色々なものが見える少年 (太陽光)
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第一話 幽霊も妖精も見える少年

「なんで!どうしてずっと皆を守ってきた兄ちゃん達が悪者なの!?」

「止せ蓮」

 

 蓮は必死に兄である翔太を追いかけようとするが、翔太はそれを手で制した。

 

「確かに兄ちゃんは何も悪いことをしたつもりはない。真っ当なことをしてきたと思ってる。でもな、これは海軍全体の問題で、兄ちゃんもこの責任を負わなくちゃいけないんだ。わかってくれ」

「兄ちゃん……」

 

 翔太はにっこり笑うと、泣き続ける蓮に近づき、自身が被っていた海軍の帽子と、身につけていた軍刀、それから拳銃を渡した。

 

「母さんのこと、頼んだぞ」

 

 翔太は蓮の頭を優しく撫でると、収容所に向かう船に向けて自身の率いていた艦娘達を連れて歩き出した。船には深海棲艦が立っている。

 

「待って!行かないで!行かないでよ兄ちゃん!皆!」

 

 

 

 

~十年後~

 

 

ー北蓮寺(ほくれんじ)蓮の部屋ー

 

 

「こりゃ蓮!早う起きんか!」

 

 午前五時半。北野蓮(きたのれん)の部屋では法衣に身を包んだスキンヘッドの老人が真っ赤な髪の少年をベッドから引きずりおろしていた。

 

「ん~……まだ五時半だろうが。もうちょい寝させろよ」

「馬鹿もん!朝の読経を一緒にするから小遣いを増やせと言ったのはどこのどいつじゃ。一昨日だってそう言って何時に起きてきた?八時じゃぞ八時!」

「んなこともあったかな~」

「ええい!さっさと準備せんかこの馬鹿孫め!」

 

 先程から怒鳴っているこの老人は蓮の祖父である北野源(きたのげん)。北蓮時の住職であり、最近では毎朝のように早朝から蓮を叩き起こしている。ちなみにかなりの武闘派で、過去には肝試しで敷地内にある墓場を徘徊していたヤンキー十数人を一人で叩きのめして警察に突き出したという逸話を持つ、この町でもかなりの有名人である。おまけに幽霊が見えるため、日々お経をあげたり、塩をまき散らしたり、悪霊に対して札を投げつけたりして成仏させる日々である。時には出張してお祓いまでする。

 

「ったく。わかったよ!準備すればいいんだろ準備すれば!ちょっと外で待ってろよ」

「早くせんとお前のバイク叩き壊すからな」

 

 そう言うと源はピシャリと襖を閉めて出て行った。

   

「ああうるせぇ」

 

 蓮はゴロリと横になると布団を被り、二度寝を決め込もうとした。が、

 

「何をしているというんじゃね?」

 

 布団を被った瞬間、襖が開き、元が入ってきた。

 

「あ……あ、あはは!学ラン何処に置いたっけなぁ~?シャツも何処だぁ~?」

「お前のダサい学ランは壁に掛かっとる。シャツは箪笥の中に入っておるじゃろうが。何故布団に潜りこんどるんじゃ?」

 

 源はゆっくりと近づいてくると蓮の頭を鷲掴みにして持ち上げた。指がこめかみにめり込んでいる。

 

「こんの馬鹿孫がぁ!今日という今日は許さんからな!」

「あ゛ぁぁぁあ!!頭が潰れるぅぅぅぅ!」

「早く準備するか?」

「しますします!ですから手ぇ放してくださいお願いします!」

 

 

ー本堂ー

 

 

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」

 

 十分後。学生服に着替えた蓮は源と共に寺の本堂で読経を行っていた。蓮の服装は標準よりも丈の短い学ランに、ダボついたズボン。そして腰には銀色のウォレットチェーンが付き、シャツは標準のカッターシャツではなく真っ赤な無地のパーカーといった出で立ちである。完全に見た目が不良な男が念仏を唱えているというのは、少し珍しい光景である。

 

「……っし終わった。飯だ飯」

「全くお前という奴は……」

 

 読経が終わるなり、すぐに本堂から出て行こうとする蓮の態度に源は呆れていた。一体何時からこんな悪たれになってしまったのか。

 十年前。突然実の娘の奈津子が幼い孫の蓮を連れて舞鶴から山間部のこの山寺に転がり込んできた。話を聞けば、蓮の兄である翔太が収容所に入れられ、他にも色々な事情があり舞鶴で暮らせなくなったという。それ以来、奈津子は近所にあった源の土地を使ってドライブインレストランを開業し、そこで働き始めた。店は京都市街と福井県を結ぶ国道沿いにあるうえに駐車場がかなり広いため、かなり繁盛している。一方の蓮は歳を重ねるごとに徐々に不良になっていった。

 

「成績は良いのになんでああなるのか」

 

 源は大きなため息を吐くと本堂に飾られてある仏像に礼をして本堂を後にした。

 

 

ーリビングー

 

 

「いただきます」

 

 食卓にはトーストとサラダ、それから牛乳が置かれている。蓮はそれを淡々と平らげていく。

 

「蓮。今日はバイトだったっけ?」

 

 蓮の向かいに座っている奈津子が蓮に声をかける。今年で四十五歳になる奈津子だが、化粧をしていなくても三十代に見える若々しさである。それ故、経営しているドライブインレストランでトラック運転手達に口説かれることもよくあるらしい。

 蓮はしばらく無言でトーストをほおばっていたが、牛乳で流し込むと口を開いた。

 

「ああ。良んとこでな。帰んのは九時頃だな」

 

 良というのは蓮の幼なじみで、家が建設業をしている。時々蓮は友人達と良の家へアルバイトをしに行く。意外と実入りはいいらしく、蓮は頻繁に良の家へアルバイトをしに行く。他にもたまにではあるが、幽霊が出るという所へお祓いをしに行くこともある。源の血を引いているのか、蓮もまた幽霊が見えるのである。しかしこちらは基本ただ働きだ。

 

「そう……帰りは気をつけてね」

「分かってるよそんなこと。じゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 

 朝食を平らげた蓮は鞄を引っ掴むとリビングから出て行った。蓮の通う高校はここから十キロも離れているため、一ヶ月前の四月に十六歳になった蓮はすぐに免許を取得。400ccのバイクを購入し、以降それで通学している。

 

「全く。小遣いもやっとるというのにあいつはバイクの他に一体何が欲しいんじゃ?中学の頃から隠れてバイトしとるみたいじゃが」

「さぁ……」

 

 源はため息を吐くと食器を流しに運び、奈津子の方を見た。

 

「お前は今日は何時に帰ってくるんじゃ?」

「私はいつも通り十時過ぎよ。じゃ、私もそろそろ行くから皿洗いよろしく」

 

 そう言い残すと奈津子はパタパタとリビングから走り去って行った。

 

「……皿洗いするかのぅ」

 

 リビングに一人残された源は、いそいそと皿洗いを始めた。

 

 

ー道ー

 

 

「気持ちいいな……」

 

 源が皿洗いをしている頃、蓮は高校までのだだっ広い道を走っていた。蓮の乗るバイクはSR400で、そこまで速く走ることは出来ないものの、蓮は気に入っていた。自分が頑張ってバイトや小遣いを貯めて購入したため、愛着は日に日に増すばかりである。

 

「れんさん、ばいくにのっているときはきげんがよさそうですね」

「そうか?」

「ですです」

 

 蓮の肩には小さな小人のような生き物が三体しがみついている。この生き物は妖精と言われ、かつてこの妖精の姿が見え、声も聞こえる者は十六歳になると即海軍に集められて、提督として艦娘達を指揮して深海棲艦と戦っていた。しかし、今ではそのようなこともなく、妖精が見えたところで何もメリットはなかった。ちなみに北蓮時には数百もの妖精達が暮らしている。提督の適性を持つ者がめっきり減ったために、様々な場所から集まってくるのだ。今でも絶賛増殖中である。今いる三体の妖精達は幼い頃から蓮について回る最古参の妖精達である。

 

「……もうあと半世紀早く生まれていたら、人前でお前らが見えないふりをしなくてもよかったのにな」

「それは……しかたがないことですよ」

「ですです。じだいのなみにはさからえません。むねん」

「おにいさんのけん、おきのどくです」

 

 十年前。日本は深海棲艦に敗北した。原因は海軍上層部の腐敗による民衆の不満の爆発と、そのタイミングで首都である東京に深海棲艦の大軍が攻め込んだためだった。降伏した日本に深海棲艦が突きつけた要求は、『海軍関係者を艦娘も含めて全て深海棲艦側に差し出す』『提督の適性がある者を順次捕まえて深海棲艦側に差し出す』『深海棲艦が起こした事故、事件は深海棲艦側で処理する』の三つだった。それによって、妖精の見える提督適正者は周囲にバレないように隠れて暮らすようになった。連もその一人で、それにいち早く気付いた母の奈津子は、蓮を連れて海の見えない内陸で自分の実家があるこの田舎町へ引っ越した。

 蓮の十一歳離れた兄、翔太は舞鶴の鎮守府の提督だった。蓮もよく鎮守府に遊びに行き、艦娘達に遊んでもらったりしていた。しかし、敗戦直後、艦娘達と共に深海棲艦に連れて行かれ、それ以来音信不通である。

 

「何時までこんなのが続くんだろうな」

 

 蓮がポツリと呟いていると、道ばたに一人の老婆が蹲っていた。しかし、なんだか様子がおかしい。心なしか体が透けて見える。蓮はため息をついてバイクを止めると、老婆に近寄った。

 

「おい婆さん。どうかしたんか。こんなとこで蹲っても成仏出来ねぇぞ」

 

 蓮が声をかけると、老婆は顔を上げて蓮の方を見た。体に外傷がないことから、どうやら事故で死んだわけではないらしい。とりあえず蓮は老婆の話を聞くことにした。

 

「うん?孤独死してしまった?せめてお経だけでもあげて欲しい?家は何処だよ……ああ、あそこね。分かった分かった。警察に連絡しとくから。じゃ、こんな格好で悪いけどお経だけでもあげてやる」

 

 そう言うと蓮は鞄の中から数珠を取り出すとお経をあげ始めた。幽霊の見えない人からすれば、道ばたでヤンキーがお経をあげているという何ともシュールな光景である。しかしここは田舎町。人も車も走っていない。

 蓮がしばらくお経をあげていると、やがて老婆の体が徐々に薄れていき、老婆は満足したのか蓮に向かって頭を下げると完全に消えてしまった。

 

「成仏したか……さて、警察に通報しないとな」

 

 蓮は数珠をしまうと、少し離れたところにあった老婆の家の前で警察に『郵便受けに新聞や広告が溜まっている。何かあったのではないか?』と通報して、到着した警官に事情を説明すると、自分は学校があるのでとさっさと退散した。

 

「やれやれ。幽霊も妖精も見えるってのは大変だよまったく」

 

 蓮は面倒くさそうに呟くと、バイクのエンジンをかけて再び高校に向けて走り始めた。

 

 

 

 

ー北蓮寺 本堂ー

 

 

 蓮が老婆を成仏させ、学校に急いでいる頃、源は檀家を回るための準備をしていた。

 

「えーっと忘れ物はないかな……ないな。よし……ん?」

 

 源が本堂から出ようとすると、出口に誰か立っている。しかし足下には影がなく、透けているため幽霊ということだけは分かる。

 

「人……ではなさそうじゃの。誰じゃ?ここに土足で入ったら即浄土に送るぞ?」

 

 源は懐から数珠と塩の入った小瓶、それから御札を出して身構えた。

 

「俺だよ。祖父ちゃん」

 

 幽霊はスーッと源に近づくと敬礼をした。見覚えのある顔に源は驚いた顔をした。

 

「お、お前……まさか」   

 

 

 




「どうも。作者の太陽光です」
「主人公の北野蓮だ。しかし作者。原作名に艦隊これくしょんと書きながら艦娘が1話目で一切出てこないという」
「まぁ最初だし仕方ないね」
「仕方ないで済ますのか……」
「そうだよ。次俺から質問ね。蓮はいつから妖精とか幽霊が見えるようになったの?」
「妖精は六歳頃から見えてたな。幽霊も……同じぐらいかな」
「幽霊とか見えるって怖くないの?俺もし見えたら失神するわ。そんで、夜にトイレ行くことすらできなくなりそう」
「慣れた。普通そうな幽霊はお経唱えれば大抵消えるってか成仏するし、ヤバそうなのはとりあえず御札と塩投げつければ何とかなるって祖父ちゃんが言ってたからそうしてる」
「ヤンキーが塩とか御札を見えない何かに投げつけてるの想像したら中々シュールな絵面だ」
「うるせぇ。まぁ、そんな変な悪霊中々いないんだけどさ」
「ふ、ふーん……で、では今回はこれぐらいで」
「「次回もお楽しみに」」

艦娘は次出せたら出す予定……でももうちょい先になるかも……


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第二話 再会からの作戦会議

ー斜陽高校ー

 

「おはようやで蓮ちゃん!」

 

 高校に到着した蓮が駐輪場にバイクを止めていると、後ろから声をかけられた。

 

「肝井(きもい)か。おはようさん」

 

 蓮が振り返りながら挨拶を返すと、肝井は嬉しそうに笑った。

 肝井は蓮の小学生の頃からの友人で、アニメやゲームをこよなく愛する男である。また、小学生の頃から女性教師に対してセクハラ発言を連発するという猛者でもある。見た目は小太りでチビ、短足、ロン毛、眼鏡さらに常時何故か左手にだけ革手袋を付けている。常に膨らんだ鞄には勉強道具は一切入っておらず、お菓子やゲーム、飲み物が詰まっている。

 

「な、な。蓮ちゃん知ってる?今日の放課後提督の適性者探すための検査があるらしいで」

「検査?」

 

 教室までの道を歩きながら蓮は思わず聞き返す。

 

「せや。ま、普通に妖精が見えるか見えないか聞くだけ何やろうけどなぁ」

「そうか」

 

 肝井は面倒くさそうにいいながら鞄から二リットルのコーラを取り出して飲み始めた。肝井はしばらくコーラを飲んでいたが、蓮の方をチラリと見た。

 

「飲む?」

「もらう」

「おぅ蓮!肝井!おはようさん」

 

 蓮が肝井からもらったコーラを飲んでいると、前方から長ランにドカンを穿いた金髪の男が歩いてきた。頬には大きなナイフ傷が走っている。

 

「げぇぇっぷ」

「健ちゃん。おはようやで」

「おい蓮。ゲップで挨拶すんな」

「すまんすまん」

 

 金髪の男の名は東山健(ひがしやまけん)。家は所謂ヤクザで、表向きは運送業をしている。数年前に健の父親の代になると運送業の商売にはまったのか最近は犯罪的な活動はせず、精々裏社会の情報収集程度にとどまっている。ちなみに蓮達の通うここ斜陽高校の正門前には組員達が屋台を開いている。蓮や肝井とは中学からの悪友で、中学時代は番長だった。 

 

「そうそう健。今日の放課後なんか検査があるんだってさ」

「検査?」

「提督の適性を持ってる奴を探すんやって」

「……ふーん」

 

 健は興味がなさそうに答えると肝井が鞄から出したサイダーを受け取って歩き出した。

 

 

ー教室ー

 

 

「おはよーさん」

 

 教室にたどり着き、扉を開けるとそれまで騒がしかった教室が一斉にシーンと静まりかえる。蓮達はそんなことは気にも留めず、教室の窓際の席に座るイケメン男の元へ近づいた。

 

「おはよう皆」

「おう」

 

 男は読んでいたジャンプを閉じると蓮達に向かって笑顔で挨拶をした。

 

「良ちゃんまーたジャンプ読んでたんか。ワイにも分けてくれや」

「馬鹿言え。読みたきゃ自分で稼いだ金で買えばいいだろ」

 

 男の名前は西良(にしりょう)。実家が建設会社で、蓮達もよくバイトさせてもらっている。ちなみにパソコンを扱うのが得意で、中学の頃には偽造パスポートに偽造免許証を制作したり、果ては政府のサイトにハッキングをしかけるといった事をやってのけた男である。良も蓮達とは中学時代に出会った。

 

「蓮。いつもはもうちょい早く来るのに今日はどうした?」

「ん?まぁ人助けしてたらちょっと遅くなった」

「こんな真っ赤な髪したヤンキーに助けてもらうってどんな人なんや……」

「普通の老婆だったよ。もうすぐ朝礼始まるぞ」

 

 蓮は肝井の疑問に答えると良の前の席に座った。今日も退屈な授業が始まる。

 

 

ー視聴覚室ー

 

 

「次」

「へーい」

 

 放課後。蓮達は視聴覚室で提督の適性を持っているかどうかの検査を受けていた。教師に呼ばれた蓮が視聴覚室に入ると、目つきが鋭く、肌の白い女性が三人椅子に座っていた。

 

「えーっと北野蓮君だね?」

「はい」

「じゃあ早速。私の指さしている場所に何かいるか?」

 

 女性が指さした場所には、妖精が一人で座っていた。しかし、何だか元気がなさそうだ。蓮はすぐに妖精から視線を外すと女性達の方を見た。

 

「いえ、何も見えませんけど……」

「そうか。わかった。検査は以上だ」

「どうも」

 

 蓮は軽く頭を下げるとさっさと視聴覚室から出た。視聴覚室を出ると、肝井達が待っていた。

 

「蓮ちゃんどうやった?」

「何かよくわからんかった」

「あはは。皆そうやで。な」

 

 肝井が振り返りながら言うと、後ろにいた健達も頷いた。

 

「よし、じゃあバイト前に飯食いに行くか」

「おう」

「ワイ今腹一杯や」

「授業中だろうが休み時間だろうが関係なくお菓子食いまくるからだろうが。ちょっとは自重しろ」

「それはできない相談やで」

 

 蓮達がワイワイ騒ぎながら食堂に向かおうとしたその時、蓮のスマホが鳴った。

 

「あ?メール?」

 

 蓮がスマホをポケットから出し、メールを開くと、送り主は源だった。

 

「……良。悪ぃ今日のバイトキャンセルしていいか?」

「どうかしたのか?」

「ちょっとな。俺帰るわ」

「あ、おい蓮!」

 

 健や良達の声に応えることなく蓮はバイクを停めている駐輪場に走った。

 

(兄ちゃんが寺にいる?どういうことだ?)

 

 蓮は混乱しながらもなんとかエンジンをかけて自宅に向かった。

 

 

ー北蓮寺 リビングー

 

 

「ただいま!」

「おう蓮。お帰り」

 

 蓮がリビングの扉を開けると源が椅子に座っていた。向かいには体の透けた見覚えのある男が座っている。

 

「兄……ちゃんなのか?」

「久しぶりだな蓮。大きくなったな」

 

 兄である翔太は眩しそうに蓮の方を見た。

 

「死んだ……のか?」

「……ああ。十年前に。お前と別れてすぐに乗っていた船で深海棲艦に頭を打ち抜かれてな。死んでからはずっと艦娘達のいる収容所や、舞鶴の辺りを彷徨っていたんだが、ついこないだふと母さんの実家を思い出してさ。ここにたどり着いたってわけだ」

「そう……か。そ、そうだ艦娘は?艦娘はどうなったんだよ。金剛姉とか翔鶴姉は?」

「……そのことなんだが、おまえに頼みがあるんだ」

「なんだよ」

 

 翔太は真剣な顔になると真っ直ぐ蓮を見た。

 

「一週間後、金剛を含めた俺の鎮守府にいた艦娘達15人が舞鶴からトラックに乗せられて別の収容所に移される。なんでも薬の実験台に使うらしい。それを阻止して欲しいんだ」

「阻止って……そんなのどうすりゃいいんだよ」

「……トラックを奪うとか」

「……はぁ!?無茶言うなよ!俺車の免許持ってないんだぞ?大体警備が厳しすぎてトラック奪う前にマシンガンで撃たれて蜂の巣だろうが!」

「ダメか……」

 

 翔太はガックリと肩を落とした。十年ぶりに現したと思えば幽霊になっている上に、弟に艦娘達を輸送するトラックを奪えというのだから何とも無茶ぶりの過ぎる兄である。どうやら精神年齢は死んだ時のままのようだ。

 

「そりゃ俺も艦娘達を助けたいよ?でもさ、一人じゃ無理じゃんそれ。大体、舞鶴なんて遠いし。もうちょい具体的な作戦とかないの?」

 

 うなだれる翔太にため息をつきながらも蓮は翔太に問いかける。

 

「お前の友達に協力を仰ごう」

「何勝手に俺の友達巻き込もうとしてんだよコラ」

「別にええで」

 

 突然翔太や源以外の声が聞こえ、慌てて蓮が後ろを振り返ると肝井達が立っていた。

 

「誰と喋ってんのか分からんけど、何か面白そうやん。ワイは参加するで。そこで恩を売っといて艦娘達と……」

「武器の調達はうちに任せとけ。地下室に腐る程武器があるからな」

「作戦は考えてやる。心配すんな」

「いやいや待て待て。なんで参加することが決定してんだよ。普通に死ぬかもしれないんだぞ?」

 

 慌てて蓮が口を開くが、それを肝井が手で制した。

 

「蓮ちゃん。死ななきゃどうと言うことはないでしょ?それに何だか面白そうやし」

「ま、まぁそうなんだけどさ」

「じゃあ後は死なないように策を練ればええやん」

「その策が思いついてたら苦労しない」

「……トラックが舞鶴に到着するまでに奪うってのは?」

 

 良の言葉に全員がハッとした。確かに何もトラックが舞鶴に到着して艦娘達を乗せた所を襲撃しなくても、それ以前、または舞鶴を出発してしばらくしたところを奪えばいいのだ。

 

「お前天才かよ!」

「これやでこれ!これやったら警備の数も少ないやろうからワイら蜂の巣にならんで済むで!」

 

 健と肝井は良の背中をバシバシ叩きながら喜んでいる。

 

「確実に奪うとしたら舞鶴を出た後だな。トラックが人通りの少ない道に差し掛かった瞬間に運転手達を降ろして走り去るのがベストだな」

「それではダメだ。トラックの処分に困る。できれば途中で乗り捨てたいところだ。それもできるだけここから離れたところに」

 

 蓮が言った途端に良が被せるように反対意見を出した。確かに捜査されればトラックで足がつく可能性がある。できれば遠く離れたところで乗り捨てて、別のところで乗り換えるというのは当たり前かもしれない。

 

「今気付いたんだけどさ、トラックってどのルートを通るんだ?それによっても変わってこねぇか?」

「確かに。どうなんだ蓮」

「どうなんだ兄ちゃん」

「さっきからちょこちょこ蓮ちゃんは誰と会話してるんや?昔っからそうやけど、やっぱ蓮ちゃんにはワイらには見えない何かが見えてるんか?」

 

 蓮が翔太に問いかけている様子を見た肝井は、少し気味が悪そうに蓮を見ている。確かに幽霊の見えない肝井達には、蓮が誰もいない椅子に向かって話しかけているというようにしか見えないので、この反応は当然なのかもしれない。

 

「ルートは確かこの国道を通ったはずだぞ」

「っし」

 

 翔太の言葉に思わず蓮はガッツポーズをした。この辺りは時間帯にもよるが全体的に車も人通りも少ない。トラックを奪うには絶好のポイントである。

 

「どうしたんや蓮ちゃん」

「トラックはこの辺りを通るらしい」

「マジか。だったら結構簡単なんじゃね?」

「そうだな。これなら上手くいけそうだ。じゃあ俺は早速偽造ナンバーの制作にかかるよ」

 

 そう言うと良は立ち上がるとリビングから出て行った。

 

「さてと、俺は親父に頼んで武器を調達するよ。まぁ任せとけって。いざとなればロケットランチャーも持ってこれるかもな」

「それは絶対に持ち出すな」

「ははは。ま、トラックはちょうどうちに廃車にするのが一台あったからそれを使おう」

「わかった」

 

 良が出て行ってすぐに健も立ち上がってリビングから出て行った。リビングに残されていたのは肝井と蓮、そしていつの間にかうたた寝をしている源に、肝井には見えない翔太だった。

 

「さて、ワイは襲撃するベストポジションでも探すで」

「それは俺もするぞ」

「じゃあ一緒にしようか。とりあえず悪いんやけど家まで送ってくれんか?行きは健ちゃんのバイクの後ろに乗って来たんやけど」

「そうか。わかった」

 

 

ー道ー

 

 

「なぁ肝井」

「なんや」

「なんでお前ら俺にここまでしてくれるんだよ。さっきも言ってたけど下手すりゃ死ぬかもしれないのに」

 

 肝他を家まで送る途中、蓮は後ろに乗る肝井に尋ねた。

 

「ワイは単に小学校の頃の借りを返したいのと、可愛い艦娘とキャッキャウフフしたいだけやで」

「あれは別に俺個人がムカついて暴れただけだって」

 

 小学校の頃、肝井はその見た目と趣味からクラスで凄惨なイジメにあっていた。ある日、あまりの肝井をイジメる奴等の声がうるさかったのと、その日源にこっぴどく怒られて蓮の機嫌が悪かったのとが相まって蓮がいじめっ子集団を完膚なきまでにボコボコにした。それ以来肝井はイジメられることはなくなったため、イジメがなくなったのは蓮のおかげだと思っているのだ。

 

「そうかもしれないけど、あの時蓮ちゃんが暴れてなかったらワイは皆とこうやって馬鹿やったりしてないで。だからワイは蓮ちゃんには特に返しきれん程の恩があるんやで。他の皆もなんだかんだで蓮ちゃんのおかげで立ち直ったりした奴ばっかりや」

「まぁそうかもだけどさ」

「心配しなくてもワイら四人揃ったら何時だって敵無しやったやろ?今回も上手くいくって」

「……そうだな」

 

 蓮は肝井と顔を見合わせると大声で笑った。

 

 

ー舞鶴沖 艦娘収容所牢屋ー

 

 

「ま、待って!瑞鶴を連れて行かないで!」

「ウルサイゾ。妹ヲ解放シテト頼ンダノハオ前ジャナイカ」

 

