虫喰いでないフレンズ (ヘキサノイック)
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ドブネズミは虫喰いでない

1999年、M県S市杜王町。

二匹のドブネズミがいた。

彼らは人間の手により『弓と矢』に射られスタンド使いとなっていた。

杜王町を訪れていた空条承太郎は、彼と同じスタンド使いである東方仗助を連れ彼らを対象に『狩り(ハンティング)』を行った。

スタンド使いのネズミが人間にどのような影響を与えるかわからなかったからだ。

そのため、当初は捕獲が目標だった。

しかし、ネズミ達の足取りを辿ると、駆除が必要であると判断されることになった。

1匹は無事に仕留められたが、もう1匹はスタンドと同時に手に入れた高い知能を駆使して二人を翻弄する。

だが、それを上回る仗助の策によりついにもう1匹も仕留められた。

二人を苦戦させたドブネズミは承太郎により耳の形状から『虫喰い』と名付けられていた。

一方で先に仕留められた方のドブネズミは、どのような名も付けられていない。

この物語は、後者の虫喰いと呼ばれていない方のドブネズミの物語である。


【挿絵表示】




「ルームに搬入完了しました」

………………………………………

「精製サンドスター放出準備完了」

……………………………

「サンドスター放出開始まで5秒前」

……………………

「3」

……………

「2」

………

「1」

 

わたしは負けた

 

わたしは敵に負けた

 

わたしは自由だった

 

わたしはもっと自由に生きたかった

 

わたしは…わたしは…

 

「わたしは……?」

 

「アニマルガール化、成功しました」

「ついにアニマルガールを人類が…」

「いや、スタンド使いの方がまだ未解明だ」

「今回もサンドスターという存在を虫が食ったくらいの大きさの穴から覗き見ただけに過ぎん。アニマルガールの意図的な誕生は人類に利益と成り得るのかはこれから調べればよい…」

「アニマルガール・ドブネズミが目覚めました」

 

黒いヤツがわたしに撃ったものが命中し苦しんだ記憶が蘇る。

周りを見回すとわたしは威圧感のある鋼鉄とガラスの窓(なぜ知ってる?)に囲まれていることが確認できた。

狭いところは嫌いじゃないが自由がないところは嫌いだ。

再び自由を得るために壁をブチ抜いて此処から出ようとした。

 

「…しかし、なぜこれほどまでに危険な動物の死体しか残っていないのでしょうか?」

「オランウータンやボストンテリアのイヌやハヤブサがいたそうですがいずれも損傷が激しく保存が困難であったそうです。DNAを採取してあるのはこのうちボストンテリアのみで、そのほかは死体の在りかすら不明です」

「しょうがないだろ、スタンド使いの戦いは熾烈を極めるというからな。死体すら遺らないなんてのは人間対人間でもよくあるんじゃないか?」

「サンドスターに負けず劣らず謎だらけなスタンドについて調べるスピードワゴン財団が平和的に我々に協力しているのは奇跡のようなものだ。『セルリアン』の脅威に対抗できるのはアニマルガールとスタンド使いだけだから、あながち分からなくもないが。」

 

『セルリアン』?

脅威ということは『そいつ(セルリアン)』は敵なのか?

外に『そいつ』がいるのか?

尚更外に出たくなった。

『そいつ』を排除してわたしは自由を得る。

それが当面の目的だ。

まずは出口を作る!

 

『ラット』!

 

「おい!アニマルガールがスタンドを出してるぞ!壁を攻撃するつもりか?」

 

「なんだと!?そいつの攻撃には絶対に近づくな!触れただけでもヤバい!」

 

ガラス窓の向こうの奴らがなにやら騒いでるがわたしには関係ない。

ラットで弾を円く壁に撃ち込み穴を開けた。

壁は厚かったがわたしにはなんてことはない。

ラットに溶かせない物はないのだ。

壁の向こうは左右に渡る通路らしきところであったが本能の赴くまま反対側の壁も溶かし出口を作った。

実は通路のどちらに行っても奥へ奥へと進み出られなかったのだが、自由を求めるドブネズミには関係なかった。

壁という壁を溶かしつつも追っ手を撒くために関係のない壁も溶かして廻り、元から迷路のような研究所を迷宮へと作り替えた。

やがて建物外と隔てる壁を溶かし外に脱出した。

 

「ここで奴らを撒くための策を行使するとするか」

 

『ラット』!

 

ここでドブネズミはラットの砲身を起こす力だけで飛び上がり壁を超えてまんまと脱出した。

ドブネズミはさらに距離を稼ぐため走りだした。

物陰から自らを観察する者がいるとも知らずに…

 

to be continued…



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アフリカゾウに会う

前回までの虫喰いでないフレンズ

スタンド使いだったドブネズミの遺体にサンドスターを人工的に浴びせてフレンズが生まれた!
そのフレンズは生まれてすぐ施設を脱走し外の世界を見ることになるのだった…




 

ドブネズミは飢えていた。

ドブネズミの食料になるのは主に動物のタンパク質で、人間の生活圏内で暮らしていれば困ることはなかった。

だが、疲れるくらい走っても林が続くばかり。

ドブネズミは食料の匂いを探すが慣れない土地の匂いだらけでそれどころではなかった。

 

「出て来ちまったけど、ここは何処なんだ……?ったく、草や茎は気が進まんが飢えて果てるよりはマシか」

 

覚悟を決めて草を食べ始めようとしたそのとき、ドブネズミを制止するように横から何かが差し出された。

 

「ギッ!?」

 

驚いて後ずさり、見上げた視線の先には…

 

「どうしたの?草なんて私でももう食べないよ?それにジャパリまんじゅうの方がおいしいよ」

 

「だだだだ…誰だ!」

 

「私?私はアフリカゾウ。」

 

「あ?」

 

「もう、そんな怖い顔しないでよ。これを食べて元気になってほしいのに」

 

「くれるのか!?…なんて、そんなストレートな罠にこのわたしが掛けられるわけないだろ」

 

「疑ってるね…でもまあ、あそこから出てきたのなら無理もないか」

 

「あそこだと?お前なにか知ってるのか!?…あ」グゥー

 

「あーあ、お腹鳴らしちゃって。我慢しないでいいんだから。それに、毒なんか入ってないよ。いつも食べてるんだから。」

 

「貰おうか…」

 

「はい、どうぞ」

 

ドブネズミは飢えによって突如現れたアフリカゾウなる者を怪しむことができなかった。

 

だが、後にこれこそが自らの命を救うことになると思い知ることになる。

 

アフリカゾウから受け取ったものは最初硬い葉のような食感と無味であり中に柔らかい物があるとドブネズミは感じた。

 

ドブネズミの食べ物への鋭い勘はその外側が包みであることを理解し、瞬く間にそれを歯で破って『本体』を取り出した。

 

「袋ごといっちゃうのにそこからジャパリまん取り出すなんて、珍しいね。何故外側が食べられないとわかったの?」

 

「当たり前だ。何が食えるか食えないか判断するのは必須スキルの一つだからな」

 

ドブネズミはネズミの食べ方のように両手で持ち袋を千切りながら少しずつまんじゅうを咀嚼していった。

そんな単純な速さで言えば非効率的な食べ方をしていたかと思えば見る見るうちに完食してしまった。

 

「うわっ。食べるの速いね」

 

「おい、さっきのあそことやらをまだ聴いてないぞ」

 

「ああ、それは私についてくればわかるよ。だいぶかかるけどね」

 

「だいぶってどのくらいだ?あとそもそもついていくってなんだ!?」

 

「ふふん、後でわかるから。というか、お願い!あなたに着いてきてほしいの!なぜかはちょっとずつ教えるから!」

 

「あのな、わたしは振り回されるのは嫌いなんだよ。自由に生きられないのは御免だ!」

 

「ええと…言い方が悪かった。私はあなたに『ついていく』」

 

「なんだと?わたしについてくるってどういうこと…」

 

「そういうこと。まずはあなたの名前を教えてくださいな」

 

「だからどういうことだよ……名前はなんて言ったか、ドブネズミって呼ばれたのを憶えてるけど」

 

「じゃあ決定!あなたはドブネズミちゃん!宜しく!」

 

「はいはい、宜しく。それじゃあ早速、えぇっと」

 

「アフリカゾウ。」

 

「アフリカゾウ、わたしは全然満足してない。もっとあれをくれ」

 

「ジャパリまんね。さっきので最後」

 

「え?今ので最後?ここに入ってるんじゃあ…」

 

「ひゃん」

 

「な、何だよ。そんな声だすなってうわっっ」

 

「ドブネズミちゃんたら大胆だこと。

という冗談はここまでにして、あれ、ジャパリまんは『ボス』達から貰うものです。私の分も必要なのでボスを探しましょう。ということでいざしゅっぱーつ」

 

「さ、さっきのジャパリまんっての探すのか?おい、突き飛ばしといておいてくなよ。嫌だったんなら悪かったって。気をつけるから待ってくれよぉ。さっきはわたしの方についていくって言ったのに!」

(さっきはどこから出したんだあのジャパリまん…)

 

恥ずかしさから言葉がちょっと固くなったアフリカゾウはドブネズミをおいて何処かに行きそうになった。

早足なアフリカゾウについていくため駆け足気味でドブネズミは歩くのだった。

 

(わたしは自由になりたいと思って抜け出してきたのに振り回されているんじゃあないか?食料の為には仕方ないかもしれないがより不自由なことにならないためにはついていくのが最適か…)

 

←to be continued…



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セルリアンとラッキービースト

前回のあらすじ

・自由を求めて外に出てきた。

・腹を空かせているところにアフリカゾウに出会い、初めてジャパリまんじゅうを貰う。

・ドブネズミは当面の食料となりそうなジャパリまんじゅうの安定確保のためアフリカゾウに探させることにしたが自分の方が振り回されているかもしれないことに若干の不安を抱くのだった…


二人は林の中を歩いていると木が開けたところに出た。

 

ドブネズミ「アフリカゾウ、喉が渇いた。川も探そう」

 

アフリカゾウ「あー、お水飲みたいの。川の近くのボスを探してみるね。お、早速はっけーん」

 

ドブネズミ「ん。ほんとだ、川の音がする。あとなんか聞き覚えのない音がするのは何だ?」

 

アフリカゾウ「このピョコピョコはー、ボスだね」

 

ドブネズミ「いよいよボスか。ボス達といっていたけどどんなヤツらなんだ」

 

ピョコピョコ

   ピョコピョコ

      ピョコピョコ

 

ドブネズミ「お、山盛りのジャパリまんだ。この下のがボスか」

 

アフリカゾウ「ふふん、そうだよ。ドブネズミちゃんの勘の鋭さには驚かされるばかりだよ。ボス、六つ貰うよ」

 

一つのボスと呼ばれる青いものはバスケットに袋入りジャパリまんじゅうを載せて歩いてきた。

下を覗き見る。

その不可思議な動物は短足で目は細く縦長で、腕らしいものが無く、ボディの上にある耳なのか角なのか判別できない部位だけでバスケットを支えている。

ドブネズミはその動物らしからぬ容姿とは裏腹に警戒心も敵対心も沸かず、それどころか親しみやすさを抱き始めた自分に困惑した。

やがて見ているうちにそんな違和感も消え去りジャパリまんを食べることを意識し始めた。

ドブネズミはバスケットのジャパリまんを取りつつその場でモリモリ食べ始める。

するとその食事の横でアフリカゾウの首から長いものが伸び、見慣れぬ動きをしているのを目の当たりにした。

 

ドブネズミ「アフリカゾウ?それ、なんだ?」

 

アフリカゾウ「うん?これはマフラー。伸ばして物を取ったり巻いてジャパリまんを仕舞っとけるんだよー。はい、ジャパリまん」

 

ドブネズミ「ありがとう。あぁ、そこにジャパリまんを…」

 

ドブネズミはあのときの謎が解決して納得した。

二つ目のジャパリまんにむしゃぶりつこうと口を開けたとき、つんざくような音が響いた。

 

ビーーーーーーーーーービーーーーーーーーーーービーーーーーーーーーーー

 

ラッキービースト

「セルリアン情報

セルリアン情報

本エリアでのセルリアンを確認

本エリアでのセルリアンを確認

場所はエリアA西部

場所はエリアA西部

観測情報では中型から小型の中規模の集団のもよう

観測情報では中型から小型の中規模の集団のもよう

対応可能なフレンズは来襲に備えてください

対応可能なフレンズは来襲に備えてください

以上」

 

アフリカゾウ「えー、今?なんかやだなー」

 

ドブネズミ「アフリカゾウ、セルリアンってどんなヤツなんだ」

 

アフリカゾウ「目が一つ付いてててどこを見てるかわからない変な塊。」

 

ドブネズミ「だいぶ雑だな…要するに敵っぽいやつなんだな?」

(今のアフリカゾウがさっきまでと違う感じだ…やっぱり何か怪しいが疑うのは良くない気がする。でも一応頭の片隅にでも置いとこう)

 

アフリカゾウ「そ。まだこっちには来ないと思うから水飲みたいならそこの川で飲んできな。直ぐにね。」

 

ドブネズミ「うん…そうしとくか」

 

ドブネズミは川辺に行き顔から水面に近づけた。

口から冷たい水を吸い上げる。

 

ドブネズミ「ふぅ、水はやっぱり最高だ」

 

アフリカゾウ「ドブネズミ。周りを見るんだ」

 

ドブネズミ「おい、急に何だって…」

 

アフリカゾウ「セルリアンが来たようだ」

 

ドブネズミ「えっ」

(アフリカゾウがさっきよりもっと変だぞ!どうなってるんだ?)

 

アフリカゾウ「林の中、向こうに見えるのが奴らさ。」

 

ドブネズミ「わたしには見えない。変わったものが来てるのなら匂いがするんじゃないか?」

 

アフリカゾウ「基本奴らの匂いはしない。匂いは奴らに取り込まれたフレンズだけがわかるという。」

 

ドブネズミ「なんだって?取り込むのか?フレンズってわたし達のこと…」

 

アフリカゾウ「私達を喰うのは生き物らしいといえばそうかもしれないが、此方はまっぴら御免だろ。」

 

ドブネズミ「まあ、喰われたくない気持ちは分かるけどなんでそこまでガラッと変わるんだ?」

 

アフリカゾウ「? 悪いがその話は後にした方が良さそうだ。君にもそろそろ見えるだろう。」

 

ドブネズミ「あれか?」

(何だアレは…アフリカゾウの言ってた通りだがそんなに速くないみたいだ。)

 

アフリカゾウ「ああ。セルリアン共はもっと奥にも連なって群れているみたいだ。サイズは大きくないが数いるから大変かもしれない。ドブネズミは戦えるか?」

 

ドブネズミ「わたしだってここで終わりたくはない。だがまず逃げることは出来ないのか?」

 

アフリカゾウ「そういえばまだ言ってなかったか。ここのルールはヤツらを潰し、私達フレンズの縄張りを死守すること。戦わないのは余程不利な時だけだ。」

 

ドブネズミ「マジか……仕方ない。わたしも戦う」

 

アフリカゾウ「そうだ。その答えが欲しかった。ではこちらから先制攻撃をお見舞いしてみようか」

 

ドブネズミ「え、ちょっと大胆にもほどが…」

 

アフリカゾウは手頃な大きさの石を拾い上げマフラーに持ち替え、構えの姿勢をとった。

狙いを定めマフラーを振るって石が飛ぶと木の間をすり抜け先頭のセルリアンの上部にヒットした。

コンッという音を響かせたセルリアンはその場で虹の光と化し消えた。

 

アフリカゾウ「今のはお手本だ。石を投げてヤツらの頭の頂点に当てると近づく前に倒せる。頭上に弱点があるからな。やってみるんだ。」

 

ドブネズミ「なるほど、そういうことなら石は要らない。自分だけで攻撃できるからな」

 

『ラット!』

 

ドブネズミはスタンドを発現させ、照準を合わせるため地面に伏せて照準器の部分を覗き込む。

ラットの射程距離は射撃するスタンドにしては短いのだがその範囲内に対象がいることを確認しているからスタンドが使えた。

ラットが発射した弾丸、トゲのついた毒の塊はセルリアンの頭の頂点目掛けて一直線に飛び…頭上を通過していった。

その横では目で追えないほどの速さの石が飛びセルリアンが消滅している。

ボスの警報音鳴り響くなかで集中して狙撃するのは難しいとドブネズミは思った。

 

ドブネズミ「この距離は無理があるか」

 

アフリカゾウ「ドブネズミ、早くしないと直接殴りにいくことになるぞ。囲まれると有利でなくなる。」

 

ドブネズミ「そうだな…じゃあこうすればいいか」

 

ドブネズミは作戦を変えた。といっても、弱点には当たらないのでボディを狙って当てるだけである。

大まかにボディの中心の目に照準をあわせすぐに発射する。

弾はセルリアンに命中し、全体がセルリアンの体にめり込んで止まった。

撃たれたセルリアンはお構い無しに前進するが全身がみるみる溶け、虹色の光となって爆ぜた。

 

アフリカゾウ「それがどうなっているか分からないがやるな。しかしあと少しですぐそこまで迫ってくる。少しでも数を減らしときたいが、いけそうか?」

 

ドブネズミ「ああ」

(それ?ラットが見えているというのか?アフリカゾウはスタンド使いだったのか?)

 

ドブネズミはアフリカゾウの反応から疑問が浮かんだがこの場で聞くのは無理そうだと判断し後回しにした。

やがて二人の正確な投石と狙撃は前線のセルリアンの数を確実に削り、後ろに控えるやや大きめな個体が見えてきた。

ドブネズミにはそのセルリアンはアフリカゾウ(フレンズ)より明らかに大きく見えた。

 

ドブネズミ「でかいのがいるけど、小さいのと同じような弱点は見当たらないぞ?どうする?」

 

アフリカゾウ「あれはまだデカい方とは言えないが脅威には違いない。弱点は背後にあるから私が注意を引く。それを君が攻撃してくれ。」

 

ドブネズミ「なに、ヤツに向かっていくのか!?」

 

アフリカゾウはセルリアンへ歩きだした。

残っていた足下のセルリアンは蹴られてはじき飛んだり、踏まれて平べったくなったり、捕まり投げられて宙を舞ったりした。

 

ドブネズミ「何なんだ、あの剣幕で向かっていくなんて幾らなんでもおかしい。もしかしたら、アフリカゾウがセルリアンにここまで攻撃的になるのは、ただ敵だからとかじゃないのかもしれない」

 

圧倒されそうな程の激しい攻撃を目にしたドブネズミはアフリカゾウの隠された何かに近づいた気がした。

そうしているうちにアフリカゾウが目標のセルリアンに到達しそうになった。

セルリアンもただやられるわけが無く、腕を生やして押さえにかかる。

しかしアフリカゾウはそれをマフラーで受け止め、右腕でアッパーをかました。

怯んでいるうちにアフリカゾウはジャンプして背後に立ち、回し蹴りで転がした。

強力なキックを打ち込まれたセルリアンは、転がされて興奮状態になり、完全にアフリカゾウにターゲットを絞っている。

ドブネズミの方に来る気配もない。

 

ドブネズミ「さっきジャンプしたとき、アフリカゾウの目が光っていたように見えた…あれをやると強くなるのか?わたしもフレンズだというのだからどうにかすればできるかもしれないが、これも後回しか」

 

ドブネズミはアフリカゾウに言われた通りにして背中を見せているセルリアンの凸になっている部分にラットの照準を合わせようとした。

しかし、激しく動いていて狙いが定まりにくい。

そこでドブネズミはラットの連射で当てることにした。

 

ドブネズミ「ここで万が一失敗したらアフリカゾウに当たってしまうかもしれないが、わたしはもう失敗しない」

 

三発連続で発射された弾は真っ直ぐな軌道を描き一発が弱点に当たって溶けた。

他の二発は表面に穴をあけて溶け、周りを崩れ落ちさせる。

弱点の石が溶かされたセルリアンは咆哮をあげながら爆散した。

その直後、最後のセルリアンが倒されたらしくラッキービーストの警報音は止まった。

 

アフリカゾウ「ふぅ、やっと終わったね。ありがとう。」

 

ドブネズミ「ああ、疲れた。ってあれ、もう戻ってる?」

 

アフリカゾウ「うん?そうだね。言わなくて悪かったけど、この後もセルリアンに遭ったらあんなふうになるからよろしくね」

 

ドブネズミ「わかった。でも、他人を詮索するのは良くないとは思うけどさ、質問いいかな?」

 

アフリカゾウ「いいよ。なあに?」

 

ドブネズミ「さっきみたいになることといい、わたしが出てきたところを知っていることといい、アフリカゾウは何か隠しているんじゃないかと思ったんだ。わたしはそれを知りたい。言える範囲で教えてくれないか?」

 

アフリカゾウ「そうだった。戦いも終わったし、ひとまずは落ち着けそうだから話そうと思ってたの。遅れちゃってごめんね」

 

ドブネズミ「いや、それならいいんだ。セルリアンとやらが急にやってきてゆっくり話す時間が無かっただけだからな」

 

アフリカゾウ「うん、ありがとう。今から話すから聞いててね。私はね、あそこのヒトたちからあなたが来るっていわれたの」

 

ドブネズミ「……」

 

アフリカゾウ「あなたがここに慣れるように、いずれ外に出たら友達になってあげた方がいいんじゃないかって」

 

ドブネズミ「そんなことが…」

 

アフリカゾウ「あとね、あなたのラットっていうのは、なんでかはわからないんだけど、ボスがいるところだと誰にもいるのがわかるの。

スタンドっていうのを感じられるようにすることができるんだって。だからあなたがスタンド使いだってこともわかるんだ」

 

ドブネズミ「そうなのか」

 

アフリカゾウ「そうなの」

 

ドブネズミ「…いきなり色々出て来て、全部受け入れるのはきついが、そんなことならわたしはいいぞ。

助けてくれるつもりがあったんだろ?それに、セルリアンが来たとき言ってくれなかったらわけも分からずアフリカゾウを撃っていたかもしれない。ジャパリまんだってくれた恩人なんだし、これからもわたしの面倒をみる覚悟があるらしいことはわかる。

スタンドがわかるのは複雑だが、ラットの攻撃が危険だということをわかってくれないとわたしも困るしな」

 

アフリカゾウ「そうね。ほかに何か今聞きたいことはある?」

 

ドブネズミ「なんでわたしはここに連れてこられたか知らないか?」

 

アフリカゾウ「うーん、そのスタンドさんに何かあるらしいんだよね。何かは言われてないんだけどね」

 

ドブネズミ「ラットが?そうか…あ」

 

アフリカゾウ「ドブネズミちゃん?」

 

ドブネズミ「腹が減った。ジャパリまん食べるか。ほかに何かあったらまた後でいいや」

 

アフリカゾウ「そうだね。ジャパリまんの時間にしようか」

 

戦闘を終え、いくらか謎が明らかになって力が抜けてきたところに空腹が襲ってきた。

残り少ないジャパリまんをラッキービーストから取ろうとするとラッキービーストは今日二度目のセルリアン情報音声を発した。

 

ラッキービースト

「♪~

セルリアン情報

セルリアン情報

 

先ほどのセルリアンはフレンズによって殲滅されたことが確認されました

先ほどのセルリアンはフレンズによって殲滅されたことが確認されました

 

先ほどの襲撃に対応したフレンズはエリアAの総合研究所へお越しください

先ほどの襲撃に対応したフレンズはエリアAの総合研究所へお越しください

 

以上

~♪」

 

ラッキービーストを見つめながらドブネズミは少し考え、決意を表明した。

 

ドブネズミ「アフリカゾウ、わたしはわたしが行きたいところに行く。まずはわたしが出てきたところに戻って、ここに連れてこられたワケをヒト達から聞き出したい。閉じこめられる気がして出てきてしまったが、今はあそこに行かなくてはならない気がするんだ。」

 

アフリカゾウ「そう、なんだね。ドブネズミちゃんがそう言うなら私は付いていくよ。実は、ボスがさっき言ってた総合研究所ってところがあなたが出てきたところなんだ。ボスはさっき『私達に用事があるからあそこへ行こう』っていうことを言ってたんだ」

 

ドブネズミ「そうなのか。じゃあこちらから出向くとしよう。どうせヒトと会うことになるみたいだし」

 

アフリカゾウ「そうかもね。じゃあ、行こっか」

 

二人は来た道を戻り、ドブネズミの求める情報を得るため研究所へと向かうことにした。

その頃研究所ではラッキービーストからの映像を解析し、フレンズの観察記録が付けられていた。

 

??「やはり、あのフレンズはスタンドでセルリアンに応戦し善戦した可能性が高いか…これは興味深い。是非とも会ってみたいところだな。此処へ来るか?

ドブネズミ君よ」

 

←to be continued…



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ラボに行こう

ドブネズミとアフリカゾウの二人は歩き通して(それほど遠くなかったが)なんとか研究所のすぐ近くに到着した。

二人がセルリアンを撃滅したときは既に夕焼け空であったため30分ほど歩いたときには辺りは暗闇に包まれていた。

 

ドブネズミ「研究所の匂いを憶えているとはな。わたしよりも鼻が良さそうだ」

 

アフリカゾウ「うん!ありがとう!匂いを嗅ぎ分けるのは得意なんだ。それに、私がよく行くところだからね」

 

ドブネズミ「そっか、ここはアフリカゾウの縄張りなのか?」

 

アフリカゾウ「ううん、ここじゃあないの。本当はずうっと向こうにあるんだ。まぁ、ここも縄張りみたいなんだけど」

 

ドブネズミ「わたしは縄張りを出て活動するなんて考えられん。縄張りを広げるため移動するのならわかるけど」

 

アフリカゾウ「ふふふ、どうしてか知りたいでしょ?」

 

ドブネズミ「ま、まあな。でも今はいい。そろそろアレが見えてきたしな。」

 

アフリカゾウ「そーだね…っとあの穴はもしかして例の穴?」

 

ドブネズミ「お、そうらしいな。でもあそこには近づきづらいな」

 

ドブネズミが研究所の建物を脱出したという話は既にアフリカゾウに暇つぶしがてらにしてあった。

建物を見ると灯りが点いていたためぽっかりと穴があいているのがわかった。

修繕が間に合っておらず応急処置に何かを内側から被せてあるだけの現場がドブネズミの目に映ると、その光景に違和感を覚えた。

 

(わたしがあんなに壊してきたのに直す素振りも無い?それとも直せないのか?)

 

(………直す?)

 

ドブネズミは目の前の光景と一見無関係な何かを思い出しそうになったが、アフリカゾウの声に呼び戻された。

 

アフリカゾウ「ねえ、ドブネズミちゃん。ここに入りたいなら入り口が有るんだけど」

 

ドブネズミ「入り口?」

 

アフリカゾウ「そう。入り口は今いるここの丁度反対側にあるの。私たちは呼ばれたフレンズなんだし入り口から入りましょう。回りこめば入り口だよ」

 

ドブネズミ「おう」

 

建物の窓が少ないため漏れ出る光が少ない上に外側に金網のフェンスがあり建物が遠く足下照らすのが月明かりのみであるこの状況にも関わらず、知りたいという欲望によってドブネズミのフレンズは夜道を進んだ。

研究所正門前にたどり着いたときにはドブネズミが小腹が空いたと思うほど時間が経っていた。

正門では看板がライトアップされていて明かりに蛾などの虫が集っているところを見ると…

 

ドブネズミ「~~~っ……なんて読むんだ?」

 

アフリカゾウ「これのこと?」

 

ドブネズミ「んん」

 

アフリカゾウ「『サンドスター・アニマルガール・セルリアン等先端技術研究センター』、『ジャパリ新半島支所』だってさ」

(下のやつは読めないや…)

 

ドブネズミ「ながっ」

 

ドブネズミはアフリカゾウが看板の文字列を読み上げたところでどこからともなく会話に加わろうとする声が聞こえてきた。

 

??「うんうん、私もそう思う」

 

ドブネズミ「そうかアフリカゾウ、そう思うだろ」

 

アフリカゾウ「?私はそう言ってないけど。ここから聞こえてこなかった?」

 

ドブネズミ「マジ…?」

 

アフリカゾウ「この黒いところからだよ」

 

ドブネズミにはインターホンが見えていないようだったが言われてから気付いた。

 

??「失礼。私の声はここだ。アフリカゾウ、ドブネズミ」

 

ドブネズミ「どういうことだ…?」

 

??「まずは『ドブネズミ君に』自己紹介しよう。私は当センターのアニマルガール発生研究の責任者で主任のコノシマ・マイだ」

 

アフリカゾウ「マイ!」

 

ドブネズミ「知ってるのか、アフリカゾウ」

 

アフリカゾウ「うん!そりゃもう、私はマイに『フレンズ化』してもらったんだよ!もしかしなくても、ドブネズミちゃんもマイが『フレンズ化』してもらったんじゃないのかな?」

 

マイ「ふふ、是非とも話をしたいところだがそこにいてもらうのは良くない。そこで、今から私の部屋に来なさい。建物に入ってからは案内を付けよう。では失礼」

 

そう言ってマイはインターホンの通話を切った。

 

アフリカゾウ「うん!ありがとねー!良かったね、ドブネズミちゃん」

 

ドブネズミ「…アフリカゾウ、今のはわたしをどうしたっていうのか問い詰めることになりそうだ。おまえと『そいつ』は仲がいいみたいだが、わたしは『そいつ』から情報を引き出すため何をするかわからないが止めないでくれよ」

 

アフリカゾウはドブネズミが釘を刺すしたのにも関わらず、特に返答せず自動で開いた門に入っていった。

 

ドブネズミ(今のはマズかったか、いやしかしここまで来て引き下がる訳にはいかないんだ)

 

ドブネズミはアフリカゾウに続き無言で門をくぐった。

 

門の中は真夜中で人影はなく、音も匂いも無かった。

ドブネズミとアフリカゾウの二人は敷地内の車両通行路を歩いて明かりの点いた入り口へ向かっていた。

ドブネズミはアスファルト舗装路のセンターラインを踏んだり跨いだりして余裕がありそうだったが、アフリカゾウは黙々と歩いている様子であった。

 

ドブネズミ(アフリカゾウが急に静まり返った…何故かはまた聞くが気になるな)

 

ドブネズミ「アフリカゾウ、アフリカゾウ!わたしがさっき言ったことで傷ついたならわたしが悪かった。このあとマイ?と会って話をしたいから、マイの友人のおまえにも来てほしいんだ。」

 

アフリカゾウ「ええっと、私になにかある?『傷ついた』ってなんのこと?」

 

ドブネズミ「なんだって?」

 

アフリカゾウ「私になにか言いたいことがあるんじゃないの?」

 

ドブネズミ「そ、そうなんだ。わたしとアフリカゾウとマイでこのあと話をしたいからアフリカゾウにも来てほしいんだ。おまえが居ないとわたしに良くないから頼む」

 

アフリカゾウ「そうなの。私はドブネズミちゃんとマイの話を聞いていればいいかな?」

 

ドブネズミ「そうなるだろう。マイもおまえに会いたいかもしれないからな」

 

アフリカゾウ「マイといていいのね。ありがとう。ふふん」

 

アフリカゾウの反応からして、アフリカゾウは傷ついていないばかりか楽しそうにしているように見えた。

『コノシマ・マイ』に会うのが楽しみなのか。アフリカゾウは。

そんなアフリカゾウの様子をみてドブネズミは「心配して損した」とこぼしたがアフリカゾウはこれからの楽しみに浮かれており何も聞こえていないだろう。

そんなことがあるうちに二人はで明るい入り口の目前に立った。

ドブネズミはアフリカゾウが立ち止まったのを見て一緒に立ち止まっていた。

入り口はよく見ると色がなく匂いもしない薄い物に閉ざされていた。

アフリカゾウが二つ並んで浮いている縦長の物に触るとそれがそれぞれ左右に平行移動した。

ドブネズミはなにが起きたか一瞬戸惑い両方のそれを交互に見比べていた。

 

アフリカゾウ「なにやってるの!あ、そう言えばドブネズミちゃんは『自動ドア』は知らないのか。まぁいいや。早く!」

 

ドブネズミ「お、おお」

 

ドブネズミは自動ドアを初めから知らずアフリカゾウの導きで無事通過できたのは幸運というべきことだった。

エントランスに入った二人は立ち止まり辺りの匂いを調べていると幸運の名を冠する者が出迎えた。

 

アフリカゾウ「あ、ボス」

 

ドブネズミ「ボス?…え?」

 

昼間に見たラッキービースト(ボス)が何も持たないでやってきたので一瞬は警戒したが他に変わったところがないため平常通りに接した。

 

ドブネズミ「ボスって何でここにもいるんだ?」

 

アフリカゾウ「えっと、それはね、ボスはさっき見てきたこと以外にもいっぱいできることがあるからだって」

 

ドブネズミ「なるほど、役立つからいると」

(こいつは自分のためにここにいるのか?役立つことが生き残るための手段なのか?)

 

ラッキービーストⅠ型「こんばんは。ぼくは今からキミたちフレンズを案内するラッキービーストだよ。よろしくね。目的地はコノシマ主任の個室だよ」

 

ドブネズミ「…なあアフリカゾウ、こいつ今さっきラッキービーストって言ったんだがこいつの名前だよな?なんでボスと呼ぶんだ?」

 

アフリカゾウ「ああ、それね。ボスって名前の響きがカワイイしラッキービーストって長いじゃん」

 

ドブネズミ「カワイイ…か?」

 

ドブネズミがカワイイという概念をはっきりとは理解していなかったということもあるが、アフリカゾウの言いたいことを理解できたのに共感できないと思った。

そのように話しているとラッキービーストは何の合図もなく廊下の一本へ歩き出した。

 

ドブネズミ「って、あいつあっちに行ってんぞ!」

 

アフリカゾウ「マッテー」

 

ラッキービーストは決して速くなかったためすぐ追いつき後ろを歩いた。

その後は一階の角のエレベーターで四階まで上がって長い廊下を歩く。

途中、両側の壁に穴が空いたところがあったがラッキービーストは気にもとめずにガイドに専念したので二人はついて行くしかなかった。

 

そして遂に、目的地周辺に到着した。

 

『此島 真一』

 

ラッキービースト「案内はここまでだよ。右手の部屋が目的地だよ。お疲れ様」

 

アフリカゾウ「ボスもお疲れさん!ありがとねー」

 

ドブネズミ「ここは…わたしの目覚めたところじゃあないが」

 

アフリカゾウ「もう、マイが部屋に来なさいって言ってたでしょ。ほら入るよ」

 

アフリカゾウはドアを三回ノックをして開けた。

 

アフリカゾウ「マイ!ただいま!」

 

マイ「おおアフリカゾウ!お帰り!」

 

ドブネズミ「…」

 

マイ「えっと、ドブネズミ君は?」

 

ドブネズミ「…」

 

ドブネズミには初めてマイを見た気がしなかった。

だが記憶では目の前にいる『ヒト』は目覚めたばかりのときに一瞬見かけたかどうかという程度だったからか、ほとんど初対面と同じ感覚でマイを見つめた。

 

マイ「やあ、ドブネズミ君。やっと出会えたね。初めまして、改めて自己紹介しよう」

 

ドブネズミ「…」

 

マイ「わたしの名はコノシママイ。君にフレンズとして再び命を吹き込んだ張本人だ」

 

←to be continued…



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スタンド使いのドブネズミ、フレンズ使いのコノシママイ

マイ「わたしの名はコノシマ・マイ。君にフレンズとして再び命を吹き込んだ張本人だ」

 

ドブネズミ「おまえか、わたしをこんなところによんだのは」

 

マイ「そうだ」

 

ドブネズミ「再び命を吹き込んだとはどういうことだ?」

 

マイ「死体だった君の体をサンドスターの力で生命体としたということだ」

 

ドブネズミ「サンドスター?」

 

アフリカゾウ「ねえドブネズミちゃん、自己紹介は…」

 

マイ「アフリカゾウ、それについては問題ない。先ほども言った通り、わたしがドブネズミをフレンズとしたのだからな。おっと、アフリカゾウは掛けておいていい」

 

アフリカゾウ「うん…」

 

マイはアフリカゾウに座るように言い、アフリカゾウはすぐに近くのイスに座った。

 

マイ「そう、サンドスターとは動物やその遺物と反応しヒトの姿に変化させるものだ。そこで変化した動物をフレンズまたはアニマルガールとよぶ。君の場合はドブネズミという動物のフレンズだ」

 

ドブネズミ「ドブネズミか…。サンドスターが当たると生まれると言ったが、サンドスターとはどこにあるものなんだ?」

 

マイ「この下だ。この研究所の地下はサンドスター採掘場になっている」

 

アフリカゾウ「はいはーい!サンドスター採掘場なら行ったことあるよ!」

 

ドブネズミ「どんなところだったんだ?」

 

アフリカゾウ「採掘場ってのは石を掘り出すところらしいんだけど、とても石を取ってるようには見えなかったな~」

 

ドブネズミ「なんだって?」

 

マイ「採掘場というのは建て前のようなものでね。石と同じ鉱物には違いないんだが地下を流れるサンドスター・ロウという物質を浄化してサンドスターに変換するというのが正しい。ほんの少しずつしか採れないがね」

 

ドブネズミ「よくわからんが、サンドスターとかいうものに当たってわたしがこうなったというんだな。ではそのワケを訊きたい。わたしがこの姿にされた理由だ」

 

マイ「そのようなものは無い、というのが普通のフレンズの場合だが君は違う。明確に君には『その姿になってほしかった理由』がある」

 

ドブネズミ「そうか。それはなんだ」

 

マイ「単刀直入に言おう。

セルリアンと戦ってもらうためだ」

 

このときドブネズミには複雑な感情が湧き上がった。

死体だったという自分が再び生きることを赦されたのは自分とは直接関係ないはずのセルリアンと戦うためだけなのかという混迷の奔流が頭に渦巻いていた。

 

マイ「ヒトの社会はヤツらに苦しめられている。しかし対抗しようにもヤツらには我々の武器が効かない。ヤツらが鉱物だったからなのか、無機質同士には相性が悪い。フレンズが戦うことで強大なセルリアンを倒すしかないことがわかっているために君のようなフレンズを生み出したというわけだ」

 

ドブネズミ「…なるほど、フレンズとはヒトに利用されるためにいるのか」

 

アフリカゾウ「ち、違うよ!マイも誤解されるような言い方しないで!」

 

マイ「ここまでだとそう思うのも無理はない。フレンズとは元々ヒトの意志とは無関係に突然現れた生き物だった。だが、わたしの技術によってフレンズを意図的に誕生させることが可能になった今は前のようにはいかない。わたし一人でどうとでもなるのならセルリアンなどとっくに此の世に居らん」

 

ドブネズミ「本当にそうか?わたしを作ったというくらいだから何とでもなると思っていたが」

 

マイ「我々ヒトはセルリアンの脅威に晒されているのも、セルリアンにフレンズが有効であるのも事実だ。わたしはこの法則のようなものを利用しようとしているだけだ。だが、フレンズが一方的にセルリアンに有利なわけではない。そこでスタンドという存在を知った」

 

ドブネズミ「そのスタンドを知る経緯が気になるが、気にすることじゃあないな。要するに、わたしを作ったのはヒトだけのために戦うためじゃあないと言いたいということか。フレンズがセルリアンに襲われているところを見たことがないから実感が湧かんな」

 

マイ「そうだったか。実はわたしは今日の戦いを観させてもらったが、アフリカゾウがセルリアンを一方的に倒してしまったが故に危機感が薄いようだな」

 

アフリカゾウ「は、ははは…」

 

ドブネズミ「でも、ひとつ分かったことがある。おまえ、わたしの『ラット』のことも知っているだろ?奴らには弱点があってそこを破壊されると即座に崩壊するからわたしのラットがセルリアンに有効だと思ったな?」

 

マイ「…鋭いな。全くもってその通りだ。君はやはり期待通りだ。実は折り入ってそんな理想的な君にお願いがある」

 

ドブネズミは「わたしにか」と返した。

理想的というのが褒められているのか道具のように思われているだけなのかわからないというモヤモヤが残ったままに。

そこに何故かこれが自分のためになる何かかもしれないという直感が働き、素直に従うのも悪くないと思った。

 

マイ「目的は何回か言っている通り、セルリアンを調査するためちょっとした旅に行って欲しい。アフリカゾウと二人でね」

 

アフリカゾウ「私も?」

 

マイ「そう、ドブネズミ君はフレンズ解放エリアのことを知らないからだ。出発は明日の朝だ。今日はこの研究所の宿舎で寝泊まりしてもらうことになる」

 

アフリカゾウ「あーあ、せっかく戻って来られたのにまた旅か~。でも、帰ってこられるって信じてるからへーきへーき!任せて!」

 

ドブネズミ「おまえは行かないのか?何故わたし達だけに行かせるんだ?」

 

マイ「目的はセルリアンの調査だ。厄介なセルリアンに遭遇すると生身で戦えないわたしが君達の足手まといになってしまう」

 

ドブネズミ「決定した気になっているようだが、わたしが嫌と言ったら?」

 

マイ「ずっとここが君の住処になる。あとはスタンド使いのフレンズ研究に協力してもらうことになる」

 

ドブネズミ「冗談だ。その断った後の方がマズそうだし旅はくださいなんかわたし自身のためになる気がするから、セルリアンを調べてきてやるよ」

 

アフリカゾウ「ドブネズミちゃん!良かった~」

 

マイ「今度こそ決まりだ。それじゃあ、これからしなければならないことをこの三人でする」

 

ドブネズミ「なんだ?」

 

←To be continued…



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フロ、メシ、ネル

 

マイ「それじゃあ、これからしなければならないことをこの三人でする…いや君たちが先にすることだ」

 

ドブネズミ「なんだ?」

 

マイ「二人とも外に行っただろう。体をキレイにしなければならない。その直後のいいことのためだ」

 

ドブネズミ「…」

 

アフリカゾウ「いいこと!なにかな?」

 

マイ「晩御飯だ。せっかくココまで来てもらってるから夕食を一緒に食べようと思っていたんだが、どうだ?」

 

アフリカゾウ「わーい!食べるー!ドブネズミちゃんもどう?」

 

ドブネズミ「どうと言われてもだな、ここの事はまだほとんど何も知らない。しばらく様子を見る」

 

マイ「ふむ、君ならそう言うだろうと思っていた。今夜はいいものが食えるはずだから楽しみにしていてくれ」

 

マイはそう言うとドブネズミとアフリカゾウを連れ近寄りがたい雰囲気の部屋に来た。

 

マイ「ここの機械に少し入ってじっとしてればいい。アフリカゾウは知らなかったか」

 

アフリカゾウ「うん…わたしも初めて」

 

ドブネズミ「箱…?」

 

マイが解錠して扉を開けると部屋には大きな箱が2つある。

どちらも天井ギリギリまで高く幅はアフリカゾウ(もちろんフレンズの)が腕を広げた程度に見える。

マイは壁の操作盤を開いて箱を起動した。

起動した箱は前面の観音開きの扉が開き、いかにも一人でそこに入って使うという空間になっていた。

さらに箱からは運転音がして、静かなときよりも物々しさを増したように感じられる。

 

ドブネズミ「ひょっとすると、ここの機械ってこれか?」

 

マイ「ああ。すぐ始めるから二人は一つずつ入ってくれ」

 

ドブネズミ「何をさせるかと思えば、こんなに見え見えの罠にそう安安とかかりにいけというのか?」

 

マイ「私をまだ疑っているようだな。わたしがこれに入っても何も起きないが、君たちには外の汚れが付着している筈だ。その場合洗剤を浴びてもらうことになる。その後自動で元の乾いた状態に戻される。当然死にはしない」

 

ドブネズミ「わたしにはそれを確かめる術がない」

 

結局、ドブネズミの要求によりアフリカゾウと同時に入ることになった。

ドブネズミは二人一緒に出てこられれば安全とみなすと言い、マイは了承して二人で入ることにしたのだ。

箱の扉が閉じ完全に入ると予想通り外が何も見えない閉鎖空間になっていて入ったことを後悔しそうになったが、万が一にはラットで脱出する覚悟を決めた。

一人で考え込んでいると知らない誰かの声が聞こえてきた。

 

《FCB(フレンズクリーニングボックス)へようこそ。これからスキャンを開始します。合図があるまでなるべく直立の姿勢を保ってください。座り込んだり、壁に貼り付いたりしないでください。スキャン終了後は洗浄を行います》

 

《「楽勝楽勝!大丈夫だよ、ドブネズミちゃん!」》

 

ドブネズミ「その声は、アフリカゾウ?」

 

《アフリカゾウ「こっちは誰か知らないヒトの声がしたんだけど何か言ってた。せんじょー?だとか」》

 

《マイ「聞こえるか?二人とも。暫くじっとしてくれればいい。スキャンが完了したと言われたら首から下、頭、顔の順番で洗われる」》

 

《アフリカゾウ「そうなの?あっ、何か出てきて…」》

 

ドブネズミ「アフリカゾウ?どうした!?あっ」

 

《スキャンが完了しました。洗浄を開始します》

 

洗浄が終わって二人とも出てきたときには入る前より小綺麗になっていた。

 

アフリカゾウ「いやー、またすぐ入りたくなるとはねー。せまいところだと思ったらジャバジャバってなってブワーだもんね」

 

ドブネズミ「わ、分からなくはない」

 

マイ「フフフ。気に入って戴けたようでなによりだ」

 

検査という入浴を追えると三人は食堂へと移動した。

食堂着くと丁度ディナータイムでヒトがごった返している。

ドブネズミはそこに自分の姿を見た者がいることを記憶していた。

少なからず白い目で見られることを覚悟していたはずだったのだが…

 

マイ「わたしはここではそれなりに強い権力を持っていてね。ドブネズミ君のようなフレンズには手出しをゆるさないんだ。新しく生まれたフレンズがジャパリまんじゅう以外の美味しいものを食べられないのはかわいそうだからと思ったから、ここの食堂に連れてくることにしている。君も脱走したとはいえフレンズだ。軋轢が生じてはならない。いつも余計なことでなく新しいフレンズとの思い出作りを考えてもらってるんだ」

 

ドブネズミ「流石にあんだけ暴れたわたしにそう易々と馴れるのか自分でも疑問なんだが」

 

マイ「なあに、君のことなら心配無用だ。その脱走劇そのものが思い出だからな。何度も施設を破壊されると流石に困るが」

 

ドブネズミ「悪い気がしてきた…」

 

マイ「フッ、みんな本当はフレンズが大好きだから気にしないでいい。そろそろ順番だ」

 

教わってもいないのにドブネズミは自分とアフリカゾウに倣って列に並んでいた。

食堂に来る前から列になってはいたのだが、ドブネズミは集団に馴染んでいるかのようかな行動を無自覚にしている。

ドブネズミという動物の習性から社会性の高い行動をするのは難しいという予測であったにも関わらずだ。

マイはそれに疑問を抱くが、ここで触れることではないとして食堂の案内に専念することにした。

 

マイ「ここではメニューから一品ずつ選んで自分の献立を決められる。だがドブネズミ君は今日が初めてだからわたしと一緒に選ぼうか」

 

ドブネズミがタッチパネルのメニュー表を見て写真から興味のある品を指差すとマイは動物性か植物性かや味付けなどを解説した。

食べられるものは食べてきたドブネズミは好み通りに選べることを久々の幸せのように感じながら説明を聞く。

こうしてドブネズミの献立は好み、もとい食性から肉が多めのチョイスになった。

 

ののののののののののののののののののの

 

ドブネズミのチョイス:カツカレー、魚のフライ、ポトフ、ビーフステーキ

 

アフリカゾウのチョイス:野菜スティック(大根と人参とキュウリ10本ずつ)、オニオンスープ、カットリンゴ一個分

 

マイのチョイス:白米、大根とじゃがいもの味噌汁、小松菜と油揚げの煮浸し、白身魚のムニエル、キュウリとレタスのサラダ、ヨーグルト

 

ののののののののののののののののの

 

この研究所の食堂はある程度まで調理された状態から自動で仕上げた料理が出てくる。

マイとアフリカゾウはプレートに乗った料理を受け取ったりコップに水を汲んだりしてドブネズミの分を運ぶのを手伝った。

 

ドブネズミ「ありがとう、アフリカゾウ」

 

アフリカゾウ「いいのいいの!私にはこのマフラーがあるからね」

 

マイ「ドブネズミ君、まだまだ料理はあるぞ!」

 

食堂を見渡すと長いテーブルの端の方が空いていたのでアフリカゾウが席をとった。

ドブネズミは座るとき尻尾を気にしたが、イスはベンチのような背もたれが無いもので圧迫されず後ろの席との感覚は十分に広いので踏まれる心配もないとマイは説明した。

 

マイ「ここのイスの背もたれは尻尾をもつフレンズが座ることを想定しているんだ」

 

アフリカゾウ「助かるよ〜。背もたれのあるいすは尻尾が潰れて座りにくいよね〜」

 

ドブネズミ「わたしの尻尾はアフリカゾウのよりも長いから、背もたれなんかあったら余計無理がありそうだな」

 

そのときのマイはドブネズミセレクションの相当な量を食べ慣れていないヒトが胃もたれしそうな迫力に圧倒されそうになっていた。

そこにいつの間にか置いた食器について説明しておかなければならなかったため、マイは気を取り直してドブネズミに話しかけた。

 

マイ「うん、ドブネズミはよく食べるというのは分かっていたつもりだったがここまでとは驚きを隠せないな。

でもいいかいドブネズミ。この箸とナイフとフォークとスプーンという道具を使って食べるんだ。素手で食べた後あちこち触られたら汚れて困るし洗ってない素手で食べることは病原体を体に入れることになる。さっきキレイになってもらったとはいえ用心するに越したことはない」

 

ドブネズミ「この変な棒がしらんうちに置いてあるから何かと思えば全部使うんだな」

 

マイ「そうだ。あとは、挨拶を食べる前にしておこう。アフリカゾウは憶えているかな?」

 

アフリカゾウ「あっ、『いただきます』だっけ?!忘れてたー!」

 

マイ「案ずることはないよ。簡単だから忘れさえしなければすぐできることだ。さあ、手を合わせて」

 

マイ「いただきます」

 

アフリカゾウ「いただきます!」

 

ドブネズミ「いた…だき…ます?」

 

マイ「よし!食べるぞ!君たちを待ってる間お菓子を切らしてたことを思い出したから空腹感でいっぱいだったよ」

 

アフリカゾウ「やー、私に負けず劣らずよく食べるねえ。ドブネズミちゃんは」

 

ドブネズミ「なあ、こいつらどうやって使うんだ?」

 

ドブネズミは箸でステーキを捲り上げてかぶりつこうとしていた。

そのままではステーキはテーブルの上に滑り落ちてしまうだろう。

 

マイ「そうだったな、使い方を言っておかなくては。ステーキはこの先が分かれたフォークで押さえて、ギザギザしたナイフで引き切ると上手く小さくできる」

 

マイは一つずつ持って指差しながら説明した。

おかげでドブネズミは間違った使い方をしなくて済んだ。

 

ドブネズミ「じゃあこれはいつ使うんだ?」

 

マイ「それはな……」

 

ドブネズミはマイの口頭での説明と実際の使用風景から食器の使い方を憶えていった。

しかし食器を全て使ってもガツガツとした食べっぷりのままだった。

その夕食に町のゴミを漁りタンパク質を求める生活を忘れさせられていた。

 

ドブネズミ「ふう、食ったァ!肉を満足に食ったのはいつぶりか忘れるくらい美味かった」

 

マイ「それは良かった」

 

アフリカゾウ「ムグムグ…あんなに多かったのに早いなんてムグムグ…私には無理ぃ~ムグムグ…」

 

アフリカゾウは大量のキュウリと人参のスティックをマフラーで持ってボリボリと押し込んでいた。

それはまるで自動の鉛筆削り機に鉛筆を押し込んでいるようだった。

一方マイは既に完食していた。

 

ドブネズミ「アフリカゾウ、おまえがうまそうに食べてるの見てるとなんだか羨ましくなってくるな」

 

アフリカゾウ「そぉ?これ食べる?」

 

