クロウ隊3番機が着任しました (hamof15)
しおりを挟む

第1話 目覚めの日

1931年 7月28日 a.m.11:32 日本近海 第11駆逐隊

 

今日は晴天、波も穏やかだ。

ここまで天気が良いと気分も良くなれる。

 

「今回は比較的に被害は少なく済んだわね」

 

19隻の輸送船を見ながらそう呟いた。

 

『もう疲れた、帰ったら寝る』

 

初雪の面倒くさそうな声が聞こえてくる。

 

『そんなこと言わないで頑張ろ?』

 

私たちの長女の吹雪ちゃんがそう言うと、

 

『もう十分頑張った』

 

と明らか不満そうな声が帰ってきた。

 

『あたしはまだ行けるぜ‼』

 

とまだ元気な深雪ちゃんが反応してきた。

 

「もうちょっとで鎮守府も見えてくるから、もう少しの辛抱ですよ」

 

私も初雪ちゃんに頑張るよう伝える。

そんなことを言っているうちに、段々と陸地が見えてくる。

 

『それより帰ったら例の島に資材を輸送しないといけないよね』

 

例の島、なんとか港の機能を付け、深海棲艦への前線基地として機能しているガタルカナル島、通称「ガ島」だった。

港の機能は付けれたものの、資材は搬入し終わっていない。

当初の予定だったら輸送船が既に到着する予定だったが途中、深海棲艦の襲撃により輸送船団は壊滅し、燃料が圧倒的に枯渇しているらしい。

 

『またあそこ行くのかよ』

 

流石に深雪ちゃんもそれには不服らしい。

まあ、向こうは燃料が枯渇しているため補給できず、途中補給艦と合流しないといけないのは正直面倒くさい。

それにその後は補給艦も護衛する必要があるから護衛対象が一つ増えてしまう。

 

「資材を待っている人たちが居るんだから、そんなことを言わない」

 

『連日連日遠征はブラック、私たちも休養が必要』

 

『流石についた瞬間行けってことはないと思うけど…』

 

今の状況だと、ありえなくは無いのが困る。

 

『? なんかあそこにいるの明石さんじゃない?』

 

吹雪ちゃんがそう言い、遠くを眺める。

そこには何かを引き上げている工作艦の姿だった。

 

「なにかあったのかしら?」

 

『後で聞いてみようよ』

 

『賛成』

 

『あたしも賛成だぜ』

 

「そうしましょうか」

 

段々と母港が近くなっていくのが見えた

_____________________

 

3時間後 鎮守府 医務室

 

あれからどれ程たったのだろうか…

最後にアンノウンに撃ち落されたところまでは覚えている。

今は、何故かベットの上で寝ている。

俺は死んだんじゃないのか?

起き上がり、周りを見渡す。

見た感じは多分医務室。

すると、看護師と思われる人が俺が起き上がったのに驚き、急いで部屋から出て行った。

窓から外を見ると、外には海が見える。

 

「…どこだよここ」

 

確実にヴァレー空軍基地ではないのは確実だ。

しかも見た感じは海軍基地、しかも

 

「…俺はタイムスリップでもしたのか?」

 

明らかにあれは俺が生まれる遥か昔の兵器だ。

巨大な砲を載せ、圧倒的な雰囲気を醸し出している兵器。

戦艦だった。

まず俺が居た世界かどうかすら分からなくなってきたぞ。

記念艦としてBBは見たことあるが、これは完全に現在も使用中だろう。

 

「一体どうなってやがる…」

 

困惑していると、看護師が医師を連れて戻ってきた。

そして軽く身体検査を受けると、ここの指揮官に会うこととなった。

ここの海軍基地のトップとの対面、これは入隊式並みに緊張する。

医師に連れられ、執務室に案内された。

______________________

 

執務室前

 

医師がドアをノックして

 

「指揮官殿、連れて来ました」

 

と伝える。

 

「ご苦労様、入ってくれ」

 

中から返事が返ってきた。

 

「失礼します」

 

ドアを開け、医師に続いて入る。

そして中にはここの指揮官だと思われる若い男性が一名、そして隣には秘書と思われる女性一名だった。

 

(こんなに若いのが指揮をしているのか?)

 

どう見たって年齢は20代前半、新兵でもおかしくない年齢だ。

 

「まず、君の名前は?」

 

質問が来る。

 

「パトリック・ジェームズ・ベケット少尉です」

 

敬礼をし、自分の名前と階級を答える。

 

「君も軍人を?」

 

「空軍のパイロットです」

 

「空軍?」

 

えっ、まさか空軍がわからない?

 

「提督、たぶん航空隊の事だと思います」

 

隣の秘書がそう言うと納得したようだ。

 

「つまり君は航空隊所属の搭乗員ということだね。所属は?」

 

「ウスティオ空軍第6航空師団第66飛行隊、ガルム隊所属です」

 

そう言うと指揮官はまた不思議そうな顔をする。

 

「ウスティオ? 初めて聞く国だな」

 

そうかもしれない。

もし俺が過去にいるなら俺たちの国が独立したのが1988年だ。

ならベルカ連邦は知っているだろうか?

 

「あの、ベルカ公国という国をご存知ですか?」

 

「それも初耳だ」

 

秘書も全く知らないらしく、世界地図を持ってきますと言って執務室から出ていった。

まさかベルカが独立するより前の世界?

そんな馬鹿な事があるわけない。

 

「失礼ですが、今は何年ですか?」

 

「? 1931年だが?」

 

は? マジで時間巻き戻ってるの?

ウスティオ共和国まだできてないじゃん。

それでも、ベルカ公国はあるはずだ。

まさか、巻き戻ている上に別の世界?

そんなバカげたことがあるわけない…

 

「すみません、ここの国名を教えてください」

 

「大日本帝国ですけど、知らずにここの近海に落ちたのですか?」

 

全く知らない国名来ました~、これまさかの別の世界の可能性が一気に上がりました~。

すると秘書が戻ってきた。

 

「やはり、うすてぃお?と べるか?とかいう国は存在しませんね」

 

「ありがとう大淀」

 

彼女の名前は大淀らしい。

ってそんなこと思っている場合か‼

 

「少し見せてください」

 

「よろしいですが…」

 

奪い取るように世界地図を取り、見てみた。

そこに書かれているのは、全く知らない国名と国土が記されており、自分が居た世界の国家は一つも存在しなかった。

 

「あなた、本当はスパイでは?」

 

大淀が眼鏡越しにこちらを睨んできた。

 

「違いますよ! 俺はただV2を止めるためにアヴァロンダム上空で‼」

 

「そこが架空の場所で嘘を述べているだけでは?」

 

駄目だ、世界が違うとすると何を言っても無駄だろう。

 

「そう決めつけるな、もしかしたら本当かもしれないだろう」

 

指揮官のフォローのお陰で一旦スパイ容疑は保留となる。

 

「まず、君が最後に知っている事を言ってくれないか」

 

正直に言うべきか、記憶が曖昧だと嘘をつくかだ。

しかし、ここで記憶を曖昧にするとスパイ容疑がより濃くなってしまう。

ここは正直に全て言おう。

 

「私は1995年12月31日に国境なき世界というクーデター軍が接収しているダム擬装型ミサイルサイロ基地「アヴァロンダム」に我々連合軍は攻撃を仕掛けました」

 

まず年代の時点で、驚いた顔をする。

 

「私の部隊はB7Rで空戦後、アヴァロン上空に到達、多数の犠牲を出しながらもなんとかサイロまで辿り着き、ミサイル発射システムを破壊しましたが、その直後にアンノウンにより私は撃墜され、気が付けばここに居ました。簡単に言えば、たぶん自分はここの世界の人ではありません」

 

大雑把な上に信用しがたいことだが、信用してくれるだろうか?

知っている事はこれくらいしかない。

 

「嘘だとしたら、ある意味才能の持ち主ですね」

 

「嘘じゃないから淡々と述べられるのだろう。君を信用するよ」

 

ここの指揮官はお人好しのようだ。

ここまで人の話を信じる人は久しぶりだ。

 

「…私もこの世界がどんな場所か知りませんので、説明してくださると助かります」

 

「分かった、私たちの世界を教えよう」

 

これも、俺には信用しがたいものだった。

1914年、ヨーロッパといわれる州で極度な緊張状態に達していたらしい。

そしてサラエボ事件というとある国の皇太子暗殺により大規模な戦争が勃発した。

しかし、その翌年、謎の艦隊によりヨーロッパが火の海に飲まれる。

正体不明の艦隊は当時世界最強のいぎりすという国の最新鋭艦隊をも全て撃沈し、本土を焦土とした。

それを受けたあめりかという国が参戦を表明するも、戦況は変わらず最終的には海軍がほぼ壊滅状態となった。

この艦隊を、世界は「深海棲艦」と呼称するようになった。

深海棲艦は、この大日本帝国にも襲ってきたらしく、海軍は無いに等しい状態となる。

輸送艦隊も潜水艦により一方的に沈められ、資源も枯渇していたそうだ。

そこで奇跡が起きた。

深海棲艦出現からから4年後、1918年に奇跡的に一隻の深海棲艦を撃沈することに成功する。

そして沈めた地点に、一人の少女が居たそうだ。

これが、この世界の希望「艦娘」らしい。

彼女らは深海棲艦と渡り合える武器を持ち、唯一深海棲艦と対等に戦える存在だった。

しかし、この戦いが長期化し、資材の枯渇や敵の物量により戦況は悪化の一方らしい。

 

「そこで私から君にお願いしたいことがある」

 

「何でしょうか?」

 

出ていけなどと言われたら、居場所なんてどこにも無い場所ですごさなければいけなくなる。

 

「我々と共に戦ってほしいのだ」

 

「えっ?」

 

「提督!?」

 

ここからが、俺のこの世界の生活の始まりだった。




どうも皆さんこんにちは、作者です。
二次創作は初めて書くのでなれない部分があるので何か不備や改善してほしい点がありましたら教えていただけると助かりますm(__)m
それと超不定期更新で月単位で放置とかありえますのでその点をご了承ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 決断

遅くなってすみません。
今週中にはもう一話書く予定ですが、あまり信用しないでください。


「我々と共に戦ってほしいのだ」

 

「えっ?」

 

「提督!?」

 

予想外のお誘いに、脳内がパニックになる

他国の軍、まして異世界から来たという意味不明な発言する軍人を自軍に加えようとする人がいるだろうか?

今ここにいるのだが…。

 

「君の飛行機と思われるものを君と一緒に引き上げている。勿論、戦場以外なら君の安全を保障するよ」

 

「提督! あなたは馬鹿ですか!? 相手はスパイかもしれない人ですよ‼」

 

それが正しい反応だと思う。

スパイ容疑がある奴に一緒に戦おうなんて頭がいかれてるとしか思えない。

 

「それでも、現状では圧倒的戦力不足も補わなければならない。それにもし、本当に異世界から来たのならその力が手に入る」

 

「ですがリスクが大き過ぎます‼」

 

「なら、それ以外に深海棲艦に対抗できる案はあるのかい?」

 

「それは…」

 

先ほどの説明を聞いた限りだと、無いのだろう。

打てる手は全て打っているようだった。

 

「我々は、こういう小さな希望にでも賭けないといけない程に緊迫しているんだ。だから頼む、我々と戦ってくれ」

 

どうするべきか…。

戦いを否定して、ここから出ていくか?

その場合、俺はこの地で暮らせる保証は無い。

それに深海棲艦に空爆された時、何もできず人を見殺しにするなんてできない。

しかし、ここで戦ってまたあの惨状を見るのか?

また加害者側に回るのか?

相手が絶対悪とは限らない。

もし理由があり、こちら側に非があるのなら、話し合いで和解できる相手なのかもしれない。

でも、本当にそれで戦争は終結するだろうか?

俺が居た世界のようにクーデターが起こり、また戦火が広がるのではないのか?

頭の中で様々な考えが争いあっていた。

どれが正解なのか、どれが間違いなのか…。

まず、これに答えがあるのか?

 

「いきなり決められないのも無理ないだろう。返事は明日でも構わないよ」

 

明日までに考えられるような内容じゃないような…。

 

「そうだ、私たちの鎮守府でも見学したらどうだ? これから住む場所かもしれないからな」

 

すると提督は大淀に誰か暇な艦娘を呼ぶように頼んだ。

大淀はため息をつきながらも執務室から出た。

____________

 

数分後

 

大淀が執務室に戻ってきた。

そして数秒遅れて少し小柄な女の子が入ってくる。

 

「提督、私に御用ですか?」

 

見たことない服装だった。

きっとこの世界特有の服装なのだろう。

 

「ああ、瑞鳳。この人に鎮守府に案内してくれないか。入隊希望者なんだ」

 

おい、俺はまだ入隊を希望してないぞ

 

「わかりました。じゃあ、ついてきてね」

 

「わかりました」

 

ツッコミを心に留めたままにして、瑞鳳という子について行った。

__________

 

 

「まずこの建物からだね。ここはこの鎮守府の中枢の庁舎だね」

 

赤レンガで建てられた巨大な建造物。

コンクリート製の建物以外でこれほど大きな建物は見たことは少ないだろう。

 

「この中には執務室の他にも偉い人たちが会議できる場所や作戦指揮所もあるみたい」

 

「見たことはないのですか?」

 

「秘書艦はいつも大淀さんだからね」

 

「なるほど」

 

そしてまた歩き始める。

 

「ここが兵舎。私たちが住んでいる場所ね」

 

「ここが…」

 

同じく赤レンガ造りの建物だが、先ほどの建物と比べると横に大きい印象を持てる。

 

「部屋割は姉妹たちか同じ配属の人たちが同じ部屋になってるよ」

 

ここの所属の艦娘が一体何隻いるのか知らないが、結構な数を収容しているのだろう。

 

「次は工廠だね」

 

さらに歩いていくと、いくつもの同じような形をした建物が見えてきた。

 

「あれは倉庫。主に資材などを貯蔵してる。そして奥にあるのが工廠だよ」

 

奥に少し大きめの建物が見える。

工廠という事は、装備品などはここで製造しているのか?

