花の魔術師(屑)の友 (カフェ・オーレ)
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プロローグ

「あ〜、暇だな。お前もそう思わないか?フォウ?」

 

「フォウフォウ(うんうん)…」

 

「だよな〜、この檻(アヴァロン)に入って…えっと…とりあえず、言葉に出来ない程に長い間、ただただダラダラしているんじゃつまらないよな」

 

 俺の隣にいる猫?こと、災厄の獣キャスパリーグ。名前が長いから俺はフォウと呼んでる。その方が楽だし。

 

「……で、自ら楽園ことアヴァロンに閉じこもって星(せかい)を見ている魔術士(屑)よ。今日は何か面白いもんでも見えたかい?」

 

 俺は、この狭い塔から花園を見渡している人物に声をかけた。その人物は白いフード付きのコートを着て、手にはいかにも「私は魔法使いだ!」的な大きな杖を握っている。

 

「やれやれ、流石に屑はヒドイんじゃないかな。一応君の恩人なんだよ?僕」

 

「一応お前が主人で、俺は『パシリ』だろ」

 

「パシリに使った覚えはないし、そもそもこの花園からは出られないよ。……例外もいるけど、ね」

 

 魔術士(屑)の視線がこちらに向いた。……確かに、俺は『効かない』な。

 俺は属に言う『転生者』という類だ。だが転生以前の記憶はなく、ふと目を開けたらブリテン島の村に立っていた。村長は俺にいた理由を追求してこなかった。むしろ村に住まわせてもらうことになって、俺は快く承諾した。 それから数年後、俺がいた村に軍を率いたランスロット卿が来訪して、たまたま声をかけられた。

 

 『お前、私の部下にならないか?』

 

 正直仰天したね。かのランスロット卿にいきなり部下になるかと言われたんだから。まぁ、そのお陰というかせいなのかは知らんが、コイツに会ったわけだし。

 

「いや〜、これも神の思し召しだね。きっと僕と出会う運命にしてくれたのさ」

 

「その思し召しのせいで『なにも偉大な事を成し遂げていない』俺を英雄の座に強制的に置いたのはお前だろうが!」

 

 それと何が恩人だ、アホ。ブリテンに住んでいた頃、俺が王宮からの帰り道に道のド真ん中で『女遊び』の帰りで、ましてや『二日酔い』でぶっ倒れているお前をわざわざ自宅まで担いでいって看病したのは俺なんぞ……というより覚えてないよな、お前は。

 

「理由は前にも話しただろう?君は既にこの『花の魔術士』である僕を看病して助けた。そして僕は君に感謝して、その名誉で僕の友にした。これでもう英雄に相応しいのさ!……本当は君から面白そうな予感がしたからだけどね(ボソッ」

 

 おい後半、ちゃんと聞こえてるぞ……。

 

 コイツとは何ていうか、そう、王宮内で出会った顔見知りだ。俺はアーサー王に仕えた『円卓の騎士』の……まあ、部下だったんだ。

 上司の騎士の名はさっき言ったとおりにランスロット卿だ。円卓の騎士の中で最強と謳われた騎士。ただアーサー……もういいや、彼女、アーサー王もといアルトリアからの怒りを買い、不貞を処罰……というところで書類報告に来た俺を見て、涙と鼻水でグチャグチャになった泣き縋り付いた。

 

 いや、「お前も男だからわかるだろう!?」って言われても解るか。俺、女性付き合い…、というより女嫌いだし。ちなみに、この魔術士(屑)と女話となるとランスロット卿とは話が合っていた。俺か?俺は二人のせいでむしろ女が嫌いになった、だからって男の気はサラサラないさらな!?その代わり、侍女たちからは冷たい視線を送られてたけど。あ、アルトリアには詫びに自分に出来ることならと俺が申し出ると

 

『ではデー…ゴホン、都の見回りを一緒に』

 

 とトマトみたく真っ赤な顔でお願いされた。でも何で顔が赤かったのだろう?風邪だったのか?

 

 まあ、その話はまた今度。さてと…、

 

「で?『見えた』んだろ?お前にとって面白いっていうやつが」

 

 コイツは屑だが、コイツの『目』は便利だ。なにせ、過去、現在、未来を見通せる優れた目を持っている。

 

「そうだね。まあ今回は少し環境、というより『世界』が違うね」

 

「世界?」

 

「ああ、世界だ。しかもここの人理とはかけ離れた、人外と人間が暮らしていたよ。いや〜、こればっかりは僕でも予想出来なかった!」

 

「人外?魔獣とか?」

 

「それも同じだけど、そうだね…。例えば、悪魔、天使に堕天使、さらには神さえも人間、といっても元人間だけど少なからず交流しているのさ!」

 

 へぇ〜、人間が神と交流ねぇ…………、はぁ!?

 

「おい!それは何の冗談だ!?神と交流だぁ!?その世界の人間はどうなってやがる!」

 

「正確には『元』人間だ。なんでもその世界に悪魔には人間を悪魔にする代物が存在するらしい」

 

 なんだ、そのギャラハッド卿、いやパーシヴァルだっけ?が求めた聖杯紛いの代物は?しかし悪魔に転族ねぇ……おい、まさかとは思うが!?

