反響ーエコーー (志摩 暁月)
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1話

普段なら暗い部屋の中のままぼんやりと過ごしているだけ。

一つの電化製品を点けるだけでこうも違う。明々と光るテレビを前に目が辛く感じながら膝を抱えぼんやりと眺める。

 

ああ、こんなところを母さんに見られたら怒られるな。

そんなことを思ってもやる気が出ない。照明を点ける気力もない。

 

テレビから聞こえる音声…アナウンスも耳に入らないただただ映像をぼんやりと眺めるだけ

 

 

勝者リク!

 

 

どっと湧くような歓声と共に聞こえた勝者を伝える実況。画面を見続けていた少女は顔をしかめて衝動的にリモコンを掴みテレビを荒々しく切る。

 

「……」

 

布団を頭から被り膝を抱え耳を抑え目を固く閉ざす。

 

いやだ。いやだいやだ!

私が、どれだけ頑張ったと思ってるの

認めてよ、なんでそんなにも、否定するの

お祖父ちゃんや見たこともない兄が凄いの?

 

何が七光りよ

 

何が八百長、だよ

 

ふざけるな!

私は私たちは……ただ!

 

「……ただ、見つけて欲しかっただけなのに」

 

小さく呟いた言葉は閑散とした冷たく暗い部屋によく響いた

 

 

どれだけ望んでも手紙を送ろうとも、1度も会いに来なかった最低な兄に。大嫌いな、大嫌いな兄に。

そのためだけに頑張ってきた自分が、馬鹿馬鹿しくて、惨めで、自身のバトルまで否定され心が、もうボロボロだった。

幻影だけを追い続け走り続けた心は、目標を目前に志半ばで折れてしまった。

 

「会いたいよ、お兄ちゃん」

 

なんで見つけてくれないの。

 

----------------

-----------

-------

 

暗い夜道、珍しく気分転換に星を見に公園へ一人で出向いたリクが唐突に「ねぇ、みんな」と声をかけ彼女の手持ちのボールの中で首を傾げていた。

 

「会いに、行っちゃおうか?」

 

心境の変化でもあったのかといち早く察した親友はボムッと音を立てボールを飛び出した。それに倣い他のみんなも。リクは困ったなぁ…と言いたげに頭を軽くかく。

 

「心境の変化?そうだね、一発殴りに行きたいかな。」

 

昨日までの長い長い卑屈はどこに置いてきたのだと言いたくなるほどの爽やかさに思わず親友…マイナンは苦笑いした。

 

「でもね、ホウエンからカントーは凄く遠いんだ」

 

肩をすくめ淋しそうに笑うリクに皆が首を傾げる。ああ、大きな子達まで。思わず頬が弛んでしまう。

 

「こことは違う所なんだ。」

 

「それでも、私と一緒に来てくれる?」

 

ホウエンのポケモンはカントーでは凄く珍しいだろう。何か言われるかもしれない。それでも、私がみんなを守るから。

 

マイナンは頬に擦り寄り、ウィンディはお腹に鼻を押しあて、ロゼリアは足にしがみついていて、チルタリスは柔らかい羽で頭を撫でてくれた。

 

思わず目が潤んでしまう。ありがと…小さく呟いた言葉は全員に聞こえ小さく頷かれ顔が綻んだ。ガタガタっと揺れたボールを見る。綺麗好きな彼は池のない公演の地面が泥だらけなのを見て出るのを諦めたんだろう。一生懸命アピールしてくる。

 

「あはは、もちろんラプラスもね大好きだよ!」

 

みんなで行こうか、カントー地方

 

(ポケナビ持ってるしバックの準備もOK)

(さっそく出発しようか!)



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2話

さっそく出かけようかとチルタリスで大空に羽ばたいた後直ぐに報道陣の山を見つけた。

 

「また来たのか」

 

そしてまだ私なんて追っていたのか。

私が過ごしていたあの場所は人が少ないが、いないわけじゃない。迷惑をかけるのをあまり好まない事を知っているチルタリスはちらりとリクを見たのち頷いて旋回し報道陣の前へと降り立った。

 

「リクさーん……!」

「え、!?」

 

チルタリスにお礼を言い華麗に着地を決める。

いつまでも逃げるワケにはいかないんだ。自身に喝を入れてリクは未だ集まりフラッシュや向けてくるマイクに向かい笑みを浮かべる。

 

報道陣の人達は思わず息を呑む。コレが、この人物が今まで自分たちが追い回してきた少女なのだろうか、と目を見開く。

 

「リクさん!八百長バトルについてですけど!」

 

一人、この空気を読めない誰かが少し前に話題となっていた、今回彼らの目的でもある件について口を開いた。

周りもその件で来ていたのに、なぜか口を開いた報道員に白い目を向けた。

 

リクが軽く俯くのを見てその報道員は嬉しそうに笑い更に問い詰める。周りはざわざわと声を上げて戸惑った様子だ

 

「……その件に関しては以前も言ったはずです。」

 

リクが口を開くと辺りはシン…と静まり返った。誰かはこんなにも響くよく通る声だったのか…と、誰かはこんなにも真っすぐな目をしていたのかと。

 

「私は、自分の仲間を誇りに思ってます。だからこそ、誰がなんと言おうと自らその誇りを踏み躙る真似はするはずがない。」

 

旅立つ前にそれだけ伝えに来たんだ。と付け足しチルタリスの背に乗った。

お願いね、と笑いかければ任せろと言わんばかりに羽を広げる。

 

ああもう、精神的に疲れた…道陣なんて二度とごめんだ…

「ごめんねチルタリス、疲れたよね?」

 

一度休もうか。声をかけるとチルタリスは一鳴きし休める場所へ目指し始めた。

「いいよ、チルタリス」

 

海面に近づいて?

そう首すじを撫でながら頼めばゆっくり低空飛行へと変わる

 

「お願いねラプラス!」

 

赤い光を放ち飛び出したラプラス。水が跳ねチルタリスは苦い顔をする。

 

ぴょん、と飛び移りチルタリスをボールへと戻す。優しく撫でゆっくり休んでね、と笑いかける。

 

「ラプラス、行こうか」

 

綺麗な鳴き声で返事をしたのち静かに進み始めた。

 

海での野性のポケモンはラプラスの頭に乗っているマイナンが一掃してくれる。

 

カントーまでの道のりはまだまだかかる。

 

(あ、れ?ラプラス。なんか泳ぐの早くない?)

(ゆっくりでいいのに。)

 

 



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3話

「久しぶりにこんな落ち着いた気分だ」

 

ね、とマイナンとラプラスに笑いかければ嬉しそうに頷いてくれた。

 

海の揺れはゆりかごのようで、ほっと一息吐く。

そういえば母さんの所にカイリキーを置いてきてしまった。お手伝いをよくしてくれるいい子なんだよな。

思わず頬が緩む。

 

母さんに何も言わずに出て来てしまったから、カイリキーが残ってくれるだけ安心だ。一度後で連絡しないと拗ねるだろうな。

 

苦笑いを浮かべながら想いふけているとマイナンがいつの間にか膝の上でポケナビを持ち今から連絡しろ、と言わんばかりに差し出してきた。

 

「はいはい、わかったよ。」

 

リストから母を探しだし数回のコール音が鳴り響く。何回かコールしたら母さんが出た。

 

「母さん、リクだよ」

《リク?どうしたの出掛けてるなんて珍しいわね》

「うん、ちょっとカントーまでね」

《は!?》

 

 

キーィン!母さんの間抜けな声を聞き反射的に思わずポケナビを耳から話す。

耳が痛い…

 

《カントーって…本気!?》

「本気」

《何しに行くの》

「普通ポケモントレーナーにそれを聞く?まあ理由は兄を殴りにだけど」

《はあ?》

 

今度は呆れ果てた声色を音に乗せられた。酷い。

 

「それでさ、カイリキーなんだけど」

《すっごく泣きそうな顔でこっちの様子を伺ってるわ》

「………。」

 

呼んでもらえる?と頼めばもういるわ。と返された

カイリキーにポケナビを預けた母は洗濯物を取り込むと言って席を外した

 

「カイリキー、ごめんね何も言わずに出てきちゃって」

 

でも、カイリキーは私たちの仲間だから。大事な大事な家族だから。

 

伝えるとヒックっと喉の詰まるような音が聞こえた

 

「ごめんね、ありがとう」

言いたいこと伝わってる。さすが私たちの大黒柱。涙が止まらなくて、声にならなくて、カイリキーも泣いているとわかっていても声にならなくて

 

「母さんの、そばに居てあげて」

 

涙を流しながら頷いてくれたカイリキーに最大級の謝罪と感謝と愛を伝えた。

 

「絶対、絶対迎えに行くから。」

 

待っててね、と残して通話を切った。

どうか守ってあげて。みんなみんな大切だから。

 

 

----------------

--------ーーー

--------

 

 

「ねぇ、そこの子」

 

大陸が見えとりあえず上陸したリクは町で不思議な人に話し掛けられた。

 

「キミ、旅してるの?」

「……まあ一応」

 

ふーん。と目を細め何かを見定めるような視線を送ってくる男の人

 

「なんですか?」

 

用がないなら行きますけど。と言いたげに態度で示す。男の人は謝りながら「いや…ね?」と語りかけてきた

 

「ポケスロンって知ってる?」

「は……?」

「この地方の……うーんとコガネシティって言うんだけどね、そこに新しくポケスロンドームっていう競技施設があるんだ。」

 

相槌をうちながら話を進めてもらう。その人はにこやかに笑いながらリクに話し掛けた理由を話た。

 

「それでね、ボクも前に参加して凄く楽しかったんだ。キミのポケモンを見たらよく鍛え上げられていて絶対良い線いけるなぁって思ったからさ」

 

つい話かけちゃったんだよね、なんて言われても反応に困る。

でもウインディが誉められたことは純粋に嬉しかった。お礼をいい笑いかけこちらからも話掛ける。

 

「コガネシティなら一度行ったことがあります。」

「へぇそうなんだ。今回はこの辺りにに用があるの?」

「いえ、この辺りじゃなくて…カントー地方まで」

 

まだ目的地を目指してる途中なんです。肩をすくめて苦笑い。相手は感心そうに頷く。

 

「幼いのにすごいね。」

 

……幼い…せめて、若いにしてほしいな。困惑気味に目を彼から離し「いえ…」と話を逸らす

男の人は楽しそうにポケスロンについて話をすると「長話しちゃったね、またここら辺にきたら遊びに来なよ」といいその場を離れた

 

「ウインディ…」

 

なにやら男の人の話を真剣に聞いていたらしいウインディはリクの頭に顎をのせキューンとねだる声色を浮かべた。

 

「出たい…?」

 

頬の毛を撫でてやるとペロリと舐められる。可愛い…。反対の手でしゃがませ頭を撫でてやればじゃれついてくる。つまり、こんなに甘えてくるということは、先ほど男性が話していたポケスロンという競技に出てみたいということらしい。

 

再び尋ねて承諾の合図を出せばペロンと頬を舐められる。嬉しいようだ。

 

私もウインディがうれしそうにしているのを見て、用事が終わったらかならず行こう。と心に決める。

 

(にしてもさっきの人遊びにおいでとか言うけどどこに行けばいいんだろう?)

