欲望の代償 (NAKYU)
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1話 憧れの戦艦に

「……」キョロキョロ

 

目が覚めると 不思議なところにいた

 

周りは真っ白な世界 そして目の前にあるのは大きな扉だった

 

「この扉……何だろう?うんしょっと……」

 

扉を開けようと引いたり押したりしたが びくともしなかった

 

「どうして開かないんだろう……?」

 

 

「気が付いたみたいだね」

 

「! だ、誰?!」

 

振り返ってみると座っている人がいた

 

人と言っても目も鼻も口もない 全身が黒い人物だった

 

「大丈夫だよ、君には危害を加えないから」

 

「ほ、ほんと……?」

 

「ホントホント」

 

その言葉を聞き おそるおそる座った

 

どうやら本当に危害を加える気配はないと分かると 安堵した

 

 

「えっと……ここは私の夢の中てことで良いのかな?」

 

「そういうことでいいんじゃないかな?」

 

「分からないの?!」

 

「それは置いておいてさ、君とお話ししたいんだ。いいよね?」

 

「別にいいけど……」

 

清霜は最初は戸惑いながら自己紹介をした

 

次第に雰囲気に慣れ 姉妹や鎮守府、そして憧れている戦艦武蔵の事についてにも話した

 

話していくたびに 緊張と不安もほぐれ いつしか姉妹と話してるみたいな会話ができるようになっていた

 

「ふーん、君はその"武蔵"って言う人みたいな戦艦になりたいんだ」

 

「うん!とっても強くてね!みんなから頼りにされているんだ!私はそんな人になりたいんだ!」

 

「じゃあさ、もしその願いがかなったら何がしたいの?」

 

「え?!う、うーん……みんなを護る!」

 

「あはは!とても頼もしいね!・・・おっとそろそろ時間だ。その扉をもう一度開けてみてよ、そこでお別れだよ」

 

「え?でも開かなかったよ?」

 

「まぁまぁ、騙されたと思って開けてごらん」

 

(ほんとかなぁ……)

 

恐る恐る扉に手をかけてみると さっきとは違い簡単に開けることができた

 

その直後 扉から光が溢れだし 清霜を包んだ

 

「うっ、ま、まぶしい……」

 

 

駆逐艦寮 夕雲型の部屋

 

――――起きろ 起きろって

 

――――おい

 

――――起きろって清霜!

 

「んぅ……ここって……鎮守府?」

 

「ようやく起きたかよ、寝坊助」

 

「あ……おはよ……ふぁあ~……」

 

朝霜に起こされ 目を覚ますとそこは夕雲型の部屋だった

 

身支度の準備や髪の毛を結ぶ姉妹の姿があった

 

「ったくよぉ、アタイ達がいないとまだ一人で起きれないのかよ」

 

「"戦艦"になったとはいえ、先のことが不安ね」

 

「……え?早霜ちゃん、どういうこと?」

 

「何言ってんだよ!昨日戦艦になれて大はしゃぎしてたの忘れたのかよ!」

 

「朝ちゃんも同じようにはしゃいでたんだけどね」

 

「う、うっせぇな!岸波!」

 

「ホントに……本当に私が戦艦?!」

 

「本当だって。信じられないのなら提督に聞いてみろよ」

 

「そ、そんなわけないよ!」

 

「じゃあ今から聞いて来なよ、執務室にいるはずだぜ」

 

「うん、わかった」

 

(みんなどうしたんだろう……私が戦艦になった記憶なんてないんだけどなぁ……)

 

半信半疑で勢いよく部屋から出た瞬間 出迎えようとしていた提督とぶつかってしまい 両者とも転んでしまった

 

「あ……大丈夫?清霜?」

 

「いてて……あ!司令官!ごめん!大丈夫?!」

 

「うん、大丈夫大丈夫……」

 

「あははー しれーきよしーに倒されてるー!」

 

「急に出てきたら避けれるわけないよ……」

 

 

提督が手を差し伸べると清霜は掴み 立ち上がった

 

 

 

「それよりも清霜、朝食を食べ終えたら執務室に来てくれないかな?ちょっと話があるんだ」

 

「話って?」

 

「戦艦になったから、ちょっとその実力を見ようと思って」

 

「……本当に私が戦艦?夢じゃない?」

 

「そうですよ、昨日はものすごく喜んでいましたね」

 

「みんなからもお祝いされてたね」

 

「本当に……本当に?!」

 

 

 

「ねーしれー!お腹空いたから早く朝食食べに行こうよ!」

 

「そうだね、じゃあ清霜。また後でね」

 

「あ、うん」

 

朝食の談義をしながら提督は秘書艦の古鷹と時津風と共に食堂へ向かった

 

清霜は本当に戦艦になったことを知り 呆然と立ち尽くしていた

 

「……」

 

「な?言ったとおりだろ?戦艦清霜?」

 

「……いやったあああああああああ!夢じゃないよね!?夢じゃないよね!?」

 

「あだだだだ!!つねるなら自分の頬でもつねろよ!」

 

朝霜の頬が赤く腫れあがり その後に清霜も同じように自分の頬をつねってみる

 

痛い 目が覚めない 夢じゃない そうわかると喜びを再び爆発させた

 

「やった!やったぁ!本当に……戦艦なんだね!」

 

「何度も言ってるじゃねぇか。ほら、早く朝食に行こうぜ、提督に呼ばれたんだろ?」

 

「うん!みんなで食堂に向かおっ!」

 

 

中央棟 食堂

 

「これでよしっと!」ドッサリ

 

「……」

 

清霜の目の前に置かれたのは 大盛り。いや、特盛であろう白飯とたくさんの主菜

 

この光景を目にした姉妹たちは沈黙に包まれながらも 恐る恐る聞いてみた

 

「ねぇ清ちん、それ全部食べるつもり?」

 

「もっちろん!戦艦はたくさん食べて力をつけなきゃね」

 

「まだ朝食よ?お腹壊したらどうするの?」

 

 

「よぉ!清霜!……ってなンだ?そのご飯の量」

 

「見てるだけで辛そうだね」

 

「あ!時雨ちゃん!江風ちゃん!どう?戦艦になった清霜は?」フンス

 

「いや、体は小さいままでそんなに大きくは見えねーぞ」

 

「でも心は戦艦だよ!」

 

「いや、意味わかんねーよ」

 

「じゃあ僕たちはこれで」

 

「じゃあなー」

 

 

「さてと……いただきますか!」

 

「言っておくけどさぁ、残すなよ?怒られても知らねーからな」

 

「大丈夫!」モグモグ

 

急いで食べる清霜と対称に 姉妹たちも食事をゆっくりと摂りはじめた

 

しかし 数分経ってみると清霜のペースは徐々に落ちていき 最終的には姉妹全員に手助けをしてもらい 完食した

 

「ふぅ……何とか食べきれた……」

 

「だから言ったじゃねーか……無理すんなって」

 

「も、もう……だ、ダメ……」

 

「ああ!浜ちん!しっかり!」

 

「とりあえず……皆さん一度部屋に――」

 

「あ!そうだ! 私、寄るところあるんだった!」

 

早霜が提案した途端 清霜が唐突に叫んだ

 

「寄るところ?提督に会いに行くんでしょ?」

 

「違うよ風雲姉さん!武蔵さんにだよ!」

 

「……武蔵さん?」

 

「うん!だから司令官に会う前に武蔵さんに会いに行ってくるね!」

 

「……」

 

"武蔵" その言葉を聞いたとたん 姉妹たち全員は不思議そうな顔をして見合わせたりしている

 

「……どうしたの?みんな」

 

「なぁ清霜……一つ聞いていいか?」

 

 

――"武蔵"ってだれだ?

 

 

 

「……え?な、何言ってるの?長波姉さん!?大和型二番艦の"武蔵"さんだよ!」

 

「知ってるか?」

 

「いえ、知りませんけど……」

 

「そもそも大和型は"大和"さんと"清霜"の二人しかいないんだよ?」

 

「そ、そんなことないって!他のみんなにも聞いてくる!」

 

突然の事に戸惑う清霜 他にも白露型、陽炎型などにも聞いたが"知らない"の言葉しか返ってこなかった

 

むしろ 存在自体知らないということも聞き 疑問を持ったまま そのまま執務室に向かった

 

 

執務室

 

「いや……聞いたことないなぁ、そんな艦娘。知ってる?」

 

「いえ……古鷹も初めて聞きました……」

 

「時津風は知ってるよー、あの二刀流の人だよね?」

 

「それは宮本武蔵だよ」

 

「おかしいよ……!みんなどうしちゃったの?!」

 

何度も聞いてみたが提督と古鷹、その隣にいた時津風も知らない様子だった

 

清霜が考え込んだ瞬間 勢いよく執務室のドアが開く音がした

 

「清霜!!この時を待ってたわよ!!」

 

「ビスマルク……元気なのは良いけど扉は優しく開けてね……」

 

「それよりも提督、演習のメンバーはもう出来上がってるのよね?!早速行きましょう!」

 

「ま、まぁそうだけど……ちょっと清霜が聞いてきたことでね」

 

「ビスマルクさん! 武蔵さんって知ってるよね?!」

 

突然大声で問い詰められたビスマルクは、少し間を置いて首を横に振った

 

(おかしい……どういうことなの?)

 

 

こうして "戦艦清霜"の人生が始まった




2019.10.12
すいません 物語の書き直しをしていた他、リアルでも多忙なことも有り、投稿が変則的になってしまいました。

今度はなるべく投稿するよう、努力します。


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2話 見習い戦艦清霜

演習場

 

「どうして対人演習じゃないのよ!?」

 

「いやだって、清霜は戦艦になったばかりだし、実力も未知数だから先に砲撃演習を……」

 

問い詰めるビスマルクに それに答える提督 そして側では考え込んでいる清霜の姿があった

 

「どうかしましたか?清霜さん?」

 

「あっ、ううん 何でもないよ。鹿島さん」

 

(司令官も知らないだなんて……けど今は演習をしっかりこなさなくちゃ)

 

数分後...

 

「あ、あれ……?こんなはずじゃ……」

 

戦艦として初めての砲撃演習は上手くいかないものだった

 

小さな体には合わない砲塔 その影響もあって的にも上手く当たらず 不十分な結果に終わった

 

「やっぱり小さい体にあの砲塔は無理があるかな……」

 

「ね、ねぇ!清霜?まだ本調子じゃないのよね……?そうでしょ?」

 

「どうしてビスマルクさんが心配しているんですか?」

 

「どうしてって!清霜は私のライバルだからよ!」

 

(……そういえばビスマルクさんって、武蔵さんとよく張りあっていたんだっけ……)

 

(……あれ?)

 

更に数分後...

 

「うわーん!やっぱり無理ですってー!」

 

対空演習では 不安を持ちながら練習相手役に立候補したものの

 

三式弾擬きの餌食にあった ガンビアベイの姿だった

 

もちろん砲撃演習同様 成功とは言えない出来だった

 

「うーん、対空演習もさっぱりかぁ」

 

「提督、これでは清霜さんの出撃は難しいと思います」

 

「出撃できるまで、ちょっと演習漬けになりそうだね」

 

「やっぱり簡単に上手くいかないかぁ……」

 

「まぁまぁ、清霜には教育係として榛名と長門に指導をお願いしておくから」

 

「その二人なら、きっとすぐに出撃できるようになるようにしてくれるよ」

 

「う、うん……」

 

「待ってるわよ清霜!次に会う時は私と競い合える立場でいることね!」

 

そう言いながらビスマルクは演習場から去り 提督達も去った

 

演習場には清霜一人だけになり 考え事を始めた

 

(ビスマルクさんは私の事をライバルと見てたんだよね?これって前までだと武蔵さんに対してだった……)

 

(つまり……私が武蔵さんの代わりに戦艦になったってこと?だとしたら――――)

 

「清霜さん、お待たせしました」

 

「待たせたな、清霜」

 

清霜を呼ぶ声の主は金剛型三番艦榛名、そして長門型一番艦の長門だった

 

呼ばれた清霜はすぐに振り返り笑顔を見せながら挨拶をした

 

「こんにちわ!長門さん、榛名さん!」

 

「提督から聞きました、出撃できるようになるまで榛名たちが協力します」

 

「この長門の訓練は厳しいぞ?いいな?」

 

「は、はい!」ビシッ

 

「そんなに固くならなくても良い、余計な緊張はミスを生みやすい」

 

「それでは、始めましょうか。まずは……」

 

 

翌日 駆逐艦寮 夕雲型の部屋

 

「た、ただいま……」

 

初演習から翌日、長時間二人の戦艦から砲撃、艦隊行動、座学、体力トレーニングなど丸一日指導を受けた

 

戦艦になったばかりの清霜は知識、体力等もまだ未熟なためかなりの精神と体力を使うことになり、疲労困憊だった

 

「おー今日もお疲れー。もうすぐ飯だぜー」

 

「今日はもう寝る……」

 

ふらふらとしながら自分の寝床にたどり着いた瞬間すぐ眠りについた

 

その時間 わずか数秒だった

 

「清ちん、もう寝ちゃった」

 

「流石に丸一日使う特訓が続けばねー」

 

「まだまだひよっこってことか!清霜~」

 

「こら、朝霜。邪魔をしない。そろそろ夕飯の時間よ」

 

夕雲型姉妹は清霜を置いて一斉に食堂へ向かった

 

一方の清霜は深い眠りについており 起きないであろうと確信し そっとして置くことにした

 

「……」

 

 

――――

 

――――霜

 

「う、うーん……誰?」

 

(でもこの声って……)

 

――――清霜

 

「……!」

 

 

 

「武蔵さん!!」ガバッ

 

「うぉわ!?びっくりしたぞ……」

 

「あ、あれ?」

 

清霜が起き上がると 目の前には長波の姿があった

 

周りを見渡してみると くつろいでいる夕雲型姉妹の姿があり 武蔵の姿はなかった

 

「……夢か」

 

「何だ?"武蔵"って言う人に会ったのか?」

 

「声だけだけど……」

 

「声だけかよ……。そんなことよりほら、飯持ってきてやったぜ」

 

「あ、ありがとう。やっぱり……武蔵さんの事知らない?」

 

「ああ、どんな人なのかも知らないぜ」

 

(武蔵さん……本当に消えちゃったのかな?)

 

(……ううん、きっとどこかにいるはず。それまでは私がしっかりと武蔵さんの代わりにならなくちゃ!)

 

 

数日後

 

 

「はっ!……おっとっと」

 

「最初の頃より、安定はしてきましたね」

 

「まだまだ不安がある。だが、成長が早い。そう遠くはないだろう」

 

あれからまた数日が経ち 動きが少し安定してくるようになった

 

出撃できるレベルに達していないが 前と見比べたら見違えるほどの差だった 

 

「長門さん!この調子なら出撃できるかな?!」

 

「ああ、もうじきできるだろうな」

 

「よーし!まだまだ頑張る!」

 

「その前に休憩に入りましょう、午後は座学です」

 

「うぅ……座学かぁ……」

 

「清霜さんは理解も良くなってきましたよ。また榛名と頑張りましょう」

 

天気も良いということで 広い広場へ移動し そこで昼食をとることにした

 

憧れの人ではないが 戦艦と昼食をとることは清霜にとっての一つの楽しみだった

 

 

広場

 

「清霜さんはどうして戦艦になりたいと願っていたんですか?」

 

「それはむさ……憧れの人がいたからなんだ」

 

「憧れ……か」

 

「その人はね、とっても強くて頼りになっていつも鍛錬をしている人なんだ!」

 

「ほう……私より強いのか?」

 

「え?えっと……どうだろう……?」

 

「あ!でも、長門さんや榛名さんも頼りになるよ!二人とも強いし、やさしいし!」

 

「そんな……榛名はお姉さまたちや霧島に比べてみればまだまだです」

 

「そうだな。この鎮守府には私達より優れている戦艦も多い、私もまだまだ鍛錬が必要だ」

 

「怖い所もあるけど……優しくしてくれるところもあるんだ」

 

「ふふっ、一度会ってみたいですね」

 

「どんな戦艦だろうな」

 

「……あのね、その人って大和型の二番艦だったんだ」

 

「何を言っている?大和型は大和と清霜だけだぞ?」

 

「大和さん、今も部屋で一人でいることが多いですね」

 

二人の会話を聞いて清霜は寂しげな顔をした

 

"戦艦武蔵"は本当に消えてしまったのか 二度と会えないのだろうか

 

そんな思いが 彼女の心の中で生まれた

 

「……清霜さん?」

 

「あ、うん!大丈夫だよ!大丈夫……」

 

「どうした?体調がすぐれないのなら今日はもう休んだらどうだ?」

 

「平気平気!さ、次は座学でしょ?がんばるぞー!」

 

しかし今は戦艦清霜として生きようとして 強くなり みんなを護る

 

武蔵に会うまでは立派な戦艦になる そう決意した清霜だった



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3話 初めての対人演習

資料室

 

朝 清霜が向かったのは名鑑がおいてある資料室だった

 

名鑑には武蔵の名前がなく 大和型には大和と清霜しか掲載されていなかった

 

(やっぱり武蔵さんの存在が消えちゃったってことかな……)

 

(そういえば、夢の中で初めてあの人と会ってその翌日に武蔵さんがいなくなったんだよね……)

 

(もしかして、私が戦艦になったから――)

 

(……そんなことない!きっと武蔵さんはどこかに行ってみんな知らないふりしてるだけだよきっと!)

 

「……っとそろそろ演習の時間、行かなくちゃ!」

 

演習場

 

「はっ!てぇー!」

 

「どうかな?清霜の様子は」

 

「はい、砲撃の命中率も安定はしてきました」

 

「後は実戦でどう対応できるかだ」

 

数日経った清霜は見違えるほどに成長を遂げた 砲撃の安定 艦隊行動 標的移動の予測 それぞれが上達していた

 

「やっぱり二人に頼んでよかったよ」

 

「そんな、榛名達はただ教えただけですよ」

 

「ああ、清霜の努力の賜物だな」

 

「司令官!どう?戦艦清霜の実力は?」

 

「……まぁ慢心は禁物って言うし、対人演習でもしてみる?」

 

「待ってたわよ清霜!ようやく私の出番――」

 

「とりあえず駆逐艦4人と演習してもらおうか」

 

「ちょっと!このビスマルクの出番はないの?!」

 

「まずは小手調べだよ、じゃあ呼んで来るね」

 

戦艦清霜にとっては初めての対人演習の事もあり

 

緊張と不安が同時に湧き上がって来た

 

「うう……大丈夫かな……?」

 

「大丈夫だ、お前ならきっとやれる」

 

長門が清霜の肩に手を置いた瞬間、清霜も自信をつけるように問いかけた

 

「……うん、大丈夫。いつも通りやれば……」

 

数分後....

 

「それじゃ、対人演習始めようか。メンバーはこうなるよ」

 

清霜 VS 江風

     夕立

     天霧

     松風 

 

「こっちは一人で相手は4人かぁ」

 

「まずは駆逐艦でお試しってことだね」

 

「清霜!こっちは容赦しねぇからな!」

 

「夕立!手を抜かないっぽい!」

 

「さーて、戦艦になったあんたの実力見せてもらおうか!」

 

「それで旗艦江風、作戦を聞こうか」

 

「決まってるだろ!"全員突撃"だ!」

 

「頭が痛くなってきたよ……」

 

駆逐艦の編成は旗艦江風と張り切る夕立と準備運動をしている天霧、そして頭を抱え悩む松風だった

 

この駆逐艦4人は 鎮守府の中でも高練度であり 数々の作戦をこなしてきた優秀な駆逐艦であった

 

最も他にもたくさんいるが 希望もあってこの4人が選ばれた

 

「ルールはいつも通りの対人演習、旗が上がれば離脱」

 

「制限時間以内に駆逐艦側は全滅、清霜は旗が4つ上がれば負け、時間切れなら旗の数で判定するよ」

 

(頑張らなきゃ……戦艦として……!)

 

「それじゃ準備ができ次第、配置について」

 

数分後……

 

(対人演習かぁ……やっぱり緊張する……)

 

「みんな配置についた?じゃあ……始めっ!」

 

「よっしゃ行くぜ!」

 

「あ!ちょっと待って江風!」

 

開始早々 旗艦江風は清霜に真っ向勝負を仕掛けた その後を夕立が追いかける形になった

 

「あっさりと勝負しにいったね、あの二人……」

 

「それで、あたしたちはどうする?」

 

「二手に分かれて挟撃しよう。戦艦清霜があの二人に気を取られてる今がチャンスだ」

 

「良いよ!じゃあ行くか!」

 

天霧と松風は二手に分かれて行動を開始した 清霜は真っ向勝負を仕掛けてきた江風たち相手に戸惑っていた

 

「わわっ!近づいてきた……!ってぇー!」

 

砲撃を開始したものの 標的が定まらず 別の位置に放った

 

「おいおい!そンな砲撃じゃ江風たちは倒せないぜ!」

 

「夕立!突撃するっぽい!」

 

「一気にこっちに来た!?ど、どうすれば……」

 

 

「清霜!まずは落ち着け!一人一人確実に当てていくのだ!」

 

「な、長門さん……」

 

(ま、まずは落ち着いて……状況を把握しなきゃ)

 

(目の前にいるのは夕立ちゃんと江風ちゃんの二人、あとの二人はどこかに移動してるのかな?)

 

(長門さんの言う通り……まず目の前の敵から!)

 

「……よし!ってぇー!」

 

「う、うお!危ねぇ!」

 

「よ、避けた?!駆逐艦だからかなぁ……なら副砲で!ってぇー!」

 

「次は至近弾かよ!っくっそぉ!」

 

「あと少しで近づけるのに……」

 

(止まったところがチャンス……!今だ!)

 

「そこ!ってー!」

 

清霜の砲撃は旗艦江風と夕立の二人に命中し、旗が上がった

 

「はぁ!?う、嘘だろ?!」

 

「ぽいー……」

 

「二人撃破!!残りは……」

 

「遅いよ!貰った!」

 

「避けきれるかい?」

 

「う、嘘?挟撃?!」

 

両サイドから松風と天霧の魚雷が放たれ そのまま清霜に命中した

 

「当たったっぽい!」

 

「ど、どうなんだ?」

 

次の瞬間 左右の砲塔が両サイドの二人の方に向き 主砲が放たれた

 

「うぇ?!ま、まじかよ!」

 

「体は小さいとはいえ戦艦か!退くしかないみたいだね!」

 

(魚雷を食らっちゃったけどまだ旗は1本しか上がってない……砲塔が守ってくれたのかな?)

 

(なにはともあれ同じようにまずは一人ずつ!)

