荒ぶる魂に魅入られし者達 (天羽々矢)
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第0話 もう1つの伝承

昔々、ある村に1人の男の子がいました。

男の子は変わりの無いごくごく普通の男の子。そしてそのお母さんは、大昔より悪い怪物をやっつける巫女でした。

 

ところがある日、男の子がその怪物に連れ去られてしまいました。

お母さんは必死になって男の子を取り返そうをしました。ところが男の子は怪物を守ろうとしだしました。

 

それにお母さんと村の人たちに怒られ村を追い出されてしまいました。しかし男の子にはお友だちになった怪物がいたので寂しくありませんでした。

 

男の子が出て行ってしばらくしたある日、突然村に怪物たちが攻めてきました。

村の人々は逃げ惑い、男の子のお母さんも必死に戦いましたがあまりの多さに敵わず負けてしまいました。

 

その時、村を追い出された男の子が、友達の怪物たちを連れ戻ってきました。

男の子はその力で村を襲った怪物たちを追い払い、残った怪物たちは男の子の新しいお友だちになってくれました。

 

そして男の子は村を救った英雄として祀られ、その友だちである怪物たちによって村は守られ続けたので襲われる事は、二度とありませんでした。

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

夜の灯りの点いていない図書館で本を読み終えた1人の少年が本を戻すと、脚立を上って本棚に上り開けていた窓から外へ出た。

そして屋根から下の道路の街路樹に張ったジップラインを伝って降りる。少年は降りた後に携帯を取り出し何者かに電話をする。

 

「こっちは用事は済んだ、これからアジトに帰るぜ」

 

〈了~解。気を付けてね、つけられてるかもしれないから〉

 

少年は手早く携帯を切ると、街路樹側の道路に停めていた黒いハーレーダビッドソンのバイクに跨りヘルメットとゴーグルを着けエンジンをかける。

バイクのサイドバッグが軽く揺れ、中から小さな狼のような生物と鳥のような生物が顔を覗かせる。

 

「悪いな、窮屈な思いさせちまって」

 

少年の言葉に2体の生物は否定の意でか首を横に振る。それに少年は軽く微笑み2匹の頭を優しくなでる。

そしてアクセルを捻りバイクを走らせるがすぐ先の交差点で赤信号に捉まる。だが少年は頭の中では別の事を考えていた。

 

(あの人からの手紙によれば、近いうちにデカい事件が起きるみたいだって。・・・何であろうがやってやる!!)

 

少年が心の中で意気込んでいる時、後ろからクラクションを鳴らされた。

信号を見てみると既に青に変わっていた。少年は慌ててアクセルを回しバイクを走らせる。

それをいつの間にかサイドバッグから顔を出していた2匹は少し呆れた様子で見ていた。



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第1話 交差する切っ先

奈良県某所

 

仏壇の前の1人両手を合わせる少女。

 

彼女はこれから目的の為に動き出す。

 

「・・・行ってきます、お母さん」

 

 

―――――――――――――――

 

 

「鎌倉とーちゃく!」

 

晴れた日の鎌倉駅に2人の少女の姿。

美濃関学院中東部2年“衛藤 可奈美”と“柳瀬 舞依”。

 

彼女達は明日行われる折神家の御前試合に参加する美濃関代表としてここに来たのだ。

 

「来ちゃったね鎌倉!はぁーなんかもうワクワクしてきちゃった!」

 

「天気もよくて良かったね」

 

今の鎌倉の空は鎌倉に来た2人を出迎えるからのように晴れている。

 

「他の学校の子たちももう来てるかな?」

 

「そうだね、明日の対戦相手もいるかも・・・」

 

舞依の言葉を聞き可奈美は辺りを見回す。

 

「それじゃ舞依ちゃん、早く行こう!お屋敷!」

 

そこで突然可奈美が駆け出し、舞依も慌てて追いかける。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「ひゃあ、おっきい~!」

 

今可奈美と舞依は大きな門を構えている屋敷の前にいる。

絢爛ではないものの、その造りはまさに武家屋敷と言えるだろう。

 

「ここが折神家・・・。御刀の管理を国から一任されている由緒あるお家・・・」

 

門を見上げながら呟くように舞依が言う。

 

「・・・あれ?」

 

ふと門の左手を見るともう1人、屋敷を見つめる少女がいる事に気づいた。

向こうも気づいたのか可奈美の方を見る。

 

「あの制服、平城学館の・・・」

 

舞依が少女の制服を見て呟くように言う。

深緑を基調としたワンピース型の制服は確かにその学校の物だ。

 

平城学館、“五箇伝”と呼ばれる刀使育成学校の1つで奈良に所在地を置く。

近年では優秀な刀使を排出し注目されている学校でもある。

 

「・・・・・・」

 

すると少女は可奈美と舞依に向かって歩いてきた。

 

「あっ、こ、こんにちは!えっと・・・あなたも明日の試合にでるの?」

 

「・・・・・・」

 

少女は可奈美に目もくれずに横を通り過ぎ立ち去ろうとするが、

 

キィィィィ―――――――――――――――

 

『っ!?』

 

甲高い良く響く音が聞こえ、2人が同時に反応した。

そして平城学館の少女は咄嗟に抜刀の構えを取り、それにつられるかのように可奈美も御刀の柄に手を触れる。

 

『・・・・・・』

 

だが平城学館の少女は2人を一瞥した後に構えを解く。そして何事も無かったかのように去っていった。

 

「どうしたの?」

 

「んー・・・気のせいかな・・・?」

 

そして2人もその場を後にしようとした時、

 

「っと!」

 

「わっ!」

 

ずっと御刀を見ていたからか前から来ていた人に気づかずぶつかり尻餅をついてしまった。

 

「わりぃ、大丈夫か?」

 

可奈美とぶつかった相手が手を差し伸べる。

可奈美が顔を上げると、そこにいたのは黒い学ランの下に同じく黒いパーカーを着て黒いズボンを履く、前髪が金髪で後ろ髪が黒という変わったヘアスタイルをした可奈美と舞依より少し年上そうな少年がいた。

 

「いえ、私の方もよそ見してて・・・」

 

言葉を続けようとしたが突然言葉が詰まった。

可奈美が見た少年の顔、それがかつて何処かであった人物と重なって見えたのだ。

 

「可奈美ちゃん・・・?」

 

舞依が様子の可笑しい可奈美を見る。

 

「あの・・・私と前に会った事ありませんか・・・?」

 

「・・・いや、初対面だけど・・・?」

 

少年は可奈美の右手を掴み引き上げる。

 

「ここにいるって事は明日の御前試合の美濃関代表か?頑張れよ」

 

「あ・・・」

 

少年は簡単に激励した後にすぐに立ち去っていった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「あっぶね・・・もう少しでバレるとこだった・・・」

 

一方、別れた少年は1人安堵していた。

今自分の事をバラされる訳にはいかない。

何故か。それは自分は・・・()()()()()()()()()()()()()()

 

Prrrrrr・・・

 

そこで少年の携帯に着信が入る。

少年は連絡元の名前を見て、一瞬嫌な顔をするが無視する訳にもいかず電話に出る。

 

「もしもし?」

 

〈ハイドーッ!!今どこにいるの!?〉

 

電話越しでも大声である事が分かる程の声量。しかもまだ年の行っていない少女らしき声だ。

ハイドと呼ばれた少年は思わず顔をしかめ携帯から耳を離す。

 

「うるせぇな・・・今折神家の前だ、下見も終わったしもう帰るよ」

 

〈早く帰ってきて~、メイ寂しくて死んじゃうから~・・・〉

 

「ウサギかお前は・・・」

 

最後に呆れるように言葉を言った後にすぐに電話を切る。彼女にまともに付き合ってはかなわない。

その後にすぐ溜め息をついた少年は駐車場に止めていた黒いバイクに乗りエンジンをかける。

 

 

 

 

 

 

 

もうすぐだ、もうすぐ刀使の少女達と、少年・・・“暁 灰斗(あかつき はいど)”の切っ先が交わる時だ。



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第2話 御前試合

夜、可奈美と舞依は屋敷で就寝している。

だが、舞依は明日の試合へのプレッシャーからか中々寝付けないでいた。

 

もう夜遅く、宿の灯りは殆どが消えていた。遠くには町の灯りも見えるがこの辺りは月明りで満たされている。

 

「可奈美ちゃん、もし明日、私と当たったら・・・本気で戦ってくれる・・・?」

 

舞依は庭で月を見つめながらポツリと呟く。

 

「眠れないの?」

 

突然、上から声が聞こえ驚いて屋根の方を見ると、舞依より少し年上そうな短い青髪の女性が立ったまま月を見ていた。

 

「だ、誰ですか!?」

 

「警戒しなくていいわ。私も客人、ただ月を見てるだけよ」

 

そう言って月を見上げる女性。舞依も警戒こそ解かないがつられるように月を見る。

 

