ニート提督の日常 (本に付いてる帯を栞にする侍)
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改装済み
多摩編(改二)


見切り発車

3/9改
大幅な文章の訂正。
【注意】
・ほとんど変わってます。会話あたりにしか名残がない…そして駄長文に…
・設定もだいぶ変化しました。そのため、改稿した話としていない話(「〇〇改」が付いている題名と付いていない題名の話)で矛盾が起きますが、そのうち直すのでご容赦を。
・多摩かわいい

R4/9/27

私は帰ってきた


——うちの鎮守府には1匹の猫がいる。

 

 

いきなり何言ってんだと思うかもしれないが、これは現状から浮かんだ一文である。

 

「そろそろ降りてくれない?多摩?」

 流石に2時間乗せるのは重いっす。

 

「…にゃー」

「おーりーてー」

「今日は多摩の時間にゃ。誰にも邪魔させにゃい…」

「いや降りろよ」

 

 

……そう言うも、なかなか降りてくれない多摩。

器用に体を丸め、俺の膝の上(に置いたクッションの上)に丸まってお昼寝中だった。……改めて見たら凄いなこれ、どうなってんの??

 

 

 

……まあ、お分かりの通り、猫の正体は多摩である。

 

軽巡多摩。球磨型の2番艦であり、紫ショートのセーラー服(?)着た女の子である。

…それ以上は知らないけど。でもまぁ…これも、つい1週間くらい前に知ったことだ。最初は名前すら知らんかった。

 

そしてその多摩は、この提督室に来てから1時間以上、俺の膝に置いたクッションの上から動いていない。俺も動けない。

 

 

「さも仏像の如し……。ん?」

 

俺が諦めの境地に達しっていると、多摩が物欲しそうな顔で見てきた。

 

なんだい?…え?あれ?………そうですか……わかったよ…(アイコンタクトで会話中)

 

「……はぁ、これで良いか?」

 

俺は溜息をつき…促されるまま、多摩の髪をそっと撫でる。

 

多摩は満足気に目を閉じて微睡んでいた。

 

 

「……どうしてこうなった?」

 

そんな多摩を見ながら、俺は回想へと意識を沈めていった……

 

——事の始まりは二週間ほど前に遡る

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

俺は、ある辺境の軍用基地の提督に就任した者だ。ここでは、「人間型艦隊兵器」…通称「艦娘」と呼ばれる少女たちが、海から出現するナゾの敵「深海棲艦」と海の上でドンパチするのを支援する基地、いわゆる「鎮守府」である……らしい。

 

……いや、詳しいことは知らん。俺は元々、本部…つまり、全国艦隊司令部本部の研究員の1人だった……んだけど、1ヶ月くらい前になって、突然ここに飛ばされた。

 

なぜかというと、その当時の上司が「面白くなりそうだから行ってこい」とか無茶ぶりしてきたからだ。意味わからん。

……まあでも合理主義なあの人だし、なんか理由はあったんだろう……たぶん。

 

 

そこから流れでこの鎮守府の提督に着任したのだが……そんな俺が、艦隊司令なんて当然できるはずもなく、仕事や権限は全て部下(というか艦娘)に丸投げしている。いや……これはある意味賢いことだと思うんだ。もし逆に、俺が管理したら()()になって、資材が()()すること間違いなしである。(激ウマギャグ)

 

…まぁ、実際にクレームが来たことは無いし…任せた艦娘も研究室からついてきた知り合いの信頼できるやつだし…大丈夫だろ……たぶん。

 

 

そんなわけで俺には何か目標もやる気もあるわけなく、ただただぐーたらと提督室に引きこもっている(ニートしている)。まあ艦娘達からは疎まれている存在……だと思うし…(あまり多くの艦娘と会話したことないから分からん)

 

幸い、提督室は豪華ホテルのような作りでキッチンなんかもあり、数日に一度食材も届けてもらえるため生活に困ることはない。最早いるだけ無駄な穀潰しなんだが、まあ出てけと言われたら研究所に戻ろうかと気楽に考えている。別にあっちでもほぼ変わらない生活なんだが。

 

 

 

 

——4月某日、暖かくなって昼寝が捗るある日のこと、

 

俺はといえば、いつも通り提督室でダラダラしていた。自分で言うのもなんだが、俺は『暇』に強い。生まれてこの方、暇で退屈と思ったとこはなく、何もしていない時が一番幸福に感じるような人間だ。これがこの鎮守府のトップの姿である。平和でいいね、うん。

 

することがないわけではなく、ほんとに事務とかスケジュール計画とかは名前も顔も知らない艦娘に一任している。間違いなく信頼関係は0。

……しかし、艦娘達にとっては、提督と言う存在が居ないと力が十分に発揮できないという事情があるために、こんな俺を見て見ぬふりをしている(と思われる)。

 

 

御察しの通り提督の素質を持つ者は希少である。じゃなきゃ俺なんかが提督になれるわけがないだろうが。代わりが現れた暁には俺は鎮守府(ここ)からたたき出されるだろう。

 

 