 

「装備はここで製造しているのですか?」

 

「大体は自分たちの装備はここで開発してるよ。私たちの装備は特別で妖精さんが作ったものしか使えないから」

 

「へ~…へ? 妖精?」

 

いきなりメルヘンな用語が出てきた。

 

「そう。例えばこの子とか」

 

すると瑞鳳さんの肩に小さな人?が昇ってきた。

それは人のような姿をしているものの、人とは明らかに異なっている。

 

「私たちの船を動かすのも妖精さんなのよ」

 

「この小さいのが?」

 

すると妖精が膨れて怒ってきた。

たぶん小さいと言ったことに不服なんだろう。

 

「そうよ、その時は少し大きくなるの」

 

実に不思議な生物(生物かどうか知らないが)だ。

改めてここが異世界なのだと実感できた。

 

「それと工廠の隣には入渠ドックと、建造ドックもあるのよ」

 

「随分立派な基地だな」

 

「この国で一番大きな鎮守府だからね」

 

少しドヤ顔をしながら説明してくれる。

そして何人か女の子にすれ違うのだが、全員艦娘なのだろうか?

 

「次はあっちを案内するね! ついてきて‼」

 

「ちょっ、待ってください!」

 

自慢するのが楽しかったのか、ペースを上げて鎮守府を回っていった。

____________

 

数十分後

 

「ここが最後かな」

 

すると、巨大な滑走路が目に入った。

平らだが舗装されていない、俺の機体は離陸できるだろうが、不安に思う。

 

「ここは最近作られたばかりなの。妖精さんが作った戦闘機を人が乗れるようにして使うために作られた場所だったはず」

 

「妖精さんが作ったものでないと駄目なんですか?」

 

「深海棲艦相手には通常の攻撃は効かないの。でも妖精さんが作った装備ならダメージを与えられるの」

 

なるほど、だから人類は負けたのか。

 

「それで人を乗れるようにしたから、艦娘が運用できないものを作ろうとしてできたのがあの陸攻よ」

 

指さした方向に、他の機体より大型の機体があった。

あれは誰が見ても爆撃機だろう。

 

「あれは最近配備された一式陸攻だね」

 

何というか、防御力の無さが見えてくる。

レシプロ爆撃機はそんなに見たことないが、素人から見ても装甲は無さそうだった。

 

「あれの隣のは?」

 

「あれは試験機だよ。名前は…銀河だっけ?」

 

「私に聞かれても…」

 

格納庫を見ていると一つだけ、見覚えがある格納庫が見えた。

大きさは他の格納庫に比べて比べ物にならない大きさだった。

それにあれだけは鉄筋コンクリート製の建物。

 

「あれは?」

 

「あれ? あんなやつあったけな…」

 

無意識に、あの格納庫に向かって歩いていく。

 

「あっ! 勝手に行かないで‼」

 

止めようと呼びかけて来るが、耳に入ってこなかった。

そして格納庫の正面に立つ。

ハンガー(格納庫)の扉は空いていた。

 

「これは…」

 

周りのレシプロ機の比べて異様な形状をしている機体。

あれはどう見ても俺の機体。

 

「F-16C…」

 

無傷の状態である。

最後は爆散したはずなのに…。

 

「なにこれ?」

 

瑞鳳さんが不思議そうに機体を見る。

この世界の人間は、たぶん皆理解できないだろう。

 

「私の機体です」

 

「えっ? これが?」

 

通常の航空機はプロペラが風を送り、推進力を得る。

それが無いのだから、不思議がるのも無理はない。

 

「今度、入隊できたら飛ばして見せますよ」

 

「うん、その時はちゃんと見せてね」

 

期待のまなざしでこちらを見ていた。

ハンガーの中を確認していると、周りにはちゃんと装備がある。

奥には大きめの箱がずらりと並んでいるのであれはきっと弾薬やミサイルだろう。

もし入隊したら、しばらく戦うことが可能な量だった。

しかし、これが尽きてしまったら補給はできるのか?

ていうか、どうしてミサイルが置かれている?

ここではまだ製造どころか、まだ設計の構想すら挙がってないはずだ。

なら、一体どこから?

この世界には謎が多い。

___________

 

p.m.7:50

 

食事を済ませ、鎮守府を見渡せる場所に案内された。

食事は間宮と呼ばれるところでしたが、軍とは思えないほど美味しかった。

ここは本当に軍なのだろうか?

そこの草原に腰を下ろす。

瑞鳳さんと一日中歩いてたため、結構疲れた。

瑞鳳さんも隣に座る。

 

「…ねえ」

 

「どうしました?」

 

静かな鎮守府を見ながら答える。

 

「どうして、軍に入ろうと思ったの?」

 

その質問は、答えにくかった。

別に今は入りたい訳でもないし、前の軍での志望理由もそこまで真面目ではなかった。

少し考えこみ、

 

「皆を守りたいからですかね」

 

と答えた。

すると瑞鳳さんが

 

「本当にそれだけ?」

 

と聞かれた。

 

「それだけですよ」

 

そう答えると少し笑顔になりながらこちらを向いた。

 

「なら、しっかりと私たちを守ってね」

 

その顔に、少しドキッとした。

 

(落ち着け‼ 俺には基地で待たせてる人が‼)

 

でも、前の世界に帰れる保証は無い。

それなら、別に浮気判定ではないのでは?

 

「そろそろ戻りましょうか、消灯時間もうすぐだし」

 

「そうですね」

 

顔が赤いかもしれないが、夜のお陰で見えてないだろう。

…見えてないと信じる。

 

「そういえば、名前聞いてませんでしたね」

 

今更ながら、自分が名乗ってないことに気が付く。

 

「パトリック・ジェームズ・ベケットです」

 

「な、長いね」

 

そうだろうか?

逆に言えば君たちの名前は短すぎる気がする。

 

「なら、PJでいいですよ。僕のイニシャルです」

 

「なら、PJさん。今日はどこに泊まる予定ですか?」

 

「あっ」

 

全く考えていなかった。

将来のことの前に今のことを考えなけらば。

 

「私の部屋、今祥鳳、私のお姉ちゃん居ないから、スペース空いてるけど、泊まっていく?」

 

さあ、おいしい展開になってきました!

他の人に言ったら死ねと思われるような展開です‼

勿論返事は

 

「なら、お願いします」

 

の一択だった。

 

「なら、ついてきてね」

 

「わかりました」

 

今なら本当に死んでも悔いはないかもしれない。

____________

 

祥鳳型の部屋

 

「ただいま~」

 

「お邪魔します」

 

中は今まで見たことない造りの部屋だった。

なんとなく落ち着くような感じがある。

普通の女の子の部屋という感じではなかった。

 

 

「そこで靴脱いでくださいね」

 

「えっ、あっ、はい」

 

「…PJさんって海外の人ですか?」

 

「そうですよ。どうしてわかったんです?」

 

「う~ん、顔と、和室を見た時、部屋で靴を脱ぐ時の反応からですかね」

 

「この部屋和室って言うんですか?」

 

「そうだよ、洋室も何室かあるよ」

 

洋室というのが俺に馴染み深いやつだろう。

 

「布団とか自分で出せる? 外国の人ってそういう文化ないんでしょう」

 

「すみません。お願いします」

 

普段はベットで寝ていたので布団の敷き方はあまり分からなかった。

ベットのシーツの交換とかだったら入隊直後に叩き込まれたが、床に寝るのは昼寝の時以来だ。

 

「よいしょっ‼」

 

重そうに布団を出す瑞鳳。

 

「手伝いましょうか?」

 

「大丈夫! 五万二千馬力の力舐めないで‼」

 

何故馬力なんだろう…。

あっ、そうか、艦娘は。

提督の話が頭に戻ってきた。

 

「よし! これで敷けた!」

 

気が付くと、布団が敷き終わっていた。

 

「あっ、お風呂に入るの忘れてた…」

 

瑞鳳さんが残念そうな顔をする。

 

「この時間はもう入れないし、明日朝風呂入ろ…」

 

そしてとぼとぼクローゼットの前に移動する。

 

「あっ、着替えるから一旦部屋から出て」

 

「わかりました」

 

下心を抑え、部屋から出る。

 

「…絶対覗かないでくださいよ」

 

「わ、わかってますよ」

 

何か見透かしたように忠告を食らう。

だが、覗くなと言われて覗かなかった男性など居ないだろう。

しかし、ドアが閉まった時に、カチャッと音がしたので施錠されたのだろう。

見れな…ゲフンゲフン…信用の無さに少し凹んだ。

そして数分後、

 

「もういいよ~」

 

と解錠した音と同時に声が聞こえた。

合図する前に鍵閉めてるから入れないよ、と言うわけにもいかずに部屋に戻ると、寝間着姿になった瑞鳳さんが居た。

ヤバい、普通に可愛い。

今夜一緒に寝ていて理性は持つのだろうか?

 

「そういえばPJさん着替えはあるんですか?」

 

「ない、ですね。来たばっかりなので」

 

ハンガーには正装とパイロットスーツとヘルメットがあるが、たぶんあれだけだろう。

 

「なら今度考えないと駄目だね」

 

「そうですね」

 

そういえば、なんで今通常勤務服を俺は着ているんだ?

今更だが、謎がもう一つ増えた。

 

「それで寝れますか?」

 

「はい、平気です」

 

「なら電気消すね」

 

「わかりました」

 

布団に入り、目を閉じる。

そして、灯りが消えて、部屋が暗闇になる。

 

「おやすみ」

 

「はい、おやすみなさい」

 

その言葉の後、今日の疲労がどっと押し寄せてきた。

そして意識が途切れるように眠った。

_________________

 

翌日 7月29日 a.m.6:00

 

起床ラッパは鳴らないが、癖でこの時間ピッタリに起床する。

そして掛布団を畳む。

布団はしまい方は分からないので後で聞こう。

今日、俺は入隊するかしないか決めないといけない。

俺は、どうするのが正解なのだろうか。

そして少し視線をずらすと、静かに寝ている瑞鳳さんが目に入った。

この子は、この子たちは戦っているのに俺は逃げるのか?

様々な感情が交差する中、逃げたくないという感情が膨らみ始める。

この子の笑顔が、この安らかな顔を守って上げれるのなら、

 

「俺は戦う」

 

起き上がり、静かに部屋を出た。

そしてハンガーに向かい、正装に着替える。

これを着るのはいつ以来だろう。

相当昔に数回来た程度の正装、これをまた着ることがあるなんて。

帽子を取り、静かに被る。

そして部屋へと戻っていった。

_________________

 

a.m.7:13

 

「んん~、あっ、おはよう」

 

「おはようございます」

 

まだ眠そうな顔で瑞鳳さんが起きる。

 

「あれ? いつの間に着替えたの?」

 

「一時間近く早く起きましたからね」

 

起床時間も自由なのか?

この規則性無い起き方からたぶんそうなのだろう。

 

「そういえば、朝風呂する予定だったのに寝過ごしちゃった」

 

不機嫌そうな顔をする。

 

「それは起きない自分のせいですよ」

 

「起こしてくれたってよかったじゃん」

 

「いや、自分で起きてくださいよ」

 

軽く会話をする。

 

「もういい、今晩絶対に入る」

 

「そうしてください」

 

瑞鳳さんが布団を畳むのを見て、真似て畳む。

が、上手く畳めない。

 

「手伝おうか?」

 

「だ、大丈夫です…」

 

自分でできると思たっが、最終的には手伝ってもらうこととなった。

____________

 

数時間後 庁舎

 

朝食を終え、庁舎の執務室へと向かっていた。

ここに来るまでに数人の艦娘に会ったが、やっぱりただの女性にしか見えなかった。

一番小さい子だと10代前半かそれ以下の子だった。

そんな子まで戦場に行くのか…。

そして、執務室の前に着く。

もう後戻りはできない、覚悟を決めろ。

扉をノックする。

 

「どうぞ」

 

執務室から返事が来る。

 

「失礼します」

 

と言い、扉を開ける。

すると机越しに指揮官は座っていた。

隣には大淀さんが立っている。

 

「それで、どうするんだい? 君の選択は?」

 

今なら別の選択もできるだろうが、もう決めたことだ。

 

「これより、貴官の指揮下に入ります。指揮官殿」

 

まっすぐと敬礼をする。

指揮官は、上機嫌な顔をしながら、

 

「歓迎するよ、少尉」

 

と言い立ち上がる。

大淀さんは少し複雑そうな顔をしながらも書類を作成し始めた。

これでもう俺は後戻りはできない。

もしかしたら後で後悔するかもしれない。

でも俺は、誰かを守るために戦えて、生き残れるならそれで良い。

そう思っていたのだった。




白雪たちが出ると思った?
残念‼ あれからしばらく吹雪型には出番がありません‼(吹雪型押しの方本当にすみません)
きっとしばらくしたら出番があるはずです‼ 第一期の主人公姉妹たちには……たぶん
空いた時間を使って全力で書いておりますので誤字が入っているかもしれません。
遅くなってすみませんでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 機体改修

今回は早めに書けました~
少し文字数は少ないですが…


海軍航空隊基地

 

「君は今日から爆撃機を護衛する護衛戦闘機隊に属してもらう。そのためには」

 

自分のハンガーの前に立つ。

 

「まずはこれを改修をしなければならないな」

 

人により作られた戦闘機のため、深海棲艦に効果があるかは分からない。

そのために、これからの武器の製造、補給、機体の修理などは妖精さんにお願いすることとなった。

 

「あの、指揮官」

 

「どうした?」

 

「この機体に対応する燃料ってあるのですか? ジェット戦闘機はデリケートなので…」

 

少しでも不純物が混ざる燃料だと、エンジンが不調を起こし墜落しかねない。

 

「それは心配ない。これがある」

 

と言い、機体の隣に置いてある緑色の缶を叩く。

 

「それは?」

 

「艦娘たちが採ってくる燃料だ。全てのものに対応できるらしい。実証済みで現在解析しているがどうなっているか艦娘にも分からないそうだ」

 

なんだよそれ。

簡単に言えば魔法の燃料ということか。

 

「武装も、艦娘たちが採ってくる弾薬が全て対応する。これは妖精さんに渡すと不思議なことにありとあらゆるものに変化する」

 

なんと都合が良いのだろうか。

そんなのが俺の居た世界にできたら戦争になるのは避けられない代物だぞ。

共通の敵が居るからこそ国同士の戦争にはなっていないのだろうが…。

 

「どうやって採ってきているんですか?」

 

「様々な海域に遠征させていると自然と採ってくる。妖精さんに輸送船を建造してもらったら同じような燃料や弾薬が輸送中にできたことから輸送船はほとんどは妖精さん製になっている」

 

これも妖精さんの力なのか。

妖精とは一体何だろうか、もし深海棲艦にも妖精と同じような感じであれば…。

そもそも深海棲艦とは何なのだろうか?

