魔導国大闘技場へようこそ (魔導国大闘技場支配人)
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導入:出場者ガガーラン

 それは、突然現れた。

 リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国の戦争時以外は常に霧に覆われている呪われた地「カッツェ平野」に突如として巨大な都市が出現したのだ。

 それに呼応するかのように霧も完全に晴れた。

 まるで、役目を果たしたかのように……。

 巨大な都市は「アインズ・ウール・ゴウン魔導国」と名乗り、周辺国家───リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国を含めた数カ国───に対して建国を宣言。

 国家の方針として全ての種族───人間だけでなくエルフやドワーフ、亜人に異形種に至るまで───が国民として暮らせる理想郷だと発表した。

 ほとんどの国はその方針に対して反発をし、侵略などの軍事行動を起こさんと動き始めたが、すぐに中止せざるを得なくなった。

 どの国も比べることすら烏滸がましい程に高度な技術力、そして周辺国家最強と名高いスレイン法国をも超える強大な軍事力を持っていたからだ。

 その一端が魔導国が巡回させている兵士だ。

 それは伝説のモンスターであるギガントバジリスクとそれに騎乗した伝説アンデッドであるデスナイトだった。

 ギカントバジリスクは全てを石化させる魔眼を持ち、たった1匹で都市を滅ぼすことが出来る。

 そしてデスナイトはあまり世に知られていないが、殺した相手をアンデッドに変え、そのアンデッドが殺した相手はゾンビへと変わるという極悪な能力を持っている。その上、デスナイト自体もとても強い。その強さは帝国最強であり、人類最高の魔法詠唱者であるフールーダ・パラダインを持ってしても捕獲するのに何人もの高弟と共に数日かかったほどだ。

 それが何十組もカッツェ平野を彷徨いているのだ。

 戦うことなど馬鹿のすることだと馬鹿でも分かる。

 まぁ、それすら理解できなかった馬鹿の中の馬鹿が王国には大量に居たが、王国が誇る賢人によって何とか抑え込まれた。

 さて、魔導国建国から一ヶ月。

 周辺国家は一部以外は表面上平和的に外交をしていた。

 そんな中で、魔導国はある布告を行った。

 布告の内容はこうだ。

 魔導国大闘技場の開場の宣言。

 大闘技場では毎週闘技大会が開かれ、優秀な成績を修めた者は月に一度の大闘技場への参加資格を得ることが出来る。

 大闘技大会で優勝すれば、交金貨100枚もしくは同価値の望みかマジックアイテムを賞品として得ることが出来る。

 そして優勝者はチャンピオンの称号と次回大闘技大会へのシード権を得る。

 チャンピオンは次回大闘技大会でその王座を返上し、再度優勝する事が出来た場合、2度目ならチャンピオン・ツー、9度目ならチャンピオン・ナインとなる。

 10度目であるチャンピオン・テンとなった時、魔導国の王であるアインズ・ウール・ゴウン魔導王への挑戦権を得る。

 見事、魔導王に勝利した暁にはその者を新たに魔導国の王とするとの事だ。

 それを聞いた者は、程度の差はあれど夢を見た。

 魔導国の王となった場合、この世界を牛耳るのも容易いだろうと。

 

 カッツェ平野に突如出現した巨大都市「ナインズ・オウン・ゴール」は、都市を囲む巨大な壁と中央に聳える天を衝く程に高い塔の様な城のおかげで、横から見ると戦鎚に見えるだろう。