(まあいっか。あ、また海だ…あの高い建物目指すよチルタリス!)

 



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4話

少し開いた道端で2人の少年がいた。街中だったがバトルをしているようだ。ボーと眺めているとハイレベルで思わず凝視した。

 

「へぇ…すごいね」

 

呟き視線を逸らさずにいたら火の粉が飛んできた。危ないなぁ…顔を顰めていたらチルタリスが翼を動かし意図も簡単に飛び散った火の粉を消した。

 

ありがと。首もとを撫でれば嬉しそうに擦り寄ってくる。

そのまま少し離れた位置に降ろしてもらい観戦することにした。

 

それにしても私と同い年くらいの少年は、周りに注意する事なくバトルを繰り広げていた。

 

「バクフーン、かえんぐるま!」

「ちっ、ゲンガー…シャドークローだ!」

 

もしかしたらもう数々のジムを制覇した一流のトレーナーなのか…もしくはまだまだ半人前なのか…それでもポケモンの使い方が上手く見ているこっちも楽しくなってくる。

 

「楽しそうだね…」

 

地面についた途端ボールから飛び出したマイナンを抱き締め上げると不満そうに鳴き声を上げた。最近野生のポケモンとしかバトルしてないのがそんなにも不満なのか。いや、まあ不満は蓄まってるだろうけど、そこは我慢して欲しい…

 

「行けオーダイル!」

 

ゲンガーが戦闘不能となりそこでバトルに変化が起きた。バクフーンでごり押しに戦っていた子の手が腰に行く。ポケモンの交換か?

 

「頼んだ、デンリュウ!」

「おまっ!くそっオーダイル、こおりのキバ!」

 

「かみなりパンチ!」

 

せっかく相性の良いポケモンに変えたのに、勝負に出る前に替えられてしまったら意味が無い。一枚帽子の子の方が上手だったね。

 

マイーっと可愛らしい鳴き声が腕の中から聞こえると、青い屋根が目印のフレンドリーショップへと駆け出した。

 

「あ、そうだった…ショップに買い物に来てたんだった」

 

少し惜しいが、マイナンをこのまま放っておくわけにもいかず、口惜しいがその場をあとにするためチルタリスをボールに戻しマイナンを追い掛けるため目的の店まで走り始める。

 

(さーて、毒消しと麻痺治し…回復系もいる、よね。)

(あとは食料!)

 

いくつか買い込む様に必要物資を購入し建物を出るとあたりも暗くなって流石にこれ以上今日は進めないだろうと肩を落とした。

 

ヤミカラスやホーホーが夜を知らしめる様に鳴いていた。

 

さくさくポケモンセンターに泊まることを決めたリクは体を一つ伸ばしてから歩みを進めた。自動ドアをくぐればセンター特有の軽快な音楽が流れだす。

 

一応怪我はないが、長旅で疲れさせてしまったのだから預けるべきだな…と頭で軽く判断をくだしてジョーイさんに話し掛けた。

 

「すみませーん、回復と宿泊手続きを…」

 

「こんばんは。トレーナーカードはお持ちですか?」

「はーい」

 

語尾を伸ばしポーチを漁るリク、トレーナーカードさえあれば宿泊・回復その他色々がほぼ無償でやってもらえるポケモンセンターは本当に便利だ。

どうやって生計を経てているのか分からないが、重宝している。おかげで野宿を真逃れているのだから

 

「部屋の鍵をお渡ししますね。回復は終わりしだいご連絡いたします」

 

にっこりと笑顔で受付をするジョーイさんにこちらも笑って応える。

 

「ありがとうございます」

 

回復完了を待つため受付の側にあるソファーにポスッと座り頬を摘む。笑えてるだろうか。自分でも判るくらい表情が堅い……大丈夫…。そういい聞かせながら自嘲を浮かべる。これじゃあなんの為に旅に出たのか解らないじゃないか。

 

「だ-か-らー、どうしてそう突っ掛かってくるわけ!」

「お前に負けたままでいられるか!」

 

フッとそんな言い合いが聞こえて顔を上げれば先程の少年たちが言い争っていた。あの子たちはライバルなんだ…いいなぁ。小さく破顔しながらその様子を再び眺めていることにした。

 

「そういって今日も出会い頭早々勝負吹っかけてきたじゃん」

 

帽子の少年は本当に苦労しているのか肩を落としながら疲れ切った表情を浮かべていた。

 

「負けっぱなしは癪なんだよ!」

 

舌打ちをして顔を背けるもう一人の少年はなるほど、先程のバトルで敗れてしまったのか。しかもそれが続いているのが癪らしい。悔しいのは良いことだな…目を細目見守っていればジョーイさんに呼ばれた。回復がすんだらしい。

 

「お待たせしました」

 

笑顔で差し出してくれたボールを一つずつ に装着してお礼を一つ。

 

「あらあらあの子たちまたやってるのね」

 

「あれ、ジョーイさんあの2人知ってるんですか?」

 

先程リクが見ていた場所に視線を送ったジョーイさんは苦笑しながら呟いた。独り言にしては大きなソレに思わず聞き返せば

 

「ええ、あの子たちここにきてもう1週間経つもの」

「………1週間」

 

「3日前までは女の子も一緒だったみたいだけど…あの2人を見て苦笑いして次の街へ行ったのよ」

 

あー…1週間の滞在…かぁ…突っ掛かってる少年は1週間毎日偶然を装い勝負をふっかけているのか…?

 

そんなまさかね…と思いながらも、なんとなく頬がゆるむのがわかる。凄いなぁ…あそこまで純粋に「どうかした?」思い耽っていたら目の前に金色の双眼。パチパチっと目を瞬かせ思わず凝視してしまう

 

「えっ…と…」

 

「キミ、さっきから暗い顔したり笑ったりしてたからさ、」

 

気になっちゃって。と視線を合わせながら子首を傾げる少年を見て思わず吃ってしまう。

 

い、言えない…あなた達を見て笑ってました。だなんて…

一つ苦笑を溢しふと視線をそらせばもう一人の少年も先程の喧嘩腰とは少しだけ違う柔らかい表情でリクを見ていた。

 

(な、なんだかひどく申し訳ない…!!)

(あ、また百面相だー)

(百面相!?)

 

少年少女たちよ!



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5話

もう一度状況確認のためにしっかり見ておこう。そう思い心配そうかは解らないが2人から見られているので、不審がられ無いであろう程度にそっと視線を上げる。

 

帽子の子は前髪が爆発しているように見えるのが特徴だ。どうして今まであまり気にならなかったんだろう。違和感を覚えると凄く気になる。

 

紅い髪をした少年はツノ??と思わず口を開きそうになったところ寸でで思い止まった。

 

「えっと、キミの名前は?」

見兼ねたのだろう、帽子の子が会話の糸口である話題を探るようにリクに話し掛けた。

 

あ、と声を一つ漏らすと慌てたように瞳を揺らした。

 

「リクって言います、あの…あなたたちは?」

「ボクはヒビキ。……で、こっちの怖い人は…」

「オイ」

 

怖い人、と言われた方がイライラとした様子でヒビキと名乗った少年に突っ掛かった。いや、ヒビキにも非は存分にありそうだが。そこはスルースキルを使うとリクは決め込む。

ヒビキが宥めるようにリクを指せば小さく舌打ちし、再び視線をリクへと向けた。

 

「ソウルだ」

 

ソウルが一言そう名乗ってから再びヒビキが人好きのする笑みを浮かべてよろしくね。と手を差し出した。

 

何故かあれよあれよという間にリクの本日の宿、ポケモンセンターで止まっている部屋へ向かうことになった御一行。ソウルは性格上やっぱりと言うか「短時間で知り合った奴の部屋になんで向かわなきゃならない。」と行って立ち去った。

 

そう、立ち去ったはずだった。

 

「へえ、ならリクはカントーに行くんだ。」

 

一つコクりと頷きチラリと視線をソウルへと向ける。やっぱりと言うかなんというか…不機嫌そうなソウルがそこにいた。

 

訳を話せば簡単な事なのだが…、まあちょっとだけヒビキが怖くなった。とだけ言っておく。

 

「リクの手持ちは?」

 

笑顔で聞いてくるヒビキに尻込みしつつリクはピクリと反応するソウルに苦笑い。どうやらソウルもリクの手持ちには興味あるようだった。

 

「なら、部屋に戻ったら紹介してあげるよ」

「やった!ならボクらのも紹介するよ」

「ほんと!?楽しみだな」

 

嬉しそうに笑うリクとヒビキは意気投合したのか次第に少しずつ溶け込み始めた。何か言いたそうに顔をしかめていたソウルは諦めたのか一つ息を吐き静かに2人の一歩後ろに着いていた

 

 

(ソウルも早く来なよ!)

(部屋しめちゃうよー?)

(……お、まえらなぁ…っ!!)

 

 

友達、って久しぶりだな。そう嘯きながら会話の途中、酷く悲しそうに笑うキミが強く頭に残った。



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6話

 

「で、この子はマイナン!」

 

ガタガタと音を立てて小さな身体をめいいっぱい使いボールから飛び出す。勝手に出てリクに甘えているのを見て思わず頬が弛むのが分かる。

 

先に見せてもらったヒビキとソウルのポケモンたちは思ったよりもかなり鍛え上げられていて驚いてしまった。

 

この地方のトレーナーはこんなにもレベルが高いのか、と。

 

2人とも意見は違うがポケモンやバトルが大好きって気持ちがありありと伝わって、ここでボールが開けないのが残念な程だ。

 

リク以外にもそう思っていたらしく、ヒビキが目を輝かせ楽しそうに提案した。

 

「朝早く起きてさ、バトルでもして親睦深めない?」

「親睦……」

 

ソウルが思い切り眉間にシワを寄せて面倒臭いと盛大にアピールする。お構いなしにヒビキはリクに笑い掛け「いい?」と首を傾げた。その時、ヒビキがピタリと止まる。

 

「リク……?」

 

ソウルの掛け声にも全く反応を示さないリクにどうしたんだ、と2人は目線で訴えあう。

 

リクの手持ちであるマイナンも心配そうに下から主人の様子を窺ってる。

「……リク」

「調子悪い?」

 

2人の心配している様子に気が付いたのか虚ろだった表情を無理矢理歪ませ口元をあげる。

 

「大丈夫、だよ」

 

「あ…、明日の朝だよね。うん、わかった。でもヒビキたち強そうだもんなー私なんかが相手になるのかなー…お手柔らか「リク?」

 

「なに?」

 

急に1人で話しだしたリクにあわてて静止をかけるため名前を呼べば、にこり、と表情を崩さずに笑うリクに違和感を覚える。違う、さっきまでの笑みとは……ポケモンを見ていた時の表情とは似ても似つかない。思わず目を逸らしたくなった。

 

ソウルに「下を見ろ」、と促され…スッと下げた先にはマイナンがいた。何やら酷く怒りながらリクを見上げていた。

 

マイナンには何故、リクがこんなふうになったのか、この様子からして理解しているのだろう。

 

「マイ、ナン?どうしたの」

 