そして……実は驚いたことに、そんな俺にでさえ1日1回は来客があったりする。…いや決して、エア(空想)友達とかではなくて。

 

3日前は大淀という艦娘が提督室にやって来た。そう、先程述べた「俺(提督)の仕事や権限を全て丸投げしている艦娘」である。要するに、俺の第1被害者。名前も顔も知らないといったな…あれは嘘だ。

 

その大淀がやって来て、何か「重要な事務連絡があります」とか言ってたけど、どうせ聞いてもよく分からんから「全部大淀に任せる」とか言ったら、大淀は絶望した表情で泣きそうになりながら部屋を出て行きました。……ごめんね。こんな無能提督で。

結構な頻度で大淀は来てくれているが、大体の流れはこれと似たり寄ったりで、数分も経たずに帰ってしまう。「嫌なら来なくていいんだよ」と言ったことはあるが、泣きそうな顔で「私が来ると迷惑でしょうか……」と傷つけてしまった。もちろんそんな意図はないため、否定した後に10分間に渡り大淀をべた褒めしまくってたら「も、もういいでぅ……」と顔を真っ赤にして部屋を飛び出ていった。嚙んだとこ含めてめっちゃ可愛かった。俺はコミュニケーションを放棄しているだけでコミュ障ではないのだ。たぶん。

 

 

2日前は確か……そうだ霞。この艦娘もまた、よく俺のとこに来てくれていて、上辺(うわべ)では、たびたび俺に対して「役立たずのクズ」だの「働けニート」だの文句や不満を言ってくるが、全て俺を心配しての行動だと分かっているので、優しい艦娘()だなあって思いありがたく受け止めている。……言われたことを実行しているかは別としてね?

要するに、鎮守府内で俺の(たぶん)唯一の味方(大淀は中立?)の艦娘。

自炊はできるが面倒でカップ麺ばかり食べている俺に「また即席麺ばっか食べて!」とか言って昼ご飯作ってくれるのも超嬉しい。散らかした部屋を文句を言いつつも掃除してくれるのも超優しい。内心霞ママって呼んで拝んでる。ありがたやありがたや。

 

 

……あと、つい先日が……こ…金剛…だっけ?

……さっきも言ったが、俺はこの鎮守府の艦娘全員の名前を覚てはいない。大淀はよく来るから覚えたし、霞ママはママだから覚えていた。他の艦娘も何度か訪れたことはあるが、申し訳ないけど忘れてしまっていた。これは俺が他人に興味ないからとかではなく、単純に記憶力の問題だと思う。研究所でも何度も名前忘れたり間違えたりしたし。

 

で、近藤…じゃなかった金剛は「バーニングラブ」の印象が強すぎて少し印象に残っていた。

えーと……たしか、金剛は部屋に入ってきた途端…「ばぁにんぐ…らぁーぶ!」とか叫びながら、俺に飛び付いてきて……すまん…この後はあまり話したくは無い。思い出したくもないし。

うーん……でも「金剛」ってどこかで聞いたことあるような…無いような……いや無いか。うん、あんな可愛い艦娘を俺が忘れるはずもないし。

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

現在時刻は11:58で、今日はどの艦娘が来るかなっと。

 

……いや来ることを期待しているわけじゃないよ?決して。……別に俺は他人に話しかけないだけで艦娘との会話は……うん、少しは期待してます。特に比叡は嬉しい。あんまり来ないけど、SSR引いた気分になる。

 

それに、艦娘たちは()()()いつも12時に来る。どの艦娘もそうなので、昼休みとかなのかもしれない(俺?俺は一日中昼休みだから)。なので、来るとしたらそろそろだ。

 

 

すると、部屋のドアがガチャっと音を立てて開く。

関係ないことだが…大淀に、艦娘が入るときにノックは要らないと伝えてある。理由は俺がノックに返事をするのが面倒だから(私情)。……いいだろうが別に、いつ来るか一応分かってんだし……

 

さて、今日は誰だろう…?…まさか、また金剛は無いよな?(フラグ)

……ヤバい、フラグ立ってそう…。

 

そう身構えた時だった。

 

「…にゃー」

「…猫?」

 

……この鎮守府に猫がいると知ったのは。

 

「猫じゃないにゃ。多摩にゃ」

「いや猫じゃん(『にゃ』とかリアルに言う人初めて見た)」

「……猫じゃない」

「…まあどっちでもいいや…よろしくねタマ。なにがよろしくかは知らんが」

「良くないにゃ。それは猫を呼ぶときの響きにゃ…軽巡洋艦多摩だにゃ。よろしくにゃ」

 

どう考えても語尾が猫だが、本人は否定していて、人語も喋るのでたぶん人なのだろう。(猫語も喋れそうだが)。というより…やっぱこの猫娘も艦娘なのか……艦娘は個性が強すぎるな…ほんと…。

…まぁでも、今回は似たような艦娘を知っていたので、わりと早く受け入れられた。何事も諦めが肝心です。多摩にも猫耳プレゼントしてみようかな?

