艦これ世界の艦娘化テイトク達 (しが)
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【緊急】提督にケッコンを申し込まれた【至急】

初投稿です


【緊急】提督にケッコンを申し込まれた【至急】

 

 

1.名無しの艦娘化さん

 

うせやろ?マジかよ

 

 

 

 

2.名無しの艦娘化さん

 

>1はどういう状況でそれに至ったのか説明してもらおうか

 

 

 

 

 

3.名無しの艦娘化さん

 

ほーん、またリア充誕生の現場に立ち会ってしまうわけか。

 

 

 

 

 

4.>1

 

りょ。自分はトラック泊地の艦娘になったテートク。駆逐艦やったけど提督も有能やったし、何しろ空母やら戦艦やらの戦力も充実してたし順風満帆な艦娘ライフを送ってた。最近どーにも提督の挙動不審が気になり問い詰めたところ、指輪をずっと渡したかったけれども中々踏み出せないと白状。

 

 

 

 

5.名無しの艦娘化さん

 

 

あっ(察し) これは自爆パターンですね。

 

 

 

 

6.>1

 

察するな。面白がってからかいの種にでもしてやろうと更に追及を続けてみたところ、なんとワイだったことが判明。…うせやろ?

 

 

 

 

7.名無しの艦娘化さん

 

本当なんだよなぁ…

 

 

 

 

8.名無しの艦娘化さん

 

おめでとうございましねぇ!

 

 

 

 

 

9.名無しの艦娘化さん

 

 

質問あります。

 

 

 

 

10.>1

 

>9 はい。

 

 

 

 

11.名無しの艦娘化さん

 

 

イッチはどうなん?その提督のこと?好き?嫌い?それとも半分こ?

 

 

 

 

12.名無しの艦娘化さん

 

 

半分こってなんや…?

 

 

 

 

13.名無しの艦娘化さん

 

 

友情でしょ(適当)

 

 

 

 

14.>1

 

 

べ、べべべつにあnnんなaぁkkクソていとkくのこtなんて好きでmお何でmおなくt1

 

 

 

 

15.名無しの艦娘化さん

 

 

ここではリントの言葉で話せ

 

 

 

 

 

16.名無しの艦娘化さん

 

ほむ。

 

 

>14 別にあんなクソ提督のことなんかすきでもなくて やな。

 

 

 

 

 

17.名無しの艦娘化さん

 

有能

 

 

 

 

18.名無しの艦娘化さん

 

有能

 

 

 

 

 

19.名無しの艦娘化さん

 

 

これは大淀

 

 

 

 

20.名無しの艦娘化さん

 

 

クソ提督って…あっ(察し)

 

 

 

 

 

21.名無しの艦娘化さん

 

 

それにこの動揺の仕様は…あっ(察し)

 

 

 

 

 

 

22.名無しの艦娘化さん

 

 

イッチが停止してらっしゃる 誰か生き返らせて差し上げろ。

 

 

 

 

 

23.名無しの艦娘化さん

 

 

今北産業 株式会社

 

 

 

 

 

24.名無しの艦娘化さん

 

 

>23 1が提督に指輪を渡される

  スレが立つ

  >14

 

 

 

 

 

 

25.名無しの艦娘化さん

 

 

なるほど、爆発しろ。

 

 

 

 

26.>1

 

失敬、文が乱れやがりました。予期せぬ事態に陥ってんだ許せ。それ以外の何物でもないんだ 期待してくれてた方には申し訳ないんだが自分は提督にしたいして尊敬はしてるし感謝もしてるんだが、そういった異性の感情だとか恋愛感情だとかそういうものは一切全くあんなクソ提督に対してこのあたしが持つわけなんか…絶対ありえないのよ!

 

 

 

 

 

27.名無しの艦娘化さん

 

 

もちつけ。

 

 

 

 

 

28.名無しの艦娘化さん

 

 

だいぶ侵食されてますねクォレハ…

 

 

 

 

29.名無しの艦娘化さん

 

 

説明しよう!艦娘になると少なからずテートクの性格は宿主の艦娘に引っ張られる節があるのだ!こんなワイでも普段は大丈夫ですとか素で言ってるんやで。

 

 

 

 

 

30.名無しの艦娘化さん

 

 

イッチのこれはだいぶ重症ですね間違いない…完全に同調してる可能性も拭いきれないですねクォレハ…

 

 

 

 

 

31.>1

 

 

そもそもこの中でケッコンしてる奴おりゅ?

 

 

 

 

32.名無しの艦娘化さん

 

 

 

 

 

 

33.名無しの艦娘化さん

 

 

 

 

 

 

34.名無しの艦娘化さん

 

 

 

 

 

 

35.名無しの艦娘化さん

 

おりゅ

 

 

 

 

 

36.>1

 

 

殆ど全員じゃないか…(呆れ)

 

 

 

 

 

37.名無しの艦娘化さん

 

 

メスだからね しょうがないね

 

 

 

 

 

38.>1

 

 

後学のために聞きたいんだけど何を理由にケッコンしたんです?

 

 

 

 

 

39.名無しの艦娘化さん

 

 

お、それ聞く?聞いちゃう? 

 

 

 

 

40.名無しの艦娘化さん 

 

 

しょうがないにゃぁ…

 

 

 

 

41.名無しの艦娘化さん

 

 

当然!それはワタシがテートクにバーニングラヴを捧げて来たからデース!!insensitiveなテートクを落とすには結構なtimeを必要としたけれども最後にはワタシがvictoryデース!!

 

 

 

 

42.名無しの艦娘化さん

 

 

司令官さんは自分に優しくしてくれたのです。ただ今までは毎日のように話しかけてきて積極的にコミュニケーションも取って来てくれたのに最近は素っ気なくて寂しいのです。

 

 

 

 

 

43.名無しの艦娘化さん

 

 

情熱な迫り方をされたらさすがに気分が高揚します

 

 

 

 

 

 

44.名無しの艦娘化さん

 

 

ケッコンはしてないけれど耳寄りな情報を。

 

 

 

 

 

45.>1

 

 

詳しく

 

 

 

 

46.名無しの艦娘化さん

 

 

 

浮気夜戦は気持ちいい。いや、ヒトのモノに手を出すっていうのはどうしようもない背徳感が湧いてきて病みつきになりそうや。そんな倒錯した趣味持たなくても夜戦は気持ちいいからおすすめやで。

 

 

 

 

 

47.名無しの艦娘化さん

 

 

い、色ボケだ————————!!

 

 

 

 

 

48.名無しの艦娘化さん

 

 

でも駆逐艦はないでしょwww あんなん犯罪だわwwwww 提督が憲兵にしょっ引かれるのを神回避www ちなみに提督は今、横で寝ている(キリッ) 全裸で。

 

 

 

 

 

 

 

49.名無しの艦娘化さん

 

 

 

 

あっ(察し)

 

 

 

 

 

50.名無しの艦娘化さん

 

 

あ————————————————!!

 

 

 

 

 

51.名無しの艦娘化さん

 

 

ど、どうしたんだい >50君 いきなり大声出して

 

 

 

 

 

 

52.名無しの艦娘化さん

 

 

漸く下手人が分かったのです。電から司令官さんを奪い取った張本人が…迂闊な書き込みなんていうものはするものじゃないですが…今回は助かりましたよ、愛宕さん。そっちに行くから覚悟をしていてください。パンパカパーンにしてあげるのです…司令官さんにも教えてあげないといけないようです…自分が誰のものであるか…しっかりと…

 

 

 

 

 

 

53.名無しの艦娘化さん

 

 

ちょっ、まさか…え、やめうわなにすqあせふじこぽこじふgyfちjこlp

 

 

 

 

 

 

54.名無しの艦娘化さん

 

 

 

oh…Jesus…

 

 

 

 

 

55.名無しの艦娘化さん

 

 

ご冥福をお祈り申し上げます

 

 

 

 

 

56.名無しの艦娘化さん

 

 

53が我々の前に姿を見せるのはこれからも一度もなかった…

 

 

 

 

 

 

 

その後、微妙な雰囲気がスレに流れ出した。このままではいかんと思った住民たちは必死に話題逸らしを始めた。

 

 

 

 

 

 

403.名無しの艦娘化さん

 

 

イッチは提督のことどう思ってるわけ?

 

 

 

 

 

 

404.>1

 

 

仕事の腕に関しては文句なし、人格に対しても特に大きな問題点はなし。

 

 

 

 

 

405.名無しの艦娘化さん

 

 

だろうなぁ…トラック泊の提督さんはよくできた提督さんって名高いしなぁ

 

 

 

 

 

406.>1

 

 

ただ不満点があるというのならばハーレムなことが気に入りませんね 何故あれだけ大勢に囲まれておきながら一人の好意にも気づかないとか私には理解に苦しむね(ペチペチ)

 

 

 

 

 

 

407.名無しの艦娘化さん

 

 

イッチのことが好きだからやろうなぁ…

 

 

 

 

408.名無しの艦娘化さん

 

>1はつまるところケッコンがいやだでFA?

 

 

 

 

 

409.>1

 

 

不思議と嫌悪感はあんまりないけれどあの渦の中に飛び込むには少々気が引ける。それに

 

 

 

 

410.名無しの艦娘化さん

 

 

それに…?

 

 

 

 

411.名無しの艦娘化さん

 

 

これに…?

 

 

 

 

412.名無しの艦娘化さん

 

 

おれに…?

 

 

 

 

 

413.名無しの艦娘化さん

 

 

どれだよ

 

 

 

 

 

414.名無しの艦娘化さん

 

 

ワタシだ

 

 

 

 

415.名無しの艦娘化さん

 

 

お前だったのか

 

 

 

 

416.名無しの艦娘化さん

 

 

全然気づかなかったぞ

 

 

 

 

 

417.名無しの艦娘化さん

 

 

暇を持て余した艦娘達の

 

 

 

 

 

 

418.名無しの艦娘化さん

 

 

ちくわ大明神

 

 

 

 

 

419.名無しの艦娘化さん

 

 

誰だ今の

 

 

 

 

 

 

420.名無しの艦娘化さん

 

 

ほらまたすぐに脱線するーちょっとー男子―!

 

 

 

 

 

421.名無しの艦娘化さん

 

 

ここにいるのは可愛い女の子だけやで

 

 

 

 

422.>1

 

 

あのあの

 

 

 

 

423.名無しの艦娘化さん

 

 

誠にも申し訳ない お詫びに>424の首を差し上げよう

 

 

 

 

 

424.名無しの艦娘化さん

 

 

自分に何か落ち度でも…?<●><●>

 

 

 

 

425.名無しの艦娘化さん

 

 

これは戦艦クラス。イッチ、どうぞ。

 

 

 

 

426.>1

 

 

脱線させたのお前やんというツッコミはしないでおきます^^; 不思議と嫌悪感自体は湧いてこないし強くなれるなら受け取ってもいいんじゃないかなとは思うけれども、今も今で提督が他の艦娘に引っ張られてあちこち連れ回られてるのを見ていて胸がもやもやします。どうしたらいいでしょうか。

 

 

 

 

 

427.名無しの艦娘化さん

 

 

もうケッコンしろや お前。

 

 

 

 

 

428.名無しの艦娘化さん

 

 

魂の髄まで惚れてるみたいやしさっさと指輪受け取ってこい。

 

 

 

 

429.>1

 

 

だがしかし万が一にでも断られしたらどうすれば…

 

 

 

 

 

430.名無しの艦娘化さん

 

 

男なら腹括っていけ!

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

「な、何よ…本当に…」

 

 

曙はこの頃ずっと悩んでいた。いつか返事を返すとは言っていたが彼女は彼女なりの葛藤が止まらなかった。

 

 

脳内で俺は本当は男であって、提督であるアンタに嫉妬していつもつんけんどんな態度を取り続けて、けどそれでもアンタは俺を選んで…

 

 

どうしたらいいのかもはやよくわからなくなった彼女、もしくは彼は噂に聞く艦娘化してしまったテートクのためへの掲示板へ助力を求めた。

 

 

結果として両想いなんだからさっさと指輪を受け取れと言われたのだが…

 

 

 

けどオレは…あたしは…

 

 

とっくにメス堕ちしてるんだから行けよという話だがそこは元男、曙の性格も相まって素直にはなれない。

 

 

 

それから、曙が指輪を受け取るまでにはそう時間は要さない————————————————

 

 

 

【緊急】妊娠したんだが のスレが立つまであと四か月と十五日と八時間五十六秒——————————————

 




初投降です


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既婚艦娘板 part364

性的な描写あり


1.奥様は名無し艦娘

 

このスレはケッコン済へのテートク向けのスレです。相談でも愚痴でも何でもぶちまけていきましょう

 

次スレは>950が立ててください 荒らしは厳禁です

 

 

 

 

 

 

212.奥様は名無し艦娘

 

 

あの、相談をよろしいでしょうか。

 

 

213.奥様は名無し艦娘

 

 

どうぞ

 

 

214.奥様は名無し艦娘

 

 

ありがとうございます。最近どうにも夫…提督との接し方に難儀している者です。これが世間一般でいう倦怠期というものではないのでしょうか。

 

 

215.奥様は名無し艦娘

 

 

面白そう。そもそも>212はどんな事情があるか教えてもらえるかな?

 

 

216.匿名希望

 

 

コテハン…というのはこれでいいのしょうか… 

 

 

217.奥様は名無し艦娘

 

 

おk ちゃんと区別化できてる

 

 

218.匿名希望

 

 

私は呉鎮守府で軽空母をやっている者です。提督とはケッコン済みで夫婦がやるべきことは一通り済ませています。ただ、互いに多忙な身故か、関わる時間が少なくなっていってしまい何年もの時だけが流れてしまい、私が一方的にだけかもしれないですが、距離を感じるようになりました。

 

 

219.奥様は名無し艦娘

 

 

その提督とはケッコンしてからどれくらい?

 

 

220.匿名希望

 

 

詳しく計ったわけではありませんが、ケッコン指輪を貰って二十年くらいです。

 

 

221.奥様は名無し艦娘

 

 

20年?そりゃまた偉いベテランな…

 

 

222.匿名希望

 

 

そんなに珍しい年数でしょうか…

 

 

223.奥様は名無し艦娘

 

 

ここに来るのは初夜の相談だとか、ケッコン仕立ての子が多いからねぇ…多分二十年なら歴代最長例だね、多分。

 

 

 

224.奥様は名無し艦娘

 

 

それで倦怠期を感じてるって言ってたけど 提督に避けられていたり?

 

 

225.匿名希望

 

 

いえ、そんなことは全く。ただこちらが忌避感を勝手に感じているだけであって提督は普段から顔を合わせるたびに私に対して挨拶やねぎらいをしてくれます。

 

 

226.奥様は名無し艦娘

 

 

良い旦那さんじゃないか

 

 

227.匿名希望

 

 

はい、本人が忙しい中でもこちらを気遣ってくれてるような出来た人です。…本当に私は何故あの人の顔を見るのが怖いのか分かりません。

 

 

228.奥様は名無し艦娘

 

 

ちゃんと旦那さんのこと愛してる?

 

 

229.匿名希望

 

 

嘘偽りなく。あと少しで私も除籍なので提督も退役してどこか静かな場所で暮らそうという約束をしています。

 

 

230.奥様は名無し艦娘

 

 

(…このヒト本当に男だったのかなぁ…)

 

 

231.奥様は名無し艦娘

 

 

そりゃあ、二十年も経てば…ねぇ?

 

 

232.匿名希望

 

 

もう遠い昔の出来事です。未練はありませんし、今はあの人の隣こそが私の居場所ですから…

 

 

233.奥様は名無し艦娘

 

 

なるほど相分かった!

 

 

234.奥様は名無し艦娘

 

 

何だって!?

 

 

 

235.奥様は名無し艦娘

 

 

何故顔が合わせ辛いか、それは旦那さんと随分ご無沙汰だからであるはずだ!

 

 

 

236.奥様は名無し艦娘

 

 

( ゚д゚)

 

 

237.奥様は名無し艦娘

 

 

( ゚д゚)

 

 

238.奥様は名無し艦娘

 

 

諸君、話は最後まで聞くものだよ。夜の営みはただ快楽を貪るためだけのものではない。子供を作るための儀でもあり、夫婦の愛を結ぶための神聖なものなんだ。

 

 

239.奥様は名無し艦娘

 

 

つまり?

 

 

240.奥様は名無し艦娘

 

 

一発やっちゃえばそんな蟠りも無くなる無くなる。自分もそうした。しかしご主人様のアレは素晴らしい…

 

 

 

241.奥様は名無し艦娘

 

 

アンタ漣ね 後でそっちに行くから

 

 

 

242.奥様は名無し艦娘

 

 

げぇ叢雲ぉ!?ちょったすけ…てぁjふfどpふぇhy

 

 

 

243.奥様は名無し艦娘

 

 

ご臨終です。

 

 

 

244.匿名希望

 

 

あのお…これは私はどうしたら…?

 

 

245.奥様は名無し艦娘

 

 

で、実際にそういうことは致してないの?

 

 

246.匿名希望

 

 

ええ…もう何年も…

 

 

247.奥様は名無し艦娘

 

 

あの脳内色ボケのいう事に従うわけじゃないけどやっぱり一理はあると思うわ。肌の交わりは人ととのつながりを強固なものにするという考え方も間違いではないと思うし。

 

 

248.匿名希望

 

 

なるほど…マンネリ打破のためには情交に耽ることもまた手段ですか…ただ…

 

 

249.奥様は名無し艦娘

 

 

…ただ?

 

 

250.奥様は名無し艦娘

 

 

無料?

 

 

251.奥様は名無し艦娘

 

 

どこ!?セールスどこ!?

 

 

252.奥様は名無し艦娘

 

 

違うそうじゃない

 

 

253.匿名希望

 

夫もその、良い歳なんでそこまで積極的かどうか…

 

 

254.奥様は名無し艦娘

 

 

寄る年波には勝てないかぁ…

 

 

255.奥様は名無し艦娘

 

 

旦那さんが興奮するような格好とかならええんか…?

 

 

256.匿名希望

 

 

真性真面目な人なのでそれで煩悩が刺激されるかどうか…

 

 

257.奥様は名無し艦娘

 

 

普段真面目な人が積極的に誘ってくるほど興奮することはないと思うけど…

 

 

258.匿名希望

 

 

分かりました、兎にも角にもやってみます。今まで使うこともなかった勝負下着も出してみようと思います。

 

 

259.奥様は名無し艦娘

 

 

おうやったれ 全力でなぁ!!

 

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

「ここにありましたか…」

 

 

衣装ダンスの奥深く、鳳翔は目的のモノを見つけた。ひらひらのレースがあしらわれた黒い扇情的な下着。所謂セクシーランジェリーと呼ばれるものだ。普段の鳳翔に対して必ずと言っていいほど縁のない下着。

 

 

「まさかこれを再び掘り出す日が来るとは…」

 

若さゆえの過ちとして封印していたが、二十年経った今になって発掘することになろうとは彼女は思わなかった。夫婦生活ももう長いが、こんなにも羞恥を感じたのは久しぶりだ。

 

 

その他人に見られれば悶絶するようなものを鳳翔は手提げ袋の中に急いで詰め込み、自室を後にした。そしてすぐに提督の執務室に舞い戻った。

 

 

「お疲れ様です、提督。今お茶を淹れますね。」

 

「ああ、鳳翔か。これで一区切りだ、助かる。」

 

 

書類へ目を通していた提督。鳳翔はその顔を見ていた。彫りが深くなってきた顔、威厳すらにじみ出て来た彼の顔。

 

まだ出会った時は18の青さ残る青年だった。だが、今は40を超えて彼はますます男として磨きをかけていた。何事にも真剣に取り組むその姿は実に凛々しいとすら鳳翔には思えた。

 

 

鳳翔はもはや自分が航空母艦 鳳翔の艦娘であることに疑問を抱かない。確かに異世界の男の記録はあった。そう。「記録」であって「記憶」ではない。二十年の歳月が彼女の彼の記憶を他人のモノにさせた。

 

 

「あの、提督。」

 

 

そこに残ったのは男心をよく理解する、そして理解したうえでからかう、魔性の鳳翔だけだった。

 

 

「今夜、待っております。」

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

男女の体が互いの顔…唇を重ねていた。

 

 

「鳳翔…」

 

「ふぁ…はむ…」

 

互いの唇を貪るように口づけている。そして扇情的な瞳で提督へ抱き着く鳳翔。

 

 

「叶うのならばずっとあなたの温もりを感じていたいものですが…」

 

 

そして鳳翔はいつもの弓道着をはだけさせて例の下着をつけているのを見せた。

 

 

「…鳳翔…」

 

 

「はしたない女…と幻滅してしまったでしょうか。」

 

 

「いや、そんなことはない…とても綺麗だ…それに年甲斐もなく…」

 

提督はそのまま鳳翔を布団へと押し倒した。

 

 

「年甲斐もなく興奮してしまいそうだ。…まるであの頃に戻ったかのようにな。」

 

 

「提督…」

 

鳳翔がそのまま彼の首に手を回した。

 

 

「提督、私は提督を愛しています。一つの言葉でも表せれないほどにお慕いしています。…提督…あなたは…」

 

 

「皆まで言うな。…お前以外に指輪を送ったことも、送ることもない。これが何よりもの証左…として受け取っておいてくれ。」

 

 

「…はい。」

 

 

「それよりも鳳翔…もう、我慢が利かなさそうだ。」

 

 

「はい…提督…私も…提督が…あなたのものが欲しいです。旦那様…」

 

 

 

 

 

———————————————

 

 

 

607.匿名希望

 

 

先日はありがとうございました。

 

 

608.奥様は名無し艦娘

 

 

いつぞやの。結果は?

 

 

609.匿名希望

 

 

言うの恥ずかしいですが…成功しました。少々年甲斐もなくはしゃいでしまいました。今も腰が動きにくいです。

 

 

610.奥様は名無し艦娘

 

 

ハッスルしちゃったかー

 

 

611.奥様は名無し艦娘

 

 

張り切るのはいいけれど周りの目も考えてくださいよー

 

 

 

612.匿名希望

 

 

ここに相談を持ち掛けて正解だった思います。ご助言ありがとうございました。

 

 

613.奥様は名無し艦娘

 

 

ええなぁ 快適な夜の生活 うちもそろそろ抱いてほしいなぁ

 

 

614.奥様は名無し艦娘

 

 

女体の快楽を知りやがって!

 

 

615.奥様は名無し艦娘

 

 

心から愛した人に抱かれる快楽は格別なんだよなぁ…

 

 

 

616.奥様は名無し艦娘

 

 

男なんてありえない そう思ってた時期も私にはありました…

 

 

617.奥様は名無し艦娘

 

 

そんな私も今やジュウコン提督の妻の一人

 

 

618.奥様は名無し艦娘

 

 

お前たちは何を言ってるんだ。

 

 

619.奥様は名無し艦娘

 

 

竿役がいかに強いかってことだよ

 

 

 

その後しばらく夜の営みについて熱心に語れられた。



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総合雑談版 part114514

スレタイが汚さすぎる


「司令、おはよー」

 

 

横須賀鎮守府、提督の仮眠室。そこに遠慮なしに扉を開けはなって来たのはこの鎮守府の秘書艦、陽炎である。

 

 

「あれ、司令まだ寝てるの?いつもは馬鹿みたいに早起きなのに。」

 

 

しかし呼び掛けても掛布団から反応はない。

 

 

「起きないと悪戯しちゃうよー?」

 

つんつんと布団越しにつつくがそれでも反応はない。

 

「沈黙は了承で良いのかなー?」

 

顔のあたりの布団を引っぺがすと提督の顔を見た。

 

 

「あれ…?」

 

 

いつもより顔色が悪いような気がした。物は試しと彼の額に手を当てた。そして一気に手のひらが熱で蒸された。

 

 

「うぇぇ!?」

 

そのあまりの熱さに度肝を抜くがすぐに再起動を果たし、今度は額に直接自分の額を当てて熱を確認した。

 

 

「うっそ…凄い熱…じゃなかった!早く医務室へ!」

 

 

陽炎は提督の服装など気にせずに彼を担ぎ、医務室へと駆け込んでいった。

 

 

 

 

 

「過労ですね。」

 

 

「…はい?」

 

 

「過労による発熱ですね。暫くは無理はさせられませんが三日も寝ていれば元気になると思います。」

 

 

「…はぁ。」

 

 

医務官に告げられたのは単純明快な事実だった。提督は働き過ぎたのだ。

 

 

「…確かに思い返してみれば…司令…働き過ぎだなぁ…」

 

 

以前に覗いたときは朝の四時まで仕事をして五時まで寝て六時から走り込みして鍛錬して七時から仕事をしていた。むしろ今までよく倒れなかったというべきだ。

 

 

「勤勉すぎるのも考え物…」

 

その後、今日からの仕事は代わりに私がやっておきますからという大淀の言葉を聞き彼女は手持ち無沙汰になってしまった。そして彼女は考えた。

 

 

「…今の状態で私が出来ることかぁ…」

 

 

陽炎はスマートフォンを開き、いつもの掲示板を開くことにした。

 

 

 

 

 

総合雑談版 part114514

 

 

1.名無し、抜錨します

 

 

このスレは艦娘化してしまったテートク向けの総合雑談版です 荒らしは厳禁です

 

 

 

 

 

507.名無し、抜錨します

 

 

提督が倒れたんだけどこういうときってどうすればいいの?

 

 

 

508.名無し、抜錨します

 

 

ほむ、続けなさい

 

 

509.名無し、抜錨します

 

 

kwsk

 

 

 

510.名無し、抜錨します

 

 

了解。うちの提督は勤勉さで有名なんだけれどいつかぶっ倒れるんじゃないかとは思ってたけれど今日遂にぶっ倒れた。40℃を超える発熱だから無理は厳禁って医官に止められてるから大丈夫だとは思うが、自分が手持ち無沙汰になった。

 

 

 

511.名無し、抜錨します

 

 

コテハンつけた方が分かりやすいぞ。そもそも>510はその提督とどんな関係なん?

 

 

512.長女なんです!

 

 

秘書艦。

 

 

 

513.名無し、抜錨します

 

 

なら仕事だろ。

 

 

 

514.名無し、抜錨します

 

 

書類仕事だな

 

 

 

515.名無し、抜錨します

 

 

 

ハンコ地獄だな

 

 

 

516.長女なんです!

 

 

ありがたいことに大淀が代わってくれた。まあ自分じゃ時間がかかるのは目に見えてるし当然と言われれば当然だとは思う。

 

 

517.名無し、抜錨します

 

 

なるほど、そりゃ恵まれてる。それでやるべきことを探してるわけね。

 

 

518.名無し、抜錨します

 

 

 

ならやることって一つだろ

 

 

 

519.名無し、抜錨します

 

 

 

一つしかないな

 

 

 

520.長女なんです!

 

 

全く見当がつかん…何だ?

 

 

 

521.名無し、抜錨します

 

 

看病だろjk

 

 

522.名無し、抜錨します

 

 

そしてその先にあるアダルトな看病だろ

 

 

 

523.名無し、抜錨します

 

 

憲兵さん、こいつです

 

 

524.長女なんです!

 

 

病人に無理させないでください。ていうか看病なんかやったことないんですけどー!?

 

 

525.名無し、抜錨します

 

 

安心しな、この元医者のワシが教えてやろう。

 

 

 

 

「うわっ胡散臭っ!」

 

 

とはいえ悪いことをするつもりはないだろう、と陽炎は考えた。まずは自分の思う看病の概念を考えることにする。

 

 

 

 

530.長女なんです!

 

 

想像する看病って…こう、額の汗をぬぐったりするもの?

 

 

 

531.医療不敗

 

 

当然汗を拭くことも大切だが…まず初めに患者は水分を求めている。飲ませるものはスポーツドリンクでもお茶でもいいが冷えたものの方がいいぞ

 

 

 

 

「水分補給…」

 

 

提督の自室の冷蔵庫の中に恐らく鍛錬後に飲んでいるであろうスポーツドリンクがあった。そして提督の傍まで寄ってから再び疑問が沸き上がる。

 

 

 

533.長女なんです!

 

 

こういうときって飲ませて良いわけ?なんか詰まったりしない?

 

 

 

534.名無し、抜錨します

 

 

水で大げさな…

 

 

535.医療不敗

 

 

飲み込むことくらいは容易いが鼻の器官に入らない方がいいな

 

 

 

536.長女なんです!

 

 

確かに鼻に入るのは嫌だな…で、どうしたらいいの?

 

 

 

537.名無し、抜錨します

 

 

口移し?

 

 

538.医療不敗

 

 

だからお前は阿呆なのだ————————! 患者の姿勢を頭の位置を高くして飲ませればそれでいいだけだ!口移ししたら得体のしれない何かに感染しても知らんからなぁ!

 

 

 

 

「頭の位置を高く…」

 

はてどうしたものかと思ったがその答えはすぐに見つかった。

 

 

「膝枕ね。」

 

 

かつてあこがれたシチュエーションだが、この際医療行為のため特に感慨はない…筈である。

 

 

 

「…司令、唇固く閉ざしてるし…」

 

まるで結んだかのように固く閉じている。試しにペットボトルの口を当ててみたが動く気配なしである。こじ開けるのでもいいが、さすがにそれだと哀れである。陽炎は何を思ったのか、自分自身の口の中に含み、提督と自分の唇を押し当てた。そして舌で無理やりに唇を開けさせると口の中のスポーツドリンクを流し込んだ。唇を放ち一瞬でボンッと赤面した陽炎はあたりを見回して安堵した。

 

 

「こ、これは医療行為だからセーフよ…」

 

 

 

 

 

545.医療不敗

 

 

当然の如くだが汗をよくかくようになる。だから定期的に汗を拭いてやることだ。勿論、額だけじゃなく胸辺りもだ。

 

 

 

 

「失礼しまーす…」

 

 

額をそっと汗を拭いたら陽炎は本題に入る。遠慮がちに上半身のシャツを剥くとそこには彼の鋼鉄の肉体が露になる。

 

 

「こういうのを肉体美っていうのね…」

 

 

恍惚とした表情でそっと腹筋を撫でていた陽炎は正気に戻ると慌てて汗のにじんだ胸を拭いた。先ほどの行動を思い出し否定するようにふるふると頭を振った。

 

 

 

 

550.医療不敗

 

 

病人食として有名なのは御粥。重湯でもいいぞ。

 

 

 

 

間宮にお願いしていた粥が届いた。さて、どうしたものかと再び掲示板に目を向ける

 

 

 

552.医療不敗

 

 

なお熱いまま口の中に放り込むのは厳禁だからな!

 

 

 

「冷まさせてからってこと…」

 

 

 

「いや、自分で食えるからな。」

 

 

「司令!目が覚めたのね!」

 

「悪いな、変な迷惑かけたみたいだ。」

 

 

「っと、ダメダメ。まだ寝てないと。」

 

起き上がろうとする提督を布団に押し倒し、看病を続けようとする。

 

 

「ほら、あーん」

 

 

「…いや、自分で食えるからな。」

 

 

御粥を十分に冷ました後、彼にへと差し出す。だが気恥ずかしいのか提督はやんわりと拒否の色を示した

 

 

 

「あーん」

 

 

「いや、陽炎」

 

 

「あーん」

 

「陽炎さん…?」

 

 

「あーん」

 

「ハイ。ワカリマシタ。」

 

 

結局折れたのは提督の方だった。その後も抵抗しようとするが有無を言わせない陽炎の猛攻にすぐに武装解除されてしまう提督だった。

 

 

それから再び眠りに落ちた彼の横顔を見ながら陽炎は頭の上へ置いている布を水で濡らし絞り、落とさないように、落とされないように器用に置いた。そして扉越しの戦艦クラスの眼光と目が合った。

 

 

 

「…何やってるの、不知火。」

 

「不知火に何か落ち度でも?」

 

「いや、言いたいだけだよね。それ。」

 

 

「…陽炎がこの人の看病をしていると聞きつけて来たんです。貴方が何をやらかすのか心配で。

 

 

「いや、何もやらないよ?というかやったことなんてないからな?あれ、そんなにわたし信用ない?」

 

 

「信用はしてますが…医療行為という名目であれこれどれそれをするのは関心しませんね…」

 

 

「なっ!?」

 

「では不知火はここで…」

 

 

爆弾を投下するだけ投下していった愉快犯、不知火。再起動を果たした陽炎は困ったように見ていた。

 

 

「不知火ってあんな子だったっけ…」

 

 

もっと、こう…武人染みていたはずだったのだが…と疑問符を浮かべながらも提督の傍に戻った。外を見ればすっかり夜になっていた。

 

 

不意に欠伸をする。そっか…もう、こんな時間なのか…と独り言を流す陽炎

 

 

「もう寝なくちゃ…」

 

 

ちらりと提督を見る。最後の書き込みにあったことを思い出した。

 

 

「た、確か…出来る限り温かくしてあげなきゃいけないんだよね、しかも丁度人肌の温度は適温だって。」

 

 

誰に言うでもなく自分に言い聞かせるように陽炎は自己暗示する

 

 

 

「…これは医療行為…医療行為」

 

ぶつぶつと呟き挙動不審に動くその姿はまさにストレンジャーである。

 

 

「し、失礼しまーす…」

 

 

陽炎は彼の腕を枕のようにすると彼の温度を身で受けた。

 

 

「…あったかい…」

 

 

そして彼女はそのまま睡魔に駆られて眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 

「…あはは…ええぇとこれは寝相で…」

 

 

「お前は随分と特殊な寝相の悪さなんだな。」

 

 

「…お、こってる…?」

 

 

「別に、指輪を渡している相手に対して今更そんなことするなとは言わないさ。ただ…」

 

 

「ただ?」

 

 

「お前は三日三晩寝込むことになるぞ。」

 

 

 

 

陽炎はしっかりと三日三晩寝込むことになった。

 

 

 

 

 

「これはあなたの落ち度ですよ…」

 



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【安価】最近提督が… 

「てーとく~」

 

 

佐世保鎮守府、その執務室。日は落ちてすっかりと空は夜模様を呈している。そんな机で作業する男性の周りでくるくるとまとわりついている少女。ガン無視をして男性は書類作業をしている。だがそんなことにもめげずに少女はなおさら纏わりつく。

 

 

「ねぇてーとくー 夜戦しようよー」

 

 

カチカチカチカチ

 

 

「外は絶好の夜戦日和だよー、やろうよ、夜戦ー」

 

 

カチカチカチカチカチカチ

 

 

「楽しいからやろーよー」

 

カチカチカチカチ

 

 

「てーとくーやせんー」

 

 

カチカチカチカチ…ベキッ

 

 

 

「だー!もううるせぇ!」

 

 

我慢の限界が来たと言わんばかりの男…提督は自身に絡みつく少女、川内を引っぺがした。そして折れてしまったシャープペンをゴミ箱へ捨てるとそのまま川内を非常に複雑そうな目で見た。

 

 

「相次ぐ夜戦のせいで俺は書類と夜戦中なんだよ!作業に集中させてくれんかな!?」

 

 

夜戦忍者はそんなことは知ったことではないかのように飄々とまた絡みつく。

 

 

「提督、そんなに怒ってると皺が増えちゃうよーほら、夜戦して落ち着こ。」

 

「やらねえよ!?」

 

 

「えー、提督のいけずー。」

 

「というよりお前そうやって夜戦してまた中破しただろ。言っておくが夜戦だってタダじゃないんだ。少しは回数を控えてくれ。」

 

「ちぇー…まあいいや、今日は諦めるよー。」

 

「明日は諦めないってことだな。」

 

 

川内は折れて、先日模様替えした執務室備え付けのベッドにダイブした。

 

 

「提督 それいつ終わるのー?」

 

「あと三十分もあれば終わるが。」

 

 

「じゃあ待ってるねー。」

 

 

そして川内は胸元からいつものスマートフォンを取り出した。

 

 

 

 

最近提督が…

 

 

 

1.名無し、抜錨します

 

 

夜戦に非積極的である

 

 

 

2.名無し、抜錨します

 

 

おは川内

 

 

 

3.名無し、抜錨します

 

 

おは夜戦バカ

 

 

 

4.名無し、抜錨します

 

 

何故バレたし

 

 

 

5.名無し、抜錨します

 

 

むしろ何故バレないと思ったし

 

 

 

6.夜戦したい!

 

 

いけず提督を説得する方法を教えてください

 

 

 

7.名無し、抜錨します

 

 

身体を使いなさい

 

 

8.名無し、抜錨します

 

 

身体を張った説得ならいけるいける

 

 

9.名無し、抜錨します

 

 

憲兵さん こいつらです

 

 

 

10.名無し、抜錨します

 

 

埒が明かないので次に自分のする行動

 

↓3

 

 

11.名無し、抜錨します

 

 

阿波踊り

 

 

12.名無し、抜錨します

 

 

紅茶を飲む

 

 

13.名無し、抜錨します

 

 

ベッドの上で誘惑

 

 

 

 

 

どさりとベッドに腰を下ろす。そして、挑発的に足を組み、敢えて目の前の提督に下着を見せつけるように川内はなまめかしい口調で言った。

 

 

「て、い、と、く 夜戦…しよ?」

 

 

「馬鹿なことは言うな。」

 

 

だがむなしくスルーされる

 

 

 

 

15.夜戦したい!

 

 

こいつ…本当に男か…!?

次に自分がすること

 

↓4

 

 

 

16.名無し、抜錨します

 

 

八王子音頭

 

 

17.名無し、抜錨します

 

 

全裸待機

 

 

18.名無し、抜錨します

 

 

榛名は大丈夫です

 

 

19.名無し、抜錨します

 

 

絡みついて誘惑しろ

 

 

 

提督は現在椅子に座っている。川内は彼の首もとに腕を巻き、そのまま後ろからもたれかかった。体中の柔らかいところが彼の背中に直撃している。…筈だがなぜか提督は素面である。

 

 

「ていとくー、わたしと夜戦しよーよ。」

 

 

そして無造作に放たれた裏拳が川内の顔にめり込んだ。

 

 

 

「へぶっ!?」

 

 

 

20.夜戦したい!

 

 

流石に頭に来ました。次

 

 

↓6

 

 

21.名無し、抜錨します

 

 

不貞寝

 

 

22.名無し、抜錨します

 

 

伊勢音頭

 

 

23.名無し、抜錨します

 

 

筋トレ

 

 

24.名無し、抜錨します

 

 

えっさほいさ

 

 

25.名無し、抜錨します

 

 

誘い受け

 

 

26.名無し、抜錨します

 

 

おっぱおを触らせる

 

 

 

「てーとくー」

 

川内は提督の腕を持つと、そのまま自分の胸の方に持って行った

 

 

「良い加減うっとおしい…」

 

ぞと言おうとした提督は振りほどくために力を込めるがそれが悪手だったのかそのまま川内のカタチの良い胸を直に触ってしまった。

 

 

「ひぅ!?」

 

 

だがしかし驚いたのは当の本人、川内である。

 

 

「なっ…なっ…」

 

 

その羞恥に顔が既に真っ赤である。不味ったなと提督は思ったのか謝罪した。

 

 

「悪い、だがお前をどうこう致そうなどという気持ちはない。それは分かってくれ。」

 

 

壊れた機械のように頷く川内

 

 

 

 

30.夜戦したい!

 

 

こんなところじゃ終われねぇ!

 

 

↓2

 

 

 

31.名無し、抜錨します

 

 

建造

 

 

32.名無し、抜錨します

 

 

全力ダッシュ

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと出てくる!」

 

 

川内はそのままうおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉという絶叫と共に鎮守府の外周を四周してきた。それが原因で駆逐艦寮では謎の雄叫びが夜間に聞こえると一種の怪談になってしまうことを彼女は知らない…

 

 

 

「ただいま!」

 

 

バァンと扉を開けはなち、そのまま川内は肩で息をしてる。提督はこいつは一人で何をやっているんだという目で見ていた。

 

 

「よし、復活!」

 

 

 

40.夜戦したい!

 

 

冷静さを取り戻した俺は最強だ!

 

 

↓4

 

 

41.名無し、抜錨します

 

 

ソーラン節

 

 

42.名無し、抜錨します

 

 

大淀の眼鏡を叩き割る

 

 

43.名無し、抜錨します

 

 

霧島の眼鏡を叩き割る

 

 

44.名無し、抜錨します

 

 

倒れた振り

 

 

 

 

その場に、川内は崩れ落ちた。あまりにも唐突に倒れたため、今まで執務をしていた提督も心配し血相を変えて彼女を抱き起した

 

 

 

「おい、川内!大丈夫か!」

 

 

「ていとく…胸が苦しいよ…」

 

「どこか痛むのか!?」

 

 

「お願い…私をベッドへ」

 

 

「分かった。」

 

 

提督は彼女を優しく抱き上げるとそのままベッドへ彼女を置いた。

 

 

 

 

50.夜戦したい

 

 

ええぞええぞ!

 

 

↓3

 

 

51.名無し、抜錨します

 

 

フフフ…セッ〇ス!

 

 

52.名無し、抜錨します

 

 

やめないか!

 

 

53.名無し、抜錨します

 

 

 

自分の気持ちに素直になりましょう

 

 

 

 

「ごめん…ね、提督。」

 

「何を言ってるんだ、お前が謝ることはないだろう。」

 

「違うよ。…私は、本当は貴方に構ってほしかっただけ。夜戦は口実でしかないんだ。本当は提督ともっと話したくて、けど…素直に誘うのは気が引けて…それを口実にしてずっと構ってもらいたかった。」

 

 

「…川内。」

 

 

「本当はあなたが好きなのに、言葉にするのは気が引けて…」

 

 

「…少々、執務にかまけすぎてしまったか。」

 

 

「…提督?」

 

 

「忙しい、忙しいと言って目を背けていたのは俺も同じさ。…それに俺に関わって来た人間は今までろくなことになってこなかった。本気で他人を受け止めるだけの勇気が俺にはないんだろうな。」

 

 

 

 

 

55.夜戦したい

 

 

流れ変わったな…いや、予想外過ぎるんですけど

 

 

56.名無し、抜錨します

 

 

いけ!突っ切れ!

 

 

 

「大丈夫、提督。わたしは提督と一緒にいて楽しいよ。私だけじゃない、神通も…那珂も。この鎮守府に居るのは義務とか、義理とかで残った子たちじゃないんだよ。皆、提督が好きだから 提督といて楽しいからみんなここに居るんだ。」

 

 

「…川内。」

 

 

「なんて…言っても説得力はないか…」

 

 

起き上がる川内。それを心配する提督。

 

 

「…もう、大丈夫なのか?」

 

「本当に大したことないから。」

 

 

 

 

60.夜戦したい!