「綺麗・・・」

 

「月は日に日にその姿形を変える。人の心に似ていると思わないかしら」

 

女性は月を見ながらそう口にするが、舞依はその言葉に思い当たる節があるのか顔を伏せてしまう。

 

「・・・私の月は、晴れているようで晴れてない・・・」

 

「それは半月か三日月ってところかしら?」

 

「不安ばかりなんです・・・本当に私なんかが代表でいいのか・・・」

 

警戒していたはずの相手に、いつの間にか心の内を開けている。

 

「それは自分で考えなさい。でも、一言言うのであれば・・・」

 

「?」

 

「迷うくらいなら自分の好きな事をしたらいいわ。その先の結果があなたの答えなのだから」

 

そう言って、女性は屋根から降り歩いていく。

 

 

 

———————————————

 

 

 

翌日

 

「うわぁ~!」

 

御前試合会場内で、可奈美は感嘆の声を上げる。

会場は正八角形の吹き抜けとなっており、2階の観覧席からは各校の生徒が応援に来ていた。

 

「見て見て、あの子たち代表だよ!」

 

会場には可奈美達、美濃関学院の生徒だけではない。

地元神奈川県の鎌府女学院、京都府の綾小路武芸学舎、岡山県の長船女学園、そして・・・

 

「平城、やっぱりあの子も・・・」

 

昨日会った平城学館の少女。もう1人の代表の少女がしきりに話しかけているが全く聞いていないようだ。

 

「可奈美~、舞依~!」

 

「みんな!」

 

声のする方を向くと他の美濃関学院の女生徒達が応援に来ていた。

 

「緊張してるーっ?」

 

「緊張しまくりだよーっ!」

 

「可奈美のヤツ、緊張の意味知らないんじゃないの?」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「いや~、皆さん頼もしく成長してるようでメイは感心ですぞ~!」

 

「あのな・・・」

 

「はぁ・・・」

 

その会場内に生徒に紛れ傍観している3人。

綾小路の男子制服を着ている灰斗、自分をメイと呼んだ美濃関学院のブレザーの下に黄色いパーカーを着ているオレンジのサイドテールの少女“望月 命(もちづき めい)”。

溜め息をついた鎌府女学院の制服を着ている薄紫の短いツインテールの少女“相神 楓(さがみ ふう)”。

 

あの後試合が始まり、1回戦の可奈美が夢中だった平城学館の少女“十条 姫和”と綾小路の生徒“山崎 穂積”の試合は姫和が開始の合図と同時に踏み込み初撃で決めた。

 

2回戦は可奈美と鎌府の生徒“糸見 沙耶香”。試合は沙耶香が迅移で可奈美に猛攻をかけた。

“迅移”とは御刀を媒介に通常の時間から逸脱して加速する術であり、鍛錬を積んだ者であればより速く加速できるらしい。

だが可奈美は自分の流派である柳生新陰流の基本を実践し沙耶香の剣筋をいなしカウンターを決めた。

 

そして3回戦、舞依と長船女学園の“益子 薫”、だが薫の方はやる気がなかったのか簡単に御刀を振り回し舞依に倒されて終了となった。

 

その後も試合が続き、次は同じ美濃関である可奈美と舞依の対戦となった。

 

「あちゃ~同じ学校の子かぁ~」

 

「・・・」

 

「どうしたのよ、そんな食い入って?」

 

楓は2人の試合に食いつく灰斗に疑問の視線を向ける。

だが舞依は試合開始直後に両膝をつきその状態で抜刀の構えを取る。

 

「何あれ!?」

 

「へぇ、居合か」

 

命が構えに疑問の声を上げる中、剣術に心得のある灰斗が冷静に分析した。

 

可奈美は迅移を使い一気に舞依の背後に回る。

舞依はすぐさま振り返りその勢いで抜刀する。が、その手を右手を抑え、左手に持った御刀、千鳥を舞依に振り下ろした。

 

「すごいね~あの可奈美って子!あの剣を片手で止めるんだもん!」

 

「あの速さに対応できるなんて、かなりの腕のようですね」

 

「・・・」

 

「ありゃ?ハイド?」

 

「何でもねぇよ(立派になったな、可奈美、舞依・・・)」

 

命が灰斗に声をかけるが灰斗は何でもないと返答。

しかしその心境は勝負を繰り広げた2人を頼もしく思っていた。

 

〈午後の決勝に、休憩をはさみ本殿白州にて行われます〉

 

館内放送で決勝についての事が伝えられ、観覧者全員が各々休憩を始める。

そんな中、灰斗、命、楓も動き出した。

 

「それじゃお前ら、手筈通りな?」

 

「ユッキーの勘が当たってれば、だけどね~」

 

「ていうか、分かってるからアタシに指図しないで!」

 

3人は自然に会場から立ち去っていく。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「これより、折神家御前試合決勝戦を行います」

 

場所は変わり、折神邸の庭にて決勝が行われる。周囲には緊張した空気が立ち込めている。

 

「あっ、あそこ!」

 

1人の生徒が指を差した。

寝殿造の建物の空席、その横に現れた1人の女性、折神家現当主“折神 紫”だ。

今回は決勝戦のみ立ち会う事になっている。

 

そして彼女の背後に控える4人、折神家親衛隊。

第1席“獅童 真希”、第2席“此花 寿々花”、第3席“皐月 夜見”、第4席“燕 結芽”。

 

「紫様!」

 

「変わらぬお姿で、なんて神々しい・・・」

 

紫の登場に会場に更に緊張が漂う中、決勝に勝ち残った可奈美ともう1人、平城学館の十条 姫和が前に出る。

 

 

 

「準備はいいな?」

 

〈いつでもいいよ~!〉

 

〈準備はできてるけどなんでアンタが指揮取ってるのよ?〉

 

その頃、会場の別の場所では3人が潜んでおりいつでも行動できるよう準備していた。

 

 

 

「礼!・・・双方、構え!・・・写シ!」

 

審判の合図で遂に決勝の準備が整った。

 

(なんだろう・・・ワクワクするのに震えが止まらない・・・〉

 

「始め!」

 

試合開始の合図。姫和は右上段、可奈美は下段に構えた、その時だった。

 

 

 

—————!?

 

一瞬姫和が方向転換したかと思った時に稲妻が落ちたような音圧と衝撃と同時に姫和の姿が消えた。

可奈美は呆気に取られ、気づいた時には刺突の構えで紫の眼前にいた。

 

そして姫和の鋭い刺突が紫を貫く―――――

 

「・・・それが、お前の一つの太刀か?」

 

「っ!?」

 

寸前に姫和を嘲笑うかのように両手に握られた2本の御刀が刺突を弾く。

 

その場にいた多くの者が姫和の行動に言葉を失い硬直している。中には恐怖からか悲鳴を上げる者のいた。

だが最も驚いていたのは姫和の方だろう。だがすぐに構え直し再び紫に斬りかかろうとする。

 

「がっ・・・!」

 

だが姫和は突然背後から貫かれ写シを剥がされその場に膝をついた。

親衛隊である真希が止めに入ったのだ。

 

真希はそのまま地面にへたり込む姫和に御刀を振り下ろす。

 

「はぁっ!」

 

しかし真希のその刃が姫和に届く前に斬撃は別の乱入者、可奈美によって防がれる。

しして真希が同様している隙に可奈美が姫和に叫ぶ。

 

「迅移!」

 

姫和は可奈美の突然の乱入に困惑したものの、再び迅移を発動させるが体力の限界からか少し離れる事しかできない。

 

「お任せください」

 

そう言って後方に控えていた夜見は写シを張ろうとするが、紫に止められた。

しかし、

 

「きゃはっ♪」

 

結芽が単独で写シを張り迅移で2人を追撃した。

 

「私もまーぜて♪」

 

2人の前に立った結芽はまるで獲物を見つけた獣のように御刀を構え—————

 

 

 

 

その時、美濃関側の客席の影から黒い何かが飛び出し結芽と可奈美の間に割って入った。

そして結芽御刀を持っていた黒い刀身の御刀で防ぐ。

 

「えっ!?」

 

結芽は防がれると思っていなかったのか驚きの声を上げる。

 

そしてその黒い物の正体は、綾小路の制服から普段来ていた黒い制服に着替えていた灰斗だったのだ。

 

「“千代女”、“風魔”、2人を頼む!」

 

〈ほい来た~!〉

 

〈だから指図するなっての!〉

 

灰斗が通信機で誰かに指示を出した。

すると平城学館と鎌府女学院の客席の影から人影が飛び出し可奈美と姫和の下へ向かい、

 

「ちょっと失礼~」

 

「なっ何をっ!?」

 

「掴んでなさいよ!」

 

「は、はいっ!」

 