 

「で、何しにきたの?」

「お昼寝にきたにゃ」

「ここで……?」

「にゃ」

「なぜにここ…?」

「多摩が来たかったからにゃ」

 

ここ(提督室)に来る艦娘がすることは、艦娘によってバラバラである。具体的には、大淀は「事務連絡→泣いて出て行く」、霞ママは「家事代行サービス」が基本パターンである……なんだか俺が最低野郎に聞こえるんだが………うん知ってた、今更だった。ちなみに比叡はレンタル彼女だな。

 

話を戻して…多摩が何しに来たのか訊いたのだが、意思疎通はできなかった。悲しい。

 

「ほんとにあったかいにゃ……もうダメ…がまんできにゃい…」

 

意味不明なこと呟きながら近づいてくる多摩。そのまま…

 

「…にゃー!」

「うおぃ⁉︎」

 

いきなり、ソファーに座る俺の腹めがけて突進したと思ったら………ぽすん、と膝の上に着地して、器用に丸くなって眠り出した……自分で持ってきたのか俺の膝にクッションを置くほどの徹底ぶりにゃ。いや俺の膝上の必要ないやんけ。

 

「本当に猫だな……」

「猫じゃ…にゃい…にゃ……すぅ…すぅ…」

「もう寝てるし…」

 

いきなりの多摩の奇行に反応できず、俺はしばらく固まってしまった。そして、その内に膝の上は占領され、多摩を起こさないと俺は動けなくなってしまった。

 

……春の気候もあってか気持ちよさそうに寝ており、起こすのが躊躇われたため、何気なしに手持ち無沙汰になった手で多摩の頭を撫でていた。最初はくすぐったそうにしていた多摩だが、そのうちに気持ち良さそうな顔でぐっすり眠っていた。

 

…てか本当にどうしたんだろう?多摩は見た感じ、比較的おとなしめの艦娘だと感じたのに急に突進(に見せかけたクッション着地)をしてくるとは……艦娘は不思議だ。

 

(まるで…本当に猫だな…俺にマタタビの匂いでも付いていたのか?)

 

こうして身動きを封じられた俺だが……まぁ、考えようによっては普段の俺の過ごし方と何も変わらなかったので、特に気にせずに(諦めとも言う)、俺は多摩を撫で続けていた。

 

……そのまま撫で続けること2時間、急に多摩は目を開け、起きたかと思えばスッと立ち上がり、猫の気まぐれのように部屋を駆け足で出て行ってしまった。

 

「……いったい何だったんだ?」

 

……その時、多摩の耳(もちろん人間の)が妙に赤いのが妙に印象的だった。

 

 

 

——回想終了(冒頭に戻る)

 

 

それ以来、多摩は3、4日に1回のペースでここ(提督室)にやって来るようになった。

2回目は初回と違って、最初は膝の上に乗るのは我慢して隣で座るだけだったけど、そのうち、こっくりこっくりと船を漕いでいたため、こっちから誘ってみた。なぜかめっちゃ顔赤くして恥じらっていた。……1回目の訪問とは大違いである。…別キャラとさえ思ったが、その後はチャージ(突進)&ランド(着地)してきたので、「あ、同キャラだ…デジャヴ」ってなったのは良い(?)思い出である。…しばらくしたら忘れるだろうが……

 

そして、こんな俺でも、さすがにここまで何度も来られたら名前を覚えた……というのは嘘で……実際には、多摩に俺が名前を覚えていないことがバレて(「今日も猫か…」って呟いたのが原因)、本人に無理やり覚えさせられたのが、多摩の名前を覚えた理由である。

具体的には……何度も「猫じゃないにゃ。多摩にゃ」って言われるうちに、頭の中で「猫=多摩」ってイメージが固定されてしまった。……あれ?多摩は猫だった?

 

 

謎が生まれたが特に問題は起きなかったので、謎自体を忘れることにして……そんな平和な、今日の午後。

……いや多摩以外の艦娘達は今も海上で戦っているだろうが……全然平和じゃなかった。ちなみにその指揮官は(便宜上)俺である。俺にその自覚は全くない。……この鎮守府は大丈夫なのか(他人事)。

 

 

 

そして、もう既に多摩がくるのも4回目。

俺も慣れたもんで、膝の上にはクッションを置き、手元の机には動かなくていいよう暇潰しの本が置いてある。しかし、本ばかり読んでいると多摩が「にゃ〜(撫でろ)」と催促してくるので本を片手に持ち替えつつ、片手で多摩を撫でたりしている。お陰で片手のページ捲りが得意になった。……いや、そんな特技使う場面なんて他にないだろうが。

まぁ、2時間程度ならそんな苦痛ではない。俺も、猫のように(というか猫そのもの)眠る多摩を見て心が癒されるし。

 

 

余談だが……多摩は入室直後、真っ直ぐに俺の膝めがけ突進してくるようになった。

そのため、本とクッション(多摩が置いて行ったやつ)を常備するようになり、クッションに座るのではなくクッションを乗せるという奇行を続けている。いや、一度クッションは使ってみたのだが、思ったより使い心地は良くなかった。猫用だと思われる。あと、昨日来た比叡には変なものを見る目を向けられた。解せぬ。