ソウルに言われて一緒に下を見たリクは困惑した様子で手を伸ばそうとするが、マイナンはリクにバチッと電気を流し弾いた。目を見開き小さな身体をしたマイナンを今度ははっきりと視界にいれる。リクに攻撃した?口には出さなかった。

 

「……」

「ヒビ、キ」

 

暫く俯いて顔を伏せていたリクがヒビキの名前を呼んだ。まるで独り言のように、そして「ソウル」と

 

「ごめ、やっぱ駄目だ…」

2人は何が、とは聞かない。静かにリクが続けるのを待った。

 

「まだ、対人戦は怖いよ」

 

泣いていた。

言いながらボロボロと

 

彼女は怖いと言った。何が?対人戦……つまりバトルがだ。あんなに楽しそうにポケモンと触れ合っているのに。彼女は“強い”直感で感じ取ったのに

 

目に見えるほどに震えている彼女を見て何かがあったんだ。とただそう思った。震えている小さな肩が、ガチガチと噛み合っていない歯が、それを物語っていた。

 

手を伸ばすとビクっと肩を竦める。リクと体制を合わせ撫でてやれば一度、彷徨わせてからまだ涙が溢れる目を合わせてくれた。

 

マイナンが心配そうにボクを見る。大丈夫キミの主人に何もしないから。そんな感情を込め笑いかければ安心した様子で息をついた

 

「バトルが苦手なんだ」

 

一番あり得る線を尋ねれば下を向いて首を振る。ただし、横に。

 

「バ…バトルは…好き」

 

小さく呟く様に発っせられた言葉に思わず首を傾げたくなったが「そっか。」と呟き背中を撫でてやる

 

「でも、ね」

「いくら頭でバトルを求めても身体が震えて…、どうしても私…」

 

バトルが出来ないの。

 

(どうして、なんて聞けなくて)

(ただ黙って聞いていた)



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7話

バトルは好き、彼女はそう言った。バトルは怖い、彼女はそうも言った。ボクは1人の伝説を…最強を思い出した。

 

ならば、

 

「リク、やっぱりボクとバトルしよう」

「ヒビキ…?」

 

ソウルが何故、と行いたそうに視線を寄越した

リクは反射的に肩を震わせた。

 

「戦わなきゃ駄目だ、会わせたい人がいるから」

 

あの人は原点で頂点だ。バトルが、ポケモンだけにしか興味を持たない。そんな人だ。この地上に強い人を見出だせなくなった彼はシロガネヤマへ狂暴な野生のポケモンを相手に山籠りを始め己を鍛えた、と言う

 

まだ山から降りていないはずだ。

 

あの人に、会う資格が少しでもあるか。それを確かめるにはバトルしかないから。

 

「…………」

 

真っ青な顔を見て決心が鈍りそうになるがギュッと拳を握りリクを見る。ソウルはリクを心配そうに目を向けていたが沈黙を守っていた。

 

ガタガタ!

 

どこから音が響いた。小さな音だったが静かな部屋には十分だった。

その音が鳴った場所に視線を移す、もちろん3対の眼が。

 

「……みんな?」

 

リクは驚いたように立ち上がりボールを置いてある机へと近寄った。リクがそれを手に取り覗き込んだ

 

無数の視線を感じとった

 

「ヒビキがどうしたの?」

「ボク?」

 

戸惑った様子で手持ちとヒビキを見比べるリク。思わず首を傾げたがピタリとそれを止める。無数の視線の正体はソコだった。

 

それはとても小さな騎士(ナイト)の様で、目が反らせなかった。

 

「バトル、したい?」

 

リクが目を見開いてこちらを見たが、気が付いたら声に出していた。ごめんね、と思いながらもこんな眼をするリクの手持ちたちに僕は思わず心臓が速くなる。

 

その晩、ポケモンセンターから母さんに電話をかけた。カイリキーを送ってもらうために。

 

本当は、私が自分で迎えに行きたかった

だけどそんな時間、今は無い。

 

「そう…うん…、うんよろしく」

 

カントーには着いた?と聞かれ、まだだよ。と答えれば「おっそいわねぇ…」と呆れられた。悪かったね!と内心ぼやいた。

 

用件を言い終えてカチャン、と静かに受話器を置いた。

 

「まったく、あの人はもう…」

 

会話を思い出し肩を竦めて苦笑した。暫くしたらボールが取り出し口にあって、迷わずそれを手に取った。

もう他の客は寝入っているせいか静かで、室内は電気が点いておらず月明かりなせいもあり少し不気味に感じた。

 

音をたて自ら出てきたカイリキーに驚きながらも、久々に見たその姿に思わず笑みが零れた。

 

「久しぶり、元気だった?」

 

筋肉質なその身体にギュッと抱き付けば力加減を忘れたように思い切り抱き締められた。うぐ、苦しい。

 

「ちょ…!骨折れるよ!」

 

焦った様にカイリキーに言うと肩を落としてスルリと腕を離した。

 

「カイリキー」

 

落ち込んだ様子のカイリキーを呼べばスッと顔を上げる。暗くて表情はあまりわからないが声からすれば、おそらく困惑した表情なのだろう。

 

「久々のバトル、だよ」

 

…!

息を飲む音が聞こえた。驚いてるのだろう、私も未だに手が震える。

 

心配したように顔を覗き込むカイリキーに安心させるよう強がった笑みをうっすら浮かべる。

 

「武者震い、だよ」

 

キミはキミのままでいいんだ。

 

言葉を紡いで彼の肩を叩いた。バトルが好き。なら、楽しめばいい…キミたちがバトルをしたいなら私もソレを望むよ。

 



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8話

朝、町外れでヒビキと向かい合っているのはいくら目を背けようとも私自身であることには変わらなくて、思わず汗ばんだ手を服で拭う。

 

大丈夫、迷いは無い。

 

そう言い聞かせ落ち着くように小さく深呼吸を2、3回する。

 

 

-----------

 

「リク」

「ソウル…」

 

真剣な顔をして呼び止めたソウルにどうしたの?と首を傾げて問えば重たそうに口を開いた。

 

何をそんなにも戸惑っている。

 

「アイツと、本気で勝負するんだろ」

「……」

 

肯定の意を込め頷けば眉間にシワを寄せるソウル。あーあ、跡が付いちゃうよ?とは口が裂けても言えない空気だった。そんな雰囲気の中ソウルが口を開く

 

「アイツは、あんな奴だがジョウトのチャンピオンだ」

 

は?間抜けに声を出して思わず固まる。……チャンピオン?ジョウトの?誰が?……ヒビキが?ぐるぐると頭を駆け巡る思考に片手で頭を押さえる。とりあえず、お願いです。叫ばして下さい。

 

「あれ、おはよう2人とも」

 

叫びたい。そう思って口を開いたら、朝早いんだね!とにこやかに且つ爽やかに挨拶をするヒビキに出くわす。思わず吃りながら挨拶を返した。

 

「お、おはよ…う」

 

ヒビキはそんなリクの様子を不思議に思ったが口に出さず、ご飯食べてくるね。と早々に立ち去ってしまった。

 

幾分落ち着いた様子で、その後ろ姿を見つめながら、アレがジョウトのチャンピオン。と目を細め胸のうちでつぶやく。

 

「チャンピオン…ね」

「お前、本当にバトルするのか?」

「もちろん。」

 

にこり、と口元だけで笑みを作る。

迷いはもうない。

 

「私も制覇者(チャンピオン)だから」

 

------------

 

そう、制覇者なんだ。

ああ、そう言った時のソウルの表情はなんとも滑稽だったことか。これもまた口を裂けても言えない。

 

思わず口元が弛む

バトルなんて久々だ

 

制覇者という言葉も久々に使う。

 

報道に遭った以来…それだけ気にしていた自分に思わず苦笑い。

 

どれだけ捉われていたんだ。……最低でも目の前にいるこのジョウトのチャンピオン…制覇者に真っ正面から見据えられないほど、なんだろうな。

 

これじゃあ旅に出る前と何一つ変わらない。

何のために旅立ったのか、何のために変わろうと決心したのか、なぜ気にしないと心に…仲間に誓ったのに気にしているのか。

 

私は、みんなを誇りに思ってるから。

自分で言ったんじゃないか。

始まったバトルは地形が崩れるんではないかというほど白熱した戦いとなった。

 

ヒビキも必死で、リクも必死だった。

負けられなかった。負けたくなかった。

 

最早意地だけでその場に踏みとどまる。使用ポケモン3体の入れ換え有りのこのバトル……お互い、相手の想像以上のレベルの高さに戸惑いが隠せなかった。

 

デンリュウとウィンディが同時に倒れる。

 

「ロゼリア!」

「オオタチ!」

 

ボン!と出てきたのは小柄な2匹で、先程の大型達と比べ圧迫感は少ない。が、そこらのトレーナーよりも威圧感は圧倒的だ。

 

ソウルはただ息を呑む。レベルが高過ぎるのだ。これが制覇者同士の戦い。バトルなのか、と。普段挑んでいたあいつは俺とこんなにも差を着けていたのかと。

 

「あいつら…」

 

苦虫を噛み潰した様に苦渋を呑む。単純に悔しい。なんとも思っていなかった、今朝まで震えていた、ただの少女がここまで強かったことにも、ライバルであるアイツが本気になっていることにも。

 

自分はまだまだだと思い知らされた。

 

その時、視線を向けたリクが「ソウル」と自分の名を呼んだ。

 

「マジカルリーフ!」

「守るんだ!」

 

小柄ながら威力のある攻撃に避けれない、と判断し“まもる”を使うオオタチ。当然のように傷は付かなかった。

 

リクの口元が上がる。

 

「はなびらのまい!」

 

マジカルリーフよりも威力が数段上の技。はなびらのまいにヒビキは“かげぶんしん”を指示する、が全体攻撃である“はなびらのまい”には回避率がまだ足りなかった。

 

ドン!と強い衝撃ののち、オオタチは少し離れた樹にぶつかった。

 

「私、今楽しいよ」

「ボクもだよ」

 

独り言、自己満足を口にしたらオオタチの様子を見ていたヒビキも相槌をした。

 

「ソウルとのバトルも楽しそうだった」

「あのバトル凄く好き」

 

後ろを振り返り先程の続きだと言わんばかりに笑いかける。ソウルは面を食らったように顔を崩しその後赤くした。恥ずかしかったためだろうか?

 

「楽しいよ…けどね…

私は、彼らのためにまだ負けられないんだ!