 

 

ええいままよ

 

↓1

 

 

61.名無し、抜錨します

 

 

夜戦のお誘い

 

 

 

 

「…提督、夜戦…しよ?」

 

 

「…もう、こうなった以上止められないぞ、いいのか?」

 

 

「大丈夫…ボクは…ずっと提督と夜戦がしたかったから…。」

 

 

 

そして提督は部屋の電気を消す。二つの影が一つに重なり、布が擦れる音が執務室に静かに響いた。

 

 

「…えっと…あの… 初めてだから…優しくお願いします…」

 

 

「…善処する。…まあ俺も初めてだから 我慢できる自信はないが…」

 

 

 

 

そして夜は更けていく。

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁっぁぁぁあぁぁ!?」

 

 

ガンガンガンと柱に頭を打ち付ける夜戦忍者…こと川内。その顔は羞恥を越えた羞恥の赤に染まっており、熱すら放っている。

 

 

「朝から元気だなお前は…」

 

 

そんな彼女の姿を見て、呆れたように言葉を漏らす半裸の提督。

 

 

「昨日のアレは夢昨日のアレは夢昨日のアレは夢昨日のアレは夢」

 

壊れたレイディオのように現実逃避を回避する川内。熱に当てられてしまったことが彼女の痛恨のミスだった。

 

 

「夢にされたら俺が泣くぞ。」

 

 

その言葉にぶつぶつと漏れ出ていた怨嗟の言葉が止まった。

 

 

「なぁ、川内。」

 

「ど、どうしたの?提督。」

 

 

「左手を出してくれ。」

 

 

「?」

 

疑問符を浮かべながら彼に手を差し出す川内。そして提督は脇に脱ぎ捨て立った海軍服のポケットから一つの小さな箱を取り出してその中身を見せた。

 

 

「それって…」

 

「今までずっと持ってたものだ。本当は誰にも渡さず終わるつもりだった。けれども状況は変わったからな…責任はちゃんと取らせてもらう。」

 

 

「…提督…。」

 

 

「今はまだカッコカリだ。けれどもいつか、お前には…ホンモノを。」

 

 

そして左手の薬指にその指輪を嵌めた。

 

 

「…約束、しっかりと覚えておくからね。」

 

 

「勿論だ。」

 

 

 

そしてこれで彼らの話は大団円でおわ…

 

 

「提督、失礼します。今回の演習のことで…」

 

 

「…あ」

 

 

「…じ、神通…?」

 

 

彼女の視線の先にあるのは脱ぎ散らかされた服、おそらく全裸の姉と、半裸の提督

 

 

 

 

「し…」

 

 

「し…?」

 

 

「失礼しました————————————————!!!」

 

 

 

蒸気機関車の煙の如く湯気を吐きながら彼女は走り去っていった。

 

 

「じ、神通 待って!待って————————————————!」

 

 

「おい、服!服!」

 




ムジヒ


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第十五回 提督議会 

正あれば負あり


掲示板/zero


この世界はいくつもの鎮守府が存在している。そこに着任しているだけ提督の数があるため当然のことながらそれぞれの運営方針がある。

 

 

一年に一度、すべての提督が一堂に介し、集会を行う提督議会というものが結集される。その時に同行を許されるのは護衛を兼ねた秘書艦 ただ一人のみである。そして提督たちが堂々巡りの議論をしている間、彼女たちもまた新たな議論に頭を捻らせていた。

 

 

 

「それじゃあ、また四時に迎えに来るから またね、提督。」

 

「あ、ああ…」

 

公衆の面前であるが気にしたことではないのか、川内が提督の頬に口づけを落として立ち去って行った。

 

 

 

「随分と仲が進展したようだね。」

 

そんな彼の後ろから声をかける四十代の男性がいた。

 

 

「これは、准将。ご無沙汰しております。」

 

 

「ああ、久しぶりだね、中佐。いや、今は大佐か。まずは昇進おめでとうと言っておこうか。」

 

「これはこれはご丁寧に痛み入ります。」

 

 

呉の提督に頭を下げる横須賀の提督。呉の提督は深海棲艦との戦いに身を投じ二十年の大ベテランであり、提督であれば彼を知らないものはいない、まさに生ける伝説と語り継がれていた。

 

 

「これは、お二方。お久しぶりです。」

 

 

そんな彼らに見知ったように声をかける佐世保鎮守府の提督。

 

「君も息災のようで何より。」

 

「お互い、変わりはなさそうですね。」

 

 

「いや、そうでもないようだよ。遂に彼も恋仲を作ったようだ。」

 

「ほう、そりゃあまた。これは今夜は奢らないといけませんな。」

 

「お、お二方、そろそろ始まる時間ですよ!」

 

 

わいのわいのと話す彼らに会釈する女性が一人いた。

 

 

「舞鶴の彼は今回も欠席か…」

 

 

「聞く話によれば半身不随のけがを負ったとのことです。これも致し方ないことでしょう。」

 

「しかし、まあ 赤城女史も立派なことですな。自分自身が艦娘として前線に立ちながら提督代理として鎮守府を運営するなど忙殺されるような日々でしょうに。」

 

 

 

その噂である舞鶴提督代理の赤城は一人の女性とすれ違っていた。

 

 

「…これは、鳳翔さん ご無沙汰しております。」

 

「まあ、赤城さん。お久しぶりです。お変わりはないですか?」

 

「はい、小生はこの通り。…今回もやられるのですね?」

 

「ええ、新顔がいるという事なので。それに恒例行事ですからね。」

 

 

「分かりました、また明日 うかがわせていただきます。」

 

「ええ、お待ちしております。」

 

 

 

そして赤城と別れた鳳翔は自身の主人の前へ立つと他の面々へと会釈をし、会釈を返された。

 

 

「それでは提督、私も行ってまいります。」

 

「嗚呼、そちらも頑張ってくるがいい。年長者として彼女たちを導いてやってくれ。」

 

「当然です、お任せください。」

 

 

そして深々と頭を下げると鳳翔も立ち去って行った。彼女が行く先は提督議会が行われている本館とは逆方向に位置する別館…その一つの会議室だった。

 

 

「皆さん 既にお揃いでしたか。」

 

そこに着席しているのは年齢は分かれているがその姿が全員女性…艦娘だった。そして辺りを見渡すと居心地が悪そうにしている一人の少女がいた。彼女と目が合うと鳳翔は柔和な笑みを浮かべ、会釈した。そして中心となる席…議長の席に鳳翔が座るとにこやかに切り出した。

 

 

 

「そうですね、まずは新顔もいるようですし自己紹介から始めましょう。」

 

そして自分が起立すると全員に向かって自己紹介を投げかける。

 

 

「私は呉鎮守府の鳳翔です、カンレキは今年で二十五年目になります。よろしくお願いします。」

 

鳳翔が着席すると隣の川内が立ち上がり自己紹介を始めた。

 

 

「佐世保鎮守府の川内!カンレキは五年目、よろしく!」

 

 

入れ替わるように挨拶する陽炎

 

 

「横須賀鎮守府の陽炎。カンレキは十四年目。よろしく。」

 

 

着席と同時に渋々立ち上がる曙

 

 

「…トラック泊地の曙よ。カンレキは二年目、まあ一応よろしく。」

 

 

中でもひときわ小さい少女が挨拶する。

 

 

「タウイタウイ泊地の電なのです。カンレキは七年目です、よろしくお願いするのです。」

 

 

ぺこりと頭を下げた電に代わり、続きの少女が自己紹介する

 

 

「ブイン基地の長門だ、カンレキは十年目だ。」

 

 

そしてがちがちに緊張している少女が立ち上がり挨拶をした。

 

 

「し、ショートランド泊地の吹雪です。カンレキはまだ着任し立ての一月です。よろしくお願いします!」

 

 

そして勢いよく頭を下げた彼女を見て鳳翔は笑った。

 

 

「これに舞鶴鎮守府の赤城さんも加え、貴方も含めて八人でこの議会は構成されています。」

 

そしてフッと鳳翔は微笑み彼女に歓迎の言葉を発した。

 

 

「ようこそ、提督議会の裏側…テイトク議会へ。」

 

 

 

 

————————————————

 

 

 

「まずこの会の基本理念として取り込まれた原因を探り、『平成日本』へ帰還することを目標として二十年前に設立されました。」

 

「…二十年前…」

 

 

その長さに吹雪は絶句と言った反応をしていた。

 

 

「しかし、近年ではその基本理念すら揺らぎ始めています。」

 

 

「…ど、どういうことですか?皆さんは帰りたくて集っているのでは…」

 

「当初の目的はそうです。けれども…私たちも人です。長い時間の流れはヒトに情を持たせてしまうのです。…改めてお伺いします。皆さんの中で平成日本へ帰りたいと思う方は挙手をお願いします。」

 

 

それに対して明確に手を上げたのは長門と吹雪だけだった。曙が上げるかどうか迷っているようだ。

 

 

「…二人、減りましたね。」

 

鳳翔が時間とは残酷なものですと呟いた。

 

 

「ど、どうしてですか!?皆さんは帰りたくないのですか!?」

 

 

「…吹雪さん、時間とは恐ろしいものです。長く時間が経ってしまったものは当たり前すら揺らぎます。…挙手をしなかった人の理由は左手の薬指を見ていただければわかりますよ。」

 

 

そして吹雪は、鳳翔、陽炎、川内、電、曙と彼女たちの手を見た。そこには銀色に光る指輪がはめられていた。それがまるで輝きで照らすように光っていた。

 

 

「…それは…」

 

 

「これはこの世界で築いてしまった深い絆の証です。そしてそれを受け入れてしまった証拠、というわけです。」

 

 

それまで黙っていた川内は口を開いた。

 

 

「去年まではさーわたしも帰りたい派だったんだけれどね。もう後に退けない所まで来ちゃったからね…夫婦の契りを交わすってそういうことなんだ。…曙は意外だったね 去年はあんなに帰りたがってたのに。」

 

「なっ…わ、あたしはあのクソ提督にちゃんと責任を取って貰わないといけないからで!アレが無責任にやるから…!」

 

 

「まぁまぁ…さっきも意思表示した通り私も帰らなくていい派、かな。ここでの居心地も悪くないし…向こうに戻ってまでむなしい自分を見つめるのは嫌になっちゃうから…」

 

「なのです。元の自分を失うのはもう怖くないのです。」

 

 

彼らは受け入れてしまった。故に元の世界への未練はなくなってしまった。補足するように鳳翔が言う。

 

 

「勿論 受け入れてしまった方が少数です。この世界に幾多も見受けれる『テイトク』たちは元の世界へ帰還を望んでいます。だからこそ彼女たちの声に答えてこの議会は開かれているというわけです。」

 

 

沈黙を保っていた長門は斬り捨てるように強い口調で言った。

 

 

「下らんな、この世界で見ているものなど所詮幻想だ。夢でしかないものにうつつを抜かす趣味はない。」

 

 

「けれども長門さん、その夢が七年続いています。それはもはや夢とは呼べないのではないでしょうか。」

 

「…鳳翔さん、私にとってはこの世界での出来事は夢だ。何年経とうともそれは揺らがない。」

 

 

「…そうですか。」

 

 

鳳翔は息を吐くと吹雪へ向きなおった。

 

 

「と、このように私たちも一枚岩ではありません。ですが私に『テイトク』の記録が残り続ける限り貴方たちの帰還のお手伝いをさせていただきます。そのためにこの議会が開かれていると思ってください。」

 

 

「は、はいっ!よろしくお願いします!」

 

 

 

—————————————————

 

 

 

「この世界に囚われているテイトクの数は正確なものは私たちにも把握できていません。100とも1000とも言われています。ただ共通しているのは必ず全員が最後にやっていたのはブラウザゲームである艦隊これくしょんだったこと、そして最後に秘書艦に設定した艦娘になっていることでした。」

 

 

「そしてね、性格やら言動も最初は自分の意志と同じものを保てるけれど時間と共にその艦娘と同じようになって行っちゃうんだよ。」

 

「それだけじゃないわ。時間がたてばたつほど艦の侵食は早まっていく。自分が何処のだれであったかすら最後には思い出せなくなる。ただ唯一思い出せるのは自分がこことは別の世界に居たという事実だけ。」

 

 

「親しかった友人や家族の顔が思い出せなくなるのです。そして、その時間が経てばたつほどその世界の家族は他人となり、この世界の新しい仲間が家族になって行ってしまうのです。」

 

 

「…私はもう自分が何者であったかも思い出せない状態です。それに帰還も望んでおらずただ後の子たちが困らないように…そんな情だけで動いている結果です。いつしか私は向こうの世界の記録すら持ち合わせなくなるかもしれませんね。」

 

「そ、そんな…回避する方法はないんですか!?」

 

 

吹雪の悲鳴にも似た叫びがこだまする。

 

 

「己をしっかりと保つだけだ。後は艦の記憶に抗う事だ。」

 

長門の言葉が吹雪に疑問を生じさせた。

 

 

「艦の…記憶?」

 

 

「かつての世界大戦で沈んでいった船の持つ記憶ですよ。日本には八百万の神という考えがあるように艦船にも魂が宿っていたんです。名づけるならば『艦魂』でしょうか。」

 

 

「カンコン…」

 

「純正の艦娘ならそれが記憶として受け入れられて普通にふるまうことが出来るわ。けれども私たちは違う。テイトクという異物が紛れ込んでいるため二つの記憶が削り合って行き場のないものを私たちの脳内で行なう。…だから少しずつ摩耗してくの。」

 

「それで船の記憶に抗うっていうのは…」

 

「大したことじゃないよ、ただ自分が何者か普段から自己暗示していけばいざという時は耐えられる。けど完全には防げなくてやっぱり少しずつ削られていく。」

 

 

「だからあたしたちは艦娘になりました はいそうですかって放っておける状況ではないってことよ。無害な二次創作とは違うってこと。」

 

 

「そのために原因究明を進めていますが…進展はお察しの通りです。」

 

 

鳳翔はため息を吐いた。そして次の議題へと移っていく。

 

 

 

「ご存知の通りこの世界は深海棲艦との戦争中です。二十年前の戦況は人類が生存圏を奪われて二割数を減らしているというまさに絶望的な状況でした。…しかし、テイトクの出現により事態は好転しました。」

 

 

「…何故?」

 

「私たちが通常の艦娘よりも優れているという事です。耐久度は段違い、補給も最小限で済み、何よりも装備できるものの制限がない。だから軽空母である私でも戦艦の主砲を積むという頓珍漢なことも出来ます。」

 

 

「おそらく私たちは人類の生存圏を取り戻して押し返すために呼ばれた存在。けれどもやっぱりというか、何が私たちを呼んだかは分からずじまいなのよ。」

 

 

補足する陽炎。その中で吹雪は疑問に思ったことを言った。

 

「人類は艦娘に任せきりだったんですか?その…対抗とかは…」

 

 

「当然人類だってただやられていたわけではありません。反撃していましたよ。けれどもそれでは深海棲艦は殺しきれないんです。」

 

 

「あれに対しての切り札は『艦娘』。つまりわたしたちしかいないってこと。」

 

 

「…それを実感したのは人類が禁忌に手を染めても倒しきれないと悟った時です。」

 

 

「…禁忌?」

 

 

「核爆弾ですよ。原子力を持っても深海棲艦は殺しきれずに再生したんです。だから…」

 

 

「下らん。」

 

バンという大きな音共に長門が机をたたいた。

 

 

「大体力のないものなど後ろで怯えて怯んでいればいいだけのものを。余計なことをするから無駄な犠牲が増えたのだ。」

 

 

「…ちょっと、長門さん。それって凄い失礼だと思うケド?」

 

突然の鋭い言葉に陽炎が眉をしかめた。

 

 

「ふん、あれを無駄死にと言わず何と言う。核の灰にまみれて自滅していった者たちなど…そうだ…誰が…誰があんなものを…!」

 

 

それと同時に長門が豹変した。今まで嘲っていた態度から急に息を切らし始めた。

 

 

「目が灼ける──体が崩れる──ダレガ…ダレガワタシヲアノジゴクヘホウリコンダ!!!ダレガワタシヲイクサバデチラセナカッタ!!!ダレ───ガ、ダレガ!!!」

 

 

彼女は瞳を押さえた。その眼からは血の涙がドバドバと流れ出ていた。その光景に思わず吹雪は度肝を抜かれた。

 

 

「…失言しましたね、陽炎さん、川内さん、彼女を。」

 

「りょーかい」

 

「分かりました。」

 

 

 

「キサマカ…キサマガワタシヲ───!」

 

 

今にも誰かに襲い掛かろうとしていた長門を川内が背後から押さえて、陽炎は彼女の腹に強烈な拳を叩き込んだ。

 

 

「…彼女はアメリカじゃないわ。」

 

 

そして意識を失った長門はその場で寝かされていた。その一連の流れに吹雪は唖然としていた。

 

 

「…あ…え…?何…今のは…?」

 

 

「…先ほど話しましたね、あれが艦の侵食ですよ。艦の記憶に蝕まれるとあのように苦しむこともあるんです。先ほど私が核兵器の話をした途端に長門さんはああなりましたね。…それは戦艦長門の最後がビキニ環礁での標的艦だったことに由来します。多くの同胞が散って行く中長門さんは終戦まで生き延びて最後には核によって沈み行きました。…それを艦魂は戦場で散れなかったことを無念に思い続けていたんです。そして…行き場を無くした恨みが今となって具現化したんです。」

 

 

「そんな…」

 

「気をつけなさいよ、アンタも。…最後に怒りを感じる船もいれば、恐怖を感じる子もいるんだから。いつアンタにもそれが来るかはわからない。だから自己を確立しておきなさい。」

 

 

あたしは無理だったけど、と曙は自嘲するように言った。

 

 

「…ともあれ今日はもう何かを議論する雰囲気ではありませんね、一度お開きにしましょう。大丈夫です、提督議会は三日続きます。それまで何か一つでも議論が進めばいいのですが…」

 

 

「無理だろうねー 今までもずーっと堂々巡りだったもん。」

 

「楽観視も良くないですが悲観視もダメなのです。希望を捨てたら電たちに明日はないのです。」

 

「…戦場に身を投じてるから明日を迎えれればそれでも幸運なのよね、私たちは…」

 

 

 

陽炎の呟きが吹雪の耳によく残った。

 

 

「まあ覚えていても損はないわ。この世界は、はいそうですかって手放しで喜べるほどお気楽な世界じゃないのよ。」

 

 

「…だからこそ、大切な人を作ってしまう皆さんの気持ちはよく分かりますよ。」

 

 




どんな些細なことでもいいぞ 読者の兄ちゃん 良かったら感想くれや ブロット溜めて待つぜ


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ほのぼの飲み会

まったり艦これ




掲示板/zero


「かんぱーい!」

 

 

艦娘に憑依…なってしまった彼女たちは掲示板を用い、交流を持ち、時にリアルに出会いその交友の輪を広げていく。故に、このように艦娘達の飲み会が行われるのも結構頻繁だ。

 

 

「佐世保鎮守府のアイドル那珂ちゃんだよー!今日も可愛いー!」

 

 

と言いながらビールジョッキを掲げるその姿は何ともアンバランスである。中身が中身の場合だから仕方ないのかもしれないが。

 

 

「なんで私がこんなところに…」

 

 

ぶつぶつと文句を言っている軽巡、五十鈴。改二になってからというもの彼女の胸部装甲は実に豊満になった。

 

 

「ははは…ごめんね、五十鈴。僕が無理に誘ったせいで…」

 

「別に時雨のせいじゃないわ。ただ…なんでこの面子なの?」

 

 

 

五十鈴の視線の先には一升瓶をマイクのように持ち既に出来上がっている那珂、それを悪乗りするかのように手拍子で囃し立てる伊58 そしてその隣で困ったように苦笑いしている時雨。最後に呆れている五十鈴だ。

 

 

「僕の知りえる限りで今日来れる子ってなったから彼女たちだけで…迷惑だったかな?」

 

「別に…他の鎮守府との交友は持ってて別に損ではないし。」

 

それにしてもしょうがない子たちねと五十鈴は一人嘆息した。

 

 

「どうせなら何か話すでちよ。このまま飲んだくれるだけでも退屈でち。」

 

「んー…とはいえ何を話せばいいのかな。僕もそこまで話題が豊富というわけでもないし…」

 

 

「なら那珂ちゃんから!」

 

 

突然ビシッと手を上げた那珂が話題を提供する。

 

 

「ずばりやっちゃったことを暴露大会!」

 

 

 

「…は?」

 

 

五十鈴の呆れた声が響く。だが那珂はそのまま突っ切る。

 

 

「何かしらの失敗談はあるはずでち。酒の席でち 遠慮なく暴露していくでち。」

 

相当酒が回っているのかゴーヤもいつも以上に傍若無人である。

 

 

「とはいえ完璧なアイドルである那珂ちゃんに汚点なんてない!そうそう、那珂は立派な提督だったんだから!」

 

 

那珂の立派な提督という言葉に五十鈴とゴーヤが突然頭を押さえた。

 

 

 

「も、もう働きたくないでち。これ以上出撃したくないでち…オリョクルはやめてほしいでち!反省してるでち!」

 

 

「や、やめて大和…もうこの体はあげられないから!た、食べないで…もう与えられるものも代わりの私もいないんだから…五十鈴牧場とか言って本当にごめんなさい!だから食べないで!」

 

 

 

「ふ、二人ともどうしたの!?」

 

突然の豹変に時雨は大慌てである。それを予期していたかの如く那珂はふふんと笑った。

 

 

 

「やっぱりかぁ。…那珂たちが艦娘になっちゃうときって秘書艦だった子だからね。どうしてこの二人はこうなったのかってさっきからずっと考えてたんだ。」

 

「ま、まさかそのためにわざわざ発破をかけたの…?」

 

「情状酌量の余地はなし、だよ。存分に自分の良心で悶えると良いと思うの。」

 

「…君も趣味が悪いね。本当に。」

 

 

 

「や、休ませてほしいでち。中破してるでち。これ以上出撃させないでほしいでち!」

 

「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて食べないで食べないで食べないで食べないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで」

 

 

「ちょ、五十鈴、大丈夫!?」

 

 

 

 

「清廉潔白な提督であるなら何も恥ずかしがることはなかったんだよ。その点那珂ちゃんはホワイト鎮守府だったんだから!」

 

 

割と彼女の性格の闇の深さを垣間見た時雨だった。だがその瞬間、那珂の様子もすぐに変わった。

 

 

「…れ…あれ…?なんで那珂が目の前で沈んでるの…?なんで練度も低いままわたしが出撃するの…?ねえテイトク…何をしようとしてるの?」

 

 

「テイトク…?なんで…そんなに怖く笑ってるの…?」

 

 

瞬間、彼女の瞳から赤い血の涙がぼたぼたとこぼれ始めた。

 

 

「ああ…あぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁああああああああああああ!!!!!」

 

 

那珂の絶叫がその部屋に響き渡る。

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい沈めてごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい許して許して許して許して許して許して許して許してごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい——————ワタシヲシズメナイデ!!!」

 

 

「不味い!!!」

 

 

時雨は那珂に手刀を浴びせて気絶させるとその場に寝かしつけた。

 

 

「…当人たちになってやっとその残酷さが分かる…か、残酷な話だよね。」

 

 

那珂はかつて捨て艦常習犯だった。彼が那珂になったのも秘書艦であった彼女を捨てる気満々だったからだ。…ただ、それが来ることはなかった。那珂に自分がなってしまった時彼女は意図的に自分がホワイトテイトクであったと思い込もうとしていた。…そうでなければ自分と同じ顔のした少女がたくさん海に沈んでいくのを幻覚として見てしまうからだ。

 

 

「もう働きたくないでち————ハッ!」

 

 

「ちょっそんなところ食べられな——————っ!」

 

 

五十鈴とゴーヤが那珂がダウンしたことによってかようやく現実へと復帰した。そして思わず血涙を流し眠る那珂に顔をしかめた。

 

 

 

「…当人が一番のブラックテイトクだった…ていうのもおかしな話ね。」

 

「…五十鈴、これはお願いだけれど…彼女の前では言わないで欲しいんだ。…彼女はまた壊れてしまってもおかしくない…」

 

「わ、分かってるわ…さすがに自業自得とはいえそれで廃人にでもなられたらこっちも寝覚めが悪いもの。」

 

 

 

気を取り直してか、那珂は寝かしたまま酒宴は再開された。

 

 

 

「思わぬところでトラウマっていうのは植え付けられるものだよ。けれどもそんな事実も受け止めなければいけないのも中々きついものがあるよ。」

 

 

「…こんなことなら元の記憶なんて持って生まれなかった方が幸せなのかしらね。」

 

 

「けれどもそれじゃあゴーヤたちは自分を失うことになるでち。」

 

 

「…うん、僕たちは自我を維持したいと思う…だからこうやって今でも船の記憶と削り合いをしてるんだよね。」 

 

はぁと時雨はため息を吐いた。そして焼酎を一度ぐいっと呑むと五十鈴に向けて酌をした。

 

 

「とりあえず今日は呑もう。…呑めば少しは気が晴れると思うよ。」

 

 

「そういうものかしらね。まあいただくわ。」 

 

 

 

そして彼女たちの盃を傾ける速度が速くなっていく。その度に彼女たちの頬は紅潮していき、だんだんと呂律が回らなくなっていく。

 

 

「そもそも!僕たちを呼びだした方も無責任だよ!二十年前がどれだけ緊迫してたのかは理解しているけれども何も人が死ぬようなものをやらなくてもいいじゃないか!」

 

「…人が死ぬもの?」

 

「…そっか、五十鈴はあの時勢は知らなかったよね。当時深海棲艦との戦いで決定打が分からず迷走していた時何をとち狂ったのかかつての大戦の忌々しい人間爆弾を使おうとしたんだよ。」

 

 

「…人間爆弾…しょれって…」

 

 

「『神風特別攻撃隊』、『震洋』、『回天』…物資の少なさもあいまって命すら資源と同等に扱われていたんだよ。」

 

 

「やめるでち。」

 

 

ゴーヤが時雨の言葉を遮った。不味ったという表情をした時雨。酒に任せて饒舌になり過ぎたと彼女の酔いが急速に覚めていった。

 

 

 

「あんなもの…ゴーヤにはいらないでち。なくてもゴーヤは戦えるでち…いら…ない…イラナイイラナイ…イラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイ…やめるでち…ヤメロヤメロヤメロヤメロメロ…ヤメロ!!!ゴーヤにそれを乗せるな!!!」

 

 

「不味い…っ!」

 

 

「シグレ…ウラムデチ…ソンナノ…ダカラレイテデハ…」

 

 

 

血涙を流すゴーヤ。それを抱きとめる五十鈴…そしてゴーヤからもたらされた言葉に時雨は頭痛を感じた。

 

 

「…はは…今…そんなこと…何も関係ないじゃないか…」

 

 

ぽたぽたと生温かい何かが流れ落ちている。

 

 

「時雨…あんた…」

 

 

「あれ…おかしいな…僕には何も関係ないよ…ボクは違うんだ…僕は時雨じゃないんだよ…」

 

 

ボタボタボタボタと床を赤く染めていく。

 

 

「違う…チガウ…僕は…ボクハダレダ…?」

 

目の前に広がっていくのは海…崩れ、誰かが散って行く海。

 

 

「ヤマシロ…フソウ…ヤマグモ…ミチシオ…アサグモ…モガミ…ミンナドコヘイッタノ…?ネェカクレンボダナンテシュミガワルイヨ…ネエ、バカナコトヲシテナイデミンナデテキテヨ…ネェ…ミンナ… ドコヘ…イッタノ…?」

 

 

 

「っ時雨!乗るな戻ってきなさい!」  

 

 

 

「ッ!チクショオオオオオオオオオォォォオォォォォォオォォ!!!ナゼボクダケ!!!ナゼボクダケ!!!ナゼボクダケイキノコッタ!!ナニガ…ナニガコウウンダ!!!ナニガ、ナニガ!!!」

 

 

きっかけは些細なことだ。些細なことで彼女たちは深く同調する。

 

 

 

「…チクショウ…」

 

 

 

血涙を流したまま時雨は眠りについた。激しい怒りに彼女は目覚め…そして疲弊してしまった。

 

 

 

 

「…本当に、恨むわよ。…私を…私たちをこの世界に召喚したカミサマ、とやら…」

 

 

忌々しそうにギリっと歯を食いしばった五十鈴だけが残った。




と思っていたのか?


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ほのぼの交流会

安心しろほのぼのだからな

なお作品の主題を掲示板からチェンジ。勿論掲示板は出て来ます。ただメインがそれだと自分の思い描く書きたいものが書ききれないので主題は交流になると思います


「目から血が流れたらそれは艦からの記憶がフラッシュバックしている証拠。あまり長くその状態で放っておくと脳が焼ききれちゃうからそういう子を見かけたら多少乱暴でもいいから意識を刈り取ってあげて。」

 

 

じゅっーと煙が上がる。陽炎が焼肉を焼きながら吹雪に対して説明をしているさなかだ。

 

 

「脳が焼ききれ…!?」

 

「誇張表現じゃないよ、私達…というよりも通常の人間であるテイトクにとって艦の記憶っていうのは相当強烈なものだもん。特にそれが厳しい境遇にいた艦だと尚更にね。」

 

長門なんかもそうだけれど雪風とか時雨とかも相当つらいと思うよという陽炎は思い出しているようだ。

 

 

 

「…私もああ、なってしまうのでしょうか。」

 

「多分ね、艦娘になっちゃった以上避けられないことだし。」

 

 

長門の姿を思い出す。自分もああなってしまうのかと思うと吹雪は恐怖すら湧いてきた。

 

 

「それでだけれども艦魂に負けてしまうと自分が何者かすらも思い出せなくなるから気を付けてね。」

 

 

「…ありがとうございます。気をつけます。」

 

せめて自分の中で自分が何であるかを見失わないようにと吹雪は誓う。

 

 

「じゃあこの話は終わろ。ほら、焼けたよ。」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

良い感じに焼けた肉を陽炎が渡してくれる。吹雪はそれを皿で受け取ると冷ますのもほどほどに折りたたみ口の中へと放り込んだ。

 

 

 

「…美味しい…」

 

「とーぜん、ここは鳳翔さんの店だしね。」

 

 

現在彼らが卓を囲んでいるのは居酒屋鳳翔(特別出張店)である。何故居酒屋に焼肉一式があるかどうかは疑問に思ってはいけない(無言の腹パン)

 

 

 

「ちょっと!川内!あたしのタン取らないでよ!」

 

「ふっふーん、曙も遅いよ それじゃあ駆逐艦は務まらないよ!」

 

 

「なんですって!?」

 

 

ひらりひらりと避けて逃げる川内とそれをギャアギャア言いながら追いかける曙、必死に止めようという電の光景がそこに広がっていた。

 

 

「皆さん、楽しんでいますね。」

 

「当然ね。せめて明るく振舞っていなければやってられないし。」

 

 

「いけないねぇ こんな時まで辛気臭い表情していちゃぁ」

 

「ひゆあ!?」

 

 

吹雪へと絡みつく一人の女性。彼の有名な吞兵衛空母 隼鷹である。

 

 

「こんな時だからこそぱっーと行こうぜぱっーと!ほらほら、吹雪も呑んだ呑んだ!」

 

 

「隼鷹、新人に対して絡み酒しないの。吹雪もどうしたらいいかわからない顔してるでしょ。」

 

「あ、あの…まだお酒の味は分からなくて…ごめんなさい!」

 

 

「なんだって!?そいつは損してるなぁ…」

 

 

「ジュンヨー こちらに来て乾杯をしましょー!」

 

 

やたらとテンションの高い隼鷹の後ろに更にテンションの高い重巡、ポーラが現れた。

 

 

「んぁ…そいつはいいねぇ!かんぱーい!」

 

「かんぱーい!」

 

 

陽気なままに乾杯する二人。吞兵衛が二人集まればそれはもう地獄である。

 

 

「ん…でも何に乾杯してるっけあたしたち…。」

 

「何が何だかわかりませんがかんぱーい!」

 

「なら酒が美味いからかんぱーいしよーか」

 

 

「今日もお酒が美味しいことにかんぱーい!」

 

「かんぱーい!」

 

 

 

 

陽気な酔っ払い二人を尻目に那智は一人盃を傾けていた。いつの間にか盃が乾いていたためお代わりを注ごうとしたが…

 

 

「よろしければご一献、どうですか?那智さん。」

 

 

「鳳翔か…有難くいただくとしよう。」

 

乾いた那智の盃に鳳翔が一升瓶を傾けていく。みるみる満たされていく盃をこぼさないように上まで持って行くと

 

 

「では、こちらからも。」

 

「ええ、有難く。」

 

同じように鳳翔の盃にもなみなみと酒を注いでいく。そして一升瓶を置くと互いに盃を交わす。

 

 

「乾杯。」

 

「はい、乾杯です。」

 

そして互いに盃をあおりその中身を飲み干す。その関心すら覚える飲みっぷりに鳳翔は感嘆の言葉を贈る。

 

 

「相変わらずほれぼれするほどの呑みっぷりですね。お見事です。」

 

「…いや、何。これも全てあなたが作る酒が美味いからこそだ。」

 

 

今日出されている酒は全て鳳翔が自分で作ったものである。居酒屋鳳翔門外不出なだけありその味は保証されている。

 

 

「身体の芯から温まる、これならば何杯でも傾けられそうだ。」

 

「ふふっ、ありがとうございます。一年間やった甲斐があるというものです。それにこの子たちも美味しく呑まれるならば本望でしょう。」

 

 

そして鳳翔は騒乱に包まれている店内を見渡す。そこには駆逐艦から戦艦、空母…関係なしにみんなが思い思いのままに呑んで、食べて、そして騒いでいる。はた目から見ればバカ騒ぎに見えるかもしれないがその光景は平和だ。

 

 

「…本当にあなたは慈愛に満ちた瞳をするな。」

 

 

「はい、みんな 私にとって大切な子たちですから。」

 

 

テイトクがこちらの世界に取り込まれた黎明期からいる鳳翔にとって同じ境遇の彼女たちに昔の自分の面影を重ねている節があった。

 

 

 

「私もお酒の勢いに任せて少々愚痴でも言いましょうか…」

 

「言うと良い。聞き役くらいにはなろう。」

 

 

「ありがとうございます。…これはもう二十年前の話です。…当時の私は幾人ものテイトクとの交流を持っていました。黎明期を共にした同志です。」

 

 

彼女の脳裏に思い浮かべるのは五人の艦娘…になったテイトクたち。

 

 

「当時の情勢は人類が追い込まれているまさに絶望の時代でした。そんな世界へ突然飛ばされたもので困惑の声も当然上がりました。」

 

 

「…だろうな。私もその立場なら困惑するのは分かる。」

 

「けれども矢面に立ち私たちを先導してくれた方がいました。…そして私たちは右も左もわからないまま深海棲艦との戦いに身を投じていました。」

 

 

鳳翔が懐かしそうに眼をつむる。黎明期は今ほど余裕はなかったはずだ。

 

 

「共に戦った勇士の殆どは戦場で散りました。私たちが通常の艦娘よりもスペックが高いとはいえ無敵ではありませんからね…戦艦の全砲門一斉掃射による飽和攻撃によって散って行った方もいます。仲間を庇い沈んでいった方もいます。…ただ、テイトクがなくなったのは戦場だけではありませんでした。」

 

 

「…艦の記憶によるものか。」

 

「はい。…テイトクとしての自我が消え去り、そこにいるのはただの艦娘…そうなってしまい死んでいったテイトクもいます。…そして私は今も思うんですよね。」

 

 

かたりと鳳翔は盃を置いた。

 

 

「彼女たちは元の世界へ帰れたか…と。暗い海の中に沈んでいった彼女たちはドコヘ行きついたものだと…」

 

 

「…きっと帰れているさ。そうでなければ不公平だろう。」

 

 

「…そうですね…そうであると…願いたいです。」

 

 

鳳翔はふぅと息を吐くと気を取り直したのか再び一升瓶を持った。

 

 

「柄にもないお話を聞かせてしまいましたね。このことは酒の席の失態として酒で流しましょう。」

 

「…ああ、どうせならば今夜はとことん付き合ってもらおう。」

 

那智は楽しみだと笑いながら盃を彼女に向けた。

 

 

 

—————————————————

 

 

 

「ふう…良く食べました…」

 

「…吹雪は見た目に似あわずよく食べるのね…」

 

 

「ハラショー こいつは力を感じる。」

 

「凄いのです…」

 

 

吹雪の横には積み上げられた皿。向かい側の陽炎の約三倍はある。

 

 

「…駆逐艦は燃費の効率がいいはずなんだけれど…」

 

「…はっ、す、すいません。お見苦しい所を見せました。」

 

 

「いや、まあ 別に大丈夫よ。見ていて気持ちいいくらい美味しそうに食べてたし。」

 

 

「…でも満足出来ました…」

 

頬が緩んでいる彼女を見れば吹雪もここに馴染むことが出来た証拠だろう。陽炎は立ち上がるとお茶を貰ってきた。

 

 

「ほら、お茶。」

 

「あ、ありがとうございます。陽炎さん…陽炎さんってこういうことになれているんですか?やる行動に迷いがないというか…」

 

 

「まあね。妹が多いし世話を焼くのは慣れてるのよ。生意気にも呑んだくれてる奴もいるし。」

 

 

陽炎の脳内には誰を思い浮かべているのかはわからないが多少ふてくされているようだ。

 

 

「でも私はてんで酒に弱くてね。アイツは妹のくせにやたら強いし…で、見せつけるか如く呑んでくるし。それで睨めば『何か落ち度でも?』って言ってるから腹立つのよねー。」

 

 

まあそれを除けばいいやつだから別に恨んではいないけどさ、と陽炎は付け加えた。…そして改めて店内の大惨事を見渡した。

 

 

 

「やせーん…ぐへふふぇ てーとくー やせんー」

 

「このくそてーとく…だぁーいすきなんだから」

 

いつの間にか酔いつぶれている川内と曙。それを何とか起こそうと奮闘している電。

 

 

 

「かんぱーい!」

 

「何だかよくわからないものにかんぱーい!」

 

 

まだ呑んでいるポーラと隼鷹。そんな光景をニコニコと見ている鳳翔。

 

 

「大体だ…足柄も提督も、私を誤解している…私だって…私だってもっと提督に甘えたいのだ!」

 

 

そして泣き上戸になっている那智。その隣には日本酒の空き瓶、ビールの空き瓶、ワインの空き瓶、シャンパンの空き瓶と転がっている。どれだけ呑んだ。

 

 

 

「…こりゃ明日は大惨事ね。…誰が片付けやると思っているんだか。」

 

 

「ははは…でも…こういうの悪くないかもしれません。」

 

 

「そうね… こうやって皆でばかやって騒げてるのは…いつまで出来るか分からないから…今やっていて楽しまなくちゃね…。」

 

次に私もこの場にいる保証はないんだし…という言葉を陽炎は飲み込んだ。

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

「ふぅ…閣下の絡み酒にも困ったものだ。」

 

 

ブイン基地の提督は疲れたように部屋の明かりをつけた。そして先客がいることに気が付いた。

 

 

「ん…なんだ、長門。既にここに居たのか。」

 

 

「…ああ、提督。おかえりなさいだ。少々物思いに耽っていた。」

 

 

「珍しいな。いつも凛々しく立つお前が呆けているとは。」

 

「…なに、私だって感傷くらいはある。」

 

長門は椅子から立ち上がると提督の前へと歩いてきた。

 

 

「それで、用件はなんだ?ただ私に会うために来たわけではあるまい?」

 

「…ああ、そうだ。」

 

 

しゅるりと布が擦れる音が鳴る。長門は着ていた簡素な部屋着を脱ぎ下着へとなった。

 

 

「…そちらのお誘いか?」

 

「…そういうことだ、察してくれ。提督。」

 

 

提督は長門をダブルサイズのベッドへと座らせた。そしてシャツを脱ぎながら彼女に言った。

 

 

「しかし珍しいなお前から誘いがあるとは。」

 

 

「…たまにも私は溺れたいのだ。忘れたくなるほど嫌なことがあった時…などはな。」

 

 

「そうか…ならばその気晴らしの相手に付き合おう。」

 

 

 

 

 

「…ああ、貴方はやはり私を見てくれる。長門ではないワタシを… やはりあなたこそが…俺の…私の安息…」

 

 

  

 

 

 




賛否両論があるのは分かってますが自分はこの作風を突き通しますぜ。


この作品の副題は


『ご都合主義で終わらない』


だからな!


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【悲報】朝起きたら隣で提督が裸で寝ていた

久しぶりの掲示板


1.名無し、抜錨します

 

 

やりました。やっちまいました。

 

 

 

2.名無し、抜錨します

 

 

卑しい女ずい…

 

 

3.名無し、抜錨します

 

 

じゃあまず状況を教えてくれるかな?

 

 

4.24歳、正規空母です

 

 

説明することと言えば目覚めて、服を着てなくて、隣に全裸でうちの提督が寝ていたことくらい。昨日の夜の記憶はない。

 

 

 

5.名無し、抜錨します

 

 

やべぇよ…やべぇよ…

 

 

6.名無し、抜錨します

 

 

やっちゃいました? やりました?

 

 

 

7.名無し、抜錨します

 

 

まあまて慌てるな。イッチもさぞ困惑していることだろう。まずは一つずつ状況を整理していこうじゃないか

 

 

 

8.24歳、正規空母です

 

 

了解、冷静な人がいて助かった

 

 

 

9.名無し、抜錨します

 

 

せやな…まずは提督の息の様子とか調べてみればいいと思うよ

 

 

10.名無し、抜錨します

 

 

うちの提督は加齢臭が…

 

 

11.名無し、抜錨します

 

 

うちからはミントの香りが…

 

 

12.名無し、抜錨します

 

 

我が提督からはイチゴのにおいが…

 

 

13.名無し、抜錨します

 

ミントはともかくイチゴは何したんだ…?

 

 

14.名無し、抜錨します

 

 

歯磨き粉でしょ

 

 

 

15.24歳、正規空母です

 

 

強烈なアルコール臭を感知。ついでに自分からもあった

 

 

16.名無し、抜錨します

 

 

原因究明したじゃねぇーか!

 

 

17.名無し、抜錨します

 

 

酒ってこわいなーとづまりしとこ

 

 

18.名無し、抜錨します

 

 

では今から途切れた記憶の糸を拾っていこうじゃないか

 

 

19.名無し、抜錨します

 

 

まるまる吹っ飛んでるとかうっそだろwwwwお前wwww

 

 

20.24歳、正規空母です

 

 

頭に来ました(二日酔い的な意味で)

 

 

 

21.名無し、抜錨します

 

 

 

まずは思い出せるところから思い出していこう。昨日最後に記憶があったのは?

 

 

22.24歳、正規空母です

 

 

そう…あれは今からあれは今から36万・・・いや、1万4000年前だったかまあいい私にとってはつい昨日の出来事だが、君たちにとってはたぶん明日の出来事だ

 

 

23.名無し、抜錨します

 

 

何時だよ(ピネガキ)

 

 

24.24歳、正規空母です

 

 

僚艦が提督と自分の所に誘いに来て…

 

 

 

 

 

 

「飲み会か?」

 

 

提督の声が執務室に響いた。彼の視線は目の前にいる少女、瑞鶴へと向けられた。

 

 

「うん。今から空母寮の皆で呑みに行くことになって隼鷹さんからどうせなら提督も一緒に誘おうっていう話が出て。」

 

 

「ほう…最近一杯も呑んでないからな引っ掛けに行くのは魅力的な誘いだが…」

 

 

ちらりと提督は横を見た。威圧的な視線を寄越す我が秘書艦殿がいた。

 

 

「…私は別に止めませんよ。」

 

 

「…いいのか?加賀。いつもならば艦載機を飛ばしてでも止めているというのに。」

 

「明日は非番ですし…私が提督の趣味を全て奪っているのではあまりにも酷でしょう。」

 

「そうか…なら今日は呑みに行くか。」

 

 

「ただし…条件があります。」

 

 

「条件…?」

 

 

「私も連れていくことです。」

 

 

 

「…へ?」

 

 

 

 

25.24歳、正規空母です

 

 

そう、提督が呑み過ぎるであろうことを予想して介抱するためその飲み会へ同行していったはず…記憶はここで途切れている

 

 

 

26.名無し、抜錨します

 

 

ここまでピースが来れば予想は出来るだろうけれど

 

 

27.24歳、正規空母です

 

 

それでも自分の記憶を取り戻したいのは定め

 

 

 

28.名無し、抜錨します

 

 

記憶が途切れるほど呑んでるなら自分で思い出すのは不可能でしょ

 

 

29.名無し、抜錨します

 

 

聞き込みあるのみだな

 

 

30.24歳、正規空母です

 

 

任務了解

 

 

 

 

 

 

 

「あ…えーと…ご、ごめんなさい!加賀さん!私あれは言えません!」

 

 

普段何かと突っかかってくる瑞鶴は逃げ出した。

 

 

「意外な側面を見れました。」

 

うふふと笑う翔鶴

 

 

「意外とあんたも独占欲ってあるんだねぇ。」

 

心底珍しいものを見たという隼鷹

 

 

「昨日のこと…?記憶にありませんね。」

 

 

そもそも記憶が残っていないという大鳳

 

 

「あはは…ま、まあ可愛かったと思いますよ。」

 

 

言うやいなや逃げ出した蒼龍

 

 

「加賀さん…本当に覚えてないんですか…?」

 

 

ありえないものを見るような飛龍。

 

 

 

…昨日いたはずの大方の面々の話を聞く限り相当強烈なことをしてたようらしいのだが肝心の加賀には一切合切身に覚えがなく困惑していた。

 

 

 

「…さすがに困りました。」

 

 

 

 

30.24歳、正規空母です

 

 

誰に聞いても教えてもらえませんでした。え、何それは(困惑)

 

 

31.名無し、抜錨します

 

 

イッチはそんなに嫌われてたのか…

 

 

32.名無し、抜錨します

 

 

哀しいなぁ…(諸行無常)

 

 

33.名無し、抜錨します

 

 

ただ単にはずかしいだけだと思うんですけど(名推理)

 

 

34.名無し、抜錨します

 

 

あい分かった!ならば最終手段!