 

「おい、お前まさか俺にその世界に飛べ(行け)と!?」

 

「そのとーり!しっかり理解できる弟子をもってお兄さんは感動だ!」

 

「誰が弟子だ!…、ってそうじゃねえ!それならお前が直にいけばいいじゃねえかよ」

 

「でも君も知っているだろう?僕はこの楽園(アヴァロン)からは自ら幽閉して出られない。でも君の『転生者』としてのスキルを使えば問題ない」

 

 確かに俺にいつの間にかスキルが付与されていたのはわかっている。その中に『渡り人』というスキルが目に映ったが、使ったことはない。

 

「いや、だが…」

 

 しかもコイツに嘘は通じない。俺と初対面の時だって「君、この世界の人じゃないね?」と耳元で言われたし、どうなってんの?コイツの目と耳は。

 

「普通だけど?」

 

「サラッと心を読むんじゃねぇよ!」

 

「まあまあ、そのお陰でほら、君の真下を見てご覧!転移魔法陣が出来たよ!」

 

 屑の言葉に思わず下を向いたら、今にも発動しそうに発光している魔法陣が描かれていた。っていつの間に!?つか結局こうなんのか!

 

「フォウ!(連れてって!)」

 

「フォウ!お前まで!?」

 

 焦ってるうちにフォウが俺の腕の中に収まったと同時に魔法陣の光が益々強くなっていく。

 

「覚えてやがれぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 そして、俺は飛ばされ(パシられ)た。

 

 



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とばっちりと説明

 

 ヒュウゥぅぅぅ!ドスン!

 

「がっ!?」

 

「フォウ!?」

 

 あのクズにパシら…ゴホン、別世界に飛ばされた俺は受け身を取れずにそのまま尻から落っこちた。おお、痛え…。フォウは……あ、良かった、俺の尻に潰れてないな。

 

「さて、ここ何処だ?見るからに崖、荒野、木や葉一枚すら見かけねぇな」

 

「フォウ?(あれ?)」

 

「どした、フォウ?」

 

 視線をフォウと重ねてみると、あまり遠くない所で閃光やら炎やらが飛びまくっていた、どうやら争いが起こっているようだ。早速来たと思ったらこれか……うん?よく見たら人、じゃねえな。羽生えてるよな、しかも色んな…。

 

「ほほう?さてはあれが悪魔たちとやらのようだな。『貴様!何者だ!』あん?」

 

「フォ、フォウ…」

 

 厳つい声がした方に目を向けるとこっちを睨みつける『ヤツ』がいた。おおぅ、フォウが震えてる。まあ無理もないな、なんせ…。

 

「確かにアイツが面白いというのも無理ねぇな。しかもよりによって『龍種』か。これまたエラいのに目をつけられたな」

 

 龍種(ドラゴン)だからな。ドラゴンはブリテンにいた時も狩った覚えがある。しかも危険と察知したら飛んで逃げるし、こちらが劣勢だと感じたらブレスを吐いてくる。ああ、ドラゴンとの初戦闘で丸焦げになったトラウマが……!

 

 しかし空気を読めないのか龍種…『赤い』ドラゴンが勝手に話を進めていく。

 

『何をゴチャゴチャと…!さては、俺たちを討ち取って名を上げに来たか!』

 

 は?名を上げる?いやいや何を言って…。

 

『そうなれば容赦などせん!』

 

 轟轟と炎が滾る口を開けて、こちらに吐く態勢に入った。おい!これどう見ても!

 

「とばっちりじゃねえかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 そして、俺の姿は炎の中へと消えた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………って!

 

「何すんだ!このトカゲ野郎ォォォ!」

 

『グボハァ!?』

 

 ブレスを放れる直前にドラゴンの顎を『殴り上げた(アッパー)』。……へ?殴り上げた?

 

 殴られたドラゴンは後ろに傾いていきドスンと仰向けに倒れた。おお、見事に白目むいて気絶してる…。

 

「しかしどういうことだ?俺ってこんなに強かっ―」

 

(それは僕からの贈り物さ!)

 

「ウォア!?」

 

 いきなりの声に人が出さない声をあげてしまった。つか『マーリン』!これはどういうことだ!

 

(どうにもこうにも、君は『英霊』になった。霊基は、そうだね…今は『探索者(シーカー)』とでも名付けておこうか)

 

 探索者、ね。とりあえず名前なかったし、それで良いか。まあ、そこはおいおい後で質問するとして……やってくれたな、このクズ!ドラゴンがいるとは聞いてないぞ!

 

(ハッハッハ!驚いたかい?僕からのサプライズプレゼントさ!気に入ったかい?)

 

 逆にトラウマを思い出しちまったよ!どうしてくれんだこの野郎!

 

(くくっ、(笑))

 

 良し、アヴァロンに戻ったら泣かす(#^ω^)

 

(…コホン。さてと、今シーカー君が知りたいのは場所かな?)

 

 ああ、見ず知らずの場所に放り出されるはドラゴンに喧嘩売られて返り討ちにするわで、混乱してるよ。

 

(そこは冥界だよ。人間でいう死者の国だ)

 

 へえ、冥界か……冥界ィ!?

 おまっ!?なんつう場所に転移させてんだ!

 

(目に冥界が写ったからさ!)

 

 そこに山があったから的なノリで発言すんな!

 

(まあ、霊基が無事なら死ぬことがないし、というより年を取らないんだけどね)

 

 まあ、な。で?このドラゴン、やけに魔力の波動を感じるんだが?

 

(ふむ、どうやら、そちらの世界は魔力で満ち満ちているようだね。どおりで英霊が単騎で動き回れる筈だ)

 

 あー、そういや大分…いや昔か?英霊ってマスターと魔力を通わせないと魔力供給できないんだったか?でもマーリンの言うとおり、俺はマスター無しでも今も平気で動き回れてる。

 少し考えていると足からテシテシと叩かれていることに気づいた。どうやらフォウが忘れられていると思っているようだ。

 

「フォウ?(何かあった)?」

 

「いや、疑問があったけど解決しただけ。特に問題ないさ」

 

(キャスパリーグが迷惑かけてないかい?)