 蓮が肝井とバイクに乗りながら爆笑している頃、舞鶴沖にある孤島では白い髪の艦娘が深海棲艦にすがりついていた。艦娘の服は薄汚れたぼろ切れで、髪も汚れている。深海棲艦はツインテールの艦娘の髪を握っている。ツインテールの艦娘は気絶しているのか全く反応しない。

 

「そんな……だってまさか深海棲艦にするなんて聞いてない……」

「ソリャアノ時ハ言ッテナカッタカラナ。トニカクソノ汚イ手ヲ離セ」

「きゃっ!」

「翔鶴!」

 

 深海棲艦に殴り飛ばされた白い髪の艦娘は仲間の艦娘達がいるところまで吹き飛ばされて気絶してしまった。

 

「オ前達モ一週間後ニハ実験台ニナッテイル。精々残リ短イ命ヲ大事ニスルンダナ」

 

 深海棲艦はそう言うとさっさとツインテールの艦娘を引きずって行ってしまった。

 

「瑞鶴さん……」

「は、榛名達も……もうすぐ」

「せめて死ぬ前にもう一度蓮君に会いたいわね……あれから十年。きっと立派な子に成長しているはず」

「ようやくこの生殺し状態から解放されるんだ……」

 

 深海棲艦がいなくなった後、牢屋にいる艦娘達はそれぞれに独り言を言い始めた。目の前で提督である翔太を惨殺され、収容所に収監されて様々な強制労働や拷問に耐えてきた。いつかはここから出られると信じて。しかし、薬の実験台に自分達が使われると聞き、一気に生きる気力が失せてしまったのだ。

 

「蓮……もう一度、会いたいネー……」

 

 牢屋の一番奥にいた艦娘はその光景を見ながら寂しそうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

  

 

 




「はいどうも作者です」
「どうも。翔太です」
「まさかの第二話で幽霊になったお兄さんが登場。これはもうわかんねぇな」
「あはは……」
「ところで他に提督やってた人で生き残りとかいないの?」
「いないな。皆十年前に死んじゃってるから。艦娘はまだいるけど」
「ふーん……しかし弟にまたいきなり無茶な事頼んだな」
「まぁ仕方ないよな。頼めるのあいつしかいないわけだし」
「何故か皆ノリノリっていうね」
「もっと反対されるかと思ったのに快く乗ってくれるとは……蓮はいい友を持ったもんだな。お兄ちゃん嬉しいよ」
「ブラコンかよ……」
「ま、蓮のことだ。きっと上手くやっていくだろう。俺はここらで成仏するとしよう。あ、最後に」
「なんだ」
「次回もお楽しみに」
「最期に言うことそれ!?」


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第三話 停学直後のオムライス

ー舞鶴沖 艦娘収容所ー

 

 

「ん……ここは……」

 

 少女が目を覚ますと、見知らぬ天井が見えた。手足を動かしてみると、何時も繋がれていた足枷がないことにも気付いた。

 

「どういうこと?それにここは一体……」

「オヤ、目ヲ覚マシタノカ」

 

 少女がベッドの上で考え込んでいると、部屋の扉が開き、深海棲艦が入って来た。

 

「な、何の用よ」

「フフ。何、深海棲艦化シタ気分ハドウカト思ッテナ」

「な、何言ってるのよ……私は翔鶴型空母の瑞鶴よ。深海棲艦化なんて……それに声だって……」

 

 瑞鶴がそこまで言いかけると、深海棲艦化は手鏡を瑞鶴に見せた。そこには、黒髪のツインテールの少女ではなく、真っ白な髪をツインテールにし、額に二本の角が生えた深海鶴棲姫が写っていた。

 

「な、何よこれ……」

「オ前ガ気絶シテイル間ニ深海棲艦ニ改造サセテモラッタ。オ前ノ姉ノ頼ミ通リ、モウオ前ハ自由ダ。コレカラドウスルカハ自分デ決メルトイイ。何ナラ一度人間ノ街ニデモ行ッテミタライイ……」

「嘘よ……こんなの嘘よ……」

「……聞イテナイカ。マ、好キニスルトイイサ……助ケヲ求メタトコロデドウセ誰カラモ相手ニサレナイダロウガ」

 

 そう言うと深海棲艦は部屋から出て行った。

 

 

ー北蓮寺 蓮の部屋ー

 

 

「で、一夜明けてまたこうやって集まったわけだが……」

 

 そこまで言うと蓮は一度大きく深呼吸をし、大きく口を開いた。

 

「何なんだよこれはぁ!」

 

 蓮の目の前にはボルトアクション式ライフル銃四挺、拳銃四挺、麻酔弾に刃渡り三十センチの剣鉈四挺、スモークグレネード十二個。それから和歌山ナンバーの偽造ナンバープレートだった。なんと健と良はたった一日でこれらを調達してしまったのだ。早朝、健と良が『皆に見せたいものがある』という連絡をしてきて、登校前に皆で蓮の部屋に集合するなりこの有様である。

 

「いやさ、親父が『別に構わんぞ』って言ってさ……トラックも『お前らにあげる。事故ったら殺すぞ』って」

「何か気合い入っちゃって一晩でできちゃった」

「いや、昔っからそうだけど、どーなってんだよ健のとこの親父と良の頭はさぁ!」

「しかしこのライフル、超大昔の日本軍のライフルやろ?銃身が短いし、折りたたみの銃剣がついてるから四四式騎兵銃かな?結構高いんと違うか」

 

 大声で叫んでいる蓮を尻目に、肝井はさっそくボルトを操作して構えている。何故か様になっている。

 

「ご名答。このライフルは大昔の日本軍が使ってた四四式騎兵銃……に見えるけど、実際は最近作られたレプリカだ。こっちの拳銃はトカレフだ。本当はマシンガンとかロケットランチャー借りたかったんだけどさ、流石にダメだって言われたよ。ま、使う弾薬は麻酔弾だから相手に当てても死にはしないだろ」

「銃の貸し出しの時点で普通はダメって言うだろ……」

「ま、最近は目立たないけど一応うちヤクザだし」

「そんなんでいいのか……」

「あ、そうそう。親父が一回うちに射撃練習に来いって言ってたぞ。地下室に射撃練習場があるからさ、そこで練習しろだってさ」

「わかった。じゃあ明日にでも行かせてもらおうか」

「そうだな」

「ワイもそれでええで」

 

 皆が賛成したのを確認すると、蓮は立ち上がった。

 

「よし、じゃあ学校行くか」

「「おう!」」

 

 蓮の声に全員立ち上がると鞄を引っ掴んで部屋から飛び出した。

 

 

ー舞鶴ー

 

 

「あ、あのっ……少し聞きたいことが……」

「ひっ……し、深海棲艦っ!殺される!」

「あっ……待って……」

 

 蓮達が学校に向かっている頃、深海鶴棲姫となった瑞鶴は舞鶴にいた。かつて提督の家族が住んでいた街で、提督の家族のことを聞こうとしているのだが、皆瑞鶴の姿を見るなり逃げてしまうため、結果は散々だった。

 

「……はぁ、どうすればいいの」

 

 収容所から出てきて、舞鶴に来たとはいえ、深海棲艦化してしまった今では皆怖がって近づいてこない。

 昨日の深夜に収容所から出る際、深海棲艦から、翔鶴達が一週間後に収容所を移され、そこで薬の実験台になるという話を聞いた。何としてでも助けて欲しい。でもこの姿では誰も話を聞いてくれない。 

 

「……ん?」

 

 歩き疲れた瑞鶴が近くにあった公園のベンチに座っていると、膝の上に妖精が立っているのが見えた。収容所にいた頃は一切見かけなかったのだが、舞鶴にはいるらしい。

 

「れんさんのいばしょしりたいですか?」

「え!知ってるの!?」

「ですです。もうここにはいませんよ」

「じゃ、じゃあ何処にいるの!?」

「ながいみちのりになりますが、それでもいきますか?」

「ええ!蓮君に会えるのなら何処ヘでも行くわ!」

 

 瑞鶴は立ち上がると妖精の後を追って走り始めた。その速さは自動車にも匹敵する程だった。

 

 

ー斜陽高校ー

 

 

「おい。北野と東山はいるか?」

 

 瑞鶴が北蓮寺に向かっている頃、蓮達のいる高校の教室には不穏な空気が漂っていた。三年の番長グループが蓮と健を探しに来たのだ。

 

「いるけど何すか?」

 

 教室の隅にある自分達の席に座っていた健と蓮が立ち上がると、三年生達は教室に入って来た。

 

「テメェらが『一中の悪魔』と『一中の死神』か?」

「そんなことも言われてたっけなぁ。で、何か用すか」

「……ちょっと面貸せや」

 

 三年生の中で一番大柄な男が凄んだ。眉毛がない上に、剃り込みをいれているため服装によってはヤクザにも見える。

 

「肝井。お面あるか?」

 

 蓮は振り返ると肝井に尋ねた。

 

「いんや。ワイの専門分野はお菓子と飲み物とゲームや。流石にお面はないで」

「そうか」

「ふざけんな!さっさと来いよコラ!」

 

 蓮と肝井のやりとりに腹を立てた三年の一人が近くにあった机を蹴り飛ばした。蹴り飛ばした音に驚いたのか、近くにいた女子生徒が小さく悲鳴を上げた。

 

「そんなに騒がなくても行くっての。なぁ蓮?」

「ああ。で、何処行くんだよ」

「体育館裏だ。文句言わずについて来い」

 

 そう言うと三年生達は蓮と健を取り囲んで教室を出て行った。

 

「……な、蓮ちゃん達どれぐらい停学になると思う?ワイは一週間にかけるで」

「じゃあ俺は無期停学で」

「賭け金は?」

「ワイは三百円で。今月金欠やねん」

「じゃあ俺は五百円」

 

 蓮達がいなくなると、肝井と良は蓮達の停学期間で賭け事を始めた。これは中学からの二人の恒例行事で、現時点では肝井が6勝2敗7引き分けで大きく勝ち越している。

 

「ったく入学してまだ二ヶ月も経ってないってのに」

「そんなこと言うたかて蓮ちゃんと健ちゃんは中学ん頃から有名人やし、なんせあの格好やから絶対上級生には目つけられるやろ」

「まぁそうなんだがな」

 

 良は小さくため息をすると、肝井が鞄から出した綾鷹を飲んだ。

 

「見物、行くか」

「……せやな」

 

 良と肝井は立ち上がると蓮達の行った体育館裏に向かった。

 

 

ー体育館裏ー

 

 

 蓮と健が体育館裏に着くと、そこには木刀や金属バットを持った上級生達が十人程待っていた。その中で一際目立つリーゼントヘアーの男が口にくわえていたタバコを捨てると立ち上がった。

 

「お前らが北野と東山か?俺はこの斜陽高校で番長をしている大熊(おおぐま)だ」

「ああ、どうも」

「ちっす」

「テメェら……番長に向かってなんだその口は!」

 

 蓮達の挨拶に対し、先程の大柄な三年が大声で怒鳴ったが、大熊はそれを制した。

 

「よせ村野。……どうやら中学の時の感覚が抜けてないみたいだな。でも高校は違う。お前達、自分達の立場分かってるのか?」

「立場とか知らねぇし。てか放っといてくださいよ。あんたらが何もしなければ俺らは何もするつもりはないですし。俺達は番長の座なんて狙ってませんから安心してくださいよ」

「そうはいかねぇ。うちにはうちのルールってのがある。三年の言うことは絶対なんだ。一年坊はいっぺん三年生のリンチに遭うってのがこの高校の伝統なんだよ」

「何処の昭和脳だよアホらしい。何が嬉しくてリンチなんか受けないといけねぇんだよ」

 

 健が吐き捨てるように言うと、村野がいきなり金属バットで健の頭を殴った。

 

「舐めてんじゃねぇぞクソガキがぁ!テメェらに一年生ってのはどういうもんか分からせてや『分からせて見ろやボケ!』う゛ぇ!?」

 

 もう一度金属バットを振り下ろそうとした村野が言い終える前に、バットで殴られたことで頭から出血した健の膝が村野の顔面にめり込んでいた。健の飛び膝蹴りをもろに受けた村野は鼻血をまき散らしながらコマのように回転すると、そのまま地面に倒れた。

 

「て、てめぇ!」

「先輩。俺らに一年生ってのを教えてくれるんでしょう?早く教えてくださいよ」

「野郎……!」

 

別の三年生が健に向かって木刀を降り下ろそうとしたが、蓮に足を引っ掛けられて転んだ。

 

「俺がいるのを忘れないでくださいよ」

 

 そう言うと蓮は転んだ三年生の鳩尾を思い切り踏みつけ、近くにいた三年生達に殴りかかった。

 

「……っ!大熊さん!こいつら強いですよ!」

「ちっ……もっと数集めてこい!」

「はい!」

 

 たった二人に押されていく仲間達の様子に業を煮やした大熊の指示を受け、三年生の一人が応援を呼びに行こうとしたが、体育館の角を曲がろうとしたところで誰かに投げ飛ばされた。

 

「先輩方、二人に対してそんだけ大勢で喧嘩してんですからこれ以上の応援は要らないんじゃないですか?」

「大体三年で番長の癖して自分、全く戦ってへんやん。実はメチャクチャ弱いんとちゃうか?」

 

 投げ飛ばした三年生を小突きながら良と肝井が大熊に向かって言うと、大熊はプルプルと肩を震わせた。

 

「テメェら……ぶっ殺してやる!」

 

 大熊は懐からナイフを取り出すと肝井に向かって突進した。

 

「おっと」

 

 しかし、肝井は姿勢を低くして大熊の攻撃を躱すと、大熊の膝裏に手を回し、そのまま手前に引いた。バランスを崩した大熊は派手に転倒した。

 

「おわっ!?」

「人間の膝裏ってどんなに頑張っても弱点には変わりないから、こうすれば簡単にバランスを崩すんやで」

 

 肝井は大熊の頭に座ってナイフを奪い取ると、それを投げ捨てた。

 

「デブが……何時まで尻乗せてんだコラァ!」

「ひえっ」

 

 大熊は力尽くで肝井を投げ飛ばすと顔を真っ赤にしながら立ち上がった。何処から出したのか今度は警棒を持っている。

 

「全員ぶっ殺してや……「お前ら!ここで何しとるんだ!」」

 

 大熊が肝井に向かって警棒を振り下ろそうとしたその時、真っ黒に日焼けした男性教師がこちらに向かって走ってくるのが見えた。

 

「うわ……あれ、体育の竹倉(たけくら)だぞ」

「こりゃ詰んだな」

 

 蓮と健は顔を見合わせると観念したようにその場に立ち尽くした。その直後、蓮と健は竹倉の強烈な鉄拳を食らい、宙を舞った。

 

 

ードライブインレストラン なごみー

 

 

「……で、一週間の停学になったの?」

「ああ。正直納得いかねぇけどな」

「相手方に骨折者多数出してといてよく言うで」

 

 二時間後、職員室に呼び出された蓮達はその場で一週間の自宅謹慎、つまりは停学を言い渡された。本来なら先に手を出した上に、ナイフやら警棒やら木刀やら複数の凶器を持っていた大熊たちが全面的に悪いで済むはず……だったのだが、蓮と健が殴り飛ばした三年生の中に骨折者が複数いたためだった。

 学校から早退した蓮達は蓮の母、奈津子が経営している『ドライブインレストラン なごみ』でだべっていた。カウンター越しに話を聞いていた奈津子は呆れたようにため息をつくと、メニュー表で蓮達四人の頭を順番に叩いていった。

 

「あんた達ねぇ。喧嘩するならもうちょっと上手いことしなさいよ。相手がいくら武器持って先にしかけてきたって相手に大怪我させてたら洒落になんないわよ。蓮、あんた警察にしょっ引かれても迎えになんか行かないからね」

「普通の親ならそこは『もうちょっと上手く喧嘩しろ』やなくて、『何で喧嘩なんかしたの!』って怒るところや思うんやけど……」

「あんた達があたしの話をまともに聞いたことがあった?何回言っても無駄って分かったからこうやって言ってるのよ」

 

 肝井のもっともな発言に対し、奈津子はピシャリと言い放つと四人の前に大きなオムライスを四つ置いた。

 

「ほら、お昼まだでしょ?食べていきなさい」

「おばさん、お代は?」

「蓮の小遣いから天引き」

「ちょっ!そりゃねぇだろ!」

「蓮ちゃん」

 

 蓮が奈津子に対して抗議してると、肝井達が蓮に向かって手を合わせていた。

 

「「ごちになります」」

「……ふざけんなぁぁぁ!!」

 

・オムライス大1,000円×4=4,000円

・蓮の貯金134,000-4,000=130,000円

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四話 バレた?

ー北蓮寺 山門ー

 

 

 なごみでオムライスを平らげた後、蓮達は北蓮寺の蓮の部屋で作戦会議を行った。

 計画としては、まず始めに用意したトラックを停め、艦娘達を乗せたトラックが来たら『タイヤがパンクしたので、修理を手伝って欲しい』と言って運転手達を降ろす。その間にトラックの荷台を開け、艦娘達を脱出させる。脱出させた艦娘達を森の中に隠し、再び荷台の扉を閉める。運転手達は気付かずにそのまま発車する、という作戦だった。皆の意見をまとめて、極力銃は使わずにいく方向に決まった。しかし、この作戦の場合、もし荷台に見張りがいたらかなりの高確率で失敗する。それに、何よりも目的地に着いた後艦娘達を逃がしたということに運転手達が気付いた時、間違いなくこの町が怪しまれる。が、それ以外にいい方法は思い浮かばず、この作戦に決まったのだった。

 

「だっは~。思った以上に作戦立てるのって難しいんだな」

 

 健が肩をゴキゴキと鳴らしてしかめっ面をする。健は『とりあえず麻酔弾で相手を眠らせた方がいいんじゃないか?』と提案したが、とても作戦実行日まで射撃訓練をしたとしても、遠距離から狙撃できるほど四人の射撃技術が向上するとはとても思えず、現実的でないということで却下された。

 

「まぁ俺達ただの高校生だしな。どんなに頑張ってもガチもんの軍人達とかには射撃も取っ組み合いも、いい作戦立案も中々敵わないよ」

 

 自転車のスタンドを払いながら良も苦笑いした。今回採用された作戦は良が提案した案だったが、自身の提案した作戦に穴があることを理解しているのか、心なしか悔しそうだ。

 

「まぁな。さ、もう遅いから気をつけて帰れよ」

「おう。じゃあな」

「また明日な」

 

 蓮が声をかけると、健と良も手を振って返し、街灯の少ない道の闇に消えていった。

 

「……で、肝井はどうすんだよ」

 

 健達を見送った後、蓮はチラリと隣に立っている肝井の方を見た。

 

「ん?今日は泊まってくで。今日親どっちもおらんし、兄貴もなんや友達ん家泊まる言うて帰ってけぇへんし。妹も友達ん家泊まるらしいからな」

 

 蓮に見られた肝井はお菓子を食べながら当然のように答えた。

 肝井の家は両親が医者で、よく蓮の家である北蓮寺に泊まっている。兄も妹もそれぞれ美男美女なのに、なぜか肝井だけは不細工なのだ。それに加えて馬鹿と来ているものだから肝井の親は完全に肝井を放置して兄や妹ばかりをかわいがっている。肝井が何の連絡も入れずに何処をほっつき歩いていても無関心なのだ。

 

「そうか。じゃあ祖父ちゃんに肝井の分も飯用意しといてって言ってくるわ」

「頼んだで~。ワイは墓場をパトロールしとく……わ」

「?肝井?」

 

 突然肝井の声が上ずったのと、直後に何かが倒れる音が聞こえ、疑問に思った蓮が振り返ると、白目を剥き腰を抜かして口から泡を噴いている肝井の目の前に角の生えた真っ白な髪をツインテールにした女性が立っていた。

 

(深海鶴棲姫!?写真でしか見たことなかったけど、なんでこんな内陸の片田舎の、それもこんな山寺に!?まさか、計画がバレたのか?それとも俺に提督の適性があるって事がどっかから漏れたのか?)

 

 蓮があれこれ考えていると、深海鶴棲姫はゆっくりと顔を蓮の方に向け、目を大きく見開いた。

 

「……やっと……見つけた」

 

 深海鶴棲姫はゆっくりと蓮の方に近づいてきた。

 

(ど、どうする……これが普通のチンピラだったら喧嘩の一つや二つしてやるんだけど、相手は深海棲艦。それも姫級。どう考えても人間の俺に勝ち目は……)

 

 蓮がふと顔を上げると、深海鶴棲姫は蓮との距離を一気に詰めていた。深海鶴棲姫が両腕を広げる。

 

(やられる!)

 

 やられると思った蓮は目を閉じたが、何故か痛みが全く襲ってこず、代わりに暖かいものが体に触れた。

 

「あ……れ……?死んで……ない?」

 

 ゆっくりと蓮が目を開けると、深海鶴棲姫は蓮を抱きしめていた。おまけに泣いている。

 

「へ!?」

「やっと……やっと蓮君に会えた……」

 

 深海鶴棲姫の言葉に蓮の体に雷に打たれたような衝撃が走った。『蓮君』と呼ぶのは十年前、舞鶴にいた艦娘達しかいない。

 

「もしかして……瑞鶴姉?」

 

 見た目や雰囲気から推測して蓮が問いかけると、深海鶴棲姫の顔はみるみる明るくなり、抱きしめる腕の力がさらに強くなった。

 

「そうよ。こんな見た目になっちゃったけど、私は昔よく一緒に遊んでた瑞鶴姉よ。覚えててくれたんだ。嬉しい。十年見ない間にこんなに大きくなってたのね」

「瑞鶴……姉」

「髪まで赤く染めちゃってさ。昔はちょっと転んだだけで大泣きしてたのに。……強くなったね」

 

 蓮の頭を優しく撫でる瑞鶴の声は、途中で涙声になっていた。そして、二人の肩には二人の再会に感動し、号泣しながら鼻をかむ多数の妖精達の姿があった。

 

 

ー北蓮寺 リビングー

 

 

「あっはっは。なるほどなるほど。蓮ちゃんの知り合いだったんか」

「驚かしてごめんね」

 

 数分後、蓮と瑞鶴は復活した肝井と源と向かい合って雑談をしていた。瑞鶴は肝井に対し、気絶させてしまった事を謝った。

 

「ええよええよ。美人さんやし。胸は貧相やけど。これが加齢臭漂うハゲ散らかした汚いおっさんやったら絶対許してへんわ。訴訟案件やで」

「んなっ……!」

「おい、肝井!」

「ん?なんかワイ、変なこと言うたか?」

 

 肝井の発言に瑞鶴はしばらくの間プルプルと震えていたが、やがて肝井の胸ぐらを掴んだ。どうやら触れてはいけない部分に触れたらしい。

 

「何よ!肝井君まで私の胸のことを馬鹿にするの!?今まで私の胸を馬鹿にしなかったのって異性だと蓮君だけよ!?どうしてこうも男の人って胸のことばかり言うのかしら」

「それがワイの女の子見る基準やからな。瑞鶴さんはカップで言えばどういう見方をしてもよくてC……「くたばれぇぇぇ!!」ぐえぇぇ!」

 

 瑞鶴の胸のサイズを言いかけた肝井は顔面に瑞鶴の強烈な一撃をくらい、コマのように回転してそのままソファーに倒れ込んだ。

 

「全くなんなのよ!」

「ごめん。あいつはああいう奴なんだ。所でどうやって此処に来たんだ?」

「そ、そうだ!蓮君、翔鶴姉達を助けて欲しいの!」

「薬の実験台になるから、だろ?」

 

 蓮の言葉に瑞鶴は不思議そうな顔をした。知っているのは収容所にいる深海棲艦や艦娘達、他には関係者しか知らないはずであるのだから無理もない。

 

「なんで知ってるの?」

「……兄さんが教えてくれたんだよ」

「提督が?提督は……」

「俺と祖父ちゃんは幽霊が見えるんだよ。で、昨日ふっと現れてな。それで教えてもらったんだ。朝になったらいなくなってたけどな」

 

 蓮の言葉に瑞鶴は驚いたような顔をした。

 

「そう、なんだ。提督、何か言ってた?」

「俺に『薬の実験台にされるのを阻止してくれ』とだけ。あとは特に何も」

「そう……じゃ、じゃあ助けてくれるの?」

「そのつもりだ。しかしその格好、元に戻らないのか?」

 

 そう言いながら蓮は瑞鶴の姿を見た。

 

「わからない……でも、できるなら元の体に戻りたい。この格好じゃ街の皆を怖がらせちゃうし……」

 

 蓮の言葉に瑞鶴は悲しそうに俯いてしまった。その様子を見た蓮は肩に乗っている妖精達に声をかけた。

 

「何とかならないか?」

「う~ん……せいみつけんさをしてみないとわからないです」

「ただ、まだことばがかたことになっていたりしてないので、もしかしたらもとにもどれるかもですはい」

「本当!?」

 

 妖精達の言葉に瑞鶴は思わず立ち上がった。それを見た蓮は瑞鶴の肩に手を置いて再び座らせた。

 

「落ち着けって。まだ元に戻れると決まった訳じゃないだろ?」

「そ、そうだったわね」

「で、何処で精密検査をするんだ?」

「ついてきてください」

 

 そう言うと妖精達はリビングから出て行った。釣られるように蓮と瑞鶴、そして源が続いた。

 

 

ー北蓮寺 本堂ー

 

 

「おい、ここ本堂じゃねぇか」

「ですです」

「こんな所で精密検査?」

「儂には何にも見えんのじゃが……二人は何と話とるんじゃ?」

 

 蓮達が辺りを見回していると、妖精達は仏像を鎮座させてある横に掛かっている掛け軸をめくった。掛け軸をめくると、そこには下に降りる階段が現れた。

 