カイリキー!」

 

(昨晩はいなかった)

(この子も私の仲間だよ)



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9話

 

「ストーンエッジ!」

 

カイリキーが体力ギリギリでカイリューを戦闘不能にする。それを見届けてお疲れ様と笑いボールに戻す。

 

飛行タイプを持つカイリューに格闘タイプが勝てたのはカイリキーの特性のおかげだった。この特性でカイリキーには幾度も助けてもらい勝利をもぎ取った。

 

ウィンディが戦闘不能以外、リクにはまだあと体力に温存があるロゼリアとギリギリのカイリキーが残っていた。

ソレに対しヒビキは3匹とも戦闘不能。この勝負はリクの勝利によって場を納めた。

 

リクはバクフーンが来なかったのはかなり意外だった。とヒビキと会話をしていた。

 

ヒビキは悔しいなぁ。完敗だよ、と目尻を下げ苦笑した。

 

「リク、回復がすんだら出発するんでしょ?」

 

「そのつもりだよ?これからワカバタウンに向かうの」

 

「……」

 

話題を振ったヒビキに向かって返事をすればソウルとヒビキが顔を見合わせる。………若干逃げ腰なソウルは見なかった事にしようか。

 

「ソウルはワカバにあまり良い思いでが無いみたいだね」

 

「や、そうじゃ…」

 

リクが気を使って苦笑しながらフォローするもヒビキがソウルを遮り「ボクの家がある町なんだよ」と笑った

 

「良かったらボクの家に寄ってく?」

 

「……え?」

 

いきなり澄ました顔をしてこの場を去ろうとするソウルを逃がすまいと掴んだ先は袖口でコレでは外れてしまうと冷や汗が伝う。

 

もう一度今度は握りなおせば青白い顔色のソウル。

 

ごめんね、今回だけ犠せ……味方になって。縋るような目付きで懇願すればため息をつき諦めてくれた。

 

「リクは飛行タイプもってたよね」

 

道案内してあげるよ。と可愛らしい笑みで振り返りボールを投げる。

 

出てきたのは先ほどバトルのメンバー、カイリューだ。慌ててリクもチルタリスのボールを開きソウルに乗るか尋ねた

 

「いい。」

「え、でも……」

 

困った様に眉を下げソウルを見ればまたしても溜め息をつかれた。

 

「自分で行ける」

「………」

 

ドンカラスを無言で取り出したソウル。逃げるような気がするんですけど、とは言えない。言っちゃいけない空気だった。

 

「じゃあ行こうか」

 

ヒビキの声に3匹は反応し大きくはばたいた。有り得ないくらいカイリューが速かったなんてそんな……うん、知らない。

なんでどうしてワカバタウンにつくのに1時間もかからずに着くの。ドンカラスヘロヘロじゃないか。

 

町の入り口に立ちヒビキの案内で町を見て回る。のどかな良い町だ。

 

「で、ここがボクの家」

 

さ、入って?と促され「お邪魔します…」と頭を下げる。

 

「母さーん!友達連れてきたよ」

 

いらっしゃい!

 

 

(あらあら、ようこそ)

(と、突然すみません…)

(良いのよ、疲れたでしょ?ゆっくりしていってね。)



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10話

 

 

「それで?私をここに連れてきた理由はなんですか」

「やだなぁ友達を自分の家に誘ったらおかしい?」

「ソウルは別として昨日知り合ったばかりの私を連れてくるのはおかしいと思う」

 

座りながらリクとヒビキの言い合いというか口論というか…とりあえず聞いていれば自分の名前が出てきた。いや、むしろオレはこの町に来るのがまずイヤだから。言ってやりたかったが口を挟める雰囲気ではなかった。

 

ヒビキもそう思っているのか苦笑いだ。顔が引きつっている。

 

「まぁ、ホントのコトを言えば会ってほしい人がいるんだよね」

 

ヒビキが溜め息をつきリクを見据えた。会ってほしい人?リクが首を傾げながら確認するように復唱した。

 

「そ。その人は最強と謳われて、この世界の原点にして頂点。」

「………原点にして頂点」

 

リクの眼の色が変わった。ポケモントレーナーの眼だった。バトルが大好きな、ただ純粋な強くて深い目をしていた。

 

ソウルとヒビキは息を呑み、続きを促すリクを見つめた。

 

「リクの目的の途中で良いんだ。リクも戦ってみるといいよ」

「場所はね、シロガネ山。」

「………っえ…やま?」

「そう、シロガネ山の頂上」

 

一般論として人がいる場所としては相応しくないソコに、リクが息を呑む。ヒビキはそれすらも分かっていて、武者修行しているらしいよと付け足し今までどおり笑みを崩さない。

 

昨晩あらかじめ勝敗関わらずリクにそのことを伝えると聞かされていた俺でさえ正気か?と問う以前にヒビキを反射で怒鳴りつけた。

 

「名前、は?その人の名前」

「レッド」

 

レッド、さん…と呟くリクにヒビキは自分で言っておきながらも少しヒヤヒヤしていた。せっかく恐怖心を乗り越えてなんとかバトルできるようになったのに、向かえば今度はポケモンそのものを恐怖するんじゃないか、と。シロガネ山とはそんな場所だ。そしてレッドさんも。ジッとリクの様子を観察しながら返事を待つ。

 

「……行く…」

 

小さな小さなと音がした。否リクの声だ。なんて言ったのか。空気の音だけの様に思えて、肝心の答えが聞き取れずもう一度聞き返す。

 

「リク?」

「…シロガネ山に行くよ。その人に会ってみたい。」

 

シロガネ山の頂上の最強のその人に、その人に会えれば何かが変わる気がした。これ以上悪いことなど早々に起きないともう一歩だけ変化を期待したリクは旅の通過点にシロガネ山へ寄ることに決めた。

 

「リク、正気か…?」

 

ソウルは少女に向かって沙汰を問う。彼女はそこがどんな場所か知っているのだろうか。そもそもが資格を持たないものすら入れない飛び出してくるポケモンすら高レベルなそんな山なんだ。

 

そう伝えればリクは困った様に笑い、それでもと言葉を続けた。

 

「行くよ、私じゃ不法侵入になるかもだけど…」

 

「………ん?」

「………え…?」

「それだけ強いんならリーグと同じ条件だよね…?そもそも私ジョウトのバッチもカントーのバッチも持ってないよ」

 

ヒビキに勝利した時点でリクの実力から忘れていたが、彼女はホウエン地方からの来客であったことをうっかり失念していた。

 

(……入るの手伝うから)

 

不法侵入は止めて!!

 



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11話

 

本気で不法侵入しようと意気込んでいるリクを慌て止めれば渋々頷いてくれる。え、ちょっと待てなんで?なんでそんな渋々なの?と問いたくなったが問いたら負けなんだな、分かります。

 

 

ヒビキが引きつった笑みを浮かべて自問自答していれば、リクはポケギアを取り出した。

 

「ならさ、番号交換しようよ!」

 

ソウルは今更ながら出し惜しみ、眉間に眉を寄せた…ところをヒビキに弾かれていた。

 

「あ、ヒビキってその『レッド』さんと戦ったことあるの?」

 

ぴたりと 止まりあはは、と笑う。リクは首を傾げた。何か可笑しかっただろうか?

 

「な、何回も負けてる…」

ズーン黒い空気を纏いだしたヒビキ。慌てて ゴメン!と慰めるもネガティブモード到来したのかなかなか機嫌は直らなかった。

 

「うー…とりあえず私カントーに用事が……」

「その前に行こうか!」

「ええええ…」

 

旅の目的すら華麗にスルーするヒビキに肩を落とす。何でもう復活。さっきまで不貞腐れたじゃないか

 

「リクの用事ってどこの町なんだ?」

 

ソウルが間に入り口を開く。そういえば、とヒビキもこちらを見る。そういえばあの人どこの町だっけ?おじいちゃんの家の近くって言ってたからやっぱりマサラ?

 

「多分、マサラタウンってところ」

 

なのかな?と語尾に付ければ呆れられた。すみません。シロガネ山とマサラタウンはどっちが近いのかな?

 

「シロガネ山」

「嘘吐くな!」

 

さらりと笑顔でヒビキが言うので、そうなんだ。と思わず頷いたところソウルから盛大な突っ込みが入った。ええええ、どっちなんですか。

 

「確実に登山するよりもマサラに飛んだ方が速いに決まってるだろ」

「……確かに」

 

ソウルの言葉に納得しチラリ、とヒビキをみたら爽やかな笑みを浮かべていた。これはもう学習したから分かる。逆らっちゃいけない人のソレだと。

 

本能で悟り、学習した。

 

----------------

--------ーー

--------

 

「飲み物持ってきたわよー」

 

ガチャリ。些か空気読めてない感が否めないがコノ空気を断ち切ってくれたヒビキの母に感謝だ。

 

ミックスオレでよかったかしら…?コップを差し出し、朗らかに笑うお母さまに思わず感激。人の優しさに飢えているなと自分でも思うが、さすが見知らぬ他人にここまで尽くしてくれるヒビキの母親なのだと再認識した。

 

「ありがとうございます」

 

緩まる頬を引き締めずに口に出せば優しく笑いかけてくれた。

 

「ケーキ焼いたんだけど…一緒にどうかしら?」

「…え、いいんですか…?」

 

おずおず、と小さく尋ねれば、もちろんよ持ってくるわね。と微笑まれた。よろしくお願いします。嬉くなり顔を綻ばせ頭を下げる。

 

(……!…おいしいです!)

(うふふ、ありがとう)



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12話

 

ヒビキの家を出て数時間たった現在、リクは現状に戸惑っていた。

 

旅の目的地を伝えてから、「そういえば僕らもそっち方面に用事があるんだ!途中まで一緒に行かない?道案内するよ」とヒビキに捲し立てられ、遠慮したものの、何故だか彼らは本当に着いてきた。呆れた視線をプレゼントすればソウルは睨み付けてきた。ヒビキは知らぬ存ぜぬを貫き通す気だ。

 

睨みつけられたままは流石に気分の良い空気とは云えなかったが、今まで手持ちのみんなと自分だけの旅であったため、リクは延々と自問自答を繰り返すだけの道のりに辟易としていたことも事実だった。そう考えると、今の現状も悪くはないのではないか。

 

そんなことを考えていたら、口角が上がっていた。

 

ヒビキの道案内により、空を飛んでいるため会話らしい会話は出来ないが、流石現役チャンピオン。しばらく飛んでいるにもかかわらずカイリューにあまり疲れが窺えなかった。

 

その反面、外出自体を拒んできたリクはもちろん、ポケモンも体力の消耗が激しかった。

 

時々気遣いながら進むリクの顔はだんだんと驚きに染まっていく。

 

「チルタリス?」

 

旅に出てしばらく経つが、今は普段の倍以上のスピードで進んでいるにも関わらずチルタリスは疲れた表情一つ見せていない。

 

おかしいな。小さな矛盾。僅かな違和感。

それを感じたのは初めてではなかった。この旅を始めてから何度も感じていた。それを無理矢理自分に都合の良い解釈をして納得させていたんだ。

 

ふ、と思考を戻せば少し先に、いつの間にか野生のポケモンたちが顔を覗かせていた。オニドリル、地上にはギャロップやドードリオたちだ。いずれにしても普通に飛んでいて出会える確率なんてない。

 

チルタリスにごめんねと謝り、少しスピードを上げてヒビキと並走してもらう。

 

「ねえヒビキ!だんだんと荒れ狂った道になってるんだけどどこに向かってるの?」

 

早口になり横を走るヒビキを見ればあはは、と笑われた。

 

「頂上」

「ちょうじょう?」

 

ソウルをちらり、と見れば我関せず。だけど呆れた表情を隠していなかった。

 

「え、と…え?

