてくれるのを待っているのだろう」

 

 アデスが問い、クルーゼが答える。

 

「・・・網を張るかな・・・」

「網、でありますか?」

「ヴェサリウスは本国への帰路につくついでとして先行し、ここで速度を緩めて敵艦を待つ。シロッコにはガモフで軌道面交差のコースを索敵を密にしながら追尾してもらって、前と後ろから敵艦を討つ。

 本国も帰りがてらに土産を持ってくることぐらい許してもらっても罰は当たるまいと私は思うが、如何かなシロッコ?」

「悪くはない。――が、反対だ」

「シロッコ・・・?」

 

 クルーゼの不審げな響き。彼ほどの知謀の持ち主であっても、やはり今の段階ではGの登場によりもたらされた状況の変化を完全に理解するまでには至らないか。

 

「先の攻撃が始まるまでなら、その作戦が最善手だったと私も思う。だが、状況が変わった。

 敵は自らが、この戦争の趨勢を左右する力を有している事実を敵味方内外に知らしめてしまった。“あのクルーゼ隊を相手に一艦で生き延びた船”だからな。誰しも喉から手が出るほど欲しくなる存在に駆け上ってしまったのだよ。

 それこそ、『軍事同盟』などという損得勘定だけで結ばれた偽りの握手など振り払って、条約違反を犯してでも手に入れたいと願う禁断の箱にな・・・?」

「・・・ふ、ふふふ・・・君はつくづく性格が悪い男だな、シロッコ。敵の市民たちを利用した次は、敵の味方さえも利用して敵を噛みつきあわせる腹づもりか?」

「当然だ。その為にこそ先ほどは無理をせずに君を退かせた。最終的な勝利者になりたいだけの私にとって、あの場で無理をする必要性は微塵も感じられなかったからな」

 

 

「のんびり待つとしよう。読み通りに敵の交渉が決裂して分裂するのを。刻の運がこちらに傾く瞬間を焦ることなくゆっくりと、な・・・」

 

つづく



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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。第4章

 《アルテミスの傘》。

 ユーラシア連邦が誇る軍事拠点《アルテミス》を守る光学シールドの名前で、外側からも内側からも攻撃を通さないし通させない鉄壁の防御性能を誇っている。

 また、戦略上さして重要な拠点でもなかったためザフト軍も今まで手を出ししてこなかった場所の名でもある。

 

 

「だから攻撃をする必要はなく、敵が出てくるまで待つってこと? バカみたいな話だな」

 

 ディアッカ・エルスマンが皮肉気な笑いを閃かせながら言ってのけ、イザーク・ジュールが鋭い視線で友人を睨み付けてから吐き捨てるように言い切る。

 

「ふざけるなよ、ディアッカ。・・・シロッコ副隊長もお控えください。戻られた隊長に何も出来ませんでしたと報告するわけにはいかないのでしょう?」

「ふむ? 私はそれでも構わないと思っているのだがね。なにしろ我々に任された任務は脚付きの監視であって、撃沈ではないのだから」

「・・・っ!」

 

 不快気に顔を歪めるイザークとディアッカ。

 これが『脚付きが巣穴から出てくるまで攻撃は不要である』と断言した私の作戦案を聞いた上での上官に対する彼らの反応だった。

 

 クルーゼがプラントに向かって出航してから数時間が経過し、残されたローラシア級ガモフに移乗した私の指揮下にあるパイロットたちの間で早くも感情的軋轢が生じ始めていたのである。

 

 貸し与えられた四名の赤服の内、アスラン・ザラとニコル・アマルフィは比較的私の作戦案に好意的だったが、自他共に認める主戦派議員のご子息コンビ、イザークとディアッカがこれに不服を露わにしてきたのである。

 

「つまり、君たちは私の作戦案に反対なのだな?」

「そうは申しておりません。ですが――」

「では、どういう事なのかハッキリと口に出して明言していただけないかな? ジュール議員のご子息イザーク・ジュール君。

 私はザフト軍司令部から正式にクルーゼ隊副隊長の役職を拝命し、君たちの上官である白服を賜った身でもある。付け加えるならクルーゼ隊長からは自分が戻られるまでの間、隊の指揮権は私に委ねることを明言していただいた。

 そんな私の作戦案にケチをつけるからには相応の代案か、もしくは反対するに足る根拠があるはずだ。そうだろう? エルスマン議員のご子息ディアッカ・エルスマン赤服士官殿?」

「・・・それは・・・」

 

 自分の家柄と身分とを鼻にかけることのある彼としては、それらを逆用された状態というものに耐性がないらしく、アッサリと言葉の槍を封じられて黙り込まされてしまった友人の体たらくに義憤でも抱いたのかイザークもまた身体を前に乗り出す。

 

「失礼ではありますが、シロッコ副隊長。その言い様は卑怯です。軍においては地位身分家柄は関係なく、能力と結果だけを見て扱うべきとはザフト軍基本法にも明記された一般的なものでありますので、先ほどの言い様はそれに違反しております」

「そうかね? イザーク君。君から見て私の言い分は、そこまで卑怯な反則に見えていたのかね?」

「はい、てらいのない意見を言わせていただくなら、その通りであります。なによりもフェアではありませんでした。訂正する必要性があると判断せざるを得ません」

「そうか・・・」

 

 私は顔を伏せてから内心の笑いを隠し、相手の言い分に面白さを感じ取りながら、こう断言する。

 

「では、良く覚えておきたまえイザーク君にディアッカ君。戦争を行う戦場という場所に、フェアプレイ精神などという概念は存在しないのだよ」

「「・・・っ!!」」

「使えるものは何でも使う。敵味方問わず、身分家柄出身年齢家族関係・・・何でもいいし、どれでもいい。とにかく目的をなすのに役立ってくれそうなものがあるなら使わずに敗れた方の言い分が間抜けと言うだけなのだからな」

 

 先ほどよりも一層強い視線で睨んでくる二人。

 私はそれに構わず、自分の主張を四人に向かって語りかける。

 

「仮に相手と対等な立場で戦い合うのが正々堂々と呼ばれる概念だとしよう。では、モビルスーツに乗って戦車や戦闘機相手に戦っている我々ザフト軍を君たちは卑怯だと罵るのかね?

 “敵にあわせて自分たちも地ベタを這いつくばりながら敵を探して白兵戦で殴り合いをするべきだ”と、評議会で意見を主張する気があるというのかね?」

「そんなことは言っておりません! 俺はただ――っ!」

「ただ、何かな? ジュール議員のご子息、イザーク・ジュール君。君は一兵卒ではない、クルーゼ隊の赤として影響力を持つ議員の息子として何を語りたかったのだ? 何を主張したかったというのかね?」

「・・・・・・」

「言えんだろう。それは君が今まで楽をしてきたと言うことの証明だ。生の感情で語るだけで俗人を動かすことは出来るが、我々指揮官を相手にするにはいささか以上に不足だな。

 今少し自分の目の前の現実だけではなく、もっと広い視野に立って物事を洞察できるようになった方が君のためにもなると思うがね」

「「・・・・・・」」

 

 二人は悔しげな表情を浮かべて黙り込み、シロッコらしい言い分で論破した私のことを睨み付ける。

 私は二人を等分に眺めやりながら「とは言え・・・」と、言葉足らずだった部分を補足して付け加え、

 

「理屈だけで人も世の中も動かないのは確かだ。当然のことだがね、現実はアニメではないのだからな」

「・・・ご自分の正しさを証明されると仰られるのですか?」

「いいや、違う」

 

 胡乱げにやぶ睨みしてくるイザークに、私は白い歯を見せて笑いかけてやりながら、挑発的に断言してやった。

 

「分からないかね? 君たち未熟な若者に、戦争とヒーローごっこの違いというものを教えてやろうと言っているのだよ。分かり易く、勝敗という結果によってな」

 

 これにはイザークたちだけでなく、アスランとニコルも表情を硬くする。当然だ。なぜなら私は「君“たち”未熟な若者」と言った。これをイザークたちだけが該当されると思い上がるほど、彼ら二人は傲慢な性格の持ち主ではない。

 

「・・・副隊長自ら手本を見せていただけるというわけですか?」

「ああ。作戦行動中なので模擬戦しかしてやれないのは申し訳ないがね? 弾がもったいないのでペイント弾しか使わせてやることは出来ないが、少年たち向けの教材としては十分だろう?」

『・・・・・・』

 

 パプテマス・シロッコ特有の傲慢で尊大な物言いによる挑発は効果覿面だったらしく、四人はそろって硬い表情で黙り込むと強い意志を込めた瞳で私のことを睨み返してくる。

 

 が、ここで待ったをかけてきた者がいる。ローラシア級ガモフの艦長『ゼルマン』である。

 

「ま、待ってください副隊長殿。敵は目の前にいて、我々は奴らが出てくるのを待ち構えている側なのですよ? 敵の目の前で模擬戦を行うなど、わざわざ自分から逃げ出す隙を与えてやるようなものではありませんか!」

「だからこそだ、艦長。こうして我々が遊んでいてやれば、敵も出てきやすくなるだろう?」

「!! まさか・・・ご自身たちを餌にして囮役を!?」

 

 驚く艦長に私はうなずいてみせる。

 どのみちアルテミス内にいる限り、傘を解かなければミサイル一発撃つことも出来ないのが現在のアークエンジェルなのだから、傘にさえ注意していれば何をやっていようと不意を打たれる心配は低いだろう。

 

 それに、それをみたユーラシアのガルシア司令が指をくわえて見ているだけに甘んじられるかというのも興味深い命題だ。手柄欲しさで脚付きを強奪して出てきてこようとするなら、それはそれで面白いものが見られることだろう。

 

 無論、あの程度の男にやられっぱなしな主人公勢でもあるまいが、決裂が対立にまで騒ぎが大きくなったとしても敵である私にとっては有り難いだけだから一向に問題ないことである。

 

「で、ですが副隊長の機体は専用のジン一機のみ・・・・・・いくらチューンされているとは言え、G四機を相手にジン一機だけではいささか――」

「フェイズシフトがあるかないかの違いだろう? 実弾を使わない模擬戦では関係ない。

 ビーム兵器も当てられなければ、どうと言うこともないエネルギー食い虫なのは変わらんわけだしな」

「しかし・・・」

「それに、私のジンは十分速い。不慣れな機体で戦わされる未熟な若手パイロット諸君を相手にレクチャーしてやるだけなら、いい案配になるというものだ」

『・・・・・・・・・』

 

 終始無言のまま、四人は闘志を胸に燃えたぎらせながら私の後に続いてノーマルスーツに着替え、傘を解いた場合には敵の主砲射程範囲まで二キロほどの距離を取って四対一で向かい合っていた。

 

 

『始めます。よろしいですか副隊長殿?』

 

 興奮しているイザークに変わって、アスランがリーダー代理で確認を取ってくる。

 

「ああ、構わん。いつでも掛かってきてくれたまえ」

『やめるんでしたら今の内ですよ?』

 

 ディアッカが、特有の嫌な笑い方と共に言ってくるのを、私はシロッコらしい嫌みな笑いで応じて返す。

 

「ほう? 負けるのが怖いのかね、ディアッカ・エルスマン君。嫌なら尻尾を巻いて逃げ出してくれても構わんのだが?」

『・・・・・・』

 

 途端にムッツリと不機嫌そうに黙り込む。青いな、と思わざるを得ない。

 攻めるばかりで反撃されたときのことを準備できていないのでは、素人以下と言うしかないし、自分たちの対処できる範囲までしか敵の反撃手段がないと決めつけて考えるのは傲慢とさえ言えない無能怠惰によるものであろう。

 敵はこちらに勝とうとしているのだ。ならばいつまでも自分たちに有利なルールを適用させ続けてくれるはずがない。

 

 この当たり前なことが判らないらしいのが、SEEDの敵キャラたちムルタ・アズラエルやギルバート・デュランダル、パトリック・ザラにロード・ジブリールといった一般には優秀とされていたらしい人物たちという辺りがSEED世界の不思議というか歪みと言うべきなのか・・・微妙なところだな。

 

 

『――行きます!』

 

 開始の合図がガモフから出され、定石通りに一番機動性の高いアスランが先行して私の後ろ、彼にとっての前方に右回りで高速移動する。

 その隙に残りの三機も配置につき、ニコルの《ブリッツ》は左に、ディアッカの《バスター》は右に、正面からの白兵戦を得意とするイザークの《デュエル》は正面から動かないままこちらを牽制し続けている。

 

 オーソドックスな包囲陣だ。周囲が援護する中でイザークが接近し白兵戦を仕掛け、残りは包囲網を維持しながら数的にも心理的にも圧迫していく作戦。

 四倍の兵力を有し、四方を取り囲める数の差がある場合には一見有効な先方のように見える。

 

 が、しかし。

 

「あまりにも教科書通り過ぎる作戦だな!!」

『っ!?』

 

 機体を加速させて突貫しながら、私は通信越しに相手の驚愕した呻き声を聞く。

 然もありなん。私が突っ込んでいって接近戦を挑んだ相手は遠距離砲戦型の《バスター》・・・ではなく、偵察を得意とする特殊な武装が多い《ブリッツ》・・・でもなかったのだ。

 

 私が接近白兵戦を挑んだ相手は、四機の中で最も接近白兵戦を得意とする機体イザークの駆る《デュエル》だった。

 まさか敵の方から自分たちに有利な選択をしてくれるとは思ってもいなかったらしく(その為に唯一動かないで隙を見せない機体にデュエルを選んだのだろう)、デュエルは一瞬慌てたが、そこは彼も赤だ。狼狽え様など一瞬で消し去り、ビームサーベルを抜いて機先を制されるため前に出る。

 

『舐めるなぁぁぁぁぁぁっ!!!』

「ふっ・・・」

 

 燃える彼だが、あいにくと今の私たちは一対一で戦っているのではない。一対四のハンデ戦であろうと、これはチーム戦なのだよ。

 

「勝てると思うな・・・・・・小僧ぉぉぉぉぉっ!!」

『なにっ!?』

 

 突如としてジンの下腹部から現れた隠し腕――ジオに搭載されていたものと同じギミック――により意表を突かれた彼は、手に握られた実体ナイフの一撃を避けるために突撃を停止。

 やはり青いな、と私から酷評される動きを見せてしまう。

 

 ・・・敵の目の前で動きを止めるのは素人か、経験の少ない未熟なパイロットだけである。

 そして彼らは年齢的には後者に分類されるだろう。

 所詮、才能があるからと徴兵されて一年未満の戦争でエースにまで成り上がった少年兵たち。どうしても経験値不足から来る自分のやり方が通用しなかったときの対処法が疎かになりすぎている!

 

「ふっ、掴んだぞ! イザーク!」

『くっ! おのれぇぇぇぇぇぇっ!!!!』

 

 ジェリド中尉よろしく、背後に回り込んで敵の機体を羽交い締めにした私のジンを振りほどこうと藻掻くイザーク。

 だが、彼は解っていない。屈辱感から来る怒りで興奮するあまり、周りが見えていないのだ。

 

 敵の機体を掴んだことによる接触回線が可能となり、イザークのコクピット内で交わされている会話がマイクから漏れ聞こえてきた。

 

 

『イザーク! 退いてくれ! これじゃお前に当たっちまって敵が撃てない!』

『そんなことは言われんでも判っている! 直ぐに振りほどく! お前らは大人しく見ているだけでいい!』

『アスラン! 僕が背後に回り込んで副隊長の機体だけを接近戦で仕留めれば・・・っ』

『・・・いや、ダメだニコル。この人はそれを通じさせてくれるほど甘い相手じゃない。近づいていって誘うとした瞬間に機体を振り向かせてイザークを刺すことになったあげくに、返す刃でお前までやられる。悔しいが、ここは様子を見るんだ・・・』

 

 ふっ・・・まぁ、アスランだけは及第点としておこうか。――合格点には程遠いがね?

 案の定、羽交い締めにされている味方を撃つことを恐れて攻撃の手を止めざるを得なくなるガンダムパイロットたち4人。

 

「やれやれ、坊やなことだな。実戦ではなく模擬戦でしかないのだから、味方ごと撃ち抜いてしまっても一向に構わないのだぞ?」

『!!!』

 

 私が教えてやると、四人はそろって愕然とした空気で回線中を満たしきる。

 ま、無理もないか。こう言う発想の転換は知能指数やテストの成績に反映されるとは限らない優秀さだからな。

 

「しかし暢気だな、諸君。敵が自分たちに都合のいい状況がくるまで大人しく今のままを維持してくれるとでも思っていたのかね?」

『『『!!!!』』』

 

 状況を観察するため、そしてイザークの脱出を援護するため距離を詰めてきていた三機はハッとしたように気づいて距離を取ろうとするが・・・遅すぎたな。

 

「そら、お迎えがきたようだぞ。仲間たちの元へ戻りたまえ!」

『ぐわぁっ!!』

『え、ちょ、イザークっ・・・!? うわぁっ!?』

 

 脱出しようと藻掻いていたイザーク機を、望み通りに解放してやり後ろから蹴飛ばしてニコルの方へと突き飛ばしてやると、逃げようとしていた優しいニコルは避けることを選ばずに受け止めようとしてぶつかり合い、絡み合ったまま予定していたよりも後方へと強制的に移動させられる。

 

 お荷物を捨てたことで自由を得た私は、まだ比較的近くにいたディアッカのバスター目掛けて最高速度による急速接近、白兵戦を仕掛けようと“してみせる”!

 

『うわっ! 来やがった! こんのぉぉぉぉぉぉっ!!!!』

『ディアッカ!!』

 

 背後からはMA形態に変形した《イージス》が迫り、ディアッカは先ほどの教訓から威力が大きく一発で確実に仕留められる超高インパルス長射程砲で狙うことは最初から諦めて、命中率重視の対装甲散弾砲に狙いを絞る。

 距離的にはギリギリ長射程砲でも撃てないほどではなかったから、これは英断の部類に入るのかもしれないが、それでもまだまだ甘いと言わざるを得ない。

 

 彼がここで選ぶべき武装は、両肩に装備された220ミリ径6連装ミサイルポッドだった。

 アレを乱射すれば全て避けられるとも距離だけは稼げた。仕切り直しが可能だったのだ。

 にも関わらず『攻撃すること・当てること』を選んでしまったのは、生まれながらに高い能力を有するコーディネーターの傲慢。

 スペック頼りの戦い方で勝ち続けてこられたことによる弊害だろう。

 

『食らいやがれぇっ!!』

「ふっ」

 

 私はニュータイプ能力による先読みで相手の撃とうとしている先、弾道を予測し、空間把握能力により目の前から迫り来る敵への対処で頭がいっぱいになっているらしい敵よりも正確に敵味方の配置図を脳裏に思い浮かべていたから、余裕を持って敵の散弾を横に避けて回避した。

 

 

 “ディアッカを救うため大急ぎで駆けつけようとしていた、模擬戦だから多少の損害は無視しても構わないことを学ばされたアスランの乗る《イージス》が来ている目前で”――な?

 

 

『ぐわぁっ!?』

『アスラン!? バカ! 何やってんだよお前!』

 

 助けに来てくれた同僚に対して非道い言いようだが、良いだろう。子供の言うことだ、許してやるとしよう。

 ――どうせ彼も直ぐに同じところへ送ってやることだしな・・・。

 

「やれやれ。友達思いなのはいいことだが、目の前で敵に避けられたことを忘れるのは感心しないな。せっかく友人が助けてくれた命を無駄に散らせる羽目になっても知らんぞ?」

『!? しまっ・・・・・・ぐわぁぁぁぁっ!!?』

 

 中距離および遠距離型に特化しすぎたせいで、接近戦用の武装がほとんど装備されてないバスターでは、味方がやられた時点で全速後退離脱が正しい。味方の死――この場合は敗退だが――に嘆き悲しみ叫んでいる暇などないのである。

 

 模擬戦故にフェイズシフトによる防御補正はジンの攻撃で敗れる程度に設定されているおかげで、五回ほどジンの持つ重斬刀で切りつけるだけで撃墜判定させることが出来たバスターをほっぽり出し、私は残る二機へと向かって徐々に距離を詰めていく。

 

 この時交わされていた会話は、距離があるので私が聞くのは不可能だったが、模擬戦後の反省会時にガンマイクで録音されていたのを聞く限りでは、こう言っていたようである。

 

 

『・・・おのれ! このままやられっぱなしでいられるか! ニコル、こうなったら二人がかりで奴をやるぞ! 二機による同時攻撃と性能差であのニヤケ面を押し潰す!』

『で、ですがイザーク。ここまでこちらの動きを先読みした作戦を立案された副隊長です。そんな当たり前すぎる手が通用するでしょうか・・・?』

『敵が策を弄するときこそ有効なのが正攻法だろうが!? 恐れるな! 最悪、二機でかかって一機でも生き残れば俺たちの勝ちだ! これは模擬戦だと言うことを忘れるなぁっ!』

 

 

 ・・・ああ、イザーク。君は言うことは非常に正しい。惜しむらくは正しい答えに行き着いたのが“遅すぎた”のが致命的だったな。

 

「終わりの句は詠み終わったかね? ではそろそろフィナーレと行かせてもらうとしよう」

『っ!! 行くぞっ!』

『は、はいっ!』

 

 ほう、突貫か。最後は二機がかりによる数の差で力尽くの勝負を挑んできたというわけだな。・・・最初の時点でその手を選んでいたならば、私に出来ることなど何一つ無かったというのに・・・。

 

「だが、今となっては無意味だな。我武者羅に突っ込んでくるだけで勝てるのは、ヒーローごっこの主役だけだと言う現実を教えてやるとしよう」

 

 私は至極冷淡な口調でつぶやいて、ゆっくりとライフルを持ち上げ先陣を務めるイザーク機に狙いを定める。

 

『・・・・・・』

 

 彼は避けない。

 覚悟を決めたのか? 損害を無視して接近して勝てる賭けに出たのか? ・・・否である。

 

「狙いは悪くなかったが、人選ミスだったぞ? イザーク。そこは本来ニコルのいるべきポジションだった」

『!!! しまった!?』

『ぐわっ!?』

 

 自身を盾に使って接近してニコルが仕留める、フォビドゥンを撃墜したときの戦法を応用した戦い方は、だが余りにも見え透いた配役が災いしたことによりデュエルよりも機体幅が大きいブリッツの各部位を狙い撃ちされたことによる合計点で撃墜判定が確定された。

 

 これで残るはイザークのデュエル只一機のみである。

 

 

『く、クソォォォォォォォォォッ!!!!!』

 

 今度こそ覚悟を決めたイザークの突貫。

 私はそれを眺めながら「ふっ」と冷笑し、ライフルを握らせていた機体の腕を下げさせる。

 

『!? 貴様! 俺を侮辱するのか!? 俺とてジュール家の男だ! ただでは負けぇぇぇぇっん!!!!』

 

 叫んだ瞬間。声が終わるのと重なるように。

 

 

 ビー―――――――ッ!!!

 

 

『シロッコ副隊長、模擬戦の予定終了時刻に達しました。母艦にお戻りください』

「うむ。正確な時刻観測と報告、感謝するゼルマン艦長」

『いえ! こちらこそ勉強させていただきました! 次の実戦に活かしたいと思っております!』

『・・・・・・』

 

 ちなみにだが、最後の無言はイザークである。

 奴め、さてはこれが模擬戦であることを完全に失念していたな? これだから目の前のことばかりに囚われる子供は度し難いのだ。

 

 

 

「次は負けません! 絶対にです!」

 

 ガモフの狭苦しいガンルームで息巻くイザークをニコルとアスランが二人がかりで宥めに掛かり、ディアッカがふて腐れた表情でそっぽを向いているのを眺めて面白く感じながら、私は彼らに問いかける。

 

「なぜ、君たちは格下の敵相手に敗れたのか解るかね?」

 

 ――と。

 帰ってきたのは至極当然の口調で「悔しいが、自分たちは敵より弱かったから」だった。

 

 無論、採点は0点だ。箸にも棒にも引っかからないとはこの事だな。

 

「違うな。君たちが敗れたのは君たちが私よりも弱かったからではない。君たちは“戦士であって、軍人ではない”からだ」

「・・・??? どういうことでしょうか? シロッコ副隊長・・・」

 

 アスランが聞き、私は彼の目を見ながら一元一句正確に思い出すよう注意しながら、前世で読んだガンダム小説の一文を記憶の墓場から掘り起こす作業に自分の頭脳を集中させた。

 

 

『機動戦士ガンダム外伝~コロニーの落ちた地で・・・~』という作品がある。

 

 確か始まりはセガサターンソフトだったと記憶しているが、古すぎるので私自身プレイした記憶はない。小説版を読んだだけである。

 そのノベライズ版の中でジオン軍パイロットについて面白い記述があるのを前世の頃から興味深く見ていたのが私であった。

 

 本に書かれたいてことの概要はこうである。

 

“ジオン軍は数の差を質で補うため、個人的技量の向上を軍全体に推奨させていた。

 その結果、一人前の腕を持つパイロットたちは育ったが指揮官不足が目立ち始めてしまい、優秀なパイロットを小隊長に据えても自分が突出するだけでチームプレイにはならなくなってしまっていた”

 

“それに対して連邦は数の差を活かすためにチームで戦うことを徹底させた。

 この戦略は功を奏し、パイロットとしてはエースに手が届くか否かと言った程度でしかない連邦マスター・P・レイヤー中尉率いる主人公チームに、質ではほぼ全員が勝っていたジオン軍モビルスーツ部隊は敗北を繰り返させられる結果をたどる”

 

 そんなジオンの状況を連邦の将軍が表して言った言葉がこれである。

 

 ――ジオン軍にいるのは軍人ではなく、武人か戦士である。・・・・・・と。

 

 

 

「諸君らは自己の技量に自信を有する余り、他のメンバーとの連携を軽んじ、四対一のチーム戦ではなく、『一対一を四つ作ってしまいながら戦っていた』のだよ。

 ただでさえ技量に差があるのだ。それを互いが互いの得意とする戦い方の邪魔になるからと協力する意思に欠けていたのでは却って足手まといにしかならない。

 君たちは知らず知らずのうちに味方を足枷として使いながら私と相対してしまっていたのだ。

 数の差によるハンデが事実上消滅した戦いの中で、目に見えない足枷付きのハンディ戦だぞ? 勝てるわけがない」

『・・・・・・』

「要するに諸君らは、自分を高める前に、まず互いのことを知り合っておけと言うことだ。

 言っておくが、今更言われるまでもなく“アイツのことは解っている”はなしだぞ?

 判っていると信じることと、キチンと理解し合っていることは別物だからな」

『・・・・・・・・・』

 

 ある意味では、ニュータイプらしい『分かり合うことの大切さ』を説いてやりながら、一方で信頼を『自分勝手な思い込み』と決めつけてみせるニュータイプ否定的なセリフを吐いた私の耳に、部屋の壁に埋め込まれているスピーカーから艦長のダミ声が轟いて報告を上げてきた。

 

 

『副隊長! 敵が動きました! どうやら脚付きはユーラシアと決裂して、アルテミスを脱出するようです! 要塞各所で爆発光が視認できました!』

「・・・読んだとおりだ。時の運はこちらに傾いてきた」

『脚付きはアルテミスと交戦しながら脱出しております! 今なら攻撃の機会です! 副隊長、ご命令を!』

「無用だ。行かせてやれ」

『・・・は?』

「こちらは運動の後で疲れているからな。挑むなら、休憩して万全の状態を整えてからにしたいものだとは思わないか? 艦長」

『し、しかしみすみす敵を沈めるチャンスを逃すのは・・・』

「まぁ、聞け。確かにこれは機会ではある。敵と戦いながら逃げようとしているのだからな、横合いからの不意打ちを恐れざるを得ないだろう。・・・つまり――」

『!! 逆に今は警戒されている・・・と、言うことですか?』

「そうだ。奇襲をかけるなら心身ともに疲れ果てて、安心して休めると思ったその瞬間が最も適している。ただでさえ数が少なくなった今の我々で挑む必要は無い」

『なるほど・・・』

「それに、敵は危なくなればアルテミスと再び手を組む可能性が出てきてしまうかもしれん。従わなければ死ぬしかないという状況では、双方共に個人の都合を言ってはいられんだろうからな。

 そこまで追い詰めるよりかは、敵を炙り出せただけでも由としておこうではないか。なにしろ我々に与えられている任務は“脚付きの監視”なのだからな。

 ――皆もそれで良いな?」

 

「異論はありません。俺は副隊長の指示に従います」

「僕もです。先ほどの見事な手腕を次の戦場では敵が味わうのだと思うと同情して見逃してあげたくなりますから」

「――ま、俺は負けたんだしぃ? 負けた奴が勝った人に自分の意見を押しつけるのは、それこそフェアじゃないでしょう。そうだろ? イザーク?」

「―――っ知らん! 俺は疲れたので失礼させていただきます!」

 

 叫んで出て行ってしまうイザークを、苦笑しながら追っていってやるディアッカ。

 去り際にこちらを見てウィンクをよこしてくる辺り、彼もなかなか良い男なのだろうと、あらためて思う。

 

「・・・意外な一面を見ましたね」

「あ、ああ・・・」

 

 ふふふ、原作よりも早い時期から仲良くなれそうでなりよりだ。その調子でニコル生存フラグでも立ててやってくれると有り難い。

 なにしろ地上での活動時には私やクルーゼが介入する余地はほとんど無いのが原作なのでね。

 

「なんにせよ、これでユーラシア連邦と大西洋連合との間に楔は打ち込めた。脚付きという、太くて頑丈すぎる純白の楔がな・・・ふふふ。

 いつ世も、地球にとって白い船が永遠の疫病神となる運命は変わらぬのだよ・・・ククク・・・」

 

つづく



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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。第5章

昨晩、他のを書く片手間で書いてたものに先ほど色々手を加えて完成させた回。
内容を要約するなら『アスラン、詭弁にもてあそばれる回』・・・ですかね?


 アークエンジェル艦内の空気はピリピリして、帯電しているかの様になっていた。

 無理もない、アルテミスで受けられる予定だった補給は受けられず、基地司令ガルシアの暴走により力尽くで艦内から追い出され掛かったところを連合クルーの機転に救われなんとか脱出したばかりという窮状にあるのだから・・・。

 

 そんな中でムウ・ラ・フラガ大尉より提案された『デブリ帯に流れ着いた宇宙ゴミの中から、必要分の物資を拝借してくる』というアイデアが好意的に受け取られないのも仕方の無いことであった。

 

「しかたないだろ? そうでもしなきゃ、こっちがもたないんだから」

 

 開き直ったように、あっけらかんと言うムウだが、本来この手法は妥当なものである。

 戦場の何処ででも行われている平凡な行為に過ぎず、むしろ持っている他人を殺してでも奪おうとしないだけ人道的な範疇に属しいるとさえ言い切れるのが戦争というものの本当の醜さであるのだろう。

 

 だが、そんな現実は戦争を『画面の向こう側で起きている無関係な出来事』としか見てこなかったヘリオポリス出身の少年少女たち現地徴用兵には理解できないし、したくもない。

 アークエンジェル本来のクルーたちにしたところで、国運を賭けた一大プロジェクトであったため人選基準に意識の高さや使命感など人格的な面を優先せざるを得ず、実戦経験の有無については開発班の方まで配慮している余裕は今の連合になかった。

 

 要するに、『これは戦争なんだ』と言いながら、泥臭い実戦を経験した者たちがほとんど存在しないのがアークエンジェルというエリートたちが乗る艦であり、『自分たちのしている苦労が一番大変だ』と思い込んでいる苦労知らずの艦だったと言うことでもあるのだろう。

 

「死者の眠りを妨げようというつもりはないわ。ただ、失われたものの中からほんの少し、いま私たちに必要なものをわけてもらうの。―――生きるために」

 

 

 マリューは、自分の言葉を詭弁のように感じながらも断固とした口調でそう言った。

 生き残りためにゴミを漁る盗掘者の汚名を得ることになる自分たちを恥じ入るが故の言葉。

 だが、それは逆に自分たちの行う戦争が『自分たちが生き残るため敵の命を食らい合う大量殺戮者同士の殺し合い』だと認識できていなかったが故の発言でもあった。

 

 

 ・・・外観も中身も、乗っている搭乗員までもが純白の船アークエンジェルは、こうしてデブリ帯に向かって舵を切る。

 

 流れ着いたゴミの巣窟を、墓標の群か何かのように思い込みながら粛々と重々しい機動でゆっくりと宙を泳ぎながらまっすぐに・・・・・・。

 

 

 

 

 一方。

 そのアークエンジェルを背後から追尾し続けるザフト艦ローラシア級ガモフの指揮官代理、パプティマス・シロッコは、この時ある決断を下していた。

 

 

「・・・少し仕掛けてみるか」

「は?」

 

 隣で間の抜けた声を出すゼルマンを余所に、私は人には聞かせられない内容をはらんだ作戦案を自問自答することに没入していく。

 

 前世における原作知識との辻褄合わせが、それである。

 

 ・・・現在、アークエンジェルはデブリ帯に向かっているところであるだろう。多少の誤差はあったが、それでも敵方の物資云々に関してまで私の影響は及ぶべくもないからな。窮乏しているはずだ。

 冷たく暗い人の住めない場所、宇宙空間で人が生きていくために必要な物資が手に入る場所など、コロニーなど人工の大地以外では他にあるまい。

 

 問題は、これを邪魔するため動くか否かだった。

 

 原作だと、この時点で我々ザフトは攻撃を仕掛けていない。アルテミスの爆発によって脚付きの所在を見失っていたからである。

 が、私は敵がどこに向かっているかを知っている。現在地が判らずとも、作戦目的と目的地さえ判れば十分すぎるのが戦争というものである以上は問題ないと言えるだろう。

 

 問題があるとするなら、数である。

 本音を言えばクルーゼが連れて帰ってくる大兵力を加えて一気呵成に攻め掛かり殲滅するつもりでいた。

 最悪、アークエンジェルとストライクについては、ザフト艦として迎え入れることも今となっては可能なのである。

 クワトロ大尉の例もあるし、二重スパイになるという口約束を口実に解放してやってもいい。どの道を辿ろうとも戦争の早期解決に役立ってくれさえすればそれで十分すぎる存在なのだから、歴史の誤差など無視すべしと断定していたのが私であったのだ。

 

 

 それを今になって前言を撤回したのには、当然ながら訳がある。

 語るまでもない、アスラン・ザラとキラ・ヤマトが接触してどの様な反応を示すのか確認しておくべきであることに思い至ったからだ。

 

 ・・・キラ・ヤマト。そして、アスラン・ザラ。

 SEED世界におけるバケモノとしか表現しようのない、あの二人はコズミック・イラにおける最大にして最悪の不確定要素だ。接触したとき、どの様な化学反応を起こすのか確認しておかなければ怖くてとても使い物にならない危険物といえるだろう。

 

 だから私は決断した。

 多少の損害はやむを得ないし、実戦経験の少ない今ならまだイザークたちでも無傷で帰還できる可能性が高い。

 撃墜できる可能性については・・・まぁ、無理だろうな。『未熟な内なら勝てる』のであるなら、歴代ガンダムシリーズの敵キャラたちは苦労しなかったであろうから。

 

 才能のある人間はナニカ持っているものだという。

 それが実力か、運の良さか、はたまた主人公補正によるものかは、この際どうでもいい。

 戦争は結果であり、勝敗は結果であり、生き残れるか死ぬかは結果しか介入できない問題なのだ。気持ちなどいくらあっても意味はないのである。

 カミーユでさえ愛し合う戦死者たちの魂を吸うことはできても、生き返らせることはできなかった。

 それが人の限界だというなら、理由の如何に関わらず『勝って生き残れる力を持っているものは強い』。それだけで十分すぎる理屈だった。

 

 だが、表向きの理由としてはこう言った。

 

「新しい機体で編成された部隊で能力査定を行っておきたい。その為に敵の実力を試す意味も含めた威力偵察を仕掛けようと思ったのだ。

 敵と味方の強さの基準がわからなければ、作戦の立てようがないからな。

 敵に余計な経験を積ませてやる義理はないが、クルーゼ隊長が戻られたときに参考資料として提出する分くらいは一応取っておきたいのだよ」

「確かに・・・。先日のアルテミスで垣間見た敵機の動きは尋常なものではありませんでした。初戦でラスティが取り逃した《ストライク》という名前らしい機体とはまるで別物です。モビルスーツ戦でどこまで力を発揮するのか調査しておく必要はあるでしょうが・・・」

「多少の危険は覚悟の上だ。たかが偵察任務のため、命までかけろなどと命令する気は私にもないよ。データ取りを優先させて危なくなったら、すぐに退かせる」

「・・・・・・うぅむ・・・」

「それにフェイズシフト装甲もある。あれは継戦能力が大きく損なわれる装備だが、一方でパイロットの生還率を飛躍的に高めてくれる代物でもある。

 こういう任務にこそ打って付けの、アレはよい物だよ。艦長」

「なるほど」

 

 懇切丁寧に意図を説明してやることで艦長は納得し、快諾してくれた。

 なにかと言葉不足になりがちなクルーゼの補佐役を務めるに当たって私がつけた癖である。役に立ってくれて嬉しい限りだ。

 

 分かり合うためテレパシーにばかり頼るから失敗するニュータイプパイロットとしては尚更に・・・な。

 

 

 

 

 こうして実行された脚付きおよびストライクの威力偵察作戦。

 その結果は、『原作のぶり返しが一気に来た』・・・と言ったところか。

 

 

「アスラン・ザラです! 通告を受け、出頭いたしました!」

 

 臨時で副隊長室として使わせてもらっている申し訳程度の応接室に、しゃちほこばったアスランの声が響き渡り、「入りたまえ」と言った私の声が扉の開閉音に掻き消される。

 

 クルーゼの真似をして、ゆったりと指を組み合わせながら相手の目を見つめ、私はただ一言。

 

「さて――弁明があれば聞こうか」

「――っ!!」

 

 相手の顔が衝撃に歪む。

 処罰を受けることは覚悟していたとはいえ、いきなり詰問口調で言い渡されるとは想像していなかったという風情だな。

 ま、ガンダム作品主人公とは元来、そういう連中ではあるのだが。

 

「冗談だ。私はそんなつもりで君を呼んだのではない。

 作戦失敗は立案者であり実行を命令した責任者たる私の責任だし、何の理由もなく君が命令違反を犯して勝手な行動をするなどとは思っていない。むしろ気になることがあるなら話してほしいと言いたくて呼んだのだよ」

 

 意外そうな表情を浮かべる相手を、私は面白そうに見返す。

 

「君は作戦中、敵機と交信を行った挙げ句、命令にない敵の捕縛を独断で実行しようとした。これについてパイロットたちの間で君に対する不審が芽生えている。

 互いに背中を預け合うべき者同士が疑い合うという状況はよろしくないと思うが、如何かな? アスラン君」

「はっ・・・命令に違反し、勝手なことをして申し訳ありませんでした!」

「アスラン・・・私をあまり失望させないでくれ。まさか私が、そのような誤魔化し目的での詭弁を聞くために君をここに呼んだと思っている訳ではないのだろう?」

「・・・・・・」

 

 明らかに鼻白んだ様子で黙り込むアスラン。

 キツい言い方になってしまったが、“予定通り”だ。ここで優しくしたところで私の求める結果のためには役に立つまい。

 

「――ふむ。答えはなし、か・・・なにか深い事情があるようだな」

 

 しばらく黙って返事を待ってみたが“予想通り”返事は帰ってこなかったので、勝手に話を進めさせてもらうとする。

 

「私としても部下のプライベートまで詮索する趣味はないし、できれば尊重してやりたいところだが、何分にも立場というものがあるのでね。そう甘いことばかりは言っていられん。

 敵と内通している恐れのあるパイロットは当然出撃させるわけにはいかんし、自室での謹慎だけで済ませられるかどうかはクルーの反応次第だ。

 スパイの疑いが晴れるまでは拘束させてもらうこともありえるだろうし、場合によっては後方への後送も視野に入れておく必要がある」

「・・・そんなっ!?」

 

 相手が慌てた様子で、ようやく取り乱し始める。

 よもやそれほど大袈裟なことになるとは思っていなかったので焦っているらしい。前線から退かされてはアークエンジェルにいるキラを救い出すことは不可能になるからな。

 

 だからこそ、この揺さぶりには効果がある。

 連合と違い、上から命令されなくても個々人の判断で正しい行動ができるからと、階級による立場の違いさえ明確に定められていないザフト軍の緩い規律も、こういう場合には役に立ってくれるものだ。

 

「無論、ご子息が起こした問題である以上は、ザラ国防委員長閣下へも報告が届くだろうし、当然閣下にも累が及ぶだろう。それが血の繋がりというものだからな」

「!! 父は関係ありません! 私が独断でしでかした私の問題です! 処分されるのでしたら、どうか私一人に厳罰をお与えください副隊長!!!」

 

 燃えるような瞳で私を睨み付けてくるアスラン・ザラ。

 帯する私はシロッコらしく、涼やかな瞳で眺めるだけだ。相手の焦るさまをジックリと・・・な。

 

「違うな、アスラン。そうではない、君だけの問題では済まされないのだよ。

 これはザフト軍クルーゼ隊で赤服を着るエースパイロット、パトリック・ザラ国防委員長閣下のご子息アスラン・ザラの起こした問題なのだから、その累は隊の仲間や上官たち、引いては親類縁者と国家の戦略にまで影響しかねない」

「そんな・・・・・・」

 

 唖然とするアスラン。私は容赦なくたたみかける。

 

「組織とはそう言うものなのだ、アスラン。君がどう言うつもりで、敵の誰と接触したのかは知らないが・・・・・・ハッキリ言っておく。

 “国家間戦争の中で、君たち二人だけの戦争はあり得ない”のだよ」

「・・・っ!!」

「ザフト軍の軍服をまとった者が取るすべての行動はザフト軍が命じた作戦であると解釈され、連合の軍服をまとう者がおこなった愚行はすべて連合の総意であると判断されてしまう。それが戦争というものなんだ。

 個人の都合を押しつぶし、一人一人の違いを否定しながら突き進む、血と炎に染まった暁の車のごとく、戦争は個人というものを許容しない。

 君らがどれだけ『子供の都合と、身勝手な大人の傲慢』を叫んだところで、個人が唱えるだけでは声の大きい小さいしか違いはない。

 戦いを否定するにも、終わらせるためにも必要となるのは数だ。それだけなのだよ、アスラン」

「・・・・・・」

「そして数を集めるには、他人に自分の思いを伝えて理解を得なければならない。

 自分は相手の主張を否定しているのに、自分には言いたくないことを言わなくていい権利を求めるなど筋が通らないだろう?

 “言わなくてもわかって欲しいが、自分には口に出して伝えてくれなければ解らない”などと言う、身勝手でバカな理由に巻き込まれて味方を死なせたくはあるまい?

 ・・・なにしろ、一人の我が侭を通すことが僚友を殺し、部隊の全滅を招き、ひいては師団、軍の敗北。国家の滅亡を招く恐れがあるのが戦争なのだからな。

 私としても臆病にならざるをえんのだ。わかってくれ、アスラン・・・」

「・・・・・・・・・はい、わかり・・・ました。お話しいたします・・・。

 ストライクに乗っていた敵のパイロット、キラ・ヤマト――月の幼年学校で私の友人であった、友達のことを・・・」

 

 こうして私は現時点における、アスランからキラ・ヤマトへの好感度チェックを完了させた。

 

 

 結果から言えば・・・・・・ま、伝説の鐘を鳴らすにも爆弾処置に手間取るのにも程遠かったようだがね。

 

つづく



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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。第6章

久しぶりのシロッコSEED、6話目です。
何度も書き直してるうちに支離滅裂な部分が出てしまったのは申し訳ございません。ハルバートン提督との戦いにはやく行きたがってしまいました。
以後気を付けます。


「そうおっしゃるなら、彼らは?」

 

 ナタル・バジルール少尉の声が、アークエンジェルの艦橋に冷たく響き渡る。

 

「キラ・ヤマトや彼らを、やむを得ぬとは言え戦闘に参加させて、あの少女だけは巻き込みたくないとでもおっしゃるんですか?」

 

 隠しようもない非難の意思を込めたバジルール少尉による糾弾の言葉。

 クルーゼ隊からの追撃を躱し、デブリ帯での補給を無事終えられたアークエンジェルは一息つく間も与えられぬまま、次なる厄介ごとの種を内部に抱え込んでしまっていたのである。

 

「彼女はクラインの娘です。と、いうことは、その時点ですでに、ただの民間人ではないと言うことですよ」

 

 彼女が言うところの『クラインの娘』。それはプラント最高評議会議長シーゲル・クラインの息女であり、先ほど補給中に漂流していたところを助けた少女ラクス・クラインの事を指していた。

 

 彼女は『血のバレンタイン』で知られるコーディネーター側にとって悲劇の地『ユニウス・セブン』で追悼慰霊をおこなうため事前調査に来ていたところ連合の船に臨検を求められ、応じはしたものの追悼慰霊という目的自体が惨劇の加害者である連合兵士たちにとっては不快さの素であったためか別の理由によるものなのか戦闘が発生してしまい、部下たちが彼女だけでも生き延びさせようと脱出させていたのである。

 それを補給作業途中のキラ・ヤマトが発見し、確保して持ち帰ってきた結果あらたな揉め事が艦内で起き始めている。そういう経緯だ。

 

 

「わかっているわ、バジルール少尉。でも・・・できればあの子を月本部には連れて行きたくないという私の思いは変わらないわ・・・たとえそれが甘さとわかっていようとも、ね・・・」

「・・・・・・」

 

 艦長の言葉を聞き、これ以上は副長の口出しすべき事柄ではないと判断したらしいナタルは自分の席である副長席に座って担当作業を確認し始める。

 “しこり”を残しながらアークエンジェルは、地球連合軍月本部へと向かっていく。

 その先に何が待っているかを知らぬまま。

 

 ――そして、自分たちの行動と判断が“とある男”に、どう思われているかなど想像すら出来ぬまま、敵に気取られぬようゆっくりと・・・・・・。

 

 

 

 

「どうした、シロッコ? らしくもなく素直にガモフの指揮権を返してくれるじゃないか」

 

 帰って来て早々、クルーゼが私にからかい口調で述べた内容がこれである。

 やれやれ、天才はいつの時代も理解されぬものというのは確かな格言だったようだな。

 

「滅相もない。クルーゼ隊長がお使いになると言うのならば、ガモフは喜んで返上いたしますとも」

「潔いのだな」

「脚付きからは、知らない内にその中へ取り込まれそうになる奇妙な引力を感じる。あの感じは好きではないから、早く他人に押しつけてしまいたかっただけさ。それだけだよ」

 

 軽く笑い合い、肩をたたき合う我々友人二人。裏がありそうな会話の方が逆に裏のあるなしが分かって楽でいいと言うあたり、つくづく謀略好きな人物だ。パプティマス・シロッコとラウ・ル・クルーゼと言うお二人はな。

 

「シロッコ、ラクス嬢のことは聞いているな?」

「無論だ。ヴェサリウスが捜索を引き継ぐと言う話だろう? ユン・ロー隊長から話は聞かされているよ」

 

 公には乗船ごと消息不明と公表されているラクス・クライン嬢だが、原作にもあるとおりザフト軍はこの時点ですでに彼女の現在地を大凡ながら把握していた。

 今では地球の引力に引かれてデブリ帯の中にいるユニウス・セブンである。

 

「少し前に脚付きに対してアスランたちを使って攻撃を仕掛けさせた。そのときニコルにはミラージュ・コロイドを使って戦場に最後まで留まり、脚付きの向かう方角を確認してから帰還するよう指示しておいたのだがな・・・ビンゴだ。実に嫌な位置に向かってくれたよ」

「・・・やはり、ラクス嬢は脚付きに発見されてしまっている可能性が高いのか・・・」

 

 クルーゼは、ニコルが持ち帰った情報から推測した脚付きの予測進路と、撃墜された偵察用ジンが連絡を絶った場所とが表示されたディスプレイを見下ろしながら腕を組み、つぶやく。

 仮面に隠れて表情は見えないが、普段から見慣れている私はなんとなくの印象から“面倒くさそう”にしている時にまとう空気と似たものが感じられていた。

 

「ザラ委員長は、アスランがラクス嬢を連れ帰ってきてくれることをお望みなのだそうだ。

 悪い地球連合から囚われの婚約者を助け出してヒーローのように戻ってくるか、婚約者を殺され号泣しながら亡骸を抱きしめ復讐に燃えて戻ってくるかのどちらかをリクエストしておられたよ。遠回しにだがね?」

「なるほど、政治家らしい。差し詰め戦争を続けるためには、生け贄となる悲劇のヒロインか、英雄物語の王子様のどちらかが必要になってきたと言うところかな」

 

 プラントは自給自足が可能な人工の大地ではあるものの、生活必需品の中にはどうしても大量生産するのに広い土地が必要不可欠なものが多く存在している。

 仮に完全な模倣品が造れたとしても、コストパフォーマンスを考えれば地球から輸入した方が遙かに安くなる品というのは意外に多い。

 

 プラント理事国からの輸入により配給制になるまでには至っていないが、安全保障などの経費が上乗せされるため必然的に値段が高騰し、今では兵士の使うライフル弾より生活必需品の方が高くなってしまった物まで出てくる始末だ。

 戦争などどうでもいいから、早く元の生活に戻りたいと言うのは人として自然な願いと言えなくもない。

 

 私は友の言葉に肩をすくめて率直な意見を返して相手の苦笑を誘う。

 

 

「相変わらずハッキリとものを言う男だな、君は。

 むしろ、こういう芝居じみたことこそ領分と言ったところか?」

「事実だろう? 私は歴史の立会人に過ぎないからこそ、よく判るのだよ。アイドルとは、民衆の想いを代弁させるための偶像・・・道化に過ぎないことが。

 自分たちの主張を代表するものとして民衆が欲した結果として生み出されるのがアイドルなのだからな、それが政治的に利用されるのもまた人の世における必然だろう」

 

 私は明朗快活に断言する。そして、過去の記憶を掘り起こしていく。

 

 ミネバ・ザビもそうだった。セシリー・フェアチャイルドもそうだった。

 リリーナ・ピースクラフトも、ディアナ・ソレルも。あの、ジオン・ズム・ダイクンでさえそうだった。民衆が望み、求め、応じる形でアイドルの役割を演じることにより人々の思いを集めて入れる入れ物としての機能を果たした民衆のための偶像たち。

 

 そして同時に、愚民と化した民衆にとっては飽きたら捨てて次を求めればいいだけの、民衆の玩具となり得る存在・・・・・・。

 

 ジオン・ダイクンの思想に賛同し、熱狂とともに担ぎ上げた民衆は彼を殺したザビ家の扇動に乗り、アッサリと公国制への移行とザビ家独裁を受け入れてしまった。

 ティターンズを支持し、彼らの勢力を支える基盤となっていた人々はダカール演説以降は手のひらを返してエゥーゴ側に寝返った。エゥーゴに喝采を浴びせた人々はコロニーレーザー争奪戦で力を使い果たしたエゥーゴを見限りアクシズへと乗り換えた。そして三勢力いずれもが滅んだ後にエゥーゴの主要メンバーもまた連邦の体制に取り込まれ権力機構の一部に落ちた。

 

 ・・・これが宇宙世紀で難民となってきた人々の歴史である。

 

 そんな彼らにとってアイドルとは、自分たち個人個人では言っても聞いてもらえない意見を代わりに社会に向かって叫んでくれる存在を差している。

 自分たちの言っていないことを叫ぶアイドルなど求めていない。

 彼らはアイドルに個性と人格を求めはするが、人格的欠陥があることを決して許さない。

 

 そう言うものだ、人という生き物は。社会がなければ生きられない社会的動物でありながら、常にその個が内包する世界観は個の周囲だけで完結させてしまう悪癖を持っている。

 

 社会があるから生きていられる現実を頭で解っていながら、それらを縦糸でつなげて考えようとはしない。自分の今見ている現象を理解するばかりに囚われて、大局と個の関わり方の基本を見失い、世界を歪ませていく。

 

 そうやって、死者にしか心を開けない少年が今を生きている人々を殺す理由に死者の名を持ち出すような世の中になっていく。

 まったく、寒い時代になったものだと奴らは思ったことがないのかな?

 

 

「ふむ・・・しかし、シロッコ。ご高説は承ったが、それよりも今は目の前の現実を処理にしかからないかね? 人類全体のことを論議するのは未来でも出来るが、現在目の前にいるかもしれないラクス嬢は、こうしている今も我々の手が届かぬ連合艦隊月本部へと近づいていっているのだがね?」

「無論、承知しているとも。それに関連して思っていた事柄を述べたまでのことさ。まぁ、気にするな。焦ったところで主役の出番が早まるわけではなかろう」

「・・・??? ――まぁ、そうだな。それで? 先ほどの話と関連した事柄というのは?」

 

 私が言った含みのある言葉に一瞬だけ怪訝そうにしたが、直ぐにいつもの調子で合わせてくれる愛しき友人ラウ・ル・クルーゼ。おおかた“どうせ直ぐに結果でわかるだろう”と割り切ったのだろう。物わかりのいい友人を持てて、私は心底から幸せ者だと信じているよ。

 

「脚付きがラクス嬢を確保している場合、まず間違いなく人質交渉に使ってくるだろう。当然だ、彼女は現プラント評議会議長、シーゲル・クラインの娘なのだからな。

 である以上は、彼らとしては彼女が手元にある限り、いつかどこかで必ず交渉カードに持ち出してくるのだけは間違いない。

 それが今すぐか、後になってかは定かでないが、使ってくることだけは確実だ。国家元首の娘に産まれるとは、そう言うことなのだから」

 

 マリュー・ラミアスには彼女なりの正義感や倫理観があるのだろうとは思うが、こればかりは変え難い事実なのだから受け入れるより道はない。

 

 ・・・たとえ当人からみて不本意な決断で、強制されただけでしかなかったとしても、それが国家の名の下おこなわれたものである以上は、最高責任を取らねばならないのが元首の立場というものであり、その娘として生を受けた以上は親の恨みに巻き込まれるのはどうしようもない人の世の常であるからだ。

 戦争を起こした国の元首一族に戦争責任がないのだとしたら、人の世に戦争責任など存在しなくなってしまうだろう。

 

 そして、それこそ私がガンダムSEEDを許しがたく思う理由の一因であり、誤った歴史を正したいと感じさせられた最大理由の一つなのだ。これだけは断固として譲ることは出来ない。

 

 だが―――

 

「しかし、それは別に悪いことではない。敵対国のVIPを捕えたときに互いの国が拘留している捕虜交換が行われるのはよくある話だし、停戦や休戦を申し出るときに使う交渉カードとしてなら、むしろ彼女の願いに沿ってもいる。終戦の道を模索する際に、相手国側の中枢近くに個人的窓口が存在しているかどうかで平和への道がどれだけ短縮できるかに至っては今更説明するまでもなかろう?

 人質という言葉のイメージに囚われることなく、固定観念にこだわりすぎなければ、人質交渉が平和へと至る道になる可能性も存在しているのだよ。

 そして、だからこそ重要になるのがタイミングであり、どう使うかなのだ。これ次第で人質は双方にとって最悪を避ける手段から、互いの憎しみを助長するだけの道具に成り下がりかねない。それこそ絶対に避けなければならない最悪の選択肢だ」

 

 私は強く静かに断言して見せた。

 

 先にも述べたが、私はナタル・バジルール少尉の取った『人質交渉』と言うやり方そのものを否定してはいない。あれは正当な手段だったと評価している。

 

 だが、タイミングが最悪だった。自分たちが当初助けて救助した民間人を、危なくなったら人質として前に出すなど、まるでヤクザのやり口だ。カミーユの両親を人質に取ったティターンズと、やっていることは何ら変わらない。

 

 それだけではない。

 彼女はキラ・ヤマトの優れた資質に目をつけてコーディネーターであっても連合軍の戦力に迎え入れるべきと望む現実感覚を持ちながら、その手段として彼の両親を人質に取ることを進言するなど、目的は正しいにもかかわらず、やり方は最悪を極める悪癖を持っている軍人。それでいて自らの間違いに気づくのが手遅れになった後だという辺りに救いのなさが窺えるが、これは別に彼女の能力が劣っていたからではないと私は考えている。

 

 単に、経験値が絶対的に不足していた、それだけだろうと。

 それが私の下したナタル・バジルール少尉に対しての総評なのである。

 

 忘れられがちだが、彼女は士官学校を優秀な成績で卒業した“ばかりの新米将校”でしかなく、階級としては尉官クラスでは底辺に近い少尉でしかない。

 アークエンジェルで副長代理を任されて急速に成長したものの、『指揮官としての経験は皆無』なのがナタル・バジルール少尉という人物の、この時点における能力限界だったのだろうと。私はそう結論づけている。

 

 あるいは彼女には名将と呼ばれるに足る才能があったのかもしれない。数十隻の艦隊を指揮統率する器が備わっていたのかもしれない。

 だが、現実に彼女が経験した役職と権限は明記されている範囲内で、アークエンジェルの副長と、ドミニオンの艦長の二つのみ。その合間の時期に何か別の役職に就いていたとしても、経験値と呼びうるものが得られるほど長くいられる時間的余裕は原作が与えてくれていない。

 彼女には才能を生かせるようになるだけの経験と時間が圧倒的に不足していた。

 

 その為に彼女の視野は自分の経験した一少尉として眼前の戦場と、自身の担当する戦域での勝敗を至高価値と捉えさせ、巨大な戦局全体を見下ろして判断することが出来ない。一士官としての視点でしか戦争を見る能力が育てられないまま長くもない生涯が終わってしまった。

 そんな今の彼女では『単なる戦闘屋』にしかなることはできない。だからあんな暴挙にも平然と出れる。

 

「人は、『これしか他に道はない』と思い込むと平和を阻む一番の敵になりやすい。道は常にいくつも前にあることに気づかぬまま、他人の引いたレールを爆走しやすく、間違いに気づいても途中からでは修正しづらい。そう言う輩が脚付きに乗っていた場合には最悪の事態を招きかねない。

 それを避けるためには、専門家の登場を願うのが一番だとは思わないか? クルーゼ」

「ふむ? 理屈はわかるが、そんな都合のいい人物がいったいどこから―――」

「隊長!」

 

 アデスが叫び、私とクルーゼが彼に向き直る。

 

「レーダーが艦影を捉えました。合計三隻。地球軍の艦隊のようですが、こんなところでいったい何を・・・・・・」

「ほう、やっと来てくれたか。存外に待たせてくれるゲスト殿だな」

 

 アデスの言葉にクルーゼが答えるより早く私が口にした言葉に注目が集まる。

 

「どういう事だ、シロッコ。説明してもらえるのだろうな?」

「勿論だ。だからそう怖い目で睨むなよ、クルーゼ。別に君を謀っていたわけではない。なにしろ、隊長代理としてやっておいた仕事の一つに過ぎないのだから」

「・・・その報告を隊長の私は受けた覚えがないのだがな? パプティマス・シロッコ隊長代理殿?」

「だから今しているだろう? 説明より先に策が成ってしまった様だが、順番が逆になったぐらいでそう怒るなクルーゼ。シワが増えるぞ?」

「・・・・・・」

「・・・すまなかった、謝る。今後は二度とこんな真似はせん。許して欲しい、この通りだ。もう二度と君に嘘はつかないと約束しよう。血判書を書いて渡しても構わない」

「・・・・・・・・・・・・はぁ」

 

 頭を下げて謝ると友人はしばらく沈黙した後、見せつけるように大きなため息をつくことで許すと言う意思表示をしてくれた。

 

「・・・で? 今度は何を企んだのだ?」

「いや、大したことではない。本当だぞ? ただ、ヘリオポリスにイザークたちを潜入させたとき、たまたま手に入れた情報の一つに面白いものが混ざっていたから使ってみただけのことさ」

 

 嘘だがね。本当は原作知識です、だなどと言ったところで信じてもらえるはずもないので死んでも言わないが。

 

「いったい、何をどのように使ったというのだ?」

「中継装置を使って連合軍宛に、脚付きが救助したとおぼしき避難民の候補を一人だけ通報してやっただけさ。中立国のコロニー市民が連合に危害を加えられないよう気遣うのはザフト軍の軍記に違反してはいなかろう?」

 

 嘘だがね。本当は何も送ってなどいないのだが、こうでも言わんと言葉に説得力が持たせられん。

 

「誰だ? その避難民の一人というのは?」

「フレイ・アルスター。大西洋連邦事務次官ジョージ・アルスター殿のご息女さ。戦闘指揮はド素人でも、地位身分では現場であろうと最高位の方だ。

 非常事態に陥らん限りは、彼が連合側の責任者兼代表と言うことになる。そう、敵との戦闘のような非常事態に陥らん限りは絶対に、な・・・?」

『・・・・・・・・・』

 

 もはや言葉もない、と言いたげなクルー一同に背を向けて私は嗤う。

 消えなくてすんだ光たちの幸運に、敬意と感謝を込めて心の中で敬礼を送りながら。

 

「無論、彼との交渉が終わった後は我々ははれて敵同士に逆戻りとなるだろう。敵と味方が戦争している状況の中、我々だけが敵との一時的な休戦というわけだ。なかなかの美談になりそうじゃないか。なぁ、クルーゼ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」

 

 極上のつもりだった友人に向けた笑顔に対して返されたのは、何故だか知らぬが疲れたような溜息一つだけだった。いったい何故だ? 理不尽な。

 

つづく




書き忘れてた追記:
*この後、ラクスは政治利用されてるのが我慢ならないキラによって無事ヴェサリウスに引き渡されました。


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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。第7章

「月本部へ向かうものと思っていたが・・・やつら、『足つき』をそのまま地球へ降ろすつもりとはな・・・」

 

 部下から艦隊集結完了の報告を聞きながらラウ・ル・クルーゼは顎に手をやり、小さく溜息をついていた。

 

 連合との一時的な蜜月の時を終え、ラクス嬢を後方へと搬送し、クルーゼがそれを確認した直後に別働隊を率いた私が背後から追い打ちをかけ、補給作業中だった連合艦は旗艦以外を全て撃沈させてから数時間あまりの時が過ぎている。

 

 クルーゼ隊はヴェサリウスとガモフの二隻しかいないと思い込んでいた連中は、その二隻がラクス嬢を連れて遠ざかっていくのを目視し安心しきっていたのだろう。

 合流予定だったローラシア級“ツィーグラー”に先行して到着していた私率いるジン部隊だけで損害もなく一撃離脱強襲が可能だった。

 

 『海軍の連中は船の数がそろっていれば安心するもの』・・・こうして、赤い彗星の自説は正しさを証明されたわけである。

 

「降下目標はアラスカですか」

「おそらくな」

 

 部下からの質問に、ラウはやや苦々い声と口調で応じる。

 

 アラスカは地球連合軍の最重要拠点である。半分近くを占領したとは言え、あくまでコーディネーターにとっての庭は宇宙。地上は勝手が違いすぎる。

 そこへ入り込まれてしまったら、確かに容易には手出しできまい。

 

「なんとかこっちの庭にいる内に沈めたいものだが・・・・・・」

 

 そこで彼は言葉を切り、こちらを向く。

 

「どうかなシロッコ? なにか妙案はないものだろうか?」

「させておけ」

「・・・なに?」

「したいようにさせておけと言っているのだよ、クルーゼ」

 

 聞かれて私は、友へと振り向く。

 

「安全な場所から書類仕事だけして戦争を遊びにしているような連中に、アレが渡ったところで何ほどのことがある? 天才の足を引っ張ることしか出来ない俗人どもに、何が出来るというのだ?

 せいぜい、ストライクの模造品でも大量生産しながら子供のような理屈をごねる程度が関の山だ。そんな賢しいだけの子供じみた連中の遊びに我々大人が付き合ってやる義理はない。

 我々は今現在、目の前に立ちはだかっている知将ハルバートン提督一人を倒せば十分なのだよ。違うか? クルーゼ」

「それは・・・そうかもしれないが・・・・・・」

 

 やや不満顔を浮かべるクルーゼ。

 優れたパイロットである彼は、己の“勘”を信じている。『足つきとストライクを見逃せば、いずれその代価を自分たちの命で支払うことになる』と感じた直感を。

 

 そして原作を見る限り、その勘は正しい。少なくとも彼の命と、彼の信じた数少ない人々』は、足つきとストライクを落とせなかったことへの代価として命を支払わされているのだから。

 

 だが・・・残念だが、この戦闘に限って言うなら正しい勘も手遅れだな。

 

「それに、今から追ってもどうせ間に合わん。敵は追い詰められれば足つきだけでも地上に降ろすだけだろう。ザフトの勢力圏内だろうと、地上は地上。安全に降下できる場所まで守ろうとして諸共に撃沈されるよりかは遙かにマシな結果だからな。

 その程度の判断が出来ぬ無能な相手を、君は知将などいう表現は使わないはずだ。違うかね?」

「むぅ・・・・・・」

「よしんば足つきが地上の現地部隊を無傷に近い状態で撤退に追い込みながら前進を続け、アラスカまで無事にたどり着けたとしたら、それはそれで一向に構わん。

 ここでハルバートンを討っておけば、連中は彼らを持て余すことは確実だからな。

 ・・・未だ連合の象徴である戦艦とモビルアーマーで我々に勝てると思い込み、モビルスーツをザフトが造ったコーディネーターの象徴のように捉えている俗人どもにとってあの船は、潜在的な敵も同然。味方同士で潰し合うことにしか使えはしないだろう。だからこそ、放っておけと言っているのだよ」

「・・・確かにな。アレを造らせたのは彼ということだし、戦艦とモビルアーマーでは、もはや我らに勝てぬと知っている良い将だと言える。

 目の前で戦う勇敢な敵よりも、嫉妬深い味方の方が目障りに感じやすいと言うのも納得できるところだが・・・・・・」

 

 SEED世界にあって、他の誰より人の心の醜さを知る彼は理屈の上で納得したようであったが、感情の面でしこりが残ると言いたげな表情を浮かべ小首をかしげる。

 

「・・・そううまく事が運ぶものかな?」

 

 根拠のない、だが外れようのない彼の懸念に私は微笑ひとつだけを返事として返し、彼の肩を叩いてやりながらブリッジを出て行った。

 

 ・・・親友には申し訳ないが、私は彼と別の評価を足つきとハルバートンに与えていた。

 私にとって、SEEDに出てくる登場キャラクターの中で誰より先に殺しておかなければならないと確信していたのはキラ・ヤマトでもアスラン・ザラでもない。

 いま目の前に立ちはだかる敵、知将ハルバートン提督その人だけだったのである。

 

 

 早い話、彼は『天才のなり損ない』だった。

 

 旧弊きわまる連合軍上層部にあって、誰より早くモビルスーツの有用性と、戦艦およびモビルアーマーの限界に気づいた人物であり、その身を捨て石にしてガンダムの開発計画を強行させ、その為にオーブの技術協力を得ているところから見ても、彼に対する各勢力の評価が極めて高いことが窺い知れる。

 

 そんな彼が、もしストライク・ダガーを始めとする連合製のモビルスーツ群を指揮して戦場に立った場合どうなるか?

 連合は核に頼ることなく自力でザフト軍と互角に戦えるようになるかも知れない。そうなってしまったら戦争の長期化と消耗戦への突入は避けられない。

 

 仮に彼が政治に対して口出しできる性格の持ち主だったなら、生き延びさせる方が有効だったかもしれない。

 彼の能力を持ってすれば、アズラエルやサザーラント大佐らのバカな愚行を止める一助にもなったであろうし、エマ中尉のように間違った組織に仕え続けることを由とせず、裏切ってくれる可能性すらあり得たかも知れないほどの才能を私は彼に感じさせられている。

 

 

 だが、それらの可能性を全て切って捨てられるほど彼は『軍人』だ。連合軍人として高潔な精神を持ち合わせすぎている。

 彼はたとえ上が間違っていようと、決して裏切ることを潔しとせぬまま間違った軍で最善を尽くすことに尽力して、組織に殉じることを償いと考える実直すぎる漢の類。

 

 謂わば、エギーユ・デラーズの亡霊がレビル将軍の才能を持ってコズミック・イラの世界に生まれ落ちてきたのが彼なのである。

 彼らと同じ階級と兵力を手に入れる前に叩かねばならない。ワッケイン司令でいる内に殺しておかなければ戦線は拡大してしまう。

 

 矛盾するようだが、彼は同士として迎え入れたい程に優秀であるが故、ここで殺しておかなければならない人物の筆頭になってしまっていたのだった。

 

「・・・ハルバートン、貴様は道を誤るべきだったのだよ。その手に世界を欲しがってくれていたら、共に世界の今後について考えられたかもしれんのにな・・・」

 

 『ちっぽけな感傷は世界を破滅に導くだけ』・・・原作シロッコの予言は図らずもコズミック・イラの地平で実現してしまうことを事実として知っている私としては苦いものを胸の内に抱かざるを得ない。

 

 勿体ないと思う。残念だとも感じている。

 だが、殺すしかない。殺さなければならんのだ。でなければ戦争の早期終結が実現できん。

 

「常に世の中を動かしてきたのは一握りの天才だとまでは自惚れまい・・・己の立場をそこまで過信はするまい。

 ――ただ、クズどもに権力を握らせておくより遙かにマシな結果をもたらすことまでは否定できないはずだ。優れた人の存在を冒涜する以外になんの存在価値もない人間はクズ以下ではないか。世界の事情を洞察できん権力者どもは排除すべきなのだ。

 ハルバートン、何故それがわからん・・・っ!!」

 

 天才に生まれながら、連合の一軍人としての在り方にこだわり続け、ホフマン大佐などという本部の飼い犬に鈴を付けられる身に甘んじて終わった『天才のなり損ないハルバートン提督』。彼をこの戦場で必ず討つ。

 

 ――それが当初から私にとって、アークエンジェルの地球降下阻止攻撃における只一つの目標だったことを知る者は、この世界には他にいない・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「いや、ヘリオポリス報道の知らせを受けたときは、もうダメかと思ったよ! それがまさか、ここで諸君と会えるとはな・・・・・・」

 

 アークエンジェルの格納庫内に入ってきた連絡艇から長身の将校が降り立つと、気さくな様子でマリューたち一人一人と目線を合わせるように見つめながら挨拶してきた。

 年齢を感じさせない引き締まった体つきからは躍動感が感じられ、ふさふさした黄褐色の髭と、制帽の下に輝く悪戯っ子のような瞳が彼の性質を物語っていた。

 

 ハッキリ言えば子供っぽく、純粋なのである。そう言う面でも彼はワッケインよりも、レビルに似ていた。

 ルウム戦役で捕らわれた後の脱出劇に、後の“ジオンに兵なし”アジ演説。戦略家であり、アジテーターとしての側面も持ち、なおかつ風貌に似合わず興奮する性質。

 

 ――シロッコの言い分も、あながち間違っていない。もし事情の全てを把握できる神の立場にいるものが実在したら、そう評していたかも知れない人物。

 それこそれが彼、ハルバートン提督。月に駐留する第八艦隊の司令官だった。

 

「ありがとうございます、閣下。お久しぶりです」

 

 旧知の間柄で、恩師とも呼べる人物に対してマリューは彼女にしては珍しいほど軽い調子で敬礼し、直属の上官との絆の強さを示し合う。

 将校とは言え佐官クラスが将官にしてよい態度かと言われたら疑問が残るそれを、周囲の皆は驚きながらも不快な思いは抱くことなく受け入れられたが、中に一人だけ無礼だと感じた部外者が混じっていた。アラスカから送られてきた彼の副官ホフマン大佐である。

 

「しかしまあ、この艦一つと“G”一機のためにヘリオポリスの怒りを買い、アルテミスまで崩壊させるとはな・・・」

 

 会談のため艦長室へと入った途端に放たれた、彼の苦々しい口調の言葉に、マリューは言葉もなく項垂れる。

 G開発計画を主導したハルバートンがむっつりと彼女を擁護する言葉を口にした。

 

「だが、彼女らが“ストライク”とこの艦だけでも守ったことは、いずれ必ず我ら地球軍の利となる」

「アラスカは、そうは思っていないようですが?」

「ふん! やつらに宇宙の戦いの何がわかる!」

 

 侮るように鼻を鳴らすハルバートンと、白い視線で上官の顔を一撫でするホフマン。

 司令官と副官との間に漂うこの雰囲気こそ、最後方から安全に戦争を主導するアラスカと、最前線で指揮を執り続けてきた天才のなり損ないとの間に広がる絶対的な格差であることを、凡人の域を出ないマリューには察することが出来ず戸惑うことしか出来ないでいたのだが。

 そこで思わぬ救いの手が伸ばされた。

 

「いやいや、ホフマン大佐。提督と彼女がいてくれたお陰で私も娘も敵に殺されることなく、生きてここまで辿り着くことが出来ました。なんとお礼を申し上げて良いのかわかりません。

 あいにくと軍司令部のことは詳しく存じませんが、政府の方へは私の方から彼らのことはよく報告しておくつもりでいます。どうかご安心ください。悪いようにはされないよう、私の方でもできる限りのことはさせていただくつもりですからね」

 

 どこかのほほんとした口調で、先刻の戦いで死ぬことなく生き延びていた太平洋連邦の事務次官ジョージ・アルスターが、彼と彼の部下への弁護を口にしてくれたのである。

 これにはホフマン大佐も意表を突かれたし、ハルバートンもマリュー自身でさえビックリさせられていた。たぶん、シロッコが同席していたとしても同じような反応を示さざるを得なくなっていたであろう。

 

 彼としては政府の重鎮で苦労知らずのアルスターが、現場仕込みのハルバートンと、軍閥派のホフマンとの間で意見を分裂させて決定を遅らせる目論見から殺すことなく生き延びさせてやっただけだというのに、アルスターの反応は彼の想像を裏切ること甚だしいものがあった。

 

 善良で親切な人柄の持ち主なのである。

 溺愛する娘と再会できたことへの恩もあるだろうが、それを差し引いてもアルスターの人の良さは連合の官僚として常軌を逸していた。

 専門家ではないからと、軍事に関してはハルバートンの言うことに首を振るだけのマシーンと化してくれるし、政治的な面での手続き等は意外と手早くこなしてくれる。その手腕は軍官僚タイプの軍人ホフマン大佐が必要なくなるほど鮮やかすぎるものであり、ハルバートンたちを大いに仰天させてくれまくっていた。

 

 ・・・正直、彼の生存こそがシロッコにとって最大の誤算と言えるほど、彼はお人好しで子煩悩で親馬鹿な性格をしており、だからこその事務“次官”だったのかもしれない。

 

 思えば、連邦の参謀次官アデナウアー・パラヤも無能ではあったが、お人好しで親切ではあった。視界が狭く、価値基準が完全に地球連邦政府高官のものではあったが、本気でシャアと戦後のバラ色生活を夢見てしまうほどバカなお人好しではあったのだ。

 

 その二面性がハルバートンにとっては最良の形で、シロッコにとっては最悪の形で裏目に出た結果。

 アークエンジェルを含む第八艦隊は、何の障害もないまま地球への降下ポイントへ向かうことが出来、準備を急がせたシロッコの頑張りはプラスマイナスで相殺され結果的には0になった。

 

 完全に原作通りの状況下で、足つきを含む第八艦隊と相対する羽目に陥ってしまったのである。

 

 

 

「チッ・・・アルスターめ、存外にやるではないか。原作では早々に死んでしまったからと見くびりすぎていたな・・・私もまたシャアと同じく若さ故の過ちを犯してしまったというわけだ・・・」

 

 先行させた部下からの報告により敵の配置を知った私は舌打ちをして、小声でつぶやきを漏らす。仲間割れを期待して殺さなかった敵が思いのほか活躍して厄介な敵になる・・・。

 悪役らしい失敗の仕方をした自分の無能さに腹が立たぬでもないが、失敗を悔やまず次のための糧にするのが大人の特権である以上は致し方あるまい。割り切るとしよう。

 

 ――それにどのみち作戦そのものに変更の必要は無い程度の誤差だ。次に続く戦闘で取り返してみせるさ。

 

 

「シロッコ副隊長、クルーゼ隊長より入電。“こちらは攻撃準備よし”です」

「ツィーゲル発進! 艦隊は横並びのまま敵艦隊へ突入する! ヴェサリウスのG部隊が発進した後、それに続く形でモビルスーツ部隊を発進させろ!」

「ハッ! 了解!」

「だが、無理はするな。こちらはジンしか積んでいないのだからな。

 フェイズシフトを持つGの突撃に引きつけられた敵を一隻ずつ安全に、かつ確実に船を沈めてゆくことだけに集中すればそれでいい。母艦を失った艦載機群など時間さえかければ無傷で無力化できる程度の戦力だ。恐るるに足らん」

「――っ! 副隊長! ガモフより入電。医務室で治療中だったイザークが、制止を振り切り出撃しようとしている。こちらで阻止して欲しいとのことですが・・・」

「構わん。行かせてやれ」

「・・・は?」

「イザークが自分から当て馬になってくれるのは本艦にとって、非常にありがたい。よくやってくれる良い部下であり、良いパイロットじゃないか・・・フフフフ」

「ら、ラジャーッ」

 

 私は復讐心に駆られて突撃していく、片目のイザークの姿を記憶の片隅から掘り起こしてせせら笑いを浮かべた。

 

 

「賢しいだけで目の前の現実しか見ようとしない近視眼な輩は、望みを叶えてやる形で勝利のために利用してやるのが一番ありがたい・・・。それで死ぬとするなら、彼もその程度の男だったと言うことだからな。

 戦争など所詮は政治の手段でしかないことも判らん子供は、どこへだろうと行きたいところへ逝き、母親の胸の中へでも還るのだな。マザーコンプレックスの少年パイロット君。

 ふふ、ふははははっ!!」

 

 

つづく



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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。第8章

少しぶりの投稿です。シロッコSEED、最新話更新です。
今回あんまりシロッコの出番がありません。役割的に最後ら辺なのでね。次回からはもう少し活躍させてあげたいなーと思っております。


 Xナンバー4機による突撃から始まった地球連合軍第八艦隊とクルーゼ隊との戦闘は苛烈を極め、アークエンジェルがアラスカへの直接降下を諦めて単艦での降下シークエンスに入ったことから更に熾烈さと激烈さを増して行っていた。

 

『メネラオスより各艦コントロール、ハルバートンだ。本艦隊はこれより大気圏突入限界点までのアークエンジェル援護防衛戦に移行する。厳しい戦闘であるとは思うが、彼の艦は明日の戦局のために決して失ってはならぬ艦である。

 ――陣形を立て直せ! 第八艦隊の意地に賭けて一機たりとも我らの後ろに敵を通すな! 地球軍の底力を見せてやれ!!』

 

 艦隊司令官自身の口から発せされた叱咤激励により、Gの突撃に混乱しかけていた艦隊の統制を取り戻し、迎撃体制から防御陣形へスムーズな移行を可能ならしめたところは彼の艦隊指揮能力の高さを物語っていたと言えるだろう。それは腐った連合軍上層部に籍を置き続ける将として賞賛に値する成果だったと自負してもいい。

 

 

 ――が、しかし。

 

 

「・・・暇ですな」

「・・・ああ、そうだな・・・」

 

 戦闘開始からこの方、艦砲の射程ギリギリの相対距離を保ちながら撃ち続けているだけのクルーゼ隊本体であるヴェサリウスとガモフの艦隊としては、やる事がなくて暇だというのがハルバートンと戦っている側の心情としては素直なところだった辺りに戦場の悲惨で滑稽な現実が現れていたとも言えるのだろう。

 

 なにしろ彼らとしては、実弾兵器では効果の薄いGを相手に艦砲の主砲であるビーム砲を主軸に撃ちまくってくれているわけなのだから、遠目から見ても発砲位置は丸分かりなのだ。安全に遠くから発砲位置めがけて撃っていれば自然と当てられてしまう。

 デブリがあればまだしも、沈めた船の残骸ぐらいしか漂っていない艦隊行動が可能な宙域で、コンピューターに計測させたポイントを機械にセットしてボタンを押すだけの流れ作業。

 最大射程のビーム主砲に狙われる心配もなく、安全な距離から適当に撃っていれば自然とダメージを蓄積させていく敵を相手に緊張感を維持しながら戦うというのは意外と骨の折れる作業なのだなと、楽勝に慣れたクルーゼでさえそう思わずにはいられないほど簡単に事が運んでしまっていた。

 

 

「ハルバートンは、どうあっても足つきを地上に降ろすつもりらしい。奥にしまい込んで何もさせておらんのだからな」

 

 頬杖をつきながらクルーゼは評し、続いて溜息交じりにこうつぶやく。

 

「要するに、最初から勝とうと思って戦っておらんのだよ。守り抜く事に意識が向かいすぎているから、足つきを狙って猪突し続けるイージスたちばかりに注目してしまい、我らの事は眼中にない。

 艦隊を突入させれば別だったかも知れないが・・・遠くから撃ってるだけではな。大した損害も与えられておらんから全体に与える影響まで気が回らなくなっているのだろう。我々からの砲撃が攻撃ではなく突撃支援である事に気づけていない・・・」

「こちらは楽と言うか、楽すぎて暇なほどですがね・・・作戦を考案されたシロッコ副隊長の慧眼と言えばそれまでですが・・・艦砲射撃の演習代わりに的当てぐらいしかやることがありません」

「ストライクも名前の割には出てこないしな」

 

 苦笑しながら友人の観察眼に心の中で賛辞を送っておく。

 『敵将の心理を突いた見事な作戦だった』、と。

 

「アレを作らせたのも彼だという事だし、戦艦とモビルアーマーでは我らの全てに勝てぬと思い込みすぎているのだろう。

 ・・・別に我が軍の全てがモビルスーツ部隊というわけではないのだがね・・・」

 

 苦笑するクルーゼの言は皮肉の極みだった。

 彼は元地球の学生だった友人のお陰で、地球軍の軍事技術についても多少ながら知識と見識を得ており、それらとザフト軍の兵器を比較して性能の優劣が歪である事を知っていたから、ハルバートンからの高評価にはやや面はゆい気持ちにならざるをえかったのである。

 

 

 実のところザフト軍の艦船建造技術はそれほど高くない。

 無論、低いわけでは決してないし、建造し始めたばかりの急造軍隊としては優秀すぎる程のものだったが、それでも自分たち独自で1から造り上げたモビルスーツに比べると連合の十八番である艦船系ではどうしても後追いになってしまうのがプラントの置かれた実情だ。

 

 具体的にはローラシア級の1.3倍という建造費がかかるナスカ級が地球連合の主力艦である250m級戦艦を一撃で仕留めるに足る「120cm単装高エネルギー収束火線砲」を装備しており、砲撃戦能力ではほぼ互角と言える。

 ましてナスカ級が高速戦闘艦であることを加味するなら、凌駕していると言ってもいいぐらいだ。

 ローラシア級とて、区分としては戦艦ではなくMS搭載艦でありながら高い砲撃戦闘能力を有している。決して連合軍艦艇に遅れを取っているわけではない。

 

 ・・・とは言え、それらはあくまで艦隊同士が砲撃戦を行う艦隊戦で互角に戦えることを意味しており、性能がほぼ互角の艦船で数が圧倒的に上回る敵と戦えば引き算で自分たちが全滅させられるのは確実である。

 

 しかも艦艇は、モビルスーツほど搭乗員の能力が性能に影響を与えられない類いの兵器である。数と性能と、なによりも砲の射程こそが重要となる兵器のジャンルなのだ。

 乗組員たちが如何に早く敵の攻撃を察知しようとも、艦が避けるために動ける速度は艦船自体が持つ機動性の限界を越える事は出来ない。個人の能力よりも艦の性能と数を揃えることこそが何より重要なファクターとなってしまう分野。それが旧来の艦隊決戦思想の在り方なのである。

 

 この問題を解決するため、数で圧倒的に劣るコーディネーターの国家プラントが造り出した兵器がモビルスーツだった。

 あるいは、造り出さざるを得なかったと言うべきなのかも知れない。

 彼らの技術を持ってしても数の差を覆せるほど優秀な性能を艦船に持たせることは出来なかったから、個人の資質で性能が大きく上下動するモビルスーツを投入し、一人の人間が操る一機のモビルスーツで多数の人間が乗り込んでいる艦船を撃沈させるといった費用対効果の法則を持ち出さざるをえないほどに連合とザフトの数の差は圧倒的すぎたのだから。

 

 また、戦艦とモビルアーマーを主力とする連合軍は今まで培ってきたノウハウの蓄積によって戦艦を比較的安く大量生産できるという基礎から積み上げてきた実績があるのに対し、ザフト軍の艦船建造技術にはそれがない。どうしても一隻作るのに掛かる費用が同性能の連合艦より高くなってしまう。

 元々が資源コロニーであり、資金的に豊かではあっても買い手がいなくては即座に干上がってしまう宇宙に浮かぶ小島のプラントとしては安くて高性能な兵器の開発に着手しなければ大国地球連合相手に全面戦争なんてとても無理だった・・・そう言う表側では決して語るわけにはいかない経済的に逼迫した事情がプラント側には常に存在していた。

 

 

「モビルスーツに対しては正当な評価をしてくれているようだが、我々コーディネーター全体に対しては過大評価だったようだな。ザフト軍は人の心を持たない機械人形だけで構成された軍隊ではないと言う事実がいまいち認識できていない。

 知将ハルバートン・・・良い将ではあったが、自身の至った正しい答えに固執しすぎてしまった辺りは、やはり老人だな。頭が固い。老人に新しい兵器は造れても、新しい時代は創り出せないと言うことか」

 

 それらの裏事情を知るクルーゼは、せせら笑いを浮かべて酷評する。

 そんな彼にヴェサリウスの艦橋クルーが前線での戦果報告をもたらした。

 

「デュエルとバスターがそれぞれ一隻ずつ敵艦を轟沈。イージスとブリッツも一隻ずつに損害を与え、撤退を余儀なくさせた模様。二艦とも戦場を離脱していきます」

「艦型から見て、セレコウスとカサンドラですね・・・船乗りにはなんとなく分かるものです。

 背中から撃って撃沈させますか? 離脱中であれば容易に撃沈できますが・・・」

 

 観測班からもたらされた報告に、アデスが補足して指示を促す。

 その声には微量であり、遠回しではあったが温情を与えてやりたいという思いが微かに読み取れた。

 生真面目で実直な軍人である彼としては、戦闘不能に陥り逃げようとしている敵を背後から討つというのは命令であれば実行するが決して好みな行動ではなかったのである。

 

 クルーゼは「ふっ」と嗤うと。

 

「イザークとディアッカは甘いな。完全に沈めてしまったのでは生存者に期待できず、敵は味方を見捨てて復讐心を掻き立てられるだけではないか。

 敵というものは殺すのではなく、損傷させて足手まといを増やした方が無傷の味方の動きまでもを封じられて便利なのだぞ?」

 

 平然と楽しそうな口調でヒトデナシ発言をする上官に白い視線を向けるアデス。

 そんな艦長に対してクルーゼは、新たなヒトデナシ命令を下す。

 

「逃げようとする二艦に向けてレーザー照準を照射しろ。だが、すぐには撃つなよ? こちらの攻撃から逃げる味方を守るため盾になろうと前に出る艦を本命として狙い撃て。

 援護に来る艦がいない場合に限り、離脱しようとする二艦に向けて攻撃を許可するが、当てるなよ? 威嚇射撃にとどめるのだ。逃げようとする味方が背中から撃たれ続けていればその内誰かが正義感に駆られて出てきてくれるだろうからな。遠すぎて届かない副砲の無駄撃ち相手としては丁度いい」

「・・・・・・」

 

 無言のまま非難がましい視線で自分を見つめてくる部下に対してクルーゼは、肩をすくめて笑い返しながら誤魔化すように事情を口にする。

 

「言いたいことは分かるがね、アデス。これは、私が考えた作戦ではなくシロッコの発案したものなのだよ。“こういう場合にはこうするのが一番効率的で楽だ”とね。だから非難も苦情も私にではなく、私の親友に向けて言うのが人として通すべき筋だと思うのだが?」

「・・・セレコウスとカサンドラに向けて照準用レーザー照射。120cm単装高エネルギー収束火線砲は砲口を向けるだけでまだ撃つな。出てきた本命を狙い撃てるよう、砲手には目標の周囲から目を離すなと伝えておけ。副砲は主砲の邪魔にならん程度に適当に撃たせておけばそれでいい」

 

 明らかに『類が呼んだ親友だ』と心の中で思っている表情のまま何も言わず、実直すぎる軍人のアデスは命令を実行するため実務的な指示を出すことに集中する。

 そんな部下の心理を知ってか知らずか、仮面の男クルーゼは含み笑いを浮かべながら腕と足を組み直して頬杖をつき、乗艦のやや後方に追尾してきている“例の物”を眺めながら笑みを浮かべて独りごちる。

 

 

「どのみち我ら本体には、突入できない事情があるのだ。アレを敵に気づかせないまま戦う工夫は必要不可欠だからな。後は我らが信頼し尊敬している参謀殿に任せるとするさ」

 

 軽く笑って気持ちを切り替え、僚艦のガモフにも先走らないよう指示を出すよう伝達しながら戦況を見守るクルーゼ。

 その為の布石としてツィーグラーから借り受けた3機のジンであり、本当の目的を伝えぬまま突撃させた4機のGなのだ。彼としては万全を期したつもりであったし、それなりの自負も持ってはいた。

 

 しかしこの時、彼は一つの大きな判断ミスをしていたことに気づいていなかった。

 

 作戦内容に軍事機密に関わる秘匿兵器が関係しているため詳細を伝えていなかったガモフの艦長ゼルマンは、度重なる足つき撃沈の任を果たせぬまま地上というローラシア級では決して追いつけない場所まで逃げられてしまうことに表現しようもないほどの挫折感と屈辱と悲壮感に襲われて、胸が張り裂けそうになっていたのである・・・・・・。

 

 

「・・・このような事態になってしまったのも、もとはと言えば我らの不甲斐なさによるもの・・・。

 かくなる上はザフト軍人の意地に賭けて底意地だけでも見せつけてやらねば立つ瀬がない・・・っ!!」

 

 

 

 

 

 一方、アークエンジェルを援護防衛するため『死に場所』を定めた第八艦隊相手に陽動目的で突っ込んでいかされた4機のXナンバーもまた押し寄せる敵の物量を前に苦戦を強いられていた。

 

「グゥレイト! 数だけは多いぜ!」

 

 ディアッカが叫び、腰だめに構えた砲を撃って敵を落とす。それでも全体としては敵の勢いに何らの変動もおとずれてくれない。変わらず猛攻を加え続けるため津波のように押し寄せてくる。

 

 クルーゼ隊本体からの支援砲撃と、彼らの背後から回り込まれないよう撃ち漏らした敵を着実に落としながら追尾してくれている3機のジンによる援護もあり、彼らの活躍振りは獅子奮迅と呼ぶに相応しいものであったが、そのぶん反撃の勢いも凄まじく、クルーゼ隊本体が事実上戦場に参戦する意思を見せていないことも影響して彼らの負担は戦果と同じくらい凄まじい数に膨れ上がっていたのである。

 

「ビームを集中しろ! なんとしてもあの4機をアークエンジェルのもとに近づけてはならん!」

 

 ハルバートンはそう厳命して、着実に増えていく艦隊先鋒の被害から遭えて目を逸らして気づかないフリをし続けていた。

 

 これだけの被害に気づかない彼ではない。最初から気にはなっていた。

 だが、一方で距離から見てもクルーゼ隊本体がアークエンジェルの降下を邪魔するためには4機のGが活路を開かなければならず、その4機を足止めし続けている限り敵艦隊はアークエンジェルを有効射程圏内に収めることは出来ない!

 

 ならば突入してきた4機のGを落とすことに全戦力を集中させることこそが、アークエンジェルとストライクを安全に地上へ降ろすための最善策だと彼は固く信じて、失われゆく犠牲に対して哀悼の意を表するだけで無視する道を選んでいたのである。

 

 敵がシロッコの提言により、足つきを狙うことを最初から諦めていることに考えが及んでいなかったのだ。

 これは彼の読み違いから来る計算ミスと言えなくもなかったが、一方で彼の年齢的に難しい判断だったことも確かではある。

 

 経験豊富で実績も才能もあふれる彼には、嫌が応にも経験則という名の固定概念が付きまとわれてしまう。完全に自由な発想と計算力とを維持し続けるのは老人には難しすぎる難事なのである。

 ましてや、ここを死に場所と定めてアークエンジェルを地上に降ろすことが軍人として最後の勤めだと覚悟を決めた今の彼にとっては尚更だ。

 

 覚悟を決めた彼の指揮する第八艦隊の反撃は、既存のモビルアーマーと艦船しか持ち合わせていない軍とは思えないほど苛烈さと粘り強さを持っており、性能に任せて突撃して突破できると確信していたアスランたちにとって思わぬ巨大な障壁として立ち塞がれていたのだった。

 

 それでも機体の性能差から、被害は一方的に第八艦隊から出し続けられている。虐殺とも評すべき光景を前に、いてもいられなくなった二人のパイロット、ムウ・ラ・フラガのメビウス・ゼロとキラ・ヤマトのストライクが時間制限付きでアークエンジェルから発進したのだが、それでも目に見えるほどの救済効果はもたらされるこちはなかった。

 

 たかがエースパイロットの乗ったモビルアーマー1機が参戦したぐらいで全体の戦況に影響を及ぼせるはずもなく、ストライクもまた復讐戦と雪辱に燃えるイザークのデュエルに付きまとわれて、思うように身動きが取れなくされていたからである。

 

「ようやくお出ましかぁストライクぅ・・・お前が出てくるのが遅すぎるから傷がうずいて仕方なかっただろうがぁぁぁぁぁっ!!!」

「デュエル!? 装備が・・・っ」

「この傷の礼だ! 受け取れぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 デュエルの火力不足を補うためプラント本国で開発された追加装備『アサルトシュラウド』が加わったデュエルを相手に文字通りの一騎打ちを演じざるをえなくされてしまい、第八艦隊の援護どころではなくされてしまったキラは内心で焦りを募らせていたのだが、彼もこのとき大きな勘違いとすれ違いをしてしまっていたことに気づけていない。

 

 キラの目的は第八艦隊の犠牲を少しでも少なくすることであり、アークエンジェルを守り抜くことだったが、イザークの目的は自分に傷を負わせたストライクを落としたい、奴をこのてで殺してやりたいと言う、個人的復讐心から来ている暴走に過ぎなかったのである。

 

 目的が別の者同士が戦い合うというのも戦場の常識から考えるとおかしなものではあったのだが、生憎とこの時のイザークにそんな理屈を考える理性など残っていない。

 ただただ有り余る才能を、プライドという感情論で振りかざし、エゴを満足させられたらそれでいいと本気で思い込んでしまっている復讐鬼に理屈も理性も良識さえ意味がなく、価値もまた認めてもらえない。

 ただ自己の欲求が満足すればそれでいい野蛮な子供にモビルスーツという名の銃を持たせてしまったからこうなっている状況の中で、キラが自分の目的を達するためには問答無用でイザークを撃ち殺す以外に他のては存在しておらず、それが出来ぬなら時間稼ぎに徹してタイムオーバーを狙った方が余程にマシな結果を得られたことだろう。

 

 敵の狙いがアークエンジェルだと思い込んでしまったが故の判断ミス。

 撃ちたくて撃っているわけではないからと、前回の戦いで自分が手傷を負わせた相手に恨まれているかもしれない可能性を考慮しなかった辺りはキラもまた幼さ故の純粋な傲慢さの持ち主だったことを意味していただろう。

 

 そしてそれが最悪の結果をもたらしてしまうかもしれない可能性のことも・・・・・・

 

 

 だが、そこに。

 

「!! ガモフが・・・っ!?」

「ローラシア級、本艦に接近!」

 

 ディアッカとニコルが異口同音に疑問の声を発し、アークエンジェルでは自分たちに向かって真っ直ぐ突っ込んでくる敵艦を感知して警報が飛び交い、ヴェサリウスからは命令を無視して敵陣めがけて全速突入していった僚艦に対して制止を命じる通信がもたらされている事態。

 

 クルーゼ隊を形成する一艦、ローラシア級ガモフがアークエンジェルに特攻をしかけるため、無謀としか言いようのない強行突撃を敢行しながら戦場を突っ切ってキラたちの前に躍り出てきたのだ!!

 

 

「ガモフ、出過ぎだぞ! 何をしている!? ゼルマン!」

『ここまで追い詰めて・・・退くことは・・・もとはと言えば・・・我ら・・・・・・足つきは必ずや・・・っ!』

 

 悪化する通信状態の中、ゼルマン艦長から最後にもたらされた内容が其れであり、その直後にムウのメビウスがしかけた攻撃によって多大な被害を被らされたガモフは通信が切れ、そのままガモフは足つきを庇うように立ちはだかってきた小型連合艦を沈めて前に出ると、アークエンジェルめがけて体当たりするため真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ突き進んでいく。

 

 そんな彼の執念の前に立ちはだかるのは、彼と同じく命がけで執念を燃やす男ハルバートンの座乗艦にして、最後に残った栄光ある第八艦隊の生き残り戦艦メネラオス。

 

 

「すぐに避難民のシャトルを脱出させろ」

「閣下!?」

「ここまで来て、アレに落とされてたまるか・・・っ!!」

 

 ノーマルスーツに包まれた拳を強く握り込み、決意と覚悟を胸に秘めて最後までカードを投げ出さないと決めた漢ハルバートンは、自らを捨て駒の盾として使い捨てガモフの特攻からアークエンジェルを守り抜くため残された全ての力で砲撃戦を行う準備を進めさせる。

 

 その一環として、アルスター次官を乗せた民間脱出シャトルが艦底から射出させられていた。

 本当なら護衛を付けて月基地まで送り届けるのが筋なのだが、戦力的にその余裕がなかったことと、時間的にも敵が余裕を与えてくれなかったことにより詰め込まざるをえなくなったという事情があったのだが、これが彼にとって幸となるか不幸となるか、正史は未だ判断を付けらていない。

 

 なぜならこの時代、このコズミック・イラには歴史の立会人であり、介入者とも呼ぶべき漢が決然と佇み、薄ら笑いを浮かべていたのだから・・・・・・

 

 

「閣下! 脱出用シャトルの射出を完了しました!」

「よし、では本艦はこのまま直進してくる敵ローラシア級を迎撃してアークエンジェルを守り抜く―――」

 

 悲壮な決意を固めて、祖国の勝利のため礎となる軍人の鏡としての人生を終えようとする地球連合最強の知将ハルバートン提督。

 だが、現実の戦場はそれほど上手い具合に古典悲劇さながらのお涙頂戴劇を演じさせてはくれない。必ずや第三者の身勝手なエゴが誰かの使命感や犠牲を自らの益のために利しようと横やりを入れてくるのが常である。

 

 

「!! 高エネルギー反応感知! 本艦の直上! 真上です!」

「なんだと!?」

 

 驚いてハルバートンは天頂方向にある装甲板しか見えない天上を見上げた。

 彼の脳裏によぎったのは、一体どこから沸いて出た敵か?と言う疑問。

 

 確かに敵は前方にいたはずだ。敵本体もまた遙か前方に位置したまま、動いていなかったはずである。

 敵が他に豊富な別働隊を用意していたと言うことだろうか? あるいはクルーゼ隊とは関係のない、自分が感知していなかった余所の艦隊が騒ぎを聞きつけて急行してしまったのだろうか?

 

 少なくとも、クルーゼ隊の艦艇数は最初から最後まで確認し続けたとおり『三隻のまま』増えても減ってもいなかったはずだ。

 ならば一体どこから誰が、なんの目的で・・・・・・

 

「この質量はまさか・・・戦艦クラスのものを越えている!?」

「目標至近! 回避間に合いません! 本艦に命中します! うわぁぁぁっ!?」

 

 様々な疑問が脳裏をかすめては過ぎ去っていく中で、ハルバートンの肉体は大出力ビームによって包まれて、艦橋もろとも跡形もなく気づかぬ内に蒸発させられてしまっていたのだった。

 

 艦橋を直撃したビーム攻撃の後、しばらくして第二射、第三射目が最初のものより大分細く短い形で撃ち込まれ、メネラオスの推進部とメインエンジンとを順番に刳り抜いて撃沈し、足つきが落とせぬのならせめてコイツだけでもと覚悟を決めていた傷つき負傷したゼルマン艦長の下に、生き残っていた通信装置から最近聞き慣れされてしまった冷たい声の優しい言葉が紡ぎ出されてくるのを耳にする。

 

『こちらはツィーグラーのパプティマス・シロッコ副隊長だ。ゼルマン艦長、聞こえているな?

 そこからでは足つきを追ったとしても、どうせ何も出来ん。大人しく艦を修復し、味方の救援を待て。それ以上少しでも進んでしまうと地球の引力に魂を引っ張られて死ぬだけだぞ』

「シロッコ副隊長・・・ですが! ですが自分は・・・! せめて! せめて足つきと差し違えて役目の半分だけでも果たさせていただきたく・・・っ!!」

『その損傷で大気圏内に突入し、体当たりするまで艦が保てると本気で思っているのかね? 途中で爆発四散し、無駄死にに終わるだけだと思うがね』

「ぐ・・・っ」

『無論、死にたいのなら止めはしない。無駄死にだがね。

 自己満足のため部下を無駄に死なせる無能が部下にいたというのは私にとっても痛恨の極みではあるが、まぁ指揮官の責務だからな。貴様の心中に付き合わされる部下たちの遺族には私から手紙を書いておいてやる。存分に死んでくるがいい』

「・・・・・・・・・」

 

 ここまで言われて死を選べるほど、ゼルマンは無責任な男にはなれない程度には男だった。

 彼は艦を可能な限り修復しながら救助を待つと同時に、シロッコが連れてきたツィーグラーのジン3機が残敵を掃討し終えた後に着艦して休ませてやれるようデッキを最小限使えるよう整備を急がせる指示を出していった。

 

 そして、思い出す。

 

「そう言えばシロッコ副隊長。一体どこから沸いて出てこられたのでありますか? 私は確かにあなたの搭乗していたツィーグラーを置いて先行したはずだと思っていたのですが・・・」

『なに、ちょっとしたロストテクロノジーを使ってみただけのことさ。単なる手品みたいなものだよ。気にしなくていい』

「はぁ」

『では、連れてきた部下たちのことを頼む。私は最後にもう一つだけやっておきたい野暮用があるので少々散歩をさせてもらいに行く。後は任せた』

「承知しました、シロッコ副隊長。無事なお帰りをお祈りしております」

 

 

 

 

 

 第八艦隊とクルーゼ隊による艦隊戦は、シロッコの突然の奇襲によって旗艦を撃沈され、指揮系統をいきなり損失させられた残存兵力が統制を取り戻す余裕を与えることなくクルーゼ隊本体とツィーグラーによって殲滅させられたことで終結し、決着はついていたのだが。

 

 もう一つの戦闘は一向に決着の時を迎えられてはいなかった。

 キラとイザークによる、戦闘終結後にも行われ続けていた完全なる私闘という名の決闘は、未だ決着がついていなかったのだ・・・・・・。

 

 

「コイツぅ!」

「お前なんかにーっ!」

 

 

 感情と感情、私怨と使命感。どちらもともに個人的欲望と願望に端を発する戦略とも戦術とも次元の異なる私的感情同士のぶつかり合いの中、既にタイムリミットが過ぎていることを理解する程度には冷静さを残していたキラが前方の空域に見えるアークエンジェルにたどり着くためにも体当たりするかの如く敵に向かって突撃し、重力の中ではまともに狙いもつけられないイザークの連続射撃を突破して一撃をかまし、距離を無理矢理引き離す。

 

「ぐぅっ!?」

 

 体勢を崩したところを、顔面に蹴りでの追撃。遠心力を利用してイザークの乗るデュエルを、完全にストライクのもとにまで追いつけない距離まで吹き飛ばす。

 

「く・・・そぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 だが、イザークは諦めない。諦めきれない。なんとかしてコイツを殺して、自分の傷つけられたプライドを癒やしたい。自分は母親にだって叩かれたことがないのに、そんな自分の顔に初めて傷を付けた奴がバカでのろまなナチュラルだなんて絶対に絶対に許すわけになんかいかなかったから!

 

 だからこそ彼は、凶行に走る。

 プライドのため人を殺していいと思い込める、幼すぎる心が彼を一時的に暴君へ駆り立てる。

 自尊心はあっても自制心のない野獣に彼を変えてしまう。知識はあっても教養はない野蛮な猿に彼を変貌させてしまう。

 

「!? メネラオスのシャトル・・・っ!」

 

 安全な地上へと降りて戦争から逃げるため、避難民を乗せたシャトルが彼とイザークとが私闘を繰り広げている決闘場を横切るように降下してきて、ストライクに狙いを定めようとしていたデェエルの照準の前を塞いでしまって彼を更にイラ立たせる。

 

「・・・クソォォ・・・・・・よくも邪魔をぉぉっ!!」

 

 恨みと憎しみに凝り固まった声が端正な唇から漏れ出し、ストライクを狙って撃った弾がかすりもしない理由を、『今さっき確実に当てられていた攻撃を撃つのに邪魔した奴等のせい』だと断じて、ライフルの銃口が向けられた先を敵機であるストライクから、逃げ出した非武装のシャトルへと変更させる。

 

 

「!! やめろぉぉぉぉ! それにはぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

「逃げ出した腰抜け兵がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつっ!!!」

 

 

 二人の少年の叫びが重なり、一発の弾丸が無音の宇宙を走り抜け、一隻のシャトルに乗せられた様々な希望を個人的恨みと八つ当たりで撃ち抜こうとした、その瞬間。

 

 

 上方から飛来した高出力ビームが、イザークの放ったビームとぶつかり衝突して弾け合い、比較的発砲場所から近かったのもあってデュエルは衝撃で吹き飛ばされ、シャトルを救おうと接近しかけていたキラもまた逆方向へと弾き飛ばされてしまうのだった。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!? な、なんだ!? なにが起こったんだぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 異なる二人の悲鳴が宇宙に走り、地上へと落ちていくのを見送りながら一人の立会人はメガランチャーの銃口を降ろし、コクピットの中で「くく・・・」と冷たくせせら笑うのだった。

 

 

「良い旅を、今はまだ愚かなる少年たちよ。しばらくの間、お別れだ。カミーユやバナージと同じく、重力の井戸の底で戦争の現実を学んでくるといい。

 その結果が彼らと同じ、人の心とちっぽけな感傷とをごっちゃにして世界を破滅に導く手助けしかしない子供であることを武器に使う小賢しい大人でないことを、心より祈っておいてやるよ・・・ふふふ、ははは、ハハハハッ!!」

 

つづく

 

オマケ『今話で転生憑依シロッコが使った宇宙世紀アイテム』

 

バルーン:第二次ネオ・ジオン紛争とバビロニア戦争で活躍しまくったアレ。作者お気に入りの逸品。

 

メガバズーカランチャー:カミーユがZで使っていた奴・・・では残念ながらない。百式がゲルググと繋いで使っていたのを再現した物。動力はツィーグラーから提供させていたため艦から離れすぎることができないのが難点。最後の超絶狙撃はシロッコのエース級ニュータイプ能力によってはじめて成せる神業なので現時点ではシード化してもキラには多分無理。




ゼルマン艦長、生存確定。でも別に今後活躍するわけでもないので意味ないっちゃ意味ありません。

シャトルの女の子も死にませんでした。彼女の場合は完全に巻き込まれた被害者でしたので、知っていて見殺しにするのはシロッコも目覚めが悪かったと言う設定です。

今回の人助けは計画にも戦局にも一切影響しない私情と言う生の感情に基づく行動だったため『野暮用』と称しておりました。彼にとっては割と恥ずかしいことだったのでね。


謝罪文:
指摘されましたので謝罪と、念のための説明補足です。
今話の最後でシロッコがつぶやくセリフに、『バナージ君をカミーユに同列に扱っている』描写がありますが、『重力の井戸の底で』に関連付けて出したのが一番の理由です。必ずしも彼に対して悪意があるわけではありませんので誤解なさいませぬようお願いいたします。


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ガンダムW戦記~クロスボーン・バンガードの旗のもとに~

先日お伝えした『クロスボーン・バンガード』×『ガンダムW』のコラボ作品です。
思い描くばっかりで書いたことがない作品でしたので、書き直す可能性もありますから一応、話数は書かないでおきますね。良ければお楽しみくださいませ。

注:故あってタイトル変更。詳しくはスーファミソフト『フォーミュラ戦記』のタイトルを参照してください。


 地球から巣立った人類は宇宙コロニーでの生活に新たな希望を求めていた。

 しかし、地球圏統一連合は正義と平和の名の下に圧倒的な軍事力を持って欠くコロニーを制圧していった。

 

 アフターコロニー・一九五年。

 作戦名『オペレーション・メテオ』

 

 連合に反目する一部のコロニー居住者たちは、流星に偽装した新兵器を地球に送り込む行動に出た。

 だが、この作戦は既に連合本部と、“もう一つの勢力”に察知されていたのである――。

 

 

『――こちら、L5コロニー群監視衛星4号。コロニーの一つからシャトルの発射を確認』

『――同じく、L4コロニーからもシャトルが発射された。大きさから見てモビルスーツ一機を搭載していると思われる』

『――L3コロニーも同様であります。巧妙に偽装されたコースを取っていますが、最終目的地は地球で間違いありません』

『――L2コロニーからも今、発射を確認しました。どのシャトルの形状にも誤差はありますが、基本コンセプトは同じものを採用していると思われます』

『――L1コロニー群からも射出されました。シャトルのように見えますが、偽装である可能性大。コンピューターに照合させたところ85%の確率で可変MSであると思われます』

 

 

「ふん・・・五つの異なるコロニーから、ほぼ同時に無許可でシャトルが射出され、その全てが同じく地球へ向けて発射された物だった・・・。

 これを各個に独立した反乱勢力が独自に行った偶然の一致だったと主張して信じる者がいるとしたら、腐りきった連合軍上層部の愚か者どもと、自らの意思で考えることを放棄したガンダムパイロットたちぐらいなものだろうな。

 ・・・少尉! マイッツァー閣下とクシュリナーダ特佐にご報告しろ! 大至急だ!」

「はっ! 承知しました!」

「モーリス・オバリー少尉。今更言うまでもないことだが、“今度は”独断専行を許すつもりはない。2度までも同じヘマをやらかすような者に“第二の人生を生きる権利”など神が与えても私が許さん。分かるな?」

「は、はい。その節は申し訳ありませんでした。シェフィールド大尉・・・」

「『焔の虎』の部下に、二度までもクロスボーン・バンガードの存在を許可なく世に出すような愚か者の居場所は無いとしれ。

 我々にとって新たな新天地たる、この世界での生と死は神が与えたもうた魂の修練場であることを忘れるな!」

「ははぁっ! 必ずや! 名誉あるコスモ貴族の名にかけて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らが『新たな戦いの火種』が地球に放たれたのを観測したのと同じ頃。

 宇宙は今日も静かであり、平和そのものだった。

 

 地球圏統一連合が宇宙コロニーを掌握して二十年。小規模な反乱こそあったものの、おおよそにおいて平穏が保たれていた連合統治下の地球において軍は給料をもらって民間人を弾圧するためだけに存在するゴミ掃除のための組織と成り果ててしまっていた。

 

 そのような体たらくでは、流星に偽装して地球に落下する五つの物体を感知しても『隕石の落下、もしくは老朽化した大昔の人工衛星の破片か何かが落下したものと思われる』としか自分たちの眼下にいる守るべき立場の者たちへ報告してこなくなりもする。

 

 大気圏上層部を移動中だった極超音速輸送機にその報告がもたらされたとき、思わず“彼ら”は声をあげて笑ってしまった。

 

 普段は連合正規軍の無能怠惰に厳しい嫌悪の視線を向けている彼らをしてさえ、この報告には同情混じりに苦笑する以外の感情表現は思いつかなかったから。

 

「ゼクス特尉、上は隕石落下と報告しています」

「フッ・・・監視衛星の目は節穴だな」

 

 複数の隕石、もしくは衛星が同時に地球への落下を観測される。

 しかも、落下の際には大気圏突入のウェーブコースを通って・・・・・・まともな知識と正常な判断力をもっている者なら、素人でも『不満分子からの攻撃である可能性の方が高い』と判断するであろう、天文学的確率で起きる“かもしれない”奇跡的な現象を前にして『自然現象』と報告してくる、地球圏全体を武力によって支配・統治している地球圏統一連合から士官の地位を与えられた若手士官。

 

 そのような人物が、いざ地球に危機が迫ったときには命を賭して地球へと正確な情報を送らなければならない義務を負った地球軌道上の監視衛星で指揮を執らされている。

 

 これ程までに残忍で非人道的な人事がおこなわれていたというショッキングな事実を目にして、同情しない者は人として大切な感情が欠けていると言わざるをえない。可愛そうな監視衛星の指揮官くんには侮蔑ではなく哀れみを送るべきなのだ。それ以外の責任はすべて、このような残酷すぎる行為を黙認している責任者たちに取らせさえすればそれで良いのだから・・・。

 

「碌な想定敵国も存在しない状況で際限なく肥大化させ続けた軍組織内部に汚染されてしまえば、こうもなろうというものですか・・・」

「そう言うことだ」

 

 憐憫と侮蔑が半々にこもった微妙な声で副操縦士のブルーノ特士が評した感想に、彼と操縦士であるオットー特尉の上官『ライトニング・バロン』の異名を持ち、銀色のマスクで顔のほとんどを覆い隠したOZの上級特尉ゼクス・マーキスは重々しい声で短い返事を返してやる。

 

 もしかしたら以前までの自分たちなら、彼らに侮蔑の感情を抱いたかもしれない。だが、今の彼らはそうは思わない。

 今まで一色だけだった連合軍内部に存在する別組織《スペシャルズ》のOZは、新たな別方向からのアプローチに基づく教育が追加されたことにより組織を一新。

 今までより更に1ランク進んだ精神性を手にしているとの自負と自信が、彼らに選ばれし者としての寛容性を付与させていたからだ。今の彼らは、己に対する自信と自負は、他者を嫌悪し見下す心と同じでないことを理解していた。

 

 

「やはり、OZ本部の情報通り?」

「うむ・・・コロニーのM作戦に間違いないだろう。この輸送機で補足できるのは幾つだ?」

 

 輸送機の副操縦席に就いているOZの制服を着た若い兵士が、軽やかな声で訊いてくるのに答えてやりながら

 

「ユーラシア東部に落下すると思われる、ひとつだけです」

「ひとつでも充分とするか。前線の雇われ軍人は功を焦るものではない」

「ずいぶんと表向きな発言をなさいますな・・・」

 

 ゼクスの声にかすかな自嘲の色を感じ取ったブルーノ副操縦士のブルーノ特士が、眉をひそめる。

 OZの総帥から全幅の信頼を寄せられ、『志を同じくする同士』より彼専用のカスタム機を送らせて欲しいとの打診がくるほど高評価を得ている人物が言う台詞とは到底思えない。

 

 当のゼクスはフッと自嘲気味の笑いを口元に浮かべると、操縦席に座るオットー特尉に機のコースを変えるよう指示してから、ブルーノにはこう答えてやるだけだった。

 

「言っただろう? 私は軍人なのだよ」

 

 

 

「各部異常なし。七分で作戦を開始する」

 

 同じ頃、コロニーから発射されたシャトルのひとつは、地球に再突入しようとしていた。

 

「・・・! 民間シャトル!?」

 

 そして、作戦遂行の邪魔になる“障害物”を発見する・・・。

 

「目標相対速度0154光。オートロックオン、降下障害物を撃ち落とす」

 

 機首を開き、ビーム砲を露出させ、民間シャトルに狙いを定めさせるパイロットの声は若く、まだ少年と思しきものだったが奇妙に感情の起伏が乏しく、強い気負いが感じられた。

 

「! 地球の攻撃輸送機・・・?」 

 

 発砲のためトリガーを押そうとした寸前。突如として警告音が鳴り響き、機械のような少年パイロットにゼクスたちが乗る超音速ジェット機の存在と接近を報告した。

 

「連合に嗅ぎつけられている・・・当然か」

 

 

 

 

「補足しました。モニターに映します」

 

 そして、敵に発見される位置まで接近してきている以上は、近づいてきていた側もまた敵の存在を知覚していて当然である。

 

「やはり、そうか。あれが新たな戦を産み落とす『戦争の卵』と言う奴だ」

 

 ゼクスはモニターを指さす。

 

「目標の進路嬢に民間シャトルがいます」

「民間シャトルが前にいる以上、減速するしかあるまい。シャトルを撃墜して加速する可能性もないもないが・・・我々の見ている前でそんな派手な真似はできんと、相手の良識を信じたいところだな。あちらさんはアレでも隠密行動のつもりらしいからな」

 

 冷静に敵を分析する仮面の上官は、表情こそマスクに遮られてわからないものの、言うほど戦争好きな軍人のようには見えない。

 現に今も、民間シャトルとしては大きすぎて極秘任務を帯びてきている素性を、まるで隠せていない敵機パイロットの良識に信を置いて民間人を自分たちとの戦闘に巻き込む意思はないだろうと高をくくった判断をしてしまっている。

 

 本質的に育ちが良く、人が良いのだろう。他人を否定する戦争よりかは、互いに互いを尊重し合っておこなう決闘の方が相性が良さそうな貴公子的な長所を持つ人物だとブルーノたちは思っていたが、口に出したことはない。

 軍人としても文句なく優秀で尊敬に値する上官に対して不敬罪に類すべき失言だと自重しているからである。

 

 

 だが、この敵はゼクスの想定している者とは些か趣が異なっていた。

 

「偽装を破棄して加速すれば余裕で逃げ切れる・・・!? 任務変更、作戦開始前に連合の輸送機を撃墜しろだと・・・? そうか。追尾してくる敵はOZのモビルスーツ輸送機か。ならば――」

 

 少年はフットペダルを踏み込み、機体を加速させながら邪魔な擬装用の外装をパージして、機体を軽くした後、成層圏に到達した直後から攻撃が可能になるよう調整を始める。

 

 既に少年からは、任務変更前の最優先事項であった『作戦遂行』と、そのための障害物でしかなかった民間シャトルのことは頭から消えてなくなっている。与えられた任務を遂行するためなら自分の命も他人の命も捨てさせられると強い自己暗示のかかった少年パイロットには、その自己催眠故の強さと弱さが混同しており自我を殺そうと意識する余り物事の理非を判断する能力が著しく低下していたのである。

 

 少なくとも、今このとき地球に降りる前のヒイロ・ユイ少年には、『その程度の精神性』しか持ち合わせていない。『機械のように動く少年テロリストパイロット』ではなく、『機械になりたがっている未熟な心優しい少年』その程度の存在に過ぎなかったのである。

 

 

「!? カプセルがコースを変更しました!」

「大気圏突入中にか!? 敵は自殺願望でもあるのか!?」

「燃え尽きてしまえば秘密も守り切れる・・・まぁ、そんなところでしょう」

「いえ、カプセルはさらに水平方向に移動した後、当機に機首を向け直そうとしています。戦うつもりなのでは?」

「馬鹿な! あの高温に耐えられるわけがない!」

 

 オットーはブルーノに、モニターをもう一度確認するよう声を出そうとしたが、それは背後から届いた上官の声に遮られる。

 

「いや、そうではない。どうやら我々の敵はかなり高い技術を持っているようだ。

 ――リーオーは使えるか?」

「はい。しかし、モビルスーツであの戦闘機と戦うおつもりなのですか?

 でしたら、陸戦用のリーオーよりも、空戦用のエアリーズの方がよろしいのでは?」

「私のリーオーは充分速いさ。それに、私に挑んでくる相手を無碍にはできんだろう」

 

 ライトニング・バロンの口からそう言われて、返す言葉を持つ軍人などOZ広しと言えどもそうはいない。オットーは思わず手を額に当てて敬礼していた。

 

「では、エアリーズの準備が出来次第応援に向かわせま―――あ、少々お待ちくださいゼクス特尉。今し方、友軍機から特尉当ての電文を受領しました」

「電文? 今時ずいぶんと古典的な連絡手段を使う味方がいたものだな・・・誰からだ? それから電文の内容は?」

 

 マスクに隠されていない顔の下半分を思い切り不審さで彩らせて、ゼクスから訝しげに問いかけられたオットーだったが、むしろ彼は嬉しそうな表情と声で答えを返してくる。

 その表情はまるで、自分が忠誠を誓った主君を褒められて嬉しさと同時に誇らしさも感じている忠臣のようであった。

 

「『同士よ、ここは貴公の戦場だ。誰にも邪魔をさせはしない。後顧の憂いなく思う存分戦われよ』クロスボーン・バンガードのドレル・ロナ大尉からであります」

「彼、か・・・・・・」

 

 先日出会ったばかりで意気投合した若者の端正な顔を思いだし、ゼクスのこわばり欠けた顔は自然と柔らかいものへと変わる。

 大方、この近辺の海域を巡回していた連合の船が手柄ほしさに横入りしようとしているのを邪魔してくれているのだろう。

 彼の技量を持ってすれば手柄を横取りすることも、共同作戦ということにしてスペシャルズ全体の軍功にしてしまった後であらためて功績を独占してしまうことも可能だというのに・・・。

 

 お人好しと言えばそれまでだが、少なくともゼクス個人の心情としては、彼のような若者を嫌いになることは不可能だと高く評価し直していた。

 

 

「戦友の期待に応えられないのでは、男が廃ってしまいそうだな。

 それに、手柄を焦る軍隊によい未来はないが、傲慢は綻びを生むだけだと知る軍隊はよい未来を作れる可能性を持っている。嫌いではないな、そう言う気質は・・・」

 

 

 ――こうして、OZとコロニー連合のガンダムたちによる戦いの幕が切って落とされる。

 前世を持つ、別世界からの参戦者たちによる介入が生み出すのは更なる戦火か? それとも新たなる世界と時代を生み出すための不死鳥か?