 

「戦艦清霜の力、見せてあげるんだから!」

 

演習終了後……

 

「結果としては……清霜の勝利だね」 

 

最後までもつれ合ったが 最終的には天霧は被弾し 旗が上がった本数は清霜は2本 駆逐艦組は3本

 

判定で清霜が勝利した

 

「よ、良かったぁ」

 

「おい!何で江風の言うとおりにしないンだよ!勝手に作戦変えンなよ!」

 

「君みたいな猪突猛進の作戦が簡単に通じると思うほうがおかしいよ。真っ先にやられる旗艦なんて酷いもんだよ」

 

「はぁ?!誰が猪だよ!」

 

対人演習を終えた後では、江風と松風による口喧嘩が始まっていた

 

もっともこれはよくあることであり 駆逐艦達からも"またか"と思われてるほどである

 

それをそばに夕立と天霧は座り込んでいた

 

「清霜ちゃん強いっぽいー……」

 

「小さくっても戦艦は戦艦か、あたし達の攻撃にもびくともしないね」

 

「ふふーん!これが"戦艦清霜"の実力だよ!」

 

「皆さん、お疲れさまです」

 

「まだ荒削りだけど、出撃は何とかできそうだね」

 

「ほ、ほんと?!」

 

「ただし、無茶は禁物。それと、榛名か長門、どちらかと一緒にね」

 

「よーし!戦艦と一緒に出撃だ!頑張るぞー!」

 

「はは……まだ未定なんだけどね、準備はしておいてね」

 

食堂

 

演習を終えた清霜と駆逐艦4人は反省会も兼ねて 食堂で食事をとることにした

 

「いやー!すげぇわ!戦艦清霜!」

 

「夕立も清霜ちゃんみたいに強くなりたいっぽい!」

 

「あたしはいいや」

 

「あぁ?戦艦だぜ!戦艦!駆逐艦が戦艦になったんだぜ!」

 

「ところで、戦艦になって何か変わった感じとかあるのかい?」

 

「んとね、体の中からこう力がみなぎってくる感じがするんだ!」

 

「ただ、それと比例してお腹が減りやすいんだけどね……」

 

「燃費は戦艦同様になるってことか」

 

「あたし達も機会があれば演習とかに付き合うよ、暇があったら声をかけなよ」

 

「ありがとう!じゃあ反省会の続きだね!」

 

執務室

 

「よし、このメンバーで行こうかな」

 

 

次の出撃する北方海域のメンバーのなかに"清霜"の名前が入っていた

 

 

(……無事に行くと良いけど、不安だなぁ……)

 

そしてついに戦艦清霜としての初出撃が行われようとしていた

 



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4話 戦艦清霜 抜錨

北方海域

 

雪が降り注ぎ 冷たい風が吹いてくる

 

そんな中で 戦艦清霜を中心とした6人の艦娘が海上を走っていた

 

「よーし!頑張るぞー!」

 

一人気合を入れて大声を上げている清霜 それを見守っている戦艦榛名、軽巡阿武隈、空母葛城

 

その後ろで眠そうにしている加古 のほほんとしている雲龍の姿があった

 

「ふわぁ……どうしてあんなに元気なのかねぇ……」

 

「戦艦としてはじめての出撃だからじゃない?」

 

「そんなに嬉しいものかねぇ」

 

はしゃぐ清霜を遠目で見る二人に対し 残りの3人は清霜の近くにいた

 

「すごいはしゃぎっぷりね」

 

「駆逐艦で戦艦と一緒に出撃する時よりも嬉しさが爆発してる気がするんですけど」

 

「無理とかしなければいいんだけど……大丈夫なの?」

 

「そのために榛名がいます。お任せください」 

 

心配そうにしている二人は榛名の言葉を聞いて少し安心した

 

その後も会話しながら海上を走り続け 深海棲艦と砲撃する場面も何度も出くわした

 

度重なる戦闘に清霜は疲弊している様子を見た榛名は一度休憩を取ることにした

 

「大丈夫ですか?清霜さん」

 

「うん……大丈夫……」

 

「最初の頃より元気が無いねぇ」

 

「頑張りすぎて体力を消耗したのかしら」

 

「葛城、私も疲れたわ」

 

「雲龍姉……嘘はいけないわ」

 

「どうします?陣形を変えて清霜ちゃんを護るようにします?」

 

「あ!大丈夫!まだまだ行けるよ!」

 

「ま、動けないってわけでもないしもうちょっと進んでみる?」

 

「清霜さん、行けますか?」

 

「うん!あともう少しだよね!がんばろ!」

 

 

鎮守府 執務室

 

「……」ソワソワ

 

「提督、大丈夫ですよ。榛名さんもいますし」

 

「けどなぁ、戦艦になったから無茶しすぎて危なくなったら……」

 

 

「提督、只今戻りました」

 

「あ、お疲れ様!どうだった?」

 

「まぁ、こんな感じかな」

 

提督が見てみると 小破した加古 葛城に続き 傷を負い中破している清霜の姿があった

 

「司令官……ごめん……やられちゃった……」

 

「うーん、戦艦としてははじめての出撃だから頑張っちゃったのかな?」

 

「精一杯皆さんでサポートしたのですが……すみません」

 

「でも、無事に帰ってこれてよかったよ、各自入渠が必要な人は修復に向かってね」

 

「ふわぁ、あたしは寝てから向かうとするね」

 

「清霜、先に入っておいでよ」

 

「うん!今日はありがとう!」

 

その後は提督に報告する艦娘 自室に戻る艦娘で別れ 清霜は一人入渠へと向かった

 

戦艦としての初出撃 作戦成功 清霜は笑みを浮かべながら歩いた

 

駆逐艦寮 夕雲型の部屋

 

「ただいまー!」

 

「おーおかえり、どうだった?初めての戦艦での出撃は」

 

「あらあら、中破しちゃったのね。早く入渠に行きなさい、提督に言われたんでしょ?」

 

「えへへ、一度みんなに挨拶しに行こうかなって来ちゃった」

 

無邪気な笑顔を浮かべる清霜を見て 夕雲型姉妹もみんな笑顔になった

 

「清ちんいつもより嬉しそうだね」

 

「ニヤニヤし過ぎで顔がとろけてんぞ!清霜!」

 

「あっ!ごめん!じゃあ行ってくるね!」

 

 

「ほんとに嬉しかったんだな」

 

「戦艦になるのが夢だったからね、あの娘も嬉しくて仕方ないのよ」

 

「そうと決まれば、お疲れ様の会でも夜に始めるしかないね!」

 

「その前にちゃんと服畳めよなー」

 

数日後 入渠施設

 

数日経ち 戦艦清霜は長門か榛名、どちらかと出撃する機会も多くなり戦果を上げていた 

 

それと比例し 中破することも多くなり 入渠で修理をする回数も増えてくるようになった

入渠

 

「うぅ……また中破しちゃった……迷惑かけちゃったなぁ……」

 

「訓練もしたし、演習もバッチリ……あとはなんだろう?」

 

 

「まったく!そんな体たらくじゃ、私に挑むなんて100万年早いわね!」

 

入渠に響く 強気な口調 どこかと探してみると立っているビスマルクの姿があった

 

ここの鎮守府の入渠は隣が浴場ということもあるので入浴と入渠している艦娘が会うこともある

 

「ビスマルクさん!あなたも入渠?」

 

「いえ、私はお風呂に入ってるだけよ。それよりも清霜、また大破したみたいね」

 

「うん……そうなんだ……また足引っ張っちゃって迷惑かけちゃったなって……」

 

「そんなことじゃ、私みたいな戦艦にはまだ程遠いわよ!」

 

威張るビスマルクの前で 清霜はふと考え 聞いてみることにした

 

「……ねぇ、ビスマルクさんのライバルって誰?」

 

「それはもちろんあなたよ!その次は古鷹に勝って私が鎮守府で一番なことを示すのよ!」

 

「……あのね、ビスマルクさん。あなたが武蔵さんと競い合いをしていたのって覚えてる?」

 

「そんなこと知らないわよ。そもそも武蔵って誰なのよ?」

 

(……)

 

いつもならライバルの存在に奮起するビスマルクだったが やはり存在すら知らないようだ

 

その言葉を聞いた清霜は いつもの日々ではないことに気づき 寂しく感じた

 

「何よ?まだ落ち込んでるの?……仕方ないわね!このビスマルク直々に指導してあげるわ!」

 

「し、指導って?……私入渠中なんだけど」

 

「あれを見なさい」

 

突然のことでびっくりする清霜にビスマルクはとある個室に指を指した

 

「あれって……サウナ?」

 

「そうよ、戦艦の強さというのは砲撃とかの技術だけじゃなく、精神も必要なのよ!」

 

「その落ち込んだ精神を鍛え直して……さらなる成長をすることね!」

 

「ビスマルクさんがそういうのなら……やってみる!」

 

「その意気よ!さぁいらっしゃい!」

 

(ビスマルクさんの訓練も、きっと何か役立てるかも……)

 

入渠中にもかかわらず サウナで我慢比べをすることになった清霜は 最後の最後まで踏ん張ったが

 

様子を見に来た長波とプリンツの手によってサウナでのぼせている二人は引きずり出される結果となった

 

「何やってんだよ!入居中だろ!」

 

「ビスマルク姉さま!しっかり!」

 

 

 

数日後、食堂

 

「よしっ!じゃあ行ってくるね!」

 

「この光景ももう見慣れたね」

 

「相変わらず頑張るなぁ」

 

あのサウナの事件から清霜は戦艦のグループに入るようになり

 

訓練方法や立ち回りなどの戦闘方法について戦艦の艦娘と語り合いをするようになった

 

それに伴い 夕雲型の姉妹と一緒に過ごす時間も徐々に減ってきた

 

「朝霜、寂しくはないのか?」

 

「あぁ、大丈夫さ。またコロっと戻ってくるはずだよ」

 

「にしても清ちん、楽しそうだね」

 

「羨ましいんじゃないのか~?朝霜」

 

「ケッ!そんなことないやい!」

 

「こら、夕食の時間よ。早く食べなさい」

 

 

夜 鎮守府 港

 

「あーあ―!!どいつもこいつも!清霜がいないと寂しい?って聞いてきてさ!」

 

「アタイには主力オブ主力の夕雲型姉妹とか礼合組がいるってのにさぁ!!なぁ!」

 

癖で清霜に問いかけようとするが いつもなら後ろにいる清霜がいなかった

 

朝霜も いつもと違う日常と知り 俯いた

 

(そうか……清霜、まだ戦艦の人と……)

 

 

「朝ちゃん?」

 

「おわっ!……な、何だ岸波かよ……」

 

「帰ってこないから探しに来たんだよ。ほら、もう遅いし寝る準備しないと」

 

「わかったよ……」

 

(まぁアイツのことだからすぐ戻って来るはずだろ……きっと……)

 

モヤモヤを引きずったまま 朝霜は姉妹たちが待っている部屋に戻り 就寝した

 



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5話 航空戦艦

中庭

 

「急がないと長門さんとの訓練に遅れちゃう……」

 

 

「だからやめなさいって言ってるでしょ!」

 

「? この声って……」

 

怒号が飛んだ方向に向かうとそこには瑞雲を試運転している日向と怒っているビスマルクの姿があった

 

「日向さん!こんにちわ!」

 

「ん?清霜か、どうした?」

 

「ちょっと怒った声が聞こえたから来てみたんだ!何してるの?」

 

「どうもなにも!試運転と言って私にめがけて瑞雲を飛ばしてきたのよ!」

 

「ごめんね、こんな騒がしくて」

 

「伊勢さん!その姿って……」

 

「うん!更に強くなっちゃったの!どう?艦載機も発艦できるのよ」

 

「すごーい!瑞雲以外もできるんだね!」

 

「ただ、瑞雲の力も侮れないからな」

 

瑞雲の調整をしている伊勢と日向を見て 清霜はふと思った

 

自分も伊勢や日向さんみたいになれたらいいな と

 

「? どうした?」

 

「あ、ううん。なんでもないよ」

 

「この機会だ、いいものを見せてやろう」

 

「だからアクロバットな飛行はやめなさいって言ってるでしょ!」

 

(……私も航空戦艦に慣れたらみんなの役に立てるのかな?)

 

西方海域 海上

 

「発艦初め」

 

「……」

 

「どうしましたか?清霜さん」

 

「榛名さん。最近ね、私も艦載機飛ばせたらな―って思うことがあるんだ」

 

「艦載機……ですか?」

 

「はぁ?清霜、戦艦が艦載機飛ばせるわけねーだろ?せいぜい航空戦艦で瑞雲飛ばす事はできるけどよ?」

 

「えー?知らないのー?艦載機飛ばすこともできるよー」

 

「江風、伊勢さんが前に改二改装して性能の説明提督さんから聞いてないっぽい?」

 

「え?まじで?」

 

「だめだなー、時津風だってちゃんと聞いてたのに」

 

「あ、あのときは考え事をしてたンだよ!」

 

「うそだー、寝てたんでしょ?」

 

江風と時津風の軽い口喧嘩をよそに 清霜は雲龍の姿を見ていた

 

自分も伊勢さん達みたいに艦載機を飛ばせれば・・・そんな思いがふと芽生えた

 

「どうしたの?見つめられても何も出ないけど」

 

「あ!ううん!なんでもないよ!はやくいこ!」

 

鎮守府 駆逐寮 夕雲型の部屋

 

「たっだいまー!」

 

「おかえり、今日は中破しなかったんだね」

 

「小破ならしたけどね」

 

「威張ることか?それ」

 

「…………」

 

「どうしたの?朝霜ちゃん?元気ないね?」

 

「ん?あぁ……ちょっとお腹が痛くてさ……」

 

「そっか……あ!そうそう!私ね!雲龍さんが艦載機発艦してるの見てね!"伊勢"さんみたいな航空戦艦になれたらなって思ったんだ!」

 

「はぁ?戦艦の次は航空戦艦かよ」

 

「たしか伊勢さん、改二改装して艦載機飛ばせるようになったんだね」

 

「そうそう!それでね――」

 

楽しく話してる清霜の横で 淋しげに見つめる朝霜の姿があった

 

いつもは自分と話してる時の顔と違う一面を見てると 辛くなることもあった

 

 

???

 

「……ここ、どこかで見たような」

 

「……思い出した!確か大きいな扉があって……」

 

 

「やぁ、また会ったね」

 

「あ!あなたは!」

 

清霜が声を聞き振り返ると 最初に出会ったときと同じような全身が黒い人物がいた

 

「元気にしてた?それに見違えたように見えるね」

 

「うん!実はね!最初に来た時から目覚めたら戦艦になってたんだ!それで、一段と強くなれた気がしたんだ!」

 

「けどね……私の憧れの人が急にいなくなったんだ、みんなも知らないって言うし……どうしたんだろ?」

 

「どうしたんだろうね?でも、すぐに戻ってくるんじゃない?みんなも知らないふりしてるだけだよ」

 

「きっとそうだよね!それよりも、もっとお話したいんだ!」

 

清霜が問いかけると謎の人物も承諾した

 

戦艦になれたこと 強くなれたこと みんなから尊敬されたこと

 

いろんなことを話している間に 時間が過ぎていった

 

「次はその"航空戦艦"になりたいの?」

 

「航空戦艦はね、艦載機も飛ばせてね、索敵もできるんだって!」

 

「それってどれくらいすごいの?」

 

「え、えっと……とにかくすごいんだ!」

 

「あはは!君がすごいというのならすごいんだろうね!」

 

「……おっと、そろそろお別れの時間だ。その後ろの扉を開けたら目が覚めるよ」

 

「うん!わかった!またね!」

 

 

 

 

 

――――きろ

 

――――起きろ!

 

起きろって清霜!

 

鎮守府 駆逐寮 夕雲型の部屋

 

「う、うーん……おはよ……」

 

「早くしろ!提督が待ってるぞ!」

 

「えっ?何かあったっけ……」

 

「"航空戦艦"になったお前をテストしたいって演習場で待ってるんだぞ!」

 

長波から航空戦艦になったお前と聞かされた清霜はキョトンとした後 我に返って聞き返した

 

「な、何言ってるの?私は戦艦だって……」

 

「だーかーら!昨日"航空戦艦"になっただろ!」

 

(私が航空戦艦……?どうして?!)

 

執務室

 

航空戦艦になった経緯などを提督から一連を聞かされた

 

しかし清霜は記憶にもなく むしろそのことすら知らないと言うべきだった

 

「じゃあ早速だけどお昼が終わったら演習場でね」

 

「う、うん……」

 

「どうかされましたか?昨日はあんなにはしゃいでいたのに……」

 

「え?古鷹さん、昨日何かあったの?」

 

「清霜さんが航空戦艦になったからみんなとお祝い会してましたよ」

 

(そんなこと知らない……全く覚えてない)

 

黙って考え込んでいると提督からまた一つ連絡が告げられた

 

「どうしてそんなに悩んでるのかわからないけど……次の指導からは山城と扶桑にも手伝ってもらうからね」

 

「あれ?"日向"さんと"伊勢"さんじゃないんだね」

 

「……」

 

「どうしたの?二人とも?」

 

提督と古鷹はその二人の人物の名前を聞き 不思議そうに顔を合わせ 提督は清霜に問いかけた

 

「いや……その人達って……」

 

 

「誰?」

 

 

二人の名前を挙げたと同時に誰?と言われた清霜はとっさに答えた

 

「だ、誰って……伊勢型で航空戦艦の!」

 

「伊勢型なんていないし、航空戦艦は扶桑と山城と君だけだよ?」

 

「……まさか!?」

 

「あっ!ちょっと!」

 

提督の制止も聞かず 清霜が向かったのは資料室だった

 

資料室

 

(やっぱり……私が"航空戦艦"の一覧にいる……!)

 

そこで名鑑を開いてみたものの 清霜の予想通り伊勢型の名前自体消えていたのであった

 

そして伊勢型であるところが 清霜の写真にすり替わっていた

 

(武蔵さんに続いて……伊勢さんたちまで……!)

 

こうして 航空戦艦清霜のさらなる生活が始まろうとしていた

 



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6話 姉妹として

演習場

 

「いい?まず、発艦の仕方なんだけど……」

 

執務室に戻った清霜はそのまま演習場に向かい、同じ航空戦艦の扶桑と山城に指導を受けていた

 

しかしその表情は暗く いつもの明るい清霜ではなかった

 

「ちょっと?大丈夫?」

 

「え?」

 

「姉さまの説明、ちゃんと聞いてたの?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「山城、怒っちゃ駄目よ?航空戦艦になったばかりだし、私達がしっかりと教えてあげないと」

 

演習場では発艦方法の指導を受けることになり 提督は心配そうに見つめていた

 

「あの清霜の様子……何かあったのかな?」

 

「そういえば、この前も少し考え事をしている顔をしていましたが……」

 

「古鷹もそう見えた?なんでだろうね……」

 

指導を受けた後で実践を行ったが上手く扱えることができず満足できる結果には終わらなかった

 

清霜の状態も考えて 演習を予定より早めに終了し 各自解散となった

 

駆逐艦寮 夕雲型の部屋

 

「…………」

 

部屋に戻った清霜は外をずっと見ながら考え事をしていた

 

武蔵に続いて伊勢と日向まで消えた……こんなことが急に起こることなんでおかしい

 

ただただずっと窓から外を眺め続け考え込んでいた

 

「なぁ……どうしたんだよ清霜のやつ」

 

「帰ってきてからずっと外眺めてますね……」

 

「朝ちゃん知らないの?」

 

「アタイに聞かれても……」

 

遠目に姉妹たちがヒソヒソと話し合っている

 

長女である夕雲は清霜の横に座り 聞いてみることにした

 

「清霜、ちょっといいかしら?」

 

「あ……夕雲姉さん……」

 

「なにか辛いことでも会ったの?最近考え事している姿をよく見返るけど……」

 

「……夕雲姉さんは、大切な人が急に居なくなったらびっくりする?」

 

「どうしたの?急に」

 

「憧れていていた人がこつ然と消えてね、更には他の人も居なくなったんだ」

 

「そんなこと急になって……みんな知らないって言うし、私がどうかしてるのかなって……」

 

「………そんなことないわよ」

 

「私もその人がどんな人か知らないけれど、あなたが知っているのであればきっとどこかで会えるはずよ」

 

「戦艦清霜として、立派に強くならなくちゃその人もがっかりするでしょ?」

 

「でも……」

 

「……私も最初は一人だったのよ」

 

「けど周りを見てご覧なさい、あなたには何が見える?」

 

清霜が顔を上げて周りを見渡すと 個性ある艦娘 夕雲型の姉妹たちが微笑んでいた

 

「少なかった夕雲型も日が経つことで、これだけの可愛い妹たちに出会えたのよ」

 

「そのあこがれの人もいつかは会えるわよ、きっと」

 

「そうだぜー!清霜!この長波様もいるんだぜ~」

 

「しかし急に消えてしまうってそんな事あるんでしょうか?」

 

「神隠し……フフッ……」

 

「こ、怖い……」

 

「浜ちん怖がらないで、そ、そんなのないはずだから……」

 

清霜の周りにはたくさんの姉妹が笑顔で談笑したりと雰囲気が和らいでいた

 

それにつられて清霜も自然と笑顔が戻ってきた

 

「……そうだね、今どこにいるのかわからないけど、いつかきっと会える!」

 

「それまでには立派な戦艦になってあっ!っと驚かせるぞー!」

 

元気になった清霜 明るく振る舞う姉妹たちをよそに

 

朝霜は淋しげにその輪を見つめていた

 

海岸

 

「戦艦になって……清霜もいつか……」

 

朝霜はあの日以来 一人で過ごすことも多くなるようになった

 

逆に清霜の方はというと めっきり夕雲型の姉妹とあまり会うことはなくなった

 

(……清霜もいつかアタイ達と離れ離れになるのかな……)

 

「……やっぱりアタイ達より戦艦の人達といるほうが―」

 

 

「何一人で落ち込んでるのよ」

 

落ち込んでる朝霜の横に 朝潮型の"霞"が座った

 

「何でもないさ!ただ海が綺麗だなーって!」

 

「そう言ってる割にはそう見えないけど」

 

しばらく沈黙が続き 朝霜は口を開いた

 

「最近さ、清霜のやつが戦艦の人と付き合うようになってあんまり話せる機会が少なくなってきたんだ」

 

「いつの日かさ、アタイたちのことなんか見もすることもなくなるんじゃないかって……」

 

「やっぱりアタイたちより戦艦の人たちと過ごすほうが大事なのかなって……」

 

「……」

 

「清霜も一緒に過ごした日々とかもどうでもよかったのかなって――」

 

「あんたらしくないわね」

 

「え?」

 

「そんなくだらないことで悩んでるあなたが情けないって言いたいのよ」

 

「くだらないことって・・・!アタイの気持ちなんにもわかってないだろ?!」

 

「あんたこそ!あの娘のこと全然わかってないじゃない!」

 

「今では戦艦とはいえ、今まで夕雲型の駆逐艦の末っ子として一緒に過ごしてきたのよ?」

 

「あの娘があんたたちのことどうでもいいとかないったら!」

 

「で、でもよぉ……」

 

「ああもう!しょげてるあんた見るとこっちまでイライラしてくるんだから!ほら!行ってきなさい!」

 

「行くって……どこへだよ?」

 

「清霜のところよ!ほら!」

 

グイグイと霞に立たされる朝霜は渋々と立ち上がった

 

「けどさぁ……本当に分かるのかよ……」

 

「そんなこと聞いてみないとわからないでしょ!ほら!行く!」

 

「うぅ……わかったよ」

 

鎮守府 港

 

「あ!いたいた!朝霜ちゃん!」

 

「あ、あぁ……清霜……」

 

朝霜に呼ばれた清霜はいつものように振る舞い 隣りに座った

 

「どうしたの?話って?」

 

「えっとな……き、今日はいい天気だな!」

 

「うん!いい天気だね!」

 

「あ、あのさ……この後ってなんか予定あるのか?」

 

「この後ね、長門さんと特訓があるんだ!だから気合!入れていかないとね!」

 

「……」

 

楽しく戦艦の話をする清霜を見た朝霜は下を向き 何も喋らなくなった

 

「朝霜ちゃん?どうしたの?」

 

「……あのさ、正直に答えてほしいんだ」

 

「ん?」

 

「戦艦の人たちと過ごしてる時間ってどうなんだ?」

 

「んっと……とっても楽しいよ!訓練は厳しいときもあるけど、お話したりご飯一緒に食べたり!」

 

「……もう一つ良いか?」

 

朝霜は声を詰まらせ 少し間を開けて口を開けてこう言った

 

「アタイたちと過ごした時間とか夕雲型の姉妹たちと過ごした時間もどうでも良かったりするのか……?」

 

突然の質問に清霜は明るい表情を曇らせ それからまた沈黙が続いた

 

そして清霜は立ち上がり 口から大声が発せられた

 

「そんなことないよ!」

 

突然の大声に朝霜はびっくりしキョトンとした 清霜は表情を緩めもう一度座った

 

「戦艦の人と過ごす日々も大切だけど、夕雲型と過ごした日々も大切な思い出だよ」

 

「朝霜ちゃんって霞ちゃんと同じこと聞いてくるんだね」

 

(霞……あいつ……)

 

「もっちろん霞ちゃんにも同じこと言ったよ、"忘れるもんか!"って」

 

「そう言ったら霞ちゃんほっとしたんだよね、どうしてだろう……?」

 

「……なぁ清霜、本当に忘れたりとかしないのか?」

 

「当たり前だよ、夕雲型の姉妹も礼号組のみんなも鎮守府のみんなと過ごした日々はとても大切な思い出だよ」

 

「そんな大切なこと……忘れるわけないよ」

 

その言葉を聞いた朝霜は自分を悔やんだ

 

自分が勝手な決めつけで忘れられる そんな思いを引きずってることに

 

しかし 清霜の言葉を聞いた途端 自らの頬を思いっきり叩いた

 

「あ、朝霜ちゃん!?どうしたの?!」

 

「……アタイはやっぱ馬鹿だったわ!そうだよな!忘れるわけないよな!戦艦清霜は清霜だもんな!」

 

「何になろうが清霜は清霜だったな!」

 

「な……私は戦艦だけど清霜に変わりはないんだよ!でも!戦艦清霜として名を挙げてやるんだから!」

 

 

「はぁ……ようやく元気になったわね」

 

「あ!霞ちゃん!」

 

「そろそろ訓練でしょ?ほらこれ」

 

霞が手渡したものはおにぎりだった まだぬくもりがあり できたてだった

 

「おー!霞、これくれるのか?」

 

「くれるって……人数分あるんだからちゃんと理解しなさいったら!」

 

「ありがとう霞ちゃん!一個もらうね!」

 

「慌てて食べないでよ!喉に詰まると大変だから」

 

「ンー!ンー!」

 

「ほら見なさい!!お茶飲みなさいったら!」

 

二人のやりとりを見て 朝霜も

 

戦艦になっても清霜は清霜 元は一緒に過ごしてきた仲間なんだ

 

困ったときは助けてやる そう誓った朝霜だった

 

夜 鎮守府 ???