平城側から飛び出した影、命が姫和を抱き上げ、鎌府側から飛び出した影、楓が可奈美の右手を掴み同時に屋根に飛び上がる。そして屋根に着地しもう1度飛び上がり会場から離れていく。

 

「あ、待ってよ!」

 

その様子を見て結芽は追いかけようとするが、その前に灰斗が立ち塞がる。

 

「もう、刀使でもないくせに邪魔しないでよ!」

 

結芽は灰斗に怒鳴りつけるが本人は気にしていない。

 

「何、もう用は済んだし俺もトンズラさせてもらうさ!」

 

すると灰斗はズボンの膨らんでいた左ポケットに手を突っ込み大きなジュース缶のような物を投げる。

結芽はそれが何か分からなかったが灰斗がサングラスを付けた事で何か分かったようだが、その時には遅かった。

 

周囲に爆発音と激しい閃光が放たれ結芽や親衛隊はおろか会場の全員が目を覆う。

次に目を開けた時には可奈美達はおろか灰斗の姿も無かった。




灰斗登場&戦闘BGM:Crossing Fate feat.UNI/BLAZBLUE CCROSS TAG BATTLE

OP:Unknown Actor(feat.伊舎堂さくら〉/来兎


今回でてきた命と楓、そして舞依と話してた女性にはモデルとなった原典があります。さて何でしょう?
ヒントは「女子高生×〇〇〇」、〇の部分にはカタカナ3文字が入ります!


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第3話 少女達の距離

OP:Unknown Actor(feat.伊舎堂さくら)/来兎


試合会場から無事に逃走できた可奈美達。

 

「ここまで来ればひとまず安心かな~・・・」

 

「だといいんですけどね・・・」

 

流石に走り疲れたか足が止まり、神社の境内に身を潜めていた。

 

「・・・おい」

 

「ん?」

 

命の下の方で声がし、その方に向くと命に抱き上げられたままの姫和が睨むように見ていた。

 

「いつまでこうしている、いい加減降ろせ」

 

「おっと、ごめんね」

 

命は素直に姫和を降ろし、解放された姫和はすぐさま距離を取って御刀を構える。

 

「ちょっと!?」

 

「助けてくれた事には礼を言う。が、ここまでだ、別れよう」

 

「ちょちょ、ちょっと待ってよ!」

 

一触即発の中、可奈美が止めに入る。

 

「何故助けた、目的は一体何だ?」

 

「えっ・・・決着が着いてないから・・・かな?」

 

決着とは、恐らく決勝戦の事であろう。

その言葉を聞いたからか姫和の御刀を握る手に力が入る。

 

「なら・・・今相手をしてやろう」

 

今にでも抜刀しそうな姫和を見ていた楓が止める。

 

「待ちなさいよ、さっきの弾丸迅移でロクに写シも張れないくせに」

 

しかしその楓にまで姫和は食って掛かる。

 

「貴様等こそ何者だ!刀使でもないのに何故!!」

 

確かに刀使でもないのにあの状況に介入してきた2人の方が異常であろう。

警戒されても不思議ではない。だがそれには理由があった。

 

「ん~、“刀使じゃない”には語弊があるかな。メイとフーは今御刀を置いてきちゃってるんだよね~」

 

「なっ!?」

 

命の言い分に姫和は呆然とする。自分達は御刀を置いてきたと言ったのだ。

 

「師匠、そういう事は言わなくていいんですよ」

 

そこに楓が割って入る。

 

「確かに今のアタシたちは御刀を持ってないわ。けど本音を言えばアンタが折神紫に突撃かける事を予想してたのよ」

 

『!?』

 

「当然アンタが折神紫を狙う理由も知ってるわ」

 

楓の言葉に驚いている姫和だが楓は更に言葉を続ける。

 

「けどまぁこうして失敗したから師匠と、あとアイツと一緒に逃げるのを手伝ったって訳」

 

可奈美にはまだ何を言っているか分からなかったが、姫和は一先ず御刀から手を離した。

 

「・・・それで、これからどうするつもりだ?」

 

「とりあえずはアンタの方針に付き合ってあげる。けどもしもの時はこっちから指示させてもらうわ」

 

「・・・良いだろう、だが完全に信用した訳ではないぞ」

 

「別にいいわ、それでも」

 

「メイもOKだよ~」

 

「ちょちょ、ちょっと待って!!」

 

ここで今まで蚊帳の外だった可奈美が無理矢理入ってくる。

 

「えっと・・・とりあえずあなたたちは一応姫和ちゃんの味方なんですよね?」

 

「そうよ。それよりもアンタはどうするの、衛藤可奈美?」

 

楓の言葉に姫和の可奈美の方を見て、可奈美は一瞬怖気づきそうになるが気力を振り絞り言葉を放つ。

 

「・・・私もついて行く。皆で協力すればさっきみたいに何とかなるよ!」

 

「自分が何を言っているか分かっているのか?」

 

可奈美の言葉に姫和が問いかけ可奈美は俯く。

だがすぐに顔を上げ姫和に向き直る。

 

「・・・分かってる。大変な事になるかもだけど、いろんな人に迷惑かけちゃうかもだけど・・・、姫和ちゃんと・・・皆と一緒に逃げる!」

 

可奈美の力強く言い放たれた言葉に姫和は言いよどみ、その後諦めたような軽い溜め息をつく。

 

「何が目的か知らんが、邪魔になるなら見捨てる」

 

「え?それって・・・」

 

「・・・好きにしろ」

 

姫和の諦めたような発言に可奈美は嬉しそうにする。

 

「うん!好きにする!」

 

今後の方針が決まったようで、そこに命と楓が割り込む。

 

「じゃあやるべき事も見つかったって事で自己紹介!メイは望月 命!来てる制服を見て分かる通り美濃関の高等部1年!よろしくね!」

 

「相神 楓、一応鎌府に通ってるわ。師匠・・・望月 命の弟子よ」

 

「うん!よろしくね楓ちゃん!命さん!」

 

「ふ、楓ちゃん・・・!?」

 

「メイも気軽にちゃんづけでいいよ!」

 

「うん、命ちゃん!」

 

自己紹介をし可奈美にフランクに接された楓は軽くショックを受けたようで、命も可奈美に気軽に接して欲しいという。

その後パトカーのサイレンが聞こえるようになり、4人は一先ず神社の床下に身を潜める。

その中姫和は床下に隠していた巾着を取り出し中から一通の手紙を取り出す。

 

(こうなったからには、これも早々に処分すべきか・・・)

 

「それ、前もって隠してたの?」

 

「昨日、お前と門前で会う前には」

 

可奈美の問いに姫和は簡潔に答える。そして4人は床下から這い出る。

 

「折神紫と刃を交えて逃げおおせるとは思っていなかったがな」

 

姫和はスタスタと歩いていくが、その途中可奈美が何かを思い出し脚を止めた。

 

「ああ!私荷物も携帯も財布も宿舎に置きっぱなしだ!」

 

「残念だが諦めろ」

 

「十条の言う通りよ、管理局に至急された携帯じゃ一発で居場所がバレるわ」

 

「うう・・・、舞依ちゃんのクッキー、昨日のうちに食べとけばよかった・・・」

 

姫和と楓に言われ、可奈美は涙目で項垂れた。

そして神社から移動しようとした時、今度はバイクのエンジン音が聞こえだす。

 

「もう追手が!?」

 

「大丈夫、メイたちの味方だから」

 

姫和が御刀に手をかけるが命がそれを止める。そして左側の道路の奥から黒いバイクに乗った少年がやってきて命達の前で停まり少年、灰斗がヘルメットを脱ぐ。

 

「ここにいたのか、探したぞ・・・」

 

「ゴメンねハイド~、逃げるのに必死で・・・」

 

「あ、昨日の!」

 

命と灰斗の会話の途中、可奈美が灰斗の顔を見て昨日門前でぶつかった人だと分かった。

親し気に話している事から味方だという事に間違いは無いのだろう。

 

「あの後御刀も持ってこいなんて言うから尚更苦労したぜ・・・」

 

そう言って灰斗はバイクの左側のサイドバッグから3本の御刀を取り出し命と楓に差し出す。

 

「ありがと~!待ってたよ~メイの正宗ちゃ~ん!」

 

「まぁ・・・ありがと」

 

命の御刀は銘を“石田正宗”、楓の二刀は“朱銘貞宗 本阿 伏見貞宗”と“朱銘貞宗”だ。

 

「待て、味方だとは分かったが何者だ?しかも男だと?」

 

命と楓が御刀を受け取った後に姫和が灰斗の事を問う。

彼女からすれば灰斗とは初対面だ。

 

「あ、そうだったね、初対面だっけ。えっと・・・」

 

「俺ぁ暁 灰斗、見ての通り男だが気軽に接してくれ」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

管理局の取調室から出て来た真希を待っていたのは同じ親衛隊の寿々花だった。

 

「・・・柳瀬 舞依は、恐らく何も知らないな」

 