 そんな都市は大きく分けて9つの区画に分かれており、区画を仕切る様に壁が築かれているので上から見たら四角の中に#が入っている様に見える。

 各区画には左上から右へと順に1~9の番号が振られており、説明時にはそれが使用されている。

 それぞれの区画にはそれぞれの特色があり、大まかに説明すると第1区画は宿などが主に建っているホテル街だ。

 第2区画は食料などが主に集まる区画。

 第3区画は商人などが集まって商談などを行う商業区画。

 第4区画は露天や屋台などの食事処が集まる区画。

 第5区画は魔導国の王が住まう行政区画。

 第6区画は武器や防具などを取り扱う区画。

 第7区画は魔法やポーションなどの研究を行う区画。

 第8区画は消耗品や日用品を売る区画。

 第9区画は大闘技場などの興行を行う区画だ。

 布告から1年半後。

 更に発展し、街中では人間だけでなくエルフやドワーフに亜人、知性のあるアンデッドである死者の大魔法使い(エルダーリッチ)などの異形種が混ざり合って行き交っていた。

 都市内では戦闘は御法度だ。

 口喧嘩なら構わないが、殴り合いなどの相手を傷つけるような行為は一切禁止していた。

 相手が違う種族だろうと、生命を憎むアンデッドだろうとだ。

 戦わないと気が収まらないというのなら、後日正式に行われる決闘で雌雄を決するというのがこの国の法だ。

 入国時に重大な法についての説明と理解度を計る試験に合格し、やっと一行は魔導国へ入国を果たした。

 一行の名は「青の薔薇」というチームで、冒険者組合では最高位であるアダマンタイト級の地位に着く英雄たちである。

「子供がいっぱい」

 双子の盗賊のティア。ショタ。

「美人もいっぱい」

 双子の盗賊のティナ。レズ。

「童貞も大量だな」

 戦士のガガーラン。趣味童貞狩り。

「貴女たち、お願いだから問題だけは起こさないでよ」

 神官戦士のラキュース。中二病の行き遅れ貴族令嬢。後リーダー。

「こんな詳細な地図を無料で配布しているとは、驚きを通り越して呆れるな……」

 魔法詠唱者のイビルアイ。仮面をつけた自分を極大級とかいう痛いチビ。

「皆、この国に来た理由は忘れてないでしょうね」

 浮かれるメンバーにラキュースが確認をすると、全員が頷く。

 ラキュースたちがこの国に来た理由は、冒険者組合経由でラキュースの親友であるリ・エスティーゼ王国第三王女のラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフから依頼があったのだ。

 この国へと行って帰ってこない兄……リ・エスティーゼ王国第一王子バルブロの捜索だ。

 一月前に義父である王国の六大貴族の1人であるボウロロープ候の持つ精鋭兵団5000の内の500を護衛として連れて行き、魔導国に行ったきり消息がつかめないのだ。

 王国の馬鹿の中で特に馬鹿なバルブロのことだから何かしらの罪を犯して処刑されたか投獄されていることだろう。

 だが、それは推測の域を出ず、魔導国へ正式に調査を依頼しても1年間返答はなかったので痺れを切らしての依頼だった。

 死亡していたとしても、遺体の一部を持ち帰ることができれば王位継承権などの問題は解消される。

 冒険者は国家間の問題に関わらないルールだが、今回は人物の捜索だ。

 グレーではあるが、冒険者組合にとって人物の捜索依頼は前例がないわけではないので依頼として受理された。

 そして布告から冒険者を始めとした腕に覚えがあるものはほとんどが魔導国へ流れていったこともあり、無事青の薔薇がこの依頼を受けることが出来たのだ。

 バルブロ捜索とは別に、組合には内緒でラナーから魔導国の闘技大会の内情を調べる依頼も受けているのでそちらも並行して行わければならない。

「じゃあ、皆手筈通りに」

「おうよ」

「「了解」」

「あぁ」

 ラキュースの言葉でティアとティナ、ガガーランはラキュースたちと分かれて行動を始めた。

 ティアとティナは様々な場所での聞き込みを、ガガーランはバルブロが行きそうな大闘技場へ行き、もう一つの依頼を遂行するために闘技大会に出る。

 ラキュースとイビルアイは、行政区へと向かって正式な手続きを行なって照会を行うつもりだ。

「イビルアイ、行きましょう」

「あぁ。今は第2区画だから……こっちだ」

 地図を持っているイビルアイの案内の元、ラキュースたちは第5区画にある行政区へと向かっていった。

 

 行政区は、城の1階にあった。

 というのも、魔導王の意向で誰でも気楽に入れる城を作りたいとの事らしく、この行政区として割り振られた3階までだけでなく10階以下までなら誰でも自由に出入りすることが許されているらしい。