 

―――起きろ

 

―――起きるんだ清霜

 

(……誰?ってこの声って……)

 

「……あっ!」

 

清霜が前を向くと そこには褐色肌 ツインテールにメガネを掛けた戦艦武蔵の姿があった

 

「武蔵さーん!」

 

武蔵の姿を見ると清霜は間もなく武蔵に強く抱きついた

 

「おいおい、そんなこと甘えたことしてるんじゃ戦艦にはなれないぞ」

 

「あっ!そうだ!聞いて武蔵さん!私戦艦になったんだよ!」

 

「そうか?私にはまだまだ小さな駆逐艦にしか見えないぞ」

 

「違うよ!本当に戦艦になったんだよ!それなのに……武蔵さん急に居なくなって……」

 

「それは悪かった。……だがまた私は行かないといけないんだ」

 

「え?!ど、どこに?!せっかく会えたのにどうして?!」

 

「また会うときには立派な戦艦になるようにな」

 

次第に武蔵は去っていき やがて霧の中へと消えていった

 

追いかける清霜だったが途中で見失った瞬間 目が覚めた

 

「……夢か」

 

(……武蔵さん、きっと会えるよね?)

 

いつか会える その思いを抱えて再び眠りについた

 



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7話 記憶

戦艦になった清霜は戸惑いもありながらも演習や訓練、出撃をこなし普通に生活を送っていた

朝霜も夕雲型の一員として何か手助けしてやりたい 戦艦になっても清霜は清霜

その思いを胸に残し 彼女も吹っ切れた様子で過ごすようになった



戦艦となり、数ヶ月が経った今、清霜は戦場で活躍した。

 

敵艦隊の撃破数も徐々に伸びていき、鎮守府内でもトップクラスの成果を挙げるまでと成長した

 

更に変わったことといえば、清霜は夕雲型の部屋から出ていき、戦艦寮に部屋を持つようになった

 

姉妹たちは戦艦の人達がいるから大丈夫だろうと思うこともあったが 心配する姉妹もおり、順番で世話をする姉妹もいたとか

 

生活面でも戦艦の艦娘と過ごすようになり、離れて過ごすことも多くなった

 

――鎮守府 食堂

 

「清ちん、今日も戦艦の人と一緒だね」

 

「いつも楽しそうに喋ってますね」

 

遠目で戦艦グループの輪の中で楽しそうに話している清霜を見ることも当たり前のようになった

 

「ほら、よそ見してないで早く食べなさい。遠征に行く娘もいるんでしょ」

 

「そうだった!アタイ、今日は遠征グループだった!」

 

言われて気づいた朝霜はせっせと白飯と惣菜をかきこみ 飲み物を一気飲みした

 

「かーっ!美味い!」

 

「ちょっとやめてよ、行儀悪いじゃん」

 

「悪ぃ悪ぃ!じゃあな!」

 

朝食をいち早く食べ終えた朝霜は 颯爽と食堂を出ていった

 

「あ!おい!まだ遠征の時間じゃね―だろ!……ったく」

 

「ふふっ、いつもの朝霜に戻ってよかったわ」

 

 

 

「なぁ、あいつどうしたンだ?」

 

「前とは違って、元気になってるけど」

 

食堂から出ていった彼女を見た時雨と江風が夕雲に問いかけた

 

「何でも?いつもの朝霜に戻っただけよ」

 

「でも前までは深刻だったぞあいつ、考え事もしてたし」

 

「ま、いいじゃねーか。それよりもあたしたちも早く飯食おーぜ!」

 

長波の一声で食事を再開し 二人は不思議そうな顔で見合わせながらその場を去った

 

朝食後 清霜を含む西方海域に出撃するメンバーが集められ 作戦内容の確認を行った

 

メンバーは作戦の内容をしっかりと把握し 清霜も何度も確認を行った

 

ミーティングが終わり 出撃する時間もまだ先ということで清霜はあるところへと向かった

 

鎮守府 岬

 

「よいしょっと……本日も晴天なりっと」

 

この海が見える丘は 清霜にとっての思い出深い場所である

 

落ち込んだときや嬉しかったことがあったとき そうでもないときでもここに来ることが多かった

 

その場所には戦艦武蔵がいつも座っていることもあり 度々訪れては相談や話し相手として来ている

 

「武蔵さん……私、戦艦になってから日が経ってすっごく強くなったよ」

 

「これでね、みんなを護ってあげるんだ。すごいでしょ」

 

「だから……早く帰ってきてね」

 

 

「あ!いたいた!清霜!そろそろ出撃の時間だぜ!」

 

しばらくすると 長波が駆けつけてきた

 

どうやら清霜を探していたらしい

 

「お前またここにいたのか、好きなのか?」

 

「うん、私の憧れの人がよくここで座ってたんだ」

 

「それでね仲良くお話したり相談に乗ってもらったりしてた」

 

「……とってもとても優しかった」

 

清霜が俯くと 長波はそっと肩に手を置いた

 

「きっと会えるさ、その時になったらあっと驚かせてやれよ」

 

「……うん!」

 

清霜は笑顔を見せ 長波とともに鎮守府へと戻った

 

 

 

西方海域 海上

 

海上の上を6人の艦娘が走っている

 

戦艦清霜を中心とした空母飛龍 蒼龍 重巡プリンツオイゲン 軽巡ゴトランド 駆逐艦時雨

 

この6人が西方海域の作戦遂行メンバーとして出撃していた

 

「静かだねぇ」

 

「たまにはこういうのも良いかもね」

 

 

 

「よーし……どっからでもかかってこい!」

 

「清霜、張り切ってるね」

 

「時雨ちゃん!あったりまえだよ!いつ敵が出てきてもおかしくないからね!」

 

のんびりしている空母二人に対して 清霜はシャドーボクシングをして気合を入れていた

 

その後ろで深く観察しているプリンツの姿もあった

 

「……」

 

「どうしたの、そんなに観察して」

 

「ビスマルク姉さまからお願いされたんだ、清霜の成長の秘訣を探ってきてねって……」

 

「ここでするものじゃないと思うけど……」

 

移動していく中 発艦していた艦載機が戻り 飛龍に報告をした

 

「……この先に深海棲艦がいるって!」

 

「そうこなくっちゃ!みんな準備して!」

 

この後に複数深海棲艦と会合し 戦闘を行った

 

度重なる砲撃の末 複数の艦娘にも被害が及んだが 最小限に留め勝利した

 

疲労のことも考慮し 近くの岩場で休憩を取ることにした

 

「まさか連戦になるとはねぇ」

 

「平和に行けると思ったんだけどなぁ……そうは行かないかぁ」

 

「ふぅ……」

 

「清霜、大丈夫かい?」

 

張り切りすぎたせいか 清霜はいつものように疲弊しきっていた

 

戦艦のため 多少な傷はあるものの まだ動ける状態ではあった

 

「えへへ……なんとかね」

 

「でもあれだけ動けるってすごいよね。流石ビスマルク姉さまのライバル!」

 

「どうする?キヨシーを守るように陣形変えてみる?」

 

「あっ大丈夫!まだまだいけるよ!後もうちょっとだよね!みんながんばろー!」

 

清霜の掛け声で全員も元気を取り戻し 再び移動を始めようとした――

 

「……え?」

 

その瞬間 清霜の頭の中にある出来事が思い浮かんだ

 

数ヶ月前 南方海域

 

――清霜!無事か?!

 

――う、うん!まだ大丈夫!

 

――無理はするな!危なくなったら私の後ろに隠れろ!

 

 

西方海域

 

「……」

 

「清霜、どうしたの?」

 

「あっ!ううん!何でもないよ!」

 

(今のって……武蔵さん……だよね)

 

(たしかあの時って南方海域に一緒に出撃してて……)

 

(もしかして……武蔵さんが消えたヒントとかありそうかも……!)

 

悩んでる清霜を5人が心配そうに見つめ 時雨はもう一度問いかけた

 

「疲労が溜まってるのならもう少し休憩したほうがいいじゃないかな?」

 

「ごめんね、心配させて。さ!改めていっきましょー!」

 

 

鎮守府 執務室

 

「……」

 

一方の執務室では提督が不安げな顔を浮かべながら心配をしていた

 

「提督、大丈夫ですよ。時雨さんや飛龍さんたちが居ますし……」

 

「いやでも……長門たちと離れて出撃だよ?心配だよ……」

 

今回が初めて清霜と付添しない出撃だった

 

今までは榛名か長門 どちらかが清霜と出撃するようにしており

 

練度も十分ということで試しにしてみようとなった流れで編成を組んだ

 

その時 扉が開き 出撃艦隊が帰投した

 

「司令官!ただいま!」

 

「お疲れ様、みんな無事かな?」

 

「うん、ちょっと中破した人もいるけど……作戦は成功したよ!」

 

「そっか!それは良かった!やっぱり清霜は頼りになるね!」

 

「もっと褒めて良いんだよ!」

 

(さっきまで心配していたんですけどね……)

 

「それとね司令官、少し話がしたいんだ」

 

「話?いいけど……」

 

話をしたい そう言うと清霜を除く他のメンバーは入渠や部屋に戻ろうと執務室から出た

 

執務室には提督 秘書艦の古鷹 そして清霜の3人となった

 

「それで、話って何かな?」

 

「えっとね司令官」

 

 

「南方海域に行ってみたいんだ」

 

(もしかしたら……武蔵さんが消えた理由もわかるはず……まずは司令官にお願いしてみなきゃ!)



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8話 南方海域へと向けて

鎮守府 中庭

 

連絡! 次の出撃海域は"南方海域"へ!各々準備をするように!

 

中庭の掲示板にデカデカと青葉通信が張り出されていた

 

記事を見て気合を入れる艦娘 不安がる艦娘たちがいた

 

「よっしゃ腕がなるぜ!……っていうか何で急に南方海域へ出撃するってなったンだ?」

 

「何でも 清霜が直訴したらしいよ?」

 

様々な憶測が飛び交う中 清霜が関係したと言う考察が多くあった

 

数日前に清霜が提督に直訴したとこから始まったのであった

 

――数日前 執務室

 

「南方海域?」

 

「うん、そこへ行ってみたいんだ」

 

「そういえば……まだ作戦が完遂していない海域がありましたね」

 

古鷹が資料を提督に渡し 提督は難しい顔をしながら読んだ

 

「あそこは結構厄介なんだよね」

 

提督の言う通り その海域は幾度苦戦を強いられている場所だった

 

作戦が発令するたびに 提督が頭を悩ませる海域でもあった

 

「うーん……どうするかなぁ」

 

「司令官!お願い!私も頑張るから!」

 

「頑張るって言われても……」

 

「ところで清霜さん、そこの海域に行きたい理由は何でしょうか?」

 

「あ、えっと……」

 

古鷹に質問された清霜は慌てふためいた

 

(武蔵さんに会えるかもしれないって言ったら司令官も却下しそうだし……)

 

「ほ、ほら!私航空戦艦になったし、一度は腕試しにでもって!」

 

「……たしかにそうだね。ちょっと今日の夜にでも考えてみるよ」

 

「ほ、ほんと!?やったぁ!約束だよ!」

 

――現在 中庭

 

(やった!南方海域に出撃できる!出撃までに鍛えておかなきゃ!)

 

清霜は一目散にこの場から去り 自室へと向かった

 

「今のって清霜だよな?」

 

「うん。よほど気合入ってるように見えたけど……」

 

鎮守府 執務室

 

「青葉が作ってくれた記事でみなさん準備を進めています」

 

「あんなに派手に作らなくてもいいのに……」

 

「すみません……後で青葉に言っておきます。それで、編成の連絡はいつにしましょうか?」

 

「今日の夕方にでも連絡するよ」

 

駆逐艦寮 夕雲型の部屋

 

「いーち、にー……」

 

部屋では清霜が筋トレを行っていた

 

戻ってきた途端 すぐに腕立て伏せ、腹筋、背筋やスクワット

 

姉妹には何も言わず黙々とやり続けていた

 

「清霜さん、どうかしたのですか?」

 

「何でも希望してた南方海域に出撃したいっていうお願いが司令に伝わったんだって」

 

「オッス!清霜!がんばってんな!」

 

「朝霜ちゃん!うん!私がみんなを護らないとね!」

 

(それと……武蔵さんが消えた手がかりもなにかわかるはず……!)

 

「言うようになったじゃね―か清霜!アタイも付き合うぜ!」

 

「うっせぇぞ!お前ら筋トレするならトレーニングルームか外でやれ!」

 

鎮守府 運動場

 

「よーし!!次はグラウンド10週だよ!」

 

「おうよ!アタイを舐めんなよ!」

 

運動場では清霜と朝霜がランニングをしていた

 

それを遠目に長門と榛名は昔を思い出しながら語り合っていた

 

「清霜もたくましくなったな」

 

「はい、最初の頃とは見違えるようになりました」

 

「この鎮守府にも、また新しい戦力が増えたな」

 

目を細めて語り合う長門に対し 榛名はふと疑問に思ったことを長門に言った

 

「……そういえば、清霜さんのことについてですが」

 

「どうした?」

 

「時折、武蔵さん、武蔵さんと呟いてる様子が見られたんです」

 

「"武蔵"さん?それはどういうことだ?」

 

「榛名にも分かりませんが……深刻な顔をしていたのは見ました」

 

「ふむ……だが、出撃に関しては特に問題はないと報告があるのだから今は様子見をしておこう」

 

「ただ、無茶をするようなことをしたら守るようにしよう」

 

「はい、わかりました」

 

「それと、夕方ぐらいに提督から編成の報告があるみたいです」

 

「そうか」

 

トレーニングをしている二人を見届け、この場から去った

 

夕方 鎮守府 執務室

 

「南方海域に出撃するメンバーだけど……清霜は必ず入れることになった」

 

「編成によっては清霜の保護役も考えてあるから頭の片隅に入れておいてね」

 

「司令官!私は一人でも大丈夫だよ!」

 

「まぁまぁ、南方海域では誰かに見てもらったほうが良いと思ってね」

 

「それじゃあまず出撃する海域だけど……」

 

提督が海域ごとに編成に入っている艦娘の名前を読み上げた

 

もちろんどの海域にも清霜の名前が入っている

 

編成メンバーの発表が終わるとその場で解散となり 艦娘たちは部屋へと戻り始めた

 

????

 

「ここって……あの丘だよね……?」

 

清霜があたりを見渡すと武蔵がいつも座っていた丘に立っていた

 

そしてそこにはいなくなったはずの武蔵が海を眺めながら座っていた

 

「あ!む、武蔵さん!」

 

武蔵を見つけた清霜は駆け足で武蔵のところまで行き 隣りに座った

 

「あのね!清霜ね!航空戦艦になってまた強くなったんだよ!」

 

「ほぉ、そうか。私もいつか抜かれてしまうのだろうな」

 

「そんなことないよ!武蔵さんが一番強いんだって!」

 

「ははっ、私が一番強いか」

 

久しぶりに武蔵と再会し 航空戦艦になってからのどんなことがあったのかを話した

 

他愛のない話し 興味深い話 そして出来事などをたくさん話した

 

「そうか……伊勢と日向も居なくなったのか」

 

「もしかして、私が航空戦艦になりたいって言ったからなのかな……」

 

落ち込む清霜を見て 武蔵は手を頭の上にポンと叩いた

 

「そんなことないさ、お前は戦艦になりたいからなったのだろう?」

 

「まずは戦艦として役目を果たすのがお前の使命だ」

 

「……そうだね!後ね!南方海域に出撃することになったんだ!武蔵さんと出撃した場所に!」

 

「そうか、お前と出撃したことは覚えているぞ」

 

「……おっと、そろそろ時間だ、私は戻らなければな」

 

「戻るって……南方海域に?」

 

「さぁな、伊勢と日向もお前と会うことを楽しみにしているぞ」

 

「あ!待って!」

 

武蔵が歩き出すと同時に 清霜は後を追いかけたが 丘から落ちていき海に落ちた瞬間に目が覚めた

 

「……また夢か」

 

時刻は夜中の3時を指しており 静かな

 

(今日が南方海域に出撃する最初の日……何か見つかるかも知れない)

 

清霜は改めて横になり 出撃に向けて睡眠を取ることにした

 



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9話 疑惑

南方海域前面

 

出撃メンバー

 

清霜

衣笠

加古

天龍

瑞鳳

江風

 

南方海域へと出撃を初めた清霜率いる艦隊は海上を走っていた

 

清霜を先頭に 保護役として衣笠が監視をしていた

 

「ふわぁ……衣笠ずっと清霜の後ろにいるよね」

 

「まぁな、提督が保護役として任命したんだし。仕方ねぇだろ」

 

「みんな!この清霜に付いてきてね!」

 

「しっかし何だって急に南方海域に出撃するってなったんだ?西方海域の作戦、まだ残ってるんでしょ?」

 

「それはわからねぇけど……何かあるんだろ」

 

「それよりも、早くしないと清霜に置いてかれるっすよ」

 

「へーい」

 

江風の声により天龍と加古は清霜の後を追った

 

進撃していく艦隊は深海棲艦と戦闘をいくつも開始し見事に敵主力艦隊を撃沈することができた

 

「あーやっと終わった……帰ったら寝たいねぇ」

 

「あ!ごめん!後ちょっとだけみんなで探索してみない?」

 

「なンでだよ?もう主力艦隊は撃破しただろ?」

 

「何かあるの?」

 

「ほ、ほら!敵の残党がまだ残ってたりしてるかも知れないし!」

 

「どうするんだ?衣笠」

 

「提督も言ってたし……ちょっとだけしよっか!ただし、日没になる前に帰還ね」

 

「ありがとう!それじゃいってみよー!」

 

清霜の掛け声で探索を開始することになった

 

衣笠は引き続き 清霜の監視を続け 瑞鳳は艦載機で周囲の敵を索敵 江風は清霜と共に進んだ

 

残りの天龍と加古もしぶしぶと手伝うことにした

 

数時間後...

 

「そろそろ日没だよ、鎮守府に戻るよ」

 

(何もなかったかぁ……ここじゃないのかな?)

 

「だめだ……マジで眠い……布団がほしい……」

 

「深海棲艦との戦闘はあったし、疲れたぜ……」

 

「資源も見つけたしね」

 

探索を終えた艦隊は 少しの資源も手に入れることができたが疲弊しきっていた

 

日没となる前に 艦隊は鎮守府へと帰還することにした

 

鎮守府 執務室

 

「そこの海域に資源があったから取ってきたんだね」

 

「とはいっても少しだけどな」

 

執務室に戻った艦隊は出撃した海域であったことを提督に話した

 

主力艦隊の撃破 資源の獲得 そして清霜の行動について全て話した

 

「にしてもよぉ いきなり探索しようよって言われてびっくりしたぜ」

 

「それで清霜はどうだった?」

 

「艦載機も飛ばせて航空攻撃もできて、とっても頼りになるね!」

 

「た、頼りに……えへへ」

 

「顔とろけてンぞー清霜」

 

「けどねぇ、いきなり探索しようっていうのもどうかと思ったよ……」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「また明日、もう一度南方海域前面に出撃してみようか。それで何もなければ次の海域に進もう。今日はこれで解散」

 

 

鎮守府 廊下

 

「江風ちゃん!江風ちゃん!頼りになるだって!」

 

「それ何回も聞いたって、喜びすぎだろ」

 

先程の言葉で嬉しさが溢れんばかりに出ている清霜と呆れている江風が歩いていた

 

清霜は嬉しさを表すかのようなスキップでトーントーンと歩き

 

逆の江風は疲れた様子で歩いていた

 

「お前、そんなにはしゃいでたら余計に疲れるぞ」

 

「そんなことないもーん、戦艦だし」

 

「へいへい……ところでさ、駆逐艦のみんなで飯食いに行くンだけどお前も来るか?」

 

「あ、ごめん!その後ね、長門さん達とご飯食べる約束をしてるんだ!」

 

「あー、なら駄目か。じゃあな!」

 

「うん!またね!」

 

鎮守府 食堂

 

「あ!江風!おかえりっぽい!」

 

「おーただいまー。あー疲れた……」

 

江風が席に座ると 目の前にあった水を一気に飲み干し 一息ついた

 

「江風、疲れてない?大丈夫?」

 

「大丈夫だって海風の姉貴、ちょっと清霜に付きあわされてただけだ」

 

「付き合わされてたって?」

 

「出撃した海域で頼りになるって褒められたんだと、それが嬉しかったらしい」

 

「初めて言われたんだっけ?」

 

「恐らくな、今までの清霜は危なっかしいところとかあったけど……」

 

「あ、清霜ちゃんっぽい!」

 

夕立の目線の先には戦艦勢とともに食堂に来た清霜の姿だった

 

「清霜も立派な戦艦だね」

 

「けどあの娘、英語とか話せるの?」

 

「海外の言葉なンて、ハローとグッバイだけでいいだろ」

 

「フランスの人とかロシアの人とかどうするっぽい?」

 

「ンなもん一緒だろ!」

 

 

「江風、少しいいか?」

 

白露型が話をしてる最中に 陽炎型の磯風が横に入ってきた

 

「磯風じゃね―か、どうした?」

 

「いや……前まで西方海域で作戦をこなしてる最中に司令が急に南方海域に出撃すると言ったことでな」

 

「あー、清霜が提案したんだろ?南方海域に出撃したいって」

 

「なにか理由でもあるのか?」

 

「腕試しとか言ってたみたいだぜ?」

 

「そうか……それだけならいいが」

 

「どうも清霜に考えがあるとしか考えられん、腕試しとはいえ十分な練度はあるはずだ」

 

「たしかにそうだけど……今は提督の指示通り、南方海域の作戦遂行に励むしかないよ」

 

「……そうだな。すまない、飯の途中で邪魔をして。ではこれで失礼する」

 

磯風がその場から立ち去ると 白露型は話を再開し始めた

 

「清霜の考え……ねぇ」

 

「明日は夕立が清霜ちゃんと一緒に出撃だから聞いてくるっぽい!」

 

「夕立の姉貴が?大丈夫かよ……」

 

「江風、今日はお疲れ様だよ!明日は夕立、頑張ってね!」

 

「ぽーい!」

 

 

翌日

 

南方海域前面にもう一度同じメンバーで出撃したものの特に何も見当たらず

 

その海域での出撃は終了となり 艦隊はさらなる次の海域へと足を運ぶことにした

 

珊瑚諸島沖

 

出撃メンバー

清霜

夕立

プリンツオイゲン

龍鳳

翔鶴

瑞鶴

 

「今日もがんばっていこー!」

 

「おー!」

 

「ぽーい!」

 

清霜の掛け声と同時に夕立とプリンツが声を上げた

 

一方で空母龍鳳、翔鶴、瑞鶴の三人は艦載機を飛ばしながら海上を進んでいた

 

「今日も元気ね」

 

「そうね、元気なことはいいことじゃない」

 

「あの……敵艦隊を発見しましたので戦闘準備をお願いします」

 

「あ、うん。任せて!龍鳳さん!」

 

―――――

 

「ふぅ……疲れた」

 

「流石にここまで来ると敵の攻撃も激しいね」

 

「でもあと一息っぽい!」

 

「あんた達二人は砲撃受けてるんだし、あまり無茶しないでよね」

 

瑞鶴の言う通り 清霜と夕立は敵艦隊から砲撃を受け 艤装にもダメージが入っていた

 

「大丈夫!戦艦は簡単に沈まないよ!」

 

「とは言っても、さっきから清霜さん一人で突撃しすぎです。少しは自重して下さい」

 

「龍鳳さん……ごめんなさい」

 

「まぁまぁ!"終わりよければ全てよし"って言うし!またがんばっていきましょー!」

 

プリンツの掛け声と共に艦隊は再び進撃を再開した

 

敵主力艦隊と交戦し なんとか撃破に成功した

 

艦隊一同は島に上陸し 探索を行ったが 特に何も見つからず 鎮守府に帰還した

 

その後、提督に成果を報告 中破した清霜と夕立は共に入渠することとなった

 

鎮守府 入渠 脱衣所

 

「んん……今日も疲れた」

 

「疲れったぽーい……ところで一つ聞いてもいい?」

 

「どうしたの?」

 

「提督さんが西方海域から南方海域に出撃指令を出したのって清霜ちゃんがお願いしたから?」

 

「え?う、うん……そうだけど」

 

「それはどうして?」

 

「え、えーと……ほ、ほら!戦艦の腕試しってことで!」

 

突然の質問に清霜は焦って答えたが 夕立は更に質問してきた

 

「でも、清霜ちゃん。練度も十分だし試すこともないんじゃないの?」

 

「あ……そ、それは……」

 

何も言い返せなくなった清霜はただ黙るだけだった

 

「言えない理由があるっぽい?それなら夕立も深くは問い詰めないよ」

 

「うん、ごめんね……」

 

「気にすることないっぽい!それよりも清霜ちゃん本当に頼りになるっぽーい!」

 

「そ、そう?えへへ……ありがとう!」

 

夕立の言葉を聞き 清霜は嬉しさと同時に希望を持つようになった

 

(まだ手がかりは見つからないけど……きっと見つかるはずだよね!)