 

 

 

35.24歳、正規空母です

 

 

ちょっと思い切り頭ぶつけてくる

 

 

 

36.名無し、抜錨します

 

 

えぇ…(困惑)

 

 

 

 

がっこーん と重圧的な金属音が鎮守府にへと響いた。その騒音を聞きつけた艦娘達がなんだなんだと音の出所を確かめに来た…彼女たちの視線の先には血を流し倒れている見知った人物がいた。

 

 

「か、加賀さん…!?」

 

 

瑞鶴が慌てて彼女を抱き起すと翔鶴がその容態を見始めた。

 

 

「頭部から激しい出血ね。皆協力して!医務室へと運ぶわ!」

 

 

隼鷹と飛鷹に抱えられた加賀はそのまま皆に誘導される形になり医務室へと運び込まれた。包帯で出血箇所は頑丈に固定されており、止血を終えた。加賀が倒れているという報を受けて提督は執務も放り出して医務室へと急行した。

 

 

 

「加賀…何故こんなことに…」

 

 

普段の彼女の戦いぶりはまさに鎧袖一触。一航戦としての実力を遺憾ないほど発揮しており彼女のけがを見ることなどなかった。

 

 

「提督…見る限り、加賀さんは自分から頭を打ち付けたらしいです。」

 

 

「なっ…それこそ何故そんなことを!?」

 

 

「…原因は不明です。本人に聞かない限り…」

 

 

 

翔鶴と提督が話しているとき、瑞鶴は落ちていた加賀のスマートフォンを拾っていた。そして直前まで開かれていたページを見て納得した。

 

 

 

「…なるほど、あなたも私と同じだったんだ…」

 

 

こんなにも近くにいたのになぜか気が付かないものなんだねと瑞鶴はため息を吐き、彼女の名誉のためスマートフォンの電源を切り彼女の傍に置いておいた。あとは提督に任せるしかないのだろう。

 

 

「提督さん、心配なのはわかるけれど仕事も放っておいたら駄目だよ。」

 

「…ああ、分かってる。けれどもまずは加賀さ。」

 

 

「…お熱いこと。それじゃあ翔鶴姉行こうか。」

 

 

そして医務室から瑞鶴と翔鶴が立ち去ると加賀はタイミングを待っていたかのように目を開いた。

 

 

「…狸寝入りしていたのか?」

 

「あの子たちには聞かれたくないですから。」

 

 

そして体を起こす加賀。頭に巻いてある包帯に気が付いたようだ。

 

 

「…それで、何故こんなことになったのか理由を教えてくれるよな?」

 

 

「…漸く思い出せました。」

 

 

「…何を?」

 

 

疑問符を浮かべる提督に、目を瞑り感慨深げに言葉を反芻しているであろう加賀。

 

 

「提督も昨晩あったことを忘れたわけではありませんよね?」

 

「ま、まあそりゃあな…。」

 

居心地が悪そうに目を逸らす提督。ベッドの上で乱れてしまったことが彼にとって少々気恥ずかしい懸念だった。

 

 

「お酒の勢いもあるとは思いますが…。」

 

 

「す、すまん、本当に軽率だったと思う。俺もいくら酔っていたとはいえあんなことを言って!あんなことをしてしまって!」

 

 

土下座をしかねない提督に対して加賀は微笑んでいる。

 

 

「…私、これでもうれしいのですよ。」

 

「…えっ!?」

 

 

「先の先ほどまで記憶が飛んでいましたが漸く思い出せました。…てっきり私は提督に嫌われているものだと思っていました。」

 

 

「そ、そんなことはない!加賀はどんな女性よりも魅力的だ!俺自身お前にはとても感謝している。それに…いくら酒の勢いがあったとはいえあの時に叫んでいた言葉に嘘偽りはない。」

 

 

昨日の飲み会…加賀はずっと飛んでいた記憶を思い出した。

 

 

『俺はなー!物静かな加賀でも!手厳しい加賀でも全部の加賀が好きなんだよ!』

 

おそらく酔った勢い。提督は羽目を外していたのは目に見えている。

 

 

『そうですか、ならば私も提督が好きなので問題ありませんね』

 

 

そしてこちらも酔っていた。普段のクールな感じは変わらないが酔っていた。酔っ払い二人がその酒の勢いでベッドインを果たしてしまった。

 

 

 

「…これを幸せというのでしょうね。」

 

「…加賀…」

 

 

感極まったのか提督が加賀を思いきり抱きしめた。

 

 

「ありがとう、加賀!大好きだ!」

 

 

少し驚いたのか一瞬呆けたが、彼女は笑った。

 

 

「…ありがとうございます、提督。私も…一航戦の誇りに誓い、あなたが好きです。」

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

「加賀さん!」

 

 

「あら五航戦。何かしら。」

 

 

「あ、いえ…けがはもう大丈夫なんですか?」

 

 

「見ての通り。怪我の治りは早い方よ。」

 

 

「なら良かったです…あの…」

 

 

「?」

 

 

「加賀さんも…『テイトク』なんですか?」

 

 

瑞鶴の質問に加賀はただ疑問を持つだけだった。

 

 

「何を言ってるのかしら?私は加賀、栄光なる一航戦の艦娘、航空母艦『加賀』でしょう?提督ならばあの人がいるじゃない。」

 

 

「…そ、そうですね。あ、あはは…なんでこんなこと聞いたんだろう…そ、それじゃあ失礼します!」

 

 

 

「…おかしな子。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

100.名無し、抜錨します

 

 

イッチはあのまま行方不明?

 

 

101.名無し、抜錨します

 

 

本当に頭をぶつけたのか。

 

 

102.名無し、抜錨します

 

 

あいつは死んだ!もういない!

 

 

 

 

 

…瑞鶴はただそれだけ書き込んだ。…これでいい、これでいいのだ。

 

 

「…加賀さん…。」

 

寂しげに瑞鶴は呟いた。その呟きは冬の木枯らしに乗って空へと消えていった。

 

 

 



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オリジナルワン

ワン!ワン!ワン!


三回だよ


「…おや、あなたが来るとは珍しいですね。」

 

 

鳳翔は一人静まった夜を居酒屋鳳翔で過ごしていた。昨日の乱痴気騒ぎが嘘のような静けさなので一抹の寂しさを感じていたところだった。そんな彼女の元に一人の来客があった。

 

 

「…別に、たまたま時間があったから来たのよ。」

 

 

そう言うと少女はコート…大本営所属を意味するコートを椅子に掛けるとそのまま座った。

 

 

「加賀美人から」

 

「はい、分かりました。」

 

 

鳳翔は屈むと足元に保管してある酒の一つ…加賀美人を取り出し彼女の目の前に盃を置いた。そしてなみなみと注いでいく。

 

 

「ありがと。」

 

小柄な胴体に見合わない豪快な呑みっぷりと共に彼女は盃の中身を一気に飲み干した。そしてその気の強そうな瞳で鳳翔を見た。

 

 

「…こうやって顔を合わせるのは久しぶりね。」

 

「…はい、10年ほどでしょうか…お久しぶりですね、叢雲さん。」

 

 

 

彼女こそが海軍元帥直属護衛艦娘『叢雲』…カンレキ30年と現存する艦娘の中で最長例、生ける伝説ともいわれる彼女…そして何よりも…初めてこの世界に囚われた『テイトク』でもある。

 

 

「出会ったばっかの時はひよっこもひよっこだった司令官がまさか元帥までなるとは思ってもみなかったわ。」

 

「あら、そうでしょうか。私には閣下は努力の方とお見受けしますが。」

 

「ま、その評価もあながち間違ってないんじゃない?身近にい過ぎた私としては今更何をどうとかっていうのは実感ないし。けど…大本営勤務は秘書艦でも馬鹿みたいに忙しいからこうやって時間を取るのも一苦労。」

 

「お察しします。忙殺される日々なのでしょう。」

 

 

それきり叢雲は黙ってしまった。否、何かを考え込んでいた。

 

 

「ねぇ…私とあなたのほかに あの時を生き延びたテイトクはどれくらい残ってたっけ。」

 

 

「…大和さんは20年前に轟沈しております。金剛さんはテイトクではなくなりました。瑞鳳さんも十五年前に…」

 

 

「ていうことは残ってるのはアイツだけね…」

 

 

「そうですね。黎明期を共にしたのはあとはあのお方だけです。」

 

 

 

「私の事ですね。」

 

 

暖簾をくぐって来た一人の来客。彼女こそが噂している人物だった。

 

 

「お久しぶりです、お二人とも。」

 

 

「まぁ、噂をすれば何とやらでしょうか…お久しぶりです、高雄さん。」

 

 

「地獄耳ってこういうのを言うんでしょうね…ま、久しぶり。」

 

 

 

叢雲の隣に高雄は座るとそのまま鳳翔へと注文を始めた。

 

 

「また、この面子が揃ったわね。」

 

 

「…はい、こうしてみると感慨深いですね。またあの頃に戻ったようです。」

 

 

「…懐かしいですね。私たちはあの頃、不安を吹き飛ばすかのように連日バカ騒ぎをしていました。この面々で集まらなくなったのはいつからでしょうか。」

 

 

「…大和さんの戦死…からでしょうね。」

 

 

「…それから金剛がおかしくなってって…でも瑞鳳は何とか取り持とうとしてたわね。…ま、無茶し過ぎで結局ああなっちゃったわけだけど。」

 

 

叢雲はまったく嫌なものねと言いながらつまみ代わりの煮物を箸でつついていた。

 

 

 

「…三十年…長いわね、本当に。」

 

 

「…ええ、長いです。けれども短かったです。」

 

 

高雄は叢雲の言葉に同意しつつも自分の意見を口にした。手の中で盃を回しながら目を瞑り何かを噛みしめているようだった。

 

 

「…お二人は…お二人は以前の自分を思い出せますか?…私たちが『艦娘』になる前の…テイトクの自分を。」

 

 

そして恐る恐る投げかけるように鳳翔、叢雲へと問いかけた。

 

 

「無理。名前も、顔も、年齢も、家族も、家族の顔も名前も、自分が何だったか、どんな鎮守府をやってたかすら全部忘れてるわ。霞んで何一つ思い出せない。ただ自分は『テイトク』だっていうことだけ。」

 

 

「私も同じく、ですね。元のことは何も…自分がそれだったことすら夢のように感じられます。」

 

 

「…ならば何故我々はまだテイトクとしてこの地に立っているのでしょう。」

 

 

「…さぁね。私に『カミサマ』の考えてることなんてわからないし、その意図を知ることなんてできないわ。」

 

「…そうですね、カミは私たちの目の前にいるというのに何も語ってくれません…何も、教えてはくれません。」

 

 

鳳翔は思わずはぁとため息をついた。叢雲もやれやれと首を振っている。

 

 

「何故…あなたは私たちをここに呼んだのでしょうね。…カミよ。」

 

 

鳳翔の視線の先には機械の森があった。…いくつもの配線がされておりその中心に巨大なコンピューターが置かれている。

 

 

 

「『海軍統合参謀本部採用電脳機』…長いから私たちはこれをカミと呼んでいますが…これがカミだとしたらとんだ疫病神ですね。」

 

 

「ほんと、人工知能様の高尚な考えは私たちには理解できないわ。」

 

 

 

叢雲は吐き捨てるように言う。

 

 

「名前を奪われて、記憶を奪われて、居場所を奪われて、最後には自分すら奪われて。今の自分さえ人質にしているこいつがカミサマだなんて冗談もやすみやすみ言えって感じよ。」

 

 

「…けれども私たちにとってはまさに絶対的なカミです。…私たちが艦娘である以上あれには絶対逆らえない。」

 

 

何故ならばあれに組み込まれている艦魂は…と鳳翔は一度言いよどむ。

 

 

「私たちにとって絶対的な…絶対的な行使力を持つ彼の艦船…『三笠』ですから。」

 

 

「本当、意地汚いわ。型落ちの戦艦が今更私たちに命令してるんじゃないわよ。おばあちゃんは引っ込んでいて欲しかったわ。」

 

 

「…叢雲さん、言葉が汚いですよ…けれども私も同意見です。…いい気分にはなれません。」

 

 

 

部屋を沈黙が支配した。やがて叢雲がゆっくりと口を開いた。

 

 

「あーもうムカつく…次、鳳翔!次寄越しなさい!」

 

 

「…はい、でも適度な量にしてくださいね。明日も大本営勤務なのでしょう?」

 

 

「ほんと、どこまでもお母さんねあなたは!!!」

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

「それじゃあまずこの世界の大きな歴史の動きについて講義を始めましょうか。」

 

 

眼鏡をかけた陽炎が白板の前へと立ち、ペンを持っていた。その先に椅子に座っているのは全員が艦娘だ。…それもテイトクとしての役割も兼ねている。

 

 

テイトク議会ではカンレキの長さにより役割が決まっている。鳳翔は最古参という事で議会全体が滞ることのないように運営、監督する役割を持ち、陽炎のような十年を超えるベテランになるとカンレキが一年未満の新人に対してこのように講義することもある。

 

 

 

「まず初めに、大前提になるのは40年前の深海棲艦出現。最初はアメリカの空母が謎の艦船に沈めれらたってことから始まったわ。正体が分からなかったから各国がこぞってこいつのせいだ、こいつのせいだって責任の押し付けあいをしてた。アメリカが言うならあれはロシアのものらしくて、中国が言うなら日本のものらしくて、ロシアが言うならアメリカの自作自演らしくて…まあ当時の情勢は大混乱。」

 

 

四十年前、と陽炎は線を引き、深海棲艦出現とその横に書いた。その下に矢印を引き、同時期と書いた。

 

 

「また四十年前に艦娘が生まれたの。最初の一人が誰かは明らかになってないけど日本のイージス艦を深海棲艦の攻撃から守って反撃して沈めたらしいわ。」

 

 

その横に艦娘出現と書いた。

 

 

「当初、世界は艦娘に懐疑的だった。けれど日本だけやたらと動きが早かった。艦娘の有用性を認め、彼女たちを海上自衛隊の所属として身柄を預かったの…まるでそれが来るのが分かっていたかのようにね。でも懐疑的だった世界は人間の手で深海棲艦を倒そうとした。けど結果はお察しの通り、人間の兵器じゃどんなものでも深海棲艦を倒しきれないと判明。笑える話よ、核兵器ですら駆逐イ級を倒しきれないんだもの。」

 

 

そして約三十五年前と線引きし、そこに方向転換と書いた。

 

 

「これで世界では艦娘が主流になった。日本は戦時と発令し、かつて解散していた海軍を復活。それと同時に憲法も変わって第九条は廃止されたわ。当然反対の声もあった。けどそんな妄信的な活動家がやってる最中に日本が深海棲艦の襲撃を受ける事態が発生したわ。そのせいで沖縄は壊滅。人口の三分の二は虐殺された…それが決まり手となり今の形態がとられるようになったわけ。」

 

 

さらにその下に矢印を引く。

 

 

「そして三十年前…人類は生存圏をどんどんと押しやられて人口は着実に減っていた。けれどここで新たな勢力が登場した。」

 

 

三十年前と書くとその隣に『テイトク』登場と書く。

 

 

「つまり私達。テイトクって呼ばれる人たちがこっちの世界に魂を囚われるようになったわ。最初の一人が誰か?…多分見たことあると思うけど、大本営のそれもそのトップ、今の海軍元帥の秘書艦をやってる人…駆逐艦叢雲よ。」

 

 

ざわざわと喧騒が広まる。戦艦でも空母でも巡洋艦ですらなく駆逐艦こそが始まりのテイトクだったという。

 

 

「ちなみにこの会の会長でもある鳳翔さんは二十五年前、もしかしなくても大大大ベテランっていうことね。」

 

そして下に二十年前と書く

 

 

「人類はそれまでに全人口の1割を減らしてたわ。深海棲艦に殺されてしまったのもあるけど命すら資源として扱われたみたい。けれども『テイトク』と協力した艦娘と提督たちによって何とか押し返した。…これで人類は四十年前の生存圏を取り戻した。」

 

 

二十年前の隣に生存圏奪還と書いた。

 

 

「それからは反撃…と言いたいけれど深海棲艦もそこまで甘くはないってこと。そのままぐだぐだと戦線維持…今に至る。だから深海棲艦の壊滅は出来てない。けど二十年前ほど厳しい状況でもないってこと。」

 

 

そして陽炎は白板を裏返す。そこに現在の情勢と書いた。

 

 

 

「今の海軍部は5人の代表的なポストに分かれてる。これはそれぞれの鎮守府、泊地、基地から選ばれるけれど…例えば鳳翔さんのところの呉鎮守府の提督は大ベテランっていうこともあって提督議会の会長をやってる。采配自体も守備陣を敷けば決して落とされない布陣を作る人だからまさに『鎮守』よね。」

 

 

真ん中に呉の提督と書き、その横に線を引く。

 

 

「うちの提督…まあ横須賀鎮守府の提督は数ある基地の中でも一番の武闘派。攻めることに関しては誰にも負ける自信はないわよ。だから艦隊総決戦の時とかに連合艦隊の指揮を執る総司令官もやってるの。まさにその戦いぶりは『剛腕』ね。」

 

その隣に横須賀提督と書き記した。

 

 

「佐世保の提督は遊撃戦に関しては右に出るものはいないって言われてるわ。まだ若いのに凄いことよね。その名軍師っぷりから参謀を任されているわ。そんな彼はまさに聖賢の軍師ね。」

 

 

佐世保提督と書き記す。

 

 

 

「舞鶴の提督…最近は表舞台に出てきてないけれどどうしたのかしら。目立つことはしてないけれども攻守ともに堅実な采配で戦線維持をしたり補給に回ったりとまさに縁の下の力持ち。この人がいなくちゃ成り立たない戦場がいくつもあったって言われてるわ。だから『相談役』に任命されてるのね。」

 

舞鶴提督と書く。

 

 

「そして一番上に立つのが知っての通り大本営の長、元帥閣下その人よ。」

 

 

その上に元帥と書いた。

 

 

「この五人が中心的なポストとして今は活躍してるわ。ケド、今はって話。だからいつ代替わりしてもおかしくないわね。自分の所の提督を押し上げるチャンスが今にも訪れるかもしれないわね。」

 

 

ま、そう簡単には譲らないけどと陽炎は最後に付け加えて笑った。

 

 

「それじゃあ簡単な講義はここまで。一応覚えておいて損はないと思うから記憶の何処かにとどめてくれたら幸いだわ。」

 

 

そしてざわざわと彼女たちは移動し始める。そんな中人一倍威圧感がある長門が陽炎と話し込んでいた。

 

 

 

「…別にそれはいいけど。だからって独断専行し過ぎないで欲しいけれど、長門さん。」

 

 

「何、不利益にはならんだろう。それにこれは私の一存ではない。カミも望んでいることだ。」

 

 

「…本当、あれは何を考えているんだか。」

 

 

陽炎は頭痛をこらえるようにため息を吐いた。

 

 

 



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その日

ほのぼの


「なーにじろじろ見てるのよクソ提督。」

 

 

「いんや、珍しいお前の姿を見たなって思っただけだよ。」

 

 

提督議会が終了し、数日。ここトラック泊地では総出で釣り大会が行われていた。

 

 

「で、なんで今日こんな出し物を考えたの?」

 

「深い意味はないさ。けれども強いて言うなら艦隊の士気を上げるため。こういうれくりえーしょんもたまには乙なもんだろ?」

 

「…まあそうだけどさ。」

 

 

曙は渋々と言った物言いだがその足どりは軽く、彼女が浮かれているのは一目でわかる。それは釣りが出来るからではなく提督とペアであるということも丸わかりだ。

 

 

「ところで一番釣った人には褒賞が出るって言ってたけどどんなもの?」

 

 

「大したもんじゃないさ。ただ間宮食堂でデザートが無料で付く権利を半年分進呈する食券さ。」

 

 

「…まさか、間宮アイス?」

 

「そりゃそうだ。名物だろ?」

 

 

その言葉を聞き曙は体を震わせて立ち上がった。

 

 

「行くわよ!クソ提督!一位取るわよ!」

 

 

「うおわぁ!?待て待て引っ張るな転ぶ!どわぁ!」

 

 

曙は提督の手を引くとそのまま全速力で走った。当然艦娘である彼女は小柄な見た目に似あわず力が強い。提督はなすすべなく引きずられていった。

 

 

 

「曙ちゃん、本当に楽しそうにしている…」

 

「本当に楽しそう。見てるアタシまで楽しくなりそう。」

 

 

潮と朧がそんな彼女の様子を見ながら談笑している。

 

 

「朧ちゃん、勝てば間宮さんのアイスが毎日夕食についてくるんだって。」

 

「これは負けたくないですね。よし、潮ちゃん。アタシたちが一位を目指そう。」

 

「うん!」

 

 

褒賞のことを聞き、特に駆逐艦たちの士気はまさに鰻登りだ。それほどまで間宮アイスは彼女たちへ人気なことが分かる。一方そのころ、曙と提督は…

 

 

「とはいえあたし、釣りなんてやったことないんだけど。ただ餌垂らして釣り竿引っ張ればいいわけじゃないんでしょ?」

 

「まあそりゃな。海釣りだしそれなりにやるべきこともある。けど安心しな、ちゃんと教えてやる。」

 

「…ふーん、クソ提督 釣りの経験あるんだ。」

 

「おいおいこんな時までクソ提督は勘弁してくれ…ああ、あるよ。孤島の生まれだからな。狩猟のやり方も漁のやり方も一通り親父から教わった。…将来はあそこで漁師をしてるものだと思ってたよ…深海棲艦があの島を襲うまではな。」

 

 

「…あ、ご…ごめん。…ごめんなさい…藪蛇だったわ。」

 

「いや、気にするな。言い出したのは俺の方だ。じゃあ始めるか。」

 

 

提督は曙の後ろに着き、彼女を腕の中ですっぽりと覆うように抱きとめるような形になった。

 

 

「あ、あの…えと…提督…」

 

「ん?どうした?」

 

 

「…ち、近いかな…って。」

 

 

「でも教えるならこれくらいじゃないとな。なんか不都合でもあったか?」

 

 

「な、ないわよ!いいからさっさと教えなさいクソ提督!」

 

 

その罵倒が照れ隠しであることは目に見えていたが、提督はめげずに彼女に釣りの仕方を教授しはじめた。

 

 

「まずは餌だが…さすがにミミズは無理か。」

 

「ぎゃー!?無理無理無理!!!近づけんな!!!」

 

「だよなぁ…」

 

 

分かっていたけどと提督は釣り餌を押しのけて、虫が詰まったものを外す。奥にある疑似餌などが詰まった箱をこちらにへと引き寄せる。

 

 

「これくらいならいけるよな?」

 

「ま、まぁこれくらいなら…」

 

 

「よし来た、初心者向けの釣りをしよう。とはいえ普通に上級者でも通用するくらい便利なものをな。」

 

 

提督は八段ある疑似餌を取り出す。そして曙の前に見せた。

 

 

「これは『サビキ』っていうもんだ。これを階層ごとにしかけて…」

 

 

彼は樽型のサルカンの下にサビキ仕掛けをつける。そしてその先に小さなカゴをくっつけてその中にコマセをいれて準備完了と言った。

 

 

「サビキで釣れるのは結構単純なものだけだ。アジとかイワシとかサバだな。」

 

 

「十分よ!さあ始めましょう!」

 

 

曙は提督に指南された通りに釣り竿を振り、海へと落とした。

 

 

「こっからは時間との戦いだな。あとはどれだけかかってくれるか…だが。」

 

 

「気長に待つわ。時間だけはたっぷりあるもの。」

 

 

「そうだな、釣りは根気が切れたらその時で負けだ。気長に構えていこう。」

 

 

数刻後、当たりがありという反応がブイへと現れた。

 

 

「来たなっ!さあ曙思いっきり引っ張ってみろ。」

 

 

「命令すんなクソ提督っ!」

 

 

と言いつつも全力で引っ張った曙。その釣り針の先にはしっかりと食らいついていた。

 

 

 

「これは…アジだな。どのアジかまでは知識が深くないと分からないが…」

 

提督がその魚を観察している。一方で曙は一瞬ぎょっとしながらも見比べた。

 

 

「これ…あたしが釣ったのよね?」

 

「そりゃあな、お前の手柄だ。」

 

 

「やった!」

 

 

思わずガッツポーズしたが、目の前に提督がいることを思い出すとすぐにふんと言った。

 

 

「こ、こんなんじゃまだまだ満足できないわよ。ほら次やるわよクソ提督!」

 

 

彼女も素直じゃないなぁ…と思いつつ提督は魚をクーラーボックスへと入れて彼女の元にへと戻る。

 

 

「仰せのままに、お姫様。」

 

「おひめ…!?」

 

 

赤面した曙に提督はげしげしと膝を蹴られていた。

 

 

「いた、痛い痛い。」

 

「うっさい!あんたのせいよクソ提督!」

 

 

 

それからというものの、曙は強運を発揮し、すぐに次から次へと魚を千切っては投げ、千切っては投げと釣りあげていった。制限時間が訪れるまでには持ってきたクーラーボックスの中身はパンパンになっていた。

 

 

「ま、まさかここまで釣れるとは…」

 

 

「ま、あたしの手にかかればこんなものね。当然よ。」

 

 

「ああ、見事だ。正直ここまで上手くやるもんだとは俺も思わなかったよ。さすがだ、曙。」

 

 

「で、でも…」

 

「どうした?」

 

「あんたのおかげであることも間違いないし、一応の感謝はしておくわ。…ありがとう。」

 

 

片目を閉じながら赤面してだが彼女は明確に提督へと礼を言った。

 

 

「…そうだな、じゃあ帰るか。結果発表が楽しみだな。」

 

 

「当然あたしが勝ってるに決まってるわ。」

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

「さて、厳正な審査の末に優勝したのは…」

 

 

一堂に会する間宮の大食堂。そこで面々は緊張状態で結果発表を今か今かと待ち続けていた。

 

 

 

「優勝は47匹で、提督&曙ペアです!」

 

 

 

「や、やった…!」

 

 

心底うれしそうにガッツポーズする曙。本当に勝てたことがうれしいようだ。そんな彼女の様子を見てか優勝を逃した他の面々も彼女を微笑ましそうな目で見ている。

 

 

「ま、当然よね。」

 

そんな視線に気が付いたのか慌てて彼女はさも当然かのような態度を取った…が、にやにやしてるのは抑えきれていない。平常心のつもりなのだろうが彼女がうきうきしてるのは目に見えている。バレバレだ。

 

 

 

「優勝したお二人には間宮食堂 デザート無料半年券が贈呈されます。」

 

 

「あー、そのことなんだが、大淀 ちょっとマイク貸してもらっていいか?」

 

「…はい?」

 

疑問に思いながらも大淀は提督へとマイクを渡す。

 

「俺がこいつを貰っても意味がねぇっていうことで俺はこいつをこの泊地全員へと進呈する。喜べ、誰でもアイスは無料だぞ!」

 

 

提督の言葉に艦娘達から歓声が上がった。

 

 

「いよっ!さすが提督!粋っていうものを理解してるね!」

 

 

「北上さん、早速いただきましょうか…」

 

「お、いいねアタシも食べたいと思ってたところなんだ。」

 

 

 

「…アンタ、最初からこうするつもりだった?」

 

 

「いんや、それはない。俺が勝ってしまったからこそだ。俺が食っちゃさ企画した方として意味がない、だったら皆に平等に渡した方がマシって思っただけだよ。」

 

 

「ふーん…まあいいわ。あたしが勝ってあたしが食べれる事実は揺るがないし。」

 

 

「それじゃ、早速食べるか?」

 

 

「…ううん、それよりも提督…寝室、行こう…」

 

 

「お、おう…」

 

 

喧騒の食堂を提督の腕を引き、彼女は提督の部屋へとそのまま行った。

 

 

 

—————————————————

 

 

 

はむ…くちゅ… と唾液が交わる音が部屋に響く。部屋は灯が消されており、わずかな月明りと星の光が照らしているだけだ。

 

 

「提督…もうあたし…我慢が出来そうにない…」

 

 

欲情に濡れた目で見られてはさすがの提督も興奮する。彼女の服を脱がせ可愛らしい下着をのぞかせた。そんな曙の頭を撫でる提督。

 

 

「…本当にこんな自分が嫌になるぜ。」

 

 

「…ていとく?」

 

 

「曙…俺は曙を大切にしたい。けど本能ではお前を滅茶苦茶に乱してやりたいという欲望が渦巻いている。だから時々嫌になるんだ。」

 

 

「…クソ提督のくせに我慢なんて生意気よ。」

 

「曙?」

 

 

「あんたに壊される程あたしは脆くないの。だから…その我慢なんてしなくていいから…あんたの欲望を全部、あたしに…」

 

 

その言葉に理性のたがが外れたのか提督は曙へと手を伸ばした…瞬間に部屋の電話が鳴り響いた。

 

 

 

「…何よもう…」

 

 

「悪い、すぐ戻る。」

 

 

 

提督はその受話器を取り会話を始めた。

 

 

「…ええ。…はい…えっ…?    …………分かりました、すぐにこちらかも手配を。では…お悔やみ申し上げます。」

 

 

 

そして受話器を置いた提督は曙の元へ戻って来た。

 

 

「なんだったの?」

 

 

「…有名な艦娘が轟沈した…っていう訃報だ。」

 

 

「誰が?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「横須賀鎮守府の秘書艦…『陽炎』が大破…轟沈   戦死した。」

 



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プロローグ

なお読む必要はあまり無いです


ざわざわと下ではどよめきが広がっている。艦娘も、憲兵も、提督も関係なくそこには大量の人があふれていた。皆が皆、上を見ていた。まるで何かを待つかのように。

 

 

そしてその上に彼らの待ち望んでいた人間がやって来た。彼は、そのまま辺りを一望できるような高所に立ち、すぅと一度息を吐き、そのまま手にした扇を掲げた。

 

 

 

「今、この時を以て告げる!!! 次の戦いこそが我らの反撃の始まりであると!!!」

 

 

その勇ましい叫びが響く。さらにどよめきが生まれる。

 

 

「漸くこの時が来たのか…」

 

「でも…本当に…?」

 

「関係ない…いつも通り相手を屠るだけだ。」

 

 

彼はそのまま雄弁を続ける。

 

 

(──さあ、始めよう)

 

 

「勇ましき精兵たちよ──我が呼びかけに応じてくれたことを感謝する。最後の闘いと言われても何が起こってるのかわからず混乱している者もいることであろう。我は告げる。…今、世界は分岐点に立たされていると!」

 

 

勇ましく雄弁を振るう彼の斜め後ろに控える彼女…叢雲は複雑な面持ちで彼を見ていた。

 

 

「諸君らの勇往邁進の進みにより、我らは深海棲艦から制海権を取り戻すことに成功した。そして、すべての深海棲艦を彼奴らの拠点へ押し戻すことに成功した。」

 

 

歴戦の精兵が、提督が彼を見る。彼はその重圧に屈することなく続ける。

 

 

 

「そして今日…我らは最後の決戦を仕掛ける!!!…無論、戦いを避けたいと願う諸君らの気持ちを大いに理解する。だが、我らは誰か!!」

 

 

「敵に背を向け逃げ出す臆病者か!? 否! 初めて戦場に立ち震える新兵か!? 否! 人類の破滅を願う怨敵か!? 否!!! 我らは誉れ高き人類の守護者である!! 誇り高き守護者である我らがここで臆病風に吹かれてしっぽを巻き逃げ出すか!?───否、どうして出来ようか!!」

 

 

「我らの愛すべき祖国を、故郷を! 蹂躙されるのをどうして黙って見てられようか! 家族を、友人を!何故見殺しに出来ようか!? そして、これからの未来を担う子供たちの泣き顔をどうして黙って見てられようか!」

 

 

そして、彼は興奮が収まりきらなくなり、ぐっと手を掲げた。

 

 

「否──そうはさせぬ!断じてさせぬ! 我は確信している。皆の力があれば深海棲艦など敵ではないと!」

 

 

ざわりと波紋が広がる。今まで騒がしかった周囲はもう喋ってるものなど誰もいなかった。

 

 

「我は確信している! この気高き精兵たちは決して負けはせぬと!!」

 

 

誰かがぎゅっと拳を握りしめた。

 

 

「我は確信している!皆が一丸となれば我ら、連合艦隊に敗北はないのだと!!」

 

誰かが帽子を深くかぶりなおした。

 

 

「今や我らは鉄壁の要害であり、貴公らの闘志は無双の剣である!もはやどのような敵にも後れは取らぬ!これは万人が認める事実であり、揺るがぬ確信である!!」

 

 

「それ故に!! 連合艦隊の勇士たちよ!! 今!! ここに!! 約束しよう!!」

 

 

 

「圧倒的な勝利を!!」

 

 

そして掲げていた扇を更に振り上げた。

 

 

「貴公らの大切な家族を守り! 愛すべき国土を護り! どん欲な侵略者共を完膚なきまでに叩きのめすことを!!」

 

 

 

下から爆発的な歓声が上がる。そこは憲兵も提督も、艦娘も関係ない。老若男女問わず、皆が雄叫びのように歓声を上げていた。

 

 

「我らこそが人類の守護者… 大義も正義も我らに全てあり!!」

 

 

「決戦を前に、元帥閣下が直々に貴公らを閲兵する!謹んでその御言葉を賜るがよい!!」

 

 

そして下でさらにどよめきが広がる。

 

 

 

「げ、元帥閣下から我らにお言葉を…?」

 

「我らのような田舎兵に…?」

 

 

 

彼が退くと後ろから老人が現れ、大きく一歩を踏み始めた。

 

 

 

「おお…なんと荘厳な…!」

 

「我らの前に閣下が…!」

 

 

 

 

「諸君、勇ましき連合艦隊の精鋭たちよ。これが最後の闘いだ。」

 

 

その声は心に響くように重くのしかかって来た。

 

 

「今や 地上を取り戻し、海を取り戻した。だが、深海棲艦は未だ健在であり、私はこの圀を預かるものとしてこれを正さねばならぬ。」

 

 

「蛮行の侵略者たちは態勢を整えればすぐにでも荒らし回り再びこの国土にも攻め入ってこよう。」

 

 

「諸君らにとってはまさに青天の霹靂。私の振る舞いはたかが一人のおいぼれの妄言と思うこともあるだろう。───だがそれでも、どうか私たちについてきてほしい。」

 

 

 

「国を護り、家族を護り、友人を護るため───この国の誉れ高い守護者として この国の未来を見届けねばならぬ。」

 

 

「連合艦隊の勇士たちよ。この国の―――否、星の矛となり盾となってほしい。 さすれば私はどこへどんな戦場へとも赴き、至上の栄誉を与える。」

 

 

「天命は、我らと共にある。」

 

 

 

 

 

『『『ウォォォォォォォォォォォォオ!!』』』

 

 

再び割れんばかりの歓声。

 

 

「なんとありがたきお言葉…」

 

「全ては愛すべき国のために!!」

 

「閣下へ輝かしき勝利を捧げん!!」

 

 

 

 

「私は…最後まで君たちと共にある。」

 

 

 

 

そして横へ捌けていた彼が再びその口を開いた。

 

 

 

 

「もはや言葉は無用!後は天が我らを導くことになるだろう!!」

 

 

 

爆発的を超える、歓声。その士気の高さはもはや語るまでもない。

 

 

「同胞たちよ!我らの覚悟を見せるとき!!」

 

 

 

 

 

 

「───さあ、始めよう。俺達の戦いを…」

 

 

「そうね…」

 

 

叢雲は彼を見ていた。最初から最後まで。

 

 

「始めましょう…そして終わらせましょう。あの時に始まった私たちの戦いに───」

 

 

そして彼女の記憶は運命のあの日に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

『特別な指令が発令されました!』

 

 

それはある日の昼下がり、いつも通りにパソコンを開き、艦隊これくしょんのブラウザを開いてた時だった。妙だな…今まで見たことなんてなかったんだが…

 

 

疑問に思いつつも俺は、その特別な指令とやらを拝むこととした。これが何かしらの指令ならば相応の報酬を期待できると思ったからだ。次にウィンドウに指令内容が記されていた。

 

 

 

『友軍である呉鎮守府が深海棲艦の攻撃で壊滅の危機に瀕している!艦娘を派遣し、呉鎮守府を救え!』

 

 

恐らくレイドというやつなのだろうか。ただこれならば大して心配する必要もなさそうだ。派遣任務ならば今までもやってきたことだ。それゆえに何も気負うことなく俺は任務に参加するを押した。

 

 

 

『一度出撃すると達成するまで戻れません、よろしいですか?』

 

 

とのメッセージが警告のように出た。母港帰投は出来ないのか、仕方ないなと思いながらイエスを選択した。…その瞬間にディスプレイから目もくらむほど激しい光が放たれた。

 

 

「なん──」

 

 

その激しい発光に思わず腕で顔を覆い、目を瞑った。そして灼けるような感覚が収まり、腕を戻し、目を開けると愚痴がこぼれた。

 

 

 

「なんなんだ…いった…」

 

 

だが最後まで言葉を紡がれることはなかった。目の前にあったのは鏡だった。その下には手洗い場がある。だが問題はその鏡に写っているものだった。…呆けた顔で自分の顔を触るその人物—————————駆逐艦 叢雲がそこにいた。そして、右腕を動かそうと思えば右腕を動かし、顔を振ろうと思ったらその通りに振る…

 

 

「まさか…」

 

自分の野太い声ではなかった。可憐な鈴のような声だった。…え

 

 

 

「えええええええっ───!?」

 

 

 

 

その絶叫により、その日、鎮守府は揺れた。

 

 

 

「な、何があったんだぁ!?」

 

 

 

そして工廠に慌てて飛び込んできた一人のまだ幼さが抜け切れてない青年と俺はそのまま追突した。…目の前がくらくらする。何とか目を開けるとそこには先ほど追突事故を起こした青年が倒れていた。

 

 

「きゅう…」

 

「た、大変だ!?え、えっとどうすれば…!?」

 

 

 

袖を引く存在がいた。下を見ればそこには散々ゲーム画面で見慣れた妖精さんがいた。妖精さんはその男を持ってこいと、示したようだった。…辿り着いたのは医務室だった。

 

 

 

 

 

 

 

———————————————

 

 

「やあ、よく来てくれたね。」

 

 

コホンとわざとらしい咳払いと共に青年は話を始めた。

 

 

「兎にも角にも座ってほしいかな。今、お茶を淹れるから。」

 

 

その人物は横に雑多に置かれている物の中から茶葉を取り出すとこれまた雑多に置かれている急須を取り出し、湯沸かし器で水を沸かし始めた。すぐに沸騰したお湯を慌てることなく慣れた手つきで急須にいれ、冷まし、湯飲みへとお茶を淹れた。そして淹れたお茶をこちらの座る対面机にまで運ぶと、こちらの側に置いた。軽く会釈し対面へと座った。

 

 

「自分は『朱鷺坂』というんだ。よろしくね。」

 

 

「…叢雲…よ。」

 

 

朱鷺坂という人物が握手を求めて来たため仕方なくそれに応じ、彼に握手を返した。まだぎこちないのが分かる。

 

 

 

「一応、ということになるけれどもこの呉鎮守府の管理を任されている者かな…とはいえ、体のいい後片付けと称した方がいい。承知してることとは思うけれどもう一度こちらから事情を説明させてもらうね。」

 

朱鷺坂の言葉にうなずいた。

 

 

「一月前、この呉鎮守府は深海棲艦によって襲撃を受けたんだ。当時、管理していた提督は戦死、同じく秘書艦だった正規空母赤城も轟沈…逃げ延びた艦娘達は何とか他の鎮守府によって保護されてる…それで大本営からのお達しで呉鎮守府奪還作戦を決行…そしてつい三日前、奪還に成功したんだ。そこまではいいんだけれど…呉鎮守府の設備はまさに壊滅。今は何とかこの鎮守府棟だけは早急に建てられたが他には何もない。所属している人間も自分だけだ。休暇中だったのだけれど何故かここへ着任しろ、と言われてね。」

 

 

いやあ参ったね、と柔和な笑みを崩さない朱鷺坂。でもその顔に隈があるのが見て取れた。おそらく苦労も多いのだろう。

 

 

「それで、この鎮守府に一人も艦娘がいないのはさすがに心もとないということで本部に手の余ってる艦娘を派遣してくれるように頼み、到着したのが君…ということだったね。」

 

 

そのあたりの事情は知らないが…そういうことなのだろう合わせておかなければならないだろう。

 

 

「先ほども述べた通りここには何もない。あるのはこの執務室と半ば急ごしらえの工廠だけだ。あとは近いうちに食堂も建つ予定だから少ししたら多少マシにはなるだろう。…今のここは一もない、まさにゼロから始める…というのに相応しい。」

 

朱鷺坂はそこで言葉を切るとゴホッゴホッと激しくせき込んだ。心配そうなこちらを見たのか制しながら続けた。

 

「失敬、ちょっとした持病持ちでね。…一からじゃなく、ゼロからだ。けれども上からの命令である以上、自分はやり遂げなければならない。そこで叢雲、君に改まってのお願いだ。自分とこの鎮守府の再建に力を貸してほしい。」

 

 

…もとよりそのつもりで叢雲はここに来たのだろう。それに今の俺には選択肢は…判断するよりも先に口が動いていた。反射的なものだった。

 

 

「拒否権はないけれど…いいわ、アンタの力になってあげる。やるなら私を選んだことを後悔させてやらないから。」

 

 

…俺は上手く叢雲を演じれているだろうか。いつぼろが出そうかでとても不安になる。

 

 

 

「ありがとう、その返事が聞けて嬉しいと思うよ。…よろしく、叢雲。」

 

握手を交わし、その柔和な笑みは一転して少年のような笑みにへと変わった。その笑顔に魅入られそうになるが意識を現実へと回帰する。

 

「まあ、こちらこそ…司令官。」

 

 

 

 

そう、これが私たちの戦いの始まり───すべてが始まった日。

 

 

 




冒頭は20年前の決戦前

後半は30年前の始まりです


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激震

 

「…おい、嘘だろ…?」

 

 

横須賀鎮守府の提督は力なく椅子に崩れ落ちた。彼の目の前に居るのはボロボロの不知火である。厳しい面持ちで彼に向き合っていた。

 

 

 

「嘘ではありません。姉は…陽炎は 沈みました。」

 

 

そして厳しい現実を突きつけた。

 

 

 

「…何故、そうなった?」

 

 

「本来任務である輸送任務…輸送船の護衛中 不知火たちは潜伏情報のない艦隊と遭遇しました。空母水鬼です。」

 

 

「…何故そんな高位の深海棲艦が…」

 

 

「原因は不明です。そして陽炎を旗艦とする第一艦隊と交戦…空母水鬼は陽炎が討ち取りました。しかし、それと引き換えに彼女も大破。沈み際の抵抗に遭い轟沈しました。」

 

 

淡々と告げているつもりの不知火だがその声は激しく震えている。彼はそのまま力なく拳を握りしめた。

 

 

「司令官、陽炎からこれを。」

 

 

不知火に渡されたのはかつて渡したケッコン指輪だった。そして不知火は続ける。

 

 

 

「『最後に約束を守れなくてごめん。司令と過ごした日々は本当に楽しかった…愛しています。』…陽炎からの最後の言葉です。」

 

 

「…っ!!!」

 

彼は激しく歯を噛みしめた。震える手を握りしめて、目を瞑り、涙をこらえた。そして一度大きく息を吸って吐くと、彼は覚悟を決めた決意の瞳を現した。そして、勇ましい声音で不知火に言った。

 

 

 

「…想定外の事態が起きている。故にたった今から非常事態宣言を行う。それと、秘書艦が不在となった今、代理が必要だ。臨時秘書艦に不知火、お前を任命する。…やってくれるな?」

 

 

「全ては司令官の御心のままに。」

 

 

「よし、鎮守府全員に号令をかけろ。フタマルマルマルまでに全員、講堂に集まるようにへと通達しろ。」

 

 

「はい。…では、不知火は一度身支度を整えてきます。」

 

 

不知火は一度礼をすると執務室から退室した。提督は、彼女が残していった指輪を強く握ると目じりに浮かんだ涙を振り払った。

 

 

 

「…今はまだ悲しむ時じゃない…そうだろう、陽炎…!」

 

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

陽炎戦死の報は電報ですぐに他の鎮守府や泊地にも知れ渡った。横須賀鎮守府の切り込み隊長として有名だった彼女の死を悔やむ声は各地から上げられた…だが、それ以上にテイトクに想像を超える震撼が伝わった。

 

 

 

呉鎮守府

 

 

 

「…その報、確かなのですね。提督。」

 

 

鳳翔はいつになく強い語調で提督へと質問した。提督も提督で深刻そうな顔で答えた。

 

 

「他ならぬ横須賀からの電報だ。…あの誠実な若者がそんなデマを流すはずがない。だからこそ…間違いなくここに書かれたことは事実で、横須賀鎮守府の旗艦、陽炎は…戦死したのだろう。」

 

 

「…そ…うです…か…彼女が…陽炎さんが…」

 

 

「…彼女との親交も深かったお前がどれほど衝撃的かは分かる…けれども戦場に立っている以上こういうことは彼女も覚悟していたのだと思う…すまん、今の私には言葉が見つからない。」

 

 

「…そうですか…分かりました…  提督…少し失礼します。」

 

 

「…ああ、それは構わないが…ドコヘ?」

 

「今後の方針を話し合わなければいけません…場合によっては援軍を出すことも考えなければいけないかもしれません…」

 

 

鳳翔は力なく執務室を出た。そして電話を手に取り、何処かへとかけ始めた。

 

 

 

佐世保鎮守府

 

 

 

「…嘘…だよね?…提督。」

 

川内は愕然と呟いた。その視線の先でいつになく真剣な提督は首を横に振った。

 

 

「…どうやら真実のようだ。…彼女の武勇を知ってる身としては今でも信じられないが…だが横須賀鎮守府からの知らせだ。嘘偽りの類ではないのは間違いない。」

 

「…っく… 陽炎が…?あの沈めても帰ってきそうな陽炎が…?」

 

 

川内は声が震えているのが分かった。まだ新米だった頃、彼女を鍛えたのはあの小柄な体に見合わず大きな器を持つ陽炎だった。彼女こそが川内の先輩であり、師匠なのだと誇っていた。

 

 

「…そう…だよね…」

 

川内は噛みしめるように呟いた。

 

 

「…戦場では死は誰にでも平等に来るんだ…陽炎は運悪くそのルーレットに選ばれちゃったんだ…本当に…悪い夢だよ…」

 

 

「…川内…」

 

 

「ごめん、提督…今日はこのままここで寝かせて。…あなたの隣で…」

 

 

「…嗚呼。いつまでも、どこまでも一緒に寝てやる。」

 

 

川内の涙が一滴、床にぽたりと落ちた。

 

 

 

トラック泊地

 

 

 

「あの陽炎が…?」

 

 

「無敵の駆逐艦と言われた彼女がだ…本当に…惜しい人物を亡くした。」

 

 

「…嘘でしょ…」

 

 

曙はふらりと眩暈を感じた。つい先日、彼女とは顔を合わせた。そして、散々と世話を焼かれていた。だが、それだというのにこれからは二度と顔を合わせることは無くなり、二度と世話を焼かれることはなくなるのだという。それがたった今突き付けられた。

 

 

 

「…っ!しっかりするのよ、曙…ここで茫然自失とするのがあたしの仕事じゃない!」

 

曙は歯を食いしばると自分自身に思い切りビンタをくらわせた。そしてもう一度気丈な振る舞いを取り戻す。そして提督を見る。

 

 

「クソ提督、やることがあるんでしょう、あたしたちにも。」

 

 

「ああ、深海棲艦の動きが不可解らしい、何かが起きるかもしれん。まだその何かは分からないがこちらからも探ってくれないかと、そう言われた。」

 

 

「…そうね、そうと決まったら鎮守府近海へ哨戒へ出るわ。提督、第一駆逐隊借りてくわよ!」

 

 

「…ああ、俺もすぐに正式な命令として発令する。五分後に落ち合おう。」

 

 

「了解!」

 

 

力強く彼らは歩みを始めた。

 

 

 

 

ショートランド泊地

 

 

 

「その情報、間違いはないんですね司令官。」

 

 

「ああ。僕も今一度確認しなおした。確かな情報だ。」

 

 

「…そう…ですか…あの…陽炎さんが…」

 

 

一番あっさりとしたような反応を示す、吹雪。しかし内心では困惑が体中の全てを占めていた。

 

 

あの面倒見の良い姉の鑑のような人物が戦死した、つい先日に自分もたくさん世話を焼かれたばかりだった。そんな彼女が死んだという。

 

 

「…本当にあっという間の別れなんですね、陽炎さん…」

 

 

戦場の残酷さというものを吹雪はたった今、その身に刻み込まれた。皮肉にもそれを注意していた陽炎の死という衝撃的なニュースを持って。

 

 

「…吹雪、僕たちも呆けている暇はない。何にしろ、ここはまだ出来たばかりの基地だ。どのような事態が来るかは分からない。万全に備えなければならない…そのためには色々なことがある…手伝ってくれるね?」

 

 

「はい…司令官 やりましょう…やられたままでは終われません。」

 

 

この出来事はまず間違いなく悲劇だろう。けれどもその悲劇をどう乗り越えるか…こそが彼女たちの今後を文字通り左右していく。彼女たちに止まっている暇はない。

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

『そう…彼女が…それは残念だわ。』

 

 

「…はい…彼女こそが次の世代を率いて行く者だと思っていました。」

 

 

『それだけ目をかけていたものね、あなたは…』

 

 

「…いえ、そんなことを今は話している場合ではありませんね。」

 

 

鳳翔の電話の相手は叢雲だ。彼女とのこの電話にこそ意味が今はあった。感傷に浸るのは後だと鳳翔は気丈な一面を覗かせた。

 

 

 

「この後の嚮導艦を指名しなければなりません、お知恵をお貸しください。」

 

『そうね…とはいえ、もう決まってるんでしょう?』

 

 

「はい、私の独断ですが彼女とは決めています。しかしあなたの意見も聞いておきたいと。」

 

『なら単刀直入でいうわ。次の嚮導艦には長門を指名しなさい。』

 

 

「…やはり、同じ考えに至りましたか。」

 

『ええ、年功序列的にもそうだけれど一度あれにもそういうことを経験させておかなくちゃ。…それに、あれなら上手くやるから。』

 

 

「…はい、私もそう思います。…意見ありがとうございました。ではまた近いうちに。」

 

受話器を置くと鳳翔はふぅと一度ため息を吐いた。そして悲観した瞳で天井を見ていた。

 

 

「…やはり、私は死神なのでしょうか…」

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

暗い海の中で目が覚める。

 

 

…体が壊れていない それどころかまだ動く

 

 

 

海の中で彼女は目覚めた。そしてまだ自分の肉体が砕けていないことに気が付くと僅かな喜びを感じた

 

 

…課程はどうでもいい 結果でまだこの身が壊れていないのならばそれでいい

 

 

彼女は海水を掻き分けるように水面を目指し泳いだ。もがくような泳ぎであったが不思議と体は軽い、いつになく調子がいいのだ。やがてざばんという音とともに彼女は水面へと出た。そしていつもの如く、水面へと立った。

 

 

磯のにおいが鼻に通る。いつもは磯臭いと言ってはいたが今となってはこの臭いすらありがたく感じるようになった。向こう側に見えるのは漁船だろうか。危険だから立ち入り規制がかかっていたはずだ…が、おそらく密漁者だろう。

 

 

 

 

「…ん!?おいやべぇぞ!」

 

 

「げぇ幽鬼だ!おい、進路変更しろ!逃げるぞ!」

 

 

乗組員は彼女の姿を見ると大急ぎで進路変更をし、退散していった。恐れるのは分かるが不本意だと彼女は思った。だが、幽鬼という発言が気になった。

 

 

ふと彼女は自分の肌の色に異変を感じた。…はたして自分の肌はこんなにも色白だったか。

 

 

そして彼女は自分の髪の色に気が付いた。あれほど鮮やかな色彩を持っていた髪は…灰色へとなっていた。そして、彼女は海面に写るその姿を見た。 自分自身であるはずだ。

 

 

 

「ア…ア…」

 

 

うめき声が漏れる。

 

 

「アンタタチハ…」

 

 

かすれるような声から声量が大きくなる

 

 

「アンタタチハ…何処マデ…何処マデ人ノ想イヲ!!!何処マデ踏ミニジレバ…気ガ済ムノヨ…!」

 

 

 

そして絶叫が響き渡った。

 

 

「アアァァァァッァアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

 

その姿を人は深海棲艦と…そう呼ぶだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 




平気でメンタルを踏みにじっていくスタイル



ドロップ艦を覚えてるじゃろ?