 

 全ては歴史の“IF”だけが知っている未知の未来の出来事である・・・・・・。

 

 

 

今作のオリジナル設定紹介

 

『ロナ家』

 「ガダムF91」の世界から生まれ変わった転生者たちを中心に創設された集団。

 コスモ貴族主義の信望者だけが選別されて転生してきているため、桁外れに意識が高い。

 ロームフェラ財団を形成している軍需産業の一つで、伝統的貴族の家名を買収したばかりに新参貴族勢力。

 新規参入して間がないにも関わらず、連合とロームフェラ財団しか保有していないはずのモビルスーツ開発技術を有しているため特例として侯爵位を与えられている。

 既存のものとは異なる大系で造られた彼らの機体は、OZの物とも連合の物ともコンセプトからして別物であるため両組織ともに彼らを取り込もうと躍起になっている。

 が、どちらの勢力も興味があるのは彼らの技術力だけであり、全てを絞り尽くした後には恭順させるか、さもなくば粛正してしまうつもりでいるのは同じ。

 それらを承知しているロナ家総帥マイッツァーは、二つの組織の間で綱渡り外交をおこないながら、その実握手するに値する友人はトレーズただ一人と心に決めている。

 表向きはロームフェラ財団の一家であり、保有する私設軍隊『クロスボーン・バンガード』も《スペシャルズ》の一部隊として登録されているが、規模も権限も完全に同格な別組織であり同盟相手でもある。

 

 アニメ版を見ても分かるとおり、コクピット周りからしても宇宙世紀のモビルスーツとアフターコロニーの機体は開発技術が大きく異なっていたため、AC世界の技術でデッサ・タイプの機体を製造するためのテストベース機として『ゾンド・ゲー』を1号機として開発しており、連合とOZの双方に供与している。

 

 が、既にベルガタイプの機体まで開発が始まっているため、ゾンド・ゲーは型遅れ品の廃品処理として送られていることに気づかない辺りに、リーオーをいつまでも使い続けているアフターコロニー世界の支配者層が心理的に停滞していることが伺える。



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ガンダムW戦記~クロスボーン・バンガードの旗のもとに~2章(修正前)

『戦記好きがキラ・ヤマトに』を始めとして複数の作品が思いついてはいるのですが、一度に沢山思いつきすぎてしまいましたので一先ずは思いついてた順番に書かせていただきました。クロボンWの2話目です。

正確には1話と併せて完全版と言う方が正しいです。本来ならトレーズがオペラ見てるシーンまで描く予定でしたから。
とは言えそのシーンだけ追加するわけにもいきませんので大幅加筆してあります。そのせいで逆にリアリティが損なわれたかもしれませんが、頭いっぱいいっぱいの状況ですので今だけはどうかご勘弁を…。


「OZのゼクス・マーキス上級特尉が反乱分子を鎮圧する際、敵一機を落とすためにモビルスーツ三機を失い、2人の部下を戦死させられた」

 

 ・・・その報告が連合所属の空母から届けられたとき騒ぎ立てたのは、連合の古参将校たち“ではなく”、OZの隊員たちだったというのは皮肉と言いしかない。

 特に、入隊して日が浅い若く鋭気に満ちた若手士官たちの間でこの噂は瞬く間に拡散していった。

 

 若くして栄達し、正規軍よりも二階級上の待遇を受けられる身になった彼らにとって同僚と呼ばれる存在は、生死を共にする戦友としてより深刻な競争者としての色彩が強くならざるをえない。

 これは実力さえあれば年齢も出自にもこだわらないとしたOZの実力主義が持つ悪意的な側面であり、人が人で在り続ける限り捨てることの叶わない業が成させることでもある。

 

 若くして上級特尉の地位を与えられ、総帥自ら軍務の最中であろうとマスクを外さなくて良いことを明言された特別待遇を受けている存在ゼクス・マーキス。

 

 彼がいなくなれば、その後継者に指名されるのは自分かもしれない・・・そう言う希望を抱いてしまう程度には彼らは自らの技量と才幹に自信を有しており、根拠となる実績も充分に持っているつもりであったが、その心理は同時にベテランたちから見て『経験の浅い怖い物知らずな猟犬の群れが見境なく猛虎に噛みついている光景』を幻視させ、これからの新人育成を思い煩い溜息をつかせるに充分すぎる醜態をさらす結果にも直結していた。

 

 新興勢力クロスボーン・バンガードが加わったことにより、コスモクルス教を軸とした精神鍛錬の教えを教練カリキュラムに追加して尚、この手の悪感情を永久追放することは叶わないのが人の造る社会の弊害というものであるだろう。

 

 『選ばれし高貴なる者には、高貴であるが故に凡俗以上に身を律して規範を示さなければならない』と言うのがクロスボーンの掲げる理念であるが、言うは易だ。実行するのは容易ではない。

 

 

 ――だが、少なくとも“この男”は、ごく自然にそれらを実行できていた。

 

「モビルスーツを、三機も撃ち落とされたらしいが?」

 

 彼は、脇のテーブルに置かれた端末に映る部下からの報告を受けるより先に口を開いた。

 

「君ほどの男がとんだ不始末をしたな。連合のうるさ方を黙らせるのが一苦労だ」

 

 愁いを帯びた声で続けられる言葉とは裏腹に、彼の表情には部下の後始末をさせられる上司特有の煩わしさなど微塵も見受けられない。

 彼にとってモビルスーツの損害は所詮、換えの訊く機械が失われただけであり、数の問題でしかない。むしろ、作戦中に死なせてしまったOZの隊員たち二人の命の方が遙かに重い価値を有していたと信じてやまない彼は心の中で彼らに対して哀悼の意を表す。

 

 OZの制服を身にまとい、貴族としての格がなければ買うことを許されぬボックス席から古典的なイタリア戯曲を観劇していた若い男。

 輝く黄金の髪を短くまとめて広い額に数本の前髪を垂らし、鋭い目と鼻筋の通った整った顔立ちを持ち、高貴な育ちであることを全身で表現した青年。

 

 彼の名は『トレーズ・クシュリナーダ』。

 OZ総帥にして、OZの母体でもあるロームフェラ財団の若き幹部である。

 

 

『相手は、ガンダニウム製のモビルスーツでした』

「なるほど」

 

 その一言だけで彼はうなずき、すべての事情を納得した。

 画面に映し出された彼の部下、OZの上級特尉ゼクス・マーキスは親友でもあり上官でもあるトレーズの性格をよく心得ていたから、相手の発言を過たずに理解して正しい正答を報告したのだ。

 

 最初からトレーズにゼクスを責める気など少しもなく、ライトニング・バロンがそれほどの損害を被らされるほどの敵とは一体何者なのか、部下の犠牲により手に入れられた情報から推測される友の意見を聞かせて欲しいと求めていたのである。

 

『もし、あれがコロニーで造られた物だとしたら――』

 

 機内の壁に肘を預けて、微笑みを浮かべながら失態についての報告を続けるゼクスだが、その内容は問題定義しているように見せかけているだけで答えなど最初から分かり切っていることなど出題者の側にとっても明白すぎることである。

 

「十五年前、このOZに私と君、そして“彼ら”がいてくれたら、こんな不手際にならなかっただろうがな」

『やはりあれはガンダム?』

「他に考えられまい? 連合の宇宙に対するチェックが甘すぎたと言うことだ」

 

 口元にかすかな苦笑を浮かべながら断言するトレーズの言い様は手厳しい。

 

 ――十五年前、OZで戦闘用モビルスーツを研究・設計させていた科学者チームがあった。それぞれの専門分野から集められた専門家たちのチームだったが、あるとき彼らは一機の高性能モビルスーツを試作し、あまりの高性能さと付随する巨大さから当時のOZ情報部より『不必要』の烙印を押されてしまい放棄されることが決定されてしまった。

 

 この後、さらに性能を極限まで高めた新型が設計されたのだが、それはOZ上層部の決定は間違いであると行動で示したようなものであり、面子を重んじる伝統的貴族階級を中心として創設されたOZ内部にあっては許される行為では決してない。

 

 結果として、白眼視されるようになった科学者たちは出奔し、その二機は設計図さえ発見されないまま今日へと至っている。

 

 ただし、残されていたわずかな資料からこの二機のモビルスーツは、宇宙でしか精製できない特殊金属ガンダニウム合金の使用を前提として設計されていたことだけは判明している。

 その資料に記されていた開発コードネーム、その名は『ガンダム』といった・・・・・・。

 

 

「所詮、功績のあった科学者チームを殺す決定を下すことが出来ぬまま、公職から追放するだけで済ませようなどとと虫のいい考え方で人から何かを奪おうとすること自体に無理があったのだ・・・・・・。無理もないことだがね。

 戦いに勝つための戦争をしなくなり、政治行為の延長線上で軍を派遣するのが当たり前の発想となってしまっていた当時の連合上層部に求められる能力など、その程度の物だろう・・・。

 人の能力は自らの意思でのみ振るわれるべき物なのだからな」

 

 断定する彼の口調はやや苦い。

 地球圏統一連合が発足してから二十年が経つが、その成り立ちは成立の時点から軍事色の強いものであった。

 

 連合は元々、コロニー開発のために疲弊して国力が弱まり度重なる紛争がさらなる弱体化が続いていた諸国から、それら内的問題を一挙に解決させるため各国から資金と軍備を提供しあい《地球圏統一連合》と《連合軍》を創設させたものが大本にある組織だ。

 だが、軍の勢力が拡大していき、連合政府の閣僚の地位を軍高官が兼任し始めた頃には、軍事力によって地球と宇宙の人々を支配する軍事政権へと変貌し尽くしてしまっていたのである。

 

『連合のマリーナが、あの機体を回収しようとしていますが?』

「それはこちらに任せてもらっていい。君には海中探査の特別隊を送るから、後は頼んだぞ」

『ハッ!』

 

「――わかっているだろうが、今は大事の前だ。連合を刺激するような真似はしたくない」『了解しております」

 

 そして通信は終えたトレーズは席を立ち、連合本部ビルの建物で開かれる定例会議の議場へと足を向ける。

 正しい判断と行動をおこなった部下の正当な権利と立場を擁護できると思えば、会議の後に開かれる特権の分配について話し合う重要な晩餐会への参加も苦痛ではなかった。

 

 

 

「トレーズ特佐、君の部下が大気圏突入の際にモビルスーツ三機を失ったという報告を受けたが?」

 

 それが、会議場に遅れて到着したことを詫びたトレーズに対して、参加者の一人から送られた歓迎の挨拶だった。

 

「はい、それが何か?」

 

 ごく普通の口調で応じるトレーズの反応に、他意はない。

 "当たり前のことだから"である。

 

 モビルスーツとは兵器であり、兵士とは守るべきモノのため、敵と戦い命を賭ける者たちのことを指す言葉であるからだ。

 

 悼みはする。哀悼の意も表す。だが、決して彼らの死は無駄ではないと彼は信じる。無駄にはしないと固く決意してもいる。それ以上、死者にしてやれることが死なせてしまった側にあるだろうか?

 

「貴様は、たかが反乱分子の制圧に三機も無駄にしたのだぞ!?」

 

 最初の発言者とは別の将軍が横から割って入り、声を出す。

 

「その結果、反乱分子の謀反を未然に防ぐことが出来ました」

「私が言っているのは結果ではない! 貴様は、連合軍の貴重な戦力をなんと考えているんだ!?」

 

 将軍が声を荒げるが、トレーズは微動だにしない。

 ・・・ただ、思うところはあったので今の彼の発言に対して僅かながら“訂正を促す"。

 

「貴重な戦力・・・それは兵士に対してでしょうか? それとも、モビルスーツに対してですか?」

「貴様! 私を愚弄するのか!!」

 

 怒声をあげる将軍。トレーズ自身、やや気分を出してしまった自分を恥じてはいたので誰も仲裁に入ろうとしなければ“言葉が過ぎた非礼は"詫びるつもりであったが、幸いなと言うべきなのか、そうする必要性は生じなかった。

 議場の参加者たちが目配せし合って、予め決めておいた仲介役に合図を送ったその瞬間に、

 

「まあまあ、トレーズ特佐。今後もあることだし注意をだね―――」

 

 

 

 

「ずいぶんと見当違いな言い合いが聞こえてきますな。ひょっとして私は来る場所を間違えましたでしょうか? 閣下方」

 

 

 

 怜悧で鋭利な若いその声が聞こえたとき、豪奢で華美な成り上がり貴族風の内装で統一された会議室にいるトレーズ以外すべての将校が思わず「びくっ」と身体を揺らがせた。

 そうするだけの悪影響を“彼"は既に議場に詰めるご老人方に対して及ぼしてしまっていたからである。

 

 目上に対して、『目上だからと言うだけでは平伏しない生意気な若造』。

 スラム化し始めていた古いコロニーの再建計画立案時に、『効率と歴史を調和させたアンティックなものに変えてしまおう』という大胆な提案をおこなって高めた声望を背景に着々と連合議会に足場を築いてゆく『政治をろくに知らない青二才』。

 

 

「は、ハウゼリー殿・・・・・・」

 

 誰かが彼の名を呼び、彼は議場にいる全員に見えるよう頭を下げて一礼して見せた。

 この若者こそ、連合軍傘下にある別組織《スペシャルズ》の一隊にして事実上の同盟組織《クロスボーン・バンガード》の若き司令官『ハウゼリー・ロナ』。

 総帥マイッツァー・ロナの長男にして、次期後継者と目されている歯に衣着せぬ言動と過激な論調で知られる将来有望な若手将校である。

 

「失礼。遅れて参上してきた身でありながら、謝罪が後になってしまいました。どうか礼儀知らずの未熟な若造の無礼をお許しください、将軍」

「うっ、くっ・・・そ、そのような些事はどうでもよい! これは我々連合軍の問題である! クロスボーン・バンガードの司令官殿には関係なきこと。どうか余計な口を差し挟まないで頂きたい」

「これは異な事をおっしゃられる。我々クロスボーン・バンガードも地球圏統一連合の一員であり、連合正規軍麾下の《スペシャルズ》に参加させて頂いた新参者に過ぎません。

 同じ《スペシャルズ》に所属するOZ総帥殿が問題を起こされたのであれば、それは軍人として我々も連帯責任を問われるのが軍における正しい秩序の在り方というもの。そうではありませんか? 将軍閣下」

「ぐっ、ぬっ、ぬぅぅ・・・」

「そもそも、先のトレーズ閣下の仰っていた言葉のどこに問題があったというのでしょう?

 我々は軍人であり、国家のため、大義のため、戦う力を持たぬ者たちを守るためその身を張る義務を負う者たちです。

 民衆は怖いと言って逃げ出すことが許されますが、敵と戦うべき使命を負った軍人たちは血を流すことを恐れてはならず、先陣に立たなければなりません。そして、我々《スペシャルズ》は正規軍より先にその役目を果たす義務を負っているからこそ正規軍の軍人たちより二階級上の待遇を与えられているものと理解しております。

 彼ら戦死した将兵二名は、務めを果たした名誉ある英霊です。その御霊を穢すような発言をされるとは、我々に皆様方より先んじて死ぬ権限をお与えくだされた連合上層部に属する方の言葉とは思えません。

 どうか将軍閣下。我々クロスボーン・バンガードから先兵として死ぬための勇気を取り上げないで頂きたい! 我々は連合のため、戦友のため、守るべき民間人のための盾となって死ぬ覚悟は既に出来ているのです! その覚悟を剥奪される屈辱を甘受するのを避けるためならば、今この場で自殺して皆様方に我らの忠誠と覚悟をご理解して頂くより他ありますまい!」

 

「ま、待て! 待ってくれハウゼリー殿! 悪かった! 私が悪かった! 失言だった! だから今この場で死ぬのはやめてくれ!

 そうしないと会議後の晩餐会で私の配当が・・・ゴホッ、ゴホッ」

 

 

 ――慌てて謝罪して前言を取り下げたはいいものの、慌てすぎて要らぬことまで口に出しそうになってしまった醜態を咳払いで取り繕いだす将軍と、同じように慌てて仲介に乗り出す他の参加者たち。

 

 この場の誰もがハウゼリー個人の命に興味はなく、そして彼ら全員がハウゼリーに『今この場で死なれては困る理由を持っている者たち』でもあった。

 

 金と、特権である。

 創設から二〇年が経過し、軍上層部も世代交代がおこなわれ、まともな外敵もいない状況下で出世してきた、勝って当たり前のゲリラやレジスタンスの掃討戦しか戦争を知らない世代が半数以上を占めている今日の連合軍首脳部の惨状が、この体たらく振りである。

 

 

 ――討つべし、の一語に尽きる。

 

 

 ハウゼリーは仲介役を買って出た数人の中年将校相手に、渋々ながら自殺を諦め席に着き、隣席のトレーズ相手に片目をつむってウィンクしてみせるのだった。

 さすがのトレーズも、これには苦笑せざるを得ない。

 

 ハウゼリーは、自分に当事者でもなんでもない赤の他人の身でありながら、その事実を誰にも気づかせぬままトレーズへの攻撃をすべてなかったことにしてしまったのだから。

 

 

 トレーズは思う。

 

 ――所詮、連合軍は平和に慣れすぎてしまっている。自らの身を危険にさらすことなく、一方的に他人の命を奪う権利と資格が自分たちにはあると思い込みすぎてしまっているのだろう。

 だが、自らの血を流すことを恐れなくていい戦争から、人々は一体なにを学べるというのだろう? 一方的に他者をミンチに出来る戦争をおこなう者たちからは、戦争は悲惨であり、悲しみを積み重ねるものでしかないという人としての基本さえ忘れ去られて思い出すこともなくなってしまうのではないだろうか?

 私にはそれが耐えられない・・・。

 

 だから、これからの時代は我々が創ろう。

 我が組織OZと、ロナ家によるクロスボーン・バンガートと共に新しき世の尖兵となることで・・・・・・。

 

 

 

 ――アフターコロニー・一九五年。

 地球から巣立った人類は宇宙コロニーでの生活に新たな希望を求めていた。

 しかし、地球圏統一連合は正義と平和の名の下に圧倒的な軍事力を持って欠くコロニーを制圧していった。

 

 その統治は今までは上手くいっていた。

 圧倒的な軍事力による制圧も、当初における恫喝効果が絶大だったのは事実なのだから。

 

 だが、恫喝の持つ政治力学というものでは恒久的な支配体制など望むべくもない。それが、軍人出身の政治家兼連合軍高官たちには理解できない。・・・否、理解したがらない・・・。

 

 

 

 

「さて、本日の議題であるコロニー間の連帯阻止の一件だが――――」

 

 

 

 

 ・・・・・・連合が信じ続けたいと願う『自分たちが支配する平和な世界は永続する』という幻想が崩壊しようとしていた・・・・・・。



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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。9章

ちょっとした体調不良により本来書きたかった内容を書けるほど頭がしっかり働いてくれなくなってますのでインターバル回を投稿しておきます。
シロッコSEED、平和な愚痴り回。
大人たちの笑えない戦争事情をお楽しみいただけたら幸いです。


『・・・死にたいんですか? こんな所で・・・何の意味もないじゃないですか』

『なんだと貴様! 見ろっ! みんな必死で戦った! 戦っているんだ! 大事な人や大事なモノを守るために必死でなぁっ!!』

『!! 気持ちだけでいったい、何が守れるって言うんだ!?』

 

 

 

 ・・・・・・感慨と共に、私は原作でのやり取りを思い出しながら心の中で肩をすくめる。

 たしか、アニメ版ではこの辺りで交わされていた会話だったなと記憶の糸を手繰りながら私はクルーゼの隣に立ち、その光景を“画面の外から”眺めやっていた。

 

「両名とも無事にジブラルタルに入ったと聞き、安堵している。先の戦闘ではご苦労だったな」

『・・・死にそうになりましたけど』

 

 ヴェサリウスの隊長用個室に据えられた端末の画面に向けて語りかける自分たちの上官に対しディアッカ・エルスマンは、不満気な表情にイヤな感じの笑顔をたたえながら皮肉な返事を返してきていた。

 あたかも、“自分たちがこんな目に遭ったのは俺たち以外が役立たずだったからです”とでも言い足そうな口調と表情で。

 

「残念ながら足付きとストライクを仕留める事は出来なかったが、君らが不本意とは言え共に降りたのは幸いだったかもしれん。足付きは今後地球駐留部隊の標的となるだろうが、君たちもしばらくの間、ジブラルタルに留まり共に奴らを追ってくれ」

『・・・・・・・・・』

「無論、機会があれば討ってくれて構わんよ?」

 

 それだけ告げるとクルーゼは、相手からの返事を待たず一方的に通信を切った。これ以上、苦労知らずのお坊ちゃん方の相手などしている暇はないという意思を行動で伝えようとするかのように。

 

「ふぅ・・・」

 

 通信を終えて疲れたようにマスクを外して目をほぐすクルーゼ。

 私の調合した薬によって老化の進行は大分停滞しているため、アニメで見えていた範囲までしか彼の顔に年輪は刻まれていないが、今ばかりは加齢とは別の身体的影響により彼の身体は急速に老いが見受けられていた。

 

 端的に表現して、寝不足と過労による中間管理職のオッサン臭さが滲み出る顔つきになってしまっていたのである。

 

「苦労性のクルーゼ隊長、お疲れ様です」

「茶化すなシロッコ。私としては冗談口を返している余裕さえ惜しい心境なのだぞ・・・?」

 

 “あの”クルーゼが言っているとは思えないほど『生の疲れ』が滲み出ている口調と表情を前にして、友人には悪いと思いながらも私は笑いを我慢するのに少なからず苦労させられてしまうのだった。

 死から遠ざかったことで、死ぬまでは生きているため努力してみようと思い直してくれた我が友クルーゼではあるが、ここまで激変しすぎた状況というのは想像の埒外だったのは事実なので、私としても計算が狂い・・・なんと言うかこうバカバカしすぎて笑い話にしたくなってしまうほどハイテンションになっていたのである。

 

 まぁ、要するに私の方でも連日の徹夜で調子がおかしくなっているだけだったりするのであるが。

 

 

『機会があれば・・・だとぉ・・・?

 討ってやるさ。次こそ必ず、この俺がなぁ!』

 

 

 先の通信を終えた直後、イザークが叫んでいた宣言を思い出しながら私は片手に持つチューブを友に向けて掲げて見せる。

 

「不満そうだったな彼らは。おおかた地上の現地部隊と合流した後でもストライクを討つため独断専行を繰り返す腹づもりなのだろう。

 フッ。前線でモンテ・クリスト伯のような復讐劇か・・・。イザークらしいな、お坊ちゃん」

「その分、我々大人が子供の遊びの後始末をやらされるというのだから、堪ったものではないがね」

 

 鬱憤をぶつけるように毒を吐くとクルーゼは、私から自分の分のチュ-ブを奪って口に含む。

 入っているのは普段は飲まないカフェイン入りのコーヒーである。パイロットは排泄の問題から利尿作用のあるコレを飲みたくても飲まない者が意外に多く、私もクルーゼも例外ではなかったのだが今このときばかりは飲まなければやっていられない。

 

 眠すぎるのだ。眠気覚ましの一杯でも飲まなければ到底やっていられない状況に現在のクルーゼ隊中枢は陥っていたのである。

 

 なにしろ我々は『敗軍の将』たる身なのだから・・・・・・。

 

 

「ニコルとアスランの方はどうした・・・?」

「休憩を与えておいた。どのみち、戦闘の恐れがない空域においてパイロットにやってもらう事はほとんどないのは当たり前だからな。

 存分に寝て、充分に食べ、英気を養ってもらうことこそが通常任務時におけるMSパイロットの果たすべき仕事なのは言うまでもなかろう?」

「・・・その割に、私たちは働きづめになっているのだがね・・・・・・」

「何事も事後処理が一番の苦労なのはすべての事柄に共通する弊害だからな。受け入れるしかあるまいよ」

 

 私は肩をすくめて友の嘆きに応えてやる。

 まったく、キラ・ヤマトの言うことは尤もだったとつくづく思い知らされる。確かに戦争中では、気持ちだけで守れるモノなど何ひとつない。

 

 なぜなら戦争とはモノを大量消費し続けることで行われる行為なのだから。

 守るためには使いまくり、失いまくることでしか何一つ守れるモノは存在しないのが戦争という異常事態の中での悲しい現実というものなのだから。

 

「ハルバートンの第八艦隊はほとんどが降伏を拒否して、闘死するか逃亡するかを選んでくれたから比較的捕虜は少なくて済んだが・・・それでも0というわけにはいかん。一人残らず戦死する戦闘などありえんのだからな。

 現在は監獄用のスペースに放り込んであるが・・・もとから敵の数の方が多い相手だ。少ないとは言え、比較的にでしかないことは今のうちに伝えさせておいてもらうからな?」

「・・・また、食料の消費量でグチを聞かされるのかと思うと頭が痛くなってきそうになる幸せな未来の報告をありがとう心の友よ・・・」

 

 どういたしまして、と返してやろうかと思ったが止めておいた。正直、シャレで済まない状況がすぐ身近に迫ってきていることを知る身としては冗談としても口にするのが憚れる内容だったからな。

 

 

 ――ザフト軍は、プラントが地球に対して戦争状態に陥ってしまうときのことを考えて創設された私設軍隊である。最初から地球が敵となることを想定して創られているため、支給される装備のほとんどは自前での調達が可能なことを前提として設計されている。

 

 無論、効率やコストを考えたら外部委託や輸入に頼った方が遙かに生産効率がよくなる部品は数多く存在しており、性能的にもモルゲン・レーテ社から購入した方が優れた成果を出す機材を数えだしたら切りがない。

 

 だがそれでも、モルゲン・レーテがオーブの国営軍需企業であり、オーブが地球にある国の一つである以上は、地球と戦争することを想定して設立されたザフト軍にとって依存しきる訳にはどうしてもいかない。敵に武器の心臓部を握られてしまうことだけは、可能性上の話だけだったとしても絶対に避けなければならない最重要課題だったからである。

 

 その為、ザフト軍は軍として軍事行動をする上で必要となる物資を最低限プラントで自給自足が可能となるよう最初から計算されて設立された極めて特殊な組織となっていた。

 地球と地続きではないスペースコロニーが、地球全体を敵として戦うことを想定し、その並外れて高い技術力を最大限投入したからこそ可能となった異形の軍隊と言うべき存在なのかもしれない。

 

 

 ――だが、反面。ザフト軍の大本であるプラント本体は非常にもろい経済基盤の上に成り立っている宇宙都市でしかなかった。

 

 なにしろ元々がコーディネーターを隔離するため宇宙に創られた鳥籠でしかないのだ。

 コーディネーター側の主観はどうだったか私は知らない。しかし、連合が食料その他の宇宙では手に入りにくい生活必需品を鎖としてプラントを地球に縛り付けておく政策を取っていたであろうことは容易に想像が付く。当然の政策と言うべきだろう。

 

 『強い牙を持つ奴らは閉じ込めておくか繋いでおくかしないと危ない』のだから――。

 

 その結果、プラントの食料そのほか生活必需品の自給率は笑ってしまいそうなほどお粗末なものにならざるを得なくされてしまっている。プラント理事国からの支援がなくなれば直ぐにも干上がるのではないかと思われるほど切羽詰まっている状況がもう何年も前から常態化してしまっているのだ。

 

 もちろん地球を相手に戦争を仕掛けると決めた時点で、一定の増産には成功していた。

 得意の遺伝子工学技術をフルに使い、動植物の成長促進、生産量の増加、安全で美味な遺伝子組み換え作物など現代日本では白眼視されながらも知らぬ間に口にしている類いのものだったが、この世界のプラントでは一般の食卓に上るほどポピュラーな一般的な食物となっていた。“戦前までは”。

 だが、それも開戦以降は激減する一方と成り果ててしまっている。軍隊が作った端から持って行ってしまうからだ。

 戦闘時における人間の肉体は、平時と比べて三倍の食事量を必要とするのだと何かの本で読んだことがある。その説が正しいとするならば、たかだか戦前の二倍、三倍に増やした程度ではプラントの食料生産量が長期間の戦争を支えられるものではない事ぐらい子供でも分かりそうなものなのだがな…。

 

 

「ただでさえ、軍艦に余剰人員など乗せていない。食料は搭乗員が予定された日数を消化する分以上は載せられるスペースが存在しなかったから詰め込むことが出来なかった。その上――」

「我が軍の艦船はモビルスーツの運用を前提に設計されているせいで、見た目ほど余剰スペースが用意されておらず、連合軍籍の艦艇はMSのない時代から使われていた分だけ広く、人員も多い。おまけに――」

「たかだか戦艦とモビルアーマーしか保有していない第八艦隊だけ殲滅したところで、足付きもストライクも仕留められなかった我々は事実上、作戦を失敗させられた敗軍の将と言うことになるわけだからな。さらなる補給を求めるからには相応の成果を出すことを要求される羽目になるだろう。堪ったものではない。

 あの距離ではどうせ追い詰める以上のことは望むべくもなかったというのに・・・」

「ああ・・・。そう言う意味でもイザーク達が地上に落ちてくれたのは幸いだった。これ以上厄介ごとが増やされるのは正直勘弁して欲しいと願っていたところだったからな」

 

 疲れたように肩をすくめるクルーゼ。

 彼が言っているのは、イザークが先の戦闘の最後におこなった非武装の脱出用シャトルをビームライフルで撃とうとした行為、それについてプラント理事国各位から非難の声が上がっていることについてだった。

 

 彼は戦闘にどさくさで間違って撃ってしまっても、誰にも気づかれるはずがないと高をくくっていたのかもしれないが、SEEDの世界にはロウ・ギュールをはじめとするニュータイプじみた特殊技能をもつ民間人が数多く存在している。今回の件もジェス・リブル辺りが撮影していたのかもしれない。

 厳しい情報規制を強いたときには既に手遅れ、各地のプラント理事国に持ち込まれてしまった情報は今更どうにかすることなど不可能だったため、やむを得ず彼ら二人の処遇を地上の前線に押しつけて無理矢理手落ちに持ち込んでしまった。そういう事情が先の通信には隠されている。

 

 彼らにはああ言ったが、本音を言えば『敵を討ちに行く以上は、無論君らも討たれる可能性は考慮しておいてもらうぞ?』というものでしかない。

 同じ言い訳で各国からの非難を躱して急場しのぎを繰り返させたのだから、地ベタを這いずり回って左遷先でほとぼりが冷めるのを待つぐらいの我慢を要求する権利と資格が当然我々にはあるのだと私は確信している。

 

「ああ、そうだクルーゼ。伝え忘れていた。本国からの通達だ。今回の件について、君自身の口から直接説明と釈明を聞かせて欲しいとのことだったぞ」

「・・・またか。あれだけ同じ内容の報告と報告書を届けさせておきながら、まだ同じ内容の謝罪を耳にしたがるとはな・・・。

 人という生き物はつくづく他者を貶めることで自分の方が上に立った気になりたがる生き物なのだと言うことがわかって嫌になってくるよ」

「そんなものさ、俗人共のやることというものはな。天才の足を引っ張ることしかできない俗人共としては、自分たちの先を行く天才の足を引きずり落として同列に並んで笑い飛ばしたい欲望がある。

 コーディネーターもナチュラルも身体能力と頭脳面で違いがあるだけで精神的には大差ない以上、この手の欲望は誰しもが持ち合わせていることだろう。

 ・・・愚かなものだ、世の中の流れを洞察できん無能な政治家という奴らはな。いずれ我々が粛正してやるとしても、今はそのときではない以上、頭を下げに赴く以外に他あるまい。

 それが隊長と副隊長というザフト軍の中間管理職に与えられた役割というものなのだよ、我が盟友クルーゼ」

「・・・与えられた役割を演じるというのは存外に難しく、疲れる生き方なのだな。我が親友シロッコよ・・・」

 

つづく



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スーパーコーディネーターに成り下がった【神】

『戦記好きがキラに』を書こうとしてたら何故だか変な方向に暴走して変な物が出来てしまいましたので一応投稿しておきます。問題あったら即座に削除しますので仰ってください本当に。

…設定としては『幻想魔伝・最遊記』に出てきた『闘神・焔』が最高のヒトを作り出す禁断の実験の果てに完成したスーパーコーディネーターとして生まれてデュランダルの下までやってきたときの会話と言うものスゴイ設定。
なお、キラ君は出ません。唯一の成功体がスーパーコーディネーターなのでね。


デュランダル議長

「君がこんな所まで来るとは正直思っていなかったよ・・・だが、本当にいいのかな? それで。

 やめたまえ。やっとここまで来たんだ。そんな事をしたら世界はまた元の混迷の闇へと逆戻りだ。・・・私の言っている事は本当だよ?」

 

ホムラ・ヤマト

「そうなるだろうな。――だが、それでいい。

 たとえ叶わない夢だろうと己の意思で見続けている事に意味がある。自分の進むべき道を自らの意思で選ぶ権利のなくなった世界に生きるくらいなら死んだ方がマシだと俺は思うがね」

 

デュランダル

「ふむ・・・だが、誰も選ばない。人は忘れ、そして繰り返す。もう二度とこんなことはしないと、こんな世界にはしないと。一体誰が言えるんだね!?

 ・・・誰にも言えはしないさ。無論、君にも、彼女にも。――やはり何も分かりはしないのだからな」

 

ホムラ・ヤマト

「言えるさ。当然の事だろう? それを言えない者に今の世界を否定して壊す権利や資格など、あるはずがないのだからな」

 

デュランダル

「・・・・・・っ」

 

ホムラ・ヤマト

「わからなくていいのさ、自分の限界なんてものはな。わかったところで退屈になるだけで、得られる物はなにもない。

 分からないから、分かろうと欲することが出来る。知らないからこそ、知る喜びを勝ち取る権利を与えられている。

 誰もが生まれつき与えられた物だけで生き、何も求めない世界は死んでいるのと何も変わらない。未来永劫に今が続くだけ・・・死なないために生きるためだけに人生の全てがある命は生きていない。ただ死んでいないだけでしかない」

 

デュランダル

「・・・・・・傲慢だね、さすがは最高のコーディネーターだ・・・」

 

ホムラ・ヤマト

「その通り、俺はスーパーコーディネーターだ。その様に生まれ、その様にしか生きる事を許されていない存在だ。だが、それが何だと言うんだ?

 ナチュラルはナチュラルでしかなく、コーディネーターはコーディネータでしかない。それ以上にも、それ以下にも成ることは出来ない。

 だが、それはスーパーコーディネーターとて同じこと・・・死ぬまで俺はお前たちより優れ続けて、お前たちから同格の生き物として扱ってはもらえない。

 人格や個性よりも、能力の優劣と種族によって俺という存在は定義されて生きていく以外に俺の選べる道は最初から用意されていなかったのだからな。

 ・・・もっとも、下から見上げることしかしないし出来ない連中にしてみれば、これも傲慢な言い分としか思えんだろうが・・・」

 

デュランダル

「・・・・・・」

 

ホムラ・ヤマト

「俺は俺でしかない。

 

俺にしかなれない。

 

 

デュランダル

「だが、君の言う世界と私の示す世界、皆が望むのはどちらだろうね。

 今ここで私を討って、再び混迷する世界を君はどうする?」

 

ホムラ・ヤマト

「それは俺が決めることじゃない。無論、お前が決めることでもない。

 皆が何を望むかは、人間一人一人が自らの意思で決めるべきことだろう。一人の人間ごときが優れた能力を持っているからと偉そうに定義していいことではない。そう言うのはな、神様気取りで全人類を見下したがってるバカな独裁者だけがやってればそれでいいんだよ」

 

デュランダル

「な・・・っ!? んだとぉぉ・・・っ!!」

 

ホムラ・ヤマト

「混迷する世界でどうするかも同じことだ。ただ、あるがまま・・・生きたいように生き、成りたい自分に成れるよう目指し続ける。人にはそれが許されているのだから、やればいい。

 出来るか出来ないかなど、やる前から結果をどうこう言うよりよほど楽しくてやり甲斐がある。退屈しなくていい。退屈は死に至る病と言うからな、毎日が退屈しないで済むのは喜ぶべき幸福さ。

 ――さて、辞世の句はこれくらいでいいだろう? 終わりだ」

 

 パァンッ!!

 

デュランダル

「ぐ・・・あぁ・・・・・・」

 

 

ホムラ・ヤマト

「・・・・・・」

 

デュランダル

「こんな・・・こんな形で終わるのか・・・? 私の人生は・・・。

 誰も皆亡くなったこの場所で・・・誰の温かみにも抱かれてもらえないまま・・・一人だけで寂しく冷たいところへ連れて行かれてしまうのか・・・・・・?

 ――い、いやだ! 死ぬわけにはいかない! 一人だけで死ぬ運命は嫌なんだ・・・!!」

 

ホムラ・ヤマト

「無一物・・・・・・」

 

デュランダル

「・・・?」

 

 

ホムラ・ヤマト

「昔、今のお前と同じようになったとき、友人に言ってもらえた言葉がある。

 【仏に逢えば仏を殺せ・・・

  祖に逢えば祖を殺せ・・・

  何物にも捕らわれず、ただ、あるがままの

  己を生きること・・・・・・】

 それが出来なかったから、お前は他人にもそれを許さなかった。その結末が今を創っている。お前はただ今まで歩み続けてきた人生の答えを与えられただけだ。見た目ばかりを取り繕った中身の醜い生の果てに、死だけが美しく飾り立てられていい道理がなかろう?

 お前は今、自分自身に裁かれようとしてるんだ。自分のしてきたことの結果を甘んじて受け入れながら死んで逝け」

 

デュランダル

「い、いやだ・・・助けてくれ・・・殺していってくれ・・・せめて、せめて最高のコーディネーターの手にかかって死ぬ人生の最期をこの私にも・・・・・・」

 

ホムラ・ヤマト

「駄目だ。お前には今まで俺が殺してきた全ての者たちと違い、その死に方を迎える資格がない。

 それが、お前たちが夢の果てに造り出した人造の神【スーパーコーディネーター】ホムラ・ヤマトが下した決定だからだ。受け入れろ」

 

 

 ザッ、ザッ、ザッ・・・・・・

 

 

デュランダル

「・・・ああ・・・タリア・・・レイ・・・。

 君たちの姿が、今の私には見ることができな・・・い・・・・・・」




*お伝えし忘れていましたが、今話はもともと『転生憑依キラ』を初めとする私なりに考えたオリキャラやオリジナル設定を付与させた原作キャラと色んなガンダム作品のキャラたちとを対話させる趣旨の下で書き始めたものでした。ホムラ・ヤマトはその内の一人です。

候補は他に

宇宙世紀好きの転生憑依者・Gジェネやスパロボで台詞の言い合いが偶然マッチした相性最悪キャラ・逆シャアのアクシズショックから過去にTS転生したシャア等々。


これら複数のやり取りを1話内にまとめたものを近く投稿する予定でおります。
ページ下にプロフィールを載せて、他のところを含めて何かの折に使えればいいなと候補をストックしておきたい算段ですので、よければご協力くださいませ。


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戦記好きがキラ・ヤマトに憑依転生した場合のお話2

やっと完成しましたので久しぶりに転生憑依キラ君を更新することができました。
久方ぶりすぎてリハビリも兼ねましたので今回は短め、四本立てです。

時に危なく、時に激しいキラ君の激変ぶりをお楽しみいただけたら幸いです。


VSミゲル・アイマン

「ハイドロ応答なし! 座源駆動システム停止! ええい――ぐふッ!?」

「・・・死にたいんですか? それとも動きを止めただけで敵が油断してくれるとでも思っていたんですか? 敵にトドメを刺すまで気を抜かない・・・戦場の鉄則です。

 悪く思わないでください。一方的に仕掛けてきた戦闘が終結したわけでもないのに油断したあなたが悪いんですから・・・」

 

 

ナタル・バジルールと救命ポッド回収で揉めたとき

 

「なんだと!? ちょっと待て! 誰がそんなこと許可した!?」

「認められないって・・・推進部が壊れて漂流してた救命ポッドなんですよ? それをまた放り出せとでも言うんですか? 避難した人たちが乗ってるんですよ?」

「すぐに救援艦が来る。アークエンジェルは今、戦闘中だぞ。避難民の受け入れなどできるわけが――」

「・・・バジルールさん。だからこそ僕は回収した方がいいと思って持ってきたんですけども?

 忘れていませんか? この救命ポッドは『あなたたち連合軍とザフトの戦闘に巻き込まれて大破した中立コロニーの避難民たちが乗っている救命ポッド』なんですよ?

 これで推進部が故障して漂流してたところを戦闘中だからと見捨ててオーブの救援艦に保護されてしまったら、連合はオーブに対してなんの言い訳もできなくなると思うんですけども・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・(滝のような冷や汗)」

 

 

VSアスラン・ザラ

「キラ! やめろ! 剣を引け! 僕たちは敵じゃない! そうだろ!? なぜ僕たちが戦わなくちゃならない! 同じコーディネーターのお前がなぜ僕たちと戦わなくちゃならないんだ!?」

「僕たちは敵じゃないだって・・・? だったらなぜ撃ってきた!? なぜ僕たちの住んでいた中立コロニーを攻撃して戦火に巻き込んだんだ!? 

 自分の育った第二の故郷でもある中立コロニーを、宣戦布告もなしに先制攻撃して破壊し尽くした男が今更なにを都合のいい理屈を並べ立てているんだ!」

「うっ!? そ、それは・・・だが、あれはヘリオポリスが連合のモビルスーツを開発する協定違反をしていたから仕方なくだな・・・」

「国が条約を違反していたら、民間人を巻き込む市街戦を行ってもいいと思っているのか!? そんな蛮行を正当化しようとするヤツの言うことを一体誰が真に受けるって言うんだ!」

「う゛・・・。うぐぅ・・・」

「なぜ君と戦うのか? なぜ僕が君に剣を向けるのか? 生き残りたいからだ! 決まっているじゃないか! 僕は生き残るため、僕たちを殺しに来る君たちと戦っているんだ! 生きるためにナチュラルとコーディネーターを区別する必要があるって言うのか!?」

「き、キラ・・・・・・」

「僕と戦いたくないのなら、僕を殺したくないのなら、僕に殺されたくなかったら!

 僕に銃を向けてくるんじゃない!!!」

 

 

VSアスラン・ザラ【閃光の刻】

「キラァァァァァァッ! お前がニコルを! ニコルを殺したぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「今まで散々殺しまくってきた君が、たった一人殺されたぐらいで喚くなアスラァァン!」

「撃たれるのは俺のはずだった! 俺を助けようとしてニコルは死んだ! 今までお前を撃てなかった俺の甘さがニコルを殺したんだ!」

「なら、なぜその人は軍に入隊したんだ? なぜ軍服に袖を通したんだ? 僕と違って着させられたんじゃないぞ! 自分の意思で軍隊に入って人を殺す道を選んだんじゃないのか! ええ!?」

「うっ、ぐっ・・・!?」

「君も君だアスラン! その赤い軍服を着れるようになるまで一体何人殺してきた!? 何人の連合軍人の血で染め尽くされた真っ赤な軍服だと思っているんだ!? 赤の他人の友達なら何百万人でも殺せる覚悟はできても、自分の友達が殺した相手の遺族に仇討ちされるのは許せないとでも言うつもりなのか!? そんな身勝手な理屈で友達を殺された人たちが君たちを憎んで殺しに来ないとでも思っているのか!?」

「ぐ・・・ううぅぅ・・・っ!!!」



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ガンダムW戦記~クロスボーン・バンガードの旗のもとに~2章(修正後)

時間ができましたのでクロボンW2話目を書き直しました。前回の分には「修正前」と銘打って一応残してありますけど、邪魔だった場合は削除しますので言ってくださいませ。
基本的にはこちらの方が当初考えてたのに近く(まんまじゃありませんが)話の流れ的にもこっちを基準にする予定でおります。


 ゼクス・マーキスがガンダム相手に三機のMSを失ったとの報告は、彼から海に沈んだMS引き上げの手柄を横取りした連合所属のマリーナにより連合本部へ報告され、OZ構成員にも自然な形で即日に内に浸透していった。

 

 それ自体に問題はない。なぜならOZは事実上、連合正規軍とは別組織であるとは言え形式としては連合指揮下の一部隊に過ぎぬのだから『共通の敵と戦うため情報を共有する』ことは軍組織として当たり前すぎるほどの道理であるのだから。

 

 

「なにしろ“あの”ライントニング・バロンが一機の敵を相手に三機のモビルスーツを落とされてしまうほどの強敵だ。対策を練るため日頃からの思うところは一時棚上げにして味方同士連携し合うのが連合軍人としての使命ではないか」

 

 ――正論である。だからこそ阻止するべき正当な理由も存在しない。

 如何に本音が見え透いていようとも建前は建前として守られねばならぬのが、国家が持つ組織の有り様というものだろう。

 

「ライトニング・バロンが、たかが反乱分子を相手に三機のモビルスーツを失って二人の部下を殺されたんだとよ」

「噂は噂だ。他に言うんじゃない」

「・・・本当らしいぞ? ゼクス本人もやられたらしい」

「成り上がりが、いいザマだ」

 

 ・・・無論、OZ本部内でこのような会話が交わされるようになる事こそ彼らの狙いであったことは言うまでもない。

 OZの持つ雰囲気は、腐った連合軍部内にあって紛れもなく最良の部類に属していたが、それでもこの種の悪感情を完全に取り除くことは不可能なところに、考える頭を持ってしまった『人』の持つ業と不幸が組織のそのものが持つ悪癖という形で現されていたと言えるのやもしれない。

 

 

「たった一機の敵がやったって話だぜ? アレックス」

「手柄をあげるチャンスが来たんだよ、ミュラー」

 

 二人のOZ士官が個人的ツテで伝え聞いた噂話を、輸送機での退屈な長旅でのお供にしている。

 

「所詮ライトニング・バロンも過去の基準から見たエースに過ぎない。新しい時代には新しい時代に相応しいエースが必要になる。

 時代の流れに乗りきれなかったエース殿は愚か者なのだ。淀みを正すためにも近いうちに我々の手でご退場頂くとしようじゃないか。なぁ? 選ばれた者の同士よ・・・」

 

 

 

 ――これらの意見は、右と左の意見が出ることによって陣営がわかれ、片方が悪なら真逆は正義で正しいとする短絡的な主張を台頭させてしまう人の世が持つ弊害であり、かつての世界でクロスボーン・バンガードを産み落とす要因ともなった人が生まれ持つ業でもあったが、今のところ“この男”はそれらの美しくない醜い感情と無縁であるようだった。

 

 

「モビルスーツを三機も撃ち落とされたそうだな?」

 

 手にしたオペラグラスを降ろしながら、輝く黄金の髪を持ちOZ軍服をまとった若い男は、物憂げな身のこなしで吐息を吐くかの如く画面向こう側に映る男にそう呼びかけていた。

 

「君ほどの男がとんだ不始末をしたな。連合のうるさ方を黙らせるのが一苦労だ」

 

 暗に“掴んだ敵情を語るよう”促された仮面の男ゼクス・マーキスは、望まれるまま最適と信じる情報を簡明な一言で表現し、上司であり親友でもあるOZの総帥『トレーズ・クシュリナーダ』に報告する。

 

『相手はガンダニウム製のモビルスーツでした」

「なんだと」

 

 部下からの報告に口では驚きの念を現しながらも、言うほどの驚愕は表情にない。

 むしろ“納得”の色合いが強い。

 然もあろう、元より軍事的な驚きとはそう言うものである。

 

 フィクションと違い、想像を絶する新兵器が登場しただけで圧倒的不利な戦局が覆され勝利するなどという状況は現実の戦争だとほとんど実在しない。

 互いに敵対する両陣営の一方で発明され実用化された兵器は、今一方の陣営においても理論的には実現している場合がほとんどだからだ。

 

 モビルスーツ、ビームライフル、そしてガンダム。

 

 いずれもがそうであり、宇宙世紀の戦争方式を一変させたミノフスキー粒子でさえ、弱小の新興国家ジオン公国に勝利をもたらすことは出来なかった。

 今回もまた例外ではない。宇宙でしか精製できない特殊な金属ガンダリウム合金の使用を前提として設計されたモビルスーツの情報は、15年前の時点で開発者たちのチームと共にOZ本部が把握していた存在だ。

 

「15年前、このOZに私と君、そして“彼ら”がいてくれたら、こんな不手際にならなかっただろうがな」

『では、やはりあれはガンダム?』

「他に考えられまい? 連合の宇宙に対するチェックが甘すぎたと言うことだ」

 

 トレーズは穏やかな口調で指摘したが、その内容は手厳しい。

 約二十年前、地球上で頻発する紛争に単独で対処しきれなくなった各国家が寄り集まって出来たのが地球圏統一連合であり、圧倒的軍事力で紛争問題を解決し争いの種を減少させていった連合軍が、今度は肥大した軍組織を維持するため新たな敵を求めて設定したのが当時まだ発足したばかりのコロニー群による自治機構だった。

 

 彼らは非武装を説く指導者のもと平和的解決を望んでいたが、手に入れた権益を未来永劫確保し続けるためだけに敵を欲していた連合軍に通じるはずもない。

 指導者は暗殺され、混乱するコロニーに正義と平和をもたらすという建前でもって軍事的に介入し、制圧したコロニー間の航路上に宇宙機雷を設置して、人材の交流と情報共有のための通信を一切断絶させるまでやってのけたのである。

 

 

 ――だが、地球圏統一連合軍が危険分子と認定したコロニーに対して行った治安維持活動はここまでで、コロニー間の連帯を阻止しただけで地球から宇宙を支配できると慢心した連合首脳は安心してしまったのである。

 それ以降、彼らは今までずっと地球に引きこもり、延々と味方同士で利権の奪い合いと責任の擦り付け合いに終始し続けてきた。

 自分たちが何もせずとも支配と権益が維持し続けられる制度さえ作ればよいとして、安穏とした城壁の奥の平和と繁栄を自分たちだけで独占できる今に油断しきってしまっていたのだ。

 

 

 それをトレーズは指摘して、指弾したのだ。甘い、と。

 結束できず、他の勢力と情報交換さえできなくなった抵抗勢力が次にとるべき手段は何か? ――テロである。当たり前のことだ。

 連合は統制社会を敷いたのなら、コロニー市民の内部にまで監査の目を光らせなければ成功したとは言えない。真にもって連合のコロニーに対する態度は中途半端に甘く、適当すぎたと言わざるを得ない…。

 

 

「――人が持つ文化、思想、宗教、利権、政治理念の違いから争い合うことで生じてしまう戦争は悲しいことです。それらを実力行使によって鎮圧するため軍を存続させる必要があるのは道理でありましょう。

 ですが、局地戦が継続することが強大な軍組織全体の存続価値を認める理由にならないのもまた子供でも分かる道理でしかありません。倒すべき敵がいる限り兵士たちと軍隊を残し続ける口実になるなどという考え方は欺瞞の創出でしかない。

 統一のために生まれた組織であるならば、統一がなった暁には連合軍などという武力集団は、一部の治安維持に必要となる最小限度の兵力のみを残して破棄すべきでした。それをしなかった時点で連合は、設立された当初の志も理念も大義すら自ら捨て去ったのです」

 

 

 その時、トレーズの隣に座ってオペラを観劇していた同胞が声を差し挟んできた。

 普段は奥ゆかしく、人と人との間で交わされる会話に割って入ることを非礼であるとし忌み嫌う彼にしては珍しい反応だった。

 

 トレーズは興味深そうな視線で、隣に座った“もう一人の親友”を眺めやる。

 

 

「自分たちが獲得した既得権益を未来永劫独占し続けるためだけに存続しようとする軍組織は人類にとっての癌細胞に過ぎません。

 これを残すことこそ悪であり、討つために流れる血は正義であると小官は確信致します」

「ほう。君はこれから我々が行う大事のなかで流れる血は、悪ではないと言い切るのだな?」

「はい」

「戦争は悲惨であり、悲しみを積み重ねるものでしかないと知った上でかね?」

「無論です。成さねば人類全体が滅ぶというという戦争の中で、判らぬ者には力でもってでも教え諭すことは必要悪だと断言できますから。

 そして、誰かが強権発動という名の悪を成さなければならないとするならば、それは自らの血を流すことを恐れない高貴な精神を持つ者でなければなりません。

 そしてそれを担うべきは腐敗堕落した軍を永遠に存続させるため敵を創出する連合ではない。自らの意思で考えることを放棄したガンダムのパイロットたちでもない。

 その任に堪えうる者は現在のところ、我々と閣下、そしてゼクス特佐をおいて他にはおりません・・・」

 

『・・・・・・・・・』

 

 画面の向こうとこちら側で“彼”の話を聞いていた二人の青年は、それぞれの表情に違う感情と過去を込めて頷きを交わし合い、決意を秘めた瞳でお互いの瞳を見つめ合う。

 

 素顔を晒した両眼、仮面の向こうに光る青い双眸、そして“片目をアイパッチに隠した冷たい隻眼”・・・・・・五つの異なる瞳が一点に集中して混じり合い、一つの決意と理想をもって一つの堅く揺るがぬ意思を成す。

 

 

『・・・連合のマリーナがあの機体を回収しようとしております。いかが致しましょう?』

 

 やがてゼクスが何事もなかったかのように報告の続きを再開する。

 “今この場で話した内容は聞いていなかったことにする”。そう言う意味を込めた当たり障りのない偽装のための日常会話にトレーズもまた合わせる。

 

「それはこちらに任せてもらっていい。君には海中探査の特別隊を送るから、後は頼む」

『了解しました』

「わかっていると思うが、大事の前だ。勝てぬと分かり切っている敵を相手に、部下を無駄死にさせるような真似はしたくない。万事慎重にことを運んでくれたまえ。

 ガンダムの名を持つ敵は、私や君が思っている以上に強敵らしいからな」

『承知しております』

「ああ、それとそちらに面白い物を送ろう。見ておいてくれたまえ。我々にとって真の敵になる者たちの姿だ」

『わかりました。――では』

 

 その言葉を最後にブラックアウトする端末の画面。

 

「さて・・・私はこれから連合本部ビルで定例会議に出席しなければならないが、君はどうするかね? ザビーネ。逢いたいガンダムパイロットがいたならば送り届けるため特別機を用意するよう準備させているが?」

「閣下には敵いませんな・・・」

 

 

「――では、東シナ海の揚子江付近に。この五機の中でもっとも弱く、覚悟が足りていないのは龍の使い手である彼と見ました。戦いに驕り高ぶり、傲慢油断が見え隠れしています。

 一度敗北を味あわせることで奮起させ、閣下が相手取るに相応しい相手かどうか試してみたいと思いますので・・・」

 

「そうか、では好きにするといい。

 ・・・ところで、もし彼が敗北に打ちのめされて二度と立ち上がれなくなった場合には、我々の計画に大きな変更を加える必要が生じるだろう。そうなった場合にはどうするのかな?」

「その時には・・・」

「その時には?」

 

「その程度の人物だったと諦めがつきます。我々は単純に力だけでことが成せるとは思っていません。それを成せる者には己の力だけでなく運命さえ味方させるような自分の外側にある力も必要でありましょう。

 自らが生まれ持った才能のみに頼り縋り、己よりも弱い敵に勝てるだけで自分は強いと勘違いし、たった一度の敗北さえ乗り越えられない脆弱すぎる精神の持ち主に自分以外の人の命を奪う資格はないのです。

 ――感情を処理できぬまま人を殺す人類は、ゴミだという事実を教えに行ってやると致しましょう・・・」

 

「君たちは厳しいな・・・よかろう。それにより彼が敗北から立ち直れず我々の計画に狂いが出たとしても私は君を許そう。期待するに値しない者に信じてしまった己自身の戒めとして心に刻みつけて己を罰することを制約させてもらおう。

 この様にして己の器と運命を占うのも、時には悪くないものだ・・・・・・」

 

つづく



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機動戦士ガンダム・エクサイン

同時に何作か思いついたは良いものの、一度に書けるのは一作のみ(当たり前ですが)
なので取り敢えず一番簡単だった『機動戦士ガンダム・アグレッサー』原作の二次創作です。原作と言うよりかはモデルにして別作みたいな作品ですけどよければどうぞ。

注:超性格の悪い主人公です。苦手な方はお控えください。


 ――俺はよく戦う理由を人に尋ねられることがある。

 なぜ戦うのか? なぜ人を殺すのか?

 なぜ“ジオンを裏切った裏切り者の亡命者”が、連邦の軍服をまとってまで愛する祖国に銃を向けるのか。お前の忠誠心はどこにあるのか?――と。

 

 そんな時、俺はいつも決まって、こう答える。

 

「■■は、●●か?」

 

 ――と。

 

 

 

 

 ・・・息を潜めて時期を待つ耳に、自分の呼吸音が響いてきてヤケにうるさい。

 モビルスーツのコクピット内でノーマルスーツを着用しながら息を殺すことに意味などないのは承知の上の無駄な作業だ。

 

 だが、それをやらないと安心して待てないのが待ち伏せ作戦というものである。

 ジッとしたまま隠れ潜んで敵を待つ。身動き一つしただけで敵に見つかる可能性は0だと保証してくれるものは何一つなく、仮にあったとしても昨日までで期限切れの保証かもしれない可能性は無限大。

 逆に、隠れ潜んでいるのが敵にバレていて、罠に誘い込まれようとしているのは自分の方かもしれない可能性は完全無欠の未知数。・・・これで怖くなければ嘘かフィクションの二択だろう。

 

 だが、今回。どうやら彼の忍耐は正しく天に認めてられたらしい。

 敵のジムは、こちらに気付いた様子もなく単独で歩いて近づいてくる。警戒していないわけではなく、首を左右に振って索敵しつつも、右手に持ったジムライフルは敵が出てきたら即応できるよう全周囲に向けられる持ち方をしている。

 

 ――かなりの手練れだな。手強い・・・。

 

 コクピットの中で、そのジオン兵は敵の力量と実戦経験の豊かさを看破し、たとえ奇襲に成功したとしても油断はするまいと心に定める。

 そして、待つ。

 

 一歩、二歩、三歩。少しずつ近づいてくる地球連邦の主力量産型MSジム。

 最近、連邦本部ジャブローで本格的な量産が開始されたばかりの新型だが、開発におけるテストのため先行試作型は早くから各地に回され経験豊富なパイロットに割り当てられてきた経緯を持つ機体でもある。

 それ故に、現段階におけるジムのパイロットは手強い。ほぼ確実に経験豊富な古参兵が乗っている場合がほとんどだからだ。

 正式に量産が始まってしまえば昨日今日MSを触ったばかりの素人にも回されるようになるのだろうが、絶対数が少ない間まではエース専用機とも呼ぶべき機体が連邦のジムなのだ。油断していい相手では決してない。

 

 だからこそ彼は待つ。絶好のタイミングで、必勝の攻撃を放てる距離に敵が来るのを大人しく。息を潜めて隠れ潜んで、深く静かに狙いを定めてしっかりと―――

 

「・・・今だっ!!」

 

 叫んで彼はスイッチを押し、伏せていた機体を立ち上がらせながら、右手をひらめかせて“其れ”を射出する。

 

 ワイヤーと呼べるほど細くはないが、白兵戦で鍔迫り合うほどには太くもない、中途半端な太さと長すぎる射程を持つ独特の武器『ヒートロッド』

 

 ジオン軍の地上戦闘用モビルスーツ『グフ』にのみ装備されている内蔵武装で、高圧電流を流すことが可能な鋼鉄のムチだ。

 これを彼は、モビルスーツでも簡単に隠れることが可能な柔らかい砂地に潜んで敵を待ち受け、近づいてきたところを“足下めがけて”射出した。

 

 オデッサ作戦の前哨戦で『青い巨星ランバ・ラル』が考案したとされる、グフ専用の奇襲戦法。

 元来、宇宙戦闘を想定して開発されたモビルスーツは重力に縛られただけで機動性の大半を奪われてしまい、さらに片足だけでも動けなくされたモビルスーツは事実上、トーチカよりも頑丈で斜角の広い砲台でしかなくなってしまう。

 機動しなくなった機動兵器モビルスーツは、ボールと同じで『鉄の棺桶』に成り下がる。移動できなくした後ならザクバズーカで遠距離からよく狙って撃てば一発で確実に仕留められる。

 

 その効果が認められたからこそ、この戦法はジオン地上軍の古参グフ使いたちに急速に広まって必勝戦術と認識されるようになっていた。

 ザクの射撃武装と互換性がないわけでなくとも、左手で掴んで発砲する以上は『75mm機関砲』を使うことが出来なくなるのは道理だ。間違ってトリガーに触れてしまっただけでも暴発するのは避けられないのだから。

 そして、緊急時にいつもの癖で使おうとしてしまう経験豊富なベテランが多く出てしまったことが、グフ使いたちがグフ本来の使い方である接近戦用の奇襲戦法を用いるようになった経緯がジオン側にも存在していた。

 

「食らいやがれ! 地球のモグラ共!」 

 

 その接近戦用に造られたグフが持つ、接近戦用の奇襲兵器ヒートロッドが奇襲作戦に用いられて、連邦軍のジムに急速接近していく光景をメインカメラで凝視したままグフのパイロットが汚らしい言葉で敵を罵倒した。

 勝った、と彼は勝利を確信したのである。

 

 奇襲戦法とは、相手の予測していない攻撃だから奇襲と呼ばれ、予測できない攻撃だからこそ先制攻撃の初撃を完全に避け切ることは限りなく不可能に近い。

 あの『連邦の白い悪魔』でさえ、ラル大尉が使ってきた戦法で片足先をもぎ取られたと伝え聞いている。まして敵が悪魔でも白いモビルスーツでもない、ただのジムなら初見でこの一撃目さえ入ればそれでいい奇襲を避けきれるわけがない。

 

 ――そのはずだった。

 

「な、なにぃッ!?」

 

 グフのパイロットは目を剥いて、己が見ている光景を疑った。

 最高のタイミングで放った、必勝の位置からの攻撃。避けられるはずのない距離にまで迫っていたはずの攻撃は、しかしギリギリのタイミングで上に飛んで避けられてしまった。

 奇襲を予期していなければ不可能な反応速度だ。奇襲はその性質上、奇襲されると敵がわかっていた場合に獲物と猟師の立場は逆転してしまう戦法のことを指しており、来ると分かっている攻撃を避けることぐらい熟練者なら一瞬の隙があれば十分すぎる時間なのだ。

 

 奇襲戦法の内容が敵に漏れていた! ・・・だが、一体どこから漏れたのであろう?

 繰り返すが奇襲はバレてしまえば終わりで次はない、初見殺しの戦法だ。作戦の一部だけでも見た者は一人も生かして帰すことは許されない。

 動けなくなった敵であろうと、逃げようとする僚機であろうと、避難していたサムソントレーラーの運転手と難民たちだろうとも。

 問答無用で一人残らず殺し尽くして、自分たちが殺したという事実さえ現場に証拠を残さないよう細心の注意を払い続けてきたのである。今のところ敵に情報が漏れたという話は一切入ってきていない。にも関わらず何故・・・?

 

 疑問符を浮かべて、空へと逃げ出した敵機を追って顔のメインカメラを上向きさせた、その瞬間。彼の視界に敵機の右肩に描かれた所属部隊を示すマークが映り込んでくる。

 

 真っ赤に塗られた赤い右肩に髑髏のマーク・・・あれは!!

 

「エクサイン部隊・・・こいつが噂に聞く、ジオンから逃走して連邦に寝返った裏切り者だけでつくられたとか言う恥知らずな売国奴部隊の一員か!」

 

 心からの憎しみを込めて敵パイロットを激しく罵倒し、シールド裏側に取り付けられていた『ヒートサーベル』を抜き放つ。

 逃げゆく敵の背中から切りつけてやるため、仕留め役として潜ませていた味方のザクに指示を出す。

 

「ダッチ! 空中にいる間にヤツを狙い撃て! 今なら自由な回避行動は取れん!」

『了解です、大尉殿!』

「だが、ヤツは恐らくベテランだ! 無理して当てようとせず動きを制限するだけでいい。

 止めは私が接近戦で仕留めてやる!!」

『了解!!』

 

 憎むべき裏切り者を前にしても、グフのパイロットは冷静さを失ってはいなかった。

 この戦法に対処できるのは敵が知っていたからであり、この戦法は手の内が知られた時点で無用の長物と化す奇術めいた戦術であり、この手が使えるグフ共々エース以外のパイロットには存在すら供与されていない戦法であるはず。

 にも関わらず、敵に寝返った裏切り者が知っていた。さらには其れを完璧な形で実戦に活用してきやがった!

 

 間違いない・・・こいつはエースだ!

 

 グフのパイロットはそう確信して、自分たちも必勝の戦術を取る道を選んだ。

 自分と味方機の二機で役割を分担し、支援用の射撃武器を持ったザクが敵を足止めした上で自分がグフで接近戦を仕掛け、止めを刺す。

 

 それで詰みだ。

 

「卑怯者がいるべき場所へ送ってやる! 祖国を裏切って連邦の犬になった恥知らずが死後にヴァルハラへ行ける権利があるなどと思い上がるなよ!」

 

 叫んで機体を走らせ、その動きに連動したザクが狙いを定めてザクバズーカを発射する。

 自由の利かない空中にありながら、敵はどういう手品を使っているのか器用に機体を動かして攻撃を避け、それでも動きは大きく制限されたままグフの向かう先に強制着陸せざるを得なくさせられる。

 

「死ねィッ!」

 

 振りかぶり、切りつける。

 背後からの狙い澄ました一撃であったが、それでも敵はエースだ。反撃は無理でも防ぐぐらいのことはしてきても不思議ではない。

 事実、最初の斬撃はビームサーベルを抜いて防がれた。凄まじい技量と反応速度だ。裏切り者でなければ心の底から感嘆したくなるほどに。

 

「それほどの腕を持っていながら、なぜ祖国を捨てて敵に走った! 一角の腕を持つお前がどうして連邦の犬に成り下がる道を自ら選ぶ? 地球になんの恩があると言うのだ!?」

『・・・はぁ?』

 

 惚けたような、呆けたような、呆れたような、そして馬鹿にしているような暗い響きを持った若い男の声。

 

「そうだ! どうせ連邦はお前たちを自分たちと同じ正規軍だなどとは死んでも思おうとはせん! 我々はジオン兵であり、奴等は連邦軍人なのだ! その事実を前にして貴様は一体どのような理屈で以て自らの裏切りを正当化するつもりなのかと聞いている!!」

『・・・バカか? お前は・・・』

「・・・・・・・・・は?」

 

 お肌の触れあい回線から聞こえてくる、敵のパイロットを『ブタかサルと同一視してくるような』冷淡で辛辣極まる悪意ある見下しに満ちた声。

 

『・・・バカな質問に答えてやる。なぜ、ジオン軍の軍服を脱いで連邦の軍服を着ているのかだが、殺されそうになったから死ぬよりかはマシかと思い逃げてきだけだ。そしてモビルスーツの操縦以外に能がなかったから連邦軍の飯と給料目当てで志願した。以上』

「な、な・・・・・・なにィッ!?」

 

 彼にとって、あり得ないほど当たり前すぎる裏切りの理由。

 兵士が殺されそうになったから命惜しさに軍を脱走して、金目当てで敵軍に寝返っただと・・・・・・バカな! 子供向け戦争映画の三流小悪党でもあるまいに、そんな軟弱な精神と忠誠心も理想も志さえ持ち合わせていない人間に耐えられるほどモビルスーツ操縦の訓練とジオン軍パイロットの選抜基準は低くない!

 

「貴様、正気か!?」

『お前こそ正気か? 頭の中大丈夫か? もっとも、連邦のバカ軍人共も似たような寝言をほざいていたから、どいつもいつもみんな脳がイカレちまったジャンキーなだけかもしれんがな。

 まったく・・・連邦だジオンだと、どうでもいい政治の理屈について騙りたがるバカが多くて面倒くさい限りだよ。連邦にもジオンにも俺以外はバカしかいないのか? 少しは学べ、低脳共』

 

 あまりにも酷すぎる罵倒の内容と、声に籠もっている純粋すぎる見下しと悪意の念に、グフのパイロットは流石に鼻白まざるをえない心境に陥らされていた。

 ここまで敵を見下し罵倒してくる礼儀知らずな敵というのも、この戦争が始まって以来見たことがない。

 と言うより、コイツ本当に軍人か?と疑問を持ってしまうほど社会性に問題点がありすぎている。到底、上意下達の軍隊でやっていける人格をしているとは思えないのだが、相手はそんな彼の困惑に頓着した様子もなく、相変わらず一方的に罵倒と非難を浴びせまくってくるのみ。

 

『政治屋どもや政商どもが利権の奪い合いのために始めた戦争の中で、兵士にとっては連邦がどうのジオンがどうのと、どうでもいい政治の都合話だろうがバカが。

 俺たち兵士は撃てと命令されたときに、撃てと言われた方向に銃口向けて引き金を引くだけ。撃つことを決めるのも上、撃つヤツを決めるのも上。

 俺たちに戦争させてくるヤツが着ている服が連邦製だろうとジオン製だろうと、戦争させられてる俺たち兵士が気にする必要0に決まってんだろうがバカ。どうせ勝っても負けても得するのはお偉方だけ。俺たち兵士は損するだけで鐚一文分け前を分けてくれる親切な政治屋なんざ連邦にもジオンにもいやしねぇよ。

 他人に流させた血で肥え太りたがるヤツらの非課税所得のために遠い異国の地で無駄死して、名誉ある生と威厳ある死とか言う戯言を敵と語り合う奴隷の倫理観がそんなに大事か?

 俺みたいな正常な人間にはまるで理解できん。お前らキチガイ共の屁理屈は昔っからサッパリ理解できた例しがない。狂人は死ね。社会にとっての害獣になる』

『大尉―――ッ!!!』

 

 最後に続いた部下の叫び声を聞きながら、最期までグフのパイロットには相手の言ってる内容が何一つ理解できなかった。

 コイツは何を言っているのか? 何について語っているのか? 一体コイツはどこの世界のどんな出来事を非難しているのだろう・・・・・・そんなことを考えながら、彼は自分でも気付かぬ内に死んでいた。

 

 彼は、もっと考えて行動すべきだったのである。

 奇襲戦法の情報が漏れていた。だから敵はこちらの初撃を完璧なタイミングで回避することが出来た。

 では、他の策を講じてきている可能性は? 伏兵もあり得たし、遠距離からの狙撃もあり得る。大部隊による援軍で包囲殲滅せんというのも兵力に余裕があるなら良いだろう。

 

 だが、一番簡単な奇襲の対処法がある。シンプルな手だ。

 ただ単に『獲物だと思って襲いかかった羊が、羊の皮を被ったキツネだった』という平凡極まる囮作戦。

 

 素手のままだった左腕の偽装を外して、中から飛び出したショルダーガード無しのグフの左腕75MM機関砲を相手のコクピットに押し当てて接射しまくっただけのこと。

 捨て駒亡命者部隊に完全な状態のジムを送ってる余裕がないからと言われて、左腕のないジムが配備されてきたから、戦場に落ちてたグフの残骸から左腕を掻っ払ってきて取り付けてもらい、ジオン軍所属だと勘違いされて味方から撃たれないようにジムの腕部パーツの外装だけを分けてもらった。

 

 ただそれだけだ。後は勝手に相手が勘違いしただけ。自分はまったく何も悪いことはしていない。

 ただ軍人として、正しく碌でもない仕事を真面目にこなして給料分の働きをしただけである。他には何一つやっていない。そんな奴隷じみた勤労意欲など、生まれてこの方持ち合わせていた記憶はない。

 

 

 

 

「さてと・・・。もう一機残ってたんだったな。それとも既に逃げ出したか? ・・・俺にとってはどちらでもいいことか。

 まったく、負ければ地獄に直行させられ、勝てば味方から嫌味を言われて難癖付けられ、裏切り者だと決めつけられたら黒でも白でも銃殺刑。どっちにしても地獄しか待ってない状況というのは気楽でいい。

 俺の意思や配慮に関係なく、上の胸先ひとつで決まっちまう命だったら何一つ我慢してやる必要性がないんだからな。いつ死んでもおかしくない命ほど気楽なものはない。せいぜい死ぬまで自由に生きさせてもらうぞ、連邦軍とジオン軍のお偉い無能の皆様方よぅ・・・」



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俺はいつかジェリドとして勝利を手にしたい 第2話

久方ぶりと言うか初めての転生憑依ジェリド2話目を更新です。
本当はもっと先まで考えてあるんですけど(止まってた期間が長いのでね…)書いてみると意外に長かったので、ひとまずはここまでという事で(^^♪


「エゥーゴを知らないだと!? ハイスクールの学生が知らないわけがないだろう!」

「・・・・・・」

 

 ティターン憲兵の怒声に、カミーユは答えなかった。

 グリプスにあるティターンズ本部ビルの地下、取調室内で起きている出来事だった。

 

「エゥーゴの分子でない者がなんで! なんでティターンズのメンバーに喧嘩を吹っ掛けるんだ!? え? おかしいじゃないか!」

「・・・・・・・・・」

 

 軍人はデカい図体で大きな声が出せれば偉いのだと思っているかのように威圧的な声を出し、余計な身振り手振りで派手な音を出しまくる恫喝を目的としたわざとらしい演出を強制見物させられながら、それでもカミーユは一言も答えない。返事をしない。己の主張も出自も、ティターンズ技術士官の息子であると言う事実さえ口にしようとはしない。

 

 カミーユの反抗心がさせる行為であった。

 大人に対して『大人である』と言う理由だけで無条件に反発心を抱いてしまえる年齢であり、そうなり易い環境で生まれ育った思春期の少年らしさが彼に理不尽に対して不条理で応じてしまう自分を正当化してしまえる境遇に立たせていたのである。

 

 大人の横暴に対して何も出来ない自分のプライドを守るためには沈黙こそが有効であることを知る程度には現時点での彼は賢く、小利口だった。

 

「釈放だ、カミーユ・ビダン君。お母様が迎えにいらっしゃっている」

 

 ドアが開いて、スーツをまとった別の男の声が取り調べに割って入る。

 

「カミーユ君、スポーツマンはもっとハキハキしなくちゃな。いい声が出ないと勝負には勝てんよ? なにしろ君が身分不詳のスペースノイドなら、四、五日は彼に可愛がられていたところだからな。きちんと自分のことについては説明してあげないと他人には分かってもらえないものだよ」

「そうなんですか。――スペースノイドって?」

 

 カミーユは不利になりかけた話題から話を逸らすために質問をした。それは先ほどまで糠に釘だった憲兵には「カチン」と来る行為であった。

 

「釈放が決まればしゃべるのか? 現金なヤツだ」

「・・・怖いんです。怒鳴る人は・・・っ」

「!! テメェッ!!」

 

 カミーユの挑発に対してアッサリと堪忍袋の緒を切断される憲兵。手にしていたファイルを投げつけ怒りを現す。

 

「マトッシュ!」

 

 カミーユを迎えに来たスーツ姿の紳士が逆に憲兵を怒鳴りつける。

 

「お前まさか、その調子で彼を殴ったりしてはいないだろうな? 彼はフランクリン・ビダン技術大尉のご子息なのだぞ」

「え!? ・・・じ、自分は、その件については聞いておりませんでしたので・・・」

「お前が勝手に持って行ったファイル、今お前が彼に投げつけたあれに情報が書いてあっただろう?」

「・・・・・・」

「相手の親の身分がわかれば黙るのか? 現金なヤツだな」

「・・・・・・」

 

 悔しそうな顔で黙り込むしかない憲兵。所詮、彼は下士官であり、スーツ姿の男はもちろんのこと、大尉など雲の上の地位だ。逆らえる勇気などあるはずがない。

 逆にスーツ姿の紳士としては、弱い者イジメしか能がない下士官なんぞよりも、この機を利用してカミーユの両親に取り入るためにも心証を良くしておきたい理由が十分すぎるほど存在していた。

 出世に縁がない下士官と、上司の顔色を窺うことが出世に繋がる官吏との差が明確に出る構図となった。

 エリートと言えども、ティターンズは軍隊。序列は絶対であり、一兵卒の下士官が尉官に成り上がるだけでも夢のような出来事。まして彼の年齢と地位を鑑みれば夢のまた夢でしかない。

 

 そんな下っ端憲兵のひがみ根性が、目下でイジメ甲斐のあるカミーユに対して過剰なほど横柄で横暴な態度をやらせることを許可していたわけだが、その事に関して少なくとも天は許可したわけではなかったようである。彼には直ぐにも罰が与えられた。

 

 ――本部ビルの建物が、不時着に失敗して落下したモビルスーツの尻に敷かれて地下まで崩落させて、取調室から脱走可能になった囚人が逃げ出していくのを気づきもせずに驚き慌てて怯えながら自分自身も建物の外へと逃亡する愚行を犯してしまい、鬱憤晴らしで虐めていた相手の十七歳少年から盗んだモビルスーツで追いかけ回されて鬱憤晴らしに虐められてしまう未来が確定してしまったのだから・・・・・・。

 

 

 

 

 

「・・・やれやれ。落ち方に気をつけたつもりでも、この有様か・・・。こりゃあ始末書で済まないのも当然の被害だな」

 

 俺は飛行訓練中に誤って不時着した“風を装っている”MkーⅡのコクピットに映し出された本部ビルの惨憺たる光景を視界に入れながら、今さらに原作のジェリドが初っ端から相当なことをやらかしていたんだと言うことを思い知らされていた。

 そして同時に、これほどの被害を『襲撃してきたエゥーゴMS隊を全機撃墜したら不問に付す』と明言してのけたバスクの武力バカっぷりを痛感していた。

 

 功績によって罪を贖わせるのは、専制国家か独裁国の軍隊がやることだろうに。それを建前だけは民主国家の連邦の制度を利用して行っているとすれば、なるほど確かにクワトロ大尉の言うようにティターンズのやり方はザビ家よりも悪質だって言葉にも頷けるな。

 

「・・・しかし、演技とはいえ無関係な味方を巻き込むのは性に合わんな。

 出来れば始末書なんて紙切れじゃなく、エゥーゴとの戦いの中で命を助けることで借りを返したいところだが、どうなることやら」

 

 俺はそこまで言ってからハッチを開き、モビルスーツの外へ出る。

 カミーユとエゥーゴを接触させるためには必要なことではあっても、非武装の職員を含む本部ビルにいた被害者全員に重軽傷を負わせて『所詮は悪の弾圧部隊ティターンズ』の一言で済ませられるほど俺は自分が大人だとは思っていない。思うこと、言いたいこと、言ってやりたいことは山のように抱え込んでいる。

 

 だが、それを表の他人に聞かれるかもしれん場所で言うわけにはいかないんでね。落下の衝撃でドライブレコーダーが故障“してもらった”コクピットの中だけで終わらせておく必要がある。

 

 ・・・しかし、それにしてもカミーユの奴め。これだけの被害を出さないとガンダムのパイロットとしてエゥーゴに参加する選択肢を選ぶ道が生まれないなんて、本当に碌な奴じゃないな。存外、自己申告通りに『人殺ししか出来ることがないニュータイプ』なんじゃないのか?

 

「ジェリド・メサ中尉っ」

 

 混乱する本部ビルで、いの一番に事故現場へと駆けつけてきたのはエマ・シーン中尉だ。

 さすがに優等生らしい真面目な勤務態度だな。他のエリート連中が右往左往している中で一人だけ的確に行動できてるんだから大したもんだよ。

 

「無理な行動が、こういう結果に繋がることは十分にわかっていたはずです。

 せっかく、MkーⅡは加速性が高いけど小回りが利かなそうって忠告してあげたのに!」

「次のティターンズパイロットも来りゃ、焦りもするさ。それに俺は実際に乗って自分自身の感覚で確認するタイプなんでね。バスク大佐の言うとおり即戦力になれるようにって、個人的願望もあったしな」

「だからと言って禁止されてる超低空飛行を居住区でやることはないでしょ!?」

「・・・わかってる。それについては反論の余地がない。自分の驕り高ぶりと未熟さを痛感していたところさ・・・」

 

 この思いついては嘘を吐く理由がなかったから素直に頭を下げて謝っておいた。

 実際、俺がスペースコロニー内での飛行を侮っていたのは事実だったからだ。この日に備えて地上でも個人的な訓練も積んできて準備万端整えたつもりだったのだが、思うように機体を動かすことが出来なかった。その結果が予想よりも被害が大きいこのザマだ。言い訳しようがないとは、この事だな。

 

「せめて民間人の家に落ちないようにするのが今の俺に出来る精一杯だった。反省している。もし良ければだが、次の訓練の時にエマ中尉が計算したMkーⅡのデータをもう一度見せてもらえると嬉しい。この通りだ」

 

 俺は両手をそろえて彼女に対して頭を下げて頼み込む。

 ジェリド・メサはプライドの高い男だったが、優れた相手に対して教えを請うとき女だからという理由で頭を下げるのがイヤだと言うような下衆なヤツじゃなかった。感情をねじ伏せてでも頭を下げれるヤツだった。

 だから俺はヤツのことが好きなんだ。ジェリド・メサとして勝利を手にしたいと思うことが出来る男だったんだ。そのジェリドになった俺が、あいつに出来たことをやれないわけにはいかない。

 もちろん誰にだって頭を下げるわけじゃない。頭を下げるべき相手を選ぶのだって、いい男の条件だと俺は信じている。

 

「何をしている貴様ら! 警報が聞こえないのか!?」

 

 そんな俺からの頼みに対して、中尉が何かを答えようとした瞬間。横合いから怒鳴り声が響いてきた。

 ティターンズの拠点であるグリプスでは珍しい連邦正規軍の軍服をまとって、少佐の階級章を付けている人物。

 ブライト・ノア少佐だ。こんな人は後にも先にもグリプスには一人しか存在しないだろう。

 

「ブライトキャプテン・・・っ」

「隕石群でもぶつかってきてコロニーに穴を開けたのかと思っておりましたが・・・違うのでありますか?」

「地球から上がってきたばかりの貴様に、何が判断できるか!」

 

 その高圧的な口調に、俺は反射的に反感を抱かざるを得なかった。

 原作を見てるときも思ったことだが、彼の言ってることは大体において正しい。だが、相手の心情にまったく配慮を見せることなく、場所も自分の現状も考えずに『緊急事態だから素人は黙って経験豊富な俺に従え』と言いたげな口調は、上意下達の階級社会である軍隊に慣れ過ぎた頭の固い軍人のそれだ。

 これじゃあ、正規の命令系統が通じる場所ならともかくとして、ティターンズのような特殊な連中の集まる場所では要らぬ不満を買うだけだろう。

 

「エゥーゴが攻めてきたとでも?」

「わからん。対応しろと言っている」

「・・・・・・」

 

 俺は無言のまま、近くを通りがかったエレカに乗るため歩み寄りブライト少佐の側を離れた。

 

「中尉! どこへ行く!」

「ジェリド中尉!?」

「ご命令通り対応いたします。エマ中尉、三号機のチェックを頼む」

 

 ブライトの顔を見ることなく、俺は中尉にだけ顔と声を向けて後を任せるとエレカの助手席に座って運転手に発車するよう指示を出す。

 

「中尉! どこへ行く!」

「エゥーゴが攻めてきたなら、戦わなければいけないのがティターンズでしょう。その為に設立された組織なのですから当然のことです」

「でも、中尉。まだ状況が・・・・・・っ」

「それを調べに行くんだろうが!? こんな所で油を売っていて何がわかるって言うんだ! それともなにか? ホワイトベースで艦長を務められた経験豊富なブライトキャプテン一人さえいれば、オペーレーターからの報告やコロニー外の情報がわかってなくても正しい判断と行動が指示できるって言うのか!?」

「・・・っ!! そ、それは・・・・・・」

 

 エマ中尉が口ごもり、ブライト少佐が何かを言おうとしてくるのを見た俺は最後にこれだけは言っておこうと思い、余計な差し出口と承知の上で目上に対して説教を垂れる。

 

「ブライト少佐、仰りたいことはわかりますが、ここはティターンズの拠点であります。いくら上官と言えど部外者に上から目線の命令口調で指示されたのでは無用な不和と混乱を生じさせるだけだという事をご理解いただきたい。

 ここは少佐のやり方が通じていた地球連邦軍本部ジャブローではないのです! ティターンズのことはティターンズの現場に任せられ、少佐は連邦正規軍士官としてご自身の職務をお果たしあられたい! 以上です! ――行け!」

 

 そう言い残して俺は、振り返ることなくエレカを発進させた。

 ブライト少佐がどんな顔で見送ったのか興味はあったが、今はそれどころではない。

 一刻も早くバスク大佐のいるグリーン・ノア2に向かわなければならないからだ。

 

 本部ビルが崩壊した上に、敵に奇襲を受けているグリーン・ノア1にいたままでは対応に必要な最小限度の情報さえ手に入るとは思えない。何よりも現場にいるより外から見た視点の方が客観的な情報が集まるのは当然のことだ。

 

 そしてそれらが集められた先から届けられて、質量共にそろっているのは独裁組織ティターンズの中にあってジャミトフ・ハイマンとバスク・オムがいる場所以外に有り得ない。

 

 

(後はバスクから本部ビルを帳消ししてもらうのを条件として、逃げ出したカミーユたちの追撃用にハイザックを貸してもらえば第一段階はクリアーだ。後のことは変化していく状況に応じて対処してゆくアレキサンドリア流で行くしかないだろう。

 ・・・カミーユさんよ、人がこれだけお前さんを脱走させてやるため骨折ってやってんだ。

 憲兵イジメなんてくだらない真似して、ちっぽけなプライドを満足させてる間に背中から撃たれるなんてヘマだけはしてくれるなよ?

 ――原作の俺みたいな死に方をしたくなければな…)

 

 

つづく



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ガンダムW戦記~クロスボーン・バンガードの旗のもとに~3章

*2:今話は原作でヒイロが宇宙へ戻る手段としてロケットを奪取するため基地を一人で占拠してしまったシーンを見て違和感を覚えたことから生まれています。
 また、現時点でゼクスたちは写真を見て被害報告を聞いただけですのでガンダムたちが歩兵を保有しているかどうか知る由がありません。
 その前提で書いていますので、ご注意ください。説明遅れてすみませんでした。


「海中捜索隊はまだなのか?」

 

 オットー特尉が隣に座るブルーノ特士に尋ねかけていた。

 

「後二時間で到着すると言っています」

「何をのんびりとやっているんだ!」

 

 オットーの苛立たしい声を聞きながら、トレーズとの通信を終えてプリントアウトして送られてきたモノを眺めていたゼクスは苦笑いを浮かべる。

 OZという組織よりもゼクス個人への忠誠心が強いオットーは、尊敬し信服している上官が落とせなかった初めての敵を前に気が急いているのだということを気づけるほどにはゼクスも上に立つ者として尊大にはなれない人物だったが、常は沈着な部下が珍しく気を荒げているのを察せられないほどに無能でもない。なだめてやる必要を感じて声をかけた。

 

「そう慌てるな。あれはどこにも逃げはせんさ。それに、ここの海溝は深い。海軍の空母も捜索にはかなりの時間がかかるはずだ。

 ――それより、面白いものを見せてやろう」

 

 そう言って先ほどまで自分が見ていた写真を示してやると、二人はそろって声を失った。

 そこに映っていたのは、巡洋艦の甲板に立つ白いモビルスーツの姿であった。どうやらブリッジを攻撃しているらしく、炎と爆炎が辺りを包んでいる。

 だが、それだけではない。そのモビルスーツはゼクス本人が八時間ほど前に戦ったものとよく似ていた。

 ディテールや武装には固有の物とおぼしき特徴がいくつも見られるが、全体的なイメージとして、その造りは基となった機体が同一の物であることを匂わせる類似点がかなり多い。

 

「これは・・・」

「OZの偵察機が揚子江付近で撮影したものらしいな。どうだ? 我々が戦ったあの機種と似ているだろう?」

「では、あの機種が二機も?」

「いや、それだけではないらしい。OZが掌握していたモビルスーツ工場や宇宙港、それに我々と同じように落下したカプセル調査に向かった部隊が壊滅されたという報告があった」

「では、四機も・・・」

「海に沈んだ、あの一機を加えれば五機だ」

 

 二人のOZ士官は声もない。

 モビルスーツはロームフェラ財団が開発して、世界を席巻した既存の兵器群とは一線を画する新機軸の兵器であり、連合の躍進と武断的な支配権存続を可能たらしめてきた原動力にもなっている存在。

 そのモビルスーツ数機を、たった一機で事実上の全滅に追い込んだ機体が、まだ残り四機も存在する・・・敵としてこれほど恐ろしい事実も他にあるまい。

 

「M作戦で落下した五つすべてがガンダムだったと、言うことでしょうか・・・?」

 

 オットーの言葉にゼクスが頷く。

 

「どうやら敵の目標は連合ではなく、OZらしいな。我々は運がいい。ガンダムを目撃して生き残っていられたのだから」

 

 ゼクスが一人、コクピットの外に広がる雲海を見ながらつぶやいた時。ブルーノ特士が点滅している計器の一つに気付いて報告してくる。

 

「ゼクス特尉、潜水モビルスーツ空母が到着したようです。上部ヘリポートより乗艦するよう言ってきております」

「よし、降りろ。捜索用の水中モビルスーツは積んできているだろうな?」

「OZの最新型である【キャンサー】一機と、【パイシーズ】二機を搭載してきたとの事であります」

「よし! では早速捜索を始めるとしよう」

 

 そう命令した直後、ゼクスは珍しく前言を撤回して別の指示を出すことにした。

 なるべく連合に無用の刺激を与えないようにと言う、トレーズの指示を思い出したのである。

 別に忘れていたわけではなく、OZ基準での『無用な刺激』というのは連合士官には高すぎたなと反省したからだ。

 

「今はまだ、名前よりも実を取るべきか・・・連合空母の艦長が自己顕示欲の塊のような男だと節を曲げる数も少なく済んでありがたいのだがな」

 

 自分がこれから乗る船にエンジントラブルが起きた事にして、名目上は連合海軍の深海調査に協力するという体を取るのである。

 

 

 

 

「ならばゼクス特尉。その新型機、いっそのこと連合の空母にくれてやるとよいでしょう。

 それがこの場合、名よりも実を取る一番の方法だ」

 

 

 

 背後からハッチが開く音と共に聞こえてきた部外者の声に二人の士官はやや驚いて顔を振り向かせ、ゼクスは苦笑気味に曖昧な表情を顔に浮かばせながらも驚いた様子は見せようとせず、只静かに冷静に彼のクロスボーン青年士官の提案について問いを投げかける。

 

「そこまで連合に謙るのは、流石にやり過ぎではないかな? ドレル大尉。我々は前線の雇われ軍人と言えども軍人である事に変わりはなく、慈善事業の経営者ではないのだがね?」

 

 名前だけなら実を得ることで倍になって取り戻せるが、実までくれてやったのでは損をするだけで意味はない。

 手持ちの全てをベットしてやったところで恩を感じてくれそうな相手でもない以上、互いに化かし合いをする狸とキツネになるのが一番ではないのか?

 彼は背後から現れた貴公子的風貌をしたクロスボーン・バンガード青年パイロットからの提案に対して、そう懸念を示したのだ。

 

 

 ――彼の名は、ドレル・ロナ。その名から知れるとおり、クロスボーン総帥であるマイッツァー・ロナの孫に当たる人物だ。

 その彼は、先ほどゼクスがガンダムを相手に一騎打ちを挑む際に便宜を図ってくれたクロスボーンMS隊の大隊長でもあった。

 

 彼は血筋によらず、実力でその地位を手に入れている。

 それ故にプライドと功名心が高すぎる嫌いがあって、かつてそれが基で多くの部下を一度に失うという失態を犯した苦い経験を持つ青年でもあり、外見年齢からくる険の強い印象とはかけ離れた慎重さと大胆さを兼備する優秀なパイロットに彼を育て上げる切っ掛けにもなってくれたのだとゼクスは初対面で意気投合したときに思い出話として聞かせてもらっている。

 

 ゼクスも若いが、ドレルはそれよりさらに若く、まだティーンエイジャーでしかない。

 ガンダムの攻撃によって指揮系統が混乱しているからと言う大義名分により、自由行動権を手にしていた彼は、自分の乗ってきた輸送機をゼクスの機体に随伴させたまま付いてきてしまっており、現在はゼクスの乗るOZの極超音速輸送機に便乗までしてしまっていたのであった。

 

 そんな年若く穏やかな物腰と切れ長の瞳を持つ青年士官は、連合の古株共からは「お坊ちゃん」と揶揄されている長い前髪をかき上げる仕草をやってみせてから酷薄な口調で断言する。

 

 

「構いません。どうせ彼らは死にます。ガンダムの手にかかって一人残らず全員がね。

 戦う前から負け戦になると解りきっている戦いに功を焦って出るのは部下を無駄に死なせるだけのこと。傲慢は綻びを生むものです」

 

 

 この言葉に、今度はゼクスを含めた三人いずれもが言葉を失い沈黙させられてしまった。

 

「我が軍の偵察機が撮影した映像です。先ほどトレーズ閣下にお送りさせていただいたものと同じものですが、追加の補足にはなるのではと」

 

 そう言って差し出してきた三枚の写真を目にして、彼らは呻くように声を押し出す。

 

 

 頭部から胴体までが黒で固められた、死神のように不気味なフォルムをした機体。

 ガトリングガンを右手に装備し、胸部にもガトリング砲を、肩口にはミサイルポッドを内蔵した火力戦重視の機体。

 砂地迷彩カラーで塗りつぶされた数十の機体の中央で指揮を執っている、頭部にたてがみのような飾りを持つ貴族的なデザインの指揮官機とおぼしき機体。

 

 

 ・・・その全てが、ゼクスたちの戦った機体と細かい部分に違いがあるだけで、全体としては似たような印象を受けさせられる機体で占められていた。

 むしろ四機全ての写真を並べ見ることにより、明らかに基となった素体が存在することを確信させられるほど酷似していると言っていい。

 

「ドレル大尉、これは一体どうやって・・・」

 

 連合の数世代先を行くOZの輸送機でさえ、撃墜されながらも一機の映像を送ってくるのが精一杯だった敵を相手に、ここまで鮮明な写真を複数入手してこれるのは尋常な偵察能力ではない。一体どの様なトリックを使って不可能を可能にしたのものなのか・・・?

 

 だが、これに対してドレルはむしろ憮然となって「自分たちの手柄ではないことで褒められるのは不本意である」旨をアピールしてきてから、こう付け足した。

 

「敵の機体はガンダニウム製であり、ガンダニウムは金属反応はかすかにしないためレーダーが役に立ちづらく、目視による偵察が基本となるであろうことはトレーズ閣下より以前に教えてもらったことがありましてね。

 ・・・失礼ながら、私のいた世界ではレーダーやセンサー類が役に立たない戦場など当たり前のことでしかなく、目視で敵機を索敵する技術に関しては我々が以前に支援してやっていたゲリラ組織に供給するための輸送機を量産してやっていたため十分に対応が可能だったと言うだけのことです。

 この技術に関しては我々の世界にあってさえ100年近く前の技術をそのまま流用しているだけですので、褒められてしまうと少々座り心地の悪い気がしてなりません」

 

 彼はそう言って苦々しげな表情を浮かべるが、だとしたら百年近く前の技術に先を越された自分たちOZの技術力は何なのか、と言いたくなるゼクスたちである。

 

 

 オールズモビル。

 彼らクロスボーン・バンガードがかつて支援してやっていたゲリラ組織の名が、それであった。

 宇宙世紀0079にジオン公国を名乗り、地球連邦に独立戦争を仕掛けて敗北した国の敗残兵、その生き残りの子孫たちが寄せ集まって形成されたジオン最後の抵抗勢力を彼らは数で劣る自分たちのためにも支援してやっていた。

 自前の開発拠点など望むべくもないゲリラ組織に、旧式とはいえ兵器を供給してやっていたのは彼らロナ家であり、その際には当然のごとく開発技術のノウハウは取得済みである。

 

 あくまで宇宙で健軍されたスペースノイドの軍隊クロスボーン・バンガードにとって、旧ジオン軍が持っていた有視界戦闘での光学機器類は羨望の的と呼ぶに相応しい性能を誇っており、後に連邦軍がこれらモノアイテクノロジーを積極的に吸収していった史実にも納得せざるを得なくなったものである。

 

 ミノフスキー粒子によってセンサー類の有効範囲が中世期における太平洋戦争期レベルにまで封殺された世界で当時の連邦軍からも羨望の的となっていた、旧ジオン軍が誇る『三連式多目的カメラモジュール』を搭載させた偵察機によって得られた情報に、時差や距離的要素を加算して敵の大凡の現在地を予測して戦況を考えたとき。

 

 今現在、この場所にいること自体が決して安全なわけではないとドレルは気付いていた。

 

「ゼクス特尉が敵モビルスーツを落とした地点から二〇〇〇キロ離れた太平洋上のグアム島に、連合の宇宙港がある。そこがガンダムの一機に襲撃を受けて壊滅させられている。

 捜索が短時間で終わらせられるならいざ知らず、そうならなかった場合には移動時間を加味しても敵機にはここを襲撃してくることが可能なだけが与えられることになるだろう・・・」

「バカな!? 二〇〇〇キロを九時間でですよ! 海上移動可能な艦艇があれば別としても、モビルスーツ単独での到着はさすがに無理なのではありませんか?」

 

 ブルーノ特士が一般的な常識に基づいて、そう言った。

 確かに彼の言うことには一理ある。連合とOZ海上戦力の主力である水中用可変MSパイシーズでさえ水中巡航モードであるMA形態に変形しなければ難しい距離と時間。

 写された写真を見る限り、変形機構を有しているとは思えない太平洋に落ちた機体、ガンダム。先ほどの奴と違って空を飛ぶ飛行性能があるようにも見えないところから歩いて海を渡るつもりでいるのだろう。

 そんな奴が海の底で詳しい位置情報もわからぬままサルベージに勤しんでいる自分たちの潜水空母と連合海軍の空母を襲うためにわざわざ陸地から遠ざかってまで襲撃してくるものだろうか?

 

 彼らはそう考えたのだが、ドレルの考えは違っていた。

 彼は連合から選抜されたエリートたちの集団であるOZ士官が頭を悩ませる問題に、簡単な答えを出してきたのである。

 

「グアム島にある宇宙港は、コロニーに駐留している宇宙軍に物資を運ぶための施設だったのだろう?

 ならば破壊された跡だろうとも、海上輸送用ボートの一隻ぐらい残っていても不思議ではあるまい」

「「あっ!」」

 

 オットーとブルーノが同時に叫んで、ゼクスは真一文字に唇を引き結んで不快さを現した。

 別にドレルが気付いて、自分がわからなかったことを怒っているのではない。

 “ガンダムパイロットによる蛮行”が許せなく感じて怒りを募らせたのである。

 

(宣戦布告もなしに基地へ攻撃を襲撃して、降伏勧告もおこなわぬまま壊滅させる。

 挙げ句の果てには自分たちが壊した基地から物資を強奪する・・・敵に抵抗を許さぬほど圧倒的力を持っていると言うだけを理由として!)

 

 野盗か盗賊のような蛮行をおこなうガンダムパイロットたちに、彼は初めて敬意でも恐怖でもない感情、強い『怒り』を感じて拳を震わせていた。

 

 戦争とは非常なものだと言うことなど百も承知。OZが清廉潔白な組織でないこともわかってはいる。

 

 ――だが、それでも!

『戦争は非情だから』で、やっていい事といけない事があることぐらい判るだろう!

 

 OZが許せないからと、OZに関わる者にはすべて容赦無用。OZは時代を逆行させる愚か者の集団だから、力持つ者である自分たちが淀みを正すために粛正するとでも、傲慢で下等な思い上がりでもしているのだろうか!?

 

(驕り高ぶった連合がつくった時代が狂わせたのか・・・っ?

 ――いや! そのような横暴を我々が間違っているからと行う頭の悪すぎる者たちに世界を変えうる力を持つ資格などない!)

 

 ゼクスの本質は戦士である。それ故に自分と同じものを感じさせた先ほどのガンダムパイロットに対して深い敬意と共感を抱き、それと似た形状を持つ機体に乗る彼らにも同じものを求めていたのだという事を今さらになって彼は思い知っていた。

 

 だからこそ彼は敵の取ってくる可能性のある、火付け強盗となにも変わるところがない火事場泥棒のような手を予測する事が出来ず、ドレルから言われるまで発想さえ頭に沸くことはなかった。

 

 だが、一度考えついてしまえば彼の優秀な頭脳は次々と相手の矛盾を見いだすことが出来るようになっていく。

 軍事施設とはいえ、兵器工廠は非戦闘員が多く働いている場所であり、通常であるなら攻撃対象に指定してはならないことになっている。旧時代から続く軍隊にとっては当たり前の常識であり、遵守できない場合が多いからこそ守るべく努力しなければならない課題でもあるだろう。

 

 だが、この敵。所属どころか警告も無しにいきなり攻撃を始めて、降伏勧告すらおこなった気配があるのは写真を見る限りでは一機だけ。

 完全にテロリストによるルール無用のテロ攻撃である。其れ以外の何物でもない。

 旧世紀でさえ許されざる蛮行だった所業を、宇宙に人類が進出した時代になってから模倣する気だというのか、このバカ者たちは!

 

 

「・・・私の世界にも似たような団体はあったと、祖父から聞かされたことがあります・・・」

 

 ドレルが静かな声で言うのが聞こえた。制御の聞いた声音が、却って彼の内心にある怒りを現しているようでブルーノとオットーは揃って唾を飲み込まされる。

 

「長年腐敗の続いていた地球圏統一政府の要職にある人々を暗殺したあとで『地球をクリーンにするため人類のすべては地球から出なければならない』とする政策を実施しろ、と要求してきた反政府組織です」

「・・・それはまた・・・なんと言うべきなのかロマンチストな夢を語る人々ですな・・・」

「実際、夢はあっても実はない組織だったのだそうです。世間で言われているような巨大組織などではまったくなく、裏方のスタッフまで合わせて三千人になるかならないかというのが彼らの実体だったことが私の時代には知られていましたからね。

 そんな人々の集まりだったからこそ、やることには限界がある。政府要人を暗殺するためモビルスーツを用いてしまっては民間人の巻き添えによる被害は避けようがない」

 

「――ですが、それでも彼らは最大限可能な限り被害を限定しようと努力しました。たった三千人の軍隊とも言えない階級さえ必要としなかった有志の集団が地球圏全体を支配して数十年を閲した最高権力に喧嘩を売りながら、それでも無関係な人たちを巻き込まないよう努力はしたのです」

 

「我々クロスボーン・バンガードが元いた世界で最初に奇襲をかけたとき、市民には一切手を出させませんでした。私もそうです。

 敵モビルスーツ三機を落とせるチャンスよりも、市民が巻き添えになる危険性を選んで見逃す道を選択しました。

 ――だが、彼らには其れすらも無い! OZという許されざる敵を倒すためなら、どんな非道な手段でもやってのける。まるで、どれほどの血を流させようとも自らが死ぬことで償うことが出来ると思い上がってでもいるかの如く・・・!」

 

「クロスボーンが新しい時代を築くために大量虐殺を是としたのは、前衛だからです! 旧時代を壊した後、我々破壊者たちが新しい世を生きる人々に、高貴なる人としての生き方を説き、世界に広めていくため実践していく覚悟があったからだ! 殺戮そのものが目的だったからでは断じて無い!

 己の血を流し! 人の血を見たら泣け! 死に行く者には満腔をこめて哀悼の意をしめせ!

 それが人として自然な生き方のはずだ! 人々にその生き方を思い出して欲しかったから我々は自らの血を流すことを恐れず先陣に立ち、敵に血を流させた! それが大量殺戮を行う者たちにとって最低限の守るべき節度であると信じていたから!

 だと言うのに、姿も晒さず影から忍び寄り、一方的に自分より弱い敵を虐殺して回るこの者たちの傲慢を私は断じて許すことが出来ない! 断じてです!

 傲慢が綻びを生むということを思い知らせてやるためにも、我々はここで無駄死にするわけにはいかない! そうでしょう!? ゼクス上級特尉!!」

 

 有無を言わさぬ熱い口調に気圧されながらも、気持ちの上ではゼクスも彼と同意見だった。

 こんな所で自分たちは死ぬわけには行かない。自分たちは今を壊すだけで終わるのではなく、壊した後にこそやるべき事が始まる者たちなのだから・・・・・・。

 

 

 だからこそゼクスは、距離が近づいて通信が可能になった連合軍の空母に通信を入れたとき、こう言うのだ。

 

 

「実は我々は今、新型の潜水空母で航行中エンジンのトラブルで困っているのです。そこで我々の潜水母艦を貴官の船で修理させていただきたいのです。

 無論、タダでとは申しません。代わりと言っては何ですが、我々OZが開発した最新鋭水中モビルスーツである【キャンサー】と【パイシーズ】を貴軍に譲渡させていただきましょう。如何ですかな?

 たとえ未確認敵機が発見できなくとも、OZの最新鋭モビルスーツを持ち帰りさえすれば艦長殿に対する能力査定に響くことはありえないと確信しているのですが・・・」

 

 

 こうして後日、連合軍内部に一つの噂が盛大に蔓延して悪いジンクスを生むことになる。

 

 

『ガンダムを一目見た者は生きて戦場から戻れない』

 

 

 ――と言うジンクスが。

 そして同時に、OZ内部にあっても密やかに一つの噂が語られ初め、悪いスラングが蔓延する結果を生んだ。

 

 

『【ガンダムを一目見た者は生きて戦場から戻れない】

 ――そういうジンクスを負け続けの連合は面子のために作りたがっているそうだぞwww』

 

 

つづく




*補足:
デュオが基地にあるボートを使ったかどうかは完全に未知数です。現在のゼクスたちではデスサイズの性能がどれほどか想像できなかったので、ひとまずは妥当な予測を信じてみたというだけですね。

単なる決めつけじゃねーかと言われる方もいらっしゃるでしょうけど、そもそも敵を決めつけるのは普通のことですし、正体どころか宣戦布告もしない敵を決めつけて何が悪いのかと私なんかは思っております。

無礼には無礼で応じるのが私の礼儀作法ですのでね。


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戦記好きがシン・アスカに憑依転生してDQN化した場合のお話

「戦記好きが憑依転生」のシン・バージョンを書いてみました。憑依転生先がシンでしたので、中の人はセレニアっぽくないDQNにしてみました。不愉快だった方は心の底からゴメンナサイ。

*間違った知識を基に書いてた部分があったため、一部修正しました。


インパルスVSカオス・ガイア・アビス戦にて、アーサー副長との会話

 

アーサー「シン! 命令は捕獲だぞ! わかってるんだろうな!? あれは我が軍の・・・」

 

シン「わかってますよ。だからこうしてさっきから時間稼ぎに徹してるんでしょうが。それよりも早いとこ援軍を寄越してください。たかが一機の新型で三機を相手に壊さず無力化して捕獲までできるなんて妄想は、軍事ロマンチシズムの極みでしかないんですけどね? 副長殿」

 

アーサー「う゛。そ、それはこちらも最大限急がせていてだな・・・」

 

シン「でしたら、そっちはそっちで最大限できることで対処し続けてください。戦闘中に横から茶々を入れられると俺が殺されて死にますので、任務遂行のため通信を切らせて頂きます。それでは(ブツン)」

 

アーサー「あっ!シン! ・・・クソッ! 回線を切りやがった! 相変わらず上官に対してなんて無礼な――」

 

 

 

 

デュランダル議長とカガリの会話に介入する転生憑依シン

 

カガリ「では、この度のことはどうお考えになる? あの、たった三機の新型モビルスーツのために貴国が被った、あの被害のことは?」

 

デュランダル「だから、力など持つべきではないのだと?」

 

カガリ「そもそも何故必要なのだ!? そんな物が!今さら! 我々は誓ったはずだ、もう悲劇は繰り返さないと! 互いに手を取り合って歩む道を選ぶと!」

 

シン「・・・さすがに上辺だけの綺麗事を盲信するのはアスハ家のお家芸だな(ボソッ)」

 

カガリ「なにっ!?」

 

シン「勘違いされてもらっては困りますので無礼を承知で言わせて頂きますが、アスハ代表殿? 今回の攻撃は向こうが条約を無視して仕掛けてきたものであって、別にザフト軍が招いた襲撃者というわけではないのですが?」

 

カガリ「それは! ・・・そもそもお前たちがあんな機体など造っていたからっ」

 

シン「強すぎる力を持つ機体であれば敵が強奪して使用しても条約違反にはならず、造らせた側だけが一方的に全て悪いとでも?」

 

カガリ「・・・・・・」

 

シン「なぜ力が必要かと聞かれたら、我々ザフト軍としては今回のように条約を無視して奇襲を仕掛けてくる野蛮人共から愛する母国と市民を守り抜くために、としか答えようがありませんねぇ。前大戦で国を守り切れずに難民を大量に生んだ貴国と同じ被害を被りたくはありませんから」

 

カガリ「――っ!! だが! 強すぎる力はまた争いを生む!」

 

シン「かもしれませんが、少なくとも今回攻撃してきたのは今追っている敵であって、我々ではありません。代表が最も責めなければならないのは加害者たちであって、被害者たちの代表である議長ではないと思われますので、そこのところをご理解いただけたら幸いですね。では」

 

 

 

ユニウスセブン落着前、ヴィーノやヨウランと会話する転生憑依シン

 

レイ「だが、衝突すれば地球は壊滅する。そうなれば何も残らないぞ。そこに生きる者も」

ヴィーノ「地球・・・滅亡・・・」

ヨウラン「だな。――でもまっ、それもしょうがないっちゃあしょうがないかぁ? 不可抗力だろ? けど、変なゴタゴタも綺麗になくなって案外楽かも。オレたちプラントには」

 

シン「そうだな。綺麗にプラント理事国ごと地球がなくなって、商売相手のいなくなったプラントもゆっくりと衰退していって宇宙に浮かぶ孤独な砂時計となり、いずれは衰弱死。人類全体が変なゴタゴタもろとも死に絶えれば、ナチュラルだのコーディネーターだの言い出す輩はいなくなるわけだからな。たしかに面倒がなくなってくれて楽でいい。【死ねば楽になる】って言う、お前の意見は正しいよヨウラン。俺が保証してやる。ああ、間違いない。なにしろ、生き残った俺以外は家族みんな死んで楽になってるはずの俺が言うんだ。間違ってるはずがない」

 

ヨウラン「し、シン・・・(タジタジ)」

 

 

 

転生憑依シンVSアスラン舌戦

 

アスラン「君は、オーブがだいぶ嫌いなようだが・・・なぜなんだ? 昔はオーブにいたという話だが、くだらない理由で関係ない代表にまで突っかかるというならただではおかないぞ」

 

シン「くだらない・・・? ハッ! これは驚いた。敵の攻撃が迫ってくるまで避難指示を出さなかったせいで市民を見殺しにする結果を招いた無能すぎる国家元首の娘を非難するのは、オーブ難民にとってただでは済ませてもらえない下らない理由だったんですか。ハハッ、さすがは条約無視して連合に肩入れしたせいで中立コロニーを沈めさせてしまった国の代表護衛。言うことが違う」

 

アスラン「・・・っ。だが、それは別にカガリ自身が君たちにしたことでは・・・。アスハ元代表だって、やりたくてやったことではないはず・・・」

 

シン「他人がやったことでも、当人にとって不本意なことだったとしても、それが国家の名においておこなわれた以上は、最高責任を取らなければならないのが国家元首という立場でしょうよ。違いますか?」

 

アスラン「それは・・・・・・」

 

シン「まして、戦争をおこなった国の元首に戦争責任がないと言うなら、世の中に戦争責任なんてものは存在しなくなる。親がおこなったことで子供に責任はないなんて理屈が、戦争で家族を亡くした子供に通用すると思いますー? 元首となった以上は歴代政権がしてきた国策の責任を負うべき義務が元首には当然存在している。動機じゃなくて結果に対しての責任がね。嫌なら最初から議員服なんて着ずに、綺麗なドレスでも着て深窓のお姫様でもやってればいい。似合うと思いますよ? 世間知らずで苦労知らずなナイト様に守ってもらえるお姫様役が、あなたにはとってもね」

 

 

 

 

サトー達テロリスト・ジン部隊VS転生憑依シン

 

テロリスト「我が娘の、この墓標。落として焼かねば世界は変わらぬ!」

 

シン「そんなに娘の死体を新世界のための生け贄に捧げたいのか? アンタたちは!」

 

テロリスト「!?」

 

ズバッ!

ドカンッ!!

 

 

サトー「ここで無残に散った命の嘆き忘れ、撃った者らとなぜ偽りの世界で笑うかぁ! 貴様らはぁ!」

 

シン「黙れよ、復讐者。個人的な復讐心を世界レベルの話でごまかして正当化するんじゃない。アンタ等のやってることは個人的鬱憤晴らしたいだけのテロリズム。それ以外の何物でもないだろうが。愛国無罪と叫びたがる利己主義なバカほど国益を損なうものはないって言う常識を知らないんですかねぇ? 前大戦を生き抜いた敗残兵さま方は」

 

サトー「くっ・・・! 軟弱なクラインの後継者どもに騙されて、ザフトは変わってしまったのだ! なぜ気付かぬか!? 我らコーディネーターにとってパトリック・ザラの取った道こそが唯一正しきものとぉぉっ!!」

 

シン「それは、アラスカで味方を大量に無駄死にさせまくった道のことか? それともヤキン・ドゥーエで部下に裏切られて背中から撃ち殺された道のことかい? どっちも最後は味方殺して殺されるんだぜ、その道はさぁ・・・」

 

サトー「ぐっ・・・、がっ・・・」

 

シン「いつの時代もいるよな! アンタらみたいに身勝手でバカな理由で戦争始めたがる大バカ野郎共はさぁぁぁっ!!!」

 

サトー「ぐぅぅ…、我らのこの想い! 今度こそナチュラル共にぃぃぃぃっ!!!」

 

シン「人殺しまくるしか能のないバカは死ねぇぇっ!!!」

 

バキィン!!

 

サトー「うわぁぁぁぁぁっ!?」

 

ズガァァァッン!!!



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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。10話

シロッコSEED第10話を更新です。
頭がいまいち回らない中で書いてますので、文章が荒いのはご容赦ください。正直今の私にはこれがせいいっぱい…(ルパ~ン)

*最後のセリフを修正しました


『バルトフェルドさん! もう止めて下さい! 勝負はつきました! 降伏を!』

『言ったはずだぞ! 戦争には明確な終わりのルールなどないと!