 

 

夕方 鎮守府 某所

 

「清霜が南方海域に出撃したい理由?」

 

とある駆逐艦が長波と話していた 清霜が何故提督にお願いしてまでそこへ出撃したいと言うのか

 

「うーん……わかんねぇなぁ。私も急に知ったことだし……」

 

「あ、でも。"誰かを探してる"っていうのは前から言ってたな」

 

「………」

 

「まぁそれが理由になるかどうかわからないけど……一応推測ってことでな」

 

 

 

「"人探し"……か」



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10話 本当の理由

10章 本当の理由

 

艦隊は順調に作戦を完遂し 次の海域へと足を運んでいた

 

そして最も難関とされる"サーモン海域北方"に向けての作戦を立てることにした

 

鎮守府 執務室

 

「さて、次の海域なんだけど……」

 

「……やっぱ気が滅入るよなぁ」

 

「司令官!ここまで来たんだからやるしかないよ!」

 

提督を励ますかのように清霜は言葉をかけた

 

暗い雰囲気こそ明るく振る舞う……と思える言動でもあった

 

「編成も重量になりますしね」

 

「私がいるから大丈夫だよ!司令官!」

 

「はは……頼もしいね。無理は禁物だよ?じゃ、明日出撃する人は出撃に備えてゆっくり休んでね」

 

参加メンバーが執務室から退室し 提督と古鷹の二人になると話し合いを初めた

 

「しかし……清霜のあの気合の入れようはなんだろうね?」

 

「そうですね、いつもより気合い入れてましたね」

 

「頑張ってくれてる分に関してはいいんだけど……最近報告が多いのが……」

 

各監視役からの報告通り 出撃記録での清霜の行動が目立つようになってきた

 

中には一人で突撃をするという行動もあり 悩みの種の一つでもあった

 

「それに、次の海域があそこですしね」

 

「長門に監視をお願いしたから大丈夫だと思うけど……」

 

翌日

 

鎮守府 港

 

「おーい!張り切って頑張るぞー!」

 

(今までの南方海域では武蔵さんに関する手がかりは見つからなかった……)

 

(けど!ここなら絶対に何かあるはず!)

 

(それに、今の私……負ける気がしない!)

 

 

「清霜、少し良いか?」

 

「なーに?長門さん」

 

「引き継ぎの件で、お前が無茶をする場面を見たという報告があってな」

 

「提督からの命令で、今は清霜を旗艦としているが。作戦遂行が困難と考えた場合私が旗艦を務めることにする。いいな?」

 

「あ、うん」

 

長門の言葉で 清霜にも緊張が入った

 

「だが、そうやって緊張すればうまく体が動かなくなる。気を楽にしろ」

 

 

「長門、厳しいわね」

 

「まぁ監視役だし……それに良くない報告もあるから」

 

「ナガート!Meは何時でもオッケーよ!」

 

同じ艦隊のメンバーでもある雲龍 葛城 大鳳 そしてアイオワも準備万端で待機していた

 

「よし、清霜。出撃の号令をお願いする」

 

「わかった!……旗艦戦艦清霜、抜錨します!」

 

 

数時間後...

 

南方海域 サーモン海域北方

 

出撃海域に向かった艦隊一同は強敵と連戦となり 数々の砲撃戦をかいくぐった

 

標的である主力艦隊を目の前にして 艦隊も疲れが顔に出ていた

 

「Uh……敵の攻撃が激しすぎるわね……」

 

「けど、後少しで敵主力艦隊です。もう一度気を引き締めましょう」

 

「ところで長門、清霜の様子はどう?」

 

「あ、ああ……砲撃戦となると無闇に突っ込む事が多いのだが何とか抑えるようにはしている」

 

「ごめんなさい……長門さん。砲撃戦となるとどうも体が勝手に動いちゃって……」

 

清霜の体は傷だらけでだが まだ戦闘はできる状態だった

 

しかし 次の砲撃を喰らえば中破では済まない……とでも言えただろうか

 

「この様子だと……旗艦を代えたほうが良いな……」

 

「長門さん!私はまだ――」

 

「知っているか?お前の行動が知れ渡っていることを」

 

「え?」

 

「先程もそうだが、敵艦隊に突っ込むという光景が問題視となっている」

 

「この様子では作戦遂行は困難とみなし、ここからは長門が旗艦を務める。いいな?」

 

長門の真剣な表情に 黙ってうなずくしかない清霜だった

 

その後、清霜を守るような陣形を敷き なんとか主力艦隊を撃破して鎮守府へと帰還することとなった

 

鎮守府 執務室

 

「……よし、ありがとうね長門。急な変更で」

 

「ああ、しかし今は皆無事で帰還できたことが良かった」

 

「それが一番だね。……ちょっと清霜はこの後残ってもらえないかな?」

 

「う、うん」

 

(なんだろう……)

 

「それじゃあ、お疲れ様。今日はゆっくり休んでね」

 

清霜以外の艦娘は執務室から立ち去り 残った清霜と提督、古鷹はソファーに座った

 

「……いきなり単刀直入に言うけど」

 

「清霜が南方海域に行きたい理由って"人探し"ってことだよね?」

 

「えっ……!?」

 

突然のことに 驚く清霜 彼女の額からは大量の冷や汗が出てきた

 

「その驚きようだと……正解だったかな?」

 

「そ、そんなことないよ!ただ私はみんなのために……」

 

「本当にそうなんですか?」

 

「実はと言うとね、そのことを教えてくれた人がいるんだよ」

 

「し、司令官!それは……」

 

 

「僕だよ」

 

執務室のドアが開くと そこには時雨が立っていた

 

「君が出撃してる間にここに来て 話してもらったんだ。"本当の目的"を」

 

「嘘をついてまで出撃したいだなんて……どういうことか教えてほしい」

 

「……昔のことを思い出して、ある人と南方海域に出撃した記憶を思い出したんだ」

 

「そこから急に消えちゃったから……何か手がかりがあるんじゃないかって……」

 

本当のことを告げると 少し沈黙が続いた

 

「やっぱり……長波が言ったとおりだね」

 

(長波姉さんが……言ったんだ……)

 

「とりあえず、南方海域の出撃は続けるつもり……だけど君は連れていけない」

 

「ど、どうして?!私はまだいけるって!」

 

「今までの監視役の報告を聞くと、君はすぐに突っ込むことが多そうだね」

 

「もしかしたらその消えた人を探すためとなると……被害が大きくなりそうと判断したんだ」

 

「自分の為の目的という理由で出撃したいというのはどうかと思う」

 

「今度は大丈夫だから!!」

 

「その大丈夫は何度目だ?」

 

提督が語気を強めると 清霜は下に俯いて黙るようになった

 

「……とにかく、明日からはゆっくり休んで。南方海域の出撃メンバーから外しておくから」

 

「これで話は終わり。ごめんね、時間取っちゃって」

 

話が終わると同時に清霜は口を開かずに執務室から出た

 

すれ違った時雨はソファーに座り ゆっくりと息を整えた

 

「……清霜に悪いことしちゃったかな?」

 

「そんなことはないよ、本当のことを言ってくれただけでようやくスッキリしたよ」

 

「提督、今後の編成はどうしますか?」

 

「とりあえず清霜を抜いたメンバーで……」

 

翌日 掲示板には更新された南方海域メンバー一覧が貼り出されていた

 

そこには清霜の名前はなかった

 



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11話 次なる願い

鎮守府 食堂

 

突然のメンバー変更に艦娘たちの中では話題になっていた

 

「びっくりしたぜ。急に変更だなンて……」

 

「しかも清霜ちゃん外れてたっぽい」

 

「噂では無茶し過ぎだから駄目って言われたらしいよ」

 

江風、夕立、白露の3人がメンバー変更について語り合う中 時雨は考え事をしながら食事をとっていた

 

(これでよかったのかな……この先無事に終わればいいと思うけど……)

 

「時雨、どうしたの?」

 

「ううん、何でもないよ。早く食事を済ませよう、提督からなにか連絡があるかもしれないし」

 

村雨の問いかけに時雨は応え、食事を再び取り始めた

 

 

「時雨、少しいいか?」

 

やってきたのは陽炎型駆逐艦の磯風だった

 

彼女もまた 編成変更について疑問を持っていた

 

「どうしたの?磯風」

 

「ああ、清霜が外れたことでな。疑問に思っていた」

 

「何故南方海域に出撃したいと希望した戦艦清霜がこの時期になって外れたのか」

 

「ただの疲れじゃねーの?」

 

「中破はよくしてたけど、疲れとかはなかったっぽい」

 

「そうではないとすれば、別の理由があるはずだ。なにか知っているか?」

 

「……実は、ある人を探すために南方海域に出撃したいって言ったんだって」

 

「何か手がかりがあるんじゃないかって……それで張り切ってたらしく、無茶をするようになったから提督が……」

 

「引き止めて出撃させないようにしたってわけか……」

 

「なるほど……そうだったのか」

 

「でもこのことはあまり広めないほうがいいと思う。清霜も提督もみんなも困ることになるだろうし……」

 

「わかった、機密にしておこう。しかし、また同じようなことが起きてしまった時は全員に言うしかないがな」

 

険しい顔をしながら磯風は立ち去った

 

「磯風のやつ……随分と怖い顔してたな」

 

「いつもより怖かったっぽい」

 

「清霜……大丈夫かしら?」

 

「清霜も今は出撃できないはずだし、今は部屋にいるんじゃないかな?朝霜が様子見に行くっていってたし」

 

戦艦寮 清霜の部屋

 

そして話にも出た 編成から外れた清霜は自分の部屋に戻ると落ち込んだ様子で窓から外を眺めていた

 

(司令官に怒られちゃった……やっぱりそうなるよね……)

 

(このまま……出撃できなくなるのかな?せっかく戦艦になれたのに……)

 

(武蔵さん……なにか見つかると思ったのに……)

 

 

「おーい清霜!一緒に飯食おうぜー!」

 

トントンと扉を叩く朝霜の声が響いた 

 

しかし、清霜からの返事はしばらく待っても声は返ってこなかった

 

「清霜のやつ、まだへこんでるのか……?」

 

 

「あんた、また来てるの?」

 

「おう霞、当たり前さ!困ったことがあったらアタイが力になってあげるって決めたからさ!」

 

「それで、成果は?」

 

「……見てのとおりだよ、呼びかけても返事の一声もしてこない」

 

がっくりと項垂れる朝霜を見て 霞は溜息をついた

 

「にしても、外されたって一体何したんだろうな?」

 

「監視役の忠告も聞かず、敵前線に突撃してよく中破とかしてたからじゃない?噂にもなってるわよ」

 

「でもそれだけで籠もるってどうかと思うぜ。おーい!清霜!」

 

「ちょっと、今は一人に――」

 

 

「あ……」

 

部屋の前で騒いでるのに気づい 清霜はドアを開けた

 

特に変わった様子もなく 至って普通な清霜の姿だった

 

「おー!清霜!大丈夫だったかー!?」

 

「わわっ……どうしたの?朝霜ちゃん……」

 

「アンタが部屋に籠もったから心配しに来たのよ」

 

「もしかして霞ちゃんも……?」

 

「わ、私はただ通りすがっただけったら!」

 

「ところでよ清霜、へこんでるならうまい飯でも一緒に食おうぜ!」

 

「あ、ごめん……今はそんな気分じゃないんだ」

 

「じゃあ部屋でアタイと霞で話をしよう!そうしたら腹も減るだろ!」

 

唐突な朝霜の提案に霞も反論することはできず、仕方なく清霜の部屋に入ることにした

 

鎮守府 戦艦寮 清霜の部屋

 

「あら、意外と広い部屋ね」

 

「筋トレ用具もあるな……持てんのか?」

 

「もちろんだよ!……アイオワさんからもらったダンベルは重くて持てないけど……」

 

部屋は筋トレ用具があちらこちらに転がっているが それほど汚いというわけでもなかった

 

「ほら、話聞きに来たんでしょ。早く始めるわよ」

 

「おっとそうだ。よし!じゃあ始めるか!」

 

数分後...

 

「やっぱり一人で突撃したことが原因なんだな」

 

「そのことで司令官に怒られて出撃を禁ずるって言われて……」

 

「まぁ妥当よね。しばらくは出撃なしってことだわ」

 

「でもよぉ、何で一人でそんなことしたんだ?」

 

そう問われると清霜はタンスへと向かい 引き出しから何かを取り出し持ち込んできた

 

「これって……手袋か?」

 

「グローブとでも言ったほうがいいわね。ところでこれは?」

 

「……これはね、憧れの人が私にくれた物なんだ」

 

「南方海域に出撃した後で、部屋で探してたら見つけて持ってきたんだ」

 

「あこがれの人って……」

 

「"武蔵"っていう人か?まだ探してるんだな」

 

「最後に一緒に出撃したのが南方海域でね、その翌日に居なくなっちゃったんだ」

 

「そこで何かあったのかもしれないって思って……南方海域に出撃したいってお願いしたんだ」

 

「だからといって、嘘までついたり、自分勝手に動くのは駄目に決まってるでしょ」

 

霞の一言でまた清霜は俯き、黙り込んでしまった

 

「しばらくは出撃無しみたいだし、アタイとトレーニングして待っとくか?」

 

「それに南方海域の作戦も順調みたいだし、そろそろ打ち切りになるかもしれないわよ」

 

「そ、そんなぁ……」

 

「それまではしばらくじっとしてることがいいかもね」

 

 

「……なぁ考えてみたんだけどさ」

 

「清霜が司令になったら出撃できるかもな!」

 

「は、はぁ?!何いってんのアンタ?!清霜が司令官になれるわけ無いでしょ!?」

 

「なったらの話だろー!司令になったら好きに編成とか組めそうだしな!全員戦艦とか!」

 

「ただの力任せじゃない……」

 

(私が司令官……かぁ……確かに朝霜ちゃんの言う通りだけど……)

 

(……もしかして、あそこなら……叶えてくれるかも……)

 

 

「ん?どーした清霜?深く考え込んで?」

 

「あ、ううん。何でもないよ。それよりもお腹空いちゃったからご飯食べたいな」

 

「んだよ!腹減ってるじゃねーかやっぱり!行こうぜ」

 

霞と朝霜に連れられ 清霜は食堂へと向かった

 

食事をとりながら談笑していたが 清霜はふと考えていた

 

"司令官になれたら"すぐに出撃再開ができるのではないかと

 

夜 ????

 

「またここだ、ということは……」

 

「やぁ、これで三度目だね」

 

清霜が振り返ると いつものように謎の人物が座って待っていた

 

もちろん例の扉も存在していた

 

清霜はその人物を見るや否や 即座に近寄り聞くことにした

 

「ねぇ、もしかして。"司令官"になれたりもできる?」

 

「いきなりだね……まぁなれるんじゃないかな?そこの扉を開けたらだけど」

 

「でも……後悔とかはしない?」

 

「……どういうこと?」

 

「君は戦艦になりたい、航空戦艦になりたい……そして次は司令官、もとい提督になりたいと願った」

 

「本当にそれでいいんだね?」

 

この言葉を聞いて清霜は戸惑ったが 少し間をおいてもう一度答えた

 

「……私、"司令官"になりたい。そうしたら出撃もまたできるようになるし、武蔵さんに関する手がかりも見つかるはず」

 

「だから……お願い!」

 

「迷いはなさそうだね……じゃあいいよ、その扉を出たら君は提督だ。頑張ってね」

 

「うん、またね」

 

別れの挨拶を告げ 清霜は扉をゆっくり開き ゆっくりと歩き始めた

 

「またね……か。次に会える時はどんな感じで来るんだろうなぁ」

 

その人物はふふふっ と笑いながら 歩く清霜を見送った

 

 

 



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12話 清霜 提督へ

朝 提督の私室

 

清霜が目を覚ますと いつもの部屋で寝ていた部屋とは違う光景だった

 

一旦あたりを見渡して 数秒考えた後 理解することにできた

 

「ここ……司令官の私室なんだっけ」

 

「そっか……私、本当に司令官になれたんだね」

 

(それにしても、夢の中に出てくる人って一体なんだろう……?)

 

 

「提督、起きていますか?」

 

「あ、うん!起きてるよ!ちょっと待ってて!」

 

古鷹の声を聞き せっせと身支度を済ませて 扉を開けた

 

「おはよう!古鷹さん!」

 

「おはようございます」

 

「おはよーしれー」

 

扉を開けると 古鷹と時津風が出迎えた

 

「あ、時津風ちゃんもいるんだね」

 

「いるんだねって……いつも来てるんだけどな―」

 

(そっか、時津風ちゃんはいつも司令官の部屋に来るんだっけ)

 

「提督、朝礼の際、編成のご連絡をお願いしますね」

 

「編成……?してたっけ?」

 

腕組をしながら思い出そうとしても 全く記憶に残っていなかった それと同時に古鷹がふぅ と息を吐き

 

「もう……今日も南方海域の出撃ですからお願いしますね」

 

「先に食堂に行ってるね―」

 

清霜は食堂へ向かう二人の姿を見送り 部屋で身支度した

 

「編成かぁ……そんなことしてたっけ?」

 

「……確か、机の引き出しの中に……あった!」

 

(……あれ?何で私の名前があるんだろ……)

 

「あ!そんなことより早く朝ごはん食べて朝礼に間に合うようにしないと!」

 

 

執務室

 

朝食を終えた清霜は駆け足で執務室に向かい 古鷹と合流した

 

「お待たせ!古鷹さん!」

 

「お疲れさまです」

 

「よし!じゃあ話し合おうよ!」

 

「あの……座らなくて良いんですか?」

 

「座らなかったら時津風が座っちゃうよー」

 

「……あっ!そっか!私司令官なんだっけ。えへへ」

 

「何言ってるんですか、ずっと前からそうでしたよ」

 

照れながら清霜は 提督の席へと座った

 

古鷹と時津風と談笑していく中 次々と主要メンバーの艦娘が入室してきた

 

ある程度の人数が始まったところで作戦会議が始まった

 

出撃メンバーと出撃海域の確認 および提督清霜の出撃について話し合った

 

提督自ら出撃するということを聞き 一部驚く艦娘もいたが すぐに了承した

 

数時間後...執務室

 

「つっかれたー……こんなに長引くなんて……」

 

「お疲れさまです提督。お茶どうぞ」

 

「うん、ありがと!」

 

「昨日は"私も出撃する!"って言い出しましたけど急にどうされたのですか?」

 

「え?昨日の私……そんなこと言ったっけ?」

 

(じゃあ昨日から司令官になったってこと?その前の戦艦になったときや航空戦艦になったときも……)

 

「どうしたんですか?考え事なんかして」

 

「ううん!何でもない!さ、出撃に向けてしっかりと準備しないとね!」

 

「終わったら時津風とも遊んでよね―」

 

その後準備を整え メンバーと合流した清霜は南方海域へと再び出撃した

 

南方海域

 

「よし!ちょっと休憩しよっか」

 

南方海域へと出撃した艦隊は順調に進んでいた

 

旗艦の清霜提督に戦艦と空母で構成されており 多くの深海棲艦を撃破してきた

 

「提督、頑張るのはいいがあまり無理はするな」

 

「あなたがやられちゃったら鎮守府も大変なことになるからね」

 

「長門さん!陸奥さん!大丈夫だよ!」

 

「にしてもこの編成……かなり重量じゃないの?」

 

「そうね、その分攻撃力も高いけど……」

 

空母の雲龍と葛城が心配する中 リシュリューは清霜が出撃することに疑問を持った

 

「amiral、貴方が出撃したいって急に言いだしたけどどうして?」

 

「そ、それはあれだよ!やっぱり提督自身が自ら出撃して確かめるみたいな!そそ!そんなかんじ!」

 

「ふーん……ま、amiralが決めたことだからいいけど……」

 

「提督よ、そろそろ向かおう。先には強敵が潜んでいるかもしれないから慎重にな」

 

「じゃあみんな!深層部に向けて出撃しよっか」

 

数時間後...

 

鎮守府 執務室

 

「――以上が 内容の報告だ」

 

「ありがとうございます。提督は入渠でしょうか?」

 

「ああ、傷は深くはないが万全の体制でいたいと言って即座に向かった」

 

「じゃあ執務は古鷹がやるってことかぁー」

 

執務室のソファーで古鷹と長門が話してる横で 提督が座っている椅子に座っている時津風はクルクルと回りながら遊んでいた

 

「仕方ないですよ。提督が艦娘ですし、戦艦でもありますから」

 

「しかし、頼りにもなるな。まさか戦場で提督と戦えるとは……」

 

「ふふっ。ご報告ありがとうございます」

 

入渠

 

「はー……。つっかれた……。久しぶりに出撃した感覚だよ……」

 

(けど、昨日出撃したいって言って、今日に反映されてるってことは司令官になったのは昨日より前ってことなのかな?)