 

比叡は、比較的最近提督室(ここ)に来るようになった艦娘だ。「特に来る理由は無いんですけど……」と言いつつ来てくれるので、俺のことが好きなんだろうと睨んでいる(どどどど童貞ちゃうわ!)。なにより艦娘の中でも数少ない常識人で、俺とまともに会話できる貴重な存在だ。たまに姉(金剛)の自慢で暴走するくらいだし……ちなみに金剛には提督室出禁の刑を与えている。

 

……そういや同じく常識人枠の霞ママは最近見かけない。その代わりにあ……あさ…朝顔?(あんま覚えてないの、ごめん)が来るようになった。その浅草?いわく、長期遠征でしばらく鎮守府にいないので代わりに旭川?に俺の生活の世話(監視)の代役を頼んだらしい。……ほんとに慈悲深い霞ママである。てえてえ。

…まぁ、その朝潮?はいい娘なんだけどねー……ちょっと堅苦しいよねー……もうちょっと肩の力を抜こう?ね?軍隊じゃないんだから……。

 

 

——今日の多摩は5時まで時間が空いているらしく、2時間寝てー、1時間駄弁ってー、また2時間寝てーと過ごす予定。5時間連続は俺の膝HP的にアウトなんで勘弁してもらった。…ちなみに、後半の昼寝は俺も寝てしまった。…気持ち良さそうに眠る多摩を見てると眠くなってさ……ちゃんと毎日寝てんのになー(10時間)

 

 

寝すぎ?…うん、はい……ここ最近、俺はそんなぐーたら生活を毎日送っていた。……でもまぁ俺は起きていてもできることは(ほとんど)無いと開き直って(諦めて)いる。……出来ることを探せ?そんな意欲はとうの昔に捨てている。

 

…しばらくして、多摩が目を覚ましたので、雑談代わりにちょっとした質問をぶつけてみる。

 

「そういやさ…多摩は何でここに来るの?」

「………お昼寝のためにゃ」

「昼寝だけならもっと日当たりが良かったり、良い場所があるでしょ?」

「……ここが良いにゃ」

「……猫的に?」

「猫じゃないにゃ」

「じゃあなんで?」

「……もう寝るにゃ」

「…また?」

 

多摩は回答を拒否して、クッションの上に頭を乗せて体を丸めてしまった。完全なる拒否態勢である。やっぱマタタビ成分が俺から溢れているのだろうか、いや興奮してるわけではなさそうだが。

 

「どうして……あっ…」

そこでようやく……俺は、多摩の顔が真っ赤になっていたことに気付いた。

 

多摩は自身の顔が見られないよう、俺の服に顔を押し当てていた。……耳が真っ赤でバレバレであるが……あれ?なんかデジャヴ。

 

「ほんとどうしたん?」

「……ここは…あったかいにゃ…」

「やっぱり猫かよ…」

「猫じゃないにゃ……すぅ…すぅ」

「………いや猫だろ」

 

提督室は今日も平和だ




続き、欲しい?


【設定集】(この小説におけるオリジナル設定を駄文長文にて説明します)
〇多摩
猫型軽巡…じゃなかった。球磨型軽巡洋艦2番艦。
特徴は語尾…なのだが、なるべく語尾が変にならないように気をつけていたりする。しかし、眠い時など意識が薄くなると、つい語尾に「にゃ」を付けてしまう。
語尾は球磨による影響が大きい(という設定)。
そのため、思考における口調はいたって普通。……だってそうしないと多摩視点なんて書けないよ(泣)
球磨とは仲良しだったが、ある事情で離れ離れになってしまった。その関係上、球磨を連れてやってきた提督に私怨を抱いていた。ちなみに、球磨のことは「球磨」と呼んでいるが、内心では「球磨姉」と呼んでいる。ただ恥ずかしくて呼べないだけだが。
好きなもの:球磨、提督の膝の上にクッションを置いて寝ること


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比叡編

中学の頃に書いたイタ文章を掘り出したので書き直すぞー

(黒)歴史は繰り返す



追記:お気に入り外されまくって泣きそうです。すみません、他の話もすぐに戻すんで待ってください(泣)


今日は誰が来るのだろうか?

 

1日の中で唯一といってもいいほど、12時に誰が来るのかは俺の中で楽しみとなっていた。いつ頃始まったのかはもう忘れてしまったが、気づけば謎のルールは途切れることなく毎日続いている。ほんとに色んな艦娘が訪れ、ちょっと会話して帰る艦娘から、自分の部屋のように寛ぐ艦娘まで様々だが、共通点としては14時になると帰ろうとすること。だが、絶対というわけでも無いらしく、気まぐれで多摩を引き留めた際には5時間もいたこともある。霞ママは文句言いつつ夕食を作ってくれた。やっぱ超優しい。まあ予定があると断られたこともあるが。なら無理してこなくていいんだよ、大淀さん。

 

 

 

そして正午になった。

 