「なんじゃこりゃ……」

「きたるひのためにわれわれようせいそうぜい810たいのようせいたちがじゅうねんのさいげつをようしてけんちくしました」

「たいしんせいはばっちりです」

「にゅうきょどっぐにこうしょうもあるです」

「しざいもだんやくもねんりょうもよそからかっぱらって……げふんげふん。とにかくじゅうぶんにありますです」

「ぎそうもかくちのちんじゅふにほうちされてたのをこっそりはいしゃくしてきました」

「さらにかんむすたちのしゅくしゃもあるですはい」

 

 絶句している蓮と源を尻目に妖精達はきゃっきゃとはしゃいでいる。

 

「と、とにかくここで瑞鶴姉の精密検査をするんだな?」

「そうです」

「じゃあ頼めるか?」

「おやすいごようです。ずいかくさん。ついてきてください」

「あ、う、うん!」

 

 妖精達に連れられて瑞鶴は掛け軸の向こう側の階段を降りていった。その後ろ姿を見送った蓮と源はその場にへたり込んでしまった。まさか本堂にこんな大がかりなものができていたとは。

 

「れ、蓮。これは一体どうなっとるんじゃ?」

「どうやら艦娘達が住んだりできるように妖精達が宿舎とか工廠とか色々作ってたみたいだぞ」

「儂、朝早くに起きてここで読経してたんじゃが……いつの間にこんなものが」

「げんさんたちのめをぬすんでつくりました」

「『源さん達の目を盗んで造った』だとさ」

「そうか……」

「ひまをもてあました」

「ようせいたちの」

「あそび」

「暇を持て余した妖精達の遊びだとよ」

「そうか……」

 

 自身の理解が追いつかないのか、蓮の言葉に対し源は遠い目をしたまま生返事ばかりをしている。

 

「……クソ坊主」

「何じゃとぉ!?」

 

 蓮がボソリと呟いた暴言に対し、源は瞬時に反応した。

 

「聞こえてんのかよ!」

「こんの馬鹿孫め!ちょっと気を抜いたらすぐにこれだ!」

「あのー」

 

 源が蓮に強烈なゲンコツを叩き込んだところで、掛け軸から妖精が出てきた。

 

「どうだった?」

「なんとかなりそうです。どうやらしんかいせいかんかしていたのはみためだけのようでした」

「そうか……よかった」

「いまからもとにもどすさぎょうにはいりますですはい」

「わかった。どれぐらいで終わる?」

「にじかんほどでおわります」

「そうか。頼んだぞ」

 

 妖精が掛け軸の裏に消えるのを見送った後、蓮は源と共に夕飯の準備に取りかかった。ちなみにリビングに戻るとまだ肝井は気絶していた。

 

 

ーリビングー

 

 

「おまたせ」

「お、もう戻ったのか」

「お疲れ様やで~……ってどなた?」

 

 夕食の準備が終わり、蓮が再び復活した肝井とリビングでゲームをしていると、元の姿に戻った瑞鶴が立っていた。髪も真っ白だったのが真っ黒に戻り、角も無くなっている。

 

「さっきの深海鶴棲姫よ」

「ん……?ああ!さっきのぺったn「誰がペッタンよコラァ!」ぐへぇ!」

 

 瑞鶴に殴られた肝井は再び宙を舞うとソファーに墜落した。慌てて蓮が肝井の顔に往復ビンタをする。

 

「おい、寝るな。もう飯だぞ」

「せ、せやったな……いてて」

「そういえば瑞鶴姉、どうやって此処に来たんだ?」

「妖精に案内されて」

「そうなんだ」

「はー、ただいま~」

 

 蓮が答えたところで、玄関の方から奈津子の声が聞こえてきた。すかさず源が玄関に向かった。

 

「おかえり奈津子。今日は肝井くんと、もう一人泊まりに来とるぞ」

「え?誰かしら?」

 

 奈津子はリビングに入って来て瑞鶴を見た瞬間、とても嬉しそうな顔をした。

 

「やだ、嘘、瑞鶴ちゃん!?」

「お久しぶりです奈津子さん」

 

 奈津子は鞄を放り出すと瑞鶴と抱き合った。

 

「本当に瑞鶴ちゃん?もう会えないものかと思ってたわ」

「私もです」

「さ、積もる話はご飯の後にしよう」

「そうね。ご飯にしましょ」

「はい」

 

 源の言葉に全員食卓に座り、手を合わせた。

 

「では、いただきます」

「「いただきます!」」

 

 




「どうも。作者です」
「瑞鶴です」
「いやー四話ですよ四話。続いちゃってるよ」
「いや続けるかやめるかは作者さんだよね?」
「まぁそうなんだけどさ。ところで瑞鶴さん」
「何よ」
「本当にペッタンなの?」
「……」
「?瑞鶴さん?どうしてそんなに怖い顔してるのかな?ほら笑顔笑顔」
「くたばれぇぇぇぇ!!」
「びゃあいだいぃぃぃぃ!!」

次回もお楽しみに


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第五話 早朝の攻防戦。からのゲーム

何だかサクッと書けたからサクッと投稿。


ー北蓮寺 蓮の部屋ー

 

 

 瑞鶴が北蓮寺に現れた翌日。北蓮寺の蓮の部屋では最早朝の恒例行事になりつつある蓮と源の攻防戦が繰り広げられていた。

 

「こりゃ蓮!起きんか!」

「ん~……」

「いいから起きんかこの馬鹿孫め!」

「爺さんうるさいで~……ワイは関係ないやろ~……」

「君には言っとらん。寝てなさい」

「ちょ、蹴らんといてぇな」

 

 肝井がうるさそうに蓮の寝ているベッドの下から寝袋に入ったまま這い出てくるのを、源は足で蹴ってベッド下に戻しながら蓮の被っている布団を引き剥がした。

 

「ん?んんん?」

「どないしたんや爺さん……って何してるんや瑞鶴さん」

「ん~……」

 

 肝井がベッドの下から再び這い出して蓮のベッドを見てみると、そこには蓮の横で幸せそうに熟睡する瑞鶴の姿があった。

 

「ず、瑞鶴ちゃん?何してるんじゃ?」

「ん~……?あ、す、すみません!そ、その……添い寝を」

「「そ、添い寝!?」」

 

 源に起こされた瑞鶴の発言に肝井と源が驚いたような声を上げると、瑞鶴は少し顔を赤くし、ベッドの上に正座しながら説明し始めた。

 

「あはは……その、昔はよく蓮君のお昼寝とかで一緒に寝てたので……懐かしくてつい……それに妖精達が本堂の下に宿舎を作ってくれてるけど一人で寝るのが少し寂しくて」

「いや、いくら何でも思春期真っ盛りの男の布団に潜り込むか普通。それに添い寝と言っても蓮ちゃんがほんまに小さかった頃やろ?」

「ま、まぁそうなんだけどさ、懐かしくって」

「……肝井スペシャル!」

「ごふっ!」

 

 瑞鶴の発言に対し、肝井はしばらく黙っていたが、熟睡している蓮に対しいきなりヒップアタックを決めた。

 

「こんチクショー!羨ましいやないか!美女に添い寝されるとかワイだって一度でええからされたいわ!」

「い、痛ぇ……俺が何したって言うんだよ……」

「大罪を犯しとるわボケ!」

「あ、あのさ、肝井君」

「なんや!」

 

 肝井が蓮に馬乗りになって激しく揺すっていると瑞鶴が肝井の肩を叩いた。それに対し肝井は物凄い反応速度で振り返った。

 怒りのあまり目が据わっている肝井の様子にやや気圧されながら瑞鶴がとんでもない爆弾を投下した。

 

「私以外にも添い寝、してる人はいたよ?しょっちゅう抱きついてたりだっこしたりしてる子もいたし。私もしてたけど、一緒にお風呂入ってる子もいたわね」

「肝井スマッシュ!」

 

 瑞鶴の発言に肝井は蓮の鳩尾に対して肘鉄を叩き込んだ。肝井の目からは涙が滝のように流れている。よっぽど羨ましかったらしい。

 

「げはっ……って肝井!テメェさっきから何しやがんだよ!」

「やかましい!美女に囲まれやがって!添い寝どころか一緒にお風呂やと!?羨ましさ限りなし!もう許さへんからな!」

 

 肝井の攻撃で完全に目が覚めた蓮が大声で抗議の声をあげるが、肝井の怒りは収まる気配を見せず、次に肝井は蓮の首をヘッドロックで締めはじめた。

 

「非モテ不細工男児の怒りを思い知れぇぇぇ!!」

「はぁ?ちょ、待てって……ぎゃあああ!」

 

 早朝の北蓮寺に蓮の絶叫が響き渡り、神社の境内にある木々で寝ていた小鳥たちが一斉に飛び立った。

 

 

ーリビングー

 

 

「……」

「……」

「……あ、あの、何だかごめんね二人共」

「ええんやで。ワイ、生まれてくる家を間違えたんや。だからワイが悪いんや……」

「ええ……(困惑)」

 

 肝井は死んだ魚のような目をしながら虚空を眺めている。どうやら怒りのボルテージが突き抜けてしまい、半ば悟りの領域に入りつつあるような雰囲気すら醸し出している。

 

「……何度も言うが俺はマジで何も悪くないからな」

「貴様ぁぁぁ!美女に添い寝されるのが悪くないだとぉぉぉ!?」

 

 蓮の発言に突然肝井が箸を置いて蓮の胸ぐらを掴む。どうやら蓮が艦娘達に添い寝されていたり、その他諸々してもらっていたということがとにかく気にくわないらしい。

 

「いや悪くないだろ別に。俺、昔から母ちゃんが忙しかったから、よく瑞鶴姉達に面倒見てもらってたんだよ。三歳そこらのガキが一人で風呂入ってみろ。間違いなく溺死体が出来上がるわ」

「羨ましすぎるんじゃぁぁぁ!ワイだって一度でええからされたかったわ!ワイも風呂で美女と一緒に<ピー>して<ピー>して<ピー>したかったわ!!」

「んなこと一度もしたことねぇ!」

「やっかましい!!」

 

 あまりの騒々しさについに源が思い切り机を叩いた。あまりの大きな音に蓮と肝井は驚き、以降は静かになった。食事を終えると源は蓮の方を見て口を開いた。

 

「蓮、肝井君。今日学校は?」

「停学になったから行かねぇよ」

 

 源の質問に対し、蓮が爪楊枝をくわえながら素っ気なく答えると源の顔つきが変わった。

 

「何じゃと!?また喧嘩したのか?」

「あら、お父さん知らなかったの?この子達ね、学校で三年生達と喧嘩して相手に大怪我させてね。本当なら停学しなくて済んだのに。馬鹿よホント。さ、私はもう仕事に行くから、洗い物しといてよね」

 

 源に対して奈津子は淡々と停学の理由を言ってさっさと食べ終えてリビングから出て行ってしまった。リビングから奈津子が出て行ったのを確認した源は、蓮達に向かって雷を落とした。

 

「こんの馬鹿もん共がぁぁぁ!何遍いったら分かるんじゃ!あれだけ喧嘩はするなといったじゃろうが!」

「んなこと言ったて相手は十人以上いたし、武器持ちだぞ?どう考えても加減なんてできねぇし、ましてや喧嘩しないって言う選択肢、俺にはないよ」

 

 蓮は面倒くさそうに椅子から立ち上がると食器を洗い始めた。その背中に容赦なく源の怒声が飛んでくる。

 

「そんな格好しとるからじゃろうが!」

「ああもう、うるせぇよ。今日は葬式一件に通夜二件入ってんだろ?さっさと準備しろよ」

「しまった!忘れていた!」

「忘れんなよ……」

 

 蓮の言葉に源は慌ててリビングを飛び出していった。それを見送った後、瑞鶴は蓮の方を見た。

 

「蓮君達ってそんなに喧嘩が強いの?」

「かなり強いで。知ってる限りで一番すごかった時は中三の時の二十五対四と違うかな?」

「あれはマジでやばかった。死ぬかと思った」

「……なんでそんな人数で喧嘩になるの?」

「そこら中の中学に絡まれるもんだから、それを一々殴り返していたら卒業式当日にまとめて襲撃された」

 

 蓮の言葉に瑞鶴は言葉を失っていた。かつての蓮はひ弱でいじめられっ子で泣き虫だった。それが今では髪の毛を真っ赤に染め、改造学ランに身を包んだ不良になっている上に喧嘩が強いときている。十年も経てば子供は性格も大きく変わるのかもしれないが、十年前の蓮しか知らない瑞鶴としては衝撃的だろう。

 

「……強くなったね……」

「?何か言ったか?」

「い、いや!何でもないの!」

「そうか?ま、いいや。ゲームでもしようぜ。どうせやること無いし」

 

 そう言いながら蓮は引き出しからゲー○キューブを引っ張り出し、スマ○ラをセットした。かなり使い込んでいるのかそれとも経年劣化か、ゲー○キューブは既に本体もコントローラーもかつては黄色だったのだろうが、所々色がはげたり色褪せている。今ではもっと新しいス○ッチとかいう機械もあるし、スマ○ラも最新作があるのだが、どうやら蓮はこっちの方が好きなようで買い換えは考えていないらしい。

 

「せやな。瑞鶴さんもどう?」

「そうね。やってみようかしら。それにこの機械は見たことがあるわ」

「そら十年以上前からある機械やしな」

「動作不良もなく動いてるのは奇跡的だな。流石任○堂」

 

 テレビの電源を入れると少し懐かしい起動音がし、ゲームが起動した。蓮と肝井はキャラクター選択の前に瑞鶴に一通りの操作方法を教え、キャラクター選択に移った。

 

「俺はカー○ィで」

「ワイはフォッ○スや」

「え、えっと私は……じゃ、じゃあこの黄色くて可愛い動物で」

  

 瑞鶴がキャラクターを選択し終えると、いよいよバトルがスタートした。スタート直後、蓮は容赦なく瑞鶴が操作するキャラクターを蹴り飛ばし、場外に落とした。

 

「ちょっと!私やられるの早すぎない!?」

「これはそういうゲームだから」

「やな」

「う~……次絶対やり返してやる」

 

 その後はしばらくの間三人でゲームに熱中していたが、二時間後にインターホンが鳴ったことで一旦休憩になった。

 蓮が玄関の扉を開けると、健と良が立っていた。

 

「おう、何か用か?」

「ああ。うちに射撃練習しに来ねぇか?昨日言ってたろ?肝井もいるんだろ?」

「まぁな。ちょっと紹介したい人がいるからまぁ上がってくれや」

 

 蓮が健達をリビングに通すと、いつの間に用意したのか、肝井と瑞鶴は肝井が持って来ていたお菓子を食べていた。

 

「お、健ちゃん、良ちゃん。おはよう」

「おう」

「おはようさん。で、そっちの美人は誰?」

 

 健と良は興味津々で瑞鶴の方を見た。

 

「は、はじめまして。私は舞鶴鎮守府に所属していた翔鶴型航空母艦二番艦、瑞鶴よ」

「はえー艦娘かよ。初めて見たぜ。蓮、何処で艦娘なんか拾ってきたんだよ」

「昨日お前らが帰った直後にうちに来た」

「瑞鶴さん……だっけ?蓮とは何か関係があるのか?」

 

 良が不思議そうな顔をしながら瑞鶴の方を見る。

 

「蓮君のお兄さんが私達の提督でね。当時忙しかった奈津子さんに変わって私達が蓮君の面倒を見てたの」

「ふぅん……でも、確か艦娘達って全員深海棲艦によって収容所に入れられてたんじゃ」

「確かに表向きはそうだけど、実際は少し違うのよ」

「どういうことだ?」

 

 瑞鶴によると、確かに日本が深海棲艦に負けた際の交渉で艦娘達を深海棲艦側に引き渡すということが決められていた。が、一部の提督達が命令を無視して艤装に弾薬や燃料を満載にした艦娘達を逃がしたのだ。その後、多くの艦娘達が捕まったものの、今でも多くの艦娘達が全国各地に潜伏しているという。さらに、他の収容所では脱走者も出たことがあるらしい。

 

「私達の収容所では監視がキツくてそういうことは一切起こらなかったけど、風の噂で他の収容所では脱走者も結構いたみたいよ。残念だけど十年前提督だった人達は艦娘達の目の前で殺されちゃったから一人もいないけど」

「じゃあ、蓮の兄貴も……」

「ああ。そうみたいだな。話は変わるが今回の作戦でトラックに乗せられる艦娘達の中にはこの人の姉貴もいるんだ」

「だったら尚更失敗出来ねぇな。絶対助けないと」

「協力してくれるの?」

「あったり前だ。ここで逃げたら男じゃねぇ」

 

 健は大きく肩を回すと二カッと笑った。良も隣で笑っている。ちなみに現在、日本の各地には姫級・鬼級18体を含む数百もの深海棲艦がいる。それに対して喧嘩を売るような行為をするというのだから普通に考えれば無謀である。しかし、ここにいる四人の男達にはその重大さがイマイチ理解出来ていない。

 

「でもさ蓮。仮に瑞鶴さんのお姉さん達を助けることができたとして、その後はどうすんの?」

「ん?ん~……そういえば全く考えてなかったな……」

「おいおい……」

 

 良の言葉に蓮は困った顔をして腕を組んだ。兄の翔太からは『艦娘達が薬の実験台にされるのを阻止して欲しい』とは言われたものの、その後のことは何も言われておらず、蓮自身も全く考えてなかったのだ。

 

「ま、そんなこと後々考えりゃいいじゃん。この話は置いといて、まずは目の前のことに集中しようや。射撃練習、行くんだろ?」

 

 蓮はしばらくの間難しそうな顔をしていたが、考えるのを止めたのか一転して笑顔になると膝をポンと叩いて立ち上がった。

 

 

 その後、作戦実行日まで蓮達は射撃訓練やシミュレーションを繰り返し、作戦をスムーズに行えるように練習した。今回の作戦は速さがものをいう。時間を稼いでいる間にいかに早くトラックの荷台から艦娘達を降ろして荷台の扉を何事も無かったかのようにできるかが鍵を握っているからだ。

 蓮達は停学期間ということをいいことに、毎日ひたすら練習に励んだ。

 

 

 

 

 

 そして数日後。作戦決行日が来た。

 

 




「どうも、作者こと太陽k「ああああああああ!!」……うるせぇぞ肝井!挨拶の邪魔すんな!」
「だってだって蓮ちゃん美女とお風呂に入ったことあんねんで……羨ましすぎるやろ!」
「昔の話だろうが。何時までもそんなことでウダウダ言ってもしょうがないだろ?」
「こうなったらワイ、今から瑞鶴さんに一緒にお風呂入ってくれるように頼んでくるんやで」
「は?いや、人の話し聞いてたか?てかお前そんなことしたら絶対心の傷口広げるぞ」
「やかましいわ!やってみんとわからんやろうが!……瑞鶴さ~ん。ワイと一緒にお風呂に……「蓮君となら考えるけど、肝井君とは絶対に嫌!」……世の中何もかも理不尽すぎるんじゃぁぁぁ~!!作者~!ワイを不細工眼鏡からイケメンに変えてくれ~!ワイも女の子にちやほやされたいんじゃ~」
「……それは無理な相談だな」
「Why!」
「お前をイケメンモテモテにしたらネタ枠がいなくなる」
「……」

 次回もお楽しみに。


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第六話 作戦開始

ー舞鶴ー

 

「これで全員ですか?」

「アア、コイツラデ全員ダ。クレグレモ気ヲツケテクレ」

「分かってますよ」

 

 早朝、舞鶴では舞鶴沖の収容所から送られてきた艦娘達が次々にトラックに乗せられていった。その手足には鎖が巻き付き、表情は皆一様に暗い。トラックに艦娘達を乗せ終わった深海棲艦達は、トラックの運転手から多額の現金が収まったアタッシュケースを受け取ると中身を確認し、去って行った。

 

「さて、俺達も行くか」

 

 深海棲艦達が海に帰っていったのを確認した運転手は大きく伸びをすると運転席に乗り込んだ。

 

「なぁ、本当に護衛を付けなくて大丈夫だったのか?」

 

 運転席に乗り込むなり助手席の男が心配そうに声をかけてくる。

 実は今回の艦娘達の輸送に輸送先の製薬会社から『万が一のために護衛を付ける』という話が上がっていたのだが、運転手はこれを『逆に目立ってよくない』と言って突っぱねていた。しばらく押し問答が続いたものの、代わりに自分達がサブマシンガンと防弾チョッキで武装すると言うことで話をまとめた。

 別段運転手も助手席の男も艦娘達に恨みはない。むしろ薬の実験台に使われると聞いて憐れにすら思っていた。日本を守るために必死に戦っていたのに、守ってきた人間達に簡単に見捨てられるなんて何とも可哀想な話である。できれば逃がしてやりたいとすら思っていたが、これも金のためだと割り切っていた。

 

「なぁに。わざわざ艦娘達を奪う奴なんて今のこの日本にいるのならよっぽどの馬鹿だぜ。なんたって深海棲艦達の機嫌を損ねでもしたら日本の終わりだからな。周りに何を言われるか分かったもんじゃねぇ」

「しかし、かつては日本を守ってくれてた艦娘達に対してこの仕打ちか。何て言うか、今回はあまり気乗りしない仕事だな」

「文句言うなよ。普通の仕事の十倍も金がもらえるんだぞ。終わったらそれでパーッと遊んで忘れようぜ」

「……だな」

 

 運転手はヘラヘラと笑いながらエンジンをかけ、トラックを発車させた。今まさにその艦娘達を奪おうとしている『よっぽどの馬鹿』が待ち受けている場所へ向けて。

 

ー道路ー

 

「こんぐらいでいいよな?」

「ああ。その辺でいいだろ」

 

 トラックが舞鶴を出発した頃、北蓮寺から少し離れた国道では蓮達が作戦を実行に移していた。用意したトラックを車道に被さるように配置し、わざとタイヤをパンクさせる。そして艦娘達を乗せたトラックを停車させてパンク修理を手伝わせ、その間に荷台から艦娘達を救出、茂みに隠して待機させて艦娘達が乗っている『はず』のトラックが発車してからパンク修理したトラックに乗せて一気に北蓮寺まで行くという作戦である。もしバレそうになったらその際は最後の手段として麻酔弾で眠らせる。

 

「肝井達はそろそろ持ち場に着いたかな?」

「そろそろだろ」

 

 健が蓮に尋ねてきたその時、蓮のスマホが鳴った。

 

「……そうか、わかった。頼んだぞ……肝井達も配置についたってさ」

 

 念のために蓮達のいるところから舞鶴方面へ二キロ行ったところにある『ドライブインレストラン なごみ』にも肝井と良を配置している。もしそこで運転手達が食事休憩でも取ってくれれば店の周りは林のため、その方が艦娘救出がしやすいからだ。

 

「いよいよね……」

「ああ。失敗は許されねぇな」

 

 瑞鶴の言葉に答えながら蓮はグッと拳を握りしめた。いよいよ作戦開始である。

 

 

ートラック荷台内ー 

 

「……」

 

 蓮達が作戦準備を終えた頃、トラックの中にいた翔鶴はじっと床を眺めていた。収容所から移送される際、深海棲艦に瑞鶴のことを聞いて見たが、『一週間前舞鶴に行ってから姿を見ていない』と言われ、『もしかしたら深海棲艦にされたことに悲観して自殺でもしているんじゃないのか』とまで言われた。

 

「翔鶴さん。大丈夫ですか?」

「大丈夫……です」

 

 隣に座っている赤城が心配そうに声をかけてくる。それに対して翔鶴は無理矢理笑顔を作って答えようとしたが、顔が引きつって上手くできず、それに気付いてすぐに下を向いてしまった。

 

「大丈夫。瑞鶴さんならきっと生きているわ」

「でも……でも!もう会えないかもしれないんですよ?瑞鶴は生きてても、私達は薬の実験台にされて……それで……」

 

 翔鶴の言葉に皆が一斉に下を向いてしまった。ここにいる全員は薬の実験台にされて恐らく死ぬ。収容所で告げられた時点で分かっていたことで、既に覚悟を決めたはずなのに、口に出して言われるとどんどん辛くなってしまう。

 

「もし……もし、蓮がちゃんと生きていたらきっともう高校生ネー……一度会ってみたいデス。きっとテイトクとそっくりなイケメンになっているに違いないネー」

 

 雰囲気が一気に暗くなったところで一人の艦娘がポツリと言った。金剛型戦艦一番艦の金剛である。普段は明るくポジティブな彼女も、今回ばかりは心なしか表情が暗い。

 

「そうですね……私達が最後に見た時はまだ六歳でしたが、あれから十年が経っていると考えれば今十六歳。私達の鎮守府に着任したばかりの提督と同じ年齢。普通なら高校生ですね」

 

 金剛の隣にいたやや灰色がかった髪をした金剛の妹の榛名が少し懐かしそうに話した。

 

「大淀だっけ?蓮をうっかり湯船に放置して溺死させかけたの」

「ち、違いますよ!大体あの時鈴谷さんが……」

 

 金剛が蓮のことを話したのを皮切りに、艦娘達は次々に蓮との思い出を話し始めた。一緒に遊んだことや、一緒に寝たり風呂に入ったこと、幼稚園でいじめられて泣きながら帰って来た蓮をおんぶしながら海岸線を散歩したこと……次から次へと出てくる思い出話に何時しか艦娘達の表情も和らいでいった。

 

「こうやって話してみると、私達って物凄いブラコンみたいですね」

「だな」

「もしまた深海棲艦と戦うのなら蓮君に指揮して欲しいですね」

 

 誰かが言った言葉に全員が頷いた。もしもう一度深海棲艦と戦う機会があるならば、自分達の提督であった翔太の弟で、自分達も弟のように接してきた蓮に指揮して欲しい。でも、実際には鎖で繋がれてこうしてトラックに乗せられている。所詮夢物語である。

 

「蓮が助けにでも来ねぇかな……」

 

 とある重巡の声に皆がため息をついた。そんな都合のいいことあり得ない。起こり得るはずがない。誰しもがそう思ったその時、トラックが止まった。

 