 

「そういう訳で、今日から君の機体の整備などを担当してくれる妖精さん達を連れてきた」

 

すると、トラックがハンガーの正面に止まる。

そして荷台から作業服の少女たちが降りてきた。

あれが、もしかして…

 

「本日より少尉殿の機体整備を任されました。整備妖精です」

 

本当に大きくなるんだ…。

どういう原理なのかは分からない。

ただ、それに突っ込むと死ぬような気がする。

 

「よ、よろしく頼むよ」

 

しかし、彼女らにこの機体の整備ができるのだろうか?

この世界に存在するか分からないジェット機。

その為、軍事用のであっても公開されているとは思えない。

 

「この機体分かりますか?」

 

もし壊されたらたまったもんじゃない。

戦う手段がそれこそ泳ぐしかなくなる。

 

「大丈夫ですよ少尉、私たちを信用してください‼」

 

「整備ちょー、ここどうなってるんですか?」

 

「そこは…たぶんこうよ‼」

 

不安だ…

________

 

数時間後 p.m.5:30

 

作業を始めてからどの位たっただろうか…。

ところどころに部品の説明をしながら作業を進めていると、

 

「これが本当に飛ぶの?」

 

と妖精さんに聞かれた。

この子は武器弾薬整備員としてミサイルを運搬しているところだった。

 

「飛ぶよ」

 

と即答する。

 

「こんな槍みたいな武器も? 竹槍のほうがまだ強そうだよ~」

 

そしてよく喋るのである。

 

「槍とミサイルを比べるな、整備員なんだから装備も把握しとけよ」

 

「初めて見る機体で把握するなんて無理でしょ」

 

「それもそうか…」

 

ミサイルなんてこの世界では考えられないような超兵器だもんな…。

対空ミサイルを機体のパイロンに取り付けていく。

 

「少尉~。これどうなってるの~」

 

「あっ!! レーダー勝手にいじるな‼」

 

最後の出撃の時に近代化改修とのことで優先的に回されたアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダー。

前のレーダーは少しこちらで設定を変更しないといけなかったから面倒だったけど、これに変わってだいぶ楽になった。

それを壊されると戦えなくなるし、凹む。

 

「バルカン砲のオーバーホール(分解点検修理)終わったよ、どうやって分解したっけ?」

 

「ちゃんと覚えておこう、冗談だよな?」

 

「……」

 

「何か言えよ‼」

 

本当にこの整備員たちで平気だろうか。

ていうかこれ終わるのか?

 

「武器の増産、工廠に頼みましたよ」

 

「20mm弾はなんとかなるけど、このみさいる?はどうする~?」

 

「燃料も使うみたいだから弾薬と燃料混ぜて作ればいいんじゃないの?」

 

そんな適当でできるなら量産なんて簡単にできる。

いや待て、この世界のことだから魔法的ななにかで完成させるのかもしれない。

 

「明石さんに頼んでみる?」

 

「それが一番早そう」

 

結局、俺を引き揚げてくれた人に頼むこととなったようだ。

_____________

 

数分後

 

「これが依頼のぶつですか?」

 

「言い方なんとかなりませんか…」

 

明石さんがハンガーへとやってきた。

整備長いわく呼びに行ってたらわずか数秒で工廠から出てきたらしい。

 

「まさか、そこに積まれてるものを全て増やせということですか?」

 

「そうです」

 

明石さんが難しそうな顔をする。

 

「とりあえず一発ずつ分解してみても大丈夫ですか?」

 

ミサイルの余裕があればいいが…。

 

「補給員、今のミサイル数は?」

 

「近距離対空ミサイル86発、中距離対空ミサイル50発、対地ミサイル46発、対艦ミサイル30発、滑空爆弾24発、2000ポンド爆弾60発です」

 

結構種類があるようだ。

しかも俺が居た時に配備してもらっていたもの以外も置いてある。

一体どこから持ってきたのだろうか?

 

「各一発ずつなら構いません」

 

「なら早速もらってきますね!」

 

そう言い、後に来たトラックに各一発ずつ載せていく。

そしてその後、工廠に籠った明石さんを外で見ることができるようになったのは2か月後である。

________________

 

翌日 7月30日 a.m.4:32

 

気が付いたら日付が変わり、空の端が薄っすらと明るくなり始めていた。

 

「どう? 動いてるか?」

 

操縦桿や、スロットルを動かし、動きを確認する。

機体整備員が動きを確認して親指を立てた。

 

「大丈夫だよ‼」

 

「終わった~」

 

整備員全員に疲労が見られた。

当たり前か、ほぼ一日半全て整備に使ったもんな。

ようやく全ての確認要項をクリアした。

武装も妖精さんが整備し、弾薬もメイドイン妖精さんだ。

これで戦えるだろう。

 

「それじゃ、各自解散かな」

 

「「「「えっ?」」」」

 

妖精さんたちが一斉にこちらを向く。

俺は新しく割り振られたこの基地にある兵舎に行くのだが…。

 

「まさか少尉殿、我々をここに放置するおつもりですか!?」

 

「お前ら部屋無いの!?」

 

「元々人が乗るのは私たちが作って整備は人がするの~。ただこれは前例がないから私たちが整備員として派遣されたの~」

 

簡単に言えば俺の機体が特別で妖精さんを専属で就けたはいいものの生活する場所を考えていなかったのだろう。

 

「格納庫に居たら?」

 

「こんなか弱い妖精さんを外に置いてくのですか!?」

 

「「「「「ブ~」」」」」

 

一斉に来るバッシングの嵐。

これ俺が悪いわけじゃない気がするけど…。

 

「でもこの人数は…」

 

「妖精さんは小さくなれるよ~」

 

そう言って肩に乗れるサイズまで小さくなり肩に乗る。

まあ、大きさがこれ位になるなら。

 

「分かったよ、俺の部屋に来な」

 

「流石少尉殿‼」

 

整備長、すこしうるさいです。

最終的に妖精さんは俺の部屋で寝泊まりすることとなった。

お陰でベットは完全に制圧され、俺は床で寝る羽目となった。

うん、今度布団の出し方勉強しよう。

そう思いながら、静かに眠るのだった。

______________

 

同時刻 執務室

 

「分かりました。それでは…」

 

電話を切り、静かに椅子に腰かける。

 

「演習の申し込みですか?」

 

「ああ、艦娘たちの演習は不思議なことが多い。それの分析も兼ねてだそうだ」

 

大淀が書類をまとめる。

 

「実弾を使っても大破までで沈まない、航空機は撃墜されても戻ってくる、しかも演習が終われば損傷はなくなる。消費するのは弾薬と燃料のみですからね」

 

つまりこれは実弾を使った本当の戦争を被害をなしに訓練でできるという事だ。

これは艦娘同士、もしくは妖精さんが作った武装なら味方同士なら演習戦闘として死亡がなくなる。

この演習は実験兵器を実際に動き、抵抗する敵に対して使える。

科学の発展も一気に進めることができるのだ。

 

「今回の演習は、彼を使うことにしよう」

 

すると大淀があからさまに嫌な顔をする。

まだ信用ができていないのだろう。

 

「彼ですか…もし敵なら味方が沈みますよ」

 

「彼は味方だ。妖精さんの改修も別に困らず受けた。それに敵ならもう行動を起こすだろう」

 

「様子見かもしれませんよ、妖精さんの改修によりこちら側がどれほど重要拠点となっているのか調べているのかもしれません」

 

「どっちにしろ、明日になれば分かることだ。もし敵なら…」

 

ゆっくりと横を向き、窓の外を見る。

そこから、太陽が昇り始め、明るく照らされ始めた母港が映った。

 

「彼の格納庫を砲撃で粉砕し、彼は撃墜し魚の餌にするさ」

 

彼の戦闘機がどれほどの性能か知らないが、所詮一機である。

それにプロペラがないのでまず飛べるかどうかすら分からない。

そこまでの脅威でもない。

期待もあまりしないほうが良いのかもしれないな。

外には朝一に走っている艦娘たちが見える。

自分の仕事は戦争に勝つことだけじゃない。

彼女らを守ることだ。




次回はまた来週までに出せたら嬉しいです。
少し遅れても怒らないでくださいね。(豆腐メンタルなので…)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 模擬戦争 前編

7月31日 a.m.7:30

 

普段、この基地には大規模改装や修理などでしか全く大型船は見ることはできない。

しかし今日は、巨大な戦艦や空母が停泊していた。

今日の演習は艦娘たちも注目していた。

理由は、

 

「あれが一航戦と二航戦…」

 

前線で華々しい戦果を挙げ、無敵の艦隊を構成してきた主力空母たち。

それが今、目の前に居るのだ。

更に戦艦は連合艦隊旗艦を務める長門型、最近改装され最新鋭の装備を載せた金剛型などが停泊していた。

歴とした前線の主力艦隊である。

 

「私も、あそこでいつか…」

 

軽空母だけど、性能は優秀なはず。

これでも、前世はレイテ沖まで生き残った主力の空母だった。

努力すれば、きっと…。

 

「…PJさんも戦うのかな」

 

今回の演習は、特別ルールで行われる。

相手はこちらの鎮守府を射程に捉えれば相手の勝利、こちら側は相手を戦闘不能にすれば勝利になる。

更に、艦隊だけでは敗北するのは分かっているので、こちら側は航空隊の使用が許可されていた。

それはつまり、彼が飛んでいるのが見れる可能性があるという事だ。

 

「ちゃんと、私たちを守ってよ」

 

演習開始は一一三〇から、気合を入れないと‼

他の子たちと作戦を考えるために、その場から去るのだった。

__________________

 

海軍航空基地 a.m.11:20

 

「これより、本日の演習について説明を始める‼」

 

朝、提督から説明を受けた。

全く信じられない事だ。

攻撃したら沈まず大破まで、しかも乗員は死んでも戻ってくる。

航空機は撃墜されたら演習終了と同時に格納庫に戻ってきて、パイロットも無事。

これは新兵の訓練にうってつけだろう。

実際に動き、抵抗する敵に対して撃てるのだ。

ダメージコントロールも実際の損傷で試すことができる。

他の人が犠牲になっても平常心を保てるような心も訓練できる。

前の世界なら、どれほど重宝されるだろうか。

 

「~~より、間もなく防衛演習が開始される! 敵は艦隊の編成は空母4、戦艦4、防空巡洋艦2、巡洋艦2、駆逐2である‼」

 

敵はだいぶ大規模のようだ。

 

「味方は軽空母3、戦艦2、重巡1、駆逐4である‼」

 

あれ~? これ勝てる気がしないぞ~。

 

「敵艦の位置はすでに把握しており、演習開始と同時に攻撃を仕掛け、敵戦艦の排除を行う‼ 味方が出番が無くなるほどに叩くぞ‼ それと本作戦では新しく入隊したジェームズ少尉も参加する。少尉は第二次攻撃隊として、待機していろ‼」

 

「了解‼」

 

「それ以外のものは編成はいつも通りだ。以上」

 

そして一斉に敬礼をする。

俺もワンテンポ遅れてしまったが、敬礼をする。

 

「解散‼」

 

「「「「「おう‼」」」」」

 

各自が自分たちの機体の元へ走っていった。

俺もその中の一人である。

武装は、少し考える必要があるだろう。

急いで妖精さんと相談しよう。

______________

 

ハンガー

 

「武装はどうする~」

 

妖精さんが既に待機していた。

 

「AGM-65を六発、近距離対空ミサイル二発、中距離対空を二発だ」

 

「だいぶ重たくなるよ」

 

「構わない、飛べたらこっちのものだ」

 

「わかったよ~」

 

整備員が一斉に機体のチェックに入る。

弾薬が装填され、ミサイルがパイロンに取り付けられていく。

 

「少尉殿は先に乗っておいて構いませんよ。そこの方が落ち着くでしょう」

 

「ああ、ありがとう」

 

緊張しているのがバレたか、昔から顔によく出るからな。

梯子からコックピットに入る。

そして計器の類に目をやる。

この世界に来て初の戦闘、ここで周りからの信用を集めなければ。

この機体も、ここでただの鉄の塊と言われてだいぶ傷ついているだろう。

それを全て敵にぶつけてやる。

そして、サイレン音が鳴り響く。

周りの機体がエンジンをスタートさせ、プロペラを回し始めていた。

俺は、しばらく待機だな。

ヘルメットを被り、静かに離陸する機体を眺めているのだった。

_______________

 

数分後 航空母艦「赤城」

 

『赤城さん、偵察機から敵航空基地から多数の戦闘機と爆撃機が近づいていると報告が入りました』

 

「分かりました。直掩隊、発艦してください」

 

最近配備された最新鋭艦載機、烈風改が空へと羽ばたく。

私が載せていたのは零戦だった頃が懐かしい。

 

「…時代は変わるものですね」

 

艦隊は敵の防衛艦隊を撃滅してから、敵鎮守府を攻撃することで意見が一致した。

理由は敵艦隊を温存させると別の鎮守府で運営され、再び攻撃してくる可能性があるからだ。

今は魚雷に換装された流星改が次々にエレベーターから上がってくる。

敵艦隊の位置は大体把握できている、後は換装が終わるのを待つだけ。

それでも、何か嫌な予感がする。

まるで、あの日みたいに…。

___________

 

「機長、今回の演習、どう思いますか?」

 

周りには一式戦闘機「隼」や陸攻が爆音を奏でながら飛んでいた。

 

「これほどの大編隊を、一機も残さず迎撃するのは不可能だろう。敵さんにはしっかりダメージを負ってもらう。それで我々の友軍艦隊が一網打尽だ」

 

「そうですね、犠牲は出てても、最終的には勝てば…」

 

「犠牲はつきものだが、それを最小限に抑え、敵艦隊に辿り着くのだ」

 

すると、遠くの空から芥子粒のようなものが点々と見えてきた。

あれは…

 

「‼ 敵機‼」

 

相手は完全に直掩機の速度を上回っていた。

増槽を捨て、敵機に機首を向ける隼。

敵機は恐るべき速度でこちらに近づいてくる。

そして直掩機の機銃から火が吹くのが見えた。

曳光弾がまっすぐ敵に吸い込まれていく、はずだった。

 

「!?」

 

まるで人が、飛行機ができるか分からない機動で敵が弾丸の進路から外れた。

そして次は敵の機銃が光る。

隼が得意とするロールで回避する。

機動性辛うじて勝っているが、総合的な性能は敵の方が上だろう。

激しい格闘戦が繰り広げられていた。

 

「今のうちに敵機から離れ、敵艦隊に辿り着くぞ‼」

 

しかし、敵機の統率の取れた動きに各個撃破され、着実に数を減らす味方。

敵は無線を積んで、連絡し合いながら戦闘している事は彼らに知る余地はなかった。

乱戦を得意としている者は格闘戦に持ち込もうとするが、無線で確実な指示により自分たちのペースに持ち込めない。

翼が折れ、回転しながら墜ちる機体、爆散する機体、海面に突っ込む機体、そんな直掩機が増えるばかりだ。

 