 

(それだと私が戦艦や航空戦艦になったのも夢から覚めた昨日だったよね……)

 

 

「おい!清霜!風呂の中で考え事してるとのぼせちまうぞ!」

 

突然の大声に気づき 振り返ると 服装は改二使用の朝霜の姿があった

 

「あれ?朝霜ちゃん、いつ改二になったの?」

 

「何言ってんだよ、昨日に改装したばっかだろ」

 

(昨日……私、まったく知らない……それじゃあどうして出撃メンバーに私の名前があるのかも……)

 

「……それじゃあね、昨日何があったのか教えてくれないかな?」

 

「??  まぁ、いいけどさ……」

 

 

数分後...

 

「謎の装備が南方海域の深層部に?」

 

「あぁ、何でも出撃した旗艦の長門さんが見つけたんだと。今は工廠で明石さんに見てもらってるってさ」

 

「でかかったなぁ……大和さんの主砲並みだったなぁ」

 

その言葉を聞いて清霜は朝霜に飛びかかった

 

「ね、ねぇ!!今なんて言ったの?!」

 

「え?大和さんの主砲並って……それがどうしたんだよ?」

 

「まだあるよね!!?」

 

「あ、あるんじゃねぇか……?」

 

「早く聞いてみないと!高速修復材を使わせてもらうね!!」

 

「あっ!おい!待てって清霜!」

 

 

鎮守府 工廠

 

「よいしょっと……これですね」

 

明石が運んできたのは錆びている大きな主砲だった

 

朝霜の言ったとおり 大和型並の主砲の大きさだった

 

「これって、南方海域で見つけたんだよね?!」

 

「は、はい……。何でも長門さんが深層部で見つけたとのことで……」

 

迫る清霜の迫力に押された明石は答えた

 

(私が戦艦になる前……その前に武蔵さんになにかあったはずなんだ!)

 

「ちょっと長門さんのところに行ってくる!!」

 

「え!えっと……じっくり見ないんですか?!」

 

「どうしたんだ?清霜の奴……」

 

 

中庭

 

「確かに……深層部であの主砲を見つけたのだ」

 

「海に浮かんでたの?」

 

ベンチに座っていた長門を見つけ その隣で清霜は質問攻めをしていた

 

「いや、とある島の陸地にあってな。発艦された偵察機が発見したんだ」

 

「他には?」

 

「主砲だけだったな……島もたくさんあったことだし、他にもあるのではないだろうか」

 

「それじゃあ……他の島にも何か艤装があるってことだね」

 

「恐らくな。しかし、あそこの海域は凶暴な深海棲艦も多くあまり長居するのは危険すぎる」

 

「来ても精々探索をできるかどうかという問題だが……」

 

探索は難しい そう考えたが今しかない!と思った清霜は決めた

 

「またその海域に行ってみたい……いいよね?」

 

「提督がそういうのなら……だが、危険となればすぐに引き返そう」

 

「わかった!また編成が決めておくね!長門さん、一緒になったらよろしくね!」

 

清霜は長門と分かれた後 執務室にて古鷹と相談しながら編成を決めていった

 

この話は長くなり、気がつけば辺りは夜になっていた

 

「なんとか……決まったね……」

 

「そうですね……もう遅いですし、お休みになりましょうか」

 

「うん!お休み!古鷹さん!」

 

「はい、お休みなさい」

 

数分後...

 

「この編成なら……あの海域でも大丈夫って言ってたけど……心配だなぁ」

 

 

「古鷹さん、いいかな?」

 

執務室に入ってきたのは駆逐艦の時雨だった

 

前に起きた件から また出撃するようになった清霜について少し心配をしていた

 

 

「……じゃあまた出撃するってことだね」

 

「そうですね、私も心配していますが、長門さんがいるので大丈夫だと思いますが……」

 

「今まで出撃した報告を聞いたけど、何か大きな主砲があったらしいんだね」

 

「はい、大きな主砲でした。ただ錆びついていて誰の物かは・・」

 

「こっちでは大和型並っていう噂も流れてるし……清霜が特に興味を持っているんだ」

 

「また一人で出ていかなければいいけど……」

 

「大丈夫ですよ、提督も自分の身はしっかりと分かっていますし」

 

「だから時雨さんが心配する必要はないんですよ」

 

「そうかな……ごめん、急に相談して。じゃあ僕は寝るね」

 

「はい、お休みなさい」

 

話を終えた二人はそれぞれ自室に戻り就寝した

 

不安と心配が募る中 出撃の朝を迎えた

 



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13話 もっと強く

南方海域 深層部

 

「ここがその海域だ」

 

「ここが……」

 

長門に案内された旗艦清霜率いる編隊は南方海域の深層部に着いた

 

その前の海域で幾度の戦闘があったものの 無難にこなし ようやくたどり着いた

 

深層部の雰囲気はというと 薄暗く どこか気味が悪い場所でもあった

 

「うーん……前にも来たことあるけどやっぱり嫌だなぁ」

 

「何ていうか……ジメジメしてるよね」

 

二航戦の飛龍と蒼龍は嫌な顔をしながら海上を走った

 

「私もそうだ、提督よ。あまり長居は禁物だ。早めに済ませてしまおう」

 

「うん、わかった――」

 

そう清霜が承諾した その時だった

 

「!! 前方に敵艦発見!」

 

「飛龍!敵戦力はどんな感じ?!」

 

「戦艦級多数!空母もいるよ!というか何あの数!?」

 

突如現れた敵艦隊に驚く艦隊は急いで戦闘準備に入った

 

「これは……大規模な戦力だぞ。どうする提督。引返すというの手だが……」

 

「ここまで来たんだよ!絶対に倒してやるんだから!

 

「OK!Let's go!」

 

 

 

30分後...

 

「なんとか倒せたけど……結構疲れたね」

 

「でもまだたくさんいるよ……どうする?」

 

「どうするも何も!私はまだ大丈夫だから頑張ろうよ!」

 

「だ、大丈夫って言っても、何か打開策とかあるの?」

 

飛龍の問いに清霜は戦況を見つめ直した 中破も多数 損害もあり このまま戦っても埒が明かないということが目に見えた

 

「……せっかくここまで来たのに」

 

ぐっと唇を噛みしめる清霜の顔は悔しそうに見えた

 

その側に長門が立ち寄った

 

「提督よ、今は退いておこう。現状敵戦力は確実に下がっている」

 

「もう一度ここに来れば、今とは違う流れになるだろう」

 

艦隊は一度鎮守府へと帰還することになった

 

清霜の顔は無念の表情で海上を走った

 

鎮守府 執務室

 

「そんな戦力が……」

 

「ああ、撤退していると敵艦隊も追いかけてきたが、深層部から抜け出した後ではもう追っては来なかった」

 

「どうしてー?時津風なら追いかけちゃうけど」

 

「そこででしか活動はできない……とでも考えたほうがいいだろう」

 

古鷹と長門、そして時津風が海域について話をしている中 清霜は唇を噛み締めて考え事をしていた

 

「……」

 

「さっきから考え事していますがどうしましたか?提督」

 

「……今回はこうなっちゃったけど、次の出撃では今回のようにはいかない」

 

「私がもっと強くなって、深海棲艦を……」

 

呟いた清霜は席から立ち 執務室から出ていった

 

「あの……どうかされたのでしょうか?」

 

「私にもわからない……逃げ切って帰還するまではあの様子なのだ」

 

「悩んでるという訳でもないが……」

 

工廠

 

「え?主砲の改修ですか?」

 

「もっと強力にできないかな?」

 

「とは言っても提督の主砲は改修も十分ですし、これ以上するとなればそれ相応の艤装が必要ですよ?」

 

「南方海域にあった古びた主砲を使えればいいんじゃないの?」

 

「それはまだ何なのかわかりませんし、調査中ですので使えないと思います」

 

打ち上げられていた主砲は 鎮守府の工廠に預けられ 明石が調査をしていた

 

大和型の主砲と噂されているが 本当かどうか見極めるために行い 夕張と交代制で行っていた

 

「でも大和型並なんでしょ?だったら!」

 

「だとしても使えるかどうかですよ、少し整備すれば使えそうですけど……」

 

古びた主砲を見つめ 清霜はもう一度明石に目を向けた

 

「わかった。ごめんね、邪魔して」

 

「いいですけど……何かあったんですか?そんな険しい顔をして」

 

「……私が強くならないといけないから」

 

そう呟くと清霜は工廠を後にした 表情もまた一段と険しいものとなっていた

 

明石は不思議に思いながら 再び主砲の整備と調査に戻った

 

数日後 食堂

 

「今日も提督はまた南方海域の深層部に出撃かぁ」

 

「何か進展はあンのか?」

 

「特にありませんでした、はい」

 

春雨の答えに 白露と江風は朝食を食べながら考え込んだ

 

「じゃあ何で出撃するンだろうな?もうあそこには何もないはずだし」

 

「あのでっかい主砲の事があるんじゃない?大和型並だったし」

 

「……それは関係ないと思うな」

 

ぽつりと時雨が呟いた

 

「やっぱりあの人探しのこと?」

 

「たぶんそうだろうね。他の艦娘も薄々疑問に思ってることだし……」

 

 

「やっほー遊びに来たよ」

 

そこに 時津風が白露型が座っているテーブルに来た

 

「時津風じゃん。お前提督と一緒じゃないのか?」

 

「んとねー朝ごはんちゃっちゃっと済ませて出撃の準備しに行ったよ」

 

「時津風のこと置いてけぼりにしてさー」

 

ムスッとした時津風を見て時雨は質問した

 

「提督ってずっとそんな感じなの?」

 

「そだねー、出撃してー帰ってきてー執務してー構ってもくれなかった」

 

「どういうことなンだ?いつもなら構ってたのに……」

 

「あそこに出撃してからあんな感じだよ」

 

「もしかして、何かに取り憑かれたっぽい?」

 

幽霊の真似をしながらゆらゆらと動く夕立に山風を始め、姉妹たちがゾッとした

 

続いて時津風も夕立と同じ真似をし 怖がっている山風に近づいて遊んでいた

 

(幽霊……か。ないだろうけど……)

 

翌日 南方海域

 

「これより!南方海域深層部へと突入す!皆!着いてきて!」

 

「待て!提督よ!かなり傷を負っている艦娘もいる!ここは一度退くべきだ!」

 

艦隊には傷を負って満足に戦えない飛龍と蒼龍の姿もあり 弾薬燃料も浪費していた

 

長門の声を聞き静止した清霜は 下を向いてこう答えた

 

「……私だけでも進むから、長門さん達は傷を負っている人たちと帰還して」

 

「駄目だ!深層部に一人で出向かうなど無謀すぎる!」

 

「そうしないと!ずっとこのまま立ち止まっただけなんだよ!」

 

「……そこまでして進みたいというのは、何かあるってことなのかしらね」

 

「そうだよ、だからここで立ち止まっちゃ駄目なんだ」

 

清霜の問にリシュリューは間を入れ 一息ついてこう答えた

 

「……今の私達じゃ押し返されるも当然よ」

 

「飛龍と蒼龍もあの状態じゃ満足に艦載機も飛ばせないし、制空権を取れるかどうかもわからない」

 

「この状態で進撃するなんて、ただの無謀よ」

 

「……わかったよ、私が駄目なんだよね。まだまだ未熟ってことか」

 

「じゃあ一度戻ろうか、みんな」

 

素直に承諾した清霜だったが その顔は納得のいかない顔にも見えた

 

 

鎮守府 提督の私室

 

出撃から帰還した清霜は部屋に籠もり 今日の出撃を振り返っていた

 

自分自身が未熟……強くなるにはどうするべきかと考えていた

 

(やっぱりだめだ……数が多すぎて太刀打ちできない……)

 

(もっともっと強くならなきゃ……そうしないと前へは進めない)

 

(そのためには……力をもっと手に入れなきゃ)

 

(でもどうすれば……あの夢の中に入ればできるかな?)

 

もう一度 もう一度だけあの人のところに行きたい

 

そう願いながら 就寝することにした

 

その願いが通じたのか――

 

?????

 

「おや?また来たね。今日はどうしたの?」

 

「……もう一つ、お願いがあるんだ」

 

「へぇ?それって何?」

 

謎の人物が清霜に聞くと 清霜は拳を握りしめ こう答えた

 

「私をもっと強くできる?」

 

「強くって……君はもう十分強いんじゃないのかな?」

 

「ううん、まだまだ力が欲しいんだ」

 

「違う、誰にも負けないぐらいの力が欲しい」

 

真剣な表情で答えた清霜に 謎の人物もしっかり受け止めた

 

「……わかったよ。ただ、強くなりたいってことだよね?」

 

「うん」

 

「じゃあまた同じように扉開けなよ、そしたら強くなってるよ」

 

「ありがとう、じゃあね」

 

短い言葉で別れを告げると 清霜は扉を開けて入っていった

 

その後姿を見て 謎の人物も一つ息を吐いた

 

「ただ強くなりたい……か。誰かのようにじゃなく、ただ力が欲しい、と」

 

俯きながら呟いた謎の人物 表情はわからないが 何故か悲しく聞こえるようにも感じた 

 

 



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14話 強さ

鎮守府 提督の私室

 

「……」

 

目覚めた清霜は自分の両手を見つめていた 今までの流れなら強くなってるはず

 

しかし 本当に強くなってるか まだ半信半疑だった

 

(どこかで試してみたいな……演習場でも行ってみようかな)

 

そう思って扉を開けた時 目の前に朝霜と時津風の姿があった

 

「おっす!清霜!」

 

「しれーおはよー」

 

「おはよう。今ちょっと忙しいからまた後でね」

 

「もー!いっつもそれ言ってるじゃん!」

 

「清霜、たまには構ってやりなよ。出撃ばっかりでお前も――」

 

「ごめんね!今ちょっと用事があるからまた今度ね!」

 

二人の前を通り過ぎ 足早に清霜は何処かへと向かった

 

鎮守府 演習場

 

「すみません、提督がこちらにいると聞いたのですが……」

 

「あ!古鷹さん!あちらです!」

 

「……これは」

 

古鷹が目を向けると そこには砕け散った的が散らばっていた

 

海上には清霜が立っており 自分は強くなったと確信し 握った拳を見つめていた

 

(これだ……!この力があれば……!)

 

(皆を守れるし……深層部の探索もこれでできるはず!)

 

「おいおい……何だこりゃ……」

 

「演習場が……めちゃくちゃだね……」

 

騒ぎに駆けつけた時雨と江風もただ眺めるしかなかった

 

「古鷹さん!これから出撃メンバーを集めて!準備ができ次第出撃するよ!」

 

「あ、はい!」

 

清霜は足早に演習場を後にした それ以外の艦娘は演習場の光景を近くで見ることにした

 

「……的がボロボロじゃね―か、どうしてこうなったンだ?」

 

「砲撃の威力も段違いでした……鹿島も思わず腰が砕けてしまって……」

 

「それに、移動速度も尋常ではなく、戦艦と思えない速度でした……」

 

「ねぇ鹿島さん、清霜の様子はどうだった?」

 

「えっと……体の状態はさっき言ったとおりですが、表情はとても真剣でした」

 

「あんなに激しく動いてる割に、休憩もなしで演習をしていました……」

 

「休憩もなしでって……すげぇな……なぁ姉貴」

 

「そうだけど……清霜のことだから心配だな」

 

南方海域 深層部

 

清霜率いる艦隊は深層部へと出撃をしていた

 

そこでも清霜は 演習と同じような力を発揮し 深海棲艦を撃破していった

 

「すごい……提督にあんな力があっただなんて……」

 

「うん……昨日までとは大違いだよ……」

 

「だが、私達もここで立ってるだけとはいかんぞ、提督を援護するんだ」

 

長門たちの援護のこともあり 大勢の深海棲艦を撃沈することに成功し、島の探索を行うことにした

 

「よーし!張り切って頑張ろー!」

 

(ようやく探索ができる……!ここで何としてでも手がかりを――)

 

 

「ねぇ、ちょっといい?」

 

清霜を引き止める声 主はリシュリューだった

 

「amilal,その腕の傷は大丈夫なの?」

 

「え?……あぁ大丈夫だよ、痛みも少ししかないし」

 

「少しって……!血が出てるよ!?しかも痛そうに見えるし……」

 

腕に複数の切り傷があり 血が流れていたが清霜は大丈夫だよと落ち着かせた

 

「でも血が流れ続けてたら大変なことになるわよ?」

 

「それなら……」

 

衣服の一部を切り裂き 清霜は出血を抑えるかのように傷口に布を巻き付けた

 

「これなら大丈夫!」

 

「そ、そうかなぁ……」

 

「提督が傷を負ったが、真っ先に深海棲艦を倒してくれたおかげで私達は無傷で済んだのだ」

 

「だが島の探索は私達だけで行うとしよう。提督は少し休んでもらいたい」

 

「同志、貴様はそこで待っていろ。無闇に動くと傷口が広がるからな」

 

長門を先頭に ガングート リシュリューが探索行い

 

残った二航戦の飛龍と蒼龍は清霜の護衛と艦載機での見張りを行うことにした

 

(これくらいの傷……痛みは大きくないのになぁ……)

 

 

島中

 

「ねぇ、長門。少し良いかしら?」

 

「どうした?リシュリュー」

 

「さっきのamiralの傷の件についてだけど……やっぱり気になるわ」

 

「……あの傷で平常心でいることか」

 

清霜の傷は腕から血を流していた

 

しかし平気な顔をして傷に気づかず 戦闘を行っていたということだ

 

「同志が痛くないというのなら、痛くはないだろうな」

 

「提督はそう言っていたが……明らかに傷の箇所が多すぎる。それを痛くないとは……」

 

「…………」

 

「今は提督の命令に従おう。探索を行うぞ」

 

しばらくたった後 長門達探索組は清霜達待機組と合流した

 

探索組の成果は錆びれた電探と古びた主砲だった

 

 

南方海域 深層部 島の砂浜

 

「提督よ、戻ったぞ」

 

「わぁあ!また主砲を見つけたんだね!」

 

「まったく……運ぶ身にもなって欲しいな」

 

「ガングートさんもありがとう!……けどどうやって鎮守府まで運ぶの?」

 

「運搬係の艦隊がそろそろ来るはずだ。ちょうど来たようだ」

 

遅れて来たのはネルソン率いる水上編成艦隊だった

 

中には明石と夕張 工廠組も含めたメンバーも入っている

 

「はーい!おまたせ!今度は電探と主砲かぁ!」

 

「これは……いま調査中の主砲と同じ主砲ですね……」

 

「いつもすまないな、ネルソン」

 

「これくらい容易いことだ、余の役目は戦果を全うすることだからな」

 

「それじゃあ後はよろしくね」

 

リシュリューが声をかけると 運搬組は準備に取り掛かった

 

大発動艇の上に 主砲と電探を載せ 護衛しながら海上を走り鎮守府へと向かった

 

鎮守府 執務室

 

「次は主砲と電探ですか……」

 

「共に戦艦が使うような代物だったな、しかし何故あの深層部に……」

 

「もしかすると、深海棲艦の物という可能性もあります」

 

「うむ、明石と夕張に頑張ってもらうしかないか」

 

 

「ねー、しれーは?」

 

「提督なら傷を負ったので入居施設で手当を受けている」

 

長門はこの発言をした後 深刻な顔をし もう一度口を開いた

 

「その提督なんだが――」

 

入渠 医務室

 

帰投した清霜は傷のこともあり 医務室へと向かった

 

本人は大丈夫と言っていたが、念には念を入れ治療を受けることを周りから勧められた

 

治療係の速吸に傷の手当をしてもらっていた

 

「すごい傷ですね……いつの間に出来たんですか?」

 

「うーん……全然気が付かなかった」

 

「気が付かなかったって……痛いとは思わなかったんですか?」

 

「おー!もしかして清霜、真の力に目覚めたのか?!」

 

「でも少しは痛みは感じるよ、それはないんじゃないかな……」

 

「提督さん、あまり無理はしないでくださいね!」

 

手当が終わると清霜は執務室へと戻った

 

そこにはまだ古鷹と長門が話を続けていた

 

「ただいま!古鷹さん!長門さん!」

 

「提督!腕の傷は大丈夫ですか?!」

 

「うん、なんとかね」

 

古鷹は安心してホッと一息ついた

 

「提督、今日は大変な一日でしたしゆっくり休んで下さい」

 

「執務はいいの?」

 

「はい、残りは古鷹が執務をしますので……」

 

「古鷹も言っているんだ、提督は自分の部屋でゆっくり休むといい」

 

長門に諭されて 清霜は私室に戻ることにした

 

清霜が執務室から出ていた後 古鷹と長門は顔を合わせた

 

「長門さん、もしその話が本当なら……」

 

「心配するな、いざとなれば私が盾となる。恐らく提督は明日も出撃するつもりだろう」

 

「よろしくお願いします」

 

鎮守府 食堂

 

「お!提督!活躍したンだってな!」

 

食堂で清霜を出迎えたのは江風だった

 

どうやら南方海域の出撃の報告が知れ渡ってるらしい

 

「時津風から聞いたよ、新たに主砲と電探を見つけたんだってね」

 

「うん!これでまた一歩前進したよ!」

 

 

「ふふっ さすが元主力of主力の末っ子ね」

 

「そういえば元は夕雲型の駆逐艦だったわね」

 

「そうね、立派になるなんて嬉しいわ」

 

「……秋雲、あんたもあんな風になりなさいよ」

 

「そんな殺生な!?」

 

陽炎と夕雲が話している中 その横をある人物が通り過ぎた

 

 

「司令、少しいいか?」

 

提督清霜のそばにやってきたのは陽炎型駆逐艦の磯風だった

 

彼女もまた 清霜の動向について不思議に思っていたのである

 

「司令が強くなった秘訣を知りたい」

 

「この短期間で急激に成長したのは一体何故かだ」

 

「え、えーっと……」

 

(夢の中の人にお願いを言ったらなったっていうのは流石に信じてもらえないだろうし……)

 

「え、演習で頑張ったから才能が開花した……とか?」

 

「なら!江風もなれるってことだな!」

 

「その前に遅刻をなくしたほうが良いっぽい」

 

「それは関係ねーだろ!」

 

 

「……そうか、わかった。磯風も深くは聞かないでおこう」

 

「強くなったからと言って、自分を見失うな」

 

磯風の発言に 清霜考える

 

(どういうことだろ……?私が強くなって……見失うな?)