「なんでしょうか?」

「お昼ご飯じゃないかな」

 

 口々にそんなことを言っていると、運転席の方から扉が開く音が聞こえ、再び閉まる音がした。どうやらトイレ休憩か、昼ご飯を食べにトラックから運転手達が降りたようだ。

 

「今なら逃げられる……わけないですよね」

 

 翔鶴の言葉に再び雰囲気が暗くなりかけたその時、荷台の扉の鍵が開く音がした。

 

「え……?」

 

 皆が驚いて荷台の扉の方に一斉に視線が集中する。

 

「お、ビンゴやで良ちゃん。このトラックや」

「そうらしいな。てかお前、相変わらずピッキング技術すごいな」

「小学生の頃、朝教室の鍵職員室まで取りに行くの面倒くさくて針金で開けてたのがこんな所で活きてくるとは思わんかったで」

「お前……それ、他に悪用してないだろうな」

「してへんで……殆ど」

「おい、今小声で殆どって言ったよな」

 

 何やら言い合いをしながら荷台に入って来たのは、チェーンカッターを持ったイケメンと小太りで眼鏡をかけた不細工な少年達だった。

 

「ちょっとごめんやで」

 

 小太りの少年と良と言われた少年は次々に艦娘達を繋ぐ鎖をチェーンカッターで切断していった。全員の鎖を切断し終えると、少年達は荷台の扉の方へ手招きした。

 

「早く。逃げるぞ」

「ほらほら、早くするんやで」

 

 艦娘達がたじろいでいると小太りの少年が艦娘達の背中を押して荷台の外へ押し出した。数時間ぶりに浴びる日光に目がくらんでいると、良が茂みの方に手招きしている。

 

「急げ。こっちだ」

 

 艦娘達が茂みに隠れ、小太りの少年が荷台のドアを閉め、茂みに飛び込んだのとほぼ同時に店から運転手達が現れ、トラックに乗って走り去って行った。それを確認した少年達は一斉に地面にへたり込んだ。

 

「あ~冷や冷やした」

「もう少しダラダラしてたら間違いなく死んでた」

 

 少年達は呼吸を整えると、艦娘達の方を見てそれぞれの顔を確認していった。

 

「あれ?瑞鶴さんのお姉さんって誰や?似てる奴おらんのやけど」

「確かにいるはずなんだけどな」

「私です!瑞鶴の姉は私です!」

 

 少年達の言葉に翔鶴が手を挙げて反応した。

 

「あんたが瑞鶴さんのお姉さんか?」

 

 良が翔鶴の方に顔を向けると、翔鶴は激しく首を縦に振った。

 

「ええ。翔鶴型航空母艦、一番艦の翔鶴です。あの……瑞鶴を知ってるんですか?」

「ああ。知ってる。それから君達の知り合いもな」

「瑞鶴は……瑞鶴は無事なんですか?」

「最初は深海棲艦になってたけど、元に戻ってるで。元気にしてる」

 

 翔鶴の言葉に良と小太りの少年はあっさり答えた。良が答えた瞬間、翔鶴は顔を押さえて崩れ落ち、そのまま泣き始めた。その様子に少年二人は慌てだした。

 

「お、おい、どうしたんだよ?肝井、俺なんかマズいこと言ったか?」

「違うで良ちゃん。あれはきっと嬉しくって泣いてるんやで。とりあえずここにいるのも何やし、場所移そうや」

 

 肝井と言われた少年はそう言うとポケットからスマホを取りだし、何処かに連絡しはじめた。

 

「ああ、せや。こっちでやったわ。うん、このまま林伝いに北蓮寺に行くわ。大丈夫やて。バレてないから。うん、ほな北蓮寺で」

「あ、あの、誰と連絡してたんですか?」

 

 肝井が通話を終えると、大淀が恐る恐る尋ねた。

 

「ん?仲間やで。瑞鶴さんもいるし」

「あんたら蓮の知り合いなんだろ?ついてきてくれ。蓮のとこに案内するから」

「え?蓮を……蓮を知ってるんデスカ!?」

 

 蓮の言葉に反応して金剛が良の肩を掴む。突然肩を掴まれた良は一瞬驚いたが、すぐに冷静になり、笑って答えた。

 

「ああ。蓮は俺達の友達だ」

「友達……」

「さ、早く行こうや」

 

 肝井の言葉に全員北蓮寺に向けて林の中を歩き出した。

 

 

 

 

 




「どうも。太陽光です」
「肝井やで」
「またお前か……ほら、見せ場作ってやっただろ。これでいいじゃないか。さっさと帰りなさい」
「よくないで!これやったらワイはピッキング上手い怪しいキモデブやんか!」
「勝手に自分からそんなこと言うから余計そうなっていくんだろうが」
「いややいやや~!作者がワイをスラッとしてシュッとした高身長イケメンフェイスに変えてくれるまでこの後書き欄に居座り続けるんじゃ~!」
「どんなわがままなんだよ。いい加減にしろ。お前はどう頑張ってもネタ枠なんだよ」
「いやや~!ネタ枠は美味しいけどそれ以上にワイもモテたい~!」
「何を揉めてるんだ作者?」
「お、良。いいところに。コイツを後書き欄から退場させてくれ。前の話から居座って困ってるんだ」
「ふーん……わかった。ほら、早く帰るぞ。作者の迷惑になるから」
「ワイは絶対また来たるからな。覚悟しとけ作者。I’ll be back!」
「もう当分来なくていいぞ」

 次回もお楽しみに。


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第七話 艦娘達との再会

ー北蓮寺 山門ー

 

「着いたで」

 

 林の中を歩くこと一時間。茂みから出た肝井達は北蓮寺の山門前に到着した。

 

「肝井さん達はよくこのルートを使ってたんですか?」

「昔……と言っても中学の頃やけど、しょっちゅうこの林の中で遊んどったからなぁ」

 

 大淀の質問に肝井は頭や眼鏡についた蜘蛛の巣を取りながら答えた。先頭を歩いていた肝井の髪は蜘蛛の巣が付きすぎて白くなっている。

 

「お、来た来た」

 

 山門の前で座って道路の方を見ていた良が立ち上がった。艦娘達が良の視線の先を見ると、激しく前後に揺れるトラックが近づいてきた。運転席には金髪の健が。助手席には赤髪の蓮が。そして真ん中には瑞鶴が座っている。

 トラックは山門の前に来ると急ブレーキを踏み、その反動でトラックが大きく前のめりになり、最後に大きく後ろに揺れると止まり、助手席が物凄い音を立てて開いた。

 

「てんめー健!お前、何が『車の運転とか余裕だし』だよ!メッチャ下手くそじゃねぇか!」

「うるせぇな。いつもはオートマなんだよ。それに俺マニュアル苦手だし」

「そもそもが無免許じゃねぇか!いつも乗ってるみたいに言ってんじゃねぇ!犯罪だろうがは・ん・ざ・い!」

「いつもは敷地内で運転してんだよ!私有地なら問題ないだろうが!てか俺が無免許って今更気付いたのかよ。馬鹿じゃねぇの」

「うるせぇ!」

「き、気持ち悪い……」

 

 助手席から降りてきた蓮は早速健に文句を言っている。瑞鶴はトラックから降りるなり、真っ青な顔をして口を押さえながら近くの茂みに消えたかと思うと、茂みからうなり声のようなものが聞こえてきた。どうやら車酔いしたらしい。

 

「おい、喧嘩は後でやれ」

「今喧嘩してる場合やないで」

 

 蓮と健が胸ぐらをつかみ合ったところで良と肝井が仲裁に入った。

 

「そうだった。で、上手く行ったのか?」

「ああ。なんとか荷台の扉閉めるところまでやったで。ちょっとギリギリやったけど、バレてへんで。意外とあっさりしたもんやったわ」

 

 蓮の質問に肝井が胸を張って答えるが、傍から見れば残念ながら出っ張った腹を強調しているようにしか見えない。

 

「れ、蓮……ですよネ?」

「ん?」

 

 蓮と肝井が話していると、その様子を眺めていた艦娘達の中から、一人の艦娘が進み出てきた。

 

「金剛……姉」

 

 蓮がそう言った瞬間、金剛は走り出し、蓮に抱きつき、押し倒した。

 

「会いたかったネー!ずっと……ずっと……もう二度と会えないと思ったネー!」

「こ、金剛姉……俺も会えて嬉しいけど……くるし……」

 

 蓮が金剛に何か言おうとした瞬間、次々に艦娘達が蓮に飛びついてきた。

 

「蓮!久しぶりだなぁ!こんなに大きくなってさ」

「蓮さん、久しぶりですね。私よりも背が高くなって……私、追い越されちゃいました」

「ちょっ、皆、蓮ちゃん潰れてまうで」

「み、皆……ど、どいて……潰れる。あと臭い……」

「「く、臭い……」」

 

 肝井が慌てて止めに入ったことと、臭いと言われてショックを受けた艦娘達が一斉に蓮から離れたことで、蓮が本当に潰れることは回避された。

 

ー北蓮寺 本堂ー

 

「……なる程。そう言うことでしたか」

「ああ。ま、またこうして会えて嬉しいよ」

 

 十分後。蓮達は北蓮寺の本堂で話をしていた。今日は祖父の源は外出しているため、本堂を使っても文句を言われることはない。

 艦娘達に対し、蓮は今回のいきさつを全て話した。幽霊が見えること、提督の適性があること、翔太が幽霊になって現れ、艦娘達が薬の実験台になるのを阻止して欲しいと言ってきたこと、計画を立て始めてすぐに瑞鶴が深海鶴棲姫になって現れたこと……蓮が話し終えると、艦娘達は涙を浮かべながら蓮達に感謝の言葉を述べた。

 蓮が一通り言い終えたところで良が翔鶴と瑞鶴の方を見た。 

 

「瑞鶴さんも元の姿に戻って、お姉さんに会えてよかったな」

「うん!ありがとう皆!」

「皆さん。本当にありがとうございます」

「ええんやで」

「礼なんて要らねぇよ」

 

 翔鶴と瑞鶴の言葉に肝井や健は照れくさそうにした。

 

「えーっと……言い辛いんだけどさ、とりあえずその格好でいるのはマズいし、臭いもすごいからさ、風呂入って着替えて欲しいんだ。自己紹介はその後な。長いこと風呂にも入ってないんだろ?ゆっくり浸かってきなよ」

「いやでも……私達着替えなんて持ってませんよ?」

 

 蓮の言葉に榛名は俯きながら答えた。今瑞鶴を除いた艦娘達は、全員ボロボロの服を着ている。そのため所々が破けて、思春期真っ盛りの男達にはかなり精神衛生上よろしくない状態なのだ。おまけにまともに風呂にも入っていなかったのかすごい臭いである。

 

「そうだろうと思って服は妖精達が作ってくれている。風呂も沸かしてあるそうだから、皆で入ってくればいい」

「え……本当ですか!?」

 

 蓮の言葉に榛名の顔がパッと明るくなった。実は帰宅直後、蓮はこっそり妖精達に服と本堂地下に建設されてある艦娘達専用の風呂を沸かしておくように頼んでおいたのだ。 

 

「ああ。早く入ってこいよ」

「ありがとうございます!」

 

 榛名はそう叫ぶと真っ先に掛け軸の裏へ消えていった。他の艦娘達も後に続き、本堂には蓮と肝井、それから健と良が残った。

 

「何ていうか、あっさり終わったな」

 

 健の言葉に全員頷いた。言った健自身、こんなに上手く行くとは思わなかったのか、少しホッとしたような顔をしている。

 

「ああ。運転手達が飯食いに行ってくれたってのがデカかったな」

「ま、何はともあれ全員無事やったからよかったやないか」

 

 良と肝井も健の言葉を聞いて気が抜けたのか、本堂の床にゴロリと寝転がって天井を眺めている。

 

「皆、ありがとうな。こんな無茶ぶりに付き合わせてしまって」

 

 突然、蓮が皆に向かって頭を下げた。

 

「いいっていいって。誰も死んじゃいないし、怪我もしていないんだから」

「せやせや。そんなに気にしなくてもええって」

「俺達は面白そうだから参加しただけだからな」

 

 良をはじめ、肝井や健は笑いながら蓮の方を見た。

 

「……そうか」

「ま、皆風呂上がってくるまでトランプでもしとこうや」

 

 そう言いながら肝井がポケットの中からトランプを取り出すと、四人は車座になってババ抜きを始めた。

 

 

 

 

 

 

「だぁー!!」

「うっしゃ勝ったぞこらぁ!」

 

 一時間後、蓮達がババ抜きに興じていると、着替えを済ませた艦娘達が掛け軸をめくって出てきた。余談になるが、蓮達四人は一時間もの間ずっと飽きもせずババ抜きをしていた。ある意味すごい男達である。

 

「あ、あの……」

「お、着替え終わった?」

「はい、ありがとうござ……「蓮ー!バーニングラァァァブ!!」」

「げはっ!?」

 

 大淀が礼を言おうとするのを遮り、金剛が大声で叫びながら蓮に抱きついた。勢いよく抱きつかれた蓮はそのまま吹き飛び、柱に頭を強打した。

 

「今度は臭いとは言わせないネー!」

「れ、蓮ちゃん?大丈夫か?」

「思いっきし嫌な音がしたぞ」

「死んだんじゃないの~」

「生きてるよ」

 

 蓮は起き上がると他の艦娘達の力も借りて金剛を引き剥がした。

 

「ヘイ蓮!My sisters!なんで私を蓮から引き剥がそうとするネー!」

「これから大事な話をするからだよ」

「そう言うことですから蓮君から離れてください」

「お姉様といえど抜け駆けは許しません」

「Oh、そんな怖い顔しちゃ、No!なんだかr……」

 

 金剛が何か言おうとした瞬間、金剛の後頭部に眼鏡をかけた艦娘の鉄拳が落とされた。

 

「お姉様?」

「ソ、sorry霧島……い、痛いデース……」

「じゃ、まずは皆紹介しないとな」

 

 そう言うと蓮は肝井達に艦娘達を一人一人紹介していった。金剛型戦艦の金剛、比叡、榛名、霧島。航空母艦の赤城、加賀、翔鶴、瑞鶴。重巡洋艦の摩耶と鈴谷。軽巡洋艦の大淀、夕張。駆逐艦の吹雪、白雪、深雪。蓮に名前を呼ばれると、艦娘達は肝井達に向かって助けてくれた礼を改めて述べた。

 

「じゃ、俺達もしとくか」

「せやな」

「あー……東山健だ。蓮とは中学ん時からの友達で、今回の作戦、面白そうだからって言う理由でノリノリで参加させてもらった。趣味は渓流釣りで、特技は……あー……喧嘩と裁縫かな。以上」

「肝井真二郎やで。蓮とは小学校の頃からの友達で、よくここにも泊まらせてもらってるんや。趣味はビデオ鑑賞(大人のビデオ)と読書(薄い本が七割)と写真撮影(盗撮ではない)にゲームやな。特技は三線(さんしん)とドラムと相手の胸のサイズを服の上からでも瞬時に当てることや」

 

 肝井がそう言った瞬間、艦娘達は一斉に胸を腕で隠した。

 

「ちなみに瑞鶴さんの胸はギリギリC……」

 

 肝井が大声で何かを言おうとした瞬間、肝井の髪を掠めて真後ろの柱に矢が二本刺さった。肝井が放たれた方向を恐る恐る見てみると、目の光が消えた翔鶴と瑞鶴が何処から取り出したのか弓を構えていた。

 

「肝井さん?」

「それ以上言ったら殺すわよ?」

「……すんません調子に乗りました。良ちゃん、次どうぞ」

 

 翔鶴と瑞鶴の雰囲気に恐れをなした肝井は涙目になり、鼻水を垂らし、膝をカクカクさせながら慌てて良の方を見た。

 

「この流れで振るか……えーっと西良だ。蓮とは健と同じで中学からの友達で、趣味は自作パソコンの制作とモールス信号で遊ぶことかな。ま、機械いじりは全般的に好きだ。特技はどんな政府機関でも速攻でハッキングすることができること」

 

 良がそう言った瞬間、夕張が目を輝かせながら握手を求めた。良もそれに快く応え、握手を交わした。

 

「じゃ、自己紹介が終わったところで聞きたいんだけど、ここにいるメンバー以外はどうしたんだ?」

「……ここにいる子以外は皆……」

「……そう、か……じゃ、じゃあ、今後皆はどうしたい?」

 

 大淀の言葉に一瞬蓮は動揺したが、気を取り直して次の質問をして周囲を見回していると、赤城が手を挙げた。

 

「どうした赤城姉」

「その……収容所にいた時に小耳に挟んだ話なんですが、深海棲艦はまだ日本を侵略する予定みたいなんです」

 

 赤城のその一言に肝井達は動揺した。

 

「それ、ホンマか?やったとしたら今の日本瞬殺やろ」

「艦娘達がいたとしてもそれを指揮する提督がいなきゃ意味がねぇ。本格的に攻められたりしたらあっという間だろうな。てか実質沿岸部は深海棲艦に押さえられてるも同然だろ」

「第一、多分現時点で一番艦娘がまとまって提督の適性のある奴の所にいるの、此処だろうしな。これだけの艦娘がいるってそうそうないだろ」

「恐らくな。ただ、何かあったときにいくら何でもこの面子だけで戦うのには無理がある。もう少し仲間が欲しいところだな」

 

 蓮の言葉に全員が頷いた。既に沿岸部では深海棲艦達が我が物顔で歩いている。深海棲艦に見つかればひとたまりもない。恐らくはそこまで積極的に提督適正者の検査が行われていないおらず、深海棲艦の目が届かない内陸部、それも田舎にいる可能性が高いということで落ち着いた。

 話がまとまると、蓮は肩に乗っていた妖精を手のひらにのせた。

 

「妖精達、悪いんだけど近畿地方内だけでいいから、提督適正者と艦娘達を探してきてくれないか?」

「りょうかいです」

 

 そう言うと妖精達はちゃちゃっと準備を済ませ、最後に背中に『京都北蓮寺』と達筆で書かれた旗を背負うとフワリと宙に浮いて飛んでいった。 

 

「見つかるかしら?」

「さぁ……いたらラッキーぐらいに思うしかないな。いたとしても協力してくれるとは限らないし」

 

 妖精達を見送った後、瑞鶴の言葉に蓮はため息交じりに答えた。その直後、何やら大勢の男の声が山門の方から聞こえてきた。

 

『北野コラァ!出てこいやぁ!』

『こないだのお礼参りに来たぞボケェ!』

 

「な、何?何が起きてんの?」

 

 突然の大声に思わず鈴谷は立ち上がった。

 

「あー……多分こないだの三年達だな」

「わざわざここまで来たのか。ご苦労なこった」

 

 艦娘達がざわつく中、蓮と健は表情一つ変えずに指を鳴らしながら立ち上がった。

 

「お、おい!どういうことか説明しろよ蓮!」

「一週間前にボコボコにした学校の三年達が来てるんだよ。弱い癖に喧嘩吹っかけやがってさ。おかげさまで俺達四人とも停学一週間だよ」

「て、停学!?」

「ま、軽く捻ってくるわ」

 

 そう言うと蓮と健は立ち上がるとさっさと本堂を出て行った。本堂に残っていた艦娘達は肝井達に一斉に詰め寄った。

 

「ど、どういうことですか!?蓮さんが停学だなんて」

「別段珍しくないで。蓮ちゃんも健ちゃんも、中学ん時の喧嘩で停学くらった回数、十回じゃきかんから。それ以外で停学くらった分も含めたらもっと多いで。なんせ中学時代は蓮ちゃんは『一中の悪魔』、健ちゃんは『一中の死神』言われてたくらいやから」

「あいつら、売られた喧嘩しか買ってないのにな」

「なー」

 

 大淀の質問に肝井と良は平然と答えた。普通、停学なんて普通の学生生活を送っていればそう簡単になるものではない。しかし、それを別段珍しいことでもないと言い放つ肝井達は間違いなく感覚が麻痺している。

 逆に幼く可愛い頃の蓮しか知らない艦娘達は驚いて声も出ない様子である。

 

「……ちょっと心配ですね。見に行きましょうか」

 

 しばらくして気を持ち直した赤城の言葉に全員頷くと、コッソリ蓮達の後をつけた。

 

ー北蓮寺 山門ー

 

「チッ……出てこねぇなあいつら」

 

 北蓮寺の山門前では二十人ほどの学ランを着た男達がたむろしていた。皆手に手に木刀や金属バットを持っている。その中心で大熊は吸いかけのタバコを地面に落とし、靴で踏み消した。

 

「どうしますか?乗り込みますか?」

「う~ん……」

 

 村野の言葉に大熊は唸った。ここでそうしたい気分も山々なのだが、後々かなり面倒なことになるので、できればしたくない。この男の目的はあくまでも蓮達をボコボコにすることなのだ。しかし、この前の喧嘩で多くの仲間が怪我をして動けず、数が足りないため、今日は他所の学校にいる知り合いの不良達も呼んだのだ。

 

「おい!」

 

 大熊が帰ろうかと思って腰を上げたその時、山門の方から声が聞こえたかと思うと、山門近くに座っていた男が殴り飛ばされた。大熊が立ち上がると、山門の所に蓮と健がまるで仁王像のように立っている。蓮は近くにいた男を蹴り飛ばすと大熊達をギロリと睨んだ。

 

「何うちの前でゾロゾロとたむろしてんだテメェらはよぉ!」

「あ、あいつだ!あいつが北野と東山だ!やっちまえ!」

「「おお!」」

 

 大熊のかけ声と共に大勢の男達が武器を振りかざしながら蓮と健に向かって突撃したが、蓮と健はそれを躱しながら次々に男達を殴り飛ばしたり、蹴り飛ばしたりして蹴散らしていく。その様子を、肝井達は茂みの中から見ていた。

 

「お、やっとるやっとる」

「いやー、今回は二十人はいるな」

「た、助けに行かなくて大丈夫なんでしょうか?」

「あー大丈夫大丈夫。いざとなったらワイらが行くから」

 

 心配そうな顔をしている榛名に対し、肝井はヘラヘラと笑いながら答えた。肝井や良は蓮の喧嘩する姿を見慣れているためなのか、表情に余裕があるが、初めて見る蓮の喧嘩する姿に多くの艦娘達は動揺を隠せない。が、

 

「蓮君がここまで強く成長しているのを間近で見ると、流石に気分が高揚します」

「ちょっ!?加賀さん!?鼻血が出てますよ?」

「鎧袖一触よ。心配要らないわ」

 

 多くの艦娘達が動揺している中、喧嘩をしている蓮の姿に興奮したのか、髪をサイドテールにした加賀という艦娘が鼻血を出し始めた。慌てて近くにいた吹雪が持って来ていたポケットティッシュを差し出す。

 

「……い加賀わしい女ずい」

「?何か言ったかしら?」

「い、いえ、何も言ってない……ずぃぃぃぃ!!」

 

 瑞鶴の小声に鋭く反応した加賀は、ゆっくりと瑞鶴に近づくと逆エビ固めをした。あまりの痛みに瑞鶴は奇声をあげながらもがいたが、加賀は緩めるどころかどんどんキツくしていった。

 

「ん?誰だ!」

 

 瑞鶴の大きな奇声に、不良のうちの一人が気付いて近づいてきた。

 

「げ、バレた。もうむっつりスケベもペッタンも何してんねん。隠れてる意味ないやんか」

「頭にきました」

「誰がペッタンよ!」

「ああもう!皆、本堂の方に戻っといてください。見つかったら色々ややこしいですから」

 

 肝井と加賀、瑞鶴のやりとりをきいていた良は面倒くさそうに立ち上がると走り出し、向かってきた不良を殴り飛ばした。

 

「なっ!おい、西もいるぞ!」

「ワイもおるで!」

 

 叫びながら良に殴りかかろうとした不良に肝井は飛びつくと、フランケンシュタイナーを鮮やかに決めた。

  

 




「太陽光です」
「東山健だ」
「……今回は肝井じゃないのな」
「ああ。今肝井は良が押さえてくれてる。あいつ出過ぎだしな」


『はなせぇぇえ!!ワイにあんなふざけた自己紹介をさせた作者をぶっ殺したるんじゃぁぁぁ!!』
『落ち着けぇ!!』


「……あー……何か空耳が聞こえるけどま、いいや。で、ばっちし無免許運転をした東山さん」
「無免許運転のくだりが余計だ」
「ぶっちゃけ蓮と君とどっちの方が喧嘩強いの?」
「いい年こいた大人がガキっぽい質問しやがって……中一の頃はしょっちゅう殴り合ってたけど、勝率は半々って所だから同じぐらいじゃないのか」
「へぇ、意外。見た目的に健の方が強そうなのに」
「なんだかんだであいつも強いんだよ。肝井は動画とか本でプロレス技とか護身術マスターしてるし、良も空手と合気道と柔道囓ってたみたいだしな。蓮はあの爺さんに鍛えられたんだろ」
「なんだ。肝井以外武闘派じゃん」
「テメェがそういう風に書いてんだろうが!何寝言言ってんだコラァ!」
「ひぃぃ!ごめんなさぁぁい!あとメタ発言やめてぇ!」
「うっせぇ!」

 次回もお楽しみに。


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第八話 添い寝

「作者。評価が届いたぞ」
「そうか……遂に来てしまったか……それで?0か?それとも1か?」
「何で低評価されたと思い込んでんだよ。あとそんな部屋の隅でガクブルすんな気持ち悪い……いいか?聞いて驚け10だ」
「……え?」
「10です」
「What?」
「だ・か・ら!10っつてんだろうが!」
「……」
「作者?」
「いよっしゃ高評価来たぁぁぁぁ!ばんざぁぁぁぁい!」
「おいおい……」
「初っ端から高評価もらえるなんて書いている方にとっては至福の極み!ありがとうございます!これからも本作をよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」

 


ー北蓮寺 本堂ー

 

「痛ぇ~。あいつら容赦ないなぁ」

「ナイフ出してこなかっただけマシやろ」

「だな」

 