 

「マーリンシスベシ!フォーウ!」

 

(いきなり失礼な発言だね!?)

 

 フォウは前からマーリン嫌いだよな。まあ、アヴァロンの住み心地が良かったのか気に入ってたしな…。あ、フォウが俺のてぃーしゃつ?(マーリン名)の中に潜り込んできた。

 

 で、このドラゴンは後にして。問題は…。

 

 

『……』

 

 さっきからこちらをガン見してる奴らがいるんだけど?さらにはさっきのドラゴンとは違う白いドラゴンも含めて、だが。

 

(あちゃ〜、もしかしてドラゴンを素手で倒したりしたかな?)

 

 いや、まあ?なんか目立つのか?だって悪魔、天使に堕天使。ドラゴンを倒すには十分な戦力だと思うんだが?

 

(そのドラゴンが普通だったら、ね。もしかしたらその三種族でもかなわなかったんじゃないかな)

 

 ……今更だけど、それってかなり目立つ立場に立ってませんかね?(敬語)

 

(間違いなく目立つね!ハッハッハ!)

 

 面白がってる場合かぁぁぁぁぁぁ!?余計に面倒くさくなってるよぉぉぉ!あのロクデナシ上司と女遊び屑から離れてもこれかよぉぉぉぉ!

 

 

 どうやら騎士から英霊になっても苦労は変わらないそうです……。



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苦労は重なるもの

 

 さて、この状況をどう打破しようか…。

 

 今、俺は三種族と白いドラゴンにガン見されていた。では次の問題は、『逃げるか戦うか?』だ。俺は断然、逃げるを選ぶよ?これ以上面倒くさ、いや苦労はしたくないしな。じゃ、そういうことd『ドォン!』へ?

 

 俺の足元のすぐ横に俺の足くらいの穴が出来ていた。はて?…一体何処から……、ああ。

 

 視線を例の戦う連中に向けると一人の蝙蝠の羽を生やした奴がこちらに手を向けていた。

 

「そこから動くな、怪しい輩め!さてはサーゼクス様、そしてセラフォルー様を殺めるために潜んでいた者だな!ここで始末してくれる!」

 

 は?サーゼクス?セラフォルー?誰それ?俺は誤解だと言うことにした。

 

「おい、そのサーゼクス?とセラフォルー?って誰だよ。てかてめぇら、何俺が動いた瞬間にこっちに一斉に手を向けてんだよ」

 

 …あれ?俺、誤解だって言おうとしたんだよな?なんでこんな喧嘩売る発言してるの?

 

(プックク…多分、今まで溜めてたストレスじゃないかな)

 

 あ〜、また苦労事に巻き込まれたからいよいよキレちまったのか?けど威嚇攻撃される必要あった?

 

(そりゃ、あの三種族が倒せなかったドラゴンを片手アッパーで気絶させたんだから得体の知らない奴とでも思われて目を向けられてもおかしくないさ)

 

 なるほど、納得した「始末する!」危ねえ!?悪魔からの攻撃を咄嗟に回避する。

 

「大人しくやられ…」

 

「る訳ねぇだろぉぉぉぉ!!」

 

 ズドン!ドゴォォン!

 

「カハッ!?」

 

 もう一度攻撃してくるから、それを紙一重で避けてソイツのドテっぱらにパンチを食らわす。その反動で後ろに飛んでいき近くの岩に体全体がめり込んだ。あ、いけね!ついさっきのドラゴンと同じ勢いで殴っちまった!

でも正当防衛だ、うん…。

 

「あ、あのめり込んだアイツ、一応上級悪魔だよな?ここんところ負け無しだったのに」

 

「あの人、一体何者なんだ…?」

 

 あ〜あ、せっかく穏便に事を進めるつもりが手を出しちまったせいで、こりゃもうひと悶着あるか?

 互いに俺と悪魔、天使、そして堕天使がこちらを見てる…と、あの白いドラゴンが凄い勢いでこちらに向かって飛んでくる。

 

『我らの闘いに虫如きが介入するなぁぁ!!』

 

 ……へぇ、虫が俺が。じゃあお前はなんだろな?白いドラゴンからの空中尾払いを避けると同時に『尻尾を掴んで駆け登る』。

 

『き、貴様!我が体を登ってくるなど!』

 

 こんなの苦でもないぜ!ドラゴン討伐の経験を活かすのに最適!そして何より…!

 

「てめぇを殴れることになぁ!」

 

 ドゴォォ!

 

『ガアッ!?』

 

 手に魔力を集め、白いドラゴンの額を殴る。ドラゴンは大きな衝撃に耐えられずに地に落ちた。いやぁ、英霊の体って便利だな。

 

(そうだろうそうだろう。僕に感謝してくれ!) 

 

 今までの苦労を考えると当然だな。

 

「赤龍帝を倒したときたら次に白龍皇を落とすとは…」

 

「我らの攻撃でもほぼ無傷だったのをただの打撃でああも容易く…」

 

 さらに奇怪な視線が向けられてきた。あまり好きじゃないんだよな、こういうの。

 

「さて、と。で?オタクらもさっきの奴みたくめり込んでみるか?」

 

『!!』

 

 少々威圧をこめて言うと三勢力たちは後退った。ありゃりゃ、少しやりずきたか?