 10階より上は、重要な施設があるらしく権限がある者しか上がることは許されていないとのことだ。

 照会をする為に行政区へと来たラキュースたちは、番号を書かれた木札を渡され、番号を呼ぶまで待つように言われた間の暇潰しで「ご自由にどうぞ」と書かれた看板の下に置いてあった羊皮紙を読んでこの情報を得ていた。

「バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフと言う人間は記録にありませんが、お話を聞く限りでは1年前に攻め込んできた謎の軍勢の総大将の事でしょう」

 そして待つこと数分、番号を呼ばれ、担当だというエルダーリッチのイグヴァに詳細な情報を話して調べてもらった結果がこれだった。

 直接来たらものの数分で知れる事を、何故1年もの間返答をしなかったのかと尋ねると返って来たのは思いもよらなかったことだった。

「調査を依頼されてすぐに判明したので、使者の方に返答をしたはずです」

 それを聞いたラキュースは揉み消されたのだと悟った。

 確か調査を依頼しに行った使者は貴族派の貴族だったのを思い出してラキュースはすぐに引き下がり、目的を達する為にイグヴァへと再度訪ねた。

「その総大将の遺品や遺体などはありますでしょうか。それと出来ましたら、詳しい経緯をお教え下さい」

「経緯の説明は国民なら誰でも知っている事ですので構いませんが、遺品や遺体は別の課の担当ですので問い合わせを致します。ですが、1年前と古いものですので数日かかる可能性がありますがよろしいでしょうか」

 国民なら誰でも知っているような事をしたのかあの馬鹿王子とイビルアイが呟くのを聞かなかったふりをしつつ、ラキュースはイグヴァの言葉に頷く。

「構いません。数日この国に留まる予定でしたので」

「それは良かった。後で宿の方を紹介させていただきます」

「ありがとうございます」

 ラキュースは頭を下げてお礼を言うと、イグヴァはこれも仕事ですのでと言ってから経緯の説明に入った。

 要約すると、悪しき者たちから民を救うための戦いだと言って巡回していたデスナイトとギガントバジリスクへ戦いを挑んだらしい。

 そして全員石化。

 石となった一団はそのまま10階以上へ入ることを許された称号持ちたちによって何処かへ運ばれていったという。

「待ってください。その称号持ちと言うのは……」

「何かしらの働きや能力を持った、魔導王陛下から称号を賜った方たちの事です。王国で例えるのでしたら、王国戦士長の様な存在でしょう」

「なるほど。どんな方がいるのですか?」

「そうですね。特に有名なのがアベリオン丘陵の亜人十傑の1人、バザー・豪王・ブレイクアームズ殿。薬師のンフィーレア・メディスン・バレアレ殿などでしょう」

「亜人とあのバレアレか」

「こら、イビルアイっ……ごめんなさい、この子も悪気があったわけではないんです」

 イビルアイの呟きを叱り、ラキュースはイグヴァに謝る。

 イグヴァは気にしていないと手を振ってそれに応える。

「貴女がたはこの国に来てまだ数時間でしょう。違う文化へ完全に理解をしろというのが酷というもの。多少のことは大目に見ますとも」

「ありがとうございます」

「いえいえ。では、宿の方を紹介させていただきます。我々のおすすめは……」

 宿を教えてもらい、ラキュースとイビルアイは行政区を出るとラキュースは安堵の溜息を吐いた。

「魔導王はエルダーリッチを完全に支配しているようだな」

「えぇ。少し問題発言をしても怒らなかったし、完全に支配していなければあぁはならないでしょうね」

 イビルアイの発言は前もって考えていた策で、本当にあのエルダーリッチは理性があり、生者への憎しみを完全に御せているかの鎌かけでもあった。

 結果は、ご覧のとおりだが。

「じゃあ、私は宿を取りに行くから」

「あぁ。後で大闘技場に集合だな」

「えぇ」

 まずは正式な依頼は達成ということで良いだろう。

 次は内緒の依頼を達成するべく、青の薔薇は動き出した。

 

