Sword Art Online〜仮面の裏の〜 (黒っぽい猫)
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はじまりの街

過度な期待、しない
更新の催促、しない

以上の二点をご理解した上で、本作品をお読み下さい


「……今日から、か」

 

胸に掛けたロケットを開いて、そこに写る少女の笑顔に微笑み返す。溜息と一緒に胸に燻っている不安を吐き出し布団に仰向けになる。

 

「……手元に飲み物はある、一度落ちたあとすぐ再ログインする準備は出来ている…と」

 

頭に付けた機械にそっと指を這わし、随分と遠くに来てしまったと再度溜息をつく。

 

「……リンクスタート」

 

この短い言葉が、呪いとなって自分達を電脳世界に閉じこめることになると僕達が知ることになるのは、もう少し後の事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フルダイブ技術が確立したのはごく最近だ。今までは空想でしかなかった『ゲームの中で実際に自分が体を動かせる』というのは、フィクションやゲームを嗜む人間にとってはとても甘美なものだったし、その後は必然的にあるジャンルのゲームの発売が切望されたのも当然の流れだと言えるだろう。

 

初のフルダイブ機能搭載マシン、ナーヴギアのパッケージとして初となるMMORPGの発売が決定された時の反応たるや、渋谷のハロウィン並に盛り上がっていたのではなかろうか。あんなにはた迷惑なものではなかったが。

 

まあ、そんなこんなで発売前にテスト版、いわゆるベータテストと呼ばれるものが抽選で選ばれた千人によって二ヶ月間行われたのだが、僕は運良く、本当に運良くそれに当選した。

 

当たった日には、人生の運を使い尽くしたかと思った。というか、実際にその直後のガチャで盛大に爆死した。ちくせう。

 

それから数ヶ月が経過、漸く本サービスが今日から始まった、というわけだ。

 

「久しぶりだなぁ……はじまりの街」

 

街に幾つかある中の一つの武器屋に向けて突進しながらしみじみ思う。

 

「アイツ、もう来てるのかな……」

 

ベータ時代に一緒に駆け回った黒ずくめに思いを馳せていると、誰かとぶつかりかけてしまう。どちらかと言えば長身のイケメンだ。

 

「おっと……すいませ「あ!リュウ!」……お前、もしかしてキリトか?」

 

そのイケメンはサムズアップしてこちらに笑いかけてくる。

 

「おう!久しぶりだなリュウ!!」

 

「息災で何よりだよ、んじゃさっさと武器決めて始めるか」

 

「そうだ──「ちょっとアンタら、いいか?」…?」

 

僕達が反射的に振り返ると、目の前にはこちらもやはりとてつもないイケメンが立っていた。

 

「アンタら、元ベータテスターだろ?さっきチラッとだけど迷わずこっちに走っていったからつい声掛けちまった!

 

俺はクラインってんだけど、見ての通り今日が初でよ、二人が良かったら、ちとレクチャーしてくんねぇか?」

 

このゲームの中で、まさか急にそんなふうに話しかけられると思っていなかったので目をぱちぱちさせていたが、先に我に返ったのは僕だった。

 

「ん、まぁ僕達も初日からガツガツ次の村に進む気は無いし、いいよねキリト?」

 

「…あ、ああ。とりあえずクライン、先に武器の軽い説明から──」

 

こうして、行きずりの三人による仮パーティーが完成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初期装備からまずこれからの相棒となる(とは言っても店売りだが)主武器を決め、僕達はフィールドに移動。

 

「せいやっ!!」

 

『ブモォォ……』

 

情けない声と共に四散する青イノシシの姿を見つつ、レベルアップのファンファーレを受ける。これでレベル3だ。

 

「またレベル上がったのか……流石狂戦士」

 

「うるさいよーキリト……あ、クラインはもう少し肩の力抜いた方がいいよ、そんなにガチガチになってたら上手くソードスキルのアシストに乗れないよ」

 

「っとと……そうか、わかった…力を少し抜きながら……のわっ?!」

 

ソードスキルのアシストに上手く乗ろうとして返り討ちにされたクラインを見て、キリトはあっちゃー、と額に手を当てる。

 

「ちょっ、危なっ!キリト〜、助けてくれ〜」

 

「はぁっ………フッ!」

 

助けを求められたキリトが一瞬でイノシシを葬った。

 

「大丈夫、クライン?はい、ポーション、これはサービスだよ」

 

「ああ……さんきゅ、リュウ」

 

蓋を開けてゴクゴクとポーションを飲み干したクラインは落ち込んでいるようだ。

 

「はぁ……なーんで上手くいかねんだ…?」

 

理由はいくつか考えられるが、一番可能性があるのは──。

 

「多分、アシストの何たるかをまだちゃんと理解出来ていないんじゃないかな?まだ自分でソードスキルの動きを再現しようとしてるんじゃない?」

 

「なんだよ、いけねぇのか?」

 

長い話になりそうだと踏んだのか、キリトは近くの木に背中を預け、クラインはその場で胡座になって僕の言葉に耳を傾ける。

 

「この世界では、ソードスキルを使って戦闘するのと、使わないで戦闘する二つの方法があるよね?両者の決定的な違いってわかる?」

 

「そりゃあ、ソードスキルの方が与えられるダメージがデカいことじゃねえの?」

 

「うん、それもある。でも一番大切なのはこの二つがシステムのアシストを必要とするかどうか、だと僕は思ってる」

 

「???」

 

頭に疑問符を浮かべている様子のクラインに、わかりやすく説明する方法を模索しながら口を開く。

 

「うーん、なんて言うのかな……武道の稽古にも『型』と『試合』がある様に、この世界で戦うのにも二種類あるってこと。

 

『型』の場合、何より重視されるのは威力とか力よりも『どれだけ忠実に決められた動きを再現するか』だよね?

 

ソードスキルは発動者の体がその『型』を完全に再現できる様にアシストしてくれるんだ。そこに対して『アシストに反するような、或いはその型から外れた動き』をすれば、上手くいかないのは当たり前じゃない?」

 

「…それってよ……つまり、リュウがさっき力抜けって言ったのはアシストに対して変な動きをするくらいなら全てアシストに任せた方がいいってことなのか?」

 

「まぁ、そういう事。慣れてくれば……というか廃人じみてくればキリトみたいにブーストをかけられるかもしれないけど、先ずはシステムアシストに体を預ける感覚をマスターした方がいいかな」

 

話を聞いてたクラインがおし!と言って膝を叩いて立ち上がる。

 

「よっしゃ!いっちょやってやるか!」

 

「僕は少し荷物の整理してるから、キリトはクラインをお願いね」

 

「おう、任せろよリュウ先生」

 

「んなっ?!何を言うのかな気持ち悪い!」

 

ご機嫌そうに背中を叩いてクラインのレクチャーに戻るキリトを不満げな目で睨むも、本人は何処吹く風だ。

 

「本当に……キリトは掴み所がないな…」

 

溜息混じりにメニューウインドウを開き戦利品と手に入れたコルを確認する。

 

「このペースで夜まで狩ればプラマイゼロって所か……まぁ、あのイノシシから何故かドロップする薬草を売れば今やめても採算は取れるのかな?」

 

まだ市場が形成されるほど日も経ってないし、暫くはNPCに買い叩かれるのも仕方ない。

 