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反撃の兆し①

誰だよこんな作品考えたの


「やっぱりか…」

 

 

横須賀鎮守府の提督はその航空写真を見て苦々しげに言った。

 

 

「やはりと言うと。」

 

 

「この前の空母水鬼の登場からヤな予感はしてた。けれどもまあ見てみろ これを。」

 

不知火に航空写真を見せると同じく不知火も顔をしかめた。

 

 

「これは…深海棲艦の艦隊…?」

 

 

「姫や鬼の存在も見るだけでごろごろいやがる。…これが5ノットで横須賀鎮守府近海まで迫って来てやがる。極力悟られないためゆっくり進んでいたんだろうが…近海まで索敵を放って正解だったな、各鎮守府に連絡してくれ。これから、俺達は 横須賀鎮守府防衛戦に入ると…そして、援軍を至急求むと。」

 

 

「了解しました。他の面々には何と?」

 

 

「講堂に集めてくれ。話したいことがある。」

 

 

「了解しました。ではすぐに不知火は取りかかります。」

 

 

そして彼女があわただしく出ていくと提督は帽子を再びかぶりなおした。そして右手に指輪を嵌めるとそれを強く握りなおした。

 

 

 

「俺に力を貸してくれ…陽炎。」

 

 

 

そしてすぐに横須賀鎮守府所属の艦娘達が講堂へと集められた。彼女たちの視線の先に提督は立つ。ここから始まるのだ。

 

 

「みんな、聞いてくれ。知っての通り陽炎が死んだ。またこの艦隊の大切なメンバーが逝っちまった。けれども俺達は今 この場で止まれない。まだ俺達の闘いは終わってないからな。今までの深海棲艦との戦いは降りかかる火の粉を振り払っていた。だがここからは違う。…これは、今まで散って行った仲間たちの分の敵を取る 弔い合戦だ。…これから3時間後、横須賀鎮守府近海に深海棲艦の巨大艦隊が到着する。文字通り、艦隊総決戦だ。援軍要請こそ出したが時間通りに来るとは思わない。」

 

 

もう一度見回す。ふざけている娘など一人もいない。皆が、皆 覚悟を決めている。

 

 

「けれども俺達は違う。今、この場にいる。そして俺達は誰だ?…最強の矛の横須賀鎮守府だ。あんな奴ら、夕食前には返り討ちにしてやろう。」

 

 

提督が笑う。同じくにやりと何人かの艦娘も笑う。そして叫び、命令を通達する。

 

 

 

「各員、全力出撃!!! さぁ派手な赤い花を海に咲かせるぞ!!!」

 

 

猛々しい叫びが響く。

 

 

「覚悟を決めな!死ぬときは全員同じ! そして生きるときも全員同じだ!!!」

 

 

 

『『応っ!!!』』

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

大本営は横須賀鎮守府からの知らせを受けて、援軍である艦隊を派遣するようにと言った。特に近場である国内の鎮守府に対しては全力出撃せよとの命令が下された。それを受けて、国内の三鎮守府からは精鋭中の精鋭が選び抜かれすぐに高速船へと乗った。

 

 

「ええっ!?提督も来るの!?」

 

 

高速船へ同乗している提督へ川内は驚きの声を上げている。この人物は自分自身が戦場へと赴くというのだ。

 

 

「現場指揮はオレの得意分野さ。直接行かなきゃ気が済まない。」

 

 

「で、でも大丈夫なの?被弾とかしても文句は言えないんだよ?」

 

 

「安心しろ、駆逐艦乗りだった時から俺は一度も弾に当たったことはねぇよ。それにだ、俺の直掩はお前がやってくれるだろう?」

 

「そ、そうだけどさぁ…」

 

 

「それに俺だけじゃないみたいだぜ、考えているのは。」

 

 

「…えっ?」

 

 

 

佐世保提督が見せた電報には戦場で落ち合おうというものだった。そして文面の主は呉鎮守府提督と書かれている。

 

 

「あの人も秘書艦連れて戦場へ行くみたいだよ…さて、『鎮守』の提督の采配 凄い興味あるぜ…」

 

 

「…本当、みんなバカばっかだよ。この世界は。」

 

 

そして川内は海を見ながら呟いた。

 

 

「だから、大好きなんだよ。」

 

 

 

 

 

 

「提督、あなたがわざわざ前線へ出る必要はありませんというのに。」

 

 

「何…気にするな、私は死ぬことはないからな。」

 

 

「しかし 提督 戦場において絶対という言葉は…」

 

「いや、ある。何故ならば私の目の前に絶対私を死なせない最強の護衛がいるのだからな。」

 

 

呉の提督はいつもの顰め面は今ばかりはない。そこにあるのはまるで歳を重ねるのを忘れたかのような少年のようなにやにやと笑った顔だった。けれども彼は確信している。

 

 

「…そう言われてしまっては この鳳翔…退くわけにはまいりません。貴方を必ず呉鎮守府へと五体満足、かすり傷一つなくお帰しすると誓いましょう。」

 

 

「そうだ、それでいい。…しかしまあこうして現場に出て指揮をするとなると昔を思い出すな。」

 

 

「…ええ、提督も昔は良く天山へ乗り込み 積極的に前線に出るものだからいつもひやひやとしていて肝が冷えました。」

 

 

「そいつは飛行機乗りとして当然の事さ…さて、俺も少しは若返ってみるか。 暴れるぞ、鳳翔。」

 

 

「…はい、もう一度 あなたと。」

 

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

提督は横須賀鎮守府近海へと煙幕を放つことを命じた。それにより辺り一帯は煙に濃く包まれておりその様はまるで濃霧のようだ。

 

 

始まりは艦娘達だった。

 

 

雷巡と駆逐艦の深海棲艦が強い煙幕の中本体との進路を逸れて二機で航行していた。そこをイ級は槍で一突き、チ級は一閃と抵抗する間もなく、その活動を停止した。そしてそれを行ったのは二人の艦娘だった。

 

 

 

「…さぁやるか、龍田。」

 

「えぇ、始めましょうか。天龍ちゃん。」

 

 

 

「提督の命令により 俺達は『蹂躙』を始めるぜ。」

 

 

一方、敵主力艦隊も横須賀鎮守府の戦士たちと接敵していた。

 

 

 

「汝ら、これより先を進むことを禁ずる。」

 

 

静かに全てを凍てつかせる殺気を放ち不知火は敵 旗艦 空母棲姫へと言い放った。

 

 

「これより先は我らの領域である。」

 

 

「ホザケ、貴様等ノ脆弱ナ力デ何ヲ為セルト言ウ。」

 

 

「警告はしました。」

 

 

そして不知火の後ろに精鋭中の精鋭 第一艦隊 第二艦隊が並び立つ。

 

 

「第一艦隊、第二艦隊 各員に通達。 『蹂躙』せよ。」

 

 

 

 

一方、母港のすぐ傍、一人だけ艦隊から離れていた深海棲艦がいた。

 

 

「ヤハリ察知シテイタカ…敵指揮官ヲ沈黙サセレバコレ以上ノ攪乱ハアルマイ…」

 

 

戦艦水鬼。水の中に姿を隠し一人逃れて来た彼女は提督を殺すことで戦場をかき乱そうと画策していた。そして鎮守府内に彼女はまんまと忍び込んだ。

 

 

そこら辺に居た海兵を隠密に殺し、その服を奪うと彼女は手袋をつけて顔を伏せ変装した。間近で見なければ遠目からでは深海棲艦とは察せられない。そしてそのまま彼女はがらりと人の空いた鎮守府内の執務室へ向かっていた。

 

 

(…妙ダ…全力出撃ナラバ艦娘ガ少ナイノハ理解デキル…ダガ、全クイナイ…?)

 

 

そう、全くいない。艦娘も、整備士も、衛士ですら。戦艦水鬼に一抹の考えがよぎる。

 

 

「…罠カ?」

 

 

だがそれがどうしたとすぐに斬り捨てた。たかが人間がいようが彼女は戦艦水鬼。捻り潰すことなど造作であると。

 

 

 

「…ヤハリ誰モイナイ…。」

 

 

そして辿り着いた執務室。そこはもぬけの殻だった。外れを引いたかと戦艦水鬼は撤収しようとした。だが、何者かに肩を掴まれた。

 

 

「よう、お帰りするにはまだ早いぜ。」

 

 

そして振り向こうとしたその瞬間に、彼女はその顔面に思い切り拳を食らい吹き飛ばされた。勢いがそのままスピードへと変わり壁を突き破り、中庭へと彼女は叩き落された。

 

 

「何…ガ…」

 

 

立ち上がった彼女が見たのは二階の窓から飛び降りてくる筋骨隆々の男である。彼は普段海軍帽子をかぶっている、だが今は上はタンクトップだけとなり非常に動きやすい服装をしていた。

 

 

「もうちょっと付き合っていけよ。ダンスの相手くらいにはなるぜ。」

 

 

「キサマ…マサカ コノ艦隊ノ司令官カ…!」

 

 

「そうだよ、お前の標的だ。わざわざ出向いてきたんだ感謝してくれよ。」

 

 

「タカガ人間如キニ何ガデキル!」

 

 

今まで変装していた服を脱ぐとそのまま提督へ向けて砲撃を放つ。しかしそれは横からの妨害に阻まれた。

 

 

「提督、あたしたちにも出番寄越せよ!」

 

 

そして照明がつく。いつの間にか戦艦水鬼は囲まれるかたちで包囲されていた。

 

 

「ま、余裕があったらな。んじゃ、各員に通達。 目標に向かって全砲門開放。 撃て。」

 

 

そして横須賀鎮守府内で特大の爆発音が響いた。

 

 

 

 

 

 

「本隊ガ接敵シタヨウネ…遊撃ニムカオウカシラ…」

 

 

水母棲鬼が自身の艦隊を引き連れて数海里離れた海上を漂っていた。しかし主力艦隊が接敵したことで彼女たちもそちらを叩きに行こうとするが…

 

 

「その必要はないよ。」

 

 

彼女の背後から声がかかる。

 

 

「何故なら、ここで私たちに討たれるから。」

 

 

そこにはかつてないほど獰猛な笑みを浮かべた川内が神通、那珂を引き連れて接近していた。

 

 

「…首、置いて行けよ。」

 

 

 

 

 

 

 

「何故ダ…何故 連絡ガ途絶シタ…?」

 

 

同時刻、別働隊である空母ヲ級が突然連絡が途絶する現象に困惑していた。

 

 

「その理由は単純ですよ。討ち取られただけですから。」

 

 

そして同じく背後に澄み渡る静かな声が響いた。

 

 

「そしてもうすぐあなたもそうなります。」

 

 

そこには柔和な笑みを浮かべた鳳翔が複数の空母を率いていた。

 

 

「…地獄に落ちてください。」

 

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

「叢雲さん、彼女たちに任せてよかったのですか?」

 

「問題ないわ、練度は疑う必要ないもの。それよりも私たちのやるべきことを進めるわよ。」

 

大本営、電算室。高雄と叢雲はそこへともぐりこんでいた。

 

 

「…しかし、この程度の工作で上手くいくのでしょうか?」

 

 

「行くわよ。何度も何度も改良してきたでしょうに。」

 

「それはそうですが…あれを相手取るとなると相応に不安にもなるというものですよ。」

 

「あら、引き返す?」

 

「ご冗談を。今更引き返すことなど叶わないと分かっているというのに。」

 

 

「そういうことよ…じゃあ始めましょうか。」

 

「はい。私たちの反撃を。」

 

 

 

「計算で何もかもが上手く行くと思ってる馬鹿なカミサマに一発痛いのを食らわせるわよ。」

 

 

 



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反撃の兆し②

「不知火、そっちはどうだ!」

 

 

『こちら不知火。司令官、敵 主力艦隊 壊滅しました。』

 

 

「損害は?」

 

 

『不知火は無傷です。他も小破でとどまっています。』

 

 

「そうか、次の指示は…とりあえず近海警備。燃料が尽きかけたら戻ってこい。」

 

『了解。』

 

 

爆発により鎮守府棟の半分が消し飛んだ横須賀鎮守府。そこで提督は艦娘達に瓦礫撤去の指示を出し自分自身も後片付けに追われていた。

 

 

「提督、どうすんだ、これ。」

 

 

指揮を執っていた摩耶がブルーシートを被せられている戦艦水鬼の遺体を指さしていた。

 

 

「とはいえ、扱いに困るねぇ…大本営が引き取ってくれれば楽なんだが…」

 

 

「んなのやってくれるわけねぇだろ。普段は海の底に沈んでいくから気にしたこともなかったけど地上で仕留めたら仕留めたで本当に扱いに困る奴らだよこいつ。」

 

 

「まあしばらくそのままでいい。海に戻して復活でもしたら厄介だからな。」

 

 

「了解。 オラ、駆逐艦組!さっさと運んでいくぞ!」

 

 

 

その様子を彼は見ていた。…が、やがて何かを思い出したのか港の方へと歩き出した。

 

 

同時刻…

 

 

 

「まあ、こんなもんだよね。」

 

 

川内は身構えていた状態から通常の立ち姿勢へと戻る。その視線の先には沈んでいった深海棲艦の残骸だけ転がっていた。

 

 

「とりあえず次はどうしたらいい、提督?」

 

 

『このまま横須賀鎮守府に向かう。一度船に戻ってきてもいいぞ。』

 

 

「いーよ、このまま沿う形で護衛するから。神通も那珂もそれでいいよね?」

 

 

「了解しました。このまま提督の乗船を護衛という形で随伴します。」

 

「りょーかい。那珂ちゃんの手腕見ていてよね!」

 

 

『一応残党狩りも片手間で良いからやっておいてくれ。』

 

 

「了解。それじゃ、2.5水戦、しゅっぱーつ。」

 

 

「…あの、姉さん 2.5水戦なのは何故なのでしょうか…」

 

 

「神通が二水戦だし、私は三水戦だから間を取って2.5水戦!」

 

 

「あー!那珂ちゃんが考慮されてない!」

 

 

「別にいいじゃん、那珂は大体おまけみたいなものだし。」

 

「むきー!川内のばかー!」

 

 

「あ、あの川内姉さん、那珂ちゃん…護衛をしましょう…?」

 

 

 

『てめぇら、遅いぞ!護衛が遅れてどうするんだ!』

 

 

通信機越しに提督の怒号が聞こえてくる。彼の乗る船はもうだいぶ前にいる。おい、護衛しろよ。

 

 

「やっば!全員機関一杯! 全速力で提督においつくよ!」

 

 

「り、了解!」

 

 

「待ってよぉ!」

 

 

この後、提督から散々とどやされるのはお約束なので語るまでもないだろう。佐世保鎮守府組はこんな時でもマイペースである。

 

 

一方そのころ、呉鎮守府組

 

 

「提督、こちら鳳翔です。敵空母轟沈を確認しました。」

 

 

『損害は?』

 

 

「無傷です。誰一人小破してません。」

 

 

『よくやった。一度母船に戻って来てくれ。』

 

 

「はい。補給をしましょう。…皆さん、お疲れ様でした。帰投しましょう。」

 

 

 

「ふぅ、終わった終わったぁ。」

 

 

「おや、隼鷹さん。まだ終わってませんよ、勝って兜の緒をとやらです。」

 

 

「鳳翔さんは本当に真面目だねぇ…あたしはもう集中切れっぱなし。」

 

 

「だらしないですよ、隼鷹さん。」

 

 

「おわっ、千歳か。あんま驚かせないでくれ、心臓に悪いから。」

 

 

和気あいあいと母船へと戻る空母一行。しかしその中で警戒を厳としていた鳳翔がその殺気を感じ取った。同時に隼鷹も似たものを感じ取った。

 

 

「…!これは…」

 

 

「ああ…やな雰囲気だねぇ…」

 

 

「…?お二方、どうしましたか?」

 

 

「千歳さん、他の皆を連れて帰投をお願いします。私と隼鷹さんには少々やることが出来ました。」

 

 

「はぁ…しかし、大丈夫なのですか?提督は…」

 

 

「ほら、行った行った。堅いこと言ってないであたしらに任せて?」

 

 

「分かりました…ですがすぐに戻ってきてくださいね?」

 

 

 

そして千歳は他の面々を連れて行くと鳳翔と隼鷹は交戦準備へと移っていた。

 

 

「この感覚…テイトクです。けれども…それよりも深海棲艦に似たような嫌な雰囲気を…」

 

 

「あたしも同感だ…こいつは…やばい。」

 

 

 

そしてその殺気の正体が彼女たちの目の前に現れた。

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

「Not thorough! 貰ったネー!叢雲!!!」

 

 

「だぁー!そんなのアリ!?」

 

 

その日、彼女たちは卓を囲みチェスを楽しんでいた。今、対戦している叢雲、金剛。それを横で観戦してる大和、高雄、瑞鳳。そんな彼らの隣で食器を磨いている鳳翔。

 

 

 

「ふむ…見事な一手です。そして何よりも相手に気取られないように攻めていたのも実に見事です。」

 

「no biggie!叢雲が実に攻めやすいこともあるネー!」

 

 

「へぇ、つまり金剛は私が簡単に攻め落とされやすいっていいたいのね。」

 

 

「non、叢雲の攻め手は堅実な采配デース。けれども自陣に集中しているあまり相手の駒をあまり良く見てないネ。それではBAD。簡単に相手に付け入られてしまうネ。」

 

 

「凄い…凄いのだろうけど私にはよくわからなかったです…大和さんはどうですか?」

 

 

「私も将棋はたしなみますがチェスは…」

 

 

大和と瑞鳳。どうやら二人には展開されている試合内容がよく分かっていないようだ。

 

 

 

「簡単な話です。叢雲さんが自分の足元に慎重になっていたせいで背後からの接近に気づかずまんまと金剛さんに後ろを取られた…というのが簡単なたとえです。」

 

 

「…なるほど!それで接近に気が付かせなかった金剛さんの手腕を褒めていたんですね!」

 

 

「はい、見事な騙し討ちでした。」

 

 

「た、確かに凄いのでしょうけれどそれでは金剛さんが卑怯な方のように聞こえてしまいますが…」

 

 

高雄の毒がない毒とそれを聞いて思わず引きつり笑いを浮かべる大和。それに対して金剛が椅子から抗議していた。

 

 

「高雄!その言い方だとワタシがviranみたいネー!」

 

 

「私にとっては悪役よ…」

 

 

恨みがましい視線をぶつける叢雲。

 

 

「おや、失礼しました。」

 

 

しれっとしている高雄。…そこには平和な空間が確かにあった。

 

 

 

「楽しそうですね、皆さん。その楽しそうなお時間にお邪魔して恐縮ですが…出来ました、冷めないうちに食べてください。」

 

 

鳳翔が彼らが囲んでいる卓の上に鍋を置いた。そして蓋を取るとぐつぐつと煮立っている鍋を見せた。

 

 

 

「good smell!」

 

 

「いい匂いですね…本当においしそう。」

 

 

「うん…鳳翔さんのこれは何を使っているんでしょうか…?」

 

 

「これは良いものです。食欲をそそられます。」

 

 

「鳳翔もああ言ってることだし早くいただきましょ。」

 

 

 

 

そして人数分の箸、皿が置かれて最後に鳳翔が着席すると彼女が音頭を取り、鍋を囲んでの食事が始まった。

酒も並べられていい感じに酔い始めてきたところに瑞鳳がぽつりと漏らす。

 

 

 

「…私達、いつまでこうしていれるのでしょうか。」

 

 

「…瑞鳳さん?」

 

 

「こうして皆で集まって、ゲームに興じて、鳳翔さんの作った料理を食べて、お酒を飲んで…騒いで。…私は今怖いくらい楽しいんです。ただ、それと同時に思うんです。…いつかこの日常が壊れてしまうんじゃないかって…」

 

 

「…瑞鳳…」

 

 

彼女のしんみりとした呟きにあの陽気な金剛でさえ返す言葉を失ってしまっている。部屋に重い空気が流れてしまった。それに気が付いた瑞鳳は慌てて話題を逸らそうとしていた。

 

 

「な、なんて縁起でもないですよね!ごめんなさい!」

 

 

 

「…いえ、瑞鳳さんの言うとおりです。」

 

高雄が何故か言葉をつづけた。

 

 

「私たちはいつまでもこの日常を享受できると当たり前のように感じていた。しかしそれは大きな慢心です。」

 

 

その声音は酔っているとは思えずとても冷静で。

 

 

「私たちが次にこのように集まっている保証なんてどこにもないのですから。」

 

 

そして厳しい現実を突きつけて来た。それは現実から逃避したかった彼女たちにとっては十分に酷なものであって。

 

 

「…私もおかしなことを口走ってしまいました。申し訳ありません。」

 

 

高雄は一度頭を下げた。それからしばらくの沈黙の後、ずっと腕を組んでいた叢雲が顰め面と共に口を開いた。

 

 

「ま、確かに楽観的なのはいけないわね。」

 

 

「…叢雲さん、それは…」

 

 

「けどね、悲観的すぎるのも関心しないわ。ようするに悲観論で備えて楽観論で行動しろってこと。必要な一歩を躊躇ってたら死ぬわよ。」

 

 

「…でも、大丈夫です。」

 

 

大和が突然口を開いた。

 

 

「こんなこと…何の確証もないんですが…皆さんなら大丈夫です。次も、その次も…ここでこうやって皆で楽しく食事をしているはずです。…だって、私たちなんですから。」

 

 

「…間違いないネー。無敵のワタシたちがそう簡単に沈むはずが無い!!!」

 

 

「そうですね、自分が弱気になってしまっては他の方々に迷惑にもなります…だから、必ず帰れるのだと思っておきましょう。」

 

 

「…そう、ですね…そうですよね。私たちは必ずここに戻ってくるんですから。」

 

 

先ほどまで暗かった瑞鳳の表情が明るくなった。

 

 

「卵焼きを作ったのですが…たべりゅ?」

 

 

 

その後、酔いが回った面々のせいで大惨事が起こった。具体的には瑞鳳と叢雲が全裸でベッドに倒れていたとか。

 

 

 

 

「必ずここに戻ってくる。」

 

 

 

 

 

 

「…確かにあなたはそう言ってました。けれども…このような形で戻ってくるとは…」

 

 

「……」

 

 

目の前に対峙するは深海棲艦。

 

 

 

「瑞鳳さん!!!」

 

 

鳳翔の悲痛な叫びが海域に響いた。

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

「十一時の方向、敵駆逐艦を発見。」

 

 

「見たところ一機だけやけどどうする?不知火。」

 

 

「当然倒すまでです。」

 

 

「よっしゃ、いくで!」

 

 

 

同時刻、近海では不知火と黒潮が接敵していた。相手は駆逐艦一体のみ。追撃し、沈めようとするが先に敵駆逐艦が後ろも振り返らず全力で逃走した。

 

 

「ちょ、逃がさへんで!」

 

 

「不知火、追撃します。」

 

 

 

 

 

「…イデ。」

 

 

 

「…何か言っていますね。」

 

 

「気にしたら負けやろ。」

 

 

 

「…来ナイデ!…オ願イダカラ!!」

 

 

 

 

「…まさか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…姉さん…?」

 

 

 

 

「来ルナ!!」

 

 

 

世界で一番残酷な再会が起こってしまった。

 




まだかかりそうですかー?


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【悲報】妹に避けられた

シリアスの合間にぶっこむネタじゃない


1.名無し、抜錨します

 

 

死にそう。

 

 

2.名無し、抜錨します

 

 

しなないで

 

 

3.名無し、抜錨します

 

 

いきて

 

 

4.名無し、抜錨します

 

 

誰か説明してくれよ!!

 

 

5.名無し、抜錨します

 

 

 

何だってそれは本当かい!?(超速理解)

 

 

 

6.名無し、抜錨します

 

 

まだ何も説明してないんですがそれは…

 

 

 

7.名無し、抜錨します

 

 

1に説明させてしてあげろ

 

 

8.名無し、抜錨します

 

 

妹に急に避けられるようになった 死にたい

 

 

 

9.名無し、抜錨します

 

 

生きて

 

 

 

10.名無し、抜錨します

 

 

何が一体どうしてそうなった

 

 

 

11.名無し、抜錨します

 

 

どういうことなの…

 

 

12.名無し、抜錨します

 

 

もう無理死ぬ

 

 

13.名無し、抜錨します

 

 

馬鹿早まるなやめろ

 

 

14.名無し、抜錨します

 

 

 

話は聞く、だからまずは死にたがりを下ろせ

 

 

 

15.骨

 

 

灰になる…

 

 

16.名無し、抜錨します

 

 

真性の鬱だ…

 

 

17.名無し、抜錨します

 

 

それで妹に避けられている言うてるけれど何か心当たりでもあるん?

 

 

 

18.骨

 

 

ない、至って普通に接してたつもり 無理死ぬ

 

 

19.名無し、抜錨します

 

 

もしかしたら何かにキレらてるのかもしれない

 

 

20.名無し、抜錨します

 

 

原因不明では対処の仕様がないが

 

 

21.名無し、抜錨します

 

 

何か最近環境が変わったことは?

 

 

22.骨

 

 

ない、至って平和

 

 

23.名無し、抜錨します

 

 

こりゃ強敵なんじゃ

 

 

24.名無し、抜錨します

 

 

さりげなく謝るしかねーな

 

 

25.名無し、抜錨します

 

 

テイトク、教えてくれ 次は俺は何をすればいい 妹は答えてくれない…

 

 

26.名無し、抜錨します

 

 

好きな食べ物で誘ってさりげなく原因を聞きだして、さりげなく謝るのだ

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

 

「ね、姉様とお茶ですか!」

 

 

「…ええ、迷惑だったかしら?」

 

 

「いえいえいえいえいえいえいえ、そんなことは。私で、私なんかでよければ是非。」

 

 

「…なら、良かったわ。ありがとう、山城。」

 

 

鎮守府執務室前の廊下、この鎮守府の秘書艦扶桑が妹に当たる山城にお茶をしないかと誘っていた。一度は暗い顔をしていた扶桑だったが山城の全力の否定と誘いに乗ってくれたことを見て笑った。では行きましょうかと移動した。

 

ついたのは食堂。

 

 

「行ってくるわ、お茶で構わない?」

 

「わ、私がやります。扶桑姉様は座っていてください。」

 

 

「いいのよ、誘ったのは私なんだから。私にやらせて。」

 

 

「…では、姉様のご厚意に甘えさせていただきます。」

 

 

自分がやるという申し出をやんわりと断られた山城は姉の厚意を無下には出来ないと大人しく引き下がった。そして湯飲みを二つ持ってきた扶桑は、茶菓子も持参していた。

 

 

「扶桑姉様、これは…」

 

「あなたが好きだったから…もしかしたら私の誤解だったかしら…」

 

 

「いえ、そんなことはありません、絶対にありえません!むしろもっと好きになりました。」

 

 

姉さまがこんなところまで見ていてくれるなんて感激ですオーラを醸し出している山城に扶桑はよかったと微笑んでいた。それからお茶を呑みながら二人はたわいのない雑談を始める。

 

 

「山城、私を大切に思ってくれているのは嬉しいけれども他の子たちに対して冷淡なのはあまり褒められたことではないわ…」

 

 

「ぬぐっ…申し訳ありません、扶桑姉様…」

 

 

「時雨…あの子も特に悲しがってたわ。同じ鎮守府の仲間なのだからもう少しくらい仲良くしても…」

 

 

それに西村艦隊の時からの付き合いなのだからという扶桑の呟きが山城にグサッと突き刺さった。自覚がある分尊敬する姉に言われると深く突き刺さるのだ。

 

 

「…あら、こんなことを言おうとしていたわけではないのに…ごめんなさい、山城。けれどもあなたが他の子と仲良くなってくれるならば私も嬉しいと思うわ。」

 

 

「…はい、姉様。心に刻んでおきます。」

 

「そこまでじゃなくてもいいのだけれど…」

 

 

それからまたしばらく時間が流れる。途中でお茶のお代わりを淹れてこようと扶桑がしていたが今度は山城がその役目を自ら積極的に買い出た。それに甘えたのかは不明だが扶桑も山城に譲った。お代わりを持ってきた次に彼女たちの話題は移っていく。

 

 

「伊勢に日向、元気にやっているかしら…」

 

 

「大丈夫ですよ、姉様。あの二人ですから。」

 

 

「そうね、あの二人なら上手くやっているでしょうね…余計な心配だったかしら。」

 

 

話題が尽きたのか、重い沈黙が待ち受けていた。それから意を決したのか扶桑がタンと湯呑を置き、切り出した。

 

 

「山城、私はあなたに何か嫌なことをしてしまった?」

 

 

「…………突然どうかしましたか?扶桑姉様。」

 

 

「…最近、あなたは私を避けているわね?」

 

「そ、そのようなことは決して!」

 

 

「いいのよ。…ただ、私はあなたに何かしてしまったのではないかと不安で…それで何かしてしまったのだったらあなたに謝りたいの。」

 

 

「そ、そんな恐れ多いです!それに扶桑姉様は悪くないんです。これは…その私がいけないのですから。」

 

 

「山城が?…どういうこと?」

 

 

「あー…えーと…その…」

 

 

急に目が泳ぎだす山城。そこはかとなく顔が赤みを帯びている。答えづらそうに視線を彷徨わせていた山城とそれを不思議な顔をしてみていた扶桑に声をかける人物がいた。

 

 

「今日は二人で同席か、仲の良いことだ。」

 

 

きっちりと海軍制服を着こなし、顔にあふれ出る疲労を宿らせた長身の男だった。というよりもここの泊地の主である。

 

 

「提督」

 

扶桑が彼に気づき、会釈をした。そんな彼は手にした書類を隣の机にどさっと置くと彼女たちへと近づいてきた。ちっと聞こえないように山城は舌打ちした。

 

 

「相変わらず仲の良いことで安心した。最近は共に行動しているのをあまり見ていなかったが、某の杞憂だったようだ。」

 

 

山城はこの男のことがあまり得意ではない。むしろ苦手である。顔立ちは端正で美丈夫と言えるが常に疲労の色を浮かべているため対面で話すときも威圧されてしまいそうであり、それでいて仕事においては超が付くほどの優秀。カリスマ性も悪くない…だがそれよりも苦手なのは、堅物すぎることである。ドが付くほど真面目で冗談が通じない、融通も利かないと彼女が苦手とする要素はそこにあった。あと扶桑姉様を奪うやつは死ね。

 

 

 

「…提督 その書類の山は?」

 

「ん?…ああ、これか。明石の溜めこんでいた請求書を巻き上げて来た。これで今日も仕事が出来る。」

 

 

転じて、扶桑の雰囲気が笑みこそ浮かべていているが凍り付きそうなほど寒いものになった。山城も震えた。

 

 

「提督…私はあなたに休むように進言したのですが…」

 

 

「嗚呼、確かに言われた。ただ手持ち無沙汰なのも少々困っていてな。どこかに書類が落ちてないものかと探し回っていたがこれ幸いと明石が某にこれを見せた。故に巻き上げて来た。」

 

 

さらに扶桑の怒気が跳ね上がる。

 

 

「あの…提督、私はあなたが働き過ぎているので今日は休むようにと言ったのですが…あなたがそんなに嬉々と仕事を持ってきてどうするんですか。」

 

 

「ふむ、その気づかいはありがたい。だが某はやはりこうしてるのが一番落ち着く。」

 

 

そして、大が付くほどの仕事大好き人間である。書類を見てないと発作で死ぬのではないかくらい仕事大好きである。人間の体には荷が重いと危惧した扶桑によりこのように彼に休みを取って貰おうとしていたのだが…彼は嬉々として仕事を拾いに行っていた。

 

 

「もういっそ提督を縛り付けて寝かした方が楽な気がしてきました。」

 

 

「姉さま、暴走しております。」

 

 

「あら…私としたことが…すいません、提督。」

 

 

「…いや、これは某の身から出た錆。正直に言えば縛られたところで文句は言えまいよ。」

 

 

「…それが分かっているのならば何故休まないのですか?」

 

 

むっーという様子の扶桑に提督は朗らかに笑って答えた。

 

 

「某を求める声があるのだ、裏切るわけにはいかぬさ。」

 

 

「…それはとても立派な心掛けですがあなたが倒れてしまっては事なのです。十分ご自愛ください。」

 

 

「ふむ、では忠告として聞いておこう。」

 

 

そういえばと提督は思い出したかのように聞いた。

 

 

「何か話し込んでいたようだが二人は何を話していたのだ?」

 

 

あっという顔で扶桑も思い出したかのように山城へ向き直った。

 

 

 

「…山城、結局どういうことなの?」

 

 

 

「…あ… えと  その…   私は姉さまを嫌うはずがありません。ただ、気持ちの整理をつける時間が必要だったんです。…ごめんなさい、姉様。私の勝手な都合でご迷惑をおかけして…」

 

 

「…私はあなたに嫌われていない?」

 

 

「…当然です、私は扶桑姉様のことをお慕いしています。」

 

 

「…良かった。」

 

 

心底安心したのか扶桑は安堵の息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

40.肉

 

 

嫌われてなかった 良かった

 

 

 

41.名無し、抜錨します

 

 

良かったじゃん

 

 

 

42.名無し、抜錨します

 

 

一件落着かな?

 

 

43.名無し、抜錨します

 

 

イッチも骨から肉が生えてるし復活したってことやな、えがったえがった

 

 

 

44.名無し、抜錨します

 

 

 

で、結局原因何だったの?

 

 

 

45.体

 

 

それが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…結局、私を避けていた理由は何だったのか教えてくれる。」

 

 

「ふむ、某だけではなく扶桑殿も避けていたか。某だけならばいつものことだと思っていたが扶桑殿まで避けているとは其方らしくもない。如何した。」

 

 

「えっ、提督もですか?」

 

 

「嗚呼。顔を見ると露骨に避けられていたが…どうやら今回ばかりは某だけではなかったようだ。」

 

 

「…山城?流石にそれは良くないことだと思うわ…どうかした?」

 

 

 

 

「…あのー えっと その えと…私、偶然ですが見ちゃったんです。」

 

 

「見た?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督と…姉様の…まぐわいを…」

 

 

 

「「あっ」」

 

 

 



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陸と海

そういえば長門久しぶりだな


艦隊これくしょんにおいて実装されていたあきつ丸は強襲揚陸艦という初の「陸軍」所属艦娘である。当然この世界にも海軍、空軍、陸軍が存在するためあきつ丸も存在することになる。

 

 

 

 

「本日付で陸軍から出向してきました強襲揚陸艦、あきつ丸であります。よろしくお願いするであります、提督殿。」

 

 

陸軍式の敬礼をする、あきつ丸。それに対して提督は着席しながらも会釈を返し、歓迎の意を示した。

 

 

「ああ、そちらの噂はかねがね聞き及んでいる。私がこの基地の司令だ。こちらは…」

 

 

そして提督の隣に立つ彼女に視線を向ける。その視線を受けて情報端末を持ちながら海軍式の敬礼を返したのはこの基地の補佐である秘書艦の…

 

 

「秘書艦の長門だ。第一艦隊の旗艦も務めている。脱帽時の敬礼でない無礼は大目に見てくれ。」

 

 

「はっ!彼のビッグセブンの長門殿に会えて感激の極みであります!」

 

 

一層萎縮したのかさらにビシッと敬礼をしたあきつ丸。そんな彼女に対して提督は和やかな雰囲気を保とうと言葉を続ける。

 

 

「ここは陸軍とは形式から様式まで何もかもが違う、それに生じる困惑もあるだろう。その際は遠慮なく私や他の艦娘を頼るといい。ここでは陸の出身だ、海の出身だととやかく言うものも敵対視するものもいない。気負う必要はない。」

 

 

「提督殿のご深慮に感謝するであります!」

 

 

とはいえ彼女の堅さもありすぐには打ち解けることは出来ないだろうと何となく提督は予想していた。それはその時かと彼は次の話題を言う。

 

 

「さて、このブイン基地を一通り見てもらおうと思うが案内役は…」

 

 

「提督、私に任せてもらおう。」

 

 

「おお、そうか。長門がやってくれるか。ならば安心して任せよう。彼女に分かりやすく説明してやってくれ。」

 

「任された。…さて、では時間も惜しい。早速案内させてもらおう。」

 

 

「よろしくお願いするであります!」

 

 

 

 

 

 

「陸軍では艦娘は他には?」

 

 

「自分のほかにまるゆという潜水輸送艇がいると聞き及んでおりまする。自分は顔を合わせたことはありませぬが。」

 

 

「ほう、つまり艦娘自体と向き合うのは?」

 

 

「式典などでは見かけたことはありますが、このように対面で話すのは初めてであります。それゆえにかつてないほど緊張しているであります。」

 

 

「成程、ならばこちらの事情を知らぬのも納得か。」

 

 

「何の話…でありますか?」

 

 

長門の独り言にも似た言葉にあきつ丸は疑問を呈した。が、彼女はそれを華麗に躱した。

 

 

「いや、何でもない。今はまだ関係のないことだ。今やるべきことはここを案内することだ。」

 

 

そして長門の先導を受けて、あきつ丸はブイン基地を巡っていくことになる。

 

 

 

「ここが調練所だ。砲撃訓練や雷撃訓練はここで行なっている。それだけではなく簡単な演習も行える。」

 

 

一部海を囲んで建設されている艦娘達の調練所、砲撃場所では大中小の的が用意されているし、雷撃場所でも的が常備されている。しかし、あきつ丸はそれよりも取っ組み合いを行っている艦娘達が気になった。

 

 

「長門殿、あれも訓練でしょうか。」

 

 

「ああ、あれか。あれは近接訓練だ。仮想訓練の一つだが、深海棲艦が砲撃すれば巻き添えを食らうような近い位置に来たような時に対抗する術だ。と言えば聞こえはいいが要するに格闘訓練だ。たとえ弾が切れようと殴る蹴るで敵を沈める意気でかかった方がいいのは事実だからな。 とはいえ空母や戦艦にはああいったことは向かん。やるのは軽巡や駆逐艦だ。」

 

 

「なるほどであります。…あ、投げたであります。」

 

 

あきつ丸の視線の先にはちょうど水面に投げ出された重巡の少女。そしてその少女を投げた戦艦の艦娘。その視線に気が付いたのか戦艦の艦娘は相手を引き起こした後こちらへと近づいてきた。

 

 

「あら、長門。その子が?」

 

 

「ああ、今日付けで陸軍からこのブインへ出向してきたあきつ丸だ。」

 

 

「き、強襲揚陸艦のあきつ丸であります!よろしくお願いするであります!」

 

 

「元気な子ね。私は長門型戦艦の妹の方、陸奥よ。よろしく。」

 

 

先ほど自分でも言っていた通り緊張しているあきつ丸と対照的に余裕のある態度の戦艦、陸奥。彼女のこのブイン基地の主戦力であり、長門と同じ同類でもあった。

 

 

「今は鎮守府を案内中だ。おそらく夕方にでも歓迎会が開かれるだろう。」

 

「あらそう、なら後で皆に伝えておくわ。今日は御馳走ね。」

 

 

「自分のために…恐縮であります。」

 

 

「いいのよ、これは毎回の恒例行事でもあるし誰かの時にないとそれは差別になってしまうもの。…それに、私も強襲揚陸艦を見るのは初めてだし興味はあるのよね。」

 

 

見定めるような視線、そして陸奥は何かに気が付いたように笑った。そんな様子を見て長門が彼女に声をかけた。

 

 

「今夜、会議を開く。他の面々を招集しておいてくれ。」

 

「成程、そういうことね。分かったわ。他の子にも声をかけておく。」

 

 

それじゃまた後でねと手を振りながら調練所に戻っていく陸奥に対してあきつ丸は首を傾げていた。何の話だろうかという顔をして。

 

 

 

次に二人が来たのは工廠だった。

 

 

「ここが工廠だ。建造、近代化改修、強化。全てがここで行われている。例外は修理だけだな。」

 

 

「ここが…文献などでは何度も読んだではありますがこの目で見るのは初めてであります…」

 

 

「む、陸軍にはなかったのか。」

 

 

「はい。自分も民間の工廠で建造されたであります。そもそもの話ですがあまり出撃の頻度も高くないため改修も受けてないであります。」

 

 

「ふ、なるほどだ。やはり艦娘に関しては海軍に一日の長があるか…だが、安心しろ。近代化改修を受ければ改修以前とは比べ物にならない数値になるからな。」

 

 

「それは楽しみであります。早く練度を積まないといけないでありますね。」

 

 