「敵機、こっちに来るぞ‼」

 

ついに攻撃機編隊を襲撃してきた。

周りの陸攻が防衛機銃が射撃を始める。

しかし、効果があるとは思えない。

一機、また一機と数を減らしていくだけだった。

 

「振り切れ‼ 何としてでも敵艦隊に辿り着け‼」

 

生き残っている直掩機が必死に追い払おうとするが、返り討ちにされている。

しかし、彼らの働きは一瞬の隙を作ってくれる。

その隙に敵機から離れる。

そして水平線の先に、巨大な船が見えてきた。

 

「敵艦だ!」

 

ようやくここまで来れた。

残りの陸攻は我々を含めて3機、10機以上がやられた。

この魚雷で、仇を‼

そう思った瞬間、敵駆逐艦から砲弾が飛んできた。

最新鋭の電探を搭載し、信管が調整され放たれた対空弾は陸攻の近くで破裂し、破片をまき散らいした。

その破片が運悪く魚雷に当たったのか、一機が爆散する。

 

「相手は、強すぎる…」

 

次の瞬間、風防を破り、巨大な円錐状のものが機体に入ってきた。

そして、体が押し潰される感覚が来る。

それを最後に、意識は空の彼方へと飛んで行った。

彼の機体は10cm連装砲の直撃を喰らった。

そして機体内部で破裂した砲弾は、機体を空中で一瞬でスクラップとしたのだった。

___________

 

海軍航空隊基地

 

『第一次攻撃隊は全滅した模様。至急第二次攻撃隊は離陸せよ』

 

スピーカーにより報告が入る。

予想していた通りの結果となっていた。

しかし、たぶんこの無線も通じないだろう。

通じるのなら無線で呼びかけるのが普通だからだ。

そうなると、連絡や戦略の組み直しを戦闘中にできないのは相当痛い。

外では他の戦闘機や爆撃機が離陸を始めた。

 

「少尉殿‼ いつでも行けます‼」

 

燃料のホースが外される。

こちらも行くとしよう。

スイッチを押し、計器などの電源をオンにする。

 

「こちらPJ、だれか聞こえるか?」

 

一応無線で呼びかけてみるが、反応が無かった。

仕方ない、独断の判断で行動しよう。

エンジンを始動させる。

外からターボファンエンジンの独特な音が聞こえてくる。

エンジンを起動させたのはこの世界では今日が初めてだ。

妖精さんは驚いたような顔をする。

操縦桿を動かしたり、ラダーを踏んだりして、翼を動かす。

機体整備員がそれを確認して、親指を立てる。

そしてチョーク(車輪止め)が外された。

ゆっくりと機体が格納庫の外に出る。

本当に動くのを見た妖精さんは目が輝いているように見える。

他の整備員も初めて聞く音に外に出て、俺の機体が動くのを見て驚いていた。

なんか少し恥ずかしい。

滑走路上には他の機体はない。

 

「どうか凹凸が一つもありませんように‼」

 

少しその場に止まり、最終チェックをする。

レーダーは正常、計器も正常、機体も正常。

俺の体は常に正常‼

 

「よっしゃ! 行くぞ‼」

 

アフターバーナーを吹かし始める。

機体が一気に加速を始め、離陸速度まで近づく。

そして操縦桿を引く。

すると機首が上を向き、体から重力が一瞬消えた。

そして浮くような感覚が体に伝わる。

高度計の数が段々と大きくなる。

この世界の空を始めて飛んだ瞬間だった。

 

「? これは?」

 

レーダーに明らかに味方編隊とは関係ない機体が映る。

帰還した味方か? それとも敵機?

味方編隊とは関係ないし、第一次攻撃隊は全滅したと聞いた。

なら、消去法で考えて…

 

「敵か」

 

敵をロックする。

この距離なら短距離ミサイルでも当たる。

 

「FOX2‼」

 

操縦桿の赤いボタンを押す。

すると機体の右横から白い煙を引きながらミサイルが敵機に向かっていった。

_________

 

加賀所属偵察機「彩雲」

 

「第二次攻撃隊の発進を確認、そちらに向かっています」

 

『こちら加賀、了解』

 

加賀さんに報告を出し、一時的に敵滑走路から離れる。

あまり長居するとバレるかもしれないからだ。

 

「敵基地には対空電探が無くて助かったよ」

 

電探はこの基地ではなく、南方の基地に多く製造されていた。

 

「離脱する?」

 

操縦手が聞いてくる。

 

「そうだね、あれが最後っぽいしね」

 

そう答え、外を見ると見たことがない機体が滑走路に止まっていた。

 

「なんだろう?」

 

「どうしたの?」

 

「ほら、あれ」

 

すると、その機体の後ろから火が吹き出すのが見えた。

 

「まさか、噴進弾の新型!?」

 

最近改修された伊勢型や、こちらの重巡洋艦が12cm30連装噴進砲を装備しているが、その噴進弾を飛行機に付けたのか?

まさか…特攻兵器?

 

「とりあえず、連絡しないと…」

 

無線機を手に取った時、噴進式の飛行機がこちらに何か撃ってきた。

 

「噴進弾‼」

 

機体が大きく旋回を始める。

この距離から噴進弾?

射程はともかく、まっすぐ飛ぶだけのものをどうして遠いところから…。

しかも弾幕を張る訳でも無く…。

しかし、次の瞬間、自分が想像していなかった事態が起こった。

 

「!? こっちに来る‼」

 

噴進弾が方向をこちらに向け、想像できない速度で接近してきた。

そして、それは機体の近くで爆発し、破片をばら撒く。

機体と体は八つ裂きにされ、地面へと墜ちていった。

______________

 

加賀型航空母艦一番艦「加賀」 艦橋

 

『噴進弾‼』

 

偵察機から緊迫した叫び声が響き渡る。

 

「こちら加賀、どうしました!?」

 

『こっちに来る‼』

 

次の瞬間、耳障りな音が聞こえ、無線から音が消えた。

…不味い事態になりました。

 

「長門さん、偵察機が敵の攻撃により撃墜された模様です」

 

『そうか、敵基地に近かったから無理もない。作戦には支障ないだろう』

 

飛行甲板では流星改、彗星一二型甲が飛び立っていった。

撃墜されたのは敵の基地だから?

それだけじゃない気がする…。

何か、あの運命の海域と同じ感じが…。

 

『第一次攻撃隊、全機発艦。これより敵艦隊を撃滅する』

 

加賀は不安を感じながらも、そのまま作戦を継続するのだった。

____________

 

鎮守府沿岸上空

 

編隊とバランスを取るためにぎりぎりまで速度を落としながらついて行っていた。

操縦桿がプルプルと震えている、失速しかけているのだ。

 

「レシプロは遅い‼」

 

この高度と速度では燃料効率は最悪だ。

そういえばさっき墜とした敵機、なんでこちらを攻撃してこなかったんだ?

離陸中を攻撃すればひとたまりもないのに…。

まさか、偵察機か。

そうなると我々の出撃は敵に報告されている、第一波が何もできず全滅したのはそれもあるだろう。

しかし、それでも理解できない。

なぜ我々を攻撃できる位置にいといて、本拠地は放置する。

まさか、対艦攻撃にリソースを割いて…。

 

「そうなれば、狙いは味方艦隊の撃滅か」

 

ここから味方艦隊の位置はこいつなら遠くない。

 

「すみません、少し編隊を離脱します」

 

無線は通じないので、言っても意味がないが…。

スロットルを上げ、機首の向きを変える。

気が付けば編隊のどの機体よりも加速した戦闘機は、味方艦隊の方向へと飛び去って行った。

_________________

 

祥鳳型航空母艦二番艦「瑞鳳」

 

攻撃隊を発艦させたが、予想通り全機撃墜されてしまった。

格納庫では彗星が爆装されていっていた。

 

「もう墜ちちゃったのかな…」

 

陸攻の第一次攻撃隊が全滅したと報告を受け、もしかしたらと頭の中に駆け巡る。

演習でも、周りで誰か死ぬ、それも面識がある人というのは辛い。

 

「無事でいてね…」

 

そう思いながら、空を見つめていた。

 

『偵察機より敵機捕捉の報告‼ こっちに向かってきてる模様‼』

 

「対空電探でも確認‼」

 

旧式だが、対空電探を一応積んでいてよかった。

 

「戦闘機隊、全機発艦して‼」

 

飛行甲板から零式艦上戦闘機五二型が飛び出す。

そして敵機編隊が居る方向にへと飛び去って行ったのだった。




書けました~
次回は少し遅くなるかもしれません…
ご了承ください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 模擬戦争 中編

遅くなりました~
今回は長めです。


鎮守府護衛艦隊より数キロ先

 

「敵機はどこ?」

 

敵の攻撃隊を探すが、一向に見当たらない。

どうなっているんだ、偵察機からの情報ならここのはず…。

母艦からは電探もここを指していると聞いたが…。

次の瞬間、後方の太陽が少し暗くなった気がした。

 

「まさか‼」

 

太陽の光で目が焼き付きそうになる。

そこの光の中から黒い物体が近づいてくる。

その黒い物体はこちらに向けて光弾を放った。

咄嗟に操縦桿を引き、それを回避する。

周りでは被撃墜機が過半数だった。

 

「奇襲か‼」

 

敵は降下速度を維持したまま打ち漏らした機体を破壊していった。

敵機の性能は高すぎる。

 

「ただでやられてたまるか‼」

 

自分の後ろにいた敵機を振り払うように旋回をする。

敵はそれを追って旋回を始める。

後はこっちのものだ。

旋回戦の恐ろしさを見せてやる‼

フラップを下げ、速度を犠牲にするかわりに絶大な旋回性能が手に入る。

あっという間に敵の後ろについた。

光学照準器に敵の姿が入る。

 

「これで終わりだ‼」

 

20mm機銃が火を吹く。

敵の機体に向けて弾丸が吸い込まれていった。

相手から火花が散るのが見える。

そして操縦席の中で炸薬が破裂したのか風防が粉々に吹き飛んだ。

敵機は急速に降下し、海面にダイブし、海とキスする。

 

「よし‼ やっ…」

 

しかし、次は私の機体の翼がもがれる。

無数に飛んできた弾丸は、私の意識を遥か彼方へと追いやった。

僅かながら損害が出たがほぼ圧倒的な戦力差で制空権が取られた。

遅れてやってきた雷撃隊や爆撃隊が、悠々とその空域を飛び去ってゆく。

偵察機は報告を出す前に撃墜され、攻撃隊が迂回しているのは知らされなかった。

電探が捕捉したのは先行した戦闘機隊で、正確な位置や高度は分からず、圧倒的不利な状態で彼女らは戦闘を強いられ、全滅した。

この空戦での攻撃隊の損害は0だった。

______________

 

祥鳳型航空母艦二番艦「瑞鳳」

 

『敵に制空権が取られました…』

 

絶望的な報告が耳に入った。

既に陸攻の第二次攻撃隊は全滅したと報告は入っていた。

基地航空隊の最新鋭機、紫電を使っても倒せない演習相手、本当に相手は私たちと同じ艦娘なのだろうか?

こちらに残っているのは天山のみ、これではまるで歯が立たない。

 

『扶桑より報告、敵攻撃隊目視』

 

「対空戦用意、最後まで戦い抜くのよ‼」

 

次の瞬間、巨大な砲声が聞こえた。

扶桑と山城が三式弾を射撃したのだろう。

しかし、上空支援が無いとなると既に勝敗は喫している。

空に巨大な花が咲くのが見えた。

敵機の爆撃機編隊がそこに飛んでいる。

敵機が海面すれすれにも見えた。

対空砲が雷撃機を優先して迎撃を開始する。

砲声は鳴り止まず、海に響き渡る。

海面付近に多数の爆発が起きた。

調整された信管は海面に落ちる前に破裂し、破片をまき散らす。

しかし、常に動いている敵機には酷く無力だった。

面制圧できるほど正確な砲撃は私たちにはできない。

距離が更に近づき、機銃が一気に射撃を始める。

曳光弾が線を引きながら飛んでいくのが見えた。

しかし敵機はそれを気にせず、雷撃できる距離までくる。

これ以上まっすぐ進むのは危険だ。

 

「回避行動急いで‼」

 

ゆっくりと向きを変える船。

 

『敵機直上‼』

 

急降下を始めている5機が見えた。

あの高度ならもう避けられない。

 

「最後に雷撃機だけでも…」

 

飛び立ってもすぐ撃ち落されるのがおちだが、何もしないよりは…

しかし、格納庫にいる艦載機を出すには遅すぎる。

もう駄目だ…。

そう思った時だった。

突然、急降下中の敵機が爆発し、吹き飛ぶ。

その破片が周りにも突き刺さり、一機が翼が折れ、それ以外は操縦手がやられたのか、海面へとまっすぐ墜ちていった。

破片の一部が飛行甲板に降り注ぐ。

一瞬で敵機が5機撃墜された。

その次はこちらに来ていた雷撃機が吹き飛ぶ。

一体何が起こっているのか分からず、混乱する。

すると見慣れない飛行機が頭上を通過した。

 

「あれは…」

 

あの時見た、PJさんが見せてくれた機体が、見たこともない速度で飛んでいたのだった。

__________________

 

「FOX1!」

 

中距離対空ミサイルが奥にいる敵機に向かって飛んでいく。

残り対空ミサイルは0。

後はバルカン砲のみか。

弾数はフルに残ってる。

残弾表示がバグっているのを除いて、問題はないだろう。

レーダーでは敵は混乱状態になり、一時的に攻撃を中止し編隊を組み直すのが映っていた。

 

「さあ、一緒に踊ろうじゃないか」

 

増槽を海面に捨てる。

MFD(マルチファンクションディスプレイ)の左上にあるAAMと表示されているOSBを押し、武装をGUNに切り替えた。

ガンサイトはLCOS(リード算定式光学照準) モードにする。

 

「ガルム2、エンゲージ‼」

 

攻撃機を優先して叩く。

急降下して敵編隊に目標を定める。

そして編隊の先頭に立っている機体をロックする。

敵機がピパーの中心部に入った。

 

「Gun's Gan's Gun's‼」

 

チョンっと少し指切りをするぐらいでトリガーを引く。

毎分6000発の射撃速度を誇るM61A1が高速で弾丸を吐き出した。

それはピパー上にショットガンのようにまき散らされる。

敵機は木端微塵となり、海に消える

まき散らさられた弾丸に運悪く当たったのか、もう一機が翼がはじけ飛び、海にダイブした。

エアブレーキをかけ、残りをバルカン砲の餌食にした。

敵の直掩機がこっちに飛んでくる。

 