 戦うしかなかろう・・・互いに敵である限り。どちらかが滅びるまでなぁっ!!』

『僕は・・・僕は・・・殺したくなんかないのに―――――ッ!!!!』

 

 ――地球上においてキラがバルトフェルドとの出会いが、戦いという悲劇に発展していた頃。

 アークエンジェル隊の勝敗は戦局になんら影響を与えることなく、彼らの予測は大きく裏切られ、膠着状態が続いたままプラント評議会議長シーゲル・クラインの任期切れの時期を迎える。

 

 それに連動し、プラント本国では戦争終結に向けた市民レベルでの活動が活発化していた。 クライン政権に代わる新たなる新体制の構築前準備。

 即ち、選挙である。

 

 

 

 

『――私はなにも「地球を占領しよう」「まだまだ戦争をしよう」と申し上げているわけではない! しかし、状況がこの様に動いている以上、こちらも相応の措置を執らねばならないのは確かです』

 

 私は久しぶりに帰ってきた帰るべき場所、ザフト軍士官用の官舎でテレビを見ながら、食後の一杯を優雅に楽しんでいた。

 時間軸で見るならば、キラ・ヤマトがアンドリュー・バルトフェルドと劇的な原作バトルを繰り広げている頃合いだ。個人的にはバルトフェルドは嫌いではないので手助けしてやりたい気持ちがないわけでもない。せめてアイシャが死なずに済むような装備なりを送ってやりたい気持ちはあるが、立場的にどうすることも出来ない。

 せいぜい『可能性という名の人だけが持つ神』に祈ってやるぐらいが関の山だ。吉報を待ちながらテレビを視聴するのが今の私に出来る全てである。

 

『中立を公言しているオーブの裏切り、先日のラクス嬢人質事件・・・彼らを信じ、対話を続けるべきだと言われても、これでは信じる方が無理です』

 

 画面の中では次期政権首座が確実視されている現国防委員長のパトリック・ザラが猛々しい口調で、平和的解決と戦力拡充の両方を同時に唱える器用な詭弁を駆使して熱弁を振るっていると、

 

 ぴりりりり♪

 

 テーブルの上に投げ出されていた携帯が鳴り響き、着信があったことを私に知らせる。

 携帯に手を伸ばし、遺伝子改造された自称新人類コーディネーターが造り出したにしては前世の日本製の物と似すぎた形状を持つソレに苦笑しながら、私は通話ボタンを押した。

 

「シロッコです」

『クルーゼだ。今、時間はあるかね? 我が盟友よ』

「これは我らが敬愛するクルーゼ隊長殿。この御時間では、まだザラ新評議会議長閣下と密談の最中では?』

 

 軽く皮肉を言って電話の向こう側の相手を苦笑させてやりながら、私はテレビを消さずにリモコン操作で音量のボリュームだけを下げてやる。

 

『皮肉を言ってやるなよシロッコ。議長ではなく、ザラ国防委員長閣下だろう? “今はまだ”、な』

「失礼した。つい本音が出てしまったのでね。ククク・・・」

 

 やる前から結果が確定しているプラント評議会選挙。前世の日本もかくやと言うレベルで無意味な投票だが、『総意』という名の大義名分を得るためには確かに有効なのは事実でもあるだろう。

 

『あちらの案件は通ったそうだ。オペレーション・スピットブレイクは有効票の三分の二以上の賛成を得て、評議会により決定された』

「それはそれは、ザラ議長・・・いや、国防委員長も不幸なことだな」

『ほう?』

 

 クルーゼが私の用いた表現に面白そうな顔をして、その真意について問うてくる。

 

『その理由は?』

「官舎に帰ってくる直前に個人的ツテをたどって得た最新情報なのだが・・・負けたそうだぞ。バルトフェルド隊長が、足付きにな。

 半数以下にまで打ち減らされた残存部隊が副官のマーチン・ダコスタに率いられ、ジブラルタルへ尻尾を巻いて逃げてくる最中だそうだ」

『ハハ、それは確かに国防委員長殿にとって幸先悪く不幸な出来事だな』

 

 画面越しに笑い合う私と友人。

 長引く戦争が穏健派のシーゲル・クラインから支持を失わせ、代わって力を増した主戦派のパトリック・ザラは、軍備増強による戦争の早期解決をマニフェストに選挙戦での勝利を確実にしたばかりなのだ。

 評議会議長に就任して最初にこなす仕事が、敗報の隠蔽工作と箝口令の指示なのだから、これほど不幸なプラント最高評議会議長も歴史上に希なことだろう。

 善し悪しは別として、彼は今コーディネーターの歴史に不滅の名を刻んだことになる。それを喜ぶかどうかは彼の自由であり、権利となるだろうがね。

 

『近々それに伴い、ザフト全軍に地球上への大規模な攻撃準備命令が発令されるだろうとのお達しも、国防委員長閣下からのお話には含まれていた。

 “目標をパナマと偽った上での”偽の攻撃命令がな』

 

 我が友クルーゼの言葉も皮肉な色彩で彩られている。

 表向きは別の場所を攻めることになっている攻撃計画の、真の準備を任された国防委員長の信任厚い謀臣である彼から見れば、この計画の長所も欠点もお見通しと言うことだ。無論、私にもな。

 

 

『オペレーション・スピットブレイク』

 

 それはパナマ・ポートを落とすと見せかけて、本命であるアラスカの連合本部JOSH-Aを奇襲するという斬首戦術であり、原作でのクルーゼがアズラエルと組んで味方を大量虐殺するため、蛻の空になった連合軍本部をサイクロプスで自爆させて奇襲してきたザフト軍全員を一人残らず殺させてしまった作戦の名称である。

 

 言うなれば、ジャブロー降下作戦と、アクシズをゼダンの門にぶつける作戦とを攻守ところを変えて再現したようなもの、と言えばわかりやすいかもしれないな。

 

 見た目は派手な作戦内容ではあるが実のところ、言うほど上手い作戦というわけではないのが、この真オペレーション・スピットブレイクの正体だった。

 

 作戦開始直後になってから、いきなり攻撃対象を変更してパナマを落とす分にクルーゼが補填してやっただけの量の軍需物資でアラスカを落とすことを求められてしまう。

 それも、地球に降下するためカウントダウンに入っている船の中で、だ。判断に迷っている余裕すらも与えられていない。

 

 原作では『敵の本部に奇襲をかける』という軍事ロマンチシズムと、『この戦いに勝てば戦争はそこで終われる』という希望的観測に基づきはしても言ってることは概ね正しい発言で困惑する兵士たちの統制を取り戻していたようだったが・・・さて。

 

「敵の拠点を占拠するため、陽動作戦を囮につかって敵本体を誘引。しかる後に空き家になったアラスカを奪取する・・・確かに壮大で、戦略的には間違っていない作戦ではある。

 が、そう上手くいくものかな? 連合も遊んでいるばかりではないと思うのだがね」

 

 私が宇宙世紀の歴史で、似たような作戦案のほとんどが失敗してきた過去の実例を思い出しながら言ってみたところ、友曰く。

 

『上手くいく、と信じたからこそ選んだのだろう? 彼も。その先に自分が願ったものがあると信じた道を。その先には無いのだということなど知りたくもないために』

「フッ・・・」

『選ばなかった道など無かったと同じ。いくら振り返ってみても戻れはしない。過去は何も変えることは出来ない。

“もしもあの時、選びえなかった道を選んでいたら求めていた未来があったかもしれない”――そう思いたくないからこそ、人は誰も今を必死に足掻くのだろう? 人は見えぬ未来という可能性を信じて進むしかないのだから』

「・・・・・・」

『未来の可能性を恐れ、信じて。今この時に血の道を選んで進む・・・不運な男だな、パトリック・ザラも。その道を舗装するのに使われる血が、自分のものではないという保証もないというのに』

「どちらにせよ、それは彼が悩み迷って考えるべき道だ。我々が思い煩って議論してやる価値のない道だよ。

 我々は、我々の歩むべく選んだ道のことだけ気にしていればそれでいい」

 

 私はバッサリと切り捨てて、少々思うところがあった自分の気持ちに割り切りを付けるように、敢えて強い言葉で断言して見せた。

 

「彼に事情があると言うことは、彼以外の他人にも事情があると言うことだ。利害が一致する限りにおいては快く協力関係を維持していく道を考えよう。それが一番生産性があって、ステキだ」

『・・・確かにな。私としたことが、少々感傷的な気分になっていたようだ。疲れているのかもしれないな。連絡事項を伝えたら、久しぶりにゆっくり休むのも悪くないかもしれない・・・』

 

 マスクを外して、目元をほぐすような仕草をするクルーゼ。

 ・・・やはり彼も疲れていたらしい。ただでさえ通常業務にザラから頼まれた真スピットブレイクの準備とを両立させなくてはならない激務なのだ。到底常人に耐えられるものではない。

 彼だからこそ出来ていることとは言え、やはり健康的生活を心がけて欲しい相手には送って欲しくない生活環境に今の彼は置かれていたようだ。

 

『宇宙で出来る準備は完了したので、明日にでも最終調整のため地球に降りられるよう船の出航準備を進めさせている。君も出立準備をはじめておいてくれ。出航は明朝12:08を予定している』

「了解したが、それらの手続きは私が引き継いでおく。君はもう休め。隊長相手に失礼とは思うが、明朝10:00までの絶対安静を命じさせて頂く」

『おいおい、シロッコ・・・?』

「俗人の目は誤魔化せても、私には通じんよクルーゼ。君が今、相当な無理をしていることぐらい一目見れば解って然るべきところだ。むしろ今の今まで確信が持てなかった私の落ち度と断言できる。友人として薄情な限りだ。反省している。悔いるばかりだよ、クルーゼ」

『・・・・・・』

「朝にでも君の部屋に行き、専用に調合した薬を数錠渡しておこう。あまり量は飲んで欲しくない薬だが、少量であれば今の状態を改善するのに役立つはずだ。悪いがそれまでは寝ていてくれ。何か適当に美味いものでも手土産として持って行ってやるから」

『・・・・・・ありがとう、シロッコ。悪いが君の言葉に甘えさせてもらうとする。

 ――正直、とにかく疲れた・・・もう歳なのかもしれないな。なにしろ私は普通の人間よりも年を取るのが数倍早いバケモノなのだから』

「なにを言う」

 

 ハハハと笑い合い、我々は電話を終えてそれぞれの役割を全うするため、望んだ未来へと続く道を選んで歩み始める。

 

 クルーゼは、おそらく自室のベットへ。

 そして私は、ヴェサリウスを停泊している軍港の一角へと歩を進めいく。

 

 彼は、その先に続く道を少しでも長引かせられると信じるために。

 私は、やはり彼にもナニカ信ずるものが出来て欲しいと思うために。

 

 

 

 

 

 

 ――それは、クルーゼが下車して帰宅してから数十分後が経過した、プラントのひとつマイウス市にある公園に停車中のパトリック・ザラが所有する黒塗りの高級車の車内にて。

 

 

「・・・遅れました、申し訳ありません。ザラ議長閣下」

「おいおい、君らしくもないな。いささか気が早過ぎるのではないかね? まだ国防委員長だよ私は」

「失礼しました。つい本音が出てしまいまして」

「ははは、上手いな君も」

「・・・・・・」

 

「例の物は予定までに間に合いそうかね?」

「はい。完成の目処は立ちました。オペレーション・スピットブレイクが成功した暁には、無力化した地球はナチュラル共もろとも核エネルギーの光で焼き尽くされることでしょう」

「ハハハ、我らが力を合わせればナチュラル如きだな」

「・・・・・・」

「いや、なに。正直に白状するが最初はこの仕事、シロッコに任せようと思っていたのだがね。だが今では君に任せて正解だったと、自分の人を見る目を自画自賛したい気分になっているのだよ。二人とも、そしてクルーゼも良くやってくれている。私のためにな」

「・・・すべてはコーディネーター全体のため。我らは総意に従って動くのみです、閣下。私たち友人一同が閣下に協力するのは、ザラ国防委員長閣下の唱える道こそ真にコーディネーターが歩むべき道だと信じるが故です。どうか我らの献身、お受け取り下さい」

「うむ! 期待しているよ、“ギルバート”・・・」

 

 バタン。ブオォォォォ・・・・・・

 

 

 

「・・・そうだとも。彼に出来るのだ、私にも出来ぬはずがない。

 己の出来ること、己のすべきこと。それは自分自身が一番よく知っているのだから・・・」

 

 つぶやいて思い出すのは、過去の思い出。

 友人たち三人で語り合い、チェスをしながら、致命的に食い違った“あの時の会話”を・・・

 

 

 

『――願いは叶わぬものと知ったとき、我らはどうすればいい? それが定めと知ったときに』

『――ならば私が変える。全てを! 戻れぬと言うなら始めから正しき道を。

 己の出来ること、己のすべきこと。それは自分自身が一番よく知っているのだから・・・』

 

 

 

『ははは、力だけでは時代の流れに逆らっても勝つことはできんよ。

 それに戦い終わった世界を導いてゆく新たな指導者は“女”だと、私は考えている――』

 

 

つづく



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ガンダムW戦記~クロスボーン・バンガードの旗のもとに~4章

クロスボーンW更新です。最近、投稿予定のない個人的趣味作品の執筆に時間を割きすぎていて更新が遅れてしまったことを反省し、今回のは速度優先で短めになっておりますので続きをできるだけ早い内に投稿できるよう努力いたします。


 殺し合い奪い合うことでしか新しき世を築けないのが人ならば、子を産み育て死んで逝く人々の補充をするのもまた人なのでしょう。

 軍人同士が殺し合いに血道をあげる戦争という破壊の中で、数少ない軍人という名の人々を造り出し、送り出す道を選んだ軍人がいる。

 

 レイクビクトリア基地。

 《スペシャルズ》養成所とモビルスーツ製造工場のふたつがあるところ。

 

 世界中の《スペシャルズ》関連施設がガンダムによる標的として狙われ、テロリズムの対象として徹底的な破壊工作の被害にあっている今。

 宇宙用モビルスーツ・トーラスの製造と、それを扱うパイロットたちの錬成をおこなっていることが民間人の子供にまで知られている、ガンダムパイロットたちが当然の標的とすべきところ・・・・・・。

 

 そこで今夜、ちょっとした事件が起こった。

 パイロット訓練生たちが寝起きする宿舎に爆発物が仕掛けられ、戦争で死んでいった者たちを弔うため火葬と花火を同時におこなうテロ攻撃が実行されたのである。

 

「どこだ!? どこが狙われた!?」

 

 基地指令を兼ねた訓練生たちの指導教官ルクレツェア・ノイン一級特尉は、爆発音を耳にすると眠気の残滓すら感じさせない機敏な動作で取る物も取らずに動き出す。

 緊急時に備えて動きやすい格好で寝ていた身体でドアを開けて廊下に飛び出すと、近くを走り抜けようとした一人の兵士を捕まえて現状の被害報告を要求した。

 

 現在の情勢を鑑みれば事故ではない、敵襲であることはで判りきっている。

 問題は、どこが狙われたのか? それだけだ。

 

「モビルスーツ工場か!? それとも作業が終わっていないトーラスがある格納庫か!?」

「宿舎であります! パイロット訓練生の宿舎が集中的にやられました!!」

「なに!?」

 

 予想外の答えに冷静さを保っていたノインの顔色が変わって、慌てたように宿舎へ向けて走り出す。

 そして走りながら心の中で何度も何度も同じ疑問の声を叫び続けた。

 

 ――なぜ訓練生を狙う!?

 

 訓練生たちを我が子のように慈しみながら育てるノインには理解できない、したくないが故に抱かざるをえない疑問であったが、ゼクスがそれを聞いていれば『当たり前だな』と至極普通の態度で応じていたことだろう。

 

 彼は戦争が嫌いで理想主義者な彼女よりも、戦争という巨大な破壊作業を理解していた。

 戦争において重要なのは、兵器の数より熟練した兵士の数だ。

 如何に高性能な物であろうと兵器は兵器、機械でしかなく生産ラインさえ完成させれば短期間での大量生産が可能になるが、それを扱う人間たちはそうはいかない。

 人を育てることと、兵器を造ることは当事者たちにとって同じように愛情を注げる作業なのかもしれなかったが、効率最優先で壊すべき場所を壊し、殺すべき対象を殺すことが被害を最小限に抑えて勝つ戦争の中では効率こそが最重要視される要素となる。

 

 訓練生たちを愛し慈しみながら育てる彼女の母性的優しさは、人として正しくはあっても軍人としては失格と言わざるをえない判断力の甘さが招いた正当な結果であった。

 

「ひ、ひどい・・・」

 

 宿舎に足を踏み入れたノインは、あまりの惨状に言葉を失ってしまった。

 指向性爆弾を外壁に取り付け、内部に向かい爆破したのだろう。部屋という部屋は瓦礫の山と化し、中にいた兵士たちは何が起こったかわからぬまま死んでいったに違いない。

 生存者は0。おそらく全員が即死であったことだけが唯一の救いと評するしかない、あまりにも徹底的すぎる破壊・・・。

 

「・・・許せない・・・っ!」

 

 その惨状を目にして個人的復讐心と、人並みの義憤に駆られた彼女は壁の通信機に駆け寄り、無事だったそれの受話器を取り上げ工場にある司令部へと繋げさせると命令を下す。

 

「敵を探せ! 発見次第攻撃!! 殲滅せよ! モビルスーツ戦が予想される。リーオーは前面に出ろ、敵はすぐ目の前のはずだ。私もすぐにそちらに行く!」

 

 応答した兵士に向かって叫ぶように指示したが、相手の方には僅かな躊躇いがあるようだった。

 もしこれがガンダムであった場合、戦力が十分に整っていなかったからである。

 

『し、しかし特尉。これがもしゼクス特尉から連絡のあったガンダムによる攻撃だった場合、我々だけでは対処できない可能性が高いと思われます。ライトニング・バロンが勝てなかった相手・・・せめて輸送機が到着するのを待ってから本格的な攻撃を開始した方がよろしいのではないかと愚考しますが――』

 

 ガンダムに対抗するため、既存のOZモビルスーツでは性能不足を思い知ったゼクスが倉庫の中から見つけ出してきた旧式ながらも高性能なモビルスーツを完成させるため、レイクビクトリア基地に向かって飛行中との連絡が届けられたのは今日の昼。到着は明日になる予定とのことだった。

 常は時間厳守で早めの連絡など寄越さない彼にしては珍しく焦っているのか、それともこの歳になってようやく女性との約束事は十分前からという基本的マナーを身につけた故なのか、ノインはおかしくなり思わず笑ってしまったものだが、その日常的笑顔を浮かべた当日の夜には修羅の形相で、応答に出た担当兵士を怒鳴りつける女性士官に変貌する。

 それが戦争という名の平和的日常とは異なる、特殊状況下での日常的風景であった。

 

 

「それでは遅い! 敵に逃げるだけの時間を与えてしまう!」

 

 ノインは怒鳴り声で兵士を叱咤し、上官の決定に異議を唱える一下士官の越権行為に対する訓告も忘れ、ただただ憎むべき卑怯者な敵への復讐心で猛り狂っていた。

 彼女は人生で始めて経験する戦争の過酷さを前に、一時的ながらも冷静な判断力を損失していた。

 手塩にかけて育てた訓練生たちを宇宙に行かせてやると約束しながら守ることの出来なかった自分自身の無能さに対する怒りと憎しみ、無駄死にさせてしまった彼らに対する哀惜と罪悪感。それらが渾然一体となって目の前にいるであろう敵への復讐に彼女を駆り立てていたのである。

 

『ノイン特尉! 敵らしき移動物体を発見しました! 対物熱感知反応によると、滑走路の西側を基地外に向かって移動する光点あり! 速度から見て軍用オフロードバイクであろうと思われます!』

「よし、でかした!」

 

 応対に出た兵士に変わって別の兵士が報告し、それによってノインの腹は決まった。

 

「間に合う者だけでよい。エアリーズ出撃急がせろ。逃走中の敵を追う!」

『ハッ!!』

 

 ノインは早々に工場に隣接した格納庫へ駆け込むと、愛機である一般機とは色違いのエアリーズに乗り込むと暖気を終え、バーニアを噴射させて出撃していく。

 従うことの出来た僚機は二機のみ。

 爆発による混乱から立ち直れていない基地の状況では、命令があり次第すぐにも出撃できるモビルスーツもパイロットもあるわけがない。

 

 ――まして、基地指令自ら現場の混乱を収めることなく、率先して前線に出て行ってしまえば尚のこと・・・。

 

 彼女判断を誤ったのだ。

 だが、そういう女性の性を理解している人間が、この基地に来ていたことをゼクスと久しぶりに会うことの出来る喜びと、卒業を迎えた訓練生たちを無事送り出す使命に意識を取られていた彼女は失念していたことを、訓練生の寝ている宿舎を爆破したと信じて逃走中のテロリストパイロットの少年兵はまだ知らない・・・・・・。

 

 

「――ご命令通りに致しましたが・・・・・・これで良かったのでありますか? シャル大尉殿。我々はスペシャルズの隊員であって、クロスボーン・バンガードに与するつもりはありませんが・・・」

「だからこそだ。ルクレツェア一級特尉も訓練生たちも、諸君らにとっては守るべき大事な人々なのだろう?

 なら非武装の味方を見逃す演技ぐらい手を貸せよ・・・貴様らが勝つためには手段も犠牲も問わないテロリストのような卑怯者になるつもりがあるなら別だがな」

「・・・いえ、しかし・・・」

 

 

 

「――しかし、これがこの世界におけるガンダムパイロットたちのやり方か・・・不快だな。私もそろそろ出るとしよう。

 身勝手な子供に大人の義務として、感情を処理できん人類は私情と理念をごっちゃにして世界を粛正するなどと嘯くゴミになるのだという事実を、殴って教えてやらねばわからんようだからな」

 

 

 ――こうして、ヒイロとデュオが出会い、新たな戦場を求めて旅立っていたのと同じ頃。

 ウーフェイは中央アフリカにあるレイクビクトリア基地に向かい、目的を果たしはずだった。

 

 だが、そこには宇宙用モビルスーツ・トーラスと、優秀なパイロットを育てるノイン教官。そして、理性よりも情を優先する女の性を熟知した黒の部隊を率いる男がいた・・・。

 

 ウーフェイはそこで悪夢のような出来事と遭遇する未来が、すぐ側まで迫ってきていることをまだ知らない。

 果たして彼は、落ち延びて生き延びるという敗北から目を逸らさずに立ち直ることができるだろうか・・・・・・?

 

つづく



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ガンダムW戦記~クロスボーン・バンガードの旗のもとに~5章

クロスボーンWの続きです。思ったより長くなり過ぎたので再び続きますけど、原作を基にした展開は今話で区切り、次話はオリジナル展開の半番外編みたいになる予定でいます。


「反応が激しく、そして雑だな。指揮官が女だという情報は正しかったということか・・・」

 

 背後で鳴り響き始めるレイクビクトリア基地のサイレンと、撃ち上げられた曳光弾の光を振り返って眺めつつ、ガンダムパイロットの一人である張五飛はバイクに跨がり走らせたまま侮蔑混じりに呟き捨てた。

 

「大方、味方の兵がやられたのを見て激高し、冷静さを保ってなくなったと言ったところか。女故の弱さだな。だからこそ警戒も甘くなる」

 

 辛辣な声で酷評する、ノインが敷いたレイクビクトリア基地の奇襲に備えた警戒網の稚拙な甘さ。

 彼女はゼクスからの忠告によってガンダムがレーダーにかからない事実を知っていたため目視による索敵をメインとして監視の兵をいつもの倍に増やしていた。

 

 が、それはあくまでガンダムという名の『敵モビルスーツ』による奇襲を想定して敷かせたものであり、特殊工作員による潜入工作と破壊工作までは勘案されておらず、大型の人型機械を見逃さないための監視網が人一人分の小さな敵が接近してくるのに気づける道理がない。

 

 結果、ウーフェイはガンダムに乗ったまま基地を襲撃する、機体を降りて普通のバイクで近づき爆破した方が楽に片付けられる状況が出来上がってしまったと言うわけだった。

 結果的にノインのやったことは逆効果にしかなっていなかったわけだが、そもそも彼女は戦争を『可能であるなら一人の犠牲も出さずに終わらせるべきもの』という理想論を基準として考えてしまっていたから、武器も持たずに戦えない者たちは「たとえ兵士であろうと殺されはしないだろう」と甘く見積もってしまっていたのだから、根底から間違っていた彼女に正しい判断と対応など求める方がおかしかったとも言えるかもしれない。

 

 これもまた、歴史上はじめてMSを兵器として実用化させたOZならではの欠点と言える。MSパイロットの腕と指揮能力ばかりを評価して、戦争に対する認識に問題ありとしながらも高い地位と権限を与えすぎてしまっていたのである。

 

「どちらにしろ、長居は無用だな。どうせ追っ手が来るのだろうが、俺とナタクで叩き伏せてやればいいだけのこと。この戦いも、すぐ決着をつける」

 

 自身と確信に満ちた声で、進路上の先にある茂みに隠した自らの愛機《シェンロンガンダム》に向かってバイクを走らせるウーフェイ。

 

 

 ・・・彼がこの時期に、当初からの攻撃目標ではあったが予定よりも僅かに期間でOZの訓練生宿舎爆破作戦を実行したのには事情が存在していた。

 OZが宇宙用に開発したモビルスーツの搬送作業は輸送班に任せ、それを扱うパイロットたちは先行して宇宙に上げておくよう計画を変更したという情報を入手したからである。

 

 当然、彼も彼に指令を与えている老師Oも罠である可能性を疑いはしたのだが、確証を得ることは出来ず仕舞いだった。

 なにしろ、街の子供でさえ基地で宇宙用モビルスーツが開発されていることを知っているぐらい情報が筒抜けになっている施設なのである。どこまで本当か、どこからが嘘なのか、情報が手に入り易すぎて却って判断に迷ってしまったのである。

 

 それに、計画を変更した理由が納得のいくものだったからというのも大きい。

 それによるとOZは、各地で奇襲を続けるガンダムに対抗するため戦力増強を必要としており、レーダーに映らないガンダムからパイロットと機体双方を守るためには別々に移動させた方がリスクが少ないと判断したとのことだった。

 仮に、どちらかが襲撃されて全滅したとしても、無事だったものは宇宙へと無事打ち上げられる。時間も手間もかかり物が大きいモビルスーツよりも、パイロットの方が小回りが効いて自由度が高いという利点もある。

 

 判断に迷ったウーフェイと老師Oだったが、パイロットたちが個別のグループごとに幾つかのルートを通って移動するという情報が新たに入ったことから迷っている時間はなくなった。一機しかガンダムを持たないウーフェイではバラバラに動き出した敵、全てを倒しきれる保証がなくなる。

 

 そして現に、宿舎から少数の人の移動が確認されたことから二人の腹と方針は決まり、予定よりも僅かに早い今の時期に奇襲と爆破テロは実行に移され、見事成功して帰還の途についている。

 追っ手が出てきたようではあるが、所詮は量産型のエアリーズとリーオーしか持たない基地であることは老師Oが確認済みだ。多対一を想定して造られた愛機シェンロンガンダムの敵ではない。

 

 自信と余裕と、そして自覚のない多大な慢心を胸に秘めウーフェイは夜の道路をバイクに乗って走り続ける。

 

 彼は知らない。老師Oでさえ気付いていない。

 これはザビーネによる情報攪乱であり、ハッキングに長けた老師への対策として彼が紙に書かれた命令書というアナクロリズムで作戦を実行させているという事実を考えもしていない。

 時代の一歩も二歩も先を行く科学技術をもつ天才科学者老師Oは、この時点で貴族趣味という名の復古主義によって盲点を突かれたわけである。

 いつの時代でも最新のものが最高だとは限らない・・・それは彼ら自身が信じているはずの理念ではあったが、同時に敵が理解しているはずがないと信じ切っている固定概念にもなっていた。

 老人というのは往々にして、自分の一度信じた正しさを修正することが出来ない偏屈さを持ち合わせているものである。

 

 閑話休題。

 

 

『止まれ! 止まらんと撃つ!!』

 

 ようやくノインが追いついてきた。

 モビルスーツによる奇襲を想定していただけで、対人警戒を怠ってしまったため初動が遅れた結果としての遅ればせな到着である。

 

 しかもこの時、彼女は自分が追っている敵がバイクに跨がる歩兵だったことから、本体より先に先制攻撃を仕掛けてきた先鋒であると判断して、自分より僅かに遅れて飛び立ったばかりのエアリーズ二機に対して宇宙用ビーム砲を持ってくる命じている。

 

 この段になってもまだ彼女の頭の中では、ガンダムから降りたパイロットが単独で潜入し、破壊工作を仕掛けてきた可能性に思い至れていなかったのである。

 先ほどと違って冷静さを取り戻しているにもかかわらず、この判断の愚かしさ。

 

 この辺り彼女の気質は生粋のスペースマン(宇宙船乗り)であり、スペースファイター(宇宙戦闘機乗り)には向いていなかった事実を現しているのかもしれなかった。

 

『止まれ! 止まらんと言うなら力尽くでも!!』

 

 そして発砲。ただし目標にではなく、目標の前方に向かっての威嚇射撃であり、逃走手段のバイクを使い物にならなくすることを目的とした攻撃だった。

 爆発によりタイヤが取られてバイクがつんのめり、操縦者は弾き飛ばされて地面の上を転がり衝撃を逃がす。

 ノインは自分専用にカラーリングが施された指揮官用エアリーズを着陸させると、敵に向かってライフルを向けた。

 

『汚い戦いをするな! モビルスーツを狙わずにパイロットを狙うとは、それでも男か!?』

「・・・聞いたようなことを言う奴だな・・・」

 

 ノインの言葉に、思わずウーフェイは黙って立ち上がるつもりが、不快さを僅かに込めた声でつぶやきを漏らす。

 

 自らの肉体を用いた体術を得手とする彼にとっては、モビルスーツに乗る乗らないに関わりなく敵と戦えない者は「そいつが弱過ぎただけだ」の一言で済み、汚い戦いについても自分自身が敵にあわせてモビルスーツを降りて敵地に向かったのだから正々堂々と戦って殺したという自負が彼にはある。

 独善的ではあっても、彼自身にとっての卑怯な振る舞いができないのが張五飛という少年なのだから、それらの非難は見当違いであり的外れなものでしかなく、ノインの勝手な価値観を押しつけているに過ぎない・・・と、彼の中では認識されているため特に悪意は抱いていない。

 

 不快だったのは最後の一言、『それでも男か?』についてのみだ。

 

 彼は、女だからというだけで必ずしも弱い生き物だとは決めつけていない。女の中にも男とは違う強さを持っている者がいることを身近な実例でよく知っている。

 とは言え、やはり最強の戦士になるのは男であり、女ではないという自負が彼の中には厳然として確立されている。例外はない。

 

 そして自分は、他の誰より強い男であらねばならないと自らを律し、言い聞かせながら地球まで降りて戦い続けてきた彼にとって「自分が男らしくない」と言われただけで気にくわなかったのだ。

 

 そういう考え方をしている時点で、彼が男ではなく“男の子”であることは明白であり、プライドや見栄を自尊心や誇りよりも優先する若者らしい未熟さを有する最強少年に過ぎなかったわけでもあるが、そこまで自己を客観視できるほど彼の自我は確立されていなかった。

 両手を挙げて立ち上がって見せたウーフェイに。

 そんな彼の予想外に幼い容姿を見て、ノインは機体のマイク越しに思わずつぶやく。

 

『子供!? 少年? あの基地をこの少年が一人でやったのか!?』

「・・・ん? 例の女か」

 

 声を聞き、両眉を軽く持ち上げたウーフェイの表情と声と僅かに軟化した。

 相手が自分よりも「弱い女である」とわかった以上、彼は彼の信じ貫く信念から相手を殺せなくなり、本気で戦うわけにも行かなくなる。

 正義を成すのと同時に、戦い甲斐のある強い相手を求めて地球へと降り立った彼には、“弱い者イジメ”に興じる趣味はない以上、強者として相応の対応が求められる。

 

 たとえ、彼の基準に基づく独善的で傲慢な思想と態度であろうとも、彼は彼なりに真摯であって、女性に対してのマナーは彼基準に則り徹底するのが筋である。

 

 吹き飛ばされるときに近くに落としておいた照明弾入りの鞄を足先に引っかけて宙に浮かし、オーバーヘッドキックの要領で蹴りつけて起爆させ目眩ましとし、これも吹き飛ばされている最中に余裕を持って確認しておいたバイクの位置まで駆け寄っていくと立ち上がらせてエンジンを回す。如何に頑丈な品を選んだとは言え、モビルスーツの攻撃を間接的に受けた以上は長く保たないだろうが問題はない。

 

『くそっ!』

 

 数十秒もの間、閃光に目をやられてホワイトアウトしたメインモニターのせいで行動不能になり動きを止めらていれたノインは自分の判断に腹を立てながらも、逃げた敵を追って森の上空へと機体を飛ばす。

 飛行可能MSエアリーズの欠点は、姿勢制御を誤ってしまうと自分が落下しかねないという空を飛ぶが故のバランス維持が必要不可欠という点にある。視界を塞がれた状態で飛ぶのは自殺行為に均しい。

 かと言って、歩いて戦う陸戦用の機体としての性能は陸戦用のリーオーよりも数段劣る。短足なシルエットも際だって足枷となるだろう。

 

 端的に言ってしまえばエアリーズは敵の反撃が届かぬ上空から一方的に攻撃するのに有効な“弱い者イジメ用”の機体だった。それを相手と目線を合わせる位置まで降下させてしまったのだから、これもまたノインの自覚していない判断ミスと言えるかもしれない。

 

 卑怯、と言う者もいるかもしれないが、そもそも空を飛ぶ機体と飛べない機体との戦いはそういうものであり、制空権を奪い合うドッグファイトとは敵への一方的に虐殺を可能とするためにおこなう行為なのだから当然とも言えるだろう。

 どちらにしろ、ノインはこのとき致命的なまでに判断を誤り続けていた。

 

「単独の特攻兵だと・・・? 十四、五歳くらいか・・・あんな子供が本当に敵なのか・・・?」

 

 コクピット内で一人つぶやくノイン。

 森へと逃げた敵を追って、機体を低空飛行させながら飛んでいる彼女だったが、これも誤りである。

 つぶさに観察するため、わずかな見落としがないようにという判断だったのかもしれないが、行方不明者を捜索している救助隊ではないのである。

 上空へと舞い上がり、脚部についたミサイルを撃ち込んで森を燃やし、燻り出してやればそれで済んだはずの状況だったが、彼女は相手が子供である以上それは出来ない。

 

 彼女はどこまでも母性的でありすぎた・・・誰かの産んだ子供を殺し、殺させる兵士としても指揮官としても性格的に向いていない女性だったのである・・・・・・。

 

「来るか! ――ガンダム!?」

 

 現れた機体にノインは驚く。

 てっきりガンダムの手先として使い捨てられた特攻兵だと思っていた少年は、ひょっとしてガンダムのパイロットだったのだろうか?

 搭乗する姿を見ていない彼女には判断がつかず、後から追いついてガンダムを狙ういてるようビーム砲を地面に置いて固定した部下のエアリーズ二機が敵をロックオンして撃とうとし、発砲を許可する声を通信機から聞こえてしまったとき思わず彼女は叫んでしまう。

 

『目標補足! 撃て!!』

「!! 待て!」

『ノイン特尉!? 何故です!?』

 

 訳がわからず慌てる部下二人。発作的に感情で指示してしまった上官は答えを持たない。

 代わりとして彼らの敵が、彼らの疑問に答えてやる。

 

「女だからさ!!」

 

 侮蔑の冷笑とともに機体を反転させ、背中のビームグレイブを引き抜きながら急速接近。そして一閃。

 装甲強度ではリーオーにさえ劣るエアリーズ二機を、バターでも切り裂くかのようにアッサリと上下を真っ二つに分割して爆発四散させる。

 

『貴様っ! 貴様ぁっ!』

 

 今夜一晩だけで、今まで慈しみながら育ててきた部下を一人の敵に大勢殺されるという理不尽を前に、ノインは完全に激高して我を失い、自分が通常火器の通じない装甲を持つガンダム撃墜用に持ってこさせたビーム砲が手元から失われた状況の中、無謀にもチェーンライフルを乱射させながら接近戦を苦手とするエアリーズを敵に向かって突貫させてゆく。

 

 自分に向かって真っ直ぐ飛んでくるだけのモビルスーツなど、飛んでいようとも歩いていようとも大した違いはない。射程距離まで近づいてきたところを自分が持つ投擲武装なりなんなりを撃てば勝手に当たって落ちていく。

 このときも普通にそうなった。

 

『なにっ!?』

 

 如何に装甲が硬くとも、目の前まで接近して撃てば貫けるはず!・・・などという何処かの世界の先走って暴走した新兵のような考えを持っていたのかどうかは知らないが。

 このときノインは敵が中距離用の武装を持っているとは考えていなかったらしく、龍の形をしたガンダムの右腕がいきなり伸ばされて鞭のような武器に変化したことに対応しきれず、操縦桿をひねって直撃を躱すのが精一杯だった。

 

 結果、左脚部のバーニアに一撃食らってバランスを失ったノインはエアリーズはジャングルに機体を突っ込ませていき、飛行能力を損失させられてしまう。

 

「動け! くそっ、どうした、エアリーズ!!」

 

 ノインは叫びながら操縦桿をデタラメに動かすことで、無理矢理に機体を起き上がらせようとするが無理である。

 短足の機体であるエアリーズは空を飛ぶことが前提の機体であり、短い足が木々に埋まっている現状で飛ぶための片翼をもがれた彼女に為す術などひとつも無い。飛べないエアリーズは、文字通り短足で鈍重なブタでしかないのだから・・・。

 

『女っ! 聞こえているか、女!?』

 

 スピーカーを通してガンダムの中から語りかけてくるのはウーフェイだ。

 彼は倒した敵から鹵獲したビーム砲を持ち上げながら、情報にあったOZパイロットか、もしくは機体のどちらかを乗せた輸送機が空を飛んでいくのに狙いを定めながらノインに向かって己の信念を披瀝する。

 

『子供だと思って気を抜いたお前が、つまらん兵士だという事だ』

 

 若干の怒りを込めて、事実を指摘してきたウーフェイにノインとしては反論する言葉などあるわけがない。ただ悔しげに唇を噛みしめることしか出来ない。

 

 

「俺の名は張五飛。弱い者と女を俺は殺さない」

 

 怒りを押し殺した声で言い放ち、手に持ったビーム砲で輸送機を撃墜させたウーフェイは動けなくなった弱い敵『女のノイン』に背を向けると、悠然とした歩調で歩み去って行く。

 さらなる追っ手が来る前に急いでこの場を離れようとする、匹夫野盗のごとき去り方は彼の流儀に反する。

 強い者は戦場の王者だ。王者には王者の、強者には強者の立ち去り方というものがある。

 

 

「・・・敵が弱いと、戦った後に虚しくなるんだ・・・・・・」

 

『正気かね? 敵地に入って立ち止まったも同然の遅さで歩み去ろうとするとはな・・・』

 

「なにっ!?」

 

 

 男の声が降りかかるのとほぼ同時に、夜の闇を具現化したような漆黒に染め上げられたモビルスーツによる突然の奇襲を受けたウーフェイ!

 

 ノインを見て、まるで自分が弱った者しか襲わないハイエナのように感じられ、猛る胸の内の叫びにばかり意識を向けていたウーフェイは、攻撃を回避するため必死になって操縦桿を動かさざるを得ない。

 

 敵を倒し、戦いが終わり、これ以上の無益な殺戮など武人のすることではないとした彼の信念が招いた油断を突かれた形である。完全に彼の自業自得だった。言い訳の余地はどこにもない。

 

 とは言え、彼が油断したのにも一応の理由が存在してはいる。

 

「バカな! 俺のナタクが敵の接近を感知できなかっただと!?」

 

 ウーフェイは、ノインのように木々に足を取られて動けなくなるような無様だけは晒さないよう機体を動かしながら、叫びとともに疑問の声を上げる。

 

 格闘戦メインで戦うことを想定して造られたウーフェイの愛機シェンロンガンダムは、開発者である老師O自身が優れた武術家であるのも影響して駆動系と索敵能力に優れている。操縦者の体術を最大限に活かせるよう設計された機体なのである。

 

 ――そのナタクが、これほど近くまで敵が来ていて気付かないはずがない!

 

 それが彼の油断した理由であり、機体に対して寄せる彼の信頼の現れでもある信念。 

 だが、勝敗とは結局のところ相対的なものでしかなく、相手より一歩でも先んじて一枚上回ればそれで済んでしまう数字の計算が主流となる概念でしかない。

 

 今回の場合、黒い機体のパイロット『ザビーネ・シャル大尉』が使った手は単純だ。

 自機の周囲にミノフスキー粒子を散布してレーダーにかからなくしただけである。

 

 クロスボーン・バンガードのエースである彼から見れば当たり前のものでも、発見者であるミノフスキー博士が産まれていないアフターコロニーの世界にあっては戦局を一変させかねない最高レベルの軍事機密であり、限定的かつ短時間での使用許可しか下りなかったが、それで十分な状況さえ作り出してしまえば十分すぎるのだから。

 まさに一企業が有する私設軍隊を率いてフロンティア・サイドを強襲し、コスモ・バビロニア建国まで漕ぎ着けてしまった勢力のエースパイロットにふさわしい戦法と言えたが、相手もぬるま湯の平和で素人同然になった連邦軍将兵ではない。

 

「やるなっ! だがっ!しかし!」

 

 そこはやはりウーフェイも選ばれたガンダムパイロットの一人だ。思わぬ方角から奇襲された程度で「ハイ、そうですか」と食らってやるほどお人好しではなかった。

 彼は機体を、声の聞こえてきた右側背に向けて急発進させ、本命の攻撃から身を躱させる。

 彼は一瞬のうちに、聞こえてきた敵の声と、感じられてくるプレッシャーの方角が真逆であることと、迫り来る突撃のタイミングが声よりわずかに早いことを見抜いたのだ!

 

 彼の認識を誤認させる、見事な奇襲戦法。

 だが、彼から見ればまだ甘い。真逆ではなく僅かに来るべき方角を逸らしていただけならば自分が気付くのにもっと時間がかかったはずであり、もしかしたら避けきれなかったかもしれない。

 

「貴様もまた、先の女と同じように俺を侮り気を抜いた、つまらん兵士だったという事だ!」

『そうだと思うなら、実現して見せるがいい』

 

 告げながらも突き出される彼の持つ槍状の武器《ショット・ランサー》

 その攻撃を長年にわたる修行で会得した武術の奥義《見切り》によって、“紙一重回避する”ウーフェイの愛機シェンロンガンダム。

 

「ふ・・・っ!」

 

 勝利の笑みを浮かべる彼は、ショット・ランサーの矛先が、ボタン操作一つで射出されて長さが変わる奇襲用を兼ねた武装であることを今はまだ知らない。

 これから身を以て思い知る。

 

 パシュウウゥゥゥッン!!!

 

「なにっ!?」

 

 人間同士の格闘技であれば確実に躱し終えていたはずの全力突撃。それを鼻先で躱したことを確認した瞬間にリーチを伸ばし、己へと迫り来る鋼鉄の穂先。

 

 血の滲むような修行により身体に染み込ませていた東洋武術の極みによって、考えるよりも先に反射で身体を動かしてしまっていたウーフェイに、それを避ける術は残されていない。

 ガァァッン!!

 

「ぐわぁぁっ!?」

 

 頑丈な機体に当たって弾き飛ばされ、槍の穂先が何処かへ飛んでいくのと同じように彼の機体シェンロンガンダムも後方へと弾き飛ばされていく。

 追撃に備えるため、倒れた機体を即座に立ち直らせて立ち上がって敵の姿を探す。

 

 だが敵は探す必要も無く、そこにいた。攻撃してきた場所から一歩も動くことなく倒れたウーフェイを見下ろすかの如く、落ち着いてその場に立ったまま勝者の視点で罠にかかった獲物の姿を見下ろしてくる。

 

『機体の頑丈さに救われたな、少年。君が乗っているのがガンダムではなく量産機だったなら、今の攻撃でコクピットを貫かれた君は即死していた』

「・・・っ!! ほざくな―――――っ!!!!」

 

 暗に、『機体が強いだけでパイロットは大したことがない』と告げられたことでウーフェイはいきり立った。

 距離があるため、ビームグレイブで斬りつけるには遠すぎるが、ドラゴンハングならば射程範囲内だ。先ほどのお返しもかねて返礼するのに丁度いいだろう!

 

「食らえっ!」

 

 そして伸ばされる龍の右腕。

 銃を嫌うウーフェイが、離れた敵にも攻撃できるよう考案されたトリッキーな武器ではあったが、生憎それは先のノイン戦で見せてしまった後である。タネの割れた手品に奇襲としての価値はない。

 

『ふん・・・』

 

 鼻で嗤ったザビーネは、つまらない手品師の相手をする気は無いかの如く機体を飛び上がらせて――そのまま高高度まで達して滞空してしまった。シェンロンガンダムが持つ最大射程の武器ドラゴンハングの射程外の高さにである。

 

「――っ! 貴様! 卑怯だぞ!! 正々堂々、降りてきて俺と戦え!!」

『ふっ・・・』

 

 帰される返事は呆れたような冷笑一つだけ。

 それはプライドの高いウーフェイを激怒させて叫び声を上げさせるのに十分すぎる仕草の数。

 

「貴様っ! 何がおかしい!!」

『君はこれまでの戦闘で撃破してきたOZの戦闘機相手に、今と同じセリフを言った覚えがあるのかね?』

 

 鋭いが、秀麗な造作をしたウーフェイの顔が醜く歪む。

 彼の頭脳とプライドは、ザビーネが言外に込めた言葉の意味『自分の都合に合わせて理屈を振りかざす卑怯者』と自分のことを罵っていたのだという事実を看破していたからだ。

 

『・・・だが、まぁいい。今回は君に合わせよう。最初からそのつもりで来ている身なのだからな。

 それに、大人が子供にモノを教えて指導する際には同じ目線に降りてから話すのが、人としての礼儀でもある』

 

 そう言って機体を降下し、地上に降り立つと射撃武装を投げ捨ててビームサーベルを抜き放ち構えを取るザビーネ・シャル。

 

「・・・・・・いいだろう・・・」

 

 その光景を見せつけられたウーフェイが、獣のような唸り声で言葉を発した。

 

「俺もお前とは正々堂々勝負をして、打ち倒さなければならない理由が出来た。先ほどの女とは違い、手加減はせん! 全力でお前を倒してみせる!」

 

 グレイブを構え、吠えるように宣言する彼。・・・そのプライドは、どうしようもないほど傷だらけにされていた。

 これほどの屈辱、これほどの侮辱、そして恥辱を味あわせた相手を倒さずして去って行くのでは自分の戦士としての誇りは保つことが出来ないだろう。

 全力で戦って、全力で倒す! そうすることで始めて彼はいつも通りの自分に戻れるのだと言うことを知っていたから!

 

「俺の名は張五飛。貴様の名は?」

『すまないが、人が寝ているところを襲って殺そうとする卑怯者に名乗る名の持ち合わせがない』

「・・・っ!!! てやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 ・・・こうしてザビーネの挑発により戦端が開かれたウーフェイの乗るガンダムと黒いモビルスーツの戦い。

 それは動くことが出来ずに、ただ呆然と見守ることしか出来ないノインにとって、残されてかき集めようとしていた最後のプライドの欠片たちを粉々に踏み砕きながら蹂躙し尽くす壮絶さに溢れた別次元の戦いだった。

 

 ゼクスには及ばないと自覚していても、OZのエースとして恥じることない程度の実力は有していると自負していた彼女だったが自信過剰もいいところだったのだ。

 

 桁が違う。次元が異なる――などと言った低レベルの差ではなく。

 戦士としての『格』が違う二人による戦いを見せつけられているのだから、ゼクス以上の軍人などいないと信じて生きてきた彼女が度肝を抜かれるのも無理はない。

 

 敵味方ともに神業の域にまで達したモビルスーツの操縦技術。

 実力は、互角。

 

 だが、勝負は拮抗しなかった・・・・・・。

 

『どうした? 右腕の龍を使わなければ負けてしまうぞ?』

「くぅ・・・っ!!」

 

 僅かに、だが確実にザビーネのほうが優位に戦いを進めている。

 互角の実力を持ち、機体性能でも大差なく見える二人の戦いが、何故こうまで結果にのみ明確な差が生じてしまうのか?

 事情を知らぬノインには判らなかったが、当事者である二人には自明すぎる事柄でもあった。

 

 

 彼らには致命的すぎるほど、『強敵と戦って苦戦した経験』に差がありすぎたのだ。

 

 

 ウーフェイは、ガンダムパイロットに選ばれた5人の少年の一人にふさわしく、早くから頭角を現し才能を示し続けてきた特別な子供であり、当然の如く同世代の少年少女たちに彼と肩を並べるライバルがいたことなどほとんどが無い。

 それどころ大人たちの中でさえ、彼と互角に戦える者は数えるほどしかおらず、年齢による伸び代によってその数は減りこそすれ増えることは全くない。

 

 ・・・この様な状況が続いてきた彼に、強敵と戦って苦戦するという貴重な経験など得られようはずもない。

 皮肉なことに、彼の愛機シェンロンガンダムの開発コンセプトも彼の経験値不足に一役買ってしまっていた。

 

 この世界のガンダムたちは、多対一での戦闘を想定して開発されている

 量産機しか保有しないOZという『質より量』の軍隊を相手に、たった一機のガンダムで勝ち続けて戦争を勝利に導こうとするならば当然の選択ではあるだろうが、それはどこまで行ってもウーフェイの信念とは相容れない開発コンセプトでもある。

 

 ガンダムは、『弱い者イジメをするための兵器』として開発された機体だった。

 パイロットとして選ばれた張五飛の理念や信念などどうでもいい、状況が戦争に勝利するため科学者たちに必要とさせた機体が『弱い者イジメ用兵器』のガンダムであり、並の兵士では操りきれない高性能な機体を使ってOZという『勝って当然のザコ機体しか持たない軍隊』を蹴散らさせるためウーフェイという特殊なパイロットが必要だったのだ。

 

 

 その事情が彼を『白兵戦でのプロにして、MS戦でのアマチュア』にしてしまっていた。

 

 互角の強敵とモビルスーツ戦で勝利した経験が一度もない現時点でのウーフェイの力では、バビロニア紛争の折にシーブック・アノーという連邦義勇軍エースと幾度となく渡り合って決着をつけず仕舞いで終わったザビーネを相手に経験の差で僅かな差が出てしまうのは必然の結果でしかない。

 まして彼は、この世界に生まれ変わった後も世界観に合わせた新たな修練を積み重ねてきている。

 

 互角の実力者同士が拮抗し合う戦場において、チリ一つ分の差が決定的差をもたらしてしまうのは当然の流れであり、戦いの中で兵の動きというものは水の流れに沿うような形でおこなうのが自然な勝ち方である。

 

 その流れに従ってことを進めてしまえば、自然とこういう結末へ至る―――

 

 

『フッ・・・』

「な・・・っ!?」

 

 ザビーネのサーベルが掬い上げるように振り上げられ、ウーフェイのグレイブが掬い取られるように宙を舞う。

 

「・・・・・・・・・」

 

 完敗だった。

 実力的にも機体性能でも完全に互角だった自分と敵との戦いで、自分は負けた。

 それは彼にとって、生き残ること自体が死よりも恥知らずな屈辱的行為となってしまったことを意味していた・・・。

 

 

「・・・・・・殺せ」

『何度でも私を殺しに来るため、何度でも再戦を挑むため、死よりも過酷な敗戦の恥辱に耐えようとは考えられないのか?』

「・・・・・・」

『・・・・・・そうか・・・』

 

 無言の返事を聞き届け、ザビーネは諦めたように「ふぅ」と溜息を吐くと。

 

『――これほど未練がましい男だったとはな・・・っ!!』

 

 怒りを必死に押し殺した声をつぶやき、ビームサーベルの刃を振り上げ、ためらいなく振り下ろす!!

 

 ・・・もし彼が、自分の後を託せる後継者を探し求めていたトレーズだったら、選択と結果は自ずと別のものになっていたかもしれない。

 だが彼はザビーネ・シャルであって、トレーズ・クシュリナーダではない。

 

 そんな彼に言わせたら、ウーフェイの理屈はただの『見栄』に過ぎない。

 悔しかったら泣けばいいのである。恥ずかしいのなら叫べばいいのである。

 それがクロスボーン・バンガードの示めそうとした、『人としての自然なありよう』なのだから。

 

 そう信じて実践していくことを己に課したザビーネにとって、ウーフェイが守ろうとしているものは多すぎている。

 見栄とプライド、男としての矜持、敗北の汚泥をかぶった生を生きないで済む怠惰な欲望、敵と戦って死ねる戦士としての名誉ある死・・・・・・様々なものを今の彼は求めている。

 

 格好付けだ。無様な負け犬の分際で、その地位を受け入れることなく格好をつけたまま死ねる道を選ぼうとしているのが今の彼だった。

 情状酌量の余地は、宇宙のどこにも存在しない。

 

 だから―――

 

 

 

『なんとぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!』

 

 

「なにっ!?」

『むっ!?』

 

 突如として割り込んできた謎の通信。

 その声に聞き覚えのないウーフェイは驚愕して伏せていた顔を上げ、忘れるはずのない宿敵の声を久方ぶりに耳にして頭より先に身体が反応していたザビーネは機体ごと自分の位置を全速力でシェンロンガンダムより引き離す。

 

 そして、武器を失い戦う気力さえ失いながら、それでも戦う力は他の誰より残っているウーフェイの前に立ちはだかってザビーネの凶刃から彼を守り抜こうとしている、ガンダムによく似た機体に乗る謎のパイロット。

 

 その男のことをザビーネはよく知っている。直接面識はなくとも、通信回線を通じて何度も何度も語り合っている。

 

 

 戦場において! 互いの信じる信念を否定し合う言葉をぶつけ合うという形で!!

 

 

「シーブック・アノー・・・まさか貴様まで、この異世界に来ていたとはな・・・っ!」

『それはこちらのセリフだよ、ザビーネ。こんな異世界まで来てコスモ貴族主義を復活させようとしているバカな奴らを噂を耳にして、すぐに飛んできたのは正解だった。

 危うくこの世界の“トビアもどき”が、お前に殺されてしまうところだったみたいだからな』

 

 悠々と語り合いながら戦意を高めていく二人と二機。

 事情が飲み込めないまま、自分はどうすべきなのか判らないまま棒立ちしているウーフェイに、ガンダムに似た機体に乗る男から通信が届く。

 

『君! 悪いがここは俺に任せて離脱してくれないか? 俺はどうしてもコイツを決着をつけなければいけない理由があるんだ』

「か、勝手なことをほざくな貴様! それならば俺にも譲れないものがあ―――」

『――頼む。この場を俺に譲って欲しい。俺は俺の大切な人のために、コイツだけは必ずこの手で仕留めてやると誓っているんだ・・・』

「・・・・・・っ!!」

 

 画面の中で頭を下げて頼み込んでくる男。

 その“包帯まみれ”な怪しげな風体とは真逆に、戦士としての誇りと生き様。自分と同じく何らかの強い覚悟を秘めている片目。

 

「・・・・・・・・・わかった! だが、死ぬことは俺が許さん! お前にも奴にも俺は借りを返さなければいけなくなったのだからな!!」

 

 長い逡巡の後、ウーフェイは自分の砕け散ったプライドよりも、謎の男の戦士としての誇りに感じさせられた共感を優先することを選び取ると、落ちていたグレイブを拾いブースターを蒸かして飛び去っていく。

 

 文句のつけようのない敗走。今はまだ包帯の男に感じた共感が自分の心を突き動かしてくれているが、安全なところにまで逃げ延びたら間違いなく後悔と敗北感と自責の念に駆られて泣き叫ぶことになるのだろう。

 

 醜態だ。無様だ。いっそこのまま死んでしまいたいほどに。

 

 それでも死ぬことはできない。断じてだ。それをしてはいけないという気持ちが、先ほどの男の声を聞いたとき以来、どうしてだがウーフェイの胸にあふれ出して消えてくれなくなっていたから―――――。

 

 

「くっ・・・そぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!!!!!」

 

 

 ついに叫び声を上げ、子供のようにコクピットの中で当たり散らしはじめるウーフェイ。

 そんな彼の姿までは見えなかったが、それでも遠ざかるシェンロンガンダムの背中には、“やはり彼との共通点”が見えるような気がしてガンダムの中でパイロットは微笑みを浮かべる。

 

「・・・直情的な奴だな・・・しかも頑固で我が強く意固地がある。やはり君はアイツに似ているよ、こんな所で死んでいい男じゃない。必ずお前は強くなれる男なんだからな」

 

 そう言って笑いを納めると、表情を引き締め目の前の相手をにらみ据える。

 “海賊サーベル型”の形状をしたビームサーベル《ビームザンバー》を抜き放ち、晴眼に構えながら、片目に装備された眼帯状ターゲティングセンサーに刈り取るべき獲物の姿を固定させる!

 

 そして倒すべき宿敵に向かい、愛機を突撃させてゆく。

 髑髏のマークを頭上にあしらい、全体的に海賊を彷彿とさせるようなシルエットを持つ機体に乗って。

 シーブック・アノーは・・・否。

 

 『キンケドゥ・ナウ』と名を変え、新生クロスボーン・バンガートのエースとして戦うと誓った十年後の彼と、彼が乗る新たなる愛機『クロスボーン・ガンダムX1』が、長すぎる因縁に今度こそ決着をつけるため正義の刃を振りかざし、諸悪の根源たるコスモ貴族主義の象徴ザビーネ・シャルを討ち果たすため異なる世界を舞台に最後の決戦を戦い合う!

 

 

「ベラを縛り付けた家の呪い・・・その根源たるコスモ貴族主義。

 コスモ・バビロニアが滅んだ後も貴族主義を捨てずに信じ続けてベラを狙い続けた男、ザビーネ・シャル!

 今日こそ俺はお前を倒し! そしてベラの魂を本当の意味で解放し、セシリー・フェアチャイルドへ戻してみせる!

 ザビーネぇぇぇ!!! 覚悟ぉぉぉぉぉぉっっ!!!!」

 

 

つづく

 

 

オマケ『今作オリジナル設定の説明』

 

ベルガ・ギロスX2(プロトタイプ)

 今話でザビーネが使っている機体で、CV軍の最新鋭機。その試作型。

 転生者集団クロスボーン・バンガードが、この世界にもガンダムがいることを知り、やがて敵として現れるだろう彼らに備えて作り上げようとしている『対ガンダム用モビルスーツ』

 自分たちの技術と、アフターコロニーの技術を融合させて完成を目指しており、手本になっているのはプロフェッサーJたちが残していったウイング・ゼロとトールギスの断片的な資料。

 とは言っても、トールギスの現物が保管されていたのがOZ所有の倉庫の一番奥深くであったため勝手に調査するわけにもいかず、最近になってようやく発見されたオリジナルのデータを元にして急速に完成へと向かい始めたばかりであるため、大部分は未完成。

 今話に出てきているのは、試作型として既に完成していた機体のためトールギス発見後の技術や装備は追加されていない。

 が、『二刀流のビームザンバー』は完成品として装備されてしまっている・・・・・・。

 

 

キンケドゥ・ナゥ

 『機動戦士クロスボーン・ガンダム』の世界から生まれ変わってきた転生者の一人。

 木星帝国との戦いを終えた後、天寿を全うした彼の魂がベラを縛り付けた呪いの源コスモ貴族主義が復活しようとしている異世界に引きつけられ転生してきた。

 愛機である『クロスボーン・ガンダムX1』は、どうやら本人に連れられて次元を壁を越えてきたものらしくコスモ貴族主義打倒の旅の中で偶然にも発見したものを使用している。

 技術者ではないからチューンナップなどは施されていないが、技術科の学生だったこともあり整備の腕はそれなりだったため機体性能は現役当時のままを維持している。

 

 ・・・彼ら二人は自分たちが元いた世界を、時系列の違う同じ世界だと認識しているが、実のところ途中で分岐したことで生み出されたパラレルワールドから来ているのがキンケドゥであるため、ザビーネは木星帝国との戦い自体を知らない。

 似て非なる世界を生きた互いの知る互いは生き方が違っていたらしく、双方の認識に大きな食い違いが出ており、

 

 キンケドゥにとってザビーネは『貴族主義を捨てたセシリーこそ支配者にふさわしいと信じ続けた間違った男』として完全否定しているが、ザビーネにとってベラ・ロナは『マイッツァーがこだわったためにフロンティアサイド攻略が失敗した造反者。コスモ・バビロニアの売女』としか思っていない。

 

 異なる時代、似て非なる世界で、コスモ貴族主義を見つめ続けた二人の男の因縁は、どの様な帰結を迎えるのだろう・・・・・・。



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機動戦士ガンダム 死のデスティニー(読み切り)

エロ作書いてたところ煮詰まってしまって息抜きに書いた作品を投稿させていただきました。
種死でロゴスメンバーの屋敷が暴徒たちに襲撃されてるシーンで、セレニアっぽい女の子がロゴス側に居たらのIF話。
胸糞ストーリーですので、苦手な方は絶対お控えくださいませ。本気で反吐が出るかもしれませんのでね。


 

 屋敷が火に包まれている。夜空の漆黒が血と炎と憎しみの赤で染め上げられている。

 

《こんなことは、もう本当に終わりにしましょう! 我々は殺し合いたいわけではない! こんな大量の兵器など持たずとも、人は生きていけます! 戦い続けなくとも、生きていけるはずなのです!》

 

 街頭に設置されたモニターから、プラントのデュランダル議長による演説の映像が垂れ流されて、地球の各所では市民たちによる暴動が多発していた。

 

“ロゴスを倒せ! ロゴスを殺せ!

 奴らこそ平和と俺たち市民すべてにとっての敵なんだ!”

 

 ――と、皆一様に目を血走らせて手近にあった凶器を携えて、デュランダルが『対話に応じて頂くため』『やむを得ず公開した』彼らの素性と住所にあった屋敷を襲撃するため、自分たちを勝手な理由で死なせてきたバカな連中を皆殺しにしてやるために屋敷を包囲して数の力で押し潰しにいく。

 少数の警備兵は銃で武装しているが、構うことはない。多少の犠牲なんて奴らに殺された人々の数と、これからも殺され続けていたかもしれない死体の数を思えば今このときだけは端数として割り切れる。

 悼むのも悲しむのも、敵討ちと復讐を終えた後でいい。

 

 今はただ・・・・・・殺しまくりたい。

 それだけが暴徒と化した群衆たちの嘘偽らざる本心だったから・・・・・・。

 

「た、助けてく――ぎゃぁぁぁっ!?」

「死ね! ロゴスの悪魔め! 死んで地獄に落ちて後悔しやがれ!」

 

 また一つ、ロゴスのメンバーが所有する屋敷が落ちて、本人が暴徒たちに手で射殺される。

 彼の家族もまた同様だ。自分たちの家族を殺して得ていた金で肥え太った豚のようなガキと女など殺されて当然。いや、むしろ殺して敵を討つことだけが自分たちに奪われることなく残されていた、たった一つの権利なのだと彼らは信じて疑わずに、また一つ。また一つとロゴスの屋敷を血の海に変え、地獄の業火で焼き尽くしてから去って行く。

 

 ・・・そんな地獄を創りに来た者たちが、ここにもまた一団。

 

「オラァッ! ここがロゴスの屋敷かぁ!? 殺してやるから隠れてないで出てきやがれ悪魔共!」

 

 扉を蹴破り、建物の中へと突入する群衆。

 そこは他のメンバーの屋敷と違い、比較的近代建築様式が用いられたペンションのような外観を持つ、ロゴスメンバーが住むには異色の建物だったが暴徒たちは気にもしなかった。

 

 どうせ燃やして、殺して、壊しまくるためだけに訪れた場所なのだ。跡形もなく消え去ることが確定しているモノがどの様なモノであろうと意味はない。どうせこれから自分たちの手で壊し尽くされ殺し尽くされるだけのガラクタに変わってしまうのだから。――そう思っていた。

 

「え・・・?」

 

 しかし彼らは屋敷に突入した瞬間、意外すぎる光景に騒ぐのも叫ぶのもやめて、虚を突かれたように黙り込まされてしまっていた。

 明かされたロゴスの真実と、目の前に広がる現実の風景があまりにも懸け離れすぎたモノだったから―――

 

「ようこそ、皆さん。歓迎いたします。ご馳走を用意しておきましたので、ごゆるりとどうぞ」

 

 そう言って、ゲストを迎えるパーティー主催者のごとき丁重な態度で両手を広げて指し示してくる先にあった物は――ホール全体を敷き詰められるように並べられている、ご馳走の山。

 テーブルの上に載せられている出来たてホヤホヤの湯気を立てている、テレビでしか見たことがない酒池肉林の数々。

 その芳しい匂いに鼻腔をくすぐられ、屋敷を襲いに来た暴徒の一人が思わず「ゴクリ」と喉を鳴らす。

 

「安心して下さい。毒などは入っていません。これは所謂、賄賂という奴ですから」

「ワイロ?」

「はい」

 

 その人物――写真付きで公開された、年寄りばかりのロゴスメンバーの中で唯一の“子供”だった少女。

 銀髪と青い瞳と古風な軍服が印象的な小さな女の子は、暴徒たちの代表格をジッと見つめ返しながら自分からの要求を突きつける。

 

「こちらが求める条件はただ一つです。・・・私を見逃して頂けませんかね? もちろん無傷で。

 代わりと言っては何ですが屋敷にあるモノはすべてあなた方に差し上げますし、警備兵には拳銃一発撃たせないことをお約束させて頂きます。謝れと言うんでしたら、いくらでも謝罪いたしましょう。

 どうです? 悪くない条件だと思われませんかね? そうすればお互い誰一人死ぬことなくここから逃げ出せます。私は無駄な人死にがとてもとても嫌いなんですよ」

 

 平然と宣うロゴス最年少メンバーの言葉に、暴徒たちの代表格は言うべき言葉を見失い――次いで激高した。

 

「ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 あまりにも身勝手でバカな言い分。自分たちを無駄に殺しまくってきたくせに、今更になって主張する言葉ではなかったし、自分たちの怒りが物と金で収まるなら警察はいらない!

 

「あれだけ殺しておきながら、自分が殺されそうになったら命乞いだと!? ふざけるな!

 ベルリンでお前たちに殺された人たちの家族にも、同じ言葉を言うつもりなのかテメェらは!?」

「ええ、もちろんです。アレの担当はロード・ジブリールさんで、私には一切知らされぬまま進められていた作戦でしたからね。

 あんな馬鹿げた作戦をもし知っていたなら間違いなく止めていたでしょうし、そう思ったからこそ彼も私に内緒で事を進めてたんでしょうから、軍事部門の作戦立案が担当だった私にはどうすることもできない事案でしたからねぇ。

 可哀想だとは思いますし、愚行に巻き込んでしまって申し訳ないとは思いますけど、死人を生き返らせられる訳でもありませんのでね。ゲームと違ってお金で人は甦りませんから、どうしようもありません。

 私が遺族に言えることは一つだけ『これ以上無駄な被害を出さないようご協力下さい』と、頭を下げてお願いをする。その程度ですよ、ロゴスの持つ力なんてものはね」

 

 被っていた軍帽を脱いで顔を煽ぎながら平然とした口調で宣う、民衆にとっては勝って極まりない理屈。

 自分は知らなかったから、どうしようもなかったから、だから仕方がなかったんだ、諦めろ? ――ふざけるなっ!

 それをどうにかするのが政治家たちだろうがよ! そのために俺たちは税金を払ってお前らを養ってやってんだ! 給料分は働け税金泥棒共! できなけりゃ俺たちに金返せ!

 命を返せ! 家族を返せ! 返せないならせめて―――俺たちの手で殺されてしまえぇぇぇぇっ!!!!

 

 

「死んで地獄へ降りやがれぇぇぇぇぇっ!!!!!」

「交渉決裂ですか。残念ですよ、本当に・・・。――と言う訳なので、撃ってよし」

 

 

 自分に向かって迫り来る群衆のことなど気にもせず、軽く指を振り下ろして誰かに対して少女が何かを命令した次の瞬間。

 

 破砕音が響くとともに暴徒たちは、少女の背後にあったマジックミラーの壁が打ち砕かれて、中から現れた数十名の完全武装した兵士たちによって次々と蜂の巣に変えられていき、訳もわからないまま殺されていく哀れな殺人被害者の群れと成り果てていく。

 

 数十秒後、その場で生き残っているものが無傷の加害者たちだけになっていた頃。屋敷の周囲から喧噪の叫び声は途絶えていた。

 変わって響いてくるのは、悲鳴と絶叫と命乞いの金切り声と、そして銃声。

 

 伏せていた兵たちが合図と共に一斉に立ち上がり、屋敷を取り囲んでいた暴徒たちの背後から半包囲して退路を断ち、完全包囲の輪の中に閉じ込めてから『自ら銃を持ち敵を殺すため戦場に赴いてきた“敵”』として殲滅させていく。

 

 

「ひぃぃぃっ!? 助けて! 助けて! 殺さないでブジャ!?」

「お、お願い! 私はどうなってもいいけど、この子だけはオギャッ!?」

「わ、私は自分の意思でここに来たわけじゃないんだ! ただデュランダルに乗せられグベハァッ!?」

「お、お、お、お金! お金あげます! いくらでもお金あげますから殺さないでお願いします! 死にたくなギニャァッ!?」

 

 

 ・・・つい先ほど、自分たちのリーダー格が命乞いしてきた敵に対して、どのような返事を返したかなど彼らは知らない。知ろうとも思わないし、知る必要性すらないと確信しきってこの場所に来たのだろう。

 それが仇となり、自らの死刑執行所にリーダー格が舌でサインしてしまったことなど知る由もないまま殺されていく群衆。

 

 やがて偽装されたシャッターが開いて、屋内から装甲車まで出てくる光景を目撃させられた彼らに、抵抗する意思や勇気など残っているはずもない。 

 敵討ちの復讐という名目の元、一方的な虐殺をおこなう加害者となれることを想定して、それ以外には想定しないまま襲撃に参加してしまった感情任せの群衆たちに、数の上でも装備の面でも上を行かれた完全武装の軍隊相手に完全包囲まで敷かれた体制下で「権利と自由を守るために戦え!」と言う方が無理なのである。

 

 一人、また一人と殺されていく暴徒たち。

 安全に距離を保ったまま反撃を許さぬ統制射撃で殺し尽くしていく兵士たちのヘルメットで隠された心境は、殺されていく被害者たちが思っている以上に苦々しい。

 

 彼らとてロゴスのやり方に心から賛同しているわけではなかったのだ。直属の上司は冷徹非情だが公正であり、軍人としては非常に正しく責任感にもあふれている。

 やらされる作戦内容がたしょう血生臭すぎることは問題であっても、殺されていく連中がクズばかりなので然程の問題とは思ってこなかった者たち。

 

 だが今回のこれは余りにも―――見苦しすぎる・・・・・・。

 

「死にたくねぇよぉ――っ!! 母ちゃぁぁぁぁぁぁっんブベバァッ!?」

 

 また一人、暴徒が叫び、暴徒が射殺されていく。

 その断末魔の叫び声が彼らの不快さを一層刺激させられる。――ふざけるな、と。

 

 自分たちだって死にたくはない。愉しみで人を殺す変態になった覚えもない。

 軍人だから、命令だからやっているだけだ。

 それなのに何故、ロゴスの悪魔と同類呼ばわりされて、まとめてリンチで殺されるのが当然だと決めつけられなけりゃならないのか?

 

「畜生! お前らは悪魔だ! ロゴスに飼われて尻尾を振る飼い犬共! 地獄に落ちやがベグギャッ!?」

 

 仲間を蹴飛ばし、自分だけでも逃げ延びようとした暴徒の一人が足を撃ち抜かれ、逃げられないと悟って最期に放った恨み言を言い終わる前に頭部を吹き飛ばして射殺した兵士の一人がつぶやき捨てる。

 

「・・・俺たちが悪魔なら、お前たちは餓鬼だ。いるべき場所へ帰れ。地獄へな・・・」

 

 彼はジブリールが電源すら切らずに放置したまま避難していった屋敷の映像から、自分の同僚が民衆に殺され、死体に唾を吐きかけられる様を目撃していた一人だったのである。

 

 彼らに言わせれば、今になって殺せ殺せと喚き立てるぐらいなら、何故もっと早く殺してしまったのかと思わざるを得ない。

 戦争で儲けようなんて考えている碌でなしの集まりが、ロゴスのメンバーなのだ。普段から表の顔だけでも十分すぎるほど黒い噂は立っていた。それらを糾弾する声も当然ながら複数あったのだ。

 

 それら全てに眉をひそめながらも、結局は「どうしようもない」で終わらせてきたのは何処の何奴だ? 不平不満をため込んでも金で矛を収めてやってきたのは何処の誰様たちだった? 隣の家の家に住む反戦主義者の隣人が非道な報復を受けているのを知りながら、見て見ぬフリをして今まで放置し続けてきたのは、何処の誰で何奴らだったのか?

 

 ――答えたくないか? なら言ってやる。教えてやる。

 他の誰でもない、お前たち自身だ!! お前たちこそ殺人者の仲間たちだ!

 俺たちに地獄へ落ちろというなら、お前たちも一緒に落ちろ! それが筋ってもんだし、人の道だろうがクソ野郎共!!

 

 

 ・・・やがて残った最期の一人が、友人なのか他人なのか下半身を失った血まみれの上半身だけを抱きしめながら瞳一杯に血涙を湛えて自分を囲んで銃を突きつける兵士たちを睨み据え、この世全ての不公平と理不尽を恨む呪詛をロゴスと彼らの仲間たちへの非難の形を借りて顕現させる。

 

「――貴様ら権力者はいつもそうだ! 多数を救うために少数の犠牲が必要だったんだと自己正当化して、俺たち民衆を政治の道具として使い捨てる! だが、貴様らの親兄弟が犠牲となった少数の中に含まれてたことが一度でもあったと言えるのか!?」

「・・・・・・」

「構いません、言わせてお上げなさい」

 

 糾弾し、弾劾する彼に向けて引き金を引こうとする兵士たちをやんわりと制し、近くの兵士の腰に差してた軍用ナイフを一本借りてノンビリとした歩調で近づいてくる軍服の少女。

 

「世の中は不公平だ! 理屈に合わない! 戦争で何万人殺そうと勝ちさえすれば英雄と称えられる!

 都市を燃やして住人を虐殺しても『国家のために、平和のためには必要だった』と言えば正当化されて裁判にかけられることもない!

 なのに俺たち民衆が家族を殺された復讐したら殺人鬼扱いか! 反逆者呼ばわりか! お前らの方がよっぽど人殺しじゃないか! 殺人鬼じゃないか! 戦争犯罪人と呼ばれるべきなのはお前たちの側じゃないのか!

 どれだけ俺たち民衆を殺しまくって犠牲をだそうと、勝ちさえすれば英雄と呼ばれる世の中全部が間違っている!!!」

 

「なら、あなたが世の中の誤りを正して見せなさい」

 

 スパッと、刃物が肉を切る音が聞こえて、ブシャー!と噴水のように水分が吹き出す音が響き、頸動脈を切られて事切れた男の死体を軽く蹴飛ばすと、持っていた上半身だけの死体がゴロリと横に転がり落ちる。

 

 ――そして出てくるのは、死体で隠して見えなくしていた、男の腹に巻かれた大量のTNT火薬。

 ライフルで死体ごと撃ち抜いていたら今頃どうなっていたかと怯える兵士たちに向かって、軍服姿の少女は軽く肩をすくめて見せる。

 

「夜中に子供のいる家を囲んで「正義正義」と騒ぎたて、社会批判をしたがる大人のやる事なんて、この程度のものです。

 世の中が間違っていると思うなら、自分が正しいと信じる在り方に変えてしまえばいいだけのこと。

 やるべきことも成そうともせず、他人にされたことばかりを批判して、自分が今やっているのがテロでしかないと言う現実を見ようともしない口先だけの詭弁家が唱える正しい世の中なんてご都合主義社会に決まっているのですからね・・・バカバカしいですよ、こんな人の自己陶酔にまじめに取り合って心中させられるなんて言うのはね」

「・・・・・・」

 

 無言のまま、気持ち悪いものでも見るかのように男の死体を距離を置いて見下ろしていた兵士たちの元に、やがて数機の軍用ヘリが到着する。

 

「セレニア様、お迎えに上がりました。遅れて申し訳ございません、離陸を邪魔しようとする暴徒どもの駆除に手間取ってしまったものですから・・・」

「構いませんよ、多少の遅れは想定の内です。――皆様方は?」

「全員、ヘブンズ・ベースを目指して逃走中とのことであります。ジブリール様からも、一刻も早く合流して欲しいとの嘆願と言いますか、悲鳴が届けられておりました。詳細はこちらに」

「結構です。では行きましょうか。今のところ他に行ける場所もなさそうですからね」

『ハッ! 承知しました!!』

 

 それぞれが分かれて所定の移動用ヘリに搭乗し、南極にある地球連合軍の一大拠点ヘブンズ・ベースを目指して機を浮上させていく。

 ロゴスを見捨てるにしろ何にしろ、今のままでは部下たちを降伏させてあげても報復の対象として生け贄代わりに殺されかねない。なんとか彼らの今後の生活保障と命の安全を確保してあげるのが上に立つ者、指揮官としての義務と責任というものだろう。

 

 やがて機が一定の高度まで浮上すると警告が発せられてくる。この屋敷がある国の政府がプラントに寝返るため、手土産となるロゴスメンバーの身柄を要求してきたのである。

 

『――プラント側に引き渡されるまでの間、貴殿と部下の方々の安全は我が国が責任を持って保証する。

 貴官らにも人として良心があるはず。自らに非なしと主張するならば尚のこと、国際法廷の場で自らの潔白を主張し、正義と真実の名の下、公平な裁きにより無罪を勝ち取るべ――』

「対艦ミサイルを発射してください。目標はこの国の国防拠点です。位置は事前に入力しておいたデータがあるはずですから、Nジャマーは障害になりませんよ」

「了解。発射します。ファイヤ」

 

 黙々と命令を実行し、政府所有の建造物を破壊させた軍服の少女はマイクを手に取り、途中から沈黙したままの相手に返事を返してやる。

 

「黙って私たちが逃げるのを見て見ぬフリしなさい。今まで通りと変わらず最期のお勤めです。そうすればこれ以上は撃ちません。言い訳も用意してあげますよ」

『・・・・・・』

「はぁ・・・、判りました。じゃあ――私の言うこと聞かないと自暴自棄になって市街地を無差別爆撃しちゃうぞー。無辜の市民に大勢の戦争被害者を発生させたくないなら、無駄な抵抗はやめて私たちを通しなさーい。本当に撃っちゃいますからね~? なんならもう一発いきますか~?」

『市民を人質にするとは何と非道な連中だ! ロゴスとはやはりそう言う奴らだったと言うことだな! やむを得ん! 市民を守る義務がある我々としては諸君らの逃亡を見逃してやらざるをえんだろう! だが、心得ておけ!

 非道な手段で自らの過ちを正当化しようとする者たちは、いずれ必ず正義の刃で裁かれる運命にあるのだということを! この屈辱は忘れない! いずれまた戦場で決着を付け――』

 

 ブチンッ。

 

「失礼、セレニア様。周波数を間違えて、ラジオが放送していたバラエティー番組に合わせてしまっていたようです。調整し直しますので、この国の制空権を出るまで今しばらくお待ちくださいませ」

「・・・別にいいですよ、消しておいたままで。どうせバラエティー以外に放送してても茶番でしょ? 同じようなもんですから聞かなくていいです。あと適当にどうぞ」

「了解。適当に任務を遂行いたします」

 

 適当な指示だけを出して横になり、低い天井を見上げる軍服の少女。

 目をつむって考えてみるのは、この戦争の行く末のみ。

 

 

 一体、このバーレスクはどのような三文芝居で幕を閉じるよう脚本には書かれているのだろう・・・? もうすぐ地球に降りてきそうな脚本家殿に訊ねてみたい・・・。

 

 そんなことを考えながら、彼女の乗った軍用ヘリの一団は市街地上空を平然と通過していきながら、政府所有の建物だけを攻撃して治安機関を黙らせていく。

 

 国民を守るための軍隊が政府しか守らなくなった世界の末路を眼下に見下ろしながらヘリは飛んでいく。

 

 何が正義で、誰が悪なのか?

 その答えを知るものは誰もいない。

 

 ただ、それを知りたいと望み希求する群衆たちだけが、満天の星空の下でひしめき合いながら怒号と悲鳴を叫び合い続けている・・・・・・。



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「転生憑依シロッコVSカミーユの会話」&「富野ガンダムキャラVS平成ガンダムキャラ」

最近、寝不足だったため思考がメチャクチャになっていたことを医務室に運ばれてから初めて気づいた作者が、十分に寝てから書いた復帰作第1号となります。
時間なかったのと寝起きですので読み切り短編ですが、お手柔らかにお願い致します。


『転生憑依シロッコVSカミーユの会話』

 

カミーユ「それは違う! 本当に排除しなければならないのは、地球の重さと大きさを想像できない貴方たちです!」

 

シロッコ「違うな。真に排除しなければならない存在とは、地球の重さと大きさに目を奪われて人類一人一人の都合で動く心をエゴと断じる君たちのことを差して呼ぶ言葉だ!」

 

 

 

 

カミーユ「シロッコ! 目の前の現実も見えない男が!」

 

シロッコ「目の前の現実から目を逸らし、逃げ出した子供が何を言う!!」

 

 

 

 

カミーユ「あなたはいつも傍観者で、人を弄ぶだけの人ではないですか!」

 

シロッコ「私には、他の誰より人の命を奪ってきた貴様よりも、そう言う資格がある!!」

 

 

 

 

カミーユ「その傲慢は人を家畜にするものだ! 人を道具にして・・・っ! それは一番、人間が人間にやっちゃいけないことなんだぁぁぁっ!!」

 

シロッコ「人から最も奪ってはいけない権利とは、生きる権利のことだ! その人の命を勝利のため道具として消費する戦争に参加したがった子供が、今更ほざくことかぁっ!」

 

 

 

 

シロッコ「Zが・・・っ!? どうしたんだ・・・!!」

 

カミーユ「分かるまい! 戦争を手段にしているシロッコには、この僕を通して出ている力が!」

 

フォウ(カミーユは、その力を表現できるマシーンに乗ってるんだよ!)

 

シロッコ「・・・っ!? 女の声・・・? なるほど、そう言うことか・・・私を倒すためにマシーンだけでは飽き足らず、女たちの心まで道具として使い潰すというわけだな! 貴様らしいやり方だ! カミーユ・ビダン!!」

 

 

 

 

カミーユ「女たちの所へ戻るんだぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

シロッコ「そこは、女たちの胸に抱かれたがっている貴様が帰るべき所だぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

番外編『富野ガンダムキャラVS平成ガンダムキャラ』

第1試合 リリーナ・ピースクラフトVSクワトロ・バジーナ

 

 

リリーナ「ロームフェラ財団は、どうしてモビルスーツにこだわったのでしょうか・・・?」

 

ノイン「巨大な機械に人間は恐れを感じます。しかし同時に強い憧れを持ちます。二本の足で歩く・・・ボタンやスイッチで決着のつく戦争ではなく、人間くさい戦闘を好んだのでしょう」

 

リリーナ「人殺しに形式など何もありません。もしそうであれば、それは命を弄ぶ戯れです。我武者羅な死の方が戦争の中では正直な生き方です」

 

クワトロ「その考え方は、また世界を誤った方向へ持って行くだけです。やめた方がいい」

 

リリーナ「・・・・・・っ!!」

 

クワトロ「直接、刃物を持って人を殺さない戦争をしていては・・・手に血が付かない人殺しばかりしていては、他人の痛みがわからなくなるのも道理というものでしょう」

 

リリーナ「く・・・っ」

 

 

 

 

 

第2試合 ギルバート・デュランダルVSクワトロ・バジーナ

 

デュランダル「なぜ我々は戦い続けるのか? なぜ戦争はこうまでなくならないのか? 戦争はイヤだと、いつの時代も人は叫び続けているのにね・・・。君はなぜだと思う?」

 

クワトロ「人間が他人を信じないからさ」

 

デュランダル「なんだと・・・?」

 

クワトロ「信じないから疑い、疑うから他人を悪いと思い始める。人を間違わせるのさ」

 

デュランダル「・・・・・・」




オマケ:寝てスッキリした頭でZ見直したときに、ふと思ったこと。

…宇宙世紀の人類って、宇宙に進出して生活圏は広がったけど、個人個人の移動範囲と生活範囲そのものは旧世紀よりも狭くなってませんかね…?


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機動戦士ガンダム 死のデスティニー PHASE-2

バケモノ書くためにデスティニーを見ていたところ(デストロイ戦です)、急に思いついたので書いてみたら短いからすぐ出来たので投稿してみた作品です。
ヘブンズベース攻防戦にダークセレニアがいた場合はのお話。碌でもない内容ですけど、バケモノできるまでの暇つぶしにでもどうぞ。


 鉛色の雲に空を覆われたアイスランド沖に、大小無数の艦船が浮かんでいた。

 ヘブンズベース・・・前大戦において壊滅したアラスカ基地に代わる連合軍の指令本部に逃げ込んだロゴス残党を拿捕するためザフト地上軍と連合から脱退した艦船群とが合流した大同盟艦隊による総攻撃が行われようとしていたのである。

 

 

「要求への回答期限まで、あと5時間・・・・・・」

 

 ミネルバの艦橋において、タリア・グラディス艦長が時計を確認しながら呟きを発する。

 ・・・もともとザフト軍の中でもインパルスガンダムを有する艦として中心的な役割を果たすようになっていたミネルバは、ロゴス討伐のため地球へと降りてきたデュランダル議長が座乗艦に指名したことから名実ともに同盟艦隊の総旗艦としての地位を与えられていた。

 

 その船の艦長である彼女は、開戦初期のように若造として侮られることもなくなり、尊敬の念と憧れと・・・それと同質同量の嫉妬と妬みを向けられる立場に今ではなっている。

 

「やはり、無理かな?」

 

 そんな彼女にゲスト席からお声がかかる。振り返った先にプラント最高評議会議長デュランダルが困ったような笑顔を浮かべて席に座り自分を見つめてきていた。

 彼は今回の作戦開始に先立ち、ジブラルタル基地を出発するおり「ヘブンズベース」に対して降伏勧告を通達していたのであるが、未だ何の回答も返されないままなのである。

 

『最後まで諦めることなく平和的解決の道を探り続ける』とする、彼の政策方針に則った行動ではあるものの、艦橋から見上げれば民間のヘリコプターが空を飛び、氷の海には明らかに軍属とは思えない船舶の姿があちらこちらに見受けられ、さらにはテレビの生中継により今回の壮大な包囲殲滅戦の経緯が世界中に放送されながら戦うことになる状況を客観的視点で見たならば。

 

(・・・まるで子供のゴッコ遊びよね・・・)

 

 と、不味い皮肉の一つも浮かんできてこざるを得ないのが現状におけるグラディス艦長の立場であり、素直にそうとは言えず沈黙を返さざるを得ないのもまた彼女の難しい立場というものでもあった。

 

「戦わずにすめば、それがいちばん良いのだがね・・・・・・」

 

 やりきれない表情でひとりごちながら、一瞬だけ議長が考えていたのは別のこと。

 ・・・先日、ロゴスメンバーの情報を公開して市民を暴徒化し、テレビ中継による演説で煽り立てることで襲撃させたときのことだ。99パーセントまで計画通りに推移していた計算に、たった一点だけ黒ずんだ不快なシミが付けられていた。

 

 ロゴスの中で最年少メンバーの屋敷を襲撃した暴徒たちが返り討ちに遭い、逆に全滅させられてしまったのである。

 そこまでは想定の範囲内であり、選択肢の変更で対処できる程度の誤差でしかなく、むしろ被害者たちを悼む想いが、対ロゴス連合軍にあらたな憎しみと正義の炎を宿してくれると敵自らが掘った墓穴に祝杯を挙げたくなったものだが、現場の映像を見せられた瞬間、そんな想いは1ミクロンの塵も残さずこの世からきえてなくなってしまった。

 

 ヒドかった。余りにも酷い有様だった。それこそ、こんなものを誰かの目に触れさせてしまえば折角燃え上がった対ロゴスへの怒りと憎しみの炎に冷や水をぶっかけられることは間違いようのないほどに凄惨すぎる光景。

 

 それは、ロドニアにあった研究所を見たことがある者でさえ吐き気を堪えられなくなるほど悲惨すぎるスプラッター映像がごとき現実の光景。

 串刺しにされて野晒しにされた一般市民の死体を切り刻み、被害者たち自身の血文字で綴られていた文章にはこう記されていた。

 

『我々をこうしたいのなら、こうされる覚悟を持って攻めてきなさい』

 

 ・・・デュランダルは映像を見たその場で証拠隠滅と、この件に関しての徹底した情報管制を敷かせるよう厳命した。

 

(あんな真似が出来てしまう人間が、ロゴスにいたとは予想外だった・・・可能であれば、余計な小細工を労する時間的余裕を与えず一気呵成に攻めかかり殲滅してしまいたいのが本音なのだがね・・・)

 

 そう思いながら、彼もまた本音を口に出す訳にはいかない立場にある身である。

 今は個人的感情で先走っていいときではない。

 このあと数時間後には、新しい世界を始めるための狼煙となる戦闘がはじまるのだから・・・・・・

 

 

 

『こちらヘブンズベース上空です! デュランダル議長の示した要求への回答期限まで、後三時間と少しを残すところとなりました』

 

 上空を旋回しながら戦況を撮影し、コメントまでしてくれる親切なマスコミを乗せたヘリコプターが同盟艦隊直上を飛行しながら全世界に向けて生中継を行っている。

 

『――が、未だ連合軍側からは何のコメントもありません。

 このまま刻限を迎えるようなことになれば、自ら陣頭指揮に立つデュランダル議長を最高司令官としたザフト、および対ロゴス同盟軍によるヘブンズベース攻撃が開始されることになる訳ですが・・・・・・おや? あれは―――』

「・・・? なんだ・・・?」

 

 アナウンサーによる実況解説の声が途中で止まり、不審げな呟きが発せられるのを艦内放送で垂れ流しにされていたものを聞き流していたデュランダルの耳にも入る。

 卑劣極まるロゴスらしい通告抜きでの先制攻撃でも仕掛けてきてくれたのかなと、艦隊後方の安全圏内に旗艦を配置していた彼は気楽にそう考えていたのだが、実際に目にした光景はやや意表を突くものであった。

 

「・・・光?」

 

 デュランダルが目にしたもの、それは雲に向かって照射された光だった。より正確に表現すれば、鉛色の雲をスクリーンにして映し出される、どこかの国で撮影された何かの映像。

 それは映像だけで音は付属していなかったが、ヘブンズベース側から流されてきた音声により映像の内容と一致してリアリティと説得力が付与されていた。

 

 その映像の第1シーンは、こういうセリフから始まる。

 

 

『――気をつけろ、ステラ! そいつはフリーダムだ! 手強いぞ!!』

 

 

「な・・・にぃぃ・・・・・・っ!?」

 

 

 その映像を見せられ、その音声を聞かされたとき。デュランダルはその一言だけを呟くのがやっとの心理的窮状に追い込まれていた。

 

 それはロゴスを炙り出すために彼が使ったのと同じ、燃えさかるベルリンの映像。

 ――そのノーカット版が、今全世界に向けて同時生中継がなされている前で無料再放送で垂れ流されている。

 ジブリールの屋敷を占拠した部隊が回収したはずの映像が、自分たちが突入するより大分前にロゴスメンバーが全員で観戦していたその映像を、どこかの誰かが録画させ続けていたもの。

 

 それが今、ザフト軍の手で連合政府が秘匿し続けてきたロゴスという真実を公開された市民たちの前に、連合軍の側からも提供できる真実として情報公開されたことにより・・・・・・一つにまとまりかけた世界に再び大混乱をもたらそうとしていたのである。

 

 憎しみという名の友情で結ばれた対ロゴス同盟軍の絆は、真実によって軛を打たれ、亀裂を入れられてしまった。

 事実を公開された議長としては、自身が隠していたフリーダムとアークエンジェルの存在について何らかの納得のいく説明を味方になってくれた者たちに対してしなければならない。

 事実を上回る真実性を持った『虚構』によって、彼は自らのついた嘘を正当化して事実に対抗しなければならなくされてしまったのである。

 

 偽りの団結によって結ばれた、憎しみの同盟軍の絆に亀裂が入るまであと残り三秒・・・・・・

 

 

 

 

 悪い意味で盛り上がりだした対ロゴス同盟艦隊を横目に見ながら、対極に立つヘブンズベース内のロゴスメンバーは白けた気持ちで、一人の若者を眺めていた。

 盛り下がるメンバーの中で、一人だけ心の底から楽しそうに嬌笑を上げ続けている若者。

 ブルーコスモス盟主、ロード・ジブリール。

 彼は自らが選んで軍事部門を一任していた少女の手腕に、心からの拍手喝采を送りながら、憎むべき宿敵デュランダルの晒す醜態振りを見下しながら大声出して笑い転げていたのである。

 

「ふはははははっ! 見てください皆さん! ご覧ください皆様方! あのいけ好かないデュランダルと、奴の口車に乗せられてノコノコこんな所まで出張ってきたお調子者の寄せ集めどもが右往左往していますよ! どちらの方が正しくて真実なのかと、怒鳴り散らしながらね。近来にない名喜劇だとは思われませんか?」

「ハッピーエンドで終われなければ、喜劇とは言えんじゃろうな」

 

 若者の先走りを窘めるように、皮肉るようにロゴスの一人である老人が葉巻に火を付けながら軽い口調で嫌みを言った。

 もっとも、今このときのテンションが絶好調にあるジブリールに対して、たかだか嫌み一つで効果が上げられるなら苦労しない。

 彼は「フッ!」とせせら笑うとモニターの一つに映し出された、愛娘とも呼ぶべき最愛の少女型敵対勢力自動殲滅マシーンに対して心からの笑顔を向けて言葉を発する。

 

「見事だ! セレニア君! これで敵の団結はバラバラ・・・正義の味方や神のような人間などいないのだという事実を額縁付きで我々から教えてもらえた民衆は、偽りの絆を保つことなどもはや出来はすまい・・・」

『・・・どーも。お褒めいただき恐悦の至りです』

 

 いつも通り、やる気を感じさせない口調と態度は今まで彼を苛つかせることが多かったものだが、こうなってみるといかなる窮状に追い込まれても冷静さを失わない落ち着き払った名将の素質が彼女にあったことを証明するもののように思えてくる。

 

 ――やはり自分の目に狂いはなかった! 彼女を抜擢した自分は正しい!

 

 ・・・愛娘をウソ偽りなき本心から褒め称えながら、同時に自分自身の先見の明を自画自賛する器用さを発揮させながら、それでもジブリ―ルの有頂天振りは止まらない。

 

「しかし、空に浮かぶ雲に光で映像を映し出す演出か・・・・・・アルミューレ・リュミエールの光波防御帯技術の応用に、こんな使い道があったとは思いもしなかったな。今度は私もなにかの折に採用してみたいほど美しい技術だよ、セレニア君」

『であるなら、まずは今を乗り越えることに全力を尽くすといたしましょう。“今度”を迎える前に死んでしまったら堪りませんからね』

「乗り越える・・・? ハッ! 何を言っているのかね、セレニア君。我々は攻めるのだよ。奴を、今日ここからね。

 そのためにこそ君が立案した万全の迎撃作戦であり、誘い込まれた獲物を捕らえるためのトラップなのだろう? ――私は君を信頼しているのだよ・・・セレニア君。

 君“は”、私の信頼を裏切らないでほしいのだがね・・・?」

 

 ベルリンで失敗したファントムペインのネオ・ロアノークを引き合いに出して脅しをかけるように言ってくるジブリ―ルだったが、事この少女相手には糠に釘だ。

 軽く肩をすくめて見せて、いつも通り覇気に欠ける返事を返してくるだけである。

 

『失敗したときの処罰はご自由に。責任者とはそう言うものですからね。別に責任逃れをする気はありませんし、逃げるつもりもないですので適当にどうぞ。

 今は失敗したときのことより、勝つための準備に全身全霊を傾けたい時ですのでね』

 

 老人たちとは違う表現で皮肉を返してくるセレニアに、ジブリ―ルはまたも「フッ!」と鼻を鳴らす。

 

『とにかく皆様方は待っていらっしゃれば宜しいのですよ。映像を見せられた敵軍が右往左往している姿をご覧になりながら、ノンビリと葉巻でも吸いながらごゆっくりと・・・ね?』

 

 ゴホッ、ゴホッ、と。一部のロゴスメンバーから咳き込む声が聞こえてくるのをさり気なく無視するため、VIPルームに同席していた連合軍の高官がジブリ―ルとセレニアに確認とも報告とも判然としない言い方で話しかけてくる。

 

「・・・デュランダルは映像を我々が加工したデマであると味方に説明し、我が方に対しても映像が真実であることの証明と、偽の映像で人心を惑わす悪辣さを糾弾する通信を呼びかけ続けてきておりますが、如何いたしましょう?」

『完全無視です。好きなだけ吠えさせてお上げなさい。飽きたらそのうち勝手に攻めてきますよ。その為に来た人たちですからね。手ぶらじゃ帰れませんし、議長さんの立場がそれを許してくれないと思いますから。

 ――ああ、でも最初に届けられてた降伏勧告にだけは返事をしておいてください。“拒否します”とね。

 “この上は武人らしく正々堂々剣によって雌雄を決しましょう。約束の刻限まで互いに英気を養い、悔いの残らぬ戦をすることを連合の名においてお約束いたします”・・・とかも付けちゃっていいかもしれません。言っても損にならない社交辞令は言っとくべきです』

「・・・了解しました。先方にはそのように通信を送り返し、それ以外の通信はすべて聞き流すよう担当者には通達しておきます」

 

 礼儀正しく述べながらも、その高官の表情は露骨すぎるほど「エゲツねぇ~・・・」と書かれていたが、声に出してなければ問題にはならない。それが大人の社会で守るべきマナーという名のルールと言うものである。

 

 

 

『おそらく敵は、脱走艦は出すことなく一応の団結は保ったまま攻撃を開始すると思われます。その際には引きつけて撃つを味方に徹底しておいてくださいね? わざわざ要塞に立てこもっている側から好き好んで地の利を捨て、出戦を仕掛ける必要性もとくにありませんから。

 デストロイ三機が出れば、通常の機体でアレに対抗できないことは既に知ってるザフト軍としても対抗できる数少ない駒、インパルスを出してくるでしょう。あるいは開戦から結構経ちますし、そろそろ新型の高性能機を完成させている可能性もありますから、性能的に我が方が有利とも限りません』

 

 

『なので待ち戦です。敵艦隊と機動戦力を分断させて各個に撃破するオーソドックスな手法でいきますよ。各員は油断することなく、落ち着いて指示に従ってください。そうすりゃ簡単には死にませんし、死なせないよう私もできる限り努力しますから。

 ――我が方は現在のところ負けていますが・・・・・・まぁ、チェックをかけられただけでチェックメイトはまだされていません。諦めるにはまだ早いでしょう。

 それでは皆さん、自分が死なないように頑張って戦かってくださいね。以上』



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機動戦士ガンダム 死のデスティニー PHASE-3

バケモノの続きを書きたいのですが、執筆環境が悪くなりすぎていて集中して書ける時間がバラバラになりすぎてしまい、腰を据えて書けない状態にあります。バラバラに書いてヒドイことになった前科のある作品ですので環境が落ち着くまで今しばらくお待ちくださいませ。

代わりとして、短時間でパパッと書けた『死のデスティニー』3話目を投稿させていただきましたので、場繋ぎにでもどうぞ


「――時間だッ!!」

 

 ミネルバの艦橋でデュランダルは座席から立ち上がって宣言した。

 彼が指定して敵が受け入れた開戦時間がようやく訪れ、両軍からの攻撃が開始されたのである。

 

 ――敵の手で秘匿していたウソを暴かれた彼は、ここに至るまで味方してくれた同盟軍各位に対して『今はロゴスを討つことが何よりも優先』『戦い終わった後に正式な説明と謝罪を約束する』・・・という論法で不承不承ながらも納得させて引き下がらせていた。

 そのお陰で同盟軍から今のところ脱落者は出ていなかったが、デュランダルを見る彼らの視線に厳しいものが混じってしまうのは仕方のないことであっただろう。

 

 刻限を迎えたヘブンズベースから、一秒の狂いもなく撃ち出されるミサイルの雨を目視した瞬間に、ザフト、対ロゴス同盟軍も敵の動きに呼応して動き出す。

 

「我らもただちに攻撃を開始する! ミサイル発射! 降下揚陸隊を発進準備させろ!」

「――コンディションレッド発令! 総対戦用意!!」

 

 グラディス艦長が事務的な表情の仮面で、言いたいこと聞きたいことの山にフタをしてから、議長の攻撃開始命令に従い同盟全軍に個別の指示を下し出す。

 

 ――誰が間違っていて悪いにせよ、とにかくは勝って生きて帰ることが先決だ!

 

 艦長として部下たちの命を預かる者の立場が言わせた攻撃命令。それに従って同盟軍先頭集団からモビルスーツ隊が発進されていき、敵部隊と正面からぶつかり合う。

 刻限を守って正面からぶつかり合うオーソドックスな始まり方をした戦闘は、両軍共に有利でも不利でもない形での開戦だったが、すぐにザフト軍モビルスーツ隊の方が優位に立ち始めた。

 

 当然だ。個人の能力がものを言う戦い方で、コーディネーターがナチュラルに後れを取るわけがない。不意打ちでもされない限り、正面決戦でザフト軍が連合側に圧勝するのは必然的帰結と言っていい。

 敵も遅まきながら事実を認識できたのか、次々と機首を翻して元来た道を尻尾を巻いて逃げ帰り始める。

 ある意味では、潔く良い退き方と言えないこともなかったが、威勢よく掛かってきた割には「口ほどにもない」感は拭えない。ザフト軍のパイロットたちも、やはりそう思った。

 

「よぉし、今だ! 撤退する敵の背後から食らいつき、敵要塞に肉薄しろ! 追撃戦だ! 急げ!」

 

 議長からの命令に、今度はグラディスは即応せずに振り返る。

 

「議長、それでは作戦が――」

 

 成り立たなくなる――そう続けようとした彼女の言葉を議長は穏やかな笑顔で手を上げることで制止させる。

 

「わかっているよ、艦長。私もこの攻撃で敵要塞すべてを攻略させようなどとは考えていない。

 だが、降下揚陸部隊が軌道上から降りてきたときに挟撃できるよう、敵要塞の一角を橋頭堡として確保しておくことは無駄にならないだろう?」

「・・・・・・」

 

 グラディス艦長は用心深く沈黙を保ち、軍帽をかぶり直すフリをしながら敵要塞の見える窓の方に身体ごと視線を戻す。

 ・・・議長の言ってることも間違いではない。たしかに敵の砲手も逃げてくる味方ごと敵を撃つのはためらわざるを得ないはずだ。

 あるいはロゴスやブルー・コスモスなら躊躇うことなく撃ってくる可能性もあるが、それを言い出したら切りがない。何でも有りになってしまう。それでは作戦もクソもない。

 

 ――それに・・・だ。

 

(・・・何より議長の求心力が低下してしまっているのが大問題だわ。ここは何も言わずに彼の命令に従って作戦を成功に導くことに貢献する以外にないわね・・・)

 

 そう思い、彼女は自分の不満を納得させた。・・・と言うよりも、納得させざるをえない状況に置かれていた。

 デュランダルが嘘をついていたのは事実だし、彼女も彼には言いたいことや聞きたいことが山のようにあるが、それでも彼が失脚してもらっては困ると言うのが同盟全軍にとっての素直な本音だったからである。

 ――彼が抜けた穴を埋められる人材が他にいないからだ。同格の第三人者はいくらでもいるが、第一人者は彼しかおらず、第二人者にいたっては一人もいない。彼が責任を取って引責辞任をした後に、せっかく築いた連合からの脱退組とプラント本国とを結びつけられる存在は残念ながら今のプラントには皆無だ。今までの状態に戻すことなら可能だが、今の友好関係は維持できない。

 

 どれほど怪しく疑問に思える部分が数多かろうとも、デュランダルはザフト軍と対ロゴス同盟軍を纏め上げたカリスマなのは事実だったから・・・・・・

 

 

 

 

 一方その頃、ヘブンズベース司令室。

 

「味方の第一陣が、敵の追撃部隊を引き連れて全速力で撤退してくるのを確認しました。背後の敵部隊、イエロー・ゾーンを突破」

「予定通りだな・・・。よし、セレニア司令の作戦案に従って避難口に指定されたMSハッチを開け。各モビルスーツ隊は所定のハッチから到着した順番に逃げ込んでくるよう命令を伝達しろ。余計な色気は出さずまっすぐ逃げ帰ってくればそれでいいとな」

「ハッ、了解しました。伝えます」

 

 オペレーターからの返事を聞きながら、司令官は軍帽を脱いで顔を煽ぐと、何かを諦めたような表情でポツリとつぶやきを発していた。

 

「・・・偽装銃座による十字砲火の火線上に敵を呼び込む誘い水役、ごくろーさん・・・」

 

 

 

 斯くして戦況は一変させられる・・・・・・。

 

 逃げる敵を追って追撃していたザフト軍の水陸両用モビルスーツ隊は、正面から撃たれないよう細長い列に並んで敵要塞に肉薄していたのだが、ヘブンズベースの砲手たちは作戦通り、敵の細長い脇腹めがけて集中砲火を浴びせ損害を与えた。

 

 さしものザフト軍パイロットたちも、柔らかい脇腹を突かれるとは思っておらず体勢を立て直すため前進を止めて集結し直したところ、今度は基地の地上部分から対潜ミサイルが雨のように撃ち出され、爆発深度を設定されていたそれの被害から逃れるため『コンピューターで予測しやすい正確な回避機動』を取ってしまい更なるダメージを追加で受けさせられてしまう。

 

 モビルスーツが従来の既存兵器を圧倒したのは、敵の攻撃をかいくぐり急速接近してくる複雑な機動を可能ならしめた圧倒的な機動力あってこそのものであり、狙った場所に自分から突っ込んでくるだけでは単なる鉄の的に等しい。

 

 傷だらけになりながらも何とか戦場を離脱して、敵要塞の射程距離外まで逃げ延びてきた彼らは死者数こそ少なかったが、無傷で生き延びれた者の数は更に少なくなっており、そこへ偽りの後退を止めて反転し総反撃するため自分たちの方へ向かってくる連合軍の水中用モビルスーツ部隊を目にしたことで自分たちが罠に誘い込まれたという事実に気づかされ唇を噛みしめながら全速力で元来た道を引き返し始める。

 

 そんな彼らの左右から、来るときには岩場に隠れてエンジンを切り、黙って通してやった連合軍モビルスーツ隊が次々と機体を再起動させて逃げるザフト軍に左右から中距離射撃用の魚雷をつかった挟撃を開始する。

 

 近づいてくればまだしも、水中戦で中距離では当てずっぽうで魚雷を撃ちまくり牽制するぐらいしか出来ることがないザフト軍水中部隊は、『今は敵を倒すよりも逃げる方が先決だ』と判断して攻撃される中をまっすぐ突っ切る道を選択した。

 

 やがて味方の窮地に慌てて駆けつけてきた援軍と合流して安全を確保した頃には、敵軍は既に要塞内へと逃げ帰ってしまった後であり、ピエロを演じさせられるだけで終わったザフト軍パイロットたちはヘルメットを床に叩きつけて怒りに身を震わせた。

 

 

 その頃、同盟軍臨時総旗艦ミネルバの艦橋では。

 

「何ということだ、ジブリールめ!」

 

 デュランダルが語気荒く敵将を罵る声を響かせていたが、誤解である。

 今おこなわれた作戦に於いてジブリールは何もしていない。ただ敵の無様さを眺めながら笑い転げていただけである。

 だが、そんなロゴス側の人事事情など知るはずもないデュランダル配下のザフト軍将校が、焦った声で口を挟む。

 

「議長、これでは・・・!」

「ああ、わかっている――やむを得ん! 彼らにもただちに戦闘を開始してもらおう! デスティニー、レジェンド、インパルスを発進させろ!」

「・・・!! 議長! それでは作戦が・・・っ」

「わかっている・・・っ」

 

 苛立たしげに艦長の声を遮ると、彼は立ち上がってミネルバの窓に歩み寄りながら諭すような声で言ってくる。

 

「君の言いたいことは分かっている。確かにそれが道理だろう・・・。だが、このまま我らが負けてしまったら世界はどうなる?

 今ここでヤツらを討たねば戦争はなくならない。この世界がロゴスの物になる前に我々の手で終わらない負の連鎖を断ち切らなければならないのだよタリア・・・っ!!」

「・・・・・・」

「糾弾もいい、理想もいい。――だが、すべては勝たなければ意味がない。“古から全ては勝者のものと決まっている”・・・そんな歪んだ信念の持ち主たちをここで撃ち逃す訳にはいかないのだよ、タリア・・・っ。どうか分かって欲しい・・・」

 

 返答に窮するグラディス艦長。そんな彼女に決断を促したのは、意外なことに議長でもシン・アスカたちエースパイロットでもなく、単なるオペレーターの一人がもたらした報告によってであった。

 

「・・・!! ヘブンズベース地表部分に高熱源反応を確認しました! これは・・・まさか!?

 ベルリンの悪魔です! あの巨大モビルスーツが出現しました! 同型機を五機確認!」

「ええぇぇーっ!? アレが、五機も!?」

 

 ミネルバ副長のアーサー・トラインが、艦長の代わりに言いたかった言葉を叫んでくれた。

 まったく、何てことだろうか! たった一機でベルリンの町を壊滅させた悪魔が五機も同時に現れるだなんて悪夢としか言いようがない。

 このままでは降下部隊が来るまで持ちこたえることさえ危ういだろう。

 

 ――ならば・・・・・・っ。

 

「シン、準備できてる? 出撃よ! 無理を言って悪いけど、なんとかアレを足止めしないと戦線が崩壊してしまうわ! 急いで!」

『わかってます艦長! 行けます! 行かせてください! 早く発進をっ!』

 

 艦内モニターに映し出されたシンに呼びかけ、即答を得た艦長。最前の攻撃を自分の目でも見たのだろう。怒りに赤い瞳を燃やして逆に出撃許可を求めてくる。

 

 ・・・だが、彼ほどの怒りと憎しみをレイとルナマリアは共有できていなかったようである。

 彼女らも十分早い反応速度で機体に乗り込み、発進準備を進めていたのだが、スタッフの方が彼らの尋常ではなく素早い反応に対応しきれなかった。

 レジェンドとインパルスの発進には、まだわずかに時間が必要となる・・・っ。

 

(――どうするか・・・!? シンだけでも出撃させて敵を足止めできるなら、やらせてみる価値はあるかも知れない・・・っ、けど・・・っ!)

 

 悩む艦長。

 その悩みを議長が一言で一刀両断する。

 

「頼む」

 

 それで全てが決した。

 デスティニーがミネルバから発進していき、少し遅れてインパルスとレジェンドも大空へと飛び立ち出撃していく。

 

 

 ――この出撃順序の変更は、あきらかに敵の作戦立案者の計算を狂わせるものであり、未だデスティニーとレジェンドの存在を知りようもない“彼女”を倒すため議長の一言によって変更が決まった決断は大きな役割を果たすことが出来た可能性もあっただろう。

 

 

 ・・・ただし。それはデュランダルが事前に呼びかけて集まってもらっていたマスコミ船に、どこよりも早く真相と正確な情報をお届けする親切な名も知らぬ小国から派遣されてきた零細艦隊の同盟軍参加を拒否していた場合に限っての話である・・・・・・

 

 

「・・・二機の発艦を確認しました。作戦が始まる前に議長から渡されていた敵味方識別コードによれば、敵機体のコードは“インパルス”と、“レジェンド”だそうです」

「よし、随行してきているマスコミ船に今すぐリークしろ。大至急だ。急げよ」

「ハッ! 急いでチクリに行って参ります!」

 

「・・・・・・悪く思わないでいただきたい、議長・・・。我々はあなたを裏切る訳ではない・・・。あなたに言われたとおりの行動をしているだけです。

 その結果、全世界同時生放送されているテレビの映像と音声を受信した一人が、ロゴス最年少メンバーだったとして、どうして我々が責められねばならぬ道理がありましょうか・・・?

 我々の小国は、こういう風にして生き延びねばならぬのですよ・・・たとえ乞食と蔑まれようとも、正義の騎士として死ぬわけにはいかんのです。

 我々は何としても生き延びねばなりません・・・我々を乞食と呼んで蔑みながら死んでいった大国の勇者たちが死ぬ姿を見届けるためにね・・・・・・」

 

 

 

 

 

 そして、そんな小国から情報をリークされた、どこよりも早く新鮮な情報を視聴者に流すことで誰よりも多くの視聴率を得たいと願う人気テレビ局の生放送を受信した船の艦橋で、こんな会話が交わされていたことを世界はまだ知らない。

 

 

「インパルス発進を確認しました。情報通り・・・いえ、情報よりも二機多いようです」

「・・・ミネルバ隊のエースさんたちは三人だったはずですから、機体数だけは前と同じになったわけですか・・・。

 海軍の人たちは数さえそろっていると安心できるとかなんとか聞いたことありますけど、相手があの“ミネルバ”と“インパルス”じゃあ不安にしかなりませんね~。やっぱり新型機が与えられて乗り換えたってことなんでしょうか?

 だとすれば、図体がデカくてウスノロな分デストロイの方が不利・・・時間との勝負になりましたねぇ。こっちが片付く前にデストロイが全部倒されてしまったらゲームオーバーですよ。シンプルなゲームじゃないのは面倒くさいですよね・・・」

 

「ま、いいでしょう。どのみち私たちのやることは変わりませんからね。

 ――全艦浮上、アップトリム最大。浮上しながらミサイル発射管注水開始、海面に出る寸前に一斉射して、こちらに敵の目を向けさせなさい。

 それで光波防御帯技術を積んだ工作船の映し出す映像に意識を集中させなさい」

 

「・・・ああ、それから偽装艦が見た目だけ本物と同じくしただけで中身空っぽのガランドウ船だと敵にバレたら終わりですので、絶対に全艦同一速度で敵に近づいて心理的に圧迫させることを徹底しておくこと。突出したら全滅させられますからね、気をつけなさい。

 一定間隔ごとに配置した本物だけが、ウチの分艦隊がもつ全戦力なんて敵に知られたら一巻の終わりです。工作艦による映像でカモフラージュしながら近づいていき、内部崩壊を誘うのが主目的であることをくれぐれもお忘れなきように」

 

 

「さぁ・・・敵の皆さんにモビルスーツのない艦隊がどうなるか教えてあげに行くとしましょうか。攻撃開始です。ファイエル」



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正規版・戦記好きがキラ・ヤマトに憑依転生

昨日にご要望をいただいた『戦記好きがキラ・ヤマトに~』の正規版(物語の最初から書くバージョン)を書いてみましたので投稿させていただきました。
…ただ、思っていた以上に覚えてなかったので大部分はあらためてのオリジナルになっちゃいました。ごめんなさい。やっぱり後で書くは良くないと思い知らされましたので、次から書いたのは消さずに取っておくよう意識するつもりです。


 

 カタカタカタ・・・。キーボードを叩くリズミカルな音が自分を中心として狭い範囲にだけ響き渡る。

 

《――南アフリカの難民キャンプでは慢性的に食料、支援物資が不足しており。百二十万の人々が生命の危機に直面しています――》

 

 ふと見るとコンピュータ画面の上方に別枠で開いたままにしておいた『戦争の最新戦況報告』を伝えるニュース映像に新たな戦場が映し出されていた。

 

《では次に、激戦の伝えられます華南戦線のその後の模様です。新たに届きました情報によりますと、ザフト軍は先週末、華南の手前6キロの地点まで迫り――》

 

 機械の巨人――モビルスーツに半壊させられて黒煙を立ち上らせている市街地から逃げようとしている難民たちの悲鳴だけが聞こえてきている華南をバックに映し出されている。

 画面前方で戦況を報告しているリポーターの、うわずっていながら抑制のきいた声が不調和だった。

 

「キラ~、こんな所にいたのかよ」

 

 横合いから声がかけられたので顔を上げて、そちらを向く。

 “この身体になってから出来た”二人の友人、トール・ケーニヒとミリアリア・ハウの姿があった。ミリアリアはトールのガールフレンドだから一緒にいるのは不思議じゃない。

 

「カトウ教授がお前のこと探してたぜ」

「見かけたら、すぐ引っ張って来いって。

 なぁ~に? また何か手伝わされてるの?」

 

 僕は“この身体の本来の持ち主”特有の曖昧な笑みを返事代わりに返しながら肩をすくめて、呼び出しに応える準備をはじめる。

 

 カトウ教授は僕が所属している中立コロニー《ヘリオポリス》にある工業カレッジ内にラボを持つ、サイバネティック工学の第一人者で、僕の素性を知った上でいろいろと自分の仕事を手伝わせてくれている。人使いは荒いけど、いい人でもある好々爺だ。

 

 ・・・もっとも“これから起こる事態”を前に、“彼女”が訪ねてきていたことを考えるなら、今僕が手伝わされているデータ処理も“例のアレ”を完成させるために重要な一要素なのかもしれないけども。

 

「お? なんか新しいニュースか?」

「・・・ああ。華南だって」

 

 トールが僕の見ていたPCの画面を覗き込むように身を乗り出してきたので、開いていたウィンドウを操作して、ズームして見やすくする。

 

《こちら華南から7キロの地点では、以前激しい戦闘の音が続いています!――》

「うへぇ~、先週でこれじゃ、今頃はもう陥ちちゃってんじゃねぇの、華南?」

「・・・・・・」

 

 思わず僕は相手の顔を見上げてしまい、相手から不思議そうな目で見られたため慌てて適当な相づちだけを返してお茶を濁す。

 

 ・・・彼は気づいていたのだろうか? たぶん、いや絶対に気づいていないんだろう。

 今彼の口から出た言葉が、『今の時点で華南に住んでいた人々が故郷を失わされていて』『画面に映っていた人々のうち何割かは食糧難で生命の危機に瀕している難民キャンプをさらに追い詰める役割を果たしている現実』を内包してしまっているのだという、当たり前の認識を考えようともしてないみたいだから・・・・・・。

 

「・・・華南なんて、けっこう近いじゃない・・・。大丈夫かな? 本土・・・」

 

 ミリアリアが不安そうな顔と声でそうつぶやいて、トールが恋人の不安を払って上げるためも兼ねてなのか努めて呆気らんとした楽天的な口調で言ってやる。

 

「ああ、そりゃ心配ないでしょう。近いたって、うちは中立だぜ? オーブが戦場になるなんてことは、まずナイって」

「そう・・・? ならいいけど・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 ミリアリアの声から少しだけ不安が薄れたのを感じ取り、僕は敢えてなにも余計な言葉はコメントしようとせずに、教授のラボへ赴くための準備だけに自分の意識を専念させる。

 

 第二次大戦が、ナチスドイツによる中立国ポーランドへの侵攻から始まったという近い過去の事例や、表向きは中立を保ちながら裏では正規軍兵士を義勇軍として派兵していたり、兵器類の軍需物資供給を担ったりしていた実質的参戦国の形ばかりだけ中立国が乱立している過去の戦史にかんする知識なんて、今の時点で言う必要はとくにないんだろう。

 

 ・・・どうせ、もうすぐ思い知らされてしまうのだから、今の時点から恐怖に怯える必要はまったくない。

 二度と戻らない平和な時を少しでも長く味わっていられるなら、それはそれで良いことだと僕は信じているから。

 

 

 僕は空を見上げる。垂れ込める人工的に生み出された雲の向こう側に広がっている、厚さ100メートルに及び合金製のフレームに覆われた人工の大地という名の大空を。

 

 

 ・・・この世界は、平成でも令和でもなく『コズミック・イラ』

 遺伝子操作により最初から優秀になるよう調整されて作り出された人工新人類『コーディネーター』と、地球原産の自然から生まれたホモサピエンスを祖先に持つサルの子孫たる旧人類『ナチュラル』とが種族の違いを大義名分として憎み合い殺し合い、戦争をしている。・・・そんな時代。

 

 

 そして僕の名前は、『キラ・ヤマト』。

 『機動戦士ガンダムSEED』で主人公を務めた少年に生まれ変わった、もしくは憑依した『現代日本の戦記好き高校生』。

 

 そんな僕にとって第二の穏やかな人生も、もうじき終わりを迎えさせられてしまう。

 戦争に、巻き込まれて戦わなくちゃいけなくなる日が目前まで迫ってきている。

 

 スーパーコーディネーターの高スペックだけじゃ、知っていても防ぎようがなかった戦争に、もうすぐ僕らも巻き込まれることになってしまうだろう。

 

 だから今この時だけは、今この時までは平和を心より謳歌しておこうと思う。二度と帰らぬ日々が終わる寸前まで、その幸せと尊さを記憶と心の奥底に刻み込んでおこうと思う。

 

 

 そう思ってPCを閉じる間際、最後の戦況報告を伝えるリポーターの声が鼓膜に届いて、映像が視界に入り込む。

 

 

《――早く早く! 早く逃げて!》

 

 

 そう叫びながら逃げていく避難民にカメラを向けて、救いの手を差し伸べようとすることなく、「自分たちは命がけで悲惨な戦争の現実を伝えに来ている」とアピールするかのような緊張感と使命感に満ち満ちた彼らマスゴミの表情が鼻につき、不愉快になった僕がマシンを強制的にシャットダウンさせる。

 

 これが僕にとっての戦争が始まる前に味あわされた、平和の終わりに感じた最後の不快感だったことを今の時点の僕は知ることが出来ないでいる・・・・・・。

 

 

 時に、CE,70。『血のバレンタイン』の悲劇によって悪化した、地球・プラント間の緊張は一気に本格的な武力衝突まで発展して、戦局は疲弊したまま十一ヶ月が過ぎようとしている時分。

 

 『機動戦士ガンダムSEED』の物語は、『自称』中立国オーブ首長国連邦に属する工業コロニー・ヘリオポリスで極秘裏に製造されていた地球連合軍用モビルスーツ『ガンダム』を奪取するためザフト軍の攻撃を受けるところから始まる。

 

 その時が来るまで平和の残り時間はあと何十分なのか? 戦争までの距離は残り何マイルなのか?

 

 それは、巻き込まれたときに解ることで、巻き込まれない限りは解らないことでしかない。

 今を生きる僕たちはただ、今はまだ終わらされていない最後の平和を記憶にとどめ置くため覚えられる限りは見続けておく。

 ・・・それぐらいしか戦争に巻き込まれる前のスーパーコーディネーター、キラ・ヤマトに出来ることは何もなかったから・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その頃。

 人工の空の向こう、戦争をしている世界の片隅において。

 ヘリオポリスに向けて工作員を乗せた小型艇を発進させながら、仮面の指揮官が慎重論を唱える部下の提案を却下しながら語りかけていた。

 

「――遅いな。私の勘がそう告げている。

 ここで見過ごさば、その代価。いずれ我らの命で支払わなければならなくなるぞ?

 地球軍の新型機動兵器、あそこから運び出される前に必ずや奪取するのだ。そのためなら多少に犠牲やリスクは覚悟の上だよ。

 ・・・殺されるよりかは殺した方がマシなのだからな・・・フフフフ・・・」

 

 

 

つづく

 

 

 

オマケ『転生憑依キラ・ヤマト君による中立講座』

 

キラ「ガンダムに限らず平成アニメの戦争作品で誤解しちゃった人も多いらしいけど、争いごとに対して中立という立場を取るには厳しい条件が課せられてるんだ。代表的なものを下に記載しておいたから参考にして、戦争と中立について考えてみてね」

 

 

①交戦国による中立領域の利用防止。

②交戦国の戦力、兵器、公債等の供給禁止。

③交戦国との交通通商条約は自由だが、戦時禁制品については交戦国は海上で捕獲することができる。

 

 

・・・等など、他多数。

 

キラ「と、言うことなんですけど。今の話をお聞きになってどう思われましたか? ウズミ様」

 

ウズミ・ナラ・アスハ「・・・・・・その質問への回答は、後ほど政府より公式発表をおこなう予定でいるので、それまで待っていてくれたまえキラ・ヤマト君」

 

 

注:結局この件についてオーブ評議会は、ウズミ代表首長が現職にある間は公式見解を示すことはなく、ヘリオポリスの一件で引責辞任で地位を退いた後、後を引き継いだホムラ新代表によって『全てはアスハ前代表の独断によるもの』と公式の場で発表されたとか、されなかったとか・・・。

 平和の国『オーブ首長国連邦』が抱える歴史の闇は深く、そして仄暗い・・・・・・



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機動戦士ガンダムOO「誰かが変革をもたらさなくてはならないとしたら…」正規版

今日は休みなのに時間なかったと言う変な一日だったせいで、夜しか書く時間が得られず仕方なしに書き途中だった作品だけ完成させましたので投稿しておきます。

以前書いた、『旭日の艦隊・マイントイフェル大佐』×『ガンダムOO』コラボ作品の正規版です。

残りは明日以降! 夏休みはまだカー!です!