 肝井と良が参戦して二十分後。大熊達を追い返した蓮達は本堂の前に来ていた。蓮も健も頭から血が流れ、顔中アザだらけである。肝井も眼鏡が割れ、良もシャツが破けている。

 

「ただいま~」

「おかえり……ってちょっと!大丈夫なのそれ!頭から血が出てるじゃん!」

 

 蓮が本堂の扉を開けると、鈴谷が出てきたが、蓮達の姿を見るなり驚いたような顔をした。

 

「どうしたんだよ鈴谷……って蓮!その怪我、大丈夫なのか!?」

「流石に病院に行った方が……」

「救急箱、取ってくるわ!」

「いやいいよ。これぐらい自分でなんとかするから。ちょっと自分の部屋行ってくる」

 

 鈴谷の声に本堂にいた艦娘達が一斉に集まってくる。それに対し蓮は少し面倒くさそうにしながらも答えてさっさと立ち去ろうとしたが、大淀が蓮の腕を掴んだ。

 

「ダメです。四人ともちゃんと怪我の状態を確認します。夕張さん」

「はいはい。四人とも並んでね」

 

 何処から持ってきたのか、夕張が救急箱を持って来て蓮達を並ばせて手当をはじめた。その間他の艦娘達は蓮が怪我をしたと聞いてどす黒いオーラを出す金剛や榛名、加賀、翔鶴が外に出て行かないか監視していた。

 

「野郎ぶっ殺してやるデェェェス!!」

「お、お姉様落ち着いて……」

「霧島!今すぐそこを退いてください!退いてくれないと蓮さんに怪我を負わせた不届きな連中を殺すことができません!」

「榛名も少し落ち着きなさい。殺したりしたら蓮君に迷惑が掛かってしまうわ。それに喧嘩に怪我は付きものよ?」

「赤城さん。そこを退いてください。そこに立たれては蓮さんをここまでボコボコにした連中を狩りに行くことができません」

「加賀さん、それは先程蓮君の喧嘩している姿に興奮して鼻血を出したあなたが言う資格はないと思いますよ?」

「退きなさい瑞鶴!あんなふざけた連中生かしておくわけにはいかないわ!私からすればあんな連中ただのかかしなんだから!」

「お、落ち着いて翔鶴姉。そんなことしたら大変なことになるから」

 

 金剛達のやりとりを手当てしながら見ていた健は蓮の方を見ると呆れたように呟いた。

 

「蓮ってすっげぇ大事にされてたんだな」

「みたいだな」

「人ごとみたいに言うなよ……」

「ちょ、肝井君、どうしたの急に泣きだしたりして!?何処か傷むの?」

 

 蓮が言い終えた途端、夕張が慌てたように肝井の顔を見た。何故か肝井は号泣していた。

 

「心が痛いで……ワイも一度でええからあんな風に大事にされたいで……」

「夕張さん。そいつ、単に蓮みたいに美女に気遣ってもらえなくて悔しいのと羨ましいので泣いてるだけだからスルーしていいぞ」

 

 慌てふためく夕張に対し、良はヘラヘラ笑いながら理由を話した。良から話を聞いた夕張は一転して呆れたようにため息をつくと、肝井の顔面に消毒液を一気にぶっかけた。

 

「あびゃぁぁぁ!!染みるぅぅぅぅ!!目が、目がぁぁぁ!!」

「これで心の傷も消毒するわね」

「ワイの扱い酷くない!?」

「美人って思われてることに関してだけは嬉しいわ」

「何やねんそれ!」

 

 大声で騒ぐ肝井を無視して夕張は肝井の怪我をした場所に絆創膏を貼り付けると、良の方を見た。

 

「はい次、西君の怪我見せて」

「うーす」

「しかもこれでワイの処置終わり!?」

「だって肝井君一番軽傷なんだもん」

「ワイの眼鏡は重傷やで!?」

 

 そう言いながら肝井は粉々になった眼鏡を見せたが、夕張は『眼鏡屋に行ってね』とだけ言うと良の治療に戻った。

 

「せっかく助けたのにこの仕打ちはあんまりやぁぁぁ!!」

 

 肝井は床に手をつくと大声で叫んだ。

 

 

 

 

 

ーリビングー

 

「……」

「まぁまぁまぁ!皆よく生きてたわね。会えて嬉しいわ!」

 

 数時間後。肝井達が帰った後、リビングの椅子に座っている源とちょうど帰宅してきた奈津子の前には、金剛達をはじめとする艦娘達と蓮が座っていた。

 

「いやはや。一気に我が家も賑やかになった」

「これからしばらくの間お世話になります」

 

 源の言葉に大淀が丁寧に頭を下げた。その様子を見て源は満足そうにうんうんと頷いき、大淀に笑いかけた。

 

「礼儀も正しい。境内の中で喧嘩するうちの馬鹿孫とは大違いじゃ」

「んだとジジイ!テメェも大昔してただろうが!」

 

 源の発言に蓮は大声で叫びながら立ち上がった。それに対して源も立ち上がり、蓮の胸ぐらを掴んだ。馬鹿孫という源も源だが、実の祖父をジジイだのテメェ呼ばわりする蓮も蓮である。要はどっちもどっちだ。

 

「こんの……実の祖父に向かってテメェ呼ばわりは何じゃ!」

「まぁまぁ。さ、皆おなか空いてるでしょ?ご飯にしましょ」

「あ、私も料理手伝います」

「あたしも手伝うぜ」

「あらあら。それは助かるわ」

 

 奈津子は蓮と源がつかみ合いをしているのを無視して立ち上がると、エプロンを着けて台所に向かった。それに釣られるように何人かの艦娘達も立ち上がり、奈津子と共に台所に入っていった。

 

「蓮もそこら辺にしとけよ」

「……疲れた。飯出来るまで俺ちょっと寝るわ」

 

 源と掴み合っているのを摩耶に引き剥がされた蓮は、そう言うと自分の部屋に向かった。

 

 

 

ー蓮の部屋ー

 

 

「おい蓮。飯出来たぞ。起きろ」

「ん……」

 

 数十分後、誰かに揺すられて蓮が目を覚ますと、ベッドの横に摩耶が立っていた。蓮は一瞬目を開けたが、起き上がることはなく、再び閉じて眠りはじめてしまった。

 

「おい!晩飯の準備ができたぞ。起~き~ろ~!」

 

 摩耶は蓮の上半身を起こすと両肩を掴んで揺さぶった。あまりにも強く揺さぶるため、蓮の頭がカクカクと前後に激しく揺れている。

 

「ええい!さっさと起きねぇか!」

 

 しびれを切らした摩耶はついに蓮の頬を思い切りつねりはじめた。

 

「イダイイダイイダイ!起きた!目覚めた!だからやめてくれ!」

 

 あまりの痛みに一瞬で目を覚ました蓮は摩耶の手を払いのけるとベッドから起き上がってリビングに向かった。

 

「……ったく。いっぺん寝たら中々起きねぇのは昔と全く変わらねぇな」

 

 蓮の後ろ姿を見ながら摩耶は腰に手を当てて苦笑いをした。

 

ーリビングー

 

 蓮がリビングに入ると、机の上には所狭しと料理が並べられ、既に赤城や加賀が食べ始めていた。その速度は凄まじく、次々に料理が消えていく。その様子を蓮がぼんやりして眺めていると、金剛に肩を叩かれた。

 

「Hey蓮!そんなところでボーッとしてないでこっちに来てくだサーイ!」

「ちょっ、押すなって」

「皆サ~ン。蓮が起きてきましたヨ~!」

 

 金剛の声に艦娘達が一斉に振り返った。

 

「あ、起きたの?さ、こっちに来て。ほら、今日はバイキング形式にしたから好きなものを好きなだけとってね」

 

 鈴谷が蓮に近づき、蓮に皿と箸を渡した。

 

「あ、ありがとう」

「どうも。さ、早く食べないと全部赤城さん達に食べられちゃうよ?」

「失礼ですね。そこまで私達も食い意地は張ってませんよ」

「鈴谷さん。あとでお話しが必要ですね」

「いや、さっきから次々に料理平らげておいてその発言はないっしょ。蓮の分まで食べ尽くす勢いじゃん」

 

 鈴谷の発言に腹を立てたのか、赤城と加賀は口の周りに食べかすをつけまくりながら鈴谷の方を睨んでいる。一方睨まれている鈴谷は全く意に介さず、飄々とした様子で自分の皿に料理を載せはじめた。

 

「ちょっ。俺の分がなくなる」

 

 しばらく艦娘達が料理を食べているのを眺めていた蓮だったが、我に返ると慌てて自分も料理を取り始めた。

 

ー縁側ー

 

「ふぅ……」

 

 食事をはじめてから一時間後。夕食を食べ終えた蓮は、家の北側にある縁側に腰掛けていた。横には何冊ものアルバムが置かれている。

 

「何か懐かしいな……」

 

 蓮が開いているアルバムのページには、『蓮五歳の誕生日。艦娘達と祝う』と書かれ、見開きいっぱいにその時に撮ったと思われる写真が所狭しと貼られている。金剛にキスをされている写真。加賀に抱っこされている写真。翔鶴にバースデーケーキを食べさせてもらっている写真……。蓮は一ページずつめくりながら当時のことを思い出していた。

 

「なんじゃ。こんな所におったのか」

 

 不意に背後から声がしたので、蓮が後ろを見ると浴衣姿の源が立っていた。

 

「風呂があいたって言おうと思っとるのに中々見つからんから探しとったんじゃぞ?」

 

 源はどっこいしょと蓮の隣に腰を下ろすと、蓮の横に詰まれていたアルバムの一冊を手に取り、ため息をついた。

 

「全く。この頃は素直で可愛いい顔をしとるのに。何処でどう間違えたのか」

「うるせぇよ」

「……お前。艦娘達と会えたのに嬉しくないのか?」

 

源は不思議そうに連の顔をのぞき込んだ。

 

「そんなわけないだろ。嬉しいよ」

「そうか?儂にはお前の態度、どことなく素っ気なく見えたぞ?」

「……」

 

 蓮が黙っていると、源は大きくため息をつくと蓮の頭をなで始めた。

 

「!?何すんだよジジイ!」

「全く……お前は昔っから嬉しかったり泣きそうになると周りに対してどこか素っ気ない態度になる癖があるからな。昔に比べて随分マシになった方じゃが、まだ時々そういうところがあるぞ」

「……」

「今回は素直に喜んでも、嬉し泣きしてもいいんじゃないか?」

 

 源は苦笑いすると蓮の目を真っ直ぐに見た。

 

「……ぅるせぇよ」

 

 蓮は目を潤ませると、源に顔を見られないようにしながら小走りで風呂場に向かった。その後ろ姿を見送りながら源はヤレヤレと言いながら立ち上がる。

 

「全く素直じゃないのぅ。別に泣いてるところを見られたぐらいで死ぬわけでもないのに」

 

 源は置きっ放しのアルバムをまとめると縁側を後にした。

 

 

ー蓮の部屋ー

 

「……はぁ」

 

 二十分後。風呂から上がった蓮は椅子に座るとバイク雑誌を読み始めたが、疲れていたのか直ぐに寝落ちしてしまった。

 

「蓮?起きてマスカ?」

 

 数分後、蓮の部屋に金剛が入って来た。

 

「寝てる……」

 

 金剛は部屋を見回して蓮が椅子に座ったまま寝ているのを見つけた。

 

「蓮、こんな所で寝ると風邪を引きマスヨ?」

 

 金剛は何度か蓮を揺すってみたが、蓮は一向に起きる気配がしない。仕方が無く金剛は蓮を抱っこするとベッドまで運び、布団を掛けてやった。

 

「流石に重くなりましたネー……そりゃそうデスよね。十年も経ってるんデスから」

 

 蓮に布団を掛けた金剛はベッドに腰掛けると蓮の顔を見た。十年前のようなあどけなさはなくなり、髪を赤く染めているためか、今は寝ているが起きているときは気の強そうな顔をしている。その顔はどことなくかつて自分達の提督だった翔太に似ていた。

 

「……久々に一緒に寝るネー!」

 

 そう言うと金剛は部屋の電気を消して布団の中に潜り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……何故こんな所に金剛さんが?まぁいいです。久々に蓮さんと一緒に眠れる。流石に気分が高揚します」

「あら?……どうして金剛さんと加賀先輩がここに……まぁ、細かいことはいいです。私も失礼します」 

 

 

 その後、時間をおいて二人の艦娘達が蓮の布団に潜り込んだことに蓮も金剛も気付かなかった。 

 

 

 

 

 

 

 

 




「太陽光です」
「金剛デース!!」
「いやはや。蓮も素直じゃないねぇ」
「十年ぶりに金剛お姉ちゃんに会えたのに素っ気なかったので嫌われたんじゃないかと心配デシタ。そういうことだったんですネ」
「……そういえば蓮が一番懐いてた艦娘って誰なの?」
「もちろんわたs……『私(あたし)です(だ)』」
「いつの間に……まぁいいや。それで、蓮は皆さん全員に懐いていたと?」
「ええ。でも五航戦や金剛型の皆さんはスキンシップが過激で少し嫌がられていた気がするわ。一航戦の私達に蓮さんは一番懐いていたわ」
「……大淀さん。どうでしょうか」
「そうですね……蓮さんはよく瑞鶴さんや摩耶さんと一緒にいることが多かったですね。その次に吹雪さん、綾波さん、白雪さんたちでしょうか。私や夕張さんは常に多忙だったので、他の方々と比べて蓮さんと関わることが少なかったと思いますね」
「……それは大淀が蓮を風呂場に放置して溺れさせかけて蓮から避けられるようになったから……『鈴谷さん?』……なんでもありません」
「蓮と一緒にいることが多かった艦娘達について聞きたいんじゃなくて、懐いていたっていうのでは?誰に一番懐いてたの?」
「……不本意ですが、金剛さんに一番懐いていたのでは」
「へー。意外。で、何で大淀はそんなに不機嫌なの?てか不本意って何?」
「……ノーコメントで」


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第九話 艦娘達との同棲生活 その一

ー蓮の部屋ー

 

「蓮さん、起きてください」

「ん~……」

「もう朝の読経の時間ですよ?」

「む~……もう少し寝させてくれ……」

 

 金剛達を救出した翌朝、早朝の北蓮寺の蓮の部屋では何時ものように源と蓮の攻防戦……ではなく、源に蓮を起こすのを頼まれた吹雪が蓮の体を揺すって起こそうとしていた。

 

「早く起きないと源さんに怒られますよ?」

「何時ものことだから大丈夫」

「大丈夫じゃありませんよ!」

 

 蓮がなかなか起きないことにしびれを切らした吹雪は思い切って蓮の布団を引き剥がした。

 

「えいっ!」

「……」

「……」

「……」

「……か、加賀先輩?翔鶴さん?それに金剛さん?何してるんですか?」

 

 吹雪によって布団がなくなったベッドの上には加賀と翔鶴と金剛が蓮を囲むようにして眠っていた。加賀と金剛に至っては蓮に胸を押し当てようと企んだのか、何故か蓮の枕にしがみついている。

 

「ちょっと!何してるんですか!」

 

 吹雪が金剛を揺すると金剛は大きく伸びをし、寝ぼけ眼を擦りながら吹雪の方を見た。金剛達の髪は寝癖で色々なところが跳ねていて、一種の芸術作品のようにすら見える。

 

「ンー……あ、ブッキー……good morning、デース……おやすみ」

 

 起き上がった金剛は頭をかきながら眠そうに吹雪に挨拶をした。そしてそのままベッドに倒れ込み、再び寝ようとした。

 

「グッモーニンじゃないです!なんでこんなところで寝ているんですか!?後二度寝しないでください!」

「十年ぶりに蓮と一緒に寝てみたかったんデース……ふわぁぁぁ……」

 

 吹雪に引っ張り起こされた金剛はそう言いながら大きく欠伸をする。

 

「いや、蓮さんももう十六歳ですし、それはダメでしょう!」

「Why?一緒に寝てるだけデスヨ?」

「ダメなものはダメです!」

「吹雪さん、うるさいですよ」

 

 吹雪と金剛が話していると、加賀と翔鶴も目を覚ました。

 

「吹雪さん、どうかしましたか?」

「皆さん自分が何やってるか分かってますか?たとえ蓮さんとはいえ、思春期真っ盛りの男の布団に潜り込むとかもう<ピー>してるようにしか思えませんよ!」

「Oh……ブッキー。何処でそんな大人な知識を覚えたんデスカー?」

「え?」

「そうね。何処でそんな知識をつけたのかしら?」

「吹雪さん。意外に大胆だったりして」

「な……な……」

 

 本来なら吹雪の言う通り、思春期男児の布団に潜り込むなどどう考えてもR-18事案が発生しそうなものである。しかし、吹雪がやや口下手なのと、金剛達の勢いに飲まれ、いつの間にか吹雪は完全に押されていた。

 

「実は吹雪はムッツリスケベだったネー!」

「ち、違います!さっきのはその、言葉の……その……うう……」

 

 先程自分で発言した言葉を思い出し、吹雪は顔を真っ赤にしながら必死に弁解をするが、口がパクパクと動くだけで言葉になっていない。 

 その様子を見た翔鶴はクスクスと笑いながら金剛の肩を叩いた。

 

「金剛さん。それぐらいにしておきましょう。吹雪さんが可哀想です」

「Oh!そうでシタ。ブッキー、sorryネー!」

「いえ、いいんです……どうせ私は破廉恥な駆逐艦です……」

 

 吹雪は部屋の隅で体育座りをするといじけはじめた……が、ふと少し顔を上げると、ベッドの下に何やら雑誌らしきものが散らばっているのに気がついた。気になった吹雪は腹ばいになると、ベッドの下に潜り込んだ。

 

「よいしょ……っと」

「?ブッキー、何してるネー」

「いえ、ベッドの下に本が落ちてるので拾っておこうと……」

 

 そう言いながら吹雪が取り出したのは五冊の薄い本だった。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 突然の薄い本の出現に、四人の艦娘達は顔を真っ赤にした。

 

「こ、これって所謂薄い本……ですよね?」

 

 そう言いながら翔鶴は薄い本の一冊を手に取ると、恐る恐る震える手で開いた。

 

「ど、どうやら蓮さんは巨乳ツインテールかポニーテール、セミロングが好みみたいですね」

「!!」

 

 吹雪の言葉に真っ先に反応したのは加賀だった。サイドテールを解くとすばやくツインテールにしようとしたが、その手を金剛が笑顔で掴んだ。が、その目は一切笑っていない。

 

「ヘイ……加賀?何してるデース」

「少しイメチェンをしようと思って」

「この場でする必要がありマスカ?」

「あ、あの、お二人とも落ち着いて……」

「イメチェンしたところでそれは俺の好みじゃないから意味ないぞ」

 

 翔鶴の制止も空しく、今にも金剛と加賀の仁義なき戦いが始まろうとしたその時、いつの間にか起きて学生服に着替えた蓮が加賀達の後ろに立っていた。蓮は翔鶴と吹雪から薄い本を回収すると、ベッドの下に放り込んだ。

 

「ど、どういうことですか?」

「これ、肝井の持ちもんだから。この部屋、よく肝井を泊めるんだけど、知らない間に結構私物を持ち込んでんだよ。その本もそのうちの一つだよ。さて、読経に行ってくる」

 

 翔鶴の言葉に対して蓮は素っ気なく答えると部屋から出て行った。

 

「れ、蓮さんのものじゃなかったんだ……」

「何だか色々な意味でホッとしました」

「Oh、No……蓮の好みが分かると思ったのに、残念デース……」

「残念です」

 

 吹雪と翔鶴がホッとしている横では、よっぽど残念だったのか金剛と加賀が唇を噛んで俯いている。金剛に掴まれていた加賀の腕にはくっきりと金剛の手形が残っていた。もし、もう少し蓮が起きるのが遅かったら大惨事になっていたかもしれない。

 

「しかし、蓮さんの学生服、すごかったですね」

「短ランとボンタンって言うみたいですよ。あんなの何処で売ってるんでしょうか」

 

 吹雪と翔鶴は不思議そうに顔を見合わせた。

 

ー本堂ー

 

「……っし終わり!飯!」

「こりゃ蓮!読経が終わるなりそんなことを言うんじゃない」

「うるせぇな。いいじゃんかそれぐらい」

「おっはよー蓮!」

 

 朝の読経が終わった蓮と源が言い合いをしながら本堂を出ようとすると、蓮は後ろから緑色の髪の鈴谷に抱きつかれた。柔らかい二つの感触が蓮の背中に当たっている。

 

「お、おはよう鈴谷姉……てか早いな。まだ六時半過ぎなんだけど」

「鈴谷達、基本起床時間が六時だったからねー。鎮守府にいた頃は一部の子は五時に起きて朝練とかしてたし」

「ふーん……鈴谷姉は?朝練してたの?」

「わ、私?私は……その……」

「『朝練面倒い』とか言って基本ぐーたらしてたよな」

「ちょっ!摩耶!」

 

 蓮の質問に鈴谷が焦っていると、鈴谷の後ろからいつの間に現れたのか、摩耶がイタズラっぽく笑いながら鈴谷の代わりに答えた。

 

「ふ~ん。そうなんだ」

「ち、違うし!いつも出撃で疲れてたからゆっくりしてたかっただけだし!」

「へぇ、そうなのか。ま、いいや。早く飯食いに行こうぜ」

 

 摩耶はケラケラと笑うと鈴谷と蓮、それから源をおいてリビングに向かって歩いて行った。

 

「本当に賑やかになったのう……さ、儂らも行くか」

「……ああ」

 

 源の言葉に蓮達もリビングに向かった。

 

ーリビングー

 

「「いただきます!」」

「てか昨日の夕食の時もだったけど、流石にこんだけの人数がいると狭いな」

「しょーがないじゃない。狭いんだから」

 

 リビングには蓮や奈津子、源の他に十五人もの艦娘達がいるためギュウギュウ詰だ。奈津子だけでは十八人分の朝食は流石に作れず、大淀や榛名、瑞鶴に手伝ってもらって作ったらしい。どれも遜色なく美味しい。

 

『昨日京都府舞鶴から○○製薬会社に移送するためにトラックに乗せられていた艦娘達が行方不明に……さらに、製薬会社は艦娘達を人体実験に使用する目的で……犯人は不明ですが、艦娘達が失踪したとみられるN市の国道で不審なトラックが止まっていたという証言から警察は行方を追っています……』

 

「随分とすごいことをする奴がいたもんだ」

 

 ニュースを見ながら蓮は他人事のようにいいながら沢庵を囓っている。それに対して翔鶴が苦笑いしながら蓮の方を見た。

 

「あの……他人事のようにいってますが、主犯は蓮君ですよね?」

「知らない知らない俺知らない」

「……」

「ところで蓮さん。昨日から気になっていたんですが、その格好は何なんですか?」

 

 蓮が味噌汁の入ったお椀に口をつけた瞬間、大淀が眼鏡を光らせながら聞いてきた。蓮は口の中の味噌汁を飲み終えると麦茶を飲んでから話し始めた。

 

「何って……制服だけど」

「それは制服とはいいません。それにその髪の色はなんですか。校則違反じゃないんですか?」

 

 大淀は舞鶴鎮守府にいた頃、主計課業務を主に担当していたが、それと同時に艦娘達の風紀にも目を光らせていた。そんな大淀だからこそ、蓮の改造学生服に真っ赤に染めた髪といった今の格好は我慢できないものだった。

 

「別に先生から何も言われてないからいいんじゃないのか」

「よくありませんよ。ちゃんと普通の……「ごちそうさーん。いってきまーす」……蓮さん!」

 

 大淀が何か言おうとするのを遮って蓮はササッと朝食を食べ終えると、薄っぺらい鞄を持って玄関へ走って行ってしまった。

 

「まったくもう……」

「大淀ちゃん。今の蓮に何言っても無駄よ。私も父さんも中学の時から死ぬほど言っても聞かなかったんだから」

「奈津子さんと源さんが?」

「まぁ、あれでも中学の頃よかいくらかマシになったんじゃが……」

「あの、蓮さんは中学時代どんなことをしたんですか?」

 

 源が遠い目をしながら言ったのに対し、白雪が恐る恐る聞いた。

 

「タバコは吸うわ酒は飲むわに、盗んだバイクで走り出したり、夜に中学校の校舎の窓ガラスを壊して回ったり、吹奏楽部から楽器を奪って国道を広がって歩いて警察官の速度取締の邪魔をして補導されたり、嫌な教師の乗ってる車のタイヤを全部外したり……挙げだしたらキリが無い」

「他にも教室のカーテンでターザンごっこして校舎の二階から落ちたり、職員室の床にワックスを塗りたくって校長先生が滑って怪我をした、何てこともあったわね」

「無駄に成績が良いから先生達も扱いに困ってたな」

 

 源と奈津子の口から出てくる蓮の中学時代の話に、艦娘達はただただ驚くばかりである。可愛らしい笑顔でいつも自分達の後ろについてきた蓮の面影は最早何処にもない。完全に不良街道を突っ走っている。

 

「何て言うか……私達が収容所にいた間に、皆さん確実に年を取ってるんですね。私達艦娘って年を取らないのでそういうところは疎いので、ついつい昔の蓮さんと話していたときの話し方になっちゃうんですよね」

 

 綾波がポツリと呟くと、他の艦娘達も頷いた。

 

「ま、ともかく今の蓮はあれでもかなりマシになったんじゃ。大淀さんもあまりキツく言わないでやってくれんか?」

「……わかりました」

 

 大淀は少し不満そうだったが、諦めたのか渋々了承した。

 

「さて、じゃあ私は仕事に行くからね」

 

 奈津子は立ち上がるとさっさと準備を済ませて出掛けてしまった。リビングに残ったのは源と十五人の艦娘達である。源達はしばらくの間どうしたらいいのか分からず、無言で椅子に座っていた。

 