ドブネズミ「いや、大丈夫だ…」

 

アフリカゾウ「?」

 

マイ「ドブネズミ君、食べ始めるときに挨拶すると言ったが食べ終わったときの挨拶もある。」

 

ドブネズミ「それはどんなんだ?」

 

マイ「『御馳走様でした』」

 

ドブネズミ「『ごちそうさまでした』…」

 

マイ「この一連の挨拶は外でもやれと強制するわけじゃないから忘れても気に病むことはない。ただ、心の整理をつけ食事の時間を楽しむためになることだとわたしは思っている」

 

ドブネズミ「そうか。わたしも今度からやろうかな」

 

アフリカゾウ「ふぅ、ごちそうさま。わたしから教えてあげられたらよかったんだけど、あのときはセルリアンが来てて余裕がなかったよねドブネズミちゃん」

 

ドブネズミ「うんまぁ、そうだったな。すぐボスがうるさくなってセルリアンが来てたからな」

 

マイ「ん!そのときのセルリアンのことを詳しく聴きたいんだがいいか?」

 

アフリカゾウとドブネズミは思い出せるだけ詳しく話した。

ドブネズミはフレンズの姿での初陣であったからか、鮮明に憶えていた。

話していくうちにアフリカゾウをよく知るマイもいるのでアフリカゾウが豹変したことについて聞こうと思った。

 

ドブネズミ「アフリカゾウ、ちょっと聞きづらいことを聞くがいいか?」

 

アフリカゾウ「なあに?」

 

ドブネズミ「セルリアンが来たときあたりからアフリカゾウのしゃべり方が変わったんだが、なぜだ?」

 

アフリカゾウ「それは…」

 

マイ「ドブネズミ、それを今聞くのは良くない。また今度にしてくれないか?」

 

ドブネズミ「お、おぉ」

(やっぱりこれは何かあるのか…?隠したいのか、聞かれるのが嫌なだけかわからん。

しつこく聞くのはいい気がしないしマイのいないところのほうが聞けるかもしれないからいつか聞いてみるか)

 

食事を終えた三人は食器を下げた。

何の違和感もなくドブネズミがプレートを持って下げる。

フレンズ化したばかりなのにもかかわらずここまで器用なことについてマイは考え込み、食器が危うくプレートから落ちそうになった。

器を割らずには済んだが、勘の良いドブネズミに気づかれそうになったことの方を心配した。

ドブネズミ達は三人で食堂から出ると共に宿舎へ移動した。

 

マイ「ところで君たちは眠くないか?フレンズがここに寝泊まりするために余分に宿泊用の部屋があるんだが、今からそこに行って使い方を教える。宿舎の使い方を知らないまま使わせたくはない。アフリカゾウは憶えているかな?」

 

アフリカゾウ「もちろん!憶えてる…と思う」

 

マイ「建物中がまた穴だらけになるとドブネズミ君を一日でさえここに居させるのはわたしでも厳しいからな。守ってもらわなければならないルールを覚えてもらいたい」

 

ドブネズミ「ああ…わかってる」

 

ドブネズミにわかりやすいよう、マイが直接ドブネズミが使う部屋で部屋中の物の目的・使用法・注意事項を説明した。

 

ドブネズミ「これは何だ」

 

マイ「あぁ、テレビだ。映像を観ることができる。一番右の小さいボタンを押すと点く。もっかい押すと消える。地理的な理由と予算の都合上、JPHK(ジャパリ放送機構)のチャンネルしか流れないのは許してくれ。ニュースはヒトのことがわかるから詰まらなくはないだろう。あとは何か」

 

ドブネズミ「こっちは」

 

マイ「あぁそれは…」

マイ「これで一通り説明し終えたかな」

 

ドブネズミ「まったく、どんだけあるんだよ」

 

マイ「全部使ってる物だから仕方ないが、壊されては堪らない。分からなければ電話すれば答える」

 

アフリカゾウ「私もここを使ってたことはあるとはいえ大変だったこと思い出してきて不安になるっ…」

 

マイ「まぁ、最悪力任せに使わなきゃいいってことだな。そろそろわたしは用事があってここにずっとは居られない。朝になったらまた会おう。じゃあ、二人ともお休み」

 

そう言ってマイはどこかに行ってしまった。

アフリカゾウは背中に向けてマフラーを振って見送ったが、ドブネズミは相変わらず棒立ちでマイを睨んでいた。

 

アフリカゾウ「おやすみ、マイ!」

 

ドブネズミ「…アフリカゾウ、わたしはまだ眠れそうにない。気になることがありすぎる。心配をかけるが気にせず眠たかったらすぐ寝るんだ」

 

アフリカゾウ「大丈夫だってば。ドブネズミちゃんもすぐねて明日元気に出発しようね。それじゃあおやすみ」

 

ドブネズミ「『おやすみ』」

 

ドブネズミは部屋に入るなりテレビを点け夜中じゅう観ていた。局自体は一つだが3チャンネルあり番組の内容で飽きなかったせいで時計の短針が右側に傾いても眠らずに視聴していた。

ようやく眠気を覚えたときには短針が下側を向いていたという。

 

 

その何時間も前、自分の個室にいたマイはある書類になにかを書き込みながら独り言を呟いていた。

 

マイ「まだドブネズミ君の『お仲間』が必要だ…より戦力を増やさねば…」

 

←to be continued…



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ザ・グレイトフル・ジャーニー

アフリカゾウ「ドブネズミちゃん?起きてる?おーきーてーるー?」

 

マイ「アフリカゾウ、おはよう。ドブネズミはどうしたのかな?」

 

アフリカゾウ「おはようマイ。あのさ、ドブネズミちゃんが起きてこないの。ずっと待ってるのに」

 

マイ「何時から?」

 

アフリカゾウ「6時くらいからだったかな」

 

マイ「相変わらず早起きさんだ。ドブネズミはいつ寝たんだか知らないが、爆睡しているかもしれないなあ」

 

アフリカゾウ「マイ、知ってるの?」

 

マイ「ああ。ネズミはな、ヒトより燃費が悪い生き物だ。だから起きている時間をなるべく減らそうとするために睡眠時間が長いと考えられている」

 

アフリカゾウ「へぇぇぇ、そうなんだ。私はあまり寝ないから、つまり…」

 

マイ「そうさ。逆に大きな生き物は寝る時間が少なくて済む。さて、ドブネズミ君に鍵のかけ方を教えなきゃ良かったか」

 

ドブネズミ「なんだと」

 

アフリカゾウ「うゎぁぁぁあ」

 

ドブネズミ「全部聞いてた。わたしはアラームの使い方を教わっといて良かったと思うよ」

 

マイ「冗談だ、でも良くなかったな。済まない」

 

ドブネズミ「…気にすんな。今日の予定はなんだ?」

 

マイ「ああ、朝食と旅立ちだ」

 

ドブネズミ「はいはいって、朝食?」

 

アフリカゾウ「朝ごはんもあるんだね。ここの朝ごはんは確かみんな一緒のものだったような…」

 

ドブネズミ「みんな一緒!?ウッ、流石のわたしでも夕飯のと同じのを食える気がしねえ。そんなに多くは無さそうだが食えそうなものは食っとかなきゃな」

 

マイ「そういうことじゃあない。朝食のメニューは朝食のためのものがある。場所は昨日と同じ所だが顔も洗っていないだろう。わたしはドブネズミ君と一緒に行くからアフリカゾウは先に行ってきていい」

 

アフリカゾウ「やった〜!ふっつうのごはんもたっのしっみたっのしっみ〜」

 

アフリカゾウはスキップしながら食堂に向かうが一人でハッとして途中で静かに歩いていった。

 

マイ「アフリカゾウを待たすのも悪い。洗面所に行こう」

 

洗面所ではマイが目の前で顔を洗ってみせた。

ドブネズミはいともたやすく正確に真似して顔を洗う。

 

ドブネズミ「…」

 

マイ「しっかり洗えているな。顔を洗ったことがあるのかい?」

 

ドブネズミ「ない。初めてだが」

 

マイ「そうなのか。飲み込みが早くてこちらも助かるよ」

 

ドブネズミ「…」

 

二人が食堂に移動するとアフリカゾウが何も取らず入口に佇んでいた。

 

アフリカゾウ「やっと来た〜。待ちくたびれちゃいそうだったところだよぉ」

 

ドブネズミ「ああ、すまん」

 

マイ「アフリカゾウ、待っててくれたのか。済まない」

 

アフリカゾウ「あっ、全然いいのにそんな」

 

ドブネズミ「待っていてくれてありがとう。行こうか」

 

朝食は夕食とは打って変わってプレート、器、箸やスプーン、料理の入ったトレーや鍋という順番の道になっていた。

 

「今日は白米が食いてえなァ」

「俺はパンにするゥゥゥっと」

 

ドブネズミ「やつらは?」

 

マイ「LBの製作部門の人だ。昨日のアイツらはみんなあそこで造られてる。外にいるのの定期メンテナンスと、他の部署の依頼を請けて新型を製作するのが彼らの主な業務だ」

 

朝食の準備は専用のLB(ラッキービースト)に任せている。

外でまんじゅうを配る、放送で警戒情報を伝える、LB仲間の安否確認といった仕事をこなしてはいるもののそれ以上精密さが要求される作業は外にいるタイプには難しかった。

そこでLB技術の向上の一環として新型が開発され、ゆくゆくは簡易的な仕事をする旧型を纏める存在として確立するために試験的に研究所内で運用している。

その新型がするこの時間帯の主な仕事は食器と調理場から出てくる朝食を並べることと掃除である。

ちなみに食器を下げるのは一人ひとりでやるものだし食べ残しを片付けるのは既に食器の片付けのシステムに組み込んでしまってあるという理由でLBには無関係となっている。

 

ドブネズミ「あんたはセルリアン対策とわたし達のようなフレンズの管理研究をやってるんだろ?なんで自分と関係ないところのやってる事までわかるんだ?」

 

マイ「関係ないなんてことはない。わたしの仕事の関係で、わたしはほとんどの部門のことを把握していなければならないからな。LBのことは現地のフレンズに聞けばわかるがね」

 

ドブネズミ「ふぅん…」

 

マイ「それより今は朝食のことを考えるとしよう」

 

アフリカゾウ「久しぶりにここのパンが食べられると思うと…」

 

ドブネズミ「あ、ヨダレが」

 

アフリカゾウ「へへへ」

 

マイ「マフラーじゃなくてこのハンカチで拭こうか…」

 

朝は米派とパン派の二手に分かれるように料理が並んでいる。

…のにも関わらず、三人とも自然とパンの列へと流れた。

途中ドブネズミはバターを取るやいなや、すぐ近くのジャムを素通りし料理を皿に乗せていった。

やがて取り終えたドブネズミはアフリカゾウがマフラーを振って呼んでいるところまで行き席に着いた。

 

ドブネズミ「アフリカゾウは卵食べないのか?」

 

アフリカゾウ「私はいいの。ジャムとかマーマレードのが好きだし」

 

マイ「アフリカゾウはその体でも植物性のものが好きみたいだ」

 

一同は手を合わせ「いただきます」を済ませ、それぞれの朝食に手を付けた。

 

のののののののののののののののののの

 

ドブネズミのチョイス:ミルク、ミニオムレツ、ほうれん草のソテー、焼きベーコン、プロセスチーズ、フランスパントースト、バター、マヨネーズ

 

アフリカゾウのチョイス:コーンスープ、フランスパン、イチゴジャム、ブルーベリージャム、マーマレード

 

マイのチョイス:コーヒー、食パントースト、バター、ピーナツバター

 

のののののののののののののののののの

 

ドブネズミ「アフリカゾウ、これをこうするとうまいぞ」

 

アフリカゾウ「えー、何それ!」

 

マイ「ほう。タンパク質、野菜、炭水化物が一つにまとまっているな。食パンにのせて挟むと具を落としにくくなるぞ」

 

ドブネズミ「いや、わたしは弾力の強い方が好きなんだ。具は少ないがこれがベストだ」

 

アフリカゾウ「けっこう油が多いみたいだね…」

 

ドブネズミ「アフリカゾウには油がダメなのか?」

 

アフリカゾウは以前ジャパリまんのマヨネーズ味の油分があわず食べきれなかったことがあったためかバターにも警戒心がある。

動物性の食材を食べないというわけではないが元の食性に近く野菜ばかりの食生活なのは、フレンズ化後の経験が影響しているからである。

過去にマヨネーズ味のジャパリまんじゅうが、マヨネーズが具の空間の100%を占めているほどのマニア向けだったのを聞く前に口にしてしまったのが切っ掛けだ。

 

ドブネズミ「マヨネーズも苦手だから野菜スティックに何もつけずボリボリ食べてたんだな」

 

アフリカゾウ「でもさ、油をとらないわけにもいかないらしくてさ。この体に油が少なからずあったほうがいいって言われちゃって、炒めた野菜くらいは食べられるようにはしてるんだよ」

 

ドブネズミ「まぁわたしは体が欲するからいろいろ食べるさ。だからさ、嫌なのに無理して食べるのは良くないんじゃあないか?体が欲するものだけでも種類は豊富にある」

 

アフリカゾウ「…そうかな」

 

マイ「お、どうした?なにか困り事か?」

 

アフリカゾウ「なんでも、ない」

 

ドブネズミ「ああ。問題はない。気にすんな」

 

アフリカゾウの悩みを聞いて親しくなれた気がした。

まだ特別重大な問題ではないようなのでマイには隠して後で聞くのもいいかと思っていた。

ミルクを飲み干し全部食べ終わると一息吐いてマイに旅立ちの準備について聞く。

 

ドブネズミ「おいマイ」

 

マイ「何だい?」

 

ドブネズミ「まさかこのまま何も持たせずに出ていけとは言わないよな?」

 

マイ「うん、そんなことはない。目的を遂行するためには君のスタンド以外にも必要な物があるからな。アフリカゾウも食べ終わっているようだしそろそろいくか」

 

「ごちそうさまでした」

 

「ごちそうさまでした!」

 

「ご…ちそうさまでした…」

 

その後食堂を離れた三人は、マイの個室で地図を広げていた。

 

マイ「旅は何日でもかけられるわけじゃあない。ここを周って戻ってきてもらわなければ困るんだ。だから、これを見て進むべき距離を大まかに把握してもらいたい」

 

ドブネズミ「なるほど。でも、この研究所の敷地は結構広いように見えたのにこんなにちっぽけだったとはな」

 

アフリカゾウ「私なら歩き回ってたからわかるけどね!…前にマイにも誰にも言わずにここを出ていっちゃったから、あまり自慢できないんだけどね」

 

ドブネズミ「…なんだって?」

 

マイ「アフリカゾウは実は元々ここに住み込んで私と一緒に暮らしてたんだよ。居なくなって一週間くらいしてLBの映像で居場所が判明したが、捜索に時間を割けないくらい忙しくてね。再会できたときは嬉しかったけど初対面のドブネズミ君がいて二人だけで喜び合うのは良くないと思って控え目にしといたんだ」

 

ドブネズミ「初めてこの部屋に来たあのとき、わたしからは何も言わずにいたからあんな突拍子もないことを言ってきたのか?」

 

マイ「ちょっと驚かそうとしたことは認める。すまなかった。アフリカゾウから事情は既に聞いてあるから君は知りたければ旅の道中にでも聞けばいいだろう」

 

ドブネズミ「あ!?そんなことは全然聞いてねえんだが!?いつそんな話をッ!?」

 

アフリカゾウ「昨日の夕食のとき…。あんなに夢中になって食べてるんだもん」

 

マイ「邪魔してはごちそうを味わえないからね」

 

ドブネズミ「まあいい。後でも聞けるんならそうする。で、わたし達はどこを一日どれくらい進めばいいんだ?」

 

マイ「そうだった、話がずれていたな。進捗状況が見てわかるように、表をつくった。持ち歩いて、進行度を書き込んでくれ。そうすると目標に追いついているかどうかが『わたしにも』わかる」

 

マイがメモ帳とペンを取り出し答える。

メモ帳は手帳として標準的なサイズより大きめで、ペンは先が丸いだけの棒のようだ。

 

ドブネズミ「『わたしにも』だと?ボスがいるからか?」

 

マイ「そうではないんだ。ここになにかしら書き込んで見るとわかる」

 

そのメモ帳とペンをとり『此島』と書いてみせる。

するとその字がパソコンのディスプレイに映し出された。

 

ドブネズミ「バランスも線の揺れも全く同じだ……いや、今書いているところが時間差なく表示されている」

 

マイ「メモ帳がパソコンから離れると時間差はかかってくるけど、書かれていることがいずれはここに表示される」

 

アフリカゾウ「こんなものは私が居たときは無かったような…」

 

マイ「あったけど使いどころが無かったんだ。まあこれで晴れて役目を果たせるから大切にしてくれ。持っていくものはこれだけじゃあないがな」

 

そう言うと今度は取っ手付きで十字の印がついた箱と、赤と青の2つのウェアラブル端末を出してくる。

端末は腕時計くらいのサイズでデジタル時計、極小マイク、スピーカー、ボタン4つというデザインだ。

 

マイ「これは直接通信ができる時計だ。声を通信して送ることができる。上のボタンを押すと通信が始まる。こっちの箱は怪我したり具合が悪いときに使う」

 

ドブネズミ「また新しいやつか」

 

マイ「すぐ使い方は教えるが、まず注意してほしいことがある。これでの通信先はわたしの部屋ではない。通信を受け取るのはオペレーター、わたしとは別の人間だ」

 

アフリカゾウ「え?」

 

ドブネズミ「あ?」

 

マイ「本当はセルリアンを発見したとき連絡してもらうためなんだが、ほかに何か相談したいときはそう言えば相談に乗ってくれるだろう」

 

アフリカゾウ「その…マイと話したいときは、どうすればいいの?」

 

マイ「済まない、直接話せる手段が無いわけではないんだ。私と話したければその人にそう言ってくれ。出られれば話しに行く。でも話せないときもあるかもしれないから、わかっていてほしい」

 

ドブネズミ「そうか。いきなりだが、みんな持ってたその板は何だ?」

 

アフリカゾウ「スマホのこと?」

 

マイ「これか?…なるほど!これはスマートフォンという通信機器だが、充電器具を使えばこちらの方が使いやすいかもしれない。ちょっと待ってくれ」

 

しばらく引き出しを漁り、見せてきたのは片手サイズの箱だった。

箱の凹みに指をかけるとハンドルが展開した。

 

マイ「スマートフォンの使い方はアフリカゾウが知ってると思うから省く。こっちは映像も声と一緒に送れるんだ。バッテリが切れるとすぐ使えなくなるし、水に浸ると二度と使えなくなるのが欠点だが。充電をこの手回しハンドルを回してやることで電源問題が解決するとは、思い出せなかったよ。ドブネズミ君のおかげだ!」

 

ドブネズミ「なんか、困るな」

 

マイ「これらは君たちの助けにもなるだろう。スマートフォンも持たせるけど、水に触れないようにこの袋に入れておいてくれ」

 

マイはこのファスナー付き袋に入れたままじゃあ使えないから使うときだけ出そう、と付け加えつつ袋に入れた。

 

マイ「さあ、これを誰が持つかを決めようか」

 

アフリカゾウ「こっちは私が使うよ。使い方知ってるし」

 

ドブネズミ「そうか、じゃあわたしはこっちの小さいのか。ボタンとかの使い方は全部はわからんから今教えてくれるか?」

 

マイ「ああ」

 

 

レクチャーを終えたドブネズミは腕に巻いた通信機を誇らしげに撫でていた。

 

マイ「持っていってもらうのはあと2つ。セルリアンを討伐したとき、破片をできれば回収して持ち帰ってきてもらいたい。そこでこの袋だ」

 

スマートフォン用のファスナー付袋とは別の袋の束をドンと置いてきた。

 

マイ「ほんの少しだけ取って入れればいい。むしろ袋が破けてしまうと袋として使えなくなる」

 

ドブネズミ「そんな少しで足りるのか?」

 

マイ「袋をいくつも用意したのは量を確保するためと破けたときの予備だよ。アフリカゾウが張り切りすぎて破ってしまうかもしれないからね」

 

アフリカゾウ「大丈夫だよ!そんなことないって」

 

マイ「はははっ、済まないね。でも誰しもが生きてる限りは何かを壊すことになる。心配することはないよ」

 

ドブネズミ(『生きてる限りは何かを壊す』、か…壊すものを選んでいるだけなのかもしれないな)

 

マイ「話がずれたけどこれが最後だ。水筒という物だが、水を入れて持っていられる。二人とも水が無いと困るだろうから渡しておくよ」

 

ドブネズミ「おぉ。水が飲めるのはいいとして、どういうことだ?水に困る程の辺鄙なところも通ることになるというのか?」

 

マイ「そうだ、通ることになるだろうな。砂漠といってな、砂や石だけの土地があると言えば分かるかな」

 

アフリカゾウ「砂漠っていうと、サバンナも水場はあるけど少ないし、暑いし木がちょっとあるくらいだね」

 

ドブネズミ「想像もつかん…」

 

マイ「そして、荷物はまとめてこのナップサックに仕舞っておけば持ち運びも楽になる。実質はこれ一つで持ち歩くから、両手で抱えて行くことにはならない」

 

ドブネズミ「これェ?」

 

マイ「それに、ジャパリまんじゅうも仕舞っておけるだろう。でもそのときは、その上に何か載せたり座ったりしないようにな」

 

ドブネズミ「色々まとめて言われても多分忘れると思うが、あの丸いのは潰れると中身がでてくるだろうということくらいはわかるだろう」

 

マイ「それもそうだな。じゃあそれらを持って玄関まで…そうそう、応急箱は開くと使い方を箱が教えてくれる。私なんかより分かりやすいから今はとりあえず持っていけばいい」

 

持ち物の道具の説明を終えると、三人で部屋を出て玄関へ歩く。

研究所の建物は外側に各部屋の窓が付いているため、廊下の窓の外は屋外とはいえ建物に囲まれている庭の様になっていて外と同じ空が狭苦しく囲まれている。

その空間は研究所の開設当初から喫煙する者が続出し、禁煙の貼り紙でなく灰皿が設置されたことで現在はすっかり喫煙家たちの憩いの場と化していた。

そんな歴史は露知らず玄関へ行くドブネズミはちらと見えたその穴の底のような空間に全く興味をもたず、淡々と歩を進めていった。

玄関に着くとマイは大声を張って確認を促す。

 

マイ「よし、調査行程の最終確認をするぞ」

 

ドブネズミ「はい。まずは研究所を出てすぐ左を向いて、山を右手に見ながら進む。海岸が近くに見えてきたら、山に向かう。高い木がなくなってきたら、岩石地帯まで登って手頃な石を拾う」

 

マイ「そうだ。岩石地帯の露出した石はサンドスターを含んでいるかもしれない」

 

アフリカゾウ「それで、また山を左に見て進んで、となりの砂漠のエリアにいく。砂漠に入る前に水場を探しておく。砂漠では砂を取ってくる。隣のサバンナ・水辺・高山・平原と進んで、それぞれセルリアンを倒せたら石をひろって戻ってくる」

 

ドブネズミ「各地でフレンズと知り合っていくのは新しいフレンズであるわたしのやることだな。アフリカゾウがみんなを知ってるとは助かるよ」

 

アフリカゾウ「ありがと。みんなの顔を見に行くのは私も楽しみにしてるし、ドブネズミちゃんをみんなに紹介できるなんて夢にも思わなかったから早く行きたいね」

 

マイ「それは良かった。でも早く行きたいなら確認をすませようか」

 

アフリカゾウ「うん、そうだったね。あ、一つ気づいたんだけど」

 

マイ「うん?」

 

アフリカゾウ「石をひろうって言われたけど、石なんて倒すとき砕け散っちゃうんだよね…。石が残らなくて取ってこれなくてもいいの?」

 

マイ「そうなのか。弾けたあとの欠片くらいは残っているんじゃあないかとは思ったが、サンドスターに変換されて完全に消えてしまうのか。セルリアンを捕獲して直接実験出来れば良いんだが、機械の攻撃が通じないという性質上、フレンズでなくては手に負えない奴らを調べるためにフレンズに依頼するしかない。おっと、長くなって悪い。要するに、何かセルリアンの手がかりさえあればいいということだ」

 

アフリカゾウ「りょうか〜い」

 

ドブネズミ「なあ、一通り物は有るみたいだし、やることも分かってるからもう行かねえか?」

 

アフリカゾウ「そうだね、じゃあもう行こう!行ってきまーす!」

 

マイ「気をつけてなー。セルリアンと無理に戦おうとしなくていいんだぞー。見たことを後で言ってくれればいいんだからー」

 

ドブネズミ「わーってるよ、わたしでもそんくらいわかるって」

 

後を見て手とマフラーを振るアフリカゾウを見て、危なっかしいと思いながらも自分も手を振りたくなっていた。

門を出て指示どおり左に行くと丘になっていて、上から研究所見渡せるようになっていた。

ドブネズミは振り返り見回してみると、青空の下に広がる研究所の敷地が前の自分の縄張りと比べて少し広いんじゃあないかと思い、ここを丸ごと自らの縄張りとするには骨が折れるだろうな、などと考えた。

一方アフリカゾウはこれからの旅路で再会するであろう各地のフレンズとの思い出に浸りつつドブネズミを安全に導こうという決意にみちていた。

 

アフリカゾウ「どうしたの、ドブネズミちゃん?」

 

ドブネズミ「研究所をこうやって見渡したことはなかったなと思って、やってみたんだ。居たのは短い間だったけど、なんだか懐かしくなってきた」

 

アフリカゾウ「なるほどぉ〜、わかるよその気持ち。こうやって上から見てみたのって、初めてかも。いいニオイもしてきたし、ちょっと惜しくなってきちゃうね」

 

ドブネズミ「…でも何か考えてずっとここに立ってるより先に進んだ方がましだな!行くぞアフリカゾウ!」

 

アフリカゾウ「え?ちょっとっ、それはそうかもだけどっ、そんなに急がなくていいってぇーーーっ」

 

二人が丘を駆け下り、平地に出てからラッキービーストを発見して立ち止まったのはそれから十数秒後のことだった。

 

 

【挿絵表示】

 

アフリカゾウとドブネズミ(虫喰いでない)

 

←to be continued…/\┃



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200キロの旅 その①

二人は乾いた草原を歩いていた。

緩やかな丘を越え自分たちの身長の何倍も高い岩がそびえる乾いた景色を飽きるほど見ながら、ひたすら進んでいた。

ドブネズミは歩けど歩けど代わり映えしない景色より水がないことが心配になり話を切り出した。

 

ドブネズミ

「なあアフリカゾウ、海ってこんなに遠かったか?」

 

アフリカゾウ

「そんなハズないとおもうんだけど…」

 

ドブネズミ

「太陽がもう真上に来てるのにずっと平地が続いてるなんておかしい…

こりゃあ迷ったな」

 

アフリカゾウ

「ねぇ マイに相談してみない?」

 

ドブネズミ

「わたしはそれはやめたほうがいいと思う。

全域の地図といって当てにならねえ物を渡してきたアイツを頼りにするのか?」

 

アフリカゾウ

「きゅっ、急に何てこと言うの?!」

 

ドブネズミ

「言ってただろ?直接は話せないかもしれないとかって」

 

アフリカゾウ

「それだったら、ドブネズミちゃんが持ってるソレなら直接話せるよね」

 

ドブネズミ

「…そうだった。

いきなりピンチっぽいし呼んでみなきゃな」

 

ドブネズミは腕につけた通信機で通信を試みた。

 

ドブネズミ

「ドブネズミだ。主任につないでくれ」

 

通信管理員

《調査行動中のフレンズさんたちですね。すぐお取次致しますので少々お待ちください》

 

ドブネズミ

「今のは…」

 

アフリカゾウ

「マイの代わりに出るっていう人だね」

 

マイ

《代わった、マイだ。早速なにかあったというのか?》

 

ドブネズミ

「そうだ。

わたし達は今かなり困ったことになってる」

 

マイ

《困ったことだと?状況を説明してくれ》

《どこまで歩いても同じような景色?山にも近づけない?》

 

ドブネズミ

「ああ。ボスも他のフレンズもいなくてお手上げだ。」

 

アフリカゾウ

「ほんと!いっぱいもらったジャパリまんもなくなっちゃうよ!」

 

マイ

《いっぱい貰った…

そういえばジャパリまんじゅうを持たずに出発させたな。

ジャパリまんじゅうの補給は現地で十分だろうと思っていたが、

想定外のアクシデントがあるようだな》

 

アフリカゾウ

「私たちはどうすればいい?」

 

マイ

《山に近づけないと言ったな?

山のような大きいものは多少場所を変えて見ても、

見た目の大きさが変わりにくいということがある。

歩けば近づけるはずだからもし、本当にそれだけならば心配はいらない》

 

ドブネズミ

「それだけなら?何かあるのか?」

 

アフリカゾウ

「不安になってくるね…」

 

マイ

《今からいうことは事実だ。

君たちの裏でてんやわんやしてて

言いそびれてしまって申し訳ないが、

これは重要な事柄なのだ。

心の準備はいいか?》

 

ドブネズミ

「なんだ?そんなにマズイことなのに今更言うのか?」

 

アフリカゾウ

「しょうがないでしょ!

どんなことでも受けいれるから教えてくれない?」

 

《ああ。それじゃあ言おう。

君たちは『悪魔の手のひら』に迷い込んだかもしれない。》

 

ドブネズミ

アフリカゾウ

「「悪魔の手のひら?」」

 

《悪魔の手のひらとは移動する過酷な土地で、

どこからか突然現れては去っていく。

迷い込むと水も食料も尽きて

助けも呼べずに干からびる。

特徴は反った柱状の岩盤が

くぼんだ土地の方を向いて集まっている

というものらしい。

それが大きな手にでも見えるからそう呼ぶんだろう》

 

ドブネズミ

「そうか。そんなものは見てないが」

 

アフリカゾウ

「私も同じ。そんな変なところには行ってないけど」

 

《そうか。先程言ったのは例えば

砂漠のような気候の場所のみの出現例なのかもしれない。

つまり、形を変えて出現したかもしれないということだ》

 

ドブネズミ

「なに?

じゃあ一体なぜそんなことが判る?」

 

《この島でフレンズが提供してくれた、

目撃情報にある場所が悪魔の手のひらの性質と一致したのさ。

つまり姿を変えて出現している可能性が高い。

しかし情報がまだ少ないために

外見上の見分け方が確立できていない》

 

ドブネズミ

「おい、一つ重要なことをこちらから聞くぞ」

 

《なんだい?》

 

ドブネズミ

「こうなることをわかっていながら、

わたし達や他のフレンズ達を外に

居させているのはどうしてなんだ」

 

《それは島の環境とセルリアンの調査、それだけだ》

 

ドブネズミ

「それだけか?

フレンズがこの島で暮らす意味はなんだ?

悪魔の手のひらとセルリアンに

何か関係があるからなのか?」

 

《………》

 

アフリカゾウ

「…ドブネズミちゃん、

またあとで聞かない?」

 

ドブネズミ

「そんなに…

そんなにアフリカゾウは自分のことがどうでもいいのか?

わたしにはこのまま引き下がりたくない」

 

《悪いが、本当にこれだけだ。》

 

ドブネズミ

「そういうことにしておこう。

今わたし達にできることといえば、

この悪魔の手のひららしき場所を抜け出すことくらいだろうからな。

納得いかないのを抱えているのは癪だが、

切り替えていくしかないんだろう」

 

《一先ずは受け入れてくれたようだね。

ひとつセルリアンの情報を教えておこう。

島のフレンズがくれた情報だ。

少し目を離している間に隣にいたはずの

フレンズがいなくなっているということがあるのだそうだ。

突然、何の予兆もなく姿も匂いもなくなってしまう。

でも、何かがいるのは間違いないだろう。

それでは失礼する》

 

ブツッ

 

ドブネズミ

「切れたか…

アフリカゾウ 行くぞ」

 

アフリカゾウ

「…ちょっとまってよッ

さっきの話はさ、

マっ、マイが隠し事してたってこと?」

 

ドブネズミ

「わたしはそうだと思う」

 

アフリカゾウ

「そんなこと…」

 

ドブネズミ

「こんなことが有ることはわたしも知らなかった。

出発する前に全部説明するとは言われていないし、

それに承諾してここまで自分で歩いてきたんだ。

おまえ自身の責任を取るためにマイが何をやってるのかを突き止めた方が理解するにはいいんじゃあないか?

本当はわたしがアイツのことを知らんから

調べたいだけなんだが」

 

アフリカゾウ

「マイのことならひとつわかるけど、

あなたとおんなじように私をフレンズにしてくれたことくらい。

あなたは死体だったとかって言われてたみたいだけど、

私も初めてこの体で目覚めたときは変な感じのこと言われたっけなぁ」

 

ドブネズミ

「何!?なんて言われたんだ!?」

 

アフリカゾウ

「えぇっとぉ、たしかね、『君は一本の牙(キバ)だった』?」

 

ドブネズミ

「一本の牙か…牙だって?」

 

アフリカゾウ

「うん、長くてするどい歯だよね、牙ってさ」

 

ドブネズミ

「そんなおっかねーもん持ってるやつはわたしも知らんから、調べてみるか。

アフリカゾウのこと」

 

アフリカゾウ

「私のこと?」

 

ドブネズミ

「いや、前のおまえって言った方がいいか」

 

アフリカゾウ

「前の私のことは、わたしもちょっと知らない…」

 

ドブネズミ

「いい機会だ。調べようじゃあないか。

アフリカゾウのことも、フレンズやセルリアンとは何なのかということも」

 

アフリカゾウ

「そうかなぁ?」

 

ドブネズミ

「いや、奇妙なヤツが現れていきなり

そいつは敵だから戦えって言われたり

お前はフレンズだって言われたらそう思うだろ」

 

アフリカゾウ

「そう?だったら研究所にいてあそこの

みんなの話を聞いたほうが

すぐフレンズとかセルリアンとか

がわかるんじゃないかなぁ」

 

ドブネズミ

「いや、あそこにいたときは

言いづらかったけど

人の近くに長く居たくないんだ。

前世の記憶っていうとおかしいが、

この姿の前のことを思い出すからな」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃんは憶えてるんだ…

私は何も憶えてないんだよ。

この姿の前のことはマイに写真で見せられてわかったんだよね。

あ、実は持ってきてるんだった」

 

アフリカゾウは『毛皮』のポケットから平べったい何かを取り出す。

 

ドブネズミ

「何だ?それ」

 

アフリカゾウ

「写真だよ。このコが『アフリカゾウ』。このコは私じゃあないけどね」

 

それにはドブネズミの見たこともないところにいる、見たこともない動物が写っていた。

 

ドブネズミ

「でもコイツもアフリカゾウっていうんだろ?」

 

アフリカゾウ

「うん。ゾウっていうのは、こんなふうに鼻が長いものなんだ。

今の私の鼻は長くないけど、代わりにマフラーが動くみたい」

 

ドブネズミ

「いいよなぁそのマフラー」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃんはさ、マフラーじゃなくても

尻尾が長いんだからいろいろできないの?」

 

ドブネズミ

「それとこれは別モンだろ。

それの先っぽは2つに別れてて、

閉じたり開いたりするから何かを掴めるんだろう。

この尻尾もそうなっていれば、同じことができるかもな」

 

ドブネズミは自分の尻尾を持ってアフリカゾウの尻尾とはっきりと見比べてみようとした。

 

ドブネズミ

「なあアフリカゾゥ……?」

 

ところが、振り返ってもアフリカゾウの姿は見えない。

 

ドブネズミ

「アフリカゾウ!!どこにいるッ!!?

突然消えるなんておかしい!

なにかがヤバい!!

既にわたしたちは襲われているのかッ!?」

 

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???「『アフリカゾウ』ト言ウノカ、コノフレンズハ…

既ニオマエモ我ガ術中ニ落チテイル…」

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〈←to be continued…_ /\┃



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200キロの旅 その②

前回の虫喰いでないフレンズ

マイの依頼で調査に赴くドブネズミとアフリカゾウ。

しかし、立ち入るだけで死の危険がある土地がどこにあるかわからないと後から告げられ、ドブネズミはマイに不信感を募らせる。

二人は歩きながら暇つぶしに喋っていたところ、突然アフリカゾウが姿を消したのだった。

ののののののののののののののののののの

キャラクター紹介
名前:ドブネズミ
年齢:?(フレンズ化してから約1日)
生年月日:?

好きな食べ物:肉類全般
嫌いな食べ物:ネズミ駆除用毒餌などの罠の餌

好きなこと:肉を食うこと。生きる意味を見出したような気持ちになるから。
嫌いなこと:食事の邪魔をされること。されると不機嫌になる。

スタンド:ラット
破壊力:Bスピード:C射程距離:D
持続力:B精密動作性:E成長性:C
(A-超スゴイ、B-スゴイ、C-人間並み、D-ニガテ、E-超ニガテの5段階)
スタンドさえ溶かす弾を撃ち出すスタンド。
命中したものはドロドロに溶かされる。
弾は跳弾が起こるくらいで、基本は物理法則を無視してまっすぐ飛ばせる。

スタンドヴィジョン(スタンド像)
一つ目の機械的な怪物の顔のような部分が前面にあり、その裏側に砲身が伸びる。
そこ以外も、全体が機械的なデザインになっている。
台があり砲身を180°回転させられるようになっている。
砲身の上にスコープがついている。
砲身の裏がちょうど一つ目の目のようになっている。
覗くときは顔の部分を裏返し砲身を前へ向けることになる。
顔の部分の裏側には撃鉄があり、発射時にはこれを撃つ。
何発も連続で発射することが可能。(原作にて8発まで連射しているシーンがある)

フレンズ化の恩恵
ヒトの体を得たことでサイズが大きくなった。
また、それにより相対的に射程距離が伸びた。



ドブネズミ

「何があってアフリカゾウがいないのかわからんが、話の流れであいつがわたしの見えないところにいくとは考えられんし…」

(それほどアフリカゾウとの付き合いは長くないからエラソーな事は言えんがね)

 

ドブネズミ

「さて、どうしたものか、マイの言うとおりになっちまった。

フレンズがいなくなっていることを知っているというのは、フレンズから聞いたのか?

その隣から居なくなったと言ってきたフレンズが無事なのは、そいつだけ逃げ果せたからなのか?

仲間を見捨てて自分だけ逃げるなんてことがあるなんてことを考えたくはないが、アフリカゾウが無事かどうかだけは知りたい。

仮にこれがセルリアンの攻撃としても、あんだけノロい奴等がいきなりフレンズを連れ去るなんてことが奴らにできると思えない。

だが、その可能性を捨てるなんてことはわたしにはできない。

わたしはアフリカゾウを見つけだして、また案内して貰わなくてはならないからな」

 

意を決して、ドブネズミは匂いを探し始めた。

アフリカゾウの匂いがどこから流れてくるかを、四つん這いになったりつま先立ちになったりして探す。

 

ドブネズミ

「ニオイではわからん……………

ニオイで気づかれないように風下から襲ってきた可能性があるな。

風下の方向には、ちょうどでかい岩山がある。

目立つあそこが一番クサいな……」

 

視力をラットのスコープで補い、遠くを眺めて観察した。

すると、なにやら怪しいものが岩山の崖に張り付いている。

 

ドブネズミ

「鳥の巣のような台があるな。

その上のあれは、丸いカプセルのような……

中にいるのは、もしかしてアフリカゾウか?

なぜ何もしない?『何もできない』のか?

助けるなら行くしかねえが、何かありそうだな。

用心しとこう………」

 

ドブネズミは岩山へ向かって歩きだした。

それを上空の真上から観察する者には気づかないが、ラットを出して周囲を警戒する。

 

︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽

 

???「アレデハヤリニクイナ…

ダガ、コチラニハ気ヅイテイナイヨウダシ、問題ハ無サソウダ」

 

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ドブネズミは、いつの間にか高く宙に浮かされていた。

見回すと、妙なのが自分を包むカプセルを掴んでいる。

 

ドブネズミ

「こいつは都合がいい…

歩く手間が省けた。

落ちて怪我するのもアホらしいしな。

アフリカゾウもこうやってこいつに抵抗できずに連れ去られたわけか…」

 

目と鼻の先にいる敵の攻略方法を考えていると、アフリカゾウの近くに『置かれた』。

『置かれた』というよりは『放られた』というほうが正しいと言えそうなくらい雑に投げられたため、ドブネズミは中で何回転かしたため暫く目が回っていた。

自分たちを連れ去った者がそこを去ったのを見届けると、アフリカゾウの様子を見る。

カプセル中では膝を抱えていたが、ドブネズミが来たのを見つけるとこちらを向き話しかけてきた。

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃんも…ここに連れてこられちゃったんだね………」

 

ドブネズミ

「あぁ、まんまとやられた。でも、わたしははじめからそのつもりだった」

 

アフリカゾウ

「えっ………どうして?」

 

ドブネズミ

「このセルリアンを倒す必要があると思ったからだ。

マイが突然居なくなったフレンズがいると言ってたのは何故だと思う?

それはフレンズがセルリアンに襲われたからだ。

セルリアンがフレンズを襲うなら倒すだけだと言ったのはアフリカゾウもだろ?」

 

アフリカゾウ

「そうかもだけど……

この丸いの、殴っても殴ってもびくともしないよ。

なんだか力も出ないし、ここからすぐに逃げたほうが良さそう」

 

ドブネズミ

「捕まったら入れ物を壊そうとすることまで対策済みということか。

アフリカゾウの力でも無理なら『溶かす』しかないわけだな」

 

ドブネズミはラットを発現させ、壁に弾を撃ち込んだ。

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃん、もしかしてわざと捕まってここに来ちゃったの?」

 

ドブネズミ

「そうじゃあない、敵がわたし達を捕まえるなら同じところに持って行くと思ったからだ。

ふっ。

アフリカゾウが捕まってるところに行くならこれが手っ取り早いし、敵が集まってくるならまとめて溶かしてやればいい。

よっと。出られた。

アフリカゾウの方も溶かしてやる、待っててくれ」

 

アフリカゾウ

「うん……」

 

ドブネズミ

「よっ……!?」

 

ドブネズミはカプセルから足を踏み出したところの感触に違和感を覚えた。

 

ドブネズミ

「『巣』に脚が沈む…っ

硬そうな見た目だったのに…

それに、足をがっしりと掴まれているみたいだ…

抜こうとすると固くなって動かなくなるっ………」

 

アフリカゾウ

「なんだったかな、そういうもののこと…

足元をさ、溶かして柔らかくすれば抜けるんじゃない?」

 

ドブネズミ

「そうかもな、そうしよう」

 

アフリカゾウ

「どう?」

 

ドブネズミ

「んんん、一発じゃあ足りないみたいだ。3発くらい追加してみるか」

 

(ギャーーーース!)

 

ドブネズミ

「なんだ?」

 

アフリカゾウ

「あれ、何だろう…?」

 

ドブネズミ

「こいつはこの巣の主か?

さっきわたしを持ち去ったやつに似てるな。

まさか、探すまでもなくあちらから来てくれるとはな」

 

アフリカゾウ

 ・・

「また閉じ込められたりしないかな…?」

 

ドブネズミ

「わたしはコレに捕まってる。

     ・・

この状況でまたカプセルに閉じ込めてくるのか?………」

 

(ポコン)

 

アフリカゾウ

 ・・

「またそうなっちゃったね…」

 

ドブネズミ

「………

足はなんとか抜け出したが…

振り出しか。

巣の一部が足にくっついて来てるが」

 

アフリカゾウ

「うへぇ〜」

 

ドブネズミ

「閉じ込められてても会話できることは幸運だったかな?

とにかく、あいつの攻撃を受けないようにしないと何度でも閉じ込めてくるだろうな」

 

現在ドブネズミは右足に『巣』の一部が付着している。

巣は速く力を加えると固くなりゆっくり力を加えると液体のようになるダイラタンシーの性質を持っていたが、カプセルが置かれている分には固いままだった。

物が置かれているのならそこにゆっくりとした力が加わっているはず。

そこに、ドブネズミは疑問を抱いた。

 

ドブネズミ

「わたしが足を踏み入れたときと、そうでないときとは何か違いがあるのか…?」

 

アフリカゾウ

「あっ、ダイラタンシーだ!

マイが作ってくれたんだよね、あれ」

 

ドブネズミ

「ダイラタンシー?」

 

アフリカゾウ

「手を入れると固くなるけど、持ち上げると水みたいにサラーってなるやつだよ」

 

ドブネズミ

「そうか。この土台がそのダイラタンシーになるのは、足をいれたときだけだった。

ここにある破片でも確かめてみるか」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃんが羨ましいよぅ…

すごくヒマなんだけどぉ…

それをコネるだけでも楽しそうだなぁ…」

 

ドブネズミ

「そ、そうだったな。

アフリカゾウ、なんでかわかるか?

ダイラタンシーがこんなことになるワケ」

 

アフリカゾウ

「確かに、なんでだろ?」

 

ドブネズミ

「そこは教わってないのか…

ム、ダイラタンシーが粉っぽくなってきたぞ。

粉と水が混ざってたのか?

この辺は水なんて流れてないから水じゃないかもしれないが」

 

アフリカゾウ

「水……そうだ、マイは片栗粉と水を混ぜてたんだ。思い出した」

 

ドブネズミ

「ふぅん、なるほど。

カタクリコというのはなんだか粉っぽいものということまではわかった。

さてと、上のヤツはいなくなったみたいだな。

今度こそアフリカゾウも一緒に出してやる。

フルパワーでラットを撃ち込んでやる」

 

アフリカゾウ

「足元のことは?」

 

ドブネズミ

「出なくてもいい方法を思いついたんだよ!

コレから抜け出してから、またダイラタンシーとかの話をしてくれ!

『ラット!』」

 

 

アフリカゾウ

「うわぁ〜。キレイに開いたね」

 

ドブネズミ

「よく考えても見れば、さっきは完全にカプセルから踏み出したから再び閉じ込められたんだ。

つまり上半分だけ外せば外に出たことにならずに助けられるわけだ」

 

アフリカゾウ

「ふんふん、なるほどぉ」

 

ドブネズミ

「実際、さっきのすぐ戻ってきたとき上半分を外しかけてたのに何もしなかったしな」

 

アフリカゾウ

「そうだっけ?まあいっか」

 

ドブネズミ

「アフリカゾウ、壁面を溶かすときなんとかしてそっちのカプセルを回してくれ。

それと、ラットは威力の調節ができない。

だから、撃つときは言うから穴を空けても当たらないように後ろ側に寄っかかっててくれないか?」

 

アフリカゾウ

「わかった。頑張ってね!」

 

ドブネズミ

「ああ。じゃあいくぞ」

 

ドブネズミはラットを出現させ構えた。

アフリカゾウは支持通り後ろに寄りかかりながら待つ。

二人は何も起こらずラットが壁を溶かすと期待していた。

そして次の瞬間に、それが裏切られたのを理解した。

 

(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……)

 

ドブネズミ

「な、なんだ!?また邪魔が入ったか!?」

 

アフリカゾウ

「今度はなにィ〜〜〜!?」

 

ドブネズミ

「足元から揺れ動いてるッ。何かこの下にいるのかもしれない」

 

アフリカゾウ

「下ぁ?」

 

ドブネズミ

「そうだ、下だ。何がいるのか調べるには……」

 

(ずごごごごごごごごごごご!!)

 

ドブネズミ

「しばらく掛かりそうだと言おうとしたんだが、なんの苦労もなくわかったなっ。

今、巣の回りが盛り上がってきてわたし達を下から包み込もうとしているところから確信できる。

敵は『巣と土台そのもの』だったんだ!

最初からわたし達の足元にいたんだ。

わたしの脚にくっついたのはコイツの上の部分なんだろう。

異変を感じ取って動き出したといったところか?

ラットを撃ち込んだから、それが効いてるかはわからんが何も感じてないことはないはずだしな!」

 

アフリカゾウ

「『アフリカゾウ』でもこんなにおおきくない…

どうやってこんなのと戦うの…」

 

ドブネズミ

「このままだと二人とも、コイツに取り込まれて吸収される!

わたしが『撃ち込ん』で、おまえが『打ち込む』んだ!それしかない!」

 

アフリカゾウ

「そうだよね…そうするしかないか」

 

ドブネズミ

「いくぞ!『ラットォーーーーッ』!!」

 

アフリカゾウ

「パオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

 

ドブネズミはできる限り休みなくラットを撃ち込み、アフリカゾウはカプセルの下を野生開放して拳で連打した。

ラットの溶解弾はカプセルの底を破り奥へと溶かし進み、アフリカゾウの拳打の衝撃はカプセルを貫通して伝わる。

やがて猛烈な打撃と溶解弾の応酬に耐えきれず足元の巨大セルリアンは

 

(グゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!)

 

という断末魔と共に

 

ぱっか━━━━━z_____ぁぁぁん!!

 

と破裂した。

 

サンドスターの結晶とラットに溶かされたドロドロの残骸が拡散し、二人は吹き飛ばされる。

半分になったカプセルに乗っていたドブネズミは反転しないように押さえつけ、アフリカゾウは着地の衝撃に備えて構えた。

ドブネズミは、着地してすぐ裏返しになり半球状のカプセルが被さってきたのでラットを立てて頭を守ろうとしたが、結局転げて頭を打った。

アフリカゾウは、回転がかかっていたため何回か体を内壁にぶつけ中で回されながらもなんとか止まることができた。

 

ドブネズミ

「ぁっ……痛ぁッ……まあっ、生きてるだけいっか」

 

アフリカゾウ

「っはーーっ、疲れたぁぁぁ。まわりがぐるぐるして動けないぃぃぃ。首も痛いしぃぃぃ……」

 

二人は後に着地のとき無傷で済ませることができなかったものの同じ方向に飛ばされていたため、生還したことを喜びあった。

 

︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽

 

???「『フレンズ』ノ『スタンド使い』ヲ捕獲出来ナカッタカ…

コレデハマタ新タナ『スタンドセルリアン』ガ必要ダナ…

成功シテイタトシテモ、喰ワレルンジャア意味ガ

ナカッタヨウダガ…

次ハモット上手クヤレソーナヤツヲ…」

 

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←to be continued…  /\┃




オリジナルスタンド紹介

スタンド名:200キロの旅
破壊力:Eスピード:A射程距離:A
持続力:A精密動作性:E成長性:E
特徴:足の指が長くなった鷲のようなスタンド。
能力:上空を旋回して対象を見定め、急降下して接近し瞬時に継ぎ目の無いカプセルに対象を閉じ込める。
カプセルはこのスタンドが接近しただけで生成されるため防御は困難。
対象を入れたカプセルを足で掴み任意の場所に運べる。
カプセルは衝撃を外に分散するため破壊には工夫が必要。

今回のスタンドはセルリアンが使用していたため自分の上にカプセルを落とすようにしていた。


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一日目・夜

 

ドブネズミ

「わたしだ。マイはいるか?」

 

《コノシマ所長ですね?接続致しますので少々お待ちください》

 

ドブネズミ

「ああ、よろしく頼む」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃん、りちぎだね」

 

ドブネズミ

「リチギ?なんだそれは?」

 

アフリカゾウ

「礼儀正しいっていうか、真面目っていうか」

 

ドブネズミ

「良いのか、それは」

 

アフリカゾウ

「良い、んじゃあない?」

 

マイ

《わたしだ。なにかあったのか》

 

ドブネズミ

「マイか。単刀直入に言う。

セルリアンと思われる敵の襲撃に遭った。

率直に、敵はスタンドを使っていたと考えられる。

そいつはさっき二人でたおしたから、もうここら辺のフレンズが襲われることは無いだろう」

 

マイ

《ふむ。では何故、スタンドを敵が使っていたと言える?》

 

ドブネズミ

「わたしには見えた敵がアフリカゾウに見えていなかったからだ。

能力は破壊不可能のカプセルに閉じ込める能力だったとみている。

わたしのラットにかかれば溶かせない物はないから脱出できたが」

 

アフリカゾウ

「ほんと、ドブネズミちゃんが来てくれなかったらどうなってたか」

 

マイ

《そうか。無事なら良かった。取り敢えず、襲われてから今に至るまでの経緯を話してくれ。敵のスタンド能力が本当にそれなのかこちらで判断したい》

 

ドブネズミ

「なるほど、そういうことなら面倒だが仕方ないか…」

 

 

ドブネズミ

「二人で足元にいたデカいのを撃ちまくったら、弾け飛びやがった。

そいつの上にいたから当然わたし達も上に吹っ飛ばされたんだが、その時チラッと空を飛んでた鳥のようなスタンドが消えかかっているのが見えたんだ」

 

マイ

《なるほど。アフリカゾウはどうだったんだ?》

 

アフリカゾウ

「いやもう、ドブネズミちゃんが気がついたらいなくて、突然浮いてて、よくわからない所に持ってかれて」

 

ドブネズミ

「うん?『持ってかれて』?アフリカゾウは鳥のようなやつは見えてたのか?」

 

アフリカゾウ

「え?いや、自分で浮いてる訳ないから何か見えないものがいるんじゃないかなって」

 

ドブネズミ

「想像力がすごいな…

とにかく、それくらいだ。

セルリアンらしいセルリアンは他にいなかった」

 

マイ

《なるほど。それで、飛び散ったという残骸は回収したかい?》

 

ドブネズミ

「あ…倒した後岩山にすぐ行ったんだがな、キレイサッパリ、何も無くなってて回収できなかった。

確かに結構デカい破片が飛んだハズなんだ」

 

マイ

《そうか…まぁ、ご苦労だった。君たちにはこれからも得体の知れない敵が襲い来るだろう。

だが、君たちは必ずや生還しフレンズにも我々ヒトにも有益な情報をもたらしてくれると信じている。

敵は必ずしも向こうから襲ってくるとも限らない。

待ち構えているものだっているだろう。

セルリアンにはそのようなものがいるという報告もある。

そうそう、メモ帳で敵を大体の形でいいから描いておいてくれ。

口頭だけではわからないこともあるしな。

では、失礼する。

二人とも、おやすみ。》

 

ドブネズミ

「おやすみ。」

 

アフリカゾウ

「おやすみ。」

 

ドブネズミ

「…フレンズとヒトってのは何が違うんだ?」

 

アフリカゾウ

「え、なに?」

 

ドブネズミ

「マイがよく言ってるだろ?