 そう思っていると勢力たちの中から四人の男女が前に出てくる。赤、いや紅髪の男に黒髪の女。金髪の男に、金と茶が混じった髪をしている男だ。全員の表情は驚愕で染まっていた。いや、おっさんのあの目は面白そうな物を見つけた時の目だな。あのクズもそうだった…。

 

「き、君は一体、何者なんだい?あの二天龍を簡単に打ち負かすなんて…」

 

「私もビックリだよ!いきなり現れたと思ったら、ドライグ君を気絶させちゃうんだから!」

 

「そしてあの打撃の威力。普通の力では発揮できるものではありませんね」

 

「だからこそ、お前さんを簡単に見逃す訳にもいかねえからな。つか大人しく捕まってくれ!」

 

 なんとも散々言われようだな。まるで猛獣を追い詰めたハンターたちみたいだ。さて、どうしようか……その時だった。

 

 オォォォォォォォォォォォォ!!!!

 

「「「「!」」」」

 

 突如として何処からか人魂みたいなものが次々と現れて段々と人の形になっていく。そして、『ソレ』は現れた。

 

『コロスコロスコロスゥゥ!!』

 

『ワレラノウラミ、イマコソトキハナツトキ!』

 

 人の骸の姿をした霊、怨霊が巨大な姿で佇んでいた。しかも二体。三勢力はいきなり現れたのに驚いていたが態勢を立て直し、怨霊に魔弾を打つもほとんど効果なしでやられていく。

 

「くっ、二天龍の戦いで皆消耗している。このままでは…!」

 

 どうやら、さっきのドラゴンたちとの戦いで既に体力は消耗、万事休すってとこか。別にこれは三勢力の問題なんだから無関係。………の筈なんだけど、な。

 

(どうする気だい?君は面倒事は嫌いなんだろう?)

 

 ああ、嫌いだ。俺が必死に止めたって聞かない奴がいたし、もうやってられないと思っていたのに。でも体が勝手に動いちまうんだよ。まるで、俺がしたいかのように動くんだよ。

 

 だから、戦(や)る!

 

 

「宝具展開!我が腕は矛、我が体は鎧。そして心は我が王の為に!『我が国よ!栄光あれ!(グローリー・オブ・キングダム)』!」

 

 





オリ宝具のタグ、追加した方が良いですかね?


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苦労人と、我が王と

 

 宝具の真名を言い放った瞬間に俺の体中に様々の武具が装着されていく。紫の鎧に赤白と銀の篭手、黒と白の足具。そして、青色のマントがはためく。これは、我が王、そして側近であった円卓の騎士たちの武具を俺の体に合わせアレンジしたもの。

 俺のすぐ側の空中には様々な剣と弓が浮かんでいる。俺はその中からここにはいない『我が王』の剣を掴み取った。

 

アーサー王、否アルトリアの得物だった剣。

 

 聖剣カリバーン

 

 だが、これはただの俺の創造物でしかない。だがその輝きは本物にも負けないくらいのものだ。かつて、彼女が国の為に放ったあの星の息吹を…。

 俺は怨霊たちに話しかけた。

 

「お前たちの恨みがわかるとは言わない。だが、かつてお前たちにも守り抜きたいものがあったというのは同情できる。俺もかつてはある国の騎士だった。王であった彼女をずっと支えていきたかった。たとえ誰からも理解されなくても、俺は彼女を理解したかった。しかし、もう今となってはもう叶わない夢だ。だから、せめてもの弔いとして……お前たちを天へと還す!おぉぉぉぉ!!」

 

 カリバーンを握りしめて駆け出す。途中怨霊から霊弾を放たれるが、回避できる弾は避けて、無理だったら斬り払う。俺は未だに驚愕の顔をして立っている三勢力のリーダー全員に言った。

 

「何ボケッとしている!お前らもここで全滅したいか?嫌なら遠くに下がってな!」

 

「し、しかしこれは私たちの問題だ。我らも加勢して戦う方が…」

 

「さっきのを見てまだ戦うならそれも良し。だが俺から見れば、お前たちはただの足手まといだ。大人しく下がっていることを勧めるぞ」

 

 そう言うと、紅髪の男は俯き、そして顔を再び上げた。その顔は決意した男の顔だった。

 

「…、わかった。ならば名も知れぬ騎士よ、せめて名を聞かせて欲しい」

 

「…俺に名はない。仮名はシーカーと名乗っている」

 

「ではシーカー殿。すまないが頼ませてもらう」

 

 紅髪の男は全ての勢力と一緒にだいぶ離れた場所に向かっていった。

 

 さて、俺も見たけど中途半端な攻撃は通用しないようだな。『我が王国よ!栄光あれ!(グローリー・オブ・キングダム)』は対人宝具ではない。あくまで俺が自ら戦う時に使う、いわば武具を装着する台詞みたいなものだ。ならどうするか?……なら、『借りる』しかない。俺はカリバーンに意識を集中させる。

 

 

 アルトリアよ…我が王よ…そして、かつて想いし女性よ。貴女の剣、今一度だけお借りします…。

 

 俺は宝具の真名を開放する。

 

 

「疑似宝具展開…」

 

 

―束ねるは星の息吹『束ねるは星の息吹』

 

―輝ける命の奔流『輝ける命の奔流』

 

 

「ッ!受けるが良い!『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』!」

 

 俺はカリバーンを高く掲げ、思いきり縦に斬り払った。

 

 ズバァァァァァァ!!!