「司令いるー?おじゃましまーす!」

「お、SSRだ」

「え?どういう意味ですか?」

「いやなかなか来ないからつい」

「ソシャゲのガチャじゃないんだから……」

「言い得て妙だな」

 

確かにソシャゲのガチャ気分で楽しんでいたのかもしれない。違いは被っても嬉しい点。

 

「ていうか比叡ってソシャゲやるんだな。以外」

「こう見えて比叡、スマホゲーム好きなんですよ」

 

そう言いながら比叡が取り出したのは一台のスマホ。外見は無機質な白でシンプルで、使い込んでいるのか若干変色しているが、見た感じ大した傷がない。大切に使っていることがすぐに分かった。てか改造巫女服の少女にスマホとかいろいろとミスマッチ。

 

「へー。スマホもってたんだな」

「あんまり部屋の外に持ち出すことはしないんですけど」

「あー。すぐ落としそう。ドジっ子だし」

「お姉さまに貰った大切なスマホだからですぅー!」

「出たお姉さま、って…」

 

そして、否定するようにスマホを持ったままぶんぶんと腕を振る比叡を見て、なんとなく展開が読めた。

 

 

 

スポーン

 

「…あぁぁぁ!?」

「ほいキャッチ」

 

案の定、ドジっ子の手からすっぽ抜けて空を飛ぶスマホ。まあ分かっていたため、落下地点に素早く移動してなんとか空中で救うことに成功。

 

「気をつけろよドジっ子さん」

「ひ、ひえ~…ありがとうございますぅ、司令…」

 

先ほどと違い、反論せず素直にスマホを受け取る比叡。確かに持ち歩かないのが正解だな。カバーをかけていたとしてもこれだとすぐ壊しそうだ。

 

「というか、司令って意外と動けるんですね」

「健康維持は大切だしな」

 

 

   ☆☆☆

 

 

 

「……なんでソシャゲアプリが26個もあるん?」

「ログインして、たまにガチャを引いてるだけだからすぐ終わるんですよ」

「…ガチャ以外は?」

「難しくてできないです!」

「やっぱアホだな」

「そんなことないですって!」

 

 

 

 

それからも比叡との会話は打てば響くように気持ちよく、また嬉しそうな顔、怒っている顔、泣きそうな顔、安堵した顔と、喜怒哀楽に溢れるこの少女は一緒にいるだけで楽しかった。なので俺は比叡のことがかなり好きだ。

 

「かわいいな、比叡は」

「もー冗談でもやめてくださいよー司令。比叡にはお姉さまがいるんですから」

 

恋愛感情がお互い無いのもやりやすくていい。付き合いはまだ浅いが、俺にとって比叡は気楽に話せる友人のように感じていた。だから友人に対して、こんな提案をするのは普通のことだろう。

 

「なあ比叡…」

「なんですか、もう騙されませんよ」

「今夜泊まって行かない?ゲームでもしながら」

「え?それって、うぅん?お泊り…………ひ、ひえぇぇーーっ!?!?」

 

 

 

 

 

 

   ☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうだった?」

「お、オーケー…でちゃいました」

 

あれから1時間後、俺の気まぐれな提案だが……さすがの比叡でも男女で泊まる意味は分かるのか(失礼)、答えに詰まり、まぁその時点で俺は勝利を確信しつつ、『お泊りするかどうか』を別の質問に置き換え『お姉さまが好きか嫌いか』から誘導尋問して同意を得た(決して洗脳ではない)。

 

なぜYESと答えてしまったのか自分でもよく分かっていない絶賛混乱中の比叡は、いったん冷静になりたかったのか「大丈夫なのかちょっと聞いてきます!」と外に出ようとした。俺は止めることもなく、少しだけ許可を取る際の台詞を理由をぼかして言うように誘導&スマホを置いて行かせ逃げないように人質にして、比叡を送り出した。

 

戻ってきた比叡は、俺の指示通りお泊り用の荷物らしき大きなカバンを肩にかけていた。やったぜ。

 

 

結果は成功。比叡の今日と明日の予定が空いている(お姉さまに会いに行く)ことを知っていたうえに、俺が許可すれば居ていい時間が伸びるのは既に経験済み。泊まりが可能かは賭けだったが、上手くいってよかった。

 

 

「意外とやればできるもんだな」

「な、なんでこんなにあっさり……」

「比叡、お前騙されてるぞ(張本人)」

 

 

ということで種明かし。誘導尋問したことや、「今日じゃなくていいやん」と言われないよう台詞を誘導していたことを告げる。

 

「それで、スマホは逃げないよう人質にしたわけ」

「ひえ~……。司令、もう詐欺師向いてますよ。絶対に」

「自分の才能が恐ろしい」

「シャレになってないですよ…」

「はい、スマホは返すね」

「どうもって、あれ?スマホ……」

 

 

なんか、なんとなくだが嫌な予感がする。いや、正しくは1時間前に比叡がスマホを見せてきた時からだが。

 

 

「どした?俺はなんも弄ってないからな?」

「スマホ……お姉さま…………あぁぁーーーー!!!!!」

 

