怪獣娘~ウルトラ戦士徴兵指令~短文エッダ篇 (白き翼のヘルパー)
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第1歌 芸術ハ理解サレズ

先に『怪獣娘~ウルトラ戦士徴兵指令~』より「マグマ星人 3月17日の虐殺」を読んでくださることを推奨します。


マイティベース。

アナザースペースは惑星エスメラルダの近くを公転する、ウルティメイトフォースゼロの宇宙基地。

今、引っ越し業者の巨人たちが『ありがとうございましたー』『明日またお伺いしまーす』と基地を出て母艦と共に飛び去った後。

屋内では、眼鏡をかけた小人は「引っ越しのお手伝いありがとうございます」と頭を下げた。

体長50メートルもあろうかという、5体の巨人に。

『なーに、いいってコトよ』と、燃える炎の髪の巨人。

『マコの負担が半分どころか、1/4まで軽減してくれた。 君には感謝している』と、星型の鉄人。

『今後はお前の責任が重大だがな、ゼロ』隣の巨人の肩を叩く、鳥型の鉄人。

『ヘッ、光速船に乗ったつもりでいな』ゼロと呼ばれた、赤青ツートーンカラーの巨人。

小人の名は白銀レイカ。祖先の夫から機械生命体ウインダムのモンスアーマーを継承した怪獣娘。

ダークスルト大戦の終結を境に、マイティベースは急激に騒がしくなった。怪獣娘は彼女だけではない。天井を見上げよ、同じくUFZ配属となったカイザードビシの怪獣娘たちがせわしなく飛び交う。

『あとは僕たちに任せてください』と、緑の巨人。『湖上さんが声を聞きたがっているでしょう』

ウインダムはもう一度「何から何までありがとうございます」と頭を下げた後、上の階へのエレベーターを上がった。

着いた部屋は、大きな操作盤と多数のモニターが配列された部屋。

サイバー監視室だ。

なぜウインダムがUFZに転属になったかは、本編は『マグマ星人 3月17日の虐殺』を見よう。エメラナ姫警護の任を全うしたキリエロイドが、そのツテでUFZにウインダムを紹介したのだ。

マルチバースをも飛び越える通信を飛ばし、M78星雲へと繋げる。

画面に、ピンクの髪の美女が映し出される。

「こんにちは、エレキングさん。 あ、そっちはおはようございますでしょうか」

『お陰様で清々しい朝よ。 光の国に昼夜の概念はないけど』

画面越しに話す女神の名は湖上ラン。ピット星の科学力でエレキングのモンスアーマーを継承した、美しきアマゾネスの女王。

『荷物は終わった?』

「だいぶ片付きました。今ゼロさんたちが…」

『“財宝”は?』

女王の口の端がニヤリと吊り上る。

「追って運び屋に次元転送してもらうよう手配しています。 男所帯の職場で趣味がバレたら致命傷ですからね」

ウインダムも口の端を吊り上げる。

「ところで」話は変わりますが、とウインダム。「八橋さん、原稿はまだできないんですか?」



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第2歌 宇宙一幸せな少女

先に『怪獣娘~ウルトラ戦士徴兵指令~』より「ガッツ星人 幸せの青い鳥」を読んでくださることを推奨します。


ノートPCを前に突っ伏す、哀れな男が一匹。

「長文でカモフラージュしたけどダメだったか…」

溜息をつくの両脇を囲うは2人の、幼き絶世の美女。

長く綺麗な構造色の髪がダイヤのように煌めく美の天使が、「ドンマーイ♥︎」と励ます。

一方、構造色こそ輝かぬもののそれでもお釣りが出るほど美髪な天使は「あんな露骨な文体じゃバレるわよ、バカじゃないの?」と飽きれ気味。「なんで『あんなシーン』を描写したのよ?」