「えっと……すまんが皿洗いを手伝ってくれんか?流石にこの量は多すぎるからの」

「そ、そうですね。じゃあ私手伝います」

「私も」

 

 源の言葉に反応して榛名と霧島が立ち上がる。それに釣られるように他の艦娘達も立ち上がった。

 

「何て言うか、出撃も何もなくこうやって過ごしてると私達も人間とそう変わらないな」

「そうですね。でも、今の社会情勢といった色んな事を把握しておくいい機会ではないでしょうか」

 

 摩耶の発言に大淀は笑顔で答えた。その様子を皿洗いしながら見ていた源は大淀に声をかけた。

 

「そうじゃ。大淀さん、儂の部屋にパソコンがあるから、何か調べ物がしたかったらそれを使っても構わんぞ」

「え?いいんですか?」

「今は十年前以上にネット社会じゃから、色んな情報がネットに集まる。知りたいことがあれば使うといい」

「ありがとうございます!」

 

 早速大淀は源の部屋を聞くと源の部屋に走って行ってしまった。

 

「私は本堂の地下で艤装の開発だね。もしもの事に備えて作っとかなきゃ」

「あ、じゃあそれ、私も手伝います!」

 

 大淀が走り去ると、夕張も吹雪や白雪、綾波と共にリビングから出て行った。リビングに残ったのは金剛、比叡、赤城、加賀、翔鶴、瑞鶴。それから皿洗い中の榛名と霧島だった。

 

「……私達は本堂の掃除でもしましょうか」

「そうですね。五航戦も来なさい」

「はい」

「一航戦に言われるのは癪だけど、何もしてないよりはいいわね」

 

 赤城と加賀は翔鶴と瑞鶴と共に源から掃除道具を借りると本堂に向かった。残ったのは金剛と比叡、皿洗いを終えた榛名と霧島、それから源だけである。

 

「う~。蓮がいないとつまらないネー!」

「お姉様、あと数時間の辛抱ですよ!」

「ん?金剛さん、比叡さん。今日は蓮バイトだったから帰ってくるのは九時頃だぞ」

「……比叡?」

 

 源の発言に金剛は光のない目で比叡の方をゆっくりと見た。

 

「ひ、ひえー!お姉様、落ち着いてください!私も知らなかったんです!」

「こうなったら今からでも蓮の通うHigh schoolに行くネー!」

「だ、ダメですよ金剛お姉様!そんなことをしたら蓮さんに迷惑が掛かってしまいます!」

「そうですよお姉様!それに、今出歩くのは危険すぎます!」

 

 玄関に向かおうとする金剛を比叡達三人の妹達が必死に阻止しようとする。今境内の外を出歩いたら最悪失踪事件の調査をしている人達に見つかる恐れがある。

 

(こうやって金剛姉様を止めるというのも懐かしいです)

(蓮さんのこととなると何時も周りが見えなくなってしまうところ、十年前と全く変わっていない)

 

 金剛を止めながら榛名と霧島は苦笑した。

 金剛と加賀と翔鶴は他の艦娘達と比べ、昔から蓮のこととなると周りが見えなくなることが多い。金剛の場合、戦闘中に『蓮が鎮守府に遊びに来ている』と無線で聞いた瞬間、それまで苦戦していた姫級の深海棲艦を一瞬で三隻撃沈し、随伴艦を放置して瞬時に帰ってきたり、『蓮がいじめられている』と聞いた瞬間、鎮守府に保管してあったマシンガンやロケットランチャーを持っていじめっ子達の所へ行こうとしたり、幼稚園の運動会、お遊戯会といったイベントに任務を放り出して出現したりと中々すごい伝説を持っている。これらの前科を踏まえると、ここで金剛を放置すれば絶対に何かしらやらかすに決まっているのだ。そのため比叡達は必死に阻止しようとするのだった。

 

「う~……どうしてもダメというのなら……」

 

 妹達に阻止されて中々玄関までたどり着けない金剛は、突然方向転換をすると蓮の部屋に一直線に走り出した。

 

「蓮の部屋でふて寝するネー!」

「「お姉様ー!!」」

「はっはっは。元気があっていいじゃないか」

「笑い事じゃないですよ源さん!」

「そうですよ。金剛姉様を野放しにしてたら蓮さんのベッドでいかがわしいことをしかねません!下手すりゃ蓮さんのベッドが<ピー>まみれになりかねません」

「まさか。流石にあんな上品そうな女の子がそんなことはしないだろう」

「そういうことをしかねないのが金剛姉様なんです!」

「源さんは金剛姉様の外見に騙されてるんです!」

「そうかそうか。はっはっは!」

 

 源の言葉に反論しながらも比叡達は蓮の部屋に入った金剛を追いかけた。

 




「太陽光です」
「源じゃ」
「いやー皆さん元気だねー」
「そうじゃのう。はっはっは!」
「ところで蓮の中学時代ってそんなにヤバかったんですか?」
「それはそれはもうすごかった。儂一週間に一回は学校に謝りに行ってたから」
「ええ……」
「今でも蓮の奴鞄を改造して十キロの鉄板を鞄に入れとるんじゃよ。腕を鍛えるためにって。あと、鞄の持ち手も改造してなんか赤いテープを巻いてるんじゃよ」
「昭和の不良かよ……」
「やはり儂が喧嘩術なんぞ教えたのが間違いだったのかの……」
「100パー悪いよ。そうしなきゃあんたの理想の孫になってたかもな」
「……」

 次回もお楽しみに。


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第十話 艦娘達との同棲生活 その二

ー斜陽高校 教室ー

 

「久々の学校だな」

「そりゃ停学食らってたからな」

 

 金剛が蓮の部屋に突撃している頃、斜陽高校の教室では蓮達四人が教室のベランダでだべっていた。停学期間が終わり、今日からまた普通に授業を受ける毎日が始まるのだ。

 

「あ!いた。北野君達、また停学食らったんでしょ」

 

 蓮達がだべっていると、突然後ろから声をかけられた。その声に対し、健は面倒くさそうに振り向かずに答える。

 

「なんだよ南野(なんの)。楠本(くすもと)。お前ら特進クラスだろ?こんな不良と話してていいのかよ」

「何よ。心配して見に来てあげたっていうのに」

「そうそう。美人二人に心配されて嬉しくないの?」

「どうせ俺達が坊主になってないか見に来ただけだろ」

「やろな」

「「うぐっ……」」

 

 図星だったのか蓮や肝井の発言に、肩までの長さの黒髪をポニーテールにした女子生徒と、ダークブラウンの髪をショートカットにした女子生徒は顔を歪めた。

 南野鈴と楠本加奈は蓮達と同じ中学出身で、健とは小学校も同じだった。二人共幼い頃から容姿端麗で秀才、運動神経も抜群で、揃ってバスケットボール部に所属しながら蓮達の所属する普通科よりも二十も偏差値の高い特別進学コース、略して特進に所属している。ちなみに蓮達のいる普通科の偏差値は四十二である。

  

「せっかく北野君や西君のおかげで高校受かったのに早速退学の準備?」

「ちげーよ。三年に絡まれたから喧嘩しただけだ。そしたらなんか停学食らったんだよ」

「ふーん。あ、そうそう。この際だから聞いてみたかったんだけどさ、なんで北野君も西君も特進に来なかったの?二人共中学の時確か偏差値六十五以上あったよね?」

 

 健の言葉を適当に受け流すと、鈴は蓮と良の方を不思議そうな顔でのぞき込んだ。

 

「……別に。こっちの方が楽そうだったから」

「同じく。だってさ、特進って授業もキツいって聞くし、宿題の量も多いじゃん。勉強漬けの三年間とか何のための高校生活だよって感じじゃん?俺達は普通科でのんびり馬鹿やっていきたいわけ」

「ふーん……大学は?行かないの?」

「行きたくなったら考える。面倒くさかったら家業を継ぐ。俺も蓮もそんなとこだろ。な」

「そういうこと。ほら、もうチャイム鳴るぞ。さっさと自分の暮らすに帰った帰った」

「ぶー。いけず」

 

 蓮がシッシと手を振ると、鈴と加奈は頬を膨らましながら自分の教室に戻っていった。その姿を見ていた肝井はニヤニヤしながら蓮の肩を叩いた。

 

「ありゃワイの見立てではあの二人、蓮か健のどっちかに恋してると思うで」

「お前のそれはアテになんねぇからなぁ」

 

 健は頭を掻きながら立ち上がると教室に入っていった。蓮も良も後に続く。ついでにベランダへ出る扉の鍵が閉まる音もした。

 

「……ちょっと位信じてもええやろうがー!っていうか閉めんなー!」

 

 蓮達が着席すると、ベランダから肝井の声が飛んできた。

 

「おーしホームルーム始める……っておい、あれはどうしたんだ?」

 

 チャイムと共に入って来た担任は、ベランダで騒ぐ肝井の姿を見ると呆れたような顔をした。

 

「珍獣がいたので捕獲しました」

「誰が珍獣や!」

「馬鹿なこと言ってないでさっさと入れてやらんか」

 

 蓮の言葉に担任は自ら鍵を開けて肝井を教室に入れた。

 

「ありがとうやで明音ちゃん。今日もナイスバデェに白衣がバッチリ似合ってるで」

「そうか。どうもありがとう。さっさと席に着け」

「これでタバコやめて酒癖治して生徒への鉄拳制裁を無くせばEサイズでボンキュッボンの明音ちゃんのことや。きっと残り少ない二十代でいい男見つけて結婚でk……あだだだだ!」

 

 担任の言葉を無視して教壇に立って語り始めた肝井に対し、担任は般若のような顔をしながらアイアンクローを肝井に極めた。

 

「まずは自分の鏡を見てから他人のことを言うんだな」

「いでで……でもなんかこないだも合コン失敗したんやろ?明音ちゃん顔に出やすいからな。ワイの調査によれば今年だけでこれで十二連敗……『死にたいのか貴様』ああああああ!」

 

 蓮達の担任、滝沢明音(たきざわ あかね)は現国の教師である。美人で巨乳だが、ヘビースモーカーで大酒飲み。おまけに酒癖が悪く、脱ぎ癖付きだ。忍び寄る三十路に怯えながら日々合コンに励んでいるのだが、前述の通り、ことごとく失敗している。今まさに肝井がされているように、生徒に対しては鉄拳制裁を容赦なく行う。

 

「はぁ……お前達もタバコや酒は絶対にやめておけよ?ほんと、後悔するから……はぁ……ホームルーム、始めるぞ。ああ、そうだその前に。北野と東山と西と肝井はさっさと入部する部活を決めとけよ。もう入部届出してないのお前らだけだぞ。今月中に決めなかったらお前ら野球部にぶち込むからな」

 

 そう言って滝沢はギロリと蓮達の方を見た。

 ここ斜陽高校では、原則全生徒は何かしらの部活に入部しなければならない。しかし、蓮達四人組は仮入部期間中にどの部活にも見学に訪れず、担任に提出する入部希望届けも出していなかった。

 

「俺達決めてますよ」

「何部だ?」

「「俺達帰宅部っす!!」」

「……お前ら四人ともこのあと職員室に来い」

 

 滝沢は蓮達四人にそれぞれラリアットをかましたあと、何事もなかったかのようにホームルームをはじめた。

 

ー運動場ー

 

「よーし。今日は百メートル走のタイムを計るぞ」

 

 三時間目。体育の竹倉は百メートル走には絶対に必要でないであろう竹刀で自分の肩を叩きながら番号順に男子生徒を走らせはじめた。ちなみに女子は別の場所でドッチボールをしている。

 体育教師の竹倉は常日頃から鍛えているためか全身が鋼のような筋肉で覆われている。身長は百九十センチ。体重は九十キロといわれていて、数多くの不良共を叩きのめしてきた猛者中の猛者……なのだが、少し……というよりもかなりの馬鹿なせいか蓮達四人組には振り回されてばかりのことが多く、蓮達の入学当初から対応に頭を痛めている。こないだ三年生との一件で蓮達を殴れたことが最近あった中で最もスッキリしたことだと他の教師達に言うのだからよほどストレスが溜まっていたのだろう。ちなみに生徒からはその見た目から『ゴリラ』とあだ名をつけられている。

 

「……北野十一秒一一。次、肝井」

「へーい」

 

 竹倉の声に肝井が立ち上がって準備する。準備を終え、ピストルの音が響くと肝井は走り出した。が、

 

「遅ぇ……」

「あいつ昔っから足は遅いまんまだよな」

「……肝井。タイム十八秒二八……次!」

 

 肝井のタイムをいった竹倉は直ぐに次の生徒を呼び始めたが、肝井はレーンに倒れ込んだまま動かない。

 

「おい肝井。邪魔になるからへばるならこっちでへばれ。踏み殺されるぞ」

「あ、あかん。三途の川が見える。ワイはここまでのようやで……」

「走っただけで三途の川が見えるってお前頭大丈夫か?」

 

 ゾンビのように手を伸ばす肝井に対し、竹倉は肝井の頭を竹刀で軽く叩いた。竹刀で生徒の頭を小突いたり、頭大丈夫かと言う竹倉も大概だが、確かに肝井がレーンでへばっていてはタイム計測はできない。

 全く動かない肝井にしびれを切らしたのか、竹倉は蓮の方を見た。

 

「おい北野。こいつをなんとかしろ」

「保健室にでもぶち込みますか?」

「必要ない。適当なところで休ませておけ。おーし、次!」

「わかりましたー……よし肝井。飯食いに行くぞ」

 

 竹倉が蓮達に背を向けた瞬間、蓮は肝井を立たせて食堂に向かおうとした。が、蓮達がグラウンドから立ち去ろうとする気配に気付いた竹倉が竹刀を振りかざして追いかけてきた。

 

「待てコラ貴様らぁぁぁ!授業中だろうがぁぁぁ!」

 

 竹倉は蓮達に追いつくと蓮の脳天に向かって竹刀を振り下ろした。が、蓮はこれを素手で掴んで止めた。額に青筋を浮かべる竹倉に対し、蓮はヤレヤレといった顔をしている。

 

「落ち着いてください先生。これにはワケがあるんですよ」

「ほぅ……説明してもらおうじゃないか」

 

 よっこいしょと言いながら蓮は竹倉の竹刀を横にどけると、肝井を自分の横に立たせた。   

 

「先生が適当なところで休ませろって言ったので……肝井は食べることが大好きですから、食堂に行くことで気力の回復をさせようと思い、実行に移しました。気力が戻り次第授業に復帰させる予定なのでご心配なく。さ、皆行こう」

「「おう!」」

 

 いつの間にか蓮と肝井の周りには健や良をはじめとした男子生徒達が集まっている。男子生徒達は蓮の声でゾロゾロと食堂に向けて歩き始めた。その様子に竹倉は慌てて回り込んで止めた。

 

「待て待て待て!貴様らタイム計測はどうした!」

「皆で協力してやりましたぁ~」

「紙とペンが先生が持って行ってたので地面に皆書きました。早くしないと消えてしまいますよ~」

「てか北野足速ぇーな。陸上部入らねぇか?」

「いやいや是非野球部に入ってくれ。今人数ギリギリなんだよ。滝沢もああ言ってたし、もう野球部に入ってくれよ」

「いいや!ここはサッカー部に!」

「バスケ部に!」

「やだよ。面倒くさいじゃん。それに部活入ったら馬鹿出来なくなる」

「貴様ら……貴様らぁぁぁ!!」

 

 竹倉を避けてゾロゾロと食堂に向かっていく蓮達の後ろから、竹倉の絶叫と竹刀の折れる音が聞こえてきたが、蓮達はそれを無視して食堂に入っていった。

 

ー正門前ー

 

「若!ご苦労さんです!お友達もどうぞ」

「何時もありがとうございます」

 

 放課後。バイト前に蓮達は正門前にある神社の境内の中にある健の実家のヤクザの組員が営んでいる屋台で焼きそばやお好み焼きを食べていた。屋台の周りには座って食べることができるように、簡易テーブルやパイプ椅子が置かれている。

 

「シゲ。テル。そんなかしこまらなくてもいいっていつも言ってるだろ?」

「いえ!若のお友達ですからしっかり挨拶しておかねぇと」

「それに、時々あっしらの仕事を手伝ってくれているんですから、これぐらいは」

 

 困った顔をした健にシゲと呼ばれたアロハシャツの男と、テルと言われたスキンヘッドの男は頭を下げたまま動こうとしない。

 

『一年E組の男子は全員直ちに職員室にこぉぉぉい!!特に北野!絶対に北野を逃がすなぁぁぁ!!俺の授業をぶち壊しやがって。絶対に許さんからなぁぁぁ!』

 

「うるせぇなあの脳筋ゴリラ」

「そらあのままチャイム鳴るまで全員戻ってこうへんかったら怒るやろ」

 

 突然の大音量の放送に蓮は片耳を塞ぎながら焼きそばをパクついている。ここは正門から十メートルほどしか離れていないため、普通に放送が聞こえてくるのだ。

 結局蓮達は体育の授業が終わるまで食堂に居座り、グラウンドに戻ることはなかった。その後、竹倉が木刀を持って蓮達を探し回っていると聞き、クラスの男子は全員竹倉に見つからないように部活生も含め、終礼が終わるとさっさと下校したのだ。既に校内には誰一人として蓮達のクラスの男子はいない。

 

「そんなに捕まえたきゃ教室前で出待ちすりゃいいのに。やっぱりあいつはアホだな」

「何かありやしたか?」

「ん?ああ、まぁちょっと」

 

 シゲの言葉に蓮は箸を置くと、今日の体育の授業の話をした。シゲとテルははじめは真面目に聞いていたが、やがて腹を抱えて大声で笑い出した。

 

「はっはっは!それはそれは北野さんもまた面白いことを」

「あん時の竹倉の顔はホント傑作だったぜ」

「ワイ疲れててあんまし覚えてへんわ」

「「あっはっはっはっは!」」

『北野!北野蓮!何処に隠れているっ!早く職員室にこぉぉぉぉい!』 

 

 六人の笑い声は竹倉のハウリング寸前の放送によってかき消された。

 

 

 

ー北蓮寺 蓮の部屋ー

 

 蓮がシゲ達の店で大爆笑している頃、北蓮寺にある蓮の部屋ではまだ金剛達が居座っていた。既に数時間が経過しているが、四人の艦娘達は昼ご飯も忘れて蓮の部屋を物色していた。

 

「!見てください!蓮さんの小学校の頃のアルバムです!」

「でかしました榛名!」

「早く見せるネー!」

 

 本棚を物色していた榛名が大声を出すと、金剛と霧島が駆け寄って来る。はじめは榛名も霧島も金剛を止めるためるのが目的だったにも関わらず、蓮の部屋に入った瞬間、頭の中にあった理性と常識は遙か彼方へ飛んで行ってしまっていた。何とも残念な妹達である。

 

「だ、大丈夫でしょうかこんなに勝手に蓮君の部屋を漁って」

 

 唯一比叡だけが常識的な考えを持っているが、誰も比叡の話を聞き入れようとはしない。榛名も霧島も金剛も自らの欲に従って動いてしまっていて理性が働いていない。

 

「さぁ蓮の小学生時代openデース!」

 

 金剛がアルバムをめくった瞬間、霧島の眼鏡がパリーンという音を立てて砕け散った。砕け散ったレンズを慌ててベッドの下にいた妖精達が掃除していく。

 

「き、霧島?大丈夫ですか?」

「大丈夫です問題ありません。少し興奮してしまいました」

 

 榛名が心配そうに霧島の顔をのぞき込むが、霧島は無傷でアルバムを食い入るように見ている。かなりの勢いで砕けたというのに霧島は全く動じる様子がない。

  

「あ、肝井さん」

「自己紹介でも言ってましたが、この頃から蓮とはfriendだったんですネ」

 

 榛名が指差した所にある写真には、仲良く肩を組む蓮と肝井の姿があった。まだこの頃の蓮の頭髪は赤くなく、真っ黒な髪である。

 

「となると髪を染めはじめたのは中学ということでしょうか」

 

 霧島は興味深そうにのぞき込んでいたが、やがて本棚を漁りはじめた。が、誰かがその手を掴んだ。

 

「誰ですか?邪魔しないでもらえ……ま」

「何蓮さんのいない間に勝手に入って蓮さんのものを漁ってるんですか?」

 

 霧島がゆっくり振り返ると、威圧感を振りまきながらニコニコ笑う綾波が立っていた。口元は笑っているのに、目が全く笑っていない。あまりの威圧感に霧島の顔は真っ青になり、霧島の直ぐ隣にいる金剛も榛名も暑くもないのにすごい汗をかいている。

 

「昼ご飯の時にも姿を見せなかったのでどこに行ってるかと思えば……お仕置きが必要ですね」

「み、皆ずらかるネー!」

「逃がしませんよ」

 

 何処から取り出したのか、綾波はロープを手に取ると、逃げようとする金剛達に向かって投げ、一人一人捕獲していった。

 

「や~りま~した~!」

 

 全員を捕獲した綾波はニコニコしながら廊下でもがく金剛達を蓮の部屋に運び、蓮の帰りを待った。

 

ー蓮の部屋ー

 

「……で、金剛姉を追いかけて俺の部屋に侵入、四姉妹まとめて俺の部屋を物色していたところを綾波さんが見つけて引っ捕らえた……と」

「はい」

「違います!私は最後までお姉様や榛名や霧島を止めようと努力をしました」

「ふーん」

「れ、蓮君、信じてください!」

「無理」

「」

 

 夜。バイトから帰って来た蓮が自分の部屋を開けて最初に見たものは、ロープでグルグル巻きにされて蓮の部屋に転がっている金剛達の姿だった。蓮の隣には綾波がニコニコしながら立っている。

 

「あはは……いい夢が見れマシタ……」

「蓮さんのあんな幼い頃の写真を見ることができて、榛名、感激です。捕まったことにも後悔はありません」

「……霧島姉、眼鏡はどうしたんだ?」

 

 逃げることも言い訳を考えることも諦めたのか、理性をどこかに置き去りにしている金剛と榛名を無視して、蓮は霧島の方を見た。何故か霧島は普段かけているはずの眼鏡をかけていない。

 

「蓮君の小学校の卒業アルバムを開いた瞬間興奮して砕け散りました。今妖精達に修理させています。あ、伊達眼鏡なので、別になくても日常生活に問題はありません」

「興奮して砕け散る眼鏡とかどんな危ねぇ眼鏡なんだよ……」

「ひえー!蓮君!私は無関係です!ですから早く縄を解いてください!」

 

 比叡は先程から蓮の方を救いを求めるような表情で見ながら必死にもがいている。確かに、この四人の中では最も理性的なのはこの比叡かもしれない。というよりも、比叡はひたすら金剛達の暴走を止めようとしたのだが、改二になっているとはいえ、四姉妹の中で最も練度の低い比叡一人ではあまりにも無力だった。完全にとばっちりであるが、捕まえた綾波も蓮も事情を知らないため、比叡の努力は認められることはなかった。

 

「比叡姉も同罪だから。今後俺の部屋出入禁止な。部屋に鍵でもつけとくか。また入られたら困るし」

「ひえー!」

「はぁ……綾波さん。四人を本堂の地下の宿舎に閉じ込めておいてください」

「わかりました」

 

 綾波はニコニコしたまま金剛達を数珠繋ぎにするとそのまま部屋を出て行った。金剛と榛名は理性を置き去りにして幸せそうな顔をし、比叡は最後まで無罪を訴え続け、霧島はその三人の背中を押していった。

 

「風呂、入るか」

 

 綾波が金剛達を連行していく姿を見送った蓮はヤレヤレと首を振り、風呂場に向かった。

 

ー風呂場ー

 

「ふぅ……」

 

 湯船に浸かった蓮は息をつくと大きく伸びをした。今日のバイトはいつもの良の家の手伝いではなく、健の家で荷物の積み卸しの作業の手伝いだった。その後、帰り道に幽霊を見つけたので成仏させたりしていると予定していた時刻よりも大幅に遅くなってしまった。

 

「ん?」

 

 蓮が顔をこすっていると、風呂場のドア付近に誰か立っているのに気付いた。源は既に寝ているし、奈津子は今リビングでドラマを見ているはずだ。

 

「誰だ?」

「翔鶴です」

「……は?」

「翔鶴です。お背中流しますね」

「いやいや待て待てダメだから。入って来ちゃダメだから」

 

 蓮は慌てて風呂場の扉を押さえると翔鶴が入ってこれないようにした。しかし、翔鶴も負けておらず、必死に開けようとしてくる。

 

「何故ですか?」

「後々メチャクチャ面倒くさいことになるし、風呂ぐらい俺一人で入れるから」

「じゃあ、背中は一緒に流しませんから一緒に入らせてください」

「どうしてそうなる!?」

「久々に一緒に入ってみたくて……あ、なんなら大人の階段を私で登ってもいいんですよ?」

「それはいいかも……じゃない!とにかく入ってくるんじゃねぇ!」

 

 しばらくの間蓮と翔鶴は押し問答をしていたが、翔鶴の姿が見えないため、探しに来た瑞鶴と摩耶が、タオル一枚で必死に風呂場の扉を開けようとしている翔鶴を発見。扉越しに蓮から事情を聞いた瑞鶴のバックドロップによって翔鶴は沈黙した。

 

「せっかくゆっくりしてたのに騒がせて悪かったな」

「いや、助かったよ摩耶姉。瑞鶴姉」

「いいのいいの。ゆっくり浸かってね」

 

 瑞鶴達が翔鶴を回収し、立ち去ったのを音で確認した蓮は再びゆっくりと体を湯船に沈めた。

 

「本当に翔鶴や金剛はどこまでも蓮のことが好きなんだな」

「ただ、それが空回りしてるっていうのに気付いてないから余計にね……」

「こりゃ今日は大淀による尋問がヒートアップしそうだな」

「間違いないわね」

 

 先程綾波によって連行されてきた金剛達は現在大淀によって拷問……ではなく、厳しい尋問が行われている。それに加えて今度は蓮の入浴中に翔鶴が裸で乗り込もうとしたなんて聞いたら大淀の怒りは間違いなく爆発するだろう。