「装備はまだ大丈夫だけど……早くあの時のコートを買いたいな」

 

ベータの時には、とあるクエスト報酬の面と柘榴のような色をしたマントを羽織っていた。

 

前者は一層のレアドロップ、後者は裁縫スキルでの作成なので、レベル6になったら取るつもりだ。

 

(キリトには物好きって言われたけどね……アイツのインナーとかも作ってやったの僕なのに)

 

思い出したらムカついてきた、アイツに次頼まれたら毒蛇みたいなの作ってやろうか、とか思いながらメニューウインドウを消して二人を眺めていると、丁度クラインがソードスキルの発動を成功させたところだった。

 

「おぉいリュウ!!今の見てたか?!俺ァ遂にやったぜ!!」

 

「おいクライン、喜んでるところ悪いが、今のはスライム相当だぞ?」

 

「マジか?!俺はてっきり中ボスクラスかと…」

 

「あはは、キリトと同じ反応だね、クライン」

 

「おっ、そうなのか?」

 

「そうそう、あのイノシシを始めてみた時なんてキリト大慌てでさぁ〜」

 

僕とキリトの出会いは、ログイン初日にイノシシに追い回されている彼と共闘──と言うより助けた所から始まったのだが、それはまた別のお話だ。

 

「…ゴ、ゴホン!!で、クライン。これからどうする?もう少し狩ってカンを掴むか?」

 

「あたぼうよ!って言いたいんだけどよ……そろそろデリバリーのピッツァが届く時間なんだ、んでその後はこっちでダチと会う約束しててよ」

 

「そうか……俺はまだいけるけど、キリトは?」

 

「俺も当分は平気だよ」

 

「そっか、まぁそんな初対面でガツガツ人と話せるタイプには見えねぇし、そのうち顔を合わせる機会もあるだろ。今回はここでバラけっか!」

 

クラインの心遣いに有難く僕とキリトも乗らせてもらうことにした。フレンド登録をした僕達は少し離れてクラインがログアウトするまで見守ることにした。フィールドでログアウトする時は直前にモブにボコられることがたまにあるからね。

 

「んじゃあな、二人ともありがとよ。この恩はいつか精神的に、な」

 

ニッ、と笑ってクラインは近くの岩に座る。それを遠くで眺めながら僕はキリトに話しかける。

 

「良い奴だね、クライン。アイツとなら友達になれそうだよ」

 

「まぁ……そうだな。俺達はどうする?そろそろ訛ってた腕も戻ってきたし、次の村を探すか?」

 

「こっちでも、僕とコンビを組むってことでいいのかなキリト?」

 

「当たり前だろ、相棒。よろしく頼むぜ」

 

「ああ、よろしく」

 

拳を合わせた時、クラインのなんとも言えない声が聞こえた。

 

「おいどうした、攻撃……はされてないな」

 

「………な、無い……無いぞ、二人とも……」

 

その言葉に僕とキリトも顔を顰める。

 

「無いって、何がだよ?」

 

「ろ、ログ………ログアウトボタンだよ!何処にもねぇぞ!!」

 

「「…………は?」」

 

「二人とも試してみろって!本当にねぇぞ!」

 

ラグから回復した回線のように流暢な話し言葉に戻ったクラインの剣幕に思わずメニューウインドウを開いて確認する。

 

「「無い………」」

 

「な?無いだろ?無いよな?」

 

「クライン、少しウザイ………キリト、変じゃないか?」

 

「ああ、確かに変だ。こんな状況、普通ならありえない」

 

「キリト、それはどういうことだ?ログアウトできないくらいで──」

 

「ナーヴギアは完全フルダイブだから、脳からの司令は全てカットされてここ(VR世界)にある俺たちのアバターを動かすのに使われる。つまり俺達はどう頑張っても自分でナーヴギアを外すのは不可能だ。

 

その上で、こんなに根本的なミスを運営が、茅場晶彦がやらかすなんて思えない」

 

「なる程なぁ……まあでも、起こっちまった事はゴネても仕方ねぇ!待ってるしかねぇよな」

 

「でも、そんなに待ってたらピッツァが冷めちまうけど?」

 

「ぁぁぁぁあぁぁあ!!!!俺のピッッツァがぁぁあ!!!」

 

この世の終わりのような顔をして蹲るクラインに苦笑いしてしまうが、僕は胸騒ぎを抑えられなかった。

 

「なあ、キリト…もしかしてログアウト出来ないのはこのゲーム本来の──」

 

不安を口にした瞬間、鐘の音がなりそれを打ち消すと体が転移の光に包まれる。

 

「ぬぉっ?!」

 

隣のクラインが驚いているのに反応する前に、転移は実行された。

 

「……街に戻されている?僕達だけじゃなくて他のプレイヤー達も?」

 

周りのプレイヤー達も困惑しているようだ。『これでログアウトできるのか?!』『この後約束があるのに……』などと言っているのが聞こえる。

 

「キリト、クライン………何か、嫌な予感がする」

 

「奇遇だな、リュウ……俺もだよ」

 

冷や汗が背中を伝う──事は無いが、そのような錯覚に囚われながら全体にぼんやり目を向けていると、上から何かが降ってくるのが目に入った。

 

 

 

それは、一枚の大きなローブだ。本来人が羽織るそれは、中身が空で、誰も入っていない。ただ深淵が広がっていた。

 

『プレイヤーの諸君…私の世界へようこそ』

 

『私は──茅場晶彦。今や唯一、この世界を操れる人間だ』

 

「………何を言っている…」

 

こちらの思惑を全て裏切ったローブ──自称茅場晶彦はこちらを無視して続ける。

 

『諸君らは今後、この鉄の城の頂きを極めるまでこの世界から自発的ログアウトをすることは出来ない。

 

また、今後あらゆる蘇生手段は機能せず、諸君のHPが0になると同時に諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される』

 

その言葉にあちらこちらで悲鳴が上がる。

 

「う、嘘だ……そんなの出来るわけねぇ…な、キリト?!不可能だろ?!」

 

クラインが縋り付くように言うが、キリトは顔を青ざめさせたまま答える。

 

「いや、可能だ……ナーヴギアは恐らく高出力のマイクロ波を出すことが出来る。わかりやすく言えば俺達の脳みそは今、いつ焼き切られてもおかしくない状況にいる」

 

「で、でも電源を引っこ抜けば──」

 

「ナーヴギアの重さの三割は予備バッテリー、だから多分電源を抜いても焼き切られるんじゃないか?」

 

『君達の身体は今後、全国にある病院に回線切断の猶予の間に運び込まれ、点滴などで生かされるだろう。だから諸君は安心してゲームに望んでくれたまえ』

 

「そ、んな………んなの…ゲームじゃねえよ!ふざけんなぁぁあ!!」

 

「……あぁ、クラインの言った通りだよ…巫山戯るな」

 

殺気と共に僕は全力で跳び、ローブに切かかるが圏内の為壁に阻まれる。

 

そんな僕には目もくれず(目はないのだが)世間話でもするかのように続けた。

 

『最後に二つ、私からの忠告だ。この世界はもはや、ゲームではあっても遊びではない……それを十分に留意した上で攻略に望んで欲しい。

 

そしてほんの僅かだが、私から君達に贈り物がある。メニューに送信しておいたので、確認して欲しい』

 

以上をもって、ソードアート・オンラインの正式なチュートリアルを終わりにする。

 

その言葉を最後に、ローブは消えた。

 

一泊遅れて、強烈なまでの負の感情がプレイヤー間で爆発した。

 

「……クライン、キリト、一旦ここを離れよう」

 

キリトも同じ判断をしたのか、既にクラインの腕を掴んでこちらに歩いてきていた。

 

裏路地まで入り、三人で顔を突き合わせる。

 

「そうだ……贈り物ってのを先に確認しよう」

 

二人も頷き、メニューを操作する。

 

「手鏡、か……?」

 

表示した瞬間に、体が再び光に包まれた。

 

「っ……何が…?!」

 

光が戻った時、鏡に映ったのは──。

 

「ぇ………どうして…僕……?」

 

くせっ毛気味の白髪、長いまつ毛に縁どられた瞳。紛れもないリアルの僕──雛上 達弥の顔だった。

 

「「…………え?」」

 

目の前の二人も、随分と変わっていた。

 

「え………っと、キリト……女の子?」

 

「違うわ!そういうお前は……リュウ?」

 

「ふったりとも可愛い顔してんなぁ!」

 

「うるさい!!」

 

「ぶべだ!!」

 

僕の拳がクラインの顔に命中、ダメージは無いが少しクラインがのけ反った。

 

「冗談は程々にしておいて、これからの話だ。ここからこのゲームはリソースの奪い合いになるからな。俺とリュウの知識があればある程度は安全に進めるはずだ。だが、これ以上誰かを連れていくのは……諦めてくれ」

 

途中から、キリトの声には苦痛が混ざっていた。冷たいようだが、僕もクライン以外に人が増えた時、守りきれる自信はあまりない。一度の死がリアルでの死に繋がる以上、あまり軽率な行動はできない。

 

「………いや、悪ぃなキリト、リュウ。俺はやっぱりダチと一緒に上を目指すよ」

 

少し迷った後、僕とキリトをしっかり見据えてクラインはそう言った。

 

「二人の気持ちはすげぇ嬉しい。ありがとな」

 

「………ああ」

 

「代わりと言ってはあれだけど、フレンド申請しておくからさ。困った時にはいつでも言ってよ」

 

「ありがとな、リュウ、キリト」

 

「行くぞ、キリト……前に、進もう」

 

「ああ」

 

路地から外へ繋がる経路を真っ直ぐに進んでしばし、曲がり角に差し掛かるあたりで、クラインの大声が聞こえてくる。

 

「リュウ!キリト!お前達、結構可愛い顔してんだな!好みだぜ!!」

 

「……お前も!その野武士面の方が十倍似合ってるよ!」

 

「今度、一緒にお酒飲もう!!奢ってね!」

 

精一杯手を振りながら応えて、今度こそ僕とキリトは曲がり角を曲がった。

 

 

 

 

「……後悔してる?キリト」

 

「俺は……別に…」

 

「その割には泣いてるよ?」

 

「うっせ……」

 

「今はさ、ああやって離れるしかなくてもさ、この世界では交わる道は一つだろ?」

 

迷宮区、そしてフロアボスの討伐。それがこの世界のグランドクエストであり、一度死ねば終わりのデスゲームと化した今でも変わらない。

 

「僕達が闘い続ければ、きっとクラインも追いついてくる。今はそれを信じて、僕達も前に進もう」

 

「………わかってるよ……リュウ」

 

キリトの声はまだ震えていたけど、涙を袖で振り落としたようだった。その横顔に、先程のような苦痛はもう無かった。

 

「元気になったところで、出発と行こう、相棒」

 

「おう!」

 

どちらともなく走り出し、街を抜ける。その外からは、もうHPの保護はされない。この数字が0になればしんでしまう、デスゲームの始まりだ。

 

(それでも、僕は負けない……負けられない。僕が僕でいるために)




続く………といいなぁ

あと「コイツの書き方どっかで見たな」とか思っても感想欄や、他の作家さんに凸するなどの、非マナー行為はしないで下さい

私は「聖天使灰猫」以外の何者でもありません

それでは、次回更新……で、お会いしましょう!


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攻略会議

まさかの2話目までに9ヶ月……終わるのかなこれ?

まぁはい、ともあれ第2話、よろしくお願いします


「はぁ………」

 

「ん?どうかしたのか、リュウ?」

 

アインクラッド第一層の迷宮区。その最奥の安全地帯で盛大にため息をつくと、すかさず相棒の気遣いが入ってきた。

 

何故迷宮区にいるのか。別段それは攻略の為ではなく、ただの利己的なレベリングの為だ。キリトはちょこちょこマッピングをしているし、そのデータを無料で情報屋に横流ししているところをみかけるが僕はそれを手伝いはしない。

 

そんなのは自分が強くなる為なら不要だから。

 

「いや、憂鬱だなって思っただけ。まさか一ヶ月かけて一層も攻略が進まないなんて思ってなかったからさ」

 

この調子では、この城の最終層まで攻略するのに百ヶ月以上もかかってしまう。冗談にしては笑えない期間だ。九年もすれば向こうの世界で僕達の命を繋いでいる機械に限界が来る。

 

「まあまあ。明日はそのための集まりだろ?なんだかんだ言ってもベータの時よりはレベルも技術も士気も高いだろうし、一気に二層三層と攻略される可能性もあると思うぜ?」

 

キリトは根が楽観的なのもあり、寧ろ楽しそうに笑っている。本当にゲームを楽しんでいるようだ。初日やその直後こそ色々あったものの今となってはキリトは明るさを取り戻している。

 

「それはそうなんだけどね………嫌な予感がするよ」

 

天気などが見えない洞窟の天井を仰ぎみて再びため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい、それじゃあ五分遅れたけど始めさせてもらいます!!そっちの人はあと三歩こっちに来ようか!」

 

そして翌日。第一層の迷宮区に最も近い都市『トールバーナ』で第一回の攻略会議が行われようとしていた。半円形の広場には40人前後の人が集まっていた。

 

(少ないな………)

 

広場の中心で仕切る男性の自己紹介を聞き流しながら周囲を確認する。正確な数は僕を入れて45人。フロアボスの討伐戦にしては人数が少ない。

 

セオリーとして本来なら2レイド──48人組が1レイドなので96人──で挑むべきなのだが、これでは1レイドにも満たない。

 

「壇上の青髪さんのカリスマもこの程度かな………?」

 

「おいおい、リュウの口が悪いのは知ってるけど戦う前にプレイヤーのヘイトを集めてタゲられるなよ?」

 

キリトが苦笑しながら冗談交じりに言ってくるのに肩を竦めて返す。

 

「僕は別に口は悪く無いよ?それに青髪さん、大層なことを言ってるようで実は大したこと言ってないし」

 

彼の言っていることは別段間違ってはいないが、だが別に過剰に絶賛されるようなことでは無い。人前に立ってそれを言えるのはとても評価できる点なのだけれども。

 

僕のその言葉に苦笑いを深めながらキリトは頭を掻く。

 

「まぁ、リュウの言ってることもあながち間違ってないけど……「ちょお待ってんか!!」」

 

会議に急に割り込まれた声。広場の方に目を向ければ先程まで青髪さん──ディアベルと言ったか──が立っていた場所にI〇サプリで良く投げられていたモ〇ッとボールみたいな頭の小柄な男が腕を組んで立っていた。

 

もう通じないかな?あの番組随分と前に終わったからなぁ……。

 

「ワシはキバオウっちゅうもんや!攻略の話し合いをする前にワシからひとつ言わせてもらうで!このゲームの全プレイヤーを現在進行形で裏切っとる卑怯者達についてや!」

 

「キバオウさん。君が言う卑怯者とは──」

 

曖昧に笑うディアベルに、キバオウと名乗った男はハッキリと言う。

 

「元ベータテスター共に決まっとるやろ!ワシら初心者達を裏切った最悪の奴らや!!奴らはココがデスゲームに変わった瞬間に初心者を見捨てて次の街に行きよった!

 

九千人の初心者たちを捨ててや!!それもただの初心者やないぞ!他のMMORPGでトップを張ってた一線級のプレイヤー達や!

 

一ヶ月で既にその二割以上が死んどる!技術もコルも無かったからや!二千人はベータテスター共に殺されたようなもんやろ!!

 

この中にも混じっとるはずやぞ!ワシらを見捨てたクズ共が!

 

持ってるコルもアイテムもみんな吐き出させてキッチリケジメをつけさせんと、ワシはそんなヤツらの命を預かれんし預けられん!!」

 

滅茶苦茶な論法だし、言ってることは感情的だ。でも、きっと賛同者は一定数いるのだろう。

 

「気に入らないね……」

 

だからこそ、誰かがその五月蝿い口を黙らせておくべきだ。明確な対立構造が出来上がってからでは遅いのだ。

 

ここで立ち上がれば面倒な事になるのは確かだし予定も随分と狂うが、僕はこれ以上攻略を遅滞させるわけにはいかない。

 

「お、おい?!リュウ!」

 

「なんやと?!おいお前!何が気に入らんのや!こっちに来てはっきり言いや!」

 

「そう。それなら失礼して──」

 

静止するキリトを振り切って思い切り跳躍。広場の中心に着地する。まさか本当に前に出てくるなんて思わなかったのだろう。ディアベルとキバオウは毒気を抜かれたような顔をしている。

 

「──ここではっきり言えばいいのかな?」

 

「お、おう!せや!何が気に入らんのかはっきり言えや!」

 

そう聞くとキバオウは頷く。それに殺気を向けてから全体に向けて口を開く。心臓音は先程から鳴り止まないし耳鳴りもする。元々人前に立つのは苦手なのだ。喉がカサカサに乾いたような錯覚すら覚えながら言葉を捻り出す。

 

「──気に入らないのは貴方の主張だ、キバオウ。ベータテスターのせいで多くのプレイヤーが死んだ?馬鹿馬鹿しい推論をさも正論であるかのように言うのはやめなよ」

 

「事実として一ヶ月で二千人も死によった!それが何よりの──「なら証拠は?」──なんのや!」

 

「決まっている。その死んでいった二千人が全て新規プレイヤーであるという事の証拠だよ。

 

もっと言えば、元テスターの死亡率より新規プレイヤー達の死亡率が高いという事の証拠だ。それを貴方はここにいる全員が納得できるように提示できるのか?」

 

ここで大切なのは本当にそうなのか、という前提をこの場にいるプレイヤーに疑わせること。別に亡くなった二千人が本当に新規プレイヤー達のみではないという証明は必要ない。理論は、それが真実ではない可能性を孕んだ時点で破綻する。

 

「そ、それは──」

 

「もし何も証拠がないなら、あなたが言っているそれは正論でもなんでもない。ただの憶測だ。貴方は憶測でここにいるトッププレイヤー達を混乱させようとしている。それもボス戦の前にだ。

 

そもそも、元ベータテスターに謝罪させアイテムもコルも全て吐き出させて、それで許すのか?貴方の言う通り元ベータテスターが新規プレイヤーを見捨てた。そして新規プレイヤー達がその結果死んだと仮定して、貴方に人殺しの元ベータテスター達を許す権利はあるのか?」

 

「…………」

 

「死んだ人間のことを引き合いに出して自分が優位に立とうとするんじゃねえよ、ふざけるな」

 

おっと、危ない。素が出てしまうところだった。自己反省会を開いていると遠慮がちな声が後ろからかかった。

 

「リ、リュウ君。君の主張はわかった。僕も君の意見には賛同出来る所は確かにある。だからその辺にしてあげてくれないか?その………」

 

この攻略会議の主催者のディアベルだった。その視線の先に僕も目を向けると膝をつき項垂れるキバオウの姿。

 

「完全論破されて、キバオウさんの心が折れそうになっている」

 

「そんなのは知ったことじゃあないよ()()()()()さん?」

 

「!!!」

 

耳打ちをするように放った単語だったがちゃんと聞こえたらしい。そしてその反応を見る限り図星のようだ。

 

「今夜22:30にこの広場だ。来なければ──わかるよね?」

 

「ああ………わかった」

 

だがそこは人をまとめる立場に自ら立候補するだけはある。即座にこちらを殺しにくるのではなく話には応じるか。

 

「──邪魔したねディアベルさん。別に僕はあんたの攻略会議を邪魔したかったわけじゃない。キバオウの言い分が気に入らなかっただけだ。用は済んだし元のように輪に戻る」

 

そう言い残して再び跳躍し元いた場所に座り直すと、相棒が少し焦った様子で話しかけてくる。

 

「ったく……肝を冷やしたぞ、リュウ!何やってんだよ!」

 

「……悪い、キリト。さすがに我慢できなくてさ。キリトはもう何人も他のプレイヤーを助けているのに侮辱されるのはおかしいだろ?」

 

「それを言ったら、リュウは何十人も助けてるじゃないか。お前が嫌われる必要なんて──」

 

「──僕は仕事以外で彼らを助けたことは無い」

 

「それってどういう──」

 

「お喋りはここまでだ、キリト。僕はこの場を離れる。ボス戦には他の人とパーティーを組んでくれ」

 

無理矢理キリトとのパーティーを解散すると彼は驚いた顔でこちらを見ている。恐らく、まだ理由がわかっていないのだろう。

 

「な、なんでだよリュウ……!」

 

だが、これ以上彼の評判まで貶めるわけにはいかない。

 

俊敏(AGI)をフルに活用して広場を離脱し、そのまま安全地帯の外に駆け出す。とりあえず夜までは時間を潰す必要があるから適当に狩りをするつもりだ。

 

「っとと、その前に──」

 

僕はメニューのフレンド画面からキリトとクラインを削除した──きっとここからは、僕一人でやらないといけないことだから。

 

「……邪魔をされたらたまらない」

 

首を大きく振って躊躇いと脳裏に浮かんだ二人の笑顔を振り払い思考を取り戻す。

 

現状のプレイヤーは大きく分けて三種類いる。元テスター、そして彼らをそれぞれ否定する人、肯定する人だ。

 

肯定組、元テスターは今回どうでもいい。厄介なのは元テスターを忌避するキバオウのような人間だ。彼らは恐らく今後も『初心者を見捨てた』ということを公然と掲げて元テスターへの補償を要求するだろう。そんな事態は起こらないに越したことはないが、万が一の場合がある。

 

「そうなったらキリトが困る」

 

ベータの時から三ヶ月、共にこの場所を駆けた相棒に思いを馳せる。ゲームの中で関わっただけでも、キリトの優しさは伝わってきた。

 

きっと優しい彼は、自分の事を投げ打ってでもその衝突を回避しようとするだろう。

 

「違うよ、キリト。それは君の役回りじゃない──」

 

向こうで薄汚れていた僕にこそそれは相応しい。今は触れられない、リンクする前首に掛けたロケットがある位置で拳を握る。

 

「嫌われるのは、僕だけの仕事でいいんだよね──しーちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回「第一層、攻略」




なるたけ早めに次をお届けできるように頑張ります……


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第三話〜第一層、攻略

あれ?おかしいな。別の作品を更新するつもりだったのに。まあいっか。

というわけで三話です。やっと第一層が終わって話が進展しますので乞うご期待です!!


この世界は便利なもので、アラームを掛けさえすれば強制的に目を覚ましてくれる。微睡みも二度寝もできるが、ちゃんと目が覚めるので僕は二度寝に成功したことが無い。

 

「……」

 

とはいえ今日はそんな悠長な事も言ってられないのだが。軽く伸びをしてから装備の確認を行っていく。腰に巻いてあるポーチの中には十分な回復用ポーションが入っていることを確認して仮面をつける。視界が著しく制限されはするものの、こうしてしまえばもう僕が誰なのかわかる人間はいないだろう。それに戦闘時にはそんなもの関係なくなる。

 

この仮面は、そういうものなのだから。

 

剣も一新しているのでキリトに気づかれる気遣いもない。プレイスタイルを見られてしまえばバレる可能性もあるだろうが、それはそれ。

 

「よし。行こう」

 

 

そう呟いた僕は、迷宮区へと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特に交戦することも無く、僕は最上階まで入り込んだ。攻略組が粗方討伐しながら進んでくれたお陰だろう。時間的にはもう既にボスの攻略戦が始まっている筈だ。渡された地図の通りにボス部屋まで近づいていくと、微かに金属同士がぶつかり合う音が聞こえてきた。段々とそれは大きくなっていき、ついにハッキリと聞き取れるようになった時に、目の前に大きな開かれた扉が現れた。中では多くの人間が駆け回り、剣を振るっている。

 

その中の一人、黒が印象的な少年の姿を認めて少し安心する。僕と行動を共にしなかったからか、パーティーをちゃんと組めているようだ。

 

「よかった……キリト」

 

そのパーティーが2人だけなのはとりあえず置いといて、僕は改めて入口から戦況全体を見渡す。ディアベルはやはり陣の中央付近で指揮を執り、その近くにはキバオウがいる。接近するのは容易では無さそうだ。

 

「どうにか隙を作ってくれよ、ディアベル」

 

と、ボスのHPゲージが最後の1本に突入する。ここまで被害者を誰一人として出ていない辺り、元テスターらしく彼の技能は抜きん出ている。

 

 

 

 

 

その様子を見ながら、もう一度ここからの手順を反芻していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一回攻略会議が行われた日の22:30にそいつは現れた。

 

「やあ、デイアベル。時間丁度だ。随分と几帳面と見た」

 

こちらの言葉に彼は顔を引き攣らせる。どうやらお気に召さなかったらしい。そんな彼が口にしたのは疑問だった。

 

「……君は、一体俺のどこまで知ってるんだ?」

 

「ん?ああ、その事か。確かに気になるよね──何も知らないよ」

 

「は?」

 

「僕の目的は貴方に話を聞いてもらうことだ。ここに貴方が来た時点で僕の目的は達成出来ているのさ。別に僕にとっては貴方がベータテスト時代に複数人を率いていた『先導者』だろうがなんだろうがどうだっていいし、別にそうだからといってビギナー達にわざわざ話すメリットもない」

 

「……成程、君は『情報屋』なのかな?」

 

「いいや、情報屋に雇われていた元『傭兵』だよ」

 

同じ世界を経験した者(元ベータテスター)同士にしか分からない会話をして互いに苦笑いする。どうやら緊張を解くことには成功したらしい。

 

「早速で悪いけど本題に入らせてもらうよディアベル。貴方も気がついてる事だとは思うがキバオウを筆頭にして反ベータテスターの動きが最近益々活発化している。そしてそれは、今後の攻略を行う上で一つの大きな障害になる。

 

ベータテスターは勿論知識も豊富だがそれ以上に戦闘経験に圧倒的なアドバンテージを持っている。それはベータテスト、という二ヶ月間にどのくらいこのゲームに熱中したのかにより差はあるにせよ、ビギナーとテスターの間に差異があるのは仕方がないことだ」

 

ここで一息つく。ディアベルは目を瞑り腕を組んでこちらの話を聞いているようだ。彼なりに僕の話を聞くに値すると考えてくれたらしい。

 

「そこで、だ。僕がこの世界における一つのタブーを破ってみたいと思う。そうすれば漏れなく攻略組全プレイヤーの意識は一人の敵を生み出すことができる」

 

「…………そのタブーとは?」

 

「人殺し」

 

「?!しかし!それはっ」

 

「わかっているさ、多大なリスクを背負うことになる。もちろん本当に殺すわけじゃない。ここに、とあるアイテムがある」

 

そう言って僕はポーチから無色透明なクリスタルを取り出す。それを興味深そうにディアベルは眺める。

 

「これはとあるイベントクエストの報酬で手に入るクリスタルアイテムの『記憶転移結晶』だ。多分相当なレアアイテムだろう。これは結晶の所持者が致死量のダメージを受けた時にHPを1だけ残してこの結晶に記憶させた位置に転送させる、という代物でね。これを使おうと思う」

 

その結晶を差し出しながらニヤリ、と笑う。背筋は冷たいし顔も引き攣っているのだろうが、それでも無理矢理笑う。笑わねば、正気を保っていられないほどの話だ。

 

「これを?どうやってだ?」

 

「ディアベル。プレイヤー同士(テスターVSビギナー)でのヘイトの稼ぎ合いなんて面倒な真似をさせたくないのは僕と貴方で共通している思想のはずだ。

 

だからその為に──貴方には一度死んでもらいたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よし!!!あと少しだ!全員下がれっ!!俺が前に出る!』

 

その言葉にハッと我に返る。顔を上げればいつの間にかボスのHPゲージは既に赤くなっていた。そしてディアベルが一人、ボスに突っ込んで行く。そして僕とディアベル、そしてボスは一直線上に並ぶ。

 

ここしかない。そう決意して地面を思い切り蹴る。瞬く間にディアベルと僕の距離は迫る。

 

「LUXをAGIに加算」

 

普通であれば絶対に届かない距離だ。ボス部屋の入口からディアベルが居る場所まではどう頑張っても200m以上はある。

 

だが、僕の付けているこの面──アイテム名は『狩人の面』という──には特殊な効果が付いているためこの距離も容易に完走することができる。

 

その効果、それはステータスを一時的に別ステータスに加算できる、というものだ。今の僕はLUX(幸運値)AGI(敏捷性)へと割り振っているので、通常よりもAGIが高い。更にこの面には『パーティーを組まずにフロアボスの部屋に入っている場合、全ステータスを1.3倍する』という一層目で手に入るにはあまりに破格な、かつ限定的な効果も持っている。

 

あのクエストを見つけたのはベータテストの時だったが、あの時もそこまでチートじみた装備では無かったので、何らかのバグなのかもしれないが今は使えるものはなんでも使うべきだろう。

 

そうして接近しつつ僕は片手直剣を構えスキルを発動する。キリト程では無いものの、僕自身もスキル使用時にブーストをかけることは出来るので通常より長くリーチを取りディアベルへとスキルを放つ。

 

狙うのは首、部位欠損の中でも最も致死率の高い、と言うよりほぼ間違いなく死に至る部分だ。後ろから接近する僕に気がついたディアベルが臨戦態勢をとるフリをする。

 

(行くよ)

 

口の動きだけで告げると彼は首肯した。準備はできているのだろう。

 

「はぁっ!!」

 

一息に彼の首筋へと片手剣の単発ソードスキル、『ホリゾンタル』を叩き込む。そして間もなくディアベルの身体と首は分かたれ、赤い欠片となってディアベルが消滅する直前、転送の光が彼を包み込み姿が消える。トールバーナの広場に転送されるハズなので、ここへ戻って来るまでにあと二時間はかかるだろう。

 

そして同時に、僕の心には人を本当に切ったのだという感覚が生まれ、恐怖のあまり卒倒しそうになるのを必死に堪える。

 

「さて、と。()の目的は今の男じゃあないんだったな」

 

『グギャァァアア!!!』

 

あまりに突然の出来事に誰もが動きを止める中、仮面越しにボスを睨みつけ改めて剣を構える。持っていた武器を捨てここでボスは武器を変更する。ベータテスト時代なら確かタルワールだったはずだが、どうやらそこは変更点だったらしい。

 

「ハッ、野太刀とは随分と文明的になったじゃねぇの?いいぜ、殺してやるよコボルドロード!!」

 

野太刀が光を帯びるのを見てポーチから三本の短剣を取出し指の間に構える。投剣スキルの中級ソードスキル、ランダムシュート。任意の本数の短剣を投げ当てる技だ。

 

この世界のソードスキルには、発動前に一定数の攻撃を受けるとその技の発動がキャンセルされるという仕様がある。その場合、技後の硬直は律儀に発動するので暫くの間ボスは動けない。

 

それに引き替えて投剣スキルには技後硬直が殆どない、というメリットがある。従って、先手を取れるのはボスではなく僕だ。

 

「ラァっ!!!」

 

アキレス腱に一撃、その後素早く離脱。ほんの僅かだがボスのHPが減少をするのを確認する。これを繰り返しさえすれば僕一人であってもボスに勝てる。

 

チラリとプレイヤーたちの方を見やれば、大半のものが目の前の光景を処理しきれていないのか呆然としている。その中にキリトや彼の隣でフードを被るキリトとパーティーを組んでいた人も居る。

 

まあ無理もないだろう。いきなりレイドリーダーが切り捨てられたかと思えばその犯人の仮面をつけた男がボスと単騎で戦闘を始めたのだから。

 

(今は余計な事を考えるな。早くボスを倒すことだけを考えろ)

 

頭の端から彼らを締め出し、僕はもう一度ボスへと攻撃を仕掛けるべく突撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらい時間が経ったのか体感では全く感じられなかった。一時間か、それとも二時間か、下手をすれば一日経っていたのではないか、と思われるかのように感じられたのだが、実際に時間を確かめてみれぞ三十分程の戦闘だった。

 

肩で息をしながら目の前で消えていくボスを眺めていた。と、悲鳴のような声と殺意が僕に向けられた。

 

「あぁぁぁああ!!!」

 

振り向きざまに麻痺の効能がある毒ナイフでその男の腕にかすり傷をつける。どうやらソードスキルは使わなかったらしいその男の剣筋を躱すと間もなくそいつは地に伏せた。

 

そいつの頭を踏み嘲るように呟く。

 

「フン、雑魚が……そんな程度で俺と戦うつもりだったのか?」

 

「人殺しやろうが……なんでディアベルさんを!」

 

「あ?うるせぇなあピーチクパーチクよォ!」

 

踏まれた男が悲鳴のように声を上げる。それを遮るかのように腹に一度剣を突き立てる。今度は本当に悲鳴をあげ始めるのですぐさま引き抜く。どうやら相当HPゲージが減っていたようだ。

 

「クハハっ、死にかけたカエルみたいな声出してら。殺さねぇよ安心しなよ。お前達なんて誰一人殺す価値もない。さっきのディアベルだって大したもん持ってなかったからなぁ」

 

そう呟いてディアベルの手持ちだった盾、にそっくりだったものを適当に投げ捨てれば彼のパーティーに所属している人間達は殺気立つ。

 

あの結晶は一度HPが0になった瞬間に転移を行う仕様のため、パーティーの所属も一度切れる。これがギルドだとそうもいかなかったが幸いにもギルドはまだ結成できない。

 

「お?なんだやるか?せいぜい五分は持って欲しいけどなぁ……お前ら、そもそも人を殺す覚悟があるのか?」

 

「上等だ!!ぶっ殺してや──」「ジョー、落ち着けや」

 

抜刀して叫んだ男の後ろからそれを止める手が伸びた。驚くべき事にそれは他の誰でもないキバオウだった。

 

「ほう……止めるのか?」

 

「当たり前や。アンタは強い。ここの全員で戦っても勝てる可能性は薄いやろうなぁ。だからここであんた相手に喧嘩売ってもしゃーない。だからや。デュエルで決着をつけようやないか」

 

「言っただろう、キバオウ?変に俺を苛立たせるなよ。俺はお前達とは戦わないと言ったはずだ。お前達は戦うに値しないと」

 

「怖いんか、おどれは?ワシに負けるのが怖いんか?」

 

蔑むように、嘲るようにキバオウは笑った。大胆不敵に、まるで秘策があるかのように。

 

「ワシもなぁ……怒ってるんやで。はじまりの街でディアベルはんにひろてもろたんや。でも、ここで憎んでも、怒っても勝てへん。だからなぁ……搦手、使わせてもろたわ」

 

気がつけば囲まれている。なるほど、最初の一人に突っ込ませて陽動、僕の視界の外でジリジリと動き囲むと。

 

「安心せい、殺したりはせえへんから。黒鉄宮で洗いざらい吐いてもらうけどな!!行くで!」

 

四人が一斉に掛かってくる。だが誰一人としてソードスキルを発動させる音は聞こえない。どうやらまだ僕を生け捕りにするつもりのようだ。

 

「AGIをSTRに」

 

呟いて再びステータス移動を行い今度は素早さを筋力に全振り、そして片腕で麻痺状態の男を引き上げ前の二人にぶつける。

 

「リセット」

 

その瞬間にはステータスを元に振り直し後ろの突きを回避する。それに虚をつかれた二人の足に毒ナイフを掠らせればこれで半分は無力化できたことになる。

 

体勢を立て直したキバオウとジョーと呼ばれた男が立ち上がる時にはもう倒れた二人とその中心に既に僕は立っている。

 

顔を引き攣らせたキバオウに剣を向ける。そして宣言する。

 

「なんで見破られたのか、って顔をしてるなキバオウ。アンタ後ろを見すぎだよ。何を狙っているのかは大体目線でわかる。俺とアンタじゃこの世界でのキャリアが違う」

 

「お前はまさか──」

 

「あぁ、元ベータテスターだよ。でもただのテスターとは混ぜんじゃねえぞ?俺ァ他のゴミ野郎共……そうだな、例えば情報屋なんかとは違うンだわ。俺は自分の為に、その為だけに上まで昇った。ベータの時に殺した人数だけなら10や20じゃ下らねぇぜ?なんて言っても殺しても殺しても向こうじゃリスポンし放題だからな?

 

だからよォ、俺は人を殺す事になんの躊躇いも罪悪感も感じない。ディアべルを殺したのだって同じさ。殺した中の一人でしかない。だからま、せいぜい俺の不況を買わねぇように気をつけるこったな」

 

「そんなの滅茶苦茶だ……元テスターって問題じゃないだろ……!」

 

投げられた方の男がヒステリックに叫ぶ。

 

「バケモノだ!!人間の皮を被った悪魔め!!!!!」

 

悪魔、その言葉がフロア中に響き渡る。その言葉に、大なり小なりそこにいる全ての人間達の視線が恐怖の対象を見るものへと変わった。これで当初の目標は達成された。ならば僕はもうお役御免だ。後は最後に一仕事してから消えるだけ。

 

「悪魔、悪魔ね……いいじゃないかその響き。これはからはテスター如きと混ぜるんじゃねえぞ、ビギナー共?

 

あぁそうだ。それと、さっき俺はここに居るお前らを誰一人として殺さねぇって言ったよな?でも気が変わった。だからよ──」

 

キバオウの首筋目掛けてソードスキルを展開する。キバオウは我に返ったのか剣を構えようとするがもう遅い。

 

「お前は死ね」

 

僕がそう言って剣を振り切ろうとした刹那、黒い一陣の風が僕とキバオウの間に割って入り僕のソードスキルを真正面から受け止めた。




主語をもう少し控えめにしようと思うのですがどうですかね?今のままの方が読みやすいですか?

自分だと書いて読み直しを繰り返すので段々麻痺してくるのですよ……というわけで、出来ればご意見くださると助かります。

ちなみにチート過ぎるオリジナル装備ですが、近々出番終了しますのでご安心?下さい。一応この世界で主人公に無双はさせない予定です


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第四話〜決別〜

「はぁっ!!!」

 

裂帛の気合いと共に僕の剣が弾かれその反動を利用しキバオウから、そして僕の剣を弾いた男から距離をとる。

 

肩で息をするこちらを睨みつけて剣を向けてくるソイツは怒りの表情を露わにしていた。

 

「フフフッ……クハハハハ!!面白い、面白いじゃないかキリトォ!!」

 

自分の名を知られていた事にか、ピクリと頬を震わせた彼が口を開く前に僕の硬直が切れた。それと同時に彼へ向けて再び上から剣を振るう。最も力の入りやすい振り下ろしに対してキリトは剣を横向きに構えることでどうにか粘ろうとする。

 

「……このっ!」

 

「ハハハハッ!!もっとだ!もっと見せてくれよお前の力をよォ!!」

 

筋力値的にはこちらの方が高い、少しづつではあるがコチラがキリトを圧倒していく。

 

「ハァァァアッ!!!」

 

あと少しでキリトに傷が付くという寸前、真横から流星の様な何かが飛来する。突然のことに対応が遅れ、右肩にそれを食らってしまい僕は壁際まで吹き飛ぶ。

 

「!!!チィっ!」

 

背を丸め衝撃ダメージを極限まで小さくする。それでも凄まじい揺れに平衡感覚を狂わせられ、フラフラとした体を剣を使いながら半ば持上げるような形で起き上がると、向こうではフードを被った剣士がレイピアをこちらに向けた状態で息を荒らげていた。

 

ポーチから取り出したポーションを呷るが回復には時間がかかる。これ以上の被弾は避けねば今度は僕が死ぬことになる。

 

「何のつもりなのよ!!いきなり人を殺して──この世界で殺したら本当に死んでしまうのよ!?」

 

感情の昂りが抑えきれなくなったのか、フードを被った剣士が叫ぶ。その声に驚いたがどうやら彼は──いや、彼女は女性プレイヤーらしい。

 

フードを邪魔だからか、毟り取った彼女はカツカツとこちらに詰め寄ろうとする。垂れ目なのに勝気な光の宿ったその瞳に流されぬようしっかりと剣を構え彼女に向ける。

 

「黙れよ……偉そうに説教かませる立場なのか?お前は。どうせ徹夜で店に並ぶとかモラルもへったくれも全無視した行動してお前はこのゲームを手に入れたんじゃねえのか?」

 

論理なんて無い、僕の言ったことが事実だからといって、別に殺人が容認されることは決してない。それでも、少なくとも今は全員を敵に回さねばならない。

 

例え、どれだけ破綻した言葉を並べることになろうとも。

 

「ベータテスター以外には優先購入権なんか与えられなかったからなぁ。ここにいるヤツらの大半はそうやって、迷惑を周りにかけることもおかまないなしでこのゲームを手に入れたヤツらだ!!そんなクズを殺して何が悪い!!」

 

「なんですって……?この人は…………少なくともこの人はそんな人じゃない!アナタがどうかなんて知らないけどこの人は絶対、自分の為に誰かを殺してまでアイテム一つに拘るような人じゃない!!」

 

「いいや、ソイツはゲームが始まったその日に一緒にパーティーを組んでいた男を見捨てた人間だ。それをクズと呼ばずなんと呼ぶ!!!」

 

その言葉と共に思い切り彼女に水平切りを叩き込む。咄嗟に剣で受け止められる剣速にしていても彼女は後ろに吹き飛び、他のレイドメンバーを巻き込み倒れ込んだ。

 

「それになぁ……もっと面白いことを教えてやろう。コイツは俺と同じ元ベータテスターだよ」

 

『っ!!!』

 

プレイヤー全員の目が、キリトに向く。その視線の八割は僕に向けるものと同じ視線だ。だがキバオウ、黒人のスキンヘッドの男性、女性プレイヤーなどの一部の人物だけは違う目を向けている。というか、女性プレイヤーはコチラから目を逸らさない。

 

「なんで……なんでアナタはそんな!見てきたような事言えるのよ!?」

 

「フフっ、知ってるよ、そいつの事はよーーく知ってるさ。向こうで二ヶ月間、こっちでも一ヶ月間は一緒にいたからな……なぁ、キリト?」

 

「!!」

 

「まさか……お前…………っ!!」

 

女性プレイヤーが驚き、キリトが何かに思い至ったかのようにこちらを見る。その様を眺めながら仮面に手をかけその装備を物理的に解除する。浮かべる表情は笑みだ。自己に陶酔するような微笑み。

 

そんな僕を見てキリトの表情が、そしてその場にいる全員の表情が驚きのそれへと変わるのに内心苦笑しながらもふてぶてしい顔を作る。

 

「そんな……どうしてだ……?リュウ……!!」

 

絞り出すかのようにそうか細い声で呟く戦友の問いに心底愉快そうに高らかに返答する。

 

「どうして?決まってるだろそんなの!自分が生き残るためさ!!ボスってのは倒せばいいアイテムを落とす。特にラストアタックボーナスなんてのは自分には不要なものでも売れば結構な値がつく。プレイヤーに売れなくったってNPC相手に売っても大儲けできんだよ!

 

──ベータの時俺やお前がやってたじゃねえか。ギリギリまで攻略組に削らせて最後に美味しい所を俺達が掻っ攫うってよ。それと同じだよ」

 

「今は──デスゲームなんだぞ?!殺していいわけがあるか!!」

 

「さっきも言っただろ?ここに居るのは多かれ少なかれ自分本位のクズの集団だ。それがたかだか数人死んだところで社会の損失になりうるか?」

 

その言葉を聞いた瞬間、彼の顔から表情が消えた。だがその眼は感情を顕にしており、僕を殺さんとばかりに見開かれている。

 

「どうせ大した社会貢献も出来ねぇ奴らの集まりだろ、ここに居るのなんて」

 

「────黙れ」

 

「社会不適合者なんざ殺したって褒められこそすれ、何を悲しむことがある?」

 

「──黙れよ」

 

「そうだキリト、一緒に来ねえか?そんなお前を敵視する集団に奉仕したって何回だってソイツらはお前を裏切るぞ?」

 

「黙れって──言ってるだろ!!!」

 

最後の一言が引き金になったのか、キリトが物凄い勢いでこちらへ突っ込んできた。仮面をつけ直し剣を構える。

 

キリトの剣をコチラも受けるが──重い!!何処にこんな力があったのかと思う程強く重い剣戟だ。

 

「何があっても──人が人を殺していい理由なんかない!!」

 

「(そうだ──それでいいんだよ、お前は)」

 

仮面の裏で薄く笑う。僕が背負うのは悪でいいんだ。だからお前には正義を背負って欲しいんだよ、キリト。

 

剣の角度をずらしわざと仮面を掠るように剣の軌道を修正する。チート過ぎるこの仮面にはたった一つ致命的な弱点がある。ピシリ、とヒビが仮面に走るのを耳で聞いてどうやらこの仕様は変わらないらしいと確信を持つ。

 

たった一度、仮面に攻撃が当たった時、この仮面は即座に碎ける。

 

「クソがっ!!!」

 

呟きながら再びキリトと距離を取ると同時に面が砕け落ちる。そしてそれはポリゴンの欠片となって消え失せていく。

 

「やってくれやがったな……キリトッ!!」

 

ギロ、と彼を睨むが彼も同時に此方を睨む。双方が剣を構える一触即発の雰囲気がボス部屋を包んだ。

 

互いに動かぬまま十秒、二十秒と時が進む。最初に動いたのは僕だった。片手直剣派生modの『クイックチェンジ』を用いて武装を片手剣からエストックへと持ち替え、すぐさまソードスキルを発動させる。

 

発動するのは『細剣』スキルの四連撃、技名は『クウォータニオン』だ。

 

「ハァァァアッ!!!」

 

僕がこのスキルを使うとはまさか思わなかったのか、キリトの反応が遅れる。だが一瞬さえあれば十分だ。ある程度は自由の効くこの技の刺突箇所をキリトの剣、それを持つ腕、両太腿に定め穿つ。

 

「グッ──!!!」

 

剣は吹き飛び、それを持つ利き手の手首から先を吹き飛ばす。そして両太腿に損傷を与えればもうキリトは動くこともできないだろう。

 

少し長い硬直時間をとっても周りの誰かが動く雰囲気はない。そいつらに向けて侮蔑の笑みを寄越してからキリトを蹴りあげる。

 

「ガハッ……!」

 

「弱いな、キリト。弱くなった──期待ハズレだ」

 

地に伏せたキリトから感情は読み取れない。だが弱々しく握られる彼の左拳からは悔しさが滲み出ている。

 

ここで彼の名誉の為に話をすると、キリトは決して弱くない。ただ優しすぎただけだ。キリトにとっての僕は幾つもの戦いを共に潜り抜けた戦友で親友だ。交流があったのはたった三ヶ月でも僕と彼の間には確かに信頼関係があった。

 

だから彼は苦悩していた。本当に本気で僕に剣を向けていいのか、と。その躊躇が僕の唐突な主武器(メインアーム)の変更により如実に現れたという、ただそれだけの話なのだ。

 

「俺ァこんなヤツ(雑魚)を仲間に引き入れようとしてたのか?全くヤキが回ったもんだな」

 

これじゃあまだお前らを勧誘した方がマシだったかもな?なんて三度其方に目を向ければ怯えきった彼らの顔が目に入る。

 

「クハハハハッ!!良い顔だ、悪魔を見るに相応しいな!いいだろう、お前達のその顔(恐怖)に免じてこの辺で俺は満足するとしよう。

 

だが忘れんじゃねえぜ?お前達の背後には常に《悪魔》が立ってる──俺は何時だってお前達を殺せるんだってことをな!」

 

ポーチから煙玉を取りだし地面に叩き付ける。今更憤怒の声が上がるがもう遅い。既に僕の姿は煙に紛れている。

 

「感謝しろよテメェら!!どんなにお前らが蔑んでもお前達のために立ち上がったそいつ(キリト)に!!」

 

追加で煙玉を幾つも幾つもそこら中に投げ捨てて周りを牽制しながら捨て台詞を叫ぶ。煙の中でも噎せるとかしないのはゲーム特有のものだ。

 

 

そのまま階段を駆け昇って体当たりするかのように扉を開き、一気に僕は誰もまだ踏み出したことの無い第二層へと足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二層に登るとすぐに前もって作戦を打ち明けておいたとあるプレイヤーにメッセージを飛ばして終了した旨、ディアベルにレイドへと戻るよう指示を出すようにと伝える。

 

「後ろからは──誰も着いてきていないかな?」

 

索敵スキルを用いるが人っ子一人、それどころがモンスターすらも湧いていない事を確認して僕は思い切り寝転んだ。

 

「はーーーーっ……やっっと終わった……」

 

一先ず終わった事への脱力感が促すままに呟き空を眺める。

 

浮かんでくるのは先ずキリトへの申し訳なさだ。今更彼との関係が修復できるとは思っていない。だが、キリトが表に出したいと思っていなかった情報──元テスターであること──をあそこで公開したりしてしまったこと、不意を打つ形でまるで僕の圧勝であるかのように振舞ってしまったことは謝りたいとは思う。

 

僕の人殺しは、ディアベルが念の為準備しておいた超絶レアアイテムを行使することで未遂に終わった。そしてこれからは僕という驚異に備えてベータ時代にもPVPの経験のあるキリトと協力体制を敷いていく、というのがディアベルと僕の立てたシナリオだ。

 

それを差し引いても、僕の言動はキリトへの酷い誹謗中傷だし、到底許されるはずもない。

 

勿論決めたことだ。テスターと初心者、双方の溝が深まると察した日からこうすることはずっと決めていた。

 

とガサガサと森の方から何かが来るのに気がつく。

 

「いいや……反省なんてするのは後でいい──今はただ前に進むのみだ」

 

覚悟を新たに、僕はこの層において初めてとなる戦闘を始めるのだった。




今回もお読みいただきありがとうございます。次回更新までまた気長にお待ちください


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