 

 

『『アァァァァァァ!!!??』』

 

 カリバーンから放たれた巨大な金色の奔流が怨霊たちを呑み込んでいき、最後には天高く光の柱が立ち昇った。その光景に誰も彼もが目を向けた。

 

 俺は光の柱を見て、今は亡き過去を脳裏に思い出す…。

 

 俺はアルトリアと共にカムランの地へと赴き、叛逆の騎士となったモードレッド卿から最後まで彼女を守り続けた。だが、俺もまた人だ。いずれ限界がくる。俺は卿からの一撃で倒れ、意識が薄れながらもアルトリアを見ていた。その時の彼女の顔は……悲しげだった。

 

 

 ああ、俺はとうとう彼女を守れなかった。それがとても悲しかった。薄れる意識の中でそう思った……。

 

 

 

 

 

 光の柱が消えると、辺りは更地になっていた。あれだけの魔力だ、何か残っている方がおかしい。さてと昔に浸るのは終わりだ。アイツに意識を繋げる。

 

 おい、マーリン。満足したろ?早く戻してくれ。

 

(そうだね。中々のものも見れたし、一応満足したよ)

 

 そうか、なら早く戻して……。

 

(けどね?(ニッコリ))

 

 ……?

 

(次はそこから、時が経った場所に行って貰いたいんだ。いい?いいよね?よし行こうか!)

 

 勝手に話を進ませるマーリン(クズ)。

 

 ……ちくしょぉぉぉぉぉ!!!やっぱり受けるんじゃなかったぁぁぁぁ!!

 

 そうこうしている内に、俺はまた突如開いた穴へと落ちていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???Side

 

 

 辺り一面、金色の野原の中に私は立っていた。あの剣を抜いてから少しも老いることなく、成長が止まった少女の姿だ。

 私はあの丘で自分の騎士に反旗を翻され、追い詰められそして死に、薄れゆく意識の中で私の為に死んでいった兵士たち。そして、死んでしまった愛しき男の亡骸を見た。

 

 私は、とても悲しかった。泣きたかった。何故兵士たちが、彼が死ななければならない?私が王ではなかったら彼も死んでなかったのでは?自らが死んでも、自問自答を繰り返し、答えを探した。

 

 その時に、アイツが来た。

 

 

―やあ、久しぶりだね。

 

 

―無視は酷いんだけど…。

 

……。

 

―まあ、いいけど。それよりも君にとって良い報告だ。

 

……?

 

―君の騎士が、君が愛した男は生きているよ。

 

……!!

 

…あの人が生きている?

 

―ああ、それを言いに来たんだ。

 

……。

 

―君はどうする?彼に会いたいかい?

 

……私…は…。

 

―このまま死んでもいいけど、もしかしたら彼にもう一度会えると思うんだが…。どうする?

 

……たい。

 

―なんだい?

 

―会い…たい…。彼に、会いたい。

 

―わかった。では、行こうか。

 

……ああ。

 

 

 そして私は、花の魔術士の手をとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真名、アルトリア・ペンドラゴン。

 

 この名に誓い、我が愛しき者よ、もうすぐそちらへと参ります……。

 

 

 

 





三大勢力リーダーたち『あの人何処行った?』

 結局、彼はパシリなのだ。


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騎士王ですか?いえ、苦労人の○○です!

 

 ヒュウゥぅぅぅ!すたっ!

 

 またあのクズに理不尽に飛ばされた先は、何やら木々が生い茂った森の中だった。……しかし、変だ。マーリンは一応魔術に関してはほぼ完璧だ、面白がって陣を書き換えた時は別だが。

 

「フォウフォウ〜(だってアイツだし〜)」

 

「あ、フォウのこと忘れてた」

 

「フォウ!?(ひどい!?)」

 

 拗ねたのか両前足で俺の頬をペシペシしてきた。ご、ごめんて…。フォウに叩かれながらも考える。

 さて、またまたどうしたもんかな…。行方考えなしで歩こうとした――

 

 その瞬間、こちらに急速接近してくる気配に気づいた。気配は一つ。だがこれは普通の生物が動く速さではない。まるで、『風を纏っているみたいだ』

 手に魔力を集中させ、相手が来るのを大人しく待つ。

 

 そして、相手の姿が見えた。―その姿に俺は驚愕した。

 

「なっ……!」

 

 気配の正体は十代後半ぐらいの人間だった。金髪の髪を後ろに結び、碧の双眼をもつ。青の服装に銀の甲冑を纏い、手には一振りの剣が握られている。そしてその剣は俺が見間違える筈がない。かつてあの少女、我が王が握っていた筈の『聖剣カリバーン』だ。

 

 と、いうことは……!!

 しかし、驚愕している俺に金髪の人は唐突に剣を向けて、こちらを攻めてきた。

 

「ちょっ…!」

 

 その人は止めようとしている俺を無視して斬りかかってくる。しかも速い。くそっ!これじゃ宝具が展開出来ねぇ!

 

「…なるほど、足は現役のようですね。では腕の方はどうですか!」

 

 カリバーンを切り上げ、切り下げ、一閃と様々な方向から振るってくる。こちらも手に纏っている魔力で皮膚を硬化して受け止める。が、かすり傷が出来て血が一筋流れる。ちっ、やはりオリジナルだと切れ味も違うのかよ…!