「こちらも、岩倉 早苗も同じでしたわ」

 

2人は可奈美と姫和と同じ代表者、柳瀬 舞依と岩倉 早苗に取り調べを行っていたのだ。

しかし有力な情報は得られず2人は無関係だと判断せざるを得なかった。

 

「紫様に御刀を抜かせるとは・・・。親衛隊として恥ずべき失態だ・・・!」

 

壁に手を当て悔し気に呟く真希。

 

「しかし何故紫様は、あの時僕たちを止めたんだ?」

 

「お考えがあるのでしょう?紫様の意図は後になれば必ず分かりますわ」

 

あの襲撃後に姫和達が姿を消した後、実際に騒動になった。

少なくとも更なる混乱を避ける為だろうがその意図は紫にしか分からない。

 

「それより今回の件、“例の組織”とやらと何か関係が?」

 

「今の所は分からない。それに2か月程前に管理局と五箇伝合わせ数本の御刀も盗み出されているからな」

 

「両校の学長が到着してから、ですわね・・・」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

とあるトラックが検問で審査を受けていた。

その中には野菜を入れたダンボールしか積んでおらず特に怪しい物は見つからなかったので許可が下り走り出す。

検問から遠ざかった所でダンボールに詰めたキャベツが揺れ出し、そのキャベツが盛り上がったと思ったら中から可奈美、姫和、命、楓の4人が出てくる。

 

「ふぅ~、上手くいったね」

 

「静かに、バレちゃうじゃない」

 

4人は隙をついてトラックに乗り込み積荷に紛れていたのだ。

姫和が幕を捲り外の様子を見る。

 

「・・・よし、高速だ」

 

どうやら高速道路に乗ったようで一先ず追手は撒けるだろう。

更にトラックから離れた位置にバイクに乗った灰斗もついて来ている事から上手くやり過ごせたのだろう。

 

「ところで十条、アンタお金どのくらいあんの?」

 

突然楓に問われ、姫和は持っていた紙封筒の中を見る。

 

「1人分の最低限程しかない。まさか1人から5人に増えるとは思っていなかったからな」

 

そう言って姫和はジロリと命と楓を睨む。

 

「大丈夫だよ。メイとフーも少しは持ってきてるし」

 

「逃亡資金ですからね、無駄遣いしないでくださいよ?」

 

命と楓が簡単な会話をしている中、可奈美が姫和の荷物から何かを見つける。

 

「あっ、これアナログのスペクトラム計?すごい!骨董品だ!」

 

可奈美が手に取った物は方位磁針のような形状で、ガラス球の中に液状の何かが入っている。

 

“スペクトラム計”とは荒魂の位置を探るレーダーのような物で、強化ガラスの中に荒魂化したノロをスポイト数滴分入れる事でノロの集合する特性を利用した磁石のような物だ。

 

現在は折神紫考案のデジタル化されたスペクトラムファインダーという機能を持った携帯が支給されている。

 

「これ誰の?もしかして姫和ちゃんのお母さん()刀使だったの?」

 

()・・・?」

 

「私のお母さんも刀使だったんだ、すごく強かったんだって!」

 

「へぇ~、それじゃハイドのお母さんとも一緒だね!」

 

『え?』

 

2人の会話に命が入り込み2人は困惑するがすぐに理由を説明する。

 

「ハイドのお母さんもすごく強かった刀使だったんだって!」

 

「そうなんだぁ!じゃあ私のお母さんと姫和ちゃんのお母さん、灰斗君のお母さんと誰が1番強いかな?」

 

「私に聞くな」

 

先程よりも冷たい反応で可奈美の言葉に返答する姫和。ふとある事を思い出し可奈美に問う。

 

「名前は?」

 

「え?お母さんの?」

 

「・・・お前の」

 

『えっ?』

 

直後、その場にいた全員が固まった。そして可奈美が爆発した。

 

「酷い!!私の名前知らなかったの!?」

 

「・・・忘れた」

 

姫和は顎に手を当て思い出そうとするが出てこないようだ。

 

「可奈美っ!衛藤 可奈美だよ!!」

 

「ちょっ、声がデカい!」

 

「お前も十分大きい!」

 

「・・・皆大概だと思うけどね~」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

その頃、御前試合決勝戦会場・・・

 

可奈美達の騒動からしばらくしたが、それでも各校の刀使達は待機を余儀なくされていた。

そんな中で気配を薄め会場に潜んでいる人影。

 

「メイちゃんたちは何とか逃げれてるみたいだけど、いつまでも続けられないよね・・・」

 

ピンクのショートヘアで美濃関の制服を着て、首にはフードの付いたマフラーのような物を着けている少女。

 

そこにヘリのローター音が聞こえてきた。

 

「美濃関と平城の学長が来たかな、私も師匠と合流しないと・・・」

 

そう言って少女はその場を後にしていく。

そしてそれに気づく者は、当然ながら誰もいなかった。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

トラックに揺られる事数時間、高速から降りたのかあ周りが静かになった。

 

「ここ、どこだろう・・・?」

 

「東京だよ。その証拠にほら」

 

可奈美の疑問に命が答え、その後に夕陽に映える1本の高い電波塔を指さす。

 

「うわぁ高ーい!」

 

「・・・東側か?」

 

 

その後トラックは公衆トイレ前で停車し、その間に可奈美達はトラックから降り近くの雑貨店で御刀を隠すギターケースと制服の上から羽織るジャンパー等の上着を購入。

灰斗は検問時に黒い制服のままでは引っかかってしまうので予め命に自分の服と御刀を預け雑貨店のトイレ内で着替えた。

買い物後に安いホテルを見つけ一泊の手続きを進めていた際、学生だけである事からか受け付けが5人を怪しんだが、

 

「命たち最近バンド組みまして、良い会場ないかな~って探してたんですよ。東京は広くて候補が多いから大変で」

 

「そうなの!確かに東京には良い会場はいっぱいあるからね。ライブ頑張ってね」

 

「ありがとうございま~す!」

 

命の機転で乗り切る事ができた。

そして無事に部屋の鍵を借り部屋で一息つく一行。

 

「ふぅ~どうにかなったね、すごね命ちゃん!」

 

「まぁね~、メイにかかればこのくらい朝飯前ってね!」

 

可奈美の言葉に命は胸を張る。

一方姫和と楓はカーテンの隙間から外の様子を見ていた。

 

「どう?」

 

「・・・今の所は大丈夫だ」

 

そう言って姫和はカーテンを閉める。

 

「あ、私ご飯買ってくるね」

 

「呑気ね、こんな時にご飯なんて」

 

「そうだ、こんな時に・・・」

 

「腹が減っては戦はできぬって言うでしょ?」

 

意気揚々と答える可奈美に姫和と楓は何も言えなくなってしまう。

 

「大丈夫だよ!外にはハイドもいるし、何とかなるでしょ?行っといで?」

 

「うん!ありがとう命ちゃん!」

 

命が容認した事で可奈美は部屋を出て下で見張りをしていた灰斗と合流しホテルの外へ出る。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

舞依は1人、管理局入口の前で佇んでいた。

先程無関係であると判断され解放されたが可奈美達は未だ発見できていない。

怪我をしていないか、今どうしているか、考えれば考える程に不安になる。

 

「可奈美ちゃん・・・」

 

舞依には唯々無事を祈るしかなかった。

 

ppp・・・ ppp・・・

 

そこに携帯に着信が入る。相手は「公衆電話」と表示されていた。

恐る恐る電話に出る。

 

「はい・・・?」

 

〈舞依ちゃん?〉

 

「かなみっ・・・!?」

 

思わず名前を叫びそうになり手で口を抑える舞依。

相手はなんと可奈美だったのだ。

口をつぐんで小声で話す。

 

「今どこ?」

 

〈それは・・・えぇっと、どこだろう?〉

 

何とも可奈美らしい返答だ。

 

〈いろいろ迷惑かけてごめんね?私は大丈夫だから心配しないで〉

 

「そんな事言われても・・・」

 

すると会話の中にスピーカーか何かの声が入ってきた。

可奈美ではない、機械的な喋り方は定時アナウンスの放送だ。

 

(この放送・・・)

 

〈あぁごめんね!もう小銭なくて・・・えぇと・・・私の荷物預かっといて!じゃあ!〉

 

「あぁ、ちょっと!」

 

ブツッ

 

舞依が何かを言い切る前に可奈美との会話はそこで終わる。

しかし、舞依は今の会話で()()()()()()()()()の検討がついてしまっていたのだ。




ED:心のメモリア/衛藤 可奈美(CV:本渡 楓)、十条 姫和(CV大西 沙織)、柳瀬 舞依(CV:和氣 あず未)、糸見 沙耶香(CV:木野 日菜)、益子 薫(CV:松田 利冴)、古波蔵 エレン(鈴木 絵理)