いつも、フレンズとヒトを並べているようで分けて考えているみたいな言い方なんだよ。

ヒトとわたしと、区別がつくか?」

 

アフリカゾウ

「簡単じゃん。耳が4つあるよ?

尻尾だって違うし」

 

ドブネズミ

「そうじゃあねーんだが…

じゃあ言い方を変える。

マイが言う『フレンズと我々ヒト』って所は自分がフレンズとは違うから『我々ヒト』なんて言い方をするんだと思わないか?

つまりはヒトとフレンズは何かの立場が違う」

 

アフリカゾウ

「うーん…言われてみれば、そうかも。

フレンズは私の行ったことない所ではヒトに混ざって一緒に暮らしてるってマイが言ってたんだけど、そこのフレンズはヒトに自分がフレンズだって知られちゃあダメらしいし…」

 

ドブネズミ

「なに?何でそんなことを言われた?ホントか?」

 

アフリカゾウ

「いやぁ、私が見たこともないところにいるフレンズっているのかなって思わず呟いたら『知りたいか?』ってさ」

 

ドブネズミ

「アフリカゾウって、そんなに知らないこと知りたいってなるのか」

 

アフリカゾウ

「あぁ、なんにもキッカケが無いわけじゃないと思うよ?

テレビで遠くの見たこともないものとか、アニメとか、かよー番組とか観てたらぱっと浮かんだみたいな?」

 

ドブネズミ

「テレビ…?

あ、アレか。寝るとこにあったやつか」

 

アフリカゾウ

「ええ?ちょっと、きのうの夜中じゅうずぅっと観てたのにおぼえてなかったの?」

 

ドブネズミ

「いや、アレ観ててもテレビって単語はそれほど出てこないから名前ははっきりしなくてもおかしくないんじゃないか?

寝るのも忘れてずっと観てたのは憶えてるよ」

 

アフリカゾウ

「そうだよね、良かった〜。

じゃあ何を見たかは憶えてる?」

 

ドブネズミ

「えっと、何やらピシッとしたやつがこっちと手元を交互に見ながらクソ真面目に淡々と一人で喋ってるやつだろ、それとは対照的に暴れながらワアワアと喚き散らしてるやつだろ、それと…」

 

アフリカゾウ

「まってまって!それじゃあ何を観てたのか伝わってこないよ!」

 

ドブネズミ

「わからんか?

最初はニュースってので、次のザ・ベストソング・ショーってので、言おうとしてたやつの異様にのっぺりしたアニメってのがやってたな。

どれも個性的なもんで、こんなのを楽しんでるヒトのことをちょっとはわかった気がしたんだ」

 

アフリカゾウ

「うん………そう………ふぁぁぁ。

良かったね。

私はニュースは観ないからわかんないや」

 

ドブネズミ

「くっ…ぁぁぁぁ。

そうか。もう眠いし話すのはやめて静かにしとくか」

 

アフリカゾウ

「そうだね。おやすみ。」

 

ドブネズミ

「おやすみ。」

 

二人とも木の下で寝転がっていた。

地面は草などクッションになるものはないが小石が多いわけでもなく、寝付きにくさに体を痛めながらの就寝だった。

夕方になって麓の樹林帯に着いたが、夜にここに入るのは危険と判断したため境目に近いところにいた。

ドブネズミは眠りに就く前に今日のことを振り返るように思い出していた。

敵スタンドを撃破した直後の残骸の石を回収するべく岩山の上へと登ったとき、ラットのスコープで山がある方向を確かめようとした。

すると雲を突き抜けるほど高い山がそびえ立っていた。

アフリカゾウは似たような光景に見覚えがあるようだったが、ドブネズミには馴染みがないため暫くの間はずっと山頂付近を眺めていた。

その後は山へ向かって歩き、暗くなってからようやく現在地に着いて今に至る。

 

ドブネズミ

(アフリカゾウはわたしの知らないところの景色を知っている…

アフリカゾウがいたところはどんなところなのだろう…

そこにはどんな物があるんだろう…)

 

ドブネズミは自身の疲れによって強力になった睡魔をも押し退けて考え事に夢中になっていた。

結局昼前頃にアフリカゾウに揺すり起こされるまで夢をみていたのだが、その夢が今後を暗示していたことに気づくのは少しだけ先の話である。

 

ののののののののののののののののののの

 

ここは二人が旅する島の某所。

二人もまだ知らない、何かがいた。

︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽

 

???「イタ…ミツケタゾ…

ルートカラモ外レテイナイ…

コレデヒトツ、オマエタチヲ試サセテ貰ウカ…」

 

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←to be continued…/\┃



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ハロー!アイドル その①

二人は樹林帯に入っていた。

木は深く茂り、木生シダのような高く伸びる植物が陽射しを適度に遮っている。

アフリカとはことなる温暖な地域に生える植物ばかりの森だが、アフリカゾウは植物をドブネズミに紹介しながら歩いていた。

 

ドブネズミ

「……ふあぁぁぁ」

 

アフリカゾウ

「大丈夫?昼寝してったほうが良いんじゃない?」

 

ドブネズミ

「ん……ここはどこだ?」

 

アフリカゾウ

「大丈夫じゃあなさそうだね。山のふもとの森だよ。リウキウ?ってところと似てるんだって」

 

ドブネズミ

「山か…全然登ってないみたいに見えるが、たどり着けるのか?」

 

アフリカゾウ

「大丈夫だよ!おっきな山はこんなもんだから」

 

ドブネズミ

「そういえば、草原には他のフレンズがいなかったな。まさか昨日倒したアイツ…」

 

アフリカゾウ

「……」

 

ドブネズミ

「いや、わたし達で倒したろ?もう怖いことないだろ」

 

アフリカゾウ

「そうじゃあないの…もう会えなくなってる子がいるかもしれなくて」

 

ドブネズミ

「…そ、そうか。みんながいるといいなぁ」

 

アフリカゾウ

「うん、そうだね。

………? ねぇ、誰かこっちに走ってきてない?」

 

ドブネズミ

「うん…なんか聞こえる」

 

アフリカゾウ

「あ、ハブちゃん!」

 

ドブネズミ

「ハブ?」

 

ハブ

「おーーー!ハムハムできそうなのがいる!

これはもうハムハムするしかない!

おまえ!ハムハムさせろ!」

 

ドブネズミ

「ハムハム!?」

 

アフリカゾウ

「ハブちゃん、何があったか知らないけど、咬みたいなら私を咬んで!」

 

ハブ

「ハムッ!ハムハム……アフリカゾウか?」

 

ドブネズミ

「…………」

 

ドブネズミが初めて見るそのフレンズは尻尾を鷲掴みにしながら咬み付いてきた。

ハブが迫ってきたとき、同じフレンズでありながら逃げ出したくなる気迫を感じた。

押さえられながら尻尾を咬まれているのでなかなか逃げられないが、ただただ『咬むだけ』で危害を加えてきているわけではないしアフリカゾウが相手の名前とそれ以上の情報を知っているようなのでラットでの攻撃をしないことにした。

 

アフリカゾウ

「遅かった…ドブネズミちゃん、その子はハブっていうの。

ヘビのこみたい。

ハムハム〜って何か咬むのが好きなんだけど、前会ったときはこんな感じに咬んでくる子じゃあなかったの……」

 

ドブネズミ

「なんでまた、そんなことになったんだ?」

 

アフリカゾウ

「わからないよ…なんでこんなことになってるか教えて、ハブちゃん?」

 

ドブネズミ

「ああ、そうしてくれるととても助かる」

 

ハブ

「ハムハム…わかった。

アフリカゾウの友達のようだから教えよう。

ハブは今空腹のどん底にいる。ハムハム。

近頃ボスが現れなくてな。ハムハム。

ずっと探してたんだ。ハム。」

 

アフリカゾウ

「そうなんだ………」

 

ドブネズミ

「じゃあ、わたしをこうしているワケは?」

 

ハブ

「ハブはそれほど食べなくても問題はないがな。ハム。

ちょっとボスが来なさすぎる。ハムハム。

ハムれるものといえば他のフレンズくらい。ハム…ハム。

じゃぱりまんはハムりがいがあるけど、ノドゴシをたんのーすることもセットでできるのがダイゴミなことを思い出して空腹が加速しているんだ。ハムッハムッ」

 

アフリカゾウ

「そーだよね、ハブちゃんも一回まとめて食べたらずっと食べなくていいんだよね。ダイエットしなくていいんだもんね……」

 

ドブネズミ

「……ボスが来ない……?なるほど。そろそろ離してくれないかな?

このまま咬まれ続けるわたしはマトモに見動きがとれないんだ」

 

ハブ

「ふ、もういいだろう。ではハブからも質問するぞ。おまえはドブネズミと言ったな。アフリカゾウと知り合いなのか?」

 

ドブネズミ

「まあ、そうだな…っ」

 

アフリカゾウ

「ふふふ、そうなの。ドブネズミちゃんのお友達第一号だからねっ!ドブネズミちゃんは、たぶん照れてるだけだから」

 

ドブネズミ

「……そ、そうだ…」

 

ハブ

「ふむ。どうやら本当のようだな」

 

アフリカゾウ

「えっとさ、詳しいことはこんなとこじゃなくて、落ち着けるところに行ってから話さない?」

 

ハブ

「それもそうだな。付いてこい。ハブの住処に行くぞ」

 

ハブを加えた三人でハブの巣穴へ行くことにした。

ハブの巣穴は入り口も通路も狭く、ドブネズミとアフリカゾウが入るときに支えてしまい無理に通った。

ドブネズミは穴が狭いなと思い、アフリカゾウはダイエットしたほうがいいかなと思ったが、ハブがスルスルと通れるのをうらやむ気持ちは同じだった。

奥の方には三人で座れる以上の余裕のある空間が広がっていたため、そこで昼食をとることにした。

 

アフリカゾウ

「やっぱり暗いね……でもハブちゃんは見えるんだよね。はい、じゃぱりまん」

 

ハブ

「何!?くれるのか!?」

 

ドブネズミ

「困ったときはお互いさま、だ。

わたし達もちょうど食べようと思ってたところだし、三人で一つずつ食べよう」

(ずっとあんな調子で咬まれ続けるなんて御免だからな)

 

ハブ

「おおお!ありがたいな。まずはしっかりハムるぞ」

 

アフリカゾウ

「ハブちゃん!いただきますしよう!」

 

ハブ

「ハムハ…?そうだな。いただきます」

 

ドブネズミ

「いただきます」

 

アフリカゾウ

「いただきます!」

 

ハブ

「ハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハムハム」

 

ドブネズミ

「アゴの筋肉が疲れそうだな」

 

アフリカゾウ

「フフフッ、ドブネズミちゃんだって食いつきがすごく速かったよ」

 

ドブネズミ

「ああ、わたしはそこにある食べものが、自分ろもろになはないかもしへないかはなッ、はぁ」

 

アフリカゾウ

「噛みながらじゃあわかんないよ〜」

 

ドブネズミ

「食うものが逃げることだってあるだろってことだ。なあハブ」

 

ハブ

「?じゃぱりまんが逃げるのか?」

 

ドブネズミ

「じゃぱりまんのことじゃあないんだけど………」

 

ハブ

「ハブはもう食べ終わったぞ。ハブは食事の後は歯を磨く。あっちで歯磨きしてくる」

 

アフリカゾウ

「いってらっしゃ〜い」

 

ドブネズミ

「歯……そういや、全然伸びてないな」

 

アフリカゾウ

「伸びてない?」

 

ドブネズミ

「ハブの歯はどうなのか知らんけど、わたしの歯は結構伸びるものだったんだ」

 

アフリカゾウ

「へぇ」

 

ドブネズミ

「伸びた歯を研ぐために木とか硬いものを齧るのはメンドーなもんだよ」

 

アフリカゾウ

「他のネズミのフレンズたちは木を齧ってるけど、使ってると伸びるのは気にならないって言ってたっけな」

 

ドブネズミ

「え?……伸びるのか?みんなは……?」

 

アフリカゾウ

「クマネズミちゃんもテンジクネズミちゃんも、ハツカネズミちゃんもヌートリアちゃんも、ヨーロッパビーバーちゃんもガジガジ〜〜〜ッてやってたから、伸びてると思うよ」

 

ドブネズミ

「そうなのか……!? アガガッ!?」

 

アフリカゾウ

「え〜!?スゴい勢いで歯が伸びてる!」

 

ドブネズミ

「わんで……『わ』が言いぐええ…

(なんで  『な』が言いずれえ)

わえわがながくなってう……

(前歯が長くなってる)

とひあへふ、うぃひあふひえーほ

(取り敢えず 短くしねーと)」

 

アフリカゾウ

「???

何て言ってるの?」

 

ドブネズミ

「うぃひあふふうんがお。

(短くするんだよ)

こおかげおいひおかかははごうが?

(この壁の石の硬さはどうだ?)

ガリガリガリガリガリガリガリガリガリ」

 

ドブネズミは丁度よく突き出た石を見つけた。

姿勢を試行錯誤してバランスよく削ろうとしているようだ。

アフリカゾウは、これが異常なこととは思ったが危険が迫っているワケではないと感じた。

ちょうどこの空洞の奥の方から足音がした。

戻ってきたハブだった。

 

ハブ

「…………………」

 

アフリカゾウ

「はぁ………でもなんだか大丈夫そうでよかった。あ、ハブちゃんお帰り。ちょっと早いね。そこのドブネズミちゃんの歯がね、いまさっき急に長く…」

 

足音の方へ振り向くとハブがこちらに近づいてくるのがなんとか見えた。

そこでアフリカゾウは暗闇にも関わらず一見してわかる異変がハブに起こっていることに気づいた。

『野生開放』しているときと同じように光る目。いつものようにキバを見せていない口。

力なく垂れ下がる腕。

そして頭に白いものを付けているのがアフリカゾウには見えた。

 

ハブ

「フシュゥーーー………」

 

アフリカゾウ

「ふしゅーー?なんかおかしいよ…大丈夫?」

 

ハブ

「ギャァアーーーーーースッ!」

 

アフリカゾウ

「ひゃあっ!?」

 

ハブ

「…………アガガッ!?」

 

ハブはアフリカゾウに咬みつこうと飛びついた。

しかし、牙はアフリカゾウに届かない。

ドブネズミが『ラット』を咬ませたからだ。

咬み付いたら放さないのでこれだけで簡単にハブを拘束できた。

 

ハブ

「フゴゴ………ガガガ」

 

ドブネズミ

「さっき…の……わたしと同じ…ようなリアクション……だな。

様子は…さっきのおまえ……とはまるで……違うが。

何……があった?

これが……イタズラなわけが…ない…。

捕食者の……ニオイ…がするからな…。

わたしにまで……敵意が…剥き出しだ」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃん!?苦しそうだけど何で?てか歯は?」

 

ドブネズミ

「この歯は……元通り……にできた…。

ハブ……がアフリカゾウを……襲おうとしてた……みたいだから『ラット』を…咬ませて防いだ。

だが…首の辺りが丁度…ハブが今咬んでるところらしい……。

スタンドが傷つけば…本体も傷つくってわけだ……」

 

アフリカゾウ

「何でそんなこと……」

 

ドブネズミ

「こんくらいは……まあなんとか…。

あまり…長引かれると困るが……。

この状態だと『ラット』も…使いづらいしな」

 

ハブ

「ハムッ……ハムッ…ガッ!」

 

アフリカゾウ

「少しはハムハムしてるみたい……。

でもなんだか荒っぽくていつものハブちゃんらしくない……」

 

ドブネズミ

「ハブは……なぜいきなり…襲いかかったりしたんだ………?」

 

のののののののののののののののののののの

 

とある洞穴の中で、常人には捉えられぬ影が暗躍していた。

ほくそ笑むその邪なる者は身を潜め、目的のため観察に徹する。

︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽

???

「イイゾ……効果ガ現レテイルヨウダ…

コノ狭イ空間デ豹変シタ友ヲ救ウコトガデキルカ、見セテモラオウカ……」

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←to be continued…



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ハロー!アイドル その②

前回のあらすじ
ドブネズミとアフリカゾウは樹林帯に入った
腹を空かせたハブのフレンズに会う

しかしこちらを見つけるなりドブネズミの尻尾を咬んできた

ハブはじゃぱりまんを配給しにくるボスが近頃現れず空腹だったという

落ち着いて話すためハブの家である巣穴に行き、そこでアフリカゾウが丁度3つ持っていたじゃぱりまんを一つずつ三人で食べた

歯を磨くといって巣穴の奥へ行った後戻ってきたハブはアフリカゾウに突然襲いかかった
ドブネズミがスタンドを使い咄嗟に防いだが首が締めつけられる。

ハブの謎の凶行に二人は頭を悩ませるのだった



アフリカゾウ

「ハブちゃんはどうしちゃったのかな………?」

 

ドブネズミ

「アフリカゾウ……ちょっと聞き…たいこと…がある。ハブに…ついてだ」

 

アフリカゾウ

「な、なに?」

 

ドブネズミ

「ハブは……演技力…がスゴいとか…そういうことはないのか?

わたしは…狩りを…する…者のオーラ…というか、ただならぬ…雰囲気を…感じた。

ハブがそれを……意図的に出せるようなやつなら……『ラット』を解除して…謝らなくっちゃあならない」

 

アフリカゾウ

「ううん、そんなことは聞いたことないよ」

 

ドブネズミ

「そっか…。なら、頭に……何か付けている……のが怪しい…な。

見え、るか?」

 

アフリカゾウ

「ハブちゃんの頭?うーん、言われてみればちょっとなにかありそうだね。

でも、なんでこんな暗いのにわかったの?」

 

ドブネズミ

「コウモリほどじゃないが……高い音が出せる。

アフリカゾウには…たぶん聞き取れてないくらい高い音だ。

高い音が跳ね返るのを…聞けば物の位置を測れる。

つっても、まだテスト段階だから…大まかにしかできない。

今回はハブ自身が発した声もあった…お陰で役立ってくれたからよかったが」

 

アフリカゾウ

「へぇ〜!スゴいね!

ハブちゃんも暗いところでも熱いものほどよく見えるって言うから、『見えない』ところで物を『視る』ことができるんだろうなぁ」

 

ドブネズミ

「そうだった…のか。

じゃあ、わたしの位置もハブには見えているのか。

通りでこんなに暗いところに…住んでるわけだ。

そろそろ暗いところに目が…慣れて見えてくるはずだが……このハブの目の明かりが無きゃあ何も見えん」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃんにはその音があるでしょ?

私はどうすればいいの…」

 

ドブネズミ

「この空間は…そう広くない。

横幅は壁際から…5歩くらいしか真っ直ぐ歩けないほどだ。

高さも、ほぼ頭の上スレスレだしな。

壁際を取ってしまえば、前だけ気にしていればいい」

 

アフリカゾウ

「あれ?そういえば…

喋り辛そうにしてたようだったけどもう大丈夫なの?」

 

ドブネズミ

「なんだか慣れてきてね。

息がしやすいようになってきた」

 

アフリカゾウ

「大丈夫かな……」

 

ドブネズミはもがいているハブから離れ、様子を見ることを優先した。

アフリカゾウはハブに近付こうとするがドブネズミに制止される。

 

ドブネズミ

「さてと、コイツを外してみようか。

だが、直接触るのは安全かどうか判ってからだ、アフリカゾウ」

 

アフリカゾウ

「す、すぐ取っちゃいけないの?」

 

ドブネズミ

「今現在の、ハブがおかしくなってる原因であろう物だ。

様子を見てからどうするか決めた方がいい。

この場合は、そうしなければ、わたし達までおかしくされるかもしれない。

そうなったら、わたしはハブに『よろしく』の挨拶ができなくなる」

 

アフリカゾウ

「そうかもしれないけど……言ってなかったの?」

 

ドブネズミ

「咬まれてたからな………

タイミングを逃した。

どうせここには長く滞在できないだろ?

よろしくって行ったところですぐ別れるだろうが、わたしが冷たいヤツと思われるのも癪なんだ」

 

アフリカゾウ

「それあんまり言わない方がいいんじゃ………」

 

ドブネズミ

「そうなのか?

えっと、ここからが肝心だ。

ハブを傷つけずに、わたし達も無事でコイツを外す方法を考えないとな」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃん、確かに何が危険なのかわからない内は下手に手を出さない方がいいと思うよ。

でもね、何かしなくっちゃあ、ハブちゃんはずっとこのまんまでドブネズミちゃんもこのまんまだよ。

私がマフラーでこっそりと取ってあげる。

マフラーなら何かされても私は無事で済むからね」

 

ドブネズミ

「マフラーか…

アフリカゾウがそう言うんなら、任せる」

 

アフリカゾウ

「ありがとう!

さ、大丈夫だから、じっとしててね、ハブちゃん!」

 

ハブ

「───────!!」

 

ドブネズミ

「お、おい!何かヤバいッ!やっぱり離れろ!

ハブは何か『隠し持ってる』んじゃあないかッ?!

『切り札(ジョーカー)』だとか『最終兵器(リーサルウェポン)』だとかのレベルのヤツを!」

 

ハブ

「ウシャァアーーーーーーッ!!!!」

 

ドブネズミ

「うぐうッ!?」

 

ドブネズミはハブの突然発揮したパワーに対応できず、背中側を壁に押しつけられた。

「ラット」とドブネズミは1メートルほど距離があるが、本体であるドブネズミ自身とそのスタンドである「ラット」との距離を固定して拘束していたためにそれが仇となったのだ。

 

アフリカゾウ

「なになにぃ!?なんでぇ!?」

 

ドブネズミ

「アフリカゾウ……!信じられんが、わたしの『ラット』が押されている……!

パワーで……押し負けているんだ!

凄まじい勢いで…解き放たれた力が、スタンドごとわたしを押しているッ!」

 

アフリカゾウ

「野生開放……かな?」

 

ドブネズミ

「野生開放?それがこの力の正体なのか!?」

 

アフリカゾウ

「ハブちゃんの目、光ってるでしょ?

この光ってるのは野生開放のときだけなんだ!

フレンズはサンドスターと動物、動物だったものから生まれるってところは知ってるよね。

フレンズは身体のサンドスターを使ってすごい力を発揮できるんだけど、ちょっとまぶしいくらいに光ってるってことはスゴく危ない状態なんだ。

光る目が明るいほど短い時間でサンドスターを使い切っちゃうかもしれない。

無くなったら、フレンズでいられなくなるの。

サンドスターが無くなっちゃうなんて話はきいたことがないけど、もしものことも考えて、ね」

 

ドブネズミ

「とにかく……ヤバいんだな!

ハブを助けることには依然として変わりなし………!

ちょっと急がなきゃマズいことはわかった…………」

 

アフリカゾウ

「待って!

ドブネズミちゃんもフレンズだからできるはずなの!

そうすれば対抗できるかもしれないの!

『野生開放』すれば強い力が使えるようになるの!

何かこう、『やってやるう〜〜』って念じるとできるから!

成功すればまわりが明るく見えるようになるよ」

 

ドブネズミ

「ね、念じる?こうか?はっ……………」

 

アフリカゾウ

「目が光って………ない?

できてないよ!」

 

ハブ

「フシュウゥゥゥギャァァアーー!」

 

ドブネズミ

「マズい……押される…………

アフリカゾウ!この洞窟から出る準備をしてくれ………

ハブには悪いが、いざとなったら走って逃げないといけないからな………

出口を広げるんだ………

狭いところを削って………

グアァッ!?」

 

ハブはジリジリと近寄り、ドブネズミに圧力をかけていく。

ピッタリと壁にくっついたドブネズミは見えない力に押し潰されそうになっている。

その様子を見て、アフリカゾウは何かすぐやらなくてはという衝動にかられた。

 

アフリカゾウ

「うっ……ううっ

さ、さっき言ったでしょ!

私がそれを取ればいいんだ!

そうすれば終わるんだからね!」

 

ドブネズミ

「ア……フリ…………カ……ゾウ……」

 

ガシッ

 

アフリカゾウはマフラーでハブの頭にかかった異物を弾き剥がそうと近寄った。

すると

 

ハブ

「フゥゥゥゥ!!」

 

と急に振り向き、ドブネズミを吹っ飛ばしながらアフリカゾウを手で払おうとした!!

しかしアフリカゾウは、難なく腕で受け止め、掴んで押える。

片腕が押さえてられて動かせないのでもう片方の腕で攻撃を試みるが、やはり掴まれる。

ハブは声をあげ威嚇するが、万が一ラットが外れたところでまだマフラーという第三の腕が空いているアフリカゾウには脅威とはならない。

だが、ハブは諦めなかった。

とび跳ねて尻尾で身体を支えながら脚を開いて前に出し、アフリカゾウの身体を挟み込む。

ハブがアフリカゾウを挟んで押し倒しながら締め付けて拘束したことにより、状況が逆転し、アフリカゾウの頭の中は真っ白になる。

一方、吹っ飛ばされたドブネズミは少し壁面に背中を削られながらスライドし、壁から離れるとその先にあった向かい側の壁に強く身体を叩きつけられた。

 

アフリカゾウ

「さ……さっきまで私じゃなくドブネズミちゃんを狙ってたのに……

たた、たしか『ピット器官』だったよね………

生きてるものは『視える』って…………

でも、前からしか『視え』ないんじゃないの………?」

 

ハブ

「ガチッ!!───!??」

 

ドブネズミ

「ゲホッゲホッ!!

ピット器官?そんな厄介なもん持ってるのか?

熱が見えるってのはそれか?

まあ、いい。

もう、『ラット』は咬ませている必要は無さそうなんでな、解除させて貰った。

ぶん回されるのも御免だしな。

『ラット』が使えりゃあコッチのもんだ、と言いたいところだが………アフリカゾウ。」

 

アフリカゾウ

「ごめん」

 

ドブネズミ

「あ?」

 

アフリカゾウ

「私が……代わりに押さえてなきゃって思ったの……

あんなに振り飛ばされるなんて……」

 

ドブネズミ

「謝ってる場合かよっ。

お前のがいまは危ないだろ。

もう、それは頭に取り付いた敵だと思っていいだろうな……。

こうなったのは、頭の部分を狙ってたことがバレたからとしか言えない。

さらに、さっきの吹き飛ばされたときだが、ハブは元からスタンドが見えるか見えないか分からんが、咬んでいるものがまるで見えているかのような仕草をしていた。

『ラット』を手で掴もうとしたが『スタンド像』なんで」

 

アフリカゾウ

「ねえ、いい、の?」

 

ドブネズミ

「いいったら。

ハブのこと早く元に戻さないと、だろ?

二人を危険に曝したわたしも不注意だったところがあるだろうしな。

とにかく、ハブには『スタンドが見えている』。

スタンド使いになったのか、はたまたボスに仕込まれた装置の効果のように見えるようになっているだけなのか?

そんなのはどちらでもいいが、要するにラットの攻撃を当てるのが難しいってことだ。

そこで、アフリカゾウに協力してもらいたい。

わたしがハブの気を引いてから『ラット』で撃つために、そのままでいてほしい。

激しく動かれないようにするだけでいいんだ。

引き受けてくれるか?」

 

アフリカゾウ

「わかった…なんとかしてみる」

 

ドブネズミ

「よぅし!」

 

ハブ

「ウギギギギ……」

 

ののののののののののののののののののの

 

︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽

???

「ナンダト…?ソノママ二人トモ倒セルンジャアナイノカ……?

道具形ハ操ル者ガイナイト弱イノカ……。

所詮ハヲ吸収シタダケノ雑魚カ。

ダガ、コレヲ最後マデ見物スル価値ハアリソウダナ。

焦ルコトハ無イ。

確実ニ実行スルノダ」

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←to be continued…



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ハロー!アイドル その③

ドブネズミ

「激しく動かれないようにするだけでいいんだ。

引き受けてくれるか?」

 

アフリカゾウ

「わかった……なんとかしてみる」

 

ドブネズミ

「よぅし!」

 

ハブ

「ウギギギギ…」

 

ドブネズミは再度高音を出して部屋全体を感じ取ろうとした。

 

ドブネズミ

「ハブのことを知っているというなら何か作戦があるはずだ。

アフリカゾウには…」

 

その一方で、アフリカゾウは…

 

なんと!

組み合っていた腕を突然解いた!

まるでハブの攻撃に全く対処しようとしていない!

突然の出来事にハブは

『何も対処できず』

いや、

『何もせず対処しよう』

と腕立ての姿勢でアフリカゾウを見つめている!

 

ドブネズミ

「アフリカゾウ……?しっかりとおさえてくれてるか?」

 

アフリカゾウ

「……………」

 

ハブ

「………」

 

ドブネズミ

「ハブが大人しいようだ…。

大丈夫そうだな。

大きな動きは何も感じられなかった。

念の為、探知を続けながらいくぞ」

 

『ラット』を発現させ攻撃の準備を整えるうちにドブネズミはハブが暴れださないか心がかりであったものの、何も気配の変化はないようで安心した。

 

ドブネズミ

「────そろそろいいか。

『ラット』!

いや…何かおかしい……

『動き』だけじゃない!

『何もない』!?」

 

アフリカゾウ

「えっと、何か問題があったの?」

 

ドブネズミ

「たしかに、そこにアフリカゾウとハブはいるのに!

わたしの『ソナー音』は何にも当たらず壁まで到達し、そのまま跳ね返ってきている!

これではハブの頭を捉えることができない!

まさか、何かしら対策を…」

 

ハブ

「ククククククク」

 

アフリカゾウ

「ハブちゃん!?」

 

ドブネズミ

「ハブ!?」

 

ハブ?

「このフレンズの身体はオレのモノだ!

オレの名は『ハロー!アイドル』!

今コイツの頭に取り付いている!

オレがコイツに出会えたから簡単にお前らにも出会えたぜ!

オレは両方のスピーカーから流す音で取りついたヤツのことを操れるッ!

コイツには、オレの『防音効果』で何も聴こえちゃあいねえのさっ!

お前らの声は届かねーんだぜ!

そして!さっきはそこのネズ公が作戦をベラベラしゃべくってくれたから、簡単に対策できたんだぜッ!

これでお前らには何も打つ手は無い!

もうお前らはお終いだァ━━━━━━━ッ!

ウシャシャシャシャ━━━━ッ!!」

 

ドブネズミ

「何ィ━━━━━ッ!?

テメー聞いてたってのかァ━━━━ッ!!」

 

アフリカゾウ

「そんな……なんてこと……」

 

笑い声を漏らしだしたハブの口からは敵の名が出てきた。

そして、明らかにハブとは異なる声で、調子に乗りながら正体と能力を喋りだした。

ドブネズミはまさか敵に作戦を聞かれていたなんて思いもしなかった。

取り付いている敵が自ら正体を明かしてくれたことなんてことさえも。

一方アフリカゾウは、友を狂わせた悪が間近にいるのを実感し、拳に力がこもる。

 

ドブネズミ

「お前ェェェェェェ!

ハブから離れろォ━━━━っ!!」

 

ハブ(ハロー!アイドル)

「もう遅いわっ!

このハブが持つ毒でお前らをジワジワと…」

 

アフリカゾウ

「なんてことを…するんだ……」

 

ハブ(ハロー!アイドル)

「だから何をしたってもう遅いんだよてめーらは!

必殺の毒をくらえッ!」

 

アフリカゾウ

「私がハブを……ブチのめさなきゃあいけなくなったじゃあないかッ!」

 

ドブネズミ

「アフリカゾウ?まさか、あのときの…」

 

ハブ(ハロー!アイドル)

「なんだと?

このオレをフレンズごとやるってのか?

出来るもんならやってみ

───ガブッ!?」

 

ドブネズミ

「あのときのようにまた、いつもとはまるで違う感じになった……。

『野生開放』して力を使っている。

ハブごと再起不能にするのか?

そんなことわたしにはとても真似出来ない……

『ラット』なしでハブに勝てるなんて……」

 

ハブ(ハロー!アイドル)

「バカなッ…そんなはずは……ブゲァっ!?」

 

アフリカゾウ

「『ハロー!アイドル』とか言ったな。

お前だけを再起不能にする。

この状態なら私にもお前の位置がわかる。

ハブはお前の自由にさせない。

覚悟しろ」

 

ハブ(ハロー!アイドル)

「あり得ない!

オゴォッ!

こんなことが!

ウガッ!……………」

 

アフリカゾウの攻撃に取り付いた敵は全くの無力だった。

激しい攻撃の衝撃により『何か』がハブの頭から外れ、軽いものが落ちる音がした。

 

ドブネズミ

「やった……」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミ、ヤツはもう落とした。

トドメをさせ!

……ハ…ハブちゃん………」

 

ハブ

「……あれ?ここは…」

 

ドブネズミ

「わたしだ、ドブネズミだ。

おぼえてるか?

ここで三人でじゃぱりまんを食べた」

 

ハブ

「ドブネズミ……尻尾はなかなかハムりがいがあったぞ」

 

ドブネズミ

「ハハハ……覚えてるみたいだな。

よかった…」

 

アフリカゾウ

「ハブちゃん……ごめんね……大丈夫?」

 

ハブ

「アフリカゾウ?ハブは歯磨きしてたハズなんだが、何があった?」

 

アフリカゾウ

「その…それがね……」

 

ハロー!アイドル

《チクショオォォォォォッ

オレがこんな単純な攻撃でやられるなんてありえねえッ!

おいおめーら!

オレを忘れるんじゃあねーぞ!

オレはまだ諦めてねえ!

さっきはつい調子に乗ったが全部喋ったわけじゃあねーんだ!

こんな状態のオレでも出来ることはあるんだぜ!》

 

ハブ

「なんか変なやつの声が聞こえるんだが、ハブがおかしいのか?」

 

アフリカゾウ

「大丈夫だよ……。私にも聞こえるから」

 

ドブネズミ

「何を言ってやがる!

既におしまいなのはおめーだけだ!

くらえ!『ラット』!」

 

ハロー!アイドル

《ハァッ!》

 

敵は音波をスピーカーの外へ発し探知を妨害しようとする。

しかしドブネズミは既に対処法を見出していた。

 

ハロー!アイドル

《クバッ………

壁を反射して何かを飛ばしてきたか………

オレが消えていく…

オレはもう終わりかッ!

だがこれで終わりと思うなよ……

オレたちは…》

 

そう言いかけた『ハロー!アイドル』は言葉を二度と発さなくなった。

そして陶器の皿が割れるような音がして、洞穴の暗闇に静寂が訪れた。

 

ドブネズミ

「何かを言いかけたように聞こえた……

おそらく、もう敵は消滅した。

触っても問題ないだろう。

コイツは回収しなくてはならんから、下手に触れないのはじれったかったな。

なあアフリカゾウ?」

 

アフリカゾウ

「よかった……ごめんね………ハブちゃん…」

 

ハブ

「???お?おい?ハブはどうかしてたのか?なんか顔が痛いけど」

 

ドブネズミ

「それは全部説明するよ。ひとまずは、ここを出よう」

 

三人はさっさと穴から脱出して外の空気を吸いに行った。

ハブはあとから意識を回復し状況が飲み込めていなかったようなので状況を説明することにした。

 

ののののののののののののののののののの

 

︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽

???

「信ジラレン…

コレガアノ『アフリカゾウ』ダト言ウノカ……

ソレニシテモ…アイツメ…

余計ナコトヲ言ッテクレテ…

シカモ、ワタシガ姿ヲ見セズニ回収スルノガ困難ニナッタジャアナイカ……

コンナ狭苦シイ空間ニ籠モルハメニナッタガ、下手ニ出テイクヨリハマシダ……

マダ、堪エルトシヨウ…」

 

︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾

 

ののののののののののののののののののの

 

その頃研究所ではマイがコーヒーを啜って休憩しているとニュースに流れてくる。

 

アナウンサー

「ニュースです。

今日の午後1時頃、原因不明の昏睡状態に陥っていた人気アイドルグループの△△さんが意識を回復したとの情報が入りました!

繰り返します!

今日の午後1時頃、原因不明の昏睡状態に陥っていた人気アイドルグループの△△さんの意識が回復したとの情報が入りました!

△△さんは3ヶ月ほど前、音楽番組出演を控えていたところ突然意識を失って以来、芸能活動を休止し治療に専念していました。

しかし、精密検査を繰り返したにもかかわらず、一切原因が判明しないままでした。

△△さんが所属するグループ・○○○は活動を続けていましたが………」

 

研究員A

「△△が?結構長く寝たきりだったけど急に大丈夫になったのか」

 

研究員B

「△△…△△が…戻ってくる……」

 

研究員A

「おい、△△はもう忘れたんじゃあなかったのか」

 

研究員B

「マズいんだ…俺は浮気者だ…前は■■がちょっと気になってるだけと思ってたが、最近は■■のことばかり考えてたんだ…」

 

研究員A

「好きになったんなら誰だって我慢しないでいいだろう」

 

研究員B

「そういうわけにはいかねーんだよ!やっぱり俺は生涯△△推しだァーー」

 

研究員A

「懲りねえか…その方がお前らしいな」

 

マイ

「そうか……そういうことか」

 

研究員B

「な、何です?コノシマ主任?主任も気になるんです?」

 

マイ

「何でもないよ。気にしなくていい」

 

←to be continued…



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夢みるプリンセス その①

 

三人が巣穴から出てきたとき、木々の間から午後の日が差し込んでいた。

ハブは普段この暖かい時間に外に出ることはないが、使っていた巣穴で騒動があってはもう安心して使うことはできないため二人と一緒に出てきた。

 

ドブネズミ

「はぁー………外は開放感が違うな。なんかどっと疲れが出てきたような…」

 

アフリカゾウ

「はぁー……外が眩しいねー」

 

ハブ

「広い外も悪くないな。元はじゃぱりまんが来ないから出ていったんだし」

 

ドブネズミ

「もう敵は倒したし、寝かせてくれないか。

すげー疲れたんだ。じゃぱりまん不足な上にここんところ戦闘続きで身体がエネルギー足りなくて悲鳴をあげてる」

 

アフリカゾウ

「うん、目が覚めるまでここで見てるからしっかり寝てていいよ。おやすみ」

 

ドブネズミ

「ありがとう。おやすみ……」

 

ハブ

「ドブネズミ、おやすみー。じゅるり……はっ」

 

アフリカゾウ

「食べないで!」

 

ハブ

「ドドっ、ドブネズミぃ?安心して眠っていいぞ〜。ハブはドブネズミを食べようだなんて思ってないからな〜」

 

アフリカゾウ

「ほんとぉに〜?」

 

ハブ

「グゥ〜〜……でもほんとだぞ!」

 

アフリカゾウ

「じゃぱりまん無かったんだね……あとで探しに行こうか。

あ、さっきまでの事、話しておかなきゃいけないんだった。

ハブちゃんが離れてからね」

 

ハブ

「そうだな。ハブが歯磨きに行ってから何があったか憶えてないんだ…」

 

ののののののののののののののののののの

 

ドブネズミ

「………おはよう……アフリカゾウ?」

 

─────────────────

 

ドブネズミ

「何事だ?静か過ぎるな」

 

ドブネズミは寝覚め後すぐに敵の襲撃を感知し警戒した。

初めての敵スタンドの襲撃のときと同じく、知らないうちに近くにいた仲間が居ない。

しかし、今回はそれとは全く同じと言えない。

 

ドブネズミ

「コイツは厄介だな……こんどはわたしが初めに瞬時に連れ去られたのか?

あのときは勘が冴えてたからたまたまあってたようなものだ。

これでマイに連絡をとろう。

きっとボスを使ってなんとかしてくれる……

ハッ!ボスだって?

最初からボスが配りに来なくてハブが困ってると言えばよかったのか……

どっちみち連絡はとるから今はまあいいか」

 

ドブネズミは腕の通信端末で通話をするために起動ボタンを押した。

しかし、何も反応はない。

 

ドブネズミ

「なに?なんで使えない?押す力が足りないのか?ふん、ふん」

 

???

「あなた、機械オンチですね?そんなことでは普通解決しません。それに、ここには電波は来ていませんわ。使えないのは当然です」

 

ドブネズミ

「なに!?!?

何者だッ!?

いつからそこにいる!」

 

???

「わたくしは『夢みるプリンセス』。

プリンセスとでもお呼びください。

ついさきほどからあなたの側にいました。

ところで、あなたはなんという名なのですか?」

 

ドブネズミ

「……ついさっきからだと?

わたしはそこで寝てたんだぞ?

起きるのを待ってたとでもいうのか?」

 

夢みるプリンセス

「わたくしは質問に答えていただけないのにあなただけ一方的に質問なさるのですか……

礼を知らぬ者には罰を与えなければなりませんね…」

 

ドブネズミ

「おめー、怪しさ全開でのぞみ通りのことをしてもらえるとでも思ってるのか?

『ラット』ッ!!」

 

ののののののののののののののののののの

 

ハブ

「そうだったのか……。

教えてくれてありがとうだぞ、アフリカゾウ。

気にしすぎるのは良くないから、忘れていいぞ」

 

アフリカゾウ

「ハブちゃん……ありがとね」

 

ハブ

「さ、ハブはこれからボスを探しにいくが、アフリカゾウはどうする?」

 

アフリカゾウ

「わ、私は島をまわらなきゃいけないし、ドブネズミちゃんを放っておけないからそんなに出歩けないよ」

 

ハブ

「そうか。こいつはハブのことを助けようとしてくれたんだ。だからハブもドブネズミを守るもんだな。」

 

アフリカゾウ

「ありがとう。でも…」

 

ハブ

「でも?」

 

ののののののののののののののののののの

 

ドブネズミ

「『ラット』ッ!!

………………………………

『ラット』!!!

………………………………………………」

 

夢みるプリンセス

「無駄ですわ。何度叫んでもあなたのスタンドは来ません」

 

ドブネズミ

「バカなッ!?

なぜだ!?」

(バカなのはわたしの方だろ!

ちくしょう、なんてザマだ…

『ラット』が使えないのを教えられるなんてな……)

 

夢みるプリンセス

「いえ、あなたを罰する前に、わたくしの能力を先に説明しておきます。流石にあなたが不憫ですもの。

おほん。

あなたが今見ているのは、『精神の深層の世界』です。

生きとし生ける者の精神というものは、奥底で繋がっている。

皆さまがこの世界に来なされば、たとえ現実で意識が無くても健康そのものの状態でお話を交わすことができますし、訳あって現実では動かせない品物を動かすことも可能です。

この世界に来られるのは、眠っておられる方たち。

わたくしは眠っているあなたの精神をここにお連れしたのですわ。

眠っている方たちの精神というものは無防備・無抵抗ですから、いとも容易く引きずり出せるわけです。

今一度申し上げますが、現在いるのは『精神の深層の世界』。

ここに至るまでの間、わたくしにはある程度皆さまの精神を弄ぶことができます。

スタンドをお供させるかさせないかは操作が可能です。

つまり、あなたの精神からその『ラット』というスタンドを引き剥がさせていただきました。

スタンドが使えないのはそのため。

と、説明はこのくらいにしましょう」

 

ドブネズミ

「説明ご苦労さん。

空を見上げたらアフリカゾウとハブの声が響いてくるのがなんでかは言わなくていいのか?」

 

夢みるプリンセス

「それは質問ですか?」

 

ドブネズミ

「はは〜ん?ちょっとわかったようなことを言わせてもらうが、何も知らない相手と戦って負けるのが恥ずかしいから長々としゃべくってくれたんだな?全部は説明しないところを見るにそう思ったよ」

 

夢みるプリンセス

「何を仰ると思えば、また失礼なお方だこと。あなたには少々恥をかいていただきましょうか」

 

ドブネズミ

「はっ、恥なんていくらでもかいたわッ!

『ラット』は使えないが充分だ!」

 

夢みるプリンセス

「ふむ、スタンドはお使いにならないつもりなのですね。では、逆転の発想というものをお教えします」

 

ドブネズミ

「なに?」

 

夢みるプリンセス

「はぁっ」

 

ドブネズミ

「………?なぜわたしは地面に手をついている?

う!?首がっ!?」

 

夢みるプリンセス

「あなたはこれから『スタンドになる』」

 

ドブネズミ

「『ラット』に……」

 

ののののののののののののののののののの

 

アフリカゾウ

「はぁ…今日はここで寝ることになるかな。ドブネズミちゃん、寝たらずっと起きないもん」

 

ハブ

「そんなに長いのか?外でずっと寝るより、安全なところに運んでやった方がいいんじゃないか?」

 

アフリカゾウ

「なるほど、それがいいね!運んであげよう」

 

ののののののののののののののののののの

『精神の深層の世界』

 

ドブネズミの姿は完全に『ラット』と同一のものとなった。

これにより動作が大幅に制限され、自力での移動が著しく困難になる。

 

ドブネズミ

「……」

 

夢みるプリンセス

「その状態では自力では殆ど動けないことでしょう。

動けるのは、わたくしが運んで差し上げるか、若しくは誰かが外であなたを運ぶときだけですわ。

そして、後者の状況はめっ……」

 

ドブネズミ

「……?どうした?」

 

夢みるプリンセス

「っったにあるものでは無いと申し上げるところでしたのに……

ほんっと、空気を読まないのですね。

あなた、動いてますわよ」

 

フワァ〜〜〜

 

ドブネズミ(『ラット』化)

「なる程、アフリカゾウたちがわたしの体を運んでいるんだな。

地面はゴツゴツしてて普段なら使おうとも思わないくらい寝心地悪そうだったから助かった。

………あ?えっと、なんでこんなんにされてもしゃべれるんだ?」

 

夢みるプリンセス

「そんなの、喋れなければ百害あって一利無しだからに決まってます。意思疎通は阻害したくありませんから。さて、これからあなたが音を上げるまでわたくしがあなたを『処刑』致しますわ。お覚悟なさってくださいな」

 

ドブネズミ(ラット化)

「なんてこった……

穴の中でのことを報告しなきゃあならないのに何も出来ないなんて…

アフリカゾウ!ハブ!寝るんじゃあない!寝たらこの世界に閉じ込められる!」

 

夢みるプリンセス

「そう、現実にいる方たちはアフリカゾウ様、ハブ様の二名なのですね。申し上げておきますが、ここにいたら現実の方たちへは幾ら叫んでも声は届きませんわ。あなたは眠っておられますもの。まわりの方たちからは安眠中としか思われないのです。

それと、申し忘れていたことがありました。

あなたがこの世界から出られるのは丁度12時間後。今は午後2時20分頃ですから、お目覚めになれるのは明日の午前2時20分頃でしょう。

さあ、今度こそ説明は終わりですわ!

お覚悟をッ!」

 

ドブネズミ(ラット化)

「くっ……」

(12時間後?どれくらいなのか分からんが、なんか長そうではあるな。ここにきて長丁場はキツいが……)

 

ののののののののののののののののののの

 

現実では、アフリカゾウがドブネズミを背負いながら移動している。

最初は運び役をハブが志願したが、眠っている間に咬むかもしれないということでアフリカゾウが担当することになった。

 

ドブネズミ

「すぅ…すぅ…」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃん、寝息たててる」

 

ハブ

「フフフ、やっぱツバが出る…ごくっ、ボス探しは早めにしたいな」

 

アフリカゾウ

「うん、早く見つかるといいね……あれ?なにかしなくちゃいけないことを忘れてるような…」

 

ののののののののののののののののののの

 

︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽

 

???

「ナントイウコトダ…

残骸ガ全テ持チ去ラレテシマッタ…

最終手段ニ打ッテ出ル他ナイカ…

シカシ、タイミングハマダダ…」

 

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←to be continued…



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夢みるプリンセス その②

前回のあらすじ

ハブに取り付いた敵を倒し、巣穴から出てきたドブネズミは休日前の帰宅後のように何もしたくなくなり眠った

ところがなんと、夢の中にまで怪しい者が現れた

その者は「夢みるプリンセス」と名乗る

自分の名乗りに応えず質問で返したことに腹を立てた不審な者は能力で姿をドブネズミ自身のスタンド「ラット」のものに変えられてしまった

その頃、現実の何も知らないアフリカゾウとハブの二人はドブネズミを背負いながら気楽にボス探しに出発した。





 

 

『精神の深層の世界』

 

夢みるプリンセス

「夢のなかというものは、本来他人が入り込むことのないプライベートルームのようなもの…

しかしながら、このわたくしの手にかかればそこは誰でも出入り可能な仮想空間へと変わる…

ところでドブネズミ様?外のお二人が前にお休みになられたのはいつ頃ですか?」

 

ドブネズミ(ラット化)

「…アフリカゾウが昨日寝てたのはわかるがハブは知らない。

初めて会ったからな」

(?!なんだ?

言いたくもないのに言わされている!?

それに、なぜ教えてないのにわたしの名を知っている!?)

 

夢みるプリンセス

「なるほど。貴女は、人が用いる時の概念に疎い。違いますか?そうでなければ『何時頃』まではお答えになるものです」

 

ドブネズミ(ラット化)

「そうだ。わたしは時計なんて見ないからな」

(まただ!さてはこいつの能力か…

名前らしくない名前してるしどうせスタンドだとは思うが…

わたしが正直に話すのを拒むから口を割ろうとしている…

でもなんでわたしの名を知っているんだ?)

 

夢みるプリンセス

「そうなのですか。折角腕時計のようなものをお召しになっているというのに、勿体無いですわね。使用方法はご存知?」

 

ドブネズミ(ラット化)

「一応知ってる。マイに教わった」

(止まれぇ!わたしの口ィ!

いや、今は口ってどこにあるんだ?)

 

夢みるプリンセス

「マイ…そうですか。

そうですね、他に何かお話のタネになりそうなことはおありで?」

 

ドブネズミ(ラット化)

「そう…だな…」

(お?マイのこと知ってるのか?

話を逸すのは何か知ってるからか?