 …目的地、シロガネ山なの…?」

 

荒れ狂った道無き道を慣れたようにスイスイ進んで行く。先程あったゲートはヒビキが職権濫用…もとい何かを告げてなんの問題もなく入ることができた。数歩離れたところでその様子をソウルと窺っていたがそれはもう快く了承してくれた。

 

何度かジロジロと見られたが深く帽子を被ってマフラーで口元を隠した。怪しいけど意外に分からないものだ。

 

ヒビキに言われ厚着をゲートで購入してきたが今は、凄く暑い。パタパタと手で扇いで気を紛らわした

 

ゲートを出てすぐにマフラーとコートを剥いだ。

 

山の麓にあるポケモンセンターでしばし休息を取り、再び飛び立つ。

 

「うーわー」

「いつもながら荒れ狂ってるね」

「え、ねえ、本当にこの頂上に人がいるの?」

 

いるいる。怪物みたいな人が。怪物みたいな、と言われてもいまいち想像力に欠けるリクは曖昧に頷いただけだった。

 

 

----------------

-----------

-------

 

 

結構奥まで来た。

山の頂上を目指しているのでは?洞窟の奥に向かいながら、キンと凍えるような冷えが増して、おもわず両腕を擦り彼らを追う。流石に耐えきれなくなり、カバンにしまい込んだコートとマフラーを身に纏った。

 

うう、凍える…。

あ、でもすごい。さっきから見たことないポケモンがいっぱいだ。

 

ホウエンでは見かけないリングマやオニドリルたちの群れをおっかなびっくりで通り過ぎていけば周りは雪景色。飛行タイプは寒さに弱いのに…チルタリスを撫でヒビキに視線を戻すとヒビキもリクを見ていた

 

「吹雪いてきたし…ここからは歩いていこうか」

 

視界が悪くなっていることを言っているんだろう。

チルタリスに声をかけゆっくり降下してもらう。冷たくなった身体を擦り、礼を言ってボールに戻ってもらう

 

「さ、ここまで来たら後は彼を探すだけ……2人とも大丈夫?」

 

寒さに震えているのが分かったんだろう。心配そうにリクを見る。ソウルは別に、問題ないと顔を変えない

 

「うん…まだだいじょ、ぶ…」

 

いくら気の持ちようが変わったところでリクはリクだ。少し前まで閉じこもっていたのだ。ホウエンのあたたかい地方の出身で、ここまでの気温の変化に耐えれるはずがない。それでも自分を叱咤し先を促す。

 

「この間来た時はダイヤモンドダストだったから天候にそこまで問題は無かったんだけど…今日はかなり吹雪いてるね」

「前見えないしな」

「多分あそこにいるのかも」

 

ヒビキが下りはじめたので、もちろんこれほど野性ポケモンの聖地と化した山(聖地と言っても人にとっては意味のなさい凶悪な山だ)になど訪れたことのない、同年代の少女より実力はあってもただの少女はただ後をついていくので精一杯であった。

 

「あ、あれが彼がよくいる洞窟の入り口だね。」

 

感覚的にはまっすぐに歩いてきただけだったのだがたしかに入り口は存在した。そして黄色い色をした、愛らしいポケモンが少し入った場所で顔を覗かせていた。

 

「あれ、ピカチュウ…?」

「めずらしいな…」

 

ん?っとヒビキが振り向いて目を丸くさせた。薄暗い洞窟の中、この場所で出会うハズが無い。しかしこのピカチュウはヒビキは知っているようだった。

 

タッ!と音を立てヒビキの頭に飛び乗った

 

「知ってんのか?」

「うーん、恐らく」

 

ほら、レッドさんの手持ちだよ。ピカチュウの頭を撫でながら口元を僅かに引き吊らせた。

 

「ピカチュウ、レッドさんのとこまで案内してくれるか?」

 

ぴっか!元気よく鳴いてヒビキの頭上から飛び降り着いて来いと言わんばかりに一度振り向き、洞窟の奥へ足を進める

 

多少中に入れば寒さも幾分か和らいできた。なるほどここは良い場所だ。寒くもなく暑くも無い。リクは感心した様子で辺りを見回した。

 

「ここはそんなに暗くないんだな」

「そうだね」

 

ヒビキとソウルの会話を聞きながら目線を走らすと、その拓けた場所の奥に人影がみえた。

 

「………!」

 

初めまして、赤いヒト

 



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13話

 

 

「……ヒビキか…」

「はい、お久しぶりです」

「バトル、……か?」

 

レッドがヒビキに近づき声をかけた。ヒビキも慣れた様子で対応している。ここには何回も来ていると言っていたので、この何故か仄かに明るい洞窟にもすぐに理解していたようだった。

肩を竦めて苦く笑うヒビキにレッドは少し首を傾げた。どうやら違うと判断したらしい。それは…いや、しかし確かにヒビキに問うた質問に対しては正しくも間違ってもいた。

 

「バトルはバトルなんですけど……」

 

続いた言葉に考える素振りもみせず今度はしっかり首を傾げた。

 

リクはこの中で1人だけ違うオーラを持つ人物をみて、バクンバクンと心臓がかつてないほど鳴り響いていた。

 

「………」

 

ヒビキとレッド、2人の声が音のない洞窟の中に静かに響く。

 

しかし煩い心音のせいで彼らの会話が脳まで届かない。気温が低いのに体は発汗している。嫌な汗と自分の息を呑む音の存在しか認識出来ない。

 

そしてゆっくりと振り返った彼と目が合った。

 

ドクン、大きな鼓動と共に引き込まれた赤い眼に息の仕方を忘れた。

 

「リク、だったか…?」

「…ぁ……っ…」

 

言葉が出ない。この静かな炎を感じさせる彼に自分は怯えていた。

 

籠もる熱を感じながら眼を閉じる。小さく呼吸を繰り返しあまり変わらなかった熱に悪態をつきながらもゆっくりと頷いた。

 

するとさらに鋭くなる彼の雰囲気。カチャ、と音がし顔を上げれば赤く深い瞳。

 

「バトル」

「………え、」

 

 

構えられたボールに目を丸くしてリクは驚いた。え、え?これどんな展開!?バッとヒビキに顔を向ければ手を振り朗らかに笑った。

 

「あ、さっきね、ボクからレッドさんにお願いした。」

 

ヒビキ…!?

 

バトルバトルバトル、私が戸惑っていたらボールから勝手に飛び出したウインディ

 

驚いた、この子が自分から勝手にボールを出るなんてことは無かった。それだけこのバトルを受けたいんだろう、物怖じせずレッドに威嚇を向けているかぎりやる気が窺えた。

 

この空気、いや圧迫感に嫌な汗が滲む。カタカタとグローブをした手が震えた。

 

「…」

 

彼が出したポケモンは先ほどと変わらず小さな身体をいっぱいに使い戦闘態勢を保っていた

 

目を細めて私を見るレッドさんに怯えが隠せない。

 

「リク!はじめるよ!」

 

ヒビキからの声にまた身体を震えた。

 

先程までレッドと自分2人だけしかいないのだと錯覚していた。そうだ、ヒビキもソウルも私の手持ちだっている。頂点とのバトルなんだ。楽しまなくては。

 

ウインディが戦闘体制になれば空気が変わった。

懐かしい、だけどこの間感じたばかりのピリピリとした空気だった。

 

ヒビキの掛け声を合図にリクは口を開く。まずは先手をとる。

 

「しんそく!」

「でんこうせっか」

 

小さい標的を当てるのは無理があるのか、軽やかに躱すピカチュウ。しかしレッドもやはり攻撃型

 

「ボルテッカー!」

「ウインディ!あなをほる!」

 

 

----------------

------------

--------

 

 

残り手持ちがレッドが3匹、リクが2匹とレッドが押している緊迫する雰囲気の中、先程から流れる軽快なメロディに気が行ってしまう。

 

レッドが何度も何度も切っていたがしつこく何度も何度もかかってくるのでレッドがポケギアを握り潰そうとしていた。

 

「いやいやいや!レッドさん、出ていいですから!それ以上は壊れますって!」

「冗談だ」

 

冗談に見ええない…!!

 

バッとヒビキを見れば空笑いしていた。

 

「なんだ…」

『おまえなぁ!切るなよ!用事があってかけてんだぞこっちは!』

 

バトルを中断したため会話の内容が丸分かりで相手に思わず同情してしまった。

 

『だいたいなー、お前いい加減に山から降りてこいよ誰が食い物運んでやってんだと思ってんだ!』

「グリーン…今バトル中なんだが…」

(……!)

『はあ?…ってマジかよオマエそれ早く言えよ。またヒビキか?』

 

気が付いたらレッドに向かって駆け出していた。ヒビキが呼び止めようとしていたが気にしてられない。

 

「電話の相手!グリーンって名前なんですか!?」

 

リクはレッドに掴み掛かっていた。胸元のジャケットを掴み険しい顔を向け切羽詰まった様子で巻くしたてた。

 

「……」

『あ…?』

 

レッドは無表情だったが困惑している様子は見て取れた。わなわなと震えるリクに首をかしげていた。

 

『レッド、お前幼女はダメだろ幼女は』

「…だ!…」

 

誰が幼女だ!とリクが叫ぼうとしたときレッドからのフォローが入った。

「ヒビキと同じくらいだ」

『ふーん?

それで、君俺に何かようあんだろ?』

 

もう瞳いっぱいに涙をためて羞恥に顔を染め子供扱いに耐える姿は自分でも思う、滑稽だろう。

 

目指していた相手

 



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14話

バトルバトルバトル、私が戸惑っていたらボールから勝手に飛び出したウインディ

 

驚いた、この子が自分から勝手にボールを出るなんてことは無かった。それだけこのバトルを受けたいんだろう、物怖じせずレッドに威嚇を向けているかぎりやる気が窺えた。

 

この空気、いや圧迫感に嫌な汗が滲む。カタカタとグローブをした手が震えた。

 

「…」

 

彼が出したポケモンは先ほどと変わらず小さな身体をいっぱいに使い戦闘態勢を保っていた。目を細めて私を見るレッドさんに怯えが隠せない。

 

「リク!はじめるよ!」

 

ヒビキからの声にまた身体を震えた。先程までレッドと自分2人だけしかいないのだと錯覚していた。そうだ、ヒビキもソウルも私の手持ちもいる。頂点とのバトルなんだ。楽しまなくては。

 

ウインディを戦闘体制にさせれば空気が変わった。懐かしい、ピリピリとした空気だった。

 

ヒビキの掛け声を合図にリクは口を開く。まずは先手をとる。

 

「しんそく!」

「でんこうせっか」

 

小さい標的を当てるのは無理があるのか、軽やかに躱すピカチュウ。しかしレッドもやはり攻撃型

 

「ボルテッカー!」

「ウインディ!あなをほる!」

 

******

 

残り手持ちがレッドが3匹、リクが2匹とレッドが押している緊迫する雰囲気の中、先程から流れる軽快なメロディに気が行ってしまう。

 

レッドが何度も何度も切っていたがしつこく何度も何度もかかってくるのでレッドがポケギアを握り潰そうとしていた。

 

「ちょおおお!レッドさん、出ていいですから!それ以上は壊れますって!」

「冗談だ」

 

冗談に見ええない…!!