 

「…変わっていませんね。あなたはやはり変わり者、いえ無謀者です。騎士だというのに素手で剣を受け止めるなんて、正気の沙汰じゃありません」

 

「そうそう変わりませんよ。元々、剣士としての素質はなかったですし。それにどちらかといえば素手でやる方が得意なんで。…それでは貴女に答えて貰います」

 

 俺はひと呼吸して、その人に…彼女に問う。

 

 

「貴女は我が王、アーサー陛下なのですか…?」

 

 彼は、否彼女は少し間を空けて、首を横に振り口を開く。

 

「ブリテン島の王、アーサー・ペンドラゴンはカムランの丘にて叛逆したモードレッド卿によって、死にました。今、ここにいる私はかつてのあなたの王ではありません。……では改めて自己紹介させてもらいます。」

 

「私は、アルトリア・ペンドラゴン。英霊の座にクラス、『一応』セイバーとしてあなたがいる場に参上しました。あなたにまた会えたことを不本意ながらも、マーリンに感謝してます」

 

 あのクズ野郎…態々アルトリアをこちらに召喚したのか!

 

 ほら、彼女がいれば君もやる気出すでしょ?(キラッ!)

 

 的なニッコリ顔で内心、俺の驚愕顔に大爆笑しているに違いねぇ…。戻ったら覚えてろよ!あの野郎!

 と、とりあえず話を戻すか。というか一応って、どういう事だ?

 

 

「陛下、一応とはどういうことでしょうか?英霊の座に君臨したということはクラスもセイバーとして完全に定まっているのでは?」

 

「ええ、マーリンからもそう聞きました。しかし今回は例外となります」

 

「例外、と申しますと?」

 

「本来、英霊は下僕(サーヴァント)は主人(マスター)が施した召喚から呼ばれます。しかし今回は例外中の例外。マスターは不在、さらにはサーヴァント単騎で動き回れるという事態。普通ならそのようなことはできません」

 

「つまり俺、ではなく私と同じ状態だと…?」

 

「あなたのクラスはあくまで仮の座。まだ定まってはいないので『探索者(シーカー)』、探し求める者という意味で現界したのでしょうね。あと、敬語は不要ですよ。普通にタメ口で結構です。あ、私がアーサー王だとバレたらマズいのでセイバーとお呼びください。…ところでシーカー?」

 

「な、なんでござ…。コホン、なんだセイバー…?」

 

 厳しめの口調のアルトリアに少し冷や汗が背を流れた。俺、前世で何かしたか…?

 

 

 

 

「私以外に女は作っていませんか?」

 

「ブフォア!?」

 

 ツッコミどころ満載の質問に思わず吹いてしまった。いや作ってないぞ!?というよりまるで自分が俺の恋人みたいな言い方はマズい!?特に上司の円卓の騎士たちに聞かれたら…!

 

「作ってないぞ!?というかそれじゃまるで「私はあなたの恋人です」みたいな誤解される発言になるぞ!」

 

「何を言うんですか。私はもう王ではありません。一人の恋する女、アルトリア、コホン…セイバーです。さあ、早速接吻を、シーカー!」

 

「いきなり何を言い出すんだ!?」

 

 なんか付き合う段階をすっ飛ばして一気に接吻と、かブリテンでは女付き合いのなかった俺にはハードルが高過ぎる!とりあえず彼女を落ち着かせないと…。

 

「落ち着くんだ、セイバー。まだ付き合ってもいない男女がいきなり接吻はマズい。まずは…」

 

「!そうでした。あなたにまた会えたので少し高揚していたようです」

 

「そ、そうか。わかってもらえて何より―」

 

「ランスロットやギネヴィアみたいに体の関係を…」

 

「ちっがぁぁぁぁう!誰からそんな知識をもらったんだ!?」

 

「マーリンです」

 

 あの女遊び人めぇぇぇぇ!やはりお前かぁぁぁ!あとあのロクデナシ上司!やはりあの人の部下になったのは間違いだったかもしれない。

 …いかん、色々起こりすぎて頭がパンク寸前だ。少し俺も落ち着かないと…!

 

「そ、その話は今度にして…。ここが何処なのかアルトリアは知っているのか?」

 

「スルーしましたね。まぁ、いいでしょう。マーリンの話では、ここはニホンという国のクオウチョウという町の林の中です」

 

 ニホンか、なんか懐かしい感じがするなぁ。

 

「とりあえず林から出るか…」

 

「そうですね。あ、これを忘れてました」

 

 セイバーから手渡されたのは白いフード付きのコートだった。おい、またかマーリン…。

 

「マーリンからはそれを着て歩けとのことです。私は自分のコートがあるので。では行きましょうか」

 

 俺とセイバーはコートを羽織って、林の中を出ていくのだった…。

 



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俺(苦労人)!参上!

 

 セイバーと林で再会して共に行動すること約数分。しばらく獣道が続くかと思っていたら…また厄介事に巻き込まれた。というのも―

 

「ほう…こんなところに人間が迷い込んでくるとは、なんとも不幸なことだ」

 

「たかだか只の人間二人。我らにはどうということも無い」

 

「アハハ!身の程を弁えろッスよね〜」

 

 なーんか上から目線の三人からボロクソ言われてる状況。はっきり言って俺はイライラしていた。しかも三人の背から黒い翼。……堕天使か。

 

「じゃあ何か?アンタら三人はただの人間二人を態々消すために来たと?」

 

「ここは我らの拠点。たかが人間でも生かして帰す訳にはいかないのでな」

 

 堕天使の男が光っている槍をこちらに向ける。

 

「へぇ、魔力から創られた光槍か。どれ、俺に向けて放ちなよ。たかが堕天使さんたち」

 

「ッ!その減らず口をさっさと消してやる!」

 

「我らを侮辱したことを!」

 

「後悔すればいいッス!」

 

 他の堕天使女二人も男同様に空中へと飛んで、こちらに光槍を放った。どれ、俺も迎え撃とうか。

 

「一に首、二に腕、三に体に四に足、そして…」

 

 飛んできた光槍を……砕く。

 

 パキン!