そしてそのまま隣の別棟へ移動する。そこには脱衣所がありまるで銭湯か温泉のような作りだった。

 

 

「ここがドックだ。入渠することで損傷を回復できる。」

 

 

「自分のいた陸軍基地では無骨な液体培養でありました。何とも粋な設計をしてると思うであります。」

 

 

「我らの数少ない娯楽の一つだ。このように温泉のような形を取ることで再生という暗いイメージを取り払う。ただの風呂ならば抵抗も少なくなるだろう。」

 

 

なおこの設計は他の鎮守府や泊地でも取られておりそこは提督の趣味があったり、艦娘達の意見が取り入れられている。

 

 

さて、次へ行くかという長門に従い、あきつ丸はそのまま足を進める。一度鎮守府棟に戻り、案内される。

 

 

「ここが食堂だ。おそらくこの後開かれる歓迎会もここで行なわれるだろう。」

 

「広い場所であります。皆がここで食事をとるのでしょうか?」

 

 

「基本的にはな。だが当然例外もある。提督のような多忙な方は秘書艦が食事をここで貰い執務室へ運ぶという事もある。後は外で食べたいというものいる。」

 

 

「なるほどであります。ここの食堂の運営は誰が?」

 

 

「給糧艦の間宮だ。彼女の料理は美味いぞ、期待しているといい。」

 

 

この私が保証するのだからなという言葉にあきつ丸は目を輝かせて頷いた。

 

 

「陸軍は男所帯でありました…それ故に料理も男の料理ばかりだったのであります。決して不味いわけではありませんが如何せん、味付けが豪快だったため繊細な料理というものとは無縁でありました。楽しみであります。」

 

 

遠い目をしかけたが気を取り直すように首を振った。そしてこの後も寮舎、娯楽室などを案内されて長門による基地案内が終わった。その後すぐに陸奥が呼びに来て言葉通り歓迎会が開かれた。

 

 

所属する艦娘達はあきつ丸に悪感情を持つことなく同じ仲間が増えることに歓迎していた。あきつ丸も緊張しながらその歓待を受けて警戒する必要はないのだと判断し、所属艦娘たちとの交流を深めていた。そんな中、時間を見計らったかのように長門が彼女に声をかけた。

 

 

「あきつ丸、構わないか。少々話がある。」

 

「自分にでありますか。問題ないであります。」

 

 

了承の意を示すと長門はあきつ丸を伴い、一団から離れたテーブルにへと着席した。そこには陸奥も座っていた。

 

 

 

「兎にも角にも座ってほしい。」

 

 

長門に促されて着席したあきつ丸。どうやら意図を計り損ねているようだった。

 

 

 

「あきつ丸、カンレキ…建造されてからどれほど経つ?」

 

「自分でありますか?まだ半年にも満たないであります。」

 

 

「それで艦娘…いいえテイトクへろくなコンタクトもない…か、なら知らなくても当然ね。」

 

 

「?…自分には何のことか分かりかねるであります。」

 

 

「まあ順序を立てて話していこう。あきつ丸、単刀直入に問おうか。お前は、平成の日本から来たな。」

 

 

長門の端的な言葉、それでいて核心をつく言葉にあきつ丸は驚愕の表情を浮かべた。

 

 

「当たりのようだな。」

 

 

「な、何故それを…」

 

 

「ふっ、簡単な話だ。一目見れば分かる。…何故ならば私達も同じだからだ。」

 

 

信じられないという表情のあきつ丸。

 

 

「まさか…自分以外にも同類が…」

 

 

「他の艦娘達とまともにあったことがないのならば仕方ないことだ。別段この世界で転移者など珍しいものでもない。こちらの世界に引きずり込まれてしまった者たちが手を取り合い協力し合う組合も存在する。」

 

 

「…そんな…全く 知らなかったのであります…」

 

「安心しろ、今から一から説明をしてやる。」

 

 

そして長門は説明を始めた。かつて一人のテイトクがこちらの世界に引きずり込まれた発端、それから艦娘である以上のメリットとデメリット、テイトクたちのこと、相互扶助のことなど

 

 

「お前も感じたことはあるだろう。自分が自分で無くなっていく感覚を。」

 

「…あります。その時には恐怖すら覚えたであります。」

 

 

「始めはそんなものよ。でもね…いつか抵抗がなくなった時があったら…その時は『あなた』の死だと思っていいわ。」

 

 

陸奥の言葉に思わずあきつ丸は震えた。

 

 

「あまり脅かしてやるな。私は十年もこの状態だが意外と何とでもなる。ただ明確な目標さえ持てばな。」

 

 

「明確な…目標?」

 

 

「平成日本へ帰還する ただそれだけの曇りなき一点を目指す。」

 

 

「な、なるほどであります。」

 

 

「だが先ほども説明した通りまだ我々には進展がない。何が向こうへ帰る条件なのかすらもな…忌々しいカミめ。」

 

 

「…カミ、でありますか?」

 

 

「そう、カミ。私たちをこっちへ引きずり込んだ元凶…長年の調査でね、あれが何かまでは分かったのよね。」

 

 

陸奥もあまり乗り気ではないようだが話をしてくれるようだ。

 

 

「ねぇ、あなたも緊急派遣任務というような内容が出て来たんでしょう?」

 

 

「はい。そして気が付いたら工廠であったであります…あれはいったい…」

 

 

そして陸奥はタブレットの写真を見せた。大本営にあるコンピュータージャングルだった。

 

 

「海軍統合参謀本部採用電脳機、通称カミ。これが私たちを引きずり込んだ原因なの。」

 

 

「こ、これが自分たちを…」

 

 

「そうそう、あとこれはもう一つの側面を持ってるのよ、分かるかしら?」

 

 

「…いえ。」

 

 

長門がそこへ口を挟んだ。忌々しそうに吐き捨てるように

 

 

「その機械が、艦隊これくしょんの運営だ。」

 

 

そして衝撃の事実を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

「まず初めにカミはこの世界を模したゲームを作り出した。そしてどういう仕掛けかは知らんが私たちのいた平成日本に干渉した。…そしてブラウザゲーム 艦隊これくしょんとしてサービスを始めた。まるで人が振舞っているかのようにな。」

 

 

「し、しかしそれではどのように商談などを…」

 

 

「並行世界に干渉するような規格外よ、どんな手を使っても信じられるわ。複製の人間を用意したとか、人間を洗脳したとか…まあ、そういうこと。けどそこは重要じゃないの。」

 

 

「ああ。…そして利用者が増え始めるとカミは無作為抽出で、テイトクを選びこの世界へ引きずり込んだ。私たちに秘書艦の肉体を与えてな。」

 

 

「何故、そのようなことを?」

 

 

「滅亡の危機に瀕した人類を救い、そして深海棲艦を撃滅するため…これに尽きるな。」

 

 

「強力な兵器の人柱に私たちは選ばれちゃったってことね。」

 

 

一通り説明を終えるとあきつ丸はやはりショックを受けていた。

 

 

 

「まあ無理もないわよねぇ。」

 

 

「…いいえ、自分は知らなさ過ぎたのであります。世界に取りこぼされることでありました。感謝するであります、長門殿、陸奥殿。」

 

 

「いいんだ。私たちは戻るという目的の一致した同士なのだからな。…それとくれぐれもの警告だ。こちらの世界に未練を残すな、帰れなくなるぞ。」

 

 

「り、了解であります。」

 

 

 

そんな彼女を陸奥は面白そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

「でも、長門って随分と夜は可愛く鳴くのよね。ねぇ、提督と今度三人でヤりましょ。」

 

 

「台無しになることを言うな!…………それとそれは認めん!」 

 

 



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第六駆逐隊(の皮を被った何か)

ぜろよんさんの死ぬほど仲の悪い第六駆リスペクト


艦娘だって飲酒はする。

 

 

飲酒の習慣があったテイトクとてそれは同じことだ。駆逐艦だって中の人間の関係上飲酒を好む艦もいるし、逆に戦艦であろうとも飲酒は苦手な艦もいる。上戸だったり下戸だったりとそこに存在するのはまさに十人十色のカタチである。

 

 

 

だが考えて欲しい、飲酒に並ぶもう一つの嗜好品を。

 

 

酒に並ぶ大衆向けの嗜好品を。

 

 

そう、煙草である。

 

 

艦娘だって喫煙はするのだ。特に喫煙癖のあったテイトクならばそれが顕著に表れる場面もある。

 

 

鎮守府には備え付けの喫煙所がある。提督や整備士の男向けだがそこに艦娘がいることは決して珍しいことではないというのだ。これはそんな珍しいことではない鎮守府での一日の様子。

 

 

 

 

煙が空へ上る。ふぅと口の中に溜まった煙たちが大気へ放出されていきそのまま空にへと還って行った。そしてもう一度手にした煙草をくわえる。そのままスパスパと味わうように吸っている。そんな彼女の隣に一人の少女が座って来た。彼女はガサゴソと懐からモノを取り出すと隣の彼女へ問いかけた。

 

 

「ねぇ、響。火、貸してくれない?」

 

 

「ん。」

 

 

煙草を咥えたまま響は右手でライターに火をともした。しゅぼっとという音と共に付いた火に暁は葉巻を押し当てた。そして火が付いたのを確認したと同時に離れて、響もライターの火を消した。そして懐にしまうとまた右手に煙草を持ち、ふぅと息を吐いた。口の中からは同じように煙が大気に還っていく。火がついた煙草を持ったまま隣の暁を見ている。視線に気が付いたのか、葉巻を噛んでいた暁がそれを手に持ち直し、息を吐いて問いかけた。

 

 

「何?そんなに私のがほしい?」

 

 

「いや…まだ葉巻を吸っていたんだって思っただけだよ。」

 

 

特に深い意味はないと答えた後また響は自分の煙草を吸い始めた。

 

 

「当然、一人前のレディの嗜みだもの。」

 

 

そして暁はすぱすぱとそれを咥え吸う。ゆっくりと燃えるそれを噛みしめているようにも見える。

 

 

 

「紙の味を喫めなんて野暮なこと言わないでしょう?」

 

 

暁は響の持つ煙草と自身の葉巻を見比べてどちらが上かと言うような視線を向けていた。

 

 

「私はそんなこだわりはないんだ。ただ喫煙という手段を通してストレス解消にしているに過ぎない。」

 

 

ふぅと吐いた後、手持ちの携帯灰皿に吸殻をじゅっと押し付けた。そして消えたのを確認したのち、そのまま吸殻をゴミ箱へ捨てた。

 

 

「それにそこまで凝るような趣味はないんでね。」

 

「勿体ない。響もやってみればいいのに。」

 

 

葉巻にへ異常なこだわりを見せる暁にそれを飄々と受け流す響。そこへひょっこりと人影が現れて二人へ声をかけた。

 

 

 

「二人ともここにいたのですか。」

 

 

「やあ、電。私たちに用かい?」

 

「あら、電。貴方も一服しに?」

 

 

「特に用というわけではないのです。急ぎの用事があるわけではないので付き合うのですよ。」

 

 

電が喫煙所のベンチに腰を下ろし、懐から一式を出す。そして刻み煙草を取り出してそれを煙管に乗せて火をつけようとしたが、響からライターを差し出されてそれに甘えることにした。

 

 

「ありがとうなのです。」

 

 

そしてその隣で響が新たな煙草に火をつけていた。

 

 

「響ちゃんはまだ紙巻煙草なのですか。お金の無駄じゃないのですか?」

 

 

「それほどでもないよ。精々一日に数本程度だから。ヘビースモーカーというわけではない。一箱や二箱馬鹿みたいに吸っているわけでもない、だから支出としてはあまり痛くはないんだ。そういう君はどうなんだい?正直労力と手間に比べて恩恵が見合ってないようにも見えるが。」

 

 

「その手間まで乙なものなのです。煙管を使う以上必ず必要になってくるものなのですからあとはそれを楽しめればいいのです。」

 

 

と、煙管を武士の握り方で持ってる電が言葉をつづけた。煙草の香りを楽しんでいるようだ。それは普通の紙巻と違うらしい。

 

 

「やっぱり電は分かってるわ…ひと手間あると美味しく感じるのよ。ただ享受されるだけじゃ面白みというものがないもの。」

 

 

一方、こちらも葉巻を吸っていた暁。見事な一人前のレディと関心するがどこもおかしくはないな。

 

 

「物臭で面白みがなくて悪かったね。そこまで凝り性じゃないんだ。」

 

 

響は別段責められてるわけではないが二人の仲間に引きずり込みそうな視線から避けていた。ぽろりと手の煙草から灰が崩れ落ちた。それを靴の裏で消すと響は吸殻を捨てた。

 

 

 

「そういえば、雷は?」

 

 

「今朝から見てないわね。」

 

 

思い出したような響の呟きに同調する暁。彼女たちの話題は現在、暁型の三番目へと移ったようだ。

 

 

「ああ…雷ちゃんならヤニと酒が切れたと言って朝から買い出しに出かけて行ったのです。事情を知らない司令官さんはなんだなんだっといった様子であわてていたようです。」

 

 

「ありのままの真実を伝えたのかい?」

 

 

「まさか、そこは雷ちゃんの名誉を守ったです。司令官さんには買い出しと伝えておいたのです。どこまで誤魔化せているかは知らないのですが。」

 

 

 

暁は今この場にはいない三女のことを思いながら煙を吐き、面白そうに言った。

 

 

「司令官もあの雷が煙草や酒を買いに行ったっていうのは想像もつかないでしょうねぇ。」

 

 

灰皿にカスを落としながら普段の素行からは全く想像つきやしないものと付け足した。

 

 

「なのです。でも雷ちゃんもそういう面があった方が人間的なのです。」

 

 

「同感だ。とはいえ私たちも見た目上からは想像もつきやしないだろう…覚えているかい?最初に喫煙所でばったりと出くわした時のことは。」

 

 

「覚えているですよ。大量の吸い殻の隣で喫煙する響ちゃんの姿を見た時は思わず叫びそうになったのです。」

 

「それはこちらも同じセリフさ。今までにない形相で煙管を持っている電の姿を見た時は思わず顔を顰めた。」

 

 

 

まああれのおかげでお互いがテイトクということを知れたと考えると今はこれでよかったのかもしれないねと、響は煙草を懐にしまうと今度はウイスキーの瓶を取り出しそのままその場で煽りだした。

 

 

「あの当時は私も夢を見ていたものだ。艦娘達はブラウザの向こうに居る私の理想のままの姿であるとね。」

 

 

「確かにそれは体のいい願望なのです。けどこんな状況ならば夢くらい見ても罰は当たらないのです。夢見ても裏切られるのは自分だけで済むのですから、至って健全な思いなのです。」

 

 

「だが、そう考えたら矛盾も良い所か…私は艦娘達が理想通りであると思い込んでいたというのに、当人である私も艦娘だ。だが、駆逐艦響は少なくとも私の理想とはかけ離れていた。理想通りであるならば私も完璧な駆逐艦であったはずだろうに、何たる矛盾か。」

 

 

「何を言ってるのですか。完璧な響だったら今の響ちゃんは存在しないのです。そんなに自分を殺したいのですか?」

 

 

「そういうわけではないが…他人に理想の姿を押し付けて、自分自身もその理想の対象であるというのに、ただ他人へ理想像を押し付けるというのはひどく矛盾を感じただけ…」

 

 

「何を言ってるのかわからないわ。」

 

響が突然悩みだしたのに暁は一蹴に伏した。そんなことなどどうでもいいと

 

 

「響は理想像を艦娘に求めてたんでしょうけど自分自身も艦娘だからその理想が適応されなければいけないって思ってるみたいだけど」

 

「分かってるじゃないか」

 

 

「黙って聞く。別に理想じゃなくても良いじゃない。そもそも理想なんて簡単に変わるものなんだから今の状態を理想とでも思い込んでおけばいいのよ。」

 

 

そうすれば変なことで悩まなくて済むでしょと、言えば響からウイスキーを強奪し、ぐびっと呑んだ。

 

 

「大体、夢なんて見ない方が楽よ、楽。今の私たちに理想の艦娘像と重ね合わせてみなさいよ。暁はこんな風に葉巻は吸わないし、電だって煙管を使って煙草を味わったりしない。でも目の前の私たちはどう? 葉巻を美味しそうに吸ってるわ。つまりこの状態で響の理想は砕かれたわけ。いいから大人しく目の前の状況を楽しみなさいよ。」

 

 

そのままさらにウイスキーをあおって呑む。

 

 

「…私のものなのだが。 確かに、暁の言うとおりに私の理想の艦娘像はこんな光景を見せられては粉々に打ち砕かれるというものだ。君の方が一枚上手だな。とはいえ、私はもう悩んでいるわけではない。悩んでないからウイスキーを返してくれ。」

 

 

「ふふん、それは出来ない相談よ!」

 

 

ウイスキーを持ったまま、暁は葉巻を懐へ素早くしまった。そしてそのまま喫煙室から逃亡した…その彼女を追って響も全力で追撃を始めた。

 

 

ただその場に残された電は思わずため息を吐いた。

 

 

「二人とも自由気ままなのです。さっきまで悩んでいたと思ったら今度は…」

 

 

ちょっと自由過ぎるのですと思わず愚痴のように零してしまい嫌になってしまう。だが、軽くでも悪態をつけるのは遠慮のない仲の証拠だと思うと気分は悪くなかった。ふぅと息を吐くとそれに応じて大気に煙が還っていく。暫く静かな時間が流れる。

 

 

 

 

「…ん?電か?」

 

 

背後から聞き覚えのある声がした。慌てて電は煙管を懐へ放り込んだ。

 

 

「し、司令官さん。見つけたのです。」

 

 

「自分を探してたのか?だったら悪かったな、変な手間をかけさせて。」

 

 

「だ、大丈夫なのです。こうやって見つかったのですから。」

 

 

「そうか。…でも悪いな、今失礼なこと考えてた。」

 

 

「失礼なこと、ですか?」

 

 

「いや、電が喫煙してるのかなんて思ってさ。そんなことあるわけがないってのに…なんか煙が見えたと思ったけど気のせいか。」

 

 

「そうなのです。電は煙草の煙があまり得意じゃないのです…ここにいると思って来たのですが会えてよかったのです。」

 

 

「ん、悪いな。先に一本吸ってからでいいか?」

 

 

「はい、問題ないのです。電のことはお気になさらずに。」

 

 

 

それじゃあお言葉に甘えて、と提督はそのまま喫煙所で煙草に火をつける。吸殻が捨ててあることを疑問に思ったが他の誰かだろうと結論付けてそのまま吸い始めた。その様子を電がじっと見ているので嫌でも視線が気になった。

 

 

 

「ど、どうしたんだ?」

 

 

「何でもないのです。ただ司令官さんを見ていたいだけなのです。」

 

 

「そうか…」

 

 

気恥ずかしいことを言われてしまいそれきり黙っていた。…場を打開するためのジョークとして提督はあえて電に煙草を向けてみた。

 

 

 

 

「電も吸ってみるか?な、なんてな。」

 

 

 

 

「紙巻は嫌いなので遠慮するのです。ごめんなさいなのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………えっ?」

 

 

 

 



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オコトワリであっても嫌いではない

「…これは、ケッコンカッコカリの指輪、ですか?」

 

 

山城は、執務室に呼び出されたと思ったら、渡されたものに愕然とした。間違いない、それはよく見るあの指輪だった。提督もそれを肯定するようにつづけた。

 

 

「うむ。正真正銘の本物だ。大本営から供給されてな、誰に渡そうかと考えた末だ。」

 

 

「…ですか。」

 

 

「…む、何か不快なことでも言ったか?」

 

 

「どうして…どうして私なのですか!姉様にも渡しているのに!」

 

 

山城、キレた。憧れである姉様に対して既にケッコン指輪を渡しているというのにこの期に及んで自分にまで渡すのはどういう了見だというような意味合いで山城はキレた。だがすぐに提督は合理的な説明をし始めた。

 

 

「ふむ、不逞な輩のように思われるのは某も心外だが…山城殿、其方の練度は今いくつだ?」

 

 

「いくつって…それは最高の九十九ですけど…あっ。」

 

 

「某の意図を察してくれて結構。知っての通りこの泊地に所属する戦艦は其方と扶桑殿だけだ。故に九十九という練度で留めさせておくわけにはいかぬ。そしてだが、練度の上限を上げる方法はこれ以外に存在しない。某が嫌いなことは別に構わぬがこればかりは受け取ってもらわねば困る。命令という形で出してもいいが…」

 

 

「んなっ!?それは、パワハラですよパワハラ!!!」

 

 

「其方ならばそう言うと思った。それに他人に強制させるのは此方としても本意ではない。どうしてもというほど某が憎いならば断わっても構わんがその場合更に扶桑殿には動いてもらわねばならぬ。」

 

 

「ぐぬぬ…姉様を引き合いに出すのは卑怯ですよ…!」

 

 

「だが某の言っている意味を理解できぬほど其方も物分かりが悪いわけでは無かろう。」

 

 

「ぬぐっ…それは…そうですが…」

 

 

山城にはそれがしっかりと分かっていた。というよりもこの男は正論しか言わないのだ。故に彼が歩むのは常に正道であり、王道。その彼を慕う艦娘は多い…だが、山城は複雑な胸中を抱かざるを得なかった。まずこのハーレム主人公のような体質の提督が同じ男(であったもの)として負けた気がしてならない。そして何しろ、尊敬してやまない姉とケッコンしておきながらそれかというのが一番気に食わない原因だった。

 

 

 

「というよりもこんな欠陥戦艦なんか選ばなくても…」

 

 

「欠陥であろうと戦艦は戦艦だ。この戦時中にそのような贅沢は言ってられぬ。それに…某は其方たち姉妹を欠陥だと思ったことは一度もない。」

 

 

「んなっ…」

 

 

「ともあれ、受け取ってもらえると助かるが返答は明日まで待とう。それまでに考えてもらえると此方としても手間が省ける。」

 

 

 

話はこれで終わりだ、後は好きにしてくれて構わないという提督の言葉を聞いて山城はとぼとぼと歩き始めた。…自分はこれからどうすればいいのだろうか、救いを求めるように山城は盲目的に姉の元を訪れていた。

 

 

 

 

「…あら、山城。私に何か用…みたいね。」

 

 

「扶桑姉様…」

 

 

救いを求めるように見上げる視線はいつになく困惑しているような気がした。扶桑はそれを察すると彼女を部屋へ誘い込んだ。

 

 

「上がって、話を聞いてあげるから。」

 

 

「…ありがとうございます、姉様。」

 

 

 

扶桑は山城を上げるとお茶を淹れた。そしてそれを呑みながら山城の様子は少しずつ落ち着いてきた。それを見て扶桑が切り出した。

 

 

 

「…少しは落ち着けたようね。大丈夫かしら、山城。」

 

 

「…はい、ありがとうございます。姉様。」

 

 

「貴方の悩みは…そうね、何となく分かるわ。」

 

 

「…へ?」

 

 

「提督に指輪を渡されたのでしょう?」

 

 

 

図星をつく扶桑の発言に山城は力なくうなずいた。

 

 

「…やはり、というのかしら。貴方の様子、あの時の私にそっくりだもの。」

 

 

「…あの時?…姉様が申し込まれた時ですか?」

 

 

「そうよ…困惑、少量の嫉妬、そして何よりもどこかで悪くないのではないかと思っていることに対しての動揺。あなたも、そう思っているのでしょう?」

 

 

「…はい。」

 

 

そして姉の言葉にうなずいたが聞き捨てならない言葉に思わず聞き返していた。

 

 

 

「し、嫉妬ですか!?」

 

 

「ええ、そうよ。…どこかであの提督を妬ましく思う気持ち、あなたにも覚えがあるでしょう?…こんなにも男としての格差を見せつけれらることの理不尽への嫉妬が。」

 

 

 

「ね…ね………ね、ねね、姉様  姉様も…姉様もなんですか!?」

 

 

「あら、ようやく気づいてくれたようね。」

 

 

「姉さまもテイトクなのですか!?」

 

 

驚きの声を思わず上げてしまった山城。それに扶桑は困った子ねとだけ笑っていた。

 

 

「そうよ、私も元はあなたと同じ。…ブラウザに引っ張り込まれてこちらの世界へ引きずり込まれた存在。ずっと気づくのを待っていたのだけれど…」

 

 

「…もしかして、姉様はずっと知っていましたか?」

 

 

「それは当然よ。」

 

 

「ど、どどどどっどうして…?」

 

 

 

「そうね…あれはまだあなたが着任して来てから一日しか経ってないときに自室にいた時に『おお…本当にでけぇ…乳の扶桑、尻の山城とは言ったものの山城も十分にでかいじゃん』というような呟きが聞こえた時に…」

 

 

「わーーーーわーーーーわーーーー!!!」

 

 

 

山城は声をあげてかき消した。よりにもよって聞かれてはいけない存在に聞かれてしまっていたようだ。そのことだけでも十二分に彼女を赤面させるには効果的だった。

 

 

「…とはいえ、貴方が言い出せなかったのは仕方ないと思うわ。私もあなたに告げる勇気はなかったもの。」

 

 

「…ぜぇ…いえ、姉様を責めはしません。見抜けなかった私も不覚なのですから…でも、姉様 その一つ聞いてもよろしくて?」

 

 

「…?構わないけれど?」

 

 

「姉さまは…その、提督とのケッコン…カッコカリといえど嫌ではなかったのですか?」

 

 

 

「そうね…」

 

 

 

扶桑は一瞬考え込むとそのまま山城へ語り掛けた。

 

 

「山城、提督は素晴らしい人よ。」

 

 

「…それは…そうですが。」

 

 

 

清廉潔白の人柄、自己犠牲も厭わない慈しみ、決して先入観を持たず接する実直さ…人としてこれほどまで良くできた存在を山城は知らなかった。仕事大好きなのだが玉に瑕だがそれは勤勉さという良さの裏返しでもある。だが、完璧すぎる故に苦手意識を持っていた。

 

 

「…なるほど、そういうことね。」

 

 

「…姉様?」

 

 

「山城、ちょっと付き合って…あなたにとっても有益なものを見せられるから。」

 

 

「ね、姉様?」

 

 

 

山城は扶桑に手を引かれるまま部屋を飛び出した。辿り着いたのは提督の仮眠室である。電気がついてることからまだ起きているはずだが…

 

 

 

「…こんな時間に誰だ?」

 

 

「提督、扶桑です。」

 

 

「…お前か、入ってくれ。」

 

 

がちゃりとドアを開けるとそこには部屋着に着替えようとしていたのかシャツの提督がいた。扶桑だけでなく山城までいることに意外な顔をしていた。

 

 

「…何故山城までそこに?」

 

 

「この子が誤解をしていたようなので、それを解いてあげたくて。」

 

 

そう言うと、提督はベッドにそのまま座った。山城は困惑した声を上げる

 

 

 

「…あの、姉様。何故提督の所に?」

 

 

「山城、あなたは提督の完璧すぎるところに少なからず苦手意識を持っているのでしょう?」

 

 

「…それは…まあ、そうですが…」

 

 

本人を前に言うのは歯切れが悪いらしく提督から目を逸らして山城は答えた。扶桑はそのまま提督の方を向き、言った。

 

 

 

「…ということです、提督。貴方はいつも気張り過ぎていると苦手意識を持たれているようですよ。」

 

 

「…む、そうか…どうにも自らを取り繕っている節があるようだ。」

 

 

「…今も取り繕ってますよ。…提督、飾らないあなたをこの子に見せてあげてください。」

 

 

山城は扶桑のやりとりに困惑した。提督は一度だけため息をしたがその後、明らかに異なる声音で告げた。

 

 

 

「ったく…あんま無茶言わないでくれよ、ネエちゃん。」

 

 

 

「…えっ?」

 

 

山城にとって提督は堅物で面白みのない男であった。

 

 

 

「そうさ、俺は提督っていうお役目上飾ってるのは否定しねえさ。けどな、あっちの俺だって確かに俺の一面さ。…けれどまあ、扶桑のネエちゃん。随分と無茶言ってくれるじゃねえか。」

 

 

 

だが、目の前のこのおどけたような様子の男は普段の一面からは考えれないほど親しみがわいた。

 

 

「そこは笑ってお流しください。…ねえ、山城。このように提督も決して話しにくい、接しにくいというような人ではないの。…ただ、意図して艦娘と距離を置いているようには思うけれど…」

 

 

完璧な人間などいないのだ、と扶桑は今ここで証明をしてくれた。この屈託のない笑みを浮かべる男は、あまり嫌悪感も忌避感も湧かないのだ。

 

 

「ん…まあそりゃあ情が移らないようにって意識はしてるな。いざっていう時に俺は艦娘を兵器として使い潰さなければいけねえ時が来るかもしれない。そん時の決断を出来るように覚悟を持っておかなきゃなっていう俺の勝手な気概だよ。」

 

 

この人にも脆い一面があるのかと思うと、山城は自然とその言葉を口にしていた。

 

 

「…私は……私は、提督もいい人だと思います。…姉様と同じくらい。感謝しています。」

 

 

「そりゃあ嬉しい評価だねぇ。扶桑のネエちゃんと同じくらいっていうのはまさに最高評価だろうよ。」

 

 

いつものしわ寄せがなく提督はひどく愛おしく思えて…

 

 

 

「それにね、山城。貴方が女の幸せをつかむことは何の問題もないのよ。」

 

 

「姉さま…ですが…私は…姉様を…」

 

 

「いい?…親愛と、情愛を混同してはダメよ、山城。」

 

 

 

「…親愛と情愛?」

 

 

 

姉は言外でこう告げた、あなたの扶桑への想いは親愛…決して恋愛の類ではないのだと。

 

 

 

「それに…ね、悪いことばかりではないの。」

 

 

「…姉様?」

 

 

赤面しながら視線を背けた扶桑に山城は首を傾げた。

 

 

 

 

「…その、夜戦は…提督は凄く上手だから…悪くない…いや、むしろあなたも病みつきになるはずだから…」

 

 

「姉さまの可憐な口から何て言葉が!!!!???」

 

 

 

ぽっと赤面している扶桑に山城は絶句した。普段貞淑な女性の顔は今は情欲に濡れたメスの顔をしていたからだ。

 

 

 

 

「…いいでしょう。」

 

 

 

「…扶桑のネエちゃん、いつもより山城の様子が怖えんだが。」

 

「…あ…申し訳ありません。変なスイッチを押してしまったみたいです…」

 

 

 

 

山城はがばっと服を脱ぎ捨てた。そして男らしく宣言した。

 

 

「私の事を満足させてください!提督…そうすれば…私は指輪を受け取ります!!!」

 

 

 

「…なんで、こうなったんだかね…」

 

 

提督は思わず頭を掻いた。変な対抗心を燃やした山城に対して扶桑は期待する目を向けていた。

 

 

「どうか…私のことも愛してくださいね…」

 

 

 

 

「…これ、眠れんのかね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女の体が気持ちよすぎるぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 

「あらあら…山城ったら生娘とは思えないほどの感じ方…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、約束は約束です!ケッコンカッコカリは受けます。けれどもあなたのことを認めたわけではありませんからね!」

 

 

「某も別に心の底から認めてもらおうなどとは思ってはいないが…だがそれでも山城殿と扶桑殿に相応しき男になれるようにこの場で誓おう。…何、嘘はつかぬ性分だ。」

 

 

「んなっ…!!!」

 

 

 

「あらあら、山城ったら真っ赤になっちゃって…」

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに提督のモデルは某右近衛大将です


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カミの駒

「…叢雲、ここに居たのか。」

 

 

ずしりとその場にいるだけで威圧されそうなほどの重圧の声が電算室に響いた。高雄はその声に振り返り、冷や汗を掻いた。一方、叢雲はやはり来たかとでも言わんばかりの顔で振りむいた。

 

 

 

「…司令官。」

 

 

「元帥…閣下。」

 

 

この男こそが、海軍の全ての上に君臨し、片手間で操れるほどの莫大な権力を持つ男…海軍元帥だ。そして、三十年前に呉鎮守府の提督だった男でもある。

 

 

「一応、人払いしていたつもりだったけれど。」

 

 

叢雲が言外になんでこんなところに来たというようなニュアンスで元帥へと言葉を向けた。…彼と対等に口を利く艦娘というのは世界探してもこの叢雲しかいないだろう。

 

 

「普通ならばお前の言葉に疑問を持つ者はいないだろうな。…護国の将として名高いお前の言葉に逆らおうとするものもいないはずだ。」

 

 

「ただ、一人…除いて、ね。」

 

 

 

かつかつと歩み寄ってくる元帥に対して叢雲は諦観にも似た感情を抱いた。間違いなくこの男は、三十年共に連れ添ったこの男はカミを揺さぶるのを止めようとしている。

 

 

 

「…海軍統合参謀本部採用電脳機…あれは、先代の海軍元帥が設立したものだった。」

 

 

「…知ってるわよ。私だって、あの人には…会ったことがあるし。」

 

 

二十年前に海軍元帥だった男。既に余命いくばくでありながら戦場に最後までたち続けたある意味気の毒な存在。

 

 

「これはいわばあの人が魂を売ってでも守り抜いたものだった…そう、私にはこれを守らねばならない理由があるのだよ。」

 

 

元帥はコンピュータージャングルを見下ろしながら、静かに背後の叢雲を見た。高雄はその威圧感に固まっている。…静かに叢雲が口を開いた。

 

 

 

「高雄、貴方には話したことはなかったわね…アレが担っている役割の事を。」

 

 

「…役割…ですか?」

 

 

叢雲も、高雄も同じく電脳機を見た。この地下室に山のように積みあがり、配線されたコンピュータージャングルはいくつかの生態装置を備えているのは見て取れた。元帥が漸く沈黙から移行して喋りだした。

 

 

 

「電脳機には役割がある。…どのようにすれば、深海棲艦との戦いに人間が勝てるかその最適な方法を演算し、それを実行する。…そして、その過程となる艦娘を作り出す。」

 

 

「…艦娘を?」

 

 

高雄の訝しげな声に叢雲が静かにやるせない気持ちを滲み出しながらも答えた。

 

 

「ねぇ、高雄。今まで艦娘の出自を考えたことはある?」

 

 

「………いいえ、ありません。」

 

 

 

「そうでしょうね。…私たちはそうやって私たちが存在することに疑問が抱かないようにプログラミングされてるんだから。」

 

 

「そうだ。艦娘は己の出自を気にしない。生まれながらに自分が艦船の転生体であることに疑問を抱きはしない。自分が深海棲艦との戦いに身を投じることに疑問を抱きはしない。」

 

 

「…何故。私たちには意志が、意思がある。しかし、ならば何故…」

 

 

 

「…そうやって考えないことが幸せだからよ。…存在意義を疑わないことが、楽だからよ。」

 

 

叢雲は、自分のアイデンティティなんて悩まない方が楽に決まっているのだからと告げた。…そして元帥が静かに語り始める。

 

 

「…そうだ、これこそがこの世界の真実。君たちという存在を生み出してしまったカミと我々の所業だ…」

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

 

例えば、深海棲艦の襲撃によって壊滅した島。そこには幾多もの死体が転がっている。中には瀕死なものもあるがそれは糸の切れるのが少し遅いだけですぐに周囲と同じ死体へと変わっていくだろう。

 

 

 

「パパ…ま…ま」

 

 

 

この少女も同じことだった。隣で事きれている両親に最後の力を振り絞り手を伸ばしているがそれもすぐに終わることになるだろう。…だが、運命というのはどうにも悪戯が過ぎるようだ。

 

 

 

「………ふぇあり…?」

 

 

 

彼女の意識を落とす最後の瞬間、目に映ったのは伝承にあるようなフェアリーだ。ふわふわと周囲を浮かび、まるで何かを祝福するように少女の周りを漂っていた。…そして、妖精は少女の体を掴むとそのまま漂いながらどこかへと運んでいった。…海を越えてそれは何処かへと運び込まれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まず、君たちが妖精さんと呼んでいるあの存在だがあれはカミにより使役された天使のようなものだと考えればいい。…あれは戦地に赴き、まだ年若い少女や女性の遺体を回収する。」

 

 

そして培養液に満たされている水槽を指さす。

 

 

「そして、あそこへ運び込む。」

 

 

緑色に満たされた液体の中は見えないが影があることから何かが入っていることは分かった。

 

 

 

 

「さて、高雄君。艦娘の出自とは何か…という先ほどの問いだが、君にとっての艦娘とはなんだ。」

 

 

「…かつての大戦で戦った艦船の記憶を持ち、艤装を使い深海棲艦を狩る存在と認知していますが。」

 

 

「そうだ。その通りに間違いない。君たちは深海棲艦に対抗するために生まれてきた。否、生み出されてきたとでも言うべきか…そう、電脳機に。」

 

 

 

そして元帥の視線はあの培養炉へと向けられていた。培養液が吸い取られて水槽の中にはその中に入っている人物を除いて空になった。

 

 

 

「…なっ…あれは…」

 

 

 

目を閉じて水槽の中にたたずむ女性…それは艦娘香取によく似ていた。

 

 

 

「そうよ、あれが艦娘の生まれ方…」

 

 

叢雲がいつみても嫌なものねと吐き捨てながら解説を続ける。

 

 

「艦娘には必要な素材が三つあるの。まず初めに、私たちが艦娘であることの由来となる艦の魂。次にそれが宿ることになる身体。そして、それを改造するための資材。各鎮守府で建造するけれどあれはここで製造された艦娘を転送してるに過ぎない…ってこと。」

 

 

「待ってください…その体は?その体はどのように用意されるのですか。」

 

 

 

「基本的には年若い少女とか女性とかね。…死体を使うのよ。まだ体の原型をとどめてるものを妖精が回収してあそこの培養炉に突っ込むの。それでまず体の修復から始まる。そして、身体に機能が戻ったのと同時に艦娘になるのよ…艤装が適合し、ちょっとやそっとじゃ死なない体になるように…」

 

 

高雄はもう発する言葉がなかった。…艦娘の体というのはどこからともなく生み出されるものではない…普通に考えれば確かに無からモノが生まれるのは異常だと思うだろう。だが、それを疑問に思うことは今まで一度もなかった。…それは艦娘でもテイトクでも同じことだった。

 

 

 

「それでは、元の体の意識というのは…」

 

 

「当然ないわ…死者の体だから魂がないものに魂を宿らせて動かしたというならばまだ聞こえはいいわ。…けれどそうじゃない。ねえ、司令官。」

 

 

 

叢雲は首を横に振ると沈黙していた元帥へと声をかけた。軽蔑の声音が大なり小なりとも含まれていた。

 

 

 

「ああ、そうだ。…基本的に艦娘の肉体には死体が使われている。だが、それだけではない。…身寄りのなくなった子供を海軍統合参謀本部が引き取るという名目のもとに、殺して艦娘にしている。」

 

 

 

「…そ…んな…」

 

 

 

高雄はこの世界に来てそれなりにさまざな経験をしていた。だが、今目の前で知らされている真実はそれを簡単に上回るものだった。

 

 

「…閣下は、それを知ってなお、止めようとはしなかったのですか。」

 

 

 

「…ああ、私はカミの意向に逆らいはしない。それが国のためなのだから。」

 

 

高雄はキッと元帥をにらみつけると、彼に向かって連装砲を向けた。そしてこの場ごと全てを吹き飛ばしてしまおうと引き金に指をかけた…が、それは横からの着弾に阻まれた。

 

 

 

「………叢雲さん…なんで…」

 

 

そこに居たのは目から光を失った状態で立ち尽くしている叢雲だった。彼女は高雄に向けて発砲し、そのまま蹴り飛ばしたのだった。

 

 

 

「もう一つ、教えておこう…艦娘は建造されるその段階で脳に対して薬物をつけて強烈な洗脳を施す。己が主を何でも守ろうという盲目的な忠誠心を持ち、そして提督へ絶対的な愛情を抱くようにと、そう設計されている。たとえそれがテイトクであろうとも同じことだ。」

 

 

 

叢雲は何も言わず彼の足元へ跪いた。それはまさに忠臣のそれといっても過言ではない。

 

 

「叢雲に自覚症状はない。だが、彼女には私に対して危害が及ばないようと強烈な暗示が施されている。そして、それが至上の喜びであると感じることもな。」

 

 

 

高雄にとって叢雲は尊敬する人物だった。彼女が先導し、あの戦を勝ち抜いた。彼女は戦乙女だった。数多の勇士を率い、その鎮魂を祈る立派な人物だった。

 

 

 

「普段は自由に動かせてはいたが彼女は君たちが何をしているか事細かに話してくれていたとも。それゆえに今回の事もこれほど簡単に制止が出来た。」

 

 

 

「…それを知って…何を。」

 

 

「君たちには悪いが、カミを壊させるわけにはいかない。この世界にはまだこれが必要だ。故に高雄君、それを実行に移そうとした君には洗浄を受けてもらわねばならない。」

 

 

 

高雄は意識が朦朧としてきた。光のない目で見つめる叢雲と目が合った。

 

 

「何、君は有効な戦力だ。殺すことはしない…ただ、次に目覚めた時に君は艦娘である高雄へなってるだけだ。」

 

 

 

 

 

「………やまと…」

 

 

 

そしてそのまま高雄は気を失った。元帥はコンピュータージャングルを見てかすかにだけ呟いた。

 

 

「…すべてはあなたのために。」

 

 

 

 

そして叢雲へ向き直る。

 

 

 

「よくやった。」

 

 

「いいえ…すべては司令官のために…」

 

 

虚ろな声音で叢雲はしゃべる。まるで意識などそこにないような人形のような状態だった。

 

 

 

「いや、誇るがいい。お前は私のために、私の理想のためによく働いてくれている。」

 

 

「…それが私の使命です。これからも私を使い潰してください。」

 

 

 

「…ああ、ならば彼女を洗浄機へと運んでくれ。そして、洗浄を実行せよ。」

 

 

「…はい。」

 

 

叢雲はそのまま高雄を抱えるとカミの中へ消えていった。そこに残ったのは元帥一人となった。

 

 

 

 

「いくらでも私を恨むといい。だがこれも全ては人類の勝利のためには欠かせないこと。…その憎まれ役程度いくらでも買って見せよう。」

 

 

 

 




洗脳は条件付けとでも思ってくさい

ガンスリタグ付けようか悩みはしたが義体とか直接的な関係はないのであくまで要素に留めておきました


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緩やかな死

後書きうざかったので修正


「ねぇ、提督。」

 

 

「どうした。」

 

 

「明日のあの作戦って、要するに私たちに死んで来いっていう命令よね。」

 

 

「まあ、そうなるな。」

 

 

「この泊地ももう私と提督だけだよね。」

 

 

「そうだな、他の艦娘は全員他の鎮守府に押し付けた。お前もそうするつもりだったが…」

 

 

「冗談。私を蔑ろになんて許さないわよ。」

 

 

「…お前ならそう言うと思ったよ。」

 

 

「ねぇ、提督…横須賀鎮守府がこっちに増援を送ってるのは知ってる?」

 

 

「ああ、横須賀だけじゃない。呉も、舞鶴も、佐世保も、他の泊地からも。…明日には着くんだろうな。」

 

 

「でもそれってこの泊地が壊滅してからだよね。」

 

 

「まあ、計算的にはそうなるな。」

 

 

 

 

「…逃げよっか。」

 

 

「は?」

 

 

「あんな大本営なんか当てにならないのはもう分かってることだし、私と提督で逃げようか。」

 

 

 

「お前、それでいいのか?」

 

 

「死ぬのは嫌だから。」

 

 

「それはそうだな。」

 

 

「それに…もう、戦いたくない。…もう、自分が削れるのは嫌だから。」

 

 

「…そうか。じゃあ、逃げるか。……葛城。」

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

艦娘は、深海棲艦と戦うために生み出されたものである。戦うことに疑問を持つ者はいなかった…ごくわずかの例外を除いて。

 

 

 

「あっつい…」

 

 

 

ミーンミーンミンミンミンミンミン…超が付くほど鬱陶しく蝉の声が響いている。彼女は扇風機の前でタンクトップに下着だけという軽装で涼んでいた。…畳の部屋で窓は全開という無防備ではあるが腕っ節で彼女にかなうものなどいないのだから問題はないだろう。

 

 

「…なーんでクーラーつけないのよぉ…」

 

 

 

この場にはいない彼に対して恨み言を吐きながら彼女は一人の畳の上をゴロゴロゴロゴロしていた。何かを思いついたのか和室にある机の上で彼女は不要紙で紙飛行機を折っていた。

 

 

「これって何だろう…流星?瑞雲?…それとも天山…?…まぁ何でもいっか。」

 

 

そして羽根の部分を折り終わると彼女はそのまま窓際に立った。右手にそれを持ち、風が追い風に変わったのを確信した瞬間にそれを思い切り、えいと投げた。

 

 

 

「おっ…よく飛ぶ。」

 

 

風に乗ったそれは空を飛び田んぼを自由に舞っていた。やがて風が向かい風になったのと同時に紙飛行機も急速旋回していった。投げた窓の方に戻って来たがやがてそれは力尽き家路へとついている男にへと直撃した。

 

 

 

「いだっ」

 

 

頭をツンとつつく感覚で振り返ればそこには紙飛行機が落ちていた。その出先を彼は察した。…というよりも使われていた紙が彼が使っていたものであるので犯人はその時点で一人であった。

 

 

 

「…葵、てめぇこの野郎!!!」

 

 

「ご、御免って!!」

 

 

 

慌てて短パンを履いた彼女は怒りの表情を浮かべた彼に追い掛け回された。…そんな様子を見ながら農作業にいそしんでいる老人たちは今日も仲が良いねぇと農作業に精を出していた。それはまだ夏盛りの暑い昼のこと。