刀剣て似たり寄ったりの銘が多くて覚えるの面倒ですね・・・
現に御刀のモデルを調べる最中、似てる銘の刀剣が何本もあり目が回りそうでした・・・


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第4話 再会せし友 前

OP:Unknouwn Actor(feat.伊舎堂さくら〉/来兎


可奈美と灰斗が外に出た後、残った姫和達は先にコインシャワーでシャワーを浴びに行っていた。

シャワーから出てタオルで頭を拭く姫和、そして次にタオルを頭に乗せた命が戻ってきた。

 

「いや~気持ちよかった~!」

 

「緊張感持ってください師匠・・・」

 

楓は命の緊張感の無さに呆れつつも交代でコインシャワーに向かう。

 

「うっす、今戻ったぜ」

 

「ただいまー!お待たせ、ご飯買って来たよ~!」

 

そこに入れ替わるかのように灰斗と可奈美がコンビニ弁当を持って帰ってきた。

そして楓もコインシャワーから戻り、夕食後に灰斗と可奈美もコインシャワーに入る。

 

「コインシャワーって初めて使ったよ!時間内に洗えるかドキドキした~!」

 

「緊張感のない奴だな」

 

コインシャワーから戻りタオルで頭を拭く可奈美の発言に姫和は軽く呆れている。

そして今度は命と楓、灰斗の方を向く。

 

「そろそろお前達の事を教えてもらってもいいんじゃないか?私たちだけ事情を知られるのも不公平だろう」

 

姫和の言葉に3人は顔を見合わせた後に頷き合った。

 

「今はまだ詳しくは言えないけど、メイたちはある有志組織のメンバーでね。でも味方だから安心してよ」

 

「それより十条、アンタ体力の方はどうなのよ?」

 

命が姫和の質問に答えた後に楓が姫和に自分の状態を問う。

それに対し姫和は御刀を構え精神を集中させる。

 

「・・・写シくらいは張れると思う」

 

その時、可奈美が姫和の御刀を見て言葉を出す。

 

「その御刀、切っ先の棟側にも刃があるね」

 

「あぁ、切先両刃っつー造りだな、別名“小鳥丸造り”だろ?」

 

「・・・そうだが」

 

可奈美の言葉に灰斗が簡単な解説を入れ姫和はそれに相槌を打つ。

 

「それで姫和ちゃん、()()()突き技だったんだね」

 

「あの時?」

 

可奈美の言葉に姫和が問いかける。

 

「ほら、御当主様に止められた時の・・・」

 

「っ!?お前、あの突きが見えていたのか!?」

 

可奈美の言葉に姫和は驚きを隠せない。

あの刹那、自身の全身全霊をかけた必殺の一撃を目で捉えていたのだという。

 

「確かに、メイもあんな迅移は初めて見たよ!」

 

「うん!あの技もすごかったけど新當流の技ももっと見たいなぁ!」

 

「イイね!メイの剣術って我流だから何か参考になるかも♪」

 

「命ちゃん我流なんだ!じゃあ今度私と立ち合いしてよ!命ちゃんの剣見てみたい!」

 

目を輝かせながら剣術の話を続けていく可奈美。命も何かスイッチが入ったのか楽しそうに会話している。

その様子に完全に蚊帳の外に追いやられた灰斗はげんなりとし、楓と姫和は軽く引いていた。

 

 

 


 

 

 

「手荒な事せんといてくれたらええんやけど」

 

管理局エントランスを不安そうな様子で歩く2人の女性。

 

平城学館学長“五條 いろは”、美濃関学院学長“羽島 江麻”。

2人は今回の件で折神 紫に招集され協力するよう命令えたのだが正直乗り気ではなかった。

 

「鎌府が協力を申し出ているようですね」

 

「ますますややこしくなるわねぇ」

 

「学長!」

 

2人が入口を出ると、そこには舞依が立っていた。

恐らく学長である江麻を待っていたのだろう。

 

「柳瀬さん?どうしたの?皆の所に戻って・・・」

 

「お願いがあります」

 

舞依は江麻に頭を下げた後に更に言葉を続ける。

 

「私に、衛藤さんの捜索許可を下さい!」

 

 

 


 

 

 

「師匠!」

 

「来たわね、モモ」

 

御前試合会場から管理局の人気の無い場所、

そこで2人の女性が密会をしていた。

 

1人はピンクのショートヘアで美濃関の制服の上にフード付のマントのようなマフラーを着けた“モモ”と呼ばれた少女。

もう1人は露出度の高い服装、ピンクのショートヘアの少女と同じマフラーを着けた青いダウンツインテールの“師匠”と呼ばれた女性。

 

2人もある目的でここに残っている。

 

「ごめんなさい、情報を集めるのに手間取って・・・」

 

「別に気にしていないわ。現時点で判明している情報は?」

 

「はい、刀剣類管理局が本格的に衛藤 可奈美さんと十条 姫和さんの確保に動き出すみたいで、メイちゃんと楓ちゃん、ハイド君も()()()()()()()()()()()()として一緒に手配されてます」

 

「やはり一緒に捕まえる方針で来たか、あの一瞬で正体をあまり悟られていないのは流石()()()()()達といった所かしら」

 

あの一瞬、命は姫和を、楓は可奈美を確保しすぐに会場から逃走、“ジョーカー”と呼ばれた灰斗もその後スタングレネードを使いその隙に逃走した。インパクトこそ与えたものの顔はそこまで割られていない。

 

「あ、それともう1つ。その捜索と逮捕に鎌府の“高津 雪那”学長が協力を申し出てます」

 

“鎌府の高津 雪那”。その言葉を聞いた瞬間、師匠の目付きが鋭くなった。

 

「予想通りと言うか、やはり出て来たわね、自分の()()()()の成果を披露する絶好の機会だもの」

 

「師匠、私が命ちゃんたちに・・・」

 

「ダメよ、私と貴女はもう少しここに残るわ。代わりに“五右衛門”に応援をお願いする」

 

そう言うと師匠が懐から携帯を取り出し五右衛門と言った人物に連絡を入れる。

そして連絡を入れた後に2人はその場を移動。当然ながらそれに気づく者などいるはずもなかった。

 

 

 


 

 

 

可奈美と命との対談を強制終了させ明日に備え寝る事にした一行

電気の光が無い部屋で灰斗、命、楓は既に眠っているようで、姫和と可奈美は眠れないでいた。

 

『・・・』

 

沈黙が続き姫和が口を開く。

 

「おかしな奴だ。何も聞かないんだな、私が折神 紫の命を狙った理由」

 

姫和が言う通り、可奈美は姫和の目的はおろか灰斗や命、楓の本当の目的についても一切触れていない。

 

「・・・姫和ちゃんが話したくなったら聞く。その時が来るまで灰斗君や命ちゃん、楓ちゃんにも何も聞かないから」

 

「・・・本当に、おかしな奴だ・・・」

 

それから数分後、2人もようやく眠りについた。

 

 

 


 

 

 

「・・・藤、おい衛藤!」

 

「・・・あれ、灰斗君・・・?」

 

目覚めると目の前に灰斗がいた。それも何やら急いでいる様子だ。

しかし、

 

「ん~・・・あと5分・・・」

 

「ベタな台詞ありがとよ、ってそんな事言ってる場合か!」

 

 

 

 

「可奈美ちゃんっ!!」

 

可奈美達が宿泊している部屋のドアが突然開き、奥から姿を見せたのは舞依だった。

 

あの時、可奈美との通話の時に聞こえた放送の詳しい地域を特定しその近くにある安いホテルを手当たり次第に当たっていったのだ。

 

しかし部屋に可奈美達の姿は無く、あったのは敷かれたままの布団と全開の窓だけであった。

 

 

 

 

「思った以上に場所が割れるの早かったわね・・・」

 

路地裏に潜んでいる楓が静かに呟く。

 

「・・・ごめんみんな・・・私のせいかも・・・」

 

可奈美は昨日の事について話した。

夕食を買いに行った時に公衆電話から友達に電話した事を。

 

「・・・まぁ、どうせそんな事だろうと思った」

 

「本当にごめん・・・」

 

姫和の言葉に落ち込む可奈美。

 

「まぁ本人も反省してるみたいだし、まずはこれからの事を考えましょ」

 

「・・・そうだな、私も少し回復できた」

 

「オッケー!そうと決まったらまずは人気の多いとこに行こっか!」

 

どうやら誰も可奈美を責めたりはしないようだ。

そして次は人の多い場所へ移動すべく灰斗は今度もバイクで、それ以外はバスに乗り東京の中を移動する事に。

 

 

 


 

 

 

『・・・だからって・・・』

 

『何でここなんだ(なのよ)っ!!』

 

姫和と楓が同時に可奈美が先導して着いた場所にツッコミを入れる。

そこは原宿。日曜である事も相まってかかなりの人込みだ。

 