「さぁ、皆さま。お待たせいたしました」

 大闘技場の舞台。

 石のレンガで組まれたそこに、1人の男が立っていた。

 手には棒の先に丸い物が付いたマジックアイテムを持っている。

 男は南方のスーツと呼ばれる服で身を包み、腰の後ろからはスパイクの付いた銀プレートに包まれた尻尾がゆらゆらと揺れている。

 そして顔は仮面で隠されており、その表情はうかがい知れない。

 男の名はヤルダバオト。

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国の王である魔導王の即金の1人にして大闘技場の最高責任者。

 大闘技場支配人(オーバーマネージャー)ヤルダバオトだ。

「闘技大会の開催を宣言させていただきます!」

 ヤルダバオトの宣言と共に大闘技場に集まった観客たちは大きな歓声を上げる。

 闘技大会の仕組みは簡単だ。

 前もって日にちを予約して参加する予約者と当日飛び入りで参加する参加者を合わせて全員が一斉に戦う生き残り人数3人のサドンデス。これが予選だ。

 それを6回、6日行う。

 そして1週間の最後の日に勝ち残った18人で本選のトーナメントを行い、最終的な成績によってポイントが与えられる。

 そのポイントの総計が規定に達していた場合、大闘技大会に出場出来るのだ。

 観客は闘技大会の本選で賭けを行う事が出来る。

 予選は本選で行う賭けの予想をするための期間で、かけが目的な観客はその予想の為に大闘技場へと足を運んでいた。

「次に戦士たちの入場です!」

 闘技大会のルールは簡単だ。

 試合開始後、3人になるまでは殺し、魔法、不意打ち、何でもありのバーリトゥードバトル。

 戦闘続行可能な戦士が3人になるまで止まらない最高にして最悪なルールだ。

 入場する戦士の中に、ガガーランは居た。

 バサリと翼を生やしたヤルダバオトが飛んで闘技場の実況席へと移動する。

 ヤルダバオトが実況席に降り立ったと同時に入場が終わり、入ってきた入口に格子状の門が下ろされる。

 これでもう逃げ場はない。

「では、戦士の皆さん。力の限り死力を尽くした健闘を祈っております……試合開始!」

 甲高い鐘の音と共に一斉に出場者たちが武器を、魔法を、知恵を使って生き残ろうと動き始めた。

 

「おらぁ!」

「ぐぇっ!」

 巨大な刺突戦鎚を振るい、殺さない程度に相手を吹き飛ばす。

 相手は地面や壁に激突すると、気絶したのピクリとも動かない。

 ガガーランは気絶した相手からすぐに目を離して次の標的へと戦鎚を振るう。

 敵はまだ数十人居る。

 文字通りバッタバッタと倒すガガーランだが、不意に感じた殺気に反応して小手で顔を守ると同時に甲高い音と共に衝撃が伝わってきた。

 お返しに戦鎚を振るうと、相手は後ろに飛んで簡単にかわした。

「あらあら。防がれてしまいましたぁ」

 常軌を逸した狂人の声色。

 小手を下ろして見やると、そこには何処かの貴族なのか身なりの良い女性が立っていた。

 毛先まで手入れが行き届いているであろう美しい黒紫の長い髪で口元以外を隠した仕立てのいい真っ黒なスカートに真っ黒な礼服を身に付けた女性。

 カクカクと大きく首を動かしている様はさながら人形のようだ。

「お強いのですねぇ。私の剣を防いだ出場者は貴女で14人目ですよぉ」

「そいつは多いのか、少ないのか分かんねぇな」

 ガガーランが他の出場者が寄ってきていないのを感じ、何故かと考えるがすぐに答えは出る。

 他の出場者はこの女性を恐れているのだ。

「あんた、結構名の知れた出場者なのか?」

 そう尋ねると、女性は口を半月状に歪ませて笑いながら頷いた。

「えぇ、えぇ。私はセシリー・キリング・ディクスゴード。魔導王陛下よりキリングの称号を頂いた称号持ちの1人です。二つ名の「切り裂き姫」は観客が勝手に名付けたもので、気に入ってはおりませんので呼ばないでくださいねぇ」

「そうかい。俺はガガーランだ」

 双方自己紹介をしたのを合図に2人はほぼ同時に駆け出す。

 そして、ガガーランの戦鎚とセシリーの剣がぶつかり合った。



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