 西暦2407年。大きく三つの国家群に分かれた人類は、未だ戦争をやめられてはいなかった。

 …24世紀になっても、人類は未だ一つになりきれていなかったのである・・・。

 そんな世界に対して変革を促す者たちが現れる。

 

 私設武装組織《ソレスタル・ビーイング》

 世界から紛争をなくすため、民族、国家、宗教を超越した武力介入をおこなう者たち。

 

 だが、しかし。彼らは失念していた。

 現在を否定し、正しき未来へ導くため人類を変革しようと望む者が『過去に存在したかもしれない』可能性があることを・・・・・・。

 

 

 これは、そういう物語だ。

 過去から現在への否定。自分たちだけが世界の歪みを嘆いているわけではないという、ごく当たり前の出来事。

 神にすがり、神を否定し、自らを神たらんと願った少年を否定する一人の人間の物語・・・。

 現在を変えようと野望を胸に、過去と未来との戦いが今、幕を開けようとしていた・・・・・・

 

 

 

 抜けるような青空のもと、南アフリカにあるAEU演習用基地の市街地区画を最新鋭可変モビルスーツ・イナクトが縦横無尽に宙を舞っていた。

 その機動性や攻撃性能を見て、観客席に招かれていた来賓の軍関係者や高級官僚たちが一様に声を上げ、莫大な開発費を要した新型機の性能に感嘆と安堵が複雑に入り交じった吐息を漏らす。

 

「・・・モビルスーツ・イナクト。AEU初の太陽エネルギー対応型か・・・」

 

 その中でただ一人、冷静にイナクトの性能その全てを検分するかのように見つめていた男が声を発した。

 長身を白のスーツで固め、長い髪を後頭部でまとめて後ろに流している学者然とした男である。

 ビリー・カタギリ。

 今目の前で性能を披露している新型機を開発したAEUとは敵対関係にある三大国家の一つ『ユニオン』で、モビルスーツ開発技術顧問を務めている人物である。

 本来なら敵対しているユニオン軍の技術顧問が、宣戦布告をしていないだけで事実上の敵性国家であるAEUの新型完成披露演習の場にゲストとして招かれているのは、兵器製造最大手のアイリス社から特別に招待状を送られた身だからだ。

 軍と軍需産業との癒着はこういうところにも現れている。実際に砲火を交える戦闘をしていなくとも、戦争による腐敗や賄賂、横領や癒着というものは起こりうるのだという良い例証と言えるだろう。

 

「機体能力はいいようだね。空中性能も悪くない」

「AEUは軌道エレベータの開発で後れをとっている。せめてモビルスーツだけでもどうにかしたいのだろう」

 

 一人納得してうなずいている彼に、後ろから近づいてきた男が聞き覚えのある声をかけてきたので、ビリーは苦笑しながら男に顔を向ける。

 

「おや、いいのかい? MSWADのエースがこんな場所にいても」

「もちろん、よくはない」

 

 平然と答えて、ビリーの隣に腰を下ろす男の名はグラハム・エーカー。

 一見すると青年実業家を思わせる優男風の風貌の持ち主であるが、その実ユニオンが誇る精鋭部隊MSWADに所属するエースパイロットという肩書きを持つ、ビリーの親友。

 

 言うまでもなく、一科学者であるビリーよりもこんな場所に来ていていい立場にはいない男である。この場合、留意すべきは敵であるAEUよりも味方の方がやっかいな反応を示すだろう。

 人革こと「人類革新連盟」の記念式典に泥を塗っておきながら、ユニオン軍の要人をゲストとして招待しても見て見ぬフリをしてくれる軍高官たちの反応を見れば一目瞭然だ。

 

「しかし、AEUは剛毅だよ。人革の十周年記念式典に新型機の発表をぶつけてくるんだから。対抗意識を剥き出しにする気位の高さは欧州人らしいと言えばそうだけどね」

「ふっ。で、キミはどう見る? あの新型の性能を」

「どうもこうも」

 

 ビリーは肩をすくめて友人からの質問に答えを返す。

 

「うちのフラッグの猿まねだよ。独創的なのはデザインだけだね」

 

 軽く後ろに上体を反らしてから目を細め、眉の角度を微妙に変えて、見た感じからして『見下してバカにしてます』と言いたげなジェスチャーも追加しながら最低限『周りに合わせてやっている』といった風情で返事をしてくる欧米人らしい傲慢さを体現したビリー・カタギリだが、彼の下した評価自体は間違っていない。

 

 実際問題、AEUが開発した最新型モビルスーツ・イナクトは、ユニオンの最新鋭量産機『ユニオンフラッグ』を表向き「参考にした」という建前のもと不正手段で入手したデータを設計図代わりに開発された機体だった。

 猿まねと言うよりパクリと表現した方が正確な機体でしかなく、性能的にもフラッグと比べて大差ないまでも、僅かに、だが確実に見劣りする程度の性能しか実現できていない。

 

 その僅かな差が、AEUとユニオンのモビルスーツ開発技術における現時点では追い抜きようがない決定的な差であることをAEUの技術部門関係者たちは思い知らされてしまった。

 それが今回の完成披露演習に影響を及ぼしている。人革連は挑発しても外交でケリがつけられるが、ユニオンは万が一にも敵対するのは避けたい。少なくとも現時点では。

 

 ・・・それがAEU首脳陣の正直すぎる思いであり、正直にそれを口に出来ないAEUのメンツが招待させた、今この場にいるビリー・カタギリと、見つけていないフリをされているグラハム・エーカー。

 

 そういう舞台裏がこの披露演習に存在していることは、畑違いの技術者と軍人である二人にさえ見え見えな事情。

 そして、だからこそ。

 

 ――こういう“アクシデント”はなかなかに面白いと感じられる・・・・・・。

 

『そこの、聞こえてっゾォ! いま、なんつった? え? コラ!?』

 

 突然、周りに響いてきた声に二人は意外そうな表情で顔を上げる。

 見ると、イナクトのコクピットが開いて中から飛び出してきたパイロットが自分たちを指さしながら怒鳴り声を上げている。

 まるで政治を理解していない率直な若者らしい、素直で感情的な怒り声。

 

 正直なところ地位に伴う様々な事情に縛られて、今この場にいることさえ厄介な立場になりかねない二人としては、「気楽でいいな」と下手な皮肉の一つも返してやりたくなるのだが。

 逆にここまでストレートに感情だけで怒鳴られると毒気を抜かれて苦笑するしかなくなってしまう、地位もあれば立場もあり自由な発言をすること事態が難しい二人であった。

 

「どうやら、集音性能は高いようだ」

「みたいだね」

 

 苦笑しながらも不愉快そうではない、ユニオン軍の将来を背負って立つ二人の軍関係者。

 

 ――そこに“第三の男”からの声が静かにかけられる・・・・・・。

 

 

「お褒めいただき感謝いたします。グラハム・エーカー中尉、ビリー・カタギリ技術顧問殿。

 フラッグを開発したユニオン軍にその人ありと謳われたお二人から、フラッグを猿まねしただけの機体に“集音機能だけでも賞賛の言葉を賜れた”と聞けば、我が軍の技術開発部の連中は喜びのあまり感動の涙で溺死するものが続出することでしょうからな」

 

 

 背後から聞こえてきた聞き覚えのない声に「はっ」としながら振り向かされた二人。

 

 

『げげッ!? ま、まま、マイントイフェル大佐殿ッ!? どど、どうしてここに!?』

 

 彼らとは対照的に、その人物についての情報をイヤと言うほど思い知らされているイナクトのテストパイロット、パトリック・コーラサワー少尉がビビったように声を上げているのが聞こえてきたことでグラハムは、記憶の図書館から目当ての人物について書かれた本を見つけだすことに成功したが、謎の人物の正体を暴き立てるより早く本人自身の口から敬礼とともに真相について語られてしまった。

 

「ワルター・G・F・マイントイフェル大佐であります、お二方。お初にお目にかかります。以後、お見知りおきの程を」

 

 爽やかな微笑みとともに、誰一人マネしようがないほど完璧な形で敬礼を行い、二人の仮想敵国軍人たちに対して笑いかけてくる青年将校。

 金髪碧眼で、純粋なゲルマン系の見た目を持ち、戦傷によるものか頬に深く大きな傷跡がついていながらも精悍としか呼びようのない彫りの深い美麗な顔立ちをしており、やや時代がかったクラシックなデザインの特別軍服がよく似合う。

 

 これだけ条件がそろった中で名前まで出されたからには、仕事人間で自分が夢中になれる分野にしか興味を示そうとしないビリーにも相手が誰なのかぐらいは察しがつく。

 

「ワルター・G・F・マイントイフェル大佐・・・。

 OKRの俊英にして、AEU新貴族の筆頭か・・・」

「その呼ばれ方はあまり好きではありませんな。

 我が国は自由と国民主権を謳う民主主義国であって、時代錯誤な貴族制をしく専制国家に鞍替えした公式記録は存在しませんのでね」

 

 ビリーが思わず漏らしてしまった嫌悪感混じりの呟きに対して、相手は軽く肩をすくめると、わざとらしく韜晦してみせる。

 

 よく言う、と思わなくもなかったが、言ってること自体は事実ではあるので、それ以上この話題に深く突っ込む意思はビリーにもない。

 

 

 ・・・ワルター・G・F・マイントイフェル大佐。

 近年になってAEU各軍より選良のみを選抜して新設された参謀チーム『OKR』に所属する参謀長。

 通常の参謀本部とは別組織としか思えないほどの絶対的な権限を行使できることから『新貴族』と陰口をたたかれている、軍中枢近くの特権階級に属する一員。

 

 近年まで、他の二大国に後塵を拝してきたAEUが急激に差を縮めてきている要因と目されている新貴族の筆頭である彼の名は、研究一辺倒のビリーでさえ耳にせざるを得なくなっている。

 

 

 その彼は二人に対して好意的な笑顔で笑いかけた直後、打って変わって厳しい表情と口調で眼前のモビルスーツから間抜け面をさらし続けていたパトリックを激しく叱責する。

 

「コーラサワー少尉! デモンストレーションとはいえ、任務中である! 私語は慎みたまえ! 出戻りさせられたいのか!?」

『はっ!? はっ、ハッ! 了解であります大佐殿! AEUのエース、パトリック・コーラサワー、今すぐデモンストレーション任務へと戻りまっス!!』

 

 大慌てでコクピットの中へ転がり込むように戻っていったイナクト・パイロットの姿に毒気を抜かれた体で、ユニオン軍から来ていては不味い一人と、ギリギリ黙認してもらえる一人は一時の混乱を脱して、普段の不敵さと大胆さを取り戻していた。

 

「・・・しかし、いいんでしょうかね? OKRの若き英才がこんな場所で仮想敵国の軍人と技術顧問相手に話しかけていても。

 僕の友人と同じような理由で、上の人たちとかから睨まれるのでは?」

「無論、問題はありません」

「・・・・・・」

 

 友人相手には通用した軽い皮肉をアッサリと肯定で返されてしまったビリーは、思わず続けるはずだった言葉を言えずに口ごもると眼鏡を少しズリ落ちさせる。

 

「会場には正規の手順を守って入場しておりますし、VIP席の移動と歓談は基本自由と明記されておりますからな。法的に見てなんの問題もありません」

 

 相手の返事を聞いて、思わずビリーとグラハムは「そういう問題ではないだろう・・・」と、彼ららしくもないブーメランな感想を心の中で抱いてしまって口には出さずに仕舞いこむと、思わず納得させられてしまっていた。

 

(なるほど・・・噂に聞く人物像通りの男らしいな・・・。この実直さと裏表がなさ過ぎる部分は嫌いではないが、しかし・・・)

 

 グラハムは心中でつぶやきながら周囲を見渡し、AEUの礼服をまとった幾人かの高級将校たちから向けられる非好意的な視線を独占してしまっている事実を確認して溜息をつかざるを得なくされる。

 

(・・・私も自分のことを組織の中では生きづらい人間だと自覚していたのだがな・・・。彼を知った今では幾分かマシなのではと思えてきているのだから不思議なものだ。

 まさに、上には上がいる者・・・いや、この場合は下には下と表現する方が正しいのだろうか? なんにせよ難儀そうな男と知り合ってしまったものだ・・・・・・ん?)

 

 今まで出会ったことのないタイプの特異な相手の言動に振り回されてしまい気づくのが遅れたグラハムだが、そこはやはり彼もユニオンを代表するフラッグ・ファイターだ。

 “異音”に対して抱く危険への感知能力は伊達ではない。

 マイントイフェルも同じように、目の前で見つめていた相手の頭を通り越した雲の先にある一点を、先ほどからジッと見つめ続け、睨み続けている。

 

 二人と違い、戦場経験のないビリーには空気の振動に乗って遠くから聞こえてくる「キィィィン」という既存の機体では聞くことがないはずの特殊なエンジン音を感知することは出来なかったが、それでも目視できる距離にまでモビルスーツが接近してきたら流石にわかる。

 

「モビルスーツ? スゴいな、もう一機新型があるのか・・・」

「・・・いや、違うな」

 

 グラハムが否定して、マイントイフェルが補足する。

 

「AEUの機体とは系統が異なりすぎたフォルムをしている」

「それに、別の新型機を造り出せる技術力が我が国にもあればフラッグの猿まね機など必要とはしなかったでしょうからな」

 

 グラハムはともかく、マイントイフェルからの返しには少しだけムッとさせられながら、それでもビリーは技術者としての本能に従って、新たに現れた謎の機体を観察しはじめていく。

 

 折しも、近くの席に座っていたAEU軍の将校がイナクトに向かって呼びかけているのに通信がつながらないという情報を、偶然にも聞こえる位置にいたため耳にしたことにより、ますます彼らの興味は新たに表れた機体に集約されていく。

 

 

 その機体の背部から吹き出す光の粒子を見て、グラハムがつぶやく。

 

「・・・あの光は・・・」

 

 

 その機体が持つ偏った装備を見て、マイントイフェルがつぶやく。

 

「・・・長銃身の射撃武装がない。シールドに付いた巨大な剣から見ても接近戦用の機体だな。

 援護射撃もない中で切り込み役だけが突っ込んでくるとは思えん・・・ならば本命は“アレ”か・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光の粒子を舞い散らせながら、天より降りてきた天使のような機体。

 そのコクピットに座りながらパイロットの少年は、努めて感情を悟らせないような冷たい声と表情で機械的に自分に与えられた『役割』に基づく言葉を、誰一人聞くものもいない狭苦しいコクピットの中で独り言のようにつぶやき捨てる。

 

「・・・24008、エクシア、目標値点に到達。GN粒子の散布を終結する。目標対象視認。

 予定通りファース・フェイズを開始する」

 

 つぶやきながらも、敵がこちらに合わせて接近戦用兵装ソニックブレードを抜き放ち、刺突の姿勢で突き込んでくる光景を、静かな瞳で見つめながら。

 

「・・・エクシア、目標を駆逐する」

 

 機体を操作して敵の攻撃を躱し、盾にラックされた巨大な剣を構えさせると同時に切り上げることにより、得物を持った相手の手首から先だけを切り飛ばす。

 次に、手首から先を失った左腕、ライフルを持った右腕、最後にメインカメラのある頭部を切り飛ばして地面に転ばし、機体本体もバランスを失って転倒を余儀なくさせられるのを黙って見送る。

 

 

「――失礼!」

「なにを・・・っ!?」

「失礼だと言った」

 

 あまりの圧倒的性能に見惚れていたグラハムが、ハッとなって我を取り戻すと前の席に座っていた見知らぬVIP客が双眼鏡を使って謎の機体を眺めていることに気づくと強引に借り受け機体を見る。

 

「・・・ガン、ダム・・・? あのモビルスーツの名前か・・・」

「ガンダム・・・」

 

 機体に意識と心を引き寄せられ、呆然と見つめ続けるしかない二人のユニオン軍人。

 だが、それ故にこのとき彼らは自分たちの隣から、“あの男”の姿を消していることに気づくことができず、その理由についても深く考えることはついぞなかった。

 

 そこが彼と彼らの違いであり、明確な差だったのかもしれない。

 このとき彼は、会場内に設置されていた電話機にとりついて、とある場所と通話をしている最中だったのだから。

 

「エクシア、ファース・フェイズ終了。セカンド・フェイズに移行する」

 

 つぶやいて、再び光の粒子をまとわせながら空へと向かって機体を飛翔させていくパイロット。

 それを追って追撃するため、次々と飛行場から出撃していくAEUヘリオンの飛行形態部隊。

 

 

 その光景を、遙か頭上の天高く大気層の上から見下ろしていた輸送艦からの作戦指揮の下、謎の機体はAEUが保有する軌道エレベーターに接近して防衛部隊と戦闘を開始。

 

 本来、条約によって戦力を入れてはならないとされているピラーの中からも迎撃部隊を出撃させて謎の機体を落とそうと試みられていたのだが、その姿を彼の遙か下方から見上げていた彼の仲間は賞賛の言葉とともに楽しげに笑って全機撃墜することになる。

 

 これにより、『デモンストレーションに乱入して暴れ回った機体で戦力をあぶり出し、AEUが条約で規定されている以上の軍事力を保有していると世界に知らしめる』ことを目的とした《私設武装組織ソレスタル・ビーイング》が世界に変革をもたらすために始めてしまった戦争。その最初の作戦を成功裏に終了して終わる。・・・はずだった。

 

 

 だが、しかし。

 彼らが立てて実行に移した大いなる計画は、彼らが知るよしもない場所と理由により巨大な歪みという形で最初の第一歩目から狂わされていたのだという事実を、作戦遂行中の彼らは誰も知らない。

 未来で失敗に終わったことが明かされることなど今を生きる誰にもわかるはずがないのだから――。

 

 

 《エクシア》という名の機体に乗った少年パイロットが軌道エレベーターに向けて機体を接近させていたのと丁度同じ頃。

 

 軌道エレベーター防衛司令部と、デモンストレーションに選ばれた会場の電話機との間でこのような会話が交わされ合っていたことなど、彼らは誰一人知ることが出来なかったのだから・・・・・・。

 

 

「――条約で規定されている定数通りの、軌道エレベーター守備隊だけで対応しろだと・・・? どういうことかね、マイントイフェル大佐。

 AEU参謀本部の俊英と名高い貴官の言葉とも思えんが・・・どうしたのかね?」

『情報が足りません。ユニオンフラッグの猿まねとはいえ、我が軍の最新鋭機イナクトが圧倒されるような敵が相手では、ノコノコと迎撃のため出撃していった挙げ句、一方的に撃墜されて我が国が条約違反の戦力をピラーの中に隠していたことを世間に知らしめるだけで終わらせられる可能性が大きいかと』

「あれほどの機体が量産できるとも思えんが・・・」

『逆であります、基地司令官殿。あのような機体をデモンストレーションを襲撃するためだけに使ってきた敵が同じ物を一機だけしか保有していないなどと言う幻想は捨て去るべきだと小官は愚考いたしますが?』

「ぐ・・・」

『それに敵の目標が軌道エレベーターそのものである場合には、ピラーにある戦力を出撃させた程度では、どうせ防ぎきれません。あの巨大建造物の脆さをお忘れですか? 一発でも高威力の攻撃を中心部近くに当てられただけで倒壊してしまいかねない守るには脆すぎる巨大塔です。

 守れもしない物を無理して守ろうとするより、ここで世界に我が国の国防機密を知られる危険性をこそ回避すべきでしょう』

「・・・・・・」

 

 確かに相手の言うことには一理ある。むしろ軍事的に考えた場合にはまっとうで正しかろう。

 本気で軌道エレベーターを壊す気できた敵ならば、演習場を襲って派手にこちらの注意を引きつけてから本命を攻撃しに来るバカな行為などするわけがない。

 まして自分たちは奇襲されている側。奇襲を仕掛けてきている敵の情報など何一つ知ることは不可能な以上、あの機体が後どれぐらいあったとしても可能性だけを考慮するなら不思議ではない。

 

 ・・・だが、彼の意見は正しいが故に防衛基地司令官にとって絶対に突っぱねなければならなかった。そうしなければいけない理由が彼にはあったからだ。

 

「この軌道エレベーターは、AEUにとっての要なのだ! たとえ僅かと言えども危険が迫っているなら全戦力を以て迎撃して守り抜くことこそAEU軍人の使命なのだ!」

 

 成り上がりで前線暮らしの苦労も知らない若造に、これ以上デカい顔をさせてなるものかという意地が、基地司令官に覚悟と決意を与えていた。

 そうでなくとも最近のAEU軍は、古き良き秩序が失われ始めており、その象徴とも呼ぶべき【総統の息子たち】新貴族の筆頭に借りを作ることなどAEU軍人として許されることでは決してない。

 

 

(いざとなったら私一人が詰め腹を切れば済む!

 たとえ死すとも、AEU軍人の誇りと魂を守り抜く一助となれるのなら本望である!)

 

 

 ――その様に彼は考えていた。自分のやろうとしていることがAEUという国にとって、どれほど政治的不利をもたらしてしまうのかなど考えようともせず。

 

『政治は政治家がやるべきこと』『軍人が考えてなければならぬ事ではない』――そう信じ切って疑わない、前線暮らしが長すぎて外交感覚が錆び付いてしまった老将の瞳には、自分の担当する戦域での勝利と、自分たちが属する軍隊を正常に戻すことだけしか映っていなかったのである・・・・・・。

 

「忘れないでくれたまえ。OKRの参謀とはいえ、前線指揮に口を出す権限はないはずだぞ? 弁えたまえ」

 

 傘にかかって止めを刺したつもりでいた基地司令官の心と未来に、退路を断つ止めの一言が返事として帰ってきたのはこの次の瞬間のことである。

 

『おや、まだ基地指令はご存じありませんでしたか。

 先日のことですが、大統領閣下より【ライセンス】を拝領いたしました。小官には今後、命令権とまではいかずども、AEU軍に属するあらゆる部隊の指揮に口を出す権限が公式に与えられたのです』

「な・・・にィ・・・・っ!?」

 

 喘ぐように老将は叫んでいた。自分たち古参の将校たちへ命令する権限が、この生意気な若造に与えられたという現実がどうしても受け入れられなかった。

 

『今の時点で既にライセンスは有効です。・・・とは言え、特権乱用は小官の望むところではありません。出来ますなら閣下には、閣下に与えられている規定通りの戦力だけで職務を全うしていただけるよう願うばかりでありますが・・・如何でしょう、閣下。返答は如何に?』

「・・・・・・ヤー・ヘルコマンダール。了解したよ、マイントイフェル大佐・・・すべて貴官の言うとおりに従おう・・・」

 

 苦渋の呻き声とともに返された返事に気をよくした相手は、軽くねぎらいの言葉をかけて電話を切り、基地指令はしばしの間しゃべることも動くこともせず沈黙したまま時を過ごし、おそらくは最後になるであろう命令を部下たちに下した。

 

「・・・総員出撃せよ! 軌道エレベーターに接近しているアンノウンをなんとしても落とすのだ! ピラーに伏せてある兵力も出せ!

 たとえ一機残らず撃墜させられようともAEU軍人の誇りと魂を後に続く者たちに残すため、必ずやこの敵だけは落としてみせねばならんのだぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

 

 怒号する基地指令の言葉に熱狂的な叫びで大勢の中年士官たちが応じて、自分の機体に飛び乗りながら我先にと空へ向かって飛び立っていっていた頃。

 

 演習場に備え付けられていた電話機に受話器を戻すとマイントイフェルは、別の場所へ電話をつなぎ即座に返ってきた返答に用件のみを手短に伝える。

 

「私だ。今の会話は録音していたな? SSを出動させ、迎撃部隊が全滅させられた後、基地司令以下全員を逮捕するのだ。容疑は『国家資産を私的流用しての反乱未遂』。

 ピラーに隠されていた戦力は、彼ら現体制に不満を持つ一部過激思想を持った将校たちによるクーデターのため横流ししていたという証拠を作ることも忘れるなよ。――行けッ!」

『ハッ! 了解であります大佐殿! ジーク・ハイル!!』

 

 

 

「世界大戦の過ちを経て、百年以上の時代を閲しても尚、前線にはあのような輩が蔓延り続けているのか・・・。

 やはり誰かが変革をしてやらねば、人も時代も世界も変われんと言うことかな・・・。そう、誰かが・・・」

 

「その為にも、役に立つがいい《ソレスタル・ビーイング》。

 そして、《イノベイター》。

 戦争と大艦巨砲しか取り柄のない、無能きわまるサルどもよ。

 人類の変革、戦争根絶、世界統一、世界平和・・・それらを免罪符として否定し合い、殺し合うことしか知らぬ時代錯誤な劣等人種どもよ。

 せめて、変革という名の血の色をした夢を見ながら、目覚めることなくヴァルハラへと旅立つがいい。

 子供の見る夢は、夢のままで終わるからこそ美しいままでいられるものだ。現実世界に覚醒させてはロマンがなくなる。

 アウフ・ヴィーダーゼン」



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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。11話

お待たせしてゴメンナサイ!『シロッコSEED』更新です! 一度書き上げてから書き直してたせいで時間かかってしまいました。他の作品も出来るだけ急ぎま~す。


「久しぶりに感じる、地球の1G重力か・・・」

 

 《オペレーション・スピットブレイク》実行の前準備であるパナマポート攻略のための戦力集中を偽装する一環として、我々クルーゼ隊を乗せた状態でローラシア級から射出された降下ポッドの中で、私はそう独りごちた。

 

「・・・不愉快だな、この感覚は・・・。

 まるで年老いた母親の妄執が宇宙を汚す物の怪と成り果て、母の元を巣立っていった子供たちに忘れられまいと体内へ引きずり戻そうとしているように感じられる・・・」

 

 私はこめかみの辺りに感じた頭痛に手を当てながら、そう慨嘆せずにはいられなかった。

 コズミック・イラの世界にパプティマス・シロッコとして生まれ変わった私が転生特典として与えられていたニュータイプ能力が言わせる言葉である。

 

 天才ニュータイプ青年、パプティマス・シロッコとして生まれかわった私は地球の自然から生まれたナチュラルであり、宇宙で生まれ育ったコーディネーターではない。

 『Define』のシロッコと同じく、ザフト軍に入隊するため地球にいた頃の記録は抹消済みとは言え、せっかく里帰りした地球だ。何かしら思うところはないものかと期待していたのだが、一度も地球の土を踏むことなく嫌悪感から入らされるとは残念でならない。

 

 ガンダムSEED世界特有の、地球を取り巻く自分より優れた者たちへ向けられる嫉妬と憎悪。

 それら醜い負の感情は、私がいた頃より深みと暗さを増したように感じられた。

 それが不快さとなって私のニュータイプ能力を悪い意味で刺激したのだろう。

 

「凡人が自分より優れた者の才能を妬むのは仕方がない、許せる。人がやることなど所詮そんなものだと、笑って流せるのが天才であるべきだからだ・・・。

 だが、クズは必要あるまい? まして、天才の足を引っ張ることしかできず、優れた人の存在を冒涜する以外になんの存在価値もないクズ以下のムシケラは粛正される運命にあらねばならんのだよ・・・・・・」

 

 私はそのような価値基準のもとでコズミック・イラの世界を今まで生きてきた。

 どうやら原作シリーズにおいてエース級ニュータイプでありながら、一度たりとも地球に降りたシーンを描写されなかったシロッコの肉体と地球の相性は良くないらしい。

 

「所詮、『木星の重力によるプレッシャーでニュータイプ能力に開花した青年』パプティマス・シロッコに、地球の重力は必要なかったと言うことか・・・・・・」

 

 そう結論づけると私は瞼を閉じ、機体が地上へ着陸するのを大人しく待つことを選択した。

 大気層を抜ければ見えてくる、青く眠る太陽系唯一の水の星の情景に夢を抱く気持ちは、今の私から完全に消え去って遠い刻の果てに流されついた後だったから――。

 

 

 

 

 

 

「お願いします隊長! アイツを追わせてください!!」

 

 ・・・今日何度目になるか分からぬイザークの叫びが、室内に響き渡る。

 隊長および副隊長に与えられている細やかな特権として、愛機の搬送作業は整備班にやらせ赤服のエースたちより先にブリーフィングルームへと赴くことを許されている私とクルーゼだったが、流石に今回だけは上位に立つ者としての義務と特権が相関関係にあるものなのだと基本的な認識を苦々しく再確認せざるをえない。

 

 なにしろ、我々より先に到着して上官たちの着任を待ちわびていたらしい部下からの数ヶ月ぶりに聞かされた第一声が『ストライクおよびアークエンジェル追撃命令継続の嘆願』・・・と言うより『要求』だったのだからな。

 傲慢なきらいがあると自覚している私たち二人でなくとも不愉快な再認識を余儀なくされざるをえんだろう。こういう時だけは連合の上意下達な軍隊のあり方が羨ましく感じられるのが二重の意味で腹立たしい。

 

「イザーク・・・、感情的になりすぎだぞ?」

「ですが・・・っ!!」

 

 隊長であるクルーゼが、やんわりと窘めてやるが通じない。尚も自分の意見の正しさを信じて我を通そうとしてくるイザークには、さすがに我が性悪な友人も呆れ気味な態度になってきている。

 

 ・・・遺伝的に優れた能力を持って生まれたコーディネーターのみで構成された軍隊であるザフト軍には、厳密な階級というものが存在しておらず、隊長や艦長などといった役職のみが組織としての建前で特権を与えられているに留められている。

 基本的に知的レベルの高い軍隊であるザフト軍は、上官の命令に従うだけでなく、兵士たちが現場で独自の判断を下すことが許されている・・・・・・そういう名目が、連合の階級社会に対抗するためにも平等を謳うコーディネーター国家プラントには存在しているからだ。

 

 原作におけるこの後に展開、パトリック・ザラの暴走とジェネシス発射と、ギルバート・デュランダルへの盲信ぶり。

 さらには『お国の命令だから』『勝つために必要だから』と免罪符を口にし続けるしか能がなくなった『能力は高いが自分で考える頭を持たない木偶の群れ』に成り下がった近未来のザフト軍を知る者としては失笑ものでしかない建前だがな。

 表向きの意味しか無い規則だからこそ、表向き守ってやらなければならん義務が存在する。ワガママ放題で育った子供には、それが分からんらしい。

 

 

 そろそろ私がヒール役を買って出て仲裁に入ってやろうかと考え出した頃、ちょうどいいタイミングでブザーが鳴り、部屋の外から「失礼します」と声がかかると扉が開かれる。

 

「アスラン・ザラ、ニコル・アマルフィ、入室いたしま・・・イザーク!? その傷・・・」

 

 入ってきたのは、機体の搬送作業を終えたらしいアスランとニコルだった。

 家柄自慢で、能力自慢でもあるイザークにとって両方共に自分より一段上に位置し続けてきた過去を持つアスランは意識せずにはいられぬ相手。

 彼の顔を見た途端「・・・フンッ!」と鼻を鳴らしてそっぽを向くと、先ほどまで威勢良く吠えていたのが嘘のように黙りこくって静かになってくれた。

 

 その光景を見て、私とクルーゼは同時に心の中だけで冷笑を閃かせていた。

 

 ――無能者めが・・・と。

 

 フィクションではなく現実の人間がやることとして、イザークの愚考と愚行を目の当たりにしてしまえば、そう思えてくるもの致し方あるまい。

 

 そもそも、コーディネーターが生まれつき能力面で優れている事実を認めようとしないナチュラルの頑迷さを口汚く罵っていたのは、他の誰でもない彼だったのではなかったか?

 強がっているから、自分の言った言葉が行動を裏切ってしまっていることに気づけなくなるのだよ。俗人が、語るに足りん。

 

「傷はもういいそうだが、彼はストライクを討つまで痕を消すつもりはないと言うことでな」

 

 クルーゼが事情を知らぬアスランとニコルに説明してやる。

 さて、これで参加者全員がそろったと言うわけだ。ようやくクルーゼ隊として次の作戦を前に行動方針を決めるための会議が始められるな。やれやれだ。

 アーガマを見ていても思ったことではあるが、子供のワガママに付き合わされる大人としては迷惑で仕方がない。これがイザークではなくカミーユであったなら、最強ニュータイプ能力に考慮して我慢もしてやれたのだがな。ストライク相手に常勝ならぬ常敗続きのイザークでは苦行にしかなれん。全くもってやれやれだよ。

 

 

 

 

「――『足つき』がデータを持ってアラスカに入るのは、なんとしても阻止せねばならん。

 だが、それは既にカーペンタリア基地のモラシム隊長の任務になっている」

「我々の仕事です! 隊長! あいつは、最後まで我々の手で!」

「私も同じ気持ちです、隊長!」

「ディアッカ・・・」

「ふん! 俺もね、さんざん屈辱を味あわされたんだよ! あいつには!」

 

 事務的なクルーゼの説明に対して、再び感情論で隊としての行動を決めさせようと論陣を展開してくるイザークとディアッカ。

 常は皮肉屋なディアッカでさえ感情的になっている事実を前に、ニコルでさえ驚いて彼を見つめ、その視線に気づいた彼が顔をしかめる。

 

 ・・・敗北と失態続きで自らに科した冷静な皮肉屋という仮面すら維持できなくなったか・・・負の感情丸出しで喚くしかなくなったプライドだけは高い子供というのは哀れなモノだ。

 

「無論、私としても諸君らと気持ちは同じなのだがね・・・」

 

 クルーゼが表向き血気にはやる若い部下たちの勇み足に同調して見せてから、私に対して配役を振って

 

「シロッコ、君はどう思うかな? 隊長として部下たち全員の意見を聞いておくためにも、副隊長である君の意見も拝聴しておきたい」

「無論、私も個人的感情としてはイザーク達と同様だ。一度補足した獲物を取り逃すことはプライドが許さない。

 『足つき』追撃任務と言う名の役割は我々に与えれたものであり、一度ならず二度までも与えられた役割を演じきることなく途中退場させられるなど余りにも不快すぎるからな」

 

 私が即答で断言して返すと、イザークとディアッカが「我が意を得たり」とばかりにニヤリと笑って、敵にキラがいる事を知っていてニコルがまだ殺されていないアスランは不満そうに顔を歪めながら沈黙を貫き、原作通りニコルは特に何も意見しない。基本的にイエスマンなのが彼だからな。求めるだけ無駄な役割というものもある。

 

「『足つき』を落とすのは我々の仕事だという信念には、私も固く確信しているところである。

 ――が、それを決めるのは我々の仕事ではなく、もっと権限を持つ軍上層部がやるべき仕事だとも思っているのでね。私情と公の立場に揺れて判断が難しいところだな」

 

 即答に続く言葉で一瞬前まで良かった表情と機嫌を一気に急降下させるイザークとディアッカ。対照的にホッとしたように安堵の吐息を漏らすアスラン。

 子供らしく素直な反応で、結構なことだ。

 

「我々軍人は組織の決めた命令に従う義務がある。国内最大最強の暴力機関としての側面を持つ我々が規範を超えて恣意的な行動を取ることは許されるべきでは決してない。個人的感情を理由として無名の師を起こし、無辜の民衆を傷つけてしまうなど許されざる蛮行だという認識は良識ある諸君らにとって言われるまでもない常識であると確信しているところだが如何に?」

「「・・・・・・」」

「とは言え、戦いというモノは非常なものであり、軍人は常に最悪のケースを想定して動かなければならない以上、二の手、三の手ぐらいは用意しておくのが当然の義務だと私は考えるが・・・どうかな? クルーゼ」

「ふむ?」

 

 私からのわざとらしい反問に、友人もまたわざとらしく顎に手を当て考える素振りをして見せた後。

 

「つまり、モラシム隊長が敗退した場合に備えて後詰めの任を我々が担う・・・そういう解釈で合っているのかな? 我らが聡明なる天才参謀シロッコ副隊長殿」

「まさにご慧眼であります、クルーゼ隊長殿。小官としましても説明する手間が省けて助かりました」

 

 わざとらしい小芝居を終えた私たちの見つめる先で、四者四様に打算と思惑と気遣いが入り交じった表情を浮かべ合っている四人の少年パイロット達。

 今更過ぎると自分でも思うのだが、SEED以降のガンダムパイロット達は感情が顔にストレートに出過ぎなのではないだろうか? デュランダルやヒイロ・ユイ、刹那・F・セイエイなどは逆に表情が変わらないまま中身の感情が揺さぶられすぎていたしな。平成ガンダムの少年パイロット達はカミーユとは違った意味で情緒不安定な者が多いようだな。

 

「無論、私個人としても諸君らと同じ想いを共有している。だが、シロッコの言にも一理ある。

 スピットブレイク準備もあるため私は動けんが、そうまで言うならモラシム隊長が敗退したのを確認するまでは攻撃をしない、という条件を守ってくれるのなら、君たちだけで後詰めの任務を許可されるよう上申しておくが、どうかね? やってみるかね?」

「はい!」

 

 気負い込んでイザークが言うのを聞いて、私は唇を歪めたように笑いを浮かべて軽く揶揄しておく。この忙しいときに原作にない騒動でも起こされたら堪ったものではないのでね。

 

「“今度は”撃たれる前に撃つのは控えてくれよ、イザーク。さすがに私も現場にいなければ、非武装の脱出用シャトルを完全武装した軍隊が撃ち殺すなどという許されざる蛮行を止める術など持っていないのでね」

「・・・!! アレは! あの時はただ・・・っ」

「ただ、何かな? 弁明があれば聞かせてもらいたいな。混戦になったドサクサで民間人を虐殺し損ねてしまった決闘の名を持つモビルスーツのパイロット君」

「~~~っ!!!」

 

 悔しげに歯がみするだけで言い返してこようとはしないイザーク・ジュール。

 原作でキラのトラウマにもなった、あの折り紙で作った鶴の女の子のシャトルの事を引き合いに出して牽制に使わせてもらったのである。

 折角助けてやった命なのだ。有効利用して他の人を無駄に死なせないよう役立たせないのは勿体ない。私に残った元日本人の“おもてなし精神”が魂の底からそう叫んでいるのだよ。

 

「フフ・・・そう虐めてやるなよ、シロッコ。――しかし、そうだな。イザークは勇敢で優秀だが前科もあることだし、今回の指揮はアスラン。君がとってみるかね? イザーク、ディアッカ、ニコル、アスランで結成された隊の指揮を」

「――え!?」

 

 出し抜けの指名にアスランが動揺して二の句がつけなくなり、「い、いえあの、俺は――いえ私などではとても・・・」とどもった末に、咄嗟の判断によるものか一番妥当で無難な責任回避方法を選択して私の方へと向き直る。

 

「わ、我がクルーゼ隊には他の隊と違ってシロッコ副隊長がいらっしゃいます! クルーゼ隊長が不在の折には副隊長であるシロッコ副隊長こそが尤もその任に堪えうるものと愚考する次第であります!」

「ほう、そうかね? 私としては君にも十分すぎるほど将器と才幹を感じていたのだがね・・・。

 まぁ無理強いするものではないし、言っている主張も道理ではある。どうかな、シロッコ? アスランもこう言ってくれていることだし君が再び隊の臨時指揮を執ってみるかね?

 私としても君なら信頼して隊を任せられる。君がやるはずだった書類仕事の方は、多少キツくはなるが私一人で担ってしまっても構わんが?」

「尊敬し敬愛するクルーゼ隊長殿から直々のご指名を賜り恐悦至極に存じますが・・・辞退いたしましょう。今回ばかりは私にその任務は務まりそうにありませんからな」

 

 私からの返答が意外だったのかアスランは表情を引きつらせ、逆にディアッカは面白いものを見つけたとでも言いそうな顔で傘にかかったように言ってくる。

 

「へぇ? クルーゼ隊では上官の命令に、部下が異議を唱えてもいい風に規則変わってたんだ? それともそれが、ザフト軍でただ一人の副隊長様特権ってヤツなわけ?」

 

 からかうように言ってくる子供の悪口に、私は白い歯を見せて笑いながら少しだけ教育してやろうと答えを返す。

 

「当然の判断だよ、ディアッカ。なぜなら私には今回、オペレーション・スピットブレイクで使用するつもりで持ってきた、ハンドメイドの大気圏内飛行可能新型モビルスーツを地上でも性能テストをおこなうようザフト軍本部から直接通達が来ているのでね。

 軍人たる者、直属の上官からの命令や親友からの頼みよりも上からの命令を優先して従わなければならんものなのだよ。それが宮仕えの悲しさと言うものだからな。やれやれさ」

「・・・っ!! へぇ・・・噂の天才技術者様が造った新型機ってヤツは、宇宙で散々テストした後でも地上に持ってきたらまたテストしなくちゃ危ないような代物なんだ。そんなので本当に大丈夫なのソレ?

 現場のパイロットにとっては戦場でモビルスーツだけが頼りなんですけども~?」

「ああ、そうだな。だからこそテストには万全を期するに超したことはないのだよディアッカ。

 宇宙で使いこなせていたからと、地上に戦場が変わった後でも問題なく使えると思い込みいきなり実戦投入させ、勢い込んで出撃してみたはよいものの、慣れない環境下でまともに動かすこともできずにノロマなだけの役立たずかお荷物になってしまったのでは格好がつくまい?

 そういう赤っ恥を晒さぬ為にも、出撃前の入念なチェックと調整は技術者として基本中の基本なのだよディアッカ君。君たち現場のパイロットにも理解してもらえると助かる苦労なのだがね」

「・・・・・・っ!!!

 ――チッ!!」

 

 今度はバルトフェルド隊長とキラが戦ったときにレセップス上で晒していた、彼ら二人の赤っ恥体験を引き合いに出して黙らせてやる。

 プライドの高いこの二人が、あの様に無様な醜態を報告書に記すはずもなく、数少ない目撃者で生存者でもあるマーチン・ダコスタたちバルトフェルド隊の生き残りメンバーは、死んでいなかった彼らの隊長を守る形で本国へ帰国中。

 斯くして彼らの犯した過ちは、誰にも知られぬことなく黒歴史として忘れ去られるはずだったわけだが・・・・・・生憎と原作を見ている私にとっては報告書の記述するかどうかなど関係ないのでね。利用させてもらった。

 

 言われた相手にとっては「まさか知っているはずはないはずだが・・・っ」と思い悩みながらも聞くわけにもいかない自分自身の恥さらしな記憶だ。自分の口から直接聞き出せるわけがない。

 ディアッカ、悪く思わんでくれ。そして恨むとしたら自分たち自身が無能なのがいけないのだよ、クククク・・・。

 

 

「他に意見はないようだな? よろしい、では満場一致での作戦案可決と言うことで軍上層部へ上申し、カーペンタリアで母艦を受領できるよう手配する。ただちに移動準備にかかってくれ。以上だ」

 

 クルーゼが放った止めの一言が全てを決して、臨時のクルーゼ隊・・・いいや、アスラン隊が『足つき』を追って動き出す。

 

 目指す場所は『オーブ首長国連邦』。

 キラ達の祖国がどうこうと言うより、バルトフェルド隊が任されていた北アフリカ方面から大西洋連邦の支配領域である南北アメリカ大陸まで直線距離で一番近い道のど真ん中にある国だからな。遠回りをする理由も余裕もないアークエンジェルには他に選択肢と呼べるものが存在しない。

 アラスカのパナマへ向かうためには必然的に通らざるをえない道の直近にある国なのだから。

 

 

 

「さて、私もそろそろ出るとしようか」

「行くのか? シロッコ」

「私に、あの経験不足な若者達を助けさせたいのならそうするべきだ。今の彼らでは『足つき』には勝てんよ」

「・・・上申書には、予定通り新型機の性能テストということで出しておこう。それで誤魔化せるだろうからな。

 機能テストでしかないとして、ついでにディンの一個小隊でも護衛に付けさせるかね?」

「私が試作した新型機一機で済むなら、あんな旧式の空飛びカカシを使って敵に撃墜スコアを稼がせてやる必要はないだろう? まぁ、見ておけ。

 負の感情を丸出しにする度胸もないくせに、理論武装して私情を正当化したがる子供達を死なせないでやるためにも出撃する」

 

 

 

 

「パプティマス・シロッコ、『プロトタイプ・メッサーラ』、出る!!!」

 

 

つづく

 

 

今作オリジナル設定

新MS『プロトタイプ・メッサーラ』

 原作シロッコが使っていたメッサーラを大気圏内でも飛行可能にした可変MS。

 MS誕生から三年と待たずに飛行可能MSが当たり前になる『SEED』および『デスティニー』世界の技術進歩速度を先回りして取り入れたため推力と出力が桁外れに向上している。

 外観的には原作と全く同じ物だが、性能面では比べるべくもない。

 要するにスパロボ世界のメッサーラみたいな機体ということ。

 表向きはアラスカ基地攻略のためシロッコが試作した飛行可能な可変MSだが、実際には細かい位置がわからないキラとアスランたちとが戦う場所を空から探すためシロッコが造った機体の中で相応しいのを造っただけである。

 ただし凝り性なので手は抜いていない。

 天才のプライドが中途半端と妥協を許容しない性格の持ち主である・・・。

 

 

 

*今回はアスランとキラそれぞれに対するケジメを付けさせるため、あえて彼らだけで会わせる必要がありましたので原作展開に委ねましたが、ニコルを死なせることなくキラとアスランを全力で戦わせるため転生シロッコもまた知謀を巡らせております。




補足説明:
今話の中で転生シロッコが《ディン》のことを『旧式の空飛ぶカカシ』と呼んだ理由の補足説明です。

パナマ戦までザフト軍の専売特許だったMSが敵味方共に急激に進化して、SEEDにおいては唯一の飛行可能量産型MSだった《ディン》でさえ次の戦いで時代遅れと化してしまう、ガンダム世界におけるMS開発技術の発展速度の異常さを揶揄した表現。

それと同時にSEED時空では、単独飛行可能なザフト軍唯一の量産機でありながら戦闘面では碌な活躍も出来ずに、救出作業や搬送などの支援ばかりで活躍していた原作描写を指して『戦争用の兵器とは呼べない』との皮肉も込めたダブルニーミングとなっておりました。


*補足説明2
指摘を受けましたので追加解説をさせて頂きます。
今話内でカミーユのことを『最強のニュータイプ』と表記している部分に浮いてです。

どこかの設定資料に『ニュータイプ能力ではカミーユが最強、ニュータイプパイロットとしてはアムロが最強』と記されていた記憶がありましたので採用した次第です。
実際、終盤戦で強敵倒せたのは全部オカルトじみた超能力によってでしたからな…。金縛りとかバリアとかなんだよ、と。

――余談ですが、超能力なしでヤザンに勝てる手段はあるのかと昔から疑問に思い続けている作者のひきがやもとまちでした。


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SDガンダム可笑しなジェネレーション

昨日から仲の良いユーザーの方とネタでやり取りしていた文章が、気付いたら千文字超えてましたので投稿してみました。
ガンダム原作シリーズと、『Gジェネレーション』シリーズを掛け合わせたネタ集ですが、よろしければどうぞ。


第1話『示された返事』

シン「アンタは一体なんなんだァーッ!!」

サーシェス『俺は、俺だぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 

第2話『ガンダムパイロットは大地に根ざせ!』

アムロ「いつか刻が来れば、人は距離や時間も飛び越えて解かり合うことができるようになるさ…」

ブレイブ・コッド「宇宙人どもが! ヒネリ潰してくれるわ!」

 

 

第3話『ポイント・ペズン』

ウッソ「未熟な心に武器は危険なんです!」

ジョッシュ・オフショー「なんだ、この腕は……素人だとでも言うのか!」

 

 

第4話『ダカール演説、強襲!』

シャア「宇宙に出た人の可能性を信じ、人類は地球を巣立つときが来たのだ!」

トッシュ・クレイ「所詮…地に根差さぬ者に真の戦いは出来ん! 母なる地球を離れて、何が出来るというのだ!」

 

 

第5話『見えたくない真実』

アスラン「…撃たれるから撃ち、撃たれたから撃ちかえす…その果てに本当の平和があるのだろうか…」

グエン・サード・ラインフォード「目には目、歯には歯、銃には銃で答える! これが政治というものなんだ…悪く思わないでくれたまえ」

 

 

第5話『逆襲されるアムロ』

アムロ「人類の粛正などと・・・! そんな権利がお前にあるのか!?」

ニムバス・シュターゼン「EXAMに選ばれた者が、全てを裁く!!」

 

 

第6話『セガサターン時代の憎しみ深く』

アイナ「でも、シロー…。なぜ連邦の士官であるあなたがジオン軍の私を助けてくれるの…?」

シロー「ジオンとか連邦とか関係ないんだ。皆で生きて帰るためには助け合わないと―――」

SS版ブルーデスティニー・フィリップ「もらったぁぁぁ! 落ちやがれジオンの一つ目野郎ども!」

シロー「…え~と…あ、ああいう連邦軍人も少しぐらいはいるかもしれないね、うん」

 

 

第7話『宇宙を駆ける屑』

カミーユ「出てくると無駄死にするだけだって、なんで分からないんだッ!!」

ガトー「所詮、貴様とは価値観が違うようだな…下がれ! 私の前に出ようとするな!」

 

 

第8話『スターダスト・ラン』

キラ「僕は誰も殺したくなんてないのにーッ!!」

ガトー「貴様などと話す舌は持たん! 戦う意味さえ解せぬ男に!」

アスラン「俺はザフトの軍人として、お前を撃つ!」

ガトー「それは一人前の男のセリフだ!」

 

 

第9話『消えゆかぬジオンの残光』

ラクス「戦いを止めるため、その手に武器を持つ。それもまた間違った選択なのかもしれません・・・。ですが今は、終わらない負の連鎖を断ち切る力を!」

ガトー「我々の大義のための戦いは、もはや誰にも止められんのだッ!!!」

 

 

第10話『小さな子供の防衛戦』

カミーユ「お前のようなヤツがいるから戦争がなくならないんだ! 消えろーッ!!」

ジュッシュ・オフショー「ちっ・・・その程度の腕で前に出てくるな! シロウトが! ここまでだ!墜ちろ!」

カミーユ「うわぁっ!? こ・・・・・・こんなところで――クソォッッ!!」

ジュッシュ「・・・ちがう・・・俺が求めていた戦いは、こんなものじゃない! 戦争とは一人前の大人同士が戦うもののはずだ! こんな少年たちを戦争に引きずり出すのはおかしい!」



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俺はいつかジェリドとして勝利を手にしたい 第3話

著作の一つのエロ作書いてる途中で今作のことを完全に忘れてしまってたことを今更ながらに思い出しましたため慌てて書かせていただきました。慌ててた割に今回のは比較的うまく出来たほうかなと自画自賛しております(;^ω^)

なお、最近バトル描写が下手になり過ぎる奇病を発症しているため敢えてバトル寸前まで終えておきました。書いてみたら見苦しすぎたものですからつい…改善を急ぎます。


『三号機、聞こえるか。大丈夫だな?』

 

 ガンダムmkーⅡ三号機を強奪して今このときはパイロットになっている少年、カミーユ・ビダンに声が届けられた。

 『お肌の触れあい回線』である。

 見ると慣れない自分を気遣ってか、自分の乗っている機体と同じティターンズ・カラーの無人mkーⅡを反対側から持って飛行している、歴史VTRで見たことのあるジオン軍のドムを彷彿とさせる黒いモビルスーツがモノアイともカメラアイとも表現しがたい大きすぎる一つ目の瞳をこちらに向けてくれていた。

 

「大丈夫です」

『そうか。――もう離していいぞ、後に付いてきてくれ』

 

 そう告げて、二機がかりで持ち上げていたmkーⅡ二号機を自分だけで持って先行する機体の後ろ姿に「はい」と返事をするとカミーユは、彼らがコロニー内に潜入する際の戦闘のどさくさで開けてしまった穴にトリモチだけを張って即興の穴埋めをしてある外壁に開いた穴を潜り抜けて宇宙に出た。

 

「わぁ・・・っ!」

 

 外に出て、カミーユが初めて目にする慣れない生の宇宙の光景は、一言で言って圧巻だった。

 まるで自分たちが生まれた故郷へと還ってきたかのような懐かしさを感じさせられる広漠とした漆黒の宇宙には、カミーユをこんな時であると承知の上で心を弾ませざるナニカがあり、彼は思わず不必要なほどバーニアを強く噴かして機体を加速させ、先をいく三機のエゥーゴ所属パイロットたちの隊長を務める男から振り向きざまに苦笑させていたのだが、その苦笑は途中で緊張をはらんだ警戒へと様相を一変させ、僚機に対して予定されていた指示を飛ばす決定を下させる。

 

「敵の追撃隊が出てきたぞ! アポリー、信号弾だ!」

『ハッ!』

 

 

 

 ・・・こうしてカミーユが、今までの抑圧され続けた日常からようやく解放された自由を得たことへの感慨を感じていたのとは関係なく、エゥーゴによるティターンズ拠点グリプスへの襲撃作戦は第二幕へとその舞台を以降させるため、彼らの背後から後を追いかけて三機のモビルスーツが接近しつつあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たった三機でティターンズの本拠地を襲撃して、一機も失うことなくmkーⅡ二機を強奪していったエゥーゴの新型MS部隊をハイザック三機で追撃か・・・なるほどな。バスクの奴が大盤振る舞いしてくれるわけだ」

 

 俺は、レーダーに補足できる距離まで近づきつつあったエゥーゴの未確認新型モビルスーツ【リック・ディアス】の後ろ姿を望遠映像でズームアップし、まだ胡麻粒のようにしか映し出されないそれを眺めながら肩をすくめずには居られない心境にさせられていた。

 

「体のいい威力偵察だな、これは・・・。バスクの奴め、よくもまぁぬけぬけと放言してくれたものだ」

 

 明らかに捨て駒として使い捨てられようとしている自分たちという状況を顧みながら、俺は上官に対して毒づく気持ちを抑えることができなくなってきていた。

 

 本部ビル倒壊の一件で謝罪に訪れた俺に、出撃を命じたとき奴はこう言っていたものだ。

 

『エゥーゴのMSを全て沈めたら本部ビルの一件は帳消しにしてやる』

 

 ・・・と。

 明らかに一年戦争経験者であろう敵の手腕、追撃のために発進させられたパイロットは俺を含めて実戦経験の乏しい若手ばかりで占められている。

 とどめとして敵の機体は未確認の新型で、こっちは量産配備が完了してから一年以上が経過しようとしているハイザック三機のみ。

 今の時点では、これ以上の性能を持つ機体がないとはいえ、だったら数を出して埋め合わせる工夫ぐらいするのが普通だ。

 数だけ同じであっても質が違いすぎていたのでは互角の勝負とは、とても言えない。機体の性能もパイロットの腕も“今はまだ”相手の方が圧倒的に上なのは確かなのだから・・・。

 

『ジェリド・メサ中尉、無理はするな。その機体に慣れてはいないはずだ』

 

 僚機として付いてきてくれているハイザック・パイロット二人のうち、どちらかがグリプスに着任したばかりで新しい機体に慣れてない新入りの俺を気遣ってか声をかけてくれる。

 

 彼らはグリーン・ノア1防衛部隊の所属であり、俺とは部隊どころか配属先のビルがあるコロニーそのものが1と2で違っていて出撃する前に一度会って少し話しただけの関係ではあったが、それ故かえって彼らに恨みがなく怨恨も感じられない。最初から負けて殺されることを知っている戦闘に巻き込むのには罪悪感が沸いてくる・・・。

 

 なんとかして無駄死にだけは避けさせてやりたいと思った俺は、追いかけている敵部隊の一機(仮にアニメ版の展開ならアポリー中尉機だろう)が、緑色の尾を引く信号弾を発射するところを見てとっさの口実に使わせてもらう詭弁を考えつく。

 

「ティターンズとして、最低限の任務を完了させたい。悪いがここは俺に席を譲って、黙って見ていてもらいたいのだ。頼めないか?」

『しかし、そのハイザックは予備のものを急遽調整し直しただけの代物だ。もともとmkーⅡパイロットの候補としてグリプスに赴いてきたばかりの貴官用に調整したものではない。危険ではないのか?』

 

 フゥ・・・と深呼吸をして、俺は震えそうになる手に力を込めると力を込めて握りしめ、なけなしの覚悟と決意を振り絞ると相手の言葉に最もらしく聞こえるであろう美辞麗句によるごまかしのための詭弁を展開させていく。

 

「いくら腕がいいと言え、モビルスーツ三機だけで敵拠点を襲撃してくるとは考えにくい。足がなくては、行きはよくても帰りは推進剤が足りなくって宇宙の迷子になってしまうのは確実だからな。

 まして、これだけのことをやってのけた連中がMSよりも戦艦の方が推進力が上だという常識を知らんとも思えない・・・」

『!!! 敵の母艦がグリプスの近くまで接近しているかもしれないと言うのか!?』

「もしくは、友軍の旗を掲げている艦の何隻かがエゥーゴに鞍替えする段取りをつけてしまっているかのどちらかである可能性が高いと俺は見ている。

 もともと俺たちティターンズは、連邦正規軍からは嫌われているからな。何も不思議はないさ。連邦の半分はエゥーゴになる可能性を秘めていると考えて行動した方がたぶん安全だ」

『で、では貴官は単機で突入してどうするつもりでいると言うのか? 敵の母艦が近くまで来ている可能性があるなら、罠の中に自分から飛び込んでいく愚を犯すだけではないのか!?』

「だからこそ、俺が先行して敵をいぶり出すための生き餌になれるか試してみるのさ。それをアンタら二人には黙って見ていてもらった観測結果をグリプスにいる大佐に持ち帰ってもらいたい。そうすれば少なくとも無駄死にはならんで済む」

『・・・・・・』

 

 俺の返事に相手は唖然としたらしく、しばらくの間は返す答えを逡巡しているのか沈黙が流れる。

 相手が余計な気遣いをさせすぎてしまわぬうちに、俺は先ほど考えついた取って置きの切り札的セリフを口にして相手が譲歩せざるをえない状況を完成させた。

 

「・・・それに何より、今回のmkーⅡ強奪事件の発端は、俺が自分の腕に驕り高ぶってしまったことが原因で起きてしまったことでもある。ティターンズ隊員としても、一人の男としても責任を取りたいのさ。

 わがままに巻き込んじまって済まないとは思うが、ここは俺に男をやらせてほしい。――頼む」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・了解した』

 

 それなりに長い沈黙を返事の前に置いてから、ようやく相手は答えを返して機体の速度を徐々に落とし始めていく姿がモニターに映し出されていく。

 

『武運を祈る、ジェリド・メサ中尉。観測任務は我々が必ずや完了させることを約束するから、後顧の憂いなく戦ってこい』

「スマンな。生きて帰れたらコニャックの一杯でも奢らせてもらうと約束するよ」

『二杯にしてもらおう。俺と相方で一杯ずつのな。――奢り終えるまでは死んでくれるなよ?』

 

 相手からの言葉で、怖さがぶり返しそうになるを空元気と自信過剰な勢いだけで振り払い、俺は未熟で恐れ知らずな若手士官らしく豪語することで自らの戻るべき退路を断つ。

 

「死ぬつもりはないし、逃げ回りながら撃ちまくっていれば簡単に死にはしないさ。・・・だが、もし死んじまったときには無駄死にはしてくれるなよ?」

『それは誓って約束させてもらう。―――幸運を』

 

 最後の最後に保険としての言葉で締めくくってやると、相手は完全に機体を停止させて遠距離からの観測に集中する構えを見せる。

 それとは逆に、ビーム兵器と違って射程の短さから今の距離まで撃ってこなかったアポリー中尉機らしきリック・ディアスがクレイ・バズーカを構えてこちらに狙いをつけている姿も視認でき、俺は単独で格上のエース三人を相手に生き残れる保証のない勝負を挑んでしまった自分の判断と選択を思わず後悔しかけてしまい、慌てて拳を握りしめて強い言葉を放つことで無理矢理それを胸の内に押しとどめるよう努力する。

 

 

「・・・俺はジェリド・メサだ。惨敗の連続だろうと、戦場で生き延びられてきた男になったはずなんだ・・・こんなところで呆気なく無駄死にする男であるわけがない・・・」

 

 たとえ、何の科学的根拠にもなってくれない、ただ生き延びてきただけで、最終的には呆気なく死ぬ男に生まれ変わっただけだとしても。

 今の俺には『自分は戦場でも生き延びられるのだ』と信じさせてくれる理由として使わせてくれるだけならば、この言葉は他のどんな名言よりも俺を奮い立たせて生き延びるための勇気を与えてくれる! そんな気がしてくれる俺が言った、俺の言葉だ!!!

 

 

「今の俺はジェリド・メサになった男だ・・・だとすれば死ぬことはない。運がよければ死ぬことはないのだから、悪運持ちのジェリド・メサがこんなところで無駄死にするはずがない・・・。

 俺は、いい男になれる素質と、いい男になれるまで戦場で生き延びられる悪運を持った選ばれた者の一員になったはずなんだ! 運命は全て自分の力で勝ち取って手に入れてみせる!

 ジェリド・メサ中尉、ハイザック。前に出る!!!!」

 

 

つづく



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機動戦士ガンダム 死のデスティニー PHASE-4

『死のデスティニー』最新話を更新です。纏められなくて遅れ続けていたんですけど、結局は上手くまとめられませんでした。どうにも下手ですね、私ってこういうの。情けないお話しです(恥じ入り)

*オリジナルキャラクターの設定を書き足し忘れていたので付け足しました。


「クソッ! なんなのだ!? これは! 一体!?」

 

 ザフト軍の、ナスカ級高速戦闘艦《ボルテール》の艦橋に怒声が轟く。

 今では白服をまとう隊長にまで出世したイザーク・ジュールが、オペレーターから伝え聞かされたヘブンズ・ベース攻略戦の戦況に憤り、怒鳴り声を上げていたのである。

 

「味方は何をやっている!? 敵に先手先手を読まれて・・・これでは無駄に損害が増すばかりじゃないか!!」

 

 バンッ!と、掌を戦術モニターを映し出させていた机にたたきつけて大きな音を立てるイザーク。

 傍らに立つ副官と言うより女房役のディアッカ・エルスマンも正直、心情的には上官でもある親友の意見に賛成なのだが、声に題しては諫めなければならない立場でもあり、本心を殺して皮肉じみた諫言のみを口に出す。

 

「・・・つっても、しょうがないじゃん? ここでいくら怒鳴ってみたところで今から地上に助けにいけるわけでもないんだしさ。オレ達はオレ達で、やることやるしかないでしょ?」

 

 彼らは今、衛星軌道上に集結を完了させたザフト軍宇宙艦隊から、ヘブンズベース攻略部隊を支援するためモビルスーツ部隊を降下させるという目的でこの場に来ている。その部隊の降下準備が完了していない現状においては出来ることは準備を急ぐよう指示するだけ・・・それが現実の作戦指揮というものだろう。

 

「その程度のことは言われんでもわかっている! 降下部隊の準備を急がせろと言っているだけだ!!」

 

 親友に対して、先ほどよりさらに大きな声で怒鳴り返してそっぽを向くイザーク・ジュール。

 実際、彼もディアッカに言われた程度のことは理解した上で言った言葉であり、諫めてくれる女房役あってこその“甘え”であった。それが理解できているからこそ、周囲も彼の短気と感情論を受け入れられている。怒鳴り散らしはしても指揮官としての冷静な判断力までは失わないヤツだと解ってくれているから・・・・・・。

 

 

 ――だが、結果的に見てこのとき彼らの下した判断は間違っていたことが、しばらくして判明させられる。前大戦経験者であるイザークやディアッカを含む彼ら全員は、このとき忘れていたのだ。

 

 こちらが敵を滅ぼすため、味方の被害を可能な限り少なくするため準備万端ととのえてから出撃させようと努力している時。

 ――敵もまた、同じことを同じように迎撃準備を余念なく進めているものだという当たり前の現実を、彼らはこのとき一時的に失念していたという苦い現実を・・・・・・。

 

 その油断と思い上がりが、一機残らず全滅させられた降下部隊という分かり易い結果によって彼らに苦い教訓を与えさせられることになるのである・・・。

 

 

 

 

 

 一方、地上のヘブンズ・ベース攻略部隊内においても味方の置かれた状況に憤って叫び声を上げている一人のザフト軍兵士がいた。

 最新鋭機《デスティニー》のパイロット、シン・アスカである。

 

 レイとルナマリアを置いて先に単独出撃していた彼は、デスティニーの圧倒的性能にモノを言わせて迎撃に出てきた敵部隊を次々と撃破しながらヘブンズベース上空へと向かっていた。

 

「クソォッ!! コイツらぁ!!」

 

 ・・・もっとも。彼の場合は一方的にやられてばかりの味方に不甲斐なさを感じる気持ちは微塵もなく、ただただ仲間たちを『身勝手でバカな理由で』殺しまくってくる悪い奴らロゴスと、その手先たちの理不尽な暴力に対しての殺意と憎しみだけがそこにある・・・。

 

 ――この時、彼は自覚していない。

 自分が今戦っている敵からすれば、自分こそがデストロイなのだという事実をだ。

 

 自分たちを追い詰めて、大勢で取り囲んで逃げ道を塞ぎ、「撃て」と命令されたから必死の思いで出撃した自分やや仲間たちを殺戮しながら無傷のままで突き進み、命を捨てて抵抗しても掠り傷一つ追わせられない彼こそが。

 ――敵にとっては『赤い翼を持つ悪魔のような大量殺戮者』でしかない事実を、この時の彼には理解できない。したくない――

 

「もう好きになんかさせるかァッ!!」

 

 右手に持ったMA-BAR73/S高エネルギービームライフルを連射して数機がかりで迎撃に出た敵のウィンダム部隊を羽虫のように落としまくり、多くの犠牲を払いながらも火線を掻い潜り抜けて一矢報いようとした一機を腰部に据えられたM20000GX高エネルギー超射程砲で撃ち貫き爆散させ、通常兵器しか保有しない量産機ウィンダムを独特の軌道を描いて飛来する特殊武装RQM60Fフラッシュエッジ2ビームブーメランで二機まとめて両断しながら、“味方を一方的に蹂躙している黒い巨人を倒すため”先を急ぐ《デスティニー》とシン・アスカ・・・。

 そして、敵に多くの無駄な犠牲を払わせながらもヘブンズベース上空に到着した彼の眼下で、黒色で禍々しい姿をした敵の巨人《X1デストロイ》の圧倒的火力と防御力の前に数機まとめて爆散させられていく味方の最期の姿が目に映る。

 

「コイツぅっ! くっそぉ!!」

 

 自分が出撃した目的――『倒すべき敵』の姿を前にして、彼の感情は激しく燃え上がり激情となる。

 

「お前たちは・・・っ、お前たちも・・・・・・っ!!」

 

 だが、その心にデストロイへの憎しみと怒りはあっても、ベルリンで出撃したときのようなパイロットまでも憎む気持ちはわずかもなく、むしろ哀れみと同情と・・・・・・殺すことでしか救うことができない自分の無力さから来る罪悪感がそこにある。

 

 ――思い出されるのは、ステラ・ルーシェの名を持つ少女。

 ベルリンでデストロイのパイロットだった女の子。自分が『守る』と約束しながら死なせることしか出来なかった悲運の少女。

 遺伝子操作を忌み嫌う連合・ブルーコスモスが、薬やその他の様々な手段を使って作り上げている生きた兵器。戦うためだけの人間。

 一定期間内になにか特殊な措置を施さないと身体機能を維持できなくされてしまった哀れな戦争の被害者たる子供たち・・・・・・。

 

 シンが『守るために』『死なせないために』手に入れた《デスティニー》の力では、『殺すことでしか』守れないし救うことも出来ない『強さが無意味になる存在』・・・・・・

 

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!」

 

 はたして、その罵倒は誰に対して向けられたモノであったのだろうか?

 事実をあらためて認識した瞬間に彼の頭は冴え渡り、激情は一気に冷却されて冷静さを保ちながらも敵への憎しみは失われていない。

 新型エンジンを最大出力で稼働させて、赤い翼状のビーム光を背部にまとわせたデスティニーにMMI-714アロンダイト対艦刀を構えさせる。

 

「こんなことをする・・・こんなことをする奴ら、ロゴス!!」

 

 そして、すべての元凶たるロゴスを討つため、目の前に立ち塞がり彼らを守ろうとする黒い巨人X-1デストロイを倒してでも先へ進む決意を固めさせる。

 

 すべての責任はロゴスにあると信じて。すべての悲劇の原因はロゴスにあると信じて。

 ステラも、ハイネも、マユも、父さんも母さんもみんなみんな、戦争なんかで死ぬ必要のなかった良い人たちが死んでしまったのは、自分たちの身勝手でバカな理由で世界を戦争に巻き込もうとするロゴスこそが・・・・・・すべての原因!!

 

 

「許すもんかぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」

 

 

 叫んで、機体をデストロイに向け加速させるシン・アスカ。

 デストロイ一号機に乗る生体CPUスティング・オークレーが彼に気づいて迎撃しようとするが、如何せん。

 出力と口径が大きすぎるデストロイの射撃武装は迎撃に向いておらず、斜角の自由も利かないため、デストロイと比べれば遙かに小型であるデスティニーには掠り傷一つ追わせられないまま容易に懐の内側へと入り込まれてしまう。

 

 敵が狙いづらいよう急降下しながら接近して、鈍重な敵の目の前まで到達したら逆に急上昇をかけてからアロンダイトを振り下ろす!!

 

 

 今まで積もり積もった行き場のない怒りと憎しみをすべて込めて彼は叫び、斬撃を放つ!

 すべての戦争の元凶であるロゴスを討ち、世界を平和にするために!! 二度と戦争を起こす必要のない平和な世界を築くために!

 今まで払ってきた犠牲を無駄にしない為にも! 戦争で死んでいった人たちの為にも!!

 

 たとえ、その為にデストロイに乗せられた哀れな被害者の少年少女たちを殺すことになろうとも、彼らのような犠牲者を二度と出さずに済むため! 戦争を終わらせるため!! ロゴスを討つのだ!! 絶対に! 何があっても! 誰を倒すことになったとしても!!

 

 

『ロゴスさえ討てば戦争は終わり、平和な世界がやってくる――』

 

 

 ディランダル議長の言葉が彼の脳裏によみがえり、そしてまた――彼は“すがる”。

 

 彼は気づいていない。自分が彼の言葉を『信じたわけではない』という事実に。

 ただ、それが真実なのだと『信じたいから信じただけ』でしかない自分自身の真実に。

 

 正義の味方や神のような人間がいて欲しいと願った彼に、『自分がそうだ』と言ってくれた人がいて。

 

 悪の軍団や魔王のような人間たちがいて、そいつらさえ倒せば世界が平和になるような、分かり易い悪党たちがいて欲しいと願った彼に、『ロゴスこそがそうだ』と、その人が世界が隠してきた真実を教えてくれたから。

 

 そうであって欲しいと願ったから。

 それが真実であってくれたら良いと願い求めたから。

 

 だから彼を信じた。彼の言葉にすがりついた。

 それが彼にとって最も都合がよかったから・・・・・・。

 

 だから信じた。

 自分の夢が、理想が、信じ貫きたい正しさこそが『正しいのだ』と言ってくれた人間の甘言を。美辞麗句を。自分にとって都合のいい言い分を。

 すべては自分の願望を全肯定してくれたから!! だから―――ッ!!!

 

 

「お前たちなんかがいるから!! 世界はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 だから、だからこそ。

 ―――世界は彼の“甘え”を許容してくれる人間ばかりは用意してくれないのだ。絶対に・・・・・・。

 

 

『・・・迂闊な人ですねぇ~。飛んでるんですから、下にも目をつけとかないと撃たれちゃいますよぉ~?』

 

 

「――!? 反応! 真下か!?」

 

 突然、コクピット内に全方位チャンネルによる誰かの声が届けられたと思った次の瞬間に、今度は危機を告げる警報が鳴り響いてシンの意表を突く。慌てたシンが機体に再度の急上昇をかけさせる!

 

 今自分が飛び上がってきたばかりの位置に、雪を上からかぶせてエンジンを切った敵機が隠れ潜んでいたのである!

 その敵がビームライフルの安全装置を外して、急上昇させたデスティーが切り下ろしのため急降下に移った瞬間を狙い澄まして待ち続けていたタイミングに発砲してきた以上、彼のとるべき選択肢は斜め上への急上昇しか他にない。

 

 なまじ、刃渡りがデカすぎる対艦刀のアロンダイトは斬撃パターンの数が少なく、切り払うか、切り下ろすか、振り上げるか、あるいは切っ先を突き出しながら突撃するかの四パターンだけしかなく、どれも途中で横合いから邪魔が入り止められてしまうと、いったん後退して距離をおいての仕切り直しが要求される武装だからだ。

 

(チクショウ! せっかくここまで来たって言うのに!!)

 

 不条理な敵の奇襲に怒りの声を心の中で絶叫しながらも、彼は声に出しては何も言わない。

 言えなくなっていたからだ。

 いくらナチュラルと比べて頑丈に出来ていようと、コーディネーター用の特別機であるデスティニーで急上昇をかけ急降下に移らせた直後に再度の急上昇をかけさせたのでは機体はよくてもパイロットの体が保たない。

 猛烈なGが負荷としてシンの肉体に与えられ、彼はその衝撃を耐え抜くために歯を食いしばって我慢しづけるしかなかったのだ。

 

 翼の力も借りて、残り二機のデストロイからの追撃も回避して安全圏まで後退することに成功したデスティニーのコクピットの中でシンは、口の中にかすかな血の味を感じて舌打ちした。

 

 そして、ヘルメットのバイザーを上げてから「ペッ!」と、口内に生まれた異物を吐き出した。

 それは高Gに耐えるために全力で噛みしめた末に折れ砕け散った、自分の奥歯の残骸だった・・・。

 

 彼は自分で自分を傷つけさせた敵に、さらなる怒りと闘志を燃えたぎらせながら、先ほど自分を待ち構えて撃ってきた敵に、相手と同じ全方位チャンネルで呼びかける。

 

「誰だ!? 俺の邪魔をするヤツはァッ!!!」

 

 これから殺そうとしている敵に対して、「殺してやるから出てこい!」と告げているのと同義な質問。答えるバカな敵などいるはずがない。――本来ならば。

 

 

『――シン・アスカさんですねェ・・・?

 ザフト軍の赤服エースパイロットで、元はインパルスに乗っていた方の・・・。

 そして、ステラ・ルーシェさんを我々に返していただいた優しい男性・・・』

 

 

 本来ならば返ってくるはずのない、敵からの返事。

 だがこの敵には、返事を返すべき目的があった。

 返事をするため、相手に問わせなければいけない理由があった。

 

 

『はじめましてェ~、私は大西洋連合第八一独立機動群、通称《ファントム・ペイン》所属の・・・まっ、要するにブルー・コスモスが浚ってきたナチュラルの子供改造してロゴスの私兵集団として使ってた部隊の一員であり、ステラさんの元同僚ってヤツでしてねェ~。あなたに一言お礼を申し上げたくて待たせていただいてましたァ~。』

 

 

 そう、すべては『与えられた任務』を果たすために。

 デストロイを護衛して、敵に落とされないよう直援機として周囲に潜み、近づいてくる敵は『足止めして時間稼ぎに徹する』という任務を果たすために。

 

 

『ありがとうございました、シン・アスカさん。あなたのおかげで我々はベルリンを焼くことが出来ました。あなたが協力してくれたからこそ、ベルリンの虐殺は行うことが出来たのです。

 感謝しますよ、憎しみと怒りで敵を殺しまくるオレ達の同胞よ。アンタはオレ達の英雄だ。ベルリンを殺戮した最大の功労者で血まみれの英雄サマだ。

 どうだ? いっそのことオレ達の側につかないか? 歓迎するぜ、アンタはこっちの方が似合うと思うしな。

 自分が悪いと思った奴らを命令とか無視して撃って、自分が良いと思った奴らを組織の都合とか無視して生かして殺して、全部自分で決められる特権。

 善悪の基準を自分一人で決めちまって良い神の立場・・・それがアンタの望み求めていた至上価値のはずだ。今ならそれが手に入れられる、与えてもらえるし奪い取ることだって出来る。

 なぁ、一緒に来いよオレ達とさァ~。ロゴスとかデュランダルとか、安全な場所から命令出すだけで人に人を殺させまくる戦争指導者どもとか全部ぶっ殺してやってさァ~。自分たちが正しいと思ったことする権利ってヤツを、力尽くでもぎ取ってやってオレたち哀れで可哀想な被害者な子供たちのための世界創りに行こうぜよォ~? なァ~? きっと愉しいと思うぜェ~。どうするよォ~? え~?

 デュランダルに言われた通りに敵を殺しまくって褒められまくって最新鋭機まで与えてもらえたザフト軍のエースで、戦争指導者デュランダルの私兵シン・アスカさまよゥッ!!』

 

 

 ・・・ザフト軍が大々的に流している英雄シン・アスカのプロフィールをネタに使って、嫌がらせの『口先三寸』で精神面から攻撃することで一秒でも長く時間を稼ぐ。

 

 それが彼に与えられた上司からの命令。その為の人選。その為にこそ行わせておいた敵のエースパイロット、シン・アスカの身辺調査だったのだから・・・。

 

 

 

 

 

「――薄らデカい上に鈍くさくて、しかも乗ってるパイロットは自我を奪われたモビルスーツを動かすための生体部品でしかないデストロイを狙ってくるなら、敵の進路を限定することはある程度までは可能です。

 その為の策を授けておいた彼が上手くやってくれているなら、多少は時間が稼げているはず……私たちはその間に、私たちの作戦を遂行しますよ。

 インパルスの発進は確認できましたか?」

「ハッ! 先ほどミネルバからの発進を確認しました! 未確認の新型も同時に発進した模様であります!」

「・・・おそらくそれが敵の切り札的最高戦力と見て良いと思われます。敵の主力が留守の間に、敵本体を襲いますよ。『背水の陣・調虎離山』です。

 こんな時代でもノスタルジーはたまには良いモノですからね・・・第二幕上演開始!!」

「ハッ! ホログロフィー用工作艦、第二幕を上映開始いたします!」

 

 

 

 ・・・こうして戦いは再び変化の刻を迎える。

 連合軍の最後衛に配置されていた艦が、後輩から迫り来ていた敵艦隊による危機を味方に伝え、デュランダルが必死に統制を取り戻すため『今ロゴスを討たなければ!』と唱え続けている中で。

 

 ――灰色の雲で覆われた空に、その時の映像が静かに映し出されていく・・・・・・

 

 今度の映像は望遠レンズで撮影されていたモノらしく、音声はない。

 だが、そんなモノは必要なかった。そんなモノのあるなしなど問題にならないくらいに衝撃的な映像が。隠されていた真実が。無音の中で大空に映し出されていたからである・・・・・・。

 

 

 ――それは、どこかの島国の映像だ。

 どこかの島国にある瀟洒な洋館の映像であると同時に、その洋館がザフト正規軍が今次大戦から正式採用した最新鋭機《アッシュ》部隊によって取り囲まれて一方的に砲撃を受けている映像でもあり、そして攻撃を受けたのか撮影途中で途切れる映像でもあった――

 

 

「ば、バカな・・・そんなバカなこと有るわけがない・・・ッ」

 

 その映像を撮影していたカメラマンの“サクラ”が、デュランダル議長に招かれたテレビ局スタッフのリポーターの相方だからついてきただけの戦災で家族を失って困窮していた下っ端スタッフが、生中継しているカメラにも聞こえてしまう位置から呻くような声で『真実だけ』を大声で口にする。

 

 

「あれは・・・あの映像に映し出されていた砂浜はオーブの砂浜だぞ!! なんでザフト軍がオーブの民間人を攻撃してるんだ! おかしいじゃないか! 議長は・・・デュランダル議長は最後まで平和的解決を望んでいた平和な世界を目指している人じゃなかったのか!!

 だとしたら俺の家族は! 息子は! 父さんや母さんや妹たちは!!

 ザフト軍との戦闘に巻き込まれて死んでいった俺の家族たちの恨みや憎しみは誰に対してぶつければいいと言うんだ―――――――ッ!!!!」

 

 

 

 ――その誰でも視ようとと思えば視ることが出来る民需放送を垂れ流しながら聞いていた潜水艦のブリッジにいたクルーたちの視線が一斉に、自分たちを率いる新司令官セレニアに集まってくるのを目視で認識させられながらセレニアは軽く肩をすくめて、こう答えるのみ。

 

 

「・・・こちらが買収したにせよ、敵の謀略で招かれたにせよ、敵の軍事工廠内に忍び込んで新型機を強奪するまでやってのけた私たちロゴスが保有する特殊部隊です。

 オーブの笊と言うより枠みたいに穴だらけな国境監視網ぐらい合法非合法問わずいくらでも潜り抜けられるぐらいはできますよ。

 戦争で家族を奪われた哀れな男性に真実を教えて自分たちのために利用するぐらいのことも含めて、別に敵の専売特許って訳でもないですしね。

 ――では、下準備が整ったところで私たちも始めるとましょうか・・・・・・全艦、第二戦速、攻撃開始。撃ちはじめて下さい」

 

 

 こうして、ザフト軍にとっての終わりが幕を開けた。

 開けられてしまったのである・・・・・・・・・。

 

つづく

 

 

オマケ『オリジナルキャラクター設定紹介』

フェイ・ウォン(ファントム・ペイン隊員)

 大西洋連合第八一独立機動群、通称《ファントム・ペイン》所属のパイロットであると同時にセレニア子飼いの部下でもある青年。

 ガンダム系の機体に乗ってはいるが、実はブーステッドマンでもエクステンデッドでもなく、簡単な処置を施しただけで改造までには至っていない強化ナチュラル。モビルスーツを操縦できているのは単なる偶然で適正を持っていたからに過ぎない(切り裂きエドなど、一部にはそういうナチュラルが実在しており、その内の一人という設定)

 

 もともとエクステンデッドは、ブルー・コスモスの前盟主ムルタ・アズラエルが設立させた施設で開発されたブーステッドマンの技術を、彼の死とともに没落した組織の再興すると同時にジブリールが継承し発展させていったモノだった。

 その継承時の混乱でいくつかの施設が記録ごと忘れ去られてしまっていたのだが、セレニアがその内の一部を分け前として接収していたため彼の存在が誕生することに繋がっていくことになる。

 

 プラント非理事国の生まれで、エネルギー不足と貧困故に勃発していた内戦の最中、危険な国内から脱出しようとプラント理事国行きの船に密航していたところをブルー・コスモスのテロに対するコーディネーター側からの報復攻撃に巻き込まれて吹き飛ばされた母親の胎内から引きずり出されて生を受けたという複雑すぎる生まれの事情を持っており、兵士として生きてくる以外に生きる道を許されてこなかった。

 その後、セレニアに見出されて施設へと招かれ、簡単な強化処置を終えてからファントム・ペインに配属された。ステラたちとは部署が異なり、どちらかと言えばスウェン・カル・バヤンたちの方と面識がある。

 

 地獄の中を生き残ってきたため、今では人の血を見なくては収まりのつかない性格になってしまっており、改造されようがされなかろうが人が殺せる戦争が出来るなら誰にだって付くつもりでいる。

 主義主張や民俗宗教その他諸々はどーでもいいことだと感じている人物で、コーディネーターだろうとナチュラルだろうと、流れる血が赤ければそれでいいとさえ断言してしまえる程の危険人物。

 

乗っている機体名は《カミナシ》

 前大戦時の《カラミティ》《フォビドゥン》《レイダー》の三つの機体の特徴を併せ持たせた特殊戦タイプの機体でありながら攻撃力が低く、フェイズシフト装甲が基本のガンダムタイプを相手取るにはビーム兵器が不足している代わりとして、騙し討ちのような武装で時間稼ぎに特化させた武装が選出して装備されている。

 

 

 ・・・あくまで殺すこと、敵に血を流させることのみに特化して、手段や経過にこだわりを持たないフェイにとって、敵を殺すよりも先に殺されてしまったのでは殺せなくて愉しめないからこそ、この機体を悦んで受領した経緯を持っている。

 

 ある意味で、シンが罵る『身勝手でバカな理由で人を殺す悪そのもの』な男なのだが、そんな自分を自覚しており、普通の人間が持つべき倫理観が崩壊していることも解っていて、それでも『殺さなければ我慢できないからこそ殺している男』であり、人殺しは悪いことだと理解した上で『心の底から愉しんで殺っている』人物でもある。

 

 

 ――尚、機体名には当初ジブリールが別の名前を付ける予定になっていたのだが、パイロットがエクステンデッドではない特殊な事情もちナチュラルのフェイが選ばれたことから仕様が一部変更となり、その際にセレニアが識別のために変えさせたという経緯が存在している。

 が、一方で連合軍兵士たちの間では『形式主義が苦手なセレニアが神話系の名前ばかりから引用したがるザフト連合双方の首脳陣に付き合い切れなくなったからテキトーな名付け方に変えたかっただけではないのか?』という噂話が実しやかに囁かれていたりもする…。



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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。12話

久しぶりの更新となります、シロッコSEEDです。本当だったらアスランたちがオーブ潜入について話してるシーンまで一気に飛ぶつもりだったんですけど、さすがに唐突過ぎるかと思いましたので間にある回を入れてみた次第です。

なお、久しぶり過ぎたせいで今作が異常なほど書くのに時間がかかる書き方(それぞれの原作を確認する手間が半端ない)のを失念してたせいで予想外に時間がかかり過ぎてしまって他の作品に割くことができておりません。他作品はこれから、もしくは明日から頑張りますね~。


 『オペレーション・スピットブレイク』開始に先立つ露払いとして、イザーク発案によりザラ隊長率いる“足つき”追撃隊が急きょ編成されアークエンジェル追討の任務に就いたのであったが。

 現実問題として彼らが地球に降りてきて合流した場所はアフリカのジブラルタル基地であり、地球連合軍本部アラスカを目指しているアークエンジェルの現在地はインド洋のど真ん中である。モビルスーツよりも戦艦の方が推進力は上であることを考慮するなら、アスランたちは地上ザフト軍が保有している最大規模の海軍施設カーペンタリア基地まで輸送機で運んでもらい母艦を受領してからでないと追撃もなにも始めようがなかった。

 

 

 ビー、ビー、ビー。神経質そうな響きの機械音が室内に鳴り響く。

 

「はい、こちら待機室。アスラン・ザラ」

『こちらコントロールルームだ。すまんな、君の機体を乗せた機は航法機材のトラブルで少し出発が遅れる。通達あるまで、そこで待機しててくれ』

 

 連絡相手が言うところの機体――モビルスーツ一機のみを搭載可能な輸送機はザフト軍地上部隊で多く用いられている中型の飛行機で、垂直離陸機能はないものの小回りがきいて燃費も良く、コストパフォーマンス的に見ても補給という大量輸送に向いており、最新鋭を好むコーディネーターからもけっこう重宝されている機種のことだ。

 

 だが、いつの時代の誰に造られた機械であろうとも、『安くて大量に運べる輸送用機械』に完全な安全性など求められる訳がないのは今更述べるまでもない。

 

 飛行機としての性能は高いのだが、海もなければ雷も鳴らない宇宙空間をホームとするコーディネーターたちが造った航法機材は地球の気まぐれな気候の変化に弱く、ちょっとしたことでトラブルが起きやすいという欠点を有していたのである。

 

「わかりました。待機を継続いたします」

 

 こういう事態はそれなりの頻度で発生していたため、対処する側も熟練してきており作戦に影響するほどの遅れを出した事例は今のところ起きておらず、アスランとしても地上に降りてきたばかりで勝手がわからず、事前に『そういうものだ』と通達を受けていたこともあってアッサリ受け入れて一人、思考の海に没頭する。

 

「・・・キラ・・・もし本当に、君を殺さなければならないのだとしたら――それは・・・ッ」

 

 ――自分の手で!

 

 予定外のトラブルで与えられた待機時間延長を、彼は恐怖におののきつつも、きっぱりと彼は悲壮な覚悟で友を討つ決意を固めていく。

 それは年若い彼なりの誠実さであり、組織全体のことを優先して友を討つというザフト軍人として正しい在り方ではあったがが、一方で“足つきとストライクを君が討て”と命じてきたシロッコの真意がどこにあろうとも職務の中で軍の意志に従うだけの手足になる道を自主的に選んで歩んでいた事実を示してもいた。

 

 彼は自分だけでなく、ザフト軍全体が『体制を維持するための道具』に成り下がる道を選んでしまっている事実に気づいておらず。

 自分たちと似たような組織構造を持つ組織が、自分たちとは異なる地球を舞台に覇権争いを繰り広げた末に内部崩壊で自滅に近い滅び方をした事実も知らない。

 

 その組織が、『ティターンズ』と呼ばれていた歴史的事実をも、違う地球世界で生きる彼らは知ることなく、同じようにトップダウンの形で意思決定が行われている組織の命令に従って今日も地球を舞台に民族紛争ならぬ人種戦争を繰り広げ続けている・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、アラスカを目指してインド洋をいく途中のアークエンジェルにも、予定外のトラブルに見舞われつつあったことを、遙か遠くジブラルタルにいるアスランは“今の時点ではまだ”知らない。

 

 

「ソナーに感! 7時の方向、モビルスーツです!」

「間違いないか!? 数は?」

「音紋照合、グーン2。それと不明1ですが、モビルスーツであることは間違いありません!」

「この前戦った敵かもしれないわね・・・総員、第1戦闘配備!!」

 

 戦闘を避けるため、敵の警戒網がもっとも手薄と思われる大洋の真ん中を選んでアラスカへと向かっていたアークエンジェルは、ザフト軍カーペンタリア基地所属のモラシム隊から二度目の攻撃を受ける羽目になっていたのである。

 

 バルトフェルド隊を撃破したとは言え、無傷というわけにはいかず、そのくせ連合本部からは救援どころか補給さえ寄越されないまま自力でアラスカまで来るよう指示されてしまったアークエンジェルは、敵と遭遇する可能性は低いが、何かあった際には逃げ込む場所がないインド洋を航路に選び、ハイリスク・ハイリターンの道を“運頼り”で進んできた訳であったが、それが二度続けて同じ敵に襲撃されるというのでは本末転倒も甚だしい。

 戦いで疲れた心と体を、綺麗な海の景色で癒やされたかったクルーたちとしては、いささか“うんざりとした”心境でモラシム隊からの襲撃に応戦する準備へと走っていたのであるが。

 

 

 攻め寄せる側の、モラシム隊を率いるマルコ・モラシム隊長にも今攻めなければならない事情が存在していたことをアークエンジェルのクルーたちは誰も知らない。

 

「フン! 浅い海を行ってくれるとは、この“ゾノ”には却って好都合だ。クルーゼも降りてきているそうだからな、今日こそ沈めてやるぞ! 足つきめ!」

 

 水中用の新型モビルスーツ“ゾノ”のコクピット内で、モラシム隊長はそう宣言すると好戦的に髭面を歪めて笑う。

 

 先だっての戦いで彼は、グーン2機、ディン1機を撃墜され、自らが搭乗していたディンも小破させられていたが、一方で上げた戦果といえば傷ついていた敵艦をさらに傷つけただけという、無様すぎる醜態を晒してしまった直後だった。

 惨敗といって差し支えない結果であり、クルーゼの安っぽい挑発に乗ってしまったことが失態の要因だと自覚する彼のプライドは傷つかざるを得なかったが、それだけではない。

 

 足つきを相手に失態を重ねながらも、国防委員長パトリック・ザラのお気に入りというだけで左遷もされずにヌケヌケとエリート部隊でいられ続けている恥知らずなコネだけで出世した仮面の男と陰で罵る声が大きくなっていたクルーゼに対する評価が彼の敗北によって再び復活の兆しを見せ始めているというのだから堪ったものではなかった。

 

 バルトフェルド隊だけなら、『運が良かっただけ』だの『隊長の方に致命的ミスがあった』だのと理屈づけして笑っていられた者たちも、モラシムが再戦のためゾノを受領しにカーペンタリア基地へ帰還したときにはスッカリ静かになってしまい、遠回しにクルーゼ隊への再評価を口にしているのを聞かされた彼としては怒り心頭にならざるを得ない。

 

 しかも、出撃に先立ちジブラルタルからもたらされた“例の男”からの通信が、彼の感情を激発させた。

 彼は任務で忙しい上官のクルーゼの代理として、モラシムにこう伝えてきたのである。

 

 

「我が隊への援軍に貴様らの部隊のパイロットと機体を派遣しただと!?」

『はい。新しく編成した部隊ですので能力査定もおこなえておりませんが、優秀です。必ずや隊長のお役に立てるものと確信しております』

「そんなことを言っているのではない! 我々の仕事だぞ!

 足つきの撃沈とアラスカ行き阻止はザフト軍上層部より我々が与えられ、必ずや討ち果たすと明言した任務なのだ! 技術屋上がりの成り上がりは軍の命令系統さえ心得んのか!」

『ですから、守っているじゃないですか。モラシム隊長への援軍に派遣したと知らせたつもりですが・・・?

 足つきの追撃は我々が担当していたとは言え、今ではモラシム隊長の方が専任であることは承知しておりますし、派遣した部下たちにも言い含めてあります。好きに使ってくれて構いませんよ。なんでしたら手柄も貴隊の隊員たちで山分けしていただいて構いません。

 私の部下たちはどうやら、私的な復讐心で足つきの搭載機を落としたがっているだけのようでしたから大丈夫でしょう』

 

 この場合、シロッコの冷徹で薄情な人の心を無視するがごとき言動は相手にとって、鼻先で赤い布を降られているのと同義であることは説明するまでもない。

 

「・・・わかった。だが、援軍は必要ない。あの船は最後まで我々の手で沈める。足つきを何度も取り逃してきた敗北の実績ばかり豊富な援軍など足手まといにしかならんからな。

 貴様の派遣した援軍とやらには、黙って我々の戦いを空から観戦するよう伝えておけ。不用意に乱入されて貴隊を後ろからでも撃ってしまっては気の毒というものだろう。温室じみた研究所育ちの技術者は知らんかもしれんが、誤射というのは戦場だとよくある話なのだぞ・・・?」

 

 最大限に悪意を込めて、露悪的な表情で言ってやった皮肉もこの男の皮肉そうな鉄面皮の微笑にはヒビ一つ入れられない。

 

『それは結構。貴官からそのような言葉を聞くのは嬉しい。未熟な若者たちに軍人の志を模範として示していただければ幸いであります、モラシム隊長殿。――フフフ・・・』

 

 

 そして通信は、相手から一方的に切られてしまう。

 灰色の板面と化したスクリーンにモラシム隊長が、通信が終わった直後に拳を叩き付けて砕いたこともまた今更言うまでもない必然的な帰結だったことだろう。 

 

 

「あの若造! パプティマス・シロッコとかいう技術屋上がりで成り上がりの青二才めが!

 ヤツの見ている前でクルーゼ隊が取り逃がし続けた“足つき”を私の手で討ちとり、奴らの無能さを証明してやらなくては気が済まん!

 総員、抜かるなよ! 後がないと思え! ザフトのために!!」

『了解!! ザフトのために!!』

 

 小気味良い部下たちからの唱和を聞きながら、モラシム隊長は勝利の確信とともに連合が開発した『白い新造戦艦』アークエンジェルを沈めるため突撃を仕掛けていく。

 

 

「クルーゼとシロッコが見ているのだ! たかが傷ついた戦艦一隻に、これほどまで手こずるなど笑い話にもならん! これ以上あの若造共ごときに舐められて堪るかよッ!!

 私はザフト軍の隊長、マルコ・モラシムなのだァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから1時間ほど過ぎた頃。

 ザフト軍ジブラルタル基地の一室にて。

 

 

 ビー、ビー、ビー、・・・ガチャッ。

 

「こちらはクルーゼ隊のパプティマス・シロッコ副隊長である。隊長が所用で席を外しているため私が代わって用件を聞く。何か?」

『ハッ、報告致します。先ほどカーペンタリア基地より連絡が入りまして、足つき追討の任に当たっていたモラシム隊長が戦死されたとのことであります』

「そうか。ザフト軍人として名誉の戦死を遂げられたモラシム隊長の御遺族には、後ほど私と隊長の双方から哀悼の意を表する弔文を送っておこう」

『ハッ! 先方もお喜びになることでありましょう!

 それから今ひとつ、クルーゼ隊宛に本国より通達が届いておりまして、戦死したモラシム隊長に代わって足つき追討の任務は再度クルーゼ隊に戻されることが内定しているため準備を整えて欲しいとのことであります。正式な辞令はオペレーション・スピットブレイク以後になるとの由。以上であります』

「ご苦労。後は私の方で隊長に報告しておく。下がっていい」

『ハッ!』

 

 

 機体を微調整するため一時帰投していた私は、通信が切れて灰色の板面と化した通信パネルを見下ろしながら「フフフ・・・」と露悪的に笑って見せて、ソファに座ってくつろぎながらコーヒーを飲んでいた上官から唇を「へ」の字に曲げて酷評される。

 

「相変わらず、エゲツ無いことだな。我が悪友よ」

「心外だな、親友よ。私は友の名誉を回復するため、味方の兵まで騙す性に合わん手法を我慢してまで実行したというのに」

 

 面倒ごとを部下に押しつけてコーヒータイムを楽しんでいた上官から酷評される不遇な天才の役を演じる自分を満喫したまま、私はうそぶいて嗤いガルマを謀殺したときのシャアの境遇を心置きなく満喫する。

 彼であるならキシリア・ザビに向かって言っていたように、復讐のために味方を殺す行為を犯してしまった後に虚しさを感じることも出来たかもしれない。

 

 だが私はパプティマス・シロッコであって、シャア・アズナブルではない。単に近藤和久が作画を担当していた漫画版『機動戦士Zガンダム』で敵の手を借りジャマイカンを謀殺していたシロッコのやり方を再現しただけのことでしかない。

 虚しさを覚える理由など一切もたない私は、モラシム隊長が死ぬ前より少しだけ風通しが良くなった基地内の空気に深い満足感を覚えていた。

 

 

 ・・・宇宙でこそエース部隊として知られていた我々クルーゼ隊ではあったが、降りてきたばかりの地球上、連合軍と戦う最前線である地上では完全に新参者。

 ましてやアークエンジェルに出会って以降、ケチが付きっぱなしの戦績だけが知られていたということもあり、安全な後方で楽な相手とばかり戦ってきた『苦労知らずのキャリア組』というレッテルを張られながら動かざるを得なかったのだが、これからは多少やりやすくなることだろう。職場の空気が仕事をしやすいものになるのは素直に歓迎すべき事柄だからな。

 

 しばらくの間、穏やかな沈黙が流れて私もクルーゼも互いに何を思っているのか判然としないまま、特に気にすることなく曖昧な今という時間を無為に過ごす余暇を楽しんでいる最中。

 クルーゼが何を思ったのか、このような言葉を口にするのが聞こえてくる。

 

「・・・モラシム隊長も無能とはほど遠い人物だったのだがな。それでも戦死を免れることはできなかった。

 やはり目の前の敵しか見ることのできない軍人では、それが限界ということなのかもしれんな・・・」

 

 感慨深げな声音でつぶやかれたクルーゼの発言が、何を意図したものであったのかは、その仮面と私のニュータイプ能力を持ってしても今一判然としないものであったが、それでも私は表面的な字面の中だけに訂正すべき点を感じざるを得ず一部修正を彼の発言に加えるため声をかける。

 

「少し違うな。彼は目の前の敵をふくめた現実を見ながら、戦いの場に赴いたわけではあるまい」

「・・・?? では、彼は何のために、何を見ながら戦っていたと君は思うのかね?」

「無論、過去だよ。彼は、その手に失われつつあった自分の輝かしい過去を取り戻したがっていた。だから足つきに戦いを挑み、そして過去の栄光の夢を見ながら死んでいったのだ」

 

 私はそう断言して窓により、眼下に映るオペレーション・スピットブレイクのために掻き集められた膨大な兵力を見下ろしながら、自説の続きを口に出す。

 

「手に入るはずだった勝利、メンツに泥を塗りつけられた我々の悔しがる顔、ザフト軍地球侵攻部隊の中でも勇名を馳せていた輝かしい栄光の過去、黄金時代。

 それら敗北によって失われてしまった大切な過去が、今を生きる人を間違わせる。

 誰だって失敗したときには、“あの時あちらを選んでさえいれば・・・”と思いたがるものだろう? アレと同じだよ。

 失敗した今の自分という現実を認めたくないから、取りこぼしてしまった勝利を“まだ取り戻せるはずだ”と信じたいから信じて戦いを挑んでしまえば負けもする。現実の今を見ようとしない人間に、現実を生きている敵を倒すことが出来るはずはないからな」

「・・・・・・」

「失われてしまったモノを嘆く心、失ったモノが全てだったとする思い込み、二度と手に入らないモノにもう一度手を伸ばそうとする執着。

 それら損失への嘆きを、プライドという一般論で綺麗に飾り立てることで正当化した愚考。

 即ち、『感傷』だよ。それが人を愚行の虜にする。

 ちっぽけな感傷が人に破滅をもたらし、国を滅ぼし、やがては世界を破滅に導くことになるだろう・・・・・・と私は予言しておこう」

 

 そう締めて、私は座っていた椅子から立ち上がり部屋の扉へと歩み寄る。

 任せていた整備が終わると指定されていた時間帯になったからだ。私は私で次の戦いのためにやることはそれなりに多いのだよ。

 

「行くのか、シロッコ」

「ああ、行く。アスランたちが気になるからな。おそらく彼らでは足つきとストライクは落とすまでには至れまい。とすれば次のための布石は打っておくにしくはない」

「では、グゥルを用意するよう手配するかね? 幸いスピットブレイクを前にして過剰に集めすぎてしまったとかで、多少の数なら使い捨ててしまって構わんとオフレコで言われている身だ。足の遅い輸送機よりかは燃料を無駄遣いすることなくアスランたちに追いつけると思われるが?」

「せっかくのご好意だが、好意だけ頂いておくとしよう」

 

 そう言って私はクルーゼに向かって白い歯を光らせながら笑いかけると、シロッコらしく傲慢なセリフを、シロッコらしい口調で親友に宣言しながら再出撃しに向かって歩き出す。

 

 

 

「私の《メッサーラ》だけで済むのならば、グゥルのような旧式の支援機を使うことはないだろう?

 木星近くで使うモビルスーツとして私自らが設計したメッサーラと比べたら、ザフト地上軍が必須としているグゥルでさえ、あまりにも足が遅すぎる」

 

 

つづく



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議長「我らが誤った道を行こうとしたら君もそれを正してくれ」・・・この言葉を実行に移したアスラン・ザラの物語(セリフ集)

更新目指して頑張って書いてる途中ですが、何日か前にメッセージのやり取りの中で書いてた文章を褒められたので場繋ぎ用に投稿しておきますね。予定より遅れちゃっててごめんなさい。風邪ひいてしまって思うようにスピードでない状態なものですからつい…とりあえず頑張って続き書きます。


第1話『野獣と呼ばれた男アスラン・ザラ』

 

デュランダル「・・・シンまでが落とされたのか? なんで目の前まできているアークエンジェルを沈められん!?  ミネルバはどうしている!? レクイエムでオーブさえ叩けば――アスランッ!?」

 

アスラン「議長、キラたちの元に戻る手土産となっていただきます。こちらから背いたように見られたのでは後々まで関係が面倒になりますのでね・・・」

 

デュランダル「アスラン・・・っ! 本気なのかアスラン! 私が今ここで死んでしまったら世界は――うわぁぁぁッ!?」

 

ズガァァァッン!!!

 

アスラン「戦争です。そちらにも事情があると言うことは、こちらにもあると言うことですよ、デュランダル議長閣下」

 

 

 

 

 

第2話『赤い軍服をまとったライバルパイロット、アスラン・ザラ』

 

デュランダル「よし! シンたちも頑張ってくれている、こちらもこの期に態勢を立て直して反撃に――うわぁっ!? ど、どうしたのだ? いったい!?」

 

タリア「後ろです! 後ろから攻撃を受けました! あの機体は・・・アスランの乗る《レジェンド》!?」

 

デュランダル「《レジェンド》だとぉっ!?」

 

アスラン「デュランダル議長、聞こえていたら貴方はご自分の愚行を呪うといいでしょう」

 

デュランダル「なにぃっ!? 愚行だとぉ!」

 

アスラン「そう、愚行です。あなたは悪い政治家ではありませんでしたが、私の良い友人を殺そうとしたのがいけないのですよ・・・フハハハハッ!!!」

 

デュランダル「アスラン・・・っ、謀ったなアスランッ!!!」

 

ズガァァァァッン!!!!

 

 

 

 

第3話『チャンスは最大限に生かす男アスラン・ザラ』

 

アスラン「クルーゼ隊長、私からの手向けです。親友と仲良く暮らして下さい・・・」

 

デュランダル「・・・? アスランかっ!?」

 

ズギュゥゥゥッン!!!

 

デュランダル「――ッ!?」

 

ブシュウウウゥゥゥゥッ!!!

 

 

 

 

第4話『親友の仇を討つ男アスラン・ザラ』

 

アスラン「キラは・・・っ、アイツは敵じゃなかったんです! なのになぜ討たせたのですか議長!?」

 

デュランダル「仕方なかったのだ、アスラン・・・。ああするより他に、私たちには打つべき手が他にな―――」

 

ジャキ。

 

アスラン「・・・死なせるのはやり過ぎでしたね、議長閣下・・・」

 

デュランダル「おいおい、悪い冗談はよしてくれアスラン。ようやくここまで来たんだ・・・私が死ねば、世界は元の混沌とした状況に戻ってしまうことぐらい君ならわかるだろう?」

 

アスラン「・・・意外と・・・デュランダル議長も、人が人を憎む心は理解できていないようで・・・」

 

ズキュ――ッン!!!

 

 

 

 

 

番外編『近藤和彦SEEDでアスラン・ザラ』

 

パトリック「ジェネシスの装填を急がせろ! ええい、どいつもこいつも当てにならんヤツばかりだ・・・」

 

アスラン「父上」

 

パトリック「・・・ふんっ、アスランか。なんだその言い方は?」

 

アスラン「失礼しました。プラント評議会議長パトリック・ザラ閣下」

 

パトリック「私は今までお前をできの悪い息子だとばかり思ってきたが・・・どうやら買いかぶりすぎていたようだな。これまでの戦績を評価してジャスティスを与えてやったがラクス・クライン一人捕まえることもできんとは! しょせんは出来損ないのドラ息子ではないか」

 

アスラン「それは酷いおっしゃりようで。しかし今や無用となっているのは私ではなく父上のようです」

 

パトリック「なんだと!? 子供が親に向かって生意気な口を叩くなっ!!」

 

パンッ!!

 

アスラン「・・・フッ」

 

パトリック「ヒッ!? な、何をする気だアスラン・・・!?」

 

アスラン「戦争の元凶に変わってしまった父上には死んでいただきます」

 

パトリック「まっ、待て! 私が悪かった! だから待て! 私はまだ奴らに報いをッ! 妻の仇討ちを果たせていない―――ッ」

 

アスラン「もう遅い! 全ては終わったのです! どうか潔く幕引きを!!」

 

グサァァァァッ!!!

 

パトリック「ぎゃああああああああっ!?」

 

 

 



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ガンダムW戦記~クロスボーン・バンガードの旗のもとに~6章

途中まで書いて放置されてたクロボンWを完成できましたので更新いたします。あ~、疲れましたー(;^ω^)肩に背負っていた重荷がまた一つ減った気分ですね♪
原作にない話を書こうとすると大変ということを思い知りました。次からもう少し考えて計画立て終わってからやることにいたしますね。

陳謝文:
次に更新するつもりで書いてるのは『堕天使に』です。精神が不安定なせいで思っていたのと文字数が全然違っててコチラの方が先になってしまったことをお詫び致します。


 ルクレツィア・ノインはMSパイロットとして、今日までそれなりの自信を有してきていた。

 若いパイロットたちを育て上げる教官として、彼らに恥ずかしくない訓練と実績を積み重ねることを己の義務として課してきてもいた。

 

 同期だったゼクスに勝るとまでは自惚れないが、OZの中でも彼に次ぐ実力はあると断言できる程度の鍛錬は欠かさずに続けてきた自負が、彼女にとっての誇りである。

 

 ・・・だが、今。

 その自信をバラバラに打ち砕くかのごとく常識外れの強さを持った二つの機体が、自分の目の前でぶつかり合っている。

 

 黒一色に染め上げられた漆黒の機体と、白を基調として所々に黒色を配した機体。

 その二つの機体が、人間の限界を超えているとしか思えない速さと反応速度で互いの攻撃を躱し合い、互いの位置を高速で入れ替えながら一進一退の終わる事なき攻防を続けていく・・・・・・。

 

 

 

 

「・・・これはもう、私程度が割って入って手助けになるレベルの戦いじゃない。パイロットとして技量の桁が・・・いや、格が違いすぎている・・・っ。

 コイツら、本当に人間なのか・・・・・・?」

 

 

 

 

 動かなくなった愛機のコクピットで、どうすることも出来ずにつぶやくしかない彼女一人が観客として見物する中、二機の機体と二人の男は今日何度目かの斬撃と斬撃を再びぶつけ合う―――

 

 

 

「ザビィィィィィネェェェェェェェッ!!!!!」

 

「シーブック・アノォォォォォォォッ!!!!!」

 

 

 バチィィィィッ!!!!

 赤いビームの刃と、青いビームの刃がぶつかり合ってプラズマ光の火花を散らし、夜の闇が支配する森の中をめまぐるしく動き回る黒と白の主役たちを、まるでスポットライトのように追い続けながら照らし続けていく!!

 

 互いに、憎むべき相手の名を叫びながらビームの刃を振りかざし、殺すつもりで放った必殺の一斬を受け止め合い、鍔迫り合い、言葉の刃と言葉の刃で互いの信じる主張と正義を激しく否定し、一刀両断するため切りつけ続ける。

 

「ザビーネ! 軍事力を持って出てきた者は武力制圧しか考えないということを、何故わかろうとしない!? 大人の都合だけで子供たちが殺されてたんじゃ堪らないんだよ!!」

「それがお前のエゴが言わせることだと何度も言った! 自分を中心にして世界を裁断しようとする、それこそが貴様のエゴなのだという事実を未だに認めることができんのか!?」

 

 

 二色の異なる光の刃をぶつけ合いながら、『お肌の触れあい回線』を通じて言葉と言葉の刃を交わし合う二人の会話。

 それは互いを理解し合うために思いや言葉を語り合う【わかり合うための対話】とは掛け離れた目的で放ち合われる言葉の応酬。

 互いに互いの信じるものを『正しく誤解しようのない否定の言葉』で『否定し合うために』交わされ合い、放たれ合う、言葉の銃弾とミサイル同士の応酬合戦。

 

 

「だからって、普通に暮らしてる人たちの生活を破壊してまでおこなう戦争が正しいはずがないんだ!

 独り善がりではじめた貴族主義の革命なんて、最初から上手くいくはずがなかったんだと、まだ分からないのか!?」

 

 キンケドゥ・ナウと名を変えたシーブック・アノーが、思いを込めて叫びながらも海賊サーベル型近接戦闘武装《ビームザンバー》を振り下ろし。 

 

「そんなものまで心配して、人類がレミング以下になって自殺行為をするまで時間を無為に消費するべきだとでも言うのかっ!? 強権支配が独裁に至りやすい危険性は承知している! それを承知で我らは起ったのだ! 自分の生活を守るためだけに戦っていた貴様に、それを否定などさせるものかッ!!」

 

 キンケドゥが忘れもしない姿よりも若々しいザビーネが、通常型のビームシールドを発生させて攻撃を防御すると同時に受け流し、かつて乗っていた《ガンダムF91》と違って防御面で劣る《クロスボーン・ガンダムX1》を駆るキンケドゥに逆檄を警戒させ距離を取らせる。

 互いに熱い思いを込めて、激しく刃と言葉を交わし合いぶつけ合う二人の男たち。

 

 

「それのどこが悪い!? お前たちの勝手な都合で始まった戦争で逃げ回っていれば死にはしないんだッ!!! でやぁぁぁぁぁぁッ!!!」

「なにっ!?」

 

 クロスボーン・ガンダムX1は固有の海賊サーベル型のビームサーベル【ビームザンバー】を振りかぶると、ザビーネの機体が握る通常タイプのビームサーベルに全力で切りつけた。

 それを受け止めてしまったのは、明らかなザビーネの判断ミスだっただろう。

 

 通常のサーベルと形状が異なるだけで、威力的には大差がないと侮ったのは彼にしては珍しい油断に該当する愚かしさから来るものだったかもしれない。

 だが、そもそもにおいて彼はクロスボーン・ガンダムという存在自体そのものを知らない時代から来ているザビーネ・シャルだ。

 このACの時代に流れ着いてからも鍛練を積み、機体の性能も技術スタッフたちがこの世界特有の新技術も盛り込んで強化してくれていると信じる信頼感もあったし、何より相手の来ている時代が『自分よりも何年後の宇宙世紀なのか』が皆目見当も付かない。

 

 それが彼の判断を誤らせた。判断基準を誤認させてしまっていた。

 彼の時代に彼と死闘を繰り広げたシーブック・アノーの搭乗していたガンダムF91は、射撃戦能力と機動性は突出していたが、接近戦能力ではザビーネの旧愛機ベルガ・ギロスよりも下回る程度に過ぎなかったはずだから。

 

「・・・そこまで手のひら返しで趣旨転向するか! シーブック・アノー!!」

 

 怒りを込めてザビーネは叫び、罵り声と同時に大きく後方へと機体を跳躍させる。

 キンケドゥも「待て! ザビーネ!」と追撃をかけるが、その動きは先ほどまでこなしていた接近戦の時よりだいぶ鈍い。

 

「バーニアとブースターの出力は高いが、地を走る足は遅い機体なのか。そのガンダムは・・・。

 フッ。どこまでも貴様らしくない機体に乗り換えたものだな、シーブック・アノー。

 もはや私にとってのライバルは、嘗ての相手ではなくなってしまったということか・・・」

 

 やや自嘲気味にザビーネは呟き、キンケドゥ・ナウとなったシーブック・アノーを論評する。

 そして、その評価は皮肉なことに概ね正しい。

 

 頭にクロスしたボーンを掲げて、“剣を刺さずに”骸骨の頭蓋に取り替え尚した、正真正銘まごう事なき海賊の紋章を旗印として誇らしく仰いでいるクロスボーン・ガンダムは、『新生クロスボーン・バンガード軍』のエース機を名乗りながら、致命的なまでにクロスボーン・バンガードとは流れる血の異なる別存在と成り果ててしまっていた集団のフラッグ機だったのである。

 

「逃げ回ることを卑怯とは思わん。敵に攻撃されたとき、一般市民たちは怖いと言って逃げる権利が当然あるべきなのだからな。生き残るためには何をしても良いというのがクロスボーンの理念だ。

 そしてだからこそ、自分たちに生き残る価値があるかどうかを考えもせずにそれをやる者たちが、我々の粛正すべき悪なのだ。とりあえずの寛大さと感情に走る生き方は、すでにこの地球圏では許されなくなくなりつつあるのだという事実を知れ!!」

「だからといって打算だけが人類を生かすというのは間違っている! それでは人間の感情は何のためにあるのか分からなくってしまう! 感情があるからこそ人は豊かな人生を送れる生き物なんだよ!!」

「それは過去のユートピアに生きた人類にだけ許された生き方だ。現在は違うということを、貴様がクロスボーンに入隊していれば1からたたき込んでやったものをな」

「ふざけるなぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 交わらぬ線と線。信じ貫く主張と主張。否定し合う互いの世界観。

 二人は悲しいまでに致命的なレベルで、異なる精神世界を内包する者たち同士の関係にあったのである。

 

 

 ・・・・・・だが、実のところ彼ら二人は自分たちが交わし合う言葉の論点が、双方ともに致命的なほどズレているという事実に気づけていない・・・・・・。

 

 キンケドゥ・ナウこと、シーブック・アノーの掲げる戦う理由と、ザビーネの掲げるコスモ貴族主義による人類粛正および世直しとは、存在する次元自体がおおきく異なる比べようがない概念同士だったからである。

 

 そもそもシーブックだった頃から、彼は連邦正規軍に所属していたわけではない。ただ、クロスボーンに奇襲されたフロンティアサイドの避難民たちがレジスタンスとして参加した船で『才能があるから』とモビルスーツパイロットになってエースにまで急成長しただけの市民兵に過ぎない存在なのだ。

 人類全体の未来やら、数百年後の世界に対して負うべき責任など一切ないと断言できるであろうし、また事実として彼ら一般市民にそんな責任はない。無関係とさえ言い切ってしまえるほど赤の他人たちの事情である。

 

 一般市民にとっての世界とは、そういうものだ。その程度の広さしか持っていない。

 せいぜいが、自分の住んでいる町と地域、仲のいい友達と家族。それらが平穏で穏やかで暮らせて、自分たちが死ぬまでは今のままの生活が保たれればそれでいいと考えるのが庶民にとっての世界観というものであり、それを守るために働くべきなのが支配者であり軍隊だと彼らは信じて疑っていない。

 

 それがシーブックたち、キンケドゥたち一般市民出身のニュータイプパイロットたちが掲げて戦う『庶民の正義』なのだから。

 

 

 一方で、ザビーネたち政治を考えて動く統治する側にしてみたら、キンケドゥたちの主張は誤った選択の極みでしかない。

 五十年先、百年先のことまで考えて国家のために、全体のために今何をすべきなのかを考えるのが政治なのだから、今だけ良ければという考え方でやっていけるはずがない。

 今のまま穏やかにと言えば聞こえはいいが、それは要するに停滞であり、停滞を政治的に表現するなら伸びしろを失った状態という、ただそれだけの平凡な愚策でしかない。

 謂わば彼の正義は、『政治を担う貴族の正義』とでも言うべきであろうか?

 

 存在する次元の異なる二つの正義が、同じ高さで是非を問うためぶつかり合うことは出来ない。その正義を信じる者同士が様々な事情と絡まり合った末に物理的な決着を求めてぶつかり合っている、ただそれだけの無意味な行為が彼らのやってることの実情なのである。

 

 シーブック・アノーことキンケドゥ・ナウが主張しているクロスボーンの過ちとは『戦争による世直し』その考え方自体が間違いであり、市民生活を破壊してまでおこなう革命などが正しいはずがないとする一般庶民の枠組みから一歩も外に出てはいない庶民的な倫理観に基づく否定であり、世界と人類全体の未来を俯瞰視点で見た上での結論ではまったくない。

 

 

 対するザビーネたち、クロスボーン・バンガードの兵士たちにとって貴族主義の理念の是非を今さら議論する余地などどこにもない。

 なぜなら、地球連邦政府の組織と人に鉄槌をくだして世直しをしなければならないとしたマイッツァー・ロナの理念に従って、鉄仮面と呼ばれていたカロッゾ・ロナという実践者がこれを行うと断を下して始められたのがフロンティア・サイドへの侵攻だったからである。

 

 善悪で言うなら、“悪”だと断言できる行為と知った上でおこなった“必要悪”としての戦争行為・・・・・・それがシーブックだったキンケドゥには理解できなければ、したいとも思わせない視点の違い。

 

 だからこそ、彼は言い切るのだ。言い切れるのである。

 

「そんなものは・・・・・・理屈だッ!!」

 

 ――と。

 キンケドゥは・・・、否。ザビーネと戦う過程でシーブックに戻っていた当時の少年は、そう断言する。そんなものは理屈だ、理想論に過ぎないと。

 

「自分たちの理屈だけを力で以て押しつけて、その果てに待っていたのが鉄仮面による『人間だけを殺す機械』《バグ》の大量投入だった! そして奴はラフレシアまで出してきた! あれがお前たちの行き着く先だ! 理屈だけで人の心を動かそうとするなんて甘いんだよぉッ!!」

「くッ!?」

 

 急加速した機体を横に避けるため、バックステップしたザビーネに対してキンケドゥは新型機故の相手が知るはずのない《X1改》で追加された新装備《スクリュー・ウェップ》を使用してダメージを負わせることに成功する。

 

 十年近い機体の時代差がもたらす戦果ではあったものの、それは同時にキンケドゥにとって致命的な相手の機体の自分の機体との差を如実に思い知らされる結果さえもたらしてくれる諸刃の剣ともなってしまうものだった。

 

「ちぃっ! 機体が重い・・・! やはり重力下の戦闘でミノフスキー・クラフトを積んでいない《クロスボーン・ガンダム》だと限界があるか・・・ッ」

 

 コックピットの中で、敵にダメージを与えることに成功したキンケドゥは歯がみする。

 《クロスボーン・ガンダム》はもともと、新たなる敵『木星帝国』に対抗するため新生クロスボーン・バンガード軍が、乏しい予算と人員で正規軍相手に戦えるようになるため必要不可欠なエース機として開発された機体であり、バビロニア紛争から十年後に開発された機体という時代差を鑑みてさえ高性能という他ないガンダムの名に恥じない新型機だったが・・・・・・一方で、これを開発させた組織そのものはガンダムパイロットのエースでさえ芋剥きをやらされなければならないほど貧乏所帯でやりくりしている名ばかりでしかない集団だったのが実情である。

 

 そのため、木星帝国が地球まで侵攻されるより前に殲滅することを目的として掲げていた彼らの機体には、地上戦闘が想定されておらず、また想定した装備を追加しておく金銭的余裕も存在してはいなかった。

 

 そのためクロスボーン・ガンダムX1には、ガンダムF91には搭載されていた重力調整システムの《ミノフスキー・クラフト》は装備されておらず、機体性能だけで飛んだり跳ねたりする原始的な地上での機動戦闘をおこなざるをえない縛りが今のキンケドゥには課せられていた。

 それでも尚、彼がザビーネと互角に戦えているのは、ただ単に彼が自分の土俵に合わせて地上戦闘に限定してくれているからに過ぎない。

 自分だけ空に浮かんで一方的に撃ってこられた場合に、自分は打つ手がなくなってしまうところなのだから当然ともいえるが、だからと言ってライバルの手加減をされて嬉しがる趣味がある男でもない。

 特にザビーネの騎士道精神は、シーブックはともかくキンケドゥとしては苛立たざるを得ないのが彼であり、彼から見たザビーネと自分との関係性でもあったのだ。

 

 

 なぜなら自分は、この男のコスモ貴族主義にかける妄執に愛する女性を縛られ続けたのだからっ!! 家の呪縛から解放して本来の名を取り戻させてあげるために十年以上の時と戦いをかけてきたのだから!!