 

「「「なっ!?」」」

 

 驚愕して隙を見せている三人に衝撃波を放つ。

 

「五に心を。我流体術『五撃必殺(せいめいくだき)』」

 

 ビュオォォォォ!!

 

「「「なっ―」」」

 

 断末魔が聞こえたか否か直後に、そこには三人の姿は無い。この技は衝撃で塵をも残さない、いわば音速の拳。かけら残すことはない。

 にしてもただの人間、か…マーリンが幻術で俺とセイバーの魔力を隠蔽しているのか?だが確かにこれなら相手から感知されずに行動できる。

 そろそろ行動を再開しようとセイバーに視線を向けると

 

「むぅ〜」

 

 何故か頬を膨らませて拗ねていた。いやなんでさ!?

 

「シーカーが勝手に倒してしまったので私の見せ所がありませんでした」

 

「いや、俺もイライラしてたから八つ当たりしただけだし…。わかったって、次はお前に譲るよ」

 

「…わかりました。次こそ私がやります」

 

 どうやら妥協したようで、改めて行動を開始する。また約数分歩いていたら、何やら古びた教会が建っていた。

 他に気になることを言えば、ここにやけに魔力を持った気配が十数体いるということだ。横目でセイバーを見ると彼女も気配を感じ取ったようだ。

 

「セイバー、この古びた教会に魔力を持った気配が十数体いる。これはどう見ても…」

 

「ええ、恐らくは下位の魔術師の者でしょう。マーリンからはここは戦のない国と聞いています。なのに、この数は尋常ではありません。それに何か人外じみた存在がいますね、人の地だというのに。そしてなにより……貴様との夜行デートを邪魔した罰を下す!」

 

「……おい、意味や姿、目的が変わってねえか、セイバー?あと探索な、デートは恋人になってからだ」

 

 そう俺が言ってもどうやら耳に入ってないらしい。手がふるふると震えだしたセイバーの容姿が少し変わっていた。うわっ、碧眼が金になって鎧も青と銀から赤のラインが浮かんで禍々しくなってる…!げ、カリバーンも黒くなってし、なによりこの爆発的な魔力は……もしかして、これがマーリンが言っていた『反転(オルタ化)』なのか…!

 

 つか、反転条件軽くないか!?ほら、『○○のことか。○○のことかぁぁぁぁぁ!!』みたいな怒りで覚醒とかあるでしょ!……いや、考えたらブリテンにそんな期待しても無駄か。

 

「安心しろ、奴らを葬ったら戯れの続きをしようではないか」

 

「その状態だと戯れというより完全にイジメられるイメージだろ…」

 

 コートを雑に脱ぎ捨て、すごすごと教会の中に入っていくセイバー。俺も彼女のコートを拾って慎重に中に入っていった。中はあちこちボロボロだが多少工夫すれば使えない訳でも無さそうだ。

 

 

「へー、中は案外使えるな。しばらくここで寝泊まりするか」

 

「ムッ、私はベッドで寝たい―「なら野宿だな」仕方ないな。ここで寝泊まりだ」

 

 現金な奴め。まぁ仕方ない『ドォン!』…そうだったな。まず、気配の正体を見てこないと…ここが壊されちまう。気配が一番多く感じれるのは、下か。

 

「セイバー、何処かに下に降りられるものは無いか?多分近くにある筈だ」

 

「ほう、なら丁度いい。シーカー、見てみろ。階段だ。恐らくだが下で戦闘でも行っているだろう。しかも多数でな。久しぶりの多数戦闘だ。腕がなる」

 

 さっき俺と打ち合ったってのに、オルタ化って結構キツい性格してんのな。まあ、反転って言うくらいだから仕方ないか。

 

「何をしている。さっさと行くぞ」

 

「はいはい、今行きますよっと」

 

 オルタ化したセイバーに続いて俺も階段を降りていく。しかし教会に地下があるとは、なにやら血生臭い所に通じてんのか?例えば生け贄を捧げる儀式とか、悪魔の召喚とか……流石に後者は無いか。

 

 ん?この匂いは…

 

「…気がついたかシーカー。これは」

 

「ああ、戦うのを決めてから散々嗅いだよ。これは、血の匂いだな」

 

 少し降りたところに既に扉が開けられており、中ではどうやら戦闘が続いていた…しかし気になるのは。

 

「ハァ!」

 

「…えい」

 

「どおりゃ!」

 

 …まだ未成年三人相手がローブを着てる怪しい大人十数人を相手してるんですかねぇ?正直言っておこう―

 

「テメェら、大人気ねぇぞオラァ!」

 

 ビュオォォォォ! 