「観光に来た訳じゃないんだぞ!」

 

「だって人が多いとこってここしか知らないもん!」

 

「フーも固い事言わないで、メイたちと同じくらいの子もいっぱいいるしね!」

 

『・・・確かにそうだが(ですけど)・・・』

 

「お前ら、あんまし騒ぐとかえって目立つぞ?」

 

灰斗が仲裁に入り一先ずはここで過ごす事に。

半ば強引に決定され姫和と楓も諦めたようだ。

 

「そいじゃ、俺は先約があっからここで」

 

「先約って・・・「了~解っ!ほら十条さん!いつまでも突っ立ってたら逆に目立つよ!」お、おいっ!?」

 

「そうだよ!それに普通に楽しそうにしてた方がいいよ!楓ちゃんも!」

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

命と可奈美がそれぞれ姫和、楓の手を引き商店街の奥へ消えていく中、灰斗は別の用事の為の場所へ移動する。

 

 

 

そして4人で原宿の街を回っていた時、姫和の提案でアイスを食べながら今後の対策等について話し合おうという事になった。

可奈美はオレンジ、命と楓はバニラ、そして姫和は、

 

「姫和ちゃん、チョコミント好きなの?」

 

「そ、そうだな、アイスの中では比較的口に合う方だな」

 

可奈美に指摘され少し恥ずかしがる姫和はチョコミントを食べている。

 

「よくそんなの食べられるわね・・・」

 

「メイ、チョコミントは少し苦手かな~・・・」

 

「そうだよね、苦いしなんかスーッとして歯磨き粉みたいで・・・」

 

「ばかっ!」

 

『ばか!?』

 

姫和に 責され可奈美と命は思わずアイスを落としそうになる。

 

「チョコミントのあるかないかで、その例えはもう言い尽くされているぞ!禁句と言っていい!」

 

「へ、へぇ~・・・」

 

「・・・なんかごめん・・・」

 

姫和の気迫に押され思わず謝罪する可奈美と命。

ちなみにこの時、楓は3人に対し無視を決め込み1人黙々とバニラアイスを食していた。




ED:心のメモリア/衛藤 可奈美(CV:本渡 楓)、十条 姫和(CV:大西 沙織)、柳瀬 舞依(和氣 あず未)、糸見 沙耶香(木野 日菜)、益子 薫(松田 利冴)、古波蔵 エレン(鈴木 絵理)


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第5話 再会せし友 後

OP:Unknown Actor(feat.伊舎堂さくら〉/来兎


可奈美達が原宿を満喫していた一方、別れた灰斗は少々レトロは佇まいの喫茶店に入っていった。

 

「たしかここで待ってるって・・・」

 

灰斗が店内を見回すと奥のテーブル席で美濃関の制服を着た1人の少女が灰斗を見つけるとはにかむように微笑み軽く手を振ってきた。

灰斗はその少女に軽く手を挙げ、その少女と相席する。

 

「今朝は助かったぜ“御影”さん、刀使が向かってる事知らせてくれて。おかげで早く動けたぜ」

 

「ううん、師匠が先に教えてくれたの。間に合ってよかった・・・」

 

灰斗の言葉に安心したような表情を浮かべる少女。

長い黒髪でモデルのようにスタイルが良い女子にしては長身の体系の彼女は“御月 五恵(みかげ ごえ)”。

彼女も命と楓と同じ組織のメンバーであり、朝灰斗達が舞依に発見される前に行動できたのは灰斗が彼女から連絡を受けたからなのだ。

 

だが安心した表情からすぐに真剣な表情に戻る。

 

「それと“半蔵”と師匠から情報があるの。鎌府が出てこようとしてるみたい」

 

注文した紅茶を飲みながら真剣に話す五恵に灰斗も自然と表情が引き締まる。

 

「鎌府の誰かは分かるか?」

 

「師匠の予想は、中等部1年の糸見 沙耶香ちゃんじゃないかって・・・」

 

「・・・確かその子って、高津のオバサンの1番のお気に入りだったよな?」

 

「うん、“あの実験”の成功例だからかな・・・」

 

自分が言った事にも関わらず五恵は不安そうな顔になる。

そんな五恵に灰斗は五恵の左肩に自分の右手を添え不適な笑みを浮かべる。

 

「心配すんなよ、不安がないって言ったら嘘になるけど、俺だけならまだしも御影さんや命たちもついてくれてんだ。何とかなるって」

 

楽観的とも言えるが今までそうして切り抜けてきた灰斗はの言葉だからか五恵には不思議と心強く感じられた。

 

「・・・そうだね、暁君が言うと不思議とそんな風に思えるよ」

 

「そいじゃ、引き続き管理局の調査を・・・」

 

「あぁ待って!実は別にお願いされてる事があって」を

 

「お願いされてる事?」

 

立ち上がろうとした灰斗を五恵が引き留め、更に言葉を続ける。

 

「実は・・・暁君たちに合流して一緒に行動して欲しいって言われてて・・・」

 

本人の性格か灰斗という男子の前だから恥ずかしいのか段々と声が小さくなっていく。

その事で何かを察した灰斗は苦笑いし頭をかく。

 

「成程な・・・じゃ、頼むぜ御影さん」

 

「!・・・うん!それと師匠から・・・」

 

 

 


 

 

 

用事が済んだと灰斗からメールを受け、可奈美達は彼と合流へと行動する一行。

だがその行く手を遮るかのように天候が悪化し雨が降り出してきた。

 

「雨・・・」

 

「うそ~、さっきまであんなに天気よかったのに~・・・」

 

「早いとこ別の宿を探さないとアタシたち全員ずぶ濡れになっちゃうわよ」

 

「そうだな、普通の宿でなくても漫画喫茶とか・・・」

 

今後の行動を4人で話し合っていた時、

 

 

 

———キィィィィ———

 

 

 

突然、甲高い共鳴のような音が響き出す。

 

「何よこの音!?」

 

「もしかして、十条さん!」

 

「分かっている!」

 

命に指摘され姫和は上着のポケットからスペクトラム計を取り出す。

その中のノロは北西に反応していた。

 

「スペクトラム計が・・・これって!」

 

「うん(ああ/ええ)・・・」

 

『荒魂!』

 

4人が同じタイミングで同じ結論に至った。

 

「いるな、しかも近い」

 

「反応は・・・1つ?」

 

「見た感じ、まだ動きはなさそうね」

 

可奈美と楓が反応の示す方角を向き、そこに向かおうとし更に命と楓も続こうとする中、姫和だけはその場を動かなかった。

 

「行こうよ姫和ちゃん?」

 

「・・・いや、放っておこう、今は()()()()をしている場合じゃない」

 

「えぇっ!?だ、ダメだよ!すぐ退治しなきゃ被害が!」

 

「管轄の刀使たちがもう捕捉しているかもしれん、鉢合わせたら面倒だ」

 

発言から本気で姫和は荒魂退治へは向かわない事が伺える。

だがその言葉に反応した者がいた事には気づいていない。

 

「彼女たちにはスペクトラムファインダーがある。発見にはそう時間もかかるまい。そもそも私たちだけでは退治できてもノロを回収できない。周囲に散らすだけだ」

 

「でも・・・」

 

 

 

 

「本気で言ってるの、アンタ?」

 

 

 

 

『!?』

 

突如第3者からの発言に、かつ怒気の込められた言葉に2人がビクッとする。

その言葉の主は、なんと命だった。心なしか前で待っている楓も憤っているように見える。

 

「荒魂退治を()()()()の一言で済ますつもりかって聞いてるんだけど?」

 

「っ・・・!」

 

姫和は何も答えない、否、答えられなかった。

これまでの飄々とした態度とはまるで別人のようなプレッシャーに呑まれてしまっている。

 

「アンタたち刀使は荒魂を払うのがどういう事か分かってるでしょ?荒魂は人を襲う。刀使なら御刀で斬り払えるよ、でもそうじゃない他の人たちはどうすればいいの?見殺しにする気?」

 

『・・・』

 

命の性格の変貌ぶりに可奈美も言葉が出せなかった。

 

「ハイドだったら真っ先に荒魂のとこに行くよ。何でならハイドは“自分の持ってる力の意味を考えてる”。けどアンタは考えてない、いや、考える気もない」

 

「な、私はちゃんと・・・!」

 

「だったら何で今ここで手を拱くのさ?それに昨日も言ってたよね?“折神 紫から逃げおおせるなんて思ってなかった”って。本当に死を覚悟したのなら何であの時残ってまで折神 紫を討たなかったの?」

 

「・・・!」

 

「ちょ、ちょっと命ちゃん!」

 

「可奈美ちゃんは黙ってて」

 

異を申したてようとした可奈美であったが、命の気迫に一蹴されてしまう。

 

「結局アンタは自分の都合の良いようにしか考えられない。そんなんじゃ折神 紫を討つ以前の問題だよ」

 