「その程度で俺を落とせるか?」

 

スロットルを上げ、敵機から離れる。

その間にも、別の攻撃機を狩っていた。

レーダーにはおよそ70以上の敵機、40機あたりが攻撃機だろう。

海面付近を飛んでいる機体を優先的に排除していった。

直掩機たちは挟み撃ちの作戦でこちらに襲い掛かるが、

 

「無駄だ‼」

 

正面の敵機はロックし、ピパーの中に入れる。

そして弾丸の雨を降らせた。

敵機は回避しようと機体を動かしたが、ショットガンのように広がる弾丸を避けきれず、爆発四散した。

後方のは無視していく。

 

「海面のは終わったかな、次は爆撃機だ」

 

あまり優先せず、ほっといたため、体制を立て直し攻撃用意に入っていた爆撃機を20mm弾が襲う。

焼夷榴弾が敵機を粉々に粉砕していく。

敵に大型機がいないお陰で楽々と作業が進んでいった。

トリガーを引けば一機、また一機と数を減らしていく敵。

まるで事務作業のような感覚である。

しかし、

 

「なっ!?」

 

機体に振動が走った。

衝突防止警報装置が作動していた。

真上を見ると、敵の編隊がこちらにダイブしてきていた。

あの距離から当ててくるとはな。

そこまで酷い損傷はない、小口径の弾丸か、当たり所が良かったのだろう。

アフターバーナーを点け、加速し、旋回をして振り切ろうとするが、敵直掩機はしつこくこっちをストーカーしてくる。

 

「当てやがったな、やり返させてもらうぞ」

 

敵の攻撃機はほぼ全滅しただろう。

敵直掩機は守るものが無くなり、お怒りのご様子だ。

しかし、運動性能はこっちが上手だ。

 

「20mmを喰らえ!」

 

まるで猛獣のような唸り声を上げるバルカン砲。

敵機はあっという間に粉砕された。

 

「しかし、この弾数は本当なのか…」

 

既にこの機体である装弾数の512発は既に撃ち尽くしている計算だが、HUDには残り数千発入っていると表示されている。

俺の相棒はいつの間にチートが使えるようになったんだ?

できればそのチートはミサイルで発動してほしかったが、そんな都合よくはなかった。

 

「残りもこれだけあればいける!」

 

全力射撃をしなければの話だが。

 

「俺の速度に追いついてみろよ‼」

 

_________________

 

鎮守府護衛艦隊 扶桑型戦艦一番艦「扶桑」

 

「凄いわね、まるで夢を見ているみたい…」

 

青い空で灰色の鳥が烈風を落としている。

灰色の鳥は私たちの軍の最新鋭機を嘲笑うかのように次々に粉砕していた。

あれには少し、恐怖を覚える。

 

「……同じ匂いがするわ」

 

あの戦闘機、あれに乗っている人は私と同じ不幸な感じがする。

大切な時期に、実戦に出れなくなったしまった私と同じ…。

 

「扶桑さん、あれ本当に味方ですか?」

 

対空見張り員が不安そうに聞いてくる。

 

「味方ですよ、敵なら私たちも攻撃されます」

 

敵の雷撃機などは来ていない、敵が戦闘機単機で来るわけがないので、味方しかないだろう。

それでも、たった一機で来るのは可笑しいですが…。

 

「!? 敵機‼」

 

「えっ!?」

 

油断していた。

生き残っていた最後の流星が、こちらに魚雷を落とす。

きっと、ずっと機会を待っていたのだろう。

そして不幸にも敵は私を狙ってきた。

本当に自分の不幸にはうんざりする。

山城が対空砲を撃っているが、もう遅い。

戦艦の鈍足じゃ、避けられるわけが…。

 

「!?」

 

次の瞬間、魚雷があると思われる場所が水飛沫を上げる。

そして空からブオーという音が聞こえてくる。

空を見ると、あの戦闘機が白い煙を吐きながら降下していた。

それはあり得ない速さで弾丸を海面に撃っていた。

海面はまるで弾け飛ぶように水飛沫を上げていた。

そして奇跡的に魚雷に当たったのか巨大な水柱が立つ。

その飛行機はその水柱を切り裂き、飛び去って行った。

自分の不幸を、救ってくれた?

今までも不幸な目に会い、仲間に迷惑をかけていたけど

 

「あれなら…」

 

私を不幸から守ってくれるかもしれない…。

なんでしょう、この感覚は…。

ただ、なにか、今まで違う。

近代化改修でも感じられなかった、希望というものを感じたような気がした。

あれに乗っている人について行けば、私の不幸も救ってくれるのでしょうか?

それなら、私はその人について行きたい。

_______________________________

 

「シンク・レート(降下率) ドント・シンク(降下するな)」

 

警報が鳴り止まない。

油断していた、まさかまだ攻撃機が生き残っているとは…。

バルカン砲もえげつない速度で残弾を吐き出していく。

 

「当たれぇぇぇ‼」

 

高度計の数字がどんどん小さくなっていく。

エアブレーキをかけて降下する速度を抑える。

しかし、あまり意味が無いような気がする。

バルカン砲がオーバーヒートしている。

 

「シンク・レート テレイン(地表) ドント・シンク プル・アップ(引き上げろ)」

 

 

駄目だ、もう機体を引き上げないと海面とキスする。

それだけはさけないと…。

そして瞬きした瞬間、目の前に水柱が立っていた。

 

「プル・アップ プル・アップ」

 

操縦桿を引き、機首を上げようとするが、目の前の水柱は避けられない。

 

「耐えてくれよ…」

 

そして機体が水柱と激突する。

激しい揺れを感じ、警報音が鳴り響いた。

機体のバランスが一気に崩れ、高度と速度が落ち、機首が下がる。

 

「踏ん張れぇぇぇ‼」

 

操縦桿を引き、高度を上げようとする。

しかし、先ほどの衝突で速度を落とし、上昇してくれない。

警報が鳴り止まなかった。

エンジンが逝かれて無いことを信じ、A/Bを点火する。

 

「上がってくれ‼」

 

エンジンが巨大な音が上げる。

速度もエンジンの音と比例的に速度が上がっていった。

高度も上がっていく。

 

「あぶねぇ…無茶するんじゃないな…」

 

魚雷を機銃で破壊しようとするんじゃないな。

運が無ければさっきの衝撃で機体がバラバラになっていたかもしれない。

 

「次は敵艦隊か」

 

バルカン砲は先ほどの射撃で残弾が半分以上消えている。

ミサイルはシーカーに影響がなかったら6発残ってる。

しかし、装甲が厚いBBやHC(重巡洋艦)は対地ミサイルは貫通できないだろう。

できても対空砲などを破壊できるかできないかだ。

となると装甲が薄そうなCV(航空母艦)かLC(軽巡洋艦)、DD(駆逐艦)に限定した攻撃となる。

事前の情報ならCVは四隻、LCが二隻、DDが二隻のはず。

空母を優先して叩くか。

でもそれだと対空能力が高いであろうDDが残る。

初めに2発で駆逐を滅し、その後4発で空母をやろう。

そしてこの世界の船、過去の船は魚雷発射管が外に出ているのを見たから機銃で誘爆を狙い、LCを攻撃する。

しかし、どこに発射管があるのか分からない以上、一点集中の攻撃ができない。

奇跡を信じるしかないか…。

するとレーダーに幾つもの点が映り始める。

 

「しまった、遅すぎたか…」

 

敵の第二波だろう。

これを迎撃している暇は無い。

 

「音速で突っ込み混乱させるか、ソニックブームで敵機は破壊できるか?」

 

レシプロ戦闘機だろ、防弾ガラスが割れるか割れないかの間だろう。

エンジンを故障させれる? それも希望的だ。

なら無視していくか?

そうすると護衛対象を無視することとなる。

ていうかどんだけ艦載機を載せてんだ敵艦は、敵空母は移動要塞か?

 

「どうする…直掩機だけ墜として後は味方に頼むか…」

 

しかし、もし攻撃機がこちらの戦闘機より性能が高ければ?

それより、敵機は一体どうやって敵艦の位置を知っている?

偵察機? それともレーダー?

空から船ではなく、艦対艦のレーダーだろう。

なら通信している母艦を叩けばいけるか?

賭けだが、それしかない。

 

「速度的に、速攻で終わらせられれば…」

 

空母はミサイルで、戦艦はレーダーは露出しているはずだからそれを破壊する。

 

「残り燃料は、帰り分あれば大丈夫!」

 

そう考え、敵編隊の中央を突破する形で突入した。

_____________

 

数分後 赤城艦載機 第二次攻撃隊

 

「各機、警戒を怠るな」

 

第一次攻撃隊はたった一機の戦闘機に壊滅させられたらしい。

信用できないが、もし本当なら鬼神が飛んでいるとしか考えられない。

そんな鬼神に我々は勝てるのか?

我々の艦隊の最強と言われた一航戦の戦闘機隊を全滅された敵。

それは突然、目の前に現れた。

 

「? なんだあれは?」

 

小さい点が近づいてくる。

それはこちらに真っ直ぐ向かって来ていた。

 

『敵機‼』

 

ありえない、あんな速度で飛べる飛行機なんてある訳が…。

混乱している内に、敵から煙が吹き出した。

 

「なん…」

 

次の瞬間、目の前が真っ暗になる。

何が起こったのか理解する前に、私の意識が消えた。

M61A1が放った機関砲弾は一瞬にして一戦闘機編隊を吹き飛ばす。

それを見た攻撃隊は回避行動を取るが、不幸にも彼の射線に入ったものはショットガンのように広がる20mm弾を避けることはできずにバラバラになっていった。

直掩機が追おうとするが、亜音速で飛行するものを追いつくことはできなかった。

敵攻撃機編隊を突破したF-16は、敵艦載機が飛んできた方向から推測した敵艦隊の位置へと向かうのだった。

_____________

 

数分後 飛龍型航空母艦一番艦「飛龍」

 

『こちら攻撃隊‼ そっちに敵機が‼』

 

「こちら飛龍、了解‼」

 

まさか第二次攻撃隊も襲われるなんて…敵の航続距離は零戦かそれ以上、しかもプロペラが無い。

演習前に陸上戦闘機は航続距離が短いのしかないって言ってたのに…、蒼龍ちゃんの嘘つき‼

 

「も~、意味が分かんない‼」

 

『全艦、敵が来ますよ‼』

 

赤城さんが通信を入れる。

 

『こちら秋月、電探に機影を発見! 敵機と思われ…』

 

次の瞬間、眩しい光が目に入る。

そして秋月ちゃんの艦が黒煙を上げた。

鈍い音と爆発音が遅れて聞こえてきる。

 

「まさか、今のが敵の!?」

 

そして照月ちゃんの艦も爆発が起きた。

駆逐艦の高さを超える爆発が起こり、艦橋が吹き飛ぶのが見える。

魚雷に誘爆したのか、船体が真っ二つに折れるのが見えた。

そして、まるで時が止まったようにその状態で動かなくなる。

これが艦娘同士の演習で沈没艦が出ない理由。

轟沈してしまうレベルまで達するとその船の時が止まるのだ。

僅かこの数秒で、防空駆逐艦が二隻も撃破される。

 

「敵機発見‼」

 

妖精さんが指を指した方向に双眼鏡を向ける。

すると灰色の何かが見えた。

それは今まで見たこともない速度でこちらに近づいてくる。

 

「直掩隊各機上がって‼」

 

間に合わないかもしれないけど、何もしないよりは…。

そして敵機は私の直上を通過する。

耳が痛くなるような音を出しながら飛んでいく。

 

「何なのよも~‼」

 

対空砲が空へと砲弾を撃ち上げるが、全く届かない。

敵機はいつの間にか見えない位置までに移動していた。

 

「今のうちに艦載機を…!?」

 

ふと顔を上げると、加賀さんから爆炎が上がっていった。

そして鼓膜が破けるのではと思うほどの轟音が海域に響き渡る。

 

「まさか一撃で…」

 

圧倒的な力の前に、もう見えいるしかないのかもしれない。

後を追うようにして赤城さんからも爆発が起こる。

そして次は…

 

「蒼龍ちゃん‼ 逃げて!!!」

 

その叫びは虚しく宙を切り、蒼龍ちゃんの艦が火を吹き上げた。

残る空母は私だけ、まるであの時みたいに…。

頭の中にあの日の記憶が呼び起こされる。

そしてついに私の順番になった。

黒い塊が飛行甲板に突っ込んできた。

AGM-65Eの遅延信管は飛行甲板を貫通し、格納庫内で威力を解放する。

136kg榴弾が炸裂し、格納庫は爆風でありとあらゆるものを破壊し、誘爆させる。

火が船体のあちこちから吹き上げた。

この艦橋にも…。

_______________

 

長門型戦艦一番艦「長門」

 

「飛龍轟沈(判定)‼ 一航戦と二航戦がやられました‼」

 

まさか、敵機がここまで強いとは…。

想定していた事態とは全く違う。

事前情報では全くなかった未知の最新鋭機、それはまるで悪魔のようだ。

一瞬にしてこちらの主力空母達が撃沈する力を持つもの…。

まるで味方では無いように一撃を躊躇せずに撃ってくる。

相手は相当な手練れだろう。

それが今度はこちらに飛んできていた。

 

「主砲、三式弾装填完了‼」

 

主砲が旋回するが、もう遅い。

対空砲が狙い撃つも、当たる気配すらない。

次の瞬間、敵機はこちらに機銃を放つ。

ありえない速度で飛んでくる弾は艦橋の防弾ガラスを容易く打ち破り、中で破壊をもたらす。

 

「っ‼ 報告!」

 

「航海長が意識不明!」

 

『対空電探がやられました‼』

 

「通信機器が破損、使用不能‼」

 

ダメージは予想以上に大きい。

本当に今のは機銃なのか?

 

「主砲、旋回完了‼ 仰角調整中‼」

 

主砲が敵機の居る方向を向いている。

普通は対空電探などで敵の位置を計算して砲撃をするが、潰された以上は目測でやるしかない。

命中率は絶望的だろう。

しかし、一人一人が熟練した腕を持つ妖精たちなら、やってくれるかもしれない。

 

「全主砲、仰角合わせました‼」

 

「全主砲、斉射! てぇぇぇぇ‼」

 

重い砲撃音が連続して耳に入る。

硝煙が甲板に立ち込めていた。

____________

 

「ファイア‼」

 

一隻目の戦艦をやり、二隻目を攻撃する。

こんな大きさの戦艦を見ることができるとは…。

ノースポイントでは同じような船が昔あった的な話を聞いたことあるな。

 

「BB相手にバルカン砲だけか…」

 

ここまで無力な攻撃と感じたことは少ないだろう。

せめて補給してからの方が良かったか?