 摩耶と瑞鶴はため息をつきながら、金剛達の悲鳴が聞こえてくる本堂の地下に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 余談になるが、金剛、比叡、榛名、霧島、は蓮の部屋に無断で侵入及び蓮の持ち物の物色について、翔鶴は蓮にいかがわしい行為をしようとした疑いで大淀達に徹底的に追求された。その過程で、金剛と翔鶴が朝蓮のベッドに潜り込んでいたことが発覚。さらにその尋問中に翔鶴が『加賀さんもいました!寝ている蓮さんに胸を押し当ててました!いかがわしい女です!』と爆弾発言をしたことで本堂地下にある宿舎は地獄絵図となったとかなってないとか。

 ちなみに比叡は後日蓮への必死の弁明によって何とか無罪を勝ち取り、蓮の部屋への出禁は解除されるかと思われたが、『金剛姉達になんか頼まれてやらかしそう』という蓮の言葉で、結局出禁が解除されることはなかったという。

 

 



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第十一話 妖精達の旅 その一

ー大阪府某所ー

 

「あら?あなたは?ここにいる妖精さんじゃないわね」

 

 蓮が艦娘達を救出してから数日経ったとある日曜日。大阪府の北部に位置するとある田舎町の一軒家では、五人の艦娘達が妖精を囲んでいた。その妖精は背中に『京都北蓮寺』と書かれた旗を持っている。

 

「鳳翔さん、どうやらこの妖精『京都北蓮寺』って所から来たみたいだよ」

 

 真っ黒な髪をポニーテールにした少女は近くにいた同じく髪をポニーテールにした和服の女性に声をかけた。

 

「あら?京都から来たんですか?……え?私達のような仲間を探している方がいらっしゃるんですか?」

「鳳翔。どうかしたのか?」

 

 鳳翔の声に作業着姿の男がリビングに現れた。

 

「え、ええ。この妖精がいるところに謙一さんと同じような方がいらっしゃるみたいなんです」

「何?それは本当か?」

「本当だ。私もさっき聞いたが、そこには十五人も艦娘がいるらしい」

「じゅ、十五人!?多すぎないか?初月、それ嘘じゃないよな」

「嘘ついているようには見えなかったな」

 

 初月と呼ばれた犬耳のような髪をしている艦娘の言葉に謙一と言われた男は驚いたような顔をした。

 男の名は香谷謙一(こうたに けんいち)。職業はしがないサラリーマンで、ここから車で一時間のところに職場がある。現在は鳳翔、秋月、照月、初月、涼月を保護して共に暮らしている。

 

「……まさかだけどさ、それって昨日あった『艦娘集団失踪事件』の関係者……じゃないよね?」

 

 謙一がテーブルの上に座っている妖精に問いかけると、妖精は笑顔で『正解』と書かれた札を見せた。

 

「おいおい……勘弁してくれよ。あれのおかげで今日本かなりヤベー状況なんだぞ」

 

 今朝、出勤前に見たニュースでは『製薬会社が人体実験!?艦娘集団失踪事件に隠された実態!』と銘打たれ、その中で深海棲艦が今回の事件に非常に腹を立てていて、『納得する形で解決しない場合、日本を攻め滅ぼす』と発言していると報道されていた。もし本当に深海棲艦が攻めてきたらどうなるのか。謙一は不安でいっぱいだった。

 

「でも、これで深海棲艦と戦うとなったら私達が国民を守らなければいけなくなりますよ?」

「そうだ。確かにそうなんだが……俺は、皆を戦場に出したくない。また大切な人がいなくなるって考えると怖いんだ」

 

 照月の言葉に、謙一は俯きながら話した。

 

「謙一さん……」

 

 四年前、当時大学生だった謙一は卒業後の進路で父親と大喧嘩をしてしまい、母と妹が頭を冷やすために父とドライブに出かけた。その出先で対向車線から飛び出してきた飲酒運転の車に衝突され、父達が乗る車はガードレールを突き破り、崖から転落。帰らぬ人となった。

 謙一は加害者や両親の加入していた保険会社から一生遊んで暮らせるほどのお金をもらったが、家族を一気に失ったショックからふさぎ込んでしまい、就職先を決めた後は友人達がいる大学には行かず、家の近くにある小さな畑と田んぼを耕す毎日を送っていた。

 そんなある日、ふと目が覚めると小人のようなものが見えるようになっているのに気がついた。ついに精神病かと思っていると、小人は妖精と名乗り、謙一に提督の適性があることを告げた。以降、妖精は大量に現れるようになり、いつの間にか地下に艤装と言う物を作る工廠や入渠ドッグ、宿舎が出来上がっていた。それから一週間後に、畑に行ってみると鳳翔達が倒れているのを見つけて介抱した結果、秋月達が謙一に懐いてしまい、提督適正者と言うこともあって一緒に暮らしはじめたのだ。

 

「私達は元々深海棲艦と戦うために生まれた存在です。そして提督適正者はその艦娘を指揮して戦います。私達の場合は謙一さん、あなたの采配次第で私達が生きるか死ぬのかが決まるんです」

「……」

 

 俯いて黙り込む謙一に鳳翔は続ける。

 

「謙一さん。私は、深海棲艦と戦うのならこれが最後のチャンスだと思っています。深海棲艦の勢力が内陸にまで入り込んだらもうどうしようもありません。沿岸部にしかいない今が日本から深海棲艦を追い出す最後のチャンスなんですよ」

「……よし。鳳翔がそこまで言うなら一度会ってみよう。すまないが日時や場所を教えてほしい」

 

 謙一は顔を上げると妖精に向かって話しかけた。謙一の言葉に妖精は嬉しそうな顔をすると、日時や場所を書いたメモ用紙を渡して去ろうとした。

 

「あ、ちょっと待ってくれ。そいつってどれぐらいの年齢なんだ?」

 

 妖精は少し迷うと、謙一の肩に乗って耳打ちした。

 

「はぁ!?十六!?十六であんなことしたのかよ。頭おかしいだろ」

「十六歳であんなことをするとなると、将来大物だな」

「だね」

「はぁー……。わかった。わざわざ知らせてくれてありがとうな」

 

 謙一が礼を言うと、妖精は笑顔で飛んでいった。それを見送った後、謙一は五人の艦娘達を見た。

 

「さ、今日も農作業するぞ」

「「はい!」」

 

 謙一は自分の頬を軽く叩くと艦娘達と共に畑に向かった。謙一が見上げた空は雲一つ無い快晴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十二話 妖精達の旅 その二

ー和歌山県某所ー

 

「はー!就活から帰ってすぐのビールはやっぱ最高だわ~」

 

 和歌山県の山間部の地方都市にあるマンション。その一室で一人のリクルートスーツを着た女性が冷蔵庫の前で缶ビールを一気飲みしている。

 

「お帰り結衣ちゃん」

「あ、足柄さん、陸奥さん、初霜ちゃん、葛城ちゃん。ただいま!」

 

 結衣が二本目の缶ビールに手を伸ばしたとき、寝室から四人の女性が現れた。

 

「それで、どうだったの今日の会社は?」

 

 足柄と呼ばれた艦娘が結衣を座らせて自身も向かい側に座ると、笑いながら結衣を見た。

 

「いやー脈無しだわ~。これで就活二十連敗!笑っちゃうよねあはは……は…………ふぇぇぇん!世の中キツいよ~。就職先見つかんないよ~!もう就活やだー!ニートしたいー!」

 

 足柄の質問に始めは笑っていた結衣だったが、そのうちアルコールが回ってきたのか机に突っ伏すと泣きながら愚痴りはじめた。

 雪山結衣(ゆきやま ゆい)は現在大学の四回生で就職活動中なのだが、中々内定がもらえず焦っていた。今日受けた会社ですでに二十社目だったのだが、どうやらまたダメだったらしい。

 結衣は下宿先のマンションで四人の艦娘達と暮らしている。足柄達が雪山家に来たのは十年前だが、四年前の春頃までは、艦娘達は結衣の母方の祖母と共に暮らしていた。しかし、結衣が大学進学に伴って下宿するということと、結衣が妖精が見える提督適正者とわかり、結衣の祖母と両親から『何かあったら結衣を守って欲しい』と頼まれ、共に暮らすことになったのだ。

 

「だ、大丈夫ですよ。結衣さん美人ですし、優しいんですからいつかきっといい会社から内定もらえますよ」

「そうよ。人事のハゲ散らかした加齢臭まみれのおっさん共は結衣さんのいいところをわかってないのよ」

「はづじも゛ぢゃぁぁぁん!!がづらぎぢゃぁぁぁん!!」

 

 泣きながら愚痴る結衣に対し、初霜と葛城が励ましの言葉をかけると、結衣はそのまま二人に抱きついて泣き始めた。

 

「あだじだっで頑張っでるんだよぉぉぉ!!何で内定でないのぉぉぉ!!」

「あらあら。よしよし」

 

 葛城と初霜に抱きついて泣く結衣を陸奥が優しく撫でていると、しばらくして結衣は眠ってしまった。足柄は結衣を背負うと寝室まで運んでリクルートスーツを脱がし、ジャージを着せてやると布団を掛けた。最近結衣は酔いつぶれてそのまま寝てしまうために、足柄達は結衣が帰ってくるまでに既に寝る態勢を整えている。

 

「まったく。お酒弱いのに無理しちゃって」

 

 足柄は結衣の髪を触りながら苦笑した。内定が取れなさそうだと思うと決まって家に帰ってから酒を飲み、泣いて、そのまま寝るというパターンで、足柄達も最初こそ戸惑ったものの、慣れというのは恐ろしいもので、面接がある日にはちゃんと結衣が帰って来てすぐに眠れるように準備しているのだから大したものである。

 

「でも、いつまでこんなのが続くのかしら?こんなこと繰り返してたら体にも美容にもよくないわ」

「さぁ……内定が出るまでは続くんじゃないでしょうか」

 

 陸奥の言葉に初霜は結衣に毛布を掛けながら答えた。

 結衣の通っている大学は決して悪い大学ではない。結衣自身もそこまで大学の成績が悪いわけではない。バイトもサークルもそれなりにやっていたし、大学の就職支援課でエントリーシートも何度も添削して貰い、面接対策だってバッチリこなしてきていた。それなのに中々内定が出ないのだから、世の中わからないものである。

 

「理想が高すぎるのかしら?」

「そうでもないと思うけど、結衣さんかなりの上がり症だから、それが出ちゃってるのかもね」

 

 葛城の言葉に足柄はため息をつきながら答えた。

 結衣はかなりの上がり症で、色白な肌ということもあり、緊張すると耳まで真っ赤になってしまい、声が震えてたり、詰まってしまうという欠点があった。大学の面接対策では慣れてしまったのかそういうことが起きたとは聞いていないが、本番で上がってしまっているのかもしれない。

 

「京都から来た妖精の話をきいてほしかったんだけどねぇ……」

 

 陸奥はため息交じりに肩の上に乗っている『京都北蓮寺』と書かれた旗を背中に差した妖精を見た。妖精も陸奥の肩に乗って結衣の寝顔を見ながら苦笑している。

 

「とりあえず、私達だけでも話を聞いておきましょう」

 

 足柄の提案に他の艦娘達も賛成すると、妖精は陸奥の肩から降りて寝室から出ると、リビングにある机の上に乗ってここに来た理由を説明しはじめた。

 

「……なるほどね。確かに今の深海棲艦達はいつ仕掛けてくるかわからないものね」

「それで提督適正者や艦娘達を探してるのが、今までの平穏ぶっ壊した奴ってのがね……」

 

 足柄が納得したような顔をして腕を組んでいる横で葛城は苦笑いしながら口を開いた。

 

「まぁ、いつかは深海棲艦が仕掛けてくるって考えると人間側が戦えるのは今の時期が最後のチャンスかもしれないわね。少なくとも今住んでる家では新しい艦娘を建造できないんだし、補給もできない。負傷しても入渠できないからね」

 

 陸奥の言葉に全員が頷いた。今陸奥達が住んでいるマンションには工廠も入渠ドッグもない。陸奥達は十年前の敗戦時に燃料、弾薬を艤装に大量に詰め込んで当時いた鎮守府の整備係に逃がされているために戦えるには戦えるが、補給ができない以上、そう長くは戦えない。

 

「も、もしかしたらその京都の北蓮寺というところでは艤装を作ったりする工廠や、入渠ドッグがあったりするんじゃないでしょうか?」

 

 初霜の言葉に他の艦娘達は顔を見合わせた。

 

「確かにそうね。可能性はなくはないわ」

「恐らく、艦娘達をトラックから奪ったのには何か事情があってのことで、いずれ深海棲艦が再び攻めてくることを予期して準備していたのでは?」

「そう考えるとするなら合点がいくわね」

 

 葛城も陸奥も腑に落ちたという顔で初霜の方を見た。

 

「……今後こっちで何かあったときのために一度会っておいた方がいいかもしれないわね」

 

 足柄もしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げると頷いた。今ここには艦娘が四人しかいない。もしこの辺りが深海棲艦に攻め込まれたらひとたまりも無いため、援軍を頼めるパイプを作っておく必要があると足柄は判断したのだ。

 足柄の言葉に妖精はパッと顔を輝かせると近くに置いてあったメモ帳に集まる日時と場所を書き込み、この日程で問題ないかを足柄達に見せた。足柄は寝室に戻り、結衣の鞄の中からスケジュール帳を引っ張り出して来て何も予定が入っていないか確認し、独断で了承した。

 

「だ、大丈夫ですか足柄さん。勝手に予定組んじゃって」

「大丈夫。私に任せて」 

 

 心配そうな顔をする初霜に足柄はイタズラっぽく笑った。

 

 

 

 

「え?私、そんな話してたの?」

「ええ。酔った勢いで快諾してたわよ」

 

 翌朝、二日酔いで死にそうな顔をしながら起きてきた結衣に足柄は『昨日のこと、覚えてる?』と聞き、昨日あったことを洗いざらい話した。

 

「嘘……全く記憶にないんだけど……」

 

(そりゃ一切話し聞いてないものね……)

(足柄さん、昔から本当に結衣さん騙すのが上手い……)

 

 足柄と結衣のやりとりを見ながら葛城と初霜はテレビを見るふりをしながら心の中で思った。

 

「と、とにかく、そこに行けばいいのね?」

「ええ。日時はほら、昨日あなたがスケジュール帳に書いてたわ」

 

 足柄が結衣のスケジュール帳を持って来て見せると、そこにはちゃんと『京都 北蓮寺に行く』と書かれてあった。

 

「……わかったわ。じゃあその日に行きましょう。えっと……初霜ちゃん。一緒に来て!」

「ええ!?わ、私ですか!?」

「だ、だって私上がり症だし……知らない人ばかりじゃ不安だし……」

 

 結衣の発言に葛城とテレビを見ているふりをしていた初霜が飛び上がって驚いていると、結衣は下を向きながらボソボソと話した。傍から見れば結衣と初霜は姉と妹のように見える。しかし、もしこれが本当の姉妹だったら何とも頼りない姉である。

 

「……わかりました」

「ありがとう。さ、今日は休日だしゆっくりしましょ!」

 

 先程俯いてボソボソ言っていたのとは打って変わり、結衣は明るい声で足柄達に言った。

 

 

 

 

 

 



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第十三話 妖精達の旅 その三

ー滋賀県某所ー

 

「おや?珍しい妖精が来たものだ」

 

 滋賀県湖北にある医院の診療室の一室では、診察を終えて帰り支度をしている白髪の男が手のひらに『京都北蓮寺』という旗をもった妖精を乗せていた。

 

「ここじゃなんだから、私の家で話そう」

 

 白髪の男は妖精を肩に乗せると、裏口から出て車に乗り込んだ。

 

ー白髪の男の自宅ー

 

「着いたよ」

 

 三十分後。白髪の男が車から降りると、十人の艦娘達が大きな家から出てきた。その中の一人の少女が白髪の男に飛びついた。

 

「しれぇ!お勤めご苦労様です!」

「おお、雪風ただいま」

「お帰りなさい孝明さん」

「おお、皆。ただいま」

 

 白髪の男の名前は米倉孝明(よねくら たかあき)。現役の内科医で、今は自宅から少し離れた場所で医院を開いている。

 

「?その方に乗っている妖精は?」

「ん?ああ、何だか重要な話があるみたいだから、君達と一緒に聞こうと思ってね。ま、まずは家に入ろうじゃないか」

 

 そう言いながら米倉は艦娘達と共に家の中に入っていった。

 

ーリビングー

 

「……ふむ、なる程。それで、私はどうしたらいいのかね?……一度会って欲しいか。構わんよ。この先何があるかわからないから、連携したり助け合ったりする仲間が必要だからね」

 

 数日前、ニュースや新聞を賑わせた『艦娘集団失踪事件』のせいで、深海棲艦が苛立っているのは確かだ。それに、昨日太平洋側でアメリカの太平洋艦隊が深海棲艦に勝利し、勢力を硫黄島付近にまで伸ばしている他、ロシアとの戦いも予断を許さない状況なのにこの事件だから深海棲艦側からすれば面白くもないだろう。

 

「孝明さん、それって……」

「ああ。近いうちに深海棲艦が攻め込んでくる可能性がある。私はそう考えているよ扶桑」

 

 米倉は隣に座っている艦娘に対して答えた。

 

「じゃ、じゃあまた私達は戦えるっぽい?」

「そうだな夕立。ま、まだ何時そうなるかはわからんが」

 

 目を輝かしながら尋ねてくる夕立に対して米倉はゆっくり答えた。

 

「しかし君達がうちに来て早七年。時の流れは速いものだな」

 

 米倉は目を細めながら目の前で遊ぶ艦娘達を見ながら微笑んだ。

 十年前、長年連れ添ってきた妻が亡くなり、子供もいなかったため毎日仕事が終わってから家に帰るのが寂しくて仕方が無かった。家にいても楽しみがなく、ただぼんやりとテレビを見たり、車でフラフラと出掛けたりしていた。

 そんな生活が三年続いていたある雪の舞っている日に彼女達はやって来た。集団で収容所を脱出してきたらしく、広い庭の隅っこで震えながら皆で固まっていた。米村は彼女達を家に招き入れ、温かい飲み物や食べ物を作って彼女達に与えた。それ以降、なんだかんだで居着いているのだ。

 米倉自身は妖精が見える。しかし、見えるようになったときには検査対象の年齢を超えていたのと、あまり検査を積極的にしていない内陸部のやや田舎にいたため、深海棲艦にバレずに済んでいた。

 

「でも孝明さん。もし戦うとなったらどうするの?」

「うん?そうだな……とりあえずここから一番近い敦賀湾に向かうかな。君達艦娘は本来海で戦うんだろ?ならまず海のある場所へ出ないと」

 

 扶桑の質問に米倉はあっさりと答えた。深海棲艦がいるのは海であって、もし深海棲艦が宣戦布告すればすぐにでも上陸阻止に動かなければならない。もし仮に艦娘達のいない内陸部深くに入り込まれると、たった一隻の駆逐艦でも脅威になるかもしれないし、最悪皆殺しという結果を招く恐れもある。そう考えるとこの場所は若狭湾や敦賀湾に車で一時間もあれば出られるため、重要な場所と言っても過言ではない。

 

「まぁ、一応陸地でも戦えるけど、そうなるとボク達みたいな駆逐艦や、軽巡、重巡の皆は魚雷が使えなくて少し不便だね」

「ぽい!」

 

 時雨が顎に手を置きながら答え、夕立を始めとした他の艦娘達もそれに同意するかのように頷いた。それを見た米倉は妖精に視線を戻した。

 

「じゃ、妖精さん。日時と場所を教えてくれないか?」

 

 米倉の言葉に妖精は一枚のメモ用紙を米倉に渡した。米倉はメモ用紙に書かれている日時と場所を確認すると頷いた。

 

「この日なら行けそうだよ。わざわざ知らせてくれてありがとう」

 

 米倉が礼を言うと、妖精はぺこりとお辞儀をして宙を浮いて去って行った。

 

「このまま静かにこんな片田舎の小さな医院を経営して人生を終わらせるかと思ってたら、この歳になって日本の存亡の掛かったすごい難関が待っているとはね。それもその戦いに参加することになるかもしれないなんて」

 

 妖精が見えなくなると、米倉はポツリと独り言を漏らした。

 

「申し訳ありません。この様なことに巻き込んでしまって……」

「いいんだよ扶桑。それにね、私は何だかワクワクしてきたよ」

 

 申し訳なさそうな顔をする扶桑に対し、米倉は笑って返した。米倉の意外な反応に、米倉の周囲にいた艦娘達は不思議そうな顔をした。

 

「しれぇ!それはどういうことですか?」

「う~ん……言ってしまえば、今私達が置かれているこの難しい状況を打破して深海棲艦の手から日本を守ると考えると何だか楽しくなってきたんだよ。気力も若い頃に戻ったみたいだ」

 

 雪風の質問に米倉はニコニコした顔で話しながら立ち上がった。

 

「さ、この話はここら辺にして、ご飯にしようか。扶桑、山城。今日のご飯は何かね」

「今日はビーフシチューにサラダですよ。準備しますね」

「何時も助かるよ」

 

 米倉は頭を掻きながら台所に向かった。

 

 

 

 



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第十四話 集まる仲間達

ー北蓮寺 山門ー

 

「ここ……だよな?」

「そうみたいですね」

 

 北蓮寺の山門前では一人の青年と一人の女性が立っていた。大阪から来た謙一と鳳翔である。謙一自身は『一人で行く』と言っていたのだが、鳳翔がどうしてもと言って聞かなかったので、やむを得ず連れてきた。深海棲艦はいないと思っていたが、万が一を考えて普段はポニーテールの鳳翔だが、今日は髪を下ろしてロングにしている。

 

「入ってもいいのかな?」

「さぁ……どうなんでしょうか」

 

 謙一達が境内に入るのをためらっていると、後ろからバイクの音が聞こえてきた。謙一達が振り返ると、若い女性が後ろに少女を乗せてこちらに向かってくるのが見えた。

 

「ふぅ、長かった~」

「運転お疲れ様です結衣さん」

「流石に京都は遠いよ~」

 

 結衣がヘルメットを脱いで大きく伸びをしていると、謙一と目が合った。

 

「えーっと……もしかして君もここに来るように妖精に言われた人?」

「えと、あの……その……は、はい」

 

 謙一の問いかけに結衣は顔を真っ赤にしながらたどたどしく答えた。

 

(結衣さんすごい顔が真っ赤になってる……昔から全く変わってない)

(耳まで真っ赤に……緊張しやすい方なのでしょうか?)