 独善でも偽善でも自分には関係ない! たとえ自分が地獄に落ちようとも、俺は彼女をロナ家の呪いから解放するため戦い続け、この男を倒す!! 絶対にだ!!

 

 

「ザビーネッ!! オマエが最も支配者に相応しいと言って、無理やりコスモ貴族主義のクイーンにするため担ごうとしていた女性は、支配など正しいとは思っていなかったッ!!」

「・・・・・・なに?」

 

 キンケドゥの叫びに、体勢を立て直して再反撃に移ろうとしていたザビーネは思わずコントロールレバーを握る腕の動きを止めて、相手の言葉の続きに耳と意識と傾けてしまう。

 今日の戦いで初めて彼の顔に、不審げな表情が浮かんだ瞬間だったことを、通信画像は送り合わないままオールドタイプのザビーネを糾弾していたキンケドゥは知ることができないまま糾弾を、相手の信ずる思想の誤りを、自らの信じ貫く愛と信念を誇り高く声高に吠え立て続ける。

 

「支配をよしとしない者が、最も支配者に相応しいのなら、それを望む者は支配に相応しくはない事になるッ!!」

「・・・・・・」

「貴族主義は始めから間違っていたんだよ! ザビーネッ!!」

「・・・・・・・・・なるほどな。そういう事か・・・・・・」

 

 熱く自分の愛と想いを叫び終えたキンケドゥとは真逆に、ザビーネのつぶやきには先ほどまで存在していた熱が嘘のように消え去っていた。

 まるで何かの妄執にとりつかれて、悪い夢でも見ていた自分に気がついたかのように。頭から冷水を浴びせられて冷静さを取り戻させられた夢遊病患者のように。

 彼は一瞬前まで熱くほてっていた今では冷め切った心と、白けた気持ちで胸が一杯になりながらシーブック・アノーに・・・・・・否。キンケドゥ・ナウと名乗ってケンカをふっかけてきた『見ず知らずの赤の他人』に、まるで教師のような口調で冷静に相手の言葉から状況を分析した評価と採点を下してやった。

 

「理解したよ、キンケドゥ・ナウ君とやら。君が私の知るシーブック・アノーではなく、また君の知るザビーネ・シャルも私ではないのだという事実をな・・・」

「なんだとッ!?」

 

 相手は憤り、自分はより白けさせられる。・・・悪循環もいいところだ、と馬鹿らしくなりながらも、一応は相手の実力を鑑みて無視するわけにも行かず対処せざるを得ない。全く以て面倒な相手と言うべきであろう。

 

「君の言から推察すれば、君の知る私はクロスボーンが敗戦した後にベラ・ロナをコスモ貴族主義の残党を束ねるためのクイーンとして担ごうとしたのだと思われるが・・・・・・そんな愚行は無意味であると私自身が断言させてもらおう。

 なぜなら、彼女こそ最も人の上に立つ資格を持たない身勝手な女だからだ。自分一人の都合が変わったからというだけで連邦とバビロニアとの間を蝙蝠のように立ち回る恥知らずな売女にコスモ・バビロニアのクイーンは務まるはずがない」

「・・・・・・」

「それとだが、先ほどから君の聞いていると、君は自分の知る私一人の話だけを根拠としてコスモ貴族主義を定義しているように感じられる。たしかに私はクロスボーンの健軍に協力はしたが、あくまで自分を実践者の一人と考えているし、貴族主義の提唱者は自分だと思うほど己惚れたつもりもない。

 私一人が貴族主義をどう定義していようとも、それは私個人の解釈に過ぎず、私の言葉をいくら否定したところで私個人が間違っていることを証明しただけで貴族主義が間違っていることに直結するものではない。一人の考えを全体の総意であるかのごとく捉えて、自分勝手な理屈で決めつけてはいけないと学校の先生から学ばなかったのかな? キンケドゥ・ナウ君。だとしたら教師も悪ければ親も悪かったな。違うかね?」

「―――・・・・・・ッ」

 

 冷然とザビーネは、キンケドゥの間違いを指摘し歯噛みさせ、悔しそうに沈黙させる。

 自分が生まれ育った環境と、言葉を交わした人たちだけを基準として世の中を定義し、世界はこういうものだと理解する。…人一人が持つ世界観など、所詮はその程度の広がりを持つことができない代物でしかない。

 ニュータイプ能力を得て認識力を拡大しようとも、今まで自分が育んできた正しさと価値基準という寄って立つ大地がなくなるわけではないのである。

 

 平凡な学生シーブック・アノーがニュータイプに覚醒したのが未来のキンケドゥ・ナウだ。断じて、その逆ではない。

 狭い範囲でしか物事と世界を捕えなかった少年が特別な力を得ただけで世界を定義し、他人を否定する資格を得たと主張するならば、それこそ力によって他者を制圧する軍事独裁の色を帯びてこざるを得ないと否定されるべき代物であろう。

 

「君はコスモ貴族主義を否定するばかりで、まるで理解しようとしていない。ベラ・ロナを中心に置いて、彼女を縛る存在として否定するためだけに決めつけて、分かったような口を叩いているだけだ。子供の理屈だよ」

 

「そんなにベラ・ロナが欲しかったのか? 君は。だとしたら呉れてやろう。君の知る私がどうかは知らないが、私個人にとってのベラ・ロナは味方機のコードで我らの目を欺いてザムス・ガルを撃沈した裏切り者の売女でしかない。マイッツァーが小娘一人にこだわったせいでコスモ・バビロニアに破滅をもたらした不幸の女神だ。

 要らないな、あんな女など。男のもとへ走るために家と家族を売り渡し、国家を裏切り敵へと走ったワガママで利己的な『バビロンの娼婦』など、頼まれたところでほしくはない。君の好きにしたまえ、不良少年君。出来損ないのボニーとクライドを再現するにはお似合いの組み合わせになることだろう」

 

 キンケドゥにとって致命傷になり得る言葉を放ち、他のなにより大切にしている大事な想いを侮辱され、ニュータイプパイロットのエース青年となっていたキンケドゥ・ナウは感情の赴くまま自身が持つニュータイプ能力を限界まで絞り出させる!!

 

 

「き、き、・・・貴様ァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!」

 

 

 機体を走らせ、性能限界を超えた速度でザビーネの乗るベルガ・ギロスX2に向かって飛びかかっていく。

 サーベルを抜いて、サーベルで相手を機体ごと切り裂くことに拘って突撃する彼の感情任せの特攻は、かつての一時的な専有クロスボーンからの投降兵アンナマリー・ブルージェを彷彿させ、ザビーネもまた彼女の時に使った戦法を今回もまた用いるつもりで先ほどの言葉を放っている。

 

 狙い澄ましてシャット・ランサーが発射され、まっすぐ自分に向かい全速力で突撃してきていた敵機に対して、その矛先が猛スピードで接近していく!!

 

 

「なんとぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

 

 だが、キンケドゥ・ナウとてエース級のニュータイプだ。まして彼のパイロット能力そのものはザビーネの知る少年時代のシーブックよりも上なのである。

 質量を持たぬ残像を発生することまでは出来ないまでも、唯一の目撃者であるノインの目には残像としか映らないほどの速さで攻撃を躱して急速接近し、槍の発射し終えたヘビーマシンガンを持つ右手を切り飛ばし、さらに止めを一斬を放つため大きく《ビーム・ザンバー》を振りかぶる!!

 

「もらったぁぁぁぁぁッ!!! ザビーネェェェェェェェェッ!!!!」

 

 叫んで切り下ろし、武器を失って無防備になった相手の機体をもろともに一刀両断!!

 ・・・・・・するはずだったのだが、しかし・・・・・・・・・。

 

 

「無様だな、キンケドゥ・ナウ。女の恨みで我を忘れるとは・・・私の知るシーブック・アノーなら、この程度の策に掛かることはなかったろうに・・・」

 

 静かにつぶやき、瞑目しながら彼は残された自分の機体の左腕に、超接近専用の緊急装備として追加されていた新型武装、唯一完成されていた《ビーム・ダガー》を迫りくる相手のコクピットへと押し付けて、ビームを射出するためのレバーを軽く押す。

 その瞬間、ダガーの柄からわずかな距離にビーム光が発生して、クロスボーン・ガンダムX1のコクピットをパイロット事焼き払った。

 

「う、うわぁぁっ!?」

「女への執着だけを理由に戦場へ来るとは…恨みがましい…ッ!!」

 

 相手の絶叫がザビーネに聞こえるはずもなかったが、ザビーネの知覚はキンケドゥの叫びをオーガズムを求めて男に縋るときに女が上げる悲鳴のように聞こえさせていた。

 

「戦場で感情を処理できん人類はゴミでしかないのだと、戦場で教わってきたと思っていたのだがな……その程度も分からん貴様には、私のライバルの名を名乗る資格すらない」

 

 それが彼がシーブック・アノーとキンケドゥ・ナウに対してはなった最後の言葉であり、最後に捨てた思い出であり、彼の最期の姿に感じた彼なりの感情からくる感想だった。

 

たとえ名を変え、姿を改め、時代が変わり刻が移ろおうとも自分にとってシーブック・アノーは、シーブック・アノー以外の何者でもなかった。だから相手をしたし、拘りもした。

 だが……見ず知らずの赤の他人を覚えておいてやる理由など彼には何も持ち合わせてはいなかったから……。

 

 これ以降、ザビーネ・シャルが彼らのことを思い出すことは二度となかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・な、なんという事だ・・・、なんという、戦いだ・・・・・・ッ」

 

 会話こそ聞こえなかったものの、事の一部始終を目撃していた唯一の傍観者ルクレツィア・ノインは興奮と恐怖に身と心を震わせながら、茫然自失の体でそうつぶやいていた。

 あまりにも人の限界を超えた戦いであったがために彼女の中に眠っていたMSパイロットとしての血が騒ぎ出して興奮状態にあり、教え子たちの一件を一時的にとはいえ忘れさせてくれていたのである。

 

 だが、それもここまでだった。無邪気な夢は、動けなくなった彼女の機体を救助するため歩み寄ってきた黒い見知らぬ機体のパイロットの声で苦い現実へと引き戻させられてしまうのだった。

 

 

『ルクレツィア・ノイン上級特尉殿でありますな? 小官はクロスボーン・バンガードのザビーネ・シャル大尉であります。大丈夫でありましょうか?』

「え、ええ・・・。ですが、心も体もズタズタにされてしまっていたようです・・・」

 

 冷静すぎる声で夢見る無邪気な子供の気持ちから、大人の理性に引っ張り上げられたノインは優秀すぎる頭脳が災いして思い出したくもない事実をいくつもいくつも思い起こさせられてしまう。

 

 まんまと敵の罠にはまった自分、教え子たちの寝起きする宿舎に夜襲を許してしまった自分、指揮官としての甘さ、パイロットとしての甘さ・・・今までは人として大事なものと想い大切にしてきたそれらが今となっては全て憎たらしく、捨ててしまいたくて仕方がない・・・!

 

「・・・私は今回の件で自分の甘さを鍛え直す必要性を痛感させられました・・・っ!! 私が敵に止めを刺せる厳しささえ持っていればこんな無様な失態は犯さなくて済んだはずなのに・・・ッ!!」

『それは違います』

「・・・・・・え・・・?」

 

 一瞬、慰めのように聞こえた相手の言葉が意外なほど強く、ハッキリとしたものであったため不信を覚え、見上げるノイン。

 サングラスのように丸っこい形状を持つ変わった形のバイザーの頭部が、人間のような仕草とともに自分を見下ろし、先ほどまでの鬼神のごとき戦いぶりからは想像もつかないほど冷静で知的で落ち着いた声音をもつ大人の声で優しく諭すように、間違いを正して教え導く教官のように客観的で私情を交えない正答を彼女に与える。

 

 

『本来、未熟な若者たちであるパイロット候補生たちを指導する者と、訓練所の警備主任と責任者とは必要となる資質が異なり、別々の者が担当して然るべきところ。

 それを、ただ“軍人として優秀だから”というだけで全てを兼任させ押しつけたOZ人事部の無能怠惰にこそ今回の事件を引き起こした原因があると小官は考えております。

 このような組織の腐敗を見過ごしていてはOZもやがて連合のように腐り落ちるのを助長してしまうだけでありましょうな。討つべしの一言に尽きます。その為にこそ我々は起ったのですから、上への配慮だの我が身を惜しむ保身などの私情こそ、この場に捨て置くべき不要な感情かと存じます』

「・・・・・・」

 

 あまりにも組織の理屈として正しすぎる発言に二の句がつけず、ただ黙って見上げたまま、相手の機体の手の平に優しく掬い上げて運ばれていく自分自身に気づくことも出来ず、ただただ呆然と見上げ続けていたノインは、その答えにようやく行き着いて口に出す。

 

 

 

「この人たちは・・・あまりにも純粋すぎる・・・・・・っ」

 

 

 それはクロスボーン・バンガードに参加し続ける全ての者たちに対して正しい理解の仕方であり、シーブック・アノーからもセシリー・フェアチャイルドからも『理想的すぎる。俗世に生きる人間には実現不能な夢』と言われた彼らの信じる正しき人の世の有り様。

 

 そして、キンケドゥ・ナウが人生の最初から最期まで抱くことのなかった、コスモ貴族主義への解釈の一つ。

 

 

 コクピットを刺し貫かれた彼の機体は、森の中で墓標のように佇みながら、ただ夜空の瞬く宇宙を背景において無言のまま憎むべき相手がいるはずだった地面を見下ろし続けて空へと振り仰ぐことを拒否し続けている。

 それが何を意味するのか、誰も知らない。意味などないのかも知れないし、あるのかも知れない。

 

 ただ一つだけ確かなことは、彼は死ぬ寸前に装甲越しに聞こえるはずのない想いと声を、ある人物に向け送っていた。

 

 

“お前はどことなくアイツに似ている。今死ななければ、きっといいパイロットになれると思う。頑張ってくれ、応援している。

 ・・・・・・もっとも今度は助けに行けそうになくなっちまったけどな・・・・・・”

 

 

 

つづく



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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。13話

明けましておめでとうございます。久々の更新となります『シロッコSEED』です。
新年最初の更新なのに主人公の出番が少なくてゴメンナサイ。飛ばしてシロッコのシーンまで行こうかどうしようか迷ったんですけど、どうしても書きたい回でもありましたので書かせていただいてから次へ行きたいと思います。
次回こそ、シロッコ大活躍をがんばるぞ!と。

――遅ればせながら今年もよろしくお願い致しま~す(^O^)/


 温暖な気候と、未だ戦火に巻き込まれずに済んでいる雄大な自然の海を魚たちが泳ぎ回るオーブ首長国連邦、近海の海域。

 その海中に今、ザフト軍潜水艦が音もなく接近後退を繰り返しながら、領海の外縁部を出たり入ったりと示威行動を取り続けている。

 

 その迂遠さに対する苛立ちを八つ当たりしたわけではないだろうが、イザーク・ジュールは手の平で握っていた紙切れを机に叩きつけ、鋭い罵声を同窓の上官に向け放っていた。

 

「こんな発表、素直に信じろって言うのか!?」

 

 バンッ!!と、防音処置が整っている艦内全体に満ちるほどの大きな音を立てて叩きつけれた紙切れ。

 それと同じ内容がコピーされている紙の書類を、皮肉気な視線と表情で眺め回してやってからディアッカ・エルスマンも友人に同調して毒を放つ。

 

「『足つきは既にオーブから離脱しました』・・・なんて本気で言ってんのォ~? それで済むって? オレたちバカにされてんのかねェ? やっぱ隊長が若いからかな?」

 

 揶揄するような視線と態度。そして口調。

 それらは多分に嘲りを含んでおり、彼らが“先日の失敗”について臨時の隊長であるアスラン・ザラを責めているのは明らかすぎるものだった。

 

 

 先日、新設されたばかりのアスラン・ザラ率いるザラ隊は、連合の“足つき”――新造戦艦《アークエンジェル》追撃のため攻撃を仕掛け、戦闘を行い、あと一歩のところまで追い詰めながらも、オーブ軍の横やりによって相手の喉元を締め上げている最中にリングの外まで連れ出させれるのを黙ってみていることしか許されなかったという失態を犯している。彼らはそのことを言っているのだ。

 

 無理もあるまい、あれほどまで足つきを追い詰められたことは、彼らでさえ出会って最初の頃以外には一度もなく。

 あのまま数秒だけ攻撃を続けられていたならば、確実に沈めていた!と確信できる手応えを掴んでいたからこそ、それを横から割って入ってきて『自分勝手にバカな理屈をほざくばかりで戦う勇気も覚悟もない臆病きわまる中立国』なんて存在に配慮してやって退くしかないと判断して命令してきた隊長のアスラン・ザラを非難がましい目と態度で指弾してくるのは仕方のないことではあったのだから。

 

 そして、だからこそ彼は言い切れる。

 

 

「そんなことはどうでもいい。オーブは建前を唱えているだけだからな。

 この発表が嘘か真か、俺たちが議論しなくても向こうの方がよく理解しているさ」

 

 オーブは中立国として建前を口にしているだけであり、こういう状況下での一般回答を返してきているだけでしかない。

 仮にアスランがオーブ側の代表だったとしても、同じ回答を公式声明として発表していたことだろう。

 

 何より、この場合はこれで十分なのである。

 国の公式発表の真偽は自分たちの国の政府が判断することであって、軍の命令を実行するだけの軍人でしかない自分たちにはどうでもいいことでしかない。

 重要なのは、この公式見解が自分たちの任務を阻害している。それをどう掻い潜って任務を果たすかの具体的な方法論であって、相手の主張が本当なのか嘘かだのと相手に聞こえない海の底で言い争ったところで時間の無駄でしかない。

 

 アスランは部隊を率いる隊長を任せられた者として、そう判断していた。

 だからこそイザークの感情を収まらせるため好きに言わせ続けていたのだが、どうやらこれも時間の無駄だったらしい。

 

「だが、これがオーブの正式回答だと言う以上、ここでいくら俺たちが嘘だと騒いだところで、どうにもならないと言うことだけは確かだろう」

「なにをぉっ!?」

「押し切って通れば、本国も巻き込む外交問題だ」

「・・・ぐっ」

 

 アスランに冷静な大人の対応を示されたことで、馬鹿にされたように感じたイザークが衝動的にかっとなり食ってかかるのを正論でいなす。

 

 疑いを強めているとはいえ、プラント政府はまだ現時点ではオーブの中立を尊重し、主権国家として対応している。

 イザーク個人の主観的評価がどうであろうと、ザフト軍に所属している限りはプラント評議会の公式見解を彼は尊重しなければならず、これに異議を唱えることは国家の決定に疑義を抱いていることを意味し、彼の立場的にあまり好ましくない方向に事態が進展してしまう恐れがあった。

 

 頭に上がっていた血を、わずかに掛けられた冷や水分だけ冷まさせられた後、

 

「ふーん・・・さすがに冷静な判断だな、アスラン。いや、ザラ隊長?」

 

 それでもプライド故なのか、すぐに嘲笑するような顔つきになると、『隊長』の部分を敢えて強調した口調で嫌味を言ってくる。

 

 ――が、しかし。特に方針自体には意見や反論は持ち合わせていなかったのか、その後に続く言葉はなさそうでもあった。

 

 要するに、ただの負け惜しみである。『子供か君は・・・』と言いたくなったのをぐっと堪えてアスランは言われたとおり隊長らしく振る舞うための返答として。

 

「俺の決定を理解してくれて嬉しいよ、イザーク。今後ともよろしく頼む」

「・・・・・・~~~っ!!!」

 

 勝ち誇ったように嘲笑していた表情が引き攣りを起こし、ヒビ割れたような激情が溶岩のように火口から噴出するかとさえ思われたのだが。

 

「だから? はいそうですか? って帰るわけ?」

 

 幸いなことにアスランに顔を向け、ディアッカには背中だけをさらす位置関係だったため顔を見られておらず、友人とは違った理由で反感を抱かされたらしい彼が別方向から反撃してきことで一時的な部下と上官の激突はギリギリのところで未然に防止することができたのだった。

 

「カーペンタリアから圧力をかけてもらうが、すぐに解決しないようなら潜入する。――それでいいか?」

『・・・・・・っ!!』

 

 事も無げに言ってのけたアスランの言葉に、一瞬全員が『ギョッ』とさせられ絶句する。

 

「“足つき”の動向を探るんですね?」

 

 中で一番最初に冷静さを取り戻したニコルから確認のための質問をされ、首肯して肯定するアスラン。

 

「どうあれ、相手は仮にも一主権国家なんだ。確証もないまま俺たちの独断で不用意なことはできない」

「突破していきゃ『足つき』がいるさ! それでいいじゃない!?」

「・・・・・・正気か? ディアッカ」

 

 敢えてアスランは過激な表現を使ってディアッカに応えた。

 侮蔑していると取られても仕方のない言葉であると承知はしていたが、せめてこれくらいのことは言ってやらないと彼らの感情的な暴走を抑止するための“脅し”にはならないだろう。

 普段はおとなしいアスランでさえ、そう感じざるを得ないほど今の彼とイザークからは冷静さが枯渇しかけている。そう見ざるを得ない暴論がディアッカの唱えた説だったからである。

 

「軍人が国家の許可なく独断専行で中立国への攻撃をおこなって戦端を開き、政府は後追いで行動を承認し、戦争を開始する・・・・・・評議会の面目は丸つぶれになるぞ。

 ただでさえ現政権は樹立してまがなく、選挙に勝ったばかりで内外の敵も少なくない情勢下で、君は自分の母親を破滅させたい願望でも抱いていたのか?」

「・・・・・・っ!! そ、それは・・・・・・けどさッ!!」

 

 思わぬ角度からの不意打ちにたじろいで、精神的に蹈鞴を踏まされたディアッカは、それでも諦めることなく反論しようとしてくる。

 が、それは彼がアスランの主張した内容自体を否定するためのものでないことは彼の立場と親子関係を鑑みれば明らかすぎるものであり、単にアスランに言い負かされて黙り込んでしまう自分がプライド的に納得できなかっただけだろう。

 

 そう判断したアスランは、再び攻撃の方向性を変更させる。

 彼はクルーゼ隊所属のパイロット達の中では実績・実力ともにトップガンであり、隊長と副隊長を除く隊内のナンバー3として内外にも知られている人物だ。

 

 当然のように隊長達からパイロット達の指揮を任されることが多く、比較的彼らの戦略戦術思考などを耳にする機会も多くなり、若い少年パイロットたちの中では頭一つ二つ飛び抜けた政治的センスを持ち合わせるに至っている事実を、彼はまだ気づいていない・・・・・・。

 

「ヘリオポリスとは違うぞ、ディアッカ。同じに考えているなら止めておいた方がいい。

 単純に軍の規模もそうだが、仮に攻め入って足つきを見つけ総攻撃を仕掛け、勝ったとしてだ。・・・その後はどうなる?

 オーブから流出した難民にモルゲンレーテの技術者や《G》の開発スタッフ達が混じっていた場合に、連合へ走られたらどうするつもりなんだ? オーブの軍事技術の高さは言うまでもないだろう?」

「それは・・・・・・」

「祖国再興のため、あるいは復讐のため彼らが連合に降ってオーブが秘匿していた軍事技術のすべてを無償提供する可能性だってある。

 表向きは平和ボケした中立国だが、裏ではどうなっているのか計り知れない厄介な国なんだ。ただ勝てばいいというほど単純な話ではないだろう。

 まさか、オーブ国民を一人残らず殺す訳にもいかない以上、慎重にことを進めるしかない・・・」

 

 それに、とアスランは悔しそうに口をつぐんだ皮肉屋の少年に苦笑する作り笑いを浮かべて見せながら、例え話を披露してやることで相手にとっても受け入れやすいよう調整する。

 

「二十世紀の後半・・・いや、中頃だな。占領後の予定もなしに自分の国土の何十倍もの領土と海上を制圧して、軍の補給は現地調達。そして結局、数年で潰された国があったそうだ」

「ああ・・・・・・、ダイニジセカイタイセン、ね」

 

 士官学校時代、戦史の授業で教官から教わった内容をおぼろげに思い出したディアッカは理解の色を表情と瞳に宿してアスランを見返す。

 たしか、ニホンとかいう地球上にかつて存在していた小さな島国だったと記憶している。教官達が『愚かなナチュラル共が起こした記念碑的な愚行』と激しく罵りまくっていた罵声の数々の方が記憶に残っていたため完全にはほど遠い記憶の再生しかできなかったが、これだけの情報が思い出せれば彼にはアスランの言わんとしていることは察することができる。

 

 彼とて伊達に、アスランとイザークに次いで成績上位者グループの一角を占めていた優等生の一員だったわけではないのである。これだけの事前情報が与えられてさえいれば、頭を冷やして少し冷静に自分たちの状況を俯瞰視点で見下ろすことも可能になる。

 

「そういうことだ。自分たちが見下しているナチュラルの愚行をコーディネーターが模倣してやって、味方からもナチュラルからも笑い物になってやる義理は俺たちにないだろう? だからさ」

 

 そう言って白い歯を見せて笑いかけるアスランに、ディアッカも目玉を軽く動かして返事とする。

 ・・・無駄に歴史好きな上官の影響を静かに、だが確かに受けてしまっていることまでは彼らも気づいていないようでもありはしたが・・・・・・。

 

「――ふん。OK、従おう」

 

 むっつりと聞いていたイザークが、唯一の味方だった友人を陥落されたことで形勢不利と判断し、あきらめたように両手をあげて降参の意を示すことにしたようであった。

 しょせん彼とて正論を説かれ、それについ感情のみで反対していたことに気づかぬには聡明すぎる頭脳を持つコーディネーターの少年である。

 

「俺なら突っ込んでますけどね。さすが、ザラ委員長閣下のご子息だ!」

 

 とは言え、それでもちくりと皮肉を言うことは忘れないあたりに彼のプライドの高さが現され、その自尊心の高さこそが正論を素直に受け入れられずに感情的な反発をしてしまい、無意味だと冷静になれば判りそうな議論を繰り広げさせた原因になっていたことまでは気づけていないのも事実ではあった。

 

「ま、潜入ってのも面白そうだし・・・・・・」

 

 そして、その近視眼的な思考こそが彼に、敵の実力を過小評価させたがり、敗北を受け入れられずにいつまでも固執し、敗北を重ねさせる遠因となっていることに繋がっているのだと学習するには、彼のプライドは高すぎたのである。

 

「案外ヤツの――“ストライク”のパイロットの顔を拝めるかもしれないぜ?」

 

 それは発言者にとって、単なる嫌がらせの一言でしかなかったろうが、言われた方は思わず「ハッ」となると同時に「ギクリ」ともなり絶句させられてしまったが、イザークと彼に続くディアッカがそれに気づく様子はなく、彼らはそのまま部屋を出て行き、残されたニコルだけがアスランの表情に落とされた陰の色を見つけて、けげんそうな面持ちになるだけで終わった。

 

 

 少なくとも、彼らクルーゼ隊所属の少年エースパイロットたちにとって今このときに起きた出来事は、これだけのことで完結したのだ。この先はない。

 

 

 だが、世界は彼ら少年達だけで成立しているわけではない。他に二人の同席者達が存在していた。

 それは彼らクルーゼ隊の面々が『お客様』として乗船している、潜水艦の艦長と副官たちの存在だった。

 立場上、同席することだけは形式的な義務ではあったが、『本国から来たエリート部隊』が内輪だけで話し合っている会議の内容に割って入れるほどには彼らのプラント内における席次は高くなく、会議の間中じっと大人しく話を聞くだけに留めなければならなかったのは正直に白状して屈辱の極み以外の何者でもなかったのである・・・・・・。

 

 

「・・・・・・なんとも感情的な少年達でしたな、艦長。あれで一応は本国でモテはやされているエリート部隊のエースパイロットたちとは、到底信じられません。ザフト軍の名誉も誇りも地に落ちたものです」

 

 副官が背中の後ろで組んでいた指をほどきながら、イザークたちに続いて出て行ったアスランとニコルを背中が扉の外へ消えると同時に吐き捨てるようにつぶやいた苦々しい声が室内にむなしく響き渡った。

 

 会議の間中、「ぐっ」と力を込めて組み続けて我慢していた指の痺れとともに抑圧されていた感情まで解放されたのか、いつもよりずっと口が悪くなっている副官に対して中年の艦長は宥めるように声をかけてやる。

 

「彼らも、まだ若いということさ。そう怒ってやるな。子供の言うことに大人がいちいち注意していたのでは若い世代は育つまいよ。

 なにより、パイロットとしての実力があるのは間違いようのない事実でもあることだし・・・」

「腕は立つでしょうな、たしかに」

 

 副官はにべもない。むしろ、『アレで腕すら立たないのでは新兵よりも役立たない』とまで言いたそうな不満げな表情を露骨に浮かべる。

 

「ですが、知性の方は年齢標準を下回っているのではありませんか? 艦長。

 オーブの主張を信じるかどうかなど、今この場で彼らの主張を議論するだけの状況に陥らされている自分たちの醜態を客観視さえできれば、火を見るより明らかではありませんか。

 それこそ子供でもわかる理屈なのですよ? それすら考え及ばぬ未熟な少年たちが戦争の主力として前線にまで駆り出されている現状を見るに、小官としましては戦争の行く末について楽観視する気になれません。寒い時代になったものだとお思いになりませんか?」

「それぐらいにしておけ、ヴォイチェフ」

 

 艦長は、さすがに副官の口が過ぎてきていることに気づかざるをえず、注意を促すよう警告する。

 

「どうであれ、相手は仮にも本国のお偉いさんのご子息様なのだ。我々、前線の雇われ軍人風情が独断でどうこうできる立場でもなし、それこそ負け惜しみというものだよ副官。言うだけ言って矛を収めてやることだな」

 

 朗らかに好々爺然として副官の肩をたたきながら笑いかける艦長だったが、その瞳には言葉とは裏腹に邪な光がわずかに灯っていることを相手の方は洞察して、鏡を見れない本人は気づくことができていなかった。

 

 それは、『媚びる色』の光だった。

 

 ザフト軍はコーディネーターだけで構成された軍隊であり、コーディネーターは宇宙の民である。

 その彼らにとって地球上よりもさらに遠くにあると感じられているのが、海底という辺境の地であった。

 

 その海底に隠れ潜んで敵を探して彷徨い泳ぎ、宇宙艦隊と違って戦争が勝利で終われば軍縮の憂き目にあわされるのは確実という『宇宙国家プラントが誇るザフト地上軍・潜水艦部隊の艦長』という辞令を与えられた時点で艦長は、左遷されたと判断せざるを得なくなっていたからである。

 

 この認識は事実と異なるものではあったが、同時にザフト軍の兵士たちの多くが共有してしまっている誤解に満ちた共通認識であり、相互不信の種にもなっていた。

 

 それは、MSという新機軸の最新鋭ロボットを開発したことにより、戦争の勝敗を『数よりも個人の技量』に比重の傾いた中世期の時代にまで巻き戻してしまった軍隊が必然的に持たざるを得ない悪弊なのかもしれない。

 

 アスランたちが先ほど彼らを完全に意識外において、内輪の会話に終始してしまっていたのは、これが理由である。

 自分たち『MSパイロットこそ』この戦争の主役と位置づけ、艦船をMS移送のための輸送船と認識して、それを操船する乗組員達を自分たちより格下と侮ってしまっている内心が程度の差こそあれ如実に現してしまっていたのが先ほどまでのアスランたちが行っていた会議の別側面から見た真実だったからである。

 

「さし当たって我々は自分たちの仕事を果たすとしようじゃないか。それが建設的な意見というもだ、違うかね? ヴォイチェフ副官」

「・・・失礼しました。さっそくオーブへ潜入するための偽造IDを調達する指示を出します。ただ、なにぶんにも急な話ですので軍人用のものは難しいかと思われます。整備士の一人ということであればなんとか・・・」

「それは仕方のないことだな、彼らにも我慢してもらうしかあるまい。さすがに彼らの年齢でオーブ軍のエースというのは無理がありすぎるからな」

 

 冗談口をたたいて先ほどまでの会話を笑ってなかったことにしようとしている艦長に副官は、謝意を示すため軽く頭を下げた後に思い出したことがあったのか顔を上げる。

 

「あの、艦長・・・」

「どうした?」

「指示を出してから資料室で、オーブの法律関連のデータを集めておきたいと思いますがよろしいでしょうか? 我々プラントの民にとって当たり前のことでも、地上に住むナチュラルたちにとっては異常なことがあるのかもしれません。そういった些細な事柄から彼らの身元がバレたら厄介な事態になります。これは知性とは関係のない事柄ですから・・・」

 

 艦長は、わずかに思案してから頷いた。

 

「よかろう。0600時には彼らをオーブまで送り届けるため小型艇を発進させる予定でいる。それまでに資料をまとめておいてくれ。行く途中で彼らに読んでもらうとしよう」

「判りました」

 

 そして両者は、それぞれの場所に向かった。

 が、艦長の指示に従ってから副官が向かった先が、資料室ではなく別の部屋だったことに彼が気づくのは全てが手遅れになった後のことであった。

 

 

 

「アスラン・ザラ率いるザラ隊は、オーブへの潜入をおこなうようであります。潜入のための小型艇発進は0600時を予定しているとのことです」

『――そうか。それは結構。おそらく彼らはオーブで足つきを発見した後、自分たちだけで戦闘を行おうとするだろう。その時にはまた私に報告しろ』

「承知いたしました、パプティマス・シロッコ副隊長」

『期待しているぞ、ヴォイチェフ“艦長”』

 

 ガタッ。

 

「・・・これは、テッド・アヤチ艦長。盗み聞きですか?」

「それが艦長に対しての態度か? どういう事か説明してもらおう、“反乱兵”ヴォイチェフ副官。君は資料室へ行っていたはずではなかったのかね?」

「ふ・・・」

 

 ――ゴリッ。

 

「!! 貴様! 一体どう言うつもりだ!? じ、上官に銃を突きつけるなど反逆行為に当たることだ! これは死刑に値する重罪なのだぞ! それを貴様らわかっているのか!?」

「艦長、貴方を除く本艦全ての乗員が既にパプティマス副隊長と、クルーゼ隊長の指揮下にあります。

 この戦役終了時にザフト軍を掌握されるのは間違いなく、あのお二方です。

 戦争といえば数のゴリ押しと騙し討ちしか知らぬ小策士のパトリック・ザラや、平和平和と口で唱えながら汚職と不正を蔓延らせる身内人事のクライン派ではありません。

 我々はその様に確信してお二方の指揮の下、行動しております。・・・無論、無償奉仕というわけではありませんがね」

 

「ヴォイチェフ! 貴様ぁぁ・・・・・・っ!!」

 

「ご安心ください、艦長。我々は艦を乗っ取ろうなどと考えておりません。これまで通り大人しく艦長を演じておられれば、貴方を監禁したりは致しませんよ。

 “子供たち”に怪しまれると、言い訳するのが面倒ですからね・・・」

 

「貴様、上官に向かって―――」

 

「上官だと思うからこそ、こういう話し方をしているのです。『プラント評議会への反乱を企む大罪人』に艦長の代理として副官が情報を流していた時点で、我々はすでにザフト軍人の道を踏み外しているのだという事実をお忘れなく」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 ガクリと膝をついたアヤチ艦長の仕草と、それに続く沈黙が彼の全面降伏を現すものである事実を察して勝利の笑みを浮かべるヴォイチェフ副官。

 そんな彼に対して、反逆した“かつての上官殿”は恨みがましい目線で上目遣いに見上げながら、まんざら負け惜しみとも言い切れない口調で呪うように吐き捨てた。

 

 

「・・・・・・ザフト軍の誇りを失った、獅子身中の虫どもめ・・・・・・っ」

 

 

 それは彼の心にわずかに残っていた、最期の誇りが言わせた言葉。

 ザフト軍のために戦ってきたザフトの軍人として、結果的に裏切らざるを得なくなってしまった古巣に対して最後の勤めを果たすための言葉であった。

 

 言う方にとっては本人なりに誠実さが籠もった一言であったのだが、聞かされた方としては不快さをそそられずにはいられない最悪に耳障りの悪い侮蔑の言葉であったらしい。

 

 ヴォイチェフは『ふん!』と思い切り鼻を鳴らして裏切った上官を見下ろしてやりながら、万感の思いを込めて彼ら前線で酷使されている兵士たちの嘘偽らざる心情をシンプルすぎる一言にまとめて吐き捨てた。

 

 

 

「愛国心を押しつけるなら、それに見合う給料ぐらい出すべきだ。いつでも売り払える側に立てると思っているから、金をケチって裏切られる。

 一度ぐらい二束三文で売り飛ばされる国家っていうのも体験してみれば、お偉いさん方も愛国のために兵士の給料を増やす気にもなるってもんだろうさ。はははッ」

 

 

つづく



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正規版・戦記好きがキラ・ヤマトに憑依転生 第2話

正規版『戦記好きが』を久方ぶりに書いてみました。最近どうにも頭の回転が鈍くなりすぎていますので少しでも趣向を変えてみた方がいいかなと思い、最初から思いついてた内容の最後ら辺に追加要素を付け足してあります。
楽しんで頂けたら嬉しいですけど、イヤだった場合は消してそこだけ書き直しますので言ってくださると助かります。正直今は頭のバランスが良くないです故に。


 キラ・ヤマトに生まれ変わった少年が、本来の彼と同じような経緯を経て同じ場所へ向かい始めていたのと同時刻。

 中立国オーブが保有する工業用コロニー『ヘリオポリス』の宇宙港から、一隻の老貨物船が管制に許可され入港してきていた。

 

『軸線修正。右6コンマ、51ポイント。進入ベクトル良好』

『制動噴射、停止。電磁バケットに制御を移換する』

『原則率、2コンマ56。停船する。待機せよ』

「・・・これで、この船の最後の任務も無事終了だ・・・」

 

 管制官が伝えてきた最後の一言をもって、船の入港作業と“この船の存在価値そのもの”が完了したことを知らされた年老いた船長は、大任を果たし終えた安堵感から思わずそう呟きながら帽子を脱いだ。

 彼がかぶっていた帽子は、貨物船の船長が被る物にしては妙に軍人臭さが感じられるデザインが施され、彼が着ているクルーたちと同じ白色の作業服とも微妙に色合いが異なっていた。

 然もあろう。事実として彼らは地球連合軍に所属する正規の軍人たちであり、中には国運をかけた重要な任務を果たすために実戦経験豊富な精鋭兵士さえ連れてきているのだから。

 

 ヘリオポリスに入港して、“適切な人材”を“物資”まで送り届ける・・・それまでの間だけ敵の目を欺ければ十分過ぎるとして用意された物品を纏っているのだ。多少の違和感ぐらいは許容範囲としてもらう他ない。

 

「貴様も護衛の任、ご苦労だったな。フラガ大尉」

「いえ・・・航路なにもなく、幸いでありました」

 

 船長――いや、“艦長”から話しかけられた相手である二十代後半のすらりとした金髪の優男が応えを返す。

 端正ともいえる顔立ちと飄々とした雰囲気を漂わせ、不敵な笑みを浮かべた男は真剣味を増した表情と声音で念のため気になる情報の確認を問う。

 

「周辺にザフト艦の動きは?」

「二隻トレースしておるが・・・なぁに、港に入ってしまえばザフトも手を出せんよ」

「・・・フッ」

 

 艦長からの返答に彼はかすかな嘲笑で応じたが、それは別に上官に向けて放ったという訳ではなかった。

 

「・・・中立国、でありますか。聞いて呆れますな」

 

 プラント・連合双方が争い合う状況の中で、敵対する双方のどちらにも与することなく中立を保ち、独立主権を維持している国『オーブ首長国連邦』

 その中立性を利用して、連合軍はこのコロニーを対ザフト軍への切り札となりうる兵器の開発を共同で押し進めていた。

 今回、彼らが入港してきたのは完成した兵器を操るパイロットたちを送り届けるのが目的であり、敵と体を張って戦っている前線に立ち続ける者としてオーブが掲げる『中立』というお題目を鼻で笑いたくなるのも無理からぬ状況ではあった。

 

 ――だが同時にそれらは彼らの欺瞞であり、傲慢でもあったとも言えるだろう。

 特にそれを言った発言者たる彼自身が『エンディミオンの鷹』の異名を取る地球連合軍のエースパイロット、ムゥ・ラ・フラガ大尉その人であったのだから尚更である。

 

 自分たちで始めた戦争に、自分たちだけでは勝てなくなったから安全な隠れ家を求めて中立国とはいえ、たかが一小国にまで頼らざるを得なくなった超大国のエースが言う言葉ではなかったし、だいたい中立を隠れ蓑として利用すると言うことは言い換えるなら中立国の民間人を自分たち『軍人の盾になって守ってもらおう』としていることと何ら変わる所はない。

 過去二度にわたって行われたWWでも局所的に発生していたことがある事態ではあったが、彼らがそれを知らないのか、知っていても自分たちに当てはめることを本能的に避けているだけなのか。それは解らない。わからないが―――

 

「はっはっは。だがそのお陰で計画もここまでこれたのだ。オーブとて地球の一国と言うことさ」

 

 そう言って、少々皮肉気な笑いを浮かべる艦長の姿からは『地球を守るために戦っている軍人』としての傲慢な考え方がわずかなりと感じられるものだったことは否定できない。

 戦時中にはよくあることではあっただろう。自分たちの勢力圏で暮らしていた者たちだったら侵略軍に対してレジスタンス活動なり、情報を流すなりして協力するのが当然であり、それをしないで敵にも協力している者たちは裏切り者も同然だ・・・そういう考え方は戦時国家ではよくある話だ。

 今回の任務にしたところで、仮にヘリオポリスが被害を受けたとしても『戦う気がないなら、せめて戦闘で受ける被害くらい我慢すべきだろう』という敵と戦場で殺し合っている自分たち軍人こそが民間人を守ってやっているのだと考えやすい軍上層部の思考法が影響していないとは言い切れない。

 

 そして往々にして、この手の軍人たちは開戦前に自分たちの属する国がおこなってきた政策や慰撫工作の不適切さが、中立国を同盟国にまで昇華させられなかったのだという政略次元の発想をすることができないタイプが多いのも戦史上の常識である。

 人類は戦争から何も学ばないほど愚かな生き物ではないが、だからといって今の自分たちに都合が悪い事実を事実として認められるほどには賢くもない。・・・そういうものだ。

 

「上陸は本当に彼らだけでよろしいので?」

「ヒヨッコでも“G”のパイロットに選ばれたトップガンたちだ。問題ない。貴様などの有名人がチョロチョロしてる方が却って目立つぞ」

 

 部下を安心させるためか、敢えて楽観論を語ってくれる上官に対して曖昧な笑みを浮かべるだけで無言を答えとして返し礼儀を守るフラガ大尉。

 ・・・理由は判然としないが、彼には任務の途中から不安があり、艦長の気遣いに応えることができない心地にされていたからである。

 

 そして、その不安は正しく的中する。

 いや、当たり前の結果が形となって訪れただけと言うべきなのかもしれない。

 

 なにしろ彼ら連合軍は、オーブの中立を尊重することなく事実上無視して軍事的に利用するため、軍隊の一部を国内に進駐させてしまっているのだから。

 ・・・なら敵も同じようなことを考えたところで不思議がる理由はどこにもあるまい・・・。自分たちが考えた奇策を、敵は考えつかないなど考えるのは傲慢と言うべき愚考でしかない。

 そして、それもまた戦時下の軍人が犯す過ちの代表例の一つでしかない。

 

 思いとは裏腹に彼らが果たそうとした重要任務は、人類の歴史上で無数に存在してきた同じような失敗例の一つに加えられるだけで終わることになり、彼らには自らの愚劣な選択の責任を自分たち自身の命で贖わされる未来が待っているであろうが―――それもまた“任務を無事終えた”と思い込んでいる今の彼ら自身の主観にとってはどうでもいい可能性上の事柄だった。

 

 

 

 

 

「――だからぁ~、そういうんじゃないんだってばーっ」

 

 カトー教授からの依頼追加要望を受け取って、教授のカレッジへと移動していた僕たちの視界に大学のレンタルエレカポードで騒いでいた華やかな少女たちの一団が映り込んできたのは、彼女からのそんな声が聞こえてきた時のことだった。

 

「あ・・・」

「ウフフ・・・あれ? ミリアリア!」

「ハーイ」

 

 フレイ・アルスター。長くつややかな燃えるような赤髪と、高貴さを感じさせる整った顔立ちの美少女だ。連合参事官の令嬢で生粋のお嬢様でもある。

 ガンダムSEEDの世界の中では数少ない、最期まで戦争に慣れることができずに死んでいった民間人側の女の子で、本来のキラ・ヤマトにとっては大切な人の一人でもあった少女。

 

「あ、ねぇミリアリアなら知ってるんじゃなーい?」

「え? なぁに?」

「やめてよってば、もう!」

「この子ったらサイ・アーガイルから手紙もらったの! なのに何でもないって話してくれないのよ」

「えー!?」

「アンタたち! もういい加減に・・・ッ」

 

 姦しく、平和に日常的な男女間の恋愛話で盛り上がっている彼女たち。

 その姿を、少し年寄り臭いと自覚しながら目を細めて、遠巻きに眺めていた僕の肩に顔を寄せながらトールの奴が訳知り顔で意味ありげな言葉を告げてくる。

 

「手紙だって、サイが? 意外だなぁ~♪ フレイ・アルスターとはぁ」

「・・・?? え・・・? えっと・・・な、何が?」

「けど! 強敵だよこれはぁー? キラ・ヤマトく~ん♪」

「え・・・? ――あっ! 違っ!? それは誤解だってトール! 僕は別にそんなつもりで彼女を見ていたわけじゃ・・・っ」

「いーから♪ いーから♪」

 

 ニヤニヤ笑って、僕を見上げてきながら彼女持ちとしての余裕を示してくるトール。

 それに対して彼女たち本人に聞こえないよう声量を抑えながらも、出せる範囲で最大限までボリュームを上げた小さくて大きな声で反論する僕。

 

「だから違う! 本当にそういうつもりで見てたんじゃない!」

「じゃあ、どういうつもりで見てたんだよ?」

「それは・・・、僕はただ・・・・・・」

 

 ―――可哀想だと思っていた。だから見ていた。

 ・・・そんな気持ちを正直に白状したところで相手に伝わるわけがないと知っている僕としては、それ以上言葉を続けようがなくて黙り込むしかなかった。

 

 フレイ・アルスターはSEEDにおける、キラ・ヤマトの日常を代表する人物だったと、今ではキラの中に存在している中の人になった僕は考えている。

 人間には不思議なところがあって、戦争を否定しながらも平時において有為な業績をなした人たちよりも、戦争という非常事態の中で有能な人間ほど優秀な人材だと高く評価してしまいたがる悪癖を多くの人たちが共通して持っている。

 たしかに敵が攻めてきている中で平和ボケしたままの女の子が兵士主人公の足を引っ張るシーンを見せられて「勝手だ」と思う気持ちは理解できるし、自分でもそういう思いを抱いてしまった記憶はある。

 だけど戦争に慣れることは、そんなに良いことなんだろうか? 多数を救うために少数を切り捨てるべきだ、見捨てるべきだと主張できるようになる女の子がそんなに魅力的に映るのだろうか? ・・・僕には解らない。

 

 少数はそういう人がいないと困る。だけど、そういう人たちが大多数派を占めてしまったとき、むしろ彼女を悪く言っている人たちにとって困る事態が到来するんじゃないかという気が僕にはしてならない。

 彼女のような『戦争という異常事態の中での異分子』は、必要だったんじゃないかと今の僕は思ってる。だから彼女の死と不遇な評価を、心から可哀想だと感じてもいる。

 

 だけどそれらは声に出すことができない思いだ。たとえ戦争に巻き込まれた後のキラ・ヤマトになってさえ彼女にこの思いを伝えることは多分できないんだと自分では思ってる。

 なぜなら彼女は『無自覚に戦争の中で平和ボケしているから』だ。自覚的にやってしまったら、彼女はおそらく彼女でいられなくなるだろうし、知ってしまっても結果は同じになると思う。

 

 正直、キラ・ヤマトの中身に別人が入ってしまっているだけの僕には、本来のキラほど彼女に対して憧れを抱くことはできないけど、それが逆に彼女の価値に気づかせてくれたのかもしれないと思うと悪い気持ちにはならないのが我ながら勝手だなと思わなくもない。

 

 

「――コホン。乗らないのなら、先によろしい?」

 

 そんな風にフレイたちが騒いで、僕が沈思黙考してしまっていた背後から落ち着いた声がかけられた。

 振り返ると、サングラスをかけた二人の男女と、ネクタイを締めてないけど勤め人風にも見える一人の男性が立っていた。

 

 声をかけてきたのは声質から、先頭の女性なのだろう。二十代前半から半ばぐらいの年齢で、だけど学生には見えない豪奢な服装をしている。

 言葉遣いは丁寧だけど、口調や声には妙な威圧感を感じさせられて若い女性らしさを柔らかさを拒絶したような堅く鋭い雰囲気を漂わせている。

 

(あるいは、そう見えるよう“演じているだけ”かもしれないけどね・・・)

 

 僕はそう思いながら彼女――地球連合軍の軍人ナタル・バジルール少尉にたいして原作のキラと同じように道を空ける。

 軍隊っていうのは、いつの時代も男社会だ。女性士官が軍人として成功するためには『舐められてはいけない』という不文律みたいなものがあるし、そういう人たちにとって見た目や印象は強力な武器であり、強固な盾にもなるのが一般的だ。

 映画なんかでも、女性兵士が一人で男所帯の基地に赴任するときなんかには頭を丸めてスキンヘッドにする演出はよく描かれている。

 

(ただ・・・本当に優秀な軍人っていうのは見た目がどうであろうと実績だけで相手を従わせてしまえる域に達した人のことを言うんだよなぁ・・・)

 

 やや堅苦しすぎて、気負いすぎているようにも見えなくもない彼女の姿に、同情的な視線を向けてしまっていたらしい。

 

「・・・何か?」

 

 と、原作にはたしかなかったはずの問いを投げかけられ僕は慌てて謝罪して、相手の方でもそれ以上は話題を続けることなくエレカを発進させていく。

 ホッと胸をなで下ろしている僕に向かって、またしてもトールがこんなことを言ってくる声が微妙に遠い・・・。

 

「なるほど、キツい印象ではあったけど美人だったからな・・・。キラの好みはアッチ系だったのか・・・」

 

 ――トール・・・・・・もう好きにして・・・・・・。

 

「はぁ・・・・・・それにしても――――」

 

 

 

 

 

「―――なんとも平和なことだな」

 

 幹線道路をエレカに乗って走りながら、後部座席に座ってサングラスを取った女、ナタル・バジルール少尉が、やや苛立ったように呟いていた。

 

「あれくらいの歳で、もう前線に出る者もいるというのに・・・・・・」

 

 彼女の声を聞き取って、隣に座るアーノルド・ノイマン曹長が視線を向ける。

 先ほどの学生たちのことを言っているのだろう。

 

 昨年三月から始まった、ザフト軍の地球侵攻作戦『オペレーション・ウロボロス』によって地球連合対プラントという図式で始まった戦争は、地球上の連合非加入国をも巻き込みながら長期化のきざしを見せてきている。

 にも関わらず、そんな地球の情勢が嘘であるかのように道路沿いを流れる風景は平和そのもの。立ち並ぶ商店には色とりどりの商品があふれて、買い物客がのどかに行き交う。

 

 戦火の中で窮乏する地球を見てきたナタルの目には、この平和が許しがたいものに思えてならないのだろう。ノイマンとて、なんとなく理不尽な思いを禁じえないのだから無理はない。

 

 

 ―――もっとも、彼女たち地球連合の軍人たちの視点と都合だけで世界が成り立つわけではないのと同様に、彼女たち以外の視点と都合で見つめた場合の同じ景色と違う見え方というものもきちんと存在してもいる。

 たとえば、今この場において彼女たち“外国人”を、オーブ国内に存在している極秘の場所へ案内するため派遣されていた運転手役を務めるオーブ軍の青年士官がそうだったように。

 

 

「であるなら、早期の和平交渉を始める方が得策でありましょうな。戦争などやめてしまえば地球上でも、ここと同じ平和と繁栄を謳歌できるようになりますよ」

 

 平然と言ってきた彼の言葉に、ナタルたち二人の連合軍人はそろってムッとさせられ顔をしかめざる得なかった。

 ヘリオポリスに到着した直後から彼女たちに当てられ、案内役として紹介された彼だったが、その本当の任務が彼女たち地球連合軍人たちが余計なことをしないよう、オーブの利権を損なわないよう監視することなのは明らか過ぎる態度だった。

 

「・・・たしか、レン・ユウキ二尉だったな。貴官に与えられた任務は我々の案内であって、連合の政策を云々することではないはずだと思っていたのだが・・・」

「あいにくと今の小官は、皆様方ゲストを招待させていただくため、書類上では非番となっておりましてね。

 一民間人として自国を戦争に巻き込んでおきながら偉そうな口を利いてくる他国人の軍人さんには文句の一つも言わないと任務中に事故でも起こしてしまいそうで安心できんのですよ。拝金主義者で日和見な中立国の下っ端軍人の戯れ言として聞き流していただけるとありがたいものです」

『・・・・・・』

 

 より不快感を刺激されて黙り込まされざるを得なくなるナタルたち。

 彼は遠回しに――と言うより、かなりハッキリと彼女たち連合軍を非難してきていたからである。『アンタらが無能だから自分たちが巻き込まれる羽目になったのだ』と。

 

 

「威勢よく『血のバレンタイン』を起こしてみたはいいものの、蓋を開けてみれば誰もが疑わなかった数で圧倒的に勝る地球軍勝利の対ザフト戦略はアッサリと裏切られ、戦局は疲弊したまま十一ヶ月が過ぎ、挙げ句の果てには勝つために中立国の手まで借りておきながら、その国の悪口ばかりを聞かされる始末です。

 皆様方の気持ちはお察ししますが、文句を言うぐらいの権利は認めていただきたいものですなぁ。愛する生まれ故郷の平和を罵倒された側にしてみたら、の話ではありますが」

『・・・・・・・・・』

 

 再び黙り込まされるナタルたちだったが、今度の沈黙には後ろめたさが微量に混入したものだった。

 自分たち、地球連合の内側ばかり見て判断していた自分たちの思考に気づかされ、多少は思うところがあったからである。

 彼女たちが愛国バカで単純思考なだけの軍人であったなら、その必要もなかったろうが、皮肉なことに今回の任務は国家の命運をかけたハルバートン提督肝いりの最重要任務だ。人事面でも優秀な人材を選りすぎって選び抜いてある。

 それが今この時においてのみ逆効果を招いてしまった、物事の両側面といえる結果なのだろう。よい結果を出すため最善を尽くした結果、別方向からの守りは脆弱になりやすい。それもまた軍事学情の常識である。

 

「――まっ、上の決定には従うしかない下っ端同士で悪口を言い合っても益がありませんので、この辺りで矛を収めるとさせていただきまして」

 

 そんな彼女たちの反応から、ナタルたちが決して脳味噌まで愛国心と筋肉で汚染され尽くした鬼軍曹タイプの無能なバカ軍人でないことを理解したユウキ二尉も矛を収めて任務に帰還することにして、目的に到着したことをゲストたちに告げて心労から解放してやりながら、

 

(それにしても――――)

 

 と思わずにはいられない。

 

 

 

 

 

『『やるべきことをやりもせず、他人に求めてばかりいる戦争だな・・・(だよね・・・)』』

 

 

 異なる場所で、異なる立場にある人物たちが、全く同じ感想を声には出さずに心の中で思っていたことは悪魔的偶然によるものだったのか、それとも戦争という歴史の必然故なのか。

 

 連合は『地球の一国家ならば全ての国は連合に協力すべきだ』と主張しながらも、大西洋連邦とユーラシア連邦とで軍事同盟を結んだだけで一つの勢力に統合することができていない。

 勢力を同じくする二つの大国、二つの軍隊、二つの指揮系統、一致しない二つの思惑と利害・・・・・・。

 同じ敵国と対峙する一つの勢力の中に二つの勢力が存在して主導権争いを行いながら侵略戦争に対処している姿には、まるで在りし日の大日本帝国陸軍と海軍との対立構造が連想されて“勝つために最善を尽くしている”とは到底評することができない無様さを示しており。

 

 まだしもプラントの方がマシに見えるが、最近では彼の国でもコーディネーターかナチュラルかで人を決める時代錯誤な民族主義が勢力を伸ばしてきていると言うし、『血のバレンタイン』以降は市民たちの間で正義正義と口やかましく騒ぎ立てる騎士道症候群が蔓延してきている風潮が目立つ。

 

 

 ・・・昔から童話では国のために戦う騎士が正義の味方で、金と利益のために国を動かす大臣が悪と相場が決まっている。

 だが、童話と同じレベルで政治と戦争を判断されたら困るんだけどなぁ・・・・・・

 

 

 奇しくも、戦記物好きな少年としての前世を持つ憑依転生者のスーパーコーディネーターと、現地人でナチュラルでしかない青年士官とが、全く同じ基準のもと全く同じ評価を連合ザフト、双方に向けて声には出さずに酷評していた事実がこの世界の未来に与える影響は如何に・・・?

 

 

つづく

 

 

おまけ『オリジナルキャラクターの簡易紹介』

 

【レン・ユウキ二尉】

 今作オリジナルの軍人キャラクター。オーブ軍に所属する青年士官。

 皮肉屋な若者で毒舌が絶えない性格の持ち主。

 参謀型の軍人で、軍内部における立場は軍官僚だが場合と状況によっては一人で勝手に動き出し事後承諾でことを収めるなど民主義国家の軍人としては些か問題が多く性格的にも上から嫌われやすい。

 「能力と才能だけで出世していくタイプ」の軍人キャラクターであり、嫌いな奴らに好かれようとする気持ちは微塵も持っていない問題児な不良軍人。

 

 無償奉仕な正義の味方みたいなキャラクターばかりが仲間になるSEED世界に、自分の利益のために闘う仲間も一人ぐらいいてもいいと思ったので作ってみました。

 あくまで試しに出してみただけのキャラクターのため、評価が悪いようなら彼の出てきた辺りから書き直すつもりでいますので今回の紹介はこれまでとしておきます。



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機動戦士ガンダムSEED-生まれる刻を間違えた野獣-

前々から思っていた作品を諸事情あって書いてみた次第です。どうにも最近メンタルが不安定で上手く書けない日が多く、安定させるために色々やってる状況な作者でありまする。


 コズミック・イラ70。

 地球プラント間の対立は【血のバレンタイン】の悲劇によって一気に本格的な武力衝突へと発展していた。

 誰もが疑わなかった数で優る地球軍の勝利・・・だが当初の予測は大きく裏切られる。

 

 プラント側が地球軍との数の差を補うため、自分たち遺伝子改造人種であるコーディネーターが生まれ持った個人的スペックの高さを最大限勝敗に影響させるため、新機軸のロボット兵器【モビルスーツ】の開発を成功させて実戦投入してきたからである。

 

 保有する戦艦や戦闘機の数ではなく、個人の技量が戦場の勝敗を左右する古代の戦争様式を復活させられてしまった戦いの場において従来の既存兵器と旧式戦術しか持たないナチュラルの軍隊『地球連合軍』が、新人類と称して生まれ持ったスペックの高さを誇るコーディネーター軍『ザフト』に勝てる道理がない。

 戦局は疲弊したまま、既に11ヶ月を過ぎようとしていた・・・・・・。

 

 

 ―――だが、それはあくまで誰の計算にも寄らず自然に生まれた旧来の地球人類『ナチュラル』の中に、生まれたときから優秀な者となるよう計画的に造られた遺伝子改造人類『コーディネーター』よりも性能的に劣っている者しかいないという前提が遵守されていた時期までの戦いを記した記録に過ぎない。

 

 これは神の悪戯か、悪魔の策略によるものなのか。

 あるいは、運命と呼ばれて世界を律する絶対法則とされている者から人類に送られた皮肉であったのか。

 本来なら、“現代(いま)という刻(とき)”に生まれてくるはずのなかった人物が、異なる名前と異なる肉体を与えられ。

 全くの別人として、新しい人類と古い人類とが生き残りをかけて争い合うこの戦いに参戦してくる運命を与えられ、この世に生を受けたのだから・・・・・・。

 

 それは神が、旧来の人類と新人類を自称するコーディネーターに与えた命題なのかもしれない。

 

 

 

 

 

〈――ヘリオポリス全土にレベル8の避難命令が発令されました。住民はすみやかに、最寄りの退避シェルターに避難してください。

 繰り返します。現在、ヘリオポリス全土にレベル8の避難命令が――〉

 

 政府広報のアナウンスが、がらんとしたヘリオポリス・コロニー内の町中に虚しく響き渡っている。

 街路には瓦礫が散らばり、あちこちから黒煙が上がっているのが見て取れていた。

 そんな惨憺たる町中に居立して対峙し合う巨大な人型が存在していた。

 

 コロニーを奇襲してきたザフト軍のMS部隊の操るジンと、彼らが奪取しようとして失敗した地球軍の新型MS《G》の一機《ストライク》である。

 

 壊れゆく街の崩壊と、MS同士の戦闘に巻き込まれないよう必死に逃げ惑っている群衆たちを背景として二機の巨大な人型ロボット兵器MS同士が向き合って立つ戦場・・・・・・。

 

 そこに外縁部から、一人の少女が走って近づいてきていることに気付いた者が、果たして何人いたであろうか?

 

 緑色のセーターを着た十代半ばぐらいの金髪をした少女が獰猛な笑みを浮かべながら、逃げ惑い遠ざかっていく群衆たちの群れとは真逆に向かい合うMSたちへと向かって“とある器具”を掲げ持ちながら、走って近づいてきていたのである。

 

 その道具は、『物干し竿』だった。

 

 戦闘に巻き込まれて壊れた民家から拝借してきたらしい、洗濯物を干すために使う道具の物干し竿を頭上に掲げて、まっすぐMSジンの立つ方角に走って接近してきていたのである。

 

「なんだと・・・? そんな物でかかってくるヤツがいるのか!?」

 

 ジンのパイロットであるザフト軍兵士ミゲル・アイマンは、対峙していた連合軍の機体に集中していたため気付くのが遅れた、取るに足らない敵とも呼べない存在の姿を目にして、逆に侮辱されたような気分にさせられ不愉快になった。

 

 こんな物で自分が乗るジンを落とせると考えている? 野蛮なナチュラル風情が? コーディネーターが開発したMSに乗る、この俺を?

 腰には一応、民間人でも携帯が許可されている小口径の拳銃をベルトに差してきているものの、MSジンから見れば違いとも呼べない細やかすぎる誤差でしかない。

 

「・・・・・・馬鹿にしやがって・・・ッ!!!」

 

 ミゲルは本心から怒りに燃え上がり、敵MSより先に身の程知らずなナチュラルの民間人少女に思い上がりを正して殺してやるため機体を動かし始めた。

 

 おそらく敵機体に乗るパイロットが外部スピーカーで叫んできたのだろう、『やめろ! その子は民間人なんだぞ!?』と制止する声が聞こえてきていたが、構うことはない。

 どのみち自分たちは中立国のコロニーに奇襲を仕掛けた身であり、民間人にも既に相当数の被害をもたらしてしまった後である。今更一人や二人の民間人が犠牲者の列に加わったところで大した違いは存在しない。

 

 ――それに何より、相手は所詮ナチュラルなんだ! 地ベタに這いつくばっている連中に身の程をわきまえさせるため、思い切り熱いのをぶち込んでやるだけだ! 大したことであるはずがない!!

 

 巨大な人型兵器に乗って、既存兵器しか持たない連合軍相手に一方的とも呼ぶべき殺戮と勝利を積み重ねてきた結果としての残忍さと加虐性と万能感に支配され、ミゲル・アイマンは常の彼ならば浮かべるはずのない狂気に満ちた笑みを浮かべながらレバーを引いて、武器を持っていないジンの右手を前に出す。

 

 なにも非武装に近い民間人少女相手に、76ミリ重突撃銃をぶっ放して殺そうなんて思っちゃいない。人みたいな小さな獲物はMSサイズの銃で撃つと却って当たらないものだ。

 

 むしろ、こっちに来たがっているなら、来させてやればいいのだ。飛びついてきたところで羽虫のように叩き落としてやればいい。

 このまま近づかずに逃げるなら見逃してやるし、自分からモビルスーツに突っ込んでくるってことは―――殺される覚悟は当然できてるってことなんだから、しょうがないだろう・・・?

 

「―――あばよ」

『やめろ―――ッ!!!』

 

 折しも、対峙し合う二つの機体に乗る二人のパイロットたちが同時に声を出し、ジンに接近していた少女が物干し竿の先を地面に突き立て空を飛び、棒高跳びの要領でジンのコクピット近くの腰回り辺りまでの高さに近づいてきた、その瞬間。

 

 ジンの腕は彼女に向かって正面から伸ばされて、そして。

 ・・・・・・ミゲル・アイマンの視界は白一色で埋め尽くされることとなる――――

 

 

「え? あれは一体・・・」

「閃光弾!?」

 

 連合製MS【ストライク】に乗る二人の人間、連合軍士官のマリュー・ラミアス大尉と、成り行きからコクピットに便乗する羽目になってしまったオーブの男子学生キラ・ヤマトが同じ光景を目にして、ほぼ同時に声を出し。

 視界が白く染まって、機体のOSが光量を自動調整して最適化させモニター画面が正常に復帰するまでの短い間に互いに見たものについて認識の差を口にしあい。

 そして、次に動き出したのは民間人少年のキラ・ヤマトだった。

 

「――どいてください!」

「え・・・?」

「はやく!」

「え、えぇ・・・・・・」

 

 敵は今、動きを止めているけれどすぐに再起動して襲いかかってくるに違いないのだ。

 ならば少しでも早く機体のOSを完成させ、戦えるようにするしか自分たちと、あの少女を救う手段は他にない!!

 

 そう思って強い声を出し、勢いに押されて席を譲ったマリュー・ラミアス大尉が本来なら民間人を座らせてはいけない場所にキラ・ヤマトを座らせてしまって、彼が目にもとまらぬ速さでタイピング作業をおこなって機体のOSを完成させていく姿を目の当たりにさせられて唖然とし「この子は、もしかしたら・・・」と思いながら見ていることしか出来なくなっていたのと同じ頃。

 

 彼らの敵もまた、彼らと同じように迫り来る危機への対処に追われていたことは運命の皮肉というしかない。

 もっとも、その内容は彼らと大きく異なっていたのは事実だったのであるが―――

 

 

 

「おのれ、子供だましを・・・ッ!!」

 

 苛立ちをあらわす叫びと共に、ミゲル・アイマンは愛機のコクピットの中でキーボードを高速で操作するため、せわしなく指を動かし続けていた。

 飛びついてきたナチュラルの小娘を握り潰してやろうと機体の手を伸ばし、掴もうとした寸前に相手がベルトから拳銃を引き抜くところまで、キラとは逆に彼女と対峙していたミゲルの位置からは見えていたのだが、よりにもよってまさか拳銃に込められていた弾が閃光弾だなどと彼はこれっぽっちも考えていなかったのである。

 

 人間が生身も同然でMS相手に挑んでくるはずがないというのに、訓練生時代から延々と続くナチュラル蔑視の思想教育が、彼に安易な判断をさせてしまったことに苛立ちを掻き立てられて仕方がない。

 

 ――とは言え、彼が勝利の確信と余裕を失ってしまっていたかと言えば、そんなことは全くなく。

 たかが特殊工作員ごときが機体にへばり付かれたからと言って、MSが倒されるという物でもない。

 人間が携行できるサイズの爆薬一発程度では足か腕の一本ぐらいを破損させるのが関の山なぐらいの装甲もある。

 

 ただ、宇宙空間での使用を想定されて開発されたMS同士の戦闘において、殺すはずだった攻撃が躱され敵に接近されるまでの時間というのは距離に比例して意外と長く、視界が潰されてから自動回復するまでにかかる時間もMS戦闘での距離を基準に安全性が保証されている機能である。

 パイロットが機体を操縦するのに邪魔なレベルだと判断された場合には、光や暗さを自動的に調整してクリーンにしてくれる機能があるとはいえ、遠距離から重火器を撃ち合うMS戦闘時の回復までにかかる時間と、目の前まで迫っていた特殊工作員が発砲してきた閃光弾から回復するまでにかかる時間とでは相対的に安全が確保される回復時間が異なってしまうのは当然のことなのだ。

 

 あんな手を使ってくる娘が、ただの民間人であるわけがない。奪取し損ねた連合MSを死守するために連合側から送られてきた援軍と見た方が確実だろう。

 だとすると彼女は陽動であり、本命は敵機の視界を奪わせた後にとどめを刺しに来る役割をもつ存在・・・・・・言うまでもなく自分が対峙していた白い新型MSだ。

 

 見たところ射撃武装を持っていなかったヤツが急速接近して、自分の機体にとどめの一撃を突き立てる前に、一秒でも早くモニターの映像を回復させて機体を正常な状態に戻さなければならない義務が、この時のザフト軍エースパイロットであるミゲル・アイマンには課せられていたのである。

 

 実際のところ、彼はまったく間違ったことはしていない。

 どんな状況下に陥ろうとも最後の最後まで生き残るため最大限の努力をする義務を負った兵士として、正しい行動をしていたと断言できるほどに。

 

 ただし、しいて間違っていた部分を指摘するとしたならば、『パイロットがおこなう行動としては正しかった』と注釈が付いてしまうこと。――それぐらいなものであろう。

 

 

「・・・・・・え?」

 

 ミゲルには、自分の目の前に広がった光景がよく理解できなかった。

 機体の視界回復を急がせる作業をしながら、左右どちらかに機体を動かして予想される敵の攻撃を避けなければならないと思い、コンピューターを見下ろしながらレバーに手を伸ばしていた、まさにその時。

 

 プシュッ、と空気が抜けるような音が聞こえて、何の音かと思い顔を上げたらコクピットハッチが開かれていて、目の前にさっき画面に映っていた緑色のセーターを着た金髪の少女が、狙っていた獲物を捕らえて食い殺そうとしているときのように犬歯を剥き出しにして野蛮極まる笑みを浮かべながら、右手を前に出して自分を見ていたのである。

 その顔と表情は、まるで人ではなく戦いと殺戮に飢えた人血を食らう野獣のような、危険きわまりないナニカに思え、ミゲルは本能的にナニカを感じて尻を浮かして後ずさる。

 

 前に突き出された相手の右手に閃光弾の込められていた拳銃はなく、機体に飛び移るために使い捨てた物干し竿もどこかへ落としてしまったのか今は彼女の手元にはない。

 

 だから彼女の右手に今握られているのは、普通のナイフが一本だけだ。

 MSと違って、直接に刃物を持って人が殺せる道具だ。

 相手を刺し殺せば手に血が付くし、痛みだって肉を刺し貫く感触から加害者にもよく伝わる。

 

 そんな原始的な人殺しの道具を使って、相手の少女は笑いながら自分を殺そうとしている。

 

 

 

「所謂、ホールドアップってヤツを言うべき所なんだろうけど言わないよ。自爆装置とか押されると勿体ないんでね」

 

 白い歯を見せて、目玉をギョロリと回しながら笑いかけてくる少女からの最期を告げる言葉を聞かされ、何故だかミゲル・アイマンは不思議と恐怖を感じなかった。

 

 むしろ何故だか安心を感じたような気がして、変な気分になってきそうになる。

 そして彼は、自分たちが忘れ果てていた事実にようやく気付く。

 

(・・・ああ、そうか・・・。それが解らなくなってたから俺たちは、こんな所まで来てしまったのか――――)

 

 と、どこか満足気な表情を浮かべながら、ミゲル・アイマンは納得と引き換えに命を絶たれ、その人生を途中で強制終了されてしまった自分に気付くこともないまま、刃を水平にした正確極まる一突きを喉元に食らわされ、即座に横へと刃を移動されて頸動脈を断ち切られ絶命する。

 

 慈悲深いまでに苦痛なき、アッサリとした死を甘受することを許されたミゲル・アイマンの死体は、彼を殺した加害者の手ではなく、足によって機体の外へと蹴り出され、地面へと落下していき音を立ててドサリと落ちる。

 

 血塗れのコクピット座席に座って、自分が手に入れた獲物を嬉しそうに眺め回し、手で触ってなぞっていくと「ニンマリ」とした笑みを浮かべて手を摺り合わせ、高らかに笑い声を上げる。

 

「コイツがMSなんだ・・・初めて乗ったけど、なかなか悪くない。なんとなくだけど動かし方も解るみたいだし、コレならやれる」

 

 それは異常なまでの戦闘意欲がもたらしてしまった、その少女だけが持つ戦闘センスの成せる業。

 ナチュラルたちの子供として生まれ、遺伝子改造など少しも受けたことがない純粋な地球出身の旧来人類でしかない彼女が、宇宙の民であるコーディーターと『戦ってみたい』と渇望した結果、手に入れてしまった通常のナチュラルではあり得ないレベルで、戦闘方面に特化しすぎた高すぎるスペック。

 

「ナチュラル相手のケンカは弱い物イジメみたいで飽きてきたところだし、ザフトの連中にケンカ売るんだったら、コレぐらいの物は必要だったしね。

 なにしろ相手はナチュラルじゃ絶対に敵わない新人類様なんだ。パーティーに出る料理としては美味そうな獲物じゃないか。ねぇ? 相棒」

 

 少女にとって、人種、思想、宗教、倫理観、人権問題、その他諸々のこの世界で生きる人間たち全てが問題視して大戦にまで発展させてしまった矛盾などはどうでもいいし、興味もない。

 

 彼女が強く興味を引かれるのは、戦いだけだ。

 強いヤツと戦いたい、戦い甲斐のある敵と戦いたい。

 強敵たちと戦うことが出来る戦場。それを求めて、コーディネーターたちが新たに作り出してくれた新たなる時代の新たなる戦場、『モビルスーツ戦』

 それを求めて彼女は機をうかがい、牙を手に入れる日を虎視眈々と待ち構え続けてきたのである。

 

 

「何しろ、殺しちゃいけないヤツが居ない戦争なんだ。拝みに行こうとしようじゃないか。

 神様気取りで宇宙から地ベタを見下ろしいい気になってる、新人類共の顔とやらをさァ・・・」

 

 

 ただ、戦いを! より強い敵を!! ソイツらと戦える戦場を!!!

 生まれてくる刻を間違えた野獣は、この時代と刻にあっても戦い以外は何一つとして求めることは決してない。

 

 牙を得た野獣は、この時代(とき)にあっても宇宙(ソラ)へと赴き、戦場を駆ける夢を追う。

 

 

 ・・・・・・これは、ナチュラルに生まれながら、コーディネーターよりも強い戦闘能力を得てしまった特異体質を持つ、野獣のような少女の戦いを描いた記録である。




*思いついてたネタを諸事情で書き上げただけのため、主人公名などの設定は伏せてあります。

ただ、思いついてた時に想定した名前だと、名字だけは『ムツ』か『ナガト』と決まっていました。
キラ・“ヤマト”に因んで大日本帝国海軍の戦艦から取っているのは言うまでもありませんけど、ヤマトの方がおそらくは『倭(ヤマト)の国』から取っているのに対して、敢えて大日本帝国軍の超ド級戦艦と解釈した場合の呼応した名字にしたところに今作の作風を顕してみた感じのネーミングを想定しておりました。


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機動戦士νガンダムー逆転劇のシャアー

ちょっと色々あって、クサクサしている気持ちを発散するため書いてみた作品です。
大分前に頂いたことのある『シャアのネオ・ジオンが連邦と全面戦争してた場合の話』というアイデアを自分有りに再現してみたものです。
気分的に他の作品が書けなかったために書いた作品のため、物語と言うより作品に至るまでの状況説明回みたいなものですけど、それでもよろしかった場合にはお楽しみくださいませ。


 宇宙世紀0093。ネオ・ジオン総帥となったシャア・アズナブルが計画した地球寒冷化作戦は、立ち塞がる地球連邦軍独立部隊ロンド・ベル隊との激闘の末、失敗に終わった。

 だが、隕石落としは失敗したものの、両軍による戦闘自体は痛み分けと言っていい幕切れでもあった。

 最終決戦場となった小惑星基地アクシズでの攻防戦が始まる直前に、ネオ・ジオン軍参謀ナナイ・ミゲルからの必死の説得によってシャアが折れ、ネオ・ジオン軍総帥として後方から全軍を指揮する役割に徹する道を選択していたからである。

 

 これによって、ロンド・ベル隊のエースパイロット、アムロ・レイの予測と思惑は大きく外れることになる。

 彼は両軍併せて随一の操縦技術と最新鋭高性能MS『νガンダム』を持った最強のパイロットではあったものの、敵軍の総帥を一騎打ちで討ち取る機会が消滅してしまった戦場においては、優れた技量と機体を持つ1個人としてしか戦局に影響を与える事はできなくなってしまったのだ。

 

 司令官ブライト・ノア大佐の指揮のもと、ロンド・ベル艦隊は幾度もの突撃と波状攻撃を試みたが、ネオ・ジオン軍もシャア・アズナブルの沈着冷静な指揮によって的確に応戦する。

 少ない戦力を有機的に運用する事で戦力消耗を抑え、持久戦に徹しようとするネオ・ジオン軍を前に苦戦を強いられながらも、ロンド・ベル隊パイロットたちは自らの命を司令官に捧げ、命を賭しての特攻によって活路を開き、遂には地球に落下しようとしていたアクシズへの旗艦上陸と内部からの爆破に成功。

 これによって、地球の引力に捕まるより先にアクシズは分断され、地球寒冷化作戦失敗は確実なものとなったが・・・・・・ここで両軍共に予期し得なかった思わぬ事態が発生してしまう。

 

 地球への落下コースに乗る前に分断されたアクシズの半分は、当初のコースを大きく外れていったのだが、残る半分が地球の重力に捕まって落下コースに乗ってしまったのである。

 上陸に成功したラー・カイラムの艦長ブライト大佐自らの陣頭指揮によって行われていたアクシズ内部での爆破作業に使われていた爆薬の量が大すぎたのだ!

 これによってブレーキがかけられてしまったアクシズの半分は地球への落下を続け、アムロ・レイの乗るνガンダムは単機でアクシズに取り付いて押し戻そうと試みたが、彼を援護するため駆けつけようとした各コロニーの駐留艦隊から発したMS隊がネオ・ジオン艦隊によって阻まれた事からパワー不足により力及ばず、彼を摩擦熱とオーバーロードで無駄死にさせてしまう事を恐れたブライト司令官からの必死の命令に従って、やむを得ず帰還。艦隊も戦場から撤退していった。

 

 アクシズが地球に落下していく光景を、ただ見ている事しかできなくなったロンド・ベル隊であったが、彼の献身と犠牲は全くの無駄にはならなかった。

 地球落着には成功したものの、半分に別たれた上に落下コースまで変えられてしまったアクシズ落としには、当初予定されていた地球全体を核の冬で覆い尽くし寒冷化まで至らしめるほどの威力は残されていなかったからである。

 

 深刻な被害を受けはしたものの、主要都市の大部分が健在だった連邦政府軍は即座にネオ・ジオン軍との和平交渉を公式破棄を宣言して討伐に乗り出そうとしたが、隕石落着によるダメージは寒冷化を免れたとはいえ深刻なレベルであった事には変わりなく、地球各地で様々な諸問題を誘発させ、連邦軍はまず足下の火消しに専念せざるを得ない状況を押しつけられる事となる。

 

 思わぬ幸運によって手に入れた時間をつかい、ネオ・ジオン軍は現時点での地球寒冷化を断念せざるを得なくなったシャア総帥主導のもと、連邦軍との全面戦争に向けて準備を進めていく方針に転換させ、各コロニー内での不満分子や不平派などを糾合して来たるべき決戦に備えていく事となる・・・・・・。

 

 こうして、後に『シャアの反乱事件』を皮切りに『第二次ネオ・ジオン戦争』と呼ばれる大乱が再び幕を開けるため開幕のベルを鳴らす。

 

 時に、宇宙世紀0093。

 赤い彗星シャア・アズナブル、四度の復活と再起が今まさに始まろうとしていた・・・!!

 

 

 

今作のオリジナル設定説明:

 

登場MS:

 長期戦になってしまったため、《ギラ・ドーガ重装型》や《ギラ・ドーガ改》など設定場に存在していた機体が登場する。と言うか出さざるを得ないだけだけれども(苦笑)

 『MS戦機』などに出てくる機体が多く登場する。こちらも出さざるを得ないだけではあるが。

 

 

ロンド・ベル艦隊:

 『痛み分けに終わった戦闘』とは言え、「敵の作戦を失敗させた」という戦果と、被った損害とを比較した場合での評価な為、残された残存戦力の実数としては動きたくても動けない状態にまで陥ってしまっている。νガンダムは健在だが、他の機体はほとんどが動かすことさえ難しいほど。

 チーフ・メカニックだったアストナージ・メドッセの戦死も大きく影響しており、アムロ・レイという強大な力を持つエース・パイロット一人の力だけではどうする事もできない現状に歯がみしている現状ではあるが、このまま終わる彼らでもないだろう。

 

 

地球連邦軍:

 隕石落としによる環境被害が、元地球の各国の間で格差を生じさせてしまったことから地球連邦政府は今までに輪をかけて纏まりに欠けている状態にある。

 事態を甘く見ていたせいで被害を防ぎ得なかったことへの責任追及と軍部の無能怠惰を糾弾する声は官民問わず大きい。

 一方で、ジョン・バウアーなど一部実戦派の将校たちに大きな期待と権限が寄せられてきてもいる。

 ・・・が、彼らの台頭で軍内部での主導権を奪われつつある守旧派精力との間で反目が激しさを増してきてもいる。

 ロンド・ベル隊しか戦わせなかった戦争による被害だったため、今までとは別種の混乱と利害対立が勃発してしまったことが原因になっている。

 

 

アナハイム・エレクトロニクス:

 元々シャアが勝った時のためにも融資していた会社だが、半端な結果に終わってしまったため今後の方針について多少の意見対立が見られる。

 現時点では連邦とネオ・ジオン双方に協力しながら時勢と戦局に変化を見極めようという意見が大勢を占めているが、地球に与えられた環境被害が経済的損害となって自社の利益に降りかかってきているため、『連邦への経済的・技術的協力を強める事で大きな貸しを作り、社の損害を補填させるべき』とする意見と、『清新なネオ・ジオンへの融資を強めて、古くさい上に再建までにかかる時間と費用が長くなりすぎた地球と連邦政府は切り捨てるべきだ』と主張する意見の二つが台頭して社内に小さな分裂の火種をもたらしている。

 主な内訳は、前者が『材料開発部』を中心とした親ロンド・ベル派の現場責任者たちで、後者は『MS開発部』などを中心としたジオニック社からの引き抜き組などが多い。

 

 

ネオ・ジオン軍:

 色々あった末に主だった人材たちは全員が健在のまま。・・・もともと大して多くない勢力だから長期戦やるなら生き残らせるしかなかっただけだけれども・・・。

 ただし、もともとが貧乏所帯なうえにアクシズの買い取り金でも相当に支払ってしまって、そのアクシズも手に入らず全面戦争も視野に入れないといけないなどと市民たちに言い出せる立場では到底ない勢力でもあるため、基本的には新たな参加希望者たちにはMS持参を期待しているなど内政面ではかなり情けない軍事勢力。

 

 今作主人公であるシャア・アズナブルは、シリーズを通して珍しい役所として政治面での仕事を多く担当する事になる。(と言うか人手不足なので、せざるを得ない)

 それでいて戦力面でも人手不足なので、パイロットとしても陣頭に立って戦わなければいけない時が多いなど意外に働き者な指導者キャラクターになってしまっていたりもする。

 ネオ・ジオン軍が最終的な勝利国となる物語を書くからには、シャアに頑張りまくってもらう以外に手はない以上、やむを得ないので頑張れとしか言い様がない。変なところで薄幸な主人公。

 ・・・いっつも肝心なところで勝てない人だったから仕方がないです、本当に・・・。



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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。14話

最近うまく頭が働いてくれないのと体力的に疲れ易すぎることから長文を書くのが辛く、小出しになる感じになっちゃいましたがシロッコSEEDです。中途半端な所までですが今の体調だとこれが精一杯。

次回、色々あった末にSEED版メッサーラ登場!…させたいなーとは思っております。


「足つきはオーブにいる。間違いない、出てくれば北上するはずだ。だから、ここで網を張る」

「ああ?」

 

 アスランが今後におけるザラ隊の方針について断定口調で決定を告げたとき、イザークは思わず虚を突かれ、秀麗な面立ちを歪めながらチンピラのような反問の言葉を口に出してしまっていた。

 

 相手の言いだした言葉が唐突すぎて、理解できなかったからである。

 彼としては当然の疑問だった、なにしろ自分たちは先ほど帰艦してくるまで『足つきはオーブに“いない”』という証拠しか見つけ出してこれなかった身なのだから・・・・・・。

 

「オイ、ちょっと待てよ。なにを根拠に言ってる話だそりゃ?」

 

 食い下がると言うより、噛み付いてくるかのような声と態度で理由説明を求めてくるイザーク・ジュール。

 それもそのはずで、彼らは昨日、予定通りオーブ国内へと侵入を果たしたものの、これと言った成果らしい成果はあげることが出来ずに収穫もなく、足つきはオーブに居るのかもしれないし居ないかもしれないという当たり前の結果だけを持ち帰ってきて、虚しく手ぶらの帰参をしてきた身なのだから、アスラン臨時隊長の決定と命令には唯々諾々と従えるだけの根拠も自信も到底持つことができない心境に今のイザークは立っていた。

 

「・・・一度、カーペンタリアに戻って情報を洗い直した方がいいのではありませんか? 確証がないのでしたら・・・」

 

 ニコルもまた、取りなすようにアスランに向かって妥協案を提示してくる。

 もともと彼は慎重派の人間で、『自分たちが見てきた場所に足つきが居なかっただけ』という可能性も十分高いことは承知していたのだが、一方で他の地域の戦略状況などにも気を回せる人物でもあったことから、アスラン臨時隊長に気を回してそう言ったのだった。

 

 現在、ザフト軍はパトリック・ザラ新議長の下《オペレーション・ウロボロス》実行に向けて戦力を集中させつつある。その中でアスランが臨時で隊長代行を任された部隊だけが本体を離れて中立国に隠れ潜んだかもしれないし、いないかもしれない連合艦一隻に拘り続けて、補給まで要求することは彼の将来のためにもならないのではと気を回した故での発言だった。

 

「・・・いや・・・、いるんだ・・・・・・」

 

 一方でアスランは、彼の気遣いに感謝こそすれ提案まで受け入れる訳にはいかない事情を抱えていた。

 それは彼が、友人であるキラ・ヤマト少年とオーブ国内で再会を果たしているからであり、彼だけはアークエンジェルがオーブ内に必ず留まり続けていると確信――というよりも事実として知っていたからである。

 

 だがアスランはニコルに対してすら、自身が決定を下した理由について一切の説明を行おうとしなかった。

 それは彼が強くこだわりを持っている相手、友人であるキラ・ヤマトを未だに『倒すべき敵』と認識しきれずにいる曖昧さが・・・・・・ハッキリ言ってしまうなら『撃たなければならない敵と認めたくない願望』が彼の中では根強く残り続けていたことが理由の一因になっているものだった。

 彼は、敵となった親友キラ・ヤマトを討つことに対して、どこかしら私事のように考えていた節があり、『友人を討つことは自分が果たさなければならない義務』として捕らえている一方で、ザフト軍の一員として連合軍のエースパイロットを討たんとする集団としての意識には欠けていた。

 

 キラ・ヤマトとストライクの追撃任務は『自分とキラだけの問題』であり、他人を巻き込むことも、他人の手を借りることも拒絶していたように見えるのである。

 

 有り体に言ってしまうなら、それは単なる『子供同士の意地の張り合いによる喧嘩』に似ている心理によるものだったのかもしれないが、そこまで考え至れるほどアスランもキラも大人ではなかったし、自己客観視することも出来ていなかった。

 そして、自分の本心を詭弁で取り繕い周囲を欺けるほどには、子供らしい狡猾さも持ち合わせることが出来ていなかったことが今の状況悪化を結果的に招いてしまうことになる。

 

 彼は、嘘で本心を偽るぐらいなら沈黙する。

 そういう道を選びやすい性格の持ち主であり、そのことが今までもこれからも誤解と不平不満をしばしば周囲の者に与えてしまいやすい悪癖となっていく運命を背負った少年でもあったわけだが、今回ばかりは間が悪かったと言わざるを得ない。

 

「・・・これまでにもう二日近く費やしているんだぞ!? 違ってたら足つきはもう追いつけないほど遙か彼方まで逃げ延びてしまうかもしれないんだ! もしそうなった時、お前は責任が取れるのかアスラン! ええ!?」

 

 イザークが小刻みに身体を震わせるほどの怒りを堪えきれなくなって、思わず感情の赴くまま怒鳴り声を上げ、当たり散らしてしまったことが破滅の一弾に繋がっていた。

 普段の彼ならば、ここまで単純な頭の持ち主ではなかったし、アスランもまたキラのことで頭がいっぱいになりイザークの感情論に付き合おうという気持ちにはなれなかったかもしれない。

 

 だが、やはりタイミングが悪かった。

 イザークは当初、足つきはオーブ国内にいると考え、そう主張してアスランの慎重論には皮肉と嫌みを交えた反対の論陣を張っていた男だったはずだ。

 そんな彼の意見に、臨時隊長として持論を曲げて妥協案を示した結果がオーブへの侵入であり、自分たち自身による情報収集だったはずなのだ。

 無論そこには自分自身の個人的思惑も無関係ではなかったが、少なくともイザークとて賛成したし、国内に足つきはもういないというオーブの声明を誰よりも否定的に見ていた彼の意向には叶うはずのものでもあったはずなのである。

 

 結果的に思うような成果が得られなかったことでイラ立つ彼の気持ちは分からないでもない。

 だが、こうも意見を手の平返しされた挙げ句、常に怒鳴られて非難されるのが自分ばかりとあっては、アスランとて時には苛立ちを返したくもなる。

 

 あるいは、軍内部でも1位と2位を2トップで独走している口の悪さを誇る毒舌家の上官二人に悪いところが似てしまっていたのかもしれない。

 このとき彼は、彼らしくもなく痛烈な皮肉をイザークに向かって「ポツリ」と呟くような囁き声で口にする。してしまう・・・。

 

「・・・最初は、足つきは必ずオーブが匿っていると強硬に主張する。

 潜入して足つきが発見できなければ、逃げ出した可能性が高いと非難する。

 足つきは一体、どのように動いたときにイザークから褒めてもらえるのだろう・・・」

 

 この一言に、イザークはおろか室内にいた全員が言葉を失って唖然とした表情で、生真面目そうな臨時隊長を務めている少年の顔に視線を集中させられてしまう。

 ディアッカでさえ、普段の軽口を忘れて何を言っていいのか分からなくなり、視線をさまよわせるようにして友人の顔を見つめ――そしてギョッとさせられる。

 

「・・・・・・~~~~ッ」

 

 イザークの、斜めに傷跡が走った後でさえ美しいと表現できていた顔が、赤から青へ、そしてドス黒く染まった憎しみの色へと一瞬ごとに明度を変えながら変色していき、色が変わるごとに顔面筋肉筋が配置を大きく変えていった末に出来た形相は、たしかニコルが呼んでた美術関連の雑誌の中で『トーヨーのシュラ』とか書かれていた絵に描かれていた妙な仮面と酷似して見えるほど人間離れした憎しみだけに染まり尽くしたナニカを見ているかのような、そんな印象を受けさせられるほどのものがそこにはあった。

 

「―――あ」

「これは決定だ、臨時とはいえ隊長としてのな。クルーゼ隊ではそうではなかったが、通常の軍人なら一時的な代行だろうと上官の命令に兵が異議を唱えることは許されない。弁えてくれ、イザーク・・・」

「・・・・・・ッ!!!」

 

 反論の言葉を口に仕掛けたイザークの口が開ききる寸前に、アスランは敢えて言葉を遮るようにして形式論を口にして相手を黙り困らせる。

 彼としては、思わず口をついて出てしまった感情論にばつが悪くなり、この会話を早々に途切れさせるつもりで使った形式論に過ぎない言葉でしかないものだったが・・・・・・イザークにとっては嫌な記憶を思い出させられる屈辱の言葉でもあったことを、この時の彼が知らない言い方でもあったのだった。

 

 その言葉を聞いた瞬間、一瞬にしてイザークの顔色が変わる。――より悪い方向に。

 

「アンドリュー・・・・・・バルトフェルド・・・・・・ッ!!!」

「・・・・・・??」

 

 何故この場で、先日の戦闘で戦死していたことが発表されたばかりの南アフリカ方面軍司令官だった男の名前が出てきたのか理解できずにアスランは柳眉をしかめる。

 たしかにイザークとディアッカは、足つき追撃任務の一環として一時的に彼の旗艦レセップスに同乗していたと聞いてはいたが、その時に彼らと足つきと故バルトフェルド隊長との間に個人的諍いでもあったのだろうか?

 あいにくと報告書には記載されておらず、バルトフェルド隊の生き残り達とカーペンタリアで会うこともできぬまま次の任務を与えられて今ここに来ていたアスランには諍いの内容を予測することさえ難しいが、今までのことを鑑みるならイザークが感情論でバルトフェルド隊長に噛みついてしまって、年長の相手に窘められて悔しかったとか、そういう類いのものなのだろうと大して深く考えることもなく、アスランは作戦会議の閉会と命令は決定事項であることを告げて甲板上へ向かっていく。

 

 ニコルがその後を小走りで追いすがり、同席していた潜水艦クルーが敬礼と共に去って行き、残されたのは立ったまま震え続けているイザークと、どうにも手持ち無沙汰になってしまってバカバカしい気分になっていたディアッカ・エルスマンの友人コンビ二人だけとなってしまう。

 

「・・・・・・いうつもりだ、・・・命令だと・・・? ・・・ざけるなぁ・・・ッ!!!」

「伸しちゃう気なら、手ェ貸すよー?」

 

 友人のつぶやきを聞き取って、ディアッカは露悪的な表情で、気持ちだけは本気でそう言ってやる。

 実際、そうなってくれた方が面白いと思っているのは確かだが、だからと言って友人がそこまで感情を行動に直結させるほどの低脳ではないことも熟知してもいる。

 相手が悪感情を持て余しているとき、敢えてあくどさを強調したセリフを吐いて怒りの方向性を逸らしてやるのは、彼の昔から続くイザークと付き合っていく手段の一つだったからだ。・・・しかし―――

 

「どーする? クーデターやる? ククッ、ハハ・・・・・・」

「・・・・・・・・・ふざけるなッ!!」

「あ――?」

 

 いつにも増して感情的になりすぎている友人からの返答を耳にして、ディアッカは多少の不快感を込めて友人の顔へと視線を向け直す。

 そしてイザークは、そんなディアッカの顔を見てこようとはせず。・・・それどころか最初から彼の言葉など“聞こえていた部分は一言もなかった”のだ・・・・・・

 

 

「命令・・・? 決定・・・? 隊長と兵だと・・・? ――いいだろう、従ってやろうじゃないかアスラン・・・。

 だが、このままでは終わらない。終わらせない・・・必ず出し抜いてやる・・・・・・ストライクを倒すのは、この俺だってことを思い知らせてやるぞアスラァァァァァッン!!!!!」

 

 

 一人の少年パイロットが乗った、ガンダムタイプの白いMSによって人生を狂わされたエリートパイロットが、この世界でも一人生まれようとしていた事実を今という刻はまだ、誰も知らない・・・・・・。

 

つづく



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正規版・戦記好きがキラ・ヤマトに憑依転生 第3話

*すいません、どうやら小説版とアニメ版とで内容が少しだけ変わっており、小説版基準で書いた方が格好いい内容にできそうでしたので改めて3話目を書き直し始めました。
既に読んで頂けた方もいらっしゃいますので消すかどうかは判りませんけど、とりあえず『Aバージョン』『Bバージョン』みたいな形で二本書いて投稿してから決めたいと思っております。


 キラ・ヤマトの転生憑依体とオーブ軍の皮肉屋な青年士官がそれぞれの場所に向かって移動していたのとほぼ同時刻。

 ヘリオポリスからほど近い宙域に浮かぶ小惑星の陰から、彼らの住むコロニーを遠望しながら二隻の戦艦が隠れるように待機していた。

 ザフト軍の軍艦、ナスカ級高速戦艦“ヴェサリウス”と、ローラシア級MS搭載艦“ガモフ”の二艦である。

 

 この内、与えられた任務を果たすことが軍人の本分であると考えているガモフ艦長の方には含むところがなかったのに対して、ウェザリウス艦長のアデスには、先刻指示されて行った上官からの命令に多少合点がいかぬところを感じざるをえなくなっていた。

 それが顔に出たのだろう。先行出撃させた工作隊の乗る小型艇の発艦をブリッジの肉眼窓から見送っていた上官から、振り返り際に部下の小心さを笑い飛ばすように軽く言ってのけられてしまうことになる。

 

「そう難しい顔をするな、アデス」

 

 くどいと知りつつも、注進するか否かで迷っていた内心を見透かされ、先手まで取られてしまったアデスには呻くことしかできなかったが、逆にそれで腹も決まった。

 

「はぁ・・・いや、しかし隊長。評議会からの返答を待ってからでも遅くはないのではと・・・」

「遅いな」

 

 言ってもどうせ覆せぬなら、言うべきである。指揮官に誤りがあるなら訂正すべき副官の役割として行った何度目かの進言に対して、彼から隊長と呼ばれた男『ラウ・ル・クルーゼ』は、風変わりな銀色のマスクで上半分を覆っている顔に曖昧な笑みを浮かべながら断言してのけた。命令した作戦の中断はあり得ないと。

 

 ラウは手にしていた写真をピンと指ではじいて、アデスの元へとよこしてやる。

 そこには不鮮明な画像の中に、巨大な人型にも見える装甲の一部が写されていた。地球軍の新型機同兵器とおぼしきそれを、仮面をつけた彼らの指揮官は中立国の領土を侵犯してでも奪取しようというのである。

 

「私の勘がそう告げている。

 ここで見過ごさば、その代価、いずれ我らの命で支払わねばならなくなるぞ」

 

 そう言って、条約違反を承知の上でコロニー襲撃を断行しようとするクルーゼは、確かに勘の良さに優れた決断力ある指揮官であったし、アデスの慎重さは敵に先手を取られかねないオーソドックス過ぎるものであったのも事実だろう。

 

 だがこの時、ラウは中立国への軍事行動を仕掛ける蛮行を、然程の政治責任を問われるリスクを考慮した上で決断していたわけでは実はなかった。

 彼には己の行動に対して、大した責任を問われることがないという精算があった。たとえ最悪の場合にヘリオポリスを崩壊させることになったとしても譴責処分程度で済まされると計算したうえで決定を下しただけだったのである。

 その根拠となっていたのは、当のオーブ自身とプラント・連合による戦争という状況そのものだった。

 

 オーブは両大国による対立抗争を第三国として仲介する役割を負うことによって両者から特権的な地位を認めざるを得ない立場を確保している中立貿易国である。間違ってもザフト軍相手に戦争状態に突入できる立場にはない。

 無論、オーブ本国に対してザフト軍が問答無用で武力進駐してきたと言うなら話は別になるが、そのような事態にでもならない限り対立し合う片方だけに味方してしまうことはオーブにとっても破滅を意味してしまうことになってしまう。

 対立し合う二つの勢力の間にあるからこそ、オーブは小国ながらも第三国として価値があるのだ。どちらかに属して大国の一部なってしまえば飲み込まれてしまうだけのこと。

 強い調子で非難はしてくるだろうが、それ以上はできず、実害は与えられる立場にはないのが今次大戦においてオーブ首長国連邦の置かれた現実なのである。

 

 一方でプラントの側はといえば、もっとシンプルだ。

 彼らにとってはクルーゼが『自分たちと同じコーディネーター』で、オーブを率いるのが『自分たちと敵対するナチュラルの元首で地球の一国家だから』というだけで最初から味方する対象は決まってしまった予定調和の結論しか出すことはできない。

 多くのコーディネーターにとって、この戦争は民族紛争でしかなく、『コーディネーターか? ナチュラルか?』それだけが重要な戦争なのだ。コーディネーターの同胞が過ちを犯したとナチュラルの国家元首から非難されたとき、問答無用で同胞のクルーゼを庇う側に立つ道を大多数の国民たち自身が選ぶだろう。

 評議会議長のシーゲル・クラインは、道理を通すことに拘るかもしれないが、国民の大多数から支持を受けて選出された国家元首である以上、民意には逆らえない。

 『国民の総意』によって、同胞が犯した過ちは過ちではなかったと決められてしまった問題には、従わざるを得ないのが一応は民主制を敷いているプラントの建前というものであっただろう。

 

 連合に至っては、言わずもがなだ。

 プラントと敵対して戦争状態にある敵国がいう主張なのだから、ザフト軍の暴挙を非難するのも、地球の一国家でありながら連合に加わらず戦争に協力しないオーブを味方につけるために擁護するのも非難することも都合次第で使い分けてくるのが当たり前の立場でしかない。

 当然のこととして、敵が敵を非難するのは当たり前のことなのだから、言われた側がいちいち気にしてやる義理は少しもない。誰も気にすることなく聞き流されて終わりである。ザフト軍指揮官クルーゼの責任問題に関して、敵国である連合がとやかく言う資格や権利などあるわけがなかった。

 

 

 ・・・・・・要するにクルーゼは、中立国オーブが保有する工業コロニー・ヘリオポリスを何のリスクも負うことなしに攻撃させ、崩壊させることさえできてしまう特権的な地位にこの時は立っていた。

 その油断が彼にもあったのだろう。この作戦で最初に投入していた戦力は、碌な軍備などない中立国のコロニーと侮りまくったお粗末なレベルのものでしかなく、抵抗らしい抵抗を予測していない想定で送り込んだ部下たちは手痛いしっぺ返しを食らわされることになるのだが。

 

 この時のクルーゼには、そんな先の未来まで知りようもなかった。

 過去の歴史において、己の勘を信じて武断的な軍事行動を決断した軍事指揮官たちの多くがそうであったのと同じように、自分が見抜いた部分を高く評価し、自分の推測を基に行う作戦のリスクを軽視し、今この場の勝利を得る代償として最終的な破滅を自らの決断によって呼び込むことになってしまう最悪の愚行を必勝の手と信じて断行してしまってきた。

 

 この時のクルーゼも結果的には、長い歴史の中で繰り返されてきた愚行の継承者の一人となってしまう未来を確定させることになってしまう・・・・・・。

 

「――地球軍の新型兵器、あそこから運び出される前に、なんとしても奪取する」

 

 そう断言して彼が攻撃を決めた中立コロニーに、本来であれば今次大戦に参加する必要と義務を持たなかったオーブに住む一般市民のスーパーコーディネーターがいることを、千里眼でも万能でもないクルーゼは知らない。

 彼は人間で、人は【全知全能の神】には絶対になれない愚かな生き物でしかなかったから・・・・・・。

 

 

 

 

 

 一方その頃、今は敵対していなくても数時間後には敵の手で敵対させられることになる少年たちが乗るエレカは、モルゲンレーテ社の社屋に入るためカード差し込み式の正面ゲートへ乗り入れるところであった。

 トールが要件を伝言しに来た相手カトウ教授のラボが、そこにあったからである。

 

 

「いいじゃんか、別にィ~。お前が聞けないってんなら、俺が聞いてやるよ♪」

「だから、そういんじゃないんだけどね・・・」

 

 後部座席にミリアリアと並んで座って、どこか格好つけたように腕組みしながら言ってくるトールからの、一応は善意の親切に対して僕は曖昧な返答を繰り返し続けて、納得させることはもう諦めていた。

 どうも彼には、ミリアリアと付き合うようになってから周囲に対して恋人を作るようしつこく薦めてくる悪癖ができてしまっており、友人としては少しだけ面倒くさいと感じるときがたまにある。

 今も丁度そのときなんだけど・・・それは彼がミリアリア一人と恋人になれたことを凄く自慢に思っているからで、所謂『ごちそうさま』ってヤツだから部外者の僕が気分を壊すようなことを言うのもなんだと思い、いつもは軽くいなすだけで終わらせている。

 

 前世ではあまり縁がなかったから感情的にはよくわからない心理なんだけど、男って言うのは気になっていた相手と恋人同士になれたときには、こういう風になりやすい傾向があるらしい。いくつかの戦争映画でも似たような場面を見たことがあるから、それ自体はいいんだけど・・・・・・。

 

 原作における彼の最期を現時点から知っている僕としては、本来は知るはずのないキラ・ヤマトとは別の意味で複雑な気持ちにならざるをえなくて少しだけ対応に困ってしまってもいるのが実情だ。

 まさか、『戦争映画や小説の中でよくあるパターンとして、その手の話をするキャラクターは必ず死んでいるから言わない方がいい』なんて言えるわけがないし、本当にこういう問題ではこう・・・・・・戦記物の知識があるだけだと困るだけで役立たないよね、本当に。

 

 ――とは言え、放っておけばそう長く続く精神的苦行ってほどのものでもない。

 

「ウース」

 

 ラボに到着して、教授の研究室に着いた頃には彼の気持ちはややそぞろになっていたのか気楽な声音で挨拶をして、勝手知ったるなんとやらの足取りで僕たち三人の先頭に立つと、入り口正面近くに立てられたままのゴツくて少し物々しい印象の人型ロボットを気にもしないまま部屋の奥へと入っていく。

 

 基本的にトールは同じ話を長続きさせるのが苦手で、一度スパンを空けて切っ掛けを得てからでないと話を再開しないことが多いという妙な特徴をもっている少年だった。

 持続力がない、というよりも多分、短距離走型の人物だったんじゃないかと実際に友人づきあいをしてみるようになってから僕は思うようになっている。

 耐久力と持続させる能力に欠けるところがあるんだけど、とっさの時の精神的な瞬発力がすさまじいタイプの人間。

 逆に言えば、そんな彼だからこそ永続したいと思える相手のミリアリアと付き合えたことが凄くうれしく感じられて仕方がないんだと僕は思ってる。・・・もっとも、それが結果的に彼の最期へと繋がっていくのかと思うと微妙なんだけどね・・・・・・。

 

「あ、キラ。やっと来たか」

 

 トールの声が聞こえたのか、部屋に置かれた棚の後ろから眼鏡をかけた委員長タイプの真面目そうな少年サイ・アーガイルが顔を出して声をかけてきた。

 僕は気のいい友人からの呼びかけに対して、原作とは違う目的と理由で視線を逸らして“彼女”を探し・・・・・・そして見つける。

 

 大きめの帽子を目深にかぶって俯いたまま、周囲からの視線に顔を隠し。コロニー内の温度設定が冬の時期でもないのに全身を覆い尽くす茶色のコートを着て腕組みしながら壁により掛かったまま身じろぎしようとしない、少年にも少女にも見える背格好の持ち主。

 それまで俯いてたのに視線を向けられた途端、睨むような目付きでコチラを見返してくる、見るからに怪しいというか変装になれてなさそうな少し時代がかった服装で保有するコロニーまでやってきていた僕たちの住む国のお姫様・・・『カガリ・ユラ・アスハ』だ。

 

 少し離れた場所からトールが、残る最後の友人カズイ・ケーニヒに彼女のことを質問して答えを得ている声が聞こえてくる。

 

「・・・・・・誰?」

「ああ、教授のお客さん。ここで待ってろって言われたんだと」

「ふ~ん?」

 

 その言葉を聞いて、僕は心の底から安堵する。――どうやらタイムスケジュールは狂っていないらしい・・・と。

 

 と言うのも、生まれ変わってから思い出そうとしたSEED1話目のザフト軍から襲撃を受けるシーンにおいて、正確な発生時間を僕は見た記憶がなかったのだ。

 これだとザフト軍が襲撃してくるタイミングに、原作世界のキラが知らないことを知っている転生憑依体である僕が間に合えるのかどうか襲撃を受けるそのときまで判断しようがない。

 いくら今から起きる出来事の内容を知っていたところで、それが起きるときに起きる場所にいられなかったら何の意味も持たせることなんてできはしないことになる。僕としても少しだけ賭けの要素があったんだけど、カガリがまだラボにいて、教授に待たされたまま会えていないというなら時間は合っているということを意味してくれてるんだと思う。

 ザフト軍の方でも予定が変わっていたりした場合には、どうすることも出来はしないけど、さすがにそこまでは責任を持つことはできない。

 僕が転生憑依したキラ・ヤマトは確かに最高のコーディネーターとして相応しい性能を持つスーパーコーディネーターではあるけれど、世界のすべてを承知してすべてを動かす神様にはなれていない。そんな存在になれているなら、とっくに戦争そのものを終わらせている。

 

「で? 教授は?」

「コレ預かってる。追加とかって」

「うえぇ~・・・またかよぉー・・・」

 

 彼女の姿を見て僕は一安心して、この時点では知っているはずもない正体をもつ彼女から目を逸らし。

 カズイが座って作業をしている机に歩み寄ると、少しだけ間の抜けた表情と口調を形作って話しかけてサイから答えをもらい、果たすことが出来なくなる教授からのバイト作業を受け取りながら、わざとらしく戯けた声で悲鳴を上げてみせる。

 

 ・・・これから起きる出来事と結末を知っているからこその、自分一人だけが茶番劇を演じている道化でしかないのは自覚しているけど、他に方法がない以上はやるしかない。

 

 ザフト軍の襲撃目標と、それが隠されていた偽装場所、そして連合が運びだそうとしていた貨物が安置されていた場所まで直通で通じていた通路が備わっていたサイバネティック工学の第一人者であるカトウ教授のラボラトリー。

 状況証拠から見て教授が行っていた研究内容は明らかだったけど、今の時点で転生憑依して原作を知る僕が真相を告げたところで変えられるものは何一つとして存在しない。

 

「――ぐっ!? ちょ、トール・・・!?」

「そんなことより手紙のことを聞けー!」

「手紙?」

「な、なんでもないってサイ・・・っ」

「何でもないねェ訳ねぇだろォー!」

 

 ・・・結局、原作世界での悲劇を知る僕にできたことは、ヘリオポリスで平和に過ごせる友人たちとの最後の時に、余計な冷や水をさしてしまないよう空気を読んで合わせることぐらいで、他は何も出来ることはなかった。

 

 トールに首を絞められるのに抵抗しながら、カズイまで加わってくるのを慌てたように見せかけながら、僕の視線は常に部屋の端で壁により掛かりながら微動だにせず立ったままの彼女が視界に収まるよう意識し続けてあり、彼女が動き出して地下研究施設へと続いている扉へと向かって移動し始めるのを皮切りに、少しずつ心の中の緊張度を高め始めていく。

 

 

 そして――――

 

 

 

 

「・・・時間だな」

「抜錨! ヴェサリウス、発進する!!」

 

 

 僕たちにとっての平和な日常が終わりを告げさせられて――――僕たち全員が巻き込まれる戦争が始まってしまった・・・・・・。

 

 

 

 

 

「こちら、ヘリオポリス。接近中のザフト艦、応答願います。ザフト艦、応答願います!」

 

 非常事態発生を伝える、けたたましいアラート音に満たされながらヘリオポリス管制区コントロールセンターは、混乱と驚愕にまで満たされつつあった。

 管制区内にある、条約によって領海内と保証されている中立コロニー・ヘリオポリス周辺全域をフォローしているレーダーの中に、いきなり何の通告もなく侵入してきて、なおも近づいてきつつあるザフト軍の戦艦二隻を補足したからである。

 クルーゼが率いるヴァザリウスとガモフだ。管制区はこの二艦に対して先ほどから停戦勧告を呼びかけているが返答はなく、彼らの要請に応じる気配を微塵も見せぬまま逆に船足を速める始末だった。

 

「管制長! こ、これは・・・っ!?」

「落ち着け! アラートも止めんかァッ!」

 

 騒ぎを聞きつけ、大急ぎで現場へとやってきた年嵩のベテラン管制長は、年若い部下たちの慌てようを舌打ちとともに叱咤して抑えさせると、五月蠅いだけで報告が聞き取りづらくなるアラートも止めさせて、落ち着いて抑制の効いた口調で改めて自分の職務を実行した。

 

 ケツの青い若造の部下たちならともかく、彼にとって今回の事態はそれほど異常な事態と言うほどのものでもなかったからだ。

 何しろ今は戦争中で、オーブは中立国なのである。味方にすれば頼もしく、敵にすれば鬱陶しい存在が中立国というものなのだから、これまでも連合ザフト双方の原理主義共から嫌がらせじみた警告は何度かされてきた経験が彼にはある。

 

 愛国心と血の気ばかりが多い跳ねっ返りな若造共というのは、どこの軍隊にもいるものだ。

 だが、所詮は頭に血が上って冷静さを失い、血気に逸っているだけの若造でしかない連中が先走って独断専行しただけの恫喝外交でしかないことも彼は経験則として知っていたため、落ち着いて腹から声を出し、脅しつけるような強い口調で改めて新人オペレーターの生易しい声ではない大人の怖い声音でどやしつけるように同じ内容の言葉を通告した。

 

「接近中のザフト艦に通告する! 貴艦の行動は我が国との条約に大きく違反するものである。直ちに停戦されたし。ザフト艦、ただちに停船されたし!」

 

 ・・・だが、今回の二隻は今まで彼が経験してきた連合とザフト艦すべての前例と大きく違いすぎていた。

 彼の声は若造殿と同じように無視されて、聞こえさえすれば政府の大物すら威圧できると評価されていた自分の胴間声が、全通信に紛れはじめたノイズによって短時間の内に無力化されていく・・・。

 

 

 そこへ第三の男の声が背後から、管制区センター内に静かな声音で響き渡った。

 

 

「――これは明らかなザフト軍からの攻撃であると判断した。戦時体制の規定により、現時点をもって現場での指揮権は、この場における最高位者の小官が掌握する」

 

 

 突如として響いてきた、聞き慣れない男の声に驚き慌てて振り返った彼らの視線の先でオーブ人らしき目立たない風貌をした青年が、関係者以外立ち入り禁止となっているはずの管制センターに堂々と侵入してきており、現在の状況を落ち着いた表情のまま観察しはじめていた。

 平服を着ているが職業そのものは軍人らしく、頭にはオーブ軍所属を示す軍帽だけを乗せて、即席の軍人らしい身なりをしていた。

 

 レン・ユウキ二尉だった。

 ナタル・バジルールたちをアークエンジェルまで案内し終えた後、彼はその足で管制区へと急ぎ向かっていた。

 若さに似合わず危ない橋をいくつも渡ってきていた彼は、ようやく計画が終了したと油断している、作戦成功の寸前こそが最も敵が油断しやすく奇襲するのには最高のタイミングとなり得ることを熟知しており、数ヶ月前から進めていた計画をようやく始動させられると緊張を解いてしまっているであろう、あの“甘ちゃん美人な現場監督さん”も含めて何かあったときは焦って対応を間違えるだろうと、全体の状況を一番把握しやすい場所に向かっていたのだが少々遅すぎてしまったらしい。

 

「な、なんだ貴様は!? ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!!」

「オーブ本国作戦参謀部に所属しているレン・ユウキ二尉だ。緊急事態につき、この場の指揮権は一時私にお貸しいただこう。文句があれば生き残った後で裁判所にでも言いに行け」

 

 階級章と身分証ごと相手の眼前に突きつけることで黙らせてやりながら、レン・ユウキは周囲の若いオペレーターたちに指示を出し始め、茫然自失貸していた管制口調があえぐように抗弁を試みて、

 

「だ、だがまだザフト軍がヘリオポリスを攻撃してきたと決まったわけでは―――」

 

 顔面蒼白になってつぶやく彼の小声をかき消すように、オペレーターの声が場を圧して響き渡った。

 

「強力な電波干渉! ザフト艦から発信されています! これは――明らかに戦闘行為です!!」

「・・・馬鹿な・・・」

 

 年配の管制長は部下からの報告を聞かされて、呆然とつぶやかざるを得ない。

 電波妨害は明らかに敵対する意思を示した軍事行動であり、それを大勢の部下にも見える形で記録させてしまったのでは恫喝では済まされない。

 これではまるで・・・まるで・・・・・・っ!!

 

「ざ、ザフト軍はどういうつもりだ・・・? なにを考えている!?」

「だから戦闘行為だと貴様の部下が言っている」

 

 アッサリと、呆気なく管制長がしがみつきたがった今まで続いてきた平和への執着を一刀両断し、状況を把握し終えると激しく舌を打つ。

 

「・・・チッ! この程度の戦力では足止めにもならんな・・・出すだけ無駄か。アークエンジェルに繋げ! あの疫病神をとっとと追い出さないと巻き添え食らってこっちまで殺されちまう!」

 

 この時期にザフト軍がヘリオポリスを攻撃してくる理由など、コロニー内で極秘裏に建造されているアークエンジェル以外にはあり得ない。敵のお目当てであるデカ物を抱えたまま戦闘指揮など、腹に火薬を抱えて撃ってくださいといっているようなものだろう。

 何より、このままコロニー内に留まらせたまま動かないでいる戦艦など、敵にとっては良い的でしかない。

 

 しかも、正面から堂々と現れて、ただ接近してくるだけの敵が用いた攻撃手段・・・・・・彼にとっては嫌な予感しかしない不愉快な符号ばかりが羅列しているとしか思えない。

 

 

 

 

 だが、一方でオーブ軍のレン・ユウキとは別の異なる勢力に属する者として、正しいと思われる最良の対応は別にあった。

 

「艦長・・・っ!」

「慌てるな。迂闊に騒げば敵の思うつぼだ、対応はヘリオポリスに任せるんだ」

 

 モルゲンレーテ内の地下秘密建艦ドックにて出航準備中だったアークエンジェルでも、部下と上官たちによる会話が交わされていた。

 連合が対戦に勝利するためには絶対必須となる超重要な戦艦を半端な状態で出航させて敵の好餌となってしまったのでは、元も子もなくなってしまう。

 【地球軍の勝利】を、優先事項として最上位に掲げているアークエンジェルの艦長を任されている彼としては、ギリギリまでオーブ軍が敵を足止めして時間稼ぎをしてもらい、可能な限り最大限の出航準備を整えてから艦を出航させて敵艦二隻を葬り去るのが最善手だと考えていた。

 

 アークエンジェルの持つ性能は、十分にそれを可能ならしめる程のものがあると彼は確信しており、それをする事によって連合軍内部では評価されていないアークエンジェルの有用性と、自分に大任を任せてくださったハルバートン提督の有能さと正しさとを全て同時に証明する事に繋げられる。そうなれば【G】の大量生産さえ可能となって戦局は一気に好転できるだろう。

 

 その為なら、犠牲を惜しむべきではなかった。

 たとえそれが中立国オーブの一般市民を巻き添えにすることになろうとも、地球の一国家に住む者として果たすべき義務と責任がある。

 無論、彼らの犠牲を無駄にする気はない。戦争に勝ったら篤く報いることも、彼自身が自分の命を惜しまず仇討ちのために敵と戦う覚悟と決意も既にできていたのだから・・・・・・。

 

 だが、この時の相手は敵も味方も彼の思惑とは別の視点から事態を見ている者たちばかりが集まっていたらしい。

 

 

「――わかっている、ユウキ二尉。いざとなれば艦は発進させる!」

『敵がアンタたち狙って攻めてきてるんだぞ!? 今がいざという時じゃないんだったら、何時のことを言っているんだアンタは! 地球上の四分の一をザフトに奪い取られた後か!? それともアラスカをザフト軍に土足で踏みにじられた時か!?』

 

 通信相手の臨時指揮官、レン・ユウキ二尉とやらに痛いところを突かれてアークエンジェル艦長はつかの間黙り込まされて、その瞬間を作りたがっていた相手は畳みかけるように早口で用件を伝えてくる。

 

『俺の言うことを聞きたくないんだったら無視してかまわん! だがこれだけは言っておく!