「・・・何だと」

 

ここで姫和からようやく言葉が放たれた。

恐らく侮辱されたと思い、その事が遺憾だったのだろう。

 

「言ったはずだ、私には成し遂げなければならない事があると!」

 

「だったら荒魂はその為のハードルの1つでしょ?倒さないと進めないよ」

 

「・・・だが・・・」

 

「それに」

 

自身を奮い立たせ言葉を口にする姫和と命の冷徹な言葉の間に楓が入り込む。

 

「アタシと師匠、ついでにアイツはアンタらを守るように言われてるの。簡単に捕まえさせる訳ないでしょ?」

 

楓の言葉に姫和はハッとなり顔を俯けるが、すぐに顔を上げる。その表情は何かを決めたように引き締まっていた。

 

「フッ、そうだったな」

 

「姫和ちゃん!」

 

「ああ・・・

 

 

 

行くぞ!」

 

 

 


 

 

 

同じ頃、親友の可奈美を探していた舞依にもスペクトラムファインダーにより荒魂の出現が知らされる。

 

「(こんな時に・・・)すみません、近くに荒魂を発見しました。私は現場に向かいます!」

 

捜索に協力してくれた運転手に事態を伝え、舞依は車を降り走って現場に向かう。

 

 

 


 

 

 

そしてそれはも一方も同じだった。

 

「チッ、こんな時にかよ!」

 

アラームが鳴った携帯の表示を見て毒づく灰斗。

彼の運転するバイクの後ろには五恵も同乗している。

 

「暁君・・・」

 

「分かってるよ御影さん、行くぞ!」

 

灰斗は携帯をしまうとバイクのハンドルを握り五恵は灰斗の腰に手を回す。

その際彼女の女性の証が背中に当たり嫌でも意識してしまうが、その煩悩を振り払いアクセルを回しその場でUターン。荒魂発生の現場に急行する。

 

 

 


 

 

 

緑道公園で人々が逃げ惑う中、空で鳥の翼を持った虫のような荒魂が咆哮を上げる。

 

「キィィィィ―――!」

 

その咆哮は生物の物より、機械のそれに近かった。

 

「ほら、死にたくなかったら早く逃げなさい!そこのアンタ大丈夫?」

 

「あ、ありがとうございます・・・!」

 

楓が人々を誘導し避難を促す中、可奈美と姫和と命が御刀を抜き荒魂と対峙する。

 

「私が追い込むから姫和ちゃんは後方から支援、命ちゃんは遊撃をお願い!」

 

「了解!」

 

「オッケー!」

 

可奈美が前衛で迅移を使い荒魂との距離を詰め斬りかかるが荒魂はすぐさま上空に逃げ、急降下して姫和に向かっていくが、

 

「おっと!」

 

石田正宗を抜いていた命が割り込んではじき返して荒魂の速度を殺し、既に構えていた姫和が脚の1本を切り落とした。

 

「キィィィィ―――ッ!!」

 

分が悪いと思ったのか荒魂が逃げようとするが、脚を一本斬られているためその飛び方はふらついて速度も出ていない。

 

「可奈美!」

 

「うんっ!」

 

よろめく荒魂に可奈美が御刀を振り上げる―――――

 

 

 

「ギャアァァァッ!」

 

 

 

「えっ!?」

 

―――――直前に地面が盛り上がりもう1体の荒魂が飛び出してきた。

 

「地面から荒魂!?」

 

地面から姿を見せた荒魂はオケラに酷似した姿をしているが、前脚のかぎ爪はより鋭く長くなっている。

飛び出してきた勢いで空中に吹っ飛ばされてしまう可奈美。そこを逃がさんと鋭利なかぎ爪で引き裂かんと振り上げる。

 

『可奈美(ちゃん)っ!!』

 

姫和と命が助けに向かおうとするが虫型の荒魂が行く手を遮り、その間にもオケラ型荒魂のかぎ爪が可奈美に振り下ろされる。

 

「あっ・・・」

 

可奈美の脳裏によぎるは同じ美濃関の仲間達の笑顔。

父、兄、母と大好きな家族、そして・・・

 

何処かで見た事のあるかもしれなかった灰斗の姿。

 

 

 

ドンッ!!

 

『っ!?』

 

だがかぎ爪が可奈美に振り下ろされる事はなく、何か思い発射音が聞こえるとオケラ型荒魂がよろめき出し背中から地面に落下する。

 

「何だ・・・何が起きた!?」

 

 

 

「悪ぃ、遅くなっちまった!」

 

「お待たせ!」

 

そこに聞こえるは少年の声。

全員が声のする方を向く。

 

「ハイド!ごえちゃんも一緒だ!」

 

鳥居の真下、

そこにいたのはライフル銃を左手で荒魂に向ける灰斗と同じくスナイパーライフルを荒魂に向ける五恵。

 

「ったく、遅いわよバカ!」

 

いつの間にか姫和の隣に二振りの貞宗を抜いている楓がいた。

 

「ったく相神、これでも俺はお前より年上だぞ?そう言うなら埋め合わせは目の前の荒魂を潰すのでいいか?」

 

「何を言っている!刀使でないお前に・・・!」

 

「アイツに心配なんて必要ないわよ。

 

 

 

・・・少なくともアンタより強いから」

 

楓は姫和にそう言うと写シを張り荒魂に突撃しもう一方の脚を斬り落とす。

荒魂はたまらず上空に逃げるが楓はそれよりも高く跳躍し

 

「せやあぁぁっ!!」

 

仕込んでいた金具で右足のローファーに伏見貞宗を固定しそのまま脚を振り下ろして荒魂の左翼を斬り落とした。

翼を失った荒魂はそのまま落下していく。

 

「十条!」

 

「あ、ああ!」

 

つい見入ってしまった姫和はボーっとしていたが楓の呼びかけにハッとし落下してきた荒魂の首を切り落とした。

 

 

 

「おい、俺の仲間が随分世話になったな。・・・今からその礼をしてやるよ!」

 

可奈美の前に立ち鞘から黒い御刀を抜いた灰斗がその切っ先を荒魂に向ける。

驚くべきことに荒魂が後退りしている。

 

「俺が怖ぇか?当然だよな、俺ぁ今テメェにすげぇ腹立ててんだからな!」

 

荒魂が人間に恐怖する、そんなあり得ない事が目の前で起きていて可奈美は戸惑いを隠せない。

 

「灰斗君・・・」

 

「衛藤、お前は下がってろ」

 

灰斗の言葉にハッとし頭を振って足についた砂を払う。

 

「何言ってるの・・・まだまだこれからだよ!」

 

払い終えた可奈美は灰斗の左隣へ歩き再び御刀を構える。

そして右隣にスナイパーライフルを後ろ腰にマウントし自分の御刀である“黒漆大刀(くろうるしのたち)”を構えた五恵が立つ。

 

「オーケイ。スリーマンセルだ、行くぜ!」

 

『はい!』

 

可奈美と五恵が同時に駆け出し、灰斗は左手に箱型弾倉が付けられた鞘を取り掌で回転させる。

すると鞘がその姿を変えソードオフ型のライフル銃になった。

 

 

 

 

事は灰斗が合流を試みる前まで遡る。

 

「それと師匠から、暁君に渡したい物があるって」

 

「ハツ姉から?」

 

行動を起こそうとした灰斗を五恵が引き留め、テーブルの下に置いてあったバッグから箱型弾倉が取り付けられた黒塗りの少し大振りの刀の鞘を取り出した。

 

「・・・刀の鞘にしちゃデカくねぇか?」

 

「私も最初はそう思ったよ。これが説明書だって」

 

五恵は更にメモ用紙を1枚灰斗に渡しその内容を見る。

 

“灰斗君用にメイドイン私の特製鞘です♪変形して片手で撃てるライフル銃になりますよ♪”

 

「・・・相変わらずぱねぇな、ホント頭が上がんねぇよ」

 

「あはは・・・」

 

 

 

 

荒魂が2人に向け両手のかぎ爪を振り下ろすが、

 

ドンッ!ドンッ!

 

灰斗からの援護射撃でかぎ爪の軌道がずれて空振りに終わる。

両手を地面に叩きつけ傷ついたところを可奈美と五恵が同時に斬りつける。

 

「ギ、ギャアァァァ―――ッ!!」

 

斬りつけられ怒った荒魂が今度は可奈美に標的を絞り攻撃してくるが、

 

「待たせたなお前ら、出番だぜ!」

 

フィー!

 

自分の御刀を地面に差し灰斗が右手の親指と人差し指を咥え指笛を鳴らす。

すると灰斗のすぐ隣を2つの何かが高速で通過していく。

そして荒魂に取り付いた瞬間、

 

カジッ!