 

 魔力を手に集束させて、未成年の少年少女に当たらないよう他の大人たちを吹っ飛ばす。セイバーも無言で俺に続いて近くにいるローブ大人をカリバーンで斬り伏せる。

 

「「「…」」」

 

 少年少女らは突如現れた俺たちに口を半開きに驚愕していた。あ、三人のこと、うっかり忘れてた。アハハハハ…。

 

 

 さぁ、かかってこいや!(開き直り)

 

 



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黒(オルタ)VS黒(オルタ)

短いです。ごめんなさいm(_ _;)m


「よっと!」

 

「ぐはっ!」

 

「フッ!」

 

「ガハッ!?」

 

 下位魔術師たちをちぎっては…じゃなかった、俺は殴っては蹴り、セイバーは斬っては薙ぎ払いを繰り返して数を次々と減らしていき最後の一人を片付けた。弱いけど数だけはいっちょ前に多いよな…。

 

「魔術師だと聞いたが数が多いだけで点で相手にならんな。やはりドラゴンに匹敵するレベルの相手でないと魔力も全く以て発揮できん」

 

「いや、たかが下位魔術師相手にお前が力を出す理由になるのか?」

 

「阿呆か。そのような価値などさらさら無いな」

 

 うわぁ、剣ならぬカリバーンの如くスパッと思いっきり言い切りやがったぞ。オルタ化ってキツい性格してるけど、キッパリと正論を出すよな。…いや、ただ期待外れってだけか。

 

 改めて視線を部屋の奥へ向けると十字架のオブジェに鎖で縛り上げられている白いワンピースを着た金髪の少女とさっき消し飛ばした堕天使の仲間らしい女がいた。鎖……うっ、思い出したくない記憶がっ!あれはそう、ランスロット卿…もうロクデナシ上司が原因の話で、そのロクデナシについて相談してきたのが、ロクデナシの息子と言っていい片目隠した騎士、ギャラハッドが危ない瞳で俺を見てきて―

 いや、今はトラウマを思い出すんじゃなくてな!?…コホン、まず今することは。

 

「その鎖を…砕く!」

 

 金髪少女に当たらないよう拳に魔力を溜めて小さな衝撃波を放つ。そして衝撃波が鎖に――

 

 

 

 

「簡単に助けられる筈ないでしょう、ね?」

 

 バチィッ!!

 

「…あん♡」

 

 黒い衣装を着た女性が間に入って衝撃波を食らった。

 

 

 …へ?

 

(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??)

 

 いやいや!何マトモに当たってんだ!?そこは「フッ、お前の攻撃はこんなものか?」みたいなことになるとこなんだけど!?あと最後の声は何だ!?

 

「はあ…はあ…ふふ、やはりアンタの攻撃は私にとっては最高のお仕置き(ごほうび)だわ!」

 

 へ、変態だぁぁぁ!!この人、小さいとはいえ衝撃波食らったのに顔を高揚した表情してるぅぅ!?

 俺が内心で叫んでいるとセイバー…セイバーオルタが俺の前に進み出た。その表情は嫌なものを見たものだった。え、もしかして知り合いなのか?

 

「何故、貴様がいる!突撃女!」

 

「あら?アンタもいたのね冷酷女。勿論、彼を追いかけて来たに決まっているじゃないの。私の彼(ご主人様)に、ね」

 

(え、俺?)

 

 黒いバトルドレスの女性の視線が俺に向けられる。セイバーオルタの視線もこちらに向いた。

 

 …あの、セイバーさん?その殺気を籠もらせた視線を向けないでもらえません?少しちびりそうなんですけど…。こちらを睨んでいたセイバーの視線が女性に戻る。

 

「…コイツは私のものだ。断じて貴様のものではない。とっとと消え失せろ」

 

「それはこっちの台詞よ。なんならここで聖杯戦争の真似事でもする?」

 

「アンタたち!黙りなさ―」

 

「「うるさいっ!!」」

 

 セイバーオルタと女性から発された威圧によって堕天使女が気絶した。憐れなり、堕天使…。

 

「余計な邪魔が入ったわね…それじゃあ改めて、始めましょう」

 

「良かろう…その首、斬首する!」

 

「怨念の炎に焼かれて無様に死になさい!」

 

 ガキィン!!!

 

 セイバーの魔剣カリバーンと女性の旗?が鍔迫り合いを起こし、大きな衝撃を周囲に生み出し天井や壁に皹が入り始めた。マズい!このままじゃ少女が危ねえ!足に魔力を込めて、床を蹴って少女の前に立つ。

 

「そのまま動くなよ!」

 

「!は、はい!」

 

 少女を繋いでいる鎖を急いで砕いて、助け下ろした。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「礼はあとだ。すまねぇが手荒なことをさせてもらうぞ」

 

「え、一体何を…!」

 

 少女の脇と両膝裏を抱き、いわゆるお姫様抱っこの状態になる。ぐっ、今からやることに罪悪感がハンパねえ!

 

「今謝っておく…あとはあそこにいる茶髪少年たちに助けてもらえ…っ!」

 

 俺は少女を少年たちに向けて―

 

「でりゃァァァ!!」

 

 手加減して、投げた。

 

 

 

「ふえぇぇぇぇぇっ?!」

 

「!アーシアっ!」

 

 投げられた少女…アーシアさんを茶髪少年が見事にお姫様抱っこで見事にキャッチした。ナイスキャッチだ、少年!俺は少年たちに向けて言う。

 

「お前たちは避難しろ!ここはもうすぐ崩れるぞ!」

 

「で、でもアンタは…!」

 

「俺は二人を止めなきゃいけねぇ!早く行け!」

 

「っ…すまねぇ…」

 

 少年たちは急いで階段を登っていった。……さて、問題は…。

 

「ハッ!」

 

ガキン!

 

「フンッ!」

 

ガキン!

 

 

 崩れていく地下の中で闘い真っ最中の女性二人。くそっこれだから…。

 

 

 

     女は嫌(にがて)なんだよ。

 

 

 

「うっ…」

 

 

 あ、堕天使女、忘れた…。

 

 

 

 

 



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