 わざわざ二隻ある軍艦で挟み撃ちもせずに正面から揃えて決戦挑んでくる馬鹿な敵など現実にはいやしない! 間違いなく囮役の陽動だ! おそらく既に工作部隊がコロニー内に入り込まれているだろう。

 のんびり出航準備してゲートから死ぬまで出られなくなっても、オーブは一切責任持てんからな!?』

「――っ。そ、その程度のことは貴様如きに言われんでも承知している!!」

 

 動揺を隠すかのごとくアークエンジェル艦長は、必要以上に大きく強い声で怒鳴りつけるとレトロな形状をした通信機を叩きつけるに戻して己の内に生じた不安を力尽くで追い払おうとした。

 

 ―――工作部隊による破壊活動!!

 その発想を頭から除外してしまっていた自分の迂闊さが今更ながら疎ましい・・・! 自分が任されたアークエンジェルの超性能で敵艦を粉砕して初陣を飾ることに拘りすぎてしまった・・・。

 確かに、工作隊に潜入されていたと仮定すれば辻褄は合い、今すぐ出航しなければ危険だという主張にも納得できる。

 だが、既に侵入を許している場合には今から出航させたとしても手遅れである可能性が高い。いっそのこと今のまま完全な出航準備を整えさせる方を選び、乾坤一擲の可能性に賭けるべきではないのか・・・?

 

「艦長・・・?」

 

 背後から自分を呼ぶ、聞き覚えのある声が聞こえてきた。ナタル・バジルール少尉だ。先刻着任したばかりだが見所のある若手の女性士官で、実直で礼儀正しく組織に忠実な模範的軍人。・・・先ほどまで会話していた生意気なオーブ軍士官の若造とは大違いに・・・

 

「――いや、なんでもない。それよりラミアス大尉を呼び寄せろ! Gの搬送を開始させい!」

『ハッ!』

 

 艦長の号令以下、敬礼とともに一斉に動き出すアークエンジェルに配属されていた地球軍士官たち。

 艦長は遂に、当初やると決めていた作戦を変更する決心がつかぬまま、今のまま変わらず進めて成功できるわずかな可能性に賭ける道を選んでしまった。

 彼なりに、選ぶことが可能な選択肢の中から最善の道を選んだつもりであったが、それは結局のところ意味するところは『現状維持』であり、『今までと何も変わらぬこと』を選んだだけでしかなかったことには最後の最期まで気づかぬままに―――。

 

 

 

 対して、再びヘリオポリス管制区センターでは。

 

「チッ! アマチュアがつまらないプライドなんかに拘りやがって!!」

 

 レン・ユウキ二尉もまた、レトロな通信機を叩きつけて連合の無能な艦長を罵りながら、臨時に指揮下に加わってくれたオペレーターの一人に確認を取る。

 

「行政府からの避難指示はまだ出ないのか!? 敵の攻撃が始まってからじゃ遅いんだぞ!?」

 

 問われたオペレーターは蒼白な顔で首を振り、行政府からの無情な決定をレンに伝える。

 

「先ほどから要請はしているのですが、コロニーの住人全てを避難させている時間はなくパニックに陥らせるだけで逆効果になってしまうだけだの一点張りで・・・」

「死ね! 人殺しのクソ野郎!と生き残れてたら伝えてやれ!」

 

 最後に出来ることの望みを絶たれ、この場に留まっても木偶の坊にしかなれなくなってしまったレンは、ヘッドホン型の通信機を投げ出すと現場の放棄を決定させる。

 

「総員、退避! 全速力で逃げ出せ! ここはもうダメだ、残ってたら殺される! 生き残りたいヤツは脱出用カプセルに入れてもらって、流れ弾に当てられないよう神様にでも祈って大人しくしとけ。運がよければ生き残れる! 現場放棄した責任は『上官の命令だったから仕方なかったんです~』とでも言っときゃいい!」

 

 それだけ言うと、「ホラよ」とオペレーターの一人に小さな機械を投げ渡し、レン・ユウキは慌ただしく次の向かう場所へと去って行ってしまった。

 思わず機械を受け取ってしまった若きオペレーターの一人で手の平を開いて、渡されたそれを見ると録音機だった。

 レンは最初から自分の命令内容を音声として記録させて、いざというとき部下に渡して証拠となれるよう常に肌身離さず複数の小型録音機を持ち歩くことを習慣づけていたのである。

 

 逃げ出す大義名分を与えられた下っ端たちの判断と行動は早かった。

 我先にと管制区センターから逃げ出していき、途中で騒ぎを聞きつけたらしい他所の部署の職員たちも「他人が逃げ出してるのに俺だけ留まっていられるか!」と、次から次へと逃亡者たちの模倣犯たちを生み出し続け―――最後に残っていたのは長年ヘリオポリス管制区でボスとして君臨し続けていた管制長ただ一人のみ・・・・・・。

 

 

「・・・・・・」

 

 一人残された管制長は、無人となった先程まで人と仕事で満ちていた自分の誇るべき職場を、呆然とした表情のまま、ただ見つめ続けていた。

 

 自分が長年守り続けてきた職場。誇るべき仕事。半生を捧げてきた自分の城・・・。

 それが今は誰もいない。ほんの数時間前・・・否、ほんの十数分前まであった全てのものが、今は全て何もかも一つたりとも残っていない・・・・・・。

 

 

「・・・これは、夢か・・・?」

 

 どこか遠くを見つめながら、ここではない何処かを見つめる瞳で管制長は言葉に出して、誰にともなく問いかけて。

 

 ―――いいや、違う。残念だが、これが現実だ・・・・・・。

 

 彼の心が彼の問いに向かって、声に出さずに答えを返し。

 

 

 最後に彼は満面の笑みを顔中に浮かべて、心の底から嬉しそうな表情を浮かべながら、自分の心から信じて出した正しい結論を言葉にして口にする。

 

 

 

「・・・・・・・・・いいや、夢だ」

 

 

 そして、次の瞬間。

 遂に港口まで迫ってきていた敵MSジンの攻撃を受けて、管制区センターは原形を欠片も残すことなく消滅させられ、管制長も職場とともに運命を共にさせられた。

 

 オーブ人の中で、軍人以外の初めての戦死者が歴史に残らぬまま生み出されたこの時より、オーブの平和はもろくも崩れ去り、ヘリオポリス崩壊のカウントダウンが開始された。

 

 

 今までは戦争じゃなかったオーブ国が、戦争をさせられる日は遠くない―――。

 

 

つづく

 

注:位置的に距離がありすぎるモルゲンレーテから管制区までレン二尉が移動できてたのは物語上の都合です。

 初出撃でアラスカまで超ハイスピード移動させられてたフリーダムみたいなもんだと思って頂けたら助かります。



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オーベルシュタイン×ガンダム台詞対決集

個人的に親しいユーザー様とやり取りしている最中に思いつきで書いただけの文章が良かったらしいですので折角なので投稿してみました。
秋の夜長の暇潰しにでもどうぞです。


ジェリド『エゥーゴの狙いはダカール議会だ! スードリを向けさせろ!』

 

部下「ダカールは、非武装宙域です。侵入するには許可が…」

 

ジェリド『ジャミトフ閣下からカラバ追討の命を受けているのだ! 遠慮はいら―――』

 

部下「…! 待ってください、ジェリド中尉。グリプスから中継衛星を通じて超高速通信が入っております」

 

ジェリド『グリプスから…? 今頃、なんだ?』

 

部下「判りませんが、参謀本部のオーベルシュタイン大佐からジェリド中尉へ直接お伝えしたい事があるとのことでして…」

 

ジェリド「オーベルシュタインだと!? …チッ! 嫌なタイミングで割り込んできやがったな…仕方がない、通信回線を開いてやれっ」

 

ガガ……。

 

オーベルシュタイン【―――聞くところによると貴官は、ダカール付近の空域へ侵入したアウドムラを追撃するため連邦首都へ許可も得ぬまま母艦を侵入させるとの事だが……それはエゥーゴのパイロットであるカミーユという名の少年兵に戦場で敗れたことへの私怨を晴らすためか?】

 

ジェリド『…!! そんな私事は関係ありません! 私はティターンズの士官としてジャミトフ閣下のご命令を実行しているだけであります!』

 

オーベルシュタイン【ならば私も同様だ。そう感情的になる必要もあるまい…】

 

ジェリド『~~~ッ!!』

 

オーベルシュタイン【どちらにせよ、今ダカールでは連邦議会が開かれている。我々ティターンズへ連邦正規軍の指揮権を一時的に委譲する法案を可決させるための議会だ。そこへ我々の側から手を出すのは好ましくない。ダカール付近にあるギリギリの空域で待機したまま首都警備隊から救援要請が来るのを待て。そうすれば我らが武力介入する大義名分が得られる】

 

ジェリド『それでは遅すぎます! エゥーゴがそこまで来ているのですよ!? 連邦首都で奴らの好きにさせて、それで良いのですか!?』

 

オーベルシュタイン【そうは言わぬ。だが、大義名分がないのは確かだ。それ無くして首都へ兵力を入れてしまえば、逆にエゥーゴたちを利する結果となるだけだろう。貴官はエゥーゴを勝たせるために協力したいと主張するつもりか?】

 

ジェリド『そんなつもりはない! ティターンズは力だ! 力ある者こそが全てを制することが出来るんだ!』

 

オーベルシュタイン【―――実績なき者が語る、軍国主義の大言壮語は信ずるに足らん】

 

ジェリド『なっ…!? この俺に実績がないだと!?』

 

オーベルシュタイン【貴官は今まで一度たりともエゥーゴに勝てたことがない。貴官は自己の実力を他者に示すために弁舌ではなく実績をもってすべきだろう。―――生き残ってきたという実績ではなく、敵に勝てたという実績によって】

 

ジェリド『――――ッ!!!!』

 

オーベルシュタイン【参謀本部次長の権限を持ってジェリド中尉、貴官に命じる。ダカール守備隊より救援要請があるまで付近の宙域でメロウドを待機させよ。もし命令に背くと言うなら是非もなし、ジャミトフ・ハイマン閣下より賜った我が職権をもって作戦の成否に関わりなく貴官に厳罰をもって報いることとする。そこまでの覚悟が貴官にあるかね? ジェリド中尉】

 

プツン(向こうから一方的に切られる通信)

 

ジェリド『…………クソがぁぁぁぁぁぁッ!!!!!』

 

 

 

 

 

クワトロ『―――このままでは不利です、停戦を!』

 

ブレックス「私にバスクの言いなりになれと言うのか!? あのバスクがティターンズをでっち上げて、そこまで来ているんだぞ…ッ!」

 

――――クワトロの進言受け入れて停戦信号弾発射。

 

バスク『エゥーゴが停戦したいと言うなら、少し泳がせておけ』

 

ジャマイカン「…はぁ…?」

 

バスク『私はグリプスへ帰る。正規軍を蝕んでいるエゥーゴ分子をやるための準備があるからな…』

 

オーベルシュタイン『お待ちください、バスク・オム大佐』

 

バスク『……オーベルシュタイン大佐か…貴官はたしか、ジャミトフ閣下に我らの戦いぶりをご報告するためアレキサンドリアに同乗していたと思っていたのだがな…。現場の指揮権に口を差し挟むことは軍監の職務になかったはずだが?』

 

オーベルシュタイン『非礼は承知しております。ですが、敢えて申し上げたい。ここは敵の停戦要求を無視して戦闘を続行すべきです』

 

バスク『なに…? 貴官には現在の戦況が見えておらんのか!? ビダン大尉の息子がMK―Ⅱを奪い、敵へと走っていた機体を取り戻し、戦力は倍増したのだぞ! ここまで有利に戦況を進めた状態で、なぜ今さら無用な被害を被るリスクを犯してまで追い詰められたエゥーゴ艦ごときを沈めることに拘らねばならんと貴様は言うのか!』

 

オーベルシュタイン『そうです。敵の艦は見たところ、我らとも連邦正規軍から寝返った者たちとも全く異なる建艦思想を基に造られている新造戦艦……おそらくはエゥーゴの旗艦と思しき船です。それを今ここで落とすことさえできればエゥーゴ宇宙艦隊は集団として機能できなくなることは素人が考えても解ることです。ここは被害を出すことを承知の上で戦闘を継続させ、いかなる犠牲を払ってでもエゥーゴの旗艦を今ここで沈めるべきなのです』

 

バスク『…そのためにアレキサンドリアを失う危険性を冒すことになるのだぞ!? そうなった時に貴官は責任が取れるとでも言うのか!? それでも貴官はこのまま戦闘を継続しろと主張するのか!!』

 

オーベルシュタイン『はい。たとえ我らの艦隊が全滅しようとも、エゥーゴの旗艦一隻が沈められるであれば、この命を惜しむものではありません』

 

バスク『なっ…!? ぐ…あ…っ』

 

オーベルシュタイン『ティターンズ全体の勝利のための小さな犠牲です。どうか大佐、ご再考を』

 

バスク『う…ぐ…うるさぁぁい! 現場の指揮官は私だッ! 下がれェェッ!!』

 

―――アレキサンドリアを追い出されてランチで帰っていくオーベルシュタインから、最後の一言↓

 

オーベルシュタイン『…怒気あって、真の勇気なき小人め……。語るに足らん』

 

 

 

 

 

ハマーン「私は宇宙の力を手にした。引力に魂を惹かれたティターンズなど恐れるに足らん」

 

ジャミトフ「大した鼻息だな。私に与する最後の機会を与えてやろうと思ったのだが・・・」

 

ハマーン「そちらこそ私に付けば良いものを・・・お前はどうなのだ? オーベルシュタイン――」

 

オーベルシュタイン「・・・地球の引力に魂を惹かれた人間が、宇宙の民を正しく統治できていないという貴官の主張は間違いではない。現に貴官ら賊軍の台頭を、宇宙の辺境に浮かぶ石粒の如き小惑星だけとはいえ許してしまったのは事実だ。人類社会の辺境部までガン細胞の発生を監視し尽くすには地球は遠すぎるという証左だろう。今後の改善すべき点だと理解している」

 

ハマーン「・・・・・・」

 

ジャミトフ「・・・フッ」

 

オーベルシュタオイン「まして私は、ジオン残党狩りを目的として作られたティターンズの一員として、連邦議会からティターンズ総帥の任を賜られたジャミトフ閣下に忠誠を誓っている身。この自分の血によって―――」

 

キュィィィッン・・・・・・ッ

 

カミーユ「!? 殺意か・・・!? ――いや、違う! 方向が別だ! どこから来る!?」

 

アクシズ兵「・・・? どうした急に・・・あっ!? な、なんだ!? オーベルシュタインに随行していたMSがッ!」

 

シュヴュゥゥッン!!(ポリノーク・サマーンがオーベルシュタインが押した機械の発信源に発砲)

 

ジャミトフ「うわぁッ!?」

 

クワトロ「ジャミトフッ! な、なんだ!? 光が!」

 

ハマーン「なにッ!? ――チッ! そういう事か・・・ッ。確かに、このグワダンで私を殺そうとするよりは危険が少なく、確実な手ではある・・・利用されたのは業腹だが致し方ない。退くぞッ!」

 

全てを悟ったハマーンがアクシズ兵たちを連れて退却していく。

 

ジャミトフ「う・・・、うぅ・・・シャアは・・・シャアはどうした・・・? ハマーンはッ!?」

 

オーベルシュタイン「残念ながら打ち損じたようであります、閣下。ここには我々しか残っておりません」

 

ガチャ

 

ジャミトフ「な・・・ッ!? オーベルシュタイン、貴様ッ・・・!?」

 

オーベルシュタイン「ジオン残党狩りを目的として結成されたティターンズの総帥が、ジオン頭目の娘と残党共の首魁とに自ら握手を求めにきたというのでは外聞が悪過ぎましょう。後は私がお引き受けいたします、何も心配には及びません。閣下はただ、ジオン残党殲滅のためにティターンズ総帥として協力していただけるだけで十分なのです。どうか御心安らかにお眠り下さい・・・・・・」

 

ズキューンッ!!



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機動戦士ガンダムSEED-生まれる刻を間違えた野獣-2話

取りあえず書いてみましたTS別人ヤザン主人公のSEED二次作続きです。
色々と異論がおありの方も多いかとは思われますけど、今の私の頭だとあんまり頭脳面が役に立たなくて……申し訳ないです本当に…。

そして、まだ決まってない主人公の名前…。
もう何かいい案とかある人いました時には与えてもらいたいぐらいに思いつかなくて困ってますので、アンケート祖化する気はありません故、思いついて人がいました時には遠慮なく適当にどうぞ。どうせ格式ばったのは苦手なタイプで有ります故に。


「あのパイロットは・・・一体・・・?」

 

 地球連合軍マリュー・ラミアス大尉は、自分が搭乗してパイロットの立場を譲ったばかりの新型機ストライクのコクピットに映し出されているモニター向こうの敵鹵獲機体を見つめながら呆然と呟くことしかできなくなっていた。

 

 生身の身体でMSに取り付き、あまつさえパイロットだけを殺して機体は無傷で奪い取るなど、通常の人間がやるには有り得ない行動であり成果だと思わざるを得なかったからである。

 互いの位置関係から一連の流れ全てを観測することが不可能だったこともあっただろうが、自分から見える角度からだけ見た場合、敵MSジンを強奪したパイロット・・・・・・彼女自身は名前も性別の知らない存在が異形のナニカのように感じられてしまっても無理のない状況ではあっただろう。

 

「化け物か・・・・・・? ――うぅッ!?」

「!? あッ!?」

 

 そして戦闘が終了し、自分の命を奪おうと襲いかかってくる敵と戦う『目の前の現実的脅威』が消え去り、『人ではない化け物に見えるナニカ』という非現実的なモノに対しての疑惑が戻ってきた瞬間。

 マリュー・ラミアスの中で張り詰めていたいとが一気に切れて日常へと心が帰還し・・・・・・現実的な痛みまでもが急激に蘇ってくる。

 4機のGを敵に奪取されるときの白兵戦で敵兵の一人を撃ち倒しはしたものの、戦友を殺された怒りに燃える別の敵兵から銃撃を浴びせられ右肩を負傷していたのである。

 死に至る程の重傷ではなかったが、負傷した身体をそのままにMSという機動兵器に乗って途中まではパイロットをこなしていたのだから傷口が広がらない訳がなかった。

 

「・・・ぐ・・・・・・あ・・・」

「――ッ!! しっかりしてください! ねぇッ!?」

 

 戦闘が終わった日常と共に、敵との戦闘中という非日常によって意識から遠ざけられていた激痛までもがぶり返してしまった彼女の精神は痛みに耐えようとしたが、気を緩めてしまった一瞬に襲いかかってきた激痛に耐えきれる程の経験は年若い軍人である彼女にはない。

 耐えきれずに意識を失って、しばらくの間は心と体を休ませてくれる安息の眠りの誘惑に身を委ねるより他になかった・・・・・・。

 

 

 

 

 その一方で、敵が開発中の機体“すべて”を強奪するという作戦に“失敗した”敗軍の将に、事後処理を自分以外の者に委ねて安息の眠りを甘受する贅沢は未だ許されていなかった。

 

『オロール機、大破。緊急帰投。消火班、Bデッキへ!』

 

 ヘリオポリスを襲撃したザフト軍部隊の指揮官ラウ・ル・クルーゼは、部下からの報告と通信内容にマスクの下に隠された眉を軽くしかめざるをえない窮状に立たされていた。

 その表情は部隊の旗艦としているヴェサリウスの艦橋内にあってさえ外そうとしない白い仮面に阻まれて余人に窺い知れるものではなかったが、予想外の結果に対して無心ではいられる状況ではなくなってきていることは誰の目にも明らかだったからである。

 

「オロールが大破だと!? こんな戦闘でか!?」

 

 所詮は中立コロニー、碌な戦力などないと侮って始めさせた戦闘だったが蓋を開けてみれば、MS1機を大破させられ、強奪に向かわせた潜入部隊もエース1人を白兵戦で戦死させられるという無残な醜態。

 そして更に――

 

「・・・ミゲルとは、まだ連絡が付かないのか?」

「――ハッ。機体反応は消失しておらず、先ほどから呼びかけ続けてはいるのですが、未だ応答はありません・・・」

 

 直接的に部隊の指揮を行わせていた艦長のアデスに確認を取り、改めて強奪に失敗した最後の敵機体を奪うため敵地内で作戦を続行していた最後の戦力も望みが絶たれたことを暗に告げられた後、

 

「考えにくいことではありますが・・・おそらく、降伏したか、もしくは敵に拿捕されたものと推測されます・・・」

「だろうな」

 

 アッサリと短い言葉でクルーゼは、己の作戦失敗と初戦での敗北を認めた。

 機体の反応はそのままに、旗艦からの呼びかけにのみ応えることなく、定時連絡もなし。・・・戦闘続行不可能と判断して降伏したか、何らかの手段でパイロットのみを無力化されて機体を奪われたと判断するしかない状況。

 だがミゲルとてザフト軍のエース部隊クルーゼ隊の一員だ。戦闘続行不可能と判断する苦境に立たされる可能性こそあろうとも、機体を自爆させて目くらましに使い自分だけでも脱出する小細工ぐらいは心得ているだろう。

 ならば降伏ではなく、拿捕されたと判断する方が可能性は高いと見るべきだ。

 

 これにより、初期に投入した戦力だけでの作戦続行は不可能であることが確定となってしまった。

 敵地に侵入を果たした最後の一機が倒され、残る一機は敵エース機と思しきMAに阻まれて未だ目標に辿り着けぬまま一進一退の攻防を繰り返すことしかできていない・・・・・・一時後退と戦力の立て直し、さらには作戦そのものを変更させる必要が出てきたと言わざるを得ない。

 

 敵を侮って仕掛けた末の敗北と失敗だ。傲慢が綻びを生んだのだと、後世の歴史家から笑われるかもしれない醜態。

 だがクルーゼは、失敗を失敗のまま終わらせるほど潔い性格でもなければ、諦めのいい敗北主義者になった覚えもない。

 

「私が出よう。どうやら、いささか五月蠅いハエが飛んでいるようなのでな・・・」

「は?」

 

 訳が分からずアデスは聞き返さざるを得ない。指示の前半はわかる、だが後半の比喩を含んだ部分は何を示唆しているものだろうかと、旗艦の艦長は自分たちの司令官に質問を返したのだが、相手の方にはそれには答えず散文的で具体的な作戦方針のみを説明するのみ。

 

「私が出たら一旦モビルスーツを呼び戻し、D装備をさせろ。私が敵を引きつけている隙に換装作業を完了させるのだ」

「D装備・・・ですか? 要塞攻略戦用の最重装備の・・・?」

 

 ギョッとして思わずアデスがオウム返しに反問してしまうほど大仰としか思えない指示内容。

 彼とて初戦の敗北と作戦失敗は痛手だと考えているが、それでも中立コロニー如きに用いるような武装ではない。いささか以上に遣り過ぎではないのかと堅実な常識人である彼としては思って当然の疑問だったが、笑いかけてくる上官の判断は部下とはいささか判定基準が異なっていたらしい。

 

「ミゲルほどのパイロットに機体を自爆させることなく強奪してしまえるほどの敵が潜んでいたということだ。私としては敵を侮る愚を二度も犯したくはないな」

「・・・は。しかし・・・」

「連合に残された最後の一機も、そのままにはしておけん。――笑ってくれて構わんが、私にもプライドはあるのだよ。アデス」

「・・・・・・了解しました、クルーゼ隊長」

 

 上官からここまで言い切られては、部下として反論の余地などどこにもない。直ぐさまアデスは敵MAとの戦闘を継続しているジンを呼び戻させるために後退信号を打ち上げるよう命令し、続いてMSデッキにも残るジン部隊すべてにD装備に換装させるよう指示を出す。

 

 

 ――オーブに駐留する地球連合軍残存部隊とザフト軍クルーゼ隊との第二ラウンドが幕を開ける・・・・・・。

 

 

 

 そして、その頃。

 戦闘が終わっていたヘリオポリス内の一隅でも事態に変化が訪れようとし始めていた。

 

 

 

「・・・う・・・っ、ぐ・・・」

 

 マリュー・ラミアスはゆるゆると意識を取り戻し、「痛み」という名の現実まで思い出してしまって、目覚めた直後の濁った思考を貫くような衝撃に軽く呻き声をあげてしまう。

 だが、その痛みのおかげで茫洋としていた意識は完全に目が覚めて現状を認識できるようになり、公園のベンチらしきものに横たえられている自分にも気がつく。

 

「あ、気がつきました? キラーっ」

 

 瞼を開いて最初に視界に映り込んできたのは、見覚えのない民間人と思しきあどけない表情の少女。

 オーブ国の住人だろうか? 自分がいるのがヘリオポリス内の公園だという現状を見ればそれ以外の選択肢はなかったであろうが、目覚めたばかりで思考が通常通りに動かすことが出来ていないマリューには正しく認識するまでにはプロセスが必要となる。その為の余計な手間暇思考と言ったところか。

 

「君たちは・・・・・・うぅっ!?」

「あ、まだ動かない方がいいですよ」

 

 身を起こそうとして再び襲いかかってきた痛みに苦悶の声を漏らす彼女に、歩み寄ってきていた黒髪の少年から気遣わしげに声がかけられる。

 おそらく少女から「キラ」と呼ばれていた少年が彼なのだろう。こちらには見覚えがあり、気絶する前にストライクのコクピット内で会話を交わした覚えがある。

 その直後―――

 

『・・・すげーなー、このガンダムっての』

『動く? 動けないのかな? なんでまた灰色になったんだろうな?』

 

 自分が横たえられていた場所より少し離れた位置から別の少年たちの声が聞こえてきて、ボンヤリとした意識の中で深く考えることなくソチラを振り向くと・・・・・・思わずマリュー・ラミアスはギョッとしてしまわざるをえくなってしまった。

 

 膝をついた姿勢で機能を停止させている人型の巨大ロボット。

 【X一〇五ストライク】連合軍が開発した始め手にして最新鋭のモビルスーツ、軍事機密の塊に乗っかって無邪気にコクピットに這い込んでいじくり回している民間人の少年たち二人の姿が視界に飛び込んできてしまったからである。

 

「――その機体から離れなさいッ!!」

 

 バァッン!!

 

『う、うわぁッ!?』

 

 咄嗟にマリューは拳銃を引き抜き、コクピット付近に威嚇射撃として発砲してしまった。

 無論のこと当てるつもりはなかったし、言った言葉以上の意味はなく、その機体から民間人たちを自主的に引き剥がそうとしたかっただけのこと。決して攻撃の意図はない脅しではあったが、しかしそれは撃たれた側の民間人たちには通用しづらい軍人の事情に基づく射撃でもあるものだったため、当然の様にキラたちは彼女の行動を非難する。

 

「な、なにをするんですか!? 辞めて下さい!!」

 

 思わず強い声で詰め寄ってしまったキラに対しても、細かく説明してやれる余裕が今のマリューには心身ともに欠けてしまっていて、少ない意識と体力の中では軍事教練の中で染み浸けられてしまった軍人らしい高圧的な語調での態度しか取りようがない。

 

「彼らなんですよ! 気絶してる貴女を下ろしてくれたのは――あっ・・・!?」

「・・・助けてもらったことは、感謝します・・・」

 

 感謝の思いを込めて言いながら、それでもマリューの身体は教え込まれた軍人としての正しい行動として、キラの眉間に銃口を向けて最低限度の情報提供だけで軍事機密を守らせる方法しか採れない。

 

「でもアレは、軍の重要機密よ・・・っ。民間人が無闇に触れていいものではないわ・・・」

 

 軍人として軍の機密を守るべき立場にあり、知ってしまった者は【民間人であっても殺すしかない立場】にある彼女としては他に言い様がなかった状況ではあったものの、戦争を他国の出来事としてしか捉えず、軍事機密という言葉の定義すら調べたことが禄にない平和に慣れすぎてしまって平和ボケと言うよりも【戦争アレルギー】とでも呼ぶべき症状に陥っている典型的オーブ国民である民間人の少年たちには、そこまで思いやってやれるだけの知識もなければ見識もない。

 

「・・・なんだよ。さっき操縦してたのはキラじゃんか・・・」

 

 相手の行動に対する不平不満から、思わず聞こえる様な声量で以て陰口を呟いてしまったトール・ケーニヒのように、自分たちの住まう狭い世界観のみを基準とした価値観の中での善悪しか判断基準を持とうとしなかった彼らには理解できなかった。

 自分が言った言葉が、【キラ・ヤマトは連合軍の軍事機密を詳しく知ってしまった事実を示す証言】として、友人を有罪判決させてしまうことに貢献してしまう失言だったことなど、彼ら狭い世界だけを世界の全てと勘違いしている少年少女たちには解りようがなかったから・・・・・・。

 

 そんな中、彼女たちの頭上から声が振りかけられてくる――

 

 

「皆こっちへ。一人ずつ名前を言いなさ――」

『そう軍紀軍紀とギャンギャン吠えなさんなよ、美人の姉ちゃん』

「!? だ、誰!? ・・・あ」

 

 声に振り返って、銃口と共に視線を向けた先でマリューはもう一つの現実を思い出す。思い出しさざるをえない。

 そうだ・・・どうして今まで思い出せないままでいたのだろう・・・。あまりにも現実味のない出来事に脳が理解するのを拒んでいたとしか思いようがない・・・。

 

 自分が向けた銃口など比べものにならないほど巨大すぎる砲口を持つライフルを片手に、巨大すぎるシルエットが彼女たち全員を見下ろす様にそびえ立っていた。

 

 モビルスーツ・ジン。

 ザフト軍の量産型モビルスーツであり、人類が開発した人類初の人型の巨大な戦闘用マシーンMSの正式な第一号機とも呼ぶべき機体。

 そして―――先の戦闘で敵から無傷で奪い取ってしまった、今や自分たちの側の戦力となっている一つ目の巨人兵器でもある存在。

 

『民間人しか生き残ってない中で、軍紀軍紀と喚いたところで理解なんざできやしないよ。

 “軍人は大きな声が出せればそれでいい”と内心で見下しを買うだけさ。悪いことは言わないから辞めときな』

「――ッ、事情はどうあれ軍の重要機密を見てしまった彼らは、然るべき所と連絡が取れて処置が決定するまで私と行動を共にしてもらわざるをえません!」

 

 発作的に強い口調でそう返してしまったのは、彼女自身が相手の言ってる言葉を正しいモノの見方だと認識してしまったせいだったのだろう。

 誰だって自分たちがやっていること、尊ぶべきモノだと教えられてきたことが無意味であるなどとは思いたくはないし信じたくもない。

 連合軍人として生きてきて、ストライクの開発を純粋な祖国愛から行ってきた彼女からしてみれば相手の放ってきた正論は、あまりにも今までの自分を否定することと繋がってしまわざるを得ないモノだったから。

 

『そうかい。その割には軍の重要機密を開けっぱなしにしといたまま、ノンビリ昼寝を決め込んでいた美人士官の姉ちゃんがどっかにいた気がするけど、ありゃアタシの幻覚かい?』

「・・・・・・ッ!! 黙りなさい! 何も知らないくせに・・・・・・ッ」

 

 思わず強い口調で罵倒しなければならなくなるほど、相手の言葉はマリューの痛いところを突きすぎていた。

 軍人は、自分の弱みを見せることが出来ない。敵から攻撃されたら撃ち返すしかない。それが――軍人に与えられた任務だ。

 

「オーブは中立だと、関係ないと言っていれば今でもまだ無関係でいられる、まさか本当にそう思っている訳ではないでしょう・・・ッ!! ここに地球軍の重要機密があり、彼らは其れを見た。それが彼らの現実です!! だから―――」

 

 マリューの言葉はそれ以上続くことはなかった。

 続けられなかったからだ。

 

 

 ガガガガガガッッ!!!!!

 

 

 ・・・・・・相手に口を閉ざさせるため、最も手っ取り早い手法。

 【空に向かって発砲する威嚇射撃】を、近くに立つ巨大人型ロボットが手に持つ大砲の様な大きさのライフルを使って実行されてしまった以上、人しか殺せない豆鉄砲しか持たないマリューに口を閉ざす以外の選択肢など与えられている訳がなかったのだから・・・・・・。

 

『吠えんなっつってんのよ、死に損ないが。文句があるなら連合だけの力でザフトを倒してからいいな。そうしたら聞いてやるわよ』

「・・・・・・っ、」

 

 マリューの美麗な顔が激しく歪む。あまりにも相手の言ってくる言葉は正しくて、まるで暴力としか聞こえなかったからだ。

 凶暴で、野獣の様な人物・・・それがマリュー・ラミアスが特異体質のナチュラル少女と初めて声を交わして会話をしたときに印象づけられた最初のイメージ。

 

 ――だが、それは直ぐに改められることになる。

 

『それとだな、坊主共。お前さんらも、あんまり軽々しくモビルスーツに触れてやりなさんなよ。それ知られないために銃口向けてくるほど怒ってくる相手なんだ。これ以上知っちまったら戦争に巻き込れて兵士にされちまうぞ?』

「ひ、ひぇッ!?」

 

 続いてかけられた声にトールたちはギョッとして、先ほどまで触れてしまっていた白く巨大な今は灰色のモビルスーツを見上げ、先ほどまでとは異なる感情を持った視線をガンダムを見る瞳に浮かべ直していた。

 

 それは“恐れ”であり、“恐怖”だった。

 トールたちオーブ国民には、あまりにも戦争に対しての実感がなく、他人事として見過ぎていたせいで『兵器に対する当たり前の恐怖心』までもが鈍化しすぎてしまっていたのである。

 

 銃で撃たれれば人が死ぬ。ナイフで刺し殺されれば人は死ぬ。

 そんな当たり前のことを、当たり前の出来事としか受け止めておらず、『自分たちの身にも当たり前に起きえること』とは認識しなくなっていた事実にようやく気がついたのだ。

 

 マリューが思わず「上手い」と思ってしまうほど、相手が少年たちに示した気遣いは有効に作用していた。

 火薬庫の側で火遊びをしてしまっていた事実に遅まきながら気づいた少年たちは、モビルスーツから一刻も早く離れたくて仕方なくなっているのが一目で分かるほど怯えきっており、その反応が先ほど行った威嚇射撃の効果であることは軍人であるマリューの目には明らかだったからだ。

 

 人はとかく暴力に弱い。行動で従わせるだけなら暴力ほど安易で楽な手段は他にないだろうと思えるほど、軍事力というモノは人々を従わせて上位者たちの優位性を守る上でも有効に作用する。

 国というものが戦争を忌避しながらも軍隊を手放すことが決して出来ず、時に軍隊そのものが国家の中の国家と化してしまうことさえ有り得るのは背景として、それが関係している所以だろう。

 

 だが一方で、軍事力によって出てきたものは例外なく武力制圧の印象を市民たちに与えてしまわざるを得ないのも、また事実だ。

 力尽くで行動を従わせようとすればするほど内圧としての不平不満は高まりやすく、反抗心を刺激してしまう結果を招いてしまう。

 

 平たく言ってしまうなら、力尽くで押しつけてくる奴らは『気に食わない』のだ。

 理屈がどうとか、正しいとか間違ってる以前に感情面で気に食わない。

 だから気に食わない支配者共を打倒するためなら、手順を無視してメンツを丸潰しにする様な行為をやってのけるだけで世論が味方し、民意を得ることさえ可能になってしまう状況さえ有り得てしまう。

 

 だが一方で、暴力というモノは自分たち以外に向けられている限りは、それほど高圧的には感じられない側面を持っており、それが『他人事である間は』武器を武器として認識しようとせぬままに、気づいた途端に今まで平気だったモノを手の平返しで非難したりするようにもなる。

 それはオーブ国に住むヘリオポリス住人達が身を以て体現してくれている人間の心が持つ悪性だ。ならばそれを上手く刺激して利用すればいい。

 

 戦争の理屈は理解できずとも、自分が死んだり殺されたりする可能性が高いと解れば人は自主的に静かになり大人しくなってくれるもの。後は方法論が高圧的に見えなければそれでいい。

 

 だからこそ先に少年たちが敵視していたマリューに向けて威嚇射撃をして見せてから、言葉によって少年たちに『先の攻撃が自分たちにも及ぶ危険性』を自主的に考えさせて怯えさせた。

 マリューは相手が、ただ凶暴で勇敢なだけのパイロットではないことを理解した。

 

『――まっ、そういうこった。取りあえず今は美人の姉ちゃんの言うとおり動いて、迎撃準備でも整えようや。・・・次が来るまで多分、時間はあまり多くない・・・』

「え・・・?」

 

 マリューは驚いた様に顔を上げる。

 彼女とて追撃の可能性は考えていたが、それはあくまで軍人として当たり前の対応としてすべき事をしようと考えていたに過ぎず、相手の声音に込められていた深刻さとの間にはギャップが激しかった。

 

 だが相手のパイロット・・・・・・今はまだマリューは、キラと同年齢の少女とは想像さえしていないナチュラルの不良女子学生はコクピットの中で確信と共に呟いていた。

 

 

「ここまでやった敵の司令官だ。中途半端に終わらせるようなマネはしないだろうな・・・? 頼むぜザフトの指揮官さんよ、戦い甲斐のある敵であってくれると嬉しいもんだ」

 

 

 そして笑う。

 楽しそうに犬歯を剥き出しにして、凶暴そのものな笑みを満面の笑顔という形で心の底から純粋に―――。

 

 

つづく



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機動戦士ヘイセイガンダム・リターン・トゥ・フォーエバー(セリフ集)

執筆途中のお茶にごしになりますけど、平成ガンダムの台詞と冨野ガンダムの台詞とで似たものとを並べたり合体させたりしてみました。
歴史は繰り返す的な意味合いで……まぁ、平成ガンダムアンチな方たちにはどうぞです。
平成ガンダム好きの人には不快なだけかもしれませんので、あまりお勧めは致しませんっつーか出来ない内容です…。


バナージ「こいつら、素人だ・・・・・・」

 

旧約【ド素人めが! 間合いが遠いわーっ!!】

 

 

 

トライスター「おいおい、動く戦争博物館かよ。よくもまぁ、あんな機体で・・・無駄なことを」

 

旧約【そんな旧式で、連邦の最新鋭MSを倒せるものかぁッ!!】

 

 

 

シン「確かに戦わないようにすることは大切だと思います。でも、敵の脅威があるときは仕方ありません。戦うべき時には戦わないと何一つ、自分たちすら守れません。普通に平和に暮らしてる人たちは守られるべきです」

 

旧約【顧みろっ! 今次大戦は地球圏の性質を夢想した一部の楽観論者が招いたのだ! 数週間前、パルテノン神殿を吹き飛ばしたユニウスセブンの落下事故を見るまでもなく、我々の平和は絶えず様々な危機に晒されているのだ! 平和! この民衆のシンボルを揺るがずにしないためにも我々ザフト軍が立つのだ!!】

 

 

 

バナージ「器だなんて・・・ッ! たとえ作り物であっても人はそんなものにはなれませんよ!」

リディ「その仮面の下にあるものを吐き出せ! フル・フロンタル!!」

 

旧約【そうだな、こんな茶番じみたアジ演説はシャアの領分だったな】

旧約【フフ・・・貴様が人々の器に過ぎんのなら、そうも見えるか。が、我々はフロンタルよりは冷静だ。貴様はその手に世界を欲しがっている】

 

 

 

 

カービアス「・・・果たしてこれが、どのような未来をもたらすのか・・・。何も変わらないかもしれん。言葉は言葉でしかない。法でさえ人の都合でどのようにも解釈される。議論や検証がいくら繰り返されたところで結局は結論を見ぬまま忘れ去られる・・・」

ミネバ「それでも・・・それでもバナージは、成すべきと思ったことを成します。百年前、この石碑に心からの善意を刻み込んだ人々と同じように、その善意を今に伝えるべく箱を守り続けてきた貴方と同じように――」

 

旧約【この戦いが終われば、人は変われるのでしょうか・・・?】

旧約【変えるのだよ。それをやるのはオードリー・バーン・・・私かもしれない。私はバナージに賭けたのだから。事態は見えてきた、後は簡単だ。共に戦おうカービアス――】

 

 

 

刹那「ガン・・・ダム・・・・・・ガン、ダム・・・・・・ガンダァァァァァァッム・・・ッ(太陽の手を伸ばすシーン)」

 

旧約【ゴッド・ガンダァァァァァァァァァァァァァァァム!!!!(指ぱっちんッ♪)】

 

 

 

 

――言い回しとかは全くの別物として、言ってる内容や言葉の後に続く結果としては同じようなものだった気がするなーと、思いながら書いてみた私は、そんなだから子供の頃から嫌われたんだなと改めて思った次第です(^^;)



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コルベット×Zガンダム二次外伝「プロット」

少し前に考えついて書きたいと思っていた『コルベット×ガンダム』のZガンダム版、そのプロットです。
プロットでしかないので清書する際には書き直したり足さなくちゃいけないところが多すぎる代物であり、本来なら完成してから投稿すべきだと思ったのですけど、最近更新できてないまま時間が経ちすぎてましたので、何かしらの続きだけでも出しておきたくなった次第。
…中途半端で申し訳ございません…。他のも含めて完成を急ぎまする…(謝罪)


―――ダカール演説によって地上での支持と権力を完全に失ったティターンズは、エゥーゴとの決戦に備えるため残る戦力の宇宙への引き上げを急がせていたが、地上戦力の全てを宇宙に上げられる訳もない。

 ティターンズ地上部隊の多くが地球上へ取り残されることとなる。

 それは、かつて一年戦争でジオン軍がオデッサ作戦終了後の姿と酷似していた。

 事実上グリプス本部からも見捨てられた彼らは、半ば自暴自棄となって必死の抵抗を示し、その勢いはすさまじく局所的にはエゥーゴの部隊が劣勢に立たされる戦区すら生じていたほど激しいものだった・

 

 ……これは、そんな局地戦で敗北し“運悪く”逃げ延びることが出来てしまった、二機のミデア輸送機たちが紡ぐ誰も知ることのなかった物語である―――。

 

 

 

「くそっ! 諦めの悪いティターンズの奴らめ! 大人しく降伏すりゃいいものを見苦しく足掻きやがって! おかげでコッチはいい迷惑だクソッたれ!!」

 

 副操縦士席に座るコ・パイロットの若手士官が、口汚く罵る声が年嵩のメインパイロットの鼓膜を振るわせがなり立てる。

 この時期、ティターンズの敗亡は既に決定事項となっており、仮に宇宙での決戦で彼らがエゥーゴを破ったとしても地球上に住むすべての人々は彼らにした事された事を許していない。彼らが往時の権力を取り戻すことは、ほぼ不可能だろう。

 それならば、勝ち目のなくなった勢力への義理立てなどすることなく、潔く降伏して今後の歴史と人類全体への貢献する道こそ人として正しき選ぶべき道だ。残党軍となって戦後世界の再建を阻害することにしかならない抵抗運動など取るべきではない。

 

 そう考えているであろう若い子パイロットの気持ちも解かるが、メインパイロットを務める古参兵の機長には年齢の荷重に伴う苦い経験と、しがらみで縛られ続けてきた長い人生がある。世の中がそう簡単に進んで行くものではない事を彼は熟知させられ過ぎていた。

 

「…向こうさんには向こうさんなりの守りたいもんや、捨てられねぇもんがあるんだろうよ。全滅しなくて済んだだけでもマシってもんさ……」

「ですがねぇ…っ」

 

 達観した、というより諦めの混じった声で呟かれた上司の言葉にコパイロットが反論しようとした、まさにその時。

 ―――敵接近を知らせる警報が、二機のミデア輸送機内に鳴り響いた。

 敵に敗れて逃げてきたのとは逆の方向の……“斜め上”からである。

迫りくる機体にロックオンされたことを告げる緊急回避を訴える機械音声が、狭苦しいミデアのコクピット内を赤と無彩色の闇とに塗り分けてきて視神経を刺激して苛立ちと危機感とを同時に煽り立てられまくってくる。

 

「上っ!? 敵機識別急ぎます!」

 

 有り得ない方向からの敵機襲来に慌てながらも、若いながらエゥーゴに参加してからの経験は豊富なコパイロットが慌てて計器に飛び付き操作し始める横で、一年戦争時代からミデアを操縦し続けてきたベテランのメインパイロットの老兵は、その知識と経験によって敵機の正体と所属を既に知っていた。

 

 眼を見開いてその名を叫ぶ。

小声で呟くように、震えが止まらぬ唇を無理やり動かしながら出せる精一杯の大声で…!

 

「あれはまさか……コルベット…? ミデアハンターかッ!!」

 

 それは一年戦争に参加した連邦地上軍の兵士たちにとって悪夢と同義語の名前だった。

 ミデア輸送機を専門に狙う、ジオン軍飛行部隊の特殊艦。

後方輸送と補給路の攻撃のみに特化した異形のハゲタカたちの群れ……。

 

 ―――だが、しかし。

 

「馬鹿な! コルベットは今、味方のはずです! そのコルベットが何故オレたちを襲うんですか!?」

 

 そう、今は一年戦争の最中ではない。あと少しで終わりを迎えようとしているグリプス戦役の最終局面へと時代と状況は変化した後なのだ。

 ジオン弾圧部隊であるティターンズの脅威に対抗するため、地上に残るジオン残党軍の多くがエゥーゴに参戦し、コルベットも彼らの中の一部隊としてエゥーゴ地上部隊の面々には知られていた時代に今ではなっている……そのはずだ。

 

 そんな過去の敵で、今は味方となっているはずのコルベットに襲われるべき理由が若きコパイロットには想像することが出来なかった。

 

「…ティターンズの敗北は決定し、もうすぐ戦争は終わる……そういうことなんだろうよ……」

「え…?」

「忘れたのか? エゥーゴだなんだと言ったところで俺たちは所詮、連邦で、奴らはジオンだってことに変わりはねぇ。奴さんとしては、“用済み”となって捨てられる前に奪えるだけ奪って逃げ延びたいんだろうよ」

「なっ!? そんな…!!」

 

 コパイロットは信じられない想いを声と表情の全てに現して悲鳴を叫ぶ。

 その気持ちもメインパイロットは理解できたが、コルベットクルーの判断も分からなくはないのだ。――苦々しさと忌々しさを込めた“正しい判断”にハラワタを煮え繰り返しそうな思いを味あわされながら……っ。

 

 創設時の中心メンバーだったブレックス准将の遺志はともかく、エゥーゴという組織そのものは所詮【アンチ・ティターンズ】でしかない「憎しみを絆として繋がった脱走兵の集団」に過ぎなかった。

 出来合いの私設軍隊でしかなかったエゥーゴには、開戦当初の時点では大兵力を有する正規軍のティターンズに対抗するため早急に兵数を集める必要が絶対的に存在し、『敵の敵は味方』という論法によって経験豊富なジオン残党兵をもスカウトして味方に加えたことで戦力差をどうにか補ってきただけの反乱軍。その程度の勢力に過ぎないのが自分たちの実情だったのだ。……今までは。

 

 だが今や状況は変わった。

既に連邦政府と地球上の人々からの支持を取り付けた後のエゥーゴには、彼らの戦力が必須ではなくなってきつつある。

スペースノイドにも地球市民と同様の人権を与えて、同じ人間同士として認め合うことで対立を取り除く……今でこそ掲げ続けている理想が、果たしてティターンズの脅威が排除された後の世界で順守してくれるかどうか。

それは老練な機長の彼にも、そして敵となった元戦友で元敵でもある者たちにも誰一人として保証できはしない。

 

 全体の幸せのため、平和のための“イケニエ”にされないため。

逃げ出せるときに逃げ出すという選択肢は、忌々しいほど正しさに満ち満ちたクソッたれな選ぶべき道だった。敵に戻った今も賞賛してやっていいほどにである。

 

 ただし。あくまで、“今の自分たち自身が正しさの犠牲にならなくて済むのならの話”でしかなかったが……っ

 

 

「ミデア501、聞こえるか? 雲の中に逃げろ。俺たちがコルベットを抑えて時間を稼ぐ。その隙に少しでも戦場から離れるんだ。以上、通信終わり」

「機長っ!?」

 

 驚いたように若いコパイロットは、普段は優柔不断な態度が鼻につくことのあった老練の上司の顔を見直す。

 

「…あっちの機には負傷兵を満載している。俺たちの方は物資だ。どっちの方が逃げ延びれねぇか、どっちの方が狙われやすいか。今さら考えるまでもねぇだろうよ」

「…っ」

 

 自分たちに未来が閉ざされていた事実を知らされたコパイロットの身体に震えが走り、恐怖に怯える体で拳を握りしめ、ガチガチと歯を鳴らし始めた口元に無理やり歪な笑みを浮かべさせると「…了解しました、キャプテン」と、人生最後になるであろう命令復唱と実行とを同時に行い、載せてきた歩兵たちも含めてありったけの武器弾薬をぶちまける支持を機内に通達する。

 

 自分たちが襲い甲斐のあるオイシイ獲物であることを敵に教えてやるために。

 自分たちの犠牲で確実に味方が逃げ延びれるようにと……そう祈りながら下した命令は――――しかし。

 

 

「なにっ!? 奴らミデア501の方を……何故だ!?」

 

 予想に反して、敵は自分たちがこれ見よがしに見せつけてやった弾幕の御馳走に見向きもせぬまま高度を取って弾幕を逃れると、雲の中に入って行った負傷兵たちだけを満載しているはずのミデアにだけ狙いを定めて雲の上を旋回し始める。

 

「雲から出てきたところを襲うつもりか! 機長、今すぐ反転して奴らを追いましょう! そうすれば―――」

 

 使命感と仲間を思う気持ちから訴えかけようとしたコパイロットの口は途中で閉ざされる。

 彼は見たのだ。機長の目に浮かんだものを。

先ほどまでは浮かんでいなかった、ある感情の灯を。

 

―――それは、“死ぬのが怖い”“生きたい”…という、人として当たり前すぎて平凡すぎる正しい感情……。

 

「…敵がミデア501にへばりついている間に距離を取る」

「機長!」

「どっちみち、あの高度まで飛ばれたんじゃミデアからの攻撃は届かねぇ。食われる獲物が二機になるだけだ。二機死ぬより一機生き残る……簡単な計算だよ…」

「……っ」

 

 

 唇を震わせ、憎しみに満ちた瞳で年老いた機長の「正しい判断」を睨み返し、無言のまま時間を過ごした彼。

 やがて―――

 

「……了解しました、機長殿」

 

 先ほどまで満ちていた感情の一部と、どこかしら若さのなくなったような声で復唱すると、ミデアハンターに襲われる未来から逃げられなくなってしまった味方機を残して自機を空域から離脱させていく彼。

 

 その後、戦争が終わった後の平和な世界では銃弾やミサイルよりも【負傷兵に使われる医薬品】の方が不足しやすく手に入り難くなり、有り余って放出された兵器類よりも時に高く値の付く時代になることを彼が知るのは、グリプス戦役が終わって大分経った後のことでなる。

 

 

 その後、彼がコルベット隊と出会うことは二度となかった。

 出会わない方が良いと、彼は思った。

 

 再会した時の自分に対して、自分自身が何を思うようになっているのか……年老いた今の彼には、もう分からなくなってしまった後だったから……。

 

 



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転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。15話

久々の更新となります。この作品でも詰め込みまくってしまいましたが…長く間をあけた作品って、そういうものなのかもしれませんね。
他の作品の更新も急ぎまする。


 オーブ首長国連邦政府からの公式発表として、『地球連合所属の新造戦艦アークエンジェルは既にオーブ国内から離脱した』という宣言が出されてから数日後。オーブから程近い海域で、一つの死闘が行われていた。

 

 【オーブ海軍の演習艦隊から離脱したアークエンジェル】と、【中立国オーブに素性を偽り密入国して情報を入手していたザフト軍ザラ隊】とが、小さな島を戦場に戦闘を繰り広げていたからである。

 

 オーブへの潜入時にキラと出会って会話も交わしているアスラン・ザラの判断によって近郊の海に潜んで網を張り、待ち構えていたザフト軍ザラ隊であってが、戦況は比較的アークエンジェル優位に推移しているようでもあった。

 

「なっ!? 煙幕ゥッ!?」

「チィッ! 姑息なマネをッ!!」

 

 万全の迎撃態勢で臨んだにも関わらず、先の戦いでは撃沈寸前まで敵艦を追い詰めたザラ隊が、今までにないほどアッサリと劣勢に追い込まれる要因となったのは、今回の戦闘で初めて用いられたアークエンジェルの支援用兵装《スモーク・ディスチャージャー》と煙幕弾によるところが大きい。

 どちらも直接攻撃力を持たず、二度目からは対策が立てられやすい、初見殺しの子供だましじみた兵器でしかなかったものの、初見殺しではあるが故に初めて見る敵艦の武装に意表を突かれ、ザラ隊の面々は襲いかかってきた側でありながら機先を制され、最初の先制攻撃を敵側に許してしまう失態を演じる羽目になる。

 

「・・・!? なんだとっ! 二機っ!?」

『おおッと!!』

『う、うわァッ!?』

 

 また彼らが先制攻撃によって不利になった理由は、それだけではない。

 イザークが今、意外そうな声を上げながらビームライフルを発砲して回避された敵戦闘機《スカイグラスパー》の予備機にキラの親友であるトール・ケーニヒが搭乗して、上空からの情報支援のため参戦していたことが思わぬほどの相乗的効果をもたらしていた故でもある。

 スカイグラスパーは地上に降りる際、ハルバートン提督率いる第八艦隊から受領してきた重力圏内用の戦闘機だ。

 フラガ大尉の愛機である《メビウス・ゼロ》がモビルアーマーであるが故に宇宙空間でしか使えないからこそ、彼を地上でもストライク支援のために活かせるよう与えられた機体であり、彼専用機ではないため《ガンバレル》も装備していない見た目は普通の戦闘機でしかない存在。

 

 だがイザーク達からすれば、「二機のどちらが“エンディミオンの鷹”なのか?」という疑問が撃ってみるまで分かりようがない機体でもあり、見た目だけでは判断しづらい。まして戦闘機の軌道はMSと違って単調であり、個人個人の癖が現れにくい。誤認させるだけなら本来の目的とは異なる使い方をしてみるのも十分にありだ。

 

『よし! 悪くないぞ! ストライクの支援、任せる!』

『は、はいッ!!』

 

 結果的に彼らは「二兎を追う者は一兎をも得ず」の格言の如く、雲の中から飛び出してきた直後のスカイグラスパー2機の中間に向けて第一射目のビームを発射してしまい、両機ともに回避されたあげく、ムゥの乗る1号機には自分たちの上空に上がられ頭を押さえられ、トールの乗る2号機には自分たちの位置と高度、風向き風圧などの射撃に必要なデータを人工の雲の中に発信されてしまう地理的不利な要因を自ら招き入れる失策を犯すことになってしまっていた。

 

『こちらスカイグラスパー、ケーニヒ! ストライク、聞こえるか!? 敵の座標と射撃データを送る!』

『・・・っ、了解!!』

 

 コーディネーターといえども、出撃直後の機体の動きだけで乗っているパイロットを特定することは容易ではない。数値以上に経験からくる勘働きの方が重要になる分野だからだ。

 

 おまけに、総掛かりで強襲してきたところに煙幕が張られたことで足が止められ、初めて見る敵艦の武装を前に当初の作戦を変更する決断ができぬまま敵の接近を許してしまったという不利が重なる。

 

 ビシュゥゥゥゥゥッウ!!!

 

『『『うっ、くぅッ!?』』』

 

 データを基にして雲の中から発射されてきた長大な《アグニ》のビーム光に、アスラン達4人はそろって呻き声を上げさせられる。

 自分たちからは見えない位置にいる敵からの砲撃に近い太さを持つビーム射撃。一カ所に集まったままでは、マグレ当たりであっても擦っただけで自機が乗っている支援マシーン《グゥル》は耐えられないだろう威力を目の当たりにさせられて、敵が来るのを待って襲いかかってきた側の自分たちの方こそが罠に飛び込んできてしまったような状況になってしまっていることを認めざるを得なくなったのが、その理由だった。

 

『く・・・っ、散開!!』

 

 敵のビーム光の太さを目にしてアスランは、部隊を別けるための指示を出す。

 遅まきながら自分が初歩的な判断ミスをしていたことに気がついたからである。

 敵“戦艦”を沈めるのであれば、MS部隊は各個に別々の方向から襲わせた方が迎撃火線は分散されて効率は良くなる。

 《グゥル》がある自分たちと異なり、空を飛べないストライクには、足つきの足さえ射れば自由な動きが利かなくなる。

 

 ―――俺が、キラを落とすことに拘りすぎた結果だとでも言うのかッ!?

 

 アスランは心の中でそう罵倒し、もう一人の自分が即座にそれを否定させる。

 強敵となったキラを全機総掛かりで落とすことだけに集中してしまい、足つきを軽視してしまった自分の判断ミスが、友人であるキラを本心では討ちたくないと願う心理から来ていたのではないかという疑問に捕らわれ、覚悟を決めたはずの自分が迷っているという事実を認めたくなかったからである。

 

 矛盾を抱えた心境に陥りかけながらも身体の方はなんとか動き、敵の射撃を避けて散開しながらもストライク対策のため、それぞれに相性の良い者同士でペアを組み、部隊を二つに別けて二方向から挟み撃ちする形を取って足つきへ接近する方針に切り替えている。

 

『――ッ』

 

 だが、キラとて自機のMSに「ガンダム」の名を与えた少年パイロットだ。因縁めいた宿命によるものなのか、思い切りがいい。

 安全な雲の中に隠れながら送られてくるデータを基にして『見込み』で撃った弾で落ちてくれるほど遅くもなければ甘くもない現実を知ると、三射目で砲撃を辞めて自機とアークエンジェルとを繋いでいたチューブを取り外して投げ捨てる。

 

 このチューブを取り付けている限り、ストライクはアークエンジェルから直接エネルギー供給を受けられて、消耗の激しすぎる高出力高威力の《アグニ》を残量に配慮することなく撃ち続けられる巨大なメリットが得られるのだが、外してしまえば通常と同じだ。自機が背負っているバッテリーで賄うより他になくなってしまうしかない。

 

 だが、煙幕によって敵から完全に姿を隠してしまえば、味方からも敵が見えなくなるのは道理でしかない。

 敵の数が多く、また弾幕を掻い潜ってこれるほどのエースでさえなかったなら話は別になったかもしれないが、生憎とキラが相手にしている敵部隊には赤服のエース達しかいない。

 

 ――当てるために狙って撃った弾でなければ落とせない強敵たち・・・ッ!!

 

 そう判断したキラは、外したチューブを投げ捨ててフェイズシフトを展開し終えた直後に甲板から飛び立ち、左舷から攻撃を仕掛けようとしていた《バスター》と《デュエル》の目前へと躍り出る。

 

『なっ!?』

『くぅっ!?』

 

 長距離砲撃用と同等の威力を持つビーム砲《アグニ》を使って撃ってきながら、装備を換装させる間を置かせることなく中距離射撃戦の距離まで急速接近してきたキラの判断は完全にディアッカとイザークの意表を突いていた。

 

 驚き慌てながらも、いったん後退して距離を取って仕切り直すか、そのまま進むかで一瞬の判断を迫られる二人。

 ――だが、それは片方のパイロットにとってはともかく、イザークにとっては判断を迫られただけでなく、自分個人に対しての許しがたい侮辱のように感じられて仕方がなかった。

 

 

『~~~ッ!! ストライクぅぅぅぅッ!!!』

 

 接近してくる敵機を前にして、自機のビームライフルと《グゥル》の小型ミサイルとを同時に発砲しながら前に出ようとする道を選ぶイザーク・ジュール。

 それは一見、距離を置いて射撃に転じたディアッカの一時後退を援護する形に見えはしたが、彼がその行動を行った動機はもっと単純極まるものだった。

 

 心に余裕がない人間は、往々にして小さな失敗を受け入れられずに破滅するまで突き進むことしか出来なくなる傾向がある。

 イザークはもともと決して愚かな男ではなかったが、優秀ではあっても心に幼い部分を持った少年でもあった人物でもある。

 そして、心が幼い優秀な人間ほど敵を見下し視野が狭窄しやすく、自分たちが高い地位にあるべきだと信じ込んでしまい、自分より愚かな人間が一面では自分を上回るものを持っている可能性を考えようとしない。

 

 否、考えたくないのだ。

 それを拒否する状態こそが、プライドが高くなりすぎる余り、心に余裕がなくなった心理状態というものなのだから・・・・・・。

 

 

 ――たかがナチュラルが操るMS如きに俺が! コーディネーターである俺が負けるはずがない! 負けたままでいいはずがないんだぁぁぁッ!

 

『こっから先へは行かせねぇよッ!!』

 

 同僚である相方に呼応して、いったん距離を置いたディアッカの《バスター》が《デュエル》を援護するため砲撃支援用MSとして両手に持ったビーム砲で援護射撃を開始する。

 

 ・・・しかし、この時点で彼は友人でもある相方が、自分の攻撃の邪魔になっている事実に気づいていない。

 本来、空に飛び立ちながら急速接近してくる敵に対しては、左側にマウントしている《対装甲散弾砲》による散弾の方が有利だからだ。指向性を持たせたビーム射撃では、真っ直ぐ飛びすぎてしまって回避行動を取りながら接近してくる敵と、距離を取るため移動しながら射撃する自分とで命中率が下がるだけでしかない。

 

 だが、判断するより先に激情に駆られたイザークが前に出ようという動きを示したため、彼に当たる危険性を恐れて確率論兵器の散弾を彼は撃つことが出来ない。

 また、実体弾では有効打とに成りきれないフェイズシフト装甲の長所を知りすぎてしまっている立場という事情もある。

 今の自分は、ただ敵の接近を阻めばよく、撃墜まで狙わなくても良かったのだと気づかされたのは、彼がストライクに落とされて海へと落下していくしかない立場へと成り下がってしまった後のことだった。

 

 バフゥン!!

 

「ぐわぁぁぁッ!! ――あッ!?」

 

 グゥルの翼に軽い一撃を食らわされ、足は止まりつつも滞空できる程度には加減された攻撃を受けた衝撃により、「空中で棒立ちしていた敵MS」という間抜けな姿を晒してしまったディアッカの《バスター》は当然の報いとして飛行マシーンの上から蹴り落とされ、悲鳴を上げながら海へと落下していくしかなくなってしまう。

 

「クッ! このォォォォォッ!!」

 

 前に出て打ち合おうとした自分を無視して、接近戦武装のないバスターを撃破するのではなく、救助の手がいる海へと落下させて落としたストライクの姑息さに激高するイザークだったが、キラとしては当然の判断だった。

 

 空が飛べないストライクでは、いつまでも空中戦など応じられる訳がない。

 ならば接近武装メインで射撃能力の低い《デュエル》よりも、砲撃支援用の《バスター》の方が先に倒しておくべき厄介な存在だったことは火を見るより明らかだからだ。

 

 だが、プライドに駆られているイザークには、その程度の道理すら受け入れきることはできない。

 

 結果として彼は、命中率は高くともフェイズシフト相手にはエネルギーを減らせるだけでダメージには至れない頭部バルカンを乱射しながらストライクに迫るという愚行を選んで突撃してしまい、逆にストライクの右肩に装備されていた《120ミリ対艦バルカン砲》で《グゥル》を損傷させられ飛行を維持できなくなるという結果を招く。

 

「ぐわぁぁぁぁぁッ!?」

『イザークっ!? ちぃッ!!』

 

 高度を維持できなくなって、徐々に海へと落ちていくしかなくなった同僚の機体を遠目に見てアスランが舌打ちする音がイージスのコクピット内にのみ響き渡る。

 

 出撃した時には4機編隊だった自分たちは、既に二機が損傷して戦線を離脱させられ、敵が被った損害はイザークが最後に放ったバルカン砲ぐらいのものという惨状。

 今まで幾度となく死闘を繰り広げてきたアスラン達と足つきとの戦いで、ここまで明確に差が出たのは、この戦いが初めてだった。

 

 ―――あるいは、それが良くなかったのかもしれない―――。

 

『コイツぅっ!!』

 

 先に落ちていった他の二人と異なり、アスランに好意的で彼の指揮下に入ることを全面的に受け入れているニコル・アマルフィの《ブリッツ》が、「隊長から後退命令も作戦失敗の決定も下されてない状況下」において隊長機よりも先にストライクへとビームライフルを撃ち放ち、ザラ隊長もまた部下の判断をよしとしたまま飛び続けられなくなって降下していくストライクを好機と見て追撃するため全速前進しながら自機のビームライフルを連発させたが、やがて雲の中から現した足つきの姿を見て、すべては計算尽くの行動に過ぎなかったことを結果によって思い知らされることになる。

 

「えぇい! ―――なッ!?」

『バリアント、撃てぇぇぇぇッ!!!』

 

 主砲のゴッドフリートによって降下していくストライク追撃の足を止めさせ、甲板上に着艦を確認した後、リニアカノンである《バリアント》と対空防御ミサイル《ウォンバット》を連続発射されたことで、フェイズシフト装甲を持たない《グゥル》に乗った《イージス》のアスランも後退せざるを得なくなり、ニコルの援護射撃もあって無事脱出には成功したものの、それは炸裂する爆発光の群れが発生したことで再び足つきの姿が見えなくなってしまう状況を作り出されてしまったことをも同時に意味してしまってもいた。

 

 これには、空から戦況を俯瞰してデータを送り続けていたトールの功績が大きいといえる。

 戦力として取るに足らぬからと最初の一射目で見抜いてからは見逃していた連合製の戦闘機であっても、視界が閉ざされ目の前にいては敵の姿が見えなくなってしまった戦場において有効に作用するのだという事実を、既存兵器に対するMSの絶対的優位性と、ナチュラルが創った時代錯誤な飛行機如きと侮る気持ちが自らの敗因へと繋がっていたことを、彼らは果たして知ることが出来たとしても受け入れることは出来たであろうか・・・?

 

 

「ベクトルデータをナムコムにリンク! ノイマン少尉、操艦そのまま」

「了解!」

 

 ナタル少尉――地球に降りる際、中尉に昇進していたナタル・バジルール中尉の指示の基、アークエンジェルの位置と高さがブレないように調整させられ、甲板にたつキラに計算違いが起きづらくなるよう最大限の配慮がなされていた。

 キラの咄嗟の判断による奇襲で、敵の半数を落とせたことは大戦果だったが、やはり《アグニ》の連射は威力を押さえてもストライク単独ではエネルギー消耗は激しい。

 それでもバッテリー残量だけで見るなら継戦は可能ではあったが、それはあくまで「今までの戦い方を続けて勝てる場合」の話でしかない。

 

 既に、射撃武装しか持たない《バスター》と、本来は接近戦用で重力に縛られた地上では本領を発揮しづらい《デュエル》は落とし、残るは特殊戦闘が可能な《ブリッツ》とMS形態では汎用型の《イージス》の二機だけ・・・・・・戦闘開始時とは戦況が変化した今となっては《ランチャー・ストライカー》より《エール・ストライカー》を装備させた方が有利である。

 むしろエネルギーが減ったランチャーのままでは、悪くすると敵に避けられ続けて先にガス欠を起こしてしまう危険性すらあり得るだろう。

 

『フラガ機、来ます!』

 

 アークエンジェルの艦橋に響いたサイの声が、ストライクにも届く。

 続いて、ミリアリアの呼びかけと、いつものムゥの軽い調子で言う声が彼の耳朶を打つ。

 

『ストライク、エールへの換装スタンバイです!』

『プレゼントを落とすなよ!』

 

 もともとスカイグラスパーは、地上では空が飛べないストライクの支援用にセットで開発されていた機体であり、本来の開発目的としてはストライカーパックをストライクまで運んでいく輸送機としての役割を担わされる予定だった。

 そのため互いの位置関係を知るため周囲の情報を収集する能力は高く、初陣で素人でしかないトールが有効なデータを送り続けられた理由も機体性能に依存するところが大きかった。

 とはいえ、如何に状況を調整して難易度を下げようとも、宇宙空間よりは装備の換装に制約が多いことは厳然たる事実であったし、初の空中換装と言うこともある。

 

「少佐、どうぞ!」

 

 キラは一瞬だけ息が詰まったが、覚悟を決めてムゥに応じて甲板を蹴った瞬間には迷いは一切なくなり、ただストライカー・パックを装備するための最適回答と軌道を計算する数式だけが頭に残るだけとなっていた。

 

 そして、難しい何度の空中換装をキラの乗るストライクがやってのけたのを目にして味方は安堵の声を上げ、キラの敵となってしまった者たちは驚愕するしかない。

 

『アイツ・・・空中で換装をッ!?』

『・・・・・・ッ』

 

 自分では不可能な敵の神業に、ニコルは素直な衝撃を受けさせられたが、アスランが受けた衝撃は彼より深く、そして屈折してもいた。

 

 ――明らかにキラの操縦技術は格段の上昇を遂げている・・・・・・落とすべき自分が覚悟を決められずにいたがために、敵となった親友の脅威が上がっている!

 

 ・・・そういう形での精神的衝撃である。

 それは言い換えるなら、「自分が親友に対する思いさえ割り切れるだけで勝てていた」という増長とも呼ぶべき発想でしかないのだが、異なる歴史を歩んだ別の地球上で思い上がりを正してくれた年長の軍人とアスランは出会うことが出来ていない。

 

 彼は知るよしもない。

 史実におけるこの戦闘で、彼を庇うために戦死した僚友の死に責任を感じて「自分のせいでアイツは死んだ」と嘆く道を選んだ自分自身と同じ道を選ぼうとしてしまった少年兵が、地球側の兵にいた別の地球を巡る戦いがあったという事実を。

 その中で、彼と同じ心理と、彼とは真逆の色を持つ機体を愛機としていた少年兵が、とある兵士から言われた言葉を聞く機会を、ザフト軍という能力主義が徹底しすぎた年齢や経験を重視しなくなった軍隊様式が奪ってしまったという事実をだ。

 

 彼は自分と同じ少年兵と、同じ言葉を言われるべきだったのだろう。

 

 

『自惚れるんじゃない!

 ガンダム一機の働きでマチルダが助けられたり、戦争が勝てるなどと言うほど甘いものではないんだぞ!?

 パイロットはその時の戦いに全力を尽くして後悔するような戦い方をしなければ、それでいい・・・』

 

 

 ――そう言われているべきだったのだろう。

 だが、可能性は可能性でしかなく、今の彼が生きる現実の軍隊に誤った後悔を正してくれる立派な大人は存在していない。

 

「アスラン・・・・・・っ」

『はぁぁぁぁッ!!!』

 

 赤い敵機に乗り、自機へと迫り来る親友のことを頭に思い浮かべながらビームサーベルを引き抜くキラ・ヤマト。そでを鉤爪状の特殊武装《グレイプニール》を発射して切り落とされながらもビームサーベルを抜いて応戦するニコル・アマルフィ。

 

 動きが止められてしまった味方に援護射撃をしようとするアスランに対しては、ムゥが乗るスカイグラスパーがキラと巧みに連携しながら攻撃することで邪魔が入らないように牽制させられる。

 MSに空中戦を可能にさせてくれる《グゥル》と言えども飛行支援マシーンでは、生粋の戦闘機相手のドッグファイトは機動性の面で分が悪い。戦局は硬直するが、ザフト軍不利の状況下での硬直はアスラン達にとって面白いはずはなかった。

 

 更に、彼らの不運は重なる。

 

 

「キラ・・・・・・っ、――えぇいッ!!」

 

 眼下で続けられている戦闘を見下ろしながら、上空からの情報支援だけをこなすよう言明されていたトール・ケーニヒが、友人の戦う姿を見ているだけの状況に我慢しきれず、怖さを振り切り上空からMS相手に突撃する覚悟と決意とを固めてしまったからである。

 

 それは本来なら暴挙にしかなれない、勇気と蛮勇とを履き違えた行動となるはずのものであったが、ことこの瞬間だけは彼らにとって有効に作用する決め手となる。

 

『なにっ!? コイツっ!!』

 

 既に格上の相手となってしまったキラを相手に、《グゥル》による空中戦が可能なことのみを優位性とすることで何とか互角に近い戦いを行っていたニコルの機体に、ミサイルが命中してしまい集中が大きく乱され、接近戦においては致命的すぎる隙を晒してしまったからである。

 

 いつでも倒せるザコでしかないからと、放置し続けたことが裏目に出る結果を招いてしまったニコルたちの甘さは自業自得の結果となって彼の機体を切り裂かせる。

 

『キラっ!』

「トール!? ・・・よしっ」

 

 敵がナーバスになっている鍔迫り合いの最中に、横から不意打ちを食らわせてきた戦闘機へと一瞬だけとはいえ注意をそらしてしまった不意を突いて、ストライクは至近距離で立ち止まってしまった敵機のライフルを内蔵した右腕を切り裂き、バスターと同じようにグゥルから蹴り落とすことで戦闘空域より強制的に離脱させてしまったのだ。

 

 悲鳴を上げながら海へと落下していくニコルと、喝采をあげるキラの友人トール・ケーニヒ。

 

 対照的なその姿を見下ろしながら、アスランの心にも黒いものが初めて宿ったのは、この瞬間だったのかもしれない。

 

 

『くそォ・・・・・・ッ』

 

 

 既に部下として指揮を任された僚友達は敗退し、残ったのは自分のイージス一機のみ。

 敵は消耗しつつも全機健在、母艦も射程距離内に捕らえられる寸前まで接近されている。

 戦い続けたが故にエネルギーは残り少なく、ストライクと違って母艦に戻らず補充する当てもない。

 

 ――既にこの時点で、勝敗は決していた。作戦を中断して撤退する以外の選択肢など存在しない。そんな戦況。

 

 そんな状況下の中でアスランが選んだ選択は―――

 

 

『はぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 一機だけ残った、自機だけでの突貫だった。あるいは特攻と呼ぶべきかもしれない。

 がむしゃらに敵機へと機体を突っ込ませ、グゥルを狙ってきた敵に撃たせてやりながら被弾したグゥルを奪い取られていたニコルのグゥルへと追突させることで相手からも足を奪い取り、高威力ながらもエネルギー消耗の激しい《スキュラ》を放つためにMA形態へと変形させてストライク目掛けて連射させる。

 

 これは彼らしくもなく、碌な精算もないままの無意味な突撃だった。

 たしかにMA形態のイージスには多少ながら飛行可能能力を持っているが、宇宙用に作られた形態である以上は重力圏内でのドッグファイトでMSのような小さな獲物に当てられるようにはできていない。

 

 可動性も低くなり、斜角の自由度も宇宙空間と比べればなきに等しい。

 エールに換装していたキラのストライクなら余裕を持って回避できるほど、お粗末なビーム射撃。

 

 そして、彼に対する止めとして。

 

『キラ! ソードを射出するぞ!』

「トール!?」

 

 ムゥの1号機と同じようにトールの2号機にも装着されていた、ストライク換装のためのストライカーパック。

 機体エネルギーもろとも回復できる機能を持った、この装備を新たに換装されてしまった以上、スキュラを発射し最後のエネルギーを無駄に使い捨ててしまったアスランに、勝ち目は完全になくなってしまうしかない。

 

「ちぃ・・・っエネルギーが! ――なにっ!?」

 

 突如コクピット内に鳴り響いた警告音が示す方向に顔を上げると、ソードストライカーに換装し終えた親友が乗るストライクが巨大な剣を振り上げ、自機を切り裂くため急降下して間近まで迫ってきていたのである。

 

 染みついた癖でビームライフルの銃口を上げてしまってから、一発分しか残っていないエネルギーが頭をかすめて一瞬だけ迷いが生じ、その迷いが彼からビームライフルすら奪い取り、敵に切り裂かれた銃身が爆発四散する位置から後退しながらアスランは、自分が親友に敗れたことを他の誰より思い知らされる立場になってしまっていた。

 

『もう下がれ! キミたちの負けだ!!』

「なにを・・・っ」

『もう辞めろアスラン! これ以上、戦いたくない!』

「何を今更・・・っ」

 

 親友からの呼びかけが、逆にアスランから撤退という選択肢を奪い取らせる。

 

「撃てばいいだろ! お前もそう言ったはずだ! お前も俺を撃つと・・・言ったはずだァッ!!」

 

 ただ感情任せに勝ち目もなくぶつかっていく素人じみた突撃。

 戦技もなければ勝算もなく、先を見据えた作戦も、相打ちを狙った覚悟さえも存在しない、我武者羅なだけの想いを込めて、ただ斬りかかっていくだけの攻撃とも呼べない無様な斬撃。

 

『・・・・・・っ』

 

 子供のワガママのようにも見える、その一撃が却ってこの時のキラの神経を刺激してしまい、児戯としか呼びようもない斬撃に対して武器すら使わず、ただ拳でイージスの横っ面を殴りつけることで吹き飛ばして地に伸させ、エネルギーが切れてフェイズシフトダウンした灰色の機体を地面に横たわらせたままの姿を晒させる屈辱をアスランに味あわせる結果となったのは、あるいは何かの皮肉だったのやもしれない。

 

 感情的になって意味不明な言葉を叫びながら斬りかかってきた子供を、殴ってやることで間違いを正させようとした大人の位置関係。

 この時の彼らは丁度そういう構図を取り合っていたのだが、残念ながら今のアスランには、自分の過ちを認めて修正できるほどの精神も心の成熟も得られていなかった。

 

『アスラン!!』

「・・・くぅっ!!」

 

 未だ降伏も投降もよしとせず、敵意をむき出しにして自分をにらみつけてきていることを肌で感じさせれたキラは、つい積もり積もっていた鬱憤を、八つ当たりのような恫喝行為と止めの一撃へと繋げさせようとしてしまい、ソードストライカーの対艦刀を振り上げて、今までの自分が感じたことのない暴力的な衝動のままにアスランごとイージスを真っ二つに切り裂くため振り下ろそうとした瞬間―――。

 

 

 突然スピーカーから、明瞭な声で聞こえてきた言葉に“三人のパイロット達全員”が驚愕させられ、声に出してその驚きを表現したのはザラ隊を率いる臨時隊長アスラン・ザラただ一人だけ。

 

 

 

「攻撃中止だと・・・・・・っ!? バカなッ!!!」

 

 

 

 

 

 ――この時の彼らは知らないだろう。あるいは永遠に知ることはないのかもしれない。

 彼らの身体の中にある魂が、神の国とやらに辿り着けるまでは永遠に知る必要のない事柄でしかないのだから。

 

 自分たちの魂が多く散りゆき漂っている地球の向こう側には、自分たちと異なる知的生命体としての生活を送り、そこで子を生み育て、死んでいっていた。

 

 そして、その地球の歴史で1969年に人類が初めて月に立った土地が、後に月の中心的都市となり、その都市を制する者は宇宙を制すると呼ばれるほどの力を有していくようになる。

 

 その都市にあって、中立を現政権への従属を公言しながらも敵味方に武器を提供し続けて、死の商人として歴史の裏側から世界の戦乱をコントロールし続けてきた者たちに対する皮肉を、オーブという国になぞらえながら再現したいと願っていた演劇好きな男の思惑と本心など、彼ら歴史と無関係な子供達が知る必要などいささかも無かったのだから・・・・・・。

 

 

『私は、ザフト軍のパプティマス・シロッコ副隊長。

 貴官らが定義するところの・・・・・・フフッ、“敵”だ。

 私の機体は、艦橋の頭上に着陸した。そちらが攻撃を辞め、停戦を受け入れない場合は、貴艦を全面破壊する。

 問答無用で核を発射し、不利とみれば民間人を人質にすることも躊躇わない貴官らの行動は、国際法を遵守する意思も能力もなきものと見なさざるを得ない以上、交渉の余地はない。

 即刻の行動によって、要求への返答として頂きたい』

 

 

 

 歴史は世界を変えて繰り返され、一部の個人が新しい環境に適した能力を手に入れた程度で人類全体が変わることは未来永劫にあり得まい。

 

 誰かが誤りを正してやらねば、正しい形で進むことも出来ないというならば。

 

 

『―――貴艦からの返答は如何にッ!?』

 

 

 強い口調で質しながら、口元に笑みを浮かべ続ける男。

 トールが降下したことで、ガラ空きになった頭上から降りてきてアークエンジェルの艦橋の上に着陸されてしまった見たこともない巨大新型MS.

 

 コズミック・イラの世界で初めて実現された、重力圏内でも飛行可能な可変MSに乗って現れた男。

 

 パプティマス・シロッコ。

 

 【二つの地球圏の歴史の立会人】になることを望む男は、この世界でも冷たい瞳で笑み浮かべて他者を見下ろす位置に立つ。

 それこそが最も、シロッコらしい生き方だと信じて揺るがぬ自信が、彼の肉体には最初から備わっているのだから―――。

 

 

つづく



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アイデア設定【ガンダムユニコーン・アンチ二次創作】

更新が長らく止まったままで申し訳ありません。
続きはまだ出来てないのですが場繋ぎとして、他のユーザー様と交わしたメッセージ内で使っただけのものですけど、【ガンダム・ユニコーン】の二次作アイデアだけでも公開させて頂きました。

単なる『ネタ』として書いただけの代物ですので、本気で書くことを想定していなかったため思う所が多いとは思われますが……お茶を濁す程度の気持ちで軽く読み飛ばしてもらえれば助かります。


タイトル【ガンダムユニコーン・ウィキッド】

 

 

『ジオン残党を名乗る実質テロ集団』だった袖付きを含め、「ジオン公国軍」のそういう部分を悪い意味で復活させた、シャアの絶望だけを吸ったフロンタルの悪意(ウィキッド)が満載の内容。

 

 

 

新組織設定案

 

【袖付き】

 シャアの再来という名で人を集めながらも、実際には「ハマーンのネオ・ジオン軍を復活させた」という本音を平然と心の中の地の文では語っている「建前組織」

 一年戦争時代のジオン軍が作り出した悪辣な部分を多く復活させ、如何にもなテロ集団と化してしまっている。 ジオン残党と名乗りつつも、実際にはジオニズムなど欠片もない集団。

 

 

【マッチモニード隊】

 袖付きに属する特殊部隊で、ジオン公国軍時代に存在していた部隊の通称を正式名称として復活させた存在。

 かつての同部隊は、ジオン公国内でも特に貧しい下層階級出身者ばかりを集めて特別扱いすることで、ザビ家個人の私兵として使っていた者たち。

 そうすることで周囲から彼らに対する反感を抱かせ、その反感が彼らから周囲への憎しみを強め、自分たちの立場を守るためにザビ家への依存心を強めさせていった経緯を持つ。

 後の組織のどれも採用していない組織体系だが、フロンタルにとっては都合が良い存在である。だから復活させた。

 同じ貧民層出身でありながらガランシェール隊とは犬猿の仲。

 ガランシェール隊とは真逆に一匹狼の集団であり、別の意味で階級などまるで重視していない。

 同じ部隊に属する仲間同士さえ本質的には仲間ではなく、自分のための便利な道具に過ぎないと、互いを互いに思い合っている。

 そんな環境を好ましく思っている集団でもある。信用できないと分かっている人間こそ、微塵も幻想を抱かずに付き合えるというものなのだから・・・・・・可能性全否定の存在たち。

 

 

 

 

キャラ設定

 

【フル・フロンタル】

 シャアの悪意を吸収したという設定通りに、親友の好意を利用して騙し殺し、新たな主であるキシリアをも利用する駒としか見なかった男の再来となったバージョン。「建前は建前」でしかない人物。

 自分を作り出したジオン共和国首相のバカ息子であるモナハン・バハロが提唱した「サイド共栄圏」設立を目指すという「上が与えた任務」を口実として利用して、独自の目的達成を志す悪意と野心に満ちた仮面の悪役。

 一年戦争時代のシャアが持っていた、悪意的に仮面を利用する側面が強く影響している。

 

例:

 ミネバから本心を問われ、バナージから「自分たちの未来を語っているのに熱が感じられない」と評された際に、内心で失笑を禁じ得なかった。

 熱がないのは当たり前のことでしかない。自分は「創造主たるモナハン・バハロが“袖付きという組織を作った目的”を語っているだけ」なのだから。

 聞かされた質問には答えた。嘘も吐いていない。本心を問われ、本心を語った。

 本心の大部分を伝え、“全て”を語らない事はウソを吐いたことにならないのだ。

 

 ミネバは何も分かっていない。何も知らない。

 無理もない。一年戦争のことなど何も知らない、小娘のミネバには知るはずもない。

 自分が受け継いだ記憶の中で、ミネバと全く同じ言葉をシャアに対した言った女性がいる事実を。

 その人物が、「キシリア・ザビ」という名であることさえ何も知らない、偉そうな口調で小賢しそうに見せかける、家柄だけが取り柄の小娘でしかないのだから。

 知らずとも同じ言葉を同じ人物に向かって問いかけに使う、血は争えぬザビ家の女たち。

 それがユニコーンにおけるミネバ・ザビが成長した姿の正体だ・・・・・・。

 

 

 

 

 

【ニーマ・ライド大尉】

 袖付きで復活された新マッチモニード隊の隊長であり、旧マッチモニードの隊長だったニアーライト少佐とは同じ親族でもあった人物。

 ただ血が繋がっていると言うだけでマッチモニードの風評被害を受けさせられ、敗戦によって悪感情が高まったジオン国民たちから自分達より下の立場にある彼らは鬱憤晴らしの対象として使われ、連邦軍からは乞食同然に見下され弾圧されてきた過去を持ち、世界全てへの憎しみを抱いている。

 主な任務は諜報・謀略。そして自分たちの権力の源であるフロンタルにとって邪魔な者を、敵味方問わず始末していく味方に対する監視役でもある。

 

 フロンタルとは世界への憎しみを共有する者同士として意見が合いやすいが、能力に対する信頼はあっても「信用」はなく、相手から自分への評価も同様だろうと割り切ってしまっており、当然のようにジオニズムなど欠片ほども信じていない。

 

 アンジェロとは、フロンタルの右腕と左腕の関係性ではあるが、大佐に対して馴れ馴れしい無礼者として憎まれており、「所詮は能力だけ買われた番犬として役に立て」と内心で見下されている。

 その実アンジェロがフロンタルの本心を教えられていないことを把握しているため、「自分に都合のいいフロンタルの綺麗な部分しか見たがらない男」として逆に見下し返しながら付き合ってやっている。

 

 ジンネマン艦長やガランシェール隊の面々とは、互いにガンを付け合い、睨みつけ合い、胸ぐらを掴み合う、「舐められたら終わりの貧民街出身者で成り上がり同士」に馴れ合いや助け合いなど一切存在していない。

 互いに見下し合い、否定し合う。それだけの関係性。貧乏人だから縋るしかないなど、負け犬の遠吠えとしか思っていない。

 悪意あると言うより、悪意しかない人物。

 

 

 

 

 

【アルフォット・カーセス技術中尉】

 元連邦軍に所属していた技術将校で、ティターンズ崩壊と共に廃止が相次いだニュータイプ研究所に所属していたことから、ハマーンのネオジオン、袖付きへと転向を繰り返すことになった経歴を有している。

 一年戦争中から下士官ながらも従軍しており、当時は連邦軍へ亡命してきたジオン軍の技術者クルスト・モーゼス博士の下働きとしてEXAMシステム搭載機であるブルーディスティニー開発計画で便利屋扱いされていた。

 ブルーディスティニーの原作設定として、EXAMシステムの関係者たちは一年戦争の終戦後にはニュータイプ研究所に配置され直したとあるため、そこから採用。

 

 その頃の出会いからモーゼス博士の思想に強く共鳴。来たるべきニュータイプVSオールドタイプによる生存をかけた決戦において旧人類オールドタイプを勝利させるべくニュータイプ能力をニュータイプ殲滅のために用いるEXAMの重要性を確信し、ジオン連邦の所属を重視しなくなっていったことが、今の彼に至る要因となっている。

 

 EXAMの現物とマリオンが失われ、当時の技術では複製は不可能だったことから長く研究は頓挫していたが、時代を経て向上した技術を用い『EXAMシステム改』を完成させるまでに至る。

 当時の最高性能機だったガンダムタイプを使っていたブルーディスティニーに対して、現在ではユニコーン以外での最高性能機であるシナンジュに搭載した【クリムゾン・ディスティニー】を作りだし、技術面からユニコーンと対峙してくる。

 

 とは言え、あくまで科学技術によってEXAMと同等のスペックを発揮させるのが限界であり、ニュータイプ特有の超反応などマリオンあっての特殊機能まではマシーンで再現できるものではない。

 全身にサイコフレームを搭載したシナンジュの追従性を限界まで高めさせ、「考えるだけで機体が動く」のに限りなく近いレベルにすることを可能とし、パイロットであるフロンタルのニュータイプ能力と合わさることで完全なるEXAMの復活となる。

 ユニコーンの《デストロイ・モード》と、クリムゾン・ディスティニーの《EXAMシステム改》により互角の死闘を繰り広げる理由作りの役を担う。

 

 システムのエネルギー源としてニュータイプの力をニュータイプ殲滅のために使うことと、パイロットとしてニュータイプの力をニュータイプ殲滅のために使うこと。

 彼の中でモーゼス博士の思想と矛盾はなく、フロンタルは協力者の動機は問わない・・・。

 

 

 

 

 

【エルマン・ジュアック少将】

 現連邦軍の将軍であり、一年戦争中はレビル将軍貴下にいながらジオン軍のマ・クベと内通していたエルラン中将の部下の一人として一部加担していた。

 当時はまだ新米士官であり、たかが一士官まで関わっていた関係者を処罰していたのでは連邦軍の人材が欠乏するとの判断から、「あくまで命令を下した上の責任」として処理してもらったことから処罰を免れ、戦後まで生き延びた後は常に連邦軍本体に属し続けてグリプス戦役にも第一次ネオジオン紛争にも無関係だった。

 

 要するに、自分個人の主義主張や思想のため行動できない人物であり、上の顔色を伺ってしか動くことのできない小役人タイプ。

 相次ぐ戦乱によって上層部の出世頭たちが次々と自滅していったことから、繰り上げ人事も手伝って現在の地位にまで上り詰めることが出来ただけの分不相応な地位の無能な男。

 

 当初は連邦軍に対抗するなど夢でしかなかったことから、発足当初の袖付きに内部情報や軍事機密を売りつけて小遣い稼ぎをしていたが、『メガラニカ』襲撃に始まる『ラプラス事件』の勃発によって状況が一変。

 袖付きとの本格戦闘が開始されたことから、軍上層部に癒着が知られれば死刑は免れなくなってしまったことで、自分が生き残りたいだけを目的として連邦軍と政府の情報を逐一フロンタルに賄賂として送り続けるようになる、ユニコーン世界らしい連邦将校。

 挙げ句の果てに、「自ら陣頭指揮を執って袖付きを殲滅する!」と意気込んでジェネラル・レビルに無理やり乗船してきた末に、そのまま袖付きと合流してしまおうとまでする碌でもないユニコーン連邦軍腐敗の象徴。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――こんな感じの悪意あるユニコーン世界への解釈を元に描かれる、ユニコーンへの悪意(ウィキッド)に満ちた、もう一つの『あり得たかもしれないユニコーンの可能性IF物語』ということに会話中ではなっておりました。



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機動戦士ガンダムUCウィキッド(正規版)

お久しぶりです。長らく更新が止まったままで申し訳ありません。
次話はまだ出来てないのですが、そのお詫びに前回語った【悪意版ユニコーン】を書いてみましたので、ヒマ潰し用にでも軽く読み飛ばし下さい。

尚、作者自身がジオン派なためジオン贔屓の内容となっておりますが、別にそれでいいと思っております。
原作ユニコーンを始めとして、連邦ヒイキの作品はいっぱい出まくってる世の中ですので、ジオン贔屓の作品も少しぐらいないとフェアじゃないですからね。

そういう、連邦の象徴ガンダムさいきょー設定ばっかになってきた昨今の風潮が、今作を書きたくなった理由です…。


 

(・・・・・・現在、グリニッジ標準時23時40分。今、一つの世界が終わり、新しい世界が生まれようとしています。まもなく首相官邸ラプラスにおいて、地球連邦政府主催の改暦セレモニーが執り行われます)

 

 地球は足下にあった。赤茶けた陸地と、雲を散らした青空のように見える海。高度二百キロメートルから見下ろすそれは、惑星というより地表だった。

 

(私たちは母なる地球の外に自らの世界を築く時代に足を踏み入れました。

 今宵、私たちは歴史の目撃者となります。この幸運を全ての人と分かち合い、去りゆく西暦の時代を感謝と感慨を持って見送ろうではありませんか。

 そして新たなる世界、宇宙世紀の始まりを笑顔で迎えましょう。

 さよなら西暦。ようこそ宇宙世紀)

 

 空々しいアナウンサーの声が続いていた。

 仲間たちの誰かが口笛を鳴らし、揶揄する声と、監督役から叱責する声とが、密閉された宇宙服のヘルメットで行き場をなくし、サイアムの心に空しく響いて滞留するだ。

 

『地球と宇宙に住む全ての皆さん、こんにちは。

 私は地球連邦政府首相リカルド・マーセナスです。

 まもなく西暦が終わり、我々は宇宙世紀という未知の世界に踏み出そうとしています。この記念すべき瞬間に地球連邦政府初代首相として「オール・ピープル(みなさん)」に語りかけることができる幸運に、まずは感謝を捧げたいと思います』

 

 勝手に喜んでいろ、と誰かが言った。

 無駄口を叩くなとリーダー格が叱責する声が、それに続く。

 

 彼らは、反政府テロリストだった。

 少なくとも世間的には、そう定義されている。

 

 たとえ、その一人であるサイアム自身は、三日前に職業斡旋所でスカウトされ、略式の宣誓式と仕事で必要な訓練だけ受けさせられて、その場で引き合わされた仲間たちと共に爆破テロに従事しただけの即席テロリストでしかなかったとしても。

 おそらくは仲間たちの大半も、同じような事情で寄せ集められた、出来合の集団に過ぎなかったとしても。

 

 それでも彼らはテロリストだった。

 歴史上に消せない悪名を刻み込み、許されざる蛮行と長く悪名を奉られる事は間違いようのない、悪行を実行しようとしている大悪党の群れたちなのである。

 

 何しろ彼らは、発足間もない連邦宇宙軍の監視を掻い潜り、首相を初めとして地球連邦構成国の代表たちが一堂に会した首相官邸ラプラスを爆破し、見物に集まった大勢の民間人を巻き添えにして虐殺してしまおうというのだ。

 これをテロリストと呼ばずして、何と呼べばいいだろう? 

 

『今日、ここには地球連邦政府を構成する百ヵ国あまりの代表が集い、吟味に吟味を重ねた宇宙世紀憲章にサインをしました。

 間もなく発表されるそれは、後にラプラス憲章と呼ばれ、人と世界の新たな契約の箱として機能することになるでしょう。

 地球連邦政府の総意のもと、そこに神の名はありません。人類の原罪についても言及されていません。

 これから先、もし最後の審判が訪れるとしたら、それは我々自身の心が招き寄せた破局となるでしょう。すべては我々が決めることなのです』

 

 サイアム個人としては、地球連邦政府がまっとうな仕事と生活を保障してくれるのなら、間違いなく彼らの主張を受け入れるつもりだった。

 ただ仕事も住む場所も奪うだけで与えてくれなかったから、“組織”に入って首相官邸を爆破するという「仕事」に従事する以外に、病気がちな母親と病弱な妹を養う手段が他になかった。それだけがテロ行為に参加した理由の全てである。

 

 ――そう、仕事だ・・・・・・。

 口の中でサイアムは、そう呟いていた。仕事だから耐えられると。

 そうでなければ、誰が好きこのんで、こんな所まで来て、こんな作業などやるものかと。

 

 自分たちの人生を“ハズレ”だと認識し、金持ちたちエリートと自分は違うとコンプレックスに苛まれる彼らにとって、「家族を養う為やりたくもない仕事をして給料をもらうために働く」という現在の境遇を『トキョーグルッペ』『エコノミック・アニマル』と揶揄されていた東洋人と自分たちとを客観的視点で比べ見れる精神的余裕は持てていない。

 

 やがて合図が聞こえて作業が終了したことを知り、サイアムたちは母艦に戻っていく。

 

『今、我々の目の前には広大無辺な宇宙があります。

 あらゆる可能性を秘め、絶え間なく揺れ動く未来があります。どのような経緯で、その戸口に立ったにせよ、新しい世界に過去の宿業を持ち込むべきではありません。

 我々はスタート地点にいるのです。他人の書いた筋書きに惑わされることなく、内なる神の目でこれから始まる未来を見据えて下さい。

 現在、グリニッジ標準時23時59分。間もなくです。

 この放送をお聞きの皆さん、もしその余裕があるなら私と一緒に黙祷してください。去りゆく西暦、誰もがその一部である人類の歴史に思いを馳せ、そして祈りを捧げてください。

 我々の中に眠る、可能性という名の神を信じて―――』

 

 そして画面の中でカウントダウンが始まる。

 5、4、3、2、1・・・・・・0。零時零分。宇宙世紀0001。

 西暦が終わり、宇宙世紀元年1月1日が始まりを迎える。

 

 そして、それと同時に―――始まりを告げたマーセナス首相と、首相官邸《ラプラス》と、そこに集まっていた大勢の人間たち全ての生命の灯火が終わりを迎える。

 

『―――なっ!? あ―――』

 

 そんな声が、画面に映る向こう側から聞こえたような気がした。

 誰のものかは分からない。首相のものだったかも知れないし、別の誰かだったのかも知れない。或いは全員が同じ叫びを発した、断末魔の絶叫だった可能性も否定しきれない。

 

 円環を成していた首相官邸ラプラスは無様にひしゃげ、内側から破裂して、コロニーに空いた穴から大量の建造物や外板、ガラス片―――そして人間が生きたまま、恐怖の表情を浮かべながら真空中の宇宙に大勢吸い出されていく様が画面の中で生きているカメラ映像と彼らの前で映し出されている。

 

「ムッシュ・アラーッ!! やはり正義は、この世にあった!!!」

 

 歓声が上がった。

 無論、全員ではない。半数のものはなにも言わず、何も言えず、しわぶき一つ立てずに肩を寄せ合い、自分たちが行った成果として失われた大勢の死に見入っているだけだ。

 

 仕事仲間の中に混じっていた、真性のオカルトだけが喜色満面で騒いでいるのである。

 その声を聞かされたサイアムは、反射的に不快なものを感じて何かを言おうとして口を開き―――そして母艦であった作業艇は爆発して、彼の宇宙服は真空中へと弾き出される。真性のオカルトがどうなったかは分からない。

 

 なにが起きたのか分からなかった。首相官邸の警備艦隊が追いついてきたのか?

 いや、今のは内部からの爆発だった。裏切り、口封じ、爆弾での後始末・・・・・・。

 様々な言葉が視界と一緒にグルグルと廻る中、偶然にも破片となったラプラスの残骸を遠くに遠望する中で、サイアムは何故か先刻の首相のスピーチを思い出していた。

 

 新しい世界に、過去の宿業を持ち込んではならない、と。

 他人の書いた筋書きに惑わされるな、と。 

 

 全ては我々が決めることだ、と首相は言った。

 その我々とは、サイアムたちのことではなかったか?

 自分たち“ハズレ”の人間にこそ、あの首相は何か大事なことを伝えようとしていたのではなかったか―――そんなこと自分たちが破壊したラプラスの残骸を遠目に見ながらサイアムは考えていたのである。

 

 少なくとも本人は、そんなことを考えていたと、自分自身では思っていたし、信じてもいた。

 ――果たして、本当にそうだったのだろうか?

 

 既に爆破に成功して、殺し終わった相手に対して、口封じのため仲間に裏切られた後の立場で抱いた感慨に、客観性など期待できるものなのだろうか? 

 連邦の政策に恨みを抱かず、怒りもせず、ただ家族を養うために金が必要だっただけだと、自分では思っていた本心に、恨みの念を晴らしたことで清々した想いが宿り始めただけではなかっただろうか?

 あるいは母艦を爆発で失って、残り酸素だけで生存していく中、酸素欠乏症にかかって頭をヤラレタだけではないと、証明できた者はいたのであろうか?

 

 

 全ては可能性だ。可能性に過ぎないタラレバ話だ。

 これはそんな、宇宙世紀の歴史の中で付け足された“あったかもしれないし、なかったかも知れない”可能性上の幕間劇が“本当はこうだったかも知れない”という可能性を示しただけの、悪い方向にしか進むことができなかった、可能性の悪い部分が現実になってしまった。そういう物語である。

 

 

 

 やがて―――老人は眼を覚ます。

 出目が悪かった場合の、自分の計画が歩むことになったかも知れない“もう一つの可能性の物語”を始めるために・・・・・・揺り籠の中で、夢の中から覚醒する――――

 

 

 

 

 

 

『ミノフスキー粒子、戦闘濃度で散布いそげ!』

『敵艦は1。クラップ級と推定』

『ただのパトロールじゃない。当たりをつけて、この宙域を張ってた連中だ。モビルスーツが出てくるぞ、気を抜くな!!』

 

 アラートが鳴り響き、その耳障りな音色が肌を粟立たせるのを感じながら、少女は頭が冴えていくのを感じて舷窓に顔を寄せていた。

 ピンク色の光軸が窓の外を走ったのが見えた。メガ粒子の光だ。大出力の粒子ビーム兵器がもたらす光である。

 この船を追跡している地球連邦軍の戦艦が撃ってきたものだろう。停戦命令を無視して、ミノフスキー粒子をばらまきながら逃走を開始した以上、次は威嚇射撃では済まさず撃沈を狙ってくるはずだ。

 

 一瞬、彼らの自分の存在を伝えるべきか?という考えが頭に浮かぶ。

 そうなれば、ほぼ確実に予定を変更して船を港まで戻されてしまうかも知れないが、誰にも気付かれぬまま死んでしまっては元も子もない。それこそ犬死にというものだ。

 

「・・・いえ、ダメね」

 

 少女は一瞬の迷いを断ち切ると、持参してきたノーマルスーツだけ素早く身につけ、後は運に身を委ねる道を選択する。

 行くべきところに行き、会うべき人に会うため自分はここまで来たのだ。

 これが唯一のチャンスなのだ。より多くの人が犬死にするのを避けるためには、こうするしか他に道はない。

 

 それに・・・と、彼女は思う。

 人間、死ぬ時には死ぬものだ―――と。

 

『暗礁宙域に入る前に追いつかれるな・・・・・・マリーダを出せ。

 場合によっては、ハエを追っ払うだけでは済まないかもしれん』

 

 船内回線を介してオープンになった無線交話が耳に飛び込んでくる声の中に、この船の船長であるスベロア・ジンネマンのダミ声が聞こえた少女は、その攻撃的な方針に僅かに眉をひそめさせる。

 

 ジンネマンの野太い声で、自分とさして歳の変わらぬ無口が身上の女性パイロットの名が呼び出されるのが聞こえ、少女はもう一度だけ窓に顔を寄せて、一機の大型MSが鱗粉のような光を射出しながら銀色の帯を漆黒の海へ描いていく姿を視界の片隅に捉えた後。

 シャッターが下りて、全ての舷窓が閉ざされ。

 少女が密航するため乗り込んだ船―――特殊武装貨物船《ガランシェール》が戦闘態勢に入ったことを少女に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 《航宙貨物船ガランシェール》は、全長二百メートルの船体はほぼ三角錐の形状をしている先端に張り出した航空機のようなブリッジを持つ、大気圏内でも飛行可能な宇宙と地球とを行き来できる旧式の船だ。

 かつては、どこかの運輸会社が使用していたもので、現在もブリッジの側面には『リバコーナ貨物』という会社名とロゴが記されており、船舶としても民間運輸会社の所属として登録されている。

 会社の所在地に電話をして問い合わせれば、受付が「現在ジンネマンは業務に出ております」と丁寧に回答し、要件を訪ねてさえくれるだろう。

 

 だが、それらは表向きのダミーに過ぎず、彼らが本当に所属する組織は別にある。

 今の時代、電話応対だけで給料がもらえるのなら雇い主の素性を調べ上げて、職を失うリスクを負いたくない若者など掃いて捨てるほど有り余っている。

 

「敵艦、高熱源体の射出を確認。数は二」

「モビルスーツです、《ゲタ》を履いている模様」

「《クシャトリヤ》発進準備よし」

 

 貨物船のクルーという肩書きとは裏腹に、誰もが実戦経験を持つブリッジ要員の声は冷静だった。

 

 元々この手の旧式大型航宙貨物船のほとんどは、一年戦争末期にジオン公国軍が地球連邦との本土決戦のため宇宙へと戦力を引き上げさせる際に徴発されるか、買収されるかして《HLV》の数不足を補填するため使われてしまい、地上に残された物も、大型で金ばかりが掛かる《ガウ攻撃空母》を持たないジオン残党に運用されるケースが多く、サイズと性能の割に数多の戦乱の中で各軍が使用していたことは一度もなかった。

 所謂、曰く付きの船ばかりなのが実情なのだ。

 

 このガランシェールもその例に漏れず、せり出した後部ハッチからはスライド式の貨物用ハンガーが音もなく展張されており、本来であれば貨物が搭載されるべき荷揚げ要のリフトだったその場所には、今し方まで人型と思しき巨大なマシーンが係留されており、嘴状の装甲と桂冠とも角とも取れる長い突起を天に伸ばしながらモノアイを光らせて連邦軍モビルスーツ隊を撃退するため急速発進させた、反政府活動を行う武装勢力の母艦として機能していることは明らかだった。

 

 もっとも、表向きだけとはいえ貨物船のクルーとして偽装するのを当たり前としている部隊のため、半テロ集団と化しているとは言え仮にも軍隊の体を取っている組織風の堅さは薄く、他の部隊からは異端視される気配があり便利屋扱いされている趣が強い。

 

 だからこそ今回のような任務には適任とされた訳だが、なればこそ自分たちより先に張り込んでいたとしか思えない連邦軍の待ち伏せに対して単なる迎撃指示だけには留まらない、次のことを考えた対応を考えなければならないのがジンネマンの立場だった。

 

「《ジェガン》にしては脚の速いのがいます。特務仕様かもしれません」

 

 明らかに向こうは、こちらの正体と目的を知っていた。

 これを、どう取るべきだろうか?

 どこから情報が漏れたのかを推測していた彼の耳に部下からの続報が届き、決断と判断を船長は下す切っ掛けとなる。

 

「接近中の敵モビルスーツ部隊は適当に損傷を負わせて、経戦能力を奪うだけでいい。目標は敵母艦だ。

 帰る家を奪われて宇宙の迷子になる恐怖を味あわせれば、こちらを追う気など消え失せるっ」

『了解、マスター』

「追っ手を振り切って逃げるだけじゃねぇんですかキャプテン!?」

 

 指示を聞かされた航宙士のギルボア・サントが驚いたように声を上げる。

 別段、連邦の奴らに情けをかけろなどと言う男ではなく、また情けをかけてやる気になれない“事情”も持っている男な為、これは単なる博愛主義に基づく反問ではない。

 

 ただ自分たちには最優先すべき重要な特別任務に向かっている途上であり、ガランシェールは偽装とはいえ貨物船のため装甲が厚くはなく、艦砲もない。

 接近中のモビルスーツ部隊でも、損傷を負わせるだけなら十分に可能程度の防御能力しか持っていない船なのである。任務の内容上、貨物スペースは無事に空けたまま目的地に到着しなければならず、その為には余計な危険を背負い込まない方がいいのではないか? ――そういう意味を込めての確認の言葉だった。

 

「それは俺も考えた。だが、敵の戦力を聞いて状況が分かった以上、あの艦を生かして帰す訳にはいかん。

 確実に殺すんだマリーダ、出なければ俺たちの方がヤバい羽目になりかねん」

 

 強い口調で断言してからジンネマンは、不意に不快そうな渋面になった。

 部下の反問に苛立ったから、と言う訳ではない。

 今の自分が下した判断と思考が、比較的最近付き合いが深く“ならざるを得なくなった連中”との非友好的な交流が良くも悪くも自分に影響を及ぼしていることを実感せずにいられなかったからである。

 

「いつもはズボラなやっつけ仕事しかしない連邦艦が、珍しく熱心なパトロールをして、特務仕様のモビルスーツまで出してくる。

 挙げ句、《クラップ》級とくれば出張ってきてるのは“あの”ロンド・ベル隊だ。どう考えても単なる摘発強化じゃない、戦力が過剰すぎているからな。だが――」

 

 そこでジンネマンは一度言葉を切って、更に渋面を深くする。

 確かに今言ったとおり、規定の航路を航行中の貨物船を呼び止めて臨検にかけようとするマメさは尋常ではなく、連邦軍が予めこちらの目的と正体を知った上で張っていたとしか思えない。

 これから赴く先の交渉相手に実は騙されていて、売り飛ばされようとしている可能性だってあるだろう。

 ――だが、しかし。

 

 

「そうだった場合には逆に、あまりにも戦力がお粗末すぎる。

 無法者の『袖付き』が、表にゃ出てこない大財閥の総本山に向かっていて、なにかの密談をしようって情報を得ているなら、もう少しマシな戦力を投入してくるのが妥当な対応だ。

 あまりにも舐め腐った戦力の出し惜しみで逐次投入するのは愚策でしかない。ロンド・ベルのブライト・ノアが、そんな馬鹿をやる男だとは到底思えん。

 恐らく敵は俺たちのことを、全部知ってるって訳じゃないんだろう」

 

 下位に位置する航宙席から立ち上がっていたギルボアの瞳に、説明を受けて理解の色が急速に広がっていく光景をジンネマンは見下ろしていた。

 確かに連邦軍の対応は、普段と比べて数段上の警戒レベルまで引き上げられており、投じられた部隊も連邦軍内部では数少ない実戦経験豊富な精鋭部隊ロンド・ベルのモビルスーツ隊だ。たかが治安維持活動に出すには度が過ぎている過剰対応としか言い様がない。

 

 だが、それはあくまで『平時と比較すれば』の話であって、神出鬼没振りを正規軍である連邦軍からは毛嫌いされているジオン残党《袖付き》の浮沈が掛かっている大取引になるかもしれないという情報を得ていると想定して考えた場合には基準が変わる。

 せいぜいが、『いつもより少し警戒するか』という程度の極めて雑で適当なものだ。真面目にやる気など少しも感じられない。

 むしろ、情報が確かだったと確認した後にはロンド・ベル部隊総員を特攻させてでも相打ちで道連れにさせ、後顧の憂いを払うくらいが妥当だと思えるほどに。

 

「恐らく敵は、こちらの情報は正確に得ているが、情報の出所が曖昧で信じ切れていないが、無視するには大事過ぎるか上からの圧力でも掛かって、とりあえず確認のためにってところだろう。

 だとすれば本命が来るとしたら、次の第二波からになる。その時に戦力は少ない方がいい、全力で潰せ!!」

『了解!!』

 

 小気味よい声で部下たちが応じて、指示と応答のためマイクと怒鳴り合いを始める姿を見下ろしながら、ジンネマンは再び渋面を深くして、不快そうに呟きを吐き捨てる。

 

「・・・・・・まったく! フロンタルと連んでから、碌でもない奴ばかりと出会うようになってしまった。これも業と言うことなのか、それとも・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、ガランシェールから発した《クシャトリヤ》は、自機へ向かって真っ直ぐ接近してくる敵モビルスーツ隊に向かって、相手以上の速度で急速に機体を接近させつつあった。

 

 全長20メートルに達する巨大な人型のマシーンで、その巨体に匹敵する大きさのバインダーを四枚、肩口から生やしたような濃緑色のモビルスーツ。

 巨人と呼ぶには異形でありすぎ、他の形容をするには人型の生々しさを持ちすぎていた。

 

 この時代、主力兵器の地位を欲しいままにしている人型兵器モビルスーツの中にあって、なおも異形と呼ぶに相応しい形状を持つ機体のコクピット内で操縦席に座るマリーダ・クルスは、全天周モニターの中に映し出された光景にキツメの瞳を細めさせていた。

 

 敵部隊の全機が、《ゲタ》という俗称で呼ばれているサブ・フライト・ユニットを捨てて、三つに分かれて自分を取り囲むように接近する動きを示したのである。

 

「・・・経験が浅い。まるで素人同然だな、ザコという事か」

 

 冷静な頭で敵の動きを分析し、マリーダはそう結論づけた。

 《ゲタ》に乗って敵に接近する際、乗り捨てると同時にブースターを拭かして突撃させ、その後ろから接近してバリアーとして再利用するのが、マニュアルには載っていないパイロットたちが独自に編み出した空間戦闘での有効な基本戦術だった。

 これは先の《第二次ネオジオン紛争》において、ネオ・ジオン軍のパイロットたちが独自に編み出した工夫であり、戦争終盤ではロンド・ベル隊にも採用して使いこなす者が多く現れていた戦術だったのだが、先の戦いで負わされた被害は敵側であるロンド・ベルも少なくはなかったらしい。

 

「こんな士官学校出の実戦経験の乏しいパイロットに、特務仕様の機体を与えて隊長機扱いとは・・・・・・連邦も決して人材豊富という訳ではないと言うことか」

 

 敵の動きから恐れるまでもないと判断したマリーダは、機体を更に加速させ、半包囲体勢を取るため三方に別れながらも、陣形が完成するより先に射程圏内まで到達されてしまった敵機を前に方針を転換。

 ビームライフルを片手に持って、それぞれの位置から各の速度で以て接近しながらビーム射撃の雨を降らせてくる。

 

 その動きは実戦慣れしているものではなかったものの、よく訓練された練度の高いもので、精鋭部隊ロンド・ベルの名は伊達でないことを示しており、普段であればマリーダでさえそれなりの時間と手間暇をかけなければ落とせない強敵となり得たかもしれない相手だった。

 

 マリーダの愛機《クシャトリヤ》は、ファンネルと呼ばれる特殊な移動砲台が搭載されており、複雑な機構を持った小型ミサイルの如く使用できるそれは整備が難しく、一度でも損傷するとガランシェールでは直しようがなくなってしまうため、普段は被害を少なくすることを第一に考えるよう戦うのが、補給の乏しい反政府勢力なりの基本戦闘姿勢となっていたのである。

 

 だが今は、ジンネマンから『全力戦闘』の命令が出されている。

 なんの遠慮も配慮も必要なく、命令されたとおりの敵部隊を壊せば、それでいいだけの事―――。

 

 

「こういう時に数を減らさなければ、次はマスターが撃たれる番になるかもしれない。

 悪く思うな。落ちろ、カトンボ」

 

 

 そう言って、呟くように小さく「ファンネル」と言った彼女の呼びかけに応え、バインダーの中から1枚ずつ二機の小型移動砲台が計四機射出され、自分を取り囲もうとしていた三機のジェガンの内二機へと突進し、通常型でしかない機体の手足の一部とバーニアに損傷を与え戦闘能力を激減させることに成功する。

 

 唯一残った特務仕様の隊長機は、無反動砲から発射した散弾を目眩ましに使い、バーニアを拭かして両肩にラックされたミサイルを放つため上方へと移動したが、それを全速力で追尾してきたクシャトリヤの速度によって接近戦の距離まで近づかれるのを許してしまう。

 

 それでもビームサーベルを抜いて、完全に相手の初撃を防ぎきったことまでは見事と言うべき仕事ぶりであったが・・・・・・彼の勇戦もここまでだったのも事実ではあった。

 

「――迂闊だな、連邦軍のパイロット」

『な、なんだとっ!?』

 

 装甲越しにお肌の触れあい回線で聞こえてきた、敵パイロットが驚愕する声と同時にマリーダは、鍔迫り合いで動きを止めた相手の四肢を撃ち抜かせたファンネルを回収すると、バインダーの中に収納して本命を目指して再び飛翔する。

 

 そう、彼女に与えられた命令は、あくまで敵母艦の撃沈。

 たとえ、どれほど訓練が行き届いた強敵だろうと、マスターからの命令と比べれば、目的達成を阻害しに来ただけの邪魔者でしかない。

 

 そんな純粋すぎるサイコ・マシーンの乗り手、マリーダ・クルスに接近されつつあった連邦艦《クラップ級》の艦橋では、年かさの艦長が部下からの報告に驚愕の悲鳴を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

「は、半全滅だと!? 3機のジェガン部隊の内、2機が戦闘継続困難に陥らされたのか? 出撃から3分も経たずに!?」

「はいっ、現在は《スターク・ジェガン》が接近戦を開始した模様ですッ」

「ろ、碌な補給も受けられない残党軍の貨物船に、ジェガンが3機も・・・・・・? ば、化け物なのか・・・・・・?」

 

 目を白黒させながら、意外すぎる状況の激変振りに顔を強ばらせていた艦長の下へ、止めとも言うべき悲報が届けられたのは、まさにその瞬間のことだった。

 

「艦長! た、たった今スターク・ジェガンが行動不能に陥らされました! 救援を求めています!!」

「なんだと!?」

 

 ―――馬鹿な!ありえない!!と艦長は思った。

 いくら何でも早すぎる事態の展開速度だった。最初の二機は射撃戦の結果として戦闘不能にされたため、時間的には不可能とまでは言えないが、最後の一機はビームサーベルによる斬り合いで一瞬にして行動不能にされてしまっている。

 これは通常、モビルスーツ戦闘ではあり得ないことだ。

 一瞬で勝敗が決したなら、機体は超高熱の刃で両断され、爆発四散するのが普通であり、行動不能な状態で救助を求めるような、コクピットが無事なまま四肢だけ壊されて自分では動けなくなるなどという自体に、モビルスーツ同士によるビームサーベルでの斬り合いでは成りづらいものなのだ。

 

 仮になるとしても、それなりの時間は必須なはずで、それさえも超越するとなれば、もはや人の技ではない。完全に化け物の領域に達したナニカだけが、それを成すことを可能にするだろう。

 

 だが、それ程の存在が敵である《袖付き》にいるとしたら一人しかあり得ない。

 そして、潜入させている味方のスパイからの報告によれば、その人物は本拠地から動いたことは確認できていないという。

 だとすると、残る可能性としてあり得るのは一つだけ・・・・・・。

 

 

「さ、サイコミュ兵器だ・・・・・・サイコマシーンが投入されてきたんだッ!!

 か、勝てる訳がない! あんな化け物相手に我々のような通常の部隊で勝てるものか!