バッとヒビキを見れば空笑いしていた。

 

「なんだ…」

『おまえなぁ!切るなよ!用事があってかけてんだぞこっちは!』

 

バトルを中断したため会話の内容が丸分かりで相手に思わず同情してしまった。

『だいたいなー、お前いい加減に山から降りてこいよ誰が食い物運んでやってんだと思ってんだ!』

 

「グリーン…今バトル中なんだが…」

(……!)

『はあ?…ってマジかよオマエそれ早く言えよ。またヒビキか?』

 

気が付いたらレッドに向かって駆け出していた。ヒビキが呼び止めようとしていたが気にしてられない。

 

「電話の相手!グリーンって名前なんですか!?」

 

リクはレッドに掴み掛かっていた。胸元のジャケットを掴み険しい顔を向け切羽詰まった様子で巻くしたてた。

 

「……」

『あ…?』

 

レッドは無表情だったが困惑している様子は見て取れた。わなわなと震えるリクに首をかしげていた。

 

『レッド、お前幼女はダメだろ幼女は』

「…だ!…」

 

誰が幼女だ!とリクが叫ぼうとしたときレッドからのフォローが入った。

 

「ヒビキと同じくらいだ」

『ふーん?

それで、君俺に何かようあんだろ?』

 

もう瞳いっぱいに涙をためて羞恥に顔を染め子供扱いに耐える姿は自分でも思う、滑稽だろう。

 

俺に何かようあんだろ?

 

その言葉にハッと意識を戻した。ギュウっと拳を握りレッドから受け取ったポケギアを睨み付ける。

 

「あんたなんか大ッ嫌いだ!」

『へ…?』

 

リク!?ヒビキたちの驚いた声が耳を掠めたが気にせずにボタンを押す、もちろん終話ボタン。

 

「………レッドさん、ありがとうございました」

 

ちょっとだけすっきりしました!柔らかく笑むリクに流れで相槌を打つレッドは本当に動じない。

 

「知り合い、なのか?」

「私の旅の目的は彼ですから」

 

嫌そうに顔を顰めるリクにレッドは眉を寄せる。グリーンが目的?そう言いたそうだった。リクが反応し「色々あるんです」と苦情を零してこの空気を断ち切ろうとしていた。

 

「気がそれちゃいましたね、続けます?」

「………いや」

 

山を降りる

 

(………へ?)

(マサラに行く)

(……は?)



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15話

 

 

大変です、現在なぜか上空(推定……いや、落ちたら確実に肉体が無くなる高さ、恐ろしい!!)にいます。ヒビキとソウルは山を降りる(飛び立つ)ときに、女の子から連絡が来て戻らなくちゃいけないそうで別れた。それにしてもここはドコだろう、速いよレッドさん。

 

「振り落とされるぞ」

「が、頑張ってますぅううあああ!」

 

そう、現在彼の手持ちであるリザードンの背にしがみついている状態

何だろう、音速?や、流石にないか…分速?え、もう分速何千㎞の世界。目眩がしてきた

 

「…もうしばらくしたら着く」

「り、了解で…す!」

 

なんとか踏張るリクにレッドは面白いものを見る目、つまり好奇な目で見ていた。さすがにこの風圧に耐えるのがきつくなった頃ようやくレッドが手を差し出した。

 

「落ちる」

「むしろ落として下さい」

 

げっそりと叫びすぎて痛めた喉を気にしながら疲れ切った顔で言った。

 

ほら、見えた

 

レッドさんの声に顔を上げれば小さな町がみえた。ショップもない小さな町だった。こんな平和なところに兄と姉が住んでいるのか。

 

降下するリザードンの上でバランスをとりながらレッドさんとわたしも降りる準備をする。次回は乗る時があれば安全運転安全飛行でお願いします。

 

レッドいわく一度博士…おじいちゃんのところへ向かうと教えられた。

うん、もとから会う予定だったから即答した。

 

着いた汚れ無き白き町。

 

レッドが帰ってきたことで研究所は大騒ぎ。完全に空気なリクは諦めたように肩を落とす

 

…シロガネ山の伝説…いや、この人の事だ、どうせなんの連絡もなしに何年も山に籠っていたんだろう。それが急に帰ってきたんだ。嬉しいやら驚いたやら色々あるんだろう

 

しかし、だ。

 

いい加減にこの空気な扱いは止めていただきたい。そこの博士、孫の顔忘れるのもいい加減にしてよ。向こうでもテレビや雑誌に載ってたから顔は覚えてるがどんな人か関わりがないため解らない

 

まあ今みた感じでは慌ただしいイメージしかないが。

 

完全に蚊帳の外、適当な椅子に座り落ち着くのを待つことにしたリクはころころと指でボールを転がした

 

レッドが短い受け答えをして話を打ち切った後、私を呼んだ

 

「リク行くぞ」

「え、ちょっと待ってください…私も博士に用事が…!」

 

腕を引きドンドン先に進むレッドに慌てて制止をかける

 

なんだ、と言わんばかりに足を止め振り返るレッドに博士を指差す。お願いまだ用事があるの、挨拶と愚痴とやっぱり挨拶があるの!

 

「レッド、その子は?」

「やだな、初めまして博士…否おじいちゃん」

 

シーンと先程まで騒然としていた研究所が一気に静かになった

 

「おじいちゃん?」

「うん、私の祖父」

 

レッドが尋ねて来たので見上げながらコクコクと頷く。手紙のやりとりは数回したから存在を知らない何てことは絶対にない。

 

「リク…リクか?」

「え…覚えててくれたの…?」

 

弾けるように私を見る博士に良かったと安堵した直後だった。博士に怒られた

 

「来るなら来るで前もって連絡を寄越しとくのが常識じゃろ?急で吃驚したぞ」

 

怒られた、というよりは諭された。しかしそれはレッドにも確実に言えることでは…、と寸でのところで呑み込んだ

 

ぽふっと頭に手を乗せられた

何かと思い顔を上げれば「遠いところから頑張って来たんじゃな」

誉められたことに心を弾ませていたが次に出た台詞に体を凍りつかせた

「それで、グリーンとナナミには会ったのかね?」

 

 

 



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16話

お姉ちゃんにあった。

凄く、凄く優しくて泣きそうになった。

こっちまで1人できたの?頑張ったねって抱き締めてくれて、小さなことだけど、全てが肯定される包みこまれる暖かい表情に、認めてもらえた様で救われた気分だった。

 

「お姉ちゃんって、呼んでいいん…ですか?」

 

ぎゅーっと抱き締めてくれてくれた手を離して、カントーにくると連絡しなかった私に呼ぶ権利なんてあるのだろうか。そんな意味合いを込めて投げ掛けた。

 

ナナミお姉ちゃんは惚けたあとおどけたように「当たり前じゃない」と笑った

 

「グリーンにも会いに行きましょうか」

「え!?」

「レッドくんも帰ってきたコトだしびっくりするわねあの子」

 

クスクスと楽しそうに言われても反応に困る。流石、母さんの娘だけのことはある。しかし次の台詞に思わずガバッと顔をあげた

 

「あ、ついでにジム戦挑んでみる?」

「……!」

「レッドくんがあなたも強いって言ってたから」

「……行く。行きます。」

 

ふふ、なら私も一緒に行くわ。準備してくるからちょっと待っててね?頭を一撫でしてからナナミは席をたった

 

まずは一発…殴らないと気が済まない!グッと拳を握りしめ決意を新たにした。

 

どきどき、そんな可愛らしいものじゃない。心臓が破裂しそうな勢いで己を主張し手には冷や汗

 

一発殴ると決意を新たにしたつもりで、お姉ちゃんには大丈夫だから、と微笑まれたがとうとう目標としていた兄に会えるんだ…緊張しないはずがない。

 

うわああああやばい

ホントにどうしよう!

 

かれこれ10分ほど入り口の前で立ち往生していた

 

「お姉ちゃん…」

 

私が緊張している、と分かってくれているからか嫌な顔ひとつせずにこにこと安心させるように笑っている姉に助けを求める

 

「大丈夫よ」

 

ふふ、と控えめに笑ったあと手を握りゆっくりと進み出した

え、ちょ、まって!!思わず顔がひきつる。しかし彼女はそれを良しとせずいつもの笑みを浮かべるだけだった

 

重そうなしかし実際は軽いであろう扉を押して開き握った手を離さずに小さな声で呟いた

 

「あの子に会うために来たんでしょう?」

「……」

「私もその子たちも皆一緒だから、」

 

その話はこの人にはしてないはずなのに、見透かされた様に大丈夫よ。とやんわり笑むお姉ちゃんを見上げ、ギュッと握り返す

 

「……お姉ちゃん…私のバトル見ててね、頑張るから!」

 

うん、頷いた姉に見てもらいたい。始終笑みを絶やさなかった姉を安心させるよう私も頑張る、今日の私はチャレンジャーだ。カントー最強のジムリーダーに挑む私は挑戦者

 

「リク、ここのジムはちょっと複雑だから、」

 

「ふく…ざつ…」

 

「動くパネルだから、足元に気を付けてね…チャレンジャー以外はホントは入っちゃダメだから、

私先にグリーンのところで待ってるわね?」

 

「了解、です!」

 

じゃあまたあとで、手を振り別れを告げ入り口でお姉ちゃんは話をつけにいった。うし、まずはここの攻略からだ。

 

(うううああああ!)

(ちょ、まって目廻ったってばっまって止めてってばぁああああ!!)

((あーあ…))



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17話

「う、あー……気持ち悪い」

 

 

額を押さえながらグワングワンと酔ったような違和感を耐えながら、戦って、……ジムトレーナーさんに心配されながらも見送られた。

 

「バトルしてるときのほうが安心するなんて……」

 

思いもしなかった。もはや顔面蒼白なリクにエリートトレーナーを始めとするジムトレーナーさんにバトルする前から心配され、勝利した後も心配され、……いや、差し出されたおいしい水はありがたくいただいたけど、いやいやだって聞いてない!あんなに勢いよく回るなんて私聞いてないから!思いもしなかったよ、バトルする前に瀕死になりかかるなんて。

 

「ぜっっったい殴ってやるんだから」

 

低くくぐもった声が発せられた。後ろからはどす黒いオーラが湧き出る

 

クルクルクルーなんて可愛らしい音を出すが現実悲惨だ。私なんて回る勢いに耐えきれず座り込んでただ停止するのを待っていた。

 

「…………グリーン、あれ止めてあげるのはダメかしら」

「あー…いや……流石にあんな小さい子のことまで考えて設計してなかったからな…」

「平均の人と比べてリクちゃんは軽すぎで回転数が多くなってるのね」

 

グリーンとナナミはリクの様子を見てを哀れむが設定パネルはここにはない。もうすぐそこまで来ているリクには悪いが我慢してもらおう、とグリーンはナナミに伝える

 

「あの子真っ青…」

「………う…」

「この後のバトル乗り越えられるかしら」

「………」

「私の弟はこんなに人でなしだったかしら」

「……―――っ!あー分かった分かったって!」

 

助ければ良いんだろ!?とナナミさんの圧力に堪えられなくなったグリーンが勢いよく立ち上がった

 

ずんずんと苛立ちを露に少女……リクといったかその子の元まで駆け寄り小さいその身体を持ち上げる

 