名前しか言ってないんだから、それは誰かと聞くもんだろうがそうしなかったということは、そういうことなのかもな

というか、自分の考えていることを言わないで済む辺りはわたしに有利だ

言わされることが無難で済むことを願おう)

 

ののののののののののののののののののの

現実

 

アフリカゾウがドブネズミを背負っているために疲れやすいことを考え、小休憩をとっていた。

とっくに持ってきた水筒は空で、川を探す必要があったところに運よく小川があったためそのほとりに座って休むことにした。

 

アフリカゾウ

「よっこらしょっと。蒸し蒸しして暑いから倒れちゃうところだったよ」

 

ハブ

「シュー…川があってよかったな」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃん、お水飲まないで大丈夫かな?水筒は持ってきたけど今日はまだ飲んでないからのどが乾いてるんじゃないかなぁ」

 

???

「なんくるくいなー!!なんくるないさー!!!やんばるくいなー!!!」

 

ハブ

「あ、あのやたらデカい声は……」

 

アフリカゾウ

「ヤンバルクイナちゃん!」

 

ののののののののののののののののののの

『精神の深層の世界』

 

ドブネズミ(ラット化)

「喉が渇いたァ〜〜

水飲ませろォ〜

こんな姿にしやがってェ〜〜」

(喉が渇いているのは事実だ…

アフリカゾウには申し訳ないがいままで水筒の水は殆どわたしが飲んでいる…

今は川の畔に移動してきたからちゃんと飲んでるんだろうか)

 

夢みるプリンセス

「オホホ、そんな姿では水を飲むことも叶わず、と。見ていてせいせいしますわ。折角ですから、その姿でしかできないことをさせてさしあげましょう。鹿威しはご存知?」

 

ドブネズミ(ラット化)

「はっ!?何する気だ!?」

 

夢みるプリンセス

「何って、鹿威しですわ。貴女のその形はピッタリではありません?」

 

ドブネズミ(ラット化)

「水を…まさか…」

 

夢みるプリンセス

「お察しが早くて助かります」

 

ドブネズミ(ラット化)

「『ラット』!」

 

『ラット』の弾はスタンドの姿になったことで自身から発射された。

しかし、目の前の敵を頭上を通り過ぎて行き命中することはなかった。

 

夢みるプリンセス

「おっと!危ないですわ。たしかに、スタンドの姿になれば技も特殊能力も使えますけれど、悪足掻きはよした方が身のためですわよ」

 

ドブネズミ(ラット化)

「ぐぅッ…」

 

夢みるプリンセス

「さあ、たっぷりと『お飲み』くださいな」

 

身動きのとれないドブネズミは、

 

ドブネズミ(ラット化)

「うぉぉぉぉぉぉ!」

(息が…苦しい…

現実のわたしはどうなっているのだ…

溺れているのか…?)

 

ののののののののののののののののののの

現実

 

ドブネズミ

「ぶくぶく…」

 

ヤンバルクイナ

「なんくるくいな〜」

 

アフリカゾウ

「どどど、ドブネズミちゃん!?大丈夫!?」

 

ハブ

「泡噴いてる…なんで…ずっと静かに寝てただけなのに…」

 

ヤンバルクイナ

「なんくるないさ〜」

 

ハブ

「なんでそう言えるんだ、ヤンバルクイナ」

 

ヤンバルクイナ

「この子は何かと戦ってるみたいだよー。でも、大丈夫だよー。多分ね〜」

 

ハブ

「多分……ヤンバルクイナの言うことだからそうなんだろうけど」

 

アフリカゾウ

「なんなんだろう、そのドブネズミちゃんが戦ってるっていうのは」

 

ヤンバルクイナ

「わかんないけど〜、わたしたちが出来るのはドブネズミちゃんを信じて起きてくるのを待つことだけだと思うよ〜。助けたいけど〜、何かできるのかな〜?」

 

アフリカゾウ

「信じて待つこと……いや、何かできることはあるはず…」

 

アフリカゾウは独りで戦うドブネズミのことを黙って見てはいられなかった。

そして、多機能なことに自信があるその首に巻いたものの先端をドブネズミの口に押し当てた。

 

アフリカゾウ

「こうすれば、ちょっとは良くなるよね」

 

ハブ

「泡を『吸い込んで』るのか!」

 

ヤンバルクイナ

「なんくるないさ〜、だね〜」

 

ののののののののののののののののののの

 

ドブネズミ(ラット化)

「ガボガボ……」

(かはッ…

なんか急に、苦しくないぞ?

水に浸けられてるのに…)

 

夢みるプリンセス

「何か、言いたそうにしてますわね。音を上げたということでしょうか。助けてほしいと、わたくしに申してご覧なさい?」

 

ドブネズミ(ラット化)

「ガボ……ガ…」

 

夢みるプリンセス

「申し訳ありませんが、聞き取れません。もっと、はっきり喋りなさい!」

 

ドブネズミ(ラット化)

「…ク…」

 

夢みるプリンセス

「く?」

 

ドブネズミ(ラット化)

「クラエッ……!」

 

夢みるプリンセス

「クラエ?申されていることの意味がわかりま…」

 

『ラット』化した自らの砲身の角度を上げ、5発ほど発射して攻撃を試みた。

しかし弾は直接目標を捉えることなく飛んでゆく。

 

ドブネズミ(ラット化)

「……………」

 

夢みるプリンセス

「抵抗はお止めなさい。悪足掻きはあなた自身のためになりませんよ」

 

ドブネズミ(ラット化)

「ああ、もう終わったよ。わたしの悪足掻きはな」

 

バスッ

 

バキバキバキ・・・

ドスッ

 

夢みるプリンセス

「ギゃぁッ!?」

 

ドブネズミ(ラット化)

「木を溶かして幹の上の方を落とすために発射したんだ。

わたしの方ばかり見てて下を向いてたからやりやすかったよ。

そして、おまえ自身の陰になって水面に反射しないから悟られない角度が来た」

 

夢みるプリンセス

「ふん。ほんのちょっぴりだけ横に動けば躱すのはなんてことはないですわよ。甘くみられたものだわ」

 

ドブネズミ(ラット化)

「いーや、すでにお前は手遅れだ」

 

夢みるプリンセス

「なんですって」

 

バキバキバキバキバキバキ

 

ズンッ・・・

 

ドブネズミ(ラット化)

「木から木へと跳弾して何本も溶かしているんだよ。

わたしにはのしかからず、おまえだけに向かって何本も倒れる角度が来ていた。

丁度いい角度が来なかったら負けていた…

だが…ヤツはどこだ?あの一瞬で逃げられたのか?」

 

『夢みるプリンセス』は何故だかドブネズミのすぐ側に豪華絢爛な椅子が出現し、そこに五体満足どころか無傷で足を組み座っていた。

『ラット』の弾で倒した木が全て元通りになっているところから、夢の中では何もかもコイツの思い通りなんだということを思い知らされた。

しかしながら、『夢みるプリンセス』には疲れ果てたようにうなだれていて戦う意思がみられない。

 

夢みるプリンセス

「ここですわ。あなたには参りました。もう懲り懲りです。終わりにしましょう」

 

ドブネズミ(ラット化)

「なんだと?」

 

夢みるプリンセス

「そもそも、わたくしは能力であなたの考えていることを言葉に出させることも可能なのです。

そうしてしまっては詰まりませんもの。

そろそろ、あなたにお会いしに来た理由をお伝えしなければなりませんし、ね。

その姿は解いて差し上げます。

その代わり、わたくしを攻撃しないでくださいね?」

 

ドブネズミ

「な、なんだか調子狂うな…

喋ることがあるなら早く言ってほしかったが、わたしも喧嘩っ早いのが出た。

悪かったな」

 

夢みるプリンセス

「いえいえ、お気になさらないでください。久々に楽しめる相手がほしかったのです。こちらから先に謝罪すべきでしたのに、申し訳ありませんね」

 

ドブネズミ

「いいんだよ。用件があるんだろ?」

 

夢みるプリンセス

「あなたは良いフレンズですね…。

それでは、あなたにお伝えしたかったことを申し上げます。

『ドブネズミのフレンズは二人いる』。」

 

ドブネズミ

「………………?何が?何がいるって??」

 

夢みるプリンセス

「聞き取れませんか?今一度申し上げます。

『ドブネズミのフレンズは」

 

ドブネズミ

「いや、それはもう言わなくていい。『わたしが二人いる』ということなのか?」

 

夢みるプリンセス

「そうとも言えます。厳密にはその方はあなた自身ではありませんが」

 

ドブネズミ

「そうか。言いたいのはそれだけか?」

 

夢みるプリンセス

「いいえ…ですがこれからの内容は、口頭でお伝えするよりも実際に体感してみた方がより理解しやすいかと。あなたが近頃よくみなさる夢に深く関わる内容をお見せします」

 

ドブネズミ

「なに?それは気になっていたことだが、それを何故おまえが知ってるんだ?」

 

夢みるプリンセス

「わたくしは夢という夢を渡り歩いてきました。皆さまは夢と表現されますが正確には夢ではなく、夢以外のことも閲覧可能ですが簡素化のためそう表現しましょう。昨夜、偶々あなたの夢を拝見しました。覗いたわけではないのですよ?わたくしはあなたよりはっきりと夢の内容を記憶しております故再現も容易です。

それでは心の準備はよろしくて?」

 

ドブネズミ

「ああ、わかった。大丈夫だ」

 

夢みるプリンセス

「では…」

 

ののののののののののののののののののの

 

︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽

 

???

「ホウ…コイツカ…夢幻ナル幽姫ナドト、贅沢ナ名ヲ持ツトイウノハ…

ソノ名ホド美シイモノデハナイガ、珍シイ能力ヲ持ツ点ニ於イテハ我ガ計画ノタメニハ十分ダ…

回収スル…」

 

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←to be continued…



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ヤンバルクイナの秘密

ドブネズミが眠っていると夢でスタンドに出会った

そのスタンドは『夢みるプリンセス』と名乗り、互いに挑発しあったことで戦闘に発展する

最初は相手の能力によりスタンドを封じられていたドブネズミだが『スタンド化』させられ、攻撃のチャンスが来たところで攻撃する

すると相手は急に戦意喪失して降参した

そして伝えることがあると言って話しだしたのだった




 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃんは大丈夫だったね。ヤンバルクイナちゃん、なんで大丈夫ってわかったの?さっきハブちゃんも聞いてたけどさ」

 

ヤンバルクイナ

「それはね〜、実は〜『プリンセス』って子が夢に出てきたからだよ〜。あの子を夢で見たってことはさ〜、ドブネズミちゃんは何かを知るために『プリンセス』と会ってるんだよ〜」

 

ハブ

「ハブはずっとここら辺に住んでるけどそんなことは知らなかったぞ?それにプリンセスって何処かで…」

 

アフリカゾウ

「『プリンセス』?もしかしてロイヤルペンギンちゃんのこと?」

 

ヤンバルクイナ

「う〜ん、その子とは似ても似つかないくらい違うと思うよ〜。PPP(ペパプ)やってるプリンセスはわたしも知ってるしね〜」

 

アフリカゾウ

「ふーん、プリンセスっていう子が他にもいたの?」

 

ドブネズミ

「ふぁ〜〜〜〜!それはわたしが説明する。またすぐ寝るけど、当のそいつから説明役を任されたんでな」

 

アフリカゾウ

「おはよ!」

 

ハブ

「おはようだぞ。なんだって?」

 

ヤンバルクイナ

「おはよ〜。夢に出てくるプリンセスって子からの伝言ってこと〜?」

 

ドブネズミ

「お、おはよう。そうだ。あいつ自身は夢にしか居られないからことづてを頼みますだと。

まず、『あいつ自身がスタンドだ』ってこと。つまり、わたしのようなスタンド使いしか夢に見ないらしい。スタンド使いでないやつの夢に行っても詰まらないんだとよ」

 

アフリカゾウ

「えっ……そ、それは本当なの?」

 

ドブネズミ

「本当だが、何かあるのか?」

 

アフリカゾウはヤンバルクイナを凝視した。

それにつられてドブネズミもヤンバルクイナを見つめる。

更に、それをみてハブもヤンバルクイナを見つめた。

 

ハブ

「???」

 

ヤンバルクイナ

「わたし、何かいけないことを言っちゃいましたかね〜?」

 

ドブネズミ

「多分、そうじゃあない。どういうことなんだ?アフリカゾウ…」

 

アフリカゾウ

「ヤンバルクイナちゃんは『プリンセス』って子が夢にでるって言ってた、よね?その子を夢でみたことがあるってことなの?」

 

ヤンバルクイナ

「そうですけど〜…このこは誰なんですか〜?」

 

ドブネズミ

「ん?言ってないのか?」

 

アフリカゾウ

「言ってないっけ…」

 

ドブネズミ

「ドブネズミだ。おまえにはスタンドが見えたのか?ボスがいないのに?おまえ、スタンド使いなのか?」

 

ヤンバルクイナ

「スタンド〜?なんですか〜?」

 

ドブネズミ

「スタンド使いというものについては、あまり詳しくない。スタンドっていうものはこれを見れば一応わかるだろう」

 

ドブネズミは『ラット』を出現させなるべく遠くの物体を狙うようにして撃ち出した。

弾は木の枝に当たり溶け、枝が着弾点から折れ曲がり落ちた。

 

ヤンバルクイナ

「と、突然なんなの〜!?それはなに〜?」

 

ハブ

「え?何があったんだ?」

 

ドブネズミ

「それも交えて色々と話したいことがある。ちょっと長いけど聞いてくれ。ヤンバルクイナは初対面だから、自己紹介も兼ねてな」

 

アフリカゾウ

「短めにしてね…」

 

ハブ

「ふぁ〜〜…」

 

ヤンバルクイナ

「いいよ〜」

 

ドブネズミ

「ありがとう。わたしのスタンド、『ラット』でそこの木の枝を撃った。

当たったところは溶け落ちるから枝の先の方が一緒に落ちたんだ。

スタンドってのは、要するに特別な能力なんだ。使えるやつにしか見えないらしい。

それはつまり、これが見えているヤンバルクイナがスタンド使いだってことなんだ。

スタンドは、何だって使う者がいるものなんだ。

わたしが夢で会った『夢みるプリンセス』はスタンドだ。

やつを使う本体がいるはずだ。

わたしはその情報が欲しい。

そのためにここに来たと言ってもいいからな。

スタンドが見えているのはこの場ではわたしとヤンバルクイナだけだ。

スタンドと呼ばれてもピンと来ないのはわかる。

だが、今能力を使って見せたから何か引っ掛かることはあるはずだ。

ヤンバルクイナに質問する。

おまえは、フレンズの技ではない特別なことができたりするか?」

 

ヤンバルクイナ

「ん〜、思いあたることは、残念だけどないよ〜」

 

ドブネズミ

「そうか…スタンドは見えるのに自分がどんなスタンドを持つのかを理解していない、といったところか?」

 

ヤンバルクイナ

「その、『スタンド』っていうものは見えてるのに……?」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃん、ヤンバルクイナちゃんが困ってるからさ、もっとわかりやすく説明してくれない?」

 

ドブネズミ

「おお、すまない。まず、ヤンバルクイナはスタンドがボスがいなくても見える。夢の中のスタンドも見えている。つまり、スタンドに何かしら関係してるはずなんだ。

でも、スタンドというものを知らないし使ってはいないようなんだ」

 

マイ

《それは本当か?》

 

ドブネズミ

「マイ!!?何故でている!?」

 

マイ

《驚きすぎじゃあないか?自己紹介しよう。わたしはこの島のフレンズの管理に携わる、コノシママイだ。今は、ドブネズミ君の腕の通信機から話している。そちらの状況を聞かせてもらった。》

 

ドブネズミ

「いつから聞いてた!?」

 

マイ

《おはようって言ってた辺りからかな。

その近くには、未知のスタンド使いが一人か二人はいるということだな?その候補がヤンバルクイナだと。》

 

アフリカゾウ

「たぶん、そんなかんじだと思うよ。でもわたしと同じで、ドブネズミちゃんが来るまでスタンドってものを知らなかったし、そのようなものも持ってないって…」

 

ヤンバルクイナ

「わたしのことが気になってるみたいですよ〜、ドブネズミさんは〜」

 

マイ

《ああ、そうらしい。わたしには、ヤンバルクイナのスタンド能力がわかりかけてきた。》

 

アフリカゾウ

「も、もう判ったの!?!?」

 

ハブ

「??」

 

ドブネズミ

「一体なんだっていうんだ!?」

 

マイ

《それはずばり。君たちの反応さ》

 

「な、なんだってぇぇぇぇぇ!!!?!?」

 

←to be continued…



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夢みたプリンセス その①

 

「な、なんだってぇぇぇぇぇ!!?!?」

 

マイ

《その反応は、自分たち自身で明らかに不自然だとは思わないか?》

 

ハブ

「たしかに、ハブからしたらおまえたちの反応はおーばーだな。よく気づいたな?」

 

マイ

《ハブか。まあ、始めに考えられることを挙げただけだよ。そういう君はなんともないようだね。それが何を意味するか…》

 

ドブネズミ

「おぇッ、おぇッ、えほっ、えほっ」

 

アフリカゾウ

「結構…力込めて叫んだから…喉が…」

 

マイ

《ヤンバルクイナ君、そういうことだ。君は、自分では気づいていない力をもっている。君の能力は、『他人の反応や行動を過剰にすること』のようだ。能力の射程距離は今のところ周りの1、2 メートルほどといったところか。わたしには及んでいないからな。今後はそれを意識して行動したら良い。何に役立てるかまでは、教えなくてもいいだろう。

では、情報は貰ったからもう失礼するよ》

 

ヤンバルクイナ

「そ〜なんですね。ありがとうございました〜」

 

ドブネズミ

「ま…待て!」

 

マイ

《何か用か?》

 

ドブネズミ

「わたしは2体のスタンドに既に接触している。それを話さなくていいか?」

 

マイ

《とんでもない、しっかりと話をしてくれ》

 

 

のののののののののののののののののの

      【説明中】

のののののののののののののののののの

 

 

ドブネズミ

「…ということだ。もう大丈夫か?」

 

マイ

《大丈夫。では失礼する》

 

(ハブ

「ヤンバルクイナ、なんかすごいことができるらしいな」)

 

アフリカゾウ

「なんだか大変だったね」

 

(ヤンバルクイナ

「すごいことなのかな〜…」)

 

ドブネズミ

「そうだよ、まったく…ふぁ〜〜〜〜」

 

(ヤンバルクイナ

「そういえば、なにしてたの?」)

 

(ハブ

「そうだ!じゃぱりまんだ!ボスが来なくて食べられないんだ!」)

 

(ヤンバルクイナ

「それは大変だね〜…ボスならちょっと前にあっちにいたけどね。ほんとは、それを言いたくて来たんだ」)

 

アフリカゾウ

「アクビが…ふぁ〜〜〜〜。うつっちゃった」

 

ドブネズミ

「すげー眠いけど、仮眠ばかりしてはいられないな。先を急ごう」

 

ハブ

「えっ…ボスがいるのか!?」

 

ドブネズミ

「なんだぁ、大声出して…それはヤンバルクイナのスタンド能力かもしれないぞ」

 

ハブ

「もうなんだっていい!ボスはどこにいるんだ!ヤンバルクイナ、探しに行くぞーーーーー!!!」

 

ヤンバルクイナ

「あ〜れ〜」

 

アフリカゾウ

「あー、すごい勢いで引っ張って行っちゃったね」

 

ドブネズミ

「きっと、ボスがいるということを聞いて嬉しいって思うのが増幅されたから何処にどんなボスがいたのかも確認せず突っ走っていったんだろーな。冷静な判断ができなくなるという点では恐ろしいスタンドだ。だが、わたし達が探してるのはスタンド使いのフレンズじゃあない。セルリアンの情報があれば付いていったんだが…スタンド使いのフレンズだって?」

 

アフリカゾウ

「な、なに自分で言って自分で驚いてるの」

 

ドブネズミ

「そういや、さっきの夢で会ったやつが言ってたんだ!スタンド使いのフレンズが現れたなら用心しろとかって!曖昧だったから忘れるとこだったが、忘れるなんてとんでもないことだ!」

 

アフリカゾウ

「それも大事かもしれないけど、ちょっと興奮気味だよ?落ち着いて話してくれないと何が何なのか分かんないよ!」

 

ドブネズミ

「む…危ない危ない。すまんな。何に気をつけろと言われたのか…」

 

のののののののののののののののののの

 

『精神の深層の世界』の回想

 

夢みるプリンセス

「あなた以外のスタンド使いのフレンズが現れたら、それはセルリアン全体にスタンド能力が浸透しているかもしれないということです。セルリアンというのは、何かを吸収し、模倣し、再現しようとするものでありますから、能力自体は違えども同胞同然の仲間うちに共有されているものだと思うのが自然なのです。しかし、そこからフレンズへ伝わるというのは一見意味不明でしょう。それはわたくしにもよく分からないとしか言えないのですが…。ですがとにかく、フレンズでさえスタンドをお使いになる方たちが急増しているのです。つまり、これからあなたたちが遭遇されるセルリアンは皆スタンド使いなのです。それを頭の片隅にでも置きながら周りなさるのが賢明ですよ。

わたくしですか?わたくしは昔からいましたから…」

 

ののののののののののののののののののの

 

アフリカゾウ

「へー、その夢のスタンドって聞けば聞くほど奇妙だね。本体さんってどこにいるの?」

 

ドブネズミ

「あー、今となっては気になることだが、いろんなこと聞かせてきてな…一通り話が終わったら夢から追い出された。まだねみーってのに起こされたら丁度新手のフレンズ・ヤンバルクイナってのがいたってわけよ。あー喉乾いた」

 

アフリカゾウ

「そうなの…結局、私たちもじゃぱりまんを見つけないと一つも持ってないよ」

 

ドブネズミ

「ングング…そういうこったな。ボスを追った二人はどっちへ向かった?」

 

アフリカゾウ

「あっちだよ」

 

ドブネズミ

「そうか。じゃあ行くか」

(本当はそれだけじゃあないけど、言う必要はない。

いままで使ってきた『ラット』の跳弾…あんな発想が出来るのはヤツしかいない。

夢でそれを見てきたからわたしにも使うことができた。

もう一人いるというドブネズミのフレンズは…ヤツなのか?

夢のスタンドはそれを忠告しに来たと…)

 

ののののののののののののののののの

 

『精神の深層の世界』の回想

 

ドブネズミは夢である記憶の追体験をしていた。

自分以外のもう一匹のスタンド使いのドブネズミが体験したとある戦闘の記憶だった。

自分より冷静に状況を判断し、優れた知略で奮闘し、敵を翻弄する。

使っているスタンドは自分のとまったく変わらないというのに、敵に次々と命中させていく。

あまりの善戦ぶりに、途中までは自分の精神がその記憶の持ち主に劣っているのではないかとさえ思わされた。

しかしやがてその記憶に終わりのときがやってきた。

本体の意識の消失、すなわち死のときだった。

 

夢みるプリンセス

「…以上です。わかりましたか?」

 

ドブネズミ

「なんだ…と?これは、わたしがよくみていた夢とそっくりの、いやそのものだ!これでハッキリわかった!ヤツもなぜかフレンズになっている!新しい姿を手に入れて生きているんだ!

それはそれとして…おまえ、そんなことが何故わかった?なぜこの記憶をもっている?わたしに何をさせたいんだ!」

 

夢みるプリンセス

「そうですよね、わたくしがここまでのことをする理由を知りたいと思っていらっしゃるのも無理はないでしょう。

訳を言います。ここ数日の間、皆さまの夢の世界が滅茶苦茶に荒らされているのです。木が生えていれば倒され、石が並んでいれば崩され、ラッキービーストというロボットは潰される…。夢で滅茶苦茶に物が壊されても現実には直接影響しませんが、殺風景になられてはわたくしが困ります。わたくしはこの夢の世界、精神の深層世界を護る使命を仰せつかっておりますが、わたくし一人の手には負えません。どうかその者を探し出し、止めては戴けませんでしょうか」

 

ドブネズミ

「頼み事か。引き受けてもいい。夢で暴れまわってるヤツは、恐らくもう一人のわたしのようなヤツだろう。同じドブネズミのフレンズがいるってんならわたしがもう一人いるようなものだ。その責任はわたしにあると言っても間違いじゃあない。

だが!」

 

夢みるプリンセス

「だが?なんでしょうか」

 

ドブネズミ

「この夢から覚める前におまえの正体、いや本体を教えてもらおう。一番はそれを求めている。交換条件だ」

 

夢みるプリンセス

「了解致しました。ですが、また一つ有益な情報をお教えしましょう。

あなた以外のスタンド使いのフレンズが現れたら、それはセルリアン全体にスタンド能力が浸透しているかもしれないということです。セルリアンというのは、何かを吸収し………」

 

 

のののののののののののののののののの

 

ドブネズミ

「…ってさ、誤魔化されたんだ。くそっ、あのときすぐ話せと言っていれば…

また寝たときあいつに会うのは、夢の世界にわたしを引きずり込もうとしない限りは無理だろうな」

 

アフリカゾウ

「そうだったの。私なら、出会えただけいいって思うなー。そのおかげで、どこかにその本体さん?もいることがわかったわけじゃん」

 

ドブネズミ

「そうだ……な」

 

アフリカゾウ

「あ!おーい!ハブちゃん!ヤンバルクイナちゃん!」

 

ハブ

「ん?また会ったな」

 

ヤンバルクイナ

「何かごようですか〜?」

 

アフリカゾウ

「私たちもじゃぱりまん持ってなくてお腹空いててさ。ボスがいないと死んじゃうよ」

 

ヤンバルクイナ

「ボスのじゃぱりまんなら、いまさっきハブちゃんがぜんぶ食べちゃいました〜」

 

ハブ

「へ?あれで全部なのか?」

 

ドブネズミ

「は?」

 

耳を疑いながらハブを見ると腹が明らかに膨れていた。

巨大な卵でも飲み込んだかという形状のハブの腹を刺すように見つめ、『ラット』を発現させたドブネズミは…

 

ヤンバルクイナ

「待って待って!」

 

ラッキービースト

「あわわわわ…わわわ…あ…

スタンド発動確認…SVVS(Stand Vision Visualization System、スタンド像可視システム)起動…」

 

ヤンバルクイナが立ち塞がり、アフリカゾウも『ラット』を見てドブネズミの前に出たことで、思い留まった。

 

アフリカゾウ

「今のドブネズミちゃん、なんだか怖いよ…

また探せばきっとボスは見つかるよ!それまではドブネズミちゃんが先に食べていいから!」

 

ヤンバルクイナ

「うんうん」

 

ラッキービースト

「わわわ…」

 

ドブネズミ

「ふん。食べ物の恨みはなんとやら、だ。次ボスを見つけるまで何も食えないわたしの身にもなって……」

 

グゥ〜〜〜〜〜〜〜!!

 

腹の鳴る音がドブネズミから響き渡り、それを聞いたハブは予備にと隠し持っていた最後の一つを渡す。

 

ハブ

「……一つだけど、"よび"がある。すまなかったな」

 

ドブネズミ

「……わたしこそ、済まなかった。意地になってもいいこたあねー」

 

ヤンバルクイナ

「大ごとにならなくてよかった〜」

 

あわや凄惨な状況になるところだったが危機は回避された。

そこを観て、「平和は皆の気遣いによってもたらされるものですよ」という『夢みるプリンセス』の説教がドブネズミに届いていたのが要因の一つだと、言った本人は精神の深層から思っていた。

 

        の の の

       の の の の

      の の の の の

     の の の の の の

    の の の の の の の

   の の の の の の の の 

  の の の の の の の の の 

 の の の の の の の の の の

  の の の の の の の の の

   の の の の の の の の 

    の の の の の の の

     の の の の の の 

      の の の の の 

       の の の の 

        の の の

 

『精神の深層の世界』

 

???

「回収シニキタ…」

 

夢みるプリンセス

「どなたですか?あなたをこの世界にご招待した覚えは存じませんが…」

 

???

「オマエニハ消エテモラウ。オマエヲ仕留メル」

 

夢みるプリンセス

「なッ!?」

 

←to be continued…



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夢みたプリンセス その②

前回のあらすじ

ドブネズミは、夢に現れるスタンド・『夢みるプリンセス』からもう一人ドブネズミのフレンズが存在しそれが夢の世界で暴れまわっているので止めてほしいと依頼されていた

それが個人的に気になったドブネズミは引き受けるが重要な情報・『夢みるプリンセス』の本体のことを聞きそびれた

現実では配給用ボスを先に見つけたハブがじゃぱりまんを殆ど飲み込んでしまう

後から来たドブネズミはそれを悟るとハブから吐かせようとする

ヤンバルクイナとアフリカゾウがドブネズミをいさめているとハブが隠し持とうとしていた一つをドブネズミに譲りその場は収まった

一方で『夢みるプリンセス』は何者かの襲撃を受けていた


『精神の深層の世界』

 

『夢みるプリンセス』は人型の異形が近づいてくる事を察知して振り返った。

そのため異形の奇襲は失敗に終わった。

しかし依然として殺意を向けられており激しく動揺している。

 

夢みるプリンセス

「い、一体なんですか!?何ゆえわたくしを狙うのです!?」

 

???

「答エテ我ニ何ノ得ガアルトイウノカ?」

 

夢みるプリンセス

「くっ…なんて思考の持ち主なんでしょうか。

はぁ!」

 

『プリンセス』が侵入者へ手をかざすと手前の地面の石が一斉に浮かび上がり、飛んだ。

大きさが拳から人の頭ほどまでの無数の石が一気に吸い寄せられるように敵へ向かう。

 

夢みるプリンセス

「石はあなたに当たるまで追尾し続けますよ!」

 

???

「フン、安安ト言葉ヲ口ニ出スノガ仇ニナッタナ」

 

敵がそう言って周囲へ拳を連続で突き出すと、容易く全ての投石を弾き飛ばされてしまった。

『プリンセス』は自身が飛ばした石の破片がこちらへ飛んできたのを手前で静止させ防御した。

身は守れたが自身の攻撃を利用されて攻撃を返されることになり動揺する。

 

???

「面倒ダ…『ピンボール』ノ弾ノヨウニ前カラシカ来ナイノガヤリヤスイガ」

 

夢みるプリンセス

「なッ!?さては、あなたはスタンドッ!?な、何をしにここまで来たのです!」

 

???

「面倒ダト言ッテイルダロウ」

 

夢みるプリンセス

「告白する積りが無いというならばこちらから吐かせるのみ!」

 

???

「ワ…我ガ目的ハ…」

 

謎の敵はそこまで言ったとき、遮るように何かが間に現れた。

『夢みるプリンセス』はそれが自身がよく知る『者』であることを認識し戸惑う。

自分の方を見て何か言っているところから、それが『ついさっきの自分自身』であるということを理解した。

 

〚夢みるプリンセス

「どなたですか?あなたをこの世界にご招待した覚えは存じませんが…」〛

 

夢みるプリンセス

「こ、これはっ………わたくし!?」

 

???

「オマエノ"イシ"ヲ回収スルコトダ…

オマエハスタンドデ在リナガラ、セルリアントシテノ"イシ"モモツト聞イテイル。

フレンズノ夢ニ現レナガラ直接襲ウコトガ無イノハ実体ガ無イカラダトモナ。

ソノ実体無キ"イシ"ヲ抜キ取ルニハオマエヲ倒スコトガ必要ナノダ。

今ハドウヤラ、ヨリ肝心ナコトガ言ワサレズニ済ンダヨウデ助カッタ。

オマエガ集中シテイナケレバ引キ出サレル言葉ノ重要度ハ下ガルコトガワカッタ。

ソシテ、オマエノ運命ハ決マッタ」

 

謎の敵は勝利宣言と同時に前へ真っ直ぐ拳を勢いよく突き出す。

拳は耳をつんざくような高い音と共に二人の間の方の『夢みるプリンセス』を突き抜けた。

それを間近で見ながら自分の胸にも同じ穴が空くのを感じる。

 

夢みるプリンセス

「ぐああああああああッ!?」

 

???

「サテ、ドコニ在ルノカナ?」

 

おおかた人の形をしているその襲撃者は胴体にあたる部位に手を入れ、目的物を探し弄った。

やがてそれは見つかり『夢みるプリンセス』の胴体の中心部から大切な何かが引き千切られる。

 

夢みるプリンセス

「な…何です……って…あなたはまさか…スタン…」

 

???

「モラッタゾ……!」

 

完全に胴体からそれが離れると静かに仰向けに倒れこんだ。

『夢みるプリンセス』は命ある存在であることを実感しながら消滅していく自らを振り返るよりも、敵がこれからしようとしていることが気になった。

 

夢みるプリンセス

「さ…最後に…あなたに聞きたいことが…」

 

???

「二度モ言ワセルナ……ソンナ事ヲシテ何ノ得ガアルトイウノダ…」

 

夢みるプリンセス

「その……わたくしの一部を…これからどうするのですか…?」

 

???

「……オモシロイ。見セテヤロウ」

 

夢みるプリンセス

「───────!」

 

のののののののののののののののの

 

 

ドブネズミ

「ん、木が低くなってる?」

 

アフリカゾウ

「高いところまで来たからね。地面が石だらけだね。ハブちゃんとヤンバルクイナちゃんはどうする?私たちはもっと上まで行くけど」

 

ハブ

「ボスはこんなところまでは来ないだろうから戻るのが良いと思うぞ、ヤンバルクイナ」

 

ヤンバルクイナ

「わたしもそう思います〜。それじゃあ、ここでお別れですね〜。どうかお元気で〜」

 

ドブネズミ

「お別れ…」

 

アフリカゾウ

「うん、またね!」

 

ドブネズミ

「ああ…またな!」

 

ハブ

「久々ハムりがいのあるフレンズに会えて良かったぞ。またな」

 

ヤンバルクイナ

「ハブちゃん〜、それはどうかと…」

 

ハブとヤンバルクイナ、ドブネズミとアフリカゾウは別れ山の下と上へそれぞれ向かった。

ドブネズミは、別れた地点からほんの十数メートルの地点で溜めていたものを吐き出すように叫んだ。

 

ドブネズミ

「……わたしは捕食対象としてだけなのか〜〜〜ッ!?」

 

アフリカゾウ

「まあまあ、ずっと捕まるわけじゃないし」

 

ドブネズミ

「あのな、ハブが尻尾を咬んでると変な気分になるんだ。凄く嫌とまでは言えない、けど悪くないとも言い難い不思議な感覚だ。アフリカゾウはハブに尻尾咬まれたことあるか!?わたしの言いたいことがわかるのか!?」

 

アフリカゾウ

「ごめん、わかんないや…じゃあまた会ったら頼んでみるよ。わたしの尻尾咬んでみない?って」

 

ドブネズミ

「自分で言っといてなんだけど、なにもそこまでしなくてもいいわ…」

 

アフリカゾウ

「いやきょーみ湧いてきた!尻尾を咬まれたらどんな感じなんだろう?ってさ」

 

ドブネズミ

「ゴメン、ソレは止めといたほうがイイ。ハブに頼むのもやめとけ」

 

アフリカゾウ

「そう?変かなあ」

 

ドブネズミ

「言いづらいことを先に言われてしまった…ん?なんだアレは?」

 

アフリカゾウ

「うん?」

 

ドブネズミは目に留まったものを足を止めて注目した。

アフリカゾウはドブネズミの指す方を視るとどうやらサンドスターの塊が散らばっているようだった。

ドブネズミはサンドスターの回収する任務を果たせるチャンスを逃すものかと一目散に駆け距離を詰める。

 

アフリカゾウ

「そんなにがっつくほどなのー?」

 

ドブネズミ

「当たり前よー!狙った獲物は逃さねー!このわたしはよー」

 

アフリカゾウ

「そんなに急ぐとあぶないよー」

 

ドブネズミ

「何が危ないってー?」

 

アフリカゾウ

「崖とかさー」

 

ドブネズミ

「がっ…」

 

アフリカゾウ

「どうしたのー?ドブネズミちゃんー?大丈夫ー?」

 

アフリカゾウは忽然と姿を消したドブネズミへと呼びかけようと大声で叫んだ。

少しの間返事がなく不安に駆られたが、苦痛に悶えるような聞き馴染みのある声がしてそちらへ恐る恐る近づいた。

すると、突如として地面が下がり崖と坂になって窪んでいるところの下に落ちたドブネズミがいた。

斜面の中腹で石にしがみついてそれ以上落ちないように堪えている。

窪地全体は円状になっていて、クレーターに例えられるような見た目をしていた。

 

ドブネズミ

「いっ……でぇぇぇ」

 

アフリカゾウ

「な……」

 

ドブネズミ

「どうなってんだ、一体」

 

アフリカゾウ

「私にもなにがなんだか…」

 

ドブネズミ

「走ってたときは確かに地面がそこにあったんだ。でも気がついたら足が空振って落ちてるんだ。突然窪んでるところがあるなんて、まさかな」

 

アフリカゾウ

「ねえ、その姿勢だと難しいかもしれないけど、ちょっと後ろのほうを見てよ。窪みの下のところ」

 

ドブネズミ

「あ?なんだ?」

 

アフリカゾウ

「さっきの光ってたものがあるの。あれに向かって走っていったら落ちたんでしょ?」

 

ドブネズミ

「んぐ、んっしょ。お、そうだ、あれだ。あれに向かってったん…んん?」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃん?」

 

ドブネズミ

「ああ、なんか聞こえないか?誰かの声が。語りかけてきてるかんじのがここの真ん中の方から」

 

アフリカゾウ

「え?…あ、そう言われればわかるようなきがするくらいだけど聞こえるような…」

 

ドブネズミ

「聞こえるか。アフリカゾウはそこで待っててくれ。真ん中の方へ行ってみる」

 

アフリカゾウ

「待って」

 

ドブネズミ

「何だ?」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃんはここからどうやって出るの?その下からだと手もマフラーもギリギリ届かないから…」

 

ドブネズミ

「そうか、そんなことか。心配はいらない。このくらいはジャンプすればいける」

 

アフリカゾウ

「ジャンプ、ね。わかった。いってらっしゃい、気をつけてね」

 

ドブネズミ

「いってくる」

 

アフリカゾウはそう言ってネズミらしくチョロチョロと降りていくドブネズミを見送った。

ドブネズミはやがて目的の光っていたものまで3歩というところまで接近し、『ラット』で警戒しながら近づくと拾い集めだした。

スコープで見回すと落ちたところの崖の上には立ってこちらを見ているアフリカゾウがいる。

表情はわからないが、首を振ればなびくはずの大きな耳がなびいていないところからして、ずっとこちらを見つめているようだ。

 

ドブネズミ

「アフリカゾウには見るもんがわたししかないってか、こんなに水が無いところに来ることがないわたしには新鮮な光景だってあとで言ってやろう」

 

カラフルに光る物体を両手で寄せ集めながら独り言を言っていると、それに反応する声を聞いた。

その声色に聞き覚えがあるドブネズミは、声の主であろう人物の名を呼んだ。

 

ドブネズミ

「『夢みるプリンセス』!!お前なんだろう!?さっきの声は!!!ここは夢のなかだっていうのか!?」

 

《夢みるプリンセス

「…………よく……聞こえましたね…」》

 

ドブネズミ

「おい、答えろ!」

 

《夢みるプリンセス

「あなたがいるのは、紛れもない現実です………わたくしはあなたのスタンドを経由して語りかけているのです……あなたが集めているのは、わたくしの『残り物』……わけあって、あなたとお別れをしなくっちゃいけないんです……」》

 

ドブネズミ

「な、何を急にいいだすんだ!これが現実のお前なのか?」

 

《夢みるプリンセス

「はい……最後に…しがない、一介のセルリアンであったわたくしが…このように言葉を話せるようになった…ワケを聞いてくれませんか?これは恐らくあなたに必要な情報ですから……もし、聞きたくないと仰るのでしたら…潔く消えることに致します…」》 

 

ドブネズミ

「ほう?それは聞いておくべきかもな。話してもらおう。現実での姿がどのようなものだったかわかるかもしれないしな」

 

夢みるプリンセス

「承知しました……それを含めて語り尽くし致します……」

 

そうして、夢に現れる不思議なスタンドの声は話を始めた。

 

夢みるプリンセス

「わたくしの原点とも言える、最初で最後の『わたくしの被害者』についてふれましょう。

その『被害者』は人間、つまりヒトでした。そして気高きスタンド使いでもありました。

あろうことか、その方の『かがやき』をわたくしは吸い取り尽くし、意識不明としました。

当時のわたくしは漠然とした行動原理に従い動いていました。

このときはセルリアンの一個体としての意識さえも持ち合わせていなませんが、これ以後の記憶はあります。

それを理解したのは、被害者である『彼女』が自身の死を覚悟し生んだ『かがやき』が起こした奇跡であると、今は失ったわたくしの核から感じたからです。

核は『かがやき』を取り込みわたくしを行動させる力の源でしたが、なぜそれを失った今も意識があるのかはわかりません…。

ですが、確かに『かがやき』はわたくしに有意義なものを授けて下さいました。

その『かがやき』が遺したもう一つのものがスタンドのエネルギーでした。

スタンドエネルギーを得たわたくしの姿は、簡単な形の立体の重ね合わせのようなものから、ヒトの形だけは再現したまるで『スライム人間』とも呼ばれそうなものへと変化されました。

それはどこか『精神の深層の世界』での姿と似ていたと記憶しております。

わたくしがその2つを得た理由は、フレンズ様たちと出会っていくうちに理解しました。

セルリアンそのままの姿では怖がられ、まともに話せないからであると。

もっとフレンズというものを見極め、親しくなるためであると。

あなたと初めて出会ったときは、後に申しました暴れている方のドブネズミ様かと思いましたが、どこか彼女と異なる雰囲気をお持ちでした。

それも『かがやき』のお陰なのです。

結論が先に延びてしまいましたが、あなたにはわたしにこんな有様を晒させた仇を探してほしいのです………。

倒せとまでは言いません。ですが、どうかその者の正体を暴いてください…。

でないと『彼女』の『かがやき』が心ない者の手に渡ることになってしまいます…」

 

語っている途中に質問を入れることも、頷いて納得したような仕草をすることも、ドブネズミはしなかった。

しかし、単に入ってくる情報を整理し収納するだけの時間ではなく、ひたすら虹色の結晶を見つめ、微かに変わりゆく模様を目で追っていた。

 

ドブネズミ

「………」

 

夢みるプリンセス

「過去についてはこれにて以上となります…。気分を悪くされることがおありでしたら、お詫び致しますが」

 

ドブネズミ

「いや、大丈夫だ。あ、一ついいか?」

 

夢みるプリンセス

「ええ、構いません。なんでしょうか?」

 

ドブネズミ

「さらっと、核を失ったとか言ってたな?

たしかそれはお前にとっての心臓のようなものだろ。なんでこんなことになった?」

 

夢みるプリンセス

「それは…」

 

ののののののののののののののののの

 

夢みるプリンセス

「………………」

 

︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽

 

???

「一ツ警告シテオコう。

今目撃シタコと、我ニツイて語ルコトは許サナい。

他ハ幾ラデも喋ッテクレてイイガな」

 

︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾︾

 

ののののののののののののののののの

 

夢みるプリンセス

『ぐああああああああッ!?』

 

ドブネズミ

「どうした!?何事だ!!何者かの襲撃かッ!?」

 

夢みるプリンセス

「なるほど……これ以上この世に留まるのは不可能なようです。あなたとはこれでお別れを…」

 

ドブネズミ

「いきなり何言ってんだ!お前のことをもっとよく聞かせろっ………はっ!?蒸発するように散っていくッ!?なんで今までのように残らないんだ!?」

 

アフリカゾウ

「どうしたの〜、叫んだりして〜」

 

ドブネズミ

「今そっちに行くよォッ〜〜!

説明は上に戻ってからだな。それにしても、実はとんでもなく危険なヤツが近くに潜んでいたのか…『プリンセス』のやつをたやすく仕留めるなんてな………口封じまでしているとはよほど小心者だな。

わたしは他人に小心者と言えるような質じゃあないが、ソイツのそれほどではないと自信を持って言い張れるくらいのドス黒いものを感じる……」

 

身近に迫っていたかもしれない危険は、今日の敵が明日の友になる可能性を根こそぎ奪っていった。

ネズミとしての生前から天敵のすぐ近くで暮らしていたドブネズミにとっては、知る者が突然いなくなる事態に慣れていたしむしろ好都合とすら思うこともあった。しかし、今回の場合抱いたのは幸運だったというよりも話し相手を失ったという感情の方が大きかった。

そんなドブネズミは、わずかに確保したサンドスターの欠片をチャック付ポリ袋に入れて握りしめ、アフリカゾウのいる崖の上へと戻っていった。

 

ドブネズミ

「このくらいの段差は……ッは!」

 

アフリカゾウ

「あれ?いつのまに?って、落ちそうだよ!」

 

ドブネズミ

「ああっ、高さが足りなかったっ…。引っ張ってくれ〜ッ」

 

アフリカゾウ

「いっせーのーで、よいしょ!」

 

ドブネズミ

「あ…りがとっ…う」

 

アフリカゾウ

「おかえり。何があったの?」

 

ドブネズミ

「はァ〜。実はな、はァ、夢のスタンドの本体が、セルリアンだったんだっ。ふぅ。そいつがな…」

 

←to be continued / \┃




スタンド 夢みるプリンセス
本体 ?????
破壊力:Dスピード:C射程距離:A
持続力:B精密動作性:C成長性:E

眠っている間に深層意識の世界に魂を引きずり込む。
眠った場所と瓜二つのところで目覚めるようにして入ってくる。
現実で眠る者以外が存在しない。
つまり本体も入るには眠らなければならない。
より深く眠る者ほど抜け出しにくい。
【デス13】ほどの拘束力ではないが、スタンドを禁止することはできる。ただし、同時に二人だけである。
このスタンドのヴィジョンは夢にしか現れない。
夢で人と人を出会わせることも、物を渡させることもできる。
深層意識の世界には電波が無いので携帯電話などは使えないし電子機器の起動も出来ない。車も動かせない。
しかし居場所が現実とリンクしているため状況を考えることができる。例えば、現実で寝返りをうてば深層意識の世界にいてもなんとなくわかる。


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かいがんをめざして

前回のあらすじ

岩石地帯へ到着した二人はハブ、ヤンバルクイナと別れて先へ進む

ドブネズミは突然窪みに落ちたがセルリアンの残骸サンドスターを見つけていた

回収しにいくとなんとそのかつてのその持ち主は正体不明の敵に既に倒された『夢みるプリンセス』の本体で、ヒトの『かがやき』を吸収してスタンドを身に着けたセルリアンだった

スタンドを通じてセルリアンとしての半生を語りその敵の正体を探るのだけは頼むといわれるが受けた攻撃について話そうとしたタイミングで消滅した

敵の能力についての謎の手がかりが無くなったが、ドス黒い脅威がどこからか襲ってくる可能性があることがドブネズミへと伝えられたのだった。


二人は『手頃な大きさの石』を探していた。

石を見つけると、互いに手の大きさにあう石を見せあった。

ドブネズミは両手で挟んで持ち、アフリカゾウは抱えながらマフラーで支えている。

 

ドブネズミ

「さあ、こんなんでいいだろ」

 

アフリカゾウ

「うん?なんでそんな小さいのを選んだの?」

 

ドブネズミ

「え?小さいって……これが?」

 

アフリカゾウ

「こんくらいじゃあないとね」

 

ドブネズミ

「ウソぉ、そんなデカいのを持ち歩けるのか!?」

 

アフリカゾウ

「え〜、全然デカくないよ〜」

 

ドブネズミ

「この袋に入れることを考えてその大きさか?」

 

アフリカゾウ

「あ、そうだったね。それでいいや」

 

ドブネズミ

「よかった…」

 

アフリカゾウ

「そうそう、次はここからあの海まで降りて行かなきゃいけないもんね」

 

ドブネズミ

「おう、ちょっとここで休もう」

 

アフリカゾウ

「えー、早く行かないといつまで経っても進まないよ!先に行こうよ」

 

ドブネズミ

「わたしは、アフリカゾウよりもすぐ疲れるんだ。ここんとこの休憩は少ないくらいだ」

 

アフリカゾウ

「う…たしかに、マイが言ってたね。ドブネズミちゃんはずっと寝てるけものだって。でも動かないと」

 

ドブネズミ

「ああ、喉も乾いたけどここには水がない…どうしたらいいんだ……」

 

アフリカゾウ

「動けばいいんだってば〜〜」

 

お〜〜〜〜〜い!大丈夫〜〜〜〜?元気ないみたいだけど〜〜〜?