 に、逃げろ―――――ッッ!?」

 

 

 その臆病とも取れる艦長の命令に、クルー達は眉をしかめながらも一応は指示に従った。

 それが結果として彼らの命を最も多く救うことになる英断だとは思いもよらず、命令が徹底しないままの撤退命令ながらも脱出艇が逃げ延びれる程度の距離までは何とか稼ぐことができたからだった。

 

 《シャアの反乱》の以降に配属されてきた若者たちにとって 核ミサイルの群れを1機だけで全機撃墜したネオ・ジオンの《ヤクト・ドーガ》や、コンペイトウと名を変えた元ジオンの宇宙要塞ソロモン海域の周辺で多数の艦船を轟沈させた《トンガリ帽子》といった存在は既に過去のものとなり、敗戦国の記憶と共に忘れられつつある『所詮は諦め悪いジオン残党の兵器』というイメージだけでしか想像することができない時代に今日ではなってしまっている。

 

 

『――マリーダ、戻れ。それ以上深追いすると合流できなくなる』

「了解、マスター。帰投する」

 

 

 そう告げて、ジオン最後の残党軍《袖付き》のパイロット、マリーダ・クルスは暗礁宙域近くまで逃げ延びていたガランシェールと合流すべく機体を走らせた。

 途中で、母艦を破壊され、脱出艇にも置いて行かれたことで帰る家を失ってしまった連邦軍のパイロットたちが、恐怖と混乱の中で助けを求めて泣き叫んでいる姿が見えたが、マリーダは歯牙にもかけずに機体を進ませていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・双方の姿が暗礁宙域からいなくなり、連邦のモビルスーツも何処かえと流されていった後。

 

 一隻の小型貨物船が、民間会社のロゴマークと社名とを記したままの姿でガランシェールと同じ目的地に向かって航行する姿を、どちらかの軍が残っていた時には見ることが出来たかもしれない。

 

 その船はガランシェールと違って、正規に注文された品を納品しに行く途中の民間貨物船で、法律的にも乗っている積み荷も完全に合法な存在で、法律違反やテロリズムに該当するような代物は一つも搭載していなかった。

 搭乗員のパスポート、入港許可証、登録ID、全て正規のものだけで揃っている。偽造されたものは一つもないく、無論モビルスーツを隠し持っている偽装ハンガーだって存在していない。

 完全に、ただの民間輸送会社が保有する貨物船そのものな存在だった。

 

 

 ・・・・・・ただし、もしこの船に違法な点があるとしたら一点だけ。

 

 ブリッジの操縦席に座る男性コ・パイロットの背中から、一本のナイフが柄を逆さまになった状態で刺し込まれ続け、抉るように念入りに息の根を止めようと背後から覆い被さった同じ制服を着た男に笑いながら刺殺されているということ。

 その男の死体と同様になった物が、適当な場所に放置されて、彼らの着ている物と同じ服を着た男たちが我が物顔で新たな搭乗員として、正規の法的審査に必要な確認書類の全てを乗っ取ってしまった後だった・・・・・・という一点だけだろう。

 

 乗っている船舶そのものに違法な点は一つもなく、乗っている人間たちだけが犯罪者たちの集まりしか乗っていなくなっていた。

 それだけがこの貨物船、《アガーベルテ》が背負った罪であり、背負わされた罪でもあったのだ。

 

 

「ニアー・ライド大尉、どうやらガランシェールの連中は予定通り《インダストリアル7》に向かう航海を続けるようです」

「そう。じゃあコチラも予定通り後に付いていって目的地に着いてから別行動といきましょう。それまで道案内は水先案内人共に任せるとしましょ」

 

 先に死んでいたメインパイロットの死体に変わって、操縦席に腰掛けていた男が背後に立ったままの上官に話しかけ、興味なさそうな声での回答をもらって操縦レバーを握りしめる。

 そのレバーには、今し方自分自身が殺した相手の赤い血が付着したままになっていたが、彼は特に気にすることなくコンピュータを操作して、目的地に関する情報を盗み出すのに忙しいようだった。

 

「しっかし、ホントに大丈夫なんですかね? ロンド・ベル艦の待ち伏せなんてのは、当初の垂れ込みにはなかったはずです。

 ビスト財団会長サマ直々の招きで事前の書類審査やらなんやらを全部あっち持ちで反政府テロリストを、自分とこのコロニーに入港させちまう抜け作過ぎるバカですよ? 今度の取引き先は間違いなくね。

 そんなアホの安全管理を当てにして、モビルスーツなしで赴いちまってホントに大丈夫なんでしょうか?」

「ノーテンキな連中って事なんでしょ、きっと」

 

 彼の上官である、同じ作業服を纏った人物は男であったが、言葉遣いはいつも女性的な人物だった。言葉だけでなく物腰までもがそうなのである。

 元々はそうでは無かったらしいのだが、いつ頃からか従兄がやってたという仕草を真似するようになり、今では本人ソックリだという者もいるが本人を知らない彼や上司にとってはどうでも良いことであり、仮に知っていたとしてもどうでも良いことには変わりなかっただろう。

 

 彼らにとって『自分以外の他人』とは、そういう存在だった。

 心底から、どうでもよい存在としか思っていない集団なのである。

 それは同じ部隊内の仲間同士であってさえ例外はない。互いに互いを見下し合って、能力のみを評価して、『自分が生きるために、勝つために必要だから“使っている”』

 

 それ以上の意味など、どこにもなかったし必要もなかった。

 そして彼らにとって、自分たちのような状況の組織は、非常に好ましいものだと感じてもいる。

 互いに互いを全く信用できないと、最初から分かりきっている人間同士の関係ならば、一切の信頼も信用も幻想も、相手との関係構築にまったく必要のないゴミとして扱って構わない代物にして問題なくなるのだから―――

 

 

「いーのよ別に。そうなった時のために、私たちは派遣されて来てるのだからね。

 連邦の連中も、ビスト財団の爺と部下たちも、そしてガランシェール隊のお人好しバカ共も。いざって時には全部敵になる前提で行動しなさい。味方と思って油断して死ぬのは私は真っ平ゴメンなのよ」

 

 

 そう言って、ガランシェール隊には伝えられることなく、取引相手のビスト財団にも一切の通知なく、袖付きの首魁であるフル・フロンタル直属の特殊部隊はインダストリアル7へ続く航路を、民間貨物船として民間貨物船のまま当初の予定されていたとおりに真っ直ぐ進ませ続けていた。

 

 それはジオンの―――否、ザビ家の亡霊を復活させた袖付きだけの局地戦戦技研究特別小隊《マッチモニード》が、民間コロニーの内部へと侵入するための措置。

 

 十分に警戒しながらであっても、とりあえずは相手を信じて相手のは梨野ってやったジンネマンとは違い、袖付きの総帥は最初からビスト財団からの申し出など、一切全くコレッポッチモ信用してなどいなかった。

 その生きた証拠こそが彼らという、人でなし集団の存在だったのだ。

 

 

「ですが、大尉。もしビスト財団が先に裏切って、連邦軍がなだれ込んできて戦闘状態になっちまった時にはどうされるので?」

「あら、そんなの決まっているじゃないの」

 

 

 取引の対象だという、連邦政府を根底から揺るがし、地球圏に変革をもたらせるだけの宝。

 玉手箱になりえる《ラプラスの箱》とやらを、袖付き勝利という大目標達成のため、命がけでも奪取して逃げ延びるか否か? そういう意味で聞いた部下の質問に対して、大尉の返答は部下たちを納得させ破顔させるに十分すぎるものを持っていた。

 

 

 

「危なくなったら、逃げるだけよ。その為なら、こんなボロっちいコロニーなんて幾らブッ壊したって構いやしないわ。私たちさえ逃げ延びられれば、それでいいのよ」

 

 

 

 

つづく

 

 

 

オマケ『今作版のオリジナル悪意設定』

 

【マリーダ・クルス】

 原作ではプル・シリーズの生き残りがマスターシステムによって、マスター不在となった状況下で依存する対象を求めさせ、更には男たちに肉便器として使われることさえ受け入れたという設定になっていたキャラクター。

 今作では前者の設定はそのままに、後者の設定は変更されている。

 何故なら強化人間に、そんな設定があったキャラクターが他にいなかったから。

 強いて言えば、『刻に抗いし者』『エゥーゴの蒼翼』に登場していた【ロスヴァイセ】こと【ユズ】が近いが、彼女の場合は担当スタッフで父親でもあったイシロギ博士によって、マスター処置が施されていなかったことが語られているため、比較対象としては使えない。

 

 おそらくは、戦争被害者の悲惨を演出するためと、袖付きのロクデナシさを分かり易く表現するために採用された設定だったと推測される。

 今作の場合は『ウィキッド(悪意)』の名に相応しく、【プルツー】が攻撃的だった時の性格設定が多く用いられる予定になっている。

 とは言え本質的には原作通りの女性であり、プルツーも悪人では決してなかったため、原作の流れを踏襲して裏切ることには変わりはないのだが・・・・・・。

 

 ・・・・・・とは言え、ジオン残党の強化人間が彼女一人だけかどうかは、今作版だと今のところ不明でもある・・・・・・。



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ガンダムSEED二次作アイデア設定案

大分前に思いつきで書いて、そのまま放ったらかしになってたのを見つけましたので、試しに出して見ました。
今のところ書く気は本気でなく、完全に単なる思い付きのネタです。

……尚、前に出した事あるかもしれませんが…その時は笑って下さいませ。数が増え過ぎて自分でも最近は分からない…(哀)


【エクステンデッド主人公系の作品(タイトル未定)】

 

人類にとって禁断の部分であった遺伝子にメスを入れてコーディネーターが産み出された世界で、彼らに対抗するため遺伝子とは異なる、人間にとって禁断の箇所にメスを入れられた者たちがいた。

 

【ブーステッドマン】そして【エクステンデッド】

 

遺伝子ではなく肉体を改造することでコーディネーターに対抗する力を得ようとした試みの被験者たちは、遂に人間にとって遺伝子と同じようにタブーとされてきた箇所――――【海馬】へとメスを入れる段階になる。

 

『また戦いを起こしたいのか!? アンタたちは!!』

 

 再び戦火をもたらすためプラントを襲撃してきたファントム・ペイン製の《新型G》を前にして、剣を突き付けながら叫ぶシン・アスカの言葉に対して敵もまた、コクピットの中で「平和の敵」へと言葉を放つ。

 

『どうして私たちを傷つけようとするの!? 私たちは戦いたくなんかないのに! ただお兄様と一緒に暮らしていたかった私たちを攻撃してくる人を、私は許せない!!』

 

 そう叫び、シンが乗るインパルスへと向かって機体を急速接近させるパイロット。

 2人乗りのコクピットに坐し、相方の兄と二人だけの世界を守るために戦う少女。

 一人だけしかいない2人乗りのコクピットの中、そこに座る「愛する兄」を守るために戦う、妹パイロット。

 

 自分の全てを肯定して愛してくれる、周囲からは決して認められない実の兄でもある理想の恋人。

 自己投影依存型エクステンデッド・システム。

 即ち―――《アーク(自分の願いを全て叶えてくれる優しいセカイ)》

 

 

 

 

 

【機動戦士ガンダムSEED・カテゴリーX】

 

 ブーステッドマンの完成によって、コーディネーターを科学的に完全洗脳した兵士ソキウスは『ナチュラルの力でコーディネーターを倒す』というブルーコスモス盟主アズラエルの方針により不採用となったが……研究者たちの一部は諦めきれず、ソキウス・プロジェクトを一部変更。

 

『コーディネーターを、使い捨ての人間ミサイルに改造して、コロニー内へ突入させるという使い方ならば如何でしょう? アズラエル様』

 

 その提案に、アズラエルの眉は興味の角度へ微妙に変化させた。させてしまった―――。

 こうして生み出される運びとなるのが、ガンダムXにおける『敵ニュータイプのパイロットたち』

 その中で最も厄介な存在となり、クルーゼの計画にも加担しながら、最終的には裏切る前提の存在として、《フロスト姉妹》が介入してくる物語。

 

 

『『これは、私(アタシ)たちが望んで造り出させた戦争よッ!!!』』

 

 

 

 

 

こんな感じの作品群っすねぇ~。

他にも、カガリの兄としてオーブを背負って立つ、浅黒い肌で豪放磊落だけど気配りもできる兄貴分が出てくる『ガンダムSEED』と『ゼノギアス』のコラボ作品とか。

 

基本的にはSEED系です。他のもあるんですけどね? ……単に一番作り易かったってだけでね……設定にナゾが多いと楽なんですよね、こういうの造る時って……大雑把でテキトーとも解釈できるのが、ナゾ多めの作品ですから……。

 

 

 

あと、一応ナラティブを原作とした、敵の強化人間が原作とは似て非なる存在で、『社会性があるから女性士官に指揮を委ねて自分は指揮に従うポジションに付く』という冷静な判断ができる反面……その理由が、『世界中に自分の憎悪を振りまき続けることにある』という、アニメ版サイバスターの『シュウ・シラカワ』が持ってた目的遂行のため。

 

世界中すべてに迷惑あっけ続けるためには、ネグラが必要であり、生きていてもらうことが重要になる。モビルアーマー1機だけじゃどうにもならん。

フェネクスなどどうでもよく、ジェネラル・レビルとかいう薄らデカくて鈍重なデカブツを沈めて、より多く殺して逃げ延びるための身と異を選んでしまう、社会性あるからこそ余計厄介になった強化人間のお話し。

 



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ガンダムW戦記~クロスボーン・バンガードの旗のもとに~7章

待ってて下さった方がいるかは分かりませんが…『クロスボーンW』更新です。
久々過ぎて原作をけっこう忘れてしまい、覚えてる範囲で書く羽目になったせいで範囲が狭くなりました…次話までには周辺の話だけでも見直してから書けるようにしておきますね(謝罪)


 昼間には灼熱の太陽が照りつける、中央アフリカのサバンナ地帯。

 夜になれば気温は一転して、旅慣れない者なら凍死してもおかしくないほどに冷え込む地。

 

 その場所に今。・・・・・・一人の少年が佇んでいた。

 

 気高い崖の岸に立ち、微動だにすることなく瞼を閉じて腕を組んだまま、塞いだ視界の先に空だけを映した姿勢で佇み続けている、黒い髪を首の後ろで結んだ東洋人の少年。

 

 張五飛。

 シェンロンガンダムのパイロットとして地球へ向け、五つの流星に偽装して発射された5機のガンダムたちの内1機を与えられていたモビルスーツパイロットにして、優れた武闘家でもある少年兵。

 

「・・・・・・」

 

 ・・・・・・だが今、『強さ』に高い価値を認めてきた彼の背中には、強者としての威厳も尊厳も誇りさえも感じられるものは無く。

 まるで雨の日に捨てられた子犬が、ただ飼い主が戻ってきてくれるのを待ち続けているかのような心細さと、これから始まる一人きりの日々の予感に震えている様にすら見えるほど。

 

 彼はひたすらに立ち続け、微動だにすることなく待ち続けていた。

 夜には氷点下近くにまで冷え込む場所に立ち続けながら、半袖シャツにチャイナ服のズボンだけという薄着で立ち尽くし、昼も夜も関係なく微動だにせぬまま。

“約束を果たすため自分を追ってくる男”の到着だけを、只ひたすらに待ち続けていたのである。

 

「・・・・・・・・・」

 

 昼が過ぎ、夜の帳が下りても彼は動かず。夜が終わり朝が来ても微動だにせず。

 そして再び昼が来て、夜が始まり夜が終わり、再び朝が始まりを迎える自然の営みの中。

 

 彼は待ち続けながら――同時に幾度も幾度も飽きることなく問いかけを続けていた。

 

 ――なぜ自分は、あの男を待ち続けているのか?――と。

 

 最初は自分を倒した彼を倒し、自分の強さを再確認するためだと考えていた。

 だが、待ち続ける中で問い続ける内、“彼を倒せば胸の内に生じた空洞は消えるのか?”という疑問が生じるようになり、その疑問に対する回答は「否」であった。

 

 ―――だとすれば何故? 俺はあの男に一体なにを求めているのだ――!?

 

 ウーフェイにはそれが分からず、あるいは分かっていながら確信が得られぬまま、その答えを求めてキンケドゥとの再会を待ち望んでいたのかもしれない。

 戦うにせよ、戦わぬにしろ、もう一度あの男に会うことが出来たなら、自分はまだ見ぬ何かの答えを見つけることが出来るかもしれない――と。そう感じて、只ひたすらにキンケドゥの到着だけを同じ場所で待ち続けていた彼だったが・・・・・・遂に終わりの時が訪れたことを彼は悟る。

 

「やはり・・・・・・やはり、お前は死んだという事なのか・・・?

 俺に屈辱を与えながら、あの男に敗北して・・・・・・ッ」

 

 なにかの感情を必死に押さえる声音でウーフェイは呟き、ここ数日待ち続けた人物が、自分の下へ会いに来てくれることは二度とないのだという現実と、ようやく向かい合う日が訪れようとしていた。

 

 ――未帰還。

 

 それがキンケドゥ・ナウに与えられた、ウーフェイにとって彼の終わりを示す全てである。

 宇宙空間でのMS戦や艦隊戦が当たり前となった時代においては、よく在ることだった。戦死したか否かが判然とせぬまま、ただ救助作業が打ち切られ、行方不明が事実上の戦死として扱われ、帰りを待つ者たちには、ただ待ち人は帰ってこないまま日々が過ぎていく時間だけが与えられ続ける・・・・・・そういう形での宇宙戦争時代における「敗死」の在り方。

 

 地球連合によるコロニー支配への反発が、自分たちガンダムによる破壊活動という形で初めて行われたACの地球圏と異なり、幾度もの反発と武力衝突を重ね続けた歴史を持つUCのモビルスーツ乗りたちで在るならば、受け入れるしかない現実と割り切れたかもしれない、軍人にとっての日常の一つ。

 

 ――だが、ウーフェイには受け入れられなかった。

 この様な決着の仕方など、彼には決して受け入れていいものではなかったのだから――。

 

「こんな・・・・・・っ、こんな戦いの終わり方など、オレは認めんっ! 絶対に認められるものかぁッ!!」

 

 大空に向けて喝破し、世の不条理と理不尽さを天に向かって訴えかけるウーフェイ。

 彼にとって「勝敗」や「強弱」というものは、今まで常に結果がハッキリと目に見えて、身体で実感できる形でのみ与えられるべきものだった。

 

 敗者は骸をさらし、勝者は生き、死して後に屍を拾う者はなく。

 敗北もまた、明確な勝者の存在によって与えられる弱者である証明でしかなく。倒された敗者の前で立ち続けている者こそが勝者だった。

 そんな風に、勝ち負けと白黒がハッキリ付くのがウーフェイにとっての「戦い」というものだったのである。

 

 ・・・・・・だが、そんな彼だからこそ、こんな負け方は知らなかった。

 ただ、待てど暮らせど永遠に帰ってこないだけの敗北など、彼は知らない。

 自分を追ってこないことが、戦い敗れて戦死したことの証などという勝敗の付き方を彼は知らない。

 

「この俺を助けておきながら・・・・・・ッ、この俺に“逃げろ”を貸しを作っておきながら・・・・・・ッ、貴様は死んだというのか? 俺に雪辱戦の機会すら与えることなく、あの男に殺されて・・・・・・。

 く、くく、クソ―――――――ッッ!!!!!!」

 

 叫び、ただ叫び、この数日間ジっと待ち続けるだけで一言も口にすることなく、ただ内側に溜め続けてきた様々な感情を吐き出すため、ただ叫んで叫んで叫び続け!!

 

 ・・・・・・やがて、ウーフェイは歩き出す。歩き出さざるを得なくなる。

 どれほど待っても、もうキンケドゥと再会できることはなくなった今。生き残ってしまった彼には、何かしなければいけない人生だけが与えられていからだ。

 

 まるで親に置き去りにされた子犬のように、弱々しい足取りで歩みを進めていたウーフェイの周囲に、気がつくと数頭のハイエナたちが取り囲んで唸り声を上げて威嚇している姿が視界に映る。

 

 凶暴な見た目と、勇ましい鳴き声を張り上げながらも、弱った者を集団でしか襲わないハイエナたちの群れ。

 

「弱い者が・・・・・・うろうろするな―――ッ!!!」

 

 その存在を認識した瞬間、ウーフェイは思わず「カッ」となって一喝し、ハイエナたちを追い払わせる。

 その怒声は一見、迫力と威圧感に満ち満ちた普段の彼らしい力強い雄叫び。そのはずだったが・・・・・・。

 実際には、ただ無闇矢鱈と力を込めて、ただ脅しのために大声を張り上げて威嚇しただけの暴漢と大差ない、弱さを誤魔化す弱者の虚仮威しと同じものでしかない、大音量で放たれただけの叫び声に過ぎない代物だった。

 

「・・・俺も奴らと同じでしかなかったという事なのか・・・?

 ただ自分より弱い者とだけ戦って倒し、己は強いと自惚れていただけの、真の強者を知らぬだけの弱者に過ぎないのが答えだったのか・・・・・・?」 

 

 震える手をウーフェイは、震える瞳で見下ろしていた。

 分からなかった。何が正しくて、何が間違いで、何が強くて弱いのか。自分が信じていた強さが自己満足のまやかしだったのか否かさえ、「答え」を出してくれる者が永遠に去っていってしまった後のウーフェイには、何一つ確かな事が分からなくなってしまっていた。

 

 ・・・あるいは、キンケドゥが敗北する場をウーフェイが目撃することが出来ていたなら、こうはならなかったかもしれない。

 自分を助けた相手を殺した男に復讐心を抱き、今の自分には勝てぬ相手と撤退したとしても、ウーフェイはひたすら強くなる道を進みながらザビーネとの決着とキンケドゥの仇を討つため邁進する事が出来ていたのかもしれない。

 

 だが現実には、そうはならなかった。

 ウーフェイは、キンケドゥが敗れ去る決定的な瞬間を目撃しておらず、クロスボーンガンダムのコクピットは血痕すら残さず焼き尽くされて、パイロットが戦死したのか脱出したのか、今から戦場跡に戻ったとしても判別することは不可能な現状。

 

 なにもかもが中途半端だった。

 ウーフェイには、自分が抱かされたこの感情がなんなのかさえ分からぬまま、決着も勝敗もキンケドゥへの想いでさえも、宙ぶらりんな状態で放置されたまま―――二度と再開する機会を奪われてしまい取り戻せない。

 

「――違うっ! あの男と俺との決着はまだ付いていない・・・ッ、俺は今も奴と戦える! そのはずだ! 戦えるはずなんだッ!!」

 

 自分自身に言い聞かせるように、ウーフェイは叫んで自己の価値観とキンケドゥに抱いた感情との妥協点を模索するため整合性を取り続ける。

 

 ・・・・・・実のところウーフェイがキンケドゥに望んでいたのは、彼に「勝つこと」でも「倒すこと」でもなく「超えること」だった。

 ウーフェイの人生で、初めて「勝てない」と思わされた相手よりも強くなって超えること。それこそが武術家であるウーフェイが抱かされた感情の正体。

 

 彼はただ、相手を超えることで勝ちたかったのだ。

 常識で計れぬ天才であるが故に、キンケドゥは彼に取って「師匠」と呼ぶに値する唯一の存在となれる――そうなる“はず”の人物だったのだ。

 

 それが、感情に形を与える寸前で永久に停止させられてしまっていた。

 キンケドゥと再会することで明確な形を取るはずだった感情は行き場を失い、別のナニカを得ることで足りない部分を補おうと、同じくらいに強大なナニカを本能的に求め始める。

 

 

「・・・・・・トレーズだ。OZ総帥のトレーズ・クシュリナーダ。

 あの男は、OZの援軍として現れた。ならばトレーズは、あの男よりも強い奴であるはずだ。

 あの男を倒した者より、更に強い者に勝利することでこそ、俺は奴への借りを返したことになる・・・・・・ッ」

 

 妄執に近い黒い炎を瞳に宿しながら、ウーフェイは真っ直ぐ近くに隠しておいた自身のガンダムへと走りよると、そのエンジンに火を入れて動き始める。

 今すぐには、トレーズのいる本丸へと切り込むことは出来ないだろう。

 だが、目的地は決まった。どれほど回り道をしようとも、それは目標へと至るための通過儀礼であり、もんの一つを通っただけに過ぎず、彼の中で《倒すべき存在》と、倒すことで得られるモノとは完全に固定され、揺らぐことは決してない。そう決めた。

 

 

 

「倒すべき敵を倒せば、俺の中に生まれた迷いも消滅する!! 問題はないッ!!!」

 

 

 

 

 

 ・・・・・・誰が悪で、何を倒せば望むモノを手に入れることが出来るのか。

 それを知ることは容易ではなく、得てして人は安易な敵を倒す道こそそれだと信じやすい。

 一人の少年が新たな道を得ようとして、その寸前に至るための道筋を永遠に断たれてしまったことで、安易な道へと歩み始める始まりの一歩目を踏み外してしまったのとほぼ同じ頃。

 

 わずかに時間は前後して、ウーフェイが崖の上でキンケドゥの到着を待ち望んでいた頃、地球の異なる場所では異なる男たちが、別の道を通って彼と同じ答えへと至る道のりの一歩目を踏み外そうとしていたのは歴史の皮肉であったかもしれない。

 

 その日、ルクセンブルクにある地球圏統一連合の本部ビルの一室では、連合加盟国の将軍たちが集められ、連合宇宙軍を指揮下に置くセプテム将軍と宇宙における軍備縮小のための会議が行われていた。

 

 軍縮案そのものは連合の最高司令ノベンタ元帥を始めとする重鎮たちから以前より提案されており、宇宙軍司令官のセプテム将軍を始めとする彼らより一つ若い世代の軍高官たちは反対の論陣を張っていたものだったのだが、現場の将軍たちの意見も一枚岩だった訳ではない。

 

【征服の時期は終わり、今はコロニーを支配する時代に変わりつつある】

 

 というのが、現場の将軍たちの中で軍縮に賛成する者達の主張だった。

 支配者は支配する民衆を保護しなければならず、民衆の信頼を得られなければ占領した土地が領土となることはない。

 武力制圧という手段は、恐怖支配の色が付きすぎている。恐怖によっては民衆の信頼は決して得られない。

 最初は恐怖をもって、それから恐怖を少しずつ緩めていき民心を安堵させ、新たな支配者の支配を受け入れさせていく・・・・・・古代より続く伝統的な階級支配の方法論が彼らの主張の根拠だった。

 

 それらは所詮、連合によるコロニー支配維持を前提としたものではあったが、軍縮は軍縮であり、一定の説得力も有していた事から他の将軍たちも一蹴することは出来ずにいた。

 

 自分たち現場の将軍たちの意見もまとめる必要がある―――それが今回の会議で話し合われる予定の議題であり、その目的のためコロニー側の意見まとめ役としてドーリアン外務次官も同席していた。

 リリーナ・ドーリアンの父親である。

 

 だが会議は、当初から建設的な方向には話が進まなかった。

 

 

「例の未確認モビルスーツのことで、新たな追加情報が入手できました。

 トレーズ上級特佐よりの報告です。やはりガンダニウム合金製だとのことです」

「なるほどな」

 

 会議が始まって誰かが最初に言った言葉に、セプテム将軍が頷くのを見て、ドーリアン外務次官は眉をひそめた。

 

(トレーズ? 《スペシャルズ》のトレーズ・クシュリナーダが何故――)

 

 その名前と報告の内容に、きな臭いものを感じて警戒心を強めた故であった。

 確かにスペシャルズ――即ちOZは連合の一組織ということに法律上はなっているものの、実際には完全な別組織であり、連合から分派して独立した新たな軍事勢力と言っていい。

 連合軍とは表だって対立してはいないものの、決して親密な関係ではなく、むしろ互いに相手のことを目の上のタンコブと見なし合っているような関係性でしかないのだ。この種の情報を連合に、なんの二心なく報告してくるとは考えにくい。

 

「ガンダニウム合金は、宇宙空間でしか精錬できないと聞いております」

「やはりコロニー側が送り込んできたモビルスーツと判断すべきですな」

 

 そんなドーリアンの懸念したとおり、会議は良くない方向へと急速に舵を切っていく。

 各国将軍たちの意見を聞きながら、セプテム将軍はテーブルの上で指を組み合わせると、沈痛さを装った声音でドーリアンを驚愕させる採決をくだした。

 

「これでは私の軍の武装解除は当分、先の事になりますな」

 

 ドーリアンが思わず愕然として言葉を失い、その隙に居並ぶ各国将軍たちからは賛成の声が口々に上がる。

 

「いや、その逆をすべきでしょう。我が国の宇宙軍をラグランジュ・ポイントに向けて、セプテム将軍の増援をしたいと考えています」

「我が国も、その準備は既にできております」

「し、しかし・・・」

 

 旧合衆国の代表である将軍に続いて、旧フランスの将軍までもが同じような提案をし始めたことから、ドーリアンも流石にバカらしい好戦的議論を傍観している訳にもいかなくなり、歯止めをかける必要性に駆られたらしい。

 

「その一部の行動をコロニー全体の総意と考え、当面の問題をすり替えるのはどうかと思われます。まず我々が考えねばならないのは―――」

「すり替えなどではない!!」

 

 ドーリアンが発言する声を遮るようにして、先程の旧フランス将軍が指を突きつけながら怒鳴り声を上げる。

 

「ガンダムたちが、どこから発進した勢力か不明である以上、全てのコロニーを仮想敵と見なさざるを得ないのは至極当然であり、根を断てば枝葉は枯れてしまうもの。

 コロニーで造られたガンダムたちは、自分たちの本拠地さえ押さえれば降伏せざるを得えなくなる!」

「私が言いたいのは、コロニー側が地球圏の平和を他の誰より強く望んでいるという事です! 地球との戦争をはじめて彼らに一体なんの益がありましょう!?」

 

 正論に怯んだ旧フランス将軍から目を逸らし、セプテム将軍を真っ直ぐ見つめながら言いつのるドーリアン。

 だが残念なことに、彼と将軍は認識を同じくしていなかったらしい。

 

「我々の方こそ、平和を望んでいる。それともコロニー側が我々を妬んでの行動がガンダムによる攻撃という事なのかね?」

 

 冷ややかな瞳で、テーブル上に指を組みながら語られたセプテム将軍の言葉に、ドーリアンもまた自分の中で心の温度が急速に冷めていくのを実感させられざるを得なくなっていく。

 こうなると彼の方でも自然と、言葉も論調も攻撃的なものへと変化していってしまうようになる。

 

「いえ、違います。いずれも連合軍の一方的な武力制圧が先端の口火を切っているのです」

「それが貴様の本性だ! 貴様はコロニー側に内通したスパイではないのか!?」

 

 今度は隣に座っていた旧ドイツの将軍が立ち上がり、ドーリアンの胸倉を掴みあげながら怒鳴り声で彼をなじる。

 だが、その語調の強さとは裏腹に、相手の意見にはなんの論理もない言いがかりに過ぎない低レベルな発言でしかなかった。いい歳をした公職にある人間が公の場で口にする内容では全くない。

 ドーリアンとしては反論するより先に呆れざるを得ず、「なにを馬鹿な・・・」と呟き返す声が小さくなったのは、大人としてどういう表現で返せばいいのか咄嗟には解らなくなっただけでしかなかった。

 

「報告は承った。ドーリアン外務次官には退席を願おう」

 

 

「――いえ、この場合ドーリアン外務次官の仰ることこそ最重要事項と小官は愚考いたします」

 

 

 セプテム将軍がドーリアンに最終判定を与えた瞬間。

 今の今まで沈黙を貫いていた、古風な軍服を纏った若い将校が発言し、ドーリアンから自分へと周囲の視線が集まる先を変えてしまう事になる。

 

 だが、それらの視線には好意的なものは多くなかった。むしろドーリアンと同じか、それ以上に強い悪意と忌ま忌ましさを込めて彼を見るものの方が多いほどに。

 

「・・・・・・ドレル・ロナ上級特尉。貴官に発言まで許可した覚えはないのだがね」

 

 忌ま忌ましさを込めた口調でセプテムが名を呼んだ若手士官こそ、ドレル・ロナ。

 クロスボーンを率いるロナ家直系の嫡子でありながらも、権力者として後継の座に座るより、前線でコスモ貴族主義実現のため先兵となることを望んだ若者で、一時期はコスモ・バビロニアの女王として実妹のベラ・ロナことセシリー・フェアチャイルドに臣従することさえ受け入れていた事もある生粋の武人肌な人物だった。

 

 以前までは若さ故の傲慢さを垣間見せることも多かったが、幾度かの失敗が彼に落ち着きを与えさせ、叔父であるハウゼリー・ロナの代理として今日の会議に同席するよう命じられ、今日この場に馳せ参じる立場となっていた。

 

 OZと異なり、ブッホ・コンツェルンは連合正規軍にも人材を送り込むことで、現場の腐敗を肌で理解させるという教育方針を、この世界でも変わらず採用し続けていた。

 このため連合側にもOZ側にも幾つかの席を会議場に確保しており、経済支援や兵器供与など多くの利権をもたらしてくれている世界的コングロマリットを無碍にも出来ず、仕方なしに同席を許可して発言は許可しない妥協案を取っていたのだが。実情は現実を見れば誰の目にも一目瞭然であっただろう。

 

「・・・・・・何より、先の発言は反連合的と思われかねませんぞ? お爺様のお立場というものもある。今少し発言には気をつかっていただきたいものだ」

「失礼いたしました、将軍。ですが私はなにも、ドーリアン外務次官の発言すべてに賛同した訳ではありません。有効である部分は活かすべきだと主張したいだけなのです」

「と、言いますと?」

 

 些か胡散臭げな表情ではあったものの、とりあえずは場の最高位者であるセプテム将軍が聞く姿勢を取ったことで、他の将軍たちは何も言えなくなって沈黙し、そんな彼らに向けてドレルは皮肉めいた冷笑を貴公子的な面立ちに浮かべて、淡々と持論を主張する。

 

「先のドーリアン外務次官の発言にもありましたとおり、失礼ながらセプテム将軍への援軍を御提案された方々は問題をすり替えようとしていただけのように、私にも見えた次第・・・」

「ぶ、無礼なッ!!」

 

 顔を真っ赤に染め、旧フランス将軍が一瞬前までの自重を放棄して怒りを露わし、ドレルに向かって指を突きつけながら相手の不見識を口汚く罵倒する。

 ドレルは感情的な罵声、一つ一つには付き合うことなく、一通りの罵倒が言い終わるのを待ってから静かによく通る声で将軍に向かって確認のための質問を発する“フリ”をする。

 

「――将軍。先程あなたは、こう仰っていましたな。“我が国にはコロニー征伐のためセプテム将軍に増援する用意がある”と」

「一元一句その通りとは言いがたいが、それに類することは確かに言った。で? それが何だというのかね、ロナ家の血を引く御曹司殿」

 

 親の七光りでしかないケツの青い若造と、暗に罵る言葉を吐いた将軍の皮肉には気付かぬ風に、気付く必要もないままに、ドレルはさらりと問題点の本質を的確に穿ち抜いて見せたのだった。

 

 

「では、その戦力。あなた方の指揮の下、ガンダム討伐のため送っていただきたい。

 地球圏の平和を守るために。如何でしょう? 将軍閣下」

 

 

 ・・・・・・ドレルの一言だけで、場は静まりかえって反論はなかった。

 合衆国将軍も旧フランス将軍も、旧ドイツの将軍までもが顔を俯け目を逸らし、まともにドレルの視線と向き合おうとせず、セプテム将軍の厳しさを増した目付きに対してさえ、後ろめたそうにしながらも反対意見や賛成を口にしようとする者は誰一人いなくなってしまっていた。

 

 外交の専門家である外務次官のドーリアンでさえ、驚かされるほどの成果であった。

 ドレルが放った一言だけで、敵陣中央近くにまで攻め入られて蹂躙され、連合側の高官たちには反論の余地もなく、ただ沈黙することしか出来なくしてしまったのである。

 

 ドーリアンから見れば魔法としか思えぬ現象であったが、ドレルからすれば既知の出来事に過ぎぬ反応でしかなかった。

 

 

 ・・・・・・クロスボーンがフロンティア・サイドを強襲した時、地球連邦政府は自国の領土と国民たちと駐留軍とを救うため、すぐさま援軍を送って、反乱軍討伐のための大艦隊をクロスボーン・バンガード殲滅のため派遣しなければならない立場にあった。

 派遣“すべき”ではなく、“せねばならない責任”が統治者として義務づけられていたからだ。

 

 だが現実に連邦政府がクロスボーンの侵攻に対して行っていたのは、対策を『議論すること』であり。

 意見した作戦の実行と成功を確約させられ、失敗責任を負わされるのを恐れた将軍たちによる『自分たちが何もしないで済む理論を考えて語ること』それだけだった。

 

 政敵に非難されないため、間違った言動や意見をしないことに重点が置かれ、次の選挙に勝つための対策案や意見を述べることに終始し、事態の対策を講じるための発言などは中央議会で全く出ることはなかった。

 

 これらの行為を、それなり以上に頭が良くて弁が立つ人々が、テレビ中継でやり取りしている姿を見ていた大衆たちは熱狂し、連邦政府の戦略議論に是々非々の議論を巷で交わし合い、その間にフロンティア・サイドの大部分はクロスボーンの手中に収まってしまっていったのだ。

 

 山のような言葉と議論が飛び交い、言葉だけが現実を構築する。欺瞞の構造。

 それがドレルたちが実体験した、バビロニア戦役における地球連邦の対応であり、最終的には世論の突き上げを受けて月からの援軍艦隊が送られてはきたものの、質の上では全く話にならずレジスタンスたちの方がよほど良くフロンティアサイド防衛を成し遂げていたと、付きからの援軍を撃滅した張本人であるドレル自身がそう感じさせられていた程だ。

 

 地球連合を構成する各国将軍たちも、かつての地球連邦と大差ない理屈で行動していたのが、先のドーリアンに対する対応だった。

 

 誰もガンダム対策に名乗りを上げて失敗したくなかったから、セプテム将軍に従軍して無力なコロニーを弾圧する安全な作戦にだけ参加したいと願っていた。

 結果として、手薄になった地球の各基地をガンダムが攻撃しやすくなるなどという事態まで、考えた作戦を言っていた訳ではなかったのが本心だったのである。

 

 セプテムの表情が更に強ばりを増していく。

 彼は、自分の考えに反対する部下が嫌いなタイプの軍人ではあったが、国家に寄生する肥え太ったブタが好きという訳でもなかったので、普通の軍人らしく保身的な責任者たちには悪感情を抱かされたのだ。

 

 

「・・・・・・そこで私からの提案です。我々ブッコ・コンツェルンは、ガンダム対策のため皆様に提供できる有効な新兵器を開発いたしました。是非とも、これの採用のため性能テストを行っていただきたいのです」

「ほう・・・。それはどのような物ですかな? ドレル上級特尉。是非にも詳しくお聞かせ願いたい」

 

 先程よりずっと好意的な態度と口調で、ドレルに対して親しげに語りかけてくるセプテム将軍に対して、微妙な表情を浮かべたまま無言でい続けていたドーリアンだったが・・・・・・今度は彼もまた、驚愕の表情を浮かべる一員となることになる。

 

 ドレルは静かな口調で、こう述べたのだ。

 それは歴史が大きく変わり始める、始まりの一弾になる存在。

 ガンダムが、絶対的存在としての地位を奪われ始める、その最初の一撃がこの時ACの世界にもたらされた瞬間であった。

 

 

 

「我々は、MSでも携行可能な小型ビームライフルの量産に成功いたしました。

 これでガンダニウム合金を持つ機体にも、既存MSで対抗することが可能となりましょう。

 今こそガンダムパイロットたちにも、思い知らせるべき時が来たのです。

 傲慢がほころびを生むのだという事実をね―――」

 

 

 

つづく

 

 

 

オマケ設定説明『量産型ビームライフル』

 

細かい説明はまたにしますけど、今作でのコンセプトとしては、OOの《ジンクス》を応用したかったというもの。

ガンダム絶対だった世界に、ガンダムには及ばない物の絶対的ではなくせる兵器を持った存在を投入させてみたい。そういう願望で採用した次第です。




注:ドーリアンの『死』そのものは揺らぎません。が、内訳に違いが生じる予定です。


……次の更新作品は、【ジャンヌIS】を予定してます。
長らく止まってる作品たちを進めてから、他のを考えた方がよさそうでしたので…。


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ガンダムW戦記~クロスボーン・バンガードの旗のもとに~8章

失礼。前回は説明不足で終わってしまったので気になってしまい、補填する分の話を付け足させて頂きました。
こういう技術開発史的な話は、割と好みな作者です♪


 夕闇が迫る小さな空間の中。今、一人の男が華の香りに包まれていた。

 古代のギリシャ神殿を想わせる総大理石でできた個人用の野外風呂に浸かりながら、OZ総帥トレーズ・クシュリナーダは、一人の若い女性士官から報告を受けていた。

 

「――連合は宇宙軍の増強を中止して、小型ビームライフルの量産化を決定したか」

「はい。またブッコ・コンツェルンからは先んじて、既に完成していた数十丁ほどが各国に提供されるとのことでしたが・・・」

 

 OZの軍服を着て、トレーズに報告をおこなう若い女性士官は、敬愛して心酔する唯一の上司の独白に対して即答する。

 長い三つ編みを後ろで纏め、度の入っていない丸眼鏡をかけた頭脳派のOZ士官で、名をレディ・アン二級特佐という。

 トレーズからも信任篤い彼女は、先頃終わったばかりの会議の内容を個人的感情を表すことなく報告したが、やや目元に険のある表情が内心での不快さを雄弁に語ってもいた。

 

 ――共に連合を駆逐し、新しい世を築こうとする同士でありながら、何故OZが計画しているクーデターを阻害するような提案をするのか? 

 

 トレーズに心酔して信服しているレディとしては腹が立って仕方のない、クロスボーンの裏切りとも見える行為が今回の提案だったからである。

 

「なるほど。宇宙軍の削減というのではセプテム将軍が容れようはずもないが、既存の宇宙用MSを増強するための予算を新兵器開発に振り分けるだけなら軍縮という事にはならない。

 マイッツァー老も、おもしろい手を考え付かれたものだ」

 

 憂いを滲ませつつも、常と変わら優雅さでもって語られた内容に、レディは僅かに目を見開くと、自然な形で元へと戻す。

 ――その発想が思いつかなかった自分に、些かながら恥じ入る部分を感じさせられた故である。

 

「レディ。君も、その机にある資料に目を通してみたまえ」

「はっ・・・」

 

 命じられ、イオニア式の石柱で四方を囲まれた室内に目を向けると、そこには普段存在していない小さな机が置かれており、その上には数枚の書類が並べられているのが視界に入り込む。

 歩み寄り、資料に目を通し始めたレディ・アンは直ぐにも驚愕に目を見開くことになる。

 

「《ビームスマートガン》というらしい。連合に提供された《ショートビームライフル》をさらに発展させたものだそうだ。

 我らOZがビクトリアで試作中だったビームカノン同様に威力が高く、連合に回されたものより数段出力が向上している。こちらを数挺ほど提供してくれるとのことだ。

 もっとも、技術的な問題が解決し切れていないせいで安定性に欠けるという点では、我らと同様だったそうだがね。・・・その為の今回の連合に対するビームライフルの技術提供という訳だ」

 

 トレーズからの説明に納得し、レディ・アンは深々と首肯した。

 実のところOZと連合が開発を進めながらも、宇宙用の新型MSが使うビーム砲をやっと完成させただけで、地上での使用は一度が限界までしか至っていないビームライフルの開発は、前世の知識を持つクロスボーン側においても必ずしも自分たちが使っていた当時のものを再現することは未だできていなかった。

 

 地球圏統一連合がコロニーを武力制圧したため、ジオン公国のような宇宙移民者たちによる独立戦争や幾多の戦乱を経験していないACの世界と違い、クロスボーン・バンガードが勃興した宇宙世紀の地球では幾つもの戦乱が立て続けに起きていた時期があり、その頃に生まれたビームライフルは短期実の間に格段の発展を遂げた兵器の一つと言っていい。

 そのため前世の記憶を有するクロスボーン・バンガードの技術陣たちは、この兵器の開発と生産を連合やOZより早く始めることが可能な条件が揃っていたことになる。

 

 だが、“知っているだけ”で全く同じものを造り出せる、という事にはならない。

 新兵器を開発して大量生産に成功するためには、製造過程における技術者たちの経験蓄積と専用の開発施設の建造、そしてそれらを可能とする多額の予算が必要不可欠にならざるを得ない。

 

 現時点で、クロスボーンが持つビームライフルの技術限界は、大凡UC0090年頃の基準にまで達しつつあったが、それは技術的に可能になったというレベルの話であって、多数の問題点を加味すればUC0087年頃のグリプス戦役時に使われていたものを再現して、やっと安定性が得られるという程度のものでしかない。

 

 数十年かけて歩み続けた技術の集積を、短期日で内包させ実現させようとしたことによる反動もあり、このまま独力でデナン系MSが使っていたビームライフルの完成をクーデターまでに間に合わせるのは不可能でなくとも非効率的だと判断したマイッツァー・ロナが企業経営者として下した決断だった。

 

「・・・ですが、連合に塩を送って牙を持たせてしまうことは、後々OZにとって不利益となる危険性をも有しているのではないでしょうか? 如何にガンダムに対抗するためとは言え、それでは藪蛇も良い所ではないかと・・・・・・」

「いや、恐らくそうはなれないだろう。設計図と開発ノウハウを与えられたからと言って、アレはそう簡単にものにできる技術ではない。

 そして技術だけはものにする事ができたとしても、生産ラインは0から新たに造らせねばならない事実に変わりがない以上、それらの施設は我々が接収し、完成したビームライフルは我々の戦力として用いられることだろう。

 連合には、その為の支度金として一時的に貸しているだけ・・・・・・そう思っておきたまえ、レディ」

「ああ・・・・・・っ!」

 

 詳しく説明を聞かされ、レディ・アンは今度こそ心から納得し、またトレーズへの信頼と尊敬を新たにしていた。

 ――やはり、この方は自分たち俗人とは違う。この広い視野、深い見識。どちらも自分如き無骨な軍人では持ち得ぬ美徳だ。

 やはり新時代の旗手にはトレーズ様こそ相応しい。この方以外の者には相応しくない・・・・・・

 

「その点で、今回のリークは効果的だったということですね」

「そうだよ、レディ。各国の将軍たちも、セプテム将軍の前で醜態をさらしてしまった手前、設備投資のため追加の徴収と予算提供とを拒むことは出来なくなったことだろう。

 さすがはゼクスだ。いい仕事をしてくれた」

 

 だが、トレーズの口から“その名”を聞かされた瞬間。レディの浮つきかけた気持ちは一瞬で霧散し、代わってOZ特佐の制服に身を包んだ女性の目元に、一瞬だけだが険しい光が宿ったことを果たして湯船に浸かって瞠目していた相手には隠しきることが出来たか否か。

 

 今回の連合首脳たちによる会議の場で議題に上るよう、各地の施設を襲撃している未確認モビルスーツがガンダニウム製であるという情報を意図的に流したのはゼクスの独断によるものだった。

 無論それはOZ総帥であるトレーズ・クシュリナーダから暗黙の内に指示していた指令内容を実行しただけに過ぎないものだったが、それを聞きつけたらしいロナ家が持ちうるコネを最大限使い捨てることで今回の会議場に無理やりドレル・ロナ参加をねじ込ませたことで、結果的にクーデター成功後の世界覇権はさらに容易さを増したと言っていい。

 

 その点は良い。ゼクスに功績があることまで否定しようとは思わない。

 ・・・だが、挙げられた功績と、その為に失った犠牲を比較して、それほど讃えられるに足る成果を出しているとは到底言えない。

 一般将校より選抜された部下たちを5人も失って、入手できたのが未確認モビルスーツはガンダリウム製だというデータだけ。・・・その程度なら誰でも出来る程度のものだ。

 

「――だが、“ラグランジュ・ポイントに緊張が戻る”とした、当初の想定もまた正しいと私は思っている」

 

 だが唐突に話題を変え、表情と視線が僅かに改まっていた上司の変化を感じ取った次の瞬間には、レディ・アンの心はトレーズより与えられる次の任務に向かっていた。

 知的と言うより、冷徹な印象を人に与える度の入っていない眼鏡の奥の瞳を細めさせ、居住まいを正しながら傾注の姿勢を取る今の彼女に、先程までの未来を夢見る心やゼクスへの競争意識などは残っていない。

 

 あるのはただ、上司であるトレーズの敵を排除すること。

 現在のOZにとって障害となる人物を抹殺すること。それだけである。

 

「しかし今回の選択もまた間違ったものとは思わない。ガンダムたちの攻撃で、我がOZの施設も相当な痛手を被っている。被害を抑止するため相応の手立ては必要だ・・・が、しかし。

 コロニー側から送り込まれたガンダム達によってもたらされた宇宙との緊張状態は、継続されるべきものでもある。――少なくとも今の時代には、まだ・・・」

 

 予算の割り振り先が、既存MSの増強から新兵器開発に変わっただけで連合宇宙軍そのものが軍縮したという訳ではなく、依然として宇宙空間には連合が擁する大兵力が駐留したままで、それらは会議が始まる前と後とでは一兵たりとも減じてはいない。

 

 だが、「増やす予定だ」と見られていた存在が、増やすことなく現状維持を選んだという事実は、宇宙軍の増強を警戒していた者たちにとって見ると明らかなる譲歩であり、連合が自分たちを完全には犯人扱いしていないとする根拠として十分な説得力を有するものだったのも事実だ。

 既に幾つかのルートから、コロニー側の内部で安堵感が漂っているという情報がトレーズ達の耳にも入ってきている。 

 これから「世直し」を行おうとしている側にとって、必ずしも良い兆候とは言いがたい現状・・・・・・。

 だが、先の会議の決定によってOZとロナ家の方針も固まったと言って良く、この状況下で元のプランに戻すことは百害あって一利なしな愚考であろう。

 

 本格的な武力衝突に至る危険性は犯すことなく、連合とコロニー間での緊張を、ラグランジュ・ポイントにおいて高めさせる。

 

 その為には、武力よりも謀略を以てことに当たるべき類の任務である。

 そして、宇宙艦隊戦力を用いることなく、コロニー側の内部で地球との緊張状態を熟成させるのに適した存在を、レディ・アンには一人だけしか思いつく人物がいない。

 

「承知いたしました。次のバスタイムには、バラのエッセンスをご用意いたします」

「頼むよ」

 

 短く答え、トレーズはレディ・アンに艶然と微笑みかけると、もういいという様に片手を振ってみせる。

 彼から彼女に対して示す、最大限の信頼の証がこもった仕草だった。

 任せたからには全幅の信頼を寄せ、余計な注意事項など必要ない。・・・それが出来るだけの人物に託したのだ。後は吉報を待って、自分は寛ぎながら過ごすのが『信頼』というものの在り方であろう。

 

「では、バスローブをここに置いておきます」

「ありがとう、レディ」

 

 最後だけ、上司と部下ではなく、同じ部屋で同性まがいのことをしている若い男女の様なやり取りを交わし合ってから、レディ・アンは一礼してトレーズの側を離れていったのだが―――その心中は敬愛する上司の側を離れた途端に暗雲が垂れ込み始めていた。

 

 ゼクス・マーキス―――

 いざ与えられた任務に向かおうとした矢先に、彼のことを再び思い出したからである。

 

 自分と同じようにトレーズ様に取り立てられ、自分と同じようにトレーズ様から直々に与えられた任務の完璧なる遂行を求められていた人物・・・・・・。

 

 

(なぜトレーズ様は、あのような無能者を取り立てられるのだろうか?

 私なら、ゼクスのような無様な真似はしない。

 トレーズ様のため任務を完璧に遂行し、ゼクスとは違うのだということをお見せ致しましょう。ゼクスとはね―――)

 

 

 ――危険な光が、レディ・アンの瞳に灯り始めていた。

 

 

 

つづく



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機動戦士ガンダムSEED-生まれる刻を間違えた野獣-3話

気持ち的な理由で色々書きまくりたい次第。
なので久しぶりに続きを書いてみました。突発的だったので終わりが自分でも微妙です。反省。


 ヘリオポリス内に侵入を果たしたミゲル・アイマンのジンは倒され、戦闘に巻き込まれた子供たちは僅かながらでも休息の時間と、偶然にも乗り込むことになった新型モビルスーツ『ガンダム』の補給を受けられるだけの余裕を手にすることが出来ていた。

 

 ――だが、彼らの立つ大地の裏側では戦闘は未だ続いており、それは徐々に彼らを追い込む方へと推移しつつあったのである。

 

 

「――信号弾!? 敵が引き上げる? この戦況でッ!?」

 

 漆黒の宇宙を背景に、一つの小さな線が天高く登り弾け飛び、その光の消滅と共にヘリオポリス襲撃部隊から発したモビルスーツ・ジンが退いていく姿を見て地球連合軍のムゥ・ラ・フラガ大尉は、愛機のコクピットの中で疑問の叫び声を上げていた。

 

 既にヘリオポリス防衛のため配備されていた部隊は壊滅させられ、フラガ自身の母艦でもあった連合軍の偽装輸送艦も艦長と運命を共にさせられた。

 事実上、コロニーを守る兵は自分の愛機《メビウス・ゼロ》1機だけしか残っていない不利すぎる戦況に追い詰められていたのが彼である。

 

 にも関わらず、信号弾の光と共に潔く退いていく敵モビルスーツ。

 2機のモビルスーツを、モビルアーマー1機だけで相手取って1機を大破させ、限定的ながらも戦術的優位を確立できたとは言え、こちらも相応に消耗を強いられていた。

 母艦を失って補給もままならなくなった1機だけの敗残兵に、コロニー内の味方と合流して補給を受けられる隙を与えてくれるほど、お人好しな敵司令官が中立コロニーに攻撃を命じるとは考えにくい。

 

「・・・まだ、何かあるということなのか? なにか別の敵が・・・」

 

 何かが来る。ムウの勘が、そう告げていた。

 目を皿のようにして、レーダーを睨み付けたまま周囲の索敵に全神経を集中させる。

 

 

 ――ヘリオポリスで補給を受けてからでは遅い、間に合わない。

 もし、今ここで“何か”を見過ごしてしまったなら、その代価は自分たち全員の命で支払わされる事になる。そんな気がする―――っ

 

 

 そう思い、通常であればヘリオポリス内にあるオーブ軍施設へと合流して物資を分けてもらい補給を受けるべきところを、彼は敢えて戦場に留まり機体を停止させ、ただ周囲の空間に気を配った。

 

 その瞬間、ムゥの脳裏は“その男の声”をイメージとして確かに聞いたのだ。

 

 

 ――私がお前を感じるように、お前も私を感じるのか? ムウ・ラ・フラガッ!!――

 

 

「これはっ!? ・・・・・・まさかッ!!」

 

 頭の中に閃光が瞬いたかのようなイメージが走り、メビウスの機体を回頭させ、何かに引き寄せられたかのように“コチラ”へと向かってくる姿を目撃し、仮面の下にある素顔の唇を愉悦と憎悪に滴らせながら、その男はコクピットの中で独りごちる。

 

「ほう? 私の接近に気付いたか・・・・・・不幸な宿縁だな、ムウ・ラ・フラガ」

 

 パールグレイの機体『シグー』の中で、ヘリオポリス攻撃を命じたザフト軍の指揮官ラウ・ル・クルーゼは奇妙な愉悦と滴るような憎悪がない混ざった口調で、自分にとって因縁について自嘲するように呟き捨てる。

 

 そして機体を一端ヘリオポリス付近の突き出たシャフトの背後に隠してエンジンを切ると、自分を探して微速前進していたムウのメビウス・ゼロの頭上から、突如として姿を現し襲いかかる!

 

「お前はいつでも邪魔だな、ムウ・ラ・フラガ! もっとも、お前にも私がご同様かな!?」

『貴様! やはりラウ・ル・クルーゼか!?』

 

 ライフルを乱射しながら自機へと攻撃を掛けてくる、ザフトの量産機ジンの次世代型モビルスーツ《シグー》を操るパイロットの名を叫びながら、ムウ・ラ・フラガも愛機メビウス・ゼロで射撃を全弾回避して反撃を撃ち込む!

 

 因縁の相手との、会いたくもない再会だった。

 かつて月面に建設されていた連合軍の重要な資源供給基地『エンディミオン・クレーター』を巡る攻防戦の渦中ではじめて遭遇し、以来いくどかの戦場で出会っては死闘を繰り広げてきた因縁浅からぬザフト軍のエースパイロットにして有能な戦術指揮官としても名高い男!

 その男に、よりにもよって今次大戦の趨勢を分けるであろう重要な任務を嗅ぎつけられ邪魔されるとは!!

 

 ムウとしては完全な冷静さを保ちかねる条件は満たしすぎるほどに満たしている相手だったが、一方のクルーゼは彼とは対極的に冷静だった。

 

「この辺で消えてくれると嬉しいのだが・・・・・・しかし、残念なことに今回の私の獲物は貴様ではないのでね、ムウ!!」

『なっ!? なに!!』

 

 隠れ場所に潜んでいた敵からの攻撃に対して、回避しながらも反撃したムウであったが、最初からクルーゼの狙いが自分をコロニー内へ通じるハッチから距離を取らせることにあったと気付いた時には遅かった。

 

 シグーは軽くライフルで再反撃しようという素振りを見せた直後に反転し、コロニー内へ続く通路へと最大速度で突入させていく。

 

「しまった! あの野郎、ヘリオポリスの中に・・・! くそッ!!」

 

 慌てて後を追い、メビウス・ゼロで追撃をかけさせる。

 だが、コロニーを内部から支えているシャフトが幾本もひしめき合う狭い人工物の内部は、機動性で劣って速力で勝るモビルアーマー乗りのフラガ大尉の方が不利な戦場だった。

 

 工場施設を遮蔽物として利用しながら戦ってはいるものの、逆に遮蔽物が邪魔になり直線軌道のモビルアーマーでは最高速度を出すわけにも行かず、速さでは上回っているにも関わらず付かず離れずの距離を保たされたままで縮めることが出来ぬまま、遂にコロニー内の都市部まで敵機の侵入を許してしまうことになる。

 

「ほう? アレか・・・・・・新たなる戦火と我らに死をもたらす災厄の使者は」

『最後の一機が残っていてくれたか!?』

 

 コロニー内の戦場跡を始めて目にした二人が、それぞれに異なる視点で状況を評する言葉を吐く。

 ムウは、敵から突然の攻撃を受けた直後から迎撃のため全戦で戦い続けていたため、後方の状況はほとんど分からぬまま、ただ識別信号の位置によって味方機の《G》が4機まで敵艦へと走って、1機だけがヘリオポリス内から反応し続けているという事実から推測して、おそらく4機が敵に奪取されて1機だけが味方の手に残ったのだろうと予測していた。

 

 一方のクルーゼは敵将ながら指揮官として、パイロットだけをやっていれば良いムウより多くの情報を入手できる立場にあった。

 それによって奪取しようとした敵モビルスーツの内、最後の1機は敵の手に残り、援護のために派遣させたミゲルは倒され、乗っていたジンは敵に鹵獲された可能性が高いと予測するまでに至っている。

 

 そのクルーゼの視界には今、地面に片膝を突いた姿勢で跪く、見慣れぬモビルスーツの姿が映っていた。

 出撃前に僅かだけ見た、イザークたちが奪取した機体と幾つかの特徴で酷似している。おそらく同じ1つのベース機を基にして幾種類かのバリエーションを開発したのだろう。

 

 ・・・・・・只一つ気になったのは、ミゲルの乗っていたジンの姿が見られないことだった。

 敵に鹵獲されたことまでは予測できたが、その後に戦場から移動させたと言うことだろうか? あるいは伏兵か、補給物資を取りに行かせて戻ってくるより速く自分の方が突入したという可能性もある。

 

 だが、どれが正解の答えだったにしろ、今やるべき事が一つだけであることをクルーゼは正しく理解している男だ。

 

「今の内に沈んでもらう!!」

 

 腰部にジョイントしてある斬艦刀を抜き放ち、右手にライフルを構えて、左手に巨大な剣を掲げた鬼神の如き姿で、キラが乗る残された最後の《G》X-105ストライクに向かって情け容赦なく斬りかかろうとする!

 

 少なくとも、ムウ・ラ・フラガの目には、そう見えた。

 

『させるかぁぁぁぁッ!!』

「フッ・・・掛かったな、ムウ!!」

『な、なにぃッ!?』

 

 残された希望を守るため、身を盾にしてでも敵の前に立ちはだかろうとしたムウのメビウス・ゼロだったが、その動きは既に敵パイロットによって読まれていた。

 ここまでの戦闘で、オールレンジ攻撃を可能とする有線ガンバレルを全て壊され、超銃身のリニアカノンしか武装が残っていなかったことが、彼から選択肢の自由度を奪い尽くした後だったからである。

 

 本命を確実に始末するため、目障りな護衛の騎士から排除しようと網を張り、敵に残された最後の武器を柄だけ残して斬り捨てると、後は障害物が何もなくなった標的へと続く道を真っ直ぐ駆け抜けるだけのこと!

 

『う、うわぁぁぁぁぁッ!?』

 

 迫り来る敵機を前にして、恐慌に駆られたキラはスイッチを押してフェイズシフト装甲を展開しながら、思わず装着されたばかりの武装の発射レバーを押してしまいそうになりながら、

 

 

 ―――思わぬ予想外の事態を目の当たりにして、二度目の驚愕を経験することになる。

 

 

 

「外装衝撃ダンパー、最大出力でホールド」

「主動力コンタクト、エンジン異常なし」

「アークエンジェル全システム、オンライン。発進準備完了!」

 

「気密隔壁閉鎖。総員、衝撃及び突発的な艦体の破壊に備えよ。前進微速。

 艦起動と同時に特装砲発射した後、最大船速ッ!

 アークエンジェル発進!!」

 

 

 

 ―――たかが時代遅れの大艦巨砲主義と、ザフト軍側の誰からも侮られていた白き巨艦が今、コロニー内へ続く隔壁を艦砲によってブチ破り、その姿をクルーゼとキラ、二つの白いモビルスーツパイロットたちが見ている前に始めて偉容を現したのだ!!

 

 

 その瞬間、誰もの視線と意識は天高く現れた白い船の巨体に集中していた。

 だが、その状況の中で只一人だけ。予定したものとは違う理由によってではあったが、とにかく敵の注意を完全に引きつけてくれる“良い的”が自分から飛び込んできてくれたことを好機として、クルーゼの機体に急速接近してきた存在が、この世界で只一人だけ存在していたのである。

 

 本来なら居るべきはずのない野獣が。

 生まれてくる刻を間違えて誕生したナチュラルの少女が。

 

 ただ心躍る、戦い甲斐のある強敵を求めて、只それだけを目的として。

 ラウ・ル・クルーゼ個人の【命】を求めて舞い降りるッ!!!

 

 

「アッハハハハハ!!! 落ちろ落ちろ落ちろーッ!!!

 このまま串刺しにしてあげるわ―――ッ!!!」

 

 アークエンジェルより更に高くにある位置から急降下しながら、斬艦刀を引き抜いて振りかぶり、クルーゼのシグーを真っ二つにしてやるため少女が強奪したモビル・ジンは猛スピードで敵指揮官機に襲いかかってきたのである!

 

 彼女は、敵がいつどこから侵入してきても即応できる位置である、コロニー中央のシャフトに陣取って、只ひたすらに敵の侵入を待ち続けていた。

 そして侵入してきた敵が、狙っている獲物らしいキラの乗る新型を奪おうと襲いかかってきたところを直上から襲撃する。

 

『むっ!? ミゲルから奪ったジンか!! あんな位置に隠れていたとは・・・チィッ!!』

「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

 味方を餌にして敵をおびき寄せ、必勝のタイミングで攻撃を仕掛ける狩りの手法。

 その罠にまんまと掛かってしまったクルーゼは、だが敵の思惑通りに乗ってやる親切さを持ち合わせている善良な人物では断じてない。

 

『それのパイロットが誰かは知らんが・・・・・・その装備ではな!!』

「なんっ!?」

 

 直上からの落下速度も追加させたジンの出せる最大速度での突進斬撃。

 だがそれをクルーゼは、シグーの出せる最高速度で機体を『そのまま直進させ』てギリギリの間合いで回避させてしまう。

 

 背中に追加されているスラスターの端を、かろうじて斬りつけただけで終わってしまった必殺の斬撃に、少女はコクピットの中で犬歯を牙のように向いて滾り狂う。

 

「クソッ! スピードはあっちの方が上みたいね! だったらぁぁぁぁッ!!」

 

 再度の攻撃を仕掛けるため、再び敵機と相対した彼女であったが・・・・・・ここでは皮肉な運命がクルーゼに味方して、彼女に背を向けることになってしまう。

 

 

「なんだ? ジンとシグーが戦っているだと・・・・・・仲間割れか?」

「分かりません。ですが我が方にとっては、どちらにしろ好機です。攻撃命令を!」

「そうだな・・・よし! スレッジハマー装填! バリアント撃てぇぇぇッ!!!」

 

 

 先の戦闘を知らず、目撃してもいないナタル・バジルール少尉たちからの攻撃によって、結果的にクルーゼは離脱を支援され、少女は戦闘を中断して背後からの攻撃を避けるしかなく、キラたちとクルーゼ隊との戦いは第3ラウンドへと状況と戦力配置を換えて仕切り直しという形にされてしまったからである。

 

 

「邪魔するなぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

 

 改めて味方としてマリューからナタルたちに紹介されることになる少女は、現時点ではコクピットの中で一人、欲求不満の怒りを叫び暴れるだけの野獣のようなナチュラルにしかなれていなかった。

 

 だが彼女の力を、自分たちに必須の『三つ目の刃』として認識する近い未来の刻を、この世界における『永遠の厄介者』に乗るクルーたちは今はまだ知らない――。

 

 

 

つづく




オマケ【女オリ主の名前決定】
原作展開上、次話で自己紹介することになるため主人公の名前がやっと決定(遅)


【サヤ・ナガト】


「ヤザン」だから「ヤサ」
TSして性別逆だから「サヤ」単純ですね。


ちなみに漢字で書く場合は、【砂夜・長門】

小説版ZZで、ゲモンと共に夜の砂漠へ消えていって心を癒す旅に出た設定を思い出したので、語呂合わせに採用。


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機動戦士ガンダム0113~マフティーの残光~

*もしかしたら誤解させてしまった方もいるかもしれませんので、念のための補足説明です。
作者は基本的に、ジオンが正しいとか良いとかの発想を持っておらず、作品内容も同様で書いてます。

単に、【連邦政府のヤラカシが敵に力を与えてしまっている】という前提で書いているだけです。言うなれば【ジオンが良い】ではなく【連邦“も”悪くなったから】で、相対的な善悪にさせてしまった結果です。

内乱とか反乱って、そんなものだろうな、と…。


 

 これは『本当にあったかもしれない』歴史の幕間劇として解釈された新説の一つでしかない人々の物語である。

 

 新説の登場によって、従来の定説が覆されていくことが人類の進歩であるとするならば、定説を覆した新説がやがて従来の定説となった時代に、自分を踏み台として完成度を高めた今までの説の誕生に貢献することもまた、進歩としての在り方の一つであるだろう。

 

 宇宙世紀0100のジオン共和国解体と連邦宇宙軍の再編計画達成によって、一年戦争に端を発し続けた【ジオン戦争】の正式な終了を宣言していた。

 0079末にジオン公国のギレン・ザビが暗殺され、ジオン共和国へと名を変えた臨時政権からの降伏を認め、ジオン独立戦争の完全勝利と終戦を宣言してから20年近くが過ぎた末に、ようやく宣言することが出来る域に現実を追いつかせることが出来たのである。

 

 この宣言以降ジオン残党が政治結社レベルの活動が行えるだけの力を回復することは二度となかったのは事実である。

 

 それを阻止するため動き出した【袖付き】と名乗るジオン残党を称する者たちも、所詮は流浪の食い詰め集団が野合しただけで、ジオニズムもザビ家もなく、ただ『連邦政府に抗った唯一の敵国』という過去の栄光に縋って寄せ集まった模倣犯に過ぎず、その残党達が蠢いたとされる『不死鳥にまつわる事件』においても彼らのバックに『ジオン共和国次期新首相の関与』が疑われただけで、もはや旧ジオン公国軍と関連付けるものは何一つとして残っていない“騙り”に過ぎぬ名ばかり達による「無駄な足掻き」にしかなることは不可能だった。

 

 地球連邦政府は遂に、ジオン・ダイクンによる独立宣言から数十年ぶりに一年戦争以前の一極支配体制へと回帰するという宿願を果たし、地球圏全土に広がった全人類社会を支配する絶対者の地位へと舞い戻ることに成功したのだ。

 

 ・・・・・・だが、一つの問題が片付けば別の問題が浮上してくるのもまた、人類が遂に変えることの出来なかった宿命でもある。

 『戦争が終われば、内乱が起きるだけ』という、夢も希望ももたらさない皮肉な見解こそ、恐らく最も正しいものの見方ではあったのだろう。

 

 『ジオン』という外部勢力との戦いが終結した後、連邦政府の敵となって台頭してきたのは【マフティー・ナビーユ・エリン】と名乗る、連邦内部から生じた反連邦政府運動の団体だった。

 

 『外敵との戦争』が無くなったはずの世界で起きる、地球の内側で行われる身内同士の殺し合い・・・・・・その醜悪極まる悲喜劇さえ、多くの死傷者を出す死闘の末に逮捕した主犯格の処刑によって事を納めようとし、却って新たなる禍根の源を生み出してしまうのだから連邦政府の『学ばない精神』は呆れるしかない。

 

 だが、それら血生臭い悲喜劇さえ終わってしまえば元の木阿弥でしかない。

 『自分たちの敵』がいなくなり、地球圏全土を統一支配する『王』の地位へと復権した彼らは、かつて取りこぼした成果を取り戻そうと再び動き出す。

 

【地球保全地区についての連邦調査権の修正】

 

 かつて議会で可決されながらも、マフティー動乱の決着に失敗したことから事後処理の中で実際の実地が遅れていた法案を、より強力にした法案として生まれ変わらせ、連邦議会での承認と実行を求めたのである。

 

 これに対する反動が、マフティー・ナビーユ・エリンに再び力と命を与え、再起を促す。

 かつて自分たちが阻止しようとした悪夢の再現が、かつての敵の復活を促し、第二次マフティー動乱の幕が上がる。

 それは同時に、互いの勢力を率いるものとして戦い合ったライバル達の後継者が、再び雌雄を決してぶつかり合う『意志を継ぐ者同士』の戦いでもあった。

 

 人類は幾度もの奇跡を見せられて尚、未だに何も学ぶことは出来ていない・・・・・・。

 

 

 

 

 

「ちょっと、失礼・・・」

「え? あ、はい。いいですよ」

 

 アーヴィン・ブリック中佐は、あくびを三回ほど噛み殺してから我慢できずに、一つ向かいの席に座って二十代中盤という感じの若い女性に声をかける。

 時代遅れのペーパーバックで読書を楽しんでいた彼女は、イヤな顔ひとつすることなく屈託ない笑顔で本を閉じ、ブリックが通るための道を空けてくれる。

 

 礼を言って立ち上がり、通路を足で歩いてトイレへと向かうアーヴィン中佐。

 無重力空間を航行中だからと、シートの上を流れるという行動をするのは、他の乗客に嫌われるだけというマナーは、宇宙世紀初期の頃から今なお変わることなく続いている。

 そして、それを見せて嫌われるのが連邦政府の特権階級だったならば、一軍人の昇進など簡単にストップしてしまうという伝統もまた変わり様はない。

 

 ・・・・・・いや、後者の方はより悪化したと言うべきなのかも知れない。

 いつの世でも、ルールを守らせる側の人々が、他者のマナー違反を叱責することは好んでも、自らのルール違反を注意されることを歓迎する一流の権力者という存在は希であり、大方の二流権力者達は報復措置としての厳罰を以てしたがるのが関の山なのは歴史が証明している。

 そして今の地球連邦政府の権力者達は、明らかに二流以下である。

 それはこの、数年ぶりに運行を再開された特別便《ハウンゼンⅡ》の乗客として地球までの短い旅路を同行する身となったことで、あらためて連中のゲスさが思い知らされた中佐には嫌味なほどに理解できていた。

 

「マフティー・エリンにブッ殺されちまえ、薄汚い糞共が」

 

 トイレで用を足し、鏡の前に立って背広の整えながらブリック中佐は口汚く自分の上司たちを罵倒した。

 それは彼の経歴が言わせる言葉であり、思いであったことが起因している。

 

 彼は9年前の動乱のときに、マフティー・エリンと名乗る過激な反地球連邦政府活動の団体を掃討するための作戦で責任者を務めていたケネス・スレッグ大佐の元で部下だった経験のある人物で、旧上司のことを心より尊敬し信服していた崇拝者の一人とも呼ぶべき過去を持つ人物でもあったのだ。

 

 それが動乱の終結時にテロリスト共を殲滅し損ねたことと、政府の見え透いた三文悲劇プロパガンダによる反感の増大で事態収束の機会を失わせた責任を纏めて引き受ける形で辞職願を受理されたことを後で知らされ、本気で腹を立てさせられて以来、連邦軍人でありながらも政府嫌いの最右翼として皮肉気な態度でしか彼らを見ようとしない反骨精神の塊のような人物になっていた。

 

 それが今、連邦軍上層部から急な呼び出しを受けて、『新たなるリーダーの元で復活したマフティー殲滅』のため『テロリスト達のリーダーが素性を隠して密航に利用していたことが発覚したことから安全性確保のために運行停止』を言い渡されていながら再開された、地球直行の特別便を使っての移動を強要されているのだから、不平不満や愚痴の一つや二つぐらい陰口で言ったところで罰は当たるまい。

 

「あのとき政府のアホ共が、ケネス准将の支援をちゃんとやっていたら、俺なんかに慌ててお呼びをかける必要もなかったってのにな」

 

 フンと、鼻を鳴らしながら彼は鏡に映った、かつて上官について行くことも許されなかったケツの青い新米士官が多少は男前に成長した姿を見て、唾でも吐きかけたくなる思いに駆られる。

 

 ――見た目さえ怖くなって、デカい声が出せるようにりゃいいってもんでもなかろうに・・・。

 

 そう思うのだ。それが旧師と崇めるケネス大佐の教えでもあった。

 ときに強攻策をとる恐ろしい上官ではあったものの、彼は決して不必要な凶暴性を発揮しない人物であり、そこまでやらなければ『解ることが出来なくなった連中』に現実の立場を一瞬にして思い出せる術を知っている人物の一人でもあった。

 その尊敬すべき上官と、今の自分の“見た目だけ”が近くなると言うのは彼にとって愉快なものではなかった。なんとなく自分が虚仮威しのように感じてしまい見窄らしく思えるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何になさいますか?」

「アップルジュースを果汁抜きで」

 

 カウンターに入っていた四十前後のバーテンダーは、カウンター席に取り付いてきた客を値踏みしながら聞いた質問への返答に、思わず目を軽く見開いて凝視した。

 一見すると文学趣味の令嬢のようにも見えた相手からの返事は、余りにもラフすぎて即座に反応を返すことができなくなってしまったのである。

 相手の女性はそんな彼に、穏やかに笑いかける。

 

「・・・と言ったら、怒られてしまうのかしらね?」

「いえ・・・・・・いいですよ。ですが本当に?」

「出来るなら、お願い。好きなのよ、子供っぽいと自分でも分かっているんだけど・・・」

 

 相手の表情が微笑から苦笑に変わり、バーテンダーは破顔する。

 そして、記憶にある“例の客”とも同じような会話を交わしたんだったかと、少し昔を懐かしみながら現実の現在の業務であるアップルジュース作りに取りかかる。

 

 本来の役職はパーサーをやっているバーテンダーの仕事ぶりを拝見しながら、アーヴィンの一つ隣に座って読書をしていた女性は、彼が出て行った後に移動していった先のラウンジで連邦政府閣僚のお偉方が一人の少女にお愛想を言っている光景を遠巻きに眺めながら、特になにかを思うこともなくバーテンダーがストロー付きのグラスを前に置くのを大人しく待っていた。

 

「ありがと。大変そうですね、こういう船の勤務って」

「そりゃね。偉すぎる人ばっかりで肩がこります。たまに危ない目に会う時もありますしね」

「連邦政府の特別便なのに?」

「連邦政府の特別便だからでしょう?」

 

 もっともな答えを返され、女性の方でも納得したのかストローに口をつける姿を見ながら、バーテンダーは自分も随分と神経が図太くなったものだと思わなくもなかった。

 “あの事件”に巻き込まれた時には、自分は全く上手く動くことが出来ていなかった。

 あれから別の機に移って同じ業務をこなしながら、今日再び同じ機体の後継機内で同じような仕事をこなしている自分に、感慨じみた感情を抱かずにはいられない。

 あの事件を共にしたキャビンアテンダントの女性スタッフ・・・メイスと言ったか? とは再会することはなく、今の機体に勤務しているスタッフも別の女性ではあるが、どこか運命じみたものをこの期待は持っているような気がしてならないのだ。

 

 ・・・・・・もっとも、再会して欲しい思い出ばかりではないのが人間にとっての過去であり記憶というものでもあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【パターン2の書き方バージョン】

 

『真に解脱した宗教の創始者たちでも、きわめて個人的な体験を他人に伝達することは決してできなかった』

 

 ――その言葉を言い出した人が誰であったか、歴史は黙して語ることはない。

 創始者の思いは、刻の流れと共に変質させられながら、積み重ねられた歴史の出来事ひとつひとつへの感情によって正しく理解される道が閉ざされていく。

 

 だからこそ人は、多重性と曖昧さをもって真実を伝えることはない言葉を使って、後進に想いを伝えようと努力しながらも、失敗と誤解と曲解による争いの歴史を繰り返し続けていくしかないのだろう。

 

 シャカも、マホメットでも、キリストでも、アラーだって出来なかった。

 ――新たなる人の形である新人類『ニュータイプ』と呼ばれる人たちでさえ、それは変わることはない。

 

 変えることが出来なかったからこそ、この戦いは言葉によって語られる今がある――。

 

 

 刻は宇宙世紀0113に至り、幾度かの世代と戦乱を重ねた人類は、戦乱の始まりとなったジオン共和国の自治権返還をもって、月軌道圏までを支配領域とする全地球人類の支配者として、名実ともに地球連邦政府を一年戦争前の姿で復活させる時代になっていた。

 

 だが、自らと対等なものは誰もおらず、何を犯そうとも自らを裁けるものは自分自身の良心だけという立場となり、冷静さと自制心を維持し続けられる人間は多くない。

 

 必然的な流れとして、全人類の盟主国に返り咲いた地球連邦政府は急速に腐敗の度を増し始め、かつての失敗を取り戻そうと“ある法案”の復活が叫ばれるようになる。

 

 それが自らの敵対者である、“ある敵対組織”に復活の力を与えることになるとは夢にも思わぬままに――。

 

 

 こうして外敵のいなくなった地球圏は、傷癒えた『魔女』と『予言者』の戦いに再び包まれることになる。

 

 そしてそれは、『魔女と予言者の後継者たち』による戦いでもあった。

 既存の人類は、何一つ過去から学べることは出来ていない―――

  

 

 

 

 連邦軍スレッグ・エーム大佐は、眼前にある顔に向かって不愉快そうに吐き捨てていた。

 

「ぶっさいくな面だ」

 

 用を済ませた後、トイレの鏡に映った自分の顔は面立ちこそ悪くなかったものの、深く刻まれた眉根と目付きに、性格の悪さが滲み出ている。

 地球勤務用に新調した背広の前を窮屈そうに締め直しながら、ここ数年の生活ですっかり擦れた性格が顔に出ているのを見て、これでは当分セックスフレンド以上の関係を異性に望むべくもないだろうなと、自分自身の男としての肖像を鼻で笑い飛ばす。

 

 そして呟く。

 

「連邦政府のお偉方が、大佐の功績にちゃんと報いていれば、俺なんかが出てくる必要はなかったんだよな・・・」

 

 それが彼の思いだった。

 『マフティー動乱』の後、軍を追われるように姿を消した『キルケー部隊』の司令官だったケネス・スレッグ准将は、新任士官時代の彼にとって上官だった人物で、連邦軍内で唯一尊敬できる人でもあったが、8年前に引責辞任で退役している。

 

 当時の配属先であるロンド・ベル隊の司令官は一年戦争の英雄ブライト・ノア大佐だったが、自分がケツの青い新兵であったことや、ブライト自身がケネスの退役後しばらくして軍を去っていることもあり、人柄を深く知るだけの時間を与えられることはなかった彼にとって、尊敬する唯一の上官の貢献に報いることなく保身を図ったお偉方の住まう地球勤務は趣味ではなかった。

 

 たとえそれが、久しぶりに復活した仇敵への仇討ち合戦だとしても、だ。

 

 

 かつて『マフティー動乱』と呼ばれる戦いがあった。宇宙世紀0105年のことである。

 《マフティー・エリン》と名乗る反地球連邦運動が過激化して、連邦首都アデレートの議会を強襲し、鎮圧に当たった連邦軍《キルケー部隊》と戦闘になり多数の死傷者を出した事件のことだ。

 

 事件そのものは、マフティーの指導者ハサウェイ・ノアの逮捕と実働戦力の壊滅によって、マフティー側の敗北という形で終結を見たが、事件直後に身内を多く殺された政府閣僚の復讐心から首謀者の略式裁判すら省略した処刑という、安直な見せしめを強行させたことで世論を煽る結果となってしまい、組織そのものは壊滅したものの逃げ延びた工作員たちの宣伝工作もありマフティーの思想そのものは長く連邦政府首脳の頭の痛いところとなり続ける羽目になる。

 

 だが、そのマフティーが近年、再び復活し始めている兆しが現れるようになっていた。

 切っ掛けとなったのは、【地球保全地区についての連邦政府調査権の修正案】を本格施行する意思を地球連邦が政府決定したことだった。

 

 これは法案そのものはマフティー動乱のさなかに敵MSの強襲を受けながらも議会を続行させ、多数の犠牲者を払いながらも戦闘のドサクサに紛れる形で承認させるまで漕ぎ着けたものだったが、その直後におこなったハサウェイの処刑とプロパガンダ報復により市民たちからの悪評を多く買うこととなったため、これ以上の被害拡大を防ぐため悪感情を助長すべきではないとして、半端にしか実地されぬまま棚上げにされてきた代物だったのだが。

 

 近年、発足した連邦政府の新政権がこれを復活させ、より強化したものを施行すると発表したのである。

 

「如何な理由のものであれ、総意によって決した法案をテロの脅威に覆されてはならない」

 

 というのが彼らの主張だ。正論ではあろう。

 だが、それを口にしたのが2世議員や3世たち『マフティー動乱』をテレビの向こう側としか認識しなかった世代とあっては、閣僚たちの高齢化に伴い世代交代がおこなわれた新政権の本心は明らかだった。

 

 自分たちに逆らえる者は誰もいないという驕りが、そこにあった。

 世襲議員である自分たちを侮る世間に対して、力を誇示したいという欲もあったのだろう。

 だが結果として、この行動は市民たちの反政府感情を大きく刺激し、ある一つの組織に再度の復活を促す力を与えてしまう結果を招くことになる。

 

 『マフティー・エリン』

 

 かつて新型ガンダムと共に連邦首都アデレートを瓦礫の山にするまでやってのけながらも、スレイの上司だったケネス・スレッグ大佐によって指導者が捕縛され、実戦部隊も壊滅したことから衰退していたはずの組織が復活し、近年は再び力をつけてきているのに対処するため、昔の上官と同じ立場をこなすために昇進し、急きょ地球へ下りることとなったのが彼だったのだ。

 

「マフティー・エリンにブッ殺された連中は、あの世で後継者共の行動を何と評するのかね?」

 

 皮肉気に唇の端を歪ませながら、自らの所属する組織への悪態を吐くスレイ大佐。

 地球勤務用に新調した背広の前を窮屈そうに締め直しながら、ここ数年の生活ですっかり擦れて締まった性格が顔に出ている鏡を見て、これでは当分セックスフレンド以上の関係性を女性に求めるのは無理であるばかりか失礼だなと、独身主義を標榜している彼は肩をすくめる。




書き途中の代物なので、ここまでです。
先が進めなくなって久しいのが、頭ダメな証。


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機動戦士ガンダム・キャラクター喋り方が違ってた可能性

頭スッキリ用に書いてみた2です。前に思いついて書かなかったアイデアを具現化しました。
原作キャラの『喋り方だけ』敵味方で入れ替えて、原作セリフを言わせた場合のネタ。

注:原作キャラ否定ではなく、『口調のイメージ』で言ってる内容を判断されないためのアイデアです。
良い言い方と、悪い言い方の双方を聞いた上で決めるのが、内容への評価だと作者は思います故に。


 

カミーユ・ブエル

「テメェッ! 人の心大事にしない世界は意味ねぇっつってんだろうがコノヤローッ!!

 ここから消えちまいやがれ!! ハァァッ!! 滅殺ッ!!

 本当に粛正すべきなのは、地球に居続けてる奴らだけ殺せっつってんだよ! 抹殺!!」

 

――タイプとしては似ていた、キレやすくて罵倒しやすい少年コンビ。

 

 

シン・アズラエル

「いやいや、流石はアスハ代表の娘さん。期待を裏切らないこと言う人ですねェ~。

 力は持ってりゃ嬉しいコレクションじゃあない、強力な兵器なんだ。撃たなきゃ守れないじゃないですか? この国で普通に暮らしてる人たちは。

 さぁ、分かったらとっとと撃って、早く終わらせちゃいましょう。こんな自分勝手でバカな連中が起こした戦争は」

 

――主張内容は似ていたアズラエルとシン。もっとも、アズラエルの方は本心ではなく都合のいい詭弁だとは思うけど。

 

 

シン・パナマ

「基地!? こんな所に・・・建設中か? ――貴様らにやられた囚われてた人の仇だ!

 連合の捕虜なんかいるかよ! ハハハッ!! いいザマだな、連合のオモチャ共めッ!」

 

――やってる行動内容は同じだった、SEED時代のパナマ基地攻撃隊。被害者に民間人がいるいないは違うけども。

 

 

シン・ガラハウ

「アンタは一体どっちの味方だァァァァァッ!!!」

 

――逆に言えば、キラ・ラス連合はSEED世界のシーマ艦隊ポジションではあった。厳密には違うけど。

 

 

ヒイロ・カッシュ

「――任務了解、破壊する。

 ・・・ふふふ、ははは、ハーァハハハハハハハハハハッ!!!」

 

――無口コンビで、言ってる内容的にも矛盾はない。とは言えキョウジの方はセリフと言えるかどうか・・・。

 

 

ロックオン・ガトー

「始まってしまった・・・始まってしまったか。フフ、もはや誰にも止められんのだ。

 我々の世界を革新するための戦いは、誰にも止めることはできん!!

 邪魔だァァァァァァッ!!!!」

 

――言ってる内容的には割と似ていた、ソレスタル・ビーイングとデラーズ・フリート。目指す世界も似てるから性質が悪い。

 

 

シャア・クライン

「地球を救うと言いながら、その地球に隕石を落として連邦を粛正する・・・それもまた間違った選択なのかもしれません。

 でも、どうか! 遅かれ早かれ、こんな悲しみだけが広がって地球を押し潰そうとする、連邦の果てなき負の連鎖を断ち切る力をッ!!」

 

――正義キャラ以外の悪役も出してみたシャア。隕石落としのイメージばかりで批評されがちなので、行動面や発言内容にも着目はして欲しい。弁護する気はないが、イメージ先行は嫌いだ。

 

 

シャア・シュヘンベルグ

「私シャア・アズナブルと我々ネオ・ジオン軍は、今後も地球に居続けようとする全ての人たちに武力での粛正を行います。

 世界は試されている。私、シャア・アズナブルに・・・」

 

――言ってる内容的には、デラーズ以上に似ていたソレスタルとシャア。刹那に至っては最初の主張まで似てるから性質悪い。そのために取った手段の違いで互いは別れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

番外編【装甲戦士ガンダム】

ガンダムの登場組織が、『装甲騎兵ボトムズ』風の内実だったらのIF話。

 

 

『――バナージよ、目覚めるのですバナージよ…』

 

「…うっ、あ……だ、誰だ…? あなたは……神、なのか…?」

 

『バナージよ。自らの心と向き合い、私からの問いに正直に答えるのです。

 お前は何故ユニコーンに乗り、いずこへ赴こうとしているのか――?』

 

「か、神は……死んだ…っ!

 オデッサの砂漠で…ソロモンの海、で……アクシズを廻る光の輪の中で……神、は……死んでいたッ! がっ、は……」

 

 

『――ダメですな。気絶しました』

 

【ふむ、幻覚剤が足りなかったか?】

 

『いえ、量を増やしただけでは結果は変わらんでしょう。

 この少年の心に、神はいません。あなた方と同じように』

 

【フッ……神がいないのは、貴様とて同様だろう? 地球から来た教皇猊下殿】

 

『ふふ……』

 

【だが、こうなっては仕方があるまい。

 姫様の手前、子供をイジメる様なマネは好みでは無かったが、いつものやり方で聞きだす他に手はあるまい。

 連邦からテロリストという社会的地位を保障された者らしい、いつも通りのやり方でな……(ニヤリ)】

 

 

 

―――こうして袖付きにより、厳しい拷問を受けさせられるバナージ。

ボトムズ世界では、よくある事です(マジで)



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機動戦士ガンダム・キャラクター・ヒストリー

ヒマ潰しに他のユーザー様とのメッセージの過去ログ見てたら見つけた、小ネタの会話集繋げたら一定の文字数にはなりましたので一応は投稿してみました。

…後に回すと絶対に忘れるか、探し出せなくなりますから……(経験則…)


【バナージとミネバ&ジンネマン艦長と同世代のブルーデスティニー味方パイロット】

 

*『バナージ、袖付きの捕虜の尋問に立ち合ったんだろう? どんな奴だった?』

 

バ「どうって……彼女は捕虜なんかじゃ」

 

*『俺はそういうことを訊いている訳じゃないんだ。コロニー落としなんて暴挙をやる連中が、どんな奴か知りたいだけなんだよ』

 

バ「彼女はジオンのお姫様なんかじゃありません! 俺にとってはオードリーです」

 

*『しかし、ジオンだ』

 

 

 

―――当時としては、↑コレが多数派の意見だったらしい。

コロニー落としに本人が参加してたかどうかじゃなくて、コロニー落としをやる国家の人間かどうかで、『そんな奴は人間じゃない』かどうかまで決めつけようとする考え方。

 

それがジンネマンの故郷を焼かせるに至る理由の始まり……。

 

 

 

 

 

 

 

【アクシズの時に一緒にいたらしい、イアゴ隊長とユウ・カジマ達ブルーデスティニー時代の過去】

 

イアゴ「で、では博士はザビ家ジオンの方針に反対だったからこそ、連邦に亡命されたのではないのですか!?」

 

クルスト『うむ、ニュータイプの力を研究してEXAMを完成するためなら連邦やジオンなど些細な問題。ニュータイプを殲滅しなければ、いずれ我らオールドタイプは旧人類として奴らに滅ぼされてしまう…!!』

 

 

 

イアゴ「ひ、ひええぇぇっ!? ちゅ、中尉! 助けて下さいカジマ中尉! 青いMSが! 両肩の赤いMSが私を、あああぁぁッ!?」

 

ニムバス『連邦の雑魚共は腰抜けばかりか! EXAMの素晴らしさを理解できぬ愚か者め、裁きを受けるがいい!!』

 

ビシューン!!

 

フィリップ『生きてるかぁ!? イアゴ伍長! 落ちやがれ、ジオンの一つ目野郎共が!!』

 

イアゴ「た、助かった……って、ふごぉっ!?」

 

フィリップ【よぉ、無事だったみてぇだな。とっとと便所いって来いよ、“オモラシ伍長”】

 

イアゴ「お、俺は漏らしてなんかいません!!」

 

 

……時は過ぎ。

 

 

イアゴ『…ニュータイプの力が手に入るとなると、また人は手を出そうとしてしまう…』

 

 

 

―――色々ありまくった事で深いセリフにはなったが、微妙に恥ずかしくもあるイアゴ隊長の、時期的にはありえなくもない過去話(苦笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

【イアゴ新兵・一年戦争を生き残る編】

 

イアゴ『か、閣下!? そ、それではジオンだけでなく味方まで…っ』

 

イーサン【誤解するなイアゴ君。私はなにも味方の兵を故意に死なせろ、などと命じている訳ではない。だがMSの核融合炉の爆発事故はままあることで防げるものではない。…違うかね?】

 

イアゴ『し、しかしコジマ大隊長殿も、その命令は受領できないと…』

 

イーサン【彼は彼、君は君だよイアゴ君。彼と違って君は、快適なクーラーのない駐屯地へ戻れるポストは持っていないのだからね。…私からの手紙を届けて欲しいジャブローのオフィスは快適だよ…?】

 

イアゴ『~~~~ッ(ガクガクブルブル)』

 

 

……その後、時は流れ。

 

 

イアゴ【お前、今の生活をどう思う?】

 

部下『この仕事いつまで続けられんのかって思いますけど、この先まだまだ続けていくのかって思うと、オエッても来ますね』

 

イアゴ【フッ……俺もさ】

 

 

 

 

―――格好良く言ってるけど、綺麗事じゃ生きていけなかった一年戦争時代の貧民出身、下っ端一般兵士のイアゴさん♪

 

 

伊達じゃないニュータイプ兵と違って、貧乏人出身の一般兵士は生きてくために汚い綺麗なんかに拘っていられない! 死んでしまう! だから憧れる生まれながらに特別な新人類ニュータイプ!!




誰でも若い頃や新人時代は、大体こんなもんから始まってるもんだと作者は思う。
序盤から結構できてしまうのは、ニュータイプとかの戦争が超得意な種族だけ……だから求められる要求がバカ高くなっちまうのでしょうけどねぇ……。

持つ者の辛さと言っていいのか悪いのか……(微)


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機動戦士SDガンダムSEED

活動報告に寄せてもらった意見の中で、【現実視点で見るとツッコミどころ満載】というのがありましたので書いてみました。
ただし正確には、過去に仲のいいユーザー様との会話中に書いたネタを寄せ集めただけですので、本気にはしないでくれると助かります。マジで本当に(ガチ)

尚、タイトルに意味はありません。ギャグっぽいってだけが命名理由。


*この話は原作キャラクターの主張を、ギャグっぽい言い方で言ってた場合のギャグ話です。

 

 

 

カガリ

「ダメだダメだダメだ! 冗談ではない! なんと言われようが、今こんな同盟を締結することなど出来るか! 大西洋連合がなにをしたか、お前たちだってその目で見ただろ!?」

 

ユウナ

「そのような子供じみた主張はお辞めいただきたい。ではオーブは今後どうしていくと代表は仰るのですか? この同盟をはねのけ、地球の国々とは手を取り合わず、宇宙に遠く離れたプラントを友と呼び、この星の上でまた一国孤立しようというのですか?」

 

カガリ

「そうは言っていない! だが・・・だがしかし!

 連合と同盟するのはイヤだが代案はなく、現状では同盟締結しないとオーブが再び攻め込まれるのは分かっているけど、オーブの理念も捨てたくなくて、前と同じ戦争繰り返さない術はなにも思いついてないけど、再びオーブを戦渦に巻き込む恐れのある道を選ぶ奴らはバカだ少しは考えろと罵りたい気持ちの問題というものがあるんだ!!

 ――分かるだろう!?」

 

セイラン親子

「「分かるかァァァァッ!?」」

 

カガリ

「ヘブシッ!?」

 

 

 

 

ラクス

「ザフト連合、両軍に命じます! 今すぐ戦闘を停止し――戦争をやめて~♪ 両軍を止めて~♪ 世界の~ために~♪ 争~わないで~♪ もうこ~れ~以上~♪ 戦争を止め」

 

キラ・クル

「「うぜぇぇぇぇぇっ!!!」」

 

ラクス

「アヘッシ!?」

 

 

 

 

マリュー

「中立だと叫んでいれば、戦争に巻き込まれずに済むとでも思っているの!? ――私たち連合が巻き込んだんだけれども!!

 大西洋連合が核撃ち込んで始まった戦争だから自己責任なんだけれども! それでも!

 私たち大西洋連合とユーラシア連邦がこのままだと負けてしまう危機的戦況となった以上は、中立だなんだと叫んでいれば戦渦に巻き込まれずに済むことはあり得ないのよ!

 分かるでしょう!? 大国の理屈なんて、そんなものよ!」

 

 

 

 

アークエンジェル・クルー達

「チッ! なにが中立だよ・・・この船をヘリオポリス内で造ってたのはオーブじゃないか・・・!

 まぁ正式に連合に参加されてたら造ること自体ムリだったけれども! それでも言いたい! 俺たちが今ピンチだから!

 俺たちが助かる理屈はすべて正しく、俺たちを見捨てる理屈はすべて間違っていると主張する権利が俺たちにはあると信じるのが、下っ端の正義!!」

 

 

 

 

クルーゼ

「連合のモビルスーツを密かに造っていたコロニーの、どこが中立だ?

 ――まぁ、そんな証拠は何一つないまま攻め込ませて、結果的にGが出てきたから最初から分かっていたことにしたのは私なのだが・・・・・・こういうのは言った者勝ちなのだよアデス、ふふふ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ新作告知? 

 

『機動戦士ガンダム・ユニコーンZ~ラプラスの箱の伝説~』

 

 

フロンタル

【サイド共栄圏の実現など、金と戦力さえあれば幾らでも可能になる!

 だが、シャアのコピーとして生まれ持たされた私の苦悩を消し去ることはラプラスの箱を手に入れねばできん!

 その為なら幾ら金を掛けようと構わん! あの小僧を倒せ! 倒した者には給料の三倍、いや五倍払おう!

 ボーナスのため奴を倒し、ラプラスの箱を奪って私の生まれ持った肉体の苦悩から解放させるのだ――ッ!!】

 

 

アンジェロ

【オーッホッホ! 小生意気な! あなたのようなお子様が、この私に勝てるとでも思ってるの!?

 このアンジェロ様が操るローゼン・ズールの超能力の恐ろしさを、たっぷりと思い知らせてあげるわ!】

 

アンジェロ

【…卑怯? 良い響きの言葉…♡

 あなたを倒してラプラスの箱を手に入れたら、フロンタル様から沢山ご褒美をいただけるわ。私は大金持ちになれるのよ! オーッホッホッホ、オホホホホ~ッ♪】

 

 

フロンタル

【ふっふっふ……既に我が袖付き軍のレーダーは、ユニコーンが示すラプラスの箱の座標を把握した……殺せェ!】

 

アンジェロ

【いいこと!? ラプラスの箱の位置が確定した以上、作戦に失敗の二文字はないわ!

 襲うのよ! 奪うのよ!! 滅ぼすのよッ!!!

 もし私の顔に泥を塗るようなことをする者がいたら……みんな死刑! わかった?】

 

 

 

 

 

 

作中テーマ曲:『袖付き軍アーミー』

 

 

~赤いマントを血の海に染め、地球に魔の手が忍び寄る

 野望を~、映すスクリーン

 見つめて笑う総帥、フロンタ~ル

 

【ふっふっふ……】

 

 アンジェロ! ガーベイ!! ギリガン!! 空を、焦がす……

 ロニ! マリーダ!! ジンネマン!!! モビルスーツ部隊~

 

 未来のすべて~、征服すれば~

 気高いプライド、満たされる~

 

 ソルジャー! 袖付き軍~ 宇宙を恐怖のドン底に落とす

 ソルジャー!! 袖付き軍~ 地獄から来た悪魔たち!!

 

 袖付き軍~アーミー♪~~

 

 

 

 

 

 

 

……やってる事と目的と、兵士たちが参加した理由と、総帥が生まれ持ってる事情とかが動機の辺りは【レッドリボン軍】が一番近い気がしたので、無印っぽいノリで書き直してみるのも良いかなと。

そんな解釈をしてみた場合の、使い捨てネタでした。



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正規版・戦記好きがキラ・ヤマトに憑依転生 第4話

久々に書きました&書けました! 戦記好きキラSEEDの最新話です。
最近色々ありまして……。

ただ書いてて思ったのですが……私ってガンダム書くにはSEEDが一番相性いいのかなーって。半ば専門にしちゃった方がいいのか少し悩み中…。


 ――その日が訪れたのだという証明は、僕は激しく揺れる振動という形で告げられることになる

 

「キャアっ!?」

「隕石かッ!?」

 

 ドォンという、遠くから聞こえたからこそ小さな爆発音に少し遅れて、教授のラボ内で作業中だった僕たちは激しい揺れに見舞われた。

 備品が倒れて、支えられるものがなかった人は近くにあったものに取り付くことで転倒を免れる。

 僕自身も操作していたパソコンデスクへ前のめりになり、危うく頭からぶつかりそうなところを寸でで堪えて負傷を免れたけど・・・・・・隣に座って作業をしていたサイと違って、この揺れを隕石の衝突事故と思うことは不可能な事情が僕だけには――いや、僕と“彼女”だけは持っていた。

 

「な、なに・・・なんなの!?」

「分からないけど・・・・・・とにかく屋内に留まるのは危険だ、外に出よう」

 

 そう言って比較的冷静さを保っていたサイが、普段通りのリーダーシップを発揮して部屋の外に出てエレベーターを目指し、みんなが彼に不安げな表情で付いていく。

 僕も、その中の一人として普通の行動をとらざるを得ない。

 

 たとえ、この後に起きる展開が分かっていても、“彼女が動き出すまで”は動くことが出来ないからだ。

 偶然の流れ弾だろうと、彼女の身になにかあったら未来の歴史に支障が出すぎるから、目を離すわけにはいかなかったから・・・っ。

 

「どうしたんです? 何があったんですか?」

「知らんよ。どーせ隕石の衝突か工場区画で事故でも起こったんじゃないのか?」

 

 非常階段に入ったとき、階段を下から上がってきている途中だった職員の一団と遭遇したサイが、手近に来た一人に声をかけたけれどぞんざいな口調であしらわれただけで碌な状況説明は得られなかったけど、続いて上がってきた別の職員の人は緊張し切った表情を浮かべながら、

 

「ザフト軍に攻撃されてるんだ! コロニーにモビルスーツが入ってきてるんだよ! 君たちも早くシェルターに避難しなさい!」

 

 焦った口調で教えてくれた、先の人より詳しい情報と避難指示とのギャップから、僕は自分の中で危機感の上昇と油断していた自分の甘さを激しく後悔させられることになる。

 

 ・・・・・・原作を見ているときには、そこまでとは思ってなかったけど・・・実際に当事者としてヘリオポリスの内側からザフトの攻撃を受ける人たちを見せられると、アニメとは全く違った現状の危機的状況が理解させられずにはいられなかったからだ。

 

 ――同じ職場の職員同士でも、情報が共有されていない・・・っ。

 なぜ自分たちが逃げているのか分かっている人と、分からずに指示されたから逃げてるだけの人との差が激し過ぎるんだ・・・! 

 後に本島を侵略されたときもそうだったけど、オーブ関連の施設は避難勧告を発令するのが遅れやすい悪癖は、こういう時に生き死にを左右する重要な要素だっていうのに!!

 

「なっ!? ・・・・・・クソッ!」

「あ、カ――きみっ!!」

 

 目の前で思い知らされた現実とフィクションとの違いすぎる差を目の当たりにして、備えているつもりでいただけだった自分にショックを受けている一瞬の隙を突かれるようにして、教授を訪ねてきていた金髪の客人の“男の子のような女の子”が、僕たちの輪を離れて工場区へと続く通路に向かって走り始めたのを見て、慌てて僕も彼女の後を追って走り始める。

 

「キラッ!? 危ないぞ! どこへ行く気だッ!?」

 

 そんな僕に背後から、トールが強い口調で呼び止めようとする声が聞こえてきた。

 おそらく警戒を緩めてしまった一瞬の隙に走り出したのを、慌てて追いかけたからなんだろう。

 僕の動きはあまりにも突発的で余裕がなく、彼らの目にも映ったらしい。トールと一緒にミリアリアまで足を止めて心配そうな瞳で見つめてくるのに対して、僕は思わず「すぐに戻る」と答えそうになってしまい、ギリギリのところで精神と肉体に冷静さを取り戻すことに成功することができた。

 

 それは後の展開を思い出した故でのことだった。

 この後の紆余曲折を経た末、僕が操作することになる《Xー105ストライク》と《モビル・ジン》との戦闘中に、サイやトールたち友人一同はなぜか退避シェルターに行かず、あるいは空いている所を見つけられずに町の中を彷徨っていたせいで巻き込まれかかる運命にあるのを思いだしたのだ。

 

 そうなっていた原因が、もしかしたら僕から「すぐ戻る」という言葉を言われたせいで、友人を待ち続けてしまったせいで避難が遅れたからだった可能性があることに思い至り、咄嗟に別の言葉で説明する必要性を感じたのが理由だった。

 

 原作におけるキラ・ヤマトと違って、今ここにいる僕は自分が戻って来れないことを知っている。だとしたら最初から、戻ってこないが避難はすると納得できる説明にした方がいい。

 

「あの子だけを、放っておけないよ!!」

「だけど、お前――ッ!!」

「大丈夫! あっちの工場区にもシェルターはあるから! トールはミリアリアを退避シェルターに急いでっ!!」

「~~っ!! 分かった! 怪我なんかするんじゃねぇぞ!!」

 

 状況的に僕を追っていきたいけど、恋人のミリアリアを放っておく訳にはいかないし、名前は知らなくてもカガリの事だって心配にはなるだろう心優しい友人の善意を利用するような言い分に、『キラ・ヤマトの肉体』が激しい嫌悪感を僕に与えてくるけど・・・・・・僕はかまわず走り出して彼女の後を追い続ける!!

 

 

 

「きみ! 何してるんだよ! そっちへ行ったって・・・っ」

「なんで付いてくる!? そっちこそ早く逃げろ――ウッ!?」

 

 僕は先行していた相手に追いつくと、腕を掴んで足を止めさせながら原作通りの言葉を紡ぐ。

 とはいえ言った言葉の内容そのものは方便だ。この会話の直後に僕たちの背後から爆発による爆風が生じることを、原作を知る僕は知っている。

 全力で走りながら、追い風の激しい突風に見舞われるのは危険極まりない。ましてスーパーコーディネイターの肉体を生まれ持たされた僕ならまだしも、彼女はナチュラルなんだ。

 僕としては走っている彼女を止められる口実だったら、何でもよかった。

 

 ・・・・・・そのせいなのだろう。ついつい、目の前で初めて露わになったリアルな金砂の髪と、間近に同年代の少女がいるというシチュエーションに、そんな場合ではないと知りながらも肉体は素直に反応してしまって・・・・・・この言葉を吐いてしまっていた。

 

「お・・・おんな・・・・・・の子?」

「――っ、なんだと思ってたんだ今までっ」

 

 鋭い視線で睨まれながら、至極まっとうなことを言われてしまって思わず反論に困る僕。

 いや、この場合反論する必要なんてないって言うか、全面的に僕が悪いんだけど・・・・・・いや、そうじゃなくて、そういう場合でもなく――ああ、クソッ!

 前世の自分も、今生のキラ・ヤマトに生まれ変わってからも、同世代の美少女と間近で過ごした経験がない思春期男子の肉体が邪魔して思考が集中しきれない!!

 

「大体なんで付いてきたんだ、お前は! いいから早く行けっ!」

「行け・・・・・・ったってどこへ? もう前にしか行ける道は残ってないよ」

「・・・・・・っ」

 

 咄嗟に口をついて出ただけの、言い訳じみた言葉だったけど相手にはそれなりに有効だったらしく、一瞬だけ口ごもって黙り込み、僕の目をジッと見つめながら黙り込んでくる。

 

「え、えっと・・・・・・とりあえず、ほら。こっちへ!」

 

 なんとなく居心地の悪さも感じさせられてしまうようになっていた僕は、少しテンパり気味な自分を自覚しながらカガリの手を掴んで工場区の奥へと続く道へ――彼女と僕が行きたがってる方へと誘導する。

 

「離せ! このバカ! 私には、確かめねばならぬことが――!」

「だったら僕もついて行く! 女の子を一人でなんて行かせられないよッ!」

「お・・・おん、なッ!?」

 

 相手に同行を受け入れさせるため、よくあるセリフで口ごもらせて大人しくさせる。

 ジゴロ臭いと自分でも思わないわけじゃないけど、まさか未来を知っているからと言う訳にもいかない以上、面倒ごとを避けて目的地まで急いで到着するには、これぐらいしか思いつかなかったから・・・っ。

 

 ・・・・・・ただ走ってる途中で、最初は戸惑いながらだったカガリの抵抗が弱くなり、代わって涙声が混じり始めた嗚咽が聞こえだすと、さすがにイヤな思いが胸に去来せずにはいられなかった。

 

「――もう遅いのか・・・!? こんなことになってはと思って私は、ここへ来たのに・・・・・・!」

「・・・・・・」

 

 

 ――こういう時、何も知らないからこそ的外れな慰めを口にできてた原作におけるキラ・ヤマト本人が、少しだけ羨ましく感じずにはいられない。

 無責任な気休めや、無意味な慰めでしかないと知っていれば言えなくなる言葉や優しさが、世の中には多すぎるんだと言うことを、僕はキラ・ヤマトとしては今生において初めて実感させられていた。

 果たしてこの気づきが、僕とキラ・ヤマトの運命を変えてくれるのかどうか、代わった運命は吉と出るか凶と出るかは・・・・・・まだ出目次第の域を出ていない状況だったけれど――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ヘリオポリスを襲撃したクルーゼ隊は、順調に作戦スケジュールを消化しつつあった。

 モルゲンレーテ工廠への搬入口や、軍施設を含めたコロニー内の景色を一望できる丘の上に立てられた建造物の前で、赤と緑のノーマルスーツを身にまとった一団が望遠スコープを覗きながら戦況を観察していた。

 

「――アレだ。クルーゼ隊長の言ったとおりになったな」

 

 冷徹そうな口調で言ったのは、彼らを率いる幹部クラスの少年『イザーク・ジュール』だった。

 冷たく整った顔立ちが怜悧そうな印象を与える反面、プラチナブロンドの真っ直ぐ切りそろえられた髪型からは神経質そうな印象を受けなくもない。

 

「“つつけば慌てて巣穴から出てくる”ってヤツ? はは、確かに」

 

 イザークの声に合わせるように、浅黒い肌の少年『ディアッカ・エルスマン』も皮肉気な笑みを浮かべながら、友人でもある同僚から敵への評価に同調を返す。

 

 ザフト軍でエースの証と認められている赤色のノーマルスーツをまとった彼らも、その背後に控えて敵襲を警戒している緑色のスーツを着た兵士たちも皆、若い。

 最年長でも20代半ばに達している者は一人もおらず、最年少の赤服パイロット『ニコル・アマルフィ』に至っては15歳でしかない。

 

 一般的な軍隊であれば兵役にさえ含まれない、子供として扱われることが多い少年兵たちだったが、知力・体力の基本レベルが高いコーディネイターの社会では成人と見なされる年齢なのが今の彼らであった。だからこそ軍に志願して手柄を立て、士官になることを許された現在がある。

 

 が、それ故に自らの成功を誇って、敵を見下したがるプライドの高さが鼻につくことも少なくはないのが、彼らの欠点でもあっただろう。

 

 彼らと同じ隊に所属する『アスラン・ザラ』などは、明らかに同世代の同僚二人を苦手として敬遠していた。

 精神的な圭角が、鋭く表面的な言動に出過ぎるタイプなのである。

 

 特にイザークは彼をライバル視して、ことあるごとに突っかかってきては言葉でやりこめようとする部分があり、言葉によって自己の上位性を周囲に認めさせようとする悪癖があるのだ。

 パイロットとしての腕は一流なのだが、他者の失敗をえぐるような一面が、彼らの印象をやや暗いものへと、アスランに感じさせていたようでもあった。

 

「そういうことさ。やっぱり間抜けなもんだ、ナチュラルなんて」

 

 侮蔑する口調で冷たく言い放ちながら、イザーク・ジュールは手元の発信器のボタンを押す。

 彼らの背後にある建物の内部では、オーブ政庁の制服を着た職員たちや、少数ながら連合軍の軍服を来た兵士たちが事切れて、敵に制圧された監視所の情報を送ることもできぬまま物言わぬ屍を晒していた。

 

 崖と森の狭間に設置されて偽装された施設から、眼下に臨む施設の一つから巨大なコンテナを積載したトレーラーが出てくる光景をズームアップされたものが、イザークたちのスコープには映し出されている。

 それが3台も続けて。

 護衛の戦闘車両というオマケ付きで。

 これだけの大型車両が短時間の間に続けて何台も出てくる光景を見せつけられれば、イザーク達でなくとも何かを慌てて運び出そうとする搬送作業中であるのは一目で分かる。

 

 しばしの後、スコープの中に映っていたモルゲンレーテ工場区のあちこちから爆発が生じて誘爆し、炎上する施設や鉱山内部の岩盤が崩落する姿が視界に映し出される。

 彼らが来る途中で仕掛けていた爆弾のカウントダウンが0になり、予定通り爆発連鎖して、モルゲンレーテに配備されていたらしい偽装した連合兵とおぼしき作業員たちを混乱のただ中へと突き落とすことに成功したのだ。

 

 その爆発と前後して、港を突破した味方のモビルスーツ《ジン》もヘリオポリス内へと侵入を果たし、発信器によって位置を伝えたトレーラーの搬送部隊への攻撃を開始した。

 

「よし、敵の混乱に乗じて突入する。白兵戦で突破して連合のMSを奪取するんだ。

 味方の攻撃に巻き込まれて死ぬ、ナチュラルみたいな間抜けぶりを晒すなよ!」

 

 タイムスケジュール通りの展開にイザークは勝利を確信しながら、突入時期が訪れたことを味方に伝えて、威勢のいい応答に笑みを浮かべる。

 

「運べない部品と工場施設はすべて破壊しろ。

 それと各自搭乗したら、すぐに自爆装置を解除するのを忘れるなよ!」

 

 そんな間抜けは味方にいるはずがないと思いながらも、念のため今次作戦の最重要部分について念を押す。

 

 ただ連合兵たちが工場内から運び出してきたモビルスーツを力ずくで奪うだけなら、彼ら潜入部隊だけでも出来ないことはない。だが、それでは時間がかかり、敵に対応策を考える余地を与えてしまうことにもなるだろう。

 敵に奪われるくらいなら自爆する・・・・・・敵にその手を選ばせないためにも、まず混乱を起こしてからモビルスーツ隊で強襲をかけ、秩序だった真面な対応など出来ない状況へと追い込むのが彼らが行った破壊工作の主目的だったからだ。

 

 ――だが・・・・・・そんな彼にも懸念事項が一つだけ存在してもいた。

 

「報告では5機あるはずとの事だったが・・・・・・あとの2機は、まだ中に残ったままということか?」

 

 個人用の小型バーニアを吹かせて空中浮遊を開始させ、敵輸送部隊へと発砲しながら接近しつつ、イザークはスコープで覗いていたときから気になっていた懸念事項が現実だったことを確認して、多少の不安を感じさせられていた。

 

 なにしろモルゲンレーテの地下工場は、自分たちが仕掛けた爆弾で岩盤が崩され、瓦礫の下敷きに埋まり始めている。

 今すぐ完全に崩壊するというわけではなかろうが、万が一にも化石となったモビルスーツの発掘作業などやらされるのは御免被りたいところでもあったのだ。

 

 そんな彼のヘルメット内に聞き慣れた、だが多少勘に障る声が静かに響いてきたのは、その時だった。

 

『俺とラスティの班でいく。イザークたちは、そっちの3機を任せていいか?』

 

 ――アスラン・ザラ。

 士官学校時代から自分より一つ上の数値を出し続けてきた、同世代の少年エースパイロット。

 彼としては意識せざるを得ない存在であり、自分の母親も相手の父親もプラント評議会の議員であり、主戦派の政治家同士。

 挙げ句の果てに、自分の母親は主戦派のエザリア・ジュール議員で、アスランの父親は主戦派の筆頭として次期評議会議長候補と呼び名も高いパトリック・ザラなのである。

 

 政治的には、政治家の息子であっても安全な後方で守られ続けることなく、前線で兵士たちと苦労を共にしていると、能力主義に基づく公平性を国家も遵守していることをアピールする効果があったが、それを行う当事者たち自身は組織の合理的判断だけで自分たちの感情を抑えきれるほど精神的な成熟を身につけることは出来ていなかった。

 

 これは、知力や体力の優劣とは関係のない問題だからである。

 だがザフト軍とプラントの政治システムは、この問題を軽視していた。知力の高さで補いがつく類いの判断を、精神的成長の速さ故と誤認していたからだ。

 

 コーディネイターたちは確かに、理性的に判断できる限りにおいて独自の判断により、他者からの指図なしでも動くことが可能な能力を有してはいる。

 

 だが、そもそも精神的成長が求められるのは『感情的にならざるを得ない事態に直面した時』であって、感情に駆られていない平常心で行えるときの判断が如何に冷静沈着で優れていようと意味はなかったのだが・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、ザフト軍に襲いかかられた側の連合軍を指揮する者たちにとって、ザフト軍隊長ラウ・ル・クルーゼからの酷評は些か不本意なものであったかもしれない。

 

 

「――ラミアス大尉! 艦との通信途絶、状況不明!」

「くっ・・・、やはりザフトに!」

 

 作業服を身につけた男性が、軍用の回線でアクセスし続けていた結果を絶望的な声で、自分たちの現場監督に報告を上げ、それを受けた栗色の髪の女性現場監督は悔しげに歯がみしながらも、激変した戦況に対処する術が見いだせず身動きが取れなくなってしまっていた。

 

 彼女たちは、モルゲンレーテ工場に勤める作業員と同じ作業服を身にまとい、オーブ政府発行の公式な身分証も所持してはいたものの、実際の身分は一人残らず大西洋連合の軍人たちであり、地球連合第八艦隊に所属する正規軍の兵たちだった。

 

 オーブ政府と――正確には、オーブ政府の一部と結託して極秘裏に連合軍初のモビルスーツ開発計画と、それを運用するための母艦建造計画に初期から参加していたスタッフたちであり、こと開発と整備と輸送などの業務には相応以上の実績と自信を有する後方支援のプロたちが彼らであったのだ。

 

「・・・やむを得ないわね。Xー105と303を起動させて! とにかく工場区から出すわッ!!」

「分かりました!」

 

 意を決して、表向きは現場監督ということになっている、この部隊の女性指揮官『マリュー・ラミアス大尉』は、完成したばかりの秘匿兵器《Xナンバー》のモビルスーツたちの中で、まだ工場内から運び出すことが出来ていない残り2機を起動させ、自力で移動させることを部下に命じた。

 

 彼女としては、OSが未完成な上にモビルスーツ操縦の訓練を受けたパイロットたちが到着していない状態で、作ることは出来ても動かすことなど考えたこともない自分たち整備要員が起動させたところで満足に歩かせることすら出来ないだろうと決断を躊躇っていたのだが、事ここに至ってはやむを得まいと腹をくくることに決めたのである。

 

 だが、どちらにしろ今さら手遅れだったことは言うまでもない。

 なぜなら彼女の判断は、自分たちが《Xナンバー》を乗せた偽装トレーラーが、敵に察知されていないことを前提として考えられたものだったからだ。

 既にバレてしまっている以上、敵に狙われる美味い獲物を増やすだけでしかなく、手元にある3機を起動させて1機でも脱出させる道に賭けた方が、まだしも気の利いた判断だったと言えるかもしれない。

 

 だが、その責任を彼女に求めるのは酷というものでもあっただろう。

 なにしろ彼女が指揮していたXナンバーの移送作業は、モルゲンレーテ工場内に置かれたアークエンジェル建造施設内にある指令ブースから届けられた艦長からの最後の命令を実行しようとする途中だったからだ。

 

 それが、この混乱する状況を招いていた一番の原因でもあった。

 地下深くの穴蔵から、全体への指揮などするべきではなかったのである。

 

 せめてヘリオポリス全体の状況を見渡せる中央管制センターに、現場の最高位士官だけでも常駐しておくべきだったのだ。

 それをオーブ軍はオーブ軍、連合の指揮は連合がという、所属別の指揮系統をそのまま持ち込んでしまったせいで、ヘリオポリスに存在する連合オーブ両軍は部隊ごとに情報面で孤立してしまう羽目に陥り、なにが正しい最新情報なのかさえ分からぬまま目の前の事態に対処するだけしか出来ることがなくされてしまっていたのである。

 

「それに空襲警報まで響いてるってことは・・・・・・危ない、みんな伏せてッ!!」

「え? たい――う、ウワァァァッ!?」

 

 ダダダダダッ!!!

 低空飛行で滑空するような飛び方をしながら、ザフト軍のモビルスーツ・ジンが自分たちの頭上10数メートル程度の高度を素早く飛び去りながら、下方に向けて右手に持ったマシンガンを乱射し、幾つかのダミー用のコンテナと牽引用のトレーラーが破損し、その被害と敵からの銃撃に巻き込まれた部下たち数名が肉片となって周囲に飛び散る。

 

「ザフトの・・・っ!!」

 

 地に伏せて、なんとか初檄を生き延びることができたラミアス大尉が、悠々と空を征く巨人を憎々しげに見上げながら、吐き捨てるように声を上げるが―――再度の降下と二撃目はなかった。

 

 だが、その事実は彼女を安心させてくれるものにはならず、むしろ冷たい不安が背筋を辿って心胆を寒からしめる理由となってしまう。

 

 この動きは、まさか―――そう思った彼女の予測は、不幸なことに部下からの報告によって肯定されることになる。

 

「た、大尉! ザフト軍のノーマルスーツ部隊がッ!?」

「なんですって!? やはり敵の狙いは・・・っ」

 

 部下の一人からの悲鳴じみた声を耳にした瞬間、空を見上げた彼女の視界に、数名の赤色のノーマルスーツに導かれるようにして、緑色のノーマルスーツを着た集団が自分たちに向かって空から襲いかかるため接近しつつある姿が目に映ったのだ。

 

「くっ・・・迎撃! 総員、白兵戦用意!!」

「り、了解ッ!!」

 

 上官からの命令に一瞬だけ躊躇する気配を見せた後、移送作業中だった連合軍人たちは銃火器を肩から下ろして、敵に向かって砲火を浴びせ始める。

 

 だが、機先を制されている上に心理的に追い詰められた状態で、正確な射撃など満足にできるものではなく、もともと後方支援が主任務だった者が大半の彼らに白兵戦など「やれ」と命じたところで急には出来るようになるものでもない。

 次々と撃ち倒され、残った者も個々の判断に応じてバラバラに行動し始めてしまい、まとまった迎撃火線や統制射撃など夢のまた夢の有様。

 

 ジンからの援護射撃でミサイル車両も破壊され、一瞬で粉砕されてしまったトレーラーの護衛部隊は敵部隊の侵入を許すしかなくなってしまい、コンテナに残されていた《Xナンバー》たちも敵に奪われる惨状を呈することになる。

 

「チィッ!! ここはもう駄目よ! モルゲンレーテ工場内まで後退して体勢を整えるわ!