 

 結衣の表情を見て結衣の隣にいる初霜は自分達が雪山家に来た頃と全く変わらない結衣に少し呆れ、謙一の隣にいる鳳翔は頬を手で触りながら不思議そうに結衣を見ている。

 

「そうなんだ。じゃあ、君の隣にいるのも艦娘?」

「は、はい!そうです。初霜ちゃん」

「はじめまして。初春型駆逐艦の初霜です。よろしくお願いします」

 

 初霜は謙一と鳳翔に対して丁寧にお辞儀をした。それに釣られて慌てて結衣もお辞儀をする。見た目は身長の問題もあって結衣がお姉さんで、初霜が妹に見えるのだが、立ち振る舞いは完全に初霜の方が上である。

 

「丁寧にありがとう。僕は香谷謙一。こっちは一緒に暮らしてる鳳翔だ。よろしく」

「鳳翔型航空母艦の鳳翔です。よろしくお願いしますね」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 鳳翔に差し出された手を結衣は慌てて掴んだ。その時、結衣の乗って来たバイクの後ろに白い高級車が停まり、中から帽子を被った白髪の男性と二人の女性が降りてきた。滋賀県から来た米倉と扶桑、それから山城である。

 

「おや?皆さんも妖精からお誘いを受けた方達ですかな?」

「貴方もですか?」

「ええ。私は滋賀県で医者をしています米倉という者です。後ろにいるのは一緒に暮らしている扶桑と山城です」

 

 謙一が答えると、白髪の男は帽子を取ってお辞儀をし、扶桑と山城もそれに倣った。

 

「ここが例の男の住んでいるところ……どのような方なんでしょうか姉様」

「それはあってからのお楽しみよ山城」

 

 扶桑と山城が山門の奥を見ていると、奥の方から全速力で誰かが走ってくるのが見えた。

 

「おや?誰か来ますね」

「え?」

 

 米倉と謙一も山門の方を見ると、赤い髪をした見るからに不良の格好をした少年が全速力で走ってくるのが見えた。少年は米倉達の前で止まると、息を整えながらお辞儀をした。

 

「わざわざこの様なところに来てくださりありがとうございます。俺……じゃなくて、僕が貴方達を集めるように妖精達に頼んだ張本人の北野蓮です」

 

 蓮が自己紹介を終えると、蓮以外の全員が絶句した。どんな男があんな事件を起こしたんだろうと思っていたが、まさかこんな不良が主犯とは……謙一達が黙っていると、米倉がゆっくりと一歩進み出た。

 

「こんにちは。わざわざ今日は呼んでくれてありがとう。私は滋賀県から来た米倉という者です。こっちは扶桑と山城です」

「これはわざわざ遠くからありがとうございます」

「ほら、皆さん。自己紹介自己紹介」

 

 米倉に促されて、謙一達も自己紹介を行った。

 

「では、ここで話をするのも何ですので中で話しましょう。案内します」

 

 蓮は山門をくぐると皆を本堂の方へ案内し始めた。

 

ー本堂ー

 

「それで、私達をここに呼んだ理由をまず聞かせてもらおうか」

 

 本堂に着いて腰を下ろすなり、米倉は蓮に視線を向けた。

 

「その前に、皆さんに今回僕が何故この事件を起こしたのか説明させてもらいますね」

 

 そう言うと蓮は、今回の事件の経緯を述べた。兄が提督で、その指揮下にあった艦娘達に幼い頃は面倒を見てもらっていたこと。兄の幽霊に頼まれ、どうしても見捨てておけず、友人達と共に事件を起こしたことを話した。

 米倉達はそれを真剣に聞き入っていたが、蓮が言い終えると米倉が大きく息を吐いた。

 

「なる程ね……幽霊が見えるとかは置いといたにしても、そういう理由があったのか」

「身勝手なことをしたというのは重々承知です。ただ、どうしても自分が世話になっていた艦娘達を見捨てては置けませんでした」

 

 そこまで言うと、蓮は俯いた。

 

「確かに助けたかったっていう気持ちはわかるわ。でも、その後はどうするつもりだったの?」

 

 結衣の言葉に蓮は顔を上げると結衣達を見た。

 

「そのことなんですけど、ある程度は妖精から聞いていると思いますが、皆さんの力を貸して欲しいんです」

「貸すとは言ってもうちには軽空母一人と駆逐艦が四人しかいないぞ。艤装?とかいうのもないし。工廠とかはあるから作れるのかもだけど」

「私の所は正規空母に戦艦、重巡、駆逐艦が一人ずつの四人ね。艤装もあるし、燃料弾薬も満タンよ。ただ、補給や修理はできないわね」

「私の所は正規空母二人に戦艦が二人。重巡が一人に駆逐艦が……えーっと五人だね。艤装、燃料、弾薬は問題ないよ。北野君の所は?」

 

 米倉の言葉に、皆の視線が一斉に蓮に集中する。蓮は咳払いをすると口を開いて話し始めた。

 

「正規空母が四人、戦艦が四人、重巡二人に軽巡二人。あとは駆逐艦が三人で、艤装、燃料弾薬共にあります」

「随分と戦力が整っているみたいだけど、それでもまだ僕らが力を貸す必要ってあるのかい?」

 

 謙一の言葉に蓮は頷くと、懐の中から日本地図を広げて三つの地点を指さした。

 

「艦娘達の話によると近畿地方……特に日本海側には舞鶴に深海棲艦の中規模の駐屯地があるようです。さらにそこ以外にも豊岡、敦賀の二カ所に小規模な駐屯地があり、深海棲艦が攻め込むとしたらこの三つの拠点を使うと考えられます」

「数はわかるかい?」

「ええ。舞鶴には常時三十から四十体ほどの深海棲艦がいるようです。しかし、ここを拠点にして東北や北海道の沖合で構えているロシアとの戦線に向かう艦隊がいれば、六十から七十体ほどにまで増えるそうです。その他の二拠点は基本的に多くても二十隻。少ないときは十隻ほどしかいないそうです。それから、豊岡より西の日本海側には殆ど深海棲艦がいないみたいなので、この三つの拠点を同時に制圧できれば実質近畿より西側の日本海側の安全は確保できると思われます」

 

 蓮の言う通り、舞鶴より西の日本海側には深海棲艦があまり展開しておらず、太平洋側では小笠原諸島近海と八重山諸島近海にアメリカの太平洋艦隊が迫りつつあるためこちらに回している余裕はない。北海道やカムチャッカ半島でも激戦が続いているため、日本にいる深海棲艦達も迂闊に動くことはできないのだ。

 

「それで、私達はどうすればいいの?」

 

 結衣の言葉に、蓮は地図の敦賀と豊岡を指差すと顔を上げた。

 

「皆さんには有事の際……と言っても深海棲艦が宣戦布告したり侵攻してきたら豊岡と敦賀を攻めて欲しいんです。敦賀から最も近いところにいる米倉さんのところは戦力が整っているので大丈夫でしょう。香谷さんと雪山さんは共同で豊岡にできれば向かって欲しいですね。皆さんの仕事とかの都合でどうしても無理なら、僕一人でなんとかしますが」

「でもそれだったら厳しいんだよね?力貸すよ?私はまだ就活生だから余裕あるし」

「うーん……僕は会社勤めだからね……悪いけど何かあって直ぐって言うのは難しいかもしれないな」

「私は開業医だからその日は臨時休業にすればいいし、もう歳だから最悪畳めばいいからね。幸い余生を過ごすぐらいのお金はあるからね」

 

 蓮の言葉に結衣と米倉は笑顔で、謙一は渋い顔で答えた。しかし、結衣に関してはその後の人生を左右する就職活動の真っ最中である。謙一の言葉も、普通の会社に勤める者ならごく当たり前のことといえる。実質何かあって即動けると考えていいのは蓮と米倉のみだ。

 

「わかりました皆さんくれぐれも無理はしないでください」

「「わかった(わ)」」

「では何かあったときは皆さんよろしくお願いします」

「あ、ちょっといいですか?」

 

 蓮が頭を下げ、全員が立ち上がろうとしたとき、鳳翔が手を挙げた。

 

「どうかしましたか?」

「あの、謙一さんが忙しくても、無線があれば最悪私達だけで向かうことはできます」

「確かにそうかもしれないが、指揮はどうするんだ」

 

 鳳翔の言葉に謙一は困ったような顔で鳳翔の方を見た。

 

「海軍があった頃にも緊急時には近隣の鎮守府の提督が代わりに指揮を執ることはよくあることでした。なので、もし謙一さんが直ぐに動けない場合は北野さんか米倉さん、もしくは雪山さんに代わりに指揮を執ってもらいます」

「私達も万が一結衣さんが一緒に動けないときは北野さん、もしくは他のお二人の指揮下に入ります」

 

 鳳翔の言葉に初霜も頷いた。謙一も結衣も慌てたようにそれぞれの艦娘を見た。

 

「お、おい鳳翔さん。別にそこまでする必要はないだろう?いざとなったら北野君と米倉さんがなんとかしてくれるんだぞ?」

「そ、そうだよ。それに、初霜ちゃん達はお祖母ちゃん達との約束が……」

「謙一さん。私達は艦娘です。自らの命をかけて深海棲艦と戦い、人間を守るという使命があります。深海棲艦が攻め込んでいるのに自分の指揮官がいないから動きませんというのは私の艦娘としてのプライドが許しません」

「結衣さんのご家族には申し訳ありませんが、鳳翔さんの言う通り、私達は艦娘。深海棲艦の侵攻を食い止めるのが最優先なんですよ」

 

 鳳翔と初霜の言葉には異論を受け付けないという強い意志があり、誰もそれに対して反論することができなかった。謙一と結衣はしばらく黙っていたが、根負けしたのかやがて大きなため息をつきながら蓮の方を見た。

 

「……わかった。北野君。もし僕が動けないときは鳳翔達の指揮を任せるよ。ただし、絶対に死なせるなよ。もし死なせたりしてみろ。僕は君を絶対に許さないからな」

「初霜ちゃんがここまで言うのなら仕方ない……か。北野君、私が動けないときは初霜ちゃん達をお願いね」

「わかりました。本日はこの様な田舎の山寺にわざわざ出向いてくださって本当にありがとうございました」

 

 蓮が礼をすると、謙一達も礼をして立ち上がった。

 

「あ、そうだ。皆さんにお土産があります。ちゃんと人数分に分けてあるので、よかったら家に帰ってから皆さんで召し上がってください」

 

 謙一達が本堂から出ようとすると、蓮は自分の後ろに置いていた紙袋を謙一や結衣、そして米倉にそれぞれ手渡した。

 

「あ、結衣さん!プリンですよプリン!」

「ホントだ!それもこれって美谷(みや)プリンでしょ!?結構高いんじゃないの?」 

 

 紙袋をのぞき込んだ初霜が目を輝かせながら嬉しそうに声を上げると、結衣もびっくりしたように声を出す。それもそのはず。美谷プリンは蓮の住むこの町でしか作られていないプリンで、味や舌触りの良さから百貨店などでは高級品扱いされているプリンなのだ。ちなみに蓮がこのプリンを手に入れることができたのは、源の知り合いに美谷プリンを製造している人がいるために源がよく貰ってくるためである。 

 

「いえ、祖父に美谷プリンを製造している知り合いがいるので、よく貰ったりしてるんですよ」

「うわー羨ましいな。私も知り合いがいたらよかった……」

「そういえば従業員を探してるって話でしたから、一度受けてみてはどうですか?」

 

 プリンを眺めながらため息をつく結衣に対し、蓮は源が以前美谷プリンを作っている会社の社長が従業員を探しているという話を聞き、結衣に持ちかけた。蓮の言葉に結衣はパッと顔を輝かせながら顔を上げた。 

 

「本当!?」

「え、ええ。確か求人まだ出してたはずですから今からでも間に合うかと」

「じゃ、じゃあ早速家に帰って調べてみるね。もし上手く行ったら毎日美谷プリンが食べれるかも……北野君、ありがとう!じゃあ私達はこの辺で。あ、連絡先教えとくね」

 

 結衣は嬉しそうに蓮にお礼を言うと、蓮と連絡先を交換し、初霜を連れて本堂から出て行った。

 

「じゃあ僕達もこれで」

「プリン。ありがとうございます」

 

 結衣と初霜が出ていってすぐに、謙一と鳳翔も蓮に連絡先を教えて本堂から立ち去った。

 

「私もこれで失礼するね。しかし、ワクワクするね」

「あはは……」

 

 米倉は帽子を被ると扶桑と山城を連れて本堂を後にした。

 

「……さて、後はいつ宣戦布告してくるかだな」

 

 本堂に一人残った蓮は自分のためにとっておいた美谷プリンを出すと食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 



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第十五話 不穏な空気

ー日本総理官邸ー

 

「……何度モ言ッテイルダロウ。我々ハ何時デモコノ国ヲ滅ボセルンダ。早ク我々ノ言ウ通リ犯人ヲ見ツケロ」

「は、はぁ……全力を挙げて捜査しているのですが、これが中々見つからないんですよ」

 

 蓮が本堂でプリンを食べている頃、総理官邸では深海棲艦日本占領軍代表の戦艦棲姫の眼光に怯えながら、頭のてっぺんが禿げた男は流れる汗をしきりにハンカチで拭いながら弁明していた。

 

「イイ加減ニシロ!ソウ言ッテ何日経ッタ?十日ダゾ十日!私ハ一週間以内ト言ッタハズダ!」

「は、はぁ、申し訳ありません。し、しかし証拠もなければ証言もどれも確実な決定打にはならないんですよ。今警察が総力を挙げて捜査していますが……」

 

 総理の言葉に戦艦棲姫は苛立ったように机を指で叩いている。それもそのはず。深海棲艦は太平洋側では負けが続いていて、日本本土のすぐ近くの拠点にしていた硫黄島が落とされ、日本本土付近にまでアメリカの太平洋艦隊に所属する航空機が飛来するようになっているのだ。北海道やカムチャッカ、サハリン近海での戦いも徐々に戦線が後退してきている。

 これに加えて軍資金の足しにしようと思って製薬会社に売った舞鶴の艦娘達が何者かによって逃がされ、軍資金の調達にまで失敗したのだ。おまけに捜査が難航しているために戦艦棲姫の苛立ちは頂点に達していた。しばらくの間総理の言い訳を聞いていた戦艦棲姫は机を蹴り上げると立ち上がり、総理を見下ろした。

 

「モウイイ!宣戦布告ダ!我々深海棲艦ハ三日後日本全土ニ侵攻スル!我々ヲ侮辱シタ貴様等ナゾ皆殺シニシテクレルワ!十年前ニ戦ウコトヲ諦メタ日本ニハ統制ノトレル艦娘達モ、実戦経験ノアル提督モイナイ。ジックリ潰シテイッテヤロウ」

「お、お待ちください!どうか、どうか冷静に……」

 

 戦艦棲姫の言葉に慌てて総理は回り込んで土下座をした。日本の長たる総理が土下座をするというのは、通常では考えられない話である。しかし戦艦棲姫は艤装を展開して総理に向けて躊躇なく砲撃した。砲弾をもろに食らった総理は肉片となって飛び散り、壁には大穴が開いた。慌てて走り寄ってくる官僚達に戦艦棲姫は不気味な笑みを浮かべながら言った。

 

「我々深海棲艦は今コノ場デ日本ニ宣戦布告スル。三日後ガ貴様ラ日本国民全員ノ命日ダ」

 

 

 

ー北蓮寺 本堂ー

 

「大変だぞ蓮!」

 

 蓮がプリンを食べ終えた頃、慌てて良が駆け込んできた。走って来たのか、良の顔には汗が流れている。

 

「どうした良。そんなに慌てて。とりあえず水飲め水」

 

 蓮から水を受け取った良は一気に飲み干すと、口を拭って話し始めた。

 

「さ、さっきモールス信号で遊んでたら、東京永田町に住んでる奴が『深海棲艦が日本に宣戦布告した』って打ってきたんだよ!」

「何!?」

 

 蓮は立ち上がるとリビングに飛び込むとテレビをつけた。

 

『速報です!先程総理官邸で深海棲艦と会合を開いていた○○総理他数名が深海棲艦によって射殺されました。また、深海棲艦は日本に宣戦布告。三日後に日本に攻めてくると明言しました……これに伴い政府関係者は緊急招集を行い、現在対応を模索しています』

 

「おいおい。早すぎんだろ……」

「蓮。どうかしたのか?あれ?西もどうしたんだ」

 

 蓮と良が絶句していると、摩耶と白雪がリビングに入ってきた。

 

「摩耶姉……白雪さん……始まった」

「?何がだよ」

「戦争」

「は?」

 

 摩耶と白雪がテレビを見ると、テレビには『深海棲艦が宣戦布告!三日後がXデーか!?日本は手立て無し?』というテロップが流れている。 

 

「マジかよ……」

「マズいですね。早く準備しないと。私達は皆に知らせてきますね」

「ああ。本堂に集まるように皆に伝えてくれ」

「わかりました」

 

 摩耶と白雪は一瞬呆然としたが、すぐに気を取り直してリビングから出て行った。良も立ち上がると蓮の方を見た。

 

「俺は今からモールスで艦娘と同棲してる提督達がいないか探してみる。可能性は低いかもしれないけど頑張ってみるよ」

「わかった。頼んだぞ」

 

 良が出ていったのと入れ替わりに、肝井と健がリビングに入ってくる。

 

「おいおい。マジにヤベぇ状況じゃねぇか」

「ほんまにこうなるとはな……」

 

 健は髪をかき上げ、肝井はその場にへたり込んだ。

 

「肝井。お前確か2ちゃんねるってのやってたよな?今すぐにそれで情報を拡散させてくれ。『艦娘と同棲してる提督達は戦闘準備に入れ』って。恐らく効果がないかもしれないがワンチャンだ。後Twitterも見ておいてくれ」

「わかったで」

「健も可能ならできる限り情報を集めて欲しい。できるか?」

「あったり前だろ。任せろ」

「頼んだぞ」

 

 健と肝井が走り去るのを見送った蓮はスマホを開いて結衣や米倉、謙一に連絡を取り、今後の行動を説明した。

 

「さて、俺も腹を括るか」

 

 蓮は立ち上がると本堂に向かった。

 

ー本堂ー

 

 蓮が本堂に入ると既に艦娘達は全員集合していた。蓮が開いていた座布団に座ると、大淀が口を開いた。

 

「……ついに始まりましたね」

「ええ」 

「今すぐにでも舞鶴に攻め込みましょう」

 

 加賀は蓮の方を見ると即日攻撃を提案した。確かに今すぐに攻め込めばあっさり舞鶴を解放することができるかもしれない。しかし、加賀の提案に蓮は首を横に振った。

 

「ダメだ。今舞鶴に攻め込んで占領したとしても補給線が作れない。相手方がある程度戦力を集めた所を叩くべきだと俺は思う」

 

 蓮の言う通り、補給手段のない今の蓮達では仮に電撃戦で舞鶴を押さえたとしても包囲されればあっという間に弾薬や燃料が底をついてしまう。北蓮寺に戻れば補給や修復は可能だが、一度戻って補給や修復というのは流石に

現実味がない。それならば、ある程度敵が集まってきたタイミングで仕掛けて一気に殲滅した方がいいと蓮は判断したのだ。

 

「でも三日後には攻めてくるんですよね?何時攻め込むんですか?」

「今のところは早くて明日の深夜。遅ければ当日早朝だな」

 

 榛名の質問に蓮はアッサリと言ってのけた。 

 

「そ、そんなに遅くでいいんですか?」

「急いては事をし損じるっていうだろ?まずは情報収集だ。大淀姉」

「はい」

 

 蓮はポケットからスマホを取り出すとTwitterの画面を大淀に見せた。

 

「これはTwitterって言って色んな奴等がここで呟いてる。もしかしたら深海棲艦の動向を投稿している奴もいるかもしれない。できる限り目を離さないようにしてくれ」

「わかりました」

「蓮ちゃん!」

 

 大淀がメモをとっていると、肝井と良が本堂に入って来た。

 

「どうした?」

「帰る途中にスマホでTwitter見てんけど、ヤバいで」

 

 そう言いながら肝井は蓮の前にスマホを突き出した。

 

・こちら呉住み。なんかさっき深海棲艦が皆出てったぞ。柱島からも出てったみたいだし、いつもは腐るほどいるのに今は誰もいない。いよいよガチで戦争か

・おいおい。なんか深海棲艦が日本海を東に向かって進んでるんだが、どうなってるんだ?ちなみに俺山口県民

・皆の様子を見てると一気に戦力固めて一気に攻めるつもりなのかな

 

「2ちゃんねるの方でも同じ感じや。嘘にしては話が一致しすぎてるから、これはガセではないやろ。もう相手は動き出してるみたいやで」

「提督とかの件は?」

 

 蓮の言葉に肝井は首を横に振った。

 

「アカンわ。中々見つからへん。そもそもがレアケースな分余計やな」

「こっちも色々やってるんだけど中々……」

「そうか……少ないよりは大勢いた方がいいんだけどな……」

 

 そこまで言うと蓮は顎に手を当てて考えはじめた。昔兄の言っていた言葉がふと脳裏に浮かんだ。

 

『知ってるか蓮。深海棲艦はな、最大で七十キロで走るんだけどな、戦艦達が五十キロぐらいしか出せないから移動するときは皆一律五十キロしか速度を出さないんだぜ?』

 

(呉から今さっき出た奴等が舞鶴に集まるとして関門海峡を経由したら少なくとも七百キロ以上……。休み無く移動したとしても十四時間以上掛かるはず……。この時間からだとしたら早くて明日の早朝に舞鶴に着くのか)

 

「……蓮ちゃん?」

「皆、聞いてくれ。今日の深夜、ここを出発して舞鶴に向かう。攻撃は明日の朝五時ちょうどだ」

 

 突然の蓮の言葉に艦娘達はざわついた。それを蓮は宥めると、大淀の方を見た。

 

「大淀。悪いんだが呉から舞鶴までの距離を計測してくれ。呉にいた深海棲艦が休み無く動けば、恐らく明日の早朝に到着するはずだ。疲れている奴が紛れているところを叩きたい」

「わかりました。調べてみます」

 

 大淀は本堂から出ると、大急ぎで源の部屋に向かった。

 

「西君、工廠にもモールス信号打てるところあるよ?使う?」

「ありがとうございます。助かります」

 

 夕張に連れられて西は掛け軸の裏に消えていった。

 

「……今気付いたんやけどさ、移動手段はどうすんねや?」

「……考えてなかった」

 

 肝井の言葉に蓮は真っ青になった。よく考えれば移動手段がない。蓮も肝井も自動車免許は持っていない。そもそも田舎町のために十五人も乗れるような乗り物を借りる場所がない。

 

「仕方ない。今から電車で……「その必要はないぞ」」

 

 声のする方を振り返ると、健と共にテルとシゲが立っていた。健は本堂に入ってくるとニヤリと笑った。

 

「そんなこともあろうかと俺から親父に全部話してトラックを使わしてもらえるように頼んだ。日本の危機だ。うちのトラックを全部使えってさ」

「あっしら東山組は北野さん他艦娘の皆さんに全面協力するようにと親分から仰せつかりやした。皆さんの移動、補給物資の運搬にうちの組員総出でバックアップいたしやす」 

「それはわざわざ……ありがとうございます」

 

 シゲの発言に蓮は頭を下げた。これで艦娘達の陸地での移動手段は確保された。あとは謙一達に攻め込む日程を教えて攻め込むだけだ。

 

「よし、全員武装のチェックをして何時でも出撃できるようにしておいてください」

「「はい!」」

「あっしらは電話一本で駆けつけますんで」

「これ、連絡先です」

 

 テルとシゲは蓮に連絡先が書かれたメモを渡すと本堂から出て行った。

 

「米倉さん達にも後で言っとかないとな……」

 

 蓮は天井を見上げるとポツリと呟いた。

 

 

 

ー深海棲艦 舞鶴駐屯地ー

 

「コノ馬鹿!時期トイウモノヲ考エロ!」

「ス、スマナイ……」

 

 蓮達が慌ただしく出撃準備をしている頃、かつての舞鶴鎮守府にある深海棲艦の舞鶴駐屯地では総理を木っ端微塵にした戦艦棲姫がわざわざ集まった他の姫級達にフルボッコにされていた。

 

「カツテ十八体イタ姫級ヤ鬼級ハ、ココ一ヶ月デ次々ニアメリカヤロシアノ艦娘達ニヤラレテ今ノ日本ニハココ二イル三体ノ姫級シカイナインダゾ?オマケ二姫級トイッテモマダ私ト中間棲姫ハ練度ガ低インダゾ。ワカッテルノカ?」

「スマナイ集積地棲姫……」

 

 戦艦棲姫はたんこぶだらけになった頭を抱えながら涙目で頭を下げている。どうやら深海棲艦の代表といっても案外他の姫級達には尊敬されていないように見える。

 

「マァマァ集積地棲姫。イイジャナイ。ドウセソノウチ日本ハ滅ボスツモリダッタンダシ、今ノ日本ニ姫級ヲ倒セル兵器ハナイワ」

「ソウハ言ッテモナ中間棲姫。今マデ深海棲艦ト日本政府間ノ極秘協定ダッタ資材供給ガ停止サレタンダゾ?」

 

 実は深海棲艦は十年前に日本が降伏した際に、今まで鎮守府に供給してきた自動資材供給システムをそのまま稼働させて深海棲艦に渡すようにという極秘協定を結んでいたのだ。しかし、今回戦艦棲姫が総理を殺してしまったために供給元が混乱。供給がストップして補給が出来なくなっているのだ。

 

「ハァ……モウイイワ。資材ハ備蓄分ガアルカラ、当分ノ間ハ心配シナクテイイ。デ、ドコカラ攻メルノ?」

「手始メニココヨ。今呉ヤ柱島、ソノ他瀬戸内海ヤ日本海側ニイル四十ノ同胞ガ明日ノ早朝ニハ到着スル予定ナノ。デ、休息ヲ十分ニ取ッテカラ三日後ニ舞鶴ヲ火ノ海ニシテヤル。今ココニハ四十八イルカラ、合計デ八十八ニナルワネ。他ニモココデ補給シテタロシアヘノ派遣艦隊ヲ敦賀ト豊岡ニ配置シテドッチモ三十ズツイルワ」

「……日本ハ対抗シテクルカシラ?」

「ナイナイ。十年前モ東京ヲ捨テレバ艦娘達モ提督モ沢山イタカラ勝テタカモシレナイノニ、内輪揉メカラクル暴動デアッサリ降伏シテ、対抗手段ニナル艦娘達モ提督モ私達ニ差シ出スヨウナ口ダケ達者ナ腰抜ケ集団ヨ?」

 

 中間棲姫の言葉に戦艦棲姫は手を横に振りながら笑った。この戦艦棲姫は十年以上前から前線で戦っていた古参で、十年前の日本の敗戦を間近で見ていた。頭の悪そうな政治家達が必死になって土下座をして血気にはやる若手提督達を宥めている姿、上層部の腐敗によって瓦解した日本海軍に呆然とする歴戦の提督。『まだ戦える。提督、指示を!』と叫ぶ艦娘達に涙ながらに頭を下げる着任したての新人提督……今思い出すだけでも滑稽で仕方が無かった。

 誰も自分一人の意思で最後まで戦おうとしなかった。国民も、誰一人として深海棲艦への対抗手段を失うことに対しての危険性を指摘しなかった。国民全員が一時の平和が永遠に続くと勝手に解釈をしていたのだ。提督も艦娘達も自分達が犠牲になれば平和になると勝手に解釈していた。だから抵抗しなかったのだと戦艦棲姫は今になって思っていた。自分の一存で艦娘達を動かして勝手に戦って、せっかく話がまとまって掴みかけた平和を潰したくなかったのだろう。提督達も心の何処かで戦わなくて済むとホッとしていたのかもしれない。

 

「トモカク、私達ハ人間ヲヒタスラ殺スダケヨ」

「……ワカッタ。ジャア三日後ニ舞鶴ヲ攻メルンダナ?」

「エエ。頼ンダワヨ」

 

 集積地棲姫はため息をつきながら立ち上がると中間棲姫を連れて部屋を後にした。

 

「サァ、殺戮ショーノ始マリダ」

 

 一人になった戦艦棲姫は不気味な笑みを浮かべると椅子に深く腰掛けた。

 

 

 

 

 

 




「太陽光です」
「健だ……てか作者。昨日のあれ何?マジで何してんの?頭のネジでも外れたか?」
「何かテンションハイになってボンボン投稿してた」
「で、ストックが切れかかってると?」
「大変申し訳ありません。絶賛執筆中です。次話はしばらくお待ちください」
「後後書きも書いてなかったけどどうしたんだ?」
「単純に書くネタが思いつかなかったのと、面倒くさかった。以降は何か報告があるときかネタが思いついたときだけ書くわ」
「は?」
「あ、あとこんなタグのにある通り文才皆無でグダグダの文章ですが、何か『こうしたらもっと良くなる』とか『こうした方が読みやすくなるのに』とか何か思うところがありましたら遠慮なく言ってください。参考にします。ただ、流石にキャラの否定とか、世界観の否定とか、そういうのは困りますが……」
「おいお前、あとで体育館裏な」
「え、ちょ、ま……」

次回もお楽しみに。


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