上空から声がした。

 

アフリカゾウ

「あ、アネハヅル!インドガンも!」

 

ツル目ツル科アネハヅル属

アネハヅル

Demoiselle Crane

 

カモ目カモ科マガン属

インドガン

Bar-headed goose

 

アネハヅル

「アフリカゾウ、声だけでよくわかったね。山の上を越える途中だけど、困っているみたいだから何か役に立てることはないかなって、来てみたんだよ」

 

インドガン

「アネハヅルったら渡りの途中にどこに行くんだろうと思ってついてきたら、君たちが見えたんだよ。何があったのさ?」

 

アフリカゾウ

「このドブネズミちゃんっていうんだけどね、こっちの下まで降りなきゃいけないのに動けないって」

 

ドブネズミ

「気分が優れないんだ……」

 

アネハヅル

「これはもしかして……」

 

インドガン

「もしかすると、だな」

 

アフリカゾウ

「なに?何があるの?」

 

アネハヅル&インドガン

「高山病「だね」「かもね」」

 

アフリカゾウ

「こーざんびょー?」

 

アネハヅル

「この子、もしかしてずっと低いところで暮らしてた子だったりする?君が大丈夫なのはわかるけどさ」

 

インドガン

「あたしたちみたいに高いところに慣れてない子が来ると、酸素が足りなくてこうなる。アフリカゾウ、君がこの子を連れ回してしまっているの?」

 

アフリカゾウ

「うう……そんなことはないよ。でも気がついたら具合が悪そうにしてて……」

 

アネハヅル

「さっき、水がほしいとかって言ってなかった?水を飲まないと危ないんだよ。このままにしてても良くならないかもしれないね。インドガン、下まで二人を連れてってあげようか」

 

インドガン

「ハァ、アネハヅルのお人好しで渡りの予定が延びそうだ。仕方ない、あたしたちが下まで降ろしてあげるとしよう」

 

アフリカゾウ

「ごめんなさい……二人とも。ドブネズミちゃんも、ごめん」

 

アネハヅル

「気にすることはないよ!大切な仲間が減るのは避けなきゃね。その子、ドブネズミっていうんだっけ?ぼくが持つよ」

 

インドガン

「じゃああたしはアフリカゾウを持つかな。方向と着地点は適当なところにするけどいいか?」

 

アフリカゾウ

「えっと、あっちの海の近くに行ってほしいんだけど」

 

アネハヅル

「了解!」

 

インドガン

「出発!」

 

こうしてドブネズミはアネハヅルが、アフリカゾウはインドガンが背負い飛んで次の目的地へ移動することになった。

ドブネズミはこれまでに体験したことのない頭痛や動悸やめまいがして歩くのが難しくなるほど体調が悪くなっていた。

アネハヅルの背中に吐きそうにまでなったが、そもそも予備のじゃぱりまんも食べておらず腹に何も入れていないので事件を起こさずには済んだ。

さらにドブネズミにはアネハヅルが時々語りかけて具合はどうかと聞いてきてくれるのが心の支えとなり、どうにか最後まで持ち堪えることができた。

一方で途中のアフリカゾウはというと、ドブネズミにさらに無理をさせてしまうかもしれなかったという後悔が募り、インドガンの背中を見つめたまま顔を上げられずにいた。

だが降り立ったときまでには決心がついたのか、ドブネズミには前から変わらないアフリカゾウとして立っていたように見えた。

 

アネハヅル

「ここら辺でいいんだね。降りるまでよく頑張ったけど、今度から高いところに行くときはゆっくりいこうね」

 

インドガン

「そう。高山病にならないようにするには、休み休み登ったり深く呼吸したり、ペースを上げすぎないこと!いい?」

 

ドブネズミ

「わかったよ。ありがとう。気をつける」

 

アフリカゾウ

「ほんと、ごめんね。ありがとう!」

 

アネハヅル

「アフリカゾウ、久しぶりに会えて良かったよ!今度は二人とも元気で会えるといいね!またね!」

 

インドガン

「そうね。またね」

 

ドブネズミ

「元気でな!」

 

アフリカゾウ

「元気でね!」

 

飛び立った渡り鳥コンビが点に見えるまで見上げていた二人は、流石に即座に落ち着いて出発できなかったのか腰を下ろして休んだ。

しばらくして、これについて何か知っていたのではないかとドブネズミがコノシマ・マイに連絡するため通信端末を起動するとアフリカゾウが近づいてきた。

 

ドブネズミ

「マイはいるか」

 

マイ

《ここにいる。わたしだ。何の要件なんだ?》

 

アフリカゾウ

「えっとね、ドブネズミちゃんが『こーざんびょー』になってたみたいでね」

 

マイ

《な!?なんだと!?そんなことがあったのか!?今は大丈夫か?!》

 

ドブネズミ

「下に来たから良くなってきた。そんなに驚いて、そっちがどうしたってんだ」

 

マイ

《いや、目標の地点は高山病に罹るような高さではないはずだったんだ。アフリカゾウは大丈夫なのか?》

 

ドブネズミ

「なんともないみたいだ。わたしは立ち上がるのがやっとだったよ。お前はわたしについては、どう思ってる?」

 

マイ

《本当に申し訳ない。ドブネズミ君の呼吸では酸素が十分に取り込みにくいということなのかもしれない。高山病の症状を緩和する薬を渡しておくべきだった。高山病は個人差によってなりやすさが違う。特にフレンズの身体能力については未解明な部分が多い、というよりほぼ全く分かっていない。だから予測できなかったというのは言い訳でしかないがそう説明したということにさせてくれ。本当ならデータをとるために心拍や脈拍を測る必要があったんだが、それは既に不可能だからそのまま調査を継続してくれ。何か他にはないか?》

 

アフリカゾウ

「私からは、特にないよ。」

 

ドブネズミ

「このあとのルートにはどのくらい高いところがあるんだ?」

 

マイ

《一回、かなり高いところに行く予定になっている。》

 

ドブネズミ

「その予定についてはどうなんだ?」

 

マイ

《そこはドブネズミ君には苦しいだろう。だがドブネズミ君だけ行かなくてもいいというワケにもいかない。そこで、助っ人を用意した。そちらへ向かわせているところだ。待っていればすぐにでも到着するだろう》

 

ドブネズミ

「助っ人?」

 

アフリカゾウ

「え?誰か来るの?」

 

マイ

《君たちのご存知の者だ》

 

    ピョコピョコピョコ

  ピョコピョコピョコ

ピョコピョコピョコ

 

ドブネズミ

「この足音は……もしや………」

 

アフリカゾウ

「まさかの………」

 

?ラッキービースト

「こんにちは。ラッキーだよ。君たちのアシストをすることになったよ。よろしくね」

 

マイ

《そのラッキーが助っ人だ。今まで君たちが出会ってきたタイプとは異なる、【多機能】で特別なラッキーだ。通信はそのラッキーを通じて行うこともできる。話しかけてやれば言葉を解して反応する。ヒトじゃあなければ反応しないなんてことはない…いやなんでもない。まあ、要するに便利…頼もしいやつだ。頼るならまずは彼に相談するといいだろう。詳しい機能については彼から直接聞けとしか言われていない。それほどに【多機能】なんだろう。期待してやってくれ。じゃあそろそろ失礼する》 

 

アフリカゾウ

「ふ〜ん。ボスじゃなくてラッキーね」

 

ドブネズミ

「ちょっとこいつをイジるか。ボス!これからよろしくな!」

 

ラッキー

「『ラッキー』。ボスではなくラッキー・ビーストの略称でもない。『ラッキー』がボクの正しい名前だ。正確に憶えるんだ」

 

←to be continued…

 



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ラッキーさんの企て

ラッキー

「『ラッキー』。ラッキー・ビーストの略称じゃあない。『ラッキー』がボクの正しい名前だ。正確に憶えるんだ」

 

ドブネズミ

「な、なんだぁこいつァ!?」

 

アフリカゾウ

「さっきとは喋り方も、口調もまるで違う………こんにちは!私はアフリカゾウ。こっちはドブネズミちゃん。君をラッキーって呼んでいい?」

 

ラッキー

「ああ、アフリカゾウ。そうしてくれ。ドブネズミちゃんもそうしろ」

 

ドブネズミ

「お、ぉ、オイ!ちゃんはやめろ!アフリカゾウが呼ぶときはちゃんが付くんだよ!お前は付けなくてもいい!なんだかお前からのその呼び方はこっ恥ずかしいんだよ!」

 

アフリカゾウ

「あ、気にしてた?ごめんね、クセなの」

 

ドブネズミ

「いや、アフリカゾウは呼びやすいように呼んでくれていい」

 

アフリカゾウ

「そう。ラッキーさんは…」

 

ラッキー

「お前がドブネズミなのは知っている。そう呼ばせてもらう」

 

アフリカゾウ

「だって」

 

ドブネズミ

「こっ、コイツゥウゥゥ〜〜〜〜〜〜ッ」

 

アフリカゾウ

「気難しいんだね。ねえラッキー、今のドブネズミちゃんの体調はどうなってる?」

 

ドブネズミ

「どんだけ【多機能】なのかを確かめるのか」

 

ラッキー

「分析中……分析中……完了。ドブネズミは、至って健康。不調はみられないよ」

 

アフリカゾウ

「は〜、良かった!」

 

ドブネズミ

「そういや、降りてきてちょっとしか経ってないのにめまいも吐き気もしないな。高山病っていうものはこんなものなのか?」

 

ラッキー

「言われただろう。フレンズの身体的な能力についてはほとんど分かっていないと。急速に快復しているようだが念の為暫くは安静にしておくんだ」

 

ドブネズミ

「ラッキー……」

 

アフリカゾウ

「うん、そろそろ夕方だし寝るのがいいと思うよ。でも休むならもっといい場所を探さない?ここはゴツゴツしてて寝心地悪そうだよ」

 

ドブネズミ

「わたしもそう思っていたところだ。ラッキー、近くにいいところはないか?」

 

ラッキー

「いいところ?何がどうなってるのがいいのか具体的に説明してくれ」

 

ドブネズミ

「ぐっ……近くにいて話聞いてるならわかるだろ!?」

 

アフリカゾウ

「ごめんごめん。えっと、地面が柔らかくて平らな場所がいいんだけど」

 

ラッキー

「了解。ラッキービーストたちの集めた情報から検索中……む、あったみたいだぞ。そちらにすぐ向かうからついてこい」

 

ドブネズミ

「お、助かるな」

 

アフリカゾウ

「ありがとう、ラッキー!」

 

アフリカゾウには友好的だがドブネズミには見下したような態度で話すラッキービーストは、二人を率いて歩き出した。

高いところに行けないドブネズミのアシストをするためにラッキービーストを仲間にするということ自体が疑問で、更にそれがアシストされる自分の言うことを聞かないかもしれないときている。

ドブネズミは疑問を解決できるような相談相手を探すが、まともに話せるアフリカゾウはこのことを知っているわけが無いしマイはこれを説明しないで遣わしたということは「知らなかった」で済まされる恐れがあるので諦めた。

『ご本人(ラッキー)』に聞くことは最初選択肢に上がらなかったのだが、まだ会話ができないとも限らないとして試すしかなかった。

 

ドブネズミ

「ら、ラッキー。聞きたいことがあるんだが……いいかい?」

 

ラッキー

「なんだ」

 

ドブネズミ

「ラッキーはアシストをするためにわたし達の元へ派遣されたんだろ?」

 

ラッキー

「そうだが、何が言いたい?」

 

ドブネズミ

「高いところに行けないわたしのアシストって、どんなことをしてやるんだ?具体的にどうやってアシストするんだ?」

 

ラッキー

「それか。ボクにはお前のようなある環境への適応力が不十分なフレンズの生存を助ける機能が備わっている。ボクを抱えて持っていればエベレストの頂上でだって年中暮らせるようになるし、水中では何キロ先だって見通せるようになる。ボクの能力を疑っているというのなら証明してやろうか?」

 

ドブネズミ

「説明ありがとう。わたしには、それのどこがすごいのかイマイチピンと来ない。でも期待してるから拗ねないでくれよ」

 

ラッキー

「期待してるなどと…慰めのつもりか……」

 

ドブネズミ

「お、おい。ラッキー、何でそんなに拗ねてるんだ」

 

アフリカゾウ

「ラッキー、ごめんね。ドブネズミちゃんがまた何か傷つけるようなこと言っちゃったみたいでさ。ちょっと離れて二人だけで話したいから止まっていい?」

 

ラッキー

「構わない」

 

アフリカゾウ

「ありがと。こっちきて、ドブネズミちゃん」

 

ドブネズミ

「な、なんだよ」

 

アフリカゾウ

「あのさ、あのラッキーさん、ボスとすごく似てる形をしてるじゃん?色は全然違うけど」

 

ドブネズミ

「おお、確かにそうだけどそれが何だって?」

 

アフリカゾウ

「ボスたちと同じくずっと外にいて何かしてるならその分汚れるはずだけどさ、すごくキレイで、如何にも『出荷直前』って感じだったじゃん」

 

ドブネズミ

「そ、それで?」

 

アフリカゾウ

「う〜ん、つまりさ、『初仕事で張り切って出てきたら役立たず呼ばわりされた』って思ってるんじゃない?」

 

ドブネズミ

「え、え!?どこが!?」

 

アフリカゾウ

「みんなきっと自分は仕事ができることがわかってくれるって思ってるのに、説明したことにピンと来ないって言っちゃったのがマズかったのかなって」

 

ドブネズミ

「あ〜〜っ。そうか。なんとなくわかった。気をつけるよ」

 

ラッキー

「おい、そろそろいいか?」

 

ドブネズミ

「ああ!待たせてごめんな、ラッキー。さっきのわたしが言ったことで傷つけてしまった件について、わたしの失言だったと理解したよ。すまなかった」

 

 

 

ラッキー

「……『ロボットのボクに一々謝るなんてな。こいつはなんとも滑稽だ。そんなことを気にしているなどと聞いてしまっては、ボクまで恥ずかしくなりそうだ』」

 

ドブネズミ

「………………なんだと?」

 

アフリカゾウ

「え…………?」

 

 

 

   ゴニブゴニブゴニブ        

     ゴニブゴニブゴニブ      

       ゴニブゴニブゴニブ    

 

 

 

アフリカゾウは、ラッキーが発した毒のある言葉に耳を疑った。

そして顔に風を感じたとき、すでにドブネズミがラッキーに掴みかかっていた。

両手でがっしりと、捕えた獲物を逃がすまいと地面に押し付けて捕らえている。

ラッキーのボディーは爪が食い込みギシギシと凹んでいた。

 

アフリカゾウ

「あ、あわわ……どうしてこんなことに……

取り敢えず、抑えて!ドブネズミちゃんっ!そんなことしてもなにもかいけ……あれ?」

 

アフリカゾウは、初めてそれを目撃した。

目は光り、手からは光る粒子がこぼれ落ち、静脈血のように赤黒く妖しいオーラを纏いながら『ラット』が出現する。

髪飾りの目すらも、ドブネズミの意思に呼応しているかのように赤く光っていた。

アフリカゾウからは背中側だけ見えていて、手元も顔も見えていない。

しかし、手から溢れるサンドスターが舞い上がるのが見えて唖然とするしかなかった。

一方、ラッキーは言葉を発してドブネズミと会話しようとした。

 

アフリカゾウ

「これが………ドブネズミ……ちゃんの…『野生開放』…………」

 

ラッキー

「ドブネズミ!ドブネズミ!ボクから言うことがあるよ!聞いて!」

 

ドブネズミ

「…………………話せ」

 

ラッキー

「ボクは『君を怒らせる』ようにプログラムされていたんだよ。口調を変えたのも、親しみやすさを覚えさせないためだよ。でも、プログラムに完全に従っていたら、まだまだ君を罵ることを言っていたんだ。目的は君の『野生開放』を起こさせることだから、これ以上は必要ないんだ」

 

アフリカゾウには、ドブネズミのオーラが薄まるのが視えた。

 

ドブネズミ

「そうか。お前自身は言いつけられたことをやっただけだから非はないと?悪気はなかったと?お前のことを攻撃するのはおかしいというのか?」

 

ラッキー

「たしかにボクは攻撃されても文句は言えないくらい悪意の籠もった発言をしたよ。でも、初め君はボクのことをからかおうとしてたね。ロボットだから謝罪はもとめないけどね。まあ、いつだってこんなとき過去のことを引っ張り出すと後が大変だからここまでにしておくよ。

本当は『野生開放』のデータが必要だからこの状態で戦いに行ってほしいんだけど、さらにこちらから頼み事をするのは嫌がらせしてきたクセに図々しいと思うだろうね。気が進まなければ何もしなくていいよ」

 

ドブネズミ

「なるほど。先にわたしを怒らせたらどうなるか見たいとでも言っておけばよかったものをこうしたことはなんとも思わないのか。お前は戦えるのか?わたしは相手がお前なら十分に戦えるが」

 

ラッキー

「目的を先に説明してしまうと、怒りを引き出すのが困難になるからという理由があって説明なしに実行させてもらったよ。

あと、ボク自身は無力だし君の能力は危険極まりなくてデータが取れなくなるという理由で戦闘は許可されていないよ」

 

ドブネズミ

「ふん、残念だな。ここにいるのがわたしとお前だけなら、お前がわたしを怒らせた時点でお前はカップからブチ撒けたゼリーになってたところだ。もっとも、そんなゼリーはすげー不味そうだから啜ろうとも思わないがな」

 

アフリカゾウ

「うぅっ……」

 

アフリカゾウはドブネズミが説明した光景を想像してしまい嗚咽を漏らす。

それを聞くとドブネズミの妖しいオーラが弱まりかけから完全に消え失せる。

 

ドブネズミ

「アフリカゾウ!どうしたんだ?」

 

アフリカゾウ

「心配してくれるの?ありがとう。ちょっと気分が悪くてね…」

 

ドブネズミ

「そうか。無理するんじゃあないぞ?わたしみたいなことになるかもしれないからな」

 

アフリカゾウ

「そうだね。休憩が必要だって言ってこうして歩いてきたのにね」

 

ラッキー

「………すぐそこが目指していたところだよ。休憩を取ろう」

(いつか、戦闘のデータもとらせてもらうよ。ドブネズミ。さっきの言葉が威圧するためだけの脅しなのか、それとも本当にやるつもりのあることの予告なのか、見極めなきゃあいけないからね…)

 

「見つけた………!あれ?なんでアフリカゾウと一緒なの………?とにかく、あれこれ考えるよりも先に捕まえないと………」

 

 

 

 

のののののののののののののののののの

 

 

 

 

ちょうどその頃研究所では、モニターに向かってブツブツと独り言を発してノートをとる研究者がいた。

 

マイ

「まずは想定通りか。状況から分析すると

 

『自分のことを貶されると怒り相手を攻撃する』

 

『怒りによって昂ぶり所謂野生開放と呼ばれる状態へと移行する』

 

『他人の声を聞くと怒りが抑えられる』

 

『声の主へ心を許しているほど抑制作用は強い』

 

『スタンドのパワー上昇の有無、変化の大小は未知だが本体と同様に基礎能力の向上があると思われる。両手でラッキーを締めつける力は数百キログラムにも達していたからである』

 

というところか。

凶暴化の進行が浅かったようだな。もっと、さらなる激しい怒りを誘って尚かつ安全にデータを取らなくてはならないのが今後の課題、と。

ふむ、スピードワゴン財団による情報だと命の危機を感じさせる程追い込まないと能力は向上しないそうだが?

やはりフレンズのスタンド使いであるドブネズミ君のことについて考えるには、フレンズの枠に囚われない想定が必要なのかな?それとも、フレンズではなくビーストだと?いや、これまでの行動が理性的過ぎるな………特にこの辺りのデータを取らなければ………

ん?フレンズが一人、低い姿勢でドブネズミ君の方を睨んでいるな。狩りのつもりか?本気で狩ろうとしているようには見えないが…」

 

←to be continued…



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やくそくのうた その①

前回のあらすじ
アシストのため派遣されたというラッキーは気難しく接した果てにドブネズミを怒らせた。

するとドブネズミは野生開放してラッキーに襲いかかる。

アフリカゾウがなだめようと声をかけると怒りとともに野生開放が収まった。

ラッキーは野生開放時の戦闘データもとるつもりでいるがドブネズミは露知らず安全な寝床となる場所へ行くのだった。


ラッキーの案内で到着したのは、泥場だった。

雨水か湧水で土が緩くなっているのが若干掘り起こされかき混ぜられているところから、泥浴びをした者がいたのがわかった。

たしかに平坦で柔らかいが、こんなところでは静かに眠れそうにないとドブネズミには不満が募る。

 

ドブネズミ

(またアレをやらせようというわけか………

もうその魂胆には乗らんぞ………

挑発に屈しないように落ち着きを持とう………)

 

一方でアフリカゾウは「久しぶりに泥を浴びたいけどこの身体には必要ないんだよね」と独り言のようなことを漏らしていた。

そんな気持ちを想像して募っていた不満を忘れかけていたときに、ドブネズミへと一人のフレンズが一気に駆け寄ってきた。

狩りのターゲットとされたのは、ドブネズミだった。

 

「シャァーーーーーッ!!」

 

ドブネズミは足音を聞き取るも反応が間に合わず一瞬のうちにがっしりと抱えられ倒された。

気がついたときにはうつ伏せにされていて、背中に重しが乗ったように起き上がれない。

しかも両腕が纏められていて、力任せに解こうにも緩みもしなかった。

 

アフリカゾウ

「だ、誰なの!?急にドブネズミちゃんを捕まえたりして、何があったの!?」

 

ドブネズミ

「痛ってえな………何の用だ?お前は風下から襲ってきたからよほど警戒してるようだが」

 

イエネコ

「とぼけないで。あんたは多くのフレンズを困らせ、傷つけた。そんなことは許されない。私が、あんたを狩る」

 

ネコ目ネコ科ネコ属

イエネコ

Cat

 

ドブネズミ

「だってよ、アフリカゾウ。こいつを知ってるか?」

 

アフリカゾウ

「うん。イエネコちゃん、この子は、そんなことしてないよ!何があったか話を聞かせて?」

 

イエネコ

「あんた達は知らないの?

放送で言ってたの聞いてないの?

『危険なヤツが出たから安全な所に逃げろ』って

ここらでウミネコが見かけたって言ってて、駆けつけたらあんた達がいたってわけ」

 

アフリカゾウ

「そんなことが…

ごめん、聞こえてなかったみたい」

 

イエネコ

「アフリカゾウが聴き取れないなんて珍しいわね」

 

アフリカゾウ

「たぶん、飛んでたからじゃあないかな〜〜〜って…

あの山の上の方から降りるときに聴きそびれたのかもしれないね」

 

イエネコ

「飛んでた?鳥のフレンズに運んでもらってたの?まあいいわ」

 

ドブネズミ

「ちょっといい?ウミネコ?ってなんだそいつは」

 

イエネコ

「とぼけるのも作戦のうちってわけね。そんなの信用されると思ってるの?」

 

アフリカゾウ

「うーん、ちょっと疑い過ぎじゃないの?」

 

ドブネズミ

「一応は教えてくれないか?知らないんだよ、そのフレンズのことは」

 

イエネコ

「話を逸らさないで」

 

アフリカゾウ

「イエネコちゃん、このドブネズミちゃんは私とずっと一緒にいるはずだから、そっちの勘違いだと思うよ。本当はもう一人のドブネズミのフレンズがいて暴れてるんだって。こっちのドブネズミちゃんがいってたことだけど。とにかくこっちのドブネズミちゃんを傷つけるのはやめてよ」

 

イエネコ

「………そう。あんなやつに、そんなことを言ってもらえるようなフレンズがいるわけない。誤解してたみたい。悪かったわね。そもそも私がアフリカゾウに勝てるわけないもの。もう一人のドブネズミってところがわからないけど」

 

アフリカゾウ

「へへへ……」

 

イエネコはドブネズミを離し胸の前で手を組んだ。

ドブネズミは起き上がると五歩ほど離れてアフリカゾウのもとへ戻った。

 

ドブネズミ

「喜んでいいのかよくないのか……。えーと、お前はなんていうんだっけ」

 

イエネコ

「イエネコよ。あんたはドブネズミなの?」

 

ドブネズミ

「ああ。勘違いするほど似てるやつがいたというのに、まるでそいつの名前は違うみたいだな?名乗ってた名前とかでも知ってるのか?」

 

イエネコ

「ええ。ドブネズミとは言っていなかった。そいつは『虫喰い』と名乗った。私はやつと戦って、逃げられたわ。でも、おしゃべりなやつだった。色々な話をしてきた」

 

ドブネズミ

「『虫喰い』…………!」

 

アフリカゾウ

「『虫喰い』?」

 

ドブネズミ

「それがずっと存在を感じていたアイツの名前ってわけか…」

 

イエネコ

「なんですって?感じてた?」

 

ドブネズミ

「なんだかな、自分に似たヤツがいるってことを感じ…グゥッ!?」

 

アフリカゾウ「!?」

 

 

 

ののののののののののののののののの

 

 

 

???

「サあ、4番目ノ候補ハドンナ事ガ出来ルノか?

信頼ニ価スル個体デアルカ見セテ貰オウか…

見ル限リデハ行動ニ制限ヲ掛ケル事ノヨウダが…

コレモ狙イ通リト見テ間違イハ無イニシテも、変化スル可能性ヲ否定出来無イトイウノガ腹立タシい…

コノママ何モ起キナイダロウガ、見守ッテオコウ…ウム?コレは…」

 

 

 

ののののののののののののののののの

 

 

 

イエネコ

「そうだった…話なんかしてられない………あんたを…あんたを…『殴らなきゃ』…」

 

ドブネズミ

「な、なんなんだ!?突然殴らなきゃって、どうしたんだ!?」

 

イエネコ

「『やくそく』したの…やくそくは絶対…」

 

アフリカゾウ

「やめてよ!ドブネズミちゃんは違うって言ってるのに!」

 

突如ドブネズミを殴り飛ばしたイエネコは再度ドブネズミに一撃を見舞おうと近づく。

しかし、アフリカゾウは羽交い締めにしてイエネコを抑える。

するとイエネコは叫んだ。

ただ、それは単に拘束を解いてほしいというだけの叫びではないようだった。

 

イエネコ

「──────────!!!」

 

ドブネズミ

「な、なんなんだ?様子がおかしいぞッ

イエネコはッ……他に激しい苦痛を受けているんじゃあないか?そうでもないとこんなッ…こんな耳を劈くような声は出さない」

 

アフリカゾウ

「イエネコちゃん………どうしようッ………うわあッ」

 

ドブネズミ

「アフリカゾウ、イエネコを解放していいッ。いや今すぐしてくれ!イエネコはわたしがなんとかするからだ!」

 

アフリカゾウ

「え…?う、うん……」

 

ドブネズミ

「さあ、そのやくそくとやらについて聞かせてもらおうか!イエネコ!」

 

イエネコ

「うん………でも、『やくそく』を………守らなくちゃ……あああッ」

 

ドブネズミ

「うぐぁッ!カハッ……ま、先ずは一つ質問するぞ!お前のその首輪、どこで着けたんだ?わたしはそれに何かあるとにらんでるんだが」

 

アフリカゾウ

「首輪って…まさか…前は着けてなかったからどうしたのって聞こうとは思ってたけど…『やくそく』の方は聞かなくていいの?」

 

ドブネズミ

「そっちよりも大事な気がするんだよ。ハブの頭に取り付いたやつがいただろ?またそんな感じの敵なんじゃあないかって思ったんだよ」

 

アフリカゾウ

「ああいたね」

 

イエネコ

「かっ……く、首輪というと……おととい、寝てる時に変なセルリアンが来てて追い払ったらここらへん(首)に何かあるような感じがしたのはわかるけど……その……」

 

ドブネズミ

「なるほど、やっぱりスタンド攻撃だ!何らかの条件で攻撃している敵のスタンドは遠くにいるはずだ!こういう敵は探し出して倒さないと根本的に解決しない!アフリカゾウ、お前はそのどこにいるかわからない敵を探し出してくれ!でないと私が保たないしな!イエネコ、正直に言ってくれて助かった!助けてやるぞ!あぐぁっ」

 

ドブネズミはしっかりと攻撃を喰らいながらも、なんとか話をしている。

 

アフリカゾウ

「あのさ……その変なセルリアンってどんな感じの見た目だったかわかる?イエネコちゃん」

 

イエネコ

「ごめんなさい……あのときはすぐ見えなくなって姿を確認できなかったからわからないわ……あ、全体的に赤かったかな」

 

ドブネズミ

「…そうか。いや、気にしないでいいみたいだぞ!首輪は敵から出てきたものだろうからデザインくらいは似てるはずだ。つまりその首輪に似た部分をもつセルリアンを見つければ、そいつがその首輪の敵だ!アフリカゾウはラッキーを連れて行け!こちらを邪魔されちゃあ困るしそっちには必要だろうからな!ぶげっ」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃん!」

 

ドブネズミ

「いいから行くんだ!わたしはなるべく喰らわないようにする!」

 

イエネコ

「うあ……ああ…ごめんなさい……」

 

ドブネズミ

「大丈夫だよ。わたしも、お前もな。おっと」

 

イエネコ

「はあッ………はあッ…」

 

ドブネズミ

「やっぱし、攻撃することさえ妨害しなければイエネコは大丈夫らしいな。回避出来ればわたしは傷つけられないしイエネコも他人を傷つけずに済む!わたしのことは大丈夫だ!敵本体を探してくれ、アフリカゾウ!」

 

アフリカゾウ

「う…わかったよ。あの首輪の返しみたいな部分を持ってる赤っぽいのセルリアンを探せばいいんだね!待っててよ、自分のことも守っててね!ラッキー、一緒に行くよ!」

 

アフリカゾウが駆け足でその場を離れる。

ラッキーが抱えられて遠ざかってゆく光景を穏やかな目で眺めた後、真剣な目になってイエネコと向き合った。

 

ドブネズミ

「……行ったか。さて、あとはこちらが耐えるだけだな。かかってきな!」

 

イエネコ

「う…みゃあああッ……」

 

 

ののののののののののののののののの

 

 

アフリカゾウはセルリアンが居そうなところを探して駆け回る。

近くにいたフレンズを見逃していたことにも気づかないで………

 

アフリカゾウ

「ハッ…ハッ…どこにいるのかな?あんな変なヤツはっ……見つかるといいけどッ……赤いヤツなんて、そんなに珍しくないから探せるかどうか……」

 

???

「あれは………アフリカゾウ?あんなに急いでどうしたんだろう?」

 

ラッキー

(これではマズいね…でも成り行きに身を任せるのも悪くないかな)

 

←To Be Continued…



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やくそくのうた その②

 

ドブネズミは逃げながらイエネコと話し『虫喰い』の情報を得ようとしていた。

杜王町での彼(若しくは彼女)のことはよく知っているが、フレンズとしての体を手に入れてから何があったか知らない点があっては今後不利になる可能性は大いにある。

イエネコは最近まで追跡していたというのだから何か情報を持っているだろうと考えているところに、丁度よくイエネコの方から話しかけてきた。

 

イエネコ

「あなた……何故私を助けようとしてるのッ…」

 

ドブネズミ

「フッ!何故お前を助けるのか?それはお前がこうしてちゃあちっとも『虫喰い』にたどり着かないからだよ!邪魔するやつは許さないタチなんでね」

 

イエネコ

「そう…なら、早く首輪とかってのを取ってね。首を掻いても何もないみたいで変なの。ハッ!」

 

ドブネズミ

「それを早く言ってくれると良かったんだけどな!それは今からどうするか考える!

トウッ!おい、腕に余計に力込めんなよ!こんなところで無駄に力使うことはない!その『やくそく』とやらがどうなっているのか詳しくはわからないが、疲れて動けなくなっても殴りに行かなければ破ったということにされてもおかしくないからな」

 

イエネコ

「あ……ついつい楽しくなってきちゃったわ。狩りごっこしてるみたいで」

 

ドブネズミ

「楽しくなってきただあ!?……いやまて、楽しむのも悪くないか」

 

イエネコ

「そうね。あなたもちょっと楽しくなってきてない?セイッ…あ」

 

ドブネズミ

「へぐっ……そうか?なら孤島侵略型外来生物コンビ結成といくか?」

 

イエネコ

「なんかその呼び方は嫌ね。仲良くケンカしなコンビはどう?」

 

ドブネズミ

「それもそれでどうかと思うが……あとでいいや。コッチ(首輪)の方はどうするか早いとこ決めないとな」

 

イエネコ

「そっちは、もう解決したようなものじゃあないの?ずっとこうしてればアフリカゾウがどうにかしてくれるわ」

 

ドブネズミ

「いや、先に外せばアフリカゾウが敵を倒さなくても二人とも自由になれるんだぞ?本当にずっとこうしているつもりか?」

 

イエネコ

「そ、それはそうだったわ」

 

ドブネズミ

「一つもどうにかする方法がないわけじゃあないんだ。だが、これはかなり運頼みになるんだ」

 

イエネコ

「運頼み?どこを運に頼むの?せいやっ」

 

ドブネズミ

「うぉっ…『ラット』の当たり方だ。わたしのスタンド『ラット』は、スタンドだろうと溶かす毒を発射する。輪に触れないということはつまりそれはスタンドだが外さなきゃあ当たる。至近距離で撃てば外すことはまずないだろうが、真っすぐ当てようとするとお前の首ごと溶かしちまうかもしれない。威力の調節がほとんどできないからな。だから角度をつけてちょっとだけ丁度よく当たれば首輪だけ溶かせるかもって考えたんだ。練習出来ればいいんだが」

 

イエネコ

「そうね…どうしようかしらね」

 

 

 

 

 

ののののののののののののののののの

 

 

 

 

 

その頃、アフリカゾウが走り回ってセルリアンと思われる敵を探しているところをフレンズが見て呼び止めてきた。

 

???

「おーい!どうしたのー!」

 

アフリカゾウ

「はっ…はっ…」

 

???

「アフリカゾウ!おーい!聞こえてるー?」

 

アフリカゾウ

「んんん?なんか誰か呼んでるような声が聞こえるような…誰〜?」

 

???

「気づいてくれた!おーい」

 

アフリカゾウ

「あれ??誰もいない?おかしいな、確かに聞こえたのに…」

 

???

「え?そんな……ここにいるよ!ここだよ!」

 

アフリカゾウ

「ど、どこなのさ!誰もいないよ!」

 

???

「いるってば!ここにいるんだよ!」

 

アフリカゾウ

「じゃあ、見えない誰かがそっちにいるってことなのかな?」

 

???

「そこにじっとしてて!今そっちにいくから!」

 

アフリカゾウ

「わかったよ、『コノハガエルちゃん』」

 

ミツヅノコノハガエル

「もーっ、なんだぁわかってるじゃん!」

 

無尾目(カエル目)

コノハガエル科

コノハガエル属

ミツヅノコノハガエル

Long-nosed horned frog

Megophrys nasuta

 

 

アフリカゾウ

「ごめんごめん、カエルの子はいっぱいいるから間違えちゃうかもって思ったんだ」

 

ミツヅノコノハガエル

「あたしは他の子の名前で呼んでくれても怒んないよ。でも、ありがと」

 

アフリカゾウ

「うん…フフ……そういえば、コノハガエルちゃんはなんでここに?」

 

ミツヅノコノハガエル

「あ、それはね。

イエネコが『ヤバいフレンズがいるからとっちめる仲間が欲しい』みたいなことを言ってたんだ。

だけど、最初はあの子が『ヤバいからとっちめる』なんて言い出すのは変じゃないの?って思ったのさ。

でもあの子があんなに深刻そうな顔してるのは見たこと無かったから詳しく話を聞かせてもらったんだ。

そしたら、たしかに『ヤバい』みたいだね。もしかしたらセルリアンよりおっかないかも……。結構怖くなったけど、それより今困ってる子のことを助けたいなってなった…ってわけ。実は困らせてる方が一番困ってるなんてこともあるし…」

 

アフリカゾウ

「そ、そうなの。じゃあ『虫喰い』って子は知ってる?多分その子が『ヤバい』って言われてるフレンズなんだけど…」

 

ミツヅノコノハガエル

「へー、『虫喰い』?するとぉ、あたしと同じカエルの子なのかなぁ?てか、なんで遠くまで歩き周ってたっていうアフリカゾウが最近のここらへんのこと知ってるの!?」

 

アフリカゾウ

「ああ、それはね。

ちょうどさっき、その『虫喰い』を追ってるっていうイエネコちゃんから聞いたんだ。

でも、突然セルリアンの技みたいなもので苦しみだしたんだ。それから助けるために、そのセルリアンを探してるところなの。

そのセルリアンには丸まった針みたいな返しが付いてる四足歩行らしいんだけど、見てない?」

 

ミツヅノコノハガエル

「なに、今度はイエネコが苦しんでるって?大丈夫なのかなぁ?」

 

アフリカゾウ

「イエネコちゃんのことは、ドブネズミちゃんに任せてる。ちょっと心配だけどね。今探してるのはこうなってるところがあるセルリアンなんだけど見た?」

 

ミツヅノコノハガエル

「ドブネズミ?その子はどんな子なのかな?ネズミっていうならアカネズミとかと似てる感じかな?」

 

アフリカゾウ

「思ってるより似てないと思うよ。」

 

ミツヅノコノハガエル

「そ〜う。セルリアンの方は見てないなぁ。セルリアンはいつもやり過ごしちゃうから見過ごしてるかもしれないんだよ。でも取り敢えずは、これからはセルリアンをしっかりと『観る』ことにするよ」

 

アフリカゾウ

「うん、ありがとうね。じゃあ、私はこっちを探してみる……いやちょっと待って。一つだけ聞きたいことがある」

 

ミツヅノコノハガエル

「なんだぁ?」

 

アフリカゾウ

「たしかにコノハガエルちゃんは隠れるのが上手いよ。でも、ここまで全くみえないどころか周りまでどこかおかしくなったりしないはずなの。今はそう思わない?思わないって言うならいいんだけど」

 

ミツヅノコノハガエル

「ふぅ〜〜〜む……そもそもさ、今もさっきも『全くあたしからは隠れようとしてない』んだよね〜。

今も見えてないのに話しはできてるみたいだし………

不思議だよね〜」

 

アフリカゾウ

「なん………だって?」

 

ミツヅノコノハガエル

「え?」

 

アフリカゾウ

「いや、あ、ありがとう!じゃあ、ね。」

 

ミツヅノコノハガエル

「うん、またね」

 

アフリカゾウはミツヅノコノハガエルの声だけを頼りにして会話してきたが、『姿が見えないことはコノハガエルには関係ない』という明かされた事実に恐怖を覚えた。

この得体のしれない現象が何者かによる攻撃であるという可能性が頭をよぎったからだ。

そのとき何を考えたかを悟られないようにすぐその場を離れようとしたが、ミツヅノコノハガエルの目にも明らかに動揺していた。

だが、コノハガエルは大したことではないと判断して触れないことにしたためアフリカゾウが説明に追われることは無かった。

そして最終的には、コノハガエルと再会する前とそう変わらぬ早足に戻ったアフリカゾウは先を急いでゆくのだった。

 

 

 

 

 

ののののののののののののののののの

 

 

 

 

 

一方でイエネコとドブネズミは、時折パンチする側とされる側になりながらも安全に首輪を外す方法を試行錯誤していた。

『ラット』の形状を利用して上手く引っ掛けて外そうと近寄るとモロにパンチを喰らい吹き飛ばされたり、離れていれば良いかと思えば首輪の攻撃が始まり近づかざるを得ないことが判明したり、少し引っかかったと思ったらイエネコが首輪ごと引っ張られてきつく締まるだけと失敗が重なり二人共徐々に疲弊していった。

 

ドブネズミ

「いろいろ試したけど、どれも効果がないなんてな……

やっぱり『ラット』で溶かすしかないのか……」

 

イエネコ

「いえ、まだまだ方法はあるはずだわ。ここで諦めるなんてのは有り得ない。チャンスを掴み取るまで、探っていきましょう」

 

ドブネズミ

「ああ、そうだな。すまない。いろいろストイックなんだな」

 

イエネコ

「こんな状況、誰だって嫌でしょう。早く『虫喰い』にたどり着きたいって思ってるんじゃあなかったの?」

 

ドブネズミ

「そのつもりだが、疲れてるだろ。あんたもさ。そのガッツはどこから来てるのか気になったんだ」

 

イエネコ

「ガッツ、ねぇ……。そんなこと考えたことも無かったわ。すぐ答えが出ると期待しないでくれるなら答えてあげる」

 

ドブネズミ

「へ、そうかい。ならいいや。ちゃっちゃと外してやらんとな」

 

「外すゥ?なんて知能の低い解除方法だろうかァ!おめーの能力で溶かせば一発なのによーお?」

 

イエネコ

「その声は…まさか、『虫喰い』!?なぜここに!?ボスの放送の情報では今たしか砂漠のエリアにいるはずだったのに…嘘だったというのッ!?」

 

ドブネズミ

「なんだと!?ヤツが近くにいるというのかッ!?テメーッ姿を見せろ!!」

 

「おっと、勘違いしてるようだな、人家の邪魔者さんたち。この虫喰いの声がするところをよく見な!何が見えるね?」

 

ドブネズミ

「何ィ!?これはッ」

 

「そう、スピーカーのセルリアンだ!スピーカーが声を発するものだってことは説明するまでもなくわかってるだろーがな。こいつはスピーカー部分だけ地表に見えてて本体は地中に埋まっている!地中の移動はこいつにはお手の物さ!つまりィ?おめーさんたちは今からコイツの餌食になるんだァァァ

まあ、スピーカーの部分をじっくりと見てりゃあ近づいて来るのがわかるかもなああひゃひゃひゃひゃひゃ…ゲホゲホォ」

 

イエネコ

「くっ、厄介なことしてくれやがったわ『虫喰い』は」

 

ドブネズミ

「もうアイツの言う通り首輪を溶かすしかない!イエネコォ、じっとしてろよ」

 

イエネコ

「今この状況で何言ってんの!セルリアンがいるすぐそこから来てるってのにさ」

 

ドブネズミ

「いいから待ってろ!作戦があるんだよ!飛びきりの作戦が!」

 

イエネコ

「どういう意味よそれは!」

 

ドブネズミ

「来たッ!今だ!思いきりジャンプするぞ!」

 

イエネコ

「えッ!?」

 

そう言ったドブネズミは作戦とやらを理解できていないままのイエネコとともに宙を舞った。

余りにも勢い良くセルリアンが足下から盛り上がり出てきたのでジャンプする必要があったのかわからないほどのスピードで飛ばされている。

 

ドブネズミ

「これで『飛びきり』の作戦は成功だ!これで『ラット』を安全に撃てる!地上は射程距離外になるから地上に弾丸は届かないし、二人ともほとんど同じ速さで飛ばされたから離されることもない!」

 

イエネコ

「たしかに飛びきりだったわね…。ど、どうして敵が足下からくるってわかったの……?」

 

ドブネズミ

「ヤツの作戦はわたしには全部お見通しなんだよ。

スピーカーの真下から突き上げてくると思わせて直接わたしたちの足下を狙ってくると読んでたんだ。

言ってただろ?スピーカーの部分だけ見えてるとか。

あれは多分、別々のセルリアンが動いていたんだ。

罠に他人を嵌めるのが巧いアイツの策は見切っていかなきゃあわたしまではめられてたかもしれないことがあったし、多分知らない内にはめられてることもかなりあると思う。

それくらいアイツは狡猾だ。

いくら突拍子もない奇襲をかけようがスタンド能力を利用して幾らでも罠が作れるだろう。

それくらい危険なやつなんだ。わかってくれるか?」

 

イエネコ

「………」

 

ドブネズミ

「だからその、いきなりだが、任せてくれないか?『虫喰い』の件。手を引けというわけじゃないけど、わたしの方が効果的にアイツに対処できると思うんだ」

 

イエネコ

「………くっ」

 

ドブネズミ

「どうした?」

 

イエネコ

「………ぁ…ァがッ」

 

ドブネズミ

「マズい、殴ってこないなんて!苦しいのか?仕方ない、この状態で首輪をすぐ溶かして取るぞ!」

 

イエネコはこの殴りにいくのを忘れるほどにドブネズミとの話に夢中だった。

それによって空中を落ち始めていることに気がつかなかった。

 

ドブネズミ

「うおおおおおおお!

上空へ高く放り出されたのに着地のことはなんにも考えてねえのを思い出したアアアア〜〜〜〜ッ!」

 

アネハヅル

「よっと!さっきぶり!大変そうだけど、何があったの?」

 

ドブネズミ

「助かった…山の上で会った二人か。イっ、イエネコは!?」

 

インドガン

「なんとか掴めた。この通りよ」

 

インドガンは抱えているイエネコを見せてきた。

そのとき既にイエネコは気絶していて呼んでも返事をしなかった。

その眠ったような表情で項垂れている様子に渡り鳥の二人は青ざめるが、ドブネズミが経緯を説明して落ち着かせた。

 

アネハヅル

「あ…あ…い、イエネコは大丈夫なのかい?」

 

インドガン

「どう見ても普通じゃあないッ!これが大丈夫だって!?」

 

ドブネズミ

「大丈夫さ。二人が協力してくれたらな。イエネコの首にはセルリアンが取り付けた輪っかが取り付いている。これを取れる方法が、イエネコの意識が無くて空中にいる今なら実行できるんだ!頼み事ばかりで申し訳無いが、協力してほしい。頼まれてくれるか?」

 

アネハヅル

「ふっ、やるしかないね!」

 

インドガン

「あたしたちが何とかするしかないならそうするさ!」

 

ドブネズミ

「ありがとう……本当に…すまん、じゃあ作戦をいうからきいてくれ」

 

 

 

 

 

のののののののののののののののののの

 

 

 

 

 

アフリカゾウ

「コノハガエルちゃんは何ともなさそうでよかった…イエネコちゃんのためにも、早くセルリアンを見つけて倒さないとっ」

 

「ほほう、セルリアンをお探しとは変わってるねェ〜〜〜!この虫喰いが用意して差し上げようかァ?ま、お前を食わせるためだがね!!」

 

アフリカゾウ

「虫喰いッ!?」

 

←To Be Continued…



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やくそくのうた その③

前回

ドブネズミとアフリカゾウの二人は、イエネコに首に取り付いた輪の敵スタンドを取り除く方法を探しながら逃げるドブネズミと、どこかにいるスタンドの本体と思われるセルリアンを探すアフリカゾウの二手に別れた。

アフリカゾウは姿を消すことが得意なミツヅノコノハガエルと、何もしていないというのにミツヅノコノハガエルが見えなくなる奇妙な現象に同時に遭遇した。
だが、そのことを深く考えるより足が止まっていることに気づくと敵を見つけ出すため歩きだした。
恐怖を紛らわそうと決意を口に出して歩いていると思わぬ相手に遭遇した。

一方でドブネズミはイエネコの首の輪を外す方法を模索していると、虫喰いの声が突然現れた。
虫喰いはセルリアンを操り二人まとめて上空にふっ飛ばした。
その落下中にアネハヅルとインドガンに再会し受け止められるが、イエネコが意識を失っていた。
ドブネズミは二人との協力でイエネコの首輪を外せると考え助けを求めた。


 

 

 

アフリカゾウ

「コノハガエルちゃんは何ともなさそうでよかった…イエネコちゃんのためにも、早くセルリアンを見つけて倒さないとっ」

 

「ほほう、セルリアンをお探しとは変わってるねェ〜〜〜!この虫喰いが用意して差し上げようかァ?ま、お前を食わせるためだがね!!」

 

アフリカゾウ

「むっ、虫喰いッ!?ど、どこなのっ!見えないところにいるの?」

 

「はん、そんなバカ正直にみせてやるほど慢心していないんでね。それに、今おれは島の反対側にいるから物理的に不可能だ。でも?スタンドを使えば遠くの物を見ることも出来なくない、か?も?おおっと、お前はスタンドを『持っていない』か『使えない』んだったなぁあ?どちらにせよスタンド使いでないお前に勝ち目はないィィ。いでよ!」

 

虫喰いの掛け声により地中から這い出たセルリアンは、見上げるほどの図体以外はイメージして探し求めていた特徴をしていた。

棒を刺したような四本足が楕円球形のボディに付き、前部には4つの眼が並び、イエネコの首輪にもあった模様と突起が

 

る。

アフリカゾウはあまりに大きいので胴体の下に入って雨宿りでもできそうだと思った。

おそらくこのセルリアンこそが今もなおイエネコを苦しめているのだろう。

立ち上がっている脚は地上に出てから展開して四足になる仕組みであったため地中にいたら見た目が異なるどころか見ることすら不可能だったわけだ。

アフリカゾウはしゃがんで頭を抱え叫んだ。

 

 

アフリカゾウ

「い、いやああああああああああ!」

(虫喰い…って、こんな話し方なんだ。なんか変だなぁ。ドブネズミちゃんとは似てないように思えるけど…)

 

「む?何か隠しているな?だがそれが何なのか探るのは危険な気がする。罠のニオイがするぞ?この虫喰いを罠にかけようなどというのは浅はかだったと後悔させてや………いや、あえて掛かってやろう。突進しろ!何を企んでいるのか暴いてやることにしたぞ!」

 

アフリカゾウ

「土の中にこもってた方が安全だったのに出てきちゃったんだ…」

 

「ふお?」

 

小さくつぶやいたアフリカゾウは、しゃがみこんで丸くなったまま前転して向かってくるセルリアンの下に潜った。

そして、握りこぶしをつくり胴体部を見上げて構えた。

ラッシュを食らわせるためにッ!

 

パオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオ━━━━━━━ッ!!

 

「な、なんだとぉ〜〜〜〜っ!?このパワーはヤバい!逃げるんだッ!はっ!逃げられない、だと?!」

 

真下から浴びせられたラッシュは重厚なセルリアンのボディを浮かせた。

脚を曲げて立っているセルリアンは脚を伸ばしたが勢いがついているので間に合わずひっくり返ってしまう。

不利になった虫喰いのアナウンスには焦りの色があった。

 

「元の体勢に戻れっ!お前が割られるわけにはいかん!割られるんじゃあねー!起き上がるんだァ───っ」

 

アフリカゾウ

「フレンズがなんでセルリアンを操れるのかわからないけど、このまま倒させてもらうよ!パオオッ」

 

「ククククククク…ウプププ」

 

アフリカゾウ

「な、なんで笑ってるの………?何が可笑しいっていうの………?なんだか変だけど」

 

「これはちっとも変じゃあねー。こうやって笑ってるってことはお前はもうおしまいだってことだぜ。わかんな〜〜い?」

 

アフリカゾウ

「はッ!」

 

「そうさ!中には大量にあのネコちゃんに着いている輪が入ってるんだぜ?それを割るってことはどうなるか、もうわかるかねぇ?」

 

ラッシュを浴びせたセルリアンのボディの中心からヒビが入り、そこから穴が開いて大量に輪が飛び出した。

それをもろに浴びてしまい、何個か体に乗っかっている。

 

アフリカゾウ

「きゃああ───────ッ!?」

 

「ドッキリ大成功だ!ヘヘェァーッ!

77人組手に挑む騎士みてーに全身に輪を着けられりゃあ重くて動けなくなるわ!

そして!この虫喰いがコイツをけしかけた理由はこれだけじゃあない!」

 

アフリカゾウ

「気持ち悪いいいィッ

何なのこれはあ───ッ?!」

 

輪に付いていた突起がひとりでに動き出し一つひとつがもがいていた。

それが体の上でうごめいているのが不快だったのでマフラーで振り払おうとしたが、一度触れただけでくっついて離れなくなった。

激しく振りまわしても地面に擦りつけても一向に取れず、むしろより多くの輪が付いて重くなった。

 

アフリカゾウ

「もうやだあ〜〜〜ッ!こいつらどうやったら取れるのォ〜〜〜ッ!?」

 

「そーだなァ、マフラーごと捨てればそこについてる分だけは取れると思うなァ。

何しても外せないという現実を受け入れてそれに適応しようとする姿勢がお前には必要なんじゃあないのお〜?

ブチ割ったソイツの後始末のこともどうするか考えて無かったんだろ?

責任とってさ、ウジにたかられたゴミみてーにきれーさっぱりと消えたらどうだァ?」

 

アフリカゾウ

「んっ…………くっ………」

 

虫喰いの煽りを聞いてある状況を思い出すと闘志に火が着くことで逆に冷静になれた。

そこで現状を考えて、のたうち回るだけでは輪が体に触れやすくなり逆効果だと理解した。

これ以上纏わりつけられないようにと丸くうずくまるが、表面に冷たいものが染み込む感覚がした。

 

アフリカゾウ

「頭より小さいのになんで首に着いてるんだろうって思ってたけど、わかった…一つ一つが染み込むようにして取り付こうとしてるんだ…なんとかして外さないと…」

 

そう言ってもさっきから外そうするのは無駄だと身をもって実感している。

外そうとしても何も効果は得られないということはわかっていた。

しかし、得体の知れないものに支配されるということが何より恐ろしくて動かずにはいられなかった。

起き上がって輪が何重にもこびりついたまま走り出す。

同時に、腕もマフラーも可動域の端から端まで振り回した。

 

「ああ、とうとうパニックに陥ったか………そんなことをしてなんになるというのだ?

理性を捨てれば奇跡的にでも取れると思ったのか?

『やくそくのうた』の支配からは絶対逃れられないというのにねぇ」

 

ドブネズミ

「なんか知ってるような声がすると思ったらよぉ〜、アフリカゾウも虫喰いもいるようだな!」

 

「な………なに?この声は…」

 

アネハヅル

「お〜〜〜い!アフリカゾウ〜〜〜!」

 

アフリカゾウ

「え………?アネハヅル?ドブネズミちゃんも?どこから来たの?」

 

インドガン

「上からさ!」

 

イエネコ

「そして!ふっか〜ッつっ!観念しな虫喰いッ!」

 

「うげ、あのやけにしぶといネコまで一緒だというのかッ!?

しかたない、おまえらは自由だ!

好きにコイツらに取り付いて自由を奪ってやれ!」

 

イエネコ

「他人の自由を奪おうとしといて、自分一人だけ好きにしようなんてこと許すわけないでしょっ!」

 

ドブネズミ

「おいっ!イエネコ!なんかうじゃうじゃいるみたいだが大丈夫なのか?あれの一つひとつがさっきまでお前についてたやつと同じみたいだが?

アフリカゾウなんか全身輪っかマミレだし。それでも動きまわってくれてなかったら上からは見つけにくかったよ」

 

アフリカゾウ

「みんなきた…きてくれたんだ…」

 

イエネコ

「もう知ってるわ!ドブネズミは上から援護してよね!」

 

アネハヅル

「うぇ〜っ、入れ食い状態だね。ここに飛び込んだら輪っかだらけになっちゃうみたいだよ」

 

インドガン

「なるほど、上からでも十分そうだ。はァっ!」

 

ドブネズミ

「その技はいまのアネハヅルには無理そうだな…代わりにわたしが頑張るよ。しっかり持って てくれる?」

 

アネハヅル

「わかったよ!頑張って!」

 

四人もの加勢があったことで形勢は逆転、不利を悟り捨て台詞を残した虫喰いの声はその場ではもうしなくなった。

上からのうごめく輪の群れに『ラット』を射ち込みまくるドブネズミ、手刀で衝撃波を発生させて当てるインドガンのダブルアタックによりみるみるうちに数が減る。

地上の輪の群れの端の方では、イエネコが駆け回りながら手で一つずつ潰していった。

アフリカゾウはそれを顔にも引っ付いている輪の隙間から見て何か閃き、握りこぶしをつくるとマフラーを挟むように殴りつけた。

すると一瞬にして全身の輪がサンドスターのきらめきを残して消え去った。

そして、未だ残っていた割れた本体をイエネコが叩いて完全に消滅させた。

 

イエネコ

「ふー、この私としたことが輪っかを倒す方法を知ってたのにすっかり油断したところに一つだけ取りつかれて自信を無くすなんてね。

首を自分で傷つけるのは少しだけ勇気が必要だったけど、やってみればなんてことはなかったわ。

『ラット』で物が溶けるところを見たら、あれよりは自分でやるほうがマシって思うわよ」

 

ドブネズミ

「そ、それを言ってくれたからイエネコもアフリカゾウも助かったんだ。

アネハヅルとインドガンが戻ってきてくれたからでもあるがね」

〘首輪の攻撃でイエネコが気絶してたところに静かに溶かそうとしたところですぐ目が覚めたんで急いでラットでやろうとしたら、イエネコの方からやろうと思えば素手でも倒せるから射たないでと言われるなんてな…

素手で首輪を切ろうとしたら突起がひっくり返ったてんとう虫の足みたいに暴れだして不安になりはしたが、何の躊躇いもなく豪快に引き剥がしたんだから驚かされたっての。

じゃあ何故出来ると知っててやらなかった?