 《Xー102》《103》《207》は遺憾ながら全て放棄! 総員後退しなさい! 急いでッ!!」

 

 戦況不利と見て取ったマリューは、残存戦力もしくは生存者たちに呼びかけながら後退を指示すると、自分は真っ先に出てきたばかりのモルゲンレーテ工場のシャッター内へと全速力で走り始める。

 一見すると無責任にも見える行為だったが、こういうとき誰かが率先して動かなければ自分の意思で動こうとする者はほとんどいないのが人間の現実だった。

 実際どうすればいいのか分からぬまま、命令に従っても大丈夫なのかさえ不明な状況下で不安に怯えて動くに動けなくなっていた兵士たちも、最高位のマリューが後ろを向いて真っ直ぐ逃げ出す姿を見せられれば、即座に後を追いかけ始める者が続出し、結果的にそれなりの数がモルゲンレーテ内へと逃げ込むことが可能となっていた。

 

 それぞれが連合軍から奪取したモビルスーツを、母艦であるヴェサリウスに持ち帰ることを優先したという事情もあり、シャッターが再び閉ざされた工場内へモビルスーツ部隊で連合軍の残存部隊が追撃されることだけはなかった。

 

「いいんですか? イザーク。彼らはあのまま放置しておいても・・・」

「別にいいさニコル。既にアスランとラスティの隊が別口から潜入してるんだ。あの程度の連中ぐらい、あの二人なら片手で捻り潰すだろうさ」

「そーそー。あんま手柄横取りしちゃ可哀想だしな? オレたちはオレたちでクルーゼ隊長からの命令を全うすること優先するのが軍人として正しい道ってヤツなんじゃねぇノ~」

「・・・・・・」

 

 イザークとディアッカから揶揄するような口調でからかわれ、最年少の赤服エースであり少女めいた美貌を持つ『ニコル・アマルフィ』は不機嫌そうな表情になって沈黙したが、反対や反論まではしなかった。

 ただ心の中で、この場にいない二人の同僚の作戦成功と無事な帰還を祈るだけだ。

 

(アスラン・・・・・・)

 

 そう心の中で呼びかけながら、イザークの号令のもとニコルたち連合モビルスーツ奪取班は作戦を成功して悠々と母艦に帰投。彼らにとって最初の作戦は、この時点で終わりを迎えることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ここまでの流れを見れば一見して、ザフト軍だけが一方的に連合軍を手玉にとって、自分たちの作戦通りに事を運んでいるようにしか、見えなかったかもしれない。

 だが戦場というものは、何が起きるか分からない場所であり、予想外のことが起きてしまう特殊な空間でもある。

 

 実のところザフト軍側でも、想定外だった事態が生じつつあり、それによって生じる問題について旗艦のブリッジ内で艦長と隊長が対応策の協議を行っている真っ最中だった。

 

 

「全体として我が軍の優勢は動かしようがありませんが、予想以上に敵は抵抗を諦めません。このまま行っても最終的な勝利が我が方に帰することは確実でしょうが、しかし・・・」

「・・・・・・」

 

 旗艦ヴェサリウスの艦長アデスからの躊躇いがちな問題定義に、クルーゼ隊の隊長であるラウ・ル・クルーゼは答えることなく無言を貫く。

 

 答えようがなかったからである。

 

 このまま戦闘が継続しつづければ、いずれ月基地なりヘリオポリスそのものからオーブ本国へ連絡が行き、オーブからプラント評議会へと正式な抗議と戦闘停止を求めてくる事態になるのは明白だ。

 そうなると、穏健派にして講和論者でもあるシーゲル・クライン議長は、オーブからの要請を無碍にはしないだろうし、国防委員長のパトリック・ザラも現段階でクライン議長と明確に対立するのは避けたいところでもある。

 

 そうなると、クルーゼとしてはプラント本国からの戦闘停止命令を無視し続けることは難しく、また自分の立場を不利にする要因にしかならなくなってくる可能性が非常に高い。

 

 オーブは確かに中立国でありながらも、ヘリオポリス内で密かに連合のモビルスーツ開発に手を貸していた。

 これは間違いなく条約違反であり、オーブ側の一方的な過失によるものではあったが・・・・・・ただ一方で、それを示す証拠があった上でヘリオポリスを攻め込だかと問われれば、実は無いのがクルーゼの立場でもあった。

 

 無論ヘリオポリスからは実際に、《Xナンバー》というオーブの中立違反を示す物的証拠が出てきているはいる。

 だがそれは結果論であって、証拠もなく見込みだけで攻め込んで証拠が出てきたのだから、正規の手順など踏む必要は無いのだ――という言い分が通るのであれば、端から中立違反など問題視する理由の方が正当性を持たなくなるだけでしかない。

 

 プラント評議会からの回答も攻撃命令も待たずに、独断でヘリオポリスへの攻撃を強行したという負い目もある。

 

 何かしらの理由と、手柄が必要な事態になりつつあったのだ。

 何かしら、免罪の口実となり得る理由と、自分の行動をザラに事後承諾で許させるだけの餌となり得る美味な手柄が・・・・・・。

 

 

 そんな時だった。

 旗艦ヴェサリウスのCIC担当が、驚いた声で上官二人に報告をあげてきた。

 『味方の敗報』という報告をである。

 

 

「オロール機大破、帰投する模様です」

「オロールが大破だと!? こんな戦闘でか!?」

「・・・・・・どうやら些か、うるさいハエが一匹飛んでいるようだな・・・」

 

 フッと笑いながら、クルーゼだけが味方の予期せぬ敗報に笑みを浮かべて指揮シートを立ち上がりながら、予期せぬ美味しい獲物が自分の計画を阻害するため、敵の中に混じっていてくれたことに、怒りと憎しみと喜びと安堵を二律背反で感じさせられながらクルーゼは命じる。

 

 

「私が出る。

 それから、モビルスーツをいったん呼び戻し、D装備に換装させるのだ。

 地球軍の新型、なんとしても今この場で討たせてもらわねばならんのだからな――」

 

 

 そう言ってクルーゼは、肉体と心で同時に同じ笑みを浮かべ合い、心の中の笑みでだけ口を動かし、言葉を紡がせるのだった。

 

 

 ―――こうなればヘリポリスを完全崩壊させ、国際問題にさせてしまった方が楽でいい。

 密かに地球連合に協力していた地球の一国ともなれば、プラントの市民たちは勝手に想像の翼を広げて敵を憎み、パトリックは彼らの人気と支持を欲するだろうからな。

 

 憎しみという名の支持率を――――

 

 

 

つづく



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第四次スーパーロボット大戦を、ガンダム勢力だけでやってみた物語

更新ではなく、またしてもアイデア紹介になってしまいます…。
大分前に思いついて、知識不足から書けなかったアイデアを、形にだけはしとかないと忘れそうだったためメモしただけの代物ですけど……更新しないままより少しはマシかと投稿してみました。

読んだ方の誰かが、自分の作品を書くときのアイデア元にでも使ってくれたら嬉しいのですが…。


 

 一年戦争の終結より数年が経過した宇宙世紀0087。

 相次ぐ反乱や内乱の続発によって、地球経済は深刻な打撃を被っていた。

 

 ギレン・ザビを奉じるジオン残党軍デラーズ・フリートによるコロニー落とし《星の屑作戦》

 極東からインド洋・中東周辺地域を勢力圏として宗教国家建設を目論んだ宗教勢力《南洋同盟》

 アフリカの大企業《ガーベイ・エンタープライズ》から陰ながら支援を受けた《青の部隊》を始めとするムスリム勢力の原理主義過激派たち。

 

 新たな時代の主力兵器モビルスーツを用いることで凶悪化したテロ行為に手を焼いた連邦政府は、人々に一つの決断を示す。

 

 それは《地球至上主義》であり、《棄民政策》による宇宙移民者の切り捨てだった。

 

 

 「地球圏の安全を確保するため」という名目の元、ジャミトフ准将が結成した連邦軍内部の秘密警察ともいうべき独立治安維持部隊《ティターンズ》が、その先兵となる。

 テロ対策や反政府ゲリラの鎮圧などで功績を挙げたジャミトフは、特例として中将に昇進。

 連邦軍内部での地歩を着々と固めていき、かつてのホワイトベース隊と同じく若き隊員たちによって構成されたティターンズは、新たな時代の連邦軍で中軸となるべく軍内部において重要な位置を占めるようになっていく。

 

 

 また、宇宙に対する監視が遠のいた事により、ジオン軍残党が立てこもる小惑星基地アクシズ指導者の跡を継いでいたハマーン・カーンは、ドズル・ザビの血を引くザビ家の遺児ミネバ・ザビを旗頭として新勢力《ノイエ・ジオン》結成のため動き出す。

 従来のジオン残党とは異なり、あくまで「独裁による強権発動は現状の地球圏の経済救済において有効である」とした主張を掲げるノイエ・ジオンは、連邦の経済政策に不満を持っていたスペースノイドたちの協力を得ることに成功し、かつてのジオン公国軍に近い力を持つ程に至りつつあった。

 

 

 一方、宇宙での活動力をノイエ・ジオンに奪われたとはいえ、旧ジオンの残党軍も短期間に驚くべき復興を遂げつつあった。

 その裏には、新しく総帥代理となった《フル・フロンタル》の存在と、共和国と名を変えた旧ジオン公国首相の子息であり、公国の復活と地球圏支配権の奪取を欲するジオン共和国の若き国防委員長ジョナサン・バハロの資金援助。

 何より、地球連邦に怨みを持つ者たち全ての総意の集合にあった。

 ジオン残党、三度の復活である。

 だが彼らの目的は既に、当初のジオン・ダイクンが掲げていたスペースノイドの自治権獲得ではなく、復讐戦争と地球圏支配に変貌していたのは明らかであったが・・・・・・。

 

 

 そして、ハマーンとの意見対立からアクシズを離れて地球圏へと先んじて舞い戻っていたジオンの赤い彗星《シャア・アズナブル》は、サイド1ロンデニオンにおいて民間複合企業の最大手アナハイム・エレクトロニクスからの資金援助によって《反地球連邦政府運動》が設立されつつあることを知って、これに参加。

 連邦軍大尉クワトロ・バジーナと名を改め、反連邦政府とスペースノイドの人権を求める軍事組織《エゥーゴ》へと組織を強化するため協力し、再び連邦へと反旗を翻すこととなる。

 

 

 そうした流れの中で、一年戦争の勝利に多大な貢献を成したレビル将軍の肝いり部隊でもあったホワイトベース隊のクルーたちは戦後の連邦首脳に疎まれ、コーウェン中将を新たな後ろ盾として得たものの、政治力の乏しさから閑職へと追いやられてしまっていた―――

 

 

 

 

 

【概要】

タイトル通り文字通り、「第四次スーパーロボット大戦」の物語を、ガンダムに登場していた勢力に配置換えだけして同じストーリーやってみようというコンセプトの作品です。

 

全シリーズ中で最も(私が知る範囲ではですが)『経済要素』が強い世界設定だったので私自身の考え方的に相性が良さそうだと感じた事と、単純に作者自身が初めてプレイしてクリアまでいったスパロボが第四次だったから印象深く残っていたってのが選んだ理由。

 

原作設定およびストーリー的に、宇宙世紀の勢力だけだと当てはまるのが足りなくなる恐れがあるのと、世界観的に大きな調整が必要な原作勢力もあったため、たぶん平成ガンダムも幾つか採用せざるを得ないだろうなと思ってました。

 

 

 

 

 

【ほぼオリジナル組織の内訳】

 

『ノイエ・ジオン』

 ハマーン率いるアクシズ軍が、地球制圧にすぐには赴かずに混乱する地球圏から遠いコロニー群同士の(シャングリラなど)流通と経済の安定を優先することで支持を集め、連邦軍に代わって治安維持を代理として担うという条件で、一時的に経済協定を結ぶことに成功して急成長した軍事組織。

 アクシズ軍、デラーズ・フリート、第二次ネオ・ジオンの一部パイロットや機体などの集合勢力。

 

 

 

『旧ジオン残党』

 ジオン公国軍、デラーズ・フリートやインビシブル・ナイツなどの残党決起の失敗の後、三度目の復活を果たした軍事組織。

 過去2度の敗北によって勢力としての力を維持できなくなりつつあったが、フロンタル主導のもと『反連邦』という一事を以て共通している者たちは全て味方と悪意を結集。再復活を謀る。

 ジオン残党を名乗ってはいるものの、実際には『連邦に敗れたジオン戦争の怨みの集合体』でしかなく、一部には志を持っている者が残っているが、そういった者たちでさえ組織の方針に賛同して協力しているわけではなく、『反連邦』の意志で行動を共にしているだけでしかない。

 旧ジオン公国、地上ジオン残党軍、袖付き、袖付き残党などの集合勢力。

 

 

 

『バートン財団・ホワイトファング軍』

 バイストン・ウェル軍の代わりに呼んできてみた平成Wガンダム勢力。

 ティターンズと水面下で密約を交わして協力関係にある、コロニー側の過激派集団。

 表向きは敵対しながら水面下で協力し合い、ティターンズに手柄を立てさせながら自分たちの活動に目こぼしをもらうマッチポンプな関係で勢力を築いてきた。

 最終的には袂を分かつ前提の同盟であり、互いに対する信頼など全くないが、支配権を手にできる日までは協力し合う必要性から、限定的ながらも同盟勢力としての結束は強い。

 クロスボーンも考えてみたが、最後に裏切るならコッチの方が合ってると思って採用。

 デキム・バートン、カーンズなどの人物たちの集合体。

 また、数あわせとして、アレックスやミュラーなど、過激なOZ士官も参加している。

 

 

 

色んな作品がゴッチャになるため時間軸的にビミョーですが、色んな作品の強い敵キャラたちが連合組んでる作品は好きです。敵同士でも違う勢力なら敵対してるのも好きです。味方同士でも思想や目的が違えば敵対し合うのも好きです。

 

・・・・・・要は、混沌とした世界設定の作品が好きなんだろうなぁー・・・・・・と、自分の趣向にちょっと思うところを感じさせられた作者でしたとさ・・・・・・。

 

 

 

――尚、似たようなアイデアだけの思いつき作品として、【機動聖戦士ガンダム】というのも、ネタだけならあります。一文字も書いてませんけど。

 

 

バイストン・ウェルの記憶を覚えてはいないけど、影響はしてるから同じような行動をするダンバイン登場人物たちの生まれ変わりが、ガンダム世界にいたらというIF設定の作品。

 

正確には、「ダンバイン世界」ではなく「バイストン・ウェル」であり、別世界のため小説版やアニメ版のゴッタ煮になる。

 

 

【リーンの翼】における『覇王ゴゾ・ドゥ』や、主人公サコミズを追う内に強くなりまくった【女戦士ミン・シャオ】

 

【オーラバトラー戦記】で主人公ジョクに近い実力に至った凶暴な現地人パイロットの『ザナド・ボジョン』や、機体をピンク色に染めた淫靡で凶暴な美人パイロット『トモヨ・アッシャ』とかを登場させて、アムロたちやカミーユと戦わせてみたい作者です。

 

 

 

・・・・・・と言うか、富野作品はガンダムになってから『女が妙に弱いこと』が、昔から気にくわなかった作者であったり・・・。

もっと強くても良いと思うんですけどな。女性のMSパイロットたちって・・・(寂)



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ガンダムW戦記~クロスボーン・バンガードの旗のもとに~9章

補足:言うまでもないと思ったのですが、念の為に。

今話の話は『Zガンダム』における『ブレックス准将の暗殺』をオマージュしたものです。
宇宙世紀ガンダムで主人公が属する民主主義勢力が、どーにも胡散臭い部分と軍事色強すぎな面を持ってたのをドーリアン外務次官で体現させてみた次第。


 各国将軍たちと交わした会議での結果を受けてから数日後。

 ドーリアン外務次官の姿は、ラグランジュ・ポイントに浮かぶコロニー群の政治的中心《ベータ3》に向かうシャトルの中にあった。

 

【コロニー側が地球に攻め込もうとしている。

 ガンダムはそのためにコロニー側が地球へと送り込んだ先遣部隊だ】

 

 ・・・・・・という、連合内部に広まりつつある噂の真偽を確かめるため、というのが訪問の目的だった。

 会議結果として、連合宇宙軍の増強は一時見送られ、クロスボーンから提供された新型ビームライフルの量産配備という形で妥協する方針が決定されはしたものの、それはあくまで『コロニー側がガンダムを送り込んだ主犯とは限らない』という前提条件のもとに辛うじて成り立っていた不安定な方針によるものでしかなかったからである

 

 コロニー側の内情次第では、大幅な方針転換も十分すぎるほど有り得るのが現在の情勢なのだ。

 だからこそドーリアンは、至急にコロニー側の真意を確かめ、地球の人々を安心させてやれる条件をコロニーへと探しにいかなければならないという危機感を抱かずにはいられなかったのである。

 

 

「ドーリアン外務次官、快適な旅になるといいですわね」

 

 そんな思い悩むドーリアンに、話しかけてくる人物がいた。

 音楽的な響きは良いが、人を人とも思っていないように聞こえる氷のように冷たい声音に、ドーリアンは隣の席に座る娘共々二人そろって不快さを感じずにはいられなかった。

 

 自分たちの監視任務を帯びてシャトルに同乗してきたOZの士官、レディ・アン特佐と名乗る女性軍人が、その不快さの元凶だった。

 女性として見た目は良いのだろうが、誰彼なく不愉快な気分にさせずにはいられないかのような刺々しい態度が勘に障る、鋭利な美女軍人だ。

 

「・・・・・・」

「そう、棘のある態度で無視をなさらず、旅を共にすることになった者同士として世間話ぐらいよろしいのではありませんか?」

「あいにく、《スペシャルズ》の将校殿と合う話題など、私は持ち合わせていないので」

 

 ついついドーリアンも歳を忘れて、レディ・アンに視線だけを向けて吐き捨てるような口調で応じてしまう。

 彼としては、なにも感情だけで言っているわけでなく、相手の存在が不気味だからこそ馴れ合いを避け、できるだけ距離を置いて警戒したいと思っていた事も影響していた。

 

「ずいぶんと酷いお言葉ですね。――ですが失礼ながら、監視されるだけの“失言”を仰ってしまったのは閣下ご自身です。

 それをご自身も御自覚しておられるからこそ、小官らの監視を許可して下さったのではありませんか? 外務次官閣下」

 

 だが、続く言葉で痛いところを突かれてドーリアンは、表情を歪ませながらも相手の要求を完全無視し続けるわけにもいかなくなってしまう。

 それは先日おこなわれた会議場での各国将軍たちに放った彼の発言が影響してのものだった。

 

 

 あの席上でドーリアンにかけられた『コロニー側のスパイ』という嫌疑は言いがかりに過ぎぬものではあったが、一方でガンダムたちはOZの息がかかった連合軍の部隊と生産拠点をピンポイントで狙い撃ちして潰し回っていることは事実でもあった。

 

 

 ――誰かが、連合軍内部の機密情報をガンダムパイロットたちに売り渡すことで、この攻撃は可能になっているのではないか・・・・・・?

 

 

 そのような噂が連合首脳の間で流れ出しているという話を聞かされたのは、会議が終わってすぐのことである。

 ドーリアン自身は、ガンダムを造るのに用いられている技術力なら不可能ではないと考えていたため考慮せずに放った発言だったが、考えてみれば軍内部にそういう噂が流布しても不思議はない常識外れな状況ではあったのだ。

 

 また、ガンダムたちによる連合への攻撃が、連合軍の一方的な武力制圧が原因であったとをドーリアンは確信しているが、一方で。

 現在問題になっている《オペレーション・メテオ》という作戦そのものは、何らの宣戦布告もないままコロニー側から送り込まれたガンダムたちが、一方的に奇襲攻撃を繰り返すことで戦闘状態を発生させているだけなのも事実ではあった。

 先日にはビクトリアで、就寝中のパイロット候補生たちを宿舎ごと爆殺しようとする卑劣なテロまで確認されている程だ。

 

 『候補生だろうと敵は敵。勝つためには手段を選ばず』・・・という冷徹なマキャベリズムに基づけば、現実的で有効な勝ち方と言えなくもなかったが、『正規軍でなくとも敵に属する者なら全て敵』という論法を用いてよいなら、『ガンダムを送り込んだコロニー側の全ては地球の敵』という解釈にも正当性を認めることになってしまうしかない。

 

 連合の首脳たちが言い出していた主張も、あながち論としては間違ったものではなかったのだ。

 本格的な武力衝突を避けることを優先した結果とは言え、重ね重ねの失言にドーリアンとしては言い返す言葉がない。

 

 

「小官としましては、あなたの監視は上からの命令を実行しているだけですので、私個人への敵意を抱かれては困ります。

 お嫌いになるのでしたら、この様な任務を私に与えた軍首脳か、あるいは失言を犯してしまった先日のご自身でも恨んでいただくしか」

 

 冷ややかな声で、見下すようにレディ・アンは容赦なくドーリアンを言葉の槍で追撃する。

 ハリネズミのような女だ、と無言のままドーリアンは思った。

 体中から針を伸ばし、その針を立てたまま自分から相手に突っ込んでいくのを好んでやりたがる女性に、この時のドーリアンにはレディ・アンは映っていたからだ。

 

 よくしたもので、娘のリリーナも父と同じような感想をレディの態度から感じさせられたらしい。

 不快そうに黙り込まされてしまった父に代わって、瞳に熱い怒りの炎を燃え立たせ、見た目とは裏腹に意外なほど激情家なところがある美しき愛娘は勝てぬと承知でOZの女性士官に食ってかかろうとした、その時。

 

 

「特佐、その辺でよいのではありませんか?

 先程から些か言葉が過ぎているように私には見えますが?」

 

 

 ――シャトルの後部座席から、第三の人物が言動をたしなめる声が静かに響き、レディは不快そうに、ドーリアンはやや意外そうな表情で背後へと視線を向けた。

 

 そこには彼と同じく本に視線を落として読書をしていたらしい、端整な顔立ちをした人物が一人で座っていた。

 監視役に派遣されてきたOZ士官の一員ではない、といって連合軍の正規兵でもない。

 軍服を着ておらず、背広のスーツを纏った姿で同乗していることからドーリアンと同じ政治向きの仕事を担当していることが窺い知れる人物。

 

 今回のL1コロニー行きの便に乗船を許可してもらって、特別に同乗していた男。

 クロスボーン・バンガードの総帥一族ロナ家の長男《ハウゼリー・ロナ》が、その男の姓名である。

 

「あなたに、ドーリアン外務次官の監視という任務が与えられているのと同様、ドーリアン外務次官にもコロニー側の真意を確かめ、地球へと攻め込もうとしているという噂が本当か否かを確認する重大な任務が軍から与えられています。

 片方の任務だけを優先させ、今ひとつの任務達成を阻害する結果を招きかねない言動は、あなたの任務にとっても不適切ではありませんか? レディ・アン特佐」

「・・・・・・失礼いたしました、ハウゼリー上級特佐」

 

 トレーズ閣下のご決断に誹謗めいた言質を弄したドーリアンへの修正を、邪魔されてしまう形となったレディ・アンだったが、今回の場合は相手が悪い。

 敬愛して忠誠を誓うトレーズ様の同盟相手と敵対して、不興を被る危険性は家臣として確かに適切ではなかった。

 

 レディは相手からの警告をそう自分流に受け取ると、ドーリアンに向かっても頭を下げ失言を詫びる。

 意外な立場にいる相手からの意外な援軍に、多少うろたえた思いを内心で隠すのに忙しかったドーリアンは、続くレディの言葉で意外さを更に深めさせられることになった。

 

「ドーリアン次官閣下にも、言葉が過ぎてしまったことを謝罪させていただきます。申し訳ございませんでした」

「・・・・・・いや、いい。君の言う通り、私の方にも落ち度があったことは事実だ。その点で君は間違ったことは言っていなかった。気にする必要はない」

「ご寛容、ありがとうございます。――ですが閣下、そう今回の旅路にご心配は及ばないことを、私からも保証させていただきますよ」

「――?? と、言うと?」

「我々はL1コロニーに到着する前に、宇宙基地へと一度寄港し、そこでドーリアン外務次官の任務が終わるまで待機する予定だからですよ」

 

 レディが放ったその発言は、完全にドーリアンの意表を突くものだったため、即座に適切な返事が思いつかず、何度か口をパクパクと無意味に開閉させることしかできなくなってしまった。

 それは娘も同様で、先程まで怒りに燃える瞳を宿していたリリーナは、意外すぎる展開に目を丸くして何と言って良いのか分からずに視線を泳がせて黙り込んだままになっていた。

 誤魔化すように咳をつき、体勢を立て直して相手の真意を探るため、ドーリアンはらしくもなく当たり障りのない問いで茶を濁す。

 

「・・・・・・いいのかね? 君の任務は私たち親子の監視のはず。てっきりコロニー内でも私たちの後をついて回られ、自由で気楽な宇宙旅行など望むべくもないと思っていたのだがね」

「本当に酷い仰りようですね。とは言え、そう思われるのも当然ですし、私どもも本来はそうすべきところと考えていたのですが・・・・・・とは言え、コロニー代表者たちと次官閣下が話し合われる席上に、私どもは同室を許可していただけないのでしょう?」

 

 この問いにドーリアンは迷うことなく、無言で頷く。

 今回の訪問はガンダムによる攻撃について、コロニー側の真意を確かめ、彼らに地球と敵対する意志がないことを確認することにある。

 

 そのような場に無粋な軍服をまとった者がいたのでは、自由な発言や意見など言えるわけもないし、碌な証言など得られようはずもない。

 またレディは、自分たちの監視という任務が与えられているだけで、外交上の委任などの権限までは与えられていない。外交の場である会議室に入室が許される立場ではないのが今回の任務における彼女だった。

 

「では、同じことです。会議が終わって監視対象が会議室から出てくるのを待ち、結果報告を聞くだけならば、待っている場所が会議室前の路上でも、コロニーに最も近い位置にある宇宙基地であっても、我々にとってはやることに変わるところは何もありませんから」

 

 快活にそう言って、クスリと笑うレディ・アン。

 それは相手の言う通りであったが、そのことが却ってドーリアンの警戒心を刺激せずにはいられない。

 

 ――OZは、ここまで物わかりのいい対応ができる連中だったろうか?

 

 そういう意味での警戒心強化である。

 その警戒心が、危険かもしれぬと自身でも思いながら、危ういバランスを崩しかかるような問いをドーリアンに発させる。

 

「・・・・・・ありがたい話だが、それは君の独断による判断かね? それともトレーズ・クシュリナーダからの指示による配慮なのかな?」

 

 目だけに力を込めて、ドーリアンはレディ・アンを見ながら、呟き捨てるように言葉を放っていた。

 “連合からの指示”ではなく、“上からの指示”でもなく、“OZ上層部からの命令”でもない。

 

 “トレーズ・クシュリナーダ個人からの指示”か否かを問いただす言い方を、敢えてドーリアンは用いて相手を試した。

 問われた瞬間、レディは方眉をピクリとだけ微動だにさせたものの、それ以外には反応らしい反応を示すことはなく、

 

「――私たちの訪問理由は、連合内に広まりつつある“コロニー側が地球に攻め込む”という噂話がデマかどうか、真実を確認するためのものです。私個人としても、デマであることを祈る気持ちに嘘偽りはありません。

 宇宙でしか精錬できないガンダニウム合金製のMSガンダムたちによって地球に攻め込まれ、我々OZの得になったことは何もないのが現在の戦況なのですから」

 

 反論の余地のない正論だった。

 不快さと共に、それ以上の応対する言葉の全てを飲み込んで沈黙したドーリアンを乗せたシャトルはその後、月の近くに建設予定だという宇宙要塞の仮説作業指揮所として造られていた基地の軍港へ一度寄港するとレディ・アンたちだけを降ろし、本当にドーリアン親子だけでL1コロニーへと到着できてしまったのだった。

 

 本来それは喜ばしいことであり、普通はそれが妥当な対応だったのだが、現在の情勢とOZのやり方に慣れすぎてしまっている彼にとっては首をかしげざるを得ない。

 

 だが、その疑問と違和感もコロニーに到着してエアロックが開かれて、二人を待っていたL1コロニーの代表者たちが浮かべていた裏表のない歓待の笑顔を見た瞬間には忘れられた。

 ようやく伏魔殿を脱したような気分になれたのである。

 

 

「ミスター・ドーリアン!

 地球が慢性的な経済危機だという地球側から聞こえる話は、どうやらデマのようですな。あなた方だけのシャトルを打ち上げる余裕があるのですからね、羨ましい限りです」

 

 政治に携わる者らしい癖のある面立ちに、真実からの笑みを浮かべて歩み寄りながらドーリアンに握手を求めてくるスーツ姿の男達に応じながら、彼もまた気が軽くなった心で冗談交じりの言い回しを用いて自分の所属を軽く皮肉る。

 

「その程度のデマならまだ可愛いものですよ。連合に広まりつつあるデマは、笑って済ませられるものではありませんから」

「・・・我々が地球に攻め込むという、例のアレですか・・・」

 

 だが、言われた方にとっては冗談で済ませられるレベルを一歩以上踏み越えすぎた話題だったらしく、途端に表情をしかめるとドーリアンに向けたものではない悪意と苛立ちを吐き捨てるように呟かずにはいられない衝動に駆られたようだった。

 

「まったくもって理不尽な話ですよ。“オペレーション・メテオ”とか、“新型のモビルスーツ”とか。どれも我々の知らぬことばかりだと言うのに・・・・・・」

「ミスター・ドーリアン。連合は何故、我々の話を信じてくれないのでしょう・・・? 私たちコロニー側には本当に、何もやましい所などありはしないのに」

「・・・・・・」

 

 話の内容が進んだことで代表たちの笑顔も急速に重苦しいものへと変わっていってしまっていく。

 それらは彼らにとって本心からなる言葉であり、連合からの心ない対応に傷ついている気持ちの訴えだった。

 彼らの陳情を耳を傾けながら、ドーリアンは沈痛そうに瞳を閉じて思い悩むように沈黙のみを返すだけだったが・・・・・・内心の複雑さを隠すための演技を含んだ仕草でもあった。

 

 何故ならドーリアンは、知っていたからだ。

 連合がコロニー側の叛意を疑っている理由は、コロニー内部に武力で連合を打倒せんとする過激派の存在を察知しているからなのだということを。

 代表者達の苦言が、コロニー内に潜む過激な者たちの存在を把握していないからこそのものだという事実を。

 

 だから彼としては沈黙で返すしかなかった。

 ドーリアン自身は、その組織に加担しているわけではなく、連合の情報を流していたわけでもない。あくまで話し合いによる解決のため窓口として確保しているだけで、後ろめたい行為に手を染めてはいなかったが・・・・・・彼らの存在を知っていて代表者たちに教えていないことも事実ではあったのだ・・・・・・。

 

「――ところで、今回の訪問では連合なりOZなりから、護衛という名の監視がミスター・ドーリアンたちに付けられられるような無粋は、されませんでしたので?」

 

 重くなり始めた空気を変える必要性を感じたのだろう。

 コロニー側代表団の一人がドーリアンとリリーナの背後に立ったままのシャトルから、続く人影が出てこない方へと視線を向けながら言った言葉に、そういえばと今さらに違和感を思い出したらしい他の代表たちも意外そうな表情を浮かべ直す。

 

 それを見てドーリアンも、蒸し返したところでどうなる話題でもないと割り切ると、苦笑気味な表情を浮かべつつオーバーアクション気味な動作で両手を広げながら、ジョークのように軽い口調で事情を説明する。

 

「ええ。なんでも、“どーせ会議室に入れず外で待っているなら同じ”だそうでして。

 居心地の良い連合宇宙軍基地内にある快適なオフィスで、会議が終わるのを大人しく待っていると、そう言われて送り出されてきましたからね。珍しいこともあるものです」

「ほほぅ? それは確かに珍しい。連合やOZも、ようやく一方的な武力制圧だけが治安維持ではないと少しは学ぶことができるようになった、と言うことでしょうかね?」

「さて。そうだと良いのですが・・・・・・」

 

 皮肉そうな表情を浮かべ、地球連合への辛辣な評価を口にする代表者たち。

 連合からの監視役という、鬱陶しい見張りに聞かれる心配がないと分かったことで日頃から溜まり続けていた不平不満で、一気に口が軽くなりすぎてしまっているらしい。

 ドーリアンとしては責める気はなくとも、苦笑するしかない状況ではあっただろう。

 そして心の中だけで、そっと呟き漏らす。

 

(・・・・・・本当に、そうであってくれれば良いのだが・・・)

 

 不可能と承知で本心から、そう願わずにはいられない立場に彼は立たされつつあるようだった。

 そんなドーリアンたちがコロニーに到着してからホテルに赴き、その場から代表団たちとの会談の場へと移動して、到着初日のスケジュールはなんの障害も妨害も起きることなく無事に終了。

 

 完全には安心できず、「油断させて何か仕掛けてくるのではないか?」と終始警戒感を減らすことができないまま一日を過ごし終えたドーリアンとしては肩すかしを食らわされた気分で、本当にレディたちは会談が終わるのを待っているだけのつもりなのかと、小首をかしげながらホテルの部屋へと戻ってきたドーリアン。

 

 その疑問が解消されたのは、自分の部屋に到着してテレビのリモコンを操作し、ニュース番組に映し出されている映像を見ることができた、夜になってからのことだった。

 

 

 

「ハウゼリー・ロナが、テロに・・・!?」

 

 そのニュースが鼓膜と網膜に飛び込んできた瞬間、思わずドーリアンは座り掛けていた椅子から立ち上がっていた。

 

 テレビには、『ナイス・グロズリー』の幹部が事務所として使っているホテル前の映像が流れており、数メートル四方の事件現場を取り囲んで見物している野次馬たちの映像が映し出されていて、事件の大まかな概要をナレーターが淡々と説明していた。

 

 コロニー支社の視察に赴いてきたところを、一見サラリーマン風にしか見えない男によって襲撃を受け、病院に担ぎ込まれたが意識不明の状態が続いているという。

 

 しばらくして犯人グループを名乗る者たちからの犯行声明が届いたことが語られ、

 

 

『ロームフェラと結託しているロナ家は、連合の手先であり、我々のコロニー経済を地球のものとして私物化しようとしている。故に天誅を下した。

 コロニー革命の指導者ヒイロ・ユイ万歳』

 

 

 ―――馬鹿な、とドーリアンは心の中で呻かずにはいられなかった。

 ロナ家の長男が単身コロニーへ赴いてきたのを好機と踏んだ、一部の跳ね上がりが行った暴挙だろうが・・・・・・こんなことをしても却って自分たちの立場を悪くするだけだということが分からないのか!?

 

 そう激しい怒りに内心で打ち震えた後。・・・・・・ふと、レディ・アンの真意を彼はこの時ようやく悟った。

 

「・・・・・・謀ったな・・・レディ・アン・・・・・・ッ」

「え――?」

 

 隣でテレビを見たまま驚いていたリリーナが、父の呟きを聞きとがめて思わず疑問の声を発してしまう。

 彼女には何故この場で、OZの冷たい印象を受けた女性士官の名が出たのか、まるで分からなかったからだ。

 

 娘からの疑問に父親は声に出して答えようとはしなかったが、答えは既に頭の中で完成されていた。

 地球からコロニーへと平和的訪問として訪れた、連合の公的立場にある人間をコロニー側が迎え入れた際。

 コロニー側には当然、彼らの安全を守る義務が発生することになる。

 護衛となる者たちを付けていて、現地警察や政府の忠告を無視した結果として危険な目にあったという場合には、証拠の提出や目撃者の証言次第で自己責任が成り立たせることは不可能ではない。

 

 むろん連合が権力に任せてゴリ押ししてきた時に抗える類いのものではないが、少なくとも自分たちから攻め入る口実を与えることだけは避けることは可能になるだろう。

 

 だが、コロニー側を信用して自身の身を委ねた私服姿でいるところを、コロニー側の過激な不満分子に襲撃されて重傷を負わされたとあっては、説明にも弁明にも事欠いてしまい、圧倒的不利な立場を強いられることになる。

 

 ・・・・・・そうなれば、【ラグランジュ・ポイントの緊張は高まる】のは避けられない。 

 そうなることを望んでいる、軍需企業連合体のロームフェラ財団と、彼らと繋がるOZにとっては、別に誰でも良かったのだ。

 

 ラグランジュ・ポイントに緊張を高めさせられる生け贄として、コロニー側の一方的で非道な襲撃を受けさせられる被害者として使える者なら、ハウゼリーであっても自分であっても、そして・・・・・・年端もいかぬ少女でしかない娘のリリーナであろうとも――

 

 

 急激に危機感の高まりを感じさせられ始めたドーリアンは、翌日からの会談に赴く際には、娘に向かって「必ず警護の者を付けてもらうよう」強く厳命して議場に赴きつつも議題に集中しきれぬまま、上の空な心理状態で2日目、3日目と予定を消火させられていく。

 

 一方で、彼の娘であるリリーナの方は父よりずっと楽観的に事態を見ていた。

 詳しい政治の裏事情を教えられていないという事情もあり、生まれ故郷の地球よりも愛着を感じているコロニーで暮らせる日々を満喫していたのである。

 

「私、今日はちょっと買い物に出かけてこようと思います。せっかくコロニーに来たのに2日もホテルにこもらされたままでは、カビが生えてきそうで困りますから」

「少々お待ちください、今護衛の者を呼び出しますので。・・・・・・先日もあのような事件があったばかりですし、万が一ということも有り得ます」

「いいえ、結構です。昨日一昨日と父の警護で護衛の方も大変だったでしょうから、今日は休んでもらって下さい」

「ですが・・・・・・」

「大丈夫です、ここは地球で出歩くより安全ですわ。どうして地球の人達は、こんなにも平和で紳士的なコロニーの人たちが戦争を起こすと思っているのか不思議なくらいです。

 あくまで悪いのは、コロニーに住んでいる一部の人達だけですから大丈夫です」

 

 父を出迎えてくれた、ドーリアンに好意的な代表団の一人にそう告げて外出したリリーナが戻ってきたのは、予定を大幅に超過して夕暮れが迫りつつある時刻設定にしてある時間になってからだった。

 

 別に予定を無視したわけではなく、たまたま道端で泣いている女の子を見つけ、『母親にもらったクマの人形』を落としてしまったことを聞かされた彼女は捜索に付き添ってやり、無事に発見して母親の元まで送ってやってから帰ってきたら予想より遙かに長い時間が過ぎてしまっていたことに遅まきながら気付かされた。・・・・・・そういう事情によるものだった。

 

「では、明日も同じ時間にお迎えに上がると、ミスター・ドーリアンにお伝え下さい」

「はい。色々とお世話を掛けてしまって申し訳ありませんでした・・・」

「いえ。何事も起きないのが一番ですから」

 

 ニコリと笑って、護衛役に任じられていた黒人の男性はリリーナを下ろした後、車を走らせて去って行った。

 さすがのリリーナも、現在の状況下で係の者には告げていなかった予定を勝手に組み込むのは悪いと思ったため、連絡だけでも入れたところ護衛に呼ばれるはずだった男性が即座にやってきてしまい女の子の人形探しを手伝ってもらう運びとなったのだった。

 

 お転婆だと父から苦笑交じりに評されやすいリリーナも、これには恐縮せざるを得ず、明日からは今少し行動を自粛しようと心に決めてホテルのロビーに入ろうとした。

 その時だった。

 

「・・・・・・??」

 

 ふと、顔を上げてホテルの上階を見上げた。

 聞こえるはずのない音が耳に届いてきたような、そんな気がしたからだった。

 その音はリリーナの立場では、聞きたくなくとも聞き慣らされてしまう音。父の仕事と所属する勢力柄、無関係ではいられない道具だけが発する音。

 

 ―――それは、銃声だった。

 

 ズダーン! ズダーン!!という、自分がいる位置からでは小さく聞こえる音がホテルの上層階から聞こえたような気がしたリリーナは思わず駆けだし、エレベーターに飛び乗って自分たち親子が借りている部屋がある階のボタンを押す。

 

 ・・・・・・嫌な予感がした。

 外れてくれていればいいと願いながら廊下を走り抜け、部屋の扉を開けて中へと飛び込むと、まだ夕暮れ時とはいえ暗くなり始めた風景の中で照明も付けずにベッドで横たわったまま眠っているようにも見える父の姿を見つけて駆け寄ると。

 

「お父様ッ!?」

「・・・り、リリーナ、か・・・・・・? お、OZにしてやられた・・・・・・」

「お父様! しっかりして下さい! いったい誰がこんな酷いことをっ!? このままでは死んでしまうわ! 早く病院へ――」

「・・・いや、いい・・・どうせ助からん。それより、も・・・最後に、伝えておかなければならないことが・・・・・・ある。お聞き下さい・・・・・・“リリーナ様”・・・」

「え・・・?」

 

 父から、使われたことのない敬称で呼ばれて娘は戸惑い、唖然とした頭と表情で血の気が失せつつある父と“信じている人”の顔を見つめる。

 

「私・・・は、あなたの・・・・・・本当の父ではない・・・。

 あなたの本当の・・・名は・・・《リリーナ・ピースクラフト》・・・かつて、完全平和主義を唱えた・・・ピースクラフト家の、ご息女・・・です」

「お、お父様・・・? 何を言ってる、の・・・?」

「私は・・・その国に代々仕えた、元老院の一人・・・・・・しかし、連合に王国は滅ぼされ・・・逃げ延びた私が、あなたを・・・娘として・・・・・・」

「そんな・・・・・・そんなのウソよッ!?」

 

 信じていた人に騙され、信じていたものに裏切られ、突然告げられた出生の秘密だけを残して一方的に死のうとしている相手に、リリーナは心の底から否定の言葉を叫んでいた。

 

 ウソだ、と。

 父が父でないなど、ウソだと。

 自分がリリーナ・ドーリアンではなくリリーナ・ピースクラフトなど、ウソだと。

 父だと信じていた人が、死んでいこうとしているのが現実なんて、ウソだ――と。

 

 リリーナは心の底から全てを否定して叫んでいた。

 何も信じたくなかったし、受け入れたくもなかった。

 今までの全てに縋り付いて、今の全てを否定したい想いだけで、ただただ叫んで否定することしかできない今の自分という現実を否定し続ける!

 

「リリーナ様には・・・世の中を動かす人になっていただきたい・・・そう私は願いながら今日まで生きてきました・・・・・・。

 ですが・・・出来ますなら・・・・・・私の“娘”には、普通の女の子として幸せになって欲しいとも・・・・・・」

「お父様!? お父様しっかりしてお父様ァっ!!」

「・・・OZに・・・・・・、そしてクロスボーンに・・・・・・お気を付け下さ・・・・・・どうか、生き・・・て―――」

 

 それがドーリアンが残した遺言となった。

 最後に残った力を振り絞って伝えるべきことを伝え終わった瞬間、糸が切れたようにドーリアンの身体からは力が抜け落ち、リリーナが握って必死に慰めていた片手はベッドの上へとゆっくり落ちていった・・・・・・。

 

 

 ――それから、どれぐらいの時間そうしていただろう?

 大した時間ではなかったはずだ。

 ただリリーナの中で無限の刻のように感じていただけで、彼女の外に広がる空間では現実の時間が流れ、少女一人の感傷など気にすることなく人々を突き動かし続けていたのだから。

 

 そんな時間の流れと空気の対流の中から、複数の足音が自分たちのいる部屋の方へと向かってきているのを、リリーナの鼓膜は感じ取る。

 

 

『ドーリアン氏はどこだ! 他の者はっ!?』

『見張りに付けていた者たちも全員ダメです! どうやら監視に気付かれていたらしく――』

『クソっ! こうなったらドーリアン氏だけでも見つけ出すんだ! なんとしても探し出せぇっ!!』

『ハッ!!』

 

 

 ドカドカと、武装した数人の男たちの足音と声が、銃が立てる金属質な音響と共に響いてきて・・・・・・リリーナの心を激しくかき立て去られる。

 

「許・・・せない・・・・・・」

 

 呟きながらリリーナは右手を伸ばし、おそらく自衛のため応戦しようとして果たせなかったのだろう。

 ベッド脇の枕元に落ちたままになっていたオートマティック式の拳銃を手に取ると、銃口を入り口の方へと向けてピタリと一致させて動きを止める。

 

 そして、部屋のドアを開けて乱入してきた先頭に立つ人物が、父が眠る寝室の扉の向こう側に見えた瞬間。

 

 

「私の身はどうなっても構わない・・・・・・けれど、お父様の命を奪った仇を、私は・・・・・・決して許さないッ!!!」

 

 

 リリーナは――父を殺されたばかりの愛娘に握りしめられていた拳銃は、光を放つ。

 閃光が、少女が流した慟哭の涙を光らせる

 

 

 

つづく




注:ネタバレになりますが、念の為先んじて説明です。
今話の中のハウゼリー暗殺未遂は、原作小説版の彼が経験した死に方を逆用させた、ハウゼリー自身からの提案によるものです。

要はマッチポンプですけど、怪我したのは本当で、助かっただけが違う部分。

彼自身が主張していた【現代宗教論】や、【運命論】を好むロナ家らしい確実性に欠ける作戦として用いていた。……そういう設定でっす。



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正規版・戦記好きがキラ・ヤマトに憑依転生 第5話

『戦記好き転生キラ』を更新。
本当は、ムゥVSラウや、ユウキ二尉の話も含めることで今作らしい1話分とする予定だったんですけど眠いです。
細かいことは明日、ジックリ考えながら書ける時間に書くようにしますね。今無理して最後まで書いて出すと、絶対ダメになりそうですので……


 ドォン! ドォーッン!!

 

 遠くの方から爆発による爆発音が残響となって響き続けてくる中で、僕はカガリを――今はまだ知らないはずの名前を呼べない女の子の手を引いて、工場区画へと続く地下通路の中をひた走っていた。

 モルゲンレーテが密かに開発中だった《X105ストライク》が保管されている場所へ至るためだ。

 キラ・ヤマトにとって、初期の代名詞となる機体が鎮座している場所へと続く細かい道のりを、描写していた原作シーンというものはない。だけど、ある程度の目星はついていた。

 

 モビルスーツサイズの代物を開発可能で、軍事機密として関係者以外の立ち入りが禁止されている空間。

 しかも開発がスタートするのは、連合側が予想外の苦戦によって戦局が膠着状態へと陥ったぐらいからという時期が条件として加われば、候補になれる場所は限られてくるしかない。

「!! ここ――っは・・・・・・」

「~~・・・ッ」

 

 照明が停電して暗くなった通路を抜けた先にあった開けた場所へと辿り着いた瞬間、僕は眼下から聞こえてくる銃撃戦の音と、キャットウォークから見下ろす先でトレーラーに横たえられている灰色の巨大兵器を前にして、目的地に間違えずに到着できたことを悟らされて思わず声を上げそうになってしまうのを寸でのところで原作セリフに近い言葉に言い直す。

 

 そんな僕の横ではカガリが、視界の先に見える2機のロボット兵器を――僕たちの母国である中立国オーブが条約を反故にして連合軍に加担し、密かに開発させていた連合製のモビルスーツである《X105ストライク》と《X303イージス》の姿に愕然とさせられた姿が視界の隅に映っていた。

 

「・・・やっぱり・・・地球連合軍の新型機動兵器・・・・・・っ」

 

 呻くように、そう呟きながら力なく「ガクリ」と膝を折った彼女はやがて、

 

「お父さまの、裏切り者ッ・・・・・・!!」

「っ! マズい!!」

 

 工場区画内という場所柄故か、カガリが通りやすい声音の持ち主だったのか、予想していたよりずっと大きく響いたカガリの悲鳴じみた声に驚いて、正面の敵と抗戦していた作業服の女性連合軍人――マリュー・ラミアス大尉が振り返って、背後から敵に挟撃されたと思い込んでしまったらしい僕たちに銃口を向けてきた姿を目にした瞬間、僕は咄嗟にカガリの手を引いて無理矢理立ち上がらせると再び走り出して、脱出用の避難シェルターの目印がある場所まで改めて走り出す!

 

「泣いてちゃ駄目だよ! ほら走って!」

「うっ・・・、く・・・っ」

「泣いてたって何も出来ない! とにかく今は走るんだ! こんな所で殺されたいのか!?」

「――ッ!? ~~~ッ!!」

 

 その途中で、思い詰めやすくて泣きやすいカガリを叱咤して、励ましながら無理矢理にでも走らせ続けて、どうにか一番近くのシェルターまで辿り着くとスイッチを押す。

 ピピピッ!と、中から呼び出し音が響くと同時にスピーカーから男の人の声が聞こえてきて、

 

『――まだ、誰か残っているのか?』

「はい! 僕と友達もお願いします! 開けてください!」

『2人!?』

「はいっ」

 

 僕からの呼びかけに対して、相手の男の人は“人数だけ”に驚いた応答をしてくるのを聞かされて、僕は内心でホッとする自分を感じさせられていた。

 

 良かった、と素直に思ったんだ。このシェルターに原作通りの人が逃げ込むことが出来たと分かって、それを嬉しく感じている今の自分の体と心がある。

 僕がそう感じているんじゃなく、『キラ・ヤマトの肉体』が、僕にそう感じさせているんだ。

 どうやらキラ・ヤマトの肉体は、本来は知らない僕だから知っている原作知識であろうとも、『その犠牲があること』を知っている事柄に対しては精神に働きかけてくるほどの強い影響力を発揮してくるらしい。

 それはキラが、持って生まれた才能とは真逆に、“そういう事”に対して異常なまでのアレルギー反応を示してしまう精神性の持ち主であることを否応なく知らしめてきて、将来的なことを思えば不安にもさせられそうになるけれど・・・・・・とにかく今は、他にやるべき事があるっ。

 

「もし人数に余裕がないようでしたら、一人だけでもお願いします! 女の子なんです!」

『女の子・・・・・・わかった。すまん! 左ブロックに37シェルターがある、そこまではなんとか走ってくれ!』

「ありがとうっ」

 

 時間節約のため、結果が分かっているやり取りを省略して告げた僕からの提案に、スピーカーから聞こえてくる男の人は入り口のロックを開けてくれた。

 最後に告げたお礼の言葉が聞こえていたかどうかは分からないけれど、とにかく僕はカガリの両肩を掴むと、未だに落ち込んでいるらしい彼女をシェルター入り口のドアの中へと無理やり押し込めるように押さえつける。

 

「え・・・? な、なにをっ!? 私は・・・っ」

「いいから入って! 僕は向こうに行く! 大丈夫だから! 君はきっと大丈夫だから!」

「待て! お前いったいな―――」

 

 何かを感づかれてしまったかもしれない彼女の言葉を最後まで聞くことなく、僕はボタンを押して、プシュッという空気が漏れる音共に扉が閉まり、カガリの姿が地下シェルターへ向かって急速に降下していくのを確認すると再び走り出す。

 

 今来た道を逆方向に逆走し始めたんだ。

 今度の目的地は男の人から教えてもらった、左ブロックのシェルターじゃなく、未だに銃撃戦が行われている工場区画の一角。

 

 キラ・ヤマトが初めてマリューさんと合流できた時には、すでに向こう側のシェルターには“ドアしか残っていない状態”になっていた。

 なら今更どうしようもなかった・・・最高の性能を生まれ持たされたスーパーコーディネイターだろうとも、死んでしまった死者に対しては無意味で無力。それが戦争の絶対原則。

 どんなに神を気取って傲慢な姿勢で研究を続けようと、死を克服することができない神様モドキによって創り出された存在が持つ力なんて、その程度のものでしかあり得ないのだから・・・!

 

「ぐぉっ!? ら、ラミアス大尉・・・っ」

「ハマダ!? ブライアン! 早く起動させるんだッ!」

 

 工場区画まで走りながら戻ってくると、マリューさんが生き残った部下たちを率いてストライクを背にして防衛戦を展開させながら、自分たちが時間を稼いでいる間に機体を起動させる作業を行わせている耳に入ってきた。

 

 だけど、どう足掻いても状況は彼女たちに不利な方へ作用しているようでもあった。

 キャットウォークに立って、全体を俯瞰して見下ろせる位置にいるからこそ分かったことだけど・・・・・・ザフト軍の歩兵部隊はバーニアを使って四方だけじゃなく、上からも狙える位置に陣取って立体的に戦場を活用しながらストライクに迫りつつあった。

 対して連合軍側は、ただサブマシンガンで武装しているだけの通常歩兵だから、平面的な戦闘で普通の銃撃戦しかやりようがない。

 

 ただザフト軍は数が多くないことだけが、連合軍側のマリューさんたちに有利に作用しているようでもあった。この場にいる敵兵たちだけを排除してしまえば、後続はないと見ていい。

 

 そう判断した僕は周囲を見渡し、機体の凹凸を遮蔽物にしながら牽制射撃を行っている彼女を狙うことが出来そうな位置を探し出そうとして・・・・・・いた。

 

「危ない後ろ! 11時方向っ!」

「ッ!? ――ッ! ッッ!!」

 

 僕の声に反応して即座に振り返ると、指定された方角に向かって引き金を引く彼女。

 ただ発砲音はあまり響かなかった。弾を節約したわけじゃなくて、逆に弾切れになったみたいだった。

 振り向きざまに放った最初の数発だけが音を伴って発射され、その後は引き金を引くだけで音は出ず、それでも気付かれていない背後から狙い撃つつもりだったらしいザフト兵の緑服にとっては完全に意表を突かれた一撃だったからなのか、アッサリと事切れて倒れ伏す姿が僕の視界にも少しだけ写ってきていた。

 

 まるで出来損ないのマリオネットが、糸が切れて倒れていくみたいに不格好な死に方が、妙にリアリティを感じさせてくれず、僕の心を逆にゾクッとさせてくる。

 

 ・・・・・・人がこうもアッサリと、何でもないことのように死んでいく姿を見ても、大した残虐性や非人道的な印象が残らない人の殺し方・・・・・・銃の登場で成し遂げられた、殺意の簡便化。

 もしこれが、モビルスーツという自分ではレバーを引いてるだけで人が大勢殺せるような兵器を大量生産できるようになってしまった時には、どういう感じ方を人はするようになってしまうのか・・・?

 その考えの先に『ムルタ・アズラエル』の姿が重なって見えてしまい、僕の背中は戦慄せずにはいられなかったから――。

 

「さっきの子か!? なんで・・・・・・来いっ!!」

「大丈夫です! 左ブロックのシェルターに行きます! お構いなく!」

 

 マリューさんからの呼びかけに、僕は謝絶の言葉を返事として返していた。

 もちろんキラ・ヤマトに転生憑依しただけで、キラ本人ではない僕は自分の言葉がすでに実行不可能であることを知っている。自分が言った場所がドアしか残らなくなった後になっている事実をすでに知っている。

 

 ただ、自分が知っていることを知られないために言う必要がある言葉だった。的確すぎる言葉や助言は疑いを生む理由になる。ある程度の間違いや過ちは犯しておいた方が、僕みたいな立場の人間には都合が良かったんだ。

 

「あそこはもう、ドアしか無いッ!! こっちへ!!」

「りょ、了解・・・っ」

 

 彼女から再度の呼びかけを聞かされ、ほんのわずかに逡巡するフリをして見せ、近くの通路から爆発が生じて爆風に転がされてから、少しだけ安全性の上がった状態の工場区画へとキャットウォークから飛び降りて着地して、高さと運動不足がたたって足が少ししびれてしまいながらも、彼女の元へと走り始める。

 

 ――だけどその時、僕たちの位置からは見えない側面に展開されていた戦場で、連合軍兵士とザフト兵との間で思わぬ勝敗の結果が生じてしまっていたことを、僕は完全には把握できていた訳でもなかったらしい。

 

 連射可能なサブマシンガンという、命中率の高さこそが重要な武器を互いに撃ち合い、当たってしまえば貫かれて即死してしまう恐れもある程度の耐久力しか持たされていないモビルスーツ姿での銃撃戦において、思っていた以上にコーディネイターとナチュラルとの能力差は戦闘結果に影響を及ぼしにくい部分があったらしい。

 

 ズダダダッ!!

 

「ぐわッ!?」

「ラスティ!? くそぉぉぉ―――ッ!!」

「うお、わ・・・ッ!」

「ハマダ!? きゃあッ!」

 

 最後に残っていた連合軍の歩兵が、まぐれ当たりか狙った結果だったのか、襲撃してきたザフト軍の赤服エース1人を射殺してしまう大金星を上げたことで、結果として襲撃部隊側も最後の生き残りとなった人物が怒りに駆られて銃を乱射しながら突貫し、赤服を射殺した連合兵を打ち倒すと、続いてマリューさんにも銃を向けて発砲して負傷させてしまったのだ。

 

 正直、自分では早めに動くことで一人ぐらいベテランを生き残らせれるかと考えていたんだけど・・・・・・どうやら驕り高ぶりも度が過ぎていたらしい。足がしびれてる状態では、今からだと原作通りに動くぐらいしか出来そうもない。

 

 僕は、負傷したマリューさんの元まで歩み寄って、倒れそうな彼女を支えようとし。

 相手の赤服エースは、感情任せに乱射したせいで弾が切れた銃を手放し、軍用ナイフを抜いて彼女にトドメを刺すため駆け寄ってこようとする。

 

 その瞬間だった。

 僕と相手が、互いに同じ目的を目指して、まったく真逆の理由と目的のために、逆方向から到着したことで互いの顔を互いに見える位置まで来てしまって見つめ合う形になってしまったのは―――

 

 

「――キラ・・・?」

 

 ナイフを構えたまま、ヘルメットのバイザー越しに聞こえてきた少年の声に顔を上げ、僕もまた相手の顔を見つめ返すと、その人物の名をハッキリと呼んだ。呼んでいた。

 

「アスラン・・・・・・アスラン・ザラか・・・っ!」

 

 意志の強そうな緑の瞳の中に僕の姿が――キラ・ヤマトの姿が映っているのが見て取れた。

 成長と共に鋭さを増した物静かな顔立ちは――僕が好きだったアスラン・ザラの面影を完全に消し去ることまでは出来ていなかった。

 

 

 そんな僕とアスランとが――キラ・ヤマトの肉体とアスラン・ザラ本人とが炎に包まれつつある工場内で、三年ぶりに予期せぬ再会を果たすことになって動きが止まってしまってしまっていた、その瞬間。

 

「~~っ、えいっ!!」

「な――ッ!? くそッ!」

 

 パンパン!と拳銃弾が、動きを止めた敵兵の隙を突いたマリューさんが負傷の痛みに顔をしかめつつ、アスラン目掛けて発砲する音が響き渡った。

 位置と距離的に不利と見て取ったらしきアスランが、幾度かの大ジャンプの末に後退して、もう一機だけ残っていた《Xナンバー》のコクピットまで辿り着くと同時に、工場そのものにまで火が回り出す。

 

 おそらくは爆発物に引火してしまったことで、急速に崩壊が早まったのだろう。この場に生身でい続けること自体が危険になりつつある状況に陥ると、相手の女性士官は負傷を免れた手で僕を押しやって機体のコクピット内へと強引に避難させてしまうと自らも乗り込んで、

 

「シートの後ろに! 私にだって・・・・・・動かすくらい・・・・・・う、ぐ・・・っ」

 

 苦しげな呻き声を上げながら、機体のOSを起動させていくマリューさん。

 こうして工場区画を戦場を舞台にした、《Xナンバー争奪戦》は幕を閉じる。

 一つの章が終わって、次の章が開幕の時を迎えたんだ。

 

 モビルスーツ同士の戦闘という、この世界では初めてとなる歴史上の快挙。

 その記念すべき日の内訳が記された章として―――。

 

 

 

つづく



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正規版・戦記好きがキラ・ヤマトに憑依転生 第6話

前回の続き分です。一つの話に統合して再投稿しても良かったのですが、とりあえず別々の話として出しておきます。
読みにくいとかの要望があった時に対応させていただきますね。


 

 ――思ってもみない形で、アスラン・ザラと再会してしまった時。

 この世界にキラ・ヤマトとして生まれ変わっていた僕には、やろうと考えていた行動や展開がいくつもあった。

 

 だが、出来なかった。

 体を動かしたいと願っても、鉛のように重くなった肉体が言うことを効いてくれなかったからだ。

 

 キラ・ヤマトの肉体が、ザフト軍のノーマルスーツを着て再会したアスラン・ザラの姿に、言葉をなくして立ち尽くすほど強すぎる衝撃を受けたせいだとハッキリと分かった。

 だけど原因と理由が分かったって、体が動かず対処できないんじゃどうしようもない。

 

「くっ・・・!! シートの後ろに!」

 

 そう言って、負傷した肩を無理矢理動かして僕の体をコクピットの中へと放り込み、自分自身もシートに座って《X101ストライク》のシステムを立ち上げていく段に至っても、まだキラの体は衝撃が消えることなく残っていて思うようには動いてくれないままだ。

 

「私にだって・・・・・・動かすくらい・・・」

 

 傷の痛みに苦悶の声を上げながらもシステムを起動し、外の景色をコクピット内に映し出していくマリュー・ラミアスさんに代わって、今の時点から僕が操作とOSの書き換え作業を始めた方が良いと頭では分かっているのに体が言うことを効いてくれない。

 

 まるで服を着たまま海の中にいるみたいに、力を込めても一向に前へと進んでくれない体を、それでも歯を食いしばりながら前へと出させるため全力を尽くす。

 

「う・・・ぐ・・・っ、ガ・・・ン・ダ・ム・・・・・・」

 

 肉体の意識を精神的ショックから逸らそうと、咄嗟に目に入ったモニターに浮かび上がる赤い文字を拾い上げて声に出して読み上げたことで――キラ・ヤマトの体はようやく《パイロット》の其れに適合してくれるようになる。

 

 あるいは、それだけ《ガンダム》という名を持つモビルスーツの存在は、キラ・ヤマトにとって特別な意味を持っていたのかもしれない。

 どれほど戦争を嫌って否定していたとしても、彼の人生が戦争に巻き込まれてストライクのパイロットになれなければ、ラクス・クラインと出会うことも、原作通りの彼に至る可能性も得られることはなかったのだから・・・っ!

 

「代わって・・・ください! 僕がやります! その方が早いっ」

「!? あ、あなた何を言って・・・っ」

 

 まだぎこちなさを残す動かせるようになった体をシートの前に出させると、僕は傷ついた体で懸命に機体を御しようとしているマリューさんに呼びかけるけど、彼女の立場では当然そんな提案が入れられるはずがない。

 民間人の子供に軍事機密の塊である最新鋭機を委ねるなんて出来るわけがないし、第一子供が動かせるような代物でないことくらい子供自身だって頭では分かることぐらい出来る常識だ。

 

 普通の子供だったなら、それが正しい。

 だけど、この世界の子供の一部には――僕なら出来る!!

 出来てしまえる能力を生まれ持たされているのだから!!

 

「僕はオーブ国民のコーディネイターです! カトウ教授からプログラム解析を委託されてもいました! OSの書き換え作業だったら、あなたより上手く出来る自信があります!」

「えっ!? あなた、コーディネイターって・・・けどっ」

「早く! 今は戦争中で、中立国だなんだって言ってる場合じゃないんでしょ!? 今のあなたの体で操縦なんて無理です! さあ早く!!」

「・・・くっ・・・、分かったわ・・・」

 

 原作知識も含めた僕からの脅迫めいた説明を聞かされて、悔しげに呻いて葛藤していたようだったマリューさんはそれでも決断して、僕の位置とコクピットシートを交換してストライクの操縦を委ねてくれた。

 彼女としては気にくわない言い様だったと思うけど、それは後に銃で脅されて脅迫された僕たち民間人の側だって同じなはずだ。とにかく今は少しでも犠牲少なくザフト軍を撤退に追い込むため尽力することで埋め合わせにしてもらうしか道はない!

 

 

「――キャリブレーション取りつつゼロ・モーメント・ポイントおよびCPUを再設定・・・ちっ!ダメか!

 なら疑似皮質の分子イオンポンプに制御モジュールを直結させれば、あるいは・・・・・・!!」

 

 

 ――自覚しない内に漏れていた独り言を、どこか他人事のように心の一部だけで聞き流しながら、僕は全神経を注いで集中しなければならないほど複雑で高度なストライクのシステム書き換え作業を無意識レベルで続行し続ける。

 初めてのモビルスーツ操縦と書き換えは、キラ・ヤマトの肉体を持ってしても全力を投入しなければならないほど高難度な荒技だったし、なにより幾ら計算式が完璧でも実際に実行する段になれば幾らだって現実と計算との齟齬は出てくる! その辻褄合わせと整合性を取る作業に没頭せざるを得なくなってた僕自身に、自分の独り言を意識してる余裕なんてあるわけがない!

 

「この子・・・っ。いえ、この力は・・・・・・」

 

 だから、そんなことを呟いていたらしいマリューさんの独白も、僕の耳には届いていなかった。

 あるいは、届いてはいても意識することは出来ず、今後も思い出せることはなく、ただただ僕という転生者の魂と、憑依先であるキラ・ヤマトの体という二つの存在が単一の肉体で顕現している特殊な状態によって「聞くことだけは出来ていた」その程度にとどまるしかなかった。

 

 それが意味ある違いなのか、それとも有害なだけの違いだったのか。

 今の僕にはそれを理解することは出来なければ、考える余裕すら与えられてはいなかったんだ―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスラン・ザラは、思ってもみなかった形で親友と再会したことに衝撃を受け、それを隠すことも押し込めることも出来ぬまま、崩落して爆発したモルゲンレーテの地下工廠から奪取した連合の新型モビルスーツと共に脱出を果たしていた。

 

 ――キラがっ! あのキラ・ヤマトが、連合と結託してこんな物を建造していたヘリオポリスにいた! 一体なぜ!?

 

 事態が飲み込めぬまま、混乱する心理で機体を動かしながら地表へと着地して状況を見定める。

 

『ヘリオポリス全土にレベル8の避難命令が発令されました。住民はすみやかに最寄りのシェルターに退避してください・・・・・・』

 

 住民の多くが避難を終え、がらんとし始めていた町中に、そんなアナウンスが響いてくるのを奪取した機体《X303イージス》の集音マイクは拾い上げ、コクピットの中にも響かせてくれる。

 

 アスランとしては、まだ信じられない思いだった。

 信じたくない光景だったと言った方が適切かもしれない。

 

 よりにもよって、味方を撃ち殺した連合軍士官の傍らに立っていたのが、4歳の頃に出会って幼年学校を共に過ごし、3年前の13歳の時に別れて以来の親友だったなんて・・・。

 タイミング的に考えれば、あの女性士官を支援するかように発せられていた警告の声も、おそらくはキラが放ったものだったのだろう。

 

 月のコペルニクスにいるはずの親友の姿が、連合の新型モビルスーツを密かに開発していたモルゲンレーテの地下工廠に立っていて、自分たちから奪われまいと銃撃戦で応戦していた連合軍の兵士を助けるように割って入ってくる。

 

 これではまるで・・・・・・自分の親友であるキラ・ヤマトが、『地球連合軍に味方している』としか思えない―――

 

「・・・いや、違う! アイツはそんな奴じゃない! そんなこと出来る奴じゃないんだ・・・!」

 

 内心の不安を払拭するように、声に出してアスランは自分の悪い予想を否定する。

 まだ断定するには早いと、自分の浅慮をいさめる思いも込められた言葉だった。

 

 あの時キラは私服姿で、連合兵士の傍らに降り立っていた。そしてここはオーブの所有する中立コロニー・ヘリオポリスなのだ。

 月のコペルニクスで別れた後、キラが戦火から逃れるため安全な中立コロニーに移り住んでいたとしても不思議ではない。そして自分たちは、そのヘリオポリスを襲撃してきた側の軍隊なのだ。

 中立の立場で連合に加担していたのはオーブと言えど、彼がヘリオポリスの住人になっていたのなら、自分たちへの攻撃に加勢する行為は『自衛』に当たる。

 そもそも、お人好しすぎるところが親友の欠点であり長所でもあったのだ。殺されそうになっている姿を見てしまい、思わず声を出してしまっただけかもしれないではないか。

 

 そう考えると、アスランの心の重荷はだいぶ軽くなる。

 だが、その直後に自分が出てきたばかりの地下モルゲンレーテ工廠が爆発し、その爆光の中から自分の後を追うように飛び出してきた連合の新型最後の一機の姿を見せつけれた瞬間、再びアスランの心は重いしこりを感じざるを得ない心地にさせられる。

 

 ――あの機体に、キラが乗っているかもしれない・・・っ。

 そうだとすれば、自分はどうすれば―――!!

 

 激しい葛藤がアスランの先程達した答えと相矛盾して、彼の心を苛んでいた。

 もしキラが、連合軍の兵士と協力関係にあったなら、あの機体に乗って共に脱出している可能性は高いと見なさざる得ない。

 だが反面、もし彼らが無関係でキラがオーブの一市民に過ぎない身分だったとしたら・・・・・・軍事機密を守り抜くことだけを優先した連合軍士官に置き去りにされて、爆発に包まれたモルゲンレーテ工廠と運命を共にさせられている可能性が高くなってしまうしかない。

 

 親友が敵になっていない場合は死んでしまっている可能性があり、今も生き続けている場合には敵同士になってしまっている恐れがある状況。アスランにとって、これほどに皮肉で滑稽な事態も他にない。

 

 どちらと判断して、残る可能性を切り捨てての行動に出ることも出来ず、ただただ呆然と立ち尽くすことしか出来ずにいると、コクピット内にアナウンスとは異なる聞き慣れた別の声がスピーカーから流れてくるのに彼は気付く。

 

『よくやった、アスラン! ラスティも上手くやってくれたようだなっ』

 

 同じクルーゼ隊に所属するパイロット『ミゲル・アイマン』からの通信だった。

 残されたパーツや製造工場を破壊する役目を実行していた《ジン》を操り、アスランの乗るイージスの傍らへと歩み寄ってくる彼の言葉に、アスランは心に痛みを感じさせられ、辛そうな声で返信する。

 

「ラスティは・・・失敗した。向こうの機体には地球軍の士官が乗っている・・・」

『なに!? ではラスティはっ?』

 

 驚いた声と共にモニターが開かれ、唇を噛みしめた表情で『否定』を求めてくる同僚からの質問に、アスランは俯きながらも首を横に振った。

 その仕草を見せられたミゲルの顔面を、ぱあっと激高の色が染め上げる。

 

『なら、あの機体は俺が捕獲する! お前はソイツを持って先に離脱しろ!!』

 

 僚友から告げられた言葉に、アスランは一瞬迷いを顔に浮かべる。

 ――もし、キラがあの機体に乗っていたら・・・そしてもし、キラが自分たちを裏切ったわけではないのだとしたら・・・・・・自分はこの判断で、奪われたばかりの戦友だけでなく年来の親友まで失ってしまうことになるかもしれない・・・・・・そういう恐怖があった。

 

 だが、確証は何もない。

 そもそもキラが、あんな所にいるはずがないという想いも消えたわけではない。

 

「・・・分かった、頼む。だが、苦戦するようなら一旦後退して装備を調えることを優先した方がいい。

 今調べたが、コイツらの機体はフェイズシフトの装甲を持っている。展開されたらジンのサーベルなど通用しないだろう」

『フェイズシフトだと!? 実弾攻撃をすべて無効化できるっていうアレのことか!?』

「そうだ。今の君の装備では分が悪い、ビーム兵器を取りに戻るため一時帰投するのが最も確実性は高い戦法だろう」

『《バルルス改》でも持ってこなけりゃ、落とすのは難しいって事か・・・ナチュラル共め。厄介な代物を造ってくれやがったもんだぜ!』

 

 舌打ちしながらもミゲルは、なんとか“妥協させること”には成功したらしい。

 

『了解した。落とすのに時間がかかりそうなら、一時後退して出直させてもらう。

 お前は早く離脱しろ。いつまでもウロウロして、せっかく奪った機体まで傷物にされたらどうする気だ?』

「・・・・・・そうだな。すまんが、ここは任せる」

 

 そう返事をして、アスランは母艦に帰還するため機体を飛び立たせる。

 敵の内部情報が何も分からない現状において、これ以上アスランにできることは何もない。

 せめて、あの機体にキラが乗っていないことを願いながら。

 もし乗っているなら、無事にミゲルに捕獲されて生きた姿で親友と再会できることを祈りながら、イージスは爆発と煙が渦巻くヘリオポリスの地表から飛び立って、漆黒の夜空へと姿を浮かび上がらせていく。

 

 斯くしてコロニー内で勃発していた戦闘は、第二ラウンドへと移行することになる――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、コロニー内での戦闘が、先行して潜入していた者たちの作戦目標達成により、大部分の人員が母艦へと帰投して掃討戦へと移行したことで収まりを見せ始めていた中。

 コロニーの外側で行われていた戦闘もまた、静けさを取り戻しつつある状況になっていた。

 

 ――地球軍側の一方的な敗北、という形でである。

 

 

「逃げる!? 敵の方から、この状況で?」

 

 敵のモビルスーツ隊からコロニー内部への侵入を阻止するため、《メビウス・ゼロ》に乗って必死に防戦していたムゥ・ラ・フラガ大尉は、唐突に退き始めた敵部隊の姿に驚きの声を上げざるを得なくなっていた。

 

 既に味方は自分だけしか残っておらず、母艦だった偽装輸送船も今し方艦長と共に撃沈させられ宇宙の藻屑と化してしまっている。

 その状況下で目撃したのが、コロニー内部からザフト軍のヴェサリウスへと帰投コースを取って進んでいく見慣れない3つのモビルスーツと、遅れて追随する1機の機体。

 

 識別コードから見て、自分たちが守ろうとしていた連合軍の新型に間違いあるまい。

 母艦を沈められ、味方も全滅させられた挙げ句、守るために派遣されてきていた機体まで敵に奪われるという屈辱的な立場にムゥは歯噛みし、どうすることも出来ない自分の無力さに苛立ちを感じさせられる。

 

 そんな状況中で、漆黒の夜空には一筋の光る線が打ち上げられるのが見えたのだ。

 おそらく敵母艦からの撤退信号だろう。既に目的を達成した敵としては、これ以上この中域にとどまっても意味のなくなった戦況では正しく真っ当な判断と言える行為だったろう。

 

 ―――だが不思議と、ムゥには敵の行動が、そういう常識的な定石をなぞったものとは思えなかった。

 

 1機が大破させられたとはいえ、残る無事な機体まで鮮やかに退いていく潔い姿には、何か別の意味合いが含まれているような気がして仕方がなかったのである。

 

 まるでそれは敵部隊の撤退が、前座が終わって真打ちが登場するべき時期が来たことを示すかのように。

 自軍を率いる最強の将軍が、敵将と一騎打ちで決着をつけるため出陣する道を指し示す儀仗兵の役割を果たしているように―――そう思った瞬間の出来事だった。

 

 

 ―――お前はいつでも邪魔だな、ムウ・ラ・フラガ!!―――

 

 

「!! 貴様ッ! ラウ・ル・クルーゼかっ!?」

 

 頭の中に閃光のような光が走ったと思った瞬間。

 一瞬だけ声のようなものを聞いたような気がして、その声が聞き覚えのある不吉さを纏ったものだったことで、ムゥ・ラ・フラガは敵部隊の行動を完全に理解する。させられる。

 

 この敵を相手にして、判断としては正しくとも中途半端な撤退などあり得ない。

 全滅するか、圧勝するか。完全なる勝利と完敗とを敵味方にもたらすことで名称の名を欲しいままにしているザフト軍のエースパイロットでもある男。

 ムゥにとっては、自分が《鷹》の異名を奉られて、英雄として利用させられる切っ掛けとなった《グリィマルディ戦線》で初めて交戦して以来の因縁がある相手であったが―――それ以上になにか五感より深いところで感じさせられる奇妙な相手・・・・・・ラウル・クルーゼ!!

 

 

 ―――お前が私を感じるように、お前も私を感じるのか? 不幸な宿縁だな――――

 

 

「うるさい! お前の理屈で思い通りにばかりなると思い上がるな!!」

 

 ムゥは愛機を駆って、高速で接近しつつあるザフト軍の指揮官用モビルスーツ《シグー》を相手取るため一時停止させていたメビウス・ゼロに火を入れ直して発進させる!

 

 弾薬も燃料も消耗した状態にあり、味方からの援軍も期待できず、母艦を失い、守るべき機体の大半も奪われたことが確認されてしまった現状で、それでもムゥは一縷の望みをかけてクルーゼを倒して、コロニー内へ侵入させないための防衛戦を開始させる。

 

 連合の新型を奪いにきた敵軍が、まだコロニー内へ侵入しようとすると言うことは、全ての機体を奪うことには成功してないという意味だと信じて。

 まだ希望は残っており、その機体をクルーゼから守り切れば勝ちの芽は出てくると信じて。

 

『私だけの理屈ではないさ!

 どちらにせよお前には、この辺で消えてくれると嬉しいのだがね・・・・・・もっとも、お前にとっても私がご同様かなっ!?』

「ちぃっ! こいつ、たった1機でヘリオポリスの中に入りこむつもりなのか!?」

 

 

 二人の両軍エースはぶつかり合って火花を交わし、やがて片方が撃つと見せかけて反転して向かった先に、残る片方も後を追う。

 

 二機の機体が互いに互いを撃ち合いながら、周囲に漂うコロニーの破片や半損した施設を破壊し合いながらコロニー内へ向かって交錯しながら猛スピードで潜入していく。・・・・・・その横で。

 

 

 互いのことを重視して意識し合い、互いを落とすことに集中していたエースパイロット同士だからこそ気付かなかったし見落としてしまった、コロニーの隔壁部分で一部残っていた無事だった一室に集まって、自分たちの戦いを観戦しながら、敢えて邪魔せず通させる道を選んでいた、取るに足らぬ一部の矮小な者たちがいたことを彼らは二人とも気付いてはいなかった。

 

 

「・・・・・・ユウキ二尉、よろしいのですか? あのまま行かせてしまって・・・あの機体にまで侵入されたら我らのヘリオポリスはもう・・・」

 

「良くはないが、どうしようもない。モビルスーツ相手に撃っても躱された挙げ句、撃ち返されて殺されるだけだ。コッチはコッチで出来ることやるしか他に手がないんでな。

 なに、まだ手はある。

 勝ったと思って油断しきってるところに一発当てて逃げ出すのが、最高に気持ちのいい逃げ方ってもんさ。それが出来る時まで、とにかく待つんだ」

 

 

 

つづく

 



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機動戦士ガンダムIF~その日、地球連邦政府はジオン公国に降伏した・・・~

作者が前から考えていて。流石にどうかと思って書かなかったアイデアを設定だけでも形にした作品です。
実はインフルかかってテンション微妙な作者。多分それも影響してるかと…


 

 ある人物は言った。『人類だけが可能性という名の神をもつ』――と。

 これは、神の悪戯によって起きえたかもしれない、決して起きてはいけなかった可能性が現実になった世界の歴史である・・・・・・。

 

 

 宇宙世紀0079、1月3日。

 スペースコロニー・サイド3は『ジオン公国』を名乗り、地球連邦政府に対して宣戦を布告。

 

 後に、《一週間戦争》と呼ばれる戦いの始まりである。

 

 開戦よりわずか40時間で3つのサイドは壊滅し、28億もの命が失われたが、この凄惨な殺戮劇の被害者たちでさえ、ジオンの真の目的達成と比べれば雀の涙と割り切るべきものでしかなかった。

 ジオン軍は空前絶後の計画を実行に移したのである。スペースコロニーを強大な弾頭に見立てて地上に落下させようというのだ。

 

 落下するコロニーを阻止するため、連邦軍は総力を結集して必死に抵抗し――そして、失敗する。

 

 コロニーは目標通り、南米にある連邦軍本部ジャブローへと落下し、地球連邦軍は本部機能を完全に損失させられることとなった。

 中枢部を失って各所に分断された連邦軍に、ジオン軍は猛禽の群れの如く襲い掛かり、占領地域を急速に拡大していく。

 

 各基地に駐留していた連邦軍部隊も必死に抵抗したが、最新兵器MS《ザク》を要するジオン軍の威力の前では為す術がなく、次々と殲滅されていくことしかできなかった。

 

 ルウム戦役でジオンに敗れて虜囚の身になりながらも脱走し、地球へと帰還した名将レビル将軍による『ジオンに兵なし演説』により一時は勢いを取り戻したかに見えた連邦軍残存部隊だったが、新兵器を開発する力が残っておらず旧式兵器しか持たない彼らの抵抗は敗戦を遅らせる効果しか持たせられることは遂になかったのだ。

 

 斯くして宇宙世紀0080、1月1日。

 遂に最後まで抵抗していた地球連邦軍残存部隊が立てこもる拠点《ベルファスト》は陥落。

 こうして、後に《一年戦争》と総称される凄惨な殺戮撃《ジオン独立戦争》は、ジオン軍の勝利という形で幕を閉じ、人類はようやく平和を取り戻すことには成功したのである。

 

 戦いに勝利したジオン公国軍は、サイド3の独立自治のみならず、連邦政府に対して人類統一政体としての地位の放棄と、大幅な軍備縮小まで認めさせた。

 更に国名を《ジオン大公国(たいこうこく)》と改名。

 地球連邦に代わる新たな地球圏の覇者として君臨することを宣言したジオンの指導者ギレン・ザビを中心とする独裁政権を誕生させ、優良人種のみによる地球圏の管理運営計画を実行に移すための第一歩を飾ることになっていく。

 

 

 

 ――だが、自らを『優れた存在である』と自負する一部のアースノイドたちにとって、この屈辱的な敗北と恭順を受け入れられるはずもない。

 ギレン・ザビとジオン軍を憎む地球連邦軍の兵士たちは、戦後も地球各地に潜伏して抵抗運動を続けていく。

 

 ジオン大公国は、これらの連邦軍残党に対して、自治権を承認した地球連邦政府自身の手で対処するよう要求した。

 その意思と力なしと判断される時には、再度の開戦も辞さぬという但し書きまでつけて。

 事実上の最後通牒であった。

 

 苦悩した末に地球連邦政府は、これらの地球の独立と解放のためギレンと戦う同胞たちを自らの手で討伐することを決定させた。

 何よりも、戦火に傷ついた自国の国力回復が急務であり、時を待って完全なる独裁者からの解放と地球連邦の復活のため今は力を蓄えるべきと判断したのが、その理由だった。

 

 しかし、地球連邦政府の高官たちの間には、ギレンの支配を受け入れて、その下での栄達を望む者も少なくはないことを、レビル将軍をはじめとする軍高官たちは察しており、苦々しい思いを抱かされていたことは言うまでもない。

 

 

 地球連邦の敗北とジオン公国の勝利という形で幕を閉じてしまった一年戦争は、地球連邦政府とジオン公国との対立を、『地球に住む者』と『ジオンの独裁者ギレン・ザビに従う者』との対立へと、その意味を微妙に変化させていくことになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ――それから3年。

 

 独裁者による支配という歪んでしまった世界を正すため。

 世界と歴史を元のあるべき姿へと戻すために、人類統一政体《ジオン大公国》への抵抗を続ける地球連邦残党軍による戦いの物語は、この年から始まることになる。

 

 

 

「ボクたちは、3年待ったんだ・・・・・・っ」

 

 

 

 これは―――散っていった者たちを冒涜する、あり得てはいけない世界の戦いを記した歴史である。




*前に経験あるため念のため書いとくだけの後書きですが、今作は「ジオン軍勝利作品」ですけど「ジオンを美化する作品」では全くありません。

敵キャラを美化する行為自体が、バカらしくて嫌いな作者だからです。
作者は悪役が好きです。悪役は悪のままでいい。
「本当は悪役の方が正しかったのではないか?」とかの正義はいりません。


私や悪役が求めるのは、美化でも正しさでもなく、『勝利』のみ……。
そういうタイプの作者が妄想した最悪過ぎるガンダム未来の物語~。


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ガンダムW戦記~クロスボーン・バンガードの旗のもとに~10章

【クロスボーンW】最新話の更新です

インフルで頭重いです、体もダルイです……そんな状態になった途端に書きたくなってる作者は、自分でもマゾかと思いましたが、出来ちゃったので投稿しておきました。

尚、今話で語られている《オペレーション・メテオ》は、あくまで作者の妄想です。
原作で語られてたセリフと設定と展開から、可能そうな目標として推測しただけですので本気にされませんよーに。話作るときに曖昧なままだと困るので。


 ハウゼリー・ロナ暗殺未遂とドーリアン外務次官の暗殺という二大ニュースによって宇宙では戦々恐々という雰囲気に満たされていた頃。

 地球のレイクビクトリア基地では、ウーフェイの闇討ちから破損を免れていた私室において、ルクレツェア・ノイン特尉がシャワーを浴びたばかりの身体にバスローブを身につけただけの姿で髪をぬぐっていた。

 

 彼女の瞳には昨晩までにはなかった光が宿るようになっており、表情にも少しだけ険しさを増していることが“ノイン教官”を見慣れている者達には一目で分かる程だ。

 その原因が先日発生したウーフェイの襲撃と、その後の戦闘が影響したものであるのは明らかだった。

 髪を乾かし終えたノインはリビングまで歩いていき、そこでソファに座していた一人の男の隣に立って、相手を見つめる。

 

 このような場所でさえ、トレードマークとも呼ぶべき銀色のマスクを外そうとはしない、異様な風貌と雰囲気をまとった有能極まるOZ士官。

 

 ゼクス・マーキス。

 

 彼は先日来、部下であるオットー特尉が発見してコルシカ基地より移送させた旧式モビルスーツを、ノインの基地の一角を間借りして修復作業をおこなってもらうため養成所時代の同期でもある級友の元を訪れていたのである。

 

「ゼクス、また私を頼ってくれた事はありがたく思いますが・・・・・・」

 

 言いながらノインはゼクスの顔を見下ろし、気になっていたことを口にする。

 問われた方はなにか気になる映像でも映っているのか、先程からテレビモニターの画面を見つめたまま一瞬足りと視線を外そうとしてくれていない。

 

「本当に、あんな二十年前に設計されたモビルスーツが使えるのですか? 旧式と言うこともありますが、何よりあのサイズでは機動性が確保できるとは思えませんが・・・・・・」

 

 それがノインが、コルシカ基地からゼクスが運ばせてきて修復作業をおこなっているモビルスーツに対しての嘘偽りなき感想だった。

 彼女の懸念も尤もなもので、常識で考えれば使い物になるとは思えない代物だったのが、オットー特尉が発見して今も修復作業の指揮を取っている大型モビルスーツの実情だった。

 到底、普通の人間が扱うことなど想定して設計されていない機体なのである。パイロットたちの生還を第一に考える教育法を採用してきた養成所教官のノインが、そう判断するのも無理はない。

 

 だからゼクスは怒らなかったし、不快とも感じなかった。

 だが、賛成しようと思わなかったのも事実ではある。

 

「あの機体は恐らく、今のOZにあるどのモビルスーツよりも優れた性能を備えているだろうな」

「そんな・・・・・・まさか!」

「いや、あのトールギスは全てのモビルスーツの原型になっている。あのガンダムでさえ、あの機体を出発点として生み出されているのだ」

「ガンダムの!?」

 

 その名を聞かされた瞬間、ノインの眉間に険しい縦皺が走る。

 先日のガンダムによる襲撃で受けさせられた傷と屈辱は、そうそう簡単に癒やされるものではないのだろう。

 部下達でもある訓練生が死を免れられたのは不幸中の幸いではあったが、それはザビーネが事前に避難を促してくれていたからであって、ノイン自身が彼らを守ってやることが出来たという訳ではなかったのだ。

 もし彼が来てくれなかったら・・・いや、到着が今少し遅れていただけで彼女は教え子達の死体と再会する羽目になっていたことだろう。

 そうなっていた現在を考えると背筋が振るえて、顔色が青くなるのを自分でも実感できてしまえる。それ程に彼女にとって先日の一件はトラウマになっていたのである。

 

 だが、ゼクスの瞳は青ざめた唇を噛みしめたノインの顔を見てはおらず、心は彼女の傷つけられた戦士としてのプライドを慮ってはいなかったようだ。

 

「――とは言え、これは今までのOZが保有してきた機体だけの話ではある。ザビーネ大尉がガンダムと互角に戦って見せたクロスボーンのモビルスーツまでもを含めれば、果たしてどちらの方が性能は上なのか。パイロットとして興味深いところではある」

「ザビーネ・シャル大尉、ですか・・・・・・」

 

 ゼクスの口から聞かされた“その人物”の名前を聞かされたことで、ノインは表情を再び変化させ、今度はやや曖昧な感情を内心で抱かされているような、曰く言いがたい表情になってゼクスに向かって微笑を返していた。

 

 ノインが先日の一件を気に病み続けている理由の一つは、彼らの存在もあったからだった。

 決して嫌いという訳ではない。感謝もしているし、部下たち共々助けてもらった恩もある。どちらかと言えば好意を感じている方だと言って良いだろう同盟相手の優秀な若手士官。

 そんな相手でありながら、ノインはどこか落ち着かない気分にさせられる部分を彼らは持っているような気がしていた。

 どことなく信頼が置けない、という程ではないのだが、些か不安を感じさせられてしまうのだ。

 

 彼が自分に言ってくれた言葉は優しく、OZ上層部へ述べた不適切な人事は厳しく、そのどちら共が正しかった。正しいものの見方に基づく意見だったとノインも思っている。

 ・・・・・・ただ、それが出来てしまう彼らの純粋すぎる側面にかすかな怖さを感じてもいた。

 

 人は彼らほど綺麗なままの信念を持ったまま生きられない。そこまで人は強い生き物ではないからだ。

 彼らの純粋さは、汚れていくばかりの大人たちの一員になってしまった自覚のある今のノインにとり、いずれは自分たちのも粛正の刃が振るわれる理由となる日が来るのではないか?と、そんな不吉すぎる想像をかき立てられる部分が僅かに、だが確かにあると、そう直感させられていた。

 

「ノインの気持ちも、分からなくはないがな・・・」

 

 もっとも、レイクビクトリア基地に長いノインよりも、彼らと付き合う機会が多かったゼクスの方は、彼女よりもクロスボーンの内情に関しては詳しかったから、そこまでの不安感を感じる必要はないと判断していたらしい。

 

「ザビーネ大尉は、クロスボーンの中でも最先端の一人と言っていい人物だ。その為やや極端なところがあるのは否めない。そこは流石に選ばれたスタッフの一員と言うことでもあるのだろう。

 だが、我々OZとてトレーズ閣下に選ばれた兵士たちのみで構成された《スペシャルズ》ではあるものの、全員が全員ノインや私と同じように生きている訳ではない。

 それと同じ事だと私は思う。個人を基準として組織全体について考えても詮無きことだ」

「たしかに・・・・・・仰られるとおりですね」

 

 言われて納得し、ノインはようやく完全な落ち着きを取り戻して顔色も血色の良さが戻ってくる。

 たしかに、個人の意思だけで組織というものは動かせるものではなく、多くの者達からの理解と賛同、協力が得られなければ大事など成せるものではない。

 仮にザビーネが人々の上に立ち、皆を牽引していく立場になったとしても、彼の先鋭さに普通の人たちはどれだけ付いていくことが出来るだろうか? ザビーネ自身もそれが分からぬほど愚かな人間とも思えない怜悧な若者でもある。

 若さ故の、男故の野心はあろう。だがそれは一国一城の主になるといった程度のものであって、世界を自分の意のままに操りたいと欲する独裁者の地位を希求するものではなかろうと、ノイン自身はザビーネに対してそう分析していた。

 

 パイロット養成所で教官として勤め上げてきた実績のあるノインには、人を見る目はあるつもりだったから、自分の判断は当たらないまでも遠からずといった程度には的中している自信もある。

 彼女はザビーネについての結論を出すと、彼について考えることを止めて、ゼクスが見つめたままのテレビモニターの映像へと視線をやって、そこに映し出されているOZの軍服をまとった若い女性士官の話に耳を傾ける。

 

『レディ・アン特佐! 事件についてコメントをっ』

『今回の事件は昨日に発生した、ハウゼリー社長の襲撃事件と同一犯との見方もあるそうですが、それについて何か!?』

『大変残念なことと思っております。このコロニー群にこれほどの凶悪事件を2件も続けて起こす悪質なテロリストが潜伏していたとは・・・・・・』

『ドーリアン外務次官と、その娘さんが誘拐されたとの情報もありますが――』

 

『我々も鋭意調査中です。テロリストの正体がハウゼリー氏の襲撃犯と同一犯か否か、仮に同じであるなら何の目的でドーリアン外務次官まで殺めたのか? それらは今もって不明なままですが、我々の外務次官と高級軍人が暴徒による危害を加えられるのは連合に対する敵対行為と同義です。

 これが、もしコロニー全体の意思とする場合には我々も軍事行動に移らざるを得なくなりますが・・・・・・しかし我々OZと、ハウゼリー氏の父親であるマイッツァー・ロナ総帥は今回の件は一部の矮小なる者共の暴走である可能性が高いとみており、コロニーに住む人々すべてが今回のような暴挙に加担している訳ではないと、篤く信頼しているところでもあります。

 必ずや犯人を見つけ出し、ドーリアン外務次官のご息女も救出し、今回の一件が誰の手によって扇動された結果であったか真実を明らかにすることをお約束いたします。

 我々OZは、コロニーに住む皆様こそ真に平和を求めておられる方たちだと信じておりますので・・・・・・』

 

 レディ・アン特佐が、特徴的な冷たい眼をして眼鏡をかけた姿で、歯の浮くような美辞麗句を並べ立てながら、連合の軍人であると同時にコンビニ大手チェーンの社長を兼任しているハウゼリー・ロナが暴徒に襲撃された事件について語りながら、ついでのようにドーリアン外務次官の暗殺と娘が誘拐された事件を同時に報道させていた。

 

「・・・・・・ずいぶんと甘い対応をしたものですね」

 

 意外さを込めてノインは、レディ・アンの記者会見を評して言った。

 偏見もあるが、彼女はレディに対して冷たく厳しすぎる印象を抱いていたため、ハウゼリーの負傷とドーリアン殺害に対して、OZからコロニー側への対応は相当に手厳しいものになるだろうと予想していたのだが、結果は良い意味で的外れなものとなってくれたようだ。

 

 モニターの中に取材陣たちにも露骨な安堵の笑みを浮かべている者が幾人か映っており、部外者であるノインやマスコミ陣でさえそうなのだから一般市民の反応は推して知るべし、と言ったところだろう。

 

 だが無論、トレーズの側近くでレディをよく知るゼクスの見解は、ノインと異なる。 

 

「コロニー住人への人気取りを狙ったのでしょうか? 現在の政情を鑑みれば分からない話ではありませんが・・・」

「相変わらずの役者ぶりだな、レディ・アンは」

「・・・・・・え?」

 

 ポツリと呟くような声で語られたゼクスの見解に、ノインは瞳を大きく開けて彼の顔を覆った銀色の仮面を見る。

 そこに隠された瞳が何処へと向けられているかノインにも、正確なところは分からないが、少なくとも今回ゼクスの鋭い分析眼は、レディ・アンが仕掛けた謀略の内側へと向けられ、完全に見抜くことが出来いていた。

 

 一見すると肝要な対応にも見える、今回の一件に対するOZからの公式見解だが、実際にはコロニー内勢力の分断と仲間内での密告を奨励させることを目的としたものだと、彼は気付いていたからである。

 

 今回の一件で自分たちが住んでいるコロニー内に【戦争をしたがっている市民】と【そうでない市民】がいる事実に、コロニー市民たちの全員が気付かされてしまった。

 そうなれば始まるのが、巻き込まれたくない者達による壮大な《魔女狩り》だ。身内に潜んでいる裏切り者を探し出すためコロニー市民同士が互いに猜疑の目を向け合う事態になるのは時間の問題だろう。

 

 これでOZが厳しい対応を世間に示していたら、コロニー全体にとっての脅威となり、味方は団結して内側の結束は高まりを増す。

 当初の時点では恐らく、そちらの道を選ばせるため仕掛ける予定でいた謀略だったのではないか?とゼクスは疑っている。

 

 だが状況は変わった。クロスボーンからもたらされた地上でも使用可能な傾向用ビームライフルの量産を連合軍の各軍事工廠ではじめたことでOZの指導部に当たるロームフェラ財団が計画の一時延期を決定したのだろう。

 

 実際、OZが影響下においている各地の軍事工廠と違って、連合正規軍の各工廠は本国内部の奥深くにあるものが少なくない。ガンダムたちにとって襲いたくても狙い難い位置に彼らの工廠はある。それによってガンダムたちにも揺さぶりをかけているつもりなのだろう。

 

 分かっていても対処する手立てが乏しい、見事な策だ。だが・・・・・・

 

「・・・だがレディの策にしては些か迂遠すぎるな。ハウゼリー辺りに唆されでもしたか、あるいは――」

 

 そこまで言って、ゼクスは言葉を切って発言を飲み込む。

 前線の雇われ軍人としては、分を超えた内容だったかと自重したのだ。

 

 実際、彼の予測は当たらずとも遠からずと言ったところであり、良くも悪くも『武力制圧』に偏っているレディの強行対応に対して、異なる方面からのアプローチを提案したのはクロスボーンの中の誰かではあったらしい。

 誰なのかはハッキリとしない。複数人、あるいは特定の誰かに言われた訳ではなく、彼女自身が彼らとの話の中で作り上げていった独自の謀略だったのかもしれない。

 

(・・・この地球とは異なる歴史を歩んだ、別の地球でおこなわれたMS同士の戦争か・・・。

 異世界でも戦いを辞められない人類の業には嘆く他ないが、パイロットとしては興味を刺激されずにはいられない私も、あるいは彼女と同類かもしれん・・・)

 

 自分が戦争を嫌いながらも、“戦闘を好む”性格の持ち主であることをゼクスは最近、薄々気付いていた。自分は平和なインテリジェンスに向かない人間かもしれないと。

 

 だが、そんな彼でも人の子であり、木の股から生まれた訳でもなければ、自分を生んでくれた父も母もいる普通の人間なのである。

 

 だからこそ、『安否を気に病んでいる家族』が彼にもいた。 

 その存在の安否を気遣って、先程からニュース映像をつけっぱなしにしていたのだが、どうやら追加情報が入る様子もなく、事件の内訳と裏側も大凡は察しをつけることが出来もした。

 

「では、ドーリアン外務次官は・・・」

「殺されたのだろうな。レディの手の者が直接やったかまでは分からんが・・・」

 

 ゼクスの見解を聞いた上でノインが出した結論を声に出し、簡明に肯定を返すと―――短く小さな声で“本命の名”を口にする。

 

「リリーナ・・・・・・」

「ご心配ですね? ゼクス」

 

 間髪入れずに、自らの呟きが聞かれていたとしか受け取りようのない返答をノインから返され、ゼクスは「何の事かな?」とだけ告げて何事もなかったかのように席を立ち、部屋を後にする。

 

 その背中には、それ以上の言葉を拒絶する意思が強く感じられてノインは黙り込んだまま見送ることしか出来なかったが・・・・・・一方で、部屋を出て行ったゼクスの反応を思いだし、可愛さをも同時に感じる自分に苦笑もする。

 

 ・・・・・・仮面で素顔を隠して連合軍へと入隊し、当初はまだ地球連合軍の下部組織から始まっていたOZの総帥へと接近し、OZ士官として武勲を重ねて連合軍からは手出ししづらい位置にまで来てしまう。

 そんな先読みに優れた才を発揮する若く有能な軍人が、一方では先程のように感情的になって部屋を出て行ってしまうほど子供っぽい一面を見せる。

 

 気遣いを無碍にされた側とは言え、これでは女として腹立たしさよりも可愛さを感じさせられてしまう。

 ルクレツィア・ノインという女性士官は、そういうタイプの包容力が嘘偽りなく持っていた。そこがレディとは異なる部分でもある。今はまだ・・・・・・。

 

 

「・・・心を開きなさい、ゼクス・マーキス。

 いえ、ミリアルド・ピースクラフト。

 あなたは隠し事が多すぎる・・・・・・」

 

 

 そう呟きながらノインは、机の引き出しの中から思い出の写真を取りだして陶然と眺めた後。

 “彼”から、これほどに想ってもらえる少女のことを少しだけ妬ましく感じながら気遣いもした。

 無事だといい。彼女自身のためにも、彼のためにも―――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、二人の若く有能なOZ士官から異なる理由で安否を気遣われている少女は、コロニー内にある宇宙港へ向かう途中の車内にあった。

 正面には異形の人物が並んで座っており、リリーナを宇宙港まで送り届ける案内役を買って出てくれていた。

 

「ワシの事は、ドクターJとでも呼んでくれ。これでも科学者の端くれでな」

 

 そう名乗って、父が死んだ場所に乗り込んできて自分を連れ出した男たちのリーダーと思しき老人は、おかしそうな笑い声を上げる。

 あの後、殺された父の亡骸が横たわる部屋に踏み込んできたのは武装した私服姿の若者たちで、リリーナの過激な反応に当初は面食らったようだが、即座に反応して自分たちと一緒に来るよう促された。

 「ここに留まるのは危険だから」と。「自分たちは父を殺した犯人ではない」と。リリーナにそう訴えかけて共に脱出するよう求めてきたのだ。

 

 無論リリーナは最初、その男たちの言葉を信じなかった。銃口を向けたまま父の亡骸を最後まで守り抜くつもりであったが、そんな彼女にリーダーから発せられた一言が事態を決する。

 

「お父様の亡骸を、ご自分が殺した敵の血で染めるおつもりですか!?」

 

 そう言われてしまったリリーナに抵抗できる余地など残されている訳もない。

 彼らはドーリアンの遺体を可能な限りの迅速さと丁寧さで運び出すと車に乗り込み、自分たちの隠れ家まで彼女を案内してくれ、そこで出会ったのが今横にいる異形の老人だった。

 

「それではドクターJ、あなたがヒイロ君を地球に送り込んだのですね?」

「その通りじゃ。いやしかし、ドーリアン氏の娘さんがヒイロと同じ学校とは驚きじゃな。元気でやっとるかね? ヤツは」

 

 カシャカシャと金属がこすれるときに音を立てさせながら、左腕の義手と足の義足。指の代わりに三本のマジックハンドのような金属製の棒を取り付けた左手を揺らしつつ、長い白髭を伸ばし放題にした老科学者はリリーナからの質問に肯定を返して楽しげに笑うのみ。

 

 リリーナが彼からの案内を受け入れた、大きな理由がそれであった。

 『ヒイロ・ユイ』

 自分に向かって「殺す」と告げた謎めいた瞳の、だが本当は優しそうな少年の名前を何故だかこの老人は知っているらしく、彼に関する情報を少しでも教えて欲しくて緩徐は彼らの案内を受け入れる選択を選んだのだった。

 

「あいつはな、ワシらの代弁者なんじゃ」

「代弁者?」

 

 リリーナは意味が分からないといった風に聞き返す。

 無論ドクターJも詳しく説明するつもりでいる。当然のことだ。

 状況を鑑みて、自分が行くのは危険だと反対してくる仲間たちを押し切ってリリーナの案内役を買って出たのは、彼のことを伝えたかったのが理由なのだから――。

 

「ヒイロには物心ついた頃から、あらゆる戦闘技術を教え込んだ。殺人のプロシェッショナルとして育て上げたのじゃ」

「どうして、そんな事を?」

「分からんのか? コロニーの平和のためじゃよ」

「そんな! 人を殺す事が平和につながるはずはありません!!」

「つながるんじゃよ。戦争は人によって起こり、人によって終わらせられる。ヒイロに狙わせているのは戦争を始めようとしている悪魔のような奴らだけなんじゃ」

「でも、もっと平和的な解決方法があるはずです!!」

 

 リリーナは発作的に反発の声を上げていた。

 彼女が教え育てられてきた価値観から見れば、到底受け入れられる意見ではない。

 だが、ドクターJは激することなく、彼女の否定に否定を返す。

 むしろ予期していたかのように穏やかな声音で、リリーナに向かって自分たちの事情を説明し始める。

 

「二十年前には、ワシらもそう信じていた。人類はそんな愚かな種族ではない、と。戦争など誰も望むはずはずはない、と。

 確かに戦いは褒められたものではないが、戦わねばならん時があるのも事実なんじゃよ、お嬢さん。

 そして、それは今しかない。今、動き出して戦う道を選ばなければ手遅れになり、コロニーは地球の植民地以外の何物でもなくなってしまうからだ。

 それを説明するには、コロニーの歴史を語らねばなるまい・・・・・・」

 

 そう言って一息ついてからドクターJが語り出したのは、今のアフターコロニーと呼ばれる世界が出来上がっていく流れの中で行われていた、今はもう忘れかけている者が多い歴史であった。

 

 

 ――宇宙世紀と呼ばれる異なる世界の地球圏とは違って、この世界のコロニーの歴史は技術者と労働者たちによって始まりを迎える。

 

 地球環境の悪化と人口の増加、資源の減少・・・・・・。様々な要因によって地球での活動に限界を感じていた国家と企業は新たなるフロンティアの開拓に乗り出した。宇宙にである。

 障害は大きかったが、アフターコロニー102年にはL1に最初のアルファ1コロニーを完成させる事に成功する。

 一世紀以上の時間をかけて人類は宇宙空間に地球に似た環境を持った人工の世界を造り出すのに成功することが出来たのだ。

 それ以降は4世紀半に亘ってコロニー建造ラッシュが起こり、現在のコロニー群が成立していったのである。

 

 だが一方で、宇宙でコロニーが完成したのと同じ頃。地球上では国家間の紛争が続発するようになってしまっていた。

 ただでさえ地下資源が乏しくなっていた地球上にある国々が、資源不足と貧困問題を解決するためコロニーを開発して更に疲弊し、疲弊した国力を解決するため内政としてコロニー開発を、外政としての対外戦争を同時に行うようになってしまったことが原因だった。

 

 たとえ自国に侵略の意図を持たない自衛だけを標榜する国があったとしても、そこに資源があれば資源を欲する国が攻め込んでくる理由としては十分であり、攻め込まれれば対抗せざるを得なくなる。

 なまじ地続きで繋がり合い、海で隔てられた距離も然したる障害になりえない時代となっていた地球上では、戦争を求める求めないに関係なく誰かが始めた戦争へ向かう流れに逆らって戻ることなど誰にも出来ない窮状へと追い込まれてしまっていたのだ。

 

 そんな状況下で、地球全体の紛争問題を納めるためには調停者が必要だった。

 全体の総意で決めた決定に「不服だから」と武力によって受け入れを拒否する国が現れた際、武力によって違反者を討伐して、全体の決定を受け入れざるを得なくなるだけの圧倒的な力を持った絶対者としての調停者が・・・・・・。

 

 こうして、単独では紛争問題に対処できなくなった国々が手を組んで、『地球圏統一連合』が成立する土壌が耕されたのだ。

 この点で、アフターコロニーの地球連合は、宇宙世紀の地球連邦と似た部分を持たない訳ではない。

 だが地球連邦と地球連合には大きな違いと呼ぶべきところを有してもいた。

 

 地球連邦が有力各国の政治家たちによって結ばれた統一政権だったのに対して、地球連合は各国の高級軍人たちが主導して愛国の情熱が求めるままに成立された統一政権だったことから、当初から軍国主義の気が強すぎたことが一つ。

 

 今ひとつの違いは、この世界のコロニー群は地球圏統一連合が成立する“前”に造られ始めており、地球連合が造らせたものではない。という点である。

 あるいはこの二つのうち、後者の方がアフターコロニー世界に動乱をもたらす一番の原因であったかもしれない。

 

 この頃のコロニーは建造した国家や企業に所属することになっており、自分たちの属する国家が連合に加盟すれば自動的にコロニーも連合に所属することになっていた。

 だが経済的にも安定し、自らの所属国に対する発言力も大きくなっていたコロニー群は独自にコロニー自治機構を発足させて地球からの干渉を排除しようと考えるようになっていた。

 

 これに連合は反発した。地球上の紛争問題解決のため発足していた地球連合は、当初の目的をおおよそ達成して安定期に入る段階に達しつつあったからだ。

 もともとが軍組織を母体として誕生していた連合は、武力によって解決すべき紛争がなければ存在意義を失ってしまう。

 地球各国を統一するため、ひたすら軍備拡張を続けすぎてしまったことで、組織の縮小や人員の削減を誰も受け入れたがらなかったという事情もある。

 

 連合はコロニーの独立運動を反乱と決めつけて武力で制圧し始める。

 さらにはプロパガンダで、地球にとってコロニーが危険な存在であると喧伝し、いつしかコロニーが軌道上から地球を攻撃するなどという、当時のコロニー側が有する技術力では実現不可能な情報までもが広まってしまい大衆の間に定着までしてしまう。

 

 そんな中、今から20年前にコロニー非武装論を説く指導者が現れる。

 その名を《ヒイロ・ユイ》と言った――。

 

 

「ヒイロ・ユイ!?」

 

 話を聞いていたリリーナは、思わず声を上げてしまう。

 ドクターJは頷いて、話を続ける。

 

「我々コロニー生活者にとって彼の名は、すでに伝説となっておる。奴のコードネームも彼にあやかったものじゃ」

「コードネーム・・・・・・ヒイロ・ユイは彼の本名ではなく、コードネームだったのですね」

「そう。――だが、彼の主張が指示されたことでコロニー制圧の大義名分を失った連合との平和な時は、長く続かなかった。

 ある組織にヒイロ・ユイは暗殺され、それによる混乱を収める治安維持の名目のもと、連合軍はコロニーを次々と制圧されてしまった。

 それからはコロニー間の連絡は絶たれ、抵抗運動は連合軍にとって戦力増強の口実に利用された。今ではすでにコロニー住人で戦える者さえ少なくなりつつある・・・・・・」

 

 ドクターJは言葉を切り、悔しげに吐息を漏らし、連合高官の娘として生まれ育ったリリーナには言葉がない。

 それでも何か言おうと、彼女が口を開いた時、

 

「じゃが・・・・・・」

 

 と、ドクターJの方が先に言葉を続けてリリーナを遮った。

 

「近年になってから、変化が生じつつある。“新たなる敵”が現れたのじゃ。

 海賊の名を持った連中じゃが、連合ともOZとも異なる方法とはいえ侵略行為をおこなう意思があるのは間違いあるまい。

 その名を、“ロナ家”と“クロスボーン・バンガード”―――」

「クロスボーン・・・バンガード・・・・・・」

 

 リリーナは、その名を“再び聞かされ”たことで息を飲む。

 父が死ぬ時に今際の際で、OZとともに彼らの名をハッキリと口にしていたことを彼女は覚えている。「気をつけろ」と。

 

「彼らが、何時どこから現れたのか誰も知らん。あれほどの規模を持つ組織でありながら、誕生までの経緯がまったくの謎に包まれており、誰も知ることが出来ぬままなのじゃよ。

 ワシらとは異なる技術体系を持ち、OZと手を組んでOZの技術を貪欲に吸収し、二つの技術を掛け合わせ、今や彼ら独自の新技術まで生み出しそうな勢いで急速に成長を続け、今ではOZの背後にいるロームフェラ財団と共に連合内部の経済を分割支配して、コロニー経済にまで覇権の手を伸ばしつつある」

 

 ドクターJの話を聞かされたリリーナは、目を丸くして驚きを露わにする。

 信じられないという正直な思いが、そこにはあった。

 それではまるでファンタジーの世界で描かれている、《異世界人》と呼ばれる人々そのものではないか、と。

 

「・・・・・・じゃが、奴らの厄介なところはコロニー住人に対して宥和の姿勢を取り、侵略するに当たって武力制圧の色が少ないことなのじゃ。コロニー住人の中にも彼らを支持する声は少ないものではない」 

「? ・・・・・・それなら彼らのやっていることが侵略ではないのでは・・・」

「そうではない。奴らは確かにコロニー宥和のため企業経営をしておるが、明確な軍事組織であることに間違いはないからじゃ。

 軍事力を持って出てきた者は、武力制圧しか考えることはない。奴らが本性を現して、自分たちに反対するコロニーを力で従わせるようになる前に、ワシらは彼らの危険性をも同時に世間へ訴えかけなければならんと思っておる」

「・・・・・・・・・」

 

 その言葉を聞かされた時、リリーナのドクターJを見る瞳に、今までとは少しだけ異なる色が現れ始めたのは、この時が初めてのことだった。

 前方を見据えたまま話を続けていたドクターJは、気付かなかった。

 

「今しかないんじゃよ。戦うべき時は、我々に戦える力と、コロニーが曲がりなりにも地球の支配下に組み込まれていない今戦わなければ、可能性は絶たれてしまう。

 奴を送り出した日を、指導者ヒイロ・ユイが暗殺された日にしたのも、連合とコロニーの人々に当てたメッセージじゃった。

 ヒイロ・ユイを暗殺し、地球圏に戦争を引き起こそうとする張本人たち。

 ヒイロに狙わせておるのは、奴らとクロスボーンのみ。OZの全てと、そのバックにいるロームフェラ財団。そしてロナ家とクロスボーン・バンガード・・・・・・。

 奴らが結託して統一連合を乗っ取り、地球圏を完全に独裁支配するために起こそうとしている大戦争は、地球の国々だけでなくコロニーをも巻き込んだ史上最大規模のものとなるじゃろう。それだけは何としても阻止せねばならん。

 その計画を始める前に、彼らの野望を潰してしまわねばならぬのじゃ」

「でも・・・・・・」

 

 リリーナは、そこでようやく声を挟んだ。

 先程までの感情的な否定の言葉ではなく、十分に抑制がきいた理性的な声音はドクターJの意識を引いて話を止めさせるだけのナニカがあった。

 

「あなた方がガンダムを地球に送り込んだ理由が、OZとロームフェラの野望を阻止する為だったとしても、やはりコロニーの自主独立を連合に認めさせる力としても用いるのでしょう?」

 

 リリーナから問われた、強くはないし鋭い声でもない質問を投げかけられ、

 

「・・・・・・」

 

 ドクターJは黙り込んだ。

 肯定した訳ではない。・・・だが、即座に否定することもない。

 リリーナは静かな声で問いを続ける。

 

「あなたは話の最初で、『コロニーの平和のために』と仰いました。全人類の平和でもなければ、地球を含めた世界全ての平和でもありません。

 また、OZとクロスボーンによる世界支配のための大戦争を止めるためという戦う目的が真実だったとしても、現在の連合に支配されている立場を維持したがっているとは思えない・・・・・・。

 あなた方にとって、ガンダムを地球に送り込んだのはOZとロームフェラを打倒し、その力を見せつけられた連合がコロニー側との対等な関係を認めさせること。

 ――違いますか?」

「・・・・・・・・・・・・違わない」

 

 長い時間を沈黙と共に置いた後、ドクターJはリリーナからの静かなる追求に不承不承、頷きを返した。

 年甲斐もなく熱くなりすぎてしまったせいで、流石に言質を取らせすぎてしまった。今さら取り繕っても嘘くささが増すばかりだろう。

 

 連合とOZ、そしてコロニーという二極化された世界の話として聞かされていたならば、おそらく自分は気付かなかった部分だろうとリリーナ自身も感じてはいた。

 クロスボーン・バンガードという異分子が第三の勢力として、連合ともOZともコロニーとも異なる道を歩んでいると聞かされていたからこそ、ドクターの話に微妙な疑問点を感じることが可能になったのだった。

 

 だからと言って、彼らに感謝する気にはなれなかった。自分の父だった人を殺した犯人の共犯者かもしれない相手を、どうして好きになることができるだろう。

 

「じゃが、それは仕方のないことでもあるんじゃよ。お嬢さん。

 ワシらはコロニーを愛しておるし、そのコロニーが差別的な立場を甘んじざるを得なくなっておるのも、植民地として支配されてしまうのも断じて許す別けにはいかん。

 だからと言って、今の連合が我々との関係を話し合いによって改善してくれるとも思えない。

 世界支配をもくろむOZとクロスボーンの野望を阻止するため両者を潰すことで、連合にとって力の源であるロームフェラ財団をも同時に失われて、連合は大きく弱体化するじゃろう。

 そしてOZに勝利したことで、統一連合はワシらの側にもガンダムという牙があることを知り、一方的に力で支配できる相手ではなくなっていることをも同時に知ることになる」

 

 ドクターJは、今まで人に語ることが余りなかった具体的なガンダム降下による《オペレーション・メテオ》の軍事作戦としての作戦目標について、リリーナに語って聞かせていた。

 

「無論ワシらは、支配など望んでおらん。

 だが、片方だけが大きすぎる力を持ち、もう片方に力のない状況では、対等な話し合いによる解決など不可能である以上、ワシらの側にも最低限の武力があることを示さざるをえない。

 そうしてOZを倒すことで力を示して連合と交渉のテーブルにつかせ、最終的には地球からもコロニーからも全ての軍備を放棄させる。

 そうなった時、初めて人類は全ての者が対等な立場に立って、話し合いで問題を解決していける状況が訪れることじゃろう」

「武器を持っていること、それ自体が平和を阻害する悪だと?」

「その通りじゃ」

 

 大きく頷いて、ドクターJは断言する。

 

「殴られれば両手を挙げて降伏するしかない脆弱な相手から、対等な立場での話し合いによる解決を求められた時、一体どんな支配者が話し合いに応じてくれるというのじゃ?

 弱者の詭弁と笑い飛ばし、力ずくで従わせてしまった方が楽だと、誰もが思うことじゃろう。

 話し合いの結果に不満を感じた者が、その手にある銃を使って話し合いの結果を覆せてしまえる状況では、誰かが銃を手にしてしまった時点で平和は崩壊せざるを得ん。

 そうなる危険を避けて、全ての人々が同じ立場で話し合いによって問題解決へと進んでいける世界とするには、全ての人々が自由意志によって全ての銃を世界中から消し去ってしまうより他にない」

「・・・・・・仰っている理屈は、わかりますが・・・」

 

 リリーナは、釈然としないものを感じる部分はあるものの、大凡においてドクターの話に共感を覚えてもいた。

 車の向かう先に空港が見えてきたこともあり、リリーナは自分が最も聞きたいと願っていた質問を、ドクターJに最後の質問として投げかける。

 

「でも、どうしてその役目がヒイロなのですか? あんな年端もいかない子供に・・・・・・なぜ彼にそこまでさせなければいけないんですか? もっと年上の大人の方が――」

「仕方あるまい。あいつはワシらコロニー居住者の気持ちの痛みを誰よりも分かってくれておるのじゃから」

 

 ――気持ちの痛み・・・・・・その言葉にリリーナは唇を噛んで黙り込み、相手もまた話を終えて沈黙することを選んだようだった。

 やがて車は空港へと到着してドアが開き、車から降りたリリーナはドクターJと窓越しに最後のやり取りを交わし合う。

 

「ここなら、お嬢さんを無事に地球へ送り届けてくれるじゃろう。民間の宇宙港に姿を現せばOZの連中もクロスボーンも手は出せまい」

「色々と世話しくださって、ありがとう。ですが、どうして私まで助けてくれたのですか? 私がドーリアンの娘だから?」

「いいや。お嬢さんがヒイロと同じ目をしていたからじゃよ。純粋な優しい瞳じゃ。あいつは本当は優しい、いい子なんじゃよ」

「ええ。そのことは私もよく知っています」

 

 一瞬だけ見た、戸惑いともいえる瞳を思い出し、痛ましさををも同時に感じつつ、リリーナは呟き返していた。

 

「もうヒイロは誰にも止められん。死にたくなければ近づかないことじゃ」

「・・・・・・」

 

 ドクターJは物騒なセリフを言い残すと車を発車させ、リリーナは相手からの忠告に拒否はしなかったが、了承する意思も帰すことなく無言で見送る。

 その後、彼女は宇宙港に入って地球へ向かうシャトルに乗ると、機上の人になった。

 

 窓越しに蒼く淡く輝いている地球が見えてくる中で、様々な感情や出来事が頭の中を駆け巡っては消えていき―――やがて一つの言葉を心の中で思い浮かべることになる。

 

 

 “コロニー居住者の気持ちの痛みを分かってくれているから―――”

 

 

 ・・・今までなら、「気持ちの痛み」という言葉を聞かされたなら、ただ傷ましさと切なさで胸が強く痛むだけだったかもしれないけれど・・・・・・父だと信じていた人を殺された記憶を忘れることができていない今の彼女には、ただ素直に痛々しい思いで同情することは出来そうにない―――。

 

 

「“ヒイロはコロニー居住者の気持ちの痛みを分かってくれているから仕方がない”・・・・・・確かに、そうなのかもしれません・・・・・・でも。

 “気持ちの痛みを分かってくれる”とは、愛する人を奪われて深く傷つけられた気持ちを癒やすため、仇討ちという名の復讐を求める気持ちということでもないでしょうか・・・?」

 

 

 つぶやいても、リリーナには分からない。

 ただ、もしそうだった時。

 ヒイロが抱かされた気持ちの痛みを癒やしてあげるため、自分にはなにが出来るのだろう? なにか彼の為にしてあげれることはあるのだろうか?

 

 ・・・・・・やはり今のリリーナには、分かりそうにない・・・・・・。

 

 

 

つづく



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