 

本日二度目の悲鳴が提督室に響き渡る。お姉さまって、比叡との会話で度々出てきたんだが、具体的に誰とかどんな見た目かとかは聞いてなかった。だが、もし…もしも比叡のスマホのホーム画面に写っていた少女がそのお姉さまなんだとしたら……

 

「わ、忘れてた!お姉さまに頼まれていたことっ!」

「なあ比叡、そのお姉さまって名前なんだ?」

「あれ?知らないかったんですか?金剛お姉さまですけど……そ、そのお姉さまから司令に会えないならせめて通話したいって頼まれていたんですよ!」

「……まじかよ」

 

嫌な予感ほど当たるものだ。思い返せば服装似ていた…というかほぼ一緒だったし、容姿も声も共通点がある。あのエセ外国語とバーニングラヴの印象強すぎて分らんかった。

 

「それで…俺にどうしろと?」

「そのためにスマホを持ってきたんです!忘れてたけど…」

「そのまま忘れていて欲しかったよ」

「ひえっ…な、なんか怖いんですけどっ」

 

あの艦娘に提督室の立ち入り禁止を命じた事件(こと)は、恐らく俺の最初で最後の提督命令だろう。正直、あまり話したくはない。怖いし。

 

「お姉さまも反省しているし、ちょっとだけお願いします。司令」

「……」

 

リスクとリターンを考える。もしもこの頼みを断り、このままにして金剛が限界となりこの部屋に突撃されると俺は死ぬ。受けるなら、金剛の反応は不明だが…通話越しだから今すぐ俺が死ぬことはない。

 

「……何より、比叡の頼みだしな」

「し、司令?どういう意味です?」

「あほのくせに頑張って考えたなって思っただけだ」

「一言余計です~!」

 

 

姉がらみで暴走することはあるが、それ以外はただのアホっぽい少女。そんな奴が、真剣な顔で悩んで俺に頼んでいるんだ。それに比叡の話を聞く限り、金剛お姉さまは…あの金剛とお姉さまは俺の中では不一致だが…少なくとも比叡が嫌がることはしない。比叡を信じるならば、どうしてもと頼み込まれたのだろう。

 

「ほら、早く金剛に繋いでスマホ貸せ」

「っ!はい!気合!入れて!繋ぎます!!」

「普通につなげ」

「まっかせてください!」

「……不安だ」

「ひえー!?大淀さんに間違えて電話かけそうにっ!?」

「なんで間違えんだよ」

 

いつも通り暴走する少女を見てふと思った。

 

……もしかすると姉もコイツに似ているだけなのかも

 

そう考えると、自然と肩に入れていた力が抜けていくのを感じた。

 

 

 

 

 

   ☆☆☆

 

 

 

 

「………」

「…それじゃーな……ああ、解除するよ……ああ?俺は優しくない。比叡に礼言っとけ。あ、そうだ。来るときは監視役にアイツか比叡を付けてくれ……また暴走したらどうすんだよ……比叡?ああ、直ぐ傍にいる。替わるぞ」

「し、司令?今監視役とか不穏な言葉が…」

「ほら、お姉さまを放置していいのか」

「い、今出まーす!はい、お姉さま!比叡です!」

 

 

…案の定というか、この妹にしてあの姉って感じだった。あの時とは打って変わって落ち着いた声に理性的な言葉で謝罪……エセ外国語がなければ同一人物か疑っただろう。むしろ比叡よりも知性がありそうな分、暴走した際の厄介度が増すのかもしれないと考えさせた程には。俺の見る目は信用できないな、ほんと。

 

 

「ひえっ!?……ひえーー!?……ひえっ!デート!?ひえ~~~~!?!?」

「………会話なのか?これ?」

 

 

比叡が通話しながらスマホを持っている手と反対の腕ををぶんぶんと振り回すのを見て、飼い主に尻尾を振りまくる飼い犬を幻視しつつ、金剛の話が解決したことに俺は安堵した。

 

「……そういえば、この部屋に二人以上の艦娘が来たことってないな」

「…はいっ、分かりました!ではっ。……って、司令?何か言いましたか?」

「ん、いや。随分嬉しそうだな」

「はいっ!司令のおかげでお姉さまとデートすることになりました!」

「おー良かったな」

「あと、提督の好みをそれとなく聞いて欲しいって言われたけど……何かありますか、司令?」

「……姉は姉で苦労してそうだな」

 

金剛にちょっとだけ同情した瞬間だった。

 

その後、比叡とともに比叡が泊まるためのスペースを作ったり、ゲームの準備とかをしていると、比叡にふと訊ねられた。

 

「あ、そういえば司令。電話、結局たった5分も喋ってないけど、良かったんですか?」

「まあ…金剛との誤解は解けたし、今後も話す機会あるだろうから十分だろ。それに…」

「それに……なんですか?司令?」

 

一瞬言うか迷って……相手が比叡なのと、友人といえる艦娘と夜通し遊べることに俺も無自覚にテンションが上がっていたんだろう。そのセリフは思ったよりも軽い口調で俺から零れた。