「それが…」

重い頭を持ち上げた男の名は八橋八雲。才能を妬まれ不当解雇された劇作家で、現在はウルトラマンアーメンに変身して印南ミコを守っている。

印南ミコとは、構造色の髪の少女の名だ。齢14歳ながら宝石のような美貌と現実離れした女体美が輝く絶世の美女。Lカップの丸い乳房は、祖先たる北欧神話の豊穣神イズンから受け継いだガッツ星人のモンスアーマーをも風船のように丸く膨張させ、双の山頂をぷっ

「ストーップ!」八橋の脳天にチョップを叩いたもうひとりの天使が、印南マコ。「そんな文章書いてるから『こんなこと』になったんじゃないの」

さすがミコの双子の妹だけあって瓜二つ。美貌も女体美も最高級だ。

「で、あの…♥︎」

ミコが瑞々しく実った最高級の女体美をもじもじさせる。「その… そのリスクを覚悟してまで… あの… 『そういうシーン』を描写したかった理由って?」

「最初はギリギリか、『事実』があったとしても朝チュンではぐらかすつもりだったんだ」話が長くなるけど、と八橋は付け足す。「でも、そういうわけにはいかないヒロインが一人だけいた。 他でもない、俺の大好きなミコちゃんだよ」

「え…♥︎」ミコはリンゴのように紅潮した頬に両手をあてる。

婚約者の目の前で、八橋は続ける。「ミコちゃんにとって『それ』は、はじめてを失うっていう人生の一大イベントだったからさ。 女の子が一番幸せになる瞬間を」

「ストーップ!」またしてもマコのチョップが炸裂する。「既にツーアウトくらってるんだからね! 次は今度こそBANされるわよ!」

「ごめん…」素直に折れた八橋は、またしても突っ伏した。この男、またやりかねんぞ。

言うまでもなく、ミコは綺麗な髪先までプシューと熱暴走していた。「私の…ため…♥︎」

「で? 以来ズルズルを毎回ノルマってたワケ?」一方、八橋を睨むマコは無表情。

「開き直ればいいさ」ミコを抱き寄せる八橋。「ぁ…♥︎」天使の目がハートになる。「今後は、ミコちゃんが最も美しく映える絵を、気兼ねなくオーディン様に描いていただけるからね」「やぁん♥︎♥︎♥︎ ダーリンのえっち♥︎♥︎」

このバカップルが。

「はぁ」マコは深く溜息をついた。「ミコもなんでこんな男が好きになったのかしら」



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第3歌 誰を守るために

先に『怪獣娘~ウルトラ戦士徴兵指令~』より「エレキング もっと大切な人」を読んでくださることを推奨します。


「明日いよいよ夢魔のファーストライブかぁ」

店が定休日で幸運だった、と父親ながら思いながら、店長は自室の戸を閉める。

娘は今夜眠れるだろうか?緊張していないだろうか?上階の寝室にいるであろう愛娘を想う。

「一番眠れねえのは俺だわ」

いくら明日が休みとはいえ、こうも目が冴えては手持無沙汰だ。

「漫画でも読もっと」

暇つぶしにPCを立ち上げ、電子書籍を開いた。

冷やしたてのレモンサワーが、プシュッ、と小気味良い歌声を奏でる。

電子書籍の購入履歴には、『老害地獄』『老人抹殺担当大臣』『地球最後の老人』『老即斬』という漫画のタイトルが。

シャドウ事件以前から、これら4冊の嫌老漫画はあった。それだけ世間は老人への憎しみを募らせていた証拠だ。

老人が具体的にどんな実害をもたらしているかを語り、老人による凶悪殺人で志半ば倒れた少年の短命を悲劇的に描いた老害地獄。

増えすぎた老人に人生を奪われた人類を救うため、老人の首に懸賞金をかけた老人抹殺担当大臣。

老人が狩られ尽くし、残った老人が聖騎士団からの追手を逃れる地球最後の老人。

老人討伐ギルドの新米勇者が、老人を殺すことを躊躇う老即斬。

老人は敬う価値が無い、という雰囲気作りを浸透させるために漫画は有効だ。根気よく嫌老漫画を読ませ続ければ、読者たちも老人の古い価値観に疑問が芽生える。シルバーデモクラシーに抗う嫌老感情を広範に共有できる。いずれそれが民意になる。怒りの矛先を老人に集中することで、もっと美しい誰かが差別を免れる。たかが漫画などと侮ってはいけない力だ。こうして嫌老漫画を前面にプッシュする商法は有意義な試みであり、先陣を切った漫画家たちには敬意を表したい。彼らは英雄だ。