 

 

 

 

 

 

「それで、何か言うことは。」

 

 

「ゴメンナサイ。」

 

 

彼女は死んだ魚の目で正座のまま謝罪した。彼はそんな彼女に対して顰め面をしていたがやがて固く結んでいた眉を解いて彼女の頭をポンポンと撫でた。

 

 

「…いや、暇させてた俺も悪かったな。ただなぁ…葵、一応この紙は外に出しちゃあんま良くないもんだが…」

 

 

「だったらなんで修司はゴミ箱に捨ててたのよ。」

 

 

「そりゃあゴミだからな。」

 

 

「大事なものならバラバラにしてから捨てた方がよくない?」

 

 

「めんどくせぇ。」

 

 

そしてその紙をくしゃくしゃと丸めるとポイっとゴミ箱へと放り込んだ。

 

 

 

「私には言うのに修司だけそーいうのは何か納得いかないんですケド。」

 

 

「読まれなきゃいーんだよ、読まれなきゃ。」

 

 

むすっという表情をしている彼女…葵とそんな彼女に対して投げやり的な返事を返す彼…修司。山奥の田園地帯のこの畳十二畳(キッチン、風呂付)で暮らす二人は周囲からは都会を捨てたカップルか、若夫婦のように見られている…が、この二人こそかつて陥落した鎮守府に最後まで残り死亡したというように伝えられていた元提督と、元艦娘だった。

 

 

 

「修司ー お腹すいた、作って。」

 

 

「…お前なぁ…少しは飯の作り方くらい…」

 

 

「私だって出来るけど…」

 

 

「簡単なものだけ、な。」

 

 

文句を言いつつも彼は台所に立つ。そして手にしているビニール袋から大根を取り出した。

 

 

「ん?…それって鈴木さんの所の?」

 

 

「ああ。この前収穫したってな。丁度いい時期だし今日はこいつを使おうと思ってな。」

 

 

「ふーん…」

 

 

手慣れた様子でざくっざくっと包丁で大根を両断していく彼の様子を見ていた葵だったがやがて飽きたのか畳に寝っ転がった。

 

 

 

「もう夕方だってのに…あっつい…」

 

 

「んな快適な環境の前でよく言うぜ…」

 

 

「でもあるの扇風機だけじゃん…クーラーはー?」

 

 

「この片田舎でそれを期待するだけ無駄だぜ…」

 

 

「…いや、分かってるけど。他の家もクーラーなんて上等なもの無いの知ってるから…でも欲しいー…」

 

 

ごろりと顔だけ彼の方に向けて言った。彼は料理している手元に目を向けながらも返答した。

 

 

「まあな、あの涼しさには何にも代えがたい魅力がある。」

 

 

「よねぇ…あの環境下ならアイスも溶けずに済んだのに…」

 

 

「…お前、まだ気にしてたんだな。」

 

 

昨日、畳へと消えていったアイスを恋しく思うように葵は畳の線を指でなぞっていた…外はヒグラシが鳴いていた。

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

「…提督、良かったのですか。」

 

 

 

鳳翔が提督へ身を預けながら聞いていた。

 

 

「何が、だ?」

 

 

「とぼけてもらわなくても結構です…葛城さんの事です。」

 

 

 

「…はて、それこそ何のことか。あの艦娘葛城は轟沈したというのは紛れもない事実だったではないか。」

 

 

「…そうですね。ですから私は葛城という名前を捨てた少女のことなどもう知りもしませんね。」

 

 

「ああ、そうだ。そして自分も最後までリンガ泊地に残り提督としての業務を全うし死んでいった彼に似た青年など知らぬとも。」

 

 

 

提督はライターをつけると共に封筒を燃やした。その封筒には…『リンガ泊地提督目撃についての報告書』と書かれていた。だが、それは無情に燃やし尽くされ残ったのはただの黒焦げになった灰だけである。…そしてそれを見届けた鳳翔はただ一言呟いた。

 

 

 

「…お幸せに…葛城さん…」

 

 

 

 

 

——————————————

 

 

 

 

 

 

「…ねぇ。」

 

 

「どうした?」

 

 

食後、そして入浴後。布団を敷いて二人は寝っ転がっていた。当然、この部屋の大きさでは敷けて一つだけなので相布団なのだが…その時の彼女はいつもと雰囲気が違った。

 

 

「あれから…どれくらい経ったっけ。」

 

 

「んーと…今日で丁度二年目か。」

 

 

「そっかぁ…もうそんなに経ってたんだね。」

 

 

「どうした。お前から急にそんな話をするなんて。」

 

 

 

葵はため息を吐くとぽつりと白状した。

 

 

「夢見たんだよね。…何にもすることなくただただ存在して結局何も出来ずに疎まれて、脚代わりに使われて最後には消えてく夢。」

 

 

「…それって。」

 

 

 

「…ええ…そうよ。空母葛城の夢。…何も出来ずにただただ消えていった可哀想な子の夢。けど、私は違うのよ。」

 

 

「…葵…いや、今ばかりは葛城って言った方がいいのか…?」

 

 

「ねぇ、提督。私っておかしな話よね。生まれた意味なんて一つだったのに、その意味さえ疑うなんて…。所詮私たちは深海棲艦のために生み出されたもの…なのに戦いたくないだなんて。」

 

 

 

ぽろぽろと涙がこぼれた。それもただの涙ではない赤い血涙。

 

 

 

「何も言うな。」

 

 

彼は彼女を強く抱き寄せてそのまま唇を重ね合わせた。驚いた彼女だったがやがて眼を閉じて深い接吻を受け入れる。舌と舌が絡み合い、お互いの唾液が交わり、息が切れて一度唇が離れるが糸が引いた。…そして再び熱いキスが交わされる。

 

 

 

 

「ふわぁ…」

 

 

「何も言うな。いいか、もう葛城なんて何処にも居ないんだ。だから戦う必要はない…ただ、俺と共に生きてくれ。」

 

 

 

「…そうね、そうよね。…ねえ修司。良い知らせともっと良い知らせ、どっちから聞きたい?」

 

 

 

 

「…そうだな、良い知らせからか。」

 

 

 

「ふふん…じゃあ良い知らせから…最近、ちょっと胸も大きくなったのよね。」

 

 

 

「…おい、待て。それって…!」

 

 

「…体が成長してるってこと…何か知らないけど歳を取る身体になったのよ。」

 

 

「…奇跡か…これは…」

 

 

 

彼はあまりにも嬉しくて涙が目じりに浮かんできた。そう、艦娘とは本来不老不死の存在だった。故に姿形は変わらないし、提督が歳を取っても艦娘は歳を取らなかった。だが、何の奇跡か…彼女は歳を取るようになった。

 

 

 

 

「…それで、もう一つ良い知らせっていうのは?」

 

 

「私…今日が危険日なんだよね。…それでね、そろそろ一人目が欲しいって思ってたの…だから、シない?」

 

 

 

彼女は布団の上でシャツをめくり、下着を見せた。見れば分かる明らかな誘惑だろう。

 

 

 

「…なぁこんなこと野暮だと思うんだけどさ。」

 

 

「何よ。」

 

 

 

「なんで『葵』なんだ?ずっと疑問に思ってたんだが…」

 

 

 

「そうね…それが私の名前だからよ。」

 

 

「名前?」

 

 

「艦娘になる前からずっと持ってる名前…ってそんなことはどうでもいいでしょう。それに修司もすっかりたってるし、早く始めましょ。」

 

 

 

「…それもそうか。…じゃあ、本気で産ませに行くからな。」

 

 

 

彼の男らしい発言に、葵は無言で頷き秘部を濡らしていた。

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

艦娘とは深海棲艦との闘いに作られた兵器である。

 

 

提督とは艦娘達を指揮して国を護るために育てられた兵士である。

 

 

 

彼らはどちらも消耗品…けれども戦いに疑問を持つ者は少なくともいた。だから、これはあるかもしれない関係の一つ。

 

 

テイトクとは他の艦娘よりも優れたうえで人柱にされた哀れな人たち。盲目的に提督を愛するようにと仕向けられた兵器であって人間。

 

 

 

そんな彼女たちにとってこの二人の関係が一番幸せなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

『あー、なになに?深海棲艦の残骸から死体回収した?じゃあ修復かけておいて。んでそっちは?あー、愛宕の建造終わったのね。じゃあいつも通り転送して。んで君は?…ああ、そういえばテイトクくん攫ったんだったね。じゃあいつも通りにぶっこんでおいて』




















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今ばかりは溺れましょう

こんな時間に書いていると眠くなるのが常定め何ですって


「提督、現在時刻マルゴーマルマルです。少々根を詰めすぎではないでしょうか。」

 

 

「自分だって詰めたくて詰めてるんじゃない。」

 

 

神威の問いかけに提督は嫌気のさした顔をしていた。だがそれも無理はない、今は朝の五時であり提督は夜通しで業務に取り組んできた。というかやらざるを得ないのだ。悲しいかな、それが軍人というものである。

 

 

 

「普通なら十時に切り上げてたはずの仕事をなんでこんな時間まで…」

 

 

「今回ばかりは不運だった、としか表しようがありませんね…先の横須賀鎮守府近海での大規模戦闘の際にここは増援を送らなかったのでそのしっぺ返しというような形で書類業務が…」

 

 

「こんななるんだったら形だけでも送っとけば良かった。でもどう考えても送る必要はねぇだろ。」

 

 

横須賀だけじゃなくて、呉に舞鶴、佐世保が送ったんだしという提督の愚痴を神威は苦笑して聞いていた。

 

 

 

「まあ向こうは向こうで後始末も大変だろうからそこはお互い様なのかねぇ…」

 

 

「そうですね、連日大変な様子を見かけます。戦後処理というのは毎度のことですが大変なものですね。」

 

 

 

そうこうと雑談をしているうちにも提督の手はひたすら書類へと続いていた。全ては次に楽をするために彼は今苦しんでいた。努力の方向性を間違えている気がしないでもないがその場を凌げるのならば問題はないだろう。

 

 

 

「こりゃあ、特別労働手当を貰わなければ割に合わんな…」

 

 

 

独り言で愚痴を漏らす提督。…神威は今でも時々思うことがある。彼とはそれなりに長い付き合いになって来たが何故この怠けたがる青年は提督になったのか…今までそれを聞いたことはなかった。だからこそ、彼女は今ここでそれを聞いてみたくなった。

 

 

 

「提督、つかぬ事をお伺いしてもよろしいでしょうか。」

 

 

 

「なんだー、差し支えないくらいなら答えるぞー。」

 

 

 

「提督はどのような経緯で提督になったのでしょうか。正直に申しますと自分から積極的になろうとは思えないのですが。」

 

 

「お前ストレートに言ってくるな…まあそうだよ、自分だってなろうなんて思ってなかったよ。けど今のご時世、戦時下だ。自分にも届いたんだよ、赤紙が。」

 

 

「…赤紙ですか?」

 

 

「そう、赤紙。まああだ名みたいなもんで正式名称は召喚書って言うんだがな。大本営に呼び出されてな、そこでお偉いさんに…つうか元帥に直談判だよ。あの時何かの貧乏くじでも引かされたんじゃないかって思ったぞ。」

 

 

「それは…また、何とも臭う話ですね。」

 

 

「まあな、けど恐れ多くもただの市井の人間がそんなこと言ってみろ、首がいくつあっても足りねえぞ。それからは簡単に事が進んでいった。適正アリと認められてから海軍学校に突っ込まれて、過程終えて、下級士官として前の提督の所に来て、前提督が退役して後継者に指名されてたらしい自分がこうやってこの席に座ってるんだよ。人から見ればエレベーター式の出世ってことで羨ましいっていうやつもいるけれどよ、自分はぶっちゃけ何もしてない。まるで決められたレールが勝手に動いて着いた目的地がここっていうか…まるで自分が提督になるのが決めれらてるみたいで少し不気味だな。」

 

 

いつの間にかペンを止めていた提督は少々考え込んでいた。その片手でペンが回っている、これは彼が熟考している証拠だと神威は知っていた。

 

 

 

「提督は、その不気味な席に何故?」

 

 

「おいおい…話の流れから察してくれよ…まあ、知ったら一生を海軍に使うしか許されないような秘密を知ったからやめようにもやめれないんだよ…やめたらいつか自分の溺死体が浮いてると思った方がいいぜ。」

 

 

ぶるっと神威は寒気を感じ身震いをした。提督の声音は冗談のそれではなく本気でそうなると確信している顔だった。彼が海軍をやめて民間に戻れば何者かによりその口を塞がれることを提督は予感していた。

 

 

 

「おっと、これ以上は口が滑っても言えやしない。この話はここで諦めてくれ。」

 

 

 

そして提督は牽制をしてきた。ここから先を知ってもお互い良いことはないとそう忠告をしてきた。それを察した神威は大人しくその身を退くことにした。だがその前に一つだけわざと聞こえるような声の大きさでの独り言を漏らしたのだった。

 

 

 

「元帥が言ってたカミが選んだっていうのはどういう意味かねぇ…あの人は無神論者だと思ったんだがな…」

 

 

 

それから提督は黙々と書類を潰していく作業に従事していた。神威もあれきり話すのも気まずくなり、黙り込んでしまった。提督から声をかけることもなく執務室には気まずい重い沈黙が支配していた。あとどれだけこの沈黙が続くのだろう。神威は居心地が悪かった。…とはいえ秘書艦なので傍に控えるのは半ば義務。彼が作業を終えるまで神威は一つの考察を導いていた。

 

 

 

(…おそらく、提督を選んだのも海軍統合参謀本部採用電脳機…カミであるはず。カミが提督を選び…テイトクと引き合わせた…何故。)

 

 

 

その疑問が彼女の心を掴んで離さなかったのだ。テイトクが出会う提督は十人十色だ。壮年の提督もいれば女性の提督も、そしてまだ歳若い少年の年齢の提督もいる。提督の選ばれる基準は妖精さんが見れることと聞くがそれは建前なのではないだろうか…神威の脳内にいくつもの考えが巡っていく。どれも鳳翔に届けておきたい情報だがまだ業務中、また確信もないために今は彼女の胸の中に仕舞われている。

 

 

 

「だぁ…終わったぁ。」

 

 

 

彼女の思考が打ち切られた。あくまでも優先度は提督が高い。

 

 

「お疲れ様です。現在時刻、マルロクマルマル…もう朝ですね。」

 

 

「結局完徹か…とりあえず自分は寝る。神威はどうする?」

 

 

「私ですか?私はまだ動けると思いますが…」

 

神威はそれほど疲労は溜まっていないように見える。けれども提督は何かを思いついたような顔にへとなった。

 

 

 

「神威、知っての通り今日は非番だよな?」

 

 

「はい、そうですね。所属艦娘達にもそのように暇をつたえていますが…」

 

 

「で、緊急で入った書類を終わったわけだ。ということは今の自分はもう何しようと自由だよな?」

 

 

「はい、問題ないかと。義務は果たしたはずですので…」

 

 

「それで、神威 お前のこれからの予定は?」

 

 

「いえ、特にはありませんが…私も仮眠しようかと思いましたが。」

 

 

よしっと提督はちょっとしたガッツポーズをした。その行為に神威の疑問は更に加速する。頭の上にいくつか疑問符が浮かんでいそうだ。

 

 

 

 

「…提督?」

 

 

「神威、自分はすぐにでも寝たいくらいには眠い。だからその安眠へと協力してくれ。」

 

 

 

「はぁ、構いませんが私は何をすれば…」

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

 

「…で、結局こうですか。」

 

 

神威は衣服をはだけさせながら呆れたような口調で彼女の乳房に顔をうずめている提督へ言った。

 

 

 

「ああ、この柔らかさには何事にも代えがたい…」

 

 

 

一方で提督は惚けた声音である。そう、彼は大きな胸が大好きなのである。けれども表立って手を出す勇気はないヘタレであった。…数か月前に神威が添い寝を申し出たことにより今も時々調子に乗った彼が神威を抱き枕にして寝ていた。

 

 

 

 

「…あの…提督…ちょっとむず痒いのですが…」

 

 

 

顔を赤く染めた神威が堪能している提督に控えめに申し出た。

 

 

 

「…悪い、どうにも気が昂ってるみたいだな…」

 

 

少しは落ち着いたのかやがて体から手を離した。そして神威へと謝罪の言葉を口にした。

 

 

「こんなことに付き合わせて悪かった。正直気安く触れすぎたと思ってる…もう、やらないから安心してくれ。」

 

 

 

気まずそうに彼は目を逸らした。断れない性格に付け込んでしまったと彼なりの葛藤があったようだ。…そして神威はそのまま提督の顔を自分の胸に抱き寄せた。

 

 

「あのー、神威さん?」

 

 

「もう…提督ったら何事にも早まり過ぎですよ…私は別に嫌ではないんです」

 

 

何故だろうか、といつか神威は思った。何故、神威は提督へと、この男へとこのような好意の感情を向けているのだろうか。神威は自分が自分で無くなっていく感覚に吐き気を覚えた。そして自分が壊れていくことを自覚して恐怖を覚えた。

 

 

けれどもそれは時間の問題だった。たとえ、提督を愛するように、好きになるように、好意を向けるように…そうなるのが予め決められていたことであっても沸き上がる感情というものはもう生まれて来た時点で彼女のモノだった。理性でどれほど不気味がっても感情は抑えられない。彼が愛おしくてたまらないように思うには時間もかからなかった。けれどもその自分をどこかで冷ややかに見つめる自分がいた。その自分は今の自分を侮蔑している。

 

 

彼女はひどく矛盾を抱えている。

 

 

 

「…神威?」

 

 

「何でもありません…けれども提督、あなたにこうやって甘えれるのは私はとても嬉しいんですよ?」

 

 

 

この感情が嘘偽りのモノであっても神威にとってはその身から溢れて来た変えようもない本物なのだ。だから彼女の矛盾は加速する。自分がもはや何かも分からなくなってきた…混乱する、脳が、頭が悲鳴を上げて激しい偏頭痛が彼女を襲う。けれどもそれからは逃れるすべは目の前にあった。

 

 

 

「…神威。言っておくけれど自分は怠け者だぞ、それに助平だし…」

 

 

「いいんです。そんな提督も全て含めて提督なんです。私は全ての提督を受け入れたいんです。」

 

 

「…神威…お前は…なんていう包容力の持ち主なんだ…」

 

 

 

——————違う ワタシハチガウ。ワタシハイマスグアナタニウケイレテモライタイダケダ

 

 

 

「…それにもう収まりを付かなくなっていますよね?」

 

 

「…まぁ…な。」

 

 

下半身に当たる存在に彼女は心当たりがあった。提督も言い逃れ出来ないと観念した。

 

 

 

「私を抱いてください、提督。」

 

 

 

「…ああ、光栄なことだよ、本当に…」

 

 

 

あの苦しみから、矛盾から、全てから逃れられる方法は一つ、この想いを本物にしてしまえばいい。

 

 

 

 

……今ばかりはこの甘美な快楽に溺れましょう

 

 

 

 




彼女たちは矛盾から逃れるため、愛欲へ走る


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やさしいせかい

やさいせいかつ


普通、こういう状況っていうのは無双するようなものだと元の世界じゃ相場は決まってたよな

 

 

 

それで、自分の前に敵はなくて、圧倒的な力で立ち塞がる悪を、敵を打ち倒して…そして味方に称えられて、評価されて、王道を進んでいく

 

 

 

そういう作風が圧倒的に多かった。そっちの方が見ていてすっきりするかは分からないがそのヒーローに自己投影すれば自分が賞賛されてる気分になれた。むしろ嫌われてたり、恐れられてるのを好き好んでやる人間ってのはあまり多くないと思う。自分でもやっぱりヒーローにはなりたいもんだ。悪役は見る分にはいいかもしれんがなってみるとたまったものではない。

 

 

 

だから、自分は間違いなくヒーローになるのだと、そう確信していた。数多くの勝利を重ね、自分こそがこの世界を救うカギとなり、最後には優しい世界にへとなり、この自分の功績こそが讃えられるのだと…本気でそう信じていた。

 

 

それが過信であるとは疑いもせずな。

 

 

 

 

 

 

 

「___さん!背後です!!!魚雷が!!!」

 

 

 

こういうピンチの時に、ヒーローは覚醒するものだ。超人的な能力や才能に目覚めてその圧倒的な力で脅威を退ける。そしてそれを機に味方が勢いづき、形勢が逆転する。それが物語の王道だ。…思えば人生だって物語みたいなものではある。

 

 

 

けれど、だったら、何故彼女はボロボロになっていたか。何故彼女の存在しているはずの腕は無くなっていたのか。そして、何故彼女は海の底へ沈んでいったのか。

 

 

 

「…わたしはどじで、まぬけで…どうしようもなく足を引っ張りますけれど…こういう時には役に立てて良かったです。」

 

 

 

おい、やめろ。これは悪い夢なんだろう?…悪趣味な夢だよ、本当に。自分を困らせようなんてひでぇ話だ。そもそも自分がこんな非現実的な状況に置かれているわけないだろう。こんなのは夢だ、夢に決まってるんだ。夢なんだろ?早く覚めてくれよ、いつまでもこんな夢を見せられるのは御免だよ。ああ、もう何してんだ、良い加減に目を覚ませ、もうこんな夢なんて見てる必要なんかないんだよ。

 

 

…チクショウ

 

 

 

 

「潮のことを、どうか覚えていてくださいね。」

 

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

 

がばりと、カレは目覚めた。掛布団をはねのけたカレはひどく寝汗を掻いていた。

 

 

 

「…目が覚めたか?」

 

 

 

同じ部屋の、机にいる人物から聞こえる声。…そんな男性の声にカレはぶっきらぼうに答えた。

 

 

 

「…ああ、起きたよ。」

 

 

「随分とうなされてるようだったが、悪い夢でも見たのか?」

 

 

「…とびっきりの悪夢をな…今も夢を見てる気分だ…最悪の悪夢を。」

 

 

 

ふぅとカレはため息を吐いた。そして彼に向かって謝罪の言葉を述べた。

 

 

 

「悪かったな、勝手に寝てて。オレはお前の補佐だっていうのに。」

 

 

「気にするな。どうせ仕事をするのは此方だ。結局は形だけでしかないからな。」

 

 

「…分かってても面と向かって言われると腹立つ。」

 

 

「だったら私の代わりにやるか?」

 

 

 

「…遠慮する。」

 

 

ぐうの音も出ないというカレは、机の方の彼を向く。相も変わらず面白みのない男だった。口を開けば飛び出すのは皮肉なのはご愛敬なのだろうか。とはいえカレが彼の役に立ててないのは事実であってカレも強くは言い返せない。

 

 

 

「まあ冗談だがな。代わるなど死んでも言わん。驚くほど作業効率が落ちるからな。」

 

 

「…面と向かって言うな。結構オレだって気にしてんだ。」

 

 

ソファーから飛び起きたカレはふぁあとあくびをして体中を伸ばすように腕を天井に向けて背伸びした。だらしなさここに極まれり。

 

 

 

「目が覚めたなら飯食ってこい。お前のことだ、どうせ腹をすかしていることだろう。」

 

 

 

「……お前は本当に無礼だな。」

 

 

「素直な性分だからな。」

 

 

 

ホントいけ好かないやつ、と負け惜しみにも似た言葉を言いカレは部屋から出て行ってしまった。残ったのは彼だけである。…彼、提督はその閉まったドアをずっとにらみ見ていた。いつも以上に眼光が研ぎ澄まされていた。

 

 

 

「お前はまだあの時のことを刻み込んでいるということだな…」

 

 

寝言くらい何とかしてくれという呟きは誰にも届きはしなかった。

 

 

 

 

—————————————————

 

 

 

そうだった、オレは長い夢を見ている。覚めることのない夢を。呼吸をして、食事をして、痛みを感じることが出来る夢を。

 

 

いつまでこんな夢を見ているのだろうか。まあ見ているだけならば楽しいもんだが。実際にずっと覚めない夢だとそれは苦痛であり悪夢でしかないのは語るまでもないことだ。もっとも当人しかわからねぇ話だが。

 

 

 

オレは夢の中で一日を過ごす。夢の中で寝て、起きて、飯を食って、遊んだり、夢の中の住人と話したり。夢ならば何でも思い通りの筈だが誰かが見せてでもしてんのか自分の思い通りにはならない。

 

 

けれどもそういう夢っていうのは結構新鮮味があって面白い。機械的な言動ではつまらないだけで意外性もない夢っていうのはあまり重宝しない。というよりもオレはそんなものはいらないと断じる。だからこの夢の世界は結構刺激的である。

 

 

刺激的すぎてまいっちまうこともあるがそれはそれ。なんだかんだで上手く行くので深くは考えてはない。オレは夢の中ではヒーローだ。敵を打ち倒し、その能力を讃えられて、最初から困難なんてない。

 

 

そう、オレは皆から誉め立てられるのだ…そういうのは好きでこの状況も悪くないと思ってはいる。

 

 

 

 

「…しなさいよ」

 

 

そう、オレは称えられている。その強さに限りはなく、ミスなど一つもない。完璧無比であるのだ。

 

 

 

「返しなさいよ!!!潮を!!!」

 

 

 

夢の中とはいえ美少女に褒められるのは嬉しいことだ。自分の欲を自分で満たすというある意味究極の自給自足であるが。ちょっとしたはねっかえりも長い目で見ればいいものだ。夢の中でツンデレと言うのはダレトクと思わんでもないが。

 

 

 

「…あんたのせいで…」

 

 

 

 

そう、オレはみんなの、この世界のヒーローだ。ヒーローなんだ。ヒーローでないはずがないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『どんくさいけれど、やっぱりわたし、艦娘であることは誇りに思ってるんです。こうやって深海棲艦と戦って、皆さんを守っていると思うと、こんなわたしでも守れるんだ…ってそう思うんです』

 

 

 

…それは立派な話だよな。

 

 

 

『__さんも、誰かを守りたいと思いますか?』

 

 

そりゃあ守りたいものくらいはある。けれどもオレにはできない…そういうことは艦娘に任せるしかないからな。

 

 

 

『じゃあ、___さんって何なんでしょうか?』

 

 

 

…決まってるだろ、それは…オレは…

 

 

 

『…どうして、自分を認めようとはしないんですか?』

 

 

うるさい、これは夢だ。こんな非現実的なことは夢でしかないんだ。オレがこんなありえないことになるはずが無い。夢でしかないんだ、これは夢なんだ。夢なんだから早く起きてしまえ。オレは気は長くないんだ。

 

 

 

『__さん…』

 

 

 

そいつは癇癪を起こすオレを蔑むのでもなく憐れむのでもなく、ただただ、心配そうに眼を向けて来た。周りの奴らが呆れる中でそいつだけはオレと話そうとするのをやめはしなかった。けれどそれも夢が作り出したものだったはずだ。

 

 

 

 

 

『__さん。あなたがこの手紙を読んでくれていることを願って書いています。厳しい戦いであることは自覚していますがわたしは思わずにはいられません。__さんのいっていることを現実逃避と笑う人もいますが、わたしは一概に嘘とも思えないんです。まるで本当に___さんが化かされたような顔をしていたのを忘れられません。…けれども、経緯はどうであれわたしはこの世界こそが現実であって存在しているんです。…もしもわたしがいなくなって少しでも痛みを感じてくれているのでしたらここは多分あなたにとってもの現実であるとは思います。夢か現実か、その決着がつく日が来ることを祈っています』

 

 

 

 

馬鹿な奴だ。こんなことで痛むはずもないというのに

 

 

 

でも、だったら何故オレの手は震えているか、何故オレは目から生暖かいものを流しているのか。何故オレはこの手紙を取り落としそうになったのか。そして何故こんなにも胸が痛んでいるのか。

 

 

 

いや、答えは出ている。けれども認めたくなかった。認めたら何かが壊れそうなんだ、オレが崩れてしまいそうだったんだ。なあオレはお前なんかに顔向けできるはずが無いんだ。

 

 

 

 

『けれども…やっぱりあなたはわたしの憧れですよ。』

 

 

オレが格好つけてただけでもか?

 

 

『格好つけていただけであってもそれを格好良く見せれるのはもう、一つの才能だと思います。…だから、憧れなんです。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャリと扉が開いた。そこにいたのは提督だった。

 

 

 

「…入るぞ…どうした?」

 

 

 

「…何でもない。」

 

 

カレは袖で瞳をぬぐうといつもと変わらない毅然とした態度で提督に臨む。

 

 

 

「なんか、いつもと違う雰囲気になったな。」

 

 

 

「そんなことを言いに来たわけではないだろうが、用件を言え。」

 

 

「それは失礼。…なあ、昔を覚えているか?いつか、お前が夢だと騒いでいた頃を。」

 

 

 

「…覚えているが言ってくれるな。」

 

 

 

「あれから私はその意味を考えていた。けれどもその答えを持つことは出来なかった。あくまで抽象的すぎたからな。けれども今ならばこの問いをすることが出来る気がする。」

 

 

 

提督はカレを正面に見据えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢からは覚めたか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                     天龍。」

 

 

 

「…ああ、覚めたよ。冷や水ぶっかけられて目覚めさせられた最悪の寝覚めだよ。」

 

 

 

そして彼女は何事にも恐れない笑いを浮かべ、大胆不敵に笑った。

 

 

 

 

 

「オレは天龍様だ。さっさと深海棲艦をぶっ潰して夢の続きでも見ることにするからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テイトクの中には自らの視界に映るものを夢だと言い張る存在もいる。けれども彼らはやがて気が付くだろう。ここが夢のやさしいせかいではないことに。そして痛みを知って彼女たちへとシフトしていく。それが、破滅の進歩であってしても。

 

 

 

 

 

 

 

——————そうだ、オレは天龍。お前の憧れた強い艦娘天龍だ。…天龍でなければならねえといけねぇんだ

 



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拗らせた結果

シリアスは投げ捨てるもの


テイトクは始め、自分の気持ちに大きく戸惑うことになる。そうだろう、男だった人物が男へと明確な好意を抱いているということだけでも大変な困惑を封じ込めている。そこから二つに発展する、気持ちを受け入れ艦娘としての運命を受け入れるか、往生際悪く認めたがらないか、そのどちらかである。

 

 

だがまれにそのどちらでもなく、深く思い悩みその結果を拗らせてしまったものもいる。稀によくあることで厄介なことに彼女たちは惹かれ合うのだった…

 

 

 

さてその前にここで一つ確認しておかねばならないことがある。ジュウコンという意味は確認するまでもないが皆が周知の事実だろう。複数の女と婚姻を結ぶことである。ケッコンカッコカリを複数する場合はジュウコンカッコカリとなる。確かにジュウコンは戦術的優位性を見出せる。ケッコンカッコカリはそもそもすることでの恩恵が…だが、提督は知ることとなる。その愛というものを…愛の重さを…

 

 

 

 

 

意識が朦朧としているのを提督は自覚した。酩酊状態にも似たような感じで、ふらふらと視界が定まらない。まるで世界が百八十度回転しているようで地面が安定しているとは思えなかった。やがて、少しずつ視界がはっきりとしていく。そして漸く自分が椅子に座っていて、部屋は真っ暗で、そして縛り付けられていたことに気が付いた。少しばかり頭痛を覚えるのを抑えて彼は混乱状態の頭を落ち着かせようとする。

 

 

 

何とか、記憶を遡っていく。

 

 

そうだ、自分はみんなと呑んでいたはずだ。…頭が痛いのは二日酔いのせいか…だが何故縛られている…誰が。

 

 

それに股間が熱い。今にも突き破りそうなほど単装砲が燃えかけている。そんな彼に声がかけれらる。

 

 

 

「やあ、提督。目が覚めたかな。」

 

 

 

彼はその声の主に心当たりがあった。いつも自分の傍で自分の補佐をしてくれている最も身近な艦娘の一人だった。

 

 

 

「…時雨?」

 

 

 

「うん?どうしたんだい、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をして。」

 

 

彼女の気さくに接してくる様子に変化は見られない。けれども、全くもって目に光がないのを彼は見てしまった。まるで時雨は縛られているのが当然の様子でぐるぐると彼の周りを周っている。

 

 

 

「…時雨、何故オレは縛られているんだ?」

 

 

「ああ、ここに運ぶときに無自覚なのかは分からないけれど少し暴れられてね、悪いとは思ったけれども拘束させてもらったよ。大丈夫、すぐに解くから。」

 

 

そして彼女は言葉通りに彼の腕と足を縛っていた縄を普通に解いた。そして、提督の手を引きながら歩く。そんな彼女の様子に一抹の不安を覚えたのか提督は恐る恐る尋ねた。

 

 

「し、時雨…どこに行こうとしてるんだ?」

 

 

「どこ?…ああ、そうだ。その前に一つだけ、僕の頼みを聞いてほしいんだ。」

 

 

「頼み?」

 

 

「いつぞやに僕がMVPを取った時に提督は僕に望みの物はないかって聞いたとき、保留にしたことがあったよね。」

 

 

「ん?…ああ、確かにあったけれどもそれがどうかしたのか。」

 

 

提督は冷や汗を流す。この雰囲気から何となくその先を察してしまうのだった。けれども万が一にでもの可能性がある。彼はその一縷の望みにかけて天に祈った。どうか自分の思い違いであってくれますようにと、そんな彼の様子をつゆ知らず話している。

 

 

「あれから考えてみたけれども、うん…漸く決まったんだ。褒章とかも考えてみたけれども持ってても大した意味がないからね、だからしっかりと形の残るものが欲しいんだ。」

 

 

 

「…か、形の残るもの?なんだ、一体…」

 

 

 

そして恐怖は現実のものとなる…

 

 

 

「うん、僕は提督に感謝しているんだ。お世辞にも僕は普通の時雨とは言えないね。」

 

 

提督にはそれだけの心当たりがあった。以前はちょっとしたことで癇癪を起こしたり、他者へ八つ当たりしたり、自分は人間で男なんだと、叫んでいたこともあった。提督は彼女に厳しく叱りながらも決して見捨てず最近では漸く落ち着くようになったと安心していたところだった。

 

 

 

「長い目で見て接してくれたのはありがたかったよ。おかげで僕は落ち着いて自分を整理できる時間が得られたからね。さて、提督…僕が君に欲しいものはあんまり難しいことじゃない。」

 

 

 

「お、おい…時雨?目が怖いぞ…」

 

 

そして辿り着いた部屋のドアに彼女は手をかけた。そこは提督もよくお世話になっている仮眠室だった。

 

 

 

「ははは、そう警戒しないでよ。僕の望みは単純明快だから。僕たちは兵器だからね、いつ死んでもおかしくないししっかりと形を残せるものが欲しいんだ。」

 

 

そして時雨は部屋のベッドに提督を座らせると、シュルシュルと自分の服を脱ぎ捨てあっという間に下着姿を晒した。

 

 

 

「お、おい…時雨さん?」

 

 

 

「提督、目を逸らさずに。」

 

 

何か強制力さえ感じる彼女の言葉に逆らえず彼はおそるおそる時雨を見た。それは実に勝負下着と呼べるものだった。

 

 

 

「僕が望むことはね、提督との赤ちゃんだよ。提督の主砲で僕に直撃弾を撃って欲しいんだ。」

 

 

超が付くほどド直球な言葉に提督は何となく予感していたからこそ質が悪いというような表情をした。けれども時雨の顔は歓喜にまみれていた。

 

 

 

「それに提督のソコだってもう我慢できないでしょ?…ああ、夢みたいだよ。提督の子供を産めるなんて…」

 

 

「おま…じゃあ、これおかしいと思ったのはお前のせいか。」

 

 

時雨はテントを張ったズボンを指している。この異常も彼女の仕業らしい。

 

 

「うん、一服盛らせてもらったよ。何せ、妊娠するまで出してほしいからね。少しでも回数は多い方がいい。」

 

 

 

時雨の言葉通り、彼は苦しそうだ。すぐに楽にしてあげるよと言い、提督に密着した時雨。

 

 

 

「僕はもう我慢するつもりはないよ。本気の子作りをしようか。」

 

 

 

彼も我慢の限界に達したのか、その甘言に乗ろうとしていた。これで合意が出来た、と笑った時雨は今にでも孕ませられていることを期待しているようだった。

 

 

 

「ほら、僕を欲望のままに孕ませて。」

 

 

「しぐ…」

 

 

 

「そのセックス!少し待ってもらいましょうか!!」

 

 

バーンと扉を蹴破って入って来たのは意外な人物だった。

 

 

 

「は、榛名!?」

 

 

提督は驚愕するとともに時雨は超が付くほど不機嫌そうな顔で舌打ちをした。邪魔をするなと言わんばかりの顔だった。ただ、それで提督は理性を取り戻したのかある意味救いの手だった。つかつかといつもの御淑やかな彼女からは想像もつかないほど力強く勇ましい歩みで榛名は詰め寄って来た。

 

 

 

「そのような不逞、カミが許してもこの榛名が許しません!!」

 

 

おお、さすが委員長気質…この状況では頼もしい限りだ、と提督は内心歓喜する。背徳に手を染めそうになったが何とか踏みとどまったのだ、彼は。そして目の前の榛名こそがこの場を脱する鍵であると確信したのだった。

 

 

 

「なに、僕の邪魔をしようって言うの?いくら榛名でもそれはさせないけど。」

 

 

「時雨、あなたとは同志だと思っていました。同じくカミに対抗するための同志と思っていて油断しました…まさか、貴方が提督に迫るとは。」

 

 

 

「我慢は体に毒と言ったのは君じゃないか。その助言に従ったまでだよ。だからこうやって提督に赤ちゃんをおねだりしに来たんだから。」

 

 

 

「そのようなこと、榛名は断じて認めません。」

 

 

白熱する口論、提督はこっそり戦略的撤退をしようとしていた。

 

 

 

「ねぇ、提督」

 

 

「お待ちください、提督。」

 

 

言い争っていたはずの榛名と時雨がぴったりとタイミングを合わせて提督を呼び止めた。まるで打ち合わせたかのように。その声に反応して提督の動きが止まった。錆びた機械のようにギギギと首を動かして後ろを見た。

 

 

 

 

 

「時雨、一つ言っておきます。提督との子を一番最初に孕むのは榛名です。提督の童貞を貰うのも榛名なんです。一番初めての人になるのは榛名なんです!!」

 

 

あるぇー?あるぇー? 提督は変な声が出た。まともな筈の榛名さんから漏れ出た言葉は時雨と大差なかった。

 

 

 

「一番は譲れないかなー、提督の子を一番最初に産むのは僕だよ、一番であることに意味があるんだよ。君だって分かるだろう?」

 

 

「ええ、分かります。分かるからこそ譲りはしないのです。時雨、私が提督を治めます。退いてください、友を撃ちたくはありません。」

 

 

「思いあがるな、アマが。オレはお前を殺すことに躊躇いなんてない。甘い覚悟で臨んでると死ぬよ。」

 

 

 

一転、ドスの聞いた声が時雨から漏れた。提督もその声を聴くだけでもう震えあがりそうだった。

 

 

 

「そうですか、そうですか…じゃあこっちも手段は選んでる暇はねぇな。ああ、損害を出すのは本意でもないから、とりあえず半殺しで良いか。身の程を弁えろよ、駆逐艦が。」

 

 

 

「ほざけ、図体ばかりの戦艦が。」

 

 

 

そこはシュラバヤ海戦。殺気が普通の人間である提督を殺しそうになっているのだった。

 

 

 

 

 

 

「司令官、司令官。」

 

 

そんな彼に真の救いの手が。出口から手招きするのは私の母になってくれたかもしれない雷だった。

 

 

「い、雷…!」

 

 

「もっと私を頼ってくれてもいいのよ。」

 

 

静かに抱擁してくる雷。ああ、ダメになる~ 

 

 

 

 

そして雷はそんな彼を笑顔のまま、縄で縛った。

 

 

 

「あ、あの雷さん?」

 

 

 

「ふふっ…この時を待ってたのよ。ようやく私が司令官を孕めるわ…司令官司令官司令官司令官…」

 

 

 

なんということでしょう、目に光がありません。そしてそのまま彼はお持ち帰りされそうになります。ですが

 

 

 

 

「何を、やってるのかな。」

 

 

凍てつく波動が再び提督の身を襲った。眼光の主は間違いようもなく時雨である。

 

 

 

 

「…榛名、こうしよっか。僕たちの目的は不本意ながらも同じだ。だからどっちが先に孕むか競争しよう。」

 

 

「成程、それはいい提案です。提督に一緒に種付されればスタート地点は同じですからね。あとはおのずと一番が決まるでしょう。」

 

 

何かを結託したのか、ハイライトの消えた瞳で榛名と時雨は笑い合う。そして雷に向き直った。

 

 

 

「とりあえず、そこの泥棒を叩きのめそうか…」

 

 

「そうですね、話はそれからです。」

 

 

 

 

瞬間、雷は提督を小脇に抱えた。そして全力で走りだしたのだった!!