 

鎮守府  提督の私室

 

(磯風ちゃんが言ってた言葉……どうも引っかかるなぁ)

 

(もしかして私の強さに嫉妬してる……?まさかね)

 

(明日も早いんだし、もう寝よーっと)

 

執務室

 

「……」

 

「まだ起きてたんだ、古鷹」

 

「あ……衣笠……ちょっと考え事をね……」

 

「もうこんな時間だし、早く寝なきゃだめだよ。加古はもう寝ちゃってるし」

 

「ふふっ、私もそろそろ寝ることにするよ」

 

「そっか、じゃあお休み」

 

 

「……」

 

---数時間前 執務室

 

清霜が手当から帰ってくる前 古鷹と長門は話し合っていた

 

「最近の提督は、あまりにも強すぎて私達が出る幕がない」

 

「いいじゃんいいじゃん!しれー最強じゃん!」

 

「……だが心配事があってな」

 

「それは?」

 

「提督……いや、清霜は戦艦になり、なおかつ航空戦艦、更には提督という地位に達し、急激に力も強くなった」

 

「この力が故、無謀なことをしてしまうのではないかと」

 

「またあの時みたいな事が起きてしまったら……」

 

前の事件を思い出した古鷹の表情が曇り始めた 更に長門は言う

 

「もう一つ気になることがあってな」

 

「提督は治療中だが、痛みを感じないと言うんだ」

 

「へ?どういうこと?」

 

首をかしげる時津風に 長門は答えた

 

「出撃中、深海棲艦と戦闘に入ったのだが、提督は砲弾を受け腕から出血をしたのだ」

 

「だが、一切怯むことがなく、痛みもない様子で戦闘を行っていた」

 

「えー!それって無敵じゃん!」

 

「無敵ではないな、負傷していることには変わらん」

 

「いつしか、傷に気づかず撃沈することもあり得るだろう」

 

撃沈という言葉に執務室は沈黙に包まれた

 

「……すまない、今日話したことは公にしないほうが良いな」

 

「そだね……暗い話は嫌いだよ」

 

「提督にも話さない方が良いかもしれませんね」

 

「そうだな」

---------

 

「……考えても仕方ないか、私も寝ようかな」

 

作戦計画書を元の位置に戻し 古鷹は就寝することにした

 

計画書の済には付せんで"支援艦隊の有無の確認"が貼られていた

 



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15話 もう一つの作戦

あれから数日が経ち、提督の指示により南方海域深層部の出撃を繰り返していた

 

繰り返し出撃する日々が続き 疲労も溜まるようになってきた

 

しかし 清霜だけは疲労を見せる素振りもなく 傷を受けても大丈夫と一点張りするようになった

 

更に前みたいな明るい性格も徐々に無くなり 艦娘たちも気味悪がるようになった

 

鎮守府 食堂

 

「江風、おつかれ」

 

「おー時雨の姉貴じゃん、おっつおつー」

 

「とは言っても出撃じゃなくて遠征だけどな」

 

「それも仕事だよ、座りなよ」

 

時雨に勧められ 江風は隣の席に座った

 

「……なぁ、提督が最近おかしいってほンとかよ?」

 

「噂は流れてるみたいだね、何でも疲れも痛みも感じないとか……」

 

「江風も提督と出撃すること少なくなってきたから分からねぇな。近くで見ればわかる気がするンだけど……」

 

 

「そのことだが、報告がある」

 

時雨と江風が話している中 磯風が二人の元へとやってきた

 

「磯風じゃん、どうした?」

 

「古鷹からの指示で、支援艦隊を出撃することが決定した」

 

「もちろん司令には内緒だ」

 

「お!じゃあ江風も連れてってくれよ!提督のどこが怪しいか見てやるよ!」

 

「いや、江風は入ってない。駆逐艦の枠では時雨と磯風の二人だ」

 

「だってさ、江風」

 

その報告を聞き 江風は納得しない顔で磯風を睨んだ

 

「そう睨まれても困る、決まったことだからな」

 

「でも何で磯風なんだよ……時雨の姉貴はわかるけど」

 

「直に古鷹にお願いしたのだ、私も怪しいと思っていたからな」

 

「ンじゃ頼んだぜ二人とも。江風さんはゆっくりと見させてもらうからよ」

 

鎮守府 間宮亭

 

「今日は珍しいね、霞ちゃんから誘ってくるだなんて」

 

「別に……珍しくもないわよ……」

 

この日は 出撃から帰ってきた清霜を 霞と朝霜の二人で出迎えた

 

霞の表情は複雑で 朝霜も少し気にかけてるようにも見えた

 

「二人ともどうしたの?そんなに難しい顔なんかして」

 

「い、いやー!な!いつも清霜が頑張ってるからアタイと霞で労ろうとしてな!霞!」

 

「……そうね」

 

「お、おい霞、もうちょっと嬉しそうな顔しろって……」

 

「でもありがとう。いただきまーす」

 

アイスを食べる清霜に 霞は質問をした

 

「……ねぇ、気づいているんでしょ?」

 

「自分の体のことで他の艦娘から引かれてるの、知ってるんでしょ?」

 

「か、霞!いきなり言うとこじゃないだろ!?」

 

いままで長く付き合いがあったこともあり 霞は清霜のことで不安で仕方なかった

 

「あんたも今まで気にしてたんでしょ?」

 

「そ、そりゃあ……そうだけどさ」

 

 

「なーんだ、そんなことか」

 

「そんなことって……何よ?!」

 

「別にそんな事気にしてないよ、私はただ作戦を遂行するだけ」

 

「誰になんて思われようが別に気にしてないし」

 

「……何バカなこと言ってんのよ!」

 

霞の質問に対し淡々と答える清霜 その態度に霞も我慢ができなかった

 

「うぉい……霞、落ち着けって……」

 

「出撃から帰ってきて皆が疲れてても疲れを感じないならまだしも、傷だらけで帰ってきて平気平気って言ってる光景何度も見てるのよ!」

 

「自分の体のこと……不気味とは思わないの?!」

 

「……なぁ清霜、霞の言うとおりだぜ」

 

「アタイもそうだし、夕雲型のみんなも不気味がってんだ。自分の体の事心配して少し休んだほうが――」

 

 

「そうやって、二人も私の邪魔をするの?」

 

霞 朝霜の提案に対して 清霜は冷たい視線で二人を見つめた

 

「あのね、これは司令官である私の指令でもあるし、鎮守府のためでもあるんだよ」

 

「後少しなんだから、我慢してくれないかな」

 

「そ、そんなこと言っても……あんたの体を心配して――」

 

「私は誰にも負けない力を手に入れた、だから作戦もうまく行ってるんだよ」

 

「それでも邪魔をするっていうのなら……こっちだって容赦はしないよ」

 

「……なぁ、清霜。やっぱりあの憧れの人のことか?」

 

「二人には関係ないことだよ」

 

「この作戦が終わったら全部話すよ。それじゃ、次の準備があるから私は戻るね」

 

清霜はそう言いながら立ち去った 二人はただその後姿を見つめるしかなかった

 

「あ、待てって清霜!霞!早く――」

 

「いいわよもう!好きにさせなさい!……あの娘は司令官なのよ」

 

「……わかったよ」

 

鎮守府 駆逐艦寮 夕雲型の部屋

 

「提督と出撃……ねぇ」

 

部屋に戻ってきた朝霜と部屋にいた長波が今後について話し合っていた

 

「清霜をなんとかして助けたいんだ、あのままじゃいつか大変なことになっちまう」

 

「なんとかしてアタイも出撃したいんだ」

 

「それは無理なんじゃないか?提督が決めたことは何かない限り編成は変わらない」

 

「それに、今は戦艦と空母をメインとした編成だから駆逐艦が入る隙はないと思うぞ」

 

「くっそー……どうすりゃいいんだ?」

 

 

「え、えと、えっと……そ、そのこと……なんだけど……」

 

ガシガシと頭をかきながら悩む朝霜に 同じ夕雲型の浜波は提案をした

 

それは 提督に内緒で支援艦隊を送り、作戦が完了するまで見つからずに監視を行い 危機になれば支援するという作戦だった

 

「それをどっから聞いたんだ!浜波!」

 

「えと、えっと……その……」

 

「多分時雨だろうな、あたしも噂で聞いたし」

 

「そうとなったら決まりだ!じゃあな!」

 

「あっおい!もう編成のメンバーは……行っちまったな」

 

「あの娘も、提督のことずっと心配してたから助けたいと思ってしまったのね」

 

「通るかどうかはわからないけど……今は待ちましょう」

 

夕雲の言葉で長波も納得した様子だった

 

朝霜はなんとかして支援艦隊のメンバーに入り清霜を少しでも助けたい その思いが強く出ていた

 

 

数日後……

 

「……」

 

「提督、そろそろ出撃の時間だ」

 

長門の呼びかけに清霜は立ち上がり 準備へと向かった

 

「よし、じゃあ皆行こっか」

 

数分後...

 

 

鎮守府 工廠

 

「……そろそろ時間ですね。皆さんおまたせしました」

 

支援艦隊の待ち合わせとして 工廠へと向かった古鷹を出迎えたのは他の編成メンバーの5人だった

 

「それでは行きましょうか」

 

 

 

「支援艦隊 抜錨です」 



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16話 代償

南方海域 深層部

 

「着いたね。じゃあみんな一回集まろう」

 

艦隊は時刻通り 南方海域の深層部へと到着した

 

メンバーは今回の作戦を見直し 目的について話し合うことにした

 

「ねぇ提督、いつまでこの作戦は続くの?」

 

「……本当かどうかはわからないけど、この島に何かわかるかも」

 

「あと一つ残っている島か、提督」

 

清霜が地図に指を指した島 それがここの海域で見る最後の島だった

 

「まだ先の島かぁ。何も起こらないと良いけど」

 

「そう言うと起こっちゃうんだよ、蒼龍」

 

「……」

 

「どうしたのよ、リシュリュー。まさか怖気付いたのかしら?」

 

「……さぁね」

 

「よし、じゃあみんな行こっか」

 

清霜の合図で艦隊はまた海上を走り始めた

 

残りの島を探索すれば終わる 誰もがそう思った

 

鎮守府 執務室

 

「しれーも古鷹もいないと静かだし、ひまひまー」

 

「じゃあ、衣笠さんと書類整理でもする?」

 

古鷹と提督がいないとなった執務室では いつものように時津風が居座り 代理として衣笠が執務をこなしていた

 

「えー、さっきやったばっかりじゃん」

 

「それはまだ一部だよ。ほら、次はこれね!」

 

時津風がしぶしぶと書類に手をかけようとした時 ノックの音が聞こえた

 

「はーい、どうぞ」

 

 

「あ、今大丈夫ですか……?」

 

入ってきたのは工廠担当の明石だった その手には報告書らしきものがあった

 

「明石さんいらっしゃーい。その手に持っているのは?」

 

「そうなんです。アレについて報告しに来たんです」

 

南方海域 深層部

 

「見えた!あの島で最後だね」

 

「よし、みんな急ごう」

 

島を見つけた瞬間 清霜は一人その島へと向かった

 

「待て提督!一人では危険だ!」

 

長門に続き 他の艦娘も追いかけようとした瞬間 後ろから砲撃が艦隊を襲った

 

「後ろから砲撃!?……やばい!深海棲艦だ!」

 

「もう!どうしてこうなるの?!私達も提督を追いかけて合流するしか――」

 

「……その必要はないわね」

 

リシュリューが諦めた顔をして指をさすと 目の前にもいつの間にか深海棲艦の群が来ていた

 

姫級クラスの深海棲艦も来ており まさに危機という状況であった

 

「くっ……!提督はどうしてる?!早く倒して合流するぞ!」

 

 

 

その頃 清霜も同じように深海棲艦に囲まれていた

 

こちらは姫級クラスはいないものの ヲ級やリ級 そしてレ級などで編成されていた

 

「ンン?艦娘、オマエ一人ダケカ?」

 

(……大丈夫、私は強くなってる。こんな奴らなんか一瞬でやっつけちゃうんだから)

 

(夢で貰った……。この力さえあれば……)

 

「オイ、何黙ってルンダヨ?ビビッテンノカ?」

 

挑発するレ級に対し 清霜は冷静に返した

 

「……あなたなんか一瞬でやっつけちゃうよ。逃げるなら今のうちじゃない?」

 

「……上等ジャネェカ。殺シテヤルヨ」

 

 

南方海域 深層部 長門サイド

 

「駄目!何度も沈めても次から次へとくるよ!」

 

「くそっ……。ここで姫級とは厄介だな!」

 

「長門!こっちはあらかた片付いたわ!」

 

「ビスマルク!そうか!こっちの姫級が手強い!協力してくれ!」

 

「ええ!リシュリュー!早く行くわよ!」

 

「……そうね」

 

ビスマルクの声に リシュリューも冷静に返した

 

「……どうしたのよ、何か策でもあるの?」

 

「どうかしら、今はこの戦況にどう耐えるか。って考えてただけ。いくわよ」

 

リシュリューの発言に 首を傾げながらも共に移動をした

 

 

南方海域 深層部 清霜サイド

 

「はぁあああああ!」

 

提督兼航空戦艦の清霜も凄まじい力を発揮し 次々と深海棲艦を倒していった

 

しかし数も多く 強敵でもあるレ級とも苦戦を強いられていた

 

「オオ、ナカナカ強ェジャンカ」

 

「まだまだ、かかってきてよ!怖気づいたの?」

 

「言ウネェ……ヤッテヤルヨ!」

 

(何回か砲撃を受けたけど……これくらい痛くも痒くもないんだから!)

 

 

(……コイツ、マダ動ケルノカ)

 

(アレダケ砲撃ヲ受ケテ、傷ダラケノハズナノニ……アイツノ体ハドウナッテヤガル?)

 

(……コウナリャトコトンヤルシカナイナ)

 

 

南方海域 深層部 長門サイド

 

長門達は 引き続き深海棲艦の殲滅に励んでいた

 

ツ級やネ級などは撃沈に成功したが 残る姫級の戦艦棲姫や空母棲姫といったクラスがまだ残っており

 

また苦戦を強いられていた

 

「ぐっ……流石は姫級といったところか……」 

 

「ごめん長門さん……やられちゃった……」

 

「飛龍!……ビスマルク、飛龍を守っていてくれ。私一人で片付ける」

 

「何言ってるのよ!あなた一人じゃ無謀よ!」

 

「そうね、あなた一人じゃ駄目よ。このリシュリューにも頼りなさい」

 

「それと――」

 

このリシュリューの発言のあとに 遠くから砲撃の音がした

 

砲撃は複数の深海棲艦に命中することに成功した

 

「砲撃?!どこから?!」

 

「……ようやく来たみたいね」

 

 

「支援艦隊旗艦古鷹、援護に来ました!」

 

「古鷹?!何故ここに……?!」

 

「すみません、実は提督に内緒で支援艦隊の参加を進めていたんです」

 

「それを発案したのが私よ」

 

「リシュリューが……じゃあ早く言いなさいよ!」

 

 

「それはそうと、提督はどこでしょうか?」

 

「古鷹……私達は一人で走った提督を追いかけようとした時、深海棲艦と遭遇してしまいそこではぐれてしまった」

 

「この先にいるんだが……」

 

この言葉を聞いて支援艦隊に来た一人の艦娘が真っ先に走り出した

 

「お、おい待て!一人では危険だ――」

 

「追いかけないと……その前に先にここにいる深海棲艦を倒してしまったほうが良いわね」

 

「そうですね、皆さん。ここを切り抜けて、提督と合流しましょう」

 

「そうだな。行くぞ!」

 

 

鎮守府 港

 

「……」

 

「こンなとこにいたのか」

 

「……江風、どうしたの?」

 

港で水平線を眺めていた時雨の隣に江風は座った

 

「任せて良いのか?あいつに」

 

「あんな必死な顔でお願いされたらね」

 

「そンなに必死だったのか……」

 

 

「にしても時雨の姉貴、良かったのか?提督のこと心配なんだろ?」

 

「まぁね。でも大丈夫だよ、磯風もいるし」

 

「その前に提督が無事で合流できてたらいいなぁ」

 

「……」

 

南方海域深層部 清霜サイド

 

「まだ行ける!まだまだ!」

 

長時間 一人で戦闘を続けた清霜はまだ戦い続けていた

 

しかし本人は感じてはいないが 外傷が多くなり 出血も多量に出ており 

 

誰がどう見ても危険な状態に近い状態だった

 

(コイツ……一体ドウナッテヤガル……?アンナ状態ジャ倒レテモオカシクハナイハズ……)

 

(ワケワカンネェ……コノ艦娘ッテヤツハ……スコシハナレテ様子見デモ――)

 

レ級が撤退を考え込んだその時 清霜はすぐに近づき レ級に砲塔が向けられた

 

「……これで終わりだね」

 

「コイツ……イツノマニ!?」

 

「これで私の勝ち、さようなら。これ以上邪魔を――」

 

その時 清霜に体から力が抜けたかのような感覚に襲われた

 

(あれ……何で……どうして?)

 

(痛みも……疲れもないのに……)

 

自分の体を見てみると 血で真っ赤に染まった両手 体の多数からの出血

 

これだけあって平然といられるのは無理だと言われてもおかしくないくらいの状態だった

 

(嘘……!?私……動けないの……?)

 

(そんなはずない!立って!私は強くなったんだよ!動いてよ!私の体!)

 

「……?」

 

海上に膝を着いてしまった清霜 力も入らず 意識も朦朧とし始めた

 

(目の前が……霞んで見えちゃう……)

 

「……ドウヤラオマエノ体モ限界ッテコトダナ」

 

「ジャアコレデ オ別レだな」

 

レ級の砲塔が至近距離で清霜に向けられた

 

(せっかくここまで来たのに……こんなところで……あと少しなのに……)

 

目の前が真っ暗になり 気を失ってしまった

 

 

―――――

 

 

あれからどうなったのだろう 私 撃たれちゃったのかな 撃沈して海の底にいるのかな

 

そっと目を開けてみると 空が見えていた

 

「……まだ沈んでなかったんだ。それじゃ……あの後どうなったの?」

 

力を振り絞って体をゆっくりと立ちあげると

 

目の前には夕雲型駆逐艦 朝霜が力尽きて倒れていた

 

「そんな……どうして朝霜ちゃんがここに!?」

 

「クソガ……!コレデオ終イニシテヤルヨ!」

 

 

「そうはさせん!」

 

掛け声とともに砲撃がレ級に命中した

 

「ガッ……!仲間ガイタノカヨ!クソッ……ココハ逃ゲルシカネェカ!」

 

レ級が戦線から離脱すると 残った深海棲艦も続いて離脱した

 

「どうする?このまま追撃するか?」

 

「待ってください、今は提督と朝霜さんの救助が有線です」

 

「古鷹さん……どうしてここに?」

 

古鷹は事情を説明した

 

リシュリューが支援を要請して 清霜率いる艦隊の援護に入ること

 

朝霜が必死にお願いして 時雨と変わったこと

 

そして最後に 重要なことも聞かされた

 

 

 

この南方海域深層部で見つけた主砲等の艤装は大和型の物ではないことも

 



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17話 後悔

南方海域から帰還した艦隊は 意識不明の朝霜を医務室へと運んだ

 

その中には意気消沈した清霜もいたが いつの間にかいなくなっており

 

気づけば私室に戻るなり 出てくることはなかった

 

この事態に鎮守府は急遽古鷹を提督代理とし執務をするようになった

 

作戦が始まろうとする前にこの出来事が起きて 鎮守府全体がバタバタと忙しくなってきた

 

そして 数日後――

 

鎮守府 駆逐艦寮 ラウンジ

 

「そろそろ作戦開始前かねぇ」

 

「そうみたいだね、江風は準備できてる?」

 

「ンーぼちぼち。時雨の姉貴は?」

 

「こっちも大丈夫。磯風と話し合いながら進めてるよ」

 

「うへぇ……磯風とかよ……」

 

次に始まる作戦について 駆逐艦の中でも話し合いが始まっていた

 

駆逐艦代表の時雨と磯風を中心に今後についての議論が行われており

 

提督清霜についても 夕雲から情報を得ていた

 

「それで 提督の様子は?」

 

「部屋に籠もりっきりだって」

 

「こンな時期に大変だよなぁ……。古鷹さんも出撃する予定なンだろ?」

 

 

「それについては後ほど古鷹から説明があるらしい」

 

二人が話し込んでる時 磯風がラウンジにやってきた

 

彼女も今回の件について不満を持っている一人でもある

 

「磯風じゃん。どうした?」

 

「先ほど廊下ですれ違ってな、これから本営から来た憲兵と話をするらしい」

 

「提督は出てこないし……古鷹さんがするんだね」

 

「そうだ。今日の夕方にでも集合をかけるらしい」

 

「オッケー。……ところでさ磯風、まだ怒ってるのか?」

 

「……過ぎたことに怒っても仕方ないだろう。今の戦力でどう乗り切るのか考えるべきだ」

 

「我々駆逐艦も必要となってくる。いつでも出れるように準備をしておくのだな」

 

「へーい」

 

鎮守府 執務室

 

「……ということで、私古鷹が代理として提督を務めることになりました」

 

「そんなことが……」

 

「大変だな、たくっ」

 

古鷹は本営から作戦発令を伝えに来た憲兵二人と話をし、一人の細身の憲兵ともう一人の大柄の憲兵は事情を聞いていた

 

「提督が引きこもるとなったら艦娘であるあんたが提督業をするって言うけどさ……」

 

「実際にできるもんなのか?」

 

「ええと……僕の記憶上だと、艦娘が指揮をしている鎮守府も数は少ないけどあったよ」

 

「ただ……出撃も兼ねるとなると相当な忙しさにはなるだろうね」

 

「それについては大丈夫です。交代制で執務をこなすようにします」

 

「おお、そうか。よかったぜ」

 

大柄の憲兵が安堵したものの 古鷹の表情は暗いままだった

 

「……そうでもなさそうだな。何かあったのか?」

 

「いえ……あの時からほとんどの艦娘が提督に対して不信感を抱いてしまって……」

 

「大変だね……」

 

「そういうときは提督代理の一声でまとめりゃいいだろ!」

 

「それが大変なんだって!……あまり無理はしないでね」

 

「ありがとうございます」

 

「うん、じゃあ今回の作戦なんだけど――」

 

こうして憲兵との会議が始まった

 

輸送作戦 撃墜作戦 様々な作戦についての話し合いが長時間にも続いた

 

終わってみれば夕方の時刻だった

 

「ふぅ……とりあえず終わった……」

 

(ちょっと様子でも見に行こうかな……)

 

鎮守府 医務室

 

「霞さん、来てたんですね」

 

「……古鷹さん」

 

医務室に入ると、横で座って寝たきりの朝霜を見ていた霞の姿があった

 

あの出撃作戦が終了してから 医務室に運ばれた朝霜を毎日のように来ていた

 

「本当なら……あの娘も来るべきなのよ……」

 

「あの出来事以降から部屋からは出てきてませんね」

 

「古鷹さんはそれでいいの?」

 

霞の質問に古鷹は表情を曇らせた

 

「……私も提督の部屋に何度か訪ねましたけど……なかなか返事も返ってこなくて……」

 

「提督も出撃で朝霜さんをこんなことにさせた責任があるんでしょう……」

 

「だからといって……!一度くらいは来ても良いじゃない……!」

 

「高速修復材を使っても目覚めないって……どういうことなのよ……」

 

「……明石さんや夕張さんも協力して、朝霜さんの治療に専念しています」

 

「まだ治療法はわかりませんが……今はそれに期待するしかありません。それでは失礼します」

 

古鷹は医務室から退出し 部屋には霞と朝霜の二人だけとなった

 

「……本当に、馬鹿ばっかりなんだから……」

 

霞は一人寂しく涙を流した

 

翌日 鎮守府 執務室

 

提督代理の古鷹から作戦の内容を各艦種代表の艦娘たちに報告をした

 

もちろんその中には提督清霜の姿もなく

 

一部の艦娘は誰一人提督の姿がないことを気にはしなかった

 

報告を終えた後 戦艦代表の榛名だけが執務室に残り 古鷹と話すこととなった

 

「……榛名さんも提督の様子を見に行ったんですね」

 

「はい……ドアをノックしても返事も返ってきませんでした」

 

「ただ……一つ気になることがありまして」

 

「一つ……ですか?」

 

「かすかに聞こえるのですが、何もいらない……何もいらない……と言ってるように聞こえるんです」

 

「何もいらない……?」

 

古鷹は最近の出来事で欲しいものはあったのか思い出そうとしたが、思い当たることはなかった

 

「何でしょう……提督が欲しい物というものは……」

 

「わかりません……また夕雲型のみなさんにも聞いてみますね」

 

「よろしくお願いします。それでは、榛名はこれで失礼します」

 

その時榛名とすれ違いに、時津風が執務室に入ってきた

 

「やっほー。榛名さんと何話してたの―?」

 

「作戦の話ですよ、時津風さん。そうだ、一つ聞いてもいいでしょうか?」

 

「なになにー?」

 

返事をしながら時津風は提督の椅子に座った

 

「提督は今何か欲しい物とか知っていますか?」

 

「んー……お菓子とか?」

 

「それは時津風さんが欲しいものですよね……」

 

???