敵の本質を知らなかったのか?

逆に己を知らなかったのか?

スタンドに素手で触れられた謎はわたしにはさっぱりだが、調べとく価値はあるな………

マイにもアフリカゾウにも秘密にしておこう〙

 

アフリカゾウ

「みんな…」

 

イエネコ

「アフリカゾウ、よくわかったわね。『やろうと思うこと』こそが最も大事なんだって気づけたら後は簡単だって」

 

アフリカゾウ

「うん?そ、そうだね(?)。それもあるけど、けものプラズムはフレンズの意思によって操れる、とかってマイが言ってたからもしかしたらってね。あってる?」

 

イエネコ

「ええ」

 

アネハヅル

「相変わらずマイってヒトの言うことはカタいからよくわかんないや。

でも、できるって思うことは大切ってことだよね!」

 

インドガン

「そう、だな。じゃ、そろそろあたしたちはこれで。用事があったんだ」

 

アネハヅル

「あ、いっけない!じゃ〜ね〜!」

 

アフリカゾウ

「う〜ん!ありがとね〜!」

 

イエネコ

「あ…お礼しそびれたわ。いつかお返ししなくっちゃあね」

 

ドブネズミ

「ふ〜〜〜う。面倒なやつだったが、なんとかなって良かったな。報告はやっとくから休んどけ。このスマートフォンで写真撮ったらもっと簡単かつ正確に敵の姿を撮って送れるのになぁ〜。ふあ〜〜〜わっ」

 

アフリカゾウ

「あ、アクビした。もう夕方だし休もうか」

 

ドブネズミ

「ああ、そうだな。書いたらそこらへんの痛くなさそうなところで雑魚寝だ」

 

イエネコ

「ふたりとも早寝ね。私は虫喰いを探しに行くわ」

 

ドブネズミ

「おい、そんなに無理することはないぞ?お前も疲れてるはずだ。一緒に休んでいかないか?」

 

アフリカゾウ

「イエネコちゃんだけが虫喰いを追ってるわけじゃないんでしょ?コノハガエルちゃんに会って聞いたよ。虫喰いのことはイエネコ一人で解決できる問題じゃないって、思ってたから皆に言ったんだよね」

 

イエネコ

「うん……わかった。そう言うんなら、あんた達と一緒に虫喰いを追うから一緒に休む。いいかしら?」

 

ドブネズミ

「いいさ。イエネコの好きにするのを止める理由はない。三人の方が楽しいかもしれんしな」

 

アフリカゾウ

「お、三人になったんだね!これからはもっと楽しみだね!」

 

ドブネズミ

「ん?そーするってことは、セルリアン調査も手伝ってくれるんだよな?マイに言わなきゃならんかもしれんしな」

 

イエネコ

「え?なんかやんなきゃならないの?戦いは任せてくれていいから面倒くさいことはなんにもやらなくていいわよね?」

 

ドブネズミ

「んむむむ…やらせる理由はないし断られたのを押し通すのは気が引ける…」

 

イエネコ

「『でもなんかその理由は気に食わないんだが〜』とでも言うのかしら?」

 

ドブネズミ

「でもなんかその理由は気に食わないんだ………!そうだ。虫喰いのことだけは一緒でいいか」

 

アフリカゾウ

「一緒にやろー!」

 

イエネコ

「ふふふ…」

 

アフリカゾウ

「フフフっ」

 

ドブネズミ

「ははは…」

 

こうして二人、いや三人が休もうとしていたころ、忘れられていた者は仕事のため二人の元に戻ろうとしていた。

ラッキーと呼ばれるその機械は、ドブネズミの腕の通信機に内蔵されているGPSを頼りに三人に接近していた。

 

ラッキー

「ジジジ……

認証完了。16時間後に到着予定……」

 

「ふん、こんなものもいたのか…。使えるものは何でも使ってやるぜ。この虫喰いはな…。『試練は克服する為にある』んだって教えてやるには都合がよさそうだしな…」

 

←To Be Continued //┃






平成最後の更新になります。
イエネコという新メンバー加入で今後進めていきます。
ドブネズミのスタンド能力が器用なことに向かないため、本体のそれ以外の能力が問われる状況に直面した場合どうするかということが問われていました。
結果としては幸運にも他のフレンズが来て、その上イエネコ自身の手によって解決されました。
ですが、ドブネズミが付き合っていなければ首輪の攻撃がアネハヅルとインドガンには見えないため対処は困難を窮めていたはずです。
三人は困難を乗り越え合いましたが、絆をこれから深めていけるのでしょうか?
次回もよろしくお願いします。
スタンド『やくそくのうた』のパラメータなどの設定は後ほど載せます。
(急に後書きするようになったのは置いといてください…)


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レイ・イット・ダウン

承………………

はっ!

ウッ!!

 

「なんだ?あいつは…たしかさっきからしてた2つのニンゲンの声の片方…」

 

《これは…》

 

「わたしの食い物を狙ってるのか?」

 

《あのときの…》

 

「それともずっと目を合わせてくるってことは、わたし自身を狙っているというのか?」

 

《このときのことは………》

 

「そろそろあいつのところに戻ろう…なッ」

 

《見たくないのにッ………》

 

やったッ!

 

「ギャースッ!」

 

《やったッ!じゃあねーぞ!チクショー》

 

いや…当たったのは左肩だ…

致命傷じゃあねえ…

 

「敵だったのかてめーはッ!生きて帰れると思うなよおッ!」

 

《のんきに生きて帰れると思っていたのはわたしの方だった》

 

「あの玉を当ててくるのなら!それを撃ち尽くさせてから安全にてめーを仕留める!おまえをあいつのところには行かさねーッ!」

 

《現実はそう甘くないと言われたばかりなのにな》

 

させるか━━ッ

 

「くそッ!?なんてパワーだ!すぐにそこに隠れててめーを撃ってやるッ!攻撃の瞬間は二人とも動けんだろうが、次にここから動くのはひとり!わたしだけだ!ヒトなら脳天に食らわせれば一発で済むッ!」

 

《ここは今思えば何が何でも逃げてあいつ、虫喰いと合流するべきだったんだ》

 

やばい!

何か飛ばすスタンドだッ!

 

「そのスタンドも何か飛ばしてきたじゃあねーかッ!だがわたしのは防御できねえんだよッ!」

 

《でも後悔なんてのはいくらでも吐き出せるが腹には収められないからやめろとも言われた》

 

カ━z_ン

 

「な」

 

《だから忘れることで吹っ切れるとおもったんだけど…》

 

………

 

「あ………あたったか………別のものに………わたしはもう………」

 

《ここまで鮮明に繰り返し見せられると、忘れない方が正しいのか迷うな》

 

野郎ォ!!

 

「お前の姿を最後に見せろ………なるほど。何もわたしの攻撃はあいつのためになっていないのか………」

 

《そうだ。だから虫喰いもおそらくはあの黒いヒトに敗れた。そんなわたしの記憶は何を訴えている?》

 

やったッ!

命中してたッ!

 

「だがなるべくてめーが早めにこちらに来るのを願うよ………あいつの勝利をな………」

 

《あいつ、虫喰いの勝利は願うだけでは訪れない。生きてわたしが近くに行くことでしか叶わないこと。もしも、初めからわかっていたら、なんて考えるだけ無駄だというのに…》

 

《ん?そもそも、あいつが勝ったらどうなっていたんだ?》

 

のののののののののののののののののの

 

目が覚めると聞き慣れない耳障りな音が響いていた。

頭痛に堪えながらアフリカゾウとイエネコの居場所を探してみると、すぐ近くから二人のニオイがする。

 

ドブネズミ

「くぁぁぁぁぁ〜〜〜」

〘夢か…

『夢みるプリンセス』のようにかなりはっきりと、その場にいて見てたかのような臨場感があったが…

まさかまだあいつは生きてるのか?〙

 

アフリカゾウ

「あ、おはよう!」

 

イエネコ

「おおあくびね。声だけでウツされそうなくらい。おはよう」

 

ドブネズミ

「わるいな、伝染すつもりはなかった。おはよう」

 

アフリカゾウ

「あ…あああああああ」

 

イエネコ

「ふ…くっ……ぁぁ」

 

ドブネズミ

「二人とも伝染ったか…寝たらないなら寝たらどうだ?」

 

アフリカゾウ

「確かにちょっと寝不足かもしれないけど、これは寝てなんかいられないよ!ドブネズミちゃんもこっち来てみてみればわかるから!」

 

ドブネズミ

「ああ?そうだ。よっこいしょ。そもそもここはどこだ?スゲーうるさくて目が覚めたんだ」

 

イエネコ

「たんさせん?の中だって。けっこう大きな乗り物みたいね。このラッキーってのが勝手に呼んでたらしいわ。ちなみに今はこれをそーじゅーしてるから手を出すなとか言ってる」

 

ドブネズミ

「乗り物だって?ふふん、歩かなくてすむのは助かるな。ラッキー、気が利くな」

 

昨晩、ラッキーが寝ていたアフリカゾウのもとに戻ってきて起こした。

突然起こされたアフリカゾウは、眠い目をこすりながら今三人が乗っている探査船を呼んだことを告げられて、しかたなく二人を運んだ。

体力には自信があったが、それ以外の理由で起こされたとは考えていなかったので終わったらすぐ寝直す気でいたという。

だが、運び終わって休めるかと安心していると操縦マニュアルを渡され、渋々読み出すと止まらなくなりそのまま朝を迎えたというところまでがアフリカゾウからの愚痴で判明した。

 

アフリカゾウ

「もう、『そうじゅうまにゅある』なんて読んでたら寝てられないよ〜ああああああ。これを動かすのは楽しいけどさ」

 

ドブネズミ

「え?ラッキーが動かしてるのにアフリカゾウも操縦するのか?」

 

アフリカゾウ

「いや〜最初から別のラッキーが乗ってたのにさ、これを呼んだ方も一緒に運転してるんだよね。一人でできたんなら二人もいらないんじゃない?って聞いたんだけど何も言ってくれなかったよ…」

 

ドブネズミ

「もういいだろ。実際に役に立ってくれてるし、任せときゃいい。虫喰いとの戦いで役立つとは思えんし、これくらいやってくれないとな」

 

アフリカゾウ

「虫喰い…そうだ私……」

 

ドブネズミ

「なんだ?どうした?」

 

アフリカゾウ

「私……虫喰いが言ってきたことに対してカッとなっちゃって言いだせなかったことがあるんだ……」

 

ドブネズミ

「おいおい、なんでまたそんなことを…」

 

アフリカゾウ

「あたりまえでしょ、挨拶なんて」

 

ドブネズミ

「ぁ…挨拶?たしかに、あいつも言葉を喋ってるんなら、わたし達と同じフレンズになったんだろうな。いや、挨拶してないってのはァ…つまりはどういうことなんだ?」

 

アフリカゾウ

「あんなことする子なんて見たことも聞いたこともないんだよ……

私はこの島のフレンズみんなと会ってるはずなんだ……

一人で島中をまわっていろんなフレンズと会ったことがあるのに……

虫喰いとは初めて会ってるのに……

色々聞きたいことがあったのに…」

 

ドブネズミ

「???

初対面のはずだから虫喰いにも挨拶するはずだったけどできなかった、と?」

 

アフリカゾウ

「うん……

でも、あっちがなぜかこっちを知ってるみたいでさ。

セルリアンまで出てきちゃったから戦いのスイッチが入ったというか、落ち着いて話せるような状態にしてくれなかったというか……」

 

ドブネズミ

「なるほどな。そういうやつなんだ、あいつは。だから気にしなくていい」

 

アフリカゾウ

「え?」

 

ドブネズミ

「あいつは、自分のペースで事を進めるのに長けている。何らかのルートでお前の情報を仕入れてて、それを利用してお前をゆっくり話せる状況から引き離すようにしてたんだ。お前から冷静さを奪うなんて容易いって思われただろうな」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃんは……なんでそんなに虫喰いのことを悪く言えるの……?」

 

ドブネズミ

「悪く言うだって?そう聞こえた?」

 

アフリカゾウ

「信じてみようって感じがしないんだよ………

敵の攻撃方法を説明するみたいな、悪者から遠ざけようとしてるみたいで………

今は私も虫喰いのこと良く言ってないけどさ、最初から怖がってちゃんとお話ができないなんて面白くないじゃん!」

 

ドブネズミ

「なるほど、そういう考えはなかったな。たしかに虫喰いとお前とはまだまともに出会ってないんだった。セルリアンで攻撃するなんて得体の知れない能力身に着けてやがったからわたしも混乱させられてたみたいだな。次会うときはしっかり言葉を交わして、何があってそんなことしてるか聞き出そう」

 

アフリカゾウ

「………わかってくれてありがとう。虫喰い『ちゃん』は島の反対側にいるって言ってた。反対ってのが何の反対かわからないけど、ドブネズミちゃんはどこだと思う?」

 

ドブネズミ

「あぁ…その虫喰い『ちゃん』が言ってるのは、地図でこの辺りのことだろうな。円い形のこの島では、反対側といえば円を半分に折ったとき重なる場所のことと言えるだろう。ちょうど隣のエリアみたいだ。」

 

アフリカゾウ

「へぇぇぇ。」

 

ドブネズミ

「ん?なんだ?このエリアだけやたら目立つな。アフリカゾウはどんなところか知ってるか?」

 

アフリカゾウ

「うん………一応、ね。ほとんど入ってないけど………ちょっと通っただけ」

 

ドブネズミ

「なんでだ?」

 

アフリカゾウ

「セルリアンだらけなんだよ…そこは」

 

ドブネズミ

「なんだと?」

 

アフリカゾウ

「そこは飛んですぐ出られればなんともないの。鳥のフレンズに頼めば通れるけど、地上を通ろうとするなんてことは考えられないくらい危険なんだ」

 

ドブネズミ

「じゃあ、なぜ虫喰いはそんなところに居ると言ったんだ………?」

 

ドブネズミの問にアフリカゾウは答えなかった。

セルリアンという敵(今まではほとんど大して苦戦していないが)の巣窟にいて無事などころかそれらを差し向けてきているなどとは、想像はできても理解できなかったためだ。

一方で純粋に疑問に思っていただけのドブネズミは、右側臥位(頭を右腕で支えて寝転ぶ姿勢)がキツくなってきたので起き上がった。

布団もなく硬い床で雑魚寝していたので、痛みを覚える。

イエネコを見ると、ずっと遠くを見ている。

そんなに見続けられるものなのか、と気になり同じように外の景色を観るがなにかあるようには見えなかった。

砂漠エリアに入っていたからだ。

事実、空と砂だけの景色はドブネズミにとっては目新しいものである。

巨大な岩もサボテンも初めは驚き興味を持っていた。

しかし、より派手で目を引くようなものを期待していたためなのかすぐ視線を外して、他のものを探しにいってしまった。

思ったより何もなくて損したなど落胆していると、隣でイエネコが大あくびを発して愚痴をこぼした。

 

イエネコ

「ファああああ〜〜〜〜ッ

初めて見るけどやることなんにもないしなんかあるけどすぐ飽きるんじゃ、ついてこないほうが良かったのかしらァァ」

 

ドブネズミ

「たしかにつまらん景色だ………でもなんにもないのが一番だろ?ノン気にアクビしてられるんだ。でも、例えばだ。そこに指差し込まれたらどうなる?」

 

イエネコ

「えぇ?どこに?うふぁぁぁぁぁぁ」

 

ドブネズミ

「ここだ」

 

イエネコ

「!?アグアグアグっ」

 

ドブネズミ

「ふーん。こーなるのか」

 

イエネコ

「なにをするのッ!?ふ、ふざけるのもたいがいにしてよねっ」

 

ドブネズミ

「う〜む………ここんとこ戦いと苦労の連続でとてもふざけてられなかったから、許してくれない?」

 

イエネコ

「なによ、そんな理由で許されると思ってるの!?」

 

ドブネズミ

「ご、ごめん………」

 

イエネコ

「冗談よ、そんなに怒ってないわ」

 

ドブネズミ

「なんだ、意外に冗談とかわかるのか。んじゃあ、ダジャレ言っても構ってくれる?」

 

イエネコ

「ダジャレ?言いたきゃ言っててもいいけど構ってあげたりはしないわよ。スベっても自己責任で始末してよね」

 

ドブネズミ

「では、おほん…『猫がNeck on lonely!!』」

 

アフリカゾウ

「???」

 

イエネコ

「………」

 

ドブネズミ

「ほ、ホントに無視すんのか…」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃん、今の何?誰に言ってたの?」

 

ドブネズミ

「あ…あああ、誰にも言ってないから気にしなくていいってやつだ」

(自分で言っといてなんだけど誰にも理解されないのは辛い…)

 

アフリカゾウ

「え?私は聞いてたよ?隠すことないって」

 

ドブネズミ

「分かってくれるのか!で、面白かったかッ!?」

 

アフリカゾウ

「ねこがねっころんりー?なんだか分からないのが面白いね」

 

ドブネズミ

「面白いか!いょッしぁ!」

 

イエネコ

「たしかにワケがわからないわね…」

 

ドブネズミ

「おう!もっといくぞ!えーっと…」

 

このままではスベり続けることが目に見えていたイエネコはここで別の事に注意を向ける。

 

イエネコ

「でもそれくらいにしときなさい。そろそろ喉が乾いてきてない?ノドを潰したくはないでしょう?」

 

ドブネズミ

「お…たしかにノドが乾くな。暑くはないのに」

 

イエネコ

「はい。水はそこで汲めるわ。カップは自分のがわかるように置いてね。何個も置いてあるわけじゃあないみたいだから」

 

ドブネズミ

「ああ、ありがとう」

 

アフリカゾウ

「こっちには私の、あれがイエネコちゃんので、ここがドブネズミちゃんのところね。イエネコはこうしないとイヤみたいだから」

 

ドブネズミ

「そうなのか」

 

イエネコ

「ええ、ドブネズミも置くところには気をつけてよね。でないとお…ぎゃあああああ!?」

 

ドブネズミ

「ん?なんだ、そんなに叫んで何があったんだ?」

 

イエネコ

「もうだめ………おしまいよ……しかも自分でやってしまうなんて………」

 

アフリカゾウ

「あ………水をくんだ新しいカップを持ったまま自分が飲んでたのをドブネズミちゃんに渡しちゃったんだね……」

 

ドブネズミ

「つまりは…どう言うこと?」

 

イエネコ

「私のカップをあなたが……」

 

ドブネズミ

「そんなことでそんなに落ち込むのか?」

 

イエネコ

「もういいわ……ペロッ」

 

新しく汲んだカップの水を舐めて見せつけたイエネコは、ドブネズミににじり寄っていく。

口を三日月状に開き、犬歯を覗かせ、猫背で顔だけ上げて真っ直ぐドブネズミを見つめていた。

 

ドブネズミ

「おい、それを持って何をする気だ?飲みたいならそれで飲めばいいだろ」

 

イエネコ

「あなたがこれで飲みなさい!こうすれば『対等』よ!」

 

ドブネズミ

「グボッ!?」

 

アフリカゾウ

「あぁっ、やめてえ!」

 

イエネコ

「はぁ…はぁ…フフフ」

 

ドブネズミ

「ゲホゲホ…なんだかわからんけどこれで収まるならいいか…」

 

イエネコ

「これであなたと私は『対等』…うふふふ……アフリカゾウ!せっかくだからあなたもやりなさい!」

 

アフリカゾウ

「え?まさか…うわぁぁぁぁ!?」

 

ドブネズミ

「やっぱ良くなかったかな……やめてくれぇぇぇぇぇ」

 

 

 

その頃、探査船の通信用カメラから一方的に中の様子を見る者がひとりごちていた。

マイクで拾った声が一連のドタバタを演じている。

ここで、観察者はその中のある一人に注目していた。

 

マイ

「……このイエネコ……この性格…これは何を意味するというのか……まさかな………」

 

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ロッキン・ホッピン・ジャンピン その①

これまでの虫喰いでないフレンズ

あらゆるものを溶解する針を射出するスタンド・『ラット』を持つドブネズミは、アフリカゾウと共にフレンズが暮らす島の数々のエリアに渡りセルリアンの調査探検の旅をしていた

途中スタンド使いのセルリアンと出くわしつつも、戦いの末撃破してゆく

道中で出会ったイエネコが加わり三人となる

同じく途中加入したガイドロボット・ラッキーが呼んだ探査船なる乗り物で、一行は次なる砂漠エリアへと入っていった



●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

「おい!おまえ!何者だ!」

 

「そうじゃなくて!ねえ!君は名前はなんていうの!教えてくれると嬉しいな!」

 

「まずセルリアンにコミュニケーション求めるのが違うと思うわ!こいつ何言っても聞きそうにないもの!すぐ倒さないと!」

 

「ああ、だからそうしようとしてる!しかし全く…何なんだあいつは…」

 

HUUUUUUUUUUUU…UHHHOOOOO(ふうううううううううう…うおおおおおおお)

 

今より時を少し遡り、三人のフレンズと一体のセルリアンの出会いがあった。

三人が探査船でじゃぱりまんランチタイムをとっていたとき、それは平穏を脅かそうとするように現れた。

ドウンという音が天井に響いた時から戦いが始まっていた。

 

「なッ!なんだぁ!?」

 

「わっ!?なんなの〜〜〜ッ!?」

 

「ちょッ!アフリカゾウ、走り回らないで!?てゆーかよくこの狭さで走り回れるわね!?」

 

「ハッ!上の何かをどうにかしなきゃ!」

 

「落ち着いたか。ん……なんか砂が降ってきて…」

 

「なっなんで天井があるのに…!?て、天井を見て!」

 

「ハッ!この天井は寝てたときの感じと明らかに違う!なにかされてるぞ!」

 

「こ…怖くなってきた…やっぱり無理ィィィイ」

 

「落ち着いて!ここでじっとしてれば何事もなくやり過ごせるかも知れないから!」

 

「くそ…この状態では『ラット』を撃ち込むこともできない…

しかし外に出たら何をしてくるかわからん…

やむをえないッ」

 

「だから!じっとしてなきゃって言ってるよにもうっ」

 

「ちゃんと考えはある!わたしにまかせろ!」

 

「わぁぁぁぁやぁぁぁぁ」

 

「アフリカゾウは混乱してるし…大丈夫なんだね、ドブネズミ!?」

 

「ああ!まず外に出る!」

 

UHNNHHHH!!(ウヌゥウウウウ)

 

「ウッ!?」

 

「ドッ、ドブネズミ!?」

 

「ハッ」

 

ドブネズミが外に出ようとするとその真上の天井が崩れ落ち、迷惑者が姿を現した。

人型ではあるものの胴体は格闘家のイメージに合うように筋骨隆々で、手はボクシンググローブのように肥大化し、足は先に三本の鉤爪が生えている。

頭には黄色い飾り羽が、顔には赤く円い目が左右に3つずつ横に周りながら付いていて、口だけはヒトのものと同じ見た目をしている。

そんな敵が警告音が鳴り響く中、堂々とした立ち姿を見せつけているところで話は冒頭に戻る。

 

HUUUUUUUUUUUU…UHHHOOOOO!(ふううううううううう…うおおおおおおお)

 

「こいつ喋れるのか?唸るばかりなようだが?」

 

「しょうがない…ここでなんとかするよ!パオパオする準備は良いかなっ!パオオオッ」

 

「おっとこいつと戦う前に言っとかなきゃいけないことがある。

せっかく名前を聞かれたんだから素直に答えるのが礼儀というものだろう」

 

「またこの声!虫喰いッ!」

 

「虫喰い…またおまえか?こいつもお前が操ってるのか?」

 

「質問を!返す前に継ぎ足さないでくれるかなァ?何もこちらに言わせないというのはどーかと思うよォ」

 

「それは悪かったね。じゃあ最初のだけでいいから答えて。この子はなんて言うの?虫喰い『ちゃん』…」

 

「ブッ!?な、なんてことを言うんだァ!?だがまあいい、コイツは『ロッキン・ホッピン・ジャンピン』と名付けた。以上だ」

 

「そう…いやちょっと長くない?短くしたいな〜なんて思ったんだけど」

 

「なるほど、一理あるな。」

 

「いちいちそんな長ったらしいのを呼んでられないわね。ロッキーで良い?」

 

「センスあるな、イエネコ!決定!」

 

「………」

 

「そーだね!ロッキー!一緒に頑張ろうね!」(あれ、私なにかすごく大事なことを忘れてるような…ロッキーになにかあるの?)

 

「お前らなにか忘れてるな。お前たちはそいつに始末されるのだぞ」

 

「いや、そんなことはわからないよ!ね、ロッキー!」

 

「そのロッキーは沈黙してるわ…あんたの調子に乗れず、あいつの命令も聞けずに困惑してるんじゃないかしら?」

 

「あぁ〜〜〜っじゃあ行くぞ!『ラット』ッ!」

 

RRRWWWOOOOO……OOOOOOOO!!!(ルルルオオオオオオオオオオオ)

 

ドブネズミ

「なにッ!?」

 

ドブネズミが『ラット』を出したとき、ロッキーはそれに反応して遥か高く跳び上がった。

暫く音が途切れかけるが再び大音量で咆哮が耳をつんざく。

そして同じ天井の穴から入ってくると床をも貫通し穴を開けると冷たい衝撃が三人を押し流した。

 

「ぎゃァァァァァッ!?」

 

「うひゃあぁあい!水が吹き出してくるゥゥゥゥゥ」

 

「飲料水は床下に貯められていたのかッ!マズいッ」

 

外へ押し流され砂と水でグショグショの三人はそれぞれ脅威に対処すべく体制を立て直す。

 

「彼奴はまだ探査船の床下に潜んでるわ!匂いならアフリカゾウの方がはっきりわかってるはずだものね!」

 

「うん。匂いの元はまだ探査船に残ってる………でも気をつけて。流れる水からの匂いが薄くなってるみたい。もしかしたら既に別のところにいて隠れてるかも…いや、足元?地面の下から何かが掘り進むような音が…」

(この地面を掘り進む音はどこかで聞いたような…なんだっけ?下から出てきて…)

 

「下か!なら動かないでいた方がいいな!」

 

「…静かにして」

 

「あ?」

 

「アフリカゾウが音を聞いて敵の居場所を探ってくれてるんだから静かにしたほうがいいってことよ」

 

「わかった………」

 

それからロッキーこと『ロッキン・ホッピン・ジャンピン』の襲撃に備えてひたすら待つこと30分、砂漠の真昼間の暑さに段々と参ってきた。

水分を攻撃と同時にほぼ敵に台無しにされたことの重大さをそれによりドブネズミは理解したが、頭痛がして立っているのが辛くなってくる。

続いてイエネコが静かに膝を砂に付け、立ち膝の姿勢で踏ん張りながらさらに待とうとする。

アフリカゾウは他の2人に比べて何事もなさそうだが、大粒の汗を垂らして地中の音に耳を澄まし続けることに限界を感じ始めていた。

 

「おい、これは虫喰いの作戦だ!襲撃がいつ来るかわからない状況で待ち続けさせるのと砂漠という過酷な環境はわたし達を衰弱させるための罠だ!わたしはもう少しで頭がどうにかなりそうだ…水をもっと飲んでいてもきっと相手のやることは何も変わらないだろうな…」

 

「そんな…どうすればいいのよ…」

 

「そうだったの…気付けなくてごめんね…」

(いけない…ロッキーのことで頭がいっぱいになってた…)

 

「いいんだ…わたしがあいつを誘き出す策を練ればいいだけのことが…ハァッ…ハァッ…」

 

しゃがんでいたドブネズミが遂に倒れ伏し、呼吸が激しくなる。

起き上がろうとするが手脚に力が入らないことから、事の重みを身をもって思い知る。

 

「ドブネズミちゃん!?大丈夫っ!?」

 

「ドブネズミ!」

 

「ドブネズミの体温を下げなきゃいけないね。涼しいところに移さないとまずいよ」

 

「ラッキー……お…おまえいつから…そこに……」

 

「とにかく、涼しいところが必要なんだね。じゃあここを掘るよ。ちょっと待っててね」

 

「掘るって…砂を掘って涼しくなるの?」

 

「サバクキンモグラちゃんの豆知識だから!フェネックも言ってたし、そうなんだと思うよ!パオオオオオオオ」

(今はとにかくみんなを涼しくしないとね…)

 

砂が巻き上がり、平坦な砂地が徐々に深く掘り下げられていく。

やがて少しだけ傾いた日からの日陰は作れないがアフリカゾウ一人が隠れるほどの小さな窪地ができた。

 

「よ〜し、運ぶよ!」

 

「すまない…一人だけ涼むのは気が進まない…」

 

「あんたに再起不能になられちゃ困るのよ、こっちが!」

 

「………」

 

ブオオオオオオオアアアアアアアア……

 

「きっ聞こえる!ロッキーの声だよ!」

(砂を吹き出す、嫌な音…あれ…この音は…)

 

「わ…わたしにも『ラット』を操る力は残っている…

確実に仕留めたい…やつをおびき寄せて機動力を殺いでやれば…可能性はある…」

 

「落ち着いて!あんたはじっとしてればいいの!」

 

「なんでだ…あいつを早く倒して早く体力を回復したいだけなのに…」

 

「あんたには私がついてるのよ!?いいからアフリカゾウに任せときなさい!大丈夫だから!」

 

「へっ、そうかい。ならそうするとするかァ…」

 

「ドブネズミちゃんのためにも頑張らないとね!来るよ!なッ…足元にィ!?イエネコちゃん!ドブネズミちゃんと一緒に逃げて!」

 

「りょーかい!ふんにゅぅうッ」

 

「うくっ!?おい、もうちょっといい持ち方はないのか!?苦しい!アフリカゾウがしてたみたいに抱えて持ってくれよぉ」

 

「我慢しなさい!これしかうまくできないのよ!」

 

「オエエエ…」

 

HOOOOOOOOO!!(ほおおおおおおおおお)

 

「危ない…もう少しで吹き飛ばされるところだったわ…」

 

「君の相手は私だよっ!こっちにおいでェッ!」

(そう。私ができなかったことの決着のために、私が相手しなきゃいけないんだ。今の私にはやるべきことがある)

 

イエネコの足下だったところから『ロッキン・ホッピン・ジャンピン』が飛び出したが、一瞬早く駆け抜けたので無事だった。

しかし依然標的はイエネコとドブネズミであり、走って追いかける。

アフリカゾウは2人の危機に気づくと注意を逸らすため追いかけた。

 

「速いねっ!ロッキー!これはどうかなっ?」

 

そう言うとアフリカゾウは踏み切って大きく跳んだ。

数日前ドブネズミにセルリアンの背後に回って見せたときのように軽やかに宙を舞い、『ロッキン・ホッピン・ジャンピン』の前に立ちふさがる。

さらに両手を広げて『通せんぼ』してイエネコからの距離を取ろうとした。

 

「こっちは来ないほうがいいよ〜!」

 

GMMMMM…(グムムムムム)

 

だが突進をやめない『ロッキン・ホッピン・ジャンピン』は巨大な拳で殴りかかってきた。

 

「そう来るんだったら……こうだよ!」

 

アフリカゾウはマフラーを振りかざす。

これにより攻撃を受け止めて追跡を止められるだろうと思われた。

だがそこにドブネズミの叫び声が入り、対処の間違いを認識することになった。

 

「やめろ、アフリカゾウ!そいつには触られるな!そいつは触れた部分を岩に変えるぞッ!」

 

「えっ」

 

KUUUU(くううううッ)

 

「うおおおあああっ」

(ドブネズミちゃん、いつの間にそんなことを…ほんとにすごい観察力……そう、あの子も……)

 

アフリカゾウはロッキーの攻撃を仰け反って回避した。

しかし完全には避けきれておらず、マフラーの一部が岩石化し重くなって垂れ下がる。

ロッキーは攻撃を避けられたため、自分自分を守るべく地上で臨戦態勢を維持して立ち留まっている。

 

「そいつは天井の上に現れたとき、天井がまるで岩に変えられたみたいになっていた…

落ちてきたときは砂混じりの岩の破片が散らばってたんだ…

その破片は天井についてたものの形をしてるものがあった…

だからそいつが天井の壁を岩に変えて砕いたんだと思う………

早く言うべきだったな………」

 

「なるほどね!地面に潜っても素早く動けるみたいだしどうすればいいかわかんないや!」

 

「だからわたしの『ラット』が決めるのが手っ取り早いんだ………」

 

「いや、ラットの世話にはならないよ!わたしがやるんだ!」

 

「アフリカゾウ………おまえ、何言ってるんだ……」

 

「私にだってできるよ!たくさんセルリアンを倒してきたんだし、ロッキーも大丈夫だよ!」

 

「そう言ってもだな…攻撃を当てさえすれば『ラット』は確実に相手を溶かすんだ…それに協力してくれればいいんだ…」

 

「『ラット』はいいから!仕舞ってて!」

 

「そんな意固地になってもなにも…とにかくあいつはヤバいんだ…確実に仕留められるのはわ」

 

「ドブネズミちゃん、あのね。確かに私はね、いこじなのかもしれないけどね。でもね、『確実にやる』って言ってるけど、これは私がやらなきゃいけないことなんだ。今やるべきなのは、私、アフリカゾウなんだ。今ドブネズミちゃんにはやることがなにもないって言うわけじゃないんだけど、今やるべきはそれじゃないんだ。それはやらない方がいいんだ。」

 

「アフリカゾウ………」

 

「え、どうしたっていうの?アフリカゾウ、あんた何があって急にそんなことを…」

 

「思い出したんだ。こいつは『マルミミちゃん』の命を奪ったんだって」

 

「なに…?」

 

「!!それってつまりは、このロッキーはアフリカゾウが倒したいって言ってた敵なの!?」

 

「そう、だね。だから私一人でなるべく倒したい」

 

「アフリカゾウおまえ、そんなことを言ってたのか。命を奪った、か。」

 

「ドブネズミちゃんは…どうしたいと思う?私のようなことになったら何をする?」

 

「アフリカゾウ、いいか?奇妙なことだが、わたしは命を誰かに奪われたからこそ、ここにいる。結果論でしかないがな。だが、そのような自分が恨んでるような相手に自分が何を思うかということ一つでやることを決めるとお前は大切にしてるものを自分から失っていくぞ。確かに自分のやるべきことだと思うことを自分で成し遂げるのはすごいことだ。そこは尊敬できる。それでも、だ。一時の衝動だけで動くのが危険なのは無計画だからじゃない。おまえにはフレンズの心がある。わたしと同じように考えて動くことができている。お前だけにとっての深刻な問題なんてないのだから、今回はわたしやイエネコを巻き込んだっていいだろう。だからわたしは、ここにいる三人であいつ、ロッキーを倒す!」

 

「なんか聞き入っちゃったわ。勝手に巻き込んでくれてるけど、私はドブネズミに賛成よ。みんなでやった方が効率いいしぃ?でも、あんた自身は今大丈夫なの?それを聞いといたほうがいい気がするわ」

 

「大丈夫、大丈夫だ。あとからいくらでも休んでやる………ゥゥゥ」

 

「それがだめって言ってるのに……しょうがない、いくよ!」

(付いてくるっていうんだね、どうしても…ドブネズミちゃんが納得できないならしょうがないか…)

 

「ああ」

 

「ええ」

 

︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽︽

 

「フム?コイツハ中中面白クナッテ来たジャアナイか

一部始終ヲ見守ルニ価スルカハ既ニ決マッタな

アイツガココニ居ルトは、アフリカゾウガソレニ出会ウトハ、ソシテ、アノ時ノ真実ヲ知ラヌママコノ時ヲ迎エルトは…」

 

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ロッキン・ホッピン・ジャンピン その②

前回のあらすじ

昼の砂漠の真っ只中で、敵セルリアンのロッキーこと『ロッキン・ホッピン・ジャンピン』が三人が乗る探査船を襲い破壊した。

アフリカゾウはその敵が友を手にかけた仇だと言う。

初めは、激しく消耗しているドブネズミを敵から隔離するかもしくは三人で連携をとって戦うかで意見が割れていた。

だが後者を薦めるドブネズミの説得が決まり、前者の主張をしていたアフリカゾウが折れたことで三人でまとまり反撃を開始した。


ドブネズミ「さて…どうしたものか…独りで戦わせるわけにはいかないとしたはいいが、状況は何も動いていない…アフリカゾウ!とりあえず、あいつをわたしから引き離してくれ!倒さなくてもいい!」

 

アフリカゾウ「おーけー!」

 

イエネコ「えぇっ、はあッ!?アフリカゾウ独りにしないんじゃあなかったの?」

 

アフリカゾウ「正確には『あなたたちが私から離れる』から大丈夫!」

 

イエネコ「ちょッ!?待って!?まさか!」

 

ドブネズミ「ああ。投げ飛ばしてもらう。二人まとめてな」

 

イエネコ「おおおお、おかしいわっ!いつの間にそんなこと言ってたのよォ〜〜〜ッ」

 

ドブネズミ「すまない、イエネコ。こうしないとわたしはおろかお前もまともに戦えるアフリカゾウが万全を期すことができない」

 

アフリカゾウ「発射カウントかいし〜

さ〜ん、に〜、い〜ち」

 

イエネコ「ぎにゃあああああああああ」

 

ドブネズミ「本当にすまない、これが作戦なんだ…」

 

アフリカゾウ「ぱおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

アフリカゾウはドブネズミを抱えていたイエネコを腕とマフラーで器用に掴み、まるごと遥か彼方へ投げ飛ば…さなかった。

十数メートル離れた、アフリカゾウが掘っていた穴の中央へすっぽりと収まるように着地した。

しかも、イエネコは体操選手のように美しく着地しスルリとドブネズミを下ろす。

拍子抜けしたのか緊張が一気に解けて脱力したイエネコはその場に寝転んだ。

 

ドブネズミ「おい、大丈夫か?すまん、ここに戻るにはこれが最短ルートだったんだ」

 

イエネコ「やり方ってもんがあるでしょ…第一なんのための作戦なのよ…」

 

アフリカゾウ「ピッタリ入ったみたいだね。イエネコちゃん、いきなり投げてごめんね」

 

イエネコ「ええまあ、無事だったからいいわ…」

 

ドブネズミ「ところでアフリカゾウ、ロッキーはどこに行った?」

 

アフリカゾウ「まだじっとこっちを見てる〜」

 

イエネコ「そーいえば話し始めてからずっと何もせず見てきてるのねロッキーは」

 

ドブネズミ「何を考えているのだ…ヤツの目的は何だ…急にわからなくなってきたぞ…」

 

イエネコ「私なら無事だから上に出て加勢するわ!ぱっかーんするなら面と向かってやるって相場が決まってるんだから!」

 

ドブネズミ「まっ、おい!直接アイツに触られるのがマズいというのを忘れたのか!?アフリカゾウ、イエネコがその気だからフォローしてくれ!」

 

ロッキー「GYYYYYY!

ギイイイイイイ!」

 

アフリカゾウ「ロッキーが動き出したよ!って、そっちに行ってる!?イエネコちゃん、気をつけて!」

 

イエネコ「ふん、私が今まで何体のセルリアンを狩ってきたか忘れたっていうの?ドブネズミは知らないわよね。そこから弾ける音だけでも聴いてなさい!」

 

ドブネズミ「何だって?」

 

イエネコ「ぱっかーんっと」

 

ロッキー「GYYYYYY!?

ギイイイイイイ!?」

 

イエネコが穴から飛び出てロッキーを迎え撃つ。

そしておもむろに爪を振り下ろすと、巨大な拳の左側に当たり弾けて虹色の輝きを散らせた。

左の拳を失ったロッキーはバランスを崩して倒れ伏す。

 

アフリカゾウ「さっすがぁ!」

 

イエネコ「ふん、セルリアンなんて大体弱点は決まってるわ。コイツの場合は両手が別々らしいと見たから片手を狙ってみたら、見事的中したわね。」

 

ドブネズミ「くっ…すまん。イエネコ、お前を過小評価してたみたいだ。セルリアンに詳しいんだな。どこでそんな事をおぼえたか聞いてもいいか?」

 

イエネコ「そりゃあ、『マイ』ってやつのところよ。『あれ』はセルリアンについて情報集めまくってるんだから、その仕事場に住み着くほど居たら覚えるわよ」

 

ドブネズミ「そうか…ん?マイの仕事場に居た?それはつまりどういうことなんだ?疑問ばかりですまない。」

 

イエネコ「しょーがないわね。特別に教えたげる。私は元々マイん家のネコなのよ」アフリカゾウ「イエネコちゃん!ロッキーがさっきのところに居ない!下からくるよ!」

 

ドブネズミ「ぇえ?なに、なんだって?」

 

イエネコは確かに質問に答えたが、敵襲を知らせるアフリカゾウの声に丁度重なり、内容がわからなくなってしまった。

聞き逃したが状況が状況であったためこれ以上は後回しにせざるを得なかった。

 

イエネコ「ったく、空気を読むのか読まないのかはっきりしてほしいわね!読まないのは困るけど!今はロッキーがどこから来そうか分かる?アフリカゾウ?」

 

アフリカゾウ「あ…ドブネズミちゃんのところに来るッ!」

 

ドブネズミ「なるほど、会話を聞いていたのか…『ラット』」

 

ドブネズミも音でなんとなくわかるようになってきたので、考えていた奇襲への対処法を実践した。

それはスタンドを出すと同時にその上へ跳び上がり、下へ砲口を向けるというものだった。

こうすることで本体をこれから飛び出てくる地中の敵に晒さず、しかも一方的に攻撃できるという算段である。

 

ドブネズミ「この完璧な攻撃でお前を倒してやるッ!『ラット』の一斉射撃を喰らえェェ」

 

ロッキー「HUSHAAAAAAA!!」

ふしゃあああああああ!!

 

結果として、予測していた通りロッキーは出てきた。

しかし、その後は意表を突かれることとなった。

イエネコが破壊したはずのロッキーの左の拳は、のように挟んで持つことができる形状に変化していた。

残りの右の拳で全弾を弾き、『ラット』の砲身を掴んで地面に叩きつけた。

本体であるドブネズミも一緒に地面に打ち付けられ、何が起こったか理解できないまま引きずられてゆく。

 

ドブネズミ「ぎゃ!?なんだとぉぉぉぉぉぉ」

 

イエネコ「え!?一瞬でドブネズミが負けた!?」

 

アフリカゾウ「そんなことが出来たの!?って、ドブネズミちゃんはどこにも連れて行かせないよっ!」

 

イエネコとアフリカゾウは走って逃走するロッキーを追いかける。

ドブネズミも何もしないわけはなく、離させるために攻撃を繰り出した。

 

ドブネズミ「つ、掴まれているということは最も接近している状態を苦労せず保てるということ…そのまま腕ごと溶けろォォォォ」

 

ロッキー「!!」

 

ドブネズミ「ぐぇ!う…嘘だろ…全力で撃ち込んだのに一発も喰らわず躱しきった…ラットを軸にして身体を捻って飛び跳ねて…」

 

イエネコ「アフリカゾウ!ドブネズミは足掻いているけど、きっと長くはもたない!ドブネズミは弱ってるから全力でもそんなに『ラット』の針弾は速くなかったんだわ!」

 

アフリカゾウ「なんてこと…ドブネズミちゃんが…」

 

イエネコ「それと、さっきから気になってたんだけど!アフリカゾウはなんでそんなに速いの!?砂の上って走りにくいわ!だんだんあいつから離れてくのよ!」

 

アフリカゾウ「え、え?そーかな?じゃあ私があなたを投げるからぶつかる直前に攻撃して!」

 

イエネコ「まぁ〜た、よくそんな発想が浮かぶわね!この際は、もうそれでいいわ」

 

すぐさま、アフリカゾウはイエネコの前に回り込み、しゃがんで腰を両手で挟んで、立ち上がりながら持ち上げた。

直立の姿勢のまま足が浮き、それをマフラーで支えるようにして…

 

アフリカゾウ「このマフラーで足を支えるから、投げたとき脚を伸ばしてイッキに飛んで!」

 

イエネコ「くっ…くすぐったいけど、これでいい?足の位置は」

 

アフリカゾウ「うん!いっくよ〜ッ」

 

イエネコ「いやまってまってまってまって」

 

アフリカゾウ「せぇーのぉー」

 

イエネコ「ニギャァァァァ」アフリカゾウ「まつ!」イエネコ「ァァァ?」

 

ドブネズミ「早くしろおおおおお」

 

アフリカゾウ「ごめえええええええん」

 

イエネコ「ぎにゃあああああああッ」

 

放り投げられた勢いそのままに、爪を立てて両手の指をロッキーへ向けながら飛ぶ。

ロッキーはそれを察知し、丁度手に持っている『武器』を背後へ振り衝突に備えた。

 

ドブネズミ

(わたしはお前【ロッキー】の武器じゃあなィィィィ)

 

ドブネズミはイエネコから攻撃されることを覚悟したが、予想を裏切る結果を目撃することになった。

イエネコがドブネズミをかわしてロッキーの首元に指を刺し込んでいる姿だった。

これまでに多様な叫び声を上げてきたロッキーから、恐怖している者が発するであろうという金切り声が上がる。

投げられた勢いはロッキーを吹っ飛ばすことに費やし尽くされたのか、イエネコは一瞬その場に置かれたかのように浮遊し軽やかな着地を披露した。

そしてドブネズミへ手を差し伸べ言葉を掛ける。

 

イエネコ「まだ浅いわ。トドメはアフリカゾウが刺すから離れてなさい」

 

ドブネズミ

「…おお…」

 

イエネコ

「アフリカゾウ、早く!取り逃がしたくないのは私も同じだから!」

 

アフリカゾウ

「わかってる…!」

 

ロッキー

「きぃえああああああ…」

 

虫喰い

《待て!》

 

アフリカゾウ

「ッ!」

 

ドブネズミ

「お前!何しやがる!アフリカゾウ、虫喰いの声は初めからしてただろ!早く仕留めろ!」

 

イエネコ

「できる?アフリカゾウ!!」

 

虫喰い

《俺の話を聴け!コイツはもう役割を終えた!好きにしていい!だが、完全に始末されたらここから俺とお前たちの会話ができない!》

 

ドブネズミ

「では聞く!そこまでしてわたし達に話したいことは何だ!長くなるようなら即刻切るぞ!」

 

虫喰い

《お前たちは知らない!俺がこうしてお前たちに関わっている理由を!それを詳しく伝えたい!俺のところに来い!》

 

ドブネズミ

「!?」

 

アフリカゾウ

「なん…だって…?」

 

イエネコ

「ねえ、なんのことを言ってるの?あんたは信用ないのよ?私にした仕打ちは忘れてないわよ!」

 

虫喰い

《ん、そこのイエネコは知らないか?だがこれ以上は俺が言う必要はない!切っていい!》

 

ドブネズミ

「そうか。アフリカゾウ!」

 

アフリカゾウ

「うん。…ふんッ」

 

イエネコ

「あ、ちょっ」

 

拳を振り下ろし、ロッキーの胴体の中心部が貫かれた。

舞い上がるサンドスターの中でアフリカゾウはなき友を思う。

しかし涙も嗚咽もなく、静かに座り込むだけであった。

 

ドブネズミ

「まあ、お前の仇討ちを手伝えてよかったよ。相変わらずアイツのことをあんまり詳しく記録できなかったが、目的はあったんだし、わたしは有意義だと思う…ん?」

 

ドブネズミが立ち上がりアフリカゾウの肩に手を置こうと近寄る。

すると周囲の地面が濃い色に変わっていた。

気づいたときには既にその領域に足を踏み入れていたのだが、足を捕られるほど埋まるとは思いもしなかった。

 

ドブネズミ

「なに!?敵か!?」

 

アフリカゾウ

「え…?」

 

イエネコ

「アフリカゾウ!あんたを中心にして水が出ている!」

 

ドブネズミ

「足が抜けないどころか、動かすほど沈む!敵はもう一体いるのか!?さっきわたしたちを呼んだ虫喰いの罠とは思えないが」

 

アフリカゾウ

「これ、ひょっとして…」

 

イエネコ

「雨が降ったっていうの?こんな晴れてるのにッ!?」

 

ドブネズミ

「いや…どうやら雨を振らせたのはアフリカゾウだ」

 

アフリカゾウ

「私…」

 

←to be continued…




ロッキン・ホッピン・ジャンピン

破壊力:Aスピード:A射程距離:E
持続力:C精密動作性:C成長性:C

拳で触れたものを岩に変える。
変えられた岩の物理的性質は自由。
前回探査船の天井を脆い岩に変えて殴り、破壊している。
拳は肥大化しており、破壊されても割れて内部の手が現れるためダメージのフィードバックはない。
セルリアン化したことで本体に縛られず自由に飛びまわることが可能になった。

元の本体は格闘を好む不良青年。


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『アフリカ』誕生

前回のあらすじ

ドブネズミが敵セルリアン「ロッキン・ホッピン・ジャンピン」に捕まる。

そのまま逃走を図ったがアフリカゾウが空間認識能力に優れるイエネコを投げ、ドブネズミを開放すると共に敵を追い詰める。

すると再度敵から虫喰いの声がしたが、今までとは異なり教えたいことがあるから来いという。

ほぼ会話をせず敵がのたうち回っているうちに撃破し、出発しようというところでアフリカゾウを中心として水が出ていたことに気がついた。

アフリカゾウに近づいたドブネズミは水の染みたところに両足を踏み入れてしまった。



 

ドブネズミ

「虫喰いからこのタイミングでそんなことを言われるということは、信用できる。あいつのことはそれなりに知ってるからな」

 

イエネコ

「そうこなくっちゃあね。それくらいの情報を持ってるでもなきゃああんたみたいなすぐバテるダラダラネズミは役立たずよ」

 

ドブネズミ

「く、いややめよう…おまえには助けられてるからな…

それはそうと、アフリカゾウが集めたであろうこの水をどうにかしたい。

現在進行で足が泥に沈んでるんだ。

水が砂に染みて泥になってるようだ」

 

アフリカゾウ

「私も沈んでる…出ないと…っ」

 

イエネコ

「どうにかって、ふつーに足を上げれば抜けられるんじゃあない?」

 

ドブネズミ

「くぅ、ふぉぅ、ふん…」

 

アフリカゾウは呆然としており微動だにしていない一方でドブネズミは外側へ足を踏み出そうとした。

僅かずつ、外側へ外側へと進み地面に水による変色がないところの手前にたどり着く。

始めは膝下までしか浸かっていなかったのが腰の上程までに下がり、足を動かすのがきつくなるが目の前に安全な地上が待っている。

そこから這い出ればかなり汚れたが助かるだろうと、希望を抱いた。

 

その希望とは、日常的に用いるごく短い未来への見通しのようなものであり、大げさというものであろう。

しかし、それがひっくり返されたとき自分が思っていた予測した未来は希望であったと悟り、それが裏切られて絶望に変わったのだと感じる。

 