 

 

「金剛よりも、今は比叡と話したいから……だな」

「……」

 

きっと俺は、比叡から「私はお姉さまと話したいです」とか「お姉さまの良さを分かってません!」という返事を期待していただろう。しかし、比叡は驚いた顔で停止したままで……

 

「……比叡?」

「……はっ!?私の心はお姉さまと決まって…」

「……何言ってんの」

「あれ、私、にゃにを…」

「一人称替わってるし噛んでるし記憶飛んでるし落ち着け。あれ?寝てた?」

「寝てません!寝てませんよ!」

 

 

照れるわけでも無く心底不思議そうな様子の比叡に、俺は安堵と一抹の不安を感じるのだった。




比叡アホ可愛い。お泊りの様子もいつか書きたい。時報の比叡くらい仲良くなって、デートとかさせたい。たまに敬語はずれるの可愛すぎんか。



主人公と編集メモを見る前の私は気づいてなかったんですが……比叡にらしくない行動がありましてね……もし「ここやん」ってなったらここ好きとかお願いします。中学生の私が作った伏線です。なんの伏線なのかはモウワカリマセン。


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本編から逃げるな
番外編SS:時雨と外出


2023年度版

遅めのバレンタインです(なお一切関係ない模様)



提督:糞ニート。時雨に借りを作る。地獄耳。
時雨:素直になれない思春期。提督への好意はそこそこ。つい意識しちゃう系

本編?知らない子ですね

だから早いって……C〇ニキ(又はネキ)よぉ……ありがとうございます。


 

「で、今日俺たちは何をしに行くんだ?」

「それは着いてからのお楽しみだよ。提督」

 

 満天の雲の下、俺は時雨と雨の中を歩いていた。

 この間、色々と世話になった時雨へのせめてものお礼として、俺があげられる範囲の報酬で何が欲しいかを時雨に訊ねたところ、『提督と外出したい』という時雨に何の利点があるのか分からないお願いを受けたのが少し前。

 まぁよく考えてみれば、すぐには思いつかないから外出先で奢らせたいのだろうというのは想像に易く、俺は二つ返事で了承した。

 時雨は『え!? ほ、本当にいいのかい?』と何故か慌てていたが、それは俺がここ提督室の外に出ている姿を見たことがないからと判明。別に俺が出てはいけないなんて規則はなく、ただ面倒だし生活物資は運ばれるし食事は作れるし酒も鳳翔の店があるしと外に出る理由が(俺目線では)ないことを説明した。一介の軍組織の長だとは思えない意識の低さを聞いて時雨は暫し固まっていたが、『……むしろチャンスかも……』と小声で呟いていた。なんだろう、提督更生計画とかが存在しているのだろうか。ぜひとも阻止したい。

 

 なお、外出に必要な書類等はすべて時雨に作ってもらった。時雨は「こういうの得意なんだ」とノリノリで作っていたし、俺の下がりようがない評価も変わらないだろう。その後二人で執務室(すぐ隣)に行ったのだが、書類を渡した際の大淀の表情がめちゃくちゃ面白かったことを告げておく。

 

 だいぶ動揺した大淀は、なんか誇らしげな表情の時雨に詰め寄って俺から離れ小声で会話していたが、流石に盗み聞きするのはできてもやめておいた。大方俺という糞ニートをどうやって外に連れ出せたのか気になったのだろう。

 

 

 

 

 

 閑話休題

 

 

 俺たちは鎮守府を出て、時雨の案内で店や娯楽施設が多く賑わっているという港町に向け歩いていた。

 お互い私服姿で傘をさしている。俺はラフなズボンに襟付きシャツ(要はいつも通り)、対して時雨は制服を着崩したようなデザインの服装だが、メガネと言い洒落たカバンに首からカメラをかけており、素人目にも気合が入っていることが分った。

 

「というより、随分と今更な質問だね」

「いや……まぁ……」

 

 明らかに外出に乗り気な時雨を見て、朝から雨で憂鬱だった俺も「面倒くさいし今度にしない?」とは言えなかった。

 あと時雨の格好が中学生、せいぜい高校生のため行く場所によっては周囲の目が気になるくらいか。そんなことを考えつつ時雨を眺めていると、視線に気が付いた時雨が俺に訊いてきた。

 

「うん? 僕の格好が気になるのかい?」

「まぁ随分と気合入ってんなーとは」

「そう、かな? そう思ってくれると嬉しいね」

「その格好でどこ行くのか気になってはいる」

「そうだね……うーん……」

 

 時雨は歩きながら考えるように下を向いた。「前を見ないと危ないぞ」とは俺が言える立場ではないが、そう思ってしまうのは時雨を見た目で子供だと下に見てしまっているのだろうか。

 

 その幼い見た目だけで、想像も出来ないほど活躍しているであろう彼女たちに対して俺は……

 

「時雨」

「うん? なんだい提督、呼んだ?」

「……いや、なんでもない」

「そうかい? ならいいけど」

 

 