 

榛名が言っていた清霜の独り言の要因は 夢の中で謎の黒い人物と出会う空間での出来事だった

 

「……」

 

あの出来事から清霜は毎晩のようにあの場所へと来ていた

 

「やぁ、また会ったね」

 

「……」

 

「まただんまりかぁ、教えてよ。今どんな状況なの?」

 

「今までだったらすんなりと話してくれたじゃない、どうして黙ったままなの?」

 

覗き込むように清霜の顔を見るが 虚ろな目をしたまま俯いたままだった

 

「ふぅ……いつまで経ってもこの様子じゃ、話は聞けそうにないね」

 

「でもここに来たってことは、何かしら欲しい物があるってことだよね?」

 

「それを答えるまでは……またここに来ることになるんだよ」

 

「じゃあね」

 

すぅっと黒い人物は消えていき 空間には清霜一人だけになった

 

鎮守府 提督の私室

 

「……!」

 

勢いよく起き上がるといつもの提督の私室のベッドの上だった

 

あの日以来 うなされ続け 夜中に何度も起きてしまうこともあり

 

また寝てしまうとあの空間にいる その繰り返しが毎日のように続いていた

 

「今は何もしたくないのに……私のせいで……朝霜ちゃんが……」

 

「こんなことなら……あんな力なんて欲しがるんじゃなかった……」

 

すすり泣く声が 部屋に響き渡った

 

 

その数日後 提督抜きで作戦が開始された

 

数々の作戦が行く手を阻んだものの 今いる艦娘全員が協力し

 

作戦を成功へと導いた

 

しかし 最終作戦と突入というところで 深海棲艦の姫級クラスが大勢襲撃してきたと報告があり

 

鎮守府は更に過酷な状況に迫られようとしていた



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18話 なりたかった理由

最終作戦開始と同時に 大勢の深海棲艦が鎮守府の近海へと突如襲撃してきた

 

主力メンバーと防衛メンバーと別れており 戦力も分断されていた

 

襲撃してきた深海棲艦の数も多く 防衛メンバーも必死に抵抗してきたがほぼ限界にも近づいてきた

 

そこで古鷹は 主力メンバーと防衛メンバーの代表者を集め 会議を開くことにした

 

鎮守府 執務室

 

「こちら防衛メンバーの長門、まだ鎮守府に被害は出ていないが……」

 

「敵の戦力が多すぎる、突破されるのも時間の問題だ」

 

鎮守府に押し寄せてきた深海棲艦もかなりの数かつ強敵なるものもいた

 

苦戦する日々も続き 防衛メンバーも疲労が蓄積、修復が必要な艦娘も増えていった

 

「一度主力メンバーも防衛に回すことはどうでしょうか?」

 

「しかし、そうなると作戦の方に支障がでるな……」

 

「できるだけ、戦力は維持して鎮守府にいる人達でなんとか防ぐしかありませんね」

 

「できれば……いえ、メンバーの呼び戻しはまた後日行いますね」

 

作戦に出撃している一部のメンバーを呼び戻すことにして解散となった

 

古鷹は一度ためらったが、提督がいれば……なんてことも考えていた

 

それはもちろん全艦娘も思っていたことだ

 

不思議な力を持った提督さえいれば……と考えていた

 

鎮守府 廊下

 

「……また来ちゃったか」

 

「提督、起きてますか?」

 

古鷹はもう一度提督の部屋の前に訪れ 呼びかけた

 

しかしいつものように返答はかえっこなかった

 

「……やっぱりだめか」

 

 

「ン?古鷹さんじゃんか」

 

「司令に何か用か?」

 

古鷹の前に駆逐艦の江風と磯風が現れた

 

この二人も 清霜の様子を見に来たらしい

 

「お二人も提督の様子を見に来たのですか?」

 

「ニシシ、そうっす。でも江風だけじゃなくて磯風にも協力してもらったんだ」

 

「この突撃しかない人を抑えるには必要だからな」

 

「な!?それってどういう意味だよ!?何かしら知恵を考えて欲しいからお願いしたンだよ!」

 

「ふふっありがとうございます。けど……やっぱりいつものように返事は返ってこなくて……」

 

悩んでいる古鷹を見て 江風は自信ありげにこう答えた

 

「その心配はねえっす!実はな、朝霜のやつが回復傾向に向かってるって明石さんから聞いたんだ」

 

「そうなんですね!良かった……」

 

「けど修復剤使ってもすぐに治らなかったんだよなぁ……まさかあいつ!?艦娘じゃないとか?!」

 

「そんな訳あるか阿呆」

 

その時だった

 

 

ガタン

 

提督の私室から物音が聞こえてきた

 

「……なンだ今の物音」

 

「司令の部屋から聞こえてきたな」

 

「おーい提督!起きててっかー!?」

 

江風がドンドンと扉を叩くと その数秒後 扉が静かに開いた

 

「あ……提督!」

 

姿を表した清霜だったが いつもの明るさもなく 目の下にはクマができていた

 

「おいどうした提督?!ちゃんと寝てっか?」

 

「司令、食事はちゃんととってるか?夕雲型がいつも持ってきてくれてるのだが」

 

「……大丈夫」

 

声にも元気がなく まるでうつ病にでもなった様子だった

 

「提督……体は大丈夫ですか?」

 

「大丈夫って言ってる……心配しないでよ」

 

「そうだ清霜!一つ良い知らせがあるぜ!朝霜が回復してそうなんだってよ!」

 

 

「……そう。良かったね」

 

清霜は嬉しさや安堵の表情もせず ただ虚ろな目で江風を見つめていた

 

「……お、おいどうしたよ清霜。朝霜がもしかしたら目覚めるかもしれないンだぜ?」

 

「どうでもいいよ……私のことなんて放っておいてよ」

 

「そんな言い方ねぇだろ!?」

 

「私のせいで朝霜ちゃんがあんな事になったんだよ、今更喜ぶなんてできないよ」

 

「そもそも私が出撃しなかったら良かったんだよ。そうすれば良かったんだよ」

 

「司令……なぜそんな事を言う?」

 

清霜の発言に不信感を表す磯風と 何がなんだかわからなく 慌てる江風だった

 

「私が戦艦になりたい、司令官になりたい。こんなわがままな願いなんてしなきゃよかったんだよ」

 

「そうすればあんな場所にも来るはずなかったし、誰も苦しまないこともなかった」

 

「その代償が今来たんだよ」

 

「ね、願い……?代償?なンだよそれ?どういうことだ?」

 

不思議がる江風をよそに 清霜は淡々と話し始めた

 

「もういいでしょ?こんな事になってしまったから夕雲型や鎮守府のみんなと顔も合わせれないよ」

 

「いっそのこと、私なんていなければよかったんだよ」

 

「……司令、その言葉は聞き捨てならんぞ」

 

磯風が詰め寄ろうとしたとき バシッという音が鳴り響いた

 

その音とは古鷹が清霜にビンタをした音で 頬は赤くなっていた

 

「……いい加減にしてください!朝霜さんが回復と知らせに江風さんがわざわざ来てくれたのに何てこと言うんですか!?」

 

「別にいいでしょ。司令官なんだし……」

 

「提督だからって……私はそんなこと許さないです!」

 

「古鷹さん……落ち着こうぜ」

 

「……いなければいいと、簡単に言わないでください。失礼しました」

 

古鷹は足早に去っていく姿を見た磯風は清霜に睨んだ

 

「たとえ司令、航空戦艦であっても、元は夕雲型の一員だ」

 

「仲間の安否などどうでもいいという発言は、流石にどうかと思うぞ」

 

「……何故戦艦になったのか、自分でももう一度考えて見つめ直せ」

 

 

「あ、おい磯風!……提督、あいつや古鷹さんの言うとおりだぜ」

 

「たまには朝霜の様子でも見に来いよな……」

 

「私にその資格なんてないよ……」

 

「……そうかよ。じゃあ江風も帰るぜ」

 

最後の一人 江風も清霜の前から去ると また部屋に戻った

 

最後に言った磯風の言葉が 心に引っかかるようになった

 

(どうして戦艦になったのか……)

 

(どうしてだろうね、こっちが教えてほしいよ)

 

また清霜はベッドに横たわり 眠りについた

 

 

数日後...

 

未だに鎮守府の防衛が続く中 一つの吉報が流れ込んだ

 

「え?敵主力艦隊が深海棲艦を生み出してる……?」

 

「はい、偵察隊が敵艦隊の様子をと艦載機を飛ばしたところ、主力艦隊旗艦から新たに現れると榛名は聞きました」

 

「となると……敵旗艦を潰せば鎮守府に侵略してくる艦隊も無くなるということか……」

 

この吉報を聞き 防衛メンバーである長門は提案をした

 

「もう一度、主力メンバーを編成し、榛名たちは敵旗艦を潰してくれ」

 

「ですが、今でも大変なのでは……」

 

「大丈夫だ。このビッグセブンに任せておけ。まだまだいけるさ」

 

長門の頼りになる発言に 古鷹と榛名も提案に賭けてみることにした

 

「……あの、提督は――」

 

「そのことならもういいです。今は……」

 

古鷹の問に 提督の様子が気になる榛名は入り込まないようにした

 

その時だった 勢いよく執務室の扉が開き そこには時雨の姿があった

 

「どうかしましたか?時雨さん」

 

「古鷹さん!朝霜が……朝霜が!」

 

鎮守府 医務室

 

「朝霜さん!大丈夫ですか?!」

 

古鷹が駆けつけると そこには目を覚ました朝霜の姿があった

 

ベッドの周りには 夕雲型の姉妹と江風の姿があった

 

「良かったわ……ほんとに……」

 

「おい朝霜!長波様心配したんだぜ!」

 

「このまま目を覚まさないと思いました……」

 

沖波の言葉に朝霜は瞬時に反応した

 

「んだと沖波!アタイがずっと寝続けることなんてありゃしないさ!」

 

「……いや、もう寝るしかないのか」

 

「朝霜……どういうことだい?」

 

「おいおい、お前まで提督の様に引きこもるってか!?江風許さねぇぞ!寝た分しっかりと働いてもらうぜ!」

 

 

「だからそれが無理なんだよ!」

 

朝霜が怒鳴ったので 何かを察した古鷹は恐る恐る聞くことにした

 

「朝霜さん、もしかして……」

 

 

「……何かさ、足の感覚がないんだよな」

 

この発言に夕雲型 時雨と江風は何も言い出せなかった

 

しばらくして 藤波がようやく口を開いた

 

「で、でもそれって修復剤で治しちゃえば――」

 

 

「それも無理なんだ、何度も明石さんにやってもらったよ」

 

 

「けど……だめだったよ。アタイはここでおしまいだ」

 

 

一つの吉報が入り込んだかと思えば また別の凶報が入り込んでしまった

 

このことを提督が知ったら……古鷹は更に悩むようになり

 

医務室にいるメンバーや明石にも 秘密にするようにとお願いした

 

(これで知ることはなさそうだけど……)

 

次なる不安要素が また生まれてしまった



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19章 朝霜の後悔 長女の悲しみ

医務室にいたメンバー、夕雲型の姉妹 江風と時雨 そして古鷹は朝霜の足が動かないことをあまり口外にしないようにと約束した

 

しかしいつかバレるであろう そう考えることもあり 不安を持ちながら過ごしていた

 

そんな中でも朝霜は足が動かないことをみんなに知られないように明るくすると言っていた

 

数日後...

 

鎮守府 医務室

 

「来たぜ―!朝霜!って多いなおい!」

 

「おー長波姉!来てくれたのか!」

 

同じ夕雲型の長波が医務室に訪れると 多くの駆逐艦が見舞いに来ていた

 

中には霞 初霜と言った別の型の駆逐艦も来ており 長波は額に汗をかきながら医務室に入った

 

 

 

「長波さん、こんにちわ」

 

「まぁ、同じ姉妹だから来て当然ね」

 

「お、おう」

 

(毎日この調子じゃ……いつかバレちまうぞ……)

 

朝霜が目覚めたと聞き お見舞いに来ていた

 

もちろん元夕雲型駆逐艦 提督清霜の姿を見たものはいなかった

 

 

 

「どうだ?調子は」

 

「すこぶる元気だぜ!早く出撃してーな!」

 

「でも明石さんから安静にと言われたんですよね?だめですよ朝霜さん」

 

(それももう無理なんだよな……)

 

「……」

 

 

 

部屋には長波と朝霜 そして霞と初霜だけが残った

 

「なぁ霞、お前はまだ帰らねぇのか?」

 

「……」

 

「……霞さん?どうかされましたか?」

 

 

「……あんた、何か隠してるんでしょ?」

 

 

 

「何言ってんだよ霞、アタイはこの通りピンピンしてるぜ?」

 

「何なら今この場で踊ってやっても――」

 

「できるの?」

 

真剣な表情で聞かれ 朝霜の答えは返らなかった

 

その間に長波が割り込み フォローを始めた

 

「で、できるに決まってるだろ?!でも今は明石さんが安静にしないとって!なぁ初霜!そうだよな?」

 

「え、えぇ……」

 

「出撃はできなくても、鎮守府内を移動できるぐらいの元気はあるじゃない」

 

「それならどうして早くあの娘の元へと行ってやらないのよ?あんたのことだから踊れるくらいの元気があるのなら真っ先に向かうはずよね?」

 

沈黙が続く部屋の中で 朝霜は観念したかのような表情を見せ 口を開いた

 

「……わかったよ、言うよ」

 

「お、おい朝霜!」

 

「アタイ、もう足が動かないんだよ。感覚がないっていうんだっけ……はは」

 

「そ、そんな……」

 

あまりの出来事に絶句する初霜 頭を抱えて悩む長波 そして俯いたまま何も喋らない霞

 

「こんな事言えば、誰かが清霜に反発するだろうからって、みんなには内緒にしておくようにしたんだ」

 

「でもこれはアタイが勝手にでしゃばったせいだ。清霜のせいじゃないからな」

 

「……そんなことじゃないのよ。そんなことじゃないったら!!」

 

霞の一声が部屋に響き渡った

 

「アンタもそうだしあの娘だってそうよ!どうして無茶ばっかりするのよ!」

 

「もう痛い目にあってるのを見るこっちだって辛いのよ!」

 

「それに足が動かないだなんて……どうしてなのよ……」

 

涙を流す霞を見て朝霜も申し訳ない気持ちと後悔を悔やんだ

 

「……すまねぇ霞。でも、もう駄目なんだ」

 

「修復剤を使っても治らないし。明石さんもお手上げ状態なんだ」

 

ベッドのシーツをギュッと掴み 悔しさを交えながら歯ぎしりをした

 

あの時気づいてあげていれば……こんなことにはならなかったはず

 

後悔の念が表れ 涙が一粒一粒 シーツに落ちていった

 

いつか戦艦になった清霜と出撃して 深海棲艦を倒して――

 

そんな願いも一瞬にして消え去り 残ったのは悲しさだけだった

 

「長波さん、朝霜さんは……これからどうなるのでしょうか?」

 

「どうにもこうにも行かねぇよ初霜。足が動かなくなった朝霜はもう出撃できない」

 

「これを清霜が聞いたら……想像がつくから絶対に知られたくない」

 

長波も朝霜のそばに寄り そっと体を寄せて頭をなでた

 

同じ夕雲型駆逐艦としてなにかしてやりたいが どうにもできない長波も無念の表情を浮かべた

 

 

同時刻 鎮守府 駆逐艦寮

 

「朝霜は無事に目覚めたが、戦力としては考えないほうがいいだろう」

 

「でもさ、無事に目覚めてよかったよ。このまま目覚めなかったら大変だったぜ?」

 

磯風を筆頭に 駆逐艦の中で会議が開かれていた

 

まずは朝霜が起き上がった知らせ そして今後の作戦についての報告の件だった

 

「まぁ駆逐艦は大勢いるし、みんなで協力していこうぜ」

 

「そうだな、では早速だが……」

 

 

「なぁ時雨の姉貴、磯風のやつ、もしかしたら薄々気づいてるンじゃあ……」

 

「分からないけど……江風、喋ったりとかはしてないよね?」

 

江風はこの質問に首を思いっきり横に振った もちろん喋ってないということだ

 

「江風、どうした?磯風の作戦で問題が合るのか?」

 

「ンン?なんでもないよ!ちょっと首のストレッチしてンだよ」

 

「ふむ……それと、夕雲。先程から下を向いているがどうした?」

 

「……え?あ、あら……なんでもないわ。話を続けて頂戴」

 

「磯風さん!朝潮が気になった件ですが――」

 

こうして駆逐艦の会議は続いた

 

時折夕雲の様子を何度も時雨は横目で気にしていたが 終始暗い表情だった

 

会議が終わった後 江風と時雨は 夕雲とともに空き部屋で話し合うことにした

 

駆逐艦寮 空き部屋

 

「夕雲、大丈夫かー?白露の姉貴と陽炎にも色々言われてたぞ」

 

「え、ええ。ごめんなさい」

 

あの後も夕雲はたまに思いつめた表情をすることがあり 話を聞いていなかったことがあり 会議が中断することがあった

 

何度も謝る夕雲を見て 時雨と江風も心配し 夕雲を連れ出して悩みを打ち明けることにしたのだ

 

それに対して夕雲は笑顔で返事を返したが すぐにまた表情が変わった

 

「その様子だと相当駄目だな……朝霜のお見舞いとか行ってンのか?」

 

「朝霜さんのお見舞いは、みんなで交代しながらしようって話があって、最初は私だったの」

 

「あの娘ったら明るく振る舞っちゃって……でも、どこか無理してそうにも見えるの」

 

「それを見てしまうと……私、何か辛くて……」

 

「朝霜らしいね……」

 

夕雲の目から涙が流れ落ちた 姉妹艦の振る舞いに心を打たれたのか

 

もう足は動けない 出撃もできない だが、元気に見せようとしたり 笑顔を見せようとしたり

 

朝霜なりに何か心配させまいとしていたが 夕雲にはそれが無理にしてるように見えた

 

「私……いえ、私達姉妹は何もできないのが悲しいの……」

 

「提督……清霜、あの娘もあんな風になってしまって……私達姉妹は何ができるのかしらって……」

 

「みんな考えてるんだけど……何も思いつかなくて、辛くなってくるの」

 

「できれば、私の脚をあげたいぐらいだわ……」

 

自分の脚をあげたい できるならそうしたい

 

夕雲の中では涙を流しながらの精一杯の言葉だった

 

しかし 時雨はそんなことを気に食わず 夕雲の前まで移動し 頭をぽんっと叩いた

 

「……そんなこと言わないでよ。夕雲がそんな発言してるところ、他の姉妹が見たらどう思う?」

 

「主力of主力の夕雲型の長女がそんなことじゃ、駄目に決まってるじゃないか」

 

「脚をあげるとかじゃない、今は姉妹全員で助け合って朝霜、そして提督を助けてあげようよ」

 

 

 

「……あぁー!辛気クセェなおい!江風こういうの苦手なンだよ!」

 

「いいか?夕雲。長女のアンタがそんなんじゃ白露の姉貴や陽炎に笑われるぜ?」

 

「成るようには成る!今は今で頑張ろうぜ!」

 

「……江風にしては良いこと言うんだね」

 

「ンン?!どういうことだよ姉貴!」

 

説得された夕雲は二人の掛け合いを見て 自然と笑顔になった

 

その隣では時雨がフフッと微笑み 江風はニシシと笑った

 

江風らしい言葉で元気づけられた夕雲の表情も柔らかくなり 3人で笑いあった

 

こんなことじゃ駄目ね ともう一度考え直した夕雲は今を一生懸命頑張ることにした

 

また姉妹全員で笑い合える日々を戻したい この思いが夕雲を奮い立たせてくれた

 

そして……ついに作戦も最後を迎え

 

出撃メンバーと防衛メンバーも気力十分でこの日を迎え

 

最後の闘いに挑むのであった

 

 

鎮守府 提督の私室

 

一方の提督清霜はベッドに座ったまま何かを見つめていた

 

それは古い手袋であったが 清霜にとっては何か温かい感じがあった

 

「この手袋、確か私が夕雲型の部屋から出ていくときに持ってきてた……」

 

「……武蔵さんが使ってた手袋だ。でも今はもう関係ないや……」

 

清霜はそっと手袋を引き出しの中に直し 出撃する艦娘を部屋から見送った

 

(みんな、私がいなくてもやっていけてるのかな……やっぱりいないほうがいいのかな)

 

こうして 提督清霜抜きで 最後の作戦が発令された

 

 

 

 

 



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20章 お願いがあるんだけど

20章

 

鎮守府 医務室

 

「はい、できましたよ。朝霜さん」

 

「お、ありがたい!サンキューな初霜!」

 

初霜が切ったりんごをサッと朝霜は手に取り頬張った

 

「初霜が切ったりんごはうめぇな!」

 

「どこにでもあるりんごですよ、それ……」

 

むしゃとむしゃと次々にりんごを食べる朝霜

 

その顔はとても幸せそうな顔をしていた

 

 

「アンタ本当に呑気よね」

 

「んだよ霞、美味しいもんは美味しいから嬉しくなるんだよ!」

 

呆れた顔をしながら霞は初霜の隣へと並んだ

 

「ところで今日はいい事を伝えに来たのよ」

 

「どうやら敵主力艦隊も徐々に弱まってきて、撃沈するのもそう遅くはないわ」

 

「おお!やったな、霞!いぇーい!」

 

喜んだ朝霜は初霜と半強制的にハイタッチした

 

続いて霞にも仕掛けようとしたがあっさりとかわされ 続いての報告を聞くようにした

 

「とはいえ、まだまだ力は残ってるみたいだし、簡単には行かないわ」

 

「そっかぁ……。こういうときにあいつがいれば楽勝だったのかな」

 

「……いない娘の話しても仕方ないわよ。それじゃあ私は戻るから」

 

「あっ!おいりんご食ってけよ!初霜が切ったんだぜ!美味しいぞ!」

 

「どこにでもあるりんごじゃない」

 

そっけない返事をして 霞は医務室から部屋を出た

 

その姿を見送った二人だが 朝霜は納得いかない顔していた

 

「ちぇっ。美味しいのによ……」

 

「結局はりんごですし……。けど、朝霜さんの言う通り。提督がいれば戦況は変わっていたかもしれませんね」

 

「清霜のあの力、ぜってぇ艦隊の力になるはずなんだけどなぁ……」

 

またりんごを頬張り シャリシャリと音を立てながら朝霜は食べ続けた

 

その時 ノックの音が聞こえ 初霜がどうぞと応答すると

 

医務室のドアが開き そこには江風と磯風の姿があった

 

「よ!元気にしてっか?」

 

「見舞いに来たぞ」

 

「おー!よく来たな!江風!磯風!まぁこっちに来て座りなよ!」

 

朝霜の言葉につられ 江風と磯風はベッドのそばの椅子に腰掛けた

 

二人から話された事は 作戦の戦況や今の艦隊の状況のことだった

 

霞の言う通り 後少しで主力艦隊を撃破できるらしいが

 

その反面 鎮守府に侵攻する深海棲艦の戦力が日を追うごとに増しているらしい

 

「何で鎮守府に来る方が戦力大きいんだよ!」

 

「江風も知らねぇよ!」

 

「敵も鎮守府を潰して戦力を減らそうという考えなんだろう」

 

「資源を根こそぎ破壊するつもりだ」

 

江風と朝霜はくっそーと悔しさを表した

 

磯風はまた考え込み 初霜は心配そうにし 全員が落ち着かない様子だった

 

今 鎮守府にいる戦力でも守りきれるのか どれくらいの戦力でやってくるのか

 

少しの間 医務室にいる全員が黙り込んだとき 江風がふとこんな事を言い始めた

 

「……そういやさ、さっき霞とすれ違ったンだけどさ」

 

「すげぇ真剣な顔してて、話しかけても無視されたンだよな。朝霜、なにかしたか?」

 

「いや……アタイは何も」

 

「そうか?あんな顔してるのってお前がやらかしたか何かだと思うんだけど」

 

「だからしてねーっつの!馬鹿野郎!」

 

「だーれが馬鹿だ!?お前より頭えらいっつーの!!」

 

「うるさいぞ。磯風から見たら二人共馬鹿に見える」

 

磯風を見て江風と朝霜 二人同時になんだとぅ!と声を荒げたが

 

それを聞きもせず 磯風は立ち上がった

 

「いずれにせよ、今の私達にできることは鎮守府を守り抜くこと」

 

「敵主力艦隊撃沈を目標とする古鷹を始め、時雨、時津風の奮闘を無駄にしてはいけない」

 

「磯風は先に戦闘の準備をしに行く。失礼した」

 

「磯風!アタイもいつか出撃して――」

 

扉に手をかけ 開ける前に磯風はその言葉に対して返した

 

 

「それは無理だろう、朝霜」

 

「お前の脚はもう動かないんだろう?」

 

雰囲気が急に静まり返った 何故磯風がそのことを知っているのか

 

誰かが話した?誰かから聞いた?