上半身を倒し地を掴もうと手を伸ばすと、今足を取られている泥のような流砂が手の平にまとわり付いた。

ドブネズミが出ようと進んでいるうちに、それ以上のスピードで流砂化が進んでいたのである。

前進はできたものの、胸の高さまで沈んでしまい、動揺した。

イエネコは流砂の外側にいたが、迫り来る流砂から逃げていた。

 

ドブネズミ

「え………?」

 

イエネコ

「にゃ……ッ!?」

 

アフリカゾウ

「………」

 

ドブネズミ

「アフリカゾウ!お前、よく沈まないで居られるな!わたしの方がこんなにいってるんだぞ!」

 

イエネコ

「まさか、アフリカゾウは…」

 

ドブネズミ

「攻撃されてるんじゃあない。アフリカゾウ自身の能力が暴走してると考えるのが自然だ。水での攻撃なら、もっと手っ取り早い方法があるからな。恐らくは、水を出すスタンド能力…ヴィジョンはまだ無いのか?」

 

イエネコ

「敵じゃあないの!?さっきも地中を移動できるヤツだったのよ!アリジゴクみたいに引きずり込む気なんだわ!!」

 

ドブネズミ

「いや、この泥の底なし沼に全身が沈み込むことはない。重さが違うんだ。この泥の方が重い。油が水に浮くのと同じことだ」

 

イエネコ

「そ、そうなの。まあ、私も本当は同じことを考えてたし」

 

ドブネズミ

「そうか。これ以上広がるとお前とは話せなくなるくらい遠ざかるだろうな。だれか、上に引き上げてくれそうなフレンズを探してきてくれないか?」

 

イエネコ

「わかったわ。あんたがバテて動かなくなる前に連れてこないとね」

 

ドブネズミ

「へっ…」

 

アフリカゾウ

「ねえドブネズミちゃん?」

 

ドブネズミ

「うん?」

 

アフリカゾウ

「私…こんなことをしてたなんて…」

 

ドブネズミ

「そーだな。わたしだって戸惑った。ちょっとちょっかいだしてきた仲間に、一発撃っちまったときは」

 

アフリカゾウ

「え…その『ラット』を…?」

 

ドブネズミ

「ああ。その後、そいつは仲間と呼べる形じゃあなくなったんだ。様子を見てたらウジが集ってあっという間になくなってから、自分の能力に気づけた。そのとき、わたしはそれを何に使おうとしたか分かるか?」

 

アフリカゾウ

「そっ、そんなもの使うときは決まってるよ。狩りの武器にしようとしたんでしょ?」

 

ドブネズミ

「だいたいはそうだ。でも、楽でかつ残酷なやつだ」

 

アフリカゾウ

「…え?」

 

ドブネズミ

「他のネズミに使えば、そこでもウジが湧く。ウジは溶けた肉から掘り出せば楽に食える。つまり、仲間だったものに湧く虫を食えば労せず食料が集まるから食うものに困らんと思った。今はなぜだかそれがとても恐ろしい考えに思えるのが不思議だ」

 

アフリカゾウ

「な…かま…を…?」

 

ドブネズミ

「ここで言う仲間ってのは、自分と同じ姿形の、似通ったやつら(ネズミども)のことだ。守りたいとか好きだとかいう意識ははじめから無い。生きるだけ生きてる奴らと、わたしは同じだったんだ。だから、それらに紛れてひっそりと、一対一になったところをやってた。それの影響で杜王町のネズミは減っていったハズなんだがな」

 

アフリカゾウ

「ハズ…って、そうなっていくんじゃあないかって思ってたってこと?」

 

ドブネズミ

「そうだ。そこで、あの虫喰いに目をつけられたんだ。あいつはわたしより先にスタンドを使えるようになってたみたいでな。わたしに出くわすなりいきなり見せつけてきたんだ。自分で使ってきたものを他人(他ネズミ)が当然のように持ってることがわかってから、それから先は今までどおりにいかないことを悟った」

 

アフリカゾウ

「…」

 

ドブネズミ

「アフリカゾウと虫喰いは、スタンドの姿形も能力も違うが、基本的には同じこと。スタンド使い同士が出会ったという、この状況を切り抜けなきゃあいけない。居合わせた二人が敵対するか共闘するかは自分たち次第。『共にニンゲンを追い出しておれたちだけの縄張りを作らないか』と誘ってきたあいつの言葉に乗っかろうとしてしくじったわたしを見れば、何をするべきかわかるはずだ」

 

アフリカゾウ

「敵対は嫌だよ……あと共闘ってことは、どんなことをするの?セルリアンはいまここにいないけど」

 

ドブネズミ

「わたし達三人(イエネコはここにいないけど)には、おまえという敵がここにいる。これはセルリアンの仕業ではないことはわかっているだろ?だから、敵はおまえだ。正確には、わたし達三人の敵は、お前の能力そのもの」

 

アフリカゾウ

「うんうん、私たちの敵は……私!?なんでッ!?」

 

ドブネズミ

「この能力…水を出しているのはおまえ自身だとわかってる。これはいいな?」

 

アフリカゾウ

「わかったよ。それで次は、何をすればいいのかな…」

 

ドブネズミ

「それはァ」

 

アフリカゾウ

「それは?」

 

ドブネズミ

「食事だ」

 

アフリカゾウ

「…??」

 

ドブネズミ

「さあ、ジャパリパーク名物、まんじゅうをひとつ持て!食べるぞ!いただきま〜すぅ」

 

アフリカゾウ

「…そうだね。食べよう。いただきます」

 

ドブネズミ

「イエネコ、早く来るといいなァ」

 

アフリカゾウ

「誰か見つかるかなぁ」

 

危機的状況の中でドブネズミがジャパリまんじゅうを食べようと言い出した理由は、アフリカゾウが理解するより行動を選んだことで霧消した。

アフリカゾウは、炎天下かつ腹から下が地中に埋まっている状況で、尚も自分のことを考えてやってくれていることを信じたかったのだ。

ドブネズミの事は心配でならないが傍にいる状況で自分が自分自身を含めた周りのフレンズに迷惑をかけていると思うと、他にできることは信じて任せることだけなのである。

 

イエネコ

「あんたたち〜〜〜!なんでジャパリまん持ってんのよ〜!私も〜!」

 

スナネコ

「面白そうですね。私も…わぁ。」

 

結局、イエネコが呼んできたスナネコが脱出法を教えてくれたため、事なきを得た。

水を含まないところの近くまで移動し、下半身を地上へ引き上げるという方法でドブネズミも出ることができた(尻尾が長く引き上げ終えるまでは少しかかったが)。

スナネコに聞くと、実は一度だけ興味本位で流砂に入ったことがあるらしい。

そのときは通りがかりのラクダの姉妹が引き上げてくれて一人のときの脱出方法を教えてくれたと語った。

ラクダ姉妹とはどんなやつらなんだとドブネズミが聞くと、砂漠を歩きまわってるから今度会ったらの楽しみにしておいてねとはぐらかされた。

 

スナネコ

「これで失礼します。もう寝るので」

 

アフリカゾウ

「ほんとありがとう〜!またね〜!」

 

イエネコ

「こんどじゃぱりまんじゅういっぱい持ってくから楽しみにしといてよ〜!」

 

ドブネズミ

「元気でな〜!…ぁっと。

じゃあ、今度はそのラクダ達を探しに行かないか?」

 

イエネコ

「虫喰いが先!あんたが忘れててどうすんのよッ!」

 

ドブネズミ

「冗談だよ、虫喰いからのコンタクトなんてチャンスを逃すわけはない」

 

イエネコ

「それなら、良かったわ。どっちに行けばいいの?」

 

アフリカゾウ

「あああああああああああああああああ」

 

ドブネズミ

「?」

 

イエネコ

「!?ちょっともー!アフリカゾウ!あんたが叫ぶ要素がどこにあるって言うのよ!」

 

アフリカゾウ

「水が………………ないんだ」

 

ドブネズミ

「水?ああ、セルリアンが壊した貯水タンクの水のことか。お前の能力が活きるのはそこだ」

 

イエネコ

「そ、そうよ!水を出すスタンド?なら、欲しいときに欲しいだけ出せるじゃないの?」

 

アフリカゾウ

「ううん、どうやって使ってるのか分ればいいんだけどね……せっかくできると思ったのに………ごめん」

 

ドブネズミ

「アフリカゾウ」

 

アフリカゾウ

「………………?」

 

ドブネズミ

「お前はわたしより鼻がいいし耳もいいんじゃあなかったか?雨の音が聞こえたりするんだろ?その力がある。それを使えば大丈夫だ」

 

アフリカゾウ

「あ…………私、忘れてたのかな…………思い出したよ。ドブネズミちゃんが言ってくれなかったら……」

 

イエネコ

「私もいるわよ!ドブネズミじゃなくても私が言ってあげるのに」

 

ドブネズミ

「なぁんだ?わたしはアフリカゾウを何度も助けたんだぞ?わたしはアフリカゾウの役に立ってる」

 

イエネコ

「ふん、ドブネズミはフレンズとして生まれたばっかだから知らないんでしょーから教えてあげるわ。アフリカゾウのことをよく知ってるのは」

 

アフリカゾウ

「ねぇ、けんかしないでよお」

 

イエネコ

「けんかじゃないわ。こいつに教えてやらないといけないことを聴かせるだけよ。いい?アフリカゾウがロッキーのことを思い出したとき言ってたのは、みんなのことを一番大切に思っていた子なの。その子はマルミミゾウ。あの子のことはみんな忘れない。何もかも失っても、あの子がしてくれたことだけは心に刻まれてるの。きっと、虫喰いもこのことは知らない」

 

ドブネズミ

「マルミミゾウ……だと?」

 

イエネコ

「そう、マルミミゾウ。あの子は、私たちのことを一人で守りきった」

 

ドブネズミ

「なあ、いくつか言っていいか」

 

イエネコ

「なによ。これから始まるとこなのに」

 

ドブネズミ

「これから日が沈むだろ?砂漠の夜は寒いらしいのに、こんなので過ごそうってのか?少しはマシなとこ探してから語ってくれ。砂が付いたままは嫌なのはわかるだろう」

 

イエネコ

「そ、それはそうね。それとなんかあるの?」

 

ドブネズミ

「あと、なんでわたしに張り合うようにしていきなり長話始めようとした?」

 

イエネコ

「だから、それは聞いてりゃわかるわ。アフリカゾウ、その泥落とせるようなところ知らない?そこへ行くわよ」

 

アフリカゾウ

「砂漠はあんまり来たことなくて…あ、こっちにありそう」

 

ドブネズミ

「それだ。これで本当に助かる…」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃんも、ほんとにすごいよ…」

 

イエネコ

「まったく、アフリカゾウったらドブネズミにベタ誉れね。私もスタンドが欲しいわアアアァァァァァァァァァァ」

 

イエネコの叫びが砂漠の夕焼け空の向こうへ飛んでいった。

先を見ると黒い暗雲が待ち構えていたが、笑いに包まれた三人はそれを気にも留めず突き進もうとしていた。

 

⇐to be continued…



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天空と太陽

前回のあらすじ

敵セルリアンを倒したドブネズミ・アフリカゾウは、砂地の足下が突如沈み込み身動きが取れなくなる。

ドブネズミは、水がアフリカゾウを中心として溢れ出したこと、他に敵襲がないことなどから攻撃でなくアフリカゾウのスタンド能力の暴走だと断定しイエネコに助けを呼ばせる。

待っている間にドブネズミは自身の経験をアフリカゾウに語って落ち着かせ、ジャパリまんじゅうを食べようと良い元気づける。

イエネコが呼んできたフレンズが地上へ引き抜くのではなく脱出方法を教えて自ら脱出させたことで、一行は一つ知識を増やした。

安全は確保したと言ってもそのままでは砂だらけなので、身体を洗うための水場を探すため一行は歩き出したのだった。



 

イエネコ

「ねえ、一つ聞いていいかしら?」

 

アフリカゾウ

「なに〜?」

 

イエネコ

「ラッキー、どこ?」

 

ドブネズミ

「ラッキーならここだ」

 

イエネコ

「いっ、いつの間に…」

 

アフリカゾウ

「私が戦ってる間は走ってて置いてけぼりになってるんじゃないかと思って心配だったんだけど、自分でついてきたみたいだよ」

 

ドブネズミ 

「お前ぇ、ほんとにしぶといな」

 

ラッキー

「あらゆる状況を想定して作られてるから、この程度のことは造作もないよ。極限環境でもフレンズに付いていって支えられることを考えてつくられてるんだ」

 

ドブネズミ

「なんだか気に入らないな、その言い方というか口調というか…もっと接しやすくならないのか?」

 

ラッキー

「了解、接しやすい口調に切り替え…」

 

アフリカゾウ

「私はさっきまでのが気に入ってたんだけど……どうなるかな……?」

 

イエネコ

「あんまし騒がしいのは私イヤよ」

 

ラッキー

「ハァイ、ドブネズミ!元気?ボクは絶好調!今日も張り切ってアアア」

 

ドブネズミ

「疲れる。変えろ」

 

イエネコ

「それこそさっき駄目って言ったやつじゃない!変えなさい!」

 

ラッキー

「……私はラッキー…よろしく……今日は、どうするの…?」

 

アフリカゾウ

「………………!ごめん、ムリ!変えて!」

 

ドブネズミ

「これ以上変えても答えは見つからないだろう。最初のが最善だったみたいだな」

 

イエネコ

「まだ早くない?結論だすのはもっと試してからのがいいわ」

 

アフリカゾウ

「私は他のも気になるけど、最初のが変えられちゃうと落ち着かないね。最初でいいや」

 

イエネコ

「私はラッキーを試したいのよ。いじってていいわよね?」

 

ドブネズミ

「道はアフリカゾウが知ってるみたいだし、変なとこももう行かんだろう。好きにしていいぞ」

 

アフリカゾウ

「う、うん!そっちから水場の匂いがするよ!早く行こうよ!」

 

イエネコ

「へいへいへいラッキー!私のわがままに付き合ってもらうわよ〜〜〜〜ッ グフフ」

 

ラッキー

「アワワワワワワワワワワ」

 

─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

 

ラッキーを玩具にしている一行が次のフレンズに出会う前、別の三人のフレンズがサバンナの泉にいた。

 

ハヤブサ、コハクチョウ、ノロジカは仲が良かった。

 

数日前三人はセルリアンの大群に遭遇した。

 

飛べないノロジカをコハクチョウが運び、それをハヤブサが護衛しながら逃亡していた。

 

やがて三人は下に波の打ち付ける切り立った崖に到着し追い詰められていく。

 

ハヤブサは、セルリアンを自分が惹きつけるから二人は逃げろ、と言った。

 

二人は拒否し、一緒に戦うことを望んだ。

 

それを聞いても二人を逃がすことを考えていたハヤブサは、二人を掴み下に用意していた断崖の横の穴に運び入れ、上へ戻って独りで戦いに行く。

 

ハヤブサは、自らと引き換えにでも二人を何としても逃したかった。

 

それほどまでのセルリアンの大群を相手にしていた。

 

二人を投げ入れた穴は二人分の空間とは言えないほど窮屈であった。

 

コハクチョウとノロジカはセルリアンが弾ける音、地上のセルリアンの足音、恐らくはハヤブサが飛んでいるためであろう風切り音、そして互いの呼吸と心拍音を聞きながら体を縮め大人しくしていた。

 

始めはそれ以外にも勇ましい掛け声と共に破裂音が聞こえていたため安心感はあったが、少ししてからは破裂音が止み叫び声もしなくなっていった。

 

最後には崖に吹き付ける海風と波の音が聞こえだした。

 

外の様子が気になったので、安全を確かめるとノロジカの武器とコハクチョウの飛行能力により穴を脱出して地上の様子を確かめた。

 

するとセルリアンは一体もいなかったがハヤブサの姿が見られず匂いもしない。

 

どこか遠くに行ってセルリアンから自分たちを遠くへ離そうとしたんじゃないかと考え二人で探した。

 

それから毎日、目覚めればすぐハヤブサを探しに出掛け、寝るまで名前を呼び続けた。

 

今でもノロジカとコハクチョウは呼びかけに答えるハヤブサを望んでいる。

 

一方、それから3週間後、同じ島のサバンナを征くドブネズミ・アフリカゾウ・イエネコの三人の前に珍しいフレンズが姿を見せた。

 

金属光沢のある兜を冠り、マフラーをまとい、腕を組んで細くそそり立つ岩の上に器用に乗るフレンズだった。

 

服は小綺麗で生真面目そうな印象を与える猛禽類のフレンズのそれなのに、かぶっている兜のせいか翼はどこにも無い。

 

さらに、豪華な兜とマフラーが浮いて見えるほど合っていなかった。

 

しかし目つきは鋭く、この乾季のサバンナを何キロ先も見通していそうな輝きをもっていた。

 

そして彼女は三人へ問いかけた。

 

 

「我が主に用か、それとも帰るか」

 

ドブネズミ

「は?上か?いた、何言ってんだお前は━━━ッ」

 

イエネコ

「そーよ!初対面でいきなり何言ってんのよ!」

 

アフリカゾウ

「えっと、質問の意味がわからないんだけど、もうちょっとわかりやすく言ってくれる?私たちはそっちの方に行かなきゃいけないの」

 

問答の意味がわからない一行は三者三様に返答する。

そして出題者は答えた。

 

「それが答えか」

 

ドブネズミ

「は!?だからわけわかんねえ事をいきなりするんじゃあねえぞ!」

 

イエネコ

「邪魔する気なのかしら……」

 

「我が主の住まう館にその薄汚い体を入れようとする者は誰であろうと赦さぬ。引き返すなら今のうちだ」

 

ドブネズミ

「館って何だ?思い込みか?全く迷惑なやつよ。確かに今はキタネーかもしれんが、それを洗おうとしてんだ。邪魔することは何を意味するのか分かってるのか?」

 

アフリカゾウ

「まって、建物なんてあるの?研究所以外で?そこを守ってるの?」

 

「質問には質問で返すのがお前が思う会話法か。では心置きなくきさまらを葬ってくれるッ。冥界に送ってやるわァッ!!」

 

ドブネズミ

「ふ、冥界………あの世か。わたしが行きそこねたところじゃあないか。そっちがそのつもりなら、お前がその役目を果たすのにふさわしいのか、『ラット』で試させてもらおう。アフリカゾウ、お前のスタンド……名前どうする?」

 

アフリカゾウ

「あ、ハヤ…ブ…………………あっ…なん…で…」

 

ドブネズミ

「アフリカゾウ?」

 

「沈黙したか。己の末路を心を決めたようだなァッ」

 

アフリカゾウ

「マ…だ…ァト…………トめる……とめら…れっ……!」

 

イエネコ

「そ、それはッ!?まずいわ!耳塞いで!」

 

ドブネズミ

「ああ!?」

 

「………………パオォォォォォォォォォォォォン!!パオォォォォ!ォオォォォォォ!」

 

「ギッ!?」

「ニギャァ!?」

「ギギョッ!?」

 

頭上のフレンズが物騒なことを口に出したかと思うと、アフリカゾウの様子が変わり咆哮を上げた。

咄嗟に聴覚を保護しても、しばらくは震動が頭に残り続けるほどの大音量である。

そのことはドブネズミはイエネコから聞いていて軽く済んだものの、前にいるフレンズらしき者には直撃したらしく、止んだ後は少しフラついているようだった。

 

ドブネズミ

「はっ───────!な、何故だが知らんが、アフリカゾウがキレたようだな……おい!まだ間に合う!こいつを怒らせたらお前はもうただでは済まない!わたしたちを襲うのは諦めるんだな!」

 

イエネコ

「出会い頭になにやってくれてんのよ!ずっとあの声が頭に響くんだもの、最悪だわ……。あんた一人でどうにかしなさい。私たちは近くで見てるから。アフリカゾウをケガさせるようなことするなら、私たちもあんたを抑えに行くけどね」

 

アフリカゾウ

「アォォォォォォォォ!ォォォォォォォォ……アァッ、『アフリカ』ァ━━━━━━━━━━━ッ!!」

 

アフリカゾウは意識のままにマフラーを振るいながら、スタンド像を出現させた。

その像は、色鮮やかに塗られ多彩な模様を彫り込まれている。

頭部には全体を覆う釣鐘を被っているように見え、歯を食いしばった口が顕になっていた。

その釣鐘には大きく見開いた目のような紋様がついていて、睨まれているような印象を受ける。

 

 

「フッ。なんだか知らんが、きさまらに何ができようと、我を倒せはしない。くらえ『ホルス神』!キョキョオォォォン」

 

ドブネズミ

「アフリカゾウのスタンドの姿が見えた!人型?それに、あいつもスタンド使いか!?いや、大丈夫だ。あの能力なら……って寒!?」

 

イエネコ

「ビショ濡れになるのはゴメンよ!もっと離れるけどしっかり見てないと!ドブネズミ、『ラット』だっけ?それでみてなさいよ!」

 

ドブネズミ

「イエスマム」

 

「な、なんというパワー…だが、相性ではこちらに分があるとみたぞ!」

 

アフリカゾウ

「パォォォォォォォォォォォォォォォォォォ━━━━━━━━━━━ン!!」

 

人型のスタンドは、指の根元側の第一関節の外側に付いている噴射口から水を吹き出させ、ラッシュを浴びせようと鳥のフレンズに迫った。

 

 

「水を噴射し浴びせるだけか?ではこうしよう」

 

アフリカゾウ

「ブォォォォ!?パゥオオオオオオン!」

 

鳥のフレンズは、冷気により水を自身まで到達させないようにするのと氷の防御壁を築くのを同時にこなしていた。

そうするうちに、またたく間に氷塊は巨大化し、ドブネズミとイエネコの視界をさえぎってしまった。

 

イエネコ

「アフリカゾウッ!今どうなってるの!?」

 

ドブネズミ

「冷気を操るあのフレンズに襲いかかっているようだが、見る限りは勝負がついたとは思えん」

 

「無駄だ!凍結はこちらに届く前に完了するッ!そしてッ」

 

氷塊はゆっくりと持ち上がり、後退してアフリカゾウの方へと擦り寄る。

 

アフリカゾウ

「パオオオオオン!パオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオオッ」

 

「ギィ!?こちらに押してくるッ!!この量の氷塊を難なく押し出すのか!?出力が高すぎる……パワーが違いすぎるッ……が!これからが勝負よ!」

 

アフリカゾウ

「パオパオパオパオパオパオッ……!?」

 

「ギィイッ」

 

目の前の防御壁を完全に破壊したアフリカゾウは、そこにいるはずの者が消えてしまったと錯覚した。

周囲を見て相手の位置を探っていると、頭上から異音がする。

上へ向くと、冷気が肌を刺し氷の中を屈折した日光が視界を焼け付かせた。

 

ドブネズミ

「上に氷の塊がッ!アフリカゾウ!砕き割れェ━━━━━━━━━━━━━━ッ!」

 

「もう遅いッ」

 

「パオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオ…ウッ!?」

 

いつの間にか頭上にあった巨大な氷塊はアフリカゾウを押し潰さんと、圧力をかけた。

アフリカゾウも負けじと自身とスタンドの拳を総動員して対抗する。

だが、本来の目的が氷塊での圧迫攻撃だけではないのを、腹部への冷たい衝撃と共に理解した。

横から襲った円錐形の氷柱が、凍てつく痛みを与えながらアフリカゾウを前のめりにすることで、頭上の氷塊が頭に衝突する直前まで接近した。

脅威であった相手を氷で押さえているハヤブサはゆるぎない勝ちを想像し口角を上げる。

その様子は近くで見守っていた二人にも十分伝わっていた。

 

ドブネズミ

「アフリカゾウッ!!なにかヤバそうだぞ!どうにかして助けないと、1人で勝てたとしてもかなり怪我をさせることになる!」

 

イエネコ

「……ドブネズミ、あの解け残ってる氷を『ラット』で【溶かして】みてよ。その後は任せて」

 

ドブネズミ

「? いいけど、アイツにどうやって……」

 

イエネコ

「いいから任せて。ただし、アイツに悟られれば妨害されて二度とできなくなるかもしれないから慎重にね」

 

ドブネズミ

「おお、わかった」

 

「そこの二人に邪魔されては面倒だ、塞いでおこう」

 

ドブネズミ

「何ッ!?攻撃がくる!逃げるぞ!」

 

作戦会議を密かに開いていたが、謎のフレンズのしたたかさは二人の上を行っていた。

 

イエネコ

「ッ!氷を撃ってくるのね?」

 

「クアアアアアアアッ」

 

ドブネズミが背を向けて逃走の態勢を取ろうとしている瞬間に、飛んでくる氷弾は発光する拳で殴りつけて弾かれた。

完全に被弾すると思っているドブネズミと違い、既に攻撃に対応しきったイエネコは余裕の表情で対する相手を睨みつける。

 

ドブネズミ

「ギャァ━━━━━ス………?」

 

イエネコ

「けっこうやるじゃない。でもまだまだいけるわ!」

 

「なにィ」

 

ドブネズミ

「イエネコ!お前が弾いたのか!あのミサイルを!」

 

イエネコ

「これでも私あんたほど貧弱じゃあないのよ。鍛えなさい、ドブネズミ」

 

「なるほど、そっちはやるな。ドブネズミとやら、きさまどうやってここまでの旅路を………?セルリアンと連戦することも珍しくないだろうに」

 

ドブネズミ

「ふん!これでも、断食最高記録をこの瞬間に更新しつつあるんだぞ!普段から何か食ってなきゃならんのを耐えてるのを褒めてもらいたいね」

 

イエネコ

「なるほど、スタンドに頼り切った攻撃しかしてないから体力温存できてるってこと?」

 

ドブネズミ

「知るか!」

 

イエネコ

「なによ!」

 

「はやくしろ」

 

ドブネズミ

「ありがとう。これで終わったよ」

 

「なにィッ?」

 

アフリカゾウ

「パオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」 

 

「ギッ!?」

 

イエネコの作戦は成功した。

アフリカゾウのスタンドが氷塊を両腕で持ち上げながら鳥のフレンズへ向かってくる。

アフリカゾウを閉じ込められていた氷のオリを、気を引いているうちにドブネズミは『ラット』で溶かした。

アフリカゾウが持ってきたのはその一部。

鳥のフレンズはそれを投げてくるのを予測して上空へ逃げようとした。

しかし、アフリカゾウのとった行動はその上を行っていた。

 

イエネコ

「『ラット』で溶かしても氷は冷たいままだったのよ。

ドブネズミが溶かした氷に水をかけたら、一緒に流れずにかけた水が凍った。

だから氷と同じ温度のままドロドロになってるってわかった。

そして、それを直接ぶっかけてやればいいって思いついたってわけ。

その、アフリカゾウが持ってきたのはただデカイだけの氷じゃあないわよ?」

 

「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

人型スタンドが氷塊を投げようとすると思いきや、横向きに持ち替えた。

さらに、上側を前へ向けて思い切り振る。

すると、中に『注いで』あった、『ラット』の溶解毒により液化した氷が鳥のフレンズの全身にかかり、飛行速度を失わせた。

 

「ウッ 冷たいィィッ 体温が奪われるッ」

 

アフリカゾウ

「はあ…はあ…」

 

ドブネズミ

「逃げずに負けを認めろ!」

 

「もういい!戦いは終わりだ………そして話をしなければならない」

 

イエネコ

「びしょ濡れ作戦は成功したわね。でもアフリカゾウ、大丈夫?」

 

アフリカゾウ

「だ…いじょうぶ うぅ………」

 

アフリカゾウはドブネズミの手を取りつつ、脇に手を入れながら暖を取った。

 

ドブネズミ

「おまえも無理しなくていい。わたしは体温が高い」

 

ハヤブサ

「取り込み中済まないが、此方の話を聞いてくれないか」

 

ドブネズミ

「身を寄せ合いながらでいいなら聞こう」

 

「は?」

 

ドブネズミ

「さっきも言っただろう、わたしは体温が高い。乾くまでの体温をわたしからやろうと言っているのだよ」

 

「……わかったぞ!私をヒナ扱いしようというのかッ!? ブショッ 一人でも乾くまで十分耐えられる! グズッ」

 

ドブネズミ

「鳥は固まって暖め合わないのかぁ!?寒がってるじゃあねーかッ!意地はらなくていーんだよ」

 

イエネコ

「ほらみなさい、カゼひくわ。コレ」

 

ドブネズミ

「何だ?そんなモノ持ってきてたのか?」

 

アフリカゾウ

「ごめんね、ドブネズミちゃん。私がこっそり持ってきてたんだ。『たおる』ありがとね、イエネコちゃん」

 

「それ……大丈夫なのか?」

 

ドブネズミ

「アフリカゾウが持ってきたなら、大丈夫だろ」

 

「そうだな、まずは信じよう。だが、我の役目を果たさせてほしい。虫喰いについては知っているな?」

 

アフリカゾウ「!」

イエネコ「!」

ドブネズミ「‼」

 

ハヤブサ

「私はハヤブサ。虫喰いからお前たちの力を見極めるため遣わされた。今から虫喰いの棲む館に案内する」

 

⇐to be continued



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虫喰いに会いに行こう

前回のあらすじ

セルリアン調査を引き受けたドブネズミ、アフリカゾウにイエネコを加えた一行
砂漠が砂漠らしくなくなってきた場所まで差し掛かったとき、フレンズが現れて質問をしてきた
まともに答える気のないドブネズミとイエネコが挑発しあわや乱闘かと思われたとき、突然アフリカゾウの様子がおかしくなってしまう
アフリカゾウは目に映った謎のフレンズへ攻撃を仕掛けに、誰も見たことのなかったスタンドを出現させる
戦いはドブネズミとイエネコがアフリカゾウに有利になるよう支援したことでアフリカゾウが勝利した
現れたフレンズは終結後直ぐにハヤブサと名乗り、自身と虫喰いの関係を語りだすのだった



 

ハヤブサの案内で、一行は歩きながら虫喰いが居るという場所へ向かっていた。

自信の冷気の能力を利用され体温が奪われたため震えていたが、周囲は気温が高いためか調子は戻っている様子だ。

ハヤブサよりも疲労が溜まっているのはアフリカゾウだろうとドブネズミは心配していがその様子は見えず、横に四人広がって歩く列の端で三人の様子を観察していた。

 

ハヤブサ

「虫喰いとは共生関係を持っている。私が飛び回ってやつの気に入るセルリアンやスタンド能力を持つフレンズを探してやる代わりに、あの二人がセルリアンに襲われないようにセルリアンを制御してもらってる」

 

イエネコ

「意外ね。私は虫喰いの悪い噂しか聞いてないのに」

 

ハヤブサ

「なに?どこからそんな話が出たんだ」

 

ドブネズミ

「ふん………なんとなくの想像だが、セルリアンの近くにいても平然としていて怪しく思ったフレンズが声を掛けようと近づくとセルリアンが向かってきて襲われたように感じた、とかか?それであたかも虫喰いがセルリアンをこっちにけしかけてきたかのように思ったってところか」

 

ハヤブサ

「なるほど………」

 

イエネコ

「いや、セイウチが襲われたって聞いたわよ!?セイウチに何かしたんじゃあないの?」

 

ハヤブサ

「セイウチ?虫喰いが危害を加えたのか………セイウチから直接何かあったか確かめなければ」

 

ドブネズミ

「セイウチ………だれだ?」

 

イエネコ

「おぼえてないの……あんたはセイウチに会ったことないし当たり前だけど。

ハヤブサ、なんで虫喰いに協力してるの?」

 

ハヤブサ

「私には守るべき者がいるからだ。

私が守らなければならない。

『ひとつ前の私』から託された者たちを」

 

アフリカゾウ

「………!?えっと、ハヤブサちゃん?

フレンズを守ってるときにいなくなっちゃったフレンズってもしかして、君なの?

すると、その守るべき者って、ノロジカちゃんとコハクチョウちゃん?」

 

ハヤブサ

「そうだが、知っているのか」

 

アフリカゾウ

「うん。まさか、ハヤブサちゃん………あなたの前のハヤブサちゃんは、コハクチョウちゃんとノロジカちゃんを守りきって、自分自身を守れなかったんだ………

それで、今は二人を守れるあなたが守っていたんだね。

その頭の被り物がなかったらハヤブサちゃんってわかったのに」

 

ハヤブサ

「前の私がお前と知り合いだったとは、ノロジカとコハクチョウから聞いていなくてな。すまなかった。

しかし、今のわたしですら手一杯なんだ。

ノロジカもコハクチョウも戦えないのでは、私一人でなんとかするしかない。

前の私一人ではセルリアンに対抗できなかったのがわかる」

 

ドブネズミ

「なるほど、戦えないようなフレンズがいるなんてな………

わたしなら無理にでも戦わせようとしてたかも……」

 

アフリカゾウ

「だから、戦えるわたし達が守らないといけない………………」

 

イエネコ

「私は守られるのは癪だからこっちから戦いに行こうとしてるんだけど」

 

ドブネズミ

「そうするとつまり、まずいな。

虫喰いの手がないとハヤブサは守れないんじゃないか?」

 

アフリカゾウ

「二人を守るのに手がいるなら、私達が安全なところに連れてくしかないね。

実は丁度、この少し先に良いところがあるんだ」

 

ドブネズミ

「それは良かった!虫喰いに頼らなくてもいいならお前が使いをやることもない!」

 

ハヤブサ

「そうか。だが、すぐには無理だ。虫喰いの意思も確認しておくべきだろう。

ドブネズミ。虫喰いはお前と同じ能力を持つのだから、お前自身がその恐ろしさを知っているんじゃあないか?黙って物事を決めるのは良くないのはそれ以前のことだが」

 

ドブネズミ

「そ、そう…だって、は?まて、お前!わたしの能力を知っているのか?虫喰いがバラしたのか!?お前もスタンド使いだろ!!どっから聞いた!」

 

ハヤブサが冷静に返してきたのがドブネズミの頭の中を通り抜けそうになった。

スタンド使いにとっての致命的な弱点である情報を、何も教えていない相手に知られていることが、ドブネズミの怒りを沸かせた。

そしてそれを冷やすように、頭上から冷水が降り注いだ。

 

アフリカゾウ

「はい、ドブネズミちゃん落ち着いてね。ちょっと失礼するよっと」

 

ドブネズミ

「オイ!アフリカゾウか!?スタンド使いはお前も(水をかけられる)………だ。すまん、熱くなりすぎた。知られてしまった以上はどうしようもないな。ハヤブサ、なんだったっけな?」

 

ハヤブサ

「ああ、だから虫喰いに会って確認する………つもりなんだが、あそこに虫喰いが来ているようだ。まだ私にしか見えない距離だが」

 

ドブネズミ

「なに?」

 

アフリカゾウ

「セルリアンのニオイがするけど、大丈夫?倒せるくらいの数かな?」

 

ハヤブサ

「アフリカゾウ、戦う必要はない。

セルリアンも来ているが、全て虫喰いの配下だ。あの数を虫喰いが使役してけしかけてきたら、それなりの覚悟が必要だろうがな。でも今は、スタンドは出さない方がいい」

 

ドブネズミ

「それは、敵意さえ向けなければいいということか?」

 

ハヤブサ

「そうだな。慣れっこだとは言っていたが、用心し過ぎるということはない。アフリカゾウもスタンドを出さないようにしようか」

 

アフリカゾウ

「え?私スタンド使えないよ?」

 

ドブネズミ

「今さっき………わたしの頭の上から水がかかってきたんだぞ…

このカラカラに晴れた空でだ。

お前はスタンドを使ってハヤブサと戦って勝ったんだ」

 

アフリカゾウ

「エッ」

 

ドブネズミ

「驚かせるつもりはないんだけどな………………

水を出すのがお前の能力だ。

水をまこうとか濡らそうとかって思い浮かべてやってるんじゃないか?」

 

アフリカゾウ

「頭がパオパオするよ………そうだったんだね。教えてくれてありがとう、ドブネズミちゃん。あれ、イエネコちゃんが虫喰いの方に行ってるけど」

 

ハヤブサ

「何!?連れ戻す!」

 

ドブネズミ

「わたしを連れてけ!ハヤブサ!

わたしのせいだ!スタンド使いじゃないイエネコが話にまざれないのを考えておくんだった!!」

 

ハヤブサ

「分かった!しっかり捕まっていろ!」

 

と、突風のような会話の後にまさしく突風が吹き、ハヤブサとドブネズミがいなくなっていた。

 

アフリカゾウ

「一人になった………声聞こえるからいいもん」

 

 暇つぶしで聞き耳を立てるアフリカゾウの耳には数人の声が入ってきた。

親しい人物の声がすんなり来るなかで、聞き覚えのない声ではないが馴染みのない声が異様な威圧感を醸し出しつつ、質問していた。

 

「なぜここにお前がいる」

 

「来たかったわけじゃあねぇんだよ!来たあとでやりたいようにやってきただけだ!」

 

「その末路がこれだ。つくづく俺の足を引っ張りたいようだなぁ?」

 

「何をお前が言おうが、アフリカゾウとイエネコはわたしの大事な仲間なんだよ!お前を止める!」

 

「なら試してみるか?お前のラットと俺の『ラット』のパワーを。その意思が本物か確かめてやろう」

 

←To Be continued




ラット(虫喰い)
破壊力:?スピード:?射程距離:?
持続力:?精密動作性:?成長性:?
虫喰いのスタンドの能力。
何らかの能力でセルリアンを介して自分の声を遠くへ届けることができている。
これが全てとは限らない。


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根棲みの噂話

虫喰い

「俺はお前だけ来れば良かったんだ」

 

ドブネズミ

「みんながどうなってもいいっていうのか?今までわたしだけを直接襲わなかったのはそのためか?あのくそ暑いところではどう考えてもわたしごと葬ろうとしてただろ」

 

虫喰い

「そんなことがあったのか?砂漠には手を出していないから、野良のやつだろう。まあ、吹っ飛ばしてやったおかげでおまえは予定より早く来られたようなものなのだからな」

 

ドブネズミ

「それまで計算済みってか」

 

虫喰い

「ここまでの旅路の土産話は俺にはいらない。逆におまえに言いたいことがあってずっとここにいるんだ」

 

ドブネズミ

「なに?」

 

 ドブネズミには、虫喰いの言葉は裏の意味を感じる危険なものにしか聞こえない。現に、セルリアンを利用しけしかけられた経験を何度も仲間とくぐり抜けている。

 先ほどの虫喰いの言葉については、これまで一緒にセルリアンに対処してきたアフリカゾウとイエネコのことが邪魔だという内容でとらえて返答した。

 

ドブネズミ

「それは『邪魔なあの二人を片付けて俺とのコンビを組め』ってことか?そんなにフレンズを片付けたいとは、お前も最早セルリアンと同じに見えるな」

 

虫喰い

「なんでそうなる。イラ立ち過ぎだ。落ち着け。アフリカゾウにはそもそもこの会話は聞こえていない。そこの鳥のやつにもな」

 

ドブネズミ

「なっ………そ、それはまたおまえの新しい能力か」

 

虫喰い

「どうだろうな。じゃあ本題に入るが」

 

ドブネズミ

「そうだった」

 

虫喰い

「実はさっきのお前の偏見も、あながち間違いじゃあない。いくら非道に走ったとしても、フレンズを排除したりはしない。本当はお前がマイについて思ってるであろーことについて言うつもりだった」

 

ドブネズミ

「それはなんなんだ?あまり伸ばすとアフリカゾウが来ると思うがな」

 

虫喰い

「心配はいらない。そもそも『お前自身』の姿のこと、フレンズについての理解はどれくらいだ?セルリアンとの戦い続きで考えることはなかったんじゃないか?それが今からの話について重要なことだ。俺は研究所でフレンズのこともセルリアンのことも調べ尽くしてから脱出してきたから相当に詳しいつもりだ」

 

ドブネズミ

「『わたし自身』?」

 

虫喰い

「フレンズと呼ばれる存在についての基礎知識を、お前自身が理解しているかが、お前や俺を含めたこの島の未来を決める。

いいか?

フレンズはおおまかには『動物にサンドスターが反応して生まれる特殊な動物』なのはマイから聞いてると思う。

ここではお前の行動の理由を明かすために、少し入り組んだ話をする。

今いる生き物に似た別の生き物が少し前の時代にいるように、フレンズにも今いる者に似た別のフレンズが過去にもいる。

俺とお前のことをいう『ドブネズミ』のフレンズが、ちょっと前には『別のやつ』としていたということだ。

その『別のやつ』は『先代』と呼ぼうか。

この『先代』のことは研究所で聞いてると思ったが、何も知らないのか?」

 

ドブネズミ

「わたしはそんなこと聞いてないな、そんなことがあったとは。

で、それが言いたいことの全部か?」

 

虫喰い

「まだだ。

『先代』が一体『何があっていなくなったか』が焦点だ。

それは、『コノシマ・マイ』の企みが原因だという説が有力だということだ。

これを、一番お前に言いたかった。

セルリアンをけしかけてきたのもこのためだ」

 

 コノシマ・マイという名を聞いたドブネズミは、その存在を初めて脅威として意識した。

名を本人が明かしたときは何を考えているかわからない、なんとなく怪しさがあるくらいにしか思わず、呼ばれて会いに行ったときも警戒せずに近づいた。

そのときはアフリカゾウが一緒にいて、なおかつそっちが本命の様子だったので気が引き締まらなかったのもあるが。

とにかく、ドブネズミはこの場で初めてマイを不気味に思った。

心当たりが一切ないのにも関わらず。

 

ドブネズミ

「………お前が、わたしに………言いたいことがなんとなくわかった気がする」

 

虫喰い

「そうだろう。

お前以外でなければ、俺は敵以外なんでもないやつで終わっている」

 

ドブネズミ

「お前は他のフレンズとはどこか違うように見えることを、より強く実感するようになったよ。イエネコが警戒するわけだ」

 

虫喰い

「なんとでも言ってもらっていい。

まあ、お前が心の中で整理がつくまで俺に聞きたいことでも言ってくれればいい」

 

ドブネズミ

「整理がつくまでか………。

なら、聞きたいことがある」

 

虫喰い

「いいだろう。何だ?」

 

ドブネズミ

「どうして、お前はわたしからは誰にも言っていない、思ってることを知っている?

お前とわたしはこの姿では初対面なんだが。老いた人間たちの棲家で別れて以来だろ」

 

虫喰い

「それか。大ざっぱに言えば直感からだ。

正確には記憶の共有、つまりお前が見たり聞いた物事が俺にボンヤリと流れてくるし、逆に俺の体験したこともお前はなんとなく知ってんだよ。

『この身体』特有の利点ってところだ。

それが、『先代』と『今の俺たち』にも成り立ってて、お前は『コノシマ・マイ』に不信感を持ってる。

つまり、理由はわからないが『先代』はマイに明確に敵意をもってたんだ」

 

ドブネズミ

「そうだったのか。

わたしのこのマイへの違和感は、過去の別のドブネズミがマイにムカついたことの延長なのか」

 

虫喰い

「そうだ。

俺に聞きたいことが他に無ければ外の奴らを迎えようか。

今話したことを伝えるかどうかはお前の好きにしていいが、俺からはなるべくやめておくことを薦める。

実感があるこの二人以外だとなにもわからなくて、ちょっと頭が混乱するだろう」

 

ドブネズミ

「そうか…………………」

 

 ドブネズミは虫喰いの話を受けてやるべきことを見出しつつあったが、二人にこのことを話すのは、実感のないアフリカゾウとイエネコには掴みどころのない話だったと思いとどまった。

もしもそのままに話してしまうと、虫喰いと結託して敵対しているふりをしつつセルリアンに襲わせるよう仕向けていたと思われるのではないか、などといった想像を振り払っていると、イエネコとアフリカゾウが追いついてきた。

 

アフリカゾウ

「ちょっと!いきなり、飛び出しちゃって、何かあったらどうしようかと、思ったじゃん!」

 

ドブネズミ

「おお、ごめん。何のために虫喰いが今までこんなことをしてきたかどうしても知りたくてな。結果、やっぱり虫喰いはわたしたちの敵じゃなかったみたいだな」

 

イエネコ

「ずるいわ、ハヤブサに乗るなんて。ハヤブサはどこにいるの」

 

イエネコもアフリカゾウに続いて辿り着いた。ドブネズミだけを運んだハヤブサに贔屓の理由を聞こうとしているようだ。ハヤブサは、揺さぶってくるイエネコを面倒くさそうにふり払いながらも話し相手をした。

 アフリカゾウは、虫喰いを警戒して不安そうにドブネズミの背後に隠れようとしていた。しかし、後ろに立って肩に両手を置くその行動は、背がドブネズミより低くないために、逆にドブネズミの強力な近距離パワータイプのスタンドに見えるようになってしまった。

 ドブネズミは、アフリカゾウに虫喰いをすぐに攻撃する様子がないことを確認してからこの場にいる全員に聞こえるように呼びかけた。

 

ドブネズミ

「イエネコ、今は忙しいかもしれないがちょっと聞いてくれ。さっき、虫喰いから聞いた話をわたしはこの場で話しておくことにする。わたしは覚悟を決めた」

 

アフリカゾウ

「ほんと?」

 

 ドブネズミは、つい先ほど虫喰いが話したこと【マイを倒す計画】をアフリカゾウとイエネコにも明かした。先代のドブネズミの件も余さず説明し、情報共有を進めた。イエネコは話が終わった直後、ハヤブサに興味をなくしドブネズミに迫った。

 

イエネコ

「あんた………そんな突拍子もない話信じるの?そりゃあ、私はあんたじゃあないからものの感じる程度が違うって知ってるわよ、けど。だけど………私自信の判断が一番信じられる。あんたがこれからしようとしてること、やっぱり止めなきゃならない。痛いのはちょっとだけだからおとなしくしなさい、ネズミたち」

 

ドブネズミ

「待て!わたしは虫喰いの話を信じてはいるが、本当にマイのことを狩ってやろうとしてると思われたら困る!」

 

イエネコ

「何それ?言い訳はふん縛ってから聞くわ」

 

虫喰い

「イエネコ………そうか。お前はあいつの家の者だったな」

 

イエネコ

「虫喰い!無駄なおしゃべりはよしなさい!」

 

ドブネズミ

「ああっ!話から聞いたこと信じるなら今の言葉も信じるもんじゃあねえのかッ!?お前こそ大人しくしろ!」

 

イエネコは、ネズミ二人のことが危ない企みをしているようにしか見えなくなっていた。アフリカゾウの力を持ってすればこの場を収めることは容易いが、その力はしばらくの間だけ沈黙することを選び、代わりに虫喰いに耳を傾けた。

 

アフリカゾウ

「虫喰い。今さっきなんて言った?私の耳が良いのは知ってると思ってたけど」

 

虫喰い

「ほう。あいつをここまで連れてきただけはあるな。さっき言おうとしたのはそこのネコのアニマルガールのことだが、俺の調べた情報が確かなら、あいつはマイが研究所に連れてきた飼い猫だ。しかも、俺やお前たちと違って、生きた動物がサンドスターによってヒト化している。唯一、奴の想定外の出来事」

 

アフリカゾウ

「ドブネズミちゃんのことは連れてきたわけじゃないんだけど………そうなんだね。それが関係してるの?ドブネズミちゃんのさっきの話のことは………」

 

虫喰い

「正直、それはわからない。奴に直に問い詰める以外に確認のしようがない。と、もういいだろう。俺はこれで失礼する。あのイエネコに捕まったら、俺のセルリアンでも逃げるのは難しそうだしな。お前たちは、また多くのセルリアンに出くわすだろうが、俺にはどうしようもない。頑張って、研究所までもどるんだ。調査に協力しているフリをしてな」

 

アフリカゾウ

「あ、どこ行くの?」

 

虫喰い

「使えそうなセルリアンをまた調達しに行く。各地の食料の在り処をお前たちのために残しといてやろう。じゃあな」

 

アフリカゾウ

「ま、まって!ちょっとしか……」

 

虫喰いは少しだけ離れると地中から現れたセルリアンの中に入り込み、地面の振動で探知できるアフリカゾウにも行方がわからなくなってしまった。

一瞬の出来事のため、アフリカゾウは何が起きたのかが頭中を駆け巡っていた。追いかけっこをしていたドブネズミとイエネコには、急に気配が消えたように感じられ、それまでのハチャメチャが嘘のように大人しくなった。

 

アフリカゾウ

「どこかに行っちゃった………虫喰い、ドブネズミちゃんに似てるからすんなり話しかけられたけど、やっぱりちょっと怖いな」

 

ハヤブサ

「そんなことないぞ。やつとはまだ縁を切らずに済みそうだ」

 

アフリカゾウ

「ハヤブサちゃん?大丈夫だった?」

 

ハヤブサ

「ああ。やつから仕事の依頼がきた。これでまた私の住処で待つ二人を安心させることができる。急がないと間に合わなさそうなんで、これでしばらくお別れだ」

 

未だネコとネズミの二人は虫喰い探しに没頭しているため、アフリカゾウだけが飛び立つハヤブサを見送ることができた。

 

アフリカゾウ

「まったく。あの二人の世話は大変だね。でも、それがいいんだよね」

 

旅の中では積極的に動き、ドブネズミとイエネコを見守ってきたアフリカゾウはハヤブサと自身を重ねて見ていた。

 

To Be Continued




この話の主人公にしてオリフレのドブネズミ(虫喰いでない)を初めとしたフレンズの絵を描くことに夢中で書く方から遠のいていましたが、更新できました。
ようやく半分くらいの予定です。
ここまでお付き合いして下さった方には頭が上がりません。もう少しだけ、お待ちください。


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強い魂の持ち主 その①

今回は終わりに近い辺りにホラーっぽい?描写があります


特殊動物部門・飼育員

「おはようございます、コノシマさん」

 

マイ

「おはよう」

 

飼育員

「すみません、このような時間で申し訳ないのですが相談がありまして」

 

マイ

「今は大丈夫です。何ですか、相談の内容は」

 

飼育員

「はい。先月逃走したアニマルガールのことで…」

 

マイ

「先月逃走した、か。ドブネズミか?」

 

飼育員

「いえ、オランウータンです。例の被験体が元の、あの悪賢いのがやらかしていたと思われる事件が発覚しまして」

 

マイ

「事件?君の担当なんですか?」

 

飼育員

「はい。あ、いえ、そうなんですが、あの個体についての観察記録は少なくとも抹消すべきです。手に負えませんでした。マスコミが来る前に逃げてくれたのは不幸中の幸いといったところですが………いえ、そんなことよりも!」

 

マイ

「落ち着いてください。まずは何があったのかを伝えたいんですよね?」

 

───────────────────

 

ドブネズミ、アフリカゾウ、イエネコの三人は虫喰いに逃げられる形で別れたことで前に進めるようになっていた。

 旅の当初の目的であるセルリアンの調査にかかる作業は、ほとんどアフリカゾウがこなしている。あとの二人は、たまにドブネズミが様子のおかしいセルリアンについての性質を見破ってマイに電話口でそれを伝える以外は何も、役に立っていなかった。つまり、イエネコは途中でメンバーに入っただけで、危機らしい危機での戦闘でしか働きをしていないのである。仕方ないというアフリカゾウからすれば、イエネコは研究所のことを知らないらしく、調査用の道具の使い方を何一つ知らない上に、無理にやらせる必要はないということだった。ドブネズミも大方はアフリカゾウと同意見だ。そうは言えど、アフリカゾウがおいしいと言う果物が残りわずかになって揉めたときにそれを我がものとするために上述のことを引っ張り出し、十分な働きをしている自分こそが得るべきなのだと力説した挙げ句に実力で負けて取られている。

 

 負けず嫌いなドブネズミも少しは策を弄することで勝利を収めることもあるが、基本的にドブネズミにとってのイエネコは[[rb:面倒な隣人 > ライバル]]となっていた。

 

イエネコ

「なによ」

ドブネズミ

「なんだとうっ」

 

この小競り合いを鎮めることが可能なのは、もはやアフリカゾウただ一人といっても良かった。アフリカゾウは今日も、諍いを鎮めるべく山のように立ちふさがる。

 

アフリカゾウ

「もう。私は『二人で分ければいい』っていったよね」

 

イエネコ

「分けたわ。分けたんだけど、2つとも狙ってくるから意味がないのよ」

 