まあ、そんな暇ないから飛んできたのだが。

 

「まあ、敵の対空砲は意味ないし、大丈夫だろう」

 

とりあえず、艦橋に20mmを叩き込む。

何発かが弾かれながらも、上部のレーダーと思われるものは崩れ、艦橋の強化ガラスはただのガラスのように粉々になる。

艦橋内は地獄だろうな。

そして次の目標に向かおうと方向を変えた時だった。

バックミラーを見ると、一隻の戦艦が爆煙を上げていた。

バルカン砲だけで弾薬庫が引火するわけがないし…。

まさか…

額に冷たい汗が流れるのを感じる。

反射的に操縦桿を捻り、その場から離れようとするが、遅かった。

後方に幾つもの花火が咲く。

そして大きな衝撃が機体を襲う。

 

「うおっ!?」

 

何かが擦れ合う音や、ぶつかる音が聞こえる。

キャノピーはところどころにひび割れや傷ができる。

様々な警報が鼓膜を振動させた。

 

「メーデーメーデーメーデー! こちらPJ、被弾した‼ 無駄か…」

 

無線に呼びかけても誰も反応しない。

通じて無いから当たり前だが…。

幸い、エンジンが生きている。

エアインテーク(給気口)に破片が入らなかったのも幸運だった。

被弾箇所を計器や目視で確認する。

すると、主翼から白い霧が吹き出しているのが見えた。

 

「燃料漏れか…」

 

燃料計の減少スピードが加速している。

 

「基地までは持ってくれよ」

 

そう呟き、その空域から離脱した。

___________

 

数分後

 

燃料タンクが空になり、エンジンから火が消えた。

 

「基地までは戻れないか…」

 

幸いなことに、味方艦隊の近くまで飛んで来れた。

敵の攻撃隊は見かけなかったので、たぶん迷子になっているか、攻撃を終え撤退したのだろう。

攻撃をしたのなら犠牲はあっただろうが、生き残っている艦がいるので救助してくれるはず…。

そう信じて、滑空をする。

もちろん、滑空することを本業としているグライダーとは違うので落下スピードは速い。

そしてついに力尽きたのか、エルロンが宙を舞い、ラダーが動かなくなった。

もう、この機体は動かない。

高度は260mまで降下し、速度は360kmと失速。

機首が下がり、加速的に高度がどんどん下がっていく。

もうベイルアウト(緊急脱出)するしかないか…。

演習では失った機体は帰ってくると聞いたから、それを信用する以外あるまい。

 

「体を痛めませんように!」

 

そう祈り、レバーを引いた。

火薬式でキャノピーが最初に吹き飛ばされる。

次に射出座席が機体からブースターにより空に飛び出す。

その瞬間、体に10以上ものG(加速度)が体を襲う。

押し潰されるような感覚が全身にかかる。

意識が飛びそうになるのを必死に防ぐ。

速度0、高度0でもパラシュートが開く高度まで打ち上げてくれる射出座席の勢いはパイロットを生かしたいがために死ぬほどの苦痛を味合わせる。

まあ、演習では死なないらしいが…。

ブースターが止まり、座席が体から離れる。

俺の機体は海面に突っ込み、海中へと姿を消した。

本当に演習が終わったら機体は帰ってくるんだよな?

もし戻ってこなかったら格納庫に余ってる爆弾を基地で爆破してやる。

そう考えながら、海面へと降下した。

海面に着水したと共に、パラシュートは自動的に切り離される。

ライフジャケットのお陰で、しばらくは浮いていられるだろう。

まあ、味方が近くにいるので何時間も放置されなくて済みそうだ。

怖いには、サメにいきなり襲われるとか、スクリューに巻き込まれてミンチになることだ。

死なないとは聞かされているが、さすがに挽肉にはなりたくはない。

そう思いながら、なにもない大海原を漂っていた。

数分後、無事に着水地点に駆逐艦一隻が来てくれて、救助してくれた。

_________

 

朝潮型駆逐艦三番艦「満潮」

 

「味方戦闘機、墜落!」

 

激しい水飛沫が、少し離れた場所に上がった。

 

「搭乗員は?」

 

冷静に見張り員に聞く。

 

「あそこで落下傘で降下中」

 

さっきは戦闘機から風防を吹き飛び、火を吹き出して座席が飛んでいくのが見えたので搭乗員の安否が気になったが、無事らしい。

爆発したのかと思ったが、あれはなんだったのだろう。

 

「救助しに行きますか?」

 

「時雨に任せれないの?」

 

「時雨さんは距離が離れていますし、我々が一番近いですから…」

 

「仕方ないわね、助けに行くわよ」

 

「了解」

 

ゆっくりと船が降下している搭乗員の元へと向かっていくのだった。




遅くなってすみませんでした。
様々な用事がスケジュール表を埋め尽くしているため、1週間中には投稿するのが難しいかもしれません。
できるだけ早く投稿するようにしますが、遅くなっても怒らないでください…。
前編後編で終わらせる予定が予想以上に伸びたので中編となりました。
それと先ほど見たらUAが1000を突破してました‼
読んでくださっている方、応援してくださってる方、ありがとうございます‼
そして今更ですが感想くださった方、ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 模擬戦争 後編

すっかり遅くなりすみません。
なかなか文章が頭の中で出来上がらなくて……
次回はできるだけ早くします!!


朝潮型三番艦「満潮」 後部甲板

 

俺は生きているようだ。

あのGには押し潰されるのではと思ったが、人間の体は予想以上に丈夫らしい。

浮き輪が投げ込まれ、引き上げられた。

そして今、駆逐艦の甲板にいる。

 

「低体温症なったら大変なんで、代わりの服着てくださいね」

 

妖精さんが急いで代わりの服を持ってきてくれた。

男性用のセーラー服である。

受け取り、着替えようとしたら。

 

「私たちの前で着替えないでください!」

 

と言われ、ビンタを喰らった。

予想以上の威力と、突然のビンタに驚く。

今思ったら、妖精さんも女性しかいないんだな。

ちょっと待て、ならどうして男性服が…。

止めよう、これ以上は踏み入ってはいけない領域な気がしてきた。

とりあえず、妖精さんに空いている部屋に案内してもらい、そこで着替える。

軍用船は何度か乗ったことあるが、ミサイルが開発される以前の船は乗ったことは無い。

窓からは巨大な戦艦が黒い煙を吐きながら動いていた。

生きているうちにこんな光景が見れるなんて、長生きはするものだな。

あっ、死んだから見れているのか?

 

「あの、着替え終わりましたか?」

 

「あっ、はい。終わりました」

 

扉が開き、妖精さんが入ってくる。

 

「それでは、艦橋まで案内します」

 

そのまま部屋で待機させられるのかと思いきや、艦橋に案内させられる。

できれば部屋でゆっくりしていたかったなんて口が裂けても言えない。

疲労で死ぬような気がしてきたが、仕方ないだろう。

 

「満潮さん、連れて来ましたよ」

 

すると、小さな子どもがこちらに近づいてくる。

 

「あんたが、あれに乗ってたの?」

 

多分、F-16のことを言っているのだろう。

 

「はい。 パトリック・ジェームズ・ベケット少尉です」

 

「満潮よ、一応よろしくね」

 

彼女は満潮というらしい。

本当に子ども戦場に立っているとは…。

今まで会ってきた人から想定すると、小型艦艇ほど年齢が若いのだろう。

つまり、俺が撃った駆逐艦の中にも…。

……演習では死なないと聞いたし、大丈夫だと信じよう。

 

「それじゃあ、本題だけど」

 

そう言い、この海域の海図だと思わるものを出した。

 

「敵艦隊の位置を知りたいの」

 

「えっ? この艦隊には偵察機は一機もないのですか?」

 

「敵攻撃隊に襲われて「最上」は中破し撤退、戦艦はカタパルトを損傷して使えないし、軽空母は一隻中破し撤退、二隻は無事だけど偵察機は既に全機撃墜されて無いのよ」

 

やはり、全ての敵を迷子にするのは無理だったようだ。

多分、艦隊の護衛に当たるために戦闘機隊の半数は撤退させたのだろうが、0にはしなかったようだ。

まあ、当たり前だろうが…。

艦隊が全滅するのを防げただけで万々歳だろう。

待って、空母が一隻中破? まさか瑞鳳さんでは…。

 

「中破した空母とは?」

 

「隼鷹よ」

 

隼鷹?

…ああ、あのいつも酔っぱらってる人か。

あの人を見て本当に普通の軍隊でないことを悟ったな。

あんな昼から瓶で酒を飲んでいる人なんてそうそう居ないだろう。

軍隊なら尚更だ。

いや、例外は居るかもしれないが…。

 

「攻撃機は残っているのですか?」

 

「少しだけならあるらしいわ」

 

少しだけか…、物量による飽和攻撃をしたいが、それは叶わなさそうだ。

ならどうする?

俺が別に作戦を立案する必要が無いが、協力している以上、少しは役に立ちたい。

しかし、艦対艦戦は専門外な上に、ミサイルが無い時代のものとなると俺の作戦は意味が成さない場合の方が大きいだろう。

 

「私の想定では、艦隊からこのあたりの数キロ圏内には敵艦隊は存在していると思います」

 

大体の場所を海図で指す。

敵艦隊だって移動しているのでどこまで動いているか分からないし、空母四隻を失ってまで攻撃してくるとは考えにくい。

演習だから、と言って攻撃してきたら別だが…。

 

「敵艦隊は空母4、駆逐2を失っているので…」

 

一瞬、艦橋の空気が凍り付いた。

俺の発言に何か問題があったのか?

 

「今、何て言ったの?」

 

満潮さんも、顔色が少し青ざめている。

 

「えっ、空母4と駆逐2を…」

 

「あ、相手は一航戦と二航戦よ? しかも今回の第一艦隊には防空巡洋艦や防空駆逐艦がいたはずよ…。なんでそんな被害が?」

 

きっと対空戦闘に優れている艦だったのだろう。

今思ったら、レーダーを照射されていた気がする。

しかし、回避するほどの命中精度ではなかったので無視していたが、そんなに凄いのか?

まあ、そんなことしているからほぼ無誘導の砲弾なんかに撃墜されるのだが…。

こんなんでは、笑い者にされるかもしれないな。

…そういえば、レーダーがまだ存在しないか出来立ての時代かもしれないな。

そう考えると、旧式でも映るだけで驚くのかもしれない。

ステルス性も潜水艦以外はまだ概念すらないだろう。

ちょっと待て、だとしたらずっとレーダー波を垂れ流してるのか?

そうだとしたら、レーダーを破壊するなら対レーダーミサイルが有効だったんじゃないか?

そんなもの確かハンガーの武器庫には無かったが、シーカーの構造は単純のはずだ。

受信した電波を辿ればいいだけだからな。

まあ、あくまで使う側の意見で、作る側はどうなのか知らないが。

明石さんに作れるか聞いてみるか。

そんな事より、質問に答えるべきか。

 

「自分が攻撃して、撃破しました」

 

艦橋が再びざわつく。

 

「ふざけてるの? たった一機の、しかも戦闘機が駆逐や空母を沈めるなんて…」

 

「事実ですので、疑うようでしたら演習後に相手に聞いてください」

 

「嘘だったら撃つからね」

 

撃つって…9mm弾だよな?

あの前に見えてる5インチの主砲じゃないよな?

て言うか撃たれるの⁉︎

 

「嘘だったらですよ…」

 

敵艦隊のレーダーの精度は知らないが、ここまで攻撃隊を誘導できるのだからもう探知できているのだろう。

俺が破壊したレーダーは多分対空レーダーだから艦隊戦には影響はそこまでないかもしれない。

艦橋内が破壊的な被害を受けてるなら指揮系統に影響が出ているはずだから有利だろうが…。

 

「敵艦隊がこのまま戦闘を継続しているなら、航空攻撃で可能な限りで相手艦隊にダメージを与えるべきです」

 

「あなた、なんで勝手に口出ししてるのよ」

 

確かに、部外者は黙るべきか。

 

「…まあ、参考にしてあげる」

 

そう言い、何かに語り掛ける。

無線か何かだろう。

…ん? 無線があるのか?

なら周波数帯を合わせれば通じたんじゃないか?

今度色々と弄ってみよう。

____________________

 

長門型戦艦二番艦「陸奥」

 

「長門、通信直った?」

 

返事が無い、まだ直っていないのだろう。

幸い私は電探と乗員が数名やられただけしか被害が無かった。

他の艦も対空電探をやられてしまっている。

艦隊の空母を全艦消失、対空砲は目測による射撃。

本当の戦闘ならば敗北だろう。

 

「他の娘は無事?」

 

『なんだよさっきのは!! あんなの聞いてねぇよ!!』

 

摩耶はだいぶご不満なようだ。

 

『落ち着いて、相手はもう撃墜したわ。もう襲ってくることはないはずよ』

 

鳥海が落ち着いて現状を整理していこうとする。

 

『さっきの航空機、プロペラが無いのを見ると噴進式航空機でしょう。たしか試験段階だったのでは?』

 

「そうだけど、実験しているのは九州の飛行場のはずよ。ここは横須賀よ」

 

『既に量産体制が整ったとかは?』

 

「あり得ないわ。それなら前線に最初に配備するだろうし、それに報告も挙がっているはずよ」

 

それが無いという事は、全くの最新鋭機か、同盟国の戦闘機、もしくは敵。

敵というのは演習と同じ現象が起こっているので、可能性は0に近いだろう。

なら、後は2択だ。

ただ、この2択はどれもあれの存在を証明してくれない。

横須賀の機能はほとんどが輸送艦隊の基地としてである。

建造も主に輸送艦、開発は航空機等もあるが、ほとんどが陸上攻撃機が作られているはずだ。

しかも実戦で戦うような部隊はトラック泊地やリンガ泊地などに送られる。

しかし、敵機は明らかな熟練だった。

空母をわずかな時間で殲滅、防空能力が高い防空駆逐艦を叩いた。

さらに機銃の攻撃で艦隊の空の目を破壊し、一部の艦には艦橋内のものが破壊されつくしている。

このような作戦を一人で遂行できるなんて、そんな熟練パイロットは聞いたことない。

仮に居たとしても、こんな後方な基地ではなく、前線の基地だ。

そんなことより、

 

「今の問題は、これ以上戦闘を継続するか。降伏するかよ」

 

降伏、演習とはいえ、帝国海軍最強の艦隊の顔に泥を塗ることとなる。

しかも降伏は今回の演習の目的の真反対の結果となってしまう。

今回の演習は練度の向上はもちろんだが、大きな目的は落ちた士気の回復だった。

前線での被弾や戦死者の続出により地まで落ちた士気を回復しないでは、本来の力を発揮できない。

そのため、後方の前線に出ない艦隊と演習し、彼女らの圧倒的敗北により士気を回復する予定だった。

予定だったのだ。

しかし、その予定はあの戦闘機により瓦解した。

 

『あの、相手艦隊に損失艦は一隻も居ないのでしょうか?』

 

不安げな神通の声が聞こえた。

 

「…いえ、中破で撤退した軽空母と重巡洋艦が居るわ」

 

『それ以外は?』

 

実質被害は無い。

しかし、敵艦隊の練度程度なら…。

 

『これが本当の戦闘なら、これ以上の戦闘は継続不可能では?』

 

確かにそうだ。

敵艦隊にはまだ無事な空母と戦艦が残っているのに対し、こちらは空母と駆逐が全滅。

更に対空電探は機能しない、通信も旗艦は音信不通。

普通の考えなら撤退だ。

しかし、このままメンツが丸潰れになる訳にもいかない。

ある程度は抵抗をしなければ…。

でも、どうやって?