 

「どうして朝霜の足が動かないってお前に分かるんだよ!」

 

「江風さん!」

 

「あっ……しまった……」

 

江風の発言から どうやら足が動かないのは本当のことだと知ると磯風は一つ息を吐いた

 

「……どうやらそうらしいな。あいつの言うとおりだったか」

 

「あ、あいつって……誰だよ!」

 

江風がムキになりながら聞いてくると 磯風は江風を睨みつけ答えた

 

「……司令。そう、清霜からだ」

 

「清霜からだって!?どういうことだよ磯風!」

 

「そのままだ。司令自ら話してくれたのだ」

 

――数日前 提督の私室

 

「気分はどうだ、司令」

 

「……司令なんて辞めてよ。いつもの呼び方でいいよ」

 

「そうか……。では話は変わるが清霜、お前の力を借りたい」

 

「……私の力なんて不気味なもんだよ。痛みも感じないし、疲れもしない」

 

「みんな私を怖がってるんだよ」

 

清霜は両手をじっと見つめながら語り始めた

 

その目は前とは違う、虚ろで悲しそうな感じだった

 

「だからこそ今、必要なんだ。敵主力戦艦を倒す他に、鎮守府の侵攻艦隊を迎撃している艦隊もいる」

 

「清霜の力があれば敵主力艦隊破壊の要員を何人か連れていける」

 

「そうすれば、撃沈することも、鎮守府を護ることができる」

 

磯風の説得を聞いた清霜は静かに顔を上げた

 

そして彼女の口から衝撃な言葉が飛んできたのだ

 

「ねぇ知ってる?朝霜ちゃんの足、もう動かないんだよ」

 

「……馬鹿げた冗談はやめろ」

 

「ほんとだよ」

 

根拠のない答えに対し 磯風は清霜の胸ぐらをつかみかかった

 

「何故お前はそうと言いきれるんだ」

 

「だって、私があの時にひどい怪我を追って朝霜ちゃんが助けに来たでしょ?」

 

「その時、一人でレ級に立ち向かって……あっけなくやられちゃったんだよ」

 

「それは知っている……。問題は何故お前が朝霜の脚が動かないことを知っているかだ」

 

胸ぐらをつかんでいる磯風の手を払い除けた清霜は、窓際の壁へともたれかかって座り込んだ

 

「どこで知ったのかは私の勝手でしょ?!脚が動かなくなったのは本当だよ!」

 

「もう放っといてよ……!何にもしたくないんだよ!」

 

「私なんか……いなければこんなことに……!」

 

「……わかった、迷惑をかけたな」

 

 

――現在 医務室

 

「……ンだよそれ!何で提督が知ってるんだよ!」

 

「もしかして……出撃のときに勘づいたとかでしょうか?」

 

「それについてはわからない。だが清霜の言うことは本当だったな」

 

「……動けない艦娘は、今では足手まといだ」

 

おい待てよと声を荒げる江風だったが磯風は振り返りもせず出ていった

 

「くそっ!何だよあいつ……!」

 

「もういいさ江風、アタイの脚が動かないのは変わりはしないさ」

 

「それよりも今は鎮守府を護ることに専念しなよ」

 

「おうよ!ンで、落ち着いたら朝霜の脚を治せる方法探してやるよ!」

 

ぐっと握り拳作って 任せろ っと言わんばかりのポーズを作り

 

江風と朝霜はニシシと笑った それを見た初霜もフフッと微笑んだその時だった

 

けたたましいサイレン音が一斉に響きなんだなんだと3人は驚いた

 

 

「江風、出撃するぞ。深海棲艦の襲撃だ」

 

「ンだって?!」

 

「磯風はすぐに出撃をする。遅れをとるな」

 

報告を終えたらさっそうと準備へと向かった磯風を見て江風も続こうとしたが

 

待ったという声が江風を呼び止め 振り向くと朝霜が何かを訴えかけようとしていた

 

「磯風!アタイに一つ考えがあるんだ!江風を少し借りてもいいか?!」

 

「え、江風を借りたいってどういうことだよ朝霜!?」

 

「何を言っている、今はそんなことをしてる場合ではないだろう」

 

言い返されても 頼むこのとおりだと言わんばかりに何度もお願いした

 

その根気に負けたのか 一息ついて磯風はこう答えた

 

「……わかった。江風の代わりを誰かにお願いしよう」

 

「いいのかよ?磯風」

 

「古鷹と長門には上手く話しておく、彼女たちなら代わりを呼んでくれるだろう」

 

「……サンキューな磯風」

 

「ああ。では私は行くぞ」

 

さっそうと磯風は出ていき 江風は朝霜に呼ばれお願いを聞くことにした

 

承諾した江風は朝霜をひょいと背負った

 

「お二人共、気をつけてくださいね」

 

「心配すんなって初霜!生きて帰ってみせるさ」

 

「出撃するわけじゃないンだけどな。じゃあ行って来るわ」

 

 

 

鎮守府 廊下

 

「急げ急げ!江風!早くしね―と襲撃されちまう!」

 

「うっせーよ!来ても古鷹さんたちが足止めしてくれてるから大丈夫だって!」

 

廊下では朝霜をおぶって必死に江風が走っていた

 

朝霜の提案は おぶって清霜の部屋まで連れて行けということだった

 

どういうことか分からないが 朝霜に心当たりはあるのであろうと江風は思い

 

廊下の人混みの中を隙間を縫って部屋へと向かった

 

 

「うっし!たどり着いたな!」

 

「おい……お前おぶって走るのは結構疲れるンだぜ!」

 

「悪かったって!……じゃあお願いするよ」

 

「うまく行くかねぇ?」

 

ゼェゼェと息を切らす江風は扉をコンコンとたたき 清霜を呼びかけた

 

しかし 返事は帰ってこず 何度もノックをしても同じ結果が続いた

 

「……出ねぇな。寝てるのか?」

 

「おい清霜!聞こえるか!?アタイだ!」

 

「朝霜が目覚めたんたぞ!返事ぐらいしろよおい!」

 

朝霜が執拗にノックや呼びかけをしたが江風同様返事は全く返ってこなかった 

 

「ちっくしょー……。こうなったら江風!扉に体当たりだ!」

 

「何でもかんでも言うよなお前……よし、じゃあやってみるぞ!」

 

江風が扉に体当たりを仕掛けようとしたその時 やめなさいという霞の声が飛んできた

 

扉にぶつかる一歩手前で急ブレーキをかけ なんとか壊さずに済み 一息ついた

 

「お、おう霞か!どうした?」

 

「どうしたも何も、通りかかったらアンタたちが強引に入ろうとしてるの見たから止めたのよ」

 

「それよりも江風、出撃したんじゃないの?」

 

「その予定なンだけどさ、朝霜がここに連れてくれってお願いされたンだ」

 

「磯風に事情を説明してもらって、交代してもらったってことだ」

 

事情を把握した霞は 徐々に険しい顔になってきた

 

「……それで、ここに来た目的は何なの?」

 

「清霜にもう一度出撃してもらうんだ!あいつなら鎮守府を救ってくれるはずさ!」

 

「あいつの力があれば深海棲艦なんてみんなイチコロさ!だから説得して――」

 

 

 

「もう放っておきなさいよ。あの娘にもう出撃する気力なんて無いのよ」

 

「へ?どういうことだよ?!霞!」

 

「そのままの意味よ。だから諦めなさい」

 

「教えろ霞!清霜はどうして出撃したくないんだよ!」

 

ヒートアップする朝霜をなだめ 江風は質問をした

 

「とりあえずさ……江風にも教えてくれよ。何があったか」

 

「……実は私も、あの娘の部屋に入って話をしたのよ」

 

「最初は普通に話せたけど……段々と表情も変わってきて口数も減ってきた」

 

「それに、毎晩夢で自分のせいで誰かが沈むのを見て、苦しんでるのよ……!」

 

「その時を話すあの娘の表情見てたらこっちまで辛くなってくるのよ……」

 

「だからもう、あの娘に出撃はさせたくない……!」

 

涙を流す霞を見て江風も諦めたかのようにその場から去ろうとしたが

 

朝霜は江風の髪の毛を引っ張り ここから動きたくないという意思を頑なに示した

 

「……朝霜、気持ちは分かるけどさ。霞のあの顔見てみろよ」

 

「あいつがあンなに泣くことってあるか?めったに無いぜ」

 

「こうなったらもうどうすることもねぇよ。朝霜、そろそろ戻ろうぜ」

 

 

「……嫌だ」

 

「朝霜?」

 

つぶやいた言葉に反応する江風 その時突き放されてしまった

 

ドサッという音の方へ顔を向けると 床に這いつくばっている朝霜がほふく前進で清霜の部屋の前へと進めていた

 

「お前何してンだよ!」

 

「決まってるだろ!意地でも清霜を部屋から出す!」

 

「何言ってんのよ!もう放っておいてあげなさいよ!」

 

「うるせぇ!そんなウジウジしたやつが戦艦なんて名乗るんじゃねぇ!」

 

「アタイがぶん殴って気合い入れてやる!江風!もう一度おぶってくれ!」

 

「じゃあ何でさっき突き飛ばしたンだよ!」

 

文句を言いながらもひょいと朝霜をおぶった江風はもう一度扉の前まで向かった

 

ドンドンとドアを叩きながら朝霜はもう一度大声で叫んだ

 

「おい!清霜!起きてるんだろ!!入れろ!朝霜だよ!」

 

「アタイもお前と話がしたい!なぁ、いいだろ?!」

 

必死に声を上げるが 返事は返ってこない

 

「……おい、だんまりかよ」

 

「お前それでも司令かよ!戦艦かよ!」

 

「憧れの戦艦になったんだろ!出撃もしたくない今のお前はじゃあ何なんだよ!ただのガラクタかよ!」

 

「そんなんだったら戦艦なんてやめちまえよ!艦娘なんてやめちまえよ!」

 

あまりの情けなさに朝霜は声を荒げて 批難した

 

「おい朝霜!そこまで言わなくてもいいだろ!」

 

「うっせぇ!あいつは何で戦艦になりたいか知らねぇだろ!」

 

「おい清霜!聞きやがれ!お前は何のために戦艦になったんだよ!どうして戦艦になりたいと思ったんだよぉ!」

 

 

鎮守府 提督の私室

 

提督の私室では清霜が枕を抱いたままベッドに座っていた

 

その顔はげっそりしていて 目の下にはクマができていた

 

朝霜の声は部屋にも届いており はっきりと聞こえていた

 

「……朝霜ちゃん、私のせいであんなことになったのに」

 

「どうしてそこまで私のことを……」

 

「もう一度……出撃……」

 

「……やっぱり無理だよ、私になんて!」

 

抱いていた枕を壁に投げつけると 清霜は我に返り枕を取りに行こうとした

 

拾い上げた時 枕の下にふと汚い手袋が落ちていた

 

「これって……かなり前に武蔵さんが着けていた……」

 

この手袋は清霜が鎮守府に着任して うろうろしていたときに丘の上までたどり着いたころだった

 

そこで武蔵と初めて出会い 憧れ始める切っ掛けとなった場所でもあり 

 

いつか一緒に出撃しようと約束したこともあった

 

手袋は約束の証ということで貰ったものだった

 

「……武蔵さん、いつも言ってたな」

 

「どんな事があっても挫けても、戦艦として使命を果たすって」

 

「私だって……いや、やっぱりだめだよ……私なんて……」

 

ギュッと手袋を握りしめた時 清霜はふとあることを思い出した

 

――鎮守府 丘の上

 

「ハァハァ……武蔵さん!大丈夫?!」

 

息を切らせて丘の上にやってきた清霜は 前の出撃で砲撃を受けてしまった武蔵を心配をして来た

 

あわててやってきた清霜を 平然とした様子で武蔵は振り向いた

 

「清霜か、どうした?そんなに慌てて」

 

「どうしたもこうも……。武蔵さん中破したって聞いて入渠にもいなかったからここだとおもって・・」

 

「それよりも砲撃を受けたって大丈夫!?」

 

「あぁ、大丈夫さ。最初に他の艦娘を入渠に入らせた」

 

「私はまだマシな方だからな。空くまでここでのんびりするつもりだ」

 

どっしりと座る武蔵を心配そうにそそくさと隣に座る清霜

 

「武蔵さん、悲しくならないの?中破してしまったのに……」

 

「ないな。何より一番なのはみんな帰ってこれたということだ」

 

「私が中破したときも、他の艦娘が力を合わせて撃破したことが嬉しかった」

 

清霜の頭をなでながら語る武蔵の顔はどことなく穏やかだった

 

それを不思議がるように清霜は質問した

 

「武蔵さんって……戦艦だから強いのに、どうしてやられちゃうんだろう?」

 

「戦艦でも負けるときは何回もあるさ。だが、私一人で出撃してるわけでもない」

 

「ときには私が盾になり、他の艦種が十分に戦えるようにサポートするときもある」

 

「逆に私をかばったりすることもある。こうやって、みんなと戦うんだ」

 

「一つ覚えておけ清霜、みんな一人で戦ってるんじゃない、仲間と戦っているんだ」

 

「時には自分が失態を犯してしまうときもある。しかし、挽回のチャンスはいずれくる」

 

「もし、自分に自信が持てないときは周りを頼れ。自分ができることをすれば周りからも認められてくる」

 

「じゃあ武蔵さんがみんなから頼られてるのは……」

 

「ああ、幾度も皆をかばい、時には奮闘し、お互いに助けあったからこそできたものだ」

 

「お前もいつか頼られる存在になるよう、努力するんだぞ」

 

――――???

 

清霜が気づくとそこはいつもの夢の中だった

 

いつものように前には謎の人物 後ろには扉が立っていた

 

(私……自分が強くならないといけないって思い込んじゃったのかな)

 

(戦艦になりたくて、艦載機も飛ばして、司令官になって……皆の役に立つはずだった)

 

(けど、結局は自分勝手で出撃を決めたり、勝手に一人で突撃しちゃって……)

 

(武蔵さんみたいな頼られる戦艦じゃなくて、私はわがままな戦艦だったってことか)

 

(……私馬鹿だったな、せめて皆に謝りたいな)

 

 

 

「あのね、一つお願いがあるんだけど」

 

顔を上げた清霜の顔は 前の虚ろな表情と一変し

 

覚悟を決めた そんな風に見えた



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21章 待ってたよ

「先ほど情報が入ってきました。主力艦隊は間もなく戦闘開始みたいです」

 

「ン。そっか」

 

「退屈そうですね」

 

 

「当たり前だろ。出撃予定がなくなったンだし」

 

しぶしぶと座っている江風の隣に初霜が座り込んだ

 

朝霜は医務室へと送られた後 霞から説教を受けることになった

 

これは長くかかるなと思った二人はそそくさと部屋から出ることにし、港で待つことにした

 

「霞もそんなに怒らなくてもいいのにな。ただ部屋から出ただけだし」

 

「歩けないほどの重症ですし、怒りますよ...」

 

「にしても暇だなー。こっそり出撃してもばれないかな?」

 

「駄目ですよ。今は待機しておきましょう」

 

言い返された江風はムスッとした表情をしながら寝ころび空を見上げた

 

曇り空がどんどんと近づいており 外は少しずつ暗くなってきそうだ

 

「ンー…。雨降ってきそうだな。鎮守府の中に戻るか」

 

そう言って立ち上がって戻ろうとした瞬間 ゴツンと誰かの頭とぶつかった音がした

 

頭を押さえて痛がる江風が見たのは 同じくぶつけて痛がってる時津風だった

 

「いって…。ンだよ時津風!ちゃんと前向けよ!」

 

「そっちが前見てなかったんでしょー!」

 

服についた汚れを払い 頭を押さえながら時津風は立ち上がった

 

「時津風さん、いったいどうしたんですか?」

 

「えっとね、しれぇが出撃しに行くんだって!」

 

「はいはいそうですかー。出撃ねー。ン?」

 

「おい!今提督が出撃しに行くってどういうことだよ!」

 

必死に揺らしながら問い詰める江風だったが あまりにも強い力なため答えれなかった

 

時津風は必死に手を振りほどき 息を整え ようやく答えれる状況まで戻った

 

彼女が言うには 提督の部屋に忍び込ももうとしようと来た時にちょうど廊下で出会ったという 

 

嬉しさを爆発し 話しかけようと近づいた瞬間 今から出撃すると言い 時間がないから足早に向かったという

 

そしてすれ違う瞬間に時津風が聞いた言葉は

 

 

"ごめんね 今までありがとう"

 

何のことかわからず考え込んでしまい 気が付くとすでに提督の姿はなかったという

 

「今までありがとうって…どういうことだ?」

 

「時津風にもわかんないよ」

 

「もしかして…今までのことを引きずって無茶をするんじゃ…」

 

「ンな馬鹿な事させられっか!」

 

「あ!どこいくのさー!」

 

鎮守府 医務室

 

「あ!江風!清霜が…清霜がぁ!」

 

「落ち着け朝霜。霞、提督はここにきてたのか?」

 

「あんたたちが出て行ってから、その後に来たわね」

 

「ただ…私たちに謝って、今までありがとうと言って出ていったわ」

 

「クッソ!もういねぇのかよ!」

 

「な、なぁ!どういうことだよ!アタイにわかるように説明してくれよ!」

 

江風はここにくるまでのことを順に話した

 

提督が出撃すること 謝罪の意味

 

話を終えると医務室の二人は動揺を表した

 

「出撃って…。もしかして一人でか?!」

 

「恐らくそうでしょう……。何か策でもあるんでしょうか?」

 

「ンなこと直接行ってみて聞けばいいだろ!」

 

「江風!あんたもしかして…」

 

この言葉に江風は静かに頷き 覚悟を決めた

 

「おう!提督のところへ行く!海域の場所も把握済みだ!」

 

「江風さんも一人でですか?!無茶があります!」

 

「大丈夫だって、ガングートさんとかも誘ってみるし、来てくれるだろ」

 

「それにこいつも連れていくしな」

 

「えー!?なんでさ!」

 

襟を掴まれた時津風はじたばたと暴れ始め ギャーギャーとわめき始めた

 

「うるせぇ!駆逐艦の中でも連度高い方だろお前!」

 

「それに、提督に話したいンだろ?ならちょうどいいじゃねーか」

 

時津風は顔をぷくーっと膨らせ 渋々と承諾した

 

「それと……霞、初霜。お前らは朝霜を見張っておいてくれ」

 

「一人にしたら出撃とかしそうだしな」

 

「あ、あたいだって留守番ぐらいはできるさ!」

 

ニシシと江風は笑い つられて朝霜も笑った後 

 

「……清霜の事、頼んだよ。それでさ……必ず帰って来いよな!」

 

「おう、もちろん提督も一緒にな!じゃあ行ってくるぜ」

 

勢いよく走り出た江風とバイバーイと手を振りながら時津風は出撃へと向かった

 

「…あんたにしては意外だったわね」

 

「何がだよ」

 

「いや…あんたなら無理やりにでもついていきそうだし…」

 

「この体で出撃して、清霜に見せたら悲しみそうだし足引っ張りそうだしな」

 

「だから江風たちに任せたんだよ。きっと一緒に帰ってきてくれるさ」

 

―――海域

 

「…あと少しかな」

 

深海海域では一人清霜が静かに進んでいた

 

「合流したときってどうやって言えばいいんだろ…」

 

「素直に謝れば許してくれるかな…そういうわけにはいかないか…」

 

悩んでる間に 深海棲艦がぞろぞろとやってきて 清霜の周りを囲んだ

 

数は多く とても一人では手に負えないぐらいの数だった

 

だがそれは普通の艦娘としてという話であり 今の清霜はなぜか自身に満ち溢れていた

 

「ごめんね。私、負ける気がしないんだ」

 

そういうと

 

 

――その後

 

「うわっ!ンだよ死体だらけじゃンか!」

 

江風率いる提督援護艦隊が到着したころには無残な姿になった深海棲艦が多数浮かんでいた

 

それぞれ周りを探索を始めたが 残骸だけが残っており 清霜の姿は見当たらなかった

 

「提督いなかったね」

 

「だが、ここに来たのはわかったな」

 

「じゃあ、しれーはもっと先にいるってこと?」

 

時津風が指を刺した先にはさらに暗くなっており 不気味なようにも見えた

 

「だろうな。早く古鷹さんと提督と合流して鎮守府を守ってる長門さん達を助けねーとな」

 

「というわけで雲龍さん。もう一度艦載機飛ばして提督探してくれません?」

 

「いいけど…。無事に帰ってこれるかしら」

 

 

―――深海 ???

 

霧に覆われている海上に一人清霜は立っていた

 

そこは不気味で肌でも感じ取れるひんやりとした冷気が漂っており 目の前には黒い影の人の形をしている"何か"がいた

 

「あれが…そうなのかな?」

 

 

―――数時間前 夢の中

 

「"……元に戻してほしい?"」

 

「うん、私を元の夕雲型駆逐艦に戻してほしいんだ」

 

「今までのことなかったことにしてほしいんだ」

 

「"次は何を望むのかと思ったら、無かったことにしてほしい…か"」

 

「"君も変わってるね、でも今までの望みのことを考えたらそれなりの代償は覚悟しないといけないよ?"」

 

「もちろんだよ。だからね、今回の代償は…」

 

代償の内容を聞いた黒い影はポカーンとしたが すぐに受け入れてくれた

 

「"……わかったよ。でもその前に君に会いたくなってきたよ"」

 

「会いたいって…あなたはここの人じゃないの?」

 

「"ううん。君も薄々感じ始めてるかもしれないけど、前に何処かの島で会ったことがあると思うんだ"」

 

「何処かの島…?あ!もしかして…」

 

「私と武蔵さんが一緒に出撃したときにあった…」

 

「"そう、そこで待ってるよ。じゃあね、いつでも待ってるから"」

 

 

 

―――深海 ???

 

「"やぁ、ずっと待ってたよ"」

 

霧から出てきたのは黒い人影のようなものであり 姿が徐々に鮮明になってきた

 

その姿は今の清霜と同じ姿をした艦娘だった

 

「現実で会うのは初めてだね。まさか深海棲艦を操ってただなんて…」

 

「"びっくりした?これで君とおそろいだね"」

 

「それに…ここ、見覚えがある気がする…」

 

「"そりゃあそうでしょ、私の後ろにある島、見たことない?"」

 

「島…?あ!あれって!」

 

黒い人影の後ろにある島は かつて武蔵と一緒に出撃したときに訪れたことのある島だった

 

 

記憶をさかのぼってみるとそこで清霜はほこらを見つけ 戦艦になりたい という願いを込めて祈って帰還していた

 

「じゃあ…私の願いをかなえるために…?だとすると君はほこらの神さま?」

 

 

無言で清霜の周りをスイスイと海上を走る 表情は不気味な笑みを浮かべいた

 

「"そんなこと聞いてる場合じゃないよね、他のみんなが危ないんじゃないかな?"」

 

「…それもそうだね。君を倒して、私の最後の願いをかなえて貰うよ」

 

「"ふふっ。やっぱそうでなくっちゃね"」

 

「そして…みんなを助ける!」

 

意を決してぶつかり合う二人 清霜は叶えた力を頼りに全力で挑んだ

 

 



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