 ……「外出の時くらい鎮守府や仕事のことは忘れてくれ」なんて俺には口が滑ってでも言えないことだ。ただ、本来の目的であるお礼以外でも、時雨に何かしたいという感情が芽生えた。こんな考えは俺らしくもないが。

 

「はぁ……」

「提督? さっきからどうしたの? 体調でもわるいのかい?」

「いんや……せっかく外に出たら雨なもんで憂鬱でよ」

「僕は嫌いじゃないけどね。それに、止まない雨はないよ」

「……せめて室内に入りてぇ」

「そうだね……なら、夕立が言っていた最近できたショッピングモールに行ってみようか」

「おん? 行先決まってんじゃなかったのか?」

「実はさ、候補はいくつかあったんだけど……ちょっと悩んでいたんだ」

「ふーん」

 

 少しだけ候補の内容が気になったが、聞くと「じゃあ次の機会にね」とまた外に連れ出されるような気がしたため聞くのはやめておいた。

 

 ……が、ふと隣から雨に溶けてしまいそうな小声が耳に入る。

 

「……雨だし、遊園地は無理そうだもんね」

 

 ……気づかれないようにそっと横を見ると、さっきよりも時雨の姿が幾分か小さく見えたような錯覚に陥った。

 

「はぁ……」

 

 ……ふと俺の脳裏に浮かんだ考えに、自分でもらしくないと思ってしまう。……だが言わないとそれはそれで後悔しそうで、俺は聞こえないように言ったであろう時雨の独り言にあえて返事をした。

 

「遊園地は別の日に行けばいんじゃねーの」

「……っ!? き、聞こえていたの?」

「偶然だ、偶然」

 

 前を向いていても、声と視界の端で揺れる傘で時雨の動揺が伝わってきた。ごめんな地獄耳で。

 

「それに礼が一回で終わりとも言ってないしな」

「それは……随分と提督らしくないというか」

「雨のせいだな。数分後には後悔する」

「それなら早く返事をしないとね。……行こう、提督と一緒に」

 

 打って変わって明るくなった声色とは逆に、また外に出る予定を作ってしまった俺のテンションは降下の一途を辿る。早速後悔し始めた。何言ってんだ俺……

 

「遊園地、ね……」

「……やっぱり、提督も子供っぽいと思うかい?」

 

 今度は俺の呟きに時雨が反応した。時雨の問いに、俺は自分の青年期を思い返す。平日のガラガラな遊園地で独りジェットコースター巡りをしていた記憶が蘇った。一人だけを乗せて動き出すジェットコースターに乗るのは最高で優越感が凄まじかった。

 そして、人が少ないのをいいことに公然とイチャつくカップルを何組か見かけ殺意を覚えた。リア充滅ぶべし。

 

「……さぁな、デートにも使われるくらいだし子供っぽいとは一概にも言えないんじゃね」

「デート……うん、そうだね。提督と行く日を楽しみにするね」

 

 あー、俺と時雨が行くとえんこ……カップルと間違われるかも知れん。実際俺は財布役だし似たようなもんだが……俺はどう思われても良いが、時雨まで巻き込むわけにはいかないため、俺は付け加えて言った。

 

「夕立とかも連れていくか? あいつなら喜んでついてくるだろ」

「……提督はよく『デリカシーがない』って言われないかい?」

「だからこうしてリカバリー&フォローしてんだろ」

「……はぁ」

 

 時雨が呆れたようなため息をつく。なんでだよ。

 

「まぁいいよ。夕立も誘っておくね」

「なんで不満げなんだよ」

「そんなことないよ? それはそうとして先ずは今日を楽しもうか」

「あー……また出んなら今日はもう帰っても」

「僕もちょっと思ったけど……ううん、やっぱり止めた。行くよ、提督!」

「……はぁ」

 

 雨の中、憂鬱な気分で満たされていた俺だが、時雨の顔を見ると「帰ろう」なんて言う気になれなかった。

 

 

 

 

「……せめて帰るころには止んでねーかな、雨」

「雨はいつか止むさ。遊園地に行くまでにはきっと止んでるはずだよ」

「遅すぎんだろ……」

「でもほら。あそこ、雲が途切れてるよ。意外とすぐに止むかもしれないね」

「あー、確かに」

 

時雨が指している西の空に浮かぶ雲の切れ端を眺めていると、俺は少しだけ雨が嫌いではなくなった気がした。

 

 

 

 

 

 




ショッピングモールのとある雑貨店にて


「あ、提督。僕このアクセが欲しいかも」
「よりによってブランドもんかよ。ちゃっかりしてんなーおい」
「まぁね。これが一番壊れにくそうだったからさ」
「ほれ……大事にしろよ?」
「うん、大切にするね」



「……提督、ところで夕立に渡した指輪、ほかの娘にはあげないのかい?」
「うげ……その話はやめろ。俺に効く」
「具体的には僕とか……なんて冗談だよ。そんなに嫌そうにしなくてもいいじゃないか……」
「……(見た目JCが俺のあげた指輪つけてうっとりと眺めてんだぞ。犯罪臭がやばい)」


なお見切り発車


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