これ以上の戦闘で、万が一、私たちが全滅したら?

それこそ前線の士気の低下は免れない。

なら、諦めるしか……。

 

『Hey girls!! あまり呑気に話している暇はないですヨ~』

 

そう言われた後に、電測員が声を上げる。

 

「報告!! 敵艦隊が我が艦隊に更に近づく。射程圏内まで残り僅か!!」

 

決断の時だ。

今ならまだ間に合う。

まだ、我々の士気を最低にしない方法が選べた。

 

「…各艦、砲撃戦用意!! 敵艦隊を仕留めるわよ!!」

 

しかし、自分の心には、負けを認めたくないという強いプライドが、降伏という言葉をかき消してしまった。

_______________

 

親潮型駆逐艦三番艦「満潮」

 

そろそろ、自分は艦橋から出してもらえないのだろうか?

そんな事を思ってから、一体どれ程経っただろうか。

そこまで時間は過ぎていないのかもしれない。

しかし、ずっと立ってるのは苦痛以外の何でもない。

他の妖精さんたちはよく我慢できるなと、感心する。

ただその我慢で俺が苦しむ。

俺まで座る事を許されていない感が漂ってきている。

 

「敵艦隊は?」

 

「まだ見えません」

 

「攻撃隊を要請するにも敵艦隊を見つける必要があるわ。少しの変化も見逃さないで」

 

「了解!」

 

双眼鏡を構え、敵艦隊を捜索する見張り員。

偵察機が使えない以上、目視で探し出すしか敵を見つける方法は無い。

駆逐艦が先行しているので先手を取られれば圧倒的に不利だ。

戦艦は遅れて到着するが、その前にやられてしまう可能性が大きすぎる。

先に敵を捕捉し、先手を取らなければ…。

 

ズドォォォォォン……

 

突如、周りに水柱が立つ。

その大きさはこの船の大きさを遥かに超えている。

船内を振動が襲った。

 

「っ!? 敵による砲撃!! 至近弾です!!!」

 

「回避行動を取りなさい! どこから撃たれたの!?」

 

「不明! まだ水平線の向こうだと思われます!!」

 

そうなると、レーダー射撃か?

いや、敵艦が戦艦だと仮定すると、あれだけ巨大な艦橋からだったらこちらが見えてる可能性もある。

小型な駆逐艦だと、分からないが…。

船での射撃がどれ程のものか知らないが、GPS誘導砲弾でもないのに最初の砲撃で至近弾は凄いのだろう。

つまりそれを修正した第二射は……。

次の瞬間、耳障りな金属音が大音量で響き渡った。

鼓膜を破くような轟音と共に、先程よりも巨大な衝撃が体に響く。

 

「後部甲板に被弾! 貫通した模様!!」

 

「被害は!?」

 

「過貫通したようです。被害軽微です」

 

「各部兵装健在です」

 

「機関部にも異常ありません。問題なく航行できます!」

 

装甲が薄いお陰で助かったようだ。

多分AP弾頭だったのだろう。

もしHE弾頭だったら、今頃海に散っていただろう。

 

「敵艦発見! 10時の方向!!」

 

ほとんどの乗員が一斉にその方角に顔を向ける。

その方角の水平線の所に、それは居た。

巨大な船体に、高層ビルを彷彿とさせる艦橋、それを向けられた敵の運命を示す巨砲。

まさに力の象徴である戦艦が、こちらに砲を向けていた。

それが放つ威圧は、恐怖で背筋を凍らせる。

しかし満潮さんの目は、戦意が一切消えていないのを物語っていた。

 

「進路を敵艦に取りなさい!! 砲雷撃戦用意!!!」

 

その言葉に、俺は耳を疑った。

あんなの勝てるわけがない、勝てない戦いは避けるべきだ。

 

「満潮さん! あれには勝てません!! どうか考え直してください!!」

 

俺が満潮さんに忠告する。

しかし、彼女は聞かなかった。

乗員たちもその指示に従い、敵艦に進路を取り、戦闘配備につき始める。

それは狂気とした考えられなかった。

 

「満潮さん!!」

 

「あなたは味方に戦わせておいて傍観する人なの!? このクズ!!」

 

その言葉に、俺は言葉を失った。

クズという言葉もそうだが、傍観するという言葉に俺は固まる。

俺は傍観するのが嫌で、この世界の軍に入った。

しかし、俺は今ここで、逃げるよう発言した。

それは他の艦が突撃してるのを、遠目で傍観しろと同じ意味だ。

いや、本当に同じ意味か?

味方が集結するまで、攻撃はしない。

戦力集中、各個撃破。

基本の戦法の一つだ。

現在、敵艦と接敵してるのは我々のみ、勝算は0。

せめて、味方が来るまで……。

 

「敵艦、更に発砲してきます!!」

 

しかし、もう引き返せないようだ。

航空支援はもうすぐだろうが、有効な損害を相手に与えるとは限らない。

 

「回避行動を続けながら接近しなさい!」

 

「よーそろー!」

 

舵輪を激しく回し、ジグザグ航行で敵艦に接近する。

周りには距離が近づくにすれ、量が増える水柱。

轟音が鼓膜を破かんばかりに鳴り響いている。

俺が普段見下ろし、小さいと思っていた戦闘が今は巨大な恐怖として襲い掛かってくる。

しかし、恐怖で怯えては何も始まらない。

今考えるのは、この負け戦をどうマシな方向に転がすかだ。

俺には機体が無い以上、味方任せにしかできない。

なら、満潮さんには納得できるような説明をどうしたらいい?

彼女は、自分が戦うことしか考えていない。

このままでは確実に……。

 

「友軍機、到着しました!!」

 

次の瞬間、頭上を大型な航空機が飛び去って行った。

あれは……銀河?

その後から次々に戦闘機や攻撃機が敵艦隊へと向かって飛んでいく。

何とか、基地航空隊と味方空母の支援が前線に間に合った。

_________

 

基地航空高速雷撃小隊1番機

 

「俺たちが居ない間に、仲間が世話になったな…」

 

他の陸攻と比べ、圧倒的な速度の違いで、いち早く敵艦隊まで接近していた。

敵直掩機が一機も上がってこなかったので、目視範囲まで余裕で到達する。

下には、砲撃を回避しながら、敵に近づこうとしている味方駆逐艦。

俺たちはそれを援護、もしくは近づく必要が無いように敵艦を叩くのが任務だ。

少し遅くなってしまったが、まだ味方の損害が少ない内に攻撃できる。

仕事を果たすには、絶好の機会だ。

 

「全機突撃!! 敵艦を海底に落とすぞ!!」

 

我々、高速雷撃隊のみに配備された無線機で攻撃を開始を合図する。

先頭で攻撃してるのは長門型といったところか。

その奥には金剛型がいて、周囲に高雄型、川内型が並んでいる。

敵はこちらに気付いてないのか、対空砲火は全く無い。

相手は対空電探を装備してるはずだが、何故だろう?

砲撃に夢中になっているのか?

まあ、それはそれで好都合だ。

目標は……先頭の長門型、多分陸奥だろう。

 

「全機、我に続け!!」

 

無線に叫び、陸奥の右舷に突撃する。

相手はようやく気が付いたのか、対空砲をこちらに撃ってきた。

相手は慌てているのか、俺たちから遥か遠くの空で炸裂した。

信管の調整も上手くいってないらしい。

これは貰ったな。

魚雷投下のために高度を落とすので、対空砲は更に当たりにくい場所となる。

 

「投下!!」

 

九一式航空魚雷が機体から落とされた。

合計で5本の魚雷が敵艦に向かう。

俺たちは敵の反撃を避けるために反転し、距離を取る。

すると別の敵艦には遅れて来た陸攻や艦攻、艦爆が攻撃をしているのが見えた。

魚雷だけでなく、爆装した銀河が急降下爆撃をする。

敵艦は航空機による同時攻撃に晒された。

回避行動をするため、砲撃は少し収まる。

しかし、鈍足な戦艦の回避行動は酷く遅い。

そして、陸奥から3本の水柱が立った。

魚雷は3本当たったようだ。

避雷により速度が落ちた陸奥に対し、爆撃が襲いかかる。

陸奥は黒煙を上げるが、流石は戦艦、まだ浮いている。

他の艦は戦艦を残し、殆ど全て停止していた。

しかし、戦艦は中々落ちない。

3発の魚雷を喰らっても尚、浮き続ける装甲の硬さは異常と言ってもいいだろう。

しかもまだ砲撃を続けている、まさに化け物だ。

航空攻撃はこれ以上は無理だ、後は海の仲間に任せよう。

そう思い、現空域を離脱するのだった。

_____________

 

朝潮型3番艦「満潮」

 

「扶桑が敵艦隊を捕捉しました!!」

 

すると、敵艦の付近に巨大な水柱が上がった。

敵艦隊は既に駆逐や軽巡を失っている。

素早い駆逐艦を大口径砲で仕留めるのは至難の業のはず。

 

「突撃するわよ!! 酸素魚雷を叩きつけなさい!!」

 

「了解!!」

 

機関が唸り声を上げ、速度が一気に上がる。

敵からの攻撃は明らかに減っていた。

敵戦艦はこちらの戦艦の対応に主砲を使用し、駆逐艦には構っていられる状況じゃなくなったようだ。

副砲は先程の航空攻撃で機能がほとんど失われているのか、砲撃による煙は主砲以外は出てこない。

先程までは優勢であった敵艦隊は、一瞬で窮地に陥っていた。

全速力の駆逐艦は僅かな時間で敵艦との距離を詰める。

魚雷の射程距離まで一瞬のうちにして接近した。

すると艦の中央を敵にさらけ出すように向ける。

 

「魚雷、いつでも撃てます!!」

 

「敵艦に大穴を開けてやりなさい!!!」

 

「魚雷用意、てぇ!!」

 

駆逐艦という小柄な船体からは想像ができない高威力な魚雷が一本ずつ海へと落とされていく。

海中に入った酸素魚雷はその独特な機関から気泡をあまり発生させること無く、静かに敵へと向かっていく。

しかし、敵は静かにこちらを眺めているだけじゃない。

敵戦艦は旋回を行い、こちらに腹を向けた。

一見すれば、被弾箇所が増えるだけの無謀な行為だ。

しかし、空軍で鍛えられた目には確かに見えた。

一本の船体から飛び出した筒がこちらを睨んでいる。

次の瞬間、筒から噴煙が上がった。

無意識に俺は満潮さんを抱え込むようにして背を敵艦に向ける。

刹那、敵艦から放たれた副砲弾は艦橋の下部に命中、爆発した。

艦橋のガラスは砕け散り、爆風が体を押し潰す。

意識を失いそうになる衝撃が体を圧迫する。

衝撃により俺は満潮さんを押し倒すように倒れてしまった。

満潮さんは衝撃により、僅かに朦朧とするが、すぐに意識を取り戻した

 

「うっ……!? ちょっとあんた!? どきなさいよ!!」

 

そう言い、俺を押しのけた。

この状況でも、まだ強気らしい。

その精神を見習わないとな……。

 

「っ!!!」

 

体を動かそうとするが、激痛が襲う。

先程の砕け散ったガラスの一部が背中に刺さってしまっているようだ。

パイロットスーツならある程度は防げたかもしれないが、今は布のセーラー服。

凄まじい勢いで飛散するガラス片は防げなかったようだ・。

 

「ちょっと、あんた怪我してるじゃない!?」

 

満潮さんが気が付いたようだ。

 

「私なんか庇うからよ!!」

 

背中に刺さったガラスは、大小さまざまだ。

露出しているものもあれば、体内に入ってしまっているものもある。

 

「私はいいですから、指揮を……」

 

俺が指揮に戻るよう促すが

 

「黙ってなさい」

 

そういい、自分の制服の一部を千切って、俺の身体に巻き付けた。

 

「こうなったのは私のせいでもあるし……ありがとう」

 

初めて、満潮さんから優しい言葉を聞けたことに感動した。

これに感動できるくらいだから、まだ余裕はあるのだろう。

そして、外では敵戦艦から巨大な水柱が立つ。

魚雷が命中したようだ。

780kgの炸薬が海中で爆発し、敵艦に穴をあける。

更に、爆発により海中に形成された無の空間に、海水が一気に流れ込む。

これが魚雷の大きな能力だ。

急に発生した空洞の空間に僅か数秒で大量の海水が雪崩れ込む。

それは強力な破壊能力を持ち、敵艦に穴を作り、海水を侵入させる。

それが何本も当たり、敵艦が動かなくなった。

撃沈判定で、停止したのだろう。

他の敵艦が狩られるのも、時間の問題だった。

________________________

 

数分後 扶桑型戦艦一番艦『扶桑』

 

最後の敵艦が爆発した。

とどめを刺したのは多分戦艦だろう。

巨砲から撃たれた徹甲弾は爆撃により疲弊した金属を貫通し、内部で爆発した。

派手な爆発を起こし、それを最後に静寂が海に戻った。

先程までの戦闘の激しさを物語るように、船の残骸が海面を漂っていた。

 

「終わりましたね」

 

「そうね。でも、まさか私たちが勝てるなんて……」

 

「帰ったらお祝いですよ!!」

 

乗員たちが盛り上がる中、扶桑一人は、不安に感じていた。

勿論、勝ったことが嬉しくないわけじゃない。

この演習が後々に影響してくることについてだ。

我々の後方艦隊に敗北する最強の第一艦隊。

もうそこには、最強ではなく、最弱のレッテルが張られても可笑しくない。

彼女たちはこれからどのような運命を辿っていくのだろう。

過去の私みたいに、戦場に出れずにずっと内地にいる?