 

「ギャアァァァッ!!」

 

何かが荒魂に噛みついて。

それはよく見るとライオンの鬣を付けた緑色のオオカミのような生物と、額に角のような突起が生えた赤い鳥のような生物が荒魂を攻撃していた。

 

「え、な、何!?」

 

「止まらないで!」

 

五恵に促され戸惑いつつも痛みに苦しんでいる荒魂に2人が同時に荒魂の頭を切り上げる。

それにより頭が持ち上がりふらつく荒魂。

 

「暁君!」

 

「おう!」

 

そこに灰斗が駆け出し、左手でライフルを荒魂の頭に向け撃ちながら接近。

頭に弾丸が直撃し荒魂が怯んでいる間に灰斗が跳躍し荒魂の頭頂部に御刀を刺しそのまま背中を走って切り裂いていく。

そして腰まで達し御刀を荒魂の身体から抜いて飛び降り、左手のライフルを鞘の形態に戻し御刀を収める。

すると同時に荒魂が頭から腰にかけ真っ二つに切り裂かれそのまま左右に開きながら倒れていく。

 

「やったね灰斗君!」

 

「お疲れ様」

 

「ああ、衛藤と御影さんの功労だぜ」

 

ナデナデ・・・

 

『あっ・・・』

 

「あ・・・」

 

ご褒美のつもりかはたまた自然か可奈美と五恵の頭を撫でる灰斗。

それに気づき声を漏らした後にパッと手を離す。

 

「わ、悪ぃ!嫌だったか!?」

 

「い、良いよ別に!その、気持ちよかったし・・・」

 

「わ、私も・・・嬉しかったかな・・・」

 

「そ、そう・・・?」

 

「あ~っ、可奈美ちゃんもごえちゃんもズルい!ハイド!メイもなでてよ~!!」

 

「ばっ、ちょ、待てって!!」

 

命までも騒ぎだし収束がつかなくなってきた時だ。

 

「おい」

 

灰斗の背に御刀の切っ先が突き付けられる。

その犯人は、姫和だった。

 

「ちょ、姫和ちゃん!?」

 

「・・・俺、何かしたか?」

 

御刀を向けられるような事に覚えの無い灰斗が姫和に問う。

 

「何か、だと?そこにあるだろう!何故人間が荒魂を使役している!?」

 

どうやら姫和は荒魂を攻撃した2匹の生物が荒魂だと分かったようだ。

2匹を見れば倒した荒魂のノロを少量だが食して体内に取り込んでいる。

 

「あ~あいつらか、確かにあいつらは・・・」

 

 

 

 

「可奈美ちゃんっ!!」

 

『っ!?』

 

するとそこに突然聞こえた可奈美達の中ではない第3者の声。

その声の主は、

 

「舞依ちゃん!」

 

「美濃関の追手か!」

 

舞依の登場に姫和はすぐに御刀を構える。

灰斗も御刀を舞依に向け警戒する。

 

「ま、待って!舞依ちゃんは私の親友で・・・。舞依ちゃん、どうしてここに・・・?」

 

「スペクトラムファインダーに荒魂の反応があったから。もう退治してくれたみたいだけど、お陰で会えた・・・」

 

ちらりと舞依は可奈美達の後ろにある荒魂の死体を見る。

 

「親友なら何故御刀を向けている?」

 

「聞いて可奈美ちゃん!羽島学長が約束してくれたの、私と一緒に帰ってきれくれれば罪が軽くなるように全力で助けてくれるって!でも、それには条件が。十条さん、そしてそこにいる皆さんも折神家に投降してもらいます」

 

「悪いが、それに協力はできない」

 

「ああ、悪ぃけど実力行使だ」

 

「協力しなくていいです。私が力尽くでねじ伏せますから」

 

舞依が写シを張り、姫和と灰斗が刀を構えるのに合わせ、楓と命と五恵も御刀を鞘から抜き構える。

既に場は一触即発の空気だ。

 

「待って皆!ここは一旦御刀を収めて・・・」

 

可奈美が何とか仲裁に入ろうとするが灰斗を除いた全員が写シを張り臨戦態勢を整えている。

 

「・・・親友だから、可奈美ちゃんは私が助けます!!」

 

そして舞依が迅移で仕掛けそれに合わせ姫和と灰斗達も仕掛ける―――――

 

 

「ダメ―――ッ!!」

 

 

―――直前に可奈美が舞依と姫和の間に割り込み、抜いていた御刀を振り舞依の御刀を弾く。

 

「可奈美ちゃん!?」

 

「ごめん舞依ちゃん、私も姫和ちゃんも皆も、まだ捕まる訳にはいかないの!」

 

「どうして・・・っ」

 

「私見たの!御当主様が姫和ちゃんの技を受けた時、何もない場所から御刀を取り出した時に後ろによくない物が・・・」

 

「やはり、お前には見えていたのだな」

 

姫和の言葉に可奈美は頷く。

 

「一瞬だったし見間違いだったかもしれないけど、今なら言える。あれは・・・()()だった!」

 

可奈美の言葉に舞依は言葉を失った。

それ程までに可奈美の発言は衝撃的だったのだ。

 

「そんな事・・・だってあの方は折神家の当主様で、大荒魂討伐の大英雄で・・・」

 

「違うぜ」

 

舞依の言葉に今度は灰斗が異を唱える。

そして姫和と顔を合わせた時に姫和は何かを悟ったか頷いた。

 

『ヤツは・・・折神 紫の姿(皮)をした(被った)、大荒魂だ!』

 

姫和と灰斗が同時に言葉を発し、舞依は落雷に撃たれたようなショックを受けた。

 

「そんな・・・じゃあ、折神家も・・・刀剣類管理局も・・・五箇伝も・・・」

 

「その全てを荒魂が乗っ取っている」

 

姫和の止めの言葉にとうとう舞依はその場に佇んでしまう。

 

「・・・とにかく、私は姫和ちゃん灰斗君たちを放っておけない、だから舞依ちゃん、お願い!」

 

舞依からすれば十条姫和と他の4人の事は全くと言って良い程何も知らない。

そんな彼女達の言葉には信憑性が感じられない、否、()()()()()()の方が正しいだろう。

だが親友の可奈美からの言葉と覚悟に、舞依はどうすれば良いか分からなくなってしまった。

 

 

【迷うくらいなら自分の好きな事をしたらいいわ。その先の結果が貴女の答えなのだから】

 

 

「・・・本気、なんだよね?」

 

舞依の質問に可奈美は頷く。

そして暫し沈黙が流れ、やがて舞依が写シ解き御刀を収めた。

そして姫和と命達も写シを解き、刀を収める

 

「舞依ちゃん・・・」

 

「分かってるよ、可奈美ちゃんのやる事はいつも本気なんだって・・・それから・・・」

 

舞依は制服のポケットから小袋に包んだクッキーを取り出し可奈美に手渡す。

 

「他の荷物は押収されちゃって、返してもらえなかったんだ・・・」

 

「・・・ありがとう・・・」

 

可奈美は渡されたクッキーを静かに受け取る。

 

「十条さん、他の皆さんも、・・・可奈美ちゃんを、私の親友をよろしくお願いします!」

 

舞依は姫和と灰斗達に向け頭を下げる。

それに姫和は“私は自分のすべき事を果たすだけだ”と告げ去っていく。

 

「任しとけ!絶対守ってやるからよ!」

 

「うんうん!メイたちが付いてるからね!」

 

「2人共気楽な物ね、けど安心して、絶対に返すって約束するから」

 

灰斗は右手でサムズアップ、命は何度も頷きながら、楓はそんな2人に若干呆れつつも確かに返答し、五恵は舞依に向き合い丁寧に頭を下げ、4人はその後姫和と可奈美の後を追いその場を去った。

 

 

 


 

 

 

やがて雨も本降りになり、公園のドーム型遊具で雨を凌いでいる可奈美達。

 

サクッ モグモグ・・・

 

「美味しいよ、舞依ちゃん・・・」

 

「いい友達じゃん」

 

「大事にしないとだね?」

 

「うん・・・、あれ?」

 

小袋の中にクッキーと共に何かメモのような物が入っている。

可奈美はそっとその手紙を取り出し開く。

 

「何だろう・・・」

 

 

 

“困ったらここに連絡してください

  090-5553-89674    ”




ED:Strike my soul/望月 命(CV:洲崎 綾)、相神 楓(CV:藤田 茜)、御影 五恵(のぐち ゆり)

自分ってクォーターポイントやターニングとかの重要局面は手を抜きたくないといいますかどうも普通では納得できないようで、えらく長ったらしい回になってしまいました・・・。
それと今回から予告風の物を入れます、予告の元はすぐ分かると思いますので、では!



~次回予定~



「回し者!?」

「時間の無駄でしたわね」

「大っきい~っ!」

「ね~!」

「See you、マイマイ!」

「待ってたよ可奈美!」



「勝てねぇよ、お前じゃ」



~元美濃関の協力者~


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