ドブネズミ

「元は1つなんだから2つになっても同じことだろ」

 

イエネコ

「すぐそーやってわからないこと言う」

 

アフリカゾウ

「はいはい、スマトラゾウちゃんのマンゴスチンは美味しいし簡単に分けられるんだから。ちぎってちぎって、はいぱくっ」

 

ドブネズミ

「はむっ」

 

イエネコ

「あ、ずるい!」

 

アフリカゾウ

「イエネコちゃんの分もあるよ。はい」

 

イエネコ

「ありがとう。助かったわ」

 

 アフリカゾウが溜め込んでいる果物を頬張りながら向かう先は、岩礁地帯である。

 イエネコが虫喰いを追っていた理由の、セイウチが虫喰いの被害に遭っていたということについて、虫喰いに直接会ってからアフリカゾウが疑問に思ったため、そのことを確かめに行くところだった。イエネコが言うには、寝ていたところを姿を見せずに突かれたということらしい。言い換えれば、ちょっかいを出していたという。逃げ去る間際にちらりと見えた姿を聞くにはドブネズミと虫喰い以外に該当する者は居らず、ドブネズミがヒトの姿を得る前の事件となると虫喰い一人に絞られる。しかし虫喰い本人から聞き出すことはできず、会って話してみて考えられる性格からは、とても虫喰いがそのようなことをするとは思えないとアフリカゾウが反論したのだった。

 

 ドブネズミは、これまでに聞いてきた虫喰いのものと思われる言葉もすべて本人が考えたこととすると本人説を捨てるのは危ないとして、セイウチに会って確かめるべきと主張した。さらにドブネズミはもう一つの可能性として、特殊能力が備わったセルリアンの犯行という説を唱えるものの、話し合いの末、それを確定するには尚早と決まり、セイウチのいるところまで行くことになった。

 

 そうして、談笑しながら海へ近づく一行は、一際目立つものを見つけた。それは無人の船であった。

 岩礁に完全に乗り上げた、サビだらけの船舶が居座っていた。遠洋で漁をするためにそれなりの機能が備わっていたであろう、大きさについてはまともな船だった。ただし、塗装が剥げているどころではなく操縦席の窓ガラスは割れ、至るところにフジツボやカイメンのような生物の跡が残っていた。構造物の劣化を著しく抑えることで知られるサンドスターの影響が及ぶ島に上陸しているものが、見るからに劣化していた。これほど朽ちているものをアニマルガールが見れば、まずは一定の好奇心が湧き上がるというもの。

 

ドブネズミ

「ヒエ〜ッ、こんなものがなんでここにあるんだ?」

 

イエネコ

「きったないわね………近寄らないようにしましょう」

 

アフリカゾウ

「不気味ぃ………この船だけが目を引くくらいボロボロだねぇ………」

 

 口々に光景の感想を言っていると、誰かが近づいて来た。比較的大柄なフレンズのようだ。

 

「こんにちは〜、どうかされました?あ、アフリカゾウさん」

 

アフリカゾウ

「こんにちは!うん、オランウータンちゃんだっけ?」

 

「うん、あたしはオランウータンだけど、『フォーエバー』って呼んでほしいな。『永遠』って意味だったかな?みんなはなんていうの?」

 

イエネコ

「『オランウータンのフォーエバー』?私はイエネコだけど」

 

ドブネズミ

「よお、フォーエバー。ドブネズミだ。これのことか?あんまりに朽ちてるもんだから気になってたんだよ。まさか、これはお前の物だと言う訳じゃあないよな?」

 

オランウータン

「いいえ、まだ今は『誰のものでもありません』。これから自分の者にしようとする方がいらっしゃらなければの話ですが」

 

イエネコ

「うぇ………欲しいんならそんなもんすぐに持ってっちゃいなさい。見たくもないわ。セルリアンが取り付いた後みたいだものね」

 

アフリカゾウ

「そういうことなんだ、なるほど。イエネコちゃん、これはセルリアンが取り付いた物ってこと?なら、見張っていれば向こうから現れるんじゃあないかな?」

 

イエネコ

「いいえ、それは違う。セルリアンが一度取り付いてボロボロになったものには興味を持たないはずだから、『ボロボロにされる前』に似てる物を探せばいいと思うわ」

 

セルリアンの性質という重要な情報を突然話したイエネコに、ドブネズミは体を向けて問いただそうとした。

 

ドブネズミ

「イ、イエネコ?それ、いつ知った?セルリアンのことをそんなに知ってるなら、もっと早く教えてくれれば良かったのに」

 

イエネコ

「セルリアンらしい動きのやつはあんたと会ってからでは、見つかってないのよ。あんたのその変な力のせいじゃない?ドロォってなっちゃうやつ」

 

ドブネズミ

「『ラット』はわたしの一部だ。アフリカゾウも、似たような力を身に着けたところだ。ハヤブサと会った頃にな。お前にも早く目覚めるといいな」

 

いつものギャーギャー騒ぎを二人で始められては困ると、アフリカゾウは早めに切り上げて先を急ぐことにした。

ドブネズミもイエネコも、素直に従ってフォーエバーへ向き直り別れの挨拶をした。

 

アフリカゾウ

「ちょ、ちょっと二人とも!フォーエバーちゃん、ごめんね。あの船はもういいみたいだから、またね」

 

フォーエバー

「ええ。ありがと。またね」

 

イエネコ

「キレイにするっていうなら、また見に来てやってもいいわよ!じゃあね!」

 

ドブネズミ

「セルリアンと会ったらわたし達を呼んでくれよ!『パッセンジャーズ』とは知り合いだから、気軽に相談してくれると思うぞ!いつかまたな!」

 

フォーエバー

「ええ、わかった。ありがとうね。またねぇ………………っ」

(ナイスすぎる!アフリカゾウ、知り合いを連れてくるとは!グフフ、流石にここまでくれば人間共も厄介なスタンド使いも来られまい!独り占めのときは来たんだよォ!フォッホホ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時をドブネズミ一行が朽ちた船舶との出会いの半日後、島の研究所職員が同所研究員の相談に乗っていた。

 

「突然ですが、ドブネズミのアニマルガールについてご存知ですか?」

 

「え、ええと、申し訳ありませんがわかりません。その子はどのような子ですか?」

 

「はい。ドブネズミの名に違わない泥くさい生き方を好むような性格です。とても直感的で、迷いがない。ところが、それだけではありません。既に仕組まれたシナリオに則って動いているかような感じがあるのです」

 

「うん?それは、単に迷いが無ければ、そう見えることもあるのではありませんか?」

 

「いいえ、彼女の記憶に動物の頃の思い出がある可能性が高いと考えられる部分が見つかっているのです。これをご覧ください」

 

「はい。これは、現在のドブネズミのアニマルガールの資料ですか?」

 

「そうです。現在の(ドブネズミのアニマルガールの)個体は、たった二匹で町の外の田園地帯に放されたことで危険と見做され、駆除されたというのです。しかも、『人間社会にとっての危機』というほどの大げさに聞こえる文言があるのです」

 

「『大げさに聞こえる』?まさか、それが事実だなんておっしゃるんですか?」

 

「はい。わたしも目を疑いました。しかし、あの巨大な財団が関わる資料ですから、信憑性は決して低くありません」

 

「こ、怖い話ですよね、まさかそんな動物の死体をこの研究所に運び込んでいたなんて」

 

 一人が話を丁度終えたタイミングで、二人のいる部屋の扉をノックする音が三度響いた。

 この部屋は資料室となっており、研究に携わる職員(研究員)が主に人事の業務をしているもう片方(事務員)を呼びつけて相談していた。

 ところが先程のノックで会話を盗聴されたと思った研究員は、焦ったのか身を屈めてやり過ごそうとした。

 一方、事務員は扉を叩いた者を見ようと、入口まで行き返事をして開けてしまった。

 扉が開いた音がした方に振り返った研究員は思わず大声を上げて事務員を呼ぶ。

 それと同時に扉が開き、部屋の前に立つ者の姿があらわになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マイ

「こんばんは。こんな時間に調べ物ですか?」

 

「こんばんは。あれ、コノシマさん。

 ぼくはなんでここにいるんでしょう?

 いえ、何でもありません。研究資料を拝見するのもこの離島での数少ない娯楽の一つなので、お許しください」

 

マイ

「いえいえ、謝らないでください。問題ありませんよ。夜も遅いので、早めにしないと、身体に毒です」

 

「それもそうですね。これで失礼します。おやすみなさい」

 

マイ

「おやすみなさい。………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 事務員の姿が視界から消えたのをみて、マイは部屋に入った。そして、部屋の隅々まで覗き誰もいないことを確認してから部屋を後にした。

 

 

 

 そして翌日からも、誰もいないその部屋の表札『資料室』は、その研究員を見ることはなかった。



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強い魂の持ち主 その②

はじめて♀→♀描写した………


 

セイウチ

「めんどくさいですわ」

 

アフリカゾウ

「そ、そうなんだ………じゃあね………」

 

ドブネズミ

「……………」

 

イエネコ

「あ、あれ?そんなんでいいの?」

 

 一行は岩の上に寝そべるセイウチを発見した。

 しかし、あっさりとイエネコが追っていた事件への関与を否定し逃げるように海に入っていった。

 不運にもセイウチの機嫌はすこぶる悪いらしく、無理やりにでも虫喰いの元へ連れて行くのは良くないと判断したアフリカゾウによりその場を離れることになった。

 

 ドブネズミは、状況に振り回されることに怒りを覚えつつ抑えて次にとるべき行動は何か考え、座り込む。

 

イエネコ

「なによ、座り込んじゃって!あんたまで動かないなんて、失望したわ!わたしはそこらへんのセルリアンまとめてブッ倒してくる!!」

 

アフリカゾウ

「イエネコちゃん!?戻ってきて、イエネコちゃん!」

 

ドブネズミ

「アフリカゾウ、イエネコは止めなくていい。わたし達は本来ならイエネコが向かった方へ進めばいいだけなんだ。でもな、目の前のこれもまた、問題なんだ。

 わたしはセイウチとの問題が先決と思うんだが………アフリカゾウはどうしたらいいと思う?」

 

アフリカゾウ

「セイウチちゃんの機嫌良くないみたいだから、無理にでもあってもらうのは難しそうだね………。

 あ、そもそもイエネコちゃんが知ってるのはどのくらい確かなことなんだろ?」

 

ドブネズミ

「それもそうか。考えてみれば、それを明らかにするべきだったか。

 イエネコがわたしたちに話したのは『放送で言ってた』とかだったな?

 その放送ってマイがわたしを研究所に呼んでたアレのことしか無いよな。

 何か他のがあればお前がすでにそれを言い出して来てるもんだと思うが」

 

アフリカゾウ

「うん。私も放送って言えばそれしか知らないね。方法はラッキーが大声で叫ぶだけだから、本当に空高く遠いところにいた私たちには聞こえてなくてもおかしくないんじゃあない?」

 

ドブネズミ

「………それなんだよ。アフリカゾウ、お前の『耳の良さ』、音を聞く力は相当なものなんだろう。見えないくらい遠くの雨雲でもその下で雨が降ってるか聞こえてるんだから」

 

アフリカゾウ

「うん。地面から聞こえてるんだ」

 

ドブネズミ

「そうだろ?イエネコの話では地面に足を着いてなかった時だったとはいえ、ラッキーの声はみんな同じだしあんだけデカい声で、それらしき音や声すらも聞こえないなんて、流石におかしくないか?」

 

アフリカゾウ

「うん、まあ、それもイエネコちゃん捕まえて話さないとね。

 あ、今も遠くの声が聞こえてるよ。

これは『助けて~』って…!?

セイウチちゃんの声だ!」

 

ドブネズミ

「何?セイウチだと?どっちから聞こえる?」

 

 あっちといってアフリカゾウが指差したのは水平線の向こうだった。遠すぎて何があるのか二人には見えない。それでも助けを求める声を聞かなかったことには出来なかった。

 

ドブネズミ

「くそ、敵は海の中だと?『ラット』が使い物にならなくなるじゃあねーか!せめて海上に安全に行ける手段があればどうにか行けるんだがなぁ」

 

 すると、ドブネズミの呟きを聞いていた神が助け船を出したかのように、文字通りの『助け船』が現れた。

 それは小型クルーザーのようで、十人程度まで乗れそうなくらいのこじんまりとした船だった。

 運転席には一人の人影があるものの、前からでは顔がわからないようにうまく隠れている。

 見るからに怪しい船はすべて聞いていたかのごとく二人の近くに止まり、乗るのを促すかのように岸まで橋を架けた。

 アフリカゾウは着岸するまでを見てすっかりその船を信じきって乗りに行った。

 

ドブネズミ

「お、おい!アフリカゾウ、なんで何も言わず近づいてきた船に乗ろうとする!そいつは何かヤバい気がするんだッ!」

 

アフリカゾウ

「行かせてよ!助けを求めるセイウチちゃんの声は間違いなく本物だよ!きっと危険なセルリアンに襲われてるんだ!

 ドブネズミちゃんが乗らないなら、私一人でもいくからね!」

 

ドブネズミ

「な、んだと………」

 

アフリカゾウ

「ねえー!そこの船のひとー!乗せてー!」

 

ドブネズミ

「ぐ………もしもセイウチが本物のセルリアンに『遭って』いたらわたしは………でも、その声自体の真偽がわからない………今どきのセルリアンは多様な特殊能力を持っているというのにこれがわたし達を陥れる罠ではないと言い切れるのか……お前もそれに出会ったことが何度もあるだろーに………」

 

 悩むドブネズミを後目に、アフリカゾウは独りでにさっさと行ってしまった。

 考えを一旦アフリカゾウに伝えようと視線を上げて海の方を見たときには、既に声も届かないくらい遠くに船の後ろ姿があった。

 

 アフリカゾウは航行の途中、操縦席に座る人影へ話しかけてみたが何も返答が無く、『この人もそういう気分じゃないんだね』と思ったのでセイウチを助けることだけを考えていた。

 クルーザーは沖へ出るとしばらくして停止した。

 

 アフリカゾウ

「あれ、セイウチちゃんの声が聞こえない?こんなに遠くまで来たのに?

 あのー!お願いがあるのー!ここでやっぱり止まらないで欲しいんだけどー!」

 

 アフリカゾウは、操縦席の方へ声を届けようとして、操縦士に近づくため足を前へ出す。

 すると、床面が衝突してきた。

 

アフリカゾウ

「なッ……!?この、くらいは受け身取れるから大丈夫、じゃあない?」

 

 とっさにマフラーで顔面より先に受け身をとり転倒を防いだかのように思われたが、右足首の違和感により予想外の理由がこの状況を招いていたことに気づく。

 

アフリカゾウ

「これは……ヒモ、っていうかワイヤーみたいなのが絡んでる……どうして…?」

 

 アフリカゾウは今まで様々な困難や危機を自らの膂力で乗り越えてきた。

 それにならい、今回もひとまずはワイヤーを引きちぎってから、なぜそれに気がつかなかったのか考えることにした。

 そのためにワイヤーを引っ張ろうと、左手を伸ばす。

 だが手は足下に伸びることはなく、突然『ピンと張った細い何か』が腕を引き止めてきた。

 『ワイヤー』を張っている先を辿って視線を動かすと、立っているときの頭上より高いところから延びていることがわかった。

 この船に乗ったときは少なからず焦っていたことは除いても、そんなものが始めからあったようには見えなかったにもかかわらずに 。

 不可思議な現象に混乱しつつ周りを見渡せば、そこは既に乗ってきた小型のクルーザーではなく広い床のある巨大な船であった。

 そして気づかぬうちに両手両足(とマフラー)に結びついたワイヤーはアフリカゾウを持ち上げる。

 股の高さがいつもの顔くらいの高さになったところで止まり、人影が見物に来たかのようにして現れた。

 

 アフリカゾウ

「あ、な、、なんだろうこれ………どこだろう、ここは………?」

 

???

「ここは私の手のひらの上も同然の場所………ようこそ『ストレングス号』へ。

私が船長を勤めるオランウータンのフレンズ、『フォーエバー』!まあ、この場では船長って呼んでくれていいわ」

 

アフリカゾウ

「オランウータン?ようこそ…?いったいぜんたい、なにがどうなってるのか………」

 

オランウータン

「ぐふふ、アフリカゾウ?貴女は今捕らえられているのよ。こんなことをするのはちょっと心苦しいけれど、私に協力してくれるなら自由にしてあげる」

 

アフリカゾウ

「そ、そうだ!セイウチちゃん!セイウチちゃん知らない?どこか海の方で助けを求めてたの。あんなに面倒くさがり屋さんなのに頑張ってるあの子を、見て見ぬ振りするまねは出来ない!」

 

オランウータン

「ああ?私ぁね、今質問してんのよあなたに。無視するとどうなるか、思い知らせてやろうかぁ」

 

 オランウータンはそう言って懐からパイプを取り出し慣れた手つきで火を着ける。

 火が着いたタイミングで、アフリカゾウは身体の表面を探る冷たくて細長い何かが服の下に入り込んだのを感じた。

 

アフリカゾウ

「ひゃっっ!?ごめん無視したつもりじゃ…」

 

オランウータン

「お、入ったねえ。

 これからお楽しみが始まるのよぉ、ぐふふ、フォッホ!」

 

 アフリカゾウの半ズボンの表面、チャックがある部分に顔を近づけ鼻を押し付けられる。

 

 アフリカゾウ

「あの、、ちょっと、なにしてるの……?ここのニオイを嗅ぎたいっていうの?」

 

 オランウータン

「あなたは知らなくていい………こんなことを知ってなんになると?まさか、あんたも同じことしたいっていうの?」

 

 アフリカゾウ

「え………それは、嫌だな……」

 

 オランウータン

「ふん、意外と、あんまり面白くないわ。口も利けなくなるくらいドン引かせて怯えさせるつもりだったけど、流石に陸上最大は肝が据わってるようね。『他』のがマシだったわ」

 

 アフリカゾウ

「他……?ほかって、ひょっとして…」

 

オランウータン

「お、気づいちゃった?ニオイも声も消してるけどカンがいいわねぇ」

 

 アフリカゾウの脳裏には想像を絶する屈辱を受けさせられるセイウチの姿が過った。

 これまでも友人の危機には敏感になり無鉄砲に行動してきたものだが、明らかな映像として危険を認識したアフリカゾウは、もうそれを排除するまでは敵を執拗に攻撃する復讐者と化した。

 

アフリカゾウ

「お、オオオオオオオオオ!パオオオッ!!」

 

オランウータン

「く、やり過ぎたか?だがもう遅いわ!既に手のひらの上にいると言ったのを忘れてるの?」

 

アフリカゾウ

「あ、アアアア『アフリカ』アアッ!!」

 

オランウータン

「ほ!スタンドが姿を現した。でもね、例えどんなに力が強くたってこんなのはどうってことないわ!」

 

 人の形をした岩盤のスタンド、アフリカが出現しオランウータンの頸もとに迫り来る。

 しかしやはり、アフリカの腕は頸を捕らえることなくして見えない糸に引かれたように急停止した。

 オランウータンはアフリカゾウがスタンドを出したと同時に背後に飛び退いて距離をとったためだった。

 それを見てなお暴れているアフリカゾウを見たオランウータンは、計画の都合上やり方を変更せざるを得なくなってしまう。

 

オランウータン

「クッ、クライアントの依頼は『アフリカゾウとドブネズミをなるべく傷つけずに捕らえること』だから、不本意だが強く固定するしかないか。

 でもスタンド自体の射程距離はあまりないようね。

 せいぜい1、2メートルってところ?」

 

 オランウータンはアフリカゾウのスタンド能力を分析しながらその場から立ち去って行く。

 その後ろ姿を見て、アフリカゾウは密かに進めていた反撃の準備を実行に移した。

 

オランウータン

「ウキャ!?」

 

 振り返ってみると、アフリカゾウの攻撃の正体を目撃した。

 アフリカゾウの胸元がはだけて手が丸ごと入りそうな狭間が見え、拘束していたはずのマフラーがいつのまにか自由になっている。

 そして甘い匂いが自分の頭の後ろからしてくることを合わせると、隠し持っていた物を何かしらの方法で拘束を解いたマフラーで投げてきたことが思いつく。

 現在他に誰もこの船には乗っていないことを知っているオランウータンは、不意を突かれたことで沸々とこみ上げてくる怒りを押さえられなかった。

 

オランウータン

「ほんっといい度胸してるわ!あんた、あたしがこの場を支配してるってことを『徹底的にわからされたい』ようねェッ!?

 まずこの甲板にあんたの身体を埋めるッ!そのちょこまかとうっとおしいミミズみてーな首巻きは特にきつくねェ!

 そして!服を全部脱がして晒し上げる!『鑑賞用ドール』みたいになってもらうわッ!いいえ、それだけじゃなくってウキャ!?」

 

 頭に血が上ったオランウータンに冷静さを取り戻させるように、ズドンという音が響いた。

 なんだなんだと音がする方へ身体を向けると巨大な氷が甲板に突き刺さっている。

 その上信じられないことに中には人影があり、こちらに視線を感じる。

 もっとよく見ようと近づいたオランウータンは、爆ぜて飛んでくる氷の欠片を避けることが出来ないまま吹っ飛ばされる。

 

ドブネズミ

「さぶ、は、はくじょん!カゼひいたらお前のせいだぞ!」

 

ペットショップ

「お前がこうしろと言ったのを忘れたのか?それにお前たちのようなのは病気に強いらしいが」

 

ドブネズミ

「わーったよ!これから二人も大人しくさせなきゃならんのにこっちで言い合いしてる場合じゃあねーからな!」

 

ペットショップ

「後でやるということか」

 

ドブネズミ

「忘れろってことだよ!来るぞ!」

 

 ドブネズミとハヤブサ、二人のスタンド使いが船上に乱入したのは、わずか10分前に合流したドブネズミとハヤブサの共闘作戦による。

 ドブネズミがアフリカゾウと別れたのは30分前になる。

 その間にドブネズミは、アフリカゾウの帰りを海を眺めて待っていようとしても退屈してしかたないので、海岸でなにか食べられそうな物がないか漁っていた。

 そのあたりの食べられそうな物といえばひっくり返した石の裏にカニや貝が潜んではいるものの、ほとんどがフレンズでも持ち上げるのに本気でかかる必要がある巨石の下に集中しているため、ドブネズミには一つも見つけられなかった。

 やきもきして岩場ごと溶かして全部あぶり出そうとしたところに、見慣れない二人のフレンズを連れたハヤブサと虫喰いが歩いてきた。

 

ドブネズミ

「ハヤブサ!え、虫喰い!?またわたしに会いに来たのか!?」

 

虫喰い

「会いに来たのはお前の方からだろう。

 それより、アフリカゾウはどこだ?おまえ一人とはらしくないじゃあないか」

 

ハヤブサ

「何か困ってそうに見えるな。ドブネズミ」

 

ドブネズミ

「あ、ああ!そうそう。アフリカゾウが、助けを呼ぶセイウチの声を聞いたとかで、海の中か上まで助けに行っちまってな。

 セイウチの声を聞いたっていう直後に怪しい船が来て、それに乗って行きやがった。

 罠かも知れないっていったけど聞く耳持たなくて」

 

虫喰い

「なるほど。アフリカゾウを海の方に探しに行きたいわけだ。すると、ハヤブサ、頼めるか?これもフレンズ助けの仕事だ。相手はおそらく俺の知ってる顔だろう。俺も後から行こう」

 

ハヤブサ

「わかった。引き受ける。ノロジカ、コハクチョウ。しばらくこの近くで待っててくれないか?」

 

ノロジカ

「うん……危ないことは、しないでね?」

 

コハクチョウ

「信じてるよ。ぜったい、帰ってきてね」

 

ドブネズミ

「ん?こいつらが前に言ってた二人か」

 

ハヤブサ

「そうだ。自己紹介は後でもたっぷりできる。急ごうか。背中に乗ってくれ」

 

 ドブネズミはハヤブサに負ぶられて空を飛んだ。

 上空を移動中の会話で作戦を練り、そして氷塊に閉じこもり強襲する時点へ至る。

 

オランウータン

「ガアアアアッ!なんなのよ!?あんたたちは!!」

 

ドブネズミ

「あ、本当だ。見覚えあるぞ、お前の顔。オランウータンだろ」

 

ハヤブサ

「私も一度だけ見かけたことはあるがそちらからはどうだ?」

 

オランウータン

「ヒッ、知らないわ!あんたたちのことなんて!だから、色々教えて貰うわ!力ずくで!!」

 

ドブネズミ

「おいおい、話がしたいならそんな手段はいらないだろ。何も隠してないのによぉ」

 

ハヤブサ

「スタンド能力、じゃあないか?流石にいくら親しくても底まで見せろとは言わないだろう、あれは」

 

オランウータン

「察しが早くで冴えてるのね。あんたは何のフレンズ?ちょっと覚えがある気がするの」

 

ハヤブサ

「ハヤブサだ。お前、たしかエンヤのところのえ………類人猿(ヒト科)か?変わった趣味があると評判だったが、よりにもよってそんなこととは。まるでこの身体になることを知ってたかのようだ」

 

オランウータン

「ギギギ……何言ってるのか私にはさっぱりだけど、『あのお方』といったら何か存じ上げて?」

 

ハヤブサ

「………知らない。聞いたこともない」

 

オランウータン

「そう………じゃあ、お隣のおチビさんは?」

 

ドブネズミ

「ケッ!わたしにも何のことだかな。大体お前自身はその『あのお方』をどういうもんだと思うんだ?何か聞いて思い出してもらうときは、それくらいのヒントもなしじゃあ聞いてる方が悪いと思うんだが」

 

オランウータン

「ヘン、そんな露骨に言ったら周りに知れ渡るに決まってるじゃない。秘密の話は分かりにくくて当然なのよ、『おチビさん』」 

 

 二度、身長に関する名で呼ばれた。

 ここで同じ呼び方をした一度目の時のことを思い出し、違和感を覚える。

 たしかに背はオランウータンより低かったのは事実だが、オランウータンとあまり身長差のなかったハヤブサも同様にオランウータンより低い位置に頭がきていた。

 

ドブネズミ

「そうか、なるほどを確かにこれは強力だな

『ラット』」

 

 オランウータンの頬を掠めて毒針が飛ぶ。

 

オランウータン

「ギニャアアア!?フレンズの顔を傷つけるだとぉ!?信じらんねーわ!」

 

ドブネズミ

「どんなに強力なスタンドでも、別にお前をやれば済むんだぞ?それに、今のはお前を狙ったんじゃあない。そこに顔があったというだけのこと」

 

 オランウータンの頬は一部が溶けてただれている。

 負傷した部位を押さえていると、今さっきの忠告のことを思い出した。

 

オランウータン

「って、まさか、つまりそれって」

 

アフリカゾウ

「フウウウウウ………」

 

 ドブネズミとハヤブサがいるのと反対の向きに振り返ると、解き放たれたアフリカゾウのスタンドが拳をつくり今にも殴りかかってきそうな映像が飛び込んできた。

 それはオランウータン自身の痛い経験を想起させるには十分なほどの恐怖であった。

 

オランウータン

「いやァァアアアアア」

 

ドブネズミ

「カワイソーだが少し意識を失ってもらう、オランウータン。

 お前自らが認識してるかは知らんが、セルリアンがお前に取り付いてる可能性があるからな。

 まあ、アフリカゾウをこんなことにしたってことはお前もけっこうやることやったんだろ?」

 

ハヤブサ

「や、ヤることって……」

 

アフリカゾウ

「パオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオパオオオオオオッ」

 

 拳の雨がオランウータンに降り注ぐ。

 ドブネズミはこのかけ声を聞いて、安堵した。

 フレンズをボコボコにすることにはなったが、アフリカゾウのように捕らえられるフレンズがこれ以上増えないだろうということで。

 ハヤブサが連れてきたノロジカとコハクチョウはあまり戦いが得意そうには見えなかったので、そのようなフレンズが仮に捕まったら、抵抗できず力尽きてしまうのではないかという不安が湧いていた。

 ドブネズミには、そのような者を守ろうとするハヤブサの姿勢はなにか輝くものがあるように見えて、頼りになると感じたのだ。

 ところが、実はオランウータンについてのことをもっとよく考えなければならないことになっていた。

 

 オランウータンは突如いなくなっていた。

 そして床に埋まっていた足は更に深く沈んで行き、頭の先までズブズブと底なし沼のように埋もれてしまった。

 辛うじて呼吸ができる程度の狭い空間に全員押し包まれたのだろうとドブネズミは思いながら、更に深く下へと沈んでいく。

 あるところで足から上に動くようになっていき、どこかの空間に落とされた。

 周囲を見渡すと、どうやらドアに鍵のかかった一つの部屋のようだ。

 出入り口らしきところは鍵つきのドア一つだけに見える。

 天井には電球で明かりが点けられている。

 そして、天井も床もどの方向の壁にも、監視カメラが置かれている。

 それ以外何もなく、鉄板で覆われた無機質な部屋だった。

 そこまで把握したところで何かガツガツという音と揺れが伝わってきた。

 

ドブネズミ

「アフリカゾウは隣じゃあないようだな、それなりに隔離されているのか。

 それにしても、なんてことだ………わたし達ごと捕まって監禁か。

 あの部屋※を思い出すな。いや、まだあの部屋の方がまだごちゃごちゃしてたが」

※一話のドブネズミが目覚めた部屋 

 

オランウータン

「よよ、よよよくも私をあそこまで追い詰めてくれたわ!でも逆にあんたたちを閉じ込めてやることができた!これでもう逆らおうなんて考えないことよ!」

 

ドブネズミ

「なんだって……?」

 

←to be continued…







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強い魂の持ち主 その③

半年間更新できず、お待ち頂いた方には心からお詫び申し上げます。
現在内容に詰まっており今回は短くなっています


アフリカゾウがオランウータンのフレンズ・『フォーエバー』に海上へ連れ去られた

ドブネズミはハヤブサと再会し、共にアフリカゾウを救い出すため捜索する

やがてアフリカゾウが船上に捕らわれていたのを見つけて乗り込み、オランウータンを追い詰めるも、逆に全員が個別の部屋に分けられ監禁される

なんと乗り込んだ船そのものがオランウータンのスタンドであった

船そのものを自由自在に変化・変形させることが可能なオランウータンの独壇場に追い込まれたのだった

 

 ドブネズミは鋼の壁に囲まれている。鋼の壁は単なる鋼の壁ではない。今さっきこの壁に包まれて部屋とも言えぬ空間に閉じ込められた。明かりがなく、箱に入れられている感覚を初めて味わわされる。壁自体が、船を操っているオランウータンの思いのままに変形しているようだ。

 

ドブネズミ

「明かりがないから『ラット』の弾道を予測しにくい………まだ無理にでも使う必要があるとは言えんから探索して構造を把握しなければな

なんとかわたしだけでも抜け出せれば他の部屋の壁もどうにかできる方法がわかるんだが」

 

 ドブネズミを閉じ込めた張本人は逆らうことを禁じるために閉じ込めたのにもかかわらず、ドブネズミはますます強く逆らうような行動を起こしていくのだった。

 

 単に暗い事から視覚以外が鋭くなったのか、それとも心細くなったのか、外から声が耳に入る。

 

ドブネズミ

「やっぱり隣には誰かいるようだな……だが音が変だ

聞いたこともない唸り声が聞こえるが、アフリカゾウはわたしには聞こえないほど低い声を出せるんだったか

本当にアフリカゾウなのか…?」

 

 ドブネズミが聞き耳を立てているその頃、壁に飲み込まれた三人のうちの一人、アフリカゾウは、ついさっきの戦闘のことを独りきりで振り返っていた。

 スタンド能力について、これまでは暴走する“意識”だけで困難を乗り越えてきた。暴走していた“意識”とは『危険な存在を自ら止めなければならない』という自責の念の沸き立ちが止まらなくなる意識。アフリカゾウの心の底にある、自分が皆を守らなければいつまたマルミミゾウのように急にいなくなるかもわからないという後悔の炎が燃え盛っているのをアフリカゾウ自身は理解していた。この炎が、今回は役に立たなかった。この事実に、アフリカゾウは打ちのめされていた。

 この意識の変化は、孤独なアフリカゾウを冷ますことで、新たな力を目覚めさせた。

 

アフリカゾウ

「アフリカ………それがわたしのスタンド能力の名前………そうなの?マルミミゾウちゃん………大丈夫?私ならできる?私は雨を降らせることのできる力を持ってるから………?

マルミミゾウちゃん…?マルミミゾウちゃん!!

……………夢だったの…………そうだね、この現実が今私が生きてる場所なんだからね!

よし、こんなこともしてみせるよ!懲らしめるんだから、オランウータンちゃんたら!

『アフリカ』ァッ!!!」

 

 アフリカゾウは、このとき初めて発現させたスタンドを自ら視認した。派手な土偶のような像は崩れ去り、中からは全く異なる姿が出現した。

 アフリカゾウの体格を一回りほど上回る巨躯が影を落とす。太く長い四肢では、隆々とした筋肉のカドが輝く。砂が風に乗って腹部を舞う。胸部には中央部を囲むような隆起跡。隆起跡に守られた中央には泉のごとき円。円からは頭へ伸びる筋。

 大自然を纏った豪快な自身の魂のヴィジョンへと、誇らしげに命令する。

 

アフリカゾウ

「この船の辺りに力いっぱい雨を降らせて!船が沈んじゃってもいいってくらいに大シケにしゃうんだ!

沈んだらまた、そのときは……どうにかなるよね」

 

 丁度このとき屋上には、たった一人だけが寝転んでいた。クネクネと自らの身体をこねくり回して遊ぶなか、突如として視界が遮られ呼吸を封じられる。音は風と甲板へ打ちつける巨大な雨粒のみ。痛みさえ伝わる強烈な暴雨が、海上にある一つの鉄塊を覆い尽くす。

 

オランウータン

「ギャアアアアス!?!?痛い痛い痛い!?これ雨!?ブッ!!息がッ」

(なんとかしなくては!どう考えてもこれはスタンド攻撃!しかしあいつらにこんなことできるのはいるわけがない………取り敢えず、私も避難しなくては)

 

 甲板から急造の屋根がせり上がり、オランウータンを守る。雨粒の破壊力では甲板を構成する鉄板を傷つける ことができないため、ひとまずは難を逃れた。

 だが安心感が湧くと、捕虜達の抵抗に手を焼かされている事実に怒りがこみ上げる。

 何故万能の『ストレングス』をもってしてもフレンズ一人を手に入れるのにここまでてこずらなければならないのか。何故あの官能的な肉体を我が手に手繰り寄せられないのか。何故出会うもの達が悉くスタンド使いなのか。

 

オランウータン

「これこそが私が越えるべき“試練”だとでもいうの………?!

 逆に、これを越えさえすれば欲しいものが全て私の下に来ると?!

 やってやろうじゃあないの!もう『マイ』なんて頼らずとも、ヤツらを完敗させれんだよォ!

グフフフファハハハハハハ!!」

 

←to be continued…



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設定公開編 1

長くお待たせして申し訳ありません。
 これまでで、読んでいただくにあたり、背景設定の説明があまりにも少ないのでは?と思うところがありました。
 よって、33話までの時点で作者が想定している背景の説明をさせていただきます。
 なお、ここから先を読むのには、以下の文に目を通す必要はありません。



 

 ドブネズミ(虫喰いでない)がアニマルガール化するまでの経緯について

 

 巨大総合動物園・ジャパリパークにはアニマルガールとセルリアンがいた。

 

 アニマルガールはヒトの女の子を模した姿の動物である。

 

セルリアンは鉱物が無機物、単純な構造の生物(主に微生物)、生物の遺骸などの形を模して『かがやき』と呼称される概念を集めるため行動する存在である。

 

 共に存在する理由の解明には至っていない。

 

 『かがやき』とは、陰と陽でいえば陽、光と影でいえば光、生と死でいえば生といった希望あるもの、または努力や才能や得意なことと表せる特別なもののことである。

 

 さらに個人が持つものに限らず、友情や愛のような知的生命体同士の関係そのものに至るまで『かがやき』とされ、これらをセルリアンが奪ったとされる記録が存在する。

 

 この『かがやき』には才能の概念も当てはまることから、個人の才能の具現であるスタンド能力もセルリアンの標的に該当する。

よって、スタンド能力を得たセルリアンが発生する可能性が示唆されたことになる。

 

 ただし、人間の生活圏にはアニマルガールやセルリアンやサンドスターがほぼ存在しないためにスタンド使いが関わることは無かった。

 

 一方、自然動植物の保護を目的とした団体・スピードワゴン財団は、太平洋沿岸の海域に生息する海洋生物の生態を調査し保護するべく、日本の大学や動物保護団体との協力のもと活動していた。

 

 そのような区域を動植物園として一般に解放し、動植物保護の理念を広く伝えようという目的で、動植物園『ジャパリパーク』を開業させるべく開発を進めている。

(名前の由来は日本近く&来客に園内を探検してもらう公園であることをイメージしてもらうため)

 

 ジャパリパーク内には特殊動物研究所が置かれ、日夜サンドスターによって引き起こされる不可思議な現象を解明すべく研究が行われている。

 

コノシマ・マイについて

 

 特殊動物研究所では、スピードワゴン財団の超自然現象を扱う部門の協力によりセルリアン対策がヒトの手で完結する方法を模索する研究チームが存在した。

 

 そこに所属するコノシマ・マイはセルリアン対策の研究に関わっていた。

 

 研究所のある島は未踏の地ばかりであり、全ての研究部門の所員で構成する調査団が結成された。

 

コノシマ・マイは調査団に入り、ごく普通に島の調査をするつもりであった。

 

しかし、この調査が運命を狂わせた。

 

 途中で『悪魔のてのひら』に遭遇してしまい、所員はマイと他三人を残し行き倒れてしまった。

 

 生き残った四人は全員スタンド能力を得ていた。

 

 特殊能力が使えることを自覚するやいなや、マイ以外はスタンド能力について共有し合おうとしたがマイは隠し、マイのみ全員の能力を知ることとなった。

 

 後に三人の秘密を握り脅して優位に立ち、事実上の配下とした。

(内二人はマイよりも職務上の上司)

 

 コノシマ・マイは、セルリアンの脅威への対策として、「セルリアンと人が同化することでセルリアンを制御してみせる」と

 

 そのための実験台として誰であろうとも巻き込み犠牲にすることを厭わなくなってゆく。

 

 その様子はまるで、かつての他のセルリアンをも取り込まんとするほど凶暴な新型セルリアンのようであったいう。

 

 たがそのような冷酷な様をひけらかすことなく、表向きは穏やかに実験をしていた。

 

 本性を隠すのは、自らの研究の邪魔を誰にもさせないようにするためである。

 

 だが、実験台に人間を使うには限界が低すぎると感じたコノシマ・マイは、人間でないスタンド使いについて着目した。

 

 スタンドの才能ある動物は珍しく、発見しても捕獲が容易ではないことから、スタンド使いであったことが明白な動物の死体を利用できないかと思い付く。

 

 スピードワゴン財団から様々な死体の提供を受け、アニマルガール化も視野に入れて研究を続けた。

 

 マイの執念は凄まじく、それまでで不可能とされた人工的に動物をアニマルガール化させる技術を確立するほどであった。

 

 当然、確立された技術とは、誰が行っても正しい工程さえ踏んでいれば同じ結果が成るものであり、マイ以外の人間でも等しく動物をアニマルガール化できることは確認されている。

 

 しかしながら、自分が関わらないアニマルガール化実験を妨害することに関しても、それまでの実験にかけるのと同じくらい情熱を注いだ。

 それにより、マイが許していない人間には事実上無関係の実験となった。

 

 技術の確立後、マイが初めに着手したのは、『ネズミでありながら歴戦のスタンド使いの人間を相手に善戦した』との謂われ持つ死体であった。

 

 そこに、何事もなければ成功すると思われたこの実験で、一つのミスがあった。

 

 サンドスターにセルリウムが微量に混入していたのだ。

 

 発覚したときには既にアニマルガールの身体が形成されつつあったことから止められることは無かった。

 

 アニマルガールが無事に意識を取り戻したことで成功と思われたのも失敗であったかもしれない。

 

 アニマルガールの周りの人間が次々に何かに『撃たれた』ことで、ようやく人間はこの実験の危険性を認識させられた。

 

 撃たれた人間はもれなく頭部が溶解した後絶命した。

 

マイは実験の継続の為に、この事件の隠蔽に向けて動かざるを得なくなる。

 

それ以来このアニマルガールの個体を一方的に恨むこととなった。

 

 マイやその手の者らによって、どうにか事件の隠蔽は成り、アニマルガール化実験を繰り返したところで現在に至る。

 

 

ジャパリパークについて

 

 現在の状況としては、ジャパリパークを正式に営業開始することはできず、依然として準備研究段階にある

 理由として、セルリアンによる危険性を排除しきることが極めて困難であると判断されたことが挙げられる

 セルリアンには成人男性の腰ほどから見上げるほどの巨大さをもつ個体がおり、特殊な行動をすることは稀であるが個々に対処することは困難である

 そのほかに、神出鬼没に大量発生する性質があることも挙げられる

 ほぼ確実に安全ではないと言える存在が人が集まっている場所かその近辺に突如として出現する可能性を排除できない現状、安全性が確保できないためジャパリパークを開業することはできない。

 

 

 



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強い魂を持つ者 その④

先日投稿した34話の決定版となります。
急な削除としてしまい、申し訳ありません。


「君達は、強い魂と聞いて何を思い浮かべるか?どの様な魂が強い魂であると思う?」

 

「私は、強い意志を持つ者こそが強い魂を持つと考えます」

 

「そうか。そう考える理由を聞こうか」

 

「強い意志を持つ者は、大いなる使命を帯びて周囲を巻き込み、集団を成します。そのような集団とは何人にせよ一人以上の力を発揮するものです。周囲の意志はより強い意志に魅了あるいは翻弄されて、惑星の引力に導かれる衛星のように付き従うでしょう。

つまり、強い魂を持つ者は運命を歪める力が強く、強い意志をもって一人以上の力を発揮しようとすると考えるからです」

 

(……なんでこんなにすらすらと…よくわからないことを………)

 

 何の前置きもなく、悪の秘密結社の幹部が手下に忠誠心を確かめるような問答が始まった。

 圧倒的場違い感に竦み上がる。

 

「強い魂……そう。

さも問いに多様な答えがあるかのような問いかけをしたが、これから話すことは、私が言う固有名詞としての『強い魂』だ。

強い魂とは何か?

強い魂を持つ者は、

スタンド使いのことだ。

スタンド使いの間では次のような言葉が語られている。

『スタンド使いとスタンド使いはひかれあう』

この言葉が知られていることが、君の言う引力が発揮されている証拠だ」

 

「スタンド使い………?主任、質問がありますが、“スタンド使い”とは?まさか、特殊能力が実在すると……?」

 

「知らなかったの?コノシマ研にいるのにねェ?『珍しいこと』もあるものですね主任」

 

 何とか理解しようと質問を投げたのにも関わらず、状況は悪化してゆく。

 同僚が、自分が知らない意味を含むのであろう単語を、自分が知らないこと自体について『珍しいこと』と呼んだというのは、もはや脳の処理の優先順位の遥か遠くに追いやられてしまった。

 

「君は周囲にスタンド使いが居なかったようだな。それで気付けなかったのだろう。ーーーーーー、これからその力を私に貸してくれないか」

 

 

 一方、フレンズ・オランウータンの貨物船内部に閉じ込められたドブネズミは、脱出の手掛かりを探すため、壁に耳(ヒト耳と獣耳両方)を当てて音を聴いていた。

 聞き慣れない低いうなり声の正体に少しでも心当たりがあればと聞き続けていたが、聞こえるのがうなり声だけではないことがわかる。

 甲高い笑い声に足踏み、何かしらの単語の羅列を叫び続けるといったことも聞こえてきた。

 しかしこれらの音を結び付けるだけの知識が、ドブネズミにはない。

 

「くそッ、これ以上聞いてると頭がどうにかなりそうだ。

 上で私たちがオランウータンに抵抗してる間も下の部屋でこんなドンチャン騒ぎやってたとすると、オランウータンの趣味か何かが放置されてるといったところか?

 まあ、こんなことを聞き続けて平気でいられるとは恐れ入ったものだ。

 それはさておき、もっと詳しく聞くには隣に突入するしかなさそうだな」

 

 ラットを構えながら壁を叩き、叫んで壁の向こうの相手に存在を知らせる。

 そして、スタンドを構えて壁破壊と壁向こうからの奇襲に備える。

 敢えて位置を教えることで、来るかもしれない攻撃を受けやすくするためだ。

 見えない空間の『視える』だけのところから、できるだけ対策するのがドブネズミのやり方である。

 

「壁破ったら敵が現れると思ってやるが………そうでないならどうするか考えとかないとな。

『ラット』!まるく形をえがけ!」

 

 ラットの毒針は、発射されてから物体に当たった後何メートルも進み続けるほどのパワーを持たない。

 しかし、金属のように硬いものに跳ね返されても着弾点はしっかり溶かされた。

 このように毒の強さという点においてドブネズミのドス黒い精神性が露わになっている。

 

 円形状に切り取られた壁の断面に手をかけ、ゆっくりと引いてこちら側に倒す。

 鉄板の下敷きにならないよう後ずさりつつ、開けてゆく視界に注目すると、得体の知れない影が寝そべる様子が飛び込んできた。

 

「GOOOOH………」

 

「おい………何なんだ………?あ、セイウチ!セイウチか?」

 

「……………」

 

「OGH? GOAAA?」

 

「…………ぇ…」

 

「え?おい、なんだあれは?そもそも、なんでおまえがここにいるんだ?」

 

「………………気にしないで、敵じゃない」

 

「なに?すると、あれはもしかしておまえのスタンドか?」

 

「………あれは確かに私のスタンド」

 

「海岸の岩場から動こうともしなかったにおまえが、どうしてここにいるのか知りたいが、答えてくれるか?」

 

「……………なんでか知らないけど連れてこられた。何が私を連れてきたのかわからないけど」

 

「なるほど。ありがとう。

 こんなことになったワケを知ってそうな、あのエテ公に問い詰めてやるよ。

 そのつもりでわたしはここにいる。

 そう、おまえはどうしたい?

 ここにずっといる気は無いよな?」

 

「そうね。出なくても良いなら出ない」

 

「は?出ないって、おかしくないか?

 お前、こんな何もないところでずっと生きられんのかよ」

 

「出る必要があるか、確かめてきて。

 あなたが」

 

「え?おい、流石にそれは無っ、、、、!?」

 

ここで区切る

 

「!??」

 

 ドブネズミが反論を諦めたように見えたが、自らの身体の異変を感じ取ると、その訳を理解した。

 

 二人の全身から吹き出す光が部屋を照らす。

 

 面倒くさがりのセイウチでも、こればかりは焦らずにはいられない。

 

「なんだ!?アイツの攻撃か!?いや、ありえん………」

 

「なに………これ…………」

 

「何なんだ、これは!ああ、このままだとマズいぞ。確証はないがマズい!」

 

「どうなるの?私たち………」

 

「何するにも、まずここから逃げ出すしかない!もう何と言われようとお前を連れ出す!来い!」

 

 船外に脱出するべく、部屋を出て廊下を走り抜ける。

 だが、ドブネズミが感じた通りに、不安は現実となる。

 力が抜け、勢いのまま転倒した。

 連れてきたセイウチに弾き飛ばされ

 

「ギャアス!」

 

 被ダメージボイスを出す。

 セイウチの安全を確認するべく立ち上がろうとするも、やはり抗う術もないまま、床に伏した。

 

 「どこだ、セイウチ!、脚(うで)にも力が入らん………」

 

 身体を捩り周囲を見ようと振り返ると、頭上からセイウチでない誰かが声を掛けてきていることに気がついた。

 

「たすけ………て………せっかく……アフリカゾウを手に入れたのに……こんなの………」

 

「待て…っっ!お前にはみんなの安全を守る義務がある………」

 

「ハヤブサ!」

 

「おまえは……よくも!、いややめだ。オランウータン、外に助けを求めるんだ!空飛んでるフレンズいるかどうか探すとかしろ!」

 

「それができたらこんなことなってないよう!うぅっ…」

 

 壁に身体を預けどうにか立っていたオランウータンも、ついに臥した。

 意識の狭間に沈みゆく中で、壁そのものが溶けるように崩れる。

 船そのものを支配するオランウータンの意識が消えつつあるからだ。

 何も予兆なく訪れた危機のなか、オランウータンは寝言のようなことを口走った。

 

「遠……すぎた………

捕ま…りたくな…いから………

島………離れると………ダメなんて…知らなくて……」

 

「……!?」

 

<アニマルガールの身体は島から離れれば離れるほど不安定になり、最後には元の動物に戻る>  

 

 研究所の廊下に研究内容を説明した掲示物があった。

 学術的なことに疎い自覚がある者なら目を背けそうな堅い内容のそれに、その一文が含まれていた。

 ドブネズミは、そんな青天の霹靂に打たれた。

 

 わたしにはそんなこと言わなかったぞ。

 アフリカゾウは知ってるのか?

 知ってたらこんな所来ないんじゃあないか?

 知ってるとしたら、こうなることを覚悟してオランウータンを追いかけて……

 それならアフリカゾウを助けなくては!

 耐えてくれ、この身体!

 こんなところで終わってなるものか!

 

 死体であったはずのネズミの執念が燃え上がる。

 そうして、姿を保とうとする意志に応えるかのように、救世主は現れた。

 

 

「お前達が消えると俺が困るからな。俺のためだ」

 

 消えゆく意識の幕切れに、捨て台詞を残しながら半透明の物体を纏いつつある虫喰いの姿が残された。

 

━━━━━━━──────

━━━━━─

━━━─

 

「おまえに借りができたな」

 

「俺はお前と貸し借りをしたつもりはない」

 

「おまえは、本当はそうやってフレンズ助けしてきたんじゃあないのか」

 

「誰に聞いても答えは同じだ

俺が乱入して勝手に手出しただけのこと」

 

「ね、ねえ!虫喰い………さん。

ありがとうね。セルリアンを使ってフレンズを襲ったりしてないのは私達が体験した事実だから。私からもイエネコちゃんに言っておくね」

 

「…………」

 

 ドブネズミたちはセルリアンに包まれながら地中に潜る虫喰いを、帰省先から実家へ帰る親戚を見送るように名残惜しそうに見守り続けた。

 

「しかし、どうやって虫喰いがわたしたちを助けたのか、見てたか?だれか知らないか?」

 

「しらない………みてない」

 

「どうやってあんな所から5人も同時に………」

 

「ま、アイツ以外考えられないけど」

 

「こっちの『寝そべり』はいいの?」

 

「むにゃ………ぐふふふふ………おねーさん?おれとあそばなーい?」

 

「「「………」」」

 

「こんなの連れてったらどんなメに遭うか知ったことじゃあないな。セイウチはそこで寝転んでるし、ズラかろう。イエネコ拾わねーとだしな」

 

「ー!なーにしてたのよー!あんたたちはー!」

 

「噂をすればなんとやら、だね」

 

「あれー?アフリカゾウまでそんなタイドなんて、私はやっぱり邪魔者なのね」

 

「わ、悪かった。そんなつもりは!な、アフリカゾウ!」

 

「そそ、その通りだよ!」

 

「ふん、せーぜー私のご機嫌とりに精を出すことね」

 

 やがて一団が浜辺を発ち、セイウチも安眠場所を求めて去る。

 最後に寝そべり昆布を被った酔っ払い擬きが残された。

 そこに、一人の人影が舞い戻り、見下ろしながら独り言つ。

 

「俺自身が一番大事なんだ。セルリウムを制御する、俺だけが使える、あの守護けものにすら許されない力がな」

 

to be continued………




次回予告ッ

ハヤブサ(ペットショップ)の友人であるノロジカとコハクチョウの様子がおかしいという。
ドブネズミ、アフリカゾウ、イエネコの三人はセルリアン調査の一環として、何があったのか調べることになった。

※内容の変更が入る可能性があります。ご了承下さい


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