一見、平和で幸せかもしれないが、様々な戦場を渡り歩き、激戦を潜り抜けてきた彼女たちには苦痛だろう。

今までは尊敬されていたのも、内地で邪魔者扱いされる。

昔の私みたいに……。

 

「そんな暗い顔しないでくださいよ、今回は勝利を素直に喜びましょうよ」

 

副艦長の妖精さんが話しかけてきた。

確かに、今はそんな事より、喜ぶべきかもしれない。

でも、彼女たちの事が頭から離れなかった。

 

「えぇ、そうね。とりあえず、演習を終わらせましょう」

 

演習は勝利側艦隊の旗艦(旗艦が撃破されていた場合は指揮権の持つ艦)が終了宣言することで終了する。

 

「演習終了、用具収め!!」

 

すると、一瞬時が止まったように、周りの世界が静止する。

そして瞬きすると、そこは演習を開始した最初の位置へと戻っていた。

これも演習の謎の一つである。

演習が終了すると、まるで時が巻き戻ったかのように場所や状況が戻される。

しかし、実際の時間と使用した弾薬や燃料類は消費した状態だ。

この事象を解明するには、100年近くかけようと不可能だろう。

研究員たちは毎回、意味不明な現象に頭を抱えるだけで、演習は終わってしまう。

お気の毒だが、毎回毎回研究のために仲間同士で撃ち合うのはあまり気分はよくない。

できれば、二度と味方と撃ち合うような演習が無ければいいのに……。

そうは思うが、確かにこの演習は多くの課題点を見つけ出したり、成長ができたりする。

多分、やめたくても、この演習は残り続けてしまうのだろう。

もっと平和な生活ができる一般人として生まれたかった。

軍艦として再び生まれた事に、何度も不幸だと感じる扶桑だったが、今回は嬉しい事もあったし、気になることもあった。

今回は、この演習と艦娘として生まれたことに感謝しましょう。

そう思いながら、水平線を眺めていた。




久しぶりの投稿に、私の事を覚えている人が居るだろうかと不安に思いながら投稿します。
これで誤字があったら結構……。
あっ、これは書き終えてすぐに投稿してますのでお察しください。
感想をくださった方々、評価してくれた方、お気に入り登録してくださった方々、本当にありがとうございます!!
それを励みに頑張っていますので、これからもご付き合いくださいm(__)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 演習後

サブタイトルのセンスのなさ……
遅くなってすみません!


基地航空隊 ハンガー

 

「……え?」

 

突然、目の前が真っ白になったと思ったら、自分はハンガーに戻っていた。

さっきまでは、駆逐艦の艦橋に居たはずなのに…。

負傷の度合いから、死んだことも一瞬考えたが、あの世では無いようなので違うだろう。

背中の怪我は無くなっており、痛みもない。

いや、まだ痛かった感覚は残っているが、それは薄れていっていて、追加の痛みはない。

しかも、俺は今、被弾し墜落してスクラップと化したはずの自分の愛機に乗っている。

演習で機体が破壊されても戻るのは、本当の事だったらしい。

 

「一体何がなんだか……」

 

ヘルメットを外し、キャノピーを開けて外に出る

 

「お疲れ様です! 少尉殿!」

 

元気が良い整備長の声で、ここが現世……いや、俺にとっては異世界であることを証明してくれた。

 

「ぷっ……何その腑抜けた顔」

 

補給担当の妖精さんが、こちらを見て笑った。

 

「こんなこと初めてだからだよ……」

 

「だからってその顔は…ぷぷっ」

 

「わかった。お前今日はベットで寝るの禁止な」

 

「えっ⁉︎ じょ、冗談じゃないですか〜」

 

「俺に冗談が通じると思うなよ、今日は床で寝ろ」

 

「そ、そんな〜……」

 

絶望した顔で、補給に戻っていった。

 

「その、少尉殿」

 

「ん? どうした?」

 

整備長が真剣な顔でこちらを見ていた。

まぁ、いつもこんな顔だが、今はそれを更に真剣にしたバージョンだ。

 

「鎮守府より呼び出しがかかっています」

 

その瞬間、悪寒が俺の背筋を走る。

まさか、何かやらかしたか?

確かに、演習で大暴れしたが……。

まさか、それが問題に?

様々な疑問が頭に浮かびあがってくる。

それがハッキリとしないまま、鎮守府より来て迎えの車に乗るのであった。

_____________

 

数分前 鎮守府 執務室

 

「まさか、勝つとはな……」

 

相手は海軍の主力艦隊、それが少しの力しかない我々の防衛艦隊に敗北をしていた。

信じられないを通り越して、何か細工があったのではないかと思う程だ。

 

「提督、彼の戦果です」

 

大淀がそう言い、資料を俺に渡す。

そこには信じられない戦果が載っていた。

————————————————

航空母艦 4隻、駆逐艦 2隻 撃沈

軽巡洋艦 1隻 小破

戦艦 4隻、重巡洋艦 2隻、軽巡洋艦 2隻 損傷

航空機 約80機 撃墜

————————————————

 

「彼だけで、ここまでやれるとは…」

 

「提督、やはり彼は危険です。早急に彼を除隊させ、追放すべきです」

 

「いや待て、ここまでやれる兵士を、捨てるのは勿体ない」

 

彼が居れば、新しい光が見えてくるかもしれない。

しかし、大淀はリスクの大きさから、それを否定する。

 

「もし彼が敵ならば、この鎮守府はどころか、大本営まで被害を被る可能性があります。それに、彼が優れているかどうかわかりません」

 

「と、言うと?」

 

「彼ではなく、彼の戦闘機が強いのです。危険分子は遠ざけ、機体だけ我々が接収し、解析し、量産すれば良いのです」

 

確かにそれは合理的だし、リスクが少ない。

しかし、全くないわけではない。

 

「だが、我々にあの機体の構造が理解できるのか?」

 

「それは、明石さんなどに解析してもらって……」

 

「そこでミスが発生し、戻せなくなったら? それこそ最高戦力が瞬間でスクラップになる。それに、あの戦闘機を不憫なく使えるのは、現状彼しか居ないんだ。彼が居なかったら、誰が操縦方法を説明し、熟練させていくんだ?」

 

大淀が苦しそうな顔をした。

確かに、ものを真似するだけなら、彼を追放して、戦闘機と武器だけを量産すればいい。

しかし、ものがものだ。

この世でたった一機しかない最強の戦闘機を勝手に弄り、性能低下ならまだしも、スクラップにしては目も当てられない。

彼は、我々にとっては無くてはならない、貴重な戦力になる可能性を秘めた……いや、既に最高戦力として運用可能な優秀な兵士だ。

それを手放すのは、愚策に他ならないだろう。

ただ、大淀の言い分も理解できる。

さっきの報告書での戦果は、人間の域を完全に超越していた。

彼の機体のお陰、それもあるだろうが、彼の腕も確かにあっただろう。

そう考えると、彼は何を思って、これほどの数を撃破できるのか。

味方を撃つのは普通は躊躇する。

これは当たり前だが、彼の戦果は明らかに、機械的に敵を処理したよう見える。

本当に彼には、心があるのか?

すると、扉がノックされた。

 

「入りたまえ」

 

「失礼します」

 

彼が執務室に入ってきた。

大淀は複雑そうな顔をしながらも、静かに私の隣に立った。

 

「何か御用でしょうか?」

 

彼の身体、顔は人間に見える。

 

「まぁ、そこまで細かい理由があって君を呼び出した訳ではないが、一応聞いておきたいことがあってね」

 

大淀が先程と同様の内容の書類を少尉に渡す。

少尉はその書類を見ても、別に特別驚きもせず、数字を見ていた。

 

「そこに書かれている戦果は正確かい? どうも、信用できなくてね」

 

悪く思わないでくれと言葉を付け足す。

彼は、少し首を傾げながら言った。

 

「艦艇の撃破数は同じです。航空機は自分でも数えて無いので、何機墜とせたかは……」

 

彼は、艦載機の撃破数は分からないと言ったが、艦隊の撃破数は正しいと言った。

もしかしたら、虚偽の情報かもしれない。

しかし、報告書でも書かれているとなると、正しいとしか言いようがないのだ。

何故なら、現場を見た艦娘自身が提出した報告書だからだ。

これを信用しないのは、艦娘を信用しないのと同じだ。

それは、提督としてはありえない事である。

信頼するしかないようだ。

そうなると、彼の処遇はどうするかだ。

 

「ありがとう、もう下がっていいよ」

 

「わかりました、失礼しました」

 

彼を部屋から退室させる。

その時、電話のベルが鳴り響いた。

 

「はい、こちら横須賀鎮守府です」

 

大淀が応答する。

すると、先ほどから険しかった表情が更に険しくなった。

 

「……提督、大本営からです。直ちに出頭せよと」

 

その瞬間、俺の身に猛烈な寒気がした。

何故こんな時に限って情報の伝達は速いのだろうか…。

これはお偉いさん方と楽しい楽しいお茶会を楽しまないといけないらしい。

激しい腹痛に襲われながら、静かに執務室を出るのであった。

 

———————————————————

 

数分後 基地航空隊 ハンガー

 

「今戻ったよ」

 

ハンガーに戻ると、バルカン砲のオーバーホール中だった

ドラムマガジンから空薬莢を排出してるようだ。

すると、まるで5.56mm弾のような大きさの薬莢が排出される。

待て、20mmではなく、なぜ5.56mmが使われている?

まさか、弾数が多かったのは、小火器の弾を使ったからか?

なら、威力や貫徹力が低下するので、海中の魚雷を破壊できるわけない。

まさか、これが妖精さんの力か!?

 

「あっ、おかえり〜」

 

のんびり口調の武器整備員の妖精さんがこちらに気がついた。

 

「おう、これ、薬莢小さくないか?」

 

「あ〜、これ? 発射速度に比べて搭載弾薬数が少なかったから、私達の技術で装填の段階で通常の大きさへ、排莢の時はまた小さくするように加工したの〜」

 

何その技術すげぇ!

 

「どういう原理なんだ?」

 

「それは企業秘密ってやつよ〜」

 

まぁ、そうそう教えてはくれないのはわかっていたが、気になるものは気になる。

 

「少しだけでいいから、教えてくれよ」

 

「駄目〜」

 

「よし、教えてくれたらなんでも奢ろう」

 

「実はね〜」

 

「少尉殿でも駄目です! あなたも買収されない!」

 

ちっ、惜しいところだった。

整備長がすんでの所で話を中断させた。

 

「少尉、ミサイルなどは補給した状態の方が良いでしょうか?」

 

補給員の一人が尋ねてきた。

 

「AIM-9とバルカン砲だけ装填状態にしといてくれ」

 

万が一、スクランブルが出ても最低限出撃できるような装備だけでもつけておこう。

ここは本土だが、敵の艦隊が優勢なら、空襲が来ても可笑しくない。

今回戦闘してわかったが、やはりレシプロ機は超高空まで昇るまで時間がかかる上に、特別速いというわけでもない。

空襲があれば、飛び立つ前に地上撃破される可能性もある。

勿論、それは自分も同じだが。

今度は空ではなく地上で死んだら、次は海で死んでコンプリートだな。

宇宙で死ぬのは面倒くさい。

ん? 海は実質さっき死んだか?

いや、そんなことはどうでもいいだろう。

それと、別に死にたく訳でもない。

だからこそ、敵が来ても、迅速に対応するために、用意は怠らない。

まぁ、間に合わなかったら仕方ない。

せめて俺だけでも生きれるように神にでも祈ろう。

 

「ベケット少尉は居るかね?」

 

ハンガーの入り口から声がした。

俺を呼んでるようだ。

誰かとお茶する予定は居れていないのだがっと冗談は置いとこう。

 

「はい。ここに居ますが」

 

入口の方に目をやると、一人の年配の男性が立っていた。

一瞬で鍛え上げられた俺の目が明いての服装を確認をする。

戦闘服ではなく正装、肩の階級章、略綬(勲章や記章)。

これは予想だがここの航空隊基地のトップ。

これは言動に気を付けなければ。

 

「君の戦果を見させてもらったよ。実に素晴らしいものだった。ここではなんだ、ゆっくり部屋で話そうじゃないか」

 

「わかりました」

 

うっわ、最悪だ。

こういうトップとの話し合いは大抵面白くない上に、階級の下の俺は胃痛に悩まされながら言葉選びというゲームを常にしなければならない。

面倒くさい上との会話から離れていられた3番機だった頃が懐かしい。

まあ、尉官クラスの俺も一応上って言ったら上だが……。

仕方ない、楽しい楽しい言葉遊びと行こうか。

_______________________________________

 

数分後 基地航空隊入口

 

「あのぉ、銀の飛行機に乗ってた人って居るかしら?」

 

珍しい、ここに艦娘が来るなんて。

普通は艦娘は海での活動のため、何か行事やらが無い限りここには来ない。

ただ、彼カノとかこの世に存在してはならないものでない限りだが。

 

「銀の飛行機? あぁ、新人の事ですか。残念ですが、今基地司令とお話ししているので会うことはできません。伝言でしたら伝えておきましょうか?」

 

「……そう、大丈夫です。また次の機会に来ます」

 

そう言い、彼女はとぼとぼと帰っていく。

あの新人の野郎、どうやらもう女を作ってるらしい。

後で絞めておくべきだろうか…。

 

一方、不運に襲われた扶桑は、自分の運の無さを恨みながらも、いつもよりも不思議と暗い気持ちにはならなかった。

 

「ふふ、これもあの人の力かしら……」

 

もしかしたら、今の自分は幸福なのではと考え始める姉さまであった。

一方、帰還後にそそくさと何処かへと向かった姉さまに山城は何か不吉な事が起こるのではと寒気を感じている。

更に瑞鳳も同時に違った意味で寒気を感じたようだった。




遅くなって申し訳ありませんでしたぁ!!!!
一体何ヶ月放t…ゲフンゲフン、予定が開かないなんて…(すみません言い訳です全然ネタが出てこなかったんです)
次回こそはもっと早く…せめて一ヶ月以内に出します!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。