何かが物足りなかったことを除いては。

「従来のは95点ってトコロかねえ」

電子書籍を読みながら、店長はレモンサワーを呷る。

従来の嫌老漫画は、ただ老人憎しで殺しているだけに見えた。老人を減らしてまで誰を守りたいのかが不鮮明だ。未来人側の日常の笑顔にはあまり焦点が当たらず、誰を守るために戦っているのかが見えにくいのだ。中には己がなぜ老人を憎んでいるのかもわからず、このまま老人を殺し続けるのが正しいのかと逆に疑問を呈する展開すら少なくない。未来人が救われるハッピーエンドのほうが少ないのだ。

読者が求めるものは違う。

誰も最初から老人が憎いわけではない。人間界にはアイドルがいて、声優がいて、巨乳レイヤーがいて。こんな闇の時代でも、みんな光を求めて懸命に生きてる。守りたい誰かを守るには、老人の存在が障壁になるのが実態だ。

老人を抹殺することがゴールではない。それによって誰が犠牲を免れたかが読後感を左右する。漫画は娯楽だ。読者をハッピーにしなければ意味がない。読者は、誰を守りたい?どんな漫画も、最後に読者の心を打つのは恋だ。

そんな中、唯一シャドウ事件以後に描かれた漫画があった。

『天女だから無理して地球に順応しなくてもいいんだよ』

タイトルの長さからお察しがついたろう、ラノベからのコミカライズだ。挿絵を担当したOdinという絵師の天女図が美麗であり、その表紙の美しさに惹かれてラノベ版も同時購入した。むろんコミカライズ版も同じ絵師が天女の妖艶さをエロティックに描いている。そういった出自もあってか、従来のものとはタッチが違う。美少女を看板に立てて明るく華やかなのだ。

まず、全ページを通して美少女の肌色率が高い。天女の羽衣が普段から裸に近いのはもちろんのこと、随所随所に入浴や着替え、ラッキースケベなどのセクシーシーンが溢れている。しかもナイスバディで胸も異常に大きい。あくまでラノベ出身の萌え漫画という体裁をとっており、一見すると嫌老漫画だとは分かりにくい。当然だ、あくまでメインは前者なのだから。

だが読み進めると、地球の旧態依然としたシルバーデモクラシーの弊害が宇宙人目線で描写される。高齢者ドライバーに兄を殺された男。たむろした老人会に空気を汚されたカフェ。暴走老人が続出する鉄道無法地帯。そして、老人による万引き。

髭面の犯人を追いかけようと誤って雷を落としてしまった天女を、万引きGメンの男は優しく宥める。『天女だから無理して地球に順応しなくてもいいんだよ』と。

男にとっては、老人の命よりも天女が大切なのだ。

老人が憎いんじゃない。老人にタゲをそらしてでも庇いたい少女がいるんだ。守りたい少女がいるんだ。

漫画を娯楽たらしめるもの、それは恋だったのだ。

次のページにはどんなセクシーシーンが輝くだろう。Odin先生が描いた天女の美しさに釘付けになり、夢中になって読み進めて時間を忘れた。

気がついたら、晴れやかな気分のまま読破していた。

時刻は1時を過ぎた。

「もう寝なきゃな、明日の晴れ舞台を見るために」

電子書籍を閉じ、最後にシュワ生のページを開く。

ライブチケットは倍率が高すぎて取れなかったが、俺は有料配信から見守っている。

シュワ生の待機画面には、夢魔が演じる人気Vtuber・デスフェイサーが微笑みかけた。



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