「…!?」

 

ドン!!と弾き飛ばされた

その突き飛ばした奴を見れば自分の手を見つめ呆然としていた。無意識だったのかそうじゃなかったのか定かではないがせっかく手を貸してやったのにその態度はなんだと憤慨した

 

少女を怒鳴り散らすことは紳士だからか心の中でだけだが

 

「え…っと……」

「………大丈夫か?」

「………」

「…………」

 

無言で歩く二人にナナミは苦笑いを浮かべる。どうやらこの二人に溝が出来てるみたい。もどかしく思いながら二人を見てどうにかならないかな、と頬に手をあてながら考え込む

 

リクは、向こう、ホウエン地方で生まれ育った。幼い頃も両親の手伝いをしており、間違いなく…知識とそれに劣らない才能にも恵まれている。なんたって長けているところはこのカントーのジムで最後の砦と謳われるこのトキワジム

 

そしてそのジムトレーナーを(多少酔って顔色が良くないが)涼しい顔で倒しちゃくちゃくとグリーンに歩みを進めてしまったほどのタクティクス。

 

「あの子たち、これからまだまだ伸びるわ」

 

楽しみで思わずふふ、っと笑みが溢れてしまった。

 

「…………なんで、あのよくわからない装置から出してくれたんですか」

 

話題を切り出したのは少女からだった。なんでってそりゃ、見てたら憐れに思ったからだ。姉さんに言った通りあんなにこじんまりとした女の子がここまで来るとは本気で思わなかったから。これが本音。ただし、こんなことは口が裂けても言うつもりはない。自分がもし少女の立場だったら侮辱されたと捉えるから。ただでさえ顔色の悪い少女に無理をさせたくないのに。

 

一人で黙々と考え込んでいたら、突き飛ばされた、なんてことは空の彼方だった。

 

「あの、」

「……ああ、悪いなんだった?」

「どこへ向かってる…んですか?」

「次の相手まで」

「……はあ、」

 

意味がわからない、と顔をしかめながらも相槌を打つ少女に苦笑を浮かべる。なぜ?と疑問詞が頭上に浮かんで見える

 

「装置の代りにここのジムトレーナー全員に勝てたら挑戦受けてやるよ」

 

酷かとも思うが、小さいから、なんて贔屓しては他の挑戦者に示しがつかない。頑張れよ、と頭を軽く叩いてやれば鬱陶しそうに払われた。いい加減に傷付くぞオイ

 

「気安く触んないで」

「わ、悪い…」

 

幾分か体調が戻ったのか顔色が良くなっていた。ここのジムトレーナーを相手にしても威にも思ってなく、あしらう程度にどんどん勝ち進む少女、姉さんが連れてきた珍しい挑戦者。たしかにあいつらじゃ足下にも及ばない

 

少女は最後のトレーナーもあっさり勝負をつけた

 



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18話

最後のポケモンに勝利し、労いの言葉をかけながらミックスオレを与えていたリクに声をかけ、バトルステージへと促した。

 

「…!お姉ちゃん!」

 

たたた!とナナミの姿を見止めた途端笑いながら駆け寄った。態度違くないかこのチビ…口元がひきつりこめかみがピクリと反応した。

 

「リク、頑張ってね」

「……うん」

 

照れて笑いながら年相応にはにかむ少女にお、と声がもれた

審判に呼ばれ二人コートにたった。

 

挑戦者 コトキタウンのリク!

 

「………やっと辿り着いた」

 

スピーカーから広がった少女の名に隠れポツリ、と溢れた言葉は拾えなかったがリクが思いきり握っている手に、何かあるのか?と眉を潜める。

 

リクの実力なら緊張はまずないはずだ。バトルを楽しむ、と実力者でも初心者でも第一に考える。だけど今の目の前の少女にそれはない。

 

チルタリスVSウインディ

 

フルバトルでの試合に一匹目に選んだポケモンはタイプも相性も全く異なる同士だ。

 

「しんそくだ」

「飛んで!」

 

 

------------------

------------

--------

 

 

お互いの手持ちが何体か戦闘不能になったとき、一つのボールを思わず握りしめた。

 

「……ムカつくことに」

 

再びポツリと溢した音は聞き取られた。

 

「グリーン、さんは強いんだよね」

「…は?…いきなり何を…」

「こんなに頑張って、頑張って追い付こうと食らいついて努力しても」

 

貴方は七光り、なんて言われずに周りから認められていつの間にかジムリーダーになってて、羨ましくて会いたくて、……褒めてもらいたくて

 

「カイリキー!!ばくれつパンチ!」

 

ボムッ!と音を立て、ボールの中から腕に込められていた渾身の一撃を、グリーンの足元にも落とした。大きな爆発音が建物全体に響き渡り審判が慌てて止めさせようとした。お姉ちゃんが視線だけでそれを止めさせ、心の中で感謝した。崩れた足元にも唖然とこちらを凝視しているグリーンに言い放った。

 

「だけど、どんなに頑張っても認めてもらえなくて、………――――私は貴方が大嫌い。」

 

いきなりのことで思わず固まってしまった。オレはこの少女に出逢ったことがあっただろうか。初対面のオレに向かってリクは"悔しい""オレは強い"そういった。その言葉の真意を考えていたら、少女が攻撃してきた。手加減をしていたのだろう、カイリキーは床を叩き壊した。トレーナーに攻撃するのはジムではマナー違反だ。脳をかすめた言葉は場にあまりにもそぐわない、そんな台詞だった。

 

少女は顔を歪めて俯いた。

姉さんの知り合いだから姉さんが口出しをしてくると考えていたが彼女は気にした様子もなく笑って審判と話をしていた。

何を話したのか公平であるはずの審判は何故か驚いていた。

 

 

 

"認めてもらいたかった"

 

先程耳から伝わってきた言葉は本心だと感じ取った。誰に何を認めてもらいたかったんだ?言っている内容に脳が追いつかないオレに追い討ちをかけるかのように細められた冷めたい視線で口が開かれた。

 

"私、貴方が大嫌い"

 

唖然。初対面で大嫌い。

そんなこと始めてだった。

 

…ん?

 

いや、前もあった気がする

それもつい先刻

 

"アンタなんてだいっきらいだ!"

 

………レッドが山でバトルをしていたという少女。それが、リクなのか。オレの名で反応した、確かに多少幼くみえるがヒビキと同い年に見えなくもない。むしろ手持ちのレベルからいったら年上でも構わないが……少女の容姿がそれをよしとしない。

 

目の前にシロガネ山にいたと思われる少女……。レッドと共に降りてきた少女。

 

「オレに言いたいことあるんだよな」

「バトル、終わってからにしようぜ?バトルは楽しく!だろ?」

 

こんなに楽しいバトル滅多にないからな!と土ぼこりを落としながらこの勝負負けられない、と再びボールを構える。笑って言えばグッと詰まった様子で一度リクは目を閉じた。

 

(ねぇなんで……、なんで怒らないの?)



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19話

「………バカじゃないの」

「バカで結構。レッドが認めたやつなら是非とも手合わせ願いたいからな」

 

ほんと、バカみたい。

怒ればいいのに。怒鳴り付けたらいいのに。なんで笑って許すの…嫌い嫌い嫌い!

 

「カイリキーストーンエッジ!」

 

崩れて足元にある瓦礫を使いカイリキーに命じればグリーンは真っ向勝負を挑んでくる。

見据えてる先には私なんかいないくせに、止めてよ、私はそんな勝負したくないから

 

それでも自分から止められないのは目の前の相手が目指してきた人だから。

 

「………っ…!」

 

ドサッとカイリキーが倒れた。ハッとし前を見れば"追いついた"と口を動かし得意気に笑っていた

 

「嫌な奴」

「俺も負けるわけにはいかないんでね」

「ドサイドン!」

「ロゼリア!」

 

明らかに体格負けをしているロゼリアがニッと笑った。グリーンが訝しげにみれば、リクの命令なしに何かを発射させた。

 

「なっ!?」

「ソーラービーム…鬼だねロゼリア…」

 

 

ロゼリアが怒っているのを見て思わず呟き苦笑い。幾分和らいだリクに観客席にいたナナミはホッと安堵した。

 

「おまえの手持ちたち一体どうなってんだよ」

 

グリーンがポツリと溢した台詞にリクが反応する。たしかに、少し可笑しい。私が閉じ籠っていたとき、彼らも普通の生活をしていたはずだ。なのに何故、レッドやグリーン…カントー屈指の強豪トレーナーである彼らと互角に渡り合えるのか、なぜなのか私にも説明が出来ない。

 

いや、シロガネやまへヒビキやソウルと向かった時に違和感を確かに持ったのだ。ボールの中にいるチルタリスに目線を落とす。長時間、それもトップスピードで飛び回ったはずなのに疲れを見せなかったチルタリスにその時疑問を抱いた気がした。

 

「もしかして、私が…立ち止まったときも、君たちは進み続けてたの……?」

 

 

ひとつ、結論がでた。

 

 

カイリキーもそうだ。

………っ……私が、私が集中しないから、カイリキーも困惑して集中出来なかったんだ。

 

ごめんね、一つの目的を達成したからって、イラついてたからって、君たちの実力を見せずに終わるのはあってはならないことだったよね。鈍っていなかった仲間を思い浮かべて。

 

悔しさと戸惑いが溢れ出て…いつの間に、と唇が震えた。

 

戸惑って固まったままのリクにグリーンは声をかけた。これでは試合が進まない。そう思ったんだろう。

 

先ほどから垣間見る深く暗い表情につい、やりにくい、と考えてしまう。トレーナーとしては一流であるだろうはずの彼女のムラにやりにくさを感じる。

 

彼女もまた考えていた。負けられない理由ができた。

私以上に勝利の二文字に貪欲な彼らのために、お礼を込めバトルに挑もう。

 

 

「あー……すみません、バトルに集中してなくて。」

 

もう、大丈夫です。

彼らの気持ちがわかったから、勝利の二文字の理由が。

 

 

相手がずっと目指していた兄だからとか、七光りと言われ続けた反骨心とか、そんなこと関係なくてこの子たちのために、勝とう。私以上に頑張ってきた彼らのために、それができるのは彼らのトレーナーである私だけだから。

 

 

「決めるよ、ラプラス絶対零度!」

「な、そんなのあたるわけが…」

「あたるよ!」

 

これは自負でも驕りでもなんでもない。きっと当ててくれる。ラプラスの努力だ。小手先の技があたらないなら、避けられないほどの力を見せてやればいい。

 

ジムが凍りつくのをリクは見つめながらカチカチカチ、と凍りきったポケモンピジョットに向かって呟いた

 

一 撃 必 殺

 

呆然としているグリーンにへらり、と笑みを向け

 

「私の勝ちだね」

 

兄さん。とシンと静まり返った建物の中にリクの透き通った声はよく響いた。

 

リクはグリーンが茫然自失しているのをみて、やっと追いついた。と目を細めた。

 

この人だけには負けたくなかった。

 

全部全部、私の手持ちが叶えてくれた私だけの目標。ヒビキやソウルに出会って、勇気を貰った。レッドさんに会ってきっかけを貰えた。お姉ちゃんに会って愛情を貰えた。

 