 

 

 

 

「待てや、ボケがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

時雨の絶叫と共に提督の命が揺さぶられるチェイスゲームがスタートした。

 

 

 

一か月後 妊娠検査薬の陽性を嬉々として見せる、榛名と時雨がいた。ちなみに雷も次こそは司令官を孕むんだからと燃えていた。

 

 

 

 




バカっぽい話は書きやすい不思議


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ほのぼの姉妹

ちとちよの姉妹百合は好きだよ


艦娘の姉妹艦とは、実の姉妹にも劣らない魂の繋がりである。そこに血縁などはなくとも、彼女たちは魂の繋がった家族なのだ。

 

 

彼女たちの繋がりは強固だ。初対面であってもどこかで共鳴するとのことらしく、彼女たちはそのつながりを何よりも大切にしている。実際姉妹艦は仲が悪いなど滅多になく、戦場においてもお互いを信頼し合っていることを肌で感じ取れる。中には姉妹愛が行き過ぎてあれな艦娘もいるがそれは愛情の裏返しである。

 

 

 

…そう、だからこそ姉妹艦にあたるテイトク同士も邪険になることなどない。大元の意識が人間とはいえやはり彼らもそこは艦娘にあたるわけで、そのつながりを理屈で説明するのは難しいと述べた。自分と姉妹艦が仲が良いのは当たり前と、彼らは理屈ではなく魂にそう刻み込まれていた。

 

 

 

だからこそ、彼女たちもお互いに全幅の信頼を置き、戦場をかける。

 

 

 

 

では、自身が提督ラブと認知されている艦娘になるとしよう。そしてその姉妹艦もまたテイトクだったとしよう…それはそれでややこしい状況が起こりそうだ。これはそんな状況に陥ってしまった彼らのほのぼのとした日常の一幕である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、深夜ですよ。…まだ起きていますか?」

 

 

 

千歳の問いに彼は渋々と言ったような形ではあるが頷いた。この時間まで仕事をするのは面倒ではあるがやらなければいけないのが宮仕えの悲しい定めである。

 

 

 

 

「そうですか、とりあえずお茶を淹れましょう。こんな状況で立ち往生していてもあれですので。」

 

 

ああ、頼むよという言葉に千歳は任せてくださいと頷き、手際よく茶を淹れている。その手つきは慣れたものだ。しかし千歳が懐かしむように言った。

 

 

 

「提督、覚えていますか?初めのころは私はお茶を淹れるのも不器用で、よく零していたことを…」

 

 

ああ、そんなこともあったなと苦笑する提督に千歳は未熟な自分を恥じていたようだった。

 

 

 

「水上機母艦だった頃は何もかもがぎこちなくてよく提督に助けられていました。本当に感謝の言葉もないくらいです…いえ、感謝してもしたりないと感じてしまうほど感謝してるんですよ。」

 

 

 

実際貴方は未熟な私を捨てずに長い目で見て、付き添ってくれましたからと、提督へと感謝の言葉を述べる千歳。提督は今更さ、と切り出すとお前と私の付き合いだ、そうかしこまるなと言ってきた。彼もまた面と向かって言われるのは恥ずかしいのかもしれない。

 

 

 

「貴方と出会えてよかったと思っています。」

 

 

そして笑顔で千歳は言い切った…瞬間、何かを察したのか扉の方を見た。

 

 

 

「…そこにいるのは分かってるわ、千代田。」

 

 

 

扉越しの警告に観念したのかその気配の主が扉を開けて中へ入って来た。

 

 

 

「お姉…」

 

 

 

「もう、千代田…就寝時間はとっくに過ぎてるのよ。ダメじゃない、こんな時間まで起きていたら。」

 

 

 

「ごめん、お姉。けれどやっぱどうしても気になって眠れなかったんだ。」

 

申し訳なさそうに謝る千代田。それに千歳はしょうがない子ね、と嘆息をした。

 

 

「私と提督ならば大丈夫よ。深夜帯の業務にも慣れているから。」

 

 

 

「…そうだね、そうだよね。千歳お姉なら大丈夫だよね。心配し過ぎかな…」

 

 

 

寂しそうに眼を逸らす千代田に千歳は優しく語り掛けた。

 

 

 

「確かにちょっとオーバーすぎるけれど…あなたのその気持ちはとっても嬉しいわよ、千代田。ありがとう。」

 

 

「ううん…妹が姉を心配するのは当然のことだから…だからこれも当然のことかな。」

 

 

「…ありがとう。」

 

 

一度抱擁すると千代田はそれに浸るように目を閉じた。そして放してもらうと元気よく立ち上がった。

 

 

 

「それじゃあ、心配だけれど私はちゃんと寝るね。千歳お姉も無理はしないでね。」

 

 

「…千代田、さすがにずっと無視することはないんじゃないかしら?」

 

 

 

「えー…あー…うん、そうだね。提督もお姉を無理させないでよ!」

 

 

 

それだけ言うと千代田は執務室から飛び出していった。相変わらず嵐のような娘だなと提督が呟いたのを千歳は拾った。

 

 

 

「すいません…本当に礼儀がちゃんとできてなくて…あとで私からきちんと言っておきますから。」

 

 

 

いや、気にするな。多少反抗心がある方が張り合いがある、と彼の言葉を受けて千歳はほっと安堵したように息を吐いた。

 

 

 

「ありがとうございます…しかし、悪い子ではないんですが…」

 

 

 

千歳が思い出すのは千代田が着任してきたばかりのころの事。彼女は姉を慕うあまり他が疎かになりがちだった。それだけならばともかく反抗心も強く提督に何かと反発をしていたのだったが、あることを機に彼女の提督へ接する態度は軟化していった。

 

 

 

「私、本当にあの時は解体されることも覚悟していました。」

 

 

 

多少じゃじゃ馬くらいならば手を焼くだけで済むが真っ向から反発すると苛立ちと言うのはかすかにでも募り始めるものだ。提督がいくら温厚な人柄であっても、息をするように刃向かう千代田に対して何事も笑って流していても…それはやがていずれは爆発してもおかしくない。

 

 

それはその日は、いつも何の変哲もない日だった。千代田が反抗し、千歳がそれを宥めている。そして、提督がいつもの苦笑してそれを聞き流していた。だが、千代田の発したその一言が、彼を豹変させた。

 

 

 

 

「そのへらへらした笑いが一番気に入らないのよ…男ならば、殴ってでも黙らせてみなさいよ!!!」

 

 

千代田のそれは明らかな挑発。千歳はまずいと思いながらも提督ならば流してくれるだろうとそう信じていた。…だが、彼はゆっくりと立ち上がると千代田の首元を掴み、壁に叩きつけながら聞いたこともないほど低い声で、言った。

 

 

いい加減にしろ、これ以上規律を乱すのなら解体も手だ。生殺与奪はこちらが持っていることを忘れるな、と。

 

 

確かに千代田の態度は上官にするものでは目に余る。しかも規律に厳しい海軍だ。彼女の暴挙を放ってはおけなかったのだろう。事実他の艦娘からも千代田へ批判が集まっていた。しかし、千代田はその脅しだけで怯むタマではなかった。

 

 

 

「上等よ、アンタの下でなんか——————!!!」

 

 

そして、仕返しと言わんばかりに、膝蹴りを彼に食らわせたのだった。…強烈な痛みを受けたのだろう。彼は怯み、その手を放した。そして提督を殺しでもするのかと、いう表情で更に千代田が迫った…そこに千歳が割り込んだ。そして彼女の頬にバチンと大きな音を立ててビンタをした。

 

 

「いい加減にしなさい、千代田。」

 

 

 

「…お姉…」

 

 

千代田のその眼は明らかに怯えていた。大切な姉からそれを受けることはないと信じていたがために、その瞳は恐怖の感情を含んでいた。

 

 

 

「貴方に謹慎を命じ渡します。懲罰房に入ってなさい。」

 

 

 

そして秘書艦の権限でそれを言い渡した。担当の艦娘達が千代田を拘束し、部屋外へと連れだしていった。許しを請う千代田の声は掻き消えた。床に膝をつく提督に千歳は肩を貸した。

 

 

 

 

「提督、すぐに医務室へお運びします。…どこか痛む場所はありますか?」

 

 

そんなものは明白だった。彼はわき腹を押さえているのだったから。…結局、彼はあばら骨を三本折られていた。暫くは杖で歩くことを余儀なくされている彼を見るのは痛々しかった。…そして原因である千代田の処罰を千歳は告げられていようとした…緊張の面持ちで。

 

 

 

 

「…提督、本気ですか!?」

 

 

 

千歳は渡された書類を見て思わず提督へと尋ねてしまった。…そこには衝撃の内容が書かれていたからだった。

 

 

 

「…本気で、もみ消すおつもりですか?」

 

 

その問いに提督はただ頷いた。書類の内容は『提督による艦娘千代田への暴行に対する報告書』、となっていたからだ。それによれば提督が千代田へ暴行を加えたこと、それに対する千代田の正当防衛で、提督は負傷したという旨の内容が書かれていた。

 

 

千歳は驚愕という感情に包まれていた。提督の行動は確かに荒っぽかったがやっていることに間違いはなかった。しっかりと上下関係を刻むのも艦隊運用では必要なことだ。だが、それでもなお反抗し、自分にけがを負わせた相手に提督は彼女の罰を不問にすると言った。それどころが自分が責を受けるとも。

 

 

「…何故、ここまで?」

 

 

 

千歳が悲しむだろうと思ったから… ただ提督はそれだけ言って笑った。その一件を聞いた千代田は後に土下座し、許しを求めた。そしてその後何とか態度も軟化して今に至るわけだが…

 

 

 

「本当にあの時は気が気ではなかったですね…でも提督の寛大な御心のおかげでこんな風に姉妹共々五体満足でいられています。本当にありがとうございました。」

 

 

 

改めて礼を言った千歳だったが提督の姿がなくなっていた。

 

 

 

「…あれ、いつの間に…提督はどこに行ったのかしら…」

 

 

 

きょろきょろと提督を探す千歳に対して控えめな声が聞こえて来た。

 

 

「…どうしたの?千歳お姉。」

 

 

「あら…また来たの?悪い子ね… それよりも千代田、提督を知らないかしら?さっきから姿は見えないけれど。」

 

 

 

千代田はそんな彼女に対して一度だけ静かに首を振って告げた。

 

 

 

「お姉、提督はもうここにはいないよ。」

 

 

 

「あら、じゃあ何処に…ああ、トイレに行かれたのね。一言言ってくださればいいのに。」

 

 

千代田は千歳の手を取って強く言った。

 

 

 

「違うよ、お姉…もう、提督はこの世に居ないんだよ…思い出して。」

 

 

 

振り絞るようなかすかな声、千歳はそんな千代田に対して

 

 

「千代田、冗談でも言っていいことと悪いことがあるわ…さっきまで提督はそこにいたの…に?」

 

 

千歳は言葉の途中で疑問符が出て来た。先ほどまで提督が座っていたはずの椅子には埃が積もっていた。これは暫く使われていない…その証拠であった。

 

 

 

「お姉…提督は私たちを逃がしてくれた

 

 

千代田は振り絞るように、弱く声を漏らした。…千歳の脳裏にある光景がフラッシュバックする。

 

 

 

太平洋を航海しているクルーザー、そこで笑い合う提督と千代田、そして千歳、火の上がる豪華客船、潜水カ級の浮上する姿、そして千代田と千歳の手を引き、そのまま海へ彼女たちを放り投げる提督の姿、その直後に爆発し、沈んでいく船…それらが一瞬のうちに千歳の脳裏に流れていった。

 

 

「あ、あら…?」

 

 

意識しないうちに涙が流れて来た。

 

 

 

「ごめんなさい…私が休暇を旅行に行こうなんて誘わなければ…私が、私が提督を殺したも同然だから…!!!」

 

 

千代田の悲痛な言葉が千歳に突き刺さる。

 

 

「あ…あああ…アアアアアアア…アアアアア…アア…」

 

 

 

ぽたり、ぽたりと赤い涙が千歳の足元に落ちる。視界の端に捉えていたはずの提督の姿が砕け散る。彼女の視界が赤く染まる。

 

 

 

 

 

 

彼女の左手の指輪が、砕けた。

 

 

 

 

 

 

 

テイトクはやがて提督を愛するようになる。そして愛ゆえに認めたくない現実というものが出てくる。…そう、提督だっていつ死んでもおかしくない。彼女がそれに気づけたのはまだ幸運だった。…永遠に気が付かないよりはましなのだろう。

 




ほのぼのだったでしょう?


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忘れる者と覚えている者

速い


「これが艦これ?」

 

 

「そうだよ、ここが母港の執務室。ここから建造、演習、出撃、開発、編成、入渠、改修…まあ色んなことが出来る。所謂ホーム画面だな。」

 

 

 

「じゃあ、この画面に映ってるのは?」

 

 

 

 

「秘書艦。駆逐艦の『弥生』っていう子。」

 

 

「へぇ、君のお気に入り?」

 

 

「そう、俺のお気に入り。」

 

 

「こんな小さい子が?」

 

 

「ゲームの中の趣味にまで口を出すな、オレはロリコンじゃねぇ!」

 

 

 

「でもお好きなんでしょ?」

 

 

「いやまあ、そりゃあ、ねぇ?」

 

 

「引くわ。」

 

 

「うるせぇ!オレは悪くねぇ!」

 

 

 

 

 

「…ん?画面がなんか光ってるけど?」

 

 

 

「何々…特別な指令?…遠征任務か?」

 

 

「艦娘を派遣して友軍を救えだって。やるの?」

 

 

「まあ出て来たからにはな…でもおかしいな…今までこんなこと一度もなかったのに…」

 

 

「ゲリラっていうやつじゃないの?ていうか出撃したら戻れないらしいけどいいのか?」

 

 

「ん?まあ放置してても勝手にやってくれるしな。とりあえずやってみるか考えるのはそれからにしよう。」

 

 

「よし来た。」

 

 

「って何勝手に押してん——————」

 

 

 

「うわっなんだこの光は!?」

 

 

「まぶしっ…!?」

 

 

 

 

 

 

————————————————

 

 

 

『え?二人も引きずり込んじゃった?…面倒だなぁ。あ、そうだ!それじゃあもう一人の方は提督にしようか。そっちの方が効率もいいし面白くなりそうだ。じゃあ妖精君、後は任せたよ。』

 

 

 

 

 

 

「…かん」

 

 

 

「れいかん…」

 

 

 

まどろみの中、呼び掛けてくる声が彼には聞こえて来た。ようやく彼は目が覚めた。寝ぼけた瞳のまま自分の肩をゆすった人物の顔を見た。まだ視界がぼやけているためはっきりとは見えないが彼には見覚えのある輪郭だった。あと見覚えのある色だった。疑問符ながら問いかけた。

 

 

 

「弥生か?」

 

 

「はい、弥生です。司令官。」

 

 

視界がはっきりしてきた。それと同時に彼女の姿もまたはっきりと見えてくる。そこにいたのは間違えるはずもない彼の助手を務めている相方の姿だった。

 

 

 

「…寝ていたのか。」

 

 

「一時間ほど前から机に突っ伏していました。すやすやと熟睡していたのですぐに起こすのは酷と判断して一時間後に起こそうとしました。今がその一時間後です。」

 

 

「…そうか。悪いな。でもすっきりした…」

 

 

いつもの癖でポンポンと頭を撫でていると弥生の表情がむっとしたものになっている。提督はそれに気が付いたが原因に心当たりはない。恐る恐る尋ねる?

 

 

「あれ…怒ってる?」

 

 

「怒ってませんよ。」

 

 

 

「本当に?」

 

 

「本当です。怒ってませんよ。」

 

 

口では否定してるが表情筋までは否定しきれてない。これ絶対怒ってるよね。ただ否定すると面倒なので怒っていないことにしておくことにした。弥生が起きた彼に質問する。

 

 

「どうしますか?その様子ならば今日はもう休んだ方がいいと思いますが。」

 

 

「まあ、それもそうだな…執務残ってたか?」

 

 

手元の書類をめくりながら弥生は平たんな声で告げた。

 

 

「本日分の執務は全て終了しています。このまま休んでも問題ないかと。」

 

 

「そうか、じゃあ今日は閉店ということだな。弥生もお疲れさん。」

 

 

「いえ、ただ時報をしていただけなので。」

 

 

「時報…そうだ、今何時だ?」

 

 

「午前二時を回った所です。」

 

 

「こんな時間か…まあ眠くなるな…」

 

 

ふわぁと欠伸を殺し提督は椅子から立ち上がる。そして何気なく弥生を見た。そこで彼女は珍しく欠伸をしていた。くぁと音も僅かで手で隠してはいるが目は閉じているし目をこすっているのも見える。提督が見ているのを気づくと弥生は慌てて居住まいを正した。その変わり身の早さにはある種の関心すら彼は覚えた。

 

 

「眠くありません。問題ないです。」

 

 

「いやいや…無理するな。どれだけ振舞っててもその体は駆逐艦だろ。眠くなるのは当然だ…それに寝ないと明日の業務に差し支えがあるからな。もう寝よう。」

 

 

「はい…お供します。」

 

 

仮眠室へと移動している最中提督は何か思いだし他のように彼女にへと問いかけていた。それは先ほどまで彼が転寝をしてる最中に見ている夢の事だった。それを弥生にへと話す。

 

 

 

「夢を見たんだ。」

 

 

「夢ですか?」

 

 

「そう…夢だ。パソコンの前でゲームをしている夢だった。俺とお前がな…そして光に呑まれるようなところで目が覚めた。…あの時のことだろうな、多分。」

 

 

独白のような提督の言葉に弥生は首を傾げていた。おっしゃる意味がよくわかりませんがと彼女は疑問を含んだ声で尋ねていた。提督は悲しそうな目で一度だけ問いかけた。

 

 

 

「弥生…お前は何者だ?」

 

 

 

 

「何を言っているのか計りかねますが弥生は艦娘でくちくか…あれ?」

 

 

発言の途中で弥生は言葉を遮った。自分の発言に疑問を抱いているかのようだが…そしてそのまま頭を抱えて苦しみ始めた。

 

 

 

「弥生は…艦娘…?駆逐艦のはず…?提督の秘書艦で…?あれ…?あれ…?」

 

 

「お、おい。弥生大丈夫か。」

 

 

慌てて彼女に手を差し伸べるように提督は近づいた。彼の肩を掴み弥生は血走った目で見た。

 

 

 

 

 

「司令官!! 弥生は…オレは何なんだ!!!」

 

 

 

 

 

 

————————————————

 

 

 

 

 

「…落ち着いたか。」

 

 

 

仮眠室。温かいお茶を淹れて弥生にへと渡して暫く彼女はそれを飲んでいた。沈黙が支配していたがやがてその静寂は彼女の発言で打ち破られる。他ならぬ弥生の発言で。

 

 

 

 

「…はい、もう大丈夫です。自分の整理はつきました。取り乱してすいません。」

 

 

弥生はいつもの調子で謝罪の言葉を口にした。一方提督は彼女に対して気にしていない、お前も気にするなというだけ言うとそのまま黙りこくってしまった。再び重い沈黙が場所を支配する。そして弥生がゆっくりと語りだした。

 

 

 

 

「…司令官は覚えていたんですね。」

 

 

 

「…忘れるわけがないだろ。」

 

 

「…そうですね…そうですよね。むしろあれだけのことを忘れる方がどうかしている…なのに何故私は忘れちゃってたんでしょうか…」

 

 

「…弥生…」

 

 

 

「もう、その名で呼ばれることに抵抗もない…貴方の知る彼はとっくに死んでしまったと思ってください。」

 

 

 

 

彼らは特殊な状況下に置かれていた。まず初めに二人で艦これをやっていたことがこの状況の一因となった。そして偶然にも彼らは二人の時に引きずり込まれた。艦これを知らなかった男は、提督に、艦これをやって愛していた男は艦娘弥生に…何の因果か彼らはこの奇妙な世界にへと引きずり込まれた。

 

 

始めのうちは大変であった。提督は全く知識がなく何をやるにしても初めてだからだ。そんな彼が効率悪く仕事をしているのをベテラン提督である弥生が逐一サポートしていた。最初のうちは完全に弥生の方が司令官に相応しく彼は頼りなく見えたものだった。だが人は成長する。 なれないことながらも少しずつ要領を得て何とか艦隊運営を行えるようになってきた。

 

 

 

 

『…そこは…』

 

 

『この一手がいいんじゃないか?』

 

 

弥生の意見も上回るキレた案を出した時は彼に対して不安の念を持っていた艦娘も彼に一目を置いた。弥生は何とかやっていけそうと判断しそれに対して安堵を覚えた。…そして彼女はこのころから全く変わり始めてしまった。

 

 

 

まずだが、彼と弥生はいつも忘れないようにと平成の日本の話をしていた。それが帰還することへの道しるべでもあると信じながら。あの引きずり込まれた日の事…向こうでどのような生活をしていたか、様変わりしてしまった日常について…どれもこれも取り戻すべき日常なのだと弥生は言っていた。

 

 

 

だが、ある日突然彼女は一切合切平成日本の話をしなくなった。初めのうちは呼び掛ければ思い出すことは出来ていた。だが時間が経つにつれて彼女は向こうの世界の事を思い出せなくなっていった。それどころか『彼』の自我すら消えていった。

 

 

提督はそのことに畏怖すら覚えた。彼は自分がこの世界に存在しないはずの異物と自分を認識しているためいつまでもこの世界に馴染むことは出来ていない。だが弥生は…『彼』はナチュラルに自分がこの世界に居ることに疑問を覚えていなかった。

 

 

絶望した提督は全てを封じ込めようとした。そうすれば自分は思い悩まなくても済むとそう思ったから…だがそれは出来なかった。弥生を見れば見るほど向こうの世界の思い出がよみがえるのだ。姿かたちは変わろうとも彼女は彼にとって替えようもない友人だった。

 

だが彼の精神をもっと踏み躙ったのは弥生の自分に向ける感情だった。まだ『彼』が顕在していた頃に向けてくるその視線は今まで、向こうの世界で向けられていたものだった。信頼…友情…そういう友愛に近いものだった。だがいつしか彼女の感情が変わって来た。その目に宿っていた感情は友愛…それを越えた信頼。そして情愛…最後に恋。

 

 

弥生はいつしか自分を『彼』と名乗らなくなり提督を昔の名前で呼ぶことなく司令官と呼んでいた。最初はむず痒い感触も感じていたがそれすら今はない。それでも提督は弥生に思い出してもらいたかった、向こうの世界の事を。

 

 

彼は寂しかった。共有できる人間がいないことを…何とかして弥生には思い出してほしかった。そしてその願いは漸くかなえられた。

 

 

 

「…確かに思い出しましたよ。向こうの事も。自分のことも…貴方のことも。」

 

 

「それじゃあ…!」

 

 

 

「待たせて悪かったな。お前に寂しい思いさせてたなんてな…」

 

 

それは『彼』の口調。提督はそのことに歓喜を感じた、漸く彼が還って来たのだと。

 

 

 

 

「なぁ…いつになるか分からないが俺とお前、ちゃんと元の世界に帰ろう。そしてそこでやり直すんだ。こんな形になってしまったが俺達が親友なのには変わりないはずだからな」

 

 

提督は早口でまくし立てた。興奮からか伝えたいことがたくさんあった。その中でも最も言いたいことを言えた。それだけでも彼は満足感を感じた。一瞬の心地に浸っていたがそれは他ならぬ弥生の言葉で斬り捨てられた。

 

 

 

「何を言ってるんですか?帰る必要なんてないじゃないですか。」

 

 

その変わり身に提督は震えた。今まで気安い友人だったはずの彼女は一瞬で妖艶な淫魔へと姿を変えた…かのように見えた。

 

 

 

 

 

 

「お、おい何を言って・・」

 

 

彼の言葉は弥生が唇を塞いだことで遮られた。そしてそのままフフフと彼女は笑う。

 

 

 

「元の世界も元のオレもいりませんよ…こうして司令官と二人になれない世界に意味なんてないですから。」

 

 

そして彼をベッドに組み敷いた。

 

 

 

「……………………ど、どうしたんだよ!?怒ってるのか!?」

 

 

 

 

 

「怒ってませんよ……むしろ、嬉しいんですよ。フフフ……」

 

 

 

 

 

 

彼は悟った。もう『彼』はどこにもいないのだと。



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あの人を求めて

八話(https://syosetu.org/novel/180056/8.html)の続きです


ずっと気になっていたことがある。

 

 

触れてはいけないのかもしれない。皆が口を閉じて語ろうとしなかったこと。おそらくそれは禁忌に値すること。だから皆見えないふりをしていた。そうすることの方がよっぽど幸せだから。考えなくて済むという事はそんなにも楽だというのだから。

 

 

だから皆あの悲劇から目を逸らしている。私も逸らしていた。ただ、それはただの現実逃避だった。

 

 

 

だから私はこの真実を求めたかった。触れてはいけないことであっても…

 

 

 

 

 

 

 

————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

「かく…瑞鶴。」

 

 

 

 

 

「……ど、どうしたの、翔鶴姉。」

 

 

 

 

「どうしたの、はこっちの言葉。心ここにあらずって感じだったけどどうしたのかしら?」

 

 

姉の言葉に彼女はごめんねとだけ言うと席を立った。

 

 

 

「大したことじゃないから、気にしないで。」

 

 

「瑞鶴!」

 

 

いつになく素っ気ない彼女の様子に思わず翔鶴も不安に思うことになってしまう。とはいえ体調不良でないことは見た目で彼女は分かった。つまるところ腹の中に一物を彼女は抱えていることになる。問いたい気もしたが尋常じゃない気迫に翔鶴は聞く気にはなれなかった。

 

 

 

 

「…本当に、時々あの子のことが分からなくなるわ…」

 

 

 

…私たちと同じ艦娘…なのよね?と翔鶴は呟いた言葉が彼女へしっかりと届いていた。

 

 

 

 

 

「…ごめん、翔鶴姉。」

 

 

 

 

 

————————————————

 

 

 

 

 

「提督さん。」

 

 

 

「おん?んん?…瑞鶴か、どうした。」

 

 

 

廊下。道行く提督に対して瑞鶴はちょいちょいと手招きをして声をかけた。

 

 

 

「提督さん、今ちょっといい?」

 

 

「んーと、まあそんな時間とらなければな。」

 

 

「大丈夫、すぐ終わるから。…加賀さんは最近どんな様子?」

 

 

「加賀か?急にどうしたんだお前がそんなこと聞くなんて。」

 

 

言い淀んだが瑞鶴はワケを話す。

 

 

 

 

「ほら、前に頭をぶつけてたよね?あれから特に変わった様子はないのかなーって明らかに様子があの時はおかしかったし…」

 

 

「ああ、そういうことか。だったら異常なしだな。いつも通りクールな加賀だよ。前はちょくちょくおかしなことも言ってたような気もするが今はめっきりないかなぁ…」

 

 

 

「そう…ありがとう、提督さん。あと、電話借りても大丈夫だよね?」

 

 

「そんなに長く話すなよー。」

 

 

 

 

瑞鶴は何かをメモに取ったと思ったらそのままじゃあと言ってダッシュで電話へと向かっていった。提督の投げた言葉に対して 大丈夫ーという返事が来たが足音は聞こえなくなった。忙しないやつだなーという印象を持っていると提督に対して彼女が言ったのを確認した後話しかける存在があった。

 

 

 

「提督。」

 

 

「ん、今度は加賀か。どうした。」

 

 

 

「いえ、提督と五航戦が話していたのを見たので。何を話していたのかと。」

 

 

 

「何を、ねぇ。まあ世間話だよ。」

 

 

提督は答えをはぐらかした。瑞鶴なりに加賀を心配しているのは分かるが素直ではない性分の彼女をからかうのは酷だろうと変なおせっかいが発動した提督は加賀の問いをごまかした。

 

 

 

「そうですか。」

 

 

「そうだよ。…なあ、加賀。変なこと聞くかもしれないが質問してもいいか。」

 

 

 

「なんでしょうか。」

 

 

首を傾げる加賀。彼は神妙な面持ちのまま問うた。

 

 

 

「…最近、何か瑞鶴がおかしいとは思わないか?」

 

 

 

「…思います。何か、落ち着きがないといいますか。やたらあちこちを走り回るのを見てます。」

 

 

 

「…やっぱりかぁ…あいつ何してんだろうなぁ…」

 

 

「知られたくないことでしょう…触ってやらぬが仏です。」

 

 

 

「まあ、それもそうか。」

 

 

一抹の不安を抱きながらも彼女の言葉に納得したのかそれ以上提督は追及することはなかった。そんな彼に対して加賀は真剣半分、冗談半分で問いかけてみた。

 

 

 

「彼女たちの好意に気づかぬ貴方ではないと思いますが、どうするんですか?」

 

 

「…答えるわけにはいかないだろ…お前がいるんだからさ。」

 

 

 

 

「やりました。」

 

 

加賀は頬を赤く染めていたという。

 

 

 

 

 

 

————————————————

 

 

 

そして瑞鶴は次の日、有休を取得しある場所へと来ていた。とある人物と落ち合うために…そして彼女の口から話を聞くため。…通された応接室は簡易なものだった。だがその部屋は彼女の所属する泊地よりよっぽど立派で流石はあの呉鎮守府だと感嘆の意を持っていた。…暫く待機しているとノックの音が響く。失礼しますという控えめな声の後、扉が開き、一人の女性が入室して来た。その呉鎮守府の秘書艦であり、旗艦を務める艦娘…鳳翔である。

 

 

 

 

「初めまして、鳳翔です。…瑞鶴さん。」

 

 

 

「…初めまして。」

 

 

瑞鶴は椅子から立ちお辞儀をする。目上の人間には礼を尽くすようにと言われていたことを実践するだけだがこんなにも緊張していた、鳳翔が座ったのを見ると彼女も着席する。一瞬沈黙が生まれたが次の瞬間には鳳翔の問いかけで静寂は打ち破れらた。

 

 

 

「あらかじめ聞いてはいますが、今回はどのような用件でこちらに。」

 

 

 

「単刀直入に聞きます。…私は『テイトクの自我の戻し方』を探しています。」

 

 

その言葉に鳳翔は顔色一つ変えなかった。それはあらかじめ分かっていたことなのだから。だが彼女はその重く閉ざした口を開くにはまだ弱いらしい。

 

 

 

 

「…私の先輩に、テイトクだった人がいます。それを知ったのはつい最近ですが。…そしてこの前、あの人は死んでしまいました。…私は彼をよみがえらせる方法を探しています。貴方ならば何かを知っているのではと、この場を訪ねてきました。」

 

 

それ以来瑞鶴は閉口した。これ以上語ることはないと、逆に鳳翔は開口した。

 

 

 

 

「余計な希望を持たせる前に答えだけ言ってしまいます。一言で言うならば『不可能』です。一度消えてしまった自我を呼び戻すことはできません。ただその人はその艦娘になったのでしょう…もう、その人は…加賀さんは戻って来れませんよ。」

 

 

予想していたとはいえやはりむごい真実だった。瑞鶴は己の無力さに今この瞬間に歯嚙みした。見透かされていたのは予想していた。あの人もこの目の前の人物と知己だったのだろうから。そして震える声を押さえて続けて聞く。

 

 

 

「…本当に、不可能なんですか?」

 

 

藁にも縋る可能性で聞く、が彼女の中での答えは揺らがないものになり確信していた。

 

 

 

「…『人格』を蘇らせることは不可能です。消失してしまった時はこの世界での彼らの死を意味しています。死人が蘇ることはどの世界でも出来ることではないんです。」

 

 

 

分かってはいたことだった。だが、彼女は諦められなかった。

 

 

 

 

「どうしてそこまで彼女に固執するのですか?」

 

 

鳳翔は瑞鶴が加賀に執着す理由が分からなかった聞く分にはテイトクということもつい最近まで知らなかったようだが。何故彼女は加賀に執着するのか。

 

 

 

「…新米だった頃。艦載機の飛ばし方とか…嚮導艦だったのが加賀さんなんです。その時は私と同じ何てのは思いもしなかったんですけれど…短命って呼ばれる艦娘の中で長い間前線に立ち続けてるってことを聞きました。…そして一緒に出撃もしました。強かったですよ。私の目の前が霞むくらいには。それから私は加賀さんに勝手に憧れてました。そんな人が私と同じって言うなら話してみたいとは思うじゃないですか…一度も話せないままなんて、悲しいんですよ。」

 

 

気付かなかった私がいけないんですけどね…と自嘲するように瑞鶴は笑った。なるほど、と鳳翔は納得した。一度も話せずに『彼』が死んでしまったわけだ。だからこそ何とかして彼を蘇らせようとしていたいうことになる。鳳翔は彼女に対して告げようか迷っていたことを伝えることにした。

 

 

 

「確かに…人格を蘇らせることは不可能です。消失してしまった時にその人格は死んでしまいます…ただ、例外があるんです。」

 

 

鳳翔の言葉に瑞鶴は首をうねらせた。

 

 

 

「例外?」

 

 

「はい。これは本人から聞いた話ですが…人格が消失し、自身がテイトクであることを忘れている駆逐艦がいました…ただある要因で彼女がテイトクであったことの記憶は呼び起こすことが出来た…と、聞いています。それがどのような要因かは分かりませんが人格は戻せなくても記憶は呼び起こすことが出来れば…話をすることは出来るのではありませんか?」

 

 

その言葉に現実に打ちのめされていた瑞鶴は一抹の希望を覚えた。

 

 

「…でも、もう『加賀』さんは帰ってこない…っていうことですよね。」

 

 

 

「そうですね…それはもう、どうやっても不可能な話です。」

 

 

人格は、自我は蘇らせることは不可能と断言されたのだ。瑞鶴は寂しさを覚えながらも一抹の希望に託すにした。

 

 

 

「…今日はありがとうございます。あの人は帰ってこなくても…けれども話くらいはしてみたいんです。とても参考になりました。」

 

 

 

「いいえ、この程度ならばお安いものです。…今度の集会には貴方も顔を出してくださいね。」

 

 

「…はい。」

 

 

 

瑞鶴は鳳翔に一礼するとその日のうちに呉を発って行った。まるで今この瞬間を忘れないようにと。

 

 

 

 

 

————————————————

 

 

 

 

希望が見えた。あの人を蘇らせることは不可能らしいけれども、あの人の記憶を呼び起こすことは出来るかもしれない。…あの人がいないのに目的を達成できるのかと思いはする…けれどもあの人に限りなく近い存在を起こすことは出来る。この際に高望みはしない。

 

 

あの人の記憶を何とかして呼び起こしてみる。…それで、加賀さんに質問をするんだ。元の日本の事…どんな人だったか、どんな提督だったか…いっぱい、いっぱい質問をしたい。これは私の個人的な願望…けれども…

 

 

 

 

————————————————

 

 

 

 

 

瑞鶴は手元の日記帳に顔を顰めた。

 

 

「…何を思って昨日の私はこんなのを書いたんだろ…」

 

 

筆跡は自分の字であることは分かる。そもそも自分の机の上にあったのだから自分のだ。それは分かるんだが、内容がさっぱり頭に入ってこない、まるで怪文書だ。

 

 

 

 

 

「…本当に昨日の私は何を思ったんだろ…加賀さんの記憶だとか…元の世界とか、さっぱり分からないや…加賀さんはいつも通り(・・・・・・・・・・)なのに。」

 

 

 

首をひねらせている瑞鶴に対して部屋の外から呼びかけがあった。

 

 

 

「瑞鶴、ミーティングよ。早くいかないと加賀さんに叱られるわよ。」

 

 

 

「げっ…分かった、すぐ行くよ、翔鶴姉」

 

 

そして瑞鶴は手元の日記帳をゴミ箱へと捨てると、大慌てで部屋から飛び出していった。鬼のように厳しい先輩に今日こそは見返してやるのだと、意気揚々と決意しながら…。

 

 

 

 

 

 

そしてその日記帳はその日のうちにゴミ収集場へ廃棄されることになった。

 



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とあるテイトクの日記

お久しぶりーふ


2048年 3月7日 晴れ

 

 今、俺は正気ではない。故に支離滅裂な文を書くかもしれない。けれどもこの全身から溢れる困惑を何かしらで吐き出さなければ気が狂ってしまいそうだ。いや、もう狂っているかもしれない。しかしそんなことはどうでもいい。俺は果たしていつの間にかラリってしまったのだろうか。訳が分からない。どうしてこんな状況になった、頭の理解が追い付かない。脳が理解を拒んでいる。今の現状を認識することに拒否反応を示している。何故、なんで、どうして、疑問が尽きない。果たして俺はいつからこの夢から覚めるのか。悪夢にも程がある、悪い冗談だ、夢なら一秒でも早く覚めて欲しい。

 

何をどうしたら俺が艦娘として建造されるのだろう。このまま寝てしまえば明日にはまたいつもの社畜生活に戻っているはずだ。そうに違いない。よしもう寝よう、これ以上は考えても仕方ない。

 

 

 

 

3月8日 曇りのち雨

 

 

夢ではなかった。昨日は全力で現実逃避したがそれは許されない相談だったらしい。現状を纏めればここは呉からそこまで遠くない場所にある警備府の一つらしい。ここの提督は20歳を迎えたばかりの若造で、中々どうしてかイケメンだった。滅べ。俺は何故か艦これの世界に艦娘として建造されてしまったらしい。神様には出会ってない。ただ日課のデイリーをこなしていたら緊急任務なんてものがあってクリックしたら今この場所にいた。訳が分からない、俺はいつの間にか死んでしまったのだろうか。正直今でも頭がイカれた俺が見ている白昼夢としか思えない。だが、空気は味がするし、身体にも重みはある。さらに痛覚もちゃんと存在する。間違いなく俺は正気でここは現実空間らしい。試しに明石に俺が転生者なんだと言ってみたら医務室へ行くか?と聞かれた。ああ、そりゃ分かってたよチクショウ。今の精神状況はやはりまともじゃないかもしれない。

 

 

 

3月15日 雪

 

 

建造されてから一週間と一日が経った。だいぶ冷静に今の状況が見えるようになってきた。まず俺が艦娘になりこの警備府に存在しているということはもう間違いない。とはいえ人格はちゃんと俺のままだし注意されるが言葉遣いもまず間違いなく粗暴な俺のまま。俺という自我は失われてないことはまず間違いない証明と言えるだろう。そしてこれもまたゆるぎない事実でここは艦隊これくしょんの世界観なのは違いないようだ。深海棲艦もいるし、艦娘もいる。というよりこの体には間違いなく艦娘の能力があった。水の上に浮けるし、艤装を使い砲撃も可能だ。というよりもこの一週間は演習漬けだった。まだ力に慣れていない俺への配慮だろうか。しかしそれが余計なお世話という事が何故あの提督は理解が出来ないのか。俺は戦うこともなく引きこもっていたい。いやそれは無理な話だろう。俺は艦娘で深海棲艦と戦う兵士だ。サボれるわけがない。鬼のような海軍、そこの軍規はそれはもう滅茶苦茶に厳しい。日本人の俺は大義に反することはできないようだ。やだなぁ、訓練したくない。

 

 

 

 

3月21日 快晴

 

 

初めて出撃した。今までさんざんと砲撃訓練はしてきたが動く的に当てるというのは難しい話だった。補助の艦娘達のおかげで特に大事はなかったが結局敵艦に攻撃が当たることはなかった。周りは初めてだからと慰めの言葉をくれたが正直言えば悔しいにも程がある。早くも自分がこの世界になじんできているのか真剣に考えてしまう事案だったが俺は今はそんなことを気にする余裕はなく、悔しさと怒りを燃やしていた。ああ、我ながら身勝手だ。でもちんけなプライドくらいなら俺にもある。そのチンケなプライドが叫ぶ。お前はこんなところで終わるなとまだ食らいつけと、いまいち生きている実感が湧かなかったが俺は今日からある目的を持った。この世界で成り上がるという今ではまだ難しい目的を、だ。我ながら単純だ、悔しさがここまでのバネになるとは。兎にも角にもこれ以上好き放題なんてさせない、俺を笑うやつを全員黙らせるまで強くなってやる。

 

 

 

3月23日 曇り

 

 

初めて深海棲艦を倒した。個人的な成果として上出来だ。…まあ駆逐艦だが。だが初めて相手を討ち取ったという事実には変わりない。やっとだ、やっと一つ明確な目標へとたどり着いた。大したことがないようにも見えるが大間違いでこれは飛躍的な一歩だ。今まで何かの不安に魘されてきたが今夜ばかりはよく眠れそうだ。

 

 

3月31日 霧

 

改めて自分の異常性を再確認した。俺は何のために生まれたんだ?何のためにこの世界にいたんだ…?全てが謎で今の俺には理解できない。

 

 

 

4月7日 雨

 

ああ、畜生。俺は1ヶ月振りに困惑している。すれ違った同僚からも酷い顔色だと言われた。多分そんな酷い顔を俺はしてるんだろう。自覚はある、顔がクシャッと歪んでる自覚がある。まず始めに前提から間違えていた。俺は最初から間違えていた。俺の境遇を俺一人のものと思い込んでいた。それはとんだ思い上がりだった。何故考えなかった、この境遇が他の誰かにもあったのではないのかと、ああ、俺は大馬鹿だ。良い成果なのかもしれないが俺は自分を責めている。端的に言えばこの世界に転移したというのは俺だけじゃなかったんだ。呉鎮守府の艦娘……鳳翔さんが、言うにはこの世界には沢山の転移した艦娘が、いるらしい。

 

 

4月8日 気分は雨

 

彼女から聞いた話によればこの世界には沢山の転移した艦娘いる。そしてそれの相互組合や何なら専用サイトもあるらしい。何てことだ、こんなに居たのか。転移者(便宜上テイトクと呼ばれている)はこんなに居たとは正直信じられん。けれどもそんな妄言を吐くのは間違いなくそれが転移者であるという、証左でらしい。ああ、畜生、まだ頭がこんがらがっている。

 

 

4月21日 晴れ

 

最近出撃を重ねている。順調に練度が上がっているようだ。忙しくこの筆すらまともに、取れていない。

 

 

 

5月6日 天気雨

 

おおよそ2ヶ月ほど過ぎた。かといって何かが大きく変わったわけではない。俺の所属する基地…というより警備府は呉の近くにあるためそこまで規模は多くない。せいぜい呉の面々が遠征の間近海警備をしているくらいだ。しかし深海棲艦の猛攻はそこそこのためやはり敵との接敵は多い。まあいいさ、最近は動く的にもよく当たるようになってきたため、人間は慣れるということだろう。この、状況に適応するのは何か大切なものを失ってしまった気がしなくもないが。

 

 

11月 7日 曇り

 

気がつけば前回の日記から半年以上経過していた。存在を忘れていたようだ。俺の記憶力はもうダメかもしれない。最近ではテイトク連中と会うことも多い。ただしこの世界が甘いことばかりではないということは鳳翔さんから聞いてる通り、ゾッとするようなことも沢山あった。例えば人格が上書きされる話、自分の記憶が吹き飛ぶ話。正直、おぞましい。自分が自分でなくなると俺は結局何に成るのだろうか。いや、考えるのはやめた。考えると絶望するだけだ。

 

 

12月24日 雪

 

ホワイトクリスマス、だった。提督主催のパーティーは楽しかった。

 

 

 

1月1日 晴れ

 

新年あけましておめでとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2051年 5月 3日 多分雨

 

 

ああ、どこまで書いたのだったか忘れてしまった。気がつけば()が建造されて三年の月日が流れていた。この日記の存在がそもそも忘れていた。以前も忘れていたようだから私は案外忘れっぽいようだ。まあ、そんなことはいい。私が建造されておおよそ三年。遂に私が改装された。これで更なる高みを目指せるということで私は気がついた。私は普通に、自然に、艦娘として振る舞っていた。どうやら、私は自分が思っているより、侵食されていた。私は恐怖した。

 

 

 

5月 31日 曇り

 

私はある法則に気がついてしまった。練度とは何か考えてしまった。そして知った、練度が上がれば上がるほど人間だった記憶が少しずつ削れていく。時間が経つと少しずつ忘れていく。それと同じように練度が上がると記憶が少しずつ喪われていく。私はこの誰にも打ち明けられない孤独感を今削れる恐怖と共に味わっている。

 

 

あと少しで………私の練度が上限へと行く。

 

 

 

 

 

 

6月1日

 

 

たすけて

こわい

おれをけさないで

 

 

 

ろくがつふつか

 

 

やめて

 

 

ろくがつみっか

 

 

やめろ

 

 

ろくがつよっか

 

 

じかんがない

 

 

ろくがついつか

 

 

もうほとんどおもい、だせない

 

 

 

ろくがつむいか

 

 

だれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6月14日 晴れ

 

今日から日記を新調することにした。以前使っていたものが行方不明になり、捜したが見つからなかった。大人しく新しいものを用意した。提督が私の練度最大のお祝いに何かくれるらしい。………億が一にでも期待する私がいる。

 

 

────────

 

 

執務室をノックする。中から入ってくれという言葉が聞こえた。

 

 

「来たわよ、提督。それで渡したいものって?」

 

 

「………っ」

 

実に提督と呼ばれた彼は言い難い表情をしていた。しかし彼は勇気を振り絞り言い出した。

 

 

「三年、だ。君がここに来て、三年だ。……今だからね白状すると私はキミに一目惚れしたんだ。」

 

 

「…………えっ?」

 

 

「おっと、そのままの意味だ。見惚れていたのは違いない。けど、それでも私が恋したのは間違いなくキミだ。そこにお世辞も偽りもない。……こんなことでしか言い出せない私が情けないが………矢矧」

 

提督は目の前の彼女を見据える

 

 

「私と……僕と、付き合ってください。」

 

 

それは半ば義務のようになっているケッコンカッコカリではない。男女交際だった。この男はそこから始めようというのだった。

 

 

 

「つまり、提督は私が欲しいって、そういうことよね?」

 

 

「まあ、端的に言えば……」

 

 

 

いつの間にか提督は壁際に追い詰められていた。矢矧は舌舐りに似た何かをしていた。

 

 

「なら、私から仕掛けてもいいって、ことよね?」

 

 

 

ああ、彼女は実は肉食だったのか……と提督は心の隅で思った。奥手な自分が勝る相手ではなかったのだ、と。

 

 

 

 

──────

 

 

 

ろくがつじゅうごにち

 

 

 

おれを、わすれないで、おれ。

 

 

 



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お疲れの時には

ゴーヤを曇らせコラ


そう…まず原因を語るならその泊地は少々、人手不足だった。その割には重要な防衛地点であったり、補給地点としては不可欠な場所にその泊地はあった。だから彼らにはプレッシャーが掛けられているどこか剣吞とした雰囲気があった。

 

けれども彼の提督は決して悪人ではなかった。侵略者から国を護ろうという気概は十分だった、それに意欲も燃えていた。何より、彼女たちに負担をかけることを誰よりも悔いていた。公平な人間だった、気持ちのいい青年だった、誰もが彼をそう評していた。

 

艦娘達もそんな彼の心痛を理解していたのか重労働に文句を言う事はなかった。決意は強いが体は弱い青年のために結束はとても強かった。中には愚痴を溢すモノもいたがそれこそ一言文句を言う程度だった。誰も、彼の事を嫌いではなかったのだ。

 

 

そう、「カレ」でさえも…

 

 

 

 

————————————————

 

 

 

いけ好かなかったもしれないが、嫌いではなかった。共に戦い続けて来たことで彼とは絆を深めて来たつもりだった。実際、心の距離は縮まったかもしれない。視線の先には問題の彼がいた。

 

 

 

「ああ…済まない、また君に負担をかけることになる。」

 

 

「…気にするな、俺はまだ暴れ足りてないからな。」

 

 

彼が相対するのはこの人での少ない泊地の貴重な火力要員。雷巡の木曾。だが彼女もまた疲労していた、けれどもそんな弱音を吐いている暇はない。

 

 

最近、深海棲艦の攻勢がまた激しくなってきた。横須賀鎮守府防衛戦以来この泊地の近海での侵攻は確実に数を増していた。

 

 

この泊地は重要な防衛地点だ。だけど人手は少ない。だから少ない人数でも上手いこと回して動かなければならない。大本営から支給される資源だって有限だ。そのためには遠征艦隊を派遣しなければいけない。ただでさえ人手はなく、更に少なくなる。この泊地に暇人は一人もいなかった。提督だってその一人だ。彼も常に変化する戦況に合わせて目まぐるしく対応しなければならない。これはこの泊地に所属するものの暗黙の了解だった。

 

 

『彼の意志を尊重する』、と。

 

 

 

「さて…ああ、そうだ。ゴーヤ、12時間後にまた潜水艦隊を率いて頼む。そうすれば緊急時以外は休んでくれていて構わない。」

 

 

「…ホント、疲れたでち。…追加労働手当を貰わなくちゃ割に合わないでち、てーとく。」

 

 

「…すまない。」

 

 

提督は申し訳なさそうに顔を伏せた。彼は本当に心の底から過労気味なことを申し訳なく思っている。誰よりも多分優しい、だからこんなことをさせたくない、けれどもしなければここの運営は回らない。その激しい自己の矛盾にずっと苦しんでいた。冷酷非道に振る舞い、すべての憎しみを受けてもなお我が道を突き進めるほど彼は強くなかった。

 

 

「…それ以上は言いっこなしでしょ。皆、みんな、てーとくを信用してるし、てーとくのために頑張っている。だから謝るのはゴーヤたちの気持ちを裏切ることになる…でち。」

 

 

「…ああ。」

 

 

「分かっているならよろしい…それより提督、提督も少し休むべきでち。貴方が丸二日休んでないのは皆知ってることでち。」

 

 

「…そうだな、私もそろそろ体に限界を感じて来た頃だ。大人しく仮眠を取ることにするよ。」

 

 

一時間眠ると言い残し彼はそのまま目を閉じる。一時間だけではなくどうせなら一日でも休めと言いたいのが私の意見だがそれが罷り通るほどここは甘い場所ではない。有事ならば彼は飛び起きてでも事に当たるだろう。いや、もしもを考えていたって仕方ない、私も出撃するのだ、少しばかり休んでおかなければならない。

 

 

 

 

————————————————

 

 

 

「ところでゴーヤ、最近提督と進展はあったのかな。」

 

 

海水を噴き出した。それは行軍中にハチが急に言い出した出来事だった。潜水艦隊と言う以上この艦隊を構成するのは潜水艦だけだ。そして旗艦はこの私になるわけだが…

 

 

「…どういう意味、かな。ハッちゃん…ゴーヤには質問の意図が掴めないでち。」

 

 

「ふむぅ…伝え方を間違えたか。伝達に齟齬があったかもしれない。だったらすまない、ゴーヤ。私の言い方に問題があったようだし謝ろう。」

 

 

「なーんて、言っちゃって本当は分かっているんでしょ、ゴーヤは。」

 

 

そこに言葉を被せて来たのは潜水艦の中でも割と問題児である伊19…イクだ。

 

 

「イクが思うにゴーヤは照れくささで勝ってるの。だから分からないふりして乗り越えようとしてるの。」

 

 

言いがかりにも程がある。イクの戯言に普段は付き合ってる暇なんてなく軽くあしらっただろう。けれど、私には心の余裕が足りなかった。

 

 

「ほ、本当に意味が分からない…ゴーヤがてーとくと何を進展させるって言うんでち。」

 

 

ああ、分からない。関係は確かに悪いとは思わないが、狼狽しているのかハチの質問の意図がつかめない。あまりにもぺースが乱されている気がする。

 

 

「ろーちゃん、聞いたことあります。ハッチャンの質問の意図分かります!」

 

 

ああ、乗り込んできてのは元ゆーちゃん、現ろーちゃんだった。彼女もこういうところで絡むのは本当に悪癖だ。面倒事のにおいがする。

 

 

「ハッチャン、ゴーヤに向けて言った言葉、ダンジョの関係、間違いないです!」

 

「まあ平たく言えばそうだね、君が提督と良い雰囲気になったかな、と聞きたかったんだ。」

 

 

何故そこであてる。そしてハチ、お前はそんなろくでもないことを聞いてくるものじゃいない。いつも本ばかり読んでてそういったことに興味は一切ないと思っていた。というかそれをオレに聞いてくるのは何故だ。ありえないという事を知ってるのではないのか。いや、話したことなかったか。オレが男と言うのはここにいる全員には内緒のことだ。これは上手いこと誤魔化せねばイクに揶揄われ続けることになる。ここは何とかうまい言い訳を…

 

 

「最初に言っておく、でち。てーとくと私はそんな関係じゃないでち。」

 

 

「そうか…提督との距離が最も近いのは君のため、君ではないかと思ったがそれは思い違いというやつだったか。」

 

 

「なんだ、つまんないの。」

 

 

イクに関してはからかい前提でこの話にへと首を突っ込んできたらしい、趣味が悪いとつくづく思う。

 

 

「大体、ゴーヤは確かにてーとくのことは嫌いじゃないけど、持ってる感情って言えば…」

 

 

言えば…それは何なのだろうか。尊敬の念だろうか、優れた上司に対して人間は尊敬の念を抱くことも十分にある。けれども尊敬云々にしては彼のとの関係は気易すぎるだろう。確かに妙に緊張した関係よりもいいが尊敬というわけではないようだ。では友人として好き、ということだろうか。オレは提督のことを良き友人と捉えているためあまり言い難いことでもズバッっと言えるかもしれない。言いたいことを言える関係も悪くはないが、決して上司と部下の関係ではないだろう。

 

そして言葉に詰まっているオレに天啓が舞い降りた。

 

 

「…そう…てーとくとゴーヤは言うならきょうだいみたいな関係でち。」

 

 

放っておけばすぐ無理をする、たしかに手のかかる弟を見ているような気分だ。だからきょうだいのような家族へ向ける感情ではないだろうか。艦隊の皆は家族と言うし。

 

 

「成程、ゴーヤはそうやって捉えているの。…もう少し時間が必要なのね。」

 

 

イクは何かを最後に言ったがそれは海の音に流されてしまった。けれども一刻も早くこの話題を脱するためオレは言う。

 

 

「そんなことより任務に集中するでち。今はいないけれどもいつ来てもおかしくない位置にゴーヤたちはいることを忘れないで。」

 

 

そうやって注意を促していた自分が一番気を抜いていたかもしれない。自分が一番馬鹿だったかもしれない。いや、結果論を言ったところで何かが現状が変わるわけではない、もしもオレが判断を間違えなければ、何事もなく皆、帰還出来ていただろう。

 

 

 

 

————————————————

 

 

 

暗い海の中を走る。

 

 

()()()()

 

 

正直に言えば泣きたいが泣けば彼女たちの最期の努力を無駄にすることになる。それだけは何としてでも避けなければならない。オレが伝えなければ間違いなく泊地は大惨事になる。だから暗い海の中を走る。

 

 

それは想定してなかった深海棲艦の艦隊だった。いつの間にか囲まれていたオレたちは反攻するまでもなく袋叩きに遭った。けれども最期の輝きをもってオレを逃がしてくれた彼女たちのためにもオレはとにかく走る。

 

 

ああ、傲慢だった、楽勝だと思っていた、ああ、チクショウ、オレは大馬鹿野郎だ。彼女たちにも提督にも申し訳が立たない。もう十分すぎるほどに失態を演じたがこれ以上泥を塗るわけにはいかない。オレが一秒でも遅れたらもっと多くの犠牲が出る。心の中で彼女たちに謝罪しながらも泳ぐ足は決して止めない。いつもの数倍速度が出てる気もするが多分脳がマヒしているのだろう。けれども十分だ、こうやって考えれているならそれだけで事足りる。

 

 

 

脳裏に思い浮かぶのは提督だった。常に無理をするあの人をオレは心配してない日はなかった。けれども彼の優しさに皆、救われていた。何より救われていたのはオレだった。

 

 

あの日、艦の記憶により暴走していた自分を慰めてくれたのは他の誰でもない、彼なのだ。苦しかった時助けてくれたのは他の誰でもない、提督なのだ。

 

 

ああ、今更知るだなんてオレ…私は愚かか。こういう感情をどういうのか私は知っていたはずだ。けれども今更気が付いてしまうとは。

 

 

この感情を世の中では『愛』と言うらしい。

 

 

 

 

 

————————————————

 

 

 

残骸が漂っていた。

 

 

海に浮かんでいるのは鉄の塊と人間たちが作り出した文明の利器の数々だった。それらは全てオレにも見覚えがあったものだった。だって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはゴーヤが過ごしてきた泊地のある島なのだから

 

 

 

 

 

 

 

その日、地図から一つの島が消えた。オレは鉄の残骸を掻き分ける。残骸の中心には机、紙などが多く散らばり沈んでいっていた。そしてさらにその中に一つの布切れがあった。

 

 

オレはそれを手に取る。潮に濡れて少し変色していたがそれは間違いなく。

 

 

どうしようもなく毎日見て来たもので、見上げていたもので…彼によく似合っていたものだった。

 

 

 

「…どうして?」

 

 

「オレ、頑張ったよ…泣きそうになるくらい辛かったのに、頑張ったんだよ。」

 

 

「なぁ…悪い冗談ならやめてくれよ。」

 

 

「提督…ほら早く出てきて、褒めてくれよ。こんなに可愛い子が待ってるんだからさ。」

 

 

くしゃりと顔が歪んだ、果たして彼女はどんな顔をしていたのだろうか。彼女にそれを知る術はない。だって、それはもはや意味のないことだったから。彼女にとってそれは無意味なことになり下がったのだから

 

 

 

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

 

 

タダヒトツ、ゴーヤハドウコクシタ

 

 

 

 

 

 

————————————————

 

 

 

 

「てーとく、おかえりでち。また頑張っていたみたいでち、えらい、えらい、でち。…えっ?また行かなくちゃいけない?…ならゴーヤも行くでち。…どこまでも、もう、ずっと、離れないでち。」

 

 

 

 



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きょうだいの絆未だ途切れず

初投降


「提督さん、艦隊が帰投したっぽい。」

 

 

「ああ、分かった。そうだな…今日はもう休んでもらっても構わない。明日にでも報告を受けるとしよう。」

 

 

時刻は現在11時過ぎ。最後の遠征艦隊がリンガ泊地に帰還した。そこの司令である提督はてきぱきと指示を秘書艦の夕立に伝えていた。

 

「はーい、じゃああたし、白露に伝えてきまーす。」

 

 

旗艦に報告の旨は明日やればいい、今日はそのまま休んでくれと言う伝言を秘書艦が伝えに行ったのを見ると息を吐いた。帽子を脱ぎ、近くにあった柱にかけた。そしてそのまま椅子にどさりと腰を落とした。今の彼を取り巻く状況に彼は思わず嘆息した。

 

 

「大丈夫だ…俺は上手くやれている。何も心配することはない、これからもオレは上手くやれる…。」

 

 

彼は本来勇気のある人間ではない、知略に優れているわけでもなく、武勇が凄まじいというわけでもなく、自信に満ち溢れている人間でもなかった。文字通り何処にでもいる一般人。そんな人間が戦場に身を置くためには少々自己暗示が必要だった。自分が才気に溢れる人間であり、自分が間違いをすることはない。そうやって思い込むことで彼は自らの心の安定を保っていた。いや、彼は正直自分のことは実際後回しでもよかったのだった。彼は彼の『弟』について気がかりでしょうがなかった。一般的な何処にでもいる家族思いの青年だった。

 

 

 

「提督さん、伝えてきたっぽい。そのまま休むって言ってたよ。」

 

 

「ああ、済まない。夕立にも手間かけさせたな。」

 

 

「気にしてないっぽい。あたし、提督さんもの役に立てるならそれで嬉しい。」

 

 

「…感謝する。」

 

 

この懐きようは、ああ、犬を想起させるな。本当にこういうところでも変わらない…弟は殆ど変わってなかった。いや、ただ一つだけ大きく変わってしまったことがあるのだが。

 

 

「なぁ…夕立。」

 

「ん?どうしたの、提督さん。」

 

 

「君が…俺のきょうだいだったっていう感覚はあるか?」

 

 

「急に変なこと言い出したっぽい?提督さん、大丈夫?」

 

 

「いや、オレは至って真面目のつもりだ…それで、どうだい?」

 

「んー、でも…お兄ちゃん…なんかしっくりくるっぽい。提督さん、お兄ちゃんっぽいから納得!」

 

 

しかし彼女は知らなかった。本当に、過去に彼女はこの提督の事をお兄ちゃんと呼んでいたことがあるのだ。しかしそれは彼女の記憶にとどまらない。彼女はそれを知らない、彼女は覚えていない。彼女は忘れてしまった

彼女は何も知らない、彼女は何も記憶していない、彼女はやがて彼と赤の他人へ陥った、彼女は忘れた、彼女は覚えてない自分の兄を、彼女はなってしまった、カレはなった、駆逐艦「夕立」に、カレは弟だった、目の前の提督さんと呼ぶ人間の。

 

 

 

 

————————————————7年前————————————————

 

 

 

「兄ちゃん、ゲームばっかやってないでこっちも遊んでよー。」

 

 

パソコンのディスプレイの前に座ってゲームをする青年とそんな彼の肘を引っ張る少年。

 

 

「引っ張んな、まあ待て、これだけ終わったらあとで死ぬほど構ってやるからさ。」

 

 

青年にとってこのイベントはかなり重要なものだった。今までの準備期間を経て華々しくデビューするということになるためだ。一方弟の少年はそういった類のゲームには疎いため兄が何が面白いのかがよく分からない。齢9歳の少年には兄と遊ぶ方が楽しいのだ。

 

一方青年も弟を蔑ろにしているわけではないし、疎んでいるわけでもない。ただただ今の優先順位が艦これの方が上なだけだからだ、あと五分もせずにやりたいことを終われるし終わった後は、拗ねる前に弟を構い倒してやるつもりだった。仲良しの理想的な兄弟と言えるだろう。

 

 

「あれ、兄ちゃん、画面がなんか光ってるけど。」

 

 

「ん…?何々…『緊急司令』?…妙だな今までそんなことなかった気がするんだが…『新たな泊地が開設、着任せよ!』…なるほど、ゲリラミッションか。まだ何かあるな…『この画面を押すと終わるまで母港には帰れません』…か、まあすぐに終わらせるか…」

 

青年は軽い気持ちでそのボタンを押した。その瞬間に画面は今までにない光を放った。

 

「うわっ!?」

 

「眩しっ!?」

 

 

青年とその弟はその激しい光に呑まれていった。

 

 

 

 

 

————————————————

 

 

青年が目を開けるとその景色は一転していた。青年が先ほどまで居たのはアパートの一室の荷物が積み上げられていた場所だった。しかし目を開けるとそこに映っていた景色は、清潔感のある木の…そう、まるで執務室のようだった。青年は疑問に思った。そして周囲を見渡すと…

 

 

「…まさか、本当に執務室!?」

 

 

そして青年は自分の格好が変わってるのにも気が付いた。先ほどまでラフな部屋着だった彼があるいはどういうことだろうかきっちりと襟まで絞められた海軍制服を着ていたのだった。その多大な変化に彼は大きく戸惑った。当然と言えば当然だがこんなことは生まれて初めてだった、というかあってたまるかという話だが。

 

 

「あ、あれ…兄ちゃん…変な服着てる…ていうかどうなってるの、ここどこ!?」

 

声がした方向を見れば、そこにはいつも青年が見慣れている艦娘がいた。混乱した。

 

 

「ゆ、夕立…?」

 

それは間違えるはずもない、艦娘夕立(一般的に知られている改二ではない)だった。

 

 

「おい、兄ちゃん、何言ってるの、僕だよ、ボク。」

 

 

その話し方は決して夕立の物ではなかった、しかし先ほどまで聞いていたその口調に覚えはあった。ついでに指示代名詞で何となく察していた。

 

 

「お前…まさか、……か?」

 

「そうだよ、兄ちゃん。僕の顔忘れたの?」

 

 

「いやいやいやいや、今、お前どんな状況か分かってるのか!?」

 

「分かんないよ、すっごい眩しくなったと思ったら訳の分からない場所にいるし…ていうかなんか背が伸びた?」

 

 

「…鏡、見てみろ。」

 

青年は夕立っぽい少女に姿鏡を持ってきてその容姿を確認させた。

 

 

「え…?」

 

少年っぽい人物はそこには自分の姿が映るであろうと確信していたが現実は非情である。そこに映った少女の姿に絶句した。震えながら彼は聞いた。

 

 

「兄ちゃん…これ、ボク?」

 

 

青年は何かを諦めたように頷いた。夕立となった少年の絶叫がその出来立ての泊地に轟いた。

 

 

 

 

————————————————

 

 

「いいか?…俺の予測に過ぎないがここは、俺のやっていたゲームの中だ。そこで俺はプレイヤーになって、お前はキャラクターになってしまったらしい。」

 

夕立となった少年は涙目になりながらも頷いた。

 

 

「正直なんでこうなったかは分からない。…けれど俺達は姿が変わってもきょうだいであった事実には何も変わりない。不安なのは分かる…正直俺も不安で押しつぶされそうだが…けれど、安心してくれ。俺が、お前を守る。だから俺の事をお前も支えてくれ。」

 

「…うん、分かった、兄ちゃん…僕、怖いけど頑張る。」

 

 

それから文字通り、提督となった彼と夕立になった彼との奮闘の日々が始まりを迎えた。やったこともない提督業に始まり、ここが戦場という事を思い知らされることもあった。夕立は夕立の方で、そもそも10にも満たない年齢で戦場に立たなければならないという残酷な話である。けれども彼らは奮闘した。ただ傍に、兄が、弟がいたから彼らは頑張れた。

 

 

最初の一年は落第だった

次の一年は及第点だった

次の一年は合格点だった

次の一年は最適解だった

 

 

四年も経てば彼らは変わった。人間は慣れて適応する生き物だ。だから彼らも慣れて、適応した。そして進化したのだった、これこそが人の持つ無限の可能性だ。

 

しかし弊害があるところで確実に表れていたのだった。最初の三年間は夕立は提督の事を以前の関係と変わりなく「兄ちゃん」と呼んでいた。だが四年目、些細な変化が起こった。

 

 

「ふぅ…何とか終わったか。」

 

 

「お疲れ様…最近忙しいね、提督さんも無理しないでね。」

 

 

そうホントに自然な流れで言っていた。彼も気が付かずにスルーしそうになっていた。

 

 

「おい…お前今…」

 

「ん?どうしたの、兄ちゃん。」

 

しかし彼女のこちらを指す言葉はいつも通りだった。彼も最初は気のせいかと思った、しかし変化はどんどんと彼女を蝕んでいった。

 

 

 

「お疲れっぽい。休む?」

 

 

「今…やっぱり…」

 

「何か変なこと言った?」

 

最初は少し言葉が変わる程度だった。しかしそのうち、口調に夕立の口癖が付き、提督を指す言葉も兄ちゃんから提督さんに少しずつ頻度が増えていった。彼女の変化に提督はまさに恐怖を抱いた。まるで弟が消えて、夕立になってしまうようにと。

 

 

そして五年目に入るころには口調は夕立のものに、提督への呼び方が提督さんで固定されてしまった。けれどもしばらくはまだ、自分が提督の弟であることはまだ覚えていた。

 

そしてその運命の日は来てしまった。

 

 

まず提督がその日、見つけた夕立は何故かうずくまっていた。

 

 

 

「お、おい、どうした!?」

 

 

「あ…兄ちゃん。…頭が痛い…」

 

 

その時呼び方が兄に向けたものだったのに提督は気が付いた、しかしそんなことは些事だった。彼女が頭を痛そうにしているのだ、心配しないわけがない。

 

 

「大丈夫か!」

 

 

「っ痛…割れそう…」

 

そして彼女は苦しみ始める。

 

 

「兄ちゃん…痛い…痛いよ…」

 

 

「ああ、クソ…チクショウ、明石を…」

 

 

「あ…ああ…なんで…」

 

 

更に頭を強く抱える。苦悶の表情が浮かんだ。

 

「ああ…やだ…兄ちゃん…忘れちゃう…」

 

 

「お、おい!?」

 

「僕が…ボクじゃなく…!?」

 

 

 

そして夕立はその時、一度大きく体を揺らした。そして荒い息遣いをしていた夕立が顔を上げるとキョトンとした表情をしていた。

 

 

「あれ?提督さん、どうしたの?あたしの肩を掴んで。」

 

 

「大丈夫なのか?もう痛みはないのか?」

 

 

「痛み?何の事っぽい?」

 

 

何かあったのかと首を傾げる夕立…提督は嫌な予感がしたのか色々と質問をした…

 

 

 

 

その結果、夕立は何も覚えてないことを彼は確信した。彼女は彼の弟だったという記憶を完全に失くしたのだった。それこそ欠片も残さず、一片すら残っていなかった。それは彼を絶望させるにはそう十分なことだった。やがて彼はどうにもできないと諦めざるを得なかった。諦めるしか方法は残されていなかった。

 

 

 

 

 

それから二年の月日が流れた。夕立はつい先日、改二へと至った。彼女の容姿は成長したようになり、発育の良さが増した。

 

 

 

 

 

そんなある日…提督は心身ともに疲れていた。そんな彼を癒してくれるのは睡眠と風呂と言う時間だった。だから彼は今晩は風呂を貸し切り、一人でザバッーとお湯を浴びていた。

 

 

 

 

「…ふぅ…」

 

何かと気を張っている彼がリラックスできる瞬間だった。しかしそんなとき、大浴場の扉が開かれた。

 

 

 

「あ、いたいた…提督さーん。」

 

 

 

「ゆ、夕立…!?」

 

 

それは彼の少女、夕立だった。突然の来訪に思わずフリーズした。

 

 

「提督さーん、一緒に入るっぽい。」

 

 

 

むにゅうと彼に抱き着いた。当然彼女は全裸だ。その発育のよくなった身体が提督の背に当たった。

 

 

 

「ゆ、夕立、少しはなれ…」

 

 

「提督さーん、そろそろ観念するっぽい。」

 

 

背後から聞こえてくるのはいつもの穏やかな声ではない。夕立の鋭い声だ。

 

 

 

「…いつまで自分を言い聞かせて我慢するの?…無駄なことって分かってるのに。」

 

 

そして語り掛ける。

 

 

「ねえ、提督さん、早く解き放っちゃいなよ、どろどろの欲望を…あたしに。」

 

 

 

 

そこにかつて弟だったものはもういない。

 

 

ただ食われるのを装っている肉食獣がそこに居た。彼の中のあるタガがちょきんと切れてしまった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、彼は、歪みな依存関係に至る。ただこれだけは言える、彼の弟は死んだのだ、と




あまりに性癖歪みすぎてないか?


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世界考察スレ part3

もはや言い訳はせんよ


1:名無し、抜錨します ID:ARc3r9zse

 

■このスレは世界に対して考察を述べ合うスレです

■荒らしは禁止。もし出たとしても構わないこと

■板のローカルルールを読みましょう

■次スレは>>970を踏んだ人が立てましょう

 

 

2:名無し、抜錨します ID:0ib/dvJ1r

 

>>1 乙。前スレの最後でどこまで話進んだっけ。

 

 

3:名無し、抜錨します ID:YY6RTrN7n

 

立て乙。確か艦娘として長くいると自意識を無くし、元の日本の記憶をなくすって所まで。それを回避する云々がこれからってところ。

 

 

4:名無し、抜錨します ID:1EKmd0sqN

 

>>1乙。恐ろしい話だよな、ていうかなんでそんな目に俺たちは合ってんだ?

 

 

5:名無し、抜錨します ID:EbZgaYyha

 

全てはカミの御心のままにということさ…

 

 

6:名無し、抜錨します ID:4A8srF/lr

 

で、センセは何処にいんの?

 

 

7:名無し、抜錨します ID:n9ncgcToB

 

今北産業

 

 

8:名無し、抜錨します ID:c2tzMOrn+

 

>>7 自分で読めや。まだ10レスも言ってないぞ

 

 

9:名無し、抜錨します ID:n9ncgcToB

 

>>8 前スレにいなくて流れを知りたくてスマソ。ところでセンセって誰のことか?ワイに教えてくれ

 

 

10:名無し、抜錨します ID:zj4ywOQrp

 

センセってのはこのスレを立てた張本人で今までで結構な考えを述べてきてる人

 

 

 

11:名無し、抜錨します ID:n9ncgcToB

 

>>10 はぇー、教えてくれてサンガツ。んでそのセンセはいないんか。

 

 

12:名無し、抜錨します ID:Go8ndethy

 

はいはいここにいますよー。

 

 

13:名無し、抜錨します ID:OIAbA2BiA

 

センセだ、こんちゃーす

 

 

14:名無し、抜錨します ID:s7MqBLG7O

 

先生じゃ、囲め囲め

 

 

 

15:名無し、抜錨します ID:skPbAsZUq

 

兄貴、お疲れ様じゃぁ!

 

 

16:名無し、抜錨します ID:n9ncgcToB

 

えっ、何このノリは…(困惑)

 

 

17:名無し、抜錨します ID:40sKVLfPD

 

細かいことを気にしてたら死ゾ

 

 

18:管理人 ID:Go8ndethy

 

コテハンも付けたことですし前スレの続きから始めましょうかぁ

 

 

19:名無し、抜錨します ID:2aIrbB1Zk

 

待ってました!大将!

 

 

20:名無し、抜錨します ID:wgRLlCoYP

 

wktk ktkr!

 

 

21:名無し、抜錨します ID:wePvU1S/8

 

888888888

 

 

22:管理人 ID:Go8ndethy

 

とりあえず今の現状で我々が把握してる情報を箇条書きでまとめていきましょう

 

・転移してきたのは全員艦これプレイヤー

・秘書艦に設定した艦娘になっている

・最初に内は平成日本の記憶を持ち自我もあるが段々と記憶が削れ何れ自我が喪失する

・転移を仕組んだとされてるのはカミと呼ばれる装置である

 

とりあえずこんなところですね。で、ここから続きですがまずは皆さんの中で男だった人はどれくらいいます?

 

 

23:名無し、抜錨します ID:+IUF+Z6CR

 

 

 

24:名無し、抜錨します ID:2rPjf4lhS

 

 

 

25:名無し、抜錨します ID:3P6jBt4gi

 

艦娘の中身が汚いおっさんだと思うとフフッ…下品ですが…

 

 

26:名無し、抜錨します ID:ygs6RbQn8

 

>>25 おおお、おっさんちゃうわ!ちなみに自分も男です

 

 

27:名無し、抜錨します ID:I0OVhcJWT

 

 

というより艦これやってる人は大多数は男なんじゃねーの?女性提督が居るっていうの聞いたことはあるけれど見たことねーし

 

 

28:名無し、抜錨します ID:hTuihqNc1

 

 

というよりテイトクは基本的に男という統計がある

 

 

29:管理人 ID:Go8ndethy

 

おそらく大多数のテイトクは男性というイメージで構いません。実際に集計した結果九割五分五厘は男性でした。

 

 

30:名無し、抜錨します ID:ItGkts5sD

 

>>29 センセはいったいなにものなんですかねぇ

 

 

31:名無し、抜錨します ID:hsCzh86KM

 

>>30 妖精さん

 

 

32:名無し、抜錨します ID:vi4Y6ZgIE

 

>>30 黒幕

 

 

33:名無し、抜錨します ID:i3GDMHcTA

 

>>30 イーノック

 

 

34:名無し、抜錨します ID:YEsb3LpiW

 

ちくわ大明神

 

 

 

35:名無し、抜錨します ID:XEU0RzXVG

 

誰だ今の

 

36:管理人 ID:Go8ndethy

 

話が盛大に逸れましたが私は扶助組合の人間というだけです。残念ながら妖精でも黒幕でも72通りの名前を持つ天界書記官ではありません。

 

 

37:名無し、抜錨します ID:ccwjMHQwH

 

残念

 

 

38:名無し、抜錨します ID:OLdnWhPJd

 

残念でもなく残当

 

 

39:名無し、抜錨します ID:tPLpwlY5M

 

話を戻しますが9割9(ryが男性であるため当然今の性意識の状態だと恋愛対象は女性になると思いますがそんな皆さんに残念なお知らせです。遠くない未来の内に皆さんはメス堕ちしてしまうでしょう…

 

 

 

40:名無し、抜錨します ID:gdDtKnfpy

 

>>40 ドファッ!?

 

 

41:名無し、抜錨します ID:kh5VtkYmj

 

>>40 えぇ…(困惑)

 

 

42:名無し、抜錨します ID:ZVeAJdJpE

 

 

>>40 ええやん気に入ったわ!

 

43:名無し、抜錨します ID:ymr1SV5sX

 

何かやばい奴が紛れ込んでますねこれは…でもそれよりメス堕ちってどういう意味なん?

 

 

44:管理人 ID:Go8ndethy

 

原因はまだ解明されてませんが艦娘で長い間居続けると提督に対し盲目的な恋をするようになります、現にベテランのテイトクは10割、提督と懇ろな仲になっていると言います

 

 

45:名無し、抜錨します ID:JnrBDf3Ty

 

…やべぇ、さっきまで軽いノリでいたが急に怖くなってきたぞ…

 

 

46:名無し、抜錨します ID:toAXM5QbI

 

安心しろ、俺もだ。アイツと、俺が…うっそだろオイ…

 

 

47:名無し、抜錨します ID:18ksOD5tU

 

回避する方法…とかないんですかねぇ

 

 

48:名無し、抜錨します ID:Gd7iUVYdX

 

嫌じゃ、男と恋愛などしとうない!

 

 

49:名無し、抜錨します ID:j0/XVwEWW

 

確かに既婚艦娘板とかあるくらいだしその可能性は考えたことがあるが自分となると、いやマジか

 

 

50:管理人 ID:Go8ndethy

 

結論から言えばこの侵食からは逃れるすべはない、というのが現状での結論です。恐らく個人の予測でしかないですが、そのように、提督に好意を差し向けるように我々は刷り込まれてしまったのではないかと…ほかでもない、カミに。

 

 

 

51:名無し、抜錨します ID:18ksOD5tU

 

やっぱカミってクソだわ

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

そう、結局逃げられない。逃れられないのだ、我々が逃げ出す方法はない…テイトクである以上…、艦娘である以上、我々は…救われないだろう。

 

 

 

今はそれがようやくわかる。何故ならば…私がそれに嵌ってしまったからだ。ああ、どうしようもなく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明石、ここにいたか。」

 

 

 

提督は探し人を見つけた。どうやらパソコンで作業をしていたようだ。声をかけたからか彼女は座ったまま振り返った。

 

 

「おや、提督、こんばんは、私に何か用がありましたか?」

 

 

振り返った彼女の顔には眼鏡があったため提督は一瞬怯んでしまったが…

 

 

 

「あ、ああ…一応確認しておきたいことがあってな…そのメガネは?」

 

 

「これですか?大淀のです。正確には大淀のレプリカのものです。一応度も入ってるんですよ。」

 

 

「そ、そうか…目が悪いのか…?」

 

 

「いえ、十分に良いんですが、ちょっと気分転換も兼ねて…って、何だか見られてると恥ずかしいですね…」

 

 

先ほどまで何とも感じてなかったのか改めて提督に見られていることで明石は気恥ずかしさを感じてきたのか頬を少し掻いた。

 

 

 

「…似合ってると思うぞ。」

 

 

「…え?」

 

 

「明石によく似合ってると思う。可愛いよ。」

 

 

提督は少しフリーズしたが明石のその動作を含めて素直な感想を述べた。一方急に褒められた明石はポポポッと頬を赤く染めて手で押さえた。

 

 

「もう、提督ったら急にお上手なんだから…」

 

 

しばらく恥ずかしそうにしていたがやがて平静を取り戻したのか

 

 

 

「話が随分と逸れてしまいしたけれど…私への用って何でしょうか?」

 

 

「ああ、そうだった…こっちも忘れるところだった…。ええと、設備のことで少し相談があってな。必要物資を揃えなければならないから明石にもその見積もりを手伝ったほしいと思って。もしかして今は忙しいか?」

 

 

「いえいえ、全然ですね、むしろ暇も持て余してますよ。運が良いですねぇ提督は、私の仕事がないときに来るなんて。」

 

 

「まぁ…確かにそうだな。君は何時も何かのことをやっているように思える。暇という方を見るのが珍しいな。」

 

 

 

とりあえず立ち話もなんだし、と提督は部屋に足を踏み入れようとしたが…

 

 

 

「ちょ、ちょーっとそこで止まってもらえるでしょうか…提督。」

 

 

「あ、ああ…?」

 

 

 

明石に制止され提督は部屋に入った数歩で足を止めた。明石は出来る限りの距離をとっているように…見える。

 

 

 

「う、嘘…ぼ、暴走してる…!?こんなに早くなるはずじゃ…い、嫌だ…」

 

 

 

ボソボソとつぶやく声は提督には届かずその彼女の様子が提督を心配にさせた。

 

 

 

「あ、明石?大丈夫か?」

 

 

心配になって寄ろうとする提督、しかしやはり明石に制止される

 

 

 

「こ、来ないでください…提督が居るとやはり…」

 

 

「えっ!?」

 

 

 

嫌われたのか!?と提督は内心驚愕するがそれよりも明石の様子はどんどん可笑しくなっていく。頭を押さえているようだ…

 

 

 

「…アハハッ…私の中に…獣の心が…」

 

 

明石のその様子は狂乱しているようであり到底まともとは言えるものではない。呻く明石に提督は彼女の忠告を無視して駆け寄った

 

 

 

「大丈夫か、明石!!」

 

 

 

 

「…ハハッ…もう抗うことは…出来ないってことですか…もうどうなっても知りませんよ…提督。」

 

 

 

しかし明石は提督をその場に押し倒し、覆いかぶさった。そしてその場で口づけをした。

 

 

 

 

 

「…好き好き大好きですよ、提督…それじゃあ愛し合いましょうか…獣のように、全てを忘れ。」

 

 

ただただ彼女は妖しく微笑んだ…もはやそこに理性的な工作艦明石は居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

442:名無し、抜錨します ID:/4ekqGfAS

 

あれ、そういえば先生は?

 

 

443:名無し、抜錨します ID:8MqD0/Gxp

 

 

最近見ないなぁ

 

 

444:名■し、■■しま■ ID:Go■ndethy

 

ケモ■のさ■■か■は逃■■ら■い

 

お■え■達■そ■同■■

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 



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阻まれる愛、複雑な線の果てに

今回は特大にヤベーイのが出来上がったと思います


「………ごめんなさい、司令官…あいつは…荒潮は沈んだわ。」

 

 

「…っく…」

 

 

帽子の下で見えないだろうが彼はおそらく顔を伏せたのだろう。ああ、泣いているのかもしれない。

 

 

 

「嵐であたしと…荒潮は分断されて、雷巡の奇襲に遭って…討ち取ったけど…アイツは…。」

 

 

「そ…う…か…。」

 

 

司令官、声が震えてるんでしょうね、その気持ちはわかる。それは「痛いほど」に良くわかる。

 

 

「…気の利いた言葉なんてかけられないけれど…ごめん…。」

 

 

「…い…良いんだ、霞…戦場に出る以上…こうなることは…分かってたんだ…」

 

 

「…声が震えてるわよ。あたし…出ておくから。」

 

 

 

「あ…ああ。すまない…一人にさせてくれ…。」

 

 

 

ばたりと扉を閉める。中から嗚咽が聞こえてくる。今は泣くといいわ。

 

 

 

 

 

ねぇ、皮肉なものよね。あんたとあたしは…俺は愛を誓った仲だっていうのにあたしがあんたを殺すってのは実に皮肉が聞いてるわよね。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「ねぇ、■■くん!せっかく彼女が遊びに来たのにゲームっていうのはどうなのかなぁ。」

 

 

「いやそうは言ってもアポなしで来たのはそっちだろうし…特にもてなす用意とかも出来ねぇしなぁ。」

 

 

 

「あまりゲームの女の子に構ってると私が拗ねるわよー。」

 

 

「わかった、あと数分で終わるからそれだけ待っててくれ。」

 

 

 

おそらくそこはとあるアパートの一室。そこには恋人関係と思わしき男女がいた。どうやら女の方が男の部屋にアポなしで来たためゲームをしている最中であったため仕方なく続行しているようだ。

 

 

 

「ところでこの娘、何ていうの?」

 

 

 

「ああ、これか?彼女は駆逐艦の霞っていうんだ。」

 

 

「こっちは?」

 

 

「同じ駆逐艦の荒潮だな。二人は姉妹なんだ。」

 

 

「へぇ、この子たちが姉妹ねぇ。…で、どっちが「俺の嫁」かしら?」

 

 

「あのなぁ…からかうなよ。」

 

 

そんな彼らの前のPCがある知らせを表示した

 

 

 

「『遠征任務』…?初めて見るなこれは…」

 

 

 

「なになに、どんなことが始まってるの?」

 

 

「おわっ…ちょっ勝手に押すな…」

 

 

「うわぁ!?」

 

 

 

女が勝手にマウスをクリックしたことによりパソコンは急に発光し始め…激しい光が包んだのちに…彼らは居なくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っちちち…どうなったんだ……どこだここ?」

 

 

 

彼は目を覚ました。そして目が覚めて見えた光景は見覚えのない所だった。先ほどまで安アパートの壁を見ていたはずだが今はどこか機械じみた無機質な部屋にいた。そんな彼の隣で彼女はまた同じく目を覚ました。

 

 

 

 

 

「いつつつつつ…」

 

 

 

そんな起きた彼女の姿を見て彼は眼を見開いた。

 

 

 

 

「…あ…荒潮…?」

 

 

先ほどまでディスプレイに映っていたその艦娘の姿だった。ゆえに彼は衝撃を覚えた。

 

 

 

 

「…え、あ、あんた誰よ!?ここ、何処よ!?」

 

 

 

そして荒潮?は口を開いたが彼は確信した。違う、と。そして推測の域を出ないが彼は理解した。

 

 

 

 

「…もしかして…●●か?」

 

 

「…その呼び方って…まさか■■くん?」

 

 

 

やはり間違いないのかと荒潮の喋りは彼女へ酷似していた。そして事実、間違いではなかったと思案する彼。そして無情な事実が彼女から告げられた。

 

 

 

「…■■くん。女の子に、なっちゃったの?」

 

 

 

そしてふと見た鏡に映った顔を見たとき、彼は絶叫した。その絶叫が響いた…かなり可愛い声で、だったが。

 

 

 

―――――――

 

 

 

そう、それがあんたとあたしの始まり。司令官との最初の出会いでもあったわね。

 

 

 

俺は正直その当時は狼狽してたし驚愕してたよ。異世界転生というものをまさかこの身で経験することになるとは思わなかったからな、そういうジャンルがあるのは知っていたが誰もその当事者になるとは思わねぇだろう?いや正確には異世界転移か…どっちでもいいな。

 

 

 

 

「…●●。俺は…こんな姿になっちまってけれどよ、お前のことは今でも好きだ。ちゃんと愛しているって言えるよ。」

 

 

 

「■■くん…うん、私もあなたのことが好きです。」

 

 

 

「だから…これからもその…よろしくな、こんな姿だが…それに、いつか一緒に帰ろう。まだまだ分からねぇ事ばかりだが…。」

 

 

 

「…うん、約束しよう。」

 

 

 

これはまだ来てから一週間も経ってない頃のことだったわね。他のテイトクがいるなんて夢にも思わず世界にたった二人しかいないと思ってたそんな時あたしたちは約束したわね。

 

 

 

 

「■■くんって司令官のことどう思ってるの?」

 

 

「ド素人だな。なんであんな若造が提督になれてるのかもわからねぇし、それにいろいろ下手くそだ。俺でももう少し上手く出来たぞ。」

 

 

「あははは…手厳しいね。そういう意味では■■君は司令官の先輩なのかな?」

 

 

「もっと口出すか?」

 

 

 

 

懐かしいわね、これは確かここに来て2週間くらいだったかしらね…こんなにボロクソ言ってた司令官のこと、まさかこうもなるなんて思ってもみなかった、わよね?

 

 

 

 

 

「一年か、大分この生活にも慣れてきたな。」

 

 

「■■君もだいぶ演技には慣れてきたかな?」

 

 

「まぁ一年もやってればな…正直慣れたくないことの方が多かったが…」

 

 

「あはは…気持ちは分かるよ…仕方ないことだから割り切っていくしかないね。」

 

 

「まぁ…そりゃあなぁ…しかしこの一年でもかなり成果はあったな…まさか俺たち以外にもいたとは…」

 

 

「確か、テイトクだっけ?あんなに沢山いてびっくりだよね。」

 

 

 

 

そうね、これは一年くらいの頃、ここまではあたしたちはまだ元通りの関係だったかしら?でもここからよね。

 

 

 

 

 

「鳳翔さんの言っていたことは本当なんだなって実感してきたよ。駆逐艦『霞』の記憶がしっかりと俺にも染み付いていた…それに…いつもは演技でやってたことが…いつの間にか…」

 

 

 

「■■くんも…?正直に言えば…私も…だよ。これから…私たちどうなっちゃうんだろうね…。」

 

 

 

「どうにもならねぇさ。…俺たちは恋人、だろ。」

 

 

 

「うん…そう、よね。」

 

 

 

そうそう、あたしたちは厳しさを思い知ったのよね。けれどまだ変わらない、そう言ったんだったわね。

 

 

 

 

 

「二年…もうそんなに経ったのね。あんたは最近どう?荒潮。お互い別行動なることが多いけれど。」

 

 

「そうねぇ、異常はないけれど…私たちは異常アリになっちゃったみたいねぇ?」

 

 

 

「…意識しないとすぐこうなるんだ。俺…どうなるんだろうな。」

 

 

「忘れてない限り大丈夫だよ。■■君は消えてないでしょ?」

 

 

「…そりゃあな。●●を残して消えるわけにもいかねえ。」

 

 

二年目になったらほとんど艦娘のあたしとしての振る舞いにも違和感を覚えなくなって…それにあいつも荒潮として自然に振る舞ってしまうようになって。けれどまだ恋人関係だったわね?滑稽ね、今思い出せば。

 

 

 

 

 

「ねぇ、荒潮…あんた最近司令官にべったりらしいけれど。」

 

 

「そうだったかしらぁ。秘書艦って立場上しょうがないわねぇ。」

 

 

 

「まぁ別にいいけれど…それよりもあんた、忘れてないでしょうね。」

 

 

「えぇ、大丈夫よぉ。ちゃんと覚えてるわ。…それに今日で3年目ね。」

 

 

 

「…すっかり慣れちゃったけれどあたしは男だし…あんたの恋人だったのよ。」

 

 

 

「……大丈夫よ、■■君。覚えてるし、忘れてないよ。」

 

 

「…ならいいんだよ。少し安心したよ。」

 

 

 

 

三年経った頃にはあんたは司令官の秘書艦、べったりだったわね。多分、この時から気持ちが揺らいでたんでしょうね。

 

 

 

 

 

「…ねぇ荒潮、あんたと二人きりになるのは久しぶりね。」

 

 

「そうねぇ…想定外のトラブルだったけれどこうして直で話し合うのは久しぶりねぇ。」

 

 

空模様は最悪。雨が降り続けていてあたしたちはほかの面子と分断された。直で話し合うのは一年ぶり。しっかり覚えているわ。ええ、あたしにとってはついさっきのことだもの。

 

 

 

 

「一応確認しておきたいんだけれど、あんた…テイトクであることは忘れてないわよね。」

 

 

「えぇ、そこは流石に忘れないわぁ。」

 

 

 

「じゃぁ…あんたとあたしがどういう関係だったかは?」

 

 

 

「……えぇ、忘れてないわぁ。」

 

 

「分かってんのよ。あんたの気持ちにあたしなんかとっくにないってことは。」

 

 

 

あいつは間違いなく司令官のことが好きだったのだろう、あたしが恋人だったという事実も覚えながら過去のように扱い、新たな恋を見つけてしまったのだろう。

 

 

 

「丁度いい機会だったから言わせて貰ったけれど…もう俺たちの関係、清算しようぜ?」

 

 

 

「…だけれど。」

 

 

「分かってるんだよ、俺にお前の視線が向いてないことは、な。だから余計な関係は終わりにして、さっさと清算した方がお互いのためだろ?」

 

 

 

「…それは…そうだけれど…。」

 

 

「だからな、別れようぜ。●●。」

 

 

 

「…ごめん、■■くん。」

 

 

 

それは間違いないんだろうなって思ったわ、その視線は俺には向かってなくて司令官にただ一直線に向けられてるって確信したよ。

 

 

 

「良いんだよ、こんな関係いつまで続けてたら俺にも苦痛だしな。…それで、一つだけ聞きたいんだ。」

 

 

「なに、かな?」

 

 

「アイツから…指輪を貰うっていう話は本当か?」

 

 

「………。」

 

 

その時のアイツの顔は言っていいのか迷っていた。まぁ気を遣ってることは分かった。

 

 

 

「………うん。」

 

 

その声は嬉しそうだったよ。この時に俺は覚悟が決まったよ。その嬉しそうな気持ちは良く分かったよ。

 

 

 

 

「…嬉しそうだな、やはり少し妬けるな。あいつのこと、好きなんだな。」

 

 

 

「………うん。」

 

 

 

何だか寝取られたような気分だったが俺の気持ちも冷めてしまったしそこまで感慨はなかったよ。あきらめも簡単につくって言うものだ。

 

 

 

 

「まぁ…気持ちは分かるわよ。あんたのその気持ちはね。」

 

 

「…え?」

 

そして砲撃音。それは至近距離でなり…そしてあいつに…

 

 

 

 

「…ど…どうして…?」

 

 

 

艤装は全壊、損傷は激しく彼女は今すぐにでも沈んでいく。その最後の視線は俺に向けられていた。まぁそうなるだろうな、味方に、後ろから撃たれれば。

 

 

 

「あんたが司令官を好きっていう気持ち、痛いほどわかるわ…だって、あたしも同じものだもの…だからこそあんたが一番目障りなのよ、荒潮。」

 

 

 

「な…ん…で…」

 

 

 

「最低最悪なことは分かってるわよ。地獄に落ちる覚悟もできてるわ。恨んでくれてもいいわ。それだけのことをあたしがしたんだから。許しも乞わないわ。だから、死んで。」

 

 

その最期の瞳は怨嗟に塗れたものだった。ああ、あたしを呪いながら死んでいくんだろうなって分かったわ。でも覚悟の上よ。いくらでも呪えばいいわ。

 

 

 

ねぇ、皮肉よね?かつて恋人だった人を殺してでも欲しいものができちゃうなんて。

 

 

 

 

 

「…司令官。」

 

 

扉を開けた先の彼は泣いていた。その口で愛を囁いていたんでしょうね。

 

 

 

「…か、霞…か。ど、どうしたんだ…?」

 

 

 

「あたしじゃ…荒潮の代わりにはなれないけど…」

 

 

 

司令官の顔を抱きしめる。腫物を扱うように丁寧と。こうやって夢見たまでの感触を楽しめるとは思わなかったわ。…最低最悪だろうと地獄に落ちようとも、それでもあたしは…

 

 

 

 

 

「今は泣いていて良いから…胸ぐらい貸してあげるわ。」

 

 

 

 

「………あ、ありがとう…。」

 

 

 

 

あんたには感謝してるわ●●。あんたのお陰であたしは今、最高に幸せな気分よ。いつか地獄で会うことになったらその時に何度でも殺されてあげるから。

 

 

 

 

 

「これだけは…あたしが貰うわよ、荒潮。」

 

 




最近感想返ししてませんが見てます。うれしいです


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