いろんな人に支えられて、今私がここにいるんだ。

 

とりあえず、いまだあそこで呆けている兄に声をかけようか。

 

「楽しかったよ、あのバトル。私には目標があってね、あなたに、グリーンさんに会って、私の事を認めてほしかったんだ。

その途中、いろいろ感情が入り交じっちゃってぜんぜん集中出来なかったんだけど」

 

今はちゃんと、会えて良かったって…言える。

 

黙っているグリーンをペシペシ…と尖った髪を叩きながら言えば、くしゃっと顔を綻ばした。あと、バトル中の失礼な態度とか、大嫌い発言とか、後悔はしてないけどマナー違反であることには違いないため謝っておいた。

 

ジムトレーナーの方たちもわらわらと集まってきたため私の台詞は打ち切りとなった。

 

グリーンがスッと立ち上がりナナミからあるものを受け取ってから私の前に再び立った。

 

「ほら、これがグリーンバッチだ」

「あ…ありがと。」

「さっきの答えもこれで十分だな」

 

答え?首をかしげ意味を問いただそうとナナミがこっそり耳打ちしてくれた。

 

「認めて欲しいってやつよ」

「………!兄さん…!」

「は、はあ?だから兄さんって……」

「あなたよ、グリーン」

「姉さ…」

「リクは正真正銘血の繋がった私たちの妹よ」

 

「はあああああ!?」

 

 

絶叫と驚愕がジムの中に広がった。リクはリクで存在すら知られてないのか。とりあえず傷ついた手持ち達にげんきのかけらを与え、ミックスオレを器にうつしていた。

 



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20話

認めてもらった。

 

受け取ったバッチをこっそりとギュッと手で握って、ほっと息をつく。

 

「なあそういやレッドは?」

 

気を取り直したグリーンがリクに話しかけた。レッドさん?と頭を傾け考えるリクに静かに、「上」と声がかかった。上?聞こえた方へ視線を向ければジッとこちらを見ているレッドがいた。

 

グリーンが驚いた声を上げたがリクはもしかしたら、ふがいない先ほどのバトルを見られたかもしれないとヒヤヒヤしていた。いつからいたんですかとかなんでここに、とか尋ねようにも声にならなくて結局口を閉じた。グリーンはグリーンでレッドに詰めよって観覧席へ。

 

「うわ、うわうわー…」

 

頂点とお兄ちゃんが話してる…たしかに連絡取り合ってたみたいだけど…こんなに仲良いんだ…。兄とヒビキが勝てない相手、そんな人が今目の前にいることが本当に信じられない。そして兄の知り合いと言うことにも。

 

「リク、2人は幼なじみなのよ」

「…正反対な2人…」

 

ふわり。と乗せられた手の方を見ればナナミがいて、はー…とレッドとグリーンを見て関心したように息を吐くリクにナナミはクスクスと笑う。

 

「そうね…でも意外と似てるのよ?あの子たち」

 

え?と返すリクに微笑むだけで何も言わなくなったナナミにリクは ?を浮かべるしかなかった。

 

しばらくしてレッドと目が合ったリクはレッドに呼ばれた気がし近づいた。声をかけられたわけではなく、なんとなくだけど促された、そんな気がした。

 

「自分の妹の存在を知らなかったとか信じられない」

 

…………あの、レッドさん?

近づいて聞こえた言葉が冒頭の台詞だった。目を丸くし、何事かと訝しげる。

 

「し、仕方ないだろ!両親からの連絡なんて調査報告くらいなんだぜ!?」

「へ…?」

「あ?」

「……半年に1回は近況報告も兼ねて、写真や手紙を送ってたんです…けど…」

 

もちろん、家族団らんで私の写真も…――シンッと静まり冷えきった空気が周りに広がる。レッドからはいつにもまして冷たい眼差しが送られているグリーン。そんな彼は慌てて自分の姉であるナナミを呼び出した(と言ってもすぐ下にいたのだが)

 

「親父たちから報告以外で連絡あったってホントかよ!」

「え?ああ、あるわよ」

 

さらり、と事も無げに現在進行形のような台詞をあっさりと言われグリーンは開いた口が塞がらなかった。

 

「俺、そんな話聞いたことも見たこともねーんだけど…」

 

フルフルと肩が震えている彼にレッドがはばにされたな、と肩に手を置いて慰めるような仕草をした。それ、フォローじゃなくて苛めですよね。

 

「リクのことはたしか3年前から書かれなくなってたけど…その頃丁度旅だったんですって」

「……いや、だからその手紙自体……っては…?3年前から旅?じゃあお前いくつなわけ?」

「それが人にモノを尋ねる態度かよ…もうすぐ11になるけど」

「ってことは8歳から旅してんのか!?おま、ただでさえ小さいのによく親が許したな」

「あんたの両親でしょ!?」

「それよりいい加減暗くなってきたんだが…」

 

グリーンとリクが不毛な言い争いをしてる時、いつもそのようなことには無関心で放置を決め込むレッドが珍しく止めに入った。

 

「あ、ほんだ」

 

今夜どこ泊まろうかなー…悶々と、眉を寄せながらそんなことを考えていたらグリーンから声がかかる

 

「ほら行くぞ」

「…どこに?」

「何言ってんだよ、家にだろ」

「へ?いや、私は別にポケセンあたりに泊まろうかと思ってたりしてたんだけど…!」

 

慌てて断るようにブンブンと手を振ればはあ?と変な顔で見られた。なんでどうして。

 

「何言ってんだおまえ、兄弟なんだから普通に家に来るのが自然だろ」

「…………え、あ…うん、?」

 

 

ほら行くぞ、と引かれた手を思わずジッと見つめてしまった。

 

(悪い、待たせた)

(いーよ、その代わり夕食貰うから)

(は…?)

(もちろんグリーンの)

(ちょっ!?)

 



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21話

かちゃかちゃ、と食事の時間に電話を教えるコールが鳴り響いた。

 

誰から?と聞かれ、知らない番号……とナナミに答えた。ピピピピピ長い着信音にすみません、と断ってからポケナビを取る。

 

「はい……」

〔リクさんですか!?〕

「はあ…どちらさまですか…?」

〔あぁ、私ホウエンの――……〕

 

カタン、席を立ち目を配らせたリクは「ちょと向こう行くね」うっすら笑いポケナビ片手に扉の外に出る。

 

取り残されたグリーンたちは顔を見合わせた。どうかしたのか、と首を傾げたグリーンがオーキドに尋ねる。

 

 

「何かあるのかじいちゃん」

「詳しいことは分からんが」

 

あの子にもいろいろあるんじゃよ。後ろを向いて扉の向こう側にいるリクを一度目の端に入れてからグリーンに言う。

 

「いろいろ、ねぇ…ってああ!?レッドお前俺の分食ってんじゃねーよ!ちゃんと用意しただろ!」

「…………」

「だあああ!食うなって!」

「ふふ、まだあるわよゆっくり食べてね」

 

 

レッドとグリーンにお茶を差し出し席に着いたナナミにレッドは頭を下げ、グリーンはさんきゅ、と受け取った。

 

「それにしても長いな」

「様子見てきましょうか?」

「いや、俺が行ってくるよ」

 

 

ズズッと音を立て飲み干した湯呑み置き、席を立ったグリーンに茶々いれたら駄目だからね?と注意を促した

 

今日帰ってから話題となった報告書の他に手紙を読んだ。ホントにあるんだ…、と思いながら二枚目を読み進めたときリクが生まれたことが書いてあった。

その時どうしてこの手紙を今まで読まなかったのかぐっと堪えるように唇を噛み締めて。3、4枚目には喋れるようになった。立てるようになった。リクの事で手紙が埋まっていた。

リクが言ったように半年に一度のペースで送られてきてたようで読み進めていくうちにリクの字と思われる、少し歪な字が1枚を大きく埋めていた。もう1枚にはリクが初めて書いた字、なんて前置きがあった。

 

 

おにいちゃん、おねえちゃん

リク、おっきくなったんだよ

はやくあいたいなあ

 

 

短く、大きな字で書いてあったそれに思わずリクを抱きよせた。5年前のその字で精一杯自分の思いを伝えようと両親から聞いたであろう俺や姉さんの存在に夢を膨らまして、思い描いていたんだろう。楽しい家族の光景を。

 

読み進めれば気になった内容が目に止まった。

 

まいなんがうまれたよ!

リクのいちばんのともだち!

 

マイナンとたびに出るね

しばらくお手紙かけなくなります

 

本当に8歳で旅に出たリクに驚きが隠せなかった。もし、自分がその場にいたら否応なしにリクを止めていたはずだ。いや、自身も旅に出ていたのだから結果としては無理なわけだったのだが

 

「わかってます、はい…しばらくはやりたいことがあるので…」

〔……―す―が!〕

「問題ないです、彼らは放って置いてもらって構いません」

 

なんの話をしているのだろうか。先ほどの考えを吹き飛ばすほどリクは冷静に言葉を紡いだ。俺がここまで来たことに気がついていないようだ

 

「大丈夫ですから」

 

ピ、と最後に一言だけの台詞を言い残してポケナビの終話ボタンを押し踵を返したリクと目があった。伏せ気味だった大きな目はこれでもかってほど見開いていて。瞠目しているのが一目瞭然だった。

 

「迎えに来たぜ」

「…………ん。」

 

手を出せばしっかりと手を取り掴んでくれるこの小さな子に今は愛しさを噛み締めて、もう暫くはこの静かな一時を願い望む。

 

-------------------

--------------

--------

 

 

「なあリク、これからどうするんだ?」

あのごたごた騒動があった日から3日…研究所で手伝っていたとき、本当に何気なく、グリーンに言われた台詞に、決めてあった言葉を紡ぐ。

 

「私、やりたいことあるから明日には出ていくよ」

「ふーん…っては!?明日!?」

「明日ー」

「ずいぶん急じゃね?」

 

特に急だったわけではないので首を横に振る。私のわがままで手持ちたちに負担をかけてしまったわけなので今度は手持ちたちに楽しんでもらいたい。

 

「ポケスロン行ってみようかと思うの」

「ポケスロン?ってあのコガネにある…」

「そうなの!ウインディが出たいっていってたから!」

 

 

嬉しそうに年相応にはしゃぐリクにグリーンはそっか、と一度カラリと笑って頭を撫でた。

 

「すぐ頭撫でる…」

 

むすぅーと眉をしかめて払うように手を避け、髪を手櫛で整えるリクに声を出して笑う。そんなグリーンにフイと顔を背け不機嫌そうに書類の整理を再開させた。なんどか声をかけるが無反応。

 

「レッドに言ってかないのか?」

「……レッドさん?」

「ここまで連れてきてもらったんだろ?」

「後で言っとく。」

 

 

ふにゃり、と表情が柔らかくなり頷くリクにまた一波乱起こりそうな予感を感じたグリーンだが何も言わず、ただ、この今決めた久々の有給を妹とどのように過ごすか考えることだけに思考を巡らせた。

 

 

(…兄さん、ジムは?)

(休み。どっか出掛けよーぜ)

 